このスレッドはSS速報VIPの過去ログ倉庫に格納されています。もう書き込みできません。。
もし、このスレッドをネット上以外の媒体で転載や引用をされる場合は管理人までご一報ください。
またネット上での引用掲載、またはまとめサイトなどでの紹介をされる際はこのページへのリンクを必ず掲載してください。

非想天則 The Novelize 地球が静止する日 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

1 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/07/05(火) 01:50:44.12 ID:aXqiFEEAO
・ジャイアントロボOVAの世界に東方伽羅を配役しただけです
・伽羅は九割ロボ側によってます
・本来は東方好きな友人への誕生日プレゼント用ネタ為、一人称や強さ等激しく崩壊しています
・速報のシステムに甘えてかなりゆったりまったり書きます
・本当にすいません
・本当に本当にすいません
【 このスレッドはHTML化(過去ログ化)されています 】

ごめんなさい、このSS速報VIP板のスレッドは1000に到達したか、若しくは著しい過疎のため、お役を果たし過去ログ倉庫へご隠居されました。
このスレッドを閲覧することはできますが書き込むことはできませんです。
もし、探しているスレッドがパートスレッドの場合は次スレが建ってるかもしれないですよ。

諸君、狂いたまえ。 @ 2024/04/26(金) 22:00:04.52 ID:pApquyFx0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1714136403/

少し暑くて少し寒くて @ 2024/04/25(木) 23:19:25.34 ID:dTqYP2V2O
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1714054765/

渾沌ゴア「それでもボクはアイツを殺す」 @ 2024/04/25(木) 22:46:29.10 ID:7GVnel7qo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714052788/

二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714049241/

佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713966248/

全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713869982/

2 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/07/05(火) 01:59:57.67 ID:aXqiFEEAO

 来るべき近未来。
人類は第三のエネルギー革命、こーりんドライブの発明によってかつてない繁栄の時を迎えていた。

だがその輝かしい平和の陰で激しくぶつかり合う二つの力があった。

 世界征服を策謀する「秘密結社PF団」。

かたや、彼らに対抗すべく世界各国より集められた正義のエキスパートたち。「国際幻想機構」。

そしてその中に史上最強のロボット、ヒソウテンソクを操縦する一人の少女の姿があった。名を「霧雨魔理沙」。

 「砕け、ヒソウテンソク!」



非想天則 The Novelize

地球が静止する日
3 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/07/05(火) 02:03:45.90 ID:aXqiFEEAO

 悪天候。地に潤いを与える雨が降るのは必ずしも悪い意味では無いが、この夜はそう評価出来るほど酷い嵐であった。

ネズミ返しのように深く切り立った崖に聳える古城へ、真っ赤な車がせわしなくワイパーを動かして迫る。

時折発生する稲光に目がぼやけてしまわないように、スリップによってタイヤを取られてしまわぬように。

ラジオと雷鳴とエンジン音だけが、沈黙を許さないまま。

天地の水しぶきが激しくなっていく。

 「世界最大のシズマ発電所、セントアーバーエーは開所以来順調に稼動率を伸ばして、3日後には120パーセントに達し、計画通り世界の電力の50パーセントをまかなう事になります。なお、その開所式の前日に行方不明になったシズマ博士は依然その消息がつかめておらず、安否が気づかわれております。」

ああ忌々しい。我が故郷よ。

パルスィは僅かに目を細め、右足に力を込める。

城は目前だ。

4 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/07/05(火) 02:11:11.16 ID:aXqiFEEAO

 明るい所で見るならば、かつての繁栄を見え隠れさせる大広間。煌びやかではあるのに、所々傷付き朽ちた石造り。

バルコニーはボロボロで蔦が絡まり、時折見える金属製の飾り付けは皆一様に風化の跡が見える。

エネルギーが回されていないシャンデリアは、雷の一瞬を乱反射させるだけの置物に成り下がって、小さく風に軋んだ。

それでいながら赤々と燃える暖炉の前には、細長いテーブル。親類縁者を集めた会食の時くらいしか使いようが無いその両端に、二人の実力者が腰掛けジッと彼女を待っている。

中点に置かれたアタッシュケースを眺めながら。

 大広間へアーチ型に続く入口を遮るように配置されたテーブルは、パルスィのちょうど真ん前にアタッシュケースを見せ付けている。

唐草模様のハンケチで僅かに被った雨粒を拭く手が、ケースを確認した途端に停止した。

 「おお、ついに完成しましたか、これが我がPF団の手に入ったからには、長い戦いにも終止符が打てますなぁ。」

一年が十年とも百年とも感じる濃密で強烈な攻防。

だがこれがあれば、その生き地獄も終わる。

心の底から腹の奥から、肺の空気を出し尽くす溜め息を漏らし、自分の直属の上司へ微笑を向ける。

5 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/07/05(火) 02:19:13.70 ID:aXqiFEEAO

