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ダンテ「学園都市か」【MISSION 08】 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/05/29(日) 16:25:51.19 ID:OL+FuFJro
「デビルメイクライ(+ベヨネッタ)」シリーズと「とある魔術の禁書目録」のクロスです。

○大まかな流れ

本編 対魔帝編

外伝 対アリウス&ロリルシア編

上条覚醒編

上条修業編

勃発・瓦解編

準備と休息編

デュマーリ島編

学園都市編(デュマーリ島編の裏パート)←今ここのはじめ(スレ建て時)

創世と終焉編(三章構成)

ラストエピローグ


○ダンテ「学園都市か」で検索すればまとめて下さったサイトが出てきます。
編名も一緒に検索すると尚良しです。

○過去スレ
http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1267269712/
http://yutori7.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1267368924/

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1267417603/
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1269069020/
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1271690981/
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1276448902/
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1281455278/

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1294936389/
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1295618410/

○有志の方がうpして下さった過去ログ(dat)
ttp://www1.axfc.net/uploader/Sc/so/88288.zip
pass:dmc
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全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713869982/

【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713861164/

トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713798788/

【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713788018/

ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713736565/

【安価】少女だらけのゾンビパニック @ 2024/04/20(土) 20:42:14.43 ID:wSnpVNpyo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713613334/

2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/05/29(日) 16:26:16.89 ID:OL+FuFJro
―――注意事項及び補足―――

※当SSはかなりかなり長いです。

※基本シリアスです。

※本編後のおまけシリーズはパラレルとなっており、外伝以降の本筋ストーリーとは全く関係ありません。

※DMC(ベヨネッタ)勢は、ゲーム内の強さよりも設定上の強さを参考にしたため絶賛パワーインフレ中。
それに伴い禁書キャラの一部もハイパー状態です。

※妄想オリ設定がかなり入ります。
ダンテ・バージル・ネロを始めとする各キャラ達の生い立ちや力関係、
幻想殺し等『能力』や『魔術』等の仕組み・正体などは、多分にオリジナル設定が含まれます。

また、世界観はほぼ別物となっております。

※禁書側の時間軸でイギリスクーデター直後(原作18巻)、DMC側の時間軸は4の数年後から始まっています。
ネロは20代前半、ダンテとバージルは40代目前、ルシアの身体成長度は10歳前後となっております。

※また、クロス以降の展開は双方の原作に沿わないものとなります。
その関係上、禁書原作21巻以降に明かされた諸設定は基本的に適用されてません。
ただ例外として、天使の姿・攻撃技等は反映させて頂く場合があります。
(ベヨネッタと禁書の天使の、配色・デザインの系統がそれなりに似ている感じなので)

※投下速度は大体週二回〜三回、週50レス以上を目標としています。

※主なカップリングは上条×禁書、ネロ×キリエ(これ当然)となっております。

――――――――――――――
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) [sage]:2011/05/29(日) 16:31:53.98 ID:kN9AhHgao
スレ立て乙
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) :2011/05/29(日) 16:34:35.32 ID:ARix802c0
スレ立ておつ
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/29(日) 16:37:49.22 ID:OL+FuFJro
―――


「…………」

『やあ。上手くサルベージできて良かったよ』

「………………なるほどな。『コレ』を仕込んでいたのか」

『そう。お前にあえて流してやった天の門の術式の中に、な』

「……………………」

『ふむ、具現の損壊も許容範囲内だな。充分だ。良い働きをしてくれた』

「………………『顎』を取り戻したのか?」

『ああ。「記憶」も全て取り戻した。おかげで疲れも「思い出した」が』

「…………ふん」

『さすがに、寿命ある人の生を1000代近く経験するのは疲れる』



「…………とすれば……今のお前は、『竜王』と呼ぶべきか?」



『好きにしてくれ。「俺様」にとっては、名前に然したる意味なんてないからな』



「……ではこう呼ぶか?―――『ミカエル』」



『………………ふん。確かに、俺様にはそう呼べる「部分」もあるがな』



「……それで、さっさと用件を済ませたらどうだ」

『少しお喋りを楽しまないか?これが最期だぞ?』


「俺の死を邪魔するな。お前のせいで余韻が台無しだ」


『ははは、ああそうだな。お前にはもう一欠片の未練も無いか』

6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/29(日) 16:41:19.95 ID:OL+FuFJro

「相変わらずムダ口の多い奴だ」

『楽しいじゃないか』

「……いや、待て。一つ聞きたいことがある」

『何だ?』


「お前はわかるか?スパーダの孫が俺ごと切って捨てた―――あの深淵の『流れ』を」


『ふむ、良いだろう。俺様が知っている範囲の事を、お前の働きの褒美に教えてやる』


『ジュベレウス。かの存在が「観測者」として成立した瞬間から、この「全て」は始まった』


「……」

『いや、違うな。ジュベレウスが観測者となったのはもっと遥かに昔で、この時は前の領域を「創生」し直したのだろう」

「……」

『とにかくだ。ジュベレウスの「内部」、虚無に無数の宇宙が形成され、そして命が生まれて、それぞれの宇宙の理に従い繁栄する』

『しかしその果てで、一つの宇宙が著しく肥大化していった。それは後に「魔界」と呼ばれる世界だ』

『魔界は衰えを見せずに果て無く肥大化し続け、次第にジュベレウスの許容を超え始める』

『これがどれだけ異常な事か、お前ならわかるだろう?』

『ジュベレウスが「創生」を繰り返して、生まれては消えてを繰り返してきた世界群、その永劫のサイクルが崩れたのだ』

「……」

『そして挙句に魔界は、ジュベレウスを「全」の存在から「個」の存在にまで引き釣り降ろし』


『戦争をおっぱじめ。遂に魔界の三神によってジュベレウスは敗北―――』


『―――その瞬間だ。お前が認識した「流れ」の始点は』


「…………」
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/29(日) 16:43:54.63 ID:OL+FuFJro

『そのようにして操舵主を失った世界群は、内包する世界の意志によって左右され始める』

『三神が刻んだ力が絡み合い、そこに更に、それぞれに向けられている無数の願望が絡まっていく』

「……」

『スパーダが人間界に味方したのも、その流れによるものだろう』

『魔界以外の全ての世界が、魔界の覇権が止まることを望んでいたからな』

『そのようにして無数の願望が渦巻いて、流れの向きは決定されていくのだ』

『魔帝やスパーダの動きすら支配する程の勢いでな』

「……」

『もっともお前の目の前で、スパーダの孫が流れを撥ね除けたとおり、絶対的なものでもないがな』

『孫が存在する原因、スパーダが特定の人間と結ばれて子を残す事なんかも、流れには無かったはずだ』


「なるほどな……四元徳の一柱と渡り合えるかどうかという程度だった分際ながら、中々詳しいではないか」


『……忘れるなよ、俺様は腐ってもいち世界の保有者だ』

『それに俺様が生まれたのは創世記だ。魔界の肥大化が始まるよりも遥かに前、古より世の移り変わりを直に見てきた』


『魔帝やスパーダなどといった、腕っ節だけやたらに強い「小僧共」とは比べるな』

8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/05/29(日) 16:48:22.69 ID:OL+FuFJro

「知ってるか?お前のような存在を老害と呼ぶ」


『…………ふん、それにな、俺様は直に全てを超越する。お前が成れなかった全能をも「超える」ぞ』

「……ふむ、流れの主、かつてのジュベレウスの座に昇るつもりか」


『そうだ。俺様は「全」となる。己の記憶すら消して弱きに人になり1000代、この時をどれだけ待ち望んでいたか』


『創造、破壊、具現、この三神の力を喰らい、俺様の「胃袋」で完全に融合させて出来上がりだ』


「…………そうか…………それでは待たせたな。聞きたいことは全て聞いた」

『ああ、心配しなくても良い。お前の思念は残らんよ。綺麗さっぱり消滅する』

「それは嬉しいな」

『……ただ、俺様の内部に残す事も一応できるが。今後の事、興味あるか?』


「無い。さっさと終わらせろ」



『そうか、では頂こう』





『破壊と具現、お前達は―――どんな味がする?』





―――
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/05/29(日) 16:49:37.93 ID:OL+FuFJro
デュマーリ島編、これにて終了です。
次の学園都市編は、6月2日より開始します。
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/05/29(日) 16:51:16.25 ID:c9EH6+mOo
お疲れ様でした
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) :2011/05/29(日) 16:51:45.47 ID:ARix802c0

フィアンマさんしぶといですね。
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) [sage]:2011/05/29(日) 16:52:05.53 ID:kN9AhHgao

wwktkして待ってる
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/05/29(日) 16:58:13.46 ID:E/huxsQO0
乙乙乙
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/05/29(日) 17:50:33.56 ID:pe8f04zSo
乙ですとしか言いようがない。前スレ>>1000がやばい。
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/05/29(日) 18:15:52.43 ID:94edZUsMo
乙。これはたまらん。待ってる。
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/05/29(日) 19:36:05.81 ID:HXJm8ruAO
>>1
創世と終焉編( 三 章 構 成 )

いよいよラストが近付いてきたなーと思ってたら絶倫過ぎワロタwwwwww
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/05/29(日) 20:14:57.75 ID:ofUCmq8eo
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/29(日) 20:16:24.27 ID:/uHPugGYo
乙です
一体完結はいつになるんだ…
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/05/29(日) 21:59:14.37 ID:KDHUzCVDO
『三章構成』


ッッ!?
まじぱねぇ!今年始めに終わるかなと思ってたけど、こりゃあ今年終わりになりそうだぞ!

ま、まだ当分読めれるラッキーと思ったんですけどね
飽きさせないのがスゲーね
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/05/29(日) 22:07:01.69 ID:OL+FuFJro
三章構成についてですが、本編の時のように小分けにしているだけで、
実際の編全体の長さはデュマーリ島編よりも短くなる予定です。
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/05/31(火) 08:28:03.36 ID:kno9uEc70
乙!
竜王が復活したから、上条さんはもう幻想殺しや竜王の顎を使えなくなるかもしれないのかな。
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/02(木) 23:56:27.84 ID:8NCaMGgCo
―――

遡ること数時間前。

学園都市、現地時間18:10時。

窓の無いビル、大きな水槽の壁面内側にはホログラム映像が浮かび上がっていた。
映し出されているのは、第23学区から飛び立つデュマーリ島へ向けての編隊。

護衛のための戦闘機と無人機、
そして能力者を積んだ輸送機が続々と飛び立ってゆく。

そんな映像を、アレイスター=クロウリーは静かに眺めていた。

と、その時。

「大勢の運命を背負って、この世の地獄へ戦いに行く。年端もいかない子供達が」

水槽の前、5m程の所に立っていた初老の女性がそう口にした。
学園都市総括理事会の一人、親船最中が。

アレイスター「君が不快に思う原因の倫理は所詮、人が勝手に作り出した人の社会のみに適用されるルールだ」

アレイスター「今の状況に当て嵌めるのは場違いも良い所だ」

アレイスター「この人の社会の外のルールは常にシンプル。力を持つ者が戦う。『今回』はそれが彼らだったに過ぎない」

そう返されてきた一連の言葉に、
親船はふんっと鼻を鳴らして。

親船「随分と饒舌だこと。以前お会いした際はそれはそれは無愛想でしたのに」

嫌悪感を少しも隠さずにそう言葉を返した。
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/02(木) 23:58:01.45 ID:8NCaMGgCo

アレイスター「5年振りか。君は随分と老け込んだな。美容整形は受けんのか?20歳は若返り寿命もその分延びるぞ」

親船「まさか、あなたから美容整形を進められるとは。あなたも本当に『一応』人間でしたのね」

アレイスター「……さて、世間話はこの辺で止め本題に入ろう」

その話の切り替えと同時に水槽内のホログラムが消え、
今度は親船の前に浮かび上がった。

映されているのは正規命令発行用の画面。


アレイスター「学園都市総括理事長令 第3号、私、アレイスター=クロウリーは、」


そしてアレイスターが口を開くの同時に、
その言葉が画面に入力されていく。


アレイスター「ここに学園都市行政権、及び『軍』とアンチスキルの指揮権を理事長代行、親船最中に委譲する」


アレイスター「ただし、『プラン』に付随する諸権限は例外とする」

アレイスター「それら残りの権限は『プラン』が完遂次第、全て親船最中に委譲し、私は理事長を辞する」


言葉を連ねた後、最後に彼が右手指を小さく動かすと。

その動きに連動して画面にもサインが書き込まれ、
続けて親船も指でなぞるようにして署名した。
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/03(金) 00:01:23.92 ID:DdeePM8ko

アレイスター「これで晴れて君が理事長代行、この街の最高指揮官だ」

委譲が完了してすぐさま。

親船「第一級警報発令、状態はデフコン1、シェルターへの市民の避難を開始します」

親船はアレイスターの声を無視しては、
続けてホログラムの端末を操作し命令を下した。

親船「全理事会員は、今現在この街が置かれている状況を『熟考』の後、理事長令に同意の署名を」


親船「『熟考』した上で、それでもこの決定に納得できない場合」


親船「その意思を示してください。こちらも相応の姿勢で対応します」


そして強い口調でそう締めくくった。

アレイスター「委譲する前に、利己的な理事会員を罷免しておけば良かったかな?」

親船「どの道変わらないでしょう。この期に及んで己の欲望を優先するような者は」

そんな親船の言葉を裏付けるかのように。

親船「その点は、彼らを指名したあなたが一番ご存知でしょうに」

ホログラムに表示される各理事会員の署名は、全員分は揃わなかった。

ただ、その点については親船も充分想定内。
彼女が掃うようにして手を振った瞬間、ホログラム映像が消え。

親船「出ます」

そう呟くと、親船の隣に一人のテレポーターの少年が出現して彼女の肩に手を置いた。

親船「これ以上、この街の子供達を巻き込まないで下さい」

アレイスター「犠牲が0とは約束できんが、私のプランが滞りなく進んだ場合は、『ほぼ全員』生き残る。そこは保障しよう」

親船「……」

最後は言葉を返さず、アレイスターを見据えながら。
親船はテレポーターによって運ばれていった。
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/03(金) 00:02:59.64 ID:DdeePM8ko

「『この街』の子供達はほぼ全員」

と、その直後。
壁際の薄闇の中から、白衣を着た男がアレイスターの言葉を繰り返しながら歩み出てきた。


「能力開発を受け、セフィロトの樹から外れかかっている者は生き残る」


そして、アレイスターの口からは出なかった事柄を『補填』して。


「犠牲はセフィロトの樹に繋がっている世界全ての者達『だけ』」


水槽の前、4m程のところで立ち止まりアレイスターを見据えた。

アレイスター「君はそれを承知の上であの日、私を生かした」

アレイスターはそう言葉を放った。
その男、カエル顔の医者に。

カエル「…………わかっているよ。忘れたことは一時も無い……あれから60年、常に頭にあり続けた」

アレイスター「…………」


カエル「…………エドワード。ジョン。そして僕。人々は決して、僕等を許しはしないだろうな」

アレイスター「構わんよ」



アレイスター「許しは請わん」



―――
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/03(金) 00:04:29.14 ID:DdeePM8ko
―――

第七学区、とある寮1階の入り口。
そこの壁に、ステイル=マグヌスは腕を組んで寄りかかっていた。

ステイル「……」

思い出せば半年以上前、
この寮の一画にてとある男と戦い、豪快に殴り飛ばされて敗北した事がある。

あの時は思ってもいなかったであろう。

『あの男』こそ、インデックスにとって―――。

ステイル「…………チッ」

そこまで思考が及んだ瞬間、ステイルは小さく舌打ちをしたが。
それは別に不機嫌を示すものではなく、
素直ではないこの男の精一杯の『喜び』の仕草であった。

ただそこには少々、人間らしいささやかな『羨ましさ』も混じっていたが。

ステイル「……………………長いな」

上階にいるであろう上条とインデックス。
インデックスの衣類などを取り行くとのことだったが、少々時間がかかり過ぎでは。

そう思うも、彼女達が何をしているのか確認する気も、
そして急かす気も特には無い。

ステイル「…………」


それこそ、彼等が男と女の一線を越えたとしても、だ。
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/03(金) 00:05:34.94 ID:DdeePM8ko

口では文句を言い、心の表面を嫉妬で埋め尽くすだろうが、
本音では祝福し絶対に彼等の間の邪魔はしない。

ステイル自身がそう決めているし確信しているのだから。

ステイル「…………」

まあ、それ以前にあの男が今一線を超えられるわけも無いが。

良くてキス止まりだろう。

そうしなければインデックスの命が無い、となれば彼は迷わずするだろうが。
そうでなければここぞという時でヘタれ、結局事を済ますことは適わず。

自身の欲求には変に厳しく、そして自信も無い。

有事には最高のヒーローになるが、平時にはどうしようもない馬鹿少年。

例えインデックスに迫られたとしても、
実年齢はわからずとも外見上から未成年と捉え、
そして何よりもシスターであるという事を『振りかざして』、彼は逃げる。

上条当麻とはそういう男だ。

まあそれも、人を想い大切にする『彼らしさ』だ。

ステイル「…………」

そういう男だからこそ、
安心してインデックスを預けていられるのではないか。

一線をいつか越えるにしても、それまではとことん大切にしてもらおうではないか。
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/03(金) 00:06:52.27 ID:DdeePM8ko

もし彼がこうではなく、己の欲望にどこまでも忠実な男であったら。

その場合は、まず誰よりも神裂が黙ってはいなかったはずだ。

インデックスを預ける、なんてイギリスからの通達を聞いた途端、
何から『ナニ』まで叩き切る勢いで怒り狂っていたことだろう。

神裂。

ステイル「…………」

巡らせた思考の中で彼女の名を響かせ、そして顔を描く。
彼女がここにいたら。

もし今も、隣に立っていたら。

上条とインデックス、今の二人を見て神裂は何を思うだろうか。

それはきっと、笑ってくれていただろう。
己のように捻くれた態度ではなく素直に。

ステイル「…………」

凛々しく微笑んでいる彼女の横顔が、脳裏を過ぎる。
長い長い鞘を手に、黒く艶やかな髪を靡かせて。

勇ましくて気高き友の姿。


そして―――動かなくなった姿。


胸に愛刀を突き立てられて、静かに沈んでいったあの光景―――。
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/03(金) 00:07:47.40 ID:DdeePM8ko

そんな、脳裏に焼きついている亡き友の姿に浸りながら。

ステイル「………………ふーっ……」

小さくため息をついては、星が瞬く夜空を見上げた。

デュマーリ島へ向かう、複数の航空機の爆音が奮わせる冬の大気。
そこに白い吐息が蒸気のように立ち昇って行く。

空高くにて響く爆音を省けば、周囲は静寂そのもの。

この第七学区は、先日の戦闘以降住民が立ち退かされており無人。
気配は上条とインデックスのものしか無く。

それはそれは静かなものであったが。

ステイル「…………」

突如、その静けさをけたたましくかき乱す音が響いた。
それは街頭などに備え付けられているスピーカーからのサイレンの音。

ステイル「(……警報か)」

その大きな音にステイルは一瞬眉を細めたものの、特に気にもしなかった。

なにせ今は戦時下、
サイレンが鳴るくらい別におかしいことでもないだろう。

だが、その直後。
別に聞えてきたとある『音』が、ステイルの平静を乱した。


それは脳内に響いてきた、


ローラ『おい―――聞えたるか?』


ステイル「―――ッ」


元最大主教、ローラ=スチュアートの声。
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/03(金) 00:09:38.14 ID:DdeePM8ko

ステイル「アーク……!」

                   アークビショップ
今までの癖でついつい最大主教と口にしかけるも。

ローラ『あるじ様と呼べ。我が「使い魔」ステイル』

すぐさまローラがそう遮るように言い。


ローラ『追っ手が「この街」に既に着きたるの』


ステイルの反応を待たずに話を進めた。

ステイル「……追っ……手……?」

そのローラの声には、どことなく焦りの色が滲んでいた。
いつもの飄々とした余裕が無く、早い口調は苛立っているように感じられる。

ステイル「……」

また、ローラの「この街」という言い回し。
それは彼女が既に学園都市に来ている、という事を匂わせる。

そして追っ手も彼女に続いて学園都市へ。

そんなところであろう。

ステイルは瞬時にローラの言葉から状況を読み取り、
この突然の上司の登場に驚きつつも、冷静に思考を進めるも。

ステイル「して追っ手とは、イギリス清教の者ですか?」

次のローラの言葉で、その思考が一瞬停止する。



ローラ『いえ。我が「同胞」でありけるのよ』



ステイル「―――」
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/03(金) 00:10:38.34 ID:DdeePM8ko

ローラが言う『同胞』。

それはつまり魔女。

ステイル「―――ッ……!」


魔女が既に来ている―――だと?


バチカンでの戦い、そして先日のフィアンマ戦におけるインデックス。
その光景と魔女達の姿が脳裏に蘇る。

今のステイルにとっても『化物染みた』、あの魔女の力。

そこに続くローラの言葉が、更にステイルを焦燥させた。


ローラ『「使い魔」も連れたる。それと私のみならず、禁書目録をも狙いたるようなの』


ステイル「―――」


インデックスも標的―――だと?

ローラ『これ以上の接続は探知される。じきに合流したるわ。それまで「堪えろ」』

ステイル「―――堪え……ろ?!待―――待て!」

そしてローラはステイルの言葉になど聞く耳も持たず、
そう早口で告げた後。


ローラ『くれぐれも警戒を怠ること無き、よ』


ステイル「おい―――!!!」


一方的に会話を打ち切った。


ステイル「―――…………ッ……」

―――
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/03(金) 00:12:23.09 ID:DdeePM8ko
―――

学園都市、とあるビルの屋上。


ジャンヌ『禁書目録の位置、特定した』


神裂「……どこです?」

その淵にて神裂は、通信魔術先のジャンヌに問い返した。
冬の夜風に、高く結った長い黒髪を緩やかに靡かせつつ。

爆音が轟く下に広がる夜景を望みながら。

ジャンヌ『あー、第七学区の……』

手元にある地図と照らし合わせているのか、
ジャンヌはまるまる読み上げる口調で住所を告げてきた。

神裂「……」

覚えのある住所を。

神裂は静かに、
告げられた第七学区へ向けその視線を動かした。

白い作業灯と、最低限の街灯の光が点在する暗い一画へ。


神裂「……」


この通信を共有している五和が、
斜め後ろにてその顔を強張らせているのを感じる。

だが、神裂はその点については言及することもなければ意識するそぶりも見せず。
暗い第七学区を見つめながら、淡々と言葉を続けた。


神裂「助かります。それでローラ=スチュアートの方は?」
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/03(金) 00:19:38.06 ID:DdeePM8ko

ジャンヌ『ある程度位置は絞れた。じきに確保できる』

神裂「そうですか」

ジャンヌ『それとお前に言っておくことがある』

そうジャンヌは言うと、一度咳払いして。


ジャンヌ『禁書目録だが幻想殺しと一緒にいるようだな。すぐ近くにはイギリスの炎の悪魔もいる』


神裂「……」

五和「……」

先日あんなことがあったばかり。
二人がインデックスの傍を離れることはまず無いのも当然。

充分予想していたことだ。

元々、神裂は上条とステイルにも協力を仰ぐつもりだ。
面と向かって丁寧に話しさえすれば、彼等はきっとわかってくれるはずなのだから。


そう、丁寧に話をできさえすれば。


こちらの言葉を聞いてくれれば、の話だが。


続くジャンヌの言葉は―――。


ジャンヌ『そしてローラと炎の悪魔が通信を交わした痕跡があったが、明らかに「契約関係」の上のものだ』


神裂のその展望をあっさりと―――。


神裂「……ということは―――まさか―――」



ジャンヌ『はっきり言うぞ。あの炎の悪魔はローラの「使い魔」―――「敵」として考えろ』



―――破壊した。
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/03(金) 00:21:51.01 ID:DdeePM8ko

神裂「―――」


五和「―――……!!!なっ……!!!」


ジャンヌ『下手な望みは持つな。ある程度の意思の自由はあるが、最終的に主に従いざるを得ない。それが使い魔だ』


神裂「……」


ジャンヌ「『お前』もわかるだろう?」

神裂「……」

そう。

ステイル自身がどう思おうと、
主であるローラがこちらを敵として認識している以上、そこはどうしようもない。

それは神裂自身この身をもって知っている。
なにせ今は、バージルの使い魔という属性なのだから。

主であるバージルのやり方で、
今の神裂には主従関係による支配的な縛りは一切無いが。

それでも神裂がバージルの意向に反する行為を行い続ければ、
最終的に『バージルの子』たるこの力は、神裂火織という人格を食い潰し傀儡とするだろう。
(ただバージルとなれば、その前に直接ケジメをつけに神裂の元に現れるだろうが)

ジャンヌ『じゃあ、しっかりな』

言葉の調子を変えぬまま、そうジャンヌとの通信は終わった。


神裂「……………………」
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/03(金) 00:23:16.42 ID:DdeePM8ko

直後。

五和「あの―――!」

五和が背後から何かを言いかけたも。

神裂は即座に振り向き、鋭い視線でその口を制した。
いや、目で制すまでも無かったかもしれない。

五和はその神裂の顔を見た瞬間に、
既に言葉を詰まらせていたのだから。

不気味なほどに冷たい無表情を。

それは完全な―――。


神裂「私は正面から行き、『まず』は話し合いを試みます」


話し合い、という言葉が余りにも不釣合いである冷酷な『仕事の顔』。


神裂「五和、あなたは後方に周り―――」


神裂はその顔のまま、
淡々と事務的に五和に命令を告げた。


神裂「―――交戦準備を整え待機を」



五和「……了解」


五和は頷いた。

張り裂けそうな想いに胸を圧迫されながらも、
一方では戦士としての揺ぎ無い覚悟を決め。

五和はジャンヌから授かった槍を、胸に抱くようにしては強く握りしめて。

―――
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/03(金) 00:24:06.72 ID:DdeePM8ko
―――


キスした瞬間に覚えた不思議な感覚。


不思議だが決して不快ではなく、むしろ心地の良い感覚。


彼女の『存在』を感じるのだ。
外からの知覚ではなく『内側』から。

それがゆっくりと、全身へと染み渡っていく中。


上条「…………」

上条は彼女に心奪われて、言葉を失っていた。

淡く光を帯びているような艶やかで柔らかい青い髪。

陶器のように清廉な肌。
やや赤みを帯びている頬。
滑らかな首筋。

透き通る瞳。

甘い香り。

柔らかい唇。

上条「……」

まるで言葉が出ない。

腕の中で、やや恥ずかしげに微笑むインデックス。
この存在を語る言葉は、上条は持ち合わせていなかった。
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/03(金) 00:24:56.63 ID:DdeePM8ko

上条「―――……」

もう何も考えられない。

上条にとってのインデックスの魅力は、
下階で待つ『誰か』の予想を遥に超えていたようだ。

彼の鉄の如き自制心ですら、
彼女の存在の前にはすぐに錆び朽ちてしまい。


インデックスを抱いたまま、ゆっくりと押し倒す。

ベランダの床に緩やかに倒れた瞬間、
彼女は小さな声を漏らすも、言葉を発さず無言のまま。

他に発された声といえば、
スフィンクスが跳ねるようにして、二人の間から脱した際に挙げたものだけ。

三毛猫は室内のベッドの上に飛び乗り、
「お構いなく」とでも言うように二人に背中を向けて丸まった。

そしてインデックスは上条に覆いかぶさられる形になったも。

禁書「……」

抵抗の色など一切見せず。

更に恥ずかしげに少しうつむきながらも、
心地よさそうな面持ちで彼の顔を見上げていた。

上条「…………」

そんな彼女の少し乱れた前髪を、撫でるようにして整え。
頬に指を伝わせ。


彼女の瞳を見つめながら上条は再び、顔をゆっくり近づけ。


インデックスが応じるようにして静かに目を瞑った―――その時。




聞き覚えのあるサイレンが鳴り響いた。
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/03(金) 00:26:45.01 ID:DdeePM8ko

上条「……」

禁書「……」

上条はピタリと硬直し、インデックスが瞼をぱちりと開き。
驚き鳴きわめいてはスフィンクス。

そして聞き覚えのあるサイレンに重ねて、『あの日』と同じく。


『第一級警報及び第一級戦時態勢が発令されました』

『市民の皆さんはアンチスキル及びジャッジメントの指示に従い―――』

『最寄のシェルターへ迅速に避難してください。繰り返します―――』


機械的なアナウンスが繰り返し流れていく。

そんな音が街全体に響く中、
二人は鼻先を軽くぶつけてはおかしそうに笑い。

上条「…………そろそろ……戻ろうか」

インデックス「うん」

二人はもつれるようにお互い茶化しながらも、
立ち上がっては服についた塵を払い。

上条はインデックスの衣類が入ったバックを肩にかけ、
インデックスはスフィンクスを胸に抱き。

部屋を後にし、寮の階段を降りて行き。


そして寮の入り口にいる、ステイルの姿を捉えた。


上条「おーわざわざ来てくれたのか?病院で待っててって言ったのに」
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/03(金) 00:28:42.46 ID:DdeePM8ko

もしかして待っちまったか?、と上条はやや申し訳なさそうに。
そしてインデックスも気まずそうに苦笑するも。

ステイル「…………ん?あ、ああ、別に構わないよ」

当のステイルは心ここにあらず、といった風。

狐につままれたような面持ちだ。
いや、慌てて平静を装っているようにも見える。

上条「……」

まさか悪魔の感覚で、上での『一部始終』を見ていたのでは、と上条は一瞬思うも。
もしそうだとしたら、彼の意識は真っ直ぐこちらに向いているはずだ、

だが今ステイルの意識は、
どう見ても己とインデックスには向いていない。

上条「……おい。何かあったのか?」

すかさず上条は敏感に『何か』を感じ取り、
雰囲気を切り替えてステイルにそう問うたが。

ステイル「いいや。気にするな」

ステイルはそれでも言おうとはしなかった。

禁書「……」

上条「そうか……」

さすがに納得したわけではないが、
彼が今は言わないと決めたのならば無理にそれを穿ることもない。

インデックスは未だにステイルを訝しげな目で観察していたが、
上条はすぐに切り替えて。


上条「じゃあ戻ろうぜ!腹減ったしな!」


そう一行を引っ張るように促した。
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/03(金) 00:32:52.62 ID:DdeePM8ko

片側三車線の大通り、多様なデパートや店が並ぶこの大通りは、
普段ならば今の時間でも充分人で賑わっている。

だが今は軒並みシャッターが閉じ、
大きな道路を走る車は一台も無く、寂しそうに信号が黄色く点滅していた。

サイレンが響くそんな無人の街の中、
何気ない会話を重ねながら三人は歩き進んでいく。

ステイル「このサイレン、確か……」

禁書「ダンテといた時にいきなり鳴ったんだよ」

上条「魔帝の件の時にな。避難命令だよ」

ステイル「ああ、聞き覚えがあるよ。僕がこの街に到着した時も鳴っていた。その後すぐに止んだけどね」

ステイル「話に聞くと、前回の事をうけてシェルターは随分と強化されたとか」

上条「ああ。かなりの予算つぎ込んだらしいぜ」

上条「魔帝の時はだだっ広いところにスシ詰めだったらしいが、今のは普通に二、三ヶ月は暮らせるくらい快適だとか」

禁書「全市民分の個室を確保したって聞いたんだよ」

一方通行の下、厳密には教師でありアンチスキルの黄泉川宅に居候していた際に聞いたのだろう、
インデックスがそう補足した。

ステイル「すごいな。ロンドンにもあれば……」

ステイルはそこで思わず、
今までの癖でそう考えてしまったが。

ステイル「…………はっ……」

すぐさま、小さく呆れたように笑った。
今の己は『反逆者』であることを思い出して。

41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/03(金) 00:34:31.10 ID:DdeePM8ko

気付くと空の轟音は止んでいた。

第23学区から飛び立った編隊は、
もう遥か彼方へ行ってしまったようだ。

上条「………………土御門。御坂」

静かになった空をふと見上げながら、上条は友の名を口にした。
そして名も知らない他100名余りの者達の存在を思い浮かべながら。

上条「あいつら、大丈夫か……な」

そう、寂しげに呟いた。

禁書「…………うん。きっと戻ってくるよ」

その上条の言葉に、
同じく見上げたインデックスが優しげな口調で。

ステイル「…………土御門がいるしね。まず心配は無いだろうさ」

ステイルも夜空を見上げながらそう続けた。


そして、三者が視線を降ろしたその時。


彼等は目にした。



いつのまにか20m程前方、道路の真ん中に立っていた―――ひとりの女。



鞘に納まった長い長い日本刀を手にした黒髪の『元』聖人を。
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/03(金) 00:39:26.79 ID:DdeePM8ko

奇しくも状況は、
かつて上条が体験した『とある日』をなぞるかのようであった。


同じこの場所で同じ人物に―――同じように冷酷な眼差しを向けられて―――出会った『あの日』を。


ただ、あの時と違う点もいくつかある。


「人払い、今回は必要ありませんでしたね」


女がぼそりと、言及したその点と。

目を丸くして硬直しているステイルと、
上条の右手を不安げに握りしめるインデックスがいる点と。



赤く光っている女の―――神裂火織の瞳。



ここに綴られる神話の役者は。

友の価値を失ってから知った炎の悪魔と、友と斬り合う覚悟を決めた元聖人。

幻想殺しを有する少年と、能力者の壁を越えて神域へと昇華しつつあるレベル5の少年。

己の出生を知らぬ幼い魔女と、一つの願いを胸に生き延びてきた魔女。


そして、ここに綴られる神話の書き手は。


孤高の天才魔術師と―――太古からの復活と『全て』を求める強欲な『竜』と。



観測者の目を持つ『最強の魔女』と、アンブラの精神を具現化したかの如き『最高の魔女』と。



―――最強の兄と最強の弟と―――新たな伝説へと成る息子―――。



――――――――――――――――



           学園都市編



――――――――――――――――



『表』では、望む『未来』を守るべく少年少女が地獄へ向かった頃。


『裏』では、纏わり付く『過去』を振り払うべくの戦いが始まる。



―――
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/06/03(金) 00:40:29.61 ID:DdeePM8ko
今日はここまでです。
次は日曜か月曜の夜に。
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/03(金) 00:42:15.33 ID:IwzBZEDOo
お疲れ様でした。
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/06/03(金) 01:15:21.03 ID:QAFHqcQmo
おつ!
いよいよキタキタキタ━(゚∀゚)━!!!!!
wwktk止まらんww
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/06/03(金) 02:40:42.05 ID:Pbp0CXek0
未消化伏線で言えばこっちがメインルートと言えなくもないんだよな乙!

47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/03(金) 06:21:40.91 ID:BdRre+HAO
ここで伏線回収かぁ…
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/03(金) 11:15:40.21 ID:Hpetx3eDO
これって時系列的にはデュマーリ島編と同時期なの?
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) [sage]:2011/06/05(日) 02:14:52.08 ID:Kgi5XgaMo
上条さんはデュマーリ島編でただの空気だったって訳じゃないのね
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/06/05(日) 15:39:00.50 ID:8QtUkwXM0
やべぇ…テンション上がってきたwwwwww
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/07(火) 22:18:00.43 ID:g5k8u3BLo
―――

東の空が白け、
広大なスラム街にも徐々に光が差し込み始めている。

その街の中にあるとある小さなバー、ゲイツオブヘル。

ここは今、店閉まいの時刻を向かえていたが、
一人の客がいまだに図々しく居座っていた。

そのカウンターにふてぶてしく座っている馴染みの客を、
いや、何食わぬ顔で『戻ってきた』男を、
マスターはカウンターに両手の平をつきながら。

ロダン「……ほぉう」

わざとらしく大げさな表情で見ていた。


ダンテ「よう」


ロダン「まだ30分も経ってねえが。『誰かさん』が用事ができたとかで出て行ってからな」


ダンテ「へえそうかい。なんかくれよ。喉乾いたぜ」

カウンターを人差し指で叩く、
他人事のようにそ知らぬ顔のダンテ。

ロダン「お客さんよ、もう店閉まいの時間なんだが。お帰りになってくれねえか?」

ダンテ「あー、それなんだがな」

そこでダンテは。
ロダンに対抗するかのようにこれまた大げさに肩を竦めて。

ダンテ「ちょいと状況が変わってな、『足』が無くなっちまって『お帰り』できなくなった」

ロダン「人造悪魔のお嬢ちゃんはどうした?」

ダンテ「ルシアちゃんはちょうどさっき、デュマーリ島に行ったらしい」

ロダン「ほう、そいつは難儀だな……それでだ。それはお前さんがここに居ることと関係あるのか?」

ダンテ「…………」

ロダン「…………」


ダンテ「お前が俺を送t」


ロダン「失せろ」
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/07(火) 22:21:53.18 ID:g5k8u3BLo

そう一蹴したロダンは、
ダンテに背を向けてはカウンターの後ろを整理し始めた。

ダンテ「おいおい、つれねえな」

ロダン「お前さんが自分でやれば良いだろうが」

ダンテ「俺は二度とやらねえって決めたんだ。アレは向いてねえ」

ロダン「知るか」

ダンテ「ヘイ、いいじゃねえか。パッと俺を飛ばすだけだパッてな」

ロダンは続けて、今度はいそいそとカウンターを布巾で磨き始めたが。

ダンテ「ま、それとついでに天界の知り合いにもちょっくら口添えしてくれりゃあ、俺としては言うこt」

ロダン「―――待て」

そのダンテの言葉を耳した瞬間はたと手を止めて、
彼の声を遮った。

そしてダンテの方へと向き直り。

ロダン「…………お前さんよ、天界の連中と会うつもりか?」

そう、確かな口調で問うた。
そんな関心を示したロダンを見て、ダンテはニヤリと笑みを浮かべ。

ダンテ「ああ。良い機会だから一度話してみたくてな。お前が居てくれりゃあ随分と助かるんだが」

肘をカウンターに載せ、ロダンの方へと身を乗り出して。

ダンテ「大昔は良く慕われてたんだろ?『ファーザー・ロダン』さんよ」

それに対抗するように、
ロダンも肘をついては身を乗り出して睨み。


ロダン「……何度も言ってきたが、今一度言わせてもらう」


ロダン「俺は中立だ。どの勢力にも加担はしねえ」
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/07(火) 22:23:51.55 ID:g5k8u3BLo

そうはっきりと告げて。

ロダン「さっさと出ろ」

ロダンは再びカウンターを磨き始めた。

ダンテは鼻を軽く鳴らしては、
カウンターに肘を乗せて頬杖をし。

ダンテ「そうかい。じゃあいくつか答えてくれ。満足したら出る」

ロダン「……とりあえず聞いてやろう」

ダンテ「お前は何で堕天した?」

ロダン「何度も言っただろう。退屈だったからだ」

ダンテ「……それだけか?ちゃんと答えるまで出ねえぞ」

ロダン「…………奴らとソリが合わなかった、それもある」

ダンテ「奴ら?」

ロダン「四元徳だ」

ダンテ「へぇ……人間界に来たのは?」

ロダン「制限隔離された中で形成された人間の技術。これに未知の拡張性を見たからだ」

ロダン「まだまだ未熟だが、力との併用・応用次第ではとんでもねえ『ツール』になる」

お前さんの銃なんかがその最たる例だな、とロダンは続けた。
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/07(火) 22:27:43.56 ID:g5k8u3BLo

ダンテ「へぇ……中立にこだわるのは?」

ロダン「面倒だからだ。特定の勢力に肩入れすれば、いつか必ず窮地に陥る」

ロダン「例えば、どんな強大な勢力でも必ず終わりが来る。ジュベレウス、そして魔帝の天下のようにな」

ロダン「その後はどうなる?天界ではイカレタ四元徳共の狂信的な粛清、魔界では後釜を巡っての大内戦だ」


そこでロダンは再び手を止めてはダンテの方へと向き。


ロダン「んな騒動に巻き込まれるのは『もう』ゴメンだ」


ロダン「だから俺は分け隔てなく売る。悪魔にも天使にも、悪魔を殺す道具も天使を殺す道具も」

ロダン「俺の店で作られた武器が、完璧に動作すれば満足だ。俺は黙々と武器を作り研究したい、それだけだ」

ロダン「俺、もしくは俺の店を潰そうとする奴等だけが敵、それ以外は敵も味方もねえ」


ダンテ「まるで退職して趣味に浸るジジイだな」


ロダン「否定はしねえ。俺は一線から引退したからな。それでまだ話は続くのか?」


ダンテ「ああ、次が最後だ」

そう言うとダンテは一息ついて。


ダンテ「要は、店のためなら戦うんだな?」
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/07(火) 22:29:17.08 ID:g5k8u3BLo

ロダン「……そうだ。俺は俺の店を守るためだけに動く」

ダンテ「なら、店を壊そうとする連中は潰さなきゃな」

ロダン「ああ。もちろんだ」

ダンテ「この店がある街を壊そうとする連中も潰さなきゃな」

ロダン「…………ああ」

ロダンはここで、ダンテのその物言いで彼の意図を悟ったが。

ダンテ「となると、この街が属しているこの国を」

時既に遅し、流れを逆転させる余裕はもう無く。

ロダン「この国が属している人間世界を」

ダンテの言葉を否定できる道理も無く。

ダンテ「ああ、そうなるとだ。今回の騒動は」


ロダン「……黙って見ているわけにはいかねえ、ってか」


ロダンはそのスキンヘッドの頭に手を当てては、
諦めがちに笑った。

そんな彼を見て、ダンテは無言のままニヤけて両手を広げた。

その仕草は「これで俺の話は終わりだ」とも、
「俺の言葉に何か間違ってることはあるか?」とも取れる。

いいや、両方の意が篭っているのだろう。
ダンテは、広げた手を再びカウンターに載せては身を乗り出し。


ダンテ「『諦めな』、ファーザー・ロダン。まだ引退には早えってこった」


ロダン「…………」

ロダンはしばらく言葉を返さずそのまま押し黙った。

何か思考を巡らせているのか、
ゆっくりとした一定のリズムでカウンターを人差し指で叩きながら。

そして。


ロダン「………………仕方ねえ」


ダンテ「ハッハー、決まったな。そうだ楽しめ」
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/07(火) 22:38:20.56 ID:g5k8u3BLo

ロダン「だが言っておくからな。俺は何も気分で引退を決め込んでるわけじゃねえ。理由もしっかりある」

ロダン「実際、天界にいた頃に比べりゃ、今の俺は酷く衰えている」

ロダン「恐らく全力で戦えるのは一瞬だけだ」

ダンテ「なあに。お前に『獲物』は分けねえから心配するな」

ロダン「それともう一つ」


ロダン「お前さんの親父さんがなぜジュベレウス派の行動を黙認したか、それは良く考えてあるんだろうな?」


ダンテ「ああ」

ロダン「俺がお前に協力すれば、スパーダの一族はジュベレウス派と完全に敵対することになる」

ロダン「天界と和解する道は―――」


ダンテ「―――無くなると思え、だろ?」


そこでダンテは半ば立ち上がっては再び身を乗り出して。


ダンテ「わーかってるってロダンちゃん。君は、本当はそこが気がかりだっただろ?んん?」


手の平で一度、カウンターを掃い叩いてそう言った。
いかにも愉快気に、からかいの笑い声を混ぜて。


ロダン「…………………………」


ダンテ「それに和解できなくなるのは『ジュベレウス派の天界』とは、だろ?」

そしてどかりと、再び椅子に座り直してダンテは続ける。


ロダン「……」

ダンテ「問題があるなら潰して別の派閥に『交代』させればいい」

ダンテ「言ってたじゃねえか。天界も一枚岩じゃねえって。お前みたいな奴も残ってるんだろ?」

ダンテ「ソリが合わなくともしぶしぶ従ってる連中が」

ロダン「……天界と話したいってのはそれか?」


ダンテ「あー、さあな。話すことは会ってみてから決める」


ダンテ「ジュベレウス派ととことんやり合うかどうか、もな」
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/07(火) 22:41:34.01 ID:g5k8u3BLo

ロダン「……そうか。一応、これは肝に命じておけ」

ロダン「ジュベレウス派は、ジュベレウス信奉への自己犠牲心に『溢れすぎて』イカれてる連中だ」

ロダン「決して譲歩せず、決して妥協せず、決して敗北を認めず、目的を達するためには手段を選ばない」

ロダン「もしお前さんと正面から敵対した場合は、連中は必ず人間を人質にする」

ロダン「そしてお前さんが折れるか死ぬかしないと、最終的には本当にセフィロトの樹で人間の魂を引き抜く」

ダンテ「わかってる」

ロダン「真正面から武力で来る魔界とはまた違うからな。状況を見誤るんじゃないぞ」


ダンテ「なあに―――人間社会と似たようなもんだろ」


ダンテは相変わらずの軽い調子で、
ロダンの問いにそう答えていった。


ロダン「……ふふん、まあな」

ロダンはカウンターを磨き終えると、
背後の棚の整理を再開し。

ロダン「いくつか、状況を確認させてもらおう」

背を向けつつ話を続けた。

ロダン「バージルのやろうとしている事に横から割り込む、それが一応、お前さんが明確にしてる、数少ない『確かな』目的だな?」

ダンテ「まあな」

ロダン「つまり、お前さんとしても天界の門は開いて欲しい」

ダンテ「そうだ」
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/07(火) 22:45:38.03 ID:g5k8u3BLo

ロダン「では、学園都市に降りる天界の軍勢はどうするつもりだ?」

ロダン「いくらお前さんでも一人では無理だろう?学園都市を破壊しないように全て押さえ込むってのは」

ダンテ「考えてあるさ。心配するな」

ロダン「…………魔界の門はどうなんだ?それも開かせるのか?」

ダンテ「バージルが必要としている以上当然だ。ま、そこも考えはある」

ロダン「魔界の軍勢もか?」

ダンテ「それはもっと簡単だ。天界と違って魔界にはいつでもいけるだろ。こっちから乗り込んで先に『大将』共を狩っちまえば良い」

ロダン「……ほう」


ロダン「じゃあバージルの息子にはどう説明するつもりだ?」


ロダン「放っておくと、天界の門も魔界の門も何から何まで潰しかねないぞ」

ダンテ「ああ。このままだとバージルとぶつかっちまうだろうな」

ロダン「状況を説明するのか?」

ダンテ「しない。したらしたで面倒くせぇ」

ロダン「じゃあどうする」

ダンテ「説明はしない。だが承諾してもらう」

ロダン「ん?」


ダンテ「素直に頼むのさ」


ロダン「……………………まあ、その辺はお前さんに任せておこうか」
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/07(火) 22:51:52.29 ID:g5k8u3BLo

その会話を交わしている間に一通り店の作業が終わり、
ロダンはカウンターに両手をのせてダンテと向かい合い。

ロダン「さて、OK、まずはどこに行くつもりだ?」

ダンテ「魔女の根城に行けるか?魔界にあるんだろ?そこにバージルもいると思うんだが」

ロダン「『魔女の煉獄』か、確かに魔界にあるが……」


ロダン「『魔女の煉獄』はその名の通り、魔女の怨念が積もり積もって形成された『閉鎖領域』だ」


ロダン「魔女共の思念に受け入れられない限り、入ることはできねえ」

ダンテ「……入る方法は他には無いのか?」

ロダン「ああ。魔帝統一時代でも治外法権だった領域だからな。ま、実質は実害が無い小さな辺境だということで放置されてただけだが」

ダンテ「じゃあソレは後回しだ。先に天界の奴に会おうじゃねえか」


ロダン「ならば『プルガトリオ』だな。あそこの天界に近い領域なら、天使共が大勢たむろしてる」


ダンテ「『狭間の世界』か。良く話は聞くが行ったことはなかったな」

ロダン「いやいや。お前さんだって数え切れないほど行ってるはずだぜ」

ダンテ「そうなのか?」

ロダン「悪魔が獲物を引き込んだりする際に良く『プルガトリオ』を使う。常套手段だろうが。もしかして知らなかったのか?」

ダンテ「へえ。今知ったぜ」

ロダン「……お前さんって奴は、本当に良くわからんな。『気味が悪い』くらいだ」

常識を知らぬ癖に、何人も気付かなかったことを容易に見出してしまう。
そんなダンテの『得体の知れなさ』を再度認識しながら、ロダンはため息混じりに笑った。

ダンテ「おっと、その前にとにかくネロだネロ」

と、そこでダンテは椅子から跳ねるようにして立ち上がり。


ダンテ「ネロを拉致するぜ」


―――
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/07(火) 22:53:12.06 ID:g5k8u3BLo
―――

神裂火織。

死んだと思われていた彼女が生きていた。

それは非常に喜ばしいことなのに。

この相容れぬ距離感は一体。

なぜ―――こんなに空気が張り詰めている?


上条「…………」


そんな疑問を抱いても、まるで納得できなくとも。
とにかく否定はできなかった。

研ぎ澄まされた直感が嗅ぎつけた、この明確な『戦意』を。

神裂の姿に安堵と喜びを抱く一方、
鍛えられた本能は、その姿を見て自動的に体を警戒状態へと移行させる。

脇のインデックスが握る右手、そこから彼女の緊張も伝わってくる。

そして逆側の隣にいる、ステイルの緊張も空気を伝って。

上条「……」

いや、ステイルはそれだけではなかった。
喜びと戸惑いと緊張は上条と同じだが、それ以上に彼は。


上条「ステ……イル?」


どうしてお前はそんなに―――『敵意』を滲ませているんだ?

思わず彼の横顔を見て、上条は心の中でそう呟いてしまった。

ステイルはどう見ても、戦意を捉えた本能だけはなく。
心までもが戦闘態勢に入っていたのだ。


そしてそれに呼応するかのように。

共鳴するかのように、輝きを強める神裂の瞳。
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/07(火) 22:54:37.51 ID:g5k8u3BLo

上条「(―――だめだ―――)」


理解が把握できなくとも、肌で感じる。
これはだめだ、とにかくだめなんだ、と。

このままだと悪循環、負の方向へと転がっていく。

何がどうなるか、具体的にはわからないがこれだけは簡単に悟れる。

酷いことが起きてしまう、と。


だが何もできなかった。

あの神裂の佇まいを見てしまった瞬間、上条は何もできなくなってしまっていたのだ。

特に構えをとるどころか警戒すらしていない、リラックスしているように見えながら。

どこからどう踏み込んでも、間合いに入った瞬間に切り捨てられてしまう、そんな鉄壁の隙の無さ。


上条「―――……」


冷たく無機質な完璧さ。


まさしく―――。


禁書「………………バージル」


禁書目録としての目を持つインデックスが呟いた。


禁書「……あの力の組成…………9割以上……バージルと同一だよ」


その瞳で捉えた、
的確で具体的な答えを。
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/06/07(火) 22:55:35.61 ID:3VzEzwDso
キテター
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/07(火) 22:56:57.71 ID:g5k8u3BLo

その確かにされた事実は、状況を好転させたりなどはしない。

むしろこの緊張をもっと強くして。
更に状況を負の方向へと転がしていく。

上条とインデックスの緊張を張り詰めさせ、
ステイルの目を鋭くさせていき。

神裂「―――インデックス、ステイル、上条当麻」

彼等の名を口にする神裂の無機質な声が、更に場の空気を軋ませる。

ステイル「…………神裂……」

瞬き一つせず彼女を見据えているステイルから搾り出された声も。

神裂「はい」

ステイル「……生きていたのか」

二人が交わすこの声は、本来は喜びに満ち溢れていなければならないのに。

神裂「……はい。正確には、あの時確かに一度死んでいますが」

ステイル「転生、したんだな」


神裂「はい。ステイル―――あなたと『同じ』ですよ」


ステイル「ああ、―――『同じ』だな』

ここで放たれた声には情など欠片もなかった。

そして。

ステイル「ところで、僕達に何か用があるように見えるが」



神裂「はい。インデックスに協力していただきたいことがありまして」



神裂のその言葉で、場の空気が一変した。


ステイル「協力…………そうか―――」


特に。



ステイル「―――『やはり』。インデックス、か」



ステイルの醸すオーラが―――。
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/07(火) 23:03:13.32 ID:g5k8u3BLo


いまやステイル自身、この衝動は抑えられなかった。
身の内から湧き上がる敵意を。

確かにローラの話や今の神裂を見れば、警戒も必要な相手であることもわかるが、
それだけでは生成し得ないこの過剰の敵意。

ステイル「―――」

生きている神裂を前にして心の底から嬉しいのに。


本当に、涙が出てしまうほどに嬉しいはずなのに。



彼女の凛々しい顔がどれだけ―――『恋しかったか』というのに。



それを力ずくで捻じ伏せてしまう―――奴は敵だ、戦え―――殺せ、という衝動。


これは別に謎の衝動では無い。
ステイル自身、大本の原因はわかっていた。


己は使い魔―――『魔女の奴隷』なのだから当然の事。


ローラ=スチュアートに体のみならず、心をも奪われているのなら。
いや、『なら』ではなく確実に奪われていた。

なにせ今のステイルにとって、ローラはインデックスと『同じ』。


頭では別人だとわかっていても、惹きつけられた心は―――嘘がつけなかった。


 インデックス
『ローラ』が戦えというのなら―――ステイルは戦う。
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/07(火) 23:04:53.56 ID:g5k8u3BLo

神裂「……まず話を聞いていただけませんか?」

聞くべきだ、彼女の話を聞くんだ、
という声が心の隅で発されるもすぐに衝動に押し潰され。


ステイル「その前に説明してくれ―――」


最悪の答えを彼女から引き出そうとする。


神裂はきっと正直に答えてしまう。


そしてその答えを聞いてしまったら、もう後戻りはできないのに。

それを聞いてしまったら『敵』だと―――。



ステイル「―――君の力から、バチカンにいた『あの魔女の匂い』がする理由を」



―――『確定』してしまうのに。



神裂「―――……転生の際、彼女達の『協力』がありましたから」



そしてその答えを聞いた瞬間。

ステイルの脳内に『愛おしい声』が響き。


 インデックス
『「 私 」のために戦え―――我が使い魔よ。さあ―――』


ステイル「―――」

彼を押し留めていた最後の箍がゆっくりと。

軋みながら弾け切れていく。
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/07(火) 23:07:14.06 ID:g5k8u3BLo


ステイル「―――君達は離れてくれ」


直後、ステイルのその手、腕から炎が湧き上がり、
上条とインデックスは後ろへと慌てて身を引いた。

上条「おい……!待て―――ステイル!とりあえず神裂の話も―――」

インデックスを庇うような体制のままの上条、
彼が飛ばしてきた言葉を最後まで聞かずに遮っては。


ステイル『誰も信じるなと言ったはずだ』


紅蓮の瞳を向け、そしてエコーのかかった声でそう突きつけた。


ステイル『―――だから「僕達」から離れろ。今すぐに』


僕達、と自分も含める精一杯の『抵抗』も篭めて。


その時。


神裂「ステイル、私の話を―――」


禁書「すている!―――話を―――」


上条の腕の中から叫ぶインデックスの声と。

神裂「―――ステイル!!!」

無機質だったのが、その時だけ僅かに熱を帯びた風に聞えた神裂の声と、
目の覚めるようなインデックスの声。

それが一瞬だけ、ステイルの動きを止めるも。

直後『脳内』に直接響いてきた、


『―――私のために戦って!』


『インデックス』の声が彼の背中を押した。
『ここにいるインデックス』ではない、『彼女の声』が。

その瞬間、ステイルは全身から炎を吹き出しては魔人化。


角のある炎の衣と、手先には炎剣を形成―――。
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/07(火) 23:10:02.45 ID:g5k8u3BLo

上条はインデックスがいる以上、
その場を離れざるを得なかった。

咄嗟に彼女を抱えた上条が離れた直後、
吹き荒れた魔界の業火が何もかもを溶解させ、周囲は一瞬でオレンジの灼熱の海に変わったのだから。

神裂「―――っ」

その時、神裂が前へと一気に跳び出した。
それはステイルを無視して上条を追う軌道であったが。

直後、彼女の前の『炎の中』からステイルが出現しては立ち塞がった。
体を炎にして先回りしたのだ


この一帯は今や、ステイルの『体の中』。


神裂「…………そう……ですか」

灼熱の飛沫をあげなから、ステイルの前20m程で停止した神裂は
何かに納得したかのように小さく呟き。


鞘に納まっている七天七刀の柄へ、添えるように手をかけた。


神裂『―――わかりました』


そして声にエコーがかかり、輝きを増す瞳と。


淡い『青い光』を纏い始める体。
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/07(火) 23:11:59.94 ID:g5k8u3BLo

ステイル『―――』

もう止まらなかった。
もう後戻りもできない。
もう選択は無い。


戦う、その一本道のみ。


いくら上条が庇ってくれてるとはいえ、インデックスに万が一あることを考えて、
さっきのような追い払い方は絶対にしてはならないのに。

でも己はやってしまった。

どうかしている。
どうにかなってしまっている。

『どうしてこんな―――』


なんとか全うでありつづけた一部の心が、
衝動の荒波に揉まれながらも懸命に叫んでいるが。


『僕はどうしたら―――僕はどうなって―――僕は一体何を―――僕はなぜ―――わからない』


到底、流れを曲げる力など無かった。


『教えてくれ、上条』


『教えてくれ、土御門』


『教えてくれ、インデックス』


『教えてくれ―――』


そんな懇願の声をあざ笑うかのように、
戦いの火蓋はあっけなく切られ。


『助けてくれ―――』


次の瞬間には、炎剣と七天七刀の鞘が衝突する。


明確な殺意を帯びて。



『――――神裂』



―――
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/07(火) 23:16:26.25 ID:g5k8u3BLo
―――

スフィンクスを抱えて丸まっているインデックス、彼女を腕の中に抱き、
上条は懸命に遠ざかっていた。

後方で荒れ狂っている炎から。

当然着替えの入ったバッグなんかも持っている場合ではなく、早々に手放し。

道路を壊す事もやむなし。

一歩一歩アスファルトを大きく砕くほどの力で地面を蹴っては、
インデックスが耐えられる範囲の最高速度で飛び進む。


上条「―――」


だがその行動とは逆に、意識は離れるどころか後ろに向いたまま。

ステイルと神裂に。

あの二人が本気で殺しあうなんて―――絶対あってはならない。
誰よりもインデックスのために戦い続け彼女を守ってきた二人なのだ。

そんな二人が―――。


上条「―――」


しかし。

あの瞬間は離れるしかなかった。
離れなければ、インデックスもステイルの業火に巻き込まれていたのだから。

防衛としてまた魔女の力が発動するにしても、
再びあんな彼女を状態にさせるなど論外。

下手な刺激は絶対に与えられないのだ。
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/07(火) 23:23:25.80 ID:g5k8u3BLo

だが、一旦離れてここから戻る、という選択もある。

むしろ今の上条はそれを考えていたのだが。
そこで大きな問題にぶち当たった。


禁書「―――戻ろうよ!!!」

腕の中で上条の襟元を強く掴んでは、
グイッと顔を近づけて。

禁書「―――とうまっ!!!戻らなきゃ!!!」

そう叫ぶインデックスの声をも、黙って無視しなければならない問題が。

上条「……」

一帯は業火に包まれているであろうから、
インデックスを中に連れてはいけない。

となると当然、
二人を止めに行くのならば彼女を外に置いて行く必要がある。


禁書「―――止まってよ!!!止まって!!!!!」」


上条「―――」


そして当然、それは不可能。


状況が状況、彼女を一人にしてはいけない。
それは絶対に避けなければならない。

何が何でも、だ。


インデックスに上条一人だけでは、戻ることなどできなかった。
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/07(火) 23:25:16.79 ID:g5k8u3BLo

と、その時。

上条「―――」

大通りの向こうに一つ、
見覚えのある人影が飛び出てきたのが見えた。

長い槍を頭上に掲げ、
目立つように腕を振っている女性。


上条「い、―――五和?!」


禁書「―――あっ!」

上条は即座に両足でアスファルトを削り飛ばしては、
急ブレーキをかけて豪快に止まった。

五和「―――上条さん!!」

舞い上がった粉塵に少し顔を背けながらも、
二人の下へと駆け寄ってきた五和。

五和「―――っ……」

とそこで、彼女は上条の前にきて急にピタリと立ち止まった。
インデックスの顔を見ては、驚きの色を浮べて。


五和「……ぁ…………本当に……最大主教と……」


そしてそう呟いた。
それとほぼ同時に。

禁書「…………その槍……」

こちらはやや訝しげな表情で五和の槍を見ながら。
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/07(火) 23:28:02.58 ID:g5k8u3BLo

上条「……!」

インデックスの反応の意味はわからずとも、
五和の方はすぐに上条は悟った。

ローラ=スチュアートとインデックス、
両者のとんでもない類似性を直に『気付いて』驚いているのだろう。

五和もまた、
何らかの方法でローラ=スチュアートが纏っていた『偽装の認識』を破っていたのだろう。

上条「五和!」

ただ、彼女が戻るのを黙って待っている時間は無い。

五和「あっ……!す、すみません!」

びくっと体を揺らしては、五和は慌てた調子で。

五和「プリエステスとステイルさんは……やっぱり……!!」

上条達が確かに二人しか居ないこと、
そして背後で立ち上る業火を見てそう続けていたところ。

上条「………………」

ステイルと神裂、合流した五和。

そこで上条は思い当たった。


五和がいる今なら、『戻れる』のではないか、と。
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/07(火) 23:30:54.93 ID:g5k8u3BLo

ステイルと神裂を止める間、インデックスは五和に守ってもらうのだ。

さすがに大悪魔などを相手にすればどうしようもないものの、
五和だってかなりの手錬れだというのをウィンザー事件の時に再確認している。

彼女も信頼できる強さを有している。


五和「あの―――」


上条「細かい話は後に!」

五和が何かを口にしかけたところで上条は言葉を被せ、

上条「まずはステイルと神裂を止める!」

禁書「ついて来るんだよ!!」

上条の言葉に力強く頷いては。

五和「―――はい!!」

五和も言おうとしてたこともそれだったのか、
特に戸惑うことなく彼女も強く頷いた。


そして一行が踵を返し、夜空を照らし挙げる業火の方へと向か―――おうとしたその瞬間。


「―――だめよ」


立ち塞がれた。


そこに響いた四番目の声、いつの間にか背後にいた魔女。



長い長い、金色に輝く髪をふわりと靡かせている―――ローラ=スチュアートに。
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/07(火) 23:33:36.54 ID:g5k8u3BLo

三人はまさにその瞬間、言葉を失っていた。

ローラが背後に突然現れた、という事と。
『偽装の認識』をもう纏ってはいない彼女の姿を見て。

特にインデックスは、完全に頭が真っ白になっていたらしく。


禁書「……あなたは………………あなたは…………」


目を大きく見開いてはじっと。


禁書「…………『夢』で…………」


吸いつけられるようにしてローラの顔を見つめていた。

と、その時。

五和が一瞬で凄まじい形相になって動く。
彼女はフリウリスピアを握りこんで、その切っ先をローラへ向け―――ようとしたが。

両手で槍の柄を掴むことすら叶わないほどに早く。

五和「っ―――」

ローラが右手に持つ、青いフリントロック式拳銃の口が五和に向いていた。

上条「―――っ」

それを見て咄嗟に。

左手で腰から黒い拳銃を引き抜いては、
上条もローラの頭に突きつけて。


上条「なっ……何してやがる!!!降ろせ!!!!」


だがローラは余裕たっぷりに。


ローラ「―――果たして撃てるのか?んん?」


そんな彼をあざ笑った。



ローラ「―――『想い人』を」



その左手が力み、激しく震えている上条を。
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/07(火) 23:34:45.99 ID:g5k8u3BLo

当然。

上条「―――………………!!!!!」


上条には引き金が引けるわけが無かった。

頭ではわかっていても。

心が判別できない。
同じと認識してしまう。

この目の前のローラとインデックスが『同一人物』だと。

上条「うるせえ!!!!降ろすんだよ!!!降ろせ!!!」

息を荒げていくら叫んでも、それはハリボテ。
どう足掻いても彼がローラに危害を加えることなどできなかった。

彼がインデックスを想う限り、永劫に。

五和「上条さん!!!逃げてください!!!早く!!!!早くっ!!!!!」

そして半ば叫びながら五和はそう上条に言葉を放つも。
それも彼の性分上、不可能なこと。

上条「…………!!!!」

その時、ローラは。
いかにも耳障りといった顔で五和へと顔を向けては、ジロリと睨んだ。

そして。

ギチりと、ローラの拳銃の引き金が軋み―――。



ローラ「―――邪魔でありけるのよ。『ネズミ』は」



―――魔弾が放たれた。


だがその魔弾は、五和の魂を刈り取りはしなかった。
直前に標的が変わったのだ。


それは、一気に後方から伸びてきた―――『銀髪』のウィケッドウィーブ。


この時、一瞬で形相が変わったのは―――今度はローラの方であった。
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/07(火) 23:37:51.65 ID:g5k8u3BLo

上条「!!!!」

五和「―――!!!!!」

その突如起こった出来事は、
上条ですらまともに認識できない程の速度で。

そして上条を遥かに超える規模の力が爆発的に吹き荒れては激突した。


ローラは瞬時に振り向むいては両手両足から、
まるで舞うような挙動で魔弾を立て続けに放ち、地面を蹴って空高く跳ね飛んだ。

放たれた大量の魔弾が、どこからともなく現れたウィケッドウィーブに叩き込まれていき。
鉄線が弾け切れるように、銀髪がどんどんぶち切れていく。

しかし焼け石に水とはこのこと。

ローラの弾幕などものともせず、
ウィケッドウィーブは再生どころかさらに増強・加速されて彼女へと伸びていく。

ローラ『―――Ha!!』

それへ向けて、今度はローラもウィケッドウィーブを放つ。
金髪で形成された巨大な足が虚空から出現しては、彼女の動きに連動して放たれ、
銀髪の束を弾き飛ばしていく。

だがそれでも状況はまるで好転しない。

ローラ『チッ―――!!!!』


彼女の放つウィケッドウィーブの威力はそれはそれは並外れていたが、
この銀髪はまさに桁違いだった。

遥かに上回る力と規模の前に、ローラは見る見る追い込まれていき。


そして上方の気配に気付くが、既に遅し。
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/07(火) 23:39:24.87 ID:g5k8u3BLo


ローラ『―――』


この銀髪の主、真っ赤なボディスーツを纏った『正統派』最強の魔女がすぐ真上にいた。

くびれた腰を更に捻り、
長くしなやかな足を溜めて―――今、この瞬間に蹴りを放つ姿勢で。


ジャンヌ「―――Yeeaaa!!!!」


そして放たれた蹴りが、
振り向いた瞬間のローラのわき腹に食い込み。

彼女は衝撃で声を漏らす暇さえなく、その強烈な一撃で沈み。

下方に待ち構えていたウィケッドウィーブに叩き込まれた。


それは本当に一瞬の出来事。

上条達が地に伏せることすらできなかった程。


そしてその一瞬で、ローラは捕縛されていた。



五和「―――ジャンヌさん……!!」



ジャンヌ「―――また会ったな。ローラ」



―――ジャンヌの圧倒的な力で。
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/07(火) 23:40:47.25 ID:g5k8u3BLo

ローラ「………………………」

地面の上に仰向けに横たわる姿勢で、
ローラは頭上に立っているジャンヌをジロリと見上げていた。

銀髪のウィケッドウィーブにきつく巻かれながら、無言のまま。

ジャンヌ「……悪いな。状況が整理できるまで拘束させてもらうぞ」

ローラ「………………………」

それでもローラは無言。
キッと口を引き締め、目を細めて睨み上げていた。


上条「な、な…………」

禁書「え…………え!?」

当然上条とインデックスは状況がまるで掴めず。

ジャンヌ「五和。状況を説明してやんな」

そこで彼等二人に話をするよう、
促しつつジャンヌが振り向いたその時。


彼女がインデックスの顔を『直に初めて』見た瞬間。


ジャンヌ「――――――――なっ―――」



禁書「…………?」



ジャンヌは完全に硬直してしまう。



ジャンヌ「―――メアリ―――いや―――ローr」



これが、彼女がここで犯したたった一つのミス。
この正統派最強の魔女にできた唯一の『隙』であった。

そして当然。

ローラはこの瞬間を見逃さなかった。
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/07(火) 23:47:22.89 ID:g5k8u3BLo

ニッと、ローラが笑った刹那。


禁書「―――ッ゛」

上条「!」

インデックスの体がビクンと跳ねた途端。
直後、どこからともなく溢れ出した『青い髪』のウィケッドウィーブが、周囲を一気に覆い尽くした。

ジャンヌ「―――!!しまっ―――」

そこにいる者達が皆、お互いの姿を確認できないほどの密度で。
いや、実際に一時的に全ての知覚を完全遮断していた。


そしてこの青髪の舞は瞬時に終わる。


『全て』をまんまと運び去った上で。

ローラもインデックスも。
上条も五和もまるごと全てを。


晴れ上がり、青い髪が姿を消した後には、
ジャンヌと彼女のウィケッドウィーブしか残っていなかった。

上条・インデックス・五和がいた場所は、
地面ごとおおざっぱに抉り取られて消えており。

ローラが巻かれていた空間は蛻の殻。

ジャンヌ「クソッ―――!!!!!」

そしてそのウィケッドウィーブの束の淵には、今しがたつけたばかりのキスマークと。
金髪で編みこまれた「Dear Janne」という言葉が添えられていた。



ジャンヌ『―――ロォォォォラァァァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ!!!!!!!』



後に響いたのはとてつもない怒号。


ミスを犯した不甲斐ない己。
そして己を舐めてコケにしているローラ。

それらへの憤怒に駆られたジャンヌの、
腹の底から放たれた化物染みた咆哮であった。


―――
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/06/07(火) 23:48:34.98 ID:g5k8u3BLo
今日はここまでです。
次は木か金に。
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/07(火) 23:48:55.21 ID:BccIWe/Go
お疲れ様でした
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福島県) [sage]:2011/06/07(火) 23:57:00.50 ID:NIjBka0v0
今回も面白かったです。
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/08(水) 00:19:36.05 ID:/SFTkoyso
おっつおっつ。
・・・だがどうなるんだこの惨状・・・
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/11(土) 13:40:28.58 ID:qpa7IMCBo
―――

天は漆黒の空、地は黒い『霧状』の浅い海。
そんな光景が広がる魔界の奥底の一画、煉獄の中に、ぽつりと二つの円形ドームが並んでいた。

一つは魔女の歴代長の像が並び立っている霊廟。

もう一つは、カンタベリー大聖堂の地下から運び出された『神儀の間』。
『今の人間界』に深く関わった存在らの像が連なっている巨大な神殿だ。


そしてこの神殿のホールの中央には今、
小さな円テーブルを挟んでチェスに興じている二人の魔女がいた。

安価な俗っぽいソファーに寝そべって、キャンディを咥えているベヨネッタと。
精巧な彫刻が施されている玉座に座す魔女王アイゼン。

二人は黙々端端と駒を動かしては、
作業が始まる時間までの暇を潰していた。

アイゼン『ほう。人間界侵攻に備えてアスタロトとその軍がプルガトリオ入りしたらしい』

どこからかリアルタイムで情報を仕入れているのか、
駒を動かしながらアイゼンが魔界10強の一柱の動向を口にした。

ベヨネッタ「ふうん」

それにベヨネッタは、特に関心無さ気に相槌を打つ。
口の中でキャンディを転がして、その柄を唇で振りながら。

魔界10強が一柱、恐怖公アスタロト。
アリウスのパトロンであり、覇王復活と人間界侵攻を目論む強大な存在だ。
そしてアスタロト本人のみならず、配下のその勢力も絶大。

良くも悪くも様々な方面へ強く影響を及ぼす。
魔界における諸勢力へは当然、ここ一連の騒動で神経質になっている天界もだ。

むしろ、悪魔達が大挙してプルガトリオに進出したとなれば、
天界は到底黙ってはいられない。
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/11(土) 13:43:11.63 ID:qpa7IMCBo

『プルガトリオ』。


水面に映る月の姿のように、各世界の像が投影されて交差する領域、
それが『プルガトリオ』、『狭間の世界』。


虚無に投影されて形成している領域のため、果てが無く無限に広がる世界だ。


その遥かなる奥底では、
各世界の像が無秩序に混ざり合った混沌とした光景が広がっており。

逆に各世界に近い階層では、その世界と瓜二つの光景が広がっている。
例えば人間界に特に近い領域では、人間界そのままの空間が形成される。


更に、全く同じ物理的世界の像が形成されるほどに近ければ、
間接的に干渉することも可能である。

そして人間界には直接行けない天界の存在は、この作用を上手く利用して来た。
この最も人間界に近い階層を陣取り、ここから間接的に手を下すのだ。

ただ、このやり方は最終手段であり、
セフィロトの樹などといった制御機構でも解決できない問題のみに限るが。

その『問題』の最たる例といえば、当然魔女であろう。

天使達はここを拠点として魔女に間接攻撃を仕掛け、
乗り込んできた彼女達を迎え撃つ。

魔女にとっても天使の本体を直接殺せる領域であるため、
彼女達は自らプルガトリオに乗り込んで行ったのだ。

そうやって熾烈な戦いが幾多も繰り広げられ。

それでも魔女勢力に決定打を与えることはできなかったため、
四元徳の判断で特例中の特例として、天界の門が開かれて軍勢が直接降り。

アンブラの都が滅んだ後、
このプルガトリオの人間界に近い階層は完全に天界の勢力化になった。


そんなところに、今のこのアスタロトの進出である。

人間界侵攻が目的なのだから、
プルガトリオ内の人間界に近い階層に向かうはず。

となると。

天と魔の者達の衝突が避けられないのは当然となる。
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/11(土) 13:52:29.24 ID:qpa7IMCBo

ベヨネッタ「それじゃやっぱり戦争が始まるの?」

ベヨネッタはチェスの思考の傍ら、そう問い返した。
これまた関心なさ気な、そっけない声色で。

アイゼン『場合によっては太古以来の衝突に発展するかもしれぬな』

襟元を飾っている黒い羽毛をゆっくりと撫でながら、
ベヨネッタの手を待ちつつ答えるアイゼン。

スパーダが人の味方についた2000年前は、天界は参戦せずに様子見、
アンブラの魔女との闘争も、直接悪魔と戦った事例は極僅かでどれも小競り合い程度。

まとまった規模の天界と魔界の衝突となれば、セフィロトの樹が形成される以前の出来事、
『常闇ノ皇』と呼ばれる存在に率いられた一大勢力と天界の天津神一派との戦争以来となり。

天界と魔界の総力戦となれば、
全盛たるジュベレウスが軍を率いていた遥か太古の昔、かの魔界との『ファーストハルマゲドン』以来になるのだ。

ベヨネッタ「へぇん。そーれはそれは面白そうじゃないの」

ベヨネッタは駒を動かしてソファーに寝そべり、
神殿の高い天井を仰いではふふんと笑みを浮べた。


アイゼン『行ってはならぬぞ。そなたはここで重要な任があるのだからな』


そんな彼女をジロリと仮面の中から見える瞳で睨んでは、
アイゼンは戒めるように声を放った。

すぐさま駒を動かしながら。
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/11(土) 13:54:46.25 ID:qpa7IMCBo

ベヨネッタ「はいはいわかってマスマスはいはい」

そのアイゼンの一手がよほど厳しいものであったのか、
ベヨネッタはむくりと起き上がってはチェス板に面と向かって。

アイゼン『そなたには何度言っても足りぬからな。目を離すとすぐどこかに消えておる』

ベヨネッタ「……ここでの作業片付けたなら……行っても良いでしょ」

アイゼンの言葉にそっけなく返しながら。
目を細めてはチェス板を睨み、尖らした口でキャンディの柄を転がし始めた。

アイゼン『ハン、構わぬが、そなたが自由になる頃には既に事は終わっておると思うぞ』

そんな彼女の様子を見てアイゼンは得意げに笑ってはそう続けた。
背もたれに寄りかかり、襟元の羽飾りを悠々と撫でつつ。


アイゼン『総力戦に発展する可能性は極めて低いしな。魔界が一塊になっての全面戦争は起こりえん』


アイゼン『覇王を討ち漏らさぬ限り、な』


そして仰ぎ見るようにして横を向き言葉を飛ばした。

ホールの北端、一際大きなスパーダ像の台座に寄りかかっている―――


アイゼン『のう?そなたが討ち漏らさぬ限り』


―――バージルへ。


バージル「……」
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/11(土) 13:56:48.29 ID:qpa7IMCBo

バージルは相変わらずの冷たい表情のまま、
右手首に嵌められている銀色の腕輪を眺めていた。


琥珀色の時計版がついている骨をモチーフにした造形、『時の腕輪』を。


アイゼンの言葉が間違いなく聞えてるにもかかわらず、
完全に無視し続けて。

アイゼン『ハッ。相変わらず無愛想な男よ。父親と母親の硬質な面のみを抽出したようだな。全く』

アイゼン『やれやれどうしてこうも極端な者ばかりなのか。力ある者達の子孫は』

ベヨネッタ「『グランマ』、ちょっと黙ってて」

一人話を続けるアイゼンに向け、顔を上げぬままベヨネッタはそう言い放った。
苛立ち混じりの鋭い口調で。

しかしそれは逆効果だった。

アイゼン『グランマだと?ふん。事実上不死の我らにとって年齢などなんの尺度にもならぬ』

アイゼン『外見だって安定期を越えれば、変わりなど無いわ』

アイゼン『むしろ、やや童顔な我の方がそなたよりも若く見えるかもしれぬな』

アイゼン『のうバージル!セレッサよりも我の方が若く見えるだろう!?うん!?』

火に油を注いだかのように、アイゼンの話がみるみる加速していく。

ベヨネッタ「ねえ黙っててってば」

アイゼン『まーた反応せんのあの小童めが。女っ気の欠片も無い奴め。人を虜にする魔女の血を本当に受け継いでおるのか?』

アイゼン『そういえばジャンヌもジャンヌだ。歴代最高峰たる魔女の癖して、あそこまで色気が無いとはいかなることか』

アイゼン『その点、全身から溢れるそなたは良い魔女になったな。まあ、ややハレンチ過ぎr』

ベヨネッタ「黙れつってんだろ糞婆」
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/11(土) 13:58:51.60 ID:qpa7IMCBo

ベヨネッタがそう吐き捨てながら、ようやく駒を進めた直後。


ジャンヌ『アイゼン様』


通信魔術によるジャンヌの声が、虚空から響いた。
ベヨネッタとは違う、アイゼンへの並々ならぬ厳かな敬意を篭めた声が。

アイゼン『お、噂をすればとやらだ。ローラ=スチュアートを捕えたか?』

アイゼンは相変わらず仮面の下から薄笑いを覗かせ、
ベヨネッタは不機嫌そうに口を尖らせていたが。


ジャンヌ『いえ…………それが……』


そのジャンヌの口ぶりで、場の空気が変わる。

バージルはスッと顔を挙げ。
ベヨネッタはピクリと目尻を動かしては細めた。

そしてアイゼンは真顔なのかまだ笑みを浮べているのか、判別がつかない『不確かな』表情に。


ジャンヌ『…………捕え損ねました。完全な私のミスです』


アイゼン『ふふふ、さすがは天界どころか我らの目をも逃れてきた程。精強優秀なアンブラの子であることは間違いなさそうだな』


ジャンヌ『そこに関してもう一つあります………………………………禁書目録をも奪われました』



アイゼン『…………………………ほう……うん……ふむ……』
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/11(土) 14:04:16.79 ID:qpa7IMCBo

その瞬間、バージルが台座にもたげていたその身を起き上がらせた。
素早く閻魔刀の鞘を手に取って。

だがそんな彼を、アイゼンは緩やかな視線でなだめる様に止め。

アイゼン『どうせそなたの事、傷一つつけまいとして向かったところをつけこまれたのだろう?』

ジャンヌ「…………その通りです」

微笑しているとも見える表情のまま、
ゆっくりとチェス板に手を伸ばしては一つの駒を取り。

アイゼン『ならば次は』

こつん、と叩くように置いては一手を下して。



アイゼン『殺めるも已む無し』



さらりとそう口にした。


アイゼン『話ができる程度に生きてれば良し、としておったが仕方あるまい』


ジャンヌ『……………………』


アイゼン『人間時間で50分以内に「障害」を全て「排除」し、禁書目録を神裂に合流させておけ』


そして同じ涼やかな調子で告げた。


アイゼン『それが成されなければ、我が出向き手を下す。よいな?』


ジャンヌ『…………わかりました』
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/11(土) 14:06:41.41 ID:qpa7IMCBo

アイゼン『して、どこに禁書目録を連れ去ったのかは把握しておるのか?』


ジャンヌ『はい。プルガトリオに。人間界に近い階層のどれかに逃れたかと』


アイゼン『ほおう。ならばこれを念頭に入れておけ。アスタロトの軍勢がプルガトリオに進出したらしい』

アイゼン『当然、人間界寄りの階層を目指しておることだろう。では励め。早急なる報告を待っておるぞ』


ジャンヌ『……はい』

ベヨネッタ「…………」

ジャンヌとの通信がそこで終わったところで、
さて、とアイゼンは玉座から立ち上がり。

アイゼン『仕舞いだ。片付けておけ』

ベヨネッタ「……じゃっ私の勝ちってことでOK?」

アイゼン『なあに寝ぼけておる。良く見ろ』

軽く指を鳴らしては床に魔方陣を出現させて、
己の玉座を沈ませて片付けて、バージルの方へと歩いていった。


アイゼン『聞いたな。人間時間で50分、これまでに我らも作業しておくぞ』

アイゼン『そなたも「絶頂の腕輪」の最終調整を済ませておけ』

そう離れ際に、背中越しに告げながら。


ベヨネッタ「…………………………………………げっ……チェックメイトかよ……」



そしてぼそりと呟く、
食い入るようにチェス板を睨んでいるベヨネッタの声が静かに続いた。


―――
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/11(土) 14:08:44.11 ID:qpa7IMCBo
―――

学園都市。

とある病棟の一室。

キリエ、ルシア、佐天を『見送った』ばかりの二人、
トリッシュとレディが無言のまま佇んでいた。

トリッシュはシーツをマントのように羽織ってはベッドに腰掛け、
レディは病室の角にある椅子に足と腕を組んで座っていた。

交わされる言葉は無い。
二人とも押し黙り、病室の中を重苦しい空気で満たされていく。

キリエ達三人が拉致されたことは一応、
銃でダンテを繋がりをもっているトリッシュが彼に事情を伝えたが。

トリッシュ「…………さて……私達はどうしましょ」

それだけだった。

今、ここでできることは。
キリエ達は完全に手を離れ、ここにいる彼女達からは一切干渉できないのだ。

レディ「…………何も無いわね」

沈黙を破ったトリッシュに、
レディは呟くようにして声を返しては。

窓向こうの闇夜の学園都市、そしてその夜空を見やった。

街中には少し前から鳴り始めていた避難を促すサイレン、

空からは複数の爆音が響いていた。

レディ「…………」

レディが見知っている二人の少女を乗せた、
地獄へと向かう編隊の轟音が。
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/11(土) 14:10:13.45 ID:qpa7IMCBo

とその時だった。

トリッシュ「―――」

トリッシュが何かを感じ取ったのか、ピンと背を伸ばしては目を大きく見開いて。

レディ「―――」

次いでレディも気付いて立ち上がったその瞬間。
窓の外の夜景が、突如紅蓮の光りで溢れ。

遠くにて巨大な噴炎が一斉に巻き上がっては、一つの区画ごと飲み込み。

そして大地を伝ってきた衝撃波が、
病棟を大きく揺るがした。

トリッシュ「あれは―――」

まぎれも無くステイル=マグヌスの炎。

トリッシュがその言葉を言い切る前にレディは、
壁際に置いている巨大なバッグの方へと駆けては屈み、すばやく『準備』をし始めた。


嬉しそうにほくそ笑みながら。


バッグから取り出した格子状の拘束具で固定されている魔導書を、鎖で腰の後ろにひっかけ。
銃の弾倉が入っているポーチを腰の両側へと素早く装着していき。

30cm近くの黒い杭が差し込まれているベルトをブーツ、更に前腕に手甲のように巻き。

サブマシンガンのベルトを交差するように肩から襷がけ。

手榴弾やその他霊送の類が入った小さなリュックを背負い、
反対側の肩の後ろには、短いソードオフショットガンの入ったホルスターを。

そしてロケットランチャーに巨大な弾を装填しては。


レディ「『フル』で持ってきた甲斐があったわね」


レバーを引き、仰々しい駆動音を立ててニヤリと一笑い。
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/11(土) 14:12:14.78 ID:qpa7IMCBo

トリッシュ「見越してきたかのようね」

そんな準備の良い完全武装のレディを眺めつつ、トリッシュが目を細めてボソリと。

トリッシュ「少しガツガツしてみっともないんじゃない?」

レディ「仕方ないじゃないの。最近は欲求不満なの」

トリッシュ「まず、彼が戦ってる相手が何者なのk」

レディ「はいはいはいOKOK大丈夫だから。怪我人は黙って寝ていなさい」

トリッシュの小言染みた言葉を流して、
レディはサブマシンガンの片方を手に取ると窓に向けて一連射。

高度な術式が施された魔弾は、
学園都市製の強化防弾ガラスをいとも簡単に突き抜け。

続けてロケットランチャーを大きく引いては。

レディ「Si―――Ha!!」

ハンマーのように振って、亀裂が入った窓を叩き割った。


そして破片散らばる窓枠にひょいとあがり。


レディ「変な事しようとするんじゃないわよ。どう見ても自覚している以上に弱ってるから」


サングラス越しにそうトリッシュに言いつけをし、
返答を待たずに飛び降りて夜の街に消えていった。


トリッシュ「………………わかってるわよ」


―――
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/11(土) 14:14:38.63 ID:qpa7IMCBo
―――

「…………あァ?」

ふと気付くと、
そこは奇妙な場所であった。

見慣れた学園都市の街並み、ではあるのだが、
まるで『陽炎』のように像がぼやけ揺れている。

明るさと色合いは、
昼と夜を混ぜたかのようななんとも居心地の悪いもの。

「…………ンだここは?……あの夢じゃあねェな……」

かつて己が殺めた、
『空洞の目』をした大勢の妹達に見つめられるあの夢を思い出すが。

確かな共通点は、この独特の不安感のみ。

そもそもこうして『夢なのか?』とはっきり疑念を抱ける時点で、
いつもとは大きく違う。

妙に意識がはっきりしているのだ。

まさしく普通に起きているかのよう。

「…………」

ふと思う。

まさかこれは現実では?

以前の彼ならありェねェと一蹴しただろうが、今は違う。
天界や魔界、そして現実離れした存在を現に知っている。

何らかの影響で、一瞬で世界が変わってしまったのかもしれない。

もしかするとダンテのような規格外の存在の力で、
巻き添えを喰らって気付かぬう内にもう死んでしまっているのかもしれない。

と、思考を巡らせていくが。

次にこの奇妙な世界で起きた出来事、



『よう。「メインプラン」』



『とある男』と再開したことが、
やはり『現実ではない』と彼が決定付ける大きな証拠となった。

ただそれも、すぐ後に認識が甘かったと言わざるを得なくなるが。
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/11(土) 14:17:32.64 ID:qpa7IMCBo

「―――オマエは…………」


背後から響いてきた、聞き覚えのあるその声に。
一方通行はすぐに振り向き、彼の姿を見た。

長めの茶髪に、スーツを着崩したホストのような格好の男を。

『元気にしてたか?』

男はポケットに手を突っ込んでは、
その端正な顔が台無しになる程にニヤニヤと下品に笑った。

「……チッ……夢の中にまで、オマエのその胸クソ悪ィ面を見るなんてなァ」

彼は舌打ちをしては、
こんな苛立つ幻想を作り出してしまう己の脳を恨んだが。


『ああ夢、夢か。確かに「コレ」は夢だな。テメェにとっては』


「……………………あァ?」

そんな男の、意味深な言い回しに違和感を覚えた。

『おっとそんなに身構えなくて良い。俺は別にテメェを憎んだりはしていねえ』

彼の目が鋭くなったのを警戒されたと捕えたのか、
男は今度はいかにもな表情で爽やかに笑みを浮かべ。

『「こっち」に来て様々なことがわかってな。俺がこのザマになったのは俺の自業自得だとも知ったし』

ポケットから右手を出しては、その己を手を見つめ、
ゆっくりと顔の上にかざして。


『俺がやってた事も、まるでムダだったというのもな』

「(………………こィつ)」

その口ぶり、言葉を聞いた彼の意識の中に、
ふと一つの推測が沸いた。


『メインだろうがサブだろうが、アレイスターの手の上にいる以上、「結果」は同じだって事だ』


「(俺の意識とは―――)」

かつて己が叩き潰して『脳だけ』にしたはずの『この男の映像』が。

今目にしているレベル5第二位―――


『要は、俺は見誤ってだ訳だ。アレイスターの大きさを』


―――『垣根帝督』が、己の意識とは全く違うもので成り立っているのでは、と。


「(―――完全に隔絶してやがる?)」


己の深層意識が形成した像ではない?、と。
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/11(土) 14:19:56.73 ID:qpa7IMCBo

それを裏付けるかのように。

垣根『色々「メガネちゃん」に聞いたんだ。ああ、メガネちゃんってのは「ここ」の「先客」な』

垣根は彼の今の意識などに一切影響されず、そのまま話を続けていく。

垣根『この世界の構造、俺達の力の本質、魔術、魔界、天界の存在』

垣根『俺達はどれだけ井の中の蛙だったか。外を知らずに、狭い底辺世界で足掻いていたってわけだ』

「…………ハッ。テメェがどれだけ『世間知らず』だったかは俺も去年気付いたぜ」

推測が徐々に確信に変わる中、彼の方からも言葉を交わらせていく。
反応を見て更に正確に判断するべく。

垣根『スパーダの息子を知った時はそれはそれは驚いたな』

垣根『その直後に、接続したテメェの「起動」で脳を少し持ってかれちまったけどな』

「……そィつは悪かったな。全部焼き潰しておけば良かったか?脳だけだと惨めだろ?」


垣根『いや、今となってはその必要は無い。「もうすぐ」残りも焼かれるんでな』


「―――……何だと?」


垣根『俺はもうすぐ死ぬ』

「―――焼かれて、だと?」

『焼かれて』、そう、ここが重要であった。
あの魔帝の件の時と『同じよう』に焼かれるのか、と。


垣根『ああそうだ。前と同じようにな。今度は全部もってかれる』


「―――」

そしてあの時と同じように焼かれるということは―――同じようにミサカネットワークに接続し―――。
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/11(土) 14:23:10.45 ID:qpa7IMCBo

と、そこでその内面が表情に滲み出ていたのか。

          ラストオーダー
垣根『ん?「最終信号」の今回の調整、テメェも許可したんじゃなかったのか?』

垣根が肩を軽く竦めながらそう聞いてきた。

「…………」

それは確かに。
しぶしぶだが、彼女に手が加えられることを了承した。
アレイスターのプランが、学園都市を窮地から救う策だと聞いて。

具体的な内容はいまだ教えられていないが。

「……あれはソレのための調整か?」

垣根『ソレだけじゃないがな』

「……俺とオマエをまた繋げて、アレイスターは何をするつもりだ?」


「またあの―――『黒い羽』を俺に生やさせるのか?」


その彼の問いに、
垣根はニヤリと薄笑いを浮かべては。

垣根『それ以上だ。次はそこから更に「先」に進む。革新的な「進化」がテメェに起こる、らしい』

愉快気にそう告げた。


「…………」

進化。

その言葉を受けて、彼は己の両手にふと目を降ろした。
肘から先が黒い両手を。

垣根『詳しくは知らない。メガネちゃんから聞いただけだ。そのメガネちゃんも、「同類」から聞いただけらしいしな』

その彼の次なる言葉を予測してか、
垣根はそう先に答えては。

垣根『だがただ一つ、俺でも保証して言えることがある』

続けて告げた。


垣根『テメェのその体の変質が「完了」するってことは確かだ』


一つの確定事項を。
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/11(土) 14:25:41.06 ID:qpa7IMCBo

その言葉を受けた彼は、
数秒間ほど己の両腕を見つめて。

「……はどォなる?」

垣根『あん?なに?』

「……ラストオーダーはどォなる?」

そのまま声だけを垣根に飛ばした。

垣根『知らんよ』

垣根は即答しては、呆れがちに溜息をついて。

垣根『……こんな時まであのガキかよ。自分がどうなるかに興味は無いのか?』

「…………じゃァ聞こォか。俺はどォなる?進化とやらが『完了』したら」

垣根『アレイスターが必要としているのは、その進化が完了した力と器のみ』

垣根『テメェの人格は消去するつもりだろう。必要ないらしいからな』

「……つまり俺は死ぬのか?」

垣根『死ぬとも言えるな。永遠に目覚めない眠りにつく、といった感じか』

垣根『実は俺も同じだ。脳が全て焼かれるよりも前に、俺はAIMごとテメェに取り込まれて自我を失うからな』


「……なるほどなァ。『結果は同じ』、か」

そこで、先ほど垣根が口にした表現の意図に気付いた。
プランのメインだろうがサブだろうが、文字通りその結末は同一なのだと。
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/11(土) 14:29:21.03 ID:qpa7IMCBo

そんな、己の両手を眺めたままの彼を見ていて。

垣根『随分と落ち着いているんだな』

垣根がつまらなそうに口にした。

「ハッ。ここ最近は色々あったからなァ。図太くもならァ」

それに対して、彼は吐き捨てるように返した。

垣根『つまんねえ。リアクションは重要だろうが』

「悪ィな。焦っても意味が無い時くらいはわかるよォになってきたからな」

垣根『ふん。今は落ち着いて考えて状況分析をってか』

とその時。

「―――……っ」

突如、この陽炎の街の像が大きく乱れ始めた。
映像に激しくノイズが走ったかのように。

垣根『誰かがドでかい力を学園都市の中で解き放ってるな、そのせいでこの街のAIMが乱れてるみたいだ』

そして垣根の姿も大きく乱れていた。

「……誰かが?」

垣根『ああそうだ。話したかった事がもっとあったが、これじゃあ仕方無いな』

乱れている像の垣根は、いかにも残念そうに溜息をついては。


垣根『「外」が騒がしくなって来たぜ。「起きた」方が良いんじゃねえのか?、一方通行』


一方「…………そうか」


垣根『哀れな第一位。またすぐに会える。そして次が最期だろうなあ―――「お互い」にとって』


そしてそう別れを告げかけたところで。

垣根『って待て待て。これだけは言っておかねえと』

何かを重要な事を思い出したのか、慌てて早口で


垣根『フィアンマとかいったか、あの優男が死んだ瞬間から、「ここ」が妙にshjさjdssakdsd』


だが間に合わなかった。
垣根の言葉は途中でノイズの音となり。

一方「―――」

一気に暗転、この夢は終わった。
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/11(土) 14:31:00.36 ID:qpa7IMCBo

一方「……」

瞼を開くと、見慣れた無機質な天井が見えた。
仰向けのまま、首を横に向けると同じく見慣れた広い部屋の光景。

グループが所有しているアジトの一つ、
そこの中にあるソファーに寝そべっていた。

一方「…………」

寝起きの目を眩しそうに細めながら、むくりと身を起こす。
外からは壁を越えて聞える、非常事態を告げるサイレンの音と。

一方「…………」

漆黒の両腕の肌で感じる、表面が焼け付くような触感―――。


―――戦いの『熱気』。

                            サ ブ
一方「……だからオマエは万年第二位なンだよ』

最後に肝心な部分を良い損ねた垣根に悪態を付きつつ、
前にあるテーブルから水の入ったペットボトルを手に取り。

能力を使わずの『馬鹿力』で蓋を弾き飛ばしては大きく二口ほど飲み。

まだ残りが残っているそのペットボトルを
明後日の方向に投げ捨てては立ち上がった。


一方「クソの役にも立たねェチンピラが」


そう再度、垣根へ向けて吐き捨てて。


―――
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/06/11(土) 14:31:41.66 ID:qpa7IMCBo
遅れてすみません。
今日はここまでです。
次は月曜か火曜に。
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/06/11(土) 14:32:10.94 ID:DLBJtF5+0
おっつー
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/11(土) 14:45:00.15 ID:ub3KSeKdo
お疲れ様でした。
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/06/12(日) 01:22:25.72 ID:EoZc4Glf0
おつでしたー
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) :2011/06/12(日) 01:33:59.92 ID:Ajv5TFzW0
最近ペース速いな
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/06/12(日) 12:30:02.93 ID:BQpLQipAO
乙!

まさかの垣根の登場に俺歓喜
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/06/12(日) 14:57:40.12 ID:aWDRa3zc0
こんな危機的状況で生身なのに平然としてるレディたんに惚れるわ(*´ω`)
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/06/14(火) 19:38:56.37 ID:Rh5Ut15To
すみません。
今日の投下はありません。
次は金曜までには。
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/06/15(水) 23:53:48.59 ID:N9bUgVKAO
おう!楽しみです( ´∀`)
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/17(金) 12:44:47.60 ID:+SBkYqlIO
ていとくんって本当はいいやつじゃね?
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/17(金) 23:53:07.45 ID:cEjIRFJfo
―――

暗赤色の空の下の薄闇。
殺風景なその風景が陽炎のように揺らぎ、実体感がどことなく怪しく空間。
朽ちた白亜の柱が転々と、白い靄がかかった地面に連なっている。

ネロ「…………………………………………………………………………」

その傾いた柱の一つに、ネロは寄りかかり腕を組んでいた。
目を細めて難しい顔をして。

彼の3m程前には、地面に倒れている柱に寝そべってる叔父。

ダンテ「……」

無言のまま手を広げるようにして、ネロに話の先を促すダンテ。
少し離れたところの柱には、
二人の会話に耳を傾けているロダンが寄りかかっていた。

ここ魔界に非常に近いプルガトリオの階層にて今、
『拉致』したネロを交えての話し合いが行われていた。

その内容は、ダンテが一通りを『頼んだ』ところまで進んでいた。

ネロ「…………何度も悪いが。今一つ理解できないから、もう一度確認させてもらう」

しばらく押し黙っていたネロがそう口を開いた。
難しい表情で低い声色のまま。

ダンテ「おう」

ネロ「あんたの俺への要望は、覇王復活と魔界・天界の門の開放を済ませるまでアリウスに手を出すなと」

ダンテ「そうだ」


ネロ「そして『なぜ』は聞くなと」


ダンテ「OK、その通り」

ダンテは相変わらずのふざけたノリで、
ぱん、と手を叩いては大げさに頷いては満足そうに笑った。
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/17(金) 23:53:48.43 ID:cEjIRFJfo

そんな彼の態度に堪らずと。

ネロ「あんた―――ふざけてんのか?」

ネロがやや早口で言葉を放った。
声色は低く確かなままであったが、その調子には明らかに困惑と苛立ちが滲んでいる。

ダンテ「いいや。思いっきり真面目だぜ」

だがネロのその苛立ちに気付いているにも関わらず、
全く気にする風もないダンテ。

ネロ「そうかい、じゃあマジでイカれちまったのか?」

ダンテ「ハッハ、俺がイカれてるのは今に始まったことじゃねえだろ」

ネロ「ああそうだったよな全くよ」

彼の変わらぬ態度にネロは投槍に言葉を返しては、
額に右手を当てて俯いて。

平静を保つためか一度、大きな溜息を付いた後。


ネロ「…………親父が関わってるんだろう?」


ゆっくりと確かめる口調でそう問うた。

ダンテ「……」

同じく低い声であったが、
今度は重く存在感のある覇気が篭められて。
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/17(金) 23:55:28.62 ID:cEjIRFJfo

ネロ「俺が状況を知っちまえば、俺は絶対に黙っていられねえ」

ダンテ「……」

ネロ「あんたはそう考えてるんだな?」

ダンテ「……」

ダンテは何も答えなかった。
柱にだらしなく寝そべり空を仰いでは、薄い笑みを浮べているだけ。

そしてその薄ら笑いが元々の鋭い目つきをより一層鋭利に、
かつ不穏な存在感を際立たせている。

ネロ「……」

ネロは知っている。
そんな佇まいも、ダンテの『真面目な時』の意思表示の一つだと。

一見すると無視を決め込む風でありながら、
実は表情豊かに答えを示しているのだ。

顔を挙げて直接見ずとも、その様子はありありと肌でわかる。

ネロは『答え』を受け取っては言葉を続けた。

ネロ「……まあ、そいつは当たってる」

ネロ「間違いなく俺はそっちにも顔を突っ込むだろうな」

とそこで。

ダンテ「……俺はお前ら親子の問題には口を出さない」

ダンテが空を仰いだまま口を開いた。
表面上は気だるそうでも、その中には確かな熱が篭められている声色で。

ダンテ「お前がバージルに勘当されようが溺愛されようが知ったこっちゃ無え」


ダンテ「だからお前も『兄弟』の問題には口を出すな」


ダンテ「これは『俺達』の問題だ」


ネロ「…………」

と、そこでダンテはむくりと上半身を起こしてはこう言い直した。


ダンテ「いやまて、違うな、これは『俺達の世代』の問題だ」
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/17(金) 23:56:51.00 ID:cEjIRFJfo

ネロ「世代……」

ダンテ「俺達は『これまで』を。お前達は『これから』を。それがお互いの領分だ」

ネロ「…………」

             スパーダ
ダンテ「俺達は『 親 』の『尻拭い』をしなくちゃなんねえ」


ダンテ「だがこれがまた難儀でな、色々なのが山積みでそれも全部がただの『やり残し』の作業じゃねえ」

ダンテ「大事なところがスパーダすら把握しきれていない、あやふやなもんまであると来た」

これまた大げさに肩をすくめ、
眉を顰めては笑いつつダンテは言葉を続け。


ダンテ「しかもそれが一番重要な件で、『解釈』は俺達にまるごと任されてるんだぜ?笑っちまうだろ?」


ハッと笑い声を挙げて、
倒れこむように再び柱に寝そべって。

そして。


ダンテ「『俺達の親』の尻拭いだ」


ぽつりと吐き捨てるようにそう呟いた。


ダンテ「甥やガキにやらせる訳にいかねえだろうが」


笑いを含んでいない、小さな声で。


ネロ「……」
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/17(金) 23:58:46.83 ID:cEjIRFJfo

そんなダンテの言葉を聞いて、
ネロは数十秒間押し黙った後これまた大きく溜息をついては。

ネロ「……あんたも親父と根は一緒だ。自分勝手すぎるってな」

頭を掻きながら、諦めがちに口を開き。

ネロ「だったらやっぱり……一番『まとも』な俺が許容するしか無いじゃねえか」


ネロ「わかったよ。仕方ねえ。承知した」


そして一先ずの納得の意を示した。
親兄弟の馬鹿馬鹿しくなるくらいの頑固さは重々知っているネロとしては、
ここはYESと頷くしか無かったのだ。

いいや、もしNOとする選択肢があったとしても、
ダンテの言葉を聞いたネロはそんな選択は選ばなかっただろう。

何よりもこの親兄弟を信頼しているのだから。

ダンテ「おう」

ネロは柱からもたげていた身を起こし、
立て掛けていたレッドクイーンをその背に背負った。

ネロ「それで親父とあんたが今向かってるのは、そのスパーダがやり残した仕事なんだな?」

ダンテ「ああ」

ネロ「…………対するあんたの心持はまあまあわかったが……親父はどうなんだ?」

ダンテ「見ている『もの』は同じだ。だが『解釈』の仕方が俺とは丸っきり違う」

とそこでダンテは手を広げて、ネロをジロリと見やった。
聞くなと言わんばかりに。


ネロ「あああそうそうわかったわかったよ、これ以上は聞かねえ」
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/18(土) 00:04:09.40 ID:bEXiuiEWo

ロダン「話はついたな」


そんな二人の話し合いが終わるのを見て、
ロダンが二人に近づきつつ声を挙げた。

ロダン「OK、ではそうと決まったらまずこれを見てくれ」

その彼の声に合わせて、ダンテとネロのちょうど間の中空に、
金色の魔方陣が出現し。

ダンテ「お、何だこれ」

そして『球状の映像』が出現した。
映し出されているのは、静まり返る薄闇の中の巨大な都市。

ロダン「デュマーリ島の今の映像だ」

ダンテ「生中継か?どうやってんだ?」

ロダン「『セフィロトの樹』に侵入して盗み見してる」

ダンテ「ひゅー、さすがだな。どこまで見れる?範囲は?」

ロダン「んなもん今はどうだっていいだろうが、重要なのは彼女がいるってことだ―――」

ダンテの言葉を切り捨てて、
ロダンがパチリと指を鳴らすと映像は一気に都市の『地下』へと潜り。


ロダン「―――フォルトゥナのお姫サマがな」


広大な、とある地下空間を映し出した。


ダンテ「あ、悪ぃ、これまだ言ってなかったぜ」


そこにいる三人―――ルシアと佐天と。



ネロ「―――……ッ?!!キリエッ!!!!!!」



そしてキリエを。
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/18(土) 00:07:10.57 ID:bEXiuiEWo

ネロが形相を変えてダンテの方へと振り向き、
その口から噴火の如く声を。

ダンテ「待て待て待て待て、まず話を聞け」

発しようとしたした瞬間、ダンテは柱から飛び降りてはそう彼の言葉を封じ、
なだめるように両手の平を向けてどうどうと続けた。

ひとまず声を荒げはしなかったものの、
鼻息荒くダンテを睨むネロ。

ロダン「大丈夫だ。アリウスは彼女を殺しはしない」

ロダン「覇王の力など諸々を手に入れて万全の準備が整うまでは、絶対に彼女に手を出しはしないはずだ」


そこでロダンが横からそう告げた。


ロダン「奴はな、『愛する者を救うが為に修羅となるネロ』を求めている」


激流のように猛烈に駆けていく衝動。
彼女が『まだ生きている』という希望があるからこそ、衝動は攻撃性を強めより焦燥し怒りに満ち溢れる。

しかしキリエが死んでしまっては、そんなリアルタイムな衝動は終わってしまう。

確かに愛する者を奪われた怒りは濃く強いものではあるが、覇気も動きも無い。
落ち着いて『冷めて』しまっているのだ。


ロダン「お前さんの『生』に対する激情、それを欲しているようだな。あの男は」

ロダン「『最も力が漲っている瞬間』のお前さんと戦いたいらしい。全く命知らずな野郎だぜ」


ネロ「…………ッ」
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/18(土) 00:09:51.93 ID:bEXiuiEWo

そのように新たな情報と状況を告げられて、
喉元まで込みあがっていたネロの怒気もとりあえずは徐々に押さえられていく。

ダンテ「それにな、キリエちゃんを助ける前にお前にやってもらいたい仕事があるんだなこれが」

そこでダンテがそう話に加わって来た。

ロダン「以前、フォルトゥナの地獄門が開いて悪魔が雪崩れ込んだな?」

ネロ「……?……ああ」

いきなりのその確認に意図かつかめずとも。

ネロはかつての記憶を思い出しては小さく頷いた。
教皇サンクトゥスの引き起こした騒乱の際、
フォルトゥナの空を夥しい数の悪魔が覆い尽くしたあの光景を。

そして次の瞬間。

ロダンが指を鳴らして切り替えたその映像に同じ『光景』を見た。

ネロ「―――」

いや、『同じ』ではない。


ロダン「アスタロトのこの第一陣『だけ』で、あれの1万倍以上の規模だ」


規模が桁違いであった。
魔界のどこかなのか、見渡す限りの多種多様の悪魔が地表を多い尽くし、
空もどこまでも多い尽くしている。

ネロ「―――なんだよこれはっ……」

ロダン「プルガトリオに悪魔が大挙して侵入を始めた。人間界に近い階層に向けてな」

ネロ「―――」

ロダン「魔界の門が開けばその瞬間、最初にこいつらが一気に人間界に雪崩れ込む」

ロダン「そうしたらまずは、復活した覇王がいるデュマーリ島にアスタロトをはじめとする首脳が集う」

ロダン「そして覇王が魔界の統一王として名乗った瞬間、他の十強、諸侯の勢力がその旗の下に続き」


ロダン「デュマーリ島から人間界侵攻が『再開』されることになる」
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/18(土) 00:12:15.87 ID:bEXiuiEWo

ネロ「……」

最初は戸惑ったものの、次第に落ち着いたネロは、
最終的にジッと黙ってロダンの言葉を聞いていた。

ロダン「最終的には間違いなく魔界の全戦力が加わる総力戦となり、2000年前の侵攻以上の同じ規模となるかもな」

ロダン「そして人間界が戦場となった時点で、お前さん達でももうどうにもならないだろう」

ネロ「…………」

そう、このシナリオ通りになってしまったら、
最終的にはどうしようもなくなる。

フォルトゥナだって、襲撃してきた悪魔の規模からすれば被害は最小限に抑えられたものの、
結局あそこまでの廃墟と化した。

この規模では、人間界に進入されたら『無事では済まない』どころの話ではない。

進入してきた悪魔達を全て排除できる頃には、
とうの昔に人間界は完全に滅亡しているだろう。

ネロ『個人』としては悪魔に負けることは無い。
しかし人間勢力は完全に敗北する。

ネロ「……」

そこを考えると話が徐々に見えてくる。

人間界に進入された時点でこちらは敗北。

となるととるべき手はただ一つ、
人間界に進入する前にこの軍勢を『解決』することだ。

『前回』の勝利を導いた、スパーダと同じ戦法で。


ネロ「……つまりだ、俺がやることは―――」


ダンテ「戦場が人間界に移る前に、連中のど真ん中に殴り込み―――」


先手をとり―――。


ダンテ「―――アスタロトの首を獲り、奴の軍勢を魔界へと追い払う」


―――出鼻を挫くどころか完膚なきまで『叩き潰す』。

いつの間にか、再び柱に寝そべっていたダンテがそう横から核心を告げた。


ダンテ「奴等はお前の『獲物』なんだしな」


ニヤリと薄ら笑いを浮べて。
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/18(土) 00:16:42.75 ID:bEXiuiEWo

ネロ「…………はっ……」

ダンテのその言葉を聞いては、ネロは目を細めて乾いた笑い声を漏らした。

学園都市の病室で、
アスタロトとトリグラフ達は己の獲物だ、とした事を思い出して。

そして別に今もその気は変わっていない。
ネロは右手を力ませては、その指の骨を鳴らして。


ネロ「ああ、さっさとやろうじゃねえか」


そう『快諾』した。
ネロの言葉を聞いたロダンは、サングラス越しにニッと笑い。


ロダン「お前さんが成し遂げればアスタロトの軍は瓦解し、他の十強や諸侯は様子見に入り」

ロダン「その間にお前さんがアリウスを覇王ごと潰し、助けた彼女と共に島を後にする」


ロダン「これの成功に重要なのが『速度』だ」

次は注意する点を告げていく。

ロダン「人間界みたいに界への負荷は考えなくて良い。プルガトリオは基盤が虚無だからな。決して壊れはしない」

ロダン「だがこれだけは覚えておけ。プルガトリオ内からでも、人間界に近い階層では物質領域限定だが人間界に干渉できる」

ネロ「……」

そこまでで、ネロは彼の言わんとしている事を把握。

人間界に干渉できる階層では、その戦いの余波が人間界に達してしまうのだ。
物質領域限定とは言っても、解放された魔剣スパーダのその破壊は想像を絶する。


つまりはタイムリミットは魔界の門の開放ではなく、
アスタロトの軍勢が干渉階層に侵入する前、ということなのだ。
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/18(土) 00:18:01.87 ID:bEXiuiEWo

ロダン「プルガトリオ内の行き来の仕方はわかるか?」

ネロ「ああ、あんたに拉致された時に『式』は見た」

ネロはロダン達から少し離れては、地を足で軽く叩いた。
すると赤い魔方陣が彼を中心として浮かび上がる。

そして、ダンテとは違って一応使えるからな、と続けて。

ネロ「苦手だが、ま、負荷を考えなくて良いのならいくらでも使える」

ロダン「人間界に近い階層なら俺が迎えに行ってやる」

ネロ「ああ、頼む」

そう頷いては背中のレッドクイーンの柄を握り、
刃の背を肩に乗せてイクシードを噴かす。


ネロ「OK、一発ぶっ飛ばしてくるか」


続けてネロの足元の魔方陣の光りが増して。


ネロ「ダンテ、一つだけ聞かせてくれ」

と、そこで思い出したようにダンテの方へと振り返り。


ネロ「親父は、『これ』をどうするつもりだったのか。あんたは知ってるのか?」


そう問うた。

己達がここに気付づかずに動いていなかったら、
果たしてバージルはどうするつもりだったのだ、と。

己達が動かない場合において悪魔達を追い払う計画があったのか、それとも。


この問題には目を瞑り、人間界の多大なる犠牲をも厭わないつもりだったのか。


ただ目的のために、と。
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/18(土) 00:20:52.43 ID:bEXiuiEWo

そんなネロの疑問にダンテはさらりと答えた。

ダンテ「物事ってのは、最後には治まるところに治まる。誰しもが思っている以上に、物事の連なりってのは『規則正しい』からな」

確かに声色はさらりとしていたが、妙に意味深な言い回しで。

ネロ「……」

ダンテ「あいつは知ってるのさ。『結果』を。俺と同じくな」



ダンテ「今回の結末は、『過去をなぞりつつ新しい英雄談』になるってな」



ネロ「――――――――――――」


それは表面上は漠然としてて唐突な言葉であるが。
スパーダの孫にあたるネロにとっては、『強烈』な具体性を一瞬で帯びる言霊。

ダンテのその言葉が電撃のようにネロの意識内を走っていく。
過去をなぞる、その部分が突如閃光を発するかのごとく思考の底で主張する。

そう、今この状況はダンテの言葉通りではないかと。


魔剣スパーダを手に。

人間界侵攻というこの良く似た状況で。

同じ戦法で魔界の軍勢に挑もうとしている。


まるで、いいや『まさしく』―――スパーダの生き様をなぞるかのよう。

そこまで思考が至った瞬間。

ネロは『なぜか』戦慄した。

理由は良くわからないが。

これが、なぜかとてつもなく恐ろしい事だと感じてしまったのだ。
そしてダンテがそれに準じるようにぽつりと続けた。


ダンテ「―――それが果たして本当に良いか悪いかは別として、な」


そう、またもや意味深に。
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/18(土) 00:23:01.79 ID:bEXiuiEWo

ネロ「―――…………」

ダンテ「『そこ』がな、あいつと俺の『解釈』の違いだ」

ダンテ「バージルは『そこ』に気付いてはいるが、問題視はしていない」


ダンテ「俺は『そこ』が核心だと思ってる」


ネロ「…………俺は……」

続けられたダンテの言葉を飲み込んで。
少し黙った後、ネロは口を開きかけたが。


ダンテ「焦るな。お前もいずれ『実感』するさ」


ダンテ「そしてそこでどう解釈するかも、お前次第だ。好きにするがいいさ」


ネロ「………………………………」


ダンテは相変わらず寝そべって空を仰いだまま。
そんな彼をしばらく無言のまま眺めていた後。


ネロ「ああ、そうさせてもらうぜ」


彼に背を向けてはそう言葉を返して。


ネロ「好きにやらせてもらう。俺の気の向くままに―――」


そして魔方陣に沈んでいき、姿を消した。


ダンテ「―――ああ、気まぐれのままに、な」


その返されたダンテの声を聞かずに。
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/18(土) 00:25:08.40 ID:bEXiuiEWo


ロダン「いいのか?もっと詳しく話してやっても良かったんじゃないのか?」

ネロの姿が消えた後、
ロダンはコートのポケットから葉巻を取り出しては火をつけながら。

ロダン「お前さんと同じような視点で『問題』を捉えたようだが?」

煙を煙突のように上方に吐き出しながら、声のみをダンテへと放った。

それに対し彼は答える。

ダンテ「いんや―――『同じ』じゃあないぜ」

同じく相手を見ずに空を仰いだまま。

ダンテ「似ていても根本的な部分が違う」



ダンテ「あいつは『人間』だからな」



そして空を仰いだまま、言葉を続けた。



ダンテ「ま、…………せいぜい気張れよ、ボーヤ」



今度はロダンではなく、『これから』を担う若き青年へ向けて。


いかにも楽しげに。

愉快気に。

そしてどことなく僅かに。



―――寂しげに。



―――
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/06/18(土) 00:26:17.70 ID:bEXiuiEWo
短いですが今日はここまでです。
次は日曜か月曜の夜に。
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/18(土) 00:32:30.79 ID:Ctqo9RI+o
お疲れ様でした
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/06/18(土) 00:32:33.91 ID:tpXyv7Fpo
乙!まってたぜ
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/06/18(土) 00:58:12.96 ID:2Yh8dinwo
おつ!
ネロとダンテのターンきたあああああ
これからもますます楽しみ!
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) [sage]:2011/06/18(土) 01:26:10.60 ID:/TRlhaRgo
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/06/18(土) 02:44:51.64 ID:YMDEmhqFo
いつ見てもかっちょいい文体だぜぇ…乙っしたァ!!!
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/06/18(土) 14:15:39.47 ID:RHOs6VXg0
おつおつおつ


上条修行編のあたりからちょっと文体変えたよね?
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/06/21(火) 01:07:28.15 ID:sDAaF+n5o
>>132
気分やその時期に読んでいる本の影響等で、
ちょくちょく文体は変わっとります。
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/21(火) 01:10:35.28 ID:sDAaF+n5o
―――

噴き荒れる灼熱の炎が、第七学区の一画を飲み込んだ。
物質領域のみならず、魂までを焼き焦がす炎獄の業火が。

並び立っていたビル街は一瞬で溶解し、通りとの境目はもはや判別不能。

オレンジの液体へと姿を変えたコンクリートや鉄骨が、
混ざり合っては火の粉を巻き上げて『川』を形成。

炎獄と見まがうほどの禍々しい様相へと、あたりの景色が豹変していく。

そしてその中、炎となって駆け巡る悪魔『イノケンティウス』、ステイル=マグヌス。

実体化しては炎となりを繰り返し。
領域の中を縦横無尽に移動し、業火の柱を放っては両手先にある炎剣を振り抜く。

その超高速で繰り出されてくる刃を、
七天七刀の鞘で防く神裂火織。

彼女の体は、衣状の青い光に包まれていた。
周囲の景色とのギャップで、まるでオアシスのように涼やかに。

そして涼やか清廉なのは風貌だけではない。
靡く長い髪、しなやかな体、そしてその身のこなしも全て無駄なく洗練されたもの。

神裂『―――シッ』

彼女は全く苦を感じさせずに、
ステイルの繰り出す炎の刃を弾いては鞘を滑らせて打ち流していく。


ステイル『―――オォオオオオオオ!!!!』

この場で彩られる二人の衝突は、
それはそれは壮烈なものであった。
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/21(火) 01:12:14.34 ID:sDAaF+n5o

刃と鞘が衝突するたびに、凄まじい衝撃が空間を揺らす。

猛々しく燃え盛る炎そのもの、修羅の形相のステイルの攻撃はより苛烈に、
『主である魔女』の意志をうけて更に攻撃的に熱と圧を帯びていく。

神裂『―――』

足元に気配を感じ、後方へと瞬時に跳ねる神裂。
直後に、一瞬前まで立っていたその地から吹き上がる巨大な火柱。


そしてその火柱が。


噴出した炎が形を変え、一瞬で『構えているステイル』へとなる。


神裂『―――ッ』

瞬間、後方へ跳ねた体制のままの神裂めがけ、
ステイルの左の炎剣が振るわれた。

神裂は即座に見切り、鞘先で上方へと弾く。

振るわれた炎の刃はとてつもなく重く、
衝突で刃の力が漏れ出しては、強烈な衝撃を周囲にへと撒き散らしていった。

二人を中心として、
足元のオレンジの海がクレーター状に吹き飛ばされ―――るそれよりも早く。

ステイル『―――カッ!!!!』

そんな短いステイルの息継ぎと同時に、右の炎剣で突きが放たれた。
先の一振りを上方へと弾いた直後の、腹部ががら空きとなっている神裂目掛けて。
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/21(火) 01:15:04.92 ID:sDAaF+n5o

神裂『―――』

神裂と良く慣れ親しみ、何度も手合わせをしてきたステイルだからこその、
彼女の隙を狙った一撃。

どんな風に打ち流しどんな軌道をとりどう立ち回るか、
ステイルはそれを良く知っているのだ。

もちろん彼女も即座に反応し、
長い長いその鞘をバトンのようにくるりと回して逆側の先端、
その柄先で打ち流すも。

完全に防ぐことは叶わず。

鞘と激しく擦れ合い、放たれた炎剣の突きは軌道を逸らされるも。
切っ先が彼女のわき腹を焼き抉っていく。

神裂『―――ッ!!!!』

魔の炎はそのわき腹だけではなく、
全身へと焼きつく痛みを走り巡らせる。

歯を食いしばっては、
『音にならない呻き』を漏らしつつ彼女は後方に更に跳ねた。

その時―――前方のステイルの姿が再び炎となり消失。

神裂『―――』

彼の次なる出現地点を割り出すべく、
彼女は瞬間的に今まで培った経験を『直感』で分析。

ステイルの戦闘行動、戦闘時の思考の仕方、そして彼の直感の動き方まで全てを。

ステイルは神裂の戦闘テンポを隅々まで知っている一方、
同じく神裂も良く知っているのだ。

次にステイルが形を成したのは神裂の斜め右後方であった。
炎剣を構え、即座に攻撃を放てる体制で。

しかし彼は先手を取れなかった。


神裂の回し蹴りが一『足』先に放たれていたのだから。


出現したステイルを、
彼のその顎先の未来位置を正確無比に予測して。

そして―――叩き込まれた。
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/21(火) 01:18:42.38 ID:sDAaF+n5o

ステイル『―――ごァ゛ッ―――』

そんな潰れた呻き声を漏らして、
上半身を大きく仰け反らせるステイル。

神裂は振り抜いた足を戻しては軽く一回転して。
続けて鞘の突きを放った。

仰け反っている彼の腹部へと。

鈍くもとてつもない衝撃を伴ってめり込む鞘先。

そして次の瞬間。

強烈な二撃をストレートに受けてしまったステイルの体は、
凄まじい勢いで弾き飛ばされていく。

だが彼の体が地に、
そのオレンジの灼熱の海にぶち込まれることは無かった。

直後。

神裂は引き戻した鞘を腰に構えては柄を握り。

僅か1cmほどだけ刃を抜く。
するとその瞬間、少しだけ見えた刀身から青い光が迸り。


漏れ出したそれらの光が一瞬で伸び―――糸状となり、周囲に走る。


『七閃』。


走る線は従来の『鋼糸』ではなく、バージルから授かった力による『斬撃』が姿を変えたもの。

青い光の筋が瞬く間に格子状に走り、
伸縮しては網のようにステイルを包み込み。

そして神裂が指で引くような動作と連動して絞られ。


ステイル『―――』

ステイルを拘束して縛り上げた。

両足を纏めて縛り、腕は両側に広げるようにして。


そう―――十字状に吊るし上げて。
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/21(火) 01:20:25.97 ID:sDAaF+n5o

ステイル『―――!!ぐッ!!!ア゛ア゛ア゛ッ!!!』

目の周り、顔、首筋に筋繊維と血管がありありと浮き上がるほど、
力んでは潰れた咆哮を挙げて暴れるステイル。

だが光の糸はびくともしない。

むしろ彼がもがくたびにその締め付けを強め、彼の肉を抉っていく。

神裂『おとなしくした方が良いですよ』

そんな彼の『足元』へと神裂は歩み進み、
冷酷な無表情のまま彼を見上げた。


神裂『抵抗するほど、この糸は拘束力と切れ味を増していきますので』


その神裂の言葉を聞いて、ステイルの動きがぴたりと止まった。
ただ、それは諦めたのではなく。
ましてや抵抗の意志が潰えたわけでもなく。


ステイル『…………ナメて……いるのか?』


そう神裂を見下ろした彼の声は潰れ、地響きの如き音。

尋常じゃなく力んでいるためか、
首の動きは油の切れた機械のようにぎこちなく。


神裂『―――……』

そしてその彼の顔をはっきりと見た瞬間、神裂は息を呑んだ。
決して表情には出さぬも。

彼女の呼吸がその一瞬、止まった。


真っ赤に光り輝くも虚ろな、
極度の異常な興奮状態で自我が朦朧としているその瞳を見て。
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/21(火) 01:23:22.89 ID:sDAaF+n5o

植え付けられた戦意に抗えず精神の独立性を失い。
疑念を抱くことすら許されず、ただただ主の意志に沿う傀儡。

これが魔女に心を奪われた者の末路。

だが、彼はまだ完全に傀儡とは化していなかった。
もう『手遅れ』なのだがステイル=マグヌスの意志は確かにそこにあった。


なぜ今もあんなに力み、苦痛に喘いでいるのか。


なぜなら、今だに彼は全てを魔女の意志に明け渡しきってはいないのだから。
ステイル=マグヌスという往生際の悪い男は、いまだに内側で無謀な戦いを続けていたのだ。


神裂『―――』

そしてそこに気付いてしまった瞬間。
彼女の鉄壁の仮面の下、心の奥底。

硬く硬く、何度も心の中で言い聞かせて何重にも固めた『覚悟』に。


その難攻不落の城塞に大きな亀裂が一筋―――。


今、己は妥協することは許されない。
主たるバージルが掲げる目的のため、障害は確実に排除する。

だがそこに、神裂の個人的願望が混じっていないとなれば答えは否だ。

なぜバージルが、神裂を傀儡化せずにその自我をそのまま残したのか。
そのはっきりとした理由は彼女はわからないが、これだけは確かだ。


己が抱く想いが、信念が、バージルの目的にも沿うものであると認められた、ということだけは。


その想い、それは。

『救われぬ者に救いの手を』

世を守り。

人を守り。

友を守る。


何よりも大切な『友』を。


彼等が望む未来を、そして彼等の『生きる未来』を。
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/21(火) 01:24:48.95 ID:sDAaF+n5o

そのためだったら何だってする。

そう胸にして生まれ変わりここに来た。

今までとは違う、これは『真実』を知った上での本当の戦い。
望んでいた戦い、望んでいた場。

バージルに仕え、彼の目的の成就の一手を担い、
そして個人的に己が望む未来をも引き寄せるため、この自分自身の意志をもって刃を再び手にした。


そうしてきたのに―――。

ステイルが完全に傀儡化していたら。
もしくは己が傀儡化していたら、どれだけ『良かった』だろうか。

神裂『―――』


考えては駄目だ、考えるな、と悪魔の心が声高く戒めてくる。
しかし人の心の思考が留まらない。

ここに来る前に押し殺して、完全に隠しこんだ想いが再来する。
何重にも縛したのに、いとも簡単に引き千切って肥大化する。

一時の緩み、一瞬の迷い、一縷の甘さが、彼女の整えられた内面を連鎖崩壊させていく。


人の心とはなんと不安定なのか。
一体どれだけ揺れ動けば、その情念を収まらせてくれるのか。

感情的で、直情的で、道理が通っていない願望は留まるところを知らない。


バージルの気高き僕として仕事は確実に成す、そう、『使い魔』の己がこの障害の排除を望む。


その一方で。


バージルに存在を認められたこの『人』の心が諦めきれない。


『友が生きる未来』―――『ステイルが失われない未来』をも。


どんなに鉄壁の覚悟を決めても、
元から彼女がこれに抗えるわけが無かった。

どれだけ精神を鍛えて戒めて、固く決意しても関係が無い。



最も近き友への、インデックスそして―――ステイルへ想いは本来。



その『城塞』の内側にあるべきものだったのだから。
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/21(火) 01:28:11.61 ID:sDAaF+n5o

どうすればいいのか。

どうしたら。


我が主よ―――教えてください―――私は一体―――。


神裂『―――』

だが声は聞えない。
柄を握っても、主は黙ったまま。

声は何も聞えない。

逆に聞えるのは。


ステイル『―――……抜かない気か?』


地響きの如く低い『友』の声。

神裂『―――』

そしてその声を耳にして、『直感』が余計なことをしてしまう。
良く慣れ親しんだステイルの思考を完璧にシミュレートして『しまって』。


ステイル『…………刃を…………抜かないまま……』


―――刃を抜いて―――いっその事―――


瞬時に頭の中に正確に構築されたステイル像が、声を重ねる。
魔女の意志に潰されて発する事を許されなかったであろう、彼の『本音』を。


ステイル『………僕に……』


―――僕を―――



ステイル『……勝てるとでも……?』



―――殺してくれ―――



神裂『―――』
142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/21(火) 01:29:50.18 ID:sDAaF+n5o

神裂『―――』

その表情はいまだ冷静を保っているも、
いまや神裂の内面は乱れに乱れてしまっていた。

このまま彼が縛されていてくれれば、どれだけ良かったか。
ジャンヌがローラを捕らえ、ステイルの契約を解除させることも可能であっただろうに。
時間があれば確かな解決法を見出せていたであろうに。

だがしかし。

最も彼女が安心して背中を預けられるこの男は。


当然、この程度で縛し続けられる程弱くは無かった。


ステイル『オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!!』


一際大きな咆哮と共に、彼の全身から業火が溢れ出し。
『七閃』の糸が一本、また一本と弾け切れていく。


神裂『(待って―――!!)』


焦燥する思考が一気に回転を増す。
とにかく解決策を見出すために。


『次元斬りで破断しては?』


閻魔刀のクローン、『子』としても良いくらいにその力を与えられたこの七天七刀。
セフィロトの樹に手を入れるため、その『破断』の性質を特に濃く受け継いでいる。

その力を使えば、ステイルと魔女の繋がりを切断するのも可能か?

ウィンザー事件の際にアリウスの技によって、ルシアに繋がれ囚われたネロ、
その繋がりをバージルが斬り捨てた時のように。

いいや―――これは不可能。

神裂はその『繋がり』が認識できないのだから、斬りようが無い。
ウィンザーの件は、バージルの超越した感覚と識別眼があったからこそのもの。


到底、神裂にはできない芸当であった。
143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/21(火) 01:31:10.88 ID:sDAaF+n5o

そんな無駄に終わった思考の間に。

ステイル『オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!!』

糸が全て弾け切れ。

ステイルは縛から抜け出して、神裂の前に着地した。

今まで以上の熱と力をその身に帯びて。
噴き荒れる『光』の爆風と渦を巻いて舞う火の粉。

そして。

彼は低い姿勢のまま神裂を凄まじい形相で見据え。


ステイル『―――神裂ィィィィィィィ!!!!』


口から炎を吐き出して叫び、
彼女めがけてその溶けた大地を踏み切った。


神裂『―――』

その咆哮を神裂ははっきりと覚えていた。
つい最近にも耳にしていたことを。

同じ声色で、同じ言葉を。

バチカンで。

ベヨネッタに串刺しにされて横たわり、意識が薄れる中で。


こちらに向かってくるこの声と言葉を―――。


―――力強く呼びかけてくれた彼の声を。


あの時、言葉を返せなかった。

そして今も言葉を返せず。



代わりに返したのは。



神速の一振りであった。
144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/21(火) 01:32:51.47 ID:sDAaF+n5o

幸か不幸か。
武人としての体は即座に反応する。

神裂の迷いなどお構い無しに、防衛本能が突き動かす。

瞬時に柄に手をかけては軽く握り。


そして前に踏み込み。


すれ違いざまに抜刀。

以前とは比べ物にならない程の、莫大な力を篭められた七天七刀は、
青い光の軌跡を描いては鋭い金属音を響かせて。

ステイルの首、左側半分を切断した。


ステイル『―――』


神裂『―――』


『悲しき』ことに、それは完璧な必殺の一振りであった。


刃はその一撃で彼の魂へも到達し。

直後、まるで頚動脈からの血飛沫のように。

傷口から真っ赤な炎を噴出しながら、ステイルは倒れこみ。
突進の慣性のまま溶けた大地を抉り飛ばして吹っ飛んでいった。
145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/21(火) 01:35:28.75 ID:sDAaF+n5o

そしてそのステイルの体がようやく止まった頃。

神裂『―――ッ―――!!』

神裂の冷徹な仮面が遂に『崩れ』を見せる。
直後、彼女はハッとした表情となり。

ステイルの方を勢い良く振り向いては、
大地に倒れこんでいる彼を見て。

神裂『……ステ……イル?』

呆然とした調子でそう彼の名を発した。

当然、ステイルは反応しない。

彼の体から迸っていた光は消え、
魔人化が解けた事で体の組成が基本形状に戻ったのか、
首から放出していた炎が本物の血へと変わっていた。


神裂『―――…………』


数秒間、神裂は動けず硬直していた。

怖くて、怖くて。

彼の生死を確認するのが。

だがその時、ステイルの体がピクリと動いたのを見て。

神裂『―――』

即座に彼女はその場を蹴って、
文字通り彼の元へと飛んでいった。
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/21(火) 01:38:38.04 ID:sDAaF+n5o

熱してた魔の力が途絶えたからか、
周囲は物理法則では考えられない速度で冷え固まっていく。

そんな固まりかけの地に横たわっているステイル。

彼のすぐ横に神裂が滑り込むように着地しては、
鞘に納めた七天七刀を脇に置いて彼を抱き上げた。

膝の上に彼の上半身を引き寄せ、左手で彼の頭を支えて。

神裂『―――…………ッ…………』

そして何か声をかけようとするが言葉が出なかった。
ステイルの『毒気』が抜けたような、穏やかな顔を目にしてしまって。

彼はそんな、彼女のぎこちない顔を虚ろながらも涼やかな目で見上げて。

ステイル「…………何も……わからなくなった……何も…………」

優しく語りかけるように口を開き始めた。

ステイル「僕自身すら……信用できなくて……」

その声は今にも消えそうなほどにか細くも。
そこには確かにステイルが『いた』。

神裂『…………』

魔女の意志から解き放たれた彼が露になっていた。


ステイル「だが……良かったよ…………」

ステイルはゆっくりと右手を挙げては、
己の頭に回されている彼女の左手先にあて。


『救われぬ者』に差し出された手に。


ステイル「どうやら……君だけは……」


そして言葉を続けた。

神裂の瞳と。


ステイル「―――……君のまま……だったからね……」


彼女の頬の上辺を―――そこに毀れだした一筋の雫を見て。


神裂『―――』


この瞬間、神裂の中で轟音が響いた。


心を固めた城塞が、あっという間に崩れ落ちていく轟音が。
147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/21(火) 01:40:24.75 ID:sDAaF+n5o

やっと真実を知って、本当の戦いに乗り出し始めたばかりなのに。

こんな早々に失ってしまう。

最も失いたくない存在の一つを。

しかも己が手で。


最も並び立って共に戦いたかった友を、この手で。


耐えられない。

どれだけ冷酷に徹しようとしても。

根の優しさを偽れない。

善良な心を持つ、人をこよなく愛する女だから。
『聖人』に相応しい清廉な者だからこそ。

耐えられない。

神裂の顔を覆っていた仮面は砕け散り。
彼女の顔は感情に溢れ大きく歪み。


神裂『―――あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!』


放たれた叫びはどこまでも悲痛な色を滲ませて。
彼女はステイルを抱き寄せて。

そして右手で七天七刀を取っては、その柄先を額に当てて願った。

絶大な力を持つ主へ、何とかしてこの男への救いを与えてくれるよう。


救われぬこの不幸者への救いを。
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/21(火) 01:42:13.38 ID:sDAaF+n5o

抱き寄せている手から胸、首元を伝わってわかる。
ステイルの体からみるみる力が抜けていくのを。

ステイル「…………イン……デックス……を…………」

耳元で発せられるステイルのか細い声。
聞きたくない。

最期の言葉なんて聞きたくない。

耐えられない。

耐えられなかった。

そして彼女は、いまだ声を発さぬ主に二つ目の願いを望む。
その頬を濡らして、額に当てている刀に願う。


己の傀儡化を。


この自我を奪ってください、と。


耐えられない―――私はあなたに成れませんでした。


あなたが求める強さは―――私にはありませんでした。



私は―――悪魔に成りきれませんでした、と。




そして願いは受理された。



『二つ目』ではなく―――『一つ目』の願いの方が。
149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/21(火) 01:43:42.95 ID:sDAaF+n5o

神裂『―――』

その瞬間、柄を握る手に熱を感じ。
直後、意識内にイメージが湧き上がり。

こう告げた。


―――己が転生した際と同じ事をしろ―――。


神裂『―――』

主から届いたのは、たったその一文。
だが神裂にとってはそれで充分だった。

そう、同じ事をすればいいのだ。

煉獄にてバージルが―――死んだ神裂に行ったことと同じように。

死を『許さず』に捕えてしまえ。

力ずくで従属させてしまえ。


縛して隷属させてしまえ。



―――使い魔にしてしまえ。



神裂は迷わなかった。


人の心の『わがまま』に一切抵抗せずに身を委ねた。


確かにこれは非常に身勝手な行為だ。
神裂自身、そんなことは充分自覚している。

だが今もし、その点を誰かに指摘されていたら。
神裂には似合わずとも中指立ててこう返しただろう。



『クソ喰らえ』、と。



―――
150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/06/21(火) 01:44:44.26 ID:sDAaF+n5o
今日はここまでです。
次は木曜か金曜に。
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/06/21(火) 01:46:56.71 ID:g0DOOqWLo
乙乙
ねーちんが好い感じに壊れててよろしいですなぁ
152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/21(火) 02:02:48.26 ID:Bzk2cHSw0

ローラがハンバーグの材料にされそうだな
153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/21(火) 07:15:29.07 ID:qBNP99r/o
お疲れ様でした。
154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/06/21(火) 23:23:40.86 ID:NSi/2Sk90
>>133
把握。そして今夜も乙!
155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 01:18:28.49 ID:10ySVIwUo
―――

上条「―――!」

何が起こったかわからない、突然の場面転換。
青い影が突如視界を覆ったと思った次の瞬間、周囲は一変していた。

違う場所どころではない、
世界ごと別物になっていた。

そこは超高空の宙。

淀んで陰湿でむせかえるような『力』が充満している、人間界とは明らかに違う空気感。

薄暗い空の遥か下には、巨大な濃赤色の湖群と幾本もの大河と荒んだ鉛色の大地。
それらが『球状ではない地平線』の彼方まで延々と続いていた。

そう、この世界は。


上条「(―――魔界!?)」


悪魔の世界だった。

同化したベオウルフ、
更にそこから垣間見たダンテやバージルの記憶がはっきりと裏付ける。

そして組成の大半が悪魔となっているこの体が、
『故郷』への帰還に歓喜して高揚しているのか。

ざわついた異質な高揚感とともにその事実を告げてくる。
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 01:20:57.89 ID:10ySVIwUo

上条「―――!」

そして当然のように、支えの無い体は下方へ向けて落下を始めた。

ただ重力が不安定なのか、
落下速度が空気抵抗に負けて急に減速したと思いきや、
逆に唐突に加速したりなどしつつ。

しかしそれも、人間界とは全く違う世界なのだから別段不思議でもないだろう。

この魔界は物理法則とは別に当たり前に『力』が作用するため、
人間界からすればあらゆる物理法則が不確かであると言えるのだから。


そして落下し始めてすぐ。


「―――上条さん!!」


上条の耳はその落下の暴風の中からも、
通常の人の聴覚ではかき消される声をはっきりと捉えた。

上条「―――五和!!」


上方からの五和の声を。
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 01:22:17.83 ID:10ySVIwUo

上条はすかさず彼女の姿を捉えては、
宙で体と四肢を上手く動かしては制動し、
徐々に五和に接近して。

篭手で守られている右手で彼女の左手を取った。

そのまま上条は風に煽られながらも、
更にもう『一人』の姿を探して周囲を見回したが、見つけられず。

一瞬前まで一緒に居た大切な彼女、
インデックスの姿がどこにも見当たらなかったのだ。

上下左右、全方位どこにも。

上条「―――イン―――!」

そして声を張り上げて、目の前の五和にも問おうとしたが、
その言葉を言い切る前に上条は口を留めてしまった。


上条「―――」


この時、唐突に『わかってしまった』のだから。


彼女はここにはいない、と。


ここにインデックスはいないと確実に『告げてくる』。

つい先ほど、寮で唇を重ねた瞬間からのあの感覚が。
はっきりとこの体の奥底から感じる、彼女の存在とその繋がりが。
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 01:24:14.14 ID:10ySVIwUo

上条「―――」

惚けた熱気、高揚感からの気のせいとも思えていたが、
決してそんなものではなかった。

確かに実際の現象としてこの体の奥底にあるのだ。

なぜ上条がすぐにそう確信したのか、
それは以前にも酷似した感覚を覚えていたからである。

ベオウルフをこの体に装着していた時のような『繋がり』、
あの魂のリンクに非常に似ているのだ。

五和「―――インデックスは!!??」

まるで上条の言葉を引き継いだかのように、
直後に五和から放たれたその問い。

それに対し、上条はこの落下の行き先である遥か下界を見据えながら。

上条「ここにはいない!!!!」

そう即答しては今後のやるべき事に素早く思考を巡らせた。

まずやらなければならない事は、
インデックスの居場所を特定してそこに向かうこと。

そして具体的にどう特定するかは、特に問題はなさそうであった。
この『繋がり』に意識をより集中させればわかるだろう。

問題なのはどうやって向かうか、どうやってここから抜け出すか、だ。

上条「(……ッ)」

悪魔の移動術は使えない。
あれは下等悪魔にも扱える非常に簡単な技らしいのだが、
上条はまったくやり方がわからないのだ。

そして恐らく五和も使えない。
悪魔の力も扱える精鋭の魔術師であるとはいえ、人間である彼女は使えないと考えた方が良い。

人間『最凶』たるレディも、
上条の覚えでは一度も使っていなかったのだから。
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 01:25:11.25 ID:10ySVIwUo

五和「とりあえず!!人間界に戻りましょう!!」

落下の暴風の中、同じく考えたのだろう、
五和がそう声を張り上げた。

と、同じく考えたといっても一つだけ上条とは異なっている点があるだろうが。
恐らく彼女は、上条もステイルや神裂と同じくあの移動術を使えると思っていたのだろう―――と。

上条「無理だ!!俺はあれ使えないんだ!!」

上条はそうとらえて、そう己が使えないあまを口にしたが。
次に五和から返って来た言葉は予想外のものであった。



五和「―――私がやります!!」



上条「―――でっ―――できるのか??!!」


五和「人間界に戻るだけなら!!」


五和「教わりました!!非常用に!!」

そう五和は叫び、
右手にある銀色の槍を強調するように突き出した。

上条「―――」

その事を聞いて、上条の脳内で瞬時に段取りが組みあがる。

すぐに人間界に戻って、
素早く神裂とステイルを止めて彼等の助力を、と。
160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 01:26:16.26 ID:10ySVIwUo

上条「すぐにできるか?!!」

五和「地面が無いと!!!」

となると、作業は着地してからとなる。

そうして上条が、
着地点を見定めようと遥か下方を意識して見た時であった。


上条「―――」


かなり落下したのだろう、
地表の様子が良く見える高さにまで到達しており。

巨大な濃赤色の湖群と、幾本もの大河と荒んだ鉛色の大地―――と思っていたものが違っていたことに気付いてしまった。


湖や大河が濃赤色を帯びているのは、無数の『赤い瞳』のせいだ。


そう、あれは巨大な湖ではなかった。
果て無く伸びる大河なんかでもなかった。


大挙してどこかへと向かっている―――夥しい数の悪魔の群れであった。
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 01:28:15.30 ID:10ySVIwUo

上条「掴まってろ!!」

上条はそう声を張り上げては、
素早く五和を一気に引き寄せて抱き上げた。

五和「―――ッ!」

突然の彼の行動に、五和は驚きの表情を浮べるも。
左手で銃を引き抜く上条の行動を見て彼女もすぐに状況を察し、
両腕を彼の首にかけて固くしがみついた。

彼女がそうしてる間に、
上条の瞳が魔を帯びて赤く輝き出し。

右肘から先を省く全身から、白銀の光りが漏れ出し、
左手と両足に光で形成された脛当てと篭手が出現。

全身から放出する力で、爆発的に落下速度を増させ。

上条『しっかりな』

この暴風の中でもはっきりと聞える、
エコーのかかった異質な声で一言告げて。


上条『―――結構揺れるぜ』


そして『強行着陸』を行った―――悪魔の群れの只中に。
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 01:29:58.19 ID:10ySVIwUo

それは天頂から、小さい彗星が落下してきたような光景であった。
直下にいた悪魔数体は一瞬で消滅。

衝突点から半径30mは、白銀の光の爆発で吹き飛ばされクレーターを形成、
周囲を木っ端微塵になった大量の悪魔の肉片が飛び散っていく。

上条『――――――ハッ』

その中心地にて全身から魔の光を放つ上条は、周囲を見据えた。
溜め込んでいた息を短く鋭く吐き出して。

五和は飛び降りるように上条の手から抜け、瞬時に戦闘用の魔界魔術を起動し、
彼と背中合わせに構えた。

魔の赤い光を帯びるアンブラの槍を握り込んで。


クレーターの淵には当たり前だが大量の悪魔達がいた。
ダンテやバージル、ベオウルフの記憶にも無い種も多く入り混じっており、その形状は様々。

だがその仕草は、一様に似通っていたものであった。

固い甲殻状の体表を鳴らし、牙を向いては身の毛がよだつ唸り声を鳴らし。
瞳を輝かせ、口らしき部分からおぞましい粘液を滴らせて二人をジッと見据える。

いきなり『振って』沸いた『餌』を前にして。

仲間が踏み殺され吹き飛ばされた事などまるで気にも留めず、
ただただ貪欲に残虐性と暴力性を滲ませて。
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 01:32:17.66 ID:10ySVIwUo

五和「…………上条さん……ど、どうしますか?」

周囲からのおぞましい視線の中、背中合わせに五和が口を開いた。
静かだが張り詰めた声色で。

上条『……………………すぐできるか?』

五和「……すみません。準備に時間が。一、二分は……それに……実際に使うのは初めてなんです……」

上条『……』

一、二分。
平時ならばごく短時間であろうが、このような状況では『長い時間』。
だが現状、それしか道は無い。
そして初めてであろうが、
とにかく一発で成功してもらわねばならない。


上条『五和は作業を始めてくれ。その間―――』


上条は篭手に包まれた右拳を握り込んでは、背後の彼女に。


上条『―――俺がお前を守ってやる。頼んだぜ』


五和「―――は、はいぃ!!」

背中越しに彼の言葉を受けて、
彼女はすぐにその魔術的な作業を開始した。

槍を鉛色の地面に突き立てては、
脇から出した短刀で術式を手早く大地に刻み込んでいく。
164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 01:34:32.72 ID:10ySVIwUo

その背後の作業の音の中。
上条は周囲の悪魔達を見据えながら、ふととある以前の事を思い出していた。

上条『……』

ダンテとトリッシュが留守の時に受けたあの依頼、
寂れたバーにたむろしてた悪魔達を狩った時の事。

その際に放った、自身の言葉を思い返す。
人間界に『押し入った』悪魔へ向けての言葉を。

なぜここで思い出すのか、それは今、『押し入っている』のはこちら側だからだからだ。
己達が魔界に侵入してしまっているのだ。

上条『……』

ただ、そこに関しては特に負い目は感じはしなかった。
ここで問答無用の暴力に手を染めることに、特に後ろめたさなど無い。


 これ     こっち
『暴力』が『 魔 界 』の『真っ当』なやり方なのだから。


その時。

前方から二体、五和を挟んで後方から一体。
周囲のこの包囲網から飛び出してくる悪魔がいた。
165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 01:37:12.45 ID:10ySVIwUo

前から来る二体は、角の生えた体毛の無い猿のような悪魔であった。
ただ3m以上の体に、1m近い巨大な鉤爪を有す『猿』だったが。

一体目は、その大きな両手の爪をかざして一気に踏み切って突進。
対して上条は特にその場から動かずに。


上条『―――シッ』


強烈な正面蹴りで迎え撃つ。

光の装具で覆われた右足が突き出された爪と腕、
そしてそのまま頭部を簡単に粉砕。

次いで上条は、蹴り出した足を引き戻さずに、
更にそのまま押し込んでは『足場』にして。


その右足を軸にし、今度は左足で薙ぐように蹴りを放つ。


続けて突っ込んできた二体目へ向けて。

上条『―――カッ!』

光で形成された装具に覆われたその右足は、まるで巨大な鎌のように。
その悪魔の上半身を丸ごと横から砕き狩った。

強烈な衝撃と共に二体の悪魔の破片が飛び散る中、
更に上条は二蹴り目の慣性のまま体を回転。

そして後方へ向き。


五和へと迫っていた悪魔へと、左手銃の引き金を絞る。


五和「―――!」

黒い銃口から放たれた魔弾は、

五和の横を掠め通っては正確に悪魔の頭部を吹き飛ばしては貫き、
そのまま向こうの包囲網へと飛んで更に数体の悪魔をぶち抜いていった。
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 01:39:03.01 ID:10ySVIwUo

瞬く間に三体を屠り、軽い身のこなしで着地する上条。

一瞬の出来事に驚いている五和に、手を休ませるなと目で合図して、
彼は再び周囲の悪魔達へと視線を向けた。

今一連の動きを見てか、周囲の悪魔達の空気が変わっていた。
茶化しからかうような色は影を潜め、場を支配するのは張り詰めた鋭い殺意。

満ちるは本気の戦意。


上条『……』


大雑把に力をばら撒くのは、近くに五和がいる以上不可能。
そして元より、あの空から見た全ての悪魔を狩る力なども無い。

専念するべきなのは悪魔を倒すことではなく、
五和の移動術が完成するまで耐え切ること。


と、理性はそう判断する一方―――体は喜んで魔界のルールに染まろうとしていた。


その身に宿す、人のものではない『もう一つの本能』が。

理性は冷めて涼やかに、一方、心と体は熱く猛々しく―――。
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 01:41:07.11 ID:10ySVIwUo

この力の親である武人ベオウルフからの影響か、
もっと根の部分の悪魔の性質か。

それともあの『ぶっ飛んでる師』の影響か、上条ははっきりと自覚していた。

到底手に負えない規模の悪魔達、守らなければならない五和、
そして離れてしまったインデックスの問題。


それらで焦燥する一方、この綱渡りのプレッシャーを―――『楽しんでしまっている己』がいたことを。


上条はそんな自身の一面に激しく嫌悪しつつも、拒否はしなかった。
今必要なのはより強い暴力性、より強い攻撃性、『力』だ。


目的のためなら何だってする。

人々を救うためなら、友を守るためなら―――インデックスのためなら何でも。

極悪な殺人鬼にでも微笑みかけて手を差し伸べてやる。
それが目的のために必要ならば。

綺麗事などもう気にしていない。
とっくにその一線は越えている。


あの日、ベオウルフを受け入れた瞬間から―――悪魔に魂を売った瞬間から。


上条は煮えたぎるこのおぞましい高揚に身を委ねては、
手招きするように銃口を揺らして。

上条『五和に指一本でも触れてみろ、クソッタレ共―――』


挑発的な言葉を悪魔達へ向けて放った。



上条『―――片っ端からぶち殺してやるぜ』



口角を歪ませるようにして、影の強い笑みを浮べながら。

輝きを一気に強める瞳が、仄かにその表情を照らし上げていた。
禍々しく赤々と。

―――
168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 01:42:45.93 ID:10ySVIwUo
―――

聞きなれたネコの泣き声と、ざらついた舌が頬を撫でる感触で、
目をうっすらと開け。

禁書「…………うっ…………」

そして胸や腹を圧迫する固いアスファルトの感触にたまらず息を吐き出して。
うっすらと目を開けつつ起き上がると。

さっきまで居たと所とは違うものの、
見慣れた第七学区の町並みが続いていた。

一切迷うことなく寮まで帰られる、良く見知った場所―――なのだが。

違う。

禁書「―――ッ」

明らかに『いつもの学園都市』とは同一ではない。
注意して見ると、周囲全てが陽炎のように僅かに像が揺らいでおり。
夜だったはずの空は明るく、オーロラのようにおぼろげな光りが揺れており。
頬を撫でていく空気も、冬の夜風ではなく妙に生ぬるい微風。

まるで夢の中にいるような、実体感の欠如した風景と居心地。

そしてその光景を『一目』見て、彼女の意識は瞬時にこう断じた。

ここはプルガトリオである、と。

イギリス清教の禁書目録として蓄えた情報ではなく、
この魂の奥底に眠っていた―――アンブラ魔女の知識によって。

禁書「―――」

しかしこの時、彼女の関心はそこに向かわなかった。

フィアンマとの一件以降『なぜか知っている』アンブラの知識よりも。
なぜ自身がプルガトリオにいるかなどよりも。

この時はそれらよりも遥かに重要な事があったから。


禁書「―――とうま!!」


上条と五和の姿が見当たらなかった、という事が。
169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 01:44:13.75 ID:10ySVIwUo

呼びかけても反応は返ってこなかった。

禁書「とうま!!いつわ!!」

立ち上がりスフィンクスを胸に抱いては、更に強く大きく声を張るも。
この異質な街中をむなしく響くのみ。

それでも何度も彼女は呼びかけ続けたが、
実は気付いていた。

ここに上条当麻はいないと。

わかるのだ。

彼の存在を感じる、彼の鼓動が聞える。
だがそれはこの階層からではないと。

禁書「……とうま。どこに行っちゃったのかな……」

ただわかってはいても、どうしても探してしまう。
あのツンツン頭のシルエットを。

スフィンクスを胸に抱いたまま、
当ても無く辺りを歩いては、恐る恐るこの異界の学園都市の町並みを見渡していく。

と、そうしている時であった。

突如、胸のスフィンクスが威嚇するように唸り声を上げた次の瞬間。

「―――無駄よ」

禁書「ッ!」

すぐ背後で聞き覚えのある声が響いた。

その一言だけ聞いてすぐにわかる。


声の主は、今は既にその位を剥奪されている元イギリス清教のトップ―――最大主教。


しかし、こうして脳内にすぐ羅列された情報は、
すぐに彼女の意識外へと吹き飛んでしまった、

振り向いて、背後のその顔を『再び』見てしまったから。


禁書「―――」
170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 01:46:20.32 ID:10ySVIwUo

ローラ「この階層にはいない。奴らは。テキトーに飛ばしてやったわ」

ローラの顔を直に見るのは、つい先ほども含めてこれで二度目で。


ローラ「魔界の淵にでもおりけるかもな」


禁書「―――」

この二度目は前回のような突然の魔女乱入も無く。
邪魔されること無く、彼女の意識は当然のように己の真の存在を認識してしまった。

なにせフィアンマの一件によって。
彼女のアンブラの記憶を封じる錠は、既に解き放たれていたのだから。


ローラの顔は三つの意味で見覚えがあった。

一つ目、上司としての顔。

禁書「………………ッ…………」

二つ目、見慣れた己の顔。

まさに文字通り、『鏡を見ている』ようであった。
相違点は成長具合と髪色だけでそれ以外は瓜二つ。


そして三つ目。


夢で見たあの顔。

フィアンマとの一件の翌日に見たあの『夢』。
おぼろげにしか覚えていなかった『夢』が脳裏に鮮明に蘇る。


いいや、それは決して『夢』ではなく―――本物の『記憶』。


禁書「…………あっ…………あ…………」

彼女は言葉にならない声を漏らして、思わず後ずさりしてしまった。
様々な感情が入り混じった形容しがたい色を顔に滲ませて。


脳内に目まぐるしくフラッシュバックしていく。

開かれた深層の扉、そこから堰を切って一気に溢れ出した―――この500年間の記憶と。


想いが。
171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 01:49:59.17 ID:10ySVIwUo

近衛所属の精鋭たる青髪の姉、メアリー。

幼くして主席書記官である金髪の妹、ローラ。

姉が生まれたのは520年前。
その10年後に妹が生まれるも、母は出産の際に死亡。

以後、姉が母代わりとなり妹を育て上げるが、その妹が齢10となった時。
幼くして彼女が主席書記官となった年の夏。


アンブラに終焉の日が訪れた。


妹も、姉の眼前で天使に殺され。


姉は妹の頭の中にある禁術を起動して、
妹の蘇生を試みるも力が全く足らずに、術は不完全に終わり魂は『安定』せず。

そこで姉の意思がとった次の行動は、
崩壊を留める為に力を精神の分離させること。


そうして分離された『力の入った器』は、
次こそは術を完成さえるために封印して長き休息の眠りへ。

『精神の入った器』は、当時のイングランド地下に隠れ場所を見出し。
『力の入った器』が安置された神儀の間にて守り続けた。

そして450年後のある日、ふらりと迷い込んできた王族の少女と出会って。
500近い歳の差の奇妙な友情を結び。

お互い秘密裏に助力しあい、王族の少女は政敵を排除して王位を継承。
『精神の入った器』はローラ=スチュアートと名乗り、表舞台に長き時を超えて再び立った。

女王の推薦でローラが最大主教の座に付いたのは、
アンブラ終焉の日から470年経った年の夏であった。

そしてそれから25年後、今から5年前。

ローラは来る日に備え『力の入った器』を再起動、
齢10で止まっていた彼女の時を、再び刻み始めさせ―――『禁書目録』として己が手の中に置いた。


『精神の入った器』、その管理人格ローラのモデルが、
『妹を蘇らせるという願望を抱く姉』であったことが起因したのか。


この時、『力の入った器』の管理人格である『インデックス』のモデルとなったのは―――在りし日の『妹』であった。
172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 01:52:15.35 ID:10ySVIwUo

そして更に記憶は蘇る。
魂の奥深くに刻まれていた光景が。

禁書「―――あッ………………な…………」

音が。

香りが。

感情が。

失っていた空白の間の全て、
『禁書目録』として目覚めた時から今までの『全て』を。

魔術知識を記録するために、
各地を飛び回っては様々な人々と出会った日々を。


                                                   ルーン
『これは―――大切な人を護るために創った―――新しい文字だ』



禁書「―――『ステイル』―――」


                                      とも
『お護りです―――私達がこれからも、良き仲間でいられるように』



禁書「―――『かおり』―――」



忘却の彼方へと奪われた宝物、かけがえのない友の記憶を。


そして記憶は繋がった。



禁書「―――……『とうま』……」



今や愛してやまない彼と出会う―――あのベランダへの瞬間へと。

173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 01:53:42.72 ID:10ySVIwUo

止め処なくまぶたから露が溢れ流れていく。

取り戻した喜びと、失っていた悲しみを混じらせて。

彼女は力なくその場に座り込んでしまった。

取り戻した過去の感情、想いに一気に身を浸らしてしまったせいで、
精神を急激に消耗してしまって。

禁書「………………………わ……私……」

ぼんやりと口を開いたものの、
次に何を並べて良いかがわからず、言葉は続かず。


気付くとローラが眼前に立っていた。


ローラ「…………」

禁書「…………」

無言のまま、冷徹な眼差しで見下ろして。
そしてインデックスの頭の上に手を乗せるように手をかざしたが。

ローラ「…………ッ……」

『何か』に躊躇ったかのように手を一度、戻しかけた。
涙を湛えるインデックスを顔を見て。

堪えるように力んだのか、頬をわずかに震わせて。


だがそれは一瞬だけ。


即座にローラは手を動かしては、当初そうしようとした通りインデックスの頭にかざした。

すると次の瞬間、インデックスを中心として、
巨大な魔方陣が浮かび上がった。
半径15mにも及び何重にも。
174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 01:57:12.73 ID:10ySVIwUo

これから何が行われるか、その結果をインデックスは知っていた。

詳しい手順はわからずとも。
最後の結果は、離する前に既に決められていたから知っている。

胸の中のスフィンクスが唸り声を上げているが、何も出来ない。
いつの間にかローラの術にかかっていたのか、
この体はピクリとも動かなくなっていた。

いいや。

禁書「…………っ…………」

何かの術をかけられたのではなく、
前からあった『機能』の一つで単に制御を奪われただけだ。


『私』は、この『力の入った器』の管理人格に過ぎないのだから。


そして今、この『力が入った器』を返すため、『私』は消える。


ステイルと神裂と過ごした私は消える。
彼等との大切な記憶を取り戻したばかりに消える。

上条当麻と出会った私は消える。

上条当麻を好きになった私は消える。


その自身の心にやっと気付いたばかりなのに―――私は消えるのだ、と。


涙が更に勢いを増す。
嗚咽を起こさずに穏やかに、それでいながら大量に毀れ出て行く。

そんな穏やかな泣き方と同じくして。

ローラ「…………ご苦労であったのよ―――」


ローラが沈黙を破って。


ローラ「―――眠りなさい。ゆっくり……安心して」


そう穏やかに告げた。


まるで優しき姉が―――愛しい妹に捧げるような声で。
175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 01:58:56.74 ID:10ySVIwUo

と―――その時だった。

突然。


禁書「―――ッあ゛ッ!!」


強烈な痛みが胸の奥底を襲った。
そしてタイミング同じくして。

ローラ「―――あッ―――ぐッ!!!!」

顔を歪ませてローラも苦悶の声を漏らした。

即座にインデックスの頭から手を離しては、
跳ね飛ぶようにして後ずさりして。

禁書「―――」

その様子を見ると、どうやらこちら以上の痛みに襲われているようであった。
そしてこの痛みの原因はわからなかったが、体に大きな変化があった。

禁書「!」

体が自由になっていたのだ。

激痛に喘ぎながらも彼女は素早く立ち上がり、
ローラと距離を置くべく後方に下がり、
身構えるようにして少し身を屈めた。
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/25(土) 02:00:17.62 ID:10ySVIwUo

一方のローラは胸を押さえては、
いまだに呼吸がままならない程に喘いでいたが。

ローラ「―――なッ―――なッ…………な、な??!!」

彼女の瞳に映る意識は、
痛みそのものではなく痛みの『原因』に全て向けられていて。


ローラ「―――馬鹿なッ…………!!!結んだ??!!!結んだのかッッッ??!!!!」


そしてローラは声を荒げた。


ローラ「―――あの小僧かッッッ??!!あのクソガキと結んだのか??!!!」


インデックスへ向けて、眼を大きく見開いて。



ローラ「―――『契約』をッッ!!!!」



禁書「―――けい―――やく―――?」


ローラ「有り得ない!!!そんなこと絶対に有り得ない!!!!認めぬ!!!決して認めたるか!!!」


感情が入り乱れ、
酷く混乱した凄まじい形相で。


ローラ「『お前』は人形なのに!!!―――ただの『模造』なのに!!!―――」




ローラ「―――ただの『幻想』なのに!!!!」



―――
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/06/25(土) 02:00:58.54 ID:10ySVIwUo
今日はここまでです。
次は月曜か火曜の夜に。
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/25(土) 04:23:01.91 ID:eskSP8lDO
うおお、どうなっちまうんだ……!
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/25(土) 22:56:06.29 ID:jPkANj4IO
更新乙
ローラさん更年期障害ですねー
180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/06/27(月) 21:31:58.01 ID:7Gqv/YkS0
(´・ω・`)急転直下乙!
181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:23:23.03 ID:R6KekFd3o
―――

魔界の淵の一画。

この界の境界がおぼろげな領域は今、無数の悪魔達で埋め尽くされていた。
大地を遥か彼方まで、大海のように覆い尽くす軍団。

しかしそのとある只中、一箇所だけ、極端に『人口密度』の低い場があった。

半径1km程の円形のその場には下等悪魔は決して踏み入らず、
中にいるのは、群れを監視するように仁王立ちしている少数の高等悪魔と。

そして場のちょうど中央、ちょっとした岩場の頂点に座している、とある一体の悪魔。

身長は3m程で、くすんだ緑色のマントのようなもので、
翼で体を包むように己を覆っており。

頭部には烏帽子の如く尖っている、同じく緑色の兜のようなもの。
兜の淵からは、幾本も伸びている羽飾りに似た光の靄。

その『羽飾り』と『マント』をまるで水の中にいるかのように揺らがせながら、
『彼』は下等悪魔を一切寄せ付けない強烈な圧を放っていた。


正真正銘の大悪魔の圧を。


『彼』は配下に更に複数の大悪魔をも従えているという、
その領域の中でも上位の存在。

そしてこの一画を占めている無数の悪魔達の指揮官でもあった。
182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:24:18.32 ID:R6KekFd3o

現在、配下軍団の行軍は順調に進んでいた。

下等悪魔共も命令に良く従い、
このような軍団に付き物の『共食い』による兵員消耗率も低く上々だ。

さすがにこの愚鈍な下等悪魔共も、今回は特別だと認識しているのだろう。

なにせ、これは悲願の人界再侵攻。

2000年前の雪辱を晴らす祭り。
この淵を超え、プルガトリオを越えた先には至上の宴が待っているのだ。

と。

そんな、この一大イベントの行く末を思い描いて内でほくそ笑む一方。
今現在、彼には一つ気になることがあった。

魔界の淵の別階層を進んでいる他軍団、
そのいくつかの反応が、先ほどから妙に乱れ始めたのだ。

確かに、元々この淵の領域は不安定な場。
これだけの軍団と百を超える大悪魔が集結すれば、相当な負荷がかかるのも当然であるが。

そこを鑑みても、それでもこのタイミングにこの乱れ方はおかしく、
更に何よりもこの大悪魔としての直感が叫ぶ。

何かが起こっている、と。

考えられる最も確率の高い可能性は、
敵対する十強勢力がこの期に及んで妨害をしてきたということか。

十強勢力、そして内戦に表立って参戦していない有力な諸侯の中にも、
覇王の復活と魔界統一を望んでいない者達がいるのだから、不思議ではない。

ともかく十強が一柱である『主』に報告すべきかもしれない、と彼は静かに思い始めていた。


とその時であった。
183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:25:17.54 ID:R6KekFd3o

『―――』

それは唐突に、何の前触れも無く起こった。

突然、この階層が大きく揺れた。
大地は波打ち、空間が歪み界が軋む。

次いで遥か遠方にて赤い光が瞬き。

高さ数キロに渡って、大量の悪魔が塵のように巻き上がって、
強烈な衝撃と共に無数の悪魔達の断末魔が重なり轟いた。

その光景を見、そして放たれている力を感じ取って彼は確信した。

やはり襲撃者だ、それもあの力の規模から見て、間違いなく大悪魔であると。

だがこの分析は『足りなかった』。

現れた襲撃者は、『大悪魔』という言葉だけで片付けられるような存在では無かったのだ。

ただその点に早く気付いていたとも、彼に出来ることはなかったであろう。
彼の末路は既に決していた。

あの襲撃者が彼の力の圧を嗅ぎ付け、
彼を狙ってこの階層に現れた時点で。
184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:26:24.52 ID:R6KekFd3o


相手が『大悪魔』とわかっていれば、そこに手加減は何も必要ない。
探りを入れる先手も最高出力で放つべし。


その時、彼が戦闘状態に移行するのを察知してか、
周りの高等悪魔達が瞬時に彼から離れていき。

更に下等悪魔達も悲鳴に似た声を挙げながら、大挙して一気に彼から離れていく。


そして半径2km程が無人となったその場の中央にて、彼はふわりと岩場の上に浮いた。


すると体を包んでいた『マント』が翼のように大きく広がり、
その下から屈強な金色の腕が一対現れて。

片手にエメラルド色の光で形成された巨大な弓が出現。
もう片方の手で弦を引くと、同じ光で形成された矢が現れた。

彼は古来より、魔界にて特に優れたの射手の一柱として知られていた。
更に十強による内戦の中で、最高の射手としてその武名を馳せてきた。

そして名に負けず、彼が放つ矢はまさに圧倒的。

その矢の性質の最たるものは、標的の最も弱い部位を正確無比に打ち抜くと言う点。

それも力の防御、幕を飛び越えて、
魂そのものを射抜相手を一矢にて絶命させる、という超攻撃特化の矢撃。

彼はこの力を築き上げ、無数の悪魔の中から這い上がって大悪魔になり、
大悪魔世界における更に苛烈な競争にも打ち勝って今の領域にまでのし上がった。

そして最近の内戦では、実際にこの矢で大悪魔を何体も一撃の下に屠ってきたのだ。


彼は弦を目一杯引き、そして力を極限まで収束させていき。


自身の生き様に裏付けられた、絶大な自信と確信を持って―――矢を放った。



遥か彼方に現れた襲撃者めがけて。
185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:28:07.36 ID:R6KekFd3o

エメラルド色に輝く矢が、線となって空間を次元を超越した速度で走っていく。
漏れ出した僅かな余波が、矢の軌道の周囲を消し飛ばしていきながら。

放たれた瞬間の彼の周りの大地、逃げ遅れた下等悪魔達の群れを『掻っ捌き』。
間にある大きな丘を根こそぎ蒸発させ。


そして襲撃者の魂に命中した。


寸分の狂いも無く、今までの彼の実績と同じく正確無比に。

だが―――。


『―――』


―――結果は今までと異なっていた。

手応えは感じた。
いいや―――これでは感じすぎだ。

手応えが『強すぎる』―――『固すぎる』。


それは明らかに―――貫けていない。


あまりに魂が固く、矢が負け砕けた感触であった。


そして彼はここで悟った。
襲撃者は、敵対する十強勢力の手勢などではない。

もっと強大な。


己が主のような十強、諸神、諸王級―――いいや―――遥かにもっとだ、と。



正真正銘の―――『怪物』だ、と。
186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:29:22.24 ID:R6KekFd3o

彼の矢は、襲撃者にな何もダメージを与えられていなかった。

矢が行ったことと言えば、お互いの間の障害物を取り除き、綺麗な一本道を形成してしまったことだけ。
更に強いて言えば、そのせいで彼自身の週末を僅かに早めてしまったことと。

良くも悪くもその一本道のおかげで、物理的な姿をお互い目視したという事。


彼はここで襲撃者の姿を見た。
今まで感じていたものとは比べ物にならない、一気に強まった圧と共に。

大剣を両腕に携えて、
全身から赤、青、そして紫が混じった光を放出している―――魔騎士の姿を。

左手にあるのは、人間界風のギミックから業火を噴出す大剣。


そして右手には―――。


『―――』


その右手にあった大剣を、彼は3万年ほど前に見た記憶があった。
圧倒的な力の存在と共に。

『主』付き従って、三神の謁見に同席した際の事だ。

『主の主』である覇王アルゴサクス、
その上座に座していた、魔界の頂点―――魔帝ムンドゥス。


そして魔帝のすぐ横に立っていた、魔界史上最強の剣士―――スパーダ。


その魔剣士が背に携えていたのが―――あの大剣だ。


魔騎士の湾曲した角やその体躯も、
かつて見たスパーダと非常に良く似ており、間違いない。


スパーダの血族の者が、魔剣スパーダを手にここに現れたのだ。

187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:30:48.96 ID:R6KekFd3o

そう気付いた瞬間、彼は生涯初めて、
真の意味で『戦慄』という感覚を覚えた。

今までだって、幾たびも遥かに格上の大悪魔と戦い、
何度も己が終焉を覚悟した経験はあったが。

これはそんな生易しいものではない。


『覚悟』ではなく揺るぎのない事実、『確信』だ。


あの魔剣、そしてその力を振るう存在から逃げ延びた存在は、今まで一つたりとも居ない。
一つたりともだ。

ジュベレウス、魔帝や覇王といった名だたる天辺の存在達でさえ、
最終的に廃され封じられた。

具体的にどう打ち倒されるかは問題ではなく、あの剣に狙われた時点で終わりなのだ。

いわば死の宣告。

逃げ伸びようとするだけ無駄。

そしてそんな絶望と比例して肥大化する感情がもう一つ。


それは魂を焦がす憤怒。


これほどの力をもって、魔界を裏切った存在への激情。
そう、まさしく魔界に生まれついた者の本能的な底なしの怒り。


最悪最凶の仇敵、魔界の敵たるかの者を決して許すまじ。


これらの絶望と憤怒に魂を染めて。
明らかに勝ち目が無いとわかっていながら、彼はこの襲撃者に挑戦していった。

今まであの剣、あの血族に挑んだ多くの同胞達と全く同じように。
188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:31:48.94 ID:R6KekFd3o

即座に彼は再び弦を引いた。
絶望と憤怒に身を任せて、いや、最早抗えず。

その時。
魔騎士が両腕の魔剣を、その切っ先で大地に叩き付けるように乱暴に下ろしては、
ジロリと彼の方を見据えた。

魔騎士の兜隙間から見える真っ赤に光り輝く二つの瞳。

彼はそれを目にした直後、第二矢を放った。

同時に踏み切り、彼の方へと突進を始める魔騎士。
再び、凄まじい速度で突き進んでいくエメラルド色の壮烈な矢。

しかし魔騎士の瞬発速度は、その矢をも上回っていた。

矢と魔騎士が接触したのはずっと彼よりの場所であり、
しかも矢は直撃すらせず、魔騎士の体2m程前の空間で霧散。


そして魔騎士はその直後、『水平』に跳ね飛んでは更に爆発的に加速して来て。


『―――B――――last!!!!』


くぐもった人語の掛け声を放っては、
左手の業火を噴出す大剣で横に薙ぎ斬った。



宙に浮遊していた―――彼の胴を。
189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:33:07.12 ID:R6KekFd3o

その一振りで、彼の挑戦はあっけなくここに決した。

ただ『あっけなく』とは言うが、その一振りは諸神諸王級すら
一撃で廃されてしまう程に強烈すぎるものであったが。


一瞬彼の意識が途切れ、再び再起動した頃。

魔騎士は、切り落とした彼の上半身を
左手の業火を吐く大剣、その切っ先で突き刺して持ち上げていた。

『……』

朦朧とする意識の中、間近で魔騎士の姿を見た彼はそこで気付いた。
魔騎士の腰に、見慣れた部位がいくつもぶら下がっているのを。


それは別の軍団を率いていたはずの大悪魔達のもの。


名だたる将たる彼等の特徴的な部位が、
無造作に引き千切られては、この魔剣士の腰にぶら下げられていたのだ。

魂が崩れていくこの死の感覚を味わう中、彼は静かに悟った。
このスパーダの眷属は、軍団の指揮官達を片っ端から狩って来ているのだと。

別階層の軍団達の反応が乱れていたのは、
頭を失い烏合の衆となり、右往左往していたからなのだ、と。
190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:34:06.24 ID:R6KekFd3o

とそこで。

魔騎士は右手の魔剣スパーダを肩に乗せて、


『ここの群れのアタマだな?名は?』


エコーの効いた人語でそう問うて来た。

『―――Kjshdhagyhgapoekha』

意識がおぼろげな彼は、
それに対して魔界の言語で返したが、

彼の意識をはっきりさせようとしたのか、
魔騎士が彼を持ち上げている大剣を大きく数回揺らして。

『人語で言え』

そう、どことなく作業的な声を飛ばしてきた。
いや、実際に作業化しているのだろうか。
腰にぶら下がっている彼等の今わの際にも同じようにしたのだろうから。


レラージュ『我が名は……レラージュ』


そして彼、レラージュは人語で己の名を答えた。

『OK、レラージュ』

それを聞いて、魔騎士は小さく頷いては。



『テメェの親玉をここに呼べ』

191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:35:12.47 ID:R6KekFd3o


レラージュ『…………』

彼はただ沈黙を返した。
それで充分であろうから。

従う気はないという意思表示は。

『もう一度だけ言う』

魔騎士再度、大剣を揺らして『宣告』した。



『アスタロトをここに呼べ』



レラージュが返したのは、先と同じく再び沈黙。

『だろうな』

魔騎士は予想通りといった風にそう呟いては、
魔剣スパーダを肩から下ろして―――。

そしてその次が、レラージュが最期に見た『光』となった。


それは魔剣スパーダが放つ一瞬の赤い閃光。


己の首が落とされる瞬間の。


―――
192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:36:42.33 ID:R6KekFd3o
―――

上条『―――ツァッ!!!!』

群がってくる悪魔達を蹴り掃い、吹き飛ばす。
クレーターは新しい穴がいくつも穿たれいて、いまや原型を留めておらず、
そして大量の悪魔の死体で埋め尽くされていた。

上条『―――ッシ…………!!』

だが悪魔の数は一向に減ることは無かった。
倒した数は、空から見た全体の100万分の一にも達していないだろうか。

そして悪魔達も、その攻撃に衰えを見せない。
むしろ倒せば倒すほど、火に油を注ぐように悪魔達の憤怒が強まっていくのがわかる。

そろそろだ。

五和を守りながら戦い続けるのはもう限界だ。

上条『―――五和!!まだか?!』

上条は声を張り上げた。
回し蹴りで悪魔の首を叩き千切り、左手の銃で別の個体を撃ち抜きながら。

その時、こんな事が上条の脳裏をふとよぎった。

こういう時に限って作業はギリギリ間に合わず、
そして事態は更に悪化の一途を辿る、と。


ただ幸いなことに、その直感は外れてはいた。


五和『―――行けます!!』


半分だけは。

そして残り半分は不幸なことに―――当たっていた。


上条『―――』
193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:37:57.59 ID:R6KekFd3o

五和がその朗報を口にしたと同時に、この場の空気が豹変した。
周囲の悪魔達の醜悪な奇声も一瞬で止み、一気に静まり返り。

そして圧し掛かる―――この独特なプレッシャー。

上条『―――』

紛れも無い。

強大な存在が現れたのだ。


その視線を感じ、11時方向のクレーターの淵を見やると。


周囲の悪魔達が退いたその空間の真ん中に、
身長2m半程の細身の人型悪魔が立っていた。

その風貌は、目の部分が窪んだ穴になっている銀色の仮面のような顔に、
赤いマントをフード上に頭からすっぽり身に巻きつけている。

そしてマントの隙間からは、奇妙な模様が刻まれた細い手足が見え隠れしていた。

そんな体躯のみ比べてしまえば、
周囲の悪魔達に見劣りしてしまうだろうが。

上条『―――ッ』

放つ力はまさに圧倒的、間違いなく周囲とは次元が違う―――大悪魔であった。

194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:40:48.38 ID:R6KekFd3o

『―――ほぉ。これはこれは』

それは魔界の言語の一つであった。
五和にはエコーの効いたノイズにしか聞えなかったであろう。

しかしベオウルフを祖としてその記憶を受け継ぐ上条には、
その意味がはっきりと認識できた。

こうして限界までその力を覚醒させているせいもあるだろう、より色濃く、
深淵のベオウルフの部分が浮き上がってきているのだ。

『そちらの人間のメスは…………おやおや、これも驚きだ』

赤いマントに身を包んだその大悪魔は、そう呟きながらクレーターの内部に降りて。
暗い眼孔の奥底を赤く光らせながら、固まっている五和に向けて続けた。

『アンブラの技を扱う者は、強大な二者しか生き延びておらんと聞いていたがな』

そして今度は上条の方を見。


『ベオウルフの眷属たる力に人間の器、そして僅かに香る―――憎きスパーダ血族の匂い』


『―――「例の右手」を持つ半魔か』


そう続けながら何気ないように一歩、また一歩と二人の方へと歩み寄ってきた。

上条『―――』

しかし、見た目は何気ない仕草でも。
隙がどこにも見当たらなかった。

この大悪魔は、この場の隅々まで意識を完全に張り巡らせては掌握しており、
こちらが僅かにでも動きを見せたらその瞬間、相手も必ず動く、と。

そしてもし、そのような状況になってしまうと。

まず人の体である五和がタダでは済まないのは確実。
一挙一動が五和の命に直結する以上、上条は無闇に動けなかった。


そして当の五和は、完全に圧倒されてしまっていた。
体を硬直させ、目を見開いて瞬き一つせず。

小刻みに体を震わせては、歩み寄ってくる大悪魔を凝視していた。
195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:42:40.43 ID:R6KekFd3o

『あの血族には、「個人的」に思うところもある』

大悪魔はそんな二人の様子など全く気にもせず、
ゆっくり歩きながら言葉を続けた。

『かつての人界侵攻の折、先遣隊に我が配下の将が一人加わっていたのだがな』

『聞けば今は、スパーダの息子の使い魔に成り下がっているらしいではないか』


『ナベルスという名、いいや、人界ではこちらの響きが馴染みがあるか?―――「ケルベロス」、と』


上条『……!』


その名を聞いた瞬間、受け継いだベオウルフの記憶がこの大悪魔の名を瞬時に導いた。
ケルベロスの以前の主となれば、該当する存在はただ一つ。


『ネビロス』という非常に高位の大悪魔。


そしてこの大悪魔も、更なる高位の悪魔に付き従える存在であり、
かつての魔帝を頂点とする『ピラミッド』の一員だ。

魔帝の側近たる覇王アルゴサクス、
その配下に座す王の一人『アスタロト』。


そのアスタロト配下の大将の一人、それがケルベロスの主たる『ネビロス』だ。
196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:43:54.02 ID:R6KekFd3o

ベオウルフの記憶に残る特徴との類似性から見ても、
この大悪魔はネビロスで間違いなさそうであった。

ただこの確信は、この場の解決には何も繋がらなかった。

逆に、相手が名だたる大悪魔中の大悪魔と確かにしてしまったせいで、
状況の困窮度が更に浮き彫りになってしまった。

上条『(―――……!どうする!!)』

見据え構えたまま、
上条は思考を更に加速させていく。

五和までは4mの距離。
瞬時に横に行き完成した術式で飛ぶ、それは果たして可能か。

いや、それはどう考えても非常に厳しい。

では先手を打ち数撃、このネビロスに叩き込んでは怯ませて、
その隙に飛ぶか。

否。

それも厳しい。
ベオウルフの記憶にもこのネビロスがどんな性質の力を持っているかは無く、

それ以前にどう解釈してもこの力の圧は―――遥かに格上だ。

以前相対したベリアルが優しく思えてしまうほど。
ベオウルフ本体を装備していたあの時と比べてもそう思えてしまうのだから、
その差は正に歴然としている。

これでは危険すぎる。

そしてそう考えている内に、状況は更に悪化していく。


上条『―――ッ』


その瞬間、もう『一つ』。


上条は敏感に察知した。

今度はこのネビロスのように『いつの間にか』ではなく、

遥か遠方から莫大な力を放ちながら接近してくる―――別の大悪魔を。
197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:46:25.13 ID:R6KekFd3o

『噂に聞く、かの創造を破壊せし―――幻想殺しとやらか』


そう上空から良く響く声を放って。

上条『!!』

二体目の大悪魔が、このクレーターの淵に地響きを立てて豪快に降り立った。

風貌は巨大な翼を有する体長4m程の巨狼、といったところか。
ただその体表は毛皮ではなく、鋼のように黒光りしたうろこ状のものであったが。

その特徴的な格好、そしてアスタロト配下のネビロスと同じこの場に現れたという点から、
この二体目の大悪魔の名はすぐに導くことが出来た。


『カークリノラース』―――人界で良く通っている名は―――『グラシャラボラス』。


ネビロス直下の将であり、同じくアスタロトの勢力に属するこれまた強大な大悪魔だ。


『面白い、その力を見せてもらおうか』

そしてグラシャラボラスは牙をむき出しにして、
上条へ向けそう吼え笑った。

と、そんな巨狼を制止するようにネビロスが片腕を挙げて。


『―――待て。まずは「大公」にお見せする』


そう声を放っては、掲げた指を軽く鳴らした。

その響きは上条にとって。

この絶望的状況を決定付ける最後の止めを刺す音でもあった。
198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:47:59.27 ID:R6KekFd3o

ネビロスが指を鳴らした瞬間、
クレーターの真上に巨大な魔方陣が出現し。


『―――ほほほはははっはははは!!』


その陣の中から良く通る高笑いと共に。


上条『―――!!』

この場最大の絶望が降臨した。


―――それは異形の龍に跨る、翼を生やした騎士―――。


いいや、良く見ると一体となっており、
ケンタウロスのような身体構造か。

『跨る龍の部分』は、鼻先から尾まで20m強、騎士の部分は身長4m程。

騎士の頭部には目も口も無く、顔は鷲のクチバシのような形状で前に突き出しており、
湾曲して上方へ伸びる大きな角。
それこそ、まるで鷲のクチバシを模した兜を深く被っているよう。

右腕には長さ10m近くにもなる、蛇を模したような金色の矛。

そして跨っている部位の異形の龍は三対の屈強な足に、
対照的に片面三つの計六つの瞳を赤く輝かせ、騎士とは対照的に『表情豊か』に唸り声を上げていた。


『はははは!!「例の右手」にアンブラの魔女か!!』


そして、恐らく騎士の部分からであろう声が高笑いを交わらせながら、
先のグラシャラボラス以上に豪快にクレーターの淵へと着地した。

物理的だけではなく、前二者をも遥かに上回る力を放ちながら。
その余りの圧に、上条はこの界が歪むのをも覚えていた。

また遂に耐えかねたのか、崩れ落ちるようにその場に膝を付いてしまう五和。
激しく肩を上下させ、汗を滲ませているその表情は虚ろであった。

今にも意識が飛んでしまいそうな程に。
199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:49:39.71 ID:R6KekFd3o


『思わぬ「獲物」がかかったものだな!!ネビロス!!!』


『正に仰るとおりで御座います。大公』

舞い降りた龍騎士に対し、
ネビロスは腰を低くし一礼しては、そう礼儀正しく言葉を返した。

上条『(―――ッ…………ク……ソ……)』

そのネビロスの態度、そして大公という呼び方。
最早確実。


この龍騎士がかの―――『恐怖公アスタロト』であるということは。


とその時、笑い声を挙げているアスタロトの体が突如『分離』した。
今度こそ、騎士と龍に。

騎士の部分が、
ギチギチと組み合っていた組織が外れていくを鳴らしながら龍の背から降りて。

次いで、騎士の体が一気に縮んで―――。


上条『!!!』


そして上条は一瞬、己が目を疑った。
変化後の、アスタロトの騎士部位の姿を見て。



その姿は白銀のゆったりとしたローブに身を包んだ―――神々しい程の美男子であった。


―――『人間型』の。
200 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:51:14.89 ID:R6KekFd3o

ダンテやネロとは別方向の境地に位置する、
まさに場違いの『天使』のような『清廉』な容姿。

ローブとともに爽やかに靡く長い金髪、その宝石のような髪のきらめきが、
空間に柔らかい光を満たしていく。

だがしかし。

上条『ッ……』

上条は確かに感じ取っていた。
そんな表面的な美しさの下に潜む、おぞましく醜悪なオーラを。

造形的には文句無しでも、
どれだけ暖かそうな表情を浮べてもとことん不気味極まりない。

吐き気を催す嫌悪が込み上げてくるのだ。

アスタロトは、体に合わせて3m程に縮んだ槍を片手に。
髪とローブをなびかせては軽やかにクレーターの中に降り。

上条から8m程の一定の距離、そこから彼を中心にして円を描くようにゆっくりと歩き始めた。
彼を検分するかのように、あらゆる方向からその隅々を見ては、
一人何かを確認しているかのように頷きながら。


この時、上条の緊張は最高値に達していた。


散歩しているかのように歩むアスタロト、その身から放たれてくるプレッシャーは、
ネビロスのそれを遥かに凌駕していたのだ。

何か行動を起こすどころか、息を吐くことすら間々ならない重圧。

こんなところで立ち止まっている時間は無いのに。
こんなところで立ち止まっていてはならないのに。

4m程横にいる、今にも卒倒してしまいそうな五和を守らなければならないのに。


そして救いに行かなければならないのに―――インデックスを。
201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:53:43.96 ID:R6KekFd3o


その思いが上条を突き動かす。

例え無謀でも、例え勝算が0であっても。
戦士には進もうとしなければならない時がある。


決して諦めてはいけない。


上条は篭手に包まれた右手を静かに開け閉めして。
左手も、銃のグリップをゆっくりと握りなおして、
足も静かに調子を確認するように動かした。

大悪魔達を刺激しないようにゆっくりと、ゆっくりと。

その僅かな動きや力の流れをも感じ取ったのか、
グラシャラボラスがその身を乗り出したが、ネビロスが再び制止した。

上条『…………』

まず最優先の第一は、五和の安全。
そして第二は飛ぶ時間を確保すること。

そう念頭で何度も確認しながら、
上条は五和の方へとゆっくりと視線を向けたが。

五和の状態は悪化の一途を辿っていた。

座り込んではうつむき、今にも倒れそうなのを、
地に付き立てている槍にしがみついては懸命に耐えていたが。


既に限界であった。
意識を失いそのまま絶命、その結末がもう目の前にまで来ていた。


そんな彼女を様子を見て、遂に上条は動く。
無謀だと確信していた上で。
202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:54:49.23 ID:R6KekFd3o


そしてその確信はやはり『正しかった』。


上条が跳び出した瞬間、いや、実際は飛び出しも出来なかった。
ほんの1cmも移動することが叶わず。

上条『―――ぐッ!!!』


『はは!!生きが良いな!!!!』


アスタロトの高らかに笑う声が響く中。

上条『がああああ―――!!!!』

上条の体が静止して、そして次は僅かに浮いて大の字に宙に『固定』された。
いや、空間に磔にされた、とした方が正しいか。

どんなに力をこめても、まるでびくともしない。
1mmも揺れ動かないのだ。

ただ口や目が動くことから顔は固定されていないか、
そして右手首から先もその幻想殺しのおかげで自由に動いてはいた。


が、それだけであった。

大の字になって手首まで固定されていて、
どうやって右手で体に触れろというのだろうか。

それも物理的な力は人並みでしかない右手で。

この状況に置いて右手は、
状況打開のキーとはならなかった。


『おおお、凄いな。これが幻想殺しか』


右手先から先のアスタロトの縛を壊した、
そんな『見世物』となった程度である。
203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 03:57:28.05 ID:R6KekFd3o

『いかが致します?』

上条が咆哮をあげている中。
ネビロスはアスタロトの斜め後ろに進んではそう声をかけた。

『そうだな。コレはお前に一任する』

そして、少し思索の間を開けて答えるアスタロト。

『―――!』

『好きにするが良い。ただ調査結果は逐一寄こせ。俺も興味があるからな』

そう続けたアスタロトへ向け、
ネビロスが歓喜に体を震わせながら深々と頭を下げているところ。

『では大公。あのメスは我に?ちょうど小腹が好いてきたところでしてな。それに人間を喰らうのも久々なもんで』

クレーターの淵に陣取っていた巨狼、グラシャらボラスがそう口にした。

上条『―――!!!』

当然、それは上条にとって到底聞き流せる話ではなく。

上条『よせ!!!やめ―――!!!』

だが彼の声など完全に無視して、
アスタロトは会話を続けた。


『バカ言え「カール」。アンブラの魔女は今や絶滅種だ。ここで逃したら永劫喰らえん。悪いが俺が頂く』


グラシャラボラスを『カール』と呼んで。


上条『―――近づくな!!!おい!!!てめぇ!!!!』

五和の方へと、ゆっくりと歩を進めながら。

『はは!!そういえば「カール」、お前は魔女を喰らった事が無かったな!!』

心底嬉しそうに声を挙げながら。


『昔、契約をせがんできた魔女共を喰らったが、癖になる旨さでな!!あれは最高だったぞ!!』


上条『―――やめろ!!!近づくんじゃねえ!!!!!』

響く上条の絶叫が、アスタロトの歩みを止めるわけもなく。


『腹の底で響く断末魔、滲む苦痛、魔と人が混ざった魂の歯ごたえ、それはそれは甘美なものだ!!』


にこやかに笑う『恐怖公』は進んでいった。
五和のすぐ前にまで。
204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/06/29(水) 03:59:56.90 ID:om8DXw6AO
リアルタイムハケーン
支援
205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 04:00:41.15 ID:R6KekFd3o

だがそこで唐突に、アスタロトはふと笑みを潜め。

座り込んでいる五和を見下ろしながら
何かを嗅ぐように鼻を鳴らした後。


『おい、ネビロス。このメスは処女だぞ。成人した戦士ではない』


不満げにそう口にした。

『そうでしたか?武装は成人のものでしたので、私はてっきり……』

次いでアスタロトは、背後から返されたネビロスの言葉を手を挙げてにして遮り。
もう片方の手の指で五和の槍の柄を軽く弾いては。

『いや、待て……アンブラの魔女ですらない』

その鈴のような音を耳にして断じた。

上条『―――……?!』


『槍と技は確かにアンブラの類だが、このメスはただの人間だ』


『では―――』

その言葉を耳して、ここぞとグラシャラボラスがその狼の顔を再び持ち上げたが。


『やらんよ。こいつは俺の物だ。俺が喰らう』


上条『!!!!』


『我慢しろ。じきに向こうでたらふく喰らえる』


再び笑みを浮べては、アスタロトはこの部下にそう返した。

そして五和の前に屈んでは、
うつむいている彼女の顎に手を差し伸べて。


『タダの人間は、これはこれで「旨さ」があるしな』


まるで救い主かのように、彼女の顔を優しく上げて微笑んだ。
おぞましい事を魔界の言語で口にしながら。
206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 04:03:14.05 ID:R6KekFd3o

上条『やめッ―――!!!!』


『中々の良い造詣だ』

彼女の顔を見。

『肉体も良い』

続けて体をまじまじと眺めてはそう呟き。
そしてアスタロトは、ふと顔を五和の顔に近づけて。

上条『―――!!』


頬を一舐めした。


その瞬間、五和の表情が変わった。

人間である五和も直で触れて、
ようやくアスタロトの醜悪極まりない強烈な内側を感じたのだろう。

更にそれは幸運なことに、
虚ろだった彼女の意識を呼び戻す強烈な『刺激剤』にもなったようだ。


次の瞬間、彼女の瞳に理性の光が戻り、
凄まじい嫌悪感を露にして顔が歪み。


ペッと一回、アスタロトの顔に唾を吐き捨てた。


まさに『吐き捨てた』の文字通りの仕草で。
207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 04:05:54.26 ID:R6KekFd3o

ただその行為は火に油を注ぐか、
もしくは然したる変化をもたらさなかったか。

そう判断せざるを得なかった。

吐きかけられた唾を拭わずにそのまま微笑み。


『―――魂も旨そうだ』


そう口にしたアスタロトの様子を見ては。
そして直後、ここでようやくこの恐怖公が上条当麻の方へと振り返り。

『人間と会う際―――』

今度ははっきりとした「人語」で。


『―――俺がなぜ、わざわざ人の「オス」の姿をとるかわかるか?』


そう問い。


上条『―――』


ニコリとこれまた文句の付けようのない、
造形だけは完璧な最高の笑顔を浮べて。



『―――犯しやすいからだよ』



さらりと続けて答えた。
そして次の瞬間、今までとは打って変わって。


上条『―――ッ!!!!!!』


五和の髪を乱暴に掴み、彼女を地面に押さえつけて―――。


上条『―――やめろおおおおおおおおおおおおおああああああああああああ!!!!!!』
208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 04:07:31.58 ID:R6KekFd3o

と、ここで『また』だった。
上条にとって幸か不幸か、そのどちらなのか判別しがたいが。

このアスタロトとは、非常に気まぐれな性分の持ち主でもあったようだ。

いざ五和に乱暴をはじめるかというその時。
アスタロトは突如ピタリとその動きを止め、また何かの匂いを嗅ぎつけたのか、
鼻をすんと鳴らした。


上条『―――てめぇコラ!!!!殺してやる!!!!ぶっ殺してやるクソがああああああああ!!!』


続けて叫んでいる上条の方へも振り返っては、再び鼻を鳴らして。

そしてスッと立ち上がっては五和の元から離れ、
何事もなかったかのように『龍』の方へと歩いていった。

更に続けて、固定が解ける上条の体。

上条『ッ―――?!』

何が起こっているのかわからぬも。
地に落ちた彼はすぐに五和の元へと駆け出して、彼女を抱き上げた。


上条『五和ッ??!!』


五和『だ、大丈夫です!!!』

幸いなことに五和の意識ははっきりしているようではあった。

五和『は、はい、なんとかッ……!!!』

上条にやや異常なほど力んで固くしがみつき。

上条『本当に大丈夫か??!!本当か??!!』

もう片方の腕の袖で、舐められた頬を執拗に何度も拭いながら、
アスタロトの背を凄まじい嫌悪混じりの目で睨んではいたが。
209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 04:08:47.43 ID:R6KekFd3o

このアスタロトの突然の行動は、
ネビロスやグラシャラボラスにも不可解なものであったようだ。

とはいえ普段もよくある事で慣れているのか、
首を傾げる一方で落ちついていたが。

当のアスタロトは龍に跨っては同化、
そして人の姿を解いて元の姿に戻って、上条達に向けてこう告げた。


『さっさと行け』


上条『―――?!』

確かにアスタロトからのプレッシャーが急激に薄れていったところを考えると、
本当に逃がそうとしているようであるが。

全く意図がわからない。
あんな存在に人で言う『善意』も『慈悲』もあるわけが無い。

逃がす事に何らかの利益があるのだろうか、それこそ『罠』か。

と、いくらでも考えられ、そして非常に『臭い』状況ではあるが。
上条達には、このアスタロトの言葉を拒否するという選択肢は元より無かった。

上条が頷いたのを受けて、
五和は抱かれたまますぐに槍の柄を握り、そして足元の陣を起動。


次の瞬間、二人の姿が魔方陣の中に沈み消えていった。
210 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 04:11:28.36 ID:R6KekFd3o

『……さて、今度は一体どのような遊興を思いつきになられたので?』

ネビロスが空になったクレーターの中央を見つめながら、背後のアスタロトへと向けて口を開いた。
幻想殺しというサンプルを失ったせいかやや残念そうに。

それを悟ってはアスタロト。

『すぐに幻想殺しもまた手に入る』

そうネビロスの関心の元に前置きして、こう続けた。


『幻想殺しの向かう先には、「本物のアンブラ魔女」がいる。それも複数体だ』


『なるほど……』

そこでネビロスは納得した。
幻想殺しとあの人間の女から、
この大公は本物のアンブラの魔女の匂いを嗅ぎつけたのだろう、と。


『ネビロス、精鋭たる一隊を選び、率いて俺の後を追え』

『お前の軍団は「カール」に、軍の総指揮はサルガタナスに任せる』

それを聞いて、グラシャラボラスはその身を伏せるようにして一礼した後、
翼をはばたかせて飛び立っていった。


『……しかし大公は、あの人間の覇王復活の支援もなさらねb』


『俺はいらんだろ。あの「陰気なネコ野郎」と「魔剣マニア」がいれば』


退屈な連中だが力は確かだからな、とアスタロトは続けた後。
巨大な翼を大きくはばたかせて、金色の巨槍を掲げ飛び立った。



『では俺に続けネビロス!!―――狩りだ!!!「魔女狩り」を始めるぞ!!ほほほはははっは!!!!』



そう高笑い交じりに声を張り上げながら。
211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/06/29(水) 04:15:26.20 ID:R6KekFd3o


―――それからしばしの後。

アスタロトに『カール』という愛称で呼ばれているグラシャラボラスは、

その翼を巨狼の身を大地に横たわらせながら、
周囲を流れていく悪魔達の群れを眺めていた。


ネビロスから預かった軍団の行軍は一切滞りはない。


そう、確かに問題が無いのは良き事である、
が一方で非常に退屈でもあった。

先ほどに、主に付き従うと申し出ていた方がずっと楽しめていただろうか。
そうそんな事を考えても、今となってはただただ無駄であるが。


とその時。


『……』

ふと彼は違和感を覚えた。
別階層を行く他の軍団の反応に。

突然、妙に乱れ始めたのだ。

―――何らかの問題か発生したか?。

不謹慎ながらもそう心躍らせながら、
彼がその狼の頭を持ち上げた瞬間であった。


遥か彼方にて赤い閃光が迸り、
そして大量の悪魔達が巻き上がって。


遂にこの階層『にも』現れた―――『怪物』が。


確かに退屈していた彼が欲していた『刺激』ではあったが、
それはあまりにも『強すぎた』。


強すぎたのだ。

とにかく強すぎた。

―――
212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/06/29(水) 04:16:29.12 ID:R6KekFd3o
今日はここまでです。
次は金曜か土曜に。
213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/29(水) 04:17:17.99 ID:ayvwui09o
214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/29(水) 17:10:45.23 ID:ApIjHKfDO
赤マントでネビロスっていうとメガテンが思い浮かぶ
215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/06/30(木) 20:15:03.53 ID:9440aDWZ0
>>1の寸止め巧者は相変わらず乙!
216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/02(土) 20:52:51.72 ID:73RNg6C9o
―――


―――『主契約』。


魔女一人につき一体がつく、どちらかが死ぬまで永続する終身契約。

魂と魂を繋げ、力と力を捻り合わせ、存在そのものから一体となり、
そして『肉体的接触』で結ばれる強固な『絆』。

それはアンブラにおける『成人』の証、すなわち―――『真の魔女』たる証。

紛れも無い正真正銘のアンブラ魔女たる証。


そう、『本物』の―――。


ローラ「―――有り得ない!!!そんなこと絶対に有り得ない!!―――」


その揺るぎの無い事実が今、
『とある一人の魔女』の存在をはっきりと証明してしまっていた。

『力の器』に宿っていたのは、
管理しやすいようにと組み込まれた『擬似人格』。


妹の偶像であり模造であり、姉の記憶の中にあった『幻想』―――では―――なくなっていた。


ローラ「『お前』は人形なのに!!!―――ただの『模造』なのに!!!―――」


喚いても怒鳴っても、もうその『事実』は覆ることは無い。

彼女自身がアンブラ魔女として『主契約』の性質を良く理解しているのだから、
そこに疑問を抱けるわけも無い。


ローラ「―――ただの『幻想』なのに!!!!」


だが彼女には到底受け入れられなかった。
頭では理解して認識していても、己の『存在理由』が拒絶する。

そう、『インデックス』という人格の元が、
管理のために作られた『擬似』的存在であったのと同じく。


いいや、むしろそれ『以上』に。

『ローラ=スチュアート』という人格は、この時のために形成された『擬似』的存在だったのだから。


成すべき『使命』―――『あの日に死んだ妹』の復活を果すための『プログラム』だったのだから。
217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/02(土) 20:54:51.52 ID:73RNg6C9o

血走る瞳、紅潮する頬、爆発的に鼓動を速める心臓。
それらをまるで握り潰そうかというほどに力み震える手で、
ローラは顔と胸を押さえこんで激痛に喘いだ。

痛みの原因は、インデックスに接続を試みた際の『拒絶』によるもの。

アンブラの契約術に組み込まれている強力な防御機構が、
『侵入者』の魂に向けて凄まじい攻撃を放ったのだ。

ローラ「……がっ!!あァ゛ッ…………!!」

顔を覆う指の隙間から見える、5m程先のインデックス。
猫を胸に、こちらを睨みながらやや腰を落として身構えている少女。

その目には、表面上に動揺と困惑が見えていたも。
奥底には、作った当初は無かったはずの確かな光が宿っていて。


いつの間にか―――『魔女の瞳』に。



ローラ「―――」


どうしてなの、なぜなの―――。


私は何がいけなかったの?―――私はいつどこで失敗してしまったの?


―――私は、わたしは、ワタシハ―――。


さまざまな感情が入り乱れて、困惑と混乱の極みに陥っている人格をよそに、
行動の主導権を握る『プログラム』は冷酷に機能していく。

『あの日死んだ妹』を復活させる、ただこのためのだけに。


プログラムは状況を分析し判断していく。


力の器に干渉できない理由は、
宿っているインデックスたる存在が『主契約』を他者と結んでしまっているため。


ならば邪魔でしかない、排除すべき障害物である。


主契約を無効化する唯一の方法、『死』をもって。

力の器を武力行使により『初期化』せよ。


ローラ「―――」


インデックスたる存在は―――『破壊』せよ。
218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/02(土) 20:58:22.40 ID:73RNg6C9o

喘ぐローラ=スチュアートから5m程先にて。

禁書「―――」

インデックスは乱れる己が内面に戸惑っていた。

蘇る記憶と湧き上がる想いが作る渦は、
次から次へと多種多様な感情で彼女を大きく揺らがせる。

頬を滴っていく雫は、恐怖、愛しみ、懐かしみ、悲しみ、喜び、それら全てを含んでいた。

彼女は、安定しないこの己に強烈な不安を覚え、
発作的に手を合わせて祈りたい衝動に駆られた。


耳を塞ぎその場に蹲りたい、と。
雑然としたこの感情の嵐から逃れ、閉じ篭りたい、と。


禁書「―――……ッ」

だが祈りはできなかった。
過去の記憶がその衝動を正面から叩き壊したのだから。


一体何に向けて祈るというのか。


まさか天界にいる十字教の主か?。


魔女であるお前が祈るのか?、と。


禁書目録として生きた半生、
その間に何度記憶を失っても唯一変わらなかった十字教への信仰。

そんな彼女のたった一つのアイデンティティが、
ここにあっさりと否定されたのだ。

今や、彼女に『逃げ場』は無かった。
219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/02(土) 21:00:22.44 ID:73RNg6C9o

そもそも彼女は今、祈ることなどできやしなかった。
その腕の中にはスフィンクスがいたのだから。

そう、まるで祈りを妨げるかのように、爪を立てているこの三毛猫が。

重み、温もり、呼吸鼓動、生命力に満ち溢れた確かな存在感をそこに放って、
彼女を見上げていた。

槍のように鋭い眼差しで。


禁書「―――……」

そして次の瞬間、スフィンクスは腕をするりと抜け、
インデックスの右肩に飛び乗って。

彼女の涙の一滴を頬から舐め取った。


禁書「……スフィ……ンクス……」


その三毛猫に導かれて、
彼女の意識はこの己が涙へと向かい。

そこにはっきりと明示されていた答えに気付く。


なぜ涙を流しているのか、なぜこの涙はここまで濃いのか。


それは自分自身の想いだからだ。
決して他人事ではない、正真正銘の己の所有物なのだから。

そして彼女の思考を導くかのように、
スフィンクスが肩の上で爪を立てた。


まるで『逃げるな』と。


『耳を塞ぐな』。


『目を逸らしてはいけない』、と。
220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/02(土) 21:07:31.68 ID:73RNg6C9o

自分から目を逸らすために祈ってはいけない。
己を偽るために願ってはいけない。


禁書「……」


ここで逃げたら、全てを失ってしまう。
ここで目を逸らして他者に願ってしまったら、もう二度と己は己を認識できなくなる。


『これは私自身のこと』


目を逸らしてはならない、
この身に宿すものを全て受け入れるのだ。


愛しき姉と妹、気高きアンブラの家族。


それら『過去の己』を真とすれば。

ステイル、神裂、そして今までであって来た人々との思い出。
そして上条当麻という存在に与えられた日々と想い。

これら『今の己』も確実な真となり得り。

魔女の過去を受け入れたことにより、魔女の技も真となり。


その『魔女の技』、愛する人と『主契約』を交わしたという事実により、
『己が本物』だとここに証明される。


逃げる必要も目を逸らす必要も無い、あるがままの自分自身がここにある。


重なり同化する過去と今、恐れずその先を見つめれば。
そこにしっかりと存在しているでは無いか。

他者に願って与えられずとも、最初からここにあるではないか。


禁書「―――」


もう二度と覆ることの無い、完璧なアイデンティティが。


疑う余地の無い、確かな存在である―――唯一無二の『私』が。
221 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/02(土) 21:09:52.17 ID:73RNg6C9o

全てを受け入れたインデックスは、過去の自分自身の衝動に従う。
今の己のベースとなっている、『妹』の想いに。

彼女は喘ぎ身を震わせるローラを見つめて。



禁書「―――あ…………姉う―――」



『姉』へと呼びかけ―――たが。
最後まで声を続けはしなかった。

ローラの瞳の色が、混乱から明確な戦意に移り変わっていくのを見て。

そして認識した。

ローラの意識が、己とは違う結果に帰結したことを。


己とは違って―――自分自身の存在を見定める前に、『プログラム』が決定を下してしまったのを。


ローラの結界により、
彼女を打ち倒さぬ限りこの階層から脱出はできない。

戦いは避けられない。

インデックスは『力の器』であるため、宿す力の総量はずっと多い。
それに主席書記官としての記憶、アンブラの叡智が大量に詰まっている。

だがしかし、その存在のベースは妹。
基礎戦闘訓練を受けていない、まともなパンチ一発すら放てない幼き文官だ。

一方でローラのベースは姉。
成人した正式な戦士どころか、栄えある近衛所属という精鋭中の精鋭。


百戦錬磨の正真正銘の武人である。
222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/02(土) 21:13:11.79 ID:73RNg6C9o

それに戦闘用の魔女の技のほとんどが、
基礎戦闘技術を前提としている以上、インデックスに扱える技は限られてくる。

ウィケッドウィーブや『主契約』による魔の力は、
バレットアーツと組み合わせることでその真価を発揮するもの。

禁書「……」

これは力の総量の差を埋めるどころではないほどの違いだ。

総量が上回っていても決して有利ではない。
むしろどう考えても『不利』そのものであった。


だが、それがインデックスの心を挫く要因にはなり得なかった。
彼女は知っている。
はっきりと理解している。

ここで屈して諦めてしまった、その先に待つ結末がどういったものかは。

それは、決して受け入れられることの無い結末。

だから彼女は、勝算を考えるよりも先に選んだ。


戦うことを。


容認し難き現実が避けられぬのならば―――戦え。


己の存在を失わぬために、己が望む未来を護るために―――抗え。


そして。


たった一人の『家族』に―――『姉』に救いと安らぎを与えるために。
223 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/02(土) 21:18:08.13 ID:73RNg6C9o

その時、スフィンクスが再び彼女の頬を舐めた。

そしてこれも魔女の技か。
絆を介してこの三毛猫、スフィンクスと意志疎通した彼女は。

禁書「ありがとう―――スフィンクス」

この友にささやかな礼を告げた。

その声を聞いてスフィンクスは肩から飛び降りた。
彼女の前で四肢を力強く踏みしめ、ローラを見据えて。

そんな『彼の申し出』を受け入れてインデックスは、
屈んでその小さな背に手を乗せ。


       屹立せよ 汝の牙は我が刃なり
禁書『BIAH, NONCI BUTMON NOAN NAZPS』


エノク語の詠唱を口にした。


       屹立せよ 汝の眼は我が光なり
禁書『BIAH, NONCI OOANOAN NOAN PIAMOL』


それは記憶の中の、
使える魔女の技を組み合わせた即席の術式。


この『友』を一体の強き戦士とするべくの。


そして透き通る声で唱え終わった瞬間。

小さな小さなこの三毛猫は姿を変え。


アンブラ文化の特有飾りとエノク語の文様が全身に刻まれた―――体長3mの白亜の猛虎となった。

224 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/02(土) 21:19:40.06 ID:73RNg6C9o

その『赤い瞳』の猛虎が、
全身からの白銀の光と共に凄まじい咆哮を放つ。

そう、『白銀』。

上条当麻がその身に宿す魔と同じ、『白銀色』の。


その咆哮にまるで応えるかのようにローラがその時、
足で大地を踏み鳴らした。

何度も何度も戦太鼓の如く轟く地響き。

そしてローラが面を上げて手を広げると、
金髪が大きく広がってはうねりその体を包み始めた。

『金の繊維』が、ゆったりとした修道服に瞬く間に編みこまれていき。
修道服は肌にフィットする、体のシルエットが際立つ形状に変わり。


ローラが纏うは―――金刺繍が施された、アンブラの戦闘装束。


広がった裾と袖口から覗くは、
青に飾られたフリントロック式の拳銃。


その『かかとの銃口』でローラは再度二回、大地を踏み鳴らして。


ローラはインデックスを真っ直ぐと睨んだ。
225 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/02(土) 21:22:50.40 ID:73RNg6C9o

すぐさまインデックスは、
スフィンクスから振られたその長い尾に捕まっては彼の背に飛び乗り。

      奏でるは汝の滾り  謳うは聞き手無き詩
禁書『NONCI HE VNPH, AFFA HE FAAIP BIALO』


即席で作り上げた複合術式の詠唱を続けていく。


禁書『(とうま―――お願い―――)』


心の内で、愛する彼へ向けて呼びかけながら。


            与えしは名誉と栄光
禁書『NONCI DLUGAR BUSDIR OD IAIADIX』



禁書『(―――私に分けて―――)』


耳を塞がずに全てを聞き入れた上で、彼女は願った。


             捧げるは血と霊
禁書『ZORGE DLUGAM CNILA OD GAH』


己の全てを受け入れた上で、彼女は祈った。


      屹立せよ アンブラの鉄の処女
禁書『BIAH, IAIDA PARADIZ OL UMBRA』




禁書『(あなたの―――勇気を!!)』



この声は―――『真の祈り』はきっと届くと信じて。



スフィンクスの背にて、真っ直ぐにローラを見据えるインデックス。
頭上にエノク語の術式を浮かべ、髪を光輝かせて。


そして彼女は遂に、ここに真っ向から立ち向かうため前へと踏み出した。


己が力で、己が意思で。



己の『真の物語』を決着させるべく。



―――
226 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/07/02(土) 21:23:23.31 ID:73RNg6C9o
短いですが今日はここまでです。
次は月曜か火曜に。
227 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/02(土) 21:26:49.39 ID:J1wOLbBN0
乙です

未だかつてスフィンクスがここまで凄いことに
なったSSがあっただろうか
228 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/07/02(土) 22:38:48.71 ID:RuvfnBYL0
Σ(;゚Д゚)大半の読者の予想の斜め上を軽く飛び越える>>1乙!
229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/02(土) 22:45:20.61 ID:6bRtRzGDO
スフィンクスさんも参戦ッスか……
良いね
230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/07/02(土) 23:33:22.81 ID:013s4TcZo
まぁ、スフィンクスったら
こんなに大きくなって
231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/03(日) 02:50:21.08 ID:Iys2YlRqo
登場人物総インフレが始まる…!
だがそこがいい乙!!
232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/07/03(日) 07:42:40.27 ID:Z3klREyAO
スフィンクス△
もう呼び捨てにできないな
233 :岡山 ◆kGSWCVY.IQ [sage]:2011/07/04(月) 20:21:46.40 ID:gWZHULQwo
スフィンクス△
234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/06(水) 00:33:49.90 ID:98Sc9bWAo
―――


この感覚を味わったのは二度目であった。


ただ、全てが前回と同じという訳もなく。
成り行きは最初から最後まで同じでも、『逝き先』はどうやら全く別であったようだ。

この意識が最後に『逝き』付いたのは、
業火の只中に落ちていくイメージ―――『今の己』の魂が帰属する『炎獄』の風景。

訪れるのが初めてでありながら、生まれ故郷でもある領域。

人であった心がその業火に喘ぎ苦しむ一方、
この魂と力は落ち着き安らかに。

本来はそのまま、ここで全てが朽ちていくまで漂っているのだろう。

だが『今回』も、『成り行き』に関しては最初から最後まで同じ。


細かい点は異なっているも、前回と同じように彼は再び再生する。
彼の死は絶対に受け入れんとした友の、いいや、『新しい主』の手によって。


その炎獄の黄泉の領域から、彼は引き上げられていった。
235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/06(水) 00:35:32.49 ID:98Sc9bWAo


「…………」

まるで霞のようであった精神が再び固定化、
己の存在意識を取り戻して、彼は静かに目を開けた。

視界は酷くぼやけていた。

全体的に黒い中、中央の一画が温かみを帯びて明るく、微妙に動いているか。
わかるのはそれだけ。

視覚だけではなく聴覚、嗅覚、触覚、
力の感覚などなど全ての知覚がかなり鈍っている。

だが徐々に回復してきており、ぼんやりとそのまま目を開けていると、
視界の中にある像の輪郭が徐々にはっきりとしていく。

そして意識も明瞭となると同時に響く、全身からの、特に胸から腹にかけての痛み。

「…………」

回復してきた触覚で己が仰向けになっていることを認識しながら、
彼は記憶を遡っては事の成り行きを確認し、状況を分析していった。

まずこうして肉体と確かな意識が存在していることから、
どうやら己は『また』蘇生したようだ。
236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/06(水) 00:36:17.69 ID:98Sc9bWAo

外面の分析はこれぐらいで良いだろう。
次に分析するのは己が内面。

この肉体と力の感覚、確かに魔のもの。
変わらず存在は悪魔だ。

そしてこの胸から腹にかけての痛み。

記憶によると、これが黄泉の世界を垣間見る原因となった傷。
とある強烈な一太刀によるものだ。

「…………」

そう。

自分は魔女に『そそのかされて』とにかく戦って、
そして切り捨てられたのだ。


この、こちらの顔を至近距離から覗き込んでいる―――


「…………」


―――神裂火織によって。


やっと回復した視覚は、目新しい涙の跡が残る彼女の顔をはっきりと捉えていた。
同時に嗅覚が彼女の香りを、触覚が空気を伝わった体温を。
237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/06(水) 00:37:27.87 ID:98Sc9bWAo
彼はそこで、全ての知覚で彼女を捉えた。

今度こそ魔女の意志の邪魔を受けず、
自分自身の意識で認識した。


黄泉を越えた『再会』を。


彼女はこちらの安定した視線を見て、
緊張が解けたように穏やかに微笑んで。


神裂「ステイル」


呼びかけてきた。
心なしか、泣き跡の目立つ目をまた潤ませて。

そして彼女はゆっくりと両手を彼の顔に伸ばして、
頬を挟み込むように優しく触れて。

鼻先が触れるかというくらいまで顔を近づけた。


ステイル「―――」


その瞬間。

一気に、ステイルの中に彼女の思念が流れ込んできた。
さまざまな情報、記憶、感情、想い、神裂がその心の中に持つありとあらゆるものが。

ステイル「…………」

バチカンの後の神裂の動向。
バージル・魔女との関わりと神裂がここに来た理由。

そして今、己の置かれているこの状況。

ステイルはそこでようやく把握した。

ああ、そういう事か、と。


『今度』は神裂が僕の主になったのか、と。
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/06(水) 00:39:28.20 ID:98Sc9bWAo

無言のまま、呆れたように息を吐いては静かに頷くステイル。
そんな彼に向けて神裂は顔を近づけたまま。

神裂「先に……こうして話ができたら良かったのですが」

ステイル「…………ああ……それは悪かったな」

神裂「まあ仕方の無いことですし。結果良ければ良しとしましょう」

ステイル「ふん……結果良ければ、か」

神裂「何か不満でも?あるなら今の内ですよ」


ステイル「果たしていつまで僕は、君の奴隷を勤めればいいのかな?」


神裂「さあ……」

そのステイルの問いに、
神裂はわざとらしく首を傾げて。


神裂「私の気分次第、ですね」


意地が悪そうに笑てそう告げ、
そしてこれまたわざとらしく。


神裂「まさか嫌ですか?」


そんな事を聞き返してきた。
239 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/06(水) 00:42:20.81 ID:98Sc9bWAo

嫌か。

神裂の使い魔となるのは嫌か。

ステイルは数回、神裂の問いを意識の中で繰り返し確認し、
ぽつりと答えを返した。


ステイル「腹が立つね」


―――それも悪くもないなと思ってしまう自分に、と。


そしてその意識内の声は、
音に出さなくとも今や筒抜けであった。


ステイルがそう答えた瞬間。
神裂は嬉しそうに、満足そうに笑みを浮べた。

ステイル「―――」


透き通る子供っぽさと、大人びたの美しさが混じった最高の笑みを。


神裂のこんな表情は今まで見たことも無かった。

インデックスと彼女と同じに感じるローラ以外では絶対に心が動くことが無いステイルですら、
この瞬間は意識が惹き付けられてしまっていた。


そして彼は思った。

君はそんな顔もするのだな、と。

認めよう。
君は最高の友であるが、一方で素晴らしく魅力的な女性でもある、と。


さすがにインデックスには到底及ばないがね、と続けて。
240 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/06(水) 00:44:14.21 ID:98Sc9bWAo

もちろんそんな心の声も筒抜けであったようで。

彼女はすばやく跳ねるように、
ステイルから離れ立ち上がっては一度咳払いして。

神裂「ッ。くだらない事を考えてないでさっさと立ちなさい。今はそれどころではありません」

取り繕っているのが明らかにわかる調子で、
そう冷ややかに声を放って。

彼の前に左手を差し出した。

ステイルは上半身を起こしてその左手を取る―――というところで、
何かを思い出しかかのようにふと動きを止めて。

神裂「……?」

ステイル「ああ一つ、言いたかったことがある」

確かに今は、心の中で呟くだけで通じる。
声にしてはっきり言っておきたかった言葉があったのだ。

ステイルは神裂の左手をとっては握り締めて。



ステイル「―――おかえり。神裂」



改めての『再会の言葉』を向けた。

神裂「―――」

その言葉を受け止めて神裂は、
一瞬の驚いたような表情ののち、再びあの最高の笑みを浮べて。



神裂「―――ただいま帰りました。ステイル」



そう、良く響く声を返して。
彼の手を強く握り返してその体を引き上げた。


ステイル「―――では急ごうか。我が『主』殿」


神裂「ええ。インデックスの下に―――」


―――
241 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/06(水) 00:45:24.65 ID:98Sc9bWAo
―――

プルガトリオ、魔界に近いとある階層にて。

ダンテ「……」

ダンテは相変わらず朽ちて倒れている柱の上に寝そべりながら、
ロダンが宙に映し出した『球状の映像』を眺めていた。

ダンテが指を動かすたびに、
まるで見えないリモコンに操作されているかのように
球体は次から次へと新たな映像を映し出していく。

ただその範囲は、
この映像の抽出元であるセフィロトの樹の影響域に限られているが。

魔界などの異界はもちろん、人間界でも元から魔寄りのフォルトゥナ、
今や魔境と化しているデュマーリ島などの領域を見ることはできない。

そしてもう一箇所。


ダンテ「おいロダン。学園都市がうつらねえ」

ダンテは寝そべったまま、球の向こう少し離れたところにいるロダンへ向けて、
そう声だけを飛ばした。

その風体や仕草はまるで、
テレビを見ていたところチャンネル変更が効かなくなって、文句を垂れているよう。
242 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/06(水) 00:47:52.58 ID:98Sc9bWAo

ロダンは球を挟んでの反対側、
少し離れたところにて葉巻片手に佇んでいた。

一見すると、ただなんとなしに立っているようではあったが、
実は意識内で様々な作業の最中であったらしく。

ロダン「―――んん?あん?何?今何つった?」

ダンテ「学園都市が見れねえ」

ロダン「知るか。セフィロトの樹の機能に何かの障害が及んでいるんだろう」

そしてダンテが声をかけたそのタイミングもちょうど良かったらしく、
彼はダンテの声に簡単に答えて。

ロダン「それと準備が出来た。行くぞ」

ダンテ「ん?何の?」


ロダン「天界の奴と会うって話だろ。アポとったぞ」


ダンテ「あ〜……そうだったな。エライ奴に会えるか?メタトロンとか」

ロダン「馬鹿言うな。セフィロトの樹の管理を任されてる連中はジュベレウス派のお膝元だ」

ロダン「その辺の奴等と接触を図ったら速攻でバレちまう」
243 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/06(水) 00:50:49.28 ID:98Sc9bWAo

では誰に会える、
と言いたげにダンテは肩を竦めた。

相変わらず寝そべり、しかもその視線は映像に向けたまま。


ロダン「……天津神とアース神族のアタマ連中が馴染みでな。昔、一緒に無茶を色々とやった連中だ」


ロダン「ウンザリするくれえに『愉快』な連中だぜ。きっとお前さんともウマが合う」

ダンテ「へえ……そいつぁイイ」

ロダンへの答えも半ば話を聞いていないようなもの。

ロダン「おい聞いてるのか?行くぞ」


ダンテ「ああ、行ってきてくれ」


ロダン「……あ?何?」


そして続けられたダンテの言葉。
それはまさに段取りなんかあったもんじゃないものであった。


ダンテ「お前が話をつけてきてくれ。任せる」


ロダン「…………」

全くわかりきってはいたことだが、
ロダンはつくづくこのダンテという男の『やり方』を思い知らされた。

ロダン「……………………ああわかったわかったよ。お前さんに従うぜ」

拒否する術もない事も。

そしてここではっきりと自覚してしまった。

ちょっと協力するだけの予定であったのが、
気付くと思いっきり片棒を担がされ『首謀者の一人』となってしまってた点に。


もう後戻りはできなくなってしまってたことに。


ロダン「(全く…………俺も遂に悪乗りが過ぎてきたか)」
244 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/06(水) 00:52:14.86 ID:98Sc9bWAo

ロダン「お前さんは何を?」

ダンテ「これから決める」

ロダン「……ネロから何か連絡あった場合はどうする?俺がいないと繋げることができないが」

ダンテ「あいつなら大丈夫だろ」

ロダン「……」

そしてそんな風に簡単に確認したのち。

ロダン「……お前さんが任せるっつったんだ。向こうでの俺の判断に文句は言うなよ」

ダンテ「おう」

ロダンはそう告げ、
姿を消して『会談』に臨んでいった。

ダンテ「………………」

一人残ったダンテは柱の上にて。
寝そべりつつ片方の手を上にかざしては、その手の平を見つめた。

指無しグローブに刻まれている一筋の裂け目を。

そして意識する。
その裂け目の下に重なっている『二重』の古傷を。

二度とも同じ状況で二度とも同じ刃で刻まれた、
それも『彼』らしく寸分たがわず見事に重なった傷を。
245 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/06(水) 01:00:25.71 ID:98Sc9bWAo

ダンテは感じていた。

今もどこかでこの傷をつけた彼が―――バージルが、
こちらに意識を向けて集中していると。

自分と同じく、互いの動きを悟ろうと感覚を研ぎ澄ませていることを。

ダンテ「…………」

かざしているその手は少しばかり汗ばんでいた。

気付かぬうちに緊張しているのか、
いや、当然しているのだろう。

思い出せば、
バージルとこうして真っ向から意を反したときははいつもこうであった。

幼い頃の兄弟喧嘩の時も。

時を経てテメンニグルの塔で再会したときも。
マレット塔で二度目の再会の時も。

あのネロアンジェロがバージルだったと気付く前から手には力が入っていた。

魔帝を滅亡に追い込むことになったあの騒動、バージルと三度目の再会を果すことになったあの時も。

そして先日、学園都市で刃をぶつけあった際も。


いつもであった。


ダンテ「…………………………………………」


体の芯から滾る、あまりにも破壊的なこの血。
『血族の共食い』こそ至高とばかりに、忌々しくも強烈な快感を与えてくれるこの感覚。

そう、この感覚は凄まじい快感を与えてはくれるが、
ダンテの理性には度が過ぎていた。


ダンテという人格にとってこの快感は、過去も今も変わらず―――果てしなく不快なものであった。

246 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/06(水) 01:02:14.47 ID:98Sc9bWAo

そんな風に過去の記憶に浸り。

遠い領域にいる兄の意識を肌で感じる中で、
ダンテは静かに上半身を起こして。


ダンテ「ケルベロス。アグニ。ルドラ。ネヴァン。イフリート」


良く使うお気に入りの使い魔達の名を口にした。

その瞬間、呼び出された魔具達が虚空から降って現れ、
周囲の地面に勢い良く突き刺さって林立した。

ダンテは彼等を一瞥しながら
傍に立て掛けてあったリベリオンの柄をとっては背中にかけて。


ダンテ「さてとだ。お前らにも存分に働いてもらうぜ」


ダンテ「ただ、今回は人手が要りそうでな。魔具としてではなく、それぞれの体で動いてもらう」


柱の上であぐらをかいては、
不敵な笑みを浮べてそう告げた。
247 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/06(水) 01:05:51.08 ID:98Sc9bWAo

その彼の言葉を聞いた直後、魔具達は一斉に真の姿へと形を変えた。
ケルベロスは三頭の氷の巨狼、
アグニ&ルドラは首のない青と赤の二体の巨人へと、
ネヴァンは妖艶な淫魔へと、

イフリートは巨躯の筋骨隆々とした炎の魔神へと。

それぞれの炎、冷気、雷、嵐が入り混じり、
周囲は一気に混沌とした様相へとなっていく。

アグニ『遂に戦か?!』

ルドラ『戦なのか?!』

そしてまず声を挙げたのは二体の巨人達であったが。

ダンテ「でけえ祭りになるからいいから黙って聞け」

ダンテは騒がしい彼等を手早く受け流して。


ダンテ「事を始める前に言っておくことがある」


そして本題へと入った。



ダンテ「―――今ここで、お前らとの主従関係は無効とする」



あっさりと、まるで何でもないことかのように、
不敵な笑みと変わらぬ軽い声色で。



ダンテ「―――つまりお前らは自由の身ってこった」

248 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/06(水) 01:08:27.51 ID:98Sc9bWAo

長い付き合いの使い魔の彼らでさえ、
さすがにこの言葉は予想外であったらしく。

皆が皆動きを止めてはしばらく押し黙ってしまった。

だがダンテはそんな彼等の様子もまるで気にする風もなく。

ダンテ「お前らとは長い付き合いだからな。『皆勤賞』だ。そろそろ解放してやる」

軽い調子のまま、彼等にとっては重い言葉を続けて言った。


ダンテ「そんでもってだ。俺に協力するかどうかは各々の判断に任せる」


そこで再びの沈黙。
だが、この二度目の沈黙はそう長くは続かなかった。


ぼそりと。


イフリート『愚問』


イフリートがそう口にしたのを皮切りに。


ケルベロス『魔狼の忠誠心を舐めるな、我が主よ』

ネヴァン『要するに「僕」から「友」に格上げということよね?良いわぁ良いわねぇ。これで正式にあなたへ求(ry』

そしてネヴァンが言い切る前に騒がしい双子が続いて。

アグニ『対等な友ならばダンテの言伝に』

ルドラ『無理に従わなくとも良いということか』


ダンテ「ああ強制しねえが『黙っててくれ』と心を篭めて頼む」
249 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/06(水) 01:10:30.75 ID:98Sc9bWAo

そうやって『元』使い魔達はここで、
僕ではなく『友』としてダンテについていくと意志を明らかにしていった。

ダンテ「…………」

とそこで彼はふと肘を付き、急に思案気に黙った。

実はもう一体いたのだ。
ここで解放しようと思っていた使い魔が。

ただ、その使い魔との関係は少々厄介であり。

だがもたもた考えるのはいらないとばかりに、
彼は笑い混じりに膝を叩いて。


ダンテ「―――ベオウルフ。来い」


最後の使い魔を呼んだ。


すると正面に現れて地面に突き刺さる―――銀の具足。


ダンテ「元の姿に」


そしてダンテがそう言霊を放つと。


獣の顔をした、一角の巨人が姿を現した。

獣脚と鉤爪のある手足は筋骨隆々として、
背中にはその巨体と釣り合っていない小さな翼。


そして刃の傷で潰れた両目と―――同じく刃による、頭部を十字に走る大きな傷。

強烈な圧が混じった咆哮を挙げて、
ベオウルフはその真の姿へと成った。
250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/06(水) 01:14:22.61 ID:98Sc9bWAo

ダンテ「ハッハ〜、お前と『対話』するのは随分と久しぶりだな」

そんなどう見ても穏やかではない彼へ向けて、
ダンテは相変わらずの軽い調子で言葉を飛ばした。

ダンテ「お前とも長い付き合いだ。解放してやるぜ。世話になったな」


ベオウルフ『―――解放―――だと?』


そしてこの大悪魔は示した反応は当然のもの。

怒りがありありと滲む声をダンテに向かって放つ。

ベオウルフ『見えるか、我が面が―――』

脚を踏みしめては大地を砕き。

ベオウルフ『―――左目は貴様の父に!!右目は貴様に!!』

全身から力を放ち。


ベオウルフ『そして貴様の兄に割られたこの傷を!!』


牙をむき出しにして。


ベオウルフ『―――この呪われた血族め!!忌まわしき反逆者共が!!穢らわしき混血めが!!!!』

251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/06(水) 01:15:28.13 ID:98Sc9bWAo

その時、
ダンテへ向けられた挑発と侮辱の言葉に耐えかねたのか。



イフリート『―――黙れ下賤の者めが』



イフリートがダンテとベオウルフの間に割って入るように踏み込んだ。
全身から、ベオウルフを遥かに上回る諸王としての力を放ちながら。


そう、彼はかつて炎獄の頂点に君臨していた紛れも無い『王』。
大悪魔の中でも随一の領域に属し、
この場にいる元使い魔達の中でも一人だけ飛び抜けている存在だ。

ベオウルフ『黙れ!!貴様も同罪だ!!それでも誇り高き魔神たる一柱か!!否!!!貴様は恥の塊だ!!!!』

だがベオウルフも退くことなく、
更にイフリートにも向けて言葉を叩き込んだ。

イフリート『これは滑稽。完全なる敗者の分際で、いつまでも吼える弱者が誇りを語るとは。愚かな負け犬には我慢ならん―――』


その言葉を受けて、イフリートも更に圧を強めて前へと踏み出して―――。


ダンテ「おいおいタンマタンマ落ち着けってお前ら」
252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/06(水) 01:17:24.03 ID:98Sc9bWAo

と、その一触即発の中、
ダンテが言葉を飛ばしては宥めて。

まるで他人事のように相変わらずニヤつきながら。

ダンテ「イフリート、お前も言いすぎだ」


ダンテ「ベオウルフは強い。こいつには俺も世話になったし―――」

何気なしにこう続けていく。


ダンテ「―――こいつの力を貰った『あのボーヤ』も今やめっぽう強いぜ」


ベオウルフ『………………』

そしてこの時、ベオウルフがピタリとその動きを止めた。
ダンテが口にした『あのボーヤ』の事を耳にして。

ダンテ「あー、よしわかった。だったらはっきりさせようぜ。お前が望むなら勝負を受けてやる」


ダンテ「次は魔具にはしねえ、お前の望みどおり…………どうした?」



ベオウルフ『………………………………………………』


何かを考え込んでいるようにも見えるベオウルフは。
潰れた目の眉をピクリと動かして。

こう続けた。
今度はうって変わって、冷静に淡々と。


ベオウルフ『気が変わった。良いだろう。貴様に付き合ってやる』
253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/06(水) 01:20:31.17 ID:98Sc9bWAo

ダンテ「ハッ!中々付き合いいいじゃねえか!いいねえ!!そうだそのノリだぜ!!!」

その答えを聞いて、
ダンテは嬉しげに手を叩いて笑った。

特に理由を聞くことも疑うこともなく、
ベオウルフの言葉をすんなり受け入れたのだ。


他の元使い魔達は―――特にイフリートは嫌悪と疑念を強烈に露にしていたが。


イフリート『妙な真似はするな。貴様を見ている』


元の位置へと去る際、炎の魔人はそう言葉を残し。

ベオウルフ『カッ。腰巾着は失せるがいい』

ベオウルフも下がり際、敵意をむき出しでそう吐き返していった。

とその時。


ロダン『ダンテ、聞えるか?』


突然に、中空に浮かんでいる球状の映像からロダンの声が響いてきた。

ダンテ「お、どうした?もう話し終わったのか?」

ロダン『いや……待て……とにかく急展開だ』

早口で、彼にしては珍しく慌てている声。
ロダンがここまで動揺しているとなると相当の何かが起こったのか。

そしてそのダンテの推測は正しかった。
254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/06(水) 01:22:02.25 ID:98Sc9bWAo


続く早口のロダンの声。


ロダン『まだ概要は詳しく聞いていないが……タイミング的に喜ばしいのは間違いない』

ロダン『以前から計画していたようで、連中はジュベレウスの完全滅亡を機に始動していたらしい』


ダンテ「落ち着け。要点を言え」



ロダン『蜂起だ―――天界で反乱が始まる。打倒ジュベレウス派のな』



ダンテ「―――…………」


それは間違いなく『相当の事』であり、
ロダンの言葉通り状況的に『喜ばしい事』でもあった。

だがしかし。

ダンテは非常に気に入らなかった。

再度あからさまに見えてしまったからだ。
この状況が『作られたもの』だと。


まただ、と。


またタイミングが良すぎる、と。



―――『お膳立て』が過ぎるぞ、と。



ダンテ「……………………ハッハ〜、匂うぜ。プンプン匂ってるぜ」


そして感じる。


姿無き形無き、それでいて『どこにでも』存在している『この敵』の存在を。


―――
255 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/07/06(水) 01:23:14.63 ID:98Sc9bWAo
今日はここまでです。
次は金曜か土曜に。
256 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/07/06(水) 01:26:29.70 ID:i3PDHv6to
乙ー
アグルドの勇士が見られるのかな?楽しみだ
257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/07/06(水) 01:39:16.95 ID:NpngN4gzo
ようするにベオちゃんはツンデレなんだね
258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/06(水) 01:39:50.22 ID:IoA36g7DO
ベオウルフは上条さんと同化してたから何か知ってるみたいだな
259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/07/06(水) 01:51:16.13 ID:dKZ1Cor3o
メタトロンって形でまさかのイーノックがちょっとだけ登場w
260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/07/06(水) 04:20:18.99 ID:JI1tqB9X0
壁|ω・´ξ こんなに風呂敷広げて大丈夫か?
261 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/07/06(水) 07:25:15.22 ID:98Sc9bWAo
当SSにおけるメタトロンですが、某イーノックさんとは特に関係はありません。
また、今後にストーリーに関わる形で別作品が新たにクロスすることもありません。
ちょっとした小ネタ程度です。
262 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/07/06(水) 14:40:45.03 ID:vuv8BV19o
皆ネオ★ステイルを忘れるなよ・・・
このステイルは・・・炎獄の悪魔の性質とデビル神裂の性質を持ってるのかな。
263 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/07/07(木) 00:48:06.06 ID:sFrU3k2p0
>>261
壁|ω・´ξ なら大丈夫だな。問題無い
 キリッ
264 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/07(木) 01:32:31.88 ID:0jlZNsPDO
今までにドッペルとゲリュオンって出てきたっけ?
265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/07/07(木) 09:12:39.69 ID:fWRKfLAAO
たぶん出てきてないな。
ダンテに使役されてんじゃね?

正直、ドッペルゲンガーの破壊力は異常
266 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/07(木) 12:33:14.18 ID:sU/Hf7+IO
イフリートさんかっけー
267 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/10(日) 00:43:49.90 ID:mbYW1UyQo
―――

学園都市第七学区。
とある無人の大通りにて。

神裂「………………」

ステイル「………………」

二人は無言のまま、思案気に顔を曇らせてその場に立っていた。
彼等の周囲の地面には、アスファルトが捲れ上がっている大きな穴が二つ。

一つは中央分離帯に沿うようにして続く、地面とほぼ水平に激しく削り掃ったと見える縦長のもの。
もう一つはまるでスプーンで一掬いしたかのような、断面の滑らかな円形の穴。

神裂「…………」

一つ目の縦長の穴は、
残留している力からもはっきりとわかる通り上条当麻のものだ。
その位置や地面の削れ方から見て、高速で動いていたところを急停止したものであろう。

そして二つ目。

ステイル「…………」

これも同じく、力の残り香からはっきりと識別できた。
特にステイルにとっては間違えようも無い。


この穴を形成したのは紛れも無くインデックスの力。


ステイル「……………………」

一体何がここであったのか。
それを知るには情報が少なすぎるが、
ただ一つ、ステイルには断言できることがあった。

それはインデックスが今、非常に危険な立場に立たされているという点だ。
268 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/10(日) 00:44:54.31 ID:mbYW1UyQo

ステイルは他にローラ=スチュアートの、
神裂はジャンヌと五和の残り香をそれぞれ認識していた。

その混ざり具合、特にジャンヌの残り香の質が、
ここで何らかの力の衝突があったことを物語っており、
『あの』インデックスの力も解放されたという状況証拠。

何か重大な事があった、いや、今もなお彼女の身に何かが起こり続けているのは確実だ。

そして今、そこに付随する大きな問題がもう一つ。

ステイル「……………………それでどうするんだ?」


インデックスを追跡する技術が無いことである。


神裂「…………今考えています」


ステイルが飛べるのはイギリスの中だけ、
神裂は魔女に人間界内での基礎的な飛び方を教わっただけ。

二人とも界を超える技術は持ち合わせてはいない。
当然、残滓を解析して追跡などできるわけがない。
269 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/10(日) 00:46:40.18 ID:mbYW1UyQo

神裂「……ローラ=スチュアートはインデックスが目的でここに現れた、で確かなんですね?」

ステイル「そうだ。僕の記憶を確認したろう?あれの通りだ」

神裂「………………そうですが、やはり言葉でも確認したいので」

ステイル「…………。ジャンヌと言ったか、あの魔女はまだローラを捕らえていないのか?」

神裂「まだでしょう。捕らえたのならば、ジャンヌさんか五和がすぐにインデックスをこちらに連れて来ますので」

ステイル「五和は飛べるのか?」

神裂「非常用にと、私も五和も人間界への戻り方だけは教わっていますので」

ステイル「………………他の魔女の協力は得られないのか?」

神裂「今何とか助言を仰いでいますので黙っててください」

自身のこめかみを指差しては、そう突き刺すような声色で言い放つ神裂、
彼女は明らかに苛立っていた。

ステイルと同じくインデックスの身が心配な上、バージル達から託された仕事が滞っているからであろう。
もちろん思考は冷静な一方、感情はこの状況と自身の不手際に激しく憤っているのだ。

そして当然、その苛立ちはステイルにも伝播していた。
使い魔は主に強く影響されるのだから。

神裂「…………はぁ……厳しいようです。魔女の追跡術は、素人が指示を受けながら扱えるような代物では無いと」

ステイル「…………では、他の魔女にここに来てもらうのは?」

神裂「それも難しいですね。今は皆、各々の仕事に取り掛かっていますので。人手が不足しているんですよ」

バージルさんがあなたの蘇生を許可してくださった理由の一つですかもね、
と投槍に神裂がボヤいたその時。

ステイル「―――……?」

二人はふと、一つの気配がこちらに向かってくるのを察知した。
この大通りに沿って、先ほど自身達が戦っていた地の方角から。
270 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/10(日) 00:49:10.65 ID:mbYW1UyQo

そして高排気量のけたたましい音と共に、
バイクに跨った非常に物騒な格好をした白人女が現れた。

ステイルが知っている一人の女が。

ステイル「―――」

ダンテやトリッシュの同業者、デビルハンターのレディだ。
初対面は病院にて先日、会話は数語交わらせる程度しかしていないが、
上条からは『魔界魔術に関してはとにかく超一流で、トリッシュを上回る技術と知識を有している』聞いていた。

そして今、そんな彼女がここに現れるということはなんと幸運であろうか。

そんなステイルの思考はすかさず神裂にも伝播していく。

神裂「―――……」

気持ち良いくらいにかっ飛ばして来、
焦げ臭い白煙を噴き上がらせながら二人の横に乱暴にバイクを止めたレディ。

そしてバイクに跨ったまま、
サングラス越しにぶっきらぼうに口を開いた。


レディ「―――ステイル=マグヌスだっけ。そっちは確かイギリスの。向こうで暴れたのアンタ達?」


神裂「はい。突然ですがレディさん、実はあなたのお手を借りたいと思っていまして」

レディ「ん?……あれ、前に会ったことあるかしら?」

神裂「いえ、ですがステイルからあなたの事は『聞いて』おります」

―――
271 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/10(日) 00:50:37.35 ID:mbYW1UyQo
―――

一方「…………」

一方通行は今、第七学区の真ん中に突如現れていた更地に立っていた。

広がるのは不気味な光沢を帯びた、くすんだ固い地面。
凄まじい熱に晒され一気に溶け、
そしてこれまた既存の物理法則ではありえない速度で一気に冷え固まった大地。

その熱源が何だったのかは把握している。

あのいけ好かない赤毛の悪魔、ステイルだ。

彼はつい先ほどまで、
ここで何者かと衝突していたようだ。

ただそこまではわかるが、果たしてその戦いの結果がどうなったのか、
その後に何があったのかは一方通行は判断しかねていた。

一方「……」

悪魔が力を解放すれば、
場の歪みや放たれてくる強烈な悪寒によって、感覚的にその位置がわかる。
ただそれは力を解放している状態、殺意や戦意に満ちている時のみの話だ。

一方「……………………チッ」

逆に気配を消されてしまっては、
悪魔はそう簡単には見つけられない。

今や能力の壁を越えてAIM拡散力場そのもの、
『力』の存在を肌で認識できるようになってきてはいるが、それでも何も拾えなかった。
272 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/10(日) 00:52:08.14 ID:mbYW1UyQo

またこの時、研ぎ済まされた彼の感覚を邪魔する別の要因もあった。

先ほど目覚めてから彼は、くぐもった耳鳴りに似た、
淀んだ液体の中にいるような感覚を覚えていたのだ。

一方「……」

カエル顔の医師からも聞いた通り、
こうしている今も自身の体は変質を続けているということだが、それが関係しているのだろうか。

それとも。


―――垣根帝督に会った事が原因か。


一方「クソ……ほンッッと余計なことばっかしやがってあンの野郎……」

と、そう苛立ち一人悪態をついていた時であった。


一方「―――」


彼は微弱な力の存在を確認した。

厳密には、莫大な力を持つ存在から漏れ出した『力の雫』か。
ここから伸びる大通りに沿ってやや離れた所だ。

彼はすぐに立ち上がっては、
その方向へと駆け飛んでいった。
察知されぬよう能力の使用を限界まで抑えつつ、それでいて最高の速度で。

―――
273 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/10(日) 00:55:09.17 ID:mbYW1UyQo
―――

がり、がりっと。

ナイフでアスファルトを削り取って、
レディが地面に術式を刻み込んで行く。

直径2m程の魔界魔術の魔方陣だ。

レディ「OK、ちょっと力流してみて」

ある程度刻んでは神裂が陣の中に立って魔の力を流し。
その動作を確認しては再び式を刻んでいくの繰り返しだ。

そしてその作業で手を動かしながら。

レディ「階層は特定したけど、その先でかなり高度な結界布いてるみたいね」

ふとレディがそう口にした。

神裂「結界も解けますか?」

レディ「不可能じゃないけど私アンブラの技知らないから、構造解析も0からやらなくちゃで5時間くらいかかるわよ」

神裂「…………では……同じ階層には一応行けるんですよね?」

レディ「どの道飛んだ先で結界に阻まれるけど」

ステイル「ここでモタモタしているよりはマシだ。それで頼む」

レディ「OK」
274 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/10(日) 00:56:45.53 ID:mbYW1UyQo
ステイル「結界か……上条がいてくれたら一瞬なんだがな……」

神裂「ええ…………」

レディ「ん、これでどうかしら。お願い」

そして再び、レディは神裂へ力を流してみるよう促した。

とその時。

ステイル「…………」

ステイルはふと疑問に思った。
なぜレディは自らが起動しないのか、と。

それだけならば特に引っかからなかっただろうが、
しかし神裂から先ほど、『五和も一応使える』と聞いたことによって強く違和感を覚えてしまったのだ。

五和が使えるのに、なぜこの最高峰の魔界魔術師は自らの手で起動させるのを避けているのか、と。

その思考が伝播して、ステイルも神裂と同じような表情を浮べて。

神裂「あの、聞いて良いですか?」

レディ「何」

神裂「なぜ、あなたが起動しないのです?」

レディ「ん?教わらなかった?これ常識なんだけど」

何のためにイギリスに雇われたのよ、とネロへ向けて呟いた後、
レディはまるで何でもないように答えた。


レディ「『普通の人間』が使うと、かっっっっなり危ないのよ―――天界の干渉が酷くって」


ステイル「―――て、天界の干渉?」


レディ「詳しくは知らないけど、『魔女狩り』の時の『検問』がまだ機能してるとかで、『連れて行かれる』場合もあるみたい」


神裂「―――」

魔女狩り、その言葉を聞いて神裂の表情が変わった。
275 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/10(日) 01:01:00.89 ID:mbYW1UyQo

レディ「普通に考えて、天界には魔女の力使う奴等を通してあげる道理も無いしね。
     連中は『魔女の全て』の根絶掲げてるし」

神裂「―――……」

『天界』に『魔女狩り』。

そして魔女の槍を持ち、魔女の技で飛ぶ五和。
この組み合わせで嫌な予感を覚えない訳がない。

その神裂とステイルの空気に気付いて、
レディが口を開きかけたが。


レディ「あー、…………もしかして誰k」


その時だった。


突如、三人から10mほど離れたところにて、
『別』の移動用魔方陣が出現した。
三者は即座に慣れた動作で身構え、その謎の来訪者を―――。


ステイル「―――!」


迎えた。



神裂「――――――五和!!!!」
276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/10(日) 01:02:49.67 ID:mbYW1UyQo

現れたのは五和だった。
彼女は魔方陣の上に座り込み、
みるからに憔悴しきっって顔色も酷かった。

いや、酷いなんてものではない。
体力的・精神的、その上なにやら感情的にも荒んでいるようで、
それはそれはとにかく形容しがたい酷い表情をしていた。


神裂「五和!!一体何が―――!!」

そんな彼女を一目見てすぐに神裂が駆け寄ったが、
五和は別のことに強く意識を向けているようで、
しきりに周囲を何度も何度も見回して。

そしてまるで懇願するかのように、神裂にしがみついては。


五和「……上条さん?上条さん?!上条さんは??!!」


神裂「ッ?!ど、どうしたんですか五和?!」

五和「上条さんは?!来ていないのですか?!!」

ステイル「どういうことだ?上条は来ていないが」


五和「一緒に……はず……今まで一緒に……!!一緒に飛んだんです!!一緒に……!!!!」


レディ「………………………………」
277 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/10(日) 01:04:44.74 ID:mbYW1UyQo



神裂「―――つまり、上条当麻は天界の手に」


レディ「そう考えられるわね。あとこればかりは追跡もできないから。飛んでる最中に横から掻っ攫うなんて解析は無理」

ステイル「つまり、僕達はどうやっても彼に手が出せないということか」

ある程度五和を落ち着かせた暫しの後、
三人はそう確認し合っていた。

ステイル「しかしこれほどの危険を隠しておくとはな。魔女とはやはり随分と不親切なんだな」

レディ「アンブラの魔女って人間は人間でも普通の人間じゃないし、問題があるとは知らなかったんでしょ」

神裂「とにかく、上条当麻に関しては彼自身に任せるしか有りませんね」

ステイル「幻想殺しと悪魔の体、それにあのゴキブリ並みのしぶとさがあればまず死にはしないだろう」

神裂「ええ。私達も私達で行きましょうか」

表面上だけならばこの会話は冷たくも聞えるが、
だが根の部分は決してそうではない。


心配する必要が無い、つまり上条当麻を信頼しているのだ。


こんな時こそあの男の真価が―――。


―――無様で泥臭くとも、最終的に確かに成し遂げる『安定感』が発揮されるのだから、と。
278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/10(日) 01:06:14.42 ID:mbYW1UyQo

そして二人はレディが完成させた陣の上に立ち。

神裂「五和、あなたは残りますか?」

五和「…………いえ……あの……」

しばし黙って落ち着いたのか、
五和は疲れを滲ませながらも、槍を手に力強く立ち上がって。


五和「……私もお供します」


そう神裂に言葉を返しては、
彼女の方へと駆け寄った。

彼女もまた、上条という男の『安定感』を自身の中で再確認して、
そして己の義務へと再び向き合ったのだ。


レディ「クソガキがここに来たらそっちに向かわせるから」

神裂「お願いします」

ステイル「すぐに頼む」

そんな言葉を交わした後、神裂の力によって魔方陣は起動、
三人は光の中に沈みプルガトリオの一画へと飛んでいった。
279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/10(日) 01:08:02.11 ID:mbYW1UyQo

レディ「…………」

三人が消えた後。

レディはその場に佇みながらふと考えていた。
一つ、さっきから気になる事があった。


なぜ天界は上条当麻を、と。


俗に言われる魔女狩りのための検問に引っかかったのならば、
魔女の杖を持ち魔女の技を使った五和がまず連れて行かれるはず。


上条当麻には、魔女の全ての根絶よりも優先する何かがあるのか。

目的は幻想殺しか。


ただこの『魔女狩りのための検問』もデビルハンター間での所謂『噂』であるため、
これを元にしたら不確かな思考遊びの域を出ないが。

そもそもデビルハンターは、天界関係には特に興味が無いのだ。
いや、こういった方が良いか。

天界は面倒くさい、天界はネチネチしててウザイ、
だから皆関わるのを避けている、と。


レディ「…………あ」


とその時であった。

ふと気付くと、
いや実は、『彼』がこちらに近づいていたある時から気付いてはいたが。


レディが振り返った先に、白髪に赤目の少年が立っていた。

280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/10(日) 01:11:20.32 ID:mbYW1UyQo

レディ「Hello」

レディはニコリと。
あまりに整いすぎて、
逆に警戒を扇いでしまうくらいの笑みと共に、彼にそう一言放った。

だが10m先の彼はピクリともしない。
ジッとレディを見据え、ありありとわかる警戒の色を全身から滲ませていた。

そう彼、

一方「…………」

一方通行は、レディの纏う只者ではない雰囲気を敏感に感じ取っていたのだ。
普通の人間であるのは確かなようだが。

その一方で覚える、この研ぎ澄まされた刃を突きつけられているような緊張感。

いや、むしろ相手が普通の人間であるせいで、
その力量を測りかねていた。

悪魔等ならば、相対した存在感でその力の格が大体予想が付く。
能力者だってそのAIMの濃度である程度の力の規模がわかる。


だが『ただの人間』となると。


ただの人間ならば、普通は脅威ではないと考えて良いのだが、
この女の場合はそうはさせてくれない。

その身から醸す強烈な緊張感が。


と意識するものの、別に彼が怖気づいていたわけではない。
必要があれば容赦なく全力で、一切の油断もせずに戦う準備はできていた。

ただその一方。

レディ「あ、もしかして」

一方通行の特徴的な容姿を一通り確認して、放たれたレディの言葉、


レディ「第一位のボーヤでしょ。ダンテから聞いたわよ」


それで少し安堵したのも嘘ではなかったが。
281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/10(日) 01:13:23.02 ID:mbYW1UyQo

その言葉を受けて、
彼は体の緊張を解くように息を吐いて。


一方「………………まァまァ『その方面』のお方ですか」


ダンテ繋がりとなれば、この女の異質な『危うさ』もそれなりに納得がいく。
あの男の周りではただの人間でさえまともではないのだな、と。
まあそれも特に不思議では無いだろう。

レディ「レディ。ダンテの同業者兼パトロン」

一方「アクセラレータだ」

そして二人はその距離を開けたまま、
そう粗末な自己紹介を交わして―――だが。


お互いのことについての会話はそこで終わらざるを得なかった。

レディ「―――あ、」

一方「―――」

その瞬間、先ほど『五和が出現した点を中心』として周囲一帯に。


大量の悪魔が出現したからだ。


一方「チッ―――話すら聞かせてくれねェのか」
282 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/10(日) 01:14:17.65 ID:mbYW1UyQo

レディはその悪魔達の魔方陣を一目見て、
その性質を判別。

レディ「(追跡用、―――あの子の後を追って、か)」

どうやらこの大量の悪魔達は五和を追跡してここまで来たらしい。
ただそのような事情は後回しだ。

彼女は太ももからサブマシンガンを引き抜いては、
見るからに嬉しそうな笑みを浮かべ。


レディ「―――ねえボーヤ、こいつら全部お姉さんに『くれない』?」


それに対し一方通行は笑った。
歯をむき出しにして、これまたおかしくてかつ楽しくてたまらないように。

そしてこう返して。


一方「いいねェ、ンなノリは嫌いじゃねェ。だけどよ―――」



一方「―――悪ィが早ェもン勝ちだ」



一足先に悪魔達の中へと飛び込んでいった。


―――
283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/10(日) 01:15:25.35 ID:mbYW1UyQo
―――
数日前から退避命令が出、現在立ち入り禁止となっている第七学区。

だがその一画にある『風紀委員活動第一七七支部』に今、
一人の少女が命令を無視して残っていた。



初春「………………」


頭には大きな花飾りに動きやすい私服とジャッジメントの腕章、
という格好の彼女は今、とある事情で机の下に隠れていた。

第七学区内に爆撃でも行われたのか、
先ほど凄まじい爆音が轟いては全てが激しく揺れ動いたからだ。

夕焼けを100倍にしたかのような熱気で、
しかも言い知れぬ強烈な不安感がを覚える光がブラインド越しから差し込み、
強化ガラスが数枚割れてしまうほどの荒れ様に。

彼女は椅子から転げ落ちるようにして机の下に潜り込んだのだ。


初春「………………」


ただこの凄まじい現象はそう長くは続かず、数十秒で収まった。
恐ろしく長く感じた数十秒であったが。

彼女は恐る恐る鼻から上を机の淵から出し、周囲の状況を確認した。

聞えるのはガラスの破片が散る音と、
割れた窓からの風で揺れる歪んだブラインドの音だけ。

それ以外は全く気配が無い、
先ほどの爆轟が嘘のようにシンと静まり返っていた。

ただ吹き込んでくる生温く焦げ臭い風が、
先ほどの爆轟が現実であったことを示していたが。
284 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/10(日) 01:17:49.88 ID:mbYW1UyQo

周囲のある程度の落ち着きを確認した彼女は、
もう少し身を上げて膝立ちし、
次に机の上のパソコンでシステムの確認。

初春「……よ、よし……大丈夫」

今の爆轟での障害は幸いなことに無かったようだ。

そして彼女はすぐに画面を切り替えて、
先ほどまで行っていた作業に戻った。

当然だが、爆轟に恐怖して机の下に隠れる『ため』にここにいた訳ではない。


大切な友人―――佐天涙子を見つけるためだ。


都市全体の保安システムのメインサーバーにアクセスし、
路上監視カメラの映像記録に顔識別で検索をかけ、彼女の携帯電話の電波から行動を辿る。

初春「…………」

本来彼女にはここまでの権限は無く、
平時であったら即アンチスキルが飛んできて捕らえられているだろう。
だが今は、この物騒な情勢が彼女に味方してくれていた。

そして数十秒後。

検索を急かすように机を指で叩いた彼女は、
その時形相を変えては画面に飛びつくように立ち上がり。


初春「―――いたッッ!!」


求めていた情報―――最も最近の佐天の足取りを手に入れた。
285 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/10(日) 01:20:17.89 ID:mbYW1UyQo

佐天涙子は第七学区のとある大きな病院に行っていた。
一般人は立ち入り禁止となっている『例の病棟』へと。

初春「…………」

この病棟についてはジャッジメントにも通達が来ており、
同僚達の間でもいくらか話題になったほど。

理事長権限による個別許可を必要とする最高度のセキュリティ、となれば当然異常なものだ。

更に去年からの一連の大規模な事件とも何らかの関係があるのではないか、とも、
アンチスキルやジャッジメント内では噂されていた。

なにせ同じセキュリティレベルの情報規制が布かれているのだから。


そしてそんな、いわくつきのセキュリティレベルの病棟に佐天が。


初春「―――ッ」


画面には今、この病棟入り口の監視カメラ映像が映し出されていた。

屈強な黒服の男が何人もいる厳重な正面ゲート。
そこに佐天がやって来、慣れた動作で身分証、指紋、網膜のチェックの受け。

彼女はそれらを全てクリアして。

これまた何度も訪れているのがわかる、
慣れた歩みで病棟に入っていった。
286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/10(日) 01:22:33.24 ID:mbYW1UyQo

初春「―――さ、佐天さん―――…………?」

その一瞬、彼女は頭が真っ白になってしまった。

はっきり映っている、最高度のセキュリティのエリアに普通に入っていく佐天涙子。
データに手を加えた後も無い、疑う余地の無い映像。

信じざるを得ない証拠がそろっているのだが、それでも―――。

―――とその時。

『良くも悪く』も、その彼女の放心を解いてくれる出来事が起こった。


初春「―――?」

突然覚える妙な胸騒ぎ、悪寒と圧迫感。
まるで空気が鉛にでもなったかのよう。

そして急に騒がしくなり始めた外。
獣の鳴き声とも金属の摩擦音とも似た、恐ろしく不快な音が響き始めたのだ。

言い知れぬ恐怖を覚えながらも彼女は立ち上がり、
引き寄せられるように窓の方へと進んでいった。
さながら火に近づく夏の虫の如く。

そしてブラインドの隙間から外を覗いて。


初春「――――――――――え?」


彼女は見てしまう。


初春「――――――――――なに―――アレ―――」


道路を駆けビルの壁面を伝う、この世の者ではない大量の異形達を。
そしてその人間の視線を感じ取ったのか、異形達は動きを止めて皆一斉に。


振り向いた。


―――
287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/07/10(日) 01:23:21.72 ID:mbYW1UyQo
今日はここまでです。
次は火曜か水曜に。
288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/10(日) 01:42:14.31 ID:o4iD5/zV0
乙です。
289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) :2011/07/10(日) 02:43:23.31 ID:S9a1cCIL0
更新お疲れさまでした。
290 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2011/07/10(日) 11:03:55.61 ID:fKc9z3Vdo
過去にvipで読んだがまだ続いてるのか
>>1凄すぎる、書き手の鑑だな
291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/07/10(日) 11:13:20.85 ID:bGZlcO0no
すげぇまだ続いてた
ちょっと最初から読み直してくるわ
292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/07/10(日) 16:48:34.72 ID:eVzLMAQG0
乙乙乙
293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/07/11(月) 03:42:38.76 ID:6tMq9oWAO
>>1程の更新頻度でこれ程濃密なクロス、
他には一つしか知らんわ
乙カレー
294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/11(月) 17:25:28.14 ID:cmqrXVvIO
投下頻度と量が落ちない>>1は間違いなく悪魔
295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/14(木) 21:16:10.52 ID:nlgopuJ+o

―――

まただった。
視界に映る光景が、想定していたものとは全く違っていたのは。

上条「―――…………!」

次に立っていたその場は、
先ほどまでいた魔界とは正反対と言えるような空間であった。

大気は柔らかい光に満ち溢れて空は澄み渡り、
豊かな草木と花に覆われた原。

光の粒がふわりふわりと宙を漂っており、
まさに『天国』、『楽園』という表現がしっくりくる幻想的な場所であった


上条「(…………今度はなんだってんだよ……五和は……?)」


しかしその居心地の良さに易々と身を委ねはせず、
警戒を強めたまま周囲を見回したが。

五和の姿を見つけることはできなかった。

上条「(……ッ……五和……)」

気配の欠片も感じず、
この身の全ての知覚がこう告げていた。

五和はここにはいないと。
296 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/14(木) 21:18:24.22 ID:nlgopuJ+o

一体何が起こったのかまるでわからない。

目的地であった人間界とは別の場所に来てしまっていた、
という点だけは確からしいが。

上条「…………」

魔を一切感じないことから少なくとも魔界ではないことは明らかか、
そして居心地具合からここは天界か、もしくはそれに類する場所であろうか。

いや。

ここに天界の力が及んでいるのは間違いないなかった。
上条は力の僅かな香りを敏感に捉え、記憶と照らし合わせてそう断じた。

天使となっていた神裂と同じ系統の香りがするのだ。

上条「…………」

ただその点については、とりあえず思考の隅に除けておくべきであろう。
今の第一は五和を見つけることなのだから。

まず五和がいないと人間界に戻れないであろうし、
そしてなによりも彼女自身のことが心配で仕方無い。

そんな焦燥に駆られながらも上条は冷静を保ち、
感覚を研ぎ澄ませて静かに歩を進めていく。

だがやはり、五和の姿は見えず感じず。

全ての感覚がむなしく彼女の不在を告げ続けていく。
297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/14(木) 21:19:50.99 ID:nlgopuJ+o

そして更に強まる焦燥、その一方で。

上条「(…………なんだ……これ……?)」

上条はふと自身のおかしな感情に気付いた。
まるで当たり前のように心の一角にあるが、よくよく考えればここで抱くはずが無い感情を。


それは―――『懐かしさ』。


遠い昔にこの光景を見たような、
ここに立っていたことがある気がするのだ。

それもベオウルフの記憶繋がりではなく『上条当麻』自身としての、だ。

そもそも去年の夏以前の記憶は失っているのだから、
『遠い昔』と感じてしまうこと自体がおかしいのだが。

上条「―――」


―――と、その時。


彼の前方10m程のところ、
野の上の宙に金色の魔方陣が浮かび上がった。

そして左手を腰の拳銃に添え瞬時に身構える上条、
そんな彼が見据える先。


魔方陣の中から一体の―――天使が出現した。


初めて『本物』を『直』に目にする彼でさえ、
一瞬でそう断じてしまうほどのオーラを携えて。

―――いいや、本当に『初めて』なのだろうか。

その瞬間、上条は天使を目にした驚きの一方、
あの『懐かしさ』が更に強まるのを覚えていた。


まるで、古い『―――』に再会したかのよう―――に。
298 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/14(木) 21:21:33.10 ID:nlgopuJ+o

その天使は身長2m程で、鼻、目、口、耳のみならず全身の形状が人間と非常に良く似ていた。
ただ、『良く似ていた』のであって『同一』ではないが。

まずその体色が大きく異なっていた。
石灰岩の彫刻のように全身が白亜だったのだ。

まさしく彫像に魂が吹き込まれたかのよう。

そして金色の葉脈に似たベルト状の飾りが体を走っており。

また一見すると、袖が広がったフード付きローブを羽織っているようにも見えたが、
良く観察するとそれぞれが、体表面からそのまま布状に伸びた体の『一部位』であった。

上条「―――ッ」

現れた天使はふわりと野に降り立って、
その淡く金に光る『白亜の目』で彼を見つめた。

一言も発さぬまま、瞬きもせず。


上条「…………」


この時、上条はただ警戒するしかなかった。


天界側が自分をここに飛ばしたのか、
それともこちらが乗り込んでしまったのか。

この天使は出迎えか、それとも侵入者を見つけた番人か。

それらの思考が頭の中を目まぐるしく飛び交うが、
上条はあまり深く考えはしなかった。

必要ないのだから。
なぜならそれらの答えは、上条ではなくこの天使が示すのであろうから。


天使の次の動きが自身の置かれているこの状況を、
全貌とは言わずとも少なからずはっきり明示してくれるのだろうから。

そしてその上条の読み通り。

天使が次にとった行動が、この不可解な状況に一石投じるものであった。
その行動自体は上条の予想外のものであったが。
299 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/14(木) 21:23:10.68 ID:nlgopuJ+o

上条「―――?!」

次の瞬間、天使の体が急に縮み始めた。
そして形状も大きく変わってき。

透けたワンピースに厳しいベルト状の拘束具。
大きな外套にリード付きの首輪。

それらを身に着けた、小柄な少女の姿へとなった。
体色は変わらず白亜のままであったが。

上条「!」

その『シルエット』に上条は見覚えがあった。
『アレ』を忘れるわけが無い。


去年の夏、『御使堕し』事件によって人間の体に堕ろされた―――。


上条「―――ミ、ミーシャ??!!」


―――大天使『ガブリエル』。


あの夏の日に、地球表面の半分を焼き掃おうとした大天使だ。

すかさず警戒の色を強める上条、
一歩後ずさりしては、腰の拳銃のグリップを握り瞬時に引き抜こう―――としたところ。

『ミーシャ』は片手を挙げて首を小さく横に振った。
敵意は無い、意思表示しているかのように。
300 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/14(木) 21:25:09.39 ID:nlgopuJ+o

上条「…………」

それを見て、上条はとりあえず拳銃を引き抜くのを止めた。
相変わらずグリップは握ったまま、いつでも引き抜ける状態ではあったが。


そして次の動きを待つも、再びミーシャはこちらを見つめて沈黙。


上条「…………」

敵意は無いとすると、
律儀に次はこちらの動きを待っているのだろうか。

そう上条は推測しては、言葉を慎重に選び。

上条「…………俺の他にもう一人、女の子がいたはずだが?」

まずそう問いかけた。
『御使堕し』の際も会話はできていたのだから一応人語は通じるのだろう、
ミーシャは小さく一度頷いて。


上条「……どこだ?」



ミーシャ『人間界。無事』
301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/14(木) 21:26:27.92 ID:nlgopuJ+o

上条「―――」

その瞬間、少し意表を突かれてしまった。
このミーシャが何事も無くさらりと、あの夏の時と同じ声で返答してくるとは。


それもはっきりとした『言葉』で、いいや―――。


上条が『それ』に気付いたのは一瞬後であった。
今ミーシャが発した言語は、人界のものではなく―――天界のものであった点に。

上条「(…………え?)」

なぜ、自分は天界の言語を―――理解できるのか。

魂を構成するベオウルフの部分によって、
魔界の言語が理解できたように―――なぜ?

上条「(どうなって…………これは……)」

懐かしいどころか、
まるで『故郷の言葉』のように天界の言語を理解してしまう自分。
そんな自身に対して上条は酷く混乱してしまった。

上条「そ、そうか……五和は大丈夫なんだな……」

動揺を悟られないよう、場を繋ぐように口を開くも。


上条「……あッ……そ、それにしても……ひ、久しぶりだな」


その言葉は全く隠しきれていない唐突なものであった。
そしてそれに対するミーシャの返答もまた。


ミーシャ『否―――』


上条の予想外のものだった。


ミーシャ『―――「今のあなた」と対面。初めて』
302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/14(木) 21:31:23.26 ID:nlgopuJ+o

上条「?」

『初めて』。
会ったのは初めて、そうミーシャは告げた。

「今のあなた」としたところから、
人間の頃と悪魔となってからの自分を区別しているのだろうか。

だがこの解釈も異なっていた。

ミーシャ『「御使堕し」は不完全。意識は天界に残留』

ミーシャ『あなたと対面。私の力のみ』

上条「……」

言葉通りだとミーシャ、つまりガブリエルは、
「御使堕し」の術式が不完全だったために分離してしまい、
その力だけが人界に堕ちてしまった、ということか。

ミーシャ『「私」は天界にいた』

そしてガブリエルの人格に相当する意識本体は天界に取り残されていた、と。


上条「…………」

確かにそうとなれば、あの時のミーシャの行動もある程度説明つく。

最近になって聞いた天界の実像からすると、
ガブリエルがただ天界に戻るためだけにあんな暴挙に出るとは思えない。

だが力に宿る最低限の思念のみで動いていた、となれば、あの行動も充分説明がつくだろう。
いわばパイロットが突如消えてしまい、自動操縦に切り替わったロボットだ。
303 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/14(木) 21:33:54.63 ID:nlgopuJ+o

と、そんな過去まで遡って納得できたものの、
ミーシャが口にした「今のあなた」という表現だけは、
しっくりくる意図が見出せなかった。

上条「…………」

ただこれは今あまり関係ない話だ。
とりあえずこの疑問は思考の隅に置いて、上条は次の今重要な問いを放った。

上条「なぜ…………俺をここに?」


そしてその答えは三度。


ミーシャ『否―――私、否』


またもっとも予想外のものであった



ミーシャ『―――あなたが自分でここに』



上条「…………………何?」



ミーシャ『あなたが私を。―――呼んだ』
304 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/14(木) 21:35:08.80 ID:nlgopuJ+o


上条「―――は、はぁ?!」


ミーシャ『界境の「網」。それを利用した。あなたが』


上条「??!」


自分が『界境の網』を利用して―――ここに来た?
何かをした覚えなど無いし、そもそも『界境の網』自体が何なのか知らない。


上条「ま、待てっ……!そんなはずが……!!そもそもここはどこなんだ?!」


ミーシャ『プルガトリオ。天界の境の近層。「出陣の野」』


上条「プルガトリオ……」

瞬時にベオウルフの記憶から『プルガトリオ』の意味が浮かび上がってくるが。
しかし「出陣の野」なんて階層は覚えが無―――。


―――いや―――。


上条「…………出陣の……野……」


『知っている』。

はっきりと認識は出来ない。
濁った水槽越に見ているように、存在はわかるもイメージは全くまとまらない。

だが確かに記憶の中に『存在』している。


―――覚えているのだ。


そう意識した瞬間、
今まで覚えていた不思議な『懐かしさ』が一気に連結していき。



上条「『俺』は………………昔…………ここに立っていた……?」
305 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/14(木) 21:38:09.78 ID:nlgopuJ+o

ぼそりと。
そんな上条の独り言に、ミーシャはこくりと小さく頷いて。

ミーシャ『「昔のあなた」が』


ミーシャ『私達はここで。あなたを「見送った」』


ミーシャ『それが。あなたを見た最後』


上条「―――な、……何がっ……!待て!!これは……!!」


この時のミーシャの言葉はまさに、
先ほどの「今のあなた」という表現と対を成すものであろう。

だがそこが明らかになったといって、状況理解の役に立つわけではない。
むしろより一層、謎が深まり複雑に―――。


一体どういうことなのか。


上条当麻、ベオウルフから派生した悪魔、それらとは別にもう一つ、
己の内に今だ気付かぬ魂が存在しているのか。

そしてその『別の存在』に、ちょうど思い当たるものがあった。


そう、自身の右手の―――。


上条「―――……」


―――『幻想殺し』。
306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/14(木) 21:39:49.49 ID:nlgopuJ+o

上条は自身の右手に目を落とした。
魔界金属生命体で形成された篭手、その下にある幻想殺しを。

そしてその右手をミーシャの方へと突き出して。

上条「ここにいたのは……お前が会っていたのは………『これ』……か?」

何が『これ』なのか、その理解が固まってはいなかったが、そう問うた。
だがこれにまた、ミーシャは横に首を振るう。


ミーシャ『否。ここにいたのは「あなた」』


上条「ちょっと待て……この『右手』ではなく、『俺』か?」


ミーシャ『そう。あなた』

上条「…………」

まるで意味がわからない。
もしや会話がかみ合っていないのかと思い、上条は自分の胸に左手を当てて。

上条「…………い、いいか、こっちにいるのが『上条当麻』」

次に右手を指差して。

上条「この右手にあるのが『幻想殺し』、またはその『源の何か』だ、いいな?」

そう丁寧に示して、ミーシャが頷くのを確認した後。
悪魔のベオウルフに会った事は無いな、と念には念を入れて。

そして満を持して問うと。


上条「どっちの『俺』がここにいたんだ?」



ミーシャ『―――上条当麻。「あなた」がここにいた』


上条「―――……」
307 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/14(木) 21:47:34.32 ID:nlgopuJ+o

はっきりと言われてしまったその言葉。
状況的にも、また悪魔の勘からしても、嘘を言っているようではなさそうだ。

ミーシャ『今は。この話はするべきじゃない』

とその時、ミーシャが『なぜか』この話を終わらせるべきだと告げた。
だがここまできてしまっては当然、上条は留まれない。



ミーシャ『―――あなたは今。やるべき事があるはず』



上条「―――いや……いや…………ちょっと待て!!」


極度の混乱に陥った上条に、ミーシャの制止も届かず。


上条「(『俺』が―――『上条当麻』が―――ここに?)」

正真正銘のこの『上条当麻』がここに来たことがあるのか、
だがいくら記憶を遡っても、具体的な情景が蘇って来ない。


異界の存在から関わるようなってから来た事は無い。
インデックスと『ベランダで出会って』、今に続くさまざまな経験の間も。

学園都市に『来る前』、地元にいた頃なんて当然―――と、そこまで記憶を遡って彼はようやく。



上条「―――――――――――――――――――――……ッ……え?」



そのとんでもない点に気付いた。



なぜ―――――――――覚えているのか、と。



特に何かの変化があったわけでも、前兆も無かった。

あまりにも唐突に、いつの間にかに。

昨日を思い出すのと同じように一年前、三年前、五年前を。


そこに当たり前のようにあった―――失ったはずの記憶が。


ミーシャ『だめ。だめ―――だめ』
308 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/14(木) 21:49:21.73 ID:nlgopuJ+o

衝撃があまりにも強すぎて、
それが『驚き』なのかどうなのかさえ判別できず。

上条の全感が一時的に機能を止めてしまう。

上条「あ゛ッ―――」

呼吸ができず。
鼓動も脈の流れも全てがとまるような感覚。

更に音も何もかもの知覚がぶつりと途切れて。


その無の中で、どくりと大きな鼓動が一回―――右手で響く。


上条はほぼ無意識のまま、反射的に右手を左手で押さえ込んだ。
その場に膝を付き、屈みこむようにして懸命に。
まるで何かの『出現』を遮ろうかと。

まさか―――ここでまた『暴走』か、そう、
僅かに保たれている意識の中で彼は思ったが。

そうでは無かった。

一気に悪魔の力が全身から引いていったのだ。

自身の身体能力が人間レベルにまで低下していくのを覚えて、
彼は確信した。


あれだ、あれがまた―――出る。




あれが―――――――――――――――『竜の頭』が、と。



その瞬間、上条ははっきりと存在を認識した。
発現は三度目だが、初めて『意識が正常』だった時だからであろう。


上条ここにはっきりと認識した。


自身の中に宿る『幻想殺し』―――その『源の何か』を。


その存在が、『上条当麻』の意志に反すように体内で蠢き―――表に噴出すのを。
309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/14(木) 21:52:23.37 ID:nlgopuJ+o

だが。

『暴虐な竜』は出現しなかった。

上条「―――」

気付くと、暖かい小さな手が右手に添えられていた。

上条「…………」

顔を上げると、すぐ目の前にはミーシャが。

その顔は―――とにかく心が落ち着くものであった。

先ほどまで彫像のように無機質に見えていた顔が、
なぜだか非常に感情豊かに感じるのだ。

更に気付くと、まるで嘘のように『竜』は鎮まっていた。
魔の力も戻り体の調子も回復していく。

上条「…………」

そして大天使は、見上げている上条の頬にもう一方の手を添えて。



ガブリエル『―――焦ってはだめ、今は過去を振り返る時ではありません』



心が満ちた声色でそう告げた。
『なぜか』―――こうして触れているからなのか―――先ほどまでの無機質な声・ぎこちない喋り方とはまるで違って。



ガブリエル『―――見るべきは「今」―――重要なのは「未来」なのですから』
310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/14(木) 21:56:54.18 ID:nlgopuJ+o

上条「………………あ……」

その言霊が体の芯に染みわたり、
竜によって汚された心を浄化していく。

上条の心はほぼ無、頭も何も考えず。
彼は跪き、ただただこの安寧に浸る。


ガブリエル『あなたの魂が必要とすれば、自然に記憶は戻るでしょう』


ガブリエル『そして必要の無き記憶はそのまま忘却の彼方へ。無用の苦悩しか産み落としませんから』


そしてガブリエルはまるで子守唄を口にするかのように。
安らかで美しい声で。


ガブリエル『それにしてもあなたが……「本当」にここに戻ってくるなんて』

ガブリエル『父も兄弟も皆、あなたの「お戻り」をお喜びになるでしょう』


と、そこで上条の右手から手を放しては、
今度は挟み込むように彼の頬に両手を添えて。


ガブリエル『―――しかし。ここはもうあなたの「家」ではありません』

ガブリエル『そして今―――あなたは立ち止まっていてはいけない』


戒めるように声を強くしてこう問う。



ガブリエル『忘れないで―――今のあなたの使命は何?』



無心となっていた上条は答えた。
無心だからこその嘘偽りの無い、魂が発する答えを。



上条「―――……あいつを…………インデックスを守るんだ……」
311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/14(木) 21:58:30.78 ID:nlgopuJ+o

その答えを聞いて、心底嬉しそうにガブリエルは微笑んだ。

『インデックス』という少女がいかなる存在なのかは今や天界中に知れ渡っており、
当然ガブリエル自身も知っているにも関わらず、だ。


そしてこの美しい天使は上条の頬を愛おしそうに―――。


―――まるで、長い時を経て再会した『恋人』に触れるかのような手付きで撫でて。


ガブリエル『―――あなたはまるで変わらないのですね』


ガブリエル『噛み砕かれ飲み込まれ、溶かされ混ざり合って。
      1000代の人の生を越えてきたにも関わらず……あの頃そのまま』


ガブリエル『…………天界は……すっかりと変わってしまいました……』


と、その彼女の声がやや悲しみを帯びたその時。


けたたましい『鐘の音』が鳴り響いた。


それは天界の警鐘。
天の支配領域に、敵が侵入したことを告げる音―――。
312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/14(木) 21:59:45.47 ID:nlgopuJ+o

上条「―――」

この耳障りな音は、安らかになり過ぎつつあった上条の意識を覚醒させ。
彼は跳ねるように立ち上がっては身構えて、周囲からの襲撃に備えた。

ガブリエル『―――』

ガブリエルはその音が響いた瞬間すばやく天を仰ぎ、
そして周囲に感覚を巡らせているのか、一回り見渡した。

上条「ッ!もしかして今の俺の言葉が……!!」

今や魔女を指すであろう『インデックス』という言霊が、
何らかの網に引っかかってしまったのか。


ガブリエル『いいえ、これは私達を指したものでは……』


ガブリエルはそう言うものの、
やはりここに長居するのは危険だと判断したのか。

ガブリエル『ここから離れた方が。私が門を開けますので』

その瞬間上条を中心として、
その足元にガブリエルが構築した金の魔方陣が浮かび上がった。

ガブリエル『行き先は、自然とあなたが望む場所へと繋がります』

上条「悪いな、助かるよ」

ガブリエル『一つ……伺っても?』

と、魔方陣の光が増して今にも飛ぼうという時、
ガブリエルがやや躊躇いがちに。


上条「……?」


ガブリエル『……本当に「私」を……―――「ここで会った私」を覚えておりませんか?』
313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/14(木) 22:00:31.85 ID:nlgopuJ+o

上条「―――……………………ああ、悪い。何も」

その答えを聞いたガブリエルは。
あの日宿った人の姿をかたどった天使は、明らかに悲しげに俯いた。

だがそこで上条はぽん、と、そのガブリエルの頭に右手を乗せて。


上条「でもよ、『俺が必要とすれば』自然に思い出せるんだよな?」



上条「だったら―――『時間の問題』さ」


そう、少しからかうように笑いかけた。

その言葉を受けて一転、再び明るくなるガブリエルの顔。
大天使は顔を挙げて、その非常に嬉しげな笑みを上条に向けて。


ガブリエル『さあ、あの頃と同じく、「あの日」と同じく、求めの声に―――祈りの声に応じて』


そして陣を起動して。



ガブリエル『行きなさい――――――愛する存在を救うために』



上条「―――ああ、救ってみせる」



彼を『再び』見送った。


―――
314 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/07/14(木) 22:01:12.15 ID:nlgopuJ+o
今日はここまでです。
次は土曜か日曜に。
315 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) :2011/07/14(木) 22:05:10.32 ID:V4tcX+CQo
更新お疲れさまでした。
316 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/14(木) 22:33:36.41 ID:PINJrBUDO
上条さんミカエルだったかー。そういえばフィアンマさんも……
……いや、過度な予想、想像はだめだな
317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/14(木) 22:34:00.55 ID:5DPnxpuNo
お疲れ様でした。
318 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/14(木) 22:45:32.33 ID:niB0uQcU0
上条さん本当に俺の右手はゴッドハンド状態だぜ
319 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/07/14(木) 23:19:52.12 ID:gTiftGETo
乙ですの。
しかしこれ絵面的にはホワイティなサーシャなんだよな・・・ベオ条さんもげろ。
320 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/07/14(木) 23:35:51.26 ID:KuiaWSX+0
今夜も斜め上ビームは絶好調乙
321 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/07/14(木) 23:37:13.35 ID:KuiaWSX+0
今夜も斜め上ビームは絶好調乙
322 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/07/15(金) 12:31:16.67 ID:yO0G5ilAO
ガブリエル可愛ええー
323 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/07/17(日) 18:33:26.66 ID:2BlyFq72o
ここで原作一巻の「神上討魔」の回収か
324 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/07/17(日) 18:34:21.57 ID:2BlyFq72o
ここで原作一巻の「神上討魔」の回収か
なわけないよねぇ〜
325 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/17(日) 23:57:14.28 ID:kM5YHuUEo
―――

魔界の淵、延々と続く鉛色の荒野にて。

ネロ「…………」

とある岩場の上にネロが座していた。

辺りには『熱気』とでも言えるか、身を焦がすような戦いの残り香が立ち込め、
地面には巨大な溝が幾本も穿たれている。

ネロの見下ろす前方には、『巨狼の首』が無造作に転がっていた。
かろうじてまだ生きてはいるも死は時間の問題。

アスタロト配下のネビロス、その僕である大悪魔グラシャ=ラボラスは今、
その生涯を『緩やか』に閉じようとしていた。


グラ『―――さすがはスパーダの孫。強いな。最強たる刃が我が最期とは、豪勢なものだ』


ネロ「アスタロトを呼べ」

そんなグラシャラボラスの呟きなど無視して、
ネロはブルーローズの銃口を向けて今までと同じように要求した。

そしてこれまた同じように拒否するだろうと見越して、引き金を軽く絞りかけたところ。


グラ『―――良いだろう』
326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/17(日) 23:58:23.22 ID:kM5YHuUEo

グラ『しばし待て』

巨狼の生首はネロの要求を二つ返事で受け入れて、
通信を試みるためかその目を閉じた。

ネロ「………………へえ」

これは予想していなかった答えであった。
この殴り込みで狩った大悪魔は、グラシャラボラスで11体目。
前の10体と同じようにこの大悪魔もまた、
要求拒否すると思っていたのだが。


ただ、当然要求を受け入れただけで全て良しとするわけでは無い。

グラ『…………むん、声が届かんな。無理だな』

ネロ「そうか」

そして再び引き金を絞り始めるネロ。
と、そこでグラシャラボラスがやや早口でこう続けた。


グラ『行き先はわかる。魔女を喰らうために人間のメスを追いかけている』


ネロ「…………ああ?魔女?」
327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/18(月) 00:00:04.38 ID:4j8u6dRPo

そこでネロは簡単な説明をこの生首から聞いた。

魔女の匂いを纏った幻想殺しと人間のメスが現れ、
アスタロトは一部の部下を率いてその後を追っていったと。

ネロ「(…………上条か……)」

興味のない『タダの人間』の容姿など全て同じに見えるのだろうか、
グラシャラボラスの『人間のメス』についての説明は要領を得なかったものの、

ベオウルフの力を持つ幻想殺し、
つまり上条当麻が現れたことは把握するできた。

そしてネロは続けて問う。

ネロ「それでどこに行った?」

グラ『わからない』

ネロ「わかるって言わなかったか?」

グラ『強いて言うならば、行き先はあのメスと幻想殺しのいる場所だ』


ネロ「……ああ、そういう事か」


つまりここから先はこちらの作業、
アスタロトを追跡するのはご自分でというわけだ。

ただ、ここまでのように当てずっぽうに暴れまわっているよりは、
随分とマシだろうが。

そうして、
用済みとなったグラシャラボラスの息の根を止めようと三度引き金を絞りかけた時。

ネロ「…………」

ネロはふと、とあることを思いついてまたその手を止めた。

その思いつきは、グラシャラボラスの『姿』からの安易なイメージではあったが、
悪魔の形状はその本質に強く影響されるもの。

あながち間違ってもいないであろう。


ネロ「―――お前、鼻が利くか?」
328 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/18(月) 00:02:37.95 ID:4j8u6dRPo

そのネロの意図を悟ったのだろう。

グラ『…………望むのならば喜んで』

『数手』先の答えを返すグラシャラボラス。

ネロ「…………いや待て、自分で言ってアレなんだが、悪いが信用できねえ」


グラ『我はお前の力に屈した。それで充分では?』


ネロ「ハッ……」

悪魔にとって力が全て。
力こそ最も確かで信頼に足る指標。

そう、確かにそれで。


ネロ「―――充分だな。ああ」


そしてネロがそう意識で認め、求めた瞬間。
グラシャラボラスの消失していた首から下が、『赤黒い光』と友にみるみる再生していく。

ネロ「…………」

ネロはブルーローズを腰に戻しては、
その己の力を受けて再生する『使い魔』を眺めた。
思えば悪魔を使いにするのはこれが初めてだ。

前から、ダンテから便利だとは聞いてはいたが、
今まで何だかんだで悪魔を従属させることは無かった。

ただ、別に拒否していた訳ではなく、特に機会が無かっただけ。

そしてまさにこれはいい機会であろう。
グラシャラボラスもその力は申し分の無い存在だ。
329 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/18(月) 00:03:53.49 ID:4j8u6dRPo

ネロの力で再び体を手に入れた巨狼は一度、
まるで犬が水を掃くように体を大きく揺さぶった後。

グラ『魔具か?それともこの姿のままか?』

ネロ「あー、魔具だ」

すると瞬間、巨狼の姿が光となりネロの体へと向かい、
そしてネロの意向に従った魔具となった。

その形状はネロの両足、黒く光沢のある厳めしい『脛当て』。
ネロはふんと鼻を鳴らし岩場から飛び降りた。

そしてレッドクイーンを肩に乗せて。

ネロ「ところでだ、なぜ俺にここまで協力的に?」



グラ『お前はスパーダに似て「良い香り」がする―――「女狼」とはいえ惚れても仕方無いだろう?』



ネロ「(……ああ、こいつ……『メス』かよ……)」


グラ『さあて、外道の我が「元」主を追跡しよう』


―――
330 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/18(月) 00:08:34.77 ID:4j8u6dRPo
―――

どうやら下等な連中ばかりらしく、ベクトル操作のみで充分だった。

一方通行は通りの真ん中に悠然と立ちながら、
その能力で悪魔の10体20体を纏めて吹き飛ばしては、肉塊に変えていた。

一方「…………」

先ほど、ノリの良いダンテの同業者との掛け合いののちに
意気揚々と飛び出したは良いものの、実際はあまりにも拍子抜けであった。
まさに雑魚が集まった烏合の衆だ。

こちらから手を出すまでも無く、
反射された自分の攻撃で勝手に死んで行くほど。

一方「…………」


それにまた、どういうことか随分と悪魔達が消極的だった。

大半が威嚇してくるのみで、実際に攻撃してくるのはごく一部。

去年、初めて悪魔と接触したあの騒乱の時とはまるで違う。
あの時の悪魔達は、こちらの姿を見ては見境無く群がってきていたというのに、
今対峙している悪魔達は逆にこちらを避けているよう。
331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/18(月) 00:09:42.61 ID:4j8u6dRPo

一方「…………」

この様子の違いの理由などわからない。
推測はいくらでもできるが、確実性を付加できる程の知識は持ち合わせていない。


ただ、それ以前に悪魔達の事情など知ったことではないのだが。


消極的であろうがこちらに攻撃の意志を示して、
そしてこの街に侵入している時点で明らかな『敵』だ。

目に付くのを片っ端から全て排除していく理由はそれで充分だ。

一方通行は容赦なく悪魔を殺しつつ、
『ちょうど良い機会だ』とばかりに意識を更に自身の感覚へと集中させていく。


一方「―――………………」


実はもう一つ、先日から試したかったことがあるのだ。

去年からの一連の中で手に入れた、
既存の能力を越えた『知覚』―――その『力そのもの』を認識する感覚を使って、

『対象の存在』そのものを直に知ることができるのではないかと。

簡単に言えば、力の圧を感じることが出来るこの両手の機能を、
更に拡大させようということだ。


そしてその新たな『知覚』に集中していくと、
狙い通りに一帯の状況が『見えてくる』。

近くで暴れているダンテの同業者と悪魔達の数・その分布、
さらにその外側、封鎖されている第七学区外の大量の人間までも。


それらの―――『魂』と言えるか、そうした存在がはっきりと。


能力者達と悪魔達が形成するそれぞれの力の『フィールド』も。
332 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/18(月) 00:11:20.59 ID:4j8u6dRPo

一方「…………あァ?」

と、その時だった。

彼は『それ』を見つけた。


この第七学区にぽつりと、『単独』でいる人間の存在を。


『例の病院』の関係者を省けばこの学区に人は入れないはず。
それにこの人間は病院とは正反対の地域におり、単独という事もあって関係者には思えない。
AIMの濃さからすると、能力者ではあるがレベルは1程度の無いようなもの。


となると、普通に考えて『一般人』だろう。


一方「…………」

そしてその人間の置かれている状況は、悪魔達のど真ん中というまさに絶体絶命。
いくらこの悪魔達は消極的とはいえ、攻撃を一切仕掛けてこないという訳ではない。
襲ってくる個体が10割であろうが1割であろうが、一般人からすればとてつもなく脅威なのは変わらない。

では、どうする。

一方「…………」

一方通行はそう長々と考えなかった。
そう、このような状況で「どうするか」など愚問だ。


ダンテや上条ならどうするか。


―――決まってる。


一方通行は能力を使い一気に跳躍し、その人間の下へと向かっていった。

置き土産でもしていくかのように、
行きがけにとりあえず目に入る悪魔達を潰しながら。

―――
333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/18(月) 00:13:09.00 ID:4j8u6dRPo
―――

その時、街が大きく振動した。
まるで水面に映る像が波紋で乱されるように、景色が『波打って』いく。

レディ「(……へえ)」

レディはそんな人間界の歪みをはっきりと感じ取っていた。
バイクをかっ飛ばしては、サブマシンガンで魔弾をばら撒きながら。

レディ「(裏側でもデカいドンパチしてるのね)」

ついさっき送り出したステイル達なのかはわからないが。
プルガトリオの人間界に近い階層にて強力な力が激突し合い、
そして今、一際大きな力が放たれたようであった。

まるで『巨大な槌』で叩きつけられたかのような重い衝撃が、
この人間界にまでこうして伝わってきている。

ただレディとしては、
そちらよりも気を向けなければならない目下の問題があった。


突如出現した下等悪魔達だ。


レディ「(……)」

前方に飛び出してきた勇敢な悪魔を轢き殺して、
彼女は頭を切り替えて再びこの問題に意識を向けた。
334 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/18(月) 00:14:57.68 ID:4j8u6dRPo

この悪魔達の行動を見る限りまず確かなのは、
『今』は人間界を襲うためにやってきたわけではなさそうだ。

レディの姿を見た瞬間は一時の衝動に駆られるように襲い掛かってくるも、
過ぎ去った後は追っては来ない。

いや、それどころか実際に攻撃してくるのは一部で、大半が威嚇行動のみ。

レディ「(…………これは『軍』ね)」

その秩序だった群れを見てレディは確信した。
この群れは上位の意志の完全統制下にある、そう、まさしく『軍』だ。

レディ「(……)」

では、この軍の目的は。

バックにいるであろう絶大な力を有す大悪魔は何を狙っている?

レディはさらに集中して悪魔達を観察し、
群れを統率する意識、その『糸』をたぐり目的を見定めていく。


レディ「(…………何か……)」

すると悪魔達の中にちらほら見える、
威嚇どころかこちらを完全無視してなにやら不振な行動をとる個体。

力の残滓をだろうか、あちこち嗅ぎ回っており何かを探しているようだ。
335 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/18(月) 00:16:50.62 ID:4j8u6dRPo

『攻撃してくる一部』に該当する、
跳びかかって来た悪魔の頭部を切り詰めたショットガンで吹き飛ばしながら。

そこでレディはあることを思い出した。

この悪魔達が現れた時、
その魔方陣はそろって追跡型のものであったことを。

そしてもう一つ、五和というあの魔術師が現れた点を正確に中心として、悪魔達が到来したのを。

レディ「(あの子か)」

バイクで跳ねて悪魔を飛び越え、
後輪で叩き潰しながらレディは思考を繋げていく。

五和を追って悪魔達はここに来た、
だが悪魔達はすぐに五和を追おうとせず、ここで何かを探している。

つまり五和を追ってはいるが目的は五和ではない。

となると『五和が行く先』にあるであろう何か、もしくは何者かに用があるということだ。
そしてここに目的のものが無いとすれば当然―――。

レディ「(…………)」

そこまでレディの思考が帰結したとほぼ同時に、
ちらほらと悪魔達が『次の場所』へと飛び始めて行く。

同じく追跡用の魔方陣で。


レディ「……ま、がんばって」


通りすがりに悪魔を跳ね飛ばしながらレディはそう小さく呟いた。
プルガトリオの一画に先ほど飛ばしてやった、あの三人の若き戦士達へ向けて。

―――
336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/18(月) 00:19:25.14 ID:4j8u6dRPo
―――

『槌打たれた』ような人間界への衝撃をレディが覚える前、
遡ること『数十秒』、プルガトリオの人界近層にて。





禁書『…………』

相手は強大、総合的に見れば明らかに上。
それは分身である彼女自身がはっきりと自覚している。

しかし。

それでも退いてはならぬ時がある。

いいや、退くことができない時がある。

納得できぬのならば、目を背けて耐え忍ぶこともできぬのならば、選択は一つ。
この少女も遂に、武力を手に抗うことを決意した。

己の姉妹、己の分身―――そして『過去』を含む『己の全て』をここで清算し、己の望む未来を手にするために。


この戦いは果て無く厳しいもの。
しかし幸いにも、今の彼女は一人ではなかった。


禁書『…………』


またがる体の下にいる友―――この白虎。
そしてその力の根源、『主契約悪魔』―――上条当麻がついていてくれる。

彼女は白虎の背に身を預け、その柔らかい体毛越しの温もり、
そして己が身の内にある上条当麻との繋がりを再確認して。


禁書『行くよ―――スフィンクス』



              前に!
禁書『―――ZACARE!』
337 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/18(月) 00:21:05.05 ID:4j8u6dRPo

その詠唱の一声で、周囲の宙空から出現する大量の『青』のウィケッドウィーブ。
大通りもろともを覆い尽くす勢いで一気にローラへと伸びていく。

インデックスの狙いは至極単純、足りぬ技術の差は力の量で埋め、
そのパワーで一気に圧倒してローラを取り押さえることだ。

ローラを殺すことはまず避けなければならない。
殺してしまうと『分身』であるために様々な弊害が生じることが予想されるのだ。

二人はもともと絶妙なバランスの上に存在しており、
その均衡が崩れてしまうと死ぬ事は無くとも『精神体』が破壊されてしまう可能性が高い。

己が精神ではなく『プログラム』に従っているローラからすれば、
それは大した問題ではないかもしれないが。

インデックスとしては大問題だ。


なにせ彼女にとってこれは、『インデックス』という人格のまま『生きるため』の戦いなのだから。


と。
殺してはならない、というわけだが、状況的にはそんな事を気にする余裕など無かった。

殺してはならないが、殺す気で向かわないと―――いいや、
『こうして』殺す気で本気で向かっていても実際は足りなかった。
338 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/18(月) 00:22:31.62 ID:4j8u6dRPo

逃れる術など無いようにも思えたその青髪の包囲は、
ローラに一蹴されてしまっていたのだから。


先日、三人の少年を瞬時に押さえ込んだインデックスのウィケッドウィーブ。

最小限の力と最速の動きによって手足を繰り出しては、
ローラはそれを次々と束ごと弾き飛ばしていく。

それも余裕に満ち溢れて、舞っているかのように美しく妖艶に。

そして更に。

これもまた、アンブラの戦闘術の大きな特徴の一つ―――防御と同時に攻撃も繰り出す。

禁書『(―――)』

放たれてくる魔弾。
林立する青髪の中を抜けて、インデックスめがけて真っ直ぐに。

瞬時にスフィンクスが姿勢を低くして横に飛んだため、
魔弾は彼女の頬わずか数センチのところを掠め飛んでいった。


禁書『(―――)』


それは紛れも無く、彼女の頭を吹き飛ばそうとした一発。

わかってはいたものの、
彼女はローラの意志を再確認させられてしまった。

                                コワス
ローラは本当に―――こちらを一度『殺す』つもりなのだと。
339 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/18(月) 00:24:07.55 ID:4j8u6dRPo

インデックスを乗せ、猛烈な勢いで横へと回避行動をとるスフィンクス。
大通りやビルの壁面と屋上を跳び駆け抜けていく。

その後を追って、紙一重のところを突き抜けていく大量の魔弾。

これではどちらが攻勢なのかまるでわからない。

絶え間なく大量のウィケッドウィーブが伸びてローラの姿すら見えなくなっているのに、
同じように絶え間なく、青髪の間をすり抜けて魔弾が放たれてくるのだ。

いや、もはや『すり抜け』すらしていない。

林立するウィケッドウィーブをまるごと貫通してくるのだ。

禁書『―――』

力の量は多くとも、一点の一点の力の密度は到底及ばない。
アンブラの精鋭が放つ超密度の魔弾の前に、素人の『スカスカ』のウィケッドウィーブが盾になるわけもなく。

青い髪の束は次々と、まるで鉄筋ワイヤーのような音と動きで弾け切れていく。

しかもその狙いも徐々に正確に、スフィンクスの動きを完全に予測しつつあった。

禁書『―――ッあ!!!!』

そして遂に、修道服に接触してその二の腕あたりを引き裂いていく魔弾。
体には直接触れなかったも、
力の圧によって体ごと引っ張られ―――スフィンクスの背から落とされそうになってしまった。

そこで、思わずスフィンクスが足を緩めかけたが、
彼女は懸命にしがみ付いて。

禁書『―――とまっちゃダメ!!!!』

その声に鞭打たれてスフィンクスが逆に加速した直後。


三発の魔弾がここぞとばかりに同時に放たれてきた。


スフィンクスの頭部とその腹、そしインデックスの胸。
あのまま『速度を緩めてしまっていた先』にある、それらの『未来位置』へと正確に。

今しがたスフィンクスが加速したために、その三発の命中は避けられたものの。
一発がこの白虎の右脇、そこの肉の一塊を抉っていった。
340 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/18(月) 00:28:51.31 ID:4j8u6dRPo

禁書『―――!!!!』

一瞬で白虎の胸から腹が真っ赤に染まり、
溢れた大量の鮮血が航跡のように地面に尾を描いていく。

唸り身を激しく震わせるスフィンクス。

禁書『スフィ―――!!』

しかし傷を看るどころか心配する暇すら許されず。

瞬間、彼女は『検知』した。
ウィケッドウィーブを集中させているところからローラが『消えていた』のを。

そして次の瞬間、真後ろに突如覚える強烈な圧。

思わず振り返るとそこには。


禁書『―――』


僅か3mの至近距離に、ローラ=スチュアートがいた。


アンブラの戦闘装束に包まれた体をしならせて―――その美しい足を天高く掲げて―――。


―――かかと落しで今にもインデックスの頭をかち割らんと。


だがその一振りは紙一重のところで避けることが出来た。
刹那に、スフィンクスが瞬時に後ろ足を踏み切り回避したからだ。


ローラ『―――YeeeYA!!!!』

アンブラ式の掛け声と共に放たれるかかと落し。

ウィケッドウィーブと魔弾がセットの一振りにして三撃の凶悪な足、
それが一瞬前までスフィンクスが立っていた場を切り裂き破壊。

一瞬にして大地が陥没し、更に周囲のビルをも巻き込んで沈めていく。
341 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/18(月) 00:30:28.14 ID:4j8u6dRPo

だが当然、ローラの攻撃はここで留まらない。

魔女の技は常に連動する。

一つの攻撃を放つとき、それは次の攻撃の『溜め』の動作であり、
そして更に次の攻撃の準備動作、それがアンブラの戦闘術。


すかさずローラは前へと踏み込み―――放つは逆の足による正面蹴り。


そしてそれと同時にスフィンクスも動いた。
咆哮を上げてローラの方へと振り向きながら、白虎は薙ぐように前足を振りぬく。

瞬間、その前足に出現する銀の光で形成された『篭手』、そう、上条当麻―――ベオウルフの力と瓜二つの。
そんな光り輝く白銀の前足は、ローラが放った蹴りを横から叩き弾いた。


力と力の摩擦により、凄まじい衝撃と共に火花状に飛び散る光の粒。


禁書『―――』

衝撃は凄まじく、スフィンクスの背にいるインデックスの体、
筋肉、骨、力、魂までもが大きく振るえ軋む。

禁書『―――ッ!!!!』

そして痛烈に響く痛み。

思わず顔を歪めたインデックス以上に、
直に受けたスフィンクスは悲痛な咆哮を挙げるも、この体は一切怯む事無く。

続けて繰り出されたこれまた凄まじい回し蹴りを、
白虎は再び前足で弾く―――。
342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/18(月) 00:32:24.64 ID:4j8u6dRPo

それはそれは凄まじい激突であった。

白虎たる姿のスフィンクス、その鋭い爪はインデックスの有り余る魔の力と上条―――ベオウルフの力を性質をベースとした、
とてつもなくパワフルなもの。

だが正式な戦士、それもアンブラ最精鋭たる近衛魔女の攻撃はとてつもなく重い。
瞬間的なパワーはこのスフィンクスをも優に上回り、一撃一撃がまるでさながら破城槌のよう。

一撃ずつ弾いたスフィンクスの両前足は、はやくも共に真っ赤に染まり上がっていた。

禁書『―――!!』

続くローラの打撃をスフィンクスは下がりつつは回避して弾くも、
既に限界が見えている。


そう、インデックス達は今や追い込まれていたのだ。


何度も重なっていく激突と衝撃。
それにつれて、徐々に勢いが弱まっていくスフィンクス。

このままではいずれスフィンクスの前足はもぎ取られてしまう。
そして最終的に二人ともローラに狩られてしまう結果に。

まさにこの時、状況を打開する一手が必要であったのだが。
今以上の使える『魔女の技』のなど無かった。

使用できる『魔女の技の中』でもっとも協力なのが―――ウィケッドウィーブだったから。
そう、もはや既に破られている技であったのだから。


―――だが、『魔女の技の中』では、だ。


実は彼女には別の裏技があった。

アンブラの叡智を秘めた主席書記官である上に、
イギリス清教が保有する魔術図書館であったが故に可能な裏技が。
343 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/18(月) 00:36:42.86 ID:4j8u6dRPo

魔の力は有り余っているのに、
アンブラの戦闘術式は非戦士が使えないものばかり。


また天界魔術も当然使えない。
今やもう『魔女』であるために力の供給は受けられないのだから。

だが、これを言い換えれば次のようになる。


アンブラの戦闘術式は使えられぬも―――『使える』魔の力は有り余っている。
天界魔術は力の供給は受けられぬも―――術式自体は『使える』。


そう、彼女の考えるところとはつまり、
魔と天、双方の『使える点』を組み合わせてしまえというものだ。

魔の力で天界魔術を起動させる、
それはもちろんかなり強引で難しいことではあるが、何もしないよりは万倍もマシだ。

それに今となっては理論上、
本来は使用が許されていない規格外の術式だって使える。

普通の人間では耐えられなくとも、この―――魔女の強固な魂なら容易に耐えられる。

インデックスはすぐさま、頭の中の書庫を検索し―――『とっておき』の術式を選ぶ。

一撃で最大級の威力を誇り、確実にローラ=スチュアートを行動不能にできる一手、
本来、人間程度では到底扱えない技を。


そしてアンブラの技術で魔の力で機能するよう、やや強引に修正して―――使える限り全ての、ありったけの力を注いで起動した。


すると次の瞬間、インデックスが掲げた右手に、迸る『稲妻』と共に出現する―――。



―――『片手用のハンマー』。
344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/18(月) 00:39:33.72 ID:4j8u6dRPo

そのハンマーの柄の長さは20pほど、頭部は非常に肉厚の長方形型で幅30p程度。
特に装飾が施されていない、鉛色の無骨なものであったが。

放たれる圧はとてつもなく。

否応無くローラの視線もそのハンマーに向かう。

ローラの『目』もインデックスと同じだったのであれば、一目見てこのハンマーの正体を判別できたであろう。
そしてすぐに『対処するため』の手をとっていた筈だ。

だが、そうでなくともローラは非常に知識が豊富。
ローラの目に触れる時間が長ければ長いほど、見破られる可能性も増す―――いや、最終的には必ず見破られる。

つまりこれより、ローラの目に一瞬たりとも多く触れさせてはならない。
ハンマーの正体に気付かれないこと、それが成功の条件なのだ。


そこですぐにインデックスは白虎の背中から。


禁書『―――やァッ!!!!』


ハンマーを至近距離のローラ目掛けて『放り投げた』。

ただ放たれたその勢いは、お世辞にも『凄まじい』とは言えなかった。
確かに普通の人間からすれば目視できない速度ではあったが、ローラからすれば明らかに『遅い』。

戦士としての教育を受けていないインデックスの投擲は、
到底アンブラ戦士に『正面から』通用するものではなかった。

ローラは小首を掲げるようにひょいと。

その力は強烈でも『鈍速』なハンマーを余裕たっぷりにやり過ごし。


続けてスフィンクスへ継続して打撃を叩き込もうとしたその時―――。


ローラ『―――……ッ』


―――ローラの顔色が変わった。

彼女は感じたのだ。

背後から『戻ってくる』強烈な圧を。
それもみるみる、恐ろしい勢いで爆発的に『加速』して―――。
345 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/18(月) 00:42:07.02 ID:4j8u6dRPo

スフィンクスの前足をひときわ強い打撃で弾いて、後方へ半身振り返るローラ。
その目に映るは、『巨大な稲妻』を伴って戻ってくる凄まじい力を有するハンマー。


禁書『(――――気付かれ―――?!)』


一方のインデックスははっきり見てしまった。

ハンマーの『特徴的』な姿を見て、驚きから―――『確信』へと変わるローラの横顔を。

間違いなくローラはハンマーの正体に気づいたのだ。


とその時。


失敗の二文字がインデックスの頭を過ぎったその直後だった。

インデックスの腹部に突然スフィンクスの尾が巻きつき。
そのまま持ち上げて―――彼女を脇へと放り投げた。

禁書『?!』

突然のスフィンクスの行動に、当然彼女は驚いたも、
その理由もすぐに悟ってしまった。


禁書『――――――だm!!!!』


そして今だ宙を舞う中、彼女が制止を命じかけるも遅かった。



スフィンクスは既に―――ローラに飛び掛っていた。
346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/18(月) 00:44:22.95 ID:4j8u6dRPo


ローラ『―――!!!!』

当然ローラは容赦なく攻撃を放った。
この獣の相手をしている場合ではないのだ。


こんな獣に組み付かれたままでは―――。


だが白虎は決して離れなかった。

魔弾で腹部や足を飛ばされても。

そしてその一瞬の時間稼ぎの間に、ハンマーは『戻ってきた』。



その槌の名は―――『ミョルニル』。



『オリジナル』は、北欧神話最強の一柱―――アース神族の『トール』が使ったもの。

ローラ『このッ―――!!!!』

ヨルムンガンド以外の敵全てを『一撃』の下に屠ってきた圧倒的な威力を持ち。



一度放られれば『必ず』標的へと―――命中する。



そして魔の力によって形成されたこの偶像もまた、
そのオリジナルの謂れ通りの性能を発揮した。


禁書『―――あァああ゛ァッ―――!!』


無骨なハンマーはローラのわき腹にめり込み、
その骨と臓物を粉砕して。


そのまま吹っ飛ばしていった。


スフィンクスもろとも。

―――
347 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/07/18(月) 00:45:28.72 ID:4j8u6dRPo
今日はここまでです。
次は水曜か木曜に。
348 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/07/18(月) 00:50:31.19 ID:vdIfm7QAO
スフィンクスさぁあぁん!

349 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/07/18(月) 00:50:40.08 ID:+Fx/1A8po
乙乙ー
あああ・・・・スフィンクスがァーッ!
350 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/18(月) 09:51:51.30 ID:Vgly8T7DO
スフィンクス……
351 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/18(月) 09:52:53.64 ID:Vgly8T7DO
スフィンクス……
352 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/07/18(月) 14:51:47.00 ID:SuDF2FYI0
      /゙ミヽ、,,___,,/゙ヽ
      i ノ   川 `ヽ'
      / ` ・  . ・ i、  
     彡,   ミ(_,人_)彡ミ   まだ慌てるような時間じゃない
 ∩,  / ヽ、,      ノ    
 丶ニ|    '"''''''''"´ ノ    
    ∪⌒∪" ̄ ̄∪
353 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/07/19(火) 10:28:08.48 ID:WbVTA3Mmo
>>352
スフィンk・・・誰だお前!
354 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/19(火) 17:25:47.88 ID:I11XdI+IO
>>352
ここはトラメダルが来ていい場所者ないぞ?
355 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/19(火) 21:45:11.79 ID:PnjJs/yDO
>>353
僕だ!
356 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/19(火) 22:46:38.14 ID:/m3fMBoPo
早く続きを!
357 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/07/20(水) 02:23:53.07 ID:dktAHhnT0
        /゙ミヽ、,,___,,/゙ヽ
        i ノ    川 `ヽ'   
       /        l
   ∩ 彡,    >  . < iミ  会心のAAだと思ったのに!
≡   ヾ〆 ヽ、, ミ(_,人_)彡`     
≡ ⊂二、   '''つ''''''"´,,,つ ジタバタ 
358 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) [sage]:2011/07/20(水) 04:09:15.31 ID:fvtHFHOYo
AA貼るとかそういうスレじゃね゛ーから!
359 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/07/20(水) 14:50:04.38 ID:dktAHhnT0
>>358
申し訳無い(´・ω・`)ショボーン
360 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/20(水) 14:53:08.14 ID:AGx41M3Ho
変なの湧いてる
361 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/20(水) 19:46:47.40 ID:0BPmQiTb0
気持ち悪いな。マジで。
362 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/21(木) 04:55:11.76 ID:fuxm7eX4o
謝ってんだから済んだ事をネチネチと言うんじゃないよ
この時期もっと増えるかもしれないんだから一々言ってたらレスが無駄に消費されるだけだろ
煽らないような文で一言注意してそれで終わらせろ
それで聞かなかったら管理スレにでも報告しろ
363 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/07/21(木) 08:46:49.20 ID:VK8Wa0uzo
ネチネチってたかだか2レスで何を言ってるんだこいつは
364 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/21(木) 11:04:22.37 ID:Wmus8PiDO
続きが気になるぜ
365 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/21(木) 23:01:23.58 ID:nkf7uOmVo
―――

三人が見ていたのは、先いた場と同じ学園都市第七学区の街並み。
だが全て同じというわけでもなく、いや、同じどころか実はかなり違う。

街並みの像はぼんやりとし、
まるで水の中にいるように実体感無く揺らめいている。
場の空気もまた同じく虚ろ気なもの。

ステイル「…………」

五和「……」

実際に訪れたのは初めてであったものの三人は確信した。
ここがプルガトリオだと。

神裂「……」

そしてレディは正確に、
インデックスがいるであろう階層に送り届けてくれたようだ。

彼女の存在をはっきり感じるのだ。
同じく相手のローラ=スチュアートのそれも。

両者とも莫大な力を放っていることから、
激しい戦闘状態にあるということも知れた。

ただ。

そんな状況を把握しても三人はその場から動かず、
それぞれ難しい顔をして押し黙っていた。

レディが言っていた『結界』、それのおかげで、
インデックス達を『直接認識』することができなかったのだから。
366 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/21(木) 23:04:04.73 ID:nkf7uOmVo

インデックスとローラの力をはっきりと感じる。
しかしその存在を明確に認識できない。

いるのはわかっているのに『どこにいるのかわからない』
あるのはわかっているのに『見えない』し『触れない』。

ステイル「…………」

閉鎖的な空間でも設けているのか、
それとも『人払い魔術』に似たものでこちらの認識に干渉でもしているのか。

どちらにせよ、結界を結界だと認識できない三人には、
この障害を越える手立てを簡単には見つけられない。

神裂「……………………」

そしてこの難題に思考を費やす時間も無かった。
状況は刻々と変化していく。


その瞬間、インデックス周辺に超高圧の莫大な力の塊が出現。


ステイル「―――なっ」

続けて三者がそれを覚えてすぐ、間髪入れずにその力の塊は炸裂。
圧でこの階層の風景が目に見えて歪み、
物理的な衝撃が建物を『真上』へと粉みじんに吹き飛ばしていく。


さながら地面の『裏側』から巨大な『ハンマー』で打ちつけられたかのよう。

すさかず神裂が五和に寄り添って、その体からの光で包んで守っため彼女に怪我は無かったが、
この階層の街並みは一瞬で破壊一色となってしまった。
367 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/07/21(木) 23:06:18.34 ID:BP45z6cCo
キター
368 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/21(木) 23:06:51.38 ID:nkf7uOmVo

やはり人間界に似ていても根は別世界、
壊されたこの階層は奇妙な様相を見せていた。

落ちることなくその場に浮遊し続ける瓦礫や、
ゆっくりと割れてはふわふわと上昇する地殻の欠片などなど。

しかし当然、三者にとってはその光景に気を留めている場合ではない。

ステイル「ッ!!―――今のは!?」

場が大きくかき乱されていて、
インデックスの力もローラのそれも認識できなくなっていた。


神裂「―――……うっ……!!」


そしてここで更に。


状況はこれでもかとばかりに次々と畳み掛けてくる。

その時三人の周囲を取り囲み大量に、
この奇天烈な荒野中に魔方陣が浮かび上がり。

神裂『―――ああぁあ次から次へと本当に!!本当にッ!!本ッ当にィィッッ―――!!』


うんざりの極みに達した神裂の声と同時に、大量の悪魔達が出現した。



神裂『―――こんのタイミングで来てんじゃねぇぇーッッよドブネズミ共がッッ!!!!』



ステイル『まったく困るね!!僕の主をキレさせてくれるとは!!!!』


すかさず全身に紅蓮の業火と光を纏うステイル。
同じく七天七刀の柄に手をかけて戦闘態勢となる、ついに積もり積もった鬱憤が爆発してしまった神裂。


神裂『五和ァッ!!私の後ろにいろァッ!!ぜっってー離れるなよ巻き込むぞオラァッ!!』


五和「―――はッ!!はいッ!!はいぃッ!!」


そして彼女の背後に槍を握り締める五和が続いた。
その恐ろしい声に半ば鞭打たれるようにして。


―――
369 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/21(木) 23:09:33.40 ID:nkf7uOmVo
―――

学園都市、窓の無いビル。

アレイスター「……」

水槽の中にて、
アレイスター=クロウリーはこの状況を見極めようとしていた。

予想はしていたが、やはり始まった流れの速度は凄まじいものであった。
各勢力各陣営それぞれがこの状況の主導権を握るべく動き出し、今や混沌としつつある。

アレイスター「……」

だがこの大荒れの渦に惑わされて、目的を見失ってはならない。
自身にとって最も重要な部分、『プラン』にかかわる部分を的確に見出し取捨選択しなくてはならない。


まず一方通行に関しては、今のところ問題は無いとできる。
悪魔達と接触しているが学園都市におり、状態も安定している。


問題は幻想殺しだ。


禁書目録、神裂火織、ローラ=スチュアート、そして更に別の魔女の登場、
それらの立て続けの出来事の中であっという間に幻想殺しを見失ってしまった。

人間界から抜け出てしまったのだ。
更に悪いことにその行き先がまるでわからないときたものだ。

アレイスター「………………」

プランの最終段階が始まっているのにその核が手元に無い、
まさにアレイスターにとって最悪の事態だ。


今はとにもかくにも、何とかして幻想殺しを取り戻さなければならない。


時間的余裕はほぼ無いためもちろん手段を選ばずに。
もちうる全ての力を使って、だ。
370 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/21(木) 23:12:33.70 ID:nkf7uOmVo



水槽の中、アレイスター手元に一本の杖が出現した。

銀色でねじくれた杖―――『衝撃の杖』。

アレイスターはその柄をゆるやかに握り、力を『完全稼動』させるための術式調整を始めた。
ただ、『術式』といっても使う力は天でも魔のものでも無い。


その根源は人界のもの、つまり―――『能力』だ。


アレイスターは今、60年ぶりに『この体』の『能力』を完全稼動させようとしていた。

「あと一回、能力を起動してしまえばもう『その体』はもたない。
 次に力が切れたとき、そこで君は終わりとなるよ」

それは『この体』を生かしてくれて、この『水槽』で状態の維持を確立してくれた友の言葉。
アレイスターももちろん重々承知している。
しっかりとしたデータに裏打ちされた確かなことだ。

だからこそ、あれから今日ここまで一度も使わなかった。
プランのためにその『最期の一回』をこうして温存してきたのだ。

アレイスターは徐々に全身に湧き上がってくる力、それと共に、
60年間閉じ込め続けてきた『感情』も仄かにこみ上げてくるのを覚えた、


アレイスター「―――…………」


そしてふと導かれて。


この体の『前の持ち主』に想いを馳せた。


かつて――――――したあの女性を―――。


彼はふと目を閉じると、
その脳裏に過ぎるかつての姿に向けて小さく声を投げかけた。


アレイスター「―――もうすぐで終る…………もうすぐだ」


一人静かに、そっと。


―――
371 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/21(木) 23:14:16.68 ID:uUULYIqw0
遂にコロンゾンでも呼び出すのか?
372 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/21(木) 23:15:51.87 ID:nkf7uOmVo
―――

一斉にこちらを向いた、夜の街に蠢く異形の群れ。

初春「ひっ―――」

そのおぞましい視線に耐えかねて、
初春は窓の傍で尻餅をついてしまった。

初春「―――な―――ひっ」

真っ白に、いいや、『真っ黒』になってしまう頭の中。

何も考えられない。

体がすくみ小刻みに震え、額からは冷たい汗がにじみこぼれる。
割れたガラス片の上に手を着いてしまったことすら気付かず、
初春はただただこの異様な『恐怖』に縛られていた。

そして動けない一方でやけに感覚が冴え渡っていく。

まるでこの恐怖を『もっと味わえ』とでも言うかのように。

聞えるのは鼻腔と口腔・気道を空気が通っていく音と、
早馬の如く打ち鳴らされる鼓動。

そして外からの―――。


初春「―――ッ」


重い何かが地面を打っているような音。
それも複数、徐々に近づいてきて。
373 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/21(木) 23:16:59.38 ID:nkf7uOmVo

その正体が何なのか、
もし彼女が確かめたいと思ったとしてもそれは出来なかった。

座り込んでいる小柄な彼女からでは窓の外は見えず、
そして立ち上がることもできないのだから。

ただ。

それは彼女が自分から確かめるまでも無かった。

ずしん、と重い何かがぶつかってきたかのか、この支部が揺れ。
複数の重い響きが続き。

そして。


初春「―――ッひぁ…………!!」


窓のすぐ外まで、『それ』が壁を登ってきた。
歪んだブラインド越しに見える、大きな怪物。

夜のせいなのかそれとも元からそうなのか、影のように黒く。
そのシルエットはゴリラを3倍にしたように巨大で威圧的。


そして焼き殺すかというほどに強烈な視線を放つ―――赤い瞳。
374 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/21(木) 23:18:45.15 ID:nkf7uOmVo

それも一体だけではなかった。
横から別の赤い瞳の怪物も這い上がって、同じように初春を見つめてくる。

もとより動けなかった彼女にはもう成す術がなかった。
ただただその視線に怯えその場で固まっているしか。

怪物達はまるで品定めをしているかのように、しばらくジッと初春を眺めていた。

実際は10秒になるかならない程度であったが、彼女にとっては一生のごとく感じる間。
生きた心地がしないとはまさにこの事だ。


―――とその時だった。

唐突に何の前触れも無く、その現象が起こった。


その瞬間、何もかもが『吹き飛んだ』。


壁も天井も、この支部の上階ごと粉微塵。
周囲の何もかもがぶっ飛んでは砕け滅茶苦茶に四散。


―――怪物もろとも。
375 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/21(木) 23:20:12.69 ID:nkf7uOmVo

それは不思議な『爆発』だった。

初春「―――…………え―――?」

辺りは何もかもが砕け散り、激しくその欠片が舞っていたにもかかわらず、
自身は破片を浴びるどころか、『衝撃波』すら当たっていない。
頬を撫でる微風すらない。

この破壊の一切が伝わってきてはいなかった。

そのため、これほどの破壊にもかかわらず『音』は聞えなかった。

そしてそれがまた、
これが悪い夢にも思えてしまう、そんな非現実的な居心地を強めていく。

それこそこれが夢であったらどれだけ良かったであろうか。
悪夢は悪夢でも、目覚めてしまえばそこで終らせることができたであろうに。


初春「…………」

だが目覚めは来ない。
自身と外界を分け隔てていた『何か』が無くなったのか、
途絶していた空気感や音が徐々に戻り、これが現実であると突きつけてくる。

粉っぽい空気、焦げたような香り、崩れる瓦礫や欠片の音。

だが悪いことばかりでもなかった。


「―――立てるかァ?」


その時、この状況では懐かしくも思えてしまう日本語が前方から放たれてきた。
『前』に聞いた覚えのある声で。


彼女が今だ震える身のまま見上げると。


初春「―――」


すると、ひしゃげた窓枠の上に一人の少年が立っていた。


背後の闇とのコントラストで際立つ白い髪に白い肌。
この状況でのその姿はまさに、初春にとって救世主にも思えてしまうほど。


ただ、その両腕は底なしに濃い『黒』であったが。


―――
376 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/21(木) 23:21:44.74 ID:nkf7uOmVo
―――


ロダン『連中も乗り気だ。何あるのなら可能な範囲内で手を貸そう、だとよ』

天界の天津族・アース神族のトップとの『会合』内容の報告。

ダンテ「へぇ……」

宙の球からのそのロダンの声をダンテは聞いていた。
いや、聞き流していたと表現するべきか、
転寝しているかのように目を閉じては、関心が無さそうな相槌を打っていた。

相変わらず朽ちて倒れている柱に寝そべりながら。

ロダン『ただ状況的に、むしろ連中の方がお前さんの手を借りたいだろうがな』


ロダン『それでどうするんだ?』


ダンテ「…………ん?何が?」

ロダン『何がってよ、まず話してからその後を決めるって事だったろ?お前さんから連中に対して何か無いのか?』

ダンテ「挨拶の言葉でも述べればいいのか?」

ロダン『違う。協力とか今後の段取りとかの「何か」だよ』

ダンテ「あー、そこはロダン、お前に任せるって言ったろ」

ロダン『……ああ、そうか。なるほど……』

ダンテ「はっきり言って俺は、天界の内輪揉め自体には興味無えし、予定組んでよそ様と歩調合わせんのも苦手だからな」

ロダン『ふっ、確かにな。わかった。ならばこちらは俺の好きにやらせて貰うぞ』

ダンテ「ああ勝手にやってもらってて構わない。『興味』があったらこっちから動くからよ」
377 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/21(木) 23:24:04.83 ID:nkf7uOmVo

ロダン『おお、そうだ。一つ気になる事をこっちで聞いた』

そのように一連の話を終えた後、
ロダンが思い出したように別の話を切り出した。


ロダン『プルガトリオの人界近層で、アンブラ魔女を二体検知したとよ』

ロダン『どうやら魔女同士でやりあってるらしい』

ダンテ「Hum...」

それを聞いてダンテはぱちりと目を開いては、
興味深そうに声を漏らして。

ダンテ「『あいつ』か?」


ロダン「いいや、俺の『知り合い』共では無え。聞く限りじゃ、『あいつ』らにしては力の大きさも密度も低すぎる」

ロダン「それにしてもアンブラ魔女が他に二人も生き残っていたとはな」

ダンテ「へえ……」

生き残っていた別の魔女、
といえば、ダンテには思い当たる人物が一人いる。


―――インデックスだ。


となれば、これは聞き流しておける事ではない。

依頼主であり友人であり、
そして今は『バージルの目的の一つ』、ともダンテは考えているのだから。
378 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/21(木) 23:27:13.48 ID:nkf7uOmVo


ダンテは不敵な笑みを浮べてはむくりと起き上がり。

ダンテ「ロダン、その場所はわかるか?」

ロダン『いいや、又聞きしたもんだからな、そこまでの詳細は伝わっては来ない』


ダンテ「へえ…………そうか」

柱から飛び降りて、
立て掛けていたリベリオンを背にかけた。

元使い魔達は今、魔具の形となって周囲の地面に刺さっていた。
本体のままだと『色々』と目障りなため、ダンテの『頼み』でそのようにしたのだ。

柱から降りたダンテは、その足元の彼等をしばらく思案気に眺めた後。
パチンと指を鳴らしては、まずは『氷のヌンチャク』を指差して。


ダンテ「ケルベロス、禁書目録の嬢チャンの匂い覚えてるか?」


ケルベロス『あの小娘を追うのか、ならば一度人間界のあの街に降りねば』

ダンテ「OK、見つけたら……そうだな、アグルドに連絡してくれ」

ダンテ「そういうことだアグルド、後で送ってくれ」

アグニ『む、む……?』

ルドラ『ぬ、ぬ……?』

とそのように。
ダンテが当たり前に言った、『送る』という事に一瞬アグルドが戸惑いの声を挙げた。

なぜなら使い魔が主の存在に干渉することは不可能、
つまり『運ぶこと』ができなかったのだから。

ただその主従関係が消えてしまっている今、『友』を運ぶことに何の障害があろうか。

アグニ『……うぬ、おかしくはない』

ルドラ『……うむ、おかしくない』

染み付いた『癖』に惑わされながらも、
アグルドはついさっき解放されたことを再確認してそう口を揃えた。

そして同じくケロベロスも。

ケルベロス『了解した。我があr…………友よ』
379 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/21(木) 23:29:40.17 ID:nkf7uOmVo

ダンテ「それとネヴァン、ケロベロスと一緒に人間界に行って、そのまま学園都市に残って状況を見張ってろ」

ネヴァン『あらぁ、私はあなたと一緒が良いのだけれど』

それはまた今度だ、
とネヴァンの不満を受け流したところで、ダンテは一度言葉を区切って。

ダンテ「基本的に状況ごとの判断はお前らに任せるぜ。好きなやり方でやってくれ」

そのダンテの言葉を受けて、
ケルベロスとネヴァンその場から姿を消した。

と、その直後。

銀の具足、ベオウルフの周囲に移動のための魔方陣が現れた。


イフリート『―――貴様。勝手に―――』

それを察知しすかさず声を挙げる篭手。
だがベオウルフもすぐに言葉を返し。

ベオウルフ『我が身は既に解放されている。一々「元主」の言葉を仰がねば動けぬのか貴様は』


ベオウルフ『聞けスパーダの息子、我は我の意志のまま赴く。貴様の言は受けぬ』


立て続けにダンテへと声を放った。
それを受けてダンテは相変わらずの調子で肩を竦めて。

ダンテ「構わないぜ。好きしてくれ」

あっさりと了承。
直後、すぐにベオウルフは姿を消した。
380 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/21(木) 23:32:34.70 ID:nkf7uOmVo

それを見送った後、
ダンテは朽ちた柱に寄りかかって。

ダンテ「というわけでだ、お前らはとりあえず俺とここにいてくれ」

残ったイフリートとアグニ&ルドラに告げた。

ダンテ「気にすんな。なるようになるさ」

そして不機嫌そうに沈黙する『炎』の篭手、
そこからの視線にそんな風に返したのち。

腰からエボニー&アイボリーを引き抜いては足元に『落として』、
同時にとある一つの魔具を呼び寄せた。


ダンテ「―――ギルガメス」


するとその瞬間、ダンテの両手両足に銀の装具が出現。
両足に出現したそれは、ちょうど落ちてきた銃をキャッチして、

歯車と軋む金属音を響かせながら二丁を『飲み込んで』包んでいく。

続けてダンテが腰からもう二丁。
トリッシュから預かっているルーチェ&オンブラを手にすると、
両足と同じように装具が銃を包み込んだ。


一見すると、前腕部に備え付けた仕込み銃のようにも見える配置だ。
ルーチェ&オンブラ自体は隠せる大きさでは無いが。

ダンテ「Humm...」

そのギルガメスの動きと銃の馴染む様子を見て、
ダンテは満足そうに鼻を鳴らして頷いた。
381 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/21(木) 23:34:24.04 ID:uUULYIqw0
言ってみりゃ全員解雇か。とりあえずおつかれさま
382 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/21(木) 23:35:38.53 ID:nkf7uOmVo

と、そんな風にダンテが子供のようにニヤニヤしていると。

ロダン『そろそろお前さんも動くのか?』

ここでの会話を聞いていたであろう彼の声がそこに響いた。

ダンテ「あー、まだわからねえな、とりあえずは禁書目録周辺の状況を確認してからだ」

ロダン『そうか。ところで今、新しい情報が入ったぞ』

ダンテ「ん?」

ロダン『アスタロトの軍勢が突然妙な動きをし始めたらしい』

ロダン『ネロがかき回してるってのあるだろうが、それだけじゃ説明つかねえ動きだ』

ロダン『他にも何かあると思うぜ。一部は唐突に学園都市にも降りたようだ』

ダンテ「…………へえ」

そこでダンテは感じた。
自身の直感が反応したのを。

この悪魔達の動きも『繋がっている』と。

常に、騒乱は別の騒乱を引き寄せて巨大化していくものだ。
今もまた、インデックス周辺を中心にあらゆる『モノ』が集約しつつあるのだ。

ロダン『あともう一つ、』

そしてそこに続いたロダンの言葉が、
このダンテの直感を更に確たるものへとした。


ロダン『ジュベレウス派の一軍が、例の魔女の件で出動したらしい』



ロダン『率いているのは四元徳の一柱―――「テンパランチア」だ』

383 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/21(木) 23:39:21.97 ID:nkf7uOmVo


ダンテ「Hum...」

四元徳。

現在の天界における最上位の存在。
それが動いたとなればやはり―――。


『このような』物事には、その流れの中に必ずとある『山場』がいくつか形成される。
それは様々な意志と因果が集中したタイミング。

ダンテは昔からよく、そのポイントを狙って利用する。

何をどうすればいいのか、具体的な目処が立たない場合は、
とりあえずそこに飛び込めばいいのだ。

物事の本質が浮き彫りになるその『心臓部』たる瞬間に割り込んでしまえば、
部外者が『主役』になってしまうことも可能となり、流れに干渉できる権利が手に入る。


そして今もまた、ダンテははっきりと見定めた。


『今回』の『一つ目の山場』を。

アスタロト、四元徳、魔女、そしてバージルの意志。
更に今だ把握していない主な陣営・役者も顔を並べるであろう、
全てがが集束しぶつかる瞬間を。


ダンテ「―――ハッハ〜!ロダン!今ので決まったぜ!」


ロダン『あん?何がだ?』


ダンテ「イフリート!アグニ!ルドラ!準備しておけ―――場所を特定できたらすぐ飛ぶ」


                     パーティ
ダンテ「そろそろ―――『出番』だ」


―――
384 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/07/21(木) 23:40:18.40 ID:nkf7uOmVo
短いですが今日はここまでです。
次は土曜か日曜に。
385 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(佐賀県) [sage]:2011/07/21(木) 23:43:50.64 ID:0DW+v+d50
おっつおつ!
ダンテさんの出番キター!
次が楽しみだー
386 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/21(木) 23:44:26.75 ID:uUULYIqw0
乙かれさま
いかにも最終決戦って感じが実に良い。
それはそうとアルティメットMvC3、ジーン参戦は来るだろうか…
是非ともクローバートリオで戦いたいぜ
387 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/21(木) 23:45:08.85 ID:wQS5YS4go
お疲れ様でした
388 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/07/22(金) 00:07:23.15 ID:3ezYCeKVo
乙乙乙。次が待ち遠しくて腕が黒くなりそうです。
389 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/22(金) 00:32:28.56 ID:y5j0zTHDO
>>388
一方さんこんはんわ
390 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/07/22(金) 04:27:04.58 ID:T5Qh10UP0
おつおつ
391 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/07/22(金) 16:13:36.33 ID:oSbWCWd/0
>>388
俺は背中から黒くて四角いナニかが生えてきそうだぜ
392 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/07/23(土) 07:58:21.35 ID:Ylz61tiA0
>>386
もう一人DMC勢が欲しい
このSSの影響でアマ公入れてるけどww
ネロか兄貴が居ればなぁ…
393 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/24(日) 12:31:36.04 ID:/5IYn5qZ0
>>392
兄貴は参戦決定済み。出さないとかどの口がほざいてたんだか。
ネロは同じCVのヨング・ボッシュさんが英語版でロックマンXのゼロ役で出ているから参戦はキツいだろうな。
ただナルホドくん参戦って言うのがどういう判断だよw
394 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/24(日) 13:37:47.86 ID:dD0UND+DO
>>393
ネロの人日本語上手すぎ
395 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/07/25(月) 00:35:04.45 ID:gzXVTJRMo
すみません。
諸事情により今日の投下はありません。
次は明日となります。
396 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/07/25(月) 23:02:41.17 ID:zQ1lMpjAO
そろそろかな
397 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/25(月) 23:23:15.72 ID:gzXVTJRMo

―――

そこは柔らかい光に満たされた空間。

上条「(…………)」

上条は三度そのような意図しない場にいた。
ただ今回は、なぜここにいるかは把握していたが。

入り口は開いたが『出口』がまだ開いていないのだ。

ガブリエルは『望む場に繋がる』と言っていたが。
何らかの理由でその上条が行きたい場所、
つまり『インデックスの傍』に繋がらなくなってしまっている。

上条「(…………)」

更に細かく言うと、インデックスの位置を特定する『最後のピース』が手に入らないのだ。
あと一歩というところまで判明しているのだが、
最後の最後で『何か』によって妨害されてしまっている。

ガブリエルの用意してくれたこの『門』は今、
機能が完全に滞ってしまっていた。

上条「(…………くそッ!!)」

一体どうすればいいのだろうか。
このまま留まっているわけには行かない。

こうしている今もこの身の奥底からはインデックスの存在を、
そして彼女の身に危険が迫っているのを強く感じているのに。

こちらのベオウルフの力を強く引っ張って、
明らかに今までないくらいの闘争状態に陥っているのに。


―――と、そこで。


上条「―――…………ッ!これで!!」


上条は気付いた。
彼女の位置を特定する、『最後のピース』の代わりとなるかもしれないものを見つけたのだ。

そう、まさしく『コレ』が代わりになるのではないか、と。


この『インデックスとの繋がり』が。
398 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/25(月) 23:24:55.63 ID:gzXVTJRMo

ただ問題は他にもあった。

上条「(でもどうやって……!!どうする?!)」

どのようにして、このガブリエルの門にそれを『入力』するかだ。

この門がどのような原理で動いているかもわからない彼にとって、
余りにも難き問題。

魔術知識なんてからっきしなのだから、書き換えるなんて事はもちろん不可能。
そもそもどうやって書き換えるのかもすらわからない。

ではベオウルフの力を無理やり流し込んでみるか、いいや、
そんな事をしてこの門を壊してしまったら取り返しが付かない。

例え壊れなかったとしても、まともに動くわけが無いのが目に見えている。

上条「(考えろ、何かあるはずだ、何か―――)」

だが諦めるのは許されない。
とにかく何でもいいから可能性のあるものを捻り出そうと上条は頭を絞り続け、
今持ちうるありとあらゆる知識・記憶を洗っていく。

そしてその中で、彼はある記憶に気を留めた。


それはついさっき、ガブリエルと話したこと。


あの『出陣の野』に行ってしまった原因は、ガブリエルではなく―――己自身だった、と。
399 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/25(月) 23:25:40.38 ID:gzXVTJRMo

上条「(―――)」

それはつまり、己も門を開けることが出来るのではないのか。

だが―――どうやって?

ただその方法に関しては、わざわざまた頭を絞る必要は無かった。
目覚めつつあった自身の本質が自然と導いてくれたのだから。


視線は自ずと自身の右手へと向かい。

そして上条はその次の瞬間、
結論を『知る』のではなく『すでに知っていた』。

上条「(―――)」


―――求めるのならば記憶は蘇る―――。


そのガブリエルの言葉通り、上条が求めた『幻想殺し』の本質が既に意識内にあった。


幻想殺し―――その作用は。


ただ単に対象を『消す』のではなく『相殺』する。
つまり、対象と非常に似た力を正確に『放出』している。

またただ単にぶっ壊すのではなく、
『構造』の基部をピンポイントで破壊して崩壊を引き起こすこともできる。

つまり、対象の構造を正確に分析している。

そしてこの作用を応用すれば次のように―――いいや、むしろここからが幻想殺しと呼ばれるこの力の『本命』。



一度触れて構造を理解した対象を―――新たに『再構築』することが可能である。

400 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/25(月) 23:27:24.68 ID:gzXVTJRMo

では、幻想殺しとは一体何なのか―――と、平時ならそのまま意識は続いていっただろう。

しかし状況的に上条はそこより先の記憶を求めはしなかった。
今はこれで充分だ。


そして幻想殺しの作用の本質、
それを『知っている状態』へとなった瞬間、


その右手が仄かに―――『オレンジ色』の光を放ち始めた。


上条当麻は特に驚きもせず、その輝きを帯びた右手を伸ばして。


この場を満たす光に触れた。


光は消えなかった。
ガブリエルの門が崩壊することも無い。

書き換えと再構築ののち、最後のピースを上条から与えられて。

門は再起動。


上条「OK」


問題なく動作していった。

これぞ、今まで無制御状態であった幻想殺しが、
上条当麻の確たる意識の制御下に入った瞬間であった。

これは彼にとって大いに、大切な人を守るための力となりうる。
だが一方でとてつもない危険も孕んでいた。

上条が自身の『魂のルーツ』を知って本質に目覚めること、それはすなわち。
『同化』している太古の暴虐な『竜』の覚醒も避けられないのだから。


また、この門の先、インデックスがいる場所には。


彼にとって、今までで最大の―――『試練』が待ち受けていた。


―――
401 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/25(月) 23:27:57.54 ID:gzXVTJRMo
―――

どう考えても、人間界への影響も免れない強烈な衝撃であった。
階層全体が大きくきしみ、風景が『波うち』何もかもが崩壊していく。

そんな破壊の中にて、
インデックスは地面に叩きつけられるように落ちた。

禁書『ぐっ…………』

割れたアスファルトに強く後頭部を打ちつけて、
いや、それ以上に今の『ミョルニル』に力を使いすぎたのだろう、
恐ろしく重い倦怠感を帯びて朦朧とする意識。

だがその状態でも彼女は懸命に頭を働かせて、
状況を把握しようと全ての知覚に集中する。

禁書『…………うぅっ……』

這いずりながら顔をあげ、
ローラとスフィンクスが吹っ飛んでいった方向を見やった。

しかし両者の姿を捉えることは出来ず。

かなり吹っ飛ばされたのか、崩壊した街の向こうにそれらしきものは見えず、
また階層が大きく歪みかき乱されているせいで力も認識できない。
402 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/25(月) 23:28:40.56 ID:gzXVTJRMo

と、その時。

禁書『―――…………』

彼女は一つ、こちらに急速に向かってくる確かな存在が感じ取った。
それはすぐに判別できた。

先ほど放り投げたハンマー、『ミョルニル』だ。

一度放られれば必ず標的へと命中し、そして『使い手の元へと戻ってくる』。
そのいわれの通り舞い戻ってきたのだ。

轟音を立てて目の前の地面に突き刺さる無骨なハンマー。
その頭の部分はベットリと真っ赤に染まっていて、そして―――。


―――巻きついている、いまだ生きている『金髪の束』。


その束の続く先は、わざわざ顔を上げて確認するまでも無かった。
このハンマーに引かれて直後、彼女の前に着地したのだから。

禁書『―――』

滝のように腹から血を滴らせ、
その戦闘装束を紅に染め上げて膝を突きながらも。


こちらを真っ直ぐと見る―――ローラ=スチュアートがそこにいた。
403 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/25(月) 23:30:20.47 ID:gzXVTJRMo

目が合った瞬間、インデックスは硬直してしまった。

首、顎、そして額の辺りまで飛び散っている赤い液体。
脂汗が滲んでいる凄まじい形相の顔と。

血走った瞳―――。


―――『様々な感情』が入り乱れている目。


目が合ってしまった一瞬、
インデックスはその瞳からローラの内面を垣間見てしまって、意識を奪われてしまった。

そしてこの一瞬の意識の隙が命取りにもなってしまった。
もっとも、この状況ではどのみちろくに抵抗はできなかったであろうが。

刹那―――ローラは素早く踏み込んできて。

インデックスの修道服、その首元を掴み上げては、
彼女の胸に左手の拳銃を押し付けて―――。


―――即座にその引き金を絞った。


禁書『―――えっ…………ッッ…………』

その一連の出来事はあまりにも早く。
何が起きたのか、それに彼女が気付いたのは―――胸を貫く強烈な痛みを覚えてからであった。


禁書『―――あ゛ッッ!!あ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!』

鳴り響いた銃声の一拍後。

気道と通り噴き上げて、口から吐き出される鮮血。

まるで胸の中に火の塊を投げ込まれたような感覚。
熱と焼き焦がされるような刺激が一気に体を蝕んでいく。

そしてそれと同時に―――最後に残った力が消失していく。

魔弾にそのような作用が篭められていたのだろう。
インデックスの知識の中にも該当する術式が多くある。


ただその詳細を判別できたところで、彼女は何もできやしなかったが。
404 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/25(月) 23:33:14.89 ID:gzXVTJRMo

胸から止め処なく流れ出て行く血。
その返り血で真っ赤に染まった銃、それが、今度は顎の下へとむけられ押し付けられた。

放たれたばかりの銃口の熱を覚える中。

インデックスは血に咽ながらローラの顔を再度見つめた。
その『様々な感情』が入り乱れている―――瞳を。

怒りと混乱。

悲壮と困惑。

絶望と希望。

それらが複雑に絡み合ってしまっていて―――。

禁書『―――…………』

ローラ『…………』

そんな混沌としている内面が否応無くわかってしまう。
いや、わかってしまうのではなく、まるで自分の事のように体感してしまう。

それも当然。

何せ二人は『同じ』。

二人は『一つ』なのだから。

インデックスはローラの内面を、
同じようにローラもまたインデックスの内面を体感し、
そしてお互いの立場を再確認させられ。


これでもかと突きつけられる、同じ二人なのにある『大きな違い』。


自分の『存在意味』を『己』とするか、それとも―――『人格』を『己』とするか。


―――インデックス、それは『人格』を『己』と『認めた自分』。


―――ローラ、それは『人格』を『己』と『認められなかった自分』。
405 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/25(月) 23:35:36.79 ID:gzXVTJRMo

お互い、目的を果すために構築された『人形』なのに。

元は同じなはずなのになぜ。
元は同じだったはずなのに、どうしてこんな違いが生まれてしまったのだろうか。

ローラ『―――』

いや、厳密には完全に同一ではなかった。
作られた経緯に起因する差異があった。



ローラはこの500年間、出会うことは無かった。
彼女を理解し、彼女を慕い、彼女と同じ痛みを知り、そして彼女を『救おう』とした者には。

いや、『救おう』とさせなかったのは彼女の方だ。

彼女は強すぎたのだ。

『姉』をベースとした、目的の中核としての『人形』であるが故に、
とてつもなく強くそして完璧に構築されていたのだ。

そのため、何人も『彼女を救おう』などという上位には立てず、
彼女の強さは唯一の心を許せる友、エリザードをもすら寄せ付けなかった。


一方で『妹』をベースとした『インデックス』は、ただ管理制御を行うための存在。
そのため、余計な機能や力は排除され最低限の部分のみで作られていた。

つまり強くも無く完璧でも無かった。


だからこそ『インデックス』は―――孤独ではなくなった。


だからこそ彼女は『救われた』。


不完全で弱かったが故に。
406 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/25(月) 23:38:38.22 ID:gzXVTJRMo

これは皮肉なのだろうか。

弱者は弱者であるが故に救われる。
強者は強者であるが故に救われない。


インデックスにとって『他者がこの人格を守ってくれた』、
ということが大きな『自信』となり『根拠』となり。


―――『私は存在して良いのだ』、『私は存在しなければならない』、『私は―――存在し続けたい』


存在意味と根底にあるプログラムを拒絶し、『人格』を『己』とすることができた。
そしてそれは、アンブラの契約術の起動によって『本物』だとここに証明もされた。

そう、インデックスは『本物』と証明された。
妹をベースとした存在が『本物』になったのだ。

そしてそれはこうも言えるのではないか。


―――『本物の妹』がここにいる、と。


だが。

ローラはそれを許容することなどできなかった。
彼女は強くそして『完璧』すぎた。

『あの日死んだ妹を計画通りに蘇らせる』、その鉄の意志―――プログラムはねじ曲がりなどしなかった。

ただただ正確に計画通りに成し遂げる事、それが全て。
だからイレギュラーなこの『結果』を認めはしなかった。


どうしても認められなかった。


ただ、ローラがこの今前にしている『妹』に対して何も思わぬわけでは無かった。
むしろこの妹の排除にとてつもない拒否感を抱く。

妹は妹、変わらぬ最愛の存在なのだから。

しかしローラにはどうしても、
そんな感情と人格をプログラムよりも優先するなどできなかった。
単独で拒絶するには『構造上』不可能であり。

インデックスのように、他者から『自信』と『根拠』を与えてもらうこともなく。

他者によってその人格を認めてもらうことも、慕われ愛されることも無く。

背負い続けてきたものを他者に理解されることもなく。


彼女を『救える』ほど上位の他者などいないのだから。


強すぎて完璧だったが故に『ローラ』は―――孤独だった。
407 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/25(月) 23:40:33.32 ID:gzXVTJRMo

インデックスは震える右手をそっと上げて。
添えるようにしてローラの頬に触れた。

懇願したわけでも、哀れみを抱いていたわけでもない。
ただ触れたかった。
触れなければならないと思ったのだ。

この『己と同じ存在』でありながら―――『己と違う存在』を。

更にお互いの意識、内面を知り体感し同化して行く。

だが、どこまで行っても結局は―――『完全に同じ』にはなれない。

今ここの現実として、二人は『別人』なのだから。

『インデックス』と『ローラ』なのだから。


両者の間にはいまや、どうやっても埋めやしない『違い』が深く刻まれていた。


インデックスが頬に触れた瞬間、ローラはピクリと目を細めた。
そして僅かに震える拳銃を持つ手。
それは彼女の感情の激しい乱れによるもの。

だがそんな乱れでも、
その体を支配しているプログラムを遮れるほどではない。

インデックスの喉元へと押し付ける銃口がぶれることは無く。

そして引き金が絞られていき―――。


―――とその時。
408 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/25(月) 23:41:20.60 ID:gzXVTJRMo

禁書『―――』

インデックスは朦朧とする中で感じた。
この魂から伸びる『繋がり』が一気に強力になったのを。

繋がりの先の者が―――『ここ』にやって来たのを。

もちろん、ほぼ同時にローラも。
インデックスと意識が同化状態にあったために、インデックスの思念ごとその存在を知り体感した。



そしてそれは逆も然りであった。

ここに今やってきた『彼』もまた―――インデックスとの繋がりを介して瞬間的に、
この二人の魔女の思念を知り体感することとなる。

ただ、それらを知り得たとしても、
彼がローラに向けられる言葉は増えやしなかった。

『彼』は、ローラに『自信』や『根拠』を与えられるほどの強者ではなかった。
彼女をプログラムから引き離せる力を持ってはいなかった。

インデックスですら戦うしか出来なかったのだから、
同族ですらない彼はただただその銃口を向けることしか出来ない。


『―――インデックスを放せ』


そしてただこれだけの鋭い言葉を突きつけるしか。

ローラから見て左方10m程のところから、
上条当麻は矢のような声を放ち、そして繰り返した。


上条『―――放せ!!放せっつってんだよ!!』


その左手の黒い拳銃を、真っ直ぐとローラの即頭部へ向けて。
銃身部に力を集約させて銀に輝かせながら。
409 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/25(月) 23:42:45.80 ID:gzXVTJRMo

胸を撃ち抜かれているインデックス、そんな状況が上条当麻を圧迫していく。
だが、心は滾っても思考は常にクールに、彼は懸命にそう己を押しとどめていた。

それにインデックスと繋がっているというのも、
彼がここで留まることへの助けとなっていた。

ここに来たことによって『繋がり』に障害が無くなり、
はっきりと思念を疎通しているから把握できる。

彼女は酷い傷を負ってはいるが、すぐに死に直結するものでもないということが。



ただその『繋がり』は、他の思念もこちらに運んできた。
インデックス、そして彼女を介して―――ローラのを。

上条『…………』

インデックスを傷つけたローラ、
そんなあの女へのこれ以上無いくらいの憤りも確かに覚えている。

だがその一方で―――。

上条『(―――くそッ…………!!)』


―――これはどうしたものか。


インデックス経由で、
まるで自分自身のように『ローラ』を体感してしまうのだ。

ついさっき。

五和を殺そうとしたローラに銃口を突きつけた時は、
インデックスと同一に感じてしまって危害を与えることに拒絶感を覚えてしまっていたが、『これ』はそんなものではない。

危害を与えるか否かどころか、こうして銃口を向けておくことも。
引き金にかけている指をそこに留めて置くこともすら厳しい。

410 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/25(月) 23:45:34.81 ID:gzXVTJRMo


そして更に。

どうしようもなく心が震え乱れてしまう。
ローラからの、更にそこにインデックスものが混じったありとあらゆる感情、
それが無秩序に絡み合って増幅して、別の方向から上条を圧迫していく。

急速に蝕んでいく。
上条は揺さぶられ、精神が急速に不安定になっていく。

上条『(ッ……くッ―――!!)』

戦うしか術が無いのに、こうして銃口を向けるしかできないのに、
それすらをも心のどこかでは止めようとし始めている。

だがそれでも、上条は拒否できない。

この繋がりを介されて送られてくる『贈り物』を拒否できない。

何があってもインデックスを拒否できないのと同じく―――ローラの思念を拒否できない。


そんな彼へ向けて。

ローラがインデックスの方を向いたままぼそりと呟いた。


ローラ『―――撃てるのか?』


ついさっきと並べた語は同じでも、その顔は笑みなく無表情で―――声は凍て付くくらいに冷ややかに。

言葉に含まれる意味は何重にもなっていた。
上条と同じように、
インデックス経由で彼の内面を見ているが故に。

そして同じくローラを知る上条が返したのは。


上条『―――……………………撃ちたくはねえ……撃ちたくねえんだよッッ!!』


そんな吐き出すような精一杯の言葉であった。
そしてその声と同時に、ローラへと繋がりを介して彼の意志が伝わっていく。


どうしても撃ちたくは無い、だがそれでも―――それでも必要ならば―――。


―――インデックスのために必要ならば―――。
411 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/25(月) 23:47:07.60 ID:gzXVTJRMo

それは『強さ』だった。
こんな思念を取り込んでもなお垣間見せる、そんな強さ。

ローラ『―――』

そう、これこそ。


インデックスを『守った強さ』。


インデックスを『本物とさせた強さ』。


それを身をもって体感した瞬間、
ローラの奥底からどうしようもない怒りが噴き上げて。

彼女の顔はみるみる、凄まじい形相へとなっていく。


そして一方でプログラムはこう結論する。

幻想殺しをここに残していた場合、
のちの作業に支障が生じる可能性が高いため―――排除せよ、と。


禁書『―――ッあ゛!』

直後、インデックスを持っていた手が無造作に開かれた。
倒れ込むように地に落ちる少女。


それを見た上条、その瞬間にここぞとばかりに叫んだ。


上条『―――行けスフィンクス!!』


すると彼の斜め背後の空間が突如白い光に満たされ。
そしてその中から猛烈な勢いで大きな白虎が飛び出してきた。

上条から分けられた力で、傷を応急的に癒したスフィンクスだ。

そして白虎は一気にインデックスに駆けていき、
ぐったりとしている彼女を尻尾で拾い上げては背に乗せて。

とてつもない速さでこの場から離れていった。
412 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/07/25(月) 23:48:55.73 ID:PyOvZiNa0
キタァー
413 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/25(月) 23:52:06.27 ID:gzXVTJRMo

だがローラは見向きもしなかった。
横を白虎が過ぎ、インデックスを連れ去ってもまるで見えて無いかのように反応せず。

ずっと上条を睨み続けていた。

上条『…………』

そのローラの意図はもちろん、上条は繋がりから把握していた。

結界が破れない限り、この階層からは何人も脱出できない。
そのため、インデックスをどこまで遠ざけようと常にローラの意の中にある。

ローラ自信が結界の恒常的な核であるため幻想殺しは効かず、
彼女が自ら解除するか殺すしか術は無い。

また、インデックスによるスフィンクス強化は、
主契約悪魔である上条があってこそのもの。

つまりローラからすれば今、対応すべき存在は上条のみ。
上条を排除すれば状況は丸く収まるのだ。


そしてそれは上条当麻にとっても好ましいことであった。


上条『…………』


ローラとのこの一戦に全てを集中できるのだから。
414 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/25(月) 23:57:57.25 ID:gzXVTJRMo

しかし、そう好ましいと言える立場でありながら、
上条はかなりの焦燥に駆られていた。

なぜなら。

どうやって戦えばいいのか。
どのようにして、どんな結果を求めて戦えばいいのか。


それがわからないのだ。


これまでで初めて―――戦いの結果を見定められなかった。


今までの戦いでは、
どれだけ困難なものでも常に求める『結果』の形が、上条の中に具体的にあった。

バージルに立ち向かった時でも、
『生きて抜けられたら勝ち』という結果が具体的にイメージできていた。


でも今はそれができない。


上条『―――』


上条にとってこの戦いは、
単にインデックスをローラの殺意から守るだけではなくなっていた。

こうして繋がりから全てを理解してしまっている今、
この戦いはそれ以上の意味を持っている。


これはインデックスを『解き放つ』戦いだ、と。


これは彼女を―――『全て』から『救い上げる』戦いなのだと。
415 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/26(火) 00:00:44.33 ID:V3vwALNVo

先日、ステイルと交わした誓いがこんなに早くに試されるとは思ってもいなかった。
だが心の準備が出来ていなかったわけではない。
むしろ常に覚悟は決まっていた。

しかしそれでも。


その課題に対する答えなんかは用意できてはいなかった。


ローラを倒せばインデックスを救えるのか?
倒すといってもどんな形で?

状況はもう、戦う・殺し合うしか選択肢が無いのだが。


ローラを殺すのか?


―――『姉』を殺してしまうのか?


唯一の―――血の繋がった家族を―――インデックスから奪うのか?


『インデックス』と―――『同一』である存在を殺してしまうのか?


インデックスがあんな顔して―――あんな瞳をして―――頬に触れる相手を殺してしまうのか?


そんな結果で果たして―――『インデックス』を『救える』のか?


上条『―――』

答えはいまだ出ず。
求めるべき具体的な結果は依然、まるでイメージできず。
416 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/26(火) 00:03:04.94 ID:V3vwALNVo


ローラ『お前を殺してやる』


それを『知りながらお構い無し』のローラよって、
そんな『最悪』の状態のまま、上条はついに戦いの中へと身を投じざるを得なくなる。


ローラ『―――お前が―――お前のせいで全部―――』


上条にとって前代未聞、今まで身を投じたことの無い、
目指すべき方向が定められない『未知の戦い』へと。


上条『(―――インデックス、教えてくれ―――俺はどうすれば良いんだ)』


どんな状況でも常に真っ直ぐに、ブレずに進み続けた少年は今。

初めて『迷っていた』。


上条『(―――土御門、お前ならこういう時、どうするんだ?)』


初めて―――芯が揺れてしまっていた。


胸の内で声を放っても、返って来る言葉は無し。

わかっているとも。
こんな厳重の結界の中から誰かに声が届くわけが無いのも。


ただそれでも、上条は声を発し続けた。


上条『(なあ、頼む―――あんたならどうするんだ?)』


一体どうすれば、どうすれば救い出せるのか。



上条『(教えてくれ―――ダンテ)』



―――どうすれば『彼女達』を―――。


ローラ『―――殺す―――殺してやる―――殺してやるクソガキ』


上条『(誰か教えてくれ―――お願いだ)』
417 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/07/26(火) 00:03:43.28 ID:V3vwALNVo
ぶつ切りですが今日はここまでです。
次は木曜か金曜に。
418 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/07/26(火) 00:05:16.57 ID:yhG/sTMIo
乙でs・・・恨む・・・このぶつ切りっぷりを恨み乙!!
419 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/26(火) 00:08:42.45 ID:vFaEOUrLo
お疲れ様でした。
420 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/26(火) 00:50:42.28 ID:zuAK96js0
セブン・ヘルズの中で一番好きなのはヘル・スロウスさんですが、上条くんには傲慢の罪を貼られるのだろうな。
基本絶対的ヤバい状況下でも何でも美味い具合に助けられちゃうのが禁書のお約束だが、今回はどうなる…
421 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/26(火) 06:42:07.72 ID:Ew2UJ+lDO
うおお、続きが気になる終わりかたしやがって……!
422 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) [sage]:2011/07/26(火) 06:47:32.93 ID:rVstfK89o
423 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/07/26(火) 13:35:43.03 ID:oIMxm/nC0
木曜or金曜までこのモヤモヤに耐えねばならんのか乙!
424 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/28(木) 14:59:00.72 ID:rdeUyVBDO
そういえば上条さんはもう消えた記憶を思い出せるんだよな
思い出した後インデックス達に対する思いがどう変化するか気になるぜ
まぁ対して変わらんだろうけど
425 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/29(金) 22:54:16.81 ID:JL1XGdRE0
そろそろ来ると言う電波を受け取った気がする
426 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/29(金) 23:28:29.10 ID:3j+zrRtio

初撃は強烈なウィケッドウィーブ。

ローラの前方、そこの宙空から出現した金の巨大な足は、
凄まじい勢いで上条へと放たれた。

上条『―――』

切迫していた彼にとってはまさに不意の攻撃であった。

ただ意識が追いつかぬとも。
身に染み付いた闘争本能は正確に反応する。

反射的に上条が横にはねた瞬間、
金色のウィケッドウィーブが、一瞬前まで彼が立っていた空間を突き抜けていく。

だがさすがの彼の闘争本能も、次の攻撃までは予測できていなかった。

彼が横にはねた直後、
その両足が地面に付く前―――初撃のウィケッドウィーブが到達するかというところで、二撃目は既に放たれていた。

刹那、上条が前方に見たのは、
高く掲げていた足をその場に振り下ろしているローラ。


上条『―――』

瞬間、真上に『圧』を覚え、
確認するよりも先に左手をかざす上条。


直後、彼の両足が地に着くのと同時に―――彼は真上からウィケッドウィーブに『踏みつけられた』。



427 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/29(金) 23:29:51.98 ID:3j+zrRtio

巨大なヒール型の足先、
その尖った踵が左手に激突する。


上条『―――ッ゛!!』


その重さはまさに『強烈』の一言。

衝撃でその場が一瞬ですり鉢状に窪み、
両足も脛までが地面に沈み込み。

そして光の衣どころか、
その力で形成されている篭手が砕きはがされていく。


上条『―――ッッがぁ゛ぁ゛ッ―――!!!!』


想像を絶する苦痛。
これが魔女の攻撃。

単なる力も強力ながら、更に無数の超攻撃的な術で強化された一撃。

一気に衝撃が魂まで達し、
あまりの振動に意識が切れかけた電球のように明滅。

だがそんな中で上条は何とか、否、上条の意識ではなく、
これまた彼の鍛えられた身が反射的にこの窮地を脱する。

彼はその左手を逆に押し上げるようにして、
自らの身をこの死地から横へと弾き飛ばした。
428 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/29(金) 23:31:56.80 ID:3j+zrRtio

上条と言う『支え』を無くした金の巨大な足が、
すり鉢上の地面に突き刺さり更に破壊する。

それとほぼ同時にその右方、
道路脇の崩れたビルの中に上条は吹っ飛び、更にそのまま数棟を貫通。

テーブルであったであろう残骸を転がり潰しながら、とある廃墟の中でようやく彼の体は制止した。

上条『―――……ごぁぁぁあッッ……!!』

瓦礫の中で膝を付く彼の下には、
身から銀の光の欠片がぼろぼろと割れ落ちいていく。

そして左手から滴る大量の紅の体液。

その彼の左手は、肘から手首にかけて外側の肉がごっそりと削ぎ取られていて。
再生する気配がまるで無かった。

それどころか、ゆっくり肉が溶かされていくかのように徐々に悪化しつつある。

感覚は早くも無く、指先は硬直しきっていて、
握っている拳銃の引き金を絞るどころか手放すこともできない。


上条『ぐッ…………おぉぉおおあああ…………!!』


そんな苦痛に苛まれる中、彼は否応無く確信させられた。

攻撃の瞬間、繋がりを介して伝わってきたローラの意図、
更に実際のその攻撃を受けては確信せざるを得ない。


ローラ=スチュアートは、こちらを本気で―――確実に殺しに来ている、と。


いいや、殺すどころではない。

インデックスを相手にしていた時とは比べ物にならない。
まさに、こちらを『跡形も無く』、『肉片一つ残さず消滅』させる勢いだ、と。


そしてそんなローラの攻撃はまさしく―――。



これでは―――死んでしまう―――。



たったの一撃でも、まともに受けてしまったら―――死ぬ。
429 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/29(金) 23:35:01.17 ID:3j+zrRtio

だが。

彼は怖気づきはしなかった。
むしろ今突きつけられた『死』の確信でやっと、この迷いの中に一つの確かな芯を見出せた。

まずは、とにかく戦うべきだと。

結果が見えなくても、前に出て戦うべきだと。


今、ここで死んでしまうわけにはいかないのだから。


絶対に死んではならない。


―――死にたく無い。


―――ここで殺されてたまるか、ここまで来て終ってたまるか。


上条『―――がぁッ!!クソ!!クソッ!!』


『今の彼』にとっては、今日この瞬間のためにこれまでがあったも同然なのに。


インデックスを全てから『救う』。

そのために生きているようなものなのに。
そのために存在しているようなものなのに。


更に『今』はそれだけじゃない。
今この時、死を突きつけられた瞬間、彼の中でとある願望が噴出した。

ただ単純に『生きたい』、と。

『皆』と、『全て』と、共にこれからをただ『生きたい』、と。


なぜなら―――やっと。


やっと、全てを『取り戻すこと』ができそうだったのだから。
430 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/29(金) 23:37:44.82 ID:3j+zrRtio

土御門、青ピ、吹寄、友達、友達。

父、母、従姉妹、家族。

皆、皆、皆と積み上げた大切な日々を『取り戻せた』のだから。

それらの価値を本当の意味で―――知ることが出来たのだから。

取り戻した自分とこの一年の自分が同じ―――記憶無くとも、魂は同一だったとわかったのだから。


―――己は確かに本物の『上条当麻』だと。


これで、過去の自分を今の自分が剥離しているのでは、
という大きな不安からやっと解放されたのに。


やっと。
やっと。

自分の心に気付いて―――インデックスに伝えられたのに。


そしてその心が―――偽りではない、本物の『上条当麻』のものだと確信できたのに。


この状況でこんな想いを抱くのは、
主観的、個人的、独善的で身勝手な願望なのかもしれない。

それは彼も自覚している。
充分自覚している。

その上で否定もしなかった。

今はもう否定しない、自分自身を偽りはしない。
今まではこんな感情をそのまま受け入れなどしなかったが、これからは違う。

もう記憶喪失の『誰かわからない少年』ではない、本物の『上条当麻』だ。


この自分の持ち物を失いたくない気持ちも。
生きたい、という個人的な願望も全て喜んで受け入れる。


『上条当麻』の欲求を受け入れて何が悪い―――俺は『上条当麻』だ、と。

431 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/29(金) 23:39:10.91 ID:3j+zrRtio

だからこそ。

上条『―――クソッ!!』

こんなローラの一撃、その破壊力を身をもって突きつけられても、彼は怖気づくことは無かった。
困惑し困窮していても、退くことだけは頭に無かった。

迷ったからといって、そこに留まってはいけない。
『ここ』では誰かが助けに来てくれる事は無い。

迷いから脱するには、前に進まなければならないのだ。
泥まみれ血まみれでも、地べたを這いずってでも。


上条『―――チッックショォォォォがァァァァァアアアアア!!!!』


故に彼は戦う。

戦いたくなくても戦う。
戦い方がわからなくとも、前に歩み出て戦う道を選ぶ。


表面的には今までと同じでも、『本質』は全く別の衝動で。


上条『―――ここで死んでたまるかってんだよォォォォォアアアアアア!!!!』


大切な人を救い、取り戻した人生を守り―――そして自身が生きるために―――『上条当麻』いち個人として。



―――だが。


この戦いの果てが、上条にとって好ましいものになるかどうかはまた別の話だ。

少なくとも彼は結果をイメージできず。

そしてローラは途方も無く強かった。


とにかく強すぎた。
432 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/29(金) 23:41:25.37 ID:3j+zrRtio

彼が怒号を放ち立ち上がった瞬間、
何発もの魔弾がビルを貫通して放たれてきた。

上条『―――ッ゛ア゛!!』

その弾幕を紙一重のところで横にはねてかわし。
壊れかけた左手でも何とか拳銃を操り、魔弾を魔弾で撃ち落す。

だがそれでも到底全てを回避できるわけも無く。

頬を掠めていく魔弾。
魔女の技による、小さな擦り傷でも強烈な刺激。

そして直撃すれば。


上条『―――ッッぐッ!!!!』


その苦痛はまさに気が遠のくほど。

わき腹にめり込んだ魔弾はその体内で砕け散り、
魔女の技である『毒』が一気に全身へと拡散していく。

そんな彼の動きが滞った瞬間に、
ここぞとばかりに放たれるウィケッドウィーブ。

上条『ッ!!』

一撃目は全てを横薙ぎにする巨大な蹴り。

足を地面に押し付けて滑らせながら即座に屈む上条、
その僅か数センチ上を抜けて、廃墟ビル数棟をまるごと斬り砕く金色の足。


続けて、またもや間髪入れずの二撃目。

これまた先と同じような『踏みつけ』が、宙に『舞い始めていた』ビル上方をぶち抜き放たれてきた。
ただこれは上条も予測していた。

このために、彼は地面に足を押し付けていたのだ。
そしてそのまま屈めば、自然と『踏ん張る』姿勢へ。

一撃目を避けると同時に、先を見越して次の行動の溜めを行っていたのだ。

彼は上方を確認するまでも無く、一気に前へと蹴り出した。
ほぼ同時に、その体と入れ替わるように地面に叩き込まれる『踏み付け』。

彼はその破壊を背に、猛烈な速度で前へ前へと向かっていった。


上条『―――おおおおおおおおおおおおおおお!!!!』


目指すは当然―――ローラ。
433 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/29(金) 23:42:43.12 ID:3j+zrRtio

と、そのように前へと突き進んでいた時。

ちょうど通りに再び出て、
ローラの姿を目で確認したところであった。

瞬間、彼は針が突き刺さるような痛みを体の方々で覚えた。

その痛みの一つへと目を向けると。
まさに文字通り、針状の細い金髪が突き刺さっていた。

それも何本も、あちこちの地面から出現して、上条をその場に縫い付ける勢いで。


上条『(―――や―――ば―――)』


止まってしまったら最期。
ウィケッドウィーブの直撃を貰って終わりだ。

それは唐突な『死』の確信。


―――否、唐突なんかではない、今ここでは常に隣り合わせになっていたものだ。


前方5mのところに出現するウィケッドウィーブの魔方陣―――。


そして、金色の巨大な足が放たれて。


上条『―――』


―――刹那。


確定的な死に直面して、彼は直感的に。


―――『本能的』に『それ』を解き放った。



―――『竜の頭』を。
434 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/29(金) 23:45:22.24 ID:3j+zrRtio

右腕に重なるようにして出現する、
『オレンジ色』の光を帯びた、半透明の大きな『竜の頭』。

一瞬で魔が退き、全てが普通の人間水準になる上条の体。

そして、彼の身とその周りの空間の全ての術式が破壊されていく。


『ただの毛』となる金髪たち。

上条の体を縫いこんでた金髪は一瞬でその固さを失い、
放たれかけていたウィケッドウィーブは瞬時にバラけて一気に失速。

大量の髪はそのまま、上条に柔らかくぶつかるだけであった。


ただ、これはあまりにも危険な回避方法であった。

上条「―――ぁ―――」

人の身へとなってしまっために、
あまりの肉体の損壊度で彼はショック死に陥りかけたのだ。

だが寸でのところで、竜の頭を引っ込めては魔を再起動。
そして再び面をあげてローラを見据えようとしたところ。

目当ての人物は、予想よりも遥かに近いところにいた。


上条『―――』


彼はローラを目の前に見た。
そしてこちらの即頭部を蹴り飛ばす直前の、長くしなやかな足も。


次の瞬間。


上条の意識は、凄まじい衝撃を受けて一瞬途切れた。
435 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/29(金) 23:47:08.83 ID:3j+zrRtio

今の『竜の頭』で、ローラが使っていた魔女の技の一部に障害が生じてしまっているらしい。
今の彼女はウィケッドウィーブも、魔女の技で強化されている魔弾も使えない。

と、筒抜けの繋がりを介してそれらを把握するも、
今の上条にとっては特に役に立つ情報でもなかった。


とりあえずわかったのは、ただ、一撃では死なない、というだけ。


上条『―――……あ……ぐッ……―――』


魔女の技の障害はすぐに修復できるも、
ローラはそんな時間すら待てないらしかった。

その上、もっと痛めつけて殺したいという衝動もあるのか。


虚ろな目でよろめく上条、
そこにまた、彼の頭部へすかさず放たれるローラの回し蹴り。

重くも耳を劈くような響きと同時に。
放られた人形のように、地面をはねては吹っ飛ばされていく上条の体。

大きな穴を穿っては、
粉塵がぶちあがる中ようやく止まったその刹那。

うつ伏せに倒れ込んでいる彼は、自ら起き上がる必要は無かった。

今の二蹴りの痛みを『痛み』と認識する暇さえなく。
顔面をサッカーボールのように蹴り上げられたのだから。

一瞬で後を追ってきたローラによって。


上条『―――』


海老反り状になって、強引に身を起こされた上条。
ここですかさず、その張り出された腹部に向けて放たれるローラの蹴り。

それも連撃。

当然、彼の体は一瞬で逆の『く』の字状へとひん曲がる。
だがその衝撃で吹っ飛ばされることは無かった。

額を鷲掴みにされていたのだから、吹っ飛ぼうにも吹っ飛べなかったのだ。


ただ、ずっとそのままというわけでもなく。
彼はすぐに解放されることとなった。


その掴まれている顔面へ向けての―――強烈な膝蹴りで。
436 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/29(金) 23:49:07.17 ID:3j+zrRtio

鼻から下が完全に破壊。


上条『ごぁ―――』

漏れる声はごぼごぼと露っぽい音が混じり、
そして彼が見たのは、飛沫と共に飛び散っていく『白い小石』のようなもの。

それが自身の歯だと彼が気付くのは、もうしばらく後になってからだった。


ローラの攻撃はまさに電光石火。


インデックスとの戦いで酷く消耗しているにもかかわらず―――それでも強すぎる。


これがアンブラ魔女のエリート中のエリート、最精鋭の戦士。

元来から有する驚異的な身体能力と、壮絶な修練によって鍛え抜かれた身。
その体から繰り出される肉弾戦は、ウィケッドウィーブや魔弾が無くても圧倒的。


あまりにも壮烈で速すぎて、上条の意識はリアルタイムでついけなかった。


顔の下半分が潰されたこの瞬間でようやく、
自身が殴打されているのだと途切れ途切れの意識の中で『気付いた』ところであった。

またそこに気付いても、彼には特に何かができるわけもなかった。

仰け反り吹っ飛ばされかけたところで、
首に引っ掛けられたローラの爪先で引き戻されて。

再び蹴りと掌底の連撃を叩き込まれる。

体はいまやぼろ雑巾の如き様相。
外界から聞える音はもうたった二種類しかなかった。

動きの節目節目に聞える、ローラの『ふっ』という短い息使い。
続けて、その直後に衝撃をともなって響く、鈍くも爆発染みた激しい打撃音。

そして見えるのは。


血塗れながらも美しく、狂おしいくらいに愛おしく―――身を焦がすほどの激情に染まっている魔女だけ。
437 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/29(金) 23:50:34.81 ID:3j+zrRtio

上条『(―――戦うんだ)』


このままではダメだ―――このままだと―――死ぬ。

上条『(―――抵抗しろ―――防ぐ……んだ)』

受け続けてはダメだ。
こちらも動き、攻撃を防がなければ―――と。

薄れ明滅する意識の中でも懸命に戦意だけを保ち、
闇雲でもとにかく、そのぼろぼろの左手を前に出すも。

その左手首を強くつかまれては引っ張られて、
同時に肩口を踏みつけられては引き千切られて。


一瞬でどこかへと放られて、吹っ飛んでいく左腕。


そして続けざまにかかと落しを受けて、
彼の体は地面に仰向けに叩き込まれてしまう。

上条『(―――……戦う……んだ―――…………戦え)』

それでも彼は前へと進もうと。
人並みの性能しかなくとも、その右手を伸ばした。

だがそれは、ローラからすれば『ささやかな抵抗』にすらならなかった。
右手は完全に無視されていた。

その右手は、
放たれた蹴りの起動にちょうど割り込んでしまって、篭手ごと『切断』。



上条『(―――…………たた…………か……え……)』



左腕と同じように、右手首から先が彼方へと千切れ飛んでいった。
438 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/07/29(金) 23:53:21.98 ID:3j+zrRtio

と、その時―――ローラががくりとその場に膝を付いた。

やはりインデックスに受けた傷がかなり酷いのだろう、
彼女は何度も咳き込んでは、地面に血を吐き散らして喘いでいた。


上条『(―――…………)』


そう、これぞまさに、千載一遇のチャンスではないのか。

―――今なら。

今こちらから打って出れば、なんとかなるのかもしれない。
この迷いから抜け出す、道の先を見出せるのかもしれない。


とにかくここで動けば、程度はわからずともこちらに状況が傾くのは確実。


ただそれは。


上条『(―――……………………今…………な…………ら……)』


彼に動く力が残っていたら、の話であったが。


咽ながらもローラは再び上条を睨みなおし。
両手に持っていたフリントロック式の銃をその場で手放して。

のそりと立ち上がって、ふらつく足取りで地面に転がっている上条のもとへと歩んで。


その体の上に半ば倒れ込むように馬乗りになって、ゆっくりと握りこんだ右手を振り上げる。


今の上条には、そんな一部始終を見ているしかできなかった。
意識がとうとう本格的に消えていく中で、顔面に振り下ろされるその右拳を。


上条『(―――…………………………………………や……………………)』


続けて左、右、交互に、大降りに、振り下ろされてくる血まみれの拳を。


そして。

返り血でみるみる赤く染まっていきながらも、
瞬き一つせず黙々と拳を落としてくるローラを。


―――そのインデックスと同じ顔を。
439 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/07/29(金) 23:54:52.09 ID:3j+zrRtio
またぶつ切りで短いですが、今日はここまでです。
次はできれば明日、無理だったら日曜に。
440 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/29(金) 23:56:24.63 ID:5qP81et6o
お疲れ様でした。
441 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/30(土) 04:57:21.88 ID:ZWDgefeDO
上条さんガチでズタボロにされてんな
442 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/07/30(土) 23:29:01.33 ID:wJf/LOty0
(;゚Д゚)フルボッコ乙
443 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/07/30(土) 23:31:37.29 ID:wJf/LOty0
(;゚Д゚)フルボッコ乙
444 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/01(月) 00:16:11.31 ID:uQ3IzjQho

そんな『外界』の光景と同じく。

内側、消えかかっていく意識の中でも、
最後まで映っていたのはインデックスの姿であった。

彼女の姿を、声を、温もりを。

と、そのように彼女の存在に浸り沈みつつあった時。


上条『(……………………)』


ふと感じる、この意識の内面だけではなく―――『外界』の彼女の存在。
それがひとしずくの刺激剤となり、彼の意識を繋ぎ止める。

いつの間にか、インデックスがこの場のすぐ近くにいたのだ。

視覚でもその姿を捉えようと焦点を合わせると。
インデックスはローラのすぐ後ろに立っていた。

同じく気付いて、その手を止めてゆっくりと振り返るローラ。
上条はその魔女越しに少女の姿をはっきりと捉えた。

修道服はすす汚れて、
打ち抜かれた胸を中心として、胴全体が真っ赤に染まっていて。

胸の傷を応急的に塞いで補強しているのか、
修道服の上から編みこまれている青い髪。


そしてその胸の前に―――子猫の姿へと戻っているスフィンクスを抱いていた。



上条『(―――………………)』


上条はこの光景、
インデックスとスフィンクスの状態がまるで理解できなかった。


どうして。


なぜスフィンクスを元に戻している?


―――その上なぜ。


わざわざ―――なぜここに戻ってきた?、と。
445 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/01(月) 00:16:54.88 ID:uQ3IzjQho


ローラが生ける屍の如くのそりと立ち上がり、
一歩、また一歩とインデックスの元へと進んでいく。

上条『(…………)』

地面を伝わってか、その足音がやけに強調されて聞える。
いいや、確かに感じ取ってるからだ。


その足に篭められるローラの意図を。


上条『(…………)』

逃げろ、離れろ、そう叫びたくとも、
声を発する器官は既に原型を留めてはいない。

だがそれでも繋がりを介して、内側の声は通じているはず。


届いているはずなのに―――インデックスは返事どころかまるで聞えていないかのよう。


その時、唐突にある記憶が鮮明に蘇った。
それはついさっき、インデックスとベランダで交わした会話。


―――俺とお前は一緒だ。『ここ』から抜けるのも一緒だ―――


―――どこまでも一緒。『救われる』時も。『堕ちる』時も―――


なぜ今思い出す、
なぜこれを思い出してしまったのか。
446 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/01(月) 00:17:58.98 ID:uQ3IzjQho

インデックスの前に達したローラが、ゆっくりと左手を上げて。
少女の頬を撫でるように手を伝わせた後、その白く細い首にやや強く添えた。


押さえて固定するかのように。


上条『(…………)』

これから何が起こるのか。
ローラが何をしようとしているのか、それは明らかであった。

だがインデックスは一切抵抗の意思を見せない。
傷のせいか息は荒く肩が大きく上下しているも、表情は穏やかな様子のまま。
胸のスフィンクスまでも同じく。

上条『(…………)』

これではまるで、まるで―――処刑を覚悟して悟った死刑囚のようではないか。

インデックス、どういうつもりなんだ―――?

上条は声にならない声を胸の内で発し続ける。


やめてくれ。

失いたくない。

やめてくれ

死なせたくない。

お願いだ。

インデックス、お前が消えてしまうこことだけは―――。


しかし当然ローラは聞く耳を持たず、インデックスはなぜか反応せず。
そして他の誰かには届くこともなかった。


―――否。


―――その声は確かに届いていた。


ただ、『第三者』ではない。
『外側』の誰でもない。

『内側』だ。


上条の内側―――固く押さえ込まれていた『内なる存在』へと。
447 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/01(月) 00:19:15.97 ID:uQ3IzjQho

瞬間。

上条『―――』

ずくりと蠢く、己が身の深淵。
そして全身を這う悪寒、このおぞましい感覚。

それに覚える非常に強い既視感。
否、そんな漠然としたものではない―――上条は『コレ』を、『前回』をはっきりと覚えていた。

間違うわけが無い。


『コレ』は以前、『デパート』の時に起こった現象と同じ―――『暴走』。


―――『怪物』の表面化だ。


フィアンマの時は出てこなかったし、
特に抑えこむことに意識を向けることも無かった。

デビルメイクライでの修練、そしてトリッシュが『拘束』によって、
この怪物はその存在すら欠片も匂わせなかったのだ。

だか今は違う。


トリッシュの拘束は―――『竜の頭』で壊されてしまっていた。

448 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/01(月) 00:21:18.40 ID:uQ3IzjQho

凄まじい勢いで膨張しては蠢き、
みるみるこの身の中を這い上がってくる。

上条『(―――なっ―――!!!!)』

決壊した檻から噴出して、全身に浸透していくどす黒く濃密な力。

体の感覚はすぐに回復、意識も急激に明瞭になる一方で。
その意識が肉体から剥離していく。


そう、あのデパートの時と同じく『主導権』を奪われるのだ。


確かにこの暴走は、前回と同じく上条を命を繋ぎとめて、
そして比較にならない規模の力を発揮する。

だが、上条は決して歓迎なんかしない。
この状況でも絶対に喜びなどしない。


なにせ、『コレ』はただの怪物。


―――御坂をも―――躊躇わずに殺そうとしたバケモノ。


大切なものを救うために、守るための戦いの場にいてはならない存在。
上条の意志など無視して、見境無くとことん破壊と殺戮を撒き散らす暴虐の塊。


彼自身が最も嫌悪し、そして最も恐れる存在なのだ。


だからこんな状況下にあっても、この『暴走』は助っ人なんかではなかった。
このような『デリケートな状況』で、こんな『無差別の壊し屋』など歓迎できるわけも無い。


彼にとっては、全てをぶちこわしに乗り込んできた『最悪の敵』であった。
449 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/01(月) 00:22:15.26 ID:uQ3IzjQho

怪物は上条の制止などまるで聞かず、
更にその身を蝕み肥大化していく。

上条『(―――やめ―――!!)』

拒否しても、怪物の声は止まない。


―――殺せ、殺せ、皆殺しにしろ。


上条『(―――くるな!!出てくるんじゃねえぇぇぇぇぇぇぇ!!!!)』


それどころか、拒絶すればするほど、
反動とばかりに更に勢いを増す。


―――憎い奴を殺せ、苦しみの元となる奴を殺せ、皆殺せ。


右肘から先以外、その身は悪魔となり、
そして同時に魂も魔として成熟しつつあったからであろうか。

湧き上がる力は、デパートの時よりも更に色濃く遥かに大きかった。
そして伴うどす黒い感情、衝動の禍々しさも。


それ故に今回、彼の身に起こった変化は、前回よりも大きいものとなる。
450 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/01(月) 00:22:50.29 ID:uQ3IzjQho

一瞬にして再生する彼の顔面。

だが全て元通りというわけではなく、
口には鋭い牙、そして色が抜けながら急速に伸びて―――『銀』となる髪。

再生した左手はうろこに覆われていて灰色であり、図太くて隆々、指先には大きな鉤爪。
両足も同じような鉤爪のある獣脚となり。


その一瞬の変化に気付き、ローラが再び彼の方を振り返ったとき、
同時に上条は飛び上がるほどの勢いで立ち上がった。


―――いや、起き上がらされたのだ。


背中から突き上がるように生えた―――二対四枚の翼によって。


右腕は再生しなかたったもの、
そこ以外の様相はやはり『親』たるベオウルフと非常に良く似ていた。

手足と同じくうろこに覆われた羽からは、そのうろこの隙間から銀の光が強く放たれていて。
また全身にもその輝きを纏っていた。


そして瞳は燃えるように赤く。


そんな姿を目にしてローラは思わず、半歩後に下がってしまった。
その多くの感情が入り乱れている顔を、一気に驚きに染め上げて。

なにせこの変貌した上条の力、その規模は。


間違いなく―――大悪魔のそれだったのだから。


451 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/01(月) 00:24:43.30 ID:uQ3IzjQho

傍から見ればこの光景は、
ローラが、上条からインデックスを庇っているようにしか映らなかったであろう。

そこでまた、上条が潰れた声で搾り出した言葉もそのようなものであった。


上条『―――…………逃げろ゛……………………』


続く直後の上条の行動も―――ローラの行動も。

その言葉が放たれたとほぼ同時に、上条はローラに跳びかかった。
そしてローラがそこで反射的にとった行動は。

インデックスの胸元を瞬時に掴み、その体を横に放り投げたこと。

つまり彼女を遠ざけたのだ。

そしてローラ自身は『間に合わなかった』。

直後、彼女の腹部。




ちょうどへその辺りを―――上条の左手が貫通した。



もしこの時、上条の自我が喉と口に影響を及ぼせていたら、
彼の悲痛な咆哮が響き渡っていただろう。

主導権は無くとも、上条の意識は状況をはっきりと認識していた。

この左手の感触。
ずるりと、そのまま体を預けるようにこちらにもたれかかってくるローラ。
そのインデックスと同じ温もり、同じ香り。

そして繋がりを介して伝わってくるローラの内面。


上条『(あああああああああああああああああああ―――)』


それはそれは耐え難い光景、耐え切れない状況―――。
452 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/01(月) 00:27:03.84 ID:uQ3IzjQho

だがそんな彼の意識になど一切左右されず、怪物は淡々と動き続ける。

まずは左手を揺さぶって、ローラの体を引き抜こうとし、次は大きく一振り。
ローラの体はすっぽ抜けて5m程前方へと落ち、弱々しい声を漏らしながら転がった。

そしてそんな彼女の下へと、怪物は歩み進んでいく。

最期のとどめを刺すべく。

上条『(やめろ!!―――やめてくれ!!)』

上条の声に怪物はまるで聞く耳をもたない。
その無慈悲な足を進ませていく。

上条『(―――頼む!!お願いだ!!やめてくれ!!)』


仰向けに横たわっているローラ。
上下するその胸のリズムは不規則で目は虚ろ。

そんな彼女を見下ろして、左手を振り上げる怪物。


上条『(…………お願いだ…………頼む……)』


ローラを殺すのか。
やはり、己はそんな結果にしか辿りつけないのか。


―――『救えない』のか。


しかもこんな形で殺すのか。



こんな怪物の手で―――『最も禍々しいバケモノ』の手で。



と、その時であった。


『(―――だめ、とうま)』


意識の中に声が響いた。



『(―――目を背けちゃだめ)』



それは、今までずっと沈黙し続けていた彼女の言霊。



禁書『(―――拒絶しちゃだめなんだよ)』



インデックスの透き通る声であった。
453 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/01(月) 00:27:54.63 ID:uQ3IzjQho

その声が一筋の閃光となって、
上条の意識内で瞬いていく。


禁書『(―――よく、もっとよく見てみて)』


まさに彼にとって『救い』の声。


上条『(―――)』


彼女は声と共に、
繋がりを介して思念で指し示してくれた。




禁書『(それは決して―――怪物なんかじゃないんだよ)』




上条が『怪物』と呼ぶ存在。
その本質を、今一度よく見てみろ、と。

怪物、それを形成したのは急速に成長していった『魔』だ。
それがデパートのあの時に一気に覚醒したのだ。


ではそのデパートの時、覚醒の種となったものは何か。



それはインデックスを救うという衝動だ。



そして覚醒した存在はただ『それだけ』のために行動した。
454 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/01(月) 00:31:19.93 ID:uQ3IzjQho

そう。

これは同じなのではないか。


上条『(―――)』


つまりは『根』は同じなのだ。


全く同種なのだ。

これは何ら変わらない、上条自身の願い、欲求だ。

これぞ主観的、個人的、独善的で身勝手な願望だ。



禁書『(受け入れるんだよ―――とうまはとうまなんだから)』



―――そう、『拒否』する必要があるのか?



上条『(―――)』


『今まで』の上条当麻は、
『不完全』であったために気付くこともなく、不安で弱かったが故に受け入れられなかのか。


だが今はもう違う。


もう記憶喪失の『誰かわからない少年』ではない、本物の『上条当麻』だ。

『上条当麻』の欲求を受け入れて何が悪い―――俺は『上条当麻』だ、と。

この存在は『怪物』なんかではない、これもまた、失ってしまっていた己の一ピース。
置き去りにして来てしまった上条当麻の『欠片』なのだ。


拒絶する必要は無い。
追いやる必要も押さえつける必要も無いのだ。

あるがままに受け入れるのみ。


そのようにして、『怪物』が上条の意志に重なり沿った瞬間。

怪物は母体へと戻り、『上条当麻』は一つとなり。


―――『暴走』は『暴走』ではなくなる。
455 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/01(月) 00:32:39.03 ID:uQ3IzjQho


こうして。


上条当麻はインデックスを窮地から『救い』。

そして最終的にはインデックスに『救われた』。


だが―――『それだけ』であった。


それ以外は何も、何もかもが不確かでわからなかった。

ここで『インデックスを守った』というのが、ステイルとの誓いが成し遂げられた程のものなか、
それともただ一時的な、この場で完結してしまう程度のものなのか。


それどころか、本当に上条が『救った側』であったのかもすら。


いや、もう一つだけ、わかることはあった。

このまま、ここから続く先にある結果は、
絶対にベストなものにはなり得ない、ということ。


そう、上条当麻は―――『完全』に救うことなどできなかった。


数十秒後。

上条当麻はそこに立っていた。
黒い髪に『右手』を含む五体満足の人の身で。

隣には、彼の右腕に捕まって寄りそっているインデックスがいた。
その胸にはスフィンクス。


そして二人の前の地面には、腹に大きな穴が空いているローラが横たわっていた。
仰向けのその姿勢のまま、虚ろ気な瞳で二人を見上げて。
456 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/01(月) 00:33:46.23 ID:uQ3IzjQho

上条『……』

禁書『……』

腹を貫いた上条の一撃によってか。
ローラとの繋がりはいまやぷっつりと途絶えていた。


だが繋がりは無くとも、その瞳を見れば彼女の意志がはっきりとわかる。


私に近づくな、触れるな、と。


処置を施さなければ、もうすぐにローラは手遅れとなる。
だが彼女はそれを真っ向から拒否していた。

彼女はもう疲れきっていた。
何もかにもに。

蠢く感情と、それを構造的に認められない存在意味。
それらの不和にもう耐え切れなくなっていたのだ

そしてそれがはっきりわかってしまう上条とインデックスはどうしても、
どうしても彼女に触れることが出来なかった。

普段の上条ならば、いつもインデックスならば、
ローラの意志など押しのけて強引に手当てを試みるであろうが。


今は、二人は何も出来なかった。


『知りすぎて』しまっていたのだ。
今までローラが一人で背負ってきた苦痛も苦悩もその全てを知り、
そして壊れていく彼女の内面をまるで自分のように体感した。


だからこそ―――『軽々しく』手を差し伸べることなどできなかった。
457 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/01(月) 00:35:02.12 ID:uQ3IzjQho

ローラ『……………………言ってみろ……』

そんな二人へ、特に上条に向けて、ローラがぼつりと口を開いた。
挑発的に、そしてやり場のない怒りに満ち満ちた声。

それは上条の内面を、記憶を垣間見た上での言葉。


ローラ『…………今までお前がやってきたように……言ってみろ……』


上条『―――』


今まで通りに―――シェリー、アニェーゼ、ヴェントなどにしたように『言ってみろ』。


上条『…………』

上条は何もいえなかった。
ただの一言も。

時として痛みを知らないからこそ、
わかりっこないからこそ、他人事だからこそ言える言葉があるものなのだ。


一方、同じ痛みを知っているからといって、
手を差し伸べられるとも限らない。


むしろ全て知ってしまっているからこそ、何もできなくなってしまうこともある。
458 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/01(月) 00:36:06.69 ID:uQ3IzjQho

声を発する前に、その言葉には相手の中に届くほどの力が無いとわかってしまうのだから。
己の小ささ、不足がはっきりとわかってしまうのだから。

そしてそれをわかっていて『試みる』なんて、残酷なことができるわけがない。

全て知ったその上で手を差し伸べるには、
絶対的な確信とさらなる強さが必要とされるのだ。

上条『……』

禁書『……』

そして二人は、そこまでの強者なんかではなかった。
こうしてお互いを守るだけで精一杯。

それだけでギリギリなのだから。


ローラを救えるほどの強さなんかなかった。



『ローラ』、その人格を彼女自身が認められるほどの―――



ローラ『―――言ってみろ!!―――言え!!!!』



―――『自信』と『根拠』を与えられる力なんか。


上条『……………………』


二人『には』無かった。


そう―――この二人には、だ。

その時。



「―――ああ、私が言ってやる」



ここに『それ』を有する第三者の声が、どこからともなく響いた。
459 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/01(月) 00:37:24.44 ID:uQ3IzjQho

それは力強く張りのある女の声。
発信源はローラの横上の空間、そこに突如浮かび上がった魔方陣。

続けて即。

上条とインデックス、そしてローラがそちらに視線を合わせたと同時に、
その魔方陣がガラスのように砕け散って。

割れた破片の向こうから現れる―――。


「私が言ってやるよ、―――」


―――短い銀髪に、真紅のボディスーツに身を包んだ『魔女』。

魔女は襟と袖の羽飾りを優雅になびかせながら、
かかとで地面を打つように力強く着地して。


そして。

上条とインデックスがどうしても言えなかった言葉を―――。



「―――『認めちまえ』」



あっさりと彼女に捧げた。

たったそれだけ。

それが上条もインデックスも持ち合わせていなかった言葉。

たった一言。

彼女に必要だったのはそれだけであり、
彼女を救えるのはそれだけであり。

そして、彼女にこの言葉を与えられるのは―――。


ジャンヌ「―――さあ、ローラ」


―――ジャンヌしかいなかったであろう。
460 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/01(月) 00:38:33.78 ID:uQ3IzjQho

そこからのローラはまさに、
文字通り毒気が抜けていく様であった。

ローラ「―――」

顔を曇らせていた激情、影はみるみる退いていき。

血走っていた瞳からはその圧が退いていき、
代わりに暖かな熱を帯びて湿っぽくなって。


横に屈んだジャンヌに向け、自ら―――ヴァチカンの時とは逆に自ら手を伸ばして。


ローラ「―――………………ジャンヌさま……ジャンヌさま……」


子が母親を呼ぶかのように、そう何度もジャンヌの名を口にした。
まるで小さな女の子のごとく、純真無垢な瞳からぽろぽろと涙を零して。

ジャンヌはそんな彼女の背に手を伸ばして、上半身を起こし上げてはそっと抱きしめた。

と、そこで。


上条『―――……』


上条の横にいたインデックスも駆け出して、そのジャンヌの胸に飛び込んだ。
ローラと同じように、言葉にならない声を漏らして泣きじゃくりながら。

その光景はまさに母親が姉妹、
いいや、双子をその胸であやしているようであった。
461 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/01(月) 00:41:40.01 ID:uQ3IzjQho

そんな三者の姿を眺めていて、ふと。

上条の脳裏には、ベオウルフから受け継いだかつての記憶が蘇った。
それはダンテがいつぞやに口にした言葉。


『―――こいつは家族の問題だ。他人が口を挟むんじゃねえ』


上条「…………」

これはまさにその通りだったのだろう。
そう上条は、ダンテの言葉に納得した。


アンブラ魔女の鎖は、アンブラ魔女にしか解けなかったのだ。


魔女の痛みに苦しむ者は、魔女にしか救えなかったのだ。


ローラが救われることとインデックスが救われることは同義、
二人が自由となるのは二人が共に解放されてこそのもの、

そしてそれができたのは、魔女の中の魔女、ジャンヌ。

上条だけでは、インデックスの命を守るだけで精一杯であり。
そしてローラは救われず命を落とし、インデックスもまた、
永劫に痛みに苛まれ続けていたことだろう。

上条「…………」

客観的に見れば、インデックスの主契約悪魔として『協力』しただけなのだ。
そう、自身がインデックスを『救った』なんて言うのはおこがましい。

己がインデックスを救い上げたわけではないのだ。

結局誰が勝者だったのか。


それは強いて言えば―――やっと自由になれたローラであろうか。


上条当麻は、盛り立て役とジャンヌが来るまでの時間稼ぎ役でしかなかったわけだ。

上条「…………」

と、今回の自身の立場を再確認するも。

今となっては、彼はそんな誰が勝者だ誰の手柄などといったことなど、もうどうでも良くなっていた。
どうでもいいではないか。

困りがちながらまんざらでもなさそうなジャンヌ、
そして喜びと安堵で泣きじゃくる二人の魔女。

あの三人の姿をこうして見れたのならば、そんな『些細』なことなど。


『本物の上条当麻』の身となって、その目で―――『家族』と一緒で―――



―――あんなに幸せそうなインデックスを見ることが出来たのならば。



これぞ―――『最高の結果』ではないか。
462 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/01(月) 00:43:06.64 ID:uQ3IzjQho


こうして、ここに『二人の魔女』の清算は終る。


ジャンヌはある程度ののち、二人を落ち着かせてはその彼女達の傷の手当を行った。

応急的なものであるらしかったが、
インデックスは特に無理をしなければある程度の行動は問題はなく、
ローラも絶対安静ながら、命に別状の無い段階まで処置できたとのことであった。

そして四者、特にジャンヌと上条の間で簡単な確認の会話ののち、
それぞれの置かれている状況把握する。

ジャンヌからの神裂に協力して欲しい、という頼みに、
詳しい説明を聞く前にインデックスは快く了承。

ジャンヌはローラにこの場を閉ざしている結界を解くように命じた。


そうして、ここでの一つの戦いが完結する。

だがこれは前座に過ぎない。
ようやく一つ目の演目が終っただけだ。

舞台はここから更に続いていく。


もっと加速して、飛躍的に巨大化していく。


インデックスの清算は終ったが―――『上条当麻』自身の清算はこれからである。


上条「―――」


ジャンヌが構えてろ、と告げた直後。



結界が解けた先、そこには―――更に大きな『戦場』があった。



―――無数の『天使と悪魔』が入り乱れる『戦場』が。



休息など与えられない。
次の戦いは既に始まっていた。


―――
463 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/08/01(月) 00:43:34.80 ID:uQ3IzjQho
今日はここまでです。
次は水曜か木曜に。
464 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/01(月) 00:44:18.98 ID:Mw9byFj3o
お疲れ様でした。
465 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/01(月) 00:51:07.51 ID:bUGCKKeDO
乙でした!!!!
今回も楽しませて読ませていただきました
466 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/01(月) 01:05:52.64 ID:iZLAYrsDO
ベオ条さんがスーパーベオ条になったか
インデックスとローラが救われてなによりだ
467 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/08/01(月) 04:26:23.53 ID:KwobJFpAO
ついに大悪魔クラス到達か
乙カレー
468 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/01(月) 09:15:38.77 ID:iZLAYrsDO
上条さんジャンヌのこと知ってんのかと思ったが、インデックスとローラと意識共有してたからそこで知ったのか
469 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/08/01(月) 12:17:28.36 ID:TgredUM20
お疲れ様でした。

かみやんに大悪魔と神様と顎とかみやん自信とアンブレの知識とダンテの一部とが合わさり…
あれ、これなんて言えばいいんだろにゃー?
470 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/08/01(月) 19:51:48.06 ID:Wbd1AjWUo
乙にありけるのよ。まったく焦らされた3倍くらいは読み応えをくれる。乙。
471 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/08/03(水) 10:06:41.11 ID:/77sj58e0
>>469
真名の通りだろjk
472 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/08/04(木) 22:10:41.04 ID:qnNjRMHEo
すみません。
諸事情により今日の投下はありません。
今週中には投下します。
473 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/08/04(木) 22:22:31.54 ID:uCBpqI+Xo
上条当麻は今、神浄討魔へと生まれ変わる

天使として、悪魔として、竜として、なにより、人間として。

大切な人を守るため、全てを救うために。

-----ダンテ「学園都市か」-----

最後の戦いが始まる。











勢いでやった、今は反省していますん
474 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/04(木) 23:29:07.22 ID:zKeMeuCDO
>>472
なん…だと…
475 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/08/04(木) 23:59:47.02 ID:qnNjRMHEo
天使と悪魔の名がここ最近ごろごろ出てきましたので、
それらの整理も兼ねて、ここに大悪魔以上の格の序列を置いていきます。

特上
 アスタロト、魔界十強、マダムバタフライ(ベヨの主契約魔)


 ねこキング、ネビロス、サルガタナス、マダムステュクス(ジャンヌの主契約魔)、
 四元徳、全盛アマ公、スサノオ、トール


 トリグラフ、アラストル、イフリート、トリッシュ、メタトロン


 グラシャラボラス、レラージュ、ベリアル、ケルベロス、アグルド、
 ベオウルフ、ネヴァン、ミカエル省く四大天使、カマエル


※各序列内は順不同です。
※毎度ながらこの序列は大雑把で、また『ある程度』の強さの指標にもなりますが、全てがその限りではありません。
476 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/05(金) 00:32:22.06 ID:0zsR6SaDO
マダムバタフライは特上かー。まぁ当然か
つかマダムさん手足召喚であれくらいデカイと全長どんだけだよと思う
http://www.youtube.com/watch?v=XdQAHbS9c44
477 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/08/05(金) 01:29:01.79 ID:2gcTmhzCo
イーノッk……メタトロンはアラストル達と同じレベルなのなー。
478 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/08/05(金) 12:39:39.81 ID:UbR1UZm70
某格ゲーにも核ゲーにもなる∞なゲームのランクみたいなものなのでしょうね。
あれもランクが大雑把な指標にしかなってないキャラが結構いますし。

しかし我らが慈母は上か。となるとアレに勝てたのは味方に恵まれてたんですなぁやっぱり。
479 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/08(月) 00:10:03.73 ID:vd+ibBego
―――

レディ「…………」

薄闇の街の中で、
レディはバイクに跨ったまま佇んでいた。

周りには動くものの気配は無い。

道路にはちらほらと、
通りすがりに殺してきた悪魔達の死体。

目に見える魔界の痕跡はそれだけで、
それすらも今、風化して散り消えつつある。

聞えるのはその小さな破砕音と冬の風が抜ける音、
そして股下のエンジンの鼓動のみ。

あの悪魔達の探し物は、やはりここには無かったようだ。

そのように一応の収拾と考えて、
トリッシュがいる病院へと戻―――ろうとしたその時。


レディ「―――しまった」


彼女は一つ、
自身がとてつもない『判断ミス』を犯してしまったことに気付た。


それは今まさに意識を向けた先、そう、病院にいる彼女―――トリッシュの危機に。
480 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/08(月) 00:12:21.15 ID:vd+ibBego

どうして気付かなかったのか、
そこに思い至らなかったのか。

普通に考えていれば容易にその危険性を想定できたはずだ。

確かにあの悪魔達にとっての『探し物』はトリッシュではない別の存在であろう。

そもそも五和を追ってきただけで、
学園都市に来るつもりでも無かったのだろうから。

しかし。

だからと言って見過ごすはずが無い。

魔界にとって宿敵中の宿敵のダンテ、その彼に最も近しい存在。
それが今、歩行すら満足にできない手負いの状態。

これを好機と呼ばずして何と呼ぶ。

そしてあそこまで統制の取れた『軍』、組織ならば、
トリッシュほどの『大物』にむやみに下等悪魔など差し向けない。

大物には当然、大物を―――。


レディ「―――」


―――トリッシュと並んでも見劣りしないような、強大な『大悪魔』が直にやってくるはずだ。

直後。

彼女はとてつもない圧迫感を覚えた。
もちろん視線の先、街向こうの病院から。

それはもちろん、経験上間違いなく―――。


レディ「やばい―――」


神の領域の存在、大悪魔が人界に出現した印であった。



レディ「―――トリッシュ!!!!」


―――
481 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/08(月) 00:13:06.36 ID:vd+ibBego
―――

ステイルであろう力の放出から始まって、
今は次々と消えていく悪魔の気配。

一体何が起こっているのか。

トリッシュ「……」

それを把握する術は、今のトリッシュには無かった。
立って歩くことすら厳しい彼女が、この流れに加われるわけも無い。

だが、だからといって何もすることがないという訳でもない。
わかる範囲の状況だけを見ても、やっておくべき事は山ほどでてくる。

体を包むようにシーツを羽織って彼女はゆっくりと、あちこちに手を付きながら立ち上がり。
壁伝いに体を支えながら、ドアの方へと向かい。


トリッシュ「ねえちょっと」


開け放っては頭だけを出して、
廊下の先にいた黒服の男に声をかけた。

「何か?」

そして近づいてくる男に向けてこう続けた。


トリッシュ「あなた達、ここから離れた方が良いわよ」
482 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/08(月) 00:14:20.15 ID:vd+ibBego

「なに?」

トリッシュ「はやく離れて」

「…………いや……」

トリッシュ「命令を受けてるのはわかるけど、ここはもう安全地帯じゃないわよ」

トリッシュ「あなた達の手に負える状況じゃないから」

続けざまのトリッシュの言葉に、
黒服の男は明らかに対応しかねているようであった。

そこで更にと彼女は畳み掛けていく。

トリッシュ「とりあえず上と話をさせて」

「待て、いや……」

トリッシュ「早くしなさい。ほら。ほら早く」

ここまで衰弱していてもやはり大悪魔、
ちょっと語気を強めると、人間であるこの男は簡単に陥落した。

急かされ、慌てた手付きで通信機を差し出してくる黒服の男。
彼女はそれを近くに持っていき、そして呼びかけた。


トリッシュ「指揮系統、ちゃんと機能してる?あなたの上はどう?」

『…………な…………何?』

開口一番から、単刀直入に本題に切り込んで。
483 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/08(月) 00:15:31.60 ID:vd+ibBego

トリッシュ「今、外で何が起こってるのかわかってる?」

『か、確認中だ』

トリッシュ「どこに?だから指揮系統機能してる?上とちゃんと話できる?」

『…………どこも混乱状態だ。まともに機能しているとは言い難い。だがそれとこれは別だ。我々は命令を受けている』

トリッシュ「じゃあこう言えばいいかしら。もしここで戦闘が始まったら、あなた達は邪魔になるの」

『………………』


トリッシュ「私が何者なのかは大体わかってるでしょ?ねえ?悪いことは言わないわよホント」


『…………良いだろう』

トリッシュ「この病棟、私以外にいる者は?」

『他の患者は3名、医療関係者15名と我々が90名』

トリッシュ「……そう、急いで。とにかく早く」

『了解』
484 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/08(月) 00:17:58.05 ID:vd+ibBego

そのようにして、
ひとまずこの病棟の人間達を災厄から遠ざけるようにして。

トリッシュは部屋の中へと戻り、
再びベッドに腰掛けては窓の外へと目を向けた。

トリッシュ「……」

闇に包まれている第七学区の街並み。
さっきまでの騒乱が嘘だったかのように、今や静けさが戻りつつある。

だがこれは嵐の前の静けさ、いいや、台風の目に入ったようなものだろう。
この街が置かれている状況を考えると、この静けさが再び壊されるのは目に見えている。

今これは、ほんの僅かな一時の休憩でしかないのだ。

そして。


その『休憩』は、やはり唐突に。


トリッシュ「―――」


それでいながら非常に『静か』に終った。


ふと気付くといつの間にか。
この病室内、ベッドの前に『白い鳥』が立っていた。
485 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/08(月) 00:19:57.43 ID:vd+ibBego

頭の高さは1.5m程度、
そのスリムで首が長い体型は、人間界で言えばコウノトリに似ているか。

ただ似ているのは全体的なシルエットだけであり、
細部はかなり異なっていたが。

体表は羽毛ではなく白亜の鱗、長いくちばしにはノコギリのような牙が連なり。
目の周りの赤い縁取りによって、より強く強調されている赤く輝く瞳。

そしてトリッシュももちろん、
これがただの『大きなコウノトリ』なんかではない、というのはわかっていた。

それどころか、これが『誰』なのかをも知っていた。


なにせ以前。


トリッシュ「……………………懐かしい顔ね」


かつて魔帝に仕えていた頃に、何度か顔を合わせたことがあるのだから。
ぽつりと呟いたトリッシュ、対してそこに『コウノトリ』がこう返して来た。

魔界の言語で。


『―――以前会ったのは最近の事だというのに「懐かしい」、ですかな』


かすれしわがれながらも、これまた魂までよく響く声で。


『すっかり人間の時間感覚に染まっておりますな―――トリッシュ殿』



トリッシュ「何の用かしら。―――『シャックス』」



シャックス『そうですな、ひとまずは我が大公―――アスタロト様のもとにご同行を』

486 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/08(月) 00:21:52.58 ID:vd+ibBego

アスタロト配下の大悪魔の一柱、
シャックスはそう丁寧に告げてきた。

だが丁寧なのは表向きだけ、その実は拉致目的の脅迫だ。


『拉致』―――そう、スパーダの息子ダンテに対する『人質』とするために。


トリッシュ「…………」

随分と卑怯姑息な考えだが、トリッシュ自身だって、もしこの連中の立場ならこうする。
あの最強たる男を排除するためならば、手段を選んでなど入られないのだから。

そもそもトリッシュ自身がかつて、
似たような魔帝の策略の中でのその『実行役』であったのだから。

ただ、その事情がわかるのと、それに従うのはまた別の話だ。


トリッシュ「悪いけど、お断りするわ」


彼女はさらりと即答。
またその答えを予期していたのだろう、シャックスも同じくすぐに声を返して。


シャックス『ですな。では―――』


そして次の瞬間。
この魔鳥は、トリッシュを踏みつけて押さえ込んだ。

トリッシュ「―――ッ!!」

今や、彼女にはそのシャックスの動きが全く見えなかった。

魔鳥はその力の片鱗もまだ出していないにもかかわらず、
彼女は成す術も無く胸を踏みつけられて。

潰れてひしゃげたベッドと共に、床にめり込ませられてしまった。

トリッシュ「―――あ゛ッ!!ぐッ!!」

それでももがき、何とかして抜け出そうとするも。


シャックス『ネビロス殿からも、出来るかぎり丁重にと仰せつかっておりましてな』


シャックス『無用な抵抗は止めて頂きたい』


もう一方の鳥足で彼女の顎を掴み、そう告げるシャックスの言葉通り。
無駄な抵抗でしかなかった。
487 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/08(月) 00:23:15.12 ID:vd+ibBego

とその時。

この騒ぎの音を聞いたのか、
武装した黒服の男が二人、ドアを蹴破って飛び込んできた。

「―――ッ…………」

しかし何かをできるわけもなく。

トリッシュ「―――行って!!離れなさい!!」

大悪魔の姿を目にしてその場に硬直してしまった。
トリッシュの声に従うどころか、銃を向けることすらままならず放心状態に陥り。

耐えかねて、ぶっつりと魂の糸が弾け切れて。

二人ともどさりとその場に『斃れた』。

シャックス『なんともまたすぐに息絶える命。まことながら、人界とはまさに弱者の世ですな』

それをシャックスはあざ笑った。
目を細め、不気味に瞳の輝きを揺らがせて。

トリッシュ「―――ッ!!ああッ!!!!」


シャックス『何を憤っておられる?まさか人ごときの死に?』


そして相変わらずの丁寧な声色でありながら、
挑発的にそう言い放った―――その時。


この魔鳥が口にした『弱者の世』という言葉に『反論』するかのように。

窓の向こうから飛び込んできたロケットランチャーの弾頭が、
このシャックスの胴体に食い込んだ。
488 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/08(月) 00:24:31.55 ID:vd+ibBego

この弾頭の飛翔速度は、
大悪魔であるシャックスにとってはまさに『止まっている』といえる程度のものだろう。

しかしこの時、シャックスは回避どころか直撃するまでその弾頭に気付いていなかった。

弾頭に施されていた非常に高度な術式、そして使用者の技術によって、
魔鳥はその破魔弾の飛来を感知できなかったのだ。

これぞ人間のデビルハンター、その最高峰の技だ。

シャックス『―――』

横から弾頭を叩き込まれたシャックス。

その魔鳥の体は、ドアを突き破り廊下の反対側まで吹っ飛ばされ。
続けざまにその向こうで弾頭が起爆。
轟音が轟き、病棟全体が大きく振動。


そしてその爆轟の最中、窓の外から―――


レディ『―――トリッシュッ!!生きてるッ!?』


―――レディが飛び込んできた。

砲口から煙を引くランチャーを手に。
倒れている二人の黒服の男の首に指をあて、
手遅れだということを確認したのち、トリッシュの元へと駆け寄って。

レディ「―――行くわよ!!ほら!!」

彼女の返答など聞く間もなく、
そのシーツに包まれた体を乱暴に持ち上げて左肩に載せ。

入ってきた時と同じく、
5階の高さをものともせずそのまま一気に窓に走り飛び降りた。

ランチャーの先端についている大きな刃を病棟の外壁に突き立て、
ブレーキをかけて地面へと降り立つレディ。


レディ「ッッッシァ!!少しダイエットしたらッ!!」


トリッシュ「うるさい!もう腕一本削ってるわよ!!」


そんな風にようやくの言葉を交わしたのち、
道路に止めてあったバイクに飛び乗って。
トリッシュを背に、アクセルを噴かしてはバイクを闇夜の街に放った。
489 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/08(月) 00:27:04.12 ID:vd+ibBego

どこへ行けばいいのかはわからないが、
とにかく離れるべきだった。

あの大悪魔の意識外に離れることさえできれば、
後は悪魔祓いなり結界なり張ってひとまず隠れれば良い。

大悪魔相手に、戦うことはまず考えないことだ。

レディ「あれはシャックスね!?」

トリッシュ「そうよ!」

レディ「チッ!!」

それにシャックス、となればかなり高位の大悪魔。
諸王にも数えられるアスタロト配下の大公爵。


トリッシュを守りながらどうにかできるような存在ではない。

先ほどの渾身の一撃も、その手ごたえはかなり鈍かった。

確かにあの時、レディは完全な不意をついた。

だがその上で、
着弾の直後にシャックスは何らかの対応をしていたようであった。

炸裂の衝撃によるダメージは追わせられたものの、
その後の継続的な力の障害、つまり本命の作用である対魔の『毒』は浸透はしなかったのだ。
490 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/08(月) 00:29:10.94 ID:vd+ibBego

レディ「ねえ奴の!!シャックスの戦い方は!?」

トリッシュ「わからない!でも扱える力の規模は大体知ってるわよ!」

レディ「どんくらいよ!?」


トリッシュ「―――私と同じくらい!もちろんバージルにやられる前の!」


そうトリッシュが告げた直後、後方の病院の方角から。
耳を劈くような、この世のものではない『鳥の咆哮』が轟き。

トリッシュの言葉を裏付けるかのように放たれてくる、諸王たる圧倒的な力。


レディ「―――あはッ!!」


レディは笑い声をあげた。
デビルハンターとしての狂気染みた高揚と、
一介の人間としての恐怖が入り混じった笑みを浮べて。

後方の大悪魔によって、この界が軋み捻じ曲がっていくのを肌で覚えながら。


レディ「―――やっっっっばいわねッッ!!」


そしてその時、通りの先に更にもう『一つ』。


レディ「―――」


『それ』がいた。


新たなる別の―――『二体目』の大悪魔が。


レディ「………………………………はっ。畜生が」

バイクを横滑りさせて強引に止まり、そうレディが吐き捨てた通りの向こう。
闇の中、50m程先にて、赤い瞳の異形が悠然と立ちふさがっていた。
491 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/08(月) 00:30:36.42 ID:vd+ibBego

鼻先から尾の先まで5mほどの巨躯。
その体は、翼を生やしている獅子の上半身に鳥の下半身を繋げたような、
人間界の視点からすれば奇妙な造形。

獅子の『たてがみ』に見える部位は、
よく見ると硬質な角上の者が連なって形成されており、うねり揺れては不気味な音を断続的に響かせていた。

その姿を見て一言。


トリッシュ「……『イポス』、ね」


トリッシュがレディの後ろでそう、この大悪魔の名を呟いた。
これまたアスタロト配下、ネビロスの僕である強大な一柱。

レディ「チッ……さーて、どうしようかしらね」


まぎれも無い『大悪魔』。


トリッシュ「気をつけて。奴は真正面から来る『戦闘狂』よ」


レディ「…………」

真正面からくる戦闘狂、
しかけ無しの純粋なパワー型、真っ向肉弾戦タイプとなれば、
こちらにとってまさに『戦闘の相性』は最悪。
492 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/08(月) 00:32:29.95 ID:vd+ibBego

レディ「………………トリッシュってば随分と人気者ね。さすがにイヤになっちゃうくらい」

前方には、まるでこちらの出方を伺っているかのように闇に潜む大悪魔。
後方彼方からは、憤怒の叫びを挙げて力を解き放つ、更に強大な大悪魔―――。


トリッシュ「―――ゴメンなさい」


―――いや、『彼方』なんかではなかった。


トリッシュが唐突にそう謝罪の言葉を口にして。
同時にレディの体を後ろから突き飛ばした。

レディ「―――!!」

残っていた全ての力を使って彼女を押したのだろう、
不意をつかれたレディの体はバ、イクの上から弾き出され15m以上も吹っ飛ばされた。


レディ「―――ッ?!」


すかさず反射的に姿勢を整えて、着地して即座に振り返ると。

バイクの『前半分』が、ピンポイントで『消失』していた。
ちょうどレディが跨っていた所から先が。


そして残った後ろ半分にはトリッシュと。
あの魔鳥―――シャックスが、彼女を押さえつけるようにその背に立っていた。

その光景を一目見れば、今の状況は容易に把握できる。

トリッシュが突き飛ばしていなければ、
己もあのバイクの前半分と一緒に消えていたのだ。
493 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/08(月) 00:34:21.13 ID:vd+ibBego

レディ「……―――トリッシュッ!!!!」


瞬時に足を踏ん張り、
ランチャーの砲口を魔鳥へ向けるレディ。

そんな彼女に対してシャックスは、
トリッシュの首の後ろを足で掴みこれ見よがしに持ち上げた。
見せつけ、かつ盾にでもするかのように。


レディ「ッ…………!!」


彼女には今、できることは何も無かった。

シャックスがトリッシュを捕縛し、
かつ真正面から一切の隙無くこちらを見据えている。

どうしろというのか。

一応、まだ切り札はいくつかある。
かつて若き頃にダンテ相手に使った『肉体強化』、特に知覚の爆発的加速と鋭敏化を促す術などがある。

だがそれでも、相手にできるのは下位の大悪魔一体が限界。
それも相手の戦法にもよる相性にも大きく左右されるし、まずこちらに戦いの主導権があることが前提だ。


一方、今は二体。

それも片方は大悪魔中でもかなり上位の存在。
更に人質がおり主導権は相手側。


レディ「(…………これはもう、ホントどん詰まりってやつね)」


まさしくこれほどの窮地は、
テメンニグルの塔以来の事になるだろうか。
ここに今、彼女は完全に追い込まれていた。
494 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/08(月) 00:36:20.78 ID:vd+ibBego

しかしそれでも。

それでも。

レディ「―――はんっ、クソッタレ」

手に負えないとわかっていても、
このままタダで殺されるわけにも、ましてや見過ごして逃げるわけにもいかない。


レディは『デビルハンター』だ。

大悪魔二体の強大な圧に挟まれても『残念なことに』、
この鍛え抜かれた精神は正常に機能していた。

それゆえにこの状況でも彼女の芯は折れずに、
『人界に仇なす存在を命にかけて排除する』、『父』の裏切りの末にそう誓った信念を貫き通そうとする。

だがその時、痛みに顔を歪めながらもトリッシュが目を細めて示した。
ランチャーの引き金にかけるレディの指、それが徐々に絞られていくのを見て。

やめろ、と。


レディ「―――…………!」


じゃあどうしろと?

