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天子「どうせ私なんか、術もアニマもない、人間のクズなのよ!」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆ABsCEpS5PQ [saga]:2011/06/13(月) 20:31:40.30 ID:tIjaTx+e0
・初投稿です、何かやらかしたらごめんなさい。

・サガフロ2のキャラを東方キャラに変える、殆どそれだけのものです。

・文章力皆無、語彙は貧相。文章は期待しないで。でもアドバイスは欲しい。

・結構なオリジナル展開あり。鼻についたらごめんなさい。

・真面目に全シナリオやると超大作に!……それだと絶対途中で投げるのでかなり端折ります。そのため一部シナリオはセリフだけで補完します。

・東方キャラでやる都合上、男女が滅茶苦茶です。「父」とか「母」とかはあくまでも家族構成上の問題(?)だと思って脳内補完してください。女だって父にも長男にもなれるんですよ!

・かなりウィル編より、ギュス編適当です。でもその辺は読者様の意見を反映します。

・ネカフェから更新するのでちょこちょこでは無く結構一気に投下します。携帯はレス返しくらいにしか使いません。多分。

・「配役を楽しんでいただければなー」と思ってます(これが一番大事)

・みんな人間ってことにしといてください。

それじゃ、頑張って書いていきます。
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佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
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全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
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笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
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ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
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2 : ◆ABsCEpS5PQ [saga]:2011/06/13(月) 20:33:27.43 ID:tIjaTx+e0
てんこ誕生

伝令:
申し上げます!お妃衣玖様、無事出産です!

紫:
本当?でかしたわ衣玖!!
進軍は取りやめ、テルムへ帰還するわ

オート侯よ我が娘に感謝しなさい!

兵士:
てんこ陛下バンザイ!!

兵士:
お世継ぎ誕生バンザーイ!!



衣玖:
お帰りなさいませ陛下。お怪我はございませんか?

紫:
大丈夫よ。それよりあなたこそ加減はどう?

衣玖:
ええ。私もこの子も元気です

紫:
お前に我が名、そしてわれらが祖先の名、てんこを与えるわ。
お前はてんこ13世よ。
その名に恥じぬよう立派な女になりなさい!
3 : ◆ABsCEpS5PQ [saga]:2011/06/13(月) 20:34:37.02 ID:tIjaTx+e0
てんこ追放

今日は天子が緋想の剣の儀式に挑む日
儀式とパーティーの準備で城はごった返している
八雲家先祖伝来のクヴェル、緋想の剣
この剣は触れた者のアニマに反応する
世継ぎは7才になると、このクヴェルに触れる儀式を行い
緋想の剣と王家を受け継ぐ資格を示すのだ



紫:
どうしたの!集中しなさい!剣にアニマを込めるのよ!

儀式を始め一分が経つか経たないかの頃合いだった。
緋想の剣になんの変化も現れないことに痺れを切らしたてんこ12世、紫は自らの危惧を無理矢理払拭するかのように激しく告げた。
この時点で彼女は、儀式の失敗をほぼ確信しつつも気付かないふりをしていた。
それ程に認められないことだったのだ。


天子:
……っ


辛辣な響きを与えられた天子の額には大粒の汗が滲んでいて、歯を食いしばり憔悴しきったその顔は今にも泣きだしてしまいそうであった。
息を飲む客人、父の厳しい表情、目の前の何の反応も示さない剣が織りなす失望の空気は7才の天子にはあまりにも残酷なものだった。
一度父の表情を確認した後は俯いてしまい、視線を上げる事ができなかった。

儀式は誰の目から見ても失敗だった。
しかしここにいる誰もがこの儀式を終わらせようとはしない。
天子は汗の滲んだ拳で緋想の剣を握り、どこにも逃げられないままこの事態に、何もできない自分にじっと耐えるしかなかった。
そんな折、救済とは程遠い父の声が響いた。


紫:
なんということなの!


会場がその声で大きく震えた。
そして天子は共鳴するように震え上がった。
誰も動かなかった。
全てが縮みあがり物音ひとつ立てようとはしなかった。

しかしそれも一時の事、緊張の糸が綻び、動揺のざわめきがあちこちから湧いてくる。
それはすぐに拡散し始め、徐々に会場を包み込んでいった。
重苦しい儀式の空気から解放され視線を上げた天子だったが、その涙で潤んだ眼は彼女に背を向け静かに去っていく父の方には最後まで向けられなかった。
こうして一人取り残された天子を残し、緋想の剣の儀式は終わった。
4 : ◆ABsCEpS5PQ [saga]:2011/06/13(月) 20:36:24.26 ID:tIjaTx+e0
紫:
あれは私達の子じゃない。あなたもあれのことは忘れなさい


紫は早足で部屋に入ってくるなり投げ捨てるように言葉を発した。
その怒りに満ちた顔を見るまでもない苛立ちを宥めるように衣玖は言った。


衣玖:
あれ?あれとはてんこのことですか?あんなに可愛がっていらしたのに
儀式がうまく行かなかっただけではありませんか


それを聞いた紫の顔が引き攣る。
先程まで天子だけに向けられていた苛立ちはが自分にまで向けられるのを衣玖は感じ取った。


紫:
だけ、ですって?緋想の剣に触れてもアニマが引き出されなかったのよ
そこらの毛玉や妖精にさえアニマがあるの。あれは毛玉以下よ
私もあれには期待していた、だからこそ裏切られた気持ちなの。許せないの
王家の者にアニマが無いとは、そんなことは許されない。あれは追放する


冷静さを欠きヒステリーに叫んだ言葉に向けるべき反論はいくらでもあった。
だが衣玖はど少なくとも今はどうにもならないことを悟ってしまった。
てんこ12世、紫は尊大ではあったが何をするにも周りの意見は尊重する人物だった。
それは常に正しい選択をするため。
今でさえ冷静ではないものの、何が正しくて何が間違っているか、それは把握しているに違いない。

しかし12世は自分の意思に沿って行動する時は決して意見を曲げたりはしない。
きっと今もそうなのだと、衣玖はその経験と外聞から悟った。
許せない、許されない。そんな言葉が紫の思いを象徴しているようだった。

それでも衣玖は天子と離れることなどできなかった。


衣玖:
アニマの力は無くとも、てんこは生きています
私に宿り、私が育み、私が産み、私が乳を与え、私が育ててきました
あなたにとっては王家を継がせるためだけの存在でしょうが、私にとっては命を分け合った大事な娘です。
捨てることなどできません


衣玖は母親として、既に覚悟していた。


紫:
ならば、毛玉ともどもここを去りなさい!


そのことを。
そして、これから天子と共に背負うことになる全てを覚悟していた。
5 : ◆ABsCEpS5PQ [saga]:2011/06/13(月) 20:39:53.33 ID:tIjaTx+e0
親子は今まさに城門を出ようとしていた。


衣玖:
さあ、行きましょう


衣玖は天子に淡々と告げ、城に背を向け歩き出す。


パルスィ:
おかあさま〜

次男パルスィが衣玖の背中に向けて叫ぶ。
いつものように泣いているであろうパルスィに、いつものように振りかえることはできなかった。
そうすればもう踏み出せなくなってしまうかもしれないから。

天子の手を引いて城門を潜る。
その姿はこれから彼女達が歩む道を暗示しているかのようだった。


街人:
この出来損ない!


俯いて歩く天子に、容赦無く罵声が浴びせられる。
衣玖は動じずに前を向いて歩く。
天子はそんな母を見て、その真似をすることにした。
──堂々としなさい。
いつか聞いた母の言葉を思いだしたからだ。

──てんこ、あなたは次の国王なのよ。
続く言葉を思い出し、天子は再び視線を落としてしまう。
もう、そうじゃないんだ。
何もかも失ってしまった。
当然だったものさえ──アニマも、地位も、父も弟も妹も何もかも──失ってしまった。

そんな喪失感は天子の心に、そして今その表情に暗い陰を落とす。
自分よりほんの少し前を歩く母を見て、失ってしまったのは母も同じなのかと、天子は思った。
自分が、奪ったのかと。
6 : ◆ABsCEpS5PQ [saga]:2011/06/13(月) 20:40:54.21 ID:tIjaTx+e0
喪失
 罪悪
  虚無
   戦慄
    悲愴
     

まだそんな言葉の本当の意味さえ知らないはずの7歳の少女。
八雲天子はその全てを確かすぎる実感として捉えていた。
だから母が道中かけてくれた有難い筈の言葉も耳に入っていなくて。
自分の──うん。──という小さな声で掻き消した。

天子は心の中で繰り返していた。
──本当はごめんなさいって言いたかった。
──父様の背中にも、母様の横顔にも。
──でも、それはきっと無意味だから……。



老人:
ここではこの家が一番でして。
申し訳ありません、王妃様


衣玖:
いいのですよ、ありがとうございます
これからどうしたら良いのでしょう……

城を出て、家……というより小屋を提供された親子は途方に暮れるしかなかった。
そんな中でも衣玖は、天子に対する責任をしっかりと胸に刻んだ。
7 : ◆ABsCEpS5PQ [saga]:2011/06/13(月) 20:43:05.66 ID:tIjaTx+e0

○故郷を離れて

紫:
今日はここまでにしましょう

藍:
陛下、よろしいでしょうか?

紫:
藍先生、何か御用ですか?

藍:
てんこ様があのようになるとは、これも家庭教師であった私の責任
ここに留まるわけには参りません。城を離れることをお許しください

紫:
いいでしょう。四年間、ご苦労様でした
先生、最後にお聞きしたい
なぜあれにアニマが無いと教えてくれなかったのですか?

藍:
私にもわからなかったのです
彼女には強いアニマがあると感じたのですが……
王家にこのような人物が現れる事に、何か運命的な物も感じます

紫:
運命ね……私は普通に王位を継いでくれる娘が欲しかったわ
8 : ◆ABsCEpS5PQ [saga]:2011/06/13(月) 20:44:58.25 ID:tIjaTx+e0
──貧民街

天子:
お母様、嫌よこんなところ!

衣玖:
仕方ないのよてんこ
ノールへ帰れればよいのですが、それは陛下がお許しにならないでしょうし
ここではあなたがあまりにかわいそうなのだけれど……

藍:
王妃様、てんこ様

天子:
先生!

衣玖:
藍様!どうしてここへ?

藍:
陛下から城を離れるお許しを頂きまして、これからグリューゲルへ帰るのです
そこでお二人をお連れしようと思い、やってまいりました。

衣玖:
しかし、陛下がお許しになるとは思いません……

藍:
ここで待っていても、陛下はてんこ様をお許しにならないでしょう。
それどころか……

衣玖:
まさか!そんな……

藍:
グリューゲルでナの魅魔王に保護を求めると良いでしょう

衣玖:
分かりました。てんこのことは先生に御任せしてまいりました。
お言葉に従います


その日の夜中。
藍の先導で船を拝借してグリューゲルに行こうとする三人の姿があった。
そしてその姿を一人の兵が捉える。


兵士:
待て!


既に船に乗り込んだ藍はアニマを錬り始める。

藍:
スリープ!


一瞬にして兵は眠りに落ち、事なきを得る。
天子はこの時何を思ったのだろうか、後に決意することになる自分の在り方である。
しかし、この時の天子にはそれはまだ早過ぎた。

天子が再びこの城を見るまでに20年の時が流れることになる。
9 : ◆ABsCEpS5PQ [saga]:2011/06/13(月) 20:47:41.82 ID:tIjaTx+e0
○みょんの旅立ち

妖夢:
行ってきます、叔母さん、叔父さん。

今日は私、今年15歳になった妖夢・ナイツ……通称みょん・ナイツがディガーとしての初仕事に出る日だ。
そのために、これからヴェスティアという街に向かう。
クヴェルを探すためハンの廃墟に行く、という以外にはまだ詳しい事は決めていないが、何しろクヴェルを探すといえばあの街だ。
そこに行けばなんとかなるだろうと、そう言ってくれたのは私を育ててくれた叔母だ。
その裏付けに私の実力まで加えてくれたのは、少し私を買被りすぎだと思ったけど。


神奈子:
クヴェルを見つけるまで、帰ってくるんじゃないよ。


そんな私の叔母、神奈子から旅立つ私の背に厳しくも暖かな思いの篭った言葉がかけられる。
それに殆ど首だけで振り返ると、はいと頷いてまた歩き出した。
美しい風車が回る見慣れた風景に別れを告げ、夢への一歩を踏み出したのだ。
なんてかっこつけてみるのも、剣士の嗜みというものです。
10 : ◆ABsCEpS5PQ [saga]:2011/06/13(月) 20:51:14.02 ID:tIjaTx+e0
──ヴェスティア

ヴェスティアにつくと、道中疲れを感じていた筈の脚がだんだんと軽くなる。
私の体重は軽いから、これで相応かな。
なんて感じたのはいいとして、貰ってきた地図を頼りに昔から夢見ていた酒場を探す。
いつかその場所から私のディガーとしての人生は始まるのだと、そして今それが叶おうとしている。

見つけた。大きな看板が店の前に置いてある。
今日のランチ……焼肉定食、そして半霊たまごアイス……。
傍らに浮かぶ半身と共に身の危険を感じるが、さすがに客を食材にはしないだろうと自分を納得させた。


思ったより少し重いドアにぐっと力を込めるとそれは開き、酒場の中が見えた。
チェックのスカートを履いた緑髪の女性と、壮年の店主が目に入ってくる。
思ったよりも人が少ない。もしかするともうどこかのパーティーが出発してしまったのかもしれない。
そんなことを思っていると店主と目が合い、愛想笑いでそれに応える。
初めてというのもあって話しかけにくい雰囲気ではあるけど、私は勇気を持ってカウンターに立っている女性に声をかけようとした。

そのとき、私の後ろでバタンという恐らく勢いよくドアを開けるものであろう大きな音が響いた。
恐らく、というだけあって私はすぐには振り向けなかった。びっくりして。腰を抜かしたから……みょん。
とはいえ、私の目の前に立っていた女性も振り向かなかったんですけど。


?:
あーあ、遅かった。もう出発しちゃったのね。


その声にようやく振り向くとそこでは腋の空いたみょんな巫女服の少女がキョロキョロと辺りを見回していた。
見るからに残念そうな様子で、私の予想──もうどこかの集団は出発してしまったのかも?」──を肯定していた。

マスター:
残念だったねお嬢ちゃん、ついさっき皆さん出発しちまったよ。

?:
追っかければ間に合うかしら?

マスター:
無駄無駄。出発後に仲間を増やしたりしないもんだよ。
分け前でもめるからね。
あんた、まだ駆け出しだね?

?:
そんな言い方しないでよ!これでも実力には自信があるのよ。
足りないのは経験だけよ。

マスター:
ハハハハ。若い人はみんなそう言うね。
まあ、焦らずにがんばる事だよ。

?:
でっかい探索行だって聞いてたんだけどなー。
はーあ、どうしよう。


どうやら私と同じ駆け出しである彼女は、参加する予定だったパーティーにおいていかれてしまったようだ。
身も蓋も無い言い方をすれば、彼女が勝手に出遅れただけなんだろうけど……これは素人同士親睦を深めるチャンスかもしれない。
先程からコーヒーを飲む以外微動だにしない緑髪の女性はなんだか話しかけ難いオーラを放っているし、私はこちらのドジな少女(仮)に話しかける事にした。

11 : ◆ABsCEpS5PQ [saga]:2011/06/13(月) 20:53:25.81 ID:tIjaTx+e0
妖夢:
ねえ?

?:
あら、何?あなたも間に合わなかったの?

妖夢:
いや、そうじゃないんですけど。私はみょん。
ディガーの初仕事を探しにここまで来たんです。

霊夢:
そう、あんたはクヴェルを掘る方ね。
私は霊夢、あんた達ディガーを守るヴィジランツよ。
よろしく、みょん。

妖夢:
よろしく、霊夢。どうでしょう。
一緒にパーティーを組みませんか?

霊夢:
そうね、そうしましょ。
でも、どこへ行くの?

妖夢:
最初だから、ハンの廃墟で経験を積むのがいいと思うんです。
ひょっとすると、何か見つかるかもしれないですし。

トントン拍子で話は進み、ん、わかったと霊夢は答える。
このようにみょんにテンポの速い会話というのは往々にして、少なくともどちらかが緊張しているものだとは思うけど。
今回はどうやら私だけでなく、霊夢も緊張しているようだった。
さっきはあれだけ店主に偉そうな態度を取っていたと言うのに。

……ハンの廃墟か。
あそこには数多くのモンスターがいると言う。
その辺りにいるのと同じような敵であれば私の鋼の短剣でなんとかなるかもしれないな、と割と楽観する。
仮にも駆け出しディガー御用達の場所だ。そう強いモンスターは出ないだろう。
霊夢の方はというと、恐らくは背中に背負っている槍が得意なのだろう。
考えられる連係の心当たり──は、多々ある。
問題は私が敵と1対1で対峙しなければならない時。
そのときは同じくディガーである叔母から教わったあの戦法を使おう、と頭の中で生存に向けたシミュレーションをした。


妖夢:
ところで、霊夢。
あそこのお姉さん誘ってみますか?

霊夢:
何、みょん、怖いの?
いいわ。私が声かけてくる。


私が囁いた質問を勝手に解釈した霊夢が女性の方に歩いていく。
さっき私相手に緊張していたのは本当に何故だったんだろうとつくづく思う。
12 : ◆ABsCEpS5PQ [saga]:2011/06/13(月) 20:56:24.54 ID:tIjaTx+e0
霊夢:
あんたは探索行に加わらなかったの?

?:
この酒場に来る人は、みんなクヴェル探しが目的だとでも思ってるわけ?


その女性は意外にも気さくな笑顔で言葉を返してくる。
……いや、違う。あれは「気さくな笑顔」なんかじゃない。
「気さくな笑顔」が片方の口角だけ鋭くつり上がっていたり、細めた瞼から覘く瞳がこちらを明らかに冷たく見下していたりするもんか。
あれは魔性の女(笑)の笑みだ。


妖夢:
そ、そうですよね。そうとは限りませんよね。
私はみょんといいます。新米のディガーです。


どうも態度が大きい霊夢に任せるとまずそうだ、ということで霊夢を押しのけて私が話を始める。


幽香:
私は幽香、術師よ。
クヴェルの探索行に加わるためここに来たの。
でもリーダーが記憶障害持ちの危険人物だった。
だからやめた。


ツッコミ所が多すぎる。
やっぱりクヴェルを探しにきたんじゃないか!
とか、
そんなリーダーで大丈夫か?
とか……


妖夢:
ちょ、ちょっと私の半身にティースプーン刺そうとしないでくださいよ。


とか。


幽香:
あら、デザートの方と間違えちゃったわ。
ごめんなさいね。


そう言ってウフフと笑うその表情は、やっぱり魔性の女(笑)のソレだ。


妖夢:
まあ……やっぱりクヴェルを探しに来たんですね。
私と行ってくれませんか?
幽香さんは強そうですし。

幽香:
強そう、ではなくて、最強なのよ。
ほら。


幽香さんが私の頭に手を翳すと、私は渦巻く樹のアニマを感じた。
そしてカチューシャのリボンの反対側の辺りに違和感が生まれた。
なんか生えた。


妖夢:
な、なんですかこれ。


問いに答えることなく幽香さんは私の頭からそれを取って私に見せる。


幽香:
イラクサの花よ。
花言葉は悪意とか、残酷とか……ね。

ま、取り分が半分なら乗るわ。
普通は6:4でディガーの取り分が多いものだけど、あなたは新米だし。
13 : ◆ABsCEpS5PQ [saga]:2011/06/13(月) 20:56:52.14 ID:tIjaTx+e0

妖夢:
ええ、よろしくお願いします


尋常じゃない違和感──なんでこの人私の頭に花咲かせちゃってんのとか、悪意とか残酷ってなんのことですかとか、それと最強と何の関係があるんですか──とかその他諸々を感じつつも、戦力的に不安だった私は幽香さんの力を借りることにした。
でも、大丈夫なのかなあ、この人。


幽香:
その小娘も一緒なの?私一人で十分なのにね。

霊夢:
(ドSな女!!)


……大丈夫なのかなあ、この人。
14 : ◆ABsCEpS5PQ [saga]:2011/06/13(月) 20:58:36.70 ID:tIjaTx+e0
──ハン 古代帝国の都の廃墟


ハンの廃墟を探索する私達は、幽香さんの薦めで一際しっかりとその形を残す小さな建造物に入ることにした。
そこからハンの廃墟の地下に行けるとのことだ。
それ以外の場所はもう調べつくされていてクヴェルはないだろうと付け加えた幽香さんは
「まあ地下は敵も強いし、まだ残ってるでしょ」と更に付け加えクスクスと笑う。
最後に「何不安そうな顔してるの、最強の私がいれば大丈夫よ。」と言って幽香さんの独壇場は終わった。

そんなことを言われたって、週刊ディガーで連載されていた漫画の主人公のように敵が強ければ強いほど燃え上がる!というわけにもいかず、不安は晴れなかった。


幽香:
自分の身を自分で守れるようになるのは他の機会でいいでしょ。
言わばこれは先輩からの見本って奴よ。


見本、ね。頼りにしてますよ、ホント。


さて、私達は目的の建物に入る。
黒い石畳に足を踏み出すと細かく崩れた砂利の音が辺りに反響する。
あと、なんというか、……臭い。
腐る、ということとは程遠そうな堅牢な石造りではあるが、多少鼻をつくこの臭いは何のものだろうか。
臭いだけではない、どうにも嫌なアニマが辺りに漂っているのを感じる。
どうやらそれは霊夢も同じだったようで、飄々とした調子を崩し眉を顰めている。
幽香さんは良くも悪くも相変わらずと言った感じだ。
そんな私達の目に入ってきたのはモヒカン……ではなく一本角。


妖夢:
(野盗か!)

勇儀:
私は勇儀。ここに宝を探しに来た。お前は?


野盗かと思って見つめていた私に気付いたその人物は意外にも向こうから名乗ってきた。
今度は本物の「気さくな笑顔」で。
どうやら鬼、らしいその人物は右手に握った斧がを使うようで、その刃には何かが付着していた。


妖夢:
同業者でしたか。私はみょんといいます。新米のディガーです。
でも勇儀さん、野盗かと思いましたよ。ああ良かった。


我ながら失礼なことを言うなあ、とも思うがそれすらも勇儀さんは笑い飛ばして見せた。
そして地下に続く階段であろう陰を手で示すと私達に誘いの言葉をかけた。


勇儀:
この先の地下は予想以上にモンスターが多い、どうだ、組んでいかないか?
15 : ◆ABsCEpS5PQ [saga]:2011/06/13(月) 21:01:41.81 ID:tIjaTx+e0
これでパーティーも定番の4人、か。
良い感じだ。

ディガーである私を戦闘に階段を下っていくにつれ、嫌な臭いは更に増していく。
一つの階層であると思われる開けた場所にまで来ると、私は立ち止まってしまった。


霊夢:
どうしたの?


アニマだ。
何か昔感じたことがあるような、嫌な思いをしたような。
そんなアニマだ。
なんのアニマだ?
わからない。

困惑する私を臭いがハッとさせた。

これは「死」のアニマだ。


勇儀:
どうした、みょん。
大丈夫か?


自分の脚が震えるのをはっきりと認識する。
いつの間にか目を瞑っているのもわかる。
どうしてなのか。それは理解できない。


霊夢:
みょん?


いつか同じことがあったような気がする。
これがデジャヴという奴だろうか。
明滅するように命を咀嚼する、嘲笑うようなアニマの流れに、私は意を決して眼を開く。


幽香:
みょん、眼が赤いわよ、大丈夫?


アニマの奔流が私の視覚で踊り狂う。
先程までジメジメと湿った所だと思っていたが、とんでもない。
このハンの廃墟という奴は。
こんな乾いたところがあるものか。
人間が通常認識するアニマとは明らかに異質のそれらは、最早手の施しようが無い程に乾いていた。
なんなのか。わからない。
乾いているとしか表現のしようがないのだ。
それはきっと命の潤いを吸い取ってしまうために。


妖夢:
ここは危険です……帰りませんか?
16 : ◆ABsCEpS5PQ [saga]:2011/06/13(月) 21:02:34.67 ID:tIjaTx+e0
私の言葉を聞いた三人、勇儀さんは困惑の表情を、霊夢は疑惑の表情を、そして幽香さんは呆れたような表情をそれぞれ浮かべた。
文字通り三者三様ではあるが、とにかく「何を言ってるんだ」というような表情を三人でしていた。
──いや、違う。三人じゃない。四人だ。
実のところそれを言った私も何を言っているのかわからなかったし、そういう顔をしていたんだろう。
そんな私を見て幽香さんが「何かに憑かれたのかしら?」といって笑うのも当然のことだ。

ここまで来て引き返そうって、私は何を言っているのか。
正気じゃなかったな、と思って愛想笑いをした。


妖夢:
ごめんなさい、ちょっとした気の迷いです。
よし、行きましょう。

気を取りなおし、私は再び先陣を斬って歩き出す、視界の奥に満ちる暗黒に吸い込まれるかのように。


☆幽香side

探索は順調ではあったが、同時に地味でもあった。
見つかったのは殆どが市販されているようなツールで、そうでなくても目ぼしい物があったというわけでもない。
ハンの地下は強力な死霊達の住処となっており、これだけの品では全く割に合わなかった。

そんな中、廊下を歩いていた私達は一つの小部屋の入り口を発見する。
そこは数体の死霊によって護られており、他とは違う雰囲気を醸し出していた。


勇儀:
どうする?


説明も無しに、最初に声を上げたのは勇儀。


霊夢:
どうするって、何を?


よく分かっていない様子の霊夢。


妖夢:
あいつらを倒して……

幽香:
ダメよ。危険すぎる。


みょんの言葉を途中で遮る。
あそこにいるのはゴースト、そしてランドアーチンが2体。
私一人なら容易に勝てる相手だが、若者を守りながら戦うには嫌な相手だ。
どちらもタフな相手であり、また防御に失敗すれば一撃で殺されてしまうほどの殺傷能力を持っている。
みょんは悔しそうな顔をしていた、いや、私もか。
ならばディガーの意志に沿う、選択肢は一つだ。


幽香:
どうしても行くっていうなら私達が三人であいつらを抑える。
みょんはその間に何としてでも探索を終わらせてきなさい。それでいい?


三人は黙って頷く。

作戦会議は終わった。

行動の時だ。

私を戦闘に、霊夢、勇儀、みょんと続く。
先程までとはまったく逆の順に駆け出す。

私達はモンスターの前まで飛び込むと、そこで対峙する。
みょんだけは疾走し続け、小部屋に飛び込む。

勇儀:
上手くやれよ、みょん!
17 : ◆ABsCEpS5PQ [saga]:2011/06/13(月) 21:04:11.71 ID:tIjaTx+e0
──まずい、早速問題が浮上している。この立ち位置は問題だ。
霊夢がゴーストと、私と勇儀がランドアーチンとそれぞれ1対1で対峙する形になってしまっている。
駆け出しの霊夢にゴーストの相手を任せるのは危険すぎる。
私は霊夢にその旨を伝えようと、声を上げようとした。

霊夢の方を見ると、彼女は目を閉じていた。
俗な言い方をすると、私は「一瞬ビビった」。
それは足元を攫うように命を奪っていくゴーストに対し、死を覚悟したからではないかと思ったからだ。
しかし、現実にはそうではなかった。
霊夢は優しく目を閉じ、その端正な口を開く。
開かれた口からは、禍々しい死霊が跋扈する遺跡の地下には不相応な歌が聞こえてきた。
これは──まさか、清歌か。
私と勇儀は一瞬呆気に取られるが、アイコンタクトを取ると直ぐに一番その歌の影響を受けているゴーストに向けて攻撃を開始する。

装備から炎のアニマを、そして私自身から樹のアニマを……
更に遺跡から石のアニマを無理矢理混ぜ込むように収束させる、そしてこれが拡散する時、敵に待つのは死だ。
勇儀はゴーストに果敢に飛び込んでいく。
ランドアーチンも術の影響かまだ動き出さない。
今だ!

幽香:
くらいなさい!焼殺!

勇儀:
ハイパーハンマー!

──2連係[焼ハンマー]!!──

苦戦が予想されたゴーストは一瞬にして崩れ落ち、そのアニマは世界に還っていく。
霊夢の実力は予想外だったが、これなら勝てるだろう。
私はそう確信した。


幽香:
霊夢、勇儀!
一気に仕留めましょう、私がまとめて焼き払うから、分かれて!


霊夢はランドアーチンの前に躍り出る。
が、その際ランドアーチンが不振な動きを見せたのを私は見逃さなかった。


幽香:
霊夢、危ない!


あれはデッドリーループの構え。
防御に失敗したら中々抜け出せない、最悪の場合そのまま死ぬかもしれない。
霊夢は急に止まれなかったようでその場で硬直してしまう。目を覆いたくなったが、
そんなことをしている場合じゃない。

……何が起こったんだろうか。
デッドリーループにまともにハマったと思われた霊夢は、ランドアーチンから見て先程いたのとは逆の位置にいた。
まあいい、考えるのは後だ。
私の隣で斧を構えた勇儀に合わせ、錬ったアニマを解放する。


幽香:
ファイアストーム!

霊夢:
スカッシュ!

──2連係[ファイアスカッシュ]!!──


勇儀:
おらぁぁぁ!トマホーク!

──2連係[ファイアホーク]!!──

ランドアーチンは二体がほぼ同時に体を崩壊させていく。
人間で言うところの極端に驚いたような姿を見せながら、だ。

……私も、驚いていた。
こんなにあっさりと、それも短時間で、更にはほぼ無傷で片付くとは思っていなかった。
私が強いのは昔からだ、それは分かっている。
ただこの子たちは……。

どこか、可能性を感じた。
18 : ◆ABsCEpS5PQ [saga]:2011/06/13(月) 21:06:56.17 ID:tIjaTx+e0
☆妖夢side

小部屋の奥、暗がりに揺れる陰──誰だ、あれは。
白骨で構成された体からは、異形──四本の腕が生え、それぞれが武器を構えている。

スケルトンだ。

私が知っている二本腕のものとは違う、蒼いスケルトン。
今はこちらに背を向けているソレから逃げ出すことは容易だろう。
しかし、その更に奥には四角い箱のような物が見える。

……あれが、クヴェルだったら。
……あれは、クヴェルなのではないか。

期待が高まる。
それに、あんなにも威圧的で、攻撃的な姿をしたモンスターが箱の前に陣取っているのだ。
地上にあった多くの箱のように他の冒険者が既に中身を取り出していた、という可能性も低いのではないか。
そんな思いで私はスケルトンの背中を見つめていた。

──ふと、私は自分の違和感に気付く。

胸が高鳴っている。気分が高揚している。

……初のクヴェル入手に対する期待。
……仲間の称賛に対する期待。

それもそうだ、だがそうじゃない。
それより、何より。

目の前のアイツと戦いたくて仕方ない。

敵が強ければ強い程燃えるというわけにもいかない、と先程言った。
言った筈だ。
確かにそう思っていたが、あれは結果的に嘘だった。

先程から私の脳内で繰り返される戦闘、勝利のシミュレーション。
週刊ディガーに掲載されていた戦法、父から受け継いだ技、叔母から授かった知識……。
私は目の前の強敵相手に、それを試したくて仕方がなかった。
私の実力を、誰より自分自身に証明しなければならない。
そう思った。
先程のように逃げ腰になってしまわないためにも。

私は武者震いの止まらない手で武器を握る。
右手に鋼の短剣を、左手に氷晶の杖を。

両手の武器で戦う?
いいや、違うね。
私は今からアニマを使う。
ともすれば右のコレは、邪魔だ。
19 : ◆ABsCEpS5PQ [saga]:2011/06/13(月) 21:08:03.76 ID:tIjaTx+e0
妖夢:
はあぁっ!

勢いよく踏み込み、右腕を振りぬくと鋼の刃が真っ直ぐに滑空していく。
静寂に満ちていた部屋が激闘の物音に染められる。

戦意を高め宣戦布告する掛け声
 踏みこまれた地面が上げる乾いた悲鳴
  青い衣の胸部分に深々と突き刺さった短剣に化物が上げる奇声
……

人間で言う目、にあたる部分に空いた空洞から冷たく灯る瞳がこちらを補足する。
──敵は白骨でできている。
こちらに気付いたスケルトンが疾走してくるのと、私が杖を両手で握り締め、集中するのが同時。
──あの勢いだ、押し合ったら勝てない。
そのまま走ってくるかと思っていたスケルトンは地面を蹴り、浮き上がった。もう踏み込めば杖が当たる間合いだが、私は全身にぐっと力を込め、迎え撃つ。
──ならこの技しかない。
スケルトンが腕を交差させ間合いに入る!
私は集中と溜めを解放し、力任せにその腕を叩く!
今まさに剣閃を放とうとしていた二本の腕と私の杖がぶつかるその刹那、私は腕に全力を込め、それを砕く!
これが……


妖夢:
骨砕きっ!!