 「うむ。」

「では、さっそく作戦の開始を。」

「いや、そうはいかん。」

嬉々として伸ばした手を止めながら、パルスィは首を捻った。肯定と否定を連続でされたのでは無理も無い。

つまりは、隻眼隻角となりながら一切実力の衰えないその女性に真意を尋ねるしか、この混乱を止める術を持ち合わせていないのだ。

「はぁ、と言われますと?」

「我らの同志が、まだケースを追っているらしい。」

目の前にあるケースとケースの間は、丁度もう1つ同じケースが収まりそうな余白があった。

つまり、未完成なのである。

 いかに強いミサイルと発射台があろうと、スイッチが無ければ使えない。標準器が無ければ意味が無い。

「では……?」

よもやこのケースの隙間は……。

「ここにあるケースは2つ。でも私の用意したサンプルは、」

上司の対面にて優雅に座す「小娘」が口を出してきた。

「3つあったわ。」

忌々しい。妬ましくはない、忌々しい。

 パルスィはこの女が嫌いだ。

新人でありながらその類い希な才能でアッと言う間に成り上がり、自分を追い越した。

それだけならまだ良い、所詮は強さが第一の実力社会であり不満は無い。

だが尊敬する伊吹萃香を呼び出し、顎で使うのが腹立たしい。

PF団の頭脳とも言える策士永琳直々の異動としてもだ。

 そんな気持ちを表すかのような稲妻が輝き、一瞬その場に居る全員の顔が明るく照らし出される。

「つまり残りの一つは敵の手にあるって事ね。」
日傘か雨傘か知らないパラソルかアンブレラか区別つかないソレが、立てかけたテーブルより床に倒れる。

その傍らに控える永琳の懐刀は、相変わらず不気味に無表情に立ち続けていた。

6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2011/07/05(火) 04:06:27.12 ID:LdssL0ngo
文字長い
地の文うざい
つまらん
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/05(火) 06:13:30.50 ID:DG4RD+DSO
福岡さんおっすおっす

GRとはまた珍しいな
8 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage]:2011/07/05(火) 10:05:42.14 ID:aXqiFEEAO
やっべ途中で寝てた俺破裂しろ

>>7
一清道人「悪漢共に御仏の慈悲は無用!」
霊夢「妖怪共に博麗の慈悲は無用!」

友人の誕生日プレゼントを考えてたらこれを受信した
因みに本作では霊夢は一清じゃありません
地球が燃え尽きる日だと更に配置替えをします、中条変わりすぎだろ的な意味で

ではまた夜に
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/05(火) 10:07:53.05 ID:9NjOC9RIO
やんややんや
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/05(火) 10:26:30.79 ID:J6O8YQDSO
いったい何が始まるんです?
11 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage]:2011/07/05(火) 17:52:00.83 ID:aXqiFEEAO
>>9
あのシーンは大好きだ


>>10
既存OVAをキャラと一部だけ変えて文字化させただけの品が始まります
12 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/07/05(火) 17:54:19.21 ID:aXqiFEEAO

 列車。

その名の通り、車輪を着けた複数の箱が連結し列をなして走る物体。

歩いて行くには大変な――長い距離だったり人間には険しい地域だったり――場所まで人や物を運ぶ為に利用するものだ。

ご存知の通り、その時は箱の内側に陣取るのが普通である。

特に人間1人とアタッシュケース1つならなおさら。

だが彼は敢えて、その列車の「上」を走っていた。

比喩ではなく、まんま列車の屋根の上を。

 「うぁ、あ、うお、う、おおっ!」

表すならば無様。

糞尿を垂れ流し涙腺を崩壊させ這い蹲って命乞いをするような、人間の理性的部分を消し飛ばしたような。

でもそれもまた仕方なかった。

彼は罪人、咎人。自覚もしていた。

何の力も無い、ただちょっと小狡くて頭が良くて運が「良かった」だけの。

それでも、自分の命を含めた何を失っても逃げねばならなかった。

 「くそっ、行き止まりか!」

そんな懸命な足掻きと幸運は、常識的に考えて行き止まりになるに決まっている先頭車両で打ち砕かれた。

追い付かれる。

深緑色のボールに車輪がついたような、それを数珠のように繋げた車両の後方から。

犬走椛が現れた。

13 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/07/05(火) 17:59:41.49 ID:aXqiFEEAO

