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QB「魔法少女の軍事利用だって?」 -
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1 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 01:24:43.53 ID:12Scx6eE0
●スレタイこそ魔まマですが、魔まマの登場人物はQBしか
登場しません。私にとっても残念ですがマミマミさんも居ません。
期待なさった方はごめんなさい。
●魔まマの「魔法少女」や「魔女」といった設定を下敷きにし、
スレタイの通りのお題を筆者が自分に課して作ったSSです。
原作の物語と交わる部分は、皆無です。
オリジナル作品のようなものだと、お考え下さい。
●兵士となって戦場を駆けるマミマミさんや、戦災孤児になった
マミマミさんの存在など、原作設定に激しい矛盾を生んでしまう事は
禁止しました。そのため、登場人物はQBを除き全員オリジナルです。
●国家が「魔法少女」や「魔女」という存在を認識していたら
どうなるのだろうか?誰得な物を書いたという自覚はありますが、
それでも読んで頂ければ幸いです。
1.5 :
荒巻@管理人★
(お知らせ)
[
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ゼンレスゾーン淫夢要素ゼロ @ 2025/07/16(水) 18:57:50.86 ID:RQSyJ1Qxo
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1752659870/
【ギルデッドエネミー】ウルフ「まるでじゃんけんだ」 @ 2025/07/16(水) 01:49:20.03 ID:ryYxoR/vO
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1752598160/
■ 萌竜会 ■ @ 2025/07/15(火) 00:40:24.35 ID:LBAUOkqwo
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1752507623/
■ 萌竜会 ■ @ 2025/07/15(火) 00:39:16.20 ID:qbAcbrETo
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1752507555/
猫饅頭 @ 2025/07/14(月) 19:14:21.34 ID:1knELuPaO
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1752488061/
(安価&コンマ)コードギアス・・・ @ 2025/07/13(日) 22:27:49.60 ID:9f2ER2kw0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1752413269/
KU-RU-KU-RU Cruller!Neo @ 2025/07/13(日) 21:55:45.76 ID:YIcI6tEGo
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1752411332/
ひたむきに! @ 2025/07/13(日) 20:04:58.82 ID:YMv4024Yo
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1752404698/
2 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 01:26:13.50 ID:12Scx6eE0
「魔法少女 ナイマ☆マギカ」
3 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 01:27:02.18 ID:12Scx6eE0
その日は、妹のラビアが四歳になる誕生日だった。
異国の土地では誕生日を祝うことが習慣であるらしい、とは知っていたが、
私の住む土地にはそれがない。しかしながら、私は妹が一つ大きくなった事を、
お祝いしてあげたかった。
彼女は、いつも私の宝物で遊ぶ事が好きだった。
Nintendoのロゴの入った白いコンピュータゲーム。
コンピュータ関係の仕事をしている父が、
どこからか貰ってきて私にくれたものだった。
父から貰った宝物ではあるが、私はゲームが上手でなく、
遊んでみても楽しむ事が出来なかった。
ならば、楽しそうに遊んでいる彼女にあげたほうが、きっと喜ぶに違いない。
家族揃っての夕食が終わると、私は宝物を持って妹の部屋へ入る。
「ナイマ、どうしたの?遊んでくれるの?」
「ラビア、今日はあなたの誕生日よ。一つ大きくなったわね。おめでとう。」
「どうしたの、変なナイマ。」
一つ年下の妹は不思議そうな顔で私を見る。誕生日、それがどうしたの?
そう顔にはっきりと書いてあるのが見える。その無表情な妹を、これから
あっと驚かせてやれる、そう思うと私は少しウキウキした。
「だからね。あなたにこれをあげる。」
「ナイマ!もらっていいの!」
一秒前が嘘のように、ラビアの顔がぱあっと明るくなる。
「ええ。私はゲームが下手だし、ラビアはこれが大好きでしょう?」
「ありがとう、ナイマ!」
ある程度は予想していたが、ここまで喜んで貰えるとは。
彼女が笑うと、私も嬉しい。彼女は私の妹であり、
友達でもあるのだから。彼女の笑顔を見ていると、
プレゼントをした甲斐があったと素直に思えた。
4 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 01:27:38.87 ID:12Scx6eE0
その思考は、耳をつんざく轟音にかきけされた。
激しい音と共に、目に見えているもの全てがぐらぐらと揺れる。
テレビアニメで見た、建物が爆発するシーン。
それが私の脳裏を駆け巡る。
「ナイマ、ナイマ。」
妹が先ほどまで見せていた笑顔はすっかり消え、
今はただ泣きながら私の手を握っている。
どうしよう。どうすればいいのだろう。
「二人とも無事か!」
両親が血相を変えてラビアの部屋に入ってくる。
お父さん、お母さん。どうすればいいの?
それを聞こうとする前に、その答えを知る機会は永遠になくなる。
5 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 01:29:11.96 ID:12Scx6eE0
次に気づいた時には、私は水溜りの中にいた。
衣服が濡れる感覚のせいでそう錯覚していた事に、
私はすぐに気づいた。
言い直せば、私は血の池の中にいた。目の前には、
私の手を握ったままの妹の手と、眠ったように見える顔。
その首から下には、もとは屋根だったと思われる瓦礫。
反対側を見ると、そこも瓦礫。どちらの瓦礫からも、
赤い水溜が出来ていた。そこから湧き出す泉のように。
助けなければ。そう考えるだけの余裕はあったのだが、
体がその想いに付いてこない。
瓦礫は私の体の上にものしかかっていたからだ。
まずはこれをどかさなければ。そう考えた私は、
再び耳につく轟音を聞くことになる。音の方向は、
はるか頭上の空。そこには、いくつもの飛行機が飛んでいた。
時折、その飛行機の群れが赤く光り。
光の筋を地面に向けて伸ばす。
その光の筋が伸びた先では、大きな火の玉が作られていた。
あれは悪魔に違いない。直感的に、私はそう考えていた。
6 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 01:30:11.20 ID:12Scx6eE0
視線を落として妹を見ようとしたら、彼女に乗っている瓦礫の上に、
動物が乗っていた。それは、これまで私が見た事のない動物であった。
「苦しそうだね。でももう大丈夫!僕は君が願う望みを、
何だってかなえる事ができる。」
「え?」
驚いた。動物は、私に言葉を語りかけてきていた。
「どんな願いでもかなうんだ!だから、僕と契約して、
魔法少女になってよ!」
神様なのだろうか。それとも、悪魔の使いなのだろうか。
さらに視線をすぐ下におろすし、瓦礫の下の妹に目をやると、
彼女は苦しそうに目を開けた。
「ナイマ・・・痛いよ・・・」
「悪魔から、この子を守りたい!」
神であろうが悪魔であろうが、どちらでもいい。
考える事もなく、私は口に出していた。
「契約成立だね。さあ、解き放ってごらん。君の願いを!」
これが、今も鮮明に思い出せるあの忌まわしい日の出来事の記憶。
7 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 01:30:40.47 ID:12Scx6eE0
8 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 01:31:22.73 ID:12Scx6eE0
ここはアメリカの、どこにでもある小さな田舎。今年で五歳になったエマは、
彼女が誕生日のプレゼントに貰ったばかりの、任天堂のゲームボーイに
夢中になっていた。
両親はずっと部屋でゲームを遊び続ける彼女を見て、プレゼント選びを
失敗したかと少し反省したが、そんな事はエマにとっては知る由もなかった。
「エマ、早くしなさい!ご飯が冷めてしまうわ!」
(ママが怒っている。けど、もうちょっと・・・)
本人からしてみれば、ほんのちょっと。それは、エマの母親を含めた、
世界中の人間からしてみれば、15分という時間だった。
「エマ、いい加減にしなさい!」
ゲームに熱中しすぎて、母が階段を上がる音にも気づかなかったエマは、
驚いて飛び上がった。
「あなたが言う事を聞かないのなら、これはママが預かります!」
「そんな、ママ!」
抵抗はしてみるが、文字通りの無駄な抵抗。
小さなエマの両手に握り締められていたそのゲーム機は、
母に力ずくで奪われてしまった。
「さあ、早くご飯を食べてしまいなさい!いい子にしていたら返してあげるわ。」
「はい、ママ・・・」
9 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 01:31:51.72 ID:12Scx6eE0
しょぼくれて階段を下りていくエマ。
軍人である父はただ座ってにこにこと、エマと母が食卓に来るのを
待ってくれていた。彼はその職業からイメージを持たれるような
厳しさや怖さを、微塵もエマに見せた事がなかった。
だから、彼を待たせた事をエマは申し訳ないとは思わなかった。
ゲーム機の事もあるが、彼女はまだ幼いのだ。
「やっときたねエマ。さあご飯を食べようか。」
父と母は楽しそうに会話をしながら食事をしている。
エマはその会話の間に入ろうともせず、
これからどうしようかと考えを巡らせていた。
(きっとゲーム機はすぐには返してくれないわよね。
あーあ、つまんないの。お友達と遊ぼうかしら。)
「ごちそうさま。お外で遊んでくるわ。」
「分かったわ。暗くなる前に帰って来るのよ。」
「分かってるわ、ママ。」
父と母に軽いキスをして、外に出る。
まだエマがゲーム機を手に入れる前、よく友達と遊んだ丘へ向かう。
10 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 01:32:19.03 ID:12Scx6eE0
少し期待していたのだが、残念ながら今は友達が誰も来ていなかった。
遊ぶ約束などはしていないが、この田舎で子供が遊ぶ場所、といったら
幼稚園の近くにある公園か、見晴らしが良く風の気持ちいい、この丘だった。
「誰もいないんだ。つまんないの。」
独り言を呟き、丘の上の木に寄りかかって座る。
エマが公園より、この丘が好きな理由。それは、
今のように誰一人友達がここに居なかった時でも
空はきれいな青さでいつも待っていてくれた。
そよそよと流れる風に、彼女のブロンドの髪がなびく。
ふと気づくと、丘の下に猫がいるのが見える。
(あの子に遊び相手になってもらおう。)
そう考えたエマは立ち上がり、猫の居る方へ歩き出した。
それなりに距離があったのだが、猫はこちらを見ながら
まるでエマを待っているように、ただじっと座っていた。
違和感を覚えたエマは足を止める。
11 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 01:32:45.71 ID:12Scx6eE0
(猫じゃない・・・?)
その動物は真っ白い猫のようでありながら、兎のような真っ赤な瞳を持ち、
垂れ下がる長い耳のようなものを持っていた。
大人から見れば謎の動物。しかし、その愛らしい姿が気に入ったエマは
再びその動物へと歩き出した。
「かわいい・・・」
「君を待っていたよ、エマ!」
驚いた。動物は喋ったのだ。まるで、エマが今までに幾度も見てきた
ディズニーの映画のようだ。
「こんな素敵な事があるなんて!」
そう彼女は声に出し、喜んだ。彼女は今、憧れのディズニー映画の
主人公なのだ。
「君のどんな望みでも、一つかなえてあげる!
だから、僕と契約して魔法少女になってよ!」
「魔法少女!?なんて素敵なの!」
「さあ、君の願いはなんだい?」
(急に言われると考えるわ。私の願いって何だろう?)
12 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 01:33:13.66 ID:12Scx6eE0
少し考えた。母に取られたゲーム機の事も考えたが、そんなものは
魔法の力を借りずとも何とかなりそうだ。迷う彼女が空を見上げると、
そこには二羽の鳥が羽ばたいていた。
(そうだ、私は自由に空を飛びたかった。鳥のように、ピーターパンのように!)
「空を自由に飛べるようになりたいわ!」
「契約成立だね!さあ解き放ってごらん。君の願いを!」
突然、エマは胸が苦しくなる。呼吸が出来ない。
何が起きたのだろう、そう考える間もなく苦しみは消えてなくなった。
苦しみの代わりに目の前に現れたのは、緑色に光輝く宝石。
とても綺麗な宝石だ、とエマは思った。
「それが君の魔力の源になる、ソウルジェムだ。それを肌身離さず
持ち歩くんだよ、いいね。」
そう言うと、動物は消えてしまった。文字通り、霧のように。
言われた通り、宝石を大事に両手で包み込む。
(本当に飛べるようになったのかしら。)
その場で、思い切りジャンプをしてみる。一瞬、エマの足が地面から離れ
すぐにまた地面についた。
「うそだったの!そんな!」
もう一度、ジャンプしてみる。やはり、先ほどと結果は同じだった。
エマは天を仰ぎ、優雅に飛び回る二羽の鳥を恨めしそうに見る。
「うそでしょう・・・!私は飛べるようになったんじゃないの!」
その鳥を手づかみするような思いで、もう一度大地を蹴る。
その瞬間、彼女の体は光に包まれ、まるでピーターパンの女の子版といえる
衣装に変化していた。
そのような不思議な現象が起きながらも、
彼女はその事にすぐには気づかなかった。
何故なら、彼女は空を飛んでいたからだ。
自分でも驚くようなものすごいスピードで、
先ほど見上げていた鳥達がぐんぐん迫る。
「すごいわ!私、飛んでいるわ!!」
13 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 01:34:19.86 ID:12Scx6eE0
その様子を目撃してしまい、手に持っていたおもちゃを落とす少女達。
彼女達もまた、エマと同じ考えを持ち、誰かが友達がいないかと
ここに遊びに来ているところだったのだ。止められなければ、
彼女達はエマを見て、すごいわエマ!と声をかけていた事であろう。
それを止めたのが、彼女達のうち一人の母親だった。彼女は、娘達の浮かべる
歓喜の表情とは、まったく逆の表情をしていた。
「悪魔だわ・・・」
娘達が母親をいっせいに見上げる。
「あの子は悪魔だったんだわ・・・」
何人かの少女は、そんな馬鹿なと顔を見合わせる。
その他の少女は、その母親の顔を見つめたままだ。
「だめよ・・・あの子に近づいてはだめ!あの子は悪魔よ!」
そう言って、無理やり娘達の手を引き、丘から駆け去った。
空には、そんな事には気づかず、心ゆくまで大空の散歩を楽しむ
エマの姿があった。
14 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 01:35:12.82 ID:12Scx6eE0
「ねえエマ、あなたは悪魔なの?」
次の日の幼稚園で、友人から最初にかけられた言葉はそれだった。
「ひどいわダイアン。なんで私が悪魔なの?」
「だって、私昨日見ちゃったわ。あなたが空を飛んでいるところ。」
「そうだったの。でも私は悪魔なんかじゃないわ。正義の味方よ!」
得意げに胸を張るエマ。しかし、まだ怪訝そうな目を向ける友人。
「私も最初はすごいと思ったわ。けど、ママがあなたの事を悪魔と言うの。」
「そんな、ひどいよダイアン。そんな事言われたら悲しいわ。」
涙が目に滲み、目の前の友人を見つめる。
友人は、彼女が自分を睨んでいるように見えていた。
本当にエマが悪魔なのであれば、
怒らせてしまったらどうなるか分からない。
そう考えた彼女は、ちいさく一歩、後ずさる。
その小さな行動が、さらにエマを傷付けた。
離れようとする友人の手をつかまえる。
「待って、私は悪魔なんかじゃない!」
思いがこみあげ、つい手に力が入る。
それは、普通の五歳の女の子が出せる握力ではなかった。
「痛い、離してエマ!痛い!」
はっと気づき、手を離す。
友人に大きな怪我をさせなかった事は幸いではあったが、
騒ぎを聞きつけた者が集まりだした。
その中には、昨日の光景を見ていた少女もおり、
彼女達の小さな疑惑は、ゆっくりと膨らみ出していた。
15 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 01:35:43.81 ID:12Scx6eE0
「やっぱり悪魔なんだ・・・」
「ひどい事言わないで!」
エマは振り返って、声の主を探す。人ごみのなかに隠れる少女。
「悪魔・・・お願い、来ないで・・・」
「こわい・・・」
「やめてーーーーー!!!」
悲鳴の聞こえた部屋の様子を見るために、教師が部屋へ入ろうとした。
見ると、エマが窓から飛び降りようとしている。それを静止するには、
教師はあまりにもエマから離れすぎていた。
「エマ!」
声をかけると同時に、彼女は窓から飛び降りる。
窓へ向けて駆け寄ろうとするが、教師は半ばで足を止めてしまう。
教師の視界の中に、空を飛んでいくエマの姿があったからであった。
16 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 01:36:10.97 ID:12Scx6eE0
次の日には、家のポストに、手紙が入っていた。
すぐに町から出ていけ、という内容の手紙。
両親は何か心あたりがないか、お互い話し合った。
エマは何も喋らなかった。
次の日には、家の庭に大きな十字架がささっていた。
さすがに、これはエマが何かを知っていると両親が気づく。
だが、昨日と同じように、
エマは何も喋らなかった。
次の日には、家の壁に「悪魔の家」とペンキで落書きされていた。
両親がどうしたものかと相談していると、
エマは階段を降りてこう言った。
「私、悪魔になってしまったの。なんでだろう。」
「エマは悪魔なんかじゃなくて天使だよ。なんでそんな事を言うんだい?」
「だって私、悪魔にそそのかされて空を飛べるようになったの。」
両親は何か違和感を持っていた。それもそのはずであった。
彼らがよく見ると、エマの足は地面についていなかった。
文字通り、エマは浮かんでいた。
「私は悪い事をするつもりなんてないの、に・・・
わた、し・・・が悪魔・・・だ・・・って・・・・」
言葉が続かなくなり、泣き出すエマ。母親はまだ、目の前の光景を
認識できずにいたが、父親は冷静にエマを見つめ、
少し考えたあとに、こう答えた。
「契約・・・をしたのかい?」
17 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 01:36:38.03 ID:12Scx6eE0
エマと母親は、父親を見る。何を言っているのか分からない、
という様子の母親であったが、エマは小さく頷いた。
「分かった。エマ、お前は悪魔なんかじゃない。天使だよ。」
そう言って、父親はエマを抱きしめる。
少し躊躇したものの、母親がそれに続く。
「驚いたわ・・・エマが本当に天使になっちゃうなんて。」
「私は悪魔じゃないの・・・?」
母親はエマを抱きながら、彼女に頬をすりよせる。
そんな訳ないじゃない、と言っているかのように。
言葉を開いたのは、父親であった。
「エマは馬鹿げた事を言っている。お前はまぎれもなく、
僕らの天使だよ。」
「内緒にしていたけれど、エマにいい事を教えてあげよう。
このアメリカには、天使だけの街があるんだ。僕らもそこへ行こう。」
「あなた・・・?」
母親もエマも、父親の言っている事が飲み込めずにいた。
「さあ、引越しの準備だ。早ければ明日にでも出たい。
詳しい事は、後で・・・」
「分かったわ。」
父親は気づかれないように小さく、
エマの方へ首をちらっと動かす。
母親はそれを察し、引越しの準備に取り掛かる。
エマも気づいてはいたが、気づかない振りをする。
「エマは今日はおやすみ。」
「分かったわ、パパ。おやすみ。」
軽くキスをして、エマは階段を登っていった。
18 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 01:37:05.86 ID:12Scx6eE0
「どういう事なの?」
「ああ、説明するよ。本来は重要機密であり、君にも話せない事なんだ。
誰にも言わないと誓えるかい?」
「あなたのお仕事については理解しているつもりだわ。」
「ありがとう。君もさっき見たとおり、この世界に魔法というものは実在する。
魔法を使えるようになるためには条件があるのだが、エマはその条件に
認められたらしい。」
「なんでエマが・・・」
「それは僕にも分からない。続きを話すよ、僕のしている仕事は、
その魔法の研究というのが本当のところだ。そのために、
全米から沢山の魔法少女が集まっている。」
「ちょっと待って・・・それって・・・」
父は躊躇した。自分のしてきた仕事がどういう意味を持つ仕事なのか、
理解していたからだ。だが、一息ついてこう続ける。
「魔法の軍事利用。いや、正直に言えば・・・
魔法少女の軍事利用について、僕らは研究している。
僕はその研究施設へエマを連れて行きたい。」
「駄目よ、そんなの!」
母親は叫ぶ。当然の事であろう。
娘が兵士になるなどと、想像もしていなかった。
「落ち着いて聞いてくれ。僕の持つコネと力を使えば、
エマは絶対に兵士にならない。絶対に兵士になんてさせない。」
「だからって・・・」
「それに、他に方法がないんだ。こう言うのはとても心苦しいんだけれど、
この町の住人にとって、エマは魔女にしか見えないんだ。
人智を超えた力を持つ者は、いつだって迫害の対象になる。
エマの今後を考えたら、ここに住むより施設の方がよほど安心できる。」
「信じていいの?」
「誓うよ。」
長い沈黙。やがて、母親は無言のまま、引越しの作業に戻った。
それは、心の中では完全に納得したわけではないが、一応は賛意を
見せる時の彼女の仕草。長く一緒にいるからこそ、父親はそれを理解できた。
19 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 01:37:39.49 ID:12Scx6eE0
その研究施設は、刑務所の塀のようなものに囲まれていた。
見るからに警戒の厳重な入り口にさしかかり、父親は通行証を歩哨に見せる。
すぐに閉ざされていたゲートは開き、彼の運転する車は、
ひたすら続く荒野の中を通る一本の道路を走り出した。
しばらくの間は、車内から見える光景に面白い物などなかった。
やがて見えてきたのは、まるで街だった。デパート、映画館、
アミューズメントパーク、病院、学校。そのおまけのように並ぶ、研究ビル。
家を出ると知らされた時には躊躇したエマではあったが、
今また幼稚園に顔を出したところで、悪魔と罵られるのは
幼い彼女にも容易に想像出来ていた。
「ねえママ、私はまた皆と仲良くできるのかな?」
「もちろんよ。あなたは何も悪い事をしてないんだもの。
ちょっと時が経てば、またここに戻ってこれるわ。」
「分かったわ。ありがとう、ママ。」
そのやり取りを思い出しているうちに、車は一つのアパートの前で止まった。
「ここがパパが帰れなくなった時に使っているアパートだ。
当分はここに住んで、エマもこの街の学校に行くんだ。」
「また悪魔って言われたりしない?」
「それは絶対ないよ。学校に行ったら、絶対にみんなと仲良くできるよ。」
「本当に?」
「間違いないよ。だって、ここは天使の街なんだから。」
「私みたいに、空が飛べる子がいるの?」
「ほら、見てごらん。」
そう言って父親が父親が指差した先には、学校のような建物。
その上には、何人もの人間が空を飛んでいることが、遠目にも見えた。
「パパ!」
「言ったろう。明日からあの学校の幼稚部にエマは行くんだ。
さあ、荷物を降ろすのを手伝っておくれ。」
「分かったわ、パパ。」
20 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 01:38:10.58 ID:12Scx6eE0
そして両親は、車に詰めただけの荷物を降ろし始めた。
エマは自分の宝物の入ったリュックを背負い、家の中に入った。
父親が時々ここに寝泊りをしていたため、テレビや冷蔵庫などの
家電用品は皆揃っていた。エマは背負っていた荷物を置き、
椅子に腰掛けた。しかし、すぐに立ち上がり
落ち着きのない子供のようにそわそわと歩き回った。
(私と同じような子がいるなんて!早く会いたいわ!)
明日になれば学校へ行く事になる。しかし、その明日までの時間が
エマには待てなかった。こっそりと裏口から抜け出て、学校を目指して
走り出していた。
近くにまで来ると、グラウンドの様子を伺う。ちょうどその時、飛んでいた
少女達が次々とグラウントへ着地する。そう人数は多くなく、全員で五人かな、
とエマは数えていた。これから着地を行う一人の少女に、エマは目がいった。
相手も、着地アプローチにさしかかったところで、外からこちらを伺う少女
に気づいた。そして、二人とも同時にこう考える。
(あの子、私と同じくらいの歳かな?)
エマは目が合ったと思い、手を振る。すると、着地しかけていた彼女は
着地をやめ、エマの方へ勢いよく飛んできた。
ぶつかるんじゃないか、と一瞬心配になったが、彼女はエマに近づくにつれ
ブレーキをじわじわとかけ、エマの前にすとんと下りた。
褐色の肌をした彼女は、見た目通りに元気ににこにこと話かけてくる。
「こんにちは!あなた、見ない子ね。」
「こんにちは!私はエマ、明日からこの学校に来ることになったの!」
「そうだったの。私はナタリー。よろしくね!エマの友達、第一号!」
「よろしく、ナタリー!」
そう言って二人は握手をかわす。
(こんなにすぐ友達が出来るなんて!今日、ここに来て良かった!)
その頃、両親は居なくなったエマを探していた。
後にこっぴどく母親に叱られたエマは、
今日は学校へ行くのを我慢すれば良かったかな、
そう後悔していた。
21 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 01:39:10.63 ID:12Scx6eE0
22 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 01:39:40.57 ID:12Scx6eE0
あの時、どうして私は助かったのだろう。気が付いた時には、
彼女達は家があった場所で、手を繋ぎ横たわっていた。
つい先ほどまで、重くのしかかっていた瓦礫は綺麗になくなっていた。
だが、血の池の泉となっているもう一つの瓦礫を見て、
両親が助からなかった事も理解した。
もはや我が家は、家と呼べるものではなくなっていた。
ひたすら、瓦礫。その中に、黒く輝く宝石が落ちている。
そうだ、あの生き物に願いを伝え、それから・・・
その先が思い出せなかった。これから先、私達はどうなるのだろう。
宝石をポケットにしまう。まだ目覚めはしていないが、呼吸をしている
事から生きている事は確認出来る妹を見て、私は途方にくれていた。
妹は私のあげたゲーム機をしっかりと両胸に抱いたまま
何も知らないかのように、すやすやと眠っていた。
そのまま空は明るくなり、夜の終わりを知らせる。
空に轟音を轟かせる、悪魔の飛行機。
私はそれを憎しみを込めて、見えなくなるまで
目で追いかけ続ける。
妹は、その音に驚き目を覚ましていた。
私達の住んでいる街にはそれ以上の
空爆が行われる事もなく、地上戦の戦場にも
なる事はなかった。それだけは幸いであった。
代わりに私達を待っていたものは、飢えだった。
近所の大人たちも、哀れな姉妹にいくらかの施しを与えて
くれていたものの、大人達も自分が食べるだけの蓄えしか
ほとんど持っておらず、他者を施す余裕などなかったようだ。
施しを求めて、妹とさまよい歩く。
この頃は、そんな日々が続いていた。
23 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 01:40:12.70 ID:12Scx6eE0
私とラビアは手を繋ぎ、通りに呆然と立っていた。
あの破壊と殺戮はもう影をひそめ、
町には異国の軍人が歩きまわっていた。
ときどき、異国の軍人が食料を姉妹に渡す。
心の底から彼らが憎くて仕方がなかった。
しかし、妹のためにその憎悪を押し殺し、
施しを受ける。私が居なくなったりしたら、
誰が妹を守るのであろうか。その責任感だけが、
私の中での守るべき使命となっていた。
私とラビアは手を繋ぎ、通りに呆然と立っていた。
こうする事が、彼らの同情を誘い、施して貰う確率を高める。
私にとってはこの上ない屈辱。しかし、こうする他にないのだ。
24 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 01:41:23.23 ID:12Scx6eE0
三人組の、白人の兵隊が、私達の目の前に止まった。
「おい、見ろよ。Nintendoのゲームだぜ。」
「ああ?ああ、あれの事か。焼け爛れて、何だか分からなかったぜ。」
「お譲ちゃん、ちょっとだけそれ見せてくれよ。」
言葉が分からないが、彼らが指差しているものはラビアの持つ、
私からのプレゼントであった。ラビアはぐっとゲーム機を抱きしめ離そうとしない。
そうしているうちに、米兵はラビアから無理やり、ゲーム機を奪い取った。
「すげえ!こいつ動くぜ!」
「信じられねえ!Nintendoはクールなもん作ったな!」
「おい、これくれよ!代わりにこれやるからさ!」
兵隊が差し出したのは、沢山のチョコ、ビスケット、ガム。
交換して欲しいとでも言っているのだろうか。そんな事は許されない。
それは、私が妹にプレゼントしたものなのだ。
首を振って拒否する。それでも、彼らはニヤニヤと私達を見下す。
やがて私は、米兵からそれを取り替えそうと、手を伸ばした。
頬に衝撃が走る。五歳の少女によくもこんな事が出来たものだ、
と今でも思う。頬にくっきりと残る平手打ちが、ゲーム機の代わりに
私に渡された。米兵は、私達の足元に食料をばらまき、
そのまま歩いて行ってしまっていた。
25 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 01:42:04.80 ID:12Scx6eE0
「ナイマ・・・」
妹が涙目で私を見る。安心しなさい。絶対に取り返す。
そう決意して、彼らの後を追うために走り出そうとしていた。
私は、これまでにないほどの憎悪の視線を彼らに向けていた。
突然、ゲーム機を手に持った男が、泡を吹いて倒れた。
「おい・・・?ふざけてんのか?」
残った二人の男が動揺している様子が見える。やがて洒落にならない
自体が起きていると判断したのか、落とした荷物を忘れて男を担いで行った。
ゆっくりその荷物に近づき、拾い上げる。それを妹の手に戻す。
「安心なさい。これはラビアのものよ。」
ラビアは一応は渡された宝物を受け取るが、視線は男が担がれて行った
方向を向いたままだった。
「ナイマ、どうしてあの兵隊さん倒れたの?」
その時は、自分でも何が起きたのか分からなかった。
けれども、確かな確信があったので、こう答えた。
「罪人は皆、ああなるのよ。」
26 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 01:42:32.40 ID:12Scx6eE0
その夜、私の心の中に声が聞こえた。
(ナイマ、起きているかい?)
その声に聞き覚えのある私は、飛び起きた。
妹はすやすやと、隣で寝息を立てている。
それに、この声には聞き覚えがある。
あの瓦礫の下で見た動物の声。
(少し話がしたいんだけれど、いいかい?)
「どういう事なの?」
(声に出さなくてもいい。心の中で念じるだけで、僕には聞こえるから。)
(・・・?)
(君は今日、早速魔力を使ったね?)
(・・・見に覚えがないわ。)
(そうかい?殺したいほど憎んだら、死んでしまった人間が居たじゃないか。)
(・・・あれは私がやったの?)
(そうだよ、君が魔法の力でやったこそさ。でも、なんでそんな事を聞くんだい?
君はもう、魔法少女じゃないか!)
(魔法・・・少女・・・)
(そうだよ、思い出したかい?僕との契約!)
そういえば、契約成立や魔法少女などと言っていた気もする。
状況が状況だったために、うろ覚えではあったが。
27 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 01:43:34.10 ID:12Scx6eE0
(思い出してくれて良かったよ。君は魔法少女になった。だから、
これから魔女を倒さねばならない。)
(・・・?)
(君達の敵となる者のこと、それらを魔女と呼ぶんだ。そして、
君が使った魔力を回復させるためには、
魔女を倒してグリーフシードと呼ばれる宝石を集めなければならない。)
そんな事をいっぺんに言われても、理解できる筈もなかった。
私はこの時、まだ五歳という幼さなのだ。
(分からないようであれば、簡単に説明するよ。魔女を倒して、
魔女の持つ宝石を集めなければ、君はやがて死んでしまうだろう。)
(私が・・・死ぬ・・・?)
(そう、死ぬんだよ。だから、そうならないためにも、
ちゃんと魔女退治も頑張ってね。それだけ伝えに来たんだ!)
(その魔女退治を頑張れば、私は死なないの?)
(そうとも限らない。魔女に負けてしまっても、君は死んでしまうだろう。
君の頑張り次第ってところだね!)
これが、あの晩に助かった私と妹の命の代償か。
初めて知らされる事実に戸惑いはするものの、
決して高い代償ではないと、そう考えた。
(なんとなくは分かったわ。)
(理解してくれて助かるよ。それじゃ、僕はもう行くね!)
そういい残すと、もう頭の中の声は聞こえなくなった。
非常に単純な事のようだった。魔女と戦い、負けない限りは
私は生きながらえる事が出来る。それは、単純ではあるが
実行には困難が伴うに違いない。
それでも。
妹がいる限り、私は負けない。
28 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 01:44:55.46 ID:12Scx6eE0
29 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga sage]:2011/06/06(月) 01:46:30.19 ID:12Scx6eE0
今日はここまでです。
読んでくれてる人が居るかわからないけど
続きはまた明日。
30 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)
[sage]:2011/06/06(月) 01:57:27.01 ID:fEqIseN6o
面白そうだな
もう遅いから明日じっくり読むとしよう
31 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/06(月) 03:59:33.74 ID:RzEKHJCDO
乙。
なかなか興味深い。
32 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga sage]:2011/06/06(月) 19:36:59.10 ID:12Scx6eE0
読んでくれた人が居てよかった・・・
続きいきます。
33 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 19:37:42.01 ID:12Scx6eE0
34 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 19:38:26.49 ID:12Scx6eE0
そのような魔法少女の事情は、遠く離れたアメリカのエマが
八歳になった今、ついに知る事となった。
もっとも、路肩にうずくまり野宿をしている最中に
テレパシーによって伝えられた事ではなく、
暖かい教室で友人に囲まれ、厳しくも優しい人間の教師から
教えられた事である、という違いはあったが。
「けれど、皆さんには心配する事はありません。魔女退治というのは、
昔は魔法少女にしか行えないものだと考えられていました。しかし、
魔女の持つ結界にさえ入ってしまえば、我がアメリカの兵隊さん達も
魔女をやっつける事が出来るのです。」
「ですから、皆さんは何も気にせず、これからも同じように
ここで勉強とスポーツに励んでください。グリーフシードは、みんな
研究所から提供されますから。」
時々行われる身体検査、それに伴う魔力の使用。その後に必ず行われる、
「検疫」と呼ばれる、彼女達のソウルジェムの一時的な回収。
それは、グリーフシードを使い、彼女達の魔力を回復させるための
ものだったのだ、とエマは理解した。
「でも、結界を見つけるのは魔法少女だけにしか出来ないんですよね?」
質問をするナタリー。この子はエマから見ても、とても頭の回転がいい
少女であった。生徒の人数の少ない学校ではあったが、
その中でも同年代では常にトップの成績を維持していた。
「その通りです。たしかに、結界を探しあてるのは現代科学でも不可能です。
魔法少女の手を借りるしかありません。ですが、その役目は、
ここで十分に訓練をして、なおかつ成績が優秀な高等部の生徒が行います。」
「えー、じゃあ私勉強さぼっちゃおうかな・・・」
35 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 19:39:01.45 ID:12Scx6eE0
さらっと嫌味を流すナタリー。成績のランキングの結果と
彼女の八歳という年齢から、彼女はこれが嫌味だとは思っていない。
「大丈夫ですよ。結界を探すだけならば、危険はほとんどありません。
それに、結界探しの魔法少女に選抜されれば、国から
色んな補助が貰えるんですよ。」
ここまで言って教師は、国からの補助などと言っても
教え子達があまりピンと理解していない事に気づいた。
「こう言い換えましょうか。結界探しの魔法少女に選抜されれば、
遊園地や映画館、そういった所で遊ぶのが全額無料になるのですよ。」
「「え、本当!?」」
皆がわっとざわめく。
「先生、私がんばります!」
「ナタリーったら・・・」
エマは少し呆れた様子でナタリーを見る。
視線に気づいた彼女は、エマにVサインを送っていた。
まるで、「私が遊園地行き放題に連れていってやる!」
とでも言っているかのように。
「その意気ですよ。さあ、皆さん、勉強を頑張りましょう!」
「「はーい!」」
36 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 19:39:44.93 ID:12Scx6eE0
37 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 19:40:13.51 ID:12Scx6eE0
後ろめたい事をしている自覚はあった。きっと私が死んだら、
神に救われる事はないであろう。
私は魔力を使い、盗み、傷つけ、奪った。それを、妹に与え続けた。
戦争で家主の居なくなった家も見つかった。食料と金銭は主に盗み、
たまに兵隊に憎しみをぶつけ、奪った。
妹は、私がどのようにして食事を用意しているのか、疑問に思っていた
ことであろう。しかし妹にそれを知らせるわけには断じていかない。
私が悪事に手を染めているなどと知れば、
この子はとても悲しむであろう。
その事によって、妹から嫌われるのが怖かった。
それに、妹を守って生きていくには、他に方法がなかった。
妹を守るためには、私はどんな事だってする覚悟でいた。
その思いが、私を強くしていた。
私はどのような魔女と戦っても、負けなかった。
「ナイマ、その・・・」
「どうしたの、ラビア。」
「・・・ごめんね、何でもない。」
頭もいい子なのだ。何かに気づかれないわけがないだろう。
しかし、妹もまた、他に方法がない事を知っているのだ。
彼女は、想像出来る悪い事柄を、直視しないようにしているだけだ。
お互いに知らない、気づかない振りをする。
だが、それももうすぐ終わる。私も成長し、
街で雇ってもらえるだけの年齢となりつつあったのだ。
それまでの辛抱だと思い、私はこう祈っていた。
神よ、私を許して下さい。
38 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 19:40:48.92 ID:12Scx6eE0
39 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 19:41:17.58 ID:12Scx6eE0
その日、ナタリーは軍服姿の男に付き添われ、泣きながら帰ってきた。
十五歳となり、目標であった結界探しの任を与えられた初仕事の帰り。
初陣の勝利の報告を、いつもの自慢話のように聞けると思っていたエマは、
ナタリーに声をかける事も出来なかった。
エマは教師に話を聞きに行くと、相手もエマを探していたようで、
このように告げた。
「ナタリーの事で話があります。いいかしら?」
一応、断りは入れているが、有無を言わさず教師はエマの手を握り、
普段はあまり使われないミーティングルームへと入った。
教師は部屋の鍵をかけると、こう続ける。
「魔女討伐部隊が、致命的な打撃を受けたようです。
このような事態は、魔女討伐の戦術が確立されてからは、
起きていなかったのですが・・・」
「致命的な打撃?」
「分かりやすく例えます。120名のアメリカ陸軍特殊部隊が、魔女の結界へ突入。
戻ってきたのは、31名でした。」
エマは絶句した。教師はまだ続ける。
「戻っては来れたものの、傷が深すぎて亡くなった者が13名。
今、連絡が取れている中で確認できる生存者は、18名・・・
教師が思い出したように携帯電話を取り出す。
それを一目見た後、教師は続けた。
「17名です。不幸中の幸いではありますが、この魔女を倒す事には
成功しました。今の問題は、ナタリーの事です。」
エマはその名前を聞き、彼女の持っていた疑問を
思い出して教師にぶつける。
「ナタリーは?あの子はどうしたのですか?」
それこそが聞きたかった事だった。
40 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 19:42:19.58 ID:12Scx6eE0
「ナタリーは、目の前の多くの死に動揺しています。
あなた達、魔法少女のソウルジェムは、絶望を感じる事によっても
魔力を消耗してゆきます。」
「魔法少女の魔力が尽きてしまったらどうなるか・・・
それは授業でも説明しましたよね。」
成績が良いほうではないエマでも、それくらいは知っていた。
魔力の枯渇は、すなわち魔法少女の死。
大げさではあるが、万が一の事がないとは言い切れない。
「大変。ナタリーを慰めてあげないと。」
「エマにしては勘がいいのね。私が言いたかったのは、そういう事なの。」
さすがにこの事態の中での冗談は聞き過ごせない。
じっと教師の目を見つめる。
「・・・ごめんなさい。悪気はなかったの。ナタリーと一番仲の良い、
あなたにしかお願い出来ないの。」
「分かりました。ナタリーはまだ教室に?」
「すぐに家に帰すように指示してあるから、今頃帰り道では
ないかしら。あの子をよろしくね。」
気分は少し悪いが、教師から謝ったのだ。水に流そう
そうエマは考えた。それよりも大事な事があるのだ。
この街では隠す必要もない。
エマは全速力で、ナタリーの家へ文字通り飛んで行った。
41 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 19:42:50.07 ID:12Scx6eE0
ナタリーの家の前に着くと、まだ電気が点いていない事に
エマは気づいた。どうやら先回りしてしまっていたらしい。
彼女には家族がいないため、彼女が戻らないと、光が灯る事はないのだ。
玄関の前で少し待つと、やがて通りから彼女の姿と、先ほど見た軍服の男が
一緒に歩いてくるのが見えた。
「ナタリー!」
「エマ。」
何をするかはすでに決めていた。エマはナタリーの頭を抱き、
自分の胸に押し当てる。そしてゆっくりと、ナタリーの頭をなでる。
「エマ・・・エマ・・・!」
その後どうするかは考えていなかった。なんて言葉をかけていいのか
分からず、ただそのまま、彼女の頭をなで続ける。
軍服姿の男が、私に耳打つようにこう言う。
「後は頼んでもいいかな?」
小さく頷くと、軍服姿の男は、足音をたてないようにそろそろと離れ、
やがて通りの暗闇へと消えていった。
42 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 19:43:18.50 ID:12Scx6eE0
どのくらいの時が経ったであろう。ナタリーは私から少し離れ、
涙を拭った。
「ありがとうエマ。もう、大丈夫だから・・・」
「あのさ、私今日ここに泊めてもらっていい?」
「そんな・・・明日も学校あるのに?」
「明日さぼっちゃおうよ。いつだったか、ナタリーが言ってたじゃない。
映画でもなんでもおごってくれるって。それ、明日ね!」
ちょっと露骨すぎるかと心配するエマだったが、ナタリーは小さく
笑って受け止めてくれたように見えた。
「分かったわ、明日はお休みね。」
そう言って、彼女は玄関のドアを開ける。
二人でご飯を食べて、少したわいもない話をし、
そして早めに二人はベッドに潜り込んだ。
ナタリーが寝静まったのを確認してから、エマはこっそり起きて
自宅へと電話をかける。
予想通り、母親は激怒の声をたくさんプレゼントしてくれたが、
事情を話すと納得してくれたようだった。学校への欠席連絡も
しておいてくれると言っていたので、明日は遠慮なく学校を休める。
そして、再びそろそろとベッドルームへ戻り、寝静まっている
彼女の隣で横になった。
43 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 19:44:05.59 ID:12Scx6eE0
昨日の今日で忘れるわけにはいかないだろう。
エマもそれくらいは理解していた。表情はまだ曇りがちな
ナタリーではあったが、それでも昨日よりは笑顔が増え、
いつもの元気をエマに見せてくれようとしていた。
一通り遊びまわり、家に帰る途中の道でナタリーが口を開いた。
「今日はありがとう、エマ。おかげで、気分が少し晴れたわ。」
「ありがとうなんてこっちの台詞よ。本当に全部おごってもらえるなんて!」
「そんなのいいのよ、研究所から貰える補助金には余裕があるからね。
それで・・・エマの帰り道ってこっちだったっけ?」
「あ。なんとなく、またナタリーの家に帰るつもりだった。」
「だめよ、さすがに明日は学校へ行きましょう。
皆も心配してると思うし。」
「そうだね、じゃあ私は家に帰るよ。また明日ね、ナタリー。」
「また明日ね、エマ。」
44 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 19:44:40.37 ID:12Scx6eE0
軽いハグをして、別れる。エマが振り返り、
家への道を数歩だけしか歩かないところで、
ナタリーがエマの背中へ向けて声をかけた。
「私、軍属になろうと思ってるの。」
「ナタリー?」
数歩だけ歩いた道をまた駆け戻り、ナタリーの元へ近づく。
「私は、今まで魔女退治があんなに危険なものだと
思ってもいなかった。私達が案内して、
兵隊さんが魔女をやっつけて、それでおしまいだと思っていた。」
「けれども、実際は違ってた。魔女退治は、兵隊さん達も命がけで
やっていた事なのよ。それを思い知らされた。」
「だからって、ナタリーも兵隊になるなんて・・・」
「魔女退治をする理由は、市民の安全を守る事が一つ。
もう一つは、私達、魔法少女のためのグリーフシードなのよ。」
「私は、魔女退治の危険を知ってしまった。だからこそ、
関係がない兵隊さんに頼るのではなく、私も兵隊として
魔女と戦いたい。」
エマは何も言えなかった。何もせずに安全地帯で
グリーフシードを求めて待っている、そんな自分を
責められているようにも思えた。
「ごめんなさい、エマを責めるつもりなんてないの。
ただ・・・」
「ナタリー、言いたい事は分かるよ。けれど、ナタリーが
もしも死んじゃったら、私悲しいよ。」
「それでも、もう決めたの。私は、魔女退治のために
兵隊になる。」
そう言い切り、ナタリーはエマの目を見据えた。
彼女には彼女のプライドと信念を持って、この宣言を
エマに向けているのだ。
45 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 19:45:17.67 ID:12Scx6eE0
「じゃあ、絶対死なないって私と約束できる?」
「絶対なんて・・・それは分からないけれど。」
「それじゃあだめ。ナタリー一人を兵隊にするなんて、
私が許さない。」
「・・・どういう事なの?」
「私も一緒に兵隊になる。ナタリーを守る。」
「それこそバカな事を言わないで。本当に危険な事なのよ。」
「そんなに危険な事に一人で首を突っ込もうなんて、そっちのほうが
バカげているわよ。」
長い沈黙。ナタリーがさきほどエマを見据えた目を、今度はエマが
ナタリーに向けていた。
「私は・・・もう家族がいない。けれど、エマには家族がいるでしょう。
彼らを悲しませるような事をしてはいけないわ。」
「そんな事を言うと怒るわよ。ナタリーが死んだら、私が悲しむって
言ってるじゃない。ナタリーにとっては、そんなに軽い事なの?」
「ええ、全然軽いわ。比べるのがバカらしくなるくらい。」
「なっ・・・!」
46 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 19:45:53.37 ID:12Scx6eE0
こういう言い方をする子ではなかった、とエマは驚く。
同時に、ナタリーの手を掴もうとした。
その手は肝心のナタリーの手によってはじかれた。
静かな通りに、小さく「パン」と響く。
「エマに何が分かるっていうの。私のパパも、兵隊さんだった。
パパは遠い国で戦争をして、帰ってこなかった。
だからこそ、失う物の重みが分かるの。」
言葉を返せない。
「エマが死んだら、エマのパパとママがどういう気持ちをするのか、
私は知っているの。あなたは、それがどういう気持ちなのか
ちっとも分かっていない。分かった振りをしている子供なのよ。」
「ナタリー・・・?」
「なんで、私が成績優秀で、エマの成績が悪いか教えてあげる。
私は、自分ひとりの力で生きていくしかないと知っているから、
勉強も運動も頑張れる。頑張るしかないの。
エマは、いざとなればパパやママに甘える事が出来る。
だから、エマは私から見れば、不真面目なのよ。」
「甘えた人生を送っているのよ。」
ここまで言われると、何か言い返したい。しかし、悔しいが
言い返す隙のない正論でもあった。反論の余地がない。
「そんなエマが、私を助けるですって?その同情自体が、
私にとっては屈辱よ。エマ。」
しかし、ここまで相手を罵倒する言葉を並べる子ではなかった。
エマの頬に、涙がこぼれる。
「どうしてそんな言い方をするの・・・?」
「もう一度言うわ。エマの同情自体が、私にとっての屈辱よ。」
47 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 19:46:24.97 ID:12Scx6eE0
涙がこぼれる理由は、罵倒に耐えられなくなったわけではない。
二人とも、お互いの心の内くらいはわかる、親友なのだ。
ナタリーの決意を崩す事が出来ない。協力してあげる事さえ出来ない。
このような無力感を味わった事は、エマはこれが初めてであった。
やがて、無言のままエマは振り返り、自宅へ向かって歩き出した。
ナタリーの顔を見るつもりはなかった。
今ではエマが親友に向けることの出来る、唯一の優しさだった。
48 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 19:47:43.65 ID:12Scx6eE0
次の日も、エマは学校を休んだ。両親は何があったのか分からず、
エマを元気付けようとするが、それは無駄な努力だった。
その次の日も休みたかったが、このままでは何も始まらない、と
自身に言い聞かせ、覚悟を決めて学校へ向かった。
しかし、ナタリーは学校に来なくなっていた。成績優秀な彼女が
軍属を希望した事により、その希望はすぐに受理され、
はるか遠方にある魔法少女の訓練施設へ彼女が向かった。
エマはそう、教師から打ち明けられた。
エマは、一日学校を休むという軽率な自分の選択を呪った。
これじゃあ、どうにもならないじゃない・・・
(甘えた人生を送っているのよ、か。)
そう言われても仕方がない。だが、今日からは違う。
「先生、兵隊さんになるのって、どれだけの成績を取ればいいの?」
「エマ、あなたは兵隊になる事は絶対にないわ。」
「どうして?ナタリーだけひいきしないで。」
「あなたの魔法の研究は、平和利用や医療目的での調査。
それしか私達には認められていないの。あなたを軍属にさせる
権限なんて、私達にはないのよ。」
「どうして・・・そんな・・・」
思い当たるところはあった。エマの父親だ。
帰ったらまず説得しよう。そうエマは心に決める。
だがそれは、無駄な努力であった。
実のところ、エマの成績は取り立てて悪かったわけではない。
だが、教師の采配一つでテストの点数も、運動の点数も、
魔力の点数も、操作出来てしまうのだ。
どれだけ頑張っても、エマは軍属の条件となる点数を
満たす事は出来ない。そのように仕向けたのは、
魔法少女研究の第一人者でもある、彼女の父親なのだから。
だが、それをエマが知る事は出来なかった。
彼女は別れてしまった親友にもう一度会うために、
学業、運動、魔力の鍛錬に励んだ。
その無駄な努力を、それからのエマは二年近く継続していた。
49 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 19:48:17.86 ID:12Scx6eE0
50 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 19:49:19.46 ID:12Scx6eE0
私は立派に働ける年齢となった。その日の仕事を終えて
家に戻ると、元気にラビアが出迎えてくれた。
やっと手に入れる事の出来た、平穏な生活。
今、私の目の前にあるのは、にこにこと笑いながら食事の
支度をしている妹と、妹が作ってくれた夕飯だ。
質素ではあるが、誰かを傷つけて手に入れたものではない。
もう、妹に対しても後ろめたい事はない。
最初のうちは、生きていければそれで十分だと考えていた。
生活にゆとりが生まれると、妹を学校に行かせたくなった。
妹は私に負担をかけまいと、表向きは反対しているものの
彼女は勉強や読書がとても好きなのを私は知っているのだ。
妹が大学へ行き、それから仕事に就き。
やがて、彼女が彼女を支えてくれる男性を見つけたならば、
私は妹から離れよう。
私は妹から少し距離を置き、常に彼女を見守りながら
この街に住み、ひっそりと魔女退治をしながら暮らそう。
以前には考えられなかったが、このような思考が出来るほどに
私達の生活は安定していた。
やれ新聞やニュースでは、経済制裁がどうのとは言っているが
私の今の仕事にはあまり関係がないのが幸いだ。
まだまだ時間はかかるであろう。だが、妹の明るい未来を
想像する事が出来る。それを実現させる事も、これまで私が
歩んできた人生から見れば、容易な事のように思える。
ああ、これが生きる希望というものなのね。
私は、そう考えていた。
51 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 19:49:58.69 ID:12Scx6eE0
「ジャックポッドよりストーム各機へ、要撃機が貴隊の進路に上がっている。
数は2、両機フルクラム(MIG-29戦闘機)と思われる。今、データリンクを送る。」
「攻撃機隊が目をつけられると厄介だ。この空域から脅威を排除せよ。」
「ストーム1、ウィルコ。(了解、命令を実行します)」
「ストーム2、ウィルコ。」
「ジャックポッドよりストーム各機へ、電子戦機が仕事をしてくれている。
奴らはお前さんがたにケツを向けて、彼方を探している。」
「だろうな、奴らはホモヤローが多いって言うしな。
俺達みたいなギャルには、用がないってわけだ。」
「そうとも限らないぜ。奴らがホモヤローだってのなら、
ケツを向けてきているのはそういう事だろう?」
「バカヤロウ、笑わせるんじゃねえよ!
