他の閲覧方法【
専用ブラウザ
ガラケー版リーダー
スマホ版リーダー
DAT
】
↓
VIP Service
SS速報VIP
SS速報VIP 過去ログ倉庫
検索
すべて
本文
タイトル
投稿者
ID
このスレッドは
SS速報VIPの過去ログ倉庫
に格納されています。もう書き込みできません。。
もし、このスレッドをネット上以外の媒体で転載や引用をされる場合は
管理人までご一報
ください。
またネット上での引用掲載、またはまとめサイトなどでの紹介をされる際はこのページへのリンクを必ず掲載してください。
シャルロッテ「病気をなおして!」 【まどマギss】 -
SS速報VIP 過去ログ倉庫
Check
Tweet
1 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 18:17:16.51 ID:G+dXZQyK0
恐れ多くも、空気を読まず、このシャルロッテ編に手をつけてみます。ISじゃないよ。
尚、原作キャラはQB先輩しか出て来ません。オリキャラの集まりなので
ご了承ください。後、シャルロッテは名前を変えるともう何のスレか分からなくなるので
シャルロッテちゃんで行きます。重ねてご了承ください。
全部あわせると79000wordくらいあるという超ダラダラ作。これ2スレ行くだろ……。
マジで「暇なら」くらいのつもりで見てやってください。 orz (深々…
それじゃあレッツラゴー
1.5 :
荒巻@管理人★
(お知らせ)
[
Twitter
]: ID:???
【 このスレッドはHTML化(過去ログ化)されています 】
ごめんなさい、このSS速報VIP板のスレッドは1000に到達したか、若しくは著しい過疎のため、お役を果たし過去ログ倉庫へご隠居されました。
このスレッドを閲覧することはできますが書き込むことはできませんです。
もし、探しているスレッドがパートスレッドの場合は次スレが建ってるかもしれないですよ。
少し暑くて少し寒くて @ 2024/04/25(木) 23:19:25.34 ID:dTqYP2V2O
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1714054765/
渾沌ゴア「それでもボクはアイツを殺す」 @ 2024/04/25(木) 22:46:29.10 ID:7GVnel7qo
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714052788/
二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714049241/
佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713966248/
全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/
君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/
笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713869982/
【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713861164/
2 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 18:17:51.99 ID:G+dXZQyK0
「僕と契約して、魔法少女になってよ!」
その日、わたしは魔法少女になった――。
3 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 18:19:24.74 ID:G+dXZQyK0
魔法少女まどか☆マギカ
シャルロッテ編
4 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 18:20:10.49 ID:G+dXZQyK0
病院/
「ねぇ看護婦さん」
「どうしたの? シャルロッテちゃん?」
「チーズたべたい」
白いベッドの上の少女は不満そうな顔をして看護婦に言う。
看護婦のほうも、またかと思いつつも表情には出さず、優しい声色で言う。
「ごめんね? ずっと探してるんだけどみつからないのよ」
「むー……」
「シャルロッテちゃんが頑張ったらチーズも向こうからやってくるよー」
「……ほんとに?」
「ほんとほんと! じゃあ、いい子でいてね。なにかあったらこのボタンを押すのよ」
「はぁい」
その返事を聞くか聞かないかのところで看護婦はきびすを返す。
5 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 18:21:52.07 ID:G+dXZQyK0
「…………うそつき」
シャルロッテは11歳、小学校も高学年である。ここ一年学校に通っていないとはいえ、
いまさらそんな嘘にだまされるわけはなかった。だがけっして冷めているわけではない。
未だに朝のテレビの魔法少女アニメは欠かさず見ているし、サンタクロースに手紙も書いている。
むしろ稀有なほどに純粋だった。だがそれも、いつも約束を破られ続けばわかるもので、きっと
今度もあの看護婦はチーズを持ってきてはくれないだろう、とシャルはおもった。
シャルは病気を抱えている。肝細胞癌という重い病気だ。シャルのガン細胞は1つに過ぎないがその
一つは血管内に及んでおり、6cmを超える大きさであり、しかも何時転移・増殖してもおかしくなく、
診断はステージ4(生存率は30%以下)とかなり危険であった。
そんな中でチーズはご法度だった。チーズは食中毒の危険性があり、肝機能が弱まっていれば重症に
なったり、治療スケジュールに変化が生じてしまうため、化学療法中は禁止されていたのであった。
6 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 18:22:47.69 ID:G+dXZQyK0
夕方/
「シャル。元気にしてたか?」
「パパ!」
シャルはベッドから飛び出すなんてことはできないので、身体の上半身だけをうーんと精一杯父親に向けて伸ばす。
「まってたよぅ〜パパぁ!」
「ははは、それはパパとお菓子とどっちかな?」
「お菓子だよ!」
「は、はは……。シャル。いいかい、そういう時は『あなたを待ってました』って言うと男の人は喜ぶよ」
「アナタヲマッテマシタ!」
「うん。そんなシャルにはお菓子を上げよう!」
「いーやったぁ!」
シャルは渡されたお菓子を食べ始める。いつものビスケットである。治療中の食事制限は思ったよりも厳しい。
持ち込み食の殆どは断られるし、数少ない持ち込み可能なこの『お菓子』でも制限は設けられている。
シロップ、蜂蜜類ダメだとか生菓子はダメだとか。皮付きの果物も良くないし、それ以外でも開封後2時間以上のものは厳禁だった。
そんな食事制限の中で、シャルの父親は飽きさせないようにとなるべく豊富な種類のものを用意しようとするが、最近はネタ切れになってきている。
「〜〜♪」ハグハグ
だがシャルはそれをおいしそうに食べているようなので、ほっと安堵する父なのであった。
7 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 18:23:40.85 ID:G+dXZQyK0
シャルには現在、父親しかいない。シャルの母はすでに肝炎によって他界している。
父親が日本に帰国する1年ほど前のこと、シャルは4歳の頃だった。
彼は大学で学んだイタリア語と留学経験を武器に貿易会社のイタリア支店に勤務。
そこで同僚のドイツ人の妻と知り合い。結婚。そしてシャルが生まれた。現在は日本の本店で働いている。日本への帰国はそのためであった。
「パパ、パパ! アナタヲマッテマシタ! チーズも食べたいなぁ」
あなたを待っていました、を呪文か何かのように唱えるシャルロッテ。
彼女はお菓子も大好きだがそれよりもチーズが大好きなのである。
今でこそシャルは日本語に慣れ、日本式の生活を送っているが、本当に幼い頃はずっとイタリアに過ごしていた。
そこで食べていた、母親や店の料理を無意識のうちに求めているのだろうな、と思いシャルの父は少し辛くなる。
「ダメだよ。チーズはもっと元気になってから」
「えぇー……げんきだよー」
「だめだめ。もっともーっと元気になってから」
「ちぇー」
そういってシャルは布団の中にもぐりこむ。食べてすぐに寝るのは食道に良くないが入院している
シャルにはどういえばいいのだろうと、シャルの父は悩んだ。まぁ夕食前なので大した量は上げていないので
大丈夫だろうと思いシャルのベッドの傍のパイプ椅子に座る。
と、シャルの父はベッドの枕の上にシャルの髪の毛が散乱しているのを見つけ、軽くはたいて落としてやった。
8 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 18:24:52.93 ID:G+dXZQyK0
「……最近、痛いのは大丈夫か?」
「…………うん」
開いた間に、父は辛いのだろうと感じ取った。時折背中の激しい痛みうなされているということは
看護婦さんから聞いている。加えてこの脱毛。投与されている抗がん剤の新薬の影響を疑ったことがあったが、
医者からは「これは癌の症状。決して新薬の副作用ではない」とにべもなく返されてしまった。
「辛かったら言うんだぞ」
「うん……」
そして時間は過ぎていく。シャルの父親は面会時間のぎりぎりまで病室にいた。
9 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 18:25:46.96 ID:G+dXZQyK0
「――っ! ぅぅ……!」
深夜。病室のベッドの中、シャルは苦悶表情を浮かべもがいていた。
鋭い鈍痛という矛盾した表現が、これ以上無いくらいにピッタリと当てはまる痛みに必死で耐えていた。
掛け布団を噛んで、叫び声を上げないようにしていた。看護婦さんがやってくればきっとまたお医者さんは
また意地悪をして、入院を伸ばしてくる。だからシャルは声にならないように叫びを上げている。
「ぅ……ぁぐ!」
目尻には涙を浮かべ、喉は既にかれていた。それでも上げたくない叫び声は口から嫌というほどにあふれてくる。
ここ数ヶ月もの間、彼女は日増しに酷くなるこの地獄を生きてきた。いつか、元気になる、とその一心で生きてきた。
「ぃぁっ――っ゛!!」
父親に言えばもう少し楽になれただろうか? と、思いシャルは頭の中で否定する。頑張りたい。
これくらいの痛み、耐えてみせる。耐えなきゃいけないんだ。これ以上、わがままは、ダメだ。
そう思いたいのに、痛みは絶望を振りまく。今すぐにでも諦めたい衝動に駆られる。助けて欲しい。
この痛みから、生活から、救って欲しい。神様! 天使様! サンタクロースでもかまわない!
誰か、だれか――
「た、すっ……――っけて……!」
そして、それは現れた。
10 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 18:26:55.70 ID:G+dXZQyK0
「つらそうだね? 大丈夫かい?」
波が去ったのか痛みが引いていく中で、シャルは少年とも少女ともとれる声を聞いた。
「かわいそうに……痛かっただろうね」
徐々にクリアになっていく思考は、これを幻聴ではないと断じた。とすればこれはなんだろうとシャルは訝しみ、声のするほうへ目を向けた。
「こんばんわ」
11 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 18:27:31.66 ID:G+dXZQyK0
目が合うや否や、それは挨拶をしてきた。神様かな? いや、天使のほうが近いかも。
少なくともサンタクロースではなさそうだとシャルは思う。純白の身体に、金色の……輪? が二つ。
生き物というよりぬいぐるみに近いそれを、シャルはとりあえず天使と呼ぶことにした。
「……こんばんわ。……天使、さま?」
「あはは。天使か。なるほど人間にはそう見えるかもしれないね」
天使はさも愉快そうに笑う。だがシャルは何故か天使が本当に愉快であるようには見えなかった。
「ぼくはキュゥべえ! 君の願いをひとつだけかなえてあげる!」
12 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 18:28:27.62 ID:G+dXZQyK0
「え……?」
シャルが驚いたのは言うまでも無い。なんてことだ。それではまるで、本当に天使ではないか!
「何だってかまわないよ。欲しかったお菓子でもいいし、チーズだっていい」
そして、とQBは紡ぐ
「君の病気を治すことだってかまわない!」
QBが紡いでいく言葉の一つ一つに、シャルは鳥肌が立っていく。驚愕、歓喜あらゆる感情が渦巻く。
心臓の鼓動は壊れそうなくらいに鳴って苦しさを確かに感じるのに、身体がまるで自分のものでは無いような
そんな非現実的な、夢であるかのような感覚に囚われた。
「だから……」
シャルの頬を涙が伝う。
「僕と契約して、魔法少女になってよ!」
13 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 18:36:20.26 ID:G+dXZQyK0
学校/
「シャルロッテです。シャルって呼んでください! よろしくお願いします」
わぁ、という声と共に子供らしいぱちぱちと音を立てる拍手が起こる。
あの後、シャルの病状は劇的な回復を遂げた。ガン細胞が瞬く間に消えてなくなったのである。
また、他の箇所に転移も見当たらなく、担当していた医者は「新薬の勝利だ!」と狂喜していた。
その子供らしい姿にシャルはばれないようにくすくすと笑う。いつもは嫌な先生だったけど、今日
はとても気分がよかったから、そんな姿を可愛らしく感じていた。もしQBの魔法のおかげだなんて
言ったらどんな反応をするだろう? ショックを受けるかな? QBが凄いって褒められるかな?
とそんなちょっぴり意地悪な好奇心が芽生えてしまうほど、今日は良い気分だった。
数日間は念のためといってとても多くの検査を受けた。それはとても面倒くさくて、早く自由になりたかったが、
割と嫌な気分にはならなかった。一つ一つ検査の結果が出るたびに、シャルは自分が健康だと認識できた。
14 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 18:37:40.67 ID:G+dXZQyK0
朝の会、所謂HRが終わると1時間目が始まるまでの間に、シャルロッテの机の周りには人だかりが出来ていた。
「ねーねーシャルロットちゃんってハーフなんだよね!」
「うん! ドイツと日本のハーフだよ。育ったのはイタリアと日本だけど」シャルロッテダヨ…
「すごーい! 帰国子女って奴ー? かっこいいー!」
「いやーずっと日本で育ったけどね」
「シャルちゃんって、お菓子好きなんだよね? なにが好きなのぉ?」
「もう全部全っ部ぜーんぶ大好きっ! あとチーズもだーい好き!」
「イタリア料理の?」
「美味しいよ!」
「イタリア料理は知んないけど、美味しいソフトクリーム屋さん知ってるよ。今度一緒に食べにい
こーよー!」
「ほんとにっ!? いくいくー!」
シャルは久方ぶりの学校の雰囲気を目一杯浴びていた。光合成もかくやというほどに浴びるほどに
元気になっていった。病は気からというが、本当にそうかもしれない。
15 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)
[sage]:2011/06/19(日) 18:37:44.77 ID:hQ9XEVO40
期待。
そういえばpixivにこれっぽい絵があったぞ。
16 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 18:41:25.75 ID:G+dXZQyK0
>>15
完成直前に知ったwwww
だけどエンディングも経過も違うから大丈夫。ただ考察スレを元にしているので似通ってるとこあるけど……
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
「楽しそうでなによりだよ。シャルロッテ」
「あ、キュゥべえ!」
QBは音楽の教室へ移動している時に不意に窓から姿を現した。
「だ、大丈夫なの? こんな人が一杯いるところに来て……」
「大丈夫さ。僕はふつうの人間の目には見えないから」
そうはいっても少しこっちに視線が向いているような……
「当たり前だろ? だってつまり君は今一人で窓に向かって喋っているんだから」
「……はっ!」
ばっ、と勢いよく振り返る。すると彼ないし彼女らは目を合わせないようにそそくさと歩いていった。
「へ、変な子だって思われたぁ……」
「だろうね」
「もぅ! それならそうと始めに言ってよ!」
「言わせてくれる暇なんてなかったじゃないか」
QBの正論に、うぐ、と言葉に詰まるシャル。
「でも、それだったらキュゥべえを見ても話は出来ないってこと?」
17 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 18:42:21.41 ID:G+dXZQyK0
(そうでもないよ?)
「え?」
不意にシャルの頭の中にQBの声が聞こえた。この場合耳では無いから『聞こえる』といっていいのか非常に悩むところだが、
とにかく『聞こえた』という不思議な感覚だった。
(魔法少女になればこういう具合に心の中で会話できる。こうすれば大丈夫だろう?)
ええっと……
(こ、こうかな? あ、出来たっ!)
(そうそう上手いじゃないか! シャル。君には才能があるよ)
(そ、そうかなぁ〜……)
「えへへ……」
無意識のうちにシャルの照れ笑いは表に出ていた。が、その失態に気付いたときには遅かった。
「シャ、シャルちゃん? 急に笑ってどうしたの?」
そう。周りから見ればシャルは急に照れ笑いをしたおかしな子だった!
「うぁ、え、えっと、な、なんでもないよ! うん! ほんと!」
(……君は褒めないほうが伸びる子かな?)
(…………がんばります……)
18 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 18:43:18.01 ID:G+dXZQyK0
夕方/
一日、久しぶりの学校にくすぐったい喜びを感じ、楽しく過ごした。
その帰り道。シャルはQBと一緒にソウルジェムを片手に町を探索していた。
「あっちに反応があるね。もしかしたら初日で魔女と出会えるかもしれないよ?」
「うー……魔女かー」
シャルはもっと幼かった頃、サンタクロースに加えて魔女のべファーナにも手紙を書いていた。
べファーナとはイタリアのサンタクロースみたいなもので、1月6日にプレゼントを配っていると言い伝えられていた。
しかもシャルの家は敬虔で熱心とは言えなかったがクリスチャンで、クリスマスのお祝いに12月25日にもプレゼント
を貰っていたので、欲しいものはよく冬にとっておいた記憶がある。もっともクリスチャンでなくとも、サンタクロース
の風習は浸透しているのだが。
「ねぇキュゥべえ。魔女って悪いの?」
「そうだね。魔女は人を惑わし、絶望に導こうとするんだ。運が悪ければ死ぬ人だっている」
19 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 18:45:07.13 ID:G+dXZQyK0
死ぬ、という言葉に一瞬ギクリと身体をこわばらせるシャルであったが、魔女の言い伝えなどそのようなものだと自分に言い聞かせた。
魔女狩りの異端審問が盛んに行われていたイタリア。良い魔女以外にも、悪い魔女の話だっていくらでもあった。
シャルはそれらの怖い魔女の絵を思い出し、ぶるりと身を震え上がらせる。
「大丈夫さ! 君は魔法少女だ! そう簡単には負けることは無いよ」
シャルは先立って、自分の魔法の確認はしたが、本当にあれで大丈夫かなという不安もあった。
「やっぱり怖いなぁ……」
ソウルジェムの光が強くなっていくに比例して、シャルの不安はまた強くなっていく。
光に導かれた先は人通りの無く仄暗い裏路地。夕暮れもあいあまってシャルにはより一層不気味に感じられるのであった。
「普通の女の子は戦わないよー……」
ふと、シャルはあの日の夜を想起する。
20 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 18:46:08.26 ID:G+dXZQyK0
『病気をなおして! 普通の女の子の生活に戻りたいの!』
この願いの後、シャルは見る見るうちにガンを克服し、異例の早さで退院。願いどおり、普通の女の子の生活に戻ることが出来た。
QBにはこの上ない感謝の念がある。天使の奇跡に報いるために悪い魔女をやっつけるのもかまわない。
が、シャルは生まれてこの方殴り合いの喧嘩なんてやったことはないし、戦いなんてもってのほかだ。
だから、不安は拭い去れるものではなく、悪いとは思いつつもつい愚痴をこぼしてしまう。
21 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 18:47:19.37 ID:G+dXZQyK0
「まぁ、確かに君の願いは普通の女の子に戻る、だったけどね」
「でしょー」
「でもそれとこれとは話が別だ。優先順位の問題だね」
「ゆーせんじゅんい?」
「シャルの普通の女の子になるという願いより、魔法少女の原則というシステムが勝ったということさ。
ま、当然だね。正直魔法少女にしてこのシステムに打ち勝とうというのならばありえないくらいの膨大な魔翌力が必要だ」
「???」
「……難しかったかい? つまりそう上手い話は無いってことさ」
「そっかぁ……」
「そ。もし出来るとするなら……そうだね、それこそ神様のような存在さ」
「うーん……。神様なら仕方ないかぁ……」
22 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 18:48:46.90 ID:G+dXZQyK0
その時、ソウルジェムが一際強く反応する。シャルはドキッっと身を硬くする。
「来たね。恐らくこの先だ」
「ぅ、うん」
シャルは深呼吸をして落ち着く。
「大丈夫……だよね?」
「勿論! 君には十分な才能がある。きっと強い魔法少女になれるよ! 負けやしないさ!」
「そっか……よーし!」
自分を救ってくれた天使、QBの言葉をうけ、シャルは幾万の味方を得たような心地になった。そうだ。わたしは魔法少女なんだ!
正義の味方なんだ。悪い魔女をやっつけなくっちゃ!
シャルはいつも見ていたアニメの主人公のように、自分に気合を入れると、ソウルジェムが光る方向へと導かれていった。
23 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 18:50:00.88 ID:G+dXZQyK0
「来るよ!」
「うわ! うわぁわわ!!」
先程まで居た小汚い裏路地の景色がまるで絵本で見た中世の館のような風景に変化する。
「気をつけてね。これから先はいつ攻撃されてもおかしくない!」
「うぇ? う、うん」
シャルは魔法少女の服に変身する。何度か試してはいたが、この変身するときの感触はまだなれない。
QBと話しながら長い赤絨毯の廊下を走っていると、大きな広間に出た。
するとそこかしこから毒々しい色彩のバラのような生き物が沸いてきた。
「あ、あれが魔女!?」
「いや、あれは使い魔だ! でも攻撃もしてくるし、人も襲う。倒しておかないとやっかいなことになる!」
そうこうしているうちに終結したバラたちはじりじりとシャルたちを包囲するようににじり寄ってくる。
24 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 18:51:50.22 ID:G+dXZQyK0
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
ここからは、魔女シャルロッテの【お菓子を生み出す能力】を基にした魔法をお送りします。
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
25 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 18:53:00.81 ID:G+dXZQyK0
「シャル! 魔法を使うんだ!」
「わ、わかった!」
シャルは武器である杖を取り出す。そして広間の花瓶に杖の先端を当てる。
すると花瓶はぼこぼこと変質し始め、それは大きなケーキとなった。
だがこのケーキ、形こそ大きすぎるホールケーキだがその材質は陶器のそれであり、しかも中身は空洞ではなく、ケーキの形をした岩といったほうがしっくりくる。そしてシャルがもう一度念じるとそのケーキが2つ、4つ、8つとポンと可愛らしい音を立てながら分裂していく。
「来た!」
バラたちはQBの声とほぼ同時くらいに一斉にシャルに襲い掛かる。
「今だ! シャル!」
「ぇ、ええぃ!」
シャルが杖を薙ぐように振るとそれに合わせて大質量の無数のケーキの岩がバラの使い魔たちを轢殺・圧殺していく。
そしてシャルはそれらのケーキを一度空中に浮翌遊させ、さらに近づいてきたバラたちに流星のごとく降り注がせる。
26 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 18:54:25.87 ID:G+dXZQyK0
「……終わった?」
シャルが周りを見渡すと、そこにはワゴンカーサイズの大量のケーキがあちこちに散乱しているというファンシーな風景があったが、
その実、大量の使い魔たちを殺戮した戦場である。使い魔にもし血があったなら、辺り一面真っ赤になっていたことだろう。
「すごいよシャル! 初めてなのに凄い戦果じゃないか!」
事前に魔法の使い方や戦法を考えてくれたのはQBであって、シャルは言われていた通りに魔法を行使しただけであったが、それでも自分の力を褒められるのは嬉しかった。
「そ、そうかな?」エヘヘ
「その調子で魔女を探し出そう!」
「もっちろんっ!」
このことから勢いに乗ったシャルロッテはQBの先導に付き従い、魔女の下へとひた走る。
27 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 18:55:27.12 ID:G+dXZQyK0
魔女の部屋/
『ィエヒャハハハハハ!!』
奇怪な声に怯えながら、一段と大きな扉を開けると、そこでは既に戦いが繰り広げられていた。
「だれかいる!」
シャルが指差す方には、剣を持った高校生くらいの少女と車椅子に乗った人間サイズのフランス人形がしのぎを削っていた。
「彼女は君と同じ魔法少女だよ」
「私のほかにもいたんだ」
と、そうしている内に少女はフランス人形に一撃を喰らわせようとした
「やった!」
だがシャルの喜びもつかの間、横から割って入ったバラの使い魔に邪魔されてしまう。
よく見ると周りには広間ほどではないが多数のバラたちがあちこちに点在していた。
「助けなくっちゃ……!」
28 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 18:56:56.95 ID:G+dXZQyK0
シャルは先程の陶器のカケラを再びケーキにし、増殖させる。だが先刻より小さく、量も少ない。
「いいかい? 彼女に当てないように慎重に狙うんだ」
シャルは集中して、まず一つ、勢いよくケーキの弾丸を1つ、使い魔に向けて射出する。バラはその弾丸の直撃に耐え切れず四散する。
「次だ! 奴らもこっちに気付いた! 気をつけて!」
「うん!」
シャルは飛び掛ってくる順にバラを迎撃していく。使い魔たちは剣の少女かシャルのどちらを標的にすべきか迷い始める。
だがそうこうしているうちにシャルの攻撃に散っていき、少女の剣は魔女に届き始める。そして、バラの数が7割がた削れたところで、
少女は魔女に止めを刺す。
「けしきが……!」
「魔女に勝ったんだよ」
空間が何かに吸い込まれていくように収束すると、風景は元居た裏路地の景色に戻っていた。
「初の魔女退治、お疲れ様、シャルロッテ」
「ふわぁ〜〜……」
29 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 18:58:20.63 ID:G+dXZQyK0
安堵から脱力するシャル。地面の上に座り込むのは良くなかったが、ハンカチを敷く余裕もなかった。
と、シャルは先程魔女と戦っていた少女が近づいてくるのに気がついた。
「ありがとう。助かったわ。あなた名前は?」
「あ、ぇと、シャルロッテです。こちらこそ魔女をやっつけてくれてありがとうございます!」
「シャルはついこの間魔法少女になったばかりの新人だ。先輩として助けてあげてね」
「もちろんよ。あぁ、私は高島和美。魔法少女歴は1年よ。よろしくね」
1年って凄いのかな? と、聞いてみようと思ったシャルロッテだったが二人の話が進んでいってしまい聞く機会を逃してしまった。
30 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 18:59:31.16 ID:G+dXZQyK0
「ところでシャルロッテちゃん」
QBと話していた和美が急に話を振ってきた。
「えと、シャルでいいですよ」
「そう、ありがと。シャル。あなたの魔法、あれはどういう魔法なの? 見間違いじゃなかったらケーキが
飛びまわっていたように見えたんだけど……。あなたの魔法ってお菓子を生み出す魔法なの?」
「いや、シャルの魔法は物質を質量法則を無視して変化させ、分裂・制御させるものだよ」
31 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 19:00:53.57 ID:G+dXZQyK0
「何でケーキ?」
「え、と。魔法少女、だし……可愛いかたちがいいかなって。材質は変わらないらしいですけど」
「……それってどういう武器なの?」
「いや、彼女は杖だったね。珍しく」
「杖……。指揮杖みたいなものかしら? とにかく変わった武器ね」
「で、でもそれで戦うことはできないですけどね」
「近接戦闘が苦手、か……ふーん」
「そうだ、和美! しばらくシャルと君でコンビを組んでみたらどうかな?」
32 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 19:02:19.20 ID:G+dXZQyK0
「そうね、悪く無いわ」
「いいんですか!?」
「えぇ勿論。歓迎するわ!」
「シャル。君は運がいいよ。和美たちは基本的に互いに協力する姿勢だからね。隣町のエリアだったらみんないがみ合っててこうはいかなかったよ」
シャルは何故魔法少女同士がいがみ合っているのだろうかと疑問に思った。和美はそれを察したように、ポケットから黒い物体を取り出した。
「それは……?」
「これはグリーフシードといって、魔女が落としていく……そうね、ボーナスアイテムって所かしら。これがあると……」
和美はシャルのソウルジェムにそれを当てる。するとソウルジェムが少しくすんでいたのが急に輝きを取り戻した。
「すごい!」
「魔法少女が魔法を使うのにはこのソウルジェムが綺麗であるのが大事なの。だから皆これを手に入れようと必死になるのよ」
和美はシャルにGSを手渡す。
33 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 19:03:45.46 ID:G+dXZQyK0
「和美はいいのかい? 使わなくても」
「私はまだ一応予備があるわ。だから大丈夫」
「キュゥべえの目から見てシャルはどれくらい強いの?」
「そうだね。魔法の特性上、この町の魔法少女の中では、面制圧・物量戦においてはダントツで優れているだろう。
反面1vs1の、特に近接戦は苦戦になるだろうし、変質も分裂も制御も多く大きくなるほど魔翌力を喰う。燃費はあまりよくはないね。」
「なるほどね」
「まぁ君みたいに1vs1の近接戦で魔女と戦うタイプの人間には相性はいいと思うよ。今日みたいに大量の使い魔に囲まれたときにはシャルの絨毯爆撃で一掃出来るし」
シャルにはどうにも難しい話なので、とりあえず綺麗になったソウルジェムと、不思議なGSを見比べて不思議がっていた。
と、不意に目の前に右手が差し出される。驚いて見上げると、和美が握手を求めていた。
「一緒に魔女と戦ってくれるかしら?」
「は……、はい!」
シャルはソウルジェムとGSをそれぞれポケットに入れて、両手で強く、和美の手を握り締めた。
34 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 19:04:55.76 ID:G+dXZQyK0
表通り/
「へぇ〜……じゃあ和美さんってすごい魔法少女なんですね〜」
魔女を倒した後、時刻は6時を回っており、まだ時期的には明るかったが、小学生であるシャルは
和美に家の近くまで送ってもらうことになった。
「まぁ、といっても今日みたいに苦戦することだって何度もあったけどね」
「和美の魔法は剣の召還だけだ。といっても普通は召還した武器で戦うのが一般的なんだけどね」
「むしろシャルみたいに武器が無い魔法の方が珍しいわ。といっても、まだあなたを含めて2人しか知らないのだけど」
「でも僕からしても杖は珍しいよ。特殊な才能なのかもしれないね!」
そうやって褒められることで、シャルは少し嬉しくなる。
「でもでも! 和美さんだって剣を片手に悪い魔女をやっつけてきたんですよね! かっこいいなぁ〜……」
35 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 19:06:34.00 ID:G+dXZQyK0
「まぁ、いつも一人なわけじゃないけどね」
「この町にはもう一人、和美と同い年くらいの魔法少女がいるんだ」
「正確には一つ下。加川真紀という元ヤンの魔法少女よ。怖いから気をつけなさいね、シャル」
「ええぇ〜……」
「ははは、君は色眼鏡で見すぎだよ! 彼女も良きパートナーじゃないか」
「そ、そうなんですか?」
「ふふふ、さっきのは冗談だからそう怯えないで。元ヤンは本当だけど、いい奴よ。優しい子。見た目は怖いんだけどねー」
その口調は穏やかで、本当なのだろうとシャルはホッとする。
「あいつとは7ヶ月くらい一緒にこの町を魔女らから守ってきたわ。あいつの武器は連射式の銃だから、
支援砲火してよく助けてもらってるのよ」
「また機会があれば会えるんじゃないかな?」
「そうね、また紹介するわ」
「た、楽しみにしてます……」
口ではそういうものの、少し緊張の取れないシャルだった。
36 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 19:08:32.54 ID:G+dXZQyK0
シャルの家/
「おや? シャルじゃないか。おかえり」
家に着くと、シャルの父がちょうど夕刊を取りに玄関先に出ていて、帰宅したシャルたちは鉢合わせになった。
「パパただいま!」
「おかえり。シャル、そちらの方は?」
シャルの父は不思議そうに和美のほうを見る。
「あ、私は新ヶ浦高校の手芸部部長の高島和美といいます」
「はぁ」
(話をあわせてね。シャル?)