まさか見過ごせと?

レディが顔を顰めて目で返すも、
それでもトリッシュは目で止めるよう示す。

そうしている間に、シャックスの足元に浮かび上がる移動用の魔方陣。


それを見て指に力を入れるも、トリッシュも更に強く目で示す。
そしてシャックスに捕まれたままついにその光に沈み始めた瞬間。


レディ「―――」


トリッシュは一言、声を出さずに口だけを動かして『発した』。

「come」、と。
495 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/08(月) 00:37:35.48 ID:vd+ibBego

この一言に篭められた意味とは。

消え行くトリッシュの姿を目にしながら、レディは思考を瞬時に巡らせた。
彼女は今、何か考えがあってあの言葉を残したのだ。

そこで思い当たる解釈は二つ。

恐らくこちら側の助けがここに『来る』、
もしくは後を追って『来い』、だ。

だが今この瞬間は、そればかりを考えているわけにもいかなかった。
なにせ後方には『イポス』。

その大悪魔から放たれてくる殺意を覚え、彼女は振り向きランチャーを構えた。

目当てであるトリッシュを手に入れも尚、
こうして残り、そしてその場を動かずこちらに殺意を向けているイポス。

シャックスに攻撃を当て、一時ながらもあの存在を足止めしたその影響力によって、
『排除すべき脅威』と見なされたのだろうか。

イポスがここに残った理由はまさしく―――


レディ「(………………やる気か)」


―――こちらの抹殺だった。


ただレディが、このイポスと戦火を交えることは無かった。
そして彼女は知る。

トリッシュが残した言葉についての二つの解釈、
正しかったのはそのどちらかではなく、『両方』であったことを。


直後。


レディの前に、彼女の盾になるように―――。


魂をも凍らせる、『絶対零度の魔狼』が空から降ってきた。
496 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/08(月) 00:40:19.50 ID:vd+ibBego

レディ「―――」

強烈な冷気を放って、豪快に目の前に着地する三頭の大悪魔―――その名はケルベロス。

魔狼は着地したのとほぼ同時にレディに背を向けたまま。


ケルベロス『―――ネヴァン、予定変更だ』


ネヴァン『―――仕方ないわねぇ』


それに言葉を返す、
レディの横に優雅に降り立つ、紫の電撃を纏う妖艶な大悪魔。


レディ「ッ―――遅いのよ!!」


ケルベロス『すまぬ。ネヴァンに協力してくれ』

ケルベロス『ネヴァン、彼女の協力の下トリッシュを追跡し、そこにダンテを導け』

ネヴァン『あらぁ、あなたは?』

そのネヴァンの返しに、ケルベロスは少し押し黙り。

正面のイポスを見据えながら静かにこう告げた。



ケルベロス『―――…………奴は古い馴染みでな』

497 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/08(月) 00:41:56.34 ID:vd+ibBego

ネヴァン『……あらそう』

そんなケルベロスの様子を見て、ネヴァンもまた特に詮索せず。
安堵の一方、相手を奪われた悔しさ混じりの奇妙な表情を浮べるレディを連れ、
その場を素早く離れていった。


そして残る、静かににらみ合う巨躯の魔の獣達。
かつて『同じ主君』に仕えていた大悪魔同士。


そんな静かなる空気の中、ぼそりとイポスが声を発した。



イポス『―――「ナベルス」』



それはこの魔狼が『ネビロスの僕』であった時代の名。
対し魔狼はこう。改めて名乗り返した。


ケルベロス『否―――』



ケルベロス『―――ケルベロス。それが現在の我が真名だ』



スパーダの息子、ダンテの僕としての名を。


―――
498 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/08(月) 00:43:08.01 ID:vd+ibBego
―――

そこはどうやらジャッジメントの支部であるようだった。
揃っている設備を見るとわかる。

今はもう見るも無残な様になってはいたが。

一方通行は今、そんな『上半分』が吹き飛んだジャッジメント支部、
壊れた窓枠の上に立っていた。

一方「…………」

眼下には、床に座り込んでいる一人の少女。
大きな花飾りが印象的な、小学生にも思えてしまう幼い風貌の子だ。


一方「立てるかァ?」


かなりぶっきら棒ながらもそう、
彼なりの気遣いの言葉を投げかけるが少女は特に反応せず。

瞬き一つせず身を震わせながら見上げ続けるばかり。

どうやら放心状態に陥っているようだが、それも無理も無い。

こんな状況に突然放り出されれば、
日頃からよっぽど『場慣れ』して図太くないと『普通』はこうなるものだ。
499 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/08(月) 00:43:44.14 ID:vd+ibBego

だがそんな少女の状態など関係無しに、
少女自身を助けるために、この状況下では強引にでも連れ去っていくべきなのだろう。

しかし一方通行は、すぐにその行動には移らなかった。

その状況が大きく変化しつつあったのだから。

どうやら付近の悪魔達がこぞって、
あの光の魔方陣でどこかへと消え去っていっているのだ。

周囲を見回したが、今や悪魔の姿はどこにも無く。
力の『感知範囲』からも次々と反応が消えていく。


一方「(……もォ終わりか?)」

学園都市への脅威は去ったのだろうか、
と思いかけたその時。


状況は更に大きく変わっていった。


それも明らかに―――悪い方向に。


一方「―――――――ッ!!」


『それ』は突然現れた。
とんでもない大きさの反応を、『力の知覚』がはっきりと捉えたのだ。


それも―――あの病院に。
500 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/08(月) 00:46:14.28 ID:vd+ibBego

彼は瞬時に病院の方へと振り返った。

暗い街並みの向こうに小さく見える病棟。

すでに何らかの騒乱が起きているのか、
病棟の一画から粉塵が巻き上がっているのが見える。

間違いなくあの病院に今、とてつもない存在が出現している。

そして続けざまに響き渡る、鳥の鳴き声に似た強烈な音。
身の毛がよだつ、悪寒の塊のような『叫び』だ。

その発信源から覚える圧は、まさに凄まじいの一言に尽きる。
とにかく強烈で巨大。

一方「………………!!!!」


その力の規模の全貌を把握する前に―――己の手に負える存在ではないとわかってしまうくらいに。


だが。

だからといってそんな存在を放っておけるわけがない。

どこの勢力で何者なのかは判断付かないが、
こうしてその圧を解き放っている時点で、少なくとも人間のことなどまるで考えていないとわかる。


行かねばならない。

そして脅威となれば何としてでも排除しなければならない。


『留守の間、学園都市は守る』


デュマーリ島に向かった連中にそう―――約束したのだから。
501 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/08(月) 00:47:39.98 ID:vd+ibBego

ただ、あそこに急行するにも問題があった。
この眼下の少女だ。

彼女もまた、ここに放っておくわけにもいかないだろう。
だが一方で、彼女を安全地帯に送り届ける時間も惜しい。

あのような超越した力というのは、
一瞬の行動の遅れで取り返しのつかない事になってしまう。


一方「チッ…………」

そこで彼は一つ。
自らに課した戒めを例外的に破ることにした。

彼は声を荒げた。
これが、こちらからかける『最期の声』だと心に決めて。


一方「―――ラストオーダー!!聞こえてンだろ!!!!」


どうせモニターしているのだろう、あの少女へ向けて。

それに。

それに先ほどからこそこそと、こちらの様子でも伺っているのだろう―――。


一方「ここにシスターズを寄越せ!!!!」


―――この第七学区内をうろついている妹達のAIMの反応も感知している。


一方「…………」

その近場の反応のいくつかが、
一気にこちらへ向けて動き出したのを把握したのち。

一方通行は小さく屈み、こう告げた。

いまだ縮み上がっている花飾りの少女へ―――



一方「―――あばよ。死ぬンじゃねェぞ」



―――バカな『クズ仲間』に守ると誓った、この学園都市の『1ピース』へ向けて。


そして次の瞬間。
彼の姿は、現れた時と同じく音も無く消えた。


―――
502 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/08/08(月) 00:48:21.55 ID:vd+ibBego
今日はここまでです。
次は火曜か水曜に。
503 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/08(月) 00:49:18.11 ID:n2tRwL/3o
お疲れ様でした
504 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/08/08(月) 00:49:40.87 ID:hhXgeIXY0
うひょぉぉぉ!盛り上がってきました!今回も乙!
505 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/08/09(火) 00:56:42.39 ID:mv2DzqMr0
(´;ω;`)トリ姐攫われるしエスメラルダ壊れるし・・・レディたん頑張れ
506 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/10(水) 23:16:20.27 ID:rcOslE3Bo
―――

プルガトリオ、とある人界近層にて。

神裂、ステイル、五和の三人の歩みは今、
ローラが敷いたであろう結界に直面して止まってしまっていた。

瞳が赤く輝く神裂は七天七刀の柄に手をかけ、
そんな神裂と背中合わせに、同じく魔の光を仄かに滾らせて熱を纏っていくステイル。
彼ら二人の間にて、魔界魔術を起動させ槍を構える五和。

そして周囲の虚ろに淀む街並み、
ビル壁面・屋上を埋め尽くしていく大量の悪魔達。

ステイル『(…………統率が取れてるな)』

異形の者達の動きを、ステイルはそう見てとった。

悪魔はここに現れた瞬間、迷うことなくすぐに皆こちらを見据えて、
整然と完全なる包囲の陣形を組んだのだ。

その様子は、ここ数ヶ月間イギリスに出没していた悪魔とは全く別物。

かつて学園都市における魔帝の騒乱、
あの時に現れた悪魔達と同じく完璧な統制の下にあるのだ。

個々が無闇やたらに動くことは無く、
一つの生き物のごとく集団が動く様はまさしく『軍』。

507 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/10(水) 23:17:45.43 ID:rcOslE3Bo

そしてこの領域は本来、天界の勢力化にあり悪魔達は存在しない。
つまり、わざわざここまで『何か』を求めてやってきたのだ。

ステイル『……』

こちらと同じくインデックスが狙いか、まず最初にそう思い当たるも、
現れた瞬間の悪魔の行動から見てその可能性は低いと言える。

彼らはここに現れた瞬間、
こちらを即見定めてのあの包囲行動をとったのだ。

ステイル『(となると狙いは…………僕たちか?)』

と、そのような結論に向かいつつあったところ。

ステイル『(いいや………………)』

ステイルは悪魔らの様子の中に、更なる有益な情報を見出した。

それは彼等の意識の矛先だ。

悪魔の戦意は、こちら三人に等しく向けられているも、
本命たる意識の集中点は自身と神裂からは外れていると。

そこにたどり着いた時ほぼ同じくして、
ステイルは背後にいる彼女―――その悪魔が意識を集中させている―――五和の空気が変わるのも覚えた。

ステイル『(……)』

彼女の異常な緊張と困惑を、悪魔の感覚ではっきりと感じ取れる。
そして当然、同じく―――神裂もまたはっきりと感じ取っていたのだろう。


神裂『―――五和』
508 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/10(水) 23:18:51.66 ID:rcOslE3Bo

神裂が五和の名を呼んだ。

表面的には涼やかでありながら強烈な圧迫感と鋭さが滲む、
近しき者達にはわかる非常に『不機嫌』な際の声で。


五和「―――は、はい!」


神裂『―――心当たり、ありますか?』

五和「……ッ!……あり……ます」

神裂『何か?』

五和「…………あ、アスタロトが…………」

神裂『……アスタロトに遭遇したのですか?』

五和「はい……魔女を食すとかなんとかと……それで……あの……………………」

そこで声を僅かに震わせて、五和は言い淀んでしまった。

その震え、そして彼女の醸す空気からステイルと神裂ははっきりと覚える。
五和の身にわきあがる怒りと嫌悪感、そして耐え難い恐怖を。


―――みしっと。

ステイル『…………』

その瞬間、ステイルは神裂の中からそんな『軋む音』を聞いた気がした。
この不機嫌な彼女の中で、滾る激情が更に肥大した音を。

神裂の中でますます怒りがこみ上げているのだ。
己が部下が侮辱され辱めを受けたことに対しての、ごくごく『個人的』な、神裂という『人間的』な怒りを。
509 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/10(水) 23:21:28.48 ID:rcOslE3Bo

ステイル『―――……』

そして怒りはリンクしている使い魔ステイルにも伝播していき、
彼もまたその心を滾らせる。

だがその一方で、彼はこれが―――『楽しくて嬉しかった』。

最も近しき友と感情を共有し、そして共に歩み進めるのだ。

楽しくない訳がない。
嬉しくない訳がない。

他人と距離を置き、孤独な修羅の人生を歩んできたステイル。

唯一、インデックスの内面だけは知ろうとしてきたも、
自身の内面を知られることは例外なく何人からも避け続けてきた少年。

彼は今、『初めて』味わう他者との『繋がり』を強く実感して、気分を躍らせていた。

まるで『小さな子供』のように。


神裂『ひとまずは―――眼前の障害の排除に徹します』


ステイルにとっては『愛おしい怒り』に煮えたぎる神裂が、
悪魔達を見据えたまま口を開いた。


神裂『ステイル』


そして熱気を帯びた語気で彼の名を呼び。



神裂『―――――――――このゲス共を焼き掃えェッ!!!!』



奥底からの激情をまたしても覗かせて命を下す。
次の瞬間、小さく笑うステイルが指を鳴らすと。


ステイル『―――喜んで、僕の主よ』



周囲は灼熱の嵐に包まれた。
510 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/10(水) 23:22:42.56 ID:rcOslE3Bo

火山の噴火の如く、地面から噴き上がる炎獄の業火。
炎が瞬く間に周囲の悪魔たちを飲み込み、
このおぼろげな街並みもろとも消し去っていく。

断末魔をも許さずに一瞬で。

だが、悪魔達の数はこの程度ですべて排除できる程度ではなかった。
文字通り『無数』。

消滅したのは包囲の最も内側だけ、
背後はまだまだ悪魔に覆われた街並みが続いている。

そして彼等もまた、この業火の洗礼を開戦の印と見て動き出す。
炎の壁を力任せに抜け、雪崩のように押し寄せてくる後続。

だが炎の壁を抜けた先には、次の障壁が存在していた。
それは青い光の糸で形成されている網。

神裂が柄を軽く叩くと、周囲の空間に巨大な光の網が出現。

そこに悪魔たちは自ら飛び込む形となり、
次々とサイコロ状に切断されていく。

所詮は下等悪魔、
ステイルの業火と神裂の七閃、その二重の防壁を突破できたものは一体もいなかった。

また神裂達はそこから動く必要も無かった。

用があるのは向こう、
敵意は全てこちらに向いており、ここに集まってきてくれるのだから。

五和「…………」

この過程の中では、五和の仕事はなかった。

彼女は神裂とステイルの背の間で、
この無数の悪魔達の壮大な『殺処分』をただただ見ていた。
511 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/10(水) 23:23:50.64 ID:rcOslE3Bo

と、その時。

神裂『―――』

ステイル『―――』

二人の悪魔は敏感に感じ取った。
この階層、この戦いの場に加わってきた新たなる『勢力』を。

五和「!」

それは五和の目にも見えた。
悪魔達の群れの中、空中、いたる所に突然浮かび上がる『金色』の魔方陣。
その文様は明らかに魔のものとは違い、輝きも禍々しいものではない。

そしてそこから現れた存在もまた―――聖なるオーラを纏う者達であった。

ただ『聖なる』とはしても、その姿は手放しに『美しい』とは言いがたく、
また『平和主義者』でも無かったが。

頭にはどことなく『虚ろ』な仮面を被り、トカゲの如く鉤爪がついた手足。
頭上の光の輪、翼、その色合いや造形は神々しくも『清い』とするには程遠く、
狂気に満ちた退廃的な空気を覚えさせ。


手には恐ろしげな形をした―――金色の槍や剣。


これが、人々が思い描いてきた像とは違う、『本物の天使』の姿。
血肉で形成された器を有す、『生きている天使』の真の姿。

五和「―――」

そんな天の者達の姿を目にした瞬間。

五和はどくり、と。

手に握る槍から―――アンブラ製のフリウリスピアから『鼓動』を覚えた。

魔女の手で作られた槍が静かに熱を帯びていく。
まるで―――『目覚めた』かのように。
512 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/10(水) 23:24:50.90 ID:rcOslE3Bo

この天使達の出現に、悪魔達も一瞬動きを止めた。
しかしそれは動揺でも驚きでもなく、新たな敵を見定めるための制止。

故に、流れが止まったのは僅か数秒間。

またそれは天使達も同じだった。
一拍の間ののち、戦いは新たな勢力を交えて何事もなく再開する。
天使と悪魔との間でも、問答無用とばかりに衝突が始まった。

瞬く間に戦場は完全な乱戦状態へ。
しかも全勢力が敵同士、三つ巴だった。

神裂達のところにも刃を向け進んでくる天使の一団。

ステイル『……』

ただここまで状況が一変しようとも、
ステイル達がやるべき事に変わりはなかった。

その意思を示すかのように神裂は躊躇いも無く、
迫ってきた天使達をすぐさま七閃でぶつ切りに。

続きステイルもその場から動かずに、変わらぬ手さばきで天魔まとめて滅していく。

だがこの後すぐ。

また一つ状況に新たな変化が起こり、
それが彼等の行動にも変化をもたらすこととなる。


神裂『―――!』


その瞬間。
はるか彼方にて、白銀の光が強烈な圧と共に煌いた。
513 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/10(水) 23:27:25.50 ID:rcOslE3Bo

その光と圧は一つではなく、
複数の存在のものが重なっていたもの。

神裂『(―――ジャンヌさん!)』

ステイル『(―――上条か!)』

そこから、まずよく知っている力を見分け認識する二人。
そして更に感覚を集中させて、上条とジャンヌの傍にあるもう二つの気配も―――。


神裂『―――インデックス!!』


ステイル『―――インデックス!!』


二人は声を揃えてかの少女の名を叫んだ。

間違いない、結界が解かれたのだ。
具体的な過程はとわからずとも四者が問題なく生きているところから、
現在はジャンヌがローラを掌握、インデックスの安全は上条が確保していると判断できる。

そうとなれば、神裂達にとってここに留まっている理由はもう無い。
現状やるべき事柄の優先順位も大きく変わる。


神裂『―――ステイル!!』


神裂は名を呼ぶと同時に、リンクを介して自身の意図を使い魔に送り込む。
すると使い魔は返答する間も惜しんで、
すぐにその地を蹴って、とてつもない速度であの白銀の光の方へと向かっていった。

神裂『五和!!』

次いで五和に手を差し出すが。


五和「(―――…………)」


五和はその手を掴もうとはしなかった。
彼女はこの時、自分の立場をはっきりと悟ってしまったのだ。


自分は現状、この敬愛する主にとって―――『荷物』でしかないのだと。
514 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/10(水) 23:29:34.11 ID:rcOslE3Bo

神裂もステイルと同じように、
人の領域を遥かに超えた速度でインデックスの下へといけるのに、それをしなかった。

なぜか、それは五和のために。

五和がここにいる『せい』で、神裂は五和の体を持ち、
彼女が耐えられる程度の速度でわざわざ移動しなければならない。

もちろん、心優しき神裂は『五和のせい』なんて認識などしていない。

しかし五和は、神裂をこよなく慕う優しき心を有しているからこそ―――そう思ってしまう。

何せ、この悪魔達をここに導いてしまったのも―――自分だ、と。


五和「―――結構です!!」

五和はその手から目を背けるように、
横を向いては槍を周囲の異形へと構えた。

一瞬、戸惑いの表情を浮べる神裂、
だが構わず五和は言葉を放っていく。


五和「行って下さい!!早く!!」


半ば叫ぶようにして。



五和「―――私は『自力で』どうにかします!!」


515 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/10(水) 23:30:57.06 ID:rcOslE3Bo

学園都市におけるアックアとの戦いの際、やっと五和たち、天草式十字凄教は神裂火織と並ぶことが出来た。
女教皇と同じ領域で、彼女の傍で共に戦えた。

しかし追いつけたのも束の間。

それからまた、神裂は更なる領域に行ってしまった。
今までよりも遥かに遠い彼方へ。


人と人ではない存在の絶対的な距離の先へ。


ただ五和はこの時、別にその現実に『打ちひしがれていた』訳ではなかった。


五和『プリエステス―――さあ』


神裂『…………』


魔界魔術の赤い光を帯び、エコーがかかる声。
その彼女には微塵の気負いも無く、己に対する自信に満ちている。

そう、確かに今や、同じ領域では並んで戦えない。

でもそれは一番重要なことではない。

最も重要なのは―――意志が共にあるかだ。

アックア戦以前はまるで他人のような隔たりがあった。
しかしそれ以降は違う。


今は常に共に。


こうして神裂が人の領域を遥かに超えても、意志は共にあるのだから。
516 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/10(水) 23:32:06.83 ID:rcOslE3Bo

そんな五和の様子を見て、神裂はすぐさま彼女の意志を悟った。
この情に厚い主にとって、可愛い部下の内面など今や手に取るようにわかるのだろう。

彼女は静かに、それでいて良く響く声で。

神裂『「残り時間」はわかりますね?』


五和『わかります』


アイゼンが示した残りの人間界時間を確認して。



神裂『では、それまでに―――「私の横」へ「帰還」しなさい』


簡潔明瞭な命令を下した。

多くの言葉を並び立てる必要は無い。
二人の間ならばこれだけで全てが伝わる。


五和『―――はい!!』


五和は強く、そして確かな声を返した。
神裂はその声と意志をしっかりと受け取って。

軽く彼女の背中を叩いた後、人の領域を超えた速度でその場を離れていった。
517 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/10(水) 23:33:26.40 ID:rcOslE3Bo


周囲の悪魔達と天使達もまた、
あの彼方の白銀の光に一斉に反応していた。

悪魔たちはけたたましく吼え、そして天使たちはノイズが混じって聞える声で何やら喚いている。

両勢力ともあの上条とジャンヌ、力の大きさから言って主にジャンヌか、
その強大な魔女の出現にかなり興奮しているようであった。

だがこの戦場がそれで静まるわけも無く。
むしろより一層、乱れ交じり混沌と化していく。


そんな状況こそ、今の五和にとってはかなり好都合であった。


一斉にこちらに向かってこられたら、とても対応できない。
しかしここまで乱戦と化していたら別だ。

神裂やステイルほど力が目立たないという事もあって、
五和に狙いを定めてくる者はまばらにしかいなかった。

本物の魔女の出現をもって皆、五和への関心を失っていたのだろう。
すぐ脇を走り抜けても、悪魔も天使も皆眼前の敵に夢中で気付かないのだ。


五和『―――ふッ!』

あちこちから飛び散ってくる肉片と血飛沫、何重にも重なって響く咆哮と断末魔。
全方位からの刃の衝突による金属音。

その中をひたすら、五和は姿勢を低くして駆けていく。
魔界魔術によって強化された肉体を駆使して、目にも留まらぬ速度で。
518 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/10(水) 23:35:40.89 ID:rcOslE3Bo

彼女の今の目的は、
神裂の命令を果すこと―――人間界に戻り『生きて』主に合流することだ。

そのためには、移動の魔方陣を再び構築しなければならない。
そしてこの作業に必要なのはある程度の時間、つまり敵の手が一定時間伸びてこない、『そこそこ穏やかな空間』だ。


そんな空間を探して五和は、この異形の地獄絵図の中を突っ切っていった。


時たま走り抜ける五和に気付く個体もいた。
しかし彼らが彼女に刃を向ける頃には、すでに『事が終っていた』。

そんな個体を見定めた瞬間、彼女は更に駆ける速度を上げ、槍を携えて突進。

五和『―――ッやァァッッ!!』

相手に構えを取らせる間も与えずに、飛び込むようにその顔面に一突き。

天使の面をぶち砕き、その下の異形の頭部を貫き倒す。
飛び散る破片の下から覗くは、人間の認識からはとても『天使』と呼べないおぞましい顔。

五和はそんな怪物の頭部を踏みつけて、
駆けざまに槍を引き抜きそのまま進んでいく。

そのようにして幾体もの天魔を屠って。

五和『(…………)』

だがいくら進んでも、
目当ての『そこそこ穏やかな空間』はどこにも見出せなかった。

戦場はどこまでも続き、
建物の中までもが天使と悪魔の戦いの場と化していたのだ。
519 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/10(水) 23:36:53.32 ID:rcOslE3Bo

五和『!』

色合いから見て天使だろうか、
空から巨大な屍が降って来、すんでのところで彼女は脇にそれて避けていく。

今や地上のみならず空中も、この階層の全域で天と魔が衝突しているようであった。

しかもこれは、恐らくまだ『前哨戦』であろう。

悪魔達は皆下等、そしてそれと殺し殺されの天使達も恐らく下位の存在、どちらも『雑兵』だ。
そこから普通に考えれば、この後ろには、
双方とも更に強大な力を有する『精鋭』がいると見て間違いない。


となれば。


五和『(―――急がないと!)』


いずれ、戦火が今とは比べ物にならないほどに激しくなるのは必至。
その前に何としてでも『そこそこ穏やかな空間』を発見しなければ―――と、その時であった。


五和『―――』


五和はあろうことか、突然ある場所で足を止めてしまった。
『それ』を目にしては、止まらざるを得なかったのだ。


五和『(……あれは……―――)』



無造作に通りに落ちていた―――『黒い大きな拳銃』を見つけてしまっては。



五和『―――上条さんの……)』


―――
520 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/10(水) 23:38:30.65 ID:rcOslE3Bo
―――


気付くと。

黒い戦闘服に身を包み、アサルトライフルで武装した二人が窓枠に立っていた。
あの天使のような少年が立っていた場所に。

初春「…………」

体格からして若い女だろうか。
ごわついた戦闘服の上からでも、その女性的な体の曲線がわかるし、
何よりも、顔は厳しいマスクで隠れているもその茶髪の髪が―――。

初春「―――」

と、そこで初春は気付いた。
この体格とあの茶髪の髪型、それが『ある友人』に非常に良く似ていると。


そして発された声で。


「―――救助に来ました」


初春「!!」

彼女は確信した。

マスク越しでくぐもってはいるも、間違いなく―――御坂美琴―――

―――と、思いたかったのだが。

大きな矛盾がそこにあった。
何せ目の前には今、『二人』いたのだから。
521 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/10(水) 23:39:44.67 ID:rcOslE3Bo


初春「―――みさ―――」

思わず名を叫びかけたと同時に、
初春はその大きな矛盾を再認識して、声を止めてしまった。

だがその呼びかけは通じていたようで。

まず右側の一人がマスクを脱いでは、ぷはっと息継ぎをしたのち。


「いえ、ミサカはミサカ10032号です。話は後に、今は移動することが最優先です、
 と、ミサカは面倒くさいからどさくさに紛れてごまかしちゃおう」


初春「―――」


御坂とは別人であると、御坂美琴と同じ顔で訂正した。
まるで意味がわからなかったが。

と、そこでまたしても、
別の形で混乱に陥ってしまった彼女に向け、更なる追い討ちが。


「同じくミサカはミサカ19090号です―――」


次いで左側もマスクを脱いで。


初春「―――へ?!え?!……みッッ御坂さんが……み、みみ……え?!」


「―――と、ミサカはわざわざこんな状況で顔を出す必要があったのか疑問に思いますが、
 お姉さまのご友人にアピールアピールでまあ良しとしますか」


これまた、御坂美琴と同じ顔でそんなことを言って。
最後に「にっ」と声に出して、わざとらしい笑みを浮べた。


―――
522 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/08/10(水) 23:41:02.11 ID:rcOslE3Bo
今日はここまでです。
次は土曜か日曜に。
523 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福島県) [sage]:2011/08/10(水) 23:43:37.58 ID:cEr5V25a0
乙です!ミサカ妹あっさりしすぎだろwwwwww
524 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/10(水) 23:50:19.89 ID:onQk5fS3o
お疲れ様でした
525 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/11(木) 00:22:22.86 ID:qDqslmVDO
ベヨネッタでの天使の全体的なイメージは『表情を出さない=心理的な怖さ』を要素として、外装が剥がれた時のコンセプトはその逆で、中身のイメージは宇宙怪獣って設定資料集に載ってた
今回出たのはアフィニティだな…たぶん
526 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/08/11(木) 00:26:34.28 ID:HnFzRDUNo
お疲れ様です。五和、人間代表で頑張ってくれ・・・
527 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/08/11(木) 01:06:16.47 ID:JfldT/0N0
今夜も乙!
528 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/12(金) 19:02:45.20 ID:akexLmRDO
>>430
友達の中に姫神がいると信じる
529 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/14(日) 01:35:36.39 ID:7TUQJcsIo
―――

屈むローラ、その傍に寄り添うインデックスと、
彼女たちを背に周囲の天魔を見据える上条。

そして彼と背中合わせ、間に『姉妹』二人を挟む位置にジャンヌ。

そこ駆けつけてきた神裂とステイルを合わせての、四方を守り固める配置。


神裂とステイルとの合流はあっさりとしたものであった。
二人ともインデックスとローラを一瞥、
ジャンヌと上条に頷いて見せたのち、すぐさま周囲の天魔達に対し始めた。

誰しもが今、話をするよりもとにかくこの眼前の状況を見極めようとしていたのだ。

ジャンヌ「(…………)」

彼女、ジャンヌもまた同じく。
両手からたっぷり力の篭めた魔弾をばら撒きながら、状況を分析していく。

ここ、人界に近いプルガトリオはもともと天界の勢力化。
当然そんな領域であれだけローラとインデックスが暴れれば、
早々にその侵入が天界の知るところとなり。

アンブラの魔女となれば、ジュベレウス派は大きく動く。

内にはまず時間稼ぎのための雑兵を放り込み、
同時に外からは魔女を逃がさぬよう、この階層に『封印』を施す。

その閉鎖が完了次第、魔女狩りに全力を注ぐ、
それがジュベレウス派の考えであろう。
530 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/14(日) 01:37:33.73 ID:7TUQJcsIo

ジャンヌ「…………」

そのようにして、この無数の天使達も説明がついた。
『時間稼ぎのための雑兵』達だ。

それでは、そんな天使達と戦っている―――この悪魔の軍勢はなぜここにいるのだろうか。

彼らの目的はいくつか考えられるが、
どれもにも『説得力があって』ジャンヌには特定できなかったのだ。

ただ。


ジャンヌ「―――幻想殺し!!心当たりがあるのか?!」


背後の少年、
上条当麻は明らかに何かを知っている様子を示していた。


上条「―――こいつらの目的は恐らく………………魔女だ!!アスタロトがそんな事を言っていた!!」


上条少し言い淀んだのち、そうジャンヌの背に返した。
不快な記憶を思い出してしまったのか、顔を一瞬顰めさせて。

そのアスタロトの名を聞いた瞬間。
ジャンヌも『同じく』顔を顰めさせて、嫌悪と怒りが沸々と滲む声で静かに。


ジャンヌ「―――そういうこと、か。把握した」


アスタロトと魔女、
それだけでジャンヌにとっては全てが繋がった。
531 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/14(日) 01:40:30.89 ID:7TUQJcsIo

アンブラの黎明期、契約するとみせかけて大勢の魔女を喰らった恐怖公アスタロト。
アンブラで生まれ教育を受けたものならば、誰しもが知っていること。

大悪魔と契約する際の危険性、その例としてよくあげられている歴史だ。

ジャンヌ「(……)」

この悪魔達、そしてその上のアスタロトの目的が魔女。
そうとなれば、ここからただ離脱するだけではダメだ。

連中はどこまでも追いかけてくるであろう。

かと言ってここで追っ手を潰す、というのもまず困難だ。
相手の規模が大きすぎる。

ネビロスやサルガタナスといった名だたる存在を筆頭に、100を超える大悪魔とそれらの無数の手勢、
そして率いるは覇王に次ぐ力を有する、現在の魔界では紛れも無く『最強』たる十強が一。


そんな存在が率いる一団に比べたら、
かつてアンブラの都を破壊した天の軍勢さえ優しく見えてしまうほどだ。

ジャンヌ「(………………)」

どう思い描いても、ここで正面から潰しあって勝つパターンは見出せない。
背後の者達を守りつつ戦うのは到底不可能。
532 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/14(日) 01:44:10.34 ID:7TUQJcsIo

相打ち覚悟ならば、アスタロトは潰せるかもしれないが、
それでは何も打開できない。

今の状況で、主の死でこの一団が退くことはまず無いだろう。
むしろこの背後の者達を目の敵にし、残りの100の大悪魔に主の仇とばかりに狩り立てるはずだ。

ここで腰をすえて戦うのは得策ではない。
そして『ただ離脱する』ことも。

ジャンヌ「…………」

ただ、八方塞というわけでもなかった。
ジャンヌには別に一つ、
それもかなり有効とも思える唯一の手段があった。


『ただ』離脱するだけじゃ『なく』、徹底的に『撒け』ばいいのだ。
それに今、その作戦にとにかく最適な人材が背後にいる。


ジャンヌ「『ローラ』―――お前の『逃げ足』、少しは役に立たせろ!」


ローラ「―――……!」


『名』を呼ばれての、その気高き同属の言葉。
ジャンヌは傷の汗を滲ませながらも
、確かな表情でしっかりと頷いた。
533 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/14(日) 01:44:53.81 ID:7TUQJcsIo

ローラの力は消耗しきっているも、それも特に問題は無い。
密に繋がっている姉妹―――悪魔と結ばれている妹がいる。

ジャンヌ「―――『インデックス』!ローラを支えてやれ!」

禁書「う、うん!!」

ジャンヌ「他は二人を守れ!」

神裂「はい!」

ステイル「ああ!」

上条「あんたは?!」


ジャンヌ「私を待つな!少し後を追う!」


周囲から押し寄せてくる天魔を吹き飛ばしながらの少ない言葉で、
打つ合わせは完了、あとは決行の号令を下すだけとなった。


ジャンヌ「いいか!私が合図したら行け!」


ただ、今すぐにその号令を下せるわけでもなかったが。

ジュベレウス派はこの階層を閉鎖しつつあり、
アスタロトの勢力も同じようなことをしているはず。

それは言い換えれば、この階層の壁には彼らの意識が張り巡らされているということだ。

こんな状態で抜け出そうとするのは、待ち伏せの罠の中に飛び込むようなもの。
ただでさえ厳しい逃走劇が困難なものへとなってしまう。

しかしここ関してもまた、ジャンヌは考えがあった。
534 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/14(日) 01:46:21.36 ID:7TUQJcsIo

アスタロトの勢力とジュベレウス派。
両方のトップの領域の存在が、この階層のすぐ外に控えているはず。

この事実は当然、ジャンヌ達にとってはかなり不利な材料。
衝突では打開できない状況に追い込まれている、最も大きな問題だ。

ただ。

この材料は、少し利用するだけで一気にこの状況を覆せる起爆剤にもなり得るのだ。

ジャンヌ「……」

ここにはジャンヌ自身も含め、『大物』の意識が集まりすぎている。
この『舞台』は圧迫され圧し固められ、今にも破裂しそうな緊張状態。

そこにもう少し、あと少しだけ刺激を与えれば―――『舞台』は『崩壊』する。

一極集中された何もかもが噴火して、誰の手にも掌握できない状態へとなる。
そんな混迷の絶頂たる瞬間が―――『逃げる側』にとっては最高の出立タイミングなのだ。


そしてこの場に詰める『大物』の一人であるジャンヌこそ―――その『刺激』を放つことも可能。


ジャンヌ『―――出て来いッ!!顔を出しなッ!!!!』


ジャンヌ天を仰ぎながら声を張り上げた。
その身に宿す絶大な力と圧を篭めて。



ジャンヌ『ここで出なければ―――その名が泣くぞ貴様らッ!!!!』
535 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/14(日) 01:46:52.07 ID:7TUQJcsIo

俗に『ステュクス河』と呼ばれる階層を治めるマダムステュクス。
そしてその王たる大悪魔と契約を結び、一心同体となるほどの―――アンブラの長の如き力を有する魔女。

そんな『大物』から挑戦・挑発を受けられれば、同じ『大物』は出ないわけにはいかない。
それも組織の頂点たる者なら尚更だ。


ジャンヌの発した言霊で、戦場が一瞬にして静まった。


全ての天魔が戦闘の手を止め、一斉に後ろへと退いて行く。

ジャンヌから見て悪魔達は左へ、天使達は右へと、
乱戦を仕切りなおすかのように双方が綺麗にわかれて纏まっていき。


―――彼女の呼びかけに応えて『彼ら』が顕現する。


ジャンヌ「……」

ますジャンヌから見て左前方、悪魔の側、
上空に浮かぶ50m近くもの赤い魔方陣。


そしてそこから降臨するは―――金色の矛を手にする『龍騎士』。


―――恐怖公アスタロト。


十強が一、現在の魔界最強の一柱たる存在は。
その目も口も無いクチバシに似た形状の頭部を、一瞥するようにジャンヌに向けて。

幅30m近くにもなる龍部位の翼を羽ばたかせて、地面に豪快に着地した。
536 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/14(日) 01:48:00.93 ID:7TUQJcsIo

上条は『再会』に顔を顰め、
インデックスはローラに覆いかぶさるように抱きつき。

神裂『―――』

ステイル『―――』

神裂とステイルは、アスタロトにただただ圧倒されていた。

現在の魔界の頂点たる存在、そうは頭ではわかってはいても、
やはり体は言い様の無い恐怖に駆られてしまう。
発せられる圧、そこから垣間見える力は絶望的なまでに強大。

まさしく規格外、何もかもを超えてしまっている―――『怪物』。

スパーダの一族や、ウィンザーで垣間見た覇王の力、
ベヨネッタやジャンヌに覚えた感覚と同じものであった。


皆がそれぞれ圧倒された中、続いて今度は天使の側、
その上空の空が金色に輝き始めた。


そして光の直下にて、太さ100m以上にもなる竜巻が巻き上がり。



その渦の中から現れるは―――四元徳が一柱。



―――『禁制』―――テンパランチア。
537 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/14(日) 01:49:08.35 ID:7TUQJcsIo

その姿はとにかく『巨大』、そんな一言に尽きるものであった。


体高は100m近くあるか、
足の無い様から、まさに『城』が浮いている光景。

『城』という表現がしっくりくる胴体、その胸には彫刻のような巨大な顔。

肩から伸びるは、胴ほどの太さもある大木のごとき腕、
手先にはチューブに似た形状の指が四本。

それら全身には豪華絢爛な装飾が施されており、
そして頭上には直径50mにもなる―――光の紋章―――天使の輪。


上条「―――」

禁書「―――」


アスタロトに及ばないも、これまた想像を絶するほどに絶大。
畏怖の象徴・天界の意思たるその姿はまさに圧倒的。

アスタロト、そしてテンパランチア。
これらの存在の前に皆言葉を失い、その場にて身を凍らせているしかできなかった。


ただ一人―――ジャンヌを省いて。


ジャンヌ「ふん」
538 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/14(日) 01:50:53.35 ID:7TUQJcsIo

彼女だけは悠然としたまま、
まるで何事も無かったかのように、この二者を見据えていた。
そしてこれまた特に変わらぬ声色で。

ジャンヌ「テンパランチア」

まず顔見知りの四元徳を見、確かめるようにその名を口にした。
彼女に言葉を返したのは、まずは。


テンパランチア『―――まさに長たるに相応しい面構えよ』


四元徳の禁制であった。
身の深淵まで震わせる、チューバの合奏のように低く響く声、
そして『詩』や祈りにも聞える天界独特の調子で。

テンパランチア『やはりお前は消しておかねばならん。アンブラ最後の守護者、ジャンヌよ』

ジャンヌ「はッ!私はセレッサとは違うから覚悟しな。煉獄に送らずに『その場』で殺してやるよ」

と、そんなテンパランチアにも一切怖気づかない彼女を見て。


アスタロト『―――たまらんね!!たまらんよ!!』


恐怖公が言葉を発した。
その声はまるで人間の好青年のそれのように、甘美で透き通る心地の良いものであった―――が。

しかしそれは表面的な部分だけ―――その下には、
想像を絶するほどに醜くおぞましい欲望が蠢いていた。



アスタロト『―――これほどの魔女に会ったのは初めてだ!!』

539 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/14(日) 01:53:20.80 ID:7TUQJcsIo

ジャンヌ「…………」

そこへ返すはテンパランチア。

テンパランチア『去れ。この界域は天の領だ』

アスタロト『前はな。今は俺の領だ』

テンパランチア『如何なる道理だ。そのような妄言はこの天の領域ではまかり通らぬぞ』


アスタロト『天界屈指の四馬鹿さんよ、この俺がここにいるからここは俺の領に決まってるだろう?』  


テンパランチア『不浄醜穢たる傲慢貪婪の王め』


互いに侮辱の言葉を浴びせあう二柱、
だが実際に刃を交わらせる状態までは至らなかった。

両者ともその応酬の一方、
意識を研ぎ澄まして状況を見定めようとしていたのだ。

ジャンヌ「……」

アスタロトとテンパランチア、双方の有する戦力、
そしてジャンヌの挑発の意図、それらを前に彼らは身長にならざるを得なくなっていた。

もっともアスタロトはどうやら、いや『やはり』と言うべきか、
この緊張を楽しんでもいるようであったが。
540 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/14(日) 01:54:35.88 ID:7TUQJcsIo

そこはともかく、この張り詰めた状態こそジャンヌの狙い通りであった。
そしてここであと一つ。

一悶着起こせば―――舞台は崩壊する。

ジャンヌ「―――」

最後の刺激、それを与えるべくジャンヌがその力を解き放とうとした―――その時。

彼女の手を下すまでも無く、『最後の刺激』がやってきた。
しかもそれは―――彼女が起こすよりも遥かに激しい刺激。


アスタロトの右脇にて、一体の大悪魔が出現した。
赤いマントをすっぽり被ったような風貌の、細身の人型の悪魔が。

ジャンヌ「(ネビロス)」

これまた強大な力を有する大悪魔の出現だった。
だがこの時、かの存在を目にした者は―――特に上条をはじめとするする者達は―――


禁書「―――!!!!」


このネビロスそのものよりも、
彼の腕に抱かれていた『金髪の女性』に意識を奪われてしまった。


上条「――――――――――――トリッシュ!!!!」


囚われのダンテの相棒の姿に。
541 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/14(日) 01:55:50.47 ID:7TUQJcsIo

当然だが、トリッシュは機嫌の良さそうな顔はしていなかった。
見るからにむすりとふて腐り、上条達に対しても短く一瞥するだけ。

ネビロスはそんな彼女をあたかも大切そうに腕に抱きながら。

ネビロス『大公』

アスタロト『ほぉ…………』

アスタロトの脇に進み、トリッシュを見せるようにして少し腕を上げた。
『大公』はその目も口も無い頭をそちらへと向けて数秒間、思考を巡らせているのか沈黙。


そしてその沈黙こそ、『崩壊の始まり』であった。


ジャンヌは確かにはっきりと、
圧力に耐えかねてこの舞台に『亀裂』が走っていくのを認識していた。

もちろんそれは上条達も、具体的にはわからなくとも直感的に覚えていた。

ジャンヌ「―――…………」

テンパランチア『…………』

そして―――テンパランチアも。

今や爆発寸前、全員がスタート位置に立ち、合図を待ち構えているようなものだ。
そこで、これまたわざと聞えるようにしているのか。
アスタロトがわざわざその場の全員にも聞える声で。

アスタロト『……予定変更だ。軍団は待機させ―――「全将」を呼び寄せろ』

アスタロト『俺はサルガタナスと奴の三将と共にあの魔女を』


アスタロト『お前は残り全ての将を指揮し―――』



アスタロト『スパーダの息子――――――――――――その首級を挙げろ』



ネビロス『仰せのままに』
542 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/14(日) 01:58:14.27 ID:7TUQJcsIo


そしてその瞬間『トドメ』が放たれ、この舞台はついに崩壊する。


タイミングを見計らったかのように、
まさに完璧なタイミングで―――三者のちょうど中心に着地した。


ネヴァン『――――――――――――みぃつけた』


紫の無数のコウモリと稲妻を身に纏わせる―――妖艶な大悪魔が。

そして彼女は、ここに―――もと『主』を導く。

更なる大悪魔を三体を引き連れて、『彼』はネヴァンの傍に降り立った。


「HEY―――!!」


燃えるように赤いコートに―――白銀の大剣を背負った『最強の男』。



ダンテ「―――HELLO!!」



スパーダの息子―――ダンテが。
543 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/14(日) 02:00:17.92 ID:7TUQJcsIo

瞬間この舞台は誰の手にも収拾がつけられない程に崩壊。
まるで雪崩の如く、何もかもが爆発的なスタートを切った。

ジャンヌ「――――――行けェ!!!!」

ジャンヌの発した号令、
それを受けて即座にローラの術が発動―――上条達五人の姿はその場から一瞬にして消失。
続きジャンヌも一拍置いて離脱。


テンパランチア『―――――――――ジャァァァァァァンヌッッ!!』


そして地面が割れ砕けるほどの声を発して、
追跡のためその場から姿を消すテンパランチア。

アスタロト『―――はははははははは!!!!』

アスタロトも高笑いを発しながら姿を消し。
この開幕した熾烈な逃走劇に身を投じていった。

ダンテ「…………おーおー、忙しねえ連中だこと。イフリート。あいつらを支援してやってくれ」

上条達を支援するべく、すかさずイフリートも後を追って姿を消し、
周囲の天魔達もこの階層からすぐさま離脱していき。


残ったのはダンテ、その周りのネヴァン・アグニ&ルドラ。
そしてネビロスとトリッシュ。

ただ。

そのままこの階層が『寂しく』なるわけでもなかった。

逃走劇が『レース』ならば―――ここは『リング』だ。

それも史上まれに見る、
間違いなく魔界の歴史にも大きく刻まれる『戦場』となる。



何せ逃走劇の一行が離脱した直後―――ここにアスタロト配下の『全将』―――100を超える大悪魔が一同に介したのだから。



ダンテ「―――へえ。こっちはこっちで充分面白そうだな」
544 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/14(日) 02:02:34.93 ID:7TUQJcsIo

次々と。

周囲の廃墟に点々と顕現降臨していく大悪魔達。
まさしくその光景は、高峰が連なっていくような存在感。

一体、また一体と禍々しき神々が現れるごとに、この階層が大きく軋んでいく。
今やはっきりと音として聞き取れるほどに。


まさに『悲鳴』のように。


しかしダンテの表情は、そのたびにみるみる―――嬉しそうに不敵に『歪んでいく』。


この大悪魔の出現が奏でる『ドラム』の高鳴りに、まるで酔いしれているよう。
とそんな彼の至福の瞬間を一つの声が貫いた。

トリッシュ「―――ねえちょっと!」

ダンテ「ん?」

トリッシュ「ニヤニヤしてないでほら。早く助けなさいよ」


ダンテ「あー、わかってるって『お姫様』」


ネビロス『―――覚悟は良いか?スパーダの息子よ』


そして将が揃ったのをもってネビロスの開戦を告げる言葉、
一斉に身構え戦意を放つ大悪魔達。


ネビロス『―――ここが貴様の死地だ。その首を貰い受ける』

545 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/14(日) 02:04:37.87 ID:7TUQJcsIo


ダンテ「―――ハッハ!俺の人気っぷりはここまできちまったか!!アグルド!!ネヴァン!!」


ダンテの呼びかけに、双子は野太い声と共に剣を構え、
ネヴァンは全身から紫の稲妻と刃を迸らせ臨戦態勢へ。

ダンテは両手両足のギルガメスの歯車、
その魔具が食いつく四つの拳銃を打ち鳴らし、背にあるリベリオンの柄に右手を乗せて。



ダンテ「そうそう、昔からよ、親父の武勇伝を聞くたびに―――」



相変わらずの笑みを浮べながらそんな風に、ふと独り言のように呟き。



ダンテ『―――俺も一度やってみてえと思ってたんだ―――』



そして地面を蹴り、前へと踏み出した。




ダンテ『――――――――――――「大悪魔100柱斬り」ってやつをな!!』




―――その身を魔人化させて。



―――
546 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/08/14(日) 02:05:07.17 ID:7TUQJcsIo
今日はここまでです。
次は火曜か水曜に。
547 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/08/14(日) 02:20:09.07 ID:bT0nxxfVo
乙!
やっぱダンテ来てからの安心感はんぱねぇwwwwww
548 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/08/14(日) 03:21:25.61 ID:FBzXfxByo
ダンテの安定感ぱねえ
549 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/08/14(日) 04:22:20.07 ID:cyecIfc10
安定のダンテさんwwwwww
今日も乙!
550 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/08/14(日) 07:54:39.33 ID:jThXV+6do
SST(スーパースタイリッシュタイム)きたああああああああ
乙すぎて狂っちまいそうだ!!!乙!!
551 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/08/14(日) 08:50:14.29 ID:pn+FELbko
ダンテ、安心力のかわらない、ただ一つの半魔


イカれたパーティーの始まりだぜ!Let's 乙!
552 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/14(日) 09:24:43.27 ID:IrPT0yLDO
やべえダンテ出たら一気に安心した

つか、テンパランチアさん!ヘイロウ稼ぎにはもってこいのテンパランチアさんじゃないですか!
553 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/14(日) 09:31:48.07 ID:DBUJJfcDO
ロダン覚聖と細鳳入手の犠牲者テンパランチアさんじゃないですか!
その後も試し切りの相手お疲れさまです。
554 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/14(日) 09:41:52.55 ID:F1mCRTu70
乙乙乙

つまりブラッディパレスか・・・!
555 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/18(木) 01:16:39.79 ID:eS78azjxo
―――

ジャンヌ「――――――行けェ!!!!」

その声を受けて、上条がインデックスの方に振り返ったとき。
彼女とローラが寄り添い、お互いの力と技術を混ぜ合わせてここから飛ぼうとしていた瞬間。

彼女達二人の向こう、この廃墟と化しているおぼろげな街の遥か彼方に、上条は『その姿』を視界に捉えた。


緑の手術衣を纏い―――男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見える―――銀のねじくれた杖を手にしている者を。


上条「―――」


『彼』、いや『彼女』なのか、それすらもわからないが、
その人物は内面を読み取れない瞳で見つめていた。

上条当麻をただ真っ直ぐに。

一体何者なのだろうか。
この身の悪魔の感覚によると、恐らく人間であるようなのだが―――どことなく―――何かが違う。

魔や天の異界の力が混ざっているわけではない。
しかし何かが違うのだ。

そして上条は、このような存在を前から良く知っているような気がしていた。

その正体は、魂の古の記憶を遡るまでも無く、
つい『数日前』を思い出すだけでもはっきりと認識できる事であったが。

ただこの時は、そこに意識を向けている余裕など無かった。
今はとにかく、この苛烈な逃走劇を乗り越えなければならないのだから。

次の瞬間、青と金の大量の髪が周囲から出現、
上条達を覆ってこの場から離脱させていった。
556 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/18(木) 01:18:00.18 ID:eS78azjxo

ローラのとった逃走方法はこうだ。

ただ直線の速度勝負では追いつかれてしまうため、
混み入ったところをジグザグに移動し、
痕跡を無秩序に方々に残し撹乱させて撒く、というもの。

人間世界でも特に珍しくもない、古典的で単純な方法だ。

ただその逃走ルートは数多の階層を経由していくという、
人間の認識を超えた多次元領域上であったが。

またこの逃走方法は、まさにプルガトリオがうってつけであった。

この狭間の領域内には階層は無数に存在し、全次元全方位どこまでも連なっている。
各界の現世の姿が狭間の虚無に投影されているだけ、そして虚無であるが故にその深さは底無し。

一向はこの最大の迷宮の中を続けざまに飛んでいく。

天界が投影されたと思われる光溢れる野原、穏やかな森や側、
天を貫くかというほどの荘厳で美しい白亜の建築物、月夜の美麗な海。


魔界が投影されたと思われる灰の原、
暗く淀む空、陰湿な密林、溶岩が溢れる包まれている荒野、
そして同じく荘厳でありながら、強烈な不安感と嫌悪感を覚えさせる城や砦、
その建築物の色は白亜から黒曜石のような闇色まで。


更に魔界・天界のみならず、別の異界の投影だと思われる『奇妙』の一言につきる階層、
また、一見すると人間界のものに間違えてしまうくらいに良く似ている階層まで。
557 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2011/08/18(木) 01:18:13.05 ID:EOP+nkwqo
待ってた
558 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/18(木) 01:19:04.50 ID:eS78azjxo

ただ、一向にそれらをゆっくりと観光する暇は当然無かったが。
なにせ各階層での滞在時間は僅か3秒程度。

到着と同時に、ローラとインデックスが即座に囮の痕跡を植え付け、
続けてすぐに次の移動先を設定、そして一行の足元の地面ごと次の階層へと飛ばす。

皆の目に映る風景は目まぐるしく切り替わっていった。


最初のうちは追っ手も大量に続いてきたが、あるものは囮の痕跡で時間を浪費し、
あるものは速度についていけずに取り残され、あるものは見失って行き詰まる。

そのようにして、階層を飛んでいくたびにその数はみるみる減っていった。
追っ手戦力の減少は、頭数の減少に比べれば緩やかなものであったが。

脱落していくのは天魔共に下位の存在から、
つまり言い換えればしつこくついてくるのは猛者ばかりなのだ。

また周りの邪魔がいなくなたことによって、その猛者達がより前面へとその身を進ませて。
彼らを逃がすまいと強大な魔の手を一気に伸ばしてくる。

とある階層に下りた直後。

上条「―――」

ちょうど上条の前方、彼らから60m程の距離にて、赤く大きな魔方陣が出現。
そしてそれを目にした上条が構えるよりも早く。


『ロバの頭部をした翼の生えた獅子』が魔方陣の中から飛び出してきた。

559 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/18(木) 01:21:00.82 ID:eS78azjxo


上条「―――!!」


それはアスタロトの側近サルガタナス配下の三将が一柱、『ヴァラファール』。


紛れも無い大悪魔の強烈な圧、それを纏った狂気の爪が、
一行へと向けてとてつもない速度で迫った。

神裂とステイルにとっては完全な不意、この初撃に対応できるのは上条のみ。


上条『―――おぁあ゛あ゛あ゛!!!!』


そこで彼は考えるよりも早く、躊躇わずにその力を解き放つ。
光が放たれると同時に瞬時に黒から銀へと変わる髪色と、異形の手足―――。

上条はその左腕から伸びる鋭い鉤爪を翳して、『ヴァラファール』へと向けて踏み出した。


衝突する『大悪魔同士』の爪。


その激突の衝撃は神の領域と言うにふさわしく、
たった一撃でこの階層を大きく歪ませていく。

しかしこの両者、ともに同じく大悪魔と呼ぶことが出来るが、
双方の間にはとてつもない差があった。

大悪魔に『成りたて』と、恐竜が闊歩していた時代から歴戦の戦士だった存在には、
当然のごとく天と地の差があるものだ。

560 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/18(木) 01:22:03.19 ID:eS78azjxo

上条『――――――』


肉が内側で張り裂けていく左腕、亀裂が入る鉤爪。
かたやヴァラファールの爪は無傷であり、更にその勢いは弱まることは無い。

爪と爪が激突した瞬間の中、上条ははっきりと悟った。

パワーとその力の密度に差がある過ぎる、この突進を留めることはできない、
確実にこのまま左腕もろとも潰されて―――


―――だが、今の上条は一人ではない。


彼がこの初撃の盾となったことにより、
そこに僅かな時間―――仲間が対応する時間が生じた。


刹那、上条の背中越しから、
『青い髪』の束が一気に伸びてはヴァラファールに押し寄せて行き。

そして左側から炎剣を生やしたステイル、右からは神裂が獅子の喉元へ向けて、
鞘に納まったままの七天七刀を振り抜く。

続けざま、そして同時に重なって響く更なる衝撃。
その四者の一斉攻撃によってやっと、ヴァラファールの勢いはそこで留まった。
561 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/18(木) 01:26:49.37 ID:eS78azjxo

しかし、たった一回の攻撃を退けるだけでこの労力。

神裂「―――……」

上条『―――くッ!!』

強襲が失敗したと見て仕切り直すつもりなのか、後方へと跳ねるヴァラファール。
その姿を目にしながら皆同じ事を思っていた。


このまま格闘戦となるのは避けなければならない、と。


戦闘に比重が偏ること、
それはつまり逃走が疎かになってしまうこと。
同じ階層に留まる時間が伸びれば伸びるほど、追っ手が集まってくる。

だからこそ戦闘は極力避けなければならない。

また重傷の身のローラ、心身ともに消耗しきっているインデックスを考えて、
これ以上のプレッシャーも避けなければならないのだ。

容易に倒せる相手ならともかく、相手が大悪魔となれば尚更だ。
長期戦になりここに縛り付けられるどころか、確実にこちらも消耗してしまう。


選択は移動を続けることのみ。


囮の痕跡を撒く作業は切り上げて、
ローラとインデックスは即座に次の場へと向かう式を構築―――と、その作業が終った直後、
ヴァラファールが再び猛烈な速度で動き出した。

ローラ「―――!!」

そして魔女のウィケッドウィーブが一行を即座に包み上げた時―――その中へと、この獅子も飛び込み乱入。


禁書『―――あッ!!』


次の階層へと『共』に飛ぶことになった。
562 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/18(木) 01:27:52.86 ID:eS78azjxo


上条『なッ―――』

新たなる階層に到達しても、脅威はそのまま。
むしろ脅威はこの瞬間に極まっていたか。

ステイル『―――』

一行の輪の中、インデックスとローラのすぐ前にヴァラファールがいた。

あまりにも近すぎて、
一行全員がこの悪魔に対応することはできなかった。

そう、一行の者達には、だ。


瞬間。


「―――Yeaaaaaaaaaaaaaaah!!!!」


突然、赤い残像がどこからともなく輪の中に突っ込んできて、
この獅子を上空へと弾き飛ばした。

ジャンヌ「Hu-HA!!!!」

その正体は、白銀の光を纏うジャンヌだった。
浮いた獅子の体を、強き魔女は長くしなやかな足で蹴り飛ばして。

ジャンヌ「行け!!次に早く!!」

上条『インデックス!!ローラ!!』

禁書『うん!!』

ローラ「っつ!!」

563 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/18(木) 01:30:47.73 ID:eS78azjxo

ヴァラファールをジャンヌに任せて、一行はすさかず次の階層へと飛んでいく。
しかし逃走劇はまだ始まったばかり。

追っ手は依然激しく、選りすぐられた猛者達が執拗にやって来る。

そしてヴァラファールとの接触から5階層目に到達したとき。

今度は天界の追っ手が出現した。


一行を挟む形で二体。


体躯は3mほど、トカゲのような体に荘厳な装具と仮面を纏い、翼は腰の位置から。
そして手先には―――胴ほどもあろうかという、巨大な鉤爪が三本づつ。

二体ともその造詣はほぼ同じであったが、
片方は黒と白、もう片方は金と白という具合に色合いが異なっていた。

ローラ『…………』

禁書『…………』

その姿を一目見てローラとインデックスはもちろん、
彼女達と繋がっている上条もまた。

上条『―――……』

この存在の正体を一目で判別した。

ジュベレウス派の最精鋭上級三隊、最上位の熾天使、その位の中でも群を抜いて攻撃的すぎる存在。

この眷属は常に双子一組で行動すること、
また彼らの存在はジュベレウス派の『気品と名誉』を示す位置にあることから通称は―――



―――『グラシアス&グロリアス』。



ただその仕事の実体は『破壊と抹殺』―――その戦闘能力は、魔界では間違いなく大悪魔とも呼ばれる領域であり。


まさしくジュベレウス派が誇る―――屈指の『殲滅部隊』だ。
564 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/18(木) 01:32:27.69 ID:eS78azjxo

この存在達もまた、この状況下では腰をすえて戦っては成らないほどに強い。

上条『……』

これ以上の時間の消費、そしてローラとインデックスへのプレッシャーの増加は許されない。
これが神裂・ステイル・上条の、言葉を交わさずとも共通している考えだ。

ここでこの双天使に追いつかれたことだって、ヴァラファールとの接触からのしわ寄せだ。

だからといって、そう易々と離脱もさせてくれない。
強引に行けば、先のヴァラファールとのような状況に陥る可能性だってある。

それに何よりも相手は『二体』もいる。


そこで彼らはこの時、瞬間的にとある判断を下した。

上条とステイルは一瞬、
互いに目を合わせて意を確かめた後。


上条『―――任せる神裂!!』


ステイル『―――行け!!』


上条は黒と白の個体、ステイルは金と白の個体をと、
二人は少し前へ出て見据えた。

二人は、少し後で追っ手を抑えているジャンヌと同じ行動を選んだのだ。

インデックスとローラの護衛の数が減ることになるが、
さっきのヴァラファールとの状況に陥るよりは遥かにマシだ。

それにここにジャンヌが来ないことからも、
追っ手を抑える人手はどうにも足りていないことも伺える。
565 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/18(木) 01:33:14.97 ID:eS78azjxo

またここで離れる人員が上条とステイルなのも、当然のことである。

実質、この一行の指揮を執っているのは神裂であり、
また彼女が一行の中で最も強くて最後の砦としては最適、

そして何よりも、課せられた任によってインデックスの傍から離れる訳にもいかないからだ。

神裂「はい!!のちほど!!!!」

神裂が返事を返し、
インデックスが小さく頷いた後、彼女達三人の姿がウィケッドウィーブに包まれて消失した。

その時、双天使がやはり飛び出そうとしたが。

二人の悪魔が残って相対しているのを見て、腰を低くすえて構え直した。
その胴ほどもあろうかという、巨大な鉤爪をゆらゆらと揺らして。


上条『…………』


この双天使との戦いの後はどうするか、神裂達に追いつくのはまず無理だ。
ルートはローラしか知らず、最終的な行き先は神裂の頭の中のみ。

こちらはこのまま、ここで追っ手を迎え撃ち、
そして状況が収束次第人間界に戻り、
彼女たちの帰りを待つことしかできないであろう。
566 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/18(木) 01:35:16.71 ID:eS78azjxo

と、その時。

双天使と上条ステイルが、互いの挙動に意識を集中させいた緊張の中。


ステイル『…………そういえば君は随分と、「魔界風」に様変わりしているな』


背を向けているステイルがぼそりと口を開いた。


上条『お互い様だろ』


それに同じような調子で返す、『銀髪』に異形の手足の上条。


上条『神裂からはバージルの匂いが強烈にするし、お前からはその神裂とバージルが混ざった匂いがする』


ステイル『はは、確かに。お互い、この短い時間の間に色々あったようだね』

上条『おおよ……有りすぎだぜこんちくしょう』

ステイル『悪態を付くにはまだ早いと思うがね。まだまだ、この後もっと「色々」起こりそうじゃないか』


と、ステイルが小さく笑ったとき。


ステイル『今宵は僕の人生の中で、最も長い夜になりそうだ』


先に動いたのは双天使の方であった。


直後。


『破壊と抹殺』、その謂れにふさわしい暴虐がここに吹き荒れた。


―――
567 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/18(木) 01:36:40.86 ID:eS78azjxo
―――

一行を見送って。

ジャンヌ「…………」

ジャンヌは、蹴り飛ばしたヴァラファールの方へと向き直った。
獅子は60m程の地に着地、こちらへと向き構えを取り直していた。

ジャンヌ「(…………殺しておくか)」

ここまでもついてくるような追っ手は、
できるのならば排除するにこしたことはない。

下位の大悪魔ヴァラファール、この存在を殺すことも、
彼女にとっては別に難しいことでもない。

それに今は一対一。


『容易』だ。


と、彼女はこの獅子を狩ると決めたが。
ヴァラファールの命を刈り取ったのは彼女ではなかった。


その時。


彼女から見て斜め前100mのところ、
金色の魔方陣と共に巨大な竜巻が起こり。


大渦の中から、テンパランチアがその巨体を出現させた。



テンパランチア『―――ジャンヌ』
568 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/18(木) 01:39:21.88 ID:eS78azjxo

テンパランチア『―――逃がさぬぞ。ジャンヌよ』

ジャンヌ「……しつこい野郎は嫌いだよ」

四元徳の出現に、
ヴァラファールが咆哮をあげてその圧を放ったが。

テンパランチアはその圧力などまるで気にもせず、特に関心も寄せず。


テンパランチア『―――邪魔だ』


と一言ののち、ぬうん、と大地が揺さぶられるほどに低い声を漏らして。


ビルの如き巨大な腕を振り下ろし、一撃。


たった一撃であっさりと、ヴァラファールを跡形も無く叩き潰した。


ジャンヌ「……へえ」

一瞬でヴァラファールを殺したテンパランチア、その一挙動の中にジャンヌは垣間見た。
この四元徳の力が、明らかに以前よりも増していることを。

                                                   ヘイロウ
本来は復活したジュベレウスに捧げるために貯蔵していた『 力 』を大量に貪り食い、
決戦に向けて著しく強化しているのだろう。

アスタロトとまではいかないものの、どうやら自身の主契約魔マダムステュクスをも超えていると、
ジャンヌはこのテンパランチアの力を見た。
569 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/18(木) 01:41:07.18 ID:eS78azjxo

ジャンヌ「……」

間違いなく今の状況下では、ゆっくり付き合ってなどいられない相手だ。

ただ幸いなのは、四元徳は色々と『素直』で『鈍い』という点か。
まあこれは天の存在に共通して言えることでもあるが。


テンパランチア『さあ覚悟するがいい!!我が拳!!我が鉄槌を受けてみよ!!』


やる気満々の四元徳とは対照的に、
ジャンヌはため息混じりに呆れ笑って。


ジャンヌ「私はね、面倒くさい野郎も嫌いなんだよ」


そう言い残してはすぐにウィケッドウィーブに包まれて。


テンパランチア『ん!?―――おおお!!?』


この階層から姿を消した。



テンパランチア『―――ジャァァァァァンヌ!!!!』



―――
570 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/18(木) 01:43:24.74 ID:eS78azjxo
―――

人間時間で50分以内に障害を全て排除し、禁書目録を神裂に合流させておけ。
そうジャンヌに命じてから17分が経過していた。

アイゼン『……』

煉獄の中にぽっかりと浮かぶこの『神儀の間』にて、
目まぐるしく移り変わっていく状況をアイゼンは観察していた。

この煉獄から見ることが出来るのは、すりガラス越しにモノを見たくらいのものでしかなかったが、
それでも、今の状況が加速度的に混迷を極めつつあるのはしっかりと把握できる。

ただ。

これは『弟と息子』が割り込んできている以上、仕方の無いことであろう。

状況は予想外の方向に転がってはいるが、まだまだ許容範囲内。
対応は充分可能だ。

ベヨネッタ「―――おっはぁあああん!!」

背後から響いてくるベヨネッタの間抜けな咆哮。
絶頂の腕飾りを装着して、その沸きあがってくる刺激に悶えているのだ。

アイゼン『…………』

ベヨネッタ「―――何コレすんごくキクッ!!前と全然チガウッッン!」

アイゼン『当たり前であろう。我がこの手で新品に等しいほどにまで修繕したのだからな』
571 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/18(木) 01:49:03.37 ID:eS78azjxo

そう背を向けたまま、そっけなく声を放ちながら。
アイゼンはこの混迷きわまる状況を踏まえ、今後の段取りを頭の中で今一度確認する。

残り33分以内に神裂と禁書目録を所定の位置につかせ、そこからまた諸々の準備に要するのが30分、

その準備が整い次第ここ神儀の間にて、
アイゼンとベヨネッタの支援の下バージルが人間界に対して『時の腕輪』を起動。

ここで重要なのが、アリウスによって魔界の口が開けられる前に『時の腕輪』を起動しなければ、
人間界は一瞬にして魔に侵食されてしまうということだ。

『時の腕輪』の起動完了後、次は禁書目録を眼として、
バージルとリンクした神裂によるセフィロトの樹の『切断』作業、これも長ければ数十分に渡るか。

そしてその後は―――といった風に続き。

ベヨネッタ「ッッッッつぁ!!ふッ!!はッ!!」

アイゼン『…………』

背後で悶えている『バカ』に自由時間を与えるのは、その切断以降の予定であったが。
この状況で細かいところまで段取りにこだわっていてはならない。
状況には臨機応変に対応する必要があるものだ。

アイゼン『―――調整、あとどの程度で終りそうだ?』


ベヨネッタ「あー!!あんッ!!20分くらいッ!!人間時間でんッ!!」


アイゼン『ほう。うん、どれ、それが終り次第―――』


この最強の『バカ』を解き放つのもまた一策。



アイゼン『―――少しばかり「試運転」、してみる気は無いか?』



副作用として更に状況を滅茶苦茶にするのは目に見えているが、
痺れを切らしたバージルが向かうよりかは遥かにマシであろう。


―――
572 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/08/18(木) 01:49:58.45 ID:eS78azjxo
今日はここまでです。
次は土曜か日曜に。
573 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/18(木) 02:04:51.54 ID:/LUNRYsDO
ベヨネッタやっと参戦か!
574 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/08/18(木) 12:45:03.15 ID:aLrs2tjzo
乙です。もうやだこの痴女。魔女王どうにかしr・・・この人もダメか・・・
上条さんもとうとうデビルトリガーゲットか。今までのは4のネロみたく半魔人みたいな感じでしょうか。
575 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/08/18(木) 14:10:54.48 ID:n8QKJrmS0
おヨネさんはこのSS唯一のエロ枠です(*´Д`)
576 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/08/18(木) 23:06:02.64 ID:7zXFBQ+c0
>>1はいつでも自分の厨二心をくすぐってくれる。乙!
577 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/19(金) 13:29:14.10 ID:oPo7LaAIO
ダンテきたああああああああ!!!!!
レッツパーリィ
578 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/20(土) 04:22:23.18 ID:JA0ehXxDO
このスレのおかげでベヨネッタ買っちまったぜ!
579 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/08/21(日) 22:56:09.22 ID:cbedvlVro
すみません。
今日の投下は諸事情によりありません。
次は火曜までにはなんとか。
580 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/08/21(日) 23:02:55.68 ID:S8HBnUkV0
>>579
(*´ω`)ゞ了解。無理せずに。
581 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/22(月) 23:50:44.34 ID:Sj63E9310
明日か。
582 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/23(火) 23:08:04.26 ID:5TAxSX5so
―――

この世のものではない、魂の熱をも奪い取る冷気。
それが一瞬にして第七学区の一画を包み、青色の異界の氷で覆い尽くす。

一方「(―――なンだこれは)」

飛び上がった上空から、
一方通行はそんな惨状を目にしていた。

いや、『これ』はほんの余波、おまけだ。

意識すべきメインの存在はこの氷原の中央にある、二つの凄まじい圧の源。

一方「―――ッ!!」

そのあまりにも強すぎる圧を直視してしまって、一方通行は瞬間眩暈を覚えてしまった。
何とか力の知覚の『瞳孔』を絞り、ホワイトアウトした視界を調節、

そして知覚を凝らしてようやくその源の存在を捉えた。


一方「―――」


正体は、激しくもつれ合って凄まじい力の衝突を繰り返している二頭の怪物。
この冷気の主であろう青色の『三頭の狼』と、緑色の光のオーラを纏う『獅子』であった。

人間どころか、この世のものとはあまりにもかけ離れた姿形と存在感。


魔帝との騒乱の際や、そしてトリッシュ達に覚えた感覚と同じ―――まさしく『純粋な悪魔』だ。

583 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/23(火) 23:11:27.81 ID:5TAxSX5so

有する力は純粋な塊。
先日のフィアンマとは違う、混じり気も騙しも無い正当型とでも言うか。

そしてその力の規模もまた、フィアンマよりも確かに大きい。

いや、『大きい』ではなく『格が違う』と言った方が正しいか。
力の大小以前にそのあり方からして別物、『それ』が具体的に何かはわからなかったが、
一方通行はそこに明確な『壁』の存在を感じた。

また、これは今はじめて覚えた感覚でもない。
例えば同じ悪魔の力と言えども、ステイルとトリッシュとの間にもそんな『壁』の存在を感じていた。

そして自身の中でもその『壁』は以前から見ていた。
触れることはできても越えるには高すぎ、打ち砕くには余りにも分厚く固い『壁』だ。

一方「……」

土御門かそれとも海原か。
誰が口にしたかは覚えていないが一方通行はこの瞬間、
このような規格外の存在を指したある言葉を思い出した。


『神の領域』、と。


具体的に説明することはできない。
悪魔についてはほとんど何も知らないし、人間には馴染みの無い『力』という概念も言葉にすることができない。

そもそも『神』の定義からわからない。

だがそれでも。

一方通行はこの時確信した。


この壁は『神の領域』とそれ以下を果てしなく隔てる、鉄壁の境界なのだと。
584 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/23(火) 23:13:40.62 ID:5TAxSX5so

と、その時。

ぶつかり合っていた二頭が離れた直後、両方ともふと動きをとめて、
真っ直ぐにこちらを見上げた。

一方「(まァ気付くよな)」

これに関しては一方通行自身もわかっていた。
この両手から常に力が駄々漏れで、目立ちすぎなのは自覚している。

一方通行はそのまま氷原の中へと降下し、
二頭と均一な距離を置いて、三角形を描く位置に降り立った。


一方「(…………)」


一瞬前までの力の嵐が嘘のような、どこまでも冷え切り静かな空気。
能力も何も無い普通の人間であったら一瞬で凍死する冷気。

ただ、ここでは物理的に冷え死ぬよりも、
怪物の圧による死の方が遥かに早いだろうが。


そんな死の世界の中、一方通行は二頭の怪物を見据えた。


ここでまず一番重要なのは、この二頭は学園都市、大きく言えば人間に対して敵性かどうかだ。
二頭同士が敵対しているのは周知の通り、
またここで戦っているという点から、『どちらか』が敵性なのも確実だ。

つまり考えられる状況は二つ。

片方がダンテ達のように人間の肩を持つ悪魔か、
それとも両方とも敵性なのか、だ。

そしてその答えはすぐに示された。


『下がれ小僧』


三頭の狼が敵意の篭っていない言葉をこちらに放ち、
獅子はこちらにも強烈な殺意を放つ。
585 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/23(火) 23:14:28.95 ID:5TAxSX5so

これは一方通行にとってかなり好都合だった。


充満している力の大気が、すでに反射幕を抜けてきている。
こちらも幕下に力の壁を張って、強引に力で押し返している状態だ。

あの『黒い杭』を出したとしても、この二頭と己の差はそんな小細工で縮まるものではない。
それ以前にカエル顔の医者の言葉を受けては、杭など使う気にはなれなかったが。

とにかく二頭とも敵性だったら、
はっきり言って彼にはどうしようもなかったのだ。

だが片側が、少なくとも人間には危害を与えないのならば。


一方「そォかィ。じゃァ任せたぜ」


ここは無理に割り込むのも無粋であろう。
一方通行が狼の声に従い、すぐさま後方に跳ね飛んだ瞬間。

再び怪物同士の衝突が始まった。

獅子が蛇腹状の金属に似た「たてがみ」を打ち鳴らしては、
緑の光の衣を纏い一気に狼に突進した。

それに応じ、狼も青く光る凄まじい冷気を放ち迎え撃った。
586 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/23(火) 23:15:44.63 ID:5TAxSX5so

一方「―――ッ!!」

彼の意識が追えたのはその初動だけであった。
あとにたて続く衝撃の連続、その激突の瞬間など全く見えない。

早すぎて、そして力の激突があまりにも凄まじくて意識がついていかない。


一方「カッ!!」


反射幕の下に更に分厚く形成した壁を打ち付ける力の衝撃波、
そして両腕の表面が削り取られていく感覚。

衝突が続く間の時間感覚はまるでわからなかった。
数秒にも感じれば数時間にも。

それこそ気のせいではなく、強烈な力によって本当にこの場の時空が歪んでいるのか。

と、そんな最中。
突然の時間感覚の正常化と共に衝突もふと止んだ。

そして再び捉えることができた狼と獅子の姿。

獅子は多少傷ついていたが、目立った大きななものは無かった。

一方の狼は。


一方「(…………!!)」


三つの頭のうち一つを失っていた。
587 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/23(火) 23:17:11.87 ID:5TAxSX5so

狼は明らかに押されていた。

確かに両者の力は拮抗しており、その力量の差は1%程度か。
100と99、ここまで近ければ『同じ強さ』といってもいいだろう。

しかし実際の戦いは、単純にパラメータの比較では通じない。

拮抗していれば、両者とも同じように消耗していく場合もある一方。
力量の1%の差で結果は天国と地獄に綺麗に分かれる場合もあるのだ。


一方「―――チッ」


それを見て一方通行は、すぐさま跳ねて狼の横へと降り立った。
対する狼の反応は先と変わらず、頭の一つが声を放つ。

『下がっていろと言ったはずだ小僧』

一方「あァ?黙って見てられるかよ」

『その程度の力でどうするつもりだ?』

一方「…………」

確かに神の領域の壁は越えてはいない。

しかし。

越えずとも、その壁に『触ること』が出来る位置にはいるのだ。


一方「うるせェよワン公―――」


ならば、さすがに1%以下なんてことはないだろう。


一方「―――黙って『足し』にさせろ」


その1%で差を埋められれば良いのだ。


そして2%になれれば―――圧倒的逆転も可能だ。


―――
588 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/23(火) 23:19:07.33 ID:5TAxSX5so
―――

紅い残像を引き、最強の魔剣士ダンテは動き出した。

初撃は真正面にいた大悪魔、
熊のような巨躯のその顔面へとリベリオンの突き―――スティンガー。

響くはエコーのかかった掛け声、発されるは真紅の光の衝撃。

この時の一撃は、
人間界を一撃の下に消滅させる魔帝の槍、それに等しき本気の刃だった。


例え大悪魔といえども、よっぽどの高位でなければたった一撃で死に直結するものだ。


最初の餌食となったこの熊のような大悪魔もまた、
そんな一撃に耐えられるほどの存在ではなく。

頭部を貫かれては大きく仰け反って、地響きを伴って仰向けに倒れた。
そのままダンテも『熊』の胸の上に降り立った。

ダンテ『なあにボケッとしてる?もう始まってるぜ?』

そして突き刺さったままのリベリオンの柄頭を軽く叩きながら、
周りの大勢の大悪魔へ向けて笑いかけた。


ダンテ『お前らもこの日を待ち望んでたんだろ?』


普通の人間が目にしたら、
それだけで卒倒してしまうような魔人の笑みを浮べて。

ただ、ここにはそんな弱者など存在しない。
いるのは、スパーダの血に底なしの憎悪を抱く黒き神々のみ。


ダンテ『―――ならよ、存分に楽しもうじゃねえか』


彼はその余裕溢れる挑発を受けた瞬間、一斉に動き出した。
589 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/23(火) 23:19:45.74 ID:5TAxSX5so

一体の『イグアナ』ような大悪魔が、
その爪による強烈な一撃を叩き込もうとダンテの背後に迫った。

瞬間、この大悪魔はダンテが反応しないところを見て、
彼の虚を付いたと感じていただろう。


しかし彼の虚を付けるものなど、ここには一体も存在していない。


ダンテはギリギリまでひきつけては、
相手が反応できない速度で後ろ蹴りを放った。

ギルガメスに覆われた『かかと』が砕き、
魔弾がぶち抜いていく。


一蹴りで二撃のカウンターにより、イグアナの顎は木っ端微塵。


また、その破片が飛び散る間もなく攻撃は続く。
ダンテは蹴りの慣性のまま瞬時に振り返り、背中越しにリベリオンを引き抜いて。


ダンテ『――YeeeaaaH!!!!』


そのまま頭の上から振り下ろした。

涼やかな金属音と共に『イグアナ』は一刀両断、
刃の余波はそのまま大地にも溝を刻んでいった。
590 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/23(火) 23:21:48.23 ID:5TAxSX5so

その直後、いや、ほぼ同時か、今度は左右両側から大悪魔が迫った。

それぞれ人間界の存在で現せば右は『狼』、
左は『大蛇』といえるような姿をしているだろうか。

似ているのは全体的な大体のシルエットだけで、実際はまったく別物であるが。

空間を滑るようにして突き進んでくる『大蛇』は四つに割れた口を大きく開き、
狼はしなやかな身のこなしで駆け迫り、同じように牙を剥き出しにする。


更にこの瞬間、ダンテに迫った刃はこれだけでは無かった。


正面から放たれてきた光の矢が、両断した『イグアナ』のその『隙間』を抜けてきたのだ。

そこでまずダンテは仰け反り、鼻先の上をスレスレに矢をやり過ごした。
そしてその倒した上体に続くように、両足を跳ね上げて。

宙で身を捻り、広げた足を風車のように回転。


右足で右から迫った狼を蹴り落とし―――同時に左足で左方の蛇を蹴り上げた。


もちろん衝撃の瞬間に魔弾もセットで。

そのまま右足で叩き落した『狼』の頭部に着地し、
着地して振り返りざまにリベリオンで薙ぎ、浮かび上がった『蛇』の胴を切断。


同時に再度、足から魔弾を放ち―――『狼』の頭部を撃ち抜き潰す。

591 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/23(火) 23:23:12.56 ID:5TAxSX5so

と、そこで続けて光の矢が飛来してきた。
しかも今度は巨大、さながら光のミサイルといったものか。

それは着弾と同時に、
三体の同胞の亡骸などお構い無しにその場を丸ごと吹き飛ばした。

しかし当然、彼が大人しくその破壊を受けているわけが無い。

ダンテ『―――Hum!!』

彼は瞬時に横へ大きく跳ねて、
当たり前のようにその破壊を免れていた。

そしてそれは相手も予想済みなのだろう、光のミサイルは立て続けに放たれていた。
しかも『ミサイル』はそう例える通り、その軌道を変えて彼を追跡してきていた。

その数は三発。


それを見て―――ダンテは笑った。


不敵に、不気味に、余裕たっぷりに、そして楽しげに。
彼は一発目をリベリオンで『切り落とし』、その場に霧散させた。


二発目は弾きいなし―――この時迫ってきていた横の『大きな蚊』のような大悪魔にぶちあてた。


そして三発目は―――打ち返した。


まるで、いや、まさにそのまま―――野球のスイングで。


放たれてきた速度を遥かに上回る勢いで、
光のミサイルは一直線に飛んで行き。


ダンテ『―――SeeYa!!!!Ha-Ha-Ha!!』


発射元の大悪魔に直撃、その体を大きくぶっ飛ばしていった。
592 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/23(火) 23:26:08.22 ID:5TAxSX5so

誰が見ても彼はどうしようもなく楽しそうであった。
実際、彼にとってこの戦いは最高のものであった。

狭い人間界では叶わぬ出力を発揮でき、また相手が魔帝や家族といった『重い存在』でもない。

一切の制約が無く、そして好きなように戦える場なのだ。
何よりも戦いを純粋に楽しむ彼にとってはまさに『天国』だ。

ここ数日の鬱憤の放散も兼ねて、彼のボルテージは最高潮に達していた。

一方。

彼と共にきたネヴァンとアグニ&ルドラにとっては、
やはりこの場は非常に過酷なものであった。

敵は同格どころか半分以上が格上、そして圧倒的な数の差。

神々、大悪魔である彼らでも、この場では所詮『一兵卒』でしかなかったのだ。


彼女たちの苦戦に気付いたダンテはマントを翻し、
周囲の大悪魔達を蹴散らしてネヴァンの隣に降り立った。


ダンテ『よお、キツイか?』


ネヴァン『正直ねぇ。あなたくらいよ、そこまで余裕なの』


そう答える妖艶な大悪魔、その身は傷まみれであった。
少し離れたところで激しい立ち回りを演じるアグニ&ルドラのコンビも、
その巨体はかなり荒んでいる。
593 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/23(火) 23:28:29.95 ID:5TAxSX5so

そんな双子を遠目にに見ながら、ネヴァンは横のダンテに囁いた。


ネヴァン『やっぱりあなたの鼓動が恋しいわぁ』


ネヴァン『ねえ、私あなたに骨抜きなのよ』


割り込もうとしてきた大悪魔を蹴り飛ばしながら、
ダンテは小さく微笑んで笑みを浮べて。

ダンテ『OK、来な』

淑女にするように、手を差し出した。
ネヴァンも上品な仕草でその手を取り。

その瞬間、妖艶な大悪魔はその姿をギターに変え。


ダンテが握り締めて、振り返りざまにまた迫ってきた大悪魔に振り下ろすと―――更に鎌状に形を変えた。


ダンテの力を帯びたネヴァン、相乗効果で彼女の力は爆発的に飛躍し、
その刃は比べ物にならないほどに鋭くなり。


紫の稲妻を纏う刃が、大悪魔の固い皮膚を切り裂いていき―――その魂をも刈り取っていく。
594 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/23(火) 23:30:31.44 ID:5TAxSX5so

とその直後。

ダンテの前に山のような巨人の大悪魔が立ちはだかった。

頭の高さは50m以上にもなろうか、大きさにふさわしくその力も、
周りの存在の中でも抜きん出ていた。

そんな巨体を見上げて、ダンテは
引き抜いたネヴァンとリベリオンの刃を一度打ち鳴らして。


ダンテ『こいつぁまたタフそうだ!』


その音色と同じ調子で軽快に笑った。


そこへ振り下ろされる、ダンテの体よりも大きい拳。
体躯に似合わずその速度はすさまじいもの。

横にすかさず跳ねたダンテ、その彼が立っていた場を丸ごと粉砕し、
更に彼を追って続けて何発も振り下ろされていく。

ダンテは全て紙一重で軽やかに交わしながら、
この連続する地響きに会わせて身を揺らしてた。

心の臓まで響く重音、
そして楽しげにのらりくらりとかわすダンテに苛立ってか、次第に加速していくペース。

それでいながら一切の狂いもよどみも無く刻まれる衝撃。
この大悪魔は生粋の武人なのだろう、
苛立ちと憤怒に急かされても、その攻撃の手は一切ぶれることが無く正確無比。


ダンテ『良いぜ!!―――良い「音」刻むじゃねえか!!』
595 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/23(火) 23:34:49.71 ID:5TAxSX5so

ダンテ『―――ネヴァン!!一発やるぜ!!』

その声を受けて、
彼の左手にある鎌状のギターから奏でられ始めるロック。


それはダンテが昔から良く聞く、お気に入りの一曲だ。


その曲に乗って、
彼はお次はこちらのターンとばかりに動き出す。

振そしてり下ろされて来る巨人の拳―――。


もし人間界で放たれれば、一瞬にして億単位の命を消し飛ばすその神の鉄槌を―――彼はあっさりと蹴り返した。


『巨人』が拳を下ろすたびに、彼は軽快な掛け声を放って弾き返し、
魔弾とギルガメスの衝撃をお見舞いする。

徐々に砕け、破片を撒き散らしていく巨大な拳。

そしての拳のリズムはいつしか、
曲にあわせたダンテが刻むものへと引きずり込まれていた。
596 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/23(火) 23:37:04.33 ID:5TAxSX5so

スパーダの息子のペースに飲まれている、
『巨人』がそう自覚したときには時既に遅し。

ダンテは、引き戻されるその大きな腕に鎌状のネヴァンを引っ掛けて、
『巨人』の体へと引き寄せて『もらい』。


慣性を利用して『巨人』の眉間へと跳びつき、目玉の一つへとリベリオンを突き刺した。
さながら地鳴りのごとき苦悶の咆哮を発する巨人。


ダンテ『ハッハ!―――OK!どうだ?!』


ビートにビートを返した魔剣士は、そんな至近距離から笑いかけて。


ロックと稲妻を迸らせる大鎌を『巨人』の首深く―――ネヴァン全体が隠れる程深くまで突き刺して。


ダンテ『こいつが「人間界のサウンド」だ―――!』



引き裂き。



ダンテ『―――中々「シビレる」だろ?』



―――首をもぎ落とした。
597 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/23(火) 23:37:49.21 ID:5TAxSX5so


ネビロス『いやはや凄まじい』

そんな最強の魔剣士と100を超える大悪魔の戦いを、
ネビロスは遠くに見ながらそう呟いた。

ネビロス『かの魔剣士の雄姿と重なるな。やはりかの血脈は濃い』

トリッシュ『それで』

と、そんな彼に向けてのトリッシュの声。
抱き上げられている腕の中から、同じくダンテの方を見ながら言葉だけを放った。

トリッシュ『策はあるの?どうやって彼の首級を挙げるつもり?まさか数で押し切れると?』

ネビロス『消耗させることは可能だろう?かのスパーダかの2000年前の連戦は疲弊したのだ』

トリッシュ『それでも最後に魔帝、その後に覇王も封印したわ。あなた達に彼ら以上の切り札はあるのかしら?』

まさかアスタロトじゃないわよね、と続けて小さく笑ったトリッシュ。
それを主への嘲笑と受け取ったのか、ネビロスはやや声を鋭くして。

ネビロス『武力は必要ない。複雑な策もいらぬ』


ネビロス『単純だ。貴様を盾にする』


トリッシュ『ああ、そう…………』
598 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/23(火) 23:43:14.04 ID:5TAxSX5so

ネビロス『スパーダの息子、その「人の性質」によって形成された貴様への感情』

ネビロス『そして貴様の「容姿」』


トリッシュ『そう、彼の唯一の「弱点」ね。確かに』


ネビロスの言葉に続けて、その先をトリッシュが口にした。
ネビロスの手段は単純なものだ。
かつて魔帝がとった策とほぼ同一、ダンテの人の部分の弱みに付け入るのだ。

魔帝ほどの存在でなくともできる、実に単純明快な手段だ。

ただ、その一方で。


トリッシュ『でも「そのやり方」だけは、やめておいた方がいいと思うけど』


魔帝ほどの存在でも失敗する危険性をも孕んでいる。

現に魔帝の場合は結局ご破算、そして―――。


ネビロス『ふん、そこで見ているがいい』


トリッシュ『そう、なら頑張って。ああ、これだけは忠告しといてあげる』


と、ここでトリッシュはようやくネビロスの顔を見上げて。


トリッシュ『怖いわよ―――』




トリッシュ『―――彼が笑わなくなった時は』




ネビロス『…………………………………………』

彼方からは依然、圧を伴う轟音と共に聞えてきていた。
相変わらず軽快な、『笑い』混じりの掛け声が。


―――
599 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/08/23(火) 23:44:15.92 ID:5TAxSX5so
今日はここまでです。
次は木か金に。
600 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/08/23(火) 23:46:47.75 ID:XRfq6IPLo
乙。しかしダンテ無双パネェ・・・想像の遥か上をエアハイクしよった・・・
それと一方さんとケルタンも頑張れ。死なないように頑張れ。>>1はもっと頑張れ。
601 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/23(火) 23:47:47.51 ID:b4Dx0ccTo
お疲れ様でした
602 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/24(水) 00:38:27.46 ID:YhdJXcjDO
ダンテ無双過ぎワロタ
603 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/08/24(水) 02:11:36.01 ID:8zXyjTHAO

人間の原型に至るか?いや至れ
604 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/24(水) 10:30:48.03 ID:BMLbgLiIO
強過ぎわろた
スティンガー最高や
605 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/08/24(水) 20:41:39.25 ID:63zjDRbxo
乙。
笑わなくなったダンテさんはDMDの魔帝にノーダメージで勝ったりするからな……。
606 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/08/24(水) 20:45:45.67 ID:KHUX9bwY0
(;´・ω・`)ネビさん・・・早くごめんなさいした方がいいと思うよ
607 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/26(金) 14:44:14.93 ID:3BraxtJDO
笑わなくなったダンテとか…悪魔も泣き出すな…
608 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/26(金) 21:25:20.17 ID:t1s3RUJCo

―――

突然のことだった。

周囲で戦いを繰り広げていた天使と悪魔たちが一斉にどこかへと消えて。
そして彼方、神裂が向かっていった方向にて突然出現したとてつもない量の圧力。

五和「…………」

なんという密度と量か、もはや言葉で表せない規模だ。
力の知覚など有していない、
『普通の人間』である五和でさえ本能的にはっきりと認識してしまうほどだ。

そしで今この階層を満たしている魔の大気は、
普通の人間の致死域を遥かに超えた濃度にまで達していたが。

五和「…………」

五和は左手にある槍、
仄かに熱を発しているアンブラ製の槍に目を落とした。

詳しい原理はわからないが、
この槍が周囲のそんな大気から身を守ってくれているらしいのだ。

五和「……」

ただそれも、あの圧の中心地からかなりの距離があるからで、
近づけば恐らくこの槍でも守りきれなくなるであろう。

そう、その圧力の中心地は、実は想像以上に距離があるようだった。
物理的な距離は数十km、いや、もしかしたら100km以上はあるかもしれない。

となるとこの『幻』の学園都市の外、と、普通に考えて位置づけられるであろうが。

五和「……」

この時はそう結論付けられなかった。
実際、五和も神裂と分かれてから5km以上も移動したのが、どこまで行っても街並みは『全く』変わらないのだ。
609 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/26(金) 21:26:34.10 ID:t1s3RUJCo

これは明らかにおかしい。

いくら巨大な学園都市といえども、区画ごとにその街並みはそれぞれ違うものだ。
それに五和は学園都市に何度も訪れているし、
地図も正確に頭に叩き込まれている。

その五和の経験と知識と、この周囲の光景が大きく食い違っているのだ。

五和「……」

もしかするとこの階層『全て』が『学園都市』の姿をしているのかもしれない。

当初は学園都市を正確に映し出していたのであろうが、
どれだけ瓜二つであろうが所詮ここは影、幻、水面に映った像に過ぎない。

そして水面の像が波紋で簡単に歪むように、
ここも圧力が加われば容易に変形する。

度重なる干渉と戦い、そしてとどめのこの莫大な量と密度の魔、
それによってこの階層は学園都市を中心として大きく『伸びて』しまったのだ。

五和「……」

そしてそんな現象が、
結果的に五和にとって好ましい状況をも与えてくれた。


階層が伸び広がりすぎて誰も五和に気付かない、という点だ。


あの圧の中心地に現れた多数の怪物、その一柱にでも見つかれば、
五和は一巻の終わりであったのだから。
610 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/26(金) 21:28:04.73 ID:t1s3RUJCo

それに彼女が普通の人間であることも、その点に上手く影響していた。
普通の人間となると、それなりに接近しなければ嗅ぎ取れないものだ。

ましてやここまで濃密な魔の中であれば、五和の匂いなど無に等しい。


これぞ力無き人間の、数少ないの有利な点だ。


今や誰も意識していない。
誰も見ていない。

そんな状況こそ、五和にとってまさにここから離脱するチャンスに見えた。

五和「……よし」

五和は右手にある黒い拳銃、上条の銃に一度目を向けては、
それを腰のベルトに挟むようにして差込み。

槍をアスファルトに突き刺して、
再び地面に人間界へと戻る魔方陣を刻み込んでいく。

そして槍を両手で握り、陣を起動―――しようとしたその時。


五和「!!」


―――ぽん、と。


突然の肩を叩かれる感触に、彼女が驚き振り返ると。


「今はやめておいた方が」


薄く笑う重武装の女、レディが立っていた。


レディ「―――下手に飛ぶと検知されて追っ手が出るわよ」
611 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/26(金) 21:29:45.63 ID:t1s3RUJCo

五和「―――け、検知?」

レディ「天使達は今、階層を跨いで動くものは全て追跡してるし、悪魔達もかなり活発になってる」

レディ「死にたくなかったらもうしばらくここに潜んでて」

五和「―――……!ですが……向こうが……!」

そこで五和は彼方の圧の中心地を指差した。

いつまでもここが安全とは思えなかったのだ。
もし更に魔の濃度が増したりあの中心地が近づいてくれば、と。

『ソレ』を表現する言葉が浮かばず言葉を詰まらせたが、
言いたい事は正確に通じたのだろう。

レディはクスリと笑って。

レディ「ああ、向こうは大丈夫だから」

五和「だ、大丈夫って……!」


レディ「―――ダンテが暴れてるの」


五和「…………ああ、そう……なんですか」


その名は『響き』だけでなんと力をもっているのだろうか。
敵には想像を絶する恐怖を植え付け、大悪魔にはその恐怖を超える憤怒を点火させ。

そして彼を知っている味方には有無を言わさずに安心を与える。

この時の五和の懸念もまた、
レディのそんな簡素な返しで瞬時に払拭されてしまった。
612 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/26(金) 21:30:48.33 ID:t1s3RUJCo


五和「…………なるほど」


レディ「ネヴァンと一緒に来たんだけれどね、生身の私が『あそこ』にいれたもんじゃないし」

とレディは肩を竦めながら、
なぜかその場にロケットランチャーを含む大きな装備を置き。

五和「……?」

古めかしい年代ものの小さなナイフと、
これまた古めかしい、厳重な拘束具の付いた『本』を取り出して地面に座り込んだ。

それを怪訝な表情で見る五和の視線を感じてか、

レディ「ただ黙って待ってるのもアレだし」

レディは本の何重にもある拘束を外していきながら言葉を続けた。

レディ「それにダンテでも、あの数を処理するにはさすがに結構時間がかかりそうだし」


レディ「ちょっと大掛かりな『罠』でも作るわ」


五和「わ、わな?」


レディ「プロの『フリー』デビルハンターはね、直接戦闘だけじゃないのよ」


レディ「大物が引っかかればいいのだけど」

今ひとつ要領を得ない五和をよそに、
レディはクスクスと笑い声を漏らし、サングラス越しに彼女を見上げて。


レディ「見たくない?『人ごとき』の技で―――『クソッタレな神共』が慌てふためく姿を」


―――
613 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/26(金) 21:32:23.63 ID:t1s3RUJCo

―――

業火を渦巻かせるグロリアス、そして稲妻を迸らせるグラシアス。
双天使は巨大な爪から光の尾を引いて同時に動き出す。


猛烈な速度で。


刃の重さは、先ほどのヴァラファールに比べたら軽いであろう。
しかしその速度は遥かに勝っていた。

上条とステイルは互いに背中を合わせ、
この天使達をそれぞれ真正面に捉えていたにもかかわらず。

上条「―――」

この初撃を防ぐにはギリギリであった。

また先の大悪魔に比べたら軽いとは言っても、
その鋭さは全く優しいものではない。

ステイル『がっ―――!!』

これまた強烈。

上条『―――ぐ!!!!』

受け流したステイルの炎剣は表面が削り取られていき、
弾いた上条の腕には、その力と衝撃が芯まで響いていく。

しかもそんな初撃を凌いだのも束の間、
天使はひらりと素早く身を翻して、続けて更なる攻撃を繰り出してくる。

目にも留まらぬ速度で立て続けに、まさに『嵐』。

上条とステイルには攻撃し返す余裕など無く、
そんな猛攻をただただ防ぐことしかできなかった。
614 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/26(金) 21:34:12.31 ID:t1s3RUJCo

ただ。

こうして背中を合わせて完全に守りに入った上条達、その守りはかなり堅牢だったらしく、
双天使も中々崩せないようであった。

絶妙なバランスの膠着状態へとなったのだ。

確かに状況的には双天使が遥かに優位なのだが、
彼らはその優位性を発揮できずにいた。

完璧なコンビネーションと速度で相手を翻弄する、それがこの双天使の十八番であるが、

こうして上条達が背中合わせに防御一辺倒、
つまりこの『篭城』がその十八番を結果的に見事に潰していた。

上条『ッ!!!!』

ただ、そこを今は抑えてるからといって、上条達が不利なのは変わりが無い。
『今』は膠着状態でこそあれ、
押される一方ではいずれこの防御が破られるのも目に見えている。

もちろん二人ともその最悪の結果は認識していた。

上条『クソ!どうにかなんねえか!?』

ステイル『今考えてる!!君も何か考えろ!!』

しかし、そう簡単に状況を打開する妙案が浮かぶはずもなく。
そしてこの時。

状況の打開には、彼らが何かをする必要も無かった。

『向こう』からやってきてくれたのだ。
それは業火と共に、突如この場へと乱入してきた。


ステイル『!!』


筋骨隆々とした立派な角を有する巨人。


上条『!』


炎獄の王―――イフリート。
615 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/26(金) 21:35:12.25 ID:t1s3RUJCo

上条達から30m程のところに現れた炎の魔人は、
双天使を見据えては一吼え。

凄まじい咆哮を放った。

その圧と共に周囲に業火が巻き上がり、
一帯を瞬時に炎獄の様相へと一変させていく。

それから逃れるように、
双天使は瞬時に後方に跳ねて距離を開け、互いに面を被った顔を見合わせて。

上条『……』

彼らは好戦的な悪魔達とは違い、
現状の目的に即さない戦いは極力避けるのだろう。

良く言えばとことん命令に忠実、悪く言えば『機械染みている』か、
双天使はすぐさま魔方陣を出現させて、この場から姿を消していった。

上条『―――……ふー……』

ステイル『…………』

一先ずの状況の好転、二人は体の緊張を解き、
歩み寄ってくる炎の魔人を見上げて。


ステイル『…………やあ。助かったよ。すまないね』


そしてステイルは、
再会した『親』へと礼の言葉を向けた。
そこで『親』から返ってきた言葉は。


イフリート『礼などいらぬ』


イフリート『例え出生が違えども、お前は我が眷属、我が子よ』
616 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/26(金) 21:36:48.26 ID:t1s3RUJCo

ステイル『……ああ……』

そんなイフリートの言葉に、
ステイルは思わず小さく笑ってしまった。

ごくごく嬉しそうに。

家族どころか親なんかいなかったも同然、
物心ついた時から清教施設で魔術修練の毎日だった彼にとって、

特に今の神裂に仕えている『素直な彼』にとって、
『眷属』『我が子』という言葉はとにかく刺激的で新鮮で。

そして暖かい響きのものだったのだ。


それが例え、繋がりの先が悪魔でもだ。


どの世界の生まれのどの種族かなんてことは、
今の彼にはどうでもいいことだ。

想いを寄せる女性はアンブラの魔女、その彼女を預けてもいいと唯一認めた男も悪魔、
そして最高の友であり『主』である女性は、人間から天使を経て悪魔になった存在。


上条はそんなステイルを横目に見ては笑みを浮かべ、
軽くその肩を叩いた。

ステイル『……なんだ?』

上条『はっは。いや、別に』

ステイル『………………………………ダンテみたいな笑い方は止してくれ』
617 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/26(金) 21:38:47.44 ID:t1s3RUJCo

上条『ほー、へっへっへ』

ステイル『…………アホ面下げてないで顔を引き締めろ。今はそれどころじゃないだろう?』


上条『顔を引き締める、その言葉そっくりそのままお返し―――』

と、上条がその言葉を言い切る前に。
この瞬間、上条自身の顔が一瞬にして引き締まった。


いや―――『凍った』というべきか。


『親』の接近、そして友好的とは言えないオーラを覚えて、だ。

その直後、かの存在の圧はこの階層全体にも届き、
ステイルの顔もまた同じく、そしてイフリートも即座に警戒の色を強めて。

そして彼らの視線の先、
虚空に浮かび上がる巨大な魔方陣と、迸る『銀』の光。

中から姿を現すのは猛々しい巨躯の大悪魔。

上条『―――ッ』


―――「彼」の親との『再会』は、ステイルのものとは違い―――張り詰めた緊張から始まった。


現れた悪魔は一度喉を鳴らした後、
『両目が潰れた』顔を上条の方へと向けて声を放った。


ベオウルフ『―――小僧、探したぞ』


不敵な笑みを混じらせて。
618 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/26(金) 21:43:33.70 ID:t1s3RUJCo

誰が見ても、
明らかにベオウルフが醸す空気は不穏なものであった。

銀の魔獣が悠然と歩を進めて始めると、
すかさずイフリートが、上条とステイルの盾となるようにして立ちはだかって。

イフリート『……何用だ?』

ベオウルフ『貴様に用など無いわ』

銀の魔獣は嘲笑混じりにそう返して、
イフリートと面と向かい合った。

ベオウルフ『退け。その小僧と話がしたい』

イフリート『この状況下で貴様を易々と通すわけにはいかぬ』


イフリート『まず何用かを言え。我があるz……ダンテの友に面するのはそれからだ』


ベオウルフ『……』

そこで数秒間、二体の大悪魔は至近距離で沈黙した。
互いに向け強烈な圧を放ちながら。

その隙間の密度はとにかく凄まじいもの。
鼻先が触れそうなほど近いのに、そこには目に見えない鉄壁の如き距離があり、

上条『……』

ステイル『……』

傍から見ている彼ら、特に上条にとっては『身内』の件であるにもかかわらず、
とても脇から割り込めるような隙間は無かった。

そんな、永遠にも思えてしまう静かな緊張の後。
ベオウルフが静かに口を開いて。

ベオウルフ『貴様らの騒動など我の知った事ではないが、まあいいだろう』


ベオウルフ『我は受け取りに来た―――授けた力の「代価」をな』


用件を告げた。
イフリート越しに、上条を盲目の目で見下ろしながら。
619 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/26(金) 21:46:14.53 ID:t1s3RUJCo

イフリート『―――「代価」、だと?』


その言葉を耳にして、
イフリートもまた嘲笑交じりにそう聞き返して。

イフリート『あれは我らがあるz……ダンテの意志の下結ばれた契約だ。この小僧に貴様が代価を要求する権利は無い』

ベオウルフ『否―――』

ベオウルフ『常に我が心は魔界にあり。我が誇りも魔界にあり。我が法も魔界にあり、そして我が忠義は我が武、牙と爪のみに捧ぐ』


ベオウルフ『ただの一度も、あの「混血」の逆賊を主と仰いだことなど無い』


イフリート『貴様……』


ベオウルフ『故にこれは、我とその小僧の間の契約だ』


ベオウルフ『我が力の理は魔界にある。その小僧の力もまた、魔界の理の下にある』

ベオウルフ『我はその理に従い、正当な権利を求めているに過ぎない』

と、ベオウルフは吐き捨てるように告げて。


ベオウルフ『―――そうであろう?』


再度上条を見下ろしてそう、
確認をとるように確かな声を放った。

上条『―――』

瞬間、ずくりと。

異形の手足そして見の内の力の根源、
魂の魔の部分が、ベオウルフの言葉に応じて疼いた。


―――『その通りだ』、と。
620 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/26(金) 21:48:03.83 ID:t1s3RUJCo

ステイルとイフリートの場合、

イフリートの意志はダンテの意志と同じであり、ダンテが代価を求めないかぎり、
ステイルにそれを払う義務は生じない。

トリッシュが使ったオーブの作用も強いとはいえ、
ステイルが瞬時に転生に成功したのも、そんなダンテの意志による部分が大きい。

だがベオウルフは違う。
彼は果てしない憎しみと屈辱の中、ダンテに使われ続けてきた。

つまりダンテと意志が同じわけが無いのだ。

その力は常に憎悪と怒りに満ちて攻撃的であり、

上条の転生の過程に魔が内面を貪り食う形で成長したのも、
ダンテの『保護』が無いために、怒りに満ち満ちているベオウルフの性質そのものが現れたもの。

そんな過程の上に今の上条の力があるのだから、
そこにベオウルフが代価を求めるのはやはり―――魔界の理にのっとれば―――正当なものであった。


そう、『代価』だ。


上条『……』

自分は今日ここまで何を支払っい、何を失ってきた?

そして代わりに何を得てきた?

あの日、バージルに己がいかに無力かを突きつけられて、
それまで築いてきた『自信』を全て失った。

異界と深くかかわったことで、『日常』の価値観を失った。

命乞いする者までをも殺め、
それに一時でも悦びを覚えてしまったことで『人』としての尊厳をも失った。
621 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/26(金) 21:49:39.89 ID:t1s3RUJCo


―――だが得たものはそれ以上だ。


今日までの道のりは確かにとてつもない苦痛、苦悩、困難に満ち溢れ、
そして今目の前に続く道の先もそんな障害で溢れている。

しかしそれとは比べ物に成らないくらい、得たものはとにかく多くて大きいのだ。


そして得たものの大半は―――このベオウルフの力があってこそのものなのだ。


そこに感謝が無いわけがない。

ベオウルフの過去の事情、
その記憶を追体験する形でまるで自分の事のように全てを知っている以上、
この上条当麻が何も思わないわけがないのだ。

それにベオウルフはこうして、話し合いという形でやってきた。

ベオウルフからすれば全て勝手にやられたことなのだから、
最初から上条を襲って何かもを力ずくで奪ってくことも出来たはずなのに。

上条『…………』


ベオウルフの言葉に対し、
イフリートもまた力強く返した。

イフリート『魔界の理か、ならば我も従おうか―――「力こそ万物の法」』


イフリート『―――すなわち我が力をもって―――貴様を殺すのもまた―――正当な権利だ』


全身から強烈な圧を放ち、そして戦意を研ぎ澄ませて。
だが甘ったるくて優しすぎて、恩着せがましいほどに人が好すぎる上条当麻が、
そのイフリートの言葉を許容できるわけが無く。


上条『―――ま、待ってくれ!』


また『第三の親』であり『自分』との契約を踏み倒すことなどもできるはずもなかった。
622 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/26(金) 21:52:10.05 ID:t1s3RUJCo

イフリート『…………』

ようやく声を発した上条は、
イフリートの前へと出て、ベオウルフを見上げて。


上条『……わかった。払うべきものは必ず払う』


上条『で、でもよ、もう少し待っててくれないか?』

上条『俺は……今はまだやらなくちゃならない事が……』

と、そこで。

ベオウルフ『心配するな小僧』

ベオウルフが小さな笑い声を混じらせて告げた。

ベオウルフ『貴様の魂や、隷属を求めるつもりではない。力の返還でも無い』

上条に対しては、怒りや憎しみといった負の感情は抱いてはいない、と。


ベオウルフ『我は貴様を眷属として受け入れ―――貴様の牙と爪にも血族の忠義を誓い、貴様に更なる支援もしてやろう』


むしろ一族として認め、己が名に誓い助力をしようと。

上条『そ、それは…………』

そして続けて、ついに具体的に示す。

ベオウルフ『その上で、我が要求するのは―――』



ベオウルフ『―――「目」だ』



要求する代価を。
『潰れた目』で上条を真っ直ぐに『見下ろし』ながら。



ベオウルフ『―――その「両目」を差し出せ。我が「息子」よ』



上条『―――……』

―――
623 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/08/26(金) 21:52:44.53 ID:t1s3RUJCo
今日はここまでです。
次は日曜か月曜に。
624 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/08/26(金) 21:54:33.89 ID:YDhLhuBwo
あー、目か……そう来たか……。

乙!
625 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/26(金) 21:56:31.02 ID:Dwv9GQRDO


気になる展開だな………

次回も期待
626 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/26(金) 22:00:57.10 ID:q/SagF9Co
お疲れ様でした
627 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/26(金) 22:02:44.73 ID:plLMha58o
おもしろいすなあ
628 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/26(金) 22:13:11.42 ID:6OSdnGhIO
乙〜

視覚を失うのはキツイだろうな。
629 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/08/26(金) 23:11:56.16 ID:hcCKdicJo
乙です。まさかヱヴァ見てて気づかなかったとは言えない・・・
そして誰も言わないがドジっこなイフリートは俺のパパ。
630 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/08/27(土) 00:26:41.84 ID:IuaI8Wn90
うおおおお
続きが気になるうぅぅ!!
631 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/27(土) 01:08:04.16 ID:tg+5XBEDO
目か。きっついなあ……
632 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/08/27(土) 02:00:35.42 ID:RcKak7tMo
片目にまけてくれないか?
633 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/08/29(月) 10:26:11.12 ID:GYJbYH7g0
ベオの目はスパーダの血族にブチ抜かれたから再生しないだけで
ベオ上さんはそこそこのパワーなら頭ふっ飛ばされても回復すんじゃねぇの?
634 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/08/29(月) 13:10:58.57 ID:OeQdVzjpo
違う違う。単純に目ン玉寄越せっていう意味じゃなくて、ベオウルフが失った「光」を寄越せっていう契約の代価。
後は>>1が今夜明かしてくれるだろう。
635 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/29(月) 20:34:57.06 ID:MAdT1x62o

―――


上条『―――…………目』


目を寄越せ。

具体的に聞かなくとも、
上条はこの『代価』が何を意味しているかを瞬時に悟った。


―――強すぎる力による傷は永遠に癒えないもの。


魂の一部分を『完全』に破壊された場合、その部分が治ることは無く、
またそれによって喪失したものも二度と再生しない。

バージルに腕を落とされたトリッシュと同じく、
スパーダとダンテの刃によってベオウルフは『視覚』という存在を永遠に失った。

人界の生物風に言えば遺伝子レベルで破壊されたとでも言うか、『存在そのものの喪失』だ。

そこにただ眼球を取り替えたところで視覚は復活しない。
唯一の方法は新たな存在をまるごと保管することだ。

つまりこうなる。


上条が『代価』を支払った場合、
ベオウルフと入れ替わりに彼が『視覚』という『存在』をごっそりまるごと失う。



結果、上条当麻は――――――『失明』する。
636 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/29(月) 20:38:42.23 ID:MAdT1x62o

イフリート『…………』

ステイル『―――な、な…………』

炎の魔人はより一層ベオウルフに対する敵意をつのらせ、
ステイルがその要求の内容に驚き呆ける中。

上条『…………』

上条は無言のまま、微動だにせずベオウルフを見ていた。
そして意識内ではこの大悪魔の記憶を今一度―――見ていた。


遥か過去から―――今に至るまでの記憶を。


『破壊』の象徴たる魔剣スパーダ、
その最凶の刃がかつてベオウルフに与えたのは、死を遥かに越える屈辱だった。

2000年前のあの日、ベオウルフは『呪われた』のだ。
力も、誇りも、自由も、意志も、全てを奪われる永久の生き地獄を味わえ、と。

それが、無謀にもスパーダに挑んだ彼に課せられた罰。
魔帝の人間界侵略に順じたことへの容赦のない報復であった。


『光』の属性たるベオウルフにとって、その『光』の喪失は単なる失明以上の意味を持つものだ。


スパーダの刃に敗して片目とともに大量の力を失った際、彼が築き上げてきた何もかもが崩壊をはじめ。
2000年後のダンテによってもう片方の目を失った時、残り火もあっけなく消されてしまい。

バージルによって己が存在の主導権を全て失った。


全てを。
637 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/29(月) 20:39:37.41 ID:MAdT1x62o

この兄弟の隷属下にある間は一応、彼ら『主』の目を通しての『光』はあった。

しかしその光が、ベオウルフにとって救いになんかなるわけもない。
逆にそれが己が立場を否応無く突きつけ、常に彼を『新鮮な屈辱』に叩き落し続けていった。

上条『…………解放、されたんだな』

ベオウルフ『……』

そして今、そんな生き地獄から解放された彼には、
自分自身の『目』が必要なのだ。

在りし日の力を取り戻すためには自分だけの『光』が必要なのだ。
悪魔であるが故に、誇り高き武神であるが故にそこだけは譲れない。

ベオウルフ『……否。解放はいまだ不完全』

上条『…………』

そう、まだ完全に解放されたわけではない。
失った全てを取り戻すことで、ようやくマイナスからやっとゼロに戻ることができる。

そうしてスパーダの頸木から解き放たれてやっと―――2000年に渡る呪いから自由になる。


ベオウルフ『スパーダの一族は逆賊だ。その点は永劫に変わらぬ』

ベオウルフ『だが少なくとも―――可もなく不可もなく。我が個人的な感情は、はじまりの立場に戻ることを約束する』


ベオウルフ『小僧、貴様に免じてな』


上条『…………』

そしてベオウルフ自身も、そこには大きな妥協を決意している。
この2000年に渡る耐え難い屈辱については忘却の彼方に追いやろうと。

これぞ互い意識と記憶と感情を分け合った者へ向ける、
魔界風の、ベオウルフなりの精一杯の『誠意』なのだろうか―――。


ベオウルフ『―――「安い」であろう?』
638 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/29(月) 20:41:40.31 ID:MAdT1x62o

『安い』、か。


上条『…………』


確かに、これほどの条件にこの代価は安いのかもしれない。

周囲の動きや状態は悪魔の感覚で手に取るようにわかるし、
今や目を閉じまたままでも問題なく行動できるのだから、慣れてしまえばどうってことはないであろう。

ベオウルフとは違い、力も性質も成熟しきっていないのだから、
今からでも充分柔軟に適応していくことができる。

悪魔として生まれたばかりの上条にとっては、失うものはかなり少ないのだ。


そう―――悪魔としては、だ。


ステイル『―――安い、―――だと!?』


その時、隣のステイルがたまらずにベオウルフに向かって吼えた。
さながら上条の『人間の部分』の声を代弁するかのように。


もちろん人間としてある上条は、人間としてこの世界を『見ている』。


そこで目が無くなれば、『目で見ていた』ものは当然―――消える。


上条『…………』

具体的に、上条の世界から何が消えるのか。

それはこの世界を彩る色だ。

それはこの世界を満たす煌く光だ。

それはこの世界の人々の、皆の、友たちの―――顔だ。


それは。


この世界で最も輝く―――インデックスの顔だ。
639 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/29(月) 20:43:02.08 ID:MAdT1x62o


ステイル『―――ふざけるな!!いい加減にしろ!!』


聞いていて上条と同じ結論に至ったのだろう。
ステイルはまるで自分のことかのように激昂し、
前へ身を乗り出しては怒鳴りあげた。

ステイル『上条!!こんな馬鹿げてる話に付き合うな!!』

ステイル『イフリート!!何か言ってくれ!!』

イフリート『…………』

しかしイフリートは、
そんな息子の悲痛な声にただ沈黙を返すばかり。

ステイル『頼む!!イフリートッ!!!』

実はこの沈黙の答え、ステイル自身もわかっていたことだった。
上条がイフリートをおいて前に出た時点で、もう誰も割り込むことはできないと。

上条当麻とベオウルフの問題だ。
上条当麻が求めぬかぎり、周りの者達があれこれ干渉することなどできないのだ。

イフリート『…………』

それに今この瞬間、イフリートには何よりも集中すべき対象があった。

上条『―――』

ステイル『―――』

いつのまにか。

イフリートが見据える200mほど先にて、この炎の魔人やベオウルフと同じ背丈ほどの、
甲冑に身を包んだような格好の巨人が立っていた。

手には刃などは特に持ってはいなかったが、
かわりに腕そのものが丸太のように図太く、恐ろしげな突起がいくつもついていた。

その発される桁違いの圧を背に覚え、ベオウルフが振り向かぬまま。


ベオウルフ『―――サルガタナスか』


この歓迎しない第三者の名を口にした。
640 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/29(月) 20:45:40.46 ID:MAdT1x62o

アスタロトの側近サルガタナス。
ネビロスに次ぐ、絶大な力を誇る勢力内のナンバー3。


イフリートが全身から力を放って前へと踏み出したのを見て、
この大悪魔は棍棒のような腕を一度大きく振るい、
小さな頭を左右に掲げては首を鳴らした。

両者間には、特に言葉は交わされず。

イフリートは即座にサルガタナスへ向けて突進した。
サルガタナスの意識をとにかく己だけに向けるためだ。

ステイル『!!!!』

上条『―――なっ!!!!』

そして始まる大悪魔の王同士の凄まじい激突。
業火に包んだ拳と棍棒のような腕の、あまりにも荒々し過ぎる殴り合い。

両者が繰り出す一撃ごとの衝撃が、階層全体を軋ませ歪ませていく。

ベオウルフ『奴は確かに我よりも強い。だがサルガタナスはそれ以上、遥かに強い』


ベオウルフ『一対一では奴に勝ち目など万に一つも無いであろう。ふはは、まことにいい気味だ』


そんな戦いに背を向けたまま発されたベオウルフの言葉、
それは正しかったらしい。

上条『…………!』

かなり下位の上条達でもわかるほどに、明らかにイフリートは押されていた。


ステイル『き、貴様……!!』

ベオウルフ『だが小僧、貴様が望むのならばここは一つ、我が助力してやってもいい』

上条『……』


ステイル『だったら!!だったら先にそうしろ!!』


ベオウルフ『悔しきことではあるが、今の我が向かったところで一切の足しにもならんわ』



ベオウルフ『ただ―――「光」を取り戻したら我なら―――話は別だがな』
641 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/29(月) 20:47:34.20 ID:MAdT1x62o

そうほくそ笑んだベオウルフを見て、
ステイルの脳裏にふとある疑念が湧き上がった。

ステイル『―――貴様……!!貴様が奴を―――!!』

サルガタナスをここに呼んだのか、
上条当麻を急かすために、と。

上条『いや。ステイル。俺たちがここで踏ん張っているかぎり、どのみちこうなってたさ』

そこを上条が妙に落ち着いた声でやんわりと訂正した。
この時、ここでステイルは気付くべきだったかもしれない。

いや―――上条がこんな風に声を発した時点で―――既に『遅かった』か。

ステイル『あああクソ!!もう良い!!』

ステイルはそこに気付かぬまま、上条の肩を掴んで。


ステイル『今の君は飛べるんだろ?この階層からすぐに出て行くんだ。ここは―――』


そして見てしまった。


ステイル『―――僕とイフリートがどうにか……………………何だ…………「その目」は?』


上条『…………』


いつのまにか、上条の両目を縦断するように―――瞼の上に『古い傷跡』が走っていたのを。


ステイル『おい、まさか…………いや待て、冗談だろう?何をした?何を―――答えろ、何をした?!』


ベオウルフにあるのと同じ―――傷が。



ステイル『答えろ!!―――何を―――!?上条ォォォォオオオオオオ!!!!』
642 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/29(月) 20:49:41.47 ID:MAdT1x62o

上条『……』

その目は『まだ』、光は捉えていた。
上条は真っ直ぐとステイルの顔を見つめた。

掴み揺さぶられる肩、そこにステイルの熱を覚えながら。

上条『…………』

怒りと戸惑いの色に染まるステイルの顔、
その向こうによみがえるのは、先ほどのイフリートと再会した際の表情。

初めて一族、家族という存在を認識して、素直に喜びに染まっていた彼の顔。

それが。


たったそれだけで


この場でベオウルフの話を『即断』するに充分な理由であった。


そもそも、ベオウルフの話を断る気も寸分も無かった。

ただ、できればもう少し時間を―――せめてもう一度、
インデックスの姿を目に焼き付けてからにしたかったのだが。


しかし状況が状況、ここで上条は『仕方の無いこと』だと認識してしまう。


上条『……』

もちろん、光を失うのは嫌だ。
嫌で嫌でたまらない。
できるのならば絶対に失いたくない。

二度とインデックスの笑顔が二度と見えないなんて、まさに悪夢以外の何物でも無い。

『上条当麻』として自己を完全確立している今は、そんな感情が尚更強いものだ。

643 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/29(月) 20:51:14.08 ID:MAdT1x62o

しかし。

それでも。

どこまでもお人好しで自分を全く大事にせず、
恩着せがましいほどに優しすぎて短絡的な『上条当麻』が―――。


上条『―――おい、ステイル』


―――己が個人的願望を守るせいで―――


上条『―――なんて顔してやがんだ?』


―――友が笑顔を喪失するなど、許容できるわけが無かった。


ステイル『……っ…………』

どこまで行っても、どこまで追い詰められても。
やっぱりこの男はどうしようもないほどに、救いようがないほどに―――『上条当麻』だった。

ステイル『…………どう……していつも……そうなんだ?』

上条『もっと良い顔してくれよ。俺にとってお前の顔が最後なんだから』



上条『さっきなんて―――すげえ良い顔してたぜ』



そして上条は笑った。

ステイル『―――』

先ほど、ステイルの背中を叩いたときのように。
楽しそうに、どことなくからかうように軽く。

ステイルはただ、そんな彼の顔を見ているしかなかった。
何もできず、一言も声を発することもできず。


ただただ―――光を徐々に失っていくその瞳を見ているだけしか。
644 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/29(月) 20:52:54.46 ID:MAdT1x62o

そんな上条の瞳と入れ違いに、ベオウルフの瞼の隙間から漏れ出す赤い光。

それに同じてその密度を増す全身の白銀の光、
ぎちりと金属が軋むような音を響かせて角が伸び―――体も一回り大きくなり。

瞼を縫い付けていたかのような傷が消失し。


そして開かれる―――赤き『光』を宿す目。


完全にスパーダの呪いから解き放たれたベオウルフ、
その神々しい勇姿は、イフリートにも全く引けを取らない存在感を放っていた。


上条『―――見えるか?』


ベオウルフ『誓いを果そう―――息子よ』


ベオウルフは上条への返答の代わりにそう告げて。
翼を大きく広げては眩しいくらいの光を撒き散らしながら、
すぐさまサルガタナスとイフリートの方へと向かっていった。

ステイル『……』

王達の激闘は、完全体となったベオウルフの加勢によって、
ステイルの目でもわかるくらいに一気に形勢が逆転。

上条『……』

上条もその変化を、悪魔の感覚でしっかりと認識していた。
645 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/29(月) 20:54:08.72 ID:MAdT1x62o

上条とステイルが加勢するまでも無いか。

イフリートとベオウルフは、
意外なことにかなりコンビネーションが取れており―――いや、意外なことでもないであろう。

10年以上に渡って同じ男にこき使われ続けたのだから、
共通のリズムをもっていて当然だ。


二人は無言のまま静かに、並んでその圧倒的な戦いを『見つめていた』。


そんな中。


ステイル『僕はね……君のそういうところがどうしても気に入らない……』


ステイル『どうしてもだ……どうしても……』

ステイルが独り言のように、そうぶっきらぼうに口にした。
目はかの戦いに向けたまま言葉だけを放って。

上条『……』

彼の言いたい事は手に取るようにわかった。
上条自身重々承知のことだ。

深く考えない―――いや、違う、深く考えておきながら―――わかっていて、
自覚しながら時にこんな『単純』な―――『浅はか』とも言える道を選ぶ。


その信念は絶対に捻じ曲げないのに―――自分の事だけはすぐに諦めてしまう。
646 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/08/29(月) 20:55:45.92 ID:MAdT1x62o

それを自覚している上で、上条は小さく笑って。

上条『……知ってるさ。俺自身、いつもここが気に入らない』

                                      オレ
上条『でもよ、仕方ないんだ―――これが「上条当麻」だからな』


ステイル『…………………………』

半ば諦め混じりの口ぶりで返した。
そしてそう言いながら、頭の中でガブリエルにあった時の事をふと思い出して。
彼女が発した言葉に今一度納得した。

ああ、そうだよガブリエル、ずっと変わらないよ。
ミカエルだった頃からも、経てきた1000代以上の人生も。


上条当麻である今この瞬間までも―――『俺は何一つ変わっちゃいない』、と。


今の事も『上条当麻』にすれば特に変わったことではない。
普段通り、ごく当たり前のやり方―――『いつものこと』だ。


上条は無言のまま、静かにその瞼を閉じた。


知覚が一つ減ったことによって、
残りの知覚により力が向けられたためか、今まで以上に鼓動が良く響いて聞えてくる。

己のと。


暖かくて、居心地のいい―――インデックスのものが。


そしてもう一つ、今までなら聞えなかったであろう声を拾うことが出来た。

小さな小さな―――『心の中の声』が。


ステイル『(……………………………………………………ありがとう。上条当麻)』


―――
647 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/08/29(月) 20:56:35.22 ID:MAdT1x62o
短いですが今日はここまでです。
次は水曜に。
648 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/29(月) 21:00:32.98 ID:fLoVdqFDO
乙です

胸が苦しくなりながら読みましたわ………
649 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/08/29(月) 21:00:48.47 ID:9daXemLqo
乙。

上条さん……。
650 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/29(月) 21:01:05.08 ID:PJ6UZ+vAo
お疲れ様でした
651 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/08/29(月) 21:09:10.91 ID:lREOUTgAO


これって、上条さんの目の存在が消されてるんだよな
果たして再生の可能性はあるかどうか
652 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) [sage]:2011/08/29(月) 21:17:05.44 ID:hDOQ5gXEo
乙……
653 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/29(月) 21:21:38.57 ID:J1FylGNXo
乙……
上条さん……
654 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/29(月) 21:29:34.42 ID:P1uZNMXDO
上条さんが上条さんらしすぎる……
目復活しねーかな
655 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/08/29(月) 22:27:27.88 ID:OeQdVzjpo
乙・・・まさに上条さんでした。
656 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/30(火) 00:09:08.20 ID:2FM/gQ1A0
乙。

だれかべオウルフさんの完全復活を喜んでやれよ!!
657 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/30(火) 00:59:33.69 ID:EtvURRtSO
乙! 上条さん、アンタって人は……

ところで、
関係ないんだけどDmCのダンテ(?)さんは悪魔と人間のハーフじゃなくて、
悪魔と『天使』のハーフらしい……
半人半魔の設定は?

658 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/08/30(火) 01:46:26.29 ID:oXSHPpIc0
>>657
悪魔と魔女なら
ベヨネッタのほうでエヴァっていう魔女の存在があったからまだ可能性あったのにな
ホント天使って何だよ
659 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/08/30(火) 01:54:10.85 ID:7vU5r7Ceo
>>657
ダンテ?とダンテは別人なのか?
5は悪魔の力が覚醒するまえのストーリーって聞いたけど
660 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/30(火) 02:43:09.78 ID:bLnPN9OWo
>>659
DmCとはDMC5じゃなくて映画のことね
カプコンによるCG映画とハリウッド映画、両方ストーリーは一緒らしいが
ゲームのバイオキャラと映画のバイオキャラの違いみたいなもんだと思う
661 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/08/30(火) 10:33:27.64 ID:SiG5EB6C0
地の文でサラッと書いてあったけど、上条さんはミカエルだったのか……
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662 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/30(火) 11:26:40.02 ID:IRx00uCDO
>>661
まぁミーシャとの会話でそれっぽいのは言ってるからな
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663 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/08/31(水) 03:14:33.67 ID:zemqk2WAO
キリスト教への配慮だろう
アメ公は意外と信心深いから


そんなことはどうでもよくて
上条当麻は偽善者……でも、嫌いじゃないぜ
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664 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/01(木) 01:29:38.80 ID:3rS9Fa1Ro
―――

禁書『―――』

何百も越えた果てのとある階層にてインデックスは振り返った。

彼女の視線の先には何もなかった。
これまた異質な階層の光景、深い紫色のガラスのような地面が続くばかり。

インデックスが見ようとしたのは、実はこの階層のこんな景色ではなかった。

彼女の『目』は、意識は、階層を遥か越えた先に向いていた。

一心同体となっている彼女にとって、
上条の身に起こったことは己が身へのものと等しい。

彼が光を喪失するのと同時に、彼女もまた気付き知る。
それがまた彼自身の意志で行われたことも。

彼は良くも悪くも筋を貫き通したのだ。
一切揺らがず、ただありのままの『上条当麻』としてのやり方で。

そしてそこもまた、インデックスが愛する彼の一面。
そんな彼の行為を否定する気など、彼女には全く起きなかった。


ただやはり―――光の喪失は悲しいことであるが。




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665 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/01(木) 01:33:35.50 ID:3rS9Fa1Ro

上条当麻を『見つめる』、そんな彼女の目は今だ力強さを保っていたものの。
他の部位の状態は明らかに疲労一色に染まっていた。

額は汗ばみ、肩で息をし、吐息は熱を持ち、
また内面の意識も憔悴しきっており。

脇で屈むローラに至っては、まるでチアノーゼのように青ざめていた。


神裂『……』

そんな二人の状態は誰の目に見ても明らか。

もう限界だ。

撒いたと確証が得られるまでは停止してはならないも、
これ以上の強行軍もまた彼女達の命を危うくしてしまうのだ。

神裂『……少し休みます』

足を止めるのもやむを得ない。

幸いなことに、追っ手が迫ってくる気配も今のところは無く、
幾分か彼女たちを休める時間も確保できそうであった。

いや、もしかするともう撒き切っているのかもしれない、と。


神裂『―――……』


と、神裂が一瞬そんな事を考えたのも束の間、
まるでその考えを即否定するかのように。

一体の大悪魔が不意に出現した。

もちろん、こちらに対する敵意と殺意を抱いた招かれざる者だ。




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666 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/01(木) 01:34:32.78 ID:3rS9Fa1Ro

古来から、今の歴史が『作り出される以前』からも人間界に干渉してきていたのか。
アスタロトの勢力については、正確性はともかくその名や存在が現代にも伝わってきている。

神裂『…………………………!!』

この時現れた大悪魔もまた、
彼女が人間として得てきた知識だけでも充分正体を判別できる存在であった。


―――牛に似た頭部に、巨躯で屈強な体つき。


アスタロトの配下となれば、
該当すると考えられるのはサルガタナス直下の三将の一、『モラクス』だ。


神裂『―――……ッ……!』

ここで戦うにはあまりにもリスクが大きすぎる、強大な大悪魔だ。
つまり本来ならば即座にまた次の階層へと飛ぶべきなのだが、
ただ現状はこの通り、そうもいかない。

背後の二人はまだまだ休息が足りず、
ローラなんか休息を設けてもこれ以上はもう無理かもしれない。


そうなると道は一つ。


神裂は左手、七天七刀の鞘の感触に意識を集中させていった。




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667 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/01(木) 01:36:51.25 ID:3rS9Fa1Ro

とこの時。

その手に伝わる七天七刀の感触がなぜか、いつもと異なっていた。

いや―――異なっていたのは七天七刀の感触ではなく、神裂の側であった。
ここで神裂はやっと、その自身の状態の小さな異変に気付いた。

神裂『―――』


七天七刀を持つその手が―――『震えていた』。


自覚していた以上にステイルとの一件が、良くも悪くもかなりの『刺激』となっていたのだ。


的確な判断が必要とされる状況下に置いて、
客観的視点を保つことは非常に重要なことだ。


だが時と場合によっては、その離れた視点は―――気付かなくてもよかったことをも見出してしまうこともある。


神裂はこの瞬間、今まで経験した事がないくらいに―――『覚めて』しまった。
自分にのしかかっていた極度の重圧を認識してしまい、
まるで初めてそれを体感する赤子のように―――とてつもない恐怖を覚える。


己はなんという状況で、なんという綱渡りをしているのか、と。


今、何よりもインデックスが、守るべき存在がすぐ後ろにいる。
鼓動を、呼吸を、体温を背に直接感じるほどに近く。

そしてすぐ前に強大な力を有する『破壊』が立ちふさがっている。


そんな両者を隔てるのは自分だけ―――なんて状況なのだ、と。




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668 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/01(木) 01:39:09.69 ID:3rS9Fa1Ro

普段の彼女であったら、この程度では決して動揺なんかしない。
だが今は、先のステイルとの件で『弱さ』が剥き出しにされたばかりだ。

殻の全てを剥されて、いわば神裂は『赤子』の状態に戻されたようなものだ。


ステイルとの一間、その直後はインデックスを追うことで一杯であったため、
そこで後回しにされてた―――『続き』が今ここで再回した。


魔術師で、元人間で、元天使で、悪魔で、そして一人の女。


赤子のように露にされ再確認させられた上で、七天七刀に宿る『力』がここで今一度問う。

お前は―――なぜ刃を振るうのだ?、と。

これはなんと馬鹿げた質問か、答えは決まりきっている。

神裂『―――ッ』

だが即答できない。

頭が真っ白になってしまう。
言葉が思い浮かばない。
具体的に描けない。

そんな瞬間でも神裂の鍛えられた本能は、
即座にモラクスの戦意に反応し、右手を柄に運んでいく。

しかしその握りの感触。

今まで通りなのに、なぜか強烈に覚える違和感。


彼女は漠然とこう感じた。

噛み合っていない、と。


刃と私が噛み合っていない。


『私』と『神裂火織』が―――噛み合っていない。




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669 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/01(木) 01:40:30.06 ID:3rS9Fa1Ro

このままでは、このモラクスと戦えたものではない。

とにかく己の内面の状態を元に戻さなくては。
『弱さ』を厳重に閉じ込めて、殻で守らねば。

そう神裂は己を整わせようとするも、
強固になるのは緊張ばかりで、余計に消耗していくばかり―――。

神裂の意識は迷い困惑し、混乱の中に落ち込んでいく。

と、その時であった。



禁書『―――か、「かおり」!』



神裂『―――』


暗雲立ち込める神裂の意識内に走る、背後からの声。
その響きはまるで稲妻のように彼女の中に突き刺さり、
そして道しるべのように明確な光をともす。

この切迫した状況に対しての思わずの声だったのだろう、
インデックスとしては何かの深い意図を篭めたわけではない。

だが今の神裂にとっては、
それが何よりも変え難い大切な大切な一言であった。


そんな風に呼ばれたのは―――インデックスに下の名を呼ばれたのは、一体何年振りだったろうか。


神裂『…………』


そう、これだ、この声なのだ。
この一声で充分、ここにはっきりと証明された。


簡単だ、これが―――私の刃を振るう理由だ。


そのようにして彼女自身が、
『神裂火織』という問題に対する『答え』を再認識した瞬間――――――震えは止まった。




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670 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/01(木) 01:41:51.07 ID:3rS9Fa1Ro

この『弱さ』とは、『神裂火織』の中心核だ。

『弱さ』と隣にあるからこそ、
自身の本質を見極めることが出来て―――大切な声も逃さずに聞くことが出来る。

一度『神裂火織』が『破壊』され、
『弱さ』が剥き出しになってリセットされたからこそ、
あの時にバージルの声を聞くことが出来て、今インデックスの声が聞こえた。


『弱さ』がバージルの返事を引き出し、『弱さ』がインデックスの声に意味を見出したのだ。


殻で覆う必要はもう無い。
これはこのままで良いのだ。


ただ純粋に―――あるがままであれ。


一切の淀みも余分なものも捨て去れ。


神裂『―――』


ありのままの己の本質を見つめろ。



それが声を聞き、そして―――『この絶大な力』を完全統制することを可能にさせてくれる。



先までの違和感が嘘のように手に馴染む、
七天七刀の確かな感触。

無用な『力み』がひいていき、呼吸は穏やかに。

そしてはっきりと聞える七天七刀の声。
その力の鼓動が聞える。


それはすぐに己のリズムと同期し―――全く『同じ』鼓動となる。





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671 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/01(木) 01:43:04.01 ID:3rS9Fa1Ro

ここに『彼女』と『神裂火織』は完全に噛み合った。
バージルから授かった力を最適かつ最高の出力で引き出せ、余すところ無くここで発揮しろ―――。

彼女の醸す空気の変化を敏感に気取ったのだろう、
モラクスは一度低く鼻を鳴らした後に低く身構えた。


それがまた神裂にとっての号令ともなる。


彼女の動きは完璧なものであった。

柄を適度な力で握り、同時に方足を踏み出し。
力を練りこみ限界まで鋭く研ぎすまして。

滑るように、かつ神速で抜刀する。

それは今までで最も洗練され、最も美しく最も強く。
そして彼女にとって初めての―――バージルと『同じ刃』であった。


神裂『シッ―――』



唯閃――――――――――――『次元斬り』



鳴り響く甲高い金属音。
瞬時に走り過ぎ去っていく、細い青い光の筋。

今にも突進しようかといたモラクス、彼がその身を前に進ませることは叶わなかった。


いや―――『半分』を数メートル程度進めることはできたか。


一瞬の完全なる静寂の後。
神裂がゆっくりと納刀し、鍔と鞘口が重なる音が響いたとき。


モラクスの上半身が無造作に『滑り』落ちた。

その足元に、前のめりになるように。




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672 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/01(木) 01:44:59.63 ID:3rS9Fa1Ro

神裂『はっ……あはっ……』

このような状況では常に自身を律する彼女でさえ、
これには笑いを零すさずにいられなかった。

鞘に納まった七天七刀を抱きしめ、その柄に額を当ててしばしこの成功を喜んだ。


文字通り初めての『次元斬り』に成功したのだ。


バージルの刃はこの身をもって覚えた。
本能に、更にその下の魂、自身の本質にまで深く刻み込まれた。
だが一発も、ただ一振りも、バージルと同じ刃を放つことはできなかった。

神裂の次元斬りがこの計画に必要不可欠なのに。

アイゼンは「魂に刻まれているのだから問題ない」、と言っていたのだが、
それでも神裂は人の子、己は使命を果たせぬのではとそこに底知れぬ不安を抱いていたのだ。

そこにこの成功だ。


ステイル!見ていましたか今の!
土御門!これが私の真の姿ですよ!
上条当麻!どうです私の刃は!


インデックス!これならあなたを―――。


場違いでもたまらない嬉しさに笑いながら、
インデックスとローラの方にゆっくりと振り返えろうとした時。



『―――モラクスを一発か。なかなかのものじゃないか』



その背後からそんな言葉が放たれてきた。
それも確実にインデックスでもローラでもない声が。

なにせ―――『男』の声だったのだから。


更にその『男』が、神裂にとって好ましい人物ではないのも確かであった。

非の打ち所の無い美声にもかかわらず、その音の下には明らかに―――


―――底なしのおぞましき悪意が聞いて取れたのだから。




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673 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/01(木) 01:47:08.95 ID:3rS9Fa1Ro

神裂『―――』

緩んだ顔を一瞬でまた引き締まらせて神裂が振り返ると。

巨大な『龍』が至近距離にいた。
文字通りの目の前、その大きい頭部がインデックスとローラすぐ頭上にあるほどに。


そして声の主は、その龍の前足付近に寄りかかっていた。


白銀のゆったりとしたローブに身を包んだ、一人の『神々しいくらいの美男子』。
光溢れる金髪に、組んでいる腕に挟まっているこれまた煌びやかな『金の槍』

その表面的な姿は、まるでお伽の中に出てくる英雄や王子のように非の打ち所が無いものであった。


そう、『表面的』な姿は、だ。


神裂『―――』

この男を目にした途端、神裂は咽返るような、
筆舌に尽くし難い嫌悪感に襲われた。

少なくとも人間的な感覚を持ち合わせていれば、顔を歪めずにいられる者などいないであろう。
特別な近くなどが無くても、誰しもが本能的に悟れるはず。
見た目と中身がこれほどまでにかけ離れている存在なんで、神裂は今まで目にした事が無かった。


―――まさに吐き気を伴う醜悪さ。


そして神裂以上に近くにいるインデックスとローラは、
その男を見て固まってしまっていた。

彼女ら魔女二人は、この男の正体を知っていたのだ。


アンブラで育ち教育を受けた者なら、例外なく全員知っている―――この『男』の事を。

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674 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/01(木) 01:49:11.42 ID:3rS9Fa1Ro

『それだけの力を持っていれば十分だ』


男は見るに耐えない『美しい笑み』を浮べながら、
そう馴れ馴れしい口ぶりで歩み寄ってきた。

左手に金の槍、右手で龍の長い首をなぞり伝いながら一歩また一歩と。

その接近がたまらなく不快であり、
そして絶対に許せない。

こんなバケモノを、決してインデックスに近づけてはならない―――。


『どうだ?俺に将として仕えないか?』


そんな男の申し出など無視して、いや、逆に返答するかのように。
男が、手を伸ばせばインデックスとローラに届くかというところにまで歩み寄ってきた瞬間。


神裂『―――シッ』


神裂は前へ踏み込んで抜刀した。

そしてインデックスの頭上を越えて、男の顔面目掛けて放たれる―――『次元斬り』。


それも斬撃だけではなく、その刀身で直接―――。


だがその渾身の一振りの手ごたえは鈍かった。
いや、ある意味かなりの衝撃があったとも言えるか。


神裂『―――――――――』


結論から言うと、神裂の刃は男に僅かな傷さえも与えることは出来なかった。
男は受け流したのでも弾いたのでも、白刃取りでもない。


七天七刀の切っ先を、ただ人差し指で―――引っ掛けて止めていただけだった。




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675 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/01(木) 01:51:16.67 ID:3rS9Fa1Ro

神裂『―――なッ―――』

目の前で起きていることが理解できない。
あのモラクスを屠った刃が、いや、直接斬りつけたのだからそれ以上の刃が。

指で軽く止められている現実が。

そしてつままれている切っ先もびくともしない。
どれだけ力を篭めても1mmも動かない。


『そうだ、この刃だ。この刃を忘れた事は無い。「つわもの」共の憧れ、崇拝の象徴だった「破壊」の姿』


遅かったか、神裂はここでやっと認識した。
この男と己の間にある、桁違いの力の差を。

『魔界一荒々しくも誇り高く高貴、忌々しくも恋してしまうくらいに完璧な力』


『惜しい。これがかの魔剣士、もしくは息子達の一振りだったのであれば―――』


また、相変わらず馴れ馴れしく笑う男の口から。



アスタロト『―――このアスタロトの腕を簡単に飛ばせただろうな』



その正体を聞いては、これも納得せざるを得なかった。


神裂『―――…………』


アスタロト『せめてもう少し練りこまれていられれば―――』


アスタロト『そうだな、大体―――その「100倍」ほど、力の密度が高ければ―――この指くらいは飛ばせたであろうに』


そして男、アスタロトは、
つまんでいたその切っ先を軽く指で弾いた。


たったそれだけで、神裂の体が50mほど後方に飛ばされていった。




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676 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/01(木) 01:53:09.60 ID:3rS9Fa1Ro

神裂『―――ッッぐ!!』

何とか体制を建て直して、
このガラスのような地面に手足を叩きつけて制動する神裂。

その時、声が聞えてきた。

アスタロト『―――さあて、やっと追いついたわけだが』


アスタロト『まず「どちら」からいこうか』 

聞くに堪えない声で綴られる、おぞましき『欲望』が。


アスタロト『ふむ―――こっちだ』


神裂『―――』


『こっち』がインデックスかローラかは、
神裂にとってさしたる問題ではなかった。

どちらでも同じだ。

どちらであろうが、手を出すのは絶対に―――。



神裂『あぁ―――ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!』


それはまさに咆哮であった。
彼女は更なる力を篭めて七天七刀を抜刀し。雄たけびとともに再びの次元斬りを―――振り返りざまに放った。





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677 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/01(木) 01:54:49.33 ID:3rS9Fa1Ro

神裂の次元斬りによるところが大きいか、
それともインデックスとローラ、どちらかが動いたのか。

どれによる影響が一番アスタロトの行動の妨害となったのか、それはわからなかった。
そもそもそんな過去の状況分析も、この直後の神裂とっては意味が無いものであったが。

少なくとも神裂はこの時。

視線の先にある惨状を見て、
アスタロトが望んだ結果を変えられたとは到底思えなかったのだから。

再びの次元斬りの直撃を受けて、今度は大きく仰け反るアスタロト。
その衝撃か、それとも彼女を守るべく『誰か』に脇に除けられたのか、離れた場所に転がるローラの体。


そして。


龍の口、牙の隙間から突き出している―――白い修道服を纏った―――血塗れた『細い腕』。


神裂『―――』


頭が真っ白になるとは、まさにこのことだった。
神裂の何もかもがぶっつりと途切れた。

意識も、思考も。



―――希望も。


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678 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/01(木) 01:55:58.39 ID:3rS9Fa1Ro

ただ。

幸いなことにそれは彼女の『早とちり』であった。
これには気づけと言う方が難しいが。

神裂の『希望』は間一髪のところで救われていたのだ。


さすがに完全、五体満足とまではいかなかったが。


直後、ローラの傍に降り立った赤い影。
それはジャンヌ。


そして彼女の腕の中には―――右腕の無いインデックスがいた。


神裂『―――ッ!!!!』


ジャンヌは屈み、そんな彼女をそっとローラに預けた。

彼女自身、自分で何を言っているかわからないだろう、
ローラがめちゃくちゃに喚きながら、インデックスを抱き取った。

その頃には神裂が滑り込むように、
ローラとインデックスの傍へ駆け寄っていて。

またアスタロトも顔を向けなおして。


アスタロト『―――ははは!!見失って半ば諦めかけていたんだがこれは良い!!!』


ジャンヌへ向けて真っ直ぐに笑った。

相変わらずおぞましく笑うその顔には、やはり傷一つついていなかった。
かすり傷どころか僅かな汚れさえ、ただの一つも。




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679 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/01(木) 01:57:40.54 ID:3rS9Fa1Ro

アスタロトの関心は今やジャンヌにしか向いていなかった。
この怪物にとって、この場にいる他の者は『カス』にしか過ぎなかったのだろう。

このジャンヌが強大、最高の『食材』であるが故に尚更だ。

そんなおぞましい怪物の声に、ジャンヌは無言のまま振り向いて睨み、
同時にかかとの銃口を地面に打ち鳴らした。

その瞬間。

彼女の赤いボディスーツが、一瞬にして繊維状にまでバラけて、
その繊維が瞬時に彼女と同じ髪色へと変わり。


そして再び編みこまれて―――白銀のボディスーツへと変貌した。


その変身を経て、ここにジャンヌの全ての力が解き放たれた。

普段のままでも桁違いであったが、
今やそれとは比べ物に成らないくらいに圧倒的。

「長に相応しき」とされたそれらの力を銃口に篭めては、
静かにアスタロトへ向けて。


アスタロト『良く来てくれた!!「メインデッシュ」!!』



ジャンヌ『―――黙れクズ』



吐き捨てると同時に引き金を引いた。


そうして放たれた極太の光の柱は―――アスタロトの頭を一瞬で潰して。

更にその全身を木っ端微塵に吹き飛ばしていった。




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680 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/01(木) 01:59:57.72 ID:3rS9Fa1Ro

飛び散る破片、溢れる光と衝撃。
そんな中、龍は彫像のようにただただ平然と佇んでいた。

醜悪な『美男子』の姿が後かなも無く消失しても。


そしてその爆轟ののちに響くのは悲痛な二つの声。

神裂『ああああ!!!!インデックス!!こんな―――……!!!!』

我を忘れてただただ嘆く神裂きと、
めちゃくちゃに喚くローラの、言葉にすらなっていない声。

インデックスの右腕は、肩口からまるごと無くなっていた。
その修道服は今や、まるで最初から赤色だったかのように完全に染まりあがっていた。

だがそれでもインデックスは、左手でやさしく子猫を守り抱き、
そして自身は痛みの声を挙げまいと懸命に口を噤み堪えていた。

そんな彼女の姿を目にして神裂は。


神裂『どうして―――私は―――!!私がいながらっ!!!!』


悔しくて悔しくてたまらなかった。

己はどこまで不甲斐ないのだろうか、と。

満身創痍で憔悴しきっているローラ、
悲痛な声でめちゃくちゃに喚くそんな彼女でも、
その金の繊維が的確にインデックスの傷の応急処置を行っていた。

でも己は見ているだけで何も出来ない。
守る、という自身の仕事を果せなかった。

出来て当たり前の事に、能天気にはしゃいでいた先の己に対して怒りがこみ上げる。
仕事の一つまともに果せない、こんな自分が憎くてたまらない。


こんな―――最も大切な存在までにも、こんな深い傷を負わせてしまって。


ステイルに、上条当麻に、一体どう顔向けすれば良いのか。
果たして、インデックスにどんな言葉で謝れば良いのだろうか―――。




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681 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/01(木) 02:00:54.82 ID:3rS9Fa1Ro

気付くと。

神裂はとてつもない悔しさと怒りのあまり、
一瞬で大粒の涙を零してしまっていた。

そんな彼女を見上げて、
インデックスはその口をゆっくりと開いた。


禁書『……かおり、私は……大丈夫』


神裂『そんな…………私のせいで…………!』

自分なんかがインデックスの言葉を受け取る資格が無いと、
神裂は涙ながらに首を強く横に振った。

だがそんな彼女に更に背中越しに。


ジャンヌ『―――神裂。お前は良くやったさ』


彼女に落ち度など無いことを告げるジャンヌ。
そして続けて。



ジャンヌ『―――あとは私がやる』



ここの状況は未だ―――収束してはいないということも。




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682 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/01(木) 02:03:01.54 ID:3rS9Fa1Ro

その時、神裂・ローラ・インデックスの周りに、
どこからともなく銀髪の束が出現して。
周囲の地面に突き刺さり、ワイヤーのように延びて三人を囲むように一つの魔方陣を構築した。

ジャンヌ『全て終るまでそこから出るな。絶対にだ』

そう告げるジャンヌの右手には、
異様なオーラを纏う『日本刀』が出現しており。

そしてその視線の先、相変わらず平然と佇む龍の脇にて。


『これまた懐かしき名刀を―――!!』


肉塊が出現して、激しく蠢いて。


アスタロト『―――「アスラ」から生まれし魔剣の一つか!!』


再びあの醜悪な美男子の姿を形成した。


アスタロト『追いかけっこは終わりか?!』



ジャンヌ『そうだ―――ここが終点だよ―――「お前と私」のな』



ジャンヌはアスタロトを真っ直ぐに見据え、
完全な無表情で淡々と返した。



ジャンヌ『お前が喰らった私の家族―――その「全員分」のケリを付けさせてもらう』



冷ややかに、かつ鋭く。


一方でその身の奥深くでは、
一手に引き受けたアンブラの憤怒を滾らせて。

―――



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683 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/09/01(木) 02:04:25.79 ID:3rS9Fa1Ro
今日はここまでです。

それと次の投下ですが、私用のため少し間が開きます。
すみません。
次回は6日か7日に。



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684 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/01(木) 02:06:01.56 ID:iftL40YDO
乙です


上条さんだけでなくインデックスまで………
先々の展開が気になるわ
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685 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/01(木) 02:23:40.88 ID:SNIvd5TDO


上条さんもインデックスさんも重傷とか……


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686 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/09/01(木) 06:44:37.87 ID:lPF0jicz0
乙。

相変わらず先が気になるSSだぜぃ。
ま、アスタロトの結末は見えてるが。
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687 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/01(木) 07:10:53.65 ID:BOsDS33So
お疲れ様でした。
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688 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/01(木) 07:15:11.73 ID:2vf3MEeSo
上条さんは目を失ってインデックスさんは腕を失って・・・
さらに一方さんは人間としての生活、打ち止めは一方との絆、浜面と滝壺は仲間を失ってるんだよな・・・
三主人公とヒロインがボロボロすぎて辛い
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689 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/09/02(金) 00:55:56.29 ID:Py4ojzKdo


思えば、初期の下級悪魔との戦いからのインフレがすごい
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690 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/02(金) 02:17:42.66 ID:MoV+e+Nuo

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691 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/09/02(金) 11:10:13.73 ID:9RW2zB8A0
Σ(;゚Д゚)ちょっと見ない間に凄い事になってたよ乙!?
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692 :VIPにかわりまして [sage]:2011/09/03(土) 23:39:34.44 ID:ztuEpEi20
インさんも上さんもどんどんボロボロになっていくぜぇ・・・><
この状況に、さらにフィアンマ+。アレイスター+と。どうなるんだこれ!?
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693 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/09/03(土) 23:49:34.97 ID:xS5oWh8bo
この話ってデュマなんとか島編と同時刻の話だっけ?
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694 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/06(火) 00:25:35.21 ID:r0SNjJ4Vo
杏子ちゃんのポニテもっふもふ
695 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/06(火) 00:26:04.29 ID:r0SNjJ4Vo
すみません誤爆しました
696 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/09/07(水) 23:05:39.66 ID:Fd1IjwTVo
そろそろかな
697 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/07(水) 23:57:31.27 ID:ZppyRUSco
―――

一方通行の言葉に狼は軽く喉を鳴らした。

それは納得したものかそれとも苦笑、嘲笑か、
一方通行にとってこの異形の狼の表情を読み取るのは困難だった。

ただ、これだけはわかった。
狼には、こちらを拒否する気は無いことだけは。

やれるものならやってみろ、というスタンスなのだろう。

狼は言葉を返さぬまま、再び獅子へ向けて突進した。
その向こうの獅子もまた同じく。

そして再び激突する青と緑の閃光。


一方『……』


そこで一方通行は、まずは『毎度のごとく』目の前にある問題の解決法を探った。

そう、このような状況はここ半年のいつものことだ。
上条当麻、あの男と運命が交わってから常に、
そして加速度的に身の周りの『戦い』は苛烈を極めていった。

今や追いやられ窮地に立たされるのは当たり前、
その場で学び進化しなければ決して前へ進めないのもまた然りだ。

ということで、いつもの通り解決しなくてはならない問題、
その今回の内容は、怪物たちの戦いがあまりにも速過ぎて捉えられないことだ。
698 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/07(水) 23:59:22.01 ID:ZppyRUSco

閃光と力の嵐としてしか認識できず、
狼や獅子の動きに全く意識がついていけない。

それも単に速すぎるというわけではない。

物質的な速度が横向きの指数であるのならば、
力の速度は縦向きの指数ともいえるか。

眼球で光を捉えて認識する、
その人間界ではごく一般的な『見る』という考え方ではどう転んでも見えないものだ。

つまりそこに必要なのは、力を―――神の領域の『見る』能力だ。


そして幸いにも、その力に対する知覚自体は―――ついさっき、少しばかり前に構築したばかりであった。


一方通行『―――……』

衝突の余波を避けるように少し後方に跳ねながら、
一方通行はその知覚の『調整』に集中する。

彼はこの時、今の状況を不幸中の幸いだと考えていた。

百聞は一見に如かず、まさにその通りだ。

神の領域の知覚を手に入れるには、
その『現物』が目の前に無いと話にならないのを彼は実感していた。

そこらの雑魚悪魔なんかは当然、
上条やフィアンマ相手でも、ここまでの『質』の力を見ることは出来ない。


また更に幸運なことに、
彼が今求めているものも具体的にイメージできていた。

これもまた過去のクソッタレな状況に陥った『おかげ』だ。
神の領域の知覚、その現物自体を彼は以前、その身に一時的に持っていたのだから。


そう、魔帝の一件の際のこと―――垣根帝督と接続していた時、求めているのはあの領域の知覚だ。
699 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/08(木) 00:00:26.14 ID:fwmlhSlao

あのバージルに血まで流させることが出来たあの時のだ。
今でも信じられない、まるで白昼夢の中にいたような感覚だが、実際にこの身に有していたのだ。
さすがに同一のレベルのものを手に入れられるわけは無いものの、欠片程度は再現できるはずなのだ。

上条と戦った際に漆黒の『杭』を自力で引き出したように。


今この戦いも、越えていくにはまた―――学び、そして進化しなければならない。


一方『―――ッ!!』


ビキリとこめかみに走る鋭い痛み。

この両手を構築している黒い物質、
それがこの身の侵食が加速していくのをはっきりと感じる。
根を伸ばしていくように血管を伝い、筋肉、臓物、骨、そして神経に浸透し『入れ替わっていく』のを。

『神の領域』と例える高みに近づけば近づくほど、加速して肥大化していく。
より高度な、より精密な、そしてより大きな力を求めるほど、この深淵の力が呼応し。

そして。


一方『(―――「見えて」―――きたな)』


閃光と力の渦の中、虚ろながらも微かに認識できた―――怪物たちの姿。

地面にはノコギリの歯のような『氷』が走り、
緑色の閃光と激突しお互いを砕いていく。

その青と緑の瞬きの中、獅子と狼は牙と爪の応酬をしていた。

双方の牙や爪が当たるたびに、
凄まじい衝撃とともに、青い氷と金属に似た質感の破片が飛び散っていく。

700 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/08(木) 00:02:21.04 ID:fwmlhSlao

一方『……』

充分とは言えないが、ひとまず微かにでも見えるようになれれば充分だ。

そこで次の課題は、こちらの攻撃が僅かでも相手に届くかどうかだ。

ここで思い出すのが、カエル顔の医者の言葉。
あの『杭』はいらない、この『腕』がある、と。

そう、この暴れ者の両腕が力の塊であり『精製所』なのだ。

あの怪物相手に手加減は無用。
一方通行はこの『手』が有する全ての力を完全な掌握化に置き、拳の先端に集束させて密度を高めて。

宙から徒手空拳で撃ち放つ。
彼が拳を振りぬくとそこから高密度の力の衝撃が放たれ、獅子へ向けて撃ち込まれた。

この一撃は、あの黒い杭の束で全力で突いたのと同じ程度の威力を有していたであろう。
だがそれが獅子の首あたり、金属板が連なっているようなたてがみに直撃した時は、『地味』の一言であった。

『弱い』というわけではない。ただ周りが『強すぎた』のだ。
周囲で吹き荒れている力と比べれば、その『衝撃弾』は小さな火花でしかなかった。

しかしそれでも、効果がまったくないというわけでもなかった。


意識外の外野から突然に首や顔を突かれたら、
どんな達人だって集中が途切れてしまう小さな瞬間が生じるものだ。


獅子も瞬間、この予想していなかった外野からの刺激に一瞬意識を奪われてしまい。
この苛烈な戦いの中でごく僅かな隙を見せてしまった。

それを狼は見逃しはしなかった。
いまや『二頭』となっている氷狼は、即座に前足で獅子の頭を横殴りにし、
金属板が連なったようなたてがみに、一つの頭部が食いつき一気に引き千切った。

そこに次いでもう一つの頭部が顎を開き。

たてがみを毟った箇所へ向けて、至近距離から氷を吐き放った。
701 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/08(木) 00:04:15.33 ID:fwmlhSlao

それは氷、と言うよりは質量をもった光のジェットであった。
それも高温ではなく超低音。

青色の光の塊が、進行方向にあるもの全てを砕き吹き飛ばしていき、
伝わる衝撃が何もかもを凍らせていく。

そんな超低音の噴射に至近距離から晒されて、
大きく弾き飛ばされていく獅子の巨体。

千切られ吐き捨てられた、『たてがみ』を形成していた『板』が、
その主の体を追うように吹っ飛んでいった。


一方『はッ―――』

主役でもなければ派手でもない、
むしろせこくてケチなやり方ではあるが―――これぞ『1%』の仕事だ。

フィアンマとの戦いの時、そこに現れた土御門で一気に形勢が変わったように、
脇役には脇役の、雑魚は雑魚にしかできない『大役』があるものなのだ。


ただ、99が+1で100になったからといって安心するのは早い。
相手も100であるのだから、ここからどう状況が転ぶかは半々というところだ。

短い歓喜の声を漏らした一方通行もそれは知っていた。
降り立った彼は、破壊された街を覆う『ダイヤモンドダスト』―――氷結した粉塵のベールの向こうにすぐさま意識を張り巡らせた。

狼もまた、その場から動かずにベール向こうの動きを静かに探っていた。
702 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/08(木) 00:06:04.37 ID:fwmlhSlao

とその時。
煌きのカーテンの奥から放たれてくる―――緑色の光の衝撃波。

一方『―――』

迫る光の波、一方通行にこれは見えていた。
だが『見える』のとそれに対処できるかどうかはまた別の問題。

彼は見えてはいたが、この時はまるで反応できなかった。

一方通行がやっと頭で状況を認識したのは、
目の前に出現した『氷の壁』が光の波を押し留めた後であった。

一方『―――!!』

まるで対応できなかった。

この氷の壁がなければ、あの瞬間に命尽きていたのだ。
これではお荷物状態、+1%ではなく『−1%』ではないか。

直後、狼と獅子は再び激突し爪と牙の応酬を再回していた。
両者とも、再び一方通行など意識外に退けてしまっているようだ。

一方『―――チッ!』

それも仕方の無いことか。
見えることは見えるも、有する力は先ほどの『ちょっかい』程度が限界なのだから。

あのような『ちょっかい』が効果を持つのは大抵一回目だけであり、
今となっては獅子にまた隙を生じさせれる可能性は限りなく低いであろう。
703 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/08(木) 00:07:53.01 ID:fwmlhSlao

ならば力を、と、そう簡単に手に入ったら苦労はしない。

フィアンマ戦の際に腕を捨てたようにすれば、
いくらかは力を増すこともできるであろうが、
今眼前で繰り広げられている戦いはその程度でどうにかできる水準ではない。

周囲には、この怪物たちが放つ莫大な力が渦巻いているが、それにも当然干渉はできない

当然これもまたバージルに洗礼を受けたあの時に初めて触れた、
反射幕を素通りしてくる・干渉できない類の力だ。

一方『クソ……!』

もし、もしこれが従来のベクトル操作の要領で、
もしくはこの両手の力のように己がものとして支配下におくことができれば、
今よりも遥かに強くあの狼を支援できるのに。

無理だとわかっていながらも。
彼は悪態を付きながら、眼前にある氷壁に手を触れた―――時。


一方『―――』


カエル顔の医者の「その腕がある」という言葉は、
「杭のかわりとなる」というのとは別の意味をも含んでいたのかもしれない。


『一方通行』、『触れた』ベクトルを操る能力。
そんな能力から昇華して噴出した漆黒の力。


その闇で形成されている『この両手』が今、初めて神の領域の力に『触れた』。


再びこめかみに走る刺激と同時に、
彼の中で何かが破裂した。

それは拘束具。
彼の意識を下層位階に縛り付けていた留め金。


解き放たれた彼の認識はこの瞬間、神域へと一気に跳躍し―――彼は『理解』した。


一方『―――――――――――――――』


これら神の領域の力が、そして自身の両手がいかなるものかというのを。
704 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/08(木) 00:09:20.98 ID:fwmlhSlao

バージル、魔帝、そしてこの狼と獅子。
またそこまでとはいかないものの、上条やフィアンマ、ステイルの使う力もそうだった。

神の領域、もしくは神の領域に届く類の力。

それらと『下次元』とでも言うか、この世界に一般的に溢れている多様なエネルギーとの違いを、
今までは『大きすぎる・次元が違う』などといった具合でただ漠然と考えるしかできなかった。

だが、実際にはそこに特に難解な理論などがあるわけでもなかった。
違いはごく単純。

『生きているか否か』だ。


神の領域の力は、明確な意志を持ってそれ自体が―――とてつもないほどに『強く』―――『生きている』のだ。


簡単に言ってしまえば、
他者の『魂』を直接操作できないのと同じなのだと。

バージルや魔帝、狼や獅子の力はもちろん。
フィアンマ、上条やステイルの力も『強く生きている』。


そして。


一方『―――……』


この漆黒の両手もまた―――『生きている』。


魔界やこの方面に詳しい者達の間では、
別の表現を使っているのかもしれない。

だがこの時の彼にとってはこの『生きている』という表現こそ、
様々な意味を含んで最もしっくりくるものであった。
705 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/08(木) 00:11:02.64 ID:fwmlhSlao

そのような認識。

今の周囲の状況下ではすぐ役に立ちそうも無いことであるが、
実際はそうではなかった。

逆に考えていけばその先に、この状況を好転させる答えがあった。


ここにある氷は、『生きている』のだから干渉できない。

一方『―――おィ!!』

では―――死んでいれば?



一方『―――――――――この氷を「殺せ」!!』



『生きている力』ではなく、『死んでいるの力』ならば?
彼は両手を氷にあてたまま、狼へむけて声を張り上げた。
獅子にも聞えることなど気にも留めず。

当然、獅子と戦っている狼にとっては返事をするどころではなかったが、
氷から、一方通行がそこに干渉を試みているのを悟ったのか。


一方『―――はッ!!』


彼はその手から、
氷がすぐに『死んでいく』のをはっきりと認識。

ここからはベクトル操作や、自分の力を制御する要領でいける、
まさに彼の―――『得意分野』だ。
706 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/08(木) 00:12:08.76 ID:fwmlhSlao

一方通行はその莫大な、桁違いの規模の力を的確に掌握していった。

一方『―――ッ』

強烈な負荷が圧し掛かり、全身の体組織が張り詰めていく感覚。
だが対バージルの際の垣根帝督とリンクした時に比べれば随分とかわいいものだ。

瞬間、氷が砕け散っては彼の両手の周囲で渦を巻き。

そして彼が指を弾くと、冷気の筋となり氷の刃を走らせていく。

その光景はまたしても獅子にとって予想外のことであったろう。
氷の支配権を明け渡した狼自身も意外であったに違いない。

戦いの手が両者とも一瞬止まった。


次いで獅子のわき腹に打ち込まれる氷の刃と、響く二つの咆哮。
一つは予期しない攻撃をうけた獅子の怒りの声。

そしてもう一つは、まるで―――一方通行を褒め称えるような狼の歓喜の声。

狼の頭部の一つが振り向き、
咆哮とともに夥しい量の氷を周囲に吐き散らした。


それは一方通行への『補給物資』であった。
全て彼が扱えるように『殺してある力』だ。

彼は天に掲げるように両手を挙げて、
周囲の大量の氷―――莫大な力を次々と制御下においていく。
707 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/08(木) 00:13:03.46 ID:fwmlhSlao

目は血走り血管は浮き上がり、肉と骨は軋んでいたも、
その顔には笑みが浮かんでいた。

ここまで桁違いの力を制御下に置いて、気持ちよくないわけがない。
垣根帝督とリンクした際も同じ高ぶりを覚えた。

人生の半分以上、ただただ力を追い求めていたこの身の性か。
状況や道理はおいておいて、ただただ純粋に滾り高揚するのだ。


一方『―――カカッ!!』


誰が見ても『悪』と言うであろう、歪んだ笑みを浮べながら、
彼はその両手を大きく動かして引いた。

すると一帯を包む冷気の巨大な渦が出現。
彼の手の動きに連動し、不気味にそして荒々しく蠢いていく。


それを仰ぎ見る獅子、
今やその一挙一動・雰囲気には明らかな―――焦燥の色が見えていた。

そんな獅子へとここぞとばかりに、
一気に畳み掛けていく狼、それに続き周囲からも冷気の筋が伸びていく―――。


この戦いの流れは変わった。


狼と獅子の『ど突きあい』、そこに更に加わる冷気の刃や衝撃波。
この状況に対して、獅子は一切の猶予も与えられなかった。
獅子の手にあった戦いの主導権はあっけなく朽ち果て。


―――あっさりと勝者と敗者が決し。


ここに終止符が打たれた。
708 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/08(木) 00:15:57.81 ID:fwmlhSlao

戦いはどれだけの時間行われていたのか。

数十秒、もしくは数分、十分以上なのかもしれないが。
時間が定まらない領域にいた一方通行にとって、それをすぐに知る術は無かった。

ただ、時間の流れが正常に戻った瞬間は彼もはっきりと認識したが。


狼の足元、地面に無造作に―――獅子の『首』が転がっていたあたりからだ。


この場を包んでいた高濃度の力も消失し、
周囲の世界はいつものものへと戻っていた。

一方『………………』

いや、一つだけ。
一方通行にとっては変わった点があった。

それはこの街を満たしているAIM拡散力場の認識だ。
今ならはっきりとわかる。


これは『死んでいる力』だと。


彼はそんな認識とこの冬の夜風の中、
両手にこの場に漂うAIMを操作し這わせながらふとあることを思い出していた。

土御門が先日手に入れた、
能力に関する資料の中にあったとある記述だ。

                                                グレイブヤード
その中で、能力・AIMの供給源のこと指して使われていた『 墓 所 』という言葉。


そして能力を形成するこのAIM拡散力場―――『死んでいる力』。
709 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/08(木) 00:17:17.51 ID:fwmlhSlao

一方『……』

この接点に彼が何かを見出さないわけが無かった。

力の認識と掌握、
まだまだ不完全だがやっと手に入れた神の領域の認識、
そして夢の中の垣根帝督の言葉と、この『死んでいる』AIM―――。


『小僧、良くやった』

一方『……はッ。雑魚が雑魚の働きをしただけだ』

のっしりと、歩む狼とそっけなく声を交わしながら、
一方通行は小さくほくそ笑んでいた。

彼の目には今、アレイスターが自分に何を求めているか、
その片鱗が僅かだが『具体的』に見えていたのだ。

彼はそこに有用性を見出していた。
どちらが上位が、それが今や完全に確定してしまっているアレイスターとこちらの関係。

そこに少しでも作用を及ぼすことができる一手になるかもしれない、と。


少しでも、僅かでもアレイスターの手から―――打ち止めを―――。


しかし。


その方向からアレイスターに近づこうとするには、
今やあまりにも遅すぎた。


迫る『その時』まで、すでに一時間を切っていたのだから。


―――
710 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/08(木) 00:19:42.30 ID:fwmlhSlao
―――

回転しながら空間を切り裂いていくノコギリ状の刃。

片方は疾風を、片方は紅蓮の光を引きながら、
巨躯の大悪魔の両肩に突き刺さった。

爆風に乗った炎が吹き荒れて、刃が食い込む組織を蝕み破壊していく。

その傷をうけて、地響きのごとき呻きをあげながら後方に倒れこむ大悪魔。

そこで彼が最期に見たのは、
そんな風に倒れかけていた時―――己が胸の上に降り立った真紅の魔剣士の姿であった。

魔剣士は、大悪魔の両肩に刺さっている魔剣を引き抜き。


大悪魔の首を挟むように交差してあて、そして―――引き斬った。


この想像を絶する戦場にて、また新たな神の首が転がり落ちた。

逆賊を討つべくこの地に集った百を越える神々、今やその半数が屍を晒していた。


ダンテ『―――Night-night,baby』


屍を背に地に降り立つ最強の魔剣士。
何人をも寄せ付けない、あまりにも圧倒的なその力がここに猛威を振るっていた。

しかしそんな狂気の戦士を前にしても、神々は誰一人退こうとはしない。

同志の血に染まる魔剣を携えながら、
嘲笑・挑発にも聞える軽快な声を発するその姿は、
むしろ彼らの憤怒に更に油を注ぎ込んでいくのだから。
711 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/08(木) 00:21:23.32 ID:fwmlhSlao

ただ誰がどう見ても、このペースでは魔剣士が消耗しきるよりも遥かに早く、
神々が全滅するのが一目瞭然ではあったが。

ネビロス『……』

当然ここを仕切るアスタロトの副将が、
黙ってそうなるのを見ているわけがない。

なにせネビロスの手の中には、あの魔剣士に対する最大の切り札があるのだ。


ネビロス『―――スパーダの息子よ!!』


そろそろだと見計らって、彼は声を張り上げた。


ネビロス『一切抵抗するな』


言葉はそれだけで充分であった。
あとはこの状況、このネビロスの腕に何があるかが全てを語るのだから。


ダンテ『……Hum』


魔剣士は笑い含む小さな声を漏らし、
この状況を分析でもしているのか小さく首を傾げた。

だがそんな猶予を与える道理など無い。
ネビロスは更に追い込みをかけるべく―――トリッシュの首を掴み。


トリッシュ『―――……ッッぐ……』


突きつけるように前に出した。


ダンテ『…………』
712 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/08(木) 00:22:57.87 ID:fwmlhSlao

魔剣士は無言だった。

数秒間押し黙った後、沈黙のままその場に両手の魔剣を突きたて、
そして背にかけていた片身の大剣も突きたてて。

静かに、ゆっくりと両手を広げた。

その間、魔剣士は一声も漏らさなかった。
僅かな笑い声でさえも。


ダンテ『………………』


一挙一動に常に掛け声をつけて、
事あるごとに一言置いていた饒舌な男が―――ただの一声も。

この場にいた誰しもがこの異様な空気の変化を感じ取り、
緊張の中魔剣士の姿を静かに見据えていた。

ネビロス『……』

もちろん、このネビロスも例外ではなく。
脳裏を過ぎるは、先ほどのトリッシュの言葉。


―――笑わなくなったダンテは―――。


だが、『そんなこと』に恐れをなしてしまう程度の弱者なんかではない。

この場にいる全ての存在が皆、
恐怖を遥かに超える憎しみと戦意を滾らせているのだから。

ここで躊躇う理由など一つも無い。

ネビロス『…………』

ついに念願の、悲願の復讐が果されるのだ。
この場に立ち会えて、更にこの場を仕切ることが出来るなんて、なんと幸運で名誉あることか。

ネビロスは静かに、自信に満ち溢れながら静かに頷いた。

その瞬間。
大悪魔達は、解き放たれた闘犬のごとく―――魔剣士に一斉に飛びかかり。


―――ここに『処刑』が始まった。
713 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/08(木) 00:23:21.19 ID:NQNLJsYDO
あーあ、ネビロスさんアホやなぁwwwwww
714 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/08(木) 00:25:07.93 ID:fwmlhSlao

魔剣士は一切抵抗しなかった。
殴り、叩きつけられ、斬られ、踏みつけられて。
先ほどまでの大立ち回りをしてた存在とは思えないくらいに、糸が切れた操り人形のように無力。

ネビロスはそんな光景を目にしながら、満足そうに笑い声を漏らして。

ネビロス『―――ふん、わかってはいたが、こうも易く落ちるとはな』

ネビロス『見えるか?何か言葉を遺すのなら今だ。すぐに後を追わせてやるからな』

腕の先に持つ、トリッシュへとそう吐き捨てた。
その首を掴まれたままの彼女は、途切れ途切れの声で言葉を返してきた。


トリッシュ『………………もし……彼が私を顧みなかったら……どうしたつもり?』


ネビロス『それが有り得ぬのがスパーダの息子、ダンテであろう。奴の行動原理は把握済みだ』


その問いに、ネビロスは自信たっぷりに返した。
ただその自信は儚くも。


トリッシュ『……だったらこれも……わかるでしょ?』


直後に、あっけなく打ち砕かれたのだが。


トリッシュ『彼が……ただやられっ放しなのも―――――――――有り得ないって』


勝利の確信と共に。



『―――その通り、俺は負けず嫌いでな』
715 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/08(木) 00:27:31.25 ID:fwmlhSlao

ネビロス『―――』

それはすぐ横。

耳元とも言える距離から聞えてきた『あの声』だった。


そう―――今、前方100m程のところで『処刑中』のはずの『魔剣士』の声だ。


直後。

トリッシュの首を掴んでいた彼の腕は、肘辺りで切断されていた。
そして彼女の体は、真紅の魔剣士の太い腕に抱き取られ。

ネビロスの体は一瞬で蹴り倒されて、胸を踏まれてその場に押さえつけられた。


ネビロス『―――なッ…………!!!!』


何が起きたのか、まるで理解できなかった。
この魔剣士が『ここ』にいるはずがないのだ。

『処刑』の方へと目をやると、
驚いて手を止めている将達の中央にボロボロのあの魔剣士が立っていた。

間違いない、あの魔剣士は―――スパーダの息子は『今』処刑中のはず―――


ネビロス『な―――何が?!これは―――??!!』


では『今』―――己を踏みつけているこの魔剣士は『何』なのだ?

716 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/08(木) 00:29:21.97 ID:fwmlhSlao

ダンテ『―――マジックさ』


魔剣士は見下ろしながら、『笑い含む』声でそう告げた。

ネビロス『一体…………??!!』

ダンテ『タネが知りたいか?』


ダンテ『ヒントだ。俺は「鏡」が嫌いなんだ』


ダンテ『―――ということでだ、出直して―――』


ダンテ『いんや待て。悪いがお前に限っては―――出直しも「ナシ」だ』


と、そこで。

魔剣士の声から唐突に―――『笑い』が消えた。
そして続いた声はこれ以上ないくらいに冷め切っていて。


鋭くて、どこまでも冷酷で―――神の強固な精神すら打ち砕いて、恐怖に染め上げる―――死の宣告。



      Get down here
ダンテ『ここでくたばれ』




ネビロス『―――』

ただ、ネビロスは幸いだったかもしれない。
彼がその比類なき恐怖に苛まれた時間は、ごくごく一瞬で終ったのだから。


次の瞬間。


ネビロスの体と魂は、下の地殻ごと―――斬り掃われた。
リベリオンの白銀の刃によって。
717 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/08(木) 00:31:43.29 ID:NQNLJsYDO
ドッペルゲンガー?
718 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/08(木) 00:34:13.41 ID:fwmlhSlao

塵とかしたネビロスの破片が舞う中。

ダンテ『OK、損な役回りで悪いな。もう戻っていいぜ』

ダンテは、困惑している大悪魔達の輪の中央にいる、
もう一人の『自分』へ向けて声を放った。


ダンテ『―――ドッペルゲンガー』


その瞬間。

輪の中にいたダンテの姿が蜃気楼意の如くぼやけ、
残像のように光を引きながら姿を消していった。

そしてようやく、左腕に抱いているトリッシュの方へと顔を向け。


ダンテ『よう』

トリッシュ『少し遅かったけど、今まででは一番早かったし、まあ文句は無いわね』

ダンテ『ヒーローは遅れて来るもんだろ。それでだ―――生きてるか?』


トリッシュ『ええ、おかげさまで』


ダンテ『―――なら充分だ』
719 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/08(木) 00:36:33.31 ID:fwmlhSlao

トリッシュは見るからに不機嫌な面持ちをしていたが、
これもまたいつもの事。

そんな普段調子の会話を交わした後、横に降り立ったネヴァンに、ダンテは彼女を抱き渡して。

ダンテ『ネヴァン。トリッシュを人間界に運べ』

そして再び、周囲の大悪魔達に向き合い。


ダンテ『ハッハ、さてとだ―――続きやろうぜ』


これまたいつもの調子で、そう声を放った。
まるで何事も無かったかのように―――笑いを含みながら。

だが今や周囲の大悪魔達にとって、『笑い声』にはもう聞えなかった。


何に聞えるか、敢えて言えば―――『死神の囁き』だろうか。


ただ何に聞えようと、彼らにとっては今更退くに退けない状況であった。


彼らはただただ己が死を感じながら、
後戻りのできない憤怒に身を委ねて戦うしかない。


人間界再侵略という旗を掲げた上に、この男に挑んだ時点で―――その運命は既に尽きていたのだから。


―――
720 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/09/08(木) 00:37:30.56 ID:fwmlhSlao
今日はここまでです。
次は土曜か日曜の夜に。
721 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/08(木) 00:39:02.01 ID:OmhAex27o
お疲れ様でした
722 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/09/08(木) 00:39:12.42 ID:Qkojj5dzo
まさか二本立てとは乙に乙。
723 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/08(木) 00:39:57.87 ID:NQNLJsYDO

一方さんもパワーアップしてきたな
ダンテも相変わらずかっこよく決めてくれる安心感がある
724 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/09/08(木) 07:59:11.73 ID:NKHFEf0no
ネビロスェ……勝つ所か良いように踊ってただけじゃねーかwwww

乙でした。
725 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/09/09(金) 04:11:20.40 ID:VQvmGBbZ0
乙乙乙

(;・ω・)ネビさん・・・だから早くごめんなさいしといた方がいいって
726 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/09(金) 11:04:46.80 ID:bFWMN7iIO
ありゃー、ネビロスの奴死んじゃったか
727 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/09/10(土) 00:26:57.93 ID:T4q5a3E+0
蛸壷屋乙
728 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/09/11(日) 23:15:30.16 ID:t8z6iRkMo
まだかな
729 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/12(月) 01:00:26.34 ID:YCiJNiAKo
―――

上条『が―――ぁッ!!!!』

それは突然の事だった。
サルガタナスとイフリート・ベオウルフの戦いを遠目に見ていたとき。

突如上条が苦痛の声をあげては、その場に崩れ落ちるようにして蹲った。

ステイル『か、上条!!』

目の喪失でやはり何らかの障害が、
と一瞬ステイルの頭を過ぎったのも束の間。
彼のその考えは即座に否定された。

上条が押さえていたのは―――『右腕』だったのだから。


ステイル『―――おい?!どうしたんだ?!』

そこでステイルに返されたのは、
呻きの中に何とか混ぜられた消えそうな一言。


上条『ぐぅ…………ぁ…………イン……デックス……』


ステイル『―――インデックスか?!インデックスがどうした!!何があった!!』


しかし上条はそれ以上答えられず。
彼は顔をゆがめて呻きながら、そのまま一瞬で昏倒してしまったのだ。

ただ。

この疑問の答えについてステイルが困ることはなかった。
別の声が答えてくれたのだから。


『―――禁書目録と痛みを共有しているのだよ』

730 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/12(月) 01:03:35.23 ID:YCiJNiAKo

ステイル『―――』

それは突然、何の前触れの気配もなく真後ろから聞えてきた。

しかも知っている声が。

聞き慣れてはいないが、一度聞いたら絶対に忘れない。
絶対に間違いもしない相手の声が。

ステイル『――――――なぜだ―――』

ステイルは振り返りながら驚愕に満ちた言葉を放ち。
そしてその人物の姿を捉えた。

緩やかな挑発に緑色の手術衣を纏い、老若がまるでわからない顔にはあらゆる表情と感情が同席。
『中性的』ではなく、はっきりと男性的でも女性的でもある掴みどころの無い容姿。


右手に奇妙な銀の杖を握っている―――。


ステイル『なぜお前がここにいる?――――――アレイスター』


―――学園都市の最高権力者を。


アレイスター『時が来たからだ』


表情一つ変えず、声も機械のように冷ややかなアレイスター。
これらの姿聞こえではまるで意志を読み取れない。

しかしステイルの悪魔の勘は、
この声に不穏な気配をはっきりと感じ取っていた。


己達の側にとって、明らかな―――『脅威』だと。
731 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/12(月) 01:04:57.75 ID:YCiJNiAKo

今は、ベオウルフとイフリートの直接的な助けは厳しいであろう。
彼らはサルガタナスとの壮烈な戦いに身を投じている真っ最中だ。

いや。

そもそも、かの諸王諸神達はアレイスターの出現にすら気付いていないであろう。
彼らには見えていないのだ。

何せこのこの者には気配が『無かった』のだから。

ステイル『(―――どうなっている?この男は本当に―――)』

こうして目の前にしているにもかかわらず、力が一切感知できない。


ステイル『(―――「ここ」に「いる」のか?)』


まるで―――ここに『存在していない』かのよう。


アレイスター『「いない」とも「いる」とも、どちらとも言える』


そんなステイルの頭の中を見ているかのように、
静かな調子で開かれるアレイスターの口。

アレイスター『そう驚くなステイル=マグヌス。これも人の手技によるトリックに過ぎない』

アレイスター『しかしその人の手技こそ、人が異界の神々をも越えうる―――最強の切り札でもある」


アレイスター『人では無くなった君には、もうわからないだろうがな』


ステイル『…………』
732 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/12(月) 01:06:45.09 ID:YCiJNiAKo

しかし今ステイルが聞きたいのはこんなご丁寧な『御託』なんかではない。
アレイスターの話には一切乗らず、彼は今一度静かに問うた。

ステイル『―――……なぜここにいる?』

と、その時だった。
そう再び問いかけると―――アレイスターの表情が変わった。

いや、それは気のせいだったのかもしれない。
亡霊のような姿が揺らいだだけなのかもしれない。

しかし。

ステイルは確かに見てこう感じた。


ステイル『―――』


一瞬―――アレイスターが『笑った』、と。


更に返されてきた饒舌な声にも、先とは違い明らかに感情が―――と。


アレイスター『なぜか?―――これ以上「熟れ」すぎては使い物にならんからだ』


アレイスター『それにアスタロトの「毒」が「伝染」してもらっても困る』


そして今度は気のせいなんかでは無かった。
ステイルの後ろ、蹲る上条へ視線を動かしたアレイスター、

その口角が少し、ほんの少しだけ、しかし確かに―――。


アレイスター『そこで少々早いが――――――「竜王の顎」をだな』


733 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/12(月) 01:07:47.40 ID:YCiJNiAKo

と、その瞬間だった。


そこでステイルの意識が完全に断絶。
まるでフィルムが切れてしまったかのように。

ステイル『―――…………っ』

ただその意識の喪失はどうやら一瞬のことであったようだ。

起こりと同じように突然暗転から回復したとき、ステイルの体は同じ姿勢で立ったまま。
更にイフリート・ベオウルフとサルガタナスの戦いも、
変わらぬ調子でまだ継続中だったのだから。

しかし何もかもが同じと言うわけでもなかった。
ステイルが失ったその僅かな時間の間に、状況は変わってしまっていた。


ステイル『―――か、上条ッ……―――!!』


その変化にはすぐに気付いた。


背後の気配―――上条当麻の消失と。


そして前方で小さく笑っていた―――アレイスターの姿も。


―――
734 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/12(月) 01:09:33.84 ID:YCiJNiAKo
―――

神裂『はっ……はっ……』

顔をぐしゃぐしゃに濡らしながらも神裂は走っていた。
左腕にローラ、右腕にインデックスを抱きながら。

後方からは、光の明滅と共に凄まじい圧が放たれてくる。
『正統派最強』の魔女と『現魔界最強』十強の一柱、その戦いは何もかもが圧倒的だ。
下手をすると大気に充満する力の余波だけで、この両脇の魔女二人は命を落としかねない。

故に、第一にまず離れなければならなかった。

インデックスとローラは重体、
当然ジャンヌの手も塞がっていて『飛ぶ』ことはできないため、こうして走ってだ。
頬を伝う涙もこの込み上げてくる衝動も今はとにかく無視して。


神裂『っ……はっ……』

どれだけ走っただろうか。
かなりの速度でこの異質な平野を駆けては来たが、まるで離れた気がしない。

後方からはまだ苛烈な圧が届いてきている。
彼らの力の衝突があまりにも強烈すぎて、余波もほとんど減衰しないのだ。

もちろん遠ざかって随分と楽になってはいるが、まだまだ負担は強い。

ローラ『充分……ここで充分よ』

しかしここでローラが脇からそう口を開いた。


ローラ『この子の……治療を続けなければ』


今にも途切れそうな声で。
735 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/12(月) 01:10:58.27 ID:YCiJNiAKo

神裂『……は、はい……!』

いまや神裂にはそのローラの言葉を拒否する権限も無い。
なにせインデックスを手当てできるのは、ここにはローラだけなのだから。

その場に急停止してはゆっくりと二人を降ろすと。
すぐにローラは『妹』へ向き合い治療に取り掛かった。


神裂『………………インデックス……』

涙止まらぬ視線の先にて、地面に横たわっている少女。

そのインデックスの容態はどう見ても悪化していた。
不規則な呼吸は荒さを増し、紅潮していた顔も今度は青ざめてきて。

先までは一応受け答えしていたのだが、今は呼びかけてももう反応しない。

彼女の右腕の『存在』は『永遠』に奪われて。
そして今は現在進行形で、その魂をも毒されて奪われかけているのだ。

戦闘修練を受けていない幼き魔女にとって、アスタロトの牙はあまりにも鋭すぎた。


ローラ『……………………ッ……』


処置を施していたその手が止まる。
まるで凍りついたように。


そして血塗れた指がむなしく泳ぐ―――ここからどうすればいいのかわからずに。


インデックスの魂を繋ぐ処置が―――見出せずに。
736 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/12(月) 01:13:07.51 ID:YCiJNiAKo

神裂『……お願いします……お願いします……最大主教……お願いします……』

その横で神裂はただ、懇願することしかできなかった。
ローラが今やその座についていないことすら忘れて、その身に染み付いた癖でそう呼んで。

神裂『……お願いします……お願いします……お願い……します……どうか……』

ローラ『………………』

しかしローラは沈黙のまま。
ついにはその泳いでいた指さえ止まった。

手の施しようが無いという現実を示すように。

だが。


それは全てを諦めたからではない。


ローラの全ての意識が『最後の手段』へと切り替わったからだ。
いいや、もう満身創痍の彼女の意識はまともに機能していなかった。


今のローラを突き動かしているのは『執念』―――家族との『絆』だけ。


ローラ『……「二度」と……』


彼女はぼそりと呟いた。


ローラ『…………「二度」と―――死なせない』


ローラ『この子は「もう二度と」死なせない……二度と……二度とだ』


焦点が全く定まっていない、
さながら夢遊病の中で唱える呪文のような声で。
737 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/12(月) 01:14:00.61 ID:YCiJNiAKo


―――そして『姉』は強引に。

これ以上は命に直結するのに―――いや文字通り、自らの魂を削って『飛ぶ』。

傷口が開いたのか腹部から一気に血が滲み出で、口からは筋となって滴っていく。
同時に三人を囲んで浮かび上がる、ローラの移動用の陣。


追われている身、更に同じ階層にアスタロトがいる状態で『直接』飛んでしまうのは安直であったが、
それでもこれしかなかった。

これしか―――すぐに『あそこ』に行くしか。

神裂『―――』

その直後。

お馴染みの一瞬の光の明滅を経て、風景も大気も一変した。

そこは巨大な白亜のホールの中。
かつて人界を守るために集った名だたる天魔の神々、その像が並ぶ荘厳な空間。

そう、そこは神裂も打ち合わせで訪れて何度も目にしている―――『神儀の間』であった。


そして当然そこには―――神裂の『上司』達がいた。


バージル『…………』

まるで反応しない、スパーダ像の前で瞑想しているバージル。


ベヨネッタ『―――おてんばローラ……―――』


目を丸くしてそう呟くベヨネッタ。

そして。


アイゼン『―――…………ほぉ』


表情が読み取れない仮面下で、瞳を赤く光らせるアイゼン。
738 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/12(月) 01:15:45.62 ID:YCiJNiAKo

神裂『―――…………』

一同が見つめる中、ローラはゆらりと立ち上がり。
血の跡を純白の床に残しながら歩み始めた。

アイゼン『……』

ふらつきながらも―――アイゼン真っ直ぐに。
そして魔女王の足元に跪き。

ローラ『―――…………魔女王、アイゼンさま』

ローラ『多くの禁を破った罰は…………しかとお受けいたします』


ローラ『ですがどうか…………お慈悲を…………どうかお助けください……』


みるみる大きくなっていく己の血だまりに伏せながら。


ローラ『……どうか術を…………完成させるお許しと……お助けを……私の首と引き換えに』



ローラ『私のいもうとを……おすくい……ください』



懇願し、恩赦と救いを求めた。


『この者』は3万4千年に渡って律された掟を破り、禁忌の術を使用し無断で神儀の間を現出させ。
自身の力量不足を補うために祖先達の魂を引きずり出し、そして喰らった『極悪人』。


アンブラ魔女の『鉄の掟』を私情で破り、偉大なる母達を利用した『大罪人』。


アンブラの掟にのっとれば課せられる刑は問答無用―――拷問ののち極刑。


―――自身も掟の制定にも関わった魔女王アイゼンは、そんなローラを赤き瞳で見下ろしていた。



アイゼン『―――…………ふむ…………なあるほど』



纏う雰囲気も声色も全く変えず。
ただただ冷徹に静かに。

―――
739 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/09/12(月) 01:16:23.35 ID:YCiJNiAKo
短いですが今日はここまでです。
次は水曜に。
740 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/12(月) 01:20:02.25 ID:xcqI0LyDO
ぐわああああ!!生殺し過ぎるぅぅぅうううう!!!!!
741 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2011/09/12(月) 01:47:56.53 ID:+phwwZWjo

アレイスターが☆じゃない、ちゃんとアレイスターしてかっこいい
742 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/09/12(月) 05:47:37.67 ID:1D2ancJp0
久し振りに見事な寸止め乙!
743 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/12(月) 06:39:42.68 ID:LguzfwKgo
お疲れ様でした
744 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/14(水) 21:14:52.57 ID:hOCWlbl5o
―――

ジャンヌ『―――Si-ha!!』

古き魔界の王から生まれ出でし魔刀。
一族の怒りを載せたその刃が振り下ろされ、荘厳な金槍と衝突した。

長に相応しき戦士が放つ、アンブラの憤怒の一振り。
衝撃が刃となって地を切り裂き、光の飛沫が周囲を穿っていく。

そして槍を弾き落とされて上半身が無防備になるアスタロト。

ジャンヌ『―――Stand!!』

ジャンヌはすかさずそこへ蹴りの連撃を叩き込む。

しかしそれほどの弾幕に晒されても尚、
美男子―――アスタロトの顔は笑っていた。

にぃっと、果てしなく醜悪に。

そんな忌々しい顔が、さらにジャンヌの闘争心と憤怒を湧きたててゆく。


ジャンヌ『――Hu-Ya!!』


次の瞬間、その薄気味悪い顔面に、
連撃の締めとなる一際強い一撃がめり込んだ。

745 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/14(水) 21:16:18.11 ID:hOCWlbl5o

正統派最強の魔女、ジャンヌの攻撃はまさに一撃一撃が必殺のもの。
連撃に晒されたアスタロトの胴は肉剥げて血まみれとなり、
最後の一蹴りにより頭部が完全に弾け飛んでしまった。

この情景、傍から見ればジャンヌの一方的な戦いに映ったかもしれない。

しかし当人達にとってはまるで逆だった。


ジャンヌ『(―――……浅いか……タフだな)』

攻撃は魂に届いており、確実にダメージは与えているも。
手応えが明らかに乏しい。

アスタロトの底が全く―――量れない。


ただ、こう恐ろしく強いのも当然のことか。

自身の主契約魔マダム=ステュクスよりも高位、
なにせ事実上かの覇王に次ぐ領域にいる魔界きっての実力者だ。


―――化物染みてて当たり前だ。


頭部を失ったアスタロトの体は吹っ飛んでいったが、
20mほどのところですぐ踏ん張り留まって。

大きく仰け反りながら、一瞬であの端正な顔を再生させて―――。


アスタロト『―――いい!!いいぞ!!!!この「痛み」だ―――!!』


再び笑った。
更に醜く穢らわしく。


アスタロト『―――「旨い」!!最高だ!!!!』
746 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/14(水) 21:18:32.02 ID:hOCWlbl5o

アスタロトは歪んだ歓喜の声を放ちながら、ジャンヌ向けて一気に飛び進み―――槍撃。

ジャンヌ『―――ッ』

顔面へ正確に放たれてくる凄まじい突き。
その速度も力の密度も尋常ではない。

『髪』で形成されているこの白銀の戦闘装束、
それすらも簡単に貫かれてしまうほどのもの。

しかし、それは当たってしまったらの話だ。

アンブラの戦闘術、その防御法の本分は―――回避。

ジャンヌは一切の無駄がない動作で、金槍を魔刀でいなしその軌道をかえていく。
そしてそのまま前へと踏み込み。
顔の横で擦れる刃、激しく散る光の奔流の中、アスタロトの顔面へと膝蹴りを叩き込んだ。


一際激しく光が爆発する中、
肉片を撒き散らせながら大きく仰け反る恐怖公の体。

そうして露になった喉元へ向けて、ジャンヌはすかさず足を伸ばしてもう一蹴り。


更に続けてとどめとばかりに―――その伸ばした足を地面に叩き付けて―――

ジャンヌ『―――YeeeYa!!』

連動して出現した―――ウィケッドウィーブによる『踏みつけ』。

だがその圧倒的な三撃目がアスタロトの体を叩き潰すことは無かった。
恐怖公はその巨大な『白銀の足』を、掲げた肘で受け止めていたのだ。


アスタロト『―――ほぉおうおぅ。これはこれは噂のマダム=ステュクス―――』


そしてその『足』へ向けて、にたりと笑う。


アスタロト『―――お初にお目にかかる』


首折れて垂れ下がり、半分潰れたままの顔で。
747 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/14(水) 21:20:21.73 ID:hOCWlbl5o

そのおぞましい声と笑みが、この『女王』にも耐え難い嫌悪を抱かせたのか。
普段ならば白銀の足はこのまま消えるところ、この時は更にもう一撃踏みつけていった。

この続けての攻撃に耐えかねたのか、
アスタロトの受け止めていた左腕が粉砕され千切れ飛んでいく。

だがそれでも、アスタロトが苦痛を示すことは今だ無かった。

力量底知れぬ恐怖公は、ははっ、とはじける様な笑い声を発して。
右腕にある金槍を豪快にジャンヌ向けて振り下ろす。

恐ろしく強烈な一振り。
だがこれまたジャンヌも同じように、即座に斜めに打ち流す。

金槍はそのままガラスに似た質感の地面に衝突し、激しく割り砕いては破片を巻き上げていった。
しかしアスタロトの攻撃はこれだけでは留まらなかった。

地に叩き込まれた槍が大きくしなり、そして『反り返って』再び―――。

ジャンヌ『―――ッ』

―――即座に刃が戻ってきのだ。

ジャンヌはそれを認識するや即座に魔刀を振り下ろす。

一層激しく噴き荒れる衝撃を伴って双方の刃は激突。

圧倒的な力を込められた刃はお互いを弾くまでには至らず、
そのまま密着して鍔迫り合いへとなった。

凄まじい圧力で擦れ合い、激しく飛び散る火花。

そしてその彩を挟んで、両者は互いの顔を見据えた。
ジャンヌは一層、その顔に敵意と嫌悪を滲ませて。


アスタロト『―――はははは!!』


アスタロトはそんな彼女の反応を見て、心底楽しそうに半壊した顔で笑いながら。
748 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/14(水) 21:22:41.50 ID:hOCWlbl5o

とその時。

アスタロト『…………む?』

アスタロトがふと視線をあてもなく巡らせて、大げさに眉をしかめた。
素人の大根役者の方がまだマシなくらいにわざとらしく。

そして。

アスタロト『…………煉獄……か?』

刃が発する火花越しに、ジャンヌへ向けてそう呟きかけた。
あざとく薄く笑いながら。

ジャンヌ『…………』

それはまぎれもなく、ついさっきここから離脱して行ったインデックス達を指した言葉。

ローラがここから直接、
それも一切偽装もせずに飛んだためすぐに行き先を見破られたのだ。

ジャンヌ『……………………』

彼女たちを追ってアスタロトが煉獄へ向かったとしても、
バージルとセレッサ、アイゼンもいるのだから彼らが負けることはまずない。

しかし今は、予定ではバージルが慎重極まりない調整に入っている段階であり、
非常にデリケートな時。
もし突貫されて『神儀の間』に傷でもつけられてしまったら全てが水の泡なのだ。

あそこが戦場になる事態は絶対に避けなければならない。

そのためには―――ここで何としてでもアスタロトを止める必要がある。



アスタロト『―――あんな僻地に何かあるのか?んん?』



―――どんな手を使ってでも、だ。
749 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/14(水) 21:24:31.21 ID:hOCWlbl5o


ジャンヌ『―――Fuck off!!Busterd!!』


ジャンヌが刃越しにそう吐き捨てた瞬間。

二人の間の地面、ちょうど中央から―――巨大な白銀の足が出現。
その突き上げられたウィケッドウィーブによって双方の刃が弾かれて、拮抗状態が崩された。

アスタロト『―――』

不意を突かれて大きく体制を崩すアスタロト。
一方、ウィケッドウィーブの主であるジャンヌにとってはもちろん『不意』ではない。

ジャンヌ恐怖公が見せてしまった『完璧な隙』を見逃さず。
即座に足をしっかりと踏みしめては―――魔刀を顔の横に構えて。


ジャンヌ『―――Disappear!!』


すかさず―――横一線に薙ぎ斬った。

莫大な力を極限まで練り込められた刃、
そして解き放たれたウィケッドウィーブの巨大な刃が続き。


一瞬にして分断されるアスタロトの上半身と下半身。


そしてその『残骸』も木っ端微塵に吹き飛んでいった。
750 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/14(水) 21:27:58.27 ID:hOCWlbl5o

―――しかし、それでジャンヌの戦闘態勢は解けることはなかった。


ジャンヌ『―――…………「カーリー」。来い』


それどころか両足に魔具を召喚し、
更なる戦闘力の増強を図るジャンヌ。

軽く地面をかかとで叩き、炎と稲妻を噴出する魔具の調子を確かめて。

その鋭い視線を、彫像のように固まっている龍の元へと向けた。
更に厳密に言えばその龍の背に出現し―――『再生』をはじめている肉塊へ。


徐々にあの美男子の姿を構築していく肉塊。

アスタロト『―――まあ、煉獄に関しては後の楽しみだ』

笑う頭部が形成されて、そう薄く笑い。

表情一つ変えないジャンヌを見据えたまま、恐怖公は『優雅』にべろりと金槍の柄を舐めた。
もう「どこが」と具体的に示せない程に、全てがぞっとするほどに薄気味悪い。

まるでこの世全ての『嫌悪』の根源だ。


アスタロト『まずは―――お前との甘美な一時を満喫しよう!!』


そうして『化物』が高らかに叫んだ瞬間―――美男子の体が龍と融合しては、
神々しい甲冑を着込んだような姿となり。


アスタロト『ふっはははは!!覇王以来か、全力を振るう機会はここしばらくなくてな!!』


金槍も急激に巨大化、穂先には斧状の刃が出現して『ハルベルト』に形状を変えてゆく。
激しい力の奔流を伴って。
751 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/14(水) 21:29:44.22 ID:hOCWlbl5o

アスタロト『次は他の十強と雌雄を決する時だと思っていたが―――』


そして目も口も無いクチバシに似た形状の頭部からのくぐもった声。
その音には先までの嫌悪感が消えていたも。


アスタロト『まさかしばらくぶりの「相手」が―――人間であるとはな、意外だったぞ!!』


代わりにただただ暴虐で残忍な悪意に満ち溢れていた。

巨躯の龍騎士は翼を数回羽ばたかせる。
その圧倒的な姿と、解き放った全力を見せ付けるかのように。


響く龍の咆哮。

階層全域が激しく振動し、
耐えかねた空間と大地には亀裂が走っていく。

ジャンヌ『…………』

予想はしていたも、やはりその存在は圧倒的。
ジャンヌは自身の見識が正しかったとここで再確認する。


勝てる―――相打ち覚悟なら―――というあの見立てを。
752 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/14(水) 21:33:22.22 ID:hOCWlbl5o

幸いなことに、恐怖公の配下の意識はこの階層にはもう届いてきていない。
ここまで着いてこれたのは、神裂に切り捨てられたモラクスとこのアスタロトだけ。

つまりアスタロトを処理すれば、
ローラ達は完全に追ってから逃れたことになるのだ。

逆に言えば、アスタロトをここで押さえ込めるのは自身だけ。
まさに、今こそこのアンブラの宿敵たる外道とケリをつける時。

こちらの憤怒が伝染しているせいか、契約している魔獣たち、
そして一心同体である主契約魔のマダム=ステュクスもどこまでも『やる気』だ。

魔導器・魔具たちも同じく。

磨き上げてきた技と力と築き上げてきたこの『軍団』、そしてこの身を焦がす―――アンブラの怒り。

今こそそれらを解き放つ時だ。


アスタロト『憎しみ、苦悩、良い表情だ―――』

そう、一際表情を鋭くするジャンヌを見て。

アスタロト『その身は一族のため、か、泣かせるな!!素晴らしい!!』


アスタロト『「歯ごたえ」があって―――本当に旨そうだ』


恐怖公は嘲笑交じりに声を放った。
そんな化物へジャンヌはさらりと、冷たい声でこう返す。

ジャンヌ『―――…………少し、少し違う』


ジャンヌ『私は―――……「私のため」にのみ戦う』


そして続くのは―――聞えによっては実に傲慢極まりない言葉。


アスタロト『……ん?』


ジャンヌ『―――「私」こそがアンブラであり―――アンブラが「私」そのものだからな』

753 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/14(水) 21:35:20.88 ID:hOCWlbl5o

―――だが。

不思議な事に、彼女がその言葉を口にしても、声には驕りなど一切の欠片も見えなかった。
それも当然か。

その言葉は決して思いあがりなんかではない、正真正銘の『事実』なのだから。

500年間、一族の何もかも全てを背負ってきた彼女だからこその言葉。
亡き家族を想い、そして数少ない生きとし家族を守り続ける―――最後の英雄。


まさにアンブラそのものの『化身』―――アンブラの魂の『守護者』。


彼女のこの言葉を否定できるものは、いまや誰一人存在などしていない。


もちろんジャンヌ自身も含めて。


そしてこの彼女の反応は、
アスタロトにとっては少し不満なものだったのかもしれない。

アスタロト『…………ほぉ』


今度はあっさりと、冷ややかな反応を示す恐怖公。
対してジャンヌもこれまた同じように覚めた声色でこう続けた。


ジャンヌ『今、その「私」がこう叫んでる』



ジャンヌ『―――「目の前のゲス野郎をぶっ殺せ」、と』



どこまでも冷徹に、かつ鋭く。

その一方で―――焼き付けるような敵意を秘めて。

―――
754 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/09/14(水) 21:36:06.24 ID:hOCWlbl5o
短いですが今日はここまでです。
次は金曜に。
755 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/14(水) 21:38:01.03 ID:Pa3wHbIuo
お疲れ様でした。
756 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/09/14(水) 21:43:48.89 ID:GbQ8cRFKo
乙です。
757 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/16(金) 17:52:31.13 ID:G/IHk6X5o
デビルメイクライ新作のダンテさんは設定から完全に違うのか・・・
758 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/16(金) 21:31:45.47 ID:3ytSeoWao
遅ればせながら乙でした!