・・・ストーム1、エンゲージ。(交戦開始)」
「ストーム2、エンゲージ。」
パイロットに緊張が走る。いくら敵は自分を見えていないとはいえ、
相手も自分を殺すための牙を持っているのだ。
残念ながら、それを封じ込める術は彼らの手にはない。
撃たれるのか、撃たれないのかの違いを生むのは、
現代の航空戦ではひとえに電子戦機の活躍による所が大きい。
「ストーム1、ボギー(敵機)をロック。FOX1。(ミサイル発射)」
「ストーム2、FOX1。」
暗闇の中を、4つの炎の筋が通り過ぎる。
見る者をうっとりとさせる、死の光。昔はそうでもなかったのだが、
現代のこの炎の筋は、敵を見つけられずウロウロしているような
航空機には、まず間違いなく命中する。
それでも念を押して、それぞれの目標に2発のミサイルを発射させる。
この時点で、哀れな敵機には生き残る望みがほとんどなくなった。
52 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 19:50:26.92 ID:12Scx6eE0
「目標2機の撃墜を確認。ホモヤロー達はイっちまったようだ。」
「ストーム1よりジャックポッド、あんまり笑わせんな。
次はどうすればいい?」
「飛行計画に沿って、そのまま周辺空域の警戒のために留まれ。
出てくるかはわからんが、敵機がまた上がったら知らせる。」
「頼むぜ、出来ればエースって称号になって国に帰りたい。」
「ジャックポッドよりストーム1、残念ながらその望みはかないそうにない。
もう間もなくすれば、攻撃隊が貴隊前方の敵飛行場を叩き潰す。」
「クッソ。俺らの仕事って、あんまりねえんじゃねえのか!」
「今の撃墜で最後になるかもしれないな。俺達と奴らとで、
数が違いすぎる。」
「へーへー、こんな辺鄙な国にまで来て何やらされてんだか俺は。」
大義名分のため、そして独裁者の息の根を止めるため、
再びこの国へ戦いを仕掛けた自国の最高司令官に対して
この言葉を向けたパイロット。彼らの会話は全て記録されると
知っていたため、続きの言葉は心の中で悪態をつくに留めた。
53 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 19:51:03.86 ID:12Scx6eE0
忌まわしいあの轟音。私達の平和、私の両親を奪ったあの音。
今回は幸いな事に、私のいる位置からも、妹の待っている家からも
違う方角から聞こえていた。
停電が起きたのであろうか、家の電気はパっと消えてしまった。
窓から遠くに見える、燃え盛る炎。軍の基地があった場所だ。
またなのか。一体、何度この国を戦場にすれば気が済むのだ。
「ナイマ・・・ナイマ・・・」
妹はあの日と同じように、暗闇の中で私の名を呼んでいる。
忘れかけていた怒りが蘇り、炎に照らされるあいつらの飛行機に目を向ける。
何故、お前達は私達の平和を奪うのか。
何故、私達は平和を願う事すら許されないのか。
お前達が平和を望まないのだというのなら・・・
54 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 19:51:31.53 ID:12Scx6eE0
「メーデー!メーデー!(緊急事態)相棒が落とされた!」
「ジャックポッドよりアックス1、こちらからは敵が確認出来ない!」
「バカ言うな、火を噴いて落とされたんだ!
どこから撃たれているのかも分からない!」
「・・・これは・・・アックス1、アンノウンが高速で貴機の2時方向から来ている!
ブレイク(回避行動)!」
「アックス1、ブレイク!ブレイク!」
そう返答しながら、基地の攻撃を終えた攻撃機のパイロットは、
チャフとフレアー(ミサイル欺瞞システム)をばらまきながら、
回避行動を取った。高速の飛翔体、それはすなわち
ミサイルを意味する。常識の範囲内に限れば。
その常識の範囲に収まらない存在である彼女は、
その両手に抱えた大きな斧で、一つ目の獲物の翼を打ち砕いていた。
そして、暗闇の中でも見えるその両目で次の獲物を見つけると、
先ほどと同じことをするために風を切って接近する。
「?」
攻撃機のパイロットは、キャノピーの向こうに人の姿を見た気がした。
それを認識する間もなく、攻撃機のキャノピーは、中のパイロットごと砕かれた。
55 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 19:52:39.09 ID:12Scx6eE0
「ジャックポッドよりストーム各機、アンノウンが攻撃機隊を落とした。
信じがたいが、目標はステルスと思われる。」
「冗談だろう。俺達の秘蔵のお宝を、なんであいつらが持ってるんだ。」
「だが、そうとしか説明が出来ない。微弱にしか確認が取れないが、
高速移動するレーダー反応が途切れ途切れにある。
貴隊を誘導する、不明機を撃墜せよ。」
「ストーム1、ウィルコ。」
「ストーム2、ウィルコ。」
ステルスなんて、冗談だろう。AWACS(早期警戒機)
のレーダーが捉えられないのでは、彼らの戦闘機に搭載された
レーダーにも捉えられるわけがない。
しかし、ここは軍隊。命令されれば、行くしかない。
また、多少は楽観的な気持ちもあった。
「ステルスって・・・」
「AWACSのレーダーが、少し調子悪いだけだろう。」
そうであって欲しい。いや、多分そうだろう。
なんせ、世界中でステルス戦闘機を作れるほどの国力を持つ国は、
片手で数える程度だ。今戦っている相手は、もちろんそうではない。
56 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 19:53:07.06 ID:12Scx6eE0
彼女は目をこらすと、闇夜にどれだけいるのか分からないほどの
大量の航空機が見えた。そのどれもこれもが、彼女達の平和を
壊そうとする意思を持ち、この空を飛んでいる事には間違いなかった。
やがて彼女は次の獲物を決める。手当たり次第、近い敵から
倒そうと考えたのか。手に持つ斧を次の獲物に向け、勢いよく投げた。
「ストーム各機、撃たれている!ブレイク!ブレイク!」
「ストーム1、ブレイク。」
「ストーム2、ブレイク!」
彼らに向けて飛んでくる物体は、彼らのレーダーに捉える事が出来た。
真っ直ぐ、彼らを示す光点に向かって、近づくもう一つの光点。
回避行動を取ってミサイル避けられるかどうかは、運次第だ。
それぞれの愛機の生むGに抗いながら旋回し、
チャフとフレアーをばらまきながらただただ祈る。
くそっ、撃墜数稼ぎを気にしていたと思ったら、自分が狩られる側に
なっちまうなんて!そう彼らは心に思っていたに違いない。
その飛翔体は、幸運にも彼らを外れた。ストーム編隊の後方へ
飛んでいく光点。旋回している様子もない。その様子は、
ストーム各機に搭載されたレーダーからも確認が出来た。
ミサイルは外れた。そして、このミサイルは目標を見失っている。
あとは燃料が尽きたら、落ちるだけだ。
斧はぴたっと空中で静止し、すぐに来た道を戻った。
その様子は、彼らにもレーダーを通じて確認する事が出来た。
だが、そのような動きをする物体など存在しない。
その思いが、彼らの動きを鈍らせた。
57 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 19:53:58.29 ID:12Scx6eE0
ストーム1と呼ばれていたF15戦闘機の二つのエンジンのちょうど真ん中に、
斧は突き刺さった。それはそのまま、戦闘機をノコギリで二等分するかのように
破片を撒き散らしながら進み、そして通りぬけた。
そしてF15戦闘機だったものは、今や火の玉となり地面へ向かって落ちていた。
その様子を見た寮機のパイロットが、興奮して怒鳴る。
「わけがわからねえ!どうなってんだ!」
「落ち着けストーム2!撤収だ、逃げろ!」
「行けつっておいて逃げろだと、ふざけんな!
どっから撃たれているのかもわからねえ!
どこに逃げればいいんだよ!!」
「とにかく、来た道を引き返せ!全速だ!念のために、
空中給油機の確保もしてある!」
「ストーム2、ウィルコ!」
パニック状態ではあったが、訓練されたとおりにパイロットの体は
動く。命令通り、乗機を旋回させ、来た道を戻ろうとする。
何かが見えるのではないかと、周囲の暗闇に目をこらす。
当然、何も見えなかった。バックミラーを確認してみる。
何かが見えた。光の反射だろうか。
ミラー越しにではなく、彼は首を後ろに向け、直接見る。
彼らのヘルメットは、赤外線暗視ゴーグルの機能も持っていたからだ。
58 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 19:54:41.73 ID:12Scx6eE0
「人・・・?」
ストーム2が旋回行動を終えた頃に、彼女は戦闘機の後ろに付く。
暗闇の中、他人からは伺えないその表情からは、
絶対に逃がさんとする気迫が漲っていた。
「信じられねえ・・・」
「どうした、ストーム2!」
「女の子が・・・いるんだ・・・!」
「パニックになるな!冷静になれ!」
彼は発狂寸前ではあるが、まだパイロットとしては冷静であった。
敵機に後ろに付かれた時のための、S時の回避運動を取りながら
とにかく逃げようとしていた。だが、少女はいつまでもついてきていた。
(逃がすつもりなんてない。地獄に落ちろ。)
再び放り投げられた斧が、眩しい輝きを発している
ストーム2の右エンジンに飲み込まれる。
次の瞬間には、ストーム2と呼ばれていたものも
大きな火の玉となり、しばらく真っ直ぐ飛んだあとに
地面へと落ちていった。
59 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 19:55:16.51 ID:12Scx6eE0
その様子を見届けた私は、再び次の獲物を探す作業に入った。
この街を守りさえすれば、妹が危機に晒される事はない。
こうしてあいつらを叩き潰し、あまりにも被害が大きくなれば、
あいつらも戦争を諦めるかもしれない。そう考えた。
いや、諦めなくても構いはしない。
その時は、皆殺しにしてやる。
60 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 19:55:53.38 ID:12Scx6eE0
61 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 19:56:20.82 ID:12Scx6eE0
ニュースでは、遠い国で始まった戦争の様子が伝えられていた。
一触即発の国際情勢ではあったが、ついに始まってしまった、
そうエマは考えていた。彼女はずっと心に秘めていた心配事を、
彼女の父親に打ち明ける。
「ねえパパ。」
「なんだい、エマ。」
「魔法少女も、この戦争に参加させられるの?」
「そんな事はないよ。ナタリーの事なら、心配はいらないよ。」
「ナタリーの事、知っているの?」
「ああ。彼女なら、今ごろ軍の訓練施設で、訓練していることだろう。」
「本当に?」
「本当だとも。」
嘘だった。問題の日に失われたアメリカ空軍機は、16機にも及んだ。
現代の航空機の価格、それとパイロットの育成費用を考えると、
それは途方もない損害。諜報部の調査によれば、
かの国に軍用魔法少女は居ないはずだった。だが
帰還できたパイロット、オペレーターの証言、会話記録を洗うと
その被害は魔法少女によって生み出されたものだという事は
「研究に携わる人間」にはすぐに分かった。
陸の戦いでは、人類は100年前ほどの科学力で
魔法少女と戦う事が出来た。だが、海と空の戦いでは、
現代科学を持ってしても、まだ大きく不利であった。
そこで、飛行が得意技の魔法少女達に命令が下った。
敵対する魔法少女との戦いの命令。敵は、アメリカ本土を攻撃せんと
画策している魔法少女。そう彼女達には伝えられている。
おそらく、ナタリーはそこにいるはずだ。
父親は、そう考えていた。
飛行を得意とする魔法少女は、比較的希少な存在である。
そんな魔法少女の中からさらに選りすぐられ、
軍属となっている魔法少女。ましてや彼女は、非常に優秀だったのだ。
場合によっては、実戦部隊として配備されているのかもしれない。
62 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 19:56:48.87 ID:12Scx6eE0
「パパ。」
「なんだい?」
「誓って。ナタリーが戦場に行っていないって。」
「エマはパパの事が信用できないのかい?」
「ごめんなさい。でも、お願い。誓って。」
「わかった。誓うよ。ナタリーは戦場に行っていない。」
「ありがとう、パパ。」
そう言って、エマは父親におやすみのキスをした。
63 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 19:57:19.96 ID:12Scx6eE0
部屋に戻ったエマは、泣きながら旅支度をしていた。
父親が会話の中に見せた、一瞬の間。
普段から話している、家族にしかわからないほどの
一瞬だったのであろう。
(パパは嘘をついているかもしれない。)
それは、あくまで疑惑にすぎない。しかし、その疑惑の可能性は
どれだけあるのだろう。1%だろうか?それは、1%の確立で
かつての親友が戦場へ行っている事を意味する。
行動の動機は、それで十分だった。
行って、確かめるだけ。彼女はそう考えていた。
(もしも現地にナタリーがいたら・・・その時は、
殴ってでも連れ戻そう。あの時の仕返しよ。)
彼女が死んでしまうかもしれない。しかし、また再び
会えるのかもしれない。そう思うと、エマは不思議な気持ちで
涙を流していた。
(パパ、ママ。またね。)
そう心で言い残し、リュックを背負い、窓からそっと飛び出る。
そして、まずは高度を取り、風に乗る。
はるか、東へ。
64 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/06(月) 19:57:52.91 ID:12Scx6eE0
65 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga sage]:2011/06/06(月) 19:59:22.25 ID:12Scx6eE0
今日はここまでです。
たぶん、続きはまた明日。
66 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)
[sage]:2011/06/06(月) 21:54:35.06 ID:fEqIseN6o
お疲れ
続き待ってます
67 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/07(火) 02:35:34.21 ID:byXqpQRoo
乙乙
これは俺がストライクウィッチーズに求めていたというか
空軍モチーフの魔法少女ものと聞いたときに初め想像した内容にかなり近いな・・・
各国の魔女空軍どうしでガチの戦争して命のやり取りする話だと思ってた
68 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/07(火) 08:10:23.23 ID:73UZWmfDO
16機の戦闘機落とすとか、イラクの魔法少女強過ぎだろ。
マミさん以上因果を抱えてる様には見えないんだが……
あと、パイロット馬鹿じゃね?っていうのも
逃げるなら取りあえずリヒート焚く
69 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga sage]:2011/06/07(火) 19:21:25.79 ID:iBnx1dY90
ただいマミマミ。読んでくれてありがとう、
指摘もくれてありがとう。投下が終わったら
ご指摘についての言い訳をさせてください。
続きいきます。
70 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/07(火) 19:22:23.82 ID:iBnx1dY90
71 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/07(火) 19:22:50.20 ID:iBnx1dY90
「連合軍は、全域で優勢を保っている。現在は、ここまでが
われわれの支配地域だ。」
そう言って少佐が映し出したスクリーンには、この異国の土地の
半分ほどが、青く染まっている地図が映し出されていた。
「だが、地上軍の動きがここ数日の間、足止めされている。
敵からの待ち伏せ攻撃を受けているためだ。
われわれの進撃には航空支援が不可欠であるが、
今はそれが行えていない。理由は聞かされているな。」
「「サー、イエッサー!」」
「よろしい。ならば、詳しい説明は必要がない。
われわれがこの「特別な敵」を叩かない事には、
より被害が増える事だろう。どうだ、それでも戦う事が怖いか!」
「「サー、ノーサー!」」
「その言葉を吐いた事を忘れるな!
さあ行け!あの忌々しいウジ虫を、叩き潰して来い!」
「「USA!USA!」」
まるで野獣の集まりであるかのように、そこにいる人間は足を叩きながら
叫んでいる。その中に、戸惑いを覚えながらも、同じように声を上げる
ナタリーの姿も見えた。
72 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/07(火) 19:23:23.40 ID:iBnx1dY90
「ナイマ、大丈夫?」
妹が私に水を飲ませてくれる。さすがに、連日連夜の魔力の使用は
私の体に相当こたえていた。
グリーフシードの予備が、もうない。この状態では、アメリカ軍と戦う事は
出来ても、魔女が現れた時のための魔力まで失ってしまう。
これ以上の消耗は、もう補給が効かなくなってしまうという事だ。
気に入らないが、今日は休んでおく事にする。魔女が都合良く現れて、
グリーフシードを寄越してくれればいいのだが。
そう考えていると、家のドアからノックの音が聞こえた。
「私、行ってくるわ。」
「待ちなさい!敵の兵隊だったらどうするの?」
「このあたりまでは、まだ敵は来ていないわ。
お隣さんかもしれないじゃない。」
そう言って、ラビアはドアを開けてしまった。
そこに立っていたのは、金髪に青い瞳をした、
おそらくアメリカ人の少女。
歳は私と同じくらいだろうか?
「あの・・・ごめんなさい、ここにアメリカから来た、
私と同じくらいの歳の女の子、来ませんでしたか?」
「いえ、そのような事は。」
この少女はアメリカ人のように見えるが、
流暢に私達と同じ言葉で妹と話すものだ、と思った。
「そうですか・・・ただ、ちょっと気になる事が。
このお家には、あなたと奥にいる子だけ?」
「そうですけれど・・・」
その金髪の少女は、私を見つめながら
何かを考えている様子だった。私に用が
あるのだろうか。だが、私はこの少女を知らない。
私は、懐に隠した銃に手を伸ばしていた。
73 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/07(火) 19:23:50.47 ID:iBnx1dY90
「ごめんなさい、あなたとお話がしたいの。」
そう言って、私の目を見ながら強引に我が家に入る少女。
何の用があるのか知らないが、素性も知らない者が
我が家で勝手を振る舞う事は許されない。
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
妹が声を上げると同時に、私は懐から銃を取り出し、
その少女に向けた。少女は驚いた様子で、足を止めた。
少女を追う形でこちらへ来た妹も、私を見て
目を丸くしている。
「帰れ、アメリカ人。
お前をこの場で殺してもいいのだが、それでは妹が悲しむ。
だから慈悲をくれてやる。帰れ。」
だが、目の前の少女は恐怖を感じていないように
見える。それどころか、私に対して、何か親近感の
ようなものを持っているようにさえ見える。
その余裕が、少し腹立たしい。
「あなたも・・・私と一緒なのね。」
「どういう事だ、アメリカ人。」
「これを見て欲しいの。」
そう言って彼女が荷物から取り出したものは、緑に輝くソウルジェム。
それを一目見ただけで、どういう事なのかは私にも理解が出来た。
「そうか・・・私だけでは、なかったのだな。」
「もう一つ、これを。」
さらに彼女が取り出したものは、鈍く輝くグリーフシード。
それを取り出し、私に放り投げた。
「使って。私には、まだ予備があるから。」
「・・・礼を言う、ありがとう。」
目の前のやりとりを不思議そうに見ていた妹だったが、
とりあえず緊張はほぐれたらしいが、まだ目を丸くしている。
後に聞くと、私がアメリカ人に素直に礼を言っている事が、
妹にとってはそれだけ驚く出来事であったようだ。
74 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/07(火) 19:24:26.26 ID:iBnx1dY90
是非にとラビアが薦めたため、今晩、このエマという
アメリカ人はこの家に泊まることになった。
エマは野宿をするつもりだったから嬉しいと、
ラビアの提案を喜んで受けていた。
私の体調も、みるみる良くなった。後でラビアには、
貰った薬が効いたのだと説明をしておいた。
人種だけでひとくくりに壁を作っていては、
今後損をするかもしれないな。そう、私は考え直していた。
少なくとも、今目の前にいるアメリカ人の少女が、
私の敵になるとは思えなかったためだ。
私が余計な事さえ言わなければ、の話ではあるが。
夕食を終え、三人で床についてから、彼女は
心の声で私に伝えかけてきた。
(どうして、あんなに消耗していたの?)
(そうだな・・・この地には、魔法少女が私しかいない。
魔女退治の連続作業に、魔力の回復が追いつかなくなった。)
お前の国の人間を殺すために魔力を使っていた、とは言えない。
(そっか、大変だったんだね。ねえ、魔女と戦うのって、
どういう気持ち?)
(その質問の意味が分からない。お前は魔女と戦った事が
ないというのか?)
(ええ、ないの。)
(質問を質問で返して悪いが、それなら先ほど頂いたグリーフシードは
どこから生まれたというのだ?)
(あれは私の学校で支給される物なの。本当は非常用なのだけれど。)
私は絶句した。生まれた場所が違うだけで、ここまで違うのか。
この少女は何の苦労もせずこれまでを生きてきたのだろう。
悔しくも、また妬ましくもあった。だが、それを表に出さない
程度には、私には分別があった。
あったつもりだった。
75 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/07(火) 19:24:57.46 ID:iBnx1dY90
(それは羨ましい事だな。お前の質問に答えよう。
魔女との戦いは、そうだな・・・「怖い」。それだけだ。)
またも、返す言葉が見つからないエマ。それを察してか、ナイマが続ける。
(怖いのは、私が死ぬ事ではないんだ。私が死ぬ事によって、
妹を守る者が居なくなってしまう事。それが怖いんだ。)
(ナイマは立派だね。)
(両親を失い、私達には食べる事、飲む事さえ
出来ない時期があった。私は他者から盗み、奪い、
それを自分と妹に与えていたに過ぎない。
そのために、私の持つ力を利用しながらな。
立派などと言われるような事は、してきていない。)
妹に対しては必死に隠している事実を、会ったばかりの
少女に打ち明けてしまった事を少し後悔した。
だが、私達がどのような人生を歩んできたのか、
歩まされてきたのか。それを少しでも、この少女に知らしめたかった。
(ごめんなさい。)
(謝る事でもない。今は、もうそのような生活からは足を洗って、
真面目に働いて生きて行けているからな。)
冷静に私はこう答える。そうしてやっと得られた平穏な
生活は、今、お前達アメリカ人に壊されているのだ。
そう叫びたかった。だが、目の前の少女が悪いわけではない。
そう思い、ひたすら唇を噛み締める。
(ねえ、もし良かったら・・・私とアメリカに来ない?)
(そうすれば、こんな生きるか死ぬかの大変な思いも・・・)
76 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/07(火) 19:25:38.89 ID:iBnx1dY90
そこまでしか聞けず、私は飛び起きて目の前のアメリカ少女の
胸倉を掴み、心の底から叫ぶ。私の忍耐は限界を通り越していた。
「お前達アメリカ人はいつもそうだ!!
右手には銃を持ち、私達の平和を粉々にしていく!!
そしてその銃の弾がなくなれば、今度は左手を差し出して
仲直りの握手の時間だと言う!!」
「どれだけお前達は傲慢なんだ!
私達はただ・・・放っておいて欲しいんだ・・・」
悔し涙が流れる。過去の様々な出来事、自分を抑えられなかった
後悔、叫んだ興奮。何が涙の理由なのかは私にも分からなかった。
「ナイマ、やめて!」
飛び起きた妹が、私の手をエマから離す。被害者のはずなのに、
エマはとても申し訳なさそうな顔をしていた。
「ごめんなさい。本当に・・・」
彼女も泣いているように見えた。そのまま彼女は床に戻らず、
荷物を持ち、玄関へ向かっていくのを目で追う。
その時、彼女は目にしたようだ。綺麗な箱に納められている、
その中に入っているには不釣合いな、焼け焦げ爛れた
私から妹へ送ったプレゼントを。
彼女がじっとそれを見つめている。何か思うところが
あったのであろうか。やがて、彼女の頬を流れる涙は一層強くなり
彼女は外へ飛び出して行った。
「エマさん!」
妹が呼び止める。きっと聞こえはしていないだろう。
ちくりと胸が痛む。私は、後悔しているのだろうか?
いや、これでいい。彼らに情を持ちすぎてはいけない。
明日からは、またアメリカ人狩りが始まるのだ。
これでいいんだ。
貰ったグリーフシードを眺めながら、私はそう思い込む事にした。
77 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/07(火) 19:26:24.94 ID:iBnx1dY90
次の日の晩、私は、万全の体調で狩りに出かける事が出来た。
すべてはエマのおかげであったのだが、それを思い出すと
胸がちくりと痛む。今は忘れよう。
地上からは星一つ見えない今日の夜空は、どうも様子がおかしかった。
ここのところ見慣れていた、殺戮が存在意義である航空機が見えない。
雲がたれこめる上空ではあったが、視界が悪いからという理由ではなく
実際にどこにも飛んでいなかったのだ。ただの一機でさえも。
損害の多さに諦めてくれたのだろうか。
この土地に手を出しさえしなければ、私も戦う必要はなくなる。
だが、そんな期待は最悪の形で裏切られた。
目視で確認するまでもない、この感覚。
魔法少女の持つ魔力の波動が、
四つ私に近づいて来ている。この同じ空で。
昨日感じた、エマの波動は感じ取れない。彼女が居ない事に
少しホっとするが、それは現状の危機には何の関係もない。
(どうする、冷静に考えるんだ・・・)
そこで思い出したのは、昨晩のエマの言葉。
思い出すと忌々しいやら、恥ずかしいやら複雑な気分になるが、
私はすぐに、その気持ちを頭の中から追い出す。大事な事は、
間違いなく彼女達は甘やかされて生きてきているという事だ。
一方、私はもう数える事が面倒になるくらい、
この土地で魔女を相手取り、軍隊を相手取り戦ってきた。
負けるはずがない。私と彼女達で、体に刻み込んできた物が違う。
そうだ、私は妹のために、死ぬわけにはいかない。
妹がいる限り、私は負けない。
決意を固め、私は迫り来る彼女達をじっと待ちかまえていた。
78 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/07(火) 19:26:55.20 ID:iBnx1dY90
その認識は、あまりにも楽観的すぎた。
四人のアメリカから来た魔法少女達の戦闘力は、
魔女退治の実戦経験があまりなかったために、
個人個人の実力はナイマが圧倒的に上回っていた。
問題はナイマが、物量の差というものを楽観視していた事だった。
ナイマが一人を相手にすれば、その一人はすぐにやられる事は
ないにせよ、防戦一方になるに違いない。しかし、
ナイマが一人との戦闘に集中しすぎれば、残る三人は
フリーハンドで彼女を攻撃する事が出来るようになる。
そして、彼女達は兵士、つまりは殺しのプロフェッショナルとして
養成された魔法少女。チームで相手を倒す術に長けているのだ。
第二次大戦以降、アメリカと戦った国家は、その圧倒的な物量の差に
ことごとく絶望を味わってきた。陸軍兵力、海軍艦艇、航空機。それが、
今では魔法少女という土俵でさえ、数の力で押し潰そうとしていたのだ。
79 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/07(火) 19:27:40.79 ID:iBnx1dY90
奴らは、二人一組となって、交互に私の背後を襲ってきていた。
彼女達の一つ一つの攻撃は、言ってしまえばぬるい。
打撃攻撃は実際にすべてさばいていたし、射撃も狙いが甘ければ
威力も大げさな物ではなかった。もっとも、数発受けてしまえば
私も耐えらないであろうが。
問題なのは、こちらから手を出す事が出来ない。
言ってみれば、奴らの戦法は逃げと待ちの戦法だ。
私が距離を詰めても、奴らは同じだけ離れていく。
そのうちに、背後の組が私に近づく。
私の意識がそちらに向けば、今度は逆のいたちごっこ。
これでは埒があかない。私の魔力が尽きるのが先か、
奴らが先か。おそらく奴らは、昨晩のエマのように、
予備のグリーフシードを持ってきているはずだ。
もう補給のきかない私の魔力が尽きるのが先だろう。
モタモタしてはいられない、しかし
無駄な攻撃のために魔力を消耗してもならない。
ギイイィィィィン!
また後ろからだ。雲を突きぬけ、背後から切りかかる
サーベルを素早く斧で振り払う。私を攻撃してきた魔法少女は、
素早く私の側を通り抜け、もうこちらからの攻撃の範囲外だ。
落ち着け、私。チャンスを待て・・・
80 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/07(火) 19:28:17.85 ID:iBnx1dY90
エマは、はるか上空ではじける魔力の波動を感じ取る事が出来た。
どういう事態になっているのかまでは理解できないが、
それぞれの魔力がぶつかりあっているように彼女は感じていた。
その中に、昨日出会ったばかりのナイマの波動。
そして、彼女が探していた、懐かしいナタリーの波動も捉えることが出来た。
そこで起きている事態が、戦闘なのではないかと彼女は
薄々気づいていた。もしそうなのであれば、こんな事は
今すぐ辞めさせなくてはならない。
同じ魔法少女同士で戦い合うなんて!
その決意を胸に、彼女も空へと駆け上がろうとした時に、
「それ」は彼女の目に入ってきた。
この地で、魔法少女同士の殺し合いが行われたからなのか。
この地に、数多の絶望が渦巻いているからだったのか。
「それ」が生まれた理由は、この世界中の誰にも分からない。
見た目には、エマがよく故郷で目にしたハリケーンと同じものであった。
彼女が本で読んだ知識からも、またニュース番組で見たものよりも
遥かに巨大な規模である、という事を除いて。
また、肉眼では分からない、単なるハリケーンとの相違点。
エマは、とてつもなく強大で、禍々しい魔力をその竜巻から
感じ取っていた。
(大変・・・急がないと!)
焦りのままに彼女の体は、厚く雲のたれこめる空へと飛び出した。
81 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/07(火) 19:28:43.21 ID:iBnx1dY90
「ナタリー、どこにも問題はない?」
「ええ、少し魔力を使って疲れた程度。隙を見て
回復させるわ。」
「油断しないようにね。あの魔法少女、信じられないほどに
強い。」
一緒のチームを組んでいる魔法少女にそう言われ、ナタリーは
懐からグリーフシードを取り出し、すぐに回復をさせた。
油断が命取りになる、そうここでは何度も叩き込まれてきた。
万全の態勢で戦わねば、こちらがやられる。
そう思えるほどに、四人で囲んでいるこの敵は強かった。
(ピースメーカーよりマギカ隊各員。大至急、撤退してください。)
脳裏に伝わる、司令部の通信要員からの声。
すぐに勝負が決まるとは思えなかったが、全体的に見れば
こちらが押している戦いだ。何があったのか。
(異常な嵐をこちらで捉えました。断言は出来ませんが、
これまでに伝えられてきた特徴から判断すると、
ワルプルギスの夜と呼ばれる魔女の出現の可能性が極めて高いです。)
(冗談でしょう?)
そうチームのリーダーが返事をした時には、司令部の推測が
当たっているのだと、チームの全員が感じ取れていた。
それほどまでに、強大で禍々しい魔力が、いつの間にか
遠方の空に出来上がっていた竜巻から感じ取れたのだ。
(予測が外れてくれればいいのですが。
あなた達の安全のために繰り返します、大至急、撤退して下さい。)
(・・・マギカリーダーよりピースメーカー、了解した。
撤収するぞ。各員、ヤツからの追撃に気をつけろ。)
(了解。)
82 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/07(火) 19:29:13.93 ID:iBnx1dY90
彼女達は全員、それを知っていた。
学校での教育の中で、教師から聞かされていた。
現出したところの映像記録がないために、
半ば伝説扱いであったその魔女は、書物の記録や
代々の魔法少女の証言から語り継がれ、現代にまで伝わっていた。
はるかなる過去から、何度となく人類に大きな被害をもらたしてきた
超大型の魔女。魔法少女達の、最大最強の敵。
それが今、この地に出現していたのだ。
魔女を狩る者。それが本来の私達の役目であると、
ナタリーは教育を受けてきたし、彼女自身もそう考えていた。
(お言葉ですが。もし魔女が現出するとしたならば、われわれが
それを撃破する必要があるのではないのですか?)
(マギカ4、繰り返します。大至急、撤退して下さい。)
(ナタリー、あなた何を言っているの?そんな心配をしている
余裕なんてないんだ。早くこっちの後ろにつけ。)
チームのリーダーが、怒りまじりの声を隠そうともせず
ぶつけてくる。
(何を言っているのですって?ヤツが現れたら、被害は千を超えるとも、
万にもなるとさえ言われている魔女なんですよ!
みんな知っているでしょう?放っておくのですか!)
(ナタリー、これが最後の警告だ。命令に従え。)
(ピースメーカーよりマギカ4、司令官の命令を伝えます。
各員は戦闘を止め、大至急、撤収してください。)
リーダーがナタリーの隣まで来て、そして思い切り彼女を殴った。
痛みに頬を押さえるその手を無理やり掴みとり、そのまま
力を入れて大きく引っ張る。
「お前一人のわがままに、残りの三人の命を巻き込むわけには
いかないんだ!早く来い!」
リーダーは大声でナタリーの耳元で怒鳴る。だが、
ナタリーは司令部にも伝わるように、あえて心の声で
返事をする。
(そんなバカな事があるの!それとも、一旦戻って
作戦を立て直してから、改めて魔女と戦うというの?
それでは遅すぎるわ!)
83 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/07(火) 19:29:59.42 ID:iBnx1dY90
(司令官の命令を受けて、私達、司令部要員もマギカ隊の
帰還を確認した後、後方に撤収する事を決定しました。)
(・・・・・・その方が、好都合だと。)
足元に広がる暗闇に、爆撃を恐れて眠れぬ日々を過ごす人々。
連合軍を迎え撃つべく、じっと暗闇に紛れる敵兵達。
彼ら何千、何万の命などより、自分達と四人の魔法少女の命の
方が重い。そう、司令部は判断を下していた。
(そんな事など・・・!)
ナタリーはリーダーの手を振り払い、もの凄い加速を付けて逃げる。
リーダーはすぐに追う態勢を見せたものの。
(ピースメーカーよりマギカ隊。猶予がありません。
命令違反者はもう諦めて、大至急撤退して下さい。)
(しかし・・・!)
(あなた達全員を失うわけには行かないのです。)
軍に入って長い彼女には、その理由は理解出来ていた。
自分達のために払われてきた多大な費用と犠牲。
リーダーは唇をぎゅっと噛んで、部下に命令を伝える。
(マギカ隊各員、撤退。撤退するぞ。)
はるかアメリカからやってきた三人の魔法少女は、
一人を残して来た道を引き返して行った。
84 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/07(火) 19:30:28.77 ID:iBnx1dY90
攻撃が止まった事を、私は不思議に感じていた。
だが、おかげでゆっくりと作戦を立てる事が出来る。
多少魔力は使うが、次に近づいた一人を確実に葬る。
その算段が、頭に出来上がっていた頃であった。
だが、私の思考はそこで止まる。これまで、幾多の魔女と
戦ってきたが、それらの魔女を全部足しても足りぬような
魔力の波動を感じたからだった。
いつの間にか作られていた、大きな、とても大きな竜巻。
魔力は、そこから感じ取れていた。感じ取る、というよりは
明らかに「漏れ出して」いた。それほどまでに、
強く禍々しい魔力。
こんな敵を相手にして、私は勝てるのだろうか。
私はあれを止められるのか?汗が吹き出る。
こんな気持ちは初めての事だ。
アメリカから来た四人の敵も、同じ事を考えたようだ。
彼女達は私から距離を取り、一旦集合した後、
やってきた方向へ戻っていくのを私は感じ取っていた。
逃げ帰ったわけだ。
だが、一人だけが逆にこちらに近づいてくる。この状況で
相手している暇などないというのに・・・
85 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/07(火) 19:31:25.74 ID:iBnx1dY90
雷光が轟き出した雲を眺めていると、
やがてその魔法少女が視界に入る。
少し肌の焼けた、私達と似たような外見の魔法少女。
攻撃して来る様子でもなく、ただ両手を上げながら近づく。
降伏の意思なのか?一体、何をしに来たのだろうか。
斧を彼女へ向けて身構えると、相手は語りかけてきた。
「あれを止めるために、あなたを手伝いたい。」
何を言っているのか、理解が出来ない。
「あれのせいで、きっと大勢の人が死んでしまうだろう。
だから、頼むわ。あなたを手伝わせてほしい。」
「お前達が・・・アメリカ人が、
我々の命を尊重するとでも言うのか?」
「今ここで戦争が起きていて、私達がどんな事をしているかも
知っているつもり。しかも、今の今まで殺し合いをしていた
相手に、こんな事を言うのもバカげていると思う。
それでも、お願い。あれを止めるために協力してほしい。)」
協力。頭の中では、そうするしかない、それでも
負けてしまうかもしれないと、十分に理解できていた。
だからと言って、私は今、目の前にいる少女に
彼女の望む返答をするつもりは微塵もなかった。
86 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/07(火) 19:32:04.42 ID:iBnx1dY90
「昨日も似たような事を、誰かに言った。
お前達アメリカ人は、さんざん私達を殺しておきながら、
その後で「さあ仲直りだ」と言う。」
「今はそんな事言っている場合では・・・!」
「そんな事、で済ますのか。ならば問おう。
お前達アメリカ人が生んだ犠牲の数は知っているのか?
お前達が私達にもたらした破壊と殺戮に比べれば、
あんな魔女のもたらす被害などかわいいものだ。」
あの魔女が、どれだけの犠牲を生むのかは
正直に言えば予想も付かない。だが、一旦出した言葉と、
それに伴う感情を止める事が出来ずに、私は続ける。
「犠牲を止めたいから協力したいだと?