「ぅえ!? は、はい!」
「? いきなりどうしたシャル?」
(……シャル〜……)
(……進歩しようよ、シャルロッテ)
(ひゃあ〜! ごめんなさーい!)
37 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 19:10:02.18 ID:G+dXZQyK0
「シャル?」
「え、あぁいや。ぱ、パパ! 私ね、手芸クラブに入ったんだ」
「うちの高校は活動の一環として地域内の小学校と交流をしようという試みがありまして云々…」
(キュゥべえ、これってどこまでがうそなの?)
(高校名以外、全部うそ。さすが和美、流れるように嘘をつくね)
(す、すごい……)
(でも必要なスキルさ。魔法少女という存在が表沙汰に出来ない以上、こうやって取り繕う必要があるからね)
(あー、そういえばアニメでもパパとかママとか友達とかにばれない様にしてるっけ)
(まぁとにかく和美のおかげで、遅くなっても、彼女と一緒にいてもクラブの活動の一環だってごまかせるようになった。
これで心置きなく魔女退治が出来るというものだよ)
(が、頑張らないとー!)
38 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 19:11:57.95 ID:G+dXZQyK0
「……と、いうわけで今日は遅くなったシャルちゃんを送らせて頂いたというわけです」
「なるほど……」
和美の嘘の言い訳がつつがなく終了すると、シャルの父は得心したような顔で頷く。
「シャル。それならそうと先にパパに言って欲しかったな」
「ごめん、パパ」
「いや、別に責めているわけじゃない。久しぶりの学校だったんだ。つい気が逸ったんだろう。
友達も出来るし悪いことじゃない。むしろそうやってやりたいことを目つけてくれて、パパ嬉しいよ。」
私は心配し過ぎなのかも知れんな……、と独り呟き、シャルの父はシャルの頭をなでる。そして和美のほうへ身体をむけ、軽く頭を下げる。
「どうかこれからも娘と仲良くしてやってください」
優しそうな、丁寧な、穏やかな大人の対応に和美はふと微笑を浮かべ、
「えぇこちらこそ。よろしくお願いします」
同じように頭を下げた。
39 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 19:15:44.01 ID:G+dXZQyK0
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
やっぱオリキャラは万人受けしないねー……。
違和感なくオリキャラ入れられる人ってマジ尊敬
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
40 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 19:17:30.40 ID:G+dXZQyK0
魔女の結界/ 〜それからしばらくして〜
「えいっ!」
シャルの可愛らしい掛け声。そしてそれとは不釣合いな低音の風切り音が黒い森林の中の使い魔たちを蹂躙する。
拳ほどの大きさの金平糖が、散弾銃のごとく雨霰と降り注いだ後には、死に体の使い魔たちしか残されていなかった。
今回の金平糖は、例に漏れず見た目こそカラフルな砂糖菓子だが、その材質が石であることやフォルムが棘状であることから、
前回のケーキに比べればより武器らしい体をとっているといえた。
「おぉー! すげぇな! やるじゃんかシャル!」
シャルの横で騒がしく感嘆しているのは耳に金色のピアスをし、髪を蛍光レッドに染めた短髪の厳つい少女。
褒めているのかバシバシとシャルの背中を叩いてくる。シャルは今までであったことの無いタイプの少女であったが、
思ったより風貌にも挙動にも慣れている自分に少し驚いた。そんな彼女と出合ったのは、ほんの一時間前のこと。
41 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 19:19:29.17 ID:G+dXZQyK0
河原/ 〜1時間前〜
学校に復帰後初めての休日。シャルは和美に連れられて町はずれの河原に来ていた。
「おぃーっす」
少し掠れたような甲高い声で挨拶をしてきた少女は、河原のふちの枯草も混ざった芝生の斜面に寝そべっていた。
「服、汚れるわよ」
「べっつにいーだろー。払えばいいこった」
そういって背中を叩きながら少女は倒れないように体を起こし、こちらに歩いてきた。
若干くすんだ黒のライダースジャケットとGパンを着こなした彼女は、和美より一回り背が高く、和美とは別の大人の女性を思わせた。
「おっ、これが新人くん?」
不躾にシャルの顔を覗き込んでくる少女。先ほどは大人の女性の風体をしていた彼女だが、近くで見る顔は、
意外なほどに可愛らしく幼い雰囲気を残していた。だが、ピアスやチェーン、不自然な赤い髪の色にシャルはすこしオドオドした。
42 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 19:21:09.15 ID:G+dXZQyK0
「人を"これ"、なんて呼び方しないの」
「あーはいはい」
「ぁ、えと、シャルロッテです。よろしくおねがいします」
「おぉ、礼儀正しい子だねぇ。あたしは加川真紀だ。好きに呼んでくりゃあいい」
そういって真紀は右手をこちらに向ける。握手だと思って手を伸ばそうとするが、真紀の手は止まらず、シャルの方へと置かれた。
「よろしくな。シャルロッテちゃん」
にかっ、と全く邪気の無い笑い。退廃的な風貌とはうって変わったおぼこい笑顔は、同性のシャルでもドキッとするほど綺麗だった。
43 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 19:23:10.81 ID:G+dXZQyK0
「それで?」と和美は切り替えるように問いかける。
「場所の検討はついてるの?」
「この河原の上流の方だ。そう遠くじゃなさそーだけどな」
シャルに乗せた手をどけて、真紀は和美に振り返る。急で脈絡のない質問であったが、内容はシャルでもわかった。
というのも、当初シャルと和美は顔合わせということで真紀とカフェで待ち合わせの約束をしていたのだ。
しかし、来る途中に魔女の反応があり、どうせなら顔合わせついでに共闘しようと申し出てきて、今に至る。
「じゃあ、はやく行きましょう!」
そう意気込むシャル。ちなみにその待ち合わせのカフェは美味しいパフェがあることで有名であり、
真紀が来ない、つまりパフェが食べれないと知った時には希望と絶望が相転移したことは秘密だ。
「いいガッツだ。じゃあ行くか!」
「ええ」「はい!」
44 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 19:25:11.96 ID:G+dXZQyK0
河原上流/
大して歩いたわけでもないが、ソウルジェムの光は明らかに強くなっていた。恐らく真紀と顔を合わせた地点から既に近かったのだろう。
「てことはヤバい系の素材でお菓子を生み出す魔法ってことか」
「正式に言えばその『ヤバい系』の素材で生み出した武器がお菓子の形をしていた、よ」
「じゃあ何? ホットケーキの形をした核爆弾とか作れんの!?」
「キュゥべえがいうには、わたしがイメージできるものが限界らしくて……中身が全部石、みたいに簡単だったら大丈夫なんですけど……」
「核爆弾の作り方なんて、小学生が知りえる知識ではないわね」
「いんや、普通の爆弾とかだったらパソコンとかであるんじゃねぇ?」
「難しいものだとその分魔翌力がいりますしねー……。それにたぶん作り方なんて見ても覚えられませんし……」
「ふぅーん。なーるほどねー」
「まぁいいんじゃない? 爆弾兵器で戦う魔法少女って、新感覚すぎるわ」
「あたし、銃だけどな」
45 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 19:27:17.99 ID:G+dXZQyK0
そんな話をしているうちに、ソウルジェムが一気に輝きを強める。魔女がいる! シャルは気を引き締めてあたりを見回す。
すると背の高い雑草に囲まれた、さび付いた外観のプレハブ小屋が見えた。距離的にも、おそらくここであろう。
三人は会話を交わずとも、その共通認識に至る。
「っつーことで、作戦ターイム」
真紀は適度にリラックス様子で後ろの二人に告げる。
「いつも通りの仕事分担ね。私が切り込んで、あなたが銃で補助・追撃。
シャルは前みたいに周りの使い魔たちが邪魔できないように一掃して」
「はい!」
それぞれが、予想通りのポジションに収まったのか、何の反論もなくすんなりと決まった。
46 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 19:29:01.26 ID:G+dXZQyK0
「じゃあ行きましょう」
「ちょーい待ち」ガッ!
「ぃがっ!」グイ!
和美が意気込んで突入しようとしたところを真紀が思いっきり襟首をつかみ、和美は一瞬呼吸ができない状態になった。
「ゲホ……! ちょ、ちょっといきなり何するのよ!」
「まーだ大事なことが決まってねぇんだよ」
真紀は和美の襟首を掴んだままシャルに向き直る。
「シャルロッテ」
「は、はい?」
47 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
:2011/06/19(日) 19:30:02.77 ID:G+dXZQyK0
「名前長いから省略しねぇ?」
「えぇー……」
「なに? 嫌か?」
「いやって訳じゃなくて……、もっと大事な話かと思って」
「なにー!? 大事だろ! だってヤバイ時にいちいち『シャルロッテー!』って呼んでたらヤバイことになるって。ジュゲムるって!」
「真紀。いいからとりあえず離しなさいよ……」
「だからさ、何かあだ名とかあるっしょ? シャルロとか?」
「聞けよ」
48 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 19:31:15.42 ID:G+dXZQyK0
「え、とできればシャルでお願いします」
「あえてシャロってのは?」
「なんだか分からないけどマズイことになりそうなのでやめておきます」
「離しなさいっての!」
バシッ、と和美が手を払いのけた。真紀はごめんごめんと軽い調子で、叩かれた手をひらひらとさせて謝る。
「そんな馬鹿は放っておいて、行くわよシャル!」
「馬鹿って酷いよなー? シャル」
そういいながら、二人の意識はプレハブ小屋に向く。幾分かリラックスして向かう姿は、魔法少女を始めて数日の自分とは比べ物にならない場慣れしていた。
49 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 19:32:30.63 ID:G+dXZQyK0
だから、不足の状況に陥ったとしても、その判断は早い。
「っ! やっば……!」
プレハブ小屋の戸を開けると、ツンとした酸の匂いが鼻につく。
小屋の中には既に魔女の口付けによって6人ほどの男女が集まっていた。
彼らはそれぞれ嘔吐をするなどして、ある者は呻きぐったりし、ある者は胸を押さえて苦しんでいる。
シャルはそんな異様な光景に固まっていた。
「和美! あれだ!」
奥に目をやると、七輪が置いてあった。
「シャル! 窓を開けて!」
「ぁ……あ、は、はい!」
ここでシャルが動けたのは、偏に病院で幾度か発作を起こした人を見てきたからであろう。
和美の指示に、シャルは急いで従った。真紀は七輪の傍に長方形の箱を見つけ、その商品名を見る。
「やっぱ練炭かよ……。外に出そうっ!」
50 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 19:33:46.03 ID:G+dXZQyK0
真紀は近くの被害者から順に小屋の外に運び出そうとする。
和美は被害者の安否を確かめていると部屋の隅に居た一人の中年男性はピンク色の血色のいい顔をしていた。
「まずい……!」
和美は慌てて男性を運び出そうとする。
「どした!?」
「詳しいことはわからないけど、一酸化炭素がどうとかで血色が良い方が危険だってTVでやってた気がする!」
「!? ……死ぬなよぉ、オイ」
だが、担ぎ出すその前に、部屋の影がゆれる。元々日の入りにくい場所だったのでそういうものだと思っていた面々であったが
「これって……!?」
「使い魔ね……。なんて間の悪いっ!」
「愚痴ってねーで、さっさとやるぞ!」
51 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 19:35:03.03 ID:G+dXZQyK0
全員が武器を構える。シャルは河原で拾った石を元に飴の形の岩を作り出す。影が躍り出る。
その数は10体超。それと共に小屋の景色に歪みが生まれ、背景が黒い葉の森と化す。風景が変わっても、使い魔は影のままであった。
そういった姿の使い魔なのだろう。目だけはリアルな人間の目に見えるのに、それ以外は全てアニメ調に塗りつぶしたような黒い影。
「いくわよ!」
「りょーかい!」「はい!」
和美が両刃剣で刺突する。同時に真紀が和美と反対側の影に射撃を浴びせる。
三つの銃身が束になったような装飾銃からは間断なく銃弾が射出される。
シャルは二人の攻撃の範囲を外れた影から口付けされた一般人を守るように石の飴を振り回して牽制する。
結局大して被害もなく、その戦いは終了した。
52 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 19:36:01.12 ID:G+dXZQyK0
「影だったけど、実態はあったみてーだな」
「斬っていて変な感覚だったわ」
使い魔を倒した後も、風景は変わらなかった。
「景色、変わりませんね……」
「さすがにあの中に魔女はいないでしょ」
「でもどうしましょう……。早くこのひとたちを病院につれていかないと……」
ふむ、と真紀が携帯電話で救急車を呼んでみようと携帯を開いたが、
「だーめだ。圏外になってら」
「もしかしたらと、思ったんだけどね」
「結界のせいですかね」
「かもなー。そう上手くはいかねぇってこった」
53 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 19:37:16.06 ID:G+dXZQyK0
思案に暮れた三人はとにかく練炭中毒になった6人を一箇所に集めて影の使い魔たちから守れるようにした。
「と・に・か・く、だ。あたしらは使い魔からこいつらを守りながら、魔女を見つけ出して倒さにゃならん!」
「余り動かすわけにもいかないしね。そういう意味では全員意識が無いのは不幸中の幸いってとこかしら」
「病状はよくないがな」
54 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 19:38:41.83 ID:G+dXZQyK0
「魔女って、出てこないものなんですか?」
「基本的に奥で待っているものよ。使い魔で削って自分と戦う時までに消耗させるためにね」
「つまり誰かが探しに行く必要があるってことだ」
真紀の発言に、和美が前に歩み出る。
「そうなると私かしら?」
速力・近接戦闘力・防御力を鑑みれば、この申し出は当然のことだった。が
「いや、あたしも行く。正直一刻を争う状況だ。探索は一人でも多いほうがいい」
「でも! シャルに任せきるのは危険だわ!」
その言葉に、シャルは反応する
「あの! わたしやります! やってみせます! 迷惑はかけません。やらせてください!」
55 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 19:40:05.64 ID:G+dXZQyK0
「だってさ?」
「なに言ってるの! あなたはまだ……」
「頼むよ。これが最善だ。和美は魔女を探す係りだ」
「! …………わかったわ」
和美は小さく頷いて、跳躍で飛び去っていく。
「ったーく。どんだけ心配性だよ」
「……真紀さん。わたしって、頼りないですかね……?」
シャルは暗い表情で真紀に問う。
56 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 19:41:11.50 ID:G+dXZQyK0
「気にすんな。あいつの性分だろ? 妹ができたみてーな心境なんだろぉよ」
そういうと真紀はシャルの頭にポンと手を置く。
「ま、気持ちは分かるよ。あたしと違ってこーんな可愛い後輩が出来たら心配しねぇほうが嘘ってモンだ」
「真紀さんだってかわいいですよ」
「なはは。社交辞令も可愛いーなーオイ!」
社交辞令じゃないです、と本心からの気持ちを述べようとしたシャルだったが、
真紀がシャルの髪をぐしゃぐしゃとかき乱すように撫でたため、中断されてしまった。
「じゃ、任せるわ。十分に気をつけてな」
そういうと真紀は和美とは別の方向に走っていく。
シャルはそれを見送ると、杖を石に当て金平糖に変化させ、それを増殖させていつでも敵が来ていいように準備を整え待ち受ける。
57 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 19:41:56.63 ID:G+dXZQyK0
体感時間で10分はかかっただろうか。一匹の使い魔が現れた途端いきなり何匹もわらわらと現れ始めた。
数は少なくとも最初に相手していた倍以上はいる。シャルは俄かに上昇した心拍数を下げるために呼吸を整える。
「よしっ!」
シャルは杖を握り締めると、飛び掛ってきた影に金平糖の散弾銃を喰らわせる。
敵はその威力に慄いたのかシャルと距離をとって包囲するように牽制する。だがそんな陣形ではシャルの思う壺だった。
シャルは地面に散乱した金平糖の重石を振り回すように指揮する。だれかが見ていたならば、
まるで鎖の見えないフレイルを振り回しているように錯覚しただろう。
「って、なんかふえてる……」
58 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 19:42:52.93 ID:G+dXZQyK0
かなり目減りした影たちは更に増援を呼んだのかまた沸いてきて、数は先程よりも少し膨れ上がった。
その影に向かってシャルは上空から大きなケーキを落下させる。隕石ともいえるそれに激突した影は抗う術なく潰されてしまった。
だがその間にも、何処に潜んでいたのか再び影は現れる。今度は先程より更に多かった。そして、
「あれって……」
折り重なる影の向こう、上空に一匹の兎のヌイグルミが見えた。まず驚いたのはその大きさだ。
5メートル強はあろうかという大柄。肌は土気色で、手にあたる部分には戦いの跡なのか集中的に切り傷が刻まれている。
そして首にはロープが巻きついていた。
59 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 19:44:05.04 ID:G+dXZQyK0
「! 魔女だ!」
『ゥ゛……ァ゛………』
呻く様な声に指示され、影たちは最短距離でシャルに詰め寄る。
射出した弾丸は既に砕け、手元のストックは心もとない。だが一般人を見捨てて退避するわけにも行かない。
シャルは手元にある全ての金平糖の弾丸を放出する。その一撃で前衛は壊滅した。
しかしその後方につけていた使い魔たちが躊躇なく襲い掛かってくる。
「うわぁ!!」
間に合わない!
悟ったシャルは両手で頭を守る。だがその時、シャルの耳には連続で銃声が聞こえた。
はっとして前を見ると、襲ってきていた影は霧散しており、目の前には少なくなった影と兎の魔女がいただけであった。
60 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 19:44:57.25 ID:G+dXZQyK0
「よくやった。お前のおかげで魔女を見つけれた!」
後方から、銃を構えた真紀が現れる。
「真紀さん! なんで!?」
余りに早い応援に困惑するシャル。一方真紀は口元だけにんまりと笑みを携えながら
「なんてこたぁないよ。シャルのところに魔女が来るのを待ってたのさ」
「ど、どういうことですか?」
「ここいらは全部一面森だ。部屋みたいに隠れるとこは無い。じゃあ常に移動してるんじゃないかって考えた。
森だし、相手もそのほうがいつでも奇襲できて有利だからな」
61 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 19:45:40.19 ID:G+dXZQyK0
「じゃあ和美さんは?」
「相手だって馬鹿じゃない。孤立してる奴から狙いにいくっしょ? あいつのところに行く可能性だってあった。
そんときは戦いながらこっちに誘導する手はずだったんだよ」
けっこー前につかった作戦だ、といいながら真紀は連射銃を魔女にぶっ放す。魔女はよける素振りも見せなかった。
だがその身体にはほとんど傷はついていなかった。魔女は再び影を突撃させる。
だが、その単調な攻撃にシャルは先程までと同様に、増殖させた金平糖をぶちまけた。
「おぉー! すげぇな! やるじゃんかシャル!」
バシバシと真紀はシャルの背中を叩く。
「遠距離じゃ効かなさそうだ。こりゃ和美待ちだな」
62 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 19:46:51.60 ID:G+dXZQyK0
そう呟くや否や、魔女の背後に一閃切り込まれる。
「和美さん!」
「シャル! 大丈夫!? 怪我はなかった?」
「は、はい大丈夫です」
真紀は和美を心配性だと称していたが、なるほど、確かにそうかもと思うシャルだった。
「斬撃は効いてるみたいだな。押し切れそうだ!」
「任せておきなさい。ここから活躍してやるわよ。二人とも、援護宜しく」
「はい!」
和美が突撃する。シャルは魔女の左右にお菓子の岩をばら撒き、逃げ道を狭める。
真紀は射撃体勢に入ったまま動かない。
そして、動きの制限された兎のぼろぼろの腕に和美は肉体強化された渾身の力をもって剣を振り落とす。
63 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 19:47:37.61 ID:G+dXZQyK0
『ゥ゛…ゥ゛ウ゛……』
腕を切断された土気色のヌイグルミは苦しそうに呻く。その一瞬。真紀は切断面の綿に向かってありったけの銃弾を打ち込んだ。
『ァ゛ゥ゛ア゛ァ゛ァ゛ア゛!!』
ヌイグルミは悲鳴を上げた。しめた、とばかりに真紀とシャルはその切断面に投擲、射撃を繰り返す。
和美も、苦しんでいる好きに更に破けた箇所を広げようとする。抵抗なのかそこかしこから三人を捕まえようとロープが伸びるが、
痛みからか精度に欠き、シャルでも何とかよけられた。
そして魔女への攻撃は苛烈さを増していき、誰の攻撃が最後のトドメかはわからないが、魔女は滅びた。
景色が戻る。
64 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 19:48:36.02 ID:G+dXZQyK0
だが、安堵している場合ではない。和美はすぐに救急車を呼び、真紀は小屋から河原の風通しのいいところに被害者たちを運んでいった。
シャルは芝生を駆け上がって、道路の上で救急車が来るのを待ち、誘導した。
去っていく救急車を見送り、三人は始めてほっと一息をつく。
後日、和美は現場状況の説明とやらで警察とやり取りが有るらしいが、ともかく、この件の一応の決着はついたようだった。
65 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 19:49:23.62 ID:G+dXZQyK0
そうして、安心したのか、シャルのお腹がくぅと可愛らしい音を鳴らす。
その音に和美と真紀は顔を見合わせて笑い、シャルは恥ずかしさから顔を真っ赤にしていた。
「もう1時を過ぎてるからね。シャルには遅い昼食の時間かしら?」
「そっか。そういや元々は昼飯時に顔合わせの予定だったっけ」
「真紀はどうする? 食事」
「どーしよっかねー。コンビニかどっかで適当にすますよ」
「あ、それなら……どうでしょう。あの待ち合わせしていたカフェで食べません? ね?」
66 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 19:50:59.72 ID:G+dXZQyK0
「え? ま、まぁいいけど。どうした? 急にグイグイくるな……」
「あそこのパフェが食べたかったのよねー、シャルは」
「え!? ななんで知って……ぇあ! ちがくて! そうじゃなくて……!」
「じゃあここから少し距離あるけど、行くとしましょう」
「べ、別にパフェが食べたかったわけじゃないよ!」
「シャル。今日頑張ったご褒美にあたしがそのパフェおごってやるよ!」
「え!? え、えと……。おっきいの頼んでいいですか……?」
「シャルってば」クスクス
「い、いやぁ〜なんつーか、肝が据わってるというか……大物だよお前は」
67 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 19:54:58.57 ID:G+dXZQyK0
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
というわけで僕も一旦ご飯食べてきます。後、風呂も。
人いるのかなぁ……。伸びる気配ナッシング。
これはまた一つ産業廃棄物(クソスレ)を生み出したかもしれん……。
1時間もすれば戻ってきますので、どうかどうか、見捨てないでくだしあ。
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
68 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(京都府)
[sage]:2011/06/19(日) 19:58:35.53 ID:qA1W4ih70
見てるよ
69 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/06/19(日) 20:03:50.92 ID:RC4Z1IPi0
投下中には合いの手を入れない俺もいる。
続き期待。
70 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/19(日) 20:22:13.74 ID:xRIlG2kDO
読んでるよ
オリキャラ十分融和されてるよ
71 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)
[sage]:2011/06/19(日) 20:50:10.76 ID:d5v1/bQAO
見てるよ
72 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 21:08:13.36 ID:G+dXZQyK0
>>68
>>69
>>70
>>71
お兄さんがんばっちゃう!
73 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 21:10:33.76 ID:G+dXZQyK0
カフェ/
「や、やっと……!」
空腹状態で歩き切った30分の道のり。
歩いている最中に何度も訪れた誘惑を振り払い、シャル一行は志半ばにして諦めることなく目的のカフェへとたどり着いた。
「さすがに空腹だわ……」
「あ、おい!」
真紀の声が聞こえなかったのか、シャルは遮二無二店の中へ突入した。それを見て二人はやれやれと追いかける。
74 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 21:11:03.50 ID:G+dXZQyK0
「う〜ん……」
シャルは店頭にあるメニューを見ながら唸る。どれにしようかと悩んでいるようだ。
「じゃああたしはこのドリアで」
「またカロリーの高そうなものを……」
「大丈夫大丈夫。動いてりゃ太らんもんだって」
「何? それは何? 私にもっと働けって言ってるのかしら?」
「いやいや、太ってねーよあんた。痩せてるほうじゃん?」
「努力の賜物よ。気を抜いたら、すぐだわ」
へいへい、と真紀は苦笑いする。実際に和美は太ってはいないのだが、世の女性というのは痩せていれば普通の、
普通であれば肥満の体型であると感じるものなのである。シャルはメニューを見ながら横目で、完璧な大人の先輩
と思っていた和美の、そんな年相応な面に思わず微笑んでしまった。
75 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 21:12:54.38 ID:G+dXZQyK0
「シャルは決まったの?」
「あ、はい。一応。ずっと決めてたんで」
「パフェ?」
「はい!」
「いやいやパフェだけじゃ腹は膨れんだろ。 なんかほかに頼んだらわ?」
「え、でも……。これで足りるかどうか……」
といってシャルは財布を逆さにして500円玉を取り出す。
メニューをよく見るとオシャレを重視しいたのか値段表記が円や¥ではなく、Yenの筆記体になっていた。
英語を習っている二人はともかく、シャルはこれのせいで値段がわからなかったのだろう。
「どれが食べたいの?」
「えと、」
76 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
:2011/06/19(日) 21:13:59.68 ID:G+dXZQyK0
シャルが指差したのは『たっぷりチーズのパスタ』であった。ちなみに値段は足りていない。
そもそもこのカフェのメニューは飲み物と副菜以外すべて500yenを超えていた。だが
「あんだよ十分足りるじゃねーか」
「え?」
「500円ってそんなに大金を持ってたのね」
「よっし、じゃあ今日は二人で割り勘にしよう」
「だったら私も頼むわ」
「え?」
「今月厳しいのよ。シャルの500円で一緒に奢ってもらえるかしら?」
「は、はい! もちろんです!」
77 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 21:14:48.57 ID:G+dXZQyK0
「…! ………!」
ゴクリ、と唾でのどを鳴らしながらシャルは注文の品を今か今かと心待ちにしていた。
手間のかかる料理工程なのか、シャルのパスタだけまだ来ていなかった。
「まさかドリアのほうが先に来るとは思わなかったわ……」
「空気読めよ店員……」
二人はシャルにも聞こえないように話す。さすがにこの状況では食べるに食べられない。
マナーというより良心に因るものである。シャルも察したのか「先にどうぞ」と勧めていたが、
それで食べようと思えるほど彼女たちの神経はず太くはなかった。
だが、時間が時間だけに、目の前に料理を置かれて待つというのは存外つらいものである。と、愚痴っていると
「お待たせいたしました、『たっぷりチーズのパスタ』でございます」
高校生くらいの年齢の男性店員がシャルのご希望の品を運んでくる。
「よし! 食うぞ!」
「いただきます」「いっただきまーす!」
78 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 21:15:37.00 ID:G+dXZQyK0
全員、まず一口、口の中というよりも胃の中に食べ物を入れる。
空腹は最高のスパイスというが、この旨さは店の腕なのか、そのスパイスによるものなのか、とにかく美味しかった。
「あ、今日は魔女退治お疲れ様」
「そういやその打ち上げだっけ?」
名目はね、と和美が付け加える。
「お腹へって忘れてましたねー」
そういいながら、シャルはたっぷりチーズを絡めてパスタ麺をすする。
その食べ方には上品さはなかったが、本当においしそうに食べており、二人は奢った甲斐があると柔らかく微笑んだ。
「シャルはチーズが好きなの?」
「うん! 一番大好きです!」
「イタリア出身だったっけ? 和美に聞いたよ」
79 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 21:16:17.57 ID:G+dXZQyK0
「もっと小っちゃかった時に食べたチーズの味が忘れられないんですよ!」
「へぇ〜」
「どんなの?」
「えっと、名前はわからないんですけど、とにかく美味しかったんですよ。あぁ〜何ていえばいいんだろ〜……!」
「おいおい〜。目の前の料理をさて置いて他のチーズの話かよ〜」
「あ! いえ! そんなつもりは! 久しぶりにチーズの話をしたから盛り上がっちゃって……」
「久しぶり?」
「あー、最近まで食べられなくて……チーズ」
「? なんで?」
「ぁ……え、と、ですね」
シャルが口ごもる。さっきまで輝いていたその顔に少し影が差したように見えた。
80 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 21:17:54.95 ID:G+dXZQyK0
「別に言わなくていいわよ。今が食べられて幸せなんだったら、それでいいじゃない?」
「あ……」
「そーそー。魔法少女なんてみんな何かしらあったんだから」
真紀の一言に和美は、余計なことを言わない! と脛を蹴る。
「ぅお! 痛っ!」
「まぁこいつの言うことも尤もよ。もう解決した話だし。魔法少女っていうちょっと変わった人生だけど、楽しまなきゃ損でしょう?」
「じゃあ何であたし蹴られてんだよ!」
「言う必要の無いことを言ったことへの叱りが1割。で、河原で襟首を掴んだことへの仕返しが9割」
「執念深けぇ……」
「さ、伸びる前に食べましょ? シャル」
真紀が脛をさすっているのを無視して、和美は再びパスタに手をつけ始めた……。
81 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 21:19:30.73 ID:G+dXZQyK0
〜それからちょっとして〜
「お待たせいたしました、『季節のフルーツを乗せたダイヤモンドパフェ』でございます」
また先程の男性店員がシャルの念願の品を運んでくる。ドンと机の上で威圧感を放つそれは、
ダイヤモンドというよりダイナミックパフェに改名したほうがよさそうなボリュームだ。
「……食えんの?」
真紀の質問は至極全うなものだろう。明らかに4〜5人前の量だ。
「……これってもう大食い挑戦用じゃない?」
「この小さい身体のどこに入るんだこれ? 胃の体積越えてるだろ実際」
中に何か別の生き物いるんじゃねぇ? と訝しむ真紀にシャルは微笑んで返す。
「甘いものは別腹なんで! ……それに、」
「それに?」
「みんなで一緒にたべたいなぁ……って」
82 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 21:20:52.63 ID:G+dXZQyK0
シャルの一言に、二人が固まる。特に和美が顕著だ。
「マジデ……?」
「まじです」
「本当なの……?」
「や、やっぱりダメですよね」
すいません……、と落ち込むシャルの姿を見て、真紀は決心した。
「ぃようし! 第二ラウンドの始まりでゃー!」
「ちょっ……!」
「ありがとうございます!」
「もちろん、和美も食うよな?」
「あ、いや、私は……」
「私はぁ?」
「……ぁ、あーもうっ! 分かったわよっ! 食べるわよ!」
「そうこなくっちゃ! はいスプーン」
83 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
:2011/06/19(日) 21:21:32.16 ID:G+dXZQyK0
三人は少しずつパフェをつつき始める。果物類がそこはかとなく邪魔なので、各自小皿に分けて食べる。
すると真紀は和美の取り皿の中身が少ないことに気付き、
「はい和美さん。倍率ドーン!」
ごっそりと和美の取り皿の中にパフェを入れる。中身は瞬く間に先程の数倍となった。
意地悪な笑みを浮かべる真紀。対照的に和美は引きつった微笑みでそれを見る。
「ダイエットは明日からってな」
「の、残してもいいのよシャル? この、ダイエットなんて必要ない真紀先輩が余った分全部食べてくれるって……!
シャルも女の子だからあまりカロリーの取りすぎはよく無いわ。沢山残してあげましょう?」
「ちょい! そりゃ無理だ!」
「大丈夫です。わたし、どんなに食べても全然お肉がつかないんですよ〜」ハグハグ
「神は死んだ!」
84 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 21:22:49.00 ID:G+dXZQyK0
いつになくオーバーなリアクションで机に突っ伏す和美。また新たな一面を垣間見た……いや
見てしまったシャルは大きな目をぱちくりとさせて驚き、真紀は気にせず小皿のパフェをつついている。
「ふふふー……私は神を探している〜……」
「か、和美さん? しっかり」
「分かってるのよ……。体質なのよね。いやぁ……神様って不公平よね……」
「き、キュゥべえに頼んでみたらどうですかね?」
「いや無理だろ」
「呼んだかい?」
85 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 21:23:34.84 ID:G+dXZQyK0
急に声がしてシャルが驚くようにして振り向くと、隣の机の上に、あたかもずっとそこにいたかのようにQBが鎮座していた。
「よんでねーよ。ガールズトークに花咲かせてんだ。男は帰りな」
「そういえばキュゥべえって雄なの?」
「どうだろうね? 性別という概念は君たち人間が作り出したものだからね」
「小難しい言い方しねぇで、わかりませんって言ったらどうだ?」
「キュゥべえもたべるー?」
「いや、僕は、」
「…………」ジ―…
「お供するよ」
「ほい、お前の分」
そういって真紀は小皿にどっさり盛り付けて、QBの前に置く。と一緒に口が汚れるだろうからと
濡れタオルを置いた。優しいのかどうか判断に迷う行動である。
86 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 21:24:43.68 ID:G+dXZQyK0
「それで?」
和美は少し真面目になって聞く。真紀も同様に表情から若干リラックスした雰囲気が消える。
シャルも何となく内容を察知して、両手をひざに置いた。
「うん。君たちの活躍のおかげで全員無事だったみたいだよ。少しばかり入院する人も出たけど、
少なくとも全員が後遺症もなく、命に別状もなかったみたいだね」
QBのその報告に全員がホッと安堵の表情を浮かべる。
「ま、迅速な対応の成せる技だな」
「今回ばかりは肝を冷やしたけどね」
「ああいうことってよくあるんですか?」
シャルはずっと思っていたことを聞く。
「そうね、強い魔女であればあるほどよく起こりうることだわ」
「つっても、まだ誰も死なせたことはねぇけどな」
87 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 21:26:10.11 ID:G+dXZQyK0
「君たちは働きすぎだ。グリーフシードの出さない使い魔くらいは見逃さないといつかソウルジェムが真っ黒になって使えなくなるよ」
「それでもよ。使い魔でも誰かに絶望を撒き散らすのなら放っておけないじゃない?」
「そーそー。なんたってあたしたちは正義の魔法少女様なんだからな」
「わたしはカッコいいと思います!」
「でも君の魔法ではロスが大きくて、彼女たちと同じ数を戦っていればすぐに燃料切れになるよ」
「それはこれからすべを学んでいけば良いだけのことよ」
「はいっ!」
「そうか……。そこまで言うのなら仕方が無い。これからも頑張って、この町の全ての人々の平和の為に、全力で頑張ってね」
「とーぜん」「勿論よ」「うん!」
三人のは同時に返事をする。シャルは少し、じんと感動した。
88 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 21:27:45.80 ID:G+dXZQyK0
「さて、シャル。これ早くしないと溶けちゃうわよ」
「うわ! 本当だ! もったいない!」
「よし、あたしが分けよう」
そう言って和美とQBの皿に追加する。
「あなたの分はどうしたのよ!」
「ねぇよく見てよ。僕の体格の割合だとこの量は超過すると思わないかい?」
「キュゥべえなら食える! 最悪背中で」
「無視するなってば!」
「やれやれ、わけがわからないよ」モグモグ
「あの!」
「「「?」」」
「わたし、今……とっても幸せです!」
シャルの言葉に、二人は微笑んで返す。QBはいつものように表情に変化は無いけど、
きっと同じように反応してくれているだろうと、思うシャルなのであった。
89 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 21:29:05.46 ID:G+dXZQyK0
「ってあぁーー! 崩れる! パフェ崩れる!」
「え? うわぁ!」
「まったく、和美がこの状態でメロンを引き抜いたからだよ」
「え? 私!?」
「なにジェンガしてんだおめー!」
「だってメロン好きなんだもん!」
「かわいこぶってる場合か! ちょ……和美、シャル! そっちの部分食っていてくれ! スプーンじゃ支えきれん!」
「わかりました!」
「ぶ、ぶってなんかないわよ!」
「いいから早くー!」
「やれやれ」モグモグ
そうして、騒がしく、魔法少女たちの一日が過ぎていく。奇跡の恩恵で手に入れたこの日常は、掛け値なしに楽しかった。楽しまなきゃ、確かに損だ。
幸せ。幸せだ。シャルは思う。
幸せだなぁとシャルは口にする。
90 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 21:30:27.13 ID:G+dXZQyK0
幸せ、だったなぁと、シャルは追憶した。
91 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 21:32:17.30 ID:G+dXZQyK0
92 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 21:32:55.52 ID:G+dXZQyK0
魔女の結界/ 〜7ヶ月後〜
「シャル! おねがい!」
「りょーかい!」
蝙蝠のような風貌の魔女は、傷ついた身体で和美から離れて逃げ延びようとしていた。
そんな魔女に向かって一枚の薄いビスケットを放出する。例によって素材は小麦粉ではなく、今回は鉄製である。
「逃げんな!」
真紀が地上から上空の魔女に向かって銃を乱射する。その銃弾は一つも当たらない。
だが目的は当てることではなく、動きの早い蝙蝠の魔女の退路を制限することにあった。
そして、その逃げる範囲が縮まった魔女に、鋭く風を切ってビスケットの刃が迫る。
だが魔女はならばとダメージの低い銃弾の方へ身を移そうとした。だが
93 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 21:33:51.64 ID:G+dXZQyK0
「えい!」
シャルの一声によってビスケットが一瞬にして無数の小さいビスケットに変化する。
元のビスケットと質量は同じなので、その分裂速度が早いのだ。急に張られた弾幕に蝙蝠は成す術もない。
刃はカマイタチのようにして魔女を切り刻む。薄い蝙蝠の羽は無残に破れ、身体の中には破片のような刃が残った。
力尽きたように魔女は墜落していく。その落下地点に和美が駆け込んだ
「はあっ!」
和美の剣が振り下ろされた。
94 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 21:35:02.65 ID:G+dXZQyK0
廃ビル/
結界が収束する。時刻はまだ6時過ぎであったが、時期ゆえか少し夕闇が深くなっている。
「おつっかれさーん」
真紀の声に始まり、三人は互いをねぎらった。
「今日の敵は早かったなー」
「ああいうタイプは苦手なのよ、追いつけないし」
「でもでも! 一人なら無理でも、わたしたち3人なら楽しょーだったよね!」
「慢心しすぎよ。証拠に……見てみなさい、ほら」
和美はシャルのソウルジェムを指差す。ソウルジェムの黒ずみが目立った。
「えー!? ちゃんと節約して魔法撃ったのにー!」
「最後の分裂が効いたんじゃねぇの? あれ、なんか大技だったじゃん」
「でもそんなに魔翌力使った感覚はなかったんだけどなぁ……」
「それが一番危険よ。気付かないうちに魔翌力切れにでもなったらやられる一方じゃない。ほら!」
ずい、と和美が先程倒した魔女のGSをシャルに差し出す。
95 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 21:36:17.61 ID:G+dXZQyK0
「そんな! わたしこないだもグリーフシード使ったばっかだよ?」
「ならこれからはもっと上手く節約するのね」
「あたしらは大丈夫さ。燃費がいいんでね。遠慮しねーで使っとけって」
「うー……」
シャルは納得のいかない表情で渋々GSをソウルジェムに当てる。接触と同時に発光した後には、
黒ずみの増したGSと綺麗に澄んだソウルジェムが手の中に残った。
「……でも、ほんとに今日は省エネで戦ったよ?」
「まぁいいじゃんか。次頑張れば」
「グリーフシード位気にしないの。仲間を頼りなさいな」
「…………うん」
それでも、なんだか納得がいかないというか、もやもやが胸に残るシャルであった。
思えば、これは警鐘だったのかもしれない。この頃にその警告を聞き取れていれば、また違う未来があったかもしれなかったのに……。
96 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 21:37:34.53 ID:G+dXZQyK0
大通り/ 〜更に一ヶ月後〜
夕方。帰り道。ソウルジェムを片手に、シャルは和美と二人で町で索敵をしていた。
魔女と遭遇するまでは、基本的に3人はそれぞれが単独行動となった。
一匹でも多くの使い魔から街を守る為に範囲を広げる意味でバラバラに行動していた。
但し魔女の時は少しでも危険度を減らすために出来る限り三人で集まって行動した。
「今日は魔女も使い魔もいなさそうね……」
「うん……」
反応のないソウルジェムに、今日は敵と会わないだろうと感じていた。
では何故シャルと和美は連れ立って行動していたのだろう。それにはわけがある。
「まぁ、ソウルジェムの濁りが増すことはなくなるでしょうし、ちょうどいいんじゃない?」
「…………」
97 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 21:38:30.17 ID:G+dXZQyK0
シャルの気は重い。魔法少女としての戦い方には慣れてきた。日常と非日常の二重生活も上手くこなすようになったし、
魔法の使い方も、援護のタイミングも、最初の頃よりずっと上手くなった。
それなのに、
「一体どうなってるのかしらね……」
和美はそう呟く。二人が連れ立って歩いている理由。
それは、近頃シャルのソウルジェムの消耗が以前にも増して早くなったことだ。
さすがにこの事態に和美も真紀もおかしいと感じ始めて、原因が分かり、解決できるまで使い魔戦での消耗を抑えるため、
最近は真紀か和美のどちらかとペアを組んで街を探索している。
「ごめんなさい……」
「気負う必要はないわ」
それでもシャルは足手まといになっているという現実をありありと感じる。それは病人であって、
時間も治療費も、ありとあらゆる迷惑をかけ続けたシャルにとって、二度と感じたくなかった空気である。
自分はどこへ行っても、足手まといなんだろうか? お荷物なんだろうか? そんな暗い感情が沸き上がっていた、そんなときだった。
98 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 21:39:37.54 ID:G+dXZQyK0
「……っ?」
不意に、身体に異変を感じた。体中のいくつかの場所からぼんやりと痛みを感じる。
「ね、ねぇ!」
「? どうしたの?」
「わたし、からだ怪我してないよね?」
「怪我?」
和美はシャルの身体を調べる。だが
「いいえ、特には……、見当たらないわ。どうして?」
「ぅ、うん。なんか、痛くて……」
「えー……?」
99 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 21:41:03.33 ID:G+dXZQyK0
訝しがって再び念入りに身体を調べる和美、だったが、
「んー……。やっぱり分からないわ」
「そ、っか」
「病院にいってみたら?」
シャルはその一言にビクッと身体を硬くする。シャルは通院の義務も終わり、
ここ半年は病院には足を踏み入れるどころか、意図的に近づかないようにさえしていた。
「どうしたの? 大丈夫?」
「ぇ、あ、うん。あのね、やっぱり……行かなきゃダメ、かな?」
「……行っておいた方がいいと思うわ。もしかしたら間接的にソウルジェムの秘密が分かるかもしれないし」
「そ……っかぁ……。うん」
そしてこの翌日、シャルは父親に連れられて以前入院していた病院に検査をしてもらいに行った。
結果は…………
100 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 21:42:25.44 ID:G+dXZQyK0
病室/
深夜の病室。ベッドの上。ぼんやりと、焦点の合っていない視線で虚空を見つめているのはシャルであった。
何度も泣いたのか目は赤く、腫れていた。髪の毛はぼさぼさになっており、たった一日で見るも無残な様子に変貌していた。
101 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 21:43:25.07 ID:G+dXZQyK0
『肝細胞癌以外にも、リンパにまで遠隔転移しています……。しかも数が一つ二つではありません。
正直、前回の完治といい、今回の急激な再発といい、こんなケースは初めてです』
『シャルは……娘は、治るんですよね?』
『……わかりません。今回は全てが過去に例の無い展開の仕方で、何とも言いがたいのです。ただ、普通ならば……』
『…………』
『……ステージ4の中でも危険な状態。回復の見込みは……残念ですが、殆ど無いでしょう』
102 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 21:44:14.78 ID:G+dXZQyK0
ガシャン! とシャルは枕元の机の上のものに苛立ちをぶつけて払い飛ばす。
だがそんなことをしてもなににもならないと気付き、また、一層悲しくなるのであった。
「ぅ……うぅ…あぁあ……っ!」
呻くように泣き声を上げる。シャルは今日何度目か分からない涙を拭おうとすると、
さっきので切ったのか手から小さくない傷が出来ていた。しかし、シャルは、不思議とそれほど痛く感じないのであった。
103 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 21:45:14.65 ID:G+dXZQyK0
病院のロビー/ 〜翌日の夕方〜
「よっす」
「……ん」
夕方になって一層混み始めた院内のロビーの、待ち合わせの場所で真紀は和美に声をかける。
長くそこにいたのか、足の疲労を軽減するために、真紀は白色の病院の壁にもたれ掛っていた。
「なんだよ、元気ねーじゃん。落ち込んでやんの」
「あなただって、ずいぶんと早く来ていたみたいじゃない」
「あたしは、ガッコいってねーからな」
「あ……。ごめん」
「…………」
いつもなら触れたとしても冗談でごまかせる話題なのだが、和美の気まずそうな反応に、ギクシャクとした空気になる。
「……いくか」
「そうね」
そんな気重さをうやむやにする様に二人は歩き出す。
104 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 21:47:18.25 ID:G+dXZQyK0
最初に結果を知ったのは和美であった。その情報元はQBである。
シャルから一向に連絡が来ないので心配していた和美のもとに、QBがあらわれ、
病状、そしてシャルが契約した際の事の仔細を教えたのであった。
『そんな……』
『じゃあ何か? 今回のはそのガンが再発したってことか?』
携帯電話を介して話に参加していた真紀も当惑の色を隠せないようだった。
『僕は人間の身体構造に造詣が深いわけじゃないから、詳しいことは言えないよ』
『……くっそ……!』
電話の向こうで、悪態とともに何かが殴られたような音が聞こえた。その様子を見て、QBは言った。
『だけど魔法少女の構造に関しては一日の長がある。だから、その面からは分かるかもしれない。今回の原因と、……解決法がね』
『なんですって!?』
和美は驚く。電話の向こうの真紀も息をのんでいるようだ。
105 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 21:49:30.29 ID:G+dXZQyK0
『君たち魔法少女は、奇跡への願いから始まった。それは分かるね?』
『えぇ』
『だけど、君たちは神じゃない。奇跡といっても、運命や理を捻じ曲げてしまうような願いは、
のちに大きな反動を生み出すと、教えたことはあったよね?』
『でかすぎる願いは不可能だ、ってやつか。そういや言ってた気もする』
そんな余裕はなかったけどな、と聞こえない位の声量で真紀がつぶやいた。
『それがどうしたの?』
『つまり、今回のシャルロッテの願いは、この場合なら運命に抵触したのかもしれないね』
『はぁ!? 病気を治すってことがかよ?』
『そうかも、「しれない」だよ。僕だって神様じゃないから、運命なんてわからない。だけど、
彼女はあの日僕と出会わなければきっと死んでいた。もしかしたらその死が何か大きい事件の引き金となったのかもしれない』
『信じられない……』
『僕だってそうさ。だから仮説にすぎないんだ』
『でも、まぁ理解はできる。だから、続けろよ。解決法ってのを』
106 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 21:50:42.79 ID:G+dXZQyK0
『そうだね。とにかく今回の出来事は、奇跡の反動によるものだとして、また奇跡で解決しようとしても、
再びより大きな反動が身を苛むだけだ。それも、即死してしまうような反動にね』
『……つまり……、奇跡も、魔法も使わない手段で解決しろってこと?』
『でも! 医者は無理だって言ってんだろ!?』
『そうだね。化学ではシャルは助けられない。でも魔法でも助けられない。
だけどね、その二つを組み合わせるとこで、助かるかもしれない』
『それは……どういう?』
『ソウルジェムがある限り、魔法少女の肉体はある程度保つ。通常の肉体とは比べ物にならないくらい丈夫になる。
それこそ、シャルを延命して、長期の抗がん剤投薬に耐えられるほどにね』
『それで、抗がん剤の力で癌が治るのを待つ、ということ?』
『なるほど!』
『でも、抗がん剤治療って、苦しいって聞いた覚えが』
『何を言うんだい。死ぬよりましさ! それに魔法少女の肉体は苦しさをある程度軽減させてくれる。
君たちだって戦っていて感じるだろう?』
107 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 21:51:50.38 ID:G+dXZQyK0
『た、確かに……』
『魔女戦の怪我も、すぐに治るな』
『そうだ。だから君たちにできることは一つだ。君たちはシャルが魔翌力を使える源であるソウルジェムによる回復力を上げるために……』
『グリーフシードを、シャルのために集めるってことね』
『和美、余分は?』
『最近シャルに使ったわ』
『あたしもだ。ストックはない』
『じゃあ、決まりだね。これからはできるだけ魔女を狩ることに専念することだ』
『使い魔は見逃せというの?』
『……くっそ。今回ばかりは、しゃあねぇか……』
『それじゃあ、頼むよ。二人とも。どうか、シャルを救ってあげて!』
108 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 21:53:54.26 ID:G+dXZQyK0
ロビーを抜け、階段を上がる。シャルがいる小児病棟の方へと重い足取りを運ぶ。シャルの今後の
展望に光が無いわけではない。むしろ状況が分からなかった頃のほうが言い知れぬ不安や恐怖があった。
少なくとも今は、現状と、今後どうすればいいかを把握できているだけ幸いだ。しかし、和美の足取りは依然として重かった。
「おい」
「?」
真紀に突然振り向いて呼びかけられ、和美は少し驚いた。
「やっぱり今日はもう帰るか?」
「は?」
真紀の発言に困惑する和美。
「なに言ってるのよ。今日はシャルのお見舞いと、ソウルジェムの濁り具合を確認をするって、昨日決めたじゃない!」
「あぁ、だけど明日にでもできるだろ?」
「そういうわけにはいかないわよ!」
「だったらさ、もうちっとシャキッとしろよ」
109 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 21:55:19.54 ID:G+dXZQyK0
「あ……」
「申し訳なさそうにさ、気が重たそうにさ……あたかも同情してますって面で怪我人を訪ねても……イラつかせるだけだぞ」
「……そうね。悪かったわ」
「で? 何をそんな欝ってんだ」
和美は言いにくそうに口ごもる。だが、真紀は聞くまでもなくその原因に察しがついていた。
「昨日の、」
「……」
「昨日のことだよな」
「…………迷ってるのよ」
「……何が?」
110 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 21:57:22.17 ID:G+dXZQyK0
「もし、よ。これから安定してグリーフシードをシャルにあげられたとして、あの子、病気が回復するまでずっと痛みに耐えて、
ずっと病院に縛られて生きていかなくちゃならないのよ?」
「だろうな」
「ホスピス治療って知ってる?」
「知らん」
「つらすぎる治療から逃れて、慎ましやかな余生を過ごそうっていう治療法よ。人間の尊厳を重視した、最近の治療方針」
「……それで?」
「……私たちって、あの子の生命維持装置に過ぎないんじゃないかって思って。あの子の尊厳なんて無視して、
痛みを科して、病院で……一歩間違えれば永遠に過ごさせることになるんじゃないかって……そう、思ったの」
「……」
「それにね。魔女を産むために使い魔を見逃して、街はどうなるの? とか。
魔法少女の私たちが守らなきゃならないんじゃないのとか、考えたらぐるぐる落ちていっちゃって……」
「……」
111 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 21:58:24.83 ID:G+dXZQyK0
「あの子はそんな私たちを恨まないかしら? あの子は本当にこれで幸せなのかしら?」
和美は俯く。真紀はそれを見てため息をつき、
「しょーもな」
「なっ……!」
「あんたさぁ、そこかよ。悩んでたのはそんなとこかよ」
「ど、どういう意味よ」
「恨むよ。シャルは。恨むし、不幸せにもなる」
「……!」
「あいつなしでこのことを決めた時点で、そりゃあたりまえのこったよ。あたしらが今からやろうとしてんのは、
あいつに痛みを与えて生かし続けること、そんであいつのために他の人間を犠牲にすることだ」
「……そうね。やっぱりそうよね」
「ま、あいつを交えて話したとしても、素直な意見が出てくるとは思えんけどね。あいつはそーゆー奴だ」
112 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 21:59:51.10 ID:G+dXZQyK0
「あの子、時々強情なところあるものね……」
「だからもう仕方ねーのさ。どんな形であってもあいつを生かしたい。痛てぇのは全部あいつに押し付けて、
ひっくい可能性に賭けて待ってるしかない。今回の行為は、徹頭徹尾あたしらの自己満足だ。これはそういう話だ」
「人助けって……、救われないものね」
その言葉に、一瞬真紀の表情がゆれる。だが、和美はそれに気がつかない。
「よかれと思ってやったことなんて、大概報われねーモンさ」
「かもね」
「あたし高校ソッコーで中退したからあんたみてぇにややこしいこたぁ知らねぇけどさ。
多分、その恨みも全部抱えて初めて、人助けって言えるんでねーの?」
相手を助ける労力も、それに伴う犠牲も……そして、相手の感謝の義務も、恨みも全て自分が抱え込む。
「つれぇことがあったら一人で抱え込め。苦しくても口にするな。重荷を他人と共有するな。
相手を救いたいのなら、有無も言わさず、自分勝手に相手のつらさをぶんどってやれ」
きっと、誰か救うとは、誰かの恩人になることではないのだ。
113 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 22:00:42.53 ID:G+dXZQyK0
「ま、最後のは受け売りだけどな」
「……随分なことを言われたのね」
「全くだ。大っ嫌いな言葉だよ。でも、一番おぼえてる言葉でもある」
「ダメね……。あたしの方が、先輩なのに。後輩に説教されるだなんて」
「こういうのってさ、意外と年下の若い奴の方がが急にびしぃーっと的確な発言をするモンだぜ」
「そうね。そうかもしれないわ」
「ま、これからはこの出来のいい後輩を崇めるこったな!」
「……そうね。先輩だもの」
114 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 22:02:11.27 ID:G+dXZQyK0
和美は眠っていた蛇が鎌首をもたげるより素早く顔を起こし、真紀の額をぺちんと叩く。
「いてっ!」
「先輩だもの。調子にのった後輩を粛清するのも大事な仕事だわ」
「だからってシバくのはひでぇだろー!」
「酷くないわ。下克上を阻止する意味が9割。説教のが1割。正当な処置よ」
「ひでぇよ」
「酷くない。さ、いくわよ真紀」
和美は真紀を置いて歩き出す。真紀は和美の足取りが軽くなったのがわかった。
真紀は「素直じゃねーの」と小さく笑って、説教への感謝の意味が1割込めて叩かれた額をさすりながら、和美の後を追った。
115 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 22:03:57.23 ID:G+dXZQyK0
病室/
和美と真紀が病室に入ると、シャルはぐっすりと眠っていた。泣き疲れによるものなのだろうか、シャルの目は腫れていた。
「……」
和美は病室を見渡す。シャルの病室は不自然なほど機能的というか、無駄なものが一切置いてなかった。
その理由は、頭を使わずとも、目でわかった。
「まるで不良の溜まり場だなこりゃ……」
シャルの病室にはそこかしこに真新しい傷や罅がついていた。窓ガラスも2枚のうち一枚がダンボールで肩代わりされており、
シャルが荒れていたであろうことは明白だった。通常の少女の、特にシャルのような華奢な子が暴れてもこうはならなかっただろうが、
いかんせん常人より強化された魔法少女である。当然の結果だ。
116 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 22:06:21.36 ID:G+dXZQyK0
「看護婦さんが、シャルは荒れてるっていってたけど……、そうよね。そうなるわよね」
「誰だってそうなるさ。ましてやこんな……小さな子に」
真紀は、一瞬、自分の言葉を詰まらせる。和美はシャルの手を取る。この7ヶ月、
何度も握ってきたシャルの手は、記憶の中のどの時よりも小さく感じられた。
「苦しいよね……。つらいわよね……、シャル……」
だけどシャルは答えない。泥のように眠り続けて、答えない。
「ごめんね。わたし、これからあなたに酷いことするの……。ごめんね」
はたから見れば、シャルは既に死んでいるように見えたかもしれない。そう錯覚させるほど、シャルには生気がなかった。
117 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 22:08:30.33 ID:G+dXZQyK0
「ごめんなさい。シャルロッテ……」
和美はぎゅっとシャルの手を握る。真紀は壁にもたれてそれを見ていた。
「真紀」
「何?」
和美は握っていたシャルの手を離し、立ち上がる。
「助けるわよ」
「勿論」
二人は決意を固め、病室を去る。必要以上の言葉は要らない。だって気持ちなど、聞かずとも同じに違いないのだから。
118 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 22:10:17.10 ID:G+dXZQyK0
病院の廊下/
「今日からでも魔女狩りを始めるわ」
「そうだな。それがいいよ」
シャルの枕元に置いたあったソウルジェムは、黒ずみが全体に広がっており、あまり猶予はなさそうだった。
「探索は? 組みで行く? ソロ?」
「今後あまり魔翌力の回復が出来ないことを考えると、魔翌力消費を抑えるためにペアですぐに片付けた方がよさそうね」
「けど、どーすんだよ? 今は1匹でも魔女を探してぇのに」
「キュゥべえにでも頼りましょ。あの子、戦いは出来ないっていってたけど索敵くらいはできるでしょう」
「ん。了解」
「おや? 君は……」
119 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
:2011/06/19(日) 22:11:17.18 ID:G+dXZQyK0
その声が自分たちに向いていることを感じ取った二人は、声のしたの方へ向く。
そこには縁の太い眼鏡をかけた気の優しそうな男性、シャルの父親が、多くの鞄を持って歩いてきた。
「ご無沙汰しております」
ぺこりと、礼儀正しく頭を下げる和美。真紀はそれに従って、見よう見まねで頭を下げる。
「もしかして、シャルの見舞いに……」
「えぇ。そうです」
「そうでしたか……。それはどうも。……ところで、シャルは?」
「私たちが来たときにはぐっすりと眠っていました。きっとまだそうだと思います」
「それは……、どうもすいません」
頭を下げるシャルの父。つくづく腰の低い人だなぁと思う和美であった。
「ところで、そちらの方は?」
120 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 22:12:35.18 ID:G+dXZQyK0
頭をあげたシャルの父は、離れてようすを見ていた真紀に向かって問いかける。
真紀は、自分の身なりが大人にどういう思いを抱かせるか知っていたので、和美とは距離を置いたのだが、見られていたのだろうか?
「あ、いやえっとあたしは……」
「真紀さん、でしたか?」
どう言い訳しようかと考えていた真紀だったが、シャルの父が名前を当て、驚いた。
「あぁ、すいません。いきなり不躾で……。もしかして間違っていましたか?」
「あ、いや……いえ、あってます」
「そうでしたか! ではあなたが」
「えっと……シャルから、聞いてた感じですか?」
「はい。よく聞いてた感じです」
父親はくすくすと笑いながら話す。世間の大よその大人がすれば、真紀は反感をもっただろうが、
何故か彼からは全く嫌味を感じなくて、つい自分の敬語の出来なさを恥じて、顔を赤くする。
121 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 22:14:34.46 ID:G+dXZQyK0
「シャルが……娘がよく言っていたんです。『頼り甲斐があるカッコいい先輩』だと。
あぁ後それから、『見た目はちょっと恐いけど、実はとっても優しい』ともいっていました」
「そ、そーですか。こえぇだなんて……! ほんとアイツには今度ヤキ……じゃなしに、よく言い聞かせておきますから!」
言い直したところで、問題はその単語もさることながら、台詞自体が完全に親側の台詞であることが問題であることを、
真紀だけは気付く様子はなかった。だから、和美と二人して笑われたときには、不思議そうな顔をしていた。
「すいません。これでもいい子なんです。敬語は多めに見てやってください」
「な! これでも、ってなんだよ!」
「こちらこそ、すいません。話で聞くよりずっとチャーミングな女性だったので、ついからかってしまいまして」
その言い方は限りなく自然だった。下心もぎこちなさも無いまっすぐな言葉に、真紀は先程とは別の意味で、不覚にも顔を赤らめてしまう。
「またまた、冗談がお上手ですね」
122 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 22:17:12.42 ID:G+dXZQyK0
「ぉ……お、おい! お前が言うなよ」
「いえいえ。敬語のことだってチャーミングですよ? 愛を語らう際には、敬語など邪魔な壁でしかありません」
本当に恥ずかしげもなく話すシャルの父に、和美は長期の海外勤務の賜物なのだろうなぁ、とぼんやり思った。
「それにしても、娘もよい友人を得たものです」
和美は、彼が「先輩」、ではなく「友人」といったことに少し反応したが、シャルの父は続ける。
「あなた方に会ってから……、娘の顔に笑顔が増えました。楽しい話題が食卓にあがって……毎日楽しそうに学校へ向かいました」
先程とは打って変わって、真面目な空気になる。だが、シャルの父の表情はどこか悲しく歪んでいて、声も震えているように聞こえた。
「あなた達のおかげです」
いいえ、お父さんのおかげですよ、と和美も真紀も言おうとした、が、
「私はシャルとあなた達が何をやっているのかは知りません」
123 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 22:18:12.71 ID:G+dXZQyK0
シャルの父の言葉に、和美は息を飲む。
「……気付いていたんですか」
「ははは……。大人というのは子供が思うよりも馬鹿ではありませんよ」
以前の手芸部の建前はいつの間にか見破られていたようだ。
「ですが、あなた方が悪い人間であるとは、どうしても思えない。きっとなにか事情があるのでしょう。
子供もまた大人が思うよりもずっと賢いものですから、心配はしませんが」
「よろしいんですか?」
「えぇ。えてして娘というのは父親の知らないところで成長して、父親を驚かせるものです」
娘の成長の過程に父が介入するのは、蝶をサナギに押しとどめようとすることと同義だ。
父親は娘の成長のために生きるが娘の成長には関われない。だが無関心による放置ではない。それは娘に対する信頼なしにありえないものだ。
「若い頃はなんでもするべきです。シャルも、あなた方も、色んな人と、色んなことをすべきです。ですが、これだけはいわせてください」
「はい……」
124 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 22:19:06.35 ID:G+dXZQyK0
「困ったら、大人を頼ること」
年はくってますからね、と笑いながら照れるシャルの父。
「……わかりました。いずれそのときになれば、必ず」
「ありがとうございます。いやぁ、若い女性を前にして説教とは、私も年をとりました。すいません。それでは、私は娘の所へ行ってきます」
「おつかれさまです」
「あ……おつかれっす」
「どうも。お二人もお気をつけて」
シャルの父は再び重い荷物をいくつも下げて小児病棟歩いていった。
「あの、憎めなさ。親子だねぇ」
「シャルのお父さんは、本当にいい人だと思うわ」
「あたしの周りには、ああいう人は一人もいなかった」
「そうね。あんたにチャーミングなんて誰も言わないわね」
125 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 22:20:21.26 ID:G+dXZQyK0
和美の茶化しに、真紀は思い出したように、ほんの少し顔が火照る。
「惚れた?」
「馬鹿言え」
「顔赤かったじゃない」
「ああ言うこと、男に面と向かって言われたことがなかったからだよ。シャルくらいだったからな、他には」
「あの子らしい」
和美は微笑む。やっぱり親子だ、と真紀も微笑む。
「いい親子だ」
「えぇ」
「……ぜってー悲劇で終わらせねぇ」
「そうね。あの家族にはとびっきりの喜劇がお似合いよ」
126 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 22:21:30.52 ID:G+dXZQyK0
病室/ 〜深夜〜
嘆き続けた昨日とは打って変わって、シャルは静かにベッドの中で三角座りをしていた。
症状が気になって、父と医師が話す部屋までこっそり聞きに行った昨日のように、その気になれば動き回ることも可能だった。
だが、それをなす気力がなかった。
「……んっ……!」
シャルの身体が時々ピクンと痙攣する。それは果たして新薬のせいである、とシャルは思っている。
あの新薬が抜群に効いたと考えられたシャルのガンに、もう一度効果を期待してあの悪魔の薬が
使われた。だから、時折、身体に痛みが走って、身体を竦ませる。
「……っ。……痛いよ……」
シャルの目から涙がこぼれる。その痛みはあの頃と比べれば、魔法少女の身体である分マシであるが、それでも十分痛かった。
「和美……、真紀……、パパ……」
名前を呼ぶ。来てくれるとは思わなかったが、その名前を呼ぶだけで、少し、救われる気がしたのだ。
だが、彼女たちは来ない。実際に現れたのは……
「やぁ、シャルロッテ」
127 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 22:24:31.33 ID:G+dXZQyK0
QBはあの日と同じ窓際に座っていた。
「…………こんにちは、天使様……」
「あはは、そういえばシャルは始めそう呼んでたっけね」
「キュゥ、べえ……」
「どうかしたかい?」
シャルは全身を鈍く包む、圧迫感に似た痛みに晒されながら、QBに問いかけた。
「わたし、なんでまた病気になっちゃったの? 奇跡の力を借りて、あの日治ったよね!
なんで再発しちゃったの!? 何で!? 何でよ!!」
シャルは言葉を発するたびにヒステリックにエスカレートしていった。だがそんな彼女の行動にQBは、
まるでシャルの感情が理解できないとばかりに首をひねった。
「君の病気はあの時確かに治ったじゃないか。再発防止までは願ってなかったよね? だからじゃないかな?」
「そんなの……、屁理屈じゃない!!」
128 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 22:25:36.43 ID:G+dXZQyK0
「君たち人間はよく分からない。何故か自分のミスを他人に押し付けることだけには特化しているよね」
「なによ! なによそれ!」
「シャル。はき違えちゃいけないよ? 奇跡は有能だ。だけども万能じゃない。奇跡は君の思い通りに、
都合よく願いを叶えてくれるシステムじゃないのさ」
「うそつき!」
シャルはQBの反論を聞こうともせず、枕を投げつける。QBはサッとよけ、枕は窓の縁に当たって床に落ちた。
「やれやれ……」
「帰れ! 帰って! もう来ないで!!」
騒ぎ立てるシャルを、QBは全く感情の無い双眸で見つめた。
「落ち着いてよ、シャル。僕は君と喧嘩をしに来たわけじゃない」
「うっさい! この身体が治るまで、お前とは口をきくもんか!」
129 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 22:26:04.20 ID:G+dXZQyK0
「君たち人間はよく分からない。何故か自分のミスを他人に押し付けることだけには特化しているよね」
「なによ! なによそれ!」
「シャル。はき違えちゃいけないよ? 奇跡は有能だ。だけども万能じゃない。奇跡は君の思い通りに、
都合よく願いを叶えてくれるシステムじゃないのさ」
「うそつき!」
シャルはQBの反論を聞こうともせず、枕を投げつける。QBはサッとよけ、枕は窓の縁に当たって床に落ちた。
「やれやれ……」
「帰れ! 帰って! もう来ないで!!」
騒ぎ立てるシャルを、QBは全く感情の無い双眸で見つめた。
「落ち着いてよ、シャル。僕は君と喧嘩をしに来たわけじゃない」
「うっさい! この身体が治るまで、お前とは口をきくもんか!」
130 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 22:26:30.63 ID:G+dXZQyK0
「君たち人間はよく分からない。何故か自分のミスを他人に押し付けることだけには特化しているよね」
「なによ! なによそれ!」
「シャル。はき違えちゃいけないよ? 奇跡は有能だ。だけども万能じゃない。奇跡は君の思い通りに、
都合よく願いを叶えてくれるシステムじゃないのさ」
「うそつき!」
シャルはQBの反論を聞こうともせず、枕を投げつける。QBはサッとよけ、枕は窓の縁に当たって床に落ちた。
「やれやれ……」
「帰れ! 帰って! もう来ないで!!」
騒ぎ立てるシャルを、QBは全く感情の無い双眸で見つめた。
「落ち着いてよ、シャル。僕は君と喧嘩をしに来たわけじゃない」
「うっさい! この身体が治るまで、お前とは口をきくもんか!」
131 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 22:28:31.13 ID:G+dXZQyK0
うおお、なんか3連投になっとるwwww
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
涙が溢れてくるのか、シャルは目をぎゅっと瞑りながら、QBのいる方向に乱暴な口調で叫んだ。
シャルはそのまま顔を膝に埋め、力いっぱい縮こまり、より一層三角座りが小さくなった。
このまま去ってしまうか、そう考えたシャルだが、その思考が冷静になった瞬間を見極めてQBは囁く。
「じゃあ、治してあげるよ」
QBの言葉を、あの日以上に信じられないという顔でシャルはQBを見上げた。
「な、んて……?」
「君の身体を直す方法を教えてあげる。僕がここに来たのは、それを教えるためさ」
「ほ、ほんと?」
「本当だよ」
「ほんとにほんと!?」
「うん」
シャルは、自分の身体の痛みが増したことさえ歯牙にもかけず、ベッドを降りてヨタヨタとした足取りで窓際のQBの元へ向かう。
132 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 22:30:16.05 ID:G+dXZQyK0
「教えて……!」
窓際で、シャルの膝は崩れ落ちる。身体が倒れないよう窓の下の壁の部分に両手を伸ばす。
上を見る。QBは外から入ってくる星月の明かりで、純白の体毛を輝かせていた。
「もちろんさ」
今、この姿をはたから見れば、神に救いを求める敬虔な信者のように見えたかもしれない。
「君は、傷の治りが早いとは思ったことは無いかい?」
そういえば、シャルはふと思い出す。昨日切って血が出た右手。その浅くない傷が何の処置もしていないのに綺麗さっぱり完治されていることを。
「それはね、君が魔法少女だからさ」
「……どういうこと?」
「魔女という恐ろしい敵と戦う以上、痛みの軽減と傷の回復能力は肝要だ。だから傷が完全に治るのさ」
133 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 22:31:44.31 ID:G+dXZQyK0
「じゃ、じゃあさ! なんでガンは治らなかったの?」
んーと、とQBはどう説明しようかという風に首を傾げてから、
「えっとね、魔法少女はソウルジェムがある限り、魔法の力で傷を回復できるんだ。分かるかい?」
シャルはなんとなく理解できたので頷いた。QBは続ける。
「ガン細胞が無くならなかったのは、癌は身体の傷ではなく異物だからなんだ」
「どういうこと?」
「例えば腕がなくなっても、それが傷なら再生できる。でもガンは変異した異物だ。
例えるなら、そうだね……、身体の中に銃弾が残っていても、それが肉体組織に変化することはないということさ」
もしそうなら建造物に刺さったとき融合して大変だ、とQBは明るい調子で言うが、シャルはゾッとしていた。
「まぁとにかく。肉体の再生・強化を得意とするソウルジェムも肉体の変化までは可能じゃなかったということさ」
134 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 22:32:58.41 ID:G+dXZQyK0
「なんか、ゾンビみたい」
「何をいうんだい。これで君の身体は無敵だよ? 魔翌力さえあれば、君は怪我では死なない。
半身がなくなっても、また肉体が構築されるんだよ」
「……こわい」
シャルは、自分の身体が自分のものでなくなったような感じがして、恐くなり両手で自分の身体を抱きしめる。
「だけど、これで君は救われるのさ」
「え……?」
「僕は言ったよ? 治す方法がある、って」
「うん」
「ガンは異物だ。銃弾同様、肉体に変化することは無い。だけど、逆に考えてみて? 君は今、身体を銃弾に変えることが出来るかい?」
「そんなの――」
135 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 22:35:05.86 ID:G+dXZQyK0
出来るわけ無い、と言おうとして気がついた。いつもなら及ばなかった思考に、ピースが綺麗に嵌っていく。
シャルは勘のいいほうではなかったが、この時は分かった。きっと、生きることへの執念。
諦めない、生きることへの執念が呼び寄せた思考に、シャルは歓喜に鳥肌が立つ。
「からだは銃弾にはならない」
「うん」
「からだをガンに変えることもできない」
「人間の体内活動によるものならまだしも、ソウルジェムの効果では作れないだろうね」
「傷の再生のときに、ガンは作れない……」
「そうだね」
「ガンの部分を、傷つければ――」
「再生したとき、君の身体は健全な頃に戻るんだ」
健全な思考回路では全く及ばない悪魔的発想。シャルはそこに裏技のような抜け道を発見した気がして、湧き上がる喜びを抑え切れなかった。
136 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 22:36:37.80 ID:G+dXZQyK0
「だけどガンは転移するらしいから、傷つけると言うより、身体のすべて吹き飛ばす位の方が効果的かもしれないね」
「え、いや、でも。それはさすがに……。痛いし……」
「……これは戦闘時にデメリットがあるから教えたくなかったんだけど、」
「何?」
「魔法少女は痛みをコントロールできる。その気になれば完全に消すことだって出来るんだ」
「え! 何それ!?」
「ソウルジェムを握ってごらん」
シャルはQBに言われたとおりに、ソウルジェムを握り締める。
「じゃあ、痛いのが全部なくなるように、強く念じてみて」
シャルは嫌悪していた『痛み』を、強く思い出す。そしてそれが消えてしまうように、何度も強く強く祈った。
……すると、
137 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 22:37:22.18 ID:G+dXZQyK0
「ぁ……! あ……!」
身体を覆っていた痛みの膜が溶けてなくなる。シャルは今まで苦しめられてきた『痛み』に、とうとう勝ったと、喜んだ。
「いいかいシャル?」
喜びで正常な感覚が失われているシャルに、QBは話しかける。
「科学は君を無意味に痛めつけた。シャルに起こった魔法の奇跡が見えない彼らは、自分たちの手柄にするために君を傷つけ続けたんだ」
「うん」
「科学は信用ならない」
「そうだね」
「医者も薬も信用しちゃダメだ。魔法を、僕を信じてよ」
「勿論だよ、キュゥべえ!」
その瞳には何の疑いの色もなかった。
138 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 22:38:03.56 ID:G+dXZQyK0
「君は医者に安静にしていろって言われたけど、そんなことをしても君は助からない。自分の未来は、自分で切り開かなくちゃ!」
「わかったよ。どうすればいいのかな?」
「深夜になれば、監視は甘くなる。君は魔法少女に変身してここを抜け出し、魔女を倒すんだ」
「グリーフシードを手に入れて、回復分の魔翌力を溜めるんだね」
シャルの勘は、今、人生で一番働いていたことだろう。
「察しがいいね」
「わたし、やるよ!」
「和美にも真紀にも、手伝ってもらうかい? 尤も、彼女たちは夕方にも戦ってるから迷惑になるだろうけど」
139 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 22:41:25.70 ID:G+dXZQyK0
シャルはその言葉に顔を顰め、
「じゃあ、いい。わたし一人でやる」
シャルはお荷物扱いされるのが嫌で、これまでに自分を磨き上げてきた。
「わたし、二人と同じくらい強いかな? どう思う、キュゥべえ?」
「何ともいえないね。直接君たち同士が戦わない限り、その結果は分からない」
「そっか」
だが、シャルのそれはただの確認作業。わからないと言われたところで、一人で魔女と戦う決心が揺らぐことはなかった。
「わたし、やるよ」
シャルロッテはソウルジェムを輝かせると、魔法少女に変身する。
140 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 22:42:04.17 ID:G+dXZQyK0
「行ってくるね、キュゥべえ」
シャルは窓から身を乗り出す。QBは激励のようにシャルに言う。
「君たちの中で誰が強いかは分からない」
「?」
「でもね、君たちは強い」
「……」
「もうお荷物なんかじゃないよ」
「……!」
「君は立派な仲間だ」
ありがとうキュゥべえ、とQBに感謝し、シャルロッテは窓から星月とネオンの明かりが照らす夜の街に飛び込んでいった。
141 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 22:43:27.81 ID:G+dXZQyK0
町外れ/ 〜翌日の夕方〜
「……おかしいわね」
和美は怪訝そうに呟く。
「昨日はこの辺に魔女らしき反応があった気がしたのだけど……」
「くっそ……。昨日見つけらんなかったのがいてぇな」
「移動したのかもしれない。だけど、そんな簡単に魔女が移動するとは思えない」
「新しい餌場が見つかったか……つっても早いな」
「相手がこっちの事情を把握してかく乱を狙っているわけでもないでしょうし……」
「……だれかが倒してる、は、ないか……」
「誰? って話よね」
「キュゥべえが新しい魔法少女と契約してたら話は別だけどな」
「それなら言うでしょう。一人でも人員が欲しい今なら尚更」
「だよなー……」
「とにかく、魔女を探すわ。別のでも構わない。一匹でも多く」
「ん、ラジャー」
142 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 22:45:45.01 ID:G+dXZQyK0
病院/ 〜深夜〜
「昨日より顔色はよくなったね」
「キュゥべえのおかげだよ」
シャルは魔法少女の格好に変身し、軽く準備運動のように身体を動かす。痛みがなくなったからか動きはよさそうだった。
とはいえ、理由は他にも有る。
「いやいや、一人で、それもその魔翌力の少なさで魔女を倒した君の実力のおかげさ」
「たまたま相性がよかっただけだよ」
シャルのソウルジェムは僅かながら昨日より澄んでいた。
「ソウルジェムが綺麗になればなるほど、魔法の威力も回復量も増す。倒せば倒すだけ、君は順調に救われていく」
「だんだん簡単になるなんて、……ほんと、ラッキーだよね」
「そうさ。だから今日も気を抜かずに頑張ってね」
「うん!」
シャルは窓から飛び降り、常人の域を超えた跳躍で病院の周りに巡らされた壁をこえる。
さすがにそんな動きに対応していない壁も監視システムも、シャルの動きを捉えることは叶わない。
「……ぜったい、絶対。生きてみせる……!」
風のように駆け抜けていくシャルの小さな呟きは、彼女以外に聞き取ることは出来なかった。
143 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 22:48:37.36 ID:G+dXZQyK0
人通りのない団地/ 〜休日の昼〜
連続する破裂音。異形のそれは怯え、甲高いカエルのような悲鳴を上げて逃げ去っていく。
「くっそ……」
戻った景色の中で、真紀は舌打ちをする。今回の敵も使い魔だった。
彼女はまた逃がさざるを得なくなり、面白くない感情が沸いてくる。真紀は携帯を鳴らした。
「おっす、和美。そっちは?」
だが、結果は向こうも同じらしく、短い会話を終了させた真紀はため息をつく。
「悪いことってのは続くもんだなぁ……」
真紀はソウルジェムをかざす。反応はない。仕方なく真紀は別のところに向かうとした。
「アタリメにウオノメだっけ? こーいうの」
真紀はバイクに跨って、隣町の領域に踏み込まないぎりぎりの位置を走ってみることにした。
「嫌な流れだ……」
真紀は曇った空を見上げる。
144 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 22:50:51.38 ID:G+dXZQyK0
街の大通り/ 〜同時刻〜
「ここも、だめか」
和美は苦い顔をする。ここ最近魔女と全く遭遇しない。数日前は反応だけでも確認できたのに、今では使い魔以外出会わない。
いや、それどころか、徐々に使い魔と遭遇することさえなくなって来ている。
「まさか、他の地域に移動したなんてことは無いでしょうね……」
嫌な想像に、和美は爪を噛む。
「それとも他の地域の魔法少女が倒しに来たか……、それだと一番最悪ね。キュゥべえに聞いてみようかしら」
その時、ポケットの携帯がなる。発信者は真紀だった。
ここ数日は遭遇度を上げるために、それぞれで探索することになっていた。和美は魔女関連の情報かと思い電話に出る。
だが、どうやら使い魔にであっただけらしく、こっちの情報を聞くための電話のようだった。
145 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 22:54:41.37 ID:G+dXZQyK0
「だめね、こっちは使い魔すらいないわ」
「そうか……。不本意ながら逃がしまくってるのに、魔女になるどころか消えちまうんだもんなぁ」
それは和美も同じ思いを抱いていた。先頭を避けていれば敵が増えるのが道理である。
なのに日を負うごとに使い魔との遭遇頻度は減っていく。はっきり言って異常だった。
「えぇ、こちらはまだここで調査するわ。えぇ。それじゃあ、また」
和美は電話を切る。もれるため息は抑えられなかった。
「シャル……」
事態が進展しないので、つい、和美はシャルのことを思い出した。シャルはきっと今も病気と闘うために痛い思いをしているのだろう。
そう思うと、和美の焦りは増す。せめてどうか安静にして、少しでもガンの進行を遅らせて欲しいものだけど……、と和美は思う。
「シャル、きっと助けるから」
私たちを信じていて。和美がその呟きは、街の喧騒に掻き消える。
146 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 22:57:53.50 ID:G+dXZQyK0
人通りのない団地/ 〜深夜〜
ぐえっ、と厳つい見た目とは裏腹に、カエルの様な断末魔をあげて異形のそれは果てる。
「……はぁ、はぁ……。……またなの!?」
シャルは電信柱にもたれる。激しい運動はしたつもりではなかったが、ここ最近、身体が重い息もすぐに切れる。
だが苦しくは無い。だからシャルはまだまだ大丈夫だとその身を酷使した。
「また、使い魔……」
だが酷使した結果、得られるのは徒労だ。勿論、使い魔を逃がすわけには行かない。
逃がした使い魔は人を[
ピーーー
]。どれだけ追い詰められても、これを見逃すわけには行かない。
二人の仲間なら、きっとそうはしないと、シャルは思っていたからだ。
「ソウルジェム……、まずいな」
シャルは自身のソウルジェムを見る。計3体の魔女を倒しぬいたとはいえ、その戦いの最中に燃費の悪い魔法は使うし、
痛みを抑えるために常時魔翌力は消費されていく。さらにここ最近は使い魔しかいないので回復すらままなら無い。
事態は、確実に、悪化していく。
147 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
:2011/06/19(日) 23:02:23.26 ID:G+dXZQyK0
病室/ 〜夕方〜
「そればっかりはどうしようもないよ。僕が使い魔や魔女を産んでいるわけじゃない」
「うん、でも……このままじゃ……」
「大丈夫さ。信じるものは救われる、だよ」
「……うん」
その時、病室の扉が開く。QBは隠れようともせず、ベッドの上に座っていた。
「シャル、起きていたのか」
「パパ……」
色とりどりの花束を片手に現れたのはシャルの父だった。彼は荷物を置き、花瓶の中の花を取り替える。
せめて雰囲気だけでも明るくしようという、父親の涙ぐましい努力であった。
「…………」
シャルは終始沈黙していた。
148 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
:2011/06/19(日) 23:03:05.61 ID:G+dXZQyK0
病室/ 〜夕方〜
「そればっかりはどうしようもないよ。僕が使い魔や魔女を産んでいるわけじゃない」
「うん、でも……このままじゃ……」
「大丈夫さ。信じるものは救われる、だよ」
「……うん」
その時、病室の扉が開く。QBは隠れようともせず、ベッドの上に座っていた。
「シャル、起きていたのか」
「パパ……」
色とりどりの花束を片手に現れたのはシャルの父だった。彼は荷物を置き、花瓶の中の花を取り替える。
せめて雰囲気だけでも明るくしようという、父親の涙ぐましい努力であった。
「…………」
シャルは終始沈黙していた。
149 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 23:13:05.51 ID:G+dXZQyK0
「シャル、今日は一段と元気が無いなぁ」
「……大丈夫だよ。大丈夫……」
シャルは二度呟く。その口調はどこか、自分に言い聞かせているような調子だった。
「……そうか」
シャルのパパは花瓶の中の水を替えるため、部屋を出ようとする。水道は室内にあるが、洗面台と蛇口の間隔が狭く、背の高い花瓶に水を入れるのは難しいのだ。
「シャル」
父親は去り際に、シャルに話しかける。
「悩んでることがあれば、いつでもパパを頼ってくれ」
「…………」
シャルは目線さえ父のほうを向かなかった。それを見て、シャルの父は、「そうか」と呟いて部屋を後にした。
150 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 23:14:40.32 ID:G+dXZQyK0
そして、その夜、事態は大きく動き出す。
151 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 23:20:50.84 ID:G+dXZQyK0
病室/ 〜夜〜
時刻は10時。小児病棟は既に消灯していた。だが、シャルは眠らずに、もっと夜が深くなるのを待っていた。しかし、
「シャル! 大変だ! 魔女が現れた!」
その時はQBがいつもより早く現れた。
「魔女!? キュゥべえ、それほんと!?」
「あぁ、あれは使い魔じゃなくて魔女だ! シャル、いこう!」
「う、うん」
ソウルジェムを手に取ると、強く光っていたことに気がついた。
「これは……!」
「そうだ、魔女はすぐ近くだよ! 急いで!」
「うん!」
シャルは魔法少女になると、キュゥべえの指示する方向へ飛び去った。
152 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 23:23:18.46 ID:G+dXZQyK0
和美の部屋/ 〜同時刻〜
携帯がなる。相手は真紀だった。こんな時間になんだろうと、訝しみながら、和美は通話ボタンを押す。
すると、いきなり真紀は大声で怒鳴りだした。
「魔女の反応がでた!」
「なんですって!」
和美は驚きのあまり立ち上がってしまう。
「今どこ!?」
和美は真紀の居場所を聞く。そう遠い場所ではなかった。
「わかった。すぐに合流する!」
和美は自転車で行こうとしたが、例え人目に付いてでも早く行きたいと思い、変身して屋根伝いに目的地へ駆け抜ける。
153 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 23:27:18.40 ID:G+dXZQyK0
魔女の結界/
「ぅっ……!」
まるで毒をもったキノコの様な赤と黒、かと思えば深い海のような青に絵の具のような黄色。
そして緑、紫、茶色とそれぞれ統一感の無い様々なはっきりとしたカラーが蔓延る魔女の世界。
「やぁ!!」
鉄で出来た金平糖を振り回す。その威力は申し分なかったが、やはり大きさも、量も少ないといわざるを得なかった。
それぞれの色からポコポコと人の形をした使い魔が生まれてくる。
使い魔たちは真ん丸の口を開け、円形の口に沿うように生えた鋭いノコギリ歯で噛み付こうと、口を先端にして、ロケットのように飛んでくる。
154 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 23:32:10.57 ID:G+dXZQyK0
シャルは杖を振るって金平糖を動かす。
シャルはソウルジェムが濁るのを覚悟して、更に分裂させる。それは相手を倒す意味でもあったが、守る意味合いの方が強かった。
「………………」
シャルは後ろの少女を気にかける。腕に包帯を巻いたその少女は、目には光がなく、夢遊病患者のようだった。
だがよく見ると首には魔女の口付けの跡がある。呼び寄せられたのだろうと、シャルは感じ取った。
「ぐっ……」
身体がよろめく。魔翌力が尽きてきたのを感じる。だが、使い魔の出現は一向に止む気配は見せず、
未だ魔女も、後方に立ち尽くして戦いに来る気配は見せなかった。
155 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 23:34:05.68 ID:G+dXZQyK0
『…………』
魔女も同じような大きさの人型だった。だがその肌は安物の陶器のようにつるつるとしており、唯一この結界内で真っ白色だった。
『…………』
魔女が近寄らない、そして近寄れない。この状態にシャルは焦れていた。魔法は残量が限られてきた。
だが使い魔の攻撃はむしろ激しさを増すばかりだ。
やっぱり、わたしはお荷物なのだろうか。守らなければ生きていけないのだろうか。
苛烈な攻撃を前にシャルは気弱になる。だが、
「死んで、たまるかぁ!」
156 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 23:37:06.86 ID:G+dXZQyK0
涙ながらに、更に弾数を増やし薙ぐように振り回す。
「嫌だ! 嫌だ! 死にたくない! 死にたくないっ!!」
その様子は発狂しているようにも見えた。駄々っ子のように、やけくそと言わんばかりに、シャルはその無限の敵にお菓子を振り回す。
「くるな! くるな!」
目に見えて増えていく敵。身体が訴える魔翌力残量の少なさ。明らかにシャルは押されていく。
「こないでよぉ!」
一か八か、振り回していた金平糖を、銃弾の速さで射出する。その一撃に、使い魔たちは壊滅させられた。だが、
157 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 23:41:45.19 ID:G+dXZQyK0
「う、そ……」
カラフルな壁から隙間なく人のロケットが増殖してくる。傍目には、壁が厚くなった様にさえ見えたかもしれない。
「う……ぅぁ!」
シャルは杖を構える、しかし足がもたついて尻餅をついてしまった。使い魔たちがシャルを食いちぎらんと矢のような速度で飛んでくる。
死んだ。
158 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 23:44:45.17 ID:G+dXZQyK0
そう思った。
だが刹那、旋風が弾幕をなぎ払う。更にそこから連続した轟音が発せられ、無数の使い魔を打ち抜いていく。
「か……ずみ?」
シャルはキチンと発音できなかった。そしてそこで初めて自分の口が乾ききっていたことに気がついた。
「まき、も」
二人はシャルの方を向かずに、残存した敵戦力を一掃する。シャルは杖を握りなおし、よろよろとたちあがる。
「大丈夫だった? シャル」
和美の言葉も表情も、どこか固かった。だが今のシャルでは気付けない。
「うん」
「そりゃ何よりだ。和美、次来るぞ!」
159 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
:2011/06/19(日) 23:48:07.33 ID:G+dXZQyK0
使い魔たちは、てんでバラバラに発生し、4人目掛けて飛んできた。真紀はそれらを次々打ち落とす。
「わかったわ」
「わ、わたしも!」
シャルは杖を構えて、金平糖を生み出す。だが、和美はシャルの手を強く握り、
「帰りなさい」
「え……?」
「帰りなさいと言っているのよ」
「な、なんでよ! みんなといれば、わたしだって戦える!」
その一言に、和美は
「なにいってるの! あなたが外に出ちゃ、戦っちゃ意味が無いでしょう! あなたは病人なの。お願いだからおとなしくしててよ!」
160 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 23:51:57.12 ID:G+dXZQyK0
「な……、なんでよ! わたしは……、わたしだって、戦える! 戦ってた!