 「ふふふ、今更どこへ逃げようというのかなシズマ博士?」

「僕はこーりんだ、その名は止めて欲しいな。」

交渉術も何もない虚勢。それでも彼は、汗や脂に汚れた眼鏡をポイと放り投げ、大嫌いなその名称を否定した。

 過猶不及。

行き過ぎた事は足りないのと同じように良くない事である。

どこぞのゴシップが、旧時代の中国の言葉を取り出して僕を否定した。

エイトクラウド地区バシュタールで起きた惨劇の理由は、僕にあると。

それをローマ字か何かに変換して、イタリア語か何かで読めるようにするこじつけ中のこじつけ。

でもそんな悪評は大量の賛辞に埋もれて、シズマという呼び名だけが定評した。

SISMA。

こじつけやひねくれで生きてきた僕には、そんな歪んだ呼び名がお誂え向きではあるのだけど。

もはや香霖堂の森近霖之助と呼ぶ人間など僕自身ですらない。

十中八九シズマ、極稀にこーりん。

皮肉にも、ドライブシステムに僕の愛称は奪われてしまった。

14 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/07/05(火) 18:08:06.50 ID:aXqiFEEAO

 「御託は良い、さぁアタッシュケースを返して頂こう。」

抜き身の剣を振りかざした要望、明白な脅迫。

「馬鹿な、これを渡せば世界がどうなるか?」

黒を主体に赤黒い斑点が多数あるマスクに追っ手は手をかけた。返り血ではなく漆塗りだと信じたい。

兜のそれに良く似ているマスクの奥には、酷い悪人面した微笑みがあった。

「ふふふ……。」

その不気味な振動の中には、悲願達成前の高揚感が見え隠れしていた。

 「元はと言えば、あなたがこんなドライブシステムを作ったからでしょう?」

「ごもっとも。だからこそ、これは私の命を懸けた償いなんだよ。」

懐から取り出したるケースよりスペアの眼鏡をかけ直して。

溜め息になるべく虚勢を乗せて。

 「ふーん?でも私の目的も、そのケースだけでね。」

デッドオアアライブ、生死問わず。

この、犬畜生……。

「神よケースを守りたまえ…!」

ケースを抱き締めながら、その場にかがみ込む。

「どうせなら十年前の自分に祈りなさい…!」

近付いて来る、屋根と下駄が弾き合う音。死へのカウントダウン。

目を深く瞑った。ケースを守ってくれと祈りながら。

そして彼の祈りは届いた。

15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/06(水) 09:05:52.25 ID:nK6fvpOSO
東方はわからんがGRだけで胸熱
キャラはその都度ググればいける

期待
16 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage]:2011/07/07(木) 05:35:30.33 ID:pW2AKRAAO
>>15
その感覚で正しい
これは東方は御飾りのGRらしきものだから

双方ファンに謝罪しつつ宣言通り今日もまったり書きます
17 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/07/07(木) 05:36:44.83 ID:pW2AKRAAO

 大量の、あまりに大量の弾幕。

ホーミングも付属しているのか、弾幕は敵が手にした柳葉刀では防ぎきれず、耳や尾を傷つけ右手を貫いた。

「なっ、あああっ……き、貴様!」

ロボットのようないわゆる鉄仮面、漆黒のトレンチコートにソフトフェルトハットの乱入者。

さっきの射撃の鮮やかさもあいまって、これで顎髭とロックのバーボンでもあればご立派なハードボイルドガンマンだろう。

「驚いている暇は無い。」

すぐさま大男は足下の車両で弾を連射する。

当然薄い窓が砕け、システム回路は傷付き、エンジン制御系が異常をきたす。そして急加速。

 「エンジンシステムを、よくも!」

スピードに煽られ進行方向右側に投げ出された椛は、負傷した右手を庇いながら側面にへばりつき敵に――どう考えてもそれしか有り得ない邪魔者――吠えた。

そんな言葉はどこ吹く風で、全く「異邦人」には届いていない。

「さぁ、博士」

「うわわ!」

今のこーりんは壊れかけていた。否、既に壊れだしていた。

自分の罪の重さに、自分の汚さに狂いそうだっただけに。このケースの存在は、目の前での殺し合いは、疑心暗鬼になるには充分な程のアクセルだった。

差し出された手を拒むには充分な程のものだった。

18 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/07/07(木) 05:39:38.85 ID:pW2AKRAAO
 車体が左に大きく曲がり、景色が遠目に見て華やかに変わる。

「くそ、南京に入られたか!」

彼女は焦った。

人口が増えれば危険も増える。敵が増えて任務失敗になりかねない。

加えて、レールが二本になった。

早く登らないと狼のミンチとして線路にバラまかれてしまう。

 「おーい!霊夢!」

併走する列車。その屋根の上に立つ二本角。

鬼?