新作でるのか知らなかったぜ
759 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/17(土) 02:20:12.74 ID:dZSZ/9Mjo
―――


アイゼン『―――うん。掟、か』


静まり返る中、アイゼンがぼそりと口を開いた。
その言葉の響きを確認するかのように、小さく頷きながら。

そして赤く光る瞳を真っ直ぐにローラへ、
声にびくっと身を震わせる彼女に向けて『分析』を始める。

この者が如何なる禁術を使用したのか。

ジャンヌから聞いていたとある姉妹の件と
神儀の間が現出していたという事実、
そして彼女達の瓜二つの顔と、その力と魂の構成。

ローラの口から話を聞く必要など無い。
史上最高の長と謳われた彼女にとってはそれだけの情報で充分だった。

アイゼン『……なるほど』

事情を意図も簡単に把握したアイゼンは一言呟いて。
軽く指を弾くような動作で小さな光の矢をインデックスへと飛ばした。

すると矢が当たった瞬間―――インデックスが赤い光の衣に包まれ、
時間が止まったかのように完全に硬直した。

神裂『―――!!インデックス!!』


アイゼン『心配するな。ひとまず状態を「固定」しただけだ』


アイゼン『こうでもしなければ、落ち着いて話もできぬであろう?』
760 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/17(土) 02:23:36.96 ID:dZSZ/9Mjo

驚く神裂を尻目に、
アイゼンは変わらぬ調子で言葉を続けていく。

アイゼン『さてとまず彼女についてだが』

アイゼン『我が技と力をもってすれば、まあまず間違いなく救うことが可能である』


アイゼン『ただ掟は―――それを許さぬであろう。その採決は長の手に委ねられ、導かれる結論は明白』


神裂『そんな―――!!』


アイゼン『―――黙れ。口を出すな』

そんな横からの声も強い口調で一蹴。
うずくまるローラへ向けて連ねていく。

更なる残酷な言葉を。

アイゼン『そなたの境遇に同情はする。しかし―――犯した罪が重すぎる』


アイゼン『掟に則れば酌量の余地は無い。弁明の機会も与えられぬ。そなたの言葉は一切意味を持たぬ』


ローラ『…………』


それがアンブラ、鉄の掟の答えであった。

ローラの方が決別して自由を得ても、
今度は掟がその鎖を伸ばし、あの手この手で縛り続ける。
因果は彼女を繋ぎとめて、ふたたびアンブラへと引きずり戻す。

いくら彼女の精神が解き放たれようと、その肉と血と魂はアンブラのものだと。

返せ、と。


アンブラの掟の下に―――その身を返還しろと。


アイゼン『それはわかっていただろう?』


だがそれをローラも充分承知していた。
その上で彼女はここに来て懇願したのだ。

母なるアンブラの答えがわかっていながら、それでも一縷の望みを―――母なるアンブラに縋るしか。
761 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/17(土) 02:26:02.28 ID:dZSZ/9Mjo

『―――ならぬ!!』

『決して許すまじ!!』

『掟は絶対である!!』


『―――罪人に速やかなる罰を与えよ!!』


そんな彼女へ容赦なく浴びせられる古の母達の言霊。
神儀の間の隣にある霊廟から、怒りに満ちた声が放たれてくる。


アイゼン『そうだ。その通り』


そしてアイゼンがその声に準じるかのように―――頷いたのも束の間だった。


アイゼン『―――だぁぁぁが。ここで一つ問題があってな』


突然、魔女王は声の調子を変えてわざとらしい口調で声を放ち始めた。


アイゼン『そなたを縛る掟は、アンブラの「魔女」のもの』


更に意地悪そうな笑いがうっすらと混じる。


アイゼン『しかしな、我は今や「長」でもなければ―――「魔女」の身ですらない』


そしてローラを覗き込むように大きく身を乗り出して、
鳥の頭蓋を模した仮面、その眼孔からのぞく己が『赤き瞳』を見せ付けて。


アイゼン『即ち困ったことに―――決定権と執行権を持っておらぬのだ』
762 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/17(土) 02:28:00.70 ID:dZSZ/9Mjo

ローラ『―――……』

顔上げアイゼンの瞳を見つめるローラはきょとんと、
いまいちアイゼンの言葉を理解していない表情。

アイゼン『故に、我がこの件に何かしらの決を下すことはできぬ』


アイゼン『必要なのは―――「本物の魔女」の長の採択である』


そんな彼女をお構い無しに。
まるで劇でも演じているかのように、
優雅に歩き手を広げながら更に声を放っていくアイゼン。


アイゼン『さてそこでまた問題がある。現長の座が空白なのだ』


アイゼン『今、魔女は僅か四名しか生存しておらぬ。だが幸いなことになんとそのうち二名が―――「コレ」を持つに相応しき強者である』

そして袖口から、一つあるもの取り出した。
それはアイゼンが被っている「鳥の頭蓋」と同じ形で、赤い羽根飾りがついている腕輪―――。

長に相応しき者しか嵌めることができない―――『長の証』。


アイゼン『まずその一人をあたってみよう―――セレッサ!!!!』


ベヨネッタ『んーっ面っ倒臭そうだからイヤ。そんなガラじゃないし』


そのアイゼンの呼びかけにベヨネッタは即答。
棒付きキャンディを口で転がしながら、彼女はあっさり辞退してしまった。
763 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/17(土) 02:29:51.02 ID:dZSZ/9Mjo


アイゼン『うん。そなたは破天荒すぎる。己を律さぬこんな馬鹿が長など笑止千万だからな』

ベヨネッタ『むっ』

アイゼン『となるとだ、相応しき者は「もう一人」の方となる』

アイゼン『あの者が断る理由は無い。長になるために生まれてきたような者。確定だ』


アイゼン『そうなるとこれまた幸いなことに―――もうあの者に採決を聞く必要は無い』


ローラ『―――……っ』

そこまで聞いてようやく。
アイゼンがどこへ話を持っていこうとしているのか、ローラは感づき始めて。


そして今度は―――『板ばさみ』となる。

インデックスが助かるという希望と。

アンブラの誇り、それへの鉄の忠誠との間で。


アイゼン『答えは既にここに示されているのだからな―――』


なにせ、掟を『こんな風』に解釈するなど。



アイゼン『―――そなたを救い、生きてここまで寄越した、これが明白なあの者の意思表示となりうる』



無理がありすぎる。
まさしく冒涜行為なのだから。
764 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/17(土) 02:33:17.24 ID:dZSZ/9Mjo


『―――アイゼン!!気が狂ったか!?』


強く響き渡る、
そんな『解釈』を受けいられぬ母達の声。

アイゼン『だから我はもう関係ない。聞いておっただろうに』


『否!!詭弁だ!!』


―――詭弁。

母達の発したそんな表現をアイゼンは否定するどころか。


アイゼン『ふっふっふ。そうよ―――これは詭弁よ』

あっけらかんと笑ってはあっさり肯定。

『アイゼン!!貴様ともあろう者が何を抜かしておる!!』

『そなた自身も制定に名を連ねた掟だぞ!!その血盟を反故にする気か!!??』

アイゼン『はっきり言うとな、もうついていけぬわこの腐り切った亡霊共めが』

アイゼン『掟がどうのこうの。飽きもせずいつまでもよくやりおるわ。おお、腐臭が匂う匂うくっさいのう』


『ふざけたことを!!ええい!!―――セレッサ!!この愚か者に鉄槌を下せ!!』


ベヨネッタ『あー、私は掟とかそういう堅苦しいの?あんまり』

『貴様も背く気か!?』

ベヨネッタ『なぁにを今更。背くのは今に始まったことじゃないし』



ベヨネッタ『なにせ私は―――生まれついたその瞬間から―――禁を破りし「呪われし子」なんだから』

765 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/17(土) 02:34:23.99 ID:dZSZ/9Mjo

うふん、と舐めきった調子でそうベヨネッタにも拒否された声達。
そこで次に頼るは。


『―――ええい貴様ら!!』


『スパーダの子よ!!かつて共に魔帝と対した一族の仲だ!!この者らを斬り捨てい!!』


スパーダ像の前で瞑想しているバージル。
だがこれの判断は、どう考えても『無謀』極まりないもの。
この男を頼ることは大きな過ちだ。


バージル『―――黙れ』


対してバージルの示した反応、それはアンブラの母達の求めを拒否したのか、
それともただ煩かっただけなのか。

少ない言葉と変わらぬ表情からでは、そのどちらなのか判別できなかったが。

―――問答無用だった。


ぱちりと目を開いたバージルが神速で刃を抜き、空間に光の筋を走らせた瞬間。


―――『声』がぶつりと途絶えた。
766 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/17(土) 02:38:00.39 ID:dZSZ/9Mjo

そして『最強』は静かに納刀して、再び目を瞑り。

バージル『茶番は終わりだ。早くしろ』

そう吐き捨てて再び瞑想に入った。

ベヨネッタ『そうそう意ぃ地わっる。どうせ決まってんだからチャッチャとやってあげれば良いのに』

続けて近くのある天使の像に寄りかかって、呆れがちにそう零すベヨネッタ。
その通り、掟の解釈以前に、元々計画にはインデックスが必要だ。
彼女を治療しないという選択肢など存在しないのだから。

アイゼン『「茶番」と言うかそなたら。全くわかっておらぬな』

だがそれとはまた別、とばかりにアイゼンが言葉を返す。


アイゼン『如何なる存在にも頭を垂れず、また頼りもしないそなたらには理解し難いだろうが―――』


アイゼン『―――本来、何事にも「順序」というものがある』


そして目を丸くし、小刻みに震えているローラの前に静かに屈んでは、
その彼女の頬に手を当てて。

アイゼン『聞いたな。あれは死者。古の残像、ただの亡霊のの声である』

今度は優しく語りかけた。


アイゼン『今やあの「声」は如何なる力も有してはおらぬ―――全て「虚構」に過ぎぬ』


アイゼン『怨嗟の果てに堕ちた、恨みと憎しみだけの腐敗せし残りカス。それが現の姿だ』


その放たれた言霊は、母なるアンブラ、
そこに儚い幻想を抱いていた娘の心へと突き刺さる。


決して覆りようの無い、残酷な現実を突きつける。

戻れば自身は決して救われない、母なるアンブラの掟には希望など存在しない。
それでも。

掟に背いておきながら、矛盾していると自覚しながら、それでも最後に母なるアンブラを頼った子に。
絶対的な母なるアンブラならば何とかしてくれると、信じ誇っていた娘に。


アイゼン『そなたが見ている「母なるアンブラ」は―――――――――500年前に死んだのだ』


静かに、穏やかに、それでいて鋭くはっきりと。
現実を突きつける。
767 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/17(土) 02:41:20.99 ID:dZSZ/9Mjo

気高き意志、「誇り」こそがアンブラの魔女の強さを支える一面。
掟に背いた逆賊でも、その血の誇りを決して捨てない。

アンブラの魔女が魔女たる存在証明なのだから。


しかし存在が強すぎる『誇り』は、一度何かが捩れてしまったら―――『呪縛』に成り果ててしまう。


このローラもまた、自由になったのも束の間、
そこに『ありもしない幻想』を見てしまい戻ってきてしまったのだ。

自ら火に飛び込む虫のように。

そんな再び囚われかけてしまった彼女を―――アイゼンがゆっくりと、『順序立って』解き放ってゆく。

アイゼン『恐れなくても良い。そなたの真の名は?』

ローラ『……あ…………それ……は……』

アイゼン『過去のものではない。「今」のそなたのありのままの名だ。さあ、真名を口にしろ』


ローラ『……………………ローラ……ローラ=スチュアート』


アイゼン『ローラ。聞えるか?己が名を口にした声が』

幼い少女のように頷いたローラを見て。
穏やかに微笑んでは、今度はその手を彼女の胸に添えて。


アイゼン『己が声が聞こえるようになったのならば、次はその声に従え』


そうささやきながら血まみれの胴へかけてなぞってゆく。
すると淡い光を発しながら、傷口が見る見る塞がっていき。


アイゼン『アンブラの「誇り」は過去の虚構にではなく、今この瞬間からの「己」に見よ』


アイゼン『母なる存在はそなた自身の中に存在しているのだ』


アンブラの呪縛からも解き放ち。


アイゼン『我が証人となり、ここに宣言する。ローラ=スチュアート、この者の血と肉―――そして魂は―――』


『正式』に。


アイゼン『―――気高き「アンブラ」そのものであると』


ローラ=スチュアートの存在をここに証明した。
768 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/17(土) 02:44:07.05 ID:dZSZ/9Mjo

ローラは呆然としていた。
硬直し目を見開いたまま、アイゼンをただただ見上げて。

その瞳からは不安、苦悩、後ろめたさといった陰りは全て消えていた。
そんな彼女の頭を軽くぽんと叩いては、アイゼンは立ち上がって。

アイゼン『本来ならばここまでがジャンヌの仕事なんだがな』

アイゼン『まあなんだ、「向こう」は色々込み入っておったようだし方あるまい。代理の我で我慢しろ』

マントと羽飾りを颯爽と翻しながら、『固定』状態のインデックスの下へ歩んで行き。


アイゼン『さてともう一人の子、そなたの妹も解き放たねば』

横渡る少女の傍に屈み、その手を額に添えた。
その声を聞いてハッとしたかのように立ち上がり駆け寄るローラ。

そんな風にして治療が始まる中。


ベヨネッタ『……なぁんとなく。わかったような気がする。この「茶番」の必要性』


天使像に寄りかかりながら、ベヨネッタがそう口を開いた。

アイゼン『なんとなくでは足りぬ。魔女の上に立つ者は、ただ強者であれば良いというわけではない』

手を動かしながら答えるアイゼン。

ベヨネッタ『魔女は「悪魔」ではなく「人間」なのだから、でしょ。思い出した。昔習ったっけ』

アイゼン『そうだ。そなたたちのような一部の者を省き、人の心を宿す者はみな何かに縋って生きておる』

アイゼン『信頼、希望などと呼ぶそれらは最高の力となりうるが、一方で人の心に絡まった時は実に厄介な代物となる』

アイゼン『こればかりは力ずくでどうにかできるものでもない』


アイゼン『絡まった茨を強引に取り除こうとすれば、周りの「肉」をも引き千切ってしまうのと同じだ』


アイゼン『「弱者」の「肉」はな、そなたらのように頑丈ではないのだからな』


アイゼン『それ故に「弱者」であり。故に、誰かが手を差し伸べて救わねばならない』

ベヨネッタ『…………ふぅん。ところでグランマ。グランマも何かに縋ってんの?』


アイゼン『もちろん―――』



アイゼン『この老体はな―――そなたら、「子ら」に縋っている』

769 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/17(土) 02:47:36.33 ID:dZSZ/9Mjo

そこでアイゼンは顔をあげて。

ベヨネッタと―――瞑想しているバージルの背へと視線を巡らせた。


ベヨネッタ『私たち?自分で言うのもアレだけどさ、バージルも私も自分の望みどおりにヤルことしか頭に無い「バカ」よ』

ベヨネッタ『バージルの「弟」も「息子」も似たようなもんだし。まともなのジャンヌくらい』


アイゼン『それで良いのだ。そなたらが好き勝手踊り、この世界を掻き回し』

アイゼン『あらゆる「絶対的存在」を叩き潰し、忌々しい「絶対的概念」を踏みにじる』


アイゼン『それが見てて最高に楽しくてたまらんのだからな』


アイゼン『ほれ、またひとつ見せてくれ』

そしてアイゼンは袖口からあるものを取り出して、ベヨネッタへ放り投げた。
それは―――あの『長の証』。


アイゼン『新たな歴史を紡ぎはじめる時だ。「新生したアンブラ」を見せよ』


放られたその腕輪を、
ベヨネッタは指に引っ掛けてはくるりと回して。


アイゼン『絶頂の腕輪―――調整は済んでおるな?』


ベヨネッタ『ちょうど』

そして握り、キャンディの柄をくいっとあげては笑みを浮べて頷いた。


アイゼン『―――ならば行けい。そして長の証を「相応しき者」に届けよ』


ベヨネッタ『りょーかい。グランマ』


―――
770 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/09/17(土) 02:48:26.92 ID:dZSZ/9Mjo
今日はここまでです。
次は日曜か月曜に。
771 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/09/17(土) 02:50:31.07 ID:u0iStj/40
乙乙
772 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/17(土) 02:50:41.73 ID:+Oi0fVlDO
乙乙!
773 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/09/17(土) 06:41:49.15 ID:ipJPJmDr0
アイゼン様憑物落とし乙乙乙!
774 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/17(土) 09:57:26.67 ID:+V9Q15kDO
やべえ
775 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/09/17(土) 10:23:22.28 ID:49NpH0emo
乙の嵐!最強の痴女出撃翌来るうううう!!!
776 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/17(土) 11:16:04.91 ID:lyix6PCpo
お疲れ様でした
777 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2011/09/17(土) 15:16:46.45 ID:zgiyvs0no
乙!ここからネロがどのように絡んでくるのか見モノだぜ
778 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県) [sage]:2011/09/19(月) 00:59:32.39 ID:HLdsrB5T0
アスタロトに同情・・・できんわな。
投下乙
779 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/20(火) 01:54:20.08 ID:wmMZBHsqo

―――

それを例えるに、まさに総力戦という表現が相応しい。
不浄の王を打ち倒すべく、多数の魔具、多様な魔獣の力が入り乱れてゆく。

龍騎士が豪快に振るう巨大なハルバードをかいくぐり。

ジャンヌ『―――YeeeYA!!』

目にも止まらぬ連撃を叩き込んでゆくジャンヌ。
アスタロトの攻撃が一つに付き、彼女は10倍近くの手数で返していく。

そのたびに龍騎士の体は大きくよろめいては、
身を震わせてダメージ・苦痛の反応を示したが。

アスタロト『―――ははははは!!!!』

しかしそれでも依然、アスタロトには余裕が溢れていた。

ジャンヌ『―――チッ』


このアスタロトは悪趣味な、人界の俗っぽい言い方をすれば極度の『マゾ』なのは、
言動の節々からでも容易にわかる。

だが、死に至るまで快楽とし続けるほどイカレてもいないはず。

そこまで自滅的ならば魔界の十強に上り詰めることなどまず無理だからだ。
ある程度保身的でなければ決して不可能。

つまりまだまだ追い込めてはいない。

アスタロトにとってはジャンヌのこの攻勢でもまだ生ぬるいのだ。

780 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/20(火) 01:55:13.91 ID:wmMZBHsqo

これは少し奇妙なことであった。

アスタロトとジャンヌ、両者の間に圧倒的な差があるわけでもない。
その上でここまでジャンヌの手数が圧倒的に多ければ、アスタロトの底、
もしくはその力量の大体の全容が見えてきても良い頃だ。

だが実際はまるで見えない。

10から確かに3を引いたのに答えがなぜか10、
まさにそんな奇妙な状態なのだ。

そしてその原因を悠長に探る余裕も、今やなくなってきていた。


ジャンヌ『―――ぐッ!!』

猛烈な勢いで右から薙ぎ振るわれるハルバードを、魔刀で打ち流しすジャンヌだが。

その凄まじい刃は、
今やそうそう打ち流せる水準ではなくなっていた。

あまりのパワーと鋭さに魔刀が悲鳴をあげ、
柄を握る手も痺れ感覚が一瞬飛ぶ。

しかも凄まじい衝撃と共に浸透してくるアスタロトの力が、
毒となって体を蝕んでいき、
魔女の要とも言える体内の『式』や力の統制に障害が生じてしまう。

この強烈な毒性、
複雑な魂と力の構造をしている魔女にとっては、非常に相性が悪いものであったのだ。
781 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/20(火) 01:57:14.78 ID:wmMZBHsqo

アスタロトの攻撃は一撃に留まらなかった。
ジャンヌの一瞬の怯みを見逃さずに、ここぞとばかりに攻撃が続く。

続く二撃目はハルバードの直後、流した刃の火花がまだ散りかけのところに。
龍騎士の翼が鎌のように、同じく右からジャンヌの魔刀に衝突した。

ジャンヌ『―――ッく!!』

流しきれずに後方へ大きく弾きこまれてしまうジャンヌの体。
踏ん張る両足がガラスのような地面に突き刺さり、線路のように二本一対の溝を大地に刻んでいく。


そこで更に三撃目。


踏み込んできたアスタロトがハルバードを返し、今度は左から薙ぎ振るう。
凄まじい立て続けの攻撃に、ジャンヌでももはや打ち流すなどできなかった。

魔刀を左に持って行き、体を叩ききられるのを防ぐだけで精一杯。

一段と壮絶な衝撃。


そして斜め後方へ、先よりも更に距離長く弾きだされるジャンヌの体。


両足が地面を抉り砕いては大量の破片を巻きあげて。
200mほどまた『線路』を刻んで、彼女の体はようやく制止した。

しかしここで一息つくにはまだ早い。

瞬間、ジャンヌは気配を覚えて上を見上げた。
その視線の先ちょうど真上に見えたのは―――翼を広げ、ハルバードを掲げた龍騎士。


そして振り下ろされる―――四撃目。

782 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/20(火) 01:58:02.83 ID:wmMZBHsqo

ただこの時、ジャンヌもやられてばかりではなかった。

一撃目から三撃目までのと比べて、
この四撃目までの間はそれなりに長かったのだ。

彼女は即座に魔刀を頭上にかざし、打ち流す構えを取り同時に―――ウィケッドウィーブを発動させた。

そして振り下ろされたハルバードが魔刀と衝突した瞬間。


すれ違いに、巨大な足に突き上げられる龍騎士の腹。


まさに圧倒的な一撃の『交換』。
空間が目に見えて大きく歪んでは波紋を生み出していく。

そんな激突の中、龍騎士の巨躯は大きく吹き飛ばされて、
そしてジャンヌの体は大きく陥没した地面に叩き込まれた。



クレーターの底、つみあがる破片の耳障りな音がしつこく響く中。
ジャンヌはゆらりと立ち上がった。

ジャンヌ『―――クソッ……』

小さく悪態を付きながら。

四発も連続で受けた魔刀は今や刃こぼれが酷く、
肘辺りまでもひどく痺れている。

腕だけではなく全身の節々が痛み、そして体内にもあちこちに障害が生じている。

一方でアスタロトは。


ジャンヌ『…………』


遥か上空にて羽ばたく龍騎士。

先のカウンターもかなり手応えはあったものの、
やはりアスタロトに消耗の色はまだ見られなかった。
783 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/20(火) 01:58:33.92 ID:wmMZBHsqo

これではきりが無い。
ここまでの攻撃を与えてもこれでは、このまま続けていても仕方無い。

一体どんなカラクリがあるのかはわからないが、
力をぶつけて削りとる正面勝負ではどうしようもないのは確か。

ジャンヌ『……』

そしてそのカラクリを暴くこともかなり難しいか。
ここまで戦っていても、そのヒントは一つも見当たらないのだ。


だが八方塞というわけでもなかった。

アンブラの魔女は、ただ叩き潰すだけが能じゃない。

少なくともジャンヌの頭の中には、効果的と思われる別のアプローチがあった。
ただもちろん簡単なことでもないが。


具体的に言うと『それ』は結構な大技であり、また非常に繊細かつ正確な作業が求められ、
更に成功には少しの間、アスタロトの動きを完全に封じる必要がある。



しかし成功さえすれば―――その一度で確実にアスタロトを廃することができる。



784 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/20(火) 01:59:05.64 ID:wmMZBHsqo

彼女はこの一手に全てを注ぐことを決定した。
その時、そんなジャンヌの表情を見て何かに気付いたのか。

アスタロト『何か見せてくれるのか?』

忌々しく笑いながら挑発する恐怖公。

ジャンヌは一言も返さず―――かわりに鋭い視線を向けて、
足で地面を打ち鳴らしては、妖艶に大きく体を躍らせて。


ジャンヌ『―――AGRAM ORS!!』


そしてエノク語で詠唱。

その瞬間、彼女の周囲から逆向きの滝のように大量の髪が立ち昇った。
凄まじい勢いで伸びた髪は、空高くで渦を巻き。

―――巨大な魔方陣が出現し―――その中からこれまた巨大な怪鳥が飛び出し現れた。


漆黒のその魔獣の名は―――『マルファス』。


召喚された名だたる大悪魔―――マルファスは、
魔方陣から飛び出すや凄まじい速度でアスタロトへと飛翔し。


アスタロト『―――ぬっ―――』


まさに体当たりとも言える勢いで激突した。
785 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/20(火) 02:00:51.86 ID:wmMZBHsqo

その光景は壮絶なものであった。

轟音を響かせては、
巨鳥と龍騎士がもつれあって一気に落下。

怪鳥は鋭い爪を持つ足を龍騎士に食い込ませて、
更に龍の首にクチバシを突き刺し肉を引き千切っていく。

肉片と羽が飛び散り、龍か怪鳥か、轟くどちらのものか判別がつかない咆哮―――。


―――だが地に着くまでに残った咆哮は『一つ』。


凄まじい衝撃をともなって大地に激突、
巻き上がる粉塵の中からまず現れたのは―――痙攣して萎縮する漆黒の翼。


そして靄が晴れていくと―――悠然と立っている龍騎士。


痙攣している翼はその屈強な四肢の下―――無残な形となっている肉塊から伸びていた。

だがそれを目にしてもジャンヌは怯まない。


ジャンヌ『―――TELOC VOVIM!!』


更に踊り、立て続けに詠唱する。
先と同じように巨大な魔方陣が出現し―――次に現れるは巨大なムカデ―――『スコロペンドラ』。
786 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/20(火) 02:02:11.04 ID:wmMZBHsqo

アスタロト『―――お次はフレジェトンタの血竜と来るか!!』


銀髪を纏ったスコロペンドラがすかさずアスタロトの騎士部分の胴、
腕に一気に絡み付いていき。

そして凄まじい力で締め上げていく―――が。


アスタロト『―――はッ!!!!』


それでもアスタロトを封じるには足りなかった。
龍騎士は真っ向勝負とばかりに肉を張り、弓の弦をゆっくり引くかのようにスコロペンドラの体を軋ませていく。

そして―――その力勝負は僅か5秒で決する。


耐え切れずに弾け飛ぶ―――スコロペンドラの胴。


悲鳴にも聞える咆哮が響き渡り、千切れた長い胴が力なく落ちていくが。


ジャンヌ率いる『総力』はこれだけでは終らない。

大悪魔の連続召喚は通常、どれだけ優れた魔女でも行わない。
理由は簡単、累積する負荷があまりにも危険すぎるからだ。

しかし彼女は立て続けに大規模召喚を続けていく。


ジャンヌ『―――IZAZAS PIADPH!!』


その口から―――血を吐きながら。

次に魔方陣が浮かび上がったのは大地―――アスタロトを中心として、直径200m以上にもなるほど巨大に。

そして円の中の大地が消失しては虚無の大穴が出現し―――


―――その中には、大穴を塞ぐほどに大きな『蜘蛛』―――『ファンタズマラネア』。
787 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/20(火) 02:03:27.47 ID:wmMZBHsqo

アスタロト『―――ははんっ!!これはこれは!!』


その大蜘蛛の体は、実にアスタロトの10倍以上。

アスタロトの全身ほどもある頭部から発せられる咆哮は、
それだけでこの階層が砕けてしまうかというほど。


だがそれでも―――このアスタロトは全く怖気つかない。

龍騎士は落ちるどころか、自らその頭部に急降下してゆき。


『英雄』は凄まじい勢いで降下しては一突き―――『怪物』の口に中へと、ハルバードを突き刺す―――。


それはまさに、巨大な怪物に立ち向かう騎士―――英雄にも見える光景。
この一瞬だけを切り取れば至高の芸術品にもなるであろうか。

だがそれだけ。

次の瞬間、これまた猛烈な咆哮と共に噴き上がってくる血。
それを全身に浴びながら笑う龍騎士の姿は、果てし無き狂気に満ち溢れていた。


アスタロト『―――……はは、ふうむ』

だが。

アスタロト『ははん、さすがは炎獄の熔蜘蛛王、一撃では斃れないか』

ファンタズマラネアの八本の足からは、まだまだ力は抜けない。
大蜘蛛は、巨大な足の先端で八方から挟み込むようにして
アスタロトの龍部位を強く押さえつけた。
788 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/20(火) 02:04:36.94 ID:wmMZBHsqo

更に血吹き出る口から、朱に染まった―――鋼のような糸が勢い良くのび、
騎士部位にも纏わりついていく。


アスタロト『ふん、だが芸が無い。こんなもの―――』

しかしファンタズマラネアができたのはそこまでであった。
アスタロトはこれでも全く余裕を崩さず、不気味にほくそ笑み。

そしてハルバードを勢い良く引き抜いて。

確実にこの蜘蛛王を倒す第二撃を食らわすべく、大きく掲げた―――その瞬間。

                  境界の主よ 汝の名の下に征せ
ジャンヌ『―――PANPIR TELOCH OIAD ZIRE ZILODARP!!』


それは最後でありジャンヌ最大の召喚。

直径100m程の魔方陣がアスタロトの正面に浮かび上がり。


そして姿の現したのは、まさしく―――『白銀の女王』。

翼かそれとも長い髪か、光り輝く銀の尾を全身から引く―――妖艶な魔人。



全身召喚された―――マダム=ステュクスそのもの。
789 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/20(火) 02:05:16.36 ID:wmMZBHsqo

現れた白銀の女王は、素早くハルバード持つアスタロトの手首を掴み。
もう片方の腕でその首を握り、凄まじい力で押さえつけた。


アスタロト『―――っ』


意識の隙、とでも呼べるか、ここでようやく生じた二回目の『間』

この王の中の王たる存在の連続の出現に、
さすがのアスタロトも驚きの色を浮かばせて反応が一瞬止まった。

そしてもちろんジャンヌはその隙を見逃さない。
待っていたとばかりに素早く動き出す。

一気に駆け跳ねてゆき、
マダム=ステュクスの全身から伸びる、白銀の虹のような『尾』を走り抜けて。


飛び出して―――女王が押さえつけるその首の上、アスタロトの鼻先に着地した。


アスタロトは明らかに驚き、そしてジャンヌの行動の意図を量りかねていたようだった。

表情どころか目も口もないクチバシ型のその頭でも、
ありありと感じ取れるほどにそんな意思がにじみ出てきている。


ジャンヌ『―――覚えてるか?私がさっき言った言葉を』


そんな龍騎士へ向けて、ジャンヌはそう声を放って。

掲げていた魔刀をアスタロトの鼻先へと―――突き刺した。

そして『流し込み』、『施す』。


一度で確実にアスタロトを廃することができるあの『術式』を。


それは500年前、ベヨネッタに施したあの『術』の応用。

その効果は実に単純明快―――『封印』だ。
790 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/20(火) 02:06:44.04 ID:wmMZBHsqo

次に放たれた龍騎士の声には。


アスタロト『貴様――――――何をした?』


体内に流れ込んでくる『もの』の異常さに気付いたのか、
明らかに余裕が消えていた。

一方でジャンヌは薄く笑みを浮べて。


ジャンヌ『私はこう言っておいたはずだが。このプルガトリオの最果てが―――』


ジャンヌ『―――「終点」だと』


言葉を確かめるように、自身と確信に満ちる声ではっきりと告げた。

そう、もう確実だ。


アスタロト『―――きっ貴様ッ―――!!この―――!!』


明らかに焦り混じるアスタロトの声。
だがもう遅い。

既に術式は起動されている。

この術の前にカラクリなど問答無用。
魂、力そのものを、目障りな『小細工』まるごと閉じ込めてしまう―――――はずだったのだが―――。



アスタロト『――――――――――――なーぁんてな』

791 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/20(火) 02:08:50.03 ID:wmMZBHsqo

勝利を隠した瞬間―――絶望への転落。

ジャンヌ『―――…………な……に?―――』

あまりの展開に信じられず、思わずジャンヌはぼそりと呟いてしまった。
何も起こらないのだ。
何も。

術式は完璧であったはず。力の量も適切であり、どこにもミスは無い。

それなのに―――術の効果が一切現れない。

アスタロト『ははは、惜しかったな。あと少し、少しだった』

そして対照的なアスタロトの声色。またあの余裕たっぷりの調子に戻っていた。

アスタロト『300年ほど前の俺だったらお前は間違いなく勝っていたのだが』


アスタロト『生憎、俺もずっと「昔のまま」というわけじゃあないんだ』


ジャンヌ『―――な、これは……!!』

一体どういうことなのだ。
こんなことは有り得ない―――有り得ないのだ。

ジャンヌ『―――』


そう―――『有り得ない』。


その脳裏に木霊した言葉で、ジャンヌはようやく気付いた。


彼女はそんな『有り得ない』を知っていたのだ。
このような有り得ない事象を起こす領域の力を知っている。

すぐ傍にいたではないか。

                                 スパーダ
バージルの―――父から受け継いだ『破壊』の力。

      セ レ ッ サ
そしてベヨネッタの―――『闇の左目』。


『力』とはまた別の―――規格外の『特性』を有した者達を。


そんなジャンヌの思考をまるで覗いていたかのように、
アスタロトが相変わらずの調子で口を開いた。

アスタロト『「これ」を見たのはお前が一人目だしな、せっかくだから教えてやろう』


アスタロト『俺は「これ」を――――――――――――「維持」と呼んでいる』
792 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/20(火) 02:11:37.93 ID:wmMZBHsqo

ジャンヌ『―――がっ―――あ!!!!』

その時。
ジャンヌは腹部に、魂が震え気が遠くなるほどの激痛を覚えた。

しかし攻撃は受けていない。
己の腹部を見ても無傷だ。

そう、彼女は攻撃を受けていなかった。

受けたのは―――マダム=ステュクスだった。
龍の頭部が、その頭が埋まってしまうほどに女王の腹部に深く噛み付いていた。

主契約による一心同体化で、そのダメージがそのまま伝染してきているのだ。

しかも―――あの毒性が今までとは比べ物にならないくらいに強い。
立て続けの召喚に術式でほとんど力を使ってしまったせいで、抵抗もまるでできない。

白銀の女王と同時に、ジャンヌの体は硬直麻痺しては痙攣し始めてしまった。

そんなふうに体の自由を一瞬で奪われた彼女を尻目に。


アスタロト『これは「創造」や「具現」そして「破壊」と同じ、元々はジュベレウスが有していた、万物を司る因子が形を変えたもの

だ』


アスタロトは変わらぬ調子で言葉を連ねていく。


アスタロト『如何なる外的要因の影響も受けず、俺の意志のままあらゆる事象を―――「継続」することができる』

アスタロト『つまりこの「維持」が機能しているかぎり、俺は消耗もしないし死にもしない』

アスタロト『その間に受けた「痛み」も継続してしまうが…………まあそれも別段悪くは無い』

そして騎士部位の鼻先、ちょうどジャンヌの前にあの『美男子』の上半身を出現させて。


アスタロト『―――俺は大好きなのでな。血肉を滾らせて、熱く火照らせる「苦痛」が』


大きく身を乗り出しては、その醜悪な笑顔を彼女の耳元に近づけて。


アスタロト『―――この傷から痛みが悲鳴となって、お前の後悔、憤怒、恐怖が聞えてくる』


おぞましく囁いた。
身の毛がよだつ吐息を吹きかけて。
793 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/20(火) 02:15:06.74 ID:wmMZBHsqo

アスタロト『しかし驚いた。これを一番に見せた相手もまさか人間になるとはな』


アスタロト『喜べ。この頂点たる俺を知ったのは、お前が初めてだぞ』


ジャンヌ『―――…………ぐっ』

そうもはやアスタロトは、十強『なんてもの』ではない。
この恐怖公は間違いなく覇王と同等、もしくはそれ以上の領域に達していた。

アスタロトに関するアンブラの情報や様々な伝聞も、今やもう過去のものか。

魔界―――そこは常に進化し成長し続ける世界。
古から続く力こそ全ての苛烈な競争は、ジュべレウスをも廃した『三神』を生み出すに至る。

そしてその神を生み出した頃と同じく、今でも魔界は競争が続いている。

そう、過去に三柱も現れた以上、いつ新たな『神』がひょっこり出てきてもおかしくないのだ。
むしろ必然ではないか。

今魔界で最も強い者の一人がその領域に達するのも、時間の問題だったわけだ。


ジャンヌ『…………ぐ……は、そうか、わかったぞ……』

そしてそう考えると、今更であるがアスタロトの行動も繋がっていく。

この恐怖公は魔帝の騒乱の際には一切動かなかった一方、
今回の覇王の件では一番に動いた、その理由がここにあった。


ジャンヌ『お前……魔帝には勝てないが…………覇王には「勝てる」と目論んだのだろう?』


アスタロト『ふむ、俺よりも強ければ忠誠を再び誓い、良き臣下となろう』


アスタロト『俺よりも弱ければ―――打ち倒し―――魔界の統一玉座と「具現」を頂く』


そしてアスタロトは当然のようにそう答えた。
いや、『よう』ではない、これが当然だ。

アスタロトが覇王の復活に協力したのは、この二重の目的があったからなのだ。


この恐怖公はまぎれもない―――いずれ帝王になる一柱。


アスタロト、その存在は魔界の欲望を濃縮し体現したような、非の打ち所が無いまさに『圧倒的な王』であった。
794 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/20(火) 02:16:01.42 ID:wmMZBHsqo

アスタロト『―――さて。そろそろ幕引きにしようか』

そうして、アスタロトは一際強く女王の腹部を噛み千切った。

ジャンヌ『―――ぐッ!!!!』

それを見たファンタズマラネアの足、そして糸の締め付けが一層強くなるも、
アスタロトは苦痛を見せるどころか完全に無視して。

アスタロト『ほう、興味深いな。マダム=ステュクスとお前、どちらを先に殺せば面白くなる?』

アスタロト『ははは、もしかすると片方を殺せば、もう片方も共に死ぬのか?』

鼻先から生やした上半身の首を大げさにかしげて醜く笑った。
と、その時。

アスタロト『おおっとその前にだ、これがあった』

ぱん、と、下のクチバシ型の大きな頭部を一度叩いては、
何かを思い出したのかそう口にして。

アスタロト『お前ほど強き魔女ならばかなり高位のはず、知っているだろう』



アスタロト『―――「闇の左目」はどこにある?あれも欲しい』


だが。

その答えを、この魔女から聞きだせるわけがなかった。
返ってきたのは凄まじい形相と、血走った突き刺さるような視線。

アスタロト『……まあいい』

その返答もアスタロトの予想範囲内だったか。
龍騎士は驚きも怒りもせず、逆に満足そうに大きく笑い。

アスタロト『俺が憎いか?憎いであろう、はっははは』

龍のその鋭い牙を、マダム=ステュクスの首下に持っていき。

アスタロト『―――楽しい一時だったよ』


噛み付き、噛み砕こうとした―――その時であった。



『―――おいコラ、アンタ「ウチ」の「新しいボス」に何してくれてんの?』



突然、真横すぐ間近からそんな女の声が響いた。
そして直後、アスタロトがそっちに意識を向ける前に―――その頭部が砕け散った。
795 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/09/20(火) 02:16:54.80 ID:wmMZBHsqo
ぶつ切りですが今日はここまでです。
次のハイパー袋叩きタイムは木曜に。
796 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/20(火) 02:24:30.91 ID:zDhLXX4DO
フルボッコ祭りキターーーー!!
797 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/09/20(火) 02:30:12.65 ID:JpWEu6Om0
痴女キター
でもジャンヌさんももうちょっと頑張ってほしかったな
とにかく乙
798 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/20(火) 07:04:45.51 ID:8ZwCVW5Jo
お疲れ様でした。
799 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/09/20(火) 07:23:02.96 ID:c385AzsU0
(*´Д`)スーパーおヨネさんタイム キタ━━(゚∀゚)━━!!!
800 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/09/20(火) 11:08:22.47 ID:A0JaxYvOo
乙うぅうぅううううううぅうぅ!!
うおおおおおおおおお木曜日早く!!ハリーハリーハリー!!
801 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/09/22(木) 12:16:09.90 ID:87FrXHMt0
絶頂フルボッコタイムをマンキツすんのは
ジャンヌだろ
802 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/23(金) 01:19:24.64 ID:E2jOzdGco

頭を失った龍騎士の巨躯が横へと大きく吹っ飛んでいく。
それと同時に白銀の髪束へと姿を変えて、そして消失するマダム=ステュクスとファンタズマラネア。

大穴も消え元のガラス状のものに戻った大地、
そこにジャンヌが乱暴に着地した。

強く膝をついて、衝撃で口から紅の液体を滴らせながら。

ジャンヌ『…………ぐッ…………』

『随分と苦戦のご様子』

そんな彼女に向けて、すぐ横から放たれてきた声。

ジャンヌがジロリと睨みつけるように見上げると、そこにはベヨネッタが横に立っていた。
髪留めを外して、その艶やかな黒髪を大きくなびかせながら。

ジャンヌは言葉を返さなかった。
声の代わりとばかりに血混じりの唾を吐き捨て、相変わらずの目でただただ睨みつける。

ベヨネッタ『……ははあ……』

その相棒の様子を一目見て、ベヨネッタは彼女の精神状態を把握した。

ジャンヌはブチギレている、と。
よっぽど癪に障ることがあったのか、戦っていた相手がよっぽど―――ムカつく奴であったのか。


いや―――まさにその通りなのだろう。


相手はあの―――アスタロトなのだから。


あの存在を前にして、怒りに満ちないアンブラの者などいない。
とくにアンブラの全てを背負ったジャンヌの怒りは計り知れないだろう。

ベヨネッタ『……そう……』
803 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/23(金) 01:20:37.90 ID:E2jOzdGco

とにかくジャンヌは、
どこからどう見てもいつもの調子で言葉を交わす気分ではない様だ。

ベヨネッタは一度小さく肩をすくめたのち、
指に引っ掛ける形で長の証を取り出して。

単刀直入、本題に入ろうとしたところ。


ベヨネッタ『コレさ、グランマから預かったんだけど―――』


ジャンヌ『―――そいつを寄越せ』


その本題を告げきる前にジャンヌがそう言い放った。
血走った目で長の証を見つめ、低く張り詰めた声で。

そしてその時だった。
ジャンヌがを求めた瞬間―――まるでその言葉に呼応したかのように―――

―――仄かに赤黒い光を放ち、熱を帯び始めていく長の証。


ベヨネッタ『―――…………』


そんな未知の熱を感じながら、
ベヨネッタはその腕飾りを覗き込むようにして眉を顰めた。

そう、『未知』。

自分が使っていた時、この腕飾りはこんな反応など示さなかった。


ベヨネッタ『わぉ………………何コレ』
804 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/23(金) 01:22:40.71 ID:E2jOzdGco

反応を示したと思った僅か1秒後には、長の腕輪は光で叫び始めていた。
強く濃く瞬き、順じて『力の熱』も一気に増していく。

ジャンヌ『―――寄越せ』

そしてその怪しき輝きに惹き付けられているかのような、
ジャンヌ亡霊染みた声色。

ベヨネッタは目を細めて、そんなジャンヌと腕飾りを交互に見やった。
訝しげな表情を浮べて。

ベヨネッタ『……』

この時、彼女の中で一つの疑心が湧き上がっていたのだ。

元々、生まれも育ちも究極の『アウトロー』であるベヨネッタは、
アンブラの血は誇りに思っているものの、その『体制』は信用していない。

あの干からびた亡霊共然り、カビの生えた掟然り、そして―――この長の腕飾りもだ。

この時ベヨネッタには、ジャンヌがとり憑かれてしまっているように見えたのだ。
アンブラの果てしない怒りに。

この不気味に呼応する腕飾りをつけてしまったら、
自我を奪われかねないのではないのか。

今の酷く消耗している状態ならば尚更―――。



ジャンヌ『―――私に寄越せ。「セレッサ」』



ベヨネッタ『……』

だがその直後だった。


―――真名が放たれたと同時に。

ジャンヌの瞳の奥底にて光が煌いた。
確かな意志の光が。
805 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/23(金) 01:24:33.20 ID:E2jOzdGco

この疑心はどうやら杞憂だったか。

ベヨネッタ『…………』

この相棒はそんなにヤワじゃない。
この程度で潰れてしまう女なんかではない。

それを一番良く知っているのがベヨネッタ、己自身ではないか。

500年間、自分を守り続けてきてくれたのは誰か?

ジュベレウスに取り込まれた己を救いに、死の淵から帰って来たのは誰だ?

わかりきっていることではないか。
アイゼンの言葉と直前のローラの事で、少し神経質になり過ぎていただけか。

ベヨネッタ『…………』


―――事実は明白だ。


ジャンヌが怒りに押し負けることは無い、
彼女の意識は完全に支配する側にある。


ジャンヌが長の証に相応しいのではない、ジャンヌに「長の座」とこの腕飾りが相応しいのだ。


今一度ベヨネッタは、ジャンヌの瞳の煌きを確認して。

ベヨネッタ『タダじゃだめ。これは元々私が苦労して手に入れたもんだし』

今度はあっけらかんと、意地悪そうにそんなことを告げた。
指先でくるくると腕飾りを回して、顔にはいつもの不敵な笑み。

ジャンヌがじろりと一際鋭い視線を向けたが、
普段の調子でニタつくベヨネッタに結局負けてしまう。

ジャンヌ『……………………今度……ゲイツオブヘルで奢ってやる』

彼女はため息混じりにそう調子を合わせた。
呆れたように首を小さく振りながら。

ベヨネッタ『まるごと一晩分』

ジャンヌ『……わかった。だからさっさと寄越せバカ野郎』
806 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/23(金) 01:25:27.23 ID:E2jOzdGco

そうして投げ渡された長の証を、
手首へと素早く嵌めるジャンヌは。

ジャンヌ『ぐ―――!!!!』

すると赤黒い光がジャンヌの全身へ纏わりつき、
彼女の色である銀と混ざり合っていく。

やはり負荷がかなり強いのか、その過程でジャンヌは苦悶の声を漏らしてた。

ベヨネッタ『気をつけて。それ私の時よりもずっとギンギンだから』

ベヨネッタ『私よりもジャンヌの方が好みみたいね。あ、もしかしてボインは好きじゃないのかしら』

ジャンヌ『―――うるさい黙ってろ……』


と、いつもの「やり取り」をしていたところ。
遠くにて、吹っ飛ばされたアスタロトの体がむくりと起き上った。

ベヨネッタ『……』

身震いして地面の破片をふるい落とす龍騎士。
その様子を見てベヨネッタは目を細めた。

みるみる再生していく頭部は別に珍しくも無い。

だが―――ダメージの痕跡が無いのはなぜか?

先の横からの一撃は確かに命中し巨大なダメージを与えたのだが、
その様子が全く見られないのだ。


ジャンヌ『…………「維持」、だそうだ……』
807 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/23(金) 01:26:25.88 ID:E2jOzdGco

そんな疑問に、
横からジャンヌが苦悶混じりにそう告げた。

ベヨネッタ『「イジ」?』

ジャンヌ『……お前の「闇の左目」と……ぐッ!……同類らしい……』

ベヨネッタ『はぁーん……どういう性質?』


ジャンヌ『事象の……継続……状態を維持できるから……消耗知らずだとさ』


ベヨネッタ『なあるほど。それでそのカラクリを潰す「穴」は……』

と、言葉を続けながらそこでジャンヌを一度見て。
その彼女の、「穴」を見つけていたらまず有り得ない消耗っぷりを確認して。

ベヨネッタ『―――まだ無し、か。まあ、とりあえずボコリ放題ってことでOK?』

ジャンヌ『…………ふん』

そうしていると、遠くでアスタロトがハルバードの先を地面に突き刺して、
仁王立ちしてじっと佇み始めた。

『ご親切』に、こちらの準備を待っていてくれるのか。

それを見たベヨネッタ、
色っぽく喉を鳴らしてはキャンデイを口で転がして。

ベヨネッタ『さーて「長殿」。向こうは第二ラウンドの準備が整ったようでございますが』

ベヨネッタ『長殿の準備完了まで、わたくしめが「お客様」のお相手いたしましょうか?』



ジャンヌ『…………悪いな、任せる―――だが―――可能だとしても殺すなよ――――――――――――奴は私が殺す』



ベヨネッタ『―――Yes,Ma'am』
808 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/23(金) 01:29:25.49 ID:E2jOzdGco

次の瞬間、ベヨネッタは黒豹に姿を変え、
猛烈な速度で駆け進んでいった。

先ほどジャンヌの強さに疑問を抱いてしまったことを、ふと思い出しながら―――。


なんて愚かなことか。
皆が皆迫害する中ただ一人慕ってくれて、
背を預けて戦ってきた唯一の家族の強さを、今更、今更になって疑ってしまうなんて。

まさしく「この部分」だ。

『魔女の上に立つ者は、ただ強者であれば良いというわけではない』

ベヨネッタ『……』

そのアイゼンの言葉が示すのはこの部分。
この部分が長になるためには足りないのだ。

他者の視点を理解できても、他者と同じ視点から見ることはできない。
等身大のアンブラ魔女として何かを見て語ることはできない。


―――『それ』はどう足掻いても手に入らないもの。


絶対的な力の一つ―――因果を無視しながら事象を『現実』と証明できる特性―――『闇の左目』を有しているのだから。


ジャンヌは彼女のことを全て理解してくれているのに、
彼女はジャンヌの全てを理解しきることはできない。

ジャンヌが彼女と同じ視点に立って、彼女の意志を代弁することが可能でも。
彼女はジャンヌと同じ視点には立てず、ジャンヌの意志を代弁することもできない。


つまり『一方的な孤独』―――それが『観測者』であるが故の代償。
809 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/23(金) 01:34:42.78 ID:E2jOzdGco

ベヨネッタ『…………』

だが。

別に彼女はその『孤独』を嫌ってはいなかった。

ジャンヌはそんな『孤独なセレッサ』を、
ありのまま丸ごと慕って信頼してくれているのだから。

『呪われた子』、彼女が賢者と魔女の合いの子である件に関しても、ジャンヌは『気にするな』とすら言ったことがない。

それをマイナスに捉えることすらしないのだから。
迫害し笑う者に対して「セレッサのどこが悪い」、「どこがおかしい」と本気で問い詰めるのがジャンヌなのだ。

どこまでも生真面目でバカ正直で、阿呆みたいに義理堅い、アンブラの理想の化身とも言える『正統派』のお嬢様。


『お前がどこまでも走れるよう、私が道を作ってやる―――決して立ち止まるな―――』


『―――何も恐れるな、誰よりも速く、強く、高く―――――――――走り続けろ―――』


ずっと昔のある日、まだ成人する前にジャンヌから告げられたものだ。
将来の長と持て囃されるのを嫌がっていながらも、
こんなことを素面で言ってしまうあたり、まさに長になるべくして生まれた子か。

あれ以来、この言葉がこの身の奥底に染み付いている。

封印され、500年ぶりに目覚めて記憶を全て失っていた際も、この刻み込まれた『本能』だけは残っていた。


ベヨネッタ『―――はんッ!!』

だからだ。
                                        ア ウ ト ロ ー
『私』はただただこうして―――気の向くまま『究極の自由』の中この『道』を突っ走るのだ。


何人も追いつけぬ速さで、何人も侵害できぬ『強き孤独』を構築して。


そうして突き進む―――『最強の魔女道』。
810 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/23(金) 01:36:08.04 ID:E2jOzdGco

豹は咆哮をあげて、大きく空へ跳ねた。

そして―――再び人の姿に戻っては、身を翻して―――アスタロトの前へ着地。

最強の魔女はそのようにして、
恐怖公から30mほどの大地に豪快かつ優雅に降り立った。



ベヨネッタ『アンブラに「泥を塗り続けて」530年、最後にして「最悪」の「鉄砲玉」――――――ベヨネッタ。よろしく』



飛び散る破片の中、華麗にポーズを決めては改めて自己紹介。

アスタロト『恐怖公アスタロトだ!!先の一撃はお前か!!これはまた素晴らしい!!今日は正に祝うべき日のようだ!!』

ベヨネッタ『そうそう、盛大に祝って。新しい長が誕生したから』

アスタロト『……んん?長だと?…………お前が長では無さそうだな』

ベヨネッタ『……』

どうやら傍から見ても、
どうも自身は長という柄では見えないようだ。

ベヨネッタは無言のまま、後方向こうのジャンヌを親指で指した。
そしてその上で。


ベヨネッタ『ただ、退屈はさせないわよ。単に強さだけなら――――――私が上だから』
811 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/23(金) 01:38:25.04 ID:E2jOzdGco

アスタロト『ふぅむ…………』

そんなベヨネッタの返答に引っかかったのか、
恐怖公はこれまた意味深に喉を鳴らして。


アスタロト『もしかして………………お前が「闇の左目」か?』


単調直入にそう問いかけた。
これに対しベヨネッタは拒否はせずあっさりと。

ベヨネッタ『あー、これが欲しいの?』

肯定の上の言葉を返した。


ベヨネッタ『そこまで良い物でも無いと思うけど。創造とか……その維持だっけ、そんな感じのを想像してると痛い目みるわよ』


ベヨネッタ『体力バカ喰いするし、汎用性ゼロで使いどころも全然無いし』


―――孤独だし。


アスタロト『一つの事しかできなくとも、その一つが絶対的ではないか』

だがアスタロトは小さく笑っては、愉快そうに言葉を続けた。

ベヨネッタ『これの性質知ってるの?』

アスタロト『もちろんだとも。創世記にジュベレウスのその力を散々見たからな』

アスタロト『お前たち人界に生命が形成される以前から、俺は既に王だったのだぞ』


ベヨネッタ『へえ、年下の魔帝とかスパーダが頂点に上り詰めたのに、まだ「こんなところ」ウロウロしてるの、お疲れ「グランパ」』


アスタロト『…………』

812 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/23(金) 01:42:04.39 ID:E2jOzdGco

そこで暫し。

アスタロトの声が切れた。
ベヨネッタの言葉に腹が立ったのだろうか、そして再び放たれた声は。


アスタロト『心配しなくても良い。俺も実質、今や連中と同じ領域だからな』


やや語気が強くなっていた。
そこにここぞとばかりに、ベヨネッタは龍騎士の全身に、
わざとらしくジロジロと視線を巡らせて。

ベヨネッタ『ふぅん、私はスパーダの息子たちを「直」で知ってるけど―――』

ベヨネッタ『ついでに言うと、私もその領域なんだけど――――――』


ベヨネッタ『―――ぶっちゃけアンタ、そこまでには見えない』


そして最後に軽く『吹き出し』ながら、そう告げた。
そんな挑発は効果覿面だった。


直後―――凄まじい勢いで振り下ろされるハルバード。


そして強烈な衝撃と激突音。


その瞬間―――火花と共に飛び散っていく『炎と雷』。


ベヨネッタ『―――はッ!!このパワーはかなり良い線行ってるけど思うけどさッ!!!!』


ベヨネッタはその一振りを、ドゥルガーによって形成されている片手三本爪、
計六本の両手の爪を交差させて受け止めていた。

アスタロト『―――「けど」、何かな?』

そして高まる圧で響く、叫び声のような金属音の中、
彼女は妖艶な吐息混じりに答えて―――。


                                            シビレルもの
ベヨネッタ『―――「けど」、やっぱり――――――「 色 気 」が無いッ!!!!』



刃を一気に弾きあげて。

解放状態のウィケッドウィーブ、まずは凄まじい正面蹴りを放った。
813 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/23(金) 01:44:11.73 ID:E2jOzdGco

絶頂の腕飾り、その効果は単純明快。
魔女の技の限界を容易に超えさせてくれること。

ウィケッドウィーブにしかり魔獣召喚にしかり、発動には常に準備動作が必要になる。
魔獣召喚には舞と詠唱が必要であり、
修練によって簡略化できるウィケッドウィーブもラグは必ず生じてしまう。


つまりマシンガンの如くの本物の連射は性質上、根本的に不可能なのだ。


だがこの絶頂の腕飾りは―――その不可能を突破してしまう。


ベヨネッタ『―――YA-HA!!!!YeeeeeeeeeeeeeeYA!!!!』


直後、アスタロトはその身に―――ウィケッドウィーブの連蹴りを受けた。
巨大な黒き足が宙空から出現しては、まさにマシンガンのごとくその鋭いかかとを叩きこんでいく。

瞬く間にひしゃげ凹んでいくアスタロトの胸、
だが負けじとアスタロトもハルバードを薙ぎ振るうが。

まるでかすりもしない。
最強の魔女はスレスレながら鮮やかにかわし、それどころかかわすたびに更に『加速して』いく。

アラストルの巨躯が一際強烈な一撃を受けて、大きく吹っ飛ばされ―――かけたところ。


ベヨネッタ『―――YA!!』


ベヨネッタの腕から突如伸びた『ムチ』―――クルセドラがその龍の首に巻きついた。
そして彼女はその身を一気に龍騎士のもとへと引き寄せては。

ベヨネッタ『―――Ho!!Hu!!HA!!!!』

連撃を叩き込み。
最後に上方から、これまた巨大なウィケッドウィーブの腕で叩き落とした。
814 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/23(金) 01:47:46.66 ID:E2jOzdGco

地面に叩きつけられたアスタロト、いや、
叩きつけられる前から既にその体は弾けていた。

地面に降り注ぐのは肉片の雨。

まるでショットガンのように、凄まじい勢いで落ちてきた破片が大地を穿っていく。
そして回転する巨大なハルバードが激音を奏でては突き刺さり。

その柄の先に、ベヨネッタは優雅に降り立った。

ベヨネッタ『Huuum……』

口の横についた返り血を、妖艶に舌で舐め取りながら。

絶頂の腕飾り、試運転は好調だ。
その効果はこれほどまでの火力を実現しているのだ。

ただそこはもちろん、ベヨネッタの圧倒的な実力あってのもの。

この腕飾りも、他の曰くつきの魔導器と同じく化物染みた『受け皿』が必要になる。
実際に過去、幾人もの高名な魔女がこの腕飾りの起動を試みて命を落とした。

全盛期のアイゼンですら起動には失敗し、手ひどく傷を負ってしまった代物だ。


だがそんな負荷も―――ベヨネッタにとっては良い『酸味』。

若い柑橘系を口にしたかのような、爽やかな『刺激剤』となる。


しかし―――。


ベヨネッタ『…………』

視線の先には今、その心地よさを妨害する『苦味』の種があった。

どこからともなく破片が集まってはみるみる巨大化し――形を整えていく肉塊だ。
815 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/23(金) 01:49:00.62 ID:E2jOzdGco

ベヨネッタ『…………はぁん……なるほどねぇ』

確実にダメージは通っているのに、アスタロトの魂にはまるで変化が無い。

なるほど、これが『維持』か。
あのジャンヌがあそこまで追い込まれてしまうだけあるか、確かにとんでもなく厄介な、規格外の特性だ。

これは単なる力のゴリ押しではどうにもならない類。
創造や具現といった、『ある程度戦うことは案外容易でも、打ち負かすのは果てしなく困難』なもの。

火力はこちらが勝っているし、アスタロトの攻撃も確かに強いが充分凌げる範囲。
つまりその場その場の戦いではこちらに負ける要素は無い。

しかし。

いくら最強の魔女といえでも、スタミナは無限ではない。
時間勝負に持ち込まれれば、いずれこちらが先に尽きてしまうのだ。


ベヨネッタ『ったく……厄介な…………』

こういったことは、『直線番長』を地で行く彼女はあまり好きではなかった。

決して苦手ではない、むしろ最強の魔女と謳われるにふさわしく、
その知略の面でもこと戦闘に関しては非常に優れている。

そう、優れているのだが。
いかんせんこの性格だ、気が進まないことにはどうしようもない。

それに知略ならもっと上がいるのだから、別に無理してやる必要は無い。

アイゼンの方がずっと頭がキレるし、その魔女王が一目おいて認める―――我らが新『長』がいるのだから。



ジャンヌ『―――待たせたな』



そしてちょうどそんな『長』が、轟音を打ち鳴らして降り立った。
ベヨネッタが立っているハルバード、その地面に突き刺さっている横に。
816 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/23(金) 01:51:39.19 ID:E2jOzdGco

そのジャンヌの様子は、どう見ても大丈夫と言えるものではなかった。
息は荒く熱を帯びていて、
表情や全身の佇まいにも消耗の色がありありと滲んでいる。

ベヨネッタ『無理してない?ベッドでも召喚して寝ててもいいのよ?それとも長らしく玉座がいいかしら?』

ジャンヌ『そうだ無理してハイになってんだよわかるだろうがいちいち気を散らすなバカ野郎』

だが精神状態は良好のようだ。
発せられた声の調子は、いつもの気が強そうな相変わらずのもの。

その言葉をより乱暴にさせている原因、強烈な憤怒に満ち満ちているのも、先から相変わらずであったが。

ベヨネッタは満足そうに小さく微笑んでは、
再生を続けている肉塊へと目を戻して。

ベヨネッタ『それで、「維持」の「穴」は見つかった?』


ジャンヌ『……「維持」は、機能している間に受けた「痛み」も継続する、と』


ジャンヌ『そうしないと記憶すらできないからなのか、どうやら精神面領域に対しては「維持」の仕方が違うらしい』

ベヨネッタ『ふぅん、それで?』

ジャンヌ『そもそも奴は、苦痛自体そのものが好きだとか』

ベヨネッタ『……で?』

ジャンヌ『最悪のドマゾ変態ゲス野郎だ。お前がまだ清楚な乙女に思えるくらい気色悪いぞ』

ベヨネッタ『あらやだ、私は永遠に乙女でしょ。それで?』

ジャンヌ『つまりだな、先ほど正攻法で挑んだのは間違いだった。今度は逆に、奴の望みをかなえてやろうかと思う』

ベヨネッタ『……?』


新長の意図をいまいち掴めないベヨネッタが、
怪訝な表情で彼女の方へとまた顔を向けた。

ジャンヌはそれに応じるかのように、同じくベヨネッタの顔を見上げては。


ジャンヌ『―――「苦痛に関する悪趣味」さで言えば、アンブラは負けてはいないだろう?』

817 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/23(金) 01:53:48.51 ID:E2jOzdGco

そのジャンヌの言葉で、ベヨネッタは全て把握した。
そして邪悪にかつどこまでも美しく妖艶に微笑んで。


ベヨネッタ『「あっち路線」で「セめる」わけね、はぁん、良いんじゃない?』


ジャンヌ『お前を見て思いついたんだ』


ベヨネッタ『あらまあ、バカ正直な正当派お嬢様にインスピレーションを差し上げられて光栄ですわ』

ジャンヌ『いいから始めるぞ』


そうしている内に再生は終ったのか、
アスタロトはふたたび一切のダメージの痕跡無く悠然と佇んでいた。


ジャンヌ『よう。先は悪かったな。「無礼」だった』

アスタロト『こちらこそ。まさか「長」だとはね』

ジャンヌ『そう、長だ。その長として、アンブラと古くからの馴染みがあるお前を―――』


ジャンヌ『―――あつく「アンブラ式」でもてなそうと思う』


アスタロト『ほおう。何を見せてくれるのかな?』


相変わらず余裕たっぷりな、そして興味津々なアスタロト。
そんな忌々しき恐怖公に向け、ジャンヌは小さく笑い―――。


ジャンヌ『気に入ると思う―――』


ジャンヌ『――――――きっとな!!!!』


そして一撃、ウィケッドウィーブによる正面蹴りを繰り出した。
818 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/23(金) 01:56:30.13 ID:E2jOzdGco

その渾身の一蹴りは凄まじいものであった。

いくら長の証によってブースト状態でも、
とても消耗しきっている者の攻撃とは思えないもの。

圧倒的な衝撃ともに、アスタロトの巨躯を大きく後方へと吹っ飛ばしてゆく。


だが。

アスタロト『何だ、同じでは―――』

恐怖公は期待はずれとばかりに、宙を舞う中でそう零した。

同じ打撃だ。
確かに、このジャンヌの火力もさきよりも増してはいるが、同じ。
別に目新しくも何ともない。

良くしみる苦痛ではあるが、これにはもう飽きていたのだ。


―――しかしそう断じてしまうのは少々気が早すぎだった。


なにせ次の瞬間―――アスタロトは未知の苦痛に出会えたのだから。

いままで味わったことの無い、ただ純粋に『苦痛を与えるためだけに生み出された苦痛』に。


直後、恐怖公の体は。


アスタロト『―――』


その巨躯がすっぽりちょうど収まるほどの―――大きな『箱』に叩き込まれてた。

内側に『大量の針』が突き出ている箱に。


そして箱に叩き込まれた瞬間、一気に襲い掛かってくる――――――『許容』を遥かに越える―――。



アスタロト『―――ッお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!!』



―――『苦痛』。
819 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/23(金) 01:58:06.15 ID:E2jOzdGco

―――何なんだこの苦痛は。

ダメージは然したるものではない。
むしろ全く無いに等しい。

だが―――だが痛みだけが、想像を絶するほどに強い。

背中全体に突き刺さる無数の針から、
まるで肉を溶かす液が流れ込んでくるよう。

その地獄の中、彼がふと前の地面を見やると。
斜め前、開かれている『蓋』のところにベヨネッタが立っていた。


アスタロト『―――な―――なんだコレは―――!!!!』


彼が声を荒げてそう問いかけると。



ベヨネッタ『―――人間界式アンブラ風――――――――――――――――――拷問♪』



彼女は素晴らしいくらいに『にこやか』にそう答えて―――蓋を乱暴に蹴り閉めた。


この瞬間、アスタロトはその長き人生の中で初めて―――『愛せない苦痛』があることを知った。



アスタロト『―――がッ!!ぐうううがああああああ!!』
820 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/23(金) 02:00:35.59 ID:E2jOzdGco

『拷問』

その最たる目的は処刑ではない。
ダメージを与えるためのものでもない。

ただ純粋に苦痛を与えるためのものだ。

より長く生かしながら苦しめるため、むしろダメージはできるだけ軽減させる。

それが肉体の損壊で容易に死んでしまう世界で生まれた、『人間界式拷問』。


ジャンヌ『力が制限されてる分――――――こと「悪趣味な発明」に関しては、人間の右に出る種は無いだろうさ』


そんな拷問概念が魔女の技で徹底的に昇華されたとき――――――それは類を見ない程の、魔界にすら存在しないほどの『苦痛』を生み出す。


そして。

ジャンヌの思惑通り、アスタロトはその身を捧げるほど苦痛に『狂って』はいなかった。
悪趣味な性癖持ちではあるが、根は王者に相応しく『まとも』なのである。

まともであるが故に、欲望にブレーキも利くし―――許容限界もちゃんと決めてあるのだ。

これがもし生粋の『苦痛狂』ならば、これでも喜びの声を挙げていただろうし、
アスタロトの『維持』を破る穴にもならなかったはずだ。


そう―――ジャンヌの狙いはそこにあった。


即ち、アスタロトが苦痛の継続に耐えかねて―――『維持』の『機能』を切ってしまうこと。

                アイアンメイデン
ジャンヌ『そいつは「鉄の処女」、使い方と効果はの説明は……いらないな』


優雅に歩きながら近づく彼女の声は、どうやらアスタロトに届いてはいなかった。
今たっぷりと体感中で悲痛な咆哮を放っていたのだから。

だがまだ完全ではない。

アスタロトが腕で堪えているのか、蓋は完全に閉まりきってはいなかった。
821 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/23(金) 02:04:18.57 ID:E2jOzdGco

ベヨネッタ『ほんっと!!パワーだけはあるわね!!』

ベヨネッタが足で強引に押し付けても、なかなか閉まる気配も無い。
それを見たジャンヌがベヨネッタの横に並び、おなじく足をあてがって―――。


ジャンヌ『そう遠慮するな!!「好き」なんだろ!?――――――「苦痛」が!!』


押し込んだ。

長と最強、この二人の魔女の馬力の前には、アスタロト自慢のパワーもまるで通用せず――――――――――――。


アスタロト『―――止せ!!止せェェェ!!』


ベヨネッタ『喚くなエロトカゲ!!さっきの余裕どこいったのさこのタマ無し!!』


さあ―――清算の時間だ。

奢り高ぶった不浄の王よ。

悪魔以上に魔に染まった女達、その怒りを買ってしまった不幸を呪え。
彼女達の魂を奪い貪ったその代価を支払え。


―――その悲鳴で己の鎮魂歌を奏でろ。


覚悟せよ―――これは序章、始まりに過ぎない。


ジャンヌ『―――すぐにイくなよ、お楽しみはこれからだ』



アンブラの復讐はすぐには終らない―――ここからだ。



アスタロト『――――――――――――やめろォォォォォォォォオ!!!!』



アスタロトの叫びなどむなしく。
巨大な『鉄の処女』、その蓋が轟音を伴って完全に閉じた。

―――
822 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/09/23(金) 02:05:18.54 ID:E2jOzdGco
今日はここまでです。
次は日曜に。
823 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/09/23(金) 02:09:24.90 ID:W+i0x/rKo
アスタロトざまぁwwww
824 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/23(金) 02:14:07.16 ID:qrXizVYDO
今から[ピーー]とか[禁則事項]とかされちゃうのか
うらやまゲフンゲフン、可哀想に…
825 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2011/09/23(金) 02:30:44.88 ID:cKtyNvH9o
あぁ、ゲームでもやたら種類があったっけ、拷問…
826 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/09/23(金) 02:47:49.54 ID:qUHdJENH0
乙。
ところで、闇の左目って公式で性質とかキチンと説明されてたっけ?
827 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/23(金) 03:21:35.91 ID:6VPfBRNIo
お疲れ様でした。

お二人様がなんだか楽しそうですね………。
828 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/09/23(金) 07:39:36.53 ID:SDZXsO6To
乙です。先日、袋叩きタイムといった理由がわかった。
俺たちの業界でもあれは拷問です・・・
829 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/09/23(金) 09:21:18.65 ID:UGpMmxqZo
>>813
アラストルさんチーッス
830 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/09/23(金) 10:58:03.73 ID:EvJ0FzP+0
緊縛されて三角木馬の上で悶えるアスタロト、みたいな事にならなくて良かったww

(´ω`)ノ 乙乙乙!
831 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/09/23(金) 11:14:08.34 ID:EvJ0FzP+0
緊縛されて三角木馬の上で悶えるアスタロト、みたいな事にならなくて良かったww

(´ω`)ノ 乙乙乙!
832 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/23(金) 12:08:05.12 ID:hK0EdCrIO
>>829
名前似てるからなw
833 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/24(土) 18:08:13.55 ID:oYXcr/lT0
銃で頭ぶち抜かれるよりも洗面器に満たした水に顔を沈められて溺れる寸前に上げる
→また沈める→上げるのエンドレスの方がきついもんな…

死なない限りは
834 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/09/25(日) 15:36:47.43 ID:4iWHDgTPo
すみません。
今日の投下は諸事情によりありません。
次は明日の夜に。
835 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/25(日) 15:48:09.45 ID:lzIrdJSJ0
すまんがダンテが本気だすと人間界が崩壊するとか悪魔の設定はどこにのってるんだ?
836 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/09/25(日) 16:00:10.98 ID:4iWHDgTPo
>>835
公式設定ではありません。

魔帝が作ったナイトメアが魔界すら破壊するほどの力を持っていた

これはマズイと思った魔帝がナイトメアを隔離

そのナイトメアを破壊して魔帝をも倒したダンテ

といった具合に、各キャラやエピソードを比較して思いっきり都合よく拡大解釈したもので、
あくまでこのSS内でのみの設定となっております。
837 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/25(日) 21:19:43.39 ID:lzIrdJSJ0
>>836
なるほどでもフロストが絶対零度の爪をもつとかは1の設定集とかにのってるんかね
838 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/09/25(日) 23:06:02.36 ID:4iWHDgTPo
>>837
確か1の説明書に書いてあった覚えがあります。
「絶対零度の爪で斬られた者は痛みを感じる前に命を落とす」という具合に。
839 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/25(日) 23:49:21.47 ID:lzIrdJSJ0
おお、ありがとうございます
やっぱ細かいところに書いてあるんだな
840 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/09/26(月) 01:54:57.36 ID:DFy3/kDEo
ナイトメアって結構ヤバイ代物だったんだな
てか制御出来ない兵器てw
841 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/09/26(月) 20:04:59.21 ID:lkY86FHjo
あ、投下前にちょっとした質問。
ドMのアスタロトさんの維持ですが、痛みも継続するようですが、一旦維持を解除したらリフレッシュするんでしょうか?
842 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/27(火) 00:29:26.09 ID:D1NmHT08o
>>826
遅れてすみません。
公式では明確に示されてはなかったかと。

>>841
そうです。
そのリフレッシュのために維持の機能を一度停止してしまう、そこがジャンヌ達の狙いです。
843 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/27(火) 00:31:13.87 ID:D1NmHT08o
―――

塔のごとく聳える巨大な箱。

それは人間の知恵と創造性、悪意による発明の一つ―――『鉄の処女』。
死による『破壊』ではない、苦痛の『継続』与えるために生み出された狂気の棺おけ。

そこに魔女の技が組み合わされると、そんな拷問概念が更に昇華する。


注がれた力は攻撃力にではなく―――全て『痛み』に変換されるのだ。

それは魔界や天界などには存在しない『独自の系統』の、かつとことん悪質な『痛み』だ。

特に最強と長、その二人の魔女の莫大な力から生み出された『痛み』に至っては―――


―――魔界の大悪龍からをも『悲鳴』を引き出してしまうほど。


ジャンヌ『―――……』

聳える『鉄の処女』からは、
今にもその蓋が弾けとんでしまうかという程の咆哮が発せられていた。

いや、現実に鉄の処女は大きく歪み始めていた。
暴れる龍騎士のパワーはやはり凄まじく、
強烈な激音を伴ってはまるで泡が沸いてくるかのようにみるみる表面が膨らんでいく。

ベヨネッタ『わぉ、すぐヘタれたかと思ったけど案外耐えるじゃないの』

蓋を足で押さえている二人の魔女、その馬力に関しては問題ないが、
棺おけの側がどう見てももちそうもなかった。
844 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/27(火) 00:33:01.23 ID:D1NmHT08o

そうしてついに箱の上辺が内側から破れ、
突き出される金色のハルバードの穂先。

アスタロト『―――お前らァアア゛ア゛ア゛ア゛!!!!』

そしてその穴から放たれる、これまた凄まじい怒号。
その声には、今までの『戯れ』の調子は欠片も無かった。


苦痛とともに満ちているのは―――強烈な憤怒と殺意。


ジャンヌ『―――はッ!』

かなりの苦痛を受けてはいるものの、アスタロトの意志はまだ折れてはいないか。
この鉄の処女ももう限界、そろそろ『次』のために『処分』する時間か。

蝶番が弾け飛んだところで、彼女達は顔を見合わせては小さく頷いたのち。
一気に鉄の処女を駆け上がって、この棺おけを挟むように反対側へと降りるベヨネッタ。

そして。


アスタロト『――――ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッ!!!!』

叫ぶ棺おけに向けて。


ジャンヌ『Shut up―――!!』


両側から―――特大のウィケッドウィーブの蹴りを叩き込む。


ベヨネッタ『―――Bad boy!!』


瞬間、虚空から出現した銀と黒の巨大な足。
それが鐘を叩く撞木の如く、棺おけへと叩き込まれた。

この凄まじい挟撃に耐えられるものなど存在しない。
ましてや、主に『廃棄処分』とされ見放された鉄の処女など尚更だ。


これまた鐘のように響く激音を轟かせて、さながらアルミ缶の如く大きくひしゃげてしまう鉄の処女。


―――そして隙間から噴出するアスタロトの咆哮と体液。
845 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/27(火) 00:34:18.82 ID:D1NmHT08o

だが棺おけの中から出てきたものはそれだけではなかった。

二人の魔女の蹴りを受けた直後、今度は鉄の処女が爆裂して弾け飛んだ。
内側のアスタロトによる、光の衝撃波によって。

鉄の処女が破壊されその機能が完全に停止した瞬間、
拘束性もなくなってしまったのだ。

そうして自由となったアスタロトは、その傷ついた身が再生するのをも待たずに―――。


アスタロト『―――人間ごときがァァァァァァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッッッ!!!!』

怒号を発しながら一回転。
猛烈な勢いでハルバードを薙ぎ振るう。


その強烈なパワー、それは今この時最大出力となっていた。

衝撃波が大地を広範囲にわたって剥ぎ取り抉っていき、
剣筋が通った空間は分断され、あらゆる像が歪んでいく。

魔界十強、その名に相応しき絶大な力が、憤怒に後押しされて圧倒的な破壊を撒き散らす。


だが―――。


―――もう遅い。


相手が一人だったうちに、戯れなど捨ててこの剛たる本領を発揮していれば結果は大きく変わっていただろう。

しかし。

史上最強と長、この二人の魔女を同時に相手にしてしまった瞬間―――アスタロトの勝利は消えた。


彼の渾身の一薙ぎは、派手に一帯を破壊しただけ。
標的には両方とも掠りもしていなかった。

彼女達は即座に跳んではあっさりと回避し―――今度はアスタロトの頭部目掛けて―――蹴りの挟撃。
846 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/27(火) 00:35:50.89 ID:D1NmHT08o

これまた特大のウィケッドウィーブが、槌となりアスタロトの頭部を叩き潰す。
まるで熟れた卵の如く弾け、跡形も無くなる龍騎士の頭。


そして巨体がゆらりとふらめいた一瞬の隙に―――『次』が用意される。


ベヨネッタ『Ha-HA!!』


次の瞬間、アスタロトの身長を越えるかというほどの金色の巨大な壁、
それが二枚、龍騎士を挟み込む形で両側に出現した。

そして下には歯車のついた土台―――。


―――それは巨大な『万力』であった。


そして一瞬のうちに。

けたたましい音を立てては歯車が回り、
アスタロトの巨体を挟み込んでしまった。


アスタロト『―――ぐッッッ!!』

潰されまいと必死に両腕を広げて懸命に堪えようとするも。

ベヨネッタ『―――ふんッ!!』

取っ手を掴み、歯車を豪快に回して行く彼女ベヨネッタによって、
無常にもぎちり、ぎちりと徐々に締まっていく万力。

そうしてこれまた莫大な力が全て痛みに変換され、アスタロトの精神を圧迫していく。

アスタロト『オォォォォ!!―――アスタロト!!俺は―――アスタロトだッ!!!!』

そんな更なる苦痛の中、アスタロトは怒りに満ちた声でそう己が名を叫んだ。
その言葉は、聞いた者には耐え難い畏怖を刻み込むものであろう。

だがそれは下位の者に対してだけ。
対等以上の者には通用するはずも無く。


ジャンヌ『――――――知っているさ』
847 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/27(火) 00:37:04.05 ID:D1NmHT08o

ジャンヌは冷ややかな調子であっさりとそう答えた。

アスタロト『―――お前らをこの手で叩き潰してやるッ!!!!』


ジャンヌ『潰れるのはお前だ』


煩わしそうな、やや薄めの目つきで見上げながら。

直後、巨大な生木が裂け折れるに似た音を響かせて、
アスタロトの左腕がひしゃげ潰れた。


アスタロト『―――犯し潰し捻り噛み砕いてやる!!!!!!』


龍部位の足も翼もすでに万力に負けてひしゃげてしまっており、
『つっかえ棒』は残るは―――右腕のみ。

それを見たジャンヌがふと思い出したように。


ジャンヌ『ああ、右腕。右腕だ。お前、さっき奪ったよな右腕―――――――――「あの子」から』


その刹那。


アスタロト『―――ッ』


アスタロトの右腕が、肩口から分離して上へと吹っ飛びあがった。

神速で切り上げられたジャンヌの魔刀、
そこから伸びたウィケッドウィーブの刃によって。

そして。


ベヨネッタ『―――HuuumHa!!』


『つっかえ』が無くなった万力は、完全に締め切られた。
今まで押し留められていた緊張が一気に弾け、
万力そのものが砕けてしまうかというほどに凄まじい勢いで。
848 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/27(火) 00:38:28.53 ID:D1NmHT08o

最早それは『叫び』ですらなく。

アスタロト『ご―――ぐぁ―――』

万力の隙間、そこに詰まっている歪な肉塊から漏れてくるのは、
そんな露混じりの奇怪な『音』。

ベヨネッタ『……』

ジャンヌ『……』

そんな風にして痛みに蝕まれていくのを、
二人は無言のまま暫し、興味深そうに『見守っていた』。

ある小さな変化に気付いたのだ。

アスタロトの空気から、先ほどまでの『緊張』がなくなっている、と。
そこで蓋路は何かに気付いたように再び顔を見合わせて。

ベヨネッタが指を軽く鳴らすとその瞬間、万力がぼろぼろと崩れ去っていった。

そして地に落ち転がる巨大な肉塊。


アスタロト『…………』


その塊は、今までと同じく猛烈な速さで再生を始めていった。
龍、その上にある騎士の上半身、そして左腕とハルバード。

しかし―――。


ジャンヌ『……』

右腕だけは再生する気配が無い。
ジャンヌに切り落とされた右腕だけが。
849 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/27(火) 00:40:34.56 ID:D1NmHT08o

魔女の拷問器具はその力をほぼ全て痛みに変換するため、ダメージ自体はほとんど大したことが無い。
つまり、何かの特別な力を使わずとも悪魔の基本で瞬時に治癒する。

だが―――許容範囲を超えた力による傷は、簡単には治癒しない。

アスタロトにとっては、ジャンヌが振るった絶大な刃などによるものこそがまさにそれだ。

だが彼には特別な力がある。
『維持』だ。

これさえあれば、自身の許容を遥かに超える力でも―――たとえそれがスパーダの刃であっても、
彼の傷は『無かったこと』になる。

ジャンヌ『……』

しかし―――この時は、その右腕が再生しなかった。


ベヨネッタ『あーら、イっちゃったの』


そう、これが物語るはつまり―――今、『維持』は機能していないということ。


アスタロトから緊張が無くなったのは―――蓄積して維持していた痛みが消えたからだ。

―――刹那。

維持の再起動、その邪魔を防ぐためか。

言葉を発する間すら与えずに即座に左腕を掲げて、怒りを載せたハルバードを振り降ろすアスタロト。

だがその刃には先までの圧倒的なものに比べれば、
パワーも速度も明らかに見劣りしていた。

ジャンヌに落とされた右腕、
そしてそこから魂に受けたダメージはもちろん回復していないのだから。
850 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/27(火) 00:42:17.21 ID:D1NmHT08o

その振り下ろされた刃をジャンヌは魔刀を掲げて。

ジャンヌ『―――はッ!!随分軽くなったじゃないか!!』

―――意図も簡単に弾きいなす。

そして維持を再起動する隙など与えずに―――横にいる最強の魔女を―――解き放つ。

ジャンヌ『―――セレッサ!!』


ベヨネッタ『―――はぁいドゥルガー!!』

両足にドゥルガーの稲妻を噴出させながら
長の命を受けた最強は弾ける様にして飛び出し。


ベヨネッタ『Hu-Ho-Hu-HA!!―――』


目にも留まらぬ打撃をアスタロトの巨躯に叩き込んでいき―――。



ベヨネッタ『―――――――――キルゴアッ!!!!』



その瞬間、アスタロトは衝撃の中で見た。

                     ロケットランチャー
この魔女の足に巨大な『 火 筒 』が出現するのを。
そして彼女はその足を瞬時に引き、『溜め』―――。


―――神速の連続蹴りを放つ。


アスタロト『―――』


その巨大な砲口から放たれる―――無数の『弾頭』を伴って。
851 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/27(火) 00:46:55.99 ID:D1NmHT08o

ウィケッドウィーブ混じりに乱舞する大量の弾頭。
それも髪を解放し、絶頂の腕飾りを装着した最強の魔女からのもの。

その火力は最早常軌を逸していた。


アスタロト『―――おぉぉぉおおおおおお―――!!』


一瞬にして―――強烈な爆発の嵐に飲み込まれていく悪龍。

維持の加護をなくし、ジャンヌの一斬りを直に受けて手負いの身。
そんな彼には、今やこの壮烈な弾幕に耐える力は残っていなかった。



ベヨネッタ『――――――…………あ…………』

締めとなる一際巨大なウィケッドウィーブを打ち下ろし、
もうもうと立ちこめる炎混じりの粉塵の中に降り立ったとき。

ベヨネッタはそんな、やや間抜けな声を漏らしてしまった。

大地に穿たれた巨大なクレーターの中には、アスタロトの姿が無かったのだ。
いや、『全て』無かったわけではない。

ところどころに龍騎士のものと思われる肉片が散らばっていたのだから。


そしてそんな惨状こそ、彼女のこの間抜けな声の原因。
ベヨネッタは気まずそうな笑みを浮べてジャンヌの方へと振り向いた。

するとジャンヌは呆れたような表情で。

ベヨネッタ『……もしかして私、ヤッちゃった?』

ジャンヌ『……セレッサ……やり過ぎだ』


ベヨネッタ『……ごめん、ノリでつい……』
852 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/27(火) 00:48:22.71 ID:D1NmHT08o

そう、この魔女はついついアスタロトを殺しにいってしまったのだ。
つい先ほど、長から直々に「殺すな」と命じられていたにも関わらずに。

だが『幸い』にも。

ジャンヌ『いや……まあ……奴はギリギリのところで逃げやがったみたいだがな』

アスタロトは生きていたか。
爆炎の中、ジャンヌの目はこの階層から離脱する龍騎士をはっきりと捉えていたのだ。
それを聞いてけろりとベヨネッタの表情は一変、一切悪びれることも無く。

ベヨネッタ『あら良かった。追う?』

相変わらずの笑みでそう返した。

ジャンヌ『……もちろん。まだ時間もあるしな』

ベヨネッタ『でもアンタはそろそろ休んだほう良いんじゃない?』

ベヨネッタ『この通りアスタロトを追い返したし、そもそもアスタロトの排除は計画に無いし』

ベヨネッタ『「弟」か「ボーヤ」がちゃんと狩るでしょうし』

ベヨネッタ『もし魔界に帰れたとしてもあそこまでボロボロじゃ、どうせ他の十強にすぐ殺されるわよ』

ジャンヌ『…………』

そんな彼女の言葉にジャンヌは無言ではあったが、その疲労が滲む顔は「それも一理あるか」といった表情。

ベヨネッタ『なんなら私がカタをつけてこよっか?』

ジャンヌ『…………いや……時間の許す限り追おう』

だがそれでもジャンヌは首を振りそう告げた。


ジャンヌ『奴の首は、魔女の刃で刎ねねばならない』


ベヨネッタ『じゃあ私でも良いじゃん』

ジャンヌ『セレッサ、お前は雑なんだよ。あれじゃ一瞬だろうが。あれじゃダメだ』


ジャンヌ『奴の喉下に刃を付けて焦らし、魔女に喧嘩売った事をとことん後悔させ自覚させた上で―――刎ねて――』


ジャンヌ『魔女の意志に焼かれる中、ゆっくりと己の魂の崩壊を味わってもらう』


ベヨネッタ『………………おー怖い怖い』


―――
853 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/27(火) 00:51:41.21 ID:D1NmHT08o
―――

魔界の覇権を握るには、ただ強く剛毅なだけではダメだ。
確かに大胆さが必要ではあるが、一方で徹底した慎重さも必要となる。

ジュベレウスも魔帝もスパーダも覇王も、
その力に過信せずに徹底した慎重さを持ち合わせていた。

それらの存在のような、覇道を駆け上がる前から既に完全な存在だったわけではない『彼』にとって、
そんな慎重さは尚更重要となる。

維持を開花させたのだってつい先日、人間界時間にして300年ほど前。
今の座に到達してかなりの年月が経ってからだ。

そう、確かに圧倒的では合ったが、決して無敵なんかではない。
故にある程度保身的でなければ覇王の側近、そして十強の座までは昇ることなど不可能なのだ。

つまりそれを成し遂げた彼、アスタロトも狂ってなんかいない。
狂気に満ちているも、それが行動の指針ではない。


大胆ではあるが―――無謀ではない。


アスタロト『―――ッはッぐ……!!』


彼もまた慎重に慎重を重ねて、
生き長らえるための保険は常に『複数』用意していた。

あらゆる状況に備えて、逃走手段の確保はいつどこにいても欠かせないものだ。
魔帝ですら完膚なきまで叩きのめされる、スパーダの力を受け継ぐ者が三人もいる時代なのだから。
854 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/27(火) 00:56:58.44 ID:D1NmHT08o


そうした予め用意していた逃走ルートを抜けて、
アスタロトはプルガトリオの別階層に落ち延びていた。

アスタロト『…………かッ…………』

酷く傷付いたその巨体を引き摺りながら、
アスタロトは自身の状態を素早く分析していく。

『維持』の再起動は、力の消耗激しく現時点では不可能。
再起動には力をある程度の水準まで回復させるしかない。

アスタロト『…………』

その回復については、魔界の根城に戻ればかなり早く済む。

しかし現状、単独で魔界に戻るのは非常に危険であった。
こんな満身創痍の状態で戻ってしまったら、まず他の十強が動き出すからだ。

自分自身、他の十強の立場だったら必ずそうするのだから、まず間違いない。

だからと言って、いつまでもプルガトリオに潜伏などしていられない。
それも選択肢の一つではあるのだが、あの魔女達による追跡のリスクを考えると戻った方が好ましい。

だが、単身で戻るのも無謀。
そこで彼は護衛の将を伴うことにし。

アスタロト『―――おい!!サルガタナス!!』

ダンテ討伐には加わっていないその側近の名を呼ぶも。

反応は無し。

アスタロト『おい!!誰も聞えないのか?!』

サルガタナスだけではなく、
他の将にも届くように意識を広げるが―――それでも声は返ってこなかった。

855 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/27(火) 00:58:40.20 ID:D1NmHT08o

だが―――。

暫しそう呼びかけ続けていたところであった。


『―――大公』


アスタロト『―――聞えたか!!』


一つ、確かな声が返って来た。
それは間違いなく臣下の将の一柱、あの『魔狼』のものであった。

『そんなところにおりましたか』

アスタロト『―――至急俺のところに来いッ!』


『我も今ちょうど、大公の下に行こうと思っていましてな。今そちらに』


アスタロト『―――急げ!!「カール」!!』


だが焦燥していた彼は気付いていなかった。

その愛称で呼んだ相手―――グラシャラボラスの主は、今や己ではなかったことに。


アスタロトのすぐ前に浮かび上がる魔方陣。
そこから飛び出してきたのはグラシャラボラス―――


いや、正確にはグラシャラボラスを従えた――――――『破壊』。



『――――――――――――――――――――――――見つけたぜ』



スパーダを構えた―――スパーダの孫だった。

アスタロト『―――』
856 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/27(火) 01:01:17.07 ID:D1NmHT08o

咄嗟に左腕のハルバードを構えるも―――消耗しきったその身では、
魔剣スパーダの刃を防ぐことなど到底できず。


その破壊の刃は金色のハルバードを、一切の抵抗無く分断し―――そのまま龍騎士の左腕を斬り飛ばしていった。


アスタロト『―――おおおおおお!!』

勢いで吹っ飛び、
そのアスタロトの巨体が倒れては強く地面に打ち付けられた。

ネロ「……あぁ?お前ボッロボロじゃねえか」

そんな彼の無残な姿に斬ってから気付いたらしく。
魔人化を解いて不機嫌そうにそんな声を漏らすネロ。

ネロ「どうなってやがる?お前の軍団にも大悪魔が一体もいねえ」


アスタロト『―――グラシャラボラス―――お前!!』


だがアスタロトはネロの言葉ではなく、
まずは彼の左腕に嵌められている魔具―――グラシャラボラスへ向けて声を放った。


アスタロト『―――反逆か!!しかもスパーダの血へ従うとは!!』


グラ『ふっふふは、すまぬ大公。だがこれも魔道よ、スパーダの血筋、その力はなんとも素晴らしいものだ』


そのようにして無視されていることに業を煮やしたのか。
ネロがアスタロトに近づいては、足で踏みつけるようにして乱暴に小突き。


ネロ「―――おい俺の質問に答えろ。なぜ死にかけてやがる?ダンテにやられたのか?」
857 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/27(火) 01:02:34.29 ID:D1NmHT08o


アスタロト『―――は―――はは、死にかけている、確かに俺は死にかけているな』


だがネロの質問には答えず。
アスタロトは彼の言葉を確認するように繰り返しては。

その巨体の形を瞬時に変えて―――人の身、美しい人間の姿へとなって不気味に笑った。


アスタロト『は―――ははは―――』

鱗剥げ肉落ち骨砕けているその傷塗れの姿を隠そうとしたのか。
右腕は肩から、左腕は肘先から無くなっていたのは相変わらずであったが。

それとも人の姿になることで、ネロの心に何かを訴えて隙でも作ろうとしたのか。

どちらにせよ、彼が姿を変じたところで。

ネロ「さっさと答えろ」

このネロに隙など生まれなかった。
彼の示した反応は僅かに目を細めたに過ぎなかった。

アスタロト『…………』

逃走手段は常に『複数』用意している。
今この瞬間も、ここから離脱する手はいくつも控えている。


だが―――隙が生じなければどうしようもないのだ。


こうして静かに、こちらの一挙一動をスパーダの孫が見据えている以上、
飛ぶための僅かな作業ですら行えない。

その気配を少しでも見せてしまったら―――次の瞬間、あの破滅的な刃がこの身を斬り飛ばしてしまうのだろうから。
858 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/27(火) 01:05:44.97 ID:D1NmHT08o

だが。

ネロ「答える気は無いか。じゃあ―――」

その時だった。
ここでアスタロトに運命が微笑んだ。

ネロが魔剣スパーダを握る手に力を篭め、そして掲げようとした―――直後。

ネロ「―――」


背後から響いた金属の激音。
それは『四つの銃口』が大地に衝突したためのものであった。

その覚えのある異質な気配に、ネロが即座に振り向くと。


そこには二人の魔女が立っていた。


ジャンヌ『―――』


ベヨネッタ『―――』


ネロ『―――あんたらは……』


さすがに彼らと言えども、
この予想外の大物登場に互いに驚いてしまうもの。

いや、彼ら同士だからこそ、今この時間この場における遭遇がその意味をより強めるのだ。


そしてその一瞬こそ―――アスタロトにとって運命が微笑んだ瞬間。


―――ただ、正確には。

その運命の采配は実質―――悪魔の微笑みだった。


何せ次に飛んだ先こそ―――彼の終焉の地となったのだから。

859 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/27(火) 01:09:12.41 ID:D1NmHT08o

いや、そもそも彼は、
『その地』に足を踏み入れるかどうかは中を確認してからのつもりであった。


ネビロス率いる臣下団とダンテ、その戦いの結果を、だ。


ネビロスどころか誰一人声に応じないところをみると、
結果は最悪なものになったのかもしれない。

しかし絶対にそうとも言い切れない。
兎にも角にも大悪魔の護衛を必要としている今、
彼はあの階層を覗いてはっきり確認したかったのだ。

それに覗くだけならば、中の者達からはそうそう感付かれもしない。
臣下団が敗北していたのならばさっさと離れて、仕方が無いが逃走に徹するだけだ。

―――と、そう考えていたのだが。


アスタロト『―――』

彼はこれまた知らなかった。

あの階層の境界には彼が蔑む人間、
その人の手業で創られた『周到な罠』が張り巡らされていたのだから。


アスタロト『―――ッ』

飛んだ直後、突然その身を走る『奇妙』な痛み。
そして一瞬にして。

抵抗することすらできず、彼の体はその階層へと一気に引き釣り落とされていった。

落下し、人間界を映し出した街の地面に打ちつけられる体。
その身はまるで縛されているかのように全く自由がきかず。

アスタロト『―――ぐっ―――』

自身の状態を確かめようと、
なんとか意識を自身に向けてみると、その体には無数の黒い杭が突き刺さっていた。
表面に、人間界式の文字や文様が所狭しと刻まれている大きな杭が―――。
860 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/27(火) 01:12:50.97 ID:D1NmHT08o

アスタロト『なっ―――』


ただこれだけでは、己の身に何が起こったのかまるで理解できない。
次いで彼は、すぐ近くの複数の気配に気付きそちらへと順に意識を向けていった。

一人目は近くの建物の上から不思議そうにこちらを見下ろしている、赤き衣を纏ったスパーダの息子。

二人目は前方にあぐらをかいて座しながら、目を丸くしている人間のメス。


そして三人目は、その座っている人間の横に立っていた、これまた人間の―――。


―――――――――その三人目の人間の瞳を見てしまった瞬間、アスタロトは凍りついた。


アスタロト『―――』

己の行く末、己の結末に気付いてしまって。

今回の『魔女狩り』に際し、『戯れ』ではなく最初から一撃必殺の心で向かっていれば、
結果はまた変わっていたのかもしれない。

それ以前に『魔女狩り』に動かなければ―――いや。

そもそもあの『人間のメス』に会っていなければ、『魔女狩り』なんて選択肢すら無かった。

そう、あの『人間のメス』。


成人しているどころか魔女ですら無いにもかかわらず―――成人用の魔女の槍を持ち―――。


『今』、『ここで』―――計り知れない『怒り』に満ちた眼差しで、こちらを見ている―――


―――『あの小娘』にさえ遭遇しなければ―――。


アスタロト『お前……―――』


こうして彼は『舞い戻ってしまった』。
何もかもをひっぺ剥がされては縛されて、さながら執行準備整った―――死刑囚の如く。

矮小だと、彼がとことん蔑んだ人間の少女。


そんな彼女こそ、アスタロトのこの『最期の災難』の『始まり』であり。


――――――真の『終点』だった。


―――
861 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/09/27(火) 01:13:52.31 ID:D1NmHT08o
今日はここまでです。
次は木曜に。
862 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2011/09/27(火) 01:17:18.31 ID:A6GlWORco
逃げ場無いやん…

863 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/27(火) 01:32:38.63 ID:9kLTmjYDO
おつ

ルーラ→モンスターハウスだ!状態だな
864 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/27(火) 01:33:48.63 ID:26iR3hEDO
百列中佐しやがった……

ベヨネッタ達のアスタロトに仕掛けたおしおきはこんな感じ
http://www.youtube.com/watch?v=MbgTYm_DuM0

865 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/27(火) 06:21:20.31 ID:hNluPeyDO
細鳳&キルゴアでロダンを蹴り殺したのはいい思い出

乙!
866 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/27(火) 07:07:22.60 ID:EWKKgosso
お疲れ様でした。
867 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/09/27(火) 09:44:22.18 ID:F+r0oaYyo
乙です。本当の袋叩きはこれからか・・・
あれ、カールおbsnの魔具モードってベオウルフ式でしたっけ?前は脚だけだったような。
868 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/27(火) 13:50:48.27 ID:rjMJt5/IO
         ,r '" ̄"'''丶,
        ./.゙゙゙゙゙   .l゙~゙゙゙゙ ヽ\
      . i´ ri⌒.'li、 .'⌒ヽ  'i::`i,
      .| ′ .゙゜  .゙゙゙″ .:::l::::::!
      |,   ,r'!ヾ・ ヽ,  .::::.|:::::::i  アスタロトはもう消した!
      .i,  ./,r──ヽ, :::::::i::::,r'
      ゙ヽ、  .ヾ!゙゙゙゙゙゙'''ヽ、_ノ
        `'''゙i ._____ l /ヽ
    /\ へ  ゙ヽ ___ノ’_/
    へ、   | ̄\ー フ ̄ |\ー
  / / ̄\ |  >| ̄|Σ |  |
  , ┤    |/|_/ ̄\_| \|
 |  \_/  ヽ
 |   __( ̄  |
 |   __) 〜ノ
 人  __) ノ
869 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岐阜県) :2011/09/30(金) 00:51:44.91 ID:B6Kyf8zs0
oi金曜
870 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/09/30(金) 01:34:36.75 ID:WR80fNXvo
>>867
すみません、ミスです。
その通り正しくは腕ではなく両足です。
871 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/30(金) 01:35:05.33 ID:WR80fNXvo
―――

遡ること少し。

プルガトリオのとある階層、学園都市を映し出した領域。

五和「…………………………」

五和は槍を抱きかかえるようにして座り込みながら、
レディの罠の設置作業を静かに見守っていた。

ただ、『作業』とはいっても今のところ、
当のレディはなにやら思案気な面持ちで佇んでいるだけであったが。

道路のど真ん中にあぐらをかいて座り込んでは、小さなナイフを指先で回して。
股の上にある古めかしい分厚い本を、もう片方の手の指先で叩きながらぶつぶつ独り言。
さっきからこのような調子だ。

五和「…………」

遠くからは、凄まじい圧迫感を伴った轟音が断続的に聞こえてくる。
その圧の波にあわせて振動する槍。
余波からこの身を防いでくれているのだろう、圧を肌で感じるも、
こうしている今も精神・肉体ともに実害はほとんど無かった。

だが当然、今までの疲労は溜まっているため、
また現在進行形で気がかりにしていることがあるため、その表情は陰りがあった。

五和「……プリエステス……上条さん…………」

ステイル、インデックス。
思わず口からぼそりと漏れてしまう彼らの名。

あれからどうなっているのだろうか、気になって心配で仕方が無い。

果して彼らは合流できたのか、そしてその後は。
神裂達が向かっていったのとダンテの戦場も同じ方向であるため、尚更気がかりであった。
872 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/30(金) 01:35:41.91 ID:WR80fNXvo

と、そうしていたところ。

レディ「よしっ」

レディがぽん、とやや強く本を叩いてはそう快活な声を挙げ。
少し腰を上げて屈む姿勢になっては、
意気揚々と道路にナイフ突き刺しなにやら刻み始めた。

五和「……」

術式の類であろう。
使われている字や構文は未知のものであったが、
大まかな書式は五和の知る魔術と同じだ。

ただ、その規模が五和にとって少々意外であった。

レディの口ぶりからだとかなりの大仕事だと思っていたが、
実際彼女が刻んだのは直径30pほどの小さな魔方陣だけ。
しかも見た目にも隙間が結構ある、なかなか簡素で地味なものだ。

五和「…………?」

そんな五和の怪訝な表情など気にもせず。
レディは魔方陣の前にまたどかりと座り込み、あの古めかしい本を手にとって五和の方へと声を放った。

レディ「ちょっと『コレ』開けるから、中身見ないようにね」

そして本を開き目当てのページまで捲っては、
その広げた方を下にして、持ち上げた本を魔方陣の上で揺さぶり始めた。
873 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/30(金) 01:37:07.15 ID:WR80fNXvo

明らかに本物の魔導書であろう、
その本からは開いた瞬間から異様な空気が漏れ出していたが。

五和「!」

次の瞬間、それ以上の光景が彼女の目の中に飛び込んできた。

バラバラと、本の中から大小さまざまな杭が大量に出てきたのだ。
更にそれだけではない。
魔方陣の刻まれた地面が水面のように波うち、その降って来る大量の杭を次々飲み込んでいく。

五和「なっ…………!」

先端が地面に沈んだ時はまだ尻が本の中にあったため、
そのはっきりとした長さはわからないが、大きい杭は太さ10p以上、長さ数メートルにもなるか。
一方で小さい釘程度のものも大量に落ちては沈んでいく。


レディ「この階層の境界に『針』を埋め込んでるの」

彼女はそうやって本を揺さぶる傍ら、
目を丸くしている五和へ向けて言葉を向けた。

レディ「スパーダの息子が暴れてるって聞けば、大抵の大悪魔は飛んでくるものよ」

レディ「勝ち目が無いと自覚してても、憎しみと最強の力への好奇心には負けられない。その大悪魔が強ければ強いほどね」


レディ「そうやって来た連中がこの階層の境界に触れた瞬間、『コレ』を撃ち込む」


五和「―――っ!それじゃあ上条さんとかがもし……!」


レディ「大丈夫。一応私が知る連中は除外しているし、高等悪魔程度であれば死なないわよ』

レディ「そもそも『針』の機能自体が殺傷用じゃなくて拘束用、一時的に麻痺するだけのものだし」
874 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/30(金) 01:38:13.73 ID:WR80fNXvo

五和「そ、そうなんですか……」

レディ「そもそも、この程度の『嫌がらせ』で大悪魔を殺せたら苦労はしないわよ」

五和「はあ……なるほど」

レディ「一度試してみたかったのよね〜この罠。こういう場所じゃないと使えないし」

レディ「大悪魔を待ち伏せできる機会なんて滅多に無いし」

レディ「埋め込んだ『針』も回収できないから、コスト的に実験すらできないし」

レディ「あ、そういうことだから、成功の確率は半々ってところかな」

五和「成功したらどうなるんです?」

レディ「成功したら、全身『針』まみれの麻痺状態でダンテの前に到着」

レディ「失敗したら、大悪魔が普通にダンテのところに行くだけ。特に問題は無し」

そうしている内に『埋め込み』が完了したのか、レディがぱたんと片手で魔導書を閉じ。
もう片方の手を魔方陣の上に載せては数語呟いた。

すると魔方陣が霧のように消失。

レディ「OK、『嫌がらせ』の準備完了」

そしてサングラスを外して背伸びしながら、
レディは全作業の終了を宣言した。
875 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/30(金) 01:40:14.33 ID:WR80fNXvo

そうして暫しの沈黙。

五和「…………」

レディ「…………」

いわゆる『待ち時間』だった。
特にやることも無い二人は静かに佇んでいたものの、やはり暇をもてあましたのか。

レディ「五和ちゃんもやっぱり、物心ついた時から魔術師の道?」

そうレディが、世間話をする調子で話を切り出した。
ナイフを再び指先で回しながら。

五和「あ、はい。天草式十字凄教という結社で小さい頃から……」

レディ「母親の顔も覚えてない?」

五和「……………………」

その時。
五和はこのレディの問いに、なぜか違和感を覚えてしまった。
何かが妙に引っかかったのだ。

五和「はい。両親とも魔術師でしたが、私が生まれてすぐに二人とも亡くなったらしくて……」

ただ、その違和感の正体はこの時はわからず。
彼女は一先ず問いに答えた。

五和「でも素晴らしい仲間がいましたから、寂しい思いをしたことはありません」

五和「同じ歳ほどの方は皆兄弟同然、年長の方は親同然ですし」

レディ「そう…………」

五和「………………レディさんもやっぱり……?」

そして話の流れで聞き返すと。
返って来た答えは予想外のものであった。


レディ「いいえ―――16までは一般人だったから」
876 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/30(金) 01:42:00.79 ID:WR80fNXvo