わたしがいなきゃそこの女の子は死んでた! わたしを、病人扱いしないでよ!」
「いえ、あなたは病人よ」
「!?」
「今、あなたにいられたら迷惑なのよ!」
「……っ!」
「シャル、頼むよ。せめて安全なとこにその子を連れて避難してくれ」
真紀の提案は尤もなもので、道理であった。だが、シャルは、そんな理屈は歯牙にもかけず、
ここから離れたくないという考えがぶれる事はなかった。小学生を理屈で黙らせることは容易ではない。
161 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 23:55:33.99 ID:G+dXZQyK0
「大丈夫! 戦いながら、守れるよ! さっきもそうしてきたもん!」
そしてついに、聞き分けのないシャルに和美が激昂した。
「無茶言わないでよ! そうやって無理して戦って、どうなると思うの!? もし病状が悪化するようなことがあったら、
あなたを守ろうと必死で戦ってきた人はどうなるのよ!?」
「そうやってすぐ病人扱いしないでよ! 今の私は魔法少女なの! 病院のベッドで何もできないで痛がってるあたしじゃないの!
病気だからって、ちっちゃいからって、ただ守られてるなんて……もういやだ! あたしは、あたしはっ……!」
162 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/06/19(日) 23:56:42.00 ID:it0ttSTp0
このすれ違いと鬱具合が本編っぽくて良い
応援してます
163 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/19(日) 23:59:26.80 ID:G+dXZQyK0
もうお荷物なんかじゃないよ
「お荷物なんかじゃなくって……」
君は立派な――
「仲間なんだからぁ――っ!!」
シャルは魔女とその周りの使い魔に向けて魔法を発した。
今までとは比にならないくらいの大質量・大物量のお菓子の凶器。
使い魔を巻き込んで上昇したそれらは、空を埋め尽くし、敵に殺到しようと――
「……ぁ、」
その瞬間、シャルの身体から急に力が抜けた、周囲と五感が隔絶され、そのまま意識が遠のいていった。
164 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/20(月) 00:04:38.77 ID:CwP1+qbS0
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
ちょっとうちのPCのスペックが低すぎてめっちゃ重くなってきたので、
キリのいいここで、今日はひとまず切ります。
明日は夜からぼちぼち投稿していくので、よかったら見てやってください。
次回:
病院で目を覚ましたシャル。彼女を待ち受ける驚愕の事実とは?
お楽しみに! ……して貰えるほどでもないんですけどね、はい……
それでは見てくださいましてありがとうございました!!
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
165 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/20(月) 00:06:27.78 ID:CwP1+qbS0
>>162
いきなり中断してほんと申し訳ない!!
166 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/06/20(月) 00:08:58.44 ID:svgCCgTmo
お疲れ様でした
重いのはサーバー自体のせいもあるかと。
167 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/20(月) 00:12:18.65 ID:CwP1+qbS0
>>166
そうなんですかね?
書き込む→読み込み中→書き込み完了
この間実に4分
もう長いこと長いこと……
168 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[sage]:2011/06/20(月) 00:55:11.34 ID:ZGSJkkqL0
乙
他の魔女のも書いてくださいお願いします
169 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海・関東)
[sage]:2011/06/20(月) 02:18:41.33 ID:i4yNEqkAO
かずみ、おりこに続く第三の外伝として漫画化すべき
170 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga sage]:2011/06/20(月) 11:26:06.11 ID:NmipF2d/0
そうそう、sage投下続けるならメール欄は「saga sage」にするといいよ。
俺も初SSでやらかしたんだけど、
sagaなし>魔力と書いた部分が強制で魔翠力に変換されちゃう 他にも色々強制変換
sagaあり>強制変換なし
今は見れないけど、仕事終わったらゆっくり見るよ。
続き期待。
171 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage sage]:2011/06/20(月) 21:07:02.97 ID:CwP1+qbS0
>>168
そんな期待されても重すぎる! でもまた短いので思いついたら、そのときは見てやってください。
>>169
印税ひゃっほー!!ww そのときはシャル☆マギカになるのだろうか、シャルロッテ☆マギカになるのだろうか……
>>170
初SSスレ建てなんでそういった助言はマジ助かります、サンク!
と、いうわけで重いPCで続き意気マース ……終わりまでいけるか……、限りなく謎だっ……!
172 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage sage]:2011/06/20(月) 21:08:40.74 ID:CwP1+qbS0
病院/
シャルが目を覚ますとベッドの上で、時刻は朝の6時を回っていた。重い身体を動かしながら辺りを見回す。
すると彼女が寝ているベッドの横の窓にQBが座っていた。
「おはよう、シャルロッテ」
QBは昨日の顛末を話してくれた。
曰く、和美と真紀はその後魔女を倒し、手に入れたGSをシャルに使った。
今シャルがこうして生きているのは彼女たちの行為のおかげだと。シャルのソウルジェムは昨日よりも輝きを取り戻していた。
とはいえ、予断を許さないことには変わりは無い。そこでQBは話を打ち切ったが、シャルはもう一つ、聞きたかったことを聞いた。
173 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage sage]:2011/06/20(月) 21:09:38.94 ID:CwP1+qbS0
「あの女の子は、大丈夫だった?」
シャルにしてみれば、ほんのちょっとした確認作業に過ぎなかった。しかしQBは
「そうだね。生きているよ」
シャルはQBがいつもの表情なのに、何故か怖く感じた。その先を聞いてはならないような気がした。しかしQBは続けた。
「まぁ君たちの言う大丈夫が、生きている以外の意味もこめているのならばダメだけれど」
「どう、いうこと?」
「生きている、大丈夫。だけど無事ではなかったということさ」
「そんな! 酷い怪我をしたの?」
「いやいや」
「じゃあ……!」
174 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage sage]:2011/06/20(月) 21:11:02.20 ID:CwP1+qbS0
「意識不明の重体ってやつさ。酷いなんてものじゃないよ。目も当てられない。
奇跡的に神経系と循環器系の中枢が無事だったけど、そのほかはぐちゃぐちゃだ。生きているのが不思議なくらいだ!」
愕然、と。顔を真っ青にして、涙を目じりに浮かべるシャルロッテに、QBは「大丈夫さ」と慰める様にいう。
「大丈夫、なの……?」
「あぁ! 絶対にバレやしないよ!」
「え……?」
疑問の表情を浮かべるシャルにQBはためらいもなく言う。
「当たり前だろ? 自分たちの科学技術を妄信する人間たちに原因が魔法によるものだなんて信じられるものじゃない」
「え? ……え?」
175 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage sage]:2011/06/20(月) 21:12:19.29 ID:CwP1+qbS0
「きっとこの時代の彼らはトラックに轢かれたとでも考えるだろう。そうして近くにいる本当の加害者を見つけられないまま迷走するのさ」
「ま、まってよQB! わたし、なに言ってるか全然わかんないよ……?」
するとQBは、あぁそうかとわざとらしく言ってのけ
「君はその少女の重体の原因が自分であることに気付いて無いんだね」
176 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage sage]:2011/06/20(月) 21:14:06.76 ID:CwP1+qbS0
病院の廊下/
シャルは「痛みは無い」さび付いたように動かない身体を引きずって病院内を歩いていた。
外科というものが何処にあるかは、2年以上同じ病院にいれば知れるものだ。
シャルは見慣れた病院の行き慣れていない道を壁を這いずるように歩きながら、QBの話を思い出していた。
177 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage sage]:2011/06/20(月) 21:15:32.83 ID:CwP1+qbS0
「君は最後にありったけの魔翌力をこめて特大の魔法攻撃を使用した」
「でも君は最後の最後で倒れた」
「病気に身体が冒されていたことに気付かなかったんだね」
「知らないうちに動ける身体ではなくなっていたということさ」
痛みとは身体の異常を訴える信号だ。そんな話を今更思い出したシャルだった。
「おっと。話がそれたね。まぁとにかく君は倒れた。特大の攻撃を残して」
「するとどうなると思う?」
「君の放った魔法はターゲットを定めないで四散し、無差別に攻撃が着弾した」
「それは魔女に甚大な被害を与えた」
「だが同時に、圧倒的な物量攻撃を防御し切れなかった高島和美にも、加川真紀にも大きなダメージを与えた」
「そして勿論、あの一般人の少女にもね」
178 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage sage]:2011/06/20(月) 21:18:12.53 ID:CwP1+qbS0
「凄かったよ! あの瞬間誰もが動けなかった! 君の攻撃は全員が防御に徹してもダメージを与えるくらいに強力だったんだ!
君は誇っていい! 君はその気になれば高島和美よりも加川真紀よりも強くなれる魔法少女だったんだよ!」
強くなりたいとは思った。だけどそれは病人扱いされて、子ども扱いされて、いつも守られるだけじゃ嫌だったからそう思ったんだ。
二人に胸を張って、わたしも仲間だよって、わたしだってみんなと並び立てるんだよって……そう言いたかったからなんだ。だから――
「高島和美も加川真紀も負傷して、ソウルジェムも随分濁った。あれはすぐに治る傷じゃない。とくに高島和美の方はね」
こんなの、なにが誇れるんだ……。
「高島和美はあの猛攻撃の中で君を助けようとしていた。だからだろうね。防御に徹しなかったから、最後に致命打を受けた」
なにが普通の女の子だ……。ばかだ……。ばかじゃないのか。
結局わたしはみんなに守られる存在で、足を引っ張る存在なんだ……。
わたしは……みんなのガンだ。世界のガンだ。いたらみんなを苦しめるんだ……。
179 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage sage]:2011/06/20(月) 21:21:25.26 ID:CwP1+qbS0
そうして、シャルは外科病棟に着いた。
幸いこの時間帯手術をしているのは一箇所だけだったので音のほうへと向かっていればすぐに見つかった。
二人の大人が『手術中』と書いてある赤い看板の前に有る椅子に泣きながら座っている。
きっと家族なんだろうなと、消えたはずなのに痛む胸を押さえて見つめる。少女の両親が悲痛な表情で両手を祈るようにして待っている。
あたしもそれを真似る様に祈り、目を瞑る。
(神様……あの子は悪くないの、いや、ないんです。お願いです。助けてあげてください。
悪いのはわたしです。全部あたし。ぜんぶぜんぶ、ぜんぶわたし。だから……)
そのとき、『手術中』のランプが消えた。
少女の両親も、廊下の隅の方に隠れていたシャルも扉のほうへ寄って行く。
扉はシャルが近づく前に開いた。ここからではなんと話しているか聞こえない、とシャルは近づいていこうとする。
が、その足が止まった。
少女の父親が慟哭して崩れ落ちた。
180 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage sage]:2011/06/20(月) 21:23:13.21 ID:CwP1+qbS0
母親もそれに寄りかかる。この光景を見たシャルは頭が真っ白になった。
だが身体だけは鋭敏に動き、先程まで引きずって来たとは思えない動きで逃げるようにしてその場から逃げた。
外科病棟を抜け、ロビーを通り、小児病棟に入り、階段を這って、自分の部屋に入ろうとした、
しかしその瞬間遂に身体に限界が来たのか、その場に転んでしまう。
ポケットの中のソウルジェムを見ると再び昨日のように黒ずんでいた。
起き上がる気力はなかった。起き上がったって、なにが出来るというのだ。
シャルは笑う。声にも出さず、涙を流し、悲痛な表情で笑う。
181 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage sage]:2011/06/20(月) 21:24:34.11 ID:CwP1+qbS0
シャルには夢があった。
パティシエになって、小さいお菓子屋さんを開いて、結婚して……そんな年相応の少女らしい夢があった。
旦那さんと一緒にケーキ屋さんを切り盛りして、たまにつまみ食いをして怒られて、でも美味しいお菓子が出来たときとか、
お客さんに美味しいって言ってもらえたときには楽しく笑いあって。
……そんな、ふつうの少女が描く、ふつうの夢。
楽しい未来が幸せが、きっと訪れるという、そんな夢。
182 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage sage]:2011/06/20(月) 21:26:20.91 ID:CwP1+qbS0
でも、現実は違った。
シャルロッテはがん患者で、余命はもう尽きようとしていて、お菓子は作れないばかりか、好きに食べることさえままならない。
恋愛だってしたことはない。誰だってシャルに気を遣って寛容で、笑うときでも同情の色が見える。
シャルは先の無い病人だった。
仕舞いには、人を殺した。
自分より遥かに未来があったであろう少女を、殺してしまった。
183 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage sage]:2011/06/20(月) 21:28:21.99 ID:CwP1+qbS0
「もう……いやだ、よ……」
もう、誰の迷惑にもなりたくない……。誰も傷つけたくない。
もしわたし自身がこの世のガンだとしたら、先生、早く取り除いてよ。
ガンの痛みも苦しみも、わかるんだ、わたしは。痛くなくなっても、覚えてるんだよ。
それくらい苦しいんだ…………。だから、誰も苦しめたくない。
痛いのも、つらいのも、痛くするのもつらくするのも……もう……いやだよ……。
だから、お願い。わたしを取り除いて。
「わたし、殺して……」
シャルロッテの手から転がり落ちたソウルジェムは、彼女が思い描いた癌の様な色をしていた。
184 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage sage]:2011/06/20(月) 21:38:55.30 ID:CwP1+qbS0
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
とりあえず前編終了。
後編は後半分弱。 最初に2スレ行くとか自惚れた俺涙目ww
誰か見てるかな〜? 今の段階で質問等あればお願いします。まぁ、いつでも受け付けてます。
とはいえほとんどwikiの考察スレが元ネタ何ですけどね。
シャルが魔女化した。
その事実を知らない二人は? キュゥべえの真意とは?
再びみんなが笑いあえる日は来るのか?
救いとは――……
ハッピーエンド or バッドエンド?
さぁこれから10分後、後編 〜救出編〜 スタートしまぁす。
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
185 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
:2011/06/20(月) 21:49:15.37 ID:CwP1+qbS0
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
よーし、後編行きまーす
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
186 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage sage]:2011/06/20(月) 21:50:42.19 ID:CwP1+qbS0
異変はすぐに感じ取れた
187 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage sage]:2011/06/20(月) 21:52:02.59 ID:CwP1+qbS0
和美の部屋/ 〜夜〜
魔女が街にあらわれたことは分かっていた。
キュゥべえが伝えてくれたと言うこともあるが、それ以上にソウルジェムが強く反応していたからだ。強い魔女だろう、と感じた。
「そう、あなたも無理なの……」
ベッドで安静にしながら、和美は電話で真紀と話していた。ソウルジェムの魔翌力を普段より多く回復に当てたものの、
さすがに傷が傷だったので未だ完治とはいかなかった。早くても、動けて明日、全快なら4日ほどはかかる見通しだ。
「ま、あたしは明日には完璧に治ると思うけどな、さすがに半端な体調でソロ挑みするほど無謀な性格してねぇよ」
「そうね、今回の魔女、強そうだものね」
「あぁ、万全を期すに越したこたぁない。貴重なグリーフシードだ。慎重に行かないとな」
「そうね……」
「あー……。ところでよ、動けるようになったら、その、どうだ、シャルの見舞いにでも行くか?」
「…………」
俄かに落ち込んだ様子を見せた和美。電話越しでは視覚的に見ることは出来なかったが、真紀にはその様子が感じ取れた。
188 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage sage]:2011/06/20(月) 21:53:23.70 ID:CwP1+qbS0
「……お前は間違ってなかったよ。だけど、たまにゃそういうこともあるんだ」
「そうかしらね……」
「感情的になったのはだめだったがな。あれじゃ意固地になるだけだよ」
「……そうね」
「…………」
「…………」
「あーー! ウザイっ!!」
「!?」ビクッ!
「なんだあんた! ほんとメンタルが豆腐だなおい。崩れやすすぎだろ」
「ご、ごめん……」
「感謝なんてされないって、分かってたはずだろうが」
189 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage sage]:2011/06/20(月) 21:54:02.68 ID:CwP1+qbS0
「……そうね」
「ったく、ほんと、自信の波が激しすぎだろ……」
「ごめんなさい。でも、つい不安になるのよ。大切であればあるほど」
「あいつだってそうだろ」
「え?」
「あいつだって、除け者にされたくなくてあんだけゴネたんだ。『仲間』って場所が、タマ張ってでも
守り通したくなるくれーに大切だったんだ。だから今は、不安だろぉよ、あいつも」
あたしもな、と真紀は付け足す。
190 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage sage]:2011/06/20(月) 21:55:49.91 ID:CwP1+qbS0
「……明日は、時間空いてる?」
「あたしは、ガッコいってねーからな」
「それは好都合ね」
和美は、真紀と待ち合わせの場所と時間を決めた。
「じゃ、また明日」
「おう、またな」
ピッ、と携帯の電源を切り、和美は再びベッドの上に倒れこむ。和美は天井を見ながら決心した。
明日は、謝ろう。そしてシャルに告げよう。ちょっと誤解と諍いがあったけど、互いが思うままに行動していれば、
それもありえることだった。だから、全てを話し合おう。隠すことはない。
「私たちは、仲間なんだから」
時計を見る。明日がすぐそこであることを、白い時計の針が知らせてくれた。
191 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage sage]:2011/06/20(月) 21:56:59.88 ID:CwP1+qbS0
魔女の結界/
「はぁっ……! はぁっ……!」
楽勝だと思っていた。あまりに抵抗がなくて、とんでもない雑魚だと思った。実際そうだって言われた。
だからわざわざ隣町のエリアまで倒しに来た。なのに、なのに……!
「キュゥ……べえっ!!」
(よんだかい?)
「出てこい! どういうことよ! 何であんな化け物だって教えてくれなかったの!?」
(それは個々の主観によるものだからね、僕の口からではとても……)
「何言ってんのよ! あんなの勝てっこないじゃん!!」
あんな魔女、どうやって勝てんのよ!? 反則にも程がある!!
(さぁ、僕が魔女を産んだわけじゃないから、そこは分からないよ)
「ふざけんな! 薄情よ! 詐欺師! 似非マスコット!!」
192 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage sage]:2011/06/20(月) 21:59:01.38 ID:CwP1+qbS0
(やれやれ、酷いなぁ。君たちはいつもそうだ。心地よい言葉ばかりを受け入れ、耳に痛い真実は排除しようとする。わけがわからないよ)
「なに言って、……!」
来た! あれが……、あれに追いつかれた!
「わかった、ごめん。ごめんねキュゥべえ! 謝るから、謝るからさ、助けて、ね? 助けてよ!」
(僕は戦いはからっきしだ。君も知っているだろう?)
「そこをなんとかお願い! ねぇ! ほら! 奇跡! 奇跡の力でやっつけてよ! ねぇ!」
(いやいや、不可能に決まっているじゃないか)
「いいから助けろってマジで! ねぇ! 助けろよおおおおぉおお!!!」
(…………)
ズルリ……
「ひっ……! う、うあぁあああああああ!!!」
193 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage sage]:2011/06/20(月) 22:00:48.18 ID:CwP1+qbS0
病院の外の木/
やれやれ、さすがにかなわなかったようだね。まぁいい。そもそも勝ってほしくもなかったし。
それにしても、あれ位の強さがあれば大丈夫かな。魔女になった時に強いエネルギーを確保できたし、今回は上出来だ。
ま、できればあの二人も後に続いて欲しいけど、それは高望みだろう。
いや……そうだね、この方法ならば可能性はある。機会があれば、ぜひ試してみるとしよう。
それにしても詐欺師か。酷いよね。詐欺師は自分のために人を利用する悪い奴だ。
だけど僕は宇宙のために、人間を利用して、利用して利用して利用して利用しつくす。
限りある資源を無駄なく最後まで使い切る、節約家だよ。人間の世で言えば、エコさ。
「さて皆、宇宙のために死んでくれるかな?」
木に紛れるその存在に気付くものは誰もいない……。
194 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage sage]:2011/06/20(月) 22:02:00.13 ID:CwP1+qbS0
病院前/ 〜翌日・昼〜
その変化は顕著だった。
「なによ……、これ」
病院の一室から、大きな黒い歪みが見える。それが魔女の結界が発動している証だと気付くのに、
少し時間を要した。
「てか、おい。あの部屋って……!」
見間違えるはずはない。たった一室しかないダンボール張りの窓。その部屋。
「し、シャル!!!」
駆け出しそうになる和美を、真紀は全力で押さえつけた。
「何するのよ!? 離して!」
「落ち着け! 気持ちは分かる!! だけどこのレベルの魔女とその身体で戦うつもりか!?」
「でも! シャルが! シャルが!!」
「あいつは……きっと無事だよ! 魔翌力だって回復していた。逃げるくらいなら、どうにでもなったはずだ!」
195 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage sage]:2011/06/20(月) 22:03:07.04 ID:CwP1+qbS0
「でも、あの子、きっと逃げないわよ!」
「……ぅ」
真紀も心の中ではそう思っていたのか、図星を疲れて様に口ごもる。和美は真紀の手を払い病院に近づく。
「やめとけ! ほんとにその身体じゃ死ぬぞ!」
「……わかってる。大丈夫よ。自分で一番分かってる。念話でいるかどうか探すだけよ」
「そ……、それならいいんだけどよ」
和美と真紀は、結界に踏み込まないようになるべく外から念話でシャルに呼びかける。
(シャル!? 聞こえる!?)
(おいシャル! いたら返事してくれ!)
しかし、二人の呼びかけに反応はなかった。仕方なく二人はシャルの病室の歪みを中心にして、
大きくグルリと円を描くように移動して呼びかけ続ける。だが、一向に反応は返ってこなかった。
196 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage ]:2011/06/20(月) 22:05:03.33 ID:CwP1+qbS0
「どうしよう……」
「…………」
もし、病院内を逃げ惑っている最中なら、今の念話で反応してもおかしくない。
だが、反応がなかったと言うことは、例えば念話が届かない距離の中心部で隠れているか、気絶しているのか、それとも……
「逃げたんだよ。逃げ延びたんだよ! 絶対……」
「…………」
「絶対さ……あぁそうだ。違いない。絶対だ」
そういっている真紀も信じたくない気持ちとは裏腹に、今のこのリアルに押しつぶされそうだった。
まだ仲間の死も、ともすれば親戚の死すら経験していない高校生の彼女たちに、この事実はいくらなんでも重すぎた。
いつもなら気丈に振舞っている真紀も、この時ばかりは青い顔で、目尻に涙すら浮かべていた。
197 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage ]:2011/06/20(月) 22:06:17.39 ID:CwP1+qbS0
「そうだ」
「……何だよ?」
「キュゥべえに聞いてみましょう」
「え?」
「もしも、例え、その、もしシャルが魔女に……殺、されていたとしても! ソウルジェムが無事なら、まだ望みはある!」
「どういう……?」
「つまり、シャルは魔女と戦って、魔翌力を使い果たして負けた。その時、ソウルジェムが真っ黒で回復が出来なかった。
だから今は、その、死んだようになってるのよでもソウルジェムさえ無事なら!」
198 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage sage]:2011/06/20(月) 22:09:52.86 ID:CwP1+qbS0
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
なぜか魔翌翌翌力…… orz
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
199 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(京都府)
[sage]:2011/06/20(月) 22:10:54.17 ID:KIFlGx5g0
sageじゃなくsagaだ
200 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage saga]:2011/06/20(月) 22:12:01.77 ID:svgCCgTmo
[sage]だけになっているからかと。[saga]も加えるといいですよ。
”魔力”
201 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[saga]:2011/06/20(月) 22:13:21.89 ID:CwP1+qbS0
魔力
202 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[saga sage]:2011/06/20(月) 22:15:24.24 ID:CwP1+qbS0
きたこれれええええええええええええ!!!!
みんなありがとおおお!! 素人でごめんねええええええ!!!
続き書きます
203 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 22:16:16.95 ID:CwP1+qbS0
真紀の家/
「今、親いないから。どんだけ叫んでもまぁ大丈夫だ」
真紀の家はシャルの病院から比較的に近いところにあった。
加えて両親不在で人目を気にせず話し合うのに絶好の場所であったので、真紀と和美はここに来ていた。
「叫ばないわよ」
「どーだか。あんたはシャルのことになると白熱しすぎる」
「う……」
「いや、責めてるわけじゃねーよ」
二人の雰囲気はいくらか和らいでいた。少なくともこれからやろうとしていることは今までと変わらない。
魔女を倒して、シャルを救う。その図式は一緒だった。
「ソウルジェム、どうだ?」
「だいぶ曇ってきたわ」
204 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 22:18:12.81 ID:CwP1+qbS0
和美はポケットからソウルジェムを取り出す。それに習って真紀も取り出す。
真紀の方が若干澄んではいたが、どちらも黒いことには変わりなかった。
「……相性のいい魔女だといいけど」
「そればっかりは、祈るしかねぇな……」
真紀が部屋の扉を開ける。思っていたよりも殺風景な部屋で、和美は少し驚く。
「なんもねーだろ?」
「え、いや……」
「いいんだよ、無趣味な部屋で。無趣味だと金が余る」
その言葉に、理屈以上の何かがあるような気がして、和美はこの話題から離れた。
「それで、キュゥべえ。いるんだろ」
真紀の声を待っていたようにして、キュゥべえが窓から入ってくる。
205 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 22:19:09.43 ID:CwP1+qbS0
「やれやれ、僕はいっつも君たちの傍にいるわけじゃないんだけどなぁ」
「でもいただろ?」
「事実だね」
そんなやり取りに和美が割って入る。
「キュゥべえ。お願いがあるの。シャルは、その、無事なの?」
二人がキュゥべえを見つめる。キュゥべえは一呼吸置いて
「大丈夫だよ。シャルロッテは生きてる」
その言葉に二人は明らかに安堵した。和美は両手で口を押さえて喜び、真紀は力いっぱい手を握りしめた。
「ちなみに、それは! 逃げた、という解釈でいいの?」
206 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 22:20:02.46 ID:CwP1+qbS0
「いや、シャルロッテはまだ病院にいる。移動した様子はない」
「そ……、っか。てことは、その、そういうことか……」
真紀はつまりそういう事態が起こったのだと認識した。横を見ると和美も同じように解釈しているようだ。
「ねぇ、キュゥべえ。ソウルジェムってね、どれだけの傷を、どれくらい放って置いても完治するものなの?」
二人は息を飲む。
「そうだね、理論上ソウルジェムが無事であって、なおかつ回復分の魔力があれば問題ないよ。
身体の破片が一つでも残り、完全な状態のソウルジェムが残っていれば時間と魔力をかけて、元に戻らせることは可能だ」
ことは、順調に運んでいる、と二人は感じた。
207 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 22:21:46.94 ID:CwP1+qbS0
「シャルには悪いが、万一に備えて体調が完全回復してから助けに行くことにしよう」
「そうね、悪いけど、今の身体じゃいつもの半分くらいしか戦える気がしないわ」
「3日後、シャルの救援に向かおう」
「3日? いいのかい? 早めにいったほうがよさそうなものだけど」
不意にキュゥべえが急かしてきて、怪訝に思った和美であったが、
「いいのよ。3日あれば私も完治する。他の倒しやすい魔女が出てくれば、グリーフシードを回収できる。
グリーフシードがあれば、最悪、魔女を倒せずとも、シャルの救助だけで十分になる」
「シャルが戻ってこれれば、グリーフシードを当てて蘇生させられるわけだ。
例え一回じゃ無理でも、病院の魔女や他の魔女のグリーフシードでいつか蘇生させられる」
「……そうか、君たちの勝利条件はシャルの救助か」
「勿論、魔女を倒すのも条件だけどね」
「ふーん。そうか……、そうか」
208 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 22:23:09.55 ID:CwP1+qbS0
キュゥべえはいかにも愉快そうに装いました、といった調子で言った。
「んだよ、言いてぇことがあんならさっさといいやがれ」
「いやいや、君たちが無謀なことに挑戦しようとしているなぁと思っていただけさ」
「どういう意味よ」
「なんか計画に不備でもあんのか?」
「君たちはシャルを救いたい。でも魔女は倒したい、か。難しいことだね」
「だ・か・ら! グチグチいってねーで用件をさっさと――」
「待って」
和美が真紀の言葉を遮る。真紀が和美を見るとその表情は真っ青で、信じられないものを見るような目つきでQBを見ていた。
209 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 22:24:08.17 ID:CwP1+qbS0
「……どうしたんだい? 高橋和美?」
ゆっくりと、抑揚のない声でQBは効く。
「シャルは、『無事』なのよね?」
「大丈夫だよ。シャルロッテは生きてる」
QBは録音のようにさっきと同じ言葉を繰り返す。
「生きてるのね? 『大丈夫』なのね?」
「あぁ、シャルロッテに与えられたダメージなんてそう大したものじゃない」
「おい和美、もうその話はいいかr……」
「『大丈夫』とは、どの範囲までを差すの? 定義は?」
「は? 何言って……」
210 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 22:26:22.90 ID:CwP1+qbS0
>>209
効く→聞く
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
「……『生きてる』の定義は……?」
「……哲学的だね」
「茶化さないで! 『生きてる』ってどういう状態?」
「なぁおい! それって一体どういうことだよ?」
「そうね、分かりやすく言いましょう」
「…………」
「シャルロッテは、シャルなの?」
「…………」
「シャルはどうやって魔女と戦ったの? どうやって倒された? いいえ、」
「…………」
211 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 22:27:23.67 ID:CwP1+qbS0
「そもそもシャルは魔女と戦った?」
「…………」
「お、おい。分かりやすくなってねぇぞ。キュゥべえも! なんとか言えっての」
「…………やれやれ、聡明だね高橋和美」
「おねがい、キュゥべえ……。嘘だって否定して」
「君は真実を隠されて喜ぶのかい? やれやれ、わけが――」
その瞬間、和美は弾ける様にQBとの距離をつめ、QBを床に力いっぱい押さえつける。
「和美!?」
「どういうこと? どういうことよ!? どういうことだ!! 答えろキュゥべえっ!!!」
「おい! 何がどうなってんだよ!」
212 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 22:28:36.20 ID:CwP1+qbS0
「真紀。あなた、病院の様子、覚えてる?」
「あ、あぁ」
「シャルの病室が、結界の中心に位置していたわよね?」
「おう……」
「気になりはしたわよ……。なんでわざわざ魔女が魔法少女のいる病室にグリーフシードを設置したのか。
同じ病院でも、もっと人目に付かないところなんていくらでもあったはずなのに!」
「え? ……は? ……い、いやいや。嘘付けよ。そりゃねーだろ。だって、……え?」
真紀もその事実に何か思い立ったのか、顔から嫌な汗を流した。
「だっておい! それじゃあよ、何か!? あれは……っ!!」
「ねぇキュゥべえ。私たちがシャルを救助するのと魔女を倒すの2つをこなすのは無理と言ったわね? どうして?」
「君の想像の通りさ」
213 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 22:30:29.27 ID:CwP1+qbS0
「……っ!! 何で!? どうしてよ? 何で……? 答えてよキュゥべえ! 何で、」
「……」
「なんでシャルが魔女になってるのよ!?」
沈黙。だがそれは何時破裂してもおかしくないような、そんな危険を孕んでいた。
「そ、そういう能力の魔女みたいなのがいたってことなのか?」
「分からない。分からないことだらけよ。キュゥべえ、答えて! 何が起こってるの!? あなた何か知ってるんでしょう!?」
キュゥべえを抑える和美の手に力が強くなる。和美はQBを押さえつけていてわからなったが、
床に押し付けられて歪んだQBの表情は、ほくそ笑んでいるようにも見えた。
「ははは、そう怒らないでよ。魔法少女とはそういうシステムなんだ」
「なん……ですって!?」
「君たちの持つソウルジェムが完全に濁り切ってしまったとき、魔法少女は魔女となってしまうのさ」
214 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 22:31:21.93 ID:CwP1+qbS0
その一言に、真紀が立ち上がる。
「っざけんなよ! な、なんだよそれ!? なんで言わなかったんだよ!?」
「聞かれなかったからさ」
「舐めんな! んなこと始めっから、契約の時から言うのが筋ってモンだろうがっ!!」
「何を言うんだい。相手が必要な情報を察して話してくれるのを待つだなんて、それは甘えだよ」
「てめぇっ!」
「キュゥべえ……。じゃあ今まで私たちが戦ってきた魔女は……」
「全て元魔法少女が絶望した成れの果てさ」
「絶望……?」
215 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 22:32:23.68 ID:CwP1+qbS0
「気付かなかったかい? ソウルジェムは魔力行使以外でも濁るんだ。所有者が絶望に打ちひしがれる
に比例してソウルジェムが濁っていくのさ。魔力消費とは比べ物にならない早さでね」
「じゃあ……」
「一昨日戦いに巻き込まれた少女が死んだ。シャルロッテはそれに絶望して魔女になった。
皮肉なものだね。一人の死に絶望して、また多くの他人を殺してしまう結果になるのだから」
「おい……!」
「なんだい? 加川真紀?」
「てめぇは何で魔女を生み出そうとするんだ……! 人を絶望させて楽しんでんのか? あぁ!?」
「そんなまさか。僕は正義の行いをしているだけさ!」
「何が正義よ! あんなに幼い子をそんな目に合わせて何がっ!!」
「やれやれ。説明すると長くなるから割愛するけどね、君たちが魔女になる際に発生するエネルギーが宇宙存続のために役立つのさ!」
216 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 22:33:33.39 ID:CwP1+qbS0
「うちゅう……、存続?」
あまりに突拍子もなく壮大な話に、真紀も和美も面を喰らう。
「宇宙の存続のためにはエネルギーがいる。そのエネルギーを生み出す存在に、
この広い宇宙の文明の中で君たち人類が一番の適役だったのさ。誇るといいよ」
「ばっ……か野郎! んなSFな理由で納得できるわけねーだろ!? あたしらは家畜じゃあねーんだぞ!」
「まったく、君たちだって後数十億年もすればひとごとではなくなるっていうのに……」
「そんなに先の話、今の私たちには関係ないでしょ!!」
「無責任なことだね。君たちはいつもそうだ」
「ふざけたことばっか言ってんじゃねーぞ!!」
真紀は和美からキュゥべえを奪い取り、壁に叩きつける。
「いきなり何をするんだい?」
217 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 22:34:26.73 ID:CwP1+qbS0
「誰だって今って奴を必死こいて生きてんだ! んな未来のために死ねって言われて、はいそーですかなんていえるわけねーだろーが!!」
「キュゥべえ……。教えなさい! シャルを救う方法にはどうするの? これは命令よ。教えなさい!!」
和美は剣を召還する。真紀もソウルジェムから銃を作り出した。
「やれやれ……。君たちはどうして64億もいるなかの1個体の生き死に拘るんだい?」
「仲間だからよ」
「助ける利益なんて何処にあるんだい?」
「お前にはわかんねーよ。あたし等の自己満足だ」
218 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 22:36:56.85 ID:CwP1+qbS0
「わからないなぁ……。シャルロッテを生かしても君たちは困るだけだろう?」
「なんですって?」
「あれは人間が繁栄活動を行う上でデメリットしか持ち合わせていない。あの個体は病気持ちで、周りの足を引っ張る存在さ。
シャルロッテは僕が魔法少女にして有効活用したけど、あれは人間個体として考えればただのゴミだ。生かす価値なんてないだろう?」
銃声。何のためらいもなく放たれたそれは確実にQBの頭蓋を打ち抜いた。
「こんの野郎!!!」
真紀は尚も銃をQBの以外に向けて乱射する。だが
「それはもう事切れている。撃ったところで何の意味もない」
219 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 22:38:17.69 ID:CwP1+qbS0
その声に二人は固まった。
「あなた、何故そこに」
「詳しい説明は省くけど、僕を殺しても意味がないということさ。おぼえておくといい」
そういうとQBは元自分の亡骸を食べ始めた。その光景に二人は恐怖と吐き気を覚える。
「けぷ。……もう。事実を言ったのに撃つなんて酷いじゃないか! 弱者は淘汰され、
より強い個体が交配することで種としての繁栄に繋がるなんて常識だろう?」
「まだいうか……っ!!」
「やめなさい真紀! あれを殺しても無意味よ」
「でも!!」
「見なさい!」
和美は真紀のソウルジェムを指差す。その色は暗かった。
220 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 22:39:52.13 ID:CwP1+qbS0
「あれは私たちを魔女にさせようとしているのよ。魔法の無駄撃ちは禁物だわ」
「……ぐっ……!!」
「いやいや。惜しかったなぁ。やっぱり普段は聡明だね。高橋和美」
「…………」
和美は無視を決め込む。真紀は深呼吸をして、一応冷静さを取り戻す。
「……なぁ、シャルはもう……助かんねーのかな」
「……気弱じゃない。珍しく」
「……最近調子よかっただけだよ」
「…………。……」
「…………」
どうすればいいのか。その疑問は解消されず、嫌な沈黙と共に時間ばかりが過ぎていく。
221 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 22:40:53.23 ID:CwP1+qbS0
真紀の部屋/ 〜1時間後〜
二人は目に見えて焦れていた。時計の秒針がうるさく感じる。この空間で、QBだけがただ一人くつろいでいた。
「……キュゥべえ」
意外にも、先に折れたのは最初に無視を決め込んだ和美であった。
「おや、このまま無視されるものだと思っていたけど、なんだい?」
「あなたは、宇宙のために魔女を生み出したいのよね」
「和美……?」
「あぁそうだよ。僕は全宇宙の全文明のためになることをしているんだ」
「じゃあそこに悪意はないって誓える?」
「もちろんさ。君たちは食卓に並ぶ家畜にいただきますと敬意を払うだろう? 悪意をもって接する必要なんて何処にもない」
222 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 22:42:10.57 ID:CwP1+qbS0
その返答にカチンと来たが、二人は冷静になるよう努める。真紀は和美を見る。何を考えているのか図りかねていた。
「じゃあ、シャルを戻す方法はあるか……教えて? いえ、出来るか出来ないか。それだけでかまわない」
「ふむ。さっきの前提の確認とどう繋がるんだい?」
「……魔女をもう一度魔法少女に戻せれば、また魔女になった時にエネルギーとやらが手に入るんじゃないの?」
「…………」
真紀は黙っている。QBはうーん、とわざとらしい声をだして考えて、
223 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 22:43:26.91 ID:CwP1+qbS0
「……僕の知る限りでは、方法は無いね」
「出来るか出来ないか? 分からないの?」
「魔法少女は条理を覆す存在だ。君たちがどれ程の不条理を成し遂げたとしても、驚くには値しないよ」
「出来るのね?」
「前例はないね」
「その答えで十分よ。何事も最初は前例がないものだわ」
「……そうか。なら頑張ってね。これだけは言っておくよ。
救おうと思うのならなるべく早く行動したほうがいい。シャルの魂が魔女に定着してしまう前にね」
そういうと、QBは少し開いた窓から外へ消えていった。
224 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 22:45:37.53 ID:CwP1+qbS0
病院/
黒の歪みがさらに拡大した病院を前にして、真紀と和美の二人は嫌な汗を流す。
作戦は決めた。だが全てにおいて万端ではなく、不安ばかりが残るのであった。
「大丈夫、よね」
「悪いけど、あたしは保障しかねる」
二人の決めた作戦はシンプルだ。シャルとはまともに戦わず、逃げながら声をかけ続ける。
それだけだ。かつて仲間であった自分たちの声で、シャルの意識を呼び覚まそうと言うものだった。
「けど、信じるしかねーだろ……」
余りにもチープで、余りにも夢見がちな作戦。いつか子供の頃に憧れたアニメのような展開。
そんな一抹もないくらいの望みに、彼女たちは命を懸ける。
225 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 22:47:14.90 ID:CwP1+qbS0
「いくか……」
「……えぇ……」
不安を胸に、歩き出そうとしたその時だった。
「お二人とも! 今は病院には入れませんよ」
その聞き覚えのある声に二人して振り返る。その声の主は予想通り、シャルの父であり、こちらに向かって走ってくる最中だった。
「シャルのパパさん……」
「こんにちは。入れないとはどういうことですか?」
「え、えぇ。何やら集団昏睡症状がどうとかで、混乱状態らしくて、警察と関係者以外は立ち入り禁止のようです」
226 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 22:48:21.51 ID:CwP1+qbS0
「…………っ!」
甘かった、と和美は反省した。病院で魔女が発生すればこうなることは目に見えていた。もっと早く動くべきだったと毒づいた。
「気にすんな。今回の被害は……いつにも増して早い。予測できなかった」
「でも起こってしまったわ」
「…………」
「あの……、いったい何の話を?」
不思議そうにしているシャルの父。
「いえ……」
「それにしても娘は大丈夫なんでしょうかねぇ……。連絡が一向につかないんですよ」
真紀はその言葉に下唇を噛む。申し訳なくて、彼と目を合わせることが出来なかった。
227 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 22:49:47.30 ID:CwP1+qbS0
「……もしかして、何かご存知ですか?」
その一瞬の反応から、シャルの父親は何かを感じ取った。
「……いや、その」
「いえ、全く。私たちもお見舞いに来たばかりで……、状況も分からないんです」
「…………、言ってはくれないんですね」
もう、嘘は通用しなかった。
「……聞けばきっと後悔します」
「…………」
「なぁ……、和美」
「……何?」
「この人にもさ、知る権利があるんじゃないか……? 今回のことも、全部ひっくるめてさ」
228 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 22:51:15.18 ID:CwP1+qbS0
「…………」
「感情移入して肩持ち過ぎなのかもしんねーけどさ、あたしたちよりずっと長い間シャルの傍にいたパパさんにも、
……知って欲しいんだよ。知らないままに事が流れていくのは、つれーからさ」
「……」
和美は意を決して、シャルの父に振り返る。
「……真実を知っても、残念ながら、お父さんに出来ることは何もありません。
だから、知って逆に歯がゆい思いをするかもしれません。知らないほうが、きっと幸せです」
「……はい」
「ですが、あなたには知る権利があります。…………どうしますか?」
シャルの父親は、深く、力強く頷いた。
「……これから話すことは、突拍子のないですけど事実です。どうか信じてください」
もう一度、頷く。和美は全てを話し始めた。
229 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 22:52:19.05 ID:CwP1+qbS0
――――――――――――
――――――――
――――
「…………」
シャルの父親は信じがたいという表情で絶句していた。
「……」
「……」
二人もなんと声をかけていいか分からず、黙り込む。
「……何か、内緒でしていることがあることは分かっていました。……ですが、」
これ程とは。そう父の口は動いたが、キチンと発音はされなかった。
230 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 22:53:51.84 ID:CwP1+qbS0
「シャルを助けらんなかったのは、あたしらの責任っす……」
真紀が頭を下げる。決してきれいなお辞儀ではなかったが、
その纏う空気はどこまでも悲痛で、重々しかった。シャルの父は真紀に頭を上げるよう促した。
「……では、お二人はその……、魔女になってしまったシャルを……、退治、しに?」
「いえ! そうではありません!」
「なんとしてでも助けよぉと、来たんすよ」
「助かるんですか!?」
シャルの父親の顔に光がともる。だが二人の顔色は優れない。
「わかりません。残念ながら、保障はありません」
「シャルに向かって根気強く話しかけて思い出させる……っていう、
もう作戦でもなんでもねぇよーなことを、今からやってくるだけです」
231 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 22:55:00.25 ID:CwP1+qbS0
「話しかける?」
「仲間だった私たちの声で……。もしかしたら元に戻れるんじゃないかって」
「……でも、そういうもんじゃないっすか? 愛と勇気が勝つ、喜劇の最後っつーのは」
「…………」
シャルの父は俯く。和美は、無理もないと思った。
言い方を変えれば、これはもうほぼ助かりようがないと言っているようなものなのだ。
「全力を、尽くします」
「あたしらあいつの仲間っすから」
「…………」
二人は病院に向かう。
「待ってください!」
だが、シャルの父は二人を止める。
「私も……! 私も連れて行ってください!」
232 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 22:56:09.17 ID:CwP1+qbS0
二人は驚いて彼を見る。
「ざ、残念っすけど……、来てもどうしようも……」
「結界の中は超常の殺し合いと戦いの空間です。一般人が容易く生き残れる空間ではありません」
「それでも私は、あの子の父親です……!」
目に決意を灯して、一歩も引かない空気を纏って、シャルの父は言う。
「11年。毎日あの子と話してきました」
その空気に、二人は押される。一般人と魔法少女の差は大きい。だが大人と子供の差もまた、埋められぬ大きな差がある。
「言葉の重さはあなた方にも負けません」
密度の違いがあるといえど、1年も経っていない仲だ。その現実は確かにあった。
「連れていってください……!」
シャルの父は頭を下げる。彼は多くで語ることをしなかった。だがその言葉の一つ一つに、
頭を縦に振らせる魔力があった。それは社会で培ってきた能力なのか、はたまた娘を思う気持ちからのものなのか。
233 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 22:57:19.94 ID:CwP1+qbS0
「…………」
「…………」
沈黙。だがこの沈黙を続けても先に折れるのは自分になるのだろうと、
押される空気の中、和美は感じ取っていた。そして和美はひとつ溜息をして、シャルの父に向かって言う。
「命の保障はありませんよ」
「おい! いいのかよ?」
和美は頷く。
「…………」
「それでも構いませんか?」
「はい」
234 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 22:58:24.58 ID:CwP1+qbS0
即答であった。この一言に、どれほどの思いがあるか、二人には計り知れなかった。
このセリフが簡単に出るほど、大人は短い人生を送っていない。たった2文字。
その2文字に数十年の人生を乗せた彼に、反対など、高校生の自分ができるものではなかった。
「わかりました」
和美は病院を見据える。
「とりあえず警察に見つからんように行くんで、注意してください」
真紀はシャルの父を先導していく。三人の影は、病院の中へと消えていく……。
235 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 23:00:29.72 ID:CwP1+qbS0
魔女の結界/
「ここが……」
辺り一面お菓子で彩られたファンシーな空間に、シャルの父親は息をのむ。
「ここはまだ大丈夫でしょうが、これから先はいつ攻撃されてもおかしくありません。気を付けて」
その言葉にシャルの父は緊張し、たまった唾を飲み込んだ。それを見かねた真紀は
「だーいじょうぶっすよ。使い魔なら一般人でも、どうにかなりますって」
「シャルのお父さんは、何か……武器を使った経験は?」
「いや、さすがに……」
「ま、そうっすよね」
「すいません。出張先が1000年前のイタリアだったら……」
236 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 23:01:30.61 ID:CwP1+qbS0
「いえ、大丈夫です。私も馬鹿な質問をしたと思っています……。ですがなんとか使えそうな武器に近いものはありますか?」
「長物ならどうにか」
「無難だろーな」
「そうね。それなら誰でも使えそうね」
和美は二つ目の剣を召喚し、その刀身にそっと触れる。すると剣は棍棒へと姿を変える。
「持てそうですか?」
「ん、見た目より軽いですね」
「魔法ですから。とはいえそれ7〜8キロはありますけど」
「重くね?」
「シャルの……魔女の対面するのに金属バットレベルの武器じゃ心もとないと思って……」
「大丈夫ですよ、これくらいなら」
237 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 23:02:30.73 ID:CwP1+qbS0
シャルの父は両手でそれを持ち上げる。言葉に嘘はないようで、体がふらつく様なことはなかった。
「では行きましょう。使い魔といえど、攻撃を食らえば傷つきます。無茶はしないでください」
「パパさんは自分の身だけ守んのに専念してくださいっす」
ん……、と自分の敬語に違和感を覚える真紀。やはり敬語はなれないようだ。
「タメ口で構いませんよ。急な時に言葉が通じない方が嫌ですから」
シャルの父は見透かしたように言った。
「助かる」
三人は走り出す。
238 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 23:03:40.84 ID:CwP1+qbS0
魔女の結界(長い橋)/
「パパさん後ろ!」
「はい!」
シャルの父が棍棒を横に振りぬく。すると使い魔はアニメのように遠くへ飛んで行った。
「お父さんは、何かスポーツを?」
「イタリア勤務のころ、クリケットをやっていました」
「くりけっと?」
「野球みたいなものよ」
「ははは……。日本でも知名度は高くありませんか」
239 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 23:04:48.07 ID:CwP1+qbS0
シャルの父はまた、近づいてきた敵を弾き飛ばす。野球もクリケットも経験のない二人だったが、
そのフォームが様になっているということぐらいは感じられた。
「同僚のブリティッシュ(英国人)に勧められて始めましたが、まさかこんなところで役に……立つとはっ!」
言葉とともに打ち返す。「これでも強打者だったんです」と、シャルの父は呟いた。
シャルパパの意外な特技に心強さを感じた二人。散発的に襲ってきた敵を危なげなくいなしていく。
長い石質の橋を駆け抜け、奥へ、奥へ――。
240 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 23:05:58.56 ID:CwP1+qbS0
「娘は、」
敵の攻撃は思ったよりも少なく、先ほどから道を走っていく時間が続いていた。
「娘は、毎日こんな戦いをしていたんですね」
シャルの父の呟きに、二人は表情を暗くする。
「それが、奇跡の対価ですから」
「……結局奇跡はほとんど意味がなかったけどな」
奇跡さえも、シャルを完全に病魔の手から引き離すことができなかったのだ。
「いえ、ありましたよ。奇跡」
そのセリフを他ならぬシャルの父が言ってのけたことに、二人は驚く。
241 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 23:06:52.51 ID:CwP1+qbS0
「奇跡がなければ、あのままシャルは病院で息を引き取っていたでしょう。ですがその奇跡とやらで娘は回復しました」
「だけど、……結果はこれだ」
「まだ手はあるんでしょう? だからまだ結果じゃなくて、過程です」
その言葉に和美は頷く。
「奇跡のおかげで、シャルはあなた方と出会った。そしてその君たちのおかげでシャルを救える。それこそ、他でもない奇跡です」
「…………」
「……お父さん、シャルを救えた後、どうなるかはわかりません。
またすぐに魔女になるかもしれないし、病気で大変な目に会うかもしれません」
その言葉は悲痛だった。だが、二人の辛さを和らげるような優しい笑みで、シャルの父は言う。
「……海外のツテで、腕のいい医師が見つかったんですよ」
242 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 23:10:21.48 ID:CwP1+qbS0
「!?」
「ほ、ほんとですか!?」
「すぐに完治できるわけではありません。しかしながら、命を失う事態は、回避できるようです」
「………!」
「そっか……! そっか!」
「奇跡に頼らずとも、人は生きていけるんです」
作戦は絶望的だった。先は真っ暗だった。しかしこのとき、確かに先の方に、一筋の光が見えた気がした。
「シャルは……、助かるのね」
まだ作戦は途中だったが、終始気を張り詰め、気丈に振る舞っていた和美の目からは、確かに一筋涙がこぼれた。
243 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 23:11:37.80 ID:CwP1+qbS0
「こりゃ、是が非でも成功させねーとな」
「えぇ、成功させて、完治させて、これからは安全にしてもらえるようにキュゥべえとやらに交渉して見せますよ」
交渉ごとは仕事で慣れっこです、と笑う。
「! あれ!」
和美が指差す先には扉があった。
「あそこか……」
「ええ……。……確立の低い作戦だけど、必ず成功させるわ。奇跡じゃなくて、私たちの手で」
和美は決意する。後ろの二人も頷く。
「まかせろ」
「はい」
「じゃあ、行きましょう!」
奥へ、たどり着く。
244 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 23:12:37.56 ID:CwP1+qbS0
魔女の部屋/
扉の先は、これまでの空間と比べて明るかった。広々とした円形の空間は、
やはりお菓子で彩られたファンシーな背景。いままでとの違いは明るさと、
「あそこ……!」
和美が指差すその先に、背の高い椅子と机があった。そして
「あれが、シャル?」
椅子の上に俯き加減でちょこんと座っているそれ。
袋入りのキャンディの様な頭部に、円らな青い目。ダボダボの服とマント。そして黒いマフラーのようなものを付けたそれ。
『…………』
「どことなく、娘の面影があります……」
「きっと、あれがシャルが魔女になった姿なのよ」
「魔女って、なってすぐはあんなに可愛らしいもんなのか?」
真紀は疑問に思う。その魔女の姿は、QBよりも、魔法少女のマスコット役にふさわしそうだった。
245 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 23:13:28.60 ID:CwP1+qbS0
「わからないわ。でも、もしそうなら好都合よ。まだグロテスクな姿になるまでは猶予があるということだから」
だな、と真紀は構える。和美はいつでも交換できるよう剣の予備を召還して自身の周りに刺し、シャルの父は棍棒を正眼に構える。
「注意してください。もし魔女になる前と同じ攻撃方法なら、かなり厄介です」
「くっそ……! 不確定要素が多すぎてやべぇぞ……」
「さっきの奴らは出てこないのですか?」
「わかりません。見る限りでは魔女だけですが、どこかに隠れている可能性も否めません」
三人は周囲を警戒しつつ、魔女に最大限の注意を向ける。使い魔は気を付けさえすればいい。
だが、魔女の攻撃は気を抜けば途端に一撃必殺のそれとなる。
246 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 23:14:31.86 ID:CwP1+qbS0
『…………』
尚も俯いて沈黙を保つ魔女。嵐の前の静けさといった空気を感じ、三人は気を引き締める。
『……………………』
「く、来るなら来い……!」
「気が抜ける瞬間を狙っているのかしら? 我慢比べとは、えげつないわね……」
「パパさん。気を付けて!」
「はい!」
『………………………………………………』
「特大の魔法攻撃の準備中……? もしそうならいったん退避すべき……?」ブツブツ
「………?」
「パパさん気を抜かない!」
「ぁ、えぇ、はい……」
247 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 23:16:33.81 ID:CwP1+qbS0
『………………………………………………………………………………………………』
「…………」
「…………」
「……あのー……」
「なんです?」
「……攻撃、してこないのではないですか?」
三人は沈黙する。だが先ほどより気が抜けていた。拍子抜けといった具合だ。
「カウンター狙い?」
「すごい障壁でも持ってんのかも」
「近くによると伏兵が現れる罠かもしれません」
「うーん……」
残念ながら、真相はわからない。だから手探りで探していくしかなかった。
248 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 23:18:05.12 ID:CwP1+qbS0
「撃ってみる?」
「一発だけ、お願い」
「わかった。……反射するかもしれない。注意しとけ」
「勿論よ」「わかりました」
真紀は一発、魔女に照準を合わせて撃つ。全員が反撃に備えた。
だが魔女は銃弾を無抵抗のままモロにくらい、高い椅子の上から床へと落下した。
「無抵抗……だったな」
「もしかして、あれは魔女ではないのでは?」
「いえ、使い魔とは一線を画す魔力があるので、おそらくは魔女だと思うのですが……」
和美はちらりと落ちた魔女を見る。
無抵抗な態度も、可愛らしい容貌も、今まで和美が相手にしてきた魔女とは違い、少し自信がなくなってしまう。
「だけど、外にいたときはずいぶん強そうなオーラがあったんだが……」
249 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[saga]:2011/06/20(月) 23:19:35.06 ID:CwP1+qbS0
「もしかして、」
和美はある考えに至る。
「もしかして、さっき真紀が言った通りかもしれない。まだシャルは完全に魔女になったわけじゃなくて、蛹の状態なのではないかしら?」
「サナギ……か」
「キュゥべえも魂が魔女に定着がどうのと言っていたわ。つまり魔法少女はすぐに魔女になるわけじゃないのよ!」
「つまり、今はその中間を彷徨ってるということですか?」
「意識不明の重体。だけど死にあらず、ってことか」
「それなら、人の手で救えるわ」
三人は魔女を見る。魔女は依然としてちょこんと床の上に座っていた。反撃の様子はなさそうだ。
250 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[saga]:2011/06/20(月) 23:20:54.51 ID:CwP1+qbS0
「……は、……はははは! なんだよ、なんだよそれ! すげーなおい!!」
真紀は興奮して叫ぶ。その様子は歓喜という言葉を体現していた。
「やべーよ……! 全部、何もかもがうまく回ってやがる! 神様ってのは信じたことねーけど、マジでいるんだな!」
「うまくいきすぎて、怖いくらいよ!」
和美も真紀のテンションに引きずられて高揚した。面白いくらいに、全てがうまく回る。
まるでご都合主義の三流コメディ。だがその展開は、悲劇的な現実において、一流の奇跡へと変化する。
「では、あの子の元に……!」
「えぇ、行きましょう」
三人はもう一度気を引き締めて、100メートル程の、長い道のりを歩きだす。
251 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[saga]:2011/06/20(月) 23:22:15.27 ID:CwP1+qbS0
残り、5メートル。あと数歩で届く距離。
「シャル、聞こえるか? あたしだ。真紀だ」
『…………』
だが、反応はない。
「……もっと大声で叫ぶべきか?」
「やめておきなさい。外の使い魔を呼び寄せてしまったら最悪だわ」
「うーん……」
唸る真紀。
「気絶、してんのかな?」
「聞こえてないのかも」
そういって、思案に暮れようとする二人に、シャルの父が歩み出る。
「……私に任せてもらえませんか?」
252 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 23:23:28.09 ID:CwP1+qbS0
「……どうするつもりです?」
「先ほど蛹と仰っていましたよね。もしかしたら意識が外部と遮断されて、五感の機能が大きく低下しているのかも」
「なるほど」
「だとすれば、聴覚だけに訴えかけても効果は見えないでしょう」
「……危険ですよ」
その次の言葉を感じ取ったのか、和美は止めようとした。
「今のところ全てが仮説です。接触するのなら、私たちが……」
「おねがいします」
「……ですから、」
「和美、あたしからも頼むよ」
253 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 23:24:20.26 ID:CwP1+qbS0
真紀まで!? と和美は驚く。
「どういうつもり?」
「何か起こりそうになったら、あたしがどうにかする。だからさ、たのむよ」
頭を下げる真紀。
「……わかったわよ。……お父さん、頼みます」
「! ありがとうございます」
「ですが! もし魔女になる兆しが現れたら、すぐに離れてください」
「はい」
「そん時はどーにかするさ」
「それでは、……お気をつけて」
「勿論です……!」
シャルの父親は慎重に歩き出した。
254 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 23:26:03.72 ID:CwP1+qbS0
たった数歩を、これ以上ないほど慎重に歩ききる。
「シャル」
言葉と共に、シャルの父は、文字通り変わり果てた娘を抱きしめた。
『…………』
「シャル! シャルロッテ……。済まなかった。お前がつらかった事に……、苦しんでいたことに、気付いてやれなかった」
その言葉は悲痛だった。だがシャルロッテは微動だにしない。
「ごめんなぁ……! パパは最低だ……」
ふと、頬を何かが伝った。それが涙だと気付いたときには、止めるすべなどありはしなかった。
「シャル……っ!」
涙を誤魔化す様に、シャルロッテを一層強く抱きしめる。
255 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(京都府)
[sage]:2011/06/20(月) 23:26:37.59 ID:KIFlGx5g0
やめて、もうやめて
256 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 23:27:25.66 ID:CwP1+qbS0
『…………』
「いっしょに、うちに帰ろう……」
囁くようなその言葉は、どこまでも優しく、力強かった。
『…………』ピク
「「!?」」
父の言葉に呼応するように、終始反応のなかったシャルロッテの手がピクリと動く。真紀と和美は武器を構える。
しかし攻撃の素振りはない。もぞもぞと父の腕の中で動いてるだけだった。シャルの父が開放してやると、シャルロッテは父の顔を見上げた。
「シャル……?」
「シャルのお父さん! 離れてください!」
「待て!」
257 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 23:28:25.49 ID:CwP1+qbS0
よく見ると、シャルロッテの口元は何かいいたそうな様子でパクパクと動いていた。
それでも言葉が出なくて通じない。もどかしい。そんな風に見て取れた。
「嘘……」
「意識が……、もどった?」
「シャル……!」
感極まった声で、シャルを顔の位置まで抱きかかえる。そして口元に寄せるが、残念ながら、
言葉は音声となっては届かない。だがシャルの父は「ゆっくりでいい。急ぐことはない」と、涙で濡れた顔で笑う。
『…………』
そのとき、シャルロッテの小さな小さな手が父親の頭に乗せられる。
ポンポン、と、泣いている父親を懸命に慰めようとするかのように、手を動かしていた。
258 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 23:29:21.78 ID:CwP1+qbS0
「シャル……、ロッテ……」
父は嗚咽を堪えて俯く。シャルはそんな父の頭を尚もポンポンと慰め続けた。
そんな二人を、もう一方の二人が優しく見つめる。
「……終わったわね」
「あぁ。本当に大切なのはこれからだけどな」
「でも、大丈夫でしょう。きっと」
「なんでだろうな、そんな気がする。悲しい未来になってる気がしないな」
「単純にあの二人に悲劇が似合わないからじゃないの?」
「違いない」
259 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 23:30:23.84 ID:CwP1+qbS0
「にしても、あの時何で賛成したの? シャルのお父さんを行かせること……、いいえ、そもそも関わらせたこと」
「お前も賛成だったじゃん」
「始めも最後もあなたからでしょう?」
んー、と真紀は何て言っていいか悩んだ。そして色々考えたようだが、最後は観念したような表情で言う。
「笑わねぇ?」
「えぇ」
「……ヒロインを救うのは男って相場が決まってんじゃんかよ」
「なにそれっ」プッ
「笑わねぇっつったじゃん!!」
「ごめんごめん……! あんたにしてはロマンチックだったから」
260 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[saga]:2011/06/20(月) 23:32:06.20 ID:CwP1+qbS0
「どーゆーいみだよ」
「さぁね」
「いいじゃねぇかよ。喜劇のラストって、大体そんなもんだろ?」
伏線も、悲しみも、何もない。ただ暗闇を走ってたどり着いた境地。
偶然に助けられたご都合主義の喜劇。観客ならポッポコーンを投げつけて帰ってしまうような三流脚本。
それでも、
「……ハッピーエンドね」
「笑っちまうようなハッピーエンドさ」
それでも、ハッピーエンドだ。誰もが認めないくらいのお粗末さでも、ハッピーエンドであることには違いない。
当人たちにとってはこの上ない幸せなのだ。幸福な結末、なのだ。
261 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 23:34:00.12 ID:CwP1+qbS0
二人は、そんな喜劇の主役達を見つめる。
「たまにはいいな、こういう結末も」
「いいんじゃない?」
親子は、会話中も変わらない。シャルが喋りたいのか口をパクパクしているのを、優しく聞き取ろうとする。
その光景は、微笑ましいものだった。
「……とびっきりの喜劇ね」
和美は穏やかに、そう呟いた――。
ハッピーエンd
262 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[saga]:2011/06/20(月) 23:35:21.16 ID:CwP1+qbS0
やれやれ、君たち人間はどうしてそう単純なんだろうね?
わけがわからないよ
263 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 23:36:27.27 ID:CwP1+qbS0
「………………ぇ?」
何かが、起こった。
気付けば大きくて黒い何かが視界を通り抜けた。
その大元はシャルロッテの口から出ていて……その通過点の、シャルの目の前にいた、父親は……
「……、……え……?」
シャルの父親はいなかった。但し先程まで彼がいたところには、血に塗れた人の下半身が力なく倒れていた。
何かが、起こったのだ。
264 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 23:37:44.61 ID:CwP1+qbS0
「ぁ……あ、あぁ……!」
黒い大蛇が振り向く。パーティ帽子のような鼻をこちらに向け、
青い舌で、ペロリと、口元の赤を舐める。外見とは不釣合いな鋭い牙が覗いていた。
魔女が、覚醒した。
喜劇は、悲劇に塗り替えられた。
265 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 23:38:54.76 ID:CwP1+qbS0
「ぁぁあああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
真紀が狂ったようにそれに向けて銃弾の雨を浴びせかける。魔力の篭った必殺の弾丸が幾度となくその巨体を穿つ。
「畜生ちくしょうチクショウ!!!! 何なんだよおまえは!! 何やってんだよお前はああっ!!!!」
その怪物を見知った少女の成れの果てとは信じたくない真紀は、現実を打ち消すように弾幕を張り続ける。
「やめなさい真紀!! 魔力が……!!」
「うるせえ!!! こんなの、こんなのあたしは認めねえ!! なんなんだよ!! なんでなんだよおお!!!」
和美の制止を振り払い、真紀は尚も乱射を止めない。魔力消費が、絶望が……ソウルジェムの黒化が加速する。
266 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 23:39:59.07 ID:CwP1+qbS0
「なんでだよ……!! なんでなんだよ!! なんで奇跡があるのにっ……!
みんな幸せになれねぇんだよ!! なんでみんな不幸なんだよっ!!! おかしいだろこんなのっ!!」
涙と叫び。慟哭は娘と父の悲劇以外にも向いている様な気がした。
「ハッピーエンドじゃ不満なのかよ………っ!」
真紀は膝から落ちる。和美は傍に駆け寄ろうとするが
「真紀!! 逃げて!!!」
「え……?」
怪物は、口から脱皮をするように再生し、真紀に襲い掛かる。
「くっ……!」ダッ!
和美が二人の間に割ってはいり、真紀を守ろうとする。しかし突進してきたそれはかなりの巨体。
急な防御で体制を整えられなかった和美は軽々と吹き飛ばされ、大蛇は和美を喰らおうと大口を開ける。
その歯には未だに赤い肉片がついていた。
267 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 23:41:22.38 ID:CwP1+qbS0
「やめろぉお!!」
真紀が大蛇に向けて再び乱射する。しかし、それは傷つくたびに口から沸き出るように出現し、
真紀にターゲットを変更し、巨体に似合わぬ速度で突進してくる。
「ざっけんじゃねええええええぇえええぇぇぇ!!!!」
銃撃が激しくなる。しかし大蛇は傷つくたびに脱皮し、その突進は止まらない。
そして
『♪』ガパァ!
「…………ぁ……、」
呆然とした面持ちで、か細い一言を残して、真紀は世界から退場した。
268 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 23:43:07.53 ID:CwP1+qbS0
「あ、ぁ、ああ……!!」
たった数日の間に、何度も惨い人の死を体験した和美の頭は限界を超えていた。
「ぃ、、あぇ……、ぃ、、。いやああああああああああああああぁぁ!!!!!」
和美は咄嗟に逃げ出す。考えなどまるでない。ただただ足が動いた。それに委ねてしまうほどに、
思考は停止していた。
『!』
怪物は真紀の腹部を貪っている途中だったが、和美が悲鳴を上げて逃げたのに反応して、楽しそうに追いかける。獲物は逃がさない。そんな、執念が感じられた。
「ぃや、いや、嫌!!」
人間を超越した脚力を持って一直線に出口へ向かう和美。だが、追いかけるそれも人間などとうに超越している。鬼ごっこはじりじりと差を詰め始めた。
269 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 23:44:21.45 ID:CwP1+qbS0
『〜〜♪』
歯を鈍く光らせながら追いかけてくる怪物。和美は無意識に恐怖で泣き出していた。
「助けて……、だれかっ!! 助けて!!!」
死にたくないと言う必死の叫び。2年ほど魔法少女のキャリアがあっても、死への恐怖は人間である以上変わらない。
『ーー♪』
だが残念なことに、その望みを叶えられる者は残っていない。一人は死に、一人には魔女になり、
そして唯一助けられる可能性のあった隣町の魔法少女は、「何故か」、「昨日」、「偶然」この怪物に敗れて食い殺されていた。
『♪』ガパァ!
声は届かず、牙が届いた。
その大口は、きっと絶望への入り口。和美は目一杯目を瞑る。
270 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 23:45:08.33 ID:CwP1+qbS0
「……………?」
だが、攻撃は一向に訪れない。うっすら目を明けると、視界の端で、怪物の巨体が揺れていた。
よく見ると、使い魔の持っていた大きな三角形のチーズを貪っていた。
『〜♪〜♪』モグモグ
何が起こっているのかは分からない。だが理由を考える前に、和美は一目散に出口へ駆け抜けた。
271 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 23:47:39.94 ID:CwP1+qbS0
病院/
出口を出ると、一帯の景色が変わる。和美は靴で汚れたクリーム色のリノリウムの床に倒れこむ。
「はぁっ、はぁ……っ、」
掠れ切った喉で荒い息を吐く。手には既に武器はない。
遮二無二駆け抜けている内に手放していたようだ。和美は変身を解く。
「……はぁ、……ぅ、っ」
和美の表情が歪む。
「ぅうぅぅっ……! うああぁ、っ……」
272 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 23:49:42.01 ID:CwP1+qbS0
両手で顔を覆う。だが涙も声も止められそうになかった。1年以上連れ添った仲間が死んで、幼かった仲間の死が確定して、
その子の優しかった父親が殺され、自身も後一歩のところで食い殺されているところだった。心も、精神も、ズタズタだった。
「もういや……っ……」
これまでの出来事は、一介の女子高校生が負うにはつら過ぎた。
和美は結界から、現実から逃げるように疲労が限界を向かえた足でヨタヨタと歩き出す。
刻一刻と、ソウルジェムの濁りが加速する。
273 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 23:50:27.71 ID:CwP1+qbS0
これでまたエネルギーが手に入る、かな?
274 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 23:51:31.16 ID:CwP1+qbS0
病院の階段/
「もういい……」
なるようになれ、和美は自棄になる。余りの出来事故に、感情が安定しなくなる。
死にたくないと思ったり、いっそ全て終わってしまえばとも思う。ネガティブな感情の海の中で、和美は遭難していた。
「ははは……はは、」
笑う。だがそれは声が掠れ出てるだけで、顔は全くの無表情であった。
「は……は、ぁ、」
目からまた溢れ出る。
「ぅぅ……」
手から零れ落ちたものは大きすぎた。輝きすぎていた。落としてしまった絶望は、計り知れなかった。
「うぅぅううぅ……!!」
唇をかみ締め、壁にもたれかかる。絶望に打ちひしがれる。ソウルジェムが、黒化する。
275 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 23:52:53.62 ID:CwP1+qbS0
だが、暗い思考は無理やり中断させられる。
「君! 大丈夫か!!」
警察の姿をした大柄な男が寄ってくる。
「大丈夫か!? 苦しいのか?」
その表情も声も酷く深刻で、和美は面を喰らってしまう。
「は、はい。大丈夫です」
「君は入院患者の家族かい? 病人でないならとりあえずここを出たほうがいい」
そういえば、昏睡事件があったと言っていたか。
使い魔と魔女の仕業だと言うことは、魔法少女の世界に身を置く和美にはすぐに分かった。
「昏睡事件、ですよね?」
「始めはそうだった。危険な薬品によるもので、死者も出た。だが、今は……」
警察の男は顔を伏せる。その制服の袖には、紺の色目で分かりにくかったが血がついていた。
276 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 23:54:29.56 ID:CwP1+qbS0
「今は、何が起こっているんです?」
「……分からない。分からないんだ。人が次々衰弱したり、自殺しようとしたり……。何が起こってるっていうんだ……」
混乱した様子で言う男。恐らく血がついているのは、出血を伴う自殺、例えばリストカットなどを目の当たりにしたのだろう。
「……………」
「君も早く逃げなさい。ご家族の患者さんが未だいるのならば言ってくれ。きっと助ける。だからこれ以上死なないでくれ」
最後の一言は、どうしようもない現状から零れた男の本音だろう。
守るべき市民が次々と目の前で死んでいく異様な現実を、どうすることもできない自分に絶望しているのだろう。
自分よりつらそうに混乱している男を見て、和美は少し冷静になる。そして、恥ずかしさがこみ上げる。
一般人は危険だなんて言っていた魔法少女の力を持つ、絶望した自分。
何も知らなくて、危険で無力で、それでも職務を全うしようと必死になる一般人。
和美は唇を強く噛む。
277 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 23:55:32.36 ID:CwP1+qbS0
「……この病院には、後どれくらい人がいますか?」
「……分からない。だが、それほど多くはないはずだ」
多くはない。だがそこそこの規模を誇るこの病院では、それは十分多いのであろうと和美は考えた。
「君……」
「お願いします。他の患者を先に助けてあげてください!」
和美は立ち上がり、もと来た道を引き返す。
「待ちなさい!! 君も早く逃げないと!!」
「分かっています。でも、置いていけない奴がいるんです」
「危険だ。私に任せてくれ」
「大丈夫です」
278 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 23:57:10.85 ID:CwP1+qbS0
「大丈夫って――」
その時、和美は魔法少女の格好に変身する。その姿に、警察の男は度肝を抜かれる。
「な……!」
「もしも、ネガティブな感情が湧き上がってきたら、どうか振り払ってください」
「…………」
警察の男は絶句している。和美は話を続ける。
「私は、会いに行かなくちゃ行けない奴のところに行ってきます。
私のことは気にしないで、一人でも多くの人をこの場所から放してあげてください」
「き、君は、一体……?」
「私は……、」
一瞬の逡巡。だが決意を決め、目を見据える。
「私は、その子の仲間です」
279 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/20(月) 23:58:31.77 ID:CwP1+qbS0
結界入り口/
出た時とは大きく異なり、しっかりとした足取りで歩く和美。その姿を、廊下の端に座って待っていたそれは見ていた。
「……キュゥべえ」
「やあ和美。シャルロッテのことは残念だったね」
神経を逆なでするように、楽しそうな声で話すQB。一方和美は鋭い視線を投げかけるばかりで、特別反応はしなかった。
「残念、もう持ち直しているようだね、君はもう魔女にはなりそうにないよ」
「残念だったわね」
「いや、まぁ仕方ないさ。それが上手くいかなかったとしても、目的は既に半分達成されている」
「半分?」
「いや、なんでもないよ。ところで君はまた性懲りもなくシャルロッテを救おうとしているのかい?」
280 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/21(火) 00:00:18.09 ID:0RPE+Lhu0
「……やっぱり、シャルを救うのは不可能だったの?」
「勿論。不可能に決まってるじゃないか!」
「じゃあ何故行かせたの?」
「僕は止めたよ。前例がないって」
「…………いいわ。あなたを信じた、私が馬鹿だったわ」
「酷いなぁ」
和美はQBの返事も聞かずに、歩き出す。QBはその背中に向かって叫ぶ。
「いいのかい!? シャルロッテを救うのは不可能だよ! それでも君はその奇跡にかけるかい!?」
和美は歩美を止めなかった。答えはその空気が表していた。そして和美の影は、結界に溶け込んでいく。
281 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[saga]:2011/06/21(火) 00:01:17.07 ID:0RPE+Lhu0
「……」
「……ふぅ、全く、君たちは何故物事を学ばないんだろうね。ま、好都合なんだけど」
「シャルロッテは強い。生きることや、食べること、そして仲間と一緒にいることを
等しく渇望し続けた彼女の『執念』は並一通りじゃない」
「他愛もないね。和美は下手な優しさという感情に身を滅ぼされるんだ」
「自分と相手の力量差を判断する計算思考が感情によって歪曲される。やれやれ、感情とはつくづく精神疾患だと思うよ」
「だけど、構わない。君には負けて死んでほしいんだから」
282 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/21(火) 00:03:42.59 ID:0RPE+Lhu0
「和美、君たちは僕が知っている魔法少女の中でも優秀だったよ。だけど、君たちのせいでこの街には使い魔が減った。
絶望が減って、幸福な奇跡への需要が減った。それじゃあ魔法少女は生まれないんだ」
「適度にサボってくれないと、僕たちの仕事が滞ってしまう」
「まぁいい。今回は僕も甘かった。次に魔法少女にする相手は、シャルくらいに、純真で盲信的な子を選ぶとするよ」
「さて、じゃあさようなら。高島和美」
283 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/21(火) 00:04:31.54 ID:0RPE+Lhu0
魔女の結界/
薬の瓶が無数に浮遊した白の空間。そこを和美は歩いてゆく。その足取りは確実に先程よりもしっかりしていた。
「(もう、シャルは助からないのね……)」
悲しさはあった。だがそれ以上に、義務感があった。
「もう、これ以上シャルに人を殺させない」
彼女が絶望したきっかけは、一人の少女を誤って死に至らしめたことだった。
人一倍死に敏感で、完全に絶望しきってしまうシャルに、もうこれ以上、人を殺させたくなかった。
「……これ以上……苦しませてたまるもんですか」
だから、シャルロッテを倒す。一人の魔法少女として、一人の仲間としての責任を、命に代えても果たしてみせる。
284 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/21(火) 00:05:44.23 ID:0RPE+Lhu0
勿論、魔女が苦しみを感じているのかは分からない。人殺しも嬉々として実行しているのかもしれない。
だから、倒せば恨まれるかもしれないし、完全に「死」を迎える彼女は、不幸せになるのかもしれない。
「……独善的でも、構わないわ」
ただ、自分が、これ以上シャルロッテの存在を魔女に穢されたくなかったから。
そんな主観的な理由で、和美はそれを倒す。その行いが正義かどうかは分からない。
だが、そんなのは些細なことだ。もとよりこの行いは、徹頭徹尾、彼女の自己満足だ。これは、そういう話なのだ。
285 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/21(火) 00:07:12.46 ID:0RPE+Lhu0
『つれぇことがあったら一人で抱え込め。苦しくても口にするな。
重荷を他人と共有するな。相手を救いたいのなら、
有無も言わさず、自分勝手に相手のつらさをぶんどってやれ』
全ての行為は自分が始めて、全ての責任は自分で負う。
だから、救世主ヅラする必要も、悲劇のヒロインになる権利もない。
当然の帰結。当然の荷物を、一人で背負っていく。永遠に。
「…………」
和美は剣を構える。決意を胸に宿し、茨の道のりの一歩を踏み出す。
286 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/21(火) 00:08:05.64 ID:0RPE+Lhu0
魔女の部屋/
再び惨劇の舞台となった部屋を訪れる。全ての残骸はなくなっていた。
だが依然として背の高い椅子の上には力なく一体の小さなピンク色の魔女が座っていた。
『…………』
再び寝たとは思えない。今度は見つかると同時に中の黒い大蛇のような怪物が襲ってくるだろう。
あれと面と向かっても、勝算はない。切り倒すことは出来る。しかしその度に復活されるのだ。
これではジリ貧になることは目に見えていた。
「…………………」
だから、和美には策があった。勝つための策略を練ってきた。その策の準備を、今この部屋で完成させる。
287 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/21(火) 00:09:21.14 ID:0RPE+Lhu0
「…………」
『…………』
「…………」
『……………』ピク
一瞬、魔女の身体が動いた。和美は剣を構えてその場を静かに離れる。次の瞬間、
『!!♪』
口の中から体積を無視してそれは現れた。そして巨体にあるまじき速度で、鋭い牙をギラつかせて
突っ込む。
『♪』
「しめたっ!」
288 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/21(火) 00:10:44.91 ID:0RPE+Lhu0
和美は、椅子の上の大元のシャルロッテに突撃する。黒の怪物は気付かない。
チーズの山に気を取られて気付かない。
『〜〜♪』ガツガツ!