すぐそう思った。

 末端エージェントでも、会社ならせいぜい係長か課長レベルの椛でも、むしろそこらへんの子供でも分かる。恐怖の対象。

力は強く争いを好み理解不能な力を振るう。

鬼に勝てるものは、まず居ない。

相当の実力者でもないかぎり。

 「今だ、来い!」

鬼らしきそれは両腕を大きく広げながら、エメラルドのように輝かしく髪を風圧に靡かせて満月を背に力強く叫ぶ。

 「マズいっ!」

逃げられる。



 並列走行した車両はやがて段違いとなり、椛の車両は上側であった。

「ハァッ!」

霊夢と呼ばれた鉄仮面はまだ呻く博士を脇に抱え、変装を剥ぎ取りケイネの方向へジャンプする。

宙を行くその姿は、ハードボイルドからはかけ離れた紅白のものだった。

「巫女服?!」

あまりに非現実的な変貌に、呆気にとられる。

かくして巫女と博士と鬼とケースを乗せた新しい車両は、橋の下を潜り別ルートを走り抜けて椛を置き去りにした。

19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage saga]:2011/07/09(土) 13:11:49.53 ID:3lEHnVCAO

 「あはっ」

巫女服の霊夢は颯爽軽やかに一人で着地し、彼女を受け止める予定だった慧音はポカンとしていた。

抱えているは冴えない眼鏡のシズマ博士――ちゃんとケース付きで――。

 ここは本当なら、ガッチリお姫様抱っこして、

『あっ、ありがとう慧音……。』

『なに、良いって事よ。』

『貴女って、逞しいだけじゃなくて凄く優しいのね……好き。』

なんて薔薇色展開だろう!桃色空間だろう!

 対する椛は、まんまと逃げ仰せた奴等を見詰めながら思考回路をフル稼働させる。

あれは鬼では無い。

鬼がこんな場所に居るわけが無い。

頭に叩き込んだ国際幻想機構のめぼしいエキスパートを――上位すぎると逆にデータが無いので、簡単に分かるのは中の上程度までがせいぜいだが――思い返す。

満月に輝く薄緑の髪に二本角。

それは……。

 「貴様は……緑旋風(リョクセンプウ)の半人面牛(ワーハクタク)!」

「上白沢慧音(カミシラサワ ケイネ)だ!」

離れて行く列車に向かい、ベーッと舌を出して慧音は見送った。

 「えぇい、やってくれたな。ただじゃ逃がさん!出ろ!」

痛む手にも力を込め、体を揺さぶって側面から跳び乗った。

そのまま左手を払って合図すれば、後続車両の屋根が次々と開く。

そして現れるは大量の一人乗り小型ヘリコプターとそれに乗る椛の部下達。

「破壊工作員チーム全機発進完了!」

「生きては帰すな!手段は選ばん、ケースを取り返せ!」

列車の屋根からせり上がって来る操縦席に飛び乗り、通信機に怒声を浴びせる。

ラジャーとの返信を聞き流しながら真っ赤なハンカチで傷口を縛り、彼女は自分に出来る追尾方法を開始した。

20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage saga]:2011/07/09(土) 13:29:30.06 ID:3lEHnVCAO
 急速に離れて行く列車を追いかけ、無数の駒が南京の夜景を飛び交う。

下から見上げればさながら無数の星空のように、皮肉にもサーチライトが美しくあった。

「捜せ、列車の屋根にいるはずだ!」

前か後ろか、はたまた横に逃げたか、数に物言わせ探索をする。

一瞬、赤いリボンが見えた。

響く二発の銃声。高速で届いた光弾は第一発見者を撃墜する。

 「鳳凰がやられた、代わって龍王が指揮を執る。」

ヘリに装備されている二対のガトリングが火を噴いた。

対する霊夢は、大きめではあるがハンドガンが一つ。

「キリがないわね。」

弾倉を交換しながら、恨めしそうに呟く。

 仕方ない、やるか。

この場から博士を安全確実に逃がす為、目を閉じ意識集中させる。

霊夢の周りだけ、ほんの少しだけ世界が白んだ。
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/09(土) 20:58:49.01 ID:OjeipWhSO
投下の時上げてくれるとうれしい
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/07/09(土) 21:59:36.78 ID:3lEHnVCAO
>>21
すいません、まだまだとろくさくて申し訳無いから、最低でも一章は下げ進行でいきます
二章からはもっと書き溜めて上げますので
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/02(火) 00:15:13.59 ID:hsgzBqUSO
まだか
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/01(木) 19:16:16.78 ID:Jkb+vwOSO
保守
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
25 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage]:2011/09/04(日) 04:13:38.81 ID:Y00LLOJAO
遅れて、なんてレベルじゃない程に遅れてすいません
言い訳はしないです、ごめんなさい
ホントなら一度落とