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中2病SS『ようこそカスミへ!』 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 16:40:29.06 ID:vD1cKIRAO
※注意※
1.SF・ロボットものです
2.かなり既存のロボットものを意識しています
3.登場人物に名前がついています
4.地の文と台本形式が混ざっています
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少し暑くて少し寒くて @ 2024/04/25(木) 23:19:25.34 ID:dTqYP2V2O
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1714054765/

渾沌ゴア「それでもボクはアイツを殺す」 @ 2024/04/25(木) 22:46:29.10 ID:7GVnel7qo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714052788/

二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714049241/

佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713966248/

全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713869982/

【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713861164/

2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 16:44:05.68 ID:vD1cKIRAO
――ある人は言った


『とどまることを知らない技術の進歩。どこまでいっても満たされることのない欲望。そんな傲慢な人類を、神は再び、引き裂くだろう』



……と



3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 16:44:41.64 ID:vD1cKIRAO
――ある人は言った


『とどまることを知らない技術の進歩。どこまでいっても満たされることのない欲望。そんな傲慢な人類を、神は再び、引き裂くだろう』



……と



4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 16:45:11.51 ID:vD1cKIRAO

少年は宇宙を漂っていた


どこに向かっているのか分からないまま広がる漆黒に
感じてはいけないようなことを感じてしまったような気がして、
思わず全身がゾクリとした。

少年(……どうして、こんなことになっちまったのか)

そんな月並みの思考しか出来ない己を、少年は恨んだ。

ただ、自分のごちゃごちゃする記憶と思考をまとめる、それだけで一杯一杯だった。

彼は叔父の経営する魚屋を継ぐはずだった。
つい数日前までは。

5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 16:45:43.43 ID:vD1cKIRAO
なのにも関わらず、だ。
己がいるのは東京の下町の魚屋でも、
ましてや広い海でも、深海でもなんでもない。

宇宙である。

――どうしてこんなことになってしまったのか、

――いや、なるべくしてなってしまったのか

『最悪』と言う気持ちで鳥肌すらたっていたものの
心のどこかで受け入れてしまっていると言うか、
なんとも認めがたい感情が渦巻いているのが何とも気持ちが悪かった。

ただこんなことは世界のどこかで起きていて、あり得ない話でもない。
自分もその一部だと思えば…少年は少し気が楽になるような気がした

6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 16:46:15.42 ID:vD1cKIRAO
しかし、その『あり得ない話でもない話』が
『絶対あり得ない話』のプロローグであったことは
少年を含めた、その当事者自身も予測していなかった。




約、一名を除いて。




7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 16:47:03.09 ID:vD1cKIRAO
――宇宙戦艦。

それは文字通り宇宙を漂う戦艦。

少年少女共通の夢と言っても良い様な
言わば人類の希望の代名詞の的な存在として
過去、殆どのSF小説やアニメーションなどで描かれて来た。

しかし現実と言うものは、おしなべて想像よりも遥かにドライなものである。
時に本来の意味から逸脱して、あやふやな概念に化ける割には

はっきりと我々の目の前に、とかく痛いほど鋭く、まるでジャックナイフのようなものを平気な顔をしながら突きつけてくる。

そして更には当たり前の事の様に腹の中まで抉り、掻き回していってしまう。


しかも顔色一つ変えず、時には「正義」の面を被ってやって来るのだから、そこらの殺人鬼よりたちが悪い。

と、前置きが少々長くなってしまったが、
宇宙戦艦は星々を巡る冒険の為でも世界を救う為でも
はたまた純粋無垢な少年少女の夢を叶える為に造られたものではなく

長らく続いた3度目の世界大戦の後、複雑化する国同士の関係性の為に
いわば他国に睨みを効かせる目的で造られた、新しい戦争の為のカードに過ぎなかった。

8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 16:48:10.47 ID:vD1cKIRAO
しかし、それは宇宙での領宙権争いの火種にもなり、
自らの力を誇示したいがために国々は競うようにして兵器を開発、改良していった。

それも結局「一部を除いて」ではあるものの、決着が着いた様子で
宇宙空間、はたまた小惑星の開発も急激なまでに進んでいった。

戦艦自体も、つい昔までは、ドンパチとまではいかないが
それなりに『色々』あったようで、厳重な警戒体制が敷かれ、指揮官を始め、
パイロットや整備員に至るまでクルーも選りすぐられたエリート揃い。
日本国の防衛の上でも、また今後の宇宙開発を考える上でも
重要な役割を果たしていた『大気圏外特別航空警備隊』

『龍も届かぬキャリアの登龍門』と呼ばれていた程であった。

その、かつて栄光の部隊であった『特航隊』とその所属戦艦『霞』



――今現在は『島流しの果て』あるいは『ならず者の流刑地』と呼ばれている


9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 16:48:52.16 ID:vD1cKIRAO

序章
『PICKUP!』



第7防衛軍士官大学。


その広大な敷地の中で一際異様な空気を漂わせている建物が屋内運動場。
させなくてもいい全天候対応で、状況に応じて様々なフィールドを展開することができる最新鋭の設備である。
そして体育教官は二人揃って鷲や狼なんて、実存する生物に例えるなど生温い様な人間で、
毎回の様に倒れる生徒が出ること、また鬼教官が倒れた生徒にもなお、ムチを打ち再度走らせることから
生徒の間では『ヴァルハラ』と皮肉たっぷりに呼ばれている。
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 16:49:59.93 ID:vD1cKIRAO
そんなある意味曰く付きの場所に、今年度卒業する予定のパイロットコースの学生達が集められていた。


この時期、大体の生徒は配属先も決まっており、本来ならば集められる理由などないのであるが。



――長机二つに、大量のパイプ椅子。そして空間に浮かぶ映像。


見掛けない顔の…やけにハデな、制服と言うよりコスチュームと言った方が適当な気もする姿の男とオーソドックスな士官用制服を着た20代半ばか後半くらいの女。
古さと新しさが混じりあうこの場所の隅で、男が一人、こっそりと電話を掛けていた

11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 16:51:28.06 ID:vD1cKIRAO
――同大学の男子寮。

いつぞやの時代のむさ苦しい部屋とは違い、今では全室個室、
テレビや漫画、ゲームなど大々のものの持ち込みは自由だったが
一応機密漏洩防止の為、パソコンやマイクロフォンなどの通信機器は『見つかり次第』没収されていた。

しかし、それでもかなり自由に生活することが出来、また武器や装備の向上、ラットの登場により
そんなに激しい訓練という訓練は、体育の時間以外には行われなくなっていて
いかにもな『軍の学校』と言う空気は、大戦後、特にこの10年の間にかなり薄れてきていた。

12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 16:51:56.77 ID:vD1cKIRAO
いかにもな『軍の学校』と言う空気は、大戦後、特にこの10年の間にかなり薄れてきていた。
それはこの学校だけでなく、軍全体にも言えることで
一昔前ならば厳し過ぎると敬遠されていたが、一定の能力さえ有れば飯が喰える、人気の職業になっている。
だがその一方で、『軍人』が『軍人』でなくなってしまっている、軍人としての自覚がなくなっている、など、資質を問う声も多い。

が、そんなこともお構い無しの少年、学籍番号1842553番


この先ニート


もとい神前新兎(こうさきにいと)は、部屋でふて寝していた。

13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 16:53:00.44 ID:vD1cKIRAO
実技の方こそ、それなりのスコアを残していたものの、机の上となるとさっぱりダメであり、
結果的に留年スレスレ、所謂ビリッケツで(と言っても、あまりにもペーパーテストが悪すぎて半分慈悲で)卒業を決めていた。

無論、そんな彼を心配する人間は幼なじみである級友Aしかおらず、教師もクラスメートも極力彼に関わることを避けていた。

そんな成績の彼を受け入れる場所など到底なく、結局叔父の経営する魚屋を、全く興味はないものの継ぐことに決めていた。

14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 16:53:48.69 ID:vD1cKIRAO

今日も今日とて無気力な彼の枕元がブルブルと震える。



新兎「……もしもし」

寝ぼけた眼を擦りながら、ひっくり返ったカエルの様な体勢で答えた。


級友A「『もしもし』じゃねえよ!このクソ野郎!!」

ひそひそ声かつ怒鳴り声と言う非常に矛盾した音声が新兎の耳をつんざく。

新兎「親愛なる幼なじみであり、貴重な留年仲間を朝から早々糞尿呼ばわりとは何事だクソ野郎」

新兎「で、何だよ」

級友A「何がだよ」

新兎「何なんだよ」

級友A「だから、何なんだよ!」

新兎「だから、何なんだよって聞いてるんだってばよ!」

級友A「だから、何が何なんだって!」

新兎「だから、その何が何なんだっていうのが何なんだって俺は聞いて……」

級友A「だから、何が何なんだっていうのが何なんだっていうのが何なんだって…」

級友A「って…お前」

15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 16:54:28.82 ID:vD1cKIRAO
電話先である級友Aは回りのクラスメートや教師の視線や動向を確認しつつ、「信じられない」と言った表情をしながら
持っていたガラスの板の様な携帯電話を左手から右手に持ち変えた。

級友A「もしかして、本気で知らないのか?」

新兎「ああ!」


級友A「何でそんな妙に偉そうなんだよ」
級友A「ああ、なるほどな。誰もお前に朝っぱらから集会があったのを教えなかったって訳か。流石は…」

新兎「……んなことはいいから続けろよ。何だってこの時期に集会なんぞやるんだよ」

級友A「選ばれるんだよ」



新兎「…選ばれる?」




16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 16:55:11.37 ID:vD1cKIRAO

級友A「“戦艦支部”って、知ってるだろ?」

新兎「戦艦支部ぅ?」

級友A「お前さ、そりゃあ常識だろうよ…」

新兎「…いいんだよ。どうせ俺は軍には入らないんだしな!世間一般においては役に立つもんか」

級友A「まあいいや…お前、実技以外は熟睡してたもんな。手短に説明する。」

級友A「我が国が保有する中型…と主張しているが、世界的には小型の宇宙戦艦、カスミ。そこの人達が出張って来てるらしい。」



そう言う級友Aの視線の先にいる例の男性士官は、生徒の様子などお構いなしに、何やら楽しげにニヤついている。
隣の女性士官にしきりに話掛けていた様子だったが睨み付けられた挙句、何やら説教されている。


新兎「……何のために」

級友A「スカウトさ。」

新兎「スカウトォ?」

級友A「部隊を大幅に再編成するんだと。で、それに伴い新型機のパイロットを募集、だってさ」

級友A「んま、再編成とは名ばかりの、実質的な部隊縮小なんだろうが」

新兎「じゃあもしかして……」

17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 16:56:05.20 ID:vD1cKIRAO
級友A「その『もしかして』、なんだよ。俺達の中から新型機のパイロットを選ぼうって算段らしい」

新兎「新型機って?」

級友A「陸戦用の4足歩行の第一世代機『rat』、宙専用の準2足歩行の第二世代機『which』に続いて12年振りに開発された第3世代型機動兵器で、噂によりゃあ初の正式な2足歩行タイプ、陸宙両用機動兵器らしいぞ」

新兎「ロボットに二足歩行をさせるって、確かにすげー難しいんだよな。んなもんワザワザ歩かせてメリットなんて大して………」

級友A「わかってないなぁお前は」



級友A「『ロマン』だよ『ロ・マ・ン』」

新兎「……」

18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 16:56:40.22 ID:vD1cKIRAO
級友A「とにかくだ。その二足歩行型戦闘機の実戦配備を実現させたのが空気のように軽いが、砲撃にも耐える特殊な合金と人工筋肉。それから…」

級友A「『シャダイシステム』っつう、とんでもなく画期的なシステムのおかげらしい。」

新兎「はあ」

級友A「簡単に言えば、タキオンとグラビトン、それから新しく発見された粒子の制御をだな…」

新兎「ヤケに詳しいじゃねえか。それも常識の範疇か?」

級友A「…俺は、無理やり親にパイロットコースに入れられたんだが、本当はそっち方面に興味があるんだよ。」

ガラにもなく照れくさそうに、級友は答えた。

19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/06/07(火) 16:57:15.43 ID:vD1cKIRAO
新兎「んで、クルンテープマハーナコーンボーウォーンラッタナコーシンマヒンタラーユッタヤーマハーディロックポップノッパラットラーチャターニーブリーロムウドムラーチャニウェートマハーサターンアモーンピマーンアワターンサティットサが首都の国システムがどうかしたのかよ」

級友A「それはタイ!俺が言ってるのはシ・ャ・ダ・イ!今は亡き天才女科学者から取ったんだよバカ!!」

新兎「正直ちょっとすごいと思ったろ?」

級友A「…死ね」

20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 16:57:55.02 ID:vD1cKIRAO
級友A「とにかくだ。ロボットを歩かせるだけでも一苦労なのに、その上実践でも配備できる程の機動性ってなると、かなりのパワーや技術が必要になるんだよ。」

級友A「その上製造・整備などに費やすコストも物凄い。その金で戦車やミサイルでも買った方がいい。」

級友A「しかし、その問題点を根っから解決し、実戦配備を実現化させたのがシャダイシステムな訳よ。わかる?」

新兎「そうなのか」

級友A「ウィッチにも一部採用されていたが、あくまで宇宙空間での戦闘をメインに作られていたからな。陸においちゃ置物同然だ。」


級友A「しかし今度の新型機は違う!宇宙空間はもちろん、陸でもバリバリ活躍できる!」

新兎「……へえ」

級友A「まあ、それ以上の事は俺も知らないがとにかく革新的なんだよ!」

級友A「だが、いくら二足歩行ロボットの問題点を解決できるシステムったってまだまだ金がかかる。」

級友A「新型機1台でウィッチが10台配備出来るんだぜ」

新兎「ふ…ふうん……」

21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 16:58:26.03 ID:vD1cKIRAO
級友A「ラットなら30台!とても個人じゃあ買えないよなぁ…」

個人で買うつもりなのか、と新兎は思わず友人の機械オタクっぷりに呆れてしまったが、しかし、同時に羨ましくもあった。

確かに新兎も機動兵器に乗ることは楽しく、それなりのスコアを出せたからこそ、何とか卒業までたどり着けたのだが、彼ほどの情熱はなかった。

新兎「だからお前は、新型機に乗りたいあまりに震えていたのか」




級友A「…いや。その逆だよ」





先ほどまで生き生きと戦闘機について饒舌に語っていた級友の声が震えていた。

22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 16:59:02.90 ID:vD1cKIRAO
新兎「いや、だってお前さっき……」

級友A「そ、そりゃ俺だってさ。関わりたいぞ?でもさ…配備されるのが」

級友A「“あの”戦艦基地、だぞ?」

新兎「“あのって…?」

級友「お前は卒業したら叔父さんの店を継ぐもんだから、知らないんだろうがな」

先述の通り、新兎は卒業後、母方の叔父の魚屋を継ぐことになっていた。
母親が亡くなってからというもの、父親とは折りがあわず
中学を卒業してからずっと叔父に世話になっていた。
ちなみに、士官大へは幹部である父親が半ば強制的に新兎を入学させたのであり


新兎自身は以前から子供のいない叔父の店で働く(寄生する)つもりであった。

23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 16:59:50.02 ID:vD1cKIRAO
級友A「勤務体制は超ブラック(真っ黒)だ。滅多に地上には帰れない。宇宙空間に軟禁状態。」

級友A「働いても働いても『ただ飯喰い』、『のらくれもの』と罵られ、終いには某国の戦艦から頻繁にケンカは売られ…」

級友A「兵器やシステムに金かけてるせいか、その他の設備は最悪らしい。」

級友A「しかもだ。噂によればクルーはかなりトチ狂ってるらしい」

新兎「ろ、牢獄じゃねーか…」

級友A「そう。だから戦艦カスミは『島流しの果て』『竜も届かぬ登竜門』なんて呼ばれてるワケよ。」


級友A「んで、みんな戦艦送りになりたくないもんだから中々志望者が集まらない。」

級友A「それに、いくらなんでも新型機にいきなり乗れる様なパイロットなんて手放さないぞ。いまの状況じゃあな」

新兎「陸が荒れに荒れてるもんなあ。幸いうちの国は被ってないけどな」

級友A「で、回り回されうちの学校に来たと。校長、あの二人に多分すんごい弱味を握られてるんだぜ。きっと」

24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:02:53.03 ID:vD1cKIRAO
相変わらず長机の向こうの男性士官は相変わらず胡散臭い笑顔を浮かべている。

級友A「これから適性検査だってよ。逃げられないように見張りまでついていやがる」

新兎「へえ」

級友A「……人事だなお前」

新兎「人事だろ。俺は今、寮にいるんだしぃ?」

新兎「検査を受けなきゃ適性もわかりゃしない。ってことはさ、選ばれもしないってワケだろ。」

級友A「お前ってヤツは……」

新兎「いやあー!ラッキーだったなあ!!がんばってねー」


級友A「……いいのか」

新兎「いいだろう。そんなヘンテコな場所に行かされるリスクは、なるたけ0に近い方が良かろうに」

級友A「お前のパイロットとしての腕は寧ろ、良い方だったじゃねぇか。」

新兎「そんなのたかが知れてるだろ。それに学校なんて昔と違って何ヵ所もある。うちの学校は一番緩いしな。」

級友A「そうは言っても俺は勿体無いと思う。留年したとは言え、ある意味実技だけで卒業した様なヤツなんてそうそう居ない。」


新兎「軍人向きじゃないんだよ。生活態度に大いに問題アリってな。こう言っちゃなんだが、親父の七光りで放校処分にならなかっただけさ」

25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:04:53.93 ID:vD1cKIRAO
級友A「無趣味で無関心で無気力なお前があんなに無心で…とにもかくにも楽しそうだったのに、か?」

新兎「それこそ乗りたくて乗りたくて震えが止まらない様にでもなったら、お前じゃないが金でも貯めて買うか、乗れそうな場所で働くさ。」

新兎「もう10年近く、ろくに関わってないネグレクトも甚だしい親父に振り回されるのはごめんだしな。どこに行っても親父親父親父。バカの一つ覚えか、ってーの」

級友A「そりゃあ新兎君よ、軍に関わってる内は仕方ないことだろうに…。」


新兎「ふん。だが、親父ともこれで縁が切れたも同然だ。セ・イ・セ・イしたぜ!」

新兎「魚屋を継いでかわいい女の子が俺の店にはじめてのお使いにくる。どうだ、幸せそうだろう〜?」

級友A「実習の時間以外はほとんど授業にも出ず、ひきこもり二軍だったお前に、接客なんか出来るのかよ」

新兎「居るか居ないか存在感のない親父の決めたルートに乗るなんてしゃくだったし、第一『国を守る』なんて大それた使命は荷が重いし面倒だ。なら、店でも継いで、のうのうと魚でも売っていた方が数万倍いいに決まってる。」





級友A「俺はな――」




新兎「あ、クッキン美少女ナインちゃん再放送の時間だ!じゃあ俺はピザでも頼んで待ってるからな!せいぜい頑張ってねー」

級友A「ちょっ!!」

新兎「分かってるってー。お前の好きなドミラノピザ特製スペシャルシーフードミックスコンビネーションDXトッピング全部のせ旨トマソースマシマシ、チーズは二倍生地は耳までチーズのサイズLLにコキャコーラ二本だろォ〜?任せとけってぇー」

級友A「ピザの種類なんぞ、どうだっていい!」

新兎「録画ならちゃんとしてあるから心配すんなってぇ!じゃあ頑張れよっ!!」

級友A「ちょ!待てこのニート予備軍g……」


当然待つ訳もなく、プープーという虚しい音だけが残った。




級友A「……切りやがったなクっっっっっっっっっソニート!」


26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:05:46.35 ID:vD1cKIRAO
――――――

新兎(……相変わらず話の長いヤツだ)

級友との電話を終えた新兎は、相変わらずというか何と言うか妙に心につっかかるものがあるものの、かすかな優越感を感じながら
早速鼻の下を伸ばし、透明で、まるでガラスの板のような極めて薄い携帯電話をリズミカルにプッシュする。

ドミラノピザは、ほぼ下着姿のセクシーなお姉さんが、部屋までお届けしてくれることで主に男性に評判の店だった。

味はともかくとして、若くてかわいいお姉さんが部屋まで来てくれると言うことに、そのピザ屋の意義が存在するのであり
他店の二倍近い料金も女に飢えている彼らに取っては安いもので、寧ろピザがサービスで付いてきてお得!な様な気さえして来る訳である。

新兎「セット完了……」

新兎は玄関の右横の隙間に、小型のごく小さなカメラを置いた。


新兎「何度も念入りにシュミレーションも予行演習もしたんだ……この位置なら確実に」







新兎「見えるッ!!!!!!」





27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:06:13.95 ID:vD1cKIRAO
――――――



――再び“ヴァルハラ”こと屋内運動場。


普段なら、アクビの一つもすれば教官にみつかり、ゲンコツの一つも喰らうのだが
今日は級友Aと新兎の通話に誰も気がつかないほどに騒がしい。

教官「静かに。それでは戦艦『カスミ』艦長霧島大佐、同戦艦副艦長秋津洲(アキツシマ)中佐からご挨拶を。」

黒髪でセミロングヘアの真面目をそのまま擬人化させたかのような女性士官はピシッ、と言う擬音が目に見えるような凛々しく正に模範的な敬礼をする。

一方、となりの…年齢不詳の男性士官は、一旦何事だというのか、寝ている。

隣の女性士官は男の態度に小さくため息をつく。
相変わらず妙な空気が漂うなか、女性士官は気を取り直しつつ、生徒達に向かって話し始めた。

28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:06:52.16 ID:vD1cKIRAO
秋津洲「…今日はわざわざ集まってくれてありがとう」

彼女が話し出すと会場が再び小さくざわついた。

生徒A「…おい!見ろよ、メチャクチャ美人だぞ!!」

生徒B「ほ、本当に軍人か!?雇われて来た広告塔のアイドルか何かじゃないのか?」

生徒C「おいおい、あーんな老けたアイドルがいるかよ!お前らもしや、ババアがタイプなのかー?」

生徒E「いくら久々の女だから冷静になれよ!ババアだぞババア!!目ぇ、腐ってんじゃないのか!?」

秋津洲「腐っ……」


29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:07:18.89 ID:vD1cKIRAO
生徒A「お前えええっ!この状況で良くそんな余裕こいた事言えるなぁ!!!!」

生徒D「うちの女共なんて相撲取りかプロレスラーみたいなのばっかりだ!!」

生徒C「ババアだなんだと贅沢を言ってられる余裕など、我々にはないのだ!ナインちゃんは我々の前には決して現れない!規定事項と言っても過言ではなかろう。いいか、現実逃避するな、現実と向き合え!!」

生徒E「ふん。お前らのナインちゃんの気持ちはそんなものか!ババアで妥協ってかぁ!!」

秋津洲「……静粛に!」



霧島「………」ニヤニヤ
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:07:47.21 ID:vD1cKIRAO
秋津洲「とにかく、諸君らのほとんどには…検討がついているかと思われるが、今年度から我が戦艦、カスミに配備される第3世代機、ファルコートの適性について検査したい」

秋津洲「適性が認められた場合、本人へ直接その場で通告する。ただし適性者が複数名存在した場合、成績や生活、授業態度などを考慮した上、数日後に直接本人に通知する。こちらからは以上。質問は?」

一同「………」

質問は?と聞かれても
最早この場にいる誰もが、この現実を受け入れられずにいるのだ。

やっと配属先が決まって一安心したかと思えば
土壇場になって島流しの果て行きの切符がチラつく。
せいぜい飛び級を考慮しても18、上でも24くらいの若い身空で島流しである。
単純にその新型機とやらには乗ってみたい。
が、人生はそう単純なものではなく、自らを犠牲にしてまでも、なんて言うのは全力でご遠慮させて頂きたい。

そんな状況の中で質問なんて言う発展的で
ましてや「やる気」をアピールするような
自殺未遂のような行動など誰も取るはずもなく
ただただヴァルハラは沈黙に包まれていた。

31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:08:18.99 ID:vD1cKIRAO

秋津洲「では霧島艦長からもお話を」

霧島「……」

秋津洲「…艦長」

霧島「……」

秋津洲「……艦長っ!!」

女性士官、秋津洲は霧島の足を、め一杯の力を込めて踏んだ。


霧島「ぬええっ!?」

ヒゲを蓄えた大のオッサンが情けない叫び声と言うか、カエルの断末魔のような声をあげる。

秋津洲だけでなく、生徒、教師からも冷たい視線が注がれていた。



32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:10:17.00 ID:vD1cKIRAO
秋津洲「起きましたか」


霧島「いや、あの、違いますよ?寝てないですよ?聞いてましたよ?」



必死に言い訳をする姿が滑稽である。




秋津洲「では、お聞きしますが私はどのような話を?」

霧島「秋津洲中佐は20代なのに老けて見えるって話です!」




美人な女性士官を上司とするならば、むしろ大歓迎なのであるが、この男が上司と言うのは些か、いや、かなり不安だ。



33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:23:07.15 ID:vD1cKIRAO
秋津洲「もういいです」

霧島「あっ、もしやナインちゃんとミリカ様どっちが可愛いかって話ですかー?勿論私は当初からミリカ様派で、彼女がライバル事務所の策略に陥れられ広告会社社長に枕営業を迫られた回では……」

秋津洲「それでは学籍番号下500番から510番、こちらに並び入室するように。」

霧島「あ、みんなーがんばってくださいねー!!!!!!」

秋津洲「………」





前列の11人が膝から崩れ落ちそうになりながら



ラグナロク…終末への入口へ向かっていった。
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:24:13.24 ID:vD1cKIRAO

霧島「いやあ、初々しさと若々しさが溢れんばかりです。いいね!!」

秋津洲「…ヤケに嬉しそうですけど、タイプの女のコでもいらっしゃったんですか?」

霧島「まっさかぁそりゃ犯罪です!」

秋津洲「……どうですかね。くれぐれも学校の女のコ、口説いたりしないで下さいね」

霧島「もー信用な・い・ん・だ・か・らっ。私だっていくらなんでも時と場合と相手くらいは…」

秋津洲「嘘です。目つきがいやらしいのが何よりの証拠です」

事実、霧島は数少ない女子からは「あのオジサンチョーヤバい」と変質者呼ばわりされていた。
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:24:45.31 ID:vD1cKIRAO
霧島「…時に秋津洲中佐」

霧島「いや」

霧島「ふぶきちゃん!ふぶきちゃん!」

秋津洲「その呼び方はいい加減やめてくださいって、何度も言ってるじゃありませんか」

霧島「じゃあ、ふぶきたん!」

秋津洲「………」



再び霧島の足の甲にハイヒールの先が突き刺さったことは言うまでもなかった。


36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:25:34.96 ID:vD1cKIRAO
霧島「……ふぶき君」

秋津洲「何でしょうか艦長」

霧島「後はよろしくお願いします」

秋津洲「……へっ?」

霧島「僕はここからいなくなるので、よろしくね!と言っています。じゃあ……」

秋津洲「ま…待ってください艦長!大切な適性者を見つける検査なんですよ?当然責任者である艦長が立ち会うのが筋と言うものではありませんか」

霧島「大丈夫大丈夫。これ、形式だけだから(笑)」

秋津洲「…は?」

37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:26:23.44 ID:vD1cKIRAO
霧島「実はね…目当ての子は最初っから決まってるんですよ…こ・の・子」



霧島は一枚の紙を秋津洲に手渡した。



秋津洲「……神前新兎、21歳階級は現段階ではなし。成績不良の為に4月からの所属先もなく、親戚の店を手伝う様ですけれど」

霧島「どうせ最初っから軍に残らないつもりなんですからぁ、彼が選出されても誰も文句を出さないし、出せないじゃありませんか」

秋津洲「……では何故血税を使ってまでこんな茶番を?」

霧島「体裁半分、アリナさんを地上に上陸させたかった半分」

38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:27:47.36 ID:vD1cKIRAO
秋津洲「……確かにこう言う理由でも無ければ彼女の地球への上陸許可は中々出ませんからね」

霧島「あれ。珍しく納得してくれたんですか?やだぁーもう相変わらずアリナさんには甘いんですからぁー、もうっ」

秋津洲「お互い様だと思います」

霧島「ま、そんな訳で後はよろしくお願いし・ま・す。どろん!」

秋津洲「ちょっと待ってください、そんな事仰られても私何も……」

秋津洲が逃げ行く霧島の服の裾を掴もうとするが
椅子から立ち上がる事に失敗し、椅子の脚に足を引っかける。


……必然的に彼女は椅子ごと転倒した。





と同時に周囲がざわめいた。


39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:28:31.76 ID:vD1cKIRAO
秋津洲「……確かにこう言う理由でも無ければ彼女の地球への上陸許可は中々出ませんからね」

霧島「あれ。珍しく納得してくれたんですか?やだぁーもう相変わらずアリナさんには甘いんですからぁー、もうっ」

秋津洲「お互い様だと思います」

霧島「ま、そんな訳で後はよろしくお願いし・ま・す。どろん!」

秋津洲「ちょっと待ってください、そんな事仰られても私何も……」

秋津洲が逃げ行く霧島の服の裾を掴もうとするが
椅子から立ち上がる事に失敗し、椅子の脚に足を引っかける。


……必然的に彼女は椅子ごと転倒した。





と同時に周囲がざわめいた。


40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:29:10.07 ID:vD1cKIRAO
度々二重投稿すいません
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:29:38.43 ID:vD1cKIRAO

生徒A「……ピンクだ」


霧島「あっ」

生徒B「ああまごうことなきピンクだ」

生徒C「ありがたや…ありがたや……」

鎌倉時代あたりの信心深い仏教信者の如く、深々と生徒が拝み出した。
中には涙を流すものすら居た。

秋津洲「ちょ、ちょっとっ……」

何とか体勢を整えようとするも、完全に変な状態でひっくり返ってしまったため中々上手くいかない。
…スカートを押さえようにも完全に捲れ上がってしまっていた。




秋津洲「か、かんちょ…まってぇ………」


42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:30:08.16 ID:vD1cKIRAO
霧島「ありがたやぁーありがたやぁー」

腰を屈め、拝みながら霧島は後ずさって行ってしまった。

秋津洲「ちょ、ちょっと艦長っ……」






――秋津洲は空に手を伸ばし、もがくものの状況は変わらない。







秋津洲「……バカッ」


43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:31:06.56 ID:vD1cKIRAO
―――――


新兎の部屋。

長い間掃除がなされていないのかスナック菓子や得たいの知れない何かの袋が散らばり、ピンク色の雑誌が積まれ、とにかく足の踏み場がない。

そして、部屋の主は布団に横たわりながら国営教育放送を無表情で見ている
状況的には喜ぶべき喜ぶべき局面なのかも知れないが、どうにも彼自身腑に落ちないというか、以前から何となく引っかかる『何か』が邪魔をして
画面の美少女の絶妙に音程の外れた、ただそれが何とも言えない魅力を産み出している幼児向け歌謡曲が右から左へ流されてしまっていた。

44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:31:45.76 ID:vD1cKIRAO
思えば進級して以来、こんな堕落的な生活を送っていたのである。

ああ、もしナインちゃんの様に天使のような容姿の天使が何らかの覚えなき罪、所謂冤罪で、この薄汚れた地上に落とされてしまったとしよう。
もちろんナインちゃん自身も薄汚れてしまう。最悪の場合、障子で穴をあける程度の使い道しかないスカイツリーなんかがナインちゃんに建設されてしまうやも知れない
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:33:01.82 ID:vD1cKIRAO
――そればかりか男となったナインちゃんは醜く衰え、時代の波に流されて
無気力、無関心、無表情なだらしのない引きこもり寸前人間に成り下がってしまうかもしれない
次いでに罰として天使だったころの記憶も失い、かわりに薄暗い鼠色か黄土色の青春を植え付けられてしまうかもしれない。








勿論、以上の記述は新兎のよろしい妄想である、と言うことを客観的に付け加えて置くが


46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:33:57.66 ID:vD1cKIRAO

新兎(………ということはだ)

新兎(俺はナインちゃんのような美少女天使であった可能性は大いにあり得ないこともない訳だ)

新兎(そうか、俺はナインちゃんだ!ナインちゃんは俺だったんだ!)

新兎「ぐへ……」

新兎「ぐへへへへへへへへへへ!!!!!!!!!!!!」


妙ちくりんな男の声が、部屋ばかりか廊下中に響き渡ったことは言うまでもなかろう。

47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:34:27.17 ID:vD1cKIRAO
人は現実を認められない場合、大きく二つにわかれる。





逃げるか、壊すか






ただし、あくまで『大きく』二つに別れるだけであって
抜け道と呼べるかは分からないが『第三の選択肢』が存在することも言うまでもない。







そして彼には迫っていた。

1つ目でも2つ目でもない

場合によっては3つ目でも4つ目でもない





―――最悪の多分、109つ目くらいの『選択肢』が


48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:35:09.42 ID:vD1cKIRAO
――――――

丁度番組が終わりを迎えた頃に、「ピーンポーン」と言う間抜けで、か弱い音が来客を間接的かつ直接的に知らせる。
が、次番組が音楽番組でありクラシックが大音量で流れていたものだから
新兎はそれに気がつく事は出来なかった。
その後もストーカーのごとくチャイムが連打される。高橋名人もビックリなスピードで。

すると何となくではあるものの新兎は来客に気がついた。

テレビの音量が下げられる






新兎「………来たか」




新兎の目付きはサバンナの野獣のごとしだった
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:35:56.59 ID:vD1cKIRAO
彼が玄関に向かい、始めに開門のスイッチを押す…訳もなくカメラの最終チェックを行っていた。

相手もだんだんしびれを切らしていたのかチャイムの連打から扉の連打に行為をシフトさせていった。



新兎(随分乱暴なねーちゃんだなぁ…)



とは思ったものの、そう言う女性は嫌いではなく、むしろそんな女のパンツをデータという枠に納め、自らが独占出来ると思うと新兎は胸が弾むような感じを覚えた。変態である。



――ワクワクとドキドキとムラムラとハアハアを押さえスイッチを押す




彼の希望では是非ともボンテージを着用していて欲しいものだが、それはピザ会社が許さないだろう

新兎(逆らえないものに逆らっても仕方ない。ミニタイトでも十分じゃあないか)


もしかしたらこの瞬間がある意味、これからの数年の中で彼の絶頂だったのかも知れない。

膨らませる胸もないくせに期待に胸膨らませ、輝かしい未来に向かって彼は駆け出す。

その間にも鳴りやまぬチャイム

満面の笑みで彼はドアを開くスイッチをポチリと押した




50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:36:29.01 ID:vD1cKIRAO



「おっ邪魔しまーす!」



――おかしい



「ピザバットでーす!あ、いや、こりゃドミラノピザですか」


――おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい


確かにピザは来た


シーフード以下略の良い薫りが、嫌がらせのごとく辺りに充満する

新兎「あ……あの」


51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:37:04.95 ID:vD1cKIRAO
「あ、今時の子ってさ、何を手土産にしたら良いのか分からなくてねー、おじさん困っちゃってねー、」

「そしたら何と!!!!!!!!丁度ピザ屋さんが通りがかるじゃありませんか!!!!」



新兎「……そりゃ注文しましたから」



「だからねー、これつまらないものですけどっ」




満面の笑みでLLサイズのピザが手渡された。まだ温かいのが憎らしい。







……そして、カメラが映し出していたものは、輝かしい未来つまりパンティではなく、オッサンのケツのアップだった







新兎(………わけがわからないよ)


52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:37:54.43 ID:vD1cKIRAO



霧島「それじゃー霧島大佐、いっきまーす!」


にこやかに敬礼しながら、そのふざけた男は室内への侵入を試みる。




新兎は火急的速やかにドアの封鎖を試みた!




――が、既に時遅し。






『臭い』立つような足が挟みこまれていた




53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:38:26.91 ID:vD1cKIRAO
――――――――


新兎(どうして、どうしてこうなった)

テンプレート通りの表現だが仕方あるまい。
それ以外の表現を思い浮かべる程の気力すら彼には残されては居なかったのだから。

霧島「え?何暗いよ?よぉーし。おじさんが歌でも歌って励ましてあげなきゃな!!」

新兎(俺はもぎたてフレッシュなお姉ちゃんを望んでいただけなのに)

霧島「♪こぉぬかーあめふるぅーみどぉすじぃー」

新兎(なんで、なんで干からびた干し柿みたいなおじちゃんが目の前にいるんだよ………)

霧島「♪あっなたぁー!あなたはどこよぉー!あなたはどこよぉーとみなみへーあるくうううううううううううう」

新兎は苦悶の表情を隠しきれなかった

隠すつもりなど毛頭もなかったが。

54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:38:56.97 ID:vD1cKIRAO
霧島「不祥霧島、熱唱させて頂きました。ありがとう、ありがとう」

新兎「………」

霧島「それよりごめんなさいね、もうちょっと早く来れたんですけどね、ちょっと揉めちゃって…」

霧島「あ、そう言えばね、さっきローラースケート履いた、セクシーなピザ屋さんにバッタリ会っちゃってね!」

新兎「あ……あの……」

霧島「もうホーントタイミングが良かったぁ!!あの制服、ほしかったんですよねー」






と、目の前のオッサン、霧島は紙袋からドミラノピザの制服を取り出した。





新兎「なあ!!!!!!!!!???????????」

55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:39:23.82 ID:vD1cKIRAO
新兎「ま、まさか……」


霧島「いやだな、無理矢理剥ぎ取ってなんかいないですよ。ただ万札5枚と部下の着替えと『交換』しても・ら・っ・た・だ・け」

新兎「……そ、そうなんすか」

霧島「そうなんです」

何とも言い難いが、とんでもなくヤバい人間とかかわり合いになってしまったと新兎は血の気の引くような思いをしていた。

何が嬉しくて彼は危険人物と二人きりで吐き気を堪えながら口に大量のピザを押し込んでいるのだろうか?


56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:39:53.00 ID:vD1cKIRAO
――オッサンは終始ニタニタしていた。

別に知りたくもなかったが、オッサンのフルネームが『霧島真之』だと言うこと。

『霧島』は戦艦の名前だとか『真之』の由来が第二次世界大戦中の名参謀で、オッサンは「ちょっぴりプレッシャーとか感じちゃってるんです。やだ、感じちゃってるのはプレッシャーだけだよぉ///」とかなんとか、照れながら話していた。


ぶっちゃけ新兎はどうだって良かった。



オッサンの名前が霧島だろうとジョニーデップであろうと阿部寛であろうとトムクルーズであろうと変態には何一つ代わりがなかった。

57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:40:25.50 ID:vD1cKIRAO
――オッサンは終始ニタニタしていた。

別に知りたくもなかったが、オッサンのフルネームが『霧島真之』だと言うこと。

『霧島』は戦艦の名前だとか『真之』の由来が第二次世界大戦中の名参謀で、オッサンは「ちょっぴりプレッシャーとか感じちゃってるんです。やだ、感じちゃってるのはプレッシャーだけだよぉ///」とかなんとか、照れながら話していた。


ぶっちゃけ新兎はどうだって良かった。



オッサンの名前が霧島だろうとジョニーデップであろうと阿部寛であろうとトムクルーズであろうと変態には何一つ代わりがなかった。

58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:41:46.22 ID:vD1cKIRAO
新兎「……霧島さん」

霧島「なんですか」

新兎「なんでここにいるんですか」

霧島「!!!!!!!!」

霧島は目を見開き、後ずさった。
黒い口髭をヒクヒクさせている

霧島「き…君は………今なんと」

新兎「ですから、何だってここにいるんですか!カスミの艦長が!!!」

霧島「驚いたな………」

新兎「……へ?」

霧島「至極まともな質問だよ……ビックリした」

新兎「…………」

霧島「いやね?こっちの資料によると生活態度とか、社会適応力がてんでアレだから……まあ………」



新兎「……あなたより数倍俺の方がマシな気はしますけど」

59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:42:22.78 ID:vD1cKIRAO
霧島「うわああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」

新兎「なっ……何なんですか」

霧島「君、今私にツッコンでくれたよね?よね?」

新兎「………」

霧島「いや……なんか嬉しいなって。いつもさ、みんなにスルーされちゃってるからね、やだ……嬉しい……///」

霧島「ああ……君との心の距離が近付くのを感じるぞ!おじさんは感じるぞ!!!!!」

新兎「ええ………」


霧島の言葉と反比例するかのように、新兎は部屋の隅へと後ずさっていった。



60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:43:14.10 ID:vD1cKIRAO





―――その直後だった。







あり得ない程の爆音が新兎並びに霧島の耳をつんざいた。


61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:43:58.00 ID:vD1cKIRAO
何が起きたのか理解しがたい、いや理解したくもない
新兎にとっては急転直下もいいところだった。
頭のおかしなオッサンがいきなり訪ねてきたかと思えば、今度は爆音だ。

目を開くと、そこには




絶望が広がっていた。




62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:45:49.11 ID:vD1cKIRAO
破壊されたプラモデルにフィギュア、そしてポスター



首が折れているにも関わらずにこやかに微笑む美少女達。




そして、目の前には何故か服がボロボロのオッサン






新兎(………意味がわからない)


新兎(ああ………わけがわからないよ、か)



63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:46:27.80 ID:vD1cKIRAO
こう言う時、人は絶望的な光景が広がっているにも関わらず笑ってしまうのである。
不思議なものだ。

新兎「あは……あははははははははは………」

「うふふ〜」

腹を抱えて笑う新兎の横にもう一人、満面の笑みを浮かべている女がいた。

さっきの士官ではない、もう一人の女。

しかも美人だ。

荒々しい新兎の部屋の中で光輝くように笑う美女

新兎(……もしかしたらこんな中で教えでも説かれたら、どんな怪しい宗教でも入信してしまうのかもしれないなぁ)

64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:47:15.36 ID:vD1cKIRAO
女「失敗しちゃったわ〜。ホントは霧島くんだけを狙うはずだったんだけど〜」

女「でも君は無傷で良かった良かった〜。無駄な実験ではなかったみたい〜」

女の言葉に新兎は自らを確かめて見た。

たしかに目の前で延びているオッサンの服はボロボロ、戦場のような風景が広がっていたのだが、新兎には傷一つどころか
服に汚れ一つもついては居なかった。

女「これはね、より精密に目標のみを射撃するユニバーサル・シグザウアーのいわばバージョンアップ版の試作品ね。」

女「あ、ユニバーサルシグザウアー略してユニシグはファルコートの標準装備なんだけど……」


女には悪意が全く感じられなかった。勿論反省の色も

65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:48:01.34 ID:vD1cKIRAO
新兎「あの……」

女「なあ〜に?」

新兎「なんで……ここで」

女「勿論人がいないから。君と霧島くん以外は出払ってるでしょ?だから」

女「こう言う難しい条件の中で試してこその兵器よ。案の定、お隣の部屋には迷惑掛けてないもの〜」

新兎「いや…でも……」

霧島「あ……お花畑が見える………」

女「霧島くんたらぁ〜オーバーなんだから〜(笑)」

女はポンと霧島の肩を叩いた

霧島「ぬああああああ!?」

転げ回る霧島を尻目に女は自己紹介を始めた。

66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:48:28.40 ID:vD1cKIRAO
女「私、十六女榛名。『いろつきはるな』ね?榛名ってよんでね〜カスミで医者をしてるの。」

新兎「…医者が病人を作るんですか」

榛名「傍らで武器の開発もしててね、医者はまあそのおまけみたいなものかしら〜」

ニコニコと笑いながらとんでもないことを彼女は言い出した。

67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:48:54.11 ID:vD1cKIRAO
榛名「霧島くんなら大丈夫よ〜。ちょーっと手の骨が折れてるだけ。少し立てば治るわ〜。ねー?」

霧島「ね、ねーじゃないよ榛名ちゃん…………」

霧島以上にヤバい存在であることは間違いなかろう。

とりあえず彼女の逆鱗に触れぬようにやり過ごすことに新兎は専念することにした。

…と、早速破壊されたドアに留目をさすかのような音が響いた

最早恐怖というよりコントを見てるような感覚を新兎は覚えた
完全に色んなものが麻痺してきた。

68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:49:43.79 ID:vD1cKIRAO
と、ドスンドスンとかカツンカツンとか恐ろしい音が聞こえてきた


秋津洲「かんちょおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!」

さっきの士官である。
般若のような面構えが印象的だ


霧島「や…やあ」

折れていない方の腕で霧島は精一杯の対応を彼女にする。

69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:51:09.06 ID:vD1cKIRAO
秋津洲「……私のロッカーから、着替えがなくなってるんですけども」

霧島「あ…ああ、アレね?アレは……」

秋津洲「アレは?」

霧島「なんか……アレに変わりました」


霧島が息絶え絶えに向こうを指差す。

その先にはさっきの…ドミラノピザの制服がなんとか災難をしのいだようで、袋からむき出しになっていたものの
綺麗に畳まれ置かれていた

秋津洲「アレを、私に、着ろと」

霧島「ぷ……プレゼント。もうすぐ誕生日ですよね……」

秋津洲「………私の誕生日は半年も先です」

70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:53:06.54 ID:vD1cKIRAO
霧島「へへっ」

秋津洲「『へへっ』じゃないです!あんな破廉恥な格好であなたは宇宙まで帰れと?」

霧島「破廉恥なんてピザのお姉さんに失礼ですよ。いいですか、あれは列記とした会社の……」

新兎(……逆ギレかよ)

秋津洲「いい加減にしてください毎度毎度!部屋もこんなにしちゃって…本部から叱られるのは私なんですのよ!!」

霧島「こ、この部屋は榛名ちゃんが……」

秋津洲「関係ありませんわ!しかも途中で逃げ出すわ…ちょっと来て貰います!」

霧島「な、なんでですか!」


秋津洲「後・始・末です!しっかりやって貰いますからね」

霧島「腕が!腕がああああああああ!!」

榛名「大丈夫よ、折れてるのは逆だから」

霧島「えっ」

秋津洲「行きますわよ」

霧島「ちょ……まっ!!!」


霧島「ヤダ!ヤダ!行きたくない行きたくない!!!!!!!!!!」

秋津洲は無言で霧島を引きずった
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:53:41.08 ID:vD1cKIRAO
榛名「じゃあ、後は私にまかせてね霧島く〜ん」

秋津洲に引きずられて行く霧島を榛名はハンカチを降りながら見送った

新兎(……なんだこの人達は……社会不適合者の集まりなのか)

榛名「そうなのよ〜社会不適合者の集まりなのよ〜」

新兎「!」

新兎の心を榛名は読んでいた

榛名「えっと〜それでは本題ねっ?」

どこから取り出したのか、バカでかい機械がデン、と戦場ヶ原の中心に置かれた


とりあえず新兎はこの場から逃げ出したかった

72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:54:14.45 ID:vD1cKIRAO
榛名は微笑むと同時に、谷間を中央へ寄せた。
この中が多少蒸し暑いせいか、汗が果実に果汁の如く滴っていた。
そして谷間の横を彩るホクロと相まって妙に官能的で、
未だに思春期真っ只中の神前を大いにドギマギさせた。

先ほどの士官も彼女に負けずとも劣らず中々端正な顔立ちをしていたが
放つ色香はこちらの方が3倍上であり、当たらなければどうということもない!とか言ってられないレベルである。

十六女榛名……確かに名前からして官能的だ

73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:54:49.35 ID:vD1cKIRAO
そして女医。
最早新兎の興奮はピークに達していた。

榛名「あらあら…お熱でもあるのかしらぁ。顔が真っ赤よぉ?」

心配そうな榛名の顔が神前に近づいてくる。

新兎(ち…ちかい!ものすごくちかい!!)

どのくらい近いかと言うと、新兎がその気になれば榛名にキスを出来るような…

いや、逆に榛名にキスをされるんじゃないかと錯覚してしまうような距離である。


と、ふいに榛名の顔が離れていってしまった。


榛名「ふふっ。ごめんなさいね。からかいすぎちゃったわ」

新兎「かっ…から………?」

その時の新兎の情けない顔といったらなかった。

榛名「ごめんなさいね。これをクルーのみんなにやろうとすると、ふぶきちゃん……副艦長に怒られちゃうから」

そう言いながら、彼女が腕を広げると、いくつものカラフルな画面が空間に浮かびあがった。
その姿は妖艶であり…まるで魔女そのもののようだった

74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:55:47.25 ID:vD1cKIRAO
榛名「それじゃあシュミレーションスタート。」

機械群がウイイーンだのキュイーンだの、妙な機械音を立て始めた。

新兎(そうか、この感じ……何かに似てると思ったら……)

新兎(……歯医者だ)


新兎の目の前に漆黒の闇が広がった後に
……いつの間にか、コックピットが映し出されていた。


と、同時に地獄の渕に叩き落とされた気分だった。


榛名「スキッドシステム正常に作動。」
榛名「これより、適性検査を開始します」

75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:56:14.94 ID:vD1cKIRAO
―――――

再び廊下。

秋津洲はどうしたものかと頭を抱えながら霧島に説教をしていた。
霧島はニヤニヤしながら食事の誘いをする始末。馬耳東風とはまさにこのことだ。

秋津洲「……あのコ、ホントに適性あるんですか」

秋津洲「たしかに実技の成績はよろしいようですが」

霧島「ありますよ多分」

秋津洲「多分!多分って艦長………」

霧島「無くても連れていくつもり。予備機あったじゃない?アレを強化すれば……」

秋津洲「……やっぱりわかりません。なんでそこまで彼に艦長が執着するのか」


霧島「敷島、橘花、神前…最強の布陣じゃありませんか!」

秋津洲「……どこがですか」

76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:57:04.05 ID:vD1cKIRAO
霧島「いいですか、ふぶき君。格闘ゲームでもポケモンでもそうですけどね、強いだけじゃダメなんですぞ?」

霧島「世の中にはですな、レベル2で四天王制覇した連中すらおるのです。」

霧島「要は手持ちのポケモンの組み合わせ、相性、技の特性を生かせば……」

秋津洲「軍事とゲームを同等に語らないでください!」

霧島「やだこわーい」

秋津洲「……艦長は私たちをどうしたいんですか」

霧島「そりゃあ、活躍させたいですよ。バンバカバンバカと悪を倒し正義の味方に……」

秋津洲「…もういいです。とりあえず艦長がどうしても彼を欲しがってることは伝わりました」

霧島「やった!やった!」

秋津洲「………帰ります」

77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:57:53.91 ID:vD1cKIRAO
霧島「あれれ、食事は?しないんですかー」

秋津洲「吐き気がするので」

霧島「着替えはー?」

秋津洲「しません!このまま彼らを解散させて帰ります!!!!!いいですね?」

霧島「ところで、『スキッド』って面白い名前ですよね」

霧島「ちょっと捩ると小隊って意味にもなるじゃないですかぁ」

秋津洲「…言葉で遊べる余裕があるなら、もう少し、うちの体制についても上にも考えて貰いたいものです」

霧島「逆に言えば…それだけ導入したいってことじゃないんですか?」

秋津洲「…他国に技術力を見せ付けるために、ですか?」

霧島「そう。言わば僕達は警備隊改め、宣伝部隊ですよぉ。」

秋津洲「……宣伝になるんですかね」

霧島「さあ(笑)」

78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:58:20.27 ID:vD1cKIRAO
――――――

――再び新兎の部屋

榛名「ご苦労さま。以上で検査はおしまいね。」

榛名「吐き気や頭痛はなぁい?」

新兎「……若干、フラフラしますが」

榛名「このスコアでその程度なら、十分優秀だわ〜」

新兎(…妙な体験をしてしまった。)


「本当に自分の見たもの」ではないのに、そう錯覚させられてしまう。
目を瞑っているのに、物が見えてしまう。
状況も相まって、神前はなんだかそれが、とても気味の悪い技術に思えて仕方がなかった。

79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:59:08.66 ID:vD1cKIRAO
榛名「それじゃあここにサインを。契約書は紙じゃないとねぇ」

榛名「あ、それから勤務にあたっての注意事項や、心構え、それからこちらのファイルをダウンロードしてね。この「よりよい戦艦ライフのしおり」を熟読して…」


手のひらの画面から何やら抜き出し空中に並べて行く

新兎「……えっ?」

榛名「え?」

新兎「えっ、えっ?」

榛名「え?」

新兎「あの…えっ?」

榛名「どうしたの?具合でも?」

新兎「いや…あの…これ、えっ?」

80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 17:59:40.38 ID:vD1cKIRAO
榛名「勤務にあたっての注意事項や、心構え、それからこちらの『よりよい戦艦ライフのしおり』よ?」

榛名「あっ…そうか。君、NC(ナノコンピュータ)は埋め込んでないのよね。じゃあ…かさばるけど紙でもいいわよね」

新兎「そ、そうじゃなくて…あの……なんで、これ?」

榛名「何でって…もちろん……」

榛名「ああ、そうだったわね……大事なことを忘れてたわ」

新兎「そうですね。ちょっと状況が…」

榛名「渡しわすれたわ。はい、『ファルコートの説明書』。良く読んでね?」

新兎「……えっ」

榛名「えっ?」


81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 18:00:18.36 ID:vD1cKIRAO
状況を全く飲み込めない新兎に、その状況を更に飲み込めないのか、
それともわざとやっているのか、本当に分かっていないのか、よく分からない榛名との間に妙な空気が流れていた。




新兎「ですから…何でこんなもんを渡されてるのか…っていう……」

途中まで言いかけて、新兎は気がついてしまった。


そしてその重大さと、ヤバさにおもわず言葉を飲み込む。


榛名「ああ…なるほど」

悪あがきのつもりか、新兎は榛名の台詞を遮ろうとしたが、時、既に遅し。

新兎の耳は、その一言をはっきりと認識してしまった。


榛名「神前新兎くんは陸宙両用第3世代型二足歩行戦闘機、ファルコートへの適性『アリ』と判定されました〜。」





にいと の めのまえ は まっくらに なった



82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 18:01:35.90 ID:vD1cKIRAO
そこから新兎の記憶は途切れていた。

『滑り止めにすら滑り、かと言って浪人も許されず、結局進路も就職先も何も決まらないまま、卒業式を迎えた高校三年生』の様な顔をしていたことだけは覚えている。

『絶望』。この二文字が彼の脳内を支配した。
しかし…不思議なことに何故か逃げ出そうとする気すら起きなかった。


霧島「じゃあ。これから頼みます。それから……」

霧島「ドタキャンしたら死刑だからね!!!!!!」

霧島「……あ、ホントはしないけど元ネタわかる?」

と実に嫌味な、ねちっこい笑顔をしながら言っていたのも覚えている

どうにか冷静を保とうとゲームのスイッチを入れるが付かない。
何度も試すがやっぱりつかない。
良く見るとコンセントが刺さっていなかった。

新兎「……」


83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 18:02:06.78 ID:vD1cKIRAO
言葉が出てこない。



仕方がないので寝ようとすると、ふいに机の上に置かれた、腕時計が眼に入った。




新兎「…これってパテックフィリップか?」



再びニヤケた中年の面を思い浮かべてしまった。
…吐き気と頭痛に見舞われた新兎は、その腕時計から目をそらし、床についた。
そこから一週間、ぐるぐる色々な感情が頭のなかを掻き回し、背中の辺りがゾクゾクするのと頭痛と…



それを堪えるので一杯一杯で、ほとんどのことはもうただ真っ白だった。



84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 18:02:32.49 ID:vD1cKIRAO


気がつけば荷物をまとめ終わっていて

気がつけば叔父の家に電話をしていて

気がつけば戦艦用の制服にパイロットスーツが支給されていて

気がつけば級友達からメッセージが収録されたディスクと、千羽鶴を貰っていて




――そして



気がつけば工場まで予備機の引き取り手続きに向かっていた。


85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 18:03:08.99 ID:vD1cKIRAO
『豊川』と大きく書かれた看板。


ゴミ回収用のロボットと、見回りのセキュリティロボット
それから…四足歩行ロボットが何台も敷地を走り回っていた。
かなり儲かっているのか、施設はやけに豪華で
必要性をあまり感じない、やけに長いエスカレーターや歩く歩道がそこら中に点在している。
そしてやけに広い。おかげで大の男が良い歳こいて、迷子になってしまっていた。


86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 18:04:09.88 ID:vD1cKIRAO
受付嬢「いらっしゃいマセ」


……受付の女はやけに愛想が悪く、無表情だった。
神前が何を言っても「はい」の一点張りで
聞いているんだかいないんだかが、良くわからない。
その後、これまた無愛想に目の前にあった椅子に腰掛ける様言われた。


そして、待つこと5分強。
受付の女とはまるで真逆に、今度はやけにニタニタした面をした、つなぎ姿の男がやってきた。


87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 18:05:00.25 ID:vD1cKIRAO
整備士「神前准尉、かな?」


新兎「あ、そうです。どうもはじめまして」

整備士「いやぁ、良い男だねぇ。え?」
この男、初対面のクセにヤケに馴れ馴れしい。

新兎の腹筋を、ポンポンと執拗なまでに叩く。

整備士「ごめんね。受付の子、無愛想だったでしょ」

新兎「いや…まあ…」

整備士「あれさ、アンドロイドなのよ。外見やしゃべり方は人そのものなんだけどね。やっぱ生気を感じないんだよなぁ」

新兎「あ、あれ、アンドロイド…ですか?」

整備士「素直な反応だねぇ。会長が物好きでね、利益評判もろもろ度外視の看板娘だ」

整備士「ああ、それと霧島さんから話は聞いてるよ。しかし災難だなぁ…霧島さんに目をつけられるとは(笑)」

88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 18:05:44.03 ID:vD1cKIRAO



やっぱり災難なのか――


と、己の状況を新兎は再度認識し、深くため息をついた。


整備士「じゃ、ここにサインを。それから受け渡しの書類、霧島さんから貰ってるでしょ」

新兎「…これです」

整備士「んじゃ、後はこっちが連絡船のポートまで運んでおくから」

新兎「よろしくお願いします」

整備士「あっ…そうだ君」

新兎「……何か?」

整備士「機体、見ていかない?」

新兎「予備機…ですか?ウィッチなら何度か…」

整備士「そうじゃなくて、面白いことになってんのよ!」

新兎「……面白いこと?」
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 18:06:17.38 ID:vD1cKIRAO
――倉庫。


確かに、機動兵器のパイオニア的なメーカーらしく、
幾つもの機体が、ところせましと並んでいる。
どれもこれも、無機物的で量産的ではあるものの、不思議と一つ一つに個性を感じる。

妙に興奮を覚えるのは、やはりパイロットの血、とでも言えば良いのか。


…その中で、一際異彩を放っている機体があった。



90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 18:06:51.01 ID:vD1cKIRAO


新兎「なっ……」




新兎「なんじゃ……こりゃあ」







新兎の前には毒々しい赤色で塗りたくられた
かつ、飾りのつもりなのかは知らないが、白い水玉模様というより、白い斑点が小汚く散りばめられている
とても軍用機だとは…いや、軍用機『だった』とも思えないようなソレが
不気味なオーラを漂わせながら突っ立っていた。





新兎「……」


91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 18:07:51.14 ID:vD1cKIRAO
なんじゃこら、以上の感想を思い浮かべることも
寧ろ思い浮かべたくもなく、ただただ無言でそれを新兎は見上げるだけしかできなかった。

整備士「いやあ、わざわざうちまで機体を持ってくるから、どんな酷い故障かと思えば」

整備士のオッサンは左手で頭をポリポリ書きながら苦笑いをしている。

整備士「『カラーリングよろしくねー』だってさぁ。何考えてるんだろうねぇ…あの人は」



整備士の苦笑いにつられて新兎も苦笑いせざるを得なかった
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 18:08:58.87 ID:vD1cKIRAO
――――

機体の引き取り作業を終えた新兎は、その足でユニバーサル・ポートへ向かった。
ユニバーサル・ポートは宇宙の玄関口であり双月への民間の連絡船や貨物船が出航している。

色鮮やかな画面が目まぐるしく切り替わる。妙に派手な作りだ。



これも人類の宇宙への憧れが未だに根強い現れであろうか?


本来ならカスミから迎えがくるはずだったのであるが都合が悪いとか何とかで、一旦貨物船で双月へ向かって欲しいと言う非常に面倒な指示を出されていた。


新兎はハァ、と深いため息をついた。


93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 18:10:02.64 ID:vD1cKIRAO
新兎(…逃げようと思えば逃げ出せたのに)

新兎(いや、今だって逃げようと思えば逃げられる……)

新兎(うあああ!!)


逃げようと思うことは思うのだが、その度にあの不気味な笑顔が頭に過る。
その上、級友Aや親戚一同にもいつの間にか戦艦勤務のことが広まっていて、
引き返すに引き返せない状況に陥っていた。

新兎(…とりあえず、『とんでもない美少女』ってのを探さないとな)

新兎の希望は最早、霧島の言う、待ち合わせ相手の『とんでもない美少女』だけだった。



94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/06/07(火) 18:11:49.39 ID:vD1cKIRAO
しかし…辺りを見回してもスーツを着こんだオッサンや、それから子供くらいしか見当たらない。

それからやたら露出の多い服を来、機動ブーツを履いた女が走り回っているが、恐らく空港のスタッフであろう。
オッサンに子供…とんでもない美少女の『と』の字もありはしない。

新兎(……『とんでもない美少女』と言うと大体相場は決まってる)

新兎(『とんでもない性悪女』、もしくは『とんでもないメンヘラ』に決まってる!)

新兎(……可愛くて、優しくて、おっぱいも大きい女なんて物語の中だけなんだよ。)

新兎(ケッ……どうせ性悪女の事だ。俺の姿を見てケラケラ笑ってるに違いないんだよ…死ね)
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/06/07(火) 18:12:42.63 ID:vD1cKIRAO
無意識なのか、ブツブツ呟く彼の姿は正に不審者のソレであった。


それから、10分程度待つが相手は一向に現れない。


しかし、出発の時刻は刻一刻と迫っている。




――と、遂に乗船予定の船の名前がそこかしこに表示される。




ご丁寧にアラームまで鳴らして。
仕方がないのでインフォメーションセンターで呼び出しを掛けて貰うことにした。

96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/06/07(火) 18:13:19.77 ID:vD1cKIRAO


受付嬢「はい、何かご用意でしょうか」


良い笑顔をしながら対応する受付嬢。


……どうやらこちらは本物の人間のようだ
新兎「あの……呼び出しを」

受付嬢「かしこまりました。お名前は?」
新兎「シウン・アリナです」

受付嬢「シウン・アリナ様ですね…少々お待ち下さい」

というと、画面とキーボードが現れ、何やら手際よく打ち込んで行く。

新兎(……呼び出しなんてガキみたいな事はしたくなかったが仕方あるまい)



97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/06/07(火) 18:14:00.18 ID:vD1cKIRAO
腕を組みながら放送を待っていると、向こうから女の子供がやって来た。

新兎(そういや……あの娘もずっとうろついてたっけな)


少女「あの………」


不安げに少女は編み込みにリボン…言わば、『お嬢様ヘアー』の茶色の長い髪を揺らしながら尋ねる。

ワンピース姿のやたらと清楚で、いかにも『良家の娘さん』と言った感じだ。
彼女は背伸びをしながら受付嬢に話しかけた。

98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/06/07(火) 18:14:34.78 ID:vD1cKIRAO
受付嬢「どうなさいましたか?」

少女「お呼び出しをお願いしたいんです」


新兎(…親とはぐれたんだろうかね。)
新兎(ま、いいや。俺がどうこう出来る問題でもないしなぁ)

受付嬢「はい。ではお相手のお名前を」

少女「はい。名前は―――」


チャイム音。


アナウンス『お客様のお呼びだしです。』



アナウンス『シウン・アリナ様。シウン・アリナ様……』


その放送が流れた瞬間、少女はピクリと肩を揺らした。


99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/06/07(火) 18:15:53.69 ID:vD1cKIRAO
受付嬢「あの…お客様、名前は……」


少女「あ、あの……」

少女「コウサキ・ニイトさんで……」
新兎「!」

キョロキョロ辺りを見回しながら答えるその少女の言葉に、新兎は驚きを禁じ得なかった。


それは間違いなく、神前の最大のコンプレックスの一つ、彼のフルネームだった。


少女「あの、この放送はどなたが……」

受付嬢「そちらの……」

少女「………!」





何故この少女が新兎を呼びだそうとしているのか……
答えは一つだった。




新兎「もしかして…君が…」




お互い、口をポカンと開けたまま数秒立ち尽くした。


――ついでに受付のお姉さんも、何が何だか状況が全くわからず、口をポカンと開けていた。


序章・PICKUP!

100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 18:16:57.57 ID:vD1cKIRAO
とりあえず序章はここまでなんで休憩
バカながい序章にお付き合いありがとうございました
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/06/07(火) 18:26:25.02 ID:aUYCAGvAO
厨二心をくすぐられるぜぇ……!
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/07(火) 18:45:28.21 ID:3SkigpQSO
名前が不憫でしょうがないな
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/07(火) 19:20:35.21 ID:vD1cKIRAO
とりあえず新兎以外は名前は戦艦からつけてます
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/06/07(火) 20:47:40.17 ID:iBnx1dY90
地の文大好きな私が、続き期待してます。
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/06/07(火) 22:07:15.88 ID:zoiDd28d0
ファンタシースターP2を思い出したわ
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 00:34:59.09 ID:Jr2szphAO
第壱話
『ようこそカスミへ!』

出国審査を終えた二人。

セクシーな女性スタッフが、軽快に、近未来的なパッケージのスナック菓子に、ウェルカムドリンクであるオレンジジュースとシャンパンを運んできた。

一瞬新兎は現実逃避の為にシャンパンを選ぼうとしたが、流石にアリナの手前マズイかなと思い直し、宇宙用にパック詰めされたオレンジジュースを手にとった。

アリナ「気がつかなくって…ごめんね」

同じくオレンジジュースを受け取り、口をつけたあとアリナはうつ向いた。


新兎「いや、君のせいじゃあ…むしろ……」

新兎・アリナ「艦長のせい」

お互い顔を見合い、苦笑いをした


107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 00:35:54.37 ID:Jr2szphAO
紫雲アリナ。確かにとんでもない美少女だった…が、やはり子供らしいあどけなさがある。

新兎にロリコン趣味はない。

確かにナインちゃんは欠かさず見ているが現実とテレビとはまた別のお話だ。

……まさかこんな子供が来るとは、新兎は予想だにしていなかった。


アリナ「自己紹介が遅れました。本日からあなたのナビゲーターを勤めます紫雲アリナ少尉です。よろしくお願いいたします」

彼女は不釣り合いなほどの立派な敬礼をしてみせた。しかも自分より階級は上である。

若干新兎は引きぎみになった。


108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 00:36:21.14 ID:Jr2szphAO
新兎「ああ、どうも……。」

新兎(しかし…なんで子供が軍なんかに……)

アリナ「私のような子供が、何故軍に勤務しているかと言うとね……」

新兎「ッ!?」

アリナ「良く聞かれるの。だから聞かれる前に答えた方が良いかなって」

新兎「そ…そうなんですか」

アリナ「ああ、敬語じゃなくていいんだよ。階級は私の方が上だけど神前くんの方が年上なんだから、ねっ」

新兎「は……はい……」

新兎は微妙な心境だった

109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 00:37:09.98 ID:Jr2szphAO
アリナ「それで、ね。何故私が勤務しているのかというと、軍の人材育成プログラムの、いわばテストタイプみたいなものなの」

新兎「人材育成プログラム?」

アリナ「身寄りの無い子供を軍が引き取って立派な軍人に育てようという試み。」

アリナ「ただ、結構色々な意見があって。結局18になるまでは『戦闘員』として参加することは禁止されることになってるの。一応、パイロットの訓練プログラムも受けてるんだけどね。」

アリナ「ファルコートの適性も一応あるんだよ」

新兎「はあ……」

110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 00:37:38.55 ID:Jr2szphAO
アリナ「ただ、その事についても反対意見が多いの。要は育成プログラムの存在自体が違法なのではないのかと」

新兎「確かに、人権団体はうるさそうですね」

アリナ「だからね、余計に慎重にならないと…」

新兎「慎重に?」

アリナ「普通の軍人が戦闘死ぬことと、私が死ぬことは世間に対して与える印象が、かなり違って来るから」

だから、あんまり戦艦から出られないんだよね。あははと、彼女は少し悲しげな顔をしながら言った。

新兎「あの……余計なこと聞いちゃいましたか」

アリナ「いいの。こんな話だけど神前くんとお話できてすっごく嬉しいよ!」

微笑む彼女の顔は確かに可愛らしいのだが、新兎は…やはり詐欺にあったような気分だった。

111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 00:38:08.71 ID:Jr2szphAO
アリナ「で、神前くん、今日は無理を言って私服で着てもらったけど…」

新兎「ああそうだ。なんで制服じゃダメなんですか」

新兎がなかなかアリナを見つけられなかった原因の一つはこの『絶対私服着用命令』だった。

アリナ「今回、一緒に乗せていただく貨物船の会社の社長さんが大の軍嫌いなの」

新兎「…軍嫌い?」

アリナ「うん。どのくらい軍嫌いかと言うと…実はこの船には最新型のウィッチが乗っててね」

新兎「…フタツキの開発にでも使うんですか」

アリナ「ご名答!」

112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 00:38:35.90 ID:Jr2szphAO
新兎「で、そのウィッチにどう言う関係が……」

アリナ「とっても性能が良くてね、宇宙空間内での…開発用として見れば、だけど、我が軍のウィッチの性能を遥かに上回ってるの。」

アリナ「で、そのウィッチの技術をどうしても得たい国があって。それが…」

新兎「中連って訳か。…あそこはロボットに関しちゃあ、まるでダメだからなぁ」

アリナ「まあ、宇宙開発反対過激派の線も捨てきれないんだけどね。で、我々は警護に当たる予定だったんだ」

新兎「なるほど。…ま、昔にも似たような事件がありましたしね」


アリナ「しかし会社側が拒否。理由が簡潔に言えば『軍が大嫌いだから』だったそうで…」

新兎「…そりゃよっぽど嫌いなんですね」

113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 00:39:13.63 ID:Jr2szphAO
アリナ「しかし艦の移動挺の調子が悪く、時間的にこちらに…。だから、私達が軍人だってこと、気が付かれないようにしてね。」

新兎(そうか、だから艦長は軍用機に見えないようにわざわざ工場にカラーリングを頼みにいったのか)

と、一瞬全てを納得しかけた新兎だったが、何となく、腑に落ちない様な気がしていた。

新兎(いや待てよ…)


新兎(そもそもあの予備機はどこも悪くなかったんだよなぁ…)

新兎(じゃあ何で艦長はわざわざ地上まで予備機を運んでその上カラーリングなんかしたんだ?)

新兎「……」


アリナ「どうかしたの?」

新兎「…もしかしてさ」

アリナ「もしかして?」

114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 00:39:44.06 ID:Jr2szphAO
新兎「艦長は俺達に…警護させるつもりなんじゃないんですかね」

アリナ「警護?そんなまさか…」


アリナ「あっ…」


アリナも何か思い当たる節があったのだろうか、ガサゴソとカバンの中を探る。
……と、一つの封筒が出てきた。


アリナ「あの…これ、神前くんに渡して欲しいって」


新兎「……俺に?」


封筒を受け取り、中身を見る……と




中から『サルでもわかる!ウィッチの動かしかた』と書かれた冊子と、『よろしくね^^』と書かれたメモ翌用紙が出てきた。




新兎「………」

アリナ「………」

115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 00:40:13.10 ID:Jr2szphAO
―――――

貨物船アドバンス。
クワシマ工業が保有する、フタツキと地球を結ぶ宇宙船である。

窓に映る景色はひたすら漆黒のみ。
そう楽しいものでは無かった。
同乗する社長やその他もろもろにバレまいかとヒヤヒヤしつつも挨拶を交わし
彼らと少し離れた位置に二人は座っていた。

新兎(これから……どうしよう)

宇宙、と言う響きにもう少しくらいワクワクしても良さそうなものなのだが、
新兎もアリナも…何とも言えない表情をしていた。

116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 00:40:42.91 ID:Jr2szphAO
新兎(……あのオッサンにマンマと嵌められたのか)

新兎(しかし…この船に俺達を乗せられるって、一体どういうコネを使ったんだよ艦長は……)

……こんな状況に新兎は深い溜め息でも一つ、ついてみたかったが
意外とそれも体力と気力がいるもので
仕方がないのでぼーっと、窓についていた汚れの数を数えていた。

船の中は掃除が行き届いているとは言い難く、小汚い。



ただし、シートだけはヤケにフカフカで、それがまた妙な違和感を覚えさせる。

117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 00:41:10.63 ID:Jr2szphAO

新兎「ちなみに…いいですか」

アリナ「……うん」

新兎「『フタツキ』ってどんな場所なんですか?地球はおろか、日本って国から出たことがないんですよね」

アリナ「20年前から開発が進められているの。現在、そのほとんどが日本の領土。」

アリナ「50年前まではその存在が米国によって隠されていた小惑星で、街としてそれなりに機能するようになっているんだけどね、街並みは100年以上前のそれであり、まだまだ発展が必要とされてるみたい。」

新兎「100年前…っていっても、あんまり変わらない気もしますけど」

アリナ「そうだね。多少の技術は向上したんだけど、基本的な部分はあんまり変わらない気がするなぁ」

新兎「大戦時、壊滅的なダメージを日本は受けたらしいですからね…。」

アリナ「その後に起きた富士山噴火や東京大地震の影響もあったからね。ここまで復興出来たことは、正に奇跡…かな。」

新兎「……」

アリナ「……」

118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 00:41:42.34 ID:Jr2szphAO
再び沈黙が船内を支配した。
少しでも気を紛らわせようと窓の外を見ようにも、やはりただ漆黒が広がっているばかり。




さっきから代わり映えのない同じ景色ばかりが目の前に広がっている








……と思いきや








見慣れない紅色の…大きい『何か』が窓枠一杯、埋め尽くしていた。




新兎「!」


新兎「なっ……!!」




次の瞬間、船体が大きく揺れた。




119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 00:42:17.01 ID:Jr2szphAO
「うわああああああ!?」



乗客が叫ぶ。何かがぶつかってきたのか…強い衝撃。



安全のため着用を義務付けられていたベルトが軋み、腹に食い込む。



「乗客の皆様…緊急連絡です。宙用人型機との衝突トラブルが発生致しました。直、現在も……」



スピーカーを通じて、動揺しているのか、乗務員の裏がえった声が響き渡る。

船内に慌ただしく広がる異様な空気。


パイロットA「船長!レーダーが……」


パイロットB「右A2からセットし直せ!」



飛び交う怒号に悲鳴

そして警報装置のブザー


新兎は何が起きたのか、よく理解出来ていなかった。


120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 00:43:14.16 ID:Jr2szphAO
――――

一方、カスミ艦内


全長300m程の艦内は、システムもろもろにコンピュータ、武器や予備機に降格させられたウィッチ、
それから新型機であるファルコートの格納庫や整備につかうスペースや食料庫が場所をとり、
決して広々としている…とは言えない作りをしていた。
しかも一部の施設以外はまさに時代に取り残されたような作りで、
本当につい3年前に造られた戦艦なのか、非常に疑わしい。


121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 00:43:41.54 ID:Jr2szphAO
その中にある艦長室と札が掛けられている一室。
ソファーに座る霧島は、投影されている映像を見つめながら何やらニヤニヤと、いかにも「ご機嫌」な様子だった。


秋津洲「…またゲームですか。それとも賭け事かなにかですの?」


閉まる扉を背に、若干上堂薗は呆れ気味に尋ねた。

霧島「勤務中です。一軍人としての誇りは私にだってあります。」

秋津洲「……艦長には前科がありますから」

霧島「前科…?」

秋津洲「一昨日、地上から帰るとき、なんで遅刻したんでしたっけ」




霧島「……ろっと」





秋津洲「え?」

122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 00:44:12.28 ID:Jr2szphAO
霧島「……すろっと」

秋津洲「ですよね」

秋津洲「一応、『業務』で地上に帰ってたんですよね、私達」


霧島「しかし、その儲かったお金で待機のみんなに土産が買えたわけだ。コミュニケーション、人心把握術の一つですな」


反省の色を一ミリも見せることもなく答える男の目の前に、秋津洲は高く積み上げられた書類を一気にドン、と霧島の私物で占領されているのデスクの上に置いた。

秋津洲「これ、貯まっていた書類です。今週中にお願いしますね」

霧島「こっ…これ、全部ぅ!?」

秋津洲「全部です」


霧島「やって!」

秋津洲「やだ!」

と、冷たくいい放ち秋津洲は机に書類を積み上げて行く。

123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 00:44:38.63 ID:Jr2szphAO
と、霧島を横目でみると目の前に書類がそびえ立っているにも関わらず、まだ画面の向こうに夢中である。

――何がそんなにこの男を引き付けるのか


ゲームでもギャンブルでもない


そしてこの男が夢中になりそうなものと言えば――



何を想像したのか秋津洲の顔がみるみる紅潮していく。

124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 00:45:05.11 ID:Jr2szphAO
……興味半分、使命感半分でチラリと透明なモニターを覗いてみたものの

宇宙空間内の図面に、小さな点が一つ点滅し、微妙に移動しているだけ。特に面白味も何もない。





と、不意にその点が消えた。






――すると、同時に霧島が椅子を引き、立ち上がった。

125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 00:45:31.25 ID:Jr2szphAO
秋津洲「ど…どうしたんですか霧島艦長……」

霧島「出撃命令」

秋津洲「……へっ?」


いきなり突拍子も無いことを霧島が言い出す。
秋津洲は大きな瞳を更に大きく開かせた。
霧島「テンション上がってキタ━━━━━━━━!!」


秋津洲「ちょっと……艦長!」


全くこの男の行動の意味が分からない。


126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 00:46:59.53 ID:Jr2szphAO
霧島「クワシマ工業の貨物船、襲われますよ」


秋津洲「……襲われる?」

霧島「多分ですけどねっ☆」

鏡の前に立ち、キラッと妙なポーズを決めたのち、櫛で髪をとかし、整髪料を「これでもか」と塗りたくりながら、髭を整え霧島は答えた。

霧島「確かにこれ、ギャンブルかもしれんなぁ」

秋津洲「はぁ?」

霧島「ふぶきちゃんオッス!オッス!」

127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 00:47:25.28 ID:Jr2szphAO
秋津洲「多分って…それなら衛星が捉えてるはずですし…警報だって出てないんですよ?」

霧島「奥さん、逆に言えば『警報が出ていない』ことが裏付けになってるんですってば」

秋津洲「裏付け?」

霧島「裏付けです」

秋津洲「……確証はあるんですか」

霧島「確証はありませんけど、可能性は十二分にあります」

秋津洲「…どういう意味です」

128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 00:49:53.82 ID:Jr2szphAO
霧島「物事に『確実』や『絶対』なんてモノは有りませんからね。あ、これも多分ですけど」

秋津洲「……」

霧島「出撃していいですよ、ねっ?」

またもやズル賢い子供のような笑顔を、霧島は上堂薗に向けた。

こう言う顔をするときは、嫌と言っても『絶対に』何かをやらかすのである。
霧島を止めることも自分の仕事であると彼女は分かってはいたのだが
何を言っても単に時間と気力の無駄使いなだけで、その上、結局のところ指揮権は霧島に与えられている。
一応、『事務的な』確認はされるものの、秋津洲が出来ることと言えば、最低限の『釘』をさすことくらいだった。

秋津洲「……わかりました。」

霧島「どうも」

実にいい笑顔を秋津洲に向けた

秋津洲「ただし、あくまで『特別訓練』と言う名目ですからね。」

秋津洲「ですから…あまり無茶はしないように。よろしくお願いします。」

霧島「了解であります!」

秋津洲は無邪気に笑いながら敬礼する霧島に目眩を覚えた。


129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 00:50:41.47 ID:Jr2szphAO
――アラーム。

警報が艦内に鳴り響いた。
技術部員たちは慌ただしく出撃の準備をし、
船医である乙女は、うふふ、と笑いながら早くも包帯やらその他治療に必要なものを準備している。

そしてブリッジには、女1人に男2人。計3名の隊員達が集められていた。

女パイロット「……出撃?」

と、ジト目の少女がポニーテールを揺らしながら答える。
青と黄色が混じった独特のパイロットスーツに身を包んでいた。

霧島「そう。中連の偵察機がクワシマの貨物船にケンカを売りに行ったらしいんですよォ」

パイロット・女「…彼らは我々の警護を一度断ったんじゃありませんか?」

霧島「確かにそれはそうだ、が」

霧島「相手機が同時に日本の領宙も侵していると言う、既成事実も生まれてしまっている。」

パイロット・女「………」

霧島「それって、とってもいけないことだと、僕は思うんですよね」

パイロット・女「……それはそうですが」
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 00:51:15.99 ID:Jr2szphAO

霧島「それに」

霧島「クワシマ側がいくら我々の警護を拒否していても…だ」

霧島「腐っても国を守るべき一介の防人として、この危機を見逃す訳にはいかない」キリッ

正に「軍人の鏡」とも言える発言であったが、その目が妙に胡散臭い。

霧島「……橘花大尉」

「………」

この女パイロット…橘花珠理大尉は、なんとも微妙な表情を浮かべていた。
飛び級にて第3東大を卒業したキャリア軍人であり、かつては出世街道をばく進していた。

131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 00:53:00.75 ID:Jr2szphAO
しかし、この艦ではお馴染みの『諸般の事情』により19と言う異例の若さで島流しの果てに流されてしまっていた。

橘花「わかりました。あくまで我々は領宙侵犯をする輩を追い払いに行く…と言うことですね」

霧島「そうして貰えると大いに助かります」

その一方

「特攻だ!特攻だ!カミカゼだアアアアッ!!」

と大はしゃぎするパイロットスーツ姿の男がいた

男パイロット「かならずしや、かならずしや大尉だけはお守り申しあげます!」
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 00:54:16.99 ID:Jr2szphAO

「出撃前にバカじゃねーのかバカ!」

と、それを殴るこれまたツインテール美少女がいた。

パイロットスーツの男が敷島(シキシマ)准尉。
20代後半のドイツ人と日本人のハーフであり、戦艦一のハンサムではあるものの
その暑苦しい行動が仇となり女性ばかりか、上司からも疎まれ
橘花よろしく、若くしながら戦艦送りにされてしまっていた。

133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 00:55:26.02 ID:Jr2szphAO
その男の隣にいる、態度の悪い美少女が白鷹(シラタカ)准尉。橘花のナビゲーターである。
ちなみに、中途採用の軍人であり、前の二人とは違い、アリナの様に、改編以前から戦艦で勤務していた。

敷島「ゲスで下劣な(差別表現が含まれるため自主規制)野郎めぇぇぇぇ……」

敷島「艦長!お国の為なら喜んで我が桜、散らせる覚悟でありますッ!!」

霧島「い、いや、あくまで『追い払う』だけでいいんだぞ?あんまりやり過ぎてもだな……」

敷島「大和魂、見せつけてやるぜええええええええええ!!」

134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 00:56:11.50 ID:Jr2szphAO
霧島「いや、あのね、だからね、僕の話聞いてくれてる敷島くん?」

敷島「♪守るも攻むるも黒鉄のぉ〜」


腕をふりながら、無駄に良い声で軍艦マーチを歌い出した。

白鷹「うるせえよ」

霧島「…聞いてよ」

橘花「結構よ」

橘花は不甲斐ない上司と階級下の同僚のやり取りに対し、
ポニーテールヘアーの黒髪を払いながら、これ以上ない冷たい口調で言い放つ。

橘花「敷島。本当に私の足を引っ張らないで頂戴ね。…嫌味でもなんでも無くて。」

敷島「了解であります、大尉殿!」

霧島「…あれ、艦長さんは無視?」

135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 00:58:24.85 ID:Jr2szphAO
橘花「同僚なんだから、その『大尉殿』って言うの、やめて欲しいのよ」

敷島「了解であります『大尉閣下』!」

橘花「…もういいわ。」


白鷹「敷島くんよぉ、そんなテンション上げすぎると後で泣くぞ」

敷島「ああ?貴様、本官に文句があるってぇのか?やるってのか?モーニングシリアル頭からぶちまけられたいのか?ああん?」

白鷹「なに、おまえ珠理ちゃんのことすきなのかぁー?」

敷島「なっ!橘花大尉閣下を『珠理さん』などとお前は、閣下に対して馴れ馴れしいとは思わんのか!」

白鷹「それなら是非とも年功序列制度も採用して欲しいところなんだけど。イッコ上だし」

敷島「そんなものは死んだ!」

白鷹「……死んだって」
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 00:59:05.29 ID:Jr2szphAO
秋津洲「とりあえず周辺の移動挺、ウィッチ及び大型船に退避命令を」

白鷹「りょーかい」

秋津洲「大丈夫なんですか?」

霧島「大丈夫も何も、手持ちのカードで闘うしかないじゃあないですか。」

秋津洲「そうですけど、彼らはまだファルコートは愚か、宇宙での実戦もまだだっていうのに…」

霧島「それを含めての手札ですよォ」

霧島「と言うより、与えられている手札を使ってどう闘うのか、考えることが僕の仕事だと思いますけどね」

秋津洲「その仕事を増やすのも、アナタの仕事なんですか」

霧島「怒ってます?」

秋津洲「全然。ただ、部下を“手札”呼ばわりするのは如何なものかしらと思いまして」

霧島「あくまで例えですよぉ、た・と・え」

秋津洲「……例え、ですか」

秋津洲「……少し失礼します」

霧島「あれ、どこいくんですか」

秋津洲「脳波を安定させてきます」

霧島「最近お疲れ気味でしたもんね!いってらっしゃ〜い」

秋津洲「……」

137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:01:28.90 ID:Jr2szphAO
【格納庫】

「とっととしねーと、オメーらのケツにもう一個、工具で青函トンネル開通させるぞォォォ!!!!」

と、物騒な事を叫ぶのは、あの時の美女十六女榛名だった。

頭「あの……部長はぼくで……」

榛名「ああん?」

頭「……すいません」


橘花「私の機体は?」

頭「とりあえず出来上がってるから、パイロット登録してシステムに繋ぐだけになってるよ」

橘花「了解。ありがとう」

敷島「…本官の機体はどうなっている」

頭「ああ、適当にやっといたから適当に乗っといて」

敷島「ちょ、ちょっと待て!なんだこの態度の違いは!!」


138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/08(水) 01:02:35.91 ID:RJnOysD0o
目欄に一応saga入れとくと変な変換すり抜けるから入れとくべし
sageじゃなくてsagaだよ
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:02:56.65 ID:Jr2szphAO
白鷹「ファルコート02、システム起動かっくにーんっと」

部員「ファルコート03も同じくシステム起動確認!」

部員「両機のMPLシステム起動、接続、開始します!」

白鷹「チップからの応答確認。接続終了しました」

部員「学習システム、起動確認!」

白鷹「確認、完了」

部員「体温、心拍数、脳波いずれも安定しています。拒絶反応、及びMCによる影響、ありません」


白鷹「了解。A1〜D7までの作業終了確認したぞ」

白鷹の指先が画面の上で駆け回る。

頭「固定装置、外せえええええ!」

ガタイのいい男共が、汗を足らしながら全力でレバーに体当たりしていく。

徐々に固定装置は動き出し、30秒程たった後、ガシャンという心地よい音がなり響いた

頭「ファルコート2号機、3号機、起動!立て、ファルコートオオオオオオオオ!!!!」

橘花・敷島「了解!」

ファルコート両機が一歩、前へでる。


と同時に歓声が沸いた。





140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:04:25.93 ID:Jr2szphAO
榛名「橘花ちゃん、乗り心地はどう?」

橘花「すごいわ。……操作がまるで、自分の手足の様になめらかよ」

榛名「そりゃ良かったわ。この機体に使用されてるシャダイシステムの他にも、この新版のMPL技術のおかげで、機動性がグンと上がって、一個体としてならば現時点じゃ怖いもんなし。」

榛名「義手なんかのシステムが応用されていて、動きについては、ほぼパイロットの思いのままと言っても過言じゃないの。」

榛名「レバーの数も大幅に減って、機械の誤認識や操作ミス、破損によるトラブルなんかも最小限に押さえられる」

榛名「と言っても、あくまで『補助』よ。一番大事なのはパイロットの腕かの。細かい調整も必要な上、何よりそれは機械。それを忘れないでね?」

頭「あのですから…技術部長は………」

141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:05:16.62 ID:Jr2szphAO
橘花「要は、『機械に使われるな』って事でしょう。」

榛名「せーかい!かわいくって頭も良いとか、なんなのよもうっ!」

敷島「…俺にも何か聞いたらどうだ。適切なコメントをくれてやるぞ」

一同「………」


敷島「えっ……」

142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:06:01.38 ID:Jr2szphAO
霧島『もしもし聞こえるぅー?』

メインモニターの下側あたりから、にやけた男の顔のドアップが映し出された。

敷島「!?」

橘花「…聞こえます」

霧島『あ、白鷹ちゃん今の波数でオッケーみたいです』



霧島『んで、とりあえず発進前に二人に言っておきたいこと。ま、一応訓示みたいなのがあるんですけどね』

橘花・敷島「はい」

霧島『1つ、無茶はするな。危険だと判断すれば、即座に引き上げろ』

霧島『2つ、己を信用しろ。』

霧島『3つ、仲間を信用しろ。』

霧島『4つ、迷うな。』

霧島『5つ、死ぬな。』

霧島『6つ、なるべく[ピーーー]な。』

霧島『…あと、もう一つ。』

橘花・敷島「………」

143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:06:53.01 ID:Jr2szphAO
霧島『多分、行った先にいる内の1機には、うちの新しいパイロットが乗ってると思うんで、その辺気を付けて下さいね?』

敷島「うえええっ!?」
秋津洲『えええええっ!!』

霧島『「えええ」って…そんなに驚きます?』

秋津洲『ちょ、ちょっと聞いていませんよ霧島艦長っ!』

霧島『じゃあ話します。今新人さんとアリナさんとそれから修理に出したウィッチはクワシマの貨物船に今乗ってます。』

秋津洲『確か軍の船でこっちに来るはずじゃ……』

霧島『そう。書類の上では。まあ、何もなかったら、フタツキで軍の船に乗り換えてもらうつもりだったんですけど』

秋津洲『また勝手に……』

敷島「しかし艦長!なぜ新入りがそんな……」

霧島『今更、理由を求めてなんになるって言うんです?』

敷島「い、いや、それはそうなんですけど、あの…論点が……」


144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:07:25.17 ID:Jr2szphAO

霧島『まあ、うちのウィッチは紅くて、イカしたデザインだ。直ぐに見分けが付くと思う』

秋津洲『イカしたデザインじゃ分かりませんよ艦長。もっと具体的に説明して下さい。』

霧島『って言われましても…ものすごく紅くて、白いポッチがいっぱいついてて…角が生えてて……』

橘花・敷島(その情報から『イカした機体』が想像出来ない……!)

145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:07:54.78 ID:Jr2szphAO
霧島『あと、武器は、ウィッチ同様、遠距離型の武器であるユニバースだかユニバーサルだか・シグザウアーが一応、標準装備されています』

霧島『が、元々は型遅れの機体の付属品です。反作用の関係上、威力はそう強くはないので相手に決定的なダメージは与えられない。』

霧島『しかし、使いように寄っては相手の動きを封じる事は出来る。かもしれません。』

橘花「逆を言えば、決定的なダメージを与えることはないから、容赦なく使えると言う訳ですね」

霧島『そりゃ、そうなんですけどね。折角性能がいい機体なんですから。なるべく予算を考えると、格闘戦の方がありがたいです。……相手次第なんだろうけど』

橘花「了解しました」

敷島「艦長!ビームガンやらビームサーベルやら背中からミサイルぶっぱなす装置やら、もっとイカした武器はないのでありますか!」

霧島『そんなものないのであります』

146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:08:50.66 ID:Jr2szphAO
頭「っつうか、いまの財務状況で買えるわけがないのであります」

敷島「し、しかしそれでは……!」

霧島『いいか、最強の武器は愛と勇気だ。かの国民的ヒーローもそれだけが己の味方だと言い切っていた。』

霧島『ビームも、ファンなんちゃらも、なんちゃら刀も、波なんちゃら砲も、レーザーも、所詮は飾りなんだよ。分かったでありますか?』

敷島「分からないであります」

霧島『……もういいです。とりあえず発進』

頭「03番ゲート、開門!!!」

技術部員一同「03番ゲート、開門します!!」

霧島『それじゃあ元気に!』

榛名「ファルコート、02、03はああああっっっっっしいいいいいいいいいんんんんんんんんんん!!!!!!!!」

橘花「ファルコート02、発進します!」

敷島「ファルコート03、発進んんんんんんんんんっっっっっっ!!」

霧島『あ、あの、ちょっと…』


147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:09:50.98 ID:Jr2szphAO
―――――

一方、貨物船内。

船内は更に大きく揺れ動いていた。
軽いパニック状態となり、スーツ姿の男達も乗務員もただ慌てふためくしかなかった。

アリナ「……神前准尉っ!」

新兎「分かってる!」

アリナ「機体はこの2番ドアを抜けた直ぐのところです」

新兎「わかった!」

新兎は勇ましく席を立ち上がった。

「じょ、乗客の皆様本船は……きゃああああああ!!!」


二度目の放送の途中、再度紅色の「何か」が船にぶつかったのか…再度大きく揺れる。

148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:10:35.00 ID:Jr2szphAO
新兎「んふっ!!」

勇ましく立ち上がったのはいいものの、衝撃で船体が揺れ、
その勢いで神前は、向いの椅子に思い切り顔をぶつけてしまった。

男A「ちょ…ちょっと兄ちゃん…大丈夫か!?」

心配して駆けつけた背広姿の男の一人に起こして貰ったが、
当たりどころが良くなかったのか、神前はダラダラ鼻から血が垂れ流していた。

おまけに切っていたのか、唇からも血が垂れ流れていて、顔半分、血まみれ状態だった。

男A「と…とりあえず…あの…ハンカチで血ぃ…拭いたら…?」

新兎「あ……ああ…ども………」

新兎「い、いや!そんなことより!」

男A「……より?」

新兎「さっさと乗らないと……」

男A「の、乗らなきゃって…君が持ってきた…あのヘンテコな機体に?」

149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:11:27.02 ID:Jr2szphAO
一同「うわああああああああああああああああああ!!」

またもや機体が激しく揺れる。さっきよりも幾分か衝撃が強い。

男A「あんた、乗れるのか?」


新兎「…一応は」

新兎は立ち上がり、ドアを開けようとするが…開かない

男A「…さっきの衝撃で扉が壊れたのか」

新兎「何とかしないと……」

男A「しかしアンタ!見たところ相手は軍用機だ!民間機じゃ…」

男B「それに相手はプロだ!軍人だぞ。敵いっこない!!」

新兎「ならば俺だってプロだ、軍人だ!!」

男A・B「………!」

新兎「あっ……」




アリナ「………あちゃあ」



船内が沈黙に包まれた。




150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:13:14.69 ID:Jr2szphAO
新兎「い、いや…あの…『気持ち的に』ってだけで…あの……本当に軍人な訳じゃないですよ?あ…あはっ…あははは………」

男A「……」

必死で言い訳するものの、男の険しい表情は変わらない

新兎「やっ…やだな…ほ…本気にしちゃったよ…ねぇ…?」

男A「……誰だこいつらを乗せたのは」

男B「あの…しゃ、社長……それが………」

男A(社長)「それが?」

男B「『トヨカワ』の専務の…口利きで……」

社長「あのヘラヘラふざけた男の仕業か……!」



アリナ(ま……まっずい)
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:13:45.83 ID:Jr2szphAO
新兎「ああ!もう良いですよ。バレちゃったもんは仕方がない。」

アリナ「こ…神前さん……」

新兎「彼女も…俺も『不本意ながら軍人』ですよ。アナタが軍人嫌いなことも、警備を断ったことも聞いてます。」

社長「……ふん」

新兎「だが、このままだとこの船はどうなるか分からない。」

神前「俺自身も、勿論死にたくない。だが、一応軍人のはしくれだ。」

新兎「それ以上に一般市民であるアンタらを死なせたくない」

社長「…お前のような青二才に何が出来る?」

新兎「んなことたぁ知りません。現に宙用機に乗るのは初めてですから。」

新兎「だけど、何もしないでロボットと一緒に宇宙の塵になるよりかは幾分マシでしょう!」

新兎「抗議なら後でいくらでもして下さい。」

社長「……」

と、新兎の言っている事は、一見すると立派で、まともなことのような気もしなくもなかったが


…その顔下半分は、血まみれなのである。

152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:14:26.00 ID:Jr2szphAO

社長「ふっ……」

新兎「……」

社長「んふふふふふふふっ!」

新兎「……えっ」

社長「い…いや、すまんな!君がそんな顔して……んふっ、そんな事……んひっっ……!」

新兎「そっ…そんなに酷いです?」

社長「酷い…酷いから拭いてくれっ……!」

新兎「どうも……」

社長「……とりあえず、ハンマー持ってこい。緊急用のがあっただろう」

乗務員「了解!」

新兎「あ…あの、じゃあ……」

社長「君は『不本意』ながら軍人だと言っただろう」

新兎「あ、それは……」

社長「確かに、君は全く軍人の匂いがしない。いや、こりゃ面白い!」

新兎「おっ…面白いって……」

社長「よし、壊せ!」

一同「うおおおおおおおおおお!!!!!!」

男達はハンマーを思いきり振りかざし、扉に叩きつけていく。

社長「……君は元々何になりたかったんだ」

新兎「……魚屋です」

社長「魚屋か。うちは今ではロボット屋だが、元々は魚屋でね」

新兎「ほ、本当ですか!?」



社長「嘘だ」




社長「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

社長もハンマーを手にし、叫び声をあげながら大きく振りかぶった。


153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:15:20.72 ID:Jr2szphAO
――何度か大きな揺れが起きたものの、男数名の力によりどうにか強化ガラス性のドアに人、一人が通れる程度の穴がポッカリと開いた

社長「………」ハァハァ

男B「あ……開いた……」

新兎「あの、じゃあ早速失礼します」

アリナ「ご協力、感謝します」

社長「…いや、礼を言うのは私の方だろう」

社長「君達がいなければ、ちゃちなプライドのせいで、部下を死なせていたかも知れなかったからね。」

社長「それに」

新兎「…に?」

社長「久々に腹を抱えて笑ったよ」

新兎「……そりゃどうも」


154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:15:51.60 ID:Jr2szphAO
―――

機体が格納されている倉庫に向かった。

カバーを取ると、毒々しいまでの紅色と白い斑点

それから意図がさっぱりわからない頂点に生える角が絶妙なハーモニーというか、不協和音を奏で、

センスの欠片もない、まるで何かのパチモンのような、ふざけた機体が姿を現わした。

アリナ「そこのハッチを開けて搭乗してください。」

新兎「分かった。……つうかこれ、本当に動くのか?」

アリナ「外見は滅茶苦茶ですが、一応は正規の軍用機です。」

アリナ「とりあえず、開けてみて下さい」

155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:16:40.65 ID:Jr2szphAO
新兎はハッチを開け、中を見ると…
確かに、きちんとした作りのコックピットが現れた。
モニターも、それから操作レバーも制御装置も申し分ないくらいに整備されている。
充電やセットアップもきちんと済まされているようだった。

新兎「本当にこれ、軍用機なんだな…」

アリナ「充電は20分ほど持ちます。それ以上は生命維持に回されるので、戦闘は出来ません」

アリナ「それから、武器は装備されていませんので気を付けて下さい」

新兎「ぶっ…武器なし!?格闘戦しか無いってことか!?」

アリナ「無いってことです。」

新兎「だけど、んな…無茶な…」

156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:17:14.66 ID:Jr2szphAO
アナウンス『警告、警告!お客様並びに乗務員に連絡いたします。』

アナウンス『当スペースは大変危険です!間もなく閉鎖されます。退避してください!繰り返します……』

アリナ「通信システムが使用できないので、私が助言出来るのはここまでです」

アリナ「とにかく、カスミから何らかの援護があるはずです。それまで……」

新兎「それまで時間を稼げって訳だな…了解」

アリナ「それではご武運を。紫雲准尉、退避します」

アリナはユウトに向かって敬礼したあと、客席へと駆け足で戻っていった。

157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:17:45.30 ID:Jr2szphAO
その直後、倉庫は赤く染まり、その後、鉄の壁が降りる。

新兎「…システム起動」

ナビゲーション『システム起動します』

ピピピッ、と言うお決まりの機械音が鳴ると同時に、映像がいくつも投影された。

操縦レバーやスイッチを一通り確認する。

新兎「やっぱり基本的な操作はラットと変わらない…か」

新兎「……いくか」

ぎゅうう、と左右に置かれたレバーを握った。
レバーの先には細かい作業に使う、手がそのまま嵌められる操縦装置がつけられていた。

158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:18:40.43 ID:Jr2szphAO
若干、動きはぎこちないものの、ローセンスの人型のそれは、摺り足をしながら少しずつ前へ進んでいく。

その間にも大きく船体が揺れる。

と…同時に、倉庫の壁が崩れた。

新兎「なっ……」

もう一つの紅色のそれが顔を現した。
新兎は思わず目を見開いてしまった。

壁が崩れたことでも、相手機が現れたことでもない。何だかんだで予想は出来ていた。



……が、何とも偶然と言うものは恐ろしいものである



先ほど、この機体を見たときはドアップだったからか、気がつかなかったが

目の前に立ち塞がるその機体は




毒々しい紅色のベースに白い斑点、用途の良く分からない角。


そしてそのセンスのかけらのなさ



……自分が操るそれと、瓜二つだったのである


新兎「あっ…えっ……?」

159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:19:21.35 ID:Jr2szphAO

二度と見ることは無いだろうと思っていた、超斬新なデザインに1日のうちに2度も出会ってしまったのである。

思考は停止し、口をポカンとだらしなく開いているうちに、相手のウィッチは上部から思いきり体当たりを仕掛けてきた。

だが、お目当てのクワシマ製ウィッチを気にしてか、それほど強い攻撃ではなかったのだが、
新兎も同じものに注意を払っていたせいか、身動きが取れずモロに受けてしまった。

そのまま、壁にぶつかり…崩れ、両者は宇宙への投げ出された。


新兎「……つぅ!」

衝撃で唇を噛んでしまったのか、再び血が噴き出す。

が、そんなものを気にしている余裕は無かった。

手元の時計で17分。後17分で決着をつけなければならない。

見たところ、相手は腰に良くわからない装置をつけているが、どうやら武器ではないらしい。

160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:19:47.46 ID:Jr2szphAO
新兎「とりあえず、あっちもそんなに時間は残されちゃいないはずだ」

新兎「武器も使う気配がない……いけるか」

目付きが変わった。

操縦レバーを更に強く握りしめ、歯を食い縛った。

相手のウィッチは猛スピードで再びこちらへ向かってくる。
避けようとするが、重量制御装置は働いているものの
宇宙空間内での戦闘になれていないユウトは避けきれずまたもや、モロにパンチを食らってしまった。

コックピットが大きく揺れ動く。

161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:20:45.96 ID:Jr2szphAO
新兎「……こりゃ効くわ」

新兎「効くが…」

相手のウィッチが腕を引っ込めようとした瞬間、ガッシリとその腕を新兎は掴んだ。


新兎「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!」

新兎「…3年!伊達に地獄の様な授業は受けてねーわああああああああああああああ!!!!」




レバーを激しく動かし、手元の調整様のスイッチを手際よくあげていく。


メーターは振り切れ、機体は一気に力を放出する。


162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:21:19.69 ID:Jr2szphAO
新兎「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」




その腕をグイと回し、相手の機体を担ぎ上げる。


新兎「どおおおおおおおおおおおおおおりゃああああああああああああ!!!!!!」


レバーを精一杯右へ動かす。
もちろん足の操作も忘れない。

そして、そのまま下に叩き落とすかのように相手を投げ飛ばす。




――日本の心、柔道。





毎日のように3年間叩き込まれた柔の技が、まさかこんな所で役に立つとは思いもしなかった。


163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:23:55.49 ID:Jr2szphAO
新兎(無駄だと思うことも、やっとくもんだなぁ……)

舞う相手機。

完璧なまでの背負い投げだった。


新兎(一本決まった!)



……そう思った瞬間、新兎はふと気がついた。




新兎「……床がない」





投げ飛ばされた相手機は落ちてはいくものの、周りには特に何もなく、そのまま踏ん張り


……特に大きなダメージを与えることは出来なかった。




164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:24:35.85 ID:Jr2szphAO
―――――

同時刻。
一方の橘花は頭を抱え、敷島は目を丸くさせていた。

確かに、霧島が言う通り紅色の、白いポッチの付いた角付きの機体は存在していた。

が、問題はその数である。

2体が2体、全く同じ様なデザインをしていたのである。

橘花「こんなの…分かる訳がないじゃないのよ」

橘花「……ブリッジ、応答。応答願います」

『………』

橘花「ブリッジ、応答願います!応答!応答!」

『………』

橘花「……おかしいわね」

橘花は何度も通信機のスイッチを確認する。
確かに、スイッチはオンになっている…が、一向に返事が聞こえない。

165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:25:13.24 ID:Jr2szphAO
―――――

秋津洲「……どういうことなのよ」

カスミ、ブリッジ内に秋津洲の澄んだ声が響く。

白鷹「ファルコート02、03…位置、確認出来ねー!」

頭「ロストしたってことかい?」

秋津洲「まっ…まさか………」

白鷹「撃墜された…とか」

霧島「もうみんな心配屋さんだからっ」

秋津洲「しかしっ……!」

霧島「今の中連の技術を考えれば、我々の機体は落とせやしませんよ」

秋津洲「…数の理と言うものがあるじゃないですか」

166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:26:09.93 ID:Jr2szphAO
霧島「それもないんじゃないんですか?民間機一台盗み出すんだったら最新機一つで十分ですし」

霧島「それに、あっちの機体のシステムはお国柄か、基本的にスタンドアローンじゃない…ロボット単体じゃ動けないんですよ。前々から脆弱性は指摘されてましたけど、ねっ?」

霧島「だから自分がモロにジャミングの影響を受けかねないんです。ま、最新機はその辺をちゃんと解決してるみたいですけど」

秋津洲「……ジャミング?」

霧島「この間、通告されましたでしょ。会議で中連の兵器のこと」

秋津洲「宇宙空間内でも広範囲で使用できるジャミング装置…ですか?」

白鷹「っつうか、ジャミング云々よりも、もーうちょっとパイロットの安全を考えたらどーかと思うんだけどな」

秋津洲「……まさか」

霧島「そう。多分、今回は『それ』を使うことで助けを呼べないようにしたんじゃないんですか?証拠も残さないで済みますしね。」

霧島「だけど、最新機に搭載されてるシステム以外には、対策が施されていなかった。」

白鷹「……随分とお間抜けな話だな」

167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:26:36.30 ID:Jr2szphAO
霧島「だが、どっかからクワシマの社長が軍嫌いって情報を掴んだんだろうなぁ。」

白鷹「それであいつらはいけると踏んだ、と」

霧島「ま、でも『偶然』、軍の人間と機体が乗り込んでたー…なんてことは、計算外だったんでしょうけど」

一同「ぐ…偶然……」

霧島「そう。グ・ウ・ゼ・ン!」


168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:27:03.77 ID:Jr2szphAO
――――

橘花「通信機能がまるで使えないってワケ……そう。」

橘花「問題は…どっちがどっちだってことだけど……」

やはりどちらがどちらなのか、良くわからない。

敷島「ううう…本官にはさっぱり分からん。さっさと神風の如く、天誅を(差別表現が含まれるため自主規制)野郎に下してやりたいが」

敷島「……いや、確か艦長が言っていたな。」





『迷うな』

『“なるべく”[ピーーー]な』




敷島「………いひっ。」

敷島「……いひひひひひひひ」

敷島「いっひひひひひひひひひひひひひひひひひひ!!!!!!」

敷島のその姿と笑い声は正義の味方と言うより、悪の組織の下っぱに近かった。


169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:27:55.86 ID:Jr2szphAO
敷島「今、大尉をおまもりできるのは俺のみ!!!!!!!!」

敷島「……分からなければ『カン』あるのみ!!!!!!!!」

敷島「ひっだりだあああああああ!!!!!!!!!!!!」



猛烈なまでに3号機は、ウィッチ2機に向かって突進していった。


敷島「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッイセェェェェェェェェ!!!!!!!!!!!!」


橘花「ちょ…ちょっと、敷島!?」

橘花が止めに向かおうとするが時は遅し。
敷島はウィッチのうち一機を攻撃し出していた。
もう一機はと言うと、宇宙の彼方へ逃げていく。

橘花「……バカだ」

170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:28:57.72 ID:Jr2szphAO
バカな同僚のバカな醜態に呆れつつも橘花はもう一機の逃げたウィッチを追いかけ出した。

敷島「ごるぁ!観念して汚い花火でも打ち上げろやあああああああ!!!!!!」

そう叫びながらしたり顔で目の前のウィッチを押さえつけ、殴ろうとするものの避けられてしまった。

敷島「ちょ、ちょこざいなあ!」

しかも何やら「あっちだあっちだ」と言わんばかりに横を指差す。

敷島「『俺は犯人じゃない』とでも言いたいのか」

敷島「そんな幼稚な罠にこの俺が引っ掛かるものかああああああああああああああああ!!!!!!」


敷島「大尉の顔に傷をつけさせるものかああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

敷島は力任せに殴りかかるが避けられてしまう。

……彼は更に逆上し、殴りかかるが避けられてしまう

そして更に敷島は逆上し……



それが延々と続いた。



171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:29:59.83 ID:Jr2szphAO
一方、殴り掛かられている側のパイロットも必死だった。

新兎「だーかーら!俺じゃねーつってんのにこいつ…」

新兎「あっち、あっちだってば!」

必死に指差すも、全く気がつく様子がない。
そればかりか、更に攻撃を過激にしてくる。

…これではキリがない。

何とかこのループを抜け出し、自分も敵機を追い掛けたいのだが、
ファルコートは無駄に高性能なのである。
避けることで精一杯で、反撃など持ってのほかだった。

172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:30:25.23 ID:Jr2szphAO
――――

ファルコート2号機、橘花機はもう一体のウィッチすなわち『本当の敵』を追い掛けていた。

本来の任務は『追い払う』ことであり、追いつく必要はなかったのだが、一見冷静な橘花も敷島同様に、まるでそのことが脳内から抜け落ちてしまっていた。

橘花「……中々追い付かないわ」

敵機はその作戦の性質上、攻撃翌力を犠牲にし、代わりにスピードを限界まであげていた。
いくらファルコートの機能が優れているにしろ、そのままの状態ではとても敵機には追いつけない。


橘花「……ならば!」



173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:30:52.16 ID:Jr2szphAO
そう言った途端、胸のロックが外れ、中から銃の様なモノが飛び出した。

橘花「拳銃ってより、ライフルね。これ」

橘花「進行調整機能稼働確認……行けるか」

橘花「……行けるわ。何発か叩きこめれば――」

ファルコートは速度を若干落としつつ、銃を構える。


2機が漆黒の闇を駆け抜ける。


重量制御装置のついている右足裏をピンポイントで狙った。

……調整機能、補正機能が稼働し、狙いが定まる。





そして、弾は放たれた――






174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:31:32.05 ID:Jr2szphAO
弾は何発も何発も、美しく線を描きながら、まっすぐに目標へ進んでいく

そう。走行しながらといいつつも
補正機能、調整機能を使えば『まず』、5発のうち1発位は当たる。

――しかし、『まず』は100%ではない。

それは彼女も分かっていたハズだった。ハズだったのに



撃ってしまった。



――20発、全弾、相手機は撃たれていることを『知らなかった』にも関わらず、回避されてしまった。

いや、回避と言う言い方は可笑しい。

この場合、『当てられなかった』と言う方が正しいのかもしれない。



敷島・新兎「ぜ……全弾外れ……」

敷島・新兎「うっ、嘘だろ……」



揉み合っていた二人も思わず動きを止めてしまう。



175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:32:10.89 ID:Jr2szphAO
橘花珠理、彼女は天才と呼ばれていた。

それは大学に通っても、はたまた軍に入った時からも変わらないことだった。

が、彼女の唯一の弱点。それが『射撃』だった。

彼女らしく「天才的」な迄に的に当たらず、今まで狙った目標に命中させたことは皆無だった。

やはり機械は人には勝てないとでもいうのか、いや、彼女が機械に使われてはいないと言う何よりの証拠だとでも言うのか……

彼女は静かにユニシグを収納し、離れて行く機体を鋭く睨み付けた。



橘花「……逃がさない」



呟く。

桃色の唇が、血で真っ赤に染め上げられた。

そのまま雨粒のごとく滴る…が、彼女はそれを決して拭おうとはしない。


――ちなみに今日は「赤口」ではなく「先負」なのだがどうだっていい


176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:32:47.61 ID:Jr2szphAO
しばしの興奮。





橘花「絶対、逃がさないんだからアアアアアアアアっ!!!!!!」







直情径行、匹夫之勇、獅子奮迅、暴虎馮河。



橘花は目を限界まで開き、吠えた。

普段は比較的冷静な彼女だったが、まるでそれをどこかに売り飛ばしてしまったような、
敷島以上に血気盛んな兵士に成り変わってしまっていた。





橘花「エマージェンシーモード、起動!」






そう言い放ち、『音声、認識しました』と言うアナウンスが流れると共に
ファルコートは妙な音を立て始めた。

177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:33:17.74 ID:Jr2szphAO
ボルトが外れ、煙が吹き出、そして、ファルコートを覆っていた装甲が外れ始める。

肩、背中、腰、足


……頭。

迷いを振り払うかのように、それらを脱ぎ捨てて行く。

ずんぐりむっくり気味だった機体は、まるでモデルの様な体型に変わった。

装甲を最低限にまで絞ることで、防御と攻撃を犠牲にし、スピードを上げる。敵機と同じ作戦だ。

ただし、本来は緊急事態…いわば『脱出』の為の機能の為の装置であり
また、エマージェンシーモード(EM)を使用すればその後の整備について負担が大きくなるため
戦闘の際に使用されることは『まず』ない。

――橘花は己の感情を剥き出しにしたまま、敵機に向かっていく。



それはまるで、見境なく己を打ち付けまくる雷のごとし




178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:33:52.91 ID:Jr2szphAO

一方。

脱ぎ捨てた装甲達は後ろにいた機体2機に迫っていた。

ループ脱出に成功した神前は敵機を追っていたが、
同時に、敷島からも追われていた。

敷島「橘花閣下もあんなに頑張ってらっしゃるんだ。本官もオオオオオオオ!!!!!」

新兎「だから!!!!!!俺じゃねーつってんのに……」

新兎「って、うええええええああああああ!!!!!!?」

最初に異変にいち早く気がついたのは神前だった。

目の前から、先ほど橘花が脱ぎ捨てた装甲が迫ってきていた。

新兎「ちょ、ちょおおおおおおおおおおおおお!」

レバーを思いきり右に寄せ、次いでに体ごと右に寄せる。

敷島との揉み合いで、かなり『避ける』動作に関してはこなせるようになっていた。

179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:34:29.82 ID:Jr2szphAO
新兎のウィッチのギリギリを装甲は通り抜ける。


新兎(何とか間に合った………)







と胸を撫で下ろすが、その後ろには



今にも新兎に追い付こうとしていた敷島と、ファルコートがいた







――次の瞬間、音にならない轟音を上げた。


180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:35:01.79 ID:Jr2szphAO
衝突したのがファルコートで良かったと言うか何というか

所々破損しているが何とか原型を留めていた

が、全く動かない



新兎「……気絶してるか死んでるかだな…こりゃ」



何とか、機体の所属艦であるカスミに通信を取ろうとするが繋がる訳もなく、
かといって見捨てるわけにもいかず…仕方なく新兎は追い掛けることを諦め
ファルコートを抱えながら通信・レーダー機能が回復するまで立ち竦むしかなかった。


181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:35:31.03 ID:Jr2szphAO

――――

橘花機は目の前のウィッチを追い詰めていた。

橘花の瞳は見開き、普段からは想像出来ないような般若のような面をしていた。




『制御不能』

『手』

肉片

肉片

肉片

肉片

肉片

肉片

肉片

肉片

肉片

肉片



『肉片』


橘花「………あああ」




橘花「嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼アアアアアアア!!!」





182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:36:02.59 ID:Jr2szphAO
最早、『冷静』などという言葉は何処にもない。




一気にスピードを限界まで上げ、がむしゃらに相手機に殴りかかる。

が、中途半端な彼女の理性が邪魔をする。

『なるべく、[ピーーー]な』


ギリギリの所で避けられ、かする程度だった。


橘花「……ちょこまかと」



が、明らかに相手はどこか、動揺している様子だった。

腰の辺りから小さく煙が立っている。


――腰に付けられていた装置に拳がヒットし、破壊されていたのである。


橘花「………」


橘花は肩で呼吸する


手元のメーターを見ると、本来より、無茶をしたせいかエネルギーが減ってしまっていた

橘花「……時間がない」




橘花「逃がさない……」




橘花「……逃がさないんだからァ!!!!!」



183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:37:24.50 ID:Jr2szphAO
――――

【カスミ艦内】

白鷹「通信…回復したぞ!」

秋津洲「状況は!?」

白鷹「貨物船はどうやら無事か……」

白鷹「ファルコートも2機ともに健在、軍のコードを保有しているウィッチも健在だが…」

秋津洲「……どうしたの」

白鷹「一機…鷲宮准尉の機体が活動停止、生命維持モードに切り替わってる。」

秋津洲「やられたか…」

白鷹「ただ、近くに軍のコードを保有しているウィッチが停滞してるけど」

霧島「とりあえず、敷島機に通信繋げ。」

白鷹「了解」

霧島「敷島、敷島聞こえるか?聞こえるなら返事をしろ」

敷島『………』

白鷹「反応……ありません」

霧島「気絶してるか、死んでるか……だなこりゃ」

白鷹「しっ…死んでるって」

184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:38:26.07 ID:Jr2szphAO

霧島「ウィッチ側に通信切り替えしてくれますかァ?」

霧島「ウィッチのパイロット、聞こえるか」

新兎『あっ…あの!』

霧島「事情は後で聞く。まずは急いで、その間抜けにひっくり返ってるファルコート、こっちに運んできてくれないか?」

新兎『りょ…了解しました!』

霧島「……ま、問題児はこれでいいとして。橘花は?」

白鷹「現在、相手機と交戦中だよ艦長さん」

霧島「交戦って…追い払うだけでいいって言いましたのにぃ……」

頭「頑張りやさんなんだなぁ…」

霧島「橘花!橘花!」

橘花『……うおおおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!』



獣のような雄叫び。
185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:39:45.05 ID:Jr2szphAO
秋津洲「き…橘花大尉!?」

白鷹「応答!応答しろよ珠理ちゃん!!」

橘花『絶対に!!逃がさないんだからアアアアアアアアア!!!!!』

白鷹「ダメだ…聞いちゃあいねえ!」

霧島「嗚呼、逆だったか……」

秋津洲「状況は!」

白鷹「……珠理ちゃん、こっちに向かって猛進してきてる……」

秋津洲「猛進?一体彼女は何を……!」

橘花は稼働限界が近づいて来ているのか、スピードが落ちて来ている相手機に仕掛けた。

両手を翼の様に斜めに広げ、一目散に目標へ、銃弾の様に迷うことなく突き進んでいく。

186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:40:10.46 ID:Jr2szphAO
橘花「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

レバーを握りながら、重量や高度を調整しつつ、叫び狂う。

汗が飛び散り、折角一つに束ねていた髪もほどけ、まっすぐに切られた前髪も乱れる。

整った顔は歪み、表情は険しい。

が、戦乙女のようで美しく、凛々しくもあった。

今度は避けられることもなく、相手に身体をぶつけられた。

ただし、エマージェンシーモードを起動してしまっている為か、「決め手」となる程のダメージは与えられない。

彼女はそのまま、敵機の腕と腰を掴み、足を絡め、無我夢中で…一気に敵機と共に突き進んでいった。

橘花『3番ゲート、開放おおおおおおおおおおおお!!!!!!』

白鷹「さ……3番ゲート!?」

秋津洲「ちょっと、何をする気よ橘花大尉!」

187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:42:08.28 ID:Jr2szphAO
技術部員「に…2号機、敵機とともに3番ゲートの方向に突っ込んで来てます!!」

秋津洲「まっまさか…彼女……自分の機体ごと相手機を叩き付ける気じゃ……!」

霧島「最近の若者は過激だね…こわい」

榛名「……霧島くんのとこは『特航隊』じゃなくて『特攻隊』だね〜」

秋津洲「さ……3番ゲートっていうと……」

白鷹「……格納庫に直結してる」

頭「うえええええええええええええええ!?」


秋津洲「橘花!橘花大尉!」

橘花『うああああああああああああああああ!!!!』

頭「ちょ!ちょ!ちょ!やめ!やめて!やめてえええ!」

霧島「もう誰の声も聞こえないんじゃないんですかね」

188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:42:43.89 ID:Jr2szphAO
白鷹「このままゲートに衝突すれば、相手どころか……!」

秋津洲「……仕方がない。ゲート、開け!!」

白鷹「……3番ゲート、オープン!」

頭「もういいよ……全員退避」

部員「りょ…了解!退避!退避ぃぃぃぃぃ!」


ゆっくりと大きく「3」と書かれたゲートが開いて行く。


霧島「とりあえず、緊急用の低反発材をセット。それから医療班も待機…って言っても乙女ちゃんしかいないけど」

白鷹「りょ…了解!」
189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:43:13.86 ID:Jr2szphAO
橘花「これで決めてやるんだからアアアアア!!!」



迷うことなく、突き進むこと矢のごとし。


電光石火、疾風迅雷、迅速果敢、光芒一閃、紫電清霜

橘花機は稲妻のように鋭く、光輝きながら空間を貫く。





雷鳴が響く




橘花「大和魂……舐めんじゃ」

橘花「ないわよオオオオオオオオオオオオ!!」


……そして、相手機を壁に叩きつけた。



――轟音が辺りに響き渡る




190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:43:39.10 ID:Jr2szphAO
緊急用の低反発材が敷かれていたとは言え、壁は一部崩れ、棚や道具がばら蒔かれていく。

橘花自身も反動で、置かれていたもう一機のファルコートに激しくぶつかった。


いくら丈夫で新品の新型機であり、九重機の装甲が薄いと言えどもタダで済む訳もなく
見るも無惨な傷物に変わってしまった。




秋津洲、霧島、白鷹、頭、それから乙女が格納庫にたどり着いた時

――そこはもう、まるで落雷の後のような、見るも無惨な光景に変わり果ててしまっていた。



191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:44:24.23 ID:Jr2szphAO
霧島「……嗚呼」

白鷹「相手のパイロット死んでるんじゃねえのか……」

頭「ってEMまで使っちゃってますよ!」

秋津洲「とにかく、橘花大尉は!?」

榛名「ハッチを開けてみなきゃ分からないわ!技術部!!」

技術部員A「野郎共!!開けるぞ!!!!」

一同「おう!!!!」

掛け声と共に…ハッチが開けられていった。


192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:45:44.86 ID:Jr2szphAO
―――――
【救護室】


霧島「……敷島と橘花の様子は?」

榛名「命に別状はなくってよ。」

榛名「とりあえず橘花ちゃんは擦り傷程度。敷島くんは脳震盪と、ちょっと右腕を折ってるくらいかしら。念のため彼は一晩預かるけど…あの子達と機体の丈夫さを誉めてあげたいわね」


霧島「そうか…良かった」

榛名「それより、重症なのが頭さんよ。さっきからずーっと救護室のベッドの中で泣いてるの。」

頭「うぐっ…ひくっ…………」

頭「頑張ってぇ…徹夜で…張り切って仕立てたのにぃ……てたのにぃぃぃ………うぐっ……」

霧島「………」

榛名「技術部もお通夜ムードよ。」

霧島「……どうしよう」

榛名「どうしようも、それをどうにかするのが霧島君の仕事でしょう。」

霧島「……とりあえず、二人には後で応接間に来るように言っといて」

榛名「了解。」

榛名「………」

霧島「なに?」

榛名「ううん。霧島君、楽しそうだなって。」

霧島「……楽しいわけ、ないじゃん」


193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:46:38.83 ID:Jr2szphAO
【艦長室】

敷島「………」

橘花「………」

神前「………」

パイロット三名はうつ向きながら横一列に綺麗に並んでいる。
橘花には頭、敷島には腕と首と頭に包帯が巻かれていた。

秋津洲「聞きたいことは幾つもあるんですけれど…まず一つ。何故、あんな無茶をしたのかしら」


橘花・敷島「申し訳ありませんでした」

秋津洲「何故、と聞いているのだけれど…まあいいわ」

秋津洲「ファルコート3機破損、設備と予備機の一部も破損」

秋津洲「その上、残念ながら機体は確保したものの、肝心のパイロットには逃げられ、移動挺一機が盗まれました。」

秋津洲「…今回のケースは電波妨害の影響で予定外のトラブルが引き起こされてしまった、と言うことで色々と大目に見ます。」

敷島・橘花「はい」

秋津洲「…と、いう訳で3名は」

敷島「日本男児として、これ以上恥を晒す訳にはいきません!」


秋津洲「……えっ?」

敷島「私、自害致します!切腹は適当な刀が足りない故、拳銃にてお許し下さい!!ぐっ……」

秋津洲「ちょ、ちょっとお!?」

194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:47:09.37 ID:Jr2szphAO
【艦長室】

敷島「………」

橘花「………」

神前「………」

パイロット三名はうつ向きながら横一列に綺麗に並んでいる。
橘花には頭、敷島には腕と首と頭に包帯が巻かれていた。

秋津洲「聞きたいことは幾つもあるんですけれど…まず一つ。何故、あんな無茶をしたのかしら」


橘花・敷島「申し訳ありませんでした」

秋津洲「何故、と聞いているのだけれど…まあいいわ」

秋津洲「ファルコート3機破損、設備と予備機の一部も破損」

秋津洲「その上、残念ながら機体は確保したものの、肝心のパイロットには逃げられ、移動挺一機が盗まれました。」

秋津洲「…今回のケースは電波妨害の影響で予定外のトラブルが引き起こされてしまった、と言うことで色々と大目に見ます。」

敷島・橘花「はい」

秋津洲「…と、いう訳で3名は」

敷島「日本男児として、これ以上恥を晒す訳にはいきません!」


秋津洲「……えっ?」

敷島「私、自害致します!切腹は適当な刀が足りない故、拳銃にてお許し下さい!!ぐっ……」

秋津洲「ちょ、ちょっとお!?」

195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:48:14.94 ID:Jr2szphAO
――――

霧島「弾切れで良かったね」

秋津洲「…とにかく。今回の件に関する反省文を提出すること」

敷島・橘花「はい」

新兎「えっ…えええっ!?」

新兎「あっ…あの…俺…まで?」

霧島「朗報です新兎くん」

霧島「始末書と違って記録に残らない。やったネ!」

新兎「……そう言う問題じゃ」

秋津洲「とにかく、敷島・橘花両名…特に橘花大尉」

橘花「……はい」

秋津洲「…私の言いたいことは分かります?」

橘花「……わかります」

秋津洲「私達の仕事は、『敵を倒せればそれで良い』と言う訳ではないんです。場合によっては味方に大きな損失を与えるばかりでなく、アナタの身も危険に晒されるわ」

秋津洲「感情は燃料にはならないんです。わかるわよね?」

橘花「…はい」

秋津洲「もういいわ。以上が私からの訓告。霧島艦長からも一言どうぞ」

霧島「三者共に無事に帰還し、一応の任務を遂げた事に関しては、当艦の長として胸熱く、心から賛辞の言葉を送りたい。うんうん」

196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:50:22.49 ID:Jr2szphAO
霧島「が、先の訓示を忘れては困る。確かに『迷うな』とは言ったが、『死なない』と言うこと、『無茶をしない』と言うことはそれ以上に必要なことである。」

霧島「今回は特殊なケースであるからして、それも考慮し、不問とするが……ああ、もうなんか自分でも面倒臭いからまとめると」

霧島「『今度から気をつけて下さいね』って言えるのは君たちが生きてたから言える事なんです。分かります?」

敷島・橘花「……はい」

霧島「そこんとこが分かれば上出来です。今度から気をつけて下さいね」

霧島「って事で解散してよし!」

197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:51:35.00 ID:Jr2szphAO
霧島「ああそうだ…新兎くん、ちょい待ち。」

新兎「……えっ」

霧島「『アレ』、持って来た?」

新兎「『アレ』?」

霧島「時計。この間お前んとこに忘れちゃって、ゲロゲロゲロッピー」

新兎「ああ、それなら…」

ポケットの中をがさごそと探った。

新兎「あった。…これですか」

霧島「そうそう!あ・り・が・と」

新兎「……」

霧島「もしかして、ちょっと根に持ってるぅ?」

新兎「かなり」

霧島「悪かったって!謝るから、なっ?なっ?なっ?」

新兎(……うぜえ)

霧島「そんな目しないでくれよ…。秋津洲さんにこっぴどく叱られた後だから…おじさん泣いちゃうぞ☆」

新兎「……とりあえず、反省文書かなきゃいけないんで失礼します」

霧島「あっ、そうだ。それからもうひとつ。」

新兎「…何ですか」


霧島「ようこそ、カスミへ!」


そう言ってニヤリと笑う霧島の姿に、神前は薄ら寒さを覚えた。


198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:52:29.07 ID:Jr2szphAO
――――

秋津洲「…その時計、ノーチラスじゃないですか。そんな高価な物を霧島大佐が持ってるなんて意外。」

霧島「これ?やだあ違いますよぉ!オークションで掴まされたニ・セ・モ・ノ」

秋津洲「……ああそうですか」

霧島「そっちよりこっちの方が高いくらい!!」

秋津洲「…発信器?」

霧島「そう。広範囲に使える、電池切れもナシって超優れもの!すんごいでしょ〜?」

秋津洲「なるほど。だからあの時、艦長は襲ってきたって判断出来たって訳ですね」
秋津洲「そんな高性能の発信器から発信がなくなるとしたら…何者かに電波妨害されたという可能性が大きいですものね」

霧島「正解!じゃあ豪華景品としてプレゼンt秋津洲「いりません」

199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:54:25.01 ID:Jr2szphAO


秋津洲「しかし、初戦からとんだ黒星ですわね」

霧島「そんなことも無いと、僕は思うんですけどね?何だかんだでデータじゃ分からないようなパイロットの力も見れましたし」

秋津洲「…にしては損失が大き過ぎます」
秋津洲「って…そういえば、紫雲准尉は……」

プルルルルルル

霧島「電話ですよ」

秋津洲「…艦長の方が近いんですから出てくださいよ」

秋津洲「……もしもし」

白鷹『さっきクワシマの貨物船から連絡があったんですけど』


秋津洲「クワシマ?」
200 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:55:40.33 ID:Jr2szphAO
――――

【廊下】

霧島「あの軍嫌いのクワシマがカスミに停泊許可ですかぁ」

秋津洲「ワザワザ紫雲少尉を送り届けに来てくれるなんて…」

霧島「……」

秋津洲「……あの」

霧島「なんですか?あんまり僕が醤油顔のハンサムボーイなんで看取れてました?」

秋津洲「どこまで知ってたんですか」

霧島「やだ、僕は『最低限の事』しか知りませんよぉ!」

秋津洲「…言い方が間違っていました」

秋津洲「どこまでが艦長の計画だったんです?」

霧島「けっ…計画って印象悪いなァ……」

秋津洲「結果的に恩を売れなかったクワシマに恩を売れたんですから。」

霧島「や…やだ、恩を売るなんて理由じゃないですよぉ。単に正義の心、それだけです。」

秋津洲「正義、ですか。」

秋津洲「……んふっ」

霧島「わらうことないと思いますけど」

霧島「まあ、ただビックリしたのは……」

秋津洲「したのは?」

霧島「……ウィッチの塗装がまんま一緒だったってこと、ですかね」

秋津洲「ホントにあれ、偶然だったんですの?」

霧島「偶然もなにも…最新機の話は聞いてましたけど、塗装までは流石に」

秋津洲「んふっ…ごめんなさい……ふふふふふふふふっ……」

秋津洲「ホント……そう言えば艦長の私服、ユニークですものね、んふっ!」

霧島「……」


201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:57:05.05 ID:Jr2szphAO
―――――

敷島「……」

橘花「……」

新兎「……」

三人は廊下をひたすら無言のまま歩き続ける。

妙な空気が漂う。

橘花「…悪かったわね」

敷島・新兎「へっ…」

橘花「…じゃ、着替えるから」

そう言い残し、橘花は『淑女』と書かれた和風造りの更衣室に消えていった。




新兎「……なんだアイツ」

202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 01:59:23.44 ID:Jr2szphAO
敷島「“アイツ”とは何だ!」

新兎「……何だよ。お前だってアイツに被られたクチだろ」

敷島「貴様は知らないだろうがな、あの方はだな、モんノすごいお方で……」

新兎「だからなんだっての。同じ部隊のパイロットなんだから同等だろ」

敷島「ケッ!貴様の様な素人軍人がいるから最近の軍隊は……」

新兎「ああ!そうだよ!!俺はあのクソ艦長に『無理矢理』連れて来られた素人軍人だよ!!ケッ!」

敷島「無理矢理、だと?なら帰れ!今すぐ地上に帰れ!!」

新兎「ああ!今すぐ帰りたいよ!辞めたいよ!だけどな、お前みたいな『単細胞生物』には俺の事情なんか分かんないんだろーよ!!」

敷島「たっ…単細胞ォォ?」

新兎「だろーぅ?あの戦略もクソもない単純さ、笑っちゃうよなぁ!」

新兎「しかも味方の装甲に頭ぶつけて気絶してやんの!やーい素人軍人!!」

敷島「な……ぬぁんだとォォォ!?」

新兎「素人軍人さんには俺に感謝してもらいたいね。ここまで連れてきて差し上げたんだからぁ〜」

敷島「ファッキン!いいぜ!貴様、二度とそんな口が聞けないように粛清してくれる!!」

新兎「おう!掛かってこいやウサ野郎!」

敷島「俺はアメリカじゃねえ!ドイツだ短小野郎!!!」

新兎と敷島は掴み合い、殴りあいを始めた。

203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 02:01:33.64 ID:Jr2szphAO
そこへ白鷹が通りかかる

白鷹「ちょっと、何してんだよ二人とも」

敷島・新兎「部外者は黙ってろ!!」

白鷹「部外者だと!お前らのせいでこのくそ忙しいときに!!」

敷島・新兎「だから、インドアギーク野郎は黙ってろっつってんだろ!」

白鷹「い……インドア…ギーク…野郎?」

新兎「だろ?俺達が命懸けで戦ってる一方で」

敷島「暢気にカタカタタイピングってか」

白鷹「おまえらぁ……!!!!」




アリナ「ということは私も、タイピングしか能がないインドアギーク野郎ってことですか?」

204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 02:03:48.68 ID:Jr2szphAO
敷島・新兎「うるせぇ!メスは……」

アリナ「……メスは?」

敷島「って……んなっ!」

新兎「なっ…なんで…アレッ…?」

アリナ「クワシマの社長さんがここまで送ってくれたの」

敷島「あっ…そ、そう…」

新兎「…なんで…すね……」


新兎「『神前さん』のこと、感謝してたよ。社長さん」


新兎「あ…ああ……そう……」

アリナ「では。私はこれからタイピング作業がありますので。白鷹さん、お手伝いお願いします」

白鷹「りょ、了解……」

新兎「あ…あの……」

アリナ「……なにか?」

新兎「おこっ……てる?」

アリナ「………」

アリナ「すごく」

新兎・敷島「………」






第一話・了

205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 02:05:05.13 ID:Jr2szphAO
今日はここまで
全20話くらいの予定です
クソ長い上、色々アレですがお付き合いありがとうございました
206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県) [sage]:2011/06/08(水) 08:44:37.39 ID:itySsz35o
すごく面白い!期待!
207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/08(水) 11:44:48.23 ID:BfaRlePDO
面白いぜ
1回の投下が多過ぎる気がするがww
208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 23:20:15.01 ID:Jr2szphAO
投下再開

今回は少ないと思います
209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 23:20:48.37 ID:Jr2szphAO
第二話

『グレーゾーンから愛をこめて』




配属初日。

いかにも『寄せ集め』らしい初戦を終えた彼らはその後
不祥事の一通りの処理に奔走させられていた。

頭を抱える戦艦のナンバー2、秋津洲に、楽しげにそれを眺める艦長、霧島。
救護室で泣き叫ぶ技術部長に、お通夜モードの部員達。

不協和音を奏でる戦艦のクルー達に、新兎はひどい目眩を覚えた。


210 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 23:21:21.02 ID:Jr2szphAO
《午後9:00》

廊下。


案内役のアリナの後ろを歩く新兎。

二人の間には、妙な空気が流れていた。



アリナ「ここがとりあえず神前准尉のお部屋ですね」

新兎「えっ、あ…ああ、ありがとう」

いかにも近未来的な扉だ。
新兎が手を触れると、認識音がしたのちに扉がスライドする。

中は…外見に反し、畳のいかにもな和室だった。

211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 23:22:04.99 ID:Jr2szphAO
新兎「うえっ……」

というか単に和室と表現するより、合宿所の一室と表現したほうがいいかも知れない粗末なものだった。

新兎(これならまだ学校の寮の方がマシだった……)

新兎(とは言いつつも…一応個室なのか)

アリナ「布団はそちらにありますので敷いて使って下さいね?」

新兎「わ……わかった」

アリナ「それじゃあお休みなさい」

新兎「ちょ!ちょっと待った!!」

アリナ「……何か、解らない点でも?」

新兎「夕飯…まだだよな?」

アリナ「ありませんよ」

新兎「えっ」

212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 23:24:17.43 ID:Jr2szphAO
アリナ「だから、今日の夜ご飯は『ナシ』なんだよ」

新兎「う、うえええ!?」

新兎「なっ、なんで…だって食堂くらいは…!」

アリナ「食堂はあるけど」

新兎「じゃあ……」

アリナ「ただ、『コックさん』がいないんです」

新兎「………」

新兎「……えっ?」

アリナ「要は、予算の関係で雇えないの。だから、我々自身でご飯を作るしかないんだよ」

新兎「い、今のご時世に自炊ィィ!?」

アリナ「仕方がなんだよ、こればっかりは。私達は過疎の村の駐在所のお巡りさんと言ったところなんでしょ」

新兎「……そんなに金がないんですか」

アリナ「お金が主食と言っても過言ではないファルコートを3機も配備させてるにも関わらず、予算は増やして貰えるどころか、人員の削減に伴い減らされるたんだから。」

新兎「腐っても、宇宙空間上の最前線基地なんですよね?なんで…」

アリナ「今が平和なら、ずっと平和なんだと思い込んでいるんだよ。」

アリナ「ただでさえ赤字が増えていっているようなものなのに、今回の一件で財政状況は圧迫される一方なんだから」

213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 23:25:53.19 ID:Jr2szphAO
アリナ「機体や設備についてのお金は減らせませんから。私達人間の方が我慢しなきゃならないの」

新兎「んなアホなァ……」


アリナ「で、今日のお当番は技術部の方だったんだけどね、整備の関係で無理みたいなの」

新兎「じゃ…じゃあ!フタツキから出前は……」

アリナ「この時間じゃデリバリーなんてしてくれないよ。頼みたくても出来ない」

新兎「…調理ロボットは」

アリナ「お聞きになりたい?」

新兎「……いえ」

214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 23:26:56.65 ID:Jr2szphAO
アリナ「ですから、こう言うときは早めに寝ることが吉だよ」

アリナ「はい、これどうぞ」

新兎「……何これ」

新兎の手のひらに、ポン、と2粒の無機質な錠剤が乗せられた。

アリナ「栄養剤。」

新兎「……えっ」

アリナ「明日は7時に起床。それではおやすみなさい」

新兎「えっ……」

アリナ「おやすみなさい」

新兎「お…おやすみなさい」

215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 23:27:54.19 ID:Jr2szphAO
プシュッ、と扉が閉まると同時に、新兎は畳に倒れ込んだ。

新兎(今日は…地球からカスミに移動するだけのハズだったのに、なあ……)

新兎(……疲れた)


新兎の脳裏に、嫌な記憶が蘇った。


――2年前のこと


志望校の、世間ではそれなりに名の通っている、それなりな偏差値の、それなりの就職率の、
『それなり』な大学に合格していたにも関わらず、半ば強制的に、軍の士官学校に入学させられた。



とは言っても、そのまま志望校に進むことも、自分の貯金や奨学金を使えば十分出来たはずだった。




――が、新兎はそう『しなかった』のである。

216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 23:28:20.27 ID:Jr2szphAO

確かに、志望校に合格し、進学したとして
彼は『何をしたかったのか』、『何をすべきだったのか』
未だに答えることが出来なかった。




新兎(……ただ)

新兎(………もういいや。)



電気を消す気力も彼には残されておらず、そのままパタリと眠りについてしまった。

217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 23:28:46.40 ID:Jr2szphAO
―――

新兎が眠りに付いた後もカスミは慌ただしかった。

先程起きた、一連の騒動により最新機2機が大破、予備機1機も破損。
その補修作業に70人程いる技術部員達は追われていた。

しかも移動挺を盗まれ、侵入したパイロットを逃がすという散々たる戦果に、
艦の実質的な『責任者』である、秋津洲は頭を抱えていた。

218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 23:29:32.43 ID:Jr2szphAO
霧島「ふぶきちゃん、コーヒー飲みますぅ?サービスサービスぅ♪」

秋津洲「結構ですわ。」

霧島「参ったなぁ…2つ入れて来ちゃったんですけどぉ…困ったなぁ……」

そう言いながら両手にマグカップを持ちながら呑気な顔をしてやって来る
ロングコートに手袋…いかにもアニメにでも出てきそうな『艦長』と言った様な出で立ちをしているのが彼女の最大の悩みの種である
階級下の上司であり、この戦艦の艦長である霧島だった。

219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 23:29:58.75 ID:Jr2szphAO
秋津洲「じゃあ両方とも艦長がどうぞお飲みになって下さい」

霧島「技術部は徹夜で作業でしょうから、飲んだ方が良いですよぉ?」

秋津洲「そう言えば今日の当番は……」

彼女は『悟った』のか、秋津洲はマグカップを受け取り、口をつける。

霧島はよくこうしてちょくちょく副艦長室へやって来る。と言うより邪魔をしにくる。
部屋にある、滅多に来ない客用のソファーに居つくのである。
こうなると数時間は自分の部屋に帰らないし、悪いときには丸3日居座る時もあった。
それとなく戻る様に促すが、当然の如く言うだけムダである。
220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 23:30:31.51 ID:Jr2szphAO
秋津洲「……」

霧島「機嫌でも悪いんですか?」

秋津洲「どうでしょうか。…ただ」

霧島「何でしょうか」

秋津洲「何となく、割りにあわない気がしましてね」

霧島「……まっさかァ」

秋津洲「とりあえず明後日には今回の件に置ける予算の追加申請と…それから、艦長に変わってお叱りを受けて来なければなりませんから。その間はよろしくお願いします」

霧島「叱り?ジャミングで一連の映像はあっちに行ってないハズですし、きちんと一応しょうこいんm…もとい、事後処理は完璧に済ませたんですけど」

秋津洲「そちらは完璧なまでに、でしたわ。少しは生活の方にも生かしてみてはいかがかしら?」

霧島「…まだ怒ってるんですか」

秋津洲「いいええ」

221 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 23:31:28.89 ID:Jr2szphAO
霧島「じゃ…じゃあ、そっちじゃないとしたら一体……」

秋津洲「…紫雲少尉の方、です」

霧島「アリナさんがどうかしましたっけ」

秋津洲「艦長、彼女を地球に『一人で』置いてきましたよね?」

霧島「やっ、やだ、ふぶきちゃんは誤解してるみたいですけど、完全に一人にはしてはいませんって!」

霧島「知り合いの家に一晩泊めて貰っただけですし、空港までだって送って…」

秋津洲「そんなことは関係なしに……上層部は事前の申請なしに紫雲少尉を地球に降ろしたこと」

秋津洲「それから、一晩紫雲少尉の居場所が特定出来なかったことにお怒りの様ですよ」

霧島「それじゃあ、ちょっとアリナさんがあんまりじゃないですか?まるで…」

秋津洲「監視ですわ。いくら彼女が特殊なプロジェクトの被験者だからって、艦長からの申請がない以上は、そこまで干渉するべきじゃないと思います。私だって」

秋津洲「……だから勿論抗議もしました」

222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 23:31:54.30 ID:Jr2szphAO
秋津洲「だけど聞く耳持たず。『総司令部の決定だ』の一点張りです。」

霧島「軍は…どうしてもアリナさんをカスミから出したくないっていうんですかねぇ」

秋津洲「再編成の件と言い、私にはさっぱり上の考えてることが分かりません」

霧島「上の考えてること…ね」


そう言いながら霧島はコーヒーの中にスティックシュガーを6本、クリームも同量、その上黒砂糖を3つぶちこんだ。

霧島「これがゲロウマ〜なんですよね」

秋津洲「甘く…ないんですか?」

霧島「全く。おええええっ」


223 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 23:32:23.55 ID:Jr2szphAO
――翌日


夜が開けた、と言っても特に窓の外の景色にはあまり変わりがない。

ただ、照明がより明るいものに切り替わり、
人工ではあるが太陽の光に似せてあるので何より身体がそうだと分かる。

霧島「おはようさんさん、アリナさん!」

相変わらずの、まるでコスプレのような格好をした霧島が、いい笑顔をしながらブリッジへやってきた

アリナ「おはようございます。と言っても、もう11時を回っていますが」

霧島「てへっ☆」

霧島「最近は時間の感覚がなくなっちゃって…参っちゃうよなァ」

224 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 23:34:34.01 ID:Jr2szphAO
霧島「しかし、アリナさんは相変わらず働き者ですねぇー。」

アリナ「そんなことないですよ。白鷹さんなんて、昨日から全然寝てなかったみたいなんですよ」

アリナが後ろを指差すと、頭を振り乱した白鷹が、口元を緩ませながらも、鬼のような形相でキーボードに指を叩きつけていた。


霧島「システム自体の破損はそんなに無かったんでしょ?」

アリナ「はい。作業は昨日の夜には終わったんですけどね、例のごとく……」

霧島「…システムの強化か」

白鷹「フヒヒヒ…」


メインコンピューターの強化、それが彼女の生き甲斐そのものだった




霧島「……随分と生き急いじゃってるご様子で」

225 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 23:36:07.42 ID:Jr2szphAO
頭「艦長おはようございます」

霧島「あ、おはようございます」

霧島「死にそうな顔してるけど…大丈夫?」

アリナ「ちなみに、技術部さんは昨日からの作業、予定の2倍まで進行しちゃってるんですよ」

霧島「…マジ?」

アリナ「マジです。艦長さんは怠けんぼさんになっちゃうますよ」

霧島「やっだ、技術部が働き過ぎなんですってば…」

榛名「良く遊び、良く食い、良く働け!これがカスミ技術部のモッッットォォォォだああっあああッ!!」

霧島・頭「……いつの間に」

226 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 23:38:38.57 ID:Jr2szphAO
榛名「お早う霧島くん♪」

霧島「おはよう……」

頭「オハヨウゴザイマス」フラッ

アリナ「……寝たらいかがですか?」

頭「睡眠ですか?そうですね……秋津洲さんにお説教喰らってるときにでも……」

「あら。じゃあ私が訓告している間はいつも、貴方達のお昼寝の時間になってたんですのね」

頭「!!」


振り向くと秋津洲が髪を耳に掛けながら良い笑顔をしていた。


頭「あっ…秋津洲さん……!」

秋津洲「おはようございます」

頭は振り向きざま、硬直してしまう。
その姿は、まるで盗み食いがバレた飼い犬の様である。

頭「や…やですねぇ。ものの例えですってばぁ〜!ユニバァァァーサルジョークってやつです!!!あはははははははははは」


秋津洲「そんな冗談言ってないで、少しは皆をきちんと寝かせないとダメですのよ。」

頭「は…はあ………」

秋津洲「午前中は技術部のお仕事、お休みにしますから夕方まで寝ていて下さい。」

227 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 23:39:18.42 ID:Jr2szphAO
頭「あの…でもォ……」

秋津洲「『命令』ってタイトルの子守唄でも歌いましょうか?」

頭「了解!今すぐに!!」

秋津洲「それと艦長。後でお話があります」

霧島「命令ですか」

秋津洲「……はい?」

霧島「さあ!僕にも命令して下さい閣下ァ!!さあ!!!」

秋津洲「………」

霧島「ああ!ふぶきちゃん!無言の命令ですか!!了解であります!!!」


アリナ「……一体どうしたんでしょうか、艦長さん」

頭「ああ言うのを変態っていうんだよね」
228 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/08(水) 23:40:02.22 ID:Jr2szphAO
今日はここまで

ありがとうございました
229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 13:00:17.28 ID:hPo+jg1AO
第二話再開
230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 13:02:27.12 ID:hPo+jg1AO
秋津洲「それから紫雲少尉」

アリナ「はい」

秋津洲「神前准尉をそろそろ起こしに行って貰えないかしら」

アリナ「了解しました」

秋津洲「それから、頭さんと白鷹さんもきちんと休んで下さいね」

頭「あの…寝なくてもォ……」

白鷹「一晩くらいは大丈夫だぜ」

秋津洲「寝てください。後々に響きますから。」

頭「……了解」

白鷹「ちぇ…りょーかい」

霧島「……」

秋津洲「ほら、艦長。しっかりしてくださいな」

霧島「いや、あのぉ……」

霧島「……すいません」


231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 13:04:05.96 ID:hPo+jg1AO
白鷹「副艦様も苦労が耐えないな」

頭「ちょっと老けましたよね」

アリナ「……酷いこと言うんですね」

白鷹「だからお前、奥さんに逃げられるんだよ」

頭「…かっ、関係ないじゃないですか僕のことは!」
232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 13:04:36.40 ID:hPo+jg1AO
――――

「客間」と書かれた札が掛けられた部屋の前。

アリナはやけに近未来的なドアをコンコンと二回ノックする。

………が、返事がない

アリナ「神前准尉、紫雲です。お迎えに上がりました」


「………」


一向に返事がない

アリナ「神前さん!神前さん!」

「…………」

アリナ「……困ったな」

233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 13:05:27.27 ID:hPo+jg1AO
橘花「どうしたのよ紫雲」

アリナ「き、きっかさん……!」

相変わらずのジト目に、心の壁フィールドを全開にしているような表情で、
いつの間にか橘花はアリナの後ろに突っ立っていた。

アリナ「あ、あの……」

橘花の妙な迫力というか圧迫感に押されてしまう。

橘花「…もしかしてあの新入り、起きないって言うのかしら?」

アリナ「あの…多分、昨日色々とありましたからお疲れで………」

橘花「ねえ、紫雲」

アリナ「あっ…はいっ……」

橘花「ここのシステムの使用権限、私のIDも登録されているのかしら」

アリナ「え、ええ…」

橘花「そう。じゃ、勿論防災用のシステムも」

アリナ「使用出来ますが、ただ――」


アリナがそう答えると橘花は手のひらをかざし、広げた後、透明なキーボードと画面を呼び出した。

表情を変えぬまま、高速でタイピングして行く。

素人にはさっぱり意味は分からない様な、無機質な文字の羅列が淡々と並べられて行く。

緑やら赤やら、色とりどりの丸やら四角やらの画面が開かれ、ちょっとしたSFワールドが繰り広げられる。


234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 13:07:09.42 ID:hPo+jg1AO
橘花「この位、上級士官大で『イヤ』という程叩き込まれたわ。」


ちなみに「上級士官大で叩きこまれた」と言えども
同じく上級士官大出身の霧島は一通りの操作は出来るものの、あそこまでの高速タイプは無理であるし、
防災用のシステムについては手順が面倒であるので、ほぼ全てについてを秋津洲、アリナ、白鷹に一任してしまっている。

アリナ「き、橘花さん……」

橘花「最初からパイロット志望だったわけじゃないのよ。もしかしたら、機器に何かしらの影響を及ぼすかも知れないって事から、飛行屋はあんまり埋め込み、しないらしいんだけれど」

『使用者、認証しました』


そのアナウンスと同時に、扉の向こうから『ジリリリリリリ』と、なにやら尋常ではない音がしてくる。

アリナ「ちょ、ちょっとまさか橘花さん……」

橘花「………」

直後、水が豪快に噴き出す様な音がした後、ギャアアと情けない男の叫び声が響き渡った。



235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 13:08:28.38 ID:hPo+jg1AO
――――

アリナ「だ、大丈夫?神前くん……」

髪、私服、畳、その他モロモロがビショビショになってしまっていた。
幸い、鞄や家電の殆どには防水加工がほどこされ、機械オンチの神前が精密機器をもっているわけでもなく被害はそう深刻にはならずに済んだ。



新兎「いきなり何なんだよお前えぇ!!」


その間の抜けた姿は、水は滴ってはいるが
全く良い男でもなんでもない。ただの『アホウ』そのものだ。

236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 13:09:21.61 ID:hPo+jg1AO
橘花「それはコッチの台詞よ。今、何時だと思って?」

新兎「………」

新兎「……11時」

アリナ「今まで徹夜明けの艦長が一番のお寝坊さんだったんですが」

橘花「記録更新かしらね」

新兎「しっ…仕方がないだろう!昨日はあんなことになっちまったんだし、第一!向こう(地球)とこっち(宇宙)じゃ時間の流れが――」

橘花「一緒よ」

新兎「……」

新兎「……えっ?」

アリナ「一緒なんだよ、それが」

新兎「そ、そうなん…ですか」

橘花「そうなのよ」

237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 13:10:10.60 ID:hPo+jg1AO
新兎「ああ、じゃあ…やっぱり俺が……」

新兎「って待てェェェェェェェェ!!騙されねえぞォ!どう考えたって、宇宙と地球の時間の流れが同じわきゃ、ねえだろうが!!!!!」

新兎「いくら何でも俺をバカにし過ぎだ!!第一だな、お前が……」

橘花「……本当にバカなのね、あなた」

橘花は、哀れみを限界まで濃縮したような視線を新兎に送った。

新兎「なあっ……!!」

新兎は目の前の少女が女で無ければ2〜3発どころか、袋叩きにしてやったのにとも思ったが、
何となく返り討ちにされる図が浮かんでしまったので考えるのをやめた
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 13:10:48.20 ID:hPo+jg1AO
新兎(なんだ、何なんだこの女――)

無茶はしていたものの昨日の夜には、九重はあんなにしおらしかった。
にも関わらず、今朝にいたっては、いかにも女帝と言った感じというか、全身から刃を突きだしているようなトゲトゲしさがある。

橘花「STAシステムって、ご存知ないのかしら?」

新兎「……なんだよそれ」

橘花「簡単に言えば、宇宙空間内にあるこの戦艦と地上との時間の流れを調整して、タイムラグを最小限に抑える装置よ。」

新兎「そんなことが……」

239 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 13:11:17.92 ID:hPo+jg1AO
橘花「出来るのよ。今は亡き、軍お抱えの科学者社台博士が、たった数年で作り上げたシステム。」

新兎「社台…ってまさか……」

橘花「そう。シャダイシステムの産みの親よ。彼女は元々、学生時代から時間と空間の制御技術を専門としていたの」

シャダイシステム。そう言えば、ユウトの級友がそんな様なことを話していたような気もしなくもない。

橘花「搭乗型ロボットの完全二足歩行を実現させたシャダイシステムは…その副産物、とでも言えば良いのかしら」

新兎「……全く言っている意味がわからないんだが」

240 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 13:11:55.04 ID:hPo+jg1AO
橘花「小さなものから極限まで大きなエネルギーを引き出せるんだから。その基礎となる理論があったにせよ、それを20代で完成させた彼女は天才よ。」

新兎「ち、知識をひけらかして楽しいか」

橘花「ひけらかすも何も、初等教育の教科書に載ってるわ。」

橘花「勿論、パイロット、オペレーター、上級官候補生、下官、はたまた予備官関係なく軍の関係者なら誰もが知っている教養レベルのお話よ」ニヤッ

新兎「いっ…いいんだよ!今知ったんだし、大体そんな事知らなくったって……」




大分無茶苦茶な事を言っていることは彼も自覚していた。
241 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 13:12:29.27 ID:hPo+jg1AO
寝坊しておきながら、その言い種はない。素直に反省し、謝るべきだと本人も思っている。
が、昨日の一件もあってか何となく目の前の女パイロットに対して、
屈したくないと言うか、抵抗してみたい気持ちがふつふつと沸き上がってきてしまった。

橘花「……パイロットだから、関係ないと?」

新兎「そうだろう。俺達は機体をいかに器用に動かすかを考えればいいんだよ。」

橘花「そうね。それは私も大切なことだと思うわ。」

橘花「だけどそれは、全員がやっていることなのよ」

新兎「……」

242 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 13:13:00.61 ID:hPo+jg1AO
橘花「好きじゃなければ乗ろうとも思わないし、才能が無ければ動かないし、情熱が無ければ使い物にならないわ。」

橘花「元々の『才能』なんてものは、私達にとっては、チケットにしか過ぎないのよ。」

新兎「……何が言いたい」

橘花「イヤなら、帰った方がアナタの為にも、私達の為にもなると思うわ」

新兎「!」

アリナ「きっ…橘花さん……」

243 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 13:14:01.40 ID:hPo+jg1AO
橘花「アナタがどうしてココに来たかは知らないし、艦長がどうしてアナタを連れてきたかも知らないけれど」

新兎「む、無理矢理……」

橘花「縄でアナタをがんじがらめにした訳でもないし、ましてや、断ればアナタやその家族を[ピーーー]と脅された訳でもないでしょう」

新兎「そっ、それは……」

橘花「純粋に、日本の国益に国民並びに治安を守る事が、防衛軍に所属する全隊員の義務であり使命なのよ。」

橘花「その為なら肉を削がれようとも、血の最後の一滴が滴り落ちようとも尚、戦い抜くことだって吝かではないわ。」

新兎「ち、血の一滴ってお前さぁ…いつの時代の兵隊だよ……」

244 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 13:15:02.71 ID:hPo+jg1AO
橘花「腐っても我々は軍人よ。その覚悟もないのなら、一刻も早く辞めた方がいいわ」

新兎「そんな事言われたって今時、そこまでの覚悟で……!」

橘花「そうね。確かにそこまでの覚悟で望む必要は無いのかも知れないし、そんな倫理観や正義感は鬱陶しいだけね」

橘花「だけど、ここではまた話は別だわ。宇宙服に針で穴を開けた程度でも致命的なのよ。」

橘花「それに、もしも今この状況で、なんらかの驚異に襲われたとしたら…私達は太刀打ち出来るのかしら?」

新兎「……」

橘花「『もしも』が無ければ私達軍人は存在すらしなかったでしょうね」

新兎「……」

最早、新兎に言い返す言葉は残されてはいなかった。

245 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 13:16:12.06 ID:hPo+jg1AO
橘花「まあ、昨日あんなことをやらかした私に何を言う資格も無いんでしょうけど」

橘花「…じゃあ私は仕事があるから」

アリナ「あっ…あの……お疲れ様でした」

橘花は無言のまま部屋を後にした。



――――――





橘花「………」


何度も何度も、自分がさっき、新兎に向けて放った言葉が繰り返され、ブーメランのように胸に突き刺さる






橘花「……私は、軍人よ」








前を見据えた橘花は、右へと歩を進めた。


246 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 13:16:50.61 ID:hPo+jg1AO
一方
散々ボロクソに言われた挙句、これといった反論も出来なかった新兎は、
プライドを傷つけられたのか、恥ずかしさのあまりなのか、脱け殻の様になってしまっていた。

アリナ「あっ…あの、神前くん……」

昨日のデリカシーの欠片もない彼のセリフに怒っていたアリナだったが、
あまりの憐れさにどうフォローしたら良いものか、と言うよりフォローするべきなのかすら分からず
年齢相応の少女の顔に戻り、ただアワアワとしていた。


247 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 13:17:29.46 ID:hPo+jg1AO

霧島「もーう、アリナさんを困らせちゃダメじゃないですかァ」

アリナ・新兎「!!!!」




……この男はいつから居たのだろうか。




ドアの向こうから、独特過ぎるオーラを放つオッサンが例の如くニタニタしながら覗き込んでいた。

霧島「いやね、アリナさんの帰りが遅いからさぁ、お楽しみなんじゃ無いかなって、とっても心配しちゃったんですよォ、アリナさん」

新兎「んなっ!」

アリナ「?」

霧島「その上、橘花大尉が出てくる訳でしょう?これはいけませんと思いましてね。」

新兎「か、艦長!艦長ォ!」

248 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 13:18:00.39 ID:hPo+jg1AO
霧島「でも良かった良かった。いや、もしかしたら逆に良くなかったのかもなぁ……」
新兎(こっ…この親父……)

アリナ「艦長」

霧島「なあに、アリナさん」

アリナ「……『お楽しみ』って何でしょうか」

霧島「そのまま、それはそれは楽しいことだ…よな?」

新兎「……確認しないでくださいよ」

霧島「あ、もしかしてお前まだ分かんない方?」

新兎「……」

霧島「やだもー、早く言ってくれよなぁ!」

249 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 13:18:46.05 ID:hPo+jg1AO
アリナ「話が良く見えませんが…」


アリナ「艦長は、何で楽しいことなのに、『いけない』って思ったんですか?楽しいことは良いことじゃありませんか」

霧島「楽しみは苦しみあっての楽しみじゃない?あんまり普段から楽ばかりっていうのもさ、ほら、あんまり良くないと思うのよ」

アリナ「じゃあなんで、橘花大尉が出てきたことが『まずい』って言ったんですか?」

アリナ「楽しみや喜びは皆で分かち合うものだって、艦長もふぶきさんも教えてくれたじゃないですか」

霧島「いや、それはァ…ですねぇ…ね……」

アリナ「二人は良くて三人じゃダメなんですか?」

霧島「いや、まあ……中には複数人で分かち合う人もいるかもしれないけど……」

アリナ「橘花さんだったからダメだったんですか?ふぶきさんなら良かったんですか?」

霧島「ふぶきちゃんはいけません!それはもっといけませんよ!!」

アリナ「橘花さんはダメでふぶきさんはもっとダメ……なんでですか?」

霧島「いや……あの……」




新兎(……自分で自分を追い詰めてるよな、このオッサン)

250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 13:21:42.32 ID:hPo+jg1AO
アリナ「?」

霧島「…ケースバイケース、ですかね」

アリナ「またケースバイケースですか」

霧島「そう。ケースバイケース」

アリナ「難しいですねぇ、大人の世界って…もっと私、勉強しなくちゃいけませんね」

霧島「いや!アリナさんはそれに関しては勉強しないほうが艦長さんは嬉しいかなぁって……」

アリナ「?????」

新兎「艦長……」

251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 13:22:24.55 ID:hPo+jg1AO
アリナ「やっぱりどうにも…艦長の言ってる事が、さっぱりわかりません」

アリナ「あとでふぶきさんに聞きましょう」

霧島「やめよう!それだけはやめましょうね!!ねっ?」

アリナ「???」

神前「………」

霧島「とりあえずこの話は一旦おしまいにして」

霧島「白鷹ちゃん…あやめちゃんがお手伝いして欲しいって、アリナさんの事呼んでましたよ」

アリナ「白鷹さんがですか」

霧島「あやめちゃんがです」

霧島「神前くんの事は僕に任せて行ってらっしゃい」

アリナ「……分かりました。行ってきます」

怪訝な表情をしながらも、アリナは霧島の指示に従い部屋を後にする。

アリナの靴音が次第に小さくなり、聞こえなくなったことを確認すると霧島は小さく溜め息をついた。

252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 13:23:25.43 ID:hPo+jg1AO
霧島「参っちゃうよなァ、あの年頃の娘は難しくってね、もうどうやって接したらいいんだか分かんないんだよ」

新兎「……自爆も良いところじゃないですか」

霧島「いやいや。つい1年前までは俺がさ、何を言おうとも食いつかなかったのよ。でも最近はね、何て言うか…参っちゃうよなァ…」

霧島「俺のふとした一言がアレだよ、非行へ道のりの第一歩になりかねないんだよ。」

新兎「…そうなんですか」

霧島「それより新兎くん、さっきよりも随分と顔色が良くなっててよかったよ。消えちゃうんじゃないかと思ったぞっ☆」

新兎「……どうも」

253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 13:23:54.74 ID:hPo+jg1AO
霧島「まあな、アイツが言ってる事は『周りがこうだから俺もああする』なんていう、信念も意志も欠片もない理屈よりかはよっぽど説得力があるんじゃないのとは思う」

新兎「……」

霧島「俺達は国って言う、でっかい企業に雇われたリーマンだ。顧客である国民が俺達に何を求めていて、その為に俺達が何をすべきなのか考えなきゃならない。」

新兎「……艦長も考えてるんですか」

霧島「考えてるよ、一応」

新兎(……一応って)

254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 13:24:58.37 ID:hPo+jg1AO
霧島「でも、橘花は橘花で極端なんで困っちゃうんだよね」

霧島「ああ言う覚悟も大切なんだろうけどさ、こう…橘花は敷島よりも本気度が数万倍上なんだよなァ…」

新兎「“あの”敷島よりも…ですか」

霧島「そうだよォ。ああ言うタイプが一番繊細で、一直線なのよ。しかもね、落ち込んでるからなぁ、余計に心配って言うかさぁ」

新兎「……落ち込んでるって橘花が、ですか?」

霧島「女心の一つもわからんケツに殻のついた青臭いガキがそんなこと言うもんじゃありませんよ」

新兎「………そう言う艦長は分かるんですか」

霧島「そりゃもう、手に取るように」

新兎「…」

それもそれでダメなんじゃないかと、新兎は秋津洲がますます不憫に思えてきてならなかった。

255 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 13:25:33.21 ID:hPo+jg1AO
新兎「とにかく、落ち込んでる女が、あんなこと言うとは到底思えませんけどね」

霧島「俺はさ、あのセリフ…お前ってよりは、橘花自身に言ってた気がするんだよなァ」


新兎「橘花……大尉自身に?」

霧島「どこか他人には無関心なところがあるんだよね。お前みたいな、現代児代表みたいな精神的にヤワな男には特に」

新兎「さらっと傷つく事言わないで下さい」

256 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 13:26:15.42 ID:hPo+jg1AO
霧島「それにさ、他人を頭ごなしに自分の理論を押し付けたって無駄な事は橘花だって知ってる。だが、橘花はお前をボロクソに言った訳だ。」

新兎「……何が言いたいんですか」

霧島「お前も知っての通り、ここに来たくて来た連中なんぞ、極一部の例外を除いてだ。いやしないよ。」

霧島「勿論橘花も。あのツラと学歴があれば、軍辞めたって引く手数多だろうにね。」


確かに霧島の言う通り、橘花は「かなり」整った顔立ちをしていた。



霧島「どこかの大企業の受付嬢だって、高学歴アイドルだって構わない。最悪、泡の国のお姫様だって良いだろうよ。僕だったら60kまでなら絶対に指名しちゃうね!70kでもサービス次第なら考えなくもないけど!!」

新兎(……この人、最低だわ)

257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 13:27:16.29 ID:hPo+jg1AO
霧島「とにかくだな、俺が言いたいことは……なんだっけ」

新兎「……」

霧島「前振りが長くて肝心な……ああ、そうそう。とりあえず、ここに来たくて来た人間は一人も居ないってこと。」

新兎「さっきも聞きました」

霧島「やだ、その後だよ。確かに橘花も敷島も白鷹…あやめちゃんも最初は『仕方なく』ココに来たのかもしれない」

新兎「だが、本当にイヤなら、あいつらはココにゃ居なかった。と思う。」

新兎「…どう言う事ですか」

258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 13:27:49.49 ID:hPo+jg1AO
霧島「本当にイヤなら、軍を辞めちゃえばいい。リスクを考えればバイトの方が余程割りに合いますよ。今の状況を考えると余計にね」

霧島「今までそんな人間を何人も見てきた。何度空港でドタキャンの電話を受け取ったことか…」

霧島「だけどアイツらは、腐っても『軍人』って言う立場でいたい、だからアイツらはここにいる。」

新兎「それは……」

霧島「それはお前も同じだろう?」

新兎「……」

霧島「確かに、お前は人に流されやすいし、意志もハッキリしていない。」

霧島「ま、だから楽に連れて来られたんだけど」

259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 13:28:20.04 ID:hPo+jg1AO
新兎「……酷いこと言いますね」

霧島「俺が察するに、こんな調子で士官学校にも入ったんだろう?」

新兎「………」

霧島「ズ・ボ・シ」

霧島「だけどな、それだけじゃ卒業は出来ない。いくら昔から比べて緩くなったと言えども軍人学校は軍人学校だ。その辺の学校なんかと比べもんにならないほどキツイ。」

霧島「いくら流されやすいと言っても流れで戦闘機に乗れるもんでもないし、流れでココに来れるもんでもない。」

霧島「神前、戦闘機に乗るのは嫌いか?」

新兎「嫌いじゃないです。むしろ…好きですよ」

260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 13:29:39.52 ID:hPo+jg1AO
霧島「好きならそれで良い。嫌いじゃ困るからな。」

霧島「だけどさ、好きなだけじゃ他人は救えない。ジャガーを乗り回してるオッサンに過ぎないってこった。」

霧島「要はさ、才能だけじゃ飯は食えないんだよ」

霧島「それをお前はちゃんと分かっちょるんだろうし、分かってるんだからお前はここにいるんだと思ってる」

新兎「……自分でも自分のことなんか良くわかりりませんよ」

霧島「俺だって分かんないよ。分かる時が来るとすれば、そりゃ死ぬ時さね。下手すりゃ迷宮入りだ」

霧島「とにかくさ、君には期待してますよ新兎くん!」

新兎「のっ、乗せないで下さいよ」

261 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 13:30:32.99 ID:hPo+jg1AO
霧島「乗せてなんかないですよ。期待出来ない人間には期待しないタイプですから」
霧島「あとさ、橘花のことも頼むよ。何かあったら、こっち側に引き止めてやってくれ。ああは言ったけど惜しい人材だし。」

新兎「……なんで俺なんですか」

霧島「お前だから頼んでるんだよぉ。「ま、腹が減っちゃ正常な判断も出来やしない。もうすぐ昼飯だ。俺も昨日から飯食ってないしな。食いに行こうぜ」

新兎「………」

そう言えば、新兎は昨日からオレンジジュースと栄養剤以外は何も口にしていていないに等しかった。
ただ、不思議なことに峠を越えたのかなんなのかは知らないが、そこまでの空腹は感じていなかったのだが。


262 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 13:31:03.50 ID:hPo+jg1AO
――――――

廊下に出ると、昨日までの騒がしさが幻覚だったか、はたまた記憶違いだったのかと思わせるほど
水を打ったように静まりかえっていた…と思いきや、時々グオーだとか、ガオーだとか、とにかく妙ちくりんな
アフリカ大陸辺りの良くわからない国の、得体の知れない密林の、得体の知れない珍獣が発情期にただ雌を求めている風景が思わず目に浮かぶような
知性や理性の欠片も感じないそのうめき声の様な叫び声の様な得体の知れない雑音があちこちから聞こえてくる。




「『こんにちは』神前准尉」



その中から何かの間違いでギリシアかローマの観光地に行くつもりが
密林に迷い込んだ女神のごとく透き通った上品な、だが芯の一本通ったような美しい声が響いた。


263 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 13:31:41.30 ID:hPo+jg1AO
その声に、どこかしら負い目を感じていた霧島と新兎は恐る恐る後ろを振り返ると





いい笑顔の秋津洲が、書類を抱えながら立っていた







新兎「あ、あのぉ……」

秋津洲「どうしたのかしら?」

新兎「……すいません」





その笑顔から何かを感じ取ったのか、言い訳すら神前はままならなかった。

264 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 13:32:40.43 ID:hPo+jg1AO
秋津洲「いいわ。初日から早々にあんな事もあったしね、無理はいいません。」

秋津洲「けれど『今度からは』気をつけて頂戴ね」




そう言った後、再度ニコリと笑うが その笑顔に何百もの意味が込められている気がして、新兎はただゾッとするしか出来なかった。




霧島「じゃあお説教が終わったところで――」

秋津洲「艦長」

霧島「な…なんです。今日は僕何も……」

秋津洲「当たり前のことに達成感を覚えないで下さい。これ、昨日の一件に関する書類です。米艦から質問状も届いているんですからね!」

霧島「…米艦って、随分厄介なところが出てきましたね」

秋津洲「ですからお願いしているんですわ。時間にうるさいんですからね」

霧島「わかりました…新兎くん悪いけど一人で食べてきて」

新兎「…はい」


265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 13:33:12.73 ID:hPo+jg1AO
一旦休憩

266 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/09(木) 16:11:41.42 ID:k1P7GbXDO
267 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 22:15:21.84 ID:hPo+jg1AO
投下再開
268 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 22:16:09.83 ID:hPo+jg1AO
新兎「そういえば、食堂ってどこですか」

霧島「そこの突き当たりを右に曲がって、すぐ左に曲がって、そこからちょっと行ったところを右に行って、突き当たりを右に曲がったら食堂だ」

秋津洲「違いますわよ艦長。突き当たりを右に曲がって、すぐまた右に曲がって、そこから少し行ったところを右に行って、突き当たりを左に曲がったら食堂です。」

霧島「……そうでしたっけ?」

秋津洲「ここに来て何年経つと思ってるんですか。いい加減慣れて下さい。」

霧島「てへっ☆」

秋津洲「……」



新兎「あ…あの、じゃあ…お先に、失礼します」

新兎は早々に退散を決め込んだ。


269 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 22:16:43.60 ID:hPo+jg1AO
―――――

秋津洲の言う通り、突き当たりを右に曲がって、すぐまた右に曲がって、
そこから少し行ったところを右に行って、突き当たりを左に曲がった先に食堂はあった。

ちなみに霧島の言う通りに進むとどこにたどり着くか、ちょっと興味のあった神前は
右に曲がって、すぐ左に曲がって、そこからちょっと行ったところを右に行って、突き当たりを右に曲がってみる


……と


そこには





秘密の園、女子浴場があった。




270 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 22:17:38.53 ID:hPo+jg1AO


新兎(………あのオッサン)

思ったよりも激しい上司の無茶苦茶ぶりに肩を落とす新兎であったが
肩だけでなく、膝小僧まで落とすハメになってしまう。

食堂に戻ってみると、アリナと白鷹が何やら眺めている。

白鷹「やっと起きたのかテメー。」

新兎「ああ、どうも……」

アリナ「あれから、艦長さんとどんなお話をしたの?」

新兎「どうもこうも…あの時は納得しかけたんだけど、こう…今になって考えるとあんまり要領を得た話じゃなくて……」

アリナ「要は煙にまかれたんだね。」


アリナ「………私もだけど」
271 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 22:18:49.06 ID:hPo+jg1AO
アリナ「白鷹さんが私を呼んでるって言うから行ってみたら呼んでないって言うんだよ!全く、艦長さんてばいつもそうなんだから!!」

神前「……いつもああなんですか」

アリナ「いつもああだよ!私がこの前お小遣いの値上げをお願いしたら、結局、このリボン1つで話を済まされてしまったんだよ!酷いお話です!」

白鷹「小遣い程度で興奮すんなよ。お前はガキンチョだなぁ……」

アリナ「…お腹が減ってるのでついイライラしちゃいました」

そう言って頬を膨らませる姿は、可愛らしく、あどけない少女の姿そのものだった。



新兎(………かわいい)
272 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 22:20:54.64 ID:hPo+jg1AO
新兎(……だけどやっぱり子供だよなぁ)

いくらプログラムだと説明されても、彼女がこんな場所で勤務していることについて、到底新兎は納得出来なかった。


新兎「まあ、とにかく飯でも食べましょうよ。俺も飯食ってないせいか、頭がゴチャゴチャしちゃいましてね。」

白鷹「……それが」

新兎「それが…どうしたんですか」

白鷹「今日の朝から夜までの当番、技術部なんだよな」


新兎「…………」


新兎「……うええええええええええええ!?」

273 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 22:21:49.88 ID:hPo+jg1AO
新兎「い、いや、しかし、予定じゃ修理は一段落着いたんじゃ!」

白鷹「まあな。技術部達は予定以上の働きをしてくれたんけどな。その分…昨日は全く休憩を入れてなかったんだと」

アリナ「秋津洲さんの命令で寝てる」

新兎「えっ……えええ!?」

新兎(じゃ、じゃあさっきの唸り声は………)

アリナ「驚異の4徹でしたからね。」

白鷹「あれ、艦長も負けず劣らずだ。地球にアリナちゃんを置いてきた日から、ずっと寝てるとこをみてないしな」

アリナ「そ、そうなんですか?」

白鷹「ずっと調べものをしたりだとか、技術部の様子を見に行ったりだとか」

アリナ「どうしましょう…私、艦長を怠けんぼさん呼ばわりしちゃって……」

新兎「……軽く1週間はロクに寝てない計算だな」

白鷹「あいつの身体…どうなってるんだろうな。」


274 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 22:22:52.53 ID:hPo+jg1AO
新兎「そっ、それより。ちょっと話が逸れますけど、結局のところ、今日の昼飯も――」

白鷹「ねーよ」
アリナ「ありません」



新兎「……夕飯は」


白鷹「ねーよ」
アリナ「ありません」


新兎「…そんなにアッサリ言わないでくださいよ」

275 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 22:24:00.18 ID:hPo+jg1AO
白鷹「こっちだって辛れーんだよ」

アリナ「受け止めて下さい」

新兎(…何なんだよ一体この戦艦は)

新兎「そ、そうだ。カップ麺やインスタント食品は?」

白鷹「緊急用しかないんだよ。艦長、買い出し忘れたみたいだからさ、今回は余裕が無くて…」

アリナ「非常食は極力避けたいですしね…単価が高いですし」

白鷹「となると」

アリナ「仕方がないので出前でも取りましょうか…」

白鷹「……またか」

新兎「そうか。まだ昼間なんだし、デリバリーは来るんでしたね……」

アリナ「自腹だけどね。じゃあ、この中から選んでね」


アリナが適当にメニューを広げる。

…『宇宙のお食事処 ガンコ亭』と古くさい、簡素な字体で店名が右端に書かれている。

非常に素朴というか、ベーシックな作りで、それに掲載されている料理までもがベーシックと言うか、可も不可もなく、いわゆる『適当』なオーラをまとっていた。

しかしそんなメニューに1つだけ、明らかに素朴でもベーシックでもなんでもない、おかしな点がある。




値段だ。



その額に、思わず新兎は目をひんむいてしまった。

276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 22:25:00.15 ID:hPo+jg1AO
新兎「ちょ!ちょっとコレ、一桁間違ってるんじゃああああああああああああ!?」

白鷹「間違っちゃいないよ。そのものズバリの値段だよ。なあ?」

アリナ「はい。間違いなく間違ってはいません。」

新兎「だ…だって、こんなちゃっちいチャーハンが4500円(ガンコ亭安心価格)って……」

白鷹「足元見てるんだよガンコ亭は。しかも配達は100人前からだって」

アリナ「仕方がないんだよ。うちに来るまでの手間とかリスクを考えたら。それに、この間のピザ屋さんなんて、Mサイズのピザ一枚に1万円も取られたんだから」

白鷹「いくらコーラ2本付けられたって誤魔化せるもんじゃあないよなぁ」

新兎「……想像以上に深刻なんですね。カスミの食料事情って」

アリナ「でも昼間はお金さえあれば食べらるし。」

新兎「………」
277 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 22:26:03.85 ID:hPo+jg1AO
アリナ「さて、神前くんは何にします?」

新兎「あ…ああ、じゃあ俺はこの、宇宙そばと名物コロ(ニー)ッケ定食で」

新兎(……(ニー)って何なんだよ)

アリナ「面倒なんでみんなそれでいいですよね」

白鷹「一応宇宙はそば80のうどん60で発注しといた方がいいかも知れねーな」

新兎「いいんですか勝手に頼んじゃって。第一、寝てるのに金は……」

アリナ「大丈夫。自動的にお給金から引かれるシステムだから。」

白鷹「戦艦レベルだと貧乏だけど、個人レベルだと結構お金持ってるんだぜ皆。ほら、他に使うとこないからな」

新兎「……」

278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 22:32:52.44 ID:hPo+jg1AO
しかし、やはり納得は行かなかった。

みるからに普通、もしくは普通以下の定食に占めて5000円支払う事には。

新兎「………ますよ」

白鷹・アリナ「えっ」

新兎「間違ってますよこんなこと!!!!!!!!!!!!」

新兎は涙声になりながら怒鳴った。
白鷹とアリナは顔を見合わせた

―――多分、空腹のあまり気を違えたのだろう

怒鳴った挙句笑い出した
279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 22:36:29.76 ID:hPo+jg1AO
新兎「あっはははははははははははははははは!!!!!!!!!!」

白鷹「……どうしたんだ」

アリナ「く、空腹のあまりおかしく……」

新兎「可笑しいのはこの戦艦だ!!!!!!!!!」

新兎「どう考えたってコロッケに5000円なんておかしい!おかしい!おかしい!おかしい!おかしい!おかしい!」

新兎「なぜカップ麺があるのに食わない!意味もなく意味もない食事に高値を払う!!!!!!!」

新兎「おかしい!おかしい!おかしい!おかしい!」

白鷹「まあ……そうなんだが……」

アリナ「そう……言われても………ね」

新兎「何でですか!おかしいもんはおかしいでしょう!!!!!!!」

280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 23:30:58.52 ID:hPo+jg1AO
新兎「おかしい!おかしい!おかしい!おかしい!この戦艦はおかしい!」

子供の如く新兎はだだをこねはじめた

白鷹「……なんかあったのかこいつ」

アリナ「よほど酷いことを言われたんですかね……二人に」


その直後であった。




悲劇の音楽が鳴り響いたのは
281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 23:33:09.61 ID:hPo+jg1AO
いかにも人間の『ヤバい』感覚を刺激する


―――あの音だった


霧島『あー、緊急事態発生。繰り返す緊急事態発生』


白鷹「!」

アリナ「緊急事態!?」

新兎「あははははははははははははははははははは」


完全に新兎は壊れてしまったようだった
282 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 23:35:48.92 ID:hPo+jg1AO
その姿は憐れでならなかった


白鷹・アリナ「………」

新兎「どうしたんすかぁ〜?黙り決め込んじゃってえ〜」

白鷹「……」

アリナ「……」

新兎「えっ何ー?もしかして飯がマズイとかぁー?もういいですよ配達でも!!!!!!!」

新兎「やだなー!俺のメシウマ脳内ビジョン漏れてたかなー?やだなー!もう俺気にしないしー全然気にしないしーもう喰えれば良い、みたいなー?」

白鷹「……」

アリナ「……」

新兎「………あっ、ガンコ亭さんかなぁ?あはははははは!!!!!!!」

白鷹「あの今の、来客のチャイムじゃなくて……」

新兎「白鷹さん」

新兎「コロッケの美味しさってシュチュエーションに左右されますよね」

白鷹「そっ……」

新兎「ね?」

白鷹「そう……だな……」

アリナ「……」





悲劇だった
283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/09(木) 23:36:53.38 ID:hPo+jg1AO
本日はここまで

ありがとうございました
284 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/09(木) 23:56:07.61 ID:TefSerZAo
285 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/10(金) 12:14:22.39 ID:VQI5t/iAO
細々と再開
286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/10(金) 12:14:56.73 ID:VQI5t/iAO
――――

技術部一同「………」

霧島「おはようございます」

技術部一同「はよーざざいーす……」

敷島「♪浮かべる城ぞぉ頼みなるぅ〜浮かべるそのぉ城日の本のぉ〜」

敷島「うおおおおおおおおおおおおお!!!!やる気だああああああ元気だああああああああああ!!!!!!!!」

技術部員A「お願いだから…今は止めてよ敷島くん……」

技術部員B「お願いします……」

287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/10(金) 12:19:54.92 ID:VQI5t/iAO
橘花「………」

霧島「あ、橘花大尉おはよう。どうしたのー?元気ないよー?」

橘花「無愛想なのはいつものことですから」

霧島「にぱー☆」

橘花「………」

霧島「………」

秋津洲・新兎(もうやだこの職場)

秋津洲「で、敵は?」

白鷹「来たばっかりなんですよ。調べるから待ってて下さい」

アリナ「とりあえず……米国が中性子砲を発射したみたいですけど効果なしみたいですね」

一同「中性子砲があああああああ!?」


霧島「………」
288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/10(金) 12:22:43.99 ID:VQI5t/iAO
秋津洲「米軍が誇る……兵器なのよ………なんで……」

敷島「一体どんな敵なんだよおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」

白鷹「闇上がりなんだろ、うるせーなぁ」

アリナ「ちなみに米艦は撤退、死者も一名出ていますが……」

秋津洲「が?」

アリナ「……なんかおかしいんですよね」

秋津洲「どう言う意味かしら」
289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/10(金) 12:25:37.91 ID:VQI5t/iAO
アリナ「まったく敵にダメージを与えられないような場所で自爆してるんですよ」

秋津洲「……なぜ」

アリナ「さあ」

白鷹「とりあえずみーんな逃げちまったぜ。ケッ」

新兎「こう言う人類の危機になんで……」

白鷹「うちの戦艦を潰したいんだろ」

新兎「?」

白鷹「……ほんと授業でなかったんだなお前」
290 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/10(金) 12:29:45.53 ID:VQI5t/iAO
白鷹「いいか、回りの国はうちの国をうざがってんだよ」

白鷹「フタツキはなんでだか、ほぼうちの領土だ。領宙も広い」

新兎「聞きました」

白鷹「……だからさ、うちの戦艦が敵にやられれば……日本には少なからずダメージがある」

白鷹「とりあえずうちの戦艦を盾にして潰そうって頭なんだよ」

新兎「……嫌な話ですね」

霧島「ありがとう、いい解説でした」パチパチ

白鷹「……艦長なんだからさ、本来はお前がしろよな」
291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/10(金) 12:32:44.47 ID:VQI5t/iAO
新兎「でも、そんな大切な部署なのになんで本部は…予算の扱いが酷いんですか」

霧島「いい質問ですね〜!白鷹ちゃんよろしく」

白鷹「……艦長さぁ」

白鷹「まあいいや。それも不可解なんだよ。重要な場所なのに私達みたいなアホを置いて貧乏暮らしをしいる」

白鷹「こっちも聞きたいくらいだよ」

そう言いながら白鷹はエンターキーを叩きつけるように押した
292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/10(金) 12:38:12.22 ID:VQI5t/iAO
白鷹「と、映像きたぞ」

アリナ「解析しまーす」

一同「………」ゴクリ

米軍を蹴散らしてしまうような敵、全ての国の戦艦が逃げ出してしまうような敵、人間業ではない。

クルーたちは息を飲んだ

アリナ「………でました」

空間に浮かぶモニターに敵の姿が移った


新兎「なあ……………!」

…新兎は目をひんむいた

新兎だけではない。霧島以外のクルー全員が目をひんむき、硬直した



―――何故か



普通、ここまで人間を陥れるような敵であれば、なんとかゲリオンの使徒だとか、なんとか蜥蜴だとか、グレートなんちゃらみたいなロボットを思い浮かべるに違いない

だが、モニターに映る敵、それは




間違いない。

どこからどうみても



『タコ』そのものだった。
293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/10(金) 12:40:12.94 ID:VQI5t/iAO
技術部員A「空腹のあまり――俺はいかれたか」

敷島「――なら、俺もイカれたみたいだ」

霧島「タコだけどね」

一同「………」





中性子砲を弾く宇宙を漂うタコ


クルー達は全く意味がわからなかった
294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/10(金) 12:42:27.12 ID:VQI5t/iAO
休憩

お付き合いありがとうございました
295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/10(金) 15:11:20.71 ID:VQI5t/iAO
だれもいないがこっそり再開
296 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/10(金) 15:11:47.41 ID:VQI5t/iAO
秋津洲「どうします」

秋津洲は般若のような顔をしていた。


理由は言うまでもない

霧島「どうしよう」

秋津洲「……ふざけないでください!あんな生き物………人間が作れるわけないでしょう!!!」

霧島「こわいよぉ、たかがタコじゃんかぁ」

白鷹「……まさか」

榛名「……………『賢者』、のお出ましとかね」

白鷹「……榛名さん」

297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/10(金) 15:12:54.20 ID:VQI5t/iAO
霧島「それからさ、あやめちゃん」

白鷹「……んだよ」

霧島「アメリカさんのメインコンピューターにハッキングとか……できない?」

白鷹「………無茶言うなあんた」

霧島「お・ね・が・い」

白鷹「……きめぇ」

霧島「だってデータもなく闘えんでしょお〜」

白鷹「わーったからその気色わりぃ顔やめろよな!」

霧島「よろしくぅ」

霧島「あ、あと技術部のみんなは整備……」

頭「ま……まあ何とか使いもんにしてみます」

頭の目には死人の相が出ていたことは言うまでもない

榛名「おい!てめーらああああああ!!!さっさとしねーと[ピーーー]ぞ!!!!!!!」
技術部員一同「は、はい!」

頭「あ……あの……部長さんは僕なんだけどな………」


298 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/10(金) 15:13:20.55 ID:VQI5t/iAO
新兎「ちょ、ちょっと待って下さい!本気で………」

霧島「やるよ」

新兎「でも!」

霧島「私達は腐っても軍人さんなんだよ。国民の安全を守るのが義務…ちがう?」

新兎「………でも他の国の思惑通りになるんじゃないんですか」

霧島「さあ、どうだろうね」




霧島「だけど、逃げたくないんだよ。状況っちゅうのは刻一刻と変化する。俺達まで逃げ出したらどうなる」




新兎「だけど………」

霧島「逆接が多いなぁ、新兎くんは」

299 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/10(金) 15:13:46.27 ID:VQI5t/iAO
霧島「言ったでしょ、好きなだけじゃ飯は食えないんだよ」

霧島「俺達は一応『プロ』だからさ」

新兎「………プロ」

新兎は驚きを隠せなかった。

まさか霧島から『プロ』などという言葉が出てくるとは

いや、それだけじゃない

ここにいる人間全員めちゃめちゃである

が、誰よりもプロ意識が高かったことに


そして、その中で自分が取り残されていたことに。


新兎「………」


300 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/10(金) 15:14:17.04 ID:VQI5t/iAO
秋津洲「砲撃の許可と、応援は?」

霧島「まだいいです。こっちでやれるだけやりますから」

霧島「まだ『アイツ』に泣きつきたくないし、ねん?」

秋津洲「………危機感あるんだかないんだか」

白鷹「おい、艦長データきたぜ」

霧島「さっすがあやめたん!」

白鷹は思いっきり霧島を殴った

霧島「いたああああああああ!!!!!!!」

白鷹「やっべ、きめぇから思わず殴っちまった」

白鷹「ま、いいか。これ以上流される場所もねーし」

霧島「……ひどいよ」

301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/10(金) 15:14:47.58 ID:VQI5t/iAO
白鷹「ほれ、データだぜ」

秋津洲「中性子砲は……効かないというより吸収されてる……みたいね」

霧島「だけどその地点から先に無人偵察機は入れてる。結構近くまで行けたみたあだね」

秋津洲「……だけど有人は自爆ねぇ」

白鷹「奇妙だよな」

霧島「………」

アリナ「こっちにも気になるデータが……」

秋津洲「どうしたの?」

アリナ「粒子が観測されました…中性子を原子核に吸収する原子核反応によって自由な中性子を無くすもの、陽子をたくさん含み中性子の速度を落とすことで浸透力を落とすもの」

アリナ「ただし地球の元素や粒子にはないタイプです」

霧島「なるほどなぁ……」

敷島「……なるほど」

新兎「……わかってるのか」

敷島「……心では感じた」

新兎「……なんだよそりゃ」

302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/10(金) 15:16:57.45 ID:VQI5t/iAO
アリナ「わかりやすく説明するとね、中性子砲を防ぐバリアが貼られてるんだ」

アリナ「だけど…機体自体には効果はないんだ。多分人間にも」

新兎「じゃあ…なんでアメリカのパイロットは自爆したんだ」

アリナ「そこは今調査中だけど、ちょっと時間がかかるなぁ」

新兎「……ってことは」

霧島「もしかしたらまだ、倒せる手段はあるかも知れない」

秋津洲「近接戦闘……か」

秋津洲「だけど不可解よ!まるで機体との接触を望んでるみたいじゃない」

霧島「まあね、だけどやってみる価値はある気がする」

秋津洲「……気がするって艦長」

霧島「このまま何にもしなかったらさ、潰されて死んじゃって領土も減っちゃうかもしれない」

霧島「昔、眉毛の太い美少女がいってました。『やらなくて後悔するより、やって後悔した方が良い』ってね」

秋津洲「……しかし、パイロットに命の危険がある以上は!」

霧島「大丈夫だ。あいつらは命令はまもる」

秋津洲「……またカンですか」

霧島「んふふ、そう(はぁと)」

秋津洲「……」

303 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/10(金) 15:17:35.78 ID:VQI5t/iAO
白鷹「んで、艦長どうするつもりだよ」

霧島「どうしよう」

白鷹「…………頼りになんねぇな」

霧島「アイツは、タコだよな」

アリナ「どうみてもタコですね」

霧島「ねぇ新兎くん」


霧島はまた、出会った時のような薄気味悪い笑顔をしていた

新兎「……なんすか」

霧島「君、魚屋志望でしたよね」

新兎「………はい」





霧島「タコって弱点とかないの?」








新兎「はあ?」

霧島「ないの?」

新兎「ないの?って艦長……」





一同(………遂にとち狂ったか)

304 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/10(金) 15:19:12.72 ID:VQI5t/iAO
霧島「ないの?って聞いてるんだけど」

変な圧力というか、オーラを発しながら霧島は再度新兎に尋ねた

新兎「えっと……」

新兎は思わず妙なオーラに押されてしまった。






―――意味が分からない







が、ここでは意味なんてものは考えるだけムダなのかも知れない




いや、ムダである





新兎もそこらへんを諦めたというか、悟ったのかとりあえずタコの処理方法を、小さな脳みそから絞り出すように思い出していた





新兎「…………たい」

霧島「えっ?」

新兎「ひたいです。額をぶっさせば一撃で倒せます」

霧島「………ひたい、ね」


霧島は怪しい笑顔をさらに怪しくさせた
305 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/10(金) 15:19:39.85 ID:VQI5t/iAO
秋津洲「ちょっと本気で………」







霧島「目標はとりあえず、あいつの額だ!!!!!!!」






一同「はああああああああああああ!?」





と言いつつも、不思議とクルーの誰にも異論はなかった。
306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/10(金) 15:20:06.15 ID:VQI5t/iAO
休憩
307 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/06/10(金) 16:06:59.37 ID:E0gdv62DO
目欄にsaga入れれば殺すとか死ねとか魔力とかの変換すり抜けられるよ

人がいないのはスレタイが爆死してるからだと思うぜ
オリジナルSSはスレタイの爆死レベルがある程度以上になると中身が逆によくなるの法則
308 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/10(金) 22:08:25.51 ID:VQI5t/iAO
ありがとう
次スレはもうちょいスレタイ考えるわ
309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/10(金) 22:54:08.93 ID:E0gdv62DO
個人的にこのスレと↓のスレはオリジナルSSかつスレタイ爆死かつクオリティー高いかつ更新頻度高めでかなり好きだぜ

【ヒトデファンタジー】女王「ハートのトランプだと……」【そのU】 (630)
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1303896298/
310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/10(金) 23:32:29.23 ID:+COVwoJto
面白いぜ
311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/11(土) 01:21:22.34 ID:2PFguj8AO
再開
312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/11(土) 01:21:49.83 ID:2PFguj8AO
霧島「と、いう訳で作戦会議を始める」

白鷹「この状況でどうすんだよ」

白鷹は怪訝そうな顔をしながらポニーテールを揺らした


アリナ「使えるにしろ、ファルコートは二機と予備機……しかも万全じゃないですよ」

霧島「ね、困っちゃいましたね」

霧島は頭をグシャグシャにしながら笑って答えた。

新兎「……あんなに偉そうなこと言ってた割には人事ですね」

313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/11(土) 01:22:25.37 ID:2PFguj8AO
霧島「分かってないなぁ…新兎くん」

霧島「いーい?こういう緊急事態だからこそさぁ、第三者的な冷静な視点が必要なんです!」キリッ

一同(………現実逃避の間違いじゃないか)

霧島「とは言えまあ、方法は一つしかないんだがね」

秋津洲「……あるんですか」

霧島「あるんだよ、それがさ」




霧島は小学生のような笑顔をみせた
314 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/11(土) 01:22:51.19 ID:2PFguj8AO
霧島「頭さん」

頭「はっ…はい」

霧島「予備機の自爆装置って威力どのくらい?」




頭「じ………自爆ううううううう!?」





秋津洲「ちょっと!艦長本気でパイロットを………」

霧島「どのくらい」

頭「えっと……」

榛名「12000……まあ、敵の容量からして十分かとは」

頭「あの………」

霧島「で、脱出装置は」

榛名「動くわよ。勿論最近までメインだったんだしね」



頭(……もういいや)

315 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/11(土) 01:23:21.82 ID:2PFguj8AO
霧島「りょーかい。と言うわけで作戦を伝える」

秋津洲「……ホントにやる気なんですか」

霧島「あれ、想像ついた?」

秋津洲「……大方は」

新兎・敷島「?」

橘花「………」

霧島「んじゃ、改めて作戦を伝える!」

霧島「予備機の自爆装置を発動させ、全速力にて敵の額につっこませる。」

霧島「その間に予備機のパイロットは脱出。万が一の為にファルコートを二機配備。以上だ。」

新兎「い、以上だって……艦長!」

白鷹「無茶苦茶過ぎんだろ!!!!!!!」

316 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/11(土) 01:23:48.74 ID:2PFguj8AO
霧島「無茶苦茶だけど他にある?不調なファルコート二機と予備機が攻撃しただけじゃ相手に十分なダメージは与えられない」

霧島「かと言ってファルコートを自爆させられん。砲撃だって効果があるかは分からないし周辺被害の予想も付かない」

白鷹「それはそうだけど………」

秋津洲「……本気?」

霧島「俺はいつだって本気さ!!!」




明後日の方向を指差しながら霧島は自信ありげに答えた

317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/11(土) 01:24:26.20 ID:2PFguj8AO
頭「だけど、予備機とは言え損害が……」

霧島「それは秋津洲さんが何とかしてくれます!」

秋津洲「ちょっ、ちょっと!」

新兎「……」

霧島「んじゃ、配置」

霧島「予備機は………」

新兎「……」

敷島「………」

橘花「…………」



霧島「新兎くん」





新兎「うええええええええ!?」







霧島「は、度胸ないからやめにして」

新兎「や…止めてくださいよ………」

いかにも泣きそうな面だ。相変わらず情けない男である

318 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/11(土) 01:24:57.39 ID:2PFguj8AO
霧島「橘花大尉、お願いできます?」

敷島「!」

橘花「はい」

一方の彼女は一つ返事だった

しかし、関係ないはずの敷島が大いに動揺していた

敷島「待ってくださいよかんちょおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」

霧島「何ですか、ナイスチョイスでしょうが」

敷島「大尉は、大尉は女の子なんですよ!!!!!!!死んだらどうするんですかあああああああ!!!!!!!」

霧島「女の子だからって……」

敷島「自分が行きます!むしろ行かせて下さい!!!!!!!」

新兎(ははーん…やっぱりこいつ橘花が好きなんだなぁ………)

霧島「あのね……」


霧島が口を開く


と、同時にそれを遮るように橘花が話し出した


319 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/11(土) 01:25:25.00 ID:2PFguj8AO
橘花「だからダメなのよ」

敷島「……へっ」

橘花「このオペレーションには冷静さが必要とされるわ。あなたなら死にかねないでしょう」

白鷹「……お前も相当だけどな」

橘花「それに、腕は私の方が上よ。正確さが違うわ」

敷島「しかし………!」

霧島「だからさ、万が一のためにファルコートを配置してるんですよ」

敷島「しかし!」

霧島「守ってあげてよ、ね?」

敷島「うう………」

霧島「と言うわけで作戦開始は30分後。早急にスタンバイするように」

橘花「了解」

敷島・新兎「………了解」
320 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/11(土) 01:26:03.67 ID:2PFguj8AO
本日は以上

お付き合い アドバイス ありがとうございました
321 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/11(土) 22:17:45.50 ID:CEoLuNxmo
322 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/11(土) 22:35:46.38 ID:2PFguj8AO
こっそり再開
323 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/11(土) 22:37:53.72 ID:2PFguj8AO
【第二格納庫】

敷島「なんだ、怖いのか貴様」

新兎「………今更怖くねーよ」


新兎は目の前の機体を見上げた




―――ファルコート。





念願、とまでは行かないが胸が高鳴る


男ならコレを嫌う人間はまずいないだろう

324 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/11(土) 22:38:28.11 ID:2PFguj8AO
敷島「まあ、せいぜい俺達の足を引っ張るなよ」

新兎「それはこっちのセリフだっちゅーの」

新兎「昨日の事を忘れたとは言わせないぜ」

敷島「あ……あれはだなぁ!」

新兎「素人が!ベロベロバァー」






新兎が敷島を挑発していると、後ろからカチャリという、嫌な音がした







新兎「………!」







橘花「ふざけないで」





橘花は拳銃を新兎の首の後ろに突きつけていた。









新兎「なぁ…なんの…つもりだよ………」

325 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/11(土) 22:40:18.23 ID:2PFguj8AO



橘花「―――ふざけるなら死になさい」





新兎「ちょ!えっ?えっ?」

敷島「………」



目の前のハーフ野郎はうつ向いていた



―――死ぬ


新兎の本能がそう囁いていた

この女ならやりかねない。



そして予想通り橘花は引き金をひいた









326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/11(土) 22:40:51.73 ID:2PFguj8AO
ビシャアアアアア―――




新兎「―――」


新兎「………ビシャア?」







首筋を覚えのある感覚が支配した

冷たくて 湿っぽい

あの感覚だ。







新兎「血か?血か?血なのか?」

橘花「……バカね」







後ろを触れると……





赤ではない、透明な液体だった
327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/11(土) 22:41:18.75 ID:2PFguj8AO

新兎「み……水ぅ?」


橘花「頭さんに頼んで作ってもらったのよ。どう?そっくりでしょう」

新兎「お……おまええええ!!!!!!!」

橘花「少しは緊張感が出たかしら。」

新兎「冗談じゃ……」

橘花「あら、殴りかかって頂いても結構よ。ただし、あなたがケガするけど」

新兎「………!」

橘花「これにこりたら作戦前にバカな私語は慎むことね」


そう言い残して彼女は去っていった







新兎(………あのクソアマァ!)



328 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/11(土) 22:41:44.27 ID:2PFguj8AO
霧島『はいはい、楽しい楽しい楽しいレッツコミュニケーションタイムはそこまで』

霧島『時間がないですから両名も搭乗するように』

新兎・敷島「……はい」


新兎「………」


新兎は何となく自分で自分がおかしいことに気がついた


不思議と本気で怖くないのである


おかしな化け物相手に無茶苦茶な作戦


普通なら逃げ出したくもなるし、普段なら多分逃げ出しているところだろう



が、全く、全然、怖くもなんともないのである



何故か




その答えこそが




ある意味の『悲劇』の始まりだった

329 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/11(土) 22:42:51.64 ID:2PFguj8AO
新兎がファルコートに搭乗する。
昨日の機体とは段違いだ。

色々とスムーズだし、椅子もフカフカ。レバーもフィットするし、立ち上がりも早い。


白鷹「ファルコート、メインシステム立ち上げるぜ」

頭「了解。拘束、解除」

技術部員一同「解除!」



ウイイイーンとか、なんちゃらかんちゃらとか、変な英語が流れたあと…ファルコートは起動した


新兎「………すごい」



細かな調節が必要とはいえ、なめらかだった。

手足がもう4本増えた感覚だ。


スイッチを入れて、微妙な調節をする。このアナログ感もたまらない



榛名『どう?すごいでしょ』

新兎「すごい………」

榛名『だけどね、あくまでもアナタの「機体」にしか過ぎないわ』

榛名『過度な期待は禁物よ』

霧島『機体だけに』

榛名『ちょっ!!!!!!!』


霧島と榛名は爆笑していた。

相変わらず馬鹿なひと達だな、と新兎は染々思った


330 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/11(土) 22:43:19.12 ID:2PFguj8AO
秋津洲『……残りの二人は』

敷島「完了!!!!!!!」

橘花「完了しました」


霧島『それじゃあオペレーションスタートだ』

霧島『ファルコート、並びにウイッチ発進準備!』

技術部員一同「発進準備完了」


新兎「………」グッ


霧島『発進!!!!!!!』




……無謀な作戦が今、始まった
331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/11(土) 22:43:46.56 ID:2PFguj8AO
短いですが本日はここまで


ありがとうございました
332 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/11(土) 23:09:33.41 ID:CEoLuNxmo
333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/12(日) 23:49:56.63 ID:VBqldvbno
まだ冒頭しか読んでないけど文章の高クオリティーさにワロスww
ちょっと稽古つけてくださいよ
334 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/13(月) 23:54:04.56 ID:9xTrGZUAO
こっそり再開
335 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/13(月) 23:56:22.96 ID:9xTrGZUAO
宇宙へと三機のロボットが閃光のごとく飛び出した。

美しく凛々しい姿。

だがパイロットの姿がそのまま反映されている訳でもなさそうだった



新兎「………」

敷島「………」

橘花「………」


三人ともども思わず口をポカンと間抜けに開いてしまっている

いつも凛々しい橘花ですら、アホ面をさげていた。

―――化物


……その一言で処理するには無理がある

敵の大きさは一体どれほどあるのだろうか?想像すらつかない。

336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/13(月) 23:56:56.67 ID:9xTrGZUAO
たしかに国うんぬんを抜いたって逃げ出したくなる気持ちもわからなくもない。

しかし。


やつはよくよく見れば見るほどタコだ。タコである。


霧島『発進完了。お前達よろこべ!倒したらたこ焼きパーティーだぞっ☆』

秋津洲『艦長!』

霧島『やだ……こわいよぅ……』


――画面の向こうは相変わらずだ。

日常と非日常が交わる

いや、非日常が日常なのかもしれない。



337 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/13(月) 23:57:25.39 ID:9xTrGZUAO
霧島『じゃあ橘花、自爆装置の方は20地点にて行え』

白鷹『計算上は地点20からフルでいけば到達まで3秒余裕がある。』

橘花「その間に脱出。了解」

霧島『ファルコートは脱出まで予備機をサポート!』

敷島「了解です!!!!!!!」

新兎「了解」

各々テンションの差はあるものの逃げ出そうする人間は言葉通り、一人もいなかった。もちろん新兎を含めて。

霧島『それじゃあいってみよー!!!!!!!』

手刀を大きく上へと霧島は振り上げた。


白鷹『ドリフターズか』



アリナ『みなさん、もっと緊張感持ってくださいよ……』

秋津洲『………』



秋津洲は本日何度目になるかは覚えてはいないが、とにかく頭を抱えていた


338 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/13(月) 23:57:53.25 ID:9xTrGZUAO
霧島『橘花、準備はできたか』

橘花『はい、完了しました』


橘花は旧型チックなレバーを前後に押し引き、カラフルなグラフが彼女を取り囲む

橘花『地点20/100まで低速モードで飛行します』

白鷹『うし、ファルコートも準備オッケーだな』

新兎「ああ、だが――」


快適なせいか、逆に橘花に合わせ辛くはあったが、そこは腕の見せどころだ

白鷹『初めてにしちゃやるじゃんか。』

新兎「……ほめてるんですか」

アリナ『普通はウイッチに合わせるのは逆に至難のわざなんだよ』

新兎「……そ、そうなんですか」

学生生活は勿論のこと私生活においても新兎はあまり褒められた覚えがなかった。
思わず口角が緩む。

だらしのない顔に更に拍車が掛かったことは言うまでもないだろう。


339 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/13(月) 23:58:25.25 ID:9xTrGZUAO
敷島「ケッ!いい気になるなよ素人。出来て当たり前だ、当たり前!!」

新兎「へへー、悔しいのか」

敷島「うなわきゃなかろうが。プロはその位じゃ喜んだりはしない。素人の証拠だ証拠!」

霧島『敷島くーん、なんか今日特にイライラしてない?生理前?』

敷島「せっ……ひ、卑猥ですよ艦長!」


真っ赤にしながら敷島は応える


意外とこう言うネタには弱いらしい


敷島「本官は、やる気まんまんなだけであります!!橘花大尉、お守り申し上げますぞ!!!!!」

橘花「………」

新兎「相変わらず暑苦しいなお前は」

340 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/13(月) 23:58:51.99 ID:9xTrGZUAO
敷島「貴様は軍人ならばだな、もっと国を憂い――――」


白鷹『国を憂うのもいいけどさ、もうすぐ地点20到達だぜ』

敷島「気を引き締めていくぞ!!!!!!!!!!!!!!」

霧島『元気いいですね』

敷島「歌ってもいいですか」

霧島『じゃあ輪唱しましょうか』

秋津洲『………艦長!!』



アリナ『……いつもよりテンション高いですね敷島さん』




341 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/13(月) 23:59:31.89 ID:9xTrGZUAO
霧島『地点20到達。……ここからが計算上は最もヤツにダメージを与えられる訳だが』

橘花「地点50にて脱出、ですね。」

霧島『セリフとらないで下さいよ』

橘花「それでは自爆装置、起動します!」
橘花はガラスを叩き割り、赤いボタンを押した。

たちまち警告音が響き、赤く操縦席が染められた

アリナ『自爆装置起動確認しました』

霧島『じゃあファルk………』

敷島「ファルコート2、再発進!!!!!!!!!!!!!!」

新兎「ファルコート1、再発進します」


霧島『……あの』


霧島『………何でみんな先走っちゃうかな』

白鷹『威厳がないからじゃん?』

霧島『……ひどい』

頭『お気持ち、お察しします』

頭がにこやかに霧島の肩に手を置いた


342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/13(月) 23:59:58.98 ID:9xTrGZUAO
アリナ『ウイッチ、フルで発進スタートしました!!!』

白鷹『ファルコートも問題、ないぞ』

霧島『……了解』

アリナ『地点30!』


予備機、ウイッチは全速力でタコに体当たりして行く。

ファルコートもその横をついて行き、3つの矢が宇宙に放たれた



アリナ『地点40』


アリナ『地点45』


アリナ『地点50到達!!!』


白鷹『橘花、脱出!!!!!!!』


橘花「…………」


その時、橘花の手は濡れていた



―――嫌な汗



動悸……嫌な感覚が彼女を次第に支配した。



343 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/14(火) 00:00:27.08 ID:A1Ypk78AO
橘花「………」

白鷹『おい、橘花!聞いてんのか橘花!!!!!!』

橘花「………イヤ」

白鷹『………えっ』

敷島「橘花大尉!お早く!!!!!!!!!!!!!!」

橘花「イヤ………」

新兎「イヤってお前なにやってんだよ…死ぬぞ?いきなりどうしたんだよ……」

橘花「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」


橘花はレバーから手を離し、頭を抱えて錯乱しはじめた


344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/14(火) 00:00:54.01 ID:A1Ypk78AO
白鷹『ちょ、ちょっとどう言うことだよ!!!!!!!』

アリナ『橘花さん!橘花さん!』

橘花「イヤ!イヤ!イヤ!イヤ!イヤ!死にたい!!!!!死ぬ!!!!!!このまま死なせて!!!!!!!!!!!!!!」

秋津洲『ちょっと……何を言ってるのよアナタ……』

新兎「一体……どういう………」

霧島『………』

橘花「イヤ………いやあああああああああああ……………」




そして、通信は途絶えた
345 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/14(火) 00:02:57.94 ID:A1Ypk78AO
秋津洲『ちょ、ちょっと……橘花大尉………』

アリナ『一体、一体……なにが……どうなってるんですか……………』

霧島『………』

動揺する艦内、そして敷島



ただし、ただ二名は落ち着いていた


霧島



そして意外にも新兎も
346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/14(火) 00:08:18.35 ID:A1Ypk78AO
敷島「大尉!たいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!」

霧島『落ち着いてよ敷島くん』

敷島「しかし!!!!!」

霧島『落ち着け!!!!!!!』

敷島「………」

霧島『今、テンパっても仕方ありませんよ。ね?』

霧島『“プロ”なんでしょ』

敷島「………はい」

霧島『とりあえず作戦は中止。橘花大尉の救助にうつれ』

アリナ『………いいんですか』

霧島『いいも何も人命尊重ですよアリナさん。私は君をそんな風には育てた覚えはありませんよー』

アリナ『………』

秋津洲『しかし艦長どうするおつもりで』

秋津洲『まさか、無理矢理操縦席をファルコートで引っこ抜くつもりじゃ……』

霧島『ピンポーン!!!!!!!』


白鷹『……無茶苦茶だ』
347 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/14(火) 00:13:01.45 ID:A1Ypk78AO
アリナ『しかし、理論上はいけます。』

アリナ『敷島さんはパワー、神前さんはスピードに強いですから』

霧島『神前がスピードで押さえつけて敷島がパワーで引っこ抜く……完璧な作戦ですよね』

ドヤ顔で霧島は秋津洲に言い放った


秋津洲『……確かに無茶苦茶ではありますがそれしかありませんわね』

悔しいが、確かに霧島の作戦はこの場においては最もベストなことは全クルーが理解していた。

頭『……なんか今から胃が痛い』

榛名『あ、マムシドリンクと胃薬ならたくさんあるから安心して働いてね』

頭『………』

348 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/14(火) 00:17:15.31 ID:A1Ypk78AO
予備機の暴走は止まらない。

地点70に到達しても、脱出の気配は未だにない


霧島『作戦は一刻を争う!!!!!2分だ。行けるな!!!!!』

敷島・新兎「了解」

霧島『新兎くんが押さえつけて敷島くんが引っこ抜く……その後全速力で脱出、安全域まで帰還』

霧島『……守ってやれよ』

敷島「勿論であります!!!!!!!」

新兎「……はい」



不思議だった



こんな場面なら普通手ぐらい震えそうである


が、敷島はともかくとして新兎も高翌揚しているのかなんなのか、全く恐怖を感じない


………逆にそれが恐ろしい気もするのだが
349 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/14(火) 00:19:55.79 ID:A1Ypk78AO
アリナ『スタンバイOKです』

霧島『スタート!!!!!!!』


二機の機体が全速力で予備機を追った。

先に出たのは新兎。

彼女を全力で追いかける。何をやっているか……忘れそうなほどに無我夢中だった


新兎「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


新兎(………出来る!今なら…今なら何でも!!!!!!!!!!!!!!)


新兎が人生の中で初めて感じた『チート』だった
350 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/14(火) 00:25:19.00 ID:A1Ypk78AO
白鷹『地点80!!!!!!!』

新兎「死なせねええええええええええええええええええバカ女!!!!!!!!!!!!!!」




新兎はガシリとウイッチを掴んだ


ググググとウイッチが新兎のファルコートを押す……が、機体差か、彼には到底かなわない。


後に敷島が追いつき、背中に手をやった。


猛烈にレバーを前後させる



敷島「助ける!!!!!!!お助けしますぞおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



霧島『どうだ』


アリナ『………もうじき、行けます』

白鷹『すげえ……既存のデータ振りきってるぜ…………』

秋津洲『何よ……このデータ…………』

榛名『面白いものが手に入りそうだわ…霧島くん』

新兎・敷島「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



――――――ガン!!!!!!!





明らかな手応えを敷島は感じた
351 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/14(火) 00:30:40.24 ID:A1Ypk78AO
敷島「閣下―――」


敷島のファルコートの掌には操縦席入りの脱出ポッドが乗っかっていた

敷島「うううっ………」


思わず握ってしまいそうだったが、潰れるのでやめた


秋津洲『作戦終了ね』

霧島『……ああ』

秋津洲『よし、二機とも帰還しなさい!』

敷島「待ってください!化物は………」


秋津洲『後で作戦は立て直すわ。時間がないのよ』

敷島「しかし!放置するわけには参りません!代わりに私とファルコートが……」


霧島『それこそ失敗したら先々困る。』

敷島「……しかし」

霧島『それに、橘花ちゃんも一緒なんでしょ』

敷島「しかし!私は玉砕覚悟で……」

霧島『……中からロックは』

白鷹『アイツバカだから橘花と違ってかけてない』

霧島『じゃあ機能停止』


敷島「ちょっ!!!!!!!」


敷島のファルコートは生命維持モードに切り替わった
352 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/14(火) 00:36:04.01 ID:A1Ypk78AO
新兎「………」

霧島『お手数だけどこいつら担いで逃げてくんない新兎くん』

新兎「……艦長、一つ思い付いたんですが」

霧島『……何を』

新兎「もうウイッチの力だけじゃ爆発まで間に合わない…んすよね」

アリナ『勿論…押さえつけちゃったから』

新兎「なら、エマージェンシーを使って俺がウイッチを担いでぶちこんだらどうなります?」

白鷹『………お前!!!!!!!』

秋津洲『無茶苦茶よ!!!!!!!今は帰還して………』

新兎「どうなりますか」



新兎の言葉には迷いはなかった


そして、霧島の瞳が変わった


霧島『………理論上は出来なくはないが』

新兎「……出来るんですか」

霧島『ただ、お前がどうなるかは保証できない』


新兎「行きます」


秋津洲『ちょっ!!!!!!!』

新兎「行かせて下さい!!!!!!!」



アリナ『神前……くん?』



新兎のどこにこんな勇気があったのだろうか


自分でも奇妙でたまらなかったが……やるしかないように感じた
353 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/14(火) 00:39:13.46 ID:A1Ypk78AO
秋津洲『ロックは!!!!!!!』

白鷹『掛けられてるぜ。バカじゃねーみたいだ』

新兎「………」

霧島『わかった。行け』

秋津洲『霧島艦長!?』

霧島『もう、このままロックしたらしたでみんな爆発に巻き込まれちゃうし、もう気持ち良く行かせてあげましょうよ』

秋津洲『しかし………』

霧島『あいつを止められない。なら一刻もはやく行かしてやるのが上司の仕事です』

霧島『新兎くん、行け!!!!!!!』


新兎「了解です!!!!!!!」


新兎は体勢を変えて、そのままウイッチを抱え込んだ。
354 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/14(火) 00:44:51.56 ID:A1Ypk78AO
しばらく離れた場所でEMを起動する。

橘花のように仲間に当てるような真似はしたくは無かったからだ。

新兎「いくぜえええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!」


―――次々と装甲が脱ぎ捨てられた。



爆発寸前のウイッチを抱え込み特攻をしかけるその姿は
誰しも文句が言えない『軍人』の姿だった。


霧島『いけええええええええええ!!!!!!!新兎おおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

白鷹『突っ込めええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!』

技術部員一同『ぶちこめええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』


クルー全員が一眼となり叫んだ



アリナ『地点90!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』


一同『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』



タコ『―――――』





タコの額が新兎の目の前に映し出された









新兎「地獄の閻魔によろしくなああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」





そして




――――――轟音が宇宙に響いた







355 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/14(火) 00:48:02.19 ID:A1Ypk78AO



新兎の薄らぐ意識。



微かな声が聞こえた



「よ…………」



新兎「よ?」



「………なよ」


新兎「………?」



「える……………なよ」



新兎「えっ?」


今度は別の声が聞こえてきた




「わたし……………」


「……たい…………」


「………り」


「知りたい」






新兎「…………!」











そして一気に付き離された感覚に陥った





356 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/14(火) 00:53:22.88 ID:A1Ypk78AO
新兎は宇宙を漂っていた



どこに向かっているのか分からないまま広がる漆黒に
感じてはいけないようなことを感じてしまったような気がして、


思わず全身がゾクリとした。


新兎(……どうして、こんなことになっちまったのか)


そんな月並みの思考しか出来ない己を、新兎は恨んだ。


ただ、自分のごちゃごちゃする記憶と思考をまとめる、それだけで一杯一杯だった。


彼は叔父の経営する魚屋を継ぐはずだった。


つい数日前までは。



だが。いまはどうだろうか



無茶苦茶な戦艦のパイロットをやって
今考えればジタバタしたくなるような台詞を吐いていた



――――恥ずかしい




その感情の後に恐怖が彼を支配した



新兎(俺――――)


新兎(なんちゅうこと…してたんだ………………)


一歩間違えれば死ぬところだった



いや、もしかして死んでるのかもなぁと新兎は考えたが、ニヤニヤしたオッサンのアップをみる限り

ここは極楽ではないようだった
357 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/14(火) 00:56:26.96 ID:A1Ypk78AO
艦長室。


橘花と、敷島と、新兎が立たされていた



―――デジャブか



しかし前回と違っていたのは二人ではなく今度は新兎が大量の包帯に巻かれていた





ニヤニヤ笑うオッサンとイライラ怒るおb………お姉さん



ある意味色々と対照的だった
358 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/14(火) 01:00:12.54 ID:A1Ypk78AO
新兎「あの………」


秋津洲「……あれほど無理するなと言ったはずよね」


新兎・敷島「……はい」

橘花「………」


霧島「まあまあ、結果………」

秋津洲「オーライじゃ済まされません!!!!!!!」

霧島「おお、怖い」

秋津洲「艦長!」

霧島「でもね、良くやったよお前らは」

霧島「ただ橘花……何があった」

橘花「………ごめんなさい記憶が」

霧島「ないの?」

橘花「…………はい」

霧島「まあ、そこんところは結果待ちか」

霧島「とりあえず……三人共々今日はゆっくり休むように」

秋津洲「ちょっ……」

霧島「解散!!!!!!!」


霧島は秋津洲を遮った


空気を読んだ三人は早々に艦長室を後にした
359 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/14(火) 01:18:45.73 ID:A1Ypk78AO
秋津洲「どうして帰しちゃったんです!?」

霧島「『事故』ですから本人を責めても仕方ありませんよ」

秋津洲「……事故?」

霧島「これ、榛名ちゃんからのデータ」

……一枚の紙を秋津洲に渡した。

秋津洲「……精神の分析データ」

秋津洲「『敷島・ドレッドノート・市之助、橘花珠理、神前新兎………全員に精神グラフの異常がみられた………』」

秋津洲「これ!どういう………」

霧島「あとこれ、アメリカの死んだパイロットの経歴」

秋津洲「………橘花大尉にそっくり」

霧島「どこも戦艦って島流しの果てなんですね」

秋津洲「楽しそうに言わないで下さい」
360 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/14(火) 01:21:22.10 ID:A1Ypk78AO
秋津洲「しかし…これは………」

榛名「私が説明するわ」

秋津洲「!」

秋津洲「い……いつから………」

榛名「ずっと」

秋津洲「………」

全く気配を感じなかった事は言うまでもない

榛名「とりあえずね、三人のデータから共通して採れたのは」

榛名「……ある『欲求』の増加」

秋津洲「……欲求?」

361 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/14(火) 01:29:48.02 ID:A1Ypk78AO
榛名「そう。端的に言えば…」

榛名「『死への欲求』かしら」

秋津洲「……どういう事」

霧島「つまり、あの化物は一見弱そうに見えるけど『人が死にたくなる』ように精神をコントロールしていたワケ」

秋津洲「でも、三人が三人……自殺願望があった訳じゃ………」

榛名「影響には個人差があるわ」

榛名「橘花ちゃんは流された経歴とか昨日の一件を考えれば不思議じゃない」

榛名「敷島くんはある意味作戦を通じて死のうとしてたし。」

秋津洲「……神前准尉の行動も?」

榛名「アレは違うわ。逆に…死を打ち消したパターンよ」

秋津洲「?」

秋津洲は話が見えないのか、首を傾げた

霧島「ああ言う人間はね、普段から『死にたい死にたい』いってるんですよ」

霧島「だけどチキンだから[ピーーー]ない」

榛名「生への執着があの化物の精神攻撃によって良い方向へ刺激されたのよ。ある意味ね」

秋津洲「だから……彼はあんな無茶を」

霧島「アレが何者なのか、とりあえず現在は調査中です」

秋津洲「………」

霧島「ま、調査終わったらたこ焼きパーティーしましょうか」

秋津洲「鮮度が持ちませんわ」


霧島「………忘れてました」




相変わらずオッサンはニタニタ笑っていた
362 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/14(火) 01:32:08.57 ID:A1Ypk78AO
またもや戦艦は慌ただしかった。

修理に修理に修理
解析に解析に解析

勿論飯など作る暇もなかった。


男達が駆け抜ける中、三人はとぼとぼと廊下を歩いていた


橘花「……」

敷島「……」

新兎「………」


無言。



橘花「………」

敷島「………」


新兎「あの……な」



耐えきれなくなり最初に口を開いたのは意外にも新兎だった
363 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/14(火) 01:34:31.65 ID:A1Ypk78AO
新兎「……まあ、なんだ」

口下手な彼は口を開いたものの何を喋ったらいいかわからなかった

新兎「………」

敷島「………」

橘花「………」


橘花「………ねえ」


新兎「何だ」


橘花「お腹、すかない」


新兎「………ああ」


確かに随分飯を喰らっていなかった


新兎「だけど今日は技術部が当番だろ」

橘花「そうね」

敷島「そうだな」


新兎「………」

橘花「………」

敷島「………」

364 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/14(火) 01:37:58.87 ID:A1Ypk78AO
新兎「………この後予定は」

敷島「あるわけねーじゃねえか」

橘花「……右に同じよ」


新兎「じゃあ………」


新兎「………俺たちで作るか」


敷島・橘花「!」


新兎「いやな。まあ、機体直してもらうんだし……あの……いや………」


橘花「………作り方、わかるの」

新兎「………さあ」

敷島「わからんのか」

新兎「………料理とかしたことないからな」

敷島「アホか」

新兎「………悪かったな」

橘花「………るわ」

新兎「えっ」

橘花「教えるわよ」

新兎・敷島「えっ」

橘花「カレーくらいなら作れる」

新兎「……あの」

橘花「なに」

新兎「………いいのか」

橘花「誘ったのは貴方じゃない」

新兎「………まあ」
365 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/14(火) 01:42:48.74 ID:A1Ypk78AO
アリナ「なんの話ですかー!」

白鷹「おいおい、まさかカップ麺でも盗みに行くのか?」

どこからかアリナと白鷹が話を聞きつけやってきた

橘花「ご飯の当番を変わるって話よ」

白鷹「……まだ先じゃねーか?」

新兎「でも腹ペコだろ、みんな」

アリナ「まあ…それもそうか」

アリナ「じゃあ私も手伝います!」

白鷹「おっ、じゃあ私も」

敷島「上官がやるなら手伝わない訳にはいきませんな」

秋津洲「じゃあ…決まりね」

新兎「あ……ああ」

アリナ「よーし!頑張りますよー」

白鷹「やったるぜー!!!!!!!」

敷島「任せろ!!!!!!!」

三人は食堂へと駆けて行った


橘花「………バカね」

新兎「………ああ」
366 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/14(火) 01:46:25.58 ID:A1Ypk78AO
新兎「………」

橘花「………がと」

新兎「へっ」

橘花「ありがとう」

新兎「えっ………」

橘花「死んでたら…カレー食べられなかったわね」

橘花「ありがとう」

新兎「あ………え……………」


人から感謝されるなど何年ぶりだろうか



橘花「急ぐわよ」


新兎「あ……あああ………」



始めてみる橘花のニコリとする姿に新兎は少しばかりドキリとした






―――戦艦に小さな変化が起きた1日だった





だが、これが戦艦を巡る大事件の幕開けだとは誰も想像してはいなかった






第二話・了
367 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/14(火) 01:47:16.75 ID:A1Ypk78AO
第二話終了で本日ここまでです

ありがとうございました。
368 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/14(火) 09:09:18.73 ID:cINYFItDO
369 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/14(火) 22:53:01.91 ID:A7SM5lmLo
370 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/14(火) 23:24:18.92 ID:A1Ypk78AO
ありがとうございました。
書き溜めが尽きたんでこれからペースが多少おくれます
すいません
371 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/06/23(木) 22:59:42.57 ID:0EbPDiuXo
まだかしら
372 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/24(金) 15:44:38.63 ID:N4tq9MQAO
来週はじめには第3話はじまります
忙しかったんですいません
貴重な読者さん待っててくれてありがとうございます
373 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/06/24(金) 15:45:19.11 ID:N4tq9MQAO
来週はじめには第3話はじまります
忙しかったんですいません
貴重な読者さん待っててくれてありがとうございます
374 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/24(金) 23:37:12.46 ID:0IbfnMDho
把握
375 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/07/02(土) 19:08:04.06 ID:EiPwHLZ50
まだー?
376 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/02(土) 22:49:17.68 ID:dEy92jfNo
追いついた。
期待してますぜ。
377 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/07/16(土) 22:45:38.45 ID:wtlEx+pAO
今月中にはなんとか
378 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/07/24(日) 16:59:30.68 ID:Fx5iX0Cq0
あげ
379 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/07(日) 15:11:45.01 ID:GTY+pr2AO
第三話
『聖戦〜SENTO〜』

開始します
380 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/07(日) 15:13:10.25 ID:GTY+pr2AO

戦艦から驚異が去ってから2日、能天気なクルー達のことである。


祝賀ムード一色に染まっていたかとおもいきや



……戦艦は暗雲に包まれていた



技術部員一同「………」

沈黙が食堂を支配していた。


どこか厳しい華麗なる一族の食卓のようであるが、それに例えるとするとあまりにもゲストの服装が小汚い。

橘花「……どうしたのかしら」

その中でも華麗なる一族にかろうじて似合いそうな美女が彼らに睨みをきかせていた

381 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/07(日) 15:13:40.28 ID:GTY+pr2AO

技術部員一同「いいえ!別に!!」

彼らは橘花という10代なのか20代なのかわからない(実際にはもう良い年なのだが)少女にビクリと情けなく肩を震わせていた。

橘花「……そう」

彼女は、かの不穏な空気を読み取っていたのか、さっさと次の場所へと向かう支度を始めていた。

橘花「…じゃあ艦長室に持っていくから」

技術部員一同「はい!ありがとうございます橘花大尉!!!!!」


一同は敬礼し、鍋をもちながら立ち去る橘花を見送った後


彼らは泣き崩れた


382 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/07(日) 15:14:36.12 ID:GTY+pr2AO
技術部員A「ぐっ……」

頭「泣くな……。技術部員は耐えて泣いて忍んでなんぼなんだ……」

この男が頭(カミ)。名前に掛けてヘッドとかカシラとか大層な名前をつけられてはいるものの
それらしい威厳は全くなく、個性溢れる技術部員一同をまとめることすらままならない
妻子に逃げられたかわいそうなオッサンであった。

その代わりに技術部員一同をまとめあげているのが十六女榛名と、リーダー格である技術部員A、B、C、Dであった。

383 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/07(日) 15:15:40.20 ID:GTY+pr2AO
技術部員B「しかし!しかしぃ!」

技術部員C「シカも菓子もねぇ!!!!俺達の身の錆びがなんちゃらかんちゃらだからだろ!!!!!!!」

技術部員D「責任転嫁だろうが」

技術部員B「食えねーわけじゃねえ!!!確かに橘花大尉はかわいい事は認める。だがな、相模…(技術部員C、以下相模で表示)物事には限度があるんだよ」

相模「限度だと?カレーは全てを包み込む。金剛(技術部員B、以下金剛で表示)、その上完璧かつ愛情というスパイスが……」

金剛「それはお前が『不協和音の会』とかなんとか捻りのないバカな名前の派閥の会長(笑)だからだろ」

相模「な、なんだよ!いいか、珠理→ジュリー→不協和音なんだよ!昔ばあちゃんのジュリーのファンクラブの会員証にかかれてたんだよ!わるいか?」

金剛「わるいね。我々ネーミングセンスは抜群だよ。シウンアリナで『シウン軍』!ジークシウン!!完璧なネーミングだろ」

技術部員A「プッ!わらっちゃう超旧式のアニオタかよ!」



こいつらは紛れもなくアホだった
384 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/07(日) 15:16:07.18 ID:GTY+pr2AO
金剛「じゃあお前のとこはなんなんだよ加賀(技術部員A以下加賀)」

加賀「シラタカ派事務局寄り(右派)」

相模「…なんじゃその学生運動のなりそこないみたいな名前は」

加賀「ちなみは名前はタカ派だけど俺達ハト派だよ。無用な争いは好まないね」

相模「じゃあ周防(技術部員D、以下周防)は……」



周防「……アーケードリーダーふぶk」




加賀・相模・金剛・頭『それ以上は言うな』

385 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/07(日) 15:16:34.41 ID:GTY+pr2AO
その後の展開は誰しもが予想出来た。

お互いの勝手につくりあげ、勝手に名付けた非公式ファンクラブの名称に
なんじゃこらだの、ガノタは時代遅れだの、ゲーム雑誌がどうだの、団塊はゴミだのとお互いを罵りあい殴りあっていた。

頭は止めようと四苦八苦するものの下敷きになることがやっとで己のリーダーシップのなさを嘆いた。

その様子をチラリと、アリナと白鷹はカップラーメンをすすりながら覗いていた。


386 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/07(日) 15:17:02.11 ID:GTY+pr2AO
白鷹「朝から暑苦しいのなんのって、なあ」

アリナ「しかしそのお陰でこうして非常食をこっそり持ち出せたわけですし」

白鷹「見張りが見張りの役目を果たしてないとかな、あいつらバカだよな」

アリナ「まあ、食事時は本来、見張る必要はないわけですから…」

白鷹「いくら完璧なカレーったってこう毎日続くと嫌気がさすよな〜」

白鷹「最悪でも技術部が作業終えるまではカレーか……」

アリナ「ホントに完璧なカレーなんですけどね。完璧故に飽きやすいのが欠点というのが皮肉です…」

387 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/07(日) 15:17:49.69 ID:GTY+pr2AO
白鷹「ハンバーグやらシチューやらは完璧に作れないからださないってーのが珠理ちゃんらしいっちゃらしいんだが」

白鷹は割り箸をくわえながらポニーテールのはしっこをくるくるいじくりまわしている。
アリナはというと理由もわからないまま溜め息をついていた。


アリナ「………!」

と、アリナは後ろからイヤな気配を感じた
白鷹「ちょ、お前…どうしたんだよ」

アリナ「何か……イヤな気配が」




―――「不穏な影」の気配





ポタリポタリと廊下に水滴をたらし

虚ろな眼に

そしてボサボサの頭

不適な笑みを浮かべ



「奴」は迫ってきた





「ふひ………」


「ひひひひひひひひひ」


白鷹「……お前は!」

388 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/07(日) 15:18:17.66 ID:GTY+pr2AO

白鷹はその男の姿に思わず箸を落としてしまった

呆れて。


新兎「おはよう……ございます……」


全身びしょぬれの情けない男の姿がそこにはあった

どうしてこうも戦艦にのる男どもは揃いもそろって情けない腑抜けばかりなのだろうか。

389 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/07(日) 15:18:44.57 ID:GTY+pr2AO
アリナ「こ…神前くん」

白鷹「まーたお前は珠理ちゃんにやられたのか」

思い起こせばここ毎日、防犯装置を利用した強制朝シャンを受けさせられていた

新兎「5分遅れただけでもこのザマですよ!!」

白鷹「バーカ。5分の遅刻が命取りってこともある。お前が悪い」

新兎「悪いって!明らかに橘花の…」

アリナ「神前くん、そういうこと言ってるから友達出来ないんじゃないかな」

新兎「」

アリナのボディーブローは新兎の鳩尾付近を確実に捉えた

390 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/07(日) 15:19:25.36 ID:GTY+pr2AO
白鷹「しっかしお前も不思議な男だよな。先輩の敷島と階級上の珠理ちゃんにはタメ口だろ」

新兎「……白鷹さんだって橘花をちゃん付けしてるじゃないですか」

白鷹「年功序列だからいいんだよ」

新兎「………」

新兎「しっ、白鷹さんって橘花さんより年上だったんですかあああああああああ!?」

白鷹「ま、この顔とこの髪型で幼く見えるだけなんだよ。良く見ると意外といい身体してるだろ」


白鷹は腰をクイ、とやる。

確かに意識はしていなかったもののそれなりの身体をしていた。

391 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/07(日) 15:20:26.52 ID:GTY+pr2AO
白鷹「アリナもなかなかやるんだよなぁ?」

白鷹はアリナの胸を鷲つかんだ

アリナ「なっ!なにするんですかぁ!!!!!!!」

明らかに動揺する彼女。

キャッキャと騒ぐ乙女の姿は無限地獄のオアシスの様だった



―――しかし新兎には刺激が強すぎた。







アリナと白鷹からダブルラリアットを食らったことは言うまでもない。





新兎「せ…生理現象なのに理不尽だ……」

392 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/07(日) 15:20:58.36 ID:GTY+pr2AO
白鷹「そういや、敷島は?」

アリナ「さっさとカレーを5杯もおかわりしたあとトレーニングルームです」

白鷹「……筋肉バカは気楽でいいよな」

アリナ「汗も流せないのにどうするんでしょうね」

393 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/07(日) 15:21:25.41 ID:GTY+pr2AO
【艦長室】

霧島「………」

珍しく霧島はじっと資料を真剣に見つめていた。
その姿に気味悪さすら感じられる

秋津洲「やけに不機嫌じゃありません霧島艦長」

霧島「不機嫌?わかります?」

秋津洲「何年来の付き合いだと思ってるんですか」

山の様な書類を見事な手さばきで処理してゆく姿はまさに職人芸といっても過言ではなかった

394 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/07(日) 15:21:55.11 ID:GTY+pr2AO
【艦長室】

霧島「………」

珍しく霧島はじっと資料を真剣に見つめていた。
その姿に気味悪さすら感じられる

秋津洲「やけに不機嫌じゃありません霧島艦長」

霧島「不機嫌?わかります?」

秋津洲「何年来の付き合いだと思ってるんですか」

山の様な書類を見事な手さばきで処理してゆく姿はまさに職人芸といっても過言ではなかった

395 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/07(日) 15:22:38.37 ID:GTY+pr2AO
霧島「じゃあそろそろ結婚」

秋津洲「しません」

霧島「ちぇー」

霧島「そういうふぶきちゃんだって不機嫌じゃないですかぁ〜」

秋津洲「そりゃそうですよ。明日、この間の件のお叱りを受けにいくんですから」

匂いがうすめな香水を思い立ったら吹き掛ける。数日その繰り返しだった

霧島「まさに適材適所だねっ☆」

どこぞの超時空シンデレラのごとくイラつくポーズを決める髭を蓄えた良い歳のおっさんに毎度のことながら頭を抱えた

秋津洲(…………この男)

396 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/07(日) 15:23:44.10 ID:GTY+pr2AO
秋津洲「この何日間、一件で風呂が壊れてましたがその修理まで手が回らなかったから身体がベタベタしましてね」

秋津洲「どうしたものかと思ったんです」

霧島「じゃあフタツキまで銭湯にいけばいいじゃありませんか」

秋津洲「そのつもりですわ。ファルコートを一機連れ出して、壊れた移動挺を引っ張る…お風呂ひとつでもひと苦労です」

霧島「一緒に行きたかったなぁ…」

秋津洲「あら、入れ替え制でいけばいいじゃありませんか。私か艦長、どちらか残らなければなりませんから」


霧島「やだ!やだ!やだぁぁぁぁ!ふぶきちゃんと一緒じゃないとやだ嗚呼嗚呼嗚呼!!!!」

良い年こいたオッサンの駄々は哀愁すら感じさせた

397 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/07(日) 15:24:16.49 ID:GTY+pr2AO
秋津洲「……行ってどうするんですか」

霧島「覗く」

秋津洲「………」

秋津洲「……そんなつまらない冗談より、艦長が不機嫌な理由の方が興味ありましてよ」

霧島「そんなの…ふぶきちゃんだってわかってるじゃない」

秋津洲「?」

霧島「簡単すぎたんですよ。倒せたのが」

クルクルと慣れた手つきで彼はペンを回した

398 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/07(日) 15:24:43.81 ID:GTY+pr2AO
霧島「何て言うか、自分で作戦を立てておいてなんなんですけど、上手く行き過ぎてる気がしたんですよ。全部」

秋津洲「……誰かが仕組んだと」

霧島「さあ?それに相手が『タコ』ってのが気になる」

秋津洲「……ヒト同士の争いを示唆してる、か」

霧島「ヨーロッパの方じゃ悪魔扱いさ。それに」

秋津洲「……れに?」

霧島「前妻の好物だったんですよねぇ…たこ焼き器でたこ焼き焼かされたなぁ」

秋津洲「……」ズコッ


399 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/07(日) 15:25:09.66 ID:GTY+pr2AO
橘花「艦長に奥さんなんていらしたんですか」

霧島・秋津洲「!!!」



――突然、ふりかえると鍋を持った美少女が立っていた



この文だけ切り抜くと、いかにもロマンチックな大学生活のヒトコマにも思えなくもなくもなくもないのだが
その実は飽ききった臭いを漂わせる悪魔の申し子の降臨か世界の崩壊を知らせるラッパの音にそう変わりはなかった。


霧島・秋津洲「い……いたの……」

橘花「ずっと」

400 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/07(日) 15:25:43.48 ID:GTY+pr2AO
霧島「あのぅ…珠理さん珠理さん、鍋の中身は……」

橘花「カレーです」

霧島「……ですよねー」

霧島「あ、あのさ」

橘花「なんでしょう」

霧島「おでんとかさ、こう……もっとレパートリーがあるんじゃないでしょうか」

橘花「まだ極めてはいないので」

霧島「ああ…そうですか」

秋津洲(…これまたすぐに飽きそうなおでんができそうなものね)

401 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/07(日) 15:26:10.22 ID:GTY+pr2AO
橘花「それより、艦長に奥様がいらっしゃった方が個人的には驚愕的なのですが」

霧島「あ……ああ、まあね………」

榛名「霧島英理、霧島くんの『元』奥さんよねー」

霧島「はっ……榛名ちゃん!」

秋津洲「……いたんですか」

榛名「ええずっと(はぁと)」

榛名はこれまたカップラーメンをすすりながら、にこやかに立っていた

秋津洲(……ここは忍者屋敷なのかしら)

402 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/07(日) 15:26:37.29 ID:GTY+pr2AO
榛名「英理ちゃんはねー飛び級で博士過程をとった挙げ句に上級士官学校に主席で卒業した挙げ句に天才科学者だったんだからぁ〜」

橘花「……だった?」

霧島「殉職だよ。ま、人なんてそんなもんさね」

霧島「太く長く生きすぎた。俺みたいに細く長く生きるのが正しい人生さね」

橘花「あ……あの……」

霧島「気にしないでくださいよ。よく『もしかして艦長って童貞ですか?』なんて聞かれたもんですから」

橘花「……別にそういう意味じゃないんですけど」
403 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/07(日) 15:27:17.71 ID:GTY+pr2AO
とりあえずここまで
お待たせしてすいませんでした……
出来るだけ毎日とはいきませんが更新していきます
404 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/10(水) 21:22:24.20 ID:nrF9kWmro
405 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/11(木) 12:23:41.24 ID:cawYB+KAO
ひっそり再開
406 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/11(木) 12:25:21.89 ID:cawYB+KAO
秋津洲「ま、そんなことは良いとして」

霧島「そんなことってふぶきちゃん、これは男にとってはね、大事な大事な問題なんだよ」

榛名「アタックチャーンス!」

ザックジャパンもびっくりな連携だった

秋津洲「ま、そんなことは良いとして」

橘花「……」

407 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/11(木) 12:25:57.71 ID:cawYB+KAO
秋津洲「出来たかしら。準備は」

橘花「はい。先ほど技術部から終了したとの知らせを受けました」

秋津洲「違うわよ。機体じゃなくて貴女の方よ。無理なら何とかしのぐから、無理しちゃダメだわ」

橘花「私、ですか」

橘花は秋津洲の意外な一言にめずらしく目を見開かせた。

橘花は“天才”だった

それゆえ、軍の気質上もあってか「機体」の心配はされるものの「橘花本人」を気遣う人間が今までいなかった。

408 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/11(木) 12:26:29.18 ID:cawYB+KAO
霧島「どしたの?」

橘花「いっ……いえ、別に」

突然の出来事に微妙に動揺していた。

秋津洲「あんなことがあった後ですもの。一応、メディカルチェックとメンタルチェックは問題なし、シュミレーションの成績も上々よ」

霧島「だけど、いまの技術では説明出来ないできごとが起きたわけじゃないの。」

橘花「問題はありません。前回は…その………」

橘花「………『アレ』でしたから気が立ってたんでしょう。」

霧島「アレ?」

409 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/11(木) 12:26:55.80 ID:cawYB+KAO
秋津洲「しかし、いくら『アレ』といったって…」

榛名「まあ、『アレ』ならああ言う行動も起きかねないものね。PMSって立派な病気もあるわけだから」

霧島「だから『アレ』って何よ!」

秋津洲「………薬は」

榛名「飲ませてるわ。経過を見るしかないでしょう。この間の霧島くんの与太話より余程現実的だもの」

霧島「ちょ、ちょっと!榛名ちゃんがいいだしたことじゃんか!!」

410 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/11(木) 12:27:21.79 ID:cawYB+KAO
榛名「で、『アレ』は?」

橘花「大丈夫です」

榛名「ですって。ま、乗せてみたら?」

秋津洲「そうね……たしかに『アレ』によるPMSの影響なら考えられないこともないわね」

霧島「ちょっと!アレってなに?僕だけおおいてきぼり?アレってなに?教えて!!教えて!!」

嬉々といい歳のおっさんが女性三人を捕まえて騒ぎわめく。

榛名・秋津洲・橘花『アレはアレです』


しかしそこは三人は心得ていたようだった

霧島「……つまんねーの」
411 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/11(木) 12:36:30.34 ID:cawYB+KAO
技術部員A「20および30Kまでの回線接続完了」

技術部員B「了解!エンジンシステム、良好」

技術部員C「移動挺との接続完了しました」

技術部の連中は久々にあわてふためいていた
その顔は妙に嬉しそうだった

白鷹「あんなあとだが珠理ちゃんに任せて大丈夫かマジで」

アリナ「大丈夫もなにも彼女しかいないじゃないですか」

白鷹「お前も受けてたろ。それに一応資質はあるんだから」

榛名「あら、面白いデータが採れそうだわ〜♪」

アリナ「まずいですよ!バレたら軍法会議ものです!」

秋津洲「二人とも、あんまりバカなこといわないで頂戴」

橘花「いやなら降ります?」

白鷹・榛名「いいええ」

412 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/12(金) 09:51:27.98 ID:0/otJI50o
再会してたか
413 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/15(月) 15:53:37.26 ID:S1eCr8XAO
こっそり三話再開
414 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/15(月) 15:54:57.99 ID:S1eCr8XAO
ファルコートが大きく唸りをあげた。

アリナ『MCシステム起動、ファルコートの起動も正常に終了したと確認しました!』

白鷹『パイロットも問題ねーな』

霧島「はい、んじゃあファルコート起動確認したんで、いっちゃいましょうかね」

頭「いいんですか…ね?勝手に本部に内緒でファルコート起動させちゃって」

技術部員A「そういや、紫雲少尉も勝手に出掛けたらまずいんじゃあ」

霧島「その辺の対策はだいじょーV!」



大きく腕を回して腰をくねらしマントをひるがえしVサインを披露する戦艦のトップに改めて一同に一抹の不安が過った

415 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/15(月) 15:55:28.49 ID:S1eCr8XAO
榛名『今からこのネックレスでアリナちゃんの個人認識システムを妨害させまーす』

霧島「かわりにアリナさんの個人認識チップのコピーをここにおく!その名も、アリアリアリーナちゃん1号機!!」

アリアリアリーナちゃん『ワタシ、アリナ、デス、ミンナ、スキヨ、スキヨ、スキヨ、スキヨ』

いかにも安上がりな特殊なネックレスのようなものをつけた…空気嫁にも近いクオリティの彼女は椅子でガシャンゴションいっている

霧島「どうよ金剛くん」

技術部員B「いや……あの………」

アリアリアリーナちゃん『スキヨ、スキヨ』

技術部員B(……なくもないのが俺ヤダ)

技術部員B、金剛をはじめとした『シウン軍』一同は涙を浮かべながら床に突っ伏した。

秋津洲「………」

416 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/15(月) 15:55:56.29 ID:S1eCr8XAO
橘花「いい加減発進しますが」

橘花の冷たい声が艦内に響いた

霧島「あ、そうだよね、珠理ちゃん」

霧島「ああ、じゃあファルコート1号機はっしn……」

頭「発進しちゃいましたよ、艦長」

霧島「えっ」


417 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/15(月) 15:56:35.98 ID:S1eCr8XAO
―――――
【艦内】


技術部員A「しっかしなぁ、珠理ちゃんも変わったかなとおもったんだけどな」

技術部員B「まぁなぁ、何を思ったかいきなり、俺達に手料理だもんな。毎日カレー地獄だが」

技術部員C「十分だろうが!閣下がカレーだぞ!!!」

技術部員D「まあ、俺達とも関わろうとすらしなかったもんなぁ」

新兎「んな、すぐに変わるかよ。小学校の林間学校じゃあるめーしよ」

敷島「ケッ、貴様は林間学校ですら省かれてたクチだろうが」

霧島「あ、いつの間に敷島くん。元気です?」

新兎「お前ぇぇぇぇぇ!!!治ったばっかりのその肋骨、バッキバキにしたろうかあああああああ!!!」

敷島「貴様のことだから事実だろうがぁぁぁ!プッ!キャンプファイヤーで先生と一緒に一生踊っとれ!!!」

霧島「あれ、おじさん、また無視された?」

新兎「お……前……」

新兎の目の裏の方から嫌な記憶がこみあげてきた

―――確かに先生とばかりオクラホマミキサーを踊っていたような気がしなくもなくもなくもなくも………ないような……



そんな不毛な問いを繰り返し



床に突っ伏した。

418 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/15(月) 15:57:02.21 ID:S1eCr8XAO
霧島「ちょっと敷島くん…かわいそうだからさぁ……」

敷島「ふん、勝ったな!これでこの前の借りはチャラだな!!!」

敷島は満面の嫌みな笑みで新兎を見下ろしていた

技術部員E「……ちっちぇ」

技術部員F「あれで勝ったつもりなのかよ……」

技術部員G「この間の自分の不始末がよっぽど恥ずかったんだろ。大尉にカッチョワルイとこ見られたもんだから」

技術部員H「だけどこれもないわー大尉にみられてたら逆にドン引きだよなー」

技術部員I「他人のトラウマえぐって自分のミス帳消しとか最低だよなー」


419 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/15(月) 15:57:31.30 ID:S1eCr8XAO
敷島の自慢は丈夫な身体だった

骨折すら通常治癒装置を使えども2〜3日は完治にかかるが、敷島の場合は1日もかからなかった


視力もアホみたいに良かった。もちろん、聴力も。

勿論そのアホのような地獄耳は技術部員達の小さな囁きすら捉えた。


―――そして敷島まで目に涙を浮かべながら床に突っ伏した。


頭「ど……どしたの敷島くん?」

霧島「意外にナイーブなんですよ。彼」



艦内にはそこかしこに涙を流しながら男達が床に突っ伏し、
華を失って何ともいえない空気の漂う陰鬱な艦内のムードを膨張させていた

420 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/15(月) 15:58:12.82 ID:S1eCr8XAO
そのうち可笑しなムードは全体に広がり作業が滞り、なんらかのトラウマに皆苦しみもがき、ちょっとした地獄絵図が広がっていた

技術部員O「へっどぉぉぉぉぉ、俺、実はカレーコッソリ捨ててラーメン食ってましたぁぁぁぁ〜!すいやせんんんん……うおおお……うっ……」

頭「ちょ、ちょっと分かったから…ね?泣くなよお前らぁ」

技術部員一同「ヘッドぉ!!!」

頭「そんなにいっぺんに来られてもまとめらんないよぉ!!!!」

頭「艦長、なんでよりにもよって俺が部長なんすかぁ!!!!!」

終いには頭までもが泣きながら霧島に詰め寄ってくる始末だった。

霧島「いや…一番………ほら、なんか…………」

頭「一番なんかってなんすかぁ!!!!」

霧島「一番……なんか………ねぇ?」

頭「いいとこなんもないのに俺は部長なんだああああああああ…………」

遂に頭までもが床に突っ伏した。


霧島を囲む形でクルーは泣き崩れる。
彼のマントで鼻をかむ者さえいた。

その中心でもなお霧島は『華々達の現在』を想像しながらニヤついていた。


421 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/15(月) 15:58:38.75 ID:S1eCr8XAO
そのうち可笑しなムードは全体に広がり作業が滞り、なんらかのトラウマに皆苦しみもがき、ちょっとした地獄絵図が広がっていた

技術部員O「へっどぉぉぉぉぉ、俺、実はカレーコッソリ捨ててラーメン食ってましたぁぁぁぁ〜!すいやせんんんん……うおおお……うっ……」

頭「ちょ、ちょっと分かったから…ね?泣くなよお前らぁ」

技術部員一同「ヘッドぉ!!!」

頭「そんなにいっぺんに来られてもまとめらんないよぉ!!!!」

頭「艦長、なんでよりにもよって俺が部長なんすかぁ!!!!!」

終いには頭までもが泣きながら霧島に詰め寄ってくる始末だった。

霧島「いや…一番………ほら、なんか…………」

頭「一番なんかってなんすかぁ!!!!」

霧島「一番……なんか………ねぇ?」

頭「いいとこなんもないのに俺は部長なんだああああああああ…………」

遂に頭までもが床に突っ伏した。


霧島を囲む形でクルーは泣き崩れる。
彼のマントで鼻をかむ者さえいた。

その中心でもなお霧島は『華々達の現在』を想像しながらニヤついていた。


422 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/15(月) 16:32:20.04 ID:S1eCr8XAO
一方その華たちはと言うと、


その半数…つまりファルコートに対して耐性のない白鷹と秋津洲にそれから榛名は紫陽花のような顔色をしていた。

接続された移動挺とは言え、ファルコートの乗り心地というか、感覚が伝わってきていた。

やっとこさの思いで『フタツキ』の日本国陸、空軍共同基地のグラウンドの上に降り立つ。

このフタツキ基地、なんとなくカスミと同じ香りがするが、軍内での意味合いは全く逆であった。

423 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/15(月) 16:32:59.28 ID:S1eCr8XAO
フタツキ基地に配属されることは言わば『栄転』である。
ここでは新型のウィッチが大量に配備されフタツキの治安維持につとめている。

カスミが暇で暇で仕方がないのも、フタツキから宇宙へ犯罪者が逃げ出さぬよう任務を確実に遂行している彼らの純粋なる意味での活躍のお陰(一部のものにとっては『せい』)なのである。

かと言って特にカスミとフタツキ基地との関係はそう悪くなく、 と言うより

ある『いくつかの理由』でむしろ歓迎されていた。

一つめは何といっても「華の存在」だった
『ようこそフタツキへ!秋津洲、十六女、紫雲、白鷹御一行様』

と書かれた大きな垂れ幕が掛けられていた

424 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/15(月) 16:33:25.78 ID:S1eCr8XAO
白鷹「な……なんじゃあ……こら」

秋津洲「ど、どうしたのよ…一体全体」

アリナ「おっきいですねー……しかも印刷ですから、おいくらくらいでしょかぁ……」

白鷹「……予算、有り余ってんだなこいつら」

榛名「うふふふ〜♪」


呆れ果てる三人を尻目に、榛名だけは何故か奇妙な笑顔を浮かべていた。


パイロットA「こんにちは。歓迎の意を表します!」

こちらの所属パイロットの一人が顔を真っ赤にさせながら敬礼をしていた
彼は迷わず橘花を震えながら見つめている。

425 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/15(月) 16:34:11.18 ID:S1eCr8XAO
しかし彼の思いは虚しく、橘花はスタスタと横切りファルコートの軽いメンテナンスを始めてしまった

榛名「ごめんなさいね〜あの子、人見知りで」

オペレーターA「人見知りっていうか、完全に視界に無かったような………」

パイロットA「   」

オペレーターA「しかし、おお!貴女が噂の白鷹さんですか!!」

白鷹「う、噂ってなんだよ……」

オペレーターA「いやぁ、上司の不正を暴いてボッコボコとか早々できませんよぉ!!!」

白鷹「ちょ、ちょっとお前なんで、んなこと知ってるんだよお!?」

オペレーターA「えっ、白鷹さんのフアンなら基本中の基本知識っすよ!!!!!!!」

白鷹「……誰が洩らしたんだよ」

と、言いながらその『誰』に大体検討がついていた。

426 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/15(月) 16:34:40.75 ID:S1eCr8XAO
オペレーターB「やっべ、アリナちゃ……いや、紫雲少尉かわいいっすね!!!」

アリナ「え、か…かわいいって私?」

オペレーターB「ええ!私、団扇買っちゃいましたよぅ!!コンプリート大変だったんですからぁ」

アリナ「こ…コンプリート?」

パイロットA「あれ、知らないんすか?この基地とか、地球の一部基地の売店で売られてるヤツ」

白鷹「はあああああああああ!?」

アリナ「う、売られてる?」

パイロットB「はい。名付けてカスミヒロインズコレクション!団扇にプロマイドに食玩に最近はカードゲームまでっ!」
427 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/15(月) 16:35:55.40 ID:S1eCr8XAO

オペレーターB「もうあれっすよ、箱買いしちゃいました。もう紫雲少尉と橘花大尉はかなり人気で超レアなんすよ〜」

秋津洲「ちょ、ちょっと待って、そんな話なんて私、許可した覚えはないけれど……」

榛名「あら、ふぶきちゃんそんな怖い顔をしないで〜」

秋津洲「……まさか」

榛名「霧島くんのアイデアでね〜、技術部が商品化してたのよぉ〜」

榛名「ほら、これ売上ね。」

ヒラリと榛名から渡された用紙に秋津洲は驚愕した。
副業というにはあまりにも大きな額であった。

428 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/15(月) 16:36:27.61 ID:S1eCr8XAO
確かに妙な装置やら妙な器具やら、食費などの生活費をけちる割には、どこから調達しているのか不思議であった

秋津洲「…聞いてないですわよ」

榛名「とりあえずふぶきちゃんもラインナップされてるらしいから」

秋津洲「はああ!?」

榛名「ま、まあ、このまま順調にいけばコックを雇える…と思うから……」


榛名「……ファルコートのパイロット次第だけど」


彼ら、軍隊において女というものは貴重な存在であった。
その中で偶然か必然か霧島の企みか整った顔立ちの女ばかりがカスミには局地的に集中していた。

女も三人揃えばかしましい。
が、五人も揃えばただただふつくしい。


一人でも貴重な存在である美人が何人も集まれば単体よりもなお美しく感じる。
アイドルにも当てはまる…言わばグループの法則である。

そんな華々が手の届きそうで届かない『島流しの果て』と呼ばれる所にいる。

その微妙なローカル感が一部の軍人達にはたまらなかった。


それが彼らがカスミのクルーを歓迎する、いくつかの理由の一つであった


429 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/15(月) 16:37:00.30 ID:S1eCr8XAO
が、約6割方、本人達は全く喜ぶどころか怒りすら覚えていたのはなんとも皮肉だった。

秋津洲「……」

アリナ「白鷹さん、艦長殴りたくならないんですか」

白鷹「いいかもな。失うものなんかねーしな」

???「おやおや、あいも変わらず霧島大佐は敵を量産するのがお得意なようですなぁ」

そんな陽と陰の入り交じる土地へ、一人の初老の男が小さな旗を振りながらやって来た。

―――また妙な、霧島が産み出した『ファン』ならぬ『不安』の種か

と、彼女達が振り向くと…明らかに男は周りの連中とは違っていた。

先ほどの理由がちっぽけに思える『いくつかの理由』の一つ…
いや、状況的には迫害されているカスミのクルーが迫害されぬ『最大の理由』がそこにはあった。

430 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/15(月) 16:37:30.26 ID:S1eCr8XAO
彼は女性ではない、明らかに男の写真が印刷された旗に、団扇に
見覚えのある『奇妙な名前』が刻まれたハチマキをしていた。

とにかく彼の風貌とスーツには似合わないその持ち物は…一同を驚愕させた


白鷹「あの……な、なんで………」


世の中には様々な趣味の人間がいる。
その男が持つグッズに刻まれた文字が『敷島』ならまだ納得が行ったかもしれない

『顔立ちだけ』ならばカスミ随一である

が、よりにもよって…パッとしない、あの男。

いやパッとするどころか存在すら認識されているかどうかすら分からない男。

と言うより軍人と呼んでよいのか分からないメンタリティを持つ男。


―――神前新兎の仏頂面が団扇のなかにあった


431 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/15(月) 16:37:57.24 ID:S1eCr8XAO
男「いやいや、部下がいきなり失礼を致しました。しかし女性というものは珍しくてね、無礼をお許しいただければと―――」
白鷹「あ…あの、アンタのその………」

秋津洲「……白鷹准尉、慎みなさい!」

秋津洲「……この方はここの司令よ」

白鷹・アリナ「し…しれー?」

男「久しぶりだねぇ、秋津洲くん。霧島くんから話はきいてるよ」

男「あ、それから君たちもありがとう。」

白鷹「あ…ありがとうって…」

アリナ「私達、司令さんには初めてお会いしますし……」
432 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/15(月) 16:38:27.31 ID:S1eCr8XAO
司令「いやいや、私のことではないよ。まあ、本部勤務で就任が今年度からだからまだデータにはないのだろうが」

アリナ「……と、いいますと」

司令「自己紹介が遅れたね。今年度からフタツキ基地司令に就任した………」


司令「神前大観大将だ。よろしく頼むよ」

アリナ「……こう?」

白鷹「………さき?」

橘花「神前………」

司令「神前新兎の父親だよ。新兎がお世話になっとるね」

司令はにこりと微笑んだ

アリナ・白鷹・橘花「……」

アリナ・白鷹・橘花「ええええええええええええええええええええ!?」


433 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/15(月) 16:45:38.27 ID:BXoe+jgDO
相変わらず面白いな
434 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/15(月) 18:23:27.11 ID:S1eCr8XAO
>>129
>>188
>>190
×乙女
○榛名


今更だが名前間違えてた
435 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/15(月) 18:25:06.51 ID:S1eCr8XAO
―――――


アリナ「こ……神前さんのお父様!?」

白鷹「確かに……親父がどうのこうのとか……言ってた気がしなくも……」

司令(以下、大観)「いやね、妻は新兎が多感な時期になくなってね」

大観「どうにか新兎を男手一つで育ててやりたかったんだが、そうもいかずにな……仕方なく妻の親戚に預けたのだが」

大観「もう寂しくって寂しくって!もうね、死んじゃうかと思ったの!!!!」

アリナ「は…はあ…………」

436 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/15(月) 18:25:36.63 ID:S1eCr8XAO
大観「実の息子に電話すら掛ける事すら難しくてね、養育費の送金が精一杯だったんだよ。手紙はバッチリ添えたんだけどね、一度も返事が帰ってきたことないの!」

大観「新兎がね、もうホントに育児放棄とか思っちゃってたりとかしたらどうしようとか思っちゃってね、なんとか会いたかったのよ……」

大観「でもすっかり嫌われちゃっててね、なんとか誤解を解きたくて…仕事を知って貰いたくて士官学校に入れたんだけど……更に嫌われちゃってね………」

大観「で、魚屋に戻るって聞いて『もうダメか』と思ったらカスミに配属されたっていうじゃない!!!!もう、ちょっとっていうか、かなり、もうすんごく嬉しくって嬉しくって!!!!」


新兎の話では大観がどこぞの特務機関のグラサン司令の如く冷徹な父親として描かれていたのだが、
実際の彼は冷徹な父親はおろか、息子のグッズを霧島に特注するほどの息子を溺愛する親バカっぷりであった。

437 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/15(月) 18:27:12.89 ID:S1eCr8XAO
>>183
×鷲宮
○敷島

またまた名前ミス
当初の予定から変更したので多くてすいません
438 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/15(月) 18:30:54.03 ID:S1eCr8XAO
大観「いやぁ、霧島くんには毎日新兎の様子を送って貰っててねアルバムにしてるんだよ〜!」

大観「いやあ…新兎ったらおっきくなっちゃってぇ…………」

大観「はやく…はやく仲直りしたいなって………新兎ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」

親の心、子知らずとは正にこのことじゃないかも知れないと一同は思った。

とにかく、先ほどの霧島の愚行すら忘れてしまうほどの衝撃をアリナ達は受けていた。

439 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/15(月) 18:31:21.72 ID:S1eCr8XAO
大観「ああ、とりあえず紫雲少尉の件については我々は見ない聞かない知らないを貫き通しますのでご安心くださいね」

秋津洲「それは…あの…助かりますわ」

大観「では基地内にあります、フタツキ銀座の銭湯をお使い下さい。ここから徒歩5分ですので」

一同「………」

440 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/15(月) 18:31:48.25 ID:S1eCr8XAO
――――――

【フタツキ銀座】

フタツキ銀座。
この星の6割方は日本の領土であり、基地が多くを占めていた。が、民間の開発も進み、このフタツキ銀座は民間との共同で作り上げられた『街』であった

軍人だけでなく、民間人や許可を受けた外国人も利用することが出来る。

が、まだまだ開発は中途段階であり、100年前の町並みを思い起こさせた。

その象徴とも言えるのが、この『銭湯はやぶさ』であった

昔ながらの作りで、一部の人間にはたまらないであろう。

441 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/15(月) 18:32:47.11 ID:S1eCr8XAO
牛乳にビールのポスターに鍵のない脱衣場にタイルに広い風呂に富士山の絵。

外の世界には滅多に出ることの出来ないアリナにとっては興味津々で、彼女は年相応にはしゃいでいた。

その横で黙々と服を脱ぎ出す秋津洲に榛名。

かってに戸惑う白鷹…そして何故か躊躇する橘花。


他に客のいないただっ広い銭湯。
日常的であり、非日常的でもあるその場所は

―――後に大きな嵐を巻き起こすことになる。


442 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/15(月) 18:33:20.84 ID:S1eCr8XAO
―――――

大浴場。
5人の美女達が裸で戯れる…とまでは行かないが、それなりの会話をしながら溜まった垢を落としていた。

榛名「こうして、みんなでお風呂に入るなんて初めてね〜」

秋津洲「男性は人数が多いからいつもこんな状態みたいですけど、私達はローテーションでしたからね」

榛名「しかし、ふぶきちゃんも相変わらずいい身体つきよね〜」

秋津洲「身体つきが女性らしくても軍隊では何の役にもたちませんわよ。もっと筋肉をつけないといけませんわ」

秋津洲は着痩せするタイプなのか、意外と胸の大きさは他の追随を許さなかった。

榛名「筋肉なんてダメよぉ〜!」

榛名「もっと露出の多い服、着ればいいのにぃ〜。」

秋津洲「……露出の多い服をあの艦長の前で着ろと」

榛名「面白いことになりそうよ〜?」

秋津洲「もう…榛名さんたらっ!」

珍しく秋津洲は照れを隠しきれて居なかった

443 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/15(月) 18:33:46.73 ID:S1eCr8XAO
白鷹「いやぁ、なかなか使い勝手が分からないから苦労したぜ」

アリナ「でも大体はうちのと同じでしたね」

白鷹「貧乏戦艦で助かったっちゅうかな」

榛名「あらあ、意外と白鷹ちゃんもアリナちゃんも期待度高いじゃない?」

白鷹「まあな。前よりかは一応、色々きーつけてるんだぜ」

アリナ「私はそんな……」

榛名「いいええ!年にしてはすごいわよアリナちゃ〜ん♪」

アリナ「ちょ、ちょ、はるなさっ……」

白鷹「何、アリーナ弄りほーだいか?」

アリナ「ちょ、やっ、やですぅ!」

444 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/15(月) 18:34:34.63 ID:S1eCr8XAO
このかしましい光景で、明らかに負のオーラを纏っていた女が一人ぽつりと端の方で湯に浸かっていた


―――橘花珠理


彼女はこれまた『完璧な』までの『断崖絶壁』だった。

またそれだけではない。年が二倍も下の少女にスタイルが負けてしまっている訳である


屈辱以外の何物でもなかった


榛名「あの…珠理ちゃんもその………」

アリナ「み、見事な筋肉ですよね。パイロットに理想的な!」

白鷹「そうだな!胸あるとさ、ほら…色々当たってさ邪魔じゃねぇか、なあ副艦長?」

秋津洲「な…なんで私に………」

橘花「………」

秋津洲「いや…ま、まあ邪魔か……しら………ね?」

橘花「さき……でます」


バシャリと悲しげな音が銭湯内に響いた


秋津洲「……た、たいい?」

アリナ「……」

白鷹「……」

榛名「うふふふ〜」

445 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/15(月) 18:40:42.21 ID:S1eCr8XAO
カラリと扉を閉める橘花。

完璧主義というか、なんとなく極端な彼女にとって、安っぽい同情は少々というより
『かなり』プライドを傷つけられた

何とも言えない重さを抱えながら牛乳を飲もうと小銭入れを探す。

探す。


探す。


ひたすら探す。



ひたすら探しまくる。


ひたすらひたすらひたすらひたすらひたすら探しまくる。




………が、ない



ないのである。全く、全く小銭入れが見つからない

それどころか……バスタオル以外の何もかもが消え去っていた。
446 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/15(月) 18:48:34.63 ID:S1eCr8XAO
――――

白鷹「しかし驚いたな。ニートくんのお父さんがフタツキの司令だとはな」

アリナ「はい。こちらに情報は来ていませんでしたので……軍のお偉い様とは知っていましたが」

秋津洲「私も驚いたわ。本部時代の知り合いだっただけに」

榛名「ねっ?私もびっくり♪」

白鷹・秋津洲・アリナ「………」

アリナ「……にしても、大変な悪口いってましたけど」

白鷹「明らかにニートが悪いよなぁ。」

榛名「新兎くんのことだから手紙もろくに読まなかったんでしょうねぇ」


―――――――

新兎「ぶぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっくしょい!!!!!!!!!!!!!!」

敷島「なんだ貴様、風邪か」

新兎「………なんか寒気がする」

447 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/15(月) 18:59:15.66 ID:S1eCr8XAO
白鷹「ま、いい土産話ができたな!」

アリナ「言って…いいんでしょうかね」

榛名「まあ、敷島くんあたりなら喜びそうなものだけど」

秋津洲「本人は七光りがどうだの気にしてたみたいだから、あまり表沙汰にしない方がいいんじゃないかしら」

白鷹「しかし、本人は親父さんがフタツキの司令、やってることなんて知らないだろ?」

アリナ「多分そうでしょうね。何も言ってませんでしたし」

白鷹「逆に黙ってた方がおもしれーことになるかもなww」


と、新兎の話題で盛り上がる彼女。

それを遮るようにカラカラと扉が開いた。

橘花がうつ向きながらやって来たのだ


白鷹「おお、珠理ちゃん湯冷めか?入れ入れってー」

榛名「機嫌、直ったみたいねん♪」



橘花「………ない」



アリナ「ふぇ?」

秋津洲「ない?どうしたのよ」


橘花「ない………ない!」


珍しく橘花は目に涙を浮かべながら呟いた

一同「えっ………えっ?」

予想外の展開に一同は口をポカンとさせていた
448 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/16(火) 18:30:38.25 ID:farL5G5wo
乙かな
449 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/18(木) 02:18:19.90 ID:hquhHfTAO
ちょっぴり再開
450 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/18(木) 02:19:27.06 ID:hquhHfTAO
ベンチにうつ向きながら座る橘花。

白鷹、アリナ、秋津洲、榛名はそれぞれ自分の籠を調べるものの…

確かに貸し出しのバスタオル以外何もない、まさにもぬけの殻だった。


白鷹「財布は愚か…下着までねーぞ」

アリナ「私のもです!」

榛名「………あらあら」

秋津洲「誰がこんな……は、破廉恥な…………ッ!」

橘花「全部、全部ないのよ。番頭がいながらどうしてこんなことになったのか私には理解できないわ……」

と、一同が少しだけ上を見上げると、うとうとと老婆が番頭台で居眠りをしていた。

白鷹「……随分と立派なセキュリティホールだなおい」


451 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/18(木) 02:19:56.40 ID:hquhHfTAO
アリナ「と、とりあえず着替えは一体どうなっちゃったんでしょうか」

橘花「どうなっちゃったも何も、盗みの線が濃厚でしょう。」

秋津洲「とりあえず犯人を捕まえようにもこの格好じゃあ何も……」

手ぶらの、バスタオル姿の女が五人、ただ銭湯にポツリと残されていた。

榛名「そうだわ!とりあえず、カスミに連絡を取って着替えを持ってきて貰う〜とかは?」

秋津洲「といっても、カスミには男性しか残っていないんですのよ!服はどうにかなっても…流石に……」

白鷹「下着は……なぁ?」

アリナ「……イヤですよね」


にこやかにブラジャーやらパンツを抱えてやってくる霧島の図が容易に浮かび、一同は目眩すら憶えた。


452 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/18(木) 02:21:26.20 ID:hquhHfTAO
秋津洲「と言ってもこのままここに立ち往生と言うわけにもいかないわ……」

アリナ「そ、そうですよね。立派な窃盗なんですから犯人だって見つけなきゃですし!」

橘花「お婆さん」

番頭「んん………」

橘花「お婆さん!!」

番頭「んへっ」

橘花「……誰か、私達の他にここに客は来なかったかしら」

番頭「あ……ああ……見なかったよ」

白鷹「聞いたって無駄だろう。寝てたんだしな」

老婆は頭に指をぐりぐりとしながら何か悩みこんでいる。

番頭「……ああ、そういや!」

なにかを思い出したのかポンと手をやる


一同「!!!!!」

白鷹「な…何か思い出したのか!?」

453 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/18(木) 02:21:52.24 ID:hquhHfTAO
番頭「何かよくわからん言葉を喋るヘルメット姿の男が突然やってきての、煎餅をワシにくれたんじゃよ。旨くてのー」

白鷹「……で」

アリナ「寝ちゃったと」

番頭「ああ…そうかぁ…なるほど!あんなかには睡眠薬がはいっとったんじゃな!」

何とも「納得いった」という表情をしながら老婆は、なおにこやかに応えた。

アリナ「……そんないかにも怪しい人から貰ったお煎餅を普通食べますか」

老婆「ワシが子供の頃は戦争で食糧難でのーついクセで」

白鷹「……クセって」


454 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/18(木) 02:22:25.18 ID:hquhHfTAO
番頭の老婆に呆れ果てるころ、秋津洲とアリナ、白鷹のNC(ナノコンピュータ)が反応した。

秋津洲「な…なんですか」

白鷹「どうしたんだよいきなり」


オペレーターA「し、失礼しました!お着替え中でしたか!!」

白鷹「…まあまあ」

アリナ(服を買いに行く服がないとはとても……)

オペレーターA「いや、それでは後に……」

秋津洲「後と言われても、どれくらい後になるかわからないから早く報告して頂戴」

オペレーターA「は、はっ!」

オペレーターA「それでは報告させて頂きます。」

秋津洲「よろしくおねがいします」

オペレーターA「中連の戦艦のパイロットが、フタツキ銀座地区に不法侵入した…そうです」

一同「………」

一同「えええええええええええっ!?」

455 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/18(木) 02:22:59.23 ID:hquhHfTAO
秋津洲「ちょ、ちょっと待ってよ!中連の戦艦のパイロットがなんで……」

オペレーターA「申し訳ありません……セキュリティがハッキング…というかジャミングされて無効化されておりまして」

秋津洲「……随分とジャミングがお好きなご様子で」

オペレーターA「ただ、中連に抗議をしたところ、彼はすでに軍隊を除籍されているそうで……」

白鷹「除籍ね……とんだ言い訳だなぁ、おい」

オペレーターA「何にしろ、注意に越したことはないと司令から皆さんにご報告しろとの命令で」

秋津洲(なるほど。霧島さんは神前司令には『あの事件』(一話参照)を喋っていた…と)

オペレーターA「それでは報告終わります!」

秋津洲「………ありがとう」


秋津洲「と、言うことらしいけど」

白鷹「ってことはパイロットって変な機体に乗ってたアイツか……!」

橘花「………」



これですべてのピースが揃い、はまった。


456 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/18(木) 02:23:25.42 ID:hquhHfTAO
アリナ「なるほど、負けた腹いせに私達の洋服を………」

白鷹「子供か…っちゅうの」



橘花「あの時の……パイロット」


橘花に嫌な記憶が蘇る。

――自分が自分自身に支配され、結局取り逃がしてしまったウィッチのパイロット。
橘花「………まえる」


アリナ「へっ」


橘花「……絶対、今度は捕まえる」

白鷹「って言ったって珠理ちゃん、この格好じゃ外に……」


白鷹の制止も虚しく



――橘花の『悪い癖』が出てしまった



457 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/18(木) 02:23:51.36 ID:hquhHfTAO
才能のある割りには向こう見ず、極端かつ一度決めたら曲げぬ柔軟性のない頑固さに、周りがまるで見えなくなる彼女の癖



自らがバスタオル一丁なのを忘れて彼女は銭湯の扉をガラリと開け、街へと飛び出して行ってしまった


秋津洲「ちょ、ちょっと橘花大尉!?」

白鷹「待てよお前!ほとんど素っ裸なんだぜ!!」

アリナ「い…いっちゃいましたね……」



458 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/18(木) 02:24:17.89 ID:hquhHfTAO
―――――――

フタツキ銀座の外れ、一人の男が大量の下着や洋服を抱えながら高笑いしていた。


中連のパイロット「ふん!生意気なジャップ女共が……ざまあみろってんだ」

下着などは5人のものだけではなく、他にも居住区から盗んだのだろうか、大量に段ボールの中に押し込まれていた。

中連のパイロット「戦艦に帰って山分けだな!生意気なカスミのメスパイロットのは俺のもんだが!がはははははは!!!!」
中連のパイロット「さあて、俺の目標は達成したが……」

中連のパイロット「肝心の軍用ウィッチを拝借してなかったな!」

段ボール片手に何だかよく分からない装置を動かし、セキュリティを突破する。

フタツキ銀座から基地内へと男は侵入していった。

…が、そう何度も同じ手が通用はしない。

ゲートは開いたが、代わりに警報音が鳴り響いた。


459 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/18(木) 02:28:44.15 ID:hquhHfTAO
一方、バスタオル姿の美女は人混みをかき分け……というよりモーゼの如く道を強制的に開かせ、ファルコートの元へと走っていた。


橘花(……必ず奴は戦艦に戻る)

橘花(そこをファルコートで一気に叩く!)

と、不意に彼女の耳に妙な警報音が鳴り響いた


………NCは元は指揮官候補であった橘花にも埋め込んである。自動的に警報は彼女の元へと届くようになっていた


橘花(………警報!)


アリナ「橘花さん!」

橘花「……どうしたの紫雲」

アリナ「基地内に侵入者が……それから、乗り捨てられた移動挺が発見されました」

白鷹「調べたらうちの盗まれた奴に間違いないみてーだ。やっぱありゃ」


橘花「………やっぱりアイツ」


アリナ「ちょ、ちょっと橘花さん!何をするつもりで……」

橘花「当然でしょう」

橘花「捕まえるのよ。『アイツ』をね」

白鷹「無茶苦茶言うなよ!スーツも無いって言うのにお前、バスタオルで乗るつもりか!?」

橘花「機体のMC(マイクロコンピュータ)との接続を開始して。やらないなら、私がやるまでだけど」

秋津洲「ちょ、ちょっとアナタ……いくらなんでも極端よ!応援を呼んで……」

橘花「これは私が残したヤマです」

橘花「………私が決着をつける」
460 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/20(土) 17:22:31.75 ID:2qGAiZ9AO
ひっそり再開
461 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/20(土) 17:22:57.30 ID:2qGAiZ9AO
秋津洲「待ちなさい!大尉。なるべく目立った行動は極力避けなさいと……」

橘花「ですから、極力避けていまし『た』」

いや、その格好だけでも十分目立ってますよとアリナと白鷹は心の中でツッコミを入れた

秋津洲「『これから』のこともよ!とにもかくにも、我々の出る幕じゃないわ。ここはフタツキ基地の領域よ」

橘花「しかし、相手はあの中連のパイロットです。我々が…いえ、私が取り逃がしたんですから、私が捕まえるのが通りです」

秋津洲「ファルコートの本部からの使用許可は出ていないのよ!戦いに使えば…」

462 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/08/20(土) 17:23:24.45 ID:2qGAiZ9AO
橘花「じゃあ黙って見ていろというんですか?」

秋津洲「ここはカスミの管轄じゃないわ」

橘花「管轄じゃない?だから見逃せと?」

橘花「相手は基地内に簡単に侵入してみせました。どこから入手したのか分からないですが我々の緊急の予定すら把握していた…だから……」

秋津洲「だからと言って、他人の領域に口出しをしていい訳ではないわ。あくまで『お客様』なのよ。私達は」

秋津洲「それに紫雲少尉の件もあるのにも関わらず、大きく動けば……」

橘花「……また『紫雲』ですか」

463 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/08/20(土) 17:24:07.47 ID:2qGAiZ9AO
橘花はイラツキを隠せなかった。
それは秋津洲も同様だった。

秋津洲「……『また』とはどういう意味合いかしら橘花大尉!!」

榛名「ふぶきちゃん落ち着いて…」

アリナ「あ…あの……」

秋津洲「とにかく。橘花大尉…あなたの現在の行動は軍人としても女性としても到底ふさわしいと呼べるものではありません!」

秋津洲「いくら独立愚連隊と呼ばれようが私達にも……」

その瞬間、再び警報が鳴り響く

一同「!?」

白鷹「……今度は一体なんだってんだよ!?」

オペレーターA『あの……』

白鷹「何だよ!いちいち浪人決まった高校生みてーなツラしやがってよぉ!」



オペレーターA『盗まれちゃいました』



白鷹「……ハァ?」




オペレーターA『軍用の…ウィッチを』




白鷹・アリナ「えええええええええ!!!!!!!!」

464 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/08/20(土) 17:24:42.89 ID:2qGAiZ9AO
白鷹「ちょっと、ちょっとどうなってんだよフタツキのセキュリティはよお!」

オペレーターA『い、いや…それがですね、ジャミング装置が盗まれた一機を除いて仕込まれてまして…あの……こんなことは初めてで………』

白鷹「…こいつらマジでエリート集団なのかよ」

アリナ「……私達も人の事言えませんけどね」

オペレーターA『と、いう訳でしてフタツキ基地は混乱を極めておりまして…あの…』

オペレーターA『……とても追いかけることが出来る状況では………』

大観『ですのでね』

オペレーターA『し……司令!』


大観『とにかく、カスミの応援をお願いしたくてね』

突然、にこやかな中年の男の顔がアップになった

秋津洲「しかし、我々は……」

大観『君たちは…特に紫雲少尉はここには来ていないという前提条件の上で、お願いしているんだよ』

大観『とりあえず……霧島くんの許可は貰った。こちらにファルコートを向かわせているとの報告があった。』

秋津洲「………霧島艦長ったらまた勝手に」

465 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/08/20(土) 17:25:28.57 ID:2qGAiZ9AO
大観『まあ、そんなわけでよろしくおねがいします秋津洲さん』

橘花「ならば、私が出る『大義名分』が出来ましたね」

大観『そ、それは困る!』

橘花「………どうしてですか」

大観『い…いやね、困るっていうか…あの……そう!うちの基地からファルコートが出て戦ったら何で?ってことになりかねない』

大観『そうだ。こっそり移動だけなら未だしも、カスミのファルコート到着前に戦闘となると色々とマズイ。正式な許可は貰っていないんだろう』

橘花「しかし!」

大観『出来ればその…ああ、そうだなじゃあそうだ!あの…研修用のウィッチが確か練習場にあったよ…なあ?』

オペレーターA『しかし、性能に差が………』

橘花は苛立ちが頂点に達したのか、親指の爪を噛む。
事実上、立ち往生を喰らってしまっているからだ。

橘花「それでも構いません。出撃させてください!パスコードは!?」

オペレーターA『その前にスーツは……』

橘花「その必要はありません。早くパスコードをこちらに」

オペレーターA『……大丈夫でしょうか』

大観『……多分。まあ、一応送ってしまえばいいんじゃないですかね。何が何でもファルコートに乗るって顔してますし』

オペレーターB『大丈夫ですかね…ホントに』

466 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/08/20(土) 17:25:56.30 ID:2qGAiZ9AO
白鷹「……」

アリナ「どうしたんですか白鷹さん」

白鷹「いやさ、マジで今回セキュリティが甘過ぎる気がするんだよな」

アリナ「確かに…でも初めての事態って……」

白鷹「ここのセキュリティは今んところは宇宙一だぜ。その証拠に二度目はセンサーは鳴った。ジャミング装置がついてようが、関係なくな」

アリナ「それは一度目の侵入のデータを……」

白鷹「うーん……でもなーんかしっくり来ねーんだよなぁ。しかも侵入を許した上にジャミング装置までつけられちまって。」

467 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/08/20(土) 17:26:27.78 ID:2qGAiZ9AO
白鷹「寧ろわざとアイツを入れたような気すらしてくるぞ」

アリナ「そんなまさか……」

白鷹「艦長との連携も異様に早い気がすんだよなぁ……」

アリナ「……考えすぎですよ白鷹さん」

白鷹「まあ考えすぎならいいんだけどな……」

アリナ「そうですよ考えすぎですよ。神前さんじゃないんですから」

白鷹「考えすぎかなぁ」

468 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/08/20(土) 17:26:58.59 ID:2qGAiZ9AO
――――――――

橘花「フタツキ基地側から出撃許可がでましたが」

秋津洲「了解。ただし、あくまで『フタツキ基地に所属するパイロット』として行動して頂戴」

橘花「了解、では紫雲少尉と白鷹准尉に機体のMCとの接続を開始させて下さい」

秋津洲「……と、言うわけだから」

白鷹「ま、色々引っ掛かるけどやるっきゃねーか」

白鷹「と、その前に副艦」

秋津洲「どうしたの?」

白鷹「寒いから風呂に入りながらでもいいですか。アリナのやつ、鳥肌たってるし」

確かにかなり湯冷めしてきた。このままだと風邪をひきかねなく…
また新たな騒動の一端になるかもしれないことを想像してしまった秋津洲は
一見として非常識にも思える白鷹の申し出を躊躇することもなく許可を出した。


秋津洲自身でも最近は何だか自分の『感覚』が麻痺しているような気がしてならなかった。

秋津洲(……アソコ(前の職場)にいた頃はこんなことになるなんて、想像もしなかったけれど)

469 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/20(土) 17:28:24.25 ID:2qGAiZ9AO
一方の橘花は旧式も旧式のウィッチをいち早くも身体にならすためにすべてのレバーに触れ、位置を覚えた。

勿論、フタツキの訓練用のウィッチなど乗ったことは勿論見たことも無かったが、彼女がそれを使いこなすにはその『儀式』だけで十分だった。

流石は天才と言うべきなのか、天災と言うべきなのか。

橘花「……終わったわ」

と、ポツリと呟くとウィッチを起動させる。
フタツキの機体であるので直接はカスミのクルーとのコンタクトはとれないが、そんなときにNCが役に立つ。
一時期機体内のMCに悪影響を及ぼすとかなんとか言われていたが具体的なデータもなくいわば根拠のない都市伝説にも似たような話だ。
便利であるし、こういう緊急事態には役に立つ。
と言うのは表の理由で、何より彼女の『プライド』が上級士官の証であるそれを外すことを許さなかった。

470 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/20(土) 17:28:55.68 ID:2qGAiZ9AO
―――――

【浴場】

アリナ「フタツキ側のメインコンピュータとの接続完了、只今から橘花大尉のパーソナルデータの仮書き換えを行いますが」

アリナ「大丈夫でしょうか」

秋津洲「大丈夫よ。フタツキ側との連携ミスってことで霧島艦長が落とすでしょう」
白鷹「ま、確かに『連携』のミスだなこりゃ」

榛名「しかし便利な時代になったわよねーお風呂に入りながらこんなお仕事できるなんて♪」

秋津洲「…私が上級士官学校に入る頃には既にありましたけど」

榛名「あら、ごめんなさい…ふぶきちゃんが同年代だと思って話しちゃってたわ……」

秋津洲「…そんな本気で申し訳なさそうにいわないで下さい」


471 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/20(土) 17:29:29.83 ID:2qGAiZ9AO
――――――

【フタツキ基地】

橘花「完了したかしら?」

白鷹『私の声が聞こえるならな』

橘花「そうね。じゃあデータの送信とナビゲートお願いするわ」

白鷹『ああ……』

橘花「どうしたの?そんな腑に落ちないみたいな顔して」

白鷹『腑に落ちねーんだよ。そこかしこにジャミング装置がついてる割りには』

橘花「……確かに映像がクリアね」

白鷹『この間の一件であの威力だ。こっちにも少しくらい影響があっても良さそうなもんだけど……』




霧島『よっ、やってる?』




橘花「……艦長」
アリナ・白鷹・秋津洲『艦長!!』

472 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/20(土) 17:30:00.87 ID:2qGAiZ9AO
霧島『こっちからそっち行くまで多少時間かかりそんなんですよー』

霧島『だから、これ以上お客様が悪さしないように、お願いしますね、じゅ・り・ちゃん』

橘花「了解。」

白鷹『いいか、慎重にいけよ。相手は格上だ。』

橘花「言われなくてもわかってるわよ。」

白鷹『……相変わらず可愛げがねーなぁ』

橘花「機体差なんて大した問題じゃないわ。問題があるなら、それはパイロットとナビゲーター自身じゃなくて」

白鷹(自分のことはよーくお分かりのご様子で。)

473 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/20(土) 17:30:33.01 ID:2qGAiZ9AO
橘花「行くわ。とりあえず余計な指示や命令は必要ないから。有益な情報だけ貰えれば十分よ」

白鷹『へいへい。んじゃ、100m先に敵と思われる機体を発見。早速逃げる準備、してるみたいだぜ。』

橘花「なるほどね。ウィッチでそのまま宇宙へ……ってな訳」

白鷹『確かに地球に比べりゃ抵抗はかなり少ない。宇宙への出やすさは段違いってーのに、よくフタツキはいままで犯罪者を外(宇宙)に出さなかったなぁ』

アリナ『数の理でしょう。なんといってもこんなにたくさんウィッチがあるんですし』

白鷹『あのパイロットが大量のウィッチにジャミング装置を…ねぇ。しかも『フタツキの鉄壁』とまで呼ばれてんのになぁ、どうにもこうにも展開がおかしいと思わないか〜?』

橘花「余計な情報よ。そんなことを聞くためにナビゲーターと組んでる訳じゃないんだけれど」

白鷹『ケッ、悪かったな!とりあえず機体の情報、追加で送っとくぜ』

橘花の目の前に機体の詳細な3D画像が広がった

……それをみた橘花は驚愕した


474 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/20(土) 17:31:56.21 ID:2qGAiZ9AO
橘花「……明らかに他のウィッチよりスペックが上じゃない」

白鷹『「たまたま」ウィッチの違法改造事件の検証で「たまたま」そのウィッチが特別措置として改造されてたんだと。』

アリナ『た…たまたま?』

白鷹『たまたま』

橘花「………そう」

橘花「訂正するわ。白鷹准尉」

白鷹『……何をだよ』

橘花「あなたの話は余計どころか、有益な話ね。」

白鷹『だろ?』

橘花「ええ」

アリナ『えっ?えっ?』

橘花と白鷹は一連の話のピースが繋がったようだった。

アリナは頭に?マークを浮かべ
秋津洲は既に一連のことには気がついていたのか苦悶の表情を浮かべ
榛名は知ってか知らずかニヤニヤ薄笑いを浮かべていた。


475 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/20(土) 17:32:38.48 ID:2qGAiZ9AO
橘花「だけど私はこう言うやり方ってね、余計に反骨精神みたいなものを煽られるのよ」

橘花「悪いけど、『アイツ』は『私』が止めるわ」

白鷹『主役はあくまで自分ってか』

橘花「そんなんじゃないわ。ただ、シャクってだけよ。あなたもそうじゃなくて?」

白鷹『ちょ、ちょっと無理すんなよ!それが分かったんだからまともに付き合うなって……』

橘花「行くわよおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!」

白鷹『ちょっ!お前……』

橘花は感情の赴くままに後ろ向きの相手に突進を決めた。

……が、相手の反応速度がやけに速く、避けられてしまった。



橘花「な……なによ、コイツ!」

476 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/20(土) 17:33:15.56 ID:2qGAiZ9AO
本日はここまでです
ありがとうございました
477 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/08/21(日) 23:48:03.61 ID:1SfOnVTAO
お疲れ様です
478 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/08/24(水) 03:56:51.75 ID:6almBM6AO
第三話ひっそり再開
ちまちまあげていきますが今日中に完結します
479 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/08/24(水) 03:57:23.16 ID:6almBM6AO
(以下、一部中国語で会話されておりますが都合により、日本語でお楽しみ下さい)

中連のパイロット「ヒヒッ!どうやら当たりの機体を引いたみたいだぜ……」

橘花「返しなさい」

中連のパイロット「おやおやお嬢ちゃん。何をかな〜?」

橘花「機体並びに我々の着替え財布モロモロよ。大人しく投降することね」

中連のパイロット「元々、俺っちはフタツキ基地のパイロットだしぃ。」

橘花「分かってるのよ?あなた、この間の中連のパイロットでしょう」

中連のパイロット「ピンポーン!あったり〜♪」

480 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/08/24(水) 03:57:58.27 ID:6almBM6AO
橘花「バカにするのもいい加減にすることね。」

中連のパイロット「ただし、『明日』までだがなぁ〜。誰かさんのお陰で」

橘花「あら、じゃあ中連の軍があなたを除隊処分にするのは本当だったの。驚きね」

中連のパイロット「そうだよぉ!アンタに邪魔食らったせいで折角命拾いしたのにこの様だぁ!なぁ!?」

橘花「作戦が失敗したのは誰のせいでもないわ。当然の処置でしょうね」

中連のパイロット「黙れ!これさえ盗み出せりゃ、戸籍を変えてまた中連軍に入隊出来るようになるさ!!」

橘花「そのためには下着が必要だったのかしら」

中連のパイロット「そうだよぉ?ってことはお嬢様は裸かね?」

橘花「残念ね。バスタオルは人類の産み出した叡智の極みだわ」

中連のパイロット「なるほどなぁ…俺は遺憾の極みだよ!バスタオルも盗ってくるんだったなぁ根こそぎ。」

橘花「戯言を言う暇があるなら己の進退について考えることね」

中連のパイロット「ガタガタ生意気なお嬢ちゃん!!!そのヘッポコウィッチごと、バスタオルまで剥ぎ取ってくれるわ!!!!!!!!!」

481 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/08/24(水) 03:58:30.77 ID:6almBM6AO
敵のウィッチが異様な速度で突進を決めて来る。
先ほどの橘花の攻撃の比ではない。
下手をすればファルコート並の速度があるのではなかろうか

白鷹『相手は戦闘体制に入ったぞ!避けろっ!!!!』

橘花「無茶苦茶いわないでよ!こっちは………」


橘花が搭乗しているファルコートは寸前で敵機を受け止めた。




橘花「ぐぅっ………!」






中連のパイロット「おらおら、どうした?ああ?」

橘花「た…大した攻撃……しないのね」

とは橘花は口では言うものの、ミシミシと機体は音を立てていた。ダメージは計り知れなかった。

482 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/08/24(水) 03:58:58.00 ID:6almBM6AO
白鷹『なんだこいつ…化物かよ!』

アリナ『ハチャメチャな改造ですね…まるで使い捨て覚悟の』

白鷹『正面からはとてもじゃないが無理だぜ珠理ちゃん!!』

橘花「そんなこと言っても、今更ここから態勢なんて……」

事実、橘花の乗る教習用のウィッチでは攻撃を食い止めるだけでもいっぱいいっぱいだ。

アリナ『このままじゃ右腕が……』

橘花「右腕くらいくれてやるわ!左腕一本にパワーを集中させれば………!!!」

白鷹『だからそんな無茶苦茶な……』

483 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/08/24(水) 03:59:23.51 ID:6almBM6AO
橘花「だあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」


――天才故か、完璧主義者故か。


一度負けた相手からは絶対に引けない橘花だったが
その思いとは裏腹に機体は悲鳴をあげていた。


たしかに教習用ウィッチとしては最大限、いやそれ以上の活躍をしていたが、やはり何事にも『限界』がある。



遂に右手はもぎ取られ、左手へ何とかパワーを移行させる前に橘花の機体は押し倒されてしまった。


484 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/08/24(水) 03:59:51.07 ID:6almBM6AO
――――

【一方、フタツキ基地司令室】

大観「よしっ!」

大観が小さくガッツポーズを決めていた

オペレーターA「……何で喜んでるんですか、司令」

大観「よっ、喜んではおらんよ?危機的…そう、非常にゆゆしき事態である」

オペレーターA「の…割りには嬉しそうですが」

大観「べっ…別に喜んでなんかいるわけないだろう君ッ!この大ピンチに…ねぇ?」

オペレーター達はそろって冷たい視線を大観に送った。

………大体、このオッサンの『企み』が理解できて来たからだ。


485 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/08/24(水) 04:00:44.57 ID:6almBM6AO
彼らもまた、カスミ同様、支部の長に散々な目に合わされているようだった


神前大観。

超がつくほどの親バカだが、仕事は優秀。人望もあつく、上からの受けもよく部下の扱いもうまい。

一部、というかほとんど全てカスミの艦長霧島とは異なるが、それでも、なんとく彼らの相性は良いように思える。

そう考えれば前述の文章は訂正しなければならない。


………大体、このオッサン『達』の『企み』が理解できて来たからだ。



486 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/08/24(水) 04:01:58.29 ID:6almBM6AO
一方、橘花は追い込まれていた。


明らかに勝ち目のない勝負。しかし、大見得を切ってしまった以上は引き下がる訳にはいかない。


引き下がるくらいなら、寧ろ機体ごとバスタオルと言わずに肉まで剥ぎ取られてしまった方が余程マシだった。
いや、もしかしたら勝ち目は多少はあったのかもしれない。



――自分の『弱さ』さえなければ



白鷹『き、橘花!とりあえず脱出の方法を考えろ!』

白鷹『データによればB37のコードで緊急脱出が出来る。その上自爆を噛ませば最高だぜ!生憎、その態勢なら……』

橘花『戦法を変えるわ』






……そう言った途端、橘花はバスタオルを自ら剥ぎ取った






白鷹『ちょ!ちょ!ちょっとお前っっっっっっ!!!!!!!????』



【フタツキ基地司令室】

一同「おおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」


487 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/24(水) 04:02:25.04 ID:6almBM6AO
――――――――

白鷹『どっ…どういうつもりなんだよ』

橘花「言ったでしょ。戦法を変えるって」

白鷹『んなことしなくたって………!』

橘花「私は負け戦も嫌いだけど逃げ戦はもっと嫌いなの」

橘花「それに、『まだ』彼は中連のパイロットでしょう?万が一死なせでもしたら国際問題よ」

白鷹『だがな!コイツがこれを盗んでる時点で十分……』

橘花「民族性を考えなさいな。」

白鷹『……まあな』

橘花「戦いは常に美しくよ。日本人には日本人のスマートな戦いを見せて差し上げるべきね」

白鷹(よく言うぜ)

488 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/24(水) 04:02:59.90 ID:6almBM6AO
白鷹『とりあえず態勢を立て直す!ただし、左手がおじゃんなら自爆も覚悟してもらうぜ?』

橘花「なら、脱出はしないわ。」

白鷹『怪物はよくてアホはダメなのかよ』

橘花「アホはアホでも人間でしょ。それに相討ちなら中連からも文句は出ないわ」

白鷹『……ったく、相変わらず強情っちゅうか極端だなぁ』

アリナ『それが橘花さんの良いとこでもあるんですけどね…』

橘花「じゃあ行くわよ!右腕の系統を左腕に!」



―――その瞬間だった。



大きな銃声が辺りに轟いた。



やけにデカイ銃弾は、もみ合うウィッチ同士の横をかすめた。



秋津洲・アリナ・白鷹『なっ!』

橘花「なによ!」

中連のパイロット「コレ!」

489 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/24(水) 04:03:58.46 ID:6almBM6AO

アリナ『ま…まさか……中連の援軍?』

白鷹『いや、そりゃねーだろう』

秋津洲『そうね…除隊するって人間を援護する意味なんて……』


そんな惚ける三人…いや、五人のうち、四人にとって聞き覚えのある声が聞こえて来た

敷島『ダメだな新入り!何のための自動標準システムだと思っとるんだ!?』

新兎『うっ…うるせえ!!銃なんかな、陸戦ばっかで滅多に訓練受けらんねーんだよぉ!!!』

霧島『まあまあ、威嚇射撃って点では評価できるんじゃないんですかねっ?』


秋津洲『き……霧島艦長!』

白鷹『敷島!』

アリナ『こ…神前さん』

橘花「!」

一番驚きを隠せない様子だったのは橘花だった



霧島『おっ待たせぇ〜♪』


霧島『………おえええっぷ』
490 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/24(水) 04:05:15.33 ID:6almBM6AO
とりあえず午前はここまで
お付き合いありがとうございました
491 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/24(水) 12:57:04.49 ID:6almBM6AO
ちょこっと再開
492 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/24(水) 13:02:09.20 ID:6almBM6AO
白鷹『おいおい大丈夫かよ……』

スクラップ同然の移動挺でファルコートに引きずられてきたせいか、真っ青というより真緑にも近い顔色になっていた。

秋津洲『ご機嫌よう、霧島艦長』

霧島『合法的にふ……ふぶきちゃんの入浴シーンが見れるとか…………もう俺、いつ死んでも構いません……』

秋津洲は呆れを通り越した、何か超越した感情を覚えた。


秋津洲『……期待はしては居なかったけれど、…随分タイミングが良いのね』

霧島『もうこっちはてんやわんやでしたよぉ!出撃許可とるのに出撃準備に…』



霧島『それからみんなの着替え持ってくるのに』




一同『!?』

493 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/24(水) 13:02:59.06 ID:6almBM6AO
白鷹『ちょっ!オッサン!まさか下着も持ってきたのかよ!?』

霧島『そりゃ艦長さんですからぁ、みんなのおべべの場所なんて把握してて、当然であります!!』

秋津洲・アリナ・白鷹(………最悪)

霧島『んふっ』

秋津洲『……とりあえず霧島艦長』

突然秋津洲の顔が厳しくなった

霧島『な…なんでしょ』

汗をダラダラかく中年男

秋津洲『後で「大事なお話」がありますから』

霧島『いや…あの……いや、これには大変ふかーーーーーーーーーーい意味が……………』

秋津洲『言い訳は後で結構です。それより白鷹准尉!』



494 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/24(水) 13:05:15.56 ID:6almBM6AO
白鷹『あ、ああ。さっきの一撃でどうにか態勢は整えたが……』

秋津洲『が?』

白鷹『パイロットを死なせずに機体を停止させるには、コックピット脇にあるエンジンを狙うしかない』

アリナ『しかし、相手の動きは速いですから…押さえ込みでもしないと……』

橘花「それなら、私に任せて頂戴。」

一同『!』

橘花「左手一本で十分よ。」

秋津洲『しかし、ファルコートは2機あるのよ。無理に………』

敷島『そうでありますよ閣下!!左腕だけでなど…万が一お怪我なされては!!!』

橘花「敷島准尉は私の心配をする前に敵機が宇宙空間に逃げ出した際の対処方でも考えていて頂戴」

敷島『いや…しかし………』

霧島『分かりました。押さえ役は橘花に担当させましょう。この間の仇は取りたいでしょうからね』

敷島『艦長!』


この期に及んでも霧島は焦りすら見せていなかった。
感心すべきなのか、呆れるべきなのか。
それとも艦長の貫禄とでもいうものなのだろうか、単に自棄っぱちなのか。

ある意味において、霧島は嫌な謎のベールに包まれていた
495 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/24(水) 13:08:13.36 ID:6almBM6AO
霧島『女の執念ちゅうのはこんわぁ〜いんですから。敷島くんは愛しの閣下殿が本格的にピンチになったらナイト役でもやっておあげなさい』

敷島『むむむっ………』

確かに橘花の極端さとしつこさは彼が一番よくわかっていた。

だが。これではまるで自分は阿呆になってしまうと感じたのか、敷島は必死に食い下がる

敷島『では!せめて射撃は……!!』

霧島『たしかに新兎くんより敷島くんの方が上手いですよ?』

霧島『ですが、それじゃ下が育たないじゃありませんかぁ』

敷島『むぅ………』



ことごとく霧島の手によって敷島案は潰されていった。
敷島は頭では理解しているものの、到底納得の行っていないかのような顔をしていた。

496 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/24(水) 13:09:09.67 ID:6almBM6AO
白鷹『じゃあ、行くぞ珠理ちゃん!相手が腰抜かしてる今がチャンスだぜ!!』

橘花「了解!」

橘花は再度敵機に突進を仕掛けた。
いつぞやの『特攻』を思い出させる。

バスタオルを剥ぎ取ったせいか、迷いがなくなりさっきよりも段違いと言って良いほど動きが速い。

おまけに未だに中連のパイロットは腰を抜かしている。


橘花「だあああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」

中連のパイロット「!?」


今度はがっしりと機体を掴む事が出来た。

―――今度は絶対に、離さない




橘花「絶対にいいいいいいいいいいいい!!!』
497 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/24(水) 13:10:55.11 ID:6almBM6AO
一方新兎の方はと言えば慣れない銃の装備に四苦八苦していた。


中々標準があわない。


あってもすぐに外れる。


オートマチックというものは一見便利ではあるものの、時には人を惑わせる。


が、今度こそはミスは許されない。

うち漏らせば、相手のパイロットが死んでしまうどころか味方の橘花まで死なせてしまうかも知れない。



慎重になりたい



……のだがそうも言ってられない。



やはり機体のスペックや装甲は気合いだけではどうにもならない。
先ほどのダメージも加わり、左腕だけのウィッチはミシミシと悲鳴をあげていた。

徐々に装甲はおろか、操縦席にまで影響が及んできた。
モニターのガラスが割れ、橘花の腕を赤く染めた。

が、彼女はそれでもレバーを離さない

エリートとしての意地か軍人としてのプライドか

その理由すら橘花は考える余裕もなくただ目を剥き出しに、全裸で目の前のウィッチを一歩も動かさぬように全身全霊を注ぐのみだった。

498 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/24(水) 13:12:58.24 ID:6almBM6AO
アリナ『神前さん!もう橘花さんのウィッチの装甲は持ちませんよ!!』

新兎『分かってるよ!!!だけどさ、オートの標準が………』

敷島『なにをごちゃごちゃ言ってる!!!!』

敷島『オートがダメならマニュアルを使え!!!!!』

新兎『ま…マニュアルぅ!?』

敷島『標準が合わないなら合わせるまでだ。教科書の基本中の基本だ』

新兎『ぐっ……』

霧島『新兎くん、帰ったらおじさん達とお勉強しましょうね』

新兎『……マニュアル操作に切り替えます。』

白鷹『おいニート!このままだと珠理ちゃんがヤベーぞ!!!』

新兎(敷島も橘花の顔を立ててギリギリまで変わる気はない。)

新兎(本来なら敷島に変わるまで待って…と行きたいところだ。が)


橘花「早く…………っ」


橘花は死んでも離さないと言った気迫を機体からも放っていた


新兎(一体全体艦長も橘花も何を考えるんだか……)
499 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/24(水) 13:13:41.58 ID:6almBM6AO
中断。夕方に再開予定です
お付き合いありがとうございました
500 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/24(水) 17:41:31.99 ID:6almBM6AO

新兎「………とにかく」


――絶対に外しちゃいけない


敷島もいる。ファルコートなら陸で決着がつけられるし、本来こんな作戦は効率的でもなんでもない。
つまり、客観的に言えば絶対に外してはならない状況ではなかった。


ただ、新兎の主観的な問題で言えば真逆の結論を出さざる負えなかった。


人の気持ちは彼は相変わらず分からない。が、ただ『空気』というか『雰囲気』くらいは察することが出来るようにはなった。

ここは橘花に関わらせなければならない。

501 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/24(水) 17:42:21.11 ID:6almBM6AO
そして、霧島が何を考えているのかは知らないが自分が撃たなければならない。

数少ない銃撃訓練での記憶を掘り起こし、脳の片隅にある引き出しに残っていたマニュアル射撃のコツを引っ張り出す。

一か八か、なんて甘い事は言っていられない。

何となく始めた商売だったが、まさかこんなに、自らが重さを感じるはずのない銃の重みを感じることになるとは想像できなかった。


―――そして、不思議とこの場から『逃げ出そう』なんて気はちっとも起こらなかった


勿論、例の化物なしで、だ
502 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/24(水) 17:43:23.53 ID:6almBM6AO
白鷹『早く!』




橘花「………早くッ」



敷島『もう少し右だ!15度傾けろ』


橘花の左手首はもげ、腕のみでどうにか支えていた。









新兎(正直、当たるかは分からない。自信なんてない)

新兎(だが、当てなきゃならない。当てるんだ。)







敷島『いいぞ神前!今の位置だ!!撃てえええええええええええええ!!!!』






新兎『あたれええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!』


503 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/24(水) 17:44:39.31 ID:6almBM6AO
銃弾は紫色に輝き、弧を描き、猪突猛進、獅子奮迅、匹夫之勇、勇往邁進




…いや、どんな四字熟語でもあらわせない速度と覚悟で突き進んで言った



その間コンマ。



どれだけ彼らは祈る事が出来る事が出来ただろうか




当たれ、当たれ、当たれ、当たれ、当たれ、当たれ、当たれ、当たれ、当たれ、当たれ、当たれ、当たれ



神はいない。だから祈りなど無駄だと、言う人間がいる。




――橘花もそんな人間の一人だった。




だが、いつの間に彼女は、いるはずのない神に祈ってしまっていた。


『当たれ』



神は見えない。よって、いるかいないのか、その証明はしようがない。


だが、目の前にはコックピットギリギリ、メインエンジン部分だけを貫かれたウィッチの姿があった。



橘花と新兎はしばらくぼうっとしてしまっていた。


504 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/24(水) 17:45:18.30 ID:6almBM6AO

……その後、そんな二人を尻目に基地の職員達がパイロットを無理矢理引きずりだす。

上空にはファルコートが2機、また回りにはいつの間にか大量の軍用ウィッチが。


最早、逃げ場など彼にはどこにも無かった。


橘花「はぁ……はぁ………」


時間はほんの一瞬に感じられた。

橘花はおかしな汗をかきながらコックピット内でへたっていた。

職員の声が聞こえてきた。


505 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/24(水) 17:46:20.75 ID:6almBM6AO
職員A「大尉、お疲れさまでした。神前准尉と敷島准尉はこちらにお着きになりましたよ」

橘花「……そう。じゃあここにあんまりいても危険だから出るわ」

職員A「あの………大尉…

敷島「閣下ああああああああああああああああああああ嗚呼嗚呼ア嗚呼ああああああああ!!!!!

新兎「うるせえよ敷島」

敷島「ケッ!俺にそんなこと言える立場か!!!いいか?俺のアドバイスのお陰でも……」

新兎「はいはい、あじゃじゃーしたー」

敷島「なんだその態度はあああああああああああああああああ!!!!!!!?」

職員の声は見事、敷島のバカでかい声にかき消された

敷島「あ、閣下!!ご無事で何よりでありますうううううううううううううううう!!!!!!!!!!!!!!!!!」




橘花(……相変わらず騒がしいやつらね)

506 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/24(水) 17:47:24.05 ID:6almBM6AO
橘花「まあいいわ。話なら降りてからゆっくり聞くから。あんまり大声を出さないでほしいわね」

橘花は接続終了を確認したところでコックピットの外に出た。


………一同は驚愕した


橘花「何よ?」





―――そして。一同は顔を紅潮させた





橘花「ちょっとどうしたの?急に。整備が悪くて窒息でも仕掛けたの?」





新兎「あの……橘花……さん」

橘花「何よ」







新兎「………下」






橘花「下がどうしたって…………」





橘花「!!!!!!!!!!!!」





その後、オペレーター含め三名が血まみれになることは言わずもがな。


橘花はおずおずとバスタオルを取りにコックピットに戻った。

507 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/24(水) 17:48:20.93 ID:6almBM6AO
【銭湯・女子浴場】

白鷹「な………なあ」

アリナ「は……はい……」

秋津洲「どうしたらいいのかしら……ね」

橘花「ぐすっ……ううっ……ううううっ……」

榛名「よしよし……生乳はおろか、(自主規制)まで見られたんじゃねぇ……」

橘花「うわああああああああああああん!!!!」

秋津洲「ちょっと十六女先生…っ!更に彼女を刺激させてどうするんですかっ!」

白鷹「ま……まあ、アレだ。バーゲルダッチュおごってやるからな?泣くなよ……」



アリナ(橘花さんの泣き顔……レアです)
白鷹(意外とかわいいとこあるのな)

508 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/24(水) 17:50:45.25 ID:6almBM6AO
風呂に浸かりながら汗なのか水しぶきなのか汗なのか
もう橘花の顔はめちゃめちゃだった。

秋津洲「あの……橘花大尉、良くある事故だし……その、帰ったら精神洗浄とか、カウンセリングとか出来るだけ忘れましょう…ねっ?」

感情を珍しくあらわにする橘花にどう対処すべきか…一同は困惑しきっていた。


橘花「うぐっ………」

白鷹「……なあ」

アリナ「どうしたんですか」

ふと白鷹が呟きだした。

白鷹「思ったんだけどさぁ……今回私たちって艦長と司令に利用されたんじゃねえか」

アリナ「り…りよー?」

秋津洲「確かに、そう考えれば全て説明がつくわね。」


アリナ「えっ?えっ?」
509 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/24(水) 17:52:28.17 ID:6almBM6AO
秋津洲「息子の活躍を目の前で見たい父親に…あくまで橘花大尉の中に引っ掛かってた小骨を取りたかった艦長」

アリナ「あっ……」

白鷹「しかも、前に出たがる敷島が立派にバックアップしてやがった。艦長と司令…お互いに利害が一致してたんじゃねーかってコト」

アリナ「な…なるほど………じゃあ、色々奇妙だった点も……」

白鷹「食えないオッサンだぜ?どこまでが仕込みか知らねーが振り回されたのは確かだ。」

秋津洲「その証拠に最後にウィッチは稼働していたしね」

アリナ「……じゃあもしかしたら着替えドロの一件も」

白鷹「間接的に関わっていた可能性はなくない」

アリナ「そんなっ!」


白鷹「なあ、アリーナさんよ、あのタヌキオヤジどもに…一泡吹かせてやらねえか?」

アリナ「ひと…あわ?」





橘花「う……ううっ……うぐっ」

榛名「はいはいよしよし」


話を知ってか知らずか未だに橘花は泣き止まないままだった
510 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/24(水) 17:53:13.42 ID:6almBM6AO
【男子浴場】

新兎「………」ボロッ

敷島「いや、司令殿のお役に立てて我々光栄であり……いたたたっ」ボロッ


そこにはオッサン二人、それからボロボロの若者…新兎と敷島が湯に浸かっていた


大観「ああ、無理せんでいいよ。」

霧島「しかし良かったなぁ。ここのお湯、傷に効くらしいですよ」

豪快に笑う二人のオッサンに正直新兎は勿論敷島も多少、イラつきを覚えていた

大観「いや、しかし新兎立派になったなぁ!!これも霧島くんのおかげかなぁ〜?」

霧島「いやいや、なんのなんの。ご子息様の才能ですよぅ〜」


妙な仲のよさがイラつきを感じさせる
511 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/24(水) 17:54:31.99 ID:6almBM6AO
大観「だって新兎!良かったなぁ」

新兎「……ったく、何で俺がオヤジなんかと風呂なんかに入らなきゃなんねえんだよ」

大観「もう、お風呂に入るなんて何年振りだろうねっ(はぁと)」

新兎「きもち悪いから寄るなって!!」

新兎「それにな、オヤジ勘違いすんじゃねーぞ!オヤジのために軍に残ったわけじゃねーんだからなっ!!」

大観「やだ……新兎ちゃんツンデレ…………」

新兎「だから気色わりーからやめろよ!」

大観「しょうがないじゃないか!!たった一人の息子を愛して何が悪い!!!!」

512 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/24(水) 17:55:13.61 ID:6almBM6AO
新兎「だからって、延々と『愛してる』とか呪いのように書いた手紙を寄越すのはやめろよ!」

大観「一回だけだよ!他はまともに文だからっ!!」

新兎「んなの知らねえよ!捨ててたから!!!!!」

大観「なんで!?なんでなの!?」

新兎「もういい!出るぞ敷島!!」

敷島「………ああ」

大観の親バカっぷりには流石の敷島も引きっぱなしだった。


我慢ならずに二人は風呂を出た。




カラリと扉を開けると暖簾の間からヒラヒラと手が出てる。




一瞬驚いたものの、驚きになれている彼らは冷静にとりあえずトランクスだけ履き、暖簾の外に出た。


513 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/24(水) 17:55:56.96 ID:6almBM6AO
暖簾の外には白鷹がニヤニヤとアリナが多少申し訳なさげに、秋津洲は呆れ、泣き止まない橘花を宥める榛名の姿があった。


新兎「な……なんだってんだよ……お、お礼参りか?」

新兎「あ、あれは不可抗力だってって!」

敷島「閣下!!!!!大変、大変申し訳ございませんでした!!!!!!!!」

敷島「ここはジャパニーズハラキリを……………」

白鷹「生憎、おめーらじゃねーんだよ」


新兎・敷島「へっ?」



514 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/24(水) 17:56:47.64 ID:6almBM6AO
――――――

【再び男子浴場】


霧島「いーいゆっだな〜っと」

大観「君とこうして湯を共にするのは何年振りかね」

霧島「上級士官大からですから……もう30年近いですかね」

大観「悪かったね。息子のこと」

霧島「悪くはありませんよ。良い部下ですよ。今回は多少手が込んだ仕掛けでしたが」

大観「……まあ、借りは後々返すよ。息子と数年ぶりに会話ができたしな」

大観「それから、今だけ敬語はやめないか?同期なんだから」

霧島「それもそうか」

大観「そうだよ」


ワハハハハハハハと楽しげな笑いが響き渡った
515 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/24(水) 17:57:13.26 ID:6almBM6AO
大観「霧島くんに榛名くんに英理くんに私に教授。……一人減るとこんなに寂しいものとは思わなかったよ」

霧島「まあ…そうだなぁ」

大観「やけに反応がうすいなぁ。君が一番寂しかろうに」

霧島「いやあ、教授には叶わないよ。父性愛には勝てる気がしない。」

霧島「その点私はいけない。彼女の影がついつい薄くなるときがある。」

大観「その影を人生を賭けてまで君は追いかけとるんだろ。中々出来ないよ」

霧島「……そんな大層なもんじゃありませんよ。ただ、自己満足と言われたらそこまでですからね」

516 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/24(水) 17:57:40.63 ID:6almBM6AO
霧島「いや……現に自己満足に過ぎないか」

霧島はポツリと呟き、湯からあがった。

カラリ、という扉の音がどこか寂しげだった。



―――と、同時に霧島の叫び声が轟いた



517 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/24(水) 17:58:28.82 ID:6almBM6AO
大観「ど、どうした霧島くん!」


霧島「な……ない」

大観「ない?なにがだよ」

霧島「着替えからタオルから……全部」

大観「えええええええええええ!!!!!?」

大観「ちょっと待て!私も探す!!」


大観は探す







探す、探す、探す






探して、探して、探しまくる






…………が、やはり


大観「ない」

大観「………どうしよう霧島くん」

霧島「………どうしよう」








第三話・聖戦〜SENTO〜




518 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/24(水) 17:59:56.78 ID:6almBM6AO
第三話は以上です。
明日か明後日には第四話を更新する予定です
お付き合い、ありがとうございました
519 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/25(木) 00:29:07.21 ID:504GfcZSO
>>1

ひとまず>>309>>333はしゃしゃるな[ピーーー]
520 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/26(金) 01:50:52.59 ID:/3cdsMxAO
とりあえず第四話開始は明日予定です
だらだらな上にペースは遅い上にオリジナルなのに読んでくださってる皆様ありがとうございます。
521 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/27(土) 00:09:36.14 ID:xuiM7IoAO
第四話再開します
522 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/27(土) 00:24:03.50 ID:xuiM7IoAO
第四話
『スカイハイ・ジャック』





民間移動船ぐろーばる。

その名の通り、民間人がフタツキと地球を行き来する船の一つであり、航路がいくつかあるのだが、これが一番フタツキ基地に近いポートに到着する。


その船のなかで一人、やけに目立つ軍服姿の秋津洲は大きくため息をついていた。

正直、周りの視線が痛い。が仕方あるまい。
軍の手違いによって民間船に乗るはめになってしまった。
カスミを通過して、フタツキ基地までとりあえずは行き、そこから先日とり返した移動挺で頭が迎えに来ることになった。

いち早く終わらせなければならない書類がある。霧島はあてにはならない。

何とかカスミで言う『今日中』には帰れそうなのはいいものの、この衣装は一人コミックマーケット状態である。

秋津洲「私服を持ってくるんだったわね……」

と、窓を見ながら溜め息を再度ついた秋津洲は先ほどの会議の様子を思い出していた。

523 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/27(土) 00:24:48.21 ID:xuiM7IoAO
会議は秋津洲を取り囲むように…会議と言うよりかは『尋問』にも近い状況であった。
しかも、面子はいつもの支部長だけでなく、空軍司令に陸軍司令にその上総司令までオールスターを集めましたと言わんばかりの揃いようだった。


――正直今回ばかりは秋津洲は霧島を恨んだ。半年程は根に持ってやろうと小さく決意していた。

秋津洲「………報告は以上です」

一連の巨大タコ事件について報告し終わると一斉にお偉いさん方は眉間にシワを寄せる。
示し会わせていたのかと問いたくなるほど見事なタイミングだった。

524 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/27(土) 00:25:23.29 ID:xuiM7IoAO
陸軍司令「話は良くわかった。君の私見を聞きたい。」

秋津洲「と、言いますと」

空軍司令「怪物の正体についてだよ。君はどう思う」

秋津洲「私個人と言うよりかはカスミ全体の意見として、アレは『賢者』か、もしくはそれに準ずる生命体と考えられますが」

空軍司令「しかし、賢者は我々が10年近くも前に殲滅したはずではないかね」

秋津洲「ただし、賢者の生体については分からないことばかりです。何をもって『殲滅』した、とするのでしょうか」

空軍司令「……根拠はある」

秋津洲「根拠?」

陸軍司令「君は知らなくても良い情報だ。賢者とはまた違う生命体と考えるのが妥当だ」

秋津洲「しかし、その説明では納得いきません。賢者に対するデータも我々にも開示されないのでは今後の対処が……」

陸軍司令「相手は賢者ではないと我々は断定した。よってデータを開示する必要はない」

秋津洲「しかし!得体のしれない、宇宙からやってきた敵には変わりありません!!データが役に立たないとは……」

空軍司令「逆接が多いね、君は。結論は出ているのだよ。」

秋津洲「…………」
525 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/27(土) 00:26:12.48 ID:xuiM7IoAO
幹部A「フタツキからの報告でも地球の生命体が巨大化する例が報告されている。今回のようなケースは考えられるだろう」

秋津洲「……人ですら宇宙空間で生身で存在することは不可能です。なのに、タコは存在できると?」

幹部B「可能性の話だよ」

秋津洲「ならば!敵が賢者である可能性は……」

陸軍司令「……しつこい女だね君は」

秋津洲「万が一のケースを考えて、ですわ」

そんな行き詰まり、平行線な話し合いを遮るように、中央の…明らかに周りの男共とは格がちがう、貫禄にみちあふれた男が
遂に自らの沈黙を破り、口をひらいた。

総司令「霧島は……」

秋津洲「……えっ?」

総司令「霧島はなんと言っている」

秋津洲「…艦長の意見、でしょうか」

総司令「そうだ」

秋津洲「艦長も私と同意見であります。あれは…賢者だろうと」

総司令「……だが、殲滅した根拠がある。」

秋津洲「その『根拠』を艦長が知っているいるかどうかはわかりかねます。ただ自信はあるようでした」

総司令「そうか。霧島はそう結論付けたか」

総司令「本来なら君だけではなく、霧島の惚けた顔も見たかったものだがね」

秋津洲「……」

総司令「アイツに伝えて置いてくれ、『また賭けをしないか』と」


526 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/27(土) 00:26:48.22 ID:xuiM7IoAO
―――――――

こうして回想をしていても総司令はなんだか霧島とはまた違った意味で妙なオーラを放つ人間だった。

霧島、霧島と妙に彼を気にかけていたようだったが、何か昔あったのだろうか。

――が、秋津洲はそれ以上考えるのはやめにした。
流石に『野暮』な気がしてならなかったからだ。

その後のことはあまり思い出したくはない。
アリナの管理についてだ。

秋津洲(今思い出してもムカムカするわ!)

まるで彼女を『道具』呼ばわりしていたからだ。
『兵器』の一つでも扱うような態度。

数年とは言えども一緒に暮らしているようなものだ。母性くらいわいてくるのは仕方あるまい。

なるべく秋津洲は私情は業務には挟まぬように心がけていたが流石に限度がある。

霧島もそれがわかっていたからこそ、アンナものを作っていたのだろうが時間の問題だ。


今後の彼女の成長を出来るだけ見守ってやりたい。
良い方向へ…そう。恵まれない子供も同然の彼女を幸せな方向へ導いてやりたかった。

勿論部下も同然だ。

527 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/27(土) 00:27:30.89 ID:xuiM7IoAO
が、予算の一項目もケチる連中だ。

全く、どの場においてもなぜだろうか、上に立つものは現場の現状をそろって知ろうとはしなかった。

これでは会議というより、むしろ『理不尽な要求を突きつけられる会』だった。

秋津洲(霧島さんになんて報告しようかしら―――)

霧島ならきっと笑って済ませるだろうが、出来るだけ良い報告をしてやりたかった。

霧島はろくな男ではない。と同時にろくな艦長でもない。

都合が悪くなったらすぐ逃げるし、面倒な仕事は全て秋津洲に押しつける。
しかもだ。戦艦の連中とも悪ふざけをして過ごしているかと思えば
たまに居なくなってどこをほっつき歩いているのかすら言わない。
その上、悪巧みやら秘密やら暗躍めいた行動が好きで堪らなく、先日の一件同様巻き込まれる。

白鷹をはじめとした『霧島被害者の会』とやらがなんとか嫌がらせ程度の仕返しをするも楽しむ始末。

もう手のつけようのない『悪ガキ』も同然だ。

秋津洲(……昔はもう少しマシだったのに)


と、秋津洲は思い出しても仕方がない過去を思い出してみていた。


528 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/27(土) 00:28:20.99 ID:xuiM7IoAO
―――――

20年近く前の話だった。


秋津洲一家は海外旅行を満喫していた。

比較的裕福な家庭だったので毎年の恒例であり、正直秋津洲自身はあきあきしていたのだが。

しかしそんな幸せな一家に悲劇が訪れた。

偶然、乗り合わせた飛行機がハイジャックされてしまったのだ。



かの有名なテロ集団『ピースメイカー』であり、議事堂への飛行機ごとの特攻を企んでいた。

誰もが死を覚悟した。

ピースメイカーといえば『有言実行』がモットーであり、『やる』と決めたらどんなことがあろうとも計画は変えないことで有名だったのだ。


そんな彼らが『革命の為の犠牲になれ』とか何とか言っている。



――ああ、私は死ぬんだなと秋津洲は幼いながらも……母親に抱かれながらどこか冷静に物事を捉えていた。


抵抗を試みたのだろうか、中年の男が頭を銃でぶち抜かれ、砕かれ、あわれに死んだ。

オーバーキルだった。

529 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/27(土) 00:28:49.69 ID:xuiM7IoAO
秋津洲(本気だ。本気で本気でなんだ。)

秋津洲はようやくそれが現実だとしり、震えが止まらなかった――


のだが、状況はどうにもおかしな方向へ動いていたようだった。


良く見ると死んだ中年の男はピースメイカーのロゴマークが入ったバッジをつけている。

テレビでよくやっていたので子供にだってわかる。


―――何故?



撃ち殺した男の方はニコニコしながらこちらへやって来ていた。


仲間割れか?いや、それにしては………



『何か』おかしい


530 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/27(土) 00:29:22.56 ID:xuiM7IoAO
色々とおかしな点はあったのだが…

一番可笑しな点はと言うと、近づいてきた男に全く恐怖を感じなかったことである。

未だに理由は分からない


男は秋津洲の頭を撫でたあと、飴玉をわたした。昆布飴だった。


人を殺した後に子供ににこやかに飴玉をやる男、明らかにおかしい。
おかしいのだが、怖くない。これもなんだかおかしな話だった。



「もう大丈夫だからねー、悪い人達はみ〜んなお兄ちゃん達が倒しちゃったから」

秋津洲「……おじさんが?」

「うん。お兄ちゃんですけどね。いやあ、『軍人様はいらっしゃいますかー』なんて聞かれなくって助かりましたよぉ〜」

秋津洲「………」


ついさっき人を殺したとは思えないほど、陽気な男だった。



531 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/27(土) 00:29:57.22 ID:xuiM7IoAO

―――これが、何を隠そう諜報部時代の霧島だった。



ピースメイカーを密偵しているうちに、ここに辿り着いたらしい。

部員のみが飛行機に乗り込み、彼らを抹[ピーーー]る予定だったが
手違いで秋津洲一家が『死の飛行機』に乗り合わせてしまっていたのだった。

ちなみに、最後の男はピースメイカーの幹部だったらしい。

オーバーキルについては『税金の関係で』と笑いながら霧島は話していたが。



これが霧島との最初の出会いだった。



532 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/27(土) 00:30:25.55 ID:xuiM7IoAO
事件を目撃していた秋津洲一家は、当然ピースメイカーが壊滅するまでは諜報部の監視下に置かれることとなり
その『担当』が霧島だった。

その先はあまり思い出したくはない。


下駄箱のラブレターをこっそり読んでいたりだとか、何故かバレンタインデーに女子から貰ったチョコレートを食べていたりだとか
何故かあげていないのに帰ってきたホワイトデーのチョコレートを食べていたりだとか

お陰で『青春』などというものは秋津洲の中には存在することはいなかった。



しかも監視対象から外れ、軍に入隊し、ようやく霧島から逃れられかと思いきや
数年でこのザマだった。


『腐れ縁』は必ず存在している、と秋津洲は思い出しながら確信していた。



533 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/27(土) 00:41:18.09 ID:xuiM7IoAO
―――――

【カスミ】

榛名「あらあら……霧島くんが風邪なんて珍しいわねぇ」

霧島「………寒気とくしゃみがとまらないんです」

榛名「生憎、お熱はないみたいなんだけど」

白鷹「うつすなよなぁ」

橘花「そうね、艦長からは離れたほうが身のためね」

霧島「まあ次に5回は病欠してた新兎くんはもっと離れたいいかもね」

新兎「ちょ、ちょっと艦長…なんでんなことまで………」

敷島「やーっぱり鍛え方が足りないんだ貴様は。それにな、この間の撃ち方はなんだ。全くなっていない!」

新兎「……当たったんだからケッカオーライだろ。鍛えてたって当たらないやつはいるんだs」


すべてを良いかけて新兎はちらりと横を向いた。

―――そうだ、橘花


橘花「気をつかわなくて結構。シャワーでも浴びてくるから」

新兎「いや、あの!待って!俺はそう言うつもりじゃあ……」

一同「あーあー」

白鷹「女の子泣かしてやんの」

頭「せっかく珠理ちゃん、みんなに馴染んできたとおもったのになぁ」

榛名「めちゃめちゃねぇ」

新兎「いや…だから……」

アリナ「橘花さん、新兎さんの活躍を認めてたみたいなのになぁ」

霧島「最低の男だね、君は」

新兎「艦長には言われたくありませんよ!!」

白鷹「だからさ、漫画で言う主人公ポジションでもイマイチ目立たないんじゃないのか?」

アリナ「なんか活躍が地味なんだよね。タコの時いがい」

新兎「…………そこまで言わなくても」




カスミは今日も平常運転だった
534 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/27(土) 00:42:41.34 ID:xuiM7IoAO
今日はここまでです。とりあえず細長く頑張っていきますのでよろしくお願いします
次スレはタイトル変えようかな……
535 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/28(日) 03:51:38.19 ID:JpB73RkSO
>>1
俺はずっと見てるぜ
個人的にはスレタイは変わって欲しくないな
勇者とか魔王の創作以外なんて結構こんなもんよ?固有名詞が出てるならなおさら
536 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/28(日) 10:16:10.23 ID:Y4futE5AO
>>533

訂正

次に→月に
537 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/28(日) 13:00:16.18 ID:LMeZh25DO
スレタイで避けてたけどおもしろいわ
正直すまんかった
538 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/29(月) 02:49:32.23 ID:AwOgRyRSO
次の更新はいつかしら
539 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/29(月) 11:17:49.19 ID:FtrEXd2AO
今月中にはなんとか再開の予定です
540 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/31(水) 23:26:22.13 ID:+/CMTW7AO
ギリギリ再開
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
541 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/31(水) 23:27:16.88 ID:+/CMTW7AO
一方の『ぐろーばる』も平和そのものだ。
予定通りにポイントを通過し、順調そのものだった。


むしろ退屈すら感じるほどだ

と、添乗員が秋津洲のコーヒーを継ぎ足しにやって来た。



添乗員A「お仕事ですか?」

さすがは華やかな仕事をしているだけはあって気品漂う、なかなかのメガネ美人だった。



自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
542 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/31(水) 23:27:50.02 ID:+/CMTW7AO
秋津洲「ええ。まあ、帰りなんだけどね。でも帰る先も仕事場よ」

添乗員A「その制服を見る限り、カスミの方で?」

添乗員は目を輝かせながら尋ねる。
秋津洲を見つめるその視線は、『尊敬』とか『憧れ』とかを集約させた眩しいものだ。

秋津洲「あら、随分と詳しいのね…」

少し照れ臭そうに秋津洲は答えた。
非難ごうごう、なんてことはしょっちゅうなのだが、こんな純粋な尊敬の念が込められた目で見つめられるのは何年振りだろうか。

添乗員A「昔は軍に憧れていたものですから。ただ視力が足りなくて…」

添乗員は苦笑いしながら眼鏡をクイとあげた。

添乗員A「しかし、この仕事も…お客様をお守りすることには変わりはありませんから、誇りに思っております」

秋津洲「プロ意識が高いのね。うちのクルー達にも見習って欲しいものだわ」

添乗員A「ってあっ……ついつい私ったら自分の話ばかりを……」

秋津洲「いいの。丁度退屈していたところだったし、ね?」

添乗員A「ありがとうございますお客様」

秋津洲「それより……」

急に秋津洲は声を潜めた




秋津洲「お手洗いは…どこかしら」




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543 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/08/31(水) 23:28:59.97 ID:+/CMTW7AO
――――――


ここ1日我慢していた。
悲しいかな、会議中に手洗いにいくわけにもいかず、その後のスケジュールはまさに強行軍。

すっかりタイミングを見失っていた。




微妙に狭い手洗い。探すのにも一苦労だ。

そうして一連の流れを済ませると―――






先ほどの乗務員が手洗いの前に立っていた。




秋津洲「何か?」

乗務員A「お、お客様…あの………」






思いおこせばカスミにいるときもいつもいつもそうだった。

平和で退屈かと思えば状況はすぐに一変する。なんの前触れもなく。




秋津洲は慣れていたはずだったのだが……場所が違うとこうも違うのかと溜め息をついた


――何か嫌な予感がする


今はそれを認識するだけでいっぱいいっぱいだった。




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544 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/08/31(水) 23:29:31.80 ID:+/CMTW7AO
添乗員の声が明らかに震えていた。


冷静な判断を迫られる彼女達だ。エンジントラブルだとか、そういった些細なミスではないだろう

例えば、重大な――


そう、墜落か。

いや、構造上墜落はあり得ない。単に軍にでも救援を要請すれば済む話である。
彼女がこんなに焦る理由などどこにもない。


となると、考えられるのは、彼女達だけではどうしようもない事態。

それもわざわざ『軍人』である彼女をすがってくるような事態。


―――まさか




添乗員A「お客様である秋津洲様にこういったら事をお話するのはいかがかとおもいましたが―――」

秋津洲「いいわ。考えは大体まとまったし、察しもついた。結論だけを述べて」

添乗員A「あの……当機は」




添乗員A「『ハイジャック』されました」


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545 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/08/31(水) 23:29:57.96 ID:+/CMTW7AO
秋津洲「………」


驚きや落胆や焦り…どれにも当てはまらない感情。

近いものがあるとすれば

『やっぱり』

だろうか。


添乗員A「あの………」

秋津洲「いいわ。予想はついていたわ。ええ。」

添乗員A「……申し訳ございません」

秋津洲「貴女が謝る必要はなくってよ。責任があるとしたら彼らを乗せた航空会社と犯人ね」

添乗員A「とりあえず状況を……」

秋津洲「いえ、その前にお願いがあるのだけれど」

添乗員A「えっ?」

秋津洲「制服の予備って、あるかしら?」



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546 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/08/31(水) 23:30:30.75 ID:+/CMTW7AO
―――――――

流石に軍人だとばれると色々と都合が悪い。
この服なら尚更だ。 いくら疎い人間でも『普通の乗客』でないことに気がついてしまう。

それに、だ。自由に動けるとすれば添乗員のみだ。

単なる乗客では人質にとられておしまいだ。

最後にタイを付け終わった秋津洲は自らの姿を鏡で確認した。

万が一を考え、制服は厳重に用具入れの一番奥に隠した。


それにしてもやけにサマになっている。

むしろ、へんてこなカスミの制服よりかしっくり来る気さえしてくる


秋津洲「どうかしら」

添乗員A「バッチリです。どこからどうみてもCAにしか見えません!」

添乗員A「いや…でも………」

秋津洲「何?なにか問題でも」

添乗員A「逆に目立つんじゃないかなー…なんて」

秋津洲「……どう言う意味かしら」

添乗員A「い、いえ!私達よりもCAらしいので…つ、ついっ」

秋津洲「誉め言葉と受け取っておくわ。ありがとう」

添乗員A「す…すいません……」

秋津洲「謝る必要なんてないわよ。とにかく落ち着いて状況を話して」


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547 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/08/31(水) 23:31:00.14 ID:+/CMTW7AO
添乗員A「ええっと……犯人は二人組です。銃を所持してました」

添乗員A「一人は外部とパイロットが通信をとれぬようにコントロールルームへ」

添乗員A「もう一人は乗客から通信機器と金品を奪って…見張りをしてます」

秋津洲「簡潔な説明ありがとう。他には」

添乗員A「ああ!そう言えば……」

秋津洲「何?」

添乗員A「犯人名義の荷物でウィッチが一台乗ってます……」

添乗員A「ただ!違法改造はなされていないと…確認済みです」

秋津洲「なるほど…逃走用ね。と言うことは」

壊滅したはずのピースメイカーではない。ただの宇宙盗賊のようだ。
ただ、個人の移動挺ではよくある話だが大規模な船では珍しい。


秋津洲はホッとしたようなしないような、妙な気分だった。




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548 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/08/31(水) 23:31:26.94 ID:+/CMTW7AO
秋津洲「とりあえずウィッチについては任せて。応援を呼ぶわ」

添乗員A「しかし、犯人は秋津洲様のバッグも…………」

秋津洲「ああ、あっちには財布しかないわよ。書類は面倒だから先に送っちゃったし」

添乗員A「……というと」

秋津洲「ここよ」


秋津洲は自分の首の裏をトントン、と指を指した。


添乗員A「へっ?」

目を丸くする添乗員を目の前に秋津洲は両手を広げ、カラフルな画面を展開させた。

添乗員A「あ…そうか……NC………」

秋津洲「正解。空港の案内所でも使われてるでしょ」

添乗員A「でも、機内はケーブルが敷かれていないはず……」

秋津洲「軍事機密よ?機内で通信機器を使う無礼、許して頂戴」



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549 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/08/31(水) 23:32:19.82 ID:+/CMTW7AO
――――――――

【カスミ艦内】


同時刻、カスミ艦内には警報音が鳴り響いていた。

白鷹「なんだなんだぁ!?」

アリナ「と、とりあえず状況確認を……」

秋津洲『その必要はなくってよ』


白鷹・アリナ「ふ……副艦長!!」

白鷹とアリナは目を丸くした。警報音もさておきながら、秋津洲の服装だ。

なぜCAのコスプレをしているのか…しかも生真面目な秋津洲に限ってだ。


白鷹「そ…その服装…………ぐふっ」


白鷹は吹き出しそうになりながら応答をする。
秋津洲は若干頬を赤らめていた。


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550 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/08/31(水) 23:32:45.07 ID:+/CMTW7AO
秋津洲『そっ…そんなことは良いのよ!』
秋津洲『と…とりあえず艦長を呼び出してきて』

霧島「はーい♪おはよーございますぅ〜」

起きたばかりなのだろうか、パジャマ姿の霧島が手を振りながらやってきた。

秋津洲『……あなたって人は私がいないとこうなんだから』

秋津洲『司令室ではちゃんと制服を来てくださいと私は口をすっぱく……』

霧島「そっそれより!ふぶきちゃんそのカッコ!!!!!フヒッ…ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ」

秋津洲『とにかく!艦長なんですからもっと緊迫感を持ってくださいっ!!』


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551 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/08/31(水) 23:33:25.63 ID:+/CMTW7AO
霧島「フヒッ……いや、すいません……思ってたより似合ってたもんで……」

秋津洲『……とりあえず状況を報告します。』

白鷹「まあさておきだ。一体何が起きたんだよ。通信は『ぐろーばる』からってなってるぜ?」

白鷹「宇宙船で通信はまずいんじゃね?」

秋津洲『本来なら、ね』


新兎「……まさかハイジャックに巻き込まれてるとかな」

アリナ「あ、新兎くんおはよう」

新兎「ま、んなわけねーかっ!」

敷島「そんなわけなかろう。そんなの滅多に起きるわけないだろうに」

新兎「まさかなぁー」

白鷹「だよなぁー」

あはははははははは、と一同は笑った





秋津洲『……その「まさか」よ』






一同「あははは………」

一同「あは……」





一同「ほええええええええええええええええええええええええええ!?」




秋津洲『…………』




秋津洲は彼らのアホさ加減というか、察しの悪さ加減に毎度のことながら頭を抱えていた。


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552 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/08/31(水) 23:33:58.50 ID:+/CMTW7AO
秋津洲『………改めて状況を報告するわよ』

一同「………お願いします」


事の重大さを認識したのか彼らにも焦りが出てきた。
色々と嫌みを言ってやりたい気分だったが、時間の無駄なのでやめた。


秋津洲『犯人は二人。一人はコントロールルーム、一人は金品を奪い、かつ人質の見張り。』

秋津洲『逃走用のウィッチを一緒に乗せてるわ。万が一を考えて犯人から見えないように……』

白鷹「了解。ファルコートをギリギリの位置に配備させておく。」

秋津洲『それから犯人は銃を所持。人質にとられている乗客に危害を加える可能性がある。』

秋津洲『だから中は私がなんとかする』

霧島「……ファルコートも配備するんだし無茶しなくていいのに」

秋津洲『最悪人質をとって逃げ出す可能性もあるわ!』

霧島「……いっそ人質をとってくれたほうがやり易い気もしないことも」

秋津洲『………何か考えでも』

霧島「全く」


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553 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/08/31(水) 23:34:25.98 ID:+/CMTW7AO
秋津洲『……国民を守るのが我々の役目よ。なら無茶苦茶言わないでください』

秋津洲『とりあえず以降の通信は受信のみ。こちらからは暗号通信または隠語通信をおこないます』

霧島「了ー解」

新兎「暗号通信てなんすか」

……空気を読まない新兎の一言に場の空気が大いに凍りついた。

敷島「貴様はああああああああ!そおおおおおおんなことも知らんで今まで生きてきたのかぁ!?」

橘花「というより、留年といえども卒業出来たこと自体がまさに奇跡ね」

新兎「勝手に七光りとでもよべばいいバカ!!!!!!!」

敷島「七光り!七光り!」

新兎「こいつ………ッ」



またカスミのバカ騒ぎがはじまった。


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554 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/08/31(水) 23:35:54.07 ID:+/CMTW7AO
アリナ「……みんなの代わりに暗号通信について説明するね新兎くん」

アリナ「暗号通信は言わば『思念通信』のいっしゅなんだよ」

アリナ「しかし、音声で再生されるわけではなくいまの技術では昔でいう『ポケベル』ぐらいの機能しか使えないんだよね」

アリナ「要は文字での再生。また、暗号化されるのでカスミのクルーにしかわからないという完璧なセキュリティシステムなのです!!!!!!」



新兎「おいこら、敷島やるかごらあああああああああああ!!!!!!!!!」

敷島「望むところだごらああああああああああああああ!!!!!!!!!」


アリナ「………って聞いてない」


秋津洲はもう毎度のことだが、このアホさ空気を一切読まないアホさ加減が嫌になっていた
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
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555 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/31(水) 23:37:08.78 ID:+/CMTW7AO
今日はここまで。続きは二〜三日中に
お付き合い、ありがとうございました。
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
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556 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/01(木) 00:53:33.98 ID:HSOhRnjSO
いちおつー

今自治うんぬんの話し合いしてるのな
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
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557 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/04(日) 04:59:19.43 ID:xTaC+M9AO
今日には続きを更新します
一応予告
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
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558 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/04(日) 21:03:30.89 ID:xTaC+M9AO
再開
559 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/04(日) 21:04:21.59 ID:xTaC+M9AO
秋津洲『と・に・か・く!』

秋津洲はひそひそながらも威圧感のある声で静かな叫びをあげた

秋津洲『乗客は私が身を挺して守り抜きます』

秋津洲『ですから、犯人の確保は任せましたわよ。よろしくって!』

霧島「無茶……しないでくださいね?」

秋津洲『今まで散々無茶させてきた癖に…今さら何ですか』

霧島「一同、秋津洲中佐に敬礼!!」

アホ共が一斉に敬礼を始めた。

秋津洲『………死亡フラグ、立ちますから辞めてください』


そこで秋津洲とカスミの通信は終了した

560 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/04(日) 21:04:48.62 ID:xTaC+M9AO
――――――

【ぐろーばる】

秋津洲「で、添乗員さん」

添乗員A「あ、はい!」

秋津洲「とりあえず犯人はいまどんな様子か確認できる?」

添乗員A「えっと…確認しようにも…経費削減で添乗員は私だけなんです。あとはロボット任せですから」

添乗員A「そのロボットも念のため電源を切られてますから確認のしようがありません」

秋津洲「……なるほどね」

添乗員A「もう私の金品も…パイロットの所持品もみんな。」

秋津洲「まあ、こういう仕事場だし、良いものを付けているものでしょうからね」

561 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/04(日) 21:05:18.69 ID:xTaC+M9AO
秋津洲「下手に動けば乗客は…危険か。便利すぎる世の中も考えものね」

秋津洲「…………」

秋津洲は思考を巡らせていた。
何とか犯人とコンタクトはとれないか、乗客から金品を奪いきり、逃げられるまでになんとか……

秋津洲(いや、私は添乗員なのよね、今。)

秋津洲(……片方は今は操縦室にいる。ならば客の見張りは一人)

秋津洲「ねえ、添乗員さん」

添乗員A「は、はい!」

秋津洲「私に少し考えがあるんだけどね?」

添乗員A「……はい?」


秋津洲はニコリと笑う。
その笑顔は微妙に霧島に似ていた。


562 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/09/04(日) 21:05:45.59 ID:xTaC+M9AO
【客室】

犯人A「おい、素直に金を出せ。それからアクセサリーの類いも」

乗客A「し…しかし…金がなければ商談が………」

渋る乗客に犯人は銃を突きつけた。
シグザウアーか、かなり手入れされた様子だった。

乗客A「ひ…ひいいいっ!」

犯人A「退職金か、保険金か、どっちか選びな」

乗客A「だ、出します!出しますから!撃たないで下さい………!!」

震えながら乗客たちは犯人に金目のものを差し出していた。
随分なれた手つきだ。二人だけでここまでの大事を成し遂げてしまうのはある意味関心せざるを得ない。


563 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/09/04(日) 21:06:41.00 ID:xTaC+M9AO
犯人A「……これでようやく八割か」


と、犯人Aのマイクロホンがなった。

手放しで話せる高価なタイプらしい。

秋津洲のそれとは性能はかなり劣るが。

相手はもう一人の犯人からだった。



犯人B『おい、どこまで終わった』

犯人A「八割方だ。今日は当たりの客ばっかりだぜ?ラッキーだったな」

犯人B『こっちなんかフランクミュラーなんかしてやがった。パイロットって儲かるんだな』

犯人A「とにかくだ。そっちは仕事してんだろうな?救援信号なんか送られちゃカスミの連中が来て面倒なことになるぜ」

犯人B『そんときゃ人質とるまでだ。逃げたもん勝ちだ』

犯人A「楽観的だな。ま、それでなんとかなってきたんだからな。何もいうこたねーや」

犯人A「だが仕事はしろよ」

犯人B『了解。そっちもさっさと終わらせろよ』

犯人A「そのつもりなんだが………」

犯人A「なんか暑いんだよ」

564 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/09/04(日) 21:29:23.71 ID:xTaC+M9AO
犯人B『暑い?なんかぶっ壊れてんじゃねえのか』

犯人A「チッ………添乗員呼んでやる。サボるんじゃねえぞ!」


――――――

添乗員A「あの……秋津洲様」

秋津洲「その呼び方はやめましょう。勘づかれるわ」

添乗員A「そ、そうですね!すみません……」

添乗員A「とりあえず、指示通りに暖房を限界まで上げて、エンジンの熱も多少うまい具合に送りました」

秋津洲「ありがとう。悪いわね、あなたまで汗びっしょりにさせて」

添乗員A「いえ……」

添乗員A「ただ、これで大丈夫なんでしょうか」

秋津洲「任せて。そろそろ来るころよ」

添乗員A「………来る?」

秋津洲「犯人からの電話」


565 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/04(日) 21:35:26.42 ID:xTaC+M9AO
と、秋津洲が話した途端、船内連絡用の電話がなった。

添乗員A「あ……あの………」

秋津洲「私が出るわ。」


カチャリと秋津洲は受話器を右手に持った。
添乗員Aはゴクリと息を飲む。察しが悪い方なのか、良く状況を把握していなかった。


秋津洲「はい。こちらは待機室」

犯人A「……客室がサウナ状態だがどうなってんだ」

秋津洲「申し訳ございません。不備にて、空調システムが壊れてしまいまして」

犯人A「………そういやぁ色々撃ったからなぁ」

秋津洲「ええ。」

566 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/04(日) 21:35:53.56 ID:xTaC+M9AO
犯人A「………何とかならねーのか。仕事にならねえ」

秋津洲「でしたら、冷たいお飲み物をお持ち致しますが」

犯人A「………」


犯人Aは考えた。確かに喉がカラカラだ。
だが……なんとなく嫌な予感がする。

相手、秋津洲から電話越しだが妙なオーラが感じられる

が、身体が悲鳴をあげている。このまま倒れてしまっては仕方がない。

犯人A「………分かった。スポーツドリンクを頼もう」

秋津洲「かしこまりました」

犯人A「ただしだ」


犯人Aの口調が荒くなった

567 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/04(日) 21:36:22.08 ID:xTaC+M9AO
犯人A「お前が俺の前で一口飲め。いいな」

秋津洲「かしこまりました」


そんなやりとりを終えて会話は終了した。

秋津洲「と、言うわけだからスポーツドリンク…冷たいのを頼むわ」

添乗員A「あの…いいんですか?何か細工とかしなくて……」

秋津洲「いいのよ。逆効果だわ。」

添乗員A「?」

相変わらず、添乗員はポカンとしていた

秋津洲「犯人がスポーツドリンクに手を付けた一瞬が勝負よ。あの様子だときっと一気のみをするに違いない」


秋津洲はカチャリと軍用の自動小銃の安全装置を外した。

568 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/04(日) 21:36:49.38 ID:xTaC+M9AO
何となく…始めてみる本格的な武器に添乗員はゴクリと息を飲んだ


秋津洲「大丈夫よ。あなたを撃つ訳じゃないわ。」

添乗員A「え…ええ…」

添乗員A「しかし……」

秋津洲「何かしら」

添乗員A「とても……機転のきく方だなと」

秋津洲「あら、結構ベタな作戦よ。軍の緊急マニュアルでね、昔見たのよ。」

秋津洲「助かったわ。条件が揃っていて」

添乗員A「は…はい………」

添乗員は感心というより、秋津洲が他の惑星の人間に思えてならなかった

569 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/04(日) 21:54:44.59 ID:xTaC+M9AO
準備を見事に整えて、単身盗賊の元へと乗り込むのだ。



到底彼女には勿論、ほとんどの人間にそこまでの度胸というか、考えすらない。

添乗員A(やっぱり軍人さんはすごいなぁ………)





秋津洲は腰にさりげなく銃を装備し、スポーツドリンクを片手に犯人の元へと向かっていった






添乗員A「お、お気をつけて!」

秋津洲「あなたこそ、倒れないようにきちんと水分、とってね」




その背中には迷いがなかった



570 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/04(日) 21:55:14.17 ID:xTaC+M9AO
――――――

犯人A「………」


犯人Aはイライラしていた。

貧乏ゆすりをしながらスポーツドリンクの到着を待っている。
流石に耐えきれないのか汗が垂れてくる。
彼が舌打ちするたびに乗客達は震えていた。





……と、プシュッと鉄の扉が開く音がした


一人の美しき添乗員がスポーツドリンク片手にあらわれた

571 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/04(日) 21:55:50.43 ID:xTaC+M9AO
犯人A「………もうひとり乗ってたのか」

秋津洲「別の作業があったもので」

犯人A「もう一人はどうした」

秋津洲「只今空調の調整に向かいましたわ。」

犯人A「……ふん。さっさとよこせ」

秋津洲「どうぞ」


あくまでにこやかに、秋津洲は犯人Aに一口飲んで見せ、その後スポーツドリンクを渡した。


その後、それを奪いとるように彼はコップをとり、グイグイと飲み干した



―――――今だ



秋津洲は一瞬の『スキ』を見逃さなかった。




カチャリと音がする。


犯人の心臓だ。


――――決まった



秋津洲が、いや、誰もがそう思った



が、その音は奇妙なことに『二回』していた



572 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/04(日) 21:56:17.78 ID:xTaC+M9AO
秋津洲(………二回?)



いつの間にか、自らの足に拳銃が…刺さるように当たっていた




コップが割れる音がした



犯人A「……いい度胸してるじゃねえか」

秋津洲「………ええ。慣れてるから」


犯人A「その銃は軍用か」

秋津洲「あら、詳しいのね」

犯人A「そりゃそうさ。敵は知っとかなきゃなぁ」

犯人A「しかし参ったな。まさか軍人が乗ってて、しかもCAに化けているなんて想定外だ」

秋津洲「私もよ?ハイジャックに会うなんて…お陰で今日は徹夜ね」

犯人A「ふん……」

573 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/04(日) 21:56:50.02 ID:xTaC+M9AO
秋津洲「あら、銃は下ろさないのかしら。私は撃つわよ。軍人だもの」



秋津洲「心臓と足、あなたは引き換えに出来るかしら」






犯人Aは苦笑いを見せた


乗客は安堵の表情を見せ、全てが『終わった』様に見えた。


心臓と足、どう見ても犯人Aには勝ち目はなかった


が、犯人は相変わらず余裕の表情で言い放った。


犯人A「するよ、俺は」





―――――銃声が鳴り響いた。



574 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/04(日) 21:57:24.81 ID:xTaC+M9AO
一つは心臓に、一つは……太ももに当たっていた



秋津洲「………」

犯人A「………」











秋津洲「ああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」








叫び声を上げたのは秋津洲の方だった。


575 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/04(日) 21:57:52.00 ID:xTaC+M9AO
脚からボタボタと鮮血がながれ、バランスを失い、倒れこんだ。


その後、あまりの激痛に声にならない叫び声を上げた。


秋津洲(な………ぜ………?)



犯人A「悪いなぁ。こう言う稼業やってると乗客にもヤクザ屋さんがいてなぁ」

犯人Aはスーツを脱いだ




犯人A「防弾チョッキはかかせないんだよ」






痛い。



こんな貧相な表現しか思い当たらない自分にほとほと秋津洲は嫌気がさした。




576 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/04(日) 21:58:32.89 ID:xTaC+M9AO
犯人A「悪いな。美人だからもう片方で勘弁してやるよ」






再び銃声が鳴り響いた。




秋津洲「…………………ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ」



乗客達は誰もが目を背け、震えていた




犯人A「と、言うわけだ。面倒なことになったからそうそう退散する」

犯人B『人質はどうする。配備されてる可能性もあるぜ』


秋津洲「な………なら、あた……しが…………………」



大量の血が床を濡らす



犯人A「ダメだ。軍人なんか人質にとっても無駄だ。かわいいかわいい国民さんがいいだろ?」


犯人Aはニヤリと笑いながら応えた
577 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/04(日) 21:58:59.88 ID:xTaC+M9AO
秋津洲「ぐぅ…………………」

手を伸ばそうにも痛みで叶わない


なにもできない



自分の無力さを秋津洲は嘆いた。




犯人A「………誰がいいか」


犯人A「なあ?軍人さん」


秋津洲「…………」


朦朧とする意識の中、カスミへ思念通信を送るのが彼女に出来る精一杯の任務だった。


情けなさに涙も出てこない



犯人A「ガキか、ババアか………それとも」



「あたしが、あたしがいきます!」



一同「!」



甲高い叫び声に誰もが振り返った。

578 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/04(日) 21:59:26.42 ID:xTaC+M9AO
例の添乗員Aだった。


秋津洲「あ………なた」



添乗員A「私が、人質になりましょう。お願いします」


添乗員Aはゴクリと息を飲んだ

犯人A「………ふぅん」


犯人A「まあ、美人を犠牲にすんのは趣味じゃねーが、ラン[ピザ]ーも悪くねえな」


添乗員A「スーツをきてきます」


犯人A「さっさとしろ。五分以内だ。一分過ぎるごとに………」

犯人A「このねーちゃんが苦しむぞ?」


犯人Aはニヤニヤしながら今度は痛みで気絶している秋津洲の左腕に銃をつきつけた



添乗員A「…………早急に」


579 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/04(日) 22:00:53.63 ID:xTaC+M9AO
―――――――

一方、戦艦カスミには秋津洲からの通信が届いていた


『サクセンシッパイ、CAヒトジチ、アトハ…………』


霧島「と、言うことらしい」


白鷹「無茶…すんなよな」

アリナ「ふぶきさん………大丈夫なんでしょうか」


霧島「大丈夫だ」


霧島「と思いたい」


一同「………」



相変わらずニヤニヤしながら答える霧島の手には折れたボールペンの赤いインクが滴っていた


580 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/04(日) 22:01:39.69 ID:xTaC+M9AO
今回はここまで

ありがとうございました。
また数日中にアップします
581 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/05(月) 04:39:49.96 ID:f2DhdPgSO
いちおつー
582 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/16(金) 07:37:40.63 ID:CJcE+4ISO
つ…次の…更…新はまだ…か…
583 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 04:13:12.59 ID:hfyzO0RAO
再開
今日中には終わる予定です
584 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 04:14:10.89 ID:hfyzO0RAO
戦艦カスミには不穏な空気が流れていた



インクで手を紅く染める普段(から)頼りない適当なちゃらんぽらん中年艦長に、
慌てふためく、まだあどけなさが残る幼い軍のなんちゃらプロジェクトの被験者であるオペレータに、
珍しく神妙な表情のツインテールの乱暴というか男勝りというか、逸話というか、いわく付きなオペレータに、
相変わらず無愛想なポニーテールの極端なまでに天才的な美人パイロットに、
無駄に顔立ちが整っていて、無駄に体力の有り余っているハーフの極端な愛国主義的な思想のパイロットに、
無駄な知識と技術だけはどこにも負けない技術部一同とそれを名前通りにはまとめ『きれない』部長に
この顔触れの中では特にこれといった特徴もないニート予備軍、全ダメな若者代表の『それなり』に任務はこなすパイロットが直接、又は通信を介して集められ、
妙な空気と存在感を醸し出し絶妙に絡みあっていた。

585 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 04:14:36.76 ID:hfyzO0RAO
新兎『……艦長どうしたんすかその手』

霧島「どうしもしないよ〜?」

とニタニタ普段のように笑いながら答える霧島だったが、やはりどこかいつもより不気味さを増していた。

急な理由なき出動命令にも戸惑う。

アリナと白鷹は無言で霧島から目をそらしている。

霧島「そんな事より、だ。ふぶきちゃん、いわゆる副艦長がヤバい。かなりヤバい。」

新兎『……漠然とヤバいって言われても』

霧島「それくらいヤバいんだよ。漠然とヤバいとしか言えない位」

新兎『漠然とォ?』

586 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 04:15:07.63 ID:hfyzO0RAO
技術部員A「確かにヤバいな…いつもなら艦長は余計な解説やら情報やら何やら加えてくるのに」

技術部員B「一口に『ヤバい』ってものすごくヤバいな」

敷島『良くわからんがヤバいな』

橘花『ヤバいわね』

新兎『………僕にはどのくらいヤバいんだかイマイチ伝わってこないデスケドミナサン』

敷島『だからお前は『空気の読めない男』とか何とか呼ばれとるんだ』

新兎『……別に呼ばれてねーよ。と言うかお前だって空気読めてないだろうが』

敷島『あああーん?やんのかファ○ク!』

新兎『何だとこのエセ外人が!』



約二名。ファルコート越しに掴みあい、にらみ合い、いつもの乱闘を空気もない宇宙空間で空気も読まず起こそうとする



橘花『………空気が読めていたら誰もこんなとこ、来ないわ』



……が、橘花の更に空気を破壊するような発言で全クルー痛み分けの形で不毛な殴り合いは避けられた形となった。



587 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 04:16:27.79 ID:hfyzO0RAO
そんな不毛なコントのようなやりとりを終えて話題は主軸へと引き戻された。






……やはり現実か





と内面、無意識的にパイロット達をはじめとした多くのクルー達は、どこか他人事として捉えがちだった、
というか、最近はそうでもしないとやっていられなかった『危機』をひしひしと痛感していた。


霧島「んじゃアリナさん説明をば」

アリナ「……了解しました」


アリナが空間にふわりと手を翳すと色とりどりの画面が空間に映し出される。
ちょっとしたパフォーマンスのようだが、楽しむ余裕などありはしない。

588 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 04:17:23.97 ID:hfyzO0RAO
アリナ「この戦艦から1750km程離れた地点にて秋津洲副艦長から、ハイジャックされたとの最初の通信が確認されました。」

アリナ「ここにてファルコートの待機要請が掛けられ、皆さんに準備をしてもらっていた訳です。」

アリナ「そして『予定』であれば秋津洲副艦長が船内にて犯人グループを確保…の予定だったのですが……」

画面が切り替わり、鬱々とした空気がパイロットたちにもモニター越しだが伝わってきた

アリナ「ここから975km地点にて最後の通信…思念通信にて、秋津洲副艦長から『作戦失敗』との伝達がありました。」


霧島「……つまり、だ。ふぶきちゃんの話や状況から分析すると」

霧島「ふぶきちゃんは単独にて犯人グループの確保に向かったが失敗し、負傷を負わされたりなんなりして、動きを封じ込められた。」

霧島「そしてこっちの情報だと犯人グループはウィッチを一緒に持ち込んでいる。…となると軍が事件に絡んでいると気がついた犯人グループはどんな手にでるか…………はわかるよね?新兎くん」

新兎『………』


新兎は考え抜いた


霧島の散りばめたヒントから出される答えは――――






新兎『どんな手にでるんですか』




わからなかった。



589 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 04:17:49.32 ID:hfyzO0RAO
一同は状況は状況だが、ずっこけるしかなかった。



白鷹「……小学生かお前は!」


新兎『わっ…わかんねーもんはわかんねーんですよ』

敷島『バカめ!流石は空気が……』

新兎『じゃあお前はわかるってのかよ!!!!!!』

敷島『そりゃもちろん………』

敷島『…………』

敷島『わからん!』


橘花『……どうしてこうバカしかいないのかしら』



なにかを通り越し呆れに変わった瞬間だった。


590 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 04:18:22.35 ID:hfyzO0RAO
霧島「と、言うわけで珠理ちゃん正解をどうぞ」

橘花『「人質」よ』

霧島「ピンポーン」

新兎・敷島『人質ぃ?』


バカコンビから帰ってきた答えは、感嘆でも納得でもなかった。

疑問に疑問が重なり大きな疑問になりかわっただけだった。バカのループである。


新兎『なんで人質をとるんだよいきなり』

敷島『多分あれだ、なんか…事情だろう』

新兎『どんな事情だよ』

敷島『………犯罪者の心理など知らん!』

橘花『……とにかく!』

バカの会話に橘花が割り込んだ




橘花『犯人は軍…私達とやり合う為には人質を立てれば簡単には攻撃してこないと踏んだんでしょ』

新兎『んなの、撃っちまえばいいじゃねえか。警察じゃねえし、体裁なんか今更気にしてどうすんだよ』


アリナ「……なんかいつの間にか考えがスレたね新兎くん」

白鷹「………スレたな新兎」



591 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 04:18:55.63 ID:hfyzO0RAO
橘花『……アンタね、副艦長がやられたってだけでも十分に、体裁的には大変よろしくないのよ。その上、一般人を巻き添えなんかにしたら………』

敷島『そうだ!善良なる一般市民を死なせるわけにはいかん!お前は命の重さをだなぁ……』

新兎『じゃあどうしろって言うんだよ』

橘花『それを考えるのが私達の仕事』

新兎『…考えもなしに突っ込んでくお前に言われたかないな』


霧島「……そうか、そうだな」

新兎・敷島・橘花『へっ』

霧島「いや、新兎くん、君ってたまーに冴えてるよね」



霧島は、何をいきなり思ったか壊れた機械の様にいきなり笑いだす。
色々と『危ない人』に霧島は成り下がっていた。

クルー一同は、今更ながら自分達の首に多大なる不安を覚えていたが、もう止まれない止まらない止められないの三拍子が揃い、ただ見つめるだけだった。



592 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 04:20:05.45 ID:hfyzO0RAO
一方、ぐろーばる。





秋津洲は足を負傷し、『準備』が整うまで動けぬよう犯人Aに見張られていた。

犯人Aは相当なサディストか何かなのか、秋津洲の足の傷口に銃口をグリグリと押し付けながら笑う。

それでもなお、秋津洲は叫び声一つあげなかった。

犯人A「さっきの可愛い声、もう一回聞きたいんだけどなぁ」

秋津洲「……お断りね。悪いけど死んだってもう出さないわよ。」

犯人A「そりゃ残念だ」

そう言いながら犯人Aは今度は秋津洲の腕を撃った。



…耐える秋津洲。


高笑いする男。




秋津洲「………」

犯人A「意固地なんだなぁ…でも、そう言う女ってタイプなんだよね」

秋津洲「………うれしくないわね」


出血が多いのか……段々と秋津洲の意識が薄れていく。


593 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 04:20:36.39 ID:hfyzO0RAO
だが、犯人グループがここにいる限り、気絶など…まして死ぬなど許されないし、何より自分自身が許さない。

あくまで『余裕』を残してやる。そう、それは秋津洲自身のためだけではない。『カスミ』のプライドだ。



―――走馬灯か


今までの記憶がフラッシュバックしてくる


思い返せば何だか割りの合わない人生だったような気がしてくる。

何のために上級士官大に入って何のためにキャリア軍人になったのか

何のために戦艦カスミにて霧島のお守りなんかしなければならないのか

そして

何のために自分は一体こんな目に合っているのか



プライドか、正義感か、何なのか


秋津洲自身にも良くわからない


ただし、分かることはあった


『最期まで私は、一軍人でいたい』


願いにも近い“意地”だった。



594 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 04:21:21.63 ID:hfyzO0RAO
犯人A「お姉さんよォ、ちょっと聞きたいことがある」


突然犯人Aは秋津洲に再び声を掛けた


犯人A「なんでアンタ、心臓を狙った」


秋津洲「………」


犯人A「頭狙えば、間違いなく殺れた。だがアンタは心臓を狙った。」


犯人A「しかもだ、心臓と言えども微妙に急所は外してるだろう?何でだ」



秋津洲「……………こども」


犯人A「ガキがどうした」


秋津洲「子供の前で殺したくなかったのよ。」

犯人A「こんな血みどろな女だって十分ガキには悪影響だぜ?」

秋津洲「……………かも知れないわね。だけど」


秋津洲「……………………出来ないのよ私には。何でかしらね」


秋津洲は自分自身の言葉に絶望した


霧島はあの時撃った。だが、自分は撃てなかった。


秋津洲(…こんな無様な姿で間抜けにも犯人グループを逃がそうとしてる)

秋津洲(………軍人、失格ね)



595 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 04:23:18.03 ID:hfyzO0RAO
犯人Aは秋津洲の腕にもう一発、銃弾を撃ち込んだ。




……秋津洲は余りの痛さに叫び声をあげてしまいたかったが、かといってそれも何故か出来ず、そのまま意識を失ってしまった。





彼女の回りに紅く広がる大きな水溜まり


だが。その中には涙なんてものは一ミリも含まれては居なかった。


犯人A「ありゃ、死んじまった?つまんねえなぁ」


犯人B「出来たぜ」


犯人A「………ケッ、タイミング良いなぁ」


乗客達は言葉を失い
ただ、やりとりを呆然と見つめるか目を剃らすのみ。


添乗員A「秋津洲様!秋津洲様ぁぁ!!!!!!!」

犯人達は叫び声を上げる安全スーツに身を包んだ添乗員Aを連れて宇宙へ飛び出した。



596 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 04:31:34.66 ID:hfyzO0RAO
狭苦しい何やら良くわからない専門用語がひしめき合うウィッチ内に男が二人。

どうにもむさ苦しいことこの上なかったが犯人Aは上機嫌だった。


犯人B「おめえ、なんか楽しそうだなぁ?」

犯人A「そりゃあ。久々に映画のワンシーンみたいな事が出来たんだ。」

犯人A「今時あんなツラしたあんな女、滅多にいたぶれないぜ?」

犯人B「悪趣味だな」

犯人A「そりゃ、これがやりたくてこんな商売してんだ。女虐め抜いて飯食えるなんて最高だろォ?」

犯人B「アンタがある意味正常な男で救われた気分だよ」

犯人A「しかし準備が早すぎやしなかったか」

犯人B「ギリギリまで待ったんだ。贅沢言うなよ。それとも意識なくなっても遊ぶつもりだったのか」

犯人A「そりゃあ、なぁ」

犯人B「まるで14の放課後でお前の脳みそ止まってるみてえだなあ」

犯人A「まあ、いいや。もう一匹オモチャがいるしなぁ!コイツは免罪符にもなる優れモンだぜ!」


597 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 04:34:14.77 ID:hfyzO0RAO
犯人A「んでどうだ、そっちは」

犯人B「上手くいったぜぇ。万々歳だ!」

犯人A「このままフタツキ方面に行く。軍を巻いた後、女とウィッチは遊んだ後に廃棄」

犯人B「で、ずらかるって訳か」

犯人A「ちょっとした問題はあったがな」

犯人B「問題なんてのは解くためにあるんだろ?ないも同然だろ」

犯人A「処理したのは俺だ。簡単にいってくれるなよ…それに」





犯人B「………それに」





犯人A「まだ残ってるみたいだぜ」



犯人B「………!」


犯人A「残飯喰らい共が………」





598 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 04:35:02.55 ID:hfyzO0RAO
仁王立ちするファルコートが三機、ウィッチの前に立ちはだかっていた。






犯人B「………チッ!」




霧島『あ、あ、どうもー犯人のみなさぁ〜ん』


犯人グループのウィッチにいきなり、通信が無理矢理割り込んできた

犯人B「な、なんじゃこら!」

霧島『ど〜も、戦艦カスミ艦長の霧島でございます!いやはや、部下が「だいぶ」お世話になったみたいでして?』

犯人A「いや、『手間』のかからない良いお嬢さんでしたよ。お陰でこちらも助かった」

霧島『日頃の教育の賜ですかね。私のようなバカな軍人にはならなくて本当に良かった。』

霧島『私が乗ってたらアンタらを生まれてきた事を後悔するような仕打ちをした挙句、合い挽き肉にしてましたよー。良かった良かった。』

白鷹「…今の艦長ならやりかねねーな」

アリナ「……ですね」


霧島『とにかく、止め時は今ですよ』



犯人A「悪いが、無理な相談だなぁ?」


犯人B「ここまで来といて止めろって言われても止めるヤツはいねえよ」


霧島『なら、力ずくで「出来の良い部下」がお相手いたします』


霧島「………と言う訳だ。とりあえず警告はした。作戦通り」


霧島「『好き』にやれ」




霧島はそう犯人グループの前で新兎達に命令すると、怪しく笑った

599 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 04:35:42.34 ID:hfyzO0RAO
新兎『と、言うわけで』

敷島『「出来の良い部下」一同!』

橘花『お相手するわ』


全く彼らには迷いが無かった。


そう、秋津洲とはまた別の『意思』、随分と…フワフワしてはいるが、揺るぎない何かは存在するという至極おかしな意思を感じた。


人質の添乗員はただ事態を見つめ、祈る事だけを続けた。


そう、自分の無事ではない、『お客様』である秋津洲の無事を。


600 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 04:39:35.90 ID:hfyzO0RAO
犯人A「……こっちにゃ、人質がいるんだぜ!」

犯人B「撃ってケガでもさせれば大問題だぁなあ!?」


橘花『そうね。大問題ね。』


犯人A「……なんだ、その余裕は」


橘花は静かに怒っていた。


勿論、さっきの犯人の会話は筒抜けである。


何故だか何時ものように感情的なソレではなく、
もっと……根本的な、何とも表しがたいが深く大きな怒りである。



良くわからない。どうしようもない怒りだが不思議と制御は出来る。







そして、彼女は微笑んだ




怒鳴るでも突進するわけでもない。





ただ犯人にとって不吉な笑いだった








601 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 04:40:30.41 ID:hfyzO0RAO
橘花『……この状況を脱する答えは最初からもう、既に用意されていたのよ』


犯人B「ハァ?」

犯人A「………」


橘花『単に副艦長が見つけられず、私と艦長が「それ」に気がついたのが遅かった。』

新兎『…とかなんとか、艦長もお前も大見得切ったけどどうすんだよ』


橘花『空気もロクによめないアンタはさっさと敵を仕留める準備でもしてなさい』

新兎『お前に命令される謂れは!』


橘花『敷島は私のフォロー、頼むわよ』

敷島『フォ……フォローでありますか?』


橘花は分かっていた。霧島の『言葉の意味』を。



602 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 04:43:30.91 ID:hfyzO0RAO
自分が今、何をすべきか…


いや、自分にしかできない『何か』は何なのか


橘花『もう一度言うわ。投降するなら多少は罪が軽くなるわよ』


犯人B「うるせえええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!こっちにゃ人質がいるってんだよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」




敵は人質を全面にこちらへ印籠の様に突き出しながらこちらへ向かってきた。




橘花『まあ妥当ね。投降するくらいじゃ帳消しにはならないし………』


橘花『……神前』


新兎『………何だよ!またイヤミか』


橘花『いいえ。今回はお礼よ』

新兎『はぁ?』




橘花『バカとはさみは使いようね。ありがとう』




新兎『………結局イヤミじゃねえか』





603 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 04:43:56.90 ID:hfyzO0RAO
一旦中断
604 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/21(水) 04:54:40.31 ID:wFRv6EzDO
こんな時間に……だと……
605 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 18:04:11.30 ID:hfyzO0RAO
投下再開
606 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 18:05:15.33 ID:hfyzO0RAO
橘花は自らの胸の中から武器を取り出した。


ユニバーサル・シグザウアー


そう、ファルコートに標準装備がなされている『あの』曰く付きの武器である。



新兎『なっ………バカかお前!!!!!!』



橘花『………』



橘花はそれを持ち、狙いを定めた。







……そう、どこでもない、人質に。






犯人達は驚いた。まさか、全面に出しながらとはいえ、肝心の人質を狙ってくるとは思いもよらない。


だが、人質である添乗員は既に諦めていたのか…もしくは悟っていたのか、落ち着いていた。



607 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 18:08:16.50 ID:hfyzO0RAO
敷島『か………閣下ああああああああ!!!!!!?』
敷島『おっ……落ち着いてくださいいいいいいいいい!!!!!!』

新兎『ま、まてよ!!!!マジでねらうこたぁないだろうが!!!!!!!!』


慌てふためくパイロット

しかし、彼女は標準をけっしてずらさない。

戦艦カスミのクルー達も前のめりになっていた


白鷹「ちょ、バカ!!!!!!とちくるったか!?」

アリナ「ま………万が一当たったら………………」


霧島「………」




橘花『…………』


橘花『見えた』






608 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 18:12:31.45 ID:hfyzO0RAO
おかしい、おかしいのである


弾が明らかにおかしな弾道を描いていた


常人には真似できない、まさに天才的なまでの外しっぷり…………



ここまできて一同は漸く気がついた。




犯人グループのウィッチの腕がもげ、そのまま落下する。




――――それをすかさず敷島がキャッチする。



なるべく、人質に負担をかけぬように

見事な腕前である。人質は無傷であり、かつ、拾い損なった部品もない。
敷島が熱心に技術的な訓練に励んでいた証拠でもある。



609 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 18:13:11.34 ID:hfyzO0RAO




―――そして犯人グループのウィッチは人質を失い、丸腰も同然となった



その前には何だか状況は把握しきれていないがとりあえず戦闘態勢のファルコート一機が待ち構えている。

犯人B「ひいいいいいいっ!」

新兎「………なん?」


意外と状況を飲み込んでいたのは新兎でもなく犯人Bでもなく

秋津洲を撃ったあの男だった。

橘花『ボケボケしてんじゃないわよ新兎!』

新兎「あ…ああ………」

何だか良く知らないが何だか良く知らないうちに決着がついてしまった……良くわからない展開だったが
とりあえず流れに身を任せるべきだろうと避けられぬであろう速さでウィッチに突進を仕掛けた


―――あっと言う間に決着はついてしまった。




新兎のファルコートによって攻撃系は全面的に破壊され、捕獲されるのをウィッチは待つしかなかった。

もちろん、中の人間にも逃げ場はない。




三機のファルコートを相手に素手もしくはシグザウアーごときでどうにか出来る訳もないのである。




610 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 18:14:54.76 ID:hfyzO0RAO


―――無事に人質をひきあげ、犯人はそれなりに武装した技術部により捕縛、そのままフタツキ基地へと送られた。


流石に想定外を通り越し、規格外の事態に観念したのか、特に面倒に抵抗することもなかった。





橘花はユニシグを見つめたまま、腰に手をやり、珍しくニコリと笑った。

その笑顔に曇りなんてものはひとつもなく、実に晴れ晴れとしたものだった。





――だが少し悔しくもあり、状況の読めたクルー達は少し大きな問題を抱えることになったのだ。


……霧島がどこまで状況を『見抜いていた』のか。

冴えないが侮れないのが、この霧島という男だった。
確かに、艦長がいなければ…と言う場面は何度かあったし、それ相応に彼を尊敬すべきなのだろうが
誰もがイマイチそうも出来ない。

ただ『気味が悪い』その一言に尽きる。




611 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 18:15:28.36 ID:hfyzO0RAO
………問題はもう一つ、残されていた


秋津洲である。右腕、右足、左足を負傷し当初は意識を失っていた。


今回の事件の一番の功労者であり、被害者でもあった。



傷は深く、一時は義足化も考えられたが、細胞を再度結合化させることにより
時間は掛かるが、何とかまた自分の力で動けるようにはなる「らしい」。



だが、そんなことは彼女にとっては些細なことだった



身体なんて本当はどうでも良かったのだ。問題は自分自身だ。


もう少し考えを及ばせていれば――



クルーを信じて、一人で立ち向かうなんて無謀なことをしなければ人質なんて…

最悪、『自分自身が人質になる』ことだって出来た

……いや、人質なんてものはいらなかったかも知れない

それに…あの時、頭で引き金を引けば…………


霧島「良かったーなんて思ってます?」

ニタニタした男が百合の花を持ちながら副艦長室へ訪れてきた。

美しさの割に匂いがキツイ花……だというのはご愛嬌である。

秋津洲「………お見舞いのおつもりですか」

612 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 18:18:12.84 ID:hfyzO0RAO
霧島「一応」

霧島はそそくさと花瓶を探すがなかったので適当に長いコップに水を注ぎ、適当に花をいけた。

秋津洲「心配無用ですわ。歩けませんけど仕事は出来ますから」


百合の花粉と匂いが室内に充満する





霧島「もっと休んでても良かったのに」

秋津洲「いいんです。私が居なかったら終わるものも終わらないでしょ」

霧島「酷いんだから!折角やろうかなって思ったのに」

秋津洲「……手伝ってくれるんですか?珍しい」

霧島「まあ、今回の功労者はふぶきちゃんなんですから、それくらいもう」


ニタニタ秋津洲の気も知らずに笑う霧島。秋津洲は右ストレートを決めたかったが痛いので止めにした
613 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 18:20:04.11 ID:hfyzO0RAO
秋津洲「……功労者なんて立派なもんじゃありませんわ。アホな一人芝居をやってただけです」

霧島「そうかなー……ああ言う事態にならなきゃ得られなかったことだってたくさんある」

秋津洲「………」

霧島「ああ言う…ふぶきちゃんが作り上げた状況がなかったら橘花は、このまま二度と『才能』に気がつかずにシグザウアーを触ろうとしなかったかもしれない」

秋津洲「……かも、知れないわね。あまり感心できない方法だし、状況だけれど」

秋津洲「でも、後付けです。ベストな方法じゃありませんでした」

秋津洲「人質を出してしまったこと、軍人として勇ましく出ていったのにボロボロにやられたら…我が軍の信頼が………」

霧島「でもあのまま見てるなんてこと、出来た?」

秋津洲「それは…任務として…最善の………」

霧島「困ったなふぶきちゃん、私はふぶきちゃんがそこでみすみす犯人グループを何もせずに見送れたかって聞いているんですよ」

秋津洲「………それは」


霧島「これがホントの冷静と情熱の間!」
秋津洲「……つまらない冗談、いいに来たなら帰ってください」

614 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 18:20:31.94 ID:hfyzO0RAO
霧島「とにかく。結果的にはベターにもならなかったかもしれない。ふぶきちゃん的にはね」

霧島「だけど何度未来から過去に帰って何度この事件をやり直したって、ふぶきちゃんにはうずうず見つめてるだけなんて出来ないでしょ?」

秋津洲「…………」

霧島「人格上、能力上、出来ない事は出来ないままでいいんじゃないの?」

秋津洲「………どういう事です」

霧島「にんげんだもの」

秋津洲「………一ミリでも意識してたら帰って下さい」


615 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 18:20:57.79 ID:hfyzO0RAO
霧島「そ、それに!」

秋津洲「……それに?」

霧島「それを逆手にとる方法なんていくらでもある。橘花の使い方みたいにね」

秋津洲「…………」

霧島「まあ、結果的にオーライってことでぇ!ふぶきちゃ〜ん」



秋津洲(確かにここは『規格外』が集まる場所)

秋津洲(………確かに。最近の軍の作戦がつまらなく感じるわね)



秋津洲はクスリと笑った


616 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 18:21:50.70 ID:hfyzO0RAO
――――――

【休憩所】

橘花は訓練前の一服にコーヒーをすすっていた。

神妙な顔つきをしている


橘花(あの艦長。一体何物なのか…よく分からなくなってきたわ)

妙なコネに妙な頭の回転のよさ。また妙にいつも結果オーライなのはなぜか

単にダメな上司かと思えば明言は避けたものの明らかに………

新兎「なに行きたくもない結婚式に行く前みたいな顔してるんだよ」

橘花「………ねえ新兎」

新兎「………へっ?」

橘花「……わかんないのよ」

新兎「い、いや俺も全く……」

何故か焦る新兎だった


617 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 18:22:28.08 ID:hfyzO0RAO
橘花「霧島艦長が私、良くわからないわ」

新兎「た…確かにおれも霧島艦長がわからんが………」

橘花「『も』ってなによ」

新兎「いや……あの……」

新兎「何で僕のこと……その……いきなり名前なんかで………」

橘花「へっ……」

橘花「言った……かしら」

新兎「……いや、聞き間違え………の」

橘花「で、でも!みんな最近はアンタのこと」


白鷹「そりゃ、お父さんにあっちゃ、なあ」

アリナ「呼び辛いですよね。何か」

橘花「そうよ。期待するんじゃないわよ」

新兎「……なんにも期待なんかしてないけど」

アリナ「そうだよね。冴えない主人公が何故かモテるなんて漫画の中だけだもんね!」

新兎「なっ…………!」


アリナ「いや……そんなに驚かなくても…………」

新兎「………そう、そうなんだ」

白鷹「この世の終わりみたいな顔すんなって」


618 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 18:33:41.23 ID:hfyzO0RAO
そんな休憩室のドアがガラリと開いた

敷島「………なんちゃらパンとかいうやつ、フタツキまで買ってきたぞ」

アリナ「あ、ありがとーございます。敷島さん♪」

白鷹「ああ、見舞いに副艦長室へでも持っていこうと」

敷島「…で、何の話をしていた。妙に閣下が楽しそうだったぞ!」


一同「…………」


一同「…………なんの話だっけ」


619 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 18:34:08.35 ID:hfyzO0RAO
――――――

副艦長室への道すがら、アリナと白鷹はパイロット三人を見て何となく朗らかな気分だった

アリナ「橘花さん、なんか明るく…なりましたよね。以前より友好的といいますか」

白鷹「前からだろ?ただタイミング云々ってヤツだ。小学生かっ、てえの」

アリナ「……はあ。なんだか人間関係と言うものは大分難しいものですね」

白鷹「味方だったヤツが敵だったりなんてのは」
620 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 18:36:10.51 ID:hfyzO0RAO
白鷹「よーくあることなのと同様、ああ見えても意外と…なんつうのはよくある話なんだぜ。」

アリナ「……日常的なんですか」

白鷹「軍隊じゃな」

白鷹「でもイマイチわけわかんねーのが霧島艦長なんだよな」

榛名「ホントいつも何考えてるんだか分かんないのよ。もうウン十年の付き合いなのに」

白鷹「へぇ…そんなに」

榛名「結局霧島君てぇ、ふぶきちゃんのこと、どうなのかしらねっていやんっ!」

アリナ「って…榛名さんいつのまに……」

白鷹(……わけわかんねーのはアンタもだよ)



621 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 18:37:58.15 ID:hfyzO0RAO
――――――


【翌朝】

秋津洲(嫌ね……私も艦長に説教されちゃうようじゃ)

秋津洲(でも橘花大尉もどうにか行くべき方向が定まったみたいだし………いててて)

まだ腕が痛むが不思議と苦ではなかった

秋津洲はなんちゃらとか言う有名なフタツキのパンを片手に副艦長室の扉をノックする。

はあい、と間抜けた声が聞こえる


くすり、と秋津洲は笑いながら扉を開ける。

他愛もない会話を霧島とし、さあてとレポートを控えめに要求するが何やら雲行きがあやしい。



どういったことかとパソコンを見るとレポートどころかデータ自体がまるまるパンの中身の様に真っ白だった

霧島「間違ってその…フォーマットを………」

秋津洲「間違ってフォーマットするには、まず間違えるべき別のなにかが必要よ」

秋津洲「つまり何かを消そうとする最中でなければフォーマットしようがないんですのよね霧島艦長?」

霧島「ま…まあ………大体はおおまかな説明通りで………」

秋津洲「フォーマットと消去をまちがえるなんて余程慌ててたんでしょうね霧島艦長?」

霧島「ま………まあ……少し………」




秋津洲「少し?」


霧島「いや…かなり」





秋津洲は全力で右ストレートを霧島にヒットさせたが不思議と苦ではなかった
622 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 18:39:23.39 ID:hfyzO0RAO
第四話
『スカイハイ・ジャック』



――了――
623 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 18:43:35.70 ID:hfyzO0RAO
第五話『Wの喜劇、Mの悲劇』



戦艦カスミは平和だった



宇宙交通安全週間でファルコートが駆り出され、面倒に見舞われたこともあったがすこぶる平和だった。


だが、嵐の前は静かなものである。


それはカスミにも例外なく当てはまった。



――カスミとほとんどの時間を共にしてきた紫雲アリナ氏曰く、「平和はドタバタの前兆なのです」





624 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 18:44:23.51 ID:hfyzO0RAO
新兎は寝ていた。


最近は本当に平和なものである。


何があったかは(新兎は)知らないが、橘花の態度もメチャクチャなソレとは無縁…までは言えないものの

『丸く』なってきているような気がしていた。

朝は寝坊しようが事件でも怒らない限りはシャワーを強制してくることもなくなり、
寧ろ仕方ないわねと小言を言いながら朝食を運んでくる。

敷島には特別メニューのプロテインを白鷹と調べ、わざわざフタツキから仕入れ(費用は敷島持ち)、毎朝持って行ってやっているらしい。


625 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/09/21(水) 18:45:30.45 ID:hfyzO0RAO
それから暇な時間の朝食のメニューも変わった。
最初の内はカレーだらけだったがその内、レパートリーが増え、
野菜サラダにベーコンエッグにパンという比較的まともな朝食であった。

橘花曰く、「やはり料理は素材を殺すのよ。そう、完璧なものは素材そのものの旨味!」

とかいいつつ、本人にもどこか妥協点が出来たのか、メニューが段々と増えていった。

完璧に出来ないからこそ料理はうまいのである。お袋の味なんかもそうだ。
そこに完璧さなど微塵もありはしない。勘だけがたよりのこのせかい!

――だがうまいのだ。ある意味で完璧に出来ないところを愛情と知恵がカバーするのである

しかしどうだ。完璧な飯…それは逆に言えば自分自身に勝手に壁を作っているにすぎないのだ。

飯は不完全だから旨いのである。ちょっとスキマがある飯だから上手いのである。

橘花はそれを学んでいた。そう、弱点が最強の武器になりうる事もある。
そりゃ自分自身を狙われしかも銃口を引き抜かれる、が絶対当たらない………

最強の威嚇方法ではあるまいか、と。

ただ、あまり使える手ではないなとも橘花も考えていたことも確かだった。

626 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/09/21(水) 18:45:57.54 ID:hfyzO0RAO
話を戻そう。

とにかくその前回の一連の事件にて橘花は大きく意識を変えた。

『完璧が仇になる』『だかその仇を利用する方法がある』

そんな抜け道がある以上『完璧』なんてものは存在することも、意味もない。
むしろ、完璧なんて概念自体がおかしいんじゃないか、

と言うことは私はありもしない概念を勝手に背負って生きてきた…悲劇、いや喜劇のヒロインではないか……

とまで考え込んでしまった。

いや、逆にカスミに自分が居なかったらどうなっていたのだろう……と橘花はふと、考えてしまっていた。



627 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/09/21(水) 18:47:19.75 ID:hfyzO0RAO
橘花(あのままやり続けていたら……仕事は……)

と考えを廻らせていき


……結局カスミに辿りついていた


何度も何度もシュミレーションしてみるが無駄であった。


橘花(……結局私、ここに来るしかなったのかもね)


とくすり、と笑う


他の面子を考えてみると………どれも来そうな連中ばかりである。


まあ納得はいったが…いや、約一名、イレギュラーな存在を思い出していた。


―――神前新兎


名の通り、お偉いさんのボンボン
元ニート予備軍所属、現在は霧島艦長の誘いに乗ってなんとなくファルコートに乗ってる男。
だがスコアはまあまあ良い。実践でもまあまあ役に立つ。




そう言えば魚屋を継げば良かった。なんて抜かしている。

628 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga]:2011/09/21(水) 18:48:38.34 ID:hfyzO0RAO
――――――――

【調理場】

女子達はまだ作業中の技術部員達とその他にハンバーグ弁当を作ってやっていた。

橘花「………確かにコイツに話掛けようなんて思ったのは状況が全然違ったからかしらね。いまから思えば気の迷いよ」

白鷹「あれ、でも意外と珠理ちゃんと新兎くんって共通点あったりするじゃん?」

白鷹のニヤニヤが止まらない

アリナの方は何故だか不機嫌らしい

橘花「い…一体何よ!」

白鷹「境遇だろ。この間話してただろうが」

アリナ「確か…橘花さんもお父様苦手なんですよね」

橘花「……あんなあまっちょろい親子バカ喧嘩と一緒にしないでよ」

橘花「第一、新兎のお父様は立派な方じゃありませんか。それに軍に入る入らないは別に人生まで左右されませんもの」

白鷹「それから妙に軍をやめたがってるとことか」

橘花「私はやめたがってないわ。ここは言わば充電期間ね」


アリナ・白鷹「じゅ、じゅーでんきかん」

橘花「そうよ。わたしはここであらゆる弱点を克服し、好機を待つわ。そして本来の目的を達成するのよ」

アリナ・白鷹「おおおお!」

629 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 18:49:26.87 ID:hfyzO0RAO
橘花「その為にも…私はカスミが活躍してもらわなきゃ…いや、活躍までもないわ、最初はミスをおかさぬ所からキャリアを重ねて行くべきだと思うのよ」


アリナ「なんというポジティブな思想…カスミに来てから初めて聞いた気がします!」

白鷹「いかに順応するかとか、いつが軍隊止めどきだ、とかそんな後ろ向きな考えの奴らばっかりだったもんな」

橘花「だから…その………人間関係も私は本来苦手だけど……苦手なものは逆手に取れるって艦長は言っていたわ。若干不安だけど」

アリナ「でも友好的ですよ、今のメンバーは今までにないほど」

白鷹「最初は戦争でも始まるもんかと思ったがな」


弁当作りは、ごく『平和』に行われていた。

そう、ごく平和に


630 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 18:50:22.44 ID:hfyzO0RAO
――――――――


一方、神前新兎はようやくの起床を経て技術部員達からなにやら呼び出しを食らっていた

技術部員A「ニートくぅ〜ん、いいもの見せてあげるからさぁ、おいでよぅ!」


なんとも不気味な宴の誘いだったが、どうにもパーティーの招待客は男性のみ

……と言うところになんとも言えない「誘惑」というか何かを感じた。

631 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/21(水) 18:50:50.07 ID:hfyzO0RAO
今日はここまでありがとうございました
632 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/22(木) 01:35:53.98 ID:/Hqy78MDO
すごいナチュラルにニートって呼ばれてるwwww
633 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/24(土) 12:56:38.15 ID:hS1ub6GSO
久し振りにキテタァ
>>1
634 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/02(日) 20:15:31.45 ID:KgvmtIqSO
連コメになるけど次いつだろう
635 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/10/02(日) 21:23:40.00 ID:lHy3Wxizo
そろそろだとうれしいな
636 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/10/09(日) 12:40:55.81 ID:xuGikL1AO
ただ―――

その『何か』は一旦置いておこう

非常にあやしいではないか。

“あの”技術部が主となって何かを催すのだ。

普段の行いからして、ろくな事は企んで居ない気もする。

もうそれだけでも怪しさ満点なのにその上、新兎を誘いに来た技術部員の全員が全員ニヤニヤほくそ笑んでいるのだ。

端から見れば奇妙な光景で、普通の人間だったら普通は一つ返事で断るわけなのだが、何分この男は最近は周りの特異さに埋もれて目立ってはいなかったものの、空気の読めないバカな若者である。


返事をする間もなくバカ面を引っ提げてホ
イホイついていってしまう。



しかし彼は知る由も無かった。



―――コレが非情で残忍で残酷な悲劇の本当の始まりであるとは
637 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/10/09(日) 12:58:02.02 ID:xuGikL1AO
技術部員一同はキョロキョロとまるで逃走中の指名手配犯のように慎重に周りを見回す。
何に脅えているのかは知らないが、何度も何度も繰り返していた。

その後申し訳程度に設置されている監視カメラにスティック状のパソコンを接続する。

士官やオペレータではない為、NCを埋め込んでいない彼らはそれを媒体として空間にキーボードと画面を映し出しているのだ。

ただし、最近ではNCの基礎技術が民間に公開されたらしく、それなりに金を持っている人間なら埋め込みまではしないもののアクセサリーなどの洒落た形のものを身につけるようになり
すっかり技術部が使っているような、片腕位はあるだろう非常に持ち運びが不便な巨大なスティックタイプのそれは
戦艦のサーバーのおかげで快適に利用できるのだが、元々の性能はお洒落パソコンより何倍も低いので、すっかり下火というより廃盤になっていた。

買い替え推進の声は高まるものの財政状態を考えると、とても戦艦の財布を握っている秋津洲には進言する勇気がなかったらしい。

周りを見回しながら新兎と技術部員がそんな話をしているうちに、どうやら作業は完了したらしく全員いやらしい笑顔を浮かべていた。
638 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/10/09(日) 13:00:14.28 ID:xuGikL1AO
そうこうしながら、いつの間にかシュミレーションルームの前に連れられていた。


シュミレーションルームは確か…訓練の為の機材しかなく、男共が喜ぶものは何もないはずなのだが。



怪訝に思いながらも扉を開ける新兎は……



その『予感』が不思議と的中していたことを悟った。



――勘、と言うより『本能』か


そこには秘密の楽園、秘密の花園、秘密の………もうここではとてもとても書けないような
冒頭にてR18指定しなかったことを悔やんでも悔やみきれない、もうそれはそれは甘美な光景が広がっていた。



639 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/10/09(日) 13:02:21.05 ID:xuGikL1AO
新兎「な……なに……やってんすか………」

と一応聞いては見るものの見るからに嬉しそうに緩みきった顔で言われても全く説得力がない。


もうあれである、大変なのである。

シュミレーションルームの機能と性能をフルに活かしきった臨場感にスペクタクル!
男ならスタンディングなんちゃら!拍手喝采!間違いなし!!のその光景。

もしかしたら、初めて訓練用ラットに乗った時の感覚に似ているかも知れない。
ワクワクするというか、新たな世界に脳の後ろの方がピリピリするというか。

しかもだ。

それを更にスキッドシステムなどという、第一話以来登場していなかったものまで使って、よりリアルに体感してしまうとかなんとか抜かしている。

本来このトレーニングルームではあくまで作戦の為にこのスキッドシステムの利用が許可されているのだが、技術部が半公認状態であるなら仕方なかろう。

640 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/10/09(日) 13:03:58.57 ID:xuGikL1AO
悪いことをしているのだが、その絶妙な悪いことをしている感がまた溜まらない。

そう言えば、そっちの方はどうなっていたのかと新兎は疑問に思っていたが、なるほど。事が十二分、いや十二万分足りる!


そういえば集団で技術部員の連中を見かけないな、と度々思っていたのだが、このことだったのかと
酷く陳腐で俗物的で仕方のないミステリーの正体が明らかになった喜びと何が何やらの喜びが
ろくに事を進めていないが新兎は非常に、いや、人生で何番目かの悦びを覚えた。



641 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/10/09(日) 13:04:36.85 ID:xuGikL1AO
技術部員の一人が彼の前にやって来た


技術部員A「ようこそニートくん。我々の秘密の花園へ」

新兎「お、お招き頂き光栄です……」

アホヅラを引っ提げながら「えへえへへ」とアホな笑いをする。

技術部員B「いやいや、これで君も正式なカスミクルーの一員だ!」

技術部員C「おめでとう!!」

新兎を回りの男共が囲みながら拍手を送る。
なんとも某名作アニメの最終回にも似たような光景は奇妙というより気持ちがわるかった。

642 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/10/09(日) 13:05:28.09 ID:xuGikL1AO
技術部員D「君には言おうか言うまいか迷っていたんだよ。だがしかし。これまでの君の性格や様子から…迎えようではないかと我々の意見は満場一致!」

技術部員A「おめでとうニートくん。一人で悩むことはもうない。辛いときや悲しいときやムラ…いや、ムシャクシャするときはここへ来るといい」



何だかよくわからないが感動的な気分に新兎は浸っていた。


これまでの人生でここまで人と交われたであろうか……いや、ない


たしかに一人で悩んでいた辛さが解消されたことは嬉しい


が、もっと嬉しい事は「わかりあえる仲間が出来た」ことだろうか


みな、悩み苦しみそしてそれを放ってきたのかと思うと人間としては当たり前の行動なのだが、何だか胸が熱くなるのを覚えた。

バカだな、と第三者的には思えるのかもしれない。が、彼は喜びに震えていた。


……非常に馬鹿馬鹿しい話であるが



643 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/10/09(日) 13:13:36.86 ID:xuGikL1AO
――――

男共が愚兄賢弟ならぬ愚兄愚弟状態であるとは露知らず
三人娘は眉間にシワを寄せながらハンバーグを成型していた。

白鷹「なあ…思ったんだけどさぁ」



ペタペタと言う絶望的な音だけが響き渡る。



橘花「……何」

白鷹「どう考えてもおかしいよな」



三人の目の前には数百もの肉塊が広がっている。


アリナ「今まで……人間関係をスムーズにするべく私達は食事当番を引き受けて来ましたけど」

白鷹「押し付けられてるよなぁ?私達」

橘花「……たしかにアイツ(新兎)が来てからと言うものほぼ毎日食事当番、私達が引き受けてるわね」

白鷹「そうだよ!そうなんだよ!!」

白鷹は遂に色々堪えてきたものが噴き出したのか、ベッターンとテーブルに渾身の力で肉塊を叩きつけた。

アリナ「し…しらたかさん………」

白鷹「毎日毎日毎日毎日…アイツら最近は暇なんだろ!コッチはまだ作業が残ってるっちゅうんだよ!!!」

644 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/10/09(日) 13:15:44.58 ID:xuGikL1AO
橘花「それもそうよね。技術部はもう修理も無事に終わってアクビまで………」

アリナ「そう言えば…最近、頭部長以外は見掛けませんよね、技術部の人たち。」

白鷹「そうだよ!暇なんだから忙しいアタシらがそのまんま食事当番なんかやってないで暇なアイツらがやるべきだろ!?」


……白鷹の怒りは至極当然であった。

確かに、日頃から通信やメンテナンスをしなければならないナビゲーター兼オペレーション担当の二人に
ほぼ出動は無いものの、日頃から訓練が(特に射撃訓練が)必要なパイロットが食事当番を押し付けられ

一方本当にやることもなく暇な技術部員達が何をやっているかは知らないが、ろくなこともせず昼間から遊び呆けている。

本来彼らは食事などの雑用も仕事の一貫であったにも関わらず食物庫の管理から何から三人娘並びに秋津洲に任せっきりである。

その上最近は食事にもコソコソではあるが贅沢を言い始めた。


これは戦艦カスミにとって由々しき自体なのではないか――――


そう思うと白鷹のみならずアリナや橘花も徐々に怒りが込み上げて来ていた。





次々ベッターンとハンバーグ作りを放棄してゆく






毎日のように溜め込んでいた怒りがピークに達した彼女達は艦長であり、一応艦の最高責任者である霧島へ直談判をすることに無言ではあるものの満場一致で決定した。


645 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/10/09(日) 13:17:55.38 ID:xuGikL1AO
――――――

そんな事とは露知らず、技術部の愉快な仲間達と新兎は極上のプライベートタイムを楽しんでいた。

だが、ここはあくまで紳士的な場所である。
淑女達が使う以上汚す訳には行かない。

ほぼ生殺し状態であったが、別にそれはそれで良かった。
各自部屋にて個人的に後で楽しめば良いのだ。

スキッドシステム無くとも再生さえ出来れば後は各々のイマジネーションがどうにかしてくれる。


これで完全無料なんだからたまらないと新兎は上機嫌な訳なのだが

だがしかし、『無料』という言葉の裏には必ず何かがあるというのは過去も未来も変わらないものである。



646 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/10/09(日) 13:22:46.65 ID:xuGikL1AO
そう。これは金の使い道がない彼らの『唯一』の金を使い『楽しむ』究極の娯楽と言っても過言では無かった。


新兎「ええええええええ!?くれねーのおおおおおおお!!!!」

技術部員A「当たり前だろぉ。これは言わばお試しみたいなもんだ」

技術部員B「気に入ったディスクがあればオークションにて競り落として個人的に楽しむ訳だ。」

新兎「……そりゃ、日頃から金溜め込んでる人間はいいけど俺はまだ先月の給料だけなんだぞ!」

技術部員C「そーんな高くないからさぁ、大丈夫だって。」


技術部員D「ほらほらニートくん始まるぞ〜」


このオークションは彼らにとって数少ない楽しみであった。
おかずの入手は勿論、オークション形式にすることによって競り合う楽しさがある。


………また、それと同時にカスミ(の一部クルー)にとっては良い影響を与えてくれていた。



「えーこれから第187回カスミーズオークション、行いまーす」

上手いことを言おうとして失敗した感満載の台詞が場内に響く

新兎(この声………どっかで聞いたことあるような………)


まるでやる気のない、といいつつも妙なやる気も漂う、何やら聞くものを不安にさせる妖しい中年の声



その声だけで人物のシルエットが浮かんできてしまうから嫌なものである。


霧島「あ、ニートくんようこそ〜」


新兎「………艦長」


またお前か、と続けようとしたが止めた
647 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/10/09(日) 16:49:23.21 ID:xuGikL1AO
霧島「いや、おめでとうニートくん。君もセレブの仲間入りだね!」

新兎「…艦長が一枚噛んでるって知ってたら来ませんでしたよ」

新兎もいい加減学習していたようだ。

この男が楽しそうにしているとロクな事にはならないのだ。

霧島「水くさいこと言わないでよぉ。このオークションの利益の何と85%は戦艦カスミの予算にあてがわれる画期的なチャリティーオークションなんですから!!」

新兎「残りの15%は」

霧島「手数料」

新兎「…………」


648 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/10/09(日) 16:52:21.07 ID:xuGikL1AO
自分の買った品物の15%が霧島の懐へ潜るなんて、なんて嫌なオークションだろうとは思うが
あんな映像を見せられては買わないわけには行かない、彼にとっては悪質きわまりないオークションである。


霧島「じゃあとりあえずA-1、『出会って15秒で発進☆美少女新米隊員の秘密の任務〜隊長には内緒だゾっ♪〜』1200円から」

そういえば、新兎が視聴して色々な意味で実用的で普通に良作と言っても差し支えないタイトルである。



なんだかシャクではあるが、一応入札してみる

新兎「じゃ……じゃあ1200」

………だが、不思議なことに全く新兎以外の札があがらない。

新兎(……アレに無関心って、こいつらどういう脳みそしてんだよ)


霧島「はい、じゃニートくん1200円ね」

意外と格安である。
しかもだ、見た限りでは未開封であるようだ。

しかし、技術部員の連中はニヤニヤしていた。

新兎「なっ……何かあるのかコレ」

技術部員A「何にもないよ。主催者はアレだが普通の商品だ。地球で買うより安いかもしれんな」

新兎「……じゃあ何で誰も札あげないんだよ」

技術部員B「まあ…初めてだしね」

技術部員C「仕方ないよね」

技術部員D「楽しめばいいよ」

全員、ニタニタ笑いながら意味深な台詞を並べ立てる

新兎「………何なんだよ一体」



その後、新兎は「日本某A軍☆ド素人かわいい軍人さんをナンパしちゃいました〜私のシェルターにミサイル発射して〜」を始め、
「ある日、僕の訓練用ロボットが女の子にになっていた〜乗り回して☆ますたぁ〜」や「すく乱ぶる・ふぁっくしょん」などの商品を
金もないのに先月分の給料の約半分程にはなるだろう商品を猿のように落札していった。

新兎の性癖をなのか、もしくは新兎の行動自体を笑っているのか
クスクスと笑い声がたえないのがカンにさわるのだが。


……だが、25品目にして空気はガラリと変わった。


霧島が手袋を付けだし、コトンとひとつのディスクを置いた


パッケージを見る限り旧式のディスクである。
再生は出来るだろうが、画質は悪い。


誰がこんなもん落札すんのか………と新兎は大量の戦利品を手に入れた今ニヤニヤと周りを見回す。

が、驚いた事に先ほどまで静寂を保っていた技術部員達が一斉に札を上げ出した

649 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/10/09(日) 16:52:54.65 ID:xuGikL1AO
自分の買った品物の15%が霧島の懐へ潜るなんて、なんて嫌なオークションだろうとは思うが
あんな映像を見せられては買わないわけには行かない、彼にとっては悪質きわまりないオークションである。


霧島「じゃあとりあえずA-1、『出会って15秒で発進☆美少女新米隊員の秘密の任務〜隊長には内緒だゾっ♪〜』1200円から」

そういえば、新兎が視聴して色々な意味で実用的で普通に良作と言っても差し支えないタイトルである。



なんだかシャクではあるが、一応入札してみる

新兎「じゃ……じゃあ1200」

………だが、不思議なことに全く新兎以外の札があがらない。

新兎(……アレに無関心って、こいつらどういう脳みそしてんだよ)


霧島「はい、じゃニートくん1200円ね」

意外と格安である。
しかもだ、見た限りでは未開封であるようだ。

しかし、技術部員の連中はニヤニヤしていた。

新兎「なっ……何かあるのかコレ」

技術部員A「何にもないよ。主催者はアレだが普通の商品だ。地球で買うより安いかもしれんな」

新兎「……じゃあ何で誰も札あげないんだよ」

技術部員B「まあ…初めてだしね」

技術部員C「仕方ないよね」

技術部員D「楽しめばいいよ」

全員、ニタニタ笑いながら意味深な台詞を並べ立てる

新兎「………何なんだよ一体」



その後、新兎は「日本某A軍☆ド素人かわいい軍人さんをナンパしちゃいました〜私のシェルターにミサイル発射して〜」を始め、
「ある日、僕の訓練用ロボットが女の子にになっていた〜乗り回して☆ますたぁ〜」や「すく乱ぶる・ふぁっくしょん」などの商品を
金もないのに先月分の給料の約半分程にはなるだろう商品を猿のように落札していった。

新兎の性癖をなのか、もしくは新兎の行動自体を笑っているのか
クスクスと笑い声がたえないのがカンにさわるのだが。


……だが、25品目にして空気はガラリと変わった。


霧島が手袋を付けだし、コトンとひとつのディスクを置いた


パッケージを見る限り旧式のディスクである。
再生は出来るだろうが、画質は悪い。


誰がこんなもん落札すんのか………と新兎は大量の戦利品を手に入れた今ニヤニヤと周りを見回す。

が、驚いた事に先ほどまで静寂を保っていた技術部員達が一斉に札を上げ出した

650 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/10/09(日) 16:56:12.44 ID:xuGikL1AO
「10000!」「12000!」「15000!」「20000!」

どんどん値段がつり上がっていく。

何が何だか良くわからない新兎は目を丸くするしかなかった

「80000!」

カンカン!と小気味良い音が響き渡った

霧島「はいはい八万ね。『出会って2秒で空爆・きつらじゅん』らくさーつ」


新兎「なっ……なんなんだよ!」



落札したという相模と言う、これまた“四天王”と呼ばれる、頭に代わり技術部を仕切る四人のうちの男の一人が競り落としていた

技術部員A「やっぱり相模さんは最初っから全開で来ちまったかぁ〜」



新兎「さ…相模さん?」

相模と言えば。筋肉隆々な男で厳格な軍人気質。敷島とよくトレーニングする姿が見受けられる。
笑うことより、技術部員達を怒鳴り散らす姿の方が圧倒的に多いのだが、満面の笑みを浮かべている。

気持ちが悪いほどに。

相模「に・い・とくぅ〜ん!!」

新兎「ど……どうも………」

新兎(……キャラ変わってないかこの人)
651 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/10/09(日) 16:58:21.08 ID:xuGikL1AO
相模「いやさぁ…また落としちゃってごめんなさいね」

新兎「いや……構わないっていいますかァ………」

相模「でもどうよ、どうよコレ!」

旧式のディスクが入ったパッケージを顔の力というかむしろ顔に押し付けてくる。
当たり前だが中古商品だ。数多の男共が手にしてきたと思うと正直気持ちが悪い品である。
新兎「近い!近いですってば!」

だが、新兎はあまりそういったことは考えないタイプなのか、それとも考えられないタイプなのか、
その様々な物がとり憑いていそうな…少なくともご利益はなさそうなディスク自体というより
距離感の近さと押しつける力の強さの方に不快感を覚えていたようだった。

相模「いやぁ、どうも悪かったね!」

相模という男は技術部員と、筋肉仲間であり、橘花を(勝手に)奪い合うライバルでもある敷島以外には割りと人当たりが良かった。

新兎「……第一、見えないですよ」

652 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/10/09(日) 16:58:53.46 ID:xuGikL1AO
相模「じゃあ適切な距離でじっくりゆっくりパッケージを見てくれたまえ」

いかにも、彼は嬉しそうを通り越して偉そうになっていた。

何ともかんとも一から一万くらいまで気に食わないが、新兎は好奇心に下心も加わりとにかく見ずにはいられなかった。



しかしそんな少年心を裏切る結果になる。


………なんて事ない、ごく普通の成人向けディスクだ。


確かに、ものすごく女優はかわいい……のだが、どういうことだろう。ちっとも興奮しない。



興奮しないと言うより、興奮出来ないと言った方が正しいのか。
何となくパッケージの向こうの女優に殴られる気がする。

むしろ恐怖のようなものすら感じられた



新兎「んーーー?」

新兎(何だか見覚えのあるような無いような……)


なんとも気味が悪い話ではないか。

成人向けディスクを見て、なぜこんなに悩まなくてはいけないのか全くもって理解できなかったが、
放置しておくのもそれはそれで気持ちが悪いので記憶を辿っていく。



653 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/10/09(日) 16:59:20.21 ID:xuGikL1AO
どこかでこの手の職業の女性と出会った覚えは……




ない。




じゃあ同級生が………



新兎は自らの黄土色の脳細胞を隅から隅まで頭の中を探っていく。


と、それを遮るかのように相模がこれまた憎たらしい鼻にかかった声で喋り出した。


相模「そっくりだろう橘花大尉に」

新兎「!」

新兎(そーいやぁ………!!!)


何故か興奮出来なかった訳が分かった。というか至極当然だな、と自らの普通の神経さを新兎は誉めてやりたい気分になった。

654 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/10/09(日) 17:00:03.95 ID:xuGikL1AO
そうである。彼女がかの橘花珠理に瓜二つだったからだ。

しかし、橘花らしくもない女性らしいポーズに赤らめた顔。 これでは新兎が直ぐにわからなくとも仕方がないかも知れない。

見てはいけないものを見てしまった感じに教われる新兎を尻目に相模は満面の笑みで続けた。

相模「見てくれよニートくん。これはまさに奇跡の一本と言える。」

新兎(………このオークションは身内をおかずにするのがメインなのか)

部下にそっくりな女優のエロディスクをヘラヘラ笑いながら売り、かつ自らの懐に利益を納める霧島も霧島だが
それを知りつつも嬉しそうに落札する男共も男共である。



……もう新兎は何だか突っ込むのが面倒になってきた。



655 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/10/09(日) 17:01:14.05 ID:xuGikL1AO
相模「ギャップ萌え……って知ってるかい」

新兎「はあ……」

話を早く終わらせるには興味がないことを言葉のうえでアピールすることが重要だというのだが、相模はそんなことはお構いなしに話を続けた。

相模「いいか。このパッケージはだな、決して大尉では考えられないようなポーズを大尉に似た女優がしているところがミソだ。大尉は多分男性経験がないとみた。いや、これは希望的観測も含まれるが、おおまか間違いではないと思っている。
あの不器用さからみて男は寄り付かない。かりに寄り着いたにせよ男をゴミをみるような目であしらうに違いない。
そんな彼女であるから、男性経験はないと断言してもいいくらいであるが例え仮に万が一にもあったにせよ好きでいられる自信はあるので多分と表現しているに過ぎない。
そんなことはさておいて男性経験がないもしくは少ない彼女に似たこの女優が男を劇中にせよ玩んでいるところが素晴らしい。
ギャップ萌えと言わざるを得ないとは思わないかニートくん!いや、まあ分からなくても仕方ないか。きみは女性経験がないだろうから。
これは言いきっておこう。まあそれはさておいて劇中の素晴らしいシーンを君に伝えておきたいと思うんだが………」


新兎「わ……わかりました……素晴らしい………素晴らしいっすね!」


長々とディスクの魅力について語る相模から何とか逃げようとするもののがっしりした腕は離してはくれなかった。


このディスクのベストシーン100を耳元で発表されながら新兎は思った。


新兎(………やめたい)


いつの間にか薄れていた感情が沸々とわきあがってくるのをしっかりと感じた

656 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/10/09(日) 17:02:20.54 ID:xuGikL1AO
その後次々と彼らはどこから仕入れられたのかは知らないがアリナに白鷹、秋津洲のそっくりさんのディスクを始め、本人達の私物などを競り落としては初参加の新兎の元へやってきては自慢を繰り返していた。

加賀「良いだろうニートくん白鷹さんが使ったとされる歯ブラシとようじと割り箸とボトルの飲み残し」

周防「良いだろうニートくん秋津洲副艦長にそっくりな人妻の掲示板に流出し祭りとなった曰く付きの画像と動画がどこかに入っているという旧型のHDD」

相模「良いだろうニートくんこの橘花大尉にそっくりなとあるアニメーションのヒロインキャラクターのコモンカード30枚セット」

金剛「良いだろうニートくんアリナさんが履いていたのと同じメーカーの靴下」



新兎「…………」

後半騙されてますよね、とは言えなかった。というか言う気力も無かった。



657 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/10/09(日) 17:03:55.50 ID:xuGikL1AO
一方、そんなこととは露知らず
ある種の被害者である…橘花、アリナ、白鷹、秋津洲は副艦長室にて対峙していた




白鷹「艦長が今朝からいない!?」

白鷹がツインテールを揺らしながら、叫んでいる。

文面的には深刻な事態に思われるが、その実それはカスミの平和の象徴でもあった。

が、今回はイレギュラーとでも言うべきだろうか…一刻もはやく感情を爆発させる『矛先』を探したい彼女達にとってはそれは非常に非常事態であった。


秋津洲「そうなのよ。全く仕事をほっぽり出してどこへ行ったんだか」

作業を忙しく進めながら秋津洲は答えた

彼女は霧島とはちがい、働き者である。
ただでさえこの職場だから、自分の分だけでも相当な仕事量が予想されるのにその上、霧島の分までも彼女は担当しなければならないのだ。

通常の3倍どころか、5倍以上の仕事を片さなければならない。赤い彗星もびっくりである。

いかに彼女が優秀で我慢強いのか…想像には固くない。

658 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/10/09(日) 17:04:21.50 ID:xuGikL1AO
が、それは三人娘にとっては不都合だった。


秋津洲の我慢強さは異常だ。
どこからそんなエネルギーとメンタリティがわき出てくるのかは不思議であるが、そんなことはどうでもよい。

問題はこの我慢強さ自体である。

三人娘の不満など、彼女の不満に比べれば細やかなものにすぎない

逆に言えば秋津洲が彼女達の不満を『不満』と受け取るのか、三人は些か不安だった。


659 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/10/09(日) 17:05:38.73 ID:xuGikL1AO
アリナ「ふぶきさん、艦長はどこへいくのかも……」

秋津洲「知ってたら引っ張って来るところよ。全く……」

いつもより秋津洲のキーボードを叩く手が強い。実体していれば割れいたのではないかと不安になるほどだ。

秋津洲「よかったら私が代わりに聞くけれど」

橘花「……艦長に直接言うべきかと思いまして」

秋津洲「霧島さんに……ね。はぐらかされて解決するものもしないわよ」


秋津洲「あの人自体、私が何を言おうが上の空。仕事はすべて押しつける挙げ句にこのザマよ。カスミの男の人は頼りなくてやんなっちゃうわ」

アリナ「そう!そうなんですふぶきさんっ!聞いてください!!」

興奮気味のアリナが喋り出した。一度橘花は止める素振りを見せたが、止められない止まらないかっぱえびせん状態だった。

アリナ「最近、技術部が私達に当たり前の様に食事当番を押し付けてるんです!それに手伝うどころか朝から行方不明なんですよっ」

アリナ「しかも贅沢まで言い出す始末。私達だって仕事があるんです。あっちは暇なのに……」

アリナ「第一、頭部長に仕事を押し付けて好き勝手やる事自体が…軍の戦艦として由々しき事態なのではありませんか!」


いつもはかわいく笑顔をふりまくマスコットガールだが、よほど不満がたまっていたのだろうか、息を切らせながら喋りまくっていた。

秋津洲「まあ…いくらカスミと言えども自治がなさすぎるわ…ね」

案の定、というか秋津洲の反応は薄かった

660 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/10/09(日) 17:06:08.49 ID:xuGikL1AO
橘花「霧島艦長を含めた男性隊員の勤務態度は目に余るものがあり、早急な話し合いと対処が必要になると思います」

秋津洲「だけど…私が声かけたって集まる人たちじゃないわよ」

橘花「と、なると少なからず霧島艦長の協力も必要になるかと。ですから心辺りがあればと思いまして」

秋津洲「そう言われても霧島艦長を今日見かけたのは………技術部の個室ブロックが最後だったかしら」

橘花「では一度そちらへ向かってみます。いくわよ」

白鷹「ああ。いくぞアリーナさん」

アリナ「……はい」

何となく消化不良なアリナではあったが、吐き出すだけ吐き出したらしい
すこしスッキリした表情を見せていた。

秋津洲「あ、ちょっと待って」

橘花「……何か」

秋津洲「個室ブロックにいくなら次いでにゴミ捨てお願いできないかしら」

白鷹「ごっ、ゴミ捨てぇ!?」

秋津洲「それがね、彼らにはもう何週間もゴミを捨てろと言ってるのに捨てないのよ。きりがないし…悪いけどお願いできないかしら。」


橘花・アリナ・白鷹「………」

三人娘は無言かつ無表情でお互いに顔を見合わせた。


661 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/10/09(日) 17:06:40.12 ID:xuGikL1AO
――――――

【カスミ内個室ブロック・廊下】

白鷹「なあああああああああんで抗議に行ったつもりが仕事増やされて帰って来なきゃいけねえええんだよぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!」

アリナ「……なんかすいません」


アリナはなんだか話の流れを乱してしまったことに責任を感じてしまっていた


橘花「………」

無言で歩みを進める橘花の横顔にアリナは嫌な予感を感じていた。

まだ白鷹は感情を表にだすから良い

が、橘花は正直……怖い

アリナ「あっ…あの………」

橘花「何」

アリナ「いえ…その……」

橘花「早く言いたいことがあるなら言って」

アリナ「………すみません」

橘花「………」

アリナ「………」


距離感は縮まったとは言え未だに、どうにもアリナは橘花が苦手だった。

どうコミュニケーションをとっていいか分からない以上…彼女を止めようが無かった。


662 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/10/09(日) 17:07:47.56 ID:xuGikL1AO
【カスミ・個室ブロック】

三人がかりで部屋のロックを解いていた。

さすがは技術部と言うべきか、それはそれは厳重な警備体制が敷かれている。
秋津洲も気軽に無茶な事をいうタイプなのか。

が、国家のシステムを相手にしている彼女達である。
玄関はきっちりしまっているが是非とも窓から入ってくれと言わんばかりのセキュリティであった。

空間内で光が動き回り一つ一つ鍵が外されて行く。最早時間の問題であった


橘花「紫雲」

アリナ「はっ…はいっ!」

橘花「ここは白鷹とやっておくから、悪いけど倉庫から超特大のゴミ袋、持ってきて貰えないかしら。それから雑誌を縛るようの紐に粗大ゴミ用の伝票……それからフタツキのリサイクルショップに売却依頼を」

アリナ「ば、売却って橘花さん………」

橘花「だって全て『ゴミ』だって言う可能性だって……あるでしょ?」


橘花はそう言いながら不敵な笑みを浮かべた

アリナ「で、でも……まずいんじゃ…」

橘花「最悪の事態に備えるまでよ。行ってらっしゃい」


それに対するアリナは……

アリナ「………はい」


一つ返事で倉庫に向かうしかなかった
663 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/10/09(日) 17:09:00.64 ID:xuGikL1AO
彼女達は手際よくゴミを破棄していった

といえども正確にはゴミと呼べるかは分からないものも含まれ…

要は「最低限必要であると橘花と白鷹が判断したもの以外全て」廃棄されていった。


無言のまま作業は続いて行く



アリナはこの後に起きるであろう揉め事に対し早くも胃を痛めていたのだが

……胃を痛めるどころでは無い事態へと発展してしまうのだった。


664 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/10/09(日) 17:12:22.93 ID:xuGikL1AO
白鷹「ちょっ…あ、あぶねえよっ!」

白鷹は不安げに橘花を見つめた。
意外と心配性な女である


橘花「いいのよ。捨てられるものは捨てておかないと貯まっちゃうんだから………」

不安定な足場のもと、橘花は押し入れを探った。


脱ぎっぱなしのまま汚く丸められたシャツやらズボンやらパンツやらが出てきたり
賞味期限切れの菓子も次々出てくる。

白鷹「うえっ……カビなんか生えちゃってる……」

アリナ「予想外の汚さですね」

よくもこんなに汚い部屋にも住んでるもんだと呆れながら押し入れをさぐると…何やらおかしな場所が現れた

橘花「………ん」

白鷹「ごっ……ゴキブリでもいたのかっ?」

橘花「その程度じゃいまさら驚かないわよ……」

アリナ「何か異常でもあったんですか?」

橘花「………変なのよね」

アリナ・白鷹「変?」

665 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/10/09(日) 17:31:33.76 ID:xuGikL1AO
白鷹「ちょっ…あ、あぶねえよっ!」

白鷹は不安げに橘花を見つめた。
意外と心配性な女である


橘花「いいのよ。捨てられるものは捨てておかないと貯まっちゃうんだから………」

不安定な足場のもと、橘花は押し入れを探った。


脱ぎっぱなしのまま汚く丸められたシャツやらズボンやらパンツやらが出てきたり
賞味期限切れの菓子も次々出てくる。

白鷹「うえっ……カビなんか生えちゃってる……」

アリナ「予想外の汚さですね」

よくもこんなに汚い部屋にも住んでるもんだと呆れながら押し入れをさぐると…何やらおかしな場所が現れた

橘花「………ん」

白鷹「ごっ……ゴキブリでもいたのかっ?」

橘花「その程度じゃいまさら驚かないわよ……」

アリナ「何か異常でもあったんですか?」

橘花「………変なのよね」

アリナ・白鷹「変?」



666 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/10/09(日) 17:32:07.28 ID:xuGikL1AO
橘花「ここの間取りデータを見る限り…もう20センチほどはスペースがあるはずなんだけど…ここで終わってるのよ」

白鷹「データが間違ってるとか」

橘花「そんなはずはないわ。秋津洲さんのを借りてるのよ。艦長ならともかく、あの人が適当なことを書くタイプでは………」

と、いいながら手探りで『何か』を探す橘花であったが、ふと妙な膨らみと隙間を発見した。

橘花「………剥がせる」


ベリベリと何やら音がする。


短気な彼女は、一気にそれを剥がした





橘花「なあっ…………!」



途端、何かが溢れだしてきた。
橘花の身体が揺れ出す


白鷹「だから危ないってええええええっ………!」


アリナ「…………」


白鷹は橘花の下敷きとなり、アリナはと言うと…
目の前に広がる光景にただ呆然とするしかなかった。




男の部屋を掃除するにあたり、必ずと言って良いほど存在するであろう品物が、やはりと言うか勿論と言うか
彼らの部屋にも当然のごとく存在している。




そして……その封印が今、彼女達の手によって解かれた





667 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/10/09(日) 17:32:33.83 ID:xuGikL1AO
本日はここまでありがとうございました
668 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/09(日) 22:24:17.99 ID:y/Q+2MwDO
今回はなんかすごい馬鹿馬鹿しいな
669 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) :2011/11/04(金) 23:14:06.17 ID:8o0zIVTDO
近日中に細々再開予定
携帯変えたので末尾違いますが
670 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 12:24:44.24 ID:62JmT8wDO
部屋には成人向図画付繁殖行為研究文献、いわゆる「エロ本」が部屋中にばら蒔かれていた。


顔面を紅潮させたまま硬直しているアリナにエロ本に埋もれながら、そこらへんの袋とじも真っ青な、くんずほぐれずパンツ丸出し体制で倒れ込む白鷹と橘花。


なんともこれはこれで魅惑的な光景ではあったのだが、当の本人達にしてみればたまったものではなかった。


橘花はどうやら雑誌で顔面を強打したのか両手で顔を押さえながらうずくまっている。

皮肉にも橘花を庇って後ろへ飛び出した白鷹は橘花が盾となり事なきを得ていた。


白鷹「ありゃりゃあ………」

汚物を掴むかのようにエロ本を扱う白鷹だったが、アリナとは対照的に至って冷静だった。

アリナ「し、し、し、しらたかひゃん!なんでそ、そ、そんなもの…さ、触れるんですかぁっ!!」



白鷹「何でって言われても、大人だし。」

と、白鷹は中身のページをペラペラ捲るが、同じく大人代表の橘花は全く平気な様子では無かった。


671 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 12:29:09.61 ID:62JmT8wDO
橘花「………」

無言のまま、未だに踞っている。
顔面の傷はそう大したものではなかったはずだし、傷が原因で耳まで赤くなるとは考えられない。

アリナ「……まっかっかですよ橘花さん」

橘花「別に、何でこんなもんごときに……」

顔を上げた瞬間、橘花の目には、この部屋で一番えげつないと思われるページが飛び込んできた。


橘花「ひゃあ!!」


顔を更に真っ赤にしながら床に足を叩きつけた。
それを見ながらゲラゲラ笑う白鷹を睨み付ける橘花に、ちょっと中身を見てみたくもなくもないアリナ

……妙な光景が広がっていた。


橘花「な、な、なんてもの見せてくれるのよっ!!ていうか、紫雲も見るんじゃないわ!」

と、橘花は焦りながら紫雲の瞼を塞いだ。

白鷹「そんなに怒ることないだろ。こんなもん見たことないほうがおかしいくらいだ」

橘花「ばっ、バカね!子供がいるんだからちょっとは……!」

白鷹「神経質なんだから。父親とか兄貴とか男がいりゃ普通に目にするもんだろ」

橘花「わるいけど私には父とも兄とも呼べる人間が居なかったのよ!て言うか!なんでこんなもんがここにあるのよっ!!」

白鷹「そりゃ男なんだからこれくらい持ってないほうがおかしいくらいだろ」

橘花「………寝返る気」

白鷹「寝返るも何も、自分が過敏過ぎるんだろ!ほれっ!ほれっ!」

橘花「きっ!気持ち悪いから来ないでよ淫乱女!!」

橘花「この淫乱!アバズレ!尻軽!」

橘花の一言に白鷹はコレでもかとエロ本をなげつける。
逃げ惑う橘花に、両手で顔を覆い隠すアリナ。

その内、足元はエロ本に侵食され、遂に追い詰められた橘花は必死に逃げ場を探す。

何とか猫の額ほどのスペースを探し当てるが

…どうもおかしい事に気がついた。


672 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 12:30:39.49 ID:62JmT8wDO

畳が嫌な音をたてているのだ。

橘花「ちょ……ちょっと来るんじゃないわよ………」

白鷹「人をビッチ呼ばわりなんていい根性してんじゃねえかぁ?あ?」

橘花「だ、だって!よくもあんなものを素手で触ったあげくの果てに擁護し出すなんて正気の沙汰じゃないわよ!!!!!!」


白鷹「だったら、エリートパイロットさんが男社会の軍でエロ本ごときにいちいち騒ぎ立てる方がおかしいんだよなぁ?なぁ?」

ずいずいと不健全図書を両手一杯に、実に楽しそうな笑い方をしながら白鷹は橘花に迫る。


橘花「わ!………わかったわよ。あ、謝るから……謝ればいいんでしょ?」

白鷹「謝る?他人を淫乱呼ばわりして謝るだけ?」

橘花「だから…もうホント………」

白鷹が迫るたびにギシギシと音がする


橘花「こっ………来ないで………」

白鷹「こうなりゃいっそ………」


白鷹「エロ本まみれにしてやるううううううううううううううううううううう!」


相当にストレスが貯まっていたのか。
ネジが外れた白鷹がそれを抱えたまま橘花に襲いかかった。


673 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 12:32:13.10 ID:62JmT8wDO
橘花「!!!!!?」


白鷹の体重が問題の箇所に掛かった途端………畳が抜け、明らかに人の手が加えられた空間に二人は落ちていった


アリナ「おっ!お二人ともぉ!?」


アリナは尋常でない音に二人の危機を感じて走りよる。


が、生憎、目を塞いでいたので落下してしまった事は言うまでもない。




白鷹「っつつ………」

橘花「…」

アリナ「…死ぬかと思いました」


三人娘はすっぽり、畳の下の空間に仲良くはまってしまっていた。


幸い浅かったので怪我もなく、簡単に抜け出せた。

橘花「もう……何て日なのよ今日はっ!」


パキッと心地よい音が響いた



橘花「………」


白鷹「あーあー踏んじゃった」



橘花「あっ…私よりもこんなとこに置いとく方が………」

と言ってみるもちょっと申し訳ない気持ちもあるのか、項垂れながら下の亡骸を確かめた。


橘花「………DVDのパッケージ」


アリナ「まっ……またエッチなのじゃありませんかっ!」

白鷹「読み上げるからアリナは耳塞いどけ。えー『新乳隊員・出会って2秒で降伏☆私の[ピーーー]を[ピーーー]で[ピーーー]して!エロすぎ超特大140時間スペシャルエディション』」

橘花「……」
674 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 12:35:16.56 ID:62JmT8wDO
白鷹「なるほどね。この『にゅう』は『NEW』と『入』と『乳』をかけてんのか」

橘花「そんなのは良いわよ。ひ、卑猥なものを戦艦に持ち込むからバチが当たるのよ。第一、そんなもん規定で許されてるわけ………」

白鷹「許されてるよ」
橘花・アリナ「えっ」


アリナ「ってビックリして見ちゃいましたっ!」

急いで目を隠すのが何ともいじらしい。

白鷹「規定によれば私物の持ち込みには一切制限がない。もちろん、こう言う類いのものも」
橘花「じゃ、じゃあ!軍はこんな……卑猥なものの持ち込みを許可してるっていうの!?」

白鷹「一応勧告はしてるけど実際には…あんまりやる気もないんだろ。ま、貯められて女子隊員に襲いかかられるよりかはマシってことだ」
橘花「…甘いのよ。自覚がないのね。どいつもこいつも」

白鷹「まっ、奴等にも一応『隠す』って気持ちはあったみたいだけど」

橘花「……じゃあこの大量の卑猥物は」

白鷹「セーフだけど」
橘花「……ど?」

白鷹「流石にこれはアウト」

橘花「?」

白鷹はそそくさとディスクのパッケージを懐に仕舞おうとするが、橘花のバカ力に阻止された。

白鷹「…な……なんだよ」

橘花「こっちのセリフよ。なんでいきなり懐にしまうのかしら」

白鷹「いや……」
橘花「どうするのよ。それ」

白鷹「しょっ!処分すんだよ……」

橘花は問答無用で、先ほどまでの姿は嘘のような剛腕で白鷹から奪い取る。

逆に白鷹は先ほどまでの姿は嘘のように…為すすべもなく……あっさり奪い取られてしまった。

白鷹「じゅっ……じゅりちゃんには刺激が……………」

橘花「心配ご無用。私だってこんなもの別に………」

と言いながら早くも真っ赤になっているのだが、さっきまであんなに言わせていた白鷹がこんなに焦るのか?
汚物のように若干遠目に、薄目を開けながら調べる。と



それはそれはもう、大変な発見をしてしまった。


橘花「………これ」


白鷹「……………」



今度は白鷹が紫雲の耳を塞いだ。



橘花「……紫雲にそっくりじゃない」



白鷹「……………」


白鷹は無言で橘花からジャケットを奪い返し、ディスクと共に目一杯体重を掛けながら破壊し始めた。


先ほどまでの男性職員を庇うほどの余裕は面影すら残されては居なかった。

675 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 12:36:51.78 ID:62JmT8wDO
橘花はそんな白鷹を尻目に意を決して紫色の臭気が漂ってきそうな空間の中を探るとあらゆるエロ本にAV、画集、アダルトゲーム等が顔を出す。


しかもだ


そのいずれもがカスミの女子クルーの誰かに瓜二つだった――



676 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 12:37:30.62 ID:62JmT8wDO
新兎達を始めとする男共は満足げに戦利品を抱えながら各自、自分の部屋に向かっていた。

技術部員A「大量!大量!ぐへへへへへへへ!!」

新兎「……大丈夫なんですか」

技術部員A「何が」

新兎「何がって……」

明らかに大丈夫でないものを両腕に抱える輩が言うべき台詞でもないし、勿論同じ条件の男がツッコミをいれるべきでもなかったのだが。

技術部員B「別にエロ本を持ってきちゃ行けないって書いてあるわけじゃないしー?」

技術部員C「そーうそう。隠してるのはだなぁ、ある意味紳士協定みたいなもんだし?」

新兎「そっちは良いとして…その」

新兎「………女共にはいいんですか」

技術部員E「これは別人の品物を買ってるって事なんだし?」

技術部員C「私物だって本人かどうかは証明出来ないから大丈夫だ。大事なのは気分みたいなもんだし」

新兎「……バレたら」


技術部員D「臆病だなぁ〜。男は度胸だろ?バレたら張り手かますくらいの度胸でいろよなぁ」

技術部員F「そうだぞ。何だってこの戦艦は男だらけなんだからな!」

技術部員A「って言うかばれないきゃいいし!」

一同「グハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!」

新兎「………どっからくるんだよ、その自身」


677 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 12:38:35.77 ID:62JmT8wDO
技術部員A「ニートくんたらぁ、いつまでーもそんな様子だから、じゅりっぺの尻にしかれっぱなしなんだぞー?」

新兎「しっ!敷かれてませんよ!ガツンと言ってますよガツンと」

技術部員B「馬鹿言うんじゃないよ。冴えない元ニート予備軍がエリート美人士官に敵うわけないだろ?」

新兎「そっ、そんなこと言ったらアンタらだって!!」

技術部員A「俺たちは怒らせるか怒らせないかくらいの間でうまーくやってるもんなぁ?」

技術部員B「頭脳派は違うんだよニ・イ・ト・くん」

新兎「………ニートニート止めて貰えますか」

技術部員A「とりあえず、臭いがしてこないってことは飯はまだだな……」

技術部員E「おっ、頭脳派キタコレ」

新兎「………」


新兎は『こいつらよりかマシだな』と妙な安堵感を得ていた。


食事までにはまだ時間があるようだったので、各自部屋にて楽しむことになった。

ああは言っていたものの、各々思うとおりの隠せては居ないが隠し方で部屋へと細心の注意を払って死線を潜りながら歩みを進めていく。

勿論女の尻に敷かれっぱなしの神前新兎もその一人であり、欲望と趣味と性癖が詰められた小さな入れ物達を抱えながら
多分宗兄弟も一目くらいは置くでであろうスピードで一目散に部屋へと向かった。


678 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 12:40:49.78 ID:62JmT8wDO
神前新兎とローマ字で書かれた札が見えてくる。
色々納得も行かない点も無かったと言えば嘘になるがもうどうでも良い。

扉のはしはしから光が漏れているようにも思えてならない。
足取り軽やかに…まるで雲の上をはしっているようかな軽快さ。
そして数ヶ月ぶりのナニを思うと顔もほころびヨダレも出てくる。

その姿は不審者そのもので、児童公園であれば即座に周囲から軽蔑の眼差しを向けられ、善良な市民あたりに1と1と0(ただし0が9に差し替えられる可能性もある)をスマートにプッシュされることは想像に難くなかった。


新兎の目の前の風景は実にきらびやかなものだった………


新兎「ああ…この戦艦に来てからというものの、こんな良い思いをしたのは始めてだ!」

新兎「やっぱり神様はいるんだなあ!クソ女からの執拗な職場内暴力に耐え、クソ上司のいやらしい笑顔にも耐え、クソ筋肉野郎の暑苦しさにも耐え」

新兎「毎日のように出される面白味の欠片もなかったカレー味のクソにも耐え、毎日のように小言を老人のように繰り返すクソババアにも耐え、このクソみたいな移住環境にも耐え、俺は我ながら偉いなあ!立派だなあ!!」

新兎「ああ……今は全てのものが美しいではないか……」

新兎「全てが美しく思える…このゴミ溜めだった部屋も、何もない…まっさらな部屋にすら思えてならない」

新兎「ああ……ちり一つない美しい部屋ではないか……」

新兎「押し入れの中だって何にもない!ゴミひとつない!」

新兎「ああ…チリ一つないどころか、生きていく上で必要最低限のものしかこの部屋には存在しない気さえしてきた!」

新兎「我ながら嬉しいからってオーバーな妄想だな!いけないいけない!!」

新兎「あるのは服にティッシュに携帯に………布団」


新兎「そんなわけ、あるわけないもんな!嫌だなぁ俺の妄想ったらぁ〜テレビもプレイヤーもないんだからっ!もうっ、みれないっちゅーのっ!バカッ」

新兎「そうだよね、妄想だよね、いきすぎた妄想だよね」

新兎「あり得ないもんね、家電一式ないとかあり得ないもんね!」

新兎「ねー」




新兎「…ねー」




何度も何度も何度も気持ちの悪い、やけに気持ちの入った独り言を繰り返し自分に問いかけるが、返事は無言のまま、映像として帰ってきた。



新兎「ねー………」
679 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 12:43:45.77 ID:62JmT8wDO

新兎「…………」



新兎「………なんで全部無いの」





『ぎゃあああああああああああああ』

まるでRPGの最初の方の

つまりはなんの役にも立たない、その数と面倒さと経験値の少なさに思わず『逃げる』を選択してしまう程の雑魚モンスターの断末魔を彷彿とさせるような叫び声が響いてきた。


多分、技術部の方向からであろう。毎度毎度騒ぎ立てるだけでロクなことはない。

騒ぐことが最早ライフワークな小学校低学年の児童みたいなものだ。

普段は気にするだけ無駄で『うるせえ!』と廊下に向かって叫べばそれで済む話だったのだが、
生憎、部屋の様子はまるで普段のそれとは呼べなかった。


などと口上を並べているが結論から言えば新兎は原状を受け入れたくないあまりに、
もしくは原状を受け入れる為の仲間欲しさに地を這うように…何回かずっこけながら技術部の個室ブロックに向かった



680 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 12:47:44.62 ID:62JmT8wDO

【技術部・個室ブロック】


技術部の個室ブロックは部屋の作りはパイロットのそれとは変わらず、娯楽と言えば一回10円、もしくはメダル1枚のじゃんけんゲームくらいの場末の旅館のような安っぽいものだった。

その上、パイロットのウン十倍にもなる人数の多さの為に1部屋3人の相部屋になっている。

ドアから向こうは近未来的なのにドアの内側と言えばテクノロジーを微塵も感じることが出来ないというのが物悲しい。


その一部屋に…むさ苦しい男共がぎゅうぎゅう詰めになっていた



先ほどまでの表示とは打ってかわって一様に畳の目を数えている。

限界の向こう側にでも行こうとでもいうのだろうか。



相模「………とりあえず被害状況が確認し終わった」

金剛「……言うのか」

金剛は名前は立派だが、どうにもこうにもアングラ臭さが抜けない。
また技術部一の頭脳派(単なるパソコンの大先生)であり、貯金の額は随一である。
しかし、熱心なU-15fan(重度のロリコンオタク野郎)であり、その為なら金の浪費は惜しまない。
勿論、この戦艦において唯一無二の存在である紫雲アリナに関して様々な労力をつぎ込むことは天地自然の理であり、機械界の聖職者(自称)である彼でさえもそれに抗う術はなく
彼女そっくりの容姿をもつキャラクター(全員18歳以上)があんなあられもない姿をしているゲームやオリジナルアニメーション、それに関する全ての商品を買い込むことは
彼にとってはなんら不思議なことでもなく、技術部を構成する4派閥のそれぞれの他の長もそう感じていたつもりだったが
いざとなると頭を抱えずにはいられなかった。

681 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 12:49:00.03 ID:62JmT8wDO

相模「……一応」

加賀「………いや」

周防「これ以上はもう………」


彼ら四人を始めとする派閥の活動に積極的な人間は勿論のこと

そうでない、言わば、本気で派閥には所属していないが、鬱々とした毎日にちょっとした刺激を求めて派閥間の争いに参加していた言わば娯楽としてその存在を享受していたもの

はたまたちょっとした小遣い稼ぎのために所属していたもの

もしくは周りに流されるままに所属していたもの、『しきたり』などという前時代的な発想により強制的に所属させられていたもの

……その人間模様は複雑に交差し合うが、思うことはただ一人を除き皆同じ


『女の子にエッチなものを見られて恥ずかしい』


ただそれだけのことではあるが、これ以上ない屈辱である。


生憎、その事態に鼻息を荒立てるような輩が居ないという事が幸か不幸か


まるで意味不明なエンディングを迎えたアニメーション作品の『真の完結版』と銘打たれていた劇場版を見に行ったにも関わらず、
公開時には40%位しか完成しておらず総集編でお茶を濁され、
数ヶ月の時を経てやっと完成したかとおもえば更に意味が分からない事になってしまっていて
映画館を鬱々としながら後にする当時の男子中学生が一斉に介していたかのようだった。






682 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 12:49:33.25 ID:62JmT8wDO

ただし、一人だけ事情が違っていた男がいた

やっぱりと言うか納得というか、空気の読めない
キング・オブ・イレギュラー

神前新兎 この男である


奴は、一人だけ『女子にエッチなものを見られる』という鬼畜イベントを直前で回避していた。


勿論、他のクルー同様にゲームやテレビなどの娯楽に関わると判断されたものに関しての制裁を受けている訳なのだが、
一番精神的ダメージが少ないこの男が一番怒りを露にしているのだから皮肉なものである。


新兎「お前ら、犯人わかってるんだろ?こんなことする奴なんて………」


敷島「黙れ新入り!」


敷島が新兎の台詞を遮り胸ぐらを掴んだ


加賀「………2週間しか違わないけどね」

新兎「なんでだよ。こんな理不尽なことされて黙ってろってか?」

敷島「………閣下がこんなことなさるわけがない断じて、だ」

敷島の手は震えていた

683 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 12:50:08.15 ID:62JmT8wDO
新兎「じゃあ他に誰がこんな突飛なことするって言うんだよ。副艦長か?艦長か?榛名さんか?部長か?」

敷島「比較的プライベートに無関心な副艦長や十六女女医に温厚な頭技術大尉はともかくとして、だ」

敷島「……艦長の可能性はなきにしm」

新兎「いやぁ、違うな。あのオークションは艦長の懐にも金が入るんだろ」

新兎「そんな旨い金稼ぎの場をワザワザ捨てるようなマネするか?それにだな艦長だって第一、俺たちの共犯じゃないか?」

敷島「……しかしだな」

新兎「なら、俺たちに日頃からつっかかってくる橘花が最有力候補だろ。」

敷島「だが………」

敷島の目は微妙に涙ぐんでいる


新兎「それにさぁ、第一、あんな無茶苦茶なことあの女じゃなきゃあ………」

敷島「もおおおおおおおおおおいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!」


敷島の筋肉質な拳が新兎の減らず口を叩きのめした。

ガスッという、いかにもな気持ちのよい擬音をたてながら新兎は数メートルほど飛ばされた


新兎「なぁ、何すんだよ………!」



この男には自覚がない。
突然の事に目を丸くさせ、同時に理不尽さを周りに訴えるが誰一人同情などしない


かわりにその眼差しは敷島にむけられていた。

684 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 12:50:39.95 ID:62JmT8wDO

技術部員A「敷島……大丈夫か?」

相模「殴った方の手、痛くないか」


敷島「あ……ああ………」

新兎「ちょっと!殴られたのは俺だぜ!!ちょっとはお前ら俺を………」

技術部員B「黙れこの先ニート」


新兎「……えっ」

技術部員A「どうせお前なんか、名前通りこの先ニートだよ。最初からこんな地の果てって言うか宇宙の果て勤務だもん。希望もクソもないから辞めちゃえよ」

新兎「いや……」

技術部員B「辞めたいんだろ?辞めちまえよこんなとこ。まあ他に勤まりそうなとこちょっとおもい浮かばないけど」

新兎「ちょ!いま別にそんなことは………」


技術部員D「この先ニート!この先ニート!」
相模「全部ニートの存在が悪い」
金剛「ニートは社会のゴミ」
加賀「やっぱりニートって最悪」
周防「親に申し訳ないと思わないの?」

技術部員一同「この先ニート!この先ニート!」
685 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 12:54:21.75 ID:62JmT8wDO
敷島「そうだやめちまえ。さっさと魚屋のボンボンにもどっちまえよ」

新兎「だから!なんでそんな話になるんだってば!」

相模「じゃあ聞かせてもらうがな、何故お前はカスミなんかにいる」

新兎「一体何をどうしたら、その『じゃあ』の繋がりになるんだよ」

相模「艦長に無理矢理連れてこられたから?」

新兎「………」

相模「それともカッコイイ機体に乗れるから?」

新兎「………まぁそれもなくは」

相模「後は」

新兎「そんなこと急に言われても」

相模「後はって聞いてるんだよ」

新兎「考えてみたことも」

相模「ぬああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」

新兎「なんだよ!なんだよ!」


相模「お前は所詮、『道楽で』乗ってるに過ぎないんだよ!だがな、俺たちには家族がいるんだよ!ここしか無いんだよ!ギリギリなんだよ!予防線無いんだよ!分かる?」

新兎「そんなこと知りませんよ」

相模「俺たちはな、この宇宙の果てみたいな…場末の職場でな、どうにか人間関係だけは、人間関係だけはまともでいたいの!」
周防「唯一まともなところがあったっていいだろ!そりゃ何時だって本気になりゃ俺達はやりたい放題なんだよ。だがな、あえてやらないんだよ!!わかる?あえて!」

新兎「じゃあそんなに大切な人間関係だったら、こんなもん買わなきゃいいじゃないですか。自分から壊しにいってんだろーが」

技術部員B「そんなこと今更言ってどうするんだよ!はぁー!なんとかしてくれんのか!お前は青タヌキか?青タヌキなのか?」

金剛「お前の為に言うがな、空気の読めないお前みたいな七光りがいじめられずに馴染んでるのはな、俺たちが“おかしいから”なんだからな!勘違いすんなよ!」

新兎「よっ、余計なお世話なんだよ」

技術部員A「……いよいよ話の方向性が見えなくなって来たか」






686 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 12:54:52.66 ID:62JmT8wDO
相模「とにかくだ!お前ももう少しは人間関係に気をつかえと言うとるんだ!」

新兎「だからアンタ達に言われたかないですよ!俺は被害者なんだ!!あの程度でお目目真っ赤にさせちゃったなんて敷島くんも情けないでちゅね〜」

敷島「………」

新兎「ベロベロばあ〜」

敷島「………」


敷島「ぬぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!≧∞∴♂♀°℃¥§☆★●!!!!!!!!!!!!」


敷島はとても文字には起こせないような雄叫びをあげながら新兎の顔を鷲掴みにした。


新兎「ひょょ゛!びょお゛お゛おおおおおおおおおおおおお!!!!!?」


新兎の顔が歪む。が、最早敷島を止める人間は現れなかった



敷島は新兎に関節技を決める。
じわじわとなぶり殺しにでもするつもりだらうか。

確かに、これが手っ取り早く最大限の苦痛を与えられるであろう

その目は狂気に満ちていてとてもではないが手加減など期待出来そうにもなく


新兎は声にならない悲鳴をあげながら落ちるのを待つしかなかった



687 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 12:56:12.96 ID:62JmT8wDO

のだが、意外な形でレフェリーストップがかかることになった



―――ガンガンメリメリと乱暴な音をたてながら扉が勢い良く開く






橘花「騒がしい!!」






金切り声が耳をつんざいた




一同「!」


橘花「アナタ達はお客さんがきてる時くらいおとなしくも出来ないのかしら?」



敷島「きっ……橘花大尉………」


アリナ「み……皆さんどーも」

白鷹「……………」


三人娘を見た途端、新兎は素早く立ち上がり、橘花の胸ぐらを掴もうとしたが避けられ

こけた。


688 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 12:56:51.34 ID:62JmT8wDO

新兎「いっっっっってててえなぁ!!!!!!何してくれるんだよ!!!!!!」

橘花「こっちの台詞よ。」


敷島「そうだ!貴様ァ、閣下になんちゅうことをしようと……手打ちにしてくれるわ!!!!!!」

新兎「お前は情けなくないのかよ」

敷島「情けないのは女性に手をあげようとした貴様の………」


新兎「全部そこのアバズレに捨てられといてか?」

半開きの目が癪にさわる。

敷島「貴様!閣下を疑っとるのか?よし!いまここでなんらかの軍規定を適応してでも、貴様をこの場で射殺してくれるわ!!」


敷島は腰に携えていた銃の安全装置を外しながら暴れる。


流石にまずいと判断したのか、技術部員一同は止めに入り、事態は更にカヲスと化した

技術部員A「やめろ!こいつなんか殺したって仕方ないだろ!」

技術部員B「そうだ!そうだ!ハエ叩いて懲戒免職なんて下らないだろ!」

敷島「ええい!こんな社会のゴミクズ!!!俺が早急に排除してやらねば………」


橘花「だから、うるさいと言ってるでしょうが!」

敷島「しかし!しかし!こいつは閣下を疑って………」


橘花「ああ、そいつの言う通りよ。私が処分したわ。アバズレに関しては強く否定させて貰うけど」


敷島「ああ、なるほど。じゃあ……」



敷島「…………」



敷島「かっ、かっ、かっ、かっ、かっ、かー!」


技術部員一同「た、大尉が?」


白々しく驚いてみせた。

橘花「あの二人にも協力してもらったわ」

白鷹「………」


白鷹は無言のまま一同を睨み付け、アリナは実に気まずそうにしていた。

689 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 12:57:21.60 ID:62JmT8wDO

新兎「なんでそんなこと……」

橘花「自分の胸に聞いてみたら」

新兎「聞いてみてもわかんねーから聞いてるんだろ?なんで無断で人の部屋に入り込んで無断で全部捨てるんだよ!アバズレ泥棒女!」

新兎「第一、プライベートなんだからなにもって来ようといいんだろ?規則じゃ禁止になってないんだから」

橘花「そうね。だから私達も規則に従って行動したまでよ」

新兎「どこがじゃ!」

橘花「紫雲」

アリナ「あ…はい。規定第21項、戦場内、もしくは基地内にて計1年以上の期間に継続して隊員が昼夜を通して勤務する際(予測される場合も含む)に置いて、隊員同士は同一の住所にて生活していると見なす」

新兎「………」

橘花「要はね、私達は全員同居しているも同然なのよ」

新兎「それがどうだっていうんだよ」

橘花「神前新兎、あなた軍規もしらないの?」

新兎「………」

橘花「いいわ説明してあげる。」

橘花「第41項、21項に当てはまる官同士の窃盗、侵入は不問とす」

新兎「ばっ!」

橘花「馬鹿なと思うでしょ?でも、一々戦場がとったとられたなんてもめてたら負けちゃうもの。」

アリナ「いわゆる親族相盗と同じに扱われるんです。法律では特例的に」

新兎「ほっ、法律はよくても人道的にいい訳がないだろ!」

橘花「自分に言ってるのなら大した自己分析力だわ」

新兎「こいつ………っ!」

690 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 12:58:05.00 ID:62JmT8wDO
アリナ「あの………」


新兎「お前らここまで言われてくやしくないの!?法律まで持ち出されて悔しくないの!?」

技術部員A「お前も少しは落ち着けよ」

新兎「なあんで!」


技術部員Aは新兎の首を抱えて密やかに、喋りだした

技術部員A「なんだかんだで、いままでずぅぅっとごはん作ってくれてたんだしさぁ、今回もなんだかんだで…な?」

新兎「プライドはないんですか」

技術部員A「プライドでおまんま食えたらこんなとこにいねえっちゅーの」

技術部員A「だから、今回は悪いことは言わねえ。おとなしくしとけ、な」

新兎「だけど」

技術部員A「俺達も見ての通り一枚岩じゃないんでね。これ以上下手な事しでかして、宇宙世紀もびっくりな三つ巴の二乗合戦でも繰り広げたいのか」

新兎「………」


確かに、彼の言う通り、艦内の勢力図は一見単純な様ではあるが
個性というか自己主張が強い者達の集まり故に、まとまっているように見えても統一観は全くと言って良いほどになく
しかも一部クルーは揉め事を退屈しのぎの余興くらいにしか考えておらず
火に油をドバドバ注ぎながら大量の薪を突っ込む様なことは十分考えられる。

しかも技術部を取り仕切る四人は馬鹿だ。簡単にのせられるだろう。


男vs女

などと言う簡単な図式より


馬鹿vs馬鹿vs馬鹿vs馬鹿vs馬鹿vs馬鹿

くらいの複雑な図式を作り出す方が簡単という奇特な人間達だった。


691 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 12:58:54.80 ID:62JmT8wDO
技術部員A「黙ってりゃいずれ戻ってくるんだから。今は『支配されたふり』でもしてようぜ」

新兎「………支配されたふり」

技術部員A「歴史を動かしてきたのは俺達みたいに暴君に耐え忍び、支配ではなく従事と言う方法でローリスクハイリターンを実現してきた『大人の男』だ。」


新兎「………」


散々新兎は技術部の連中を馬鹿だ馬鹿だと言っては来たものの
何故だろうか、この技術部員A……

名前をまだ覚え切っていない新兎は必死に目を細め、彼の作業着に縫われているローマ字を読んだ。


SURUGA

駿河……に関しては輝いて見えてきたではないか。



駿河「とは言ったものの…さっき言った通り技術部員は一枚岩じゃない。少なくとも四つには割れてる。実際にはそれ以上だが」

駿河「エロディスクを見られたという事実だけが先立って、逆ギレしてる連中もいる訳だ。少しでもきっかけのようなものさえありゃ、騒ぎでも起こすつもりだ」

駿河「そうなりゃおしまいさ。俺達の大事なディスクやらパソコンやらテレビはいつ戻って来るか分からない始末になっちまう」

駿河「ニートくん、君は一時の憂さ晴らしと高価な家電、どっちを取るよ」


新兎「………」


新兎は少しは冷静になれたというか、物が考えられるようにはなったらしい。その場に座った。


だが、駿河の言った通りの人間も少なからず存在する。

緊張感と言うのか何と言うか、嫌な感情が入り交じり黄土色な空気が漂っていた。


692 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 13:00:57.18 ID:62JmT8wDO
そこへ恐る恐る……一人の男が訪ねてきた。

男「……あのぅ」

話を聞けばさっきからずっとドアの外に突っ立っていたらしい。
気弱そうな男だけに、この状況ではなかなかタイミングを掴めないだろう。

橘花「ああ、お疲れさま。終わりました?」

男「はい……で、とりあえず現金をお持ち致しましたので印鑑とサインを」

男の手が若干震えていた

橘花「電子印、使えるかしら」

カスミへ来たばかりの頃のような、高圧的な態度で橘花は答える。
男はさらに萎縮した。


男「え、ええ……け、結構でございますが……」

男「明細をお伝えしたいので場所を……」
橘花「いいわ。ここで言って頂戴」

男「こっ、こちらで?」

橘花「いいから。早くして」

男はウェストポーチから分厚い封筒を取り出した


その迫力に一同は何だ何だとどよめきだす。


新兎「あっ、あれ……まさか全部金なのか」

駿河「まさか……」



男は封筒を橘花に手渡した後に書類を提示する。

橘花は電子書類に一応目を通したあとに男の持っていた小型機器に手をかざし、数秒ののち、認証音がなった。


それを確認すると早速橘花は封筒から札束を取り出した。



おおおおおーと一同はそれに釘付けになる。

693 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 13:01:30.69 ID:62JmT8wDO

新兎「万だよ!万!」

駿河「……マジかよ」

敷島「閣下!流石は閣下のご人徳です!」

敷島はこんな時にまで意味不明な胡麻擂りをしていた。



そんな一同の視線を一身に受けながら橘花は札束はパラパラとめくりだす。

丁度半分位でピタリと止め、封筒から抜き出した。

そしてその後

ポトリと不意に地面へとそれを落とす。



あまりにも素早く、迷いのないそれに、一同は唖然とした。







橘花「渡したわよ」


一同「………」

一同「えっ」



全く持って状況の理解出来ぬ男を背に橘花は立ち去ろうとする。


何だか良くわからない。良く分からないがとりあえず何だかダメなような気がした新兎は、ぐいと橘花の肩を掴んだ。
694 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 13:04:54.53 ID:62JmT8wDO
橘花「何よ、いらないの?いらないなら貰うわよ」

新兎「要らないとか要るとかっていうよりだな!」

新兎「どうしたんだよこの金は」

橘花「相変わらず口説い男ね。見たでしょ。さっきあの人から」

新兎「見たよ!知ってるよ!!」

新兎「こっちが聞いてんのはな、どういう手段でこんな大金をお前が手に入れたってことだ」

橘花「そうね。まあ、アナタ達にも知る権利はあるでしょうね」

新兎「………はぁ?」

橘花「じゃあ明細、あの人たちに説明して下さい。」

男「は、はいっ」

男「ええーテレビが壁掛け式26台、スクリーン式27台、それからミニマムPCが87台に外付けの大容量ハードが20台。それから旧型ディスクが100gあたり1000円、端末用の再生データが100件あたり1000円、それから本に関しては10キロ当たり1000円、ゲーム機87台にソフト530本……計102万飛んで78円ですかね」


橘花「ということだから半分施設費として回収。51万をアナタ達で適当に分けて」

一同「…………」

一同「……………」


一同はイマイチ状況が理解出来て居なかった



新兎「その人は」


橘花「私の知り合いのリサイクル業者」

新兎「その人に売った大量の品物はどうした」

橘花「どうしたもこうしたも、ねえ」

アリナ「………」

新兎「どうした!どうしたって聞いてんだよおおおおおおおおおお!」


新兎は錯乱し、畳を這いながら足を絡ませ妙な体制になりながら橘花を追求する。


小鹿のように足を振るわせながらやっとこさ立ったかと思うと、今度は手をぷるぷる振るわせていた。


そんな新兎を視界に渋々入れながら答えてやる。





橘花「そこにあったのを売ったのよ」




――こうして、ゴングは鳴らされたわけである。



695 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 13:06:41.25 ID:62JmT8wDO


もうどうだっていいや


新兎はそう思いながら拳を振り上げるものの、あっさりとつかまれた挙げ句の果てにヒネくり返された。


それでも気がすまない。一発食らわせてやろうと再度拳を振り上げるが技術部員一同に止められた。


新兎「はなせえええええええええ!!!!!!殴ってやらんと気がすまん!!!!!!」

技術部員B「辞めろ!お前、ここで殴ったら大変な事になるぞ!!」

技術部員C「今の大尉なら軍法会議に掛けかねない!やめとけって!!!」


新兎「俺はな!耐え忍んでたんだよぉ!!!黙って過ごして適当に調子に乗らせてりゃ帰ってくるって!!」

新兎「第一、俺は無罪だ!冤罪だ!!だのに……だのになんでおれはぁ!!!おれまでみんな端金でみんな売られなきゃなんないんだよぉ!!!!!!」

新兎「一人あたり5000円だよ!5000円でどうしろってんだよ!ガンコ亭の一食分だよ!!売ることないじゃんか!なあ駿河さん!!」

駿河「………まあ売っちゃ元も子も」


橘花「あら、逆ギレ?」

新兎「逆ギレはそっちだろ!バッカじゃねーの!ちょっとエロディスクの女がおめーらに似てただけで自意識過剰なんだよ!!」

橘花「だとしても配慮が足らないんじゃない」

アリナ「あの……お二人とも」


アリナ「あの!業者さん……今からでもキャンセルって」


男「無理ですよ!早速買い手がまるまるついて、契約交わしちゃったんですから」


アリナ「ああ……」


新兎「返せ!返せ!」

橘花「そんなに大切なら管理しとくべきだったわね」

橘花「あんなに汚い部屋の中じゃゴミと見間違えてもおかしくないわ」

696 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 13:07:29.60 ID:62JmT8wDO
新兎「謝るどころか……開き直ったか」


新兎「これでも駿河さん、耐え忍んでいろと」


駿河「………必要、なくなったよね」


新兎「よおーし!こうなりゃ全面戦争だ!!!!お前達、これでこいつらに甘い顔する理由は無くなっただろう!!!!!」

技術部員一同「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」


何かが吹っ切れたのか、密かに『揉め事のチャンス』を伺っていた連中意外も、叫び出していた。

技術部員C「俺も前々から女共の態度、気に食わなかったんだ!!」


技術部員B「悪いけど大尉、アンタにペコペコしてんのは昨日で終いだぜ」

周防「ざまあ見ろ!若造が調子乗んなよクソが!!」


新兎「今までおとなしくしててやったがな、数の理と男の優位性に敵うと思うなよ」

新兎は人生で初めて2人以上の味方を得て、乗りに乗っていた



一方相模、金剛、加賀、それから敷島は自らの立場と、それからそれぞれの想いで勝手に揺れていた。

今回の一件については確かにやりすぎだとは思うが、彼女達には嫌われたくない、だからと言って、じゃあ自分達は技術部員らを差し置いて彼女達の味方が出来るかと言えば無理だ。

更に言えばである。彼ら意外の人間は関係のない周防を覗けば、なんちゃらの会とかなんちゃら軍だとか、別にどうでも良かったのである。


一つの空間でこれほどまでにはっきりと明暗が別れるものかと
これまた間に挟まれるアリナも微妙な表情を浮かべるしか無かった。



697 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 13:08:20.99 ID:62JmT8wDO

――――――

白鷹「で、これからどうすんのさ」

橘花「さあ」

白鷹「さあって、ケンカ吹っ掛けといてそりゃないぜ」

橘花「あの人達、自分じゃ何にも出来ないわよ。だからほっとけば勝手に泣きついてくるわ」

アリナ「でも……今回ばっかりはどうにも」

白鷹「普段は仕事意外絶対協力なんかしなさそうなあいつらが、何だかんだで組んでるんだ。面倒なことになるぞ」

橘花「0に何掛けたって0よ。馬鹿が何人集まろうと只の馬鹿の集まりにしか過ぎないわ」

橘花「とにかく、私達だけでも夕飯を済ませましょう。作りかけって気持ち悪いのよね」


白鷹「相変わらず、完璧がお好きなことで」

橘花「そうでもないのよ。今日はナツメグが切れてたからフタツキまで買いに行こうかなと思ったけど、がんばって妥協したんだから」

白鷹「……妥協って頑張るもんかよ」



698 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 13:12:44.44 ID:62JmT8wDO
―――――――

食堂。

作りかけのハンバーグのことを思うと気分が悪くて仕方のない橘花はほぼ駆け足で向かっていた。

息を切らせながらもアリナと白鷹も続く。

橘花の病的な完璧主義は最近は成りを潜めて居たように思えていたが
どうにも本人曰く『頑張っていた』らしく、ちょっとした原因があると崩れてしまう脆い安定だったようだ。


………だが、どうにも食堂の様子がおかしい

普段なら食事時以外は風通しもよく、実に過ごしやすい憩いのスポットなのであるが
汗臭い。というよりやけに密度が高かった。


新兎「どうも橘花大尉殿」

橘花「………神前」

新兎「ごめんなさいね、食堂は今僕たちが使っちゃってるからぁ〜」

橘花「急に?あれだけ食事当番嫌がってたくせに」

新兎「今、そこにあった肉の塊使って皆でスコッチエッグ作ってるから」

橘花「スコッチエッグ?ハンバーグ用なのよあの肉!」

新兎「別に似てるし、いいだろ」

橘花「良くないわよ!あれはね、ハンバーグとしては……ナツメグが入ってないこと以外は完璧なのよ!だからハンバーグとして使うべきだわ!」

白鷹「………どっちでもいいだろ」



699 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 13:14:36.07 ID:62JmT8wDO

新兎「知るか!俺たちはな、スコッチエッグを食いたいんだよ。」

橘花「退きなさい!アレはハンバーグにすべきなのよ!!って言うか、ハンバーグにするために作ったのよバカ!!」

橘花は新兎を突飛ばし、中へ入り込もうとするが、分厚い筋肉の壁に阻まれてしまった。

橘花「ちょっと退きなさい!スコッチエッグなんて私は………」


敷島「申し訳ありません閣下」


そこには、鍛えに鍛え上げた筋肉を持つ筋肉バカ、まさかの敷島が聳えていた


橘花「………敷島」


アリナ「敷島さん………」


白鷹「なんで?」


敷島「私は悟ったのです」


橘花「いいから退いてよ」


敷島「いえ退きません。私は、思うんですよ。」

橘花「いいから退いて」

敷島「こう言う時、叱ってやれる勇気が男には必要なんですよね」


橘花「………はぁ?」


敷島「愛はね、愛する事だけが愛じゃないんですよね。目が覚めました」

敷島「私は!心を鬼にし、閣下に過ちを気づいて戴こうと……私は!私は!」



何を言っているのか彼女達には理解出来なかったがとりあえず敷島は泣き崩れていた。


とりあえずそれどころじゃない橘花は力ずくで突破を試みるが、白鷹がそれを制した

橘花「邪魔しないで!私は耐えられないのよ!!!!」

白鷹「やめとけ、体力の無駄だ」


橘花「………敷島ごときに私が負けると」

白鷹「少なくとも負けないだろうよ。だけど勝ちもしないぞ」

橘花「………なんで」

白鷹「確かに殴りはしないだろうけど、その分壁は分厚くなるし、仮に敷島がくたばったにせよ」

白鷹「どうすんだこいつら」


最低でも20人近くは壁を形成していたようだった。


新兎「ふん!ようやく気がついたか……」

思わせぶりな口調がなんだかイラつく


700 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 13:18:47.63 ID:62JmT8wDO

新兎「我々は数の理を生かし、この戦艦の主要設備を占拠させて貰った!」

新兎「しかも、聞いて驚くなよ。配置は完璧だ」

新兎「それぞれのブースにバカ(相模金剛加賀周防敷島他)を置くことによって、徹底的に監視を強化したのだ!」

新兎「要はお前達には、味方なんていないってこった」


新兎はいかにもなドヤ顔でいい放つ。
小物臭を充満させていたことは言うまでもない


橘花「誰の入れ知恵」

新兎「……誰でもねえよ」

橘花「ふうん」

橘花「ま、いいわ。じゃあね」

新兎「いいのか?仕事もロクに出来なくなっちゃうぞ」

橘花「別に。当てはあるもの」

新兎「今なら傷は浅いぞ!」

橘花「……一体誰のよ」



701 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) :2011/11/09(水) 22:28:03.12 ID:ZhcjUI4DO
来たか
待ってたぞ
702 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/12/03(土) 07:48:15.53 ID:SnDPnceDO
再開
703 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/12/03(土) 07:53:07.64 ID:SnDPnceDO
食堂。

新兎「勇敢な獅子である同士よ、諸君らは今、歴史の変革の当事者となったのである!抑圧と、閉鎖と、男女平等と言う名の不平等の時代は終わった!我々の完璧な布陣の前に遂に野蛮な女共は屈したのだ!」

新兎「神々は我らに真の平等を、光を与えた!誰しもが疑うことのない我々の勝利である!これはいかに男なるものが、女などという権利に守られなければ生きていくことすら出来ぬ劣化生物より数万、いや数不可思議倍も優れていることを意味する!」

一同「女は弱い!!」

新兎「だがしかし、劣化生物らは、愚かゆえに自らの過ちを認めることすら満足に出来ないのである!さすれば、我々との戦力差に気がつくことすら出来ず、ムカデ、いや衛生害虫に置き換えることすら躊躇われるようなカス共は何らかの悪あがきにて、我々を困惑させようと企むであろう」

一同「女は馬鹿だ!!」

新兎「何をもってカスらに敗北を知らしめるか」

一同「戦争だ!!!」

新兎「諸君らは総力戦を望むか?」

一同「望む!」

新兎「カスミ全てを巻き込む、徹底的で暴力的な総力戦を望むか?」

一同「望む!」


新兎「女共は言う!男など女の尻にしかれてりゃそれでいいんだと!」

一同「否!否!否!」

新兎「女は言う!女は弱いから、何をしても優遇されるべきだと!」

一同「否!否!否!否!」


新兎「女は主張している。本当は諸君らが降伏を望んでいると」

一同「否!否!否!否!否!」

新兎「……」

新兎「次なんだっけ」

一同「さあ」



新兎「……中略。今こそ男共よ立ち上がれ!嵐を巻き起こせ!」

一同「ウオオオオオオオオ!!!!」


敷島「………くだらん」



704 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 07:53:33.97 ID:SnDPnceDO

駿河「盛り上がってるとこ悪いんだけど」

駿河「で?」

新兎「でって」

駿河「この先一体どうするのかなぁと思って」

新兎「時間の問題ですよ。ましてやこれを崩すことなんて無理だ。アイツらが折れるのを待つだけ」

駿河「戦略とか無いの?」

新兎「そんなもん、臨機応変ですよ」

何故か将軍面をしている新兎だったが、全く何も考えていないのか、行き合ったりばったり感は半端なものではなかった。

協調性のない物が上に立てばこうなることは目に見えてはいたのだが、ほぼ全員感情的になっていたせいか、そんなことを不安に思う余裕すらなかった。


705 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 07:54:38.40 ID:SnDPnceDO
――――――

【副艦長室】

橘花「と言うわけです」

秋津洲「………」

何事もなかったかのように語る橘花に、秋津洲は呆れ返っていた。

秋津洲「どうしてそんなことになったのかしら」

白鷹「さあ」

秋津洲「……さあじゃなくって。考えてみて」

橘花「そうですね」

秋津洲「だから、そうですねじゃなくて」

橘花「常識を逸脱した卑猥な私物を大量に持ち込んでいたので根性叩き直してやろうかと思いまして」

秋津洲「確かに、さっき見せて貰ったこれは……常識外ではあるとは思うけれど」

橘花「はい」

白鷹「下手したら犯罪ですよ」

秋津洲「…そんなこと、お互い様でしょ」

橘花「はい」

秋津洲「…まさかそこまでするとは」

橘花「はい」

秋津洲「……はいじゃなくて。とにかく」

秋津洲「…そこまですることじゃないでしょう?確かに、私はゴミ捨てをお願いしたけれど」

秋津洲「それにね、こんなことになる前に一度私に報告する事くらい出来たでしょう」

橘花「はい、そうですね」

秋津洲「………」
706 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 07:55:04.62 ID:SnDPnceDO

アリナ「あの……ごめんなさい私が止められなかったから」

秋津洲「………もういいわ。それを言ったら私の監督不行き届きになるんだから」

秋津洲「とにかく、これ以上この戦艦の恥を上塗りしないで頂戴。」


橘花「はい」

秋津洲「………」

秋津洲「……いいわ。どうにか着地点が見つかるまでここで仕事してても構わないから。くれぐれも彼らを刺激しないように」

秋津洲「こんなことしたって何にもならないってことくらい、彼らも分かっているでしょうから」

アリナ「ごめんなさい…頭に血が上っちゃって私も煽るような事を」

秋津洲「今更どうこうも出来ないわよ。ならば模索しましょう。面倒にならない方法を」


白鷹「もうなってるけどな」

秋津洲「なら、余計にこれ以上刺激しないことね」

橘花「副艦長、どちらへ」


秋津洲「ここまで来ちゃったら私一人じゃどうにも出来ないわよ。」


秋津洲「ここは大人達に任せて頂戴。貴女達は始末書でも仕上げといて」


白鷹「………大人『達』」


アリナ「『達』なんですかね」



707 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 07:56:17.12 ID:SnDPnceDO
――――――

【艦長室】

秋津洲「……というわけ」


相変わらず霧島は部屋を乱雑にする男だった。

よく分からない広告が散らばり、下世話な週刊紙が山積みになっていた。
挙げ句、重要な書類はと言うとしょうゆだか何かの染みがついている。



霧島「ふぶきちゃんがワザワザ来てくれたから何かと思ったらそんなこと」

いつもいつも仕事場では制服を着ろと散々注意しているにも関わらず、ジャージ姿だ。

だらしなさについて1から10まで事細かに指摘してやりたい気持ちでいっぱいだったが
本題に入る頃には本題を忘れてしまいそうなので止めた。


秋津洲「……そんなことって、あなたの部下ですよ。」

秋津洲「それに、名義上は最高責任者なんですから、艦長は」

霧島「酷いこと言いますね」

秋津洲「とにかく、彼らは興奮してるみたいですし、私よりかは艦長の方が交渉役には向いていますわ」

霧島「ええー交渉ぉ?」

霧島「追い詰めるのは大好きなんだけどなぁ」

秋津洲「あのですね、いつもいつも艦長の報告書、押し付けられてるのは私なんですから、少しは借りを返しては頂けませんか?」

708 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 07:57:57.44 ID:SnDPnceDO
秋津洲「第一、報告書ほったらかしにして一体毎週毎週どこほっつき歩いてるんですか?」

霧島「そんなことより、今度の宇宙博での出し物、戦隊ものなんてどうかなーなんて思ってるんですけどね」

秋津洲「話をすり替えようったってムダです。その手には乗らないんだから」

秋津洲「それに聞こうとおもってましたけど、この報告書おかしくありません?」

霧島「えっ、どこが」

秋津洲「とぼけないでください。計算が合わないんです。」

霧島「本当に〜?」

どこかのアイドル声優の様な口調で答えた。カンにさわる。

秋津洲「本当です」

霧島「本当に〜?」

秋津洲「本当です」

霧島「本当に〜?」

秋津洲「もういい加減良いですか」

霧島「もっともっとー!」

秋津洲「………」

709 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 08:04:51.02 ID:SnDPnceDO
秋津洲「ぴったりなんです」

霧島「じゃあ良かったじゃないですか。じゃあ今度の研修の日程でも……」

秋津洲「……だから計算がおかしいといってるんですよ」

霧島「じゃあ気のせいですよ」

秋津洲「この間の件で再度全機修理にかけたわけです。もう何度目でしょう」

霧島「さあ」

秋津洲「『さあ』じゃなくて。本来なら出ちゃうんですよね。最初の修理代を考えると。でも収まった訳です。最初の修理代なしで」

霧島「そりゃ書くわけにはいきませんよ。あの失態は」

秋津洲「ということはその失態の多額の修理代分は一体どこにいったんですか?」

霧島「不思議ですねぇ」

秋津洲「不思議じゃありませんよ。予算の追加申請却下されたのに、なんで余りが出ないんですか?調整もしてないのに」


霧島「……あはは」


秋津洲「『あはは』じゃありません。」


霧島「でも提出する分には問題ないでしょう」

秋津洲「大有りです。どこかで誰かが不正を働いたんですから」

霧島「ねー」

秋津洲「……」

710 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 08:08:33.21 ID:SnDPnceDO
秋津洲「とにかく、こう言う問題をほったらかしにしてどこ彷徨いてるんですか」

霧島「ねー」

秋津洲「どうせ女の子のお尻でも追いかけてるんですよね。男の人ってどうして皆そうなんですかね」

霧島「皆が皆じゃありませんよ!」

秋津洲「…なら、もっと悪いじゃありませんか」

秋津洲「少しは仕事してください。今回の事態を収拾するくらいは」

霧島「はい先生!」

秋津洲「はい」

霧島「ちなみに、それって命令でありますでしょうか?」

秋津洲「……はい?」

霧島「命令じゃないんでありますか?」

秋津洲「………」

秋津洲「上司に命令する部下がいますか?」
711 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 08:09:07.19 ID:SnDPnceDO

霧島「いやね、でも良ーく考えてくださいよ。」

霧島「年はいっぱい離れてるのに一個しか階級は変わらない!ふしぎ!」

秋津洲「………何をいってるんですか」

霧島「結論としてですよ。出世のペース的に考えて、明らかにふぶきちゃんの方が私よりかは有能な訳であります!」

霧島「有能な人間が無能な人間を顎で使う。より良い社会を作りあげるためなら当たり前、正に自然の理。そうは思いませんか?私は思いますね。年功序列は終わったんですよ。時代は実力社会なのであります!」

秋津洲「艦長が何を言いたいのかさっぱり」

霧島「僕に命令してもいいんですよ、社会常識に反しないんですよ」

霧島「だからさあ!早く僕に命令してください!さあ!さあ!」

秋津洲「………」

霧島「命令しにくいなら僕が命令しますよ。厳しい口調で命令してください!叱ってください!早く!これは命令であります!!さあ!さあ!」

秋津洲「命令を命令してどうするんですか」
712 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 08:09:33.12 ID:SnDPnceDO

霧島「してくれないんですか?」

秋津洲「しませんよ」

霧島「やだやだやだやだ!!」



何だか良くわからないことで大の男が駄々を捏ねている

その上その男が上司と来た。


今すぐにでも秋津洲は、この男の存在自体を抹消してやりたかった。


713 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 08:10:44.71 ID:SnDPnceDO
秋津洲「一応艦長も世間一般からみればエリートなんですよ。少しは自覚を持って頂かなければ、それこそ良い恥さらしですわ」

秋津洲「世界一、馬鹿で愚かな艦長だと罵られても反論できなくってよ」

霧島「どうもありがとう!」

秋津洲「………はい?」

霧島「もっともっとー!」

秋津洲「………」

この男がなにをいっているのか、彼女には理解不能だった。


霧島「もう最近ふぶきちゃんったら私にめーーーーーっきり構ってくれないんですもん」

霧島「ああ!こうやってキツく叱られたのは何日ぶりかなぁ!」

霧島「もっと叱って!きつく叱って!」

秋津洲「………」

秋津洲「もう良いです。どちらにせよ私が損する様に世の中、出来てるみたいですから」

霧島「で、話は戻るけどさっきの件」

霧島「無理はいいません。ふぶきちゃんが私のお願いを聞いてくれたら、尽力しましょう」

秋津洲「………内容は」

霧島「ちょっと口では」

秋津洲「口で言える範囲内なら」

霧島「えええ………」

秋津洲「早速無理を言ってるじゃありませんか」

714 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 08:11:25.67 ID:SnDPnceDO
霧島「分かりました!分かりました!じゃあ、じゃあこうしましょう」

秋津洲「どうするんですか。」

霧島「今度の出張で……」

秋津洲「却下します」

霧島「…まだ何も言ってないじゃないですか」

秋津洲「却下します」

霧島「だからね、経費削減のために部屋を」

秋津洲「却下します」

霧島「あくまで経費削減ですから。出張費も馬鹿にならないんですよ!」

秋津洲「却下します」

霧島「ですからね、別に泊まるだけだから。泊まるだけ、なにもしないから。泊るだけだから。泊まるだけ。それだけ」

秋津洲「却下します」

霧島「ね、なんにもしない!信用してくだよう〜」

秋津洲「却下します」

霧島「どうしても?泊まるだけでも?」

秋津洲「却下します」

霧島「…………ええ」

秋津洲(…………うざい)
715 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 08:13:58.24 ID:SnDPnceDO
霧島「わかった!じゃあ分かりました。今のはナシ、ナシナシナシナーシ!」

霧島「梨と言えば知ってました?二十世紀梨ってゴミ置き場から偶然見つかったらしいんですよね。なんだか僕らみたいですよね。」

秋津洲「はい」

霧島「はい」

霧島「したがって諸般の事情により予定を変更してお送りしまーす!」

秋津洲「却下します」

霧島「今度は大丈夫ですから!もう心洗われるような雄大な海を大きなお船が

秋津洲「却下します」

霧島「話だけでm

秋津洲「却下します」

霧島「お願い!お願い!あ、これノーカウントにしてくださいね」

秋津洲「却下します」

霧島「ああそう、そういうつもりなんだ、そういう感じなんですね、へぇ〜」

秋津洲「はい」

霧島「はいじゃなくて!分かりましたよ。はい分かりました!土下座します、土下座しますよ」

秋津洲「………なんで」
716 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 08:14:30.23 ID:SnDPnceDO
霧島「土下座すれば聞いてくれるんでしょ?」

霧島は椅子をどかし、ひざを地面につけた。

霧島「さあ!土下座しますよ!一番偉い人が二番目に偉い人に土下座しますよ!」

秋津洲(………面倒臭い)

霧島「いいですか、しますよ、階級が一つだけ上の僕が、ふぶきちゃんに土下座します。」

霧島「ああ、手を床につけちゃいました……ああ……」

秋津洲「わかりました!分かりました!」

霧島「えっ」

霧島はわざとらしく驚いてみせた。
717 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 08:15:03.75 ID:SnDPnceDO

秋津洲「『了承するかどうか』は別として、最後まで聞きますから」

霧島「土下座しなくてもいいんですか」

秋津洲「聞きますから」

霧島「ふぶきちゃんは優しいなぁ。」

秋津洲「……どうぞ」

霧島「もうこれは簡単。あっと言う間にさっと出来ちゃうこと。」

秋津洲「口上は良いですから」

霧島「これから言うことについて、絶対に『怒らない』で聞いて下さい」

秋津洲「怒らない?」

秋津洲「………それだけ」

霧島「そう。たったそれだけ。ね!簡単でしょ」

秋津洲「企んでませんか」

霧島「疑り深いなぁ。私は誠意ある男です」

秋津洲「果たして誠意ある人間がわざわざ『誠意ある男です』なんて言うんでしょうか」

霧島「じゃあ誠意を見せるため土下座をば」

秋津洲「……ホントにそれだけ」

霧島「本当にそれだけ」

秋津洲「………」

秋津洲「…どうぞ」

霧島「本当に怒りません?」

秋津洲「はいはい」

霧島「本当に?」

秋津洲「本当に」

霧島「絶対?」

秋津洲「いいから早くしないとカウント取りますよ」

霧島「じゃあ遠慮なく」


718 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 08:16:13.42 ID:SnDPnceDO

霧島は引き出しの一番下を開いた。

そう言えば。秋津洲は彼がこの引き出しを開けているところを見たことがない。

おかしな話である。


こんなにたくさんの書類がばらまかれているのに、一番スペースのある一番下の引き出しを使っているところを見たことがないなんて。


霧島は再度秋津洲を見た


霧島「怒らない?」

秋津洲「1アウト」

霧島「………約束ですからね」



と、霧島は引き出しの中に仕舞われていた一つの箱を取り出した


秋津洲「………何これ」

霧島「ある人が言うには玉手箱、ある人が言うにはパンドラの箱、ある人が言うにはラプラスの箱、ある人が言うには………」

秋津洲「前置きはいいですから」


霧島「罪って申告すると軽くなるんですよね」

秋津洲「……はい?」

霧島「と言うより、被疑者って良く言うんですよ。捕まって良かったって」

霧島「そりゃそうだ。逃げ回るのも隠し通すのも労力だ」

霧島「その上に、見つかったらこっぴどく叱られる。でもさ、自分から言っちゃえば余程の重罪でない限りは減刑される。事態の発覚前なら尚更です」

霧島「だからね、墓までなんちゃらとは言うけれど、ここで一つくらい降ろしたっていいじゃないって、思うんです」

秋津洲「そう」

霧島「だけど人間降ろせる荷物とそうでない荷物が………」

秋津洲「2アウト」

霧島「と言うわけで、まだ罪が軽いうち、自己申告しようかなと思います」




霧島「僕も持ってましたごめんなさい」

秋津洲「………」
719 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 08:17:41.23 ID:SnDPnceDO
秋津洲「何を」

霧島「何をってその……」

秋津洲「その?」

霧島「比率的に肌色の部分が多くて」

秋津洲「多くて?」

霧島「ね」

秋津洲「………」

秋津洲「まさか」


秋津洲は顔を紅潮させた。


確かに、あの三人の前ではあんなことを言ってたし、事実『持っている』と聞いていても

“そんなものか”で済ませられた

が、実物が目の前にあるとなると話は別だ。


じいいっと見てしまう。

20くらいの女がもうアレでアレがアレまみれでアレがアレなのだ。

もうアレである、かなりアレな部類だ。


霧島「あの」


秋津洲「いいええ!」


霧島「そうですか」

霧島「………怒りません?」

秋津洲「別にこれくらいじゃ」

霧島「はい」

秋津洲「はい」

秋津洲「………」

霧島「………」


妙な空気が漂う

720 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 08:19:05.32 ID:SnDPnceDO
霧島はそそくさと段ボールを仕舞おうとしたその瞬間、何者かに手を捕まれた

霧島「……ど、どしたの」

榛名「いえね、霧島くん」


霧島「…いたの」
秋津洲「いたんですか」


榛名「そりゃあもう」


榛名「まあ、お聞きなさい」

霧島「………何よ」

榛名「霧島くんはこれで終わりにするつもりらしいけど〜」

霧島「これ以上話をややこしくしてどうすんの」

榛名「私は楽しいわ〜」

霧島「………」

秋津洲「…………」

相変わらず、すっとんきょうな女である

榛名「それから霧島くん、本部のなんとかさんから電話」

霧島「そ…そう」

榛名「で、突然ですが」

榛名「見せ物としてのスポーツにおいて大切なものとは何かしら〜?」

霧島「……話が見えないんだけど」

榛名「そうかしら〜?」

霧島「………」

榛名「かしらかしら」

霧島「………」

榛名「かしらかしらかしら」

霧島「……」

榛名「かしらかしらかしらかしらかしら」
秋津洲「………霧島艦長」

霧島「何」

秋津洲「答えてください」

霧島「ええ……だって面倒なことn」

秋津洲「もうなってます」

榛名「かしらかしらかしらかしらかしらかしらかしらかしらかしらかしら」


721 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 08:22:26.75 ID:SnDPnceDO
霧島「……じゃあ」

榛名「は〜い」


霧島「接戦……かな」

榛名「ご明察。大リーグなんかでもね、より優勝争いが白熱した年ほど収入がガッポリなのよ〜」

霧島「まあね、ギャンブルなんかも惜しい流れが続くとついつい使っちゃうもんね」

榛名「だからね、結局大切なのは勢力の均衡なのよ。オーナー達はそこに情熱を傾けるべきね〜」

秋津洲「結局何がおっしゃりたいんで」

榛名「だからね、フェアな戦いって言うのは倫理だけじゃなく、経済的に考えても大いに有意義なものなのよ〜」



この女は楽しければあとはどうでもいいらしい。

当事者に寄り添った第三者の役を思う存分楽しんでいる様子だった。


秋津洲「……何が何だか私にはさっぱり」


榛名「そう言えば霧島くん、本棚の2列目の右から14センチ離れたあたりの本に、いかにも無造作って感じでBlu-ray何て言う前時代の遺物がはさまれてるけど」

榛名「確か、NHKの落語特集だったわよね」

霧島「………そうだったかな」

榛名「それ見たい」

霧島「えっ」

榛名「貸して〜。アレよね〜。面白いわよね〜」

霧島「………いや、なんか今見れないから」

榛名「大丈夫よ、クリーナー使えば。ねえ」

霧島「いや、面白くないしこの噺」

榛名「面白いわよ〜」

榛名「ふぶきちゃんもどう?そろそろ休憩時間だし、お茶でも飲みながらぁ」

秋津洲「…しかし」

榛名「息抜きも必要よ。ふぶきちゃんちってよくNHKの番組とか、みてそうよね」

秋津洲「ええ……死んだ父はバラエティ嫌いでむしろNHKしか…………」

榛名「あ、そうだった、思い出したわ。ねえ、ねえ、霧島くんにBlu-ray再生機、貸しちゃってここにしかないのよね〜」

榛名「ね〜霧島くん」


霧島「…………」

霧島は本棚に近づき、Blu-rayを手に取りバキリと二つに折った


722 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 08:26:25.01 ID:SnDPnceDO
霧島「あーあー割れちゃった。寿命かなぁ」

榛名「あ〜」

秋津洲「………なにかやましいことでも」
霧島「全然。」


霧島「残念。だけど探せばあるんじゃないかなぁ。良かったらお探ししましょうか?」

榛名「あらそれ、わたしの健康番組のBlu-rayじゃないの〜」

霧島「………」

霧島「えっ」

榛名「いえねー、牛乳が良いとか言ったり、悪いとか言ったり…もうどっちなのかしらねー。」

霧島「えっ」

榛名「あ〜……もうこんなになっちゃって。いつかガッテン出来る日が来るって信じてたのに〜」

榛名「でもなーんで肌身離さずもってたガッテンがこんなところに」

榛名「……あらら、不思議。いつの間にか落語特集のBlu-rayが」


霧島「そう、それは良かった良かった。じゃあ私は………」

榛名「ああそうそう、桜庭さんは17時までは会議だそうよ〜」

霧島「………ああそう」

榛名「もう、霧島くんもせっかくだからぁ」

霧島「いや、僕は見慣れてるから。ああそうだぁ、ブリッジに残してたデータ……」

秋津洲「ブリッジなら現在相模技術中尉率いる技術部員達が占拠中。面倒になるだけよ」

榛名「良かったら同期させてファイルを霧島くんの私物のPCに移してあげるわよ〜?」

霧島「……そりゃあご丁寧に」

榛名「じゃあ、霧島くんいいかしら」

霧島「ダメ」

霧島「………とは言えないよね」


723 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 08:27:58.87 ID:SnDPnceDO
榛名がディスクを差し込み、再生ボタンを押す、と同時に霧島は逃げの体制を取るが、何故かドアが開かない。何故か。


そのBGMとして……


あえぎ声が空間を震わせていた


「だめぇ………私の密林地区で匍匐前進しないでぇ!!!!!」


霧島「………」


「ふふっ……もう君のアマゾンは土砂降りスコールさ……ぐっ……いい………いいぞ!俺の91式携帯地対空誘導弾が………!スカイシューターになっちまう!!」

「迎撃してえ……もっとねっとりテロ対策してえ………」

「だめだ……まだ九条が………!………でも、少し法解釈してやる………どうだ?」


「あんんんんんっ……ロングノーズが欲しいぃ!ロングノーズがほしいのぉぉぉぉぉ!配備してぇ……早く実戦配備しないとぉぉぉぉぉぉぉ!とられちゃぅぅぅぅう!先手ぇぇぇぇぇ………」

「俺だって限界なんだ………んんっ………あっ!…………マルスだと……俺のがこんなにマルスになるなんて………ああ!」

「………ほしいの」

「何がほしいんだい……いってごらん」


「予算!予算がほしいのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!お願い、私を予算でいっぱいにして!限界でしゅううううううううううううううううう!!!!!!!!ああああああん!!!!!」

「国会に……いきそう?」

「いく!いく!国会に予算もらいにい゛ぐぅぅう゛ぅぅう゛ぅ゛う゛ぅ゛ぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!あへぇ!」

「じゃあ埋蔵金……お前にばら蒔いてやる!!!!!!承認させてやる……承認させてやる!!!!!!」


「あああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」




霧島「………」

秋津洲「………」

榛名「うふふ〜」


とりあえず空気は想像通りだ。

戦略的自爆も、集中的な戦闘機での爆撃の前ではノミが跳ねたも同然なくらいなのである。

724 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 08:30:16.59 ID:SnDPnceDO
榛名「私ね、思うのよー」

榛名「こんなもののパッケージ見せつけられた挙げ句、その女の子が自分に似てたんじゃ〜」

榛名「いくらなんでも、まずいなんてもんじゃあないわよねぇ〜」

榛名「ね?霧島くん」


霧島「……うん」

秋津洲「霧島大佐、幾つかお聞かせ願いたいのでありますが」

秋津洲の霧島への態度は単にドライだとかいう生易しいものではない。全てが干物になりそうな勢いである


秋津洲「よろしいでしょうか」

霧島「べ…別にそんな改まらなくったって」

秋津洲「まさか別のクルーのものもお買いになったので?」

霧島「ま…まさかぁ」

秋津洲「質問を変えます。他のクルーに関しても十分問題視すべき事案ですが、紫雲少尉の保護者である貴方がわざわざ彼女そっくりな…成人向け作品を探して、それをクルーに売り付けていたとしたら、大問題なんてものじゃありませんわよね?」

霧島「ねぇ」

秋津洲「どうお思いで?」

霧島「どうって…」

秋津洲「艦長は保護者と言う立場にも関わらず、随分物事を軽く考えていらっしゃるご様子で」

霧島「ち、違いますよ!アリナさんのは知りませんって!第一、非公式品はは範囲外で…」

秋津洲「『のは』ってどういう意味で」

霧島「えっ?ああ、それは…」

秋津洲「まるで『他のは買った』みたいな言い方じゃありません」

霧島「はい」

秋津洲「はいじゃありません」





725 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 08:30:57.58 ID:SnDPnceDO
霧島「……」

秋津洲「良くわかりました。」

霧島「待って!違うって。本当にアリナさんのアレは僕じゃありませんよ!」

霧島「それにふぶきちゃんは誤解してる!聞いて!!」

秋津洲「大佐がクルー達を、アリナさんをどういうつもりで育てていたのかよーくわかりました」

霧島「ちょっと待って!待って!」

秋津洲「さいっっっっっっっっってい!!!」

霧島「待って!待ってよふぶきちゃああああああああああああん!!」


ガタン



霧島「………」

榛名「かわいそ、霧島くん」

霧島「…心にもおもってないくせに」

726 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 08:31:40.16 ID:SnDPnceDO
榛名「思ってるわよ。霧島くん達の気持ちも解らなくもないもの。クラスメイトの女の子に対する気持ちと一緒でしょ?」

霧島「………ホントに僕は白鷹ちゃんとアリナさんとふぶきちゃんに関して『成人向け』は僕は売ってませんよ。」

榛名「じゃ誰が」

霧島「さあ」

榛名「それでも橘花ちゃんに関してだけでも十分最低だとは思うけれど」

霧島「最初っからじゃないよ。あの女優のを売り始めたのは橘花が来る前。確認してもらってもいいんだから。それにさ、肝心なトコはカットしてあるんだし」

榛名「ふぅん。」

霧島「で、その…例のものはどこで見つかったのよ」

榛名「さあ、そこまでは。」

榛名「でも本当に同情するわ。」

霧島「じゃあなんであんなことしたの」

榛名「それは、ねえ?」

本当に楽しそうに笑った。
727 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 08:32:12.31 ID:SnDPnceDO
―――――――――


秋津洲「と言うわけで、ずっとここ使ってて貰っても構わないから」

副艦長室に秋津洲はデスクに書類をドカンと置いた。
冷却がきかないファルコートのようにいやな熱さを放っている。

ただ「はい」と二つ返事をすることしか三人は出来なかった。

不機嫌オーラを放っている秋津洲を尻目にこっそりと喋りだす。

橘花「…内心、副艦長はただの子供のケンカだと揶揄していると思ったんだけど」

白鷹「……怒ってるよな、アレって」

アリナ「怒ってますよね、アレって」

白鷹「仕事になんねぇよ……」

秋津洲「何か?」

白鷹・アリナ「いいええ!!」

秋津洲の目がいつもより心ばかり鋭い。
副艦長室には嫌な空気が漂っていた。


秋津洲「じゃあ、少し開けるから、ここはよろしく」

白鷹・アリナ「りょ、了解!」

精一杯の笑顔で秋津洲を見送る。

秋津洲がバタリとドアを閉めた途端、二人は大きく溜め息をついた

728 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 08:32:50.27 ID:SnDPnceDO

アリナ「…副艦長、艦長と何があったんでしょうか」

白鷹「参ったなぁ…まさかずっとあのままかよ」

ただでさえ面倒なことになっているのだ。さらに事態が複雑化してしまったことは否めない。

橘花「好機ね」

白鷹「……どこが」

橘花「考えてもみなさいよ。私達は圧倒的に不利だったじゃない」

アリナ「今の状態じゃあ主要施設は抑えられ……ただ、私達は限界を待つか、艦長達が事態を収拾してくれるのを待つか、しかありませんよね」

橘花「だけど艦長と何があったかは知るよしもないけれど、今度は私達がライフラインを押さえたも同然よ」

白鷹「あっ、そういやセキュリティ、ライフラインもろもろのアクセス権は副艦長が管理してるんだっけな」

橘花「使えるわよ、このカードは」


―――――――

一方、男子職員達。

彼らは黒焦げのスコッチエッグを口にねじこむため、食堂に介していた。

その中心で異様な存在感を放っている男がいた―。


霧島「元気?いや、元気過ぎるくらいだね。」

新兎「……何の用ですか艦長」

技術部員B「まさか、俺達を止めにでも来たんですか」

技術部員C「無駄ですよ!」

霧島「いやいや、そんな止めるだなんておこがましいことしませんよぉ。ただ、」

新兎「ただ?」

霧島「お願いしに来ました。」

霧島「やめようよ、もう」


新兎「何いってるんですか?明らかに今んところ俺達の圧勝です。」

駿河「だよねぇ、さっきは逃げていっちゃったし」

敷島「引き下がれとおっしゃるでありますか!」

霧島「いやいや、引き下がれとか、負けろとか言う話じゃなくて」

霧島「あのね、このまま続けてても誰も得しないんじゃないかなって話なんですよ」

新兎「………何一つ不自由してませんけど」

霧島「そのまっくろくろすけみたいなの、何ですよ」

新兎「………8割方、作ったのはあいつらですから」

729 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 08:33:19.04 ID:SnDPnceDO
霧島「こんな時、出撃翌要請が出たらどうすんの」

新兎「そんなことよりこっちです」

霧島「分かってないようだけど、戦艦の迎撃システムなんてロクなのないんだからね。ファルコートがダメんなっちゃったら死んじゃうかもしれないんだからね、ねっ!」

敷島「本官は今回の件も命がけであります!」

霧島「いや、そういう話じゃあないんだけどね敷島くん」

新兎「ここで引いたら俺達は女に支配されたままの生きる屍ですよ。」

霧島「……一応、国民の命も預かってるんだけどなぁ」

新兎「そんな重要だったら、俺達みたいなボンクラに預けないでしょ」

一同は大きく頷いた。


霧島「わかった。お前達にまるで防衛官としての自覚がないと言うことは。」

霧島「わかった、じゃあわかった、」

そう言うと霧島はまたもや地面に膝をつけた。

霧島「土下座しまーす」

一同「えっ」

最早土下座の大安売りである。

霧島「いいのかな?君たちは上官に土下座させちゃうのかな?」

霧島「土下座しますよ、霧島土下座します。土下座しますよ」

新兎「どうぞ」

霧島「じゃあお言葉に……」

霧島「って……えっ?」

新兎「いや、土下座したいならしたらいいじゃないですか」

霧島「止めないの?」

新兎「そんな人の気持ちを踏みにじるようなことは」

霧島「あ、そう…」

新兎「やらないんですか」

新兎は嬉しそうな顔をしながら言った。 まるで東京タワーを始めてみた地方の子供のようだ。
その純粋な笑顔はそれ故にもれなく人をイラつかせた。

霧島「土下座を?」

新兎「土下座を」

新兎「やるって言ったんだからやってくださいよぉー」

霧島「………」

新兎「えっ、やらないんですかぁ?」

相手が下手に出ればとことん調子に乗る男である。

技術部員B(………やっぱりこいつ、ボンクラどころじゃない)

技術部員C(社会のクズだ)

730 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 08:33:56.35 ID:SnDPnceDO
しかし、一同も霧島にはそれぞれ思うところもあったので何とも言えなかったのだが。

新兎「はーやーく!はーやーく!」

霧島「いや、だから新兎くんここは………」



と、次の瞬間


ブレーカーが落ちた。



一同「!」

駿河「どうした!」

相模「停電だ!いいところなんだからさっさとブレーカーあげてこい!」

技術部員C「ブレーカーは上がってます!」

技術部員B「じゃあ回線自体がいかれちまったとしか……しかし」

相模「しかしなんだ」

技術部員B「たしか夕方のメンテナンスの時には回線に異常はなかったんですよ…」

と、相模の無線から、弱々しい男の声が聞こえてきた

金剛「こちら浴場。相模くん、何か停電みたいなんだけど、ブレーカーあげても治らないんだよね!どうしよう……」

相模「風呂場も?」

加賀「こちらブリッジ。コンピュータ以外は真っ暗だ」

周防「トレーニングルームおよび視聴覚室は全面的にダウンしてるぞ!どうなってんだよおい……」


霧島「全部飛んじゃったってワケ?」


駿河「みたいですよね」

新兎「ちょっと何とかならないんですか?いい所だったのに」

技術部員B「いいところだったけど、全然ダメなんだよ!」

技術部員D「水道、ガスもダメだ。全然付かないし出ない!いいところだったのになぁ」

霧島「お前達さぁ……」

731 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 08:35:30.17 ID:SnDPnceDO
駿河「でも、システムダウンにしちゃあ、おかしいとは思いませんか」

相模「だよなぁ。予備もあるし、自家発電も出来る。ピンポイントだけ落ちなくて尚且つ一向に復旧しないとは」


『ご機嫌いかが?』


食堂の端に設置されている入電用のスピーカーから声が漏れた。

一同「!」


それは勝者の貫禄を纏っていた。




橘花『占拠されている施設のライフラインは、副艦長の協力を得、すべて我々が抑えた。武装を速やかに解き、施設を明け渡しなさい。我々は無用の戦闘を望みません。』

橘花『和平交渉に応じる準備は既に出来ている。繰り返す。武装を速やかに解き、施設を明け渡しなさい』


新兎「おめーのせいか!オイコラ!!ふざけんなシネ!」

技術部員B「なんか、馬鹿だなぁ」

霧島「だよねぇ」

橘花『防衛官としての自覚を持つのであればこの事態は国とって不利益しか与えない事は貴官らにも理解できるであろう。しかし、我々は刺し違えても良い覚悟は出来ている。……以上』


放送は途切れた。


技術部員B「どうするよ」

新兎「……どうするよって、そんな簡単に引き下がれませんよ。逆ギレもいいとこでしょう」

霧島「ごめんなさいしようよ。おじさん一緒に謝ってあげるからさぁ」

新兎「俺達、勝手に部屋に入られた挙げ句に、家電一式パクられたんですよ!置き引きじゃないですか!置き引き!」

霧島「でも原因は自分達にあるんでしょうが。ご飯作りサボっちゃったり、洗濯サボっちゃったり、その上まずいもん見つかっちゃったんだし」

新兎「……売り付けたのは艦長でしょう」

霧島「買ったのは君たちでしょ」
敷島「でも肝心なとこはカットしてあったじゃないですか!!」
技術部員B「詐欺師!!」
周防「あのHDD、ただのHDDだったじゃないですかぁ!」

敷島「いや、だからデータが消失している場合がありますって書いてあったじゃない」

周防「知るか!何度も何度も騙しやがって詐欺師!!」
新兎「ホントは、やましいところはなんにもないのに売られたってわけ?」
相模「理不尽だろ!」
新兎「余計に引き下がれませんねっ!抵抗しましょうよここは!!」

霧島「でもさぁ、暮らせないよ?冷蔵庫はいかれちゃってるし、風呂も沸かせないし、テレビも見れないし、水も飲めない。」
新兎「ガスが使えなくったって、緊急用の保存食品があるでしょうが」

霧島「じゃあ本当の非常時にはどうすんのさ。」
新兎「………殴りこみ」

霧島「セキュリティシステムは向こうが握ってるし、第一、橘花と白鷹とふぶきちゃんに勝てるの君たち」

一同「勝てません」

霧島「謝ろう?」
新兎「いや、男のプライドってもんが………」

一同「…………」

一同は黙りこくってしまった。
732 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 08:36:54.71 ID:SnDPnceDO
蝋燭の火が弱々しく辺りを照らした。
丸焦げのスコッチエッグを食べる気にもなれず、全員もれなく腹の虫を鳴かせている。

新兎「だけど、俺達が占拠している以上は、アイツらだってロクに飯は食えない!風呂だって入れない!女が何日も風呂に入れないっていうのは耐えられないはずですよ」

技術部員B「まあ……そうだけど」

新兎「これは俺達とアイツらの根性くらべだ。だけど俺達は戦力がある。そうですよ!」

駿河「だけどご飯は」

新兎「駿河さんだってさっきまでやる気満々だったじゃないですか。あんなのに影響受けないで下さいよ。」

駿河「腹が減ってちゃ話になんないよ」

新兎「じゃあアレだ、フタツキの食堂に頼めばいいじゃないですか。10人前からなら持ってきてくれるじゃないですか」

相模「バカ高いが……まあいいか」

新兎「そうですよ!アイツらは4人。頼めません!通信は生きてるんでしょ。ほら、ほら」

相模は食堂の右端にある受話器を取った。……予算不足故に旧式であることはこの際致し方ない。

敷島「じゃあ面倒だから野菜炒め定食80人前でいいな」

一同「………」

一同はコクりと頷いた。

相模は上下左右に指を忙しく動かし、その後耳に当てる。


5回ほどのコールの後、野太い声の男が出た。


『ヘイ。』

敷島「カスミだが、注文を。野菜炒め定食……」

『あ、悪いけど今日はやっとらんのですわ』

敷島「……じゃあ唐翌揚げ定食でいい」

『そういう話じゃあなくて』

敷島「じゃあどういう話だ」

『「野菜炒め」をやっとらんという訳じゃなく「配達」をやっとらんのですよ』

敷島「……何を言ってるんだお前は」

『ですから配達してないと』

敷島「それは分かっている!本官が聞いているのはだな、いままで散々カスミから高い金とっといてそんなことをよく言えるなと嫌みをいったのだ。そこまで説明されんと分からんか」

『ええ、ちょっと意味が…』

敷島「厨房の暑さで頭がやられたか?」

『いや、宇宙放射線に頭がやられたのはそっちでしょう』

733 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 08:37:21.03 ID:SnDPnceDO
敷島「それが客に対する態度か貴様!!」

『とにかくやってないもんはやってないんですから、無茶いわんといて下さいよ』

敷島「何故だ!何故なんだ!理由を言え!!」

『フタツキの基地にお偉いさんが来るみたいでその仕出しにうちがご指名もらったんですよ』

『司令直々に電話がありましてね、なんでも秋津洲副艦長のご推薦らしくて。うん百人前!いやーホントに感謝してますよ、ホント』

敷島「………」

敷島は口をあんぐりと開け、受話器を掴んだまま立ち尽くしてしまった。

その後、プープーと虚しい響きだけが受話器から漏れるのみだった。


新兎の脳裏にはほぼ反射的に満面の笑みで親指を立てる父親の姿が浮かんでいた。

霧島「ま、はめられたってとこですかね」

一同「…………」


誰も口を開こうとはしなかった。



一方、その頃彼女達はと言うと、非常用の食料を実に美味しそうにほおばっていた。

彼らのように人数が多ければストックに響く。が、人数が圧倒的に少ない彼女達が食べる分にはそんなに影響はない。

一見『人数が多ければ有利』に見えるが、結局のところは多勢に無勢。マイナス同士をいくら足しても決してプラスになることはない。それどころか、状況をどんどん不利にするばかりだ。

アルミパックに包まれた簡単ではあるが温かい食事に彼女達は舌鼓を打っていた。


それに対して、男子職員達の空腹はその頂点を迎え、嫌なオーラをそれぞれ発し
それだけで宇宙戦争くらいは出来るんじゃないかと思わせるほどだった。

誰もが己の立場を嫌と言うほど理解しているし状況も理解している

……故だった

734 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 08:39:16.46 ID:SnDPnceDO
いままで比較的「まとも」であった駿河がポツリと呟いた。


駿河「ねえ」

新兎「……何か名案でも」

駿河「そんなもんはない。ただ」

新兎「ただ?」

駿河「………誰が悪いんだろうね。結局のところ」


突拍子もなく、彼もついに「まとも」でないことを言い出した。

霧島「そんなこと追求してどうするんですよ」


終いには一番まともでない霧島がまともなことを言う始末であった。

駿河「………糾弾してやれば少しは腹の虫もおさまります。二重の意味で」

しかしいつの世も「悪口」の類いは優秀なコミュニケーションツールである。
すぐに乗っかってくる。バカの一つ覚えのように。



新兎「………そりゃ橘花だろ。アイツがあんなことさえしなきゃ、こんなことにはならんかった」


バカはここぞとばかりに叫び出した。

そしてバカ全員が頷く



金剛「ありゃいくらなんでもやりすぎだ」

加賀「いくらなんでもねぇ」


周防「八つ当たりだよありゃ」


すると敷島、相模が立ち上がる


敷島「待て!橘花閣下に全てを擦りつけるつもりか!」

新兎「……だって悪いんだもん」

敷島「確かに、橘花大尉の行動にはいささか問題があった。しかしだな、考えがあって……」

加賀「おーおー、敷島ちゃんは閣下殿にお熱だねぇ」

周防「好きなんじゃねー?」

敷島「そおっ!そう言う訳ではない!!俺はだなぁ!」

相模「そんな事いったら白鷹にも問題大有りだろう。そこら中に空いた穴、あの暴力女の仕業だ」

加賀「ああん?」

金剛「暴力女だからな、かんけーないもんまでぶち壊しそうなもんだ」

加賀「白鷹ちゃんはホントは心優しい乙女なんだよボケェ!第一、アリナっちのあんなもんみりゃ怒るのも当然だっちゅうの!」

金剛「おっ!俺じゃないぞ!あの同人は断じて俺のじゃあ………」

周防「ロリコン気持ち悪ぅっ!」

相模・金剛・加賀「ババア専は黙ってろ」

周防「ンだとゴルァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!」


735 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 08:39:43.59 ID:SnDPnceDO
食堂はあっと言う間に戦場と化し、血で地を洗うような言葉の暴力が場を支配する。
そんな世紀末のような様相に自暴自棄となったものは油を注ぎ風を吹かせ、そうでないものは「たまやー」と合いの手。
誰もが疲れていたし、誰もがイラついていた。

手が出るようになってくるのには時間はそうかからなかった。



敷島「今日こそ、お前達のあまちゃん根性を叩き直してくれるわ!!!!!!」

相模「そうだ!こちとら、毎日無駄に鍛えてる訳じゃない干物共!」

加賀「殴るか蹴るかしか脳がないのかなぁ、脳筋肉さんたちは!」

金剛「よく言うよねぇ、暴力女が大好きな癖にぃ!息をするなド変態が移る!」

加賀「だまれ犯罪者!」


周防「ウオオオォォオオオ!!!!!!」

新兎「ちょい!ちょい!ちょいまち!ちょいまちってば!ねぇ!ねぇ!別におれは何m」

周防はひたすら叫びながら、新兎を殴り付ける。


面白い展開だ、などと笑いながら楽しむ余裕はいくらおろかな彼等でもないことだけは自覚していたようだった。

混沌。

人が生きる伝を求める以上、これは混沌を排除することは出来ない。

幾度かのループを超え、彼らは地面に許しをこうかのようにへばりついていた。


736 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 08:40:08.43 ID:SnDPnceDO

息は切れ、白目は血走り、黒目は光を失い、無数の生傷。
新兎にはこれに無数のアザと強い被害者意識が加わっていた。

皆様おわかりいただけだろうか。戦いは何も産まないのである。


しかし、人はおろかな生き物だ。何かしらの意味を見いだそうとするのである。


どんなものにでも。


霧島「だからいったでしょ、犯人探しなんかしたって仕方ないんですって」

新兎「いいや、ここまで来たら何がなんでも、無理矢理にでも担ぎ上げなきゃ気が済みませんよ」

霧島「だから新兎くん、そう言ってろくなことにならなかったケースがいーっぱいあるでしょ。警察しかり軍しかり」

敷島「いつまでも歴史に縛られる俺達じゃありませんよ」

金剛「艦長みたいに理屈をこねてるわけにはいかないんです」

加賀「誰が悪いのか、とことん追及してとことん追い詰めてやる!」

相模「ここまで来て引き下がれるかってんだよ!」

周防「さあ誰が悪い!誰が悪い!」

こうして、歴史は繰り返されるのだろうか


駿河「じゃあせめて、一旦冷静になって物事を考えて、その上で誰が悪いか考えてみようよ」

霧島「いいこと言うねえ。そう、一旦冷静になって考えれば誰が根本的に悪いのか、分かるでしょ」

実際にまともなのかまともでないのかは最早わからないのだが、少なくとも『まともには聞こえる意見』ではあった。


737 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 08:55:04.58 ID:SnDPnceDO
一部過去のSSから展開を引用。
738 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/12/03(土) 19:06:15.79 ID:SnDPnceDO
新兎「だれが悪いって、そりゃあ冷静に考えたって捨てた女共だろ」

技術部員B「だけど、あいつらに協力してライフラインまで止める秋津洲副艦長にも問題はあるでしょう」


霧島「とは言うけどさ、じゃあなんでこうなったのよ」

新兎「だからアイツらが捨てたから」

霧島「………」

霧島は頭を抱えようとしたが、話を続けた。

霧島「じゃあなんで捨てられたんですか」

新兎「それは………」

霧島「みんなが変なものを置いといたからでしょ」

新兎「だけど!」

霧島「そりゃあ女のコなんだから怒るだろうなぁ。確かに、やり方はいけないけどそれを裁く権利は僕達にはありません」

霧島「だれも悪くない、悪いとしたらタイミング。だから、こんな不毛で無益で非効率的なケンカはやめましょう。じゃあ早速ごめんなさいしに………」

新兎「なんで悪くないのに謝るんですか」

相模「そうだそうだ!」

敷島「悪くもないのに頭を下げるとは艦長は、それでも男でありますか!!!」

霧島「だからさぁ、ご飯も食べれないお風呂も入れないんだから頭を下げるしか」

加賀「しかし、やっぱり納得いきませんよ。」

霧島「人生納得いかないことばっかなんですからぁ」

周防「いいや、おかしい。第一、変なものがあるのがおかしいのであれば、それを我々に売り付けた艦長にも責任はあるんじゃないんですか!」

一同「そうだ!そうだ!」

霧島「………あれ?」

739 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 19:06:49.58 ID:SnDPnceDO
金剛「しかも売り付けるのは肝心なトコはカットしてあるか詐欺的な商品ばかり」

霧島「話の流れがちょっと………」

相模「そうだ!ちゃんとした商品さえうってくれれば置場所にだって困らなかったし、見つから無かった!艦長が悪い!」

霧島「えっ……ちょっと……」

一同「艦長が悪い!艦長が悪い!艦長が悪い!」

駿河「と言う結論に達しましたが」

霧島「待って!完全に僕はとばっちりです!」

駿河「いや、でも原因は艦長じゃありませんか、完全に」

霧島「だけどさ、ほら……色んな要素が…………」


焦る霧島を背に、駿河が片手を突き上げた。


駿河「我々の真の敵は艦長である!」

一同「そうだ!艦長だ!」

駿河「悪いのは誰だ!」

一同「艦長!艦長!艦長!」

霧島「いや、ちょっとおかしいと……思うんですけど……ねえ皆ぁ」

駿河「と、すれば……我々は不毛で無益で非効率的な戦いを『艦長の責任』において、終結することが叶わなかったのである。」

駿河「敵……いや最早彼女達は我らの“同士”である!真の敵は艦長であるからだ!」

駿河「手を結び、共にこれを打倒しようではないか!」


一同「カスミ!カスミ!」

駿河「我々は提案したい。彼女達との和平を。」

一同「意義なし!」

駿河「と、言うわけですが」


駿河は霧島に良い笑顔を向けた。


740 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 19:07:24.63 ID:SnDPnceDO
霧島「………もしかして、最初から?」

駿河「こうなることを願っていました。」

技術部員一同はサウンドバックを見つけた嬉しさに沸き
新兎と敷島はただ、それを見つめているだけだった。

駿河「とりあえず僕達は艦長の悪事を一通り報告し、あちら側につかせて頂きますよ。保証は少しばかりは要求させてもらいますけどね」

新兎は状況が飲み込めていないと同時に納得もしていない様子だった。

駿河「彼らは君と違って、決着の付け所を探っていただけなんだよ。彼女達以外の悪者を設定さえできればそれで良かったんだ。誰も本気で彼女達に怒りを覚えていた訳じゃない」

新兎「………だから!」

駿河「安心してよ。本気で怒ってる君まで引き込もうって訳じゃない。むしろ、仲直りしようっていうんじゃ君がいたら不都合だからね。今から敵同士になるけど悪く思わないでくれ」

新兎「………だからなんなんだってば」

駿河「………説明、するんですか」

霧島「してあげて下さい」

741 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/12/03(土) 19:07:58.93 ID:SnDPnceDO
駿河「あー……」

駿河「最初から、俺の目的は霧島艦長に痛い目を見て貰うことだった!」

霧島「わかった?」

新兎「えっ、なんで怒りの対象が女達から艦長にかわってるんですか」

駿河「あーだからね新兎くん」

霧島「もういいよ、続けちゃって」

駿河「俺は艦長が阿漕な商売をすることがゆるせなかった。騙され、また騙され。しかし、おかずを獲得する手段がそれしかなかったんだ。」

駿河「そして、俺は誓った!艦長に痛い目を見ていただこうと。しかし基本俺達はバカだ。艦長に騙され続けても俺以外はなんとも思わない。俺だって数百万使い込むまでは気がつかなかった」

駿河「だから仕組んだのさ!様々な家事をサボる方向にもっていき、女の子達に押しつける。一人サボればみんなサボる。彼女達が怒るのをひたすら家事をサボり、ゴミをためながら待った。そうすればいつかは掃除に来るだろうし、その方法も荒々しくなると思ったからだ」

駿河「そして彼女達の怒りを更に燃え上がらせるため、特にタブーと思われるアリナさん似たキャラクターの同人を購入して部屋に置く。」

駿河「で、案の定上手くいった。ただ、全部捨てられることは想定外だったが。」

駿河「なぜ俺がわざわざこんなことをしたのか、それは男vs女と言う構図を作り出したかったからに他ならない」

駿河「艦長の弱点は『秋津洲副艦長』だ!艦長は彼女と敵対することを何より嫌がる。技術部員全員が艦長を敵視するだけでは艦長を追い詰められない。だが、彼女は大人だ。今まで艦長の愚行をどれほど許してきたのか、想像したくもない」

駿河「しかし俺には勝算があった。協力者の存在だ」

新兎「協力者?」

霧島「………まさか」

榛名「そう。まさかのまさか」

新兎・駿河「いっ……いたんですか」

榛名「さっき来たばっかり。ま、そういうことだからごめんね霧島くん」

霧島「………ごめんねなんて思ってないでしょ」

742 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 19:08:30.55 ID:SnDPnceDO
駿河「そんな訳なんだが、協力してもらった故にこんなややこしい事に……。」

榛名「でも良かったじゃない、着地点が見つかって」

駿河「と言うわけ、わかった新兎くん?」

新兎「…………」


わかっていなかった。


敷島「と言うことは、貴様は俺達を利用して民意を誘導させていたと。」

敷島「人をおもちゃにしやがったな……」

敷島は駿河の首根っこを掴もうとしたが避けられてしまった。


駿河「こうでもしないと艦長を敵には回せない!敷島、お前はどうする」

敷島「どうするも何も、お前達との目的が違う。」

駿河「そうか、なら自分達で着地点を見つけるんだな。俺達技術部の戦いは終わった。」


こうして男vs女は、駿河の裏切りによって
女、技術部vs新兎、敷島、霧島の構図へと変貌。
完全に立場が逆転してしまっていた。

743 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 19:08:57.28 ID:SnDPnceDO

早くも食堂から追い出され、行く場所はと言えば酒の空き瓶と水着の女の子のポスターとそれから書類が溢れるそれはそれはもう汚い艦長室だけだった。


まともに座れるスペースにコスプレのような制服を着ながら、うずくまる三人の男達


惨めだった。




最早誰が悪いだとかどうしてこうなっただとか追求する気力もない。



と、ドアをコンコンと叩く音が聞こえてきた。
橘花だった。

橘花「どう?少しは自分が悪いのを自覚したかしら」

新兎「誰がだ。生活と引き換えに魂を売った奴等と一緒にするなよ」

橘花「ふーん。別にいいけど。食堂にご飯、出来てるから食べに来なさい」

新兎「誰が喰うか」

橘花「自分の立場を少しは弁えたら?万が一、出撃なんてことになったらどうするの?」

新兎「出る」

橘花「足を引っ張られても迷惑なだけだわ」

霧島「ってことですし、お相伴に預かりましょうよぉー」

敷島「そうだなぁ。じゃ、喰うか」

新兎「ちょ!プライドないんですか!!」

霧島「公私混同は嫌いなタイプでしてね」
敷島「プライドを語る資格があるのは、仕事をこなした人間だけだ」

新兎「…………」



こうして、一見幕を閉じたように思えたが、これは泥沼の序章にしかすぎなかった。




744 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 19:10:01.37 ID:SnDPnceDO
食堂。


睨まれながら三人は席につく……と、早速がっつく。のだが、どうにもおかしい。『おかず』だ


新兎「なんで、はふっ、こひつらは、はふっはふっ、鮭なのに俺達はメザシ……あつっ」

橘花「食べながら喋るんじゃないわよ汚いわね。」

橘花「自軍の兵士と捕虜を同等に扱えなんて贅沢いわないで」

新兎「ほっ……捕虜ぉ!」

橘花「言ったでしょ。自分の立場を……って!」

新兎「なら奪うまで!!!」

目にも止まらぬ早さで新兎は橘花の鮭を奪い取った。

どさくさ紛れで白鷹は敷島のメザシを奪い、当然敷島は物凄い形相で怒鳴り散らす。

霧島は特に奪取されることはなかったが何故かご飯の中には嫌いなお焦げが嫌がらせのように入っていた。

745 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 19:10:38.95 ID:SnDPnceDO
続いては風呂。


もちろん入浴は最後。その頃になるとお湯はあまり綺麗とは言えないので誰もがいち早く風呂に入りたがる。

だが、ここまでは想定済みと言えば想定済みだ。

新兎と敷島は無言のままシャンプーと書かれたポンプを押し、頭につけ、わしわしこ洗う。

洗うのだが、いつまでたっても泡がたたない


もしや、シャンプーとリンスを間違えたのかと今度はリンスと書かれたポンプを押す。

当然の如くリンスがでる。


それならばとボディソープと書かれたポンプを押す。

リンスがでる。



しまいには乗せられている台ごとひっくり返した。




746 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 19:12:21.02 ID:SnDPnceDO
…………こんなことが数日続けられた。

起床時には強制的にシャワーをくらい、鏡を見れば眉毛はつながり、食事の際にはかならずメニューに置いて差別される。風呂も相変わらず一番最後。


だがいつまでも黙っているわけにはいかない。

差別されたおかずは奪い、隙あらばスカートめくってやり、洗濯物は裏返しにしてやり、風呂だって出来るだけ汚く入る。



戦いは本当に何も生まなかった。


お互い疲れはて、涼しい顔をしているのは霧島、秋津洲に榛名。
アリナは秋津洲に保護されていたのでそうとばっちりを受けることはなかったのだが

頭は不幸にも関係が一番ないにもかかわらず一番とばっちりを受けていた。


あれだけ策略をめぐらせていた駿河をはじめとする技術部も「もういいよね」と手を引き始め

残ったのは結局、橘花に白鷹、新兎に敷島だった。


だが、一旦こうも縺れてしまうとお互い止めたいと思っていてもやめられないもので……今日も元気に嫌がらせ合戦は続いている。


747 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 19:12:52.71 ID:SnDPnceDO
毎日洗濯物を反対に脱ぐ新兎達にぶちギレ、白鷹と橘花はありったけの服をゴミ袋につめ、宇宙空間にでも放り出してやろうと息巻いていた。

勿論部屋では新兎、敷島とそれぞれ口論になり、お互いの悪口を15分ほど言い合った時である。








―――「平和な戦争中」のカスミに警報音が鳴り響いた










彼らが振り向くと同時に嫌な音が耳をつんざいた



その音はカスミの防壁を破壊してゆく。
一部の危機には支障が生じ、技術部も作業を中断せざるを得なかった。




748 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 19:17:51.31 ID:SnDPnceDO
――――――

尚もいやな音は続き、カスミを蝕んだ。


耳栓をした榛名がバカデカイ声で解説し始める。

榛名「目標の映像を出して〜!」

空間に立体的な映像が浮かび上がった

新兎「……なんじゃこら」

敷島「蹄か何かか?」

アリナ「お星さまを逆さまにしたみたいな」

橘花「………」

霧島「こりゃ前回と方向性が随分変わりましたなぁ……」


ソレは奇妙な姿をしていた。


巨大タコの様に、状況によるものではなく、単純に奇妙な姿をしていたのだ。



バカでかい声で白鷹が続けた。


白鷹「目標は防壁を徐々に破壊する解析不能の音波を出してる。米軍、それからユーロ軍が中性子砲を発射したものの効果なし。さっさと撤退しやがった。」

アリナ「うちの調査機で周辺を調査したところ、中性子を飽和する粒子が検出。これは地球で言う水の分子に近いのですが、構成が数%程異なってまして」


749 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 19:19:00.34 ID:SnDPnceDO
新兎「どう違うんだよ」

アリナ「うんと、尿と汗くらいちがう……かな」

白鷹「遺伝子に例えりゃ猿とお前くらい違うってこった」

橘花「微妙な表現はやめなさいよ。それじゃどっちがどっちなんだか分かんないじゃないの」

新兎「んだとぉコラァ!」

橘花「猿じゃない。それだけ性欲が強ければ」

新兎「だから、お前は何を求めてるんだよ!聖人君子か?ならさっさと死んであの世にでもいっちまえ!!」

橘花「別に生理的現状にまで文句はつけないけど、同僚をそう言う目で見てた挙げ句の果てに開き直って被害者騙るなんて頭おかしいんじゃない?」

新兎「だから俺はお前なんかに興味ねぇっつうの!技術部の連中に何を吹き込まれたか知らないが、俺は無罪!被害者だろ完全に」

橘花「被害者?良く言うわよ。原因はそっちでしょ。」

新兎「はぁ?どう考えても全部捨てたお前らが……」


遮るかのように霧島が艦長服のマントを翻した。


いつ見てもこの制服、中年の男がノリノリで着るような代物ではないのだが。



霧島「第一種非常体制、総員出撃準備。はい復唱どーぞ」

新兎・橘花「………第一種非常体制、総員出撃準備」

750 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 19:20:20.22 ID:SnDPnceDO

駿河「セットアップ開始!A2からB17まで拘束外せ!!」

頭「あの、それ僕のセリフ……」


技術部員一同「やるぞおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」


頭「………なんだけどな」


耳栓のせいか、いつもより全体的に声がデカイ。


アリナ「システム接続します。起動確認」

白鷹「チェック終了、第2段階へ以降。」


秋津洲「ボケボケしてないで、ヘルメット付けて搭乗して。もう着替えてる暇なんかないわよ」


敷島「了解!」

新兎・橘花「………了解」


ヘルメットを脇にかかえ、三人のパイロットは格納庫へと走り去る。

その姿を不安げに秋津洲は見つめていた。


霧島「心配ですか」

秋津洲「………また味方もなし、敵は未だ正体不明で本部は事態を甘く見てるから援護はまるで期待できない。となると私達が頼れるのは」

霧島「ファルコートとパイロットだけですね」

秋津洲「でも、肝心のパイロットがあの様子じゃあ。」

霧島「ねー」

と、霧島は秋津洲の腰に手を回そうとするものの、ピシャリとはね除けられてしまった。

秋津洲「調子に乗らないで下さい。私は公私混同が嫌いなだけですわ。」

霧島「………おっとなー」

秋津洲「でも、あの子達はそうも行かないでしょうね、若いんですし。」

霧島「ねぇ」

秋津洲「………余裕ですわね」

霧島「全然。マジで超ゲロマズですよー」

秋津洲「笑って言うことじゃないと思います」

とは言え依然として音は鳴りやまず、防壁は崩壊を続け、艦内の設備にも支障が生じる。

――かなり深刻な状態にあった。






751 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/12/03(土) 19:34:03.83 ID:SnDPnceDO
――――――

新兎は、ヘルメットを被り、ケーブルを引っ張り出して制服の襟にあるコネクターに接続する。

応急的ではあるものの、一応はこれで操縦に関しては何とかなる。

久々の出撃に不謹慎ではあるが、心が踊った。

色とりどりの光が順々に彼の網膜に飛び込んでくる。
足元の踏み込みも上々。あれだけケンカをしててもきちんと機体を仕上げているのだから感心する。


レバーを強く握り、前へ押し出す。


この瞬間が新兎はたまらなく好きだった。


霧島「ファルコート全機出撃!」

新兎「1号機」

橘花「2号機」

敷島「3号機」


新兎・橘花・敷島「出撃!」





―Wの喜劇、Mの悲劇・了―
752 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 19:35:45.12 ID:SnDPnceDO
第五話終わります。お付き合いありがとうございました
753 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 23:43:48.07 ID:zH9P/cgDO
駿河が策士過ぎるwwww
754 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/12/08(木) 02:00:24.85 ID:SWA/5kLDO
第六話
『好色・ラプソディー』
755 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/08(木) 02:01:20.66 ID:SWA/5kLDO
古来から、人には7つの大罪があるとされてきた。

貪食、強欲、怠惰、憤怒、邪淫、傲慢、羨望。




一体、それを裁き得るのは何者か、それを力を持って排除すべきは何者か―――。





756 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/12/08(木) 02:02:07.91 ID:SWA/5kLDO
宇宙空間は全てを吸収し、全てをただの闇へと変換する。

「常識的な理論」によれば、戦艦一つを危機におとしめる様な『音』を出すことはまず無理である。
が、非常識的な生き物が目の前に堂々と君臨している訳だ。どんな常識外の事が起きようともそれは1週回って常識の範疇なのかも知れない。



秋津洲「敵は」

敷島・新兎「バカでかいです」

秋津洲「………」

モニターの向こうの緊張感の無さが手にとるように伝わってきた。
757 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/08(木) 02:02:39.09 ID:SWA/5kLDO

秋津洲「向こうに聞いたのが悪かったわ。紫雲少尉、敵は?」

アリナ「現在、特段な変化はないと思われます。それから調査結果が上がってきました。」

秋津洲「それで」

榛名「敵はホントに、まるで蹄みたいよ。表面の装甲はほぼ文句なし。そこから本体に攻撃を仕掛けるんだから、剥き出しで来てくれた前回とは比べ物にならないわ」

秋津洲「状況はやっぱり芳しくないか」

と、横槍がモニターの向こうから入る。

敷島「お任せください!前回はファルコートは素人の一機のみ、しかし今回は3機とも万全であります。」

橘花「確かに、前回よりかは有利です。それに、技術部も新しい武器を開発したんですよね」

頭「宙間用W燃料搭載爆裂砲…前回、ウィッチでの自爆攻撃が相手に効果があったようなんで、色々改良して作ってみたんですが」

めっきり影の薄くなった技術部長、頭が説明を始めるが早速横槍が入った

榛名「これが凄いのよね。1から5まで強さを調整出来るって言うんだから。画期的よ。場合によってはうちのウィッチをまとめて爆発させるより凄い威力が出ちゃうんだから」

頭「…………ご説明ありがとうございます」

頭「ただ、これは使い物にはなりませんで……」

秋津洲「どうして?パワーは十分なはずですよね」

頭「たしかにパワーに関してはクリアしていますが、それだけのパワーですから、なにしろ反動が大きすぎて……」

敷島「多少の反動なら耐えて見せます!」
頭「といっても……一番下に調整して使ったとしても」

頭「パイロットの手足が吹っ飛ぶくらいなら……運がいいほうかなぁって………」

頭はポツリと呟いた。



秋津洲「……そりゃ使い物にはならないわね」

758 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/08(木) 02:03:30.55 ID:SWA/5kLDO
秋津洲「どうします霧島艦長?」

霧島「むぅ………」




霧島が真剣に考えている。


ふりをしていることは一目瞭然だった。





霧島「このまま浮かんでてもしゃーないですから、斬り込み」

秋津洲「いいんですか」

霧島「私からのお願いは2つ。死なない、無茶しない。復唱どうぞ」

新兎・橘花・敷島「死なない、無茶しない」




霧島「ん、じゃあ攻撃開始!」

新兎・橘花・敷島「了解!」






三人は闇の中にバラバラに散らばった。
美しい弧を描き、絶妙のタイミングでフォーメーションを作り出す。

と言っても、それは別に協調性の賜物でもなんでもなかった。



759 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/12/08(木) 02:04:47.57 ID:SWA/5kLDO
新兎「どけよヒステリ女!」

橘花「私が先行すべきだって、あれだけ通信で言ったでしょう?おかげでフォーメーションが狂っちゃったわ」

新兎「んなこと了承してねーし」

橘花「あなたよりあたしのほうが階級上なのよ」

新兎「死ね」

橘花「作戦中に死ねなんて良く言えるわね」

新兎「おやおや生理中ですかぁ〜?」

敷島「貴様は殺す!!殺してくれるわあああああああ!!!




敷島は宙間用長距離武器ユニシグを構えながら新兎に殺気たっぷりで殴りかかる。

しかし、パワーは有るが、繊細さに欠けるその攻撃は、スピードが取り柄の新兎機にするりと避けられてしまった。


そしてそれがフォーメーションとして成り立つのだから何と言うべきなのだろうか。

近くで見ると“化物”は更に巨大であった。
正直どこを狙ったら良いのか予想も付かない。

但し、三人のパイロットは……やはり恐怖心等と言うものは微塵も感じていなかったし、むしろ精神に置いては敵はいないように錯覚してしまう。






760 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/08(木) 02:05:46.63 ID:SWA/5kLDO
新兎はファルコートの拳へ出力を回す。と、リミッターが外れる。




稼働時間を削る結果となり、初っぱなからそれをすることは望ましくはないのだが、お構い無しだ。




そして




やたらめったらに敵の装甲へと打ち付けた。





新兎「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

顔の筋肉を最大限にひきつらせ、まるで手のつけられない子供のように何度も、何度も拳を振り上げては降り下ろした。


橘花、敷島もそれに続いた。





秋津洲「状況は!」



アリナ「三人ともめちゃくちゃな戦い方をしてます!!」


白鷹「脳波に乱れが!……というか」



秋津洲「と言うか?」




白鷹「もう一つの脳波がこう……絡み合ってるかのように」


秋津洲「……まさかそんな」



761 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/08(木) 02:06:49.08 ID:SWA/5kLDO
新兎(壊すにはまだ足りない!もっとだ!)

敷島(もっと……もっと!)

橘花(もっともっともっともっと!)


まるで力の配分など考えてなどいない。一体どうしたというのだろうか



秋津洲「ちょっと聞いてる?三人とも!」

新兎「副艦長、こわしてもこわしても、出てくるんですよ!」

秋津洲「何が!」

新兎「……ピンナップです」

霧島「こちらからは確認できない」

新兎「でも!大量に………」



762 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/08(木) 02:07:49.37 ID:SWA/5kLDO
――――――

新兎……いや、パイロット三人の目には間違いなく、女性の裸体が描かれた幾重にも連なるピンナップの壁が立ちはだかっていた。


しかもである。

どうにも、それを破壊しなければならない気がして仕方がないのである。



秋津洲「これは一体――」

霧島「橘花の時にもありましたでしょ。異常に興奮しちゃう現象が」

秋津洲「……『賢者』がそれを誘発する何らかの因子を持っている、と」

霧島「よく分かりませんけど……でも」

霧島「見る限りでは『そうさせている』ようにしか。」

秋津洲「………どうするおつもりで」



新兎達はひたすら殴り続ける。

ひたすら、ただひたすら。

そこには何の戦略もない。ただ、思うままに殴り続ける。


その度に彼らは感じていた。


白くて、灰色で、苦くて、頭が痛くなるけれど、魅惑的な、『流れ込む』何かを。


殴る度にピンナップはヒラヒラと宇宙を雪の様に舞った。
そして、それを追いかけては拾い、また殴りつける。

相手は地球を滅ぼしかねない化物で
戦況は芳しくなく
応援も期待できない

だから間違いなく、間違いなく戦っている


戦っているのだが、戦っているのだが…………




763 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/08(木) 02:08:58.98 ID:SWA/5kLDO
『賢者』と呼ばれる化け物は、まるで客がヤジを飛ばすかのように、更に大きな波動を産み出した。


アリナ「ファルコートの装甲が劣化していきます!」


モニターに危険を知らせる表示が点滅した。

白鷹「このままだと……」


霧島「………パイロットは総員退避。これは命令だ」



しかし、彼らは尚も攻撃をやめない


アリナ「聞こえてないんじゃあ……」


霧島「これは命令だ!」



珍しく霧島が声を張り上げた。

パイロット達はふと我にかえる。


目の前には中途半端に破壊された装甲に、また聞こえてくる奇妙な音。


数万もの散らばったピンナップはどこにも存在していなかった。



764 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/08(木) 02:09:36.85 ID:SWA/5kLDO
――――――

ブリッジ。

先ほどよりも更に不穏なオーラに包まれていた。

アリナ「パイロットはメディカルチェックを受けています。今のところ身体に関しては大きな問題はありませんでしたが…」

アリナの視線が下を向く。




アリナ「………その、精神面に関してはやはり異常が」


秋津洲「また?」

アリナ「ええ。三人とも興奮してます。といっても、通常の範囲を大きく超えたもので、麻薬を数本打ったかのような……異常なメンタルです。」

秋津洲「現在は」

アリナ「幸い、落ち着きを見せてます。」

秋津洲と目を合わせて話していても尚、手は忙しく動いている。

忘れがちな事だが、性格や経歴にかなりの問題を抱えているだけで基本的には『かなり』優秀な部類なのである。




765 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/08(木) 02:10:18.59 ID:SWA/5kLDO
白鷹「それから戦闘のデータを分析してみたんですが、これ。やばいんじゃねーかなって」

秋津洲「………続けて」

白鷹「色々シュミレーションしてみたんですが、パンチはもちろんのこと、ユニシグの一斉射撃は愚か、前回使えた自爆ですが、ウィッチを全て使ったにせよパワーが拡散しちゃってダメ。」

秋津洲「要は打つ手なしってこと?」

白鷹「それがあるんですよ」

秋津洲「………」

白鷹「……ただ、その『打つ手』がヤバいってだけで」

秋津洲「艦長みたいに遠回しな言い方しないで、結論を」

白鷹「宙間用W燃料爆裂砲。あれなら十分エネルギーを拡散させることなく装甲を破壊出来ます。」

白鷹が指を動かすと立体的に写し出された爆裂砲の画像がくるりと回り出した。



秋津洲「………で」

白鷹「…でって、何ですか」

秋津洲「その爆裂砲の安全な使用法は」

白鷹「知りません」

秋津洲「………えっ?」

白鷹「だから、言ったでしょう。ヤバいって。」

秋津洲「…………」



秋津洲は大きく、深く、ため息をついた。


766 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/08(木) 02:10:53.38 ID:SWA/5kLDO
―――――

一方、救護室。

薬品の臭いが充満し、規則的なリズムが響く。
先ほどまでの嫌な音は消えていた。



新兎「…………」


新兎は小汚い天井をボウッと眺めながら、先ほどまでの……
そう、あやふやな癖に忘れる事の出来ない「現実」か「幻覚」か………が頭をぐるぐる回る。

―――あれは何だったのだろうか

新兎(俺は間違いなく操縦してたし……間違いなく、アレは自分の意思だ……と思う。意識だってしっかりしてた。)

新兎(でも、今考えてみれば、まるで俺は気が違ったみたいじゃないか。)

新兎(見えないはずの物が見え、やるはずのない攻撃をやり)

新兎(ごく自然だったんだ。艦長が怒鳴るまでは……ごく自然で………)

榛名「気分はいかが?」

新兎「!」


榛名がカーテンの端を握りながらニヤニヤ立っていた。いつの間にか。

榛名「あら嫌だ。びっくりさせちゃった?」

新兎「………忍者ですか」


榛名は小さなテーブルにコトリと温かな緑茶の入ったカップを置いた。


榛名「温かいもの飲んで血流、良くした方がいいわよ」

新兎「ど…どうも……」

榛名「気持ちは落ち着いた?」

新兎「ええ……まあ」

榛名「前回はこんなこと、なかったんだけど〜……幻覚なんて。」

新兎「………はい」


おかしな間。新兎はどうにも榛名とどう会話すべきなのか……未だによく分かっていなかった。


767 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/08(木) 02:11:24.97 ID:SWA/5kLDO
榛名「そうね、私が一つ出撃に関してアドバイスさせて貰えるなら」

榛名「敵がパワーアップしたっていうのもあるけどね、パイロット自身のメンタルにも問題があったんじゃないかなってね」

新兎「………どう言う意味ですか」

榛名「一連の事件、あったでしょ。全く関係がないとは言い切れないわよ。」

新兎「…………」

榛名「今回のようなケースは極端だけどね、表面的には繕えても、結局のところパーフェクトには成り得ないわ」

榛名「敵の目的はわからないけど。一つアドバイス出来るとするなら……」

榛名「なるべく精神を平らに保つことね。まぁ、無理な話でしょうけど〜」


榛名はくすりと笑った。







768 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/08(木) 02:12:44.59 ID:SWA/5kLDO
―――――

霧島は本部から届いた、「一枚の紙」をボウっと眺めていた。

コンコン、と艦長室のドアをノックする音。

「はいどうぞ」と答える前にドアが勢い良く開いた。

霧島「なんですかー。忙しない」

秋津洲「ここにいたんですか!もう、どこに行ってしまったのかと……」

霧島「一日千秋の想いだったと」

秋津洲「冗談。艦長、報告によれば……」

霧島「ああ、聞きました聞きました。四面楚歌だよねー」

秋津洲「『ねー』じゃありませんよ!聞いたなら……」


霧島は一枚の紙をペラペラ揺らした。

秋津洲が凝視する。
そこには6文字、たった6文字がデカでかと印刷されていた。


秋津洲「………『砲撃を要請す』」
769 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/08(木) 02:15:00.02 ID:SWA/5kLDO
霧島の署名に印鑑もしくは拇印、それのみがあれば完成する形に成っていた。


秋津洲「………それ、本部からの要請書じゃ」

霧島「そ。うちの艦体についてる『アメノヲハバリ』とかゆーヤツの要請書。わざわざご丁寧にも本部から」

秋津洲「要請、したんですか」

霧島「してない。というよりする気なんて毛頭ございません」

秋津洲「………どうして!」

秋津洲はデスクを激しく叩いた。

秋津洲「もう、それしかないんですよ!我々にはそれしか手段がないって…わかってるじゃないですか!」

秋津洲「なのに何故!貴方が何を考えてるかは知りませんけど、部下をまるで噛ませ犬のように…それにここが墜ちたら!」

彼女の頭には様々な想いが交錯する。
今までのこと、これからのことを思えば普段は大方冷静な彼女も興奮せざるを得なかった。

霧島は秋津洲の頭にそっと手を置いて、下へ少しばかりの力を入れる。




――彼女は勢い良く地面にへたりこんでしまった。






770 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/08(木) 02:17:12.27 ID:SWA/5kLDO

秋津洲「…………!」

突然のこと故に言葉が出ない。



霧島「私はね、ふぶきくん。データもなく、本部も一切説明せず、説明を求めても答えない、そんな得体の知れない兵器より、彼らの方が数万倍信用できると思います」

霧島「同じリターンなら、ローリスクな方に賭けるのが人情じゃありませんかね?」

秋津洲「………」

霧島「それに切り札はお一人様一枚だけなんですよ。ねっ、ふぶきちゃん!」

秋津洲「………ではお聞きしますが」

霧島「どーぞ」

秋津洲「策はあるんですか」

霧島「もちろん。とっておきのヤツが!」

霧島が笑う。


彼がニタニタしているのはいつものことであるが、この笑みは少し違う。


それはもう、小学生のようにあどけなく、純粋な笑みだった。
771 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/12/08(木) 02:17:49.71 ID:SWA/5kLDO
――――――

一同「はああああああああああああああ!?」

オペレータ、技術部員、それからパイロット。要はこの戦艦のほぼ全てのクルーが目を丸くし、口を顎が外れるんじゃないかと思うほどに大きく開けた。

新兎「前々からイカれてるイカれてるとは思ってましたけど」

敷島「流石に本官でもちょっとその発想は……ちょっと………」

橘花「アニメの観すぎじゃないの?」

アリナ「艦長…その、副艦長のことでやっぱり……ううっ」

白鷹「自業自得だろ。散々悪行働いてたんだから。かわいそーに」

相模「俺達も流石に……その……」

金剛「……やっぱりやり過ぎちゃったか?」

加賀「謝ります。やり過ぎましたすいません」

周防「俺は謝らん。いつもいつも立場を利用して副艦長と………っ!」


霧島「いや……そんな、変なこと言った?」

秋津洲「………かなり」
772 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/08(木) 02:18:26.10 ID:SWA/5kLDO

霧島「いやね、でもね!」


遮るように、ターンと、勢い良くキーボードを押す音が聞こえた。




駿河「出来ますよ。シュミレーションしましたけど」






駿河はポツリと呟いた

一同「………へっ?」

駿河「理論上は……ですけどね、一応回路を組み直して、パーツを加工して組み立ててやれば何とか………」

新兎「ちょ……ちょっと冗談ですよね」

駿河「いいや。これなら爆裂砲の反動も受け止めきれる。現時点で寧ろこれしか………」

敷島「で、では本気でやるのでありますか!?」

霧島「本気でやるのさ。」







霧島「ファルコート、超!合!体ッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!」







一同「…………」


ビシッと、マントを揺らしながら右手の拳を振り上げる霧島の姿は小学生そのものだった。


773 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/08(木) 02:19:17.52 ID:SWA/5kLDO
霧島「冗談はさておいて」

霧島「現状、有効な手段は『合体』これのみだ。駿河くんの言う通り、爆裂砲の反動に耐えるには合体して、ダメージを分散させるしかない。」

霧島「勿論、機体の損傷は予想がつかない。が、パイロットの安全が最優先だ。」

榛名「ま、前例もあるみたいだし〜」

一同(あるんだ………前例。)

駿河「しかし、問題があります」

霧島「どうぞ駿河技術中尉」

駿河「我々には、そのノウハウがありません。音はなんとか…打ち消してはいるものの崩壊自体は止まっていませんから、時間も…………」






頭「ある。」


頭が力強く叫んだ。




全員が「居たのか」といいたげなリアクションを取るが意に介さず続けた。


頭「確かに、今の僕達にはその『技術力』がない。しかし、だ」

頭「住んでるんだ。この戦艦には」


新兎「………住んでる?」





頭「そう。『ガイア』が!!!……男だけども」




新兎「………ガイア?」

橘花「私達以外に」

敷島「い、いたのでありますか?」



霧島「まあ」

秋津洲「……ずっと」


霧島と秋津洲は、何故か遠い目をしていた。

774 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/08(木) 02:20:15.71 ID:SWA/5kLDO
アリナ「確かに、前々から変だとは思ってました。」

白鷹「『存在しえない場所』に、飛んでるんだもんなぁ、電波」

橘花「………疑問に思わなかったの」

アリナ「前の戦艦を改装したものなので、こう言ったこともあるかと思って……」

白鷹「……しかし、にわかには信じがたい話っつうか」


と、一同懐疑的ではあったのだが、ふと駿河が何かを思い出したようで、急に意気揚々と話始めた。


駿河「そう言えば、聞いた事がありますよ。ガイアの伝説」

新兎・敷島・アリナ・白鷹「ガイアのでんせつぅ?」

橘花「…………」



駿河「話によれば物凄い天才技術者なんですが物凄い変わり者……しかもガンコらしくって」

駿河「自分が気に入った職場でないと、『来ること』すらしない……当然軍では変人扱い。」

駿河「しかし、彼の技術は超一流だったので自宅で作業することが特例的に認められ、以来定年を迎えるまで家から一歩も出なかった」

橘花「なるほど。だから『ガイア』って呼ばれてたわけ。」

頭「その人は僕の師匠であり、退役軍人枠にてこの戦艦の正式なクルーなんだけど………」

頭「『老後の邪魔をするな』とか言って出てこないんですよね……一向に」

橘花「じゃあまずはその『ガイア』を引っ張り出すことから始めないと……いけないって事かしら」

新兎「俺達が乗り込むまで一体何日かかるんだか」

頭「いや、作業は5時間あれば十分だよ」
頭「ただ…引っ張り出す方がなんとかなるかどうか」


一同「…………」

一同は黙りこくってしまった。




775 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/12/08(木) 02:21:25.79 ID:SWA/5kLDO
霧島「まあ、呼んでこないことには始まりませんよねぇ」

秋津洲「ですけど、『はいそうです』って来るわけじゃないですわよ」

霧島「おやつは500円まで、何ならバナナは含まないから遠足気分で誰か」

技術部員B「………俺達は爆裂砲のメンテナンスと、部品のチェックをはじめないと」

新兎「人数が多いんだから行けば良いでしょ」

駿河「そっちこそ、なんにもする事ないんだから行けば良いでしょ」

新兎「こっちはホラ、鋭気を養わねばならんのです」

敷島「そっちが行け!俺達は戦闘の要なんだよ」

相模「ああん?技術部舐めてんのかァ??」



霧島「……ねえ」


確かに、かつて創造神『ガイア』と呼ばれた男を迎えに行けば全て済むであろう話なのである。



だが、全く持って良い予感がしないのだ。


こんな状況に置いても一つ返事で引き受けるものがいないと言うことは軍においてあるまじき事だとは思うのだが。

霧島「わかりました。後は考えますから解散。これから忙しくなるかもしれないからきちんと仮眠をとって置くように。」







776 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/08(木) 02:21:56.09 ID:SWA/5kLDO

一同は「艦長がなんとかするならなんとかなるだろう」と顔を緩ませ、ゾロゾロとブリッジを後にする。

しかし、秋津洲ただ一人は依然として厳しい表情をしていた。

秋津洲「本当にいいんですか」

霧島「何が」

秋津洲「何がじゃなくって!話が違うじゃありませんか」

霧島「予定変更しました。思ったよりも全然やる気がなかったから」

秋津洲「……また勝手に」

霧島「そう、もっとドラマチックに!劇的に!過激に!僕たちは演出しなければなりません。彼らの一世一代の大舞台を!」

大げさな言い回しをしながらクルリと回る霧島に秋津洲はやはりというか、毎度というか、呆れるしかなかった。

秋津洲「で、私は何をすれば」

霧島「あら、ふぶきちゃんからそんなこと、珍しいですね。もしかして」

秋津洲「勘違いしないでください。まだ死にたくないだけですから」

777 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/08(木) 02:22:26.38 ID:SWA/5kLDO
――――――

この状況でもなおのこと、世間で言う「冷たい戦争」は継続されていた。

新兎、橘花それから敷島、白鷹はお互い目も合わせずそれをアリナが半泣きで見ているだけと言うお決まりは変わらないまま。
と言うより、先の戦闘により更に関係が悪くなってしまったようでもあった。


橘花「今度の出撃は今回の様にならなければいいけど」

新兎「どういう意味だよ」

橘花「また突っかかる。別に誰のせいだともいってないでしょ。それとも、何かやましいことでも?」

新兎「べっつにー!第一、俺のせいじゃなかったし。相変わらず誰かが決めちまうだけで」

橘花「あのね、出撃の回数も時間も圧倒的にアンタの方が少ないわけ。わかる?」

新兎「あれ、それって大尉がお嫌いな日本古来の考えに近くないですかぁ?」

橘花「何事も一色たに考えるんじゃないわよ」

新兎「そっくりそのままお返ししてやるよ!」

アリナ「あの新兎くんも橘花さんも落ち着いてって……」

アリナ「また喧嘩を……白鷹さんと敷島さんも何とか」

敷島「このうすのろナビゲーター!」

白鷹「お前がちゃんと聞いてないのがいけないんだろ!素人!」

アリナ「………喧嘩しちゃってますね」


アリナはしょんぼりうつ向くしかできなかった


778 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/08(木) 02:23:07.38 ID:SWA/5kLDO
秋津洲「元気がいいこと。安心したわ」

一同「!」

霧島「やっほー」



一同が振り返るとそこには秋津洲と霧島が何やら台車を引っ張りながらやって来ていた。



霧島「喧嘩するほどなんちゃら。好きなんじゃないのー?」

新兎、橘花、白鷹、敷島「それはない!」

ピシャリと言い放った。


霧島「そんなに元気がいいならお願いしちゃいましょうか、ふぶきちゃん」

秋津洲「ええ。そうですわね」

新兎「………お願いって」

橘花「一体」


あんまり良い予感はしないが、秋津洲のいる出前、あまり怪訝な表情も出来なかった

779 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/08(木) 02:23:40.42 ID:SWA/5kLDO
霧島「技術部にこの部品、届けてほしいんだけどさ。私達もやることあるから」

秋津洲「5人で手分けしてもってね」

アリナ「あの、台車は……」

秋津洲「使うのよ。ごめんなさいね」

新兎、橘花、白鷹、敷島、アリナ「……………」

霧島「じゃ、エレベーターで運んでねー」

秋津洲「よろしくね」


秋津洲のいる手間、やっぱり五人は断れなかった。
お互いの顔を見合わせたあと、すぐに背を向けたことは言うまでもない。


―――面倒事を押し付けられた


そうアリナ以外は思っていた。




780 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/08(木) 02:24:11.79 ID:SWA/5kLDO
エレベーター内は沈黙に包まれる。


勿論、乗り込むまでに一悶着あったわけだが、まあなんとか無事にエレベーター内に5人、揃ったわけである。



新兎「………」

橘花「………」

アリナ「………」

白鷹「………」

敷島「…………」


居心地が悪い。



五人にとってエレベーターに乗っている間が10分位にも感じられた


その後も沈黙は続いた


アリナ「………」

白鷹「………」

敷島「………」

新兎「………」

橘花「…………」


長い。長すぎる。

アリナはふと、手元の時計をみた。


781 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/08(木) 02:27:35.09 ID:SWA/5kLDO
アリナ「……あれっ」





おかしい。時計の針が約5分ほど、左へ動いていた。

一瞬時計を疑ってみたが、これは確実である。




しかし、5分もかかるなんて………


上を見てみる






………と、全く階数が動いていなかった。




アリナ「大変です!動いてないんですよエレベーター」

新兎「まっさか!」



と、一同は階数を押してみたりだとか、ボタンで操作を試みたりだとか、色々方々を取ってはみたものの





全くもって動かなかった。ピクリとも。



新兎「………まさか」

橘花「閉じ込められたわね」


一同「……………」


白鷹「冗談じゃねー!開けろ!開けろ!」

白鷹が入口を蹴飛ばすがビクリともしないー

アリナ「落ち着いて!ここに非常用の連絡ボタンが………」

白鷹は何度もボタンを押した


50回目、いやもっと押し続けただろうか



ようやく返事が帰ってきたわけである。
782 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/08(木) 02:28:47.29 ID:SWA/5kLDO
霧島「ふわっ……おはよ…」

白鷹「………艦長!私達閉じ込められて」

霧島「あれっ、今更」

白鷹「今更って」

霧島「気付くのが遅くて寝入っちゃいました」

白鷹「……ハァ?」



愉快なBGMが流れ出した


霧島「ぱんぱかぱーん」


霧島「おめでとうございます!君たちは名誉あるパーティーのメンバーに選ばれたのであります!!」



一同「…………」

一同「パーティー?」






霧島「君たちに渡した荷物、あれにショックガンと木刀とヘルメットがあるでしょ。」




ガサゴソと荷物を探る………と物騒な品物が確かに次々と出てきた

霧島「行ってらっしゃい」


一同「行ってらっしゃいじゃなーい!!」




783 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/08(木) 02:29:30.14 ID:SWA/5kLDO
新兎「………嵌めたなオッサン!」

霧島「やだ、いやらしい」




橘花「冗談はいいですから。どういうおつもりで」


霧島「5人で頑張って協力しながら、ガイアこと赤井技術部顧問を連れてきて欲しい。丁度下に入ったとこの右側に入口があるから」

霧島「これは命令であり、訓練の一貫だ。」

一同「………訓練?」

霧島「『合体』するんだもん。息があわなきゃなりません。君たちには頑張って仲直りしてもらわないと」

一同「…………」

霧島「では、諸君の幸運を祈る!またブリッジで会おう!アデュー」

一同「ちょ………ちょっと!!」

霧島の敬礼with怪しい笑顔で非常用通信はと切れた。




勿論、その後の応答はなかった。


一同「…………」


784 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/08(木) 02:30:39.85 ID:SWA/5kLDO
しばしの沈黙の後、彼らは正面の壁を木刀、素手諸々を使って攻撃し始めた。

あるものは数々の上司を出世と引き換えに殴り倒した黄金の右ストレートで、
あるものは木刀に忠誠心を目一杯こめて、あるものは「あの人はこれさえなければ」を右足に込めて。

そしてあるものは……とりあえずショックガンを撃っては見たものの、
勿論特に何も起きず、弾数を無駄にしたとドアの変わりに全員に袋叩きにされた。


アリナ「疲れちゃうからやめましょうみんな。これ、ファルコートとおんなじ合金を使ってるから、建物の崩壊の方が先です」

新兎「じゃあ……どうするんですか少尉」

アリナ「神前くんはだまってて。」

新兎「…………」

アリナ「とりあえず、セキュリティシステムに先ほど介入を試みてみました。エレベーターも管轄内なので」

橘花「で」

アリナ「結論はご覧の通りです。失敗しました」

一同「………」

アリナ「通常であれば失敗など『あり得ないはず』なんですが、肝心のセキュリティのアクセス権限が奪われてまして」

白鷹「はあ!?アクセス権限がない!?」

橘花「………そんなこと出来るの」

アリナ「艦長、副艦長。実質的には副艦長のみです」

白鷹「んじゃあ……もしかして」

橘花「秋津洲副艦長もグルってこと」

アリナ「まあ、荷物の一件から明らかでしょうが」

新兎「あんのババア………!」

アリナ「ちなみにアクセスできないだけで止まってる訳じゃないから、多分筒抜けかもよ」

新兎「…………」

新兎は急いで自分の口を手で塞いだ。

785 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/08(木) 02:31:05.78 ID:SWA/5kLDO
橘花「物理的攻撃もだめ、システムにもアクセスできないとなると」


白鷹はバカ力で足元にあるハッチを開け始めた。敷島も加わる。

新兎「ちょっと待てよ!まさかお前ら……」

橘花「進むしか無いでしょ。」

新兎「……艦長の思うツボじゃないのか」

橘花「私達がエレベーターに乗りこんだ時点で十分に『艦長の思うツボ』じゃないの。」

白鷹・敷島「開いたぞ!」

ヒュオオオ………


嫌な音が響く。
はしごは備えつけられてはいるものの、思わず足がすくんでしまう。
わずかでも油断すれば、闇に飲み込まれかねない。

橘花「じゃあね。」

新兎「プライドは……」

白鷹「じゃあそのプライドでもってここでトイレなり、食事なりすれば?」

新兎「ちょっ……」

新兎「敷島!敷島おまえは……」

敷島「…………」


敷島はいつぞやの覇気もなくなり、ただ女子3名にまとわりつく金魚の糞に成り下がっていた。


アリナ「じゃあ私たちのこと、『草葉の影』から応援しててね」

アリナは最後に扉を閉めようとする。
が、なかなか閉まらない。
ぐい、と力を入れても閉まらない。

新兎が全力でそれを阻止していた。
786 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/08(木) 02:31:35.68 ID:SWA/5kLDO
本日はここまで。お付き合いありがとうございました
787 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/13(火) 20:57:47.46 ID:qQh+0vTDO
新兎は剣を振るいながら考えていた。

迫り来る驚異

交錯する欲望

倒錯する現実

支配する矛盾


そして


………こんなときに俺は一体何をやっとるんだろう

と。


788 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/13(火) 20:59:24.76 ID:qQh+0vTDO
――――――

掛けられたはしごを慎重に降りて行く。


霧島は「ちょっと降りたところ」などと軽く言ってくれたが、
現に目的の「場所」があるエリアは、ずっとずっと遥か下の方にあった。

手持ちには懐中電灯が一つ。

使用するか否かで大分揉めたが、結局、あまり意味がないこと、
それどころか下が見えれば恐怖心を煽るだけだという理由でほの暗い
…底もわからぬエレベーター下を延々と降り続けた。


時間の感覚はもうよくわからない。が、大分経ったような気がするころ


一番下を行っていた橘花の足が地面に触れた。



橘花「一番下よ。」

白鷹「……みたいだな。確かにここの右側に入口があるはず」


白鷹が右をみる……と、明らかに周りにそぐわない、怪しげなスペース…と言うより通路が存在していた。



アリナ「……懐中電灯、必要なかったみたいですね」


明らかにその一点のみ、蛍光灯が取り付けられ、大分明るい。


789 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/13(火) 21:00:19.66 ID:qQh+0vTDO
新兎「だけど上から光なんて確認出来ませんでしたよ」


そう。確かにこんなに明るければ、底が直ぐに分かったはずなのだが。


アリナ「光を敢えてもらさない構造になってるんだよ。上を長くしたりだとか、隙間や反射を完璧に抑えたり…とか」

アリナ「でも一人でこんなことって……」


アリナは興味深々だ。


しかし他の四人はと言えば、その空間から放たれる君の悪さにおののくばかりだった。


アリナ「とにかく進みましょう」

最年少であるアリナが一番頼もしいとは、本当に情けない連中である。

橘花「………とりあえず武器は」

新兎「おれはショックガン!」

白鷹「あたしもショックガン!」

敷島「いや俺が………」

橘花「………ショックガンは一つしかないんだけど」


790 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 21:00:51.70 ID:qQh+0vTDO

結局、ショックガンは一番戦闘力が低いであろうアリナが装備。
敷島、新兎、白鷹が木刀を持ち、橘花は丸腰。
その他情報関連はアリナと橘花、食料は白鷹。

「とりあえず」はそれなりにはなっていたものの、依然として不安は残る。


新兎「『呼びに行く』だけでどうしてこんな重装備なんだよ……」

橘花「あれから、駿河技術中尉に聞いたんだけど、その赤井って人、色々曰くがあるみたいで」

新兎「………曰く?」

橘花「その天才的センスを軍の研究より生かしたもの……それが」

新兎「………」

橘花「『悪戯』よ」

新兎「………はぁ?」
791 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 21:01:21.84 ID:qQh+0vTDO

橘花「彼は訪ねてくるもの全てにトラップを仕掛け、追い返した。でないと、在宅勤務なんて無理よ。軍では」

橘花「だから、早々油断しないほうが良いわ。」

新兎「まさか。だいたい噂なんてもんはだな、尾ひれがついて………」

アリナ「………!」

アリナは何かに気がついたのか、モニターを起動させ、キーボードをせわしなく打ち始めた。

新兎「どうしたんですかいきなり」

アリナ「………反応が」

橘花「………反応?」

792 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/13(火) 21:02:16.88 ID:qQh+0vTDO
新兎「いやでもまさか、こんな戦艦の中で大したことは」

アリナ「迫ってきます!」

新兎「どうするんだよ」

橘花「どうするも何も」

白鷹「逃げるしかないだろ!」

敵の姿はまだ見えない。
が、彼らは一目散に逃げ出した。

体育会系の敷島の足が異様に早い事はともかくとして、腕力と脚力はまた別の話なのか、橘花と白鷹は異様な遅さである。

小学生か、中学生くらいにしか見えないアリナよりも10メートルほど遅れているのは一体全体どういうことなのだろうか


橘花「持久力がないのよ」

新兎「……人事みたいに言うな」

793 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/13(火) 21:04:54.41 ID:qQh+0vTDO
白鷹「フタツキの時にはもっと走ってなかったっけ」

橘花「追いかけられるのはどうも」

新兎「……なんじゃそらぁ」

橘花「ファルコートのパイロットはある意味、正に天職かも知れないわよね」

アリナ「お喋りしてないでもっと急いで下さい!距離が……」

彼女らの異様な遅さに付き合っている内に、敵の姿がすっかり確認出来るようになった。






白鷹「ゴッ………」



アリナ「ゴキブリ?」

794 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/13(火) 21:05:35.54 ID:qQh+0vTDO
新兎「ちょっとちょっと!どういう事だよ、ありゃ」

橘花「ゴキブリなんかがどうして宇宙戦艦の中にいるのよ!」

アリナ「荷物の中に紛れ込んだか、人に卵が附着していたものが繁殖……」

敷島「ありゃ1000はいるな」


段々と走るペースは落ちて行く


橘花「いやいやそれじゃあ効かないわよ。2000か3000は……」

白鷹「待って!待って!どうしてそんなに冷静なんだよ!どうして!」

新兎「どうしてって……」

アリナ「別に火薬や放射線などの反応はないですし」

白鷹「でもっ!でもっ!あれは……」

橘花「虫でしょ」

白鷹「虫は虫でも!」

敷島「ゴキブリだろ」

白鷹「………」
795 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 21:06:07.01 ID:qQh+0vTDO

白鷹「好きにしろ!好きにしろ!私は逃げるからな!!逃げるんだからな!」

白鷹はペースアップする……もののやっぱり遅かった。

カサカサカサカサ……と悪魔の足音は段々と近づいてくる。
か細い触覚を上下左右斜め横へと器用に動かし、テッカテカの体を怪しく輝かせ、小さな足は動くというよりか「蠢く」。
それが1000も2000も3000も群れをなし

カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ。
カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ。
カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ


白鷹「いやあああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」

彼女は珍しく眼には涙を浮かばせて、全身には鳥肌を立たせ、耳を塞ぎながら逃げ惑う。

796 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 21:06:57.22 ID:qQh+0vTDO
一方、四人は冷静だった。


万が一にも口に入っては行けないと、タオルで口を覆い、その場に突っ立っていた。

案の定、ゴキブリは彼らを素通りした。

頬に触覚やら、ツルんとした感触やら、這うような感覚を覚えたものの、『気持ちが悪い』だけで死ぬわけではない。

とは言いつつも、ゴキブリが去っていった後、アリナはその場にへたりこみ、三人は呆然と立ち尽くすのみだった。


白鷹は逃げる。逃げる。逃げる。


足がもつれようが挫けようが逃げるしかなかった。

あのキモさになぶられることは、彼女にとっては死ぬより嫌で嫌で嫌なのである!

身体中にあのカサカサが、テカテかが、ピクピクでモソモソが這うことを

白鷹「来ないで……来るな!来るなぁ!」

しかしゴキブリはカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ

797 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/13(火) 21:07:29.18 ID:qQh+0vTDO
白鷹「嫌だ……嫌ぁぁぁぁぁぁぁ………」

今度はゴキブリ達も徐々にスピードを緩め、じわじわと白鷹に近づいて行く。

逃げる。逃げるが速さが上がらない。


カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ
カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ


白鷹「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


しかし、懺悔も虚しく彼らの羽音が響いた。

ババババババババババババ………
ブブブブブブブブブブブブブブ………
ブブブブブブブブブブブブブブブブブブブ!!!!!!!!!!!!


798 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 21:07:59.36 ID:qQh+0vTDO
白鷹「……ひぃっ!」


白鷹の身体にとまり、全身がゴキブリに包まれていく。
ゴキブリのスカート、ゴキブリのドレス、ゴキブリのカチューシャ。
しまいにはゴキブリのブラジャーにゴキブリのパンツ

彼女の体に蠢くゴキブリ。羽と羽が、足と足が、触覚と触覚が

カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ
カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ


―――ここで彼女の記憶は途切れた。



799 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 21:09:46.34 ID:qQh+0vTDO
アリナ「ゴキブリ、ロストしました」

橘花「白鷹は?」

アリナ「……それが。」



『クチニゴキブリ!クチニゴキブリ!クチニゴキブリ!』


『きもうま』


一同「…………」



白鷹、リタイア


800 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 21:13:04.71 ID:qQh+0vTDO
新兎「助けに行かなくていいのか」

敷島「……白鷹の犠牲は無駄にはしない」

橘花「そうね。きっと先に進むことを彼女は願っているに違いないわ」

新兎「………」


橘花「なんにせよ、相当恐ろしいトラップよ。10分もしないうちに1人失ったんだから。」

アリナ「二つの意味で斜め上から来ましたよね」


と、早速2回目のアラーム音が鳴り響く

アリナ「またもや背後から反応が!」

橘花「どうせまたゴキブリでしょ。なら走るだけ無駄よ」


アリナ「いえ……それが」

新兎「どうしたんです」

アリナ「先ほどよりかは大型のようで……」


801 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/13(火) 21:13:42.92 ID:qQh+0vTDO
裏からだんだんと、例の「反応」の源が近づいてくる。

コケーだとか、クックドゥードルドゥーとか言っているような言っていないような。
他にはワンワンだとか、キシャーだとか、バサバサだとか………


四人の顔色が変わり、彼らはほぼ反射的に、一斉にダッシュし始めた。

新兎「なんでだよ!なんで犬がこんなとこにいるんだよ!!」

橘花「なんでなのよ!なんで猫がこんなとこにいるのよ!!」

敷島「なぜだ!!何故ニワトリがこんなところにいるぅ!!」

アリナ「なんでですか!なんで蛾がこんなところにいるんですかぁ!」


そんな彼らの叫びも虚しく、犬は、猫は、ニワトリは、蛾は、彼ら目掛けて執拗に追いかけ回す。

ヨダレをたらして、髭をたて、羽をばたつかせ、粉を振り撒きながら!



802 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/13(火) 21:14:30.57 ID:qQh+0vTDO

走って走って走って走って走って走って走って走りまくった。

橘花「逃げ場!逃げ場はないの!」


アリナ「わかりません!わかりません!」

距離は縮まる一方で、もうヤバい。

どのくらいヤバいかと言えば12月の時点で偏差値35の受験生くらいにヤバい。

堕ちれば最後、白鷹の如く身体中を弄ばれるならまだいい。
最悪原型を止めない場合も覚悟しなければならない。


末恐ろしいではないか!


新兎「来るなぁ!ボケ!ハゲ!」

橘花「来ないでよ!嫌ぁ!嫌ぁ!」

敷島「来たら[ピーーー]!来たら[ピーーー]!ファッ[ピーーー]」

アリナ「もぉやだあ!やだあ!」






803 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 21:15:14.57 ID:qQh+0vTDO
そんなとき、一筋の光が差し込む!


ドアがある!ドアがあれば当然部屋がある!


新兎「とにかく逃げ込むぞ!」

橘花「退避!退避よ!」



まず一目散に新兎が駆け込み次点にアリナ、次に橘花が逃げ込み扉は閉鎖された。


ドアの向こう側からドンドンだとか、ガンガンだとか体当たりしてくれる音が聞こえてくるが、10分くらいは大丈夫だろう。

これで白鷹以外は全員揃っているわけである。

わけで………

新兎「………」

橘花「………」

アリナ「………」

新兎「あれっ」




敷島、リタイア



804 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/13(火) 21:15:42.14 ID:qQh+0vTDO
橘花「どうすんのよ……食料も救命道具もあいつらが……」

新兎「……どうしようって」

アリナ「どうしましょ」

一同「………」


相変わらずドアの向こう側から、ドンドンだとか、ガンガンだとか、ギシギシだとか
まずい音が聞こえてくる。

早く次の部屋へと逃げ込まなければと、ドアノブを掴むがビクともしない。

橘花の力で置いても、全くビクともしないのである。

805 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 21:19:53.05 ID:qQh+0vTDO
橘花「………」

新兎「…………」

アリナ「…………」


沈黙。


3人の顔色は更に青ざめていた

橘花「………」


新兎「………」


一応、何かないかと考えてみるも、まるっきり思い浮かばない。

……このまま立ち往生する時間も余裕もない。


分かっているのだが思い浮かばないんだから仕方がない


アリナ「あのお」


橘花「何か!」

新兎「思い付きましたか!」


アリナ「いえ……その、誠に言いにくいんですが」

アリナ「水、溜まってます」
806 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 21:23:34.15 ID:qQh+0vTDO
橘花・新兎「!」


確かに、いまの今まで気がつかなかった。
いつのまにか水が足下に溜まってきていた。

新兎「なんで水が!なんで!」

橘花「なんでなんでとうるさい男ね。水がどっかから流れ込んで来てるからに決まってるでしょ。」

新兎「それは分かる!俺が聞いてんのはな、」

アリナ「もしかしたら、さっきの騒ぎでパイプが損傷した恐れが……」

状況は最悪だ。


橘花「どうする」

新兎「どうするったって………」

アリナ「扉をこじあけるか、それとも裏の扉を開けちゃうか……水を止めるか」

橘花「どうしよう」

新兎「決めたがりなんだから決めろよ」

橘花「嫌よ!泳げないし、猫は嫌いだし……ドアノブだって壊しちゃったし」

ドアノブがプカプカ浮き始めていた。

新兎「なんてことしてくれたんじゃアバズレぇぇぇぇ!!」
807 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/13(火) 21:25:30.78 ID:qQh+0vTDO
橘花「SOSは!」

アリナ「ダメです!電波届きません……」

新兎「…………」

橘花「木刀じゃ、なんにも直せないものね」

橘花「終わった、終わったわ」

橘花は濡れるのもお構いなしに座り込んだ

新兎「いくら泳げなくったって立ってりゃ少しは……!」

橘花「もういいのよ。思い残すことなんかないし」

膝を抱えてうずくまる。
声のトーンが曇っていた。


アリナ「………諦めるのはまだ!」

橘花「いーのよ。どーせ化け物に勝てっこないんだから。合体とかなんなのよホント意味不明」

新兎「まあそれは」

アリナ「そうですけど」

808 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 21:26:45.63 ID:qQh+0vTDO
橘花「私は軍に入ったのはね、軍を変える為だった」

橘花「だから必死に勉強だってしたし、必死に技術だって身につけた。でも……」

橘花「その果てがこれよ。もうアホらしくってやってらんない」

新兎「でもお前は軍に残った。そうだろ」

橘花「無理なのよ。こんなところじゃ何も変わらないし変えられない」

新兎「じゃあなんで、まだここにいる」

橘花「じゃあ貴方が答えて。一体なんでここにいるのか」

新兎「それは………」



カッコイイ機体に乗れるから。




それだけではないはず。


しかし新兎は何も答えることは出来なかった。



橘花「そんなもんよ。私はただ未練がましいだけなの。」




未練がましい。


新兎もアリナも



いや、この戦艦のクルー全員がそうなのかも知れない。



何も橘花に対して言えなかったのか、言うべきでなかったのか。

新兎もアリナもよくわからなかった。


809 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/13(火) 21:27:36.17 ID:qQh+0vTDO
アリナ「弱気は禁物ですよ!」

橘花「もうどうしたらいいか考えたくもない……」



とか何とか言いつつ、いつの間にかこの女はきちんと自分の足場を確保していた。



新兎「へぇへぇ、ご自分が一番かわいいご様子で」

橘花「たまには貴方がきめなさい」

新兎「なんで」

橘花「一生受け身なんだか反抗期なんだか分かんない人生のままよ」

新兎「……関係ないだろ」

アリナ「もう、こんな時までケンカはよして!もう何だかんだで腰まで浸かって……」

アリナは下をみて驚いた。
排水のスピードが早い。

あっという間に肩まで浸かってしまっていた。


810 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 21:28:05.73 ID:qQh+0vTDO
新兎は扉を叩く。

新兎「開けて!開けろ!俺は死にたくないから!死にたくないから!」

橘花も扉を蹴る。

橘花「私だって土左衛門になりたかないわ!開けなさい!開けろ!」


なんとみっともない大人だろうか。


新兎「死にたいのはこいつだけですから!僕は全然死にたくありませんから!!」

ドンドン


橘花「私だって一言も死にたいなんて言ってないから!言ってないから!」

ガンガンガンガン

橘花「ほら、ニート予備軍は社会の為に死んだ方が良いんだから、[ピーーー]ならこいつを!」

ドンドンドンドンドンドンドンドン

新兎「老兵は去るのみ!次世代に希望を繋ぐためにこいつを殺した方が!!」


ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン

橘花「あんたの方が歳上でしょ!おらっ!」

ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン


新兎「じゃあ敬語使えよクソアマ!ビッチ!アバズレ!生理中!」

橘花「うるさいニート!童貞!性欲猿!社会のゴミ!ぼっち!二酸化炭素排出機!」


子供心に、最低だなぁ……とアリナは思った。


811 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 21:28:35.59 ID:qQh+0vTDO
やがて橘花の足場が崩れる。


橘花「も、無理ぃ……がぶっ……」

新兎「アバズレ!」

本当に泳げないようで、重石の様にズブズブと沈む。

橘花「アバ……ズレじゃっ!たすけ!」


しかし排水は機械的に続いて行く。


新兎「おい、ちょっと橘花!橘花!」

アリナ「あたしが行く!」




潜る。

訓練を受けているのか何なのだかは知らないが、スイスイスイと見事な潜水っぷりである。

新兎も続こうとするものの、何故だか浮いて行ってしまう。

ただ自分の安全を確保するしかできなかった。


812 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 21:29:04.20 ID:qQh+0vTDO
橘花を上へ運ぼうとするものの、意外と体重があるようで上手く行かない。

頼みの新兎は、もがく一方でアテにはならない。



―――絶対絶命である。




アリナは考えた。

いっそのこと、後ろのドアを開けるべきか。

しかし、ここまで水が張ってしまってはもう遅い。


じゃあ何が……何が………


橘花のもがく力が弱まる。


なんとか……なんとかしなければ………



アリナ「!」


―――彼女は気がついた



最初と、今の『違い』を。






813 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 21:29:30.16 ID:qQh+0vTDO
抱えていた橘花を一旦手放す。
沈んでゆく橘花を尻目に、アリナは向かった。


ドアへ。


彼女は試して見ようと思った。



―――イチかバチか



ドアノブが取れてしまったドアに手を掛け




……そのままスライドさせる。


が、水中なので長々力が入らない。
何度も何度も全身の力を使い、ふとした瞬間に


ガラリ。




新兎「ガフッ!」




その途端、水は勢い良く排出され、彼らも前へと押し出された。


814 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 21:29:58.42 ID:qQh+0vTDO
新兎「ごふっ!!ごぶぉ!!!」

新兎は何かを口にしようとしたらしいが、勢い良く水を飲み込んでしまった。



アリナ「開いた……」


アリナは力なく呟く。



橘花はその事には気がついていない様子で、ひたすら手足をバタつかせていた。


815 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/13(火) 21:32:17.78 ID:qQh+0vTDO
―――――

アリナ「橘花さんが何ともなくって良かったです。」

橘花「まさか、スライド式とはね。」

新兎「ドアノブなんてややこしいもんつけやがって……」

アリナ「危機管理能力の開発を受けてればどーってことありませんよ」

ちょっと気取った風に先頭に立つアリナ。


二人はなんとも言えない気分になった。


橘花「とりあえず、所持品はショックガン1つに木刀2つ」

アリナ「以上です」

新兎「………以上って、一体全体どうすんだよ」

アリナ「一度引き上げるにせよ出口がわからないことには……地図は現在地が分からないので宛にならないし」


橘花、新兎、アリナ「………」


新兎「寒い」


とりあえず、なんとかピンチを脱出できたのだが、その先に何かあるかと言えば

寒い。

確実に、着実に体温は奪われていく。

冷えた身体を引きずり、同じ風景が続く場所をひたすら歩き回るしかなかった。

816 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/13(火) 21:32:59.32 ID:qQh+0vTDO
アリナ「たしかここは以前に、格納庫の裏口として使われていたらしいね」

新兎「裏口ぃ?」

アリナ「敵が乗り込んできた際に、全滅しないよう迷路みたいな作りになってるの」

新兎「なるほど」

アリナ「分かった?」

新兎「全くわかりません」

アリナ「……簡潔にいっちゃえば、格納庫の場所は同じなんだから、上手くいけば外に出られるかも知れないよって話。」

新兎「赤井さんとやらは」

アリナ「体制を立て直してから、またアタックしなおせば。分かった?」

新兎「はあ………」

アリナ「わかってないんだね……」


817 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 21:33:30.79 ID:qQh+0vTDO

橘花「そんなことは良いとして」


橘花「さっそくお出迎えよ」


三人の目の前には小型ロボットが1、2、3…とにかく多数。


アリナ「生きてたんですねぇ、セキュリティシステムも」


とりあえずショックガンを撃ってみる。が、全く効果が無いようだった。

アリナ「どうしましょ」

橘花「どうしましょもなにも」

新兎「どうにかするしか」

橘花・新兎「ないっちゅうの!!!!」


橘花と新兎は木刀を振り上げ、右端を狙い、降り下ろした。


818 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 21:36:37.40 ID:qQh+0vTDO
新兎「ヤツは体温で認識しているはず!それをぶち壊せば………」


アリナ「なるほど!敵は撹乱する……と」
アリナ「しかし橘花さんはともかくとして、神前くんはよく覚えてたよねぇ」

新兎「親父が話してたんですよ。諜報部の人間が潜入の際、一時的に体温を下げる薬を注射するって、さ!」

そう言いながら新兎の木刀は不器用ながらも目標を捉えて行く

一応、剣道の心得はあったようだった。





アリナ「はあ……やっぱりお父様は立派だね」

新兎「何で俺じゃなくて親父を誉めるんですか……」

橘花「ムダ口はおしまいよ!」

橘花「私達が壊したロボットに接続。そこからセキュリティシステムに入り込めるかもしれない!」

橘花「システムを掌握すればこっちのもんよ!」

アリナ「りょ、りょうかい!!」

アリナ「NC接続!フェイズシステム起動。MPL展開……」

橘花・新兎「ぬあああああああああああああああああああ!!!!!!」


流石と言うべきか。

お互い張り合いながらも確実に壊して行く。


正直、寒くて寒くて仕方がないが、この際どうだっていい。


―――ちょっと楽しくなってきたから。




819 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/13(火) 21:37:06.24 ID:qQh+0vTDO
アリナ「接続終了。18番から19番にアタック開始!」

アリナはなんだか良くわからない文字の羅列を一瞬で読み取り、尋常でない速さにてタイピングする。

アリナ「3、2、1……侵入成功」

アリナ「丁度良いときに暴れないで!」

たまにロボットが暴れるのだが、蹴飛ばせば大人しくなる。


新兎「これで!」

橘花「最後おおおおおおお!!!!」

アリナ「パスワード解析完了!」

ちょっと楽しくなってきて、ちょっと調子に乗り出したころ。



――あの音が、声が聞こえてきた。


ニャーニャー、ワンワン、ヒラヒラ
ニャーニャー、ヒラヒラ、ワンワン
ワンワン、ニャーニャー、ヒラヒラ



そう、あの………


答えを弾き出す前に、反射的に彼らはロボットを突っ切って逃げ出した。



橘花「なんなのよ!なんなのよ!」


途端に、機能停止していたはずのロボットが、三人を追いかけはじめる。


結局、犬、猫、蛾、それからセキュリティロボットに追いかけ回される結果になってしまった。

820 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 21:37:42.06 ID:qQh+0vTDO

アリナ「戻ってきましたよ!」

橘花「で、どうだったの」

アリナ「ろくな物がありませんでした!ダミーでしたよ!」

橘花「まんまと時間をロスさせられたってことね……」

新兎「もう嫌だ!もう嫌だ!こんな職場やめてやる!!!!」


セキュリティロボットは先ほどまでほぼ無害だったものの、今度は足元を狙って何やら撃ちつけてくる


新兎「なんじゃありゃ!……実弾じゃあ」

橘花「ショックガンみたいなものよ!傷なんかは残らないけど」

アリナ「当たったらめちゃめちゃ痛いんだよぉ!!!」



逃げる。逃げる。逃げる。逃げる。逃げる。


次第に早々にリタイアした白鷹や敷島が羨ましくさえ思えてきてしまう。




821 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 21:38:08.56 ID:qQh+0vTDO
橘花「二手に別れましょう!」




右の道に橘花、左の道にアリナと新兎。




二手に別れれば少しは……




なんて読みは甘かった。


全ての動物やら虫やら、ロボットやらは迷うことなく右へ右へと向かって行った。


アリナ「あっ……」

新兎「あれっ………」


橘花「いやあああああああああ!やだ!やだああああ!!!!」


橘花「来ないで………来ないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」





叫び声だけが虚しく響き渡った。




アリナ「ああ……」

新兎「あーあー………」



橘花、リタイア。



822 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/13(火) 21:40:23.82 ID:qQh+0vTDO
遂に新兎とアリナ、二人だけになってしまった。
もっとも心配な二人が最後に残ってしまうと言う、一番アレなパターンである。


アリナは体力において、新兎は全てに置いて不安要素が満載だ。


――新兎は本気で霧島を恨んだ。


第一、今回の騒動の発端は霧島だった訳だ。おまけに良く分からない理由でこんな悪趣味な迷宮に強制的に送り込まれる始末。
駿河の思惑とは裏腹に、あれから特に秋津洲とは何も無かった様子であったし、勿論彼からなんの賠償もなされておらず

百害あってなんとやら。

この戦艦が避けられてきた理由が霧島の性格故なのだと思えば、“激しく”納得行くではないか。


アリナ「悪い人じゃないんだけどね」

とアリナは苦笑いした。


新兎「……本当の悪人はそりゃ、明らかには『悪い人』ではないでしょう」

アリナ「まあね。神前くんがそう思うのも仕方がないかも知れないけど」

823 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 21:40:56.41 ID:qQh+0vTDO
アリナ「そりゃ艦長は、女グセは悪いし、酒癖も悪いし、ずるいし、何考えてるんだか全然わかんないし、ギャンブル大好きだし」

アリナ「それからなんか臭いし、痔持ちだし、それから机は片付けないし、服装はだらしないし、平気で人のことを利用するし」

新兎「……ただの悪口大会になってません?」

アリナ「だけどね、私達を裏切ったことは一度もないの。そりゃあ、確かにみんなどうしても『艦長が嫌で』やめてっちゃうけど……悪い人じゃないの。ただこう…『器用な不器用』ってだけで。」


アリナ「私ね、神前くんと艦長、ちょっと似てると思うの」

新兎「ええー………」

アリナ「そんなあからさまに嫌そうな顔をしないでよ」




824 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 21:42:35.96 ID:qQh+0vTDO
追っ手の気配はもうない。
そのせいか、どうにも緊張感がなくなってしまった。


と、アリナがふと立ち止まる。


アリナ「!」

新兎「どうしました突然」

アリナ「………やっぱりおんなじとこをグルグル回ってるなって。」

新兎「まさか。だって分岐してた所から来たんだから、何処かに出口が……」

アリナ「あるはずなんだけどね、さっき確かに私はここの壁と壁の境目に位置メモリが残ってたのよ。」

新兎「へぇ」

アリナ「で、そのメモリ番号が一致してるの。ちなみにこのNCは今、スタンドアローン状態だから外部からの干渉は考えられない。」

新兎「ってことは………」

アリナ「私達はまた閉じ込められたってこと……かも」

新兎「…………」


新兎は顔面ブルーハワイ。

頭の中が真っ白、真っ白、真っ白でもう、ひたすら真っ白だった。

825 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/13(火) 22:03:29.32 ID:qQh+0vTDO
アリナ「でも、まだ時間もあることだしゆっくり探して……」

新兎「ダメです!!!!!!!!」

アリナ「………どうして」

新兎「それは………」


言えなかった。漏れそうだなんて。

しかも小ならまだ誤魔化せる。



しかし、よりによって大である。


21にもなる大の男が大を漏らしそうなのである。

21にもなる大の男が、子供の前で大を漏らしそうなのである。



何でもない風を装うが、確実に、確実に肛門は緩まっている。確実に、だ。


新兎「その……ほら、一刻も早く三人を回収しませんと、ほら、その………」


アリナ「それもそうだよね」

アリナ「神前くん……偉い。ちょっと見直しちゃった」

新兎「いや、ええあの、まあ…………」


この男の頭にあるものは、実際『大きい方』のことだけだった

826 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/13(火) 22:32:54.92 ID:qQh+0vTDO
アリナ「とりあえず参考になるかはわからないけど、データね」

アリナ「壁の境目が29本に、距離が全部で345メートル。それから蛍光灯も29。ただし感覚は壁の境目と微妙にずれてる」

アリナ「あとは……所要時間だけどあんまり参考にはならなそうだね」

アリナ「さあ、神前くん」

新兎「さ……さあって聞かれましてもぉ………」

肛門を閉めては緩め、閉めては緩め、『絶対に漏らさないぞ』と意思を固く持ち、ただそれだけに集中していたかったのだが。

しかし、なんとなく………
ひっかかるようなひっかからないような。

827 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 22:35:10.59 ID:qQh+0vTDO
アリナ「ちなみに境目の間隔が同一じゃなかったりするんですよね。短かったり…ちょっと長かったり」

新兎「29、345、短かったり、ちょっと長かったり……」


出口がない。


29

345


新兎はなんとなく聞き覚えがあるような気がしてきた

たしか、機械好きの級友がなんとなくそんなようなキーワードを……


あと少しで出そうなのだ。

答えも、大きい方も。

828 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 22:39:05.50 ID:qQh+0vTDO
級友との会話を思い出す。



級友「それがすごいんだよ、なんたって200年越えてるんだからなぁ」

級友「34.5qの旅はロマンだぞ。まあ、10年くらい前からパス買わないと一周出来なくなったがな」

級友「29、黄金比だよなぁ。これ以上あってもなくてもいけない!」


あと少し……あと………


新兎「!」
829 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 22:41:09.34 ID:qQh+0vTDO
新兎「少尉、どこが一番距離が長くて、短いのか教えてください」

アリナ「えっと、この地点メモリのある境目から、半時計回りに数えて……1個目の境目の間が一番距離が長くて」

アリナ「11個目から12個目の間が一番距離が短かったかも………」

新兎の予想は、確信に変わった。

短い区間もあり、長い区間もあり、345、29。そして何より彼らは一周している。


そう。例の『アレ』だ。


新兎「ここの位置メモリがある境目が起点と考えれば」

新兎「内回りとしたときに、一番長いのが丁度『品川〜田町』にあたり、一番短いのが『日暮里〜西日暮里』にあたる」


新兎「全長が34.5km。駅数が29駅と言えば………」

アリナ「旧山手線、かぁ!」


彼女は実際に乗ったことは無かったものの、度々技術部や霧島の会話に登場していたのでかすかに記憶にのこっていた。


珍しく、新兎(にして)は冴え渡っていた。
人間、追い詰められると何とかなるものらしい。

が、その一方で本当に、本当に漏れかけていた。大きい方が。


830 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/13(火) 22:45:26.55 ID:qQh+0vTDO
アリナ「でも良くわかったね!私なんて全然……」

新兎「まあ……で、問題はここからなんですけどね」

アリナ「問題って」

新兎「それが分かった所で何なんだってことなんですよ」

アリナ「まあ……そりゃそうだよね……」

新兎「問題としてはです。出口が見つからないことで……」

アリナ「山手線って一周してるからねぇ、うーん………」


悩む。


山手線に関して何か無いか何か無いかと必死に考えを巡らせる。


しかし思いつかなかった。


新兎の肛門は悲鳴を上げる。


………もうダメだ


漏れる!
831 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/13(火) 22:46:16.36 ID:qQh+0vTDO

そう思った瞬間




「だから貴様は馬鹿だと言うのだ」





………裏から、第三者の声が聞こえてきた

新兎・アリナ「えっ」


橘花は先ほどリタイアしたはず。白鷹も、敷島も……じゃあ!


二人が振り向くとそこには……


木刀を構えた、やけにマッチョで妙に整った顔が特徴の
見た目は外人、心はステレオタイプな日本人。

敷島が立っていた。


832 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 22:46:47.44 ID:qQh+0vTDO
アリナ「敷島さん!」

新兎「どうしてここにお前が……」

敷島「体よく逃げてきた。俺の脚力を舐めるなよ。」

確かにこいつは運動バカであった。
あの時点で一番後ろを走って居たのは橘花の身代わりになる為であって、白鷹の様に持久力がなかったわけではないのだ。



敷島は木刀の先を新兎に向ける


敷島「貴様ぁ、良くも閉め出してくれたなぁ?」

新兎「そ……そんなことよりお前はなんでここに来れたんで……」

敷島「あのまま真っ直ぐ走っていたらな、ここに辿り着いた。ニワトリは撒けたが、出られなくなった。」

アリナ「……逃げ込まなかったほうがお得だったんですかね」

新兎「……そうみたいっすね」


833 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 22:47:26.95 ID:qQh+0vTDO
敷島「それより閣下はどうしたああああああああああああ!!!!!」


アリナ・新兎「…………」


敷島「なぜ黙る!なぜ黙る!」


834 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 22:47:57.92 ID:qQh+0vTDO
――――――

敷島はすっかり意気消沈していた。
一通り新兎に罵倒は浴びせたものの、何の解決にもならないことに気がついていた。

新兎「で、山手線の何がどうだって」

敷島「しらん」

新兎「教えろよ!でないと……」


―――大きい方が漏れる。


敷島「もう、閣下がいないんじゃどうだって……」

敷島「死ぬ」

新兎「はあ?」

敷島「閣下と同じ場所で本官は死ぬから」

ついには寝転んでしまった。


新兎「死ぬなら何か役に立ってから[ピーーー]!」

敷島「貴様に命令される筋合いはない!」

新兎「こんなとこにそんなこと言ってる場合かああん?」

敷島「やるかコラ」

新兎「上等だコラ」

掴みあう二人。
バカにバカを掛けても、やっぱりバカだった。

835 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/13(火) 22:49:21.75 ID:qQh+0vTDO

アリナ「お願いです敷島さん。出口が見つかれば、もしかしたら橘花さんも、救出出来るかも知れませんし……」

敷島「はっ、少尉のご命令とあらば!」

アリナ「命令ってわけじゃあ……」

新兎「権力主義者め……」


敷島「まず、山手線の基本として、正確には『一周していない』ことをご存知いただきたく」

新兎・アリナ「一周……してない?山手線が!?」
836 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/13(火) 22:53:28.29 ID:qQh+0vTDO

新兎「デマ言うな、デマ!」

敷島「貴様には聞いていないし言っていない!!」

アリナ「続けて下さい」

敷島「田端〜東京駅間は『東北線』の、東京駅〜品川駅間は『東海道線』の区間とされている訳であります。」

アリナ「と言うことは…正確には品川〜田端間を山手線と」

新兎「じゃあ、山手線は3つの区間に分けられている訳か。」


敷島「で、出口でありますが、我々は今、ちょうど山手線に見立てられた迷路に迷い込んでいるわけで。」

アリナ「そうか、山手線であって山手線でない駅。山手線であるのに『最も』山手線から遠い存在の駅、それが……」





アリナ・新兎・敷島「『東京駅』!」



アリナ「敷島さん流石です!」

敷島「まあ愛国者なら当然の知識であります」

新兎「鉄ヲタの間違いじゃなくてかぁ?」

敷島「やるかコラ」

新兎「ヲタクがうつるから触んなよ」

アリナ「もうっ!」


全てが台無しである
837 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/13(火) 22:54:36.09 ID:qQh+0vTDO
東京駅に当たる、壁の境目のある場所へと急ぐ。


早速壁の境目を蹴飛ばして見たり、色々してみるも、一行に何も起きないし、見当たらない。


新兎「オイコラ、なんにも起きねぇぞ鉄ヲタ!」

敷島「ああん?じゃあ、テメェが何か考えろやぁ!!」


イラつきがMAXに達していた二人はすぐに掴みあった。

二人を尻目にアリナは再び考え出した。

アリナ(……こんな仕掛け、作るくらいだから相当意地悪なひと。)

アリナ(『東京駅』なんて、一周してないことを知らなくても、出てきそうな答えでもあるし………)

アリナ「敷島さん!他には何か!」

敷島「はっ、他には、踏切が一つだけあるだとか、原宿には宮廷ホームがあるだとか、赤羽まで通っていただとか」


アリナ「他には」

敷島「あとは、幻の新橋駅だとかぁ、品川の立ち食い蕎麦屋は美味しいとか」

アリナ「他には!」

敷島「あとは、品川駅は港区にあるとか、目黒駅は品川にあるとか……」

アリナ「それだ!!」

敷島・新兎「……へっ」

838 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/13(火) 22:56:51.11 ID:qQh+0vTDO
アリナ「もしかしたら、だけど。起点である位置メモリがある場所を目黒駅と見立てる、と……おのずと3つ、ずれていくわけです。」

新兎「……じゃあ」

アリナ「ここから3つ先の境目が正解……かも」


3つほど先に進む。


敷島「しかし、そんなまさか」

アリナ「試せるものは試さなきゃ」

再度、何かないかと探って見たり、蹴ったりしてみる。


……と


アリナ「ありました!何やらデータみたいのが」


目には見えないが、そこだけ、何かが走っていたらしい。

アリナは素早くNCを起動、展開させた。

アリナ「どうやら、ここのセキュリティシステムのホールみたいです。ここから侵入すれば、システムを掌握。出口が開くかも知れませんよ!」

新兎「早く!早く!」

飛びはねながら新兎は耐えていた。
もう何もかもが限界だった。何もかも。



839 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/13(火) 22:57:23.92 ID:qQh+0vTDO
―――しかし、これを作った人間はアリナ曰く『相当意地悪なひと』



彼女がハックを始めた直後に、例の



あの………


あの、末恐ろしい『声』が迫ってくる。


「ハイジョ、ハイジョ、ハイジョ」

ワンワン、コケコッコー、バサバサバサバサ………


どこかは分からない、が

どこからか犬が、ニワトリが、蛾が、この山手線迷宮に侵入したと言うべきか、迷い込んだと言うべきか


そんなのは最早新兎はどうだっていい。



一番恐ろしい『現実』が来ちゃうと言うか、出ちゃうと言うか


新兎「まだ、まだかぁ!!」


アリナ「やってる!やってるけど、私一人じゃ……とても処理が……」


新兎「ダメぇ!いやぁ!ふええ!!」


肛門を引き締める間隔がドンドン縮んで行く。ヤヴァい。
840 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/13(火) 22:57:55.90 ID:qQh+0vTDO

新兎「んああああっ……

敷島「情けない声を出すな!ほれ、さっさとお前も木刀を持て!!」

新兎「無理!無理!今、下手に動いたらヤバいんだからぁ!」

新兎「少尉早く!早くぅぅぅ!」


アリナ「ダメ!やっぱりあたしだけじゃとても突破なんて………」



アリナは半泣き、新兎も半泣き。



全てを諦めたその時、アリナのNCが急に軽くなり始めた。



アリナ「……通信速度が上がった!」


アリナ「誰が………」




個別コードを参照する。


J・KIKKA

A・SHIRATAKA



アリナ「白鷹さん、橘花さん………」


敷島「閣下ぁ!ご無事だったのでありますなぁ!!!」


新兎「もう何でも良いから早く………」


相変わらず、メンタルもフィジカルも空気が読めない男である。

841 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 22:58:32.75 ID:qQh+0vTDO

アリナ「私、本気で行かせていただきます!」


アリナは、おしゃれに結んだリボンをほどき、髪の毛をひとつに束ねる


息を目一杯吸い込んだ後、もの凄い速さで画面を展開してゆく。


MPLシステムを最大限利用したタイピング。

それが、手ではなく、頭のイメージだけで行う……正にこれのことである。


当然無駄な動きは省かれるので、処理は断然はやくはなるが、脳への負担は免れない。

842 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 22:59:22.62 ID:qQh+0vTDO
アリナ「セキュリティシステム掌握。ゲートオープンします。」

アリナ「二人とも、急いで!」


新兎はへっぴり腰ながらもどうにか走る

………が、敷島はその場を頑として動こうとはしなかった。


アリナ「敷島さんも……」


敷島「ここで誰かが食い止めねばなりません」

アリナ「……敷島さん?」

敷島「少尉はそのまま先へ。それから神前!」

新兎「………なんだよぉ」


いかにも情けない表情で応える。


敷島「お前が少尉を守ってやれ」

敷島「うおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

そう言い残すと、敷島は追手の中へと駆けていった。


アリナ「敷島さん!」


新兎「いくなら黙っていけよ……話掛けんなよなぁ………」


アリナ「神前くん………」



この男はどこまでダメなのだろうか。




843 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/13(火) 22:59:51.49 ID:qQh+0vTDO
―――――――

先に進むなり、だんだんと道が狭くなっていった。

突き当たり、何か小さな扉の様なものがある。
とりあえず、パスワードはついていたもののアリナがいれば、そう面倒な代物ではない。


扉を開く


と、そこには―――





巨大なスペースが下へ下へと広がっていた。


降りることが出来る様に、はしごも掛けられていた。



が………問題は『その場所』が格納庫でもなく、かと言って居住スペースと言うわけでもなく、ただ『大きな何か』がドンと居座っているのみ。

とは言え、後戻りは出来ない。


梯子を伝って慎重に降りていくしか道はなかった。



844 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/13(火) 23:00:20.40 ID:qQh+0vTDO
アリナ「大きい……」



間近で見ると更に大きい。

先代から数えて、彼女はずっとカスミと共に人生を歩んでいた。

しかし、こんな場所は始めてやって来た。

何の説明もなく、ただそこにあるのみ………

一方の新兎も口をアングリと開けたまま動かなかった。


「びっくりしたかね」


アリナは驚いて振り返る。


と、そこには60を過ぎた老人が実に楽しそうに座っていた。いつの間に。


845 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/13(火) 23:00:52.23 ID:qQh+0vTDO
アリナ「あなたは……」

赤井「“例の”赤井だよ。霧島艦長から色々聞いてるだろう?」

アリナ「ええ……」


アリナは驚いた。
もっとヘンテコなオジサンをおもい浮かべていたのだが
実際の赤井は、小綺麗な紳士だった。

赤井「『イメージと違う』なんて事は良く言われる。いや、寧ろそう言われたくてこんな生活をしているのかね」


アリナ「あの!もしかして、あの仕掛けは………」

赤井「元々あったものを改良しただけだよ。『改悪』と言うべきかな?」

赤井「人避けを作るのが好きでね。だがご近所のあることだから爆発なんかはさせられない。だから私は徹底的に訪れる人間のデータを調べた」

アリナ「苦手なものを送り込むことで追い返そうと」

赤井「そう。だからね、犬もネコもニワトリも蛾もみんなカラクリだよ。ただのオモチャに過ぎん」

新兎「じゃあ、あのゴキブリも」

赤井「アレは本物」


新兎・アリナ「げええ………」


846 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/13(火) 23:01:32.26 ID:qQh+0vTDO
赤井はポケットから櫛を取り出し、髪をとかしはじめた。


赤井「しかし、今回の目的は人避けじゃない。君たちに社会性を持たせることだ。」

新兎「社会性……ねぇ」

赤井「社会性のない人間が発注して、社会性のない人間が作ったんだからまあ、あんまり社会性は身に付かないとは思うがね」

ホッホッホッ、と楽しげに笑う。

赤井「すでに三名に関しては回収中だよ。心配は要らない。」

アリナ「あの、赤井顧問。その……ファルコートの件なんですが」

赤井「電話一本で了承済みだよ。わざわざこんな事をしなくったって、雇われとるんだから」

新兎「………完全に無駄足じゃねえか」


赤井「じゃあ帰るかね」

アリナ・新兎「どっ……どうやって………」

あの道を引き返すのかと思うと、気をうしないそうになる。


赤井「まさか。この先をちょっと昇ればつくよ。行こうか」

アリナ・新兎「?」

847 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/13(火) 23:01:59.75 ID:qQh+0vTDO
―――――

微妙にキツい坂。

足腰に来るが、あの道を引き返すよりかは幾分か、いや数百倍もマシかもしれない。

アリナ「ねえ、神前くん」

新兎「なんです」

アリナ「さっきまで慌ててたけど、もういいの」

新兎「えっ、ああ、もういいっていうか………」

新兎「終わったっていうか………」

しどろもどろに、目を泳がせながら答えた

アリナ「赤井顧問、最後に」

赤井「何かね」

アリナ「下にあった……あのおっきいのって………」

赤井「ああ、あれは………」

赤井「開けてびっくり玉手箱。開けない方が身のためだよ」

アリナ「…………」

赤井「さて、着いた」


人がやっと一人通れる程度の入口がある。

蓋を外すと、目の前にはゴミ山が広がる。


―――見覚えがある



赤井「やあ。連れてきたよ。二人だけだが。」

霧島「上出来でしたよ。一人でもたどり着ければ全員クリアみたいなもんですからね」


ヘラヘラ笑いながら出迎える


霧島真之、その男だった。


848 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 23:04:24.52 ID:qQh+0vTDO

アリナ「じゃあここって………」


新兎「艦長室に繋がってたって………」


ゴキブリの件に関しても納得が行った二人だった。


霧島「ぱんぱかぱーん!正解」

霧島「なお一部始終は記念にビデオ撮影を………」

新兎「霧島艦長、俺はアンタに言いたい事が山ほど………」

霧島「おっきいほう〜♪おっきいほう〜♪」

新兎「!」

霧島「にーとくんが〜♪」

新兎「どぅわあああああああああああああああああ!!!!」

霧島「まっ、赤井さんも来てくれた訳だし、これで安心して出撃できるね!に・い・と・くん」

新兎(このドグサレ中年………ッ!)



こうして、 無事二人は脱出、残りは救出される運びとなったが、これで終わりではなかった。

そう、これは単なる準備の準備にしか過ぎない。

そう思うと、新兎はパンツをトイレで洗いながらげっそりしていた
849 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/13(火) 23:04:51.24 ID:qQh+0vTDO
作業はもの凄いペースで進められた。
予想では75時間掛かるとされた作業もわずか半日で終了。
技術部の統制も見事で完全に頭の立場は無くなっていた。


そんな様子を上から眺める秋津洲と霧島。
霧島は楽しそうに、秋津洲は不安そうに、それぞれの思いが交錯していた。


秋津洲「あの子達、艦長を恨んでましたよ」

霧島「そりゃ良かったです。仲良くなるにはまず共通の敵から。週間少年ジャンプの鉄則ですからねぇ」

秋津洲「そのうち、人望がなくなりますわよ」

霧島「あったらこんなとこいないってぇ」

秋津洲「それもそうですね」


秋津洲はくすりと笑った。


850 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/13(火) 23:05:36.89 ID:qQh+0vTDO
本日はここまで。次回で6話終了予定
851 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/17(土) 08:10:34.82 ID:BtIO1aEDO
ブリッジ。

霧島は座りながら、顔の前で手を組んでいた。若干マントが邪魔だが気にしない。

この男は風格だけは一流だなぁと、つくづく秋津洲はじめ、クルー一同は感じていた。

相変わらず化け物は『見えない爆撃』を続けているようで、戦艦の崩壊は着実に進行している。
あちこちから水やらガスやら吹き出し、アラームが常になり響く。
技術部はファルコートの整備に施設の修理にてんてこ舞いだった。

852 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/17(土) 08:11:01.34 ID:BtIO1aEDO
アリナ「防壁損傷60%!」

白鷹「そろそろマズイですよ」

秋津洲「………機体の準備は」

頭「出来て………」

赤井「出来ているよ。あとはパイロット次第かね」

頭「…………」


パイロットスーツに身を包んだ三人は口をアングリと開けた。

新兎「…………」

橘花「…………」

敷島「…………」




853 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/17(土) 08:11:29.75 ID:BtIO1aEDO
いかにもな継ぎはぎ感、寸胴、付属品のミスマッチ感。



思っていたよりも遥かに、ダサい。



急に拵えたものであるからして、そんな贅沢をいうつもりはないが、それを考慮してもダサい。死ぬほどダサい。


新兎「どこをどういじったら、こうなるんだよ……」

橘花「まるで茶釜とバッタを足して二で割ったような」

敷島「……てっきりゴミかと」


とりあえずダサい。

夢にまでみた宇宙世紀に置いておや、何故こんな常人の理解の上限を遥かに超越するダサさ。

これがロボットアニメか何かであれば、たぶん画面の隅っこに映れば万々歳な立ち位置で、
宇宙戦争に駆り出されることもなく、ただ置物同然の状態でお陀仏する様な……

それならまだマシな方かも知れない。もしかしたら産業廃棄物と見間違われ知らず知らずのうちに廃棄されているかも知れない。

そんなものが、『切札』なのだから嫌になってしまう。


……仕方がない。ここまで来たら乗るしかないのだ。


霧島「準備はよろしくって?」


新兎・橘花・敷島『………はい』


854 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/17(土) 08:29:55.75 ID:BtIO1aEDO
新兎はハッチを開ける。

コックピットは概ね、いつものそれとは違いない
比較的シンプルなレバーに操作盤、モニターそれからランプ。
人間の「神経」と生体認識チップを利用して接続、それから学習機能に、ナビゲーターもついているわけで
昔の戦闘機や戦車より、やってることは大掛かりではあるのだが、格段に操作はしやすくなっている。
また、システムだよりにすることで一人が一度に数機同時に操縦したりだとか、もしくはMPL神経システム、いわゆるシャダイシステムとよばれるそれを
全面的に導入するという動きが軍部にある。
のだが、前者はすでに試験導入されてはいるものの、やはりコストがかなり掛かる。その上リスクも決して小さくはない。
後者は開発段階であるが、前者以上にコストが掛かるので量産化までには程遠い。
また多少ではあるが反対意見もある。

戦闘機の開発はいわば頭うちの状態ではあるのだが、
霧島のとりあえずその斜め上というか、下の発想に
それを実現する赤井の無駄な技術力の高さには感心するしかない。
新兎は当初はふかふかだった――
そのシートに腰かける。

特に部品が多くなっていたり、操作が複雑化されているという訳ではない
ただし、「使用する部分」に限って言えば大幅に単純化されていた。

855 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/17(土) 08:34:20.45 ID:BtIO1aEDO
相変わらず、この空気に新兎は慣れないままでいた。

いつもはちゃらんぽらんで緊張感に欠ける職場。
だが、やはりというべきか当たり前というべきか、ここまでくれば心臓の鼓動は急激に速まる。

その落差がどうにもこうにも、(勿論悪い方向で)たまらない。
856 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/17(土) 08:40:50.21 ID:BtIO1aEDO
切り替えの出来ない人間と言われればそこまでなのかもしれない。
カスミのクルー達はこんな状況にあっても、少しは真面目にはなるが、基本的には変わらない。

彼らが愚かだからなのか、それとも彼らなりにパイロットを気遣っているのか。

新兎にはその辺のところはいまいち良くわからなかったものの、
ただ、思ったよりもここの生活が続いた事は事実だし、以前に感じていた居心地の悪さだとか
自分に、周囲に感じる閉塞感の類いはない。

士官学校にいたときに比べれば、相当短い。のだが、明らかに当たり前になっていたのだし

新兎にとっての「日常」だった。

857 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/17(土) 08:50:30.64 ID:BtIO1aEDO

霧島「ファルコートスーパー超起動合体爆裂砲専用ver.フルアーマー装備、発進準備!」


名前だけは立派なものである。



アリナ「MPL、正常に稼働。機体に異常ありません」

白鷹「ファル超、拘束解除!」


霧島「…ファル…超?」

白鷹「そう。長いから略してファル超。」

霧島「…そんなわざわざシベ超みたいに略さなくったって」


榛名「さっさと起動させろや!トロいんだよカマ野郎」

技術部一同「ファル超、起動おおおおおおおおおおおおおお!!!!!」


例のごとく、技術部が総力を上げて拘束を外す。

技術部一同「動いたあ!!」

赤井「……まさか動くとは」

技術部一同「………えっ」

白鷹「ファル超射出準備完了!」


霧島「ファルコートスーパー超起動合体爆裂砲専用ver.フルアーマー装備、発進!」


新兎・橘花・敷島「ファル超、発進します!!」


霧島「………」

858 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/17(土) 23:11:20.98 ID:BtIO1aEDO
敵は相変わらず敵は奇妙な形をしていた。

山羊の蹄のような、ヒトデを逆さにしたような。
しかし、形状に関してはこの際、どうだって良い。


ファルコートスーパー超起動合体爆裂砲専用ver.フルアーマー装備略してファル超は、三機分のパワー、エネルギー、システムのいずれもを一本化している。
恐ろしくセンスのない、幼稚園児の工作かと思えるこのデザインは回路をまとめ、パワーを一点に集中する時に置いて
極力分散させずに、かつ反動によるダメージを最小限にするには、このずんぐりむっくりで、茶釜とバッタを足したような、まるでゴミかと見間違うような形状が最適だった。


とはいいつつも、三人で一つのシステムを操作するにはかなりの苦労がある。
個人のタイミングなどその個人自身にしか分からないわけだし、
ましてやスキッド・システムなどという人間の感覚にたよりっぱなしのシステムが一部と言えども導入されている訳である。

新兎が腕を操作すれば、橘花が胴体を動かしバランスを調整する必要がある。かつ敷島は『余計な動き』を一切とってはならない。



爆裂砲を撃てばいい。




しかし案の定、『爆裂砲を構える』この動作一つをとっても、訓練をろくに受けていない三人には苦労ものである。

まるで機体が安定しないのだ。


859 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/17(土) 23:11:52.59 ID:BtIO1aEDO
アリナ「バランス感覚がめっちゃくちゃ……」

白鷹「あんな事、あたしたちにさせてる暇があったらシュミレーションの一つもさせた良かったんじゃねーの」


赤井「そっちの方が良ければ、素直に面へ出てきていたよ

秋津洲「何か秘策でも?」

赤井「はい」

頭「はい」

頭「例え訓練を行ったにせよ、『パワーを最大限に排出できるか』とはまた別の話ですからね」

頭「それこそ、三人が一つのシステムをぶれなく使用しなければなりません。それこそ『心をひとつにして』……」

アリナ「ファル超、攻撃を回避するのに精一杯で、未だに構えるに至りませんが」

白鷹「あんな様子で」

赤井「………まあ」


同じ周波数をぶつけることで、『音』は消される。が、作用まで打ち消せる訳ではない。

もたもたしている間に装甲は剥がれ落ち、稼働時間も縮まってゆく。

橘花「新兎!あんたさっさと構えなさいよ!」

新兎「やってるよ!だけど敷島がグラグラしやがって……」

敷島「俺だってちゃんとやっとるちゅーの!貴様の無能を俺のせいにするな」


アリナ「もーう!三人とも早くしてください!!」

艦体の装甲はもう限界だった。
これ以上は丸裸にされてしまう。それに、機体も戦艦以上にダメージを受けている上に、エネルギーだって無限に供給されるわけじゃない。
タイムリミットは刻一刻と迫っていた。

860 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/17(土) 23:12:22.11 ID:BtIO1aEDO
橘花、それから敷島は力の配分をどうするべきなのか、把握したらしい。機体は安定する。


しかし、一向に引き金を新兎は引こうとはしなかった。


秋津洲「1号機、なぜ行動を開始しないの!」

モニター越しに叫ぶ。

新兎「腕が爆裂砲を支え切れないんですよ!」

1号機部分のモニターは赤一色。そして異常を知らせる警告音。
冷却水が漏れ出しているのか、足下は水浸しだった。

アリナ「試算以上に劣化が進行してます!」

白鷹「このまま撃てば、機体はおろかニートくんも……」

秋津洲「仕方がないわ…一旦引き上げて!」

861 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/17(土) 23:13:19.09 ID:BtIO1aEDO
秋津洲はそう言いながら視線を後ろへやる。
頭は首を横にふった。



頭「修理が終わる前に戦艦はお釈迦ですよ」

秋津洲「………」




秋津洲は無言で爪をかんだ。


頭「選択肢としては2つ。それは……」

榛名「このまま『何らか』の奇跡を待つか、それともニートくんに、撃ってもらうか」





果たしてこんなハイリスク・ローリターンの賭けに誰が手をあげると言うのだろうか。




秋津洲「彼には無理よ。『撃つべき時』に撃てない。それこそ無駄死にもいいところだわ」



新兎はとにかく、逃げ出したい気持ちで一杯一杯だった。
操縦の位置だけでまさかこんな目に合うとは、あの頃には一ミリ足りとも想像していなかった。
だが、今さら過去の過ちを悔やんでも仕方ない。
今できる事と言えば、目の前にある脱出スイッチを押すことだけ
なのだが、実際脱出ポットの酸素は持って1日。戦艦がお釈迦になれば道連れになる。


だから、撃てば良いかと言われるとそう言う訳でもない。




862 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/17(土) 23:13:57.82 ID:BtIO1aEDO
彼は軍人なのだ。が、『そういう訓練』はステレオタイプで非効率的で、旧日本軍がどうだのこうだので排除されてきた。


それだけが全ての原因とまでは言えないのだが、秋津洲が口にする通り、撃つべき時に撃つ、それは不可能に近かった。




崩壊は近づく。






秋津洲は霧島をチラリと見た。






彼は消しゴムのカスを集めて練り消しを作っていた。



秋津洲は我慢の限界か、怒りか、焦りか、怒鳴る。



秋津洲「見損ないました!なんでこんな時にまで!少しは艦長らしく……」

霧島「はい」

秋津洲「みんなあなたみたいにいつだって死んでも構わない覚悟なんて出来てないんです。だから……!」

霧島「はい」

秋津洲「いい加減にしてください!」

霧島「はい」

秋津洲「……聞いてらっしゃいますか艦長!」

霧島「………」


秋津洲「艦長!」
863 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/17(土) 23:14:33.21 ID:BtIO1aEDO
霧島「………座標、A14のYE48ND39」

霧島はなにかをポツリと呟く

秋津洲「……はい?」

霧島「聞いてますか橘花大尉」

橘花「ええ」

霧島「機体を75度曲げて。それから敷島くん、足を58度上げちゃってくださいな」

橘花・敷島「りょ、了解!」

パイロット含め、クルー全員が唖然としていた。

――この男は一体何をするつもりなのか?

霧島はお構いなしにいつもの嫌な笑顔を振り撒きながら続ける。

霧島「新兎くん、足の間…君から見て33度の所、挟むように押し出せるか」

新兎「どうして」

霧島「いいから」

よくわからなかったが、指示通りに彼らは動いた。

最後に足の部分で爆裂砲を挟んだ。


機体はV字に……何とも言えず間抜けな格好だ。

しかし、一同はその突飛な指示に絶望することはなかった。

864 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/17(土) 23:15:01.70 ID:BtIO1aEDO
秋津洲「艦長……」

霧島はしたり顔。

アリナ「……なるほど、これなら腕への負担は軽くなって、安定しますね!」

考えればすぐに分かることだったのだが。

これを冷静さというのか、無神経さというのか。



霧島「目標、座標A14のYE48ND39にセット!そこからなら行けるはずだ」



みっともない体勢だが、なりふりかまってはいられない。


新兎は目標を定める。

片目をつむった。


アリナ「爆裂砲、エネルギー充填!発射よろし!」





白鷹「爆裂砲、発射!!」


頭の中は空っぽ、と言うより、もう反射と言ってもよかった。




引き金を、ひく。



感触は、固かった。






865 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/17(土) 23:15:32.14 ID:BtIO1aEDO
エネルギーは螺旋を描き、暗闇を美しく舞う。



そして



貫く




――――キーン………


堅い感触がブリッジにまで響いてくるようだ。



新兎・橘花・敷島「…………!」



爆裂砲の弾は敵の装甲を激しく歪めた。


866 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/17(土) 23:16:01.72 ID:BtIO1aEDO
アリナ「目標に命中しました!」

白鷹「エネルギーは発射時の84%、誤差の範囲内!」



装甲は爆裂砲のエネルギーに耐えようとするものの、やはり膨大なそれには勝てないらしい。



化物は大きく形を変える。






――その直後だった。



三人がまた“あの”感覚に襲われたのは。



心を抉るような感覚
心を追い詰めるような感覚
心を奪うような感覚
心を握られるような感覚

心を……… 心を……… 心を…………



「何故自分はここにいるのか」




今、この状態において

全く関係のない問いかけだ。


しかし、むしょうに、それを考えなければならないような気がしてくる。



867 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/17(土) 23:16:37.82 ID:BtIO1aEDO
橘花(なんでここにいるのかって……)

新兎(そんなこと)

敷島(………知るか)



例のピンナップがばら蒔かれる。
そこにはこう書かれていた。


『悔い改めよ!神の国は近づいた』




アリナ「三人の脳波に乱れが………この間よりも強く!」

白鷹「何なんだよ一体全体!」

霧島「………」



868 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/17(土) 23:17:08.08 ID:BtIO1aEDO
―――――

『何故、何故、何故』


三人の頭にひたすらリピーターする言葉。

アリナ「MPLシステムを通して思考にノイズが……」

秋津洲「こちらから、介入して、ノイズを排除」

アリナ「だめです!エラーになります!」



新兎、橘花、敷島

三人は思いきり機体の腕を振り上げる。



橘花「何でこんなこと、やらなきゃならないのか」

敷島「何でこんな所に、いなければならんのか」

新兎「そんなの決まってるだろうに」


三人は絶妙なタイミングで、目一杯レバーを引き、踏み込む。




新兎・敷島・新兎「成り行きだっっっっちゅうのぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


拳は降り下ろされ、目標のど真ん中を貫く。


869 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/17(土) 23:17:40.08 ID:BtIO1aEDO
改心の一撃に思われた。




白鷹「畜生!中心までは届いてねぇ!!」

アリナ「ど、どうしましょう、艦長!」


霧島「どうしましょう、顧問」

赤井「そこで、最終兵器だ。イチかバチか、彼らに賭けてみようかね」

頭「準備は出来てます」

赤井「神への懺悔が勝つか、それとも大罪が勝つか、見ものじゃないか」

赤井「コード291、発動」


白鷹「了解!コード291発動!!」




戦艦カスミの最終兵器。




次の瞬間、パイロット三人の目の前に






―――霧島の笑顔、しかもそれが『ドアップ』で映り込んできた





新兎・橘花・敷島「ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ………」

新兎・橘花・敷島「ああああああああああああああああああああっ!!!!!!!」


ありったけの力が注ぎ込まれる。


メーターは振り切れ、コックピット内は警告音とランプの紅にそまる。



そして





――拳はついに、目標を貫いた。





870 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/17(土) 23:18:24.82 ID:BtIO1aEDO
賢者もファルコートスーパー超起動合体爆裂砲専用ver.フルアーマー装備も、そのまま動かなくなった。




アリナ「防壁の劣化、ストップしました」

白鷹「目標からの反応、確認出来ず」


頭「どうやら我々の勝ちの様で!」

赤井「お手柄だよ、霧島艦長。」

赤井は霧島の肩にポン、と手をのせた


霧島「……なんだろう、この敗北感」



871 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/17(土) 23:18:53.73 ID:BtIO1aEDO
格納庫は相も変わらずてんてこ舞いだった。


パイロットの引き上げに、メディカルチェック
それから機体の解体に組み立て、修理
データの解析それから晩御飯

それらを技術部が全て請け負う。
(一部、自業自得な面もあるが)

滅茶苦茶な体勢で機体が回収されたものだから、パイロットの救出により一層手間取ってしまう。


技術部員「ハコを潰してでもいいから!」

技術部員「なにやってんのー」


872 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/17(土) 23:19:24.20 ID:BtIO1aEDO
そのころ秋津洲と霧島と言えば、ブリッジにて後始末におわれていた。

本部への報告に各企業への説明と調整
それからマスコミ各社から送られてくる質問状の処理に化け物を回収するまでの時間稼ぎ。
やるべきことは山ほどあった。

秋津洲「どうしました」

霧島「なんですか突然」

秋津洲「やけに不機嫌そうなんで」

霧島「そうでしょうか」

赤井「『アレ』の攻撃が形式的だった。君はそれが気にくわないんだろう」

秋津洲・霧島「………いつの間に」

赤井「ご都合主義のSFごっこは、演じている側が一番つまらんからね」

秋津洲「……」

霧島「実験台にされているのかもしれませんな、我々は」

秋津洲「何の実験です」

霧島「さあ」

赤井「相変わらず適当だな」

霧島「にしても、いつまでも『化け物』を機密にしておくのも無理がありますよね」

秋津洲「こう短期間に2回にも渡って全面的に空港を止めたり、妨害電波を発生させるのは……」

赤井「まずいね。その内、どっかのメディアにでもすっぱ抜かれそうなもんだよ。『あの時』みたいに」

あの時。

軍に所属する、半数以上の人間は10年前に起きた“あること”を思い浮かべる。


『賢者』の襲来

10年前、突如人類の前に現れた正体不明の巨大生物。殲滅すべき目標。敵。


873 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/17(土) 23:19:54.16 ID:BtIO1aEDO
霧島「やはり赤井顧問も、あれが賢者とお考えで」

赤井「お考えも何も、違うのかね」

霧島「本部は否定してて」

赤井「どうして」

霧島「あれは突然変異の巨大生物だと」

赤井「まさか。本気か」

霧島「本気か、大人の事情かは知りませんけど。報告だけはしとかないと」


霧島「で、どうするんです。顧問はこの後」


赤井「老兵は去るのみ。また下に帰るかな。君に頼まれている『仕事の続き』もあるからね」

霧島「残念。大学サークルみたいなのりがちょっとはなおるかなとは思ったんですけどね」



白鷹「おーい、じいさん」


と、ポットを持った白鷹がやって来た。

白鷹「緑茶ってどう入れるんだよ」

赤井「おお、ポットじゃなくて急須っといっただろうに」

赤井「よしよし、私が手取り足取り教えてやろう」


赤井は実に嬉しそうに、白鷹の腰に手を回しながら食堂へと消えていった。



874 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/17(土) 23:20:23.15 ID:BtIO1aEDO
秋津洲「ああ、それから霧島艦長」

霧島「なんでしょうか」

秋津洲「品物の買い戻しですけど、艦長名義でお願いしときましたから」

霧島「ええっ」

秋津洲「お願いしときましたから」

霧島「ええええ……」



875 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/17(土) 23:20:53.38 ID:BtIO1aEDO

大気圏外特殊航空警備隊、通称『特攻隊』は画して、深刻な予算不足、人材不足に、軍の積極的協力が得られないなどの問題を抱えつつも
最新機の優れた性能とクルーの抜群の戦闘センスで、見事正体不明の敵を撃破!日本帝国万歳!万歳!

そんなところで長い長い数日間は終わりを告げた。


ように思えた。


876 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/17(土) 23:21:43.96 ID:BtIO1aEDO
頭「艦長!霧島艦長!」


頭が血相を抱えながらやって来た。

また揉め事か。


今度は痴漢か詐欺か窃盗か

頭「ニートくんが、ニートくんが………!」


霧島「…神前がどうしました」




頭「その……」




―第六話・完―
877 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/17(土) 23:23:28.75 ID:BtIO1aEDO
第六話終了しました。
色々と申し訳ございませんでした。
878 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/17(土) 23:28:27.71 ID:uVTVtQhDO

気になるところで終わったな

ちょっとこんがらがってきたから最初から読み返そうかな……
879 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/17(土) 23:40:38.65 ID:BtIO1aEDO
訂正

×特殊航空警備隊
○特別航空警備隊
880 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2012/01/02(月) 15:00:05.94 ID:Ffy55hKDO
俺は神前新兎。

あだ名はこの先ニート。
親父に無理矢理軍の学校に入れられてペーパーダメダメ、だけどロボットに乗ることだけは楽しかった。

死んだおふくろの実家の魚屋を継ごうとしたら変なオッサンがやってきて
何だかんだで『戦艦支部』のパイロットになってた。

基本的には異常に暇な時と異常に忙しい時を交互に繰り返す。
仕事は他国の領宙侵犯を取り締まったりだとか、民間の移動船の安全を守ったりだとか、あとは……時たま泥棒を捕まえたりだとか。
今はフタツキの人口が少ないこと、宇宙の移動規制がまだまだ厳しいことから、この程度で済んでるけど、
大規模な移住計画と、それから民間船の大幅な規制緩和が進んでるらしくてますます“宇宙交番”の必要性が……。
それから、謎の巨大タコだとか巨大逆さヒトデなんかが攻めてくる。
まあ何とか倒せた訳だけど、あれ……
ここまでの記憶を振り返ってみると俺ってあんまり目立ってない様な気がする…なんで?

たぶん、アイツらのせいだ。

橘花、霧島、白鷹さん、艦長、技術部一同に榛名さん。

橘花は…友達いないだろ、あいつ。
権力を傘に好き勝手しまくる暴君ぷり。バカやろお!
しかも、最初の化け物が現れたときに自殺行為にも等しい無茶っぷりを披露。
その上俺のゲームソフト、テレビ、ナノパソ、マイクロフォンを全部!全部捨てやがったヒステリック女!
調子に乗ってんじゃねーぞアバズレ

881 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 15:00:50.53 ID:Ffy55hKDO
俺が、漫画もしくはアニメの主人公だったら、恋のめばえみたいのを感じちゃうんだろうけどね

アホか。

それから敷島。こいつも絶対に友達いないだろうな!
俺を最初に殺しにかかった軍人脳の脳筋肉。
愛国愛国うるせぇ。

竹槍持って米兵でも追っかけてろバーカ

その割にはハーフ顔。ヨーロピアン丸出し。一言目には閣下閣下の権力主義者。
こいつがいるせいで話がややこしくなるんだよ。[ピーーー]。

それから白鷹さん。橘花のケツ持ちはやめてくださいよ。調子に乗りますから
それからお願いですから言葉使いは……

技術部。うるせえよ。
それから他人を巻き込むのはやめろ。ニートニートうるせえ

榛名さん。
…あえて言いません


で、一番アレがアレでアレなのが

霧島艦長

アンタだよアンタ

もう言いたい事は言っても言ってもつきない位ある
最初の日、なんで騙したんだよ!ふざけんな!ボケ!
一歩間違えてたら死んでたぞボケ!
それから、アレだ。他人を一々イラつかせる。何なんだよ!何なんだよ!
それから変なオークションで詐欺!騙された!
……何で普通のビデオまで肝心なシーンだけカットしてあるんだよ!!
しかも関係ないところでバッチリ被害にあってるし。確かに橘花が悪い。悪いが今思えば艦長が諸悪の根源!
絶対に友達いない!敵しかいない!
でも榛名さんが言うにはさ、綺麗な奥さん貰ってたんだろ。
奥さんってことは、まあ、あの、だな

あの性格で奥さんと……あんなことやこんな………[ピーーー]![ピーーー]![ピーーー]![ピーーー]![ピーーー]!
882 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 15:01:21.10 ID:Ffy55hKDO
おれがイマイチ存在感がないのはアレだ。艦長のせいだ

しかも若い時の秋津洲副艦長を侍らせてる訳だろ。しかも少尉まで。

秋津洲さんはどうだか知らんが、少なくとも少尉は艦長にベッタリ。ロリコンが!


俺の戦艦ライフがイマイチ捗らないのは艦長のせいに違いない。違いない!

ところで、俺は一体誰に自己紹介何かしてるんだろう。


『わたしはすべての人を絶やそうと決心した。』

『ただし、わたしはあなたと契約を結ぼう。あなたは子らと、妻と、子らの妻と共に方舟にはいりなさい』


『ノアはすべて神の命じられたようにした』




883 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 15:02:08.87 ID:Ffy55hKDO

――――――――



カスミ・ブリッジ

秋津洲と霧島は奔走していた。
例の化け物のデータ収集に。
ただし、二人だけではない。
技術部もアリナも白鷹も榛名も……。

そんな中、敷島に橘花はただ休憩室に座っていた。
いや、座っていたと言うのは間違いかも知れない。

………座っているしかなかった。

パイロットと言うものは、操縦する為のリスクを全て負う。
怪我をしようが、死のうが。それは全て自己責任であり、それ以上をどこかに擦りつけることは自分では出来ない。

それは重々理解していた。つもりだった。

しかし、思い起こせば。


機械が優秀だから
というより、運がいいから
いままで何とかなったから
まあ艦長が何とかしてくれるから

だから、だから、だから


いつの間にか自己ではない、他人やその他の要素が溶け込んだぬるま湯に浸かることが最早ライフワークと化していた。


884 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 15:03:03.52 ID:Ffy55hKDO
―――日常と有事の境界線


それは一体どこなのだろうか?


……そんなことすら答えられない。



勝手な空気を造り出して
それに飲み込まれる。


それが嫌でここに来た、来させられたはずなのに

いつの間にか、その一員に成り下がっていた。

その現実を突き付けたのは………


榛名「こんなところで。しっかり休んでてって言ったでしょお〜」

橘花「………あの」

榛名「結論は出せないわ。だからこそ、貴女達にもリスクがないとは断言出来ない。昨日から言ってるでしょうー」

橘花「…………死ぬんですか」

榛名「死なないように努力してる。言ったでしょ」

橘花「…………」

敷島「…………」

榛名「『作戦で人が死ぬ』そう珍しいことじゃないのよ、軍は。ただ、この空気の中では……ショッキングかも知れないけど」
橘花「わかってます」

榛名「わかってるならクソして寝てなさい。ドタマぶち抜くぞ」




確かに、

人が死ぬ。


これはある意味で殺し合いなのだから仕方がない。

ただし、人数が少ないこと、それから……認めたくは無いが甘えきっていたこと、自覚がまるで無かったこと。

そしてなにかが起これば何も出来ずに待機するのみ。


橘花(軍を変えたい………なんて)

橘花(良く言えたもんだわ)


いざ、何かが起こればどうしようもなくなる。

目の前で、嫌味を垂れ流していた男なら、なおさら。


885 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 15:03:33.64 ID:Ffy55hKDO
―――――――



暑い。


何だか知らないが暑い。


俺はただ、立っていた。


自慢じゃないが、俺は一体誰なんだか分からない。


さっきまで懇切丁寧に自己紹介までしてたのに。


俺は21、酒だって飲める


そこまでは知っている


だけど、そこから先がわからん。


老婆「ねえ、僕?」


僕?21の男を捕まえて、僕とは失礼なババアだな


老婆「どこから来たの?」


どこからってそりゃ

………どこだろ


老婆「私のうちに来な。その後にけーさつでも行けば……」

警察?待て、俺はそんな自首するような悪いことなんて


老婆「ふふっ、小さいのに物知りさんだね」

小さい?いやいや、体格は人並みなんだけど……


そういや婆さんでかくない?
あれ、俺が小さい?あれ?

886 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 15:04:02.38 ID:Ffy55hKDO
老婆「見た感じ5さい位かね。ねぇ」

えっ………?
いや、なんかぼく5さいくらいの気がしたかも……


あれっ………


『主なる神は言われた、「人がひとりでいるのは良くない。彼のために、ふさわしい助け手を造ろう」。』

887 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 15:05:24.36 ID:Ffy55hKDO
―――――――

秋津洲「………」

秋津洲は無言で受話器を置いた。

霧島「どうでした」

秋津洲「ダメです。全然出ません」

霧島「コードが私だから出ないんだと思ってましたけど」

秋津洲「………神前准尉の様子は」

榛名「メンタル、それから身体的機能には変わりなし……ついでに、意識レベルも変化なしなんだけどー………」

秋津洲「ど?」

榛名「時々ねぇ、身体に……負担がかかってるのよ〜。言わば……運動してるみたいに。」

榛名「おかしいのよねぇ〜。要素がないのに……とりあえずウイルス感染など、あらゆる可能性について調査中だけど……」

秋津洲「………引き続きお願いします」


ピリピリとした空気。
どうにも、いたたまれなくなってしまう。

888 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 15:14:33.94 ID:Ffy55hKDO
――――――

橘花はガラリと医務室のドアを開けた。

榛名を信頼していない訳ではないが、見ておかなければならない、様な気がする。

カーテンをカラリと開けた。
ピッ、ピッ、と無機質な音だけが響き渡る。

ベッドに横たわる新兎。

能天気にも気持ち良さそうに眠っているではないか。
この先どうなるかも分からないのに。


どうしたいのか、どうしてやれば気がすむのだろうか、
最早分からずただ、見つめているだけしか出来ない。


月並みの表現ではあるが、彼女は苦虫を奥歯で潰した様な表情をしながら顔をあげる……と


目の前に男の姿が。


敷島でも、霧島でも、駿河でも、この戦艦の誰でもない男の姿が


橘花「な、ん、で」


見慣れた男の姿。でも、一番見たくない男の姿。


「お前は私と一緒だ。」

橘花「違う!私は……違う!違う!」

「大きな『意』の前には、為すすべもない。そうだろう」

橘花「違う……」

「お前は私だ」

橘花「違う!違う!違う!」


ガラッ


敷島「な……何が違うんですか閣下!」

橘花「侵入者よ!追い出して」

敷島「侵入者もなにも……」

橘花「早く!」

敷島「そこには神前しかいませんじゃありませんか」


それは、一瞬にして消え去る幻だったのか
彼女の指差した先には確かに、神前新兎彼一人だった。
889 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 15:17:26.66 ID:Ffy55hKDO

――――――


「ねえ!」

なに……おばあちゃん

少女「失礼ね。私はおばあちゃんじゃないわよ」

あれっ

少女「そんなに老けてみえる?」

………あれっ!あれっ!


少女「今日、やけに元気ないじゃない」

なんで、なんでおばあちゃんがいきなり女の子!?ねぇ?ねえ!?

「どうしたの?」

どうしたのはコッチのセリフ!
お前は誰だ?どうして話かけるの?ねえ

でも可愛い……見たところ、中学生くらい……かな


少女「また教授とケンカしたの?相変わらずなんだから」


教授?誰だよ……
もう何がなんだか

少女「もう、政治の話になるとこうなんだから」

………あれ

少女「何」

どっかでお会いしたこと、ありません?

少女「そりゃそうでしょ。大学で毎日会ってるんだから」

中学生が大学に!?

少女「………悪かったわね、童顔で」


中学生じゃ、ないの?


少女「寝ぼけたこと言わないの。私は18。立派な大学生です。あなたの4つ下よ」

あれ、5歳じゃなかったっけ僕


少女「………お馬鹿なこといってないでいきましょ」

女「あらー、お二人とも昼間からいちゃついちゃってぇ〜」
男「ひゅーひゅー、おあついねぇ」

えっ………おかしいのは……俺?

そうか、21だもんな。
酒の飲みすぎだ
ダメだなぁ、悪酔いは


『正しいことをしているのでしたら、顔をあげたらよいでしょう。』

『もし、正しいことをしていないのでしたら、罪が門口に待ち伏せています。』

『それはあなたを慕い求めますが、あなたはそれを納めなければなりません』

890 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 15:20:46.00 ID:Ffy55hKDO
――――――――――


頭「技術部から報告致します」

頭「例の生物についての調査結果がでました。前回のサンプルの何とか回収した破片と比較を……アリナさん」

無言でアリナが指で画面を滑らせる…と、全員の前に同じ画面が現れた。

アリナ「前回の巨大生物に、神経その他臓器などは確認出来ませんでした」

秋津洲「つまり、中身は空っぽだったってこと?」

アリナ「はい。ただし、一体目には、脳……と言うより、信号を受信するような……特殊な……脳に近いものは発見されました」

一体どう言うことなのか?

報告していたアリナ自身も含め、調査した技術部でさえ『その意味』が分からなかった。

秋津洲「……じゃあ、それは単なる操り人形だったと」

アリナ「ええ……地球にはちょっとないタイプの生物です。」

アリナ「それから」

アリナ「発達…って言い方でいいのかな。うん。『介入』の後が見受けられました」

アリナは小難しいアルファベットやら、数式やら、記号やらの海をモニターに造り出す。
霧島は頷いてはいたが、表情は『なんのこっちゃ』といかにも、いいたげであった。

アリナ「要は、前の化け物……仮に『賢者乙』としましょう。それは、あくまで感情に作用する。そこまででしたが、今回の「賢者甲」は無理矢理ねじ込み、掻き回す。そう言ったタイプです。」

アリナ「これは、甲自体に強い意志がなければならない。そして蓋を開けてみると、操作されている率が非常に低く、ある程度は学習し行動はしているようなのですが、『意志』を持っているか……までは少し」

霧島「なるほど、ね」

霧島はポケットからクチャクチャの…数枚の紙を取り出した。
……汚い、整理くらいしろよ

と全員思ってはいたのだが、場合が場合なので口をつぐんだ。

一枚目には何やら新聞の記事。

二枚目には分析表?かなにか。

三枚目には手書きの書類が。


秋津洲「何ですか、これは」

霧島「貰いました。」


891 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 15:21:32.40 ID:Ffy55hKDO
アリナ「貰ったって、艦長これ!」


アリナ、それから白鷹、秋津洲は目を丸くする。
技術部一同は彼女らが目を丸くしたことに目を丸くする。

駿河「…なんかの紙切れじゃないんですか?」

駿河は紙をペラペラさせてみたりだとか、蛍光灯に当てて透かしてみたりするものの、もちろん何も浮かび上がってはこない。

駿河「燃やしてみましょうか?」

アリナ「ダメですよっ!」

白鷹「忍者じゃねえんだから」

秋津洲「駿河君ってそう言うところ抜けてるわよね」

霧島「ダメですよ、ちょっとは図面以外の文章も読まないとー(笑)」

技術部員B「影の内閣(笑)」

技術部員C「ツメが甘いよね(笑)結局あの時(第5話参照)も最後はウヤムヤになってたじゃん(笑)」

技術部員D「ちょっとポジション的にもはっきりしないよね、駿河は(笑)」

技術部員E「授業中は指されてもスラスラ答えられるんだけど、テストになると丸っきり解けない本番に弱いタイプ(笑)みたいな(笑)」

技術部員F「そう言う子ってさ、結局プライドで問題解いてるんだよね(笑)。だからいつまでたっても進歩が(笑)」


駿河「………なんでここまで言われるの」
892 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 15:22:02.24 ID:Ffy55hKDO

なんやかんや、一通り駿河へのダメ出しが終わると、再び一同はアリナに疑問の眼差しを向けた。

一呼吸置いた後、彼女は応える


アリナ「紙切れは紙切れでも、すんごい紙切れなんです。まずこの新聞ですけど、日日スポーツのヤツで、8年前に会社自体倒産。」

頭「ああ、確か、社長が粉飾決裁して、会長が売春と賭博でつかまって、取締役3人が自殺した……とかだったよね」

周防「当時は相当警察に裏があるんじゃないかって騒がれてましたよね」

駿河「でもまあ、度々聞く話っちゃ話ですけどね。そういう警察の黒い噂は」

アリナ「ただの噂じゃ片付けられないんです。保管されてる資料も公式の場所では、全てデータ破棄されてて、定期購読者の端末からも何故かコピーどころか閲覧できない状態になってるんです。」


アリナ「だから一日分の…出力したやつでも、うん万…データ自体ならうん千万は下らない超レアな新聞なんですけど……特にこれは」

相模「高いの?」

駿河「高いんでしょうね」

白鷹「高いなんてもんじゃねえよ。この…『創世記』って呼ばれてる、日日スポーツが潰れた原因になったとされてる記事だけど、紙一枚、想像もつかない。下手したら公安にちょっかいだされるくらいだよ」

秋津洲「まさか」

霧島「まさか」

霧島に一同の視線が一斉に集められた。
確かに、悪名高いこの男ならやりかねない。
“それくらい”は平気な顔で貯めて……いや、他人から金をむしりとっていそうなものである。


霧島「そんなぁ、第一私にそんなお金があるわけないでありますぅ。貰ったんですってぇ。」

一同「へえ」

霧島「当時の編集長さんと会う機会があったんで話してたら突然『是非霧島さんに』って超言うからぁ〜」

秋津洲「奪い取った、の間違いじゃなくて?」

霧島「てへっ☆」

秋津洲「てへっ☆じゃなくて」

駿河「この『機密』って判子が押されてる残りの紙の出所は」

アリナ「わ、私からは」

白鷹「とてもとても」


二人は目をそらした。



893 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 15:22:50.65 ID:Ffy55hKDO
……一体霧島はどんな魔法を
いや、どんな黒魔術の呪文を唱えたのだろうか。
想像出来ると言えば出来るのかもしれないが協力者と書いて「ひがいしゃ」と読む人々の心労、それから先々を思うと
あまり想像したくないと言うか、聞かなきゃ良かったと言うか、聞かなかった事にしたいクルー一同だった。

ただし、紙三枚の資料価値はかなり高い。
その『三枚』だけで軍の人間が知っている、もしくはそれ以上の情報を彼らに与えてくれる。

894 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 15:23:16.67 ID:Ffy55hKDO
霧島「この三枚の紙で何が出来るかと言えばぁ、『大気圏突破の時逃げ遅れた部下に少佐がしてあげたこと』くらいなんだけど」


秋津洲・アリナ・白鷹「???」

駿河「……何にも出来ないってことですよ」


895 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 15:23:46.03 ID:Ffy55hKDO
――――――――

僕が誰なんだかは結局知らない。

だが、僕は確実に「俺」とは別の何かを獲得したのだと思う。

きっとそれは、僕と俺の線だとかで繋がれば直ぐにまた別の存在へと変貌しうる。


――己は人か、存在は支配か


僕は少なくとも不幸とは思えない。
それを追求出来るほど賢くもないし、それを補うほどの時間があるわけでもない。

これほど大きな命題を己に抱えてもなお。
但し

それをよしとしない人種がいた事は確かなのだ。


女「神様って信じる?」

僕は僕を信じる僕を信じる僕を信じる僕をそのまた僕を信じたい。

女「そうね。だけど、論点が違うわ。」

美しき麗人はふわりと髪をかきあげた。


896 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 15:24:35.55 ID:Ffy55hKDO
女「神とは個々が共有している情報にしか過ぎない。人の脳も結局は心、つまり情報をキャッチして処理するだけのもの。
人は一人では生きられないの。いえ、子孫を残す残さないとは別の側面としてね、一人と言うことはつまり情報を共有できないのよ。
よく狼が育てた子供が長く生きられないというでしょ。例え身体的に問題はなくとも、何故か死んじゃう。
様々な問題を含んでいるにせよ、彼は人間とのデータの共有がもう出来ないのよ。アナタが見てるわたしもデータ、会話もデータ全てデータ。
違いは見えるか見えないか、実体してるかしてないか。それだけ。だからこそ共通して……
概念の違いこそあるけれど全てのものの頭にデータとして存在する神様は神様よ。」

三行で

女「そこに、全ての生物の間で
普遍的に存在し続ける共有データは
後にも先にも神だけってこと」


女「そして、それは単独で存在しうる。例え、その元が神話なんかの作りものであったとしても、それは媒体にしか過ぎない。歴史上の偉人もね。そして媒体を通じて時間も場所も空間も関係なく存在できる。それは肉体という枷のない情報だからよ。単純か複雑かは別として、『在る』と言うことそれ自体が問題なのであって。」


三行で

女「私たち人間より、
目の前にある文字の羅列の方が
『生物』的には優れている」

女「つまり。実体があるだけ私たちの方が不利かも知れない。けれど、可能性としては私たちの方が上よ。彼らは自らを保守するだけで手一杯。私たちは何かを創造できる。単に、存在としての有利不利の問題じゃないのよ。そしてそれは人間だけの問題じゃない」

三行で

女「『ない』と思っているものは
つまり、実体がないだけで、
存在しているものが無数にある」

897 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 15:30:42.64 ID:Ffy55hKDO
女「もちろん宇宙人だって、『私たちが思っている』宇宙人がいないだけなのかも知れないの。
私たちは神に等しい存在になりうるのかもしれない。
そうなれば、最早これ以上、矛盾と偽善と定義も分からない愛とか平和なんて枷に私たちは拘束されることも、贖罪なんてすることもなく、ただ絶対的に存在し続けることが出来る。
膠着した進化も、そして滅びの誘惑も、懺悔も、全て必要としない。いわんや『そんな存在』においてをや」


……なるほどね


女「本当にわかってる?」

ううん

女「………もうっ」

君が僕(中途半端なかぶれ者)なんかにそんな小難しい、まるで哲学みたいな、いや人生をそれに捧げた人間みたいな事をわざわざ言い出すどころか
暗に何かを投げ掛ける意図が分からない。

898 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 15:31:16.78 ID:Ffy55hKDO
女「貴方なら反対してくれると思ってるんです」

反対?

賛同の一万倍難しいアレかい? 買い被りも程々にしとかないとそれこそ自己破産でもする羽目になるよ

女「反対してくれる人がいなくっちゃ、改良の余地がなくなっちゃうもの。」

女「貴方は私に嫌味をいってくれる。意地悪してくれる。憤慨させ、心を乱してくれる。だから好きよ」

光栄であります、麗人よ

但しそれには労力がいるんだ。君の何億倍ものね
だから、それを何万倍にするためにさ、話を分かりやすくしてくれない?
ドラッグストアにいるエプロンつけたヒグマや、しきりにハンドルを回す猿や、アメリカかぶれの憐れなゾウリムシにも分かるように三行で


女「私は
  神様に
  なりたい」


分かりやす過ぎるというか






899 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 15:33:02.95 ID:Ffy55hKDO
女「女の子独特の回りくどい喋りは嫌だといってたでしょ。貴方の寵愛を受けるために媚びをうったつもりなんだけど」


なら余計に、僕には出来ない。
歴史書を開いたって神に反旗を翻したってろくな結果にはならないって記述でいっぱいで、僕にはそこだけ記憶喪失になるって器用な事はできないし、それを知って勇往邁進できる器でもない。
第一、寵愛を受けるのは僕の方だろう?


女「それじゃ私が困るのよ。対蹠するものがなければ成長も、それに伴う懐疑も、諧謔も、悔恨も、快哉も全て原罪となり得てしまう。この世は混沌、ソドムにも等しいのだから」

女「そう、例えば公国が無ければ白い悪魔は出番なしだったかもしれないし、仮面の男がいなければ、逆襲なんかなかったし、ピンク髪の摂政さんは壁に突っ込まなかったかもしれないわ。ああ、最後はその方が良かったわね。まずったわ」

女「じゃあ、あの漫画はこの世に犯罪なんてなければ保険屋のオプなんてそんなに必要ないから考古学一色に……それはそれでありね」

女「どうしよう。良い例えが思い付かないんだけど」


いいたい事は解ったけど
解ったけど、やだよ

もうこれ以上、僕は他人に嫌われたくないからね。
こう見えて顔色を伺うのが大得意なんだ。

女「あなた『も』『また』」


『も』、『また』?
僕みたいに生きる事が大嫌いで、こんなに命を粗末にして、神を神とも思わず、目に見えるものしか大切じゃなくてクソクラエ、いや糞は目に見えるからな。
ヘクラエだと思っている人間がいるのか?
糞じゃないよ。屁だよ屁。



900 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 15:45:17.22 ID:Ffy55hKDO
神様になりたい。なんてとんでもない。

そんなことを現実社会で口にすれば間違いなく頭のネジが8割方はぶっ飛んでしまっていることを疑われるだろう

だから僕はもちろん、皆が彼女を止めた。

しかし彼女は―――この奇特にも奇怪にも奇妙にも奇異も、奇々にも危機にもまるで慣れきっていたし
まるでなにも、当たり前の様に受け入れていた。


女「気分はどうかしらあなた」


正直そのまま胃液も込み上げてきそうだ。

女「そう、あなたは惑うことなく最低なのね。」
女「しかし、あなたが吐き気を催す。これこそ私にとって最大の喜びよ」



901 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 15:52:10.63 ID:Ffy55hKDO
―――――


ブリッジ内の空気は最悪だった
雰囲気的にはもちろんのこと、
人数がやたらに多いので酸素が薄い。気がする。

つまり、誰もが頭を抱えその場に存在するのみで具体的行動に移るものが皆無であったことを示していた。

駿河「……賢者って、何なんでしょうね」

秋津洲「東方から来た……ことから名付けられたのよ。まさか、本当に3体もお出ましになるとはね。」

駿河「でも……残ってないんでしょう、証拠。」

霧島「まあね。ただし、一体目と二体目についてはそこに載ってる。一体目は単体で、二体目は集団で。」

確かに。霧島の持ってきた報告書にはそんなような事が記載されている。

902 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 15:52:36.86 ID:Ffy55hKDO
駿河「………三体目は」


霧島「新聞記事、見てくださいよ」


新聞記事は年月は確かに一番新しい。
……新しいのは良いのだが


駿河「何にも写ってないですよ」


あえて言えば、無傷の機体やら、無傷の戦艦やらは写っている。

のだが、姿は全く『無い』


霧島「米軍によればこの日の午後には応援要請がありまして、それから攻撃も確認された……らしいです。これ以上は教えてくれませんでしたけどぉ。アメちゃんのケチ」

秋津洲「………となると、半日で全てを回収仕切った……と?まさか」


霧島「軍がフーディニーのクローンでも作ってたのならお話しは別ですけど」

霧島「もっと信じられないのは戦艦も機体もほぼ無傷なんですよ。にも関わらず、死傷者はクルーの半数以上になります。その上、当時のクルーで生きてるのは艦長を含めて数人だけです。ねっ、不思議でしょん?」


何てことない話の様に、霧島は語るがもう、それはそれは奇とか怪とか妙とか疑とか妖だとか、学研ムーあたりが喜びそうな文字が辺りを駆け巡る。


903 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 15:53:03.91 ID:Ffy55hKDO
駿河「となると。考えうる可能性はウイルス何かの極小サイズで彼らは存在していた若しくは――」


榛名「『存在自体がなかった』なんてね」

一同「は、榛名さん!」


橘花・敷島「…………」


にこりとしながらヒラヒラやってくる榛名とは対象的に橘花と敷島は扉の横を動かない

秋津洲「まさか、僅かでも実体を持たなければ攻撃なんて」

榛名「居たのよ。『神様』の存在を証明しようとした人が。」

榛名「『神様が見えないと言う事実は、その存在を確固たるものへと昇華させる要素として最も効率的で理論的である。』だったかしらね、霧島くん」

榛名は片目を閉じた。
霧島は同時に目をそらした。


霧島「まあ、居たかもしれないね。そんな人」

榛名「もう嫌だぁ、惚けちゃって。かの天才、社台博士の有名なレポートじゃありませんか。専ら掲載されたのは学術誌じゃなくて、週刊誌でしたけれど」

駿河「……また社台博士ですか」

904 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 15:53:34.86 ID:Ffy55hKDO
榛名「そりゃあそうよ。戦艦どころか、フタツキの目を見張るような開発の速さはほぼ彼女の功績ですもの。」


とは、榛名は言うものの、最新の技術書を見れば、殆どが彼女の名前で埋め尽くされている。
『またか』と言いたくなる程に。

榛名「『神とは形を持たぬ記号である』『彼らは我々の進化体である』」

駿河「……世紀の大天才のレポートでも、眉唾ものには変わりないですよ。宗教的過ぎるような気がしますし」

頭「たしか相当な変わりものだったらしいからねぇ、彼女」

榛名「ただね、それがそうでもないのよ、さっきの霧島くんの持ってきた文章を見ると、戦死せずに帰還したほぼ全員が、何かしらの精神疾患をおっている。」

駿河「それが何か」

榛名「だとすれば、よ?当時の戦艦はエリート集団。特に精神面に関しては、それなりの訓練を受けているはずなのに、たった一度の戦艦で患うなんて奇妙な話じゃない。」

霧島「なるほど……そこで生きてくるのが『ウイルス説』……ですか」

榛名「といってもウイルスとは限らない。けど目に見えない彼らは目に見えない攻撃を仕掛けてきた……可能性はあるわ」

905 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 15:54:05.20 ID:Ffy55hKDO
駿河「そうなれば、敵はかなり高度な知能がなければいけませんよ――人間以上の!でも、アイツらにはほとんど意志がない訳でしょう?」

榛名「そう。だから、アレは単体で我々を攻撃してこれないのだとすれば、誰かが操らなきゃいけない。とするならば。余程高度な知能がなければならない。」

榛名「そして、その際に肉体は確実に妨げになるわ。100パーセントの知識と能力の継承なんて不可能なんだから。」

一同「…………」

榛名「仮説にしか過ぎないけれどもね。私たちは本当に神様を敵に回してしまったのかもしれないわ」

橘花「だとすれば!」

橘花は自分でも驚くような大声をあげた。

橘花「……だとすれば、神前新兎は、彼らと同じ様に!」

906 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 16:00:40.33 ID:Ffy55hKDO

榛名「その可能性はあるわね。今はこれ以上のことは分からないけれど」

橘花「……じゃあ、目標を駆逐すれば目を覚ますってこと?」

榛名「対処の仕方なんて分からないわよ。まだ考察の段階なんだから」

橘花「ならば、否定も出来ないわけですよね」

榛名「……ポジティブね」

橘花は走り出した。

敷島「どこへ行かれる気ですか閣下!」

と一応そんなセリフを言っては見るが、彼女が行きそうな場所と言えばただひとつ。

格納庫だった。


907 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 16:11:24.96 ID:Ffy55hKDO
―――――――

女「ギャンブルをしましょう」

何を突然

女「ブラックジャック、貴方も好きでしょ」

別に


女「勝ったら私のお願い聞いて?負けたら聞かなくていいから。」

勝っても負けても得をしないシステムなのはどうして

女「ギャンブルって、胴元に優しいものでしょう?」



908 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 16:14:54.32 ID:Ffy55hKDO
白鷹「あの、まだ修理は終わってないはずなんですけど……」

アリナ「だよな?おい駿河」

駿河「は……はい……」

アリナ「予備はどうなってんだ」

頭「まて、何で本官に聞かずに駿河に聞く!」

アリナ「なんだってんだよ。テメーの影が薄いのが……」

榛名「もう揉めないの!秋津洲副艦長からも何か!」

秋津洲「霧島さんが艦長でしょおー?」

霧島「いや……まあそうなんですけどね」



909 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 16:29:27.06 ID:Ffy55hKDO
霧島「あれっ」

一同「?」

アリナ「どうしたんです艦長さん」

霧島「いや、あの、ミス?」

白鷹「何の」

霧島「……これ以上はメタ発言になりそうだから止めときます」

榛名「どうしましょう二人とも出ちゃって」

秋津洲「でも、有効な方法は攻撃しかないのかもしれないわ」

霧島「それ自体がまだ妄想の域から出ないって言うのに?」

秋津洲「霧島艦長ったら、弱気なんですから!」

霧島「攻撃っつっても援護がなけりゃ……妨害か、通信も出来ませんし」

白鷹「確かに、他の戦艦の反応はねーな。あ、それから……」

アリナ「軍のネットワーク自体にも接続出来ませんよ。あと酸素の供給システムにシャダイシステムが狂ってきてます!どーしましょ」

アリナ「このままいればくっせぇ墓場になるだけだぞ艦長さんよ」

榛名「何らかの攻撃を加えるべきじゃないの?」

霧島「対象が分からないのに?」

秋津洲「対象は、賢者が存在していた場所、かもしれません。」

白鷹「爆裂砲でも使う気か?少くなくとも手足は吹っ飛ぶぜ」

一同「…………」



910 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 16:36:52.47 ID:Ffy55hKDO
――――――



淡々とカードを引いて行く。
彼女も淡々とカードを引いて行った。


女「あなたは7、私は9。一歩リードかしら」

勝負はまだ分からないよ

女「ちなみにルール改変。越えたら私のお願い、もうひとつ聞いてね」

そんなバカなルールがあるもんか……

女「あらあら、パチンコよりかは確率的には素晴らしいと思うんだけど?」

………とんだ詭弁だよ


911 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 16:44:47.85 ID:Ffy55hKDO
駿河「機体の一斉自爆なんかはどうですか」

榛名「前にも言ったでしょう。ハイリスクローリターンだって」

駿河「でも、二人では……例え…無理矢理にせよファル超は動かせませんよ!」

橘花『なら良い案があるわ』


アリナ「予備機から通信です!」

霧島「どうぞ」


橘花『相手は今は形を持っていない。この事を利用するんです。』

敷島『なるほど!流石は閣下!素晴らしい』

白鷹『うるせえよ』

敷島『ああん?』
白鷹『やんのかコラ』

橘花『………話の腰を折らないで貰えるかしら』
912 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 17:24:39.19 ID:Ffy55hKDO
橘花『つまり、相手が動かないのであれば、抵抗はされない。抵抗されないのであれば、破壊される恐れもない。』

橘花『予想の範囲内に爆裂砲を予備機ごと置いた後に時限式に引き金を引くプログラムを組み込み、脱出すれば……』

頭「赤井顧問に依頼すればすぐに出来ますよね、それくらいは」

しかし霧島の表情はいまいち冴えなかった。

秋津洲「引っ掛かるような顔をして」

霧島「まあ……根拠に不安があるといいますか」

秋津洲「何を今さら。いつもカンで動いているアナタのセリフですか」

霧島「その目標の予想地点は、どこから出たんです?それから、『攻撃されない』という根拠も」

秋津洲「『そこしかない』んだから、じゃあ霧島くんはどこを狙えと?」

霧島「まあ……」

橘花『カンです。艦長。いけませんか』

霧島「いけないってことはないですが」


霧島の反応は右端の方へ置かれ。
一同は慌ただしく準備を始めた。
技術部は赤井を起こしに走り
アリナと白鷹は忙しく指をあちこち運ばせ
秋津洲は声をはる。

霧島は特に何もすることなく手持ちぶさただった。

橘花はレバーを強く握る。




『「心の貧しい者は幸いです。天の御国はその人のものだからです。
悲しむ者は幸いです。その人は慰められるからです。
柔和な者は幸いです。その人は地を相続するからです。
義に飢え渇いている者は幸いです。その人は満ち足りるからです。』
913 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 17:31:27.78 ID:Ffy55hKDO

――――――



女「あなたは19、そろそろ辞めたら?」

辞めたら負けるんじゃないの

女「20か21でなければ私はあなたには勝てないわ。」

女「だけど少なくともブラックジャックでないのだから、ね?」

辞めようかなぁ。


女「……降りるなら今よね」

どうしようかな……やめようかな………

捲るべきか捲らないべきか


女「やめたほうがいいよ。そこまでで終わりにした方が『幸せ』ってもんじゃない?」




914 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 17:37:59.13 ID:Ffy55hKDO
システムの改変は行われた。

時間はない、のではあるがそれ故に手際のよさが光る。

一か八か

爆裂砲を抱えた予備機を設置し、脱出し、敷島がそれを抱えて戻ってくる。これだけだ。

これだけなのではあるのだが、予断は許されない。

そう、心を乱される。かもしれない。

橘花は大きく息を吸う。


あの時の記憶が甦る。


よくわからない感覚が体を支配し、『消えたい』その一心だった。
915 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 17:44:41.61 ID:Ffy55hKDO
橘花『行きます!』

橘花は右に砲を構え、ハイスピードで『目標』へと向かう。


見えない、目標へと



霧島「とりあえず試算は」

榛名「予備機でもギリギリ持つんじゃないかなって」

霧島「……私見じゃなくて試算を聞いてるんだけど」

榛名「大丈夫よ、きっと!」

霧島「いやだから」

秋津洲「弱気なんて霧島艦長らしくありませんよ」

技術部「そうですよ!なんとかなりますよ!」

霧島「なんとなく、そう思うから?」

一同「そう!なんとなく!」

916 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 18:07:16.49 ID:Ffy55hKDO
橘花は興奮していた。

橘花「ああああああ!!!!!!!」

雄叫びをあげる。

しかし彼女は、同時に冷静だった。

橘花「返して!返して!返して!」

『何を返してほしいの?』


橘花「返してって、何を!!」


『何を返してほしいの?』


何を返してほしいのか?

と言うより、何でここにいるのか?

橘花(あれ……、あたしは?)


橘花(あたしは……あたしは!)


917 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 18:39:36.67 ID:Ffy55hKDO
敷島『どうしたのよ!』

橘花『どうしたもこうしたもねぇよ!機体が安定しないんだよ』

敷島『安定しないって、レバーを右に寄せれば良いでしょ!』

橘花『ええっ!?右って……』

敷島『もうバカ!右に回して寄せればいいのよ。そしたらスイッチでも押しなさいよ!』

橘花『押したら逃げればいいんでありますな!ありますな!』

敷島『自分で考えなさいよそれくらい!』


橘花は機体を安定させた。

腕を操作して、構える。
若干バランスが乱れているのか、機体が揺れる。

918 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 19:52:34.37 ID:Ffy55hKDO
橘花は標準を合わせる


橘花(……おかしい)


何が?

何かがおかしい。

橘花(私は……)


射撃は相変わらず苦手な『はず』だった。
しかし、どうだろう。偉く頭がクリアではないか。


いや、考えれば考えるほどおかしい。


確かに、霧島の言う通り作戦に一切『根拠』がない。


どうして、あそこを狙えば全てが解決するのか

というより、本当に賢者のせいであの状態のままなのか

というより、この作戦自体に無理があるんじゃないのか?

敵が本当に何の攻撃も仕掛けてこないのか?

第一敵なんているのか?


何故だか全員が全員、『カン』等という免罪符で
何一つ疑問に思うこともなく、ただ矛盾に満ちた一連のもの全てを受け入れてきた。


何故?


橘花『ああ、そうだ……』


919 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2012/01/02(月) 20:01:13.95 ID:Ffy55hKDO
橘花『――――』

秋津洲「橘花大尉!橘花大尉!」
呼び掛けるもまるで返事がない。

白鷹「反応がない!脱出ボタンはどうした!!」

アリナ「押された形跡が!」

敷島『閣下ぁ!閣下ぁああ!』


敷島は橘花のウィッチの元へ全速力で向かう。

敷島『どこだぁ!ハッチは!!』

アリナ「脇の右下です!」


敷島は目を凝らすが、細かいタイプではない。
探せば探すほどにイラついてくる。

敷島『もういい!』

しびれを切らした敷島はウィッチの右後ろ半分をまるごともいだ。

920 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2012/01/02(月) 20:11:11.29 ID:Ffy55hKDO
敷島『閣下!閣下!』


回収した部分の、隙間から操縦席が僅かに見えた。


……一同は安堵した。


のも束の間。


回収した部分を見ると右腕までまるごともがれていた。


敷島『……右腕?』


巨大な爆音が響いた。





………左腕のみになったウィッチが狙いを定められる訳もなく



目標から大幅にそれた場所に当てられた。
921 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2012/01/02(月) 20:41:27.26 ID:Ffy55hKDO
結論からすれば。




――作戦は失敗に終わった。




敷島「本官が、本官が……」

秋津洲「………あなたのせいじゃないわよ。」

榛名「そうよ。無人機を使おうだなんて提案した私のミスなんだから、ね?」

秋津洲「霧島艦長――!」



一同は口をつぐんでいた。

何かがおかしかった。

その『何か』は分からないのだが、とりあえず『何か』を感じ取る程度には敏感だったようだ。


思えば、最初からこんな作戦、無理であったのだ。

しかしなぜ全員が全員、納得し、行動してしまったのか?



榛名「可能性として、もう1つあるわ。」

秋津洲「可能性?」

榛名「気がつかない?微妙にさっきから『何か』がおかしいことに」

秋津洲「それは……」

榛名「だって、外部と一切連絡が取れないじゃない。それに定期船や他国の戦艦の反応もこの半日全く見受けられないわ。異常でしょう?」

榛名「さっきの爆発で誰もなにもいってもこない。それ以外にもあるんだろうけれど、私たちは気がつけないのよ。おかしな『変化』と『矛盾』に」

秋津洲「それで……可能性は?」

榛名「逆に……『私たちが』攻撃を受けてる『可能性』が」

一同「!」


一同は驚愕した。
922 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 20:51:23.77 ID:Ffy55hKDO

白鷹「じゃあ、あの新兎は?」

榛名「さあ。本当に新兎君自身なのかも私達にはわからないわ。新兎君に見える何かなのかもしれないし。」

榛名「私達だって本物の意識かどうか分からない。『賢者』によって作り出されたただの幻にしか過ぎないかもしれないし」


霧島「こっちが『本体』だったのかも知れないですねぇ。」


榛名「と、なれば対象は、カスミ以外全部よ。もし、それが正しければ私達はまるごと妄想の中に閉じ込められてるんだから、空間それ自体に攻撃を加えなければならないのよ」

秋津洲「しかし、爆裂砲も現在使える状態じゃあ……」

霧島「………」



霧島「今ある機体の一斉自爆は?」

榛名「機体がいくつパーになったと。」

霧島「じゃあ爆裂砲を修理して」

榛名「本気で言ってる?」

霧島「ですよねぇ」


そう、もはや残されている手段は皆無だった。

923 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2012/01/02(月) 20:59:55.76 ID:Ffy55hKDO
アリナ「だとしたら艦長」

霧島「何です」

アリナ「『主砲』は?」

霧島「―――」


霧島は押し黙る。


アリナ「主砲なら、システムには依存してませんし、カスミ最強の武器です。」

霧島「まあ……そうですが」

霧島の返事ははっきりしない


白鷹「そうですよ。どうして、いつも主砲は使おうとしないんですか?」

霧島「そうでしたっけ」

敷島「……艦長はいつもいつもどうしてあなたは!」

霧島「ほら、信用の置けない武器を使うのはちょっと」

榛名「そんなこと言ってる場合ですか、他の物理攻撃は不可なんです!」

霧島「だからさ、他にですね、もう少し考えてみたって」

アリナ「他にないってんだろおっさん!」

敷島「……もはや主砲しか、だめなんじゃないんですか」

頭「主砲なら!おねがいであります!!」

白鷹「主砲だったら!」

秋津洲「主砲、使ってください霧島艦長!」

一同「艦長!」


霧島「…………」

霧島「…………チッ」




空気が、凍った
924 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 21:04:32.69 ID:Ffy55hKDO
―――――――

本当に?

女「本当よ。なんならステイしてあげる。」


女「ステイ」


925 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 21:11:34.87 ID:Ffy55hKDO
霧島「……んだよ」


一同「………えっ」

霧島「うっせーんだよババア!!!!!!!!!!!」


秋津洲は後ずさる。
霧島は地面に唾を吐き出し、ガラの悪い口調でこたえる。


霧島「イライラすんだよテメー、くちうるせーババアが!年増wwwwwwwwww」

秋津洲「 」

白鷹「か……」

アリナ「かんちょー?」

秋津洲「艦長……」


霧島「ババア(自主規制)くっせーんだよ。自殺しろ」


霧島「うwwwwwwwwwwはwwwwwwwwwwロリっ子かわゆす!アリナたんちゅっちゅしたいよぉ〜」

霧島「白鷹たんもちゅっちゅっペロペロ!」

アリナ「えっ、えっ」

霧島はアリナと白鷹を追いかけ回した。

白鷹「ちょっと!くんな!くんな!」



全員が、目を疑った。




926 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2012/01/02(月) 21:12:51.45 ID:Ffy55hKDO
霧島は確かにとんでもない人間なのだが、更にとんでもない事になってしまっている。


霧島「ああ、何かムシャクシャするなぁームシャクシャするなぁー」

敷島「艦長、いきなり一体……」

霧島「敷島くぅーん」

霧島「や ら な い か ?」
927 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2012/01/02(月) 21:14:59.86 ID:Ffy55hKDO


敷島「なっ…何を……?」

霧島「脱げよ」

敷島「い……えっ?」

霧島は、敷島のズボンに手を伸ばし出した。

敷島「ちょっ!ちょっと!ちょっと!」

霧島「脱げよ!脱げよ!」

今度は敷島を追いかけ回す霧島。

霧島「ずっとしたかったんだよ!いいだろ!『夢』なんだから!」

ものすごい形相で追いかけて来る霧島。
逃げ惑う敷島。
霧島は、遂に腰に携帯している拳銃を手に持った。


霧島「止まれや!撃つぞ!」

敷島「ひいぃ!」

霧島「タイプだったんだ………『夢』なんだからいいだろ?脱げよ」

敷島「ゆ、夢でもいやであります……」

秋津洲「艦長、一体どうしちゃったんですか!」

霧島「黙れ腐乱ババア!ああ、ちゅっちゅっちゅっ!敷島くぅん……」

敷島「こ………来ないで下さいであります!」

霧島「敷島くん……」





悪夢だった。
敢えて詳しくは描写はしないが、地獄絵図だった。






ああ、そうだ。これは『夢』だ、『夢』なんだ………と誰もが思った。





928 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2012/01/02(月) 21:16:22.12 ID:Ffy55hKDO
――――――――

なら、引かせて貰おうか


女「!」

ダイヤの2、ブラックジャック。

女「ちょっと!」

勝負は常に駆け引きさ。ステイしたんだから僕の勝ちでいいよね?

929 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2012/01/02(月) 21:26:46.81 ID:Ffy55hKDO
――――――





そして、誰もいなくなった。


いや、正確には


霧島と、アリナのみが残っていた。

霧島「夢から醒る方法は一つ。それを『夢』だと思えばいい。」

アリナ「ただし、夢には強大な順応性が含まれているから夢とは気がつきにくい」

アリナ「ただし、想像の範囲内であれば。貴方の突拍子もない行動には参っちゃうわよ。夢だと認識せざるを得ないもの。」

霧島「いいや、少しでも『疑い』を持たなければ成立しなかったさ。」

アリナ「聞かなくていいの?」

霧島「何を」

アリナ「目的とか、理由とか」

霧島「目的も理由もなんてないでしょう」

霧島「『夢』なんだから」


930 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 22:45:28.37 ID:Ffy55hKDO

…………きて

……………きて!


…………起きなさい!



アリナ「!」


橘花「………起きた?」

アリナ「たい……い」

橘花「良かったわ。死んだかと思ったわよ」


アリナ「はにゃ!なんであたし……」

橘花「激しく損傷したせいか、酸素が薄くなってたのよ。とりあえず、セキュリティを弄って応急処置はしたけど。」

白鷹「まあ、私は起こされたからいいけど……よく自分で起きれたなぁ」

橘花「そんなことはいいのよ。予備機のパス、アンタが持ってんのよね」

アリナ「ええ。でも予備機なんか何に……」


橘花「死んじゃうわよ、あいつ」
アリナは手元の表示を見る……と、一号機のランプが赤く点滅している。

emergencyの文字と共に。


アリナ「えっ………あれっ?」

931 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2012/01/02(月) 22:46:08.66 ID:Ffy55hKDO
アリナ「回収し終わったんじゃあ!」

橘花「まだ寝惚けてんのね。私と敷島は回収されたけど、新兎は放置されたまま」

アリナ「放置って………」


橘花「半日」

アリナ「半日もぉ!?」



宇宙空間。


非常に非情な空間で、暗闇と温度の無さが身を突き上げるような場所。

新兎は半日、この暗闇の、一枚壁を挟んだ程度のコックピットに放置されていたというのだ。

パスを聞き出した橘花は格納庫にある予備機に飛び乗った。
隣では駿河達が作業しているが特に気にはしない。

機材を踏みつけながら、まだ修理の終わらぬ出口を無理やり抉じ開けて発進を試みる。

駿河「大尉!無茶苦茶です!やめてぇ!」

橘花「あかなぁい!!!!」

技術部一同「やめてぇぇええええええええええ!!!!!」

敷島「閣下ぁ!無茶ですお止めください」

どこから沸いたのか。敷島まで予備機に乗ってやって来た。

駿河「敷島!とめて!とめて!」

敷島「力仕事なら私目があああああああ!!!!!!!」

技術部一同「イヤァァァァァアアアアアアア」

敷島のバカ力でメリメリと壁がまるでマジックテープ式の財布の様にめくられて行く。

敷島「さ、閣下!」

橘花「悪いわね」

技術部一同「アア………」

932 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2012/01/02(月) 22:46:40.95 ID:Ffy55hKDO

―――――――

回収までにそう時間は掛からなかった。
問題と言えば帰りに更に大きな穴が開けられてしまったことなのだろうが。

橘花「新兎!新兎は?」

駿河「バイタル正常。こっちで見る限りは平気ですけど」

橘花「実際どうだかわかんないじゃない!早く開けなさいよ!!」
駿河「んな急がなくったって」

橘花「半日も閉じ込められてたのよ」

駿河「―――怒ってたんじゃないんすか」

橘花「あたしはそこまで子供じゃないわよ!早くなさい!」



933 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2012/01/02(月) 22:47:57.76 ID:Ffy55hKDO
霧島、秋津洲はブリッジのモニターで様子を、茶を飲みながら見つめていた。


霧島「元気で良いでありますなぁ」

秋津洲「いつもと変わらないですね」
秋津洲「――そう言えば、原因は」

霧島「単なる酸欠か、何かじゃん?宇宙は不思議がいっぱいだ〜♪」

秋津洲「なんか昔の夢みちゃったんです」

霧島「昔の夢?」

秋津洲「やーな夢です。」

霧島「やーな事かぁ。じゃあラブレターの返事を勝手に出しちゃったりしたこと?」

秋津洲「……そんなことしたんですか」


934 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2012/01/02(月) 22:48:27.02 ID:Ffy55hKDO
―――――

技術部が総出でハッチを開ける。
微妙に中が歪んでいるのか開きにくい。

何度かの交代を経るが一向に開かない。
痺れを切らした橘花がハッチを回す

……と、一発で開いた

一同「うわぁ………」

橘花「………何よその目は」

コックピット内に光が漏れた。

そう、ほぼ、半日ほどセリフを喋っることもなかった男が口をようやく開いた。



新兎「…………よお」


935 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2012/01/02(月) 22:49:07.22 ID:Ffy55hKDO
半日もあったのに、もっと気が利いた事が言えないのかこの男は。


橘花「……新兎」

新兎「いや……参った。逃げようとしたバチかなぁ」

橘花「………」


なぜだろうか。

確かに不幸といえば不幸だが、しばしは起きる小さなトラブルなのに

こうも感極まってしまうのは。



橘花は無言で座る新兎の腹を抱いた。

新兎「んえっ………」

橘花「………」

アリナ「じゃあ私も!」

アリナは裏からむぎゅり

どさくさに紛れて敷島は橘花をむぎゅり。
もちろん後から後から男どもはむぎゅりむぎゅり


936 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2012/01/02(月) 22:49:37.07 ID:Ffy55hKDO
橘花「ちょっと、ちょっとあんたらおもぉい……」

新兎「んぐぅ………!」


勿論、体重は全て新兎へかかる。

新兎「んぷぅ………」

橘花「ちょっと!ちょっと!やめなさい!やめなさいよぉ……!」

むぎゅり。むぎゅり。

新兎「め……もぉ………むりぃ」

橘花「ちょっ………!」


新兎「げぇぇ………」



新兎は、中身をヘルメット内にぶちまけた。


逃げ場のないそれは、新兎の意識を奪うには十分であった。


頭「艦長ぉー!艦長ぉー!新兎君が……新兎君がぁ!!!!!」


霧島「………また?」




第六点五話・完


937 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2012/01/02(月) 22:51:14.77 ID:Ffy55hKDO
お付き合いありがとうございました。
938 :以下、あけまして [sage]:2012/01/03(火) 17:06:25.28 ID:/vPVInCDO
乙!
本気でミスったのかと思ってたwwww
939 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/01/07(土) 18:05:48.13 ID:BTGkMcDOo
次スレはどうするんだ?
940 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/07(土) 22:14:48.10 ID:2zbuFoeDO
次の投下時に立てようかなと思います。
941 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/01/25(水) 19:53:36.13 ID:QqUoKgoMo
まだか
942 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2012/02/02(木) 00:16:01.55 ID:GdEftvWAO
ほす
943 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/04(日) 12:49:48.41 ID:c1H50XSDO
今さらですが来週には更新予定
944 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/04(日) 16:14:01.54 ID:pdG5/SO/o
久しぶりだな
945 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/03/09(金) 18:36:59.71 ID:hatcZppQo
まだかなー
946 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/11(日) 22:38:48.96 ID:QShfgetAO
再開

第七話
「アンチ」
947 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/11(日) 22:41:19.61 ID:QShfgetAO
秋津洲「以上が、報告であります。」

秋津洲は顰めっ面の老人どもを前に
「一通り」の説明を終えた。

相変わらず地球の空気は、ましてやこの狭くて暗い会議室の空気は悪い。

鉄の扉は冷ややかに彼らを見つめているだけであった。


幹部A「私は間接的な物言いには娼嫉していてね。率直に言わせてもらうが――」

男の声がその会議室の広さと、静けさを物語っていた。

幹部A「君の報告は、眉唾だな」


字面でも、また口調から分かるようにこの幹部をはじめとした軍のお偉方はカスミにたいして、嫌悪そのものしか感じていないようで、まるで生ゴミの処分を議論するかのような物言いだ。


秋津洲「検証結果には間違いはありません。ご報告の通りであります。」

秋津洲は全ての感情を抑え込んで、いかにも冷静沈着であるかように振る舞う。

勿論、『あるか』なだけであって、地位や世間体の類いが無ければ…

彼女には地位も世間体もあるのでこんな仮定をしても仕方がないのかもしれないが。


948 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/11(日) 22:42:23.83 ID:QShfgetAO
幹部B「『攻撃』は生物の高等の欠片もみせぬ行動だとは思わんかね。知能あるなしに関係性は見られんよ」

『全てを知っている』かのような物言いは老人の特徴かなにかなのだろうか。

秋津洲「しかし、高度な生命体の存在を否定する要因にはなり得ないと考えます。」

幹部C「では君がその結論に至った要因にも疑問を呈する。出所も解らないような文章と、下劣な三流紙の一面が何の確信になり得るのかね。こんなものいくらでもつくれるよ」

秋津洲「本部の唱える『生物の突然変異説』よりかは余程納得しうるように見受けられますが」

幹部A「あくまでも君の私観だろう?馬鹿馬鹿しい。」

秋津洲「否定的ご意見もまた私観でありましょう」

幹部B「口を謹みたまえ!」

幹部C「君も霧島大佐と行動するうち、愚かさの伝染でもしおったのかね。君ほどの人材が…痛ましいことだよ」


秋津洲「私は、客観的で帰納的な、趣旨通りの回答を頂きたいのみです」

幹部B「礼儀も忘れたか、小娘」


興奮した男が立ち上がる。
彼女に威圧感でも与えているつもりなのか。
949 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/11(日) 22:42:52.86 ID:QShfgetAO
総司令「これ以上は礼儀知らずが君になるぞ」

中央に座る、やけにオーラたっぷりの男が制した。
幹部Bは速やかに席へと戻る。

総司令「回答は今の段階では出せない。しかし、『可能性の一つ』として可能性も考慮しよう」



とは、言いつつも全く期待など出来ないことは明らかだった。

社会において、考慮するだとか、前向きに検討だとかのキーワードは往々にして大体80パーセントくらいの確率で『ごめーん(笑)』を意味する。

彼女もバカではない。
食い下がる。

秋津洲「具体的には」

950 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/11(日) 22:56:25.21 ID:QShfgetAO
総司令「そう来るだろうとは思ったよ。簡潔に主張しよう。彼らを『間違いなく』殲滅させた。これは揺るぎのない事実だよ」


秋津洲「ならばその根拠を伺いたいのでありますが」

総司令「よろしい。君が『将官に昇進したあかつき』には必ず話そう」

秋津洲「それでは理由になりません。私は『今』、伺いたいのであります」


総司令「機密事項だよ」


一度ならず二度までも。
おまけにクルー一同が酸素欠乏で死にかけたのだ。
のうのうと地上の楽園で権力の粋を楽しみ尽くすような老人共に今度こそは引けない。

951 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/11(日) 22:57:02.61 ID:QShfgetAO

秋津洲「『機密』に該当する程の重要事項であれば、なおさら当事者として伺わない訳には参りません」

幹部B「貴様は減らず口を……!」

総司令「問おう。地球を滅ぼそう敵が10年もの間、我々に再度戦力を充填させるような真似をさせるだろうかね」

秋津洲「皮肉にもカスミの戦力に関しては弱体の一途です」

総司令「『カスミの戦力』はであろう?軍の戦力は以前とは比べものにはならない。でなければ、君のバッグが2キロにおさまる事はなかった。」
952 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/11(日) 22:57:30.24 ID:QShfgetAO

秋津洲「しかし、結果的には我々の防衛が主戦力であります。最終防衛ラインでいくら厚く構えていてもそれは“戦略”の呼び名には不相応です」

総司令「心外だな。我々はいつでも援護の準備は出来ている。要請が来ないだけでね」

秋津洲「………艦長が」

総司令「霧島が、だよ。何を意固地になっているのか、私には理解しかねるが」

総司令「因みに、君に『その事』を報告させたのは霧島か」

秋津洲「はい」

総司令「来れば良いものを。あの男は変わっていない。」
953 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/11(日) 22:57:56.09 ID:QShfgetAO

総司令「昔からだ。事あるごとに私に因縁をつけ、かと言えば他人任せ。これが無能な人間であれば良いのだが、心得ているのだから厄介な男だ。最早特権と呼称すべきだな」

秋津洲「……」


先を聞いて良いのか迷った。正直、『非常に』興味がある。
が、これ以上は個人的興味にしかならない。
秋津洲は好奇心を圧し殺した。

しかしながら相変わらずお互いホコを納めるつもりはないらしく、心理的摩擦とでも言うべきか何とも、フィルターでは濾しきれない息苦しいような重苦しいような非常にヘビーな空気が漂う。

954 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/11(日) 22:58:22.72 ID:QShfgetAO

こんな時に霧島がいれば――

なんて冗談のような事が思い浮かんでしまうのだから秋津洲は自分に呆れる。


少しもしくは大分間を置いた後、総司令は重々しく口を開いた。

総司令「ダメだ。上手いジョークが閃かない。ストレートに言おう。」

総司令「秋津洲中佐、私は何も君を報告の為に『だけ』わざわざ遠路遥々ここへ呼び出した訳ではないよ」

秋津洲「と、仰られますと」

総司令「移動より会議の時間は過ぎたのだから簡潔に述べよう」


総司令「君たちに、『任務』を与えたい。」

秋津洲「…任務?」


955 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/11(日) 22:59:04.30 ID:QShfgetAO
――――――

橘花「ツモ」

橘花「九蓮宝灯、役満ね」

白鷹「ちっきしょ!またかよ」

アリナ「強すぎですよー。私なんてまだ一回も、リーチすら出せてないんですから」

榛名「あんまり勝ちすぎても人、よりつかなくなっちゃうわよー?」

白鷹「ですよね、だから未だに男がよりつかねーんじゃねーの?」

アリナ「意地悪はだめですよ。橘花さんのファンはたくさんいるんですから」

榛名「あら、それは勘違いよアリナさん。結局のところオ(自主規制)ペットとかダ(自主規制)ワイフとか南極(自主規制)号みたいなもんよ。」

アリナ「えっ?えっ?」

榛名「男なんてみんなそんなもんなんだから。結局のところ『お』と『こ』のつくものしか興味がないのよ。男だけに」

アリナ「『お』と『こ』??」

白鷹「…すれた大人の意見だ。真に受けるんじゃないぞ」


榛名「はい、ぴったりだと思うんだけど」

橘花「????」

三人が揃ってこちらを見ている

なんのこっちゃ。



榛名「さてここまで何行喋ったでしょう」
橘花「………」




橘花「……負け犬の10吠え」


956 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/11(日) 22:59:30.47 ID:QShfgetAO
カスミは相も変わらず呑気だった。
補修は『それなりに』進んではいたものの、やはり予算不足は痛い。


新兎「最後の方は別に吠えてなかったろ。なあ?」

頭にバンダナ、割烹着姿の新兎が屈みながら戦況を見守っていた。

橘花「……なんで『当たり前のように』そこにいるのかしら」

新兎「あはっ」


とりあえず笑って誤魔化した

つもりだった

橘花はいきなり新兎の首根っこを掴む

新兎「ぼ、暴力か!」

橘花「冗談」
957 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/11(日) 23:00:03.90 ID:QShfgetAO

橘花「新兎くんたら、思わず笑ってしまうような面白いことでもあったのね、気がつかなかったわ。私達にもわざわざお裾分けしに来てくれたのね。ありがとう新兎くん」

新兎「……何いってんの」

橘花「さあ!」

新兎「……さあって」

橘花「再現してみせて神前新兎!暗い影を帯びた美少女に光を!リメンバースマイル!さあ!さあ!」

新兎「………さあって」

橘花「早く!ただし、つまんなかったらぶん殴るから!さあ!さあ!さあ!」

新兎「さあって!」

彼女の目は意外と本気に見えなくもないので怖い。

酔っ払いのカラミくらいに、どうでも良いこと故に怖い。怖すぎる。

橘花に(勿論性的な意味ではなく)迫られる。

状況が掴めないままとりあえず目を反らしておく新兎。

腹を抱えながら爆笑する白鷹に榛名。

困惑するアリナ

そして、五畳の間に乱入する男達。




相模「ゴルアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」

駿河「なああああああにヤっとんじゃわれえええええええええええ!!!!!!!!!!!」

敷島「今何をしていた!何をしていた!」

同じくバンダナに割烹着。
だが、顔面は若奥様ではなく般若だった。
958 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/11(日) 23:02:23.71 ID:QShfgetAO
新兎「な、何ってぇ……」


サボっていたわけだが。



周防「サボってたわけじゃないよねぇ、ねぇ」


周防は穏やかな笑顔をむけた。



新兎「うん!うん!」



とりあえず新兎は何度も頷く。




加賀「そりゃそうだよねぇ、だって新兎くんはぁ…」

金剛「女子と、『レクリエーション』してたんだもんねええええええええええええうううううあああああおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」




男達は一斉に新兎に飛びかかった。




959 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/11(日) 23:02:53.81 ID:QShfgetAO
恨みとか、妬みとか、辛みとか、嫉みとか、そんなちゃっちなものでは断じてない、もっとおぞましい何かに突き動かされていた。

その何かについて10000文字ほど割愛し、大学入試よろしく10字程度に内容を納めるのであれば、『とどのつまりやっぱり嫉妬』だった。

結論を導くのであれば…嫉妬とは、我々の想像以上に恐ろしいものらしい。


彼らは鬼だ。容赦がない。新兎相手であれば、それはもう特に。

何があったかはやっぱり割愛しておくが、身ぐるみはがされた挙句の果てに、



ブリーフ一丁でブリッジしている男の姿がそこにはあった。



身ぐるみ剥がされているのは、流れと言うべきか、不可抗力と言うべきか、暴力を振るうことを恐れた結果というか何と言うべきだろうか。


960 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/11(日) 23:03:43.25 ID:QShfgetAO
以下に経緯を記す。





技術部員B(まあ、殴るのはかわいそうだからボタンを外すくらいで…)

技術部員C(まあ、殴るのはかわいそうだからズボン脱がすくらいで…)

技術部員D(まあ、殴るのはかわいそうだからシャツを脱がすくらいで…)

技術部員E(まあ、殴るのはかわいそうだからタンクトップを脱がすくらいで…)

技術部員F(まあ、殴るのはかわいそうだから靴下を……靴下は流石にかわいそうか………)

技術部員G(まあ、殴るのはかわいそうだからブリーフを……ブリーフは流石にかわいそうか………)

とまあ、ブリーフにいたってはこんな過程だったのだが、ブリッジに関しては謎そのものである。知りたくもないが。



どちらにせよパンツ一丁に靴下という情けない姿で新兎はブリッジしているわけだ。
屈辱で恥辱で凌辱でもう死んでしまいたいわけだ。



―――とりあえず誰もが望んでいない姿ではあった。



961 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/11(日) 23:05:25.57 ID:QShfgetAO
というものの
一応、女子は反応してやる。



橘花「きゃーエッチ」

白鷹「ヘンターイ」



フォローにならないフォロー。
屈辱感をさらに煽るのみで、
彼は大いに傷ついた。大いに。


傷ついた人間は次に何をするかと言えば

それをバネにし、更なる高みを目指す

もしくは

深く傷ついたまま再起できない



若しくは



――開き直る




ロボットアニメーションの悪役がまさにそれかもしれない。

大体悲しい過去を背負い、大体酷い目にあって、大体社会に恨み辛みを持ち、大体開き直る、大体このパターンのような気が大体する。


自分が悪役であることに対して開き直り、『私の為に戦え』だとか『勝った方を愛する』だとかその挙句、勝っても愛さず襲っちゃったりだとか

もしくは『悪いのはわかっちゃいるけど』コロニーを落としちゃったりだとか、

『悪いのはわかっちゃいるけど』逃げ惑う民間人を襲っちゃったりだとか、

『悪いのはわかっちゃいるけど』子供を洗脳して戦闘させちゃったりだとか



『悪いのはわかっちゃいるけど』


けど

けど



新兎「そうだな、俺は恥ずかしい人間だな………」

彼は遠い目をした。


962 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/11(日) 23:06:32.53 ID:QShfgetAO
と思いきやおもむろに、新兎は悪代官のように笑い出した。



一同「!」



一体、何をこの男はしているのだろうか。


周りはおろか、当人ですらその方向性を見失っていたことは確かだが。




新兎「あはは!!もう何も怖くない!怖くないないんだぞ、僕は!」


安っぽい敵役のような目付きをしながは安っぽい敵役のような口調で言い放った。




一同「………」


流石に見慣れてはいないものの、その粗末な一物を前に叫び声をあげるわけもなく、ただその無謀さに口を開くか呆れ返るかの二択。

しかし、『やけに』冷静なのが奇妙きわまりないのだが。



――それくらい、この戦艦は奇特だと言うことの証明でもあるのだろうか




しかし、『まだ』まともな人間はいるわけで――



好都合にも、その背の小ささ故に、状況を把握しては居なかった。


白鷹「……」

アリナ「ふえ?ふえ?」


無言のままに、掌で彼女の目は塞がれた。

そして彼は続ける。



新兎「恥ずかしいだろう!恥ずかしいだろう!!」



戯曲を演じているかのように叫ぶ。


新兎「そうだ、だけど僕は許される…僕なら許される!!」
963 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/11(日) 23:07:14.25 ID:QShfgetAO
その目に浮かぶ『何か』は狂気などと言う安っぽい代物ではない。



更に安っぽい何かだ。




駿河「なにいってんのお前」

お決まりの常套句。


新兎「……いつだってそうだ!まるで僕はバカみたいじゃないか!」


白鷹「………なにいってんだこいつ」

そしてお決まりの常套句。

新兎「昔っからそうさ!器用貧乏なんだよ!なんでもかんでも人並み以上には直ぐできる!でも!その後がいけない!」



新兎の主張は佳境に。



新兎「天才にも、努力の虫にもかないやしない。僕は素人に毛が生えただけのイージーな人間なんだ!!そうだろ!」

駿河「……そこまでは」

相模「言ってないよ……なぁ?」


思ってはいたが


新兎「ここに来てからろくな事がない!最初はさ、ちょっと活躍しただろ。ほら…最初の化け物の時だとか」

新兎「………化け物の時だとか」

一同「…………」

新兎「黙れ!」

周防「……何にも言ってないよ新兎くん」

新兎「下着ドロとかハイジャックとか…俺だって自分の仕事はやったつもりさ。だけど!なんで?なんで橘花の手柄になってんのさ!おかしいだろ!」

白鷹「なーんでこんな話の展開になるかね」

964 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/11(日) 23:08:36.72 ID:QShfgetAO
新兎「それにつけて!この間の一件の報告書をみればなんだ!まるで、俺が間抜けのチンチクリンのデコ助野郎じゃないか!!」

新兎「まるで協調性0、一人だけ酸素欠乏症になりかけた、カスミ内でもパイロットランク最下位の落ちこぼれ中の落ちこぼれ。違うだろう?」

相模「違うか?」

駿河「違わないよね」

新兎「違う!違うの!違うんだよ!俺は、こんな感じじゃなかった!こんなんじゃないんだよ!」

金剛「どう違う」

新兎「良く良く考えてみろ。俺は、魚屋希望だったにも関わらずだ。艦長がどうしてもと言うからここに来たんだ。そこからしてお前達とは違うんだよ!」

加賀「……それって」

白鷹「勤め口すらなかっただけなんじゃねーのー?」

新兎「うるさいです。最後まで人の話は聞くもんだと思いますよ」

新兎「僕は、なんとファルコート初号機のパイロットなんですよ!いいですか、三機の中で一番総合的に優れているのは初号機なんです」

敷島「貴様の操縦の未熟さをカバーするには性能しかあるまい」

新兎「妬みか敷島准尉。良く聞けよ、一号機並びに初号機に搭乗する事自体がステータスなのだと言ってるんだよ敷島准尉。」
新兎「1号機は必ずと言って良い程に『主人公』が搭乗するであろう。君達の猫の額ほどの脳みその細胞を、せいぜい犠牲にしてでもしながら考えてみたまえ。」

駿河「結局何が言いたいんだよ」

新兎「つまりだよ、僕ってドラマチックだろ?」

白鷹「はぁ?」

新兎「俺は、状況的に総合してみれば主人公と呼ぶに相応しいポジションにいるんじゃないかってことですよ」

一同「…………」

965 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/11(日) 23:10:52.57 ID:QShfgetAO
白鷹「………むふ」

相模「ぐふっ」

一同「ぶはははははははははははは!!!!!!!」

駿河「パンツ一丁の男が言う台詞かよ!」

新兎「いいんだ!主人公ならば許される!!状況からすれば、僕は主人公なんだよ!!!!」

新兎「なんならこのまま脱いでブリッジしてやったっていい!僕は正義だからな!大抵のことは許される」

新兎「………女の尻に敷かれて家事を押し付けられたって、美味しいとこ持ってかれちゃって大した戦果はあげられなくったって、パンツ一丁にされたって、漏らしたって、酸素欠乏症になりかけたって、情けなくたって」

新兎「………実家、潰れたって」

一同「………」

橘花「潰れたの?」

新兎「俺があの時継がなかったから、他に人もいないし、仕方ないから潰して、娘夫婦と同居してるんだって」

新兎「『にいーちゃんが一人立ちしてくれておばさん良かったわー。娘夫婦がいるけどいつでも戻って来てね。娘夫婦がいるけど』だって」

白鷹「へ、へえ………」

加賀「で、でもほら、新兎くんコミュニケーション障害っぽいから接客向いてないと思うんだ!」

駿河「そ、そうだよ。コネも人徳も愛想もないお前には勤まらないって!ドンマイ!」

金剛「よ、良かったよ、寧ろ、潰れて。結果オーライ!」

新兎「いいんだよ……もう」

周防「そ、そうだよね」

金剛「パンツ……履く?」

新兎「いいんだよ。もう」

一同「…………」


966 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/11(日) 23:11:31.90 ID:QShfgetAO
敷島「下らない。始めから逃げ場を作る方がおかしいのだ。」

新兎「伺いましたぞ敷島くん!君が軍に入ったきっかけとやらを!」

敷島「う、うそぶくな!!き、貴様が俺の何を知っていると言うのだ!」

新兎「バンド」

敷島「!」

新兎「スコッチ」

敷島「貴様……ッ」

新兎「フィッシュ&チップス」

敷島「ぬああああああああああ!!!!」


敷島はいつもの要領で新兎の首根っこを掴んだ。が、表情は通常のそれとは逆転していた。


敷島「お前は!お前は俺の何を知っている!!!」



――男は、パンパンと手を叩いた。


967 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/11(日) 23:16:52.74 ID:QShfgetAO
霧島「はい、あのコントの途中、悪いんですけど」

一同「!」

いつもの『わざとらしい』口調に『わざとらしい』態度に『わざとらしい』笑顔に『わざとらしい』怪しさに『わざとらしい』わざとらしさ。


駿河「………いつの間に」

その証拠にわざとらしさの欠片もない反応を示す彼達。

霧島「やですー、気がついてたのに『わざとらしい』んだからぁ」

霧島真之、この男はわざとらしく、他人をイラつかせる天才なのかもしれない。

新兎「……艦長に言われたかないですよ」

霧島「そんなこと良い始めたら私だけじゃありませんよ。新兎くんが来てからというものの――」

霧島「いや、君の存在自体が最早『わざとらしい』んです」

新兎「一緒にしないで下さいよ。僕は自然です。ナチュラルです。大昔のアニメで敵役を応援しちゃうくらいナチュラルです。」

霧島「君は僕に似ている」

新兎「うるさい!似てませんよ!」

霧島「それだけじゃない。最初っから考えて見てくださいよ。落ちこぼれ、でも操縦の腕は一流。なんとわざとらしい」

駿河「いや、そこは二流です」

橘花「二流よね」

白鷹「二流だな」


新兎「……」


968 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/11(日) 23:17:18.55 ID:QShfgetAO
霧島「しかも!一度は失敗するも、二度目は大勝利!よくあるパターンですよねー」
周防「その後、周りに存在感を奪われてフェイドアウトしちゃうのもありがちだよな」

霧島「女のコとケンカしちゃうのもありがちな展開ですし」

相模「特訓部屋みたいな所に迷い込んじゃうのも、とてつもなくありがちだよなぁ」

新兎「そ、それは俺のせいじゃないだろ!艦長の……」

霧島「で、最後に漏らしちゃ」

新兎「あああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
969 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/11(日) 23:17:59.28 ID:QShfgetAO
新兎「それなら!お前達だって十分わざとらしいじゃないか!なんだよ『派閥』って(笑)」

相模「ああん?」

新兎「下着泥棒って(笑)下着泥棒って(笑)」

白鷹・橘花・アリナ「…………」

新兎「空気の薄い技術部長(笑)」

頭「………」

新兎「なぞの物知りじいさん(笑)」

赤井「………」

新兎「年齢不詳(笑)ミステリアス(笑)」

榛名「うふふ」

新兎「ダメな上司に振り回される部下(女)(笑)」

秋津洲「………」

新兎「なぞの敵(笑)ハイジャック(笑)力を合わせて撃破(笑)ダンジョン(笑)頼りにならない上層部(笑)」

新兎「それから………」


ここまで来て、ようやく新兎は気がついた。




空気に





一同「…………」


霧島「まあ君の社会不適合障害を好意的に解釈してあげられるとすれば、分母さえ違えば君は至って標準的で平凡で普遍的な人間なんですよ。」

霧島「世界なんてさ、特にこの戦艦においては、『わざとらしさ』で溢れ帰ってるんだよ新兎君」

霧島「僕は勿論のこと、君だって。だからあぶれてきたんでしょ」

新兎「た、たまたま……そういう様な見方をしただけであってそんなの理屈ですよ」

970 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/11(日) 23:18:26.77 ID:QShfgetAO
霧島「その理屈で人の人生変えられるんだから、司法って怖いですよねー」

新兎「結局何が言いたいんですか!艦長と話してると気持ちが不安定になりますよ!!」

榛名「よねー。昔っから的を得ないっていうか」

赤井「クドイっていうか」

頭「話がこんがらがるっていうか」

駿河「最早何を話してるかわかんないっていうか」

秋津洲「まるで出来の悪いロボットと話してるみたいっていうか」

霧島「……つまり僕が言いたいのはですね」

霧島「世の中全部『わざとらしい』ってことですよ」

971 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/11(日) 23:18:52.93 ID:QShfgetAO
新兎「話の流れが全く見えないんですけど」


延々と永遠に会話は続いてしまいそうである。

勿論悪い意味で。



霧島「はい」

秋津洲「『はい』って」

霧島「ほら、あの本部からのやつ、説明してください」

秋津洲「………こんなタイミングでなんで」

霧島「ちょっと話の底が見えないから」

秋津洲「丸投げしないでくださいよ」


972 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/11(日) 23:19:58.57 ID:QShfgetAO

霧島「じゃあ秋津洲副艦長からとーっても素敵なお知らせがありまーす☆」

秋津洲「………」

秋津洲は見抜いていた。
と言うより『承知』していた。

彼らの先ほどからの行動は全て示し合わされた、1から10まで欺瞞に満ちた、100パーセント不純な、『コミュニケーション』であることを。


――そして同時に戦慄した。


霧島「どうしました」

秋津洲「……やっぱり断ってきます」

霧島「えーやだー」

秋津洲「…断ったほうが」

霧島「やだ!やだやだやだやだやだ!」

秋津洲「断ります」

霧島「やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ!」

秋津洲「断る!」

霧島「やd」




以下、割愛




973 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/11(日) 23:20:24.31 ID:QShfgetAO
――――――――

霧島「と、いう訳でぇー」

霧島「僕のー大変政治的で、超高度な駆け引きと情熱的な説得のかいありましてぇー」

白鷹「駄々こねただけじゃん」

霧島「秋津洲副艦長からの素敵なお知らせでーす。どーぞ」

秋津洲「………」

秋津洲「突然ですが、選抜したメンバーにてこの度、戦艦デュッセルドルフに『視察』並びに『情報収集』を目的に、出向することになりました。」

駿河「…………デュッセル」

白鷹「………ドルフ」

一同「ええええええええええ!!!」

新兎「えっ」

974 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [saga]:2012/03/11(日) 23:20:50.92 ID:QShfgetAO
秋津洲「で、事前に日本軍とユーロ空軍との協議にてメンバーは決定してます。私と艦長、それから技術部からは頭部長。それから駿河技術中尉」

駿河「あ、は、はい!」

技術部員一同「死ね!」


駿河「………素直に祝えないんですかアンタらは」

秋津洲「それから、ナビゲーターは白鷹准尉、パイロットは敷島准尉と神前准尉。以上」

新兎「……俺」

霧島「良かったじゃないですか新兎くーん、ライバル減って、活躍できるかもよぉー」

新兎「べっ、べつに」

ニタニタしながら発言しても全くもって説得力はないのであるが。

975 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [saga]:2012/03/11(日) 23:21:20.26 ID:QShfgetAO
霧島「それよりいい加減ズボン履けば」

新兎「……あっ」


新兎はともかくとして何故か駿河までうかれていた。
偵察やら視察やらの類いは技術部の連中にとって、面倒なだけだと思うのだが。


しかし、ただ一人だけ……尋常ではない様子の男が一人、いた。



敷島「私が!何故………」

秋津洲「ここの居残り組に関してもある程度の戦力を残さなければいけないでしょう。」

敷島「しかし、デュッセルドルフと言えば………」

霧島「言えば、ねぇ」


新兎「…………」


976 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [saga]:2012/03/11(日) 23:22:27.72 ID:QShfgetAO
敷島「私には畏れ多い事です。上官である橘花大尉を差し置いて……」


新兎「行きたくないのか?プロだろ、自覚持てよ」


敷島「黙れ!そんなはず、あるわけがないであろう無礼、無骨、粗忽、狼藉、愚弄!!」

敷島「第一、お前が行くってーのが気に入らんのだ!やはり、神前と私では役不足であります」

霧島「君が行くべきですよ。やはり、彼女を喜ばせるためには敷島君の存在が欠かせませんし、何より――」

霧島「新兎くん一人に戦艦任せるってのはー、ねぇー」

敷島「…………」

新兎「何で黙るんだよ」
977 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [saga]:2012/03/11(日) 23:22:55.17 ID:QShfgetAO
敷島「承知しました。少し部屋に戻って策を練らせて下さい」

霧島「策って……」

敷島「ヒッチコックでも見てきます」

新兎「………何する気だよお前」

霧島「はいおしまいです」

敷島「はっ?」

霧島「いやだからおしまいですって」

敷島「なにが……」

霧島「自由時間」

敷島「へっ?」

霧島「いや行くからさ」

新兎「行くってどこに」

霧島「デュッセルドルフに」

駿河「いつです」

霧島「今から」

一同「ああ、今から」


一同「今からあああああああああ!?」

霧島「うん」

978 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [saga]:2012/03/11(日) 23:24:21.26 ID:QShfgetAO
――――――



デュッセルドルフ。


ドイツの都市の名を持つその戦艦は、一度は袂をわかつ事となったヨーロッパ諸国が再度手を取り合い建国されたユーロ連合が誇る大型戦艦である。

まさしく『基地』と呼ぶにふさわしい設備、広さであり
隊員だけでなくその家族までもが生活する為か、商業施設なども充実しており、一つの街の様でもあった。

大規模戦艦だけあって、収容する戦闘機の数、性能共に世界一。隊員も『本物の』エリート揃い。
なにからなにまで、勝っているところがまるでなく最早オーバキルにセカンドレイプし放題のような状態に、
劣等感を飛び越えて、もう素直に快適さを享受しながら呑気にはしゃぎ回ることだけが彼らにとって『何か』出来る唯一のことだった。

のだが、目の前には顰めっ面の大男が腕を組ながらカスミのクルーの面々を迎えていた。


979 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [saga]:2012/03/11(日) 23:25:06.83 ID:QShfgetAO
霧島はヘラヘラとしながら頭を軽く下げた。


霧島「すいませーん、移動挺の空間装置の座標の調整が中々上手くいかなくって。」
霧島「もう、今年にはいって三度目なんですよー。ねぇ」

男「日本は規律と協調の国では無かったのか」

新兎「それが出来てたらカスミなんかにいねえっつうの」


ポツリと呟く。

本当にポツリと。


しかし、どうしてこうも『悪口』の類いは耳に届きやすいのだろう。


眉が逆を向いてしまっている。真っ逆さまといっても差し支えないほどに。


980 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [saga]:2012/03/11(日) 23:25:38.61 ID:QShfgetAO
男「………ご指導の賜物かな」

霧島「軍人にも、主張性とおおらかさは必要だと歴史の時間に習ったような気はしますねぇ」


秋津洲がいれば、たしなめていそうなものだが、生憎彼女は白鷹、頭と共に移動挺のチェックを格納庫の隅でしていた。

この場には新兎、敷島、駿河、霧島。


――これがいけなかった。




筋肉隆々の、数人の男達が一歩前に出てくる。

唯一戦艦でバカみたいに鍛えていた敷島さえも弱々しく見えてしまう程に、もう軍人軍人していた。

981 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [saga]:2012/03/11(日) 23:26:41.71 ID:QShfgetAO
軍人A「光栄です。移動挺が故障してもなお、我が艦にお越しいただいて」

軍人B「ええ、先日我が国への支援が大幅に削減されましたから、てっきりお越しにならないかと」

軍人C「我が軍の歓迎の儀式『バタラー』と言うものがありましてね、精一杯の“敬意”を表させて頂きます」



そう言うや否や、男は腕を振り上げた。


勿論、狙いは一番貧弱で、余計な口を叩いた、新兎である。


歓迎の儀式。

そういえば、新兎はそんなようなものを入学式から一週間くらい経った晩くらいに、上級生一同から食らったような気がする。
いくら時代が変わったとは言え悪しき風習は変わることなく有り続ける。

どこも一緒なんだなぁーなんて思いつつ、どうしたら良いか分からなかった。

多分避けられない。避けられないのに避けようとして殴られたりすれば恥ずかしいなんてものではない

しかし黙って殴られるのもシャクであった。

敷島は止めに入るが、足を引っかけられ、転んだ。


982 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [saga]:2012/03/11(日) 23:27:14.95 ID:QShfgetAO
あちらは遅刻した遅刻したと主張してはいるが、

出発直前に到着を3時間も早めるように要請してくるわ
無理だと断る暇もなしに通信は切るわ
本来の予定より1時間も早く到着したにも関わらず文句は言うわ

物事を色々掘り出せばユーロ側が若干理不尽であることが分かる。

にも関わらず黙って殴られるのは如何なものかと
少しの抵抗と覚悟の間で揺れ動く内に、もはや避けられない位置にまで拳は到達していた。

しかたがないからと覚悟を決めた新兎だったが、次の瞬間、男の叫び声が響いた。


983 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [saga]:2012/03/11(日) 23:29:13.92 ID:QShfgetAO
軍人A「ぬわああああああ!!!!」

新兎「………?」

おそるおそる前を見れば、男の顔にアイスクリームがベッタリついていた。

しかも、拳を避けた。絶妙な位置で。


お陰で拳は新兎のギリギリ左をすり抜けた。


フードを被った、黒い……スカートだから女だろうか、彼女の仕業であるようだった。

少女「ごめんなさい、『うっかり』してしまいましたわ」

軍人A「『うっかり』だとお!うっかりですむものか!」

少女「大丈夫ですか、少年。こんな男が軍人だなんて、『うっかり』も良いところですわ」

軍人A「なぁ!このガキ………ッ」

軍人は少女に手を上げた。




上官が制するのを聞かずに。





―――少女は。素直に、殴られた。




984 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/11(日) 23:30:06.10 ID:QShfgetAO
軍人A「ケッ、ガキの癖に前を見ないからこうなる。ざまあ!!!!!」

士官「貴様!!!!」

軍人は、上官に間髪入れることもなく、大きく、強く殴られた。

ドゴオだとかガスッだとか、とりあえず考えうる擬音を全て混ぜ合わせたような擬音を発していた。

軍人A「ッ!?」

士官「前を良く見るのは貴様の方だタコ助!!!!!!!」
985 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/11(日) 23:30:33.24 ID:QShfgetAO
軍人は顔を上げ、目の前の少女の顔をマジマジとみた。

軍人A「!」

少女はフードを取った。

目は青く、鼻は高く細く、口は薔薇のように赤く、肌は透き通り、髪は金色。
古典的な表現になってしまったが、とにかく彫刻の作品のような完成され切った美しさで
カスミがいかに美女ぞろいであろうが、彼女の前に立てばなんとも言えない劣等感に苛まれるであろう。

なんだかんだと御託を述べたが、とにかく、少女は美しかった。


986 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/11(日) 23:30:59.69 ID:QShfgetAO
次々と軍人達は跪いていく

いくら美人だからってやりすぎだろうと内心新兎は彼らを嘲笑していたが、ふと横をみれば霧島に駿河、敷島までもが跪いていた。



アホか!



彼はこの状況をそう称していたが
…明らかにアホなのは新兎の方に他ならない。

ぼけーっと突っ立っている新兎の尻の辺りに、カチャリと何かが突き立てられた。

固い。

何じゃこれはと弄れば、飛んだ重厚感、冷たい。 何か穴が開いている。指。

敷島「それ以上手を動かしてみろ」


敷島「二つ目の穴が開くぞ」


987 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/11(日) 23:31:35.00 ID:QShfgetAO
新兎「ふえ!」

非常に情けない声である。

敷島「いいか、そのまま膝を屈めろ」


恐る恐る膝を屈める

若干、リボルバーが尻に当たって気持ちが悪い。

敷島「そのまま手を地面につけろ。地面にだぞ」

敷島「そして言うのだ、『殿下にアテネの祝福を!』と!さあ!」

新兎「なんだよ!なんで俺が脅迫されねばならんのだ!」

駿河はひっそりとささやいた。

駿河「こいつの性格を知ってるなら従え新兎くん。死ぬぞ」

新兎「なんで」


988 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/11(日) 23:32:10.58 ID:QShfgetAO
その瞬間、安全装置を外す音が聞こえた。

新兎「ごめんなさい!やります!やります!」


少女はクスリと笑った


少女「うふふ、愉快ですこと」

敷島「ああ、申し訳ない!貴女のお目を汚してしまいました!今すぐこいつと私目で自害、いや、銃ではおべべを汚してしまいます。そうです、SEPPUKU、腹切りいたします!さあ、立て神前!死ぬぞ!」
新兎「ちょっと、ちょっと!」

少女「お辞めくださいまし、それでは私は暴君となってしまいます」

敷島「しかし!」

少女「私に名誉を与えては下さいませんか、敷島准尉」

敷島「私の!本官の名前を!こおおおおええええでありますでありますでありますぅぅううぅ!!!」

敷島はむせび泣いて敬礼した。


新兎「…敷島を初対面であしらうなんて何者ですか」

霧島「彼女は『キティ・ケイティ』だからね、聞いたことありません?ほら、ネットで話題の。ネットやってるでしょ君」

新兎「……女なんて、みんな一緒ですよ」



新兎は遠い目をした。




989 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/11(日) 23:32:55.12 ID:QShfgetAO
霧島「何かあったんです?」

駿河「ご贔屓のアイドル、ナインちゃんに彼氏が居たって金剛さんと大騒ぎしてましたよ」

霧島「ああ………」



少女「少年、怪我はございませんか」

新兎「いや別に…」


軍人A「あ、ああっ!」

少女「いけませんよ。殴りかかっては」

士官「貴様………」

士官「視聴覚室行きだ!」

軍人A「しぃっ、しちょーかくしつでありますか!!!」

士官「立て!根性叩き直してやる!」

霧島「あのぅ」

士官「なんだ!」

990 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/11(日) 23:33:21.60 ID:QShfgetAO
霧島「監督不行届にならんのでありますかね」

士官「部外者は口を挟まないでいただけるかね!」

少女「そうですね、まあ連帯責任って言葉はありますしね。」

士官「ちょ、ちょっと殿下…」

少女「そうですね、そうかもだわ」

彼らは騒ぎを聞きつけた兵たちに腕を捕まれ、情けなく引きずられて行った。


991 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/12(月) 00:07:47.38 ID:Yz0L+Z5AO
少女は跪いた。


少女「失礼をいたしました。この無礼、お許し下さいますよう」

敷島「おやめください!本官はハラキリしてしまいます!!してしまいます!!」

駿河「………いずれにしろ自害するのな」
少女「少年」

新兎「あのぉ………」


一応女はもう信じない『てい』にはなっているものの、身体は正直だ。
心臓が痛い。

少女「私にお詫びをさせてくださいな。ちょうどアイスクリームを無駄にしてしまったところですわ。いらっしゃいませ」

新兎「あのぉ、あんたは」

敷島「きさm」

霧島は間髪入れずに走り出す敷島の足に足を引っ掛けた。

敷島「ぬわぁああお!?」


少女「あら、失礼をしたわ。私はケイティ・ミアナ・レイヤー。この戦艦の艦長です。お飾り艦長ですけれど」


新兎「あんたが、艦長?子供じゃないか!」
992 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/12(月) 00:10:08.09 ID:Yz0L+Z5AO
ケイティ「お恥ずかしながら」

新兎「しかし、艦長と言うと………」





新兎は段々と思い出してきた。




キティ
デュッセルドルフ
お飾り艦長
美人


これらのキーワードは彼の貧相な脳みそを刺激するには十分すぎるくらいだった。


そう、彼女は………

新兎「ケイティ!プリンセスケイティか!」

ケイティ「ご名答です。私のこと、ご存知で嬉しいわ!」

新兎「た、たしか君って、じゅ、じゅ、じゅうさんさいの…」

ケイティ「先月14歳になったばかりですのよ」


多分、今の一連の流れをネットに流せば彼は間違いなく人肉検索くらいにあうことだろう。
そして根暗な性格、人望のなさ、親の七光りなんぞを暴かれ「宇宙きれい」くらいしか口にしなくなるに違いない。

霧島「殿下、部下が失礼を」

ケイティ「いいえ。新鮮でしたのよ。気になさらないで」



霧島「そうは参りません。そうだ、これから僕とマゼラン星雲が見えるレストランでお酒でもいかがでしょう。そうだ、そうしよう。ああ、しかしその臣足が疲れてしまっていることでしょう。そうだ、こうしよう。オリオン大星雲が見えるホテルの一室でパーティーをしましょう。僕たち二人のミニパーティーを。そうだ、そうしよう。社交的マナーを私自ら…」


と、霧島は首筋に嫌な気配を感じた。


敷島「……………」


敷島は震えながら引き金に指を掛けていた。

霧島「嫌だ…冗談」


993 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/12(月) 00:10:43.85 ID:Yz0L+Z5AO
敷島「ああ!本官は!本官は今上官を手に掛けようとした!自害だ!もう自害だ!」

ケイティ「カスミの芸風でらっしゃって?」

駿河「………否定はしません」


ケイティはその美しい唇を緩めた。



ケイティ「少年、お名前は」

新兎「ぼ、ぼくのでありますでありますで?」

ケイティ「あなただけデータが欠けていたものですから」

新兎「こ、こ、こうさき!こうさき!」

ケイティ「ファーストネームは」

新兎「ニート!ニートであります!」

ケイティ「ニート、良い名前です。名前の通り飾り気のない素直な少年ね、あなたは」

新兎「こ、光栄です!」


先ほどまでの余裕はどこへやら。完全に思考回路はショートしていたが、ただ、とにかく名前を誉められて嬉しかったことには間違いないようだった。

994 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/12(月) 00:11:41.51 ID:Yz0L+Z5AO
ケイティ「ニート、お詫びをしたいのです。アイスクリームショップに行きましょう。皆さんも、さあ!」

ケイティ「ああ、そうでした。友人も一緒にきているの。みなさん!」



白鷹「よっ」

頭「あはっ、どーもーみなさーん」

秋津洲「…………」


ケイティ「フブキ、冴えませんわよ顔色が」

秋津洲「ご心配なく、殿下」

ケイティ「もう、その呼び方はお止めになって」

白鷹「Kitty、でしょ?」

ケイティ「アヤメ大好きっ!」



駿河、敷島、新兎は凍りついた。

まさか、そんな………


995 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/12(月) 00:12:07.81 ID:Yz0L+Z5AO
霧島「ふぶきちゃんいつからいたのよ」

秋津洲「ずーっとです」

霧島「助けてくれたらいいのにぃ」

秋津洲「少しは痛い目にあったら良かったんですのよ」

霧島「もしや、殿下に対して嫉妬ですかぁふぶきちゃん?」

秋津洲「……冗談」


ケイティ「あの二人は夫婦か何かで?」

一同「冗談」



ケイティはスカートのスリットを横へ動かした。

ケイティ「きつくってイヤだわ。ロイヤルだからって、スリットの位置は決めないでいただきたくってよ。」

996 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/12(月) 00:13:13.82 ID:Yz0L+Z5AO
次スレ

中二病SF『ようこそカスミへ!』2号機-SS速報VIP(SS・ノベル・やる夫等々)
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1331476821/
997 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/12(月) 00:14:01.02 ID:Yz0L+Z5AO
ケイティ「さあ、参りましょう。本物の王室御用達、最高のラムレーズン・アイスクリームをご馳走いたします。」

と言い、ケイティがカスミ御一行をひき連れてきたのはさびれたアイスクリームショップだった。
先ほどから住民や軍人達がジロジロこちらを見てくる。仕舞いにはこそこそとなにやら話し出す始末。



新兎「さっきの騒ぎでバレバレだよな」

敷島といえば無言のままにロボット歩きをしていた。

新兎「いつもに増して変だぞ、あいつ」

白鷹「おもしろいから記録とっとこ」

駿河「あいつはさ、狂気的なまでに愛国主義者だろ?それは日本だけじゃない、ユーロのロイヤルファミリーにまで向けられるのさ。」

新兎「…軍じゃなくて?」

駿河「あくまでロイヤルファミリーに、だ。もちろん日本の王室の熱狂的ファンでもあるがな。にしてもおもしれぇなあ。あいつ。」

新兎「よくわからん」


敷島は口を鯉のようにパクパクさせていた。


998 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/12(月) 00:15:00.75 ID:Yz0L+Z5AO
ケイティ「さて、マスター、ラムレーズンを人数分、キングサイズで!」

店主「艦長、うちはそんなにケチな店じゃありませんよ。バケツごと持って行きな」
ケイティ「ワオ!」

数分後、ケイティは文字通り、バケツ一杯のラムレーズンと、人数分のスプーンを持っていた。


歩きながら、バケツの中のラムレーズン・アイスクリームをスプーンで軍人達がつつく姿は異様なんてものではなかった。

ケイティ「食べ歩きって、すごく素敵よね!」

秋津洲「殿下、お行儀がよろしくないのでは……」

ケイティ「もうフブキ、教育係みたいなことを言わないで!」


辺りには彼女の姿をみれば頭を下げる者たちが珍しくなかったが、それをみつけるたびに彼女はなんだか寂しそうな顔をしていた。

ラムレーズンは確かに美味い。


それは全員が一致する意見だった。


しかし、居心地も悪い。


これも全員が一致する意見だった。


ケイティは、はぁ、とため息をついた。

ケイティ「ダメね、自業自得だけれども」

ケイティ「予定より数刻早いけれど私の部屋にお招きいたします。これではお詫びになりませんので」


ケイティはバケツを持ち上げ、店主に大量のドライアイスを貰いに再度店へ向かった。
999 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/12(月) 00:15:36.07 ID:Yz0L+Z5AO
デュッセルドルフは広い。新バチカンと同じか、それ以上に広い。

新バチカンにあんな大きな建物が存在出来るのだから、もちろんここにも、それなりの宮殿は置かれていた。

その一室に、カスミでもお馴染みの長いテーブルが置かれていた。
ただし、プラスチックと大理石という凄まじい貧富差はあるのだが。


広い部屋に肩身の狭そうな人間が数人。
敷島にいたっては彼の周りだけ震度7。歯までガタガタ言わせているのだからどうしようもない。


ガチャリと重厚感溢れるドアが開かれた。



1000 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/03/12(月) 00:16:08.83 ID:Yz0L+Z5AO
その向こうには軍服を着こなし、ビシリと敬礼を決める女が一人。

もちろん、ケイティだった。

ケイティ「お待たせ致しました。ケイティ艦長であります。本日はようこそおいで下さいました」

ケイティは霧島に握手を求めた。

霧島はうっかり手袋を填めたまま握手をするところであったが、秋津洲にこっそり指摘され、あわてて外し、固く手を握った。

霧島「こちらこそ、お招きいただき光栄です。よろしく」

ケイティ「どうぞ時刻までこちらでごゆるりと。」

霧島「定型はここまでで?」

ケイティ「ここまでで」


ケイティはテーブルの上にドン、とバケツを置いた。
スプーンをどこからか取りだし、にこやかに言う。

ケイティ「さあ、同じバケツのアイスクリームを食べましょう!」


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2年経った今…やっぱり好き @ 2012/03/12(月) 00:13:24.66 ID:HwhnqZ6AO
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【Fate】慎二「何やってるんだ、ライダー!!」 13ワカ目【コンマ安価】 @ 2012/03/12(月) 00:02:09.99 ID:nuf83CTTo
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中二病SF『ようこそカスミへ!』2号機 @ 2012/03/11(日) 23:40:21.39 ID:QShfgetAO
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シャア「トレーナー同士、目があったら」 アムロ「バトルだっていうのか!?」 @ 2012/03/11(日) 23:19:10.93 ID:jN6iMo2c0
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約150cmで45kgってやっぱ太ってますか? part2★デブなわがまま姫とゆかry @ 2012/03/11(日) 23:16:05.01 ID:AAbfwYvAO
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健康的に肉を付けたいんだが @ 2012/03/11(日) 22:38:17.54 ID:A+/W8Qoh0
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シンジ「何年も会ってない実の父親から手紙が来たから安価で行動する」4 @ 2012/03/11(日) 22:35:37.95 ID:SKsWq/za0
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男「友姉さんいいな」友「男んとこのお姉さんのがいい」 @ 2012/03/11(日) 22:33:55.86 ID:boKCClGbo
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