衝突の瞬間、鈍い高音が辺りに、そして互いの体に響く。
そしてその衝突の後、杖と腕の間で力の均衡が保たれることはなかった。
──狙い通り、奴の両腕は砕けたのだ。

支えを失い、私に圧し掛かるように突進してくる奴の胴体にそのまま杖を押しこむ。
そしてそのまま薙ぎ払うように力強く杖を振り回し、私より一回り大きな胴体を吹き飛ばした!

スケルトンは壁に痛々しい音を立てて激突する。
そのまま壁をなぞって地面までずり落ちていく。

今だ。その壁の。床の、天井のアニマを。
石のアニマを身に纏うイメージ。
この鉄壁の服を、床を踏みしめる靴を、天井を向く帽子を強化するイメージ。
私の周りに集中した石のアニマを一気に固め、添加させる!


妖夢:
ロックアーマー!


軽く、それでいて強固な石を纏ったような実感。
息を切らしたような鈍い動きで立ちあがるスケルトン。
勝利の予感がした。


妖夢:
更に、石!


ダメ押しで敵の防御効果を衰えさせる。
その強固な骨の関節が心なしか綻んだようにも思えた。
20 : ◆ABsCEpS5PQ [saga]:2011/06/13(月) 21:09:54.88 ID:tIjaTx+e0
水のアニマを放出する杖を構え直し、今度はこちらからスケルトンに近づいていく……。
ある間合いまで来たその時、突如奴の目が強い光を放ったかと思えば。
次の瞬間奴の姿は消えていた。
何が起こったかを認識する前に。
再び奴の姿を捕える前に。


妖夢:
くっ、何……っ!!


私の体に激痛が走る……全身にだ。
何が起こっているんだ。

それからようやく姿を捉えた奴、……奴は凄まじい勢いで回転している……、私の周囲を。

それしか分からない。痛い。
全身のありとあらゆる箇所が。
切り刻まれている。

余りの痛みに身を任せるしかなく。茫然と立ちつくしていた私の視界が激しく揺れた。
回転していた。奴は。今は私の目の前にいて。私の頭に。真っ直ぐに。武器を振り下ろしている。
それがわかったとき、不思議ともうどこも痛くはなかった。
殆ど意識を失いかけていた私に容赦なく浴びせられる血に染まった剣閃を最後に見て、私は意識を手放してしまおうとした。
そんな時、その化物は突然炎を上げて燃え上がった。


幽香:
みょん、大丈夫!?


どうやらその声の主に救われたようである私は、それでも意識を保つことができず、そっと放りだした
21 : ◆ABsCEpS5PQ [saga]:2011/06/13(月) 21:17:34.49 ID:tIjaTx+e0
……。


再び意識が戻ってきた時、私は柔らかな感触の中にいた。
目を開けると、天井……よりずっと近くに、大きな二つの果実による膨らみが視界に飛び込んできた。


幽香:
あら、おはよう(む)。
気分はどう?

妖夢:
幽香さん。
あの……。

幽香:
なに、どうしたの?

妖夢:
ごめんなさい、勝手な無茶をして。

そう言って起き上がろうとすると、幽香さんはダメよと言って自分の腿に私の頭をそっと押しつけて戻した。
そして私の頭を優しく撫でながらこう言った。

幽香:
いいのよ、何としてでも探索を終わらせろと言ったのは私。
そして私達はヴィジランツはディガーを守る者。
だからこれは私の責任。
それにあなたが謝るべきなのは私じゃないわ、あなた自身よ。

……でも、自分を大事にしろなんて言えないわ。
ただ冒険していればいい身分とは訳が違う。
ディガーは常に未知に立ち向かわなければならない。
何としてでも一歩踏み出さなければならないことがある、それだけ厳しい世界なの。
ある意味じゃ、「無謀」を選択したあなたが正解。
安全策を選ぶ腰抜けのディガーじゃ、タイクーンにはなれないのよ。
当然、そうして死んでいってしまう者もいる。
でも、それを忌避して逃げ回るんじゃそれもディガーとして死んでいるも同然。

それを覚悟してここまで来てるんでしょう?
だったらいいじゃない。
それに、反省すべきことが何だったかはあなた自身が分かってるはず。
私は何も言わないわ。

妖夢:
幽香さん……。


──タイクーン。
巨大な功績を残したディガーに与えられる称号。
遠い目でその称号を語る幽香さんの瞳に映るのは、私が知らない過去の日なのだろうか。


幽香:
ま、あのスケルトンをあそこまで弱らせられたら及第点ってところね。
これからも精々頑張りなさい。

幽香さんに抱きあげられ、ポンとお尻を叩かれて私は起き上がった。

及第点、か。
結構頑張ったつもりだったんだけどな。
それだけ厳しい世界、ってことか。
22 : ◆ABsCEpS5PQ [saga]:2011/06/13(月) 21:19:16.32 ID:tIjaTx+e0
勇儀:
それにしても、霊夢には驚かされたけどな。

妖夢:
え、霊夢がどうかしたんですか?

幽香:
そうね、本人は自覚していないようだけどあれはかなりの使い手。
足りないのは経験だけ、ってのも……なかなかどうして、嘘じゃなさそうね。


そう言って腕を組んだ幽香さんが視線を送った方向では霊夢が呑気に眠っていた。
そんなに強い、、のか。
なんだか悔しいような気もするが、そんなヴィジランツと知り合いになれたのは運が良いような気もする。
次も是非同行したいものだ。
もちろん、他の二人も。

……何か忘れているような気がする。


妖夢:
そうだ!宝箱!
宝箱の中には何が入ってたんですか!


当初の目的をすっかり忘れていた。
私から見て、勇儀さんの向こう側にある箱。
そこには何が入っていたのだろうか。


勇儀:
ああ、これな……。


勇儀さんは振り返ってそれを見ると苦笑する。


幽香:
カラッポよ。なーんにもなかったわ。

妖夢:
そんな!!


私は「嘘だっ!!」とばかりに駆け寄ってその外れかけた蓋を完全に取り、脇に置く。
確かに、箱の中には何も入っておらず、多少の砂が申し訳程度に底に溜まっているだけだった。


妖夢:
嘘だ……。

私はそう言ったきり箱の中を見つめて立ちつくしてしまう。


幽香:
ま、よくあることよ。
特にハンの廃墟は人も多いしね。
23 : ◆ABsCEpS5PQ [saga]:2011/06/13(月) 21:24:27.49 ID:tIjaTx+e0
違う……嘘だ。
何もないわけ、無い。
無いんだ。だって。

アニマが漏れ出しているのが、視える。
このアニマの流れは、オカシイ。
不自然、だ。
良く見ると、この箱自体が邪悪なアニマ……。
いや……人間が邪悪とするアニマでできている。
鉄だ。鉄ダ!
鉄が混ぜられている。
何故、箱に鉄が混ぜられている?
答えは簡単だ。


妖夢:
これは……。

勇儀:
どうした、みょん?
また目が赤くなってるぞ?


これはツールに宿るのアニマを隠すためのフェイク。
アニマが僅かばかりに漏れ出しているのは、箱の底。
これは樹と……獣のアニマだ。
視える、視えるぞ。

徐(おもむろ)に箱に腕を勢いよく突き入れる私を勇儀さんはギョッとした顔で見ている。
既に確信に至っていた私はお構い無しに、指で探る。
そこは砂の溜まっていた部分。あった。これだ。
指先に引っ掛かる感覚。
砂を掻きだすと更に出てくる、穴。


妖夢:
二重底だ!!


そう叫び、同時に私は掴んだ底を一気に引き上げる。


妖夢:
み゛ょん゛っ!?


が、引き上げる途中で底が引っ掛かり指に痛みが走る。
かっこつけなきゃよかった。……みょん。


幽香:
あらあら、本当?

勇儀:
どれどれ……。
お、本当だ。底が取れてる。

……何かあるぞ!ほら!


勇儀さんは心から嬉しそうな様子でそれを取りだすと、腕を突き出して私達に見せた。
24 : ◆ABsCEpS5PQ [saga]:2011/06/13(月) 21:26:15.27 ID:tIjaTx+e0
樹の枝のようなものが絡んだ、琥珀のようにほんのりと煌きを放つ紅い結晶。
幽香さんはそれを「見せてみなさい」と勇儀さんから受け取ると、わざとらしく片目を閉じて鑑定を始める。

幽香:
過去に見た文献にこんなのが載ってたわね。
確か同型の物が南大陸でも発掘されていた筈よ。
名前は確か……そう、アンバーマリーチ。
樹と獣の……。


私と勇儀さんは顔を合わせてゴクリと息を飲む。
いつの間にか起きていた霊夢も脇で壁に凭れかかったまま眠そうな目で話を聞いていた。


幽香:
樹と獣の……クヴェルよ。
やったわね!

霊夢:
クヴェル!?

勇儀:
クヴェルか!

妖夢:
これが……クヴェル!
こんなに近くで見たのは初めてだ。


先程からも只ならぬアニマを感じ取ってはいたが、幽香さんの口からクヴェルと聞いてから、その暖かさがより一層強く感じられた。

霊夢:
すごい!クヴェルだなんて!
貸して貸して!


先程まで見せていたのとはまた別種の明るさを見せる霊夢は幽香さんからアンバーマリーチを両手で受け取ると、それを掲げうっとりとした表情で眺めた。


霊夢:
綺麗……、これ、どこにあったの?

幽香:
その箱の中よ。

霊夢:
嘘?何も入ってなかったじゃない。

勇儀:
実は二重底だったんだ。
それにみょんが気が付いた。

幽香:
そうね、みょんの御手柄。
さっきは及第点だなんて言ったけど、これなら上出来よ。


なんか、さっきから幽香さんが妙に優しい気がする。
打ち解けると性格が変わるタイプなのだろうか。


妖夢:
や、やめてくださいよ。
これはみんなで見つけたんですから。
25 : ◆ABsCEpS5PQ [saga]:2011/06/13(月) 21:35:48.79 ID:tIjaTx+e0

どうにも中途半端なところですが、なけなしの書き溜めは尽きてしまったのです。
今度からはもっとガガーッと投下できるようにスパパッと書き溜めてしまいたいと思います。
たとえ需要がなくとも。

「ギュス編も真面目にやってほしいよ!」という要望がありましたら是非。
私自身そこをどうしようか迷っているので後押しされると多分そのままポンッと行きます。

今、とっても緊張してます。
読者様の前で失礼なことをしないかと心配です。
読者様は文章を見る目が肥えていると聞きます。
あ、足音が近づいてきます。どうして走ってくるんでしょう?
いよいよ、私の最後の時がやってまいりました。
皆さん、さようなら、さようなら・・・。
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/13(月) 23:53:38.21 ID:wL2qc9wUo
コーディーの死にリセットして始めからやり直した俺が通る

投下前に登場するキャラの配役表が欲しいな
新しく登場する時に「あれこれ誰役?」ってなるから
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