犠牲なんてものは、もうとっくに出ているんだ。
12年前の戦争から、今の戦争に至るまでの間に。」
「お前達アメリカ人こそが、私から見れば魔女の災厄そのものだ。」
目の前の彼女もまた、昨日のエマと同じように絶句していた。
アメリカ人の少女達は、軽率な言葉を話して、後から後悔する
クセでも持っているのだろうか。私は昨日の事を思い出しながら
ふとそんな事を考えていた。
「理解が出来たのなら、私の目の前から去れ。
お前の申し出に免じて、今回は慈悲をくれてやる。」
目の前の彼女は、聞こえていないかのように
その場でうなだれている。自らの手で潰してしまった
共闘のチャンスではあったが、この彼女の様子を
見れば、きっと連れていったところで足手まといに
なったに違いない。
私達の平和は、私が守るしかないのだ。
そう心に刻みつけ、私は竜巻へと向かって行った。
87 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/07(火) 19:33:12.74 ID:iBnx1dY90
「ナイマ、待って!」
エマには、一人で竜巻に向かう彼女が見えていた。
実際の声と、心の声との両方で呼び止めてみたが、
どちらも届かなかった様子で、彼女は行ってしまった。
残されていたのは、いつぞやの魔女退治で泣き帰ってきた時と、
同じ様子でうなだれていた親友の姿だけであった。
「ナタリー、あの子と何か話したの!?」
「エマ・・・」
「ナタリー、お願い!今は色々と言いたい事もあるだろうけど、
教えて!あの子と、ナイマと何を話したの!」
「いつだったか、エマが悪魔だっていじめられた。
そういうお話、聞かされた事あったよね。」
「ナタリー・・・?」
「あの子から言われた。私は、本当に悪魔だったんだ。
何も知らない振りをして、正義漢ぶって。そして、
彼女達の心をえぐりとる。私は、そんな悪魔だったんだ。」
「ナタリー、あなたも・・・」
きっと私達は、ナイマから同じような事を言われたのだろう。
ナタリーの様子を見て、エマはそう考えた。
だが、エマはその事実を告げられてから、一日考えていた。
どうすればいいのか、何をすればいいのか。
もう結論は出ていたのだ。
「行こう、ナタリー。」
ナタリーはうなだれたまま、聞こうとしていないようだった。
「行こう、ナタリー。あの子に、ナイマに
行動で私達の意志を見せよう。」
「放っておいたら、ナイマはきっと、全てを憎んだまま
死んじゃう。私はそんなの嫌だ!絶対に認めない!」
「同じ魔法少女なんだから・・・」
88 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/07(火) 19:33:40.44 ID:iBnx1dY90
うなだれていたナタリーの首が持ち上がる。
心に炎が燃えた理由は、エマのそれと、
完全に一致していたわけではなかったが。
彼女は、彼女が親友との絆を捨ててまで、
成し遂げたかった事を思い出したのだ。
「・・・行動で私達の意志を見せるのね?エマ。」
「ナタリー?」
「彼女が私を拒絶しようが、構わない。
勝手に付いていって、勝手に手伝って。
それで魔女が倒せれば、何だっていい。」
「これ以上の余計な犠牲は、出したくない。
民間人にも、軍人にも、魔法少女にも。」
「分かったわ。行こう、ナタリー。」
ナタリーは頷いた。そうして残された二人も、
先ほどより近づいてきている竜巻へ向かっていった。
89 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/07(火) 19:34:35.85 ID:iBnx1dY90
その魔女は、自身の身を守る結界に身を隠す事もなく。
その魔女は、こちらへ何か攻撃をするわけでもなく。
その魔女は、大勢の使い魔によって守られていた。
魔女と戦う時は、いつも必要以上に慎重に戦う
ナイマだった。 彼女が魔女に攻撃を仕掛けるのは、
まず相手の攻撃が一体何なのかを見極てから。
それが彼女の、生き残るための秘訣であった。
だがいくら待てども、この魔女は耳障りな高笑いをしたまま
彼女に攻撃を繰り出して来る事はなかった。
使い魔、と呼ぶには一匹一匹が強力な使い魔が
彼女を散発的に攻撃してくるのみ。
その事から、彼女はある仮説を生み出していた。
ワルプルギスの夜。それは、魔力を持たない普通の人間ですら
視覚出来るほどの巨大な竜巻を作るために、
その巨大な魔力の大半を使ってしまっているのではないか。
そのために、自身はそこまで強大な存在ではなく、
脆弱な自身の本体を守るために、無数の強力な
使い魔を伴っているのではないか、と。
その仮説が、彼女の中で辻褄が合うベストの仮説であった。
使い魔達は強力ではあるが、つい先刻まで四人の魔法少女とも
渡り歩いていた彼女は、多数の敵に攻撃されても
掻い潜る自信を持っていた。
うまく掻い潜り、魔女本体に攻撃を叩き込めれば、
勝機は見えるに違いない。彼女はそう考えていた。
90 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/07(火) 19:35:08.09 ID:iBnx1dY90
意を決し、前へと進む。周りに群がる使い魔達。それらは、
シルエットをゆらりゆらりと変化させているが、やがて私には
それらのシルエットが「人間」に見える事に気づいた。
ただ、それはこのワルプルギスの夜に限った事ではない。
これまでも、人間の形をした使い魔を従えている
魔女を何度も見てきたはずだった。
ならば、何故こんなに違和感があるのだろう。
ああ、そうか。こいつらのシルエットは、私達そっくりだ。
私達、魔法少女に。
こいつに倒された魔法少女は、こうなってしまうのだろうか。
疑問は尽きないが、今はそれを考える時ではない。
私のやる事は一つだけだ。
決して楽な作業ではなかったが、意識を集中させて
襲いかかる使い魔を、時には倒し、時には攻撃をさばき、
私はじわじわと魔女へとの距離を詰めて行く。
もう少しで、魔女の本体に手が届く。
どこでもいい、まずは一撃を・・・
91 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/07(火) 19:35:38.18 ID:iBnx1dY90
突然、目の前が暗くなった。次に、激しい衝撃。
私の体は、地面に向けて落とされている最中だという事を、
耳に聞き取れた風切り音と、体の浮遊感から感じ取っていた。
落ち着け、冷静になれ。
変わらず、目の前は真っ暗なままだ。なにか、大きな物が
私に押し付けられ、そのまま地面に向けて落とされているのだろう。
衝撃によるダメージはあるが、幸い体が動かなくなったわけではない。
目の前のこの物体から、岩をつたうようにして、体を横にずらしていく。
ここだ。その物体が私にかける力が弱まり、より体の自由が
効くようになったところで、私はその物体から身を離す。
大きな黒い塊が、地面へ向けて落ちていくのが見える。
まだ高度には余裕があり、間一髪というところでもなかった。
岩でもぶつけられたのか、はたまた魔女の魔力の塊なのか。
その黒い塊が落ちて行く先を目にした私はぎょっとする。
山が、ない。
推測でしかないが、そこには、山があったのであろう。
そこには、綺麗な正方形の穴がぽっかりと広がっていた。
先ほど私を押しつぶそうとした黒い塊が、その穴めがけて
飛んでいく。あの塊こそが山だったのだ。
やがて山は、自身が抜けた事によって生まれた穴に
すっぽりとはまり、崩れてはいるが元通りの姿を取り戻した。
それはまるで、私が子供の頃に苦手だった、
Nintendoのゲームのようであった。
敵の魔力は弱いかもしれない。今自分で思い出しても
恥ずかしいほどに、とんでもなく甘い考えだった。
この魔女は、文字通りの溢れる魔力を持っている。
何でも出来るし、何からも身を守る必要がない。
それほどまでに、強大な敵だったのだ。
92 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/07(火) 19:36:28.68 ID:iBnx1dY90
その二人は、私が攻撃を受けているところから
見ていたようだった。二人に、特にエマに対しては、
何故ここに来たのかと聞きたいところではあった。
だが、聞いたところで返事は期待できそうにもない。
私と同様に、彼女達も目の前で起きた事が信じられない
様子で、目を丸くしていたからだ。
「ナイマ・・・今のは・・・?」
「ご覧の通りだ。ここまで桁違いの化け物だとは、
私も考えていなかった。」
長い沈黙。
彼女達は、自分が何のためにここに来たのかを、
まるで忘れてしまったかのように唖然としていた。
それは、私も人の事を言える立場ではないのだが。
その思いを打ち払ってくれたのが、竜巻が
私の住む街に向かっているという事実。
あの魔女を倒す方法が見えない。
しかし、絶対になんとかしなければならない。
妹がいる限り、私は負けない。
「方法がないわけでもない。」
二人が同時に私を見る。
「そのためには、お前達の手を借りたい。
先の非礼は詫びる。頼む。」
「お詫びは私が言いたいくらいよ、ナイマ。
この子の名前はナタリー。仲良くしてね。」
「これをあげるわ。こんなもので信用して欲しいとは
言わないけれど、あなたも魔力を消耗しているでしょう。
使って欲しいの。」
そう言ってナタリーと呼ばれた彼女は、
グリーフシードをこちらに投げてきた。
ありがたい。これならば、私の勝利も
成し遂げる事が出来るかもしれない。
「遠慮なく使わせて頂く。ありがとう。」
93 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/07(火) 19:37:07.38 ID:iBnx1dY90
「それで、方法って言うのは?」
「あまり、大きな事を言えるわけではない。
推測の話だが、あの魔女の懐へ潜り込めれば、
チャンスはある、と考えただけだ。」
「けれど、あなたはあの山に押し返されていたじゃない。」
「あんな攻撃をしてくるとは考えていなかったからな。
しかし見ての通り、私はあの山から逃れる事が出来た。
私が魔女に接近し、うまくあの山をかわし、そのままヤツを叩く。
出来ない事ではないだろう。」
「そんな・・・上手く行くの?」
「魔力を温存したまま、ヤツの懐に潜り込み・・・
なおかつ、使い魔の妨害がなければ。
それならば、可能だと私は考えている。」
少しの間が空く。
その間は、三人の役割分担の確認の間でもあった。
魔女への突撃。その重大な任務は、この三人の中で
最大の魔力を持ち、一度攻撃を受けた事によって
攻撃のタイミングを体で覚えている私の他にいない。
もっとも、私以外にやらせるつもりもない。
他の二人の魔法少女も、自分がどうするべきか、
理解している様子だった。私達は無言のまま、
目を合わせて頷く。
エマの目も、また私が先ほど言葉で打ちのめしたはずの
ナタリーと呼ばれた少女の目も、しっかりと
私を見据えていた。私の中に、希望が生まれつつあった。
そうして、再びヤツの待つ竜巻へ向かっていった。
94 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/07(火) 19:37:47.50 ID:iBnx1dY90
私達は竜巻の内部へ侵入する。そこには変わらず、
無数にただよう魔法少女のような影を持った使い魔と、
高笑いを続けるワルプルギスの夜。
「頼むぞ。」
「あなたもね、ナイマ。頑張ってね。」
「雑魚の相手なら任せておいて。絶対に、あなたに
触れさせはしない。」
そう願っていた。この使い魔の戦闘力は、かなりの
ものを持っているからであった。ナタリーと呼ばれる
軍人の魔法少女はともかく、私はエマが心配であった。
その思いが、目に表れてしまっていたらしい。
「私を信用して。」
こちらとは違い、彼女は頼もしい目で私を見据える。
「勿論だ。」
準備は整った。大きく、深く息を吸う。
再び、私はワルプルギスの夜へ向けて飛び出していた。
95 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/07(火) 19:40:47.74 ID:iBnx1dY90
前回と同じように、無数の使い魔が私へ襲い掛かろうとする。
だが、前回とは違う。この二人の事は、甘ったれのアメリカ少女だと
今でも考えているが、それでも自分の仕事をこなすだけの戦闘力は
持っているようであった。
エマは小さなナイフ、ナタリーは華奢なサーベル。
それぞれの武器を扱い、私に迫り来る使い魔を撃退している。
戦闘訓練を積んできたのであろうナタリーには余裕が見えるが、
エマはそのような余裕はなさそうに見えた。
戦い方も雑で、荒々しい。見ているこっちが冷や冷やする。
だが、エマの言葉に嘘はなかった。彼女達は、
使い魔を一匹たりとも私に寄せ付けていない。
傷だらけになりながらも、私のために戦いを続けてくれている。
何のために、私のためにそこまでしてくれるのだろう。
問いかけたつもりはなかった。それが、心の声として
エマに届いてしまっていたのかどうか、私には分からない。
(私達、友達でしょう?)
私は驚いて彼女に目を向けると、彼女は私を見て
微笑んでいた。
私にもう少し分別があれば、この二人の
アメリカ人の心を傷つけなくて済んだのかもしれない。
今更ながら、後悔の念が滲む。
この戦いが終わったら、私達はいつの日か、
友人として笑いあう事も出来るのであろう。
あと一歩で、ヤツに手が届くところまで辿りついた。
次の瞬間には、私の視界は再び真っ暗になる。
良かった、と思った。もしも先ほどとは違う攻撃を繰り出されて
いたのであれば、私の作戦は総崩れになる事であった。
同時に、悲しくもあった。
これで、あの二人と笑いあう機会はなくなってしまう。
96 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/07(火) 19:41:14.63 ID:iBnx1dY90
(エマ。ここまでありがとう。私の願いを聞いてくれないか?)
(どうしたの、ナイマ。)
(出来る事であれば、私の妹を助けてあげて欲しい。)
私はソウルジェムを両手に包み、胸の前で抱いた。
(そして、この地を魔女から救って欲しい。)
それは私の祈りと呼応するように激しく輝き、光を放っている。
(何をしているの!何を言っているの!それはあなたの役目でしょう!)
私の魔力の光は、眼前の岩塊を包み込みながら、膨れ上がり。
(お願いなんだ。お前にしか頼めないんだ。お前は私の・・・)
(唯一の友達だから。)
やがて弾けた。
97 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/07(火) 19:41:43.52 ID:iBnx1dY90
私の体は魔力を失い、ただ地上の闇へと落ちていた。
上手く行った。全ての魔力を解き放ち、岩の塊を跳ね返して
ヤツに当てる事が出来た。無論、それで倒せるようであれば
それが一番であったのだが、そう甘くはなかったらしい。
だが、確実にヤツは進路を変えた。あれだけの質量を
ぶつけてやれば、少しはダメージを与える事が出来るだろう。
そうでなければ、ここまでの事をした割にあわない。
これで、ヤツが私達の街へ来る事もなくなる。
ヤツの進路がそれた事で、別の犠牲が出るかもしれない。
その事については申し訳なく思うが、
私はこうする事でしか、ヤツに勝利する事が出来なかったのだ。
98 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/07(火) 19:42:30.99 ID:iBnx1dY90
誰に当てるでもなく、心の中でつぶやく。
言っただろう。妹がいる限り、私は負けない。
妹を守る事。それが私の勝利なのだ。
エマなら、私の最後の頼みも聞いてくれるだろう。
彼女とは仲良く出来ると思ったのだがな。
もう少し、生きていたかった。
だが、これまで散々悪事を重ねてきたのだ。
罪人の最後など、こんなものか。
そう考えれば、悪い人生ではなかったのかもしれない。
最後の最後に、あの妹の四歳の誕生日から忘れていた、
人間らしい懐かしい気持ちを取り戻せたのだから。
(ナイマ!いつまでも私は・・・)
そこまでしか聞こえなかった。だが、
私は涙を流しながら、笑っていた。
やがて、私の体は地面に叩きつけられ、砕けた。
私の持つ、真っ黒いソウルジェムと共に。
99 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/07(火) 19:42:57.87 ID:iBnx1dY90
100 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/07(火) 19:43:36.04 ID:iBnx1dY90
ワルプルギスの夜は、岩の塊をぶつけられ
天へ向けて押し出されるように高度を上げていくのが見えた。
攻撃を受けてもなお、高笑いを続けているそれは、
まるで無傷のようであるとさえ私には思えた。
だが、次の瞬間には、その思いもなくなる。
砕けた岩の中央から、ナイマの魔力の光が周囲に広がり出したのだ。
その光はワルプルギスの夜を包み込み、やがて渦のようになって
それの中に消えていった。
そのままワルプルギスの夜は、遥か上空に見える
雲の海の中へと消えていった。
その方向をじっと見ているうちに、やがて
雲の隙間から太陽の光が差し出してきた。
私は夜が明けた事と、もう一つの事実を理解する。
私達は勝利したのだ。
それを見届けて、私はナイマの最後の言葉を思い出す。
もはや、彼女には聞こえないかもしれない。それでも構わなかった。
私は最後の言葉を、彼女へ向け、心の中で叫んでいた。
101 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/07(火) 19:44:03.13 ID:iBnx1dY90
102 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/07(火) 19:44:38.04 ID:iBnx1dY90
戦争は終わった。
私は、ボランティア活動を行いながら、いまだこの地に
留まり続けている。それは、私の親友も同じ事であった。
彼女の場合は、軍の脱走兵であったり、命令違反を繰り返したなど、
私よりもずっと深刻な理由があっての事ではあったが。
ワルプルギスの夜との戦いを終えた後、
私達はラビアに、ナイマの最後を語った。
全ての真実を伝える事は出来なかったが、
彼女が妹と、この街を守るために、その命を散らした事を。
「これ・・・ナイマに、返そうと思っているの。」
そう言って彼女が持ち出したものは、あの焼けただれた
Nintendoのゲーム機。もともとは、ナイマの持ち物であったらしい。
「こんな見た目になっちゃってるけど、電池を入れればきちんと動くの。
あちら側で、ナイマが退屈しないように、と思って。」
ナイマが落ちて行ったであろうと思われる場所を探したが、
彼女の遺体はどこにも見つからなかった。だから、
悪く言ってしまえば野ざらしではあるのだが、
その荒野の地面に、ラビアはゲーム機をそっと置いた。
彼女の肩が小刻みに震えている。私はそんな彼女を
背中から抱きながら、その時に心に決めたのだ。
この地の平和は、私が守る。
ナイマが心の中にいる限り、私は負けない。
103 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/07(火) 19:45:09.44 ID:iBnx1dY90
戦争は終わった。だが、この地に生きる人々にとっては、
これからの生活こそが戦争なのだ。私はそれを見届ける。
そして、この地に現れる魔女と戦い続ける。
そうすれば、もっとよく知る事が出来るに違いない。
最後の最後に友達になれた、彼女のことを。
104 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/07(火) 19:45:36.89 ID:iBnx1dY90
ある日、私とナタリーはTVから流れたニュースに吃驚した。
あのゲーム機は何も知らない兵隊に拾われ、
今はアメリカに展示してあるという事であった。
このニュースを聞いたナタリーは激怒していたが、
そんな様子の彼女とは逆に、私は少し嬉しかった。
彼女も、私と同じように、私の事を知りたくなったのだ。
だから、あの子はアメリカへ渡ったのだ、と。
105 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/06/07(火) 19:46:45.50 ID:iBnx1dY90
「魔法少女 ナイマ☆マギカ」〜完〜
106 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/06/07(火) 19:48:02.04 ID:iBnx1dY90
107 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/06/07(火) 19:53:49.14 ID:iBnx1dY90
以上です。それでは、言い訳タイムを。
>16機の戦闘機落とすとか、イラクの魔法少女強過ぎだろ。
マミさん以上因果を抱えてる様には見えないんだが……
「魔法少女の素質は彼女達をとりまく因果によって決まる」
と本編11話のQBは確かに言ってました。
けれど、筆者にはそれを聞いた後で
「それっておかしくないか?」
と矛盾を感じたところがあったんです。
他のスピンオフ作品とかの設定ではなく、
同じ本編からね。あんまり書くと考察とかって
長くなってしまうので、その矛盾ってなんだよ?
と聞かれるまでは、これ以上は書きません。
108 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/06/07(火) 20:01:43.48 ID:iBnx1dY90
もう一つ、こっちのが大きな理由です。
ぶっちゃけ、彼女を強くしないと、話が進まなかったからです。
最初、筆者は彼女に空中戦をさせずに、
メタルギアさせてる描写をしていました。
魔法少女「くらえヤンキー、ウェヒヒヒwwwwww」
↓
米軍「ちょwwwwww魔法少女とかヤバいからwwwwww」
って具合にならないと話が進まないわけですが、
メタルギア描写をさせたところ、
米軍がなかなか、その損害が魔法少女の仕業だと
認識してくれなかったんです。
なので、似たような潜入破壊工作の描写を
何回か繰り返すところを書いているうちに、
ただでさえつたない地の分が多いSSなので
こりゃ駄目だな・・・と思い、思い切り彼女を
強くしました。書いてて楽しくなかったんです。メタルギア。
こんな理由ですまん○。ご都合主義です。
109 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/06/07(火) 20:09:13.41 ID:iBnx1dY90
>あと、パイロット馬鹿じゃね?っていうのも
逃げるなら取りあえずリヒート焚く
これについては、完全に筆者の描写不足です。
彼らがミサイルだと思い込んでいた斧を回避しようと
していた時から、筆者の脳内ではすでにAB炊いていたのです。
AB炊いてミサイル斧の回避のため旋回行動
↓
AB炊いたまま、逃げ帰ろうとまた旋回行動
↓
AB炊いたまま、シザース機動を繰り返す
↓
これだけの運動を行っているため、F15には
あまり運動エネルギーが残っていなかった。
だから追いつかれた。
こんな脳内設定でした。指摘を頂いてから、
きちんと書けばよかったと反省しております。
110 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/06/07(火) 20:13:37.21 ID:iBnx1dY90
長々と言い訳失礼しました。
読んで頂けた方は、どうもありがとう。
ご意見、ご質問、辛口でもご指摘を頂けたら、
それはとっても嬉しいなって。
あと、筆者の中で「○○戦争をお題にして××を描こう」
ってお題がまだいくつか残っておりますので、
ネタが尽きたら自分でhtml化の依頼をします。
111 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/06/07(火) 22:07:09.07 ID:c8xsG1i/o
乙彼様でした。
個人的には超・効率主義者のべぇさんが最適の「第二次性徴期」の少女以外と契約してるってのがちょいと違和感あったり。
でも、魅力的な戦闘描写でした。魔法学校なんてアイデアも俺にはとても出せない
なんだかんだ気になるし、それじゃ早速(でもないけど)
「その矛盾って、なんだよ?」
112 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/07(火) 22:55:15.84 ID:sjn7jXMg0
なんて俺得なスレ
こういう考査してSSかける人がうらやましいぜ
113 :
1
[sage]:2011/06/07(火) 23:11:11.33 ID:iBnx1dY90
早速の指摘、ありがとう。
>「第二次性徴期」の少女以外と契約してるってのがちょいと違和感
ここについては、例えが上手くないと言われるかもしれませんが、
元営業マンであった私はこう考えました。
入会時の選択コース(初心者コース、中級者コースなど)によって
入会金が変わり、入会後は毎年\1000の年会費が必要となる英会話教室。
教室経営のための一人一人の顧客単価目標は\10000とします。
A 入会金\1000の初心者コースを希望している、簡単に契約が取れそうな客。
B 入会金\10000の上級者コースを希望している、頑張れば契約が取れそうな客。
C なんか知らないけど、経営している教室を\1000億くらいで買い取ってくれる
謎の金持ち。ただし、その客のガードは極めて硬い。
私がCタイプの客と出会えたならば、私はそれまで行ってきた
営業努力を全て放棄してでも、私は全力でCの客と契約を取ろうとします。
こちらから営業努力をしなくても、自分から入会したいと言っている
物好きなBタイプの客が居たら、別に契約が増えて悪い事ではないので
Bとも契約を結びます。
これが本編にて描写されていたまどか(C)、さやか(B)、QB(私)だと考えています。
では、Cタイプの客と出会う前の私だったら何をしていたのか。
それは、Aタイプだろうと、Bタイプだろうと、見境なしに
営業努力をしていた事だろうと考えています。
入会時の金額こそ安いAタイプの客ですが、9年経てば
目標となる顧客単価は達成するためです。
\10000の顧客単価目標を、「第二次性徴期」の女の子が魔女化した際に
得られるエネルギーと置き換えてみたら、如何でしょうか?
そんな理由から、「第二次性徴期」に満たない女の子とも
QBが契約を結んでおかしくないのではないか?と妄想した次第です。
めっちゃなげえ、ソーリー。
114 :
1
[sage]:2011/06/07(火) 23:40:10.00 ID:iBnx1dY90
>「その矛盾って、なんだよ?」
的外れな考察かもしれませんが、
筆者の感じた矛盾とは、あんあんの存在です。
「因果」という言葉自体を私はよく理解していませんでしたが
私が見た辞書の中には、
「因果」という言葉は、基本的に未来の事象を指さないと
書いてありました。
「因果」という言葉は、現在と過去に対して使われるものだそうです。
そのことから、
魔法少女の強さ=「契約した時点」で背負い込んでいた運命
というように筆者には聞こえました。
一方、あんあんが何時ごろにQBと契約を結んだのかは描写がありません。
けれど、彼女はいくつもの魔女と戦い、勝利を残してきた実績もあり、
その言動や行動、態度などから、おそらくは他の魔法少女との戦闘も
行ってきたのだと考えています。
しかし、彼女は本編が始まるまで生き残り、
本編の中でも強さを見せてくれた。
こうした理由から、私にとっては
あんあん=只者ではない強キャラ
という事になっております。
しかし、あんあんがQBと契約した時点では、彼女は不幸な環境に
置かれてはいたものの、まだ家族も生きており、それなりに
仲良くやっていたものだと考えております。
そんな彼女があれだけの強キャラであるというのが、
筆者の感じた矛盾です。
魔法少女の強さ=「契約した時点」で背負い込んでいたもの
魔法少女の強さ=「契約した後」にも、背負うことになったもの
どっちなんだよ、と私は悩みました。
このSSを書くにあたって、筆者は後者の設定を採用しました。
115 :
1
[sage]:2011/06/07(火) 23:47:49.19 ID:iBnx1dY90
ここからは言い訳タイムです。
このSSの主人公が、はじめはそこまで強くなかったというのは
>>108
の通りです。
彼女が強い理由については、このイラクという何度も戦場となった国であり、
様々な悲しみや怒りなどの思いが渦巻く土地であるということ。
それらの負の感情が、同じような悲しみや怒りを胸に、一人で連合軍と戦う
彼女に集まってもそれは因果と言えるんじゃないかなー・・・
という後付設定です。
はい、描写不足ですね。ごめんなさい。
116 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/06/08(水) 00:06:10.91 ID:U6TGFstyo
なるほど、疑問爽快すっきりサワヤカです
問題は魔法少女がまだ弱い内に使い魔に殺られるなり、ショボい魔女になられるなりでEN回収が不本意に終わる場合ですが……そこは魔法学校がカバーしてくれる、と
上手いこと考えやがる淫獣ですね、ほんに憎らしい
佐倉杏子の強さの秘訣、ですか……
個人的に、二つ考えてみました。
一つは、魔女との戦いを通して「戦士として」成長したと言う物。
魔法少女としてのキャリアはほむらを除く作中の誰より長い?彼女ですので、実力もついてくるかなぁ、と
何より乏しい資質を努力で補うって所が燃えるッ!…ような。
でもこれだとギミック満載のあんスピアが説明つかない?
もう一つは、彼女の生い立ちとその願いです。
多くの人々の心を引き寄せる、「宗教家」の家庭に生まれた彼女には、ある程度信者達から意識されていた=因果を寄せられていた、と言うものです。
彼女が契約を結んだ時、その力は更に強い物となります。
「父さんの言う事を聞いて欲しい」それが、彼女の契約理由となる願い事でした。
ようするに、多くの人間を「佐倉杏子」の指揮下において、命令による強制で佐倉父の説法を聞かせたい、と言う願望です。
これって、大勢の人々の因果を無理やり引き寄せる願いじゃないか?今でこそ封印されている(虚淵発言)彼女の「人を操る魔法」こそ、因果を集約させて後天的強化をも可能にする魔法なのではないか?と、私は考えました。
うわぁ!何だこのくっせぇ長文!きめぇ!
スレ汚しすんませんでした……
117 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/08(水) 00:10:43.70 ID:g67BtXPio
面白かった
ナイマかっけえな
戦斧ってところがさらにいい
続編も期待
118 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)
[sage]:2011/06/08(水) 11:12:09.03 ID:A//SHXhAO
原作組ばかりのまどマギSSがほとんどなのでこういうのは斬新で凄く楽しめました!
魔法少女は世界中に居るんだし、アメリカが存在を知ったら間違いなく軍事利用を考えそうなので凄く良い題材だった。
ここで終わるのは惜しいので続編、というか同じ題材での続きがみたいです。
あとQBにとって都合が悪そうな(魔女化リスク低下的な意味で)この状況に対してどういうリアクションをするのかも見てみたい。
119 :
1
[sage]:2011/06/08(水) 19:10:29.22 ID:3XG7oWks0
>>116
いやもう、そういう意見を長文でも聞かせてくれると
筆者としては大助かりですよホント。感謝感謝です。
馴れ合いすんな、て叩かれちゃうかもしれませんが、
長文くらいでキメェとかスレ汚しなんて思いませんよ。
てか、それ言ったら私なんてキメェ通り越して別次元に居ますし。
読んでくれただけでもありがたいのに、続編の期待までしてくれる方に対して
感謝の言葉もないです。その言葉が、マジで筆者の燃料になります。
次回作は全く違う戦場、全く違う時代をお題にして
現在の完成度50%といったところです。
あと半分を書き上げ、それから見直しをして・・・
となると、投下は一週間後くらいになるかもです。
また面白いと言って頂けるよう努力しておりますゆえ、
お待ち下さいマミマミ。
120 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/09(木) 22:24:16.80 ID:S9b0UP2SO
無料で読んでていいのか不安になりながら読ませていただいた。私はナタリー派です。次回作待ってる
121 :
1 書きたくなった。
[sage]:2011/06/10(金) 17:58:50.27 ID:lovxZEQB0
>>120
読んでくれてありがとう。
俺はそのように、手元にあるキーボードから
感謝の気持ちを文字に変えていた。
(さ、書き込みボタンを押してっと。)
そんな俺の動きが、何者かによって止められる。
気づけば、俺の全身は黄色いリボンにぐるぐる巻きにされ
身動きが取れなくなっていた。
何が起きたんだ。椅子から振り返った俺は驚く。
いつの間にか背後に立っていたその少女は
そんな俺の驚きなど意に介さず、俺にこう告げた。
「あなたが
>>120
に、お礼を言おうとしているのは分かるわ。」
「・・・でも、その前に!」
ドヤ顔。
目の前にいる少女の表情を一言で表せば、
まさにその一言である。
そして少女は、華麗な舞を踊り出す。その軽快な踊りは、
一部の人間から「ミズハステップ」と呼ばれている事を
俺は知っていた。
やがて、その舞の終わりの合図であるかのように、
彼女は最後の台詞をこう締める。
「ちょっと一投下、片付けちゃっていいかしら!」
投下するのは、あんたじゃないでしょ・・・
俺は心の中で、そう呟いた。
122 :
1
[saga]:2011/06/10(金) 18:00:14.49 ID:lovxZEQB0
●前作の反省点として、魔法少女の軍事利用という設定と、
QBとの絡みについて満足のいく描写が行えていませんでした。
ですので、今回はちょっとだけそれを意識して書きました。
●相変わらず、原作の物語と交わる部分はQBとの絡みを除いて
皆無です。オリジナル作品のようなものだと、お考え下さい。
●筆者の脳内での魔まマ原作設定は守っているつもりですが、
筆者の知らない設定やら何やらのせいで違和感を覚えるところが
あるかもしれません。よろしければ、どうぞ遠慮なく突っ込んで下さい。
●なるべく、魔まマを知らない人が見ても分かるよう
設定の説明を描写する事を意識しているつもりではありますが、
逆にわざとぼかしている部分もあります。
イミフだと思ったところも、良かったら突っ込んで下さい。
●最後に、筆者は歴史や軍事といったジャンルは大好きですが、頭は悪いです。
今回の作品の執筆にあたり参考にした知識は、wikiやグーグル先生から
得られた範囲のものです。それ故に、戦史や軍事に詳しい方から見ると
沢山の違和感があるかもしれません。ご勘弁ください。
●投下は一週間後と言ったな、スマン。ありゃウソだ。
123 :
1
[saga]:2011/06/10(金) 18:00:53.14 ID:lovxZEQB0
124 :
1
[saga]:2011/06/10(金) 18:01:31.24 ID:lovxZEQB0
「魔法少女 ゲルダ☆マギカ」
125 :
1
[saga]:2011/06/10(金) 18:02:11.85 ID:lovxZEQB0
126 :
1
[saga]:2011/06/10(金) 18:03:03.18 ID:lovxZEQB0
9月。私の住む場所は一般的に北欧という地域に属しており、
緯度の高い場所ではあったものの、まだ夏の暖かさは残っていた。
遠いスペインでの内戦は終わったばかりであったが、
まだまだ世界中に火薬の臭いがくすぶる1939年の事だ。
ナチス・ドイツのポーランド侵攻。
起きたばかりの私が手にとった新聞には、
大きな見出しが掲載されていた。新聞に載っている
写真に写ったドイツ人達は、打ちのめされた自国を建て直した
独裁者の采配を全面的に指示しているように見えた。
この欧州で、大きな野望が動き出した。彼らの行動は
国家規模の大小を問わず、周辺国に多大な影響を与える事であろう。
特に、私の住むこの祖国には大きなものとなるのかもしれない。
そう考えた理由は、彼らが隣国へ侵攻を始めるに先立って結ばれた、
ソビエト連邦との不可侵条約があったためだ。
ナチス・ドイツとソビエト連邦。世界中の誰から見ても、この二つの
国家はいつか衝突を起こす予感を匂わせた、敵同士であった。
そんな彼らが、どうした事か不可侵条約を結んだという事実。
ナチス・ドイツはポーランドに侵攻したため、ソビエト連邦は
ナチス・ドイツからの攻撃というプレッシャーから解放された。
そのようなソビエト連邦を率いる指導者は、
その鉄の拳に国家を握りこんだスターリンという名の独裁者。
共産主義者でありながら、彼は革命前の帝政ロシア時代の領土を
回復させるがごとく、似たもの同士であるナチス・ドイツのヒトラーと同様に
周辺国家への野望を隠そうともしていなかった。
その野望からは、20年ほど前に帝政ロシアから独立を果たした
ばかりの小国である、我々フィンランドも無縁ではいられない
のであろう。と私は予感する。
その予感が正しいのか、的外れなのか。それは、軍人ではあるが、
臆病な性格を持つ私にとっては、とても重要な事であった。
私はそのような事を考えながら身支度を済ませ、
私の勤める基地へ向かい歩き出した。
127 :
1
[saga]:2011/06/10(金) 18:03:36.17 ID:lovxZEQB0
「おはよう、ゲルダ。」
私は基地に着いたら、必ず最初にこの居住区の一室に足を運び、
その少女に挨拶をする。そういう仕事だったからだ。
「・・・・・・」
返事が聞けない事は知っていた。彼女は、喋れないのだ。
初めて彼女と出会ってから一年ほど、この一方通行の会話は
繰り返されている。だが、半年ほど前から、彼女は私に頷いて
返事をしてくれるようになっていた。
「打ち合わせが終わったら、また来るからな。
一緒に朝ご飯を食べよう。」
また彼女は頷いた。彼女に笑顔を作って見せた後、
私は部屋を出てコンクリート建ての司令部へ向かう。
128 :
1
[saga]:2011/06/10(金) 18:04:13.53 ID:lovxZEQB0
司令部へ向かう途中、同じ仕事をしている同僚から
声をかけられた。人付き合いが苦手な私の、
唯一と言ってもいい友人であるエーメリだった。
「よう、ハユハ。元気か?」
「ああ、見ての通り元気さ、エーメリ。」
「そっちの子はどうだい。何も喋れないんじゃ、大変だろう。」
「そうでもないよ。彼女は我侭を言ったりしない。
私からすれば、お前の方が大変そうに聞こえるぞ。」
名前も知らないエーメリの”娘”の事は、彼から
よく愚痴を聞かされていた。
本来であればそのような愚痴ですらも、
我々にとっては会話も許されない機密であるのだが、
彼は自分の”娘”から、ゲルダの事を聞き出していたのだ。
私としても、このような小さな事で友人を告発しようなどとは思わない。
「へー、喋れないってのも便利な時があるんだな。
一日くらいは、ウチのも静かにしてくれればいいんだけどな。」
「にぎやかな方が楽しいだろう?」
そうは言いながらも、私は自分の”娘”がゲルダで
ある事に喜んでいた。人付き合いの苦手な私にとって、
彼女はとても仕事のしやすい相手だったのだ。
「そういうもんか。お、みんな集まり出してるな。」
彼は、一つの大きな部屋のドアを開けながらそう言うと
空いている席に腰をかけた。私も隣の席に続いた。
129 :
1
[saga]:2011/06/10(金) 18:04:47.95 ID:lovxZEQB0
しばらく待つと、やがて部屋のドアが開き、我々の
上官が部屋へ入ってくる。大佐の階級章を襟に着けた彼は
その手に持っていた新聞を乱暴に机に向かって投げ、
着席して待っていた我々にこう言った。
「知っている者がほとんどだと思う。ドイツが、ポーランドに
攻め込んだ。」
部屋は静まり返ったままだ。着席していた我々は、
もちろん全員がそれを知っていた。軍人に必要な物は、
常に新しい情報であるからだ。
「さて、ドイツが動き出したとなると、彼らが牽制していた
ソビエト連邦がどう動くか、予想がつかない。
ソ連は東欧・北欧に対する領土欲を隠そうともしていない。
事実、これまでにも彼らは、我々に対し無茶難題を突きつけてきている。」
大佐の話す言葉は、私の予感と一緒のものである。
大佐と私だけが特別なのではない。この場にいる私の同僚達だって、
この国の歴史を知っているのだ。皆、同じ考えを持っていたであろう。
「最悪の場合は、もちろん諸君らも戦力として加わる事になる。
下手をすれば、来月にも戦いは始まってしまうのかもしれない。
各自、これまで以上に努力せよ。以上。」
大佐はそう言って、投げつけた新聞を拾おうともせず、
部屋を出ていった。残された我々のあいだにざわめきが起きる。
戦力として加わる、か。
そのような”最悪の場合”というのが起きなければ良いのだが。
今は色々考えていても仕方がない。我々の大佐が言う
”これまで以上の努力”とは、これまで行ってきた努力の
継続に過ぎない。
そうして努力を続け、”最悪の場合”に結果が出せれば良いのだ。
そう考えながら、私はゲルダの待つ部屋へと歩き出した。
130 :
1
[saga]:2011/06/10(金) 18:05:15.13 ID:lovxZEQB0
我々の仕事。
それは、”娘”達を手懐ける事であった。
我々は”父親”となるための訓練を受けた。
心理学、話術、催眠術など。もっとも、私が話術を
マスター出来ていたのであれば、私にはもっと多くの
友人がいたのであろうが。
”娘”に好かれるために、”娘”が私達の言う事を聞くように。
考えられるあらゆる事をしてきた。これが我々の仕事だった。
これまで以上に努力せよ。その言葉の意味は、
戦いが始まる前に、彼女達からの信頼を得ておけ。
彼女達をコントロール出来るようにしろ。そういう意味である。
もしも戦争が起きた場合、彼女達の行動が我が祖国
フィンランドの命運を左右すると考えられていたからだ。
人智を超える力を持つ”娘”達。
彼女達は、正式には「魔法少女」と呼ばれていた。
131 :
1
[saga]:2011/06/10(金) 18:05:50.48 ID:lovxZEQB0
「ただいま。さ、ご飯を作ろう。」
ゲルダの待つ部屋のドアを開け、私はそう彼女に声をかけた。
彼女は手に持っていた本を置き、椅子から体を起こして
台所へ向かった。私もそれに続く。
今年でゲルダは14歳になると知らされていたが、
その年齢の割には彼女は非常に料理が上手い。
その理由も知っていた。彼女は、実質的には
この部屋に軟禁されているようなものであったからだ。
昼の時間は、彼女は戦闘訓練へ。それ以外の時間は、
この部屋から出る事も許されない。
それは彼女だけでなく、他の”娘”達も同じ事であった。
だから、必然的に彼女の趣味となったのは、
読書、裁縫、料理。そういったものであったのだ。
そんな彼女の鮮やかな調理の腕を見るうちに、
知らずに私も料理の腕も上達していた。
今では彼女が風邪で寝込んだりしていても、
私は彼女が好む料理を作れるようにすらなっていたのだ。
無言のままパンを用意し、無言のままスープを作り、
出来た料理を無言のままテーブルへ運ぶ。
そして、二人で椅子に座り、食事を始める。
彼女はここ最近、私が作った物を食べると、
私を見て微笑む。
それが本当に美味と感じているからなのか、
はたまた、ただの社交辞令なのか。
そこまでは私にも分からない。
なにしろ私には、彼女の生い立ちや、どのような
経緯でここに住む事になったのかも、情報が
与えられていなかったからだ。ごく限られた内容の情報しか、
私は彼女の事を知らされていないのだ。
だが、笑顔を向けられる事は、基本的には良い事だ。
少なくても、私に配布されたマニュアルにはそう書いてあった。
132 :
1
[saga]:2011/06/10(金) 18:06:26.40 ID:lovxZEQB0
そのような事を考えながら、私は二人で作った食事を
食べていた。気づくと、ゲルダは食べるのを止めて、
私の事をじっと見ていた。そんなに長い間、
考え事をしているつもりはなかったのだが。
心配いらないよ、とでも言うように笑みを向けると、
彼女も微笑みを返してくれた。そして私達は食事を再開する。
唯一とも言える友人であるエーメリに、先ほど私が話した言葉は
本当の事だった。ゲルダとは、会話を一切する必要がない。
人付き合いの苦手な私にとって、とても楽な仕事であった。
二人は食事を終え、一緒に食器の片付けを始める。
それから、二人で椅子に座って本を読んだり、裁縫をしたりして
過ごす。やがて時間が来ると、私はこう言う。
「そろそろ時間だよ、ゲルダ。頑張ってな。」
そう言うと、彼女は少し憂鬱そうな顔をした後、
私を見て頷き、部屋を出ていく。
魔法少女としての、戦闘訓練の時間だ。
その訓練がどのような内容なのかは、
”父親”である私達に知らされてはいない。
彼女がいない間に、私は彼女の様子を
詳細に記したレポートを記載する。
今日は10分で食事を終えた。
今日は本を32ページ読み進んだ。
などなど。そういった事まで記載するために、
レポートは毎日、膨大な文章量となる。
だが、それでもレポートを書き上げてから、
ゲルダが帰ってくるまでは随分と待つ事になる。
彼女が訓練を終えて部屋に帰ってくると、
私達は朝と同じように食事を作り、夕食を済ませる。
二人で食器を片付けた後は、その日の気分で読書や裁縫
たまに料理をして二人の時間を過ごす。やがて彼女は眠りに付く。
それを見届けたら、私はやっと家に帰る事が出来るのだ。
毎日毎日、これを繰り返すだけの仕事。楽なものであった。
133 :
1
[saga]:2011/06/10(金) 18:06:54.13 ID:lovxZEQB0
もうすっかり真っ暗になってしまった帰り道を歩きながら、
私は物思いにふける。
戦争がもし起きたら、私はどうなってしまうのだろう。
人を撃つのは怖い。人に撃たれるのは、もっと怖い。
戦争なんて、絶対に起きないでいて欲しい。
私はそう考えていた。本当に、本当に怖かったのだ。
私の臆病な性格は、私の交友関係の少なさとも相まって、
めぐりめぐってこの”父親”の仕事に辿りつく結果を生んだ。
狩猟をしていた経験から、鉄砲の扱いには自信があった。
軍に入る前には、私には猟銃の射撃大会でトロフィーを
取るだけの腕前があったのだ。
逆に言えば、それ以外に誇れる技能を、私は何一つ
持ってはいなかった。それに、あの世界大戦が起きた後、
世界は軍縮の道を歩いていたのだ。あの悲劇を味わった
人類は、もう戦争など起こすまい。
そう考えて、私は軍隊へ入った。だが私はある日、
戦闘教義の講習中に問題のビデオテープを見る事になる。
それは、ドイツ軍の機関銃の雨が飛び交う中、
突撃するフランス軍の兵士が次々に倒れるビデオ。
辺り一面は文字通りの血の海となっており、
その地獄に叩き落とされた兵士達の姿がそこにあった。
ある者は小銃を撃ち続けながら走り、ある者は肩から取れてしまっていた
自分の腕を持って泣き叫び、ある者は負傷した戦友の下へ
駆けつけようとして、そして地獄に転がる亡者の仲間入りをする。
それを見てからの私は、猟銃すら撃てなくなっていた。
銃を撃つのも怖い、いつもひとりぼっちの兵士。
そんな私に上層部は目を付けたらしく、この仕事を
紹介をしてくれた。もっとも、最初は機密保持が行えるかの
テストからさせられたわけではあるが。
この仕事に就けてから、火薬の匂いから逃げる事ができて、
私は心から喜んだ。いざ有事になれば、彼女達と共に前線に
送り込まれる事を知ってはいたが、もう戦争は起こらないはずだと
当時の私は思い込んでいたのだ。
だが、私の願いとは裏腹に、
世界は確実に破滅への道を歩き出していた。
134 :
1
[saga]:2011/06/10(金) 18:07:24.70 ID:lovxZEQB0
135 :
1
[saga]:2011/06/10(金) 18:08:03.91 ID:lovxZEQB0
日が過ぎれば過ぎるほど、寒さは厳しさを増してくる。
すっかり雪の積もった11月の終わり頃の真夜中に、彼はやってきた。
基地の伝令役である彼は、私に向かって息を切らしながら
こう告げた。
「非常召集だ。ソ連が、我々との不可侵条約を破棄した。」
後に聞くところによれば、このような事態となった原因は
ソビエト連邦がフィンランドからの砲撃を受け、
13名の兵士が死傷したと主張する事件が起きたためだ。
ソ連の主張が真実なのかは、当時の私には確認も出来ない内容である。
しかし、ここ最近の国際情勢を見ていれば、いつの日か来る事態で
ある事は予想ができた。バルト三国は既にソ連との外交で屈服し、
その獰猛な赤熊の恫喝に抵抗を続けていたのは、我々だけなのである。
だが、実際に戦争が起きるなどとは想像もしていなかった。
いや、想像したくはなかったのだ。
生きた心地がしなかった。私は、戦場に送られるのであろうか。
嫌だ、嫌だ、嫌だ。その気持ちを、私は隠す事が出来なかった。
おそらく、私の表情は真っ青だったのであろう。そんな私を
軽蔑するように見ていた彼は、
「確かに伝えたぞ。」
と告げたあと、雪の積もる外の暗闇の中へと消えて行く。
自身の職務を継続するために。
136 :
1
[saga]:2011/06/10(金) 18:08:41.38 ID:lovxZEQB0
基地では大勢の軍人が、慌しく走り回っていた。
当然であろう。私の住むこの小さな町は、ソビエト連邦との
国境近くに位置する町なのだから。
私は、我々だけが使える専用のブリーフィングルームに
足を運ぶ。入ったその時にはまだ人影はまばらであったが、
一人、また一人と”父親”達は集まり、やがて用意された席は
一つ残らず埋まる。
私が自分の考えに上の空になっているうちに、いつの間にか
入室していた大佐が立ち上がり、部屋の先頭に用意された
壇上へ歩き、そしてこう告げた。
「諸君らは”娘”達と共に、第12師団第34連隊第6中隊として配属される。
書面上は存在しない中隊となる。魔法少女中隊と言ってもいいだろう。
当然の事であるが、これは誰にも口外するような事があってはならない。」
その辞令を大佐から聞かされた時、私は死刑宣告をされた気分であった。
我々はこの町からすぐ近くのコッラ川の周辺を防衛する連隊に配属されたのだ。
逃げ出したい気持ちで一杯であったが、私のような重要機密を持った兵士が
脱走した場合、どのような処分が下されるのか。それを、私はよく知っていた。
「諸君らの移動は、明日中に行われる。速やかに、”娘”達と準備をし、
各自の部屋にて待機せよ。以上。」
137 :
1
[saga]:2011/06/10(金) 18:09:11.59 ID:lovxZEQB0
行くも死、来るも死。私は、もうすぐ迎える
34歳の誕生日を迎える事が出来るのであろうか。
そう考えながら、私はまだ眠っているであろう、
ゲルダの待つ部屋へと歩いて行った。
「起きてくれ、ゲルダ。」
彼女を揺り起こすと、彼女は眠そうに目をこすりながら
私をぼーっと見つめている。
「起こして済まない。だが、聞いてくれ。
戦争が始まるかもしれない。私達はこれから、
部隊のいるところへ移動する。」
彼女は私の言っている事が理解出来ていない様子であった。
もう一度、同じ事を彼女に伝えようと思った時、
彼女は糸の切れた人形のように、ベッドに仰向けに倒れこむ。
彼女はその小さな腕で自分の顔を隠し、小さく震えていた。
泣きたいのは、私も同じであった。
ああ神様、戦争など起こさないで下さい。
138 :
1
[saga]:2011/06/10(金) 18:09:42.96 ID:lovxZEQB0
139 :
1
[saga]:2011/06/10(金) 18:10:19.16 ID:lovxZEQB0
神はその願いを聞き届けてくれた。
コッラ川の近くにある深い森の中に作られた、
急造の粗末な木製の小屋の中で、ゲルダと
一緒にストーブを囲んでいた私は、そう思っていた。
数日前、私が基地からここに移動する際、私に小銃は支給されなかった。
その事だけなら、構いはしなかった。私は銃を撃つ事も出来なければ、
撃つつもりも全くなかったからだ。私がその時に手に入れる事が出来たのは、
よく雪景色になじみそうな、二着の真っ白いギリースーツ(迷彩服)と、
二人分のスキー板だけであった。
私が自分の運命を呪った理由は、小銃の支給すらを満足に行えない
我が軍の窮乏を知ったためであった。私は、基地を出る時に言われた
言葉を思い出していた。
「現地にて武器を調達するように。」
そんな馬鹿げた命令がまかり通るほど、戦いが始まる前から
我が軍は逼迫していたのだ。
医術の心得もなければ衛生兵としての訓練を積んできたわけでもない。
そんな私が衛生兵となるよう中隊から指示されたのは、
ゲルダの持つ魔法の能力が理由であった。
彼女は、人間の傷を治す事が出来るのだ。
その事だけが、私の救いであった。
私は常に彼女と行動を共にする。言い方は悪いが、
彼女は競走馬であり、私は騎手のような関係なのだ。
きっと私が銃弾を受けたとしても、普通なら助からない
ような致命傷であろうと、彼女なら治療が出来るに違いない。
何しろ、魔法の力で治癒を行うというのである。
私は、そう願っていた。
その日は私もゲルダも、眠れない夜を過ごした。
140 :
1
[saga]:2011/06/10(金) 18:10:45.66 ID:lovxZEQB0
そして現在に至る。不安に怯える日々を過ごしたが、
その怯えは杞憂に終わっていた。この数日、時々ゲルダは
司令部からのテレパシーによる連絡を受け、その情報を
メモに記載し私に見せていた。
受け取った情報のほとんどが、戦争の気配など感じさせないような、
天候情報や道路状況などであった。
少し隙間風の寒いこの小屋へ対する不満さえ除けば、
私達はここに来る前までと同じような生活を送っていた。
まだ当分の間は、この小屋での生活が続くと思われるが、
いつの日かゲルダから、我々の基地への帰還命令が
伝えられるのではないだろうか。そう考えていた。
そろそろ日課である道路沿いの見回りの時間が来る。
中隊からの命令で決められた、交代での近くの道路の哨戒。
もっとも、これまでにその哨戒で目にしてきたものは、
哨戒が終わり小屋へ戻っていく同僚達の姿と、森の中を歩く
動物の姿だけなのであるが、与えられた仕事はしなくてはならない。
じきに、相方を組んでいるエーメリと、その”娘”が来るだろう。
私はいまだに彼の”娘”の名前を知らされていない。私も、
ゲルダの名前を彼に教えていない。
ここに配属されるまでは、我々は自分の担当以外の”娘”と
顔を合わせた事がなかった。だから今更となって気づいた事なのだが
彼女達を名前で呼べないというのは、とても不便なことだった。
おそらく、中隊の全員が同じ事を考えていたであろう。
だが、それは機密保持のためやらなにやらで、
お偉方には重要な事らしい。もしも、この規則が
破られた場合には、我々には軽くはない罰が与えられる。
必然的に、自分の”娘”を呼ぶ時には「お前」。
相棒の”娘”を呼ぶ時は「お嬢ちゃん」
我々の中で、それがルールとして定着してしまっていた。
そう言えば、彼女達は、互いの事をどう呼び合っているのだろう。
彼女達の基地に居た頃の訓練は、合同で行われている事は知っていた。
彼女達は、互いの名前を知っているのであろうか。それとも、
今の私と同じような感じで、「あなた」とでも呼び合っているのだろうか?
そんな事を考えながら、今にも寝てしまいそうなゲルダを起こそうと、
私は手を伸ばしかけた。
141 :
1
[saga]:2011/06/10(金) 18:11:17.41 ID:lovxZEQB0
突然、椅子にもたれて、うとうとしかけていたゲルダが、
ぴんと背筋を張った。おそらく新しい情報が届いたのであろう。
彼女は目を大きく見開き、そしてガタガタと震え出した。
実際に、彼女の座っている粗末な木製の椅子は、
同じく木製の床と触れ合いガタガタと音を立てていたのだ。
その様子を見て、私の頭の中は真っ暗になった。
襲い掛かる絶望感。彼女が私に何を知らせようとしているのか
それは誰の目にも明らかだったのだ。
彼女は、手が震えて上手くメモが書けない様子であった。
私はその様子を見ているうちに苛立ちがつのり、
「早く書け!」
と。怒声を浴びせられた彼女は小さくビクっとして私を見た後、
また必死にメモの続きを書いていく。彼女が書き終え、
私にそれを差し出した瞬間、私は勢いよくそれを引ったくる。
震える文字はとても読みにくかったが、それでも
私は読めてしまった。読めない方が幸せだったのに。
「ソ連軍から国境沿いの部隊への全線的な砲撃が始まった。
各自、戦闘に備えるように・・・これで間違いないんだな?」
その読みにくいメモを、私は間違って解読したのかもしれない。
そう祈りながら彼女へ答えを求めるが、彼女は震えながら、
私を見て頷く。律儀にも、もう一度メモを書き、先ほどよりは
震えの少ない文字で私に教えてくれた。
”間違いではない。”
ああ、畜生!
私は頭を抱えて、テーブルの上に突っ伏していた。
142 :
1
[saga]:2011/06/10(金) 18:11:50.85 ID:lovxZEQB0
それから私の日常は、絶望の日々であった。見た目には、
これまでと同じように、定時に哨戒をし、司令部からの情報を
待つ日々。これまでと違う事は、毎日の天候情報に加えて、
前線の戦況がゲルダから受け取るメモに追加されている事であった。
国境沿いに引かれた守備線のいたる所で我々は突破されつつあり、
そこを守っていた部隊はじりじりと後退をしながら、
ソ連軍に対して待ち伏せ攻撃を行うようになっていたのだ。
彼らのいる場所が、日が過ぎるごとに我々に近づいていた。
それはすなわち、前線が我々に近づいているという事である。
その報告を受けるたびに、私は絶望を膨らませていた。
そしてついに、私の絶望が頂点に達する日が来てしまう。
中隊集合の指示。集合とは、部隊がまとまってどこかへ
移動するために必要なものである。では、どこへ行くのか?
我々はこれまで戦闘を経験せず、無傷であるため、
後方に下がる事は有り得ないであろう。
どう考えても、この移動の目的は明らかだった。
ついに我々にも、迫り来る敵と戦う時が来てしまったのだ。
143 :
1
[saga]:2011/06/10(金) 18:12:35.67 ID:lovxZEQB0
144 :
1
[saga]:2011/06/10(金) 18:13:07.67 ID:lovxZEQB0
雪の積もる森の中を、100名ほどの戦闘部隊である
我々はスキーを使って軽快に前進していた。
いつもの哨戒と同じルートを、我々はさながら
白銀の世界で優雅な散歩をしているかのように、
森の中を通る唯一の道路を目指していた。
私の同僚達が、小銃を持ってさえいなければ、
そう思い込む事が出来たのかもしれない。
やがて道路が見えてきたところで、我々は前進を止め、
小隊ごとに集合する。小隊長は、小隊の全員が集まって
いることを確認した後、我々にこう告げた。
「もうすぐ、ソ連軍はこの道路を通る。俺達は道路の
反対側へ行き、こちら側に残る小隊と挟み撃ちをする。
もし敵が見えても、発砲の指示が来るまでは絶対に撃つな。」
小隊の全員が頷くと、我々は再び移動を始めた。
道路を横断する時に、ちらっと道路の彼方を見つめる。
目に見えるものは、雪、雪、雪。
敵がここを通ってくるなどとは、私には今でも信じられなかった。
145 :
1
[saga]:2011/06/10(金) 18:13:39.56 ID:lovxZEQB0
「ハユハ、お前は俺と一緒に行動しろ。」
すぐ隣を滑っているエーメリから、声をかけられる。
「お前の”娘”は、中隊からの指示をお前に伝えるのに
少し時間がかかるだろう。俺が代わりに教えてやる。
だから、俺達から離れるな。」
私は銃を持っていないのだ。発砲の指示など、私には
関係がない。そう返そうとしたが、攻撃をするにせよ、
ここから後方に撤退するにせよ、中隊からの指示がない
限りは私達は動く事が出来ない。その事を思い出し、
「分かった。頼むよ。」
と彼に返事をした。
そして、森の中を少し進んだところで、小隊長が止まる。
「このあたりでいいだろう。分隊ごとに散会し、各自、
木を盾に出来るような場所行け。姿勢を低くし、声を出すな。
それぞれ連絡は、”娘”達を介して行うように。」
その指示を聞いて、我々はばらばらに動き出す。
私とゲルダはエーメリ達の後についてゆき、やがて
彼が納得する位置についた。
「ここにしよう。ハユハとお嬢ちゃんは、そっちの木のあたり。
・・・あー、お前はそこの木のあたりだな。」
「分かったわ。」
聞きなれた、”お前”と”お譲ちゃん”という呼称。
そう呼ばれるのも慣れてきていた彼女達は、
すぐ言われた通りの場所まで移動し、それから
履いていたスキー板を外した。
私も同じようにスキー板を外し、それから
雪に突っ伏すようにして身を低くする。
寒さや冷たさは感じるが、我々の着ているギリースーツは
防寒具としては超一流であり、雪の地面に倒れこんでも
耐え難いほどの冷たさを感じる事はなかった。
「さあ、お前も同じように。」
そう言われたゲルダは小さく頷き、
同じように雪の地面に突っ伏した。
146 :
1
[saga]:2011/06/10(金) 18:14:07.21 ID:lovxZEQB0
静寂。隣に居る彼女の呼吸の音を除いては、
この森の中からは音という概念が消えたかのように思えた。
心臓が激しく鼓動を打つ。
自分が雪の中に突っ伏している事から感じる冷たさすらも、
緊張のために私は忘れていた。
やがて、その静寂は、小さく耳に入る耳鳴りによって
破られた。破られたというほど大きな音ではなかったのだが。
ゲルダと反対側にいるエーメリを見ると、彼は
”お嬢ちゃん”から何かを耳打ちされていた。
次にエーメリが私の元へ駆け寄り、
”お嬢ちゃん”から伝えられた情報を私に教えてくれた。
「戦車九台を伴った、大隊規模のソ連軍部隊が接近中。
中隊長の発砲があるまで、発砲は控える事。」
それを聞いた私は、自分の思いを打ち明けるかのように
頭を振った。一個中隊でしかない我々が、どのようにして
大隊規模の敵と戦うのいうのであろうか。
そんな私に、隣にいるゲルダがメモを手渡す。
「大丈夫、指示は隣のエーメリがくれる。
メモより、頭を低くしていなさい。」
そう私は答えた。彼女の心配をしたからではない。
彼女が敵に発見されれば、隣に居る私も一緒に撃たれる。
それが嫌だったからだ。
彼女は小さく頷き、再び雪の中へと突っ伏す。
そうそう、そうしていれば、着用している
真っ白なギリースーツが私達の身を完全に隠してくれる。
私は今回、撃つ事がない。ならばこうして、
じっとしている限りは生き延びる事が出来るのではないか。
そう願いながら、息を潜めてじっとしていた。
だんだんと大きくなる耳鳴りを聞きながら。
147 :
1
[saga]:2011/06/10(金) 18:14:41.79 ID:lovxZEQB0
奴らが、少し離れたところにある道路を進んでいるのが見える。
長い、とても長い兵隊の列。ざっと見るだけで、我々の数倍の人数が
居る事は確認できた。300人はいるのか?500人だろうか?
その歩き続ける長い列を、私は怯えながら見つめていた。
もう、先頭を走っていた戦車と、その周辺を歩いていたソ連兵は
私の視界にない。それでも、いつまで経っても戦闘は始まらない。
我々の中隊は、この敵をやりすごすつもりなのであろうか?
心に少しだけ生まれていた私の希望は、激しい轟音にかき消される。
道路の先頭を進んでいた戦車が、炎を上げて吹き飛んだ。
実際に見えていたわけではないのだが、燃え上がる火の玉だけが
その事を私に予想させてくれた。続けて、私の視界内にあった
道路の最後尾を進んでいた戦車もまた、同じような最後を遂げた。
それから始まる銃撃戦。
もはや私の耳はその激しい発砲音のせいで働く事を
辞めてしまったようである。目に見えた物は、敵味方の銃身から
発せられた発砲炎と、まるで流星のように流れるいくつもの光の筋。
その光は、あまりにも鮮やかで、私は見とれてしまっていた。
私の隣には、震えて頭を抱えたまま雪に突っ伏すゲルダの姿。
反対側には、一心不乱に小銃を撃ち続けるエーメリと、
どこから持ってきたのか分からない、大型の機関銃を撃つ
”お譲ちゃん”の姿。その機関銃は、我々人間が作り出した
機関銃と異なり、青く光り輝く断続的な帯を敵に向けて伸ばしていた。
その輝く流星に貫かれた相手は、それの持つ美しさと対照的に
見るもおぞましい姿へと変わっていく。
それを見た私は吐き気を覚える。
とても良い気分とは言えなかったが、それでも私の心には
再び希望が生まれていた。この戦いは勝てるのかもしれない。
私は生き残れるかもしれない。
そう考え、私はゲルダと同じように、頭を抱えたまま
雪の中に顔をうずめていた。
148 :
1
[saga]:2011/06/10(金) 18:15:10.50 ID:lovxZEQB0
気づけば、戦闘は終わっていた。
我々には犠牲者はおろか、負傷者すら一人もおらず、
対する敵は多数の犠牲者を出しての撤退。
奇跡的ですらある、まさに一方的勝利だった。
「”父親”は敵さんから、武器弾薬、食料に水、使えそうなものを
何でもかき集めてこい。衛生兵は、自分の仕事をしろ。
30分後に、我々は後方の陣地へ移動を開始する。以上。」
小隊長からの命令を受けて、我々は各々に命じられた
仕事に取り掛かる。かすり傷一つ負っていない我々であったが、
衛生兵には傷の治療の他に、もう一つの役割があった。
それは、”娘”達の魔力の回復という仕事である。
149 :
1
[saga]:2011/06/10(金) 18:15:49.73 ID:lovxZEQB0
私が基地を出る際に渡された、このグリーフシードと
呼ばれる黒い宝石は、彼女達の魔力を回復させる
貴重な宝石であった。
これがどんな材質であるのかも、これがどう製造されて
いるのかも、私には知るところではない。その効能を見れば
数は多ければ多いほどいいのだが、私はそれを三つしか
手に入れる事が出来なかった。
三つしかないとはいえ、この黒い宝石は使い捨ての道具ではなく、
目安として五回前後の使用は行えるとマニュアルには記載されている。
ただし、それを超えると非常に危険な爆薬となってしまうため、
五回を絶対に超えない事。とも、マニュアルには記載されていた。
それを持ち、私とゲルダは”娘”達の間を走り回った。
彼女達の魔力は、彼女達の持つソウルジェムと呼ばれる
綺麗な宝石に蓄えられているのだ。
あの”娘”は青、この”娘”は黄色、といった具合に、ソウルジェムの色は
”娘”によってバラバラであった。始めは気づかなかったが、
彼女達の持つソウルジェムにグリーフシードを重ね合わせると、
ソウルジェムの発色が鮮やかになる様子が見えた。
魔力を使うとソウルジェムは黒く濁っていく。マニュアルにも
記載されていたのではあるが、このように直接、目にする事で
私は実際にそれを確認する事が出来た。
そして、ソウルジェムが黒く濁りきった時、またはソウルジェムを
破壊された時、彼女達は死んでしまうらしい。
万が一グリーフシードの予備がなくなり、なおかつソウルジェムが
黒く濁った”娘”が発生した場合には、機密保持のために
ソウルジェムを破壊して”処分”するよう事。
そんなおぞましい内容も、マニュアルには記載されていた。
150 :
1
[saga]:2011/06/10(金) 18:16:17.68 ID:lovxZEQB0
「ハユハ、受け取れ。」
エーメリが私に向けて投げた”それ”を、私は
受け止める事が出来ずに雪の中へと落としてしまった。
「お前の言いたい事は分かる。だが、絶対に必要な時が来る。
お守りだと思って持っていろ。」
私が雪の中から取り出した”それ”は、今は物言わぬ姿となった
敵兵が持っていたであろう狙撃銃。こんなものがお守りなど
冗談ではないと返事をしようと思ったが、
考え直した私はそれを肩に担いで、無言で頷く。
仲間達が戦っている中で、銃を一発も撃っていないと
一目で分かる、丸腰の自分が恥ずかしかったからだ。
撃つつもりがなかろうが、こうして銃を持ってさえいれば、
一端の兵隊に見えることであろう。
私はそう考えたから、銃を持ち歩く事にした。
「小隊長から、中隊集合の指示よ。」
エーメリの”娘”が教えてくれる。
「これより、後方の民間防衛隊が作ってくれた陣地に移動する。
各自、警戒を厳にしつつ、速やかに移動せよ。だって。」
そして私達はスキー板を足にはめこみ、再び来た道を
引き返した。こんな事がいつまで続くのだろう。
私は神に対し、心の中で恨みの言葉を吐き続けていた。
151 :
1
[sage]:2011/06/10(金) 18:16:45.63 ID:lovxZEQB0
152 :
1
[sage]:2011/06/10(金) 18:18:45.80 ID:lovxZEQB0
今日はここまでです。続きは、また明日。
>>122
からが、本編です。
153 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(愛知県)
[sage]:2011/06/10(金) 19:32:10.79 ID:cxZsSzOR0
乙!冬戦争か。ガンスリっぽいテイストも混じって大変楽しめた。
154 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/10(金) 22:26:54.80 ID:wZXEhWESO
北欧の魔法少女とはすばらしい
155 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/06/10(金) 22:37:21.05 ID:D2aOjodwo
そういえば北欧産っぽい魔法少女は本編にもいたな
ありゃバイキングだけど
156 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/11(土) 01:07:29.61 ID:goN4FviDO
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BD%E3%83%93%E3%82%A8%E3%83%88%E9%80%A3%E9%82%A6
ソビエトっていう呼び方は本国と日本以外では使わないみたい。
あと、ビデオテープは流石に……。
157 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/06/11(土) 07:51:53.76 ID:tmx7hMIjo
記録映画みたいな物、と脳内補完するへし
……俺はそうした
158 :
1
[sage]:2011/06/11(土) 09:26:55.55 ID:Hwo8avAf0
読んでくれてありがとう。指摘もありがとう。
国名の呼び方については、日本人に読ませるための文章を書いてる以上、
誰にでもパっと分かるようにするためにソビエト連邦、ソ連としました。
同じ理由から、この作中ではスオミやスオメンといった言葉も使っていません。
ビデオも同じように、パっと分かるように・・・と思ってそうしたつもりだったのですが
お二方の反応を見て「映像フィルムにでもしとけば良かった。あたしってほんとバカ」
って気持ちで一杯です。すまんかった。
159 :
1 第二話は>>122から
[sage]:2011/06/11(土) 09:29:41.08 ID:Hwo8avAf0
それでは続き行きます。
160 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 09:30:22.26 ID:Hwo8avAf0
161 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 09:30:52.66 ID:Hwo8avAf0
続く日々は、おぞましさの繰り返し。
私達は陣地にこもり、敵を待ち伏せし、
一方的な殺戮をしては物を奪い、また後方に下がる。
敵が存分に消耗した事を確認したら、また少し前進する。
ひたすら、その繰り返しであった。
私達は連勝に次ぐ連勝を重ねていたものの、
他の戦線では、我々フィンランド軍は迫り来る圧倒的な
敵の物量にじわじわと潰されかけていた。
それがこの戦争全体で見る我が軍の戦況であった。
だから我々の部隊から、少しずつ引き抜きが始まる。
一組、また一組と、我々の中隊は戦力を減らしつつあった。
我が軍は、もう機密保持などなりふり構っていられないのであろう。
「補給が来たぞ。あと、衛生兵は集合するように
と言っていた。ハユハ、急げ。」
エーメリにそう言われたため、私は中隊長のいる塹壕へ
足を運んでいた。彼の隣には、糊の利いた綺麗な軍服を着た
軍人が立っていた。階級章から、少佐だという事が分かる。
衛生兵が全員集まった事を確認すると中隊長は、その隣の少佐に
「お願いします。」
とだけ言った。
「では皆さん、グリーフシードを用意して下さい。」
急に言われた事なので戸惑ったが、私達は
それぞれ、持っていたグリーフシードを取り出した。
「では、そのまま縦に一列に並んで下さい。
順番は誰からでもいいです。」
誰からでも、というのにまた戸惑うが、結局
少佐に近い所に立っていた私を先頭に、その場にいた
衛生兵達は順番に並び出した。
162 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 09:31:26.60 ID:Hwo8avAf0
私は手に三つのグリーフシードを持ち、それを少佐に見せる。
「五回使用したものは?」
そう問われたため、私はそれぞれのグリーフシードに
貼り付けた、使用回数を書いたメモを念のために確認してから、
彼に二つのそれを渡した。
それを受け取った彼は、懐から一つのグリーフシードを取り出し、
交換をするかのように私に手渡してきた。見た目には分からないのだが、
「それは新品です。」
と彼が答えたため、私はそれを大事に紙に包み、背嚢に入れた。
「あの、それは何か武器になるのですか?」
好奇心から尋ねた。強力な爆弾になるというのであれば、
我が軍の戦況が少しは好転するのではないかと思って。
「知る必要はありません。次の方、どうぞ。」
そっけない返事を返され、並んでいた仲間達は
私を見て笑っていた。
二つを渡して一つのお釣りじゃ割に合わないな。
などと考えながら、私はゲルダの待つ
塹壕へと戻って行った。
163 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 09:31:52.17 ID:Hwo8avAf0
164 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 09:32:34.33 ID:Hwo8avAf0
二歩の後退と、一歩の前進。
それを繰り返すうちに、私達を守っていた深い森は途切れ、
眼前に広がる雪の平野と、凍りつくコッラ川が見渡せる丘に、
私達は陣地を作っていた。
今回の待ち伏せ場所では、これまで私達の姿を隠してくれてきた
森の中の戦闘とは違い、敵からも容易にこちらの姿が見える事であろう。
相変わらず私は恐怖を感じていたし、ここまでの一ヶ月間
私は一度も肩にかけた狙撃銃を使用していない。
だが我々は、これまでの無数の戦闘を負傷者こそ
出していたものの戦死者を全く出さずに潜り抜けてきたため、
今回も私は生き残る事が出来るであろうと楽観視しつつあった。
あるいは、恐怖感が麻痺してきていたのであろうか。
それは隣にいるゲルダも同じ様子であったようで、
戦闘を初めて経験してからの数日は、彼女は戦闘のたびに
小さくなって震えていた。
だが今の彼女は、負傷者の存在をテレパシーで
知らされたのであれば、頭上を銃弾が飛び交っていようと
立ち上がり、治療を待つ仲間の元へ走り出すようになっていた。
最初は私と同じ、臆病な似たもの同士だと思っていたが、
彼女は私が考えているより、ずっと勇気を持っていた。
私はその事が、少しずつ恥ずかしいと思い始めるように
なってきていたのであった。
今度の戦闘では、私はきちんと彼女と共に行動しよう。
私は、そう考えていた。
165 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 09:33:13.42 ID:Hwo8avAf0
突然、私達に襲い掛かる轟音。戦車が爆発した時と
似たような音だ。だが、あの時とは音量のレベルが違う。
今回の爆発音は、それが過ぎ去った後も、耳の中で
キーンという音でいつまでも残り続けた。
轟音の連続。そして、私達の頭の上に降りかかる土砂。
我々は、野戦砲による砲撃を受けていたのだ。
「衛生兵、こっちだ!早く来てくれ!」
「いてえ!いてえ!」
「衛生兵!衛生兵!」
耳鳴りの奥から、助けを呼ぶ声が重なり合う。
私が先ほどまで考えていたゆるやかな決意は、
完全にこの砲撃によって吹き飛ばされてしまった。
怖い、怖い、怖い。
そして、隣に居た彼女は、やはり勇敢であった。
彼女は私を見て微笑むと、塹壕の中を走り出す。
それを見た私は、吹き飛ばされてしまった決意を
なんとか空気中から掻き集め、意識の中に押しこんだ。
悲痛な助けを呼んでいるのは、私の仲間なのだ。
少し先を走っている彼女の手を捕まえると、
彼女は驚いて振り返る。私が小さく頷くと、
私を見ている彼女も頷いて返事を見せる。
そして、私達は悲鳴の主を求めて走り出した。
166 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 09:33:43.47 ID:Hwo8avAf0
哀れなその男は、右足の膝から下が吹き飛んでいた。
流れる涙を隠そうともせず、痛みにのたうちまわっている。
そんな彼を見て、彼の”娘”は大声でわんわん泣いていた。
泣き叫ぶ”お嬢ちゃん”をゲルダは押しのけて、
今はもう存在しない彼の右足をいたわるように、手をかざした。
そこに白い光の粒が現れる。そして粒はゆっくり、ゆっくりと
集合を始めた。少し時間をかけながら、集まっていったその光の塊は
まるで彼の足の形のように見えた。
まるで、ではなかった。光の粒の集合が終わり、白い
輝きが消え去ると、そこには再び血の通った色をした、
彼の新しい足があったのだ。
やがて苦痛から解放された彼はゲルダの手を取り、
「ありがとう。ありがとう。」
とただ繰り返していた。
ゲルダが彼に微笑みを向けて、彼から手を離す。
次には、彼の”お嬢ちゃん”が彼に飛びつくように
抱きついた。二人とも、涙を流していた。
私は、ゲルダの事がとても誇らしく感じた。
私の手柄ではない事は十分承知の上であったのだが。
まだ、塹壕のいたる所から悲鳴は聞こえ続ける。
私はゲルダの手を取り、彼女に小さく頷く。
彼女がまた、先ほどと同じように返事をしてくれると思っていた。
167 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 09:34:13.96 ID:Hwo8avAf0
だが、彼女は何故か固まったままだった。
その理由はすぐに明らかになる。
今、目の前で涙を流していた”お嬢ちゃん”が、
震える声でこう教えてくれたからだ。
「地面が見えないほどのソ連軍が接近中。
先鋒部隊だけで一個連隊。
繰り返す、先鋒部隊だけで一個連隊。」
それを聞いた私と、目の前に居た”父親”は
その復活したばかりの足を使って立ち上がり、
塹壕から頭を出してその眼下に広がる光景を見た。
こんなもの、見えなければ良かったのに。
すぐに私は後悔していた。
168 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 09:34:41.07 ID:Hwo8avAf0
眼下に見える、一面の人、人、人。
そこにはつい先日まで見えていた白銀の景色は半分に割れ、
もう半分は黒く蠢く地面の姿があったのだ。
連隊というからには、千人単位の敵が迫ってきている
という事なのだろう。しかし、今の私には眼前にいるソ連軍の
数を当てて楽しむ余裕など、全くない。
迎え撃つ我々は、百人前後の中隊でしかないのだ。
いや、これまでの日々で部隊から引き抜かれた仲間の事を考えると、
ひょっとしたら百人もいないのではないか。
じわじわと雪の平野を塗りつぶすように、
押し寄せる人間によって作られた黒い地面。
そこへ向けて放たれた、射撃開始の合図である
中隊長からの一撃。
それを合図に、この世界には銃撃音、飛び散る土砂、悲鳴。
その三つの事柄しかなくなってしまった。
私は固まってしまったままのゲルダに、銃撃音に負けないよう
叫んで言い聞かせようとする。
「仲間達が倒れたら、私達も殺されてしまうんだ!
ここで怯えている場合じゃない!」
彼女は動きを見せる。だがそれは、私の期待した動きではなく、
小さくその場にすとんと座り込んでしまった。
「私達は衛生兵なんだ!私達が彼らを助けないで、
誰が彼らを助けるんだ!」
気づけば、先ほどまで抱き合い涙を流していた二人も、
塹壕から顔を出し、銃撃を始めていた。
だが、彼女は座り込んだまま、震えているままであった。
彼女は以前のように、戦場という地獄の恐怖に囚われてしまったのだ。
169 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 09:36:01.72 ID:Hwo8avAf0
焦燥感にかられた私は、彼女を無理やり起こし、
彼女の頬を張った。激しく耳に入る銃撃音の中でも
パン
という乾いた音は私によく聞こえた。
すぐに罪悪感が私を襲う。感覚が麻痺していたが、
ゲルダが怯えるのは当然の事なのだと私は理解した。
彼女はまだ、14歳という若さなのだ。
今の行為を詫びるように彼女を強く抱き、
それでも彼女の耳元で大声で叫ぶ。
「お前にしか、助けられないんだ!仲間達も、娘達も!」
大声を出しているために、声が続かない。一呼吸を置き、
「お願いだ!お前にしか、出来ない事なんだ!」
と私は再び叫んだ。
次の瞬間、彼女は私を突き飛ばし、私をじっと見つめた。
それは怒りの視線なのだと、最初は思った。だが、
彼女は立ち上がり、私を見つめたまま震える手を伸ばす。
その視線に込められたものは、まぎれもなく勇気であったのだ。
私もその手を取り、立ち上がる。
至る所から聞こえる悲鳴を求めるように、私達は走り出していた。
170 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 09:36:27.18 ID:Hwo8avAf0
誰一人として絶望に怯えるわけではなく、皆が一心不乱に、
それぞれの武器を迫り来る敵に向けている。
この丘に至るまでの間に、幾度となく戦闘を繰り返し、
そのたびに勝利をおさめてきた我々は、立派な戦闘集団であった。
怯えていたからこそ、戦う事で恐怖を打ち消すより他に
仕方がなかったのかもしれないが。
”父親”達の武器は、小銃、迫撃砲、手榴弾といった具合の
現代的な武器。
彼らの隣で戦う”娘”達は、多種多様な武器を使用していた。
見た目には古臭いカノン砲、マスケット銃。
現代的なフォルムを見せるライフル銃、機関銃。
そして明らかにこの戦場と不似合いな長弓、クロスボウなどなど。
だが、それらの武器を扱う彼女達は、どのような火器を持つ
”父親”達よりも、強力な力を持って迫り来るソ連軍を阻止していた。
彼我の戦力差に絶望していた私ではあったが、我々の戦友達の
奮闘を見ているうちに、今回も生き残る事が出来るのではないかと
私は期待を持ち始めていた。
171 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 09:37:07.27 ID:Hwo8avAf0
吹き飛ぶ少女の姿。
私は、その光景が今でも目に焼きついている。
最後に私が見た時には、光の矢を放つクロスボウを連射していた
”お嬢ちゃん”は、その武器を持っていた腕をなくしてしまい、
塹壕の中に倒れこむ。
その状況を飲み込んだ時には、隣で小銃を撃っていた”父親”も、
頭部から真っ赤な血を噴出し、倒れていた。
傷が深い”父親”からだ。そう私が判断した時には、
ゲルダはすでに父親のもとへ駆けつけており、彼の頭に手をかざそう
としていた。
すぐに力を失い、だらりとたれるゲルダの腕。
力なく私を見て首を振る姿から、もう彼が助からない事を
私は理解した。
それならばせめて”お嬢ちゃん”。
彼女の腕は、ゲルダの魔力で治る。私はそれを知っていた。
ゲルダが”お嬢ちゃん”の腕に光の粒を作っている間に、
私はこの”お嬢ちゃん”の魔力を回復させようと、
彼女の持つ紫色のソウルジェムを手に取った。
それは、一目見てひどく黒ずんでいる事が分かる。
急いで魔力を回復させなくてはならない。
そう思った私は、グリーフシードをポケットから取り出そうとした。
172 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 09:37:40.02 ID:Hwo8avAf0
射撃が途絶えたこの場所を、敵が狙わないはずがない。
ついに丘を越えて来た、塹壕の上に立つ一人の兵士を
私は目にしてしまったのだ。幸運な事に、
青い光の機銃弾による援護が、その敵兵を吹き飛ばす。
仲間が援護してくれている。だが、猶予はない。丘の下から、
私のいる場所を目掛けて突進してくるソ連軍の姿が見えたからだ。
ゲルダの様子を見るが、まだ光の粒は腕の形すら作り出せていない。
ここで回復をさせている余裕はない。私は片手でゲルダの腕を掴み、
もう片方の手で、倒れている”お嬢ちゃん”の残っている方の腕を掴んだ。
そして、二人を立ち上がらせて、移動しようと考えたのだ。
ゲルダはその意図を理解してくれたが、”お嬢ちゃん”は別だった。
173 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 09:38:05.61 ID:Hwo8avAf0
「もう嫌だ。」
そう呟く彼女は、一向に立ち上がろうとしない。
再び、丘を駆け上がってきた次の敵兵が、小銃を乱射する。
先ほどと同じように、青い機銃弾が彼を吹き飛ばす。
彼の残した置き土産は”お嬢ちゃん”の腹部に作られた赤い泉。
苦痛に顔を歪める彼女。もう、彼女を連れて移動する事は
出来ない。私は自分のすべき行動を思い出し、彼女のソウルジェムを
手に取り、地面に置いた。
その上から、私は持っていた銃を大きく振り上げる。
その動きは、ゲルダの手によって止められた。
彼女は泣きながら、必死に首を振っていた。
彼女はこう言っているのだ。私が治すから、と。
そのような時間は、残念ながらない。さらに次のソ連兵が、
丘を駆け上がって来るのを目にした時、私は地面に置かれた
紫色の宝石を目掛けて、力の限り銃床を叩き付けた。
銃を上げると、宝石はガラス細工のように粉々になっていた。
ただただ在るものは後悔。
倒れていた”お嬢ちゃん”の姿を確認する勇気は私にはなく、
ゲルダの手を取って戦友の残る位置へと駆け出していた。
174 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 09:38:42.46 ID:Hwo8avAf0
175 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 09:39:11.00 ID:Hwo8avAf0
少し暗くなり始めた森の中の道路を、我々は力なく歩いている。
魔法少女中隊が初めて味わった敗北の味。
我々は、その苦い味を噛み締めていた。
数字だけで見れば、戦術的には勝利であったのかもしれない。
こちらは14名の戦死者を出していたが、彼らは数百人単位で
犠牲を出しているように見えていた。
しかし、私達は陣地を奪われた。それは戦略的な敗北である。
何より、これまで犠牲を出していなかった我々の中から戦死者が
出てしまった事が、我々の心に敗北感を植えつけていた。
隣を歩くエーメリから、我々に下された指示を聞く。
「陣地は奪われたが、その事でソ連軍は戦力の突起部を作ったらしい。
あの陣地の南北に、我が軍の歩兵部隊がまだ温存されている。
俺達は少し後退し、敵を引き付けてから歩兵部隊と共同して
包囲戦をする事になるようだ。」
私は返事をする元気すらなく、それを聞いて頷く。
私のやった事は正しかったのだろうか。本当にあの時、
ああするしかなかったのか。後悔ばかりが、私の中にあった。
ゲルダはあれから、私の目を見ようとしない。
「もう追いついてきたようだわ。」
突然そう話したのはエーメリの”お嬢ちゃん”である。
「大隊規模のソ連軍部隊が、私達を追いかけているみたい。
この森で待ち伏せを行うよう、中隊から指示が来ている。
私達の小隊は、道路のこちら側にて待機するようにと。」
それを聞かされた時には、我々の中隊は行動を始めていた。
我々の初陣と同じように、道路を挟んで敵を待ち伏せる。
また、我々が歩いているこの場所には、
これまた初陣の時と同じような沢山の木々があった。
私は”お嬢ちゃん”とエーメリに頷いて見せると、
ゲルダの手を引きながらエーメリの後をついて歩いていった。
176 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 09:39:47.15 ID:Hwo8avAf0
「このあたりにしよう。俺達はこっち、お前達はそっち。」
ここまでの戦いで何度も聞いたその台詞を受けて、
私とゲルダは指示された木の近くで体を伏せる。
もう今となっては、ギリースーツが防寒の役目を果たしていない。
そう思えるほどの寒さが、我々を襲っていた。
不運な事に、今年の寒波は例年のそれよりも激しく、
我々の体力を奪っている。
だが、寒波は準備不足で戦争を始めたソ連軍の方に、
より深刻なダメージを与えていた。彼らはろくな防寒装備を
持っていなかったし、彼らの爆撃機や輸送機は、
この戦争が始まってから、満足のいく行動を取れていない。
我々は彼らの補給線を執拗に断ち、彼らをとことんまで
疲弊させていた。だからこそ、我々は倍する敵の進撃を食い止め、
戦線を維持する事が出来ていたのであった。
だが、こんな様子で我が軍はどこまで持つのであろうか。
いつまで、あの無尽蔵の兵力と鉄量を抑え続ける事が出来るのか。
私は敗北に打ちのめされていたために、弱気になっていた。
雪の冷たさに耐えながら、敵の接近の兆候を見逃すまいと
私は意識を集中させる。神経を尖らせ、前方の道路を見張っていた。
気づくと、遠くに見える道路ではなく近くの木の間を通る
ソ連軍の歩兵部隊。彼らもまた何度となく待ち伏せと不意打ちを
受け続けていたため、周囲の森を念入りに警戒しながら歩いていた。
車両を伴っていなかった彼らは、道路の真ん中を前進する必要がなかったのだ。
中隊長が発砲を始める。
続く、耳に鳴れた激しい銃撃戦の音。ソ連軍は我々をよく見えて
いなかったようではあるが、おそらくこちらの発砲炎に向けて
照準を合わせているのであろう。
至近距離での殺し合い。それを見た時、私の心は折れた。
もうやっていられるか。
私はゲルダの手を引き、銃を持ってその場を駆け去った。
177 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 09:40:23.59 ID:Hwo8avAf0
木の根と雪とが作ってくれた穴を見つけ、
私はゲルダの手を握ったままそこに潜り込む。
遠くに聞こえる銃撃戦の音を聞きながら、
私は彼女を抱いて震えていた。
彼女は戻ろうとした。だが、行かせないために
その手を私は掴んで離さない。
怖かった。一人にしないで欲しかった。
その思いだけが、彼女をここに留めさせていた。
足音。
凍った雪を踏みしめる、ジャリジャリとした足音を
私は耳にする。そして、その足音の主が二人分である事も
じきに分かった。
彼らは会話をしながら歩いている。戦場では無用心な
ものだと思った。彼らは新兵なのかもしれない。
だが、私に絶望感が生まれた理由は、彼らの会話が
ロシア語だと理解したからであった。
近づく足音。
近づく会話。
通り過ぎてくれ。
通り過ぎてくれ、お願いだ。
だが、音は確実にこちらへ向かってきている。
この遠目には隠れるのに調度よさそうな穴を、彼らは
覗こうとしているに違いなかった。
心臓の鼓動音が聞こえる。それが私のものなのか
抱きしめているゲルダのものなのかまでは区別が付かない。
足音が、近くで止まった。
178 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 09:41:32.29 ID:Hwo8avAf0
ゲルダは人差し指を鼻の前に出し、「静かに」という
意思を私に見せた。そんな事は言われなくても分かっているが、
私は彼女に向けて頷く。
突然、彼女は穴から飛び出し、外にいる男を殴りつけた。
殴られた男が倒れるところが私には見えた。
同時に聞こえた発砲音。
少し間を置いて倒れるゲルダ。
お前は何をしているんだ。
彼女がどこを撃たれたのかまでは、私のいる位置からは
見えない。やがて、殴られた男は頭を振って立ち上がり、
彼女の腹を思い切り蹴飛ばした。
倒れたまま、苦しそうに身を丸く彼女。
だが、決して視線をこちらに向けようとはしない。
男達はへらへらと笑いながら、倒れた彼女の手を持って
雪の上を引きずり出した。そして嬉しそうに、お互い会話を
しながら私の視界から消えて行く。ゲルダという獲物を狩って
彼らは満足したのだ。彼らは、私の居る穴を覗こうともしなかった。
彼らの会話を頭の中で訳した時、
私は銃を構えてその安全地帯を飛び出していた。
179 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 09:41:59.06 ID:Hwo8avAf0
「下種野郎ども、ゲルダを返せ!」
そう叫んだ私は、目に入った男の頭を撃ち抜く。
驚いて目を丸くしているその相棒を、私は銃床で殴りつけた。
彼が倒れこんだ後も、何度も、何度も、何度も、何度も。
倒れていたゲルダは、左足の腿を撃たれていた。
肩を貸して座らせてやると、彼女は自分の足に両手を添える。
傷が浅かったためか、彼女はその傷をすぐに塞いで見せた。
そうして彼女が自身の治療を終えたのを見てから、
私は彼女に抱きつき、謝罪した。
「すまなかった。」
それを聞いた彼女は、笑顔でゆっくり首を振る。
いいの、と言っているのだ。
いつの頃からか、私は彼女の仕草だけで、
彼女が伝えたい事を理解できるようになっていた。
きっと、親子というのはそういうものなのだろう。
私は初めて、今の気持ちをそう解釈していた。
180 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 09:42:27.70 ID:Hwo8avAf0
森の遠くから、まだ耳に聞こえる発砲音。
同時に、ちらちらと輝く発砲炎も確認が出来る。
「立てるか?」
と尋ねると、彼女は頷き、そのまま立ち上がって見せた。
一度逃げ出しておいてこんな事を言えたわけでもないが、
今更になって戦友達が心配になったのだ。
「誰か助けを求めていたりは?」
この質問には、彼女は首を横に振った。
テレパシーで伝わる情報の範囲内では、
幸いにも怪我人は出ていないらしい。
「エーメリのところへ戻ろう。」
そう言うと、彼女は頷いた。
私は彼女の手を引き、逃げてきたこの森の中を
引き返すように戻って行った。
181 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 09:42:56.20 ID:Hwo8avAf0
私達がその場所に戻れた頃には、森の中に響く銃撃音は
散発的になっていた。
そして、エーメリ達の姿はなかった。残されていたものは、
散乱した敵兵の亡骸だけであった。おそらくは、射撃をした後
どこかに移動したのであろう。
「エーメリの”お嬢ちゃん”と連絡は取れるか?」
そう私が言ったため、ゲルダは目を瞑って何かを
考えているような様子を見せる。だが、彼女は目を開き
首を横に振った。
「そうか、何処行ったんだろうな。」
自分に向けて呟いたつもりの言葉だったのだが、
ゲルダは首をすくめて、分からないという仕草を私に見せる。
だが彼女は思い出したかのように、自身の魔力の源である
真っ白なソウルジェムを手に取り出す。
「何だ?ソウルジェムが濁って来てるのか?」
そう私が問いかけると、彼女は首を振ってから
私の手を握り、引っ張ってきた。
ついてこい、そう言っている様子だ。
私がそれを見て頷くと、彼女はソウルジェムを
見つめたまま、歩き出した。私もそれに続き、
手に持つ狙撃銃を改めて構え、周囲に気を配りながら歩き出す。
182 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 09:43:23.41 ID:Hwo8avAf0
歩いていくうちに、だんだんと風が強くなる。
今夜は吹雪になりそうだ。そう考えているうちに
やがてそれは見えた。文字通りの死体の山。
それを目にした時は戦慄したが、その山を作った亡骸の
着ているものが我々の軍服と違う事がわかり、ほっと胸をなでおろす。
だがその山とは別に、不自然なものも見えた。
山から少し離れた場所にある木の根元から、
赤黒いペンキのような線が、すぐ近くにある穴まで引かれていた。
まるで雪をくりぬいて作られたかのような穴だった。
そのペンキが何なのかは、すぐに理解出来た。
ペンキを辿って行き、手に持つ銃をその穴に向けながら
穴の中をゆっくりと覗いた。
そのペンキの主が、私の目の中に飛び込んだ。
「エーメリ。」
私の唯一の友の変わり果てた姿。
言葉が出なかった。私があそこに留まっていれば、
彼は助かったのかもしれないのだ。
私は自身に、考えられる呪いの言葉をぶつけたかった。
しかし、彼の隣で苦しそうに喘いでいる”お嬢ちゃん”の
姿を見たため、私はそんな事をしている場合ではないと
頭を振り、彼女の居る穴へ飛び込んだ。
見たところ、何処にも怪我は見えない。ならば、何故
こんなにも彼女は苦しんでいるのか。答えはゲルダが
教えてくれた。ゲルダは、自分の持っているソウルジェムを
つんつんと突付くように、指差していたからだ。
私はそのサインに気づき、彼女のポケットを探って
その青いソウルジェムを観察する。するまでもなかった。
もはやその宝石は、青いというよりは黒いと表現したほうが
適切であるくらい、輝きを失っていたからだ。
183 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 09:43:52.70 ID:Hwo8avAf0
そのソウルジェムの穢れは、我々が敗北を喫したあの丘の上で、
私が一人の”娘”の命を奪った事実を思い出させる。
それは穴の上に立っていたゲルダも同じ事を考えたのか、
心配そうに私を見下ろしていた。
「絶対に連れて帰るぞ。」
そう、彼女の心の疑問に私は答えた。
「ゲルダ、他の仲間のいる場所へ案内して欲しい。」
彼女は頷き、再び自分のソウルジェムを見つめ出した。
私は倒れている”お嬢ちゃん”を担ぎ上げ、
雪の穴から這い上がった。
友人の亡骸をこのまま残す事が心苦しい。
しかし、今は生きている”お嬢ちゃん”の事が大事だ。
きっと、彼にとっても大事な”娘”だったのだ。
こんな事で罪滅ぼしが出来るとも思っていないが、
彼女だけは何としてでも助ける。私はそう決意していた。
184 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 09:44:34.04 ID:Hwo8avAf0
185 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 09:45:07.90 ID:Hwo8avAf0
日は落ちつつあり、辺りに暗闇がたちこめる。
もはや吹雪と呼んでいいほどの強風の中を、
私はゲルダの後ろをひたすら付いていく。
やがて彼女は足を止め、風に紙を飛ばされそうに
なりながらも、私にメモを手渡した。
”集結している中隊にも負傷者多数のため、
森の中ではぐれた兵を待つ余裕がない。
各自、自力で脱出せよ。”
「間違いないんだな。」
と尋ねると、首を縦に振る彼女。
非常に困った事態になってしまった。
彼らが移動を始めると、人を一人背負っている私は
きっと彼らに追いつけない。
だからと言って、この”お嬢ちゃん”を置き去りにするなど。
そんな選択肢は私の中には当然なかった。
どうしようもない気分のまま、私は再び歩き出した
ゲルダの後ろを付いていく。この吹雪がおさまらなければ、
私達はこの-40℃前後の気温のために倒れてしまう事が
容易に想像が出来たからだ。
いっそ、雪の穴を掘ってそこでやり過ごすべきか。
そう考えていた私であったが、幸運にもそれは視界に
入ってきた。
おそらく、夏の間は伐採等の作業のために
使用されているであろう小屋。
それに気づかぬ様子のゲルダの手を引き、
そこを指差す。
「これ以上歩くのは危険すぎる。
吹雪がおさまるまで、あそこでやり過ごすぞ。」
彼女は”お嬢ちゃん”を心配そうに見て、何かを
言いたそうな表情を浮かべたが、私の言っている事が
間違いではないと認めたために、小さく頷いた。
186 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 09:45:40.68 ID:Hwo8avAf0
その小屋は、私達が部隊に配備された当初
初めてあてがわれた時の小屋と同じような粗末さであった。
おそらく林業の作業者の休憩所のような場所なのであろう。
いくつかの椅子と、テーブルと、並べられた細い木材。
幸いなのは、この小屋に調理場があった事である。
煙突があるため、私達は火を起こす事が出来た。
まず私達は湯を沸かし出す。少しずつ温まるそれを
飲んで、体温を調節していく。いきなり熱い湯を凍った体に
流すのは、とても危険な行為だと知っていたからだ。
もちろん、自力で湯を飲めない様子の”お嬢ちゃん”
にも、少しずつコップにすくった湯を飲ませる。
彼女がそれを飲み込める様子を見て、少しだけ私はほっとした。
暖炉がこの小屋にはなかったため、小屋の中の
木材をその調理場で燃やし、それを暖炉代わりにする。
その近くにテーブルを置き、即席のベッドにして
”お嬢ちゃん”を寝かせた。
「さあ、お前も今のうちに寝ておくんだ。
こんな吹雪では敵も来ないと思うが、
私は敵と火の見張りをしているから。」
そう私はゲルダに伝える。彼女は遠慮していたのか
渋っていた。だから、
「大丈夫、おやすみ。ゲルダ。」
ともう一度。彼女は少し躊躇した後に、小さく頷く。
そして私にもたれかかって、目を瞑った。
私にも疲労はたまっていたが、私が眠るわけには
行かない。夜を通す覚悟で、私はぐっと銃を握ったまま
小屋の唯一の入り口となるドアを睨んでいた。
187 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 09:46:11.69 ID:Hwo8avAf0
188 :
1 第二話は>>122から
[sage]:2011/06/11(土) 09:48:05.05 ID:Hwo8avAf0
ちょっと外出するため、今回はここまで。
前回投下の続きは
>>160
からです。
続きは夕方か夜頃になると思います。
189 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/06/11(土) 09:49:21.71 ID:tmx7hMIjo
乙彼様です。
君は、生き延びる事ができるか?
190 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海・関東)
[sage]:2011/06/11(土) 12:16:52.53 ID:P1+7Z1bAO
乙。この人、言うまでもなく白い死神の現地読みだよね……
ってことは救いはありそう。
あと、グリーフシードは尽きちゃったのかな?早く回復してやればいいのにと少し思った。
それと文章のルールとして「」の文末には。は不要だぜ。
続き楽しみにしてます。
191 :
1 第二話は>>122から
[sage]:2011/06/11(土) 16:39:46.81 ID:Hwo8avAf0
ただいマミマミ。どうもどうも、応援ありがとうございます。
>それと文章のルールとして「」の文末には。は不要だぜ。
知らなかった・・・感謝感謝です。今回投下分から修正しております。
>あと、グリーフシードは尽きちゃったのかな?
超大事な事なのにうっかり描写し忘れました・・・尽きちゃってる設定でした。
1レス、修正分を投下します。
192 :
1 >>181との差し替え分
[saga sage]:2011/06/11(土) 16:41:49.34 ID:Hwo8avAf0
私達がその場所に戻れた頃には、森の中に響く銃撃音は
散発的になっていた。
そして、エーメリ達の姿はなかった。残されていたものは、
散乱した敵兵の亡骸だけであった。おそらくは、射撃をした後
どこかに移動したのであろう。
「エーメリの”お嬢ちゃん”と連絡は取れるか?」
そう私が言ったため、ゲルダは目を瞑って何かを
考えているような様子を見せる。だが、彼女は目を開き
首を横に振った。
「そうか、何処行ったんだろうな」
自分に向けて呟いたつもりの言葉だったのだが、
ゲルダは首をすくめて、分からないという仕草を私に見せる。
だが彼女は思い出したかのように、自身の魔力の源である
真っ白なソウルジェムを手に取り出す。その様子を見た私は、、
少し焦りを感じる。グリーフシードの予備が、もうなかったからだ。
「何だ?ソウルジェムが濁って来ているのか?」
そう私が問いかけると、彼女は首を振ってから
私の手を握り、引っ張ってきた。
ついてこい、そう言っている様子だ。
私がそれを見て頷くと、彼女はソウルジェムを
見つめたまま、歩き出した。私もそれに続き、
手に持つ狙撃銃を改めて構え、周囲に気を配りながら歩き出す。
193 :
1 第二話は>>122から
[sage]:2011/06/11(土) 16:43:55.45 ID:Hwo8avAf0
それでは、ここから続きを投下します。
194 :
1 第二話は>>122から
[sage]:2011/06/11(土) 16:44:42.82 ID:Hwo8avAf0
195 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 16:45:52.05 ID:Hwo8avAf0
眠い。起きろ。眠い。起きろ。
自分に対して、心の中で戦いを続ける。
先ほども、私は自分の目を覚ますために、自分で自分の
頬を張った。その時に鳴った音は思いのほか大きく、眠っている
彼女達を起こしてしまったのではないかと心配になったが
ゲルダは変わらず、すやすやと寝息を立てていた。
そんな眠気覚ましも、一時しのぎの効果ですらない。
眠い。起きろ。眠い。起きろ。
私の人生で一番長い夜は、すでに始まっていたのだ。
196 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 16:46:24.96 ID:Hwo8avAf0
もう一度、自分の頬を張ろうとした時、私は異変に気づいた。
私は眠ってしまったのか。目に見えた物は、それまで
見ていた炎の明かりに照らされていた小屋の風景ではなく、
まるで水の中に絵の具を入れて掻き混ぜたような風景。
どう考えても、私は夢を見ている。早く起きなければ。
そう思って自分の頬を張るが、その景色は消えてはくれない。
ならばもう一度、そう考えたところでゲルダが目を覚ました。
「起こして悪いな」
と反射的に謝るが、これは夢なのだ。言う必要もない。
彼女も一緒に私の夢の中か。そんな事を考えていたのだが、
私は構わず自分の頬を再び張る。
なかなか覚めない夢だ。私は相当、疲れているらしい。
そろそろ頬が痛くなってきたが、もう一度。
彼女は首を振り、何かメモを書いている。
何だろう。それが気になりはしたが、また私は自分の頬を
引っぱたいた。
「なかなか覚めない夢だな」
私は独り言を呟いた。実際に、そう思ったからだ。
その時、彼女はメモを私に渡そうとしたのだが、
一度引っ込めて何かを書き足した後、再びメモを差し出してきた。
”これは魔女の結界”
その下に、
”これは夢ではない”
と。
それを見た私は、現実味がないのかあるのか
不思議な夢だと、性懲りもなく考えていたのだ。
197 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 16:46:54.02 ID:Hwo8avAf0
「これが夢でなくて、一体なんだと言うんだ?」
また少しのメモの時間を取り、
”魔法少女が実在するように、魔女というものも実在する。
魔女とは、私達、魔法少女の敵と教えられてきた”
それを見て、私は少し真剣になり始めていた。
私がメモを読んでいる間にも、彼女は続きの内容を書き続けて、
”私も訓練中に見た事がある。ここはその時に見た、魔女の結界と
よく似ている。同じ事を繰り返し書くが、これは夢ではない”
そんな夢のような現実を、私に教えてくれた。
少し頭を振って、よく考える。
「本当に夢じゃないんだな?」
彼女は頷く。
「こうなった原因は、私達の敵なのか?」
また、彼女は頷く。
「それならば”お嬢ちゃん”はどこへ行った?」
彼女は首を振りながら、ペンを走らせる。
”分からない。もしかしたら、魔女があの子を狙ったのかもしれない”
そう教えてくれた。信じがたい話ではある。
だが信じがたい光景などは、私はこの戦場で
幾度となく見せ付けられて来たのだ。
言葉通り、魔法の力というものを。
私はそこで初めて、危機感を覚えた。
「探しに行こう」
ゲルダの返事を待たず、彼女に手を差し出して
立ち上がらせた。もう片方の手には、狙撃銃を握り締めて。
198 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 16:47:26.06 ID:Hwo8avAf0
夢の絵の具の世界には、我々の世界の常識はなかった。
私達が歩いていた廊下の真ん中に、横向きのどこにも繋がらない
無意味なドアが置いてあった。壁に取り付けられる前の、ドアそのもの。
それをゲルダが開けると中には別の空間が広がっていた。
私の手を取るゲルダは、そこが正しい道だと信じているかのように
その空間へ飛び降りる。私もそうするより他にないため、同じように続く。
私達が着地したのは、雪で作られた広い橋。
暗闇を浮かぶ橋を歩いていく私達は、沢山の動物とすれ違う。
私はこれまでの人生の記憶には、その動物達の姿や形は
どこにも存在していなかった。
そのうちの一つの動物が、強く私の印象に残る。
真っ赤な瞳を持った、白い猫のような動物。
やがて、橋の下の奈落からどんどんと雪が盛り上がり、橋の左右に
雪の壁を作った。それは、我々がこれまで身を潜め、戦ってきた
雪の塹壕とそっくりであった。
そこに、激しい銃撃音が鳴り響く。
私はハっとして、音の出所を確認しようとした。だが、
その音はどこからでもなく、この塹壕内に鳴り響いていた。
弾はどこにも飛んではいないように見える。
鳴り続ける銃撃の音。音だけで続けられている戦い。
それを耳にしながら、私達はその塹壕とは不釣合いな、綺麗な装飾の
施されたドアの前にたどり着いた。そのドアには、色とりどりの宝石が
埋め込まれていた。
”この奥に何かがいる”
それが私達の探している”お嬢ちゃん”なのか、はたまた魔女であるのか。
ゲルダはその区別が付けられていない様子であった。
私は銃を握りなおし、ドアをゆっくりと開ける。
「お前は下がっていろ。いいな」
199 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 16:47:54.27 ID:Hwo8avAf0
中から漏れる暗闇。さらに大きくドアを開き、中を用心深く
観察しようとした。無意味だった。ドアの奥は、何も光を生み出さない
闇の世界だったのだ。
「うおッ!」
思わず、私は声に出してしまう。闇の中に足を踏み入れると、
足元には空間があったからだ。
バランスを崩した私は、そのまま闇の中へと落ちてしまう。
だが、すぐに私は足から着地する事が出来た。地面が近かった事に
私はほっと胸をなでおろすと、私は眩い光に照らされた。
その光は、まるでソ連軍のサーチライトのようであり。
そして、その光は無数に現れ、私だけではなく辺り一面を照らし出した。
天には絵の具の空。地には雪の塹壕。
そして私から50mほど離れたところに、
地上から少しだけ浮かぶ箱。
それが私の目にした光景であった。
先ほどのドアと同じく、きらびやかに装飾されたその箱は
まるで女の子が自らの宝物をしまっておくために使われるような
宝箱であった。
その宝箱の蓋が、ゆっくりと開く。
私はそれを、何も考える事が出来ずに眺めてしまっていた。
200 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 16:48:27.33 ID:Hwo8avAf0
その宝箱に空いた隙間から発せられる閃光を見た瞬間、
私は左肩に熱さを感じた。
熱い、とても熱い。
その原因を確かめようと目を向けた私は、すぐに理解する。
私の左腕はなくなっていたのだ。
すぐに熱さは、耐え難いほどの痛みに変わる。
私は宙に浮かぶドアと、そこに居るはずのゲルダを探した。
治療してもらおうと思ったわけではない。
「来るな!」
彼女は自分の考えと逆の事を言われて、ビクっと
動きを止めた。私は彼女が行動を再開しないよう、
間髪入れずに叫ぶ。
「絶対にここに来るな!なんとかする!」
それは私にとって、文字通り必死の痩せ我慢。
だが、私は言葉通りになんとかしなければならない。
目の前の物体が敵と分かった以上、これを撃破せねば
私も彼女も生きて帰る事は出来ないのだ。
雪の地面に真っ赤な模様を残しながら、私は走った。
そして箱に向けて、残された右腕を使い射撃を行う。
撃ってはまた走る。走ってはまた撃つ。
塹壕の迷路の中を、私は繰り返していた。
対する宝箱からの攻撃は、青白い閃光。
箱に覗かれたわずかな隙間から飛び出るそれは、
私が身を隠している雪の塹壕を軽々しく吹き飛ばす。
だが、私は幸運にも二発目のそれを受ける事がなかった。
問題は、私から宝箱に向けた攻撃がダメージを与えられて
いたのかが分からなかった。箱から弾かれる弾丸を見て、
まるで小銃弾を浴びせられる戦車の装甲のようだと思えたからだ。
どうすればいい。どうすれば勝てる。
201 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 16:49:00.65 ID:Hwo8avAf0
その答えは、偶然にも見つかった。正確には、答えで
あって欲しいという私の希望ではあったのだが。
いくら宝箱を撃っても手ごたえがないために、
私は僅かに口を開けている、箱の隙間の暗闇を狙った。
箱の蓋が音を立ててほんの少し持ち上がり、中から黒い煙が
噴出すのを私は見る事が出来た。それと同時に、私の耳に入る
少女のものとも、老婆のものとも聞こえる、女性の笑い声。
手ごたえ、というものなのかは分からない。だが、これまでの
私の攻撃からは違う、”変化”を見て取ることが出来たのだ。
これに賭けるしかない。そう考えた私は、その隙間を狙い続け、
宝箱を完全にこじ開けようとしていた。
箱からの攻撃は、驚くほどの威力を持って私を狙い撃つものの
精度のほうはそれほどではなかった。過去に何度も射撃コンクールで
優勝を果たした私のほうが、敵に対しての有効打を積み重ねていたのだ。
次第に開かれていく宝箱の蓋。
それに伴い、噴出す黒煙の量は多くなり
また耳障りな女性の笑い声も強くなっていく。
効いているに違いない。もうすぐ、あの蓋を吹き飛ばす事が出来る。
そう思った私は、きっと焦っていたのであろう。
守ってきた射撃後の即移動という鉄則を忘れ、その場で二連射を
してしまったのだ。
次に見えた時には、その宝箱はこれまでの攻撃のような閃光ではなく、
青白く光り輝く何かを私の足元に放り投げていた。
私はそれが手榴弾なのだという事を、すぐに理解した。
202 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 16:49:26.74 ID:Hwo8avAf0
私を包み込むその光から視力が回復した時、
さきほど失った左腕と同様に、私の左足までもが
消えてしまったのを私は見る事が出来た。
私は塹壕の壁にもたれたまま、動く事が出来なかった。
狼狽する私へ向け、続いて宝箱から放たれる青白い閃光。
それは私の顔面すれすれを通り抜けていった。
私の顎を道連れにして。
それに気づいたのは、地面にいくつも散らばっている
私のものであったと思われる、歯を見たからであった。
私の体は、もう動いてはくれないのであろう。
もはやこれまでか。
203 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 16:50:01.49 ID:Hwo8avAf0
だが、すぐに妙な事に気づいた。
私の左腕から、あれほど噴出していた血が止まっている。
私の左足は、たった今吹き飛ばされたばかりだというのに、
出血すらしていない。自らの筋肉と骨の断片がはっきりと
見えるのだ。
私は直感的に、目線の高さを上げて、ゲルダの待つ
ドアを見やる。
彼女は祈っていた。地に膝を付き、両手を合わせて。
最後の最後まで世話になる。
私は失いかけた闘志を、再び心に取り戻す事が出来た。
まだ右手に握り締めていた狙撃銃を、笑い続ける宝箱へと向ける。
204 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 16:50:37.01 ID:Hwo8avAf0
そしてスコープを覗いた時に、私は知ったのだ。
宝箱から吹き出ていた黒い煙が、いつの間に人の形を作っていた事を。
二つのギリースーツの影。
その姿を、私が忘れるわけがない。
この戦場を常に一緒に行動し、背中から見つめ続けてきた、
親友のエーメリとその”お嬢ちゃん”の影。
二人は踊っていたのだ。
楽しそうに。
楽しそうに。
「お父さん!!!」
その声が聞こえた時、私は引き金を引く指に力を込める。
宝箱の蓋は吹き飛び、同時に二人の姿も、形のない黒煙へと変わる。
星空の見える空。そこにはもはや、絵の具の混じった天はなく、
二人の黒煙は空の彼方へと吸い込まれて行く。
私の意識は、そこで途切れた。
205 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 16:51:03.91 ID:Hwo8avAf0
206 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 16:51:36.81 ID:Hwo8avAf0
私は目覚めた。
私は、戦場に存在するとは考えられないような
真っ白い清潔なシーツのかけられたふかふかのベッドの中にいた。
上体を起こして周りを見ると、立っていた女性と目が合った。
どのような人間が彼女を見ても、一目で看護婦と分かる女性。
彼女は私を見て少し驚いた様子ではあったものの、
その表情をすぐに笑みの表情に変えてこう言う。
「お目覚めですね、ハユハさん。ご気分は?」
名前こそ呼ばれているが、私はこの女性の事を知らない。
そもそも、ここはどこなのか。戦いの推移はどうなっているのか。
考える事が多すぎ、私は混乱していた。
「ここはヘルシンキの病院です。あなたは負傷のため、
前線からここに後送されて来ました」
「といっても、そこまで大げさな傷ではありませんでしたが。
あなたは、一週間も寝込んでいたのですよ」
そうだ、私は負傷した。大げさな傷ではないだと?
そんな馬鹿な。少なくても、足が吹き飛ばされ、腕がもぎ取られ、
顎が砕かれていたはずだ。
ここで私の脳が、全てを思い出す。
「・・・・!」
「どうかいたしましたか?」
間一髪で、自分の意思を喉元に食い止める。
目の前の看護婦に、ゲルダの名を出すわけにはいかない。
だが、私はゲルダがどうなったのか、何をしているのか。
それを今すぐ知りたかった。
「世話になった。すぐに、部隊と合流する」
「ちょっと待って下さい!」
そう看護婦は私を制止しようとするが、私はベッドから
飛び降り、近くの壁にかかっていた軍服に袖を通す。
207 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 16:52:08.52 ID:Hwo8avAf0
そこで私は気づいた。
私は失われたはずの足で、この冷たい床の上に立っている。
私は失われたはずの腕を、この軍服の袖に通している。
私は失われたはずの顎を使い、目の前の看護婦と話していた。
医療技術の常識からすれば、失われた四肢を作り出す事など
まさに夢物語の話だと私は知っていた。だが、それを実現出来る
文字通りの”魔法”と、私はずっと一緒に居たのだ。
ゲルダは生きている。そして、私を治療してくれたのだ。
「ああ、その軍服でしたら、あなたの部隊の方が
持ってきたものです。新しい支給品とおっしゃっていました」
物思いにひたる私を見て、看護婦が見当違いの言葉を私にかける。
知りたい事はそんな事ではなかったのだが、それを聞いて
私は遠慮なく軍服に着替える事が出来た。
「ありがとう」
そうは思っていなかったが、返事が浮かばなかったために
私は看護婦にそう答えた。看護婦は、思いの外に私が元気な
様子なのを見て、もう私をベッドに戻そうとは考えていないようであった。
208 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 16:52:42.42 ID:Hwo8avAf0
病室を出ようとしてドアノブに手を触れようとした瞬間、
それは勝手に周り出し、そしてドアが開いた。
そこに見えたのは、あの白銀の地獄の中で共に戦い続けた
戦友の顔。彼は私を見て目を丸くしていたがすぐに背後に広がる
廊下に向けて、ここが病院である事を忘れたかのように大声で叫んだ。
「ハユハが目を覚ましたぞ!!」
すぐに集まってくる、沢山の靴の音。
当然のように居なかった”娘”達の人数を含めないにせよ、
そこにはもはや小隊としか呼べない程度の人数しか居なかったが、
目の前の廊下には私の所属していた中隊の戦友達の姿があった。
「おい、もう動いていいのか?」
「いつまでも寝てるんじゃねえよ!」
「不細工な面になっちまったもんだな!」
沢山の声がいっぺんに私に襲い掛かる。だが、そこに居る
全員が、満面の笑みを浮かべていた。
「皆、何故ここに?」
「馬鹿野郎、隣の部屋で皆、お前を心配して寝泊りしていたんだぞ。
言わせんじゃねえよ、恥ずかしい」
「いや、そういう事ではなく・・・私達は後退したのか?
コッラの守備はどうなったのだ?」
私がそう言うと、彼らはお互いの顔を見て妙な表情を見せる。
私はその様子に少し不安を覚え、次の言葉を繋ごうとしたら。
209 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 16:53:12.06 ID:Hwo8avAf0
「戦争は終わったんだ」
「色々と要求を呑まされてな。けれど、俺達はこうして生き残った。
奴らを散々な目に合わせて、追い出してやった」
悔しさと怒りの混じる表情だったのだと、私は理解する。
「じきに奴らには、俺達のものを盗んだ報いを思い知らせてやる!」
「フィンランド万歳!!」
一人が、こう叫び出す。他の皆も、それに続く。
「「フィンランド万歳!!」」
「「フィンランド万歳!!」」
いつの間にか、廊下から見える病室のドアがほとんど
開き、大勢の人間が顔を出していた。おそらくは
民間人であろう彼らもまた、私の戦友達と同じように叫んでいた。
「「フィンランド万歳!!」」
「「フィンランド万歳!!」」
それを見て、実感が沸いた。戦争は終わったのだと。
210 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 16:53:40.32 ID:Hwo8avAf0
大勢の叫びに溢れる病院の廊下を、私には
この戦争が始まってからは顔を合わせていなかった、
我々”魔法少女”部隊の司令官である大佐が歩いてくるのが見えた。
「元気そうで何よりだ。病み上がりのところを悪いが、大事な話がある」
彼は、ついてこい、と言うように首をクイと向ける。私はそれに従い、
彼の後ろを歩いていった。
そして彼が足を止めたのは、この病院の応接室。
彼がその部屋のドアを開けると、中には誰も居ない事が
確認出来た。
見るからにも、また実際にもふかふかだった
そのソファーに彼は腰掛け、それから手を振って
私にも座れと促してきた。
「君の将来の話だ。心して聞くように」
その言葉を聞き、私は何を知らされるのか不安を
覚えながらも、指示通りにそのソファーへ腰掛けた。
211 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 16:54:10.04 ID:Hwo8avAf0
「君は、見てはならないものを見すぎた」
見てはならないもの?それは何の事だろうか。
「いや、実際には見ていないのかもしれん。だが、
私のように”娘”達の全てを知っている人間からすれば、
君が倒れていた状況からして、君は”娘”達に関わる、
極秘中の極秘を見てしまった可能性が極めて高い。
私は、そう考えている」
そう言って、彼はじっと私の目を見ている。
極秘だと?一体、何の事だ?
見てはならないものとは、一体何なのだ?
その疑問もすぐに消え去る。
あの時、あの世界に居なかったエーメリの”お嬢ちゃん”。
そして、私がとどめを刺した、あの魔女のシルエット。
そんな。
そんな馬鹿な事があるのか。
そう思った瞬間、私は考えもせずに声に出していた。
「大佐!!」
212 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 16:54:39.68 ID:Hwo8avAf0
「待て、先に言わせて欲しい。こうなった落ち度は、
全て我々にある。本当に申し訳なかった」
そう言って、大佐は私に頭を下げる。言いたい事は
山ほどあるが、彼は私に喋らせないかのように、
素早く言葉を続けた。
「私の言葉は、言い訳だらけだ。だが、聞いて欲しい。
”娘”達のソウルジェムが濁りきった時、どのような事態が
起きるのか。我々はそれを認識していた」
「しかし、我々は祖国を守るために、君達と”娘”達に
頼らざるを得なかったのだ」
「だから我々は、我々がギリギリだと判断するまで
君達に無理を強いて、限界近くまで戦わせていた。
その結果に起きた不幸だ。もう一度言う。
落ち度は、全て我々にある。本当に申し訳なかった」
その言葉を聞き、私の直視したくなかった推測が、
現実の事だったのだと思い知らされる。
魔女とは、魔力を失った魔法少女の成れの果てなのだ、と。
213 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 16:55:11.20 ID:Hwo8avAf0
長い沈黙の後に、大佐は顔を上げて再び話し出す。
「我々は、君という人物を極めて高く評価している。
我々の調査する限りでは、君は極めて口が堅く、
君は誰に対しても、一切の秘密も漏らしていない」
「しかし、だ。君の知ってしまった秘密は、どのような
事があろうと、他の人間に知られるわけには行かない
極秘中の極秘なのだ。よって、我々は協議を重ねた結果、
君をこのフィンランドから追放する事を決定した」
私は唖然とした。この祖国を守るために、私がどれだけ
死を見てきたのか。私がどれだけ心に痛みを刻み込んだのか。
目の前の大佐に教えてやりたかった。
だが私の心の中にいるもう一人の自分は、別の事を考えていた。
この秘密が誰に漏れることもあってはならない。国家全体の視点から
見れば、魔法少女の戦力が失われる事とは、この国の滅亡と同義で
あったからだ。出来うる限り、秘密が漏れるのを摘み取る処置を取るのは
当然の事であろう、そう考えてもいた。
国を追い出されると言うのなら、それは仕方がないのかもしれない。
だがその前に、私はゲルダに会いたかった。
彼女が私の傷を治してくれたこと、彼女が私の心に勇気をくれたこと。
言い尽くせないほどの礼がある。だから、彼女に会いたい。
そして、彼女をこんな悲惨な運命から、逃がしてあげたい。
「大佐、私は・・・!」
その言葉を遮るように、彼は私の目の前に封筒を高く上げ、
それからテーブルの上に置いた。
「確認したまえ。中に、航空券、小切手、そして指令書が入っている」
「大佐!」
「確認したまえ。命令だ」
「ふざけるな!!命令なんて、くそくらえだ!!」
「ならば、私が指令を伝える」
そう言って彼は自分で置いた封筒を再び拾い、
封を破って中に納められていた指令書を手に取った。
214 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 16:55:42.65 ID:Hwo8avAf0
「ここヘルシンキに急造ではあるが、君が眠っている間に
我々”父親”部隊の基地が作られた。君は基地に残された
私物を全て回収した後、明後日にはイギリス領インドへ移動せよ」
そう言って、大佐は封筒を逆さに引っくり返し、まだ中に入っていた
航空券と小切手をひらひらとテーブルの上に落とした。
「私は今日、目を覚ましたばかりなんだ!基地に私物などあるものか!」
「あるだろう。大事な”私物”がな」
この大佐が何を言っているのか。
それを、私はテーブルに落ちた二枚の航空券を目にして、
ようやく理解する事が出来た。
「大佐・・・まさか・・・」
私は、怒りと悔しさのため目に涙を滲ませていた。
それがどうだ。今では、怒りも悔しさも消え失せたというのに、
私の涙は止まってはくれない。
彼はそんな私を見て、にやりと笑う。その笑いは、見苦しく
男泣きしている私を侮蔑しているわけではない。
「英雄をこの国から追い出すなど、本当に心苦しい。
それでも、せめて言わせてくれ」
私は大佐に敬礼を向ける。だが彼は私に返礼をする事なく、
手に持っていた指令書と、テーブルに落ちた航空券、小切手を
再び封筒の中に入れ、それを私に手渡した。
そのまま、私の手を握り、
「達者でな」
と。
215 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 16:56:13.92 ID:Hwo8avAf0
私は応接室を出て、病院の廊下を走っていた。
曲がり角にさしかかったところで、私は足を止める。
眩いフラッシュが私を襲い掛かったためだ。
廊下には中隊の皆と、新聞記者で溢れていたのだ。
「おい、パーティー行くぞ!」
「終戦記念パーティーだ!新聞屋のオゴリだぜ!」
戦友達は、嬉しそうに私に話しかける。
彼らと再び会う機会は、もうなくなるのであろう。
そう考えると、私は悲しくなった。
「ありがとう。けれど、行かなきゃならない所があるんだ」
と私は返事をした。
一瞬だけ間が空く。
戦友達は、私が言う”行かなくてはならない場所”というのが
何処なのか、全員が知っているようであった。
全員が共有している気持ちだったのだ。
それを理解した時、同時に私の心に罪悪感が生まれる。
私が先ほど知ったばかりの秘密は、間違いなく彼らの”娘”達の
運命を左右するものであったからだ。
だがそれを伝えた時、このフィンランドの運命もまた決まる。
”娘”達の力を借りなければ、私達は今回の戦争において、
独立を勝ち取る事すら出来なかったはずなのだ。
真実を告げてしまえば、誰もが不幸になってしまう。
私は愚かな卑怯者だ。許してくれ。
彼らは顔を見合わせた後、一人が私にこう告げる。
「悪かった、そっちのが大事だな。彼女を待たせるんじゃねえぞ」
「皆・・・元気でな」
そう言った私は再び走り出す。
指令書に地図の記載された、我々の新しい基地へ向けて。
216 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 16:56:45.54 ID:Hwo8avAf0
217 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 16:57:16.13 ID:Hwo8avAf0
私は走っていた。
その基地の門に辿りつくと、この戦争が始まる前に私が居た
基地で見慣れた歩哨が二名、銃を構えて私を止めようとする。
私は一人を殴り飛ばし、走り続けた。今にして思えば撃たれても
おかしくはなかったのだが、もう一人の歩哨が私の事に
気づいてくれたのかもしれない。私は、背中から撃たれる事はなかった。
私は走っていた。
大勢の軍人が私を見ていたが、そんな事は私にとって
知ったことではなかった。指令所に記された私の部屋とされる場所へ
向かう途中、何人もの軍人とぶつかった。そのうちの不幸な一人は、
私のせいで手に持っていた書類を、廊下にばらまいてしまっていた。
思い出せば申し訳ないが、この時の私はそんな事は微塵も考えなかった。
私は足を止めた。
部屋の前に辿りつき、乱暴にドアノブに手をかける。
しかし、焦りのためドアノブを上手く回してドアを開けられない。
畜生め。
少し気を落ち着かせるために、私は深く息を吸い込む。
そして、今度は静かにドアを開けた。
218 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 16:57:52.29 ID:Hwo8avAf0
驚いた時には、彼女は決まってその表情をする。
私はよく見慣れた、その目を丸くしたままの顔を見ると、
涙が溢れて来てしまう。
それは、目の前にいるゲルダも同じ事であった。
「お父さん・・・お父さん!」
彼女は私に駆け寄り、私に抱きつく。
どこにそんな力があったのかと不思議に思える力強さで。
この期に及んで口下手な己が恨めしい。
言いたい事が、伝えたい事が、あれほどあったのに。
私は、彼女にかける言葉が見つからない。
だから。
私はいつものように、こう言ったのだ。
「おはよう、ゲルダ」
219 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 16:58:20.91 ID:Hwo8avAf0
220 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 16:58:47.47 ID:Hwo8avAf0
私は、夢を見ていた。
遠い昔、あの白銀の地獄で着ていた純白のギリースーツを
身にまとい、手に持つ狙撃銃を杖代わりにしている。
そんな私が、雪の積もった階段を登る夢。
その階段は先が見えない長さである。
どこまでも、どこまでも白く長く続く階段。
私は、それをひたすら登っていた。
非常に疲れてはいたが、登らなくてはならなかったのだ。
その途中に、彼女は居た。
やはり遠い昔の記憶にある、少女だったあの頃の姿のままで。
彼女はメモに何かを記し、私にそれを差し出した。
”手を貸そうか?”
「いや、大丈夫だ」
私は首を振って、こう続ける。
「お前のおかげで、私は歩けるようになったんだ」
「私もよ、お父さん。じゃあ一緒に行こうか」
なんだ、喋れるんじゃないか。
そう思って、私は彼女を見て微笑む。
階段の先には、懐かしい戦友であるエーメリと、
その”お嬢ちゃん”の姿も見えた。
今ならば、彼女の名前も聞く事が出来るだろうな。
そう私は思った。”お前”や”お嬢ちゃん”は不便だったからな。
私はゲルダと手を繋ぎ、並んで階段を登り出した。
221 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 16:59:25.33 ID:Hwo8avAf0
222 :
1 実験的に
[saga]:2011/06/11(土) 17:00:10.39 ID:Hwo8avAf0
http://www.youtube.com/watch?v=al82UDyGReQ
※音楽注意
223 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 17:00:45.54 ID:Hwo8avAf0
「どうして同じ種族同士で殺しあうのか、今でも僕には
さっぱり理解出来ない。けれども、君達が無意味に
お互いを間引いてくれるおかげで、僕は助かったよ」
「・・・・・・」
「特に君達の国家が生み出した”父親”システムは、とても
興味深かった。肉親を失った魔法少女達は、より深い絶望を
感じてくれるようになるわけだからね。おかげで今回の戦争では、
僕の予想を大きく超えてエネルギーを回収できた。感謝しているよ」
「お前は・・・!」
「どうして君は怒るんだい?君達はギリギリとはいえ国家の独立を
勝ち取れた。僕は自分の仕事が捗った。お互いに得をしたわけじゃないか」
「・・・・・・」
「それに、今回の戦争で理解できただろう?小国は、いつも大国に
振り回される運命にあるって。君達の次の戦争は、またすぐに
起きるかもしれない。その時、君達は彼女達の力を借りずに、
今回のように戦いきる自信があるのかい?」
「・・・出て行け・・・」
「まあ、僕にとっては、今のこの国はとても魅力的な場所なんだ。
また何十人かの少女達と契約を結ぶ。そうしたら、君達にも紹介しに来るよ。
強い魔法少女も、弱い魔法少女もね」
”奴”が姿を消す。
大佐は思い切り、机に拳を叩きつける。
「私達に、力があれば・・・」
そう呟いた大佐は、うっすら血の滲む己の拳を力なく見つめる。
私は全てを知りながらも、”奴”の言う通り、我が祖国のために
魔法少女達の力に頼らざるを得ない。
もはや私が死す時には、私は煉獄の底に叩き落とされる事であろう。
そう、彼は全てを理解していた。
224 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 17:01:12.05 ID:Hwo8avAf0
225 :
1 第二話は>>122から
[saga]:2011/06/11(土) 17:01:42.98 ID:Hwo8avAf0
「魔法少女 ゲルダ☆マギカ」〜完〜
226 :
1 第二話は>>122から
[sage]:2011/06/11(土) 17:04:07.08 ID:Hwo8avAf0
以上で終了です。前回投下分の続きは
>>195
からです。
読んでくれて、また応援してくれてありがとうございました。
ご意見、ご質問、辛口でもご指摘を頂けたら、
それはとっても嬉しいなって。
227 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海・関東)
[sage]:2011/06/11(土) 18:30:14.06 ID:P1+7Z1bAO
涙出た。白い死神はやはりかっこよかった。
こういうSSは読んでてグッときますね。
戦場のヴァルキュリアもそうだけど、現実の戦争ではいくら一騎当千の超能力者がいても無敵って訳にはいかないんだよねえ。
次は水滸伝あたりで作ってくれ(笑)
228 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/11(土) 19:09:34.99 ID:zUflxH0vo
108人も魔法少女がいたら大惨事すぎるだろww
乙乙
個人的には組織的用兵論の発生から確立まであたりの戦争も見てみたいな
まあ、ガリア戦記の時代に魔法持っていったら本当に一人で無双することになるかもしれんけど
229 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/11(土) 19:18:09.76 ID:zUflxH0vo
ああ、それと核脅威論と全く同じ理由で各軍が魔法少女の確保と育成に血道を上げるのは確実なんだけど
今回の話は戦術的に完全なワンサイドゲームになってるよね
ソビエトは人口の母数がすさまじく大きいから、魔法少女そのもので物量作戦仕掛けられたんじゃないか?
リアルでも超能力を軍事利用とかいうヨタ話が大真面目で流布してたし、魔法を疑問視してるってことも
なかったと思うんだが
それをあえてやらなかったのはQBが恣意的に弱国に契約を偏らせたのか、それとも他に要因があったのか
230 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海・関東)
[sage]:2011/06/11(土) 19:19:48.44 ID:P1+7Z1bAO
>>108
そこはまあ、公孫勝あたりだけでもいいとは思うのよね。
流石に全員は……(苦笑)
公孫勝の突然の梁山泊脱退とかが魔法少女設定なら云々。
まあテーマから外れそうなのであまり推しません\(^O^)/
231 :
1 第二話は>>122から
[sage]:2011/06/11(土) 19:54:20.10 ID:Hwo8avAf0
>涙出た。白い死神はやはりかっこよかった。
そう言って貰えると嬉しい。彼をヘタレとして描いている内は
なかなか筆が進まなかったけど、彼を覚醒()させてからもう・・・!
