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憂「骨の一欠片残さず粉々にしてやる!」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/16(木) 19:03:59.71 ID:INUShuX00
和「桜高軽音部専属ボーカル 真鍋和です」

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1296735033/

のサイドストーリー。憂視点のお話です。

一・ノンビリ進行です。

二・若干の性格改変があります。

以上、承知起きの上お付き合いいただけたら、大変うれしく思います。

ではでは・・・
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第五十九回.知ったことのない回26日17時 @ 2024/05/10(金) 09:18:01.97 ID:r6QKpuBn0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1715300281/

ポケモンSS 安価とコンマで目指せポケモンマスター part13 @ 2024/05/09(木) 23:08:00.49 ID:0uP1dlMh0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1715263679/

今際の際際で踊りましょう @ 2024/05/09(木) 22:47:24.61 ID:wmUrmXhL0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aaorz/1715262444/

誰かの体温と同じになりたかったんです @ 2024/05/09(木) 21:39:23.50 ID:3e68qZdU0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1715258363/

A Day in the Life of Mika 1 @ 2024/05/09(木) 00:00:13.38 ID:/ef1g8CWO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1715180413/

真神煉獄刹 @ 2024/05/08(水) 10:15:05.75 ID:3H4k6c/jo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1715130904/

愛が一層メロウ @ 2024/05/08(水) 03:54:20.22 ID:g+5icL7To
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1715108060/

ハルヒ「最近わたしのss見かけなくなったわね」 @ 2024/05/07(火) 15:04:17.64 ID:FJQjQ6ct0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1715061856/

2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/16(木) 19:05:03.81 ID:INUShuX00
第一話 憂「マンガノート」
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/16(木) 19:05:35.16 ID:INUShuX00
春四月。ある日の朝!通学路!!


憂 「お姉ちゃん、急がないと遅刻しちゃうよー?」タッタッタ

唯 「待って待って。憂、走るの早いよー」ポテチテポテチテ

憂 「だって、お姉ちゃんがなかなか起きてくれないから・・・」

唯 「それなら待っててくれなくっても、先に行ってても良かったのにー」


? (・・・ん?あの二人・・・)


憂 「それは嫌」

唯 「えー、何で何でー??」


? (一人はうちのクラスの・・・確か平沢・・・憂だっけ。もう一人の子は、お姉さんかな・・・?)
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/16(木) 19:06:04.36 ID:INUShuX00
憂 「だってお姉ちゃん、放っておいたら絶対に二度寝しちゃうんだもの」

唯 「うう・・・そんなことないのに。キチンと起きるのに。信用ないなぁ・・・」

憂 「あとね・・・それだけじゃなくってね・・・」

唯 「??」

憂 「・・・朝は学校に着くまで、お姉ちゃんと一緒にいたかったんだもん」

唯 「う、憂ー」ジーン

憂 「えへへっ」パァーッ


? (・・・・・あ)


憂 「さ、ほら。急ご急ご。本当に遅刻しちゃう!」

唯 「はわわっ。やばいやばい。こうしちゃおれん!さぁ、行くのだ憂ー!」タッタカター

憂 「あ、ずるい!お姉ちゃん、待ってよー!」タッタッタ


? (あ、行っちゃった・・・)
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/16(木) 19:06:35.89 ID:INUShuX00
? 「・・・」

A子 「どしたの、純。あらぬ方向をじっと見つめたりして」

純 「あ、ううん。なんでもない」

B子 「あれ?あそこ走ってるの、平沢さんじゃない?同じクラスの・・・」

A子 「どれ・・・て、本当だ。なに、純。平沢さんに見とれちゃってたわけ?」

純 「うん、まぁ。実は」

A子 「えーー!なにそれ。きもっ」

純 「なんでさ!」

B子 「まぁまぁ。でもどうしたの?平沢さんと純って、親しかったかしら?」

純 「ううん、話したことも無いよ。だけど、さっき。さっきさ・・・」

純 (さっきの平沢さん。すごい、良い笑顔だったから・・・つい引き込まれちゃって)

A子・B子 「・・・?」

純 「あ、それより二人とも!私たちも急がないと!学校、遅れちゃう!」

A子 「もう、誰のせいだと思ってるのよ!純がモタモタ支度してるから・・・」

純 「ごめんごめん。だって髪、きまらなかったんだもん。さ、ほら!ダッシュダッシュ!」

B子 「・・・もうっ」

純 「へへっ」タッタッタ


純 (平沢・・・平沢、憂・・・か)

6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/16(木) 19:07:06.10 ID:INUShuX00
中学校!一年の教室!!


ざわざわざわ・・・

始業前の喧騒。

始まったばかりの一日の、活力に満ちた笑い声が教室中にあふれている。


中学生になって、もう数週間。


クラスのみんなはそれぞれに仲良しを見つけて、教室のあちこちで大小さまざまの輪を作って話に花を咲かせている。

そんな中、私は喧騒の狭間に埋没したかのように一人、ただ黙って授業の始まりを待っていた。


憂 「暇だなぁ・・・」


辺りを包む喧騒も私には人事。勝手に耳に飛び込んでくる笑い声を、右から左に受け流す。

一人でいるのは苦痛じゃない。むしろ、大勢で群れて愚にもつかない話題に合わせて笑っているほうがよっぽどの拷問だ。

・・・だけど、同じくらいに暇なのも大っ嫌い。

家で家事に追われている時の自分がもっとも”生きている”と実感できるあたり、無駄に苦労性なのかもしれないな。

7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/16(木) 19:07:33.31 ID:INUShuX00
憂 (そんな時には・・・)


私は鞄の中から一冊のノートを取り出した。

私が学校に持ち込んでいる、勉強とは関係のない唯一のもの。

それがこの「マンガノート」だ。

パラパラと新しいページを開く。


憂 「へへ・・・」


まっさらなページの上をシャープペンの軌跡が走る。見る見る間に無味乾燥なページの中に生まれた、新しい世界が顔をのぞかせる。

私が作る、私のためだけの世界。

私の紡いだ、マンガの世界・・・
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/16(木) 19:07:59.87 ID:INUShuX00
憂 「・・・と、できた♪」


うん、満足。

改めて自分で描いたばかりのマンガ・・・というより、イラストをまじまじと眺めて自画自賛。


憂 「今日も上手に描けちゃった」


ノートの中では、世界で一番大好きな女の子が、私に向かって微笑みかけてくれている。

自分で描いた絵であることも忘れ、その子の笑顔に思わずはにかんでしまう私だった。


憂 「えへへへ・・・」


と、一人悦に入っている、そんな時。


? 「ね、何してるの?」


まさに不意を突くといった言葉がぴったりのタイミングで。


? 「ね、ね。何してるの?」

憂 「・・・え!?」ギクッ


いつの間に近づいてきたのか、一人の女の子が私の机の前に立っていた。
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/16(木) 19:08:28.80 ID:INUShuX00
? 「なにしてるの、一人で。ていうかあんた、いっつも一人だよね?」

憂 「えっと・・・その・・・あなたは確か・・・鈴木さん?」


急に声をかけられた私は、あわててマンガノートを閉じた。

・・・見られて・・・ないよね?


純 「うん、鈴木。鈴木純。同じクラスになって結構たつんだから、名前くらいパッと出してよー」アハアハ

憂 「ご、ごめんなさい・・・」

純 「いや・・・そんなマジで謝られても・・・」

憂 「あ、うん。ごめんなさい・・・」

純 「・・・えっと。なんか、こっちこそごめん」

憂 「ううん・・・」

純 「・・・」

憂 「・・・」

10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/16(木) 19:09:16.01 ID:INUShuX00
純 「あー・・・えーと・・・」

憂 (なんだろう、この人。気まずいよー・・・用事がないなら、そっとしておいてくれないかなぁ・・・)

純 「で・・・さ。一人でいっつも、なにやってるの?」

憂 「なにって・・・別に・・・」

純 「ん・・・?それ、ノート??」


やばっ!見つかっちゃった!?


純 「あはは。平沢さんってまじめだね。朝から勉強してるの?」

憂 「あ、これは・・・」

純 「予習?復習?平沢さん、勉強できそうだもんね。ちょっと見せてー」ヒョイッ

憂 「あっ、ちょっ!」

純 「ふひひ、すぐ返すって。どれどれー、えっと・・・あれ?」

憂 「〜〜〜〜///」

純 「これって・・・」

憂 「///」

純 「・・・マンガ?」
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/16(木) 19:10:03.65 ID:INUShuX00
憂 「か、返して!」

純 「えー、良いじゃん。ちょっと見せてよ。どれどれ〜」

憂 (馬鹿にされる・・・)

純 「ふむふむ・・・ほほー・・・」

憂 (中学生にもなってマンガなんか描いてるって、きっと馬鹿にされる・・・!)

純 「・・・はぁーっ。・・・はい。返すね」

憂 「・・・」

純 「平沢さんさぁ・・・」

憂 ビクッ

純 「絵、上手いねぇ!」

憂 「・・・え?」

純 「うん、絵!」

憂 「・・・」
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/16(木) 19:10:51.44 ID:INUShuX00
純 「なに、漫画家でも目指してるの?」

憂 「えっと、あの・・・」

純 「私、絵とかそういうのサッパリ駄目だから、上手い人って尊敬しちゃうんだよなぁ。きっと美術の成績も良いんだろうね!」

憂 「・・・」

純 「ちなみにさ。私の小学校のころの歴代通信簿。美術の欄を並べたら、なんとアヒルのパレードが始まっちゃうわけよ」

憂 「・・・??」

純 「2 2 2 2・・・ってね。あはははっ」

憂 ポカーン

純 「あははは・・・は・・・。外しちゃった?面白く・・・なかった??」

憂 「う、ううん」

純 「そう?よかった!」


キーンコーンカーンコーン♪


純 「おっと、予鈴!そんじゃね、平沢さん」

憂 「う、うん」

純 「あ。マンガ、また見せてね!」タッタッタ

憂 「・・・」

憂 (マンガ、馬鹿にされなかったな・・・だけど・・・)

憂 (”あの事”だけは、絶対ばれないようにしなくっちゃ)
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/16(木) 19:11:37.95 ID:INUShuX00
放課後!


憂 「さて、帰ろ・・・今日はスーパーによって、夕食の材料買って帰らなきゃ・・・と」

純 「ひーらーさーわーさんっ」

憂 「うわっ、また!」

純 「またってなに、またってー・・・傷ついちゃうなぁ」

憂 「ご、ごめんね、鈴木さん。で、何か用?」

純 「うん、もしよかったらさ、一緒に帰ろうよ。帰り、途中まで一緒だよね?」

憂 「えっ」

純 「えっ」

憂 「あ、突然だったからびっくりしちゃって・・・」

純 「突然って、大げさだな。クラスメイトなんだし、一緒に帰るくらいするでしょ?」

憂 「そうかも知れないけど・・・」

憂 (友達でもないのに、一緒に帰るのが普通?)

純 「あ、都合悪かった?用事あったりとか・・・」

憂 「あ、うん。これからお買い物して帰らなくちゃならなくって」

純 「じゃあ、私も付き合うよ!」

憂 「そんな、一緒に来てもつまらないよ?それに、悪い・・・」

純 「悪くないって!そうと決まれば、ほら!早く行こ行こ♪」グイッ

憂 「あ、ちょっと、引っ張らないで!ちょっとーっ」

憂 (もう、なんなのこの人!)
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/16(木) 19:12:04.06 ID:INUShuX00
平沢家行きつけのスーパー!


純 「え、買い物って晩御飯の材料だったの?」

憂 「そうだよ」

純 「私てっきり、マンガとかさ。それ関係の買い物だとばかり思っちゃってた・・・」

純 「画材とか、資料とか、あとよく分からないけど色々ー・・・」

憂 「・・・だから一緒に来てもつまらないって言ったのに」

純 「つまらなくはないよ?」

憂 「・・・え」

純 「目的が何であれ、友達と一緒のお買い物って楽しいじゃん♪」

憂 「え・・・友達・・・」

純 「ん?」

憂 「あ、ううん。なんでもない・・・」

憂 (今日はじめてまともにじゃべったばかりなのに、友達だなんて・・・)

15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/16(木) 19:12:50.35 ID:INUShuX00
純 「ね、お夕飯はいっつも平沢さんが作ってるの?」

憂 「・・・ううん。でも家、お母さんが仕事でいないことが多いから。私が作ることも多いかな」

純 「ふーん。大変だね」

憂 「ううん。お料理、好きだから」

純 「そっかぁ・・・」

憂 「・・・」

純 「ね、今日は何を作るの?」

憂 「ハンバーグ。ほうれん草のソテーを添えて」

純 「良いね。ハンバーグ、好きなの?」

憂 「お姉ちゃんが好物なの」

純 「ふーん。お姉さん孝行だね。仲、いいんだ?」

憂 「・・・うん」

純 「そっかそっか」

憂 「・・・」

純 「・・・」

憂 「・・・さて、必要なものはそろったし。レジに行こうか」

16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/16(木) 19:13:38.22 ID:INUShuX00
買い物を済ませて、帰宅路!!


唯 「うーいー!」トテチテトテチテ

憂 「あ、お姉ちゃん!」

純 (あ、けさ平沢さんと一緒にいた人・・・やっぱりお姉さんだったんだ・・・)

唯 「追いついたー。ういっしゅ、憂ー」

憂 「ういっしゅ。お姉ちゃんもいま帰りなんだね」

唯 「そだよ。お買い物してきてくれたの?誘ってくれたら、私もお手伝いしたのにー」

憂 「そんなこと言って。ついでにアイスも買い物籠に入れちゃうつもりだったんでしょ??」

唯 「さすが鋭いっ。お見通しでしたか」

憂 「えへへ。・・・あと、それにね。今日は鈴木さんも一緒だったから・・・」

純 「こんばんわっ」

唯 「おお、はじめて見る顔っ。憂のお友達?」

憂 「えっと・・・」

純 「はいっ。平沢さんと同じクラスで、鈴木純っていいます。はじめまして!」

憂 「・・・」
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/16(木) 19:14:29.49 ID:INUShuX00
唯 「ご丁寧にー。憂の不肖の姉の唯です。いつも妹がお世話になってます」

純 「いつもというか、まともに話したのって今日が初めてなんですけれど。ね?」

憂 「う、うん・・・」

唯 「じゃあ友達になりたてってわけだね」

純 「なりたてのホっヤホヤです!」

唯 「あははっ。じゃあ、これからもうちの憂をよろしくねー」

純 「こちらこそっ」

憂 (なんなの、私そっちのけで勝手なことを)


・・・
・・・


純 「それじゃ私、こっちだから」

憂 「うん。それじゃ・・・」

純 「また明日ねっ!憂のお姉さんも、失礼します!」

憂 「う、うん」

唯 「まったねー」

純 「へへっ」タッタッタッ

憂 「・・・」
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/16(木) 19:15:22.55 ID:INUShuX00
唯 「明るくって、面白い子だね」

憂 「そ、そうだね(変な子だったなぁ・・・)」

唯 「えっへっへ。安心安心♪」

憂 「・・・安心?」

唯 「うん。えっとね。憂、気を悪くしないでね?」

憂 「なぁに・・・?」

唯 「あのね、憂ってさ。家とかにあまり、お友達連れてきたことって無かったでしょ?」

憂 「・・・」

唯 「お休みの日とかも、友達と遊びに行くことそんなに無かったし。だからね、ちょっとだけ。私、心配してたんだ」

憂 「・・・心配って、なにを?」

唯 「・・・うん。憂、私にかかりっきりで、お友達を作る時間、無かったんじゃないのかなって」

憂 「そんな、そんなことないよ・・・」

唯 「だよね。鈴木さんって素敵なお友達、できたもんね。だからね、私は安心したの。安心安心♪」

憂 「・・・うん」

19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/16(木) 19:15:51.38 ID:INUShuX00
唯 「えへ・・・憂、いっつもありがとうね。大好き」

憂 「お姉ちゃん・・・」

唯 「でもね、憂もせっかく中学生になったんだし、これからは憂自身がやりたいことも、たくさんたくさん楽しんでほしいな」

憂 「う、うん。ありがとう、お姉ちゃん」

唯 「ううん。さ、帰ろ。お夕飯のしたく、お姉ちゃんも手伝っちゃうからね!」

憂 「うん」



お姉ちゃん、何も分かっていんだ。

私が一番やりたいことが、お姉ちゃんのお世話なんだって。

そして私が一番楽しいことが、お姉ちゃんの笑顔を見ることなんだって事。

ねえ、お姉ちゃん。私、お姉ちゃんと一緒にいる時が一番楽しいんだよ。幸せなんだよ?

だからね。私にはお姉ちゃんがいればそれで良いの。

お姉ちゃんと、あともう一人の「お姉ちゃん」。この二人さえいてくれたなら。

私には友達なんて。

・・・必要ない。


・・・
・・・

と、私は思っているのに・・・


純 「平沢さーん!このマンガ読んだ?もう、ちょー面白くて!!」
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/16(木) 19:17:12.29 ID:INUShuX00
初めて鈴木さんが話しかけてきたあの日から。

あれから毎日、何か事あるごとに鈴木さんは私に絡んでくるようになってしまい・・・

朝、顔を合わせるたび。


純 「平沢さーん!」


昼、お弁当を広げるたび。


純 「お弁当いっしょに食べよー!」


そして放課後、家に帰ろうと教室を後にするたび・・・


純 「ねえねえ。今日ちょっとデパ地下覗いて帰らない??すいーつ買い食いしようぜ!すっいーーつ!」


いつも私の横には鈴木さんがいて、数日もするとそれが当たり前の風景のようになってしまっていた。

私の意志なんかそっちのけで、鈴木さんはグイグイ懐いてくる。

強引過ぎてアクが強い彼女。

悪い人ではないんだろうけれど、どうにも私は苦手だと感じてしまう。


純 「にっひっひ。平沢さんと一緒だと、なんだか楽しいなぁ!」

憂 「・・・そう?」

純 「うん!」ニコー

憂 「・・・」クスッ

純 「あ、いま笑っ・・・」

憂 「な、なんでもないっ!」


・・・苦手に・・・感じてしまう・・・
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/16(木) 19:21:12.62 ID:INUShuX00
平沢家!!


憂 「というわけなんだよ」

唯 「へぇー」

憂 「ほんと、鈴木さんには困っちゃう・・・ずっとベッタリだし」

唯 「ほうほう」

憂 「自分だけの時間もあまり持てなくなっちゃったし。なんだか疲れちゃって・・・」

唯 「なるほどぉー」

憂 「むぅ・・・」

唯 「お、ほっぺた膨らませて、どした??」

憂 「・・・お姉ちゃん、さっきから空返事ばっかり。ちゃんと聞いててくれてる?」

唯 「えへへ、空返事とは違うよ。ちゃんと聞いてるって」

憂 「うう・・・ほんと?」

唯 「ほんとほんと。むしろ聞き入っちゃってるくらいさ!」

憂 「えー、どうして?」

唯 「だって憂、鈴木さんの話をしてる時、とても楽しそうだったから」

憂 「え・・・」
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/16(木) 19:25:35.35 ID:INUShuX00
唯 「生き生きしてたよ、憂」

憂 「そんなはずないよ!私はウンザリしてて、それで愚痴をお姉ちゃんに聞いてもらいたくって・・・」

唯 「・・・うん。そんな友達への愚痴もさ。憂、今まで家で話してくれたことって無かったから」

憂 「・・・あ」

唯 「だからね、文句の一つも言いたくなるくらいに親しい友達ができたんだなぁって。お姉ちゃん、嬉しくなっちゃって」

憂 「・・・」

唯 「だからね。憂の話に聞き入っちゃったって、そーいう次第なのさ!」フンス!

憂 「・・・そんなんじゃない。違うよ、そんなの」スクッ

唯 「あれ?どこ行くの?話、まだ途中じゃないの??」

憂 「・・・お部屋で宿題すませてくるね。また後で。ね、お姉ちゃん」トコトコ・・・バタン

唯 「・・・憂」
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/16(木) 19:29:08.72 ID:INUShuX00
翌日!学校!!



純 「平沢さーん!!」

憂 「・・・」

純 「お弁当、一緒に食べよう!」

憂 「はぁ・・・」

純 「ん??」


私が鈴木さんのことを楽しそうに話してた?

ぜんぜん実感が持てない。というか、ありえないよ、お姉ちゃん。

そ、そりゃたまには面白いことを言う人だなとか、それくらいは感じることもあるけれど・・・

でも・・・


憂 「・・・なんでもないよ。で、どこで食べよっか?」

純 「平沢さんの好きなところでいーよ。あと、それとね。ちょっとお願いがあるんだけど〜」

憂 「??」

純 「へっへっへ♪」
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/16(木) 19:32:14.32 ID:INUShuX00
校庭の片隅!!


純 「いやぁ〜、快晴快晴!天気良くって気持ち良いね!」

憂 「そうだね」

純 「こんな日に外で食べるお弁当の味、いやぁ格別ですなぁ。やっぱり人間、お日様の光を浴びてないとね!」

憂 もぐもぐ

純 「・・・えーと。平沢さんのお弁当、おいしそうだね?」

憂 「そうかな」

純 「うん、とっても。やっぱそれも、平沢さんが作ったの?」

憂 「うん」

純 「ほほぉ。やりますなぁ・・・」ジー

憂 「・・・?」

純 「あっ!!空とぶコイサンマン!!」

憂 「えっ!?ど、どこ!?」

純 「うっそぴょーん。いっただきー!」ヒョイッ

憂 「あ!!」

純 「いっひっひ。平沢さんお手製の卵焼きゲットだぜ!」パクッ

憂 「あー!最後の一個!!」
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/16(木) 19:43:59.77 ID:INUShuX00
純 「あむあむ・・・おほ、こりゃなかなか・・・美味しい・・・」モキュモキュ

憂 「・・・」

純 「ごっくん。えへへ。ありがとね、おいしかった・・・よ・・・」

憂 「・・・」

純 「もしかして、怒ってらっしゃいます?」

憂 「最後に食べようと思って、残しておいたのに・・・」

純 「好きな物は最後にいただく派・・・?」

憂 コクリ

純 「ご、ごめん・・・私のタコさんあげるからさ、許して・・・?」

憂 「むー・・・」

純 「ほんと、ごめんね。だって平沢さんの卵焼き、すっごく美味しそうだったんだもん」

憂 「またそうやって誤魔化す」

純 「誤魔化しじゃないって。実際食べてみて、見た目とおりの美味しさだったしね。これは平沢さんに恨まれてまで、ムリクリ食べた甲斐があったってもんだよ」

憂 ムスー

純 「ほら、いつまでもむくれてない。可愛い顔がだいなしだってば。私のタコさんも美味しいよ?食べて機嫌なおしてよ!」

憂 「・・・くすっ」

26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/16(木) 19:52:51.34 ID:INUShuX00
変な人・・・

ほんとに変で・・・

思わず、笑いがこみ上げてしまう。


憂 「ふふ・・・もういいよ。それより・・・はい、これ」

純 「お、ありがとう!」

憂 「私のマンガのノートなんか、どうして見たがるの?」

純 「え、だって。私、マンガ大好きだし」

憂 「意味分からないよ」

純 「そっかなー」

憂 「もうすでに一回見られちゃってるから仕方がないけど、本当はそれ、あまり人には見せたくないんだ・・・」

純 「え、なんで?マンガって人に見せるために描くもんじゃないの?」

憂 「それはプロの漫画家さんの話でしょ。私は違うから」

純 「そうなんだ。なんかもったいないね」
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/16(木) 19:58:00.48 ID:INUShuX00
憂 「もったいない・・・?」

純 「せっかく上手なのに」

憂 「上手・・・?」

純 「うん、とても上手だった。だからね、じっくり見せてもらいたいなって思ったんだ。ほら、この前はすぐに予鈴鳴っちゃって、あまりキチンと見れなかったから」

憂 「褒めてくれるのは嬉しいけど・・・とにかく。それは私の自己満足のためだけのマンガノートなの。だから、基本的に人には見せたくない」

純 「照れてるの?」

憂 「違うよ。ね、鈴木さん。この事は誰にも言わないでね。私がマンガ、書いてること・・・」

純 「それは良いけど・・・やっぱりもったいないよ」

憂 「お願い」

純 「う・・・わ、わかった」

憂 「・・・ありがとう」

純 「う、うん・・・じゃ、じゃあ、改めて。見させてもらうね!」

憂 「はい、どうぞ」
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/16(木) 20:12:28.43 ID:INUShuX00
パラパラ


純 「・・・へぇ。改めて見ると、やっぱりうまいなぁ」

純 「お、この絵かわいい!」

純 「んー・・・いい笑顔だね。こっちまでつられて笑顔になっちゃいそう!」

純 「・・・ん!?セミヌード!?こりはせくすぃー・・・」

憂 「・・・」

純 「マンガというより、イラストなんだね。お話とかは作らないの?」

憂 「え・・・お話?考えたことも無かった・・・」

純 「・・・そうなんだ。・・・ね、この絵の女の子って、ぜんぶ同じ子だよね?」

憂 「うん、そう・・・」

純 「お姉ちゃん?」

憂 「え・・・!?」ドキッ
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/16(木) 20:13:15.37 ID:INUShuX00
それでは続きは後刻に・・・
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/17(金) 01:18:56.42 ID:yq0lxfKS0
純 「これ、平沢さんのお姉ちゃんでしょ」

憂 「う・・・あ・・・んあ、な、なんで・・・」

純 「だって、よく特長つかんでるし。私いっかい会ってるし、すぐに分かっちゃったよ!」

憂 「う・・・うああぁ・・・!」バッ

純 「あ、ノート取られた・・・」

憂 「ち、違うから!」

純 「へ??」

憂 「私のノートの登場人物はすべて架空の人物であり、実在の人物とはいっさい関係ありませんっ!」

純 「なんでそんなに説明口調なの?」

憂 「なんでも!と、とにかくお姉ちゃんとか関係ないから!

純 「え、でm
憂 「じゃ私、そろそろ行くから!」タッタッタ

純 「あ!ひ、平沢さーん!?・・・行っちゃった」

純 「んー・・・私なんか、地雷踏んじゃったかな・・・」
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/17(金) 01:25:56.24 ID:yq0lxfKS0
タッタッタッタ・・・


憂 「はぁはぁ・・・」


思わず逃げ出すように、鈴木さんの前から走り去ってしまった・・・

だって・・・


憂 「うかつだったな・・・まさかこの絵がお姉ちゃんだってばれちゃうなんて」

憂 「そこは、それだけ私の絵がお姉ちゃんの特徴をとらえているってことで、本当なら喜ぶべき事なんだろうけど・・・でも・・・」


私の描く”お姉ちゃん”。

それが本当のお姉ちゃんに似ているのは、ある意味当然なんだ。

だって、この絵に注ぐ私の想い。報われることの無いお姉ちゃんへの気持ちすべてをぶつけて、それを紙の上で具現化したもの。

私の想いが形になったもの。それがこのノートの中のお姉ちゃんなんだ。似ないはずが無い。


憂 「分かってたはずなのに・・・」


鈴木さん、私がこの絵に込めた気持ちを知ったら、いったいどんな反応をするのだろう。
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/17(金) 01:32:25.20 ID:yq0lxfKS0
憂 「また・・・気持ち悪がられちゃうのかな」


頭の中、記憶の奥底から。かつての友人に投げつけられた、心無い罵声が蘇ってくる。


『平沢さんがお姉さんベッタリなの、そういう理由だったんだー』

『姉妹でそれは、正直引くわ・・・』

『その絵もお姉さんなの・・・?うわ、ちょっとキモいんですけどー』


憂 「うう・・・っ」


頭を思いきり振る。脳みそを撹拌して、嫌な思い出ごと粉みじんになっちゃえとでも言うばかりに。

だけど記憶にこびり付いた思い出は、錆のように心の壁にガッチリと根を張ってしまっていて。


(純 「うわ、ちょっとキモいんですけどー」)


それは頭の中で、勝手に鈴木さんの言葉に置き換えられて再生されて・・・

私の心をさらに苛める。


憂 「・・・もう、あんな惨めな思いはしたくないよ」
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/17(金) 01:36:55.12 ID:yq0lxfKS0
純 「平沢さーん!」

憂 ビクッ

純 「今日、帰りマックよって行かない?朝さ、駅の前でクーポン配ってたんだよね。かなりお安くなってるの!」

憂 「あ、あの・・・」

純 「卵焼きのお詫びもかねて、今日はこの純ちゃんがドーンとおごっちゃうからさ。ね、行こうよ!」

憂 「わ・・・悪いけど、今日はちょっと・・・用事があるから」

純 「んー?じゃあ、待ってようか?私、どうせ暇だし」

憂 「う・・・ごめん。とにかく今日はダメなの。また・・・ね、今度!じゃあ、私かえるから!」タッタッタ

純 「あ、ちょっと、平沢さ・・・ん」

純 「・・・行っちゃった。まだ怒ってるのかなぁ」
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/17(金) 01:42:02.56 ID:yq0lxfKS0
A子 「あはは、純。なーに、平沢さんにふられちゃったの?」

純 「あ、A子にB子・・・うん、まぁ。そんなとこかな」

B子 「さいきん純、平沢さんにご執心だったものね。どうしたの、ああいうおとなしい子、とっつきにくそうなのに」

純 「うん、私も最初はそう思ってたんだけどさ」

純 (あの子の本当の笑顔、見ちゃったからなぁ・・・)

A子 「ん?」

純 「あ、ううん。たださぁ、平沢さんって。みんなが思うほど、付合いにくい子じゃないと思うんだよね」

B子 「え、そうかしら・・・」

純 「絶対そう。こんど二人も平沢さんと話してみると良いよ。私の言ったこと、きっと納得できるから」

A子 「ふーん。純、平沢さんのこと、よっぽどお気に入りみたいだね。ま、確かに純好みの可愛い子だもんねぇ・・・」ニヤニヤ

B子 「あ、なるほど。そういうことなの・・・」

純 「そういうことって、どういうこと?」

A子 「はいはい。ま、純が誰をどう思おうと関係ないですけどね。ただ、これだけは言っておくね。忠告」

純 「?」

A子 「純、平沢さん構いすぎ。余計なことにまで立ち入って、愛想を尽かされないように気をつけてね」

純 「・・・え」

B子 「確かに。はたから見ててもちょっとウザかったのよね。適度な距離って、ほんと大事だと思うわよ。ご執心もほどほどに・・・てことね」

純 「あ・・・え・・・あっ、だからか!」

A子・B子 「・・・遅かったか」

35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/17(金) 02:02:40.84 ID:yq0lxfKS0
帰り道!!


いつもの帰り道。

今日は一人。最近は私の隣が定位置だった鈴木さんはいない。

とても静か。ほんの少し前までだったら気にならなかった・・・これが普通の。そして当たり前だった道のり。


憂 「・・・」トボトボ


なのに。

なぜだろう。今はその静けさが耳に痛い。

それに心がチクチクする。

この痛さはいったい何のせいなんだろう。

寂しいから?彼女を避けてしまった罪悪感から?

・・・まさか。

そんなはずないよ。あんなうるさい子、いない方がせいせいするし。

なにより、私が罪悪感を抱く理由がない。

・・・ない・・・もの・・・


憂 「・・・っ」
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/17(金) 02:11:18.97 ID:yq0lxfKS0
? 「・・・?あれは・・・」

憂 「はぁ・・・」トボトボ

? 「・・・憂?」

憂 「あ・・・和ちゃん」

和 「やっぱり憂だった。どうしたの?肩なんか落として、見るからにしょぼくれちゃって・・・」

憂 「え、そんな風に見えた?」

和 「落ち込んでるようにしか見えなかったけど」

憂 「・・・そっか」

和 「いったいどうしたの?私でよければ、話を聞くけど?」

憂 「・・・うん。実は、あのね・・・」


・・・
・・・


和 「そう・・・それでつい、鈴木さんっていう子のことを避けちゃったね」

憂 「うん・・・」
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/17(金) 02:14:58.36 ID:yq0lxfKS0
和 「でも、どうして?憂、昔から絵が上手だったし、褒められたなら誇りこそすれ、せっかく認めてくれた子の事を避ける必要なんてないじゃない」

憂 「それは・・・絵の中の女の子がお姉ちゃんだってばれちゃったから・・・」

和 「唯を描いたの?それはぜひ、私も見てみたいものね。・・・でも、それが?どうして彼女を避ける理由になるの?」

憂 (いくら和ちゃんが相手でも、報われない想いを込めて描いたからだなんて言えない・・・)

憂 「あ・・・あのね、小学生のころなんだけど・・・そのころ仲良くしてた子たちに、同じように絵を見せたことがあったの・・・」

和 「うん。それで?」

憂 「お姉ちゃんの絵ばっかり描いて、お姉ちゃんべったりだって気持ち悪がられちゃって・・・嫌われてそれっきり・・・」

和 「・・・」

憂 「だからまた、そんな風になるのが嫌で。だから私・・・」

和 「嫌われる前に、自分から距離をとったってわけ?」

憂 「・・・うん」
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/17(金) 02:18:13.92 ID:yq0lxfKS0
和 「そう。・・・良いお友達ができたみたいね、憂」

憂 「え・・・なに言って・・・」

和 「お友達。好きなんでしょう、鈴木さんのこと」

憂 「違うよ。別に好きなんかじゃない。それどころか、鬱陶しくて迷惑してるくらいだよ!」

和 「本当に?」

憂 「もちろんだよ!」

和 「だったら今の状況は、願ったり叶ったりね。良かったじゃない?」

憂 「・・・え?」

和 「今まで寄って来るから無下にできなかったものが、距離を置く良いきっかけができたってことじゃない。ね、憂」

憂 「・・・あ」

和 「このまま無視なりしておけば、そのうち向こうも憂から離れていくわよ。そしたらほら。憂の望んだとおりになる」

憂 「・・・」

和 「本当に憂が、そう望んでいるのなら、だけれどね」

憂 「そうだね・・・だって私、友達なんか要らないもの。ずっとそう、思ってきたんだもの」
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/17(金) 02:19:29.22 ID:yq0lxfKS0
では今日はここまで。
続きは後刻。おやすみなさい。
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2011/06/17(金) 11:43:40.52 ID:IErlz3F00
いいよ、いいよ。

頑張れ。
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県) [sage]:2011/06/17(金) 15:08:41.62 ID:K2MUUGTxo
憂ちゃん報われてくれよ
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/17(金) 16:07:31.34 ID:yq0lxfKS0
1です。

欠損一箇所発見。

>>33の一番最初に


その日の放課後!!