和美の作戦は単純だ。さっき逃げていたときに、怪物は和美よりチーズを追いかけた。
シャルは人間だった頃、チーズが大好きだったことに起因しているのだろう。とにかく和美はこれで怪物を誘導することにした。
魔法で、大量のチーズを作ったのだ。そしてそのうちに大元のシャルロッテを倒す。
ちなみにチーズ自体魔法で作ることはその気になれば可能だ。
魔力の無駄遣いを厭わなければ、戦闘後、紅茶を魔法で生み出してティータイムとしゃれ込むことだって出来るのだ。
「はああぁ――っ!!」
289 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[saga]:2011/06/21(火) 00:12:20.41 ID:0RPE+Lhu0
大元を断てば、きっと倒せる。和美は剣を振りかぶる。怪物は気にしてこない。
その好きに和美の強力な一振りが、シャルロッテの大元を切り裂く。シャルロッテは大きく損壊し、床に落ちていく。
「やった!!」
勝利を確信した和美。その時、ふと、シャルの対面の位置に同じように座っている……女の子の格好をした使い魔がいた。
「これって……?」
…………
それには攻撃の意思はまるでなかった。もしかしたら、一人で寂しかったから、
友達を作ったのかもしれないわ、と和美は少し寂しい視線でじっくりその使い魔を見る。すると、
「あれ……?」
290 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/21(火) 00:13:28.93 ID:0RPE+Lhu0
和美は異変に気付いた。女装をさせられているだけで、
その使い魔の容姿は外で蠢いていた奴らと変わらなかった。なのに、纏う魔力、どこか違うような……
『!!!!』
「! まず、――っ!」
咄嗟の判断で和美はその場所から床に飛び降りる。その刹那、彼女がいた場所は綺麗に怪物の腹のなかに収められた。
『………』ギロ
「くっ……!」
和美は体勢を立て直す。ちらりとさっきまで怪物が方を見る。チーズは未だ残っていた。
291 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/21(火) 00:16:40.34 ID:0RPE+Lhu0
「(さすがに大元を叩けば気付かれるか……。でも少し反応が遅いような……)」
黒い大蛇は警戒して高い椅子の位置でこちらを睨んでいる。和美は剣を向ける。同時にそれは必殺の勢いを持って上から突進してくる。
「やあっ!!」
和美は立ち位置をずらし、側面に斬撃を浴びせる。傷は深く、トドメはさせた。
と、思ったが
「!?」
ズルン、とそれは再び口から、無傷の状態で現れた。怪物は食い殺そうと向かってくる。
和美はそれを辛くも避け切り、お菓子の物陰に隠れこむ。
292 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/21(火) 00:19:16.89 ID:0RPE+Lhu0
「はぁ……、っはぁっ! ……ど、どうして、死なないのよ。本体を斬っても……!」
聞こえない程度に小さく呟く和美。その憤りは尤もだ。
本体にダメージを与えたのだからあの怪物にも何か影響があってもいいはず。だが実際は何も大した差はなかった。
……もしかすると、あの黒の化け物こそが本体なのかもしれない。あの不死性も能力なのかもしれない。それならば勝ち目はない、が
「(でも、それだと納得のいかない部分がある)」
もし大元が斬られても何も起きないのなら、あの時好物のチーズを残して、躍起になって襲ってくる必要は無かった。
大元のシャルロッテを守る意味は……
「……あれ、そういえば」
293 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/21(火) 00:19:52.54 ID:0RPE+Lhu0
ふと、思い出す。そういえば化け物が襲ってきたのはいつどの瞬間だったか。
何故怪物は大元が下にあるのに上で待機したのか。もう少し遡れ、襲われる直前、私は何を考えていただろうか?
使い魔の魔力に違和感をおぼえていたのではなかったか?
「……もしかして!」
『!?』ギロ
和美は口を押さえる。だが、すぐにそれを止め、剣を持つ手を握り締める。チーズの誘導はもう出来ない。
だから、検証もなしに実行しなければならないし、チャンスは一度きり。だが、賭けるだけの自信はあった。
和美は一振りの剣を手に、大蛇の前に躍り出る。
294 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/21(火) 00:21:12.63 ID:0RPE+Lhu0
『!♪』
目が合うと共に、ファンシーな巨体は馬鹿の一つ覚えのように飛びついてくる。和美はそれを上に回避する。
「(ここから……っ!)」
それが上を向くと同時に、和美は魔方陣の障壁を足場にして、唯一残った椅子に座っている、女装をした使い魔の元へ飛び込んだ。
『!!』グアッ!
だが相手もそう簡単には許してくれない。跳躍した和美を食い殺さんと、ノコギリのような牙で噛み付こうとする。
和美はさらに上に避けるしかなくなった。
『♪』
それは怪物の策略だったのであろう。使い魔から遠ざけ、より高く高く、動くために魔力に頼らざるを得ない状況に追い込む。
295 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/21(火) 00:22:40.78 ID:0RPE+Lhu0
「甘いわ……よ!」
一方和美も遅れを取ってはいない。
障壁移動を繰り返し、何とか攻撃を避け、仕舞いには相手の頬から剣を突き刺し、開いた大口を縦に裂いた。だが、
『♪』ズルリ
多少の怪我なのに、脱皮するように口から現れたそれは勢いよく和美に牙を剥く。
「くっ……!」
必死で平行に身体を移動させ避けるが、
「あ゛ぁっ!!」
『♪♪』ニヤリ
296 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/21(火) 00:24:00.07 ID:0RPE+Lhu0
その牙は左わき腹を少し抉り取った。左手で傷口を痛そうに押さえる和美。
ニヤリと意地悪そうに顔を歪める怪物。その一撃で、和美は右手に持っていた剣を落としてしまう。
これ幸いとばかりに突撃してくる化け物。和美は、
「残念、ね……!」
絶え絶えな息でそういうと、障壁を蹴って下に飛ぶ。必然的に大蛇は下を向くことになり、そして目にする。
297 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/21(火) 00:25:19.45 ID:0RPE+Lhu0
「魔法少女は傷をすぐに回復できるのよ。身体を張った攻撃もあるって、覚えておきなさい!」
和美が落とした剣は、椅子の上にいた奇妙な使い魔を脳天から突き刺していた。
勿論偶然ではない。
目掛けて落としたのだ。始めからこのつもりで、相手の策に乗って不利な空中戦に挑んだのだから。
298 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/21(火) 00:26:26.88 ID:0RPE+Lhu0
『……――!!!』
怪物はその使い魔の死に露骨に嫌そうな顔をする。その表情を見て、和美は理解する。
女装の使い魔は回復役。本体の怪物に不死性は、ない。
「これで、勝てる……!」
和美は虚空から剣を召還すると、正眼の構えで、顔だけ上を向ける。迎撃の……決戦の体勢を取る。
『…――………』
化け物は怖気づいたように上空で待機していた。和美は脚部に魔力を集中させ、矢のような勢いで突撃する。
「はああああああぁぁぁっ!!!!」
299 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[saga]:2011/06/21(火) 00:27:49.31 ID:0RPE+Lhu0
『!? ……―――!!!!』
怪物も観念したように突進してくる。だが、そんな動きでは和美を捉えられない。
鋭い一閃が、化け物の身体に大きな一文字を刻む。
『――!?』
そして、力なく落下していく。まだ息のあるそれに、和美はもう一度縦に勢いよく、両刃剣を振り下ろす。
300 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/21(火) 00:29:03.11 ID:0RPE+Lhu0
『…………』
白くふわふわした床の上で、黒いそれは横たわる。脱皮の動きも、回復の兆候もない。
反撃も出来ず、ただ意識だけが辛くも残っているといった様子だった。
「…………」
和美はそれに近づいていく。
「……シャル」
和美はそれをシャルと呼んだ。その怪物にシャルの意識があると思わない。
そのことは二人の犠牲という高い授業料を払って既に知っていた。
「…………」
だが歩みを止めない。和美は寄って行く。変わり果てた仲間にトドメを差すために、寄って行く。
301 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/21(火) 00:30:13.21 ID:0RPE+Lhu0
「シャル……」
和美は自分でも気付かないうちに、一滴の涙が目から零れ落ちていた。
「ごめんねシャル。甘かった私を、あなたに酷いことをした私を、……あなたを救えなかった私を、」
和美は剣を高く振り上げ、
「どうか許さないで」
怪物の頭めがけて振り下ろした――。
302 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[saga]:2011/06/21(火) 00:31:25.30 ID:0RPE+Lhu0
―― それから ――
303 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/21(火) 00:32:30.16 ID:0RPE+Lhu0
魔女の結界/
『……――!!! ……』
黒い大蛇に止めが刺される。戦いはあっけなく終了した。それと共に空間が歪み、元の町並みに戻っていく。
304 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/21(火) 00:33:33.73 ID:0RPE+Lhu0
どこかの街/
「…………」
変身を解除して、和美はグリーフシードを拾い上げる。
ここ最近は連戦だったが、思ったより魔力消費が少なかったため、和美はそれを大事に仕舞い込む。
「それでも、きっと、まだいるんでしょうね……」
和美はポツリと呟く。
それに答えてくれるものは誰もいない。
305 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/21(火) 00:34:47.68 ID:0RPE+Lhu0
あの後、病院での混乱は……死者を出した末に……一応の決着をつけた。
原因不明のこの事件は、その余りの特異性からかマスコミで大きく取り立たされたが、
今となってはたまに心霊番組に出て思い出す程度となった。あの奇妙な事件は悪霊の仕業と言う噂が流れオカルト界隈を騒がせた。
だが、魔法少女と言う言葉は一文字も出てこなかった。きっとあの警察官は、誰にも口外しなかったのだろうと思う。
誠実な大人もいるのだと……、思い出すきっかけになった。
306 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/21(火) 00:36:04.11 ID:0RPE+Lhu0
シャルと、シャルのお父さんの家はもう別の人の物件になっている。シャルは患者の中で唯一の行方不明者だった。
病院は父親に連絡を取ろうとするも、父親もまた行方知れず。結局親戚が失踪届けを提出したが、見つかることはなかった。
真紀の遺体もあの結界の中においてきたままだったので、同様に行方不明者扱いされた。
だがそれを始めに訴えたのは真紀の知り合いを名乗る人物で、両親ではなかった。
どうせ家出でもしたのだろう、と言ってのけた、あの両親の顔は、未だに腹が立つ。
307 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/21(火) 00:37:11.52 ID:0RPE+Lhu0
後、思い出したくもないが、キュゥべえとはあれ以来顔を合わせていない。
だが近くにはいるのだろうと思う。濁りきったグリーフシードを置いておくと、いつの間にか消えてなくなっているのだ。
実に気味が悪い。助かっているのは事実だが、気味が悪い。あの時見たキュゥべえのクローンだろうか。
あいつは何匹いるのだろう? 私に付きまとって今度は何をしようとしているのだろう? 依然として、分からない存在だ。
308 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/21(火) 00:38:30.17 ID:0RPE+Lhu0
そして、私は……
309 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[saga]:2011/06/21(火) 00:39:33.30 ID:0RPE+Lhu0
見慣れた街の病院/
「……………」
線香の煙がそよ風に揺れる。煙が服にかかってきたけど、私は気にせず手を合わせ続けた。
「………」
ペットボトルに汲んできた水で黒い岩を洗う。春の桜の木の下にあれば、花びらや虫が落ちてくるのは当然だ。
私はそれらを、お墓にさせてもらっている岩にお礼をこめて、優しく取り払う。
別にこの岩は立派な御影石と言うわけではない。ただ景観のために病院の庭の桜の木の下に置いたあったものを、
そのまま利用したに過ぎない。勿論その下の土の中に遺体があるわけでもないし、縁の品すらない。
だけど、形として、私はこの病院の、この岩を、3人お墓に見立て、時々お墓参りに戻ってくる。
「…………」
再び手を合わせる。立ち入り禁止のここには、壁を跳躍で乗り越えて入ってくる私以外訪れるものはない。
だから3人の死を知るものはいないし、その死を冒す者もいない。私は静かに手を合わし続ける。
310 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/21(火) 00:40:37.60 ID:0RPE+Lhu0
私は、まだシャルロッテと戦っている。
正確に言えば、あの日大量の人々を絶望に陥れ、独立していった使い魔たちが、シャルロッテの姿に変貌したものと。
高校を卒業して、大学に行かず、社会から外れた存在の魔法少女を続けた。
そしてこの街を別の街の魔法少女に託して、あちこちで生まれたシャルロッテの使い魔たちを倒すために街を出た。
あのころ私生活でも……まぁ色々あって、ちょうど街を出るのにいい機会だったというのもあったけど。
倒し方が分かったことで、シャルロッテとの戦いで苦戦することは少なくなった。
とはいえ強い魔女だし、やっぱり未だに、戦いの度につらさを自覚してしまう。
311 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/21(火) 00:41:56.46 ID:0RPE+Lhu0
シャルはもういない。私は永遠に彼女に許されることが出来ないままに、苦しみ戦い続けていくのだろう。
誰にも褒められない、誰にも許されない戦いの末には、一体何があるのだろう?
私には、まだ分からない。
あの日皆で守ろうとした命の、その尊さを守る戦い。
罪滅ぼしでもない、救済のためでもない。
ただ自分勝手な望みを叶えるために、続けている戦い。
この日々が終われば幸せが待ってる……だなんて、そんな三流喜劇のようなハッピーエンドになるのだろうか?
312 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/21(火) 00:43:22.72 ID:0RPE+Lhu0
きっとそれは訪れない。奇跡でさえ、人をハッピ−エンドに導くことは出来ないのだから。
だが、もし、もう一度、掛け値なしの大奇跡が起きて、とびっきりのハッピーエンドを迎える日が来たら……、と夢想する。
もし、魔女のいない世界だったら。
もし、魔法少女が魔女化しない世界なら。
もし、キュウべえも私たちを騙さないで、味方となってくれる世界なら。
もしも、もしもだけど、魔女の存在が無くなった世界が……、
本当にそれが叶ったんだとしたら、もう絶望する必要なんてない。
そうしたら……私たちは、笑って過ごせただろうか?
313 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/21(火) 00:44:52.26 ID:0RPE+Lhu0
『さて、シャル。これ早くしないと溶けちゃうわよ』
『うわ! 本当だ! もったいない!』
『よし、あたしが分けよう』『あなたの分はどうしたのよ!』
『ねぇよく見てよ。僕の体格の割合だとこの量は超過すると思わないかい?』
『キュゥべえなら食える! 最悪背中で』
『無視するなってば!』
『やれやれ、わけがわからないよ』モグモグ
『あの!』
314 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/21(火) 00:45:47.94 ID:0RPE+Lhu0
『わたし、今……とっても幸せです!』
315 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/21(火) 00:47:06.67 ID:0RPE+Lhu0
「…………」
私は拝んでいた手を戻し、荷物を纏める。
馬鹿らしい、と自嘲してしまう。
希望を抱くのなんて、間違ってる。多分私はこれからもシャルに許されずに生きていって、
そんな幸せな未来を享受できずに、死ぬか、魔女になるしかないのだ。そんな魔法少女の呪いが永遠に私を苛み続ける。
希望を信じた結果待つのは、笑顔なんかじゃなくて、涙だけだ。
事実、そうだったんだから。
「……じゃ、またね」
短い挨拶と共に、私はお墓に背を向ける。
316 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/21(火) 00:48:18.14 ID:0RPE+Lhu0
もういいの
317 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/21(火) 00:49:19.41 ID:0RPE+Lhu0
「……?」
振り返る。だがそこには誰もいない。満開の桜の木と黒い岩があるだけだ。
聞き間違いかな、と思う。
おもうのに……
318 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[saga]:2011/06/21(火) 00:50:21.32 ID:0RPE+Lhu0
もう、いいんだよ
319 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/21(火) 00:51:29.01 ID:0RPE+Lhu0
なんで、この幻聴は、こんなにも私を安心させてくれるのだろうか?
ふと、気付くと、そこには女の子が立っていた。
私より年下の、桃色で二つくくりの髪の、赤いリボンが可愛らしい実体のおぼろげな女の子。
「だれ……?」
『…………』ニコッ
少女は答えず、ただ微笑みで返した。優しい、心の温まる、『幸せ』を体現したかのような笑顔。
きっとこれは幻覚だ。幻聴があったんだから、幻覚もある。そう思って私は静観していた。
少女はお墓に近寄ると、岩にそっと触れる。
320 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[saga]:2011/06/21(火) 00:53:21.40 ID:0RPE+Lhu0
もう誰も恨まなくていいの。
誰も、呪わなくていいんだよ。
そんな姿になる前に、あなたは、私が受け止めてあげるから……。
321 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/21(火) 00:54:41.51 ID:0RPE+Lhu0
「あっ……」
そういうと、女の子は消えていった。
「何だったの?」
そのときだった
「あ……――」
お墓が、一瞬ぼんやりと優しく光った。
なぜだか分からないけど、
その光にシャルは救われたような気がして、
……シャルの祈りが、絶望から開放されたような気がして……、私は久しぶりに泣いた。
今まで気を張って抑えてきたそれは、とめどなく、嗚咽と共に溢れ出た。だけど、それは確かにうれし涙だ。
322 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/21(火) 00:55:45.75 ID:0RPE+Lhu0
何が起こったのかわからない。伏線があった覚えなんて無い。偶然が起こした産物だと思う。
人がみればご都合主義だって断じて、ポップコーンを投げつけるかもしれない。
でも、この世界には、本当に、夢と希望を叶える……魔法少女がいるんだ。
だとすれば、きっとほんの少しなら、――本当の奇跡があるかもしれない。
「喜劇の最後って……、こういうもの、よね」
涙でぐしゃぐしゃになった顔で、かつての相棒が眠る岩に語りかける。
323 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/21(火) 00:57:01.83 ID:0RPE+Lhu0
「残念だったわね……。ヒロインを救ったのは、女の子だったわよ……」
目を閉じる。「るっせーなー」と気恥ずかしそうに話す彼女の姿が浮かんだ。
私はまたそれが一層微笑ましくて、笑顔なのに、もっと泣いてしまう。
『でもさ……』
また、幻聴。空想の世界の真紀は、いつかのように語り掛ける。
『たまにはいいな、こういう結末も』
春のそよ風が運んできたその声に、私は涙で濡れたとびっきりの笑顔で返す。
「……いいんじゃない?」
空を見上げる。満開の桜の隙間から見える清清しいほど澄んだ青空に、
希望を振りまく、たくさんの優しい流星がきらめいていた。
324 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[saga]:2011/06/21(火) 00:58:17.27 ID:0RPE+Lhu0
「……とびっきりの喜劇ね」
私は穏やかに、そう呟いた――。
ハッピーエンド
325 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/21(火) 01:02:15.07 ID:0RPE+Lhu0
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
これにてシャルロッテのお話は終わります。最後までありがとうございました!
後、SAGAを教えてくれた皆様に、一層多謝!
一時までかかるとは思わんかったぜ!!
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
326 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage saga]:2011/06/21(火) 01:06:43.96 ID:0RPE+Lhu0
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
ちなみに〜、僕の夢は世界が平和になることとぉ〜、ssのまとめサイトに載ることでぇ〜す。(チラッ
いや、載せろってわけじゃないんすよぉ〜(チラッ、チラッ
ですがもし載せてくださったらパッポウ! と叫んで喜びをあらわにします。
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
327 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/06/21(火) 01:07:39.62 ID:qBNP99r/o
お疲れ様でした。
・・・・ぐすん。
328 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[saga]:2011/06/21(火) 01:11:58.48 ID:0RPE+Lhu0
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
もう皆寝たね? それがいい。睡眠不足は健康被害の元だよ。
でも感想、明日でも明後日でもまってます〜。質問とかでも待ってますぅ〜。
え〜、では完結の最後に、
本日は! この駄スレにお越しくださいまして、
誠に、誠に、誠に! ありがとうございましたあぁっ!!!!!!
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
329 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[saga]:2011/06/21(火) 01:14:32.87 ID:0RPE+Lhu0
>>327
泣いてくれてるのかい? ありがとうね。お兄さん感激だよ。
パッポウウウウゥゥ!!
330 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/21(火) 01:30:04.36 ID:CzHP7w1SO
すっごい面白かった!
ずっと黙って読んでたけど面白かったよ!
と書こうとしたが
>>326
で一気に萎えた
そういうのは心の中に閉まっとこうな
331 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(京都府)
[sage]:2011/06/21(火) 06:32:46.99 ID:tkJg84960
乙でした
いい、いい話だったんだが……
最後で台無しだよ。
332 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[saga]:2011/06/21(火) 16:56:29.89 ID:0RPE+Lhu0
>>330
>>331
ごめんね……。深夜のテンションって怖いね……。なんでこんなこといったんだろ俺……。
シリアス一辺倒だとバランスがとりたくなったんだろうね。
不快にさせて本当ごめんなさい。 いやこれは本当に申し訳ない……。
これから見る人がもしいたら、完結してテンションが馬鹿になってたとでも思って聞き逃してやってください……。
あーもう、1時過ぎの俺の馬鹿!
333 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
[sage]:2011/06/21(火) 17:40:37.01 ID:DlgERKcAO
乙
自分に素直ってのは美徳だよ、あんま気にすんな
334 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)
[sage]:2011/06/21(火) 18:39:10.55 ID:7vwlTAK60
乙ロッテ
おもろかったぜ
335 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[saga]:2011/06/21(火) 20:33:18.70 ID:0RPE+Lhu0
>>333
あんがとね^^b
>>334
サンクスぅ!
336 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/21(火) 20:41:30.49 ID:nIzWszFIO
乙乙
シャルちゃんかわいいよシャルちゃん
337 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[saga]:2011/06/21(火) 23:50:12.86 ID:0RPE+Lhu0
>>336
そういっていただけると作者冥利につきますぜ!
338 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/06/22(水) 01:13:01.35 ID:ChImb4xO0
まあ最後のは蛇足だったと思うけど、内容は良かったよー
今まで読んだシャル妄想の中で一番しっくりきた
339 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[saga]:2011/06/22(水) 23:43:30.20 ID:MeSHbQM70
>>338
レスの取り消し機能かDメールがほしい……。
でもそれでも内容を褒めてくださって多謝! 一番しっくりとか……畏れ多いぃ!w
340 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)
[sage]:2011/06/23(木) 11:23:55.12 ID:CmBtPKdAO
かなり面白かった!
ただ、最後でやらかしちゃったのは次があるなら控えようねw
完結マジでおめでとう!
あと、女装使い魔はあくまで単なる女装使い魔であって、シャルの再生能力とは関係ないよ!
かなり長いこと本体と信じられて来たけどね。
あ、このSSでは回復役ってことになってるから微妙に設定違うのか。
341 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[saga]:2011/06/24(金) 00:21:57.38 ID:TwLiA+Pj0
>>340
ありがとうございます。次があったら控えますw
女装の使い魔の扱いは心底困りました。本体じゃないのは考察で載ってたんですけど
じゃあこいつは何者だ? ということになりまして、ほむほむがわざわざこの子を踏み潰さなくとも本体の恵方巻きに再生の限界が来たというのもご都合ですし……。
それで回復役にしました。
イメージとしては
>>281
でQBがいっていた「仲間」への深い渇望が元になっていて、
シャルにとっては「生きる」「食べる」「仲間と共にいる」がセットになって生存への執念に直結したので、
その一角の「仲間」が削れる→生への執念が弱まる→消滅する
全てを求める執念がシャルを強くさせましたが、そのうちのどれかひとつでも失うことで弱くなる。
ですが、ただ「仲間(使い魔)」がやられて、動揺して恵方巻きの回復力がなくなって消滅とか、驚きの打たれ弱さなので、
ご都合にならないようにするためには、使い魔ちゃんには回復役が適任かと思いまして……。
という俺設定ばっかり妄想しています。
342 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(京都府)
[sage]:2011/06/24(金) 12:58:02.39 ID:PBn7GQIH0
読み終わった。乙! 名言の多いssだった。
最後はハッピーエンドでよかた まどか神まじ神ww
俺は最後のお茶目はなんか許すww 本編とのギャップにワラタww
343 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[saga]:2011/06/24(金) 19:40:01.86 ID:TwLiA+Pj0
ハッピーエンドにした甲斐がありました! あざっす!
まどか神は当初は出演予定はなくて、本編のほむほむみたいに「これからも戦い続ける」END
だったんですよ。ほんと不意に思いついた展開でした。
>名言の多いssだった。
め、名言!? ど、どれでしょう? 和美の 神は死んだ! かな……?
とにかく恐れ多いことです。
後、許していただいてありがとうございますw けっこう凹んでた自分がいまして……w
344 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/24(金) 21:07:16.21 ID:koa107QSO
本文に泣かされて
>>326
に笑ったwwwwww
まとめに載るよう祈ってるぜ!
345 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[saga ]:2011/06/24(金) 23:37:16.27 ID:TwLiA+Pj0
>>344
あばばばば……!! このレスを見て、ふとネットでこのスレのタイトル検索したらまとめに載ってて恐れおののいた!
http://horahorazoon.blog134.fc2.com/blog-entry-1417.html
ホライゾーン様がまとめてくださってた。でも色々あったから素直に喜べないww
こっちでは俺の魔翌力と失言事件がなかったことにされてる。配慮あざっす!
>>344
さんも泣いてくれてあざっす! 笑ってくれてあざっす!w
346 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/06/24(金) 23:43:49.31 ID:9VA9+SNCo
念願叶ったのかwwww
おめでと
347 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[saga ]:2011/06/24(金) 23:57:11.31 ID:TwLiA+Pj0
>>346
叶ったよぅ! ありがと!!
348 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/06/28(火) 21:59:32.32 ID:COK3QGUd0
みんな見てくれてありがとね!! さらばい
227.15 KB
[ Aramaki★
クオリティの高いサービスを貴方に
VIPService!]
↑
VIP Service
SS速報VIP
専用ブラウザ
検索
Check
Tweet
荒巻@中の人 ★
VIP(Powered By VIP Service)
read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By
http://www.toshinari.net/
@Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)