>108人も魔法少女がいたら大惨事すぎるだろwwww
おっしゃる通りでwwwwwwしかし、こんなスレタイのスレ覗く人には居ないかもですが
もし冬戦争を知らない方が居たら。そう思って大げさすぎるくらいに書きました。
>次は水滸伝あたりで作ってくれ(笑)
>個人的には組織的用兵論の発生から確立まであたりの戦争も見てみたいな
筆者のネタノートに追加しておきます。ご意見ご感想ありがっとう。
232 :
1 第二話は>>122から
[sage]:2011/06/11(土) 20:06:03.47 ID:Hwo8avAf0
>>229
筆者のこんな稚拙なSSから、そこまで考えてくれている事に
すごく感動しておりますよ。
ソ連とフィンランドが戦いあった場合、どちらの国土が戦場になるのか。
それは素人目にも明らかですし、当然QBもそう考えるだろうなと妄想したため、
>QBが恣意的に弱国に契約を偏らせた
という脳内設定になっております。
これだけだと筆者のご都合主義っぽいので、もう一つ
筆者の辻褄あわせのための脳内設定があります。
日露戦争で日本魔法少女と戦闘の経験をする
↓
露「やべえwwwwwwウチにも魔法少女いないの?wwwwww」
↓
QBが連れて来てくれないので、そこらの田舎から魔法少女さらってくる
↓
露「僕らのために兵隊契約してよ!」魔法少女「やだよ」
↓
戦力化を急ぐあまり、魔法少女に何らかの強引な処置を取って
兵隊にしようとする。ご想像にお任せします
↓
魔法少女集団絶望化。
研究所で起きた事故は、後年ツングースカ爆発と記録される
↓
露「やべえトラウマだわwwwwww」
こんな感じの脳内設定を作っておりました。
233 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海・関東)
[sage]:2011/06/11(土) 20:31:45.16 ID:P1+7Z1bAO
>>230
だが、すまん安価は
>>228
ですね。
108人は梁山泊の人数であって、
>>228
さんの指摘は俺の書いた
>>227
へのものだから主は気にする事無いぜよ(^▽^)
234 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)
[saga sage]:2011/06/11(土) 22:12:03.10 ID:HGB31ry10
乙!
最後までどうなるかわからなくてハラハラした。展開的にゲルダが死んじゃうんじゃないかとね。
でも素敵なハッピーエンドでした。
第二次大戦といえばアンネらしき子も本編に出てたよね
235 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/06/11(土) 22:45:12.52 ID:tmx7hMIjo
>>234
集団の中、俯いて祈ってた子かな?
なるほどありゃ確かに言われてみれば
236 :
1 第二話は>>122から
[sage]:2011/06/12(日) 11:13:49.46 ID:4ljBtFZN0
友人宅行って最終話を確認して参りました。
確かにアンネ居た。泣きそうになった。
お題にしてみたいけど、筆者の脳内じゃどうやっても欝物語に。
悩ましい。
237 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)
[sage]:2011/06/14(火) 11:22:36.31 ID:ejgZNJaAO
前回のアメリカに比べて全く余裕が無いせいかギリギリな感じと絶望感が漂ってて凄く良かった。
しかしチート回復役がついていたとはいえ、生身で魔女を撃ち[
ピーーー
]とか白い死神マジパねえ。
魔翌力コーティングされてない銃弾だと余程正確に急所狙わなきゃダメージ通らなそうだし。流石過ぎる。
しかしハッピーエンド?で良かった。
日露戦争編も読めたらとっても嬉しいなって。
238 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海・関東)
[sage]:2011/06/16(木) 18:30:51.74 ID:/BivNqdAO
舞ってるよ
239 :
1 第二話は>>122から
[saga sage]:2011/06/16(木) 19:15:10.04 ID:Wc7Yf/rR0
お待ち頂いている皆様、本当に申し訳ない。
第三話は80%ほど書き終えているのですが、読み返せば読み返すほど
これまでの作品と比べ物にならんほど魔法少女がチートになってて・・・
というわけで、このまま完成させるか、現在執筆中の第三話を放棄して
別の物語を書いていくか悩んでいたところです。
ちょっと息抜きに別SS(割と軍事系ネタ)書いて投下してますので、
よろしければそちらをご覧になってお待ちくださいまし・・・
ほむら「ガングリフォン?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1308143985/
240 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/06/16(木) 23:14:47.71 ID:0HrUSbVYo
が、ガングリオン
……ごめんなさい、しょうもないダジャレ言っちゃって そちらの方も読ませていただきます
241 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(高知県)
[sage]:2011/06/16(木) 23:45:46.43 ID:3csdIDiBo
一気に腫瘍と化したな
242 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/17(金) 01:24:22.98 ID:rr2BPngSo
ゲェーッ、ガングリフォンだと・・・
PS2のブレイズに絶望した身としては初代は激しく期待するんだぜ
243 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)
[saga sage]:2011/06/18(土) 19:06:15.03 ID:FiCZzMoV0
軍事はさっぱり分からないけど面白かった!
244 :
1
[sage]:2011/06/19(日) 16:42:56.16 ID:RC4Z1IPi0
>>240
-
>>241
ggrまで腫瘍とか分からなかったんだぜ。
>>242
初代プレイヤーにはブレイズやっぱりアレルギー出ますよね。
箱版のに比べればマシだと思えるようになりましたが・・・
>>243
さあ貴方も軍ヲタの第一歩を!読んで頂いてありがとうですよ。
245 :
1
[saga]:2011/06/23(木) 21:00:57.02 ID:MDMzsrWe0
●前作が個人的には最高傑作だったため、ちょっと今回は
物足りないと思われるかもしれません。
それでもお付き合い頂ければ幸いです。
●相変わらず、原作の物語と交わる部分はQBとの絡みを除いて
皆無です。オリジナル作品のようなものだと、お考え下さい。
●筆者の脳内での魔まマ原作設定は守っているつもりですが、
筆者の知らない設定やら何やらのせいで違和感を覚えるところが
あるかもしれません。よろしければ、どうぞ遠慮なく突っ込んで下さい。
●最後に、筆者は歴史や軍事といったジャンルは大好きですが、頭は悪いです。
今回の作品の執筆にあたり参考にした知識は、wikiやグーグル先生から
得られた範囲のものです。それ故に、戦史や軍事に詳しい方から見ると
沢山の違和感があるかもしれません。ご勘弁ください。
●注意書きもほとんどコピペ。
246 :
1
[saga]:2011/06/23(木) 21:01:23.65 ID:MDMzsrWe0
247 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/23(木) 21:02:03.41 ID:MDMzsrWe0
僕は、その日に初めて彼女を見たのだ。
高度5000mの上空を、僕達4機の編隊は敵機の迎撃のために
出撃命令を受け、それぞれの愛機に乗って飛んでいた。
僕の部隊の装備機は、まだ配備が始まったばかりの
最新鋭ジェット戦闘機、Me262。この美しい戦闘機は、
僕達パイロットからは”燕”という愛称で呼ばれている。
機嫌の悪いエンジンを抱えているという弱点を持つ
その”燕”は、そんな弱点など吹き飛ばすほどの素晴らしさを
僕達に教えてくれた。
僕がこの部隊に来る前に乗っていたBf109レシプロ戦闘機は、
言葉に表せば「ふわり」と空に上がる。
だが、今の僕の愛機は違う。それは、まるで僕の体を
力ずくで押し上げるかのように、激しい衝撃とスピードを持って
”燕”は空に上がる事が出来たのだ。
遠くの空に見える、沢山の黒い粒。
僕達が、それを撃ち落すために空に上がっていた時の事だった。
248 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/23(木) 21:02:35.29 ID:MDMzsrWe0
僕の乗機の右側を、何かが通り過ぎる。
それは、僕の愛機よりも早いスピードで、
僕を後ろから抜き去っていったのだ。
そのようなスピードを持つ物体を、僕は信じられない思いで
見つめているうちに、無線から僕達の編隊長の声が聞こえる。
「我々は爆撃機を狙う。敵の戦闘機は”彼女”に任せろ」
その無線からの声のおかげで、僕が見ていた
それは、僕の考えの通りのものだったと理解した。
空を駆ける、銀色の髪をした少女。
その少女は、ちらっとその顔をこちらに見せる。
笑っていた。
そんな彼女を見た時から、
僕はもう彼女の事で頭が一杯になっていたのだ。
249 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/23(木) 21:03:01.86 ID:MDMzsrWe0
「魔法少女 クララ☆マギカ」
250 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/23(木) 21:03:28.36 ID:MDMzsrWe0
先ほど見た時より大きくなる、空に浮かぶ沢山の黒い影。
連合軍の戦爆連合。
それは僕達の祖国を焼き払うためにこの空に存在していた。
彼女に先導されるかのように飛んでいる僕は、
彼女が武器を構えるところを見る事になる。
まるで周囲の雲をその右手に掻き集めたかのように光が集まり、
気づけばその光は長砲身のライフルのような物に姿を変えていた。
彼女は僕達の編隊長機に顔を向け、そのライフルの銃身を右側に
向けるとすぐに、僕の愛機の無線機から声が聞こえた。
「我々は、このまま正面上方から一撃離脱をかける。
各自、手当たり次第に攻撃をかけろ。
決してスロットルを緩めるな。エンジンが焼きつくぞ」
少ししたら、彼女は編隊長に向けて頷く様子を見せる。
そう思ったら、彼女はさらに加速を付けて、彼女が指していた方向へ
飛んで行ってしまった。僕の愛機は残念ながら、仮にこの戦闘を
控えていない状況であったとしても、彼女には追いつけないのであろう。
「戦闘機に付かれても慌てるな。”燕”のスピードと、彼女を信じろ」
なおも、編隊長は無線を通して指示を続けている。
きっと、それは主に僕に当てられているのだろう。
何故なら、僕はパイロットになってまだ半年も経っていない
ひよっこであったからだ。
「了解」
そう僕は答える。僕がこれまで生き延びてきたのは、
先輩パイロットの言う事をきちんと守って来たからだ。
今回も彼のアドバイス通りに動けば、きっと上手くやれる。
そう考えながら、僕達は目指す敵の群れへ近づいていた。
251 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/23(木) 21:03:57.19 ID:MDMzsrWe0
敵の群れが散らばる。多少の雲があったとはいえ、視界の良い
明るい空なのだ。敵からもこちらが見えているに違いなかった。
そしてこちらへ向かってくる敵の戦闘機。
翼端が四角い事から、僕はそれがP51である事を認識する。
僕が以前に乗っていたBf109は、彼らに追いつく事が出来なかった。
そんなアメリカ軍の自慢の戦闘機のパイロットは、僕達の出現によって、
その当時に僕が抱えていた悩みを、逆に抱いているはずであった。。
この最初の一撃さえ凌いでしまえば、彼らが僕に追いつく事は
二度とない。それを知っていた僕は、こちらへ一直線に向かってくる
彼らを見ながら、緊張して操縦桿を握っていた。
爆発。
ゆうに8機は越える数で僕達に向かっていた彼らのうち、1機が
燃え盛る火の玉に変化していた。
続けて見えた、桃色の光。
光の出所に目を向けると、そこには華麗な空中の舞を見せながら、
ライフルを一発撃つごとに反動を受けて動きを止める、
そんな彼女の姿があった。
その光が一筋放たれるごとに、哀れな敵機は一つずつ数を失う。
驚くほどの命中精度であった。それもそのはずだ、と僕はすぐに納得する。
彼女が光を当てているわけではなく。光の方が
敵機に吸い取られるように折れ曲がっていくのを見たからだ。
僕達の目の前にいた戦闘機を全て葬った彼女は、
また加速を付けて僕達から離れていった。
おかげで、それから僕達の任務に支障はなくなった。
252 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/23(木) 21:04:27.19 ID:MDMzsrWe0
じわじわと高度を上げながら、敵編隊に接近する僕達。
そこで、僕達の編隊は2機1組に分かれる。
僕の寮機は”黄9”のコールサイン。僕はというと、”黄12”
のコールサインを持っていた。
爆撃機の編隊が僕達の視界の下にまわったところで、
僕の寮機は降下を開始する。二番機である僕もそれにならい、
敵爆撃機へ向けて降下を開始した。
敵のB17が装備している旋回砲塔は、彼らの上方への
攻撃が可能である。僕達を目掛けて、大量の機銃弾がばら撒かれる。
運が悪ければそれに当たっている事であろう。
だが、よほど運が悪くない限りは、彼らの旋回砲塔は”燕”の生み出す
スピードに追従して来る事が出来ないと、僕は知っていた。
弾丸の雨をすり抜け、敵爆撃機へ急降下をかける。
ここだ。
僕がそう考えると同時に、”黄9”も発砲を始めていた。
”燕”が搭載する自慢の30mm機関銃弾を、
僕達はたっぷりと目前に居たB17にプレゼントした。
そのまま、敵爆撃機の側を通り抜け、彼らの編隊の下方に躍り出る。
上空を確認すると、翼の付け根から火を吹いていたそれは、
やがてぽっきりと折れて高度を下げていく。
「一機撃墜」
次に僕達が取る行動は、降下で得た加速を利用して、
ゆっくりと反転上昇を行う。上昇しながらの攻撃など、これまでの
空戦の常識では基本的には悪手であったが、”燕”の持つ
ジェットエンジンの力はそれを問題とはしなかった。
それどころか、それすらも容易だと感じるくらいに。
だが、敵も黙ってやられているわけではない。
敵爆撃機編隊に取り付いたまま残っていた直援の戦闘機が、
僕らを追いかけるように急降下をかけてきているのが見える。
そんな彼らをまた、笑いながら後ろから追いかける彼女の姿も。
なんて頼りになるんだろう。
なんて美しいのだろう。
後方で起きる爆発にコクピットが照らされるのを見て、
僕は自分の仕事に専念する事が出来た。
253 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/23(木) 21:04:57.54 ID:MDMzsrWe0
254 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/23(木) 21:05:35.64 ID:MDMzsrWe0
「ルーキー、やったじゃねえか!」
地上に降りた僕を迎えたものは、寮機である”黄9”のパイロット、
フランツ・シャル中尉からの賞賛だった。
今日の戦果を加えた事で、僕の撃墜数は15を超えたのだ。
「お前も、そろそろ何か勲章が貰えるかもしれないな!」
自慢するつもりでもないが、そう言われるだけの戦果を
僕はあげていた。同期の新米パイロット達が次々と空に散っていく中、
僕だけは生き延びて戦い続ける事が出来たのだ。だが僕の呼称は、
この先もずっとルーキーであり続ける事であろう。
何故ならば、僕の名前はノヴォトニー。
僕達の”燕”戦闘機部隊、
”コマンド・ノヴォトニー”の隊長と同じ名前であったからだ。
以前の部隊に居た頃は、僕は文字通りの新米であった。
ここに来る時には、僕は5機撃墜を果たしていたのだが、
それでも隊長と同じ名前だとややこしい、という理由から
僕はこの部隊に来てからも、以前の部隊に居た頃と
同じ仇名で呼ばれる事になってしまったのだ。
そう呼ばれる事が不愉快ではなかった訳ではない。
しかし、彼も悪意を持っているわけでなく、素直に僕の
事を賞賛してくれているのだ。だから僕は、彼に敬意を
持ってこう答えた。
「ありがとうございます。シャル先輩のおかげです」
「うんうん、謙虚なのはいい事だ。お前がケツを取られたら、
きちんと世話してやるからな。感謝しろよ!」
そう言って笑いながら、歴戦のベテランパイロットである
シャル中尉は、僕から離れていった。
ルーキーと呼ばれるのも仕方がないだろう。
この部隊のパイロット達の平均撃墜数は、50を余裕で
超えている。その平均を下げているのは、僕のような
補充で入隊した一握りのパイロットであったのだ。
そう考えながら、僕は自分の宿舎へ足を向けていた。
255 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/23(木) 21:06:02.75 ID:MDMzsrWe0
いつまた出撃命令があるかも分からない。
僕は少し汗臭い飛行服を着たまま、ベッドに横たわっていた。
思い出す事は、ひたすら彼女の事。
敵への攻撃を終えて、帰路についていた僕達の編隊は、
しばらくの間は彼女と一緒に飛んでいた。
このまま一緒の基地に帰るのかな。
そう僕は期待していたのだが、残念ながら彼女は
帰路の途中で僕達に向け、大きく手を振って
違う方向へ飛んで行ってしまったのだ。
顔に満面の笑みを浮かべたまま。
残念だった。空を優雅に駆け回るその姿は、
僕にはまるで天使のように見えていたのだ。
(会って話したかったなぁ・・・)
僕より少しだけ年下に見えた彼女の事を、もっと知りたかった。
僕は寝返りを打ちながら、今朝のブリーフィングを思い出す。
その日の敵の迎撃のために、強力な援護が付くと僕達は
説明されていた。ノヴォトニー少佐は、その強力な援護を指して
”彼女”と呼んでいた。当然、僕達は疑問がわきあがり、
少佐にいっぺんに質問を投げかける。
そこで聞かされた、誰にも口外してはならないという
機密情報。
彼女は”魔法少女”と呼ばれる存在であった。
256 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/23(木) 21:06:42.96 ID:MDMzsrWe0
コンコン、と僕の部屋のドアをノックする音。
「はい」
「悪い、ちょっとドアを開けてくれ」
その声の持ち主は、先ほど僕の事を笑って褒めていた
シャル中尉。自分からノックをしておいて、開けてくれなんて変だな。
そう思いながら僕は部屋のドアを開けた。
彼もまた僕と同じように、いつでも飛び上がれるよう
飛行服を着たままであった。だが、その両手には
香ばしい香りを漂わせながら、湯気を立たせるコップを二つ持っていた。
「お前さんを祝いに来てやったんだ。ありがたく思えよ?」
そう言って、彼は部屋の真ん中に置いてあったテーブルに
コップを置く。その中に入った黒い液体を見て、僕はそれが
何なのかを理解する事が出来た。
「代用品じゃない、本物のコーヒーだぜ。メッチャ美味いぞ」
「ありがとうございます!頂きます!」
そう僕が答えて、彼と一緒にそれを飲み込む。
彼の言う通り、その味は僕に至高の幸福を与えてくれた。
僕達がそれまでよく飲んでいた代用コーヒーとは、
比べ物にならない味と香りだったのだ。
「うめえ!シャルさん、ほんとこれおいしいです!」
「そうだろう、そうだろう、俺のとっておきだったんだぜ」
それを僕のために消費してくれた事を、目の前で
にこにこ笑っている先輩パイロットに感謝した。
257 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/23(木) 21:07:11.12 ID:MDMzsrWe0
「それにしても、今日は快勝でしたね!あの子の
おかげd・・・」
ガタン、と彼が立ち上がる。彼は空いていた方の手を使って、
僕の口を押さえ込んだ。はずみに、僕が手に持っていた貴重な
飲み物が、少し僕の足にこぼれてしまう。
「モガッ・・・」
熱い、と言葉に出そうとした。だが、彼は厳しい目つきをしたまま、
僕の口を押さえ続けていた。
「お前、機密ってもんがどれだけ重要か知ってんのか?」
驚いて目を丸くしたままの僕から、先輩はそっと手を離していく。
「いいか、その事は絶対に口外してはならない。今朝もそう言われたろ?
万が一お前から秘密が漏れた事がバレたら、お前、殺されるぞ」
「シャルさん、それは大げさですy・・・」
「大げさなもんか。忠告しといてやる、その事は絶対に口に出すな。
ノヴォトニー隊長は優しい人だが、やる時にはやる。そういう人だ」
彼がいつまでも厳しい視線を送り続けたために、僕はそれが
真実なのだと理解する。
それとなく話題を振って、シャル中尉が彼女の所属する基地を
知っているのか探りを入れようとしたのだが。
まさかこんな事になるとは思ってもいなかった。
「・・・すみませんでした」
「謝る事でもない。だが、機密ってモンを甘く見るな。
痛い目に遭うぞ」
そして気まずい空気の中で二人、コーヒーを飲み込む。
せっかく持ってきて貰ったのに悪い事をしたな、という気持ちと
彼女の情報を得られる望みがないのが残念だな、という気持ちが
僕の中に入り混じっていた。
「ごちそうさまでした。ありがとうございます」
彼もまた、気まずかったのだろう。
無言でコップを持ち、部屋を出て行った。
258 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/23(木) 21:07:40.43 ID:MDMzsrWe0
259 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/23(木) 21:08:14.71 ID:MDMzsrWe0
毎日、というわけではなかったが、僕達は出撃に次ぐ出撃を
重ねていた。彼女からの援護は、それからも時々はあったものの
基本的にはない事の方が多かった。
僕は彼女の姿を見れた日には、それだけで幸せな気持ちになっていた。
常に笑顔を浮かべながら、僕達を守るその姿は、天使を通り越して
女神のようにさえ思えていたからだ。
その表現も、誇張ではないのだろうなと僕は思っている。
彼女は僕達に付く女神でありながら、
敵から見れば悪魔のように見えていたに違いなかったからだ。
そう思えるだけの数の敵を、彼女は撃ち落していた。
言葉通り、彼女は僕達にとって、勝利の女神だったのだ。
そんな彼女の撃墜数は、僕達の部隊のパイロット達に
均等に配分してカウントされていた。機密上の存在である
彼女の戦果を、おおっぴらに発表するわけにはいかないらしい。
一見には、途方もない撃墜数を誇る僕達の部隊に、総統閣下は目を
付けたのであろう。プロバガンダとして使える、と。
空軍のお偉方と、大勢の新聞屋で賑わいを見せる僕達の基地。
そんな日の出来事だった。
260 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/23(木) 21:09:04.09 ID:MDMzsrWe0
空襲を知らせるサイレンが鳴る。
はっと気づいた頃には、遠くの空にはもう敵機の影が見えていた。
相変わらず、雲霞のごとく集まる黒い粒。
「レーダー員は寝ていたのか!」
そう怒鳴る、空軍のお偉いさんの姿。彼は、恐らく現実を
知らないのであろう。
連日のように空襲は続き、古くから残る街並みや
レーダー施設はことごとく破壊され、僕達はその頃には
出撃をするための燃料の心配すらしなくてはならない。
それほどまでに、このドイツが追い詰められていた事を。
「エンジン回せ!搭乗員割りは無視しろ!上がれる者から
上がるんだ!」
そう叫ぶのは、我らがノヴォトニー隊長。飛行隊長という立場で
ありながら、常に先陣を切って僕達を導いてくれる上官。
今回もまた、彼は真っ先に”燕”にまたがり、風防を閉じた。
幸い僕は騒がしい基地の様子が嫌で、自分の愛機の側に居た。
僕も隊長にならい、”燕”に乗り込みエンジンを始動する。
そして、空へと舞い上がった。
261 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/23(木) 21:09:35.33 ID:MDMzsrWe0
空に上がれたのは6機であった。地上に残された”燕”は、
きっと燃料がなかったり、整備が終わっていない機であろう。
「2機1組、攻撃の手順はいつもと同じ。敵戦闘機に構うな」
隊長から、そう無線で指示が下される。
空中で即席の編隊を組む僕達。
今日の空には、いつもペアを組んでいる”黄9”である
シャル中尉の姿はなかった。
今日の仕事は大変な事になるだろう。敵の編隊は、真っ直ぐ
僕達の基地へ向かっているように見えたからである。
敵の数は、大小合わせて30は居るように見える。
正直なところ、仮に僕達からの攻撃が最高の結果を生んだとしても、
僕の”燕”はあの基地に戻る事はないのかもしれないと考えていた。
だが、彼女が居れば例外だ。
そう、遠くの空からこちらに近づく女神。彼女は僕達の
隊長機の前に躍り出て、いつもの満面の笑みをこちらに向けていた。
「君は最高だ!」
誰にも聞こえるはずのないこの空中のコクピットの中で、
僕はそう言葉に出していた。
262 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/23(木) 21:10:07.03 ID:MDMzsrWe0
彼女は隊長機に向けて、両手を使い大きな円を作っていた。
彼女が腕を伸ばせる限界まで伸ばし、そうして描く円。
その意図が最初は理解出来なかったが、隊長からの無線を聞いて
僕はそれに納得をする。
「おそらくだが、彼女も爆撃機を狙うという事だろう。
私にも正確に読めたわけではないが、各自、敵戦闘機から
身を守るのは、自分の腕だけだと心得ておけ」
「「了解」」
一斉に返信をする僕達。今回は彼女の援護が得られない。
が、構わない。僕達の”燕”は、敵戦闘機を振り切る目的で
造られた、最高の戦闘機なのだ。彼女がいない時の空戦でも、
僕達は連合軍の戦闘機をかわしつつ、爆撃機に攻撃を
仕掛ける事が出来ていたのだ。
それに、彼女のおかげで僕達の帰る場所が残る望みがある。
それだけで十分だ。いつもにも増して、僕に気合が入る。
もう一度、両手で円を描き終えた彼女は、前方の空を
ちょん、ちょんといった具合に指差し、また加速を付けて
僕達を引き離す。
そんな彼女の右手に集まる、桃色の光。今回のそれは、
これまで何度も見てきたようなライフルではなかった。
まるで御伽噺の死神が持っているような、
彼女の背丈ほどもある大きな鎌に変化したのだ。
天使でありながら死神でもあるなんて、洒落ているじゃないか。
彼女には追いつけない事は理解していたが、
敵の戦闘機に捕捉されないようにするため、僕達もまた加速をかける。
そうして、2機1組の3編隊にばらけ、僕達は敵編隊へ向け
突き進んで行った。
ゆっくりと、いつもと同じようにドイツの空を埋め尽くす
敵編隊が大きくなっていった。
263 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/23(木) 21:10:43.85 ID:MDMzsrWe0
先陣を切る彼女が、自分の仕事を見せ付けるかのように、
一機の敵爆撃機の翼を切り取った。
それは物凄い切れ味を誇っていたようで、片翼となったB-17は
バランスを失い機を傾けながら、火を吹く事なく高度を下げて行く。
「二時方向!上から来てるぞ!」
はっと気づき、無線から告げられた方向を確認する。
その敵戦闘機の編隊は、太陽を背にしてこちらへ急降下を
かけてきていた。
まずい。
確かに彼女の行動に見とれてはいたが、周囲の警戒を
怠っていたつもりはなかった。
この敵が一枚、こちらより上手だったのだ。
慌ててはいたものの、僕はフットペダルを蹴り込み、
操縦桿をゆっくり操作して、機首の進路を変えようとした。
急激な方向転換を行うと、この”燕”のエンジンは、その事によって
失った運動エネルギーの回復に時間を要する。
運動性能の低い”燕”は、スピードだけが自らの命を守る盾なのだ。
そして僕達に浴びせられる機銃弾の雨。
抜けろ。
抜けろ。
だが、伝わって来たものは、激しい衝撃と金属音。
まずい。食らってしまった。
敵戦闘機が急降下で僕らの下方へ抜けたのを見て、
僕は急いで計器のチェックを行う。次いで、首を回して
見える範囲で被害を確認しようとした。
計器には問題がなく、翼にいくつかの穴が開いていたものの
飛行には支障がない。
僕はついている。
264 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/23(木) 21:11:14.14 ID:MDMzsrWe0
僕の”燕”はスピードを落とす事なく、飛び続けていた。
攻撃をくぐり抜ければ、一度僕らの後方についた敵機は
僕がスピードを落とすまで、追いついて来る事が出来ない。
その様子を確認しようとした時、寮機の異変に気づいた。
僕の寮機はついていなかった。
被弾のせいでエンジンが停止してしまったのか、
気づいた頃には彼は僕の後方で、じわじわと高度を下げていた。
彼はすぐに諦めたらしく、
やがて白い落下傘が開くところを僕は見ることが出来た。
少しだけほっとして、自分の事に意識を集中させる。
僕を攻撃してきた敵編隊は、思ったとおりに遥か後方の空を飛んでいた。
彼らが上位についていれば脅威であったであろうが、
一度僕への攻撃を行った事により、
彼らは明らかに僕より低い高度を旋回していた。
これならば、もう彼らは僕に追いついて来れないであろう。
そうして、眼前に迫る爆撃機へ意識を切り替える。
先ほどの攻撃から身を守るため、
こちらも若干高度を下げてしまっていた。
そのために、今は爆撃機と同じ高度を僕の”燕”は飛んでいる。
もう当たる距離だ。
いつもと同じように、彼らの側を通り抜けるように射撃を行う。
ガリガリと金属音を響かせ、B17の破片が周囲に撒き散らされる。
手ごたえあり。
そして自分の戦果を確認するため、後方の爆撃機を
見ようとした時に初めて気づいたのだ。
僕の”燕”は、燃料を漏らしていた。
265 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/23(木) 21:11:43.12 ID:MDMzsrWe0
今となっては、燃料漏れに気づかなかった理由など分からない。
漏れる燃料が空の色に混じっていたからなのか、
何度も後方を確認した際、それぞれ意識が別の事に向いていたからなのか。
「やっちまった」
誰にでもなく、呟く。
いつから燃料が漏れていたのかは分からないが、
敵戦闘機の初撃からだと考えるのが自然であろう。
不幸中の幸いは、その時点から現在までに
そこまで大きく時間が経過していない事と、
今回の空戦域が基地からそこまで離れていない事だった。
「こちら黄12。被弾のため燃料が漏れています。
これより基地へ帰投します」
「了解」
自らの置かれた状況を報告し、さきほどこちらを攻撃してきた戦闘機の
いる位置を避けるよう、ゆっくりと旋回をして自分がやってきた方向へ向かう。
爆撃機直援の戦闘機がこちらに向かってくるのも見えていたが、
もうこちらから攻撃を仕掛けるつもりはない。
高度を下げ、その行為によって得られる速度を利用して
難なく僕は彼らを振り切っていた。
266 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/23(木) 21:12:14.28 ID:MDMzsrWe0
しかし、僕が戻るために機首を基地に向けた時には、
すでに基地は敵の戦闘爆撃機によって攻撃されていた。
彼らによって、滑走路へ浴びせられるロケット弾。
空に上がれないまま地上で破壊されていく”燕”達と、
その補佐の役目を持ったレシプロ機達。
着陸が行えない。どうにもならないではないか。
どうするか考える暇もなく、敵機が正面下方からこちらへ向けて
一直線に向かって来るのが見える。
正面突破。
眼前に迫る敵機は、こちらを射線に収める事が出来ないままに
僕の燕とすれ違う。そのまま僕は進路を変えて、最寄の基地を目指しだす。
そこまで燃料は持つのだろうか。
最悪の場合は、この”燕”を放棄して脱出する事になるだろう。
気に入っていた戦闘機であったため、とても残念だ。
そう僕は考えていた。
267 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/23(木) 21:12:39.21 ID:MDMzsrWe0
268 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/23(木) 21:13:05.51 ID:MDMzsrWe0
眼下に森が広がる空を、僕は飛んでいる。
まだまだ目指す基地までは距離がある。そこまで持つだろうか。
手にした地図を眺めながら、僕はそう考えていた。
ちらりと後方に目を向ける。幸い、敵機の影は周囲になかったが
相変わらず、漏れ続ける燃料の帯が見えた。
そのはるか後方に、きらりと光の反射が見える。
まずいな、敵か。
そう一瞬考えたが、今の僕が乗っている”燕”の速度に
追いついて来れる航空機など、そうそう存在はしていない。
彼女だ。
そう僕が答えを導きだした頃には、
その姿をはっきりと視認出来る距離にまで、彼女は近づいてきていた。
僕の機へ向かって来ている。
心が躍った。きっと彼女なら、なんとかしてくれるに違いない。
なんたって、魔法少女と言うくらいなのだから。
やがて彼女は、僕の機の近くでスピードを落とし、
ふわりと僕の”燕”の翼に乗った。
そして”燕”の風防を、満面の笑みを浮かべながら
コンコンとノックしたのだ。
今のスピードのままでは風防を開けるのが危険だと思ったため、
スロットルを絞り、少し速度が落ちるのを待ってから僕は風防を開ける。
269 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/23(木) 21:13:41.31 ID:MDMzsrWe0
「こんにちは♪」
「え、ああ。こんにちは」
「ねえねえ、燃料漏れてるよ?」
「う、うん。それで困ってたんだ。君ならなんとかならないかな?」
「そう言われると思った!ちょっと待ってね」
そう言って彼女は、ポケットをごそごそと探し出す。
「じゃじゃーん!これなーんだ?」
「え?なんだろう。粘土?」
「ブブー。正解はマジカルゴムでした〜♪」
彼女がくるくると、その粘土のような物体を持ちながら
翼の上を回る。
「これをペタっとくっつけるとね、きっと燃料漏れも止まるよ!」
「そ、そうなんだ。それじゃあ、お願いする。くっつけてきてよ」
「いいよ〜。でも、代わりに私のお願い聞いて♪」
「へ?」
270 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/23(木) 21:14:10.80 ID:MDMzsrWe0
「えっとね、私の基地まで遊びに来てくれるって約束してくれたら、
くっつけてあげてもいいよぉ」
なんか考えていた子とは違うな。そう僕は思っていたが、
それでも他に選択肢もあるわけではないので、
僕は深く考えずに了承した。
「うん、そんな事だったらお安い御用さ。だからお願いだよ」
「やったー!ちょっと待っててね♪」
そう言った彼女は、ふわりと体を浮かせて、
機体後方の僕からは見えない位置へと回り込む。
そして例の粘土を機体に勢いよく叩き付けたようだ。
その事は、機体に伝わった衝撃から分かった。
彼女が再び翼の上に戻る。
「終わったよ。じゃあ、私についてきてね」
「ちょ、ちょっと待って。僕の機には、今どれだけ燃料が
残ってるか分からないんだ。君の基地はここから近いの?」
「うん、すぐ近くだよ。ちょっと地図を見せてね」
と言って、僕の手に持っていた地図を手に取る。
「この地図には私の基地が載っていないのね。秘密だったんだー。
えっとね、大体このあたり!ばらしちゃった〜♪」
と言葉を続け、地図の一点を指差した。
なるほど、魔法少女の出撃基地なわけだから、
秘密にされていてもおかしくはない。そう僕は納得していた。
それに確かに彼女の言う通り、そこは僕の目指していた基地より
はるかに近い距離にあった。
「分かった、ありがとう。それじゃあ、案内をお願いするよ」
「まかせときなさ〜い!」
そう言って、彼女は再び空へ踊り出した。
271 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/23(木) 21:15:39.32 ID:MDMzsrWe0
272 :
1 第三話は>>247から
[saga sage]:2011/06/23(木) 21:16:22.52 ID:MDMzsrWe0
本日はここまでです。書き溜めは終わっていますが
見直しとかしたいので、続きはまた明日。
273 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海・関東)
[sage]:2011/06/23(木) 23:05:26.34 ID:37Uj+qsAO
乙。相変わらず読み応えがあって面白いね。
一瞬ルーデルが来るかと思ったんだが違った(苦笑)
シャルさんは知ってたけど、ノヴォトニーの部下に同姓がいたとは知らなんだ。
274 :
1
[saga sage]:2011/06/24(金) 19:09:02.85 ID:shZBMXNU0
前作がそうだったから勘違いさせちゃったけれど、今回の主人公君は完全に妄想の産物です。
オリキャラ故に、覚えて貰えるインパクトのある名前を・・・と思って。
紛らわしくてソーリー。それでは、続きを投下しますい。
275 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/24(金) 19:10:09.51 ID:shZBMXNU0
276 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/24(金) 19:10:52.37 ID:shZBMXNU0
その基地は、森の中に隠れるようひっそりと存在していた。
さきほど彼女から聞き出すのを忘れていたが、”燕”が安全に
着陸するためには、ある程度の長さのコンクリート滑走路が必要である。
それがその基地には用意されている事が見えたため、僕はほっとした。
滑走路の着地を終えた僕は、ここが見るからに空軍基地であるにも
関わらず、駐機場がない事に気づく。航空機が一機も居ないのだ。
どこに機を止めたものかと迷っているうちに、彼女は再び”燕”の
翼に乗ってきた。
「えっとね、あのへん。あのあたりまで飛行機持っていってね」
彼女が指差した場所は、長方形の白線で囲まれた四角いライン。
そこへ向けて機を動かしていくうちに、基地の管制塔から
大勢の軍人がこちらへ向かって来るのが見えた。
それだけならば良かったのだが、全員が穏やかではない表情で
こちらに銃を向けて走って来る。
彼らの制服は、武装SS(ナチス武装親衛隊)のものであった。
277 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/24(金) 19:11:27.95 ID:shZBMXNU0
僕の”燕”は銃口をこちらに向ける彼らに取り囲まれていた。
僕は反射的に両手を上にあげ、抵抗の意思などない事を見せていた。
隣では、けらけら笑い声を上げ続ける彼女。
「な、なんでこうなっちゃうの?」
「アハハハ、私にも良く分かんない♪おっかし〜」
こりゃ駄目だ。
ならば、僕達を囲むSSに聞いたほうが手っ取り早い。
そう思って彼らに声をかけようと考えた時、僕達を囲むSSの隙間を抜けて、
一人の軍人が”燕”の下まで歩いて来るのが見えた。
僕達ドイツ空軍のトップである、ゲーリング元帥。
意外な人間が目の前に現われ、
僕が驚いているうちに元帥は声をあげた。
「クララ、どうしてこんな事を・・・」
「どうしてって、お友達だもの。ねー?」
彼女は首を傾けこちらを見る。
え?そうだったの?
一瞬そう思ったが、どう返事をしていいか分からないので
曖昧な気持ちのまま僕は頷く。
「ほらー。お友達を連れてきて、何がおかしいの?」
「ここを誰にも彼にも知られてしまうようでは、困るんだ。
国家の安全にも関わるし、君の安全にも関わる」
「私はずっと安全よ〜。私が誰に襲われても、負けるわけないじゃない♪」
「いや、しかしだな・・・」
278 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/24(金) 19:11:57.18 ID:shZBMXNU0
「ねえ、おでぶさん。私、今日は疲れたからお部屋に戻りたいの」
相変わらず満面の笑みを浮かべたまま、この少女は
目の前にいる権力者に対し、こう言っている。
「まさか、隣の彼を連れて行こうと言うのか?」
「あったりまえじゃない♪へんなおでぶさん」
沈黙。僕は目の前で行われている会話が、
一体どうなっているのか見当も付かない。
「ねえ、聞こえなかったの?」
そう彼女が言った時、元帥は片手を上げる。
そして、僕達の包囲を解くSS達。
それを見た彼女は、僕の燕からぴょんと飛び降り、
「飛行機はこのままにしといても、誰かがしまっておいてくれるよ。
さ、私の部屋に行こうよ♪」
と僕に伝えた。
僕はどうしていいか分からずに元帥の顔を見ていたが、
彼もまた僕に対して頷いたために、僕は彼女の言う通りにした。
「こっちよ」
そう言う彼女へついて歩く僕は、元帥の隣を通り過ぎようとした時に
「大変な事をしてくれたな」
と僕の耳に入る彼の呟きを聴いた。
279 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/24(金) 19:12:22.92 ID:shZBMXNU0
その基地は、管制塔以外の設備が全て地下に作られていた。
鼻歌を歌いながら歩く彼女の後をついて行く僕が、
管制塔の隣の階段を降りた時に最初に目にしたものは、
広大な空間の中で整備される航空機であった。
そこには大量のMe262と、
僕が見た事もない細身でスタイルの良いレシプロ戦闘機。
ドイツ空軍戦闘機の主力であったBf109でも、Fw190でもない。
その戦闘機に僕の興味は沸いたが、彼女は鼻歌を歌いながら
どんどん前に歩いていってしまうため、僕はその興味を満足させる事を諦めた。
やがて辿りついた彼女の部屋は、まるで女王様のためにあつらえたかの
ような豪華な部屋であった。先ほどの彼女と元帥のやりとりを見た限りでは、
彼女は実際に女王様であったのかもしれない。
「キュゥべぇ、ただいま」
その部屋には誰も居なかったのだが、彼女は誰かに話かけている。
「この人なら私の友達だから、心配しなくていいよぉ」
そう彼女が言った時、部屋のベッドの上に、霧の中から
現われるかのように、白い動物が現われるのを僕は見た。
猫とも兎とも言えないような、真っ赤な瞳をした動物。
「君がそう言うなら。おかえり、クララ」
喋った。
嘘だろ?
「驚いたでしょ〜?この子はキュゥべぇってお名前なの。
私の一番のお友達なのよ!仲良くしてね♪」
「よろしくね!君の名前は何て言うんだい?」
そう目の前の”キュゥべぇ”とやらに話しかけられ、僕は
戸惑っていた。目の前で起きた事態に混乱していたのだ。
「あ、私もそれ知りた〜い。ねぇねぇ、あなたのお名前な〜に?」
「あ・・・ああ、僕はノヴォトニー」
僕はそう答えるのが精一杯であった。
280 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/24(金) 19:12:49.15 ID:shZBMXNU0
「ふ〜ん。呼びにくいお名前だね〜」
そう言いながら、彼女は相変わらず満面の笑みを浮かべつつ
僕をじっと見ながらくるくる歩き出す。
「私は今年で18歳になったんだけど、あなたは?」
「え・・・僕も18歳だけれど・・・」
「じゃあ、こうしましょう!今日から、私の事はお姉ちゃんって呼んで!
すてき!」
「そんな・・・どうして急に」
「だって私、クララって呼ばれるの嫌いなんだもの。ね、ね。いいでしょ?」
どうしてこうなった。わけがわからないよ。
もう、僕の中にはこれまで彼女に抱いていた憧れのようなものが、
どこかへ消えうせてしまっていた。
こんなに不思議ちゃんだとは、思ってもいなかったのだ。
今日を凌げば、今後も会う事はないだろう。
そう考えた僕は、深く考えずに返事をしていた。
「わ、わかったよ・・・・・・お姉ちゃん」
「嬉しい!よろしくね、ノヴォトニー!」
そう言って彼女は僕に抱きつく。そこには恋愛感情のようなものは
微塵も感じられず、彼女は言葉通りに僕を弟として扱う意思が見えた。
そこに、さきほどのキュゥべぇが声をかける。
「ねえクララ、今日は軍医のところへ行かなくていいのかい?」
「あ〜、忘れちゃってたぁ。私ってホントばか。ちょっと行ってくるね!」
部屋の出口まで小走りをした彼女は、振り返って僕らに告げる。
「あ、そうそう。ノヴォトニーはここで待っててね。
キュウべぇと仲良くお話してて!」
そんな・・・そう返事をしようと思った時には、彼女は鼻歌を
歌いながら、もう部屋から出て行ってしまっていた。
無機質な赤い瞳が僕を見つめている。
281 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/24(金) 19:13:17.34 ID:shZBMXNU0
「さて、改めてよろしく。ノヴォトニー」
「あ・・・はい、宜しくお願いします・・・」
「そんなにかしこまらなくてもいいさ。君が彼女に接するように、
僕にも同じように接してくれれば構わないよ」
「それに、僕は君に聞きたい事があるんだ。良かったら、
質問に答えてくれるかな?」
「ええ、なんでしょ・・・なんだい?」
「彼女とどういうきっかけで、こんなに仲良くなったんだい?
これまでこの部屋に入ってきた人間は、彼女の世話係と言える
ような人間しか居なかったんだ。君みたいな人間は、とても興味深いんだ」
「そう言われても・・・僕にも分からないんだ」
「へえ、それはどうしてだい?」
「どうしてもこうしても・・・僕はただ、僕の乗っていた戦闘機が
燃料漏れのために、やむを得ず彼女についてここに来たんだ。
彼女が僕の事を、友達やら弟やら言い出すのも、僕にとっては
わけがわからないんだよ」
「ふうん・・・やっぱり理解できないなあ、人間の価値観は」
僕にだって理解できないし、大体キュゥべぇの存在自体も
理解できないと言いたいところだった。
「わからないのであれば仕方がないね。僕からの質問はこれで
終わりだよ。君からも、僕に聞きたい事があるんじゃないのかい?」
聞きたい事は山ほどある。まずキュゥべぇは何者なのか?
何者というよりは、何なのか?