を脳内で追加してやってください。

分かりにくくして申し訳ないです。
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/06/17(金) 18:50:34.18 ID:jGmDuJ9AO
結局このタイトルでよかったのか?
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/17(金) 20:19:37.15 ID:yq0lxfKS0
>>43

ほんのちょっとだけど、違うのですよ。
間違ったままだとモチベ下がっちゃうので、立て直させていただいた次第です。

では、再開します。
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/17(金) 20:21:11.12 ID:yq0lxfKS0
私が友達だと思って、信頼して。それで本当のことを打ち明けても。

それが相手にとってのキャパシティを超える内容だったとき、そんな信頼は簡単に裏切られちゃう。

その時の惨めさ。悲しさを私は嫌っていうほど学んだから。

だから、それから先。私はいっさい友達と呼べる交友関係を誰とも築こうとはしなかったんだ。


憂 「だって、私にはお姉ちゃんと、もう一人のお姉ちゃん・・・和ちゃんがいてくれればいい・・・から」

和 「憂・・・」

憂 「・・・」

和 「憂、私のことをそこまで想ってくれるのは嬉しいけど・・・」

憂 「和ちゃん・・・」

和 「そんな中にもう一人、大切な人が加わったって良いんじゃないかしら」

憂 「鈴木さんの事・・・?」

和 「うん、だって。ね、憂。もし憂が本心から鈴木さんのことを嫌っているなら、私が言ったとおりに彼女と距離を置けばいいだけじゃない」

憂 「・・・」
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/17(金) 20:28:51.05 ID:yq0lxfKS0
和 「それをし難くって思い悩むということは、憂も鈴木さんのことを友人として認め始めているからじゃないのかしら」

憂 「私が鈴木さんを・・・友達って・・・そんな・・・」

和 「だから嫌われたくないんでしょう?嫌われるくらいなら、自分から避けてしまおうって。ね、違う・・・?」

憂 「・・・あ」

和 「人付き合いって巡り合わせよ。例えば憂とだって、私と唯が友達にならなければ、おそらくは知り合うこともなかった」

和 「そして・・・お互いの相性が悪かったなら。たとえ知り合いにはなれても、こんな風に親しくはなれなかったはず」

憂 「え・・・そんなのやだ。和ちゃんと知り合っていない自分なんて、そんなの考えられない・・・」

和 「でしょ?そして今ここで鈴木さんとの関係を断ち切ったら、あとで同じ後悔をすることになるかも・・・ね?」

憂 「でも、だったら・・・私、どうしたら・・・」

和 「話し合ってみたら?自分のしていること、気持ち悪いかどうか直接聞いてみるの」

憂 「え!でもそんなことして、もし本当に気持ち悪いって言われちゃったら私・・・どうしたら良いのか」

和 「言ったわよ、憂。人付き合いは巡り合わせだって。その時は縁がなかったと思って、キッパリ切っちゃえばいいのよ」

和 「少なくとも、相手が自分をどう思っているかも分からずに断ち切るより、よっぽど前向きで建設的な方法だと思わない?」

憂 「それはそうかも・・・だけど・・・でも・・・」

和 「それにもし最悪な結果になっちゃったとしても、憂には私がいるから」

憂 「和ちゃん・・・」

和 「うまくいけば友達ができ、そうじゃなくても今まで通り。ね、憂には何一つマイナスにならない。だから・・・」

憂 「うん」

和 「憂には後ろ向きになりすぎて、これからの対人関係の芽をつぶす様なことをしては欲しくないのよ」
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/17(金) 20:37:31.45 ID:yq0lxfKS0
・・・ずっと友達なんて要らないって思ってきた。

今の今まで。和ちゃんに言われるまでずっと。そう思ってきた。

思おうとしてきた。

だけど、今の私は鈴木さんから拒絶されることを恐れている。だから、私の方から壁を作ってしまった。

そのことに気づかされてしまった。

拒絶されるより、自分から拒絶してしまった方が心の負担が軽いから。

心が・・・痛くないから。

だから、逃げの一手を打っている。この事実に・・・

でも、どうして?この恐れはいったい、どこから来ているんだろう?

やっぱり和ちゃんが言うように、私は鈴木さんのことが「好き」なのだろうか・・・
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/17(金) 20:45:53.73 ID:yq0lxfKS0
和 「・・・だから・・・あ・・・」

憂 「・・・?和ちゃん?」

和 「まぁ・・・ね。例外として、絶対受け入れがたい人っていうのも、世の中にはいるものだけれどね」

憂 「どうしたの、いきなり・・・」

和 「ちょっと道を変えよう。今日はこっちから帰りましょ」

憂 「え・・・?あ・・・ちょっと、待ってよ、どうしたの?和ちゃんー・・・」


・・・
・・・


憂 「和ちゃん、いったいどうしたの?」

和 「うん・・・さっきの道ね。私たちの先に数人の集団がいたの、気がついてた?」

憂 「あ、ううん。あまり気にしてなかった」

和 「そう。あのね、そこにいたの、うちのクラスの不良たちだったの」

憂 「ふ、不良!?」

和 「かなりタチの悪い、ね。基本のんびりしたクラスなんだけれど、連中だけは例外でね」

憂 「そ、そんな人たちがいるんだ・・・」

和 「私ね、ああいう奴らが大嫌いなのよ。無軌道で傍若無人で、人に迷惑をかけることを勲章か何かと勘違いしている救いのない連中・・・」

憂 (和ちゃんが人のことを悪く言うなんて、初めて聞いた・・・)
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/17(金) 20:57:38.18 ID:yq0lxfKS0
和 「あ・・・ごめんね。それで、ね。道を変えさせてもらったの。あまりああいった連中と係わり合いになりたくなかったから」

憂 「お姉ちゃん、大丈夫かな・・・」

和 「唯?」

憂 「お姉ちゃんのんびりしてるから、ああいう不良さんたちに目をつけられちゃったりとかしないかな・・・」

和 「それは大丈夫よ。唯には私やクラスの友達もついているんだし。安心して、ね?」

憂 「そうだね」


そうなんだ。

お姉ちゃんには和ちゃんや他にも友達がたくさんいて、だから心配なことがあってもきっと何とかなるだろうって安心できる。

周りのみんなが、友達が力を貸してくれるだろうからって。

でも、私には友達と呼べるような人は一人もいなくって・・・

きっとお姉ちゃん、心配してただろうな。和ちゃんを除けば、私を託して安心できる人が誰一人いないんだから。

安心とか打算的な考えで友達を作るって言うのは、もしかしたら少し違うのかもしれない。

でも、私は和ちゃんがお姉ちゃんの側にいてくれることで心強く思っているし、だったらお姉ちゃんにもそれと同じ心強さを持ってもらえたら嬉しい。

それに・・・

自分の中での鈴木さんの存在の立ち居地がこのまま消化できずにいるのも、気持ちが悪い・・・から・・・


憂 「和ちゃん」

和 「うん?」

憂 「ありがとうね」

和 「・・・うん」


明日、鈴木さんと話をしてみよう。
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/17(金) 21:02:59.14 ID:yq0lxfKS0
翌日!教室!!


憂 (いつも通り鈴木さんが話しかけてきたら、昨日のことも含めて色々打ち明けようと思って気負ってたのに・・・)


どうしたんだろう。今日は却って、鈴木さんのほうがよそよそしい。

いつもならこっちがうんざりする位にグイグイ迫ってくるのに、今日は私の様子を伺うようにチラチラ横目で見てくるばかりで・・・


憂 (いったいどうしたんだろう・・・)



昼休み!廊下!!


憂 (トイレにもついてこなかったな。いつもだったら「連れションだ!」って恥ずかしいこと大声で言いながら、後を追っかけてきてたのに・・・)


なんだか、物足りないな・・・

いたらいたでうるさくって、人の都合なんかお構いなしで迷惑だとすら思っていたのに。

なんで今、こんなに私、つまらないんだろう・・・・

心の中、スカスカしちゃってるんだろ・・・
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/17(金) 21:15:45.87 ID:yq0lxfKS0
? 「平沢さん」

憂 「はい・・・?」

A子 「やっほー、平沢さん。お元気ー?」

B子 「こんにちわ。今、時間少しいただいても良い?」

憂 「えっと、あなたたちは確か・・・摩神さんと大徳寺さん?」

A子 「そ。摩神英子と大徳寺美子。純の友達のね。あの子からはA子とB子って呼ばれてるけど」

憂 「A子さんとB子さん・・・それでその、時間って・・・?」

B子 「ええ、ちょっと純のことでお話があって」

憂 「・・・え、それってもしかして!今日の鈴木さん、ちょっと様子がおかしいことと何か・・・!?」ズズイッ

A子 「あ・・・うん」

憂 「・・・ご、ごめんなさい。私、つい・・・」

A子 「はは、いや。いいよいいよ。うん、そう。その純のさ。周りの調子が狂わせちゃう様な態度についてね」

B子 「そのことで、ね。平沢さんに要らない心配をさせちゃったんじゃないかなって。もしそうだったなら私たち、謝らなくっちゃいけないから」

憂 「え・・・え・・・あのっ、それってどういう・・・」
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/17(金) 21:27:40.39 ID:yq0lxfKS0
A子 「うん、実はさ。昨日私たち、あの子に言っちゃったんだよね」

憂 「言ったって、なにを・・・」

B子 「あのね。純があまりに平沢さんに立ち入りすぎるから、程ほどにしておいたほうが良いって。老婆心で・・・ね」

A子 「余計なお世話だったかもしれないけど、このままじゃあいつ、本当に平沢さんから避けられるようになっちゃうんじゃないかって。それ、心配でさ」

憂 「な、なんでそんなこと言ったの・・・?」

A子 「うん・・・純が、本気で平沢さんと親しくなりたがってるって、見てて分かったから・・・かな」

憂 「え・・・」

B子 「でも純は、あの通りの子でしょ?相手の心の機微とか考えて行動できる子じゃないものね」

A子 「うん。うらやましいくらいに一直線なんだよ、あいつ。それは純の長所でもあるんだけどさ。でも、時と場合によっちゃぁ・・・」

B子 「短所にもなってしまう」

A子 「今がまさにそれだね。私たちはさ、平沢さん。純に相手のペースも考えて行動して欲しいって、そう言いたかったんだ。けど・・・」

B子 「でもあの子、単純だからね。自分のやり方をダメだしされちゃって、自分でもその事に納得しちゃったせいで、どうして良いのか分からなくなっちゃったみたいなの」

憂 「・・・あ。だから。だから鈴木さん、今日は私にぜんぜん話しかけてこないんだ・・・」

A子 「馬鹿だよねーあいつ。でも単純な奴だから、分かりやすいくらいに分かっちゃうんだ。純は平沢さんと仲良くなることに本気なんだって」

憂 「・・・」

B子 「ね、平沢さん。あなたはどう?純みたいな子、うるさくてやかましくって、そばにいたら迷惑?」

憂 「え・・・」

B子 「それとも、賑やかで明るくって、楽しい子だと思ってもらえるかしら」

A子 「もし迷惑だってんなら、私たちから平沢さんにはもう近づくなって、純には言っておいてあげる」

憂 「そ、それはっ」

B子 「でももし、そうじゃないなら、平沢さんの口から」

憂 「・・・え」

B子 「あなたの口から純のこと・・・私たちの友達のこと、肯定してあげてほしい」

憂 「・・・」
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/17(金) 21:37:36.31 ID:yq0lxfKS0
A子 「ごめんね。本当はあなたと純の問題なのに、要らないことをしちゃって、さらに余計な口まで挟んじゃって」

憂 「ううん。ううん、そんなことないよ。私、自分の気持ちとかまだよく分からないけど、鈴木さんと話してみるね」

B子 「平沢さん・・・」

憂 「それに、鈴木さんに打ち明けたいこともあるし。そのことで鈴木さんがどう思うか・・・友達になれるかどうかは、その答えを聞いた後じゃなきゃ分からないけど・・・」

憂 「でもね、摩神さん。大徳寺さん。二人の話を聞いて、友達っていいなって思えたよ」

A子・B子 「・・・」

憂 「ありがとうね」ニコッ

A子 「・・・これは」

B子 「うん・・・純の見立てとおりだったわね」

憂 「え、なんのこと・・・?」

A子 「あ、ううん。こっちのこと。じゃあ、平沢さん。純のことよろしく!」

B子 「こんど一緒にお弁当でも食べましょうね。それじゃ、あとでね」

憂 「うん、ありがとうね」

憂 「・・・」

憂 「・・・友達、か」
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/17(金) 23:14:21.55 ID:yq0lxfKS0
放課後!教室!!


純 「けっきょく今日・・・一言も平沢さんと口きくことができなかった・・・」ハァ・・・

純 「A子にB子め・・・あいつら余計なこと言うから、気が引けちゃってどう接したらいいか分からなくなっちゃったじゃない」

純 「・・・」

純 「まぁ・・・それもこれも、思い当たることがあるから、こうなっちゃったんだけどさ」

純 「すべては自分のせい・・・かぁ・・・」ハァ・・

憂 「・・・ため息ばっか」

純 「そう言ってくれるな。このため息一つには万感の想いが込められていてだね」

憂 「その想いって、なぁに?」

純 「それは・・・て、平沢さんっ!?」

憂 「うん」

純 「あわあわ・・・な、なに?どうかしたの???」

憂 「うん。ちょっと鈴木さんに聞いて欲しいことがあって。時間、いいかな」

純 「そ、そりゃいいよ!ぜんぜん問題ないよ!」

憂 「あは、ありがとう。でも、ここじゃ何だから・・・マックでも行こうか。クーポン、持ってるんだったよね」

純 「あ、うん・・・あるよ」

憂 「それじゃ、行こう?」
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/06/17(金) 23:19:04.20 ID:yq0lxfKS0
マック!店内!!


憂 「席、ここで良いかな・・・」

純 「うん、いいよ。たぶん良いと思う。良いんじゃないかな」

憂 「ふふ、鈴木さん変なの。じゃ、座ろ?」

純 「う・・・うん・・・」

純 (うう・・・なんとなく気まずい)

憂 「鈴木さん・・・」

純 「はへぃ!?」

憂 「昨日はお昼休み、逃げ出しちゃってごめんね?」

純 「う、ううん。私こそ、なんか色々考えなしで!平沢さんの気持ち、これっぽっちも考えてなかったなって・・・それで・・・」

憂 「それで今日、話しかけてきてくれなかったの?」

純 「どう近づいて良いかわからなくなっちゃって・・・」

憂 「お友達に・・・言われちゃったから?」

純 「だね。あいつらの言うこと、思い当たりありまくりだったし。ていうか、なんで平沢さんがそのこと知ってるわけ?さてはあいつら、何か言った!?」

憂 「うん。いろいろ聞いちゃった」

純 「いろいろって・・・」
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/17(金) 23:25:21.81 ID:yq0lxfKS0
憂 「鈴木さんは一直線で単純なんだって」

純 「はぁ!?」

憂 「それで、相手の心の機微を考えて行動できる子じゃないとも・・・」クスクス

純 「なにそれ!にゃろー、あいつら!明日は覚えてろよ!」

憂 「あと・・・私と本気で仲良くなりたがってるんだって・・・」

純 「え・・・」

憂 「友達って良いね。本当に通じ合ってると、そういう心の奥底のことまで分かり合えちゃうんだね。うらやましい」

純 「平沢さん・・・」

憂 「えへ・・・私、友達いないから」

純 「・・・」

憂 「必要ないって思ってたの、友達なんて」

純 「なんで、そんな風に・・・」

憂 「・・・聞いてくれる?」

純 「え・・・」

憂 「私の気持ち。いろいろ・・・友達のこととか。あと、大切な人の事だとか、ね。鈴木さんに聞いて欲しい」

純 「あ・・・うん。聞くよ。そりゃ、私でよければ、何だって聞くよ!」

憂 「ありがと」ニコッ
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/17(金) 23:40:22.67 ID:yq0lxfKS0
ぜんぶ打ち明けよう。

今までのこと。それによって私がこの考えにいたった経緯。

私の大切な人。その人への想い。決して報われない、この想い。

それを知って鈴木さんがどう思うか。”彼女たち”みたいに、また私から離れていくのか。


純 「・・・ん?な、なに・・・じっと見て・・・」


それならそれで良い。もし彼女が私を受け入れられないと思ったのなら、私もまた友達という存在に再び絶望するだけ。

そう、ただ最初に戻るだけ。和ちゃんが言うとおり、何も変わらない。

何も失わない。今まで通り。


純 「ど・・・どったん?話って・・・。ひ、平沢さん・・・?」
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/17(金) 23:48:28.12 ID:yq0lxfKS0
そう、今まで通り。

朝は静かに始業を持つことができるようになって。昼は一人でのんびり、自分のペースでお弁当を食べて。

帰りは夕食の献立をスーパーでじっくり吟味して・・・独り家路に着く。

何も変わらない。いままで通りの生活が待っているだけ。


ズキンッ

憂 「・・・っ」

(和「憂も鈴木さんのことを友人として認め始めているからじゃないのかしら」)

憂 「和ちゃん・・・私・・・」ズキズキ

純 「え?」

憂 「あ、ううん。それじゃ話す・・・ね・・・」
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/17(金) 23:50:40.18 ID:yq0lxfKS0
今宵はこれまでにしとう存じます。

みなさん、おやすみなさい。
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/06/18(土) 00:07:59.23 ID:wwsWA26Fo

楽しみにしてる。
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2011/06/18(土) 03:12:20.26 ID:wFkCl9nP0
プロジェクトA子とか、胸熱。
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/18(土) 20:17:57.24 ID:ObtO3BIM0
土曜日の夜長、いかがお過ごしでしょうか。

では、再開します。
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/18(土) 20:19:23.00 ID:ObtO3BIM0
私ね、小学生のころ。仲良くしていた子たちがいたんだ。親友って思ってた。

何でも言える、言ってもらえる関係。気のおけない間がら。そんな風に思ってた友達が。

その頃から私、絵を描くのが大好きで。ノートを持ち歩いては、時間があればせっせとイラストを描いてた・・・

そしてそのノートのすべてのページを埋め尽くしていたのは・・・


憂 「お姉ちゃん。私の姉の・・・平沢唯・・・」

純 「小学生の頃から、お姉さんの絵ばっかり・・・?」

憂 「うん。ね、鈴木さん。私がお姉ちゃんにこんなにこだわるのは、どうしてだと思う?」

純 「え・・・そ、そりゃぁ・・・」

憂 「・・・」

純 「お姉さんのこと、好きだからじゃないの?」

憂 「正解。でも、鈴木さんの思ってるのとは、ちょっと違うと思う」

純 「それってどういう意味?」

憂 「・・・私、お姉ちゃんが大好き。姉としてだけじゃなく、一人の女の子として・・・」

純 「・・・え」
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/18(土) 20:22:05.56 ID:ObtO3BIM0
言っちゃった。

鈴木さん、今の私の告白。聞いてどう思っただろう。今、どんな顔をして私を見ているのだろう。

まともに彼女の顔が見られないよ。

でも、言ってしまった以上は、もう後戻りはできない。

全部、言うべきことを言わなくっちゃ。


憂 「変だって思うよね。私も自分自身、どうしてこんな気持ちをお姉ちゃんに持ってしまったのか。分からないんだもの」


でも、それでも。私はお姉ちゃんに恋をしてしまった。

女の子同士でましてや血の繋がった姉妹だもの。こんな想い、報われるわけはない。

当時の私は今よりもずっと小さくて幼かったけど。だけど、その事はちゃんと理解していて。

だから、ね。そんな自分を自分で慰めるためだったんだと思う・・・

いつしか私は、ノートの中・・・紙の中に理想のお姉ちゃんを創造することを覚えたんだ。
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/18(土) 20:25:45.14 ID:ObtO3BIM0
ノートの中のお姉ちゃんはいつも私だけに笑いかけてくれて、私の想いを正面から受け止めてくれる。

そんな妄想を抱きながら、書き綴ったノートは今のもので何冊目になるのだろう・・・


憂 「えへへ。自分でももう分からないや」

純 「・・・」

憂 (鈴木さん、何も言ってくれない。それはそうだよね。引いちゃうよね・・・)

憂 「そ、それでね・・・」


そんなある日。当時親しくしていた子たちにノートを見られてしまったの。

そして、私の気持ち。そのノートの持つ意味。ぜんぶ知られちゃった。

そうしたらね・・・


憂 「みんな、私から離れていっちゃった。えへ・・・」

純 「・・・」
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/18(土) 20:29:57.83 ID:ObtO3BIM0
辛かった。悲しかったな。確かに私の想い、普通じゃないっていうのは自覚していたけれど・・・だけどね。

それでも彼女たちには受け入れて欲しかった。私がただ、お姉ちゃんを胸の内でだけ愛してることくらいは・・・

・・・それからだよ。

私が友達を作らなくなったのは。ただお姉ちゃんと、あと一人。信頼できる姉のような人がいるんだけど。

その二人がいれば、後はもう誰も要らない。寂しくない。

友達なんて作るほうが、いざ離れていかれちゃった時に悲しい想いをするだけだって知ったから。


憂 「て、思ってたのに。なのに鈴木さん・・・鈴木さんがね」

純 「・・・え、私?」

憂 「・・・ううん、なんでもない。さて、これが私の話したかったことの全部。最後まで聞いてくれてありがとう」

純 「ううん。・・・ね、なんでその話、私にしたの?」

憂 「知りたかったから」

純 「え?」

憂 「私の事を。私の思ってる事を知って、鈴木さんが私をどう見るのか。どうするのかを知りたかったから」

純 「・・・平沢さん?」

憂 「また・・・昔みたいになっちゃうのか、それを知りたかったから」

純 「・・・そっか」
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/18(土) 20:33:29.05 ID:ObtO3BIM0
純 「んー・・・何から話せばよいものやら・・・ま、とりあえずさ」

憂 「・・・」

純 「平沢さんがお姉ちゃんを好きなこと、知ってたから」

憂 「・・・」

純 「・・・」

憂 「・・・え?」

純 「うん、知ってたよ」

憂 「な、なな、なんで・・・?」

純 「すっごい良い笑顔だったから!」

憂 「え、なに言って・・・」

純 「平沢さんがお姉さんと一緒にいる時の笑顔。見てるこっちまでほだされちゃうような、最高の笑顔だった!」

憂 「え?え?」

純 「たまたま、ね。二人が一緒にいる所を見ちゃってさ。でね、そんな平沢さんを見て。ああ、良いなぁ。良い笑顔だなぁって」

憂 「・・・」

純 「あんな笑顔を向ける事ができるなんて、それだけお姉さんのことが大好きなんだろうなって」

純 「そんな最高の笑顔を、ね。私にも向けてもらえたら良いなって。その時そう思ったんだ」

憂 「じゃあ、じゃあ・・・私の気持ちをぜんぶ気がついていて、その上で友達になりたいって思ってくれたの?」

純 「うん」アハッ


鈴木さんは、こともなげといった風に頷きながら笑った。
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/18(土) 20:39:27.69 ID:ObtO3BIM0
憂 「私がお姉ちゃんのことを好きって知って、引いちゃわないの・・・?」

純 「別に」

憂 「気持ち悪いって思わない?」

純 「滅相もないよ」

憂 「・・・姉妹同士でありえないって、そう思わない・・・?」

純 「うーん・・・そこは正直わからないんだけどね。たださ、人なんて理屈ばかりで好いたり嫌ったりするだけじゃないじゃん」

憂 「う、うん・・・」

純 「好きになっちゃったもんはしょうがないし。それに、お姉さんを好きになったことであんな風に幸せそうに笑えるならさ」

憂 「・・・」

純 「私はアリだと思うよ!」

憂 「鈴木さん・・・」

純 「そのおかげで、私も平沢さんと友達になりたいって思えたわけだしね。にへへ・・・」

69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/18(土) 20:43:53.49 ID:ObtO3BIM0
憂 (・・・あ)


心が溶かされていく。

意固地になって友達なんて要らないって思い込んでいた、私の心の奥底。冷たく凍った心の根っこが。

寂しかった。本当は寂しかった。

一人、自分の席で授業が始まるのを待つだけの朝。

一人ぼっちの休み時間。

一人で食べる給食の空疎感。

放課後の予定はいつも空白のままで。

でも、それで良いと思い込んでいた。大好きな友人にまた離れていかれる辛さに比べたら、と。

だから認めなかった。自分が寂しがっている事を頑なに。

そんな頑迷な思い込みが。鈴木さんの言葉で氷解していく。

私・・・私は。そう、私は。

私は友達を作ってもいいんだ・・・!
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/18(土) 20:54:19.16 ID:ObtO3BIM0
純 「ま、ちょっと暴走しちゃったかもで、そこは反省してますが・・・」

憂 「いいよ」

純 「へ?」

憂 「いいよ、鈴木さんは今までのそのままで」

純 「いいの、本当に?」

憂 「うん。だから、ね。す・・・鈴木さん・・・」

純 「うん?」

憂 「わ、私と・・・と・・・ともっ・・・あ、あぐ・・・」

純 「あぐ?」

憂 「でなくって!わ、私と友達になってください!」

純 「そりゃ・・・うん。いや、それどっちかってーと、こっちのセリフ・・・」

憂 「い、良いかな・・・?」

純 「・・・うん。もっちろん!」

憂 「あ、ありがとう!」パァー

純 「お。そうそう、その笑顔!」グッ


親指を突き立てながら微笑む鈴木さん。

その笑顔に、私も衒いのない笑顔を返す。

何一つ身構えることなく、自分を偽ることもない。

素直な笑顔を。


そして・・・
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/18(土) 20:58:17.06 ID:ObtO3BIM0
純 「お、このナゲット超うまー!ちょっと食べてみなよ!」

憂 「いいの、本当におごってもらっちゃって」

純 「良いって良いって。つか、おごるって言ってたじゃん。気にせずガンガン食うが良い」

憂 「えへへ・・・じゃあ、遠慮なく・・・(パクッ)。あ、おいし・・・」

純 「ね。へっへ、またこよーね」

憂 「うんっ」

純 「あ。ところで話は変わっちゃうんだけど、あのマンガノートね」

憂 「なぁに?」

純 「やっぱりもったいないと思うんだよね。あんなにうまいのに、ただのイラストで終わっちゃうなんて」

憂 「というと?」

純 「うん。前にも言ったけど、お話。作ってみたら?ほんとにマンガ、描いてみりゃいいんじゃないかなー」

憂 「だけど・・・私も言ったと思うけど、お話なんて作ったことなかったし」

純 「だったらさ!お姉さんをモデルにお話も作っちゃえばいいじゃん!」

憂 「え、お姉ちゃんを?」
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/18(土) 21:02:51.19 ID:ObtO3BIM0
純 「お姉さんの事なら良く見てるだろうし、あんなに面白いお姉さんだもん。きっと楽しい話の一つや二つ、ホホイとできちゃうって!」

憂 「お姉ちゃんが主人公のマンガかぁ。それは考えたことが無かったな」

純 「良いアイデアでしょ!」

憂 「あ、でも・・・私、お姉ちゃん以外の人って描いた事ない・・・」

純 「マジで!?」

憂 「うん・・・マンガノートもお姉ちゃんを描くためだけのものだったし」

純 「だ、だったらさ・・・」

憂 「?」

純 「だったら、私で・・・練習してみない?」

憂 「え・・・」

純 「そのマンガノートに私も描いてもらえたらなぁ・・・なんて、だめ・・・かな?」

憂 「鈴木さん・・・」

純 「やっぱダメだよね。それ、お姉ちゃんのための大事なノートだもんね。はは・・・私、なに言ってるんだろ」

憂 「・・・お願いしようかな」

純 「・・・マジで?」

憂 「うん。モデル、お願いしちゃってもいいかな、鈴木さん」

純 「そ、そりゃもう、喜んで!」
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/18(土) 21:08:14.46 ID:ObtO3BIM0
大事な人を書き綴るのが目的のマンガノート。

だったらその中に、鈴木さんのページが含まれていたって、なにもおかしいことはないものね。


純 「だったら早速、描いてみようか!」

憂 「え、今?ここで!?」

純 「思いたったがなんとやらだよ。さ、ノート出して出して」

憂 「あ、う・・・うん・・・よっと。・・・鈴木さん、なにしてるの?」

純 「ポーズを」

憂 「普通にしてて良いよ」

純 「あ、そう・・・」

憂 「くす・・・じゃあ、ちょっと緊張するけど、描いてみるね」

純 「きれいに描いてね!」

憂 「がんばる!」
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/18(土) 21:10:22.12 ID:ObtO3BIM0
(数分後・・・)


憂 「い、一応・・・できた・・・けど・・・」

純 「お・・・どれどれ見ーせて♪」バッ

憂 「あ!」

純 「にっひっひ。どれだけ可愛く描いてくれたかなー。んー??・・・んっ!?」

憂 「・・・」

純 「ん・・・んんーーー!?」

憂 「あ、あのね・・・」

純 「ぐすっ・・・私って、こんなに顔が崩れてるかなぁ」

憂 「な、なんというか・・・」

純 「髪も毎朝いっしょうけんめいセットしてるんだけど、人からはこんなに爆発して見えてるのかなぁ・・・」

憂 「そうじゃなくて!ご、ごめんね?今までお姉ちゃんしか描いたことなかったから、他の人ってどうやって描いたらいいのか、よく分からなくって・・・」

純 「あ、そういうわけ?あー・・・ビックリした。私、もっと可愛いよね?自己評価下げなくても平気だよね??」

憂 「う、うん。たぶん・・・」

純 「良かったー・・・しかし、お姉ちゃんだけを描き続けてきたという実績は、伊達ではなかったということだね」

憂 「面目しだいもございません・・・」
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/18(土) 21:20:17.95 ID:ObtO3BIM0
純 「良いって良いって。練習だって言ったじゃん」

憂 「だけど・・・」

純 「練習しとけばその内、きっと他の人もお姉さんみたく可愛くかけるようになるって」

憂 「そっかな・・・じゃ、じゃあ、鈴木さん!これからもモデルになってくれる!?」

純 「モデルでも練習台でもなんでも来いだぜ。いつでも言ってよね!」

憂 「ありがとう、すずきs
純 「それとっ!」

憂 「び、びっくりした・・・なぁに?」

純 「これからはね。鈴木さんなんて他人行儀な呼び方は、もうなしの方向で!」

憂 「え。でも、じゃあ何て・・・」

純 「純でいいよ、純で。ほら、言ってみて」

憂 「えー・・・そ、そんな急に。だって、照れちゃう・・・」

純 「友達なんでしょ。だったら何も恥ずかしがることなんてない!ね?」

憂 「あ・・・う、うん。・・・じゅ・・・純・・・ちゃん・・・?」

純 「うん♪よくできました、憂!」
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/18(土) 21:24:36.08 ID:ObtO3BIM0
この日。

マンガノートにお姉ちゃん以外の子のイラストがはじめて加わった日。


憂 「純ちゃん・・・」

純 「うーいっ!」

憂 「・・・ぷっ」

純 「くふふ・・・」

憂・純 「あははっ!」


私に・・・平沢憂に。

大好きなお友達ができました。



第一話「マンガノート」終わり。

第二話へ続く!
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/06/20(月) 22:16:54.29 ID:7i3J95Wx0
過去の澪律遍がくるかと思ってたけど
まさかの憂の過去編か、前回同様期待してるよ
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/28(火) 23:48:22.66 ID:YewRqfj30
待ってくれている人がいればですが、お待たせしました。

再開します。

79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/28(火) 23:49:36.82 ID:YewRqfj30
第二話 憂「過去との決別とお弁当と」
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/28(火) 23:51:16.49 ID:YewRqfj30
純 「ね、夏休みになったら、ちょっと遠出してみない?」

憂 「遠出?」


柔らかな日差しの春が終わり、燦燦と照りつけるお日様が肌に痛い季節が到来しようとしている。

夏の訪れが見えてきた。そんなある日の朝の唐突な、それは純ちゃんの提案だった。


純 「うん!海とかー。山とか!別に他の所でもいいけど、一日かけて、さ!遊びに行こうよ!」

憂 「あ・・・うん」

純 「夏休みじゃなきゃ行けない所、ちょっと行ってみたくない?」

憂 「うーーーん」

純 「あれ?乗り気でらっしゃらない・・・?」

憂 「いや、そういうわけじゃないんだけど。あのね・・・」

純 「私とどっか行くの、いや・・・?」グスン

憂 「あ、違うよ?そうじゃなくって!」

純 「じゃ、なぁに・・・?」

憂 「その・・・私。今まで友達いなかったから・・・その・・・」

純 「・・・へ?」
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/28(火) 23:53:29.56 ID:YewRqfj30
憂 「友達との遠出って、なんだか。緊張しちゃう・・・」

純 「えー、いまさら!?」

憂 「そ、そうは言うけど・・・」

純 「だって、最近はちょくちょく一緒に遊んでるし、友達になって二ヶ月以上もたってるんだし!」

憂 「じゅ・・・純ちゃんには分からないよ・・・」


今までずっと一人ぼっちだった私。

心を閉ざして、友達なんて必要ないんだって思い込んできた。

そういう期間が長すぎたんだもん。当然、友達付き合いの方法とかもよく分からなくなってしまっていて・・・

だから。実は今も。

ううん、昨日もその前も。純ちゃんと一緒の時間を過ごすことが多くなってからずっと。

私は緊張のし通しで。
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/28(火) 23:55:29.65 ID:YewRqfj30
純 「分からないって、なにがさぁ?」

憂 「そ、それはっ」


純ちゃんは明るい良い子だ。

はきはきしていて物怖じを知らなくって。

まさに私と対極。ちょっと羨ましいくらい。

でも、だからこそ分からないんだろうな。

私みたいな、人付きあいに臆病な人種もいるんだということに。

だけど・・・


憂 「むぅ・・・」

純 「・・・?よく分からないけど、私と出かけるのが嫌ってわけじゃないんだよね?」

憂 「そ、それはもちろんだよ!」

純 「だったらさぁー。緊張しなくなればいいんじゃない?」

憂 「簡単に言うね・・・」

純 「簡単っしょー。要は慣れっしょ、慣れ!」

憂 「・・・?」
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/28(火) 23:59:22.91 ID:YewRqfj30
教室!お昼休み!!


A子 「へー。それで今度、二人でピクニックに行くんだ?」

純 「おうよ!」

憂 「そういうことになっちゃったの」

B子 「なっちゃったって・・・大丈夫なの?また純のペースに巻き込まれて、無理やり決められちゃったんじゃない?」

憂 「まぁ、確かに強引ではあった・・・かな」

A子 「ちょっと、純。あんたまた・・・」

純 「憂、それ人聞き悪いって!憂だって行くって言ったじゃん!」

憂 「そうだね、ごめん」

A子 「憂ちゃんさぁ。嫌だったら嫌だって、言っても良いんだよ」

純 「こら!」

憂 「ありがとう。でも、嫌なんかじゃないよ」

B子 「本当に?」

憂 「うん!」


そう。本当は分かってるんだ。

私自身、このままじゃダメだって事くらい、ちゃんと分かってる。

友達と遊ぶのにいちいち緊張する今が、ぜんぜん普通じゃないんだって。

だって、ね・・・
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/29(水) 00:06:17.29 ID:RA5aVq0t0
純 「ほらねー。A子もB子も余計な気遣いは無用にしてくれるかなぁ」

A子 「だってさぁ。ほれ、あんたには前科があるわけだし」

純 「ぐっ」

憂 「ほ、ほんと平気だから。それに、ね。ピクニックって言ったって、そんな大げさなものじゃないし・・・」

B子 「そうなの?純」

純 「うん。夏の遠出のリハみたいなもんだもんだよ

B子 「リハーサル?」

純 「そそ。ちょっと郊外の公園でも行って、のんびりお弁当でも食べてこようって、そんだけ」

A子 「ふーん・・・ま、憂ちゃんが良いって言うなら良いんだけどね」

B子 「うんうん。憂が言うならね」

純 「なんか引っかかる言い方・・・」

A子 「引っかかるように言ってるんだもーん」

純 「くぅ!にゃにおー!!」

憂 「あははは」
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/29(水) 00:08:30.27 ID:RA5aVq0t0
自然と笑いが出る、こんな今がとても楽しいから。

友達と一緒に他愛のない話で盛り上がって、ときどき困らされて。でも最後は笑って。

ちょっと前までは、無理に興味がないふりをしていた「人の輪に交わる」ということ。

たぶんみんなが当然にしてること。だけどそれは、私が新たに発見した楽しさ。

だから。

緊張なんて無用な衣を脱ぎ捨てられたら、身軽になれたのなら。

きっともっと楽しく笑い合えるようになるに違いない。

そうなりたいって思う。

そうなるため、そのためにも。


憂 「ピ・・・ピクニック、楽しみだねっ」

純 「うん!」


私が一歩前に進む勇気を持たないとね。
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/29(水) 00:13:45.55 ID:RA5aVq0t0
憂 「それにしても・・・」

純 「ん?」

憂 「純ちゃんたち、仲いいよね」

A子 「えー、そっかなぁ。そうでもないんじゃない?」

純 「おいおい」

憂 「・・・あはは」

B子 「まぁ、そうね。私たち、小学校からずっと一緒だったから、ね」

A子 「仲良しってより、腐れ縁ってやつ?」

純 「身も蓋も無いね」

憂 「でも、そうやって好きに言い合えるのって、本当に仲が良い証拠だと思う」

A子 「そっかな・・・改まって言われると照れるよね。・・・へへ」

B子 「そうね。ところで憂は?」

憂 「うん?」

B子 「小学校で親しかった子とか、クラスにいないの?」

憂 「・・・」
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/29(水) 00:22:10.56 ID:RA5aVq0t0
純 「あ、それは・・・」

憂 「・・・いないよ。みんなほとんどが学区外で、別の中学に行っちゃったんだ」

A子 「そうなんだ」

憂 「あとは他のクラスに少しだけ。同じクラスになった子はいないよ」

B子 「・・・そう、それは寂しかったわね」

純 「・・・」

憂 「ううん。今は純ちゃんやA子ちゃん、B子さんと仲良くなれたし。寂しいことなんて、なんにもないよ」

A子 「そっかぁ・・・」

B子 「だって。良かったわね、純」

純 「・・・」フルフル

B子 「純?」

純 「・・・憂ーーっ!」ぎゅーっ!

憂 「わあ!?」
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/29(水) 00:42:39.94 ID:RA5aVq0t0
A子 「ちょ、いきなり憂ちゃんに抱きついて!何してるの、お前は!」

純 「だって、憂があまりに健気で。ああ、憂!俺は一生お前を離さないぜ!」

B子 「あーもう。なに言ってるのよ。憂、困っちゃってるでしょ。こら、離れたげなさい」

純 「いや!憂は俺の嫁!」

憂 「じゅ・・・純ちゃんん・・・」


季節は初夏。じりじりと日の光は窓から差し込み、黙っていても汗で服を肌に張りつかせてくる。

それに加えて純ちゃんの体温。暑い。

・・・暑苦しい。

でも。でもね、不思議だね。

純ちゃんの暖かさを肌で感じている、今。

私、ぜんぜん不快じゃない。


憂 「純ちゃん、暑いよ。汗でふやけちゃう」

純 「ああ、ごめんごめん。感極まって自分を忘れてしまった」

憂 「変な純ちゃん」

純 「へっへっへ」
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/29(水) 00:47:54.16 ID:RA5aVq0t0
『チョットマッタヤバイデスー ナゾノショウガクセイーハッ〜♪』


憂 「・・・あ、メール・・・ちょっとごめんね」

憂 (あ・・・和ちゃんからだ。えっと・・・うん。了解、っと)ピポパ

憂 「送信っと・・・お話の途中でごめんね」

純 「むーむ。どってことないらよ」モグモグゴックン

憂 「あー、私のコロッケ!いつの間に・・・」

A子 「止める間もなく、瞬時にパクッといったね・・・」

純 「あいかわらず憂のお弁当は美味しいね。にっひっひ。今日もゴチでした!」

憂 「また最後の一個がぁ・・・」

B子 「憂。ここは怒っても良いところよ」

A子 「グーでいっちゃえ、グーで!私が許すよ!」

純 「いやん!」

憂 「・・・純ちゃん。そんなに私のお弁当、美味しい・・・かな?」

純 「きゃっ!ぶたないで・・・て。え・・・あ、うん」

憂 「ほんと?」

純 「うん。憂のお弁当、大好き!」

憂 「そっかぁ・・・えへへ・・・じゃ、じゃあ、さ・・・」

純 「あい?」

憂 「ピクニックの日、お弁当ね。私が純ちゃんの分も作ってくるよ」

純 「本当に!?」

憂 「うん!」
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/29(水) 00:53:48.08 ID:RA5aVq0t0
B子 「憂は優しいんだから。甘やかしちゃ、純が調子に乗っちゃうわよ」

A子 「でも、純の分が別にあればさ、憂ちゃんもお弁当取られずにノンビリ食べれるし。良い考えかもだね」

純 「あ、そういう意味」

憂 「それも少しあるかなぁ」

純 「にひひ。それでも良いよ。早くも当日のお昼が待ち遠しいなぁ!」


思わず気合が入る。

がんばって美味しいお弁当を作って、純ちゃんに喜んでもらって。

そんな純ちゃんを見られたら、きっと私も嬉しくって。

今も残るこの緊張感を、すべて吹き飛ばしてくれるかも知れない。


憂 「うん、期待していいよ!」


ぐっ!

ガッツポーズで自分自身に発破をかけ、私は純ちゃんに断言してみせた。
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/29(水) 00:58:52.76 ID:RA5aVq0t0
それでは今宵はこれまで。

おやすみなさい。皆さん、良い夢を。
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/29(水) 03:23:20.75 ID:6C9/As4SO
次も楽しみ
ゆっくりお休みくだされ
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/29(水) 22:37:21.44 ID:72yjpHq30
再開します。
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/29(水) 22:38:53.87 ID:72yjpHq30
憂 「あ、それとね。今日の帰りだけど・・・」

純 「お。どっかよってく?よってっちゃう??」

憂 「じゃなくてね。ごめん、ちょっと予定はいっちゃって。一緒に帰れなくなっちゃったんだ」

純 「あ・・・そう」ショボン

憂 「あ、う・・・ほんとごめん!埋め合わせは必ず・・・ね?」

A子 「あー、気にしなくっていいよ。今日は私が責任を持って、こいつ連れて帰るから」

B子 「さいきん憂にベッタリだったもんね。たまには憂にも他の用事、させてあげなさい?」

純 「ふにぃ・・・」


クラスメイト 「摩神ー」


A子 「ん、なにー?」

クラスメイト 「同じ部活の子、用事だって。入り口で待たせてる」

A子 「お、ありがとー。へへ、今度はこっちの用事だ。ちょっと行って来るねー」テッテッテ・・・

純 「あいおー」

憂 「A子ちゃん、部活やってたんだ」

B子 「陸上部のね。期待の新人って、けっこう持てはやされてるみたいよ」

純 「小学校の頃から、身体能力ずば抜けてたもんねぇ」

憂 「へー・・・」
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/29(水) 22:50:49.45 ID:72yjpHq30
廊下!


C子 「・・・というわけで。ちゃんと、ちゃんとね。先輩からの言伝、伝えたからね」

A子 「うん、確かに。ありがとね」

C子 「ううん・・・」ジー

A子 「なに?教室の中、覗き込んだりして」

C子 「ね、ね。A子と一緒にいたの、平沢さんだよね。だよね?」

A子 「うん、そうだけど。C子、知り合い?」

C子 「う、うん・・・ちょっと。ちょっとね・・・A子、あの子と仲いいの?」

A子 「良いよ。まぁ、私やB子とよりも純といちばん仲がいいんだけどね」

C子 「純・・・?」

A子 「C子は面識ないか。ほら、あの頭にモップみたいなの付けてるの。あの子」

C子 「へぇ・・・平沢さん。そっか、そうなんだ・・・」

A子 「今度も二人で遊びに行くんだって。どこまで仲が良いのやら・・・だね」アハ

C子 「・・・ふーん」
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/29(水) 23:05:37.20 ID:72yjpHq30
放課後!校門前!!


和 「・・・」

憂 「和ちゃん!」

和 「憂・・・」

憂 「ごめんね、待たせちゃったかな・・・」

和 「ううん。こっちこそ、急に呼び出してごめんね」

憂 「なんにもだよ。それで、私に聞きたいことってなぁに?」

和 「・・・うん」

憂 「和ちゃん・・・?」

和 「立ち話もなんだし、ちょっとどこか入ろうか」

憂 「う、うん・・・」

憂 (浮かない顔。和ちゃん、どうしたんだろう・・・)
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/29(水) 23:14:22.74 ID:72yjpHq30
駅前の喫茶店!


和 「ここなら静かだし、落ち着いて話ができるわね」

憂 「う、うん」キョロキョロ

和 「どうかした?」

憂 「喫茶店なんて子供だけで入ったことなかったから、ちょっと緊張・・・」

和 「そっか・・・」

憂 「うん・・・」

和 「・・・」

憂 「・・・」

和 「あ、そういえば。前に憂が言ってた、鈴木さん?あの子とは、その後どうなの?」

憂 「あ、うん。えへへ。お友達になれたよ!」

和 「そうなんだ。良かったわ」

憂 「和ちゃんのおかげ」

和 「え?」
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/29(水) 23:20:10.68 ID:72yjpHq30
憂 「和ちゃんが背中を押してくれたから。だからね、私。和ちゃんにはとっても感謝してるの」

憂 「和ちゃんの言ったとおりだった。もしあの時、あのまま純ちゃんとの事をお終いにしてたら、ね。絶対に私、後悔してたもん」

憂 「和ちゃんが言ってくれたから。憂には私が付いているって、勇気づけてくれたから・・・」

和 「・・・」

憂 「和ちゃん・・・?」

和 「う、ううん。なんでもない。良かったわね、憂」

憂 「うん!あ、それでね。和ちゃんに見てもらいたいものがあったんだった!」ガサゴソ・・・

憂 「はい、これ。ちょっと恥ずかしいけど、見てもらえる・・・かな・・・」

和 「これは・・・ノート?」

憂 「うん。前にも話したノート。私の大切な人を書き綴った、マンガノートだよ」

和 「これがそうなんだ・・・私が見てもいいの?」

憂 「うん。和ちゃんに見て欲しいんだ」

和 「憂・・・じゃあ、遠慮なく・・・どれどれ」ペラッ
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/29(水) 23:26:35.37 ID:72yjpHq30
和 「わぁ・・・これ、唯ね。よく特徴をつかんで・・・それにとっても生き生きと描かれてる」

憂 「照れるな・・・」

和 「比喩ではなく。絵の中の唯がまるで生きているかのよう。とっても上手ね、憂」

憂 「・・・褒めすぎだよ///」

和 「お世辞じゃないわよ。この絵に込められた憂の気持ちが、紙ごしに伝わってくる。手に取るようにわかるもの・・・」

憂 「へ・・・へへ・・・///」

和 「ふふ・・・(ペラッペラッ)・・・あら?この子は唯じゃないわね・・・あ、もしかして」

憂 「うん。鈴木純ちゃん。私の大切なお友達」

和 「そう・・・このノート。唯のためだけのものはなくなったのね」

憂 「うん。マンガノートには、私の大切な人みんなの姿を描きとめていこうって、そう決めたから・・・だから」

和 「そうなんだ・・・(ペラッ)・・・あ」

憂 「だから、ね。和ちゃん・・・」

和 「こ、これ、私・・・?」

憂 「うん。だって和ちゃんは、私の大切な人だもの」
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/29(水) 23:30:33.06 ID:72yjpHq30
和 「・・・た、大切?」

憂 「和ちゃんは、ね。お姉ちゃんの親友で、私たち姉妹の幼馴染で。そして・・・そして、ね」

和 「憂・・・?」

憂 「とっても頼れる、私のもう一人のお姉ちゃん。大好きな・・・お姉ちゃん」

和 「・・・っ!」

憂 「て、言葉で言っちゃうと、なんだか恥ずかしいよね。えへへ・・・」

和 「・・・」フルッ

憂 「・・・?和・・・ちゃん?」

和 「・・・」フルフル


ノートを持つ手が。ううん、手だけじゃなく。和ちゃんの細い肩が、ふるふる小刻みに震えている。

紙面に落とした目元。髪の毛の陰になってよくは見えないけれど。

私の気のせいだろうか。じんわりと潤んで・・・

涙を湛えているようにも見えて・・・

和ちゃん・・・泣いてる・・・? 
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/29(水) 23:37:35.12 ID:72yjpHq30
憂 「あ、あの・・・どうかしたの、和ちゃん。勝手に似顔絵かいて、気を悪くしちゃった?」

和 「・・・違うよ。ごめん・・・なんでもないんだ」

憂 「え、でも・・・」

和 「ごめん。ほんと、なんでもないから。ごめんね」

憂 「和ちゃん・・・」

和 「憂、ごめん・・・ごめんね」


謝る和ちゃん。

その謝罪の言葉は、私の投げかけた言葉とは別のところに向いているようにも感じて。

私に、なんとも言いがたい違和感を抱かせるに十分だった。

その違和感。何に対しての謝罪なんだろうという疑問。

和ちゃん。いったい誰に謝っているの?
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/29(水) 23:42:08.06 ID:72yjpHq30
・・・そして、数分後。


憂 「だいじょぶ?落ち着いたかな、和ちゃん?」

和 「ええ、急にごめんね。びっくりしたでしょ・・・」

憂 「う、うん。少し・・・ねぇ、どうしたの。やっぱり私の描いた絵が気に障って?」

和 「そ、そんなわけないじゃない・・・」

憂 「じゃあ、いったいどうして・・・」

和 「それは・・・」

憂 「・・・」

和 「あの・・・ね・・・」

憂 「・・・?」

和 「う、憂が描いてくれた絵を見てたら、その。感激しちゃって・・・」

憂 「え?」

和 「それで、ね。柄にもなく感激の涙なんか湧いて来ちゃったりして、はは。おかしいわね・・・」

憂 「そうなの・・・?」

和 「うん・・・思わず。だから、ね?心配は本当いらないから・・・」

憂 「だったら良かったけれど・・・」

和 「ごめんね。て、私。何だかさっきから謝ってばかりね。変だね、ごめん。て、あ。また・・・」

憂 「・・・和ちゃん」

和 「・・・」

憂 「・・・それで。和ちゃんの話って、なぁに?」

和 「・・・あ。う、うん、そうだった。あのね・・・」

憂 「うん」

和 「・・・」

憂 「・・・?」

和 「・・・さいきん憂とゆっくり話す時間がなかったから、こうしてお話したかったんだ・・・それだけ・・・」
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/29(水) 23:44:46.39 ID:72yjpHq30
憂 「え、でも・・・私に聞きたいことがあるってメールで・・・」

和 「それは憂の近況を、ね。いろいろ聞きたいなって、そういう意味・・・」

憂 「そうだったんだ・・・?」

和 「うん、そう。だから、今日は元気な憂を見られて良かったわ」


言って、残りのアイスコーヒーを一気にのどに流し込む和ちゃん。

そのしぐさは、まるで早くこの場を離れたがっているかのようにも見えて・・・


和 「さ、そろそろ行こうか」

憂 「うん・・・」


だから私は。そんな和ちゃんに従って、疑問を胸に押し込んだまま・・・

この場は黙って席を立つ以外に、なす術がなかった。
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/29(水) 23:57:24.10 ID:72yjpHq30
平沢家!キッチン!!


憂 「・・・」ジュージュー

唯 「たっだいまぁ。お、良い匂いですなぁ」

憂 「あ。お姉ちゃん、おかえりなさい!」


和ちゃんのことは気にかかるけれど、お姉ちゃんの前では常に笑顔の私でいたい。

私は気持ちを切り替え、笑ってお姉ちゃんの帰宅を迎える。


憂 「お腹すいたでしょ。もうすぐできるから、ちょっと待っててねー」

唯 「ほいほい。で、シェフ。今晩のメニューは何ですかな?」

憂 「おっほん、今日は鶏肉のトマト煮に挑戦してみました。青菜のさっと煮も添えて青物も万全なのです!」

唯 「おおー、聞いただけでよだれが出てきちゃう。ふんふん、早くできないかなぁー♪」

憂 「もうすぐもうすぐ♪」

唯 「ふふ・・・」

憂 「〜〜〜♪」ジュージュー

唯 「・・・」


ピトッ


憂 「ひゃっ!?」

唯 「・・・憂」
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/30(木) 00:02:44.72 ID:uFChIGJA0
憂 「びっくりしたぁ。どうしたの、お姉ちゃん。火を使ってるんだから、急にくっついて来ちゃ危な・・・」

唯 「・・・」

憂 「お姉ちゃん・・・?」

唯 「憂は・・・暖かいね・・・」

憂 「・・・なにかあったの?」

唯 「あったかあったか・・・」ギュッ

憂 「ねぇ、お姉ちゃん?」

唯 「・・・へへ。なんつってー」パッ

憂 「・・・へ?」

唯 「えへへ、ごめんね。憂の後ろ姿みてたらさ。思わずこう、グッと来るものがあってさぁ」

憂 「は・・・はぁ、なにそれ・・・?」

唯 「お料理してる憂には、ピトッとせずにはいられない!そんな何かがあるんだよねぇ」ニコー

憂 「も、もぉー。なに言ってるの、お姉ちゃんったら」

唯 「めんごめんごー。さってと、着替えてきちゃうからね〜。ごっはんごっはん♪」テッテッテ・・・
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/30(木) 00:10:06.48 ID:uFChIGJA0
憂 「本当にもぉー・・・」ハフゥ


苦笑交じりのため息一つ。

いつにないお姉ちゃんの態度に困惑しつつも、その直後に見せてくれたいつも通りの笑顔に安心してしまう。

だから私は・・・

それ以上の疑念を抱くこともなく、調理の続きに戻るために再びキッチンに向き直ることができた。


もしもこの時・・・


もう少し深く、私がお姉ちゃんを”見る”事ができていたなら。

”いつもの笑顔”の奥に隠されている。そんなお姉ちゃんの本当の心に、気付いてあげることができていたなら。

喫茶店での和ちゃんの態度と、意味の掴めなかった謝罪の言葉。それと、今のお姉ちゃんの不可解な抱擁と、を。

それらのピースを繋ぎ合わせて考えるだけの、視点の広さを持ち合わせていられたのなら。

その、いくつもの”〜なら”を実践できていたの”なら”・・・

もしかして、これから先。お姉ちゃんを襲う悲しみのいくらかは、防げ得たんじゃないのか。

私はおねえちゃんを救うことができていたんじゃないのか。

そして私自身、後悔の足かせに身を縛られることなく、笑って過ごしてゆく事ができたのではないか・・・


そんな自問と自責の念を負い続け、これから数年を生きなくてはならなくなる事に。

・・・このときの私はまだ。知る由もなかった。
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/30(木) 00:26:01.10 ID:uFChIGJA0
数日後の日曜日!郊外の公園!!


純 「良い天気ーっ!」

憂 「うん。雲ひとつないね。日差しが強くて、日に焼けちゃいそう」

純 「夏は焼けるものだって。気にしなさんな!そんなことより、今日は思いっきり楽しもうね!」

憂 「・・・うん!」


そうして、やってきた日曜日。

純ちゃんと二人、自転車でやってきた片道30分のちょっと大きな市民公園。

私の自転車のかごには、お弁当が詰まったバスケット一つ。

早起きして、腕によりをかけて作ってきた自信作。

・・・純ちゃん、喜んでくれるかなぁ。
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/30(木) 00:35:09.08 ID:uFChIGJA0
純 「・・・で」

憂 「うん?」

純 「何して遊ぼうか」

憂 「え」

純 「え?」

憂 「いや・・・言いだしっぺだし。純ちゃんに何かプランがあるものだと」

純 「あっはっは。いやだなぁ、憂」

憂 「え?え?」

純 「もう二ヶ月も友達やってるのに、まだ分かんないの?私にそんな計画性、あるわけないじゃん」アハハハ

憂 「・・・そうだね。単純一直線の純ちゃんだものね」

純 「そゆこと」エッヘン

憂 「そんな、胸そらせて自信満々に言い切ることでもないと思う」

純 「ならさ、あそこ行こうよ」

憂 「どこ?」

純 「あそこ!あの芝生の中。大きな木があるでしょ。あの下、涼しそうで超いい感じじゃない?」

憂 「あ、良いかも。それにあそこなら日焼けも防げそう」

純 「決まりだね。そうと決まったら早く行こう!」

憂 「うん!」

109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/30(木) 00:43:43.92 ID:uFChIGJA0
大樹の下!!


柔らかな木漏れ日に照らされるのに身を任せ。

私たちは大樹の根元に頭をあずけ、芝生の上にごろんと転がった。

木の幹を枕に、柔らかな草をクッションに。

体を横たえながら、木の傘の隙間からこぼれ見える空を眺めていると。

ふわふわりと・・・

まるで雲の上でゴロゴロしているような。そんな心地よい錯覚に陥ってしまう。


純 「はぁ・・・気持ちいいねぇ」

憂 「そうだねぇ・・・」

純 「良い塩梅だねぇ・・・」

憂 「くすっ。おばあちゃんみたい」

純 「えへへ・・・うーん・・・むにゃむにゃ」

憂 「・・・」

純 「・・・」

憂 「・・・純ちゃん?」

純 「すぴーすぴー」

憂 「寝ちゃってる。寝付き良すぎ・・・」
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/30(木) 00:54:20.79 ID:uFChIGJA0
まるで猫よろしく糸目になって、穏やかな寝息を立てている純ちゃん。

可愛い・・・


憂 「私はどうしよう。一緒に寝ちゃおうかな・・・」

憂 「あ、そうだっ!」ゴソゴソ・・・

憂 「一応、持って来ちゃったんだよね。マンガノート・・・へへ」


せっかくだもん。気持ちよく眠ってる純ちゃんの姿も、ノートに書き留めておこう。

勝手に描いたら、怒られるかな?でも、私の前で無防備な姿をさらしてる、純ちゃんが悪いんだからね。

ま新しいページを開き、筆記具を取り出し・・・そして。

純白な紙の上に、ペンを走らせると。

たちまちノートの上には新たな世界が、色彩を放って産声を上げる。

・・・純ちゃんの寝姿という、新たな世界が。
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/30(木) 00:56:14.81 ID:uFChIGJA0
憂 「純ちゃん・・・」


穏やかに時間は過ぎていく。

殺伐さや緊張や、まして孤独とは無縁の時間が穏やかに、緩やかに。

芝生を揺らす風とともに、私と純ちゃんの間をゆったり通り過ぎていく。


憂 「私、何に緊張していたんだろう・・・」


なんの警戒心もなく、のんきな寝顔を私にさらしている純ちゃん。

それはきっと、信頼の現れ方の一つなんだと思う。

私を本当の友達だと思ってくれているからこその気安さ。

私もそれに応えたいな。

緊張とか。いらない気遣いとか。そんなものとは関わりなく・・・

裸の。素の。飾らない。

そんな自分で、純ちゃんの前に立っていたい。

だって・・・友達だから。


憂 「純ちゃん、ありがとう」


そう思えるまでになることができた。

ここまでになれたのは、ぜんぶ純ちゃんのおかげ。

だから。私はもう一度、声に出して言う。

私の心を研ぎほぐしてくれて。そして、私の友達になってくれて。


憂 「本当にありがとう。純ちゃん」
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/30(木) 00:58:44.82 ID:uFChIGJA0
では、今宵はこれで寝とうぞんじます。

続きはまた後刻。おやすみなさい。
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/30(木) 21:22:42.82 ID:C3dvRr+R0
そして!お昼!!


純 「・・・んぐ・・・う・・・がぁ・・・・」

憂 「・・・」ギュー

純 「むぎぎぎ・・・ぐふっ・・・ぐぐぐ・・・」

憂 「・・・」ギュー

純 「・・・っ!ぷはぁーーーー!!!」ガバッ

憂 「あ、起きた。おはよ、純ちゃん」

純 「おはよ、じゃないよ!寝てる私の鼻をつまんで!死ぬよ?死んじゃうから!」

憂 「だって、なかなか起きてくれないんだもん。それにね、ほら。もうお昼だよ?」

純 「だったら、もぉー・・・普通に起こしてよね・・・」

憂 「顔まっ赤にして苦しがってる純ちゃんも、赤鬼さんみたいで可愛かったよ♪」

純 「さらりと恐ろしいことを言うよね、憂は」

憂 「えへ。さぁ、お弁当食べよ?」

純 「お!待ってました!」
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/30(木) 21:30:53.23 ID:C3dvRr+R0
バスケットから取り出したるお弁当は二段編成。

一段目には色とりどりの具を挟み込んだ、本日の主役のサンドイッチ群。

二段目には純ちゃんが飽きちゃわないように、いろいろ工夫を凝らしたおかずの盛り合わせ。

串揚げ・豚肉のアスパラ巻き・ミニハンバーグ・ほうれん草のシーチキン和え・ポテトサラダ・・・etc

もちろん純ちゃんが好きだって言ってくれた卵焼きも忘れずに。


純 「わぁー・・・」


たちまち芝生の上を彩ってゆくおかずの数々に、純ちゃんは目を輝かせ見入っている。


純 「こんなに?こんなにあるの?!すっごーい!」

憂 「張り切りすぎちゃったかなぁ。ちょっと多すぎた?」

純 「多ければ多いほど、嬉しいってもんだよ!」

憂 「えへへ。じゃあ、いっぱい食べてね?」

純 「もちろん。残すなんて、野暮なマネはしないぜ!」

憂 「うん♪それじゃあ・・・」

憂・純 「いただきまーす♪」
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/30(木) 21:33:37.40 ID:C3dvRr+R0
純ちゃんが喜んでくれてる。早起きしてがんばって作った甲斐があったな。

純ちゃんが嬉しそうに笑うと、私も嬉しい。

だって、ニコニコ私のお弁当に箸をのばす純ちゃんを見ていたら・・・


憂 「へへ・・・」


私も釣られて、つい笑顔になってしまうんだもの。


・・・釣られて・・・?


ううん、きっとそれは違う。これは。この私の笑顔は。

今が本当に嬉しくて、楽しいからこそ自然に浮かんだ、裸の。素の。飾らない。

つまり、心からの笑顔なんだ。

116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/30(木) 21:38:51.76 ID:C3dvRr+R0
・・
・・


もぐもぐもぐもぐ・・・

憂 「なかなか減らないね。さすがに作りすぎちゃったかなぁ・・・」

純 「んなことないよ?」モグモグ

憂 「無理しなくて良いからね・・・?」

純 「してないよ。いくらでも入るよ」パクパク

憂 「・・・で、どうかな?」

純 「どうって?」シャクシャク

憂 「・・・美味しい?」

純 「うん、さいこー!」ニパー

憂 「・・・///」

純 「ごっくん。・・・よし、じゃ次は・・・!」


C子 「・・・平沢さん」

 
憂 「え・・・?」

純 「んあ・・・??」


唐突に招かれざる客が私たちの前に現れたのは・・・

お弁当の残りも折り返しを向かえた、そんな時だった。
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/30(木) 21:42:40.12 ID:C3dvRr+R0
C子 「久しぶりだね。元気?元気だったかな・・・」

憂 「こ、寿さん・・・?」

C子 「うん。小学校の卒業式いらいだね。元気だったかな?・・・かな」

憂 「・・・う、うん」

純 「誰?憂の知り合い?だったら私にも紹介して・・・」

憂 「寿さん、どうしてここに・・・?」

C子 「だって、ここって公園だし。誰がいたっておかしくないし」

憂 「そ、それはそうだけど。でも・・・」

純 「・・・憂?」

C子 「えっと。鈴木純さん。純さんだよね?はじめまして」

純 「あ、うん・・・はじめまして」

C子 「私、平沢さんと同じ小学校出身の寿詩子。クラスは違うけど、いちお同じ中学に通ってるんだよ」

純 「へぇ・・・そうなんだ」

憂 「・・・」
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/30(木) 21:45:25.52 ID:C3dvRr+R0
C子 「ね、平沢さん。知ってた?知ってたよね?同じ中学に進学してたの。知ってたよねぇ」

憂 「う、うん・・・知ってたよ・・・」

C子 「だったらさ、だったらだよ。顔くらい見せに来てくれたって良かったのに」

憂 「え・・・どうして・・・」

C子 「どうしてって。私たち、友達でしょ?友達」

憂 「・・・友達?友達って・・・」

C子 「あ、お弁当!憂が作ったんでしょ?そうでしょ?おいしそうだなぁ・・・」

憂 「・・・憂って・・・」


今、私のこと・・・

憂って名前で呼んだの?まるで友達のような気安い振る舞いで・・・?


C子 「いいなぁ。私も食べたいなぁ。ね、鈴木さん。私も一緒して良いかなぁ?かなぁ」

純 「え、あ・・・えと。憂が良いって言うなら・・・」

憂 「・・・ダメだよ」

C子 「え・・・」
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/30(木) 21:48:30.66 ID:C3dvRr+R0
憂 「これは全部、純ちゃんのために作ってきたものなの。だから、悪いけどあなたの分は無いの・・・」

純 「う、憂・・・?」

C子 「そ、そっか・・・そうなんだ・・・」

憂 「・・・」

純 「・・・」

C子 「・・・」

憂 「・・・寿さん」

C子 「小学校の頃みたいに、C子ちゃんって呼んでよ。ね?呼んで欲しいな」

憂 「・・・寿さん。何か用でもあるのかな。なければ私たち、そろそろ他に行くけれど」

C子 「え、そんな・・・どうしてそんな風に・・・」

憂 「・・・」ギリッ

C子 「・・・!!」

純 「憂・・・どうしたのさ。そんな怖い顔をして・・・」

C子 「・・・用って言うか・・・あの。あのね?憂・・・」


また名前で呼んだ。

言いようのない不快感が、私の感情を逆なでにする。
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/30(木) 21:53:05.37 ID:C3dvRr+R0
憂 「・・・」ギリギリ・・・

C子 「あぅ・・・あ・・・」


ふいっと・・・

寿さんが私からの視線に耐え切れず、顔を背けようと動かした先。

たまたま彼女の視界に入ったのは、お弁当を入れてあったバスケット。

そして、バスケットの陰に隠れるように置かれた・・・私の宝物。

あの、マンガノートだった。


C子 「あ、それ。もしかして・・・」


重たい場の空気を変えたかっただけなんだと思う。

そんな気軽さでマンガノートに伸ばした彼女の手を。私は・・・


憂 「触らないで!」


とっさに。

でも、断固とした、寿さんの手に触れさせてなるものかという意志を持って。

つよく。叩くように跳ね除けていた。
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/30(木) 22:03:34.07 ID:C3dvRr+R0
C子 「いっつぅ・・・な、なにする・・・」

憂 「あなたがこのノートに触らないで」

C子 「憂・・・?」

憂 「そう。気づいてるよね。今あなたが手に取ろうとしたのは私の・・・マンガノートだよ」

憂 「知ってるよね?あのとき寿さんが気持ちわるがって、ありえないって否定した。あの、マンガノート」

C子 「あ・・・あの、あのね。憂・・・」

憂 「・・・」


言いたいことはあった。

でも、相手の顔色を伺うことに慣れてしまった私には、思いの丈をそのまま口から出すことに戸惑いを覚えずにはいられない。

それは長年の習い性。身にこびり付いてしまった錆のようなもの。

だけど・・・


純 「・・・」


あっけにとられた風に黙って、事の成り行きを見ている純ちゃんに視線を向ける。

彼女から教わったこと。

人との付き合いに、過度な緊張は必要ないということ。

そして、裸の。素の。飾らない。

そんな自分でいて良いのだということ。それに気づかせてもらったから・・・
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/30(木) 22:05:30.60 ID:C3dvRr+R0
憂 「これはね、大切なものなんだ。私の大切な人の姿を描きとめた、大事な大事な私の宝物。だから・・・」


だから、私はためらいを捨てる。

飾らない自分の、生の心をぶつけるために。

人付き合いに臆病で後ろ向きな自分と、永久に決別するために。


憂 「だからね、友達でもない人に・・・好きでもない人には、このノートに触れては欲しくないんだ」

C子 「・・・好きで・・・ない・・・?」

憂 「うん、ごめんね。だいっ嫌い」

C子 「・・・あ」

憂 「・・・寿さんが行かないんなら、私たちが行くね。純ちゃんゴメン、片付けるの手伝ってくれるかな」

純 「あ、うん・・・」

C子 「・・・」
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/30(木) 22:08:50.62 ID:C3dvRr+R0
私たちが広げた荷物をまとめている傍らで、寿さんはその場に黙って立ち尽くしていた。

やがて私たちがそこから去ろうと立ち上がっても。

彼女は呆然とうつむいたまま。一言も発することもなく。

ただ唇を真一文字にキュッと結び、何かに耐えているかのような表情でまぶたを落として・・・

・・・ただ、そこにいた。

その姿にチクンと。小さな痛みにも似た罪悪感が私の胸を突く。


純 「ちょっと、憂。いいの、このままにしておいて・・・」


だけど・・・


憂 「・・・良いの」


言って私は歩き出す。純ちゃんも戸惑いの表情のまま、私の後に続いてくれた。

しばらく歩いて、そして一度だけ後ろを振り向く。

そこからは、寿さんがまるで時を止められた絵や写真のように・・・

さっきと同じ立ち姿のままで、同じ場所にいるのが見えた。

どうしてだろう。もう一度。私の胸が小さくうずいた。
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/30(木) 22:14:12.60 ID:C3dvRr+R0
同じ公園内!大樹から離れた広場!!


憂 「・・・純ちゃん、ごめんね。驚かせちゃったよね」

純 「うん、まぁ。あんな憂、見たことなかったから、ね。正直ビックリしちゃったかな」

憂 「そうだよね。さっきの私、イヤな子だったよね」

純 「あの子なんだね。憂が言ってた、昔の友達って」

憂 「うん。小学校のときの親友。そう思ってたのは、私だけだったんだけど」

純 「・・・」

憂 「私の気持ちを知って、私を否定して、そして私から離れていった・・・私の昔の親友・・・」

純 「やっぱり」

憂 「うん。それがどうして今になって話しかけてきたのか分からないけど。でも・・・」

純 「じゃあ、良かったじゃん!」

憂 「・・・え?」
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/30(木) 22:16:08.34 ID:C3dvRr+R0
純 「言ってやりたいこと、言えたんじゃん?」

憂 「あ・・・そ、そう・・・だね」

純 「でしょ?この前きいた感じじゃさ。以前は文句らしい文句、言えなかったみたいだし」

憂 「うん。今日はじめて、あの子に言いたかったことが言えた・・・のかも」

純 「にひひ。じゃあ、ちょっと嫌な思いもしたけどさ。あの子と再会できたのも、結果オーライってとこだね!」

憂 「・・・純ちゃん」

純 「ずっとガマンしてたんだもんね」

憂 「うん・・・」

純 「だからさ。溜め込んでた物を吐き出せて、スッキリできて良かったよ。ね、憂」

憂 「じゅ・・・純ちゃん・・・」

純 「さぁて。せっかくの楽しい日曜を仕切りなおさなきゃ!で、腹ごなしがすんだら、残りのお弁当を食べちゃおう」

憂 「え、ま・・・まだ食べるの?」

純 「言ったっしょ?残すような野暮なマネはしないって。純ちゃんに二言は無いんだぜ?」

憂 「・・・うん。うん!」

純 「・・・嫌な子だなんて、思わないよ」ボソッ

憂 「・・・っ」
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/30(木) 22:18:33.39 ID:C3dvRr+R0
純 「お!アスレチックコーナー発見!絶好の腹ごなしポイントだね。行ってみようよ!」


照れ隠しのように、手を差し出してくる純ちゃん。その手を取り、彼女の暖かさを肌で感じながら私は思った。

さっきまで。ううん、小学生の頃から心の底をずっと占領していたモヤモヤ。

それをすべて吐き出しちゃった今。

代わりに心を占めるのは、純ちゃんへ向けた感謝と親愛の気持ち。

たぶん、きっとこれが。この暖かい気持ちが。

友情というものなんだろうって。


憂 「・・・うん、行こう!」


思わず込み上げてきそうになる涙を飲み込みながら、私は誓う。

この先もし、純ちゃんに困ったことが起こったなら。

彼女を襲う何事かが訪れたときには、今度は私がこの子を護る盾となる。

そんな人になろう、と。
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/30(木) 22:25:03.81 ID:C3dvRr+R0
数日後の学校!放課後!!


憂 「純ちゃん、仕度おわった?帰ろうよ」

純 「あ、ごっめーん。ちょい野暮用!すぐ済むと思うから、ちょっと待ってもらっていい?」

憂 「うん、良いよ。じゃ、私ここで待ってるね」

純 「悪いね!それじゃ、ちょちょっと行ってくるから!」タッタッタ

憂 「はーい」

憂 「・・・」

憂 「行っちゃった」

憂 「・・・あ、そうだ!」


それはちょっとした思いつき。

ただ廊下まで出て、去り行く純ちゃんをこっそり見送ろうと。

たったそれだけの、単なる気まぐれだった。

ひょいっと教室のドアから廊下へと顔をのぞかせると、廊下をテテテっと駆けていく純ちゃん。
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/30(木) 22:26:07.96 ID:C3dvRr+R0
憂 「あ、走ってる走ってる。だめなんだよ、純ちゃん。廊下は走っちゃ・・・」

憂 「・・・え?」


そこで私は見たくないものを見てしまった。

廊下の端。純ちゃんが手を振りながら向かう、その先に。

・・・あの子の姿を。

ここからじゃ、かなり小さくしか見えないけれど。

でも、私が。あの子を見間違えるはずがない。

そう、寿 詩子。彼女の姿を・・・


憂 「・・・え、なんで?なんで純ちゃんが寿さんと・・・?」


二人は合流すると、廊下の角を曲がって。そしてそのまま揃って私の視界から消えてしまった。
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/30(木) 22:29:20.50 ID:C3dvRr+R0
憂 「どういうこと・・・二人が私の知らないところで会って・・・え?」


だってあの二人は、昨日初めて顔を合わせたばかり。

友達どころか、知り合いの域にすら達していないはず。

それどころか。私にとっての寿さんという子が、どういう意味を持っているかを知っているはずの純ちゃんが。

なぜ、私に黙って。あの子と落ち合っているの・・・?


憂 「え・・・意味が・・・わからない・・・」


・・・そして。
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/30(木) 22:34:31.41 ID:C3dvRr+R0
私が困惑と不安をない交ぜに、立ちすくんでいたのと同じ頃。

学校内の某所にて・・・


唯 「え・・・なに?なに・・・するの・・・?」

唯 「・・・!いやっ!は、離して!あ、あう・・・いやだ・・・!」

唯 「た、助けてー!和ちゃん!憂、ういーーーー!!!」

唯 「い、いやああぁああぁあああああぁああぁぁあああっ!!!!」


密閉された場所で、誰に届くはずもない悲鳴をむなしく壁に反響させながら。

お姉ちゃんが必死に助けを求めていたことに、私は気づく由もなかった。


第三話へ続く!
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/06/30(木) 22:37:01.36 ID:C3dvRr+R0
第二話終了です。

もし読んでくださっている方がいましたら、ありがとうございました。

引き続き第三話の製作にかかりますので、変わらずお付き合いいただけたら幸いです。

ではまた後刻。
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/06/30(木) 23:24:24.03 ID:b13iNEaSO

唯が心配だよ…
133 : :2011/06/30(木) 23:37:02.73 ID:C3dvRr+R0
あ・・・訂正箇所一つ発見。

>>129 の二行目。

だってあの二人は、昨日初めて顔を合わせたばかり。



だってあの二人は、この前初めて顔を合わせたばかり。

に脳内変換お願いします。


お目汚し、失礼しました。
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/01(金) 10:38:12.91 ID:cZXVpRgIO
スレタイ忘れとったwwww
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/10(日) 00:21:28.01 ID:gVngUUfS0
それでは第三話。再開させていただきます。
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/10(日) 00:21:54.82 ID:gVngUUfS0
第三話 憂「お姉ちゃんが壊れちゃった」
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/10(日) 00:22:21.38 ID:gVngUUfS0
朝!通学路!!


純 「あ!おっはよー、憂!」

憂 「・・・純ちゃん」

純 「昨日はどうしたのさ。教室で待っててくれるんじゃなかったの?」

憂 「・・・」

純 「用事済ませて戻ったら、憂いなくなってるし。メールしても返事ないし」

憂 「・・・」

純 「私、ちょっと話があったんだけどなぁ。・・・憂?」

憂 「・・・純ちゃん」

純 「・・・どうしたの?目の下クマだらけにして。もしかして、寝てない?」

憂 (コクリ)

純 「なにかあったの?」

憂 「・・・純ちゃん。お姉ちゃんが。お姉ちゃんがね・・・」

純 「お姉さんが・・・どうしたっての?」


憂 「お姉ちゃん、壊れちゃった・・・」


純 「・・・え」
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/10(日) 00:24:15.28 ID:gVngUUfS0
回想!前日の放課後!!


とぼとぼ・・・


憂 「けっきょく、純ちゃんに黙って学校出てきちゃった・・・」

憂 「純ちゃん、私のこと探してるかな。それとも、怒って帰っちゃったかな・・・」

憂 「・・・悪いことしちゃった・・・」


でも、怖かったから。

純ちゃんが私を裏切るはずはない。頭では分かってる。

だけど、それでも。

寿さんと純ちゃんの接点が私には見当がつかない以上、心の中で不安が渦巻くのを止める手立ては思いつかなくって。

どうしても予想は悪い方にばかり偏ってしまう・・・

だから私、逃げるように学校から飛び出してきちゃった。


憂 「こういうことは、もう止めるって決めたのに・・・」

憂 「気持ちを押し殺さない。素の自分を友達には隠さない。だから、不安に思ったことも純ちゃんに聞けば良いだけだったのにな・・・」

憂 「・・・」

憂 「うう〜〜〜っ!」

憂 「考えたって仕方がないや!家に着いたら、ごめんなさいってメールしよう」


そして、寿さんと何を話していたのか。それも聞いてみよう。

うん、ガンバレ私!!
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/10(日) 00:32:00.83 ID:gVngUUfS0
帰宅!平沢家!!


ガチャッ


憂 「ただいま〜・・・」

憂 「・・・あれ?お姉ちゃんの靴。先に帰ってたんだ・・・」


でも・・・


憂 「もう薄暗くなってるのに、なんで明かりをつけてないんだろ。・・・お姉ちゃん?」

憂 「お姉ちゃん・・・帰ってるの・・・?」トテトテ・・・

憂 「・・・お姉ちゃん?」ヒョコッ

唯 「・・・」

憂 「あ、いたぁ。ただいま、お姉ちゃん!」


時はすでに夕刻。

日はすでに落ちかけ、西の空を残照が茜色に染め上げている頃。


唯 「・・・」


その、地平線に沈み消える前のわずかな光が、かろうじて差し込むリビングのソファーに。


憂 「お姉ちゃん・・・?」


明かりもつけず。

薄暗い部屋に、ただぽつねんと。

お姉ちゃんは”いた”。
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/10(日) 00:40:43.48 ID:gVngUUfS0
唯 「・・・」

憂 「・・・お姉ちゃん?な、何してるの?明かりもつけないで・・・」

唯 「・・・」

憂 「お姉ちゃん・・・?」

唯 「・・・」ユラッ・・・


何度目かの呼びかけにやっと応じて、お姉ちゃんが顔を上げる。

だけど、その目は。斜陽に照らされたためか、真っ赤に染まったお姉ちゃんの瞳は・・・

視線を私に投げかけながらも、眼差しは虚空をに漂わせているだけで、誰のことも見てはいない。

そんな、およそもっともお姉ちゃんらしくない、空疎な目。
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/10(日) 00:44:51.89 ID:gVngUUfS0
ぞくっと。

私の背中を冷たいものが走る。

こんな、生気のない瞳を。冷たく凝固したかのような表情を。

あのお姉ちゃんの顔の上で見ることになるなんて。


唯 「・・・」

憂 「ね、本当どうしちゃったの、お姉ちゃん」

唯 「・・・」

憂 「ねえ、何か言ってよ。何かあったの?」

唯 「・・・」

憂 「ねえ?なにがあったの!?答えてよ、お姉ちゃん。お姉ちゃん!?」

唯 「・・・」

憂 「ねえってば!言ってくれないと、私なんにも分からないよ!」


呼びかけても・・・

お姉ちゃんは言葉一つ、うなづき一つすら私に返してはくれなかった。
142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/10(日) 00:49:05.31 ID:gVngUUfS0
・・・
・・・


純 「そ、それで。お姉さんは今もそのままなの?」

憂 「うん・・・夜にお父さんとお母さんが帰ってきて・・・今はお母さんがお姉ちゃんを見てくれてるけど」

純 「そっか。それで心配で寝られなかったんだね・・・」

憂 「本当は学校も休んでお姉ちゃんの側にいたかったんだけど、お母さんが心配いらないから学校には行くようにって」

純 「・・・そう」

憂 「・・・うう」グスッ

純 「あわっ!憂、泣かないでよ・・・」

憂 「だって、お姉ちゃん。あんなに明るくて元気いっぱいだったお姉ちゃんなのに、こんなの。こんなのって・・・」

憂 「お姉ちゃんのあんな姿、見たくないよぅ・・・」ヒグッヒグッ

純 「憂・・・」ナデナデ
143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/10(日) 00:50:24.47 ID:gVngUUfS0
憂 「うう、純ちゃぁあん・・・」ヒシッ

純 「よしよし。俺の胸で泣きたけりゃ、いくらでも貸してあげるからな」

憂 「うええええん。純ちゃん、おねえちゃあぁあああん・・・」

純 「・・・」ナデナデ

憂 「なんでお姉ちゃん、あんなんなっちゃったのかなぁ・・・分からないから、よけい不安で・・・うぅ・・・」

純 「・・・そのことなんだけど」

憂 「・・・え?」

純 「今は時間もないし、昼休みにでも。はっきりとは言えないけど、関係あるかもしれない話が、さ」

憂 「純・・・ちゃん・・・?」

純 「ちょっと、あるから・・・」

憂 「・・・?」
144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/10(日) 00:57:24.76 ID:gVngUUfS0
お昼休み!校庭の片隅!!


憂 「・・・いじめに?お姉ちゃんが!?」

純 コクリ・・・

憂 「そんな・・・どうしてお姉ちゃんが、そんな。いじめなんて・・・」

純 「聞いた話だからね。確証は持てないけどさ。でも・・・」

憂 「誰に?あのお姉ちゃんをいじめるなんて、いったい誰が・・・」

純 「不良・・・」

憂 「・・・!」

純 「いるらしいね、お姉さんのクラスにさ。なんでも、そいつらに目をつけられちゃったって事らしいよ」

憂 「嘘・・・どうして・・・だって、私のお姉ちゃんだよ!?いじめられるなんて、人から嫌われるような事するはずないのに!」

純 「分かってるよ。私も会ったことあるもん。それは憂の言うとおりだよ。でもさ」

憂 「・・・」

純 「いじめってさ。別に必要ないんだよね。される理由って・・・」

憂 「・・・え」
145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/10(日) 00:58:46.01 ID:gVngUUfS0
純 「ただちょっと気に食わないところがあったりとか。何をしても言い返して来なさそうだったりとか」

純 「それだけで、十分。あとはする側の気分しだい。そんなもんなんだよね。あったまくるけど・・・!」

憂 「・・・あ」


(憂 「お姉ちゃんのんびりしてるから、ああいう不良さんたちに目をつけられちゃったりとかしないかな・・・」)


いつかの帰り道。お姉ちゃんたちのクラスに、たちの悪い不良がいるって聞いたとき。

私、和ちゃんに言ってる。

自分で言ってる。お姉ちゃんの性格が、いじめの理由に利用されるんじゃないかという不安を。

・・・私、気づいてる。
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/10(日) 01:00:17.13 ID:gVngUUfS0
憂 「・・・」

純 「う、憂・・・?」

憂 ダッ

純 「ちょ、ちょっと待ったぁー!」ガシッ

憂 「離して!私、行かなきゃ!」

純 「行くって、どこにさ!」

憂 「お姉ちゃんのクラス!その不良に、本当にいじめられてたのか確かめに行かなくっちゃ!」

純 「ま、待って!まずは落ち着け!」

憂 「落ち着けるわけないよ!」

純 「良いから、一呼吸おきなって!」

憂 「・・・っ」

純 「・・・はぁ。あのさ・・・憂。良い?私、さっき言ったよ?確証は持てないって」

憂 「うん、だけど。だって!」

純 「もしこの話がガセだったら。いや、それならその方が良いんだけどさ。でも、ガセなのに下手に騒いじゃったら・・・」

憂 「・・・」

純 「噂のいじめがホントのいじめに成り上がっちゃうかもしれない。そんなの嫌でしょ・・・?」

憂 「あ・・・う・・・うん・・・」

純 「それに。いじめが嘘でもホントでも。憂が騒ぐことで、今度は憂がいじめの対象にでもなっちゃったら・・・」

憂 「そんなのっ!お姉ちゃんのためだったら、私のことなんk
純 「私が嫌なのっ!」

憂 「・・・っ!」
147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/10(日) 01:01:59.49 ID:gVngUUfS0
純 「嫌なんだよ、友達が辛い目に合わされるかもなんて。考えるのも嫌だ・・・」

憂 「純ちゃん・・・」

純 「・・・」

憂 「・・・」

純 「・・・怒鳴ってゴメン」

憂 「私の方こそ、取り乱しちゃってゴメンね・・・でも、だけど。じゃあ私、どうしたら・・・」

純 「まずは事実かどうかの確認からだよ。ね、誰かいないの?お姉ちゃんの友達でさ、憂も知ってる人」

憂 「・・・あ」

純 「いるんでしょ。だったら、まずはその人に聞いてみなよ。先のことは、それから決めよう?」

憂 「あ・・・うん」

純 「それと、約束」

憂 「え、なぁに・・・?」

純 「いじめが本当にあったと確認できたとして。さっきみたいに我を忘れちゃわないように・・・ね?」

純 「私もできる範囲で協力するから。だから一人で暴走しないで。絶対、コレ約束!」

憂 「・・・うん。うん、ありがとう。純ちゃん」
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/10(日) 01:05:26.85 ID:gVngUUfS0
では、続きはまた後刻。

毎度のことですが亀で申し訳ないです。

149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/10(日) 23:05:50.30 ID:kT4q2dac0
では再開を。
150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/10(日) 23:06:32.22 ID:kT4q2dac0
放課後!


私は和ちゃんにメールを送ってみた。

差しさわりのない挨拶メールに返ってきた返事は、「これから唯のお見舞いにいって良い?」。

お姉ちゃんは表向き、風邪という理由で学校を休ませている。だからこれは、当然の反応。

私は承諾の返事を返すと、純ちゃんと別れ一人、家路に急ぐ。

聞かなくっちゃ。

お姉ちゃんが遭わされた、事の顛末を。
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/10(日) 23:26:30.04 ID:kT4q2dac0
平沢家!


憂 「ただいま・・・」

母 「おかえり、憂ちゃん」

憂 「お母さん・・・お姉ちゃんは・・・?」

母 「・・・」

憂 「・・・そう」

母 「憂ちゃん、少し寝たら?昨日はほとんど、眠れてなかったんでしょ?」

憂 「ううん、平気。それよりもお母さん。もうすぐ和ちゃんがお見舞いに来てくれるから」

母 「え、でも・・・」

憂 「平気。あとね、ちょっと和ちゃんに確かめたいことがあるから。だからお母さん。しばらく私たちだけにしてね」

母 「え・・・」

憂 「お茶とかぜんぶ私が用意するから。だから、ね・・・?」
152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/10(日) 23:30:43.08 ID:kT4q2dac0
ピンポーン


憂 「あ・・・はーい」

和 「こんばんわ、真鍋です」

憂 (ガチャッ)「いらっしゃい、和ちゃん」

和 「あ、憂。唯の具合は・・・あ、おばさま」

母 「・・・いらっしゃい、和ちゃん」

和 「唯のお見舞いに来ました。あの、唯はどうしてますか?」

憂 「うん、上にいるよ。さ、上がって。お姉ちゃんの部屋に行こう?」

和 「うん。それじゃお邪魔します」

母 「ええ・・・」
153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/10(日) 23:38:08.51 ID:kT4q2dac0
二階。お姉ちゃんの部屋の前。

ノックを二つ。返事はない。


和 「寝てるのかしら」

憂 「たぶん・・・違うと思う」

和 「・・・え?」


私の返事に戸惑う和ちゃんに構わず、ドアのノブを回す。

扉はゆっくりと開き、そして・・・

部屋の奥。ベッドの上に。

じっと腰掛けて、うつろな目をこちらに向けて。

お姉ちゃんは起きていた。
154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/10(日) 23:41:57.90 ID:kT4q2dac0
和 「唯・・・」

唯 「・・・」

和 「こ、こんばんわ。風邪って聞いたから、心配でお見舞いに来たよ」

唯 「・・・」

和 「あの・・・寝てなくって平気なの?私のことなら気にせず、ベッドに入ってくれても・・・」

唯 「・・・」

和 「・・・唯?」

唯 「・・・」

和 「唯?唯・・・!どうしたの?なんで何も話してくれないの?ねぇ・・・」


お姉ちゃんの前まで歩みより、その肩に手を置いて揺さぶる和ちゃん。

そして。そこまで近くによって。そこで初めて和ちゃんは気がついた。


和 「・・・唯?あなた、どこを見て・・・」


お姉ちゃんの瞳が、何も捉えていないという事に。
155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/10(日) 23:48:13.57 ID:kT4q2dac0
憂 「気がついた?お姉ちゃん、昨日からずっとこうなの」

和 「憂・・・唯が。唯、どこを見て・・・憂、唯が・・・」

憂 「うん。お姉ちゃん、壊れちゃった」

和 「え・・・壊れ・・・て、何を言って・・・え?そんな・・・憂、一体いつ・・・どうして・・・」

憂 「昨日から。お姉ちゃん。瞼は開いていても、誰のことも見てくれないんだ。というか、心がね」

憂 「瞼は開いてる代わりに、心に蓋がされちゃってるようで。誰の問いかけにも、何も応えてくれない・・・」

憂 「お父さんにもお母さんにも。・・・もちろん、私にも」

和 「そんな・・・だって風邪じゃなかったの?そう聞いていたから・・・」

憂 「風邪じゃないよ。風邪じゃないけど、言えないでしょ」

和 「え・・・」

憂 「お姉ちゃん壊れちゃったから、学校を休ませます・・・なんて、言えないよね」

和 「・・・あ。・・・ね、ねぇ、唯。私よ、和だよ」

唯 「・・・」

和 「分かるよね?ねぇ・・・なにか言って。話をしてよ!唯っ!!」

唯 「・・・」

憂 「・・・和ちゃん」
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/10(日) 23:54:27.54 ID:kT4q2dac0
和 「憂、こんなの。こんな事って・・・」

憂 「・・・お姉ちゃんがいじめられていたって、本当?」

和 「え・・・」

憂 「・・・」

和 「あ・・・な、なんで・・・」

憂 「答えて。お姉ちゃん、いじめられてたの?」

和 「・・・」

憂 「ねぇ。お姉ちゃん、いじめられてたの?」

和 「う、憂・・・あの、あのね・・・」

憂 「お姉ちゃん、いじめられてたの?」

和 「あ・・・う・・・」

憂 「なんで教えてくれないの?お姉ちゃん、いじめられてたの?」

和 「・・・」

憂 「どうして目をそらすの?ねぇ、お姉ちゃんはいじめられてたの?」

和 「・・・あ。あぅ・・・」

憂 「・・・目は口ほどに物を言い。無言は肯定の証かな。いじめられていたんだね・・・」

和 「憂。わ、私・・・」
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/10(日) 23:59:35.47 ID:kT4q2dac0
憂 「友達から教えてもらったの。人づてにお姉ちゃんがいじめられてたらしいって」

憂 「いじめてたのは、前に和ちゃんが教えてくれた不良たちらしいって事も。ね、当たってる?」

和 「あの、あのね・・・私。私っ」

憂 「ね、どうして?どうしてお姉ちゃんが。お姉ちゃんみたいな優しい人が、いじめになんか遭わないといけないの?」

和 「それは・・・」

憂 「それと、あの時。和ちゃん言ってくれたよね?お姉ちゃんがいじめられても、和ちゃんやクラスのみんなが守ってくれるって」

和 「・・・」

憂 「お姉ちゃん、壊れちゃったよ」

和 「あ・・・う・・・」
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/11(月) 00:05:44.80 ID:0mTUQhYt0
憂 「原因はいじめ以外に考えられない。でも、どうして?和ちゃんが守ってくれてたなら・・・」

憂 「頼れる人が側にいてくれたのなら、どうして壊れちゃったんだろう」

憂 「ね、お姉ちゃん・・・?」

唯 「・・・」

憂 「和ちゃんは、お姉ちゃんを守ってくれた?いじめから助けてくれようとしたの?」

和 「や、やめて・・・」

憂 「・・・じゃあ、和ちゃんに聞くよ。和ちゃんはお姉ちゃんのこと、助けようとしてくれたの?」

和 「それは・・・」

憂 「親友のお姉ちゃんのこと、助けてくれようとしたの!?」

和 「わ、私、私は・・・っ」

憂 「答えろっ!真鍋和っ!!」

和 「っ!!」

唯 「・・・」
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/11(月) 00:09:40.66 ID:0mTUQhYt0
和 「・・・ごめん、憂。ごめんね・・・唯ぃ・・・」ポロポロ

憂 「・・・」

和 「一度、一度だけあいつらに言いにいったの。唯をいじめるの、止めてって頼みに。行ったんだよ。でも・・・」

和 「その時、脅されて。本当に怖くって・・・それ以上なにも言えなくって。ごめん。ごめん・・・」

憂 「・・・」

和 「喫茶店に誘ったあの日、本当は憂に相談するつもりで行ったの。でも、私の事お姉さんだって。大切な人だって。そんなふうに憂が言ってくれて・・・」

和 「なのに自分はあまりに不甲斐なくて、それが腹立たしくて・・・言葉に詰まっちゃって。もう、それ以上なにも言えなくて・・・」

憂 「和ちゃん・・・」

唯 「・・・」

和 「だけど!唯がこんなふうになる位だったら、何をされても良い。誰にどう思われたって良い!もっと私にできる事をするべきだったんだっ!」
160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/11(月) 00:18:42.46 ID:0mTUQhYt0
和 「ごめん。いまさら遅いけど、ほんと・・・ごめん・・・ごめんねぇ・・・」ヒッグヒッグ


お姉ちゃんのあり様を見せつけられ、私に怒鳴りつけられて。

和ちゃんは膝をついて、肩を震わせながらポロポロと涙をこぼし始めた。

いつもは私よりもずっと大人な和ちゃんが、今は小さな子供みたいに小さな嗚咽を漏らしながら・・・


唯 「和ちゃんは・・・悪くないよ・・・」

憂 「えっ!?」

和 「唯!!」

唯 「誰だって、あんな人たちに関わるのは怖いもんね・・・だから、和ちゃんは気にしないで良いんだよ・・・」

憂 「お姉ちゃん、話せるの?私のこと、分かる!?」

唯 「うん。ごめんね、憂。心配したよね。でも、しばらくはそっとしておいて欲しいな。関わらないで欲しい・・・」

憂 「え・・・」

和 「ゆ、唯・・・」
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/11(月) 00:23:10.25 ID:0mTUQhYt0
唯 「私ね、一人で。心の中でね、昨日からずっと考えてたんだ。私じゃどうにもならない。誰も助けてくれる人はいない」

唯 「じゃあ、どうしたら良いのかなって。考えてたの。そして分かったよ。何も感じなくすれば良いんだって」

憂 「そ、それって・・・」

唯 「心のね、スイッチを切るの」

和 「・・・っ!」

憂 「だ、だめだよ、そんなの!そんなの辛い!悲しすぎるよ!」

唯 「ごめんね、憂。でも独りにして欲しいんだ。和ちゃんも。今日はもう帰って?」


言って静かに微笑むお姉ちゃん。

やっと。一日ぶりに言葉を交わしてくれたお姉ちゃん。

なのに・・・

発した言葉はか弱く、かつ悲しく。

そして、両の瞳は依然として光を失ったままで、やはり誰のことも見てはいなかった。
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/12(火) 10:37:21.62 ID:pDHICQFm0
翌日の学校!休み時間!!


純 「そっか。やっぱりいじめはあったんだ・・・」

憂 「うん・・・その後、真鍋先輩から聞いた話だとね。いじめは一ヶ月くらい前から続いてたんだって・・・」

純 「そんなに・・・?」

憂 「うん。はじめは軽い嫌がらせ程度だったのが、どんどんエスカレートしていって・・・」

純 「陰湿ないじめにまで、発展してしまったってわけね」

憂 「かわいそうなお姉ちゃん。最初みんなに助けを求めたけど、不良が怖くって誰も手を差し出してはくれなかったって・・・」

純 「・・・」

憂 「誰も助けてくれないから、お姉ちゃんは耐えた。耐えて耐えて・・・」

憂 「家でも私の前ではいつもの通りふるまって、私に心配させたくないから。耐え続けて・・・だから・・・」

憂 「だから、私も。お姉ちゃんが、ああなるまで気づいてあげることができなかった・・・」グスッ
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/12(火) 10:41:08.87 ID:pDHICQFm0
純 「憂・・・お姉さんは憂に心配させたくなかったんだよ。だからこの事では、憂はあまり気に病まないほうがいいと思う」

憂 「うん・・・でも。やっぱり、私が早く気がついてあげられてたらって思うと・・・」

憂 「・・・」

純 「・・・?憂・・・?」

憂 「家族の私でも気がつかなかったのに・・・」

純 「・・・え?」

憂 「お姉ちゃんがいじめられてるっていう件、純ちゃんは人づてに聞いたって言ってたよね」

純 「う、うん・・・」

憂 「誰から聞いたの?一緒に暮らしてる私でも気がつけなかったのに・・・」

純 「あ、それは・・・」

憂 「いじめを直に見ている、お姉ちゃんの同級生からとか?でも、純ちゃんって先輩に知り合いっていたっけ?」

純 「むぅ・・・実はさ。怒らないで聞いてね?」

憂 「?」

純 「これってね、あの子がこっそり教えてくれたんだよ」

憂 「あの子って・・・どの子?」

純 「・・・寿さん」

憂 「・・・え」
164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/12(火) 10:46:31.42 ID:pDHICQFm0
純 「ほら、憂が私を置いて先に帰っちゃった日。あの日、寿さんに呼び出されてね。で、聞かされたんだ」

憂 (それであの時、二人は落ち合ってたんだ・・・でも、どうして・・・?)

憂 「どうして寿さんが・・・?」

純 「なんでもさ。あの子、陸上部でしょ。部活で先輩たちが話してるの聞いて、いじめがあるってのを知ったらしいよ」

純 「で。寿さんは憂のお姉さんのことを知ってるじゃん?だから、話を聞いて被害者が誰かはすぐに分かったんだって」

憂 「あ、あのね純ちゃん・・・」

純 「A子も同じ陸上部だけどさ、あいつはお姉さんとは面識ないし。だから、憂といじめの話は結びつかなかったんだろうね」

憂 「ちょ、ちょっと待って。そうじゃなくって。なんであの子がその事、わざわざ教えてくれたの?

憂 「・・・そ、それも。純ちゃんを通して・・・」
165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/12(火) 10:54:15.45 ID:pDHICQFm0
純 「それは・・・直接はなそうとしても、憂が話を聞いてくれそうにはなかったからじゃないかな」

憂 「それはそうかもだけど。でも、寿さん、どうして・・・」

憂 「・・・いったい何を企んで・・・」

純 「・・・二人には悲しい行き違いがあるんだよ」

憂 「え?それってどういう・・・」

純 「一度、寿さんと話をしてみたら?今度は熱くならず、冷静に・・・さ」

憂 「・・・」

純 「次の休み時間にでも、ね?」

憂 「う、うん・・・」
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/14(木) 12:52:34.94 ID:ShuY+8KV0
やっと復活しましたね。
では、続きです。
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/14(木) 12:53:44.51 ID:ShuY+8KV0
そして!昼休み!!


私はお昼も早々に片付けると、寿さんのクラスに向かった。

お姉ちゃんの問題を解決する一助とするため。もちろん第一の目的はそこだけど。

あの人が何を考えて・・・何をもくろんで純ちゃんに接触してきたのか。

それが気になって仕方がなかったから。

そして今は彼女の教室の前。クラスの子に寿さんを呼び出してもらう。

程なく現れた寿さんは、「やはり来たか」とでも言いたげな含み笑いを隠そうともせずに私の前に立った。


C子 「はいほー、憂。何かご用かな?何かな?」

憂 「・・・用事があるのは、そっちじゃなかったの?」

C子 「ん?」
168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/14(木) 12:56:24.00 ID:ShuY+8KV0
憂 「私に言いたいことがあって、それで純ちゃんに近づいたんでしょ」

C子 「・・・将を射んとすれば、まずはその馬をってね。言うよね」

憂 「人の友達を馬扱いしないで」

C子 「ごめん。ごめんね。どうも私、昔から一言おおくっていけないね」

憂 「・・・」

C子 「憂の言うとおりだよ。お姉さんの事なら、憂は話を聞いてくれると思った。思ったから・・・」

憂 「話って、なにを・・・」

C子 「うん・・・この前ね。部活の連絡で憂のクラスに行ったの。A子に会いにね。で、教室の中にいる憂も見えた」

C子 「そしたら憂が。憂がね、楽しそうに笑ってた。おかしいなって思ったの。なんで笑っていられるんだろうって」

憂 「え・・・なにそれ?私が笑ってたらいけないの!?」
169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/14(木) 12:59:13.13 ID:ShuY+8KV0
C子 「違う、違うよ。そういう意味じゃないよ。私、その時にはもう、憂のお姉さんがいじめられてるって話。聞いてたから・・・」

憂 「え・・・」

C子 「あんなに大好きなお姉さんが。お姉さんがね?いじめられてて、どうして笑ってられるんだろうって。不思議に思ったの」

C子 「でね、分かった。憂、いじめの話を知らないんだろうなって。だから。お姉さんの助けにもなれてないんだろうなって。思ったのね」

憂 「こ、寿さん・・・?」

C子 「教えてあげなきゃって。きっと憂なら、何とかするだろうから・・・」

憂 「・・・」

C子 「あは・・・あの公園で会った日もね。ホントはあれ偶然じゃないんだ。たまたまじゃなかったの」

C子 「A子から憂と純ちゃんがね。公園に遊びに行くって話を聞いて。話したくっても、学校じゃ避けられちゃうだろうし」

憂 「じゃああの日会ったのはたまたまじゃなく、わざわざ待ち伏せみたいなことをしてたって言うの?」

C子 「うん。けっきょく話は聞いてもらえなかったけどね。残念・・・」
170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/14(木) 13:03:20.26 ID:ShuY+8KV0
憂 「お姉ちゃんのことを教えてくれるために?」

C子 「そう・・・」

憂 「なんで、あなたがそこまでして・・・」

C子 「・・・」

憂 「どうして?寿さん・・・」

C子 「謝って、仲直りしたかったから・・・」

憂 「・・・え?な、何を言って・・・」

C子 「お姉さんを助けるのにちょっとでも手助けできたらね。憂も昔のこと、水に流してくれるかなぁ。なんてね、思ったりして・・・」

憂 「ちょ、ちょっと待って。・・・え?な、何をいまさら・・・訳が分からないよ・・・」
171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/14(木) 13:06:03.91 ID:ShuY+8KV0
C子 「ほんのね、軽い気持ちだったんだ・・・」

憂 「・・・やめて」

C子 「軽い気持ちから出た軽口がね、憂をあんなに苦しめるなんて、考えてもみなかった。私、バカだから。ほんとにね」

憂 「い、いや・・・」

C子 「ずっと謝りたかった。ゴメンって、言い過ぎたねって。言いたかったの。でも、憂は私を避けるし、話も聞いてくれないし」

憂 「・・・」

C子 「それならそれで良いやって、私も意固地になっちゃって。だけど、だけどね・・・」

憂 「い、いまさ・・・ら・・・」

C子 「やっぱり憂のこと好きだし、大好きだったし。だから私、話すきっかけを作って、きちんと謝りt
憂 「やめてぇっ!!」


タタタッ


C子 「あ、憂?憂ー!!」
172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/14(木) 13:10:17.05 ID:ShuY+8KV0
叫んで私は走り出す。

いまさら。いまさら殊勝に謝られたところで、私は一体どうすれば良いというの?

じゃあ、私の。純ちゃんに出会うまで孤独に耐えて、人との交わりを拒絶し続けた私の日々は・・・

ぜんぶ私の早合点。周りを見る目を曇らせた、私自身のせいだったと言うの?

い、嫌だ・・・そんなの、そんな事実!耐えられない!認めたくない!!

だけど・・・だけど。

浅はかで。視野が狭くて。そのことは厳然とした事実として、私に突きつけられていて。

わざわざ謝りに来てくれた寿さんを冷たく突き放してしまった、日曜日の自分。

あの時すこしでも冷静になって、彼女の話を聞いていれば。

いじめの事実を知ることができて、お姉ちゃんが壊れる前に何か手が打てたかもしれないのに。

なのに!私は!

私は・・・

私は何て醜いんだろう・・・
173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/14(木) 13:14:30.59 ID:ShuY+8KV0
・・
・・

どれだけ走っただろう。

気がついたら私は、校庭の片隅。体育倉庫の側まで来ていた。

和ちゃんの話の中で出てきたから知っている。

そこはお姉ちゃんをいじめている不良たちが溜まり場にしている場所だ。

中からは複数の下卑た笑い声。あいつらは間違いなく、あの中にいる。

・・・なんて醜い笑い声なんだろう。
174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/14(木) 13:23:24.90 ID:ShuY+8KV0
憂 「・・・」


醜いといえば。

昨日の私も醜かった。

必要以上に和ちゃんに対して、攻撃的になってしまった私。

お姉ちゃんがああなっちゃったのは、和ちゃんだけのせいじゃないなんて当然のこと。頭では分かっていたのに。

なのに。なぜか口撃が止まらなかった。

どうして、ああも無慈悲な仕打ちを和ちゃんにしてしまったのか。

・・・

・・・わかってる。

自分の醜さに気がついた今なら、痛いほどに分かる。


憂 「・・・責任転嫁」
175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/14(木) 13:26:34.65 ID:ShuY+8KV0
辛くても苦しくても、いつも通りに接してくれたお姉ちゃん。

でも、予兆がまったく無かったわけじゃない。

些細な変化。不可解な行動。私が気がつける機会は、確かにあったんだ。

でも、私はそれを見逃してしまった。


憂 「だけど、それを認めたくなかったから・・・」


すべての責任を和ちゃんに押し付けた。

〜「私が唯を守る」〜

そんな好意から出た和ちゃんの言葉を言質に取るようなマネをしてまで。
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/14(木) 13:28:49.34 ID:ShuY+8KV0
憂 「醜い・・・醜い醜い・・・」


友達の軽口を誇大に受け取り、一人勝手に殻に閉じこもっていじけて。

その殻をこじ開けてくれた親友が、私の知らない所で密会してると疑心暗鬼になって。

姉のように慕っていた人に、すべての責任を押し付けようとして・・・


憂 「私・・・」

憂 「醜い私は・・・そうだ。罰」

憂 「・・・罰を・・・受けなくっちゃ・・・」

憂 「このままじゃ私、和ちゃんにも純ちゃんにも・・・寿さんにも顔向けができないもの」

憂 「なにより・・・お姉ちゃんにもう・・・」


もう、笑いかけてもらえなくなる・・・


憂 「そんなのは、それだけは嫌だ・・・!」


つぶやいて私は、倉庫の引き戸に手を伸ばした。
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/14(木) 13:49:04.37 ID:ShuY+8KV0
(純 「いじめが本当にあったと確認できたとして。さっきみたいに我を忘れちゃわないように・・・ね?」)

(純 「私もできる範囲で協力するから。だから一人で暴走しないで。絶対、コレ約束!」)


純ちゃんと交わした約束。

だけどこの時、混乱し錯綜した私の頭の中からは。

親友との約束が、彼女が私を心配するあまり言ってくれた大切な言葉が。

すっぽりと抜け落ちてしまっていた。


憂 「お姉ちゃん。私が・・・私がお姉ちゃんの苦しみを終わらせてあげるからね」


土下座してもいい。脅されても、殴られたり蹴られたりしたっていい。

どんな目に遭ってもいいんだ。これは罰。自分で自分自身へ下す罰なんだから。

でも、とにかく。何をしてでも、されてでも。お姉ちゃんへのいじめはここで終わらせてみせる。

それが。

いくつも重ねた過ちの、唯一の償いになると信じて。


不良 「しかし、この前の平沢は傑作だったよなぁ〜!」

憂 「・・・!?」


そして、その話題が聞こえてきたのは・・・

私が戸を引き開けようとした、まさにその時のことだった。


第四話に続く!
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/14(木) 13:53:13.00 ID:ShuY+8KV0
昨日投下できなかった分、一気にいきました。

では、また第四話で。

再びお付き合い頂けたら嬉しく思います。
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/14(木) 15:45:23.46 ID:QGwoQG/DO
乙乙

唯はレイプされちゃったのか
180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/15(金) 10:39:00.23 ID:0ljuudkIO
続きが楽しみ
181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/17(日) 15:14:34.09 ID:j8QfQNFSO
 ::::::::::::::;/::/::/::/i:!゙、 ゙、:::::i、:::::: i::::: ',
 ::::::::///:/::/ !! ゙; i::゙、:i i :::: i:::::: i
 ノ`メ 、//:ノ ,''  ゙, i:;,、i i :::: i:::::: i:!
 .,,_,  '"ヽ、 /   ,,.レ''" ゙,i::: i:i!:::i:ノ
  i~` ==-     --== i i::i:ノi:::/
  i.::''''::::i       i,,;;:::i ,'i;:;:/ i:/ 
 .ヽ ;;;;;ノ,      i;;;;:ノ,.,' ::/ "
 ⊂⊃        ⊂つ::::i
 、            ノ:::i:::l
 ::゙:、: 、   )-  ,,. '" l:::i::l 
 、::゙:、i! ` ‐-、 ‐''"/    l:::i::l
 '"゙、:i` 、   ゙  .⌒`、  l::i:,'
   ゙!i  ',   、    ',   l::i
   i!   ',   ` 、  ゙ 、 i,!
182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/18(月) 19:28:33.60 ID:9762ol+p0
こんばんわ。第四話を投下します。

今回は短いので、一回でいけると思います。

それでは・・・
183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/18(月) 19:29:11.21 ID:9762ol+p0
第四話 憂「骨の一欠片残さず粉々にしてやる!」
184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/18(月) 19:33:24.70 ID:9762ol+p0
不良1 「しかし、この前の平沢は傑作だったよなぁ〜!」


憂 「・・・!?」


思わず、扉を開けようとしていた手が止まる。

倉庫の中。不良たちが話しているのは。

明らかにお姉ちゃんの話。


不良2 「まぁ、泣き喚いて大変だったけどよ。キンキン声でうるせーのなんの」

不良1 「そりゃそうだろ。脱がされりゃ、泣きもするさな」


憂 「・・・ぬ、脱が・・・それって、え?どういう意味・・・」


不良1 「縛って脱がして写メや動画撮って。へっへへ・・・ガキみたいな顔して、出るとこ出てたよなぁ」


憂 「・・・!!」
185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/18(月) 19:34:44.19 ID:9762ol+p0
不良2 「だな。でもさぁ・・・拓クン?」


拓 「・・・あ?」


不良2 「あそこまでやっといてさ、なんで犯っちゃわなかったんだ?」

拓 「バッカ。あんな小便くせぇの犯れるか。好みじゃないってぇの」

不良1 「じゃあ、なんで脱がしたんだよ」

拓 「お小遣い稼ぎだよ」

不良1 「え?」

拓 「ああいうのが好きなの、いくらでもいるだろうが。今年卒業した先輩とか、他校の奴でもいろいろよ」

不良2 「あー・・・」

拓 「現役JCの撮り下ろしエロ動画だ。しかも個人情報のおまけつき。欲しい奴には喉から手が出るほどだろぉよ」


憂 「あ・・・あ・・・?」


エロ動画って、なにそれ。

いったい何を言ってるの、こいつら・・・
186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/18(月) 19:37:23.11 ID:9762ol+p0
不良1 「えげつねぇー」

拓 「ぬかせ。あと、絶対ネットには流出させるなよ。希少価値が下がったら、値も下がるからな」

拓 「それと、誰かに見せたりするのも無しだ。・・・今はな?」

不良2 「わーってるって」

拓 「ま。売った後でなら、どうなろうと知ったこっちゃねぇけどよ。買い手が流出させようとどうしようと」

不良1 「それでネットにさらされ、祭りになろうと・・・」

不良2 「個人情報を元に、本人に接触しようとするバカが現れようと・・・」

拓 「お前らも十分、えげつねぇじゃねーか」

だはははははっ!!!
187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/18(月) 19:39:12.84 ID:9762ol+p0
憂 「・・・」プツッ


私の頭の奥の奥。おそらく感情をつかさどる場所で。

何かが切れる音がした。

それを合図にふつふつと、お腹の底から静かな怒りが込み上げてくる。

静かで怜悧な、絶対零度の怒り・・・

その怒りが。冷静に私に一つの結論を導き出させた。


憂 (こいつらは・・・だめだ)


と。
188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/18(月) 19:40:45.12 ID:9762ol+p0
きっと彼らは私が土下座しようと何をしようと、お姉ちゃんへのいじめを止めることはしないだろう。

それどころか、私という第二の標的を見つけ、姉妹そろって奈落に突き落とそうとするに違いない。

こいつらは、そういう奴だ。私の心がそう告げている。

言って聞いてくれる奴等ではないんだ。

純ちゃんやお姉ちゃんみたいな、善良な人たちとは根本的に人種が違う。

ならば、どうすれば良い?

その答えも、冷静な怒りが導き出してくれる。


簡単だよ。


なにも、罰を受けるのは私一人である必要はなかったって事。

答えを得た私は、今度こそ扉を引きあけるため、いったんは萎えた力を再び腕に込めた。
189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/18(月) 19:46:24.26 ID:9762ol+p0
不良1 「そういやここ何日か、平沢の奴。学校休んでるな」

不良2 「さすがにやりすぎたかもな。学校にチクラれたら、さすがにやばいんじゃね?」

拓 「なにビビッてんだ、アホ。こっちには写メと動画があるんだ。余計なことをすりゃどうなるか。あいつも分かってるさ」


ガラッ


憂 「・・・」

拓 「・・・ん?」

不良1 「あ?・・・平沢?」

不良2 「いや、ちょっと違う・・・ 確かこいつ・・・」


すばやく室内を見渡す。

すると、入り口のすぐ脇。私のまさにすぐ側の壁に。

元からあったものか。それともこいつらが持ち込んだものか分からないけれど。

一本の木製バットが立てかけてあった。

私はそれをそっと手に取り、今度は不良たちの方へ視線を移す。
190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/18(月) 19:50:53.58 ID:9762ol+p0
不良2 「確かこいつ、平沢の・・・」


私のすぐ目の前に一人。

その右となりにもう一人。

そして倉庫の一番奥。体育マットを座布団代わりに、牢名主よろしく偉そうに構えているのが。

おそらく、こいつらのリーダー格。拓と呼ばれていた奴なんだろう。


不良1 「・・・なんだてめぇ。なに勝手に入ってきてんだよ」


目の前の男が、すごみながら立ち上がった。

顔を寄せて威嚇してくる。その距離三センチ。臭い息が、私の鼻腔を不快にふさぐ。
191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/18(月) 19:53:29.16 ID:9762ol+p0
憂 「あなた方ですか?姉を苛めているというのは・・・・」


だけど、私は冷静だった。

臭い息に顔をしかめることも、恐怖に身をすくませることもなく。

心中は極めて怜悧に・・・私が取るべき行動にのみ思考を先鋭化させる。


不良1 「だぁからぁ!てめぇは何だって聞いてんだよ、ああ!?」

憂 「え?私?顔見て分からない?」

不良1 「・・・ああ?」


怒りが頂点に達すると、一周して却って冷徹になれるのかもしれないな。

心の一隅でそんなことを思いながらも、奴らの配置を把握した私は、行動を開始した。

私自身と、この屑たちに罰を与えるために・・・!!
192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/18(月) 19:58:31.04 ID:9762ol+p0
憂 「あなた方が苛めに苛め抜いた平沢唯の妹ですよ」

不良2 「あ、やっぱりな。あいつ、妹がいるって聞いたことがある。ずいぶん似てやがんな・・・」

不良1 「その妹がここに何しに来た?姉ちゃんみたいに、俺らに可愛がられたいってか?」

憂 「何しに来たって・・・ バカですか?これ、私の手にあるもの。見て分かりません?」

不良1 「俺らのバット。それでどうするつもりよ。なんかの冗談のつもりか?だはははっ」

憂 「あはは。冗談って・・・ この期におよん・・・」ぶんっ

不良1 「・・・え?」

憂 「でっ!!!!」


がごっ!!!


不良1 「いぎいいいいいっ!?」

不良2 「!?」

拓 「!!」
193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/18(月) 20:00:17.24 ID:9762ol+p0
油断していたんだろう。私のような女の子に何ができるんだって、馬鹿にもしていたんだろう。

思い切り振りかぶり、奴の肩にバットをめり込ませるその瞬間まで。

不良は呆けた顔で私を見ていた。なんら防御策を講じることもできずに、間抜けな目だけを見開いて。


不良1 「いだっ!?いで・・・ぐああああああああ!」

憂 「なんで避けようとしなかったの?もろに入っちゃったよ。だいじょうぶ?」

不良1 「ああああ・・・・いぎいいいぃぃいい・・・」

憂 「もっとも、避けたところで逃さない自信はあったけれどね」

不良1 「あ・・あ・・・」

憂 「無様だなぁ。きゃははは!痛い?ねぇ、痛い??痛いよねぇ。痛くしてるんだもん」
194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/18(月) 20:05:20.92 ID:9762ol+p0
笑いが込み上げる。

なんて無様。なんて滑稽な悲鳴と姿だろう。笑えてきて仕方がない。

でも、あくまでも思考は努めてシャープに。

徹底的に痛めつけておかないと、目の前のこいつが再び立ち上がってくるかもしれない。

多対単で囲まれたら、絶対的に不利だ。そんな事態は防がなくちゃいけない。

だから私は、再びバットを振り上げる。


憂 「あなた方と一緒」どがっ!


そして打ち下ろす。


憂 「人が嫌がるの、痛がるのを分かっていて」どがっ!


こいつらがお姉ちゃんにしたのと同様に。


憂 「私のお姉ちゃんを滅茶苦茶にしてくれた」どがっ!


無慈悲に。徹底的に。


憂 「お前らと一緒だぁ!」どこぉっ!

不良1 「あが・・・が・・・」


完膚なきまでに。叩き潰す。
195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/18(月) 20:09:42.67 ID:9762ol+p0
目の前にはゴキブリのように醜く這いつくばった不良が一体。

死に際の虫よろしく、四肢をヒクヒクと痙攣させている。見苦しいこと、この上ない。

だけど・・・

これで一人は片がついた。

次は・・・

右となりの男に、私はにっこりと微笑みかけて見せた。


憂 「えへっ」

不良2 「・・・!!」


バットを構えなおしながら、笑顔のまま不良ににじり寄る。
196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/18(月) 20:10:52.77 ID:9762ol+p0
不良2 「く、来んな・・・てめぇ、こんなことしてただで・・・」


完全に腰が引けちゃってるよ、この人。格好悪い。

でも、無理もないよね。こいつらの空っぽの頭じゃ、急な事態に即応できるはずなんてないもの。

そんな虚勢見え見えのセリフなんか吐く前に、二人がかりで飛び掛ってでも来れば、ちょっとは違ったかもしれないってのに。

本当に頭が悪い。こんな程度の奴らに、私の大切なお姉ちゃんが壊されただなんて。

腹が立って腹が立って・・・

笑いが込み上げてくるのが止められない。
197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/18(月) 20:16:54.56 ID:9762ol+p0
憂 「あはは・・・ただで済むと思ってるかって?思ってないよ・・・だって。ふふっ」


この笑いは、自虐の嗤い。

私は私を嗤う。

友達を拒絶し、一人で殻に閉じこもって。

すべてを周りのせいにして自己完結させて。でも、純ちゃんと出会うことで少しは成長できたと思っていた。

でも、その実おろかな私はなにも学んでいなくって。

実はいまだに殻に閉じこもり続けていた私は、そのせいでお姉ちゃんが壊れちゃうのを防げなかった。

あまつさえ、そのことを和ちゃんの責任に擦りつけようとして・・・

醜い。

こいつらと同様、私は醜い。その醜さを嗤わずにはいられない。

だから。


憂 「これは私への罰でもあるんだも・・・んっ!!!」ごきゃっ!!

不良2 「ぶべらっ!」
198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/18(月) 20:21:13.90 ID:9762ol+p0
横殴りにバットを顔面に叩き込む。

倒れ伏す不良を見ながら、私は思う。

そう、これは私への罰。

この場はどうにでもなるだろう。でも・・・

こいつらが仲間を引き連れて仕返しにきたら。さすがにそうなったら、私じゃどうにもならないと思う。

それに、このことが問題にでもなったら。私は学校にいられなくなるかも知れない。

でも。それでも良い。

私はどうなっても良いんだ。とにかく今は、お姉ちゃんの苦しみを終らせる事だけを考える。

それが罰。罰を受けるっていうことなんだ。
199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/18(月) 20:26:34.87 ID:9762ol+p0
憂 「痛い・・・?」どがっ!


頭をかばうように丸く縮こまっている不良に、私は無慈悲な追撃を加える。


不良2 「ぐぁっ!や・・・やめて・・・痛い・・・」

憂 「あはは・・・ねぇ、どんな気分?抵抗できない立場から良い様に痛めつけられるのって、ねぇ?どんな気持ち?」どがっ!

不良2 「あうっ!ゆるし・・・もう、許して・・・」

憂 「たぶんお姉ちゃんだって、同じ事をあなたたちにお願いしたはずだよね?」どがっ!

不良2 「や・・やめ・・・」

憂 「それであなたたちが許してくれた?止めてくれた?」どがっ!

不良2 「い・・・ぐ・・・・ぁああ・・・」

憂 「だのに自分が痛い時だけ止めてもらおうだなんて、虫が良すぎるよ」どがっ!

不良2 「・・・」ヒクヒク

憂 「・・・ふん」どがっ!


ダンゴ虫のように丸くなったまま気を失った不良に止めの一発を打ち込むと、私は最後の標的に顔を向けた。
200 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/18(月) 20:29:11.15 ID:9762ol+p0
と、その刹那。


憂 「!」


私の鼻先を木刀の一閃が掠める。反射的に身をそらし、間一髪で突然の一撃をかわす事ができた。

目の前にはいつの間に近づいていたんだろう、あの拓と呼ばれていた男が木刀を構えて佇立していた。


拓 「・・・ちっ」

憂 「・・・仲間がやられてる間に、そっと近づいてきてたんだ?」

拓 「・・・」

憂 「さすがだね。友達助けるより、利用するほうを選んじゃうなんて。テンプレ通りの悪党だよね」

拓 「なんなんだ、お前。本当に平沢の妹か?」

憂 「うん。そっくりでしょ」

拓 「ざけんなよ。お前、なんでそんなにケンカ慣れしてやがんだ?」

憂 「ケンカ慣れ・・・?」


ケンカなんて。

少なくとも殴り合いのケンカなんて、今まで一度だってした事がない。
201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/18(月) 20:35:42.82 ID:9762ol+p0
憂 「慣れてないよ?人を殴ったりするの、今日がはじめてだもん」

拓 「嘘つけよ。だったらなんで、そんなに躊躇も容赦もなく人を痛めつけられる?」


あ、そういう事か。

分からないんだろうな、この手の人たちには。


憂 「あなた、大切な人っていないんでしょ?」

拓 「ああ?」

憂 「本当に大切な人を踏みにじられた時、人がどう思うか。どれだけ悲しいか・・・」

拓 「てめぇ、何を言って・・・」

憂 「その悲しさが、どれだけ人を怒らせるか・・・なんて、想像もできないんでしょ?」

拓 「与太話もいい加減に・・・」

憂 「ふふっ」

拓 「・・・!?」

憂 「そしてそんな事も想像できないバカな人に、大切な人が壊れちゃうまで良いようにされて・・・」

憂 「そんな不甲斐ない自分への怒り。無いでしょ?あなたたちは自分に憤るなんてことなんて・・・ないよね?」
202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/18(月) 20:38:14.10 ID:9762ol+p0
憂 「そしてその怒りが、どれだけの力になるかなんt
拓 「いいかげん黙れやっ!!」


言い抜けに拓が木刀を突き込んで来る。

正確に。私の鼻柱を狙って。

・・・女の子の顔を狙うなんて最低だよ。

だけど、正確すぎる攻撃は却ってかわしやすい。

私は半身を反らせて突きを避けながら、ヒョイッと一本。足を突き出してやった。

渾身の突きをかわされ、力の行き場を失いよろけた拓は、私の足に己の足を簡単に取られて。

他愛なく。かつ、無様にスッ転んだ。

床に顔面強打。痛そう・・・
203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/18(月) 20:44:52.90 ID:9762ol+p0
憂 「大丈夫・・・?」


言いながら、拓の背中を足で踏みつける。

起き上がれないように。思いっきり。全体重をかけて。

とはいえ、私は軽いから。奴が起き上がろうと力を込めたら、簡単にひっくり返されちゃうかも。

だから、その隙を与えず。


どがっ!


拓 「・・・!!?」


抵抗する力を削ぐため。私は再び、木刀の乱打を振るう。
204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/18(月) 20:52:43.96 ID:9762ol+p0
憂 「・・・ケンカ慣れなんかじゃないよ。あなたにも守りたい人ができたらわかる」どがっ!

憂 「その人を守れなかった時、自分に絶望すれば、すぐにだって分かる」どがっ!

憂 「・・・私に心配させないように、いつも通りに振舞ってくれてたお姉ちゃん。私・・・気付けなかった」どがっ!

憂 「お姉ちゃんが壊れちゃうまで気付けなかった!私!私、私ッ」どがっ!

憂 「私がああああああ!」どがっ!どがっ!どがっ!どがっ!

拓 「・・・ぐ」

憂 「はぁはぁ・・・あれ?気、失っちゃった?」どがっ!

拓 「・・・」

憂 「・・・起きてるよね?息づかいで分かるよ。ね?」どがっ!

拓 「・・・っ」

憂 「まぁ・・・良いよ、そのまま寝てたって。ね、最後に言っておくよ?」

拓 「ぐ・・・う・・・」

憂 「仕返ししたくなったら、いつでも来てください。私は逃げないから」

憂 「でも・・・私はお姉ちゃんのためなら何でもやれる女だって。分かってもらえましたよね?」

憂 「それが分かった上でくるのなら・・・」

拓 「・・・」

憂 「それ相応の覚悟を持ってどうぞぉっ!」どがぁっ!!!

拓 「ぐぁあっ!!」
205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/18(月) 20:56:10.70 ID:9762ol+p0
憂 「はぁはぁ・・・ふぅ・・・」


乱れた息を整えると、私は拓のズボンのポケットをまさぐる。

あった。携帯・・・


憂 「この中にお姉ちゃんの・・・」


辛い、惨めな。壊れてしまわなきゃ耐えられないような姿が記録されているはず。

本当は確認をしてからの方が良いんだろうけど・・・

私にはとても、そんなお姉ちゃんの姿を見る勇気は無かったから。

だから。


ぱきっ


携帯を半分にへし折ると、床に落とし。


どがっ!

どがっ!

どがっ!

ばきっ!!


バットで粉微塵に砕く。
206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/18(月) 20:59:08.64 ID:9762ol+p0
続いて、床でのびている二人の携帯も探し出して、同じように。

さっきのこいつ等の話していたことが真実なら、これでお姉ちゃんの哀れな姿を記録した媒体は全て消滅したことになる。

これで。ひとまずこれで。


憂 「・・・終った」


心の底、肺腑の奥から安堵の息が漏れる。


憂 「とりあえず、終った。終ったよ、お姉ちゃん。もう安心だよ・・・」

憂 「お姉ちゃんを苦しめた連中への罰は下し終わったよ。だから、早く。一刻も早く・・・」


元通りのお姉ちゃんに戻って欲しいよ・・・


その時。


純 「憂っ、危ない!!」

憂 「・・・え?」


油断していた。


拓 「おらぁっ!!」
207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/18(月) 21:01:14.42 ID:9762ol+p0
お姉ちゃんを写した写メを葬り去り、成すべき事をひとまずやり終えて。

ずっと張り詰めていた気が、一瞬ゆるんでしまっていたんだ。

だから。

いつの間にか起き上がった拓が、私の背後からそっと忍び寄り。

木刀を振り上げ・・・


どがっ!!


「あうっ!!」


私に打ち下ろそうとしている事に気がつかなかった。

そう。


憂 「じゅ、純ちゃん!!」


純ちゃんが間に割って入り、私の身代わりになって。


純 「・・・ああっ」


拓の木刀の餌食になって、床に倒れ伏すまで。

私はまともに反応することすらできずにいたんだ。
208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/18(月) 21:02:55.17 ID:9762ol+p0
拓 「・・・!?な、なんだてめぇ・・・」

純 「あ・・・痛ぅ・・・」

憂 「じゅ、純ちゃん!純ちゃん、しっかりして!」

純 「・・・憂」

拓 「く、くそ・・・誰だか知らねぇが・・・邪魔しやがって」

憂 「・・・」


飛んだ。

ずっと冷静だった。

お姉ちゃんを救うためにはどうすれば良いのか。

それを思案し続けなくてはいけなかったから、心を静かに保ち続ける以外に取る道は無かった。
209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/18(月) 21:04:03.38 ID:9762ol+p0
だけど、今。


憂 「・・・たな」

拓 「・・・あ?」


弾けた。

保たせていた、理性の箍(たが)が爆ぜて飛んだ。


憂 「・・・お姉ちゃんだけじゃ飽き足らず、私の大切な友達まで」

拓 「・・・」


目の前で親友を傷つけられ、静めていた血が一気に沸騰する。


憂 「私の親友にまで手を出したな・・・許さない」

拓 「・・・あ、お、お前・・・」

憂 「許さない許さない許さない・・・許さないっ!!!」


バットを握る手に力がこもる。
210 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/18(月) 21:06:32.22 ID:9762ol+p0
拓に向き直ると、バットを振り上げ私は叫んだ。


憂 「骨の一欠片残さず粉々にしてやるっっ!!!」

拓 「う、うああああっ!?」


私は今日・・・

ううん。おそらく生まれて初めて。

私は”我”を忘れた。

怒りのままに体を動かし。

叫び、叩きつけ、蹴り飛ばし。

・・・そして。
211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/18(月) 21:12:11.62 ID:9762ol+p0
純 「憂!憂っ!もう良いから、十分だから!」

憂 「はぁはぁ・・・あ・・・」

純 「これ以上やったら、本当に死んじゃうから!」

憂 「・・・純ちゃん?」


次に我に返ったのは。

いったい何分後のことなのだろう。

純ちゃんに羽交い絞めにされて、無理やり動きを止めさせられた時。

私の眼下には。


拓 「あ・・・ぐ・・・も、もう勘弁・・・してく・・・れ・・・」


まさに死にたいとなった拓が血だらけで転がり、許しを請うていた。
212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/18(月) 21:15:52.93 ID:9762ol+p0
憂 「あ・・・わ、私・・・」

純 「憂、しっかり?私のこと分かる?」

憂 「純ちゃん・・・」

純 「うん。よし、もう行こう。誰か来て、騒ぎになっても大変だし」

憂 「あ・・・で、でも・・・純ちゃん、怪我は・・・」

純 「私は平気だから。ほら、行くよ!」


言うが早いか、純ちゃんは私の手を取ると、すたすたと歩き始める。

その、私の手を取る純ちゃんの腕には、くっきりと。

さっきの木刀の痕が、赤く生々しく。

そして痛々しく残っていた。


第五話に続く!
213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/18(月) 21:21:22.36 ID:9762ol+p0
では次回、5話でもお付き合いいただけたら幸甚です。
214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山陽) [sage]:2011/07/18(月) 21:56:17.27 ID:uhAfxalAO


こんだけやって殺せないどころか気絶すらしないってのもすごいな
木刀なら当たりどころ悪けりゃ普通に人殺せるのに
215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/18(月) 22:49:31.32 ID:TcwtlpTjo
この拓は殴られ慣れしてるんだな。

続き楽しみにしてる。
216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/02(火) 19:51:20.97 ID:GTFjmDnE0
1です。ずいぶん前回から時間がかかってしまいました。
まだ待ってくれてる人がいるでしょうか・・・

とりあえず、第五話を投下したいと思います。
217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/02(火) 19:51:56.23 ID:GTFjmDnE0
第五話 憂「固めの杯」
218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/02(火) 19:55:54.08 ID:GTFjmDnE0
校庭の片隅!


純ちゃんに手を引かれ、私は体育倉庫から校庭の一隅までやってきた。

駆け足で来たので、お互い息が上がってしまっている。その荒い息が落ち着くころ・・・


キーンコーンカーンコーン♪


憂 「あ・・・チャイム・・・」


授業の終わりを告げる鈴の音が、校内に響き渡った。


純 「五時間目、終っちゃったね」

憂 「え・・・五時間目・・・?」

純 「え、うん。五時間目」

憂 「そっか・・・時間なんて、忘れてたよ・・・」

純 「・・・」

憂 「えっと・・・純ちゃん・・・どうして、あそこに・・・」

純 「だって、憂。昼休みが終ろうとしてるのに、戻ってこないんだもん」

純 「寿さんとこに行ったら、憂が急に走り去っちゃったって。それ聞いて、ただ事じゃないって思ってさ」

憂 「それで、私のことを探してくれてたの?」
219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/02(火) 19:59:29.53 ID:GTFjmDnE0
純 「うん・・・で、色々探し回って体育倉庫の側まで来たとき、中から憂の声が聞こえてきたから覗いてみたら・・・」

憂 「・・・心配かけさせてごめんね」

純 「・・・ねぇ?」

憂 「・・・なぁに?」

純 「憂、何かさ、習ってた?」

憂 「え・・・何かって・・・」

純 「格闘技とか、その手のを何か」

憂 「う、ううん。別になにも」

純 「そ、それなのにあいつら、怖そうなのが3人もいたのを熨しちゃったわけ!?」

憂 「あ・・・うん・・・」

純 「ど、どうして・・・なんでそんなことができちゃうの?一体どうやって・・・」

憂 「自分でも分からないけど、あの時は私・・・いろいろ見えちゃって・・・」

純 「見えるって・・・」

憂 「次にあの人はこう動くな、とか。次はこう来るんだろうなっていうのが。挙動や目線でなんとなく分かっちゃって」

憂 「それでね、機先を制するって言うのかな。それに合わせて動いたら、私の思ったとおりの結果になっちゃってたんだ・・・」

純 「嘘・・・」

憂 「・・・」

純 「憂、あんた・・・そんな、そんな事って・・・」

憂 「・・・ほんとうにごめんね。腕、平気・・・?」スッ

純 「・・・!」ビクッ

憂 「・・・え」
220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/02(火) 20:00:29.42 ID:GTFjmDnE0
純 「うん・・・で、色々探し回って体育倉庫の側まで来たとき、中から憂の声が聞こえてきたから覗いてみたら・・・」

憂 「・・・心配かけさせてごめんね」

純 「・・・ねぇ?」

憂 「・・・なぁに?」

純 「憂、何かさ、習ってた?」

憂 「え・・・何かって・・・」

純 「格闘技とか、その手のを何か」

憂 「う、ううん。別になにも」

純 「そ、それなのにあいつら、怖そうなのが3人もいたのを熨しちゃったわけ!?」

憂 「あ・・・うん・・・」

純 「ど、どうして・・・なんでそんなことができちゃうの?一体どうやって・・・」

憂 「自分でも分からないけど、あの時は私・・・いろいろ見えちゃって・・・」

純 「見えるって・・・」

憂 「次にあの人はこう動くな、とか。次はこう来るんだろうなっていうのが。挙動や目線でなんとなく分かっちゃって」

憂 「それでね、機先を制するって言うのかな。それに合わせて動いたら、私の思ったとおりの結果になっちゃってたんだ・・・」

純 「嘘・・・」

憂 「・・・」

純 「憂、あんた・・・そんな、そんな事って・・・」

憂 「・・・ほんとうにごめんね。腕、平気・・・?」スッ

純 「・・・!」ビクッ

憂 「・・・え」
221 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/02(火) 20:01:53.55 ID:GTFjmDnE0
大事なことなので二度書きました。

・・・すみません、ミスですorz
222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/02(火) 20:02:43.59 ID:GTFjmDnE0
純 「・・・あ。わ、私・・・」

憂 「純・・・ちゃん?」

純 「ご、ごめん。な、なに・・・?」

憂 「あ・・・えと・・・腕の・・・」

純 「あ、これ?」

憂 「あいつに殴られたところ・・・」

純 「だ、だいじょうぶだよ。急に飛び出したもんで、むこうもビックリしたんだろうね。力が反れてくれたおかげで、そんなに痛くなかったんだ」

憂 「でも・・・痣になっちゃってる・・・」

純 「こんなの。舐めて唾でもつけとけば、すぐに治るよ」

憂 「純ちゃん・・・」

純 「気にしないで」

憂 「・・・」

純 「それより、憂にはもっと気にしてもらいたいことがあるんだけどね」

憂 「え・・・」
223 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/02(火) 20:04:16.05 ID:GTFjmDnE0
純 「あのさ・・・私、今けっこう本気で頭にきてるんだよね」

憂 「純ちゃん・・・」

純 「あのさ、さっきの話だと、憂はケンカもしたことがなかったし、何かを習ってた訳でもない。そういう事だよね・・・」

憂 「うん・・・」

純 「それなのに。勝算とかあったわけでもないのに、あんな無茶しちゃったって訳だ」

憂 「え・・・と・・・」

純 「たった一人で・・・私に黙って・・・」

憂 「それは、だっt
純 「だからね。ごめん、ちょっと歯を食いしばってくれるかな」

憂 「え?え?」


パシンッ


憂 「・・・たっ」
224 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/02(火) 20:08:50.17 ID:GTFjmDnE0
純 「・・・痛い?」

憂 「い、痛い・・・」

純 「その程度で済んでよかったね?」

憂 「え・・・」

純 「私、言ったよね?無茶するなって。一人で突っ走らないでって。・・・言ったよね?」

憂 「う、うん・・・」

純 「なのに憂、あんな所に一人で乗り込んで大立ち回りを演じて。もし何かあったらどうするつもりだったの?」

憂 「な、なにかって・・・」

純 「ボコボコにされたり、あとその・・・押し倒されて、無理やりとか・・・その・・・」

憂 「・・・あ」

純 「とにかく!なんで行動に移す前に一言なり、私に相談してくれなかったの?」

憂 「そ、それは・・・」

憂 (言えない。あの時は純ちゃんの言葉、スッポリ頭から抜け落ちてただなんて・・・)

憂 「じゅ、純ちゃんを巻き込むわけにはいかなかったし・・・」

純 「え・・・なにそれ・・・」

憂 「・・・」
225 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/02(火) 20:13:40.05 ID:GTFjmDnE0
純 「私、そんなに当てにならない?頼りがいがない・・・?」

憂 「ち、違うよ・・・そういう意味じゃなくって・・・」

純 「私じゃ、憂の力になれないって、そう思ったの・・・?」

憂 「純ちゃん・・・」

純 「・・・」

憂 「・・・」

純 「どうせ憂は、お姉ちゃんべったりで私のことなんか・・・」ボソッ

憂 「え・・・」

純 「あ・・・!」

憂 「??」

純 「あぅ・・・ううん。なんでもない・・・なんでもないよ・・・」

憂 「・・・」
226 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/02(火) 20:17:47.51 ID:GTFjmDnE0
純 「で、でも!良かったよ。憂が無事でいてくれて」

憂 「う、うん。純ちゃんのおかげだよ。本当にありがとう。そして、ごめんなさい・・・」

純 「うん・・・もう良いよ。それに私も憂のこと・・・さっき一瞬・・・だから・・・」

憂 「・・・え?」

純 「あ・・・ううん・・・」


キーンコーンカンコローン♪


純 「さて、もう六時間目が始まっちゃったねー・・・」

憂 「あ、わわ・・・ど、どうしよう・・・」オロオロ

純 「今さら慌てても仕方がないし、このままサボっちゃおうか」

憂 「え、えー・・・」

純 「校庭でお弁当を食べててさ。横になって休んでたら、いつの間にか眠っちゃってて。そんで気がついたら下校時間でした!」

憂 「・・・」

純 「なーんてシナリオ。速攻で作ってみました。先生には明日たっぷり絞られるだろうけど、それもまた一興てことで良いんじゃない」

憂 「で、でも・・・」

純 「ここで少し、落ち着いてから帰ろう。どうせ今戻っても、勉強って気分じゃないでしょ?」

憂 「それは・・・そう・・・かも・・・」
227 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/02(火) 20:21:49.18 ID:GTFjmDnE0
純 「普段まじめな憂のことだから、本当に寝ちゃったんだろうって、ね。先生もよけいに疑うことはしないだろうし」

純 「私も憂と一緒って事で、そこまで怒られはしないんじゃないかなーなんて。あははっ。甘いか」

憂 「あはは・・・」

純 「・・・」

憂 「あは・・・は・・・」


シーン


憂 (なんとなく気まずい・・・純ちゃん、やっぱり怒ってるんだよね・・・)

憂 「あ・・・あのね、純ちゃん」

純 「寝よう!」

憂 「え!?」

純 「既成事実、既成事実!今ここで本当に寝ちゃえば、先生にする言い訳も、あながち嘘じゃなくなるもんね?」

憂 「あ・・・う、うん・・・」
228 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/02(火) 20:26:09.26 ID:GTFjmDnE0
純 「てことで、お昼寝ターイム♪」ゴロン

純 「あ、いたっ!」ガバッ

憂 「ど、どうしたの!?」

純 「いや、殴られたところを下にしちゃって・・・えへへ」

憂 「あ・・・ご、ごめんなさい・・・」

純 「だからぁ、今のはたまたまだから。そんな痛くないから。ね、謝らないでよ」

憂 「でも、私のために・・・」

純 「さっきも言ったけど、こんなん唾つけとけば治るから。だから、ね?そんな顔をしなさんなって」

憂 「・・・唾」

憂 「・・・あ」

純 「・・・ん?」

憂 「純ちゃん・・・」スッ

純 「お・・・?私の腕を取って、どうするつも・・・り・・・?」

憂 (ちゅっ)

純 「お・・・お〜〜〜〜!?」
229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/02(火) 20:31:52.79 ID:GTFjmDnE0
憂 (ちゅっ ちゅっ ちゅっ)

純 「ふ、ふおおおお!?ちょ、ちょっと憂!?あんた一体なにやってんの!?」

憂 「だって、唾をつければ治るって純ちゃんが・・・これは私のせいなんだから、せめて何かできることをって・・・」

純 「いや、言った!言ったけど、ちょっとこれは・・・あっ///」

憂 (ちゅっ ちゅっ ちゅっ ちゅっ)

純 「う・・・憂・・・」ドキドキ

憂 (ちゅっ ちゅっ ちゅっ ちゅっ ちゅっ)

純 「〜〜〜〜〜〜///」ドキドキドキドキ

憂 (ちゅっ ちゅっ ちゅっ ち
純 「だーーーーーーーーーーっ!」ドーン!

憂 「きゃぁっ」バターン!

純 「ぜはぜは・・・」

憂 「い・・・痛いよ・・・純ちゃんが急に突き飛ばした・・・」

純 「ば・・・バカ憂!なんていうか、もうバカッ!すっごいバカっっ!!!///」

憂 「・・・純ちゃん?」
230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/02(火) 20:37:44.98 ID:GTFjmDnE0
純 「知らん!もう寝る!本当に寝るから!邪魔しないでね!」ゴロン

憂 「あ・・・う、うん・・・」

純 「・・・」

憂 「・・・」

純 「・・・」

憂 「・・・あ、あの・・・純ちゃん?」

純 (スピースピー)

憂 「あいかわらず、寝つきはやっ!」

憂 「・・・」

憂 「・・・純ちゃん、ありがとう。そして、本当に本当にごめんなさい」ナデナデ

純 「・・・むふ」スピー
231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/02(火) 20:40:52.15 ID:GTFjmDnE0
純ちゃんの頭を撫でながら、私は明日以降のことを考える。

これでお姉ちゃんへのいじめは無くなるだろうか。

無くならなかったら、次はどうするべきだろう。それに、あいつらが仕返しに来たら・・・

考えるべきこと、不安になっちゃうことはまだまだ山積。

いや、真の正念場はこれからやって来るのかも知れない。

なんにしても、私はもっとシッカリしなくっちゃ。

だって。

さっきだって、もし純ちゃんが助けに入ってくれなかったら、今ごろ私はどうなっていたか分からない。

もっと最後まで気を張っておくべきだったんだ。油断したから。これで済んだと、気を緩めてしまったから・・・

純ちゃんに。大好きな友達に、私の代わりに怪我を負わせる羽目になってしまった。

こんな失敗、もう二度と犯しちゃいけないんだ。
232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/02(火) 20:44:01.96 ID:GTFjmDnE0
憂 「醜い私。成長できなかった私。でも、自分への罰はもう、下したんだ。だから後は・・・」


今度こそ成長しなくちゃ。

失敗に心を縛られて、また自分の殻に閉じこもってしまっては、それこそ同じことの繰り返し。

元の木阿弥だけは避けなくちゃいけない。シッカリする。

それが、過ちを清算し純ちゃんの友情に応える、唯一の道だと信じるから。


純 「むにゃ・・・憂・・・あぶな・・・」スピスピ

憂 「・・・」スッ


眠っている純ちゃんを起こさないように、そっと。彼女の腕を取り・・・


ちゅっ


もう一度口付ける。

感謝と友情と、そして早く怪我が治って欲しい。そんな気持ちとを込めて。


憂 「ありがとう、純ちゃん。大好きだよ・・・」
233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/02(火) 20:53:51.59 ID:GTFjmDnE0
翌朝!二年の教室!!


和 「・・・」

和 (今日も唯は学校に来てない。来れるはずもないか。唯のあの状態じゃ・・・)


(唯 「しばらくはそっとしておいて欲しいな。関わらないで欲しい・・・」)


和 「・・・唯」


(唯 「心のね、スイッチを切るの」)


和 「・・・っ」

和 (だめだ、このままじゃ。やらなきゃ。私が行動を起こさなきゃ。唯が安心して学校に来られるようにするために)

和 (だって・・・)


(憂 「和ちゃんは。、とっても頼れる、私のもう一人のお姉ちゃん。大好きな・・・お姉ちゃん」)


和 (あんなにも私を信頼してくれていた憂。なのに私は・・・あの子の寄せる想いを裏切ってしまった・・・)

和 (わが身可愛さに大切な親友の心と、幼馴染の信頼を壊してしまった。耐えられないっ)

和 (取り戻す。唯の心も憂の信頼も。でなければ、私は私を許せなくなってしまうもの・・・!)


ガラッ!


和 「・・・きたっ、あいつら・・・今日こそは・・・行くわよっ!」ガタッ
234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/02(火) 20:57:32.14 ID:GTFjmDnE0
和 (怖くない怖くない・・・唯の方がずっと怖かったんだ。私は・・・怖じけない・・・!)ツカツカ

和 「は・・・話があるのっ!」


拓 「ああ・・・?」


和 「唯のことで・・・この前は言えなかったけど、今日こそ・・・は・・・」

不良1 「・・・」ボロ

不良2 「・・・」ボロ

拓 「・・・」ボロボロ

和 「・・・その怪我、どうしたの?」

不良1 「いてて・・・」

不良2 「どうもこうもねぇよ・・・」

拓 「黙ってろ・・・別に真鍋には関係ねぇよ。で、なんだよ話って」

和 「あの・・・余計なお世話かもしれないけど、大丈夫?あちこち腫れてて、かなり酷そうだけど・・・」

拓 「関係ねぇっつってんだろ。用があるならとっとと話しやがれ」
235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/02(火) 20:59:42.17 ID:GTFjmDnE0
和 「あ、うん・・・唯の・・・平沢さんの事なんだけど」

拓 「・・・」ギロッ

和 「う・・・その・・・」ゴキュリ

和 (負けるな!唯が受けた痛さや怖さに比べたら、こんなのどってことない!怖がるな、私!!)

和 「も、もう・・・!もう彼女をいじめるのは止めてっ!!」

拓 「ああ?」

和 「あの子は私の親友なの!もう見ていられないのよ!こ、これ以上あの子を苦しめるというなら・・・」

不良1 「どうするってんだ?」

不良2 「言ってみろよ」

和 「あ・・・ぐ・・・わ、私はどうなっても、あなた達を・・・」

拓 「良いよ」

和 「・・・え?」

拓 「もう関わんねぇでやるつってんだよ」

和 「は・・・その・・・え?」
236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/02(火) 21:01:39.51 ID:GTFjmDnE0
不良1 「ちょ、拓クン」

不良2 「いいのかよ・・・」

拓 「ちょうど奴を構うのも飽きてきたところだしな。つか、知るかよあんな奴。暇つぶしにもなりゃしねぇっての」

和 「なっ・・・!」

拓 「あー、白けたな。おい、ふけるぞ。かったるくてオベンキョウなんてやってらんねぇや」

不良1 「あ・・・」

不良2 「ちょっと待ってよ、拓クン!」

拓 「じゃあな、真鍋」ツカツカ

和 「え・・・あ・・・あれ?えーー・・・」ポカーン
237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/02(火) 21:05:59.33 ID:GTFjmDnE0
廊下!


不良1 「拓クン拓クン、平沢から手を引くって本気かよぉ?」

拓 「ああ・・・」

不良2 「なんでだよ。あの妹に落とし前つけさせるなら、平沢を利用するのが一番だろ?」

拓 「お前ら・・・もう奴らとは関わるなよ」

不良1 「は、なに言ってんの?」

不良2 「まさかビビってるのかよ」プゲラ

拓 「・・・」キッ

不良2 「ご、ごめん・・・」

拓 「・・・良いよ、そーだよ。その通りだ、ビビってんだよ」

不良1 「え・・・な、なんであんな小娘に・・・?昨日のは、不意を突かれただけだろ?」

拓 「・・・お前ら気絶してたから知らないんだろうがな・・・お前らと俺の怪我の程度、見て気がつかねぇのかよ」

不良1 「は?」

拓 「一応よ、お前ら手加減されてるんだよ。あちこち痣だらけだが、急所は外されてるだろ?」

不良2 「そういえば、頭とか腹とか・・・無事だったもんな・・・」

拓 「あのガキ。瞬時にそれだけの事をやってのけてるんだよ。あの状況の中で、おそらく無意識にな」

不良2 「ま・・・まさか・・・」ゾー
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/02(火) 21:07:20.17 ID:hNq03duSO
オリキャラが出る時点で、うーん……
239 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/02(火) 21:07:59.10 ID:GTFjmDnE0
不良1 「でも、だったら拓クンは・・・その怪我・・・」

拓 「おお。頭と言わずどこと言わず、滅多打ちよ・・・お前らが気を失った後、俺は奴を本気でキレさせちまったみたいでな・・・」

拓 「その時の奴の目・・・いま思い出しても鳥肌が立つ・・・」

不良1・2 「・・・」

拓 「俺をやたら滅法に打ち据えながらの、あの目・・・まるで本気で俺を殺そうと・・・」ブルッ

不良1 「はは・・・まさか・・・」

拓 「止めに入ってくれた奴がいてな。そいつがいなけりゃ、今ごろ俺は・・・」

不良2 「・・・嘘だろ」

拓 「あれは関わっちゃいけない人間なんだ。それでも仕返ししたいなら、お前らが勝手にやれ。俺はゴメンだ」
  
不良1 「わ、分かったよ拓クン・・・」

不良2 「拓クンがそこまで言うなら・・・」

拓 「ああ、言うこと聞いといたほうが利巧だぜ・・・」


拓 「・・・いてて・・・くそっ」
240 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/02(火) 21:19:03.10 ID:GTFjmDnE0
その日の午後!平沢家!!


憂 「・・・」


唯の部屋の前!


憂 「・・・お姉ちゃん・・・?」コンコン

憂 「・・・」


しーん


憂 「・・・入る・・・よ・・・」ガチャッ

憂 「おねえ・・・ちゃん・・・?」

唯 「・・・」

憂 「あ、お姉ちゃん。起きてたんだね・・・返事がなかったから、へへ。寝てたのかと思っちゃった・・・」

唯 「・・・」

憂 「・・・ただいま、お姉ちゃん」
241 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/02(火) 21:21:15.10 ID:GTFjmDnE0
お姉ちゃんはあの日以来。

私と和ちゃんの前で「心のスイッチを切る」と宣言したあの日から。

その言葉の通り、なにを話しかけても一切反応をしてくれなくなった。

笑いかけても笑顔が返ってくることもない。まるで目の前にいるのが、精巧にできたお姉ちゃんのお人形のよう・・・


唯 「・・・」

憂 「あ・・・お姉ちゃん。今日も髪、お手入れしてないんでしょ。ボサボサだよ?」

唯 「・・・」

憂 「ダメなんだよ、お姉ちゃん。女の子はどんな時だって身だしなみを忘れちゃ」

唯 「・・・」
242 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/02(火) 21:22:55.20 ID:GTFjmDnE0
憂 「私が髪、梳かしてあげるからね」

唯 「・・・」

憂 「お姉ちゃんの髪、ふわふわ・・・」

唯 「・・・」

憂 「ちょっとクセッ毛だけど柔らかくて良い匂いがして・・・私、大好きだよ」

唯 「・・・」

憂 「・・・そんでね」

唯 「・・・」

憂 「お姉ちゃんの笑顔も・・・髪の毛と一緒で、柔らかくてふわふわで暖かくて・・・」

憂 「だから、大好き。ね、お姉ちゃん。早く戻ってきて。お姉ちゃんの笑顔、また見たいよ・・・」

唯 「・・・」

憂 「あ、あのね・・・昨日学校でね、私・・・」


コンコン


憂 「あ、はーい?」
243 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/02(火) 21:25:46.92 ID:GTFjmDnE0
母 「憂・・・唯も・・・」ガチャッ

憂 「どうしたの、お母さん」

母 「和ちゃんが来てるの。下で待ってもらってるけど、来てもらっても良いかしら?」

憂 「和ちゃんが・・・?う、うん。上がってもらって・・・」

母 「分かった。呼んでくるわね」バタン

憂 「・・・和ちゃん」


コンコン


和 「・・・唯、いる・・・?」

憂 「いるよ。入って」

和 「お邪魔します・・・」ガチャ

憂 「・・・」

和 「こんばんわ、唯。憂も。その・・・唯。調子はどうかしら・・・」

唯 「・・・」

和 「・・・唯」
244 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/02(火) 21:28:11.57 ID:GTFjmDnE0
憂 「あの・・・私、外でてるね。お見舞い終ったら、呼んで・・・待ってるから・・・」

和 「あ。待って、憂。憂もここにいて。唯と一緒に、私の話を聞いて欲しいの」

憂 「え・・・」

和 「ごめんね、憂。えっと・・・唯。単刀直入に言うわね。今日、私ね。あいつらと話をしたの」

憂 「え、あいつらって・・・」

和 「うん、唯にひどい事をした不良たちと。それでね・・・もう唯の事を虐めるのは止してって頼んだの」

憂 (和ちゃん、あんなに不良たちのこと怖がってたのに・・・それに・・・)

憂 (・・・あいつら・・・私のこと、和ちゃんに何か言っちゃったかな・・・)

和 「はっきりと聞いた。もう唯をいじめるのを止めるって」

憂 「え・・・?」

唯 「・・・」
245 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/02(火) 21:30:10.47 ID:GTFjmDnE0
和 「いじめるのに飽きたんだって。バカにしてるわ。でも、ね。その言葉に嘘はないと思うの」

和 「だって連中が他におもねる事なんて、あるはずがないもの。いじめを止めるという以上、本当に止める気なんだわ」

憂 「飽きたって、それだけ?ほかに何か、理由は言ってなかった?」

和 「え・・・ううん。別に・・・憂?なにか思い当たることでもあるの?」

憂 「あ・・・えっと、そういうわけじゃ・・・ないんだけど・・・」

和 「・・・?ともかく。いじめは終ったの・・・ね、唯。だから、明日から一緒に学校に行こう?」

唯 「・・・」

和 「もし万が一、万が一ね。あいつらがまた唯の事をいじめようとしても、今度は。今度こそは・・・」

和 「今度こそは絶対に。私が唯を守るから・・・!」

唯 「・・・」

憂 「和ちゃん・・・」
246 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/02(火) 21:35:57.62 ID:GTFjmDnE0
和 「唯がこんな目に遭わされて、なのに私は何もできなかった。それが悔しくて辛くって。悩んで悩んで・・・はっきり分かったの」

和 「心の灯が消えた親友を見るのは、死ぬほど辛いことなんだって。やっとね、分かったんだ」

唯 「・・・」

和 「だからね、唯。今度こそは言葉だけじゃないよ。私が何があっても唯を守る。何かあっても、唯にだけ辛い思いはさせない」

和 「ずっと、いつまでも。どんな時も唯と一緒にいるから・・・もう一度だけ、私を信用して・・・」

唯 「・・・」

和 「辛かったよね、唯・・・」

唯 「・・・」

和 「ごめんね・・・」

唯 「ふっ・・・うぐっ・・・」

憂 「・・・え」

唯 「あ・・・えぐっ・・・ふっ・・・ふぇ・・・」

和 「・・・唯っ」ギュッ

唯 「ああああ・・・うああああああ・・・・あああああーーーーーっ」ポロポロ

和 「唯っ、唯っ!!」

唯 「うあああああーーーーーーっあああああああーーーーーっ」ポロポロ

憂 「お姉ちゃん・・・」
247 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/02(火) 21:38:49.72 ID:GTFjmDnE0
和ちゃんにすがりつき、子供のように泣きじゃくるお姉ちゃん。

たぶん、きっと。今日この時。凄惨ないじめが始まって以来はじめて。

お姉ちゃんは泣いたんだろう。

泣きつく先もなく、家では家族に心配をかけないために、無理くり涙を笑顔の下に隠しこみ。

心が壊れちゃうまで耐え続けたお姉ちゃんが。


唯 「・・・和ちゃっ・・・あああ・・・あああああーーーーーーっ」ポロポロ


すがりつく先をやっと見つけ、感情を・・・悲しみを初めてあらわにすることができて。

心のままに泣く事ができたんだろう。
248 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/02(火) 21:42:30.85 ID:GTFjmDnE0
和 「唯・・・もう平気だから・・・唯・・・」


そんなお姉ちゃんを慈母のごとく、優しいまなざしを向けながら抱きしめ続ける和ちゃん。


憂 「・・・」


そんな二人を私は、少し離れたところから見つめている。

感情を爆発させたお姉ちゃん。きっと切れた心のスイッチは、再びオンになったに違いない。

喜ぶべきなのに。それは理性では分かっているはずなのに。


憂 「・・・どうして」


私はまた一つ、自分の小ささを思い知って愕然としてしまった。



それから。

お姉ちゃんは再び、学校に行き始めた。

和ちゃんの言ったとおりに表立った虐めは鳴りを潜め、お姉ちゃんの平穏な生活は再開されたのだ。

だけど、一度切れてしまった心のスイッチは、簡単には完全復旧されないみたいで・・・
249 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/03(水) 07:07:27.94 ID:hzxe8nrk0
それから数日後!とある朝!!

唯の部屋の前!!


憂 「お姉ちゃん?開けるよー?」コンコン ガチャッ

唯 「あ・・・憂。おはよう・・・」

憂 「あ、起きてたぁ。おはよっ、お姉ちゃん。今日も良い天気だよ」

唯 「う、うん・・・」

憂 「ほ、ほらほら。カーテン開けて。そんで早く着替えちゃって?朝ごはん食べちゃわないと、和ちゃんが迎えに来る時間になっちゃうよ?」

唯 「あ・・・うん。そうだね、ありがとう・・・」

憂 「じゃ私、下で待ってるからね。今朝は憂特性のカフェオレ付き。バッチリ目が覚めちゃうから、早くね?」

唯 「うん・・・すぐ行く」

憂 「・・・それじゃ」バタン


憂 「はぁ・・・」

250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/03(水) 07:08:49.85 ID:hzxe8nrk0
感情を取り戻したお姉ちゃん。

でも、広がりすぎてしまった心の傷は、容易にはふさがらない。

お姉ちゃんの心の箱は、他者への警戒感という名の蓋でスッポリ覆いかぶされてしまっていた。

当然なんだろう。それだけお姉ちゃんが受けた苦しみは、根が深いものだったんだから。

そう。

お姉ちゃんは本来持っていた底抜けの明るさや快活さを、すべて失っていた。

そして、私は・・・


ピンポーン♪


憂 「あ、はーい」テッテッテ
251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/03(水) 07:11:12.98 ID:hzxe8nrk0
ガチャッ


和 「あ、おはよう。憂」

憂 「おはよう、和ちゃん」

和 「唯は?」

憂 「起きてるよ。でも、ごめんね。ご飯まだなんだ。上がって待っててもらっても良いかな?」

和 「構わないわ。私もちょっと、早く来すぎてしまったし」

憂 「じゃあもしかして、朝ごはんもまだ?」

和 「あは・・・まだ」

憂 「だったら、家で食べていきなよ。簡単なものしか出せないけど。ね?」

和 「え、でも・・・」

憂 「きっと和ちゃんが一緒のほうが、お姉ちゃんも安心すると思うから・・・」

和 「憂・・・」

憂 「だから・・・ね」

和 「・・・そうね。うん、それじゃ。いただいて行こうかな」


・・
・・


しばらくして。

私は朝食の後片付けがあるからと、支度を終えたお姉ちゃんと和ちゃんを先に送り出す。

そんなの・・・嘘。

後片付けなんて、ホントは二人がパンをかじってる間にあらかた終っていた。
252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/08/03(水) 11:42:29.78 ID:IPvUnKNAO
俺も憂特性になりたい
253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/03(水) 22:30:59.75 ID:hzxe8nrk0
通学路!


トボトボ


憂 「・・・はぁ」

憂 (少し前まで、毎朝お姉ちゃんと一緒だった通学路。でも、今はいつも一人・・・)

憂 (一人で歩く道のりがこんなに長く遠く感じるなんて・・・この感覚、忘れてたな)

憂 (だって・・・帰りは帰りで、私の横にはいつも純ちゃんがいてくれてたから・・・)


だけど、今は・・・

あの一件以来、何とはなしに純ちゃんとも疎遠になってしまっている。

ケンカとか、そういうのがあったわけじゃないのに。何となくお互いに気まずい空気を出し合っているというか。

やっぱり純ちゃん、怒ってるのかな。それとも、あんな事をした私を嫌いになっちゃった?

・・・私は私で、純ちゃんと接するのに気後れしてしまっている自分がいて・・・

もう自分の殻に閉じこもるつもりはないし、純ちゃんの事は大好き。

・・・なんだけど、思うところもあって私も臆病になってしまっていた。
254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/03(水) 22:33:51.22 ID:hzxe8nrk0
憂 「・・・あ」

純 「・・・あ」


バッタリ


憂 「お、おはよう純ちゃん」

純 「おはよー。げ、元気?」

憂 「元気元気ー」

純 「そりゃ良かった!」

憂 「そ、それじゃ行こうか」

純 「うん・・・」

憂 「・・・」トポトポ

純 「・・・」トポトポ


憂・純 (気まずいなぁーっ)
255 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/03(水) 22:38:44.69 ID:hzxe8nrk0
教室!昼休み!!


A子 「もぐもぐもぐ・・・もぐもぐもぐ・・・」

B子 「・・・」

憂 「・・・」

純 「・・・」

A子 「ぱくぱくっ・・・ごっくん」

B子 「A子・・・よく食べるわね・・・」

A子 「あははっ。夏休みが終ったら、すぐに大会があるからね。今から体力つけておかないと!」

B子 「体力の前に贅肉をつけないように気をつけたほうが良いんじゃないの?」

A子 「へーきへーき♪よく食べてよく運動する!そうすれば、胃に入ったものは全部エネルギーに変わるのよ!若いんだし?」

B子 「そう。ま、暴食も程ほどにね。・・・そうれはそうと、純?」

純 「んー?」

B子 「夏休みが目前だけど、憂と遊びに行く場所は決まったの?」

純 「・・・あ」

憂 「・・・え」
256 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/03(水) 22:43:20.12 ID:hzxe8nrk0
B子 「前に言ってたじゃない。遠出で遊びに行くんだって。それ、どうなったのかなぁって」

純 「あ。そ、それねー・・・あぁ、うん。それそれ・・・」

憂 「・・・」

A子 「ぱくぱく」

B子 「・・・?」

純 「そ、それさ。じつはまだ・・・ね、憂」

憂 「う、うん・・・これから決めるところだよ。ね、純ちゃん」

B子 「そうなの」

憂 「さてと、ごちそうさま。ごめんね、私ちょっとお手洗い・・・」

A子 「おー、いってらー」

憂 「うん」トテチテ・・・

純 「・・・」
257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/03(水) 22:51:19.70 ID:hzxe8nrk0
A子 「もぐもぐ」

B子 「・・・ついていかないの?」

純 「はい??」

B子 「憂に。あんた、憂にべったりだったじゃない」

純 「そ、そうだっけ?」

A子 「ごっくん。んー・・・純さ、憂ちゃんとなにかあったわけ?」

純 「なにかって・・・」

A子 「最近お互いよそよそしいというか。ケンカしてる風には見えないんだけどさ」

B子 「登下校も別々みたいだし。私たちと一緒の時以外は、あまり話してるところも見ないしね」

純 「そんなことないよ。普通だよ・・・」

A子 「そっか。ま、純本人がそう言うなら、そうなんだろうけどさ。ぱく、あむあむ・・・」

B子 「ただ、最近のあんた、らしくないわよ」

純 「え・・・」

B子 「これはね、憂もなんだけど」

純 「なによ・・・」

B子 「辛気臭い」

純 「ひどっ!?」
258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/03(水) 22:57:57.70 ID:hzxe8nrk0
B子 「見ているこっちも気が滅入るから、悩みがあるならとっとと解決て欲しいところなのよね」

A子 「ごちそうさまっと。・・・相談に乗ってほしいことあるなら、話は聞くよ?」

純 「・・・そっか。辛気臭いか」

B子 「カビが生えちゃいそうなくらいね」

純 「いちいち手厳しいよね。でも、ありがと。確かにここ最近、私は私らしくなかったかもだね」

憂 「ただいまー・・・なにお話してたの?」トテトテ

純 「憂っ」

憂 「な、なに!?」

純 「今日、一緒に帰ろ?」

憂 「え・・・」

純 「忙しい?用事ある?」

憂 「ううん、べつに・・・」

純 「じゃあ決まりね!この前のマックよって行こうよ!むろん今日は割り勘ね!」

憂 「い、いいけど・・・???」

A子 「マックかぁ。いいなぁ・・・B子、部活終るまで待っててよ。うちらも何か食べて帰ろうじゃん♪」

B子 「・・・あんた、まだ食べる気なの・・・」
259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/03(水) 23:02:00.40 ID:hzxe8nrk0
放課後!マック店内!!


純 「憂、ごめんっ!!」


着席するなり、テーブルに額をぶつけんばかりに頭を下げる純ちゃん。

いきなりすぎて硬直してしまう私。


憂 「ええ・・・っ!?ちょ・・・いきなりどうしたの・・・?あ・・・頭上げて・・・」

純 「許してくれる?」

憂 「許すもなにも、意味が分からないよ」

純 「許すって言って!じゃなきゃ、頭上げない!」

憂 「えー・・・」

純  フカブカー

憂 「あう・・・じゃ、じゃあ許すよ・・・許すっ」

純 「マジ?よかったぁー・・・ありがとっ」ガバッ
260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/03(水) 23:08:11.92 ID:hzxe8nrk0
憂 「で・・・私は今、なにを許したの?」

純 「うん・・・実は最近、憂のことをちょっとだけ避けてた・・・その事を・・・」

憂 「え・・・」

純 「憂が悪いわけじゃないんだ。私がね、自分でそんな風に”思っちゃった”ことにビックリしちゃって」

憂 「・・・」

純 「そしたら、憂に何だか悪くって。顔、あんまマトモに見られなくなっちゃってさ」

憂 「そんな風にって・・・なにを思っちゃったの?」

純 「・・・二つ」

憂 「うん・・・一つは?」

純 「憂が、怖かった・・・」

憂 「・・・え」

純 「あの時の憂が、ね。私、ちょっとおっかなかった。憂のあんな顔、見たことが無かったから・・・つい・・・」

憂 「純ちゃん・・・」
261 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/03(水) 23:13:25.77 ID:hzxe8nrk0
純 「それが・・・いっこめ・・・」

憂 「う、うん・・・二つ目は?」

純 「もう一つはね。憂のお姉ちゃんに・・・焼もちを妬いてしまって・・・」

憂 「・・・ええっ、今なんて??」

純 「焼もち・・・二度も言わせんな・・・」

憂 「ごめん。で、でも、どうしてまた・・・」

純 「だって!私言っといたじゃん!何かあったら相談してね。一人で突っ走らないでねって。なのに憂ったら・・・」

純 「私の言うことなんか忘れて、一人であんなことしちゃうんだもん。それでね・・・私なんかより、そんなにお姉ちゃんの方が大切なのかって思っちゃって」

純 「・・・んで、焼もち・・・」

憂 「あんぐり」

純 「そんな口あけてポカーンってしなくっても良いでしょ!私だって変だって分かってるんだから!」
262 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/03(水) 23:17:16.27 ID:hzxe8nrk0
もともとお姉さんへ向ける笑顔があまりに幸せそうで。それがきっかけで憂のことを好きになったんだし。

どれだけ憂がお姉さんを大切に思ってるかってのも、ちゃんと知ってる。

だからね、こんな事で焼もちを妬いたり、必死にお姉さんを助けようとしてた憂を怖がるなんて、自分でも筋が通ってないって分かってるんだ。

でも、その場だけのことでも。一度でもそう思ってしまった自分が、自分で何だか分からなくなっちゃって・・・

憂に悪くって、申し訳なくって。そしたら顔もまともに見られなくなっちゃって。


純 「で・・・気まずくなっちゃって・・・つい・・・」

憂 「・・・」

純 「で、でも、許してくれるんでしょ?許すって言った!聞いたもんね!だからね、憂・・・」

憂 「・・・」

純 「う、憂・・・?」

憂 「・・・良かった」

純 「へ?」
263 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/03(水) 23:21:54.57 ID:hzxe8nrk0
憂 「私、純ちゃんに嫌われちゃったんじゃないかって、ずっと心配だったんだ」

純 「え!?わ、私が憂を嫌うなんて、そんなことありえないよ!てか、それは前にも言ったじゃん!」

憂 「うん・・・そうだよね。ごめん」

純 「嫌われるというなら、むしろ私のほうが・・・」

憂 「ねぇ。純ちゃん・・・」

純 「へ?」

憂 「そうだよね・・・みんな。みんなね、悩んでるんだよね」


それってすごく当たり前のことなんだけど、自分には自分の悩みしか見ることができないから・・・

つい、苦しいのは自分だけだって錯覚してしまう。

辛いのに、こんなに頑張ってるのに。なぜ、思うとおりにならないんだろうって。

でも、そうじゃないんだね。

誰もが一生懸命なにかに悩みながら、それでも頑張ってるんだ。

一緒なんだよね。純ちゃんも私も。

そして、みんなも・・・
264 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/03(水) 23:22:47.66 ID:dTiOnyeSO
寒いね

北海道だからかな
265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/03(水) 23:34:36.00 ID:hzxe8nrk0
純 「う、憂・・・?」

憂 (そう、みんな頑張ってる。一度はお姉ちゃんを見捨ててしまった和ちゃんも)

憂 (小学生の頃のことを後悔し続けてきた寿さんも。今の純ちゃんも・・・)

憂 (みんな未熟な今の自分を乗り越えようと、頑張ってるんだ)

憂 (だから、私も・・・!)