五和「―――え?」

ネロの話によると、フォルトゥナも皆幼少期から専門教育を受けるとのことであったから、
魔界魔術系でも魔術師の生き方は同じようなものだと五和は思っていた。

ましてやこのレディほどならば、
当然幼少期から英才教育を受けていてたのだろうと。


レディ「そうよ。その頃までは悪魔どころか、魔術すら信じていなかったの」


だがその思い込みはあっさりと否定されてしまう。

五和「そ、そうなんですか?」


レディ「ただ、母方がかなり血の濃い戦巫女の家系だったの」


レディ「それに自分で言うのもあれだけど、私って『お嬢様』でね、それで代々の教養として様々なことを母から教えられたわ」

レディ「歴史にラテン、ギリシア、ゲール、シュメール……人間のものだけじゃなくエノク語に魔界の主な言語も」

レディ「あらゆるものの見かたと考え方、価値観、護身術として体の動かし方まで」

五和「なるほど……」

レディ「でもそれがこんな世界に繋がるとは思ってもいなかった」


レディ「むしろこの『宗教と伝統を重んじる家柄』が嫌いだった、普通の高校生だったのよ」
877 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/30(金) 01:44:51.92 ID:WR80fNXvo

五和「……では……なぜデビルハンターに?」

そうして続けて問うたが。
すぐに五和は後悔してしまう。

レディ「……あー……」

レディがやや声を声を濁らせたのだ。
己は聞いてはいけないところに首を突っ込んでしまったのか、そう焦ってしまう五和。

五和「あッあのすみま―――」


レディ「―――ある男がいてね」


だがレディははっきりと言葉を続けた。
幾分か、先ほどまでよりも確かな声色で。

五和「………………ある男……?」

あやふやな表現で明言しないところを見ると、これ以上突っ込むなと言う暗喩である可能性も捨てがたいが。

しかしこのレディの、短時間の間でもはっきりとわかる性格。
そこを鑑みれば、イヤならはっきりと拒否するであろう。

この考えに加算される好奇心に負けて
お伺いしても、と前もって告げたのち五和は更に問うた。

五和「その男の人って、ダンテさんですか?」

ただこの問いの答えもまた、予想とは違うものであった。
レディはクスりと小さく笑っては首を横に振って。

レディ「あいつも確かに大きな要素だったけどね。でも『始まり』は別人―――」


レディ「―――ある一人の魔術師から」
878 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/30(金) 01:46:40.55 ID:WR80fNXvo

五和「魔術師?」


レディ「そう、この罠どころか私が使ってる術式のベースは全て、その男が作ったもの」

五和「す、凄い方なのですね。レディさんのお師匠さまとかですか?」

その時。
五和が返したその言葉、それが『何か』よっぽどおかしかったのか。

レディ「―――……師匠……あはっ師ね。確かにそうも言えるかも」

レディ「悪魔と戦う理由を『指し示してくれた』のもその男だし」

自らの膝を叩いて、くすくすと笑い混じりにそう答えた。
ただその声色と表情には、可笑しさの他に―――

五和「……………………」

どことなく―――陰りもあったが。
そうして続いた言葉。

レディ「……あそこまでの魔術師には会ったことないわ」

レディ「どこまでも天才的で芸術的で―――」


レディ「―――底無しに強欲で残虐で」


レディ「魔術師としては最高―――『人間』として、『夫』として、『人の親』としては――――――最悪」


五和「―――――――――……」


―――『人の親』としては最悪。


その表現を認識した瞬間、五和の中で一気に『糸』が繋がった。
女の勘とでも言うべきか、レディの言葉に覚えた違和感の源がわかってしまったのだ。

それは『親の顔』でもなく『両親の顔』でもなく―――わざわざ『母親の顔』という表現を使用していたから。

先ほどレディが自ら口にした簡単な生い立ちに関しても、
ここが不自然なくらいに『欠落』していた。



そう―――『父親』という存在が。
879 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/30(金) 01:49:00.43 ID:WR80fNXvo

五和の中で、これ以上首を突っ込むなという声が響く。
だが魔術師とは好奇心の塊だ。
彼女もその抗いようの無い誘惑に駆られて。

五和「それで…………その方は……?」

わかっていながらその先を問う。
返って来るレディの言葉が更に強くはっきりしていっても尚。

レディ「その男は結局、力に魅せられて悪魔に転生したわ」


レディ「――――――自分の『妻』を生贄にしてね」


そして今度こそ、返って来た言葉は予想通り。

五和「―――その後……は?」

いや―――予想を超えていたか。


レディ「色々合ったけど、まあ最終的には――――――私が殺した」


五和「―――…………」

そんなあっさりと、それでいて確かな言葉とともに向けられくるオッドアイ。
吸い込まれてしまいそうな美しくも危うげな煌き、そこから目が離せない。


―――『大切な人』が『大切な人』を生贄にして魔に堕ちて、そして自分がケリをつける―――。


一体どんな想いで、どんな気持ちなのだったのだろうか。
880 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/30(金) 01:50:55.37 ID:WR80fNXvo

この女は人間であるにも関わらず、
発する言葉がまるで悪魔のもののように染み込んでくる。

まるで自分の事のように―――感情が刺激されてしまう。


そしてここでまた覚える―――今度は『別』の違和感。

五和「―――……」

どこからともなく奇妙な―――黒い靄のような『何か』が心の中に染み込んでくる。


不安で、怯えて、悲しげで、そして―――『孤独』。


レディの言葉に刺激されて現れてはいるものの、その言葉自体からではない。
どこか別のところから漏れ出てきている『何か』だ。

レディの言葉でもなければ―――もしかして源は己なのか。
今まで自覚しなかった自身の何かが、奥底から滲み上がってきているのか。

不安で不安で仕方がなくなって思わずすがるように、
槍を抱きかかえる腕に力んでしまうも。

こればかりは、この槍も助けてくれなかった

五和の心の中を覆う靄は、晴れはしなかった。
むしろ怯えにつけこむかのように―――更に濃くなっていく。

そんな彼女とは対照的な。

レディ「ああ、難しく考えないで。ご大層な大義があったわけでもないし、かしこまった覚悟とかも別に抱いてなかったから」

これまた涼しげでありながら、妙な重さがある声。

レディ「確かにあの時は人間界全体に関わる問題でもあったんだけど、どの道それはダンテが止めてくれてただろうし」


レディ「結局は私はただ、あいつが『憎かっただけ』―――それだけよ」


五和「……憎かった……だけ」
881 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/30(金) 01:54:44.39 ID:WR80fNXvo

『憎かっただけ』

その言葉にまたこの黒い靄、未知の思念が呼応する。
まるで胸の中が焼け付きそうだ。

五和「……っ」

そしてこの反応でまた一つ、この未知の思念の因子がわかってしまった。
不安で、怯えて、悲しげで、『孤独』で―――『憎い』。

―――強烈な憎しみ。

これほどまでの憎しみなど、五和は抱いた事が無かった。
相手が人類史上最高の善人であろうと、笑って殺めてしまうような―――果てしない『恨み』。

五和はもう考えたく無かった。

この未知の思念が自分のものかもしれないと思うと、怖くて怖くて仕方が無い。

自分はいつどこでこんな憎しみを溜め込んでしまったのか。
一体だれに、何に対して―――。

レディ「奴を殺しても母が蘇ることはないし、これを見た母が喜ぶわけがないのも知ってた」

と、そうしている直後。

この思念の持ち主は一体誰のものなのか、その疑問に対する答えはすぐに示されることとなった。
続いて響く呪文のようなレディの言霊が、これまでと同じように引き出してくれたのだ。


レディ「起きてしまったこと、『死んだ者』の『事実』は何も変わらないし、復讐を果たしても心が晴れることもない」



レディ「でもずっと見続けていた――――――――――――『悪夢』はそこで終ったわ」



五和は『幸い』にもこの思念が―――。


五和「―――あッ……ぐっ……!」


―――自分のものではないことを知る。
引き換えにかなりの『苦痛』と、その身の暫しの『自由』を代償に。

ついに堪えきれず、苦悶の声を漏らして蹲ってしまう彼女。
抱きかかえている槍が、この苦悩から守ってくれるわけも無かった。

源は―――この槍そのものだったのだから。


そう、この『思念』は――――――絶望の中息絶えて行った―――『アンブラ魔女の怨念』であった。
882 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/30(金) 01:56:32.04 ID:WR80fNXvo


レディ「―――――――――って五和ちゃんどうしたの?」

五和の状態の急激な変化に気付き、駆け寄るレディ。
そしてその手を彼女の肩に載せ―――ようとした時。


レディ「―――っ……!」


激しい空電音と火花を伴って、その腕が勢い良く弾かれてしまった。
まるで五和の周りに結界でも―――いいや。


レディ「―――コレは―――……」


―――まさに『結界』そのものであった。

弾かれた手を押さえながらレディは、驚きの表情を浮べていた。
その理由はもちろん、五和の体が結界に守られていることでもあるが―――もう一つ。

こうして触れてしまうまで、自身が結界の存在に全く気付かなかったことだ。
長年の経験で鍛えた目と感覚、それをもってしても感知できないのだ。

レディ「……チッ」

次いですぐさまその場の地面にナイフを突き立てて解析。
すると、その正体は案外すぐに判明した。

解読は即座にはできないが、その独特の様式で一目瞭然。


レディ「………………」


この結界は―――アンブラの技。
883 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/30(金) 01:57:42.99 ID:WR80fNXvo

その正体を判別した次は、どうやって結界を解くかだ。

レディ「んー……」

原因が五和が強く抱きかかえている槍、というのはわかるが現状はそこまで。

身を動かせない原因は術式の負荷か、
それとも術式に拘束機能も含まれているのか。

何を核にして稼動しているのか、それらによって対処方法も大きく変わってしまうものだ。

兎にも角にもまずは解析して、
それら最低限の仕組みを見極める必要がある。

レディがその場、五和と面向かうようにして再び座り込み、
魔導書を手にとって解析の準備に入った―――その時。


「―――よう、どうしたんだ?」


斜め上方、近くの建物の上からそんな聞きなれた声が放たれてきた。

レディ「―――あら」

五和との話とこの状況に気を取られてたのか、
辺りが『静か』になっていたのが気付かなかった。

どうやらあれほどの戦いすら、『最強』はもう―――。


レディ「―――早いわね」


―――終らせてしまったようだ。


ダンテ「おう。大盛況だったぜ」
884 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/30(金) 01:59:18.30 ID:WR80fNXvo

アグニとルドラを肩に載せているダンテ、
その面持ちは特に疲れた様子も無いいつものもの。

ダンテ「そのお嬢ちゃんは?随分と気分悪そうじゃねえか」


レディ「あー説明は後で」


ただレディとしては今この男には特に用は無い。
彼女はそういつものようにあしらっては、
再び五和の方へと向き―――と『また』―――その時であった。

レディ「―――」

瞬間、彼女の手にある魔導書から響いた、耳鳴りに似た金属音。

それは『アラーム』―――罠が稼動したことを知らせる音。

そして魔導書の革表紙に浮かび上がる、かかった大悪魔を示す『記号』―――――それは思わぬ大物。


レディ「―――うそっ」


―――――アスタロト。


直後。


一行の前に、人の姿をした『モノ』が振ってきた。

ローブを身に纏うその身には両腕が無く―――全身に杭が突き刺さっている傷まみれの『男』が。
885 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/30(金) 02:01:43.24 ID:WR80fNXvo

ダンテ「―――あ?」

レディ「―――」

その突然の出来事に当然レディは驚きの色を浮かべ、
罠の存在すら知らないダンテは思わず声を漏らしまった。

そしてそのまましばらく言葉交わすことなく、
酷い有様の男を静かに見つめる二人。

男は拘束を解こうと暫し悶えて。

それが無駄だとわかったのか、今度は周囲に視界をめぐらせて。
ダンテ、レディ、そして―――。

レディ「―――え?」

男の視線が己の横に動いたとき、その視線の角度がおかしかったことにレディは気付いた。
少し上を向いていたのだ。

そうして横、その視線の先を追うと。


そこには―――男を真っ直ぐに見据え―――仁王立ちしている五和がいた。


荒れていた息は、今や確かでいながら熱くそして深く。
苦痛に歪んでいた顔は憤怒に染まりあがり。

虚ろだった瞳には―――槍のごとく鋭い。

五和の中ではこの時、彼女だけではなく『大勢の女』の思念が渦巻いていた。

少し前に五和がアスタロトによって受けた耐え難い屈辱、そうして植えつけられた強烈な『心の闇』。
それが、このアスタロトによって貪られた者達の怨念を呼び起こして結びついたのだ。

彼女の肩には魔女の絶望も、彼女の胸には魔女の不安も、
彼女の腕には魔女の意志が、彼女の涙には魔女の悲しみが、


そして彼女の刃には――――――魔女の怒りが重なり宿る。


この時、五和の意識内ではとある声がはっきりと木霊し続けていた。
それは先ほどのレディが発したあの呪文のような言霊―――。


「起きてしまったこと、『死んだ者』の『事実』は何も変わらないし、復讐を果たしても心が晴れることもない」


「でもずっと見続けていた――――――――――――『悪夢』はそこで終ったわ」
886 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/09/30(金) 02:02:09.59 ID:WR80fNXvo
ぶつ切りですが今日はここまで。
次は明日に。
887 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/30(金) 03:50:04.79 ID:1gkxxX8AO
>>1
888 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/30(金) 06:06:47.32 ID:G02naEnE0
乙!!魔女達の逆鱗怖いな
889 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/30(金) 06:53:12.90 ID:ixYhyLOlo
お疲れ様でした。
890 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/09/30(金) 10:27:14.72 ID:qGyTkDGAo
乙です。ジャンヌーー!!早く来てくれー!!
891 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/09/30(金) 11:26:49.97 ID:HWJJS6O90
もうやめてwwアスタさんの人生ルートはバッドエンドしか残ってないwwwwww
892 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/09/30(金) 20:21:33.28 ID:cMBFChyi0
アスタロトさんの拷問タイムはっじまるよー!
893 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/30(金) 21:34:58.48 ID:3atYkYRB0
なんというAstaroth Must Dieモード・・・
894 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/30(金) 22:34:44.17 ID:WR80fNXvo

ダンテ「―――アレはなんだ?」

暫しの沈黙を破ったのは、変わらぬ調子の彼の声であった。

レディ「アスタロト」

ダンテ「へえ……すげえじゃねえか。いつココまでできる技作ったんだ?俺には間違っても使わないでくれよ」

レディ「違うわ……」

彼女は五和が気にかかるも、
ダンテの声に従うようにしてアスタロトに視線を戻して答えた。

レディ「私のあの罠には攻撃性は無いから。拘束だけ」

レディ「ま、そこらへんは一先ずおいといてさ、パッパとトドメ刺しちゃってよ」

ダンテ「Humm...」

そのレディの言葉に納得するようにダンテは喉を鳴らした。
確かに彼女の言葉通りであろう。

相手が相手だ、一見するとかなり手負いであるがこれが何かの策とも限らない。

それにダンテ自身、先ほどのネビロスの件で少々『イラついて』いたため、
あまり悪ふざけ染みたノリも気が進まなかった。

ダンテ「だな」

気だるそうに立ち上がってはアグニ&ルドラを背にかけ、
代わりにリベリオンの柄を握そう頷いたダンテ。

その白銀の大剣を煌かせながらビルから飛び降りて、
アスタロトのすぐ前に着地した。
895 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/30(金) 22:36:26.66 ID:WR80fNXvo

人間の姿をしているアスタロト、その表情は様々な感情が無秩序に入り乱れていた。
混乱、焦燥、憤怒、驚愕―――ただ、徐々にこの状況を把握しつつあったのか、
収まりも見え始めていたが。

そんな地に這い蹲っているアスタロトを前にして、ダンテは今一度振り返った。

ダンテ「レディ、お前やるか?」

拘束しているのは少なくともレディの技であるのだから、
それなりの割合が彼女の手柄である、とふと思ったのだ。
それにレディは常々、自分の取り分にはかなりうるさい口だ。

レディ「いらない」

ただ今の彼女はあまり関心が無いらしく。

レディ「ねえ五和ちゃん?どうしたの?とりあえず座って、ね?」

アスタロトの方などもう見てもおらず、
仁王立ちして固まっている五和に心配そうに囁きかけていた。

ダンテ「……………………」

その少女の明らかに強烈な怒りに染まっている瞳。
レディの口ぶりから魔術の類なのだろう、少女は何かに取り憑かれているのか。

そんな瞳を数秒間、ダンテは目を細めて興味深そうに眺めていたところ。

『―――は、はははっはははは!!』

前の下から男の笑い声が聞えてきた。
視線を戻すとそこには、身を起こし跪く姿勢の―――アスタロト
896 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/30(金) 22:38:07.87 ID:WR80fNXvo

ダンテ「……」

精神の乱れはある収まったのか。
自身の置かれている状況を受け入れたのだろう。

その表情は清々しい諦めと自信に満ち溢れ、
傷まみれで酷い状態にもかかわらず佇まいも威風堂々。

アスタロト『光栄だぞスパーダの息子、ダンテ―――』

そしてアスタロトは力強く声を放った。


アスタロト『―――そして光栄に思え。お前の武名に更なる箔がつくからな』


アスタロト『スパーダの息子の手により―――スパーダが創りし刃によって終焉する』


無駄な抵抗も試みず、無用な言葉も吐き捨てず、そして引き際は潔い。


アスタロト『―――――まさにこの俺に相応しき最期だ』


魔界十強、これぞまさに王者たる風格か。


ダンテ「Hum......」

だがそんなアスタロトの言葉は、当のダンテにはまるで届いていなかった。
恐怖公をまともに見てもすらいず、
何か思考を巡らせているのか顎をさすっては喉を鳴らす。

当然、こんな扱いをアスタロトが許すわけも無く、
彼が不満げに口を開いた―――その時。

アスタロト『……おい。お前―――』

これまた無視して、ダンテが勢い良く後方へと振り向いて。


ダンテ「――――――五和ちゃん、だったか?」



ダンテ「―――やりたそうだな。お嬢ちゃん」

897 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/30(金) 22:40:11.03 ID:WR80fNXvo

そのダンテの言葉で。

五和「…………っ…………」

硬直していた五和が、僅かだがここで反応を示した。
今までレディの声にもまるで返答しなかったが、
ダンテのこの『誘い』には―――口を少し動かして、何か声を発しようとしたのだ。

更にアスタロトに釘付けであったその視線もダンテの方へ。

それだけでダンテも彼女の答えがわかったのか。

アスタロト『――――――なに?』

意図がわからず困惑しているアスタロトを横目に、
肩をすくめて「どうぞ」と彼女へ仕草で返した。

そしてその後の光景で、アスタロトも状況をすぐに把握することになる。

ダンテが離れていき、すれ違いに歩み近づいてくる―――五和。
状況を示す材料はこれだけで充分。


アスタロト『―――ッ―――――』

彼は悟った。
己の最期は魔界十強、王者に相応しきダンテの刃では―――ない。


アスタロト『なっ―――こんな―――――』


最期を穢される―――それはこの誇り高き王者にとってまさに最悪の屈辱か。

傲慢で豪胆で、高き武名に名誉。

自他共に認める魔界屈指の覇者――――――それなのに―――。



アスタロト『―――――――――――――――ダンテェェェェェェェェェ!!!!』



スパーダの息子が示した答えは――――――無視。
アスタロトの生き様、築き上げてきた世界、彼の『全て』を前にして―――――否定した。


たった『一匹』の―――『人間のメス』のために。
898 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/30(金) 22:42:46.66 ID:WR80fNXvo

アスタロトの叫びは、
もう誰にも届いてはいなかった。


アスタロト『俺は―――――――――アスタロト!!!!』


その声に反応を示す者はいない。
ダンテとレディは、それぞれ離れて眺めていて。

そしてアスタロトの前に立つ―――五和。


アスタロト『―――5百の界を征し!!6万の位階と8千万の領を治め!!』


彼女を見上げて今一度、己が何たるかを宣言するが。


アスタロト『配下二千柱!!統一玉座に最も近き覇者!!!!』



アスタロト『――――――恐怖大公―――アスタロトだ!!!!』



魔女の怨念には効果があるわけもない。
むしろその憤怒の炎に―――更に油を注ぐ。

次の瞬間、五和はアスタロトの体を蹴り飛ばした。
背を強く地面にうちつけ、仰向けに倒れる恐怖公―――。
899 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/30(金) 22:43:49.14 ID:WR80fNXvo

アスタロト『―――その俺が矮小な塵共に!!!!たかが人間ごときに―――!!!!』

そうしてまだ叫び続けている彼の胸、鎖骨あたりを踏みつけては、
覗き込むようにして顔を近づけて。


五和『―――あなたが「人の姿」になる理由、何でしたっけ。忘れてしまいました』


魔女の怨念宿る、エコーのかかった声でそう声を放った。
これまた魔女と繋がっているためか、少し前、
自らに放ったアスタロトの言葉をそのまま返すかのように『魔界の言語』で。

その言葉は―――彼女の『悪夢』の始まりの再現だ。


五和『ともかくこちらとしても、あなたが人の姿になってくれて助かります―――』


そして『復讐』を告げる声だ。
五和はそこで身を起こして―――――――――槍を大きく横に振り上げて。


アスタロト『―――やめ―――』



五和『―――――――――首を刎ねやすい』



アスタロト『―――たの―――む―――』



アスタロトの首めがけて――――――薙ぎ降ろした。
900 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/30(金) 22:45:20.64 ID:WR80fNXvo

振るわれた槍の穂先は赤黒い光を引いて、
恐怖公の首どころかその下のアスファルトにも深い溝を刻んだ。

そして、まるで放られたボールのように無造作に転がっていく―――アスタロト頭部。

その後を、五和はゆっくりと歩き追っていった。

アスタロト『……か………………あ……』

恐怖公、その意識は一応健在のようであるが、最早消失する寸前か。
言葉をはっきり発することすら出来ず、無様に口をパクつかせているだけ。

五和『……』

憤怒に染まる強張った表情のまま、五和は暫しそんな頭部を眺めたのち。
今度はその頭に槍を突き刺し、その場の地面に固定した。


そして腰の後ろ側に左手を伸ばして――――――そこから『黒い大きな拳銃』を引き抜き。


その銃口をアスタロトの頭部に向けた。


―――『次』は『こちら』の番だ。

さっきの刃は―――魔女の分。



この銃弾は―――――――――上条さんと―――『私』の分―――。



アスタロト『――――――やめ……ろ―――俺は……アス……タ―――』


そうして彼の最期の言葉であろう、その自身の名すら最後まで発させず。


銃声が鳴り響いた。
901 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/09/30(金) 22:47:51.73 ID:WR80fNXvo


こうして、ある魔界の王者の滅亡とともに。



大勢の亡き魔女と―――とある一人の、生ける少女の悪夢は終った。



五和「―――…………」

直後、少女の体からは一気に毒気が抜けて行った。

彼女のに宿っていた灼熱の怨念は引いていき、
その体からも陰も緊張もなくなり。

その顔は、二重がぱっちりとした可愛らしいいつものものへと戻り。

五和「……あっ……………………」

その場、無残な肉塊の前に力なく座り込んでしまった。

五和「…………う……ひぐ…………」

その瞳から大量の露を一気に滴らせて。
さながら今や亡き魔女達の代わりに流しているかのように。

そして。

レディ「……」

昔、復讐を果したとあるデビルハンターの少女と同じように。
レディはそんな彼女の傍へ寄り添っては屈み、その肩を抱きしめた。

そして優しく髪を撫でながら呟いた。

                           レ デ ィ
レディ「―――良くやったわ。『お嬢ちゃん』」


とある男が昔、そのデビルハンターの少女に手向けた言葉をそのまま。


ダンテ「―――……ああ、パーフェクトだ」

―――
902 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/09/30(金) 22:48:22.66 ID:WR80fNXvo
今日はここまでです。
次は月曜に。
903 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/09/30(金) 23:12:12.58 ID:qGyTkDGAo
乙です乙です。
ダンテ、ベヨ、ジャンヌ、レディの超豪華メンバーの前で執行かと思ったけどそんな必要は無かった。
そして今まで上条さんの銃のことすっかり忘れてた☆レア(ゝω・)vキャピ
904 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/30(金) 23:31:34.03 ID:3atYkYRB0
乙乙乙

これは乙じゃなくて五和のスタイリッシュランクなんだからね
905 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/30(金) 23:58:19.50 ID:ixYhyLOlo
お疲れ様でした。
906 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/30(金) 23:59:31.86 ID:8hW6SfzDO
おつ
アスタロトさんケツに槍突っ込まれてしまうかと
ハラハラしてたがそんなことはなかったぜ
907 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/10/01(土) 00:09:58.19 ID:3D/2+yzSo

『維持』は他の悪魔に宿るのか?
908 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/04(火) 01:04:15.97 ID:TTlR9NiA0
俺アスタロトさんのこと嫌いじゃなかったぜ...。
909 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/04(火) 02:19:12.53 ID:+bghOJ05o
―――

その三者の邂逅は、
とても穏やかとは言い難い空気から始まった。

ネロ「…………」

ジャンヌ「…………」

ベヨネッタ「…………」

互いにとってそれまでの目的を一時中断せざるを得ない、まさに最優先とするべき相手であった。
アスタロトが実質脅威では無くなった現状、この『遭遇』の優先順位を落とす材料など他に存在しない。

驚きはしたが慌てず、双方とも一言も発さずに向かい合い、
慎重に相手の呼吸・鼓動を静かに探っていた。

一触即発の危うい緊張を伴って。

ネロ「……」

敵対関係では無い、というのは互いに認識している。

ジャンヌ「……」

ベヨネッタ「……」

味方でもなく―――この場における『やり取り』によっては、その関係が大きく変化する可能性があることも。
そしてその変化が双方の陣営や、その周りの世界に多大な影響を及ぼしうることも。

ジャンヌ「私はジャンヌ」

ネロ「………………ネロだ」

この沈黙を破ったのはまずはそんな自己紹介の声だった。
そしてジロりとジャンヌの横へ動いたネロの視線、それに応えて。

ジャンヌ「こいつには会っていたな」

ベヨネッタ「ハーイ、ベヨネッタよ」

ネロ「…………」
910 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/04(火) 02:19:54.30 ID:+bghOJ05o

そんなベヨネッタの改めての自己紹介、
ネロが示した反応は芳しいものではなかった。
より一層鋭くなる視線と、明らかに疎ましそうな彼の表情。

ベヨネッタ「あーらぁ、もしかして私嫌われちゃってる?」

ジャンヌ「…………」

ネロ「…………」

自己紹介を経ても尚、空気はまるで変わぬまま。

にやつき茶化すベヨネッタ自身、銃を握る手、
そこへの意識の集中は一切緩めていなかった。

ここでまた少しの沈黙が続く。

次に相手が放つ言葉を予想し、
次に己は何を放てばいいのか、その言葉を慎重に選び―――タイミングを見極める。

先手を打ったのは。

ネロ「―――親父」



ネロ「親父がそっちにいるんだろ?」



バージルの息子であった。
まるで矢の如く放たれる鋭い問い。

ジャンヌ「―――ああ」

対してジャンヌの声もまた、
その問いを予想していたかのように矢継ぎ早に返された。

それが何か、と暗に含む挑発的な色合いを帯びた声で。

ネロ「……」
911 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/04(火) 02:20:36.38 ID:+bghOJ05o

続く短い言葉の応酬は。

ネロ「どこにいる?」

ジャンヌ「私達の拠点」

ネロ「案内してくれと頼めば?」

それでいながら一方で、互いの認識の探り合いの面もあった。
どこまでが許容範囲で―――。

ジャンヌ「断る」

ネロ「理由は?」


ジャンヌ「お前に答える必要は無い」


―――どこからが許容限界なのか。

ネロ「……」

めきり、と両足の魔具の牙が地面に食い込み、
銃を握る魔女の手も軋む。

ネロ「なぜ?」

ジャンヌ「それも答える必要は無い」


ぎちり、と魔剣スパーダの柄を握る拳に力が入り―――そして。


ネロ「じゃあ仕方無えな、話はここで―――………………………………いやっ……違う」


緊張の糸がついに弾け飛ぶ―――その直前であった。

ジャンヌ「…………?」

突然、ネロが自らの言葉を止めるように右手で額を押さえて。
そして深く呼吸を整えながら、小さく頭を振りながら。


ネロ「…………………………悪い、今のは忘れてくれ」
912 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/04(火) 02:21:31.03 ID:+bghOJ05o

この時、ネロの脳裏には先ほどのダンテの言葉が響いていた。


―――『兄弟』の問題には口を出すな―――。


―――これは『俺達の世代』の問題だ―――。


木霊の如く何度も何度も。

ネロ「……」

そう、これは『彼ら』の世代の問題。
己が踏み込む余地など今のところ無いのだ。

父のことは、この右手からの繋がりで知っている。
ダンテでも知らない父の一面を知っている。

だがそれだけだ。
ダンテよりも良く知っているのは『父親』という像においてのみ。

他の父の面についてはまるで知らない。


今の父を支配している行動指針、『父親』ではなく―――『バージル』という像については。


そして『バージル』を知っているのは―――『ダンテ』のみ。


それにネロには現状、最優先に果すべき使命がある。
デュマーリ島、アリウス、そして―――キリエだ。

だがそれらを鑑みても。

息子である以上ここは強引にでも割り込んでいくべき、
というのが皆が納得する『正攻法』なのであろう。

もちろんネロも、これには黙っていられるかとばかりに突き進んだはずだ。


このダンテの言葉を聞いていなかったら、だ。


―――これは『過去をなぞりつつ新しい英雄談』になる―――。
913 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/04(火) 02:22:36.29 ID:+bghOJ05o

この言葉を受けて、今の状況に見たある認識が拭えなくなってしまった。

何もかもが『ドラマチックでできすぎてる舞台』。

スパーダの生き様をなぞるかのように戦い、
そしてスパーダの血を継ぐ者達が一同に介しその意志を衝突させる。

さあ来い、お前が必要だ、お前の席を用意してあるぞ、
そんな声がどこからともなく聞えてきそうだ。

『何か』が―――得体の知れない『何か』が―――誘い込もうとしているように思えてしまう。

具体的には言及できないものの―――それが果てしなく気に食わない。


気に入らないのだ。


やはりどうしてもこの問題の中心には、『飛び込んではいけない』気がする。

ネロ「……」

今のこの用意してくれたかのような『参入機会』、『偶然の邂逅』。
更に思わず衝突寸前まで迫ってしまったことで、
ネロの中ではより一層、その認識に対する警戒心が強くなっていったのだ。


ネロ「……今のはナシだ。気にしないでくれ」

彼はそう口にしながら、スパーダに右手を当てて『光』にして『収納』。
そして今解き放ちかけた交戦の意志が誤りであったことを示した。
914 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/04(火) 02:26:13.58 ID:+bghOJ05o

ジャンヌ「……………………理解してくれて助かる」


ベヨネッタ「Huuuuum.Good boy」


このネロの行動は二人にとっても好ましいものであった。
もちろん衝突など望んではいない。

一定の警戒を保ちながらも、
彼女達もネロに順じてその身に纏う戦意を解いていった。


ネロ「ただ、アスタロトは俺が貰う」


ベヨネッタ「だってさ。いいの?」

そのネロの提示した『条件』を聞いて、ジャンヌは少し押し黙ったものの。


ジャンヌ「……………………コレとソレは比べられるものでもないだろう。好きにしてくれ」


やはり優先度は明白、天秤にかけることではなかった。
ベヨネッタも、疲労の色滲むジャンヌの横顔を眺めながら。

ベヨネッタ「まあ、アンタもそろそろ限界だしね。あと私達には『大仇』がまだいるし」

ジャンヌ「それにあいつの『悲鳴』はもう聞いたからな」

ベヨネッタ「あは、あれ人間だったらチビッてるわよねきっと」

そうして二人は視線を少し交わらせてニヤリと笑った。


ネロ「俺の方はこんなところだ。そっちは何かあるか?」

ジャンヌ「こちらも一つ言っておこう。これを記憶に留めておけ」

ネロ「何だ?」

ジャンヌ「天の門と魔の門の件に関しては、そっちも把握しているな?」

ネロ「ああ」


ジャンヌ「だがこれは知らないだろう?それらが開いた後は―――人間界の中でも全力を使えるようになる」
915 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/04(火) 02:27:27.81 ID:+bghOJ05o

ネロ「……」

ジャンヌがあっさりと告げたその内容は、一瞬耳を疑ってしまうほどのものであった。
ネロですら数回、頭の中で確認する作業が必要であり。

ネロ「人間界の『中』で、か?」

更に受け取った認識が正しいか、問い返して今一度確認。

ジャンヌ「そうだ」

ネロ「へえ…………理由はもちろん……」

ジャンヌ「ああ。問うな。今信じろとは言わない。その時になればわかるからな」


ネロ「いや、信じるさ。お前は信用に値する女だろう。だが―――」


と、そこでネロはベヨネッタを疎ましそうな目で見て。


ネロ「―――アンタはどうしても生け好かねえ」


背を向けながらそう吐き捨てた。

ベヨネッタ「ふふ、うふん、そう、やっぱりダディとおんなじ。シャイなの一緒一緒」

ネロ「……」

そしてそこでもう一度横目で睨み返した。
足の魔具を打ち鳴らしては、この使い魔に移動用の魔方陣を出現させて。


ネロ「…………クソババァが―――」


ベヨネッタ「―――オイコラ待てクソガキ」


今一度そう吐き捨てながら、魔方陣の中に消えていった。
916 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/04(火) 02:28:18.07 ID:+bghOJ05o

彼が残していったその言葉は、
この魔女が本気で怒る罵詈雑言の一つでもあった。

ベヨネッタ「あのクソガキ―――」

ジャンヌ「セレッサ…………」

だが。

身を乗り出した彼女を制止しようと、
ジャンヌが呆れがちな声でその名を呼んだ時はもう既に。

ベヨネッタ「………………」

ジャンヌ「……セレッサ?」

彼女の顔からは怒りの色が消えていた。
代わりにあるのは―――狐につままれた様な、目を見開いた表情。

半開きになった口からキャンディが落ちてしまうほど、彼女の顔は驚愕一色に包まれていたのだ。


ジャンヌ「おいどうした?」


ベヨネッタ「…………『何か』……あのボーヤに『集まってる』………………」


そして『観測手』は答えた。


彼女はそのジュベレウスにしか見えなかった領域、『闇の左目』で垣間見てしまったのだ。

誰一人、ネロ自身すら気付いていない微かな、それでいて明らかな異変を。
因果を超えた何かの『歪み』が、あの青年に着々と圧し掛かりつつあったのを。

セレッサ「何?何が見えた?」


ベヨネッタ「………………『何』かしら……アレ」


のちの―――『覚醒』と―――続く『悪夢』の予兆を。


―――
917 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/04(火) 02:30:00.30 ID:+bghOJ05o
―――

グラシャラボラスにアスタロトの痕跡を追わせて、そして飛ぶ。
元々この『移動』が大の苦手だというその弱点を、使い魔に作業させることで弱点をカバー。

ネロはこうして悪魔を吸収ではなく生かしたまま使役する利点、
それを早くも使いこなしていた。

ただ、大量の使い魔を有しているにも関わらず飛べないダンテのような例もあるが、
これもやはり使い魔も主の性質に大きく影響されてしまうことが原因だ。

問題はあっても目的地には一応飛ぶネロと、
目的地とは全く違う場所に飛んでしまうダンテとでは、
同じ『苦手』でもその度合いはまるで違うものなのだ。

とにかくネロはそんなダンテとは違い、救いようの無いほどの『不器用』では無く、
使い魔のサポートで容易に飛べるまでになっていた。


ただ。

この時、魔女と別れてのこの一回については、『全て』が上手くいったわけではなかったが。


ネロ「―――っ……」

アスタロトの跡を辿って着いたそこはプルガトリオの一画、
不気味に広がる学園都市の幻の中。

そこにいたのは。


レディ「……あれ?」


ダンテ「おい、ネロじゃねえか」


剣や銃を手にそれぞれ、まるで待ち構えていたかのような二人。
そしてそのレディの足元で座り込んでいる―――。


ネロ「五和……?」

―――良く知っている魔術師の少女。
918 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/04(火) 02:31:16.10 ID:+bghOJ05o


ネロ「なあ、これは―――」

どうして彼女が、それも含めたこの場の事情を聞こうと、
レディへ向けて口を開こうとしたその時。

ネロ「ッ……」

そこで彼は両足の違和感にようやく気付いた。
いや、正確には両足ではなく―――両足を包んでいる魔具の状態にだ。

突如力が硬直し始めたのだ。
その異常に気付きすぐさま目を向けると。

ネロ「ああ?なんだよこれ」

両足の魔具に、大きな杭が大量に突き刺さっていた。


グラ『……うぅぅうううぅぅ……』


ネロ「おい?どうした?」


と、そこでそれを見たレディ、
苦笑交じりに納得したかのような表情を浮べてこう口にした。


レディ「あ……―――それがもしかしてグラシャラボラス?」

ネロ「これどうなってんだよ」

レディ「ごめん、その子が麻痺してるの、私のせいだわ」
919 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/04(火) 02:33:51.06 ID:+bghOJ05o

ネロ「あぁ?」

レディ「私の設置した罠にかかっちゃったみたい。でもしばらく麻痺するだけだから心配しないで」

ネロ「……麻痺だけ?」

レディ「ええ。放っておけば治るわよ」

ネロ「どれくらいで?」

そこでレディはさあ、と肩を竦めて。

レディ「この罠の術式、起動したのすら初めてだし。10分か……大体そんくらいじゃない?」

ネロ「だとよ。おい大丈夫か?」

足踏みしながらそう声をかけるも、
使い魔から返って来るのは苦しそうな呻き声だけ。

ネロ「……」

『彼女』がしばらく使い物にならないのは確実か。
そう判断した彼は魔具を外して、
魔剣スパーダにしたように同じく触れてその右手に『収納』した。

ダンテ「お前の右手って本当に便利だな」

それを見た、近くのビルの壁に寄りかかっているダンテ。

ネロ「アスタロト、やっちまったのか?」

ダンテ「先に言っておくけど俺じゃねえぞ。俺は手出してねえ」


レディ「トドメ刺したのは五和ちゃん」
920 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/04(火) 02:37:08.80 ID:+bghOJ05o

そうレディは笑みを浮べながら、
ぽん、と横にいるその少女の頭に手を置いた。

それに合わせてぎこちなく頷く五和。
うつむくその顔には露っぽい泣き跡が目だってはいたが、
一方で少し小さな笑みも毀れていた。

ネロ「へえ……なるほどな。すげえな五和。良くやったぜ」

そんな彼女を見て、ネロもまた小さく微笑み返し。
そして表情を一変させてダンテの方へと再び向き直り。

ジロリと一睨み。


ダンテ「何だ?俺じゃねえぞ」


思い当たる節があるのだろう、彼は『先』に否定するも。


ネロ「それはわかったって。他の連中知らねえか?」

ダンテ「他の連中?」

ネロ「アスタロトの軍勢に大悪魔がいねえんだよ。100以上率いてきたらしいのにまだ10少ししか潰してねえ」

アグニ『おお、そやつらならばダンテが皆打ち倒したぞ』

ルドラ『うむ、皆切り捨ててしまったぞ』

彼の足元に突き刺さっている、これまたお喋りな悪魔がついつい真実を口に。

ネロ「…………」

ダンテ「……わかってる。確かに連中はお前の分だけどよ、だが仕方なかったんだ。なあレディ!」

レディ「ああ……まあね。話すと長いんだけど、これは私にも責任もあって……」


ネロ「……………………ま、いいさ」
921 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/04(火) 02:39:00.23 ID:+bghOJ05o

過ぎてしまったこと、それを今とやかく追求することもないであろう。
特にこの男相手には。

色々借りを返させるのは後でゆっくりとやればいい。

ネロ「わかったわかった。いいさ」

そうネロは諦めがちに手を振って、
道端に落ちている『肉塊』の一つの前に屈んだ。

アスタロトの頭部であろう、わずかに造形が残ってる塊だ。

レディ「さて、そういうことで私はとりあえず五和ちゃん連れて人間界戻るけど?」

ネロ「俺は……アスタロトの軍勢を追い返す」

そしてその『肉塊』をつまみあげ、眉を顰めながら眺めつつ。
そう背後のレディに向けて声を返していく。

ネロ「『飼い主』を無くしてウロウロしてやがるからな。あの数はさすがに放ってはおけねえ」

レディ「ダンテ?」

ダンテ「俺はだな……まあ、そこら辺をブラブラ……」

と、その時だった。


ロダン『―――お、お前さん達集まってるのか。ちょうどいい。デュマーリ島の件で少し話がある』


その場にどこからともなく響き渡るロダンの声。

レディ「ロダン?何してるの?」

ロダン『俺も今回は色々会ってな。まあ細かいことは後にしてくれ』

ダンテ「デュマーリ島の話だって?」

ロダン『そうだ』

ダンテ「じゃあネロだ」

ネロ「何かあったのか?」


ロダン『おお、ちょいとまあな。学園都市の――――――――――――土御門元春って坊主知ってるか?』


―――
922 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/10/04(火) 02:40:12.64 ID:+bghOJ05o
今日はここまでです。
次は木曜に。
923 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/04(火) 06:51:03.64 ID:yUeqW/tbo
お疲れ様でした。
924 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/10/04(火) 10:04:30.47 ID:jLeS8Th3o
おつかれさまです。むぅ、今デュマーリ島と重なるのか。意外とこっちの経過時間は早くないな。
925 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/10/04(火) 17:32:00.29 ID:YuOKUvWw0
乙乙

さて、過去ログ読み返して来るか
926 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/06(木) 23:17:55.27 ID:tRLkTcuRo
―――

「―――…………っあぅ……」

意識は、一切の淀みなく一瞬の内に覚醒した。
思考にも揺らぎはなく平常。

その目覚めの滞りのなさは小気味よいくらいだ。

禁書「―――」

そうしてぱっちりと見開かれた大きな目。

まず最初に捉えたのは―――『馴染みの友人』―――神裂火織の顔であった。

神裂「インデックス!!ああっ!!良かった!!良かった……!!」

神裂は彼女の開かれた目と合った瞬間抱きついて来、
そうまだまだ湿っぽさが残る声で言葉を漏らした。
インデックスの小さな額に当てられる頬も乾いてはいない。

神裂は圧し掛かるようにして抱きついてきていたが、
それもまた心地よい圧迫感。

彼女の香り、昔から『良く知った』温もりをしっかりとその身で感じながら。


禁書「……『かおり』。苦しいんだよ」


インデックスは満更でも無さそうに彼女の名を口にする。
これまた『昔』と同じように。

その言葉が発された瞬間、神裂が今度は飛びあがるようにしてその身を起こした。
そしてハッとした表情を見せては、再び瞳潤む顔を綻ばせて。

神裂「……良かった……本当に良かった……」
927 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/06(木) 23:19:34.76 ID:tRLkTcuRo

禁書「…………えへへ……」

そうしてこの懐かしい安心感に浸っていると。

精神が落ち着いたためか、
ここで彼女は己の中に生じていたその微かな異変に気付いた。

禁書「……?―――とうまは?」

それは主契約魔、上条当麻との繋がり。

その繋がり自体は正常であるのだが、双方向の意識の反応が皆無なのだ。
電話は通じているのに音が互いに届かないといった具合か。

だがその疑問はすぐに解消した。
神裂が口を開きかけるよりも速く―――


『すまぬが、一時的に遮断させてもらったぞ』


禁書「…………アイゼンさま」

横から放たれてきた魔女王の声によって。

アイゼン『そなたの「目」に不純物が混じると作業に支障が生じるのでな』

アイゼン『案ずるな、作業が終れば繋がりは復旧する』

禁書「うん……」

その横に立っているアイゼンの方を見やると、
魔女王越しに少しはなれたところにいるローラの姿が見えた。
彼女は近くの彫像の土台に身を委ねて―――すやすやと寝入っていた。

アイゼン『あやつは我が眠らせた。そろそろ休ませねば身が持たんかったからな』

とここでまた、
インデックスの視線の向きから悟ったのか、アイゼンが先回りするようにしてそう補足。
飾りがついた袖口をちゃらりと揺らしながら、魔女王は小さく笑った。
928 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/06(木) 23:21:32.29 ID:tRLkTcuRo

禁書「………………」

そしてそこまで気を巡らせた所で、
彼女の意識はようやく己自身に向く。

気遣う神裂に穏やかに微笑み返しながら起き上がる彼女。
そうして身を起こしきったところでゆっくりと。

禁書「………………」

自身の右胸から、そのまま徐々に右方へと視線を動かしていく。


目に入ってくるのは己の胸、鎖骨、肩―――そして『何も無い』空間。


さっきまであった肩から先が、今はもう消えていた。

禁書「…………」

右袖の無い修道服、
その肩口はローラとアイゼンのものであろう金の繊維で固く塞がっていた。

その金の繊維が修道服の下にも伸びていて、包帯のように上半身に巻きついているのだろう、
地肌に直接面して少し締め付けられる感覚も。

神裂「……インデックス…………」

かける言葉が見つからず、
ただその名を呼びかけるしかない神裂の声。

そんな彼女に対して、インデックスは微笑を返した。
これ『くらい』で心を痛めないで、と小さく顔を横に振りながら。

そう、この程度で済んでむしろ幸運だ。
相手はあのアスタロト、魂全てを根こそぎ持っていかれててもおかしくはない。

それに―――彼に比べたら。


禁書「……」


―――光を喪失した上条当麻に比べたら。


彼を想うその心の痛みに比べたら、この程度の喪失感など―――。
929 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/06(木) 23:22:37.56 ID:tRLkTcuRo

アイゼン『……すまぬな。我の力が及ばなかった』

禁書「ううん、アイゼンさまが謝ることなんて一つも無いんだよ」

彼女はアイゼンにも微笑み返し、
そして少し見繕いするように背筋を伸ばして。


禁書「アイゼンさま……本当に―――」


アイゼン『―――言うな』

だが続く感謝の言葉は塞き止められてしまった。
アイゼンは屈みこんでは、インデックスと向かい合うようにして顔を近づけて。

アイゼン『うん……そうだな、我は今、そなたの口から別の言葉を聞きたい』

アイゼン『神裂から聞いておるであろうが、もう一度問おう』

そしてインデックスの小さな顎先にそっと手を添えて。


アイゼン『―――我等に手を貸してくれぬか?そなたの目が必要なのだ』


禁書「―――はい!」


アイゼン「うん、良い返事だ。やり遂げられる自信はあるかな?」


禁書「うん!完璧にやってみせるんだよ!」

930 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/06(木) 23:23:51.97 ID:tRLkTcuRo

アイゼン『うふふううふふ』

そうして、返って来た確かな返事ににっこり。
アイゼンは仮面下から見えるその口を綻ばせて、今度はインデックスの顔に両手を添えて。

アイゼン『うんうん、頼もしい子。さすがはアンブラの子だふうふふうふ』

禁書「ううぁあぅわううわひゃアイゼンさまちょっとっ!」

彼女の頭を、そのフードの上からもみくちゃにするように撫で回した。

神裂はその魔女の戯れを穏やかな表情で眺めていたが、
しばらくしたところでふっと一度短く息を吐いては表情を引き締めて、
七天七刀片手に立ち上がり。

神裂「では私は上条当麻とステイル、あと五和を迎えに―――」


アイゼン『―――ならぬ、それは後だ』


だが鋭い声に遮られた。
声を発したアイゼン、その佇まいは先とは一変。
柔らかなものから冷然とした空気に一瞬で切り替わっていた。

魔女王は、インデックスとの戯れを名残惜しむそぶりすら見せずに立ち上がり、
仮面の眼孔から覗く鋭い瞳を彼女に向けて。

アイゼン『あの少年に会いたいであろうが、先に済ませてもらうぞ―――』


アイゼン『―――「時間」だ。準備を整えよ』


禁書「―――は、はい!」
931 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/06(木) 23:25:52.43 ID:tRLkTcuRo

ジャンヌ「…………」

そんな彼らのやり取りを、ジャンヌは遠くから眺めていた。
スパーダ像の台座の下にて胡坐をかき、
疲れ滲む表情ながらも慈愛に満たされている瞳で。

視線の先には今、こちらに向かって歩いてくるアイゼン。

ベヨネッタ「良かったわね」

そんな彼女の横で台座に寄りかかり、キャンディを口で転がすベヨネッタ。

ジャンヌ「……ふん。安心するのは早い。これからだ」

向かってくる魔女王の姿を見ながら、
ジャンヌはそうぶっきら棒に言葉を返して。

ジャンヌ「頼むぞ」

そして己の前に視線を向けて、そこに佇んでいる男を見上げた。
このスパーダ像の前に佇み瞑想している―――バージルを。

彼はぱちりと目を開き、
そしてコートを翻してこの大きな聖堂、神儀の間の中央へと歩を―――。

ベヨネッタ「はーいちょい待ちぃ」

一足、進んだところであった。
そこでベヨネッタが、やや強い声で彼を止めた。

ベヨネッタ「―――ねえ、一応『アレ』言っておいた方が良いのかな?」

ジャンヌ「……それはセレッサ、お前に任せる」

そしてジャンヌに簡単な確認をとって。

バージル「……」


ベヨネッタ「じゃあ言うわ、あのボーヤに会ったんだけどさ」


バージル「……」

ベヨネッタ「あの子、何かおかしくない?」


ベヨネッタ「なんかこう……『重い』っていうか、あの子を中心にして『沈みつつある』というか」


バージル「……」

そう、あの青年に『見たモノ』をありのまま告げた。
父親の大きな背中に向けて。
932 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/06(木) 23:27:52.54 ID:tRLkTcuRo

父親は反応を特に示さなかった。
背を向けたまま、振り向くどころか微動だにせず。

ベヨネッタ「……」

だがその『無反応』こそ、彼を知る者には『答え』である。

ベヨネッタ「『やっぱり』知ってたのね。だから―――避けてるの?」

バージル「……」

ベヨネッタ「……そう。別にダディの『放任主義』に文句を言うつもりは無いけれど」


ベヨネッタ「それで私達の仕事に何か―――」


バージル「―――影響は無い」


ベヨネッタ「……………………」

遮ぎ斬り捨てるがごとく鋭い声。
バージルが示した初めての反応であった。

振り向かなくてもわかる、あの冷徹な無表情から発された言葉。

ジャンヌ「……」

ベヨネッタ「……ああそう」

対するベヨネッタの反応は、
明らかに納得してはいないであろうつっけんどした声だった。
933 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/06(木) 23:32:44.75 ID:tRLkTcuRo

そうして彼女はその不満げな表情も調子も隠しもせず、
バージルの背へ言葉を放っていく。

ベヨネッタ「どんな者でも『生者』である以上、その意識に揺らぎが生じ判断ミスをしてしまうことは避けられない」

彼の方へと歩き進みながら。

ベヨネッタ「ジュベレウスでも魔帝でも、スパーダでも」

そして意地悪そうな笑みを浮べ、横並びになったとき。

ベヨネッタ「ジャンヌでも私でも―――ダンテでも――――――そしてアンタでも」

バージルの肩に寄りかかるようにして肘を載せて。

バージル「……………………」


ベヨネッタ「でも心配しないで。皆余裕が無くて意識が揺らいでいる時でも―――」


もう片方の手の指二本で、自分の『瞳』を指し示して。


ベヨネッタ「―――私は常に平常運転。常に公平に疑い、常に公平に目を光らせているから」


ベヨネッタ「ジャンヌほどじゃないけれど、ダディのことも信用してるわ。でもね―――人格と現象は別」


ベヨネッタ「『現象』については―――誰が関与していようと―――私は絶対に信用しない」


―――『観測者』は言い放った。



ベヨネッタ「周りの――――――この世界を信用しすぎちゃダメよ」


934 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/06(木) 23:35:14.09 ID:tRLkTcuRo

それは『言い方』間違えれば、
もしくは言う人物がそぐわなければ、『口にした者』が一瞬で斬り殺されかねない言葉であった。

言葉の裏に何かの意味があるわけでもない、至ってシンプル文面通りそのままだ。

意味するのはまさしく、
「私は誰よりも優れた観察眼と客観性を有している、バージル、アンタよりも」という己の優位性。

やや厳しい表現にするのならば、つまりは―――「身の程を知れ」ということ。

こんな事をこのバージルに言えるのはまさに―――ベヨネッタ。
かのジュベレウスの視界―――『闇の左目』の保有者である彼女だけだ。

恐ろしいまでに冷静であるバージルももちろん―――その事実を否定することなどしない。

バージル「…………」

ただ、この女に対して抱く感情についてはまた別であるが。
彼は顔を動かさぬまま、瞳だけ鋭く動かした。

『冷え切り』すぎて『焼き付いて』しまいそうな視線を。


ジャンヌ「はっ……」

思わずといったジャンヌの短い笑い声。
そしてベヨネッタは不敵にニヤけ、そんな冷ややかなバージルの横顔を眺めながら。

ベヨネッタ「『刃』は『刃』―――『目』は『目』、お互い『割り当て』通り精進しましょ。ねぇん?」

耳元に口を近づけ、吐息を小さく吹きかけながらそう囁いた。
魔女の魅惑の甘い息、
どんな者でも『男』であれば陥落するであろうその魔性のオーラ。

しかしその誘惑も―――このバージルにだけは届かない。

ベヨネッタ「やっぱりアンタも―――イイ男ね」

だがそれがまた、と彼女は嬉しそうに笑い、
囁き言葉を連ねて。


ベヨネッタ「いっぺん丸ごと私のモノにして――――――めっっっっちゃくっっっっちゃにしたい」


軽く唇を噛みながらその言葉で締め括った。
これもまた男を陥れてしまう魔性の声であったが。
一方で、この世のモノとは思えない恐怖をも植えつけるであろう。


なにせ、篭められていたのは甘い色欲だけではなく―――――危うい『闘争欲』もあったのだから。
935 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/06(木) 23:37:32.30 ID:tRLkTcuRo


バージル「……………………………………」


そしてその『戦意』の誘惑には反応したのか。
きちりっ、と軋む閻魔刀の鞘―――。


―――だがその殺意が―――ここで解き放たれることは無かった。


アイゼン『うん?―――どうした?』


ちょうどここに辿りついたアイゼンの声が間に飛んできたからだ。

ベヨネッタ「いーや特になーにも」

バージルの肩に肘を載せたままにこやかに返すベヨネッタ。
だがこの場を満たしている緊張した空気は隠せるわけもなく。

いや、彼女は別に隠そうともしていなかったか。


アイゼン『そなたら……もう少し穏便にできぬのか?ここまできて内輪揉めは困るぞ』


ジャンヌ「ご心配なさらずにアイゼン様。セレッサでも時と場をわきまえるくらいの脳は一応ありますから」

ベヨネッタ「だーいじょうぶ。じゃ、よろしくねん」

頭を抱えるアイゼンを尻目に、
ベヨネッタはバージルの肩を叩いてはその背を押して。


ベヨネッタ「―――始めましょ」


最強の魔剣士は振り向きもせず、
この聖堂の中央へと向かっていった。


無言のまま、コートを揺るがせて悠然と。

936 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/06(木) 23:39:42.76 ID:tRLkTcuRo

そして彼は神儀の間の中央、
この場の全ての神像―――スパーダ像の視線が収束する点の上にて立ち止まり、

己が魔剣を体の前に掲げ、その柄を握り締めた。

閻魔刀握るその手首には―――『時計盤に喰い付く骨』といった造形の腕飾り―――


―――『時の腕輪』。


―――かつて魔帝が人間界侵攻を目論んだ時。


このスパーダは己が名を冠する魔剣と「時の腕輪」を用い、
『創造』打ち破りこの帝王を虚無へと封じた。

そして閻魔刀と「時の腕輪」を用いて、魔界から人間界への侵食を『緩め』。

その隙に、己の魂の一部を礎として魔界の大穴を封印。


それにより、かの2000年前の伝説は終結した。


だが今回は違う―――。


『この伝説』は―――『そこ』から始まる。


勢い良く鞘から抜かれた魔剣、その刃が向かうは―――『床』。


閻魔刀が突きたてられたその瞬間、
柱、床、天井あらゆる場所から淡い光を発し始める神儀の間。
そして地の底から響いてくるかの如く、耳鳴り染みた『駆動音』。


これは『目覚め』の声であり。


―――『叫び』だ。


魔界からの『大侵食』を―――『塞き止める』。


そこに用いられる途方も無い規模の力と―――世界の摩擦が奏でる―――『はじまりの悲鳴』だ。


―――
937 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/10/06(木) 23:40:33.32 ID:tRLkTcuRo
短いですが今日はここまでです。
次は土曜に。
938 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/10/06(木) 23:49:41.71 ID:fxUkZZAko
乙!
939 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/10/06(木) 23:54:52.25 ID:oy0MtWEAo
乙です。なんと、このタイミングから準備しt・・・いや、止めたのはいつだ・・・?
940 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/07(金) 00:19:49.78 ID:kLvFlkOSo
お疲れ様でした
941 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/10/07(金) 03:05:56.52 ID:i2hZlPuI0
乙乙乙

(´ω`)観測すると言う行為に完全な客観性は存在しない。と言いますがはてさて♪
942 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/09(日) 01:52:35.61 ID:84nR88wNo
―――

照明かそれとも辺りを埋め尽くす機器のものか、
その薄闇の広い空間は、淡いオレンジの光に満たされていた。


中央には大きな円筒形の―――『中身』の無い水槽。


上条「…………」

その前5m程の宙空にて彼、
上条当麻は水槽と面するようにして空間に磔にされていた。

上条「……ぐっ……」

徐々に明瞭になっていく意識の中。
全身に滲む奇妙な倦怠感に呻きながら、彼はその垂れ下がっていた首をゆっくりと上げていく。

そして――――――水槽と己のちょうど中間にいるその『人物』を―――『捉えた』。

今何が起こったのかここは一体どこなのか、
それらもこの『異質な人物』を前にして吹き飛んでしまった。


上条「―――……!!」


その人物には覚えがあった。
そう―――あの時。

先の『逃走劇』の始まり、
『三つ巴』の会合から飛ぶ直前、その瞬間に彼方に見た姿。


緑の手術衣を纏い―――男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも『見える』―――銀のねじくれた杖を手にしている者。


「―――目が覚めたか」


そして発せられる、『彼』のものであろう良く響く低い声。

ゆるやかな長い髪に女性的な体つき、
そう上条が『認識』するその姿とはまさにかけ離れていた声であった。

「まず自己紹介しよう」

上条「―――……」


アレイスター「学園都市総括理事長、アレイスター=クロウリーだ」
943 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/09(日) 01:54:30.46 ID:84nR88wNo

上条「…………総括理事長……」

上条はその『目』の前の彼の言葉を、
もう一度その思考に染みこませるかのように繰り返し。

そしてその『意味』を何度も確認する。

学園都市総括理事長、つまりは――――――この『狂った街』の『トップ』。


上条「ということは…………」

すなわち、能力者たる数多くの少年少女の人生を狂わせた―――『根源』。

いくらこのような状況でも。
そんな存在を前にしては、この少年が声を荒げないわけもなかった。

上条「―――てめえが―――御坂のッッ―――!!」

アレイスター「もちろん。学園都市内で完結する件に関しては全て、私の完全な管理下のものだ」

アレイスター「確かに彼女にとっては苦難であっただろうが、一方で充実していたとも言えるはずだ」

上条「な―――ふっざけんな!!そこ動くんじゃねえ!!ぶっ飛ばしてやる!!」


アレイスター「『同じく』君も―――享受しているではないか」


アレイスター「土御門元春、吸血殺し、超電磁砲、一方通行……―――そして―――――――――禁書目録」



アレイスター「どのような過程であろうと、彼らと『出会えた』―――『その結果』を」



上条「―――っ!!!!」

944 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/09(日) 01:55:38.25 ID:84nR88wNo

確かに。

彼らとの出会いが無くても良い、といえばそれは嘘になる。
今や彼らは心の一部を構成する大切な存在。

そこが空白になるなんて、全く想像できない。

だが、もし全てを『リセット』するスイッチがあれば。

皆が皆、普通の中学生高校生として生きていける道があるのならば、
こんな血みどろの世界に沈むことなく、平凡でも平和な日常を彼らが送っていけるのならば。


上条「―――――だからなんだってんだよ!!!!んなもんと―――比べてるんじゃねえよ!!」


例え誰とも接点を持たない人生になろうと―――上条当麻は迷い無くそのスイッチ押す男だ。

それこそ自分だけが全ての苦難を背負うことになっても、だ。


上条「ぐっ!!あぐっ!!!!」


だが今ここでは、その叫びも無意味なものであった。
一体どのような力でやっているのか、いくら力を篭めても『磔』はびくともしない。

上条「―――ッ…………ふっ……はっ……クソ」

力ずくでは不可能、上条はすぐにそう悟ると
今だ心は熱く滾らせながらも思考を落ち着かせていく。

アレイスター「そうだ。相手には一先ず危害を加える意思が無いのであれば、会話を保ちつつ状況を分析し打開策を探す。それが正解だ」

そんな彼の意図を、
透かし見ているかのように言葉を続けるアレイスター。

そして彼は数歩上条に近づき、身を乗り出すようにして見上げて。


アレイスター「私は君の『全て』を知っている」


アレイスター「君の『魂』の本来の『出生』、1000代を超える人の生」

アレイスター「当然、今の―――上条当麻としての君の思考、記憶、見聞きしたものも全て」


アレイスター「無論、今の君は光を喪失していることもだ」

945 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/09(日) 01:56:39.89 ID:84nR88wNo

上条「―――…………ふん」

そう確かに告げるアレイスターの顔に、上条の眼球はしっかりと向いてはいた。
傍から見れば、そこに異常など微塵も感じられないであろう。

だが。

実際はアレイスターの言葉通り、もう光は捉えてはいない。

このアレイスター=クロウリーの存在、
彼の一挙一動、髪の毛一本一本の揺らぎから鼓動まではっきりと認識していながら、

『姿そのもの』は一切―――『見えて』はいない。

『映像』は存在しない。

『姿』を視覚的に認識できなかった。


アレイスター「全てを知っているとはいえ、その目も含めて最近の君の行動には苦労したよ」

アレイスター「修正にはかなりの手を焼いた」

上条「……………………」

それまでの言葉、その口ぶり、そして『修正』という単語。
これらで充分であろう。

上条は否応無く確信せざるを得なかった。
自分は、このアレイスター=クロウリーの手の平の上で暮らしていたのだと。
946 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/09(日) 01:58:14.64 ID:84nR88wNo

そんな今の彼の思考も、
『全てを知っているアレイスター』には手をとるようにわかるのだろう。

彼は上条の盲たる瞳をまっすぐ見上げて。


アレイスター「その通りだ。君の周囲の環境は全て私が『制御』し『誘導』していた」


アレイスター「悪魔達の介入が始まってからは、何度も私の影響下から外れたがな」

アレイスター「この半年は、本当に肝を冷やしたことも幾度となくあった」


上条「お前が……『俺』を…………」


アレイスター「そうだ。『今の君』ならば理解できるであろう?」

上条「…………」

アレイスターに示された一つの事実。

そこに向く上条の意識に応じて、
奥底に沈んでいた記憶が呼び覚まされていく。


記憶も力も全て封じ、人間として生まれては一生を終えて。
そして再びこの世界のどこかで人の子として誕生し、新たな人の名を授かる。

そうやって1000回以上繰り返した輪廻。


アレイスター「私がいなければ、『今の君』は存在していない」


アレイスター「私が、この世界に埋もれ続けていく君を――――――この『舞台』に呼び戻したのだよ」


だがこの男が―――その循環を終らせたのだ。


そしてここまで手繰れば、当然一つの疑問が浮かび上がってくる。

では―――。


上条「―――なぜ―――なんで俺を―――?」


―――理由は、と。
947 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/09(日) 02:00:35.25 ID:84nR88wNo

アレイスター「―――『なぜ』、だと?」

その上条の言葉を彼は一度繰り返した。
表情自体は変わらぬものの、声に少し滑稽といった空気を滲ませて。

アレイスター「君は己が何者かわかるか?今は理解しているはずだが」

そしてそう問い返した。
自己を認識すれば自ずと答えは浮かび上がってくる、と。

上条「……俺は―――……」

その通り。

奥底から呼び起こされた記憶、魂にある記録がはっきりとここに明示する。

『なぜ』、はおかしいのだ。
―――あたかも身の覚えが無いようなそんな言い方では。

この『配役』になったこと、そこに幸運も不運も無い。
偶然にして『役』を授かったわけでも、
何者かの意志で選ばれたわけでもない。


元から全て、他でもない『自分自身』なのだから―――。


―――この役を引き受けたのは、遥か太古の己自身だ。


竜王と同化して道連れにしたのも―――封印されしその『顎』を有しているのも。


上条当夜の子でありながらベオウルフの子であり、そして―――永遠に『主』の息子でもある『男』。


       ミ カ エ ル
―――上条当麻。


                                                                ミ カ エ ル
古の人間界の王―――『竜王』の『顎』を宿す―――悪魔に『半堕天』した上条当麻だ。

上条「………………………………っ」
948 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/09(日) 02:02:37.58 ID:84nR88wNo

そうして認識を新たにして。

上条「…………『これ』で何をするつもりだ?」

改めて上条は正しく問うた。

アレイスター「そう。それが正解だ。目的は君と同化している―――『竜王の顎』だ」

アレイスター「では何をするか。その前に聞きたい」

こうしている今も何かの作業を進めているのだろうか、
顔の前に浮かび上がったホログラム映像に目を移しながらアレイスターは。


アレイスター「君はどう考える?」

問い返す。

アレイスター「恐怖と絶望、嫉妬と疑心に駆られ隣人を殺める―――怨嗟が渦巻くこの『暗黒時代』」


アレイスター「君が太古の昔、暴虐な王から解放した―――この世界の末路について」


上条「―――」

その言葉はまさに銃弾の如く上条の意識を貫いた。
そして再び古の記憶を呼び起こし―――ある『食い違い』を明示する。


上条「…………『違う』!!こんな―――こんなはずじゃ!!」


――ー人間界はこうなるはずではなかった、と。


上条「天界は人界を守り、そして共に歩み、人は完璧な平和と完全な安寧を享受するはず――――――」


竜王を廃せば、人間界にはそのような未来が到来していたはず―――。

だが現実は違っていた。


アレイスター「その人の目で何を見てきた?―――『上条当麻』」


アレイスター「今でも君は、天の存在が人間の親しき隣人と言えるか?―――――『ミカエル』」

現実はアレイスターの言葉通り。
そして己がその目で見てきた通り。


アレイスター「果たしてこの今の世界が――――――約束された『天の国』と言えるか?」


上条「―――………………」
949 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/09(日) 02:04:09.90 ID:84nR88wNo

かつて自分が約束した未来とは違う。
そう自覚し認識した瞬間、上条の心を埋めるはやり場の無い憤りと。

そして戸惑い。

上条「ど、どうして……こんな…………」

『なぜ』こんな状況に、と。

アレイスター「そうか。『君』は知らないのであったな」

そう、どのようにしてその約束が反故にされたのか、
上条はその経緯は『知らなかった』。

竜王の滅亡と同時に記憶を封じ一介の人へとなった彼は、
そんな高次元の事情の変化など知り得る訳が無かったのだ。

アレイスター「確かに竜王亡きあと暫し、君が描いていたその時代はあった」

相も変わらずアレイスターは、
何かのデータが表示されているホログラムに目を通しながら連ねていく。

アレイスター「現代時間に照らすと1000年程度か。天は人を慈愛し人は天を敬愛する、隣人らの穏やかな時代だ」

アレイスター「一時期『常闇ノ皇』などの魔界勢力の大規模な妨害もあったが、この期間の中では人間はこれまでにない安寧を享受したよ」


アレイスター「天の者へと転生することを許された人間達もいた。彼らの中には、大柱に成り上がり現在も君臨している者もいる」


上条「―――……」

彼が『知らない』、真の歴史の空白を埋める言葉を。


アレイスター「だがそんな豊かな時代もすぐに『打ち切られた』。古き主神の遺産、ジュベレウスの『目』が人間界の中に見つかったからだ」


上条「……主神…………ジュベレウスの……」


アレイスター「『遺産』そのものついては、君の方がずっと詳しいだろう」
950 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/09(日) 02:06:27.26 ID:84nR88wNo

上条「…………」

アレイスターの言葉通り、それについては知っていた。
確かな天の頃の記憶に残っている。

主神ジュベレウスの力、『世界の目』。
『光と闇』、すなわち存在の『有と無』を定義することから始まる、万物を司る絶対的な存在。

そんな代物が人間界に見つかっていたとは―――。

アレイスター「当時の天界にとって、それはまさに『恵み』ともいえよう」

上条「…………」

その通り。
ジュベレウスが敗北した後は、もはや魔界に立ち向かえる勢力など存在していなかった。
天界もまた、滅亡の時を先送りにするしか術がなかった『餌食世界』の一つだ。

そんな天界にとって、この発見は―――文字通り『逆転の一手』と成り得る。

アレイスター「なにせ絶大な『主神』を復活させる事が可能なのだから―――そうなのだろう?」

完全復活したジュベレウスこそ、
魔帝、スパーダ、覇王、そして彼らに率いられた魔界に真っ向から立ち向かうことが出来る唯一の存在なのだ。

これほどの大事とくれば、
それまでの天界の有り方を一変させてしまうことはもちろん―――易い。

上条「………………っ」

ここまで聞いてしまえば、あらかたその概要を理解するのも上条にとっても易い。
自分が太古の昔に帰属していた一派が、そしてその上位たるジュベレウス派がどんな判断を下し―――どのような行動指針を定めるか。


全ては主神復活のため。


そんな指針の変更により、天界の掲げていた弱き者達の保護は、
その優先順位を大きく下げることとなり。

天界は魔の手から守る心優しき隣人では無く――――――厳格な管理者へと変わる。


アレイスター「そうしてセフィロトの樹に新たに加えられた機能によって、あらゆるものが徹底的に管理されそして―――掠奪された」


人間達に与えられるは安らかな恩恵ではなく―――絶対的支配。


アレイスター「歴史、文化、概念、寿命、そして――――――『生死の自由』―――死者の『魂』さえも」
951 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/09(日) 02:08:32.57 ID:84nR88wNo

そうして今に繋がる。

上条「そ、そんな…………なんて…………」

埋められた高次元における歴史の空白、
それらのピースは彼にとってまさに信じ難い、そして信じたくもないものであった。

だが皮肉にも。

そんな感情とは違い、この思考は客観的に精査していく。
アンブラの魔女、インデックス、天界、そして今の状況とこれまで見聞き経験してきた全てが物語っていると。

これは事実なのだと。

上条「……こんな…………」

救ったはずのものがいつのまにか――――――堕ちてしまっていた悲しみ。
心を振るわせるはどうしようもない喪失感とやり場のない憤り。

それらが上条に襲い掛かる。

この1000代の間に何かできなかったのか、と。

己の不甲斐なさと無力を呪うのも―――既にもう遅い。


彼が今、こうして『故郷』と『第二の故郷』の正確な状況を把握して気付いたとき。

二つの世界はもう―――滅茶苦茶になってしまっていたのだから―――。


―――とその時。


アレイスター「だが一つだけ―――君が描いた未来をもう一度、今から人間に与えられる方法がある」


アレイスターの口からそんな言葉が響いた。
特に重みも含ませずにあっさりとた声で、まるで独り言のように。

上条「―――」

俯いていた上条はすぐに顔を上げて、そのアレイスターの顔を見るも、
その変わらぬ表情からは、彼が今何を思ってそう告げたのかはまるで掴めない。


そう、怪しくも無ければ―――信用する材料も無い「0」たる言葉だ。
952 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/09(日) 02:09:57.89 ID:84nR88wNo

だが言葉だけではなくこの人物のこれまでの言動、
そして行ったことを鑑みれば当然信用の針は―――マイナスに触れる。

上条「お前が―――……?」

喜ぶことなどせず、むしろ疑心を強めて目を細める上条。
対してアレイスターは。


アレイスター「実はそれが私の目的でもある」


これまた特に重要でもないとばかりに、
そう淡々と口にし。


上条「―――は?」


アレイスター「聞えなかったか?私の目的は―――君の理想を永劫のものにすることだ」


はっきりと確かに告げた。
今度ばかりは上条の顔を真っ直ぐ見上げて。


上条「――――――……っ!!な、何?!」


そうして彼は驚く上条を尻目に、
具体的にどうやるかというとと続けてた。

アレイスター「簡潔に話そうか。竜王の胃は無限だ。その容量に限界は無い」

アレイスター「君が魔に転生したことによる器の強化と、力の認識の取得、それによって『竜王の顎』は今―――完全に『蘇る』ことが可能だ」

上条「…………」

アレイスター「その完全に覚醒した『竜王の顎』で人間界を飲み込み―――『胃の中』に内包してもらう」


アレイスター「つまり君、竜王は―――『新しき器』となり」


アレイスター「天界の支配から完全に解き放たれた『新しき人間界』の土台となるのだ」


上条「―――……」
953 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/09(日) 02:10:46.37 ID:84nR88wNo

さらりとアレイスターが提示したプラン。
だがそこには大きな問題があることに、上条はすぐに気付いた。


上条「……おい待て。天界からどうやって離れるんだ?」


人間界は天界から離れられないのだ。
天界が人間界に力場を提供し『理』を維持しているのだから。

竜王ら古の神々をその力場ごと封印してしまったことで、従来の理と力を失った人間界。
本来『セフィロトの樹』が作られた目的も、その人間界に新たな理と力場を与え補完するためだ。


つまり切り離してしまえば、当然人間界は理を失い―――生が生として存在できなくなる。


封印されし本来の人間界の力場は既に『死んで』しまっているし、
新たに界の力場を作るにしても、そんなことジュベレウスでも無い限り不可能。


その疑問に対するアレイスターの答えは。


アレイスター「もちろん、理と力場は今まで通りセフィロトの樹と天界のものを使う」


上条「―――な、何だって?」

予想外の返答に再び驚きの色を隠せない上条、
そんな彼の様子など気にもせずアレイスターは再びホログラムに目を戻し。


アレイスター「セフィロトの樹を『反転』させるのだよ」


データを閲覧しながらこれまたあっさりと―――簡潔すぎる説明を口にした。
954 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/09(日) 02:11:49.01 ID:84nR88wNo

上条「―――反……転……?!」

アレイスター「その詳しい原理は説明しないぞ。どうせ君に人間の魔術学はわかるまい」

上条「その反転ってのはどうなるんだ?!」

アレイスター「反転が遂げられれば、人界と天界の関係は逆転する」


アレイスター「そうだな、今まで人間に布かれていた制限を受けて天界の者達は―――力を喪失し―――」


アレイスター「―――魂を人間界に取り込まれ、その基盤の礎となろう」


上条「なっ―――!!」

それは耳を疑う言葉であった。
意味することはつまり―――天界の死。

今の上条にとっては、そんなことを許せるわけも無い。
父、兄弟、同胞といった、天にも大切な家族がいるのだ。

いや、人間界に進入し人を貪り食う悪魔達にでさえ、一定の慈悲を抱く男だ。
例え家族なんかいなくたって彼は絶対に認めなどしない。


上条「おい―――!!!!ふっざけんなバカじゃねえのかてめえ!!!!」


これはあんまりだ、と。
一つの世界を皆殺しにするなんて。

だがアレイスターは特に気にもしていない様子。
この上条の怒りも全て予想済みといった具合だ。
955 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/09(日) 02:13:30.58 ID:84nR88wNo

上条「そもそも上手くいくはずねえ!!セフィロトの樹を管理できる人間なんかいねえよ!!」

上条「あれの維持にはでっけえ力が必要なんだからな!!!!」

そんな余裕を見せるアレイスターに堪らず、
磔の身を揺さぶりながら、とにかく否定する材料を探してはぶつけていく上条。


上条「―――力を奪いきる前に四元徳に奪還されてどうせ失敗するさ!!!!」


だがそんな上条の反論も、アレイスターにはお見通しだったのであろう。
アレイスターは特に表情も声の調子も変えず、データに目を通しながら。

アレイスター「なるほど。セフィロトの樹を掌握できる人間はいないというか」



アレイスター「それがバージルに血を流させた者でも――――――足りないか?」



上条「―――」

それは完璧な答えであった。
これには反論の余地が全く無い。

アレイスターの促すとおり。

上条「あ……あいつが……」

アレイスター「そうだ。心配しなくても良い。『彼』が制御する」

アレイスター「一方通行がセフィロトの樹の新たな主だよ」


アレイスター「最も正確には。君と彼、そして私の意志が一つとなった存在が、であるが」

アレイスター「そうして始まる新世界にて」


アレイスター「学園都市の能力開発を受けた子供達は、『始祖世代』としてこの上ない安寧を享受するであろう」
956 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/09(日) 02:14:19.22 ID:84nR88wNo

上条「―――……っ」

と、その時。
上条はこのアレイスターの言葉に、
この男から聞いた話の中で最も聞き捨てならない『言い回し』を耳にした。


彼は今―――『能力開発を受けた子供達は』、と限定された表現をしたのだ。


ではだ。
その枠に入らないグループは―――?


上条「おい待て……………………学園都市以外の人達は――――――どうなる?」

そして返って来た答えは、これ以上無いくらいに。
想像しうるものの中で最も。


アレイスター「己の存在確立をセフィロトの樹に『完全依存』している者達は、反転の障害に到底耐えらない」


上条「待てよそれはつまり―――」


アレイスター「―――そうだな。死ぬということだ」


最悪なものであった。
957 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/09(日) 02:16:51.26 ID:84nR88wNo

上条「なっ……な……………………」

上条の怒りは最早、
声を荒げる水準を遥かに通り越していた。

罵倒の言葉すら怒号すら詰まってしまうほど。

生き残るのは能力開発を受けた子供達、となると

―――70億人―――ほぼ全人類が死滅することとなる。


上条「……お、お前は…………本当に……それをやろうとしているのか?」

その言葉の意味を再度頭の中で確認して。
低く震える声で上条は今一度問う。

対して答えは。


アレイスター「そうだ」


変わらず、そして確かなもの。


アレイスター「この表現はどうしても安易になってしまうが、まさにこう言わざるを得ない」


アレイスター「―――『仕方の無い犠牲』だ、と」

958 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/09(日) 02:18:01.57 ID:84nR88wNo

アレイスター自らが安易としたとおり、
その言葉は上条当麻を再噴火させる爆弾となった。

上条「―――ああああてめえフザケてんのかよ!!!」

その身を激しく揺さぶりながら、これまでにない怒号を吐き出す少年。


上条「70億だぞ70億!!!!わかるか?!!ああ?!!」


上条「『仕方が無い』で通る数かよ!!!!ほぼ皆殺しだろうが野郎!!!!」


アレイスター「だが生き延びた者は永劫の平穏を手に入れ、彼らの子は豊かな繁栄を約束される」

対してアレイスターは変わらず冷めた調子のまま。

上条「だからってよ!!!!だからって―――」


アレイスター「君だってわかっているであろう?今の人間界の置かれている状況は」

粛々端端と。

アレイスター「いつ『本当』に『絶滅』してもおかしくない」


アレイスター「それどころか『死』よりも遥かに過酷な未来が―――到来する可能性だって『充分』にある」

上条「でもダンテ達が―――」


アレイスター「この激動の時代に、百年後、千年後、一万年後まで、今の絶妙なバランスが保たれると思っているのか?」


上条「―――っ!!」

鋭い言霊を放ちそして。


アレイスター「ところで君はわかるか?なぜ、わざわざ私がこうして君と話そうとしているか」


―――唐突に、そんな風に話を変えた。
959 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/09(日) 02:21:02.68 ID:84nR88wNo

上条「はっな―――?!何だってんだよクソ野郎!!」

突然の進路変更に戸惑いながらも、
しっかりと怒号を返す上条。

アレイスターはそんな彼の方を向き、そこでまた数歩、
彼に手で触れられる距離にまで近づいて。


アレイスター「昔、セフィロトの樹に潜り真実を探る中で、太古のあるの『碑文』を見つけたんだがな」


アレイスター「その青臭く黎明たる言霊で綴られた理想、希望、未来」

上条「そ、それが―――!!」

それがどうした、
今の話とどう関係があるのか、と上条は噛み付くような勢いで睨んだが。

アレイスター「魔界が勢力を広げる絶望的時代の中のものでは、特に異色を放っていてね」


その関係性はすぐにここに―――示された。


アレイスター「私は惹かれて、以来、その言霊は私の目指すものとなった」



アレイスター「私は感化されたのだよ――――――君が残した言霊にね。『上条当麻』」



彼にとって『最悪』の意味を有して。


上条「な―――…………な…………なに?」
960 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/09(日) 02:23:04.36 ID:84nR88wNo

アレイスター「覚えていないか?出撃の前夜、十字教の『父』にした宣言の言葉だと記録されていたが」

上条「―――」

いや、はっきりと覚えている。
兄弟達と父と最後に集った宴の席で―――発した言葉だ。

確かにあの時描いていた理想の人間界と、このアレイスターが目指す新世界は同じであろう。
非の打ち所が無い、完璧な平和と完全な安寧が約束された世界だ。

だが。


上条「違う――――――違う!!」


誰がこんな形での実現を望むか―――。
馬鹿げている。

上条「違う!!違えよバカ野郎!!!!」

これでは―――全く意味が違ってしまっている。


上条「守るべきなのは今生きてる人達なんだよ!!今この瞬間だ!!!!」


あの時だってそうだ。
あの時代、あの時生きて苦しんでいた人間達を解き放つために戦ったのだ。


上条「―――『今』を救わなきゃ意味がねえんだよ!!!!」


今この瞬間こそが最も重要なのだ。
『今』を守らねば―――それこそ『未来』も何も無くなってしまうのだから。

961 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/09(日) 02:24:42.25 ID:84nR88wNo

アレイスター「そうやって君は戦ったが――――――その結果がこれだ」


だがその上条の反論も―――このあっさりと告げられた言葉で押さえ込まれてしまった。


上条「―――ッ」

アレイスター「もちろん、君に全ての責任があるわけではない。むしろ君も被害者であろう」

アレイスター「だが『発端』―――『当事者』であることには変わりない」


アレイスター「意志はどうだったであれ、この状況の始まりを定めたのは―――君なのだよ」


上条「……お…………俺が…………」

そして逃れようも無くはっきりと明示される―――その『事実』。

そう。
そうなのだ。

ミ カ エ ル
上条当麻という存在こそ―――。


学園都市数多くの者達、
土御門、姫神、御坂、一方通行、能力者、そして全世界これまでの天界系魔術師。


無数のそれら人々が、
この血塗れた世界に生まれてしまうことを運命付けてしまった――――――『元凶』であり。


アレイスター「だが安心してくれ。君のあの失敗も、これで『無駄』ではなくなる」


この恐るべき男を突き動かした――――――原動力であったのだ。


アレイスター「―――私が成し遂げよう」

962 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/09(日) 02:26:29.05 ID:84nR88wNo

そこで一つ、
アレイスターの顔の前に別のホログラム映像が浮かび上がった。

それに目を移した彼は少々。


アレイスター「…………………………………………」


一瞬、僅かに表情を『変化』させて黙し。


アレイスター「…………喜べ。デュマーリ島の『問題』が解決したらしい」


そして再び元の表情に戻っては、画面を見つめながらそう告げた。

この朗報に今、上条が反応を示すことは無かった。
まるで殴り飛ばされたかのように、
彼はとてつもないショックで放心状態であったのだから。


アレイスター「では我々も始めようか。こちらも状況が刻々と変わってきているからな」

アレイスター「そろそろ動かねばなるまい」


そしてそう言葉を続けながら、
アレイスターは上条を見上げて。



アレイスター「見ているがいい。君の描いた理想を――――――私が現実にしてみせる」



―――
963 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/10/09(日) 02:27:18.32 ID:84nR88wNo
今日はここまでです。
次は火曜に。
964 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/10/09(日) 03:02:53.03 ID:Ahi21xI90
もう超展開乙
965 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岐阜県) :2011/10/09(日) 04:11:06.25 ID:UGrbU24F0
 -─フ  -─┐   -─フ  -─┐  ヽ  / _  ───┐.  |
__∠_   /  __∠_   /    / ̄| /      /  |
  /    /⌒ヽ   /    /⌒ヽ     /l      /    |
  (         |   (         | /  / l    /\     |    /
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  し       し       ヽ__  /  ヽ___,ヽ     _ノ
966 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/09(日) 05:31:16.28 ID:iFBhHfwDO
普通に頭がついて行くのは高確率でメガテンのせい
967 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/09(日) 09:16:55.57 ID:xh9L9c8J0
実際ダンテも出てるしね、マニアクス。
この話で唯一神が絡まないのは、アマラエンド後に殺されたからだと脳内解釈している
968 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/10/09(日) 09:29:35.51 ID:EdDngYEuo
乙です。なんだ。もう理解が追いつかん。
969 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/09(日) 13:15:03.13 ID:ECJZEcHDO
>>967
唯一神=ジュベレウスじゃねーの?
970 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/09(日) 15:18:43.26 ID:LECZq9Zb0
>>967
実際のキリスト教唯一神=このssでの十字教の『父』じゃね?
ジュベとかがそれより更に上位なだけで

ともあれ乙。超展開、だがそれがいい
971 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/09(日) 21:03:09.45 ID:Mqig7oax0
>>1さん

がんばってください!
972 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/10(月) 01:10:19.90 ID:uECd2knX0
これはスゲエ、乙。
973 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/10(月) 11:41:49.38 ID:Kxa6tH8no
お疲れ様でした。
974 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/12(水) 00:05:07.06 ID:IOWpRX5no
―――

それは壮絶な激闘であった。

プルガトリオの果て、このとある階層にて衝突した三柱の大悪魔。
アスタロトの腹心サルガタナス、対するは炎獄の王イフリートと―――完全復活を遂げたベオウルフ。

武名轟く戦神の死闘は、人間界時間にしておよそ30分以上も続いた。
大悪魔同士の戦いだという点を鑑みれば、これはまさしく『超長期戦』だ。

ベオウルフが加わった時点で勝利する側はほぼ決定付けられたものの、
そこからがまた長く苛烈なものであった。

サルガタナスはその忍耐も底力も凄まじく、
30分の戦いの末にこの武神をやっと打ち倒したイフリートとベオウルフもまた、
酷く消耗してしまっていた。

だが。

イフリート『…………』

ベオウルフ『…………』

果てたサルガタナスの躯の前に佇む炎の巨人と光の巨獣、
その彼らの醸す空気を満たしているのは、疲労ではなく歓喜と昂揚。

イフリート『貴様……中々やりおるな』

ベオウルフ『そうであろう?これが我が真の実力よ』

そして。


イフリート『―――素晴らしい。弱者を辱めるのは我が性に合わぬからな』


危うい闘争心。


イフリート『楽しみだ―――貴様との果し合いは』
975 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/12(水) 00:06:20.66 ID:IOWpRX5no

両者の間にはもはや肩を並べる理由など無かった。
サルガタナスと言う共通の敵を廃した今、互いの関係は『元通り』になる。

敵意と殺意に満ち溢れた、相容れぬ関係へと。

だが。


ベオウルフ『だが今は―――そのような気分でもない』


呪縛から解放され在りしの力を取り戻した巨獣は、
仄かに光を強めながら喉を鳴らした。

サルガタナスの亡骸が徐々に風化し朽ちていくのを眺めながら。


ベオウルフ『気分がよいのだ。今ならば、その貴様の醜い面も特に苦にならぬ』


そのベオウルフの言葉を聞いて、イフリートは小さく鼻で笑い。

イフリート『……ふむ。我もあまり気が進まぬ。今はな』

イフリート『……この場は互いの「息子達」に免じるか』

遠くにいる息子達の方へと、視線を動かしながら。

ベオウルフ『うむ。決着はいずれ。身を癒し力を万全に整えてな』

しかし。
意識を向けたその方向には、いるはずの息子達が『いなかった』

イフリート『―――……』
976 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/12(水) 00:07:47.70 ID:IOWpRX5no

ベオウルフ『……む?』

気付いたベオウルフもそちらを見やり、その獣の顔を怪訝そうに歪めた。
これは非常に奇妙なことであった。

二人がいなくなったことに『なぜ』―――気付かなかったのか。

彼らは大きな悪魔の力を持っているのだから、
同じ階層にいる動きなど手にとるようにわかる。

ましてやイフリートとベオウルフは、
彼らと力が繋がっているのだから尚更だ。

それなのに。

イフリート『何処に消えた?』

―――気付かなかった。


ベオウルフ『……小僧の気配を感じるのに追跡できん。なぜだ』


更に不思議な事に、
認識できるのに意識を集中することが出来ない。

イフリート『我も同じく…………どうなっているのだこれは』

何をどうすればいいのか、何がどうなったのか、
彼らにはこの不可解な事態を説明できる道理がまるで浮かばなかった。

まさに『魔界の常識』が通じない状況だ。

傷まみれの武神、彼らはその場で見合わせ、
そして互いに顔を顰めるしかできなかった。

―――
977 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/12(水) 00:09:11.91 ID:IOWpRX5no
―――

遡ること少し。

ステイル「―――くそっ!!」

今だ終る気配のない三神の激闘を遠くに、
ステイルは決断を迫られていた。


とある問題に単独で動くべきかどうか、を。

その問題とは―――アレイスターによる上条の拉致。

これには黙っていることなどできるわけがない。
アレイスターの目的は見当がつかないものの、『友好的』ではないのは明白。
とにかく一刻も早く動かねばならないのだ。

しかし単独で動く場合、懸念すべき点がいくつもある。


学園都市に戻ればトリッシュやレディがいるはずであるが、
これほどの事態ならば彼女達の協力を得られない、もしくは接触すらできない場合も考えられる。

そうとなれば、この件を単独で処理しなければならないが―――


―――果たして己はあの異様なアレイスターに立ち向かえるのか?


―――イフリートやベオウルフの知覚を出し抜くほどのあの存在を?
978 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/12(水) 00:09:55.63 ID:IOWpRX5no

それ以前に自力で『飛ぶ』のは初めてになるのだから、
人間界に到達できるかどうかも怪しい。

ステイル「……っ……!」

だが三神の衝突は長期戦の様相を示し。

ステイル「……神裂……!!」

追っ手から逃れるために声が届かない場所にでも行ってしまったのか、
神裂とも意識の疎通ができないのだ。

今や選択は一つ。
迷っている暇など無い。

上条当麻は絶対に失ってはならない。
あの男は必要なのだ。


この世界にも、そして―――インデックスにも。

一度、確かな深呼吸をしたのち、
彼はその手を地面にかざし―――記憶を頼りに見よう見まねで陣を構築していく。

仄かに浮かび上がる赤き魔方陣。

そして今度は息を浅く吐いては、力を流し込んでいき『稼動』させ。

ステイル「―――頼むぞ」

学園都市で強き協力者を得られることを、
まともに学園都市に到着することを願いながら―――


―――ステイルは飛んだ。
979 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/12(水) 00:11:33.25 ID:IOWpRX5no

この時―――彼は一つ。

アレイスターの思惑の一端を知ることが出来る重大な事実を見落としてた。
上条の事で頭が一杯であったのだから、これは仕方が無かったのかもしれない。

上条と同じ己を二の次、
その身を大切にしない思考回路がここでその目を曇らせてしまったのだ。

なにせこれは彼、ステイル自身に関わる問題であったのだから。


その問題とは、アレイスターが―――ステイルには『何もしていかなかった』ことだ。


こうして追跡してくることは、少しでもステイルという人物を知っていれば、
誰でも容易に推定できることだ。

更にステイルはアレイスターが常駐している場所―――窓の無いビルを知ってもいる。

ここに気付いていれば、
ステイルは今のこの己の行動がどれほど危険な行為なのか瞬時に悟っていたはずだ。
『罠』があるのではと警戒を抱き、何らかの防護策を練ったかもしれない。

ただ。

どう行動しようが、
結局ステイルはアレイスターの裏をかくことなどできなかった。

彼にはアレイスターの罠を回避する技術は無く、
また彼が学園都市に向かうことを諦めるわけも無かったのだから。
980 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/12(水) 00:12:53.01 ID:IOWpRX5no

飛んだ先。
そこは確かに見慣れた、目的地の街並みが続いていたが。

学園都市では『無かった』。

連なるビルをはじめ、
あらゆるものがまるで実体が無いかのように揺らいでいるその世界、

ステイル「―――……!!」

ここもまたプルガトリオか、と彼は思ったものの。
肌に感じるこの世界の大気にその考えはすぐに否定されてしまった。

能力者の『匂い』が充満していたのだ。
それも尋常じゃない濃度。

あのフィアンマ戦の際の一方通行が隣にいるような水準だ。

魔界が魔の力に満ちているように、
ここは能力者の力に満たされている世界―――

―――だがここが一体どこなのか、
それは今のステイルにとって重大ごとでもなかった。

飛んだ先が目的地と違ったのならば、もう一度目的地を目指すだけ。

そうして彼が再び地面に手をつき、魔方陣を出現―――


―――させようとしたのだが。


ステイル「……っ?!」


ここでようやく、
自分に関しては鈍い彼も悟ることとなった。

己は―――嵌められたのだと。


魔方陣が出現しなかった。
981 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/12(水) 00:16:30.20 ID:IOWpRX5no

ステイル「―――くっそ―――」

あそこでアレイスターが己を殺さなかったのは、
こちらがイフリートや神裂と繋がっているからであろう。

こうしている今も、神裂やイフリート生きていることははっきりと認識できる事を踏まえると、
さすがのアレイスターも『死』は偽装できないのだ。

学園都市で暮らしてきた上条とは違い、
ステイルには全くアレイスターの手も入っていないということも、
直接手を加えられない原因の一つかもしれない。


だからこうして―――生かさず殺さず、ステイル自身には特に手も加えずに隔離するのだ。


ステイル『――――――アレイスタァァァァァ!!!!』


紅蓮の業火を全身から迸らせながら、炎と共に吐き出す怒号。
その怒りに満ちた力が渦となり、この『陽炎の街』にただただ乱暴に―――そして虚しく噴き荒れていく。


ステイル『クソッタレが!!ここは一体……!!』


ただ、この世界にいたのは彼だけではなかった。


『―――「ここ」はどこか、では無い。正確には「これ」は何か、だ』


唐突に。

そして背後間近からの―――声。
982 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/12(水) 00:18:59.40 ID:IOWpRX5no

完全にステイルは意表を突かれていた。
独り言の悪態に他者が突然言葉を返してくれば、誰だって驚きもする。

しかもその源の気配を一切認識できていなかったら尚更だ。

そう、振り返った先にいた『ソレ』は、あのアレイスターのように気配が無かった。

ステイル『―――っ』

背後5m程のところ。
この陽炎の世界の道路の上にて、一体の人間の形をした『何か』が浮遊していた。

白い無地の装束を纏った、長身の女性『らしき』姿。
長い髪はまるで水中にいるかのように漂い揺れ、
その全身像もこの世界と同じく実体感が無く。

そして―――人の形をしていながら、明らかに人とはかけ離れている顔。

あらゆる感情と無を併せ持つ、異質な面持ち。


ステイル『なっ―――』

悪魔でも天使でも、ましてや人間でもない存在との突然の遭遇に一瞬言葉を失うステイル。
だが『ソレ』は、そんな彼の様子など気にも留めずに。


『そして答えはは「竜の胃袋」、そこから湧き上がった「マグマ溜り」』

平坦で。


  グレイブヤード
『「 墓 所 」の「飛び地」』


そしてこれまた異質な声でそう告げた。


『もしくは――――――「虚数学区」』
983 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/12(水) 00:20:11.26 ID:IOWpRX5no

ステイル『虚数……学区……』

耳にした言葉を反射的に繰り返しながら、
彼は身構えながら『ソレ』の正体を見極めようとしていた。

その姿、その存在の様子からまず最初にわかったのは、
厳密にはアレイスターのように『気配が無い』わけでは無かったことだ。

一度こうして意識すると、確かに力の存在を認識できるのだ。


そうして彼は把握した。
この存在の出現に気付かなかったのは、その力が『周囲と同じ』だったせいだ、と。


『コレ』は―――この世界と繋がっている―――いや―――。


―――ここに充満している能力者の力、『そのもの』なのだ。


ステイル『―――っ……!!』


だがそれはまた、大きな疑問を生み出す答えであった。

『コレ』が悪魔でも天使でも、人間でもないのは明白だった。

どこの界の存在か、という段階ではない。
根本的な部分が明らかに異なっているのだ。

規模はわからないが、領域、階層、世界そのものがこうして何らかの思念を有しているなんて。


ステイル『(一体――――――こいつ―――)』


そして思念を有していながら―――ここまで『生気』も『意志』も無いなんて。
984 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/12(水) 00:22:31.60 ID:IOWpRX5no

ステイル『―――……………………「お前」は何者だ?』

鋭く睨み。
より意識を集中し、一層警戒を強めながら彼は静かに。

意を決して問うた。

『その問いの捉え方は複数あるが、「私」という思念を指していると仮定すれば』

そして『ソレ』は答える。


『―――「古き人界」の思念と記憶の集合体』


『死した巨人達の残滓、か』


『君達、魔術に縁がある者達に最も知られている名称は恐らく――――――「エイワス」、かな』



ステイル『―――――エイワス―――だと―――――――――』



ステイルは耳を疑った。

それは魔術に携わるものならば、知らない者などまずいないその名。
だがその知名度に反して、この存在の正体を示す情報は見つかっていない。

清教、正教、その他世界中の野心溢れる魔術師がその謎を暴こうとしたが、誰一人辿り着いたものはいない。


ステイル『お前が―――あの―――「エイワス」―――』


このアレイスターの―――『守護天使』には。


あまりのことに思わず一歩後ずさるステイル=マグヌス。
対して異質な『守護天使』は、その声に僅かに楽しげな色を載せて


エイワス『――――――そう。私はエイワスだ』


もう一度、自己紹介の言葉を繰り返した。
985 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [saga]:2011/10/12(水) 00:24:05.77 ID:IOWpRX5no

ステイル『―――ッ』

次なるステイルの行動は速かった。

確かに『コレ』があのエイワス、というのは驚きであるが、
アレイスターの息がかかっている存在とくれば、そこに迷う道理など無い。

炎獄の業火が噴き上がり、そして一瞬にして包みこむ。

―――が。

エイワス『「ここ」は話し相手が少なくてな、私としては如何なる客人でも歓迎したいところなのだが』

煌く光の奔流が、一瞬にしてその業火を吹き消してしまった。


エイワス『生憎、如何なる者もここを通すなと「プログラム」されているんだ』


ステイル『―――!!』


エイワス『私は別に味方でも敵でもないのだが、この力の「集合体」の制御はあの男が握っていてね』


エイワス『でも心配はない。殺しはしないよ―――その理由はわかるだろう?』


そう、その理由は知っていた。
知ってはいたが、彼が意識内でそのことを再確認することはできなかった。
なにせ、彼がその耳にした声の意味を認識するよりも速く―――


光り輝く『翼のようなもの』が―――ステイルの胸を貫通したのだから。


エイワス『すまないが少し我慢していてくれ』


エイワス『―――これから面白いことになるからな』


―――
986 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/10/12(水) 00:24:40.77 ID:IOWpRX5no
今日はここまでです。
次は金曜に。
987 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/12(水) 00:28:00.91 ID:l7CS0cEDo
お疲れ様でした。
988 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/12(水) 00:29:33.51 ID:9FkWy+tj0
乙です!!
989 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/10/12(水) 10:12:50.88 ID:kEGe6jCC0
乙。
セフィロトの樹は人間界の魂を制御して、人が死んだら天界の糧にしてるんだよね?
ミカエルや竜王が転生しまくってるのはおかしくない?
990 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/10/12(水) 11:45:19.77 ID:S9bjrueW0
原石のことやアレイスターのことを考えれば魂管理が完璧じゃないし抜け道があるのは推測出来るけど…

あるいはミカエルをあえて転生させてるとかね。魂は神なんだから糧にするのは忍びないとかで。
で、セットになってる竜王もどうせ復活出来ねーだろと楽観視して放置してた、とか。

まぁ>>1がその内話すだろうから正座待ち。
991 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/10/12(水) 18:32:03.70 ID:EMnM4/v2o
>>989
セフィロトの樹に繋がれてないので、上条とフィアンマの魂は取り込まれることはありません。

古の人間界の神々の性質を受け継ぐ魂は、天界にとって煮ても焼いても食えぬものです。
その性質をとにかく嫌って、後の人間の魂に浸透しないよう力場ごと封印までしたくらいですから。

また、常に一定数の原石が出現するのと同じく、
何度排除しようが必ずどこかで同一の性質を持った魂が出現するといった、
後世の人間界に残った決して取り除けない後遺症の一つでもあります。

ただ他の能力者たちと異なり、ミカエルという天界の因子が入っているので、
十字教の父達を介せばある程度意識へ干渉することも可能です。

そこで【MISSION 04】スレの812の通り、扱いやすい『手』の方は神の右席として再利用し、
一方で触れた力の構造を魂に記憶していくという面倒な機能持ちの『幻想殺し』は、
全く『異能』に触れない平凡な世界におき続ける、というのが天界の方針です。

刺激を与えなければ普通の人間と同一なので、それが最良の管理方法だったわけです。

が、その安定をぶっ壊したのがアレイスターです。

後世の『普通の人間』のうち、唯一名指しで『天界の脅威』と宣言されたに相応しく、
彼の行いは竜王関連の状況を劇的に変えてしまいました。

これまでただの人間と全く変わりなかった幻想殺しを、
生まれる前から全ての準備を整え、生まれた瞬間から周囲の環境を完璧に管理誘導し、そして今に至らせたと。


そのアレイスター辺りの詳細は、作中でもこれからある程度触れます。
フィアンマが己の本質に気付いた理由などものちに。



992 :989 [sage]:2011/10/13(木) 13:26:03.16 ID:/bQ53Q/g0
おぉ、詳細な解説ありがとうございます!
設定が練り込まれ過ぎててヤヴァい。
993 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/13(木) 23:18:20.44 ID:0GGOZTZI0
相変わらず設定がやばいな・・・

あれ、じつは>>1ってジュベレウスじゃね?
994 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/10/14(金) 13:18:48.03 ID:ldvN3KE30
って事は>>1はこれから魔女に太陽に叩き落されるの?
995 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/14(金) 14:41:30.56 ID:XkGVYTZDO
>>994
資料設定集で神谷がジュベレウスのデザインは十代後半のギャルをイメージしたって言ってた。つまり>>1は女子高生ギャルだったんだよ!
996 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/10/14(金) 17:32:18.42 ID:dExAdPak0
>>995
(((;゚Д゚)))ナ、ナンダッテー!?
997 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/10/14(金) 18:06:05.89 ID:Frj+rhn1o
次スレです。
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1318583057/

投下は今日の日付が変わる頃に。
このスレは埋めます。
998 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/10/14(金) 18:06:44.56 ID:Frj+rhn1o
埋め
999 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/10/14(金) 18:08:41.19 ID:Frj+rhn1o
埋め
1000 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/10/14(金) 18:09:53.42 ID:Frj+rhn1o
                                            __          , - 、      _,、_
                                         └一 、 ̄L__,、   〈  }r─‐冖'ィ^´
                                             L.r‐- 、_  ` ̄` `ア^  {フ }
       , -─- 、                                         , -=マ      、_ |
.       /.::/ ̄`ヽ.:ヽ.                                     //^}::::}      \`´        _
     l:::::}    _ 、::.、             __                    //   ,'.::,' . : :      ` ̄ ̄ ̄ ̄ ̄    ̄>
     l:::/  // ',:::',        _  /.::::}     _                _/.:/    /.::/. : : :                   /
     |/   /.::/.   ',:::',         /.} //}::/      /.::} /}      _, - '7.:/  . ://  /  . :             {
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    デ ビ ル   メ イ   ク ラ イ/      _/     /:/           ノ /:/ | \_  レ'′
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              { (     _ 〃 } レノ ).}  ̄  | |└|┬| |‐rムヽ. | |〃 | | しL||  、ーノ    / /
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          i              人 l、     ヾ    `´      //
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          "i     /^ヽ! / !,/ -―-  |,/ |   ハj         そ 人
         i    l ハ i/      ━    ヽ. l/ /           ゙ヾ. ヽ、
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ダンテ「学園都市か」【MISSION 09】 @ 2011/10/14(金) 18:04:17.19 ID:Frj+rhn1o
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垣根 「ほら、笑って笑って!」〜2ヶ月目〜 @ 2011/10/14(金) 17:48:24.93 ID:Soqvzj6DO
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接点のない子と仲良くなりたい @ 2011/10/14(金) 17:26:34.25 ID:GqU7ZozD0
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【どうして】友達の妹の全裸を見たから水族館でデートしたったPart6【こうなった】 @ 2011/10/14(金) 17:24:36.80 ID:zRXBN6aIO
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俺が凄まじい勢いでひたすらツッコミを入れるスレ @ 2011/10/14(金) 17:04:16.09 ID:1qmFhoqAO
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長門「濡れちゃった」 @ 2011/10/14(金) 14:56:11.69 ID:uJEy5wdSO
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とある児童養護施設 @ 2011/10/14(金) 14:43:50.89 ID:9kfwVI360
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