だが、それをいきなり聞いて、この生物が僕の事を不愉快に
思うかもしれない。そう思ったため、僕はまずこう質問をした。
282 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/24(金) 19:13:44.02 ID:shZBMXNU0
「彼女はどうして、あんな力を持っているのか聞かせてもらえるかな?」
「それはね、僕と契約をしたからだよ」
「契約・・・って?」
「そう、契約。僕は彼女達の願いを、何でも一つだけ叶える事が出来る。
その願いを叶える事によって、彼女達は魔法少女となる契約さ」
「・・・何のために?」
「彼女達は魔法少女となる代わりに、魔女と戦う使命を課せられるんだ。
それが、僕の利にかなうから・・・とでも言っておこうかな。
君達には理解できないと思うからね」
「・・・魔女・・・?」
「願いから生まれたものが魔法少女だとすれば、
魔女とは呪いから生まれた存在なんだ」
「魔女は普通の人間の目には見えず、災いの種を世界にもたらしているんだよ」
「じゃあ、クララもそんなものと戦ってるって言うの?」
「彼女は例外。彼女はこの戦争を戦うために、一切魔女と戦ってはいない。
だからこそ、僕はよくこうして彼女に会いに来るんだけどね。
魔女と戦わない魔法少女がどうなるのか、僕にも興味があるのさ」
まだ頭が混乱する。魔法少女やら、魔女やら、使命やら、契約やら・・・
僕は理解できた一つの事柄について、キュゥべぇに確認を取る。
「えっと・・・じゃあ、キュゥべぇ・・・さんが、魔法少女の
生みの親だって言うのかい?」
「その言い方は間違いだけれど、
そう解釈してもらっても構わないと思うよ」
「あと、僕の名前にさん付けなんてしなくてもいいよ。
さっきも言ったとおり、普通に接してくれればいいんだ」
「そう、わかったよ。キュゥべぇ」
ようやく僕は、目の前のキュゥべぇと落ち着いて会話が
出来るようになってきていた。
283 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/24(金) 19:14:16.98 ID:shZBMXNU0
「それで、キュゥべぇは何者なんだい?」
「何者って言われても困るね。君達、人類とは違う
存在であるとしか、答えようがないよ」
「そっか・・・キュゥべぇは神様や悪魔のような存在なの?」
「まさか、僕が神だなんて。だけど、君がそう解釈するのであれば
僕はそれでも構わないよ。僕という概念は、説明したところで
理解されないだろうからね」
魔法少女を生み出す、目の前の白い生物。
まさに神の所業じゃないかと、僕は考えていた。
「僕も魔法を使えるようになるかい?」
「残念だけど、それは無理な話だね。魔法少女になれるのが
少女である事には、きちんとした理由があるんだ」
「君達の言葉で簡単に例えれば、第二次性徴期の少女達の持つ
感情の力こそが、魔法少女の力になるんだよ。
夢や希望、そういった感情がね」
「そっか・・・・・・一つ、いいかな?第二次性徴期って言うのは、
だいたい10〜15歳くらいの年齢を指す言葉だよね」
「そうだね、その解釈で間違いはないよ」
「クララは18歳と言っていたけれど、そのあたりの事に
ついては問題はないの?」
「勘違いしないで欲しいのだけど、重要なのは年齢ではなく、
あくまでその年頃の少女達が持つ感情の力なんだ」
「彼女は確かに18歳という年齢ではある。けれど・・・
おっと、彼女が戻ってきたようだ。
続きは本人から聞いてみるといいよ」
そうキュゥべぇが言い終えた途端、部屋のドアは開いた。
彼?の言う通り、クララはご機嫌な様子で部屋に入り、
「ただいま〜♪仲良くしてた?してた?」
と言うのであった。
284 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/24(金) 19:14:42.74 ID:shZBMXNU0
「おかえり、クララ」
「おかえり・・・・お姉ちゃん」
「よーしよしよし、よくお留守番できました。お姉ちゃん褒めちゃう!」
そう言って彼女は僕の頭を撫でる。本当に弟あつかい、
いやそれ以上なのかもしれない。
「それじゃあ、彼とも話したい事があるだろうし、僕は帰らせてもらうね」
「えー、帰っちゃうの?いいじゃない、もうちょっとお話しましょうよ〜」
「そういう訳にも行かないんだ。こう見えても、色々とやる事があるからね
またね、クララ、ノヴォトニー」
「そっか、またねぇ。キュゥべぇ」
僕の返事を待たずに彼は消える。現われた時と同じく、
まるで空間の中へ消えていくように。
続いて、僕の方に向けられる、相変わらずの満面の笑み。
僕はだんだん、そんな彼女の事を気持ち悪いと思い始めていた。
表情や態度もそうであるが、常に崩されぬ笑顔が
あまりにも人間離れしているように感じたからだ。
285 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/24(金) 19:15:14.70 ID:shZBMXNU0
「んっふっふ〜♪何をお話しましょうか?」
「あー・・・えーっと・・・どうして僕を・・・友達に?」
「だって、あなたずっと私のこと見ていてくれたじゃない♪
遠くからでも、ちゃーんと見ていたんですよお姉ちゃんは」
「他の人は、私の事を怖がって見るだけだったし〜。
きっとあなたとなら、お友達になれると思ってたの♪嬉しい!」
確かにそれは真実だ。迫り来る敵を次々と撃墜する彼女の姿は、
今でも女神のようであったと思い出せる。その女神が、
こんな人だとは思ってもいなかったのだ。
「そ、そう・・・で、なんで弟ってことに?」
「それはね、私に妹が居たんだけど、離れ離れになっちゃったの。
かわいそうでしょ?でしょ?お姉ちゃん〜、ってくっついて来る
かわいい子だったのに。だから、妹か弟が欲しかったの!」
「離れ離れですか・・・」
「そ、離れ離れ。私も妹も収容所に閉じ込められてたんだけど、
妹はあそこに残っちゃったの。かわいそうな子。ぐすん」
さらっと重大な事を言ってのける彼女。
収容所、そこがどのような場所なのか。
どのような人間が送り込まれるか。そのくらい、僕は知っていた。
ナチスへの反乱分子とされた人間や、共産主義者とされた人間。
そしてユダヤ人など。
彼女は自分が、そのような場所に居たと言うのだ。
286 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/24(金) 19:15:43.03 ID:shZBMXNU0
「それって・・・君はどうしてそんな・・・」
「えっとね、私達の家族はユダヤ人だから閉じ込めるぞー。
ガオー。って怖い人達が一杯来たの。そしたら、私達みんな
連れて行かれちゃってね♪」
「収容所でおなかすいたよ〜って妹と泣いてたら、
キュゥべぇが助けに来てくれたの!どんな願いも叶えるよって!
すてき!」
「そんでねそんでね、私は空を飛びたい!ってお願いしたの。
だって、空を飛べたら収容所から出られるんだもの。
ぴゅーんって」
「けどね、妹は違うお願いをしちゃったの。収容所にいる人達は、
みんな病気になってたから。私が助けてあげるんだーって、
そんなお願いをしちゃったの。偉いよね。おばかさんよね」
僕は絶句していた。彼女のそのような経験に対しても、
またこの話をしている間すら表情を崩さぬ彼女に対しても。
「だからね、私は空を飛んで、こっそりお薬やご飯を
収容所のみんなに持っていったの。偉いでしょ。へへへ。
でもね、こっそりやってたのにバレちゃった。
私ってだめな子」
「そしたらね、収容所の怖い人がね、私が戦争で
役に立ったら、みんなを閉じ込めるのやめるって言ったの。
だから、私ここで頑張ってるんだ。偉いでしょ。偉いでしょ」
「そうだね・・・クララは凄いね・・・」
そう答えるのがやっとだった。
それ以外に、彼女にかける言葉が見つからなかったのだ。
287 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/24(金) 19:16:10.84 ID:shZBMXNU0
「その呼び方はやめて!勝手に付けられた名前なんだから」
「え・・・?」
「いーい?私はノヴォトニーのお姉ちゃんなのよ
だから、ちゃんとお姉ちゃんって呼んでね。約束して♪」
「う、うん・・・お姉ちゃん」
彼女は壊れてしまっているのではないか。
目に映る笑顔の彼女を見て、僕はそう考えていた。
部屋のドアから、来客を知らせるノックの音が聞こえる。
「はーいー?」
「SSの者です。先ほどのパイロットはご一緒でしょうか?」
「今、お話しているところなの。後にして下さらない?」
「はい、ですが彼の乗ってきた戦闘機の整備などに、
彼の意見と立会いが必要なのです。申し訳ありませんが、
しばらくの間、彼を連れて行きたいのですが」
「そっか、飛行機ないと困っちゃうもんね」
そう言って彼女は僕の顔を伺う。
正直に言ってこれ以上、彼女の話を聞いていたくなかった。
だから、僕はSSの出してくれた助け舟に乗る事にした。
「ごめんね、僕の仕事はパイロットだから、
乗っている戦闘機の事は大事なんだ」
「また戻ってくる?」
「きっとね」
心にもない返事を返して、僕は部屋のドアへ向かう。
ドアを開けると、二人のSS将校が直立不動の姿勢で
僕の事を待っていた。
「こちらです。ご案内します」
「きっとよ。お姉ちゃん、待ってるからね〜」
背後からその声を受けて、僕は二人の将校の
後をついて、廊下を歩き出した。
288 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/24(金) 19:16:40.09 ID:shZBMXNU0
僕は今更になって、ゲーリング元帥が僕に囁いた言葉を思い出していた。
そう気づいた時には時すでに遅し。
彼らに連れられて案内された場所は、文字通りの取調べ室。
いや、この様子では尋問室といったほうが正しいか。
先ほどまでは丁寧な態度を見せていたSS将校達は、今や
そんな事は忘れたかのように、部屋に付くなり僕にこう告げた。
「まず最初に言っておこう。君には、二つの選択肢が用意される」
「死体となってこの基地から出るか、生きてこの基地に留まるか」
「ちょ、ちょっと待って下さい。どうしてそんな・・・」
ドン
その音をわざわざ聞かせるために、将校の一人が机を叩く。
「理由をいまさら説明する必要があるのか?」
「そう言われましても・・・僕にも分かりませんよ」
なんて頭が悪い奴だ。そう彼は僕に伝えたいかのように、
大げさに頭を振った。
「君は、自分の知った機密について、安易に考えすぎている。
君の知った情報は、我がドイツの将来を左右する大事なものなのだ」
以前にシャル中尉からコーヒーをご馳走になった事を僕は思い出す。
機密。
今回の僕の取った行動は、その他にどうしようもなかったとはいえ、
安易に決断を下してはならない重要な事柄であったのだ。
この基地の存在と、クララの居場所。
この二つを知ってしまったがために、
僕は今、このような状況に置かれているのだと理解していた。
289 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/24(金) 19:17:09.49 ID:shZBMXNU0
「理解できたようだな。では、質問に答えろ。”どちらに”するかね」
もはや選択肢であって選択肢ですらないその質問に、
僕は狼狽していた。他にどうしようもないではないか。
「・・・ここで・・・働きます」
「賢明な判断だ。では、この誓約書を読んでサインをしたまえ」
誓約書。この基地から出撃の場合を除き出ません、誰にも口を割りません、
捕虜になりそうになったら自害します、などなど・・・
読むごとに憂鬱になるような内容ばかりの誓約書に、
僕はしぶしぶ自分の名前を書き入れる。
「本来であれば、君のような一般兵がこの基地に配備される事など
例外中の例外なのだ。彼女に感謝するんだな」
感謝、か。こうして命を取られずに済んだのは、彼女が僕を
”友人”認定したからなのだろうか。だが、こうして僕がここに居て
こんな目に合っているのも、また彼女のせいだな。
いや、そんな彼女に興味を持った僕のせいか。
一瞬だけとはいえ彼女のせいにした事に、少し罪悪感を感じながら、
僕はただ黙ってこの部屋の椅子に座っていた。
「では、これらの書類に目を通しておくように。
この基地での君の行動や、今後の勤務に関わるものだ」
そう言ったSS将校は大量の書類を机に置く。
僕はそれに目を通す元気もなく、書類を抱えて
クララの待つ部屋へと戻るために、取調べ室のドアを開けた。
290 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/24(金) 19:17:39.71 ID:shZBMXNU0
その時はそう思ったのだが、何故クララの部屋に戻る
必要があるのだろうか。
そんな考えに気づいた僕は、
騒々しく戦闘機の整備が行われている地下格納庫の中、
人目に付かないように一機のレシプロ戦闘機の影で腰を下ろし、
SS将校から貰った書類を眺めていた。
僕のものとされる部屋の場所が記載されていたこと。
僕はあの戦闘で戦死したという扱いとなっており、
もう以前の基地に居た頃の人間とは接触が出来ないこと。
僕はここで、彼女の援護をするための戦闘飛行隊に
配属されたということ。
彼女の精神的不安定を招かないよう、言動に注意すること。
書類には、おおむねそのような内容が記されていた。
最初に見た時には興味がわいていた、”Ta152”と識別表のついた
その新型レシプロ機も、今の僕の憂鬱な気分を晴らしてはくれない。
重い書類の束を抱えて、僕は自分の部屋へと向かうために立ち上がる。
291 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/24(金) 19:18:07.92 ID:shZBMXNU0
「あ〜、こんなとこにいた!道草はだめだよ!
真っ直ぐ帰って来ないと!」
格納庫に響く騒音に混じって、彼女の声が聞こえた。
どうして見つかったのかという思いで、彼女を見る。
相変わらず、彼女は笑ったまま僕を見つめていた。
「えっと・・・ごめんね、この書類を見てよ。これから仕事をするために
色々と覚えなきゃいけないんだ」
「それだったらお姉ちゃんの部屋でお勉強するといいよ!
分からないところがあったら教えてあげますからね〜。よしよし」
もともと憂鬱な気分だったところから、さらにもう一段階落ち込む。
だが今の僕には、この基地の中で彼女の他には
会話が出来る人間が居ない。
分からない事だらけの中、質問が出来る人間が居たほうがいいだろう。
そう考え、彼女の申し出を受ける事にする。
「それじゃあ、お願いするよ」
「はいは〜い♪それじゃ、戻りましょ!」
まだ明るい時間にこの基地に着陸をしたはずなのに、
彼女の話を聞き流しながら僕が書類の内容を完全に把握した頃には、
もう日付は変わってしまっていた。
292 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/24(金) 19:20:01.59 ID:shZBMXNU0
↑三行消し忘れた・・・なかったものにして下さいorz
まだ夕暮れくらいの時間に、僕はこの基地に着陸をしたはずだった。
書類を読もうとする僕に、クララはひたすら会話という妨害を続けていた。
彼女が喋りつかれて眠った時には、もう日付が変わってしまっていたのだ。
眠り続ける彼女を横目に、僕は書類を落ち着いて見る事が出来るようになる。
それに記された内容を理解し終えた時には、朝を迎えていた。
この地下室に太陽の光は差さなかったが。
新たに配属された飛行隊のブリーフィングルームへ出頭する。
そこに着いた僕を待っていたのは、これまでの移動では少なからず待っていた
新米の歓迎などではなく、厳しい表情を崩さない大勢の軍人達であった。
彼らは本物の職業軍人らしい風格を漂わせていた。
その中の一人、おそらくはこの飛行隊の隊長であろうと思われる
中佐が、僕に話しかけた。
「ようこそ、我が部隊へ。君のこれまでの戦歴は全て確認している」
「はっ、光栄です」
「君が前に居た部隊で、彼女は君達の事を守っていたのだと思う。
彼女には、そういう命令が下されていたからな」
「おっしゃる通りです、中佐」
「この部隊は、その立場が逆になる。我々は、彼女を守るための
飛行隊なのだとまずは認識してもらいたい」
その事は、昨晩に目を通した書類からも知っていた。
彼女は実際に、この基地の女王だったのだ。
全てが彼女のために存在する秘密基地。それがここであった。
「承知しております」
「よろしい。我々には他の部隊より優遇されて
補給を受ける事が出来ているが、やはりここ最近の劣勢を受けて、
余裕があるわけでもない。君には君が持ってきた”燕”に搭乗してもらう事になる」
「むしろ有難いです。”燕”は僕の搭乗してきた機体の中では最高です」
「ならば話は早い。では、君の腕を見せて貰おうか。
ついでに、我々のやり方も君に教えよう」
それから僕を待ちうけていたものは、しばらく訓練漬けの日々となった。
293 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/24(金) 19:20:27.50 ID:shZBMXNU0
294 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/24(金) 19:20:53.45 ID:shZBMXNU0
来る日も来る日も、訓練漬けの日々。
飛行訓練の最中に、何度か彼女が出撃するところも見ていた。
ときどき、そんな彼女を追うように”燕”の編隊が付いていく事もあった。
彼女から聞くところによれば、以前の部隊に居た僕達を
援護してくれた時のような空戦時には、飛行隊からの援護がなく。
迫る敵の地上部隊を攻撃する際には、彼女の上空を”燕”が守る。
そのような仕組みになっていたのだ。もっとも、
「援護なんていらないのにね〜。
私に鉄砲なんて当たりっこないのに!ひゅんひゅん〜♪」
と彼女は言っていたわけではあるが。
確かに彼女の言う通りなのかもしれない。
彼女の戦闘力は、彼女一人でこの劣勢を引っくり返して
くれるのではないか、そう期待させるに十分な物であったからだ。
だが万が一彼女が撃墜されてしまっては、こちらにとって大きすぎる損害となる。
その可能性を少しでも低くしようと努力するのを、
僕達の司令官が考えるのは当然の事だろう。そう僕は考えていた。
そんな彼女を援護する任務は、僕には今日まで与えられなかった。
この飛行隊には、エース中のエース達が集まっていたのだ。
以前に僕の所属していた”コマンド・ノヴォトニー”の歴戦のパイロット達より
多くの撃墜数を誇るエース達。
だが、以前の部隊もエースの集まりの部隊であった事に変わりはない。
僕に叩き込まれた”燕”の戦術と、今の飛行隊のパイロットが行っていた戦術は
似通ったものであった。
高速での一撃離脱戦法。それがこの”燕”の真髄を発揮できる戦術だと、
腕の立つパイロットであれば皆、同じように理解するのだ。
そのおかげで、ついに彼らは僕を認めてくれたようであった。
ある日、また訓練をするつもりで命令を待っていた僕に、飛行隊長はこう告げる。
「今日はお前も出す」
「え・・・僕も出撃ですか?」
「そうだ。小規模な連合軍の戦車隊が、この近くに居る。
それを彼女が攻撃している間、我々が上空の援護を行う」
「了解しました」
295 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/24(金) 19:21:22.83 ID:shZBMXNU0
出撃準備を終え、地下格納庫でエレベータの順番待ちをする
僕達の”燕”達。そこに、クララが僕の”燕”に向け、走ってくるのが見えた。
「ねえねえ、ノヴォトニーの飛行機に乗せて♪」
「へ・・・へ?」
「ただ飛ぶだけでも、魔力って使っちゃうから疲れちゃうの。
いいでしょ、いいでしょ!向こうに着いたら降りるから!」
いいでしょと言われても、僕にはその質問に答える権限などない。
そのため、僕は無線機のスイッチを入れ、編隊長に確認を取った。
「・・・・・・という事なのですが、よろしいでしょうか?」
「彼女がそう言うなら構わない。エスコートしてやれ」
あっさりと了承は得られた。もっとも、了承などなくても
彼女はきっと、僕の”燕”の翼に乗っていた事だろう。
にこにことした笑顔を見せた彼女を乗せたまま、僕の
”燕”はエレベータに乗る。エレベータの出口は、僕が
ここに着陸した際に、彼女から指図された白線の長方形。
地上に出た僕は、滑走路まで出る。そしてスロットルを
ゆっくり操作し、浮力が得られるまで加速をつける。
翼の上に乗る彼女は危なっかしく見えたが、その表情から
楽しんでいるようにも見える。彼女を振り落とす事なく、
僕の”燕”は、透き通る青空へと向けて踊り出した。
296 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/24(金) 19:21:51.99 ID:shZBMXNU0
高度2000mほどで僕達は集合し、八機の編隊を組む。
翼には、足をぱたぱたと動かし微笑みを浮かべるクララ。
風防は閉じてあるため、彼女との会話は行えない。
この姿だけを見れば、天使のようなのに。
僕は彼女を見ながら、そう考えていた。
敵との空戦を行うには、とても低い高度ではある。
しかし、これ以上高度を上げると、地上にある敵目標を
視認できなくなる恐れがあったため、そのまま僕達は密集隊形で飛んでいた。
「赤1より、目標と思われる戦車部隊を視認した。おそらく中隊規模。
道路沿いを進んでいる」
そう無線から聞こえたため、僕は眼下に広がる田園風景に目を凝らす。
見えた。
この高さだと米のようにしか見えないが、確かに道路を進む戦車部隊。
彼女はそれに気づいていない様子で、相変わらず”翼”の上で
足をぱたぱたさせていた。
そのため、僕は風防を内側からドンドンと叩き、彼女の注意を惹く。
彼女は最初、僕の顔を見て目を丸くしていたが、
僕がその戦車部隊を指差した事によって、彼女も自分の目標を
発見する事が出来たようであった。
にこにこ笑い続ける彼女の今日の獲物は、初めて彼女を見た時と同じ
大きなライフル銃。それを持った彼女は、”燕”の翼から飛び降り、
一直線に敵の戦車部隊へ向かう。
「彼女が仕事を終えるまで、空中待機だ。各機、警戒を怠るな」
地上に向かって小さくなる彼女を見ながら、僕はその無線を聞いていた。
297 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/24(金) 19:22:17.89 ID:shZBMXNU0
やがて放たれる桃色の光。その光が伸びていった先に見える、
大きな火の塊。さぞかし、敵は驚いている事だろう。
続けて、いくらかの間を持って打ち上げられる炎の柱。
二つ目のそれが見えたころ、僕は遠くの空から近づく機影に
気づいた。僕は急いで、マイクのスイッチを入れる。
「赤17より、10時方向、不明機」
「赤1、了解。各機、二機一組」
僕の編隊の全員が、言われる前に行動を取り始めていた。
地上への攻撃は続けられているようだが、僕達は僕達の仕事に
取り掛かる。空中からの脅威の排除だ。
僕達は二機一組の編隊にばらけながら、じわじわ高度を上げる。
だんだんとこちらに近づく機影を見るうちに、彼らの翼が楕円形で
ある事に僕は気づいた。スピットファイアだ。
きっと、攻撃を受けた地上部隊が援軍を呼んだのであろう。
もうこの時期には、ドイツの空は連合軍機の数の方が多かった。
近くにいた彼らは、その救援要請のために駆けつけたに違いない。
「ジョンブル共だ。各自、訓練通りに行動せよ。全機叩き落せ」
彼らへの蔑称を吐きながら、先陣を切る僕達の隊長。
僕達の編隊は、隊長と彼の寮機を中心に、広がるように散会していた。
298 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/24(金) 19:22:45.29 ID:shZBMXNU0
初めに隊長機の編隊が、敵編隊の端から突っ込む。
機銃弾の雨を浴びせられているのであろうが、彼の”燕”は
その雨を掻い潜り、敵機を一機、撃墜するところが見えた。
彼らは敵の中を通り抜け、安全圏まで直進してから
旋回行動に移るだろう。その前に、隊長機の編隊に続いていた
二機の”燕”が、初撃を生き延びた敵に向け突入をする。
今度の彼らは、次の出番を控える僕の目の前で、それぞれ
二つの爆発を生み出していた。さあ、今度は僕の番だ。
一部の敵はこちらを狙っているものの、何機かの敵は
もう攻撃を終えた僕の隊長達を狙おうと、旋回を行っていた。
それが出来たところで、”燕”に追いつけるわけがないのに。
僕達の編隊にも、機銃弾の雨が注がれる。だが幸いな事に、
先頭を飛んだ僕の隊長達が受けたものより、ずっと弱い雨であった。
そして、隊長機を追いかけようと僕達に無防備な姿を晒す敵に、
僕は機関銃弾をプレゼントする。手に持つ操縦桿に心地よい振動が響き、
やがて僕の目の前に居た敵機は、破片を撒き散らして黒煙をあげた。
少し機首を下げ、加速をつけながら僕達は敵機から離脱する。
やがて敵機が後方に移り、小さな影となる頃に僕は旋回を始めた。
そして、ぞっとする光景を目にする。僕達の前を飛んでいた二機が
ゆっくりと旋回をする中、彼らに敵のタイフーン戦闘機が張り付いているところを。
「9時下方、タイフーン!」
9時だと?彼らはぴったり後ろに付かれている。6時じゃないのか。
そう一瞬だけ考えた事を後悔した。首を向けると、その警告が
僕に向けて当てられていた事を知る事になったからだ。
そのタイフーンは眼下に広がる森に擬態していたようだ。
そして、真っ直ぐこちらへ向けて突っ込んでくる。
機銃弾を浴びせられるものの、それらは運良く僕の”燕”には
当たる事がなかった。だが、僕の寮機はそうではなかった。
もともと高度が低かったため、彼が地上に激突した爆発により、
僕は寮機を失った事に気づいた。
続けて、遠方で黒煙を引きながら地面に吸い込まれる
二機の”燕”の姿。僕が確認できただけでも、三機の味方が
落とされ、敵はその数を倍増させていた。
299 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/24(金) 19:23:12.12 ID:shZBMXNU0
まさに四面楚歌である。周囲を敵機に囲まれ、僕の逃げ場は
なくなっていた。せめて高度がもう少しあれば、下方に逃げるという
選択肢もあったのだが、残念ながら今の僕にそれはない。
ならば上はどうだ。論外である。”燕”は空中での機動性は
お世辞にもいいものとは言えない。唯一の武器である速度を、
高度を稼ぐために使ってしまっては、僕を狙っている
レシプロ戦闘機も僕の”燕”を簡単に捕捉するだろう。
正面にも敵機は現われている。だが、僕は真っ直ぐに
進むしかない。そう思った時、例の桃色の光が僕の眼前を照らした。
爆発。
振り返ると、クララは銃を手元から離し、僕を追い抜こうとしていた。
続けて彼女の右手に生まれる、大きな鎌。それを両手で抱え、
前方からこちらへ向けて迫る戦闘機へ、彼女は向かっていく。
なぜ、銃を使わない。
見ているだけで危なっかしかったが、彼女は敵機と
すれ違いざまに鎌を振り、その敵機の翼を切り取った。
それがきりもりをかけながら、こちらに向かって来た時には
ひやっとした。急いでフットペダルを踏み、その哀れな敵機と
衝突しないように回避行動を取る。
くるくると回転しながら、片翼を失ったタイフーンは森の中へと消えた。
僕の前方の脅威を除去してくれた彼女は、
僕が彼女の元へ辿りつくのを待って、”燕”の翼に
飛び乗った。そして、鎌を前方に向け、つんつんと動かしている。
「こちら赤17。彼女と合流しました」
「赤1、了解。これ以上の戦闘は危険だ。
各自の判断で離脱せよ」
それが彼女の意思であったのかは分からなかったが、
隊長の言う通り、もはや戦闘の継続は困難な状況にあった。
後方や側面から、まだ敵機は迫りつつある。
僕はそのまま真っ直ぐに飛び、今度こそ彼らが見えなくなった
ところで、基地へ戻るために旋回に移った。
300 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/24(金) 19:23:39.65 ID:shZBMXNU0
巣に帰れた”燕”は、無線で確認する限りでは、
出撃時のちょうど半分となってしまっていた。
さんざんに敵に追い回されていたため、僕達の編隊は
ばらばらに基地へと帰ってきていた。
基地から増援の戦闘機が出てきてくれたため、
この周辺の空域には敵機の存在はなくなっていた。
”燕”を深追いしすぎた敵は、皆、彼らに食われてしまっていたのだ。
だが、僕は焦っていた。
基地に着陸する直前あたりから、彼女の様子がおかしかった。
僕は機体を滑走路からエレベータへ動かすのを忘れ、
風防を開けて彼女に声をかけようとする。
彼女はこの秋の季節には不似合いなほど汗を流していた。
相変わらず、満面の笑みを浮かべたままで。
「疲れちゃったぁ。私がんばったよね。ね」
「すごい汗じゃないか!何かあったのかい?
すぐに軍医のところへ行こう」
「そうだね。軍医さんなら、私を治してくれるから」
まだ後続の戦闘機が着陸するかもしれない。
それに、彼女を歩かせるよりはエレベータを通った方がきっと早い。
そう考え、僕は滑走路から”燕”をエレベータまで動かす。
管制塔から僕らの姿は見えているため、
僕らがエレベータの上に乗ると同時に、それは地下へ向けて動き出す。
エレベータが地下格納庫に辿りつく前に、僕はコクピットを
抜け、彼女の腕を自分の肩に乗せる。そうして彼女の体重を
支えられるようにして、彼女と一緒に地面に降りた。
「ク・・・お姉ちゃんをおぶっていくから、僕の背中につかまって」
「わあぃ、ノヴォトニーのおんぶだ。優しいね、ノヴォトニー」
そうして彼女を背中に乗せた時に、エレベータは格納庫に着く。
目の前に居た整備員は、僕を見て驚いていたが、僕は構わず
「すみませんが、”燕”を動かしておいて下さい!彼女が大変なんです!」
と声を出し、僕は医務室へ向けて走り出した。
301 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/24(金) 19:24:06.43 ID:shZBMXNU0
「魔力の使いすぎから来る疲労だろうね。
地上攻撃から続けての空中戦。
おまけに、今日はライフルをよく使用したと聞いている。
こうならない方が不思議さ」
クララの診察を終えたらしい、医務室の白衣を着た男は
僕に対しそう言った。
「どうせ君には秘密にしておいても、彼女からいつか
喋ってしまうだろう。だから見せてあげるよ。彼女の魔力の源を」
彼が僕に見せたものは、桃色に輝く宝石。
彼が続けた言葉によると、魔力を使うたびに
このソウルジェムと呼ばれる宝石は輝きを失っていくそうだ。
「そして、その失われた魔力はグリーフシードと呼ばれる
別種の黒い宝石を使う事によって回復する。
もっとも、そちらは貴重品かつトップシークレットだから、
君に見せるわけにも行かないけれどね」
「・・・それより、彼女は大丈夫なんですか?」
「今のところは大丈夫。ただ、グリーフシードは言った通り、
貴重品なんだ。ここ最近、彼女の魔力を完全に回復させるほどの
グリーフシードの補給を、我々は得られていない。
彼女の魔力は、だましだまし維持されているようなものだ」
「・・・魔力がなくなってしまうと、彼女はどうなってしまうんですか?」
「魔力を消耗しただけで、見ての通りだ。
もしも魔力が枯渇したら彼女は死んでしまう。そう私は聞かされているよ」
この白衣の男は顔色を変えず、淡々と話し続ける。
彼女が戦う理由も聞いていた。それに加えて彼女は今日、
僕達を助けるために無茶をしたと言うのだ。
僕の心が少し痛み出す。
次の質問をかける前に、彼女の居た診察室のドアが開く。
少しふらふらしている様子の彼女は、診察室から歩いて出てきていた。
その足取りとは正反対の、満面の笑顔を浮かべて。
302 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/24(金) 19:24:35.21 ID:shZBMXNU0
「ごめんね、ノヴォトニー。私ったら虚弱体質でね。へなへな〜」
「そんな・・・じっとしていた方がいいんじゃないか?」
「だってここだと眠れないもの。さ、私のお部屋へいきましょ」
僕はクララにではなく、軍医に質問をかけたつもりだった。
その意図を察してくれてか、白衣の男は言葉を続ける。
「今は我々の出来る事は全部やった。彼女の言う通り、
部屋で安静にしていてくれればいいよ」
「はい・・・ありがとうございました」
僕は彼にお辞儀をしてから、彼女の目の前に背を向けてしゃがむ。
彼女には僕の言いたい事がすぐ伝わり、
ここに来た時と同じように僕の背中に乗った。
「よしよし、お姉ちゃんをいたわるとはいい心がけじゃ」
「疲れているだろうしね。このくらい、させてよ」
軍医が医務室から出るドアを開けてくれたため、僕は
もう一度、彼にお辞儀をしてから医務室を出る。
廊下を歩く時に見えた格納庫では、僕の”燕”は
きちんと所定の位置に戻されているのが見えた。
303 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/24(金) 19:25:04.09 ID:shZBMXNU0
「つ〜か〜れ〜た〜。ごめんね、私もう寝る!」
そう言って彼女は、その豪華なベッドにぼふっと音が聞こえるよう
身を投げた。そのまま動かなくなってしまった彼女は、本当に
眠ってしまったらしい。よっぽど疲れていたんだろう。
今日はありがとう。
そう心の中で呟き、スースーと寝息を立てる彼女に
毛布をかける。
まだ彼女の事で聞きたい事が沢山あったため、僕は医務室に
戻ろうかと考えていた。そう考えている間に、彼は来た。
部屋の中央の何もない空間から現われる動物。
初対面の時から会っていなかった、キュゥべぇであった。
「おや。せっかく会いに来たのに、もう眠っちゃったんだね。
クララは疲れているのかい?」
「うん、そうみたい。今日はたくさんの魔力を使ったようだから」
「その様子だと、彼女から魔法少女について色々と聞けたようだね」
彼女から聞き出せたわけではないのだが、僕は黙って頷く。
「どうして彼女はこんな事に?」
「どうしてって言うと?彼女が戦争に加担する理由くらいは、
もう聞けているんじゃないのかい?」
「そういう事ではなくて・・・どうして、キュゥべぇは彼女と契約をしたの?」
「彼女達が、強い願いと祈りを持っていたからさ。
君には分からないだろうけど、あの収容所は僕の目から見ても
悲惨な場所だったよ」
表情を変えずに淡々と話すキュゥべぇ。
そんな彼の事が、僕にはだんだんと不愉快に思えてきていた。
304 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/24(金) 19:25:37.31 ID:shZBMXNU0
「あのままあの場所に居続けていたら、そう遠くない未来に
クララは死んでしまっていた事だろう。だから、今の状況は
クララにとっても、そう悪くはないんじゃないかな?」
「だからって・・・こんなの・・・」
「クララがこんな状態になってしまったから悲しんでいるのかい?
僕は何度も、クララには魔女退治をお願いしていたんだよ。
グリーフシードを得て、魔力を維持できるようにね」
「グリーフシード・・・それは魔女を倒せば貰えるっていうの?」
「そう、魔女を倒せばときどき手に入る事がある。
それがグリーフシードだ。僕は何度もそれを説明してきたけれど、
クララにとっては戦争の方が大事らしい。僕には理解できないよ」
それだけ、クララにとっては妹の事が大事だったのだろう。
ようやく、僕は彼女が戦う理由と意味を理解する事が出来た。
僕が考えていたような薄っぺらな想像ではなく、それこそ
想像を絶するような思いで彼女は戦っているのだ。
「なんとかならないかな。ほら、以前にも彼女は年齢的に
魔法少女としては適していないような話をしたじゃないか。
彼女が心配なんだ」
「ああ、その事かい。それについては、僕は問題ないと見ている」
「その理由が知りたいんだ。なんで問題がないんだい?」
「クララの精神は、おそらくは薬物の投与か何かのために、
ある程度の部分が破壊されている」
「だから、クララの精神は第二次性徴期の少女達と
同じような状態になっていると僕は考えているよ。
君にも、そう見えていたんじゃないのかな?」
305 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/24(金) 19:26:06.05 ID:shZBMXNU0
「そんな事・・・そんな・・・」
「君は気づいていなかったのかい?クララの異常さに。
同じ人間だからこそ、真っ先に気づくものだと思っていたんだけどな」
そんな事は辞めさせなくては。そう考えた僕だったが、
心を読まれたかのようにキュゥべぇはこう続ける。
「言っておくけれど、クララの精神は今のままが良いと思うよ。
クララは薬物の力を借りていながら、度重なる戦闘に疲労困憊している。
そんな彼女の持つ力を、彼女の年齢相応にしたらどうなるか。
君にも予想が出来るんじゃないかな?」
「〜〜〜!!」
言葉を出せず、僕は床を叩く。
「何か出来ないの?これじゃあんまりだよ!」
「残念だけど、僕にはいい考えが思いつかないね。
君がクララを守ってあげるしかないんじゃないかな?」
僕にも考えは浮かばなかった。良い返事が得られないとは
思っていたが、念のために聞いてみる。
「彼女はもう、普通の人間には戻れないの?」
「それは無理な相談だね。一度、魔法少女になったのなら、
もう元には戻れない。それも契約の時に説明しているよ」
「分かった、ありがとう。もう僕から聞きたい事はないよ」
「それじゃあ、僕はもう帰るね。クララによろしくね」
そう言った彼は、姿を消した。
笑顔を崩さぬまま眠っている彼女を残したままに出来ず、
僕は一晩中、彼女が目を覚ますまでじっと部屋に居た。
安全な基地内ではあるが、こうする事で少しでも
彼女を守っているような気がして。
306 :
1 第三話は>>247から
[saga sage]:2011/06/24(金) 19:27:04.02 ID:shZBMXNU0
307 :
1 第三話は>>247から
[saga sage]:2011/06/24(金) 19:27:29.88 ID:shZBMXNU0
本日はここまで。
続きはまた、明日。
308 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/25(土) 19:10:57.65 ID:dAVNrhNe0
309 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/25(土) 19:11:33.85 ID:dAVNrhNe0
そんなクララに休息は与えられなかった。
それほどまでに我がドイツ軍は追い詰められていた。
かつては、西はフランスから、東はソ連のモスクワまでを
我々は勢力化に置いていたというのに。
今となっては戦争前の国境線まで押し戻されつつあり、
来る日も来る日も空襲と敵の地上部隊が迫る。
その都度、彼女と僕達は出撃を繰り返す。
彼女の体調は目に見えて悪くなり、何度も出撃を辞めさせようとは思った。
だが僕がその話をするたびに、彼女はいつもの満面の笑みを崩さず
おちゃらけた返事ではあったものの、絶対に戦いを辞める事はしないと
僕に伝えてきていた。
彼女の精神は破壊されていたものの、根本の芯となる部分は
壊されてはいなかったのだ。
囚われた妹と同胞のために、彼女は戦い続けていた。
僕達は必死にこの戦況に抵抗するために出撃回数を伸ばしていた。
だが、僕達の出撃回数と反比例して、この基地に送られてくる補給物資は
その数をどんどん減らされていた。
航空機の部品も、食料品も。
そして彼女のためのグリーフシードも。
310 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/25(土) 19:12:04.32 ID:dAVNrhNe0
今日の彼女は、とても戦闘に耐えられそうな体調には見えなかった。
僕はいっその事、今日の出撃の事を黙っていようかと考えていた。
しかし、僕に知らされている情報が彼女に知らされていない筈もなく、
僕が彼女の部屋に着いた時には、彼女はもう格納庫へ向かう準備を
終えていたようであった。ここのところの彼女は必ず、戦闘地域に
向かうまでの間は、僕の”燕”の翼に乗るようになっていた。
まるで病人のように顔色が悪く、足取りもふらふらしている。
それでも、彼女はその笑顔を崩してはいない。
「辛そうだよ?今日はお願いして、休んだ方がいいんじゃないかい?」
「そんな事言ってられないもの。だ〜いじょうぶ、へっちゃら〜」
彼女はどんな事があっても出撃しようとしていた。彼女には
彼女の守るものがある。僕には彼女の意思を止める権利などない。
ここ最近、僕達に下される命令は、主に空戦の命令であった。
すでに壊滅的な被害を被っているドイツの産業は、もはや
とどめを刺される寸前であるかのように思われた。
だからと言って、敵からの爆撃を指をくわえて見ているわけには
行かない。このドイツの空を守る事が、僕達の存在意義なのだ。
僕は彼女の戦う理由を知りながら、彼女の力を利用する事に
申し訳なく思いつつも、彼女の力を借りねば僕達は戦う事すら
困難な状況にある事を理解していた。
「疲れてきたら、すぐに僕の”燕”に戻ってきてね。いいかい」
「は〜い。燕の翼に飛び乗って〜♪ちゅんちゅん」
そう話しながら、僕達は僕の”燕”のもとへ歩いて行く。
311 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/25(土) 19:12:41.39 ID:dAVNrhNe0
いつものように機に乗り込み、いつものように発進準備を行い、
いつものように彼女が翼に乗っている。
そして空戦命令があった場合の、いつもの集合高度5000mで
4機の”燕”が密集隊形を組んだ時に、彼女の異変に気づいた。
彼女の表情が何かおかしい。
その理由は、開けっ放しになっていた彼女の口にあった。
いつもは綺麗に見えたその横顔が、
今日に限っては遠くを見つめる老人のような表情に僕には見えたのだ。
明らかに彼女の呼吸が荒い。僕の想像しているより、
彼女は疲労しているのだろう。
「こちら赤17。彼女の様子がおかしいです。
彼女を基地に戻す事を進言します」
「こちら赤1。提案は却下する」
「彼女を失ったら、我が軍には大きなダメージとなるはずです」
「問題ない。我々はこのまま、任務を続行する」
問題がないだと?我々は彼女を守るための飛行隊と
僕は最初に説明されてきた。何かがおかしい。
「彼女が自分に危機を感じれば、自分の判断で基地に
戻って行くだろう。赤17、自分の仕事だけを考えろ」
「・・・赤17、了解」
納得出来ないまま、僕は返信を返す。
確かに、彼女ほどの力の持ち主であれば、
彼女は自分に降りかかる火の粉を自分で払うであろう。
だが、万が一の時のための僕達ではなかったのか。
彼女の調子が悪い今こそが、その万が一の時ではないのか。
煮え切らない気持ちのまま、雲の多い空を
僕達は飛んでいた。
312 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/25(土) 19:13:09.76 ID:dAVNrhNe0
「十一時方向、雲の切れ目。戦爆連合」
無線の通り、彼らは雲の中を飛ぶように、群れをなして空を進んでいた。
この雲量なら、理想的な不意打ちがかけられるかもしれない。
僕達の仕事が上手く捗れば、それだけ彼女への負担も減らせる。
どこから突っ込むべきだろうか。きっと、僕達の編隊の全員が
そう考えているに違いなかった。
そのうちの一人が、見てはならない物を見てしまう。
「八時!雲の中にP51!!」
顔を向けた時にはもう遅かった。
不意打ちをかけようとしていた僕達は、
逆に不意打ちをかけられてしまっていたのだ。
僕達は咄嗟に編隊を崩し、二機一組となってばらける。
旋回を行った際に彼女を振り落としてしまったが、
彼女はふわりと浮き上がり、その手に鎌を作り出した。
浴びせられる機銃弾。
僕の”燕”に衝撃が響く。少し貰ってしまったようだ。
急いで計器を確かめてみるも、今は何も異常が見られなかった。
僕達を通り抜けたP51は、合計で10機前後のように見えた。
まだ雲の中に隠れているかもしれない。そう考え、通り抜けた
敵機に注意を払いながら、周囲の雲にも気を配る。
後方から聞こえる爆発音。僕の寮機かと思いひやりとしたが、
その音の出所は敵のP51であった。
彼女が鎌を手に、敵を追いかけているのが見える。
僕はその彼女の姿に違和感を持つ。
313 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/25(土) 19:13:53.59 ID:dAVNrhNe0
彼女は、敵機を追いかけていたのだ。
追いつけなかったのだ。
僕の右側に寮機は居た。彼の安全が確認できてほっとするも、
そんな彼を狙うように雲中から現われるP51の編隊。
「赤4、九時方向!」
「畜生が!」
彼が罵声を無線機に吹き込むと同時に、僕達に放たれる機銃弾。
狙いの正確な彼らの射撃は、偶然にも僕が反対側に倒した操縦桿の
おかげで、僕の”燕”から逸れていく。
敵は、もう”燕”の弱点を見抜いているかのように思えた。
射撃につぐ射撃で僕達に回避行動を強要し、
じわじわと運動エネルギーを消耗させる。その戦術は、悔しい事ではあるが
僕達を追い詰めるという意味では賞賛に値する戦術であった。
四方八方が敵戦闘機だらけのこの状況。
次の敵は正面から来ていた。
僕は機関銃のトリガーを引く。自身の放つ機銃弾によって機体に
振動が伝わる。同時に、敵も射撃を開始していた。
交わる機銃弾の雨。フットペダルを踏みながら、祈る。
当たるな。
当たるな。
眼前のP51が破片を散らすのが見えた。
今回は幸運の女神がこちらに微笑んだらしい。
「くそ、ケツに付かれた!」
そう無線からの声を聞いた僕は、急いで周囲を見渡した。
314 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/25(土) 19:14:23.32 ID:dAVNrhNe0
”赤4”が二機のP51に狙われ、高度を下げて行くのが見える。
被弾のためではなく、速度を稼ぐためであろう。
僕の”燕”も、もうかなりの運動エネルギーを失っていたため、
彼を狙う敵機へ向けて僕は旋回した。
急降下。
先頭に”赤4”、間には二機のP51、最後尾に”赤17”の僕。
さらに後ろに付かれてはいないか、後方を確認する。
上空には多数の機影が入り乱れていたが、今のところは
こちらへ向けて降下する敵は見られなかった。
前方のP51編隊が射撃を開始する。
”赤4”は、機体を翼をくるくると回転させつつ、
鮮やかにS字の軌道を描き回避行動を取る。
”燕”をそのように扱う機動を見せた彼に対し、僕は素直に尊敬の念を持った。
P51の編隊も、眼前の”赤4”を追い越さないようにするため、
同じくS字の軌道を描きつつ降下をしていた。
それが僕の待っていた好機であった。
僕だけは、この数珠繋ぎの戦闘機の群れの中で、
一直線に降下を行っていたのだ。
照準の中心にP51を納め、射撃を開始する。
ほんの数連射で爆発したため、僕はフットペダルを踏みながら
機を横すべりさせ、次のP51を捉えようとしていた。
「赤17、六時!」
はっと我に返り、反射的に操縦桿を倒して旋回する。
僕の元にいた位置に向け、機銃弾が通り抜けるのを僕は
確認する事が出来た。
そこを続けて通り抜けるP51。さらに、その後ろから”赤1”。
僕を狙っていたP51は、逆に”赤1”に狙われる羽目になっていた。
やがて、黒煙を吐きながら落ちていくP51を確認する。
「こちら赤1、もうこのまま続けても勝ち目はない。
各自の判断で離脱しろ。速度を稼いで振り切れ」
315 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/25(土) 19:14:53.21 ID:dAVNrhNe0
誰も返事をしない。当然であろう、四機編隊の全員が全員、
敵に狙われて逃げ回っているような状態であったからだ。
僕が最初に援護をしようとした、”赤4”の姿が見える。
彼は高度を落として速度を稼いだ後、上昇を行っていたようであった。
そんな彼の左側から、一機のP51。
「赤4、十時方向!」
「見えている!」
言葉通り、彼はその方向へ機首を向け、敵の射線から
逃れようとしているところが見えた。
そんな彼の右側上方から
P51が射撃を行いながら急降下をかけてきているところも。
「赤4・・・!」
最後まで言葉を出す前に、彼は燃える流星となっていた。
少しの間、それを見つめ続ける。落下傘が開かれる事はなかった。
316 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/25(土) 19:15:33.21 ID:dAVNrhNe0
僕は降下をかける前に、クララの姿を探す。
幸い、大きな鎌を持つ彼女はすぐに見つかった。
僕と同じくらいかやや低い高度を、水平飛行している。
そのスピードは、まるで翼をもがれた天使のようではあったが。
こちらへ向かって降下をかける敵機が居ない事を確認し、
僕は彼女の後ろを飛んでいく。
彼女も、後方から聞こえる特徴的なジェットエンジンの音に
気づいたようであった。危険はあるが、若干スロットルを絞り、
”燕”のスピードを下げる。
彼女は僕の”燕”の翼に飛び乗る。そんな彼女に向け、
僕は下方を指差した。彼女は頷くと同時に、翼にしがみつく。
そうして、僕の”燕”は急降下を開始した。
その間に、僕達はさらに上方から降下をかけてきたP51から
機銃弾の雨をプレゼントされていた。
抜けろ。
抜けろ。
翼にしがみつく彼女が、その手に持つ鎌をライフルに変化させる。
彼女は片手でそれを後方に向け、鮮やかな光を放つ。
その発射時の反動は、大きな振動となって僕の”燕”にも伝わってきた。
爆音と、飛び散る破片。そうして僕達の後ろを取っていた
敵が居なくなったため、僕は機を横すべりさせるために
小刻みに踏んでいたフットペダルから足を放し、
真っ直ぐに降下をかける事が出来た。
十分と思える速度が得られたため、機体をじわじわと水平に戻し
高度500mほどの低空を真っ直ぐに飛ぶ。
こちらが低空にいる限りは、敵機も降下をかける事が出来ない。
あとは敵を上手く振り切り、逃げるだけだ。
彼女は口を開けたまま、肩で息をしている様子が見える。
すぐに基地に戻らねばならない。僕はスロットルをゆっくり押し込み、
出せるだけのスピードを出していた。
317 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/25(土) 19:16:00.29 ID:dAVNrhNe0
基地に着陸をする前に、僕は基地の管制塔へ向けて
無線を送っていた。彼女をすぐに収容するようにと。
基地の上空に辿りついた時には、
要請通りに滑走路の脇で救急班が待機しているのが見えた。
それを見て安心した僕は、”燕”をゆっくりと地上に降ろす。
機が動きを止めたところで、救急班は担架を運び
”燕”の元へ駆け寄っていた。
クララは意識こそあるものの、
もはや自力では動けないほど疲労している様子であった。
救急班に抱えられ、担架に乗せられた彼女は、
慌しく地下基地へと降りる階段へと運ばれていく。
僕はそれを見届けてから、”燕”をエレベータへと
移動させ、格納庫への収容を終えた。
そして医務室へ向けて走り出す。
僕が息を切らしてこの医務室に向かって来るのを、
目の前に居た軍医は知っていたかのようであった。
彼は医務室のドアの前で、僕を待っていたのだ。
「容態は極めて悪い。彼女の魔力は枯渇寸前だ」
「そんな・・・グリーフシードはもうないんですか!」
「補給が途絶えている。私達の手元には、もう残りがない」
「それでも、彼女は戦い続けるだろう。
それが彼女の利でもあり、私達ドイツの利でもある」
「何が利だ!ふざけんなよ!」
僕は目の前の軍医を、力任せに扉に押し付けていた。
軍医はそれに驚いた様子であったが、僕より強い力で
僕を逆に押し返す。その冷たい視線で、僕を見下ろしたまま。
318 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/25(土) 19:16:26.16 ID:dAVNrhNe0
医務室のドアが開く。
明らかにやつれている。それなのに、どうして笑っているの。
「いや〜疲れちゃったぁ。あははは、ごめんね」
「もうやめようクララ!今は休もうよ!」
「その名前で呼ばないで!」
「ノヴォトニーだけには、その名前で呼ばれたくない・・・」
彼女はそう僕に言い放つと、ふらふらとした足取りで
自分の部屋へと戻って行く。
その背中を見つめ続ける、僕と軍医だけが残された。
「・・・失礼しました」
僕がそう侘びを入れる前に、軍医は僕に目を合わせようともせず
医務室の中へ入って行く。大きくドアを閉める音を残して。
今日の戦闘の報告のため、そしてもう1つの目的のために。
僕はブリーフィングルームへと足を向けていた。
319 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/25(土) 19:16:54.12 ID:dAVNrhNe0
敵戦闘機を編隊合計で5機撃墜、こちらの損失は1機。
それがブリーフィングルームに入った僕に伝えられた戦果であった。
どの道、記録もされない戦果ではあったのだが。
それを聞かされた時の僕は、別の考えのために上の空であった。
「もうクララは使えないのかもしれないな・・・」
ようやく聞けた、隊長の本音。
隊長だけではない。実のところは、この基地にいる全員が
同じ事を考えていたのだろう、そう僕は考えていた。
「隊長、提案したい事があります。
僕に、訓練型の”燕”を使わせて下さい」
「B-1aをか?そんな物に乗ってどうする」
「今のクララは、戦闘のために使う魔力すらきわどい状態です。
最大限、彼女の魔力を温存するためにも、戦域への往復路の間は
彼女を複座の”燕”に乗せて行った方が良いと考えています」
「ふむ・・・」
「取れるだけの行動は取ってみるか。分かった、ノヴォトニー。
すぐに書類を用意する。それを持って整備班の所へ行け。
戦闘に使用も行えるよう、B-1aを彼らに整備させろ」
「了解しました。ありがとうございます」
心にもない礼を述べる。
僕はもう、決心していたのだ。
320 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/25(土) 19:17:29.66 ID:dAVNrhNe0
321 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/25(土) 19:17:55.85 ID:dAVNrhNe0
翌日に訪れた、空襲に対する出撃命令。
僕はクララの部屋に立ち、息を荒げて眠る彼女を見つめていた。
「お姉ちゃん、出撃命令だよ」
「うん・・・今、起きるわ・・・」
「僕がおぶっていくよ。今度から、僕は複座の戦闘機に
乗る事になったんだ。お姉ちゃんは敵に辿りつくまでは、
戦闘機の中で寝ててよ」
「ありがとね・・・低血圧なの、私・・・」
口元の笑みと、笑っていないその瞳。
億劫そうに僕の背に乗る、そんな彼女。
もはやこの基地では、このような僕の姿は珍しくもない様子で
色んな人間から見られていた。
「お姉ちゃん、着いたよ」
彼女はふわりと僕の背から離れ、操縦席とは反対側に座る。
「魔力を・・・」
「だ〜いじょうぶ。慣らし運転よ」
息を荒げながらそのような返事を返されても、説得力がない。
現に、僕が操縦席に座った時には、彼女は眠ってしまっていた。
エレベータが音を立てて、僕の”燕”を地上へ持ち上げる。
もう、彼女には戦わせはしない。
僕の”燕”は滑走路でスピードを出し、空へと舞い上がった。
そして、いつものように高度5000mで集合をする。
”振り”をした。
322 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/25(土) 19:18:23.56 ID:dAVNrhNe0
速度を上げながら、低空を飛び続ける僕の”燕”に
隊長からの無線通信が届く。
「赤17。どこへ行くつもりだ」
「僕は彼女を助けたい。もう戦争に巻き込むのは御免です」
「それは脱走と捉えられるぞ。今なら聞かなかった事にしてやる、
戻れ。命令だ」
僕はその声に返事をせず、少しずつ降下しながら速度を稼いでいた。
きっと、この飛行隊の”燕”達は僕を狙ってくる事だろう。
だから、今のうちに距離を開けておこうと考えたのだ。
「赤1より司令部。赤17が、彼女を連れたまま脱走しようとしている。
指示を請う」
「司令部より赤1、もう彼女には価値がない。機密保持のため、
脱走兵ごと処分せよ」
その言葉を聴いて、僕はマイクのスイッチを入れ怒鳴る。
「価値がないだと!今まで散々、彼女に助けられて来たじゃないか!