純 「ど、どうしたの憂・・・フリーズ??」

憂 「あのね、純ちゃん。私も一緒だよ」

純 「な、なにが・・・??」

憂 「今回の事では、いろいろ後悔する事ばかり。自分が嫌になりそう。純ちゃんに怪我をさせてしまったことも・・・」

純 「それは大したことがなかったんだし、気にしないでっていったよ?」

憂 「ううん。私ね?純ちゃんに何かがあった時は、絶対に私が守る。前にね、そう決めていたの」

純 「は!?///」

憂 「なのに今回は、逆に守られちゃって。そのうえ私の代わりに痛い目にまで遭わせてしまって・・・」

純 「なんなの、その決意。初耳なんですけど・・・?」

憂 「だって言ってないもん」

純 「ちょ・・・照れるから///」
266 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/03(水) 23:38:03.67 ID:hzxe8nrk0
憂 「焼もちっていうのもね。実は私も現在進行形で妬いてる最中でして・・・」

純 「え・・・」

憂 「お姉ちゃん。学校に来れるようになったんだ。純ちゃん、知ってるよね」

純 「うん」

憂 「和ちゃん・・・真鍋先輩がね。お姉ちゃんの引きこもった心の扉を開けてくれたの。お姉ちゃん、心を取り戻せた」

憂 「まだ、完全じゃないんだけどね。大きな前進」

純 「そっか。良かったよね」

憂 「うん、良かった。嬉しい。なのに・・・もっと手放しで喜ばなきゃならないはずなのに。私・・・」

憂 「どうして、お姉ちゃんの心に明かりを灯してあげられたのが私じゃないんだろうって・・・その事がとても悔しくって・・・」

純 「憂・・・」
267 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/03(水) 23:40:53.09 ID:hzxe8nrk0
憂 「私はお姉ちゃんの妹。だから、誰よりも濃い絆で結ばれてるんだ。そう信じてたし、今でもそう思ってる。思ってるけど・・・」

憂 「妹は、それ以上でも以下でもなく。けっきょく妹でしかいられないんだなって思い知らされちゃった」

純 「・・・」

憂 「当たり前のことなんだけどね」アハッ

憂 「・・・小さい私。お姉ちゃんの事を第一に考えるなら、こんなことは思ってもいけないのに。でも、考えてしまう。卑屈になってしまう」

純 「憂・・・」

憂 「だからね。こんなことを思っちゃう自分の方こそ、なにもかも思い通りに遂げられない私こそ、純ちゃんに嫌われちゃったんじゃないかなって。とても心配だった」

純 「それで憂は憂で、なんとなく私によそよそしかったんだね」

憂 「・・・うん」
268 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/03(水) 23:43:30.28 ID:hzxe8nrk0
憂 「でも!だけど私は純ちゃんt
純 「おっし!」

憂 「んんっ??」

純 「鈴木純!バニラシェーク飲みます!」ズズー

憂 「わ、わ?純ちゃんがすごい勢いでシェークを啜ってる・・・!?」

純 「ずずー・・・ごくごく・・・」

憂 「顔・・・真っ赤だよ?」

純 「ぶはーっ!くぅ、シェークの一気飲みはさすが苦しいわ!さ、つぎは憂の番だよ!」

憂 「え、なに?なにが??」


純ちゃんは今しがた自分が啜っていたシェークを私に差し出し、ニヤリと笑った。


純 「残り半分。憂が飲みな」

憂 「なんで?意味が分からないよ・・・」

純 「固めの杯だよ!」

憂 「・・・え」
269 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/04(木) 11:44:54.86 ID:yTGwJtPz0
純 「義兄弟の契りは血の繋がりにも勝るのさ。このシェークはその絆を結ぶための杯なんだよ!」

憂 「・・・純ちゃん、なんか変な映画でも見たの?」

純 「お父さんが借りてきた任侠映画。面白かったよ?変じゃないよ?」

憂 「わぁ・・・」

純 「・・・上手く言えないけどさ」

憂 「・・・?」

純 「ここ数日。憂とろくに話せなかった何日間か。私ね、すごく寂しくてつまらなかった」

憂 「純ちゃん・・・うん、私もだよ・・・」

純 「憂が言う通りさ。姉妹は姉妹以上にも以下にもなれないのかもしれない。私は一人っ子だから、そういうの良く分からないんだけど・・・」

純 「でも、友達なら。友達だったらさ・・・きっと今以上にだってなれると思うんだよね」

憂 「そ、それって・・・」

純 「義兄弟ってのは冗談だけど、私はもう、寂しい思いはしたくない。憂にもさせたくない。だから、そういう意味でのこれは・・・」

純 「ずっと一緒にいるよって。いようねっていう。約束の杯・・・」

憂 「じゅ、純ちゃん・・・」
270 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/04(木) 11:49:28.17 ID:yTGwJtPz0
純 「つーか、シェークなんだけどさ!杯って言っとけば、それっぽいでしょ。名は体を顕すというし!!」

憂 「・・・ふふ。それ、ちょっと意味が違う」

純 「そうだっけ?」

憂 「でも、良いよね。素敵な考え方。うん、私もずっと純ちゃんと一緒にいたい。というかね・・・」

憂 「・・・よぉし!平沢憂、私も飲みますっ!」ズズー!

純 「おおっ!瞬く間にシェークの残量が減ってゆく・・・!」

憂 「ずーーー、ごっくん。ぷはぁ、ごちそう様っ!」

純 「見事な飲みっぷり」

憂 「恐縮です。・・・私ね。臆病にもなっちゃうけど、嫌われない限り、純ちゃんからは絶対離れないよ」

純 「うぁ・・・ハッキリ言うね///」

憂 「だって、卑屈になって勝手に結論出して。それで純ちゃんと離れちゃったら、私って何にも成長できてないって事になっちゃうじゃない?」

純 「ふむ・・・?」

憂 「だから私にとってはね。今のは自分の決意を固める。そういった意味での固めの杯だったの。大きい人になるための」

純 「お互い、意味合いの違う固めの杯になっちゃったか」

憂 「うん。だけど、向かう先は一緒。だから、これからもよろしく、ね・・・?純ちゃん」

純 「もちろん!」
271 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/04(木) 11:53:57.93 ID:yTGwJtPz0
まだ・・・なにも解決していない。

お姉ちゃんへのいじめが再発しない保証はなかったし、そのお姉ちゃんは明るさを取り戻せないままでいる。

私の思い違いや激情から、絡まってしまった和ちゃんや寿さんとの心の縺れも、いまだ解けないまま。

でも、何とかなる。何とかできないわけがない。

純ちゃんと出会ってからの数ヶ月。

私は色々なことを教わり、飲み込めずに失敗もし、だけど今は心を前向きにもって。

成長できた。少なくとも、成長しようと心を強く固めることができた。

そう。この気持ち。折れない心があれば。

道をたがえず、ただまっすぐに。最良の未来に向かって行けないはずがない。

なぜなら。私の隣にはこれから先。今までだってそうだったように。

純ちゃんが。大好きな親友が共にいてくれると、そう言ってくれてるのだから。
272 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/04(木) 11:59:08.94 ID:yTGwJtPz0
純 「さて。その、これからのことだけど・・・」

憂 「うん、そう。これからのことだね」

純 「さしあたって、まずは・・・」

憂 「まずもって決めるのは・・・」

純 「夏休みにぃ・・・」


憂・純 「遊びに行く場所!」


憂 「だね」

純 「うん!」


停滞しかけた時間が今、再び動き始める。


第六話に続く!
273 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/04(木) 12:07:36.52 ID:yTGwJtPz0
それではまた。

次回でもお付き合いいただけたら幸いです。
274 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/04(木) 21:16:49.95 ID:V84Zq8GF0
純ちゃんマジソウルフル
275 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/04(木) 23:19:17.87 ID:aWRcvExDO
姉妹の過ごしてきた時間に勝てるかよ、なに言ってんだ純、と一瞬でも思った俺は半年ROMるしかないな。
276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/19(金) 18:41:13.99 ID:u5LkUNxN0
第六話 憂「日常」
277 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/19(金) 18:41:40.31 ID:u5LkUNxN0
ある夜の平沢家!キッチン!

憂 「さてっと、明日のお弁当の支度をしなくっちゃ」

憂 「なににしようかなぁ。簡単確実美味しいもの・・・。とは言っても、さすがにお弁当にホットケーキはあれだし・・・」

憂 「食材は何が残ってたかな?冷蔵庫の中身はっと・・・チェックチェック」

憂 「ん〜・・・あ、鶏肉が残ってた。これ使って、なにか・・・」


ピコーン←ひらめいた音


憂 「・・・良いこと思いついた!」

憂 「えへへ・・・よぉし、さっそく純ちゃんに連絡しないと!」

278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/19(金) 18:42:49.55 ID:u5LkUNxN0
ピポパピ・・・


憂 「・・・鈴木さんのお宅ですか?あ、純ちゃん?憂だよー」

憂 「うんうん、大したことじゃないんだけど。あのね、明日のお弁当の事なんだけれど・・・」

憂 「あ・・・あのね・・・」

憂 「うん、そう!じゃ、そういうことでよろしくね!」

憂 「それじゃー。また明日!」


ガチャ


憂 「へへ・・・明日が楽しみ!純ちゃん、喜んでくれると良いなぁ・・・」


そして・・・
279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/19(金) 18:44:03.34 ID:u5LkUNxN0
翌日のお昼時!教室!!


A子 「しゃー!昼だ飯だぁ!今日もがっつり食うぞー!」

B子 「・・・やっぱり食べすぎじゃないの、A子。最近太ってきたんじゃない?」

A子 「ちゃうちゃう。これ、筋肉がついてきたのね。体格良くなってきたから、そう見えるだけだよ」

B子 「・・・そうかしら」

A子 「さ、机くっつけっこー。憂ちゃん、純も!早くこっち来て。もうお腹ペコペコだよ」

純 「あいおー!」

憂 「はーい」


ガッチャン!(四人の机が合体!)
280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/19(金) 18:47:00.31 ID:u5LkUNxN0
A子 「あ、そういえばさ。憂ちゃん」

憂 「なぁに?」

A子 「私と同じ部活の、寿詩子って・・・憂ちゃんと小学校が一緒だったんだって?」

憂 「・・・あ。う、うん・・・」

純 「・・・!」

A子 「クラスも一緒だったんでしょ?仲良かったの?」

憂 「えっと・・・その・・・」

純 「ちょ、ちょっと!」

A子 「え、なに?」

純 「なんなのよ、藪から棒に。何でそんなことを聞くわけ?」

B子 「・・・純?」
281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/19(金) 18:50:46.28 ID:u5LkUNxN0
A子 「なんでって・・・C子からそう聞いたからだけど。あ、あれ・・・なんか変なこと聞いちゃった?」

憂 「ううん、そんなことないけど・・・」

B子 「ていうか、なんで純がしゃしゃり出てきてるわけ?」

純 「そ、それはその・・・」

A子 「・・・?ま、いいや。んでね、本題。今度この四人にC子も入れて、五人で遊びに行かない?」

憂 「え・・・」

A子 「C子は私の友達で、なおかつ憂ちゃんの友達でもあって。だったらみんな揃って遊びに行くのも自然な流れでしょ??」

B子 「私とはほとんど面識ないんだけど・・・」

純 「私もだよ」

A子 「細かいこと言いこなしだって。友達の友達は友達だって言うじゃん。世界に広めよう、友達の輪ってね!」

B子 「・・・あんた、何歳よ?」

A子 「なはは。てな感じで、みんなで親睦ふかめようってわけよ。ね?憂ちゃん、だめ・・・?」
282 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/19(金) 18:57:59.32 ID:u5LkUNxN0
純 「・・・憂」

憂 「・・・良いよ」

純 「・・・」

A子 「やった、決まりね!てことで、B子もウダウダ言わずに付き合いなよ。ね?」

B子 「嫌だとは言ってないでしょ。もう、分かったわよ」

純 「憂、良かったの・・・?」ボソッ

憂 「うん・・・」

A子 「じゃ、C子には伝えておくからね。いやぁ、あいつ喜ぶよ。なんだか、ずっと憂ちゃんと話したそうにしてたからさぁ」

憂 「私も・・・寿さんとは話がしたかったの。キチンと伝えなくちゃいけないことがあったから」

A子 「・・・そうなんだ?」

憂 「うん、色々・・・」

A子 「そっかそっか♪」

純 「憂・・・」
283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/19(金) 19:04:51.70 ID:u5LkUNxN0
B子 「さ、話もまとまったところで食事にしましょう?お昼休みは有限なんですからね」

A子 「賛成!さぁ者ども、お弁当を広げろー!」

純 「・・・」シーン

A子 「て、あ・・・あれ?純、お弁当は?」

B子 「まさか忘れちゃったの?」

純 「のののん。今日はね、愛妻弁当のデリバリがあるのだよ!ね、憂?」

憂 「えへへ・・・そう。はいこれ!」ドン!

A子 「おおお、なんだお前!憂ちゃんに弁当作らせてるの?」

純 「違うって。昨日、急に憂が電話してきてさ。今日のお弁当は用意しなくてもいいって言うから」

憂 「そうなの。私から作らせてってお願いしたんだよ」

B子 「へぇ、憂のお手製をまるまるいただけるなんて、果報者じゃないの。純・・・?」

憂 「そんな、大した中身じゃないんだけれど・・・」

A子 「んなわけあるか!うわぁ、気になるっ。純、早く蓋をあけて見せてよ」
284 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/19(金) 19:08:49.67 ID:u5LkUNxN0
純 「慌てなさんなって。それではぁ・・・じゃじゃん!ご開帳ぉー!」


パカッ!


A子 「おお・・・?」

B子 「こ、これは・・・」

純 「・・・」

憂 「えへへ・・・どうかな?」

A子 「これは顔・・・だね。ご飯に海苔やウインナーで顔が作ってある・・・」

B子 「そして、頭の左右には大きな鳥の唐翌揚げ・・・これって、どう見ても・・・」

憂 「憂の特製!純ちゃん弁当だよっ!」

純 「・・・!!!」
285 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/19(金) 19:13:58.73 ID:u5LkUNxN0
憂 「昨日、お弁当の献立を考えていて、思いついたんだ。冷蔵庫に鶏肉が残ってて、それでね」

純 「・・・」

憂 「私ね、いつも思ってたの。純ちゃんの頭って、ふわふわしてて美味しそうだなぁって」

純 「・・・!!!」

憂 「でね。揚げたての唐翌揚げと純ちゃんの頭のイメージがね、ピッタリはまっちゃったの。ま、お弁当だから揚げたてってわけにはいかなかったんだけど・・・」

A子 「ああ・・・」

B子 「ちょ、ちょっと憂・・・」

純 「・・・」フルフル

憂 「純ちゃんには色々お世話になってるし、だからね。普段の感謝の気持ちを込めて・・・」

憂 「作ってみました!唐翌揚げ純ちゃん弁当だy
純 「うわぁあぁぁぁああああああん(泣)!!!」

憂 「!!??」

A子・B子 「あーあ・・・」
286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/19(金) 19:22:57.49 ID:u5LkUNxN0
純 「ひどいよ、憂!私がこの頭をセットするのに、どれだけ大変な思いをしてるかも知らないで!」

憂 「え?え?」

純 「毎朝はやく起きてがんばってセットして!それでも湿気の多い日には上手くまとまらなくて苦労して・・・!」

憂 「じゅ、純ちゃん??」

純 「そんな私の頭に向かって、唐翌揚げとか美味しそうだとか!うわーーーーん!!」

憂 「あ、あの・・・」

純 「どうせ私の頭のこと、ほどいたらアフロだとか、髪の毛ビックバンだとか思ってるんでしょ!びえーーーーん!!」

憂 「ええ!?そんなこと思ってないよー・・・あ、あう・・・A子ちゃん、B子さん・・・」

A子 「地雷踏んじゃったね・・・」

B子 「純、無頓着なように見えて、これでけっこう髪の毛にコンプレックス持ってるのよ・・・」

純 「おぎゃあああああ!!!」

憂 「えーーーーー!」
287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/19(金) 19:25:20.92 ID:u5LkUNxN0
純 「うう・・・ぐすぐす・・・」

憂 「ご、ごめん。ごめんね・・・純ちゃん・・・」ナデナデ

純 「知らないもん」プイッ

憂 「うう・・・本当にゴメンね、純ちゃん。でも聞いて。決して悪気はなかったの」

純 「・・・」

憂 「純ちゃんは色々不満を持ってるみたいだけれど・・・私は純ちゃんの髪の毛って大好きだよ」

純 (じーーー・・・)

憂 「疑ってる?見て!私のこの目を見て!これが嘘を言ってる目に見える!?」

純 「う・・・だ、だって・・・そう言われたって・・・」

憂 「本当だよ!じゃなけりゃ、唐翌揚げに例えたりなんかできないもん!」

A子 (じゃなけりゃ・・・て、どんだけ唐翌揚げが好きなんだ・・・)
288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/08/19(金) 19:27:47.36 ID:u5LkUNxN0
あれ・・・?唐翌揚げって打ち込んでるのに、唐翌翌翌揚げって表示される・・・?
289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/08/19(金) 19:29:49.46 ID:u5LkUNxN0
原因は分かりませんが、どうやら「カラアゲ」と漢字で正しく表記できないようです・・・

お手数ですが、脳内変換でよろしくお願いします。

しかし、なんでだ・・・
290 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/08/19(金) 19:32:18.09 ID:u5LkUNxN0
純 「じゃ、じゃあさ・・・その・・・私の頭。ど、どんな所が好きなの・・・?」

憂 「う、うん。さっきも言ったけど、やっぱりふわふわで柔らかそうなところかな。可愛いんだもん」

純 「か、可愛い・・・///」

憂 「そうだよ、可愛いよ!キュートだよ!それにね?純ちゃんの髪の毛を見てるとね・・・」

純 「うん・・・」

憂 「カラアゲのほかにも、ワタ飴とか。あとあと、シュークリームとかも思い浮かんじゃうの。どっちもふわふわでもふもふ!」

B子 (けっきょく食べ物じゃないの・・・)

憂 「大好きなんだ、私」

B子 (それは単に食べ物の嗜好の問題じゃ・・・)

憂 「だから!私は純ちゃんの髪の毛が大好きなんだよ!」

A子 (だからって何が!?)

B子 (食べ物の話しかしてないのに、言い切った!!)

純 「ありがと、憂!嬉しい!」パァー

A子・B子 「納得したー!?」
291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/08/19(金) 19:35:31.16 ID:u5LkUNxN0
そして・・・


憂 「純ちゃん、カラアゲ美味しい?」

純 「うん!衣がサクサクで中身ジューシー!とっても美味しいよ!」

憂 「よかったぁ。じゃあ、また今度作ってくるからね」

純 「やったぁ!憂、大好き!」

憂 「えへへ・・・私も純ちゃん大好き!」

A子 「・・・なんだろね」

B子 「まぁ、似たもの同士ってことで良いんじゃない?」

A子 「どっちも天然ってこと?」

B子 「そういうことね」


こうして、純ちゃんは髪の毛のコンプレックスを少しだけ解消できたのでした。

これはとある日の、ありふれた日常の一コマ。

そんなお話でした。


A子 「いやいや、釈然としないって!」


第七話に続く!
292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/08/19(金) 19:37:01.66 ID:u5LkUNxN0
たまには軽い話でもと思い、ちょっと本筋から外れてみました。

それではまた。

第七話でお付き合いいただけたら嬉しいです。
293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/19(金) 20:43:36.99 ID:xLSsfWxAO
翌が入るのはvip serviceの仕様だからメ欄にsagaで回避できる
sageじゃなくてsaga

唐揚げ
294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [sage]:2011/08/19(金) 22:01:59.15 ID:qayWEESAO
次回に期待
295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage saga]:2011/08/19(金) 22:32:02.40 ID:MNPSGD8s0
乙です!

「唐揚げ」
296 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage saga]:2011/08/19(金) 22:32:39.13 ID:MNPSGD8s0
乙です!

「唐揚げ」
297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2011/08/19(金) 23:41:02.92 ID:u5LkUNxN0
唐揚げ・・・

なるほど。

教えて下さり、ありがとうございます。
298 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/07(水) 20:24:15.54 ID:GsPUWAhd0
再開します。
299 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/07(水) 20:25:26.92 ID:GsPUWAhd0
第七話 憂「失恋」
300 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/07(水) 20:26:00.76 ID:GsPUWAhd0
五月のとある日曜日!

平沢家!憂の部屋!!


憂 「○○社 ○×編集部・・・宛っと・・・ できた」

憂 「う〜〜〜・・・いざ応募となったら、やっぱりドキドキするよー・・・」

憂 「こ・・・酷評されたらどうしよう。な・・・泣いちゃうかも、私・・・」

憂 「〜〜〜っ!」

憂 「え〜〜〜い!応募するって決めたんだ!今さら引っ込み思案はなし!あたって砕けろだよ!」


原稿の入った封筒をデザインバックに放り込むと、意を決して部屋をでる。


憂 「お姉ちゃ〜ん。私、ちょっと出かけてくるから」

唯 (ヒョコッ)「あれ?憂、どこ行くの〜?」

憂 「うん。ちょっと野暮用〜」

唯 「そっかぁ・・・えへへ・・・帰りにアイス買ってきて欲しいなぁ」

憂 「えー・・・帰り、ちょっと遅くなっちゃうよ。お姉ちゃん、自分で買ってきたら?」

唯 「だって面倒くさいし・・・待ってるから。 ねぇ、憂〜。アイスアイスぅ〜〜〜」

憂 「くすっ。しかたがないなぁ。いつものバニラので良いんだよね?」

唯 「やったぁ。憂、大好き!」

憂 「もう、調子いいんだから。それじゃ、行ってきまーす」

唯 「いってらっしゃ〜い。気をつけてね!」
301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/07(水) 20:28:59.55 ID:GsPUWAhd0
マック店内!


純 「あ、憂!こっちこっちー!」

憂 「純ちゃん!待たせちゃった?」

純 「ふっふ。そんなん、今きたばっかりだよ。・・・なんてね」

憂 「あはは。純ちゃん、男前」

純 「今さら、そんな分かりきった事を。・・・おっと、俺に惚れるのはなしだぜ?火傷じゃすまないからな」

憂 「そっかぁ。それは残念!」

憂・純 「あはは!」
302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/07(水) 20:31:41.63 ID:GsPUWAhd0
純 「で、マンガは投稿してきたの?」

憂 「うん、今さっき。ここに来る途中で投函してきたよ」

純 「おー。ついに、ついにですか!」

憂 「ああ・・・発表はまだ先なのに、今からドキドキするよー・・・」

純 「未来の大先生がそんなキモの小さいことを仰ってどうしますか。後はなるようにしかならないんだし、気を大きくもって構えてなよ」

憂 「そうは言うけれどー・・・ていうか、大先生って・・・」

純 「ま、ま。ここは一杯グーッっとやって、気分を落ち着けちゃって下さいませ!」

憂 「シェークだけどね」

純 「そ、バニラシェーク」

憂 「・・・うん。いただきます」
303 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/07(水) 20:35:31.43 ID:GsPUWAhd0
ストローをパクッとくわえ、シェークを一口すする。

とたんに濃厚な味わいが口いっぱいに広がり、バニラの甘ったるさが高まった緊張を静めてくれる。

不思議だな。

ただのバニラシェークなのに、純ちゃんと飲むそれは、どうしてこうも心を落ち着かせてくれるんだろう。


純 「どう?」

憂 「うん、ちょこっとだけ。落ち着いたよ」

純 「それは良かった。へへ・・・それにしても・・・」

憂 「?」

純 「いよいよ、憂の夢が形になって動き始めたわけですなぁ」

憂 「といっても、まだどうなるかなんて分からないけれどね」

純 「そうだけど。でも、動かなきゃ何も始まらないから。踏み出した一歩は大きいと思うよ」

憂 「・・・うん」
304 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/07(水) 20:51:30.97 ID:GsPUWAhd0
純 「発表って、いつだっけ?」

憂 「夏休みに発売される号に、名前が載るよ」

純 「夏休みか!」

憂 「採用されたらだけどね」

純 「こりゃ、夏の楽しみが増えたねぇ。へっへ、ねぇ?」

憂 「楽しみ半分、怖いの半分ってところかな」

純 「ありゃ、やはり気弱でいらっしゃる」

憂 「それは、気弱にもなるよ。私の夢の第一歩。その初めての挑戦なんだから・・・」


いつか絵で。マンガを描いて生活をしたい。

いつしか抱き始めた、私の夢。

始まりは、ただお姉ちゃんを書き綴るためだけのマンガノートだった。

お姉ちゃんを描いて、報われない自分の想いを慰めて。ただそれだけで満足していた。そのためのノート。

それが純ちゃんと出会うことによって、意味合いを大きく変えていく。

お姉ちゃんのみで埋め尽くされていたノートには、純ちゃんをはじめ私と関わった色々な人たちが一緒に綴られるようになり。

やがて私の想いはノートを離れ、原稿に。将来への夢として結実した。
305 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/07(水) 20:56:23.22 ID:GsPUWAhd0
憂 「・・・」

純 「・・・憂?」

憂 「純ちゃん、ありがとう」

純 「おう、どういたしまして♪で、なにが?」

憂 「えへ・・・マンガのこと。純ちゃんと出会わなかったら私。きっと、こんな夢を持つことってできてなかったと思うの」

純 「え・・・や、そんなことないでしょ」

憂 「ううん。純ちゃんが一番最初にね。色々アドバイスをしてくれたから。じゃなかったら私・・・」

純 「憂・・・」
306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/07(水) 20:59:55.28 ID:GsPUWAhd0

(純 「うん。前にも言ったけど、お話。作ってみたら?ほんとにマンガ、描いてみりゃいいんじゃないかなー」 )

(純 「だったらさ!お姉さんをモデルにお話も作っちゃえばいいじゃん!」)

(純 「お姉さんの事なら良く見てるだろうし、あんなに面白いお姉さんだもん。きっと楽しい話の一つや二つ、ホホイとできちゃうって!」)


憂 「出会ったばかりの頃、純ちゃんが言ってくれた言葉。今でもキチンと覚えてるよ」

純 「うん・・・」

憂 「だから、これはね。純ちゃんが・・・私にくれた夢なの」

純 「そっか・・・へへ、そう言ってもらえると、うん。悪い気はしないね。へへ、へへへ・・・」

憂 「えへへ・・・」

純 「だけどさ。ここまでこられたのは、やっぱり憂がさ・・・憂ががんばったからだよ」

純 「だってさ・・・憂、色々あったもんね。大変だったもんね・・・あの頃・・・」

憂 「純ちゃん・・・」
307 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/07(水) 21:04:04.33 ID:GsPUWAhd0
そう。色々あった。

心を失ってしまった、あの頃のお姉ちゃん。

そして、なす術を知らずに、ただ右往左往していた私。

正直あの頃の私には、自分の夢の事なんか二の次だった。

とにかくお姉ちゃんに元に戻って欲しくて、色々と手を尽す日々の連続で。


・・・けれど。


純ちゃんは、私が頑張ったって。そう言ってくれるけれど・・・

私はけっきょく、お姉ちゃんに何をしてあげることもできなかった。

そう。所詮ただの妹でしかない私では、お姉ちゃんの心の暗闇を灯す篝火にはなってあげられなかった。

それが、ちょっとだけ寂しい。
308 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/07(水) 21:06:43.57 ID:GsPUWAhd0
純 「憂・・・?」

憂 「え・・・?」

純 「思い出しちゃった?だったらゴメン。辛いこと、思い起こさせちゃって」

憂 「あ、ううん。違うよ。そんなんじゃないよ」

純 「そう?だったら良いんだけど、でも、悲しそうな顔をしてたから・・・」

憂 「本当になんでもないから。ただちょっと考え事をしてただけ」

純 「そう。そっか・・・」

憂 「・・・うん。ありがとう、純ちゃん」
309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/07(水) 21:11:09.76 ID:GsPUWAhd0
いけない、いけない。

気のおけない間がらだからか、純ちゃんの前ではついつい素の自分が顔を覗かせてしまう。

でも、それじゃだめ。

後ろ向きの自分は卒業するんだって、三年前のあの日に誓って以来・・・

そういう風に生きてきたんだから。


純 「大変な中でやっと形にできた憂の夢だもん。良い結果が出せると良いね。・・・うんにゃ、出せるよ。きっと!」

憂 「うん!結果が出るの、私も楽しみだよ!」


あれから三年。私だって成長しているはず。

そう、私は高校生になった。
310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/07(水) 21:16:19.52 ID:GsPUWAhd0
・・
・・


お姉ちゃんがモデルの女の子が、軽音部の仲間たちと楽しくもゆるゆるな日常を過ごす。

私の描いた「けいおん!」というマンガは、そんなお話。

その中で主人公の”唯”は、大好きな人たちに囲まれて、毎日を笑顔で過ごしてゆく。

辛すぎる中学生活を送ったお姉ちゃんに、高校では楽しく明るく過ごしてもらいたい。

そんな私の理想が込められた作品。心を込めて綴った作品・・・

だからこそ、認められて欲しいな。良い知らせが来たら嬉しいな。

でも、心を込めたからといって成功できるような、そんな甘い世界ではないことも、一応は承知しているつもり。

結果が出るのが待ち遠しいような、むしろ発表の日なんか来て欲しくないような。

そんな相反する感情に揺れて戸惑う私をよそに、日々は勝手に移ろい行き・・・


やがて。


気がつけば、いつの間にやら世間は夏の到来を迎えていた。

夏休みまでは、あと数日。

それはつまり、結果を突きつけられる日がいよいよ目前に迫ったことをも意味していた。


・・
・・
311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/07(水) 21:20:55.51 ID:GsPUWAhd0
和 「私ね、唯に告白したの」

憂 「へ?」


話があるからと、いつもの喫茶店で落ち合った和ちゃんは、開口一番にそう告げた。


憂 「こ・・・こくは・・・え?告白って・・・あの告白?」

和 「そう、その告白。私ね、唯が好きなの」

憂 「好き・・・って・・・」

和 「ここで言う好きは、もちろん友達としてのそれではなくてね。唯を一人の女性としてって事で・・・つまり・・・」

憂 「・・・」

和 「唯を私、愛してる・・・」

憂 「え・・・」

和 「唐突でごめん。でも、言っておかなくちゃって思ったの」
312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/07(水) 21:29:26.41 ID:GsPUWAhd0
憂 「こ、告白っていつ?お姉ちゃんの返事はなんて?」

和 「落ち着いて。順を追って説明するわね」


私が唯に告白したのは春先。新歓ライブが終って間もない頃だった。

ほら、唯の部屋で三人で大泣きしたことがあったじゃない。その直前にね。

あの時の唯には、とても辛い。悲しい出来事があったの。

正直、また心を閉ざして自分の世界に閉じこもってしまうんじゃないかと心配になったくらい。

でもね、違った。唯は笑ってくれた。もう大丈夫。明日からは今まで通りだよって、笑ったの。

そんな健気な唯を見ていたら、愛おしくてたまらなくなって・・・

ああ、私はずっと唯を愛していたんだなってね・・・気がついたんだ。


和 「そして私は私の気持ちを唯に伝えた。それに対する答えは・・・」

憂 「・・・」

和 「保留」

憂 「・・・え」
313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/07(水) 21:36:16.43 ID:GsPUWAhd0
和 「急に言われたもんだから、唯もどう答えて良いか分からなかったみたい。それはそうだよね」

和 「親友というフィルター越しに見ていた相手から告白されたら、誰だって混乱してしまうもの」

憂 「・・・」

和 「自分の気持ちに気がついた時の、私自身がそうだったから・・・」

憂 「和ちゃん・・・」

和 「夏休みになったらね、海に行くの」

憂 「う・・・み?」

和 「唯と、二人で」

憂 「そ、それって・・・」

和 「違うよ。まだ答えはもらってない。ていうかね、そこで答えを出してもらうことになっているんだ」

憂 「海に・・・二人で・・・」

和 「そう、海へ。お互い素直な気持ちで親友に戻ることができた、あの海で。今度は新たな一歩を踏み出すために・・・」

和 「そこでね。唯がどういう結論を出すのか、今の私には知る由もない。でも、結果がどうあれ・・・」

憂 「・・・」

和 「憂には。今まで唯の最も側にいたあなたには。言っておくべきだと思ったの」
314 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/07(水) 21:44:35.71 ID:GsPUWAhd0
憂 「そっか・・・そうなんだ」

和 「・・・ごめん」

憂 「どうして謝るの?」

和 「・・・」

憂 「気持ち、通じると良いね」ニコッ

和 「・・・え」

憂 「和ちゃんがお姉ちゃんのこと、大切に想い続けてくれてるの知っているから」

憂 「・・・ちょっと、私の思ってたのとは形が違ってたようだけれど」アハハ

和 「認めてくれるの・・・?」

憂 「認めるも何も、それはお姉ちゃん次第だよ」

和 「・・・」

憂 「でもね」
315 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/07(水) 22:13:09.54 ID:GsPUWAhd0
平常心を装いはしたけど、本心はやっぱり動揺していた。

だって、私は昔と変わっていない。お姉ちゃんに抱いている恋心は、全くそのままなんだもの。

でも、この気持ちは報われない。私じゃお姉ちゃんを幸せにしてあげることができない。

その事にも、とっくに気がついているから。

だから・・・


憂 「私は、和ちゃんのことを応援するよ」


お姉ちゃんを大切に思ってくれる人が、叶わない私の代わりに想いを遂げてくれるのなら。

しかもそれが、もう一人の姉とも慕う和ちゃんであったのなら。


和 「ありがとう」

憂 「うん」
316 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/07(水) 22:17:33.45 ID:CDLzFN9DO
おお!俺の一番好きな作品のスピンオフあったんかい!
ずっと続編見たい見たい思ってたけどタイトルでスルーしてたよ……
てことで今から読ませて頂きますよ北海道さん
317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/07(水) 22:18:28.68 ID:GsPUWAhd0
そして私の大好きな二人のお姉ちゃんが、幸せに包まれて笑顔を輝かせてくれるのなら・・・

こんなにも理想的な失恋は、他にはちょっと無いんじゃないかな。

恋に破れた私も、きっと笑顔でいることができるはず。


憂 「がんばれ。和ちゃん、超ガンバレ!」

和 「う、うん・・・でも正直いうと、憂からそこまで応援してもらえるなんて、思いもしなかったわ」

憂 「えへへ・・・和ちゃんとは色々あったもんね・・・でも・・・」


あの頃の私はとにかく一杯一杯で、そして気持ちが後ろ向きに傾いていた事もあって・・・

行き場のない不安をつい和ちゃんにぶつけてしまったりもした。
318 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/07(水) 22:26:59.16 ID:GsPUWAhd0
でも、それは間違いだったんだ。だって・・・


憂 「でも今はね?とっても感謝しているから」

和 「憂・・・」


けっきょく私では、お姉ちゃんの笑顔を取り戻させる事は叶わなかった。

お姉ちゃんが本来の天真爛漫さと、はじけるような笑顔を取り戻せたのは高校生になってからのこと。

そして、心を閉ざしていたお姉ちゃんを救ったのは私ではなく。


憂 「和ちゃんがお姉ちゃんを救ってくれたんだものね」

和 「救うだなんて、そんな。私はただ・・・」


外の世界に触れ合わせようと、献身的に接し続けてくれた和ちゃん。

そんな和ちゃんに、半ば強引に入部させられた軽音部。そこで出会った新しい友人たち。

それらお姉ちゃんを取り巻く優しい人たちが、暗くよどんでしまった心の底に光を届けてくれた。

結果、お姉ちゃんは再び陽の当たる場所へ浮かび上がって来られたんだ。
319 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/07(水) 22:29:36.47 ID:GsPUWAhd0
憂 「和ちゃんにはいくら感謝してもし足りないくらい。だからね、和ちゃんの恋を応援する事が恩返しになるのなら・・・」

憂 「私は全力で応援するよ」


そう、応援するんだ。できるんだ。


和 「・・・ありがとう、憂。憂の応援に応えられるよう、私も頑張る」

憂 「うん、いい結果を期待してるからね」

和 「ええ」

憂 「・・・えへへ。な、なんだか喉かわいちゃったな。アイスコーヒー飲もっと・・・」チュー


渇きを癒そうと口に含んだアイスコーヒーは思いのほか苦く・・・

バニラシェークのようには、私のこわばった心を解きほぐしてはくれなかった。
320 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/07(水) 22:31:47.20 ID:GsPUWAhd0
今宵はこれまでにしとう存じます。


>>316

ありがとうございます。そう言っていただけると非常に励みになります。

間もなく完結になると思いますが、こちらもよろしくお願いします。
321 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/08(木) 13:06:09.82 ID:dDo8ve/DO
ストーリーも憂達の思念も心に重く響くだけに、引き込まれて食い入る様に読んじまったです
しかし高校編に綺麗に繋がってるなぁ……>>1さんゴールまで頑張れ!超ガンバレ!!
322 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/08(木) 22:23:44.78 ID:CLQpFn2V0
再開します。
323 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/08(木) 22:24:56.03 ID:CLQpFn2V0
・・
・・

そしてやってきた夏休み!

ある日の平沢家!憂の部屋!!


(唯 「それじゃ、行ってきま〜す!」)


今朝、お姉ちゃんは和ちゃんと二人、元気に海へと出かけていった。


憂 「結局お姉ちゃんの口からは、和ちゃんと二人で海に行く理由、言ってもらえなかったな・・・」

憂 「まぁ・・・言えないよね。普通・・・」ハァ・・・

憂 「・・・う〜〜〜ん」

憂 「気になる。気になるよぉ・・・お姉ちゃん、和ちゃんの気持ちにどう答えるんだろ・・・」

憂 「ああ、こんなんじゃ家事もお勉強も、やっても全然身が入らないよ!」


それは今日に限ったことではなかったけれど。

和ちゃんから話を聞いてからこっち、私の心を満たしているのはこの事ばかり。

あれこれくどくど考えているうちに夏休みが始まって、お姉ちゃんたちは海に出かけて行ってしまった。
324 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/08(木) 22:28:14.32 ID:CLQpFn2V0
憂 「結局は二人の問題なんだ、なるようにしかならないんだよね・・・」

憂 「だったら成り行きを見守って、あまり深く考え込まないほうが私の気も楽なんだけれど・・・」

憂 「・・・頭では分かっているんだけどなぁ。うまくいかないなぁぁ・・・」


お姉ちゃんの幸せと和ちゃんの想いがかかっている、この一大事。

そう簡単に達観なんてできるはずもない。


憂 「とは言え・・・ここでグデグデしてても、なにが進展するってわけでもないし・・・」

憂 「ん〜〜〜〜〜・・・はぁ」

憂 「・・・純ちゃん。今、どうしてるかなぁ」
325 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/08(木) 22:30:38.56 ID:CLQpFn2V0
憂 「なんだか、純ちゃんの声が聞きたくなっちゃった。・・・電話でもしてみようかな」

憂 「そうだ。予定があいてたらお茶会でも誘ってみよう。お菓子も簡単なの、今から用意して・・・」


『アイシテル オネエチャン ギターニ ムガムチュウイッショウケンメイ〜♪』


憂 「あ・・・電話?・・・はい?」

純 『あ、憂!』

憂 「あ、純ちゃん!私もちょうど今、電話しようと思ってたとこだったの。ちょっとお話がしたくn
純 『憂、おめでとおっ!!』

憂 「・・・はい?」
326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/08(木) 22:44:45.63 ID:CLQpFn2V0
一時間後!憂の部屋!!


純 「てことで、憂の分も雑誌!買って来ましたー!」

憂 「ありがとう、純ちゃん。わざわざごめんね」

純 「んーん、気にしなさんなって。でもさ、どうしたの?今日のこの日を忘れちゃうなんて」

憂 「えへへ・・・うっかり」

純 「うっかりにも程があるってぇの。ま、良いや。ホイこれ」


純ちゃんが手渡してくれた雑誌を受け取る。

そう、今日は私が投稿したマンガの結果が掲載される号の発売日。

私の夢が叶うか否か。大事な将来を占うための、大切な大切な日。

なのに、その日の事が頭からスッポリ抜け落ちてしまっていたなんて・・・

私の思考はどこまで姉離れできていないんだろう。自分でも呆れてしまう。
327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/08(木) 22:50:59.11 ID:CLQpFn2V0
純 「ほれ。早く開いてみ、開いてみ」

憂 「あ、もう。そんな急かせないで・・・」

純 「良いから良いから。このページ・・・見てみ、見てみ」

憂 「・・・ごくっ」


パラパラ・・・


憂 「・・・あ」


そこには・・・

私の描いた絵が。「唯」の笑顔が。

私のペンネームと共に。


憂 「・・・あった」


ページの一隅にしっかりと。

確かに飾られていた。
328 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/08(木) 22:53:28.62 ID:CLQpFn2V0
純 「おめでとう、憂」

憂 「あ、ありがとう・・・」

純 「どう、感想は」

憂 「う、嬉しい・・・」

純 「だよね〜、へへっ。これで憂も、いよいよ漫画家さんの仲間入りですか」

憂 「え?いや、それはちょっと気が早いよ。だって・・・」

純 「ん・・・?」

憂 「ほら、ここ。読んでみて?」

純 「え〜〜〜〜っと・・・奨励賞・・・?」

憂 「うん」

純 「どういうこと?」

憂 「もっとがんばりましょうって事だよ」
329 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/08(木) 22:58:04.07 ID:CLQpFn2V0
純 「え?つまり、これでデビューが決まったわけじゃないの?」

憂 「あはは、まさかだよー。初めての投稿だったんだもん。そんなトントン拍子にいくはずがないよ」

純 「な、なんだ・・・どうりで小さくしか載ってなくておかしいと思ったら、そういう事だったのか・・・」

憂 「えへへ、うん」

純 「えーい、なんだこの本め、ちょこざいな!ぬか喜びさせおってからに!」

憂 「そんな事ないよ。ちょっとだけね、自信ついちゃったから」

純 「え、どうしてー?」

憂 「だって、その初の投稿で、こうして賞をもらえたんだよ?それにほら・・・」

純 「・・・ん?」

憂 「小さくても、私の名前と描いた絵がね。こうして印刷されて、全国に届けられてるんだよ」

憂 「すごい・・・それってすごい事だよね」
330 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/08(木) 23:00:13.17 ID:CLQpFn2V0
喜びで胸が震える。

私は私の夢を紡ぐため、その第一歩を投稿という手段で踏み出した。

その結果がこうして今、一つの形となって私の手元に届けられたんだ。


憂 「・・・まだまだ小さな”結果”に過ぎないけれど、私は着実に前に進んでいるんだ・・・」


その事が実感できた感動。

感激するなって言うほうが、無理というものだ。

331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/08(木) 23:03:10.61 ID:CLQpFn2V0
純 「そっか、なるほどね。分かるけど、でもまぁ。前向きだねぇ・・・」

憂 「そんなしみじみ・・・先はまだまだ長いからね」

純 「という事は、憂の挑戦はこれからも続くって事ですか」

憂 「当然!むしろ、ここからだよ。私の夢の物語は、まだまだ始まったばかりだ!て感じかな」

純 「じゃ、私はその物語をこれからも楽しみに、憂の側で見続けさせてもらうとするね」

憂 「・・・うん。純ちゃん、私を見ていて。ずっと、ずっとね。側で見ていてね」

純 「もちろん。憂の夢が叶って物語が完結するまで、私は応援し続けるからさ!」

憂 「・・・うん!」

純 「なんせ私は、憂のファン第一号なんだからね!」

憂 「えー、なにそれ」

純 「あははっ」

憂 「ふふっ」
332 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/08(木) 23:09:57.42 ID:CLQpFn2V0
・・・ありがとう、純ちゃん。

純ちゃんは私が落ち込んでいる時、沈んでいる時。

必ず私の側にいて、陽の光のような笑顔で凍てつく心に温もりをもたらしてくれた。

中学生の頃から今に至るまで、そんな彼女の明るさにどれだけ救われてきた事だろう。

そして、今も・・・


『ホウカゴハイツモ アレヤコレヤテンヤワンヤ ダッタ〜♪』


純 「あ、憂。電話じゃない?」

憂 「・・・うん」

純 「・・・」

憂 (この着歌・・・和ちゃんからだ)

純 「??出ないの?」

憂 「・・・出るよ。純ちゃん、ちょっとゴメンね」

純 「ごゆっくり」


そう、今も。

純ちゃんが側にいてくれるから、何を聞かされたって前向きな私でいられる・・・
333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/08(木) 23:24:02.81 ID:CLQpFn2V0
憂 (ピッ)「・・・はい。和ちゃん・・・うん・・・うん・・・」

純 「・・・」


(数分後)


憂 「わざわざ電話してくれてありがとうね」

憂 「・・・おめでとう、和ちゃん」

純 「・・・」

憂 「うん、うん・・・うん。それじゃ、お姉ちゃんにもよろしく。気をつけて帰ってきてね」(ピッ)

純 「・・・憂」

憂 「・・・ごめんね、お待たせ」

純 「いや、そんなに待ってないけどさ」

憂 「えへへ、そっか」

純 「うん。それよりもさ、憂・・・」
334 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/08(木) 23:25:34.33 ID:CLQpFn2V0
憂 「あ、そういえば!私、うっかりお茶も出してなかったね。失敗失敗!今、煎れてくるからちょっと待ってて」

純 「いや、お茶とか良いから」

憂 「え・・・だって・・・」

純 「憂、どうかしたの?」

憂 「・・・?なにが?」

純 「なんの電話だったの?」

憂 「なんのって・・・」

純 「・・・」

憂 「・・・うん。あのね、お姉ちゃんにね。とっても良い事があったんだ。今のはね、その報告の電話だったの」

純 「良い事・・・?」

憂 「そうだよ。だからね、今の私。すっごくすっごく嬉しいんだ」

純 「・・・そっか」

憂 「うん!ああ、今日は本当に良い日だなぁ。嬉しい事がこんなに続いて、あはは。なんだか夢みたい」

純 「ね・・・今の電話って、もしかして・・・」

憂 「・・・お姉ちゃんにね、恋人ができました」
335 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/09(金) 18:27:06.38 ID:08jQDpgQo
和『唯と付き合うことになったわ』

憂「骨の一欠片残さず粉々にしてやる!」
336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/09(金) 20:45:57.46 ID:J9OMZkgP0
>>335

それじゃ話が終っちゃうじゃないですかー。

再開します。
337 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/09(金) 20:47:23.82 ID:J9OMZkgP0
純 「・・・」

憂 「相手の人はね、とっても良い人。いつもお姉ちゃんの事を気遣ってくれて、一番に考えてくれる・・・こんな人、他にはいない。それくらい良い人」

憂 「そんな人と両想いになれたんだもん。これからお姉ちゃんの上には、たくさんの幸せが舞い降りること間違いなしなんだ」

憂 「お姉ちゃんの幸せは私の幸せ。だからね、私はね。嬉しくて嬉しくて・・・まるで夢みてるみたいで・・・」

純 「う、憂・・・」

憂 「だから私も幸せ。なんてね、えへへ。ちょっと臭かったかn
純 「憂っ」(ぎゅっ)

憂 「え・・・ちょ、純ちゃん?どうしたの、急に抱きしめたりして・・・て、照れちゃう・・・」

純 「憂・・・辛そうな顔してる・・・」

憂 「え」
338 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/09(金) 20:51:10.00 ID:J9OMZkgP0
純 「今の憂、辛い事を抱え込んで。それを胸の内に押し込んで、無理して笑ってる。そんな顔をしてる」

憂 「そ、そんなことはないよ。な、なんでそんなこと、純ちゃんに分かるの?」

純 「わかるよ。だって私、ずっと憂を見てきたもん」

憂 「・・・ええ??」

純 「嬉しいときの顔、悲しいときの顔。どんな時、憂はどんな顔をするのかって。それくらい、すぐにわかるから」

憂 「純ちゃん・・・」

純 「それに、影に日向にお姉さんを支えていた憂の姿、ちゃんと見てきたから。だから憂がね、どれだけお姉さんのこと・・・」

純 「中学生の頃から変わらず、お姉さんのことを想ってきたか。私、ちゃんと分かってるから・・・」

憂 「・・・」
339 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/09(金) 20:54:10.98 ID:J9OMZkgP0
純 「きっとさ、憂は嘘は言ってないんだよね。お姉さんの幸せをね、本当に喜んでいるんだ」

憂 「・・・」

純 「でもだからって、もう一つの感情を押し[ピーーー]必要はないんじゃないかな。だって、このままじゃ憂・・・」

純 「悲しい事を悲しいと認めることもできないで、辛い事に気がつかないふりのままで・・・そんなの・・・」

純 「そんな憂を見てるの、私だって悲しすぎるからっ・・・」

憂 「だ、だって私・・・もう、後ろ向きになったりしないって、あのとき心に決めたんだもん。だから・・・」

純 「じゃあ、悲しくないっていうの?」

憂 「・・・!じゅ、純ちゃんは私を悲しませたいの!?」

純 「そうだよ!」

憂 「・・・っ!」
340 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/09(金) 20:55:25.80 ID:J9OMZkgP0
>>339

三行目 「押し こ ろ す」です。
341 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/09(金) 21:08:54.71 ID:J9OMZkgP0
純 「辛いのやせ我慢して笑ってる憂なんか、見てられないんだ!こっちの胸まで締め付けられちゃうんだよ!」

憂 「だ、だったら・・・!だったらどうしたら良いの、私!?嬉しいんだよ?純ちゃんの言うとおり、本当に嬉しいの!」

憂 「嬉しいのに、こんなに胸が潰れそうに苦しくって!涙が溢れてきちゃいそうで!もう、どうして良いのか分からない!」

憂 「お姉ちゃんが幸せなら、私はどうなったって笑っていられるって思ってた。思ってたのに、どんどん切なさがこみ上げてきて・・・」

憂 「それ、必死に耐えてるのに!純ちゃんがいてくれたから耐えられてたのに!」

純 「憂・・・」

憂 「なのに、その純ちゃんが・・・純ちゃんに・・・そんな風に言われると、私っ・・・」
342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/09(金) 21:12:13.60 ID:J9OMZkgP0
純 「憂・・・喜びと悲しみがね。心ん中に同居するのって、ぜんぜん矛盾しないと思う・・・だから、だからね」

純 「自分の気持ちに素直になっても、それは後ろ向きになる事ではないと思うんだ・・・」

憂 「す、素直に・・・?」

純 「うん」

憂 「・・・」

純 「・・・」

憂 「・・・私を悲しませたいって言ったよね?」

純 「うん」

憂 「素直になれって。・・・言ったよね?」

純 「うん」

憂 「言ったからには、責任を取ってもらうから・・・」

純 「良いよ」

憂 「・・・胸、貸して下さい」

純 「・・・どうぞ」
343 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/09(金) 21:18:34.49 ID:J9OMZkgP0
ポスッと純ちゃんの胸に顔をうずめる。

とたんに私の顔全体を包み込む、柔らかな感触と純ちゃんの温もり。

その安心感を与えてくれる温かさは、まだ小さい頃。

お姉ちゃんと一つの布団で抱きあいながら眠った、あの頃の心地よさにも似て・・・


憂 「・・・うっ。う・・・えぐ・・・」


何とかせき止めていた私の瞳を決壊させて、涙を溢れさせるのに十分すぎる威力を持っていた。


憂 「〜〜〜〜〜〜っ」ポロポロ

純 「・・・」ギュッ
344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/09(金) 21:30:20.66 ID:J9OMZkgP0
憂 「じゅ、純ちゃん・・・わ、私・・・え・・・え・・・」

純 「うん・・・」

憂 「やっぱり悲しいよぉ・・・うああああああああああああん」

純 「うん・・・うん」

憂 「物心つく前からずっと好きだったお姉ちゃんに、恋人ができちゃった・・・うああああああああああん」

純 「うん、うん」

憂 「いつかはこうなる事、ずっと覚悟していたのに。やっぱり悲しいよ・・・うああああああああああん」

純 「うん」

憂 「うあああああああああん!うあああああああああああん!」
345 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/09(金) 21:34:44.39 ID:ZbH2+g1SO
せめて離れる時は「今日はここまで」くらいってレスしてくれや
346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/09(金) 21:45:04.05 ID:J9OMZkgP0
>>345

すみません。

ご迷惑をおかけしました。
347 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/09(金) 21:46:03.00 ID:asMiUEF+o
目欄にsagaって入れるとピーとかならなくなるよ
sageじゃなくてsagaね
348 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/09/09(金) 21:46:53.15 ID:J9OMZkgP0
・・
・・


憂 「う・・・えぐっ・・・」

純 「まだ・・・落ち着けない?」

憂 「ご、ごめっ・・・う・・・えぐっ・・・」

純 「・・・憂」スッ

憂 「うっうっ・・・ひっぐ・・・え・・・?」


ちゅっ


憂 「・・・!?」

純 「どう・・・?」

憂 「ど、どうって・・・純ちゃん・・・私のほっぺたに、キ、キス・・・」

純 「落ち着いた?」

憂 「あ・・・え・・・?」
349 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga]:2011/09/09(金) 21:50:54.18 ID:J9OMZkgP0
>>347

以前も教えてもらったのに、失念していました。

お見苦しいところをお見せしました。情けない・・・

教えてくださり、ありがとうございます。
350 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga]:2011/09/09(金) 21:52:55.31 ID:J9OMZkgP0
純 「昔さ。私が腕を怪我したときね。憂、私の痛いところにキスしてくれたよね。痛みが早く引くようにって」

憂 「・・・あ」

純 「覚えてる?」

憂 「う、うん・・・でも、あれは・・・キスって言うより、唾を・・・」

純 「今度は私が。心を傷つけてしまった憂に・・・早く痛いのなんか飛んで行っちゃうように」

憂 「純ちゃん・・・あ」

純 (ちゅっ)

憂 「ひっぐ・・・」

純 「傷が塞がるまで、何度だってキスし続けてあげるね」

憂 「で、でも純ちゃんのキス、ちょっとくすぐったいかも・・・」

純 「慣れてないんだから、ぜいたく言わない(ちゅっ)」

憂 「くすっ。・・・ひっぐ」
351 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga]:2011/09/09(金) 21:59:26.02 ID:J9OMZkgP0
純 「あとね。今日は私、憂が元気になるまで、ずっと一緒にいてあげる」

憂 「・・・ほんとう?」

純 「ううん、今日だけじゃなく。これから先もずっと。ずっとね、私。憂の側にいるから・・・だから・・・」

憂 「純ちゃん、純ちゃん・・・うあああああああああん・・・」

純 「また泣く〜」

憂 「だって・・・うあああああん」

純 「憂・・・落ち着いたらさ。パッと街にでも繰り出そう」

憂 「うああああああああああああん」

純 「憂がさ、夢の出発点に立った事と。お姉さんの幸せの訪れ。二人でお祝いしよう」

憂 「うああああああああああん・・・う・・・ひぐっひぐっ・・・」

純 「今日は、純ちゃんがドンッと奢っちゃるからさ」
352 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga]:2011/09/09(金) 22:06:09.22 ID:J9OMZkgP0
純ちゃんの暖かな優しさが心に染みて・・・

涙はおさまるどころか、ますます奥から奥から滲み出してくる。

いったいこれだけの涙、今まで瞼の奥のどこに隠れていたんだろう。

そんな疑問が湧いて出るほどに、あふれ出してとめどなく頬を濡らす。


憂 「わ、私・・・バニラシェークが飲みたい・・・」

純 「・・・よしよし、特別にLLサイズを進呈しようじゃないの!さらにナゲットのおまけ付き!」

憂 「うん・・・ふふっ、太っ腹・・・」スン

純 「とーぜん!」   


・・
・・


この日。

夢への展望が開けた記念すべき、夏のとある日。

私、平沢憂は失恋しました。


第八話へ続く!
353 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga]:2011/09/09(金) 22:07:25.21 ID:J9OMZkgP0
たぶん次の話で完結できると思います。(たぶんですが)

ではまた、次回もお付き合いいただけたら嬉しいです。
354 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/11(日) 20:44:48.97 ID:EMesiGNIO
乙!楽しみだ
355 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga]:2011/09/11(日) 23:17:52.21 ID:afOH0XAY0
再開します。

これで最後。短いので一気に行きます。
356 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga]:2011/09/11(日) 23:18:44.48 ID:afOH0XAY0
そして日々は、常と変わらず移り変わってゆく。

ゆったりゆるゆると流れ行く、私たちの日常。

でも。そんな変わらない日々の中でも。

私たちの内面では、ゆっくりゆっくり少しずつ。

緩やかに、けれども確実に何かが変わってきている。
357 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga]:2011/09/11(日) 23:19:38.87 ID:afOH0XAY0
最終話 憂「えぴろーぐ!」
358 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga]:2011/09/11(日) 23:22:26.20 ID:afOH0XAY0
とある朝!平沢家!!


憂 「お姉ちゃん、朝だよー!はやくご飯食べちゃって?遅刻するよー!」

唯 「あーい・・・おふぁよぉ、憂〜・・・」

憂 「おはよ、お姉ちゃん。トースト、もう焼けてるからね」

唯 「ありがとー・・・いただきまふ・・・」ペタペタ

憂 「はい、おあがりなさ・・・お姉ちゃん!それ、ジャムじゃないよ!ご飯ですよだよ!」

唯 「ぱくっ・・・んぐ!?おえー・・・」

憂 「ああ・・・遅かった・・・」

唯 「憂〜まずいよ〜」ウワーン

憂 「まったくもう・・・待ってて、新しいの焼いてあげるから」

唯 「はーい。それにしても、合わないもんだねぇ。江戸ムラサキとトーストって」

憂 「それはそうだよー」
359 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga]:2011/09/11(日) 23:24:21.13 ID:afOH0XAY0
唯 「・・・あ、そだ。憂、あのね」

憂 「なぁに、お姉ちゃん」

唯 「今日の帰り、少し遅くなるから。和ちゃんとね、ちょっと約束があるの」

憂 「・・・そうなんだ」

唯 「うん。晩ご飯までには帰るからね!」

憂 「あまり遅くなっちゃダメだよ。気をつけて帰ってきてね?」

唯 「うん。ありがと、憂!」

憂 「えへへ、ううん」

唯 「あむあむあむ・・・ごっくん。ふぅ、ごちそう様!」

憂 「食べ終わった?それじゃ、そろそろ出よっか」

唯 「うん!」


そう、まるで亀の歩みのように。

何かが少しずつ、変わっていく。
360 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga]:2011/09/11(日) 23:28:29.30 ID:afOH0XAY0
通学路!


憂 「あ、お姉ちゃん。私、ちょっと寄るところあるから。先に行ってて?」

唯 「え・・・だって寄り道してたら遅刻しちゃうよ?どこに行くの??」

憂 「うん、ちょっとね。すぐに済むから遅刻しないよ。心配しないでね?」

唯 「すぐ済むんだったら、お姉ちゃんも一緒に行く!そんで待ってるよ!」フンス

憂 「ううん、大丈夫だから学校に行ってて。じゃ、また後でねー!」タッタッタ

唯 「あ、憂ー・・・行っちゃった。どうしたんだろうー???」

和 「・・・唯?」
361 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga]:2011/09/11(日) 23:31:30.53 ID:afOH0XAY0
唯 「あ、和ちゃん。おっはよー」

和 「おはよう。・・・あそこ、走っていくのって憂よね?学校とは別方向だけど、どうかしたの?」

唯 「分からないけど、なんか用事があるんだって。どうしたんだろう」

和 「ふぅん」

唯 「学校遅れちゃわないかな・・・?うう、心配だよぉ」

和 「平気じゃない?」

唯 「あっさり。和ちゃん、冷たいねぇ」

和 「いや、これが駆け出していったのが唯だったら、心配にもなるんだけれどね。憂なら、なんと言うか安心」

唯 「むっ。それってどういう意味かな」

和 「言葉通りの意味だけど」

唯 「むぅーー・・・」

和 「ほら、ふくれてないの。私たちも行きましょ?」

唯 「はいはい、分かったよー」
362 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga]:2011/09/11(日) 23:34:49.80 ID:afOH0XAY0
和 「・・・」

唯 「ぶつぶつ」

和 「・・・」

唯 「ぶつぶつぶつ」

和 「もー・・・いつまですねてるの?」

唯 「だって、和ちゃんがさー」

和 「ちょっとした冗談じゃない。もう、仕方がないわね」


ギュッ


唯 「ひゃっ」

和 「手、繋いで行こうか。人通りが多くなる所までだけれど」

唯 「う・・・うん・・・///」

和 「ふふっ。ねぇ唯、今日の放課後は何をして遊ぼうか?」

唯 「う、うん!お互い生徒会や部活があって、思うように遊べないもんね。今日は久々に予定が合ったんだし、色々楽しみたいなぁ」

和 「じゃ、キチンと予定をたてておかないとね。貴重な時間、唯との大切な時間を一分でも無駄にしないように」

唯 「そうだね!じゃあね、じゃあね・・・えっと、まず一番最初に行きたい場所はねぇー・・・」
363 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga]:2011/09/11(日) 23:38:21.46 ID:afOH0XAY0
・・
・・


通学路!別の場所!!

憂・純・梓の待ち合わせ場所!


純 「梓、おっはよー!」

梓 「あ、純。おはよう」

純 「・・・?」キョロキョロ

梓 「憂ならまだ」

純 「へぇ、憂が最後なんて珍しいねぇ」

梓 「だね。最後にギリギリになってやってくるのは、純の専売特許みたいなもんだもんね」

純 「えー、そんなことないじゃん。そんなん、たまにじゃん。たまに」

梓 「そーだったかなー。どーだったかなー♪」

純 「いじわるなヤツめ」

梓 「あはは」
364 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga]:2011/09/11(日) 23:41:15.40 ID:afOH0XAY0
純 「・・・むぅ」キョロキョロ

梓 「・・・」

純 「憂、まだかなー・・・」キョロキョロ

梓 「純、ちょっとは落ち着きなって」

純 「だってー・・・」

梓 「ほんっと、純は憂がいないと色々とアレだよね」

純 「あれってなんだ」

梓 「ていうかさ、ほんと憂と純。いっつも一緒にいるよねぇ」

純 「え、そうかな?」

梓 「感心しちゃうくらい」

純 「んー。普通でしょ、普通」

梓 「ううん。なんかさぁ、もう。二人でワンセットってくらい。最初、付き合ってんじゃないのって勘ぐってしまったほどだよ?」

純 「あ・・・あほか・・・///」

梓 「赤くならないでよ、冗談じゃない。マジで照れられると、こっちまで照れちゃうから///」

純 「ご、ごめん」
365 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga]:2011/09/11(日) 23:43:54.23 ID:afOH0XAY0
梓 「で、でもさ。付き合ってるは冗談にしても、ほんと二人は仲が良いよね。中学から一緒だったんでしょ?」

純 「うん」

梓 「最初ふたりと知り合ったころ、ちょっと不思議だったんだよね。何でこの二人が、こんなに仲がいいんだろうって」

純 「ん・・・?どゆこと?」

梓 「だってさ、あまり純と憂って共通点が無さそうじゃない。憂は優等生タイプだし、純はどっちかと言うと・・・」

純 「・・・言わないで」

梓 「ま、まぁ正反対なタイプ同士、どうしてこんなに気が合ってるんだろうなって。何でなんだろうなって思ってたのね」

純 「・・・」

梓 「あ、ごめん。気を悪くさせちゃった?」

純 「んーん。違うよ。えっとね、憂ってさ・・・」

梓 「うん」

純 「本当に、超がつくくらい。まっすぐで一途で・・・いい子なんだよ」

梓 「うん?うん・・・それは分かるよ」
366 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga]:2011/09/11(日) 23:48:17.71 ID:afOH0XAY0
純 「そんな超一途な憂はさ、まっすぐ過ぎて、時に心の針が極端から極端に振り切れてしまう事があるんだ」

梓 「それって、どういうこと・・・」

純 「ごめん。具体的なことは伏せさせてもらうけど。でも、そういう事が過去に何度かあってね」

梓 「・・・」

純 「だからさ、私。憂を放っておけない。側にいなくちゃって、そう思ってるんだ」

梓 「純、あんた・・・」

純 「ほら、いい加減な私が側にいることで、ちょうど良いバランサーになれればなって。あはは」

梓 「ふぅん・・・純ってさ。何にも考えてないようで、けっこう色々考えてたんだね」

純 「んっ!?それって褒めてるの?けなしてるの!?」

梓 「あは、ごめんごめん。でもさ、憂のためにそこまで考えてあげられるんだもん。純って本当に・・・」

純 「・・・なに?」

梓 「憂のこと、大好きなんだね」

純 「っな!?///」
367 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga]:2011/09/11(日) 23:51:00.91 ID:afOH0XAY0
梓 「そこで赤くならないでよ。友達としてって意味に決まってるでしょ」

純 「わ、分かってるよ!赤くなんかなってないよ!もとから赤ら顔なんだよ!」

梓 「えーー・・・そんな慌てなくても良いのに。純が憂の事を大好きなのは、知り合ってすぐに分かっちゃってた事なんだから」

純 「は?どゆこと・・・?」

梓 「あのね、入学して二人と同じクラスになれて。それで、一番最初に目に付いたのが純だったから、かな」

純 「意味がわからにゃい・・・」

梓 「正確に言うと、憂と一緒にいる純だったから、てことになるのかな」

純 「ますます意味が???」

梓 「憂と一緒にいる時の純がね、すごい良い笑顔だったから」

純 「・・・え」
368 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga]:2011/09/11(日) 23:53:49.27 ID:afOH0XAY0
梓 「見てるこっちまで引き込まれちゃうような笑顔でさ。ああ、この子は友達の事を本当に大切に思ってるんだなって。分かっちゃったんだ」

純 「・・・」


(純 「平沢さんがお姉ちゃんを好きなこと、知ってたから」)

(憂 「・・・え?」)

(純 「うん、知ってたよ」)

(憂 「な、なな、なんで・・・?」)

(純 「すっごい良い笑顔だったから!」)


純 「・・・私」

梓 「ん?」


(純 「平沢さんがお姉さんと一緒にいる時の笑顔。見てるこっちまでほだされちゃうような、最高の笑顔だった!」)

(憂 「え?え?」)

(純 「たまたま、ね。二人が一緒にいる所を見ちゃってさ。でね、そんな平沢さんを見て。ああ、良いなぁ。良い笑顔だなぁって」)
369 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga]:2011/09/11(日) 23:56:31.13 ID:afOH0XAY0
純 「私、もしかして・・・」

梓 「純?純、どうしたの??」


(憂 「ね、鈴木さん。私がお姉ちゃんにこんなにこだわるのは、どうしてだと思う?」)


純 「わ、私っ///」


(憂 「・・・私、お姉ちゃんが大好き。姉としてだけじゃなく、一人の女の子として・・・」)


純  ボンッ!!ぷしゅー・・・

梓 「うおお、純が煙ふいた!い、いったい何がどうしたっていうの!?ていうか、暑苦しい!」

純 「ひ、ひどいね・・・まぁ、気にしないでくれたまえ・・・」

梓 「???」
370 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga]:2011/09/11(日) 23:58:39.73 ID:afOH0XAY0
梓 「それにしても憂、本当遅いね?そろそろ行かなきゃ遅刻・・・」

憂 「純ちゃん!梓ちゃん!おはよー!!」テッテッテ

梓 「お、噂をすれば影。おはよう、憂」

憂 「おはよう、梓ちゃん!純ちゃんも。遅くなっちゃってゴメンね」

純 「う、うん・・・///」

憂 「・・・?」

梓 「憂が時間ギリギリに来るなんて珍しいよね。なにかあったの?」

憂 「う、うん。実はちょっとコンビニによってて。それで遅くなっちゃったの」

純 「コンビニ・・・あ、その袋・・・雑誌・・・かな??」アセアセ

憂 「うん・・・」

純 「あっ!もしかして!」

憂 「うん」

梓 「??なに?なんなの??」
371 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga]:2011/09/12(月) 00:01:28.18 ID:8Ols8Z0f0
純 「梓には話してたよね、憂の夢のこと」

梓 「漫画家さんでしょ、それが・・・て、もしかして??」

憂 「そうなの。この前投稿した分の結果発表が載る号が、今日発売だったの。いてもたってもいられなくって・・・」

純 「朝一で買ってきちゃったってわけか」

憂 「えへへ・・・」

純 「そ、それで結果は・・・?」

梓 「もう確認したの?」

憂 「しちゃった・・・」

純 「なんだよー!そういうのは一緒に見ようよ、もー!」

梓 「落ち着きなってば・・・で、憂。どうだったの?」

憂 「・・・」ガサゴソ

純 「ごくっ」

憂 「このページを・・・」パラパラ

梓 「・・・」

憂 「見てっ」バンッ!

純 「・・・」

梓 「・・・」


純・梓 「おおーーーーーーーーーーーーーー!!!」
372 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga]:2011/09/12(月) 00:04:42.69 ID:8Ols8Z0f0
・・
・・


変わらぬ日々。

それでもその中で、少しずつ変わってゆく私たち。

その変化が、変わらないはずの毎日をちょっとだけ良い方向に軌道修正してくれる。

それをきっと人は”成長”って呼ぶんだ。


私一人だけじゃ変われない。

日常を一緒に過ごしてくれる、大好きな人がいる。

今にしかいない自分と、今にしかいないその人と。

今しか過ごす事のできない日常の瞬間を過ごしてはじめて。

私は”今の私”の一歩先を進む事ができるようになるんだ。

成長・・・してこられたんだ。
373 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga]:2011/09/12(月) 00:07:22.42 ID:8Ols8Z0f0
憂 「・・・純ちゃん」

純 「ん、なに?」


だから・・・成長を見守り助けてくれた、その人のことを。


憂 「・・・あ、えと」

純 「んー??」


私、愛おしいと思ってる。


純 「なになに?」

憂 「・・・や。なんでもない」

純 「なんだそれ!」

憂 「だって・・・///」

梓 「今度は憂が赤かくなってるよ?なんというシンクロ具合。ユニゾンかっての」

憂 「え///」

純 「や、私は赤くなんかなってないしね。赤ら顔は元からだしね!」
374 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga]:2011/09/12(月) 00:10:27.87 ID:8Ols8Z0f0
今日は昨日と違った、どんな自分になれるだろう。

どんな、純ちゃんの顔を見ることができるんだろう。


梓 「はいはい。よく分からないけどさ。あんたたちって、本当いいコンビだよね」

憂 「そんなの」

純 「当然でしょ!」


また今日も、変わらない日常が幕を開ける。


おしまい


375 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga]:2011/09/12(月) 00:15:00.38 ID:8Ols8Z0f0
三ヶ月にわたりダラダラと書かせていただきましたが、何とか完結させる事ができました。

テーマは友情と成長と青臭いむずがゆさ。

読んでいて、むずがゆい気持ちになっていただけたなら、作者としては大成功です。


それではまた。

次回作(があれば)でも、お付き合いいただけたら幸いです。

ありがとうございました。

(HTML化は明日にでも申請します)
376 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/09/12(月) 00:37:51.99 ID:R7O3Kl6+o
乙!
楽しめた
377 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/09/12(月) 07:11:48.07 ID:FENJEVaAO
378 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/09/12(月) 08:08:05.72 ID:4L20ROXq0
乙!
ありがとー!
379 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/12(月) 15:08:35.35 ID:oM2IHIRoo
一気に読んだ
良かった
380 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/16(金) 10:19:40.41 ID:g4tFpZIyo
結局憂純か。
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