必要がなくなったら、殺して当然なのか!」
「彼女の情報が敵に渡れば、このドイツの存亡の危機となる。
今なら寛大に見てやる。赤17、引き返せ」
「存亡の危機ですって?もうドイツは終わりだ!」
僕は悔し涙を流していた。
レッドバロンと呼ばれるエース、リヒトホーフェンが戦っていた時代から
ドイツ軍、とりわけ空軍は高潔な軍人の集団であると考えていたのだ。
それがこの体たらくだ。言葉通り、我がドイツに未来はない。
僕は決意を新たに、操縦桿を強く握った。
絶対に逃げ切って見せる。
僕のためにも、彼女のためにも。
323 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/25(土) 19:18:51.81 ID:dAVNrhNe0
そんな僕の決意もむなしく、先に空へと上がっていた
”燕”の3機編隊は、しばらくの時間をかけた後に僕の背に付きつつあった。
彼らは高度を稼いでいたため、降下によって速度も稼いでいた。
なおかつ僕の”燕”には一人分の余分な重量が足されている。
僕の”燕”が、彼らに追いつかれるのは仕方もなかった。
放たれる機銃弾が僕の”燕”の右側をかすめる。
僕はフットペダルを踏み込み、敵の射線から逃れようとする。
今度は左側に見える機銃弾。幸いにもそれに当たる事は
なかったが、これまで一緒に飛んできた仲間には、
僕の動きは読まれているように思えた。
スピードで駄目ならば、機動で振り切る他にない。
敵も自分も、同じ”燕”に乗っているのだ。
そう考え、僕は上昇をしながらゆるやかに左旋回を行う。
変わらず、僕を狙い続ける機銃弾は飛び交っているが、
彼らもまた”燕”では慣れない旋回戦となったために、
照準が甘くなっている様子であった。
僕達はもう戻れない。だから不時着、最悪の場合は落下傘で
降下すれば良い。そのためには、追手から簡単には見つからないよう、
出来るだけ彼らから離れて不時着をしたい。
今は耐え、彼らの弾か燃料が切れるのを待つ。
僕は上昇、下降、旋回など、およそMe262が普段取らないような
行動を繰り返していた。
その判断は、僕の側をすり抜ける機銃弾からも分かる通り、
正しい事であると僕は考えていた。
324 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/25(土) 19:19:18.71 ID:dAVNrhNe0
だが、前方からも航空機の影がこちらに近づくのを僕は確認してしまう。。
このような状況下、十中八九は僕の敵となるのだろう。
そんな一瞬の考えの間が命取り。
ガンガンと、僕の機体に響く音と振動。
それは、僕の”燕”が被弾した事を僕に知らせていた。
まだ僕の飛び立った基地からは、満足がいくほど離れられてはいない。
しかし、僕の”燕”の右エンジンは動きを停止させ、スロットルに
反応しなくなっていた。
操縦系統はなんとか生きている様子で、回避行動の継続は出来る。
だが、片肺にされたエンジンはどう考えても致命打であった。
眼下にはまだ森が広がっており、ここで不時着は出来ない。
落下傘で脱出するにしても、このような場所では危険であり、
また僕が発進した基地からもそう離れてはいない。
ここに降りたとしても、すぐに見つかってしまうだろう。
第一、クララの意識がまだ戻っていない。
周囲を確認すると、先ほどまで仲間であった”燕”達は、
二機一組となって僕を狙っている。回避を続けるしかない。
そんな事を考えている最中に、
僕の”燕”の眼前を横切る、もう一機の”燕”が見えた。
相手のパイロットの顔が見える程の至近距離。
危うく衝突するところであったが、そうはならなかった。
だが、新手の追っ手の存在に僕は狼狽する。
そんな僕に、無線機からの声が聞こえた。
325 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/25(土) 19:19:45.91 ID:dAVNrhNe0
「ルーキー?ルーキーなのか?」
懐かしいその声。僕にコーヒーをご馳走してくれた先輩の声。
「シャル中尉!」
「やっぱりお前か!なんで味方に追い回されている!
おい、味方同士で撃ちあいなんて馬鹿げているぞ!
今すぐやめろ!」
「その機体は、我々の機密を握ったまま敵へ寝返ろうとしている。
我々を手伝うか、もしくは邪魔をしないで欲しい」
「なんだって?脱走だと?おいルーキー、どういう事だ!」
「すみません、理由は言えません。シャル中尉に迷惑がかかります。
けど、お願いです!見逃して下さい!」
「聞く耳を持つな。そいつはもはや、我々ドイツの勝利を脅かす敵だ」
それから無線は沈黙した。懐かしい先輩パイロットの乗る”燕”は
ゆっくり旋回していた。僕の後方を取るように。
僕は彼からの言葉を思い出していた。
機密とは、非常に重要な物であると。
彼が僕を撃ち落そうとするのも、残念ながらそれで納得できた。
「おいルーキー。お前が15機の撃墜をした日、俺がお前に
言った言葉を覚えているか?」
無線機が沈黙を破る。あの日に言われた言葉?
僕には、彼から機密に関わる話を言われた記憶しかなかった。
だから、あなたも僕を狙うんですね。
そう心の中で返事を返す。
「忘れちまったのか。だが、俺は自分の言葉に嘘は付かない」
彼が旋回を終え、僕の背後に付いている様子が見えた。
326 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/25(土) 19:20:11.40 ID:dAVNrhNe0
そんなシャル中尉と僕の間には、これまで僕を追いかけてきた”燕”達。
そして、シャル中尉は彼らに向けて発砲を始めたのだ。
「おい、何をしているんだ!」
「当てるつもりはねぇよ。じっとしてな。
下手に動かれたら、当たっちまうぜ」
「ふざけた事を!そんな場合ではないのだ!」
「あんな奴でも、俺の可愛い後輩なんだ。
な、見逃してやってくれよ」
「赤1より各機、こいつも敵だ!叩き落とせ!」
「ハッ、お前らごときに俺が落とせるか!」
僕は信じられない思いでいた。今や僕を追いかけてきていた
二機は、シャル中尉の乗る”燕”に追い回されている。
そんな中尉の背後に、また別の二機の燕が回り込もうとしている。
「黄9、七時方向!シャルさん!そんな馬鹿なことはやめて下さい!」
「いいから行け!早く!!」
後方に作られる飛行機雲。彼らはシャル中尉を撃ち落そうとしていたが、
彼らの機銃弾は全て当たっていない事が、
綺麗な軌跡を描いている中尉の”燕から見て取る事が出来た。
時々、彼らの機体がこちらに機首を向ける。しかし、彼らが僕を
狙おうとするその度に、シャル中尉の”燕”は射撃を行っていた。
「・・・ありがとうございます」
もう僕のお礼は、空戦に夢中になっている彼の元には届かないであろう。
それでも僕はマイクに向けて、そう言っていた。
327 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/25(土) 19:20:44.78 ID:dAVNrhNe0
328 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/25(土) 19:21:11.90 ID:dAVNrhNe0
もう戦い合う彼らの姿は見えなかった。僕の”燕”はだんだんと
振動がひどくなり、操縦桿も重くなりつつあった。
片肺のエンジンが悲鳴を上げる。ゆっくりと僕の”燕”は
速度を落とし、じわじわと高度を下げていた。
そろそろ限界だろう。
そう考えていた僕の視界に入ったのは、暖かい季節には
畑として使われているであろう、ひたすら茶色の土の地面。
車輪を出そうとするものの、これも壊されているようであった。
胴体着陸か。
新米の僕がBf109を扱っていた際にも、何回かは行った経験がある。
”燕”では初めてだが。
「クララ、降りるよ。衝撃に備えて」
聞こえてはいないだろうと分かっていたが、それでも呟く。
ゆっくりと地面に近づき、そして”燕”は地上に降りた。
機体が一度地面を打って大きくバウンドし、ガタガタと
振動をさせながら土の地面を進んでいく。
やがて”燕”は畑に残されていた柵をとらえ、
ばきばきとそれの破片を撒き散らしながら速度を落としていく。
その間に、ハーネスが僕達の体を支え続けてくれたのは
幸運と言わざるを得ない。
僕達は傷一つなく、地上に戻る事が出来ていた。
そして、彼女が目を覚ます。
329 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/25(土) 19:21:37.24 ID:dAVNrhNe0
「あれれ・・・眠っちゃったぁ・・・」
「おはよう、お姉ちゃん」
「ここはどこなの?」
「聞いてくれ。基地の人間達は、もう魔法の使えない君を
殺そうとしていた。だから、僕は君を連れ出した」
「それって・・・そんな・・・!」
「あのままあそこに居たら、君は死ぬまで戦わされていたんだ。
勝手な事をして済まないとは思っている。けど・・・」
「勝手な事をしないで!」
彼女が僕の頬を殴る。
僕は口の中が切れた事を、口の中に広がる血の味から感じていた。
「なんで・・・こんな事を・・・・・・」
「妹や・・・収容所の皆は・・・」
彼女は顔を手で覆い、泣いていた。
彼女のこれまでの努力を、僕は無にしたのだ。
「聞いて欲しい。君があの基地で倒れてしまっては、
誰が君の妹や収容所の人間を助けると言うんだい」
「だから、君にだけは生きて欲しかった。
君だけは守りたかったんだ」
これ以上の言葉を出す事が出来なかった。
彼女は理解してくれたのか、泣きながらも頷く。
それを見て、僕は閉じ込められていた風防を開け、
彼女と一緒に地上に降り立った。
安全な場所など、どこにもないとは分かっていた。
だが、少しでも安全を求めるために、僕達は歩き出す。
330 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/25(土) 19:22:09.74 ID:dAVNrhNe0
331 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/25(土) 19:22:43.94 ID:dAVNrhNe0
どれだけ歩いた事だろう。
人目に付かないように歩き続けた結果、僕達は深い森の中に居た。
泉が湧いているのを見つけ、僕達はそのそばに腰を下ろす。
あのような空戦を抜けた後に飲みこんだ水は、僕の体に染み渡る感じがした。
続けて彼女も水を手に汲み、口をつける。
見るからに弱っている彼女のために、まずグリーフシードとやらを入手する事。
それが何よりも先だ。
そう考えていた僕の前に、キュゥべぇはいつの間にか現われていた。
「やあクララ、ノヴォトニー。見つからないから探してしまったよ」
「見ての通り、彼女を連れ出したのさ」
「へえ、後先も考えずによくやるね、君は」
「良かったら助けて欲しい。グリーフシードが必要なんだ」
返ってきた返事は、僕にとっては意外なものであった。
332 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/25(土) 19:23:11.22 ID:dAVNrhNe0
「僕もそのつもりで来たんだ。この近辺の街に、
一人の魔法少女が居る。今のクララが魔女と戦うのは危険だから、
彼女に君達を紹介しようと思ってね」
「なんとかしてくれるのかい?」
「その魔法少女が首を縦に振ればね。まあ、断られはしないと僕は思うな」
「わかった、ありがとう。早速、案内して欲しいんだけど」
「そうしたい気持ちは僕もやまやまだけど、
クララを少し休ませてあげた方がいいんじゃないかな?」
確かにその通りであった。
彼女は疲れ果て、僕達の会話も聞こえていないかのように
ぼーっと空中を見つめていた。
相変わらずの、満面の笑みを浮かべたままで。
「彼女が体力を回復させるまで、少し休んだ方がいいと思うよ。
確かにクララは心配だけれど、
今日や明日に魔力が尽きるというわけでもなさそうだ」
「・・・わかった」
「それじゃあ、しばらくしたらまたここに来るからね。
僕はその魔法少女に、話を付けに行くよ」
キュゥべぇは森の闇の中へと姿を消す。
333 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/25(土) 19:23:51.20 ID:dAVNrhNe0
さすがに夜になると、風が冷たくなった。僕とクララは
お互いを暖めあうかのように寄り添っていた。
「ねぇ・・・ノヴォトニー」
「なんだい?」
「これからどうするの?」
「まずは君の魔力を回復させる。そのために、キュゥべぇが
この近くに居る魔法少女に相談しに行ってくれた」
「それはさっき聞こえていたわ。それから?」
「それからは、これから会う魔法少女達と相談しよう。
誰か一人くらい、僕達を助けてくれると思う」
「助けて貰ってどうするの?」
「君の居た収容所に行くんだ。そして、君の妹や
収容所の皆を解放する。どうだい?」
「そんな事が出来たら素敵ね・・・」
「そっか、助けて貰うのかぁ・・・・・・
私は馬鹿だから、おでぶさんの言いなりになるしかないと思っていた。
それしか、皆を助ける方法がないと思い込んでた」
「仕方がないよ。あそこから君は出られなかったんだから」
「ううん。出ようと思えば出れたのに・・・
私が勝手に出たら、皆を殺すって・・・」
334 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/25(土) 19:24:17.30 ID:dAVNrhNe0
「そんな事だろうとは思っていた。謝っても許されないとは思うけど・・・」
「ううん、責めてるわけじゃないの。ノヴォトニーの言う通り、
私はあそこで言いなりになったまま死んでいたのかもしれない。
そうなるくらいだったら、残された可能性に賭けたい」
「可能性?」
「妹も魔法少女だから。きっと、自分で何とかしてるだろうって」
「そうだね。きっと妹さんも頑張っているよ。
僕達が諦めちゃいけない」
「ノヴォトニーも手伝ってくれるの?」
「勿論だよ。クララがお姉ちゃんなら、収容所に居る君の妹は
僕の妹でもあるさ。君を手伝わせて欲しい」
「・・・ありがとう」
335 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/25(土) 19:24:43.58 ID:dAVNrhNe0
「なんだか、ノヴォトニーの方がしっかりしてて、お兄ちゃんみたい」
「そうかい?君の方がしっかりしてると思ったけどな」
「私はノヴォトニーに連れ出されなければ、きっとあのまま
ずっとあそこから動けなかったと思うの。私なんて、ちっとも
しっかりしてないわ」
「決めた。今からノヴォトニーは、私のお兄ちゃん!
これから私の事はこれからマルゴーって呼んでね」
「マルゴー?」
「うん。私の本名はマルゴット・フランク。
家族や友達からは、マルゴーって呼ばれてたの」
「・・・クララって名前は、軍からそう名乗るように言われた、
本名を隠すための偽名だったの。黙っていてごめんね」
「わかったよ。そんな事、気にしていないさ。
よろしくね、マルゴー」
「よろしくね。お兄ちゃん」
お兄ちゃんで確定なのか。
けど、悪い気はしない。
彼女が初めて、僕に頼ってくれている。
僕達に何が待ち受けているのか分からない。
けれども、僕は彼女を絶対に守って見せる。
その決意を胸に刻み込んだ時に、キュゥべぇは戻ってきた。
336 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/25(土) 19:25:10.10 ID:dAVNrhNe0
「お待たせ。彼女との話は付けられた。
彼女の街まで辿りつければ、グリーフシードを分けてくれると言っていた」
「良かった。本当に助かったよ、キュゥべぇ」
「気にすることではないよ。僕としても、早くクララの願いが
叶うように手伝いたいからね」
「もうクララって呼ばないでいいわ、キュゥべぇ。
もうお外に出れたんだし。隠す必要もないもの」
「わかったよ、マルゴー。さあ、妹を救いに行くんだろう?
こっちだよ、着いてきて!」
こうして僕の戦いの舞台は、空から地上に移った。
先行きは不安ではあるけれど、第一歩はキュゥべぇが用意してくれた。
もう戦闘機に乗れない事だと思う。だが、その事に後悔はない。
いつの日か、隣にいる彼女が、また元気な姿で
青空の中を華麗に踊ってくれるだろう。
その姿さえ見れれば、僕はきっと満足するのだと思う。
彼女は、初めて見た時から、僕の天使であり続けていたのだから。
「さあ、行こうか」
「うん!」
彼女に手を差し伸べ、立ち上がらせる。
僕達は、暗闇の森の中を歩き出した。
キュゥべぇに導かれるようにして。
337 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/25(土) 19:25:45.55 ID:dAVNrhNe0
338 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/25(土) 19:26:13.12 ID:dAVNrhNe0
(まったく、君の存在はイレギュラーだったよ。ノヴォトニー)
(だが、あのままクララが魔力を枯渇させるよりは、
今の事態の方が僕にとってはメリットになる)
(もうクララは軍から薬物を供与されない。
いずれ、年齢相応の感情の力しか持たなくなってしまう)
(なるべく早いうちに、クララが収容所の真実を知れば・・・)
(・・・魔力の枯渇なんて生ぬるい。
妹に対する希望から、底なしの絶望へと落ちて行ってくれるだろう)
(ノヴォトニー、君がクララを連れ出した事に感謝しているよ)
(おっと、今はクララと呼ぶと駄目なんだっけな。
・・・人類の事は理解できないね)
(大勢いる中の、単一個体の呼び名に過ぎないのに)
339 :
1 第三話は>>247から
[saga]:2011/06/25(土) 19:26:49.99 ID:dAVNrhNe0
340 :
1 第三話は>>247から
[saga sage]:2011/06/25(土) 19:27:25.03 ID:dAVNrhNe0
「魔法少女 クララ☆マギカ」 〜完〜
341 :
1 第三話は>>247から
[saga sage]:2011/06/25(土) 19:29:14.77 ID:dAVNrhNe0
342 :
1 第三話は>>247から
[saga sage]:2011/06/25(土) 19:29:46.95 ID:dAVNrhNe0
以上で終了です。
読んでくれて、また応援してくれてありがとうございました。
読者の皆様が、今作にどのような感想を持ったかは分かりません。
筆者が戦争をテーマにする上で読者様に伝えたかったものを
第一話、第二話では筆者の力不足のために脱線していってしまったため、
第三話にそれを凝縮して詰め込んだつもりです。
もしも今作が楽しいと思われた方は、
今回の魔法少女の名前をググって頂けると幸いです。
こんな事を書いておいてレスも付けにくいとは思いますが、
ご意見、ご質問、辛口でもご指摘を頂けたら、
それはとっても嬉しいなって。
343 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海・関東)
[sage]:2011/06/25(土) 22:34:27.83 ID:ZXhnHMpAO
アンネのお姉さんでしたか。人物像は全く違うみたいだけど頭が良いと厄介だから軍が薬漬けにしたってとこかな。
相変わらず戦闘描写が巧かったです。
欲を言えばもうちょっとクララの活躍を掘り下げても良かったかな、と。
前二作に比べて魔法色が薄すぎる感が否めなかった。
ノヴォトニー君がクララを気持ち悪いと思うシーンは胸が痛くなるけどリアルでグッときました。
次回もWW2です? とにかく期待して舞ってます。
344 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/06/25(土) 22:34:43.69 ID:gfrLCcqUo
妹は例のアの字のにくいヤツ、か……?
……って言うかドイツ語圏でも「キュゥべえ」で通すのね
なんかそれっぽい名前考えるかと思ったけど あれか?枢軸同士だからか? 日本っぽさを出す為にちょんまげでも付ける?
345 :
1
[saga sage]:2011/06/26(日) 11:50:58.71 ID:YQw23Vrk0
あんなキモ長文後書きの後にレスをくれたお二方に感謝。
>>343
最初は筆者の心行くまで空戦描写を書きたかった第三話なのですが、
執筆中に
>>234
を発見したため、急遽路線変更をした次第です。
魔法少女の件に関しては、確かにおっしゃる通りですね。反省しております。
次作の構想はまだ浮かんでおりません・・・
戦場はいくらでもあるとして、そこにどんな魔法少女の物語を入れたものか。
気長にお待ち下さいマミマミ。
>>344
国ごとに呼び名、やっぱりありますよね・・・
筆者は外国語なんて出来はしないので、キュゥべぇで押し通しました。
マミさんに聞けばQBのかっこいい呼び名、教えてくれるかな。
346 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/26(日) 13:26:46.80 ID:OSky5Bwe0
乙々。クララちゃんこの先、幸せであって欲しいが無理な話かも知れんなぁ…
(史実ではアンネより先に死ぬし・・・)
一瞬、"Ein Brutkasten"から"エイべぇ"という電波が届いたが、QBが男の子になっちゃうから却下
今度は、技術発展で魔法少女が廃れていく的な話がみて見たいが…
いったい何年先の話になるのやら…
347 :
1
[saga sage]:2011/06/26(日) 15:23:45.98 ID:YQw23Vrk0
投げっぱなしENDで申し訳ない。
筆者の豆腐メンタルじゃ、この先をどうしても書けませんでした。
エイベェかっこいい・・・次回の時には、もうちょい舞台となる国の言葉も調べます。
魔法少女が廃れていくネタ、実はすごいやりたかった。
何かピコーンと思いついたら書き出すので、お待ち下さいマミ。
348 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/27(月) 00:50:39.77 ID:kKHx7Mnzo
乙乙
敵に魔法少女がいる限り魔法の存在価値はなくならないんじゃないか
ほむほむがあんだけ火力集中してもワルプルギスに傷一つついてなかったところを見ると
魔法物関連に物理的破壊力ってほとんど意味無いっぽい
対して魔法は個人兵装としては考えられないレベルの攻撃性能叩き出すし、戦力としての
魔法少女は絶対に不要にはならないはず
まあレーザーや荷電粒子砲やレールガンが通常兵器に数えられるくらい科学が進歩したらわからんけど・・・
349 :
1
[saga sage]:2011/06/27(月) 20:22:43.58 ID:snfgs8Nq0
本編のほむほむ物理攻撃ってワルさん以外の魔女には効いてましたし
魔法物関連が絶対的防御力を持つ・・・とは筆者は考えていませんでしたね。
ワルプルギスだけが異常な防御力を持っていた、と捉えてもいいですし、
ワルさんの強さの設定自体、脚本家の手から離れた設定矛盾とも取れると思っています。
↑の根拠
ワルさんvsほむ、脚本家本人が「演出がやりすぎててワロタ」ってどっかで公言してたはず。
ただ、ある程度の科学の進歩がないと・・・てのは同意です。
そこまで考えて思いついたネタが
1 魔法の力に対抗するために魔法を科学によって解明する
↓
2 ある程度の素質を持つ人間は魔法の力を習得出来るようになる
↓
3 それってジェダイとかシスって呼ばれる人種?
「スターウォーズ 〜マミの逆襲〜」
そこまでスレタイが浮かんだ。誰か書かないかな(チラッ チラッ
350 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)
[sage]:2011/06/28(火) 13:27:45.11 ID:MN6JrQ6AO
物理に強いかは魔女の性質によるんじゃないかな?
例えば煙の魔女とか炎の魔女とかが存在すれば物理ほとんど通らなそうだし。
そういうのも強力な爆弾とかで吹っ飛ばせば効きそう。
逆立ち先輩もさすがに核の二三発でも入れりゃ消し飛ぶだろうし。
てか大半の魔法は物理法則無視した物理攻撃じゃない?
なんか矛盾してるようだけど。
351 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/28(火) 14:18:27.69 ID:LyhoOZ6Lo
ほむほむもマジカル時限爆弾とかマジカルデザートイーグル.50AEだからなあ
なんかよくわからない魔法でエンチャントしてあるから物理攻撃が物理攻撃の威力のまま通るとか
というかそもそも魔法が介在しないとただの人間は魔女を魔女として認識できないし
純粋な物理的手段で魔女に何でもいいから影響を与えた描写ってないよね
魔法少女を無力化する一番確実な手段はSGの破壊だけど、魔法少女と魔女が同源で基礎構成に
魔翌力が関わってるとしたらSGも魔女と同質の素材(?)なんじゃないかな
体から離されて仮死状態になることはあっても単に衝撃を与えたとか重圧をかけたくらいじゃ
破壊されないようなものでないと、さすがに危なすぎて外を出歩くこともできない気が
352 :
1
[saga sage]:2011/06/28(火) 19:31:16.49 ID:bRtImMG10
筆者の中でも、ほむほむ火器が完全に物理攻撃なのか、
エンチャントマジカル武器なのか、未だに判断が付かないでいたんですよね。
>>331
の言う通り、純粋な物理的手段で影響を与えた影響もなかったと思いますし
逆にエンチャントしているって確証が得られる場面もなかった・・・と記憶してます。
(放送してる最中に録画してなかったんだYO。私ってほんとバカ)
ただ、こんなSS書く以上は設定を固めておきたかったので、
>>350
の言うように
物理法則を無視した物理攻撃・・・というつもりで作品を書いてきたつもりです。
そうなると、SGの強度についても考える必要が出てくるんですよね。
ほむ拳銃がまどSGを破壊したのが、物理攻撃なのかエンチャントなのか。
第二話でSG砕くシーンを書く時、かなーり悩みました。
そうなると危なすぎて外も出れない、というのも同意します。
しかし肉体の急所がSG一箇所だけになる、というメリットも一応あるとも思うんです。
本編でSGを砕くシーンって3回しかなかった・・・と記憶していますし
その3回じゃ判断材料としては乏しすぎると思うんですよね。
さやかSGがトラックに踏まれる描写とかあれば良かった(?)のですが。
このあたりの解釈は公式ガイド出るまでお預けかな・・・と考えております。
魔法少女の防御力についても、どのくらいの肉体強度なのか・・・というのは
結構悩んでいます。さやかみたいな回復能力持ちならともかく、
個人的には機関銃弾の雨の中を平然と歩く魔法少女も想像しにくいんですよね。
筆者脳内設定としては、一般魔法少女は肉体へのダメージをある程度は回復出来るとはいえ、
やはり損傷を受けた肉体の回復には甚大な魔力(と時間)を消耗する。
そのため、魔法少女の行動を止めるにはやはり肉代へのダメージが一番ではないか、
そう考えております。
なんか議論みたいになっちゃって申し訳ない、けどこういうの好きなんです。
353 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/29(水) 01:04:51.72 ID:Hyl84B0Mo
魔法少女を無力化する兵器でもでっちあげられれば廃れさせる展開も可能かと
ジェム破壊以外だと、絶望を促方向ですかね
戦場に出たとたん魔女化するようなら流石に使い物にならんでしょう
354 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)
[sage]:2011/06/29(水) 10:24:25.04 ID:BL8nlV4AO
SGの強度は、身体強化済みの魔法少女が手元から地面に思い切り叩きつけた位じゃ割れないがちょっと傷が付いたり痛みが伝わったり、堅い床に置いて金槌とかで思い切り2、3回ブッ叩けば割とあっさり砕ける程度だと思う。
>>353
肉体とSGの繋がりを強制遮断して行動不能にしてしまう特殊な電磁波的な何かとか?
その強制絶望だと精神に強く作用する薬物撒いたりとか。
355 :
1
[saga sage]:2011/06/29(水) 19:53:07.34 ID:sWAsAS3s0
絶望を強制で促すとかネタとしては面白そうですね。
書く時にどんな気分になるかは知りませんが。
戦場の真ん中で敵軍魔法少女に絶望を与えたとして、
魔女化ってのが軍を率いる立場から見るとどう扱われるのかな。
魔法少女>こっちにガンガン攻撃してくる強力な兵器
魔女 >敵味方区別の付かない毒ガスみたいなもの?
魔女の災厄ってどんなレベルなんだろう・・・
356 :
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[sage]:2011/06/30(木) 02:21:37.35 ID:bkJz8zZIO
濁ったソウルジェムを敵地に放り込んで魔女が孵化するのを待つのはなし?
357 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/30(木) 11:20:29.82 ID:bkJz8zZIO
間違えた
GSだった
358 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/30(木) 15:13:11.42 ID:rbqzW6/Io
いつ孵るか予測できるとは限らないし、戦闘が終わって一息ついたときに
無差別破壊兵器が出てくるとかただの嫌がらせだろww
戦闘に負けてたらそれでもまだましだけど勝ってたら単なるオウンゴールじゃねえか
359 :
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(東海・関東)
[sage]:2011/06/30(木) 18:13:07.06 ID:6EvJppUAO
それに魔女の性質にもよるよね。ワルプルさんみたいなのならともかく、影の魔女みたいなのだったら大した害にはならない。
360 :
1
[saga sage]:2011/06/30(木) 20:19:01.59 ID:nkhwUGzv0
仮に孵化タイミングをバッチシ予測できた上に、魔女がえらい影響を及ぼすと
分かっていたとしても、筆者が軍司令官の立場ならGSを放り込んだりはしないと思います。
絶好の条件で放り投げて、敵だけを上手く殲滅出来たとしても、
今度はその魔女を駆逐して自軍を前進させる必要が出てくるわけですし。
自軍を前進させる必要のない防御戦だったとしても、魔女がどう動くのかは
誰にも分からないでしょう。魔女の方から自軍陣地へ向かって来るかもしれません。
そうなると魔女退治のために、自軍のリソースを多かれ少なかれ食われる事になると思います。
上手く行けばラッキー、けど悪い場合には自軍に大きなダメージ。
筆者が”敵味方区別のない毒ガス”って例えたのはこういう理由です。
高度にシステム化された軍隊という組織では、
余程の状況でないと博打すぎて取られる選択肢ではないかと。
魔女化とは違いますが、そんな博打をするしかない状況に追い込まれた島国も・・・
搭乗員達の決意や覚悟を綴った手紙とか見るだけで涙が出ますが、
軍全体という視点から費用対効果だけで考えると・・・博打なんですよね・・・
361 :
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(不明なsoftbank)
[sage]:2011/07/01(金) 00:58:48.72 ID:PUnzFJtf0
前線から離れた敵国中枢に破壊工作員やテロリストがGS爆弾放り込めば高威力な生物(?)兵器として活用できるかも
携行可能で怪しまれる事もない貧者のブルーピーコック。問題は元の魔女により威力にムラが出る事
まあ持ってく途中で孵化しておじゃんになるのが目に見えてるか
362 :
1
[saga sage]:2011/07/01(金) 20:28:55.37 ID:APfO/ntI0
自分の視野の狭さを痛感してます。正規軍同士の衝突ではなく、
テロるって活用方法もありましたね・・・考えてもみなかった。
そっち方向についても色々と妄想をしてみようと思います。
さて、次の話のネタになる部分は大体固まって来まして、
本日執筆を開始しました。
3話終わったあとにぐだぐだと駄弁った部分は出さないと思います。
他SSを書くのに注力>疲れたらこっちのSSを
そんな感じで今は書いているため、完成はまだ先になると思いますが
お待ち頂ければ幸いです。
363 :
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[sage]:2011/07/01(金) 22:48:44.27 ID:tlmCi5US0
SGの魔女化については条約で制限されると思われます
軍人とはいえ、人間を兵器として使用するのは人道的にも批判が出ると思われます
自分はこういうSS大好きなので待っておりますぞ
364 :
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(不明なsoftbank)
[sage]:2011/07/01(金) 22:54:00.13 ID:/fjpqK7ho
魔法少女の末路を知った上で軍人として徴用しているのに、いまさら人道も何もないもんだが
ところで
>>1
はこれとガングリほむの他にも何か書いてるのかな
365 :
1
[saga sage]:2011/07/02(土) 10:38:18.03 ID:jYWhZjsG0
QB「マサムネのきれあじをきみらのからだであじわうといい!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1308829536/
・SaGa2というRPGゲームネタ
・地の分少量、台本だらけ
・シリアス2割、残りはだらだら
・まどか側の設定はほとんど無視 最初からマミさんとほむら仲良しだったり
軍事のぐの字も出てこないし、上記の通りここで書いてるSSとは
真逆な性格のSSであるため、宣伝してませんでした。
もし面白かったら、1乙とでも言って頂けると幸いです。
366 :
1
[saga sage]:2011/07/19(火) 20:21:33.78 ID:orRoT3Px0
独り言のように報告だけ。
歴史やら戦術やら調べるために資料と格闘し続けて
筆が全然進みません。
続編は投下する・・・!
投下するが今回まだその時までは指定していない・・・!(AA略
待ってくれてる人には本当に申し訳ない。
367 :
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(チベット自治区)
[sage]:2011/07/19(火) 21:45:42.68 ID:FqkmAz05o
継続する意思が確認できただけで充分さね、待ってますよ
368 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)
[sage]:2011/08/19(金) 22:26:24.90 ID:k2j3Gr1k0
エピローグは書かれなかったけど、その後はやっぱり、御察し下さいなんだろうな…。
ところで軍で支給されていたグリーフシードはどこから持ってきたの?
やっぱり軍のお抱えの魔法少女から?もしかしたら、収容所の人々や捕虜を使い魔に襲わせて魔女を養殖していたとか?
それにしても、1話はともかく、2話と3話の夢も希望も無い魔法少女達(2話は最後に救いがあったが)をまどか神はどう思うだろうか?
次回は虚淵繋がりでPhantomのサイスマスターが魔法少女を育てる話とかは?
どんな話にせよ楽しみに待っています。
369 :
1
[sage]:2011/08/22(月) 21:05:46.20 ID:BaMM5wdM0
真正面からの答えではないのですが、1話のようなまとも(?)手段ではないと設定してます。
勝ち戦と負け戦のどちらに魔法少女を突っ込んだ方が効率がいいのか、
それを考えるとQBがWW2ドイツ軍にテコ入れをし出す時期を1943年頃としました。
ナチス党内でもオカルト好きなあの人に対してQBが色々と吹き込めば、
彼は戦争の雲行きが怪しくなってきたドイツのために、
影響力を及ぼせる範囲で色々とやらかしていた事でしょう。
…とその辺りでお察し下さい。
まど神様については、登場させるとそれでオチが見えてしまったり
>>1
の思うようなエンドに持っていけないために(バッドエンドが好きなわけではないのですが)
基本的には"いない次元やらループ"的な扱いとしています。
…けど"いる次元やらループ"的な話も考えております。
次に投下するつもりの4話ではありませんが。
最後に、ちょっと仕事のゴタゴタがおさまってきたので、
早ければ今月中に4話が投下できそうです。
370 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チリ)
[sage]:2011/09/10(土) 19:15:27.62 ID:/TkJ0AIUo
今全部読み切りました
なんて言うか、良作ですね
軍事に詳しくない自分でもある程度分かって楽しかったです
4話楽しみにしてます
371 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海・関東)
[sage]:2011/10/17(月) 06:20:11.58 ID:iGbKPibAO
1ヶ月になったんだっけ?
保守
372 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(関西地方)
[sage]:2011/11/15(火) 23:31:27.62 ID:8neU8jmi0
今更な上に既にお知りになられているかもしれませんが1話でほむらがQBに向かって撃っていたビームはベレッタM9の9mmパラペラム弾だそうです。
この描写からほむらの使用する火器にエンチャントがかかっていると考えていいと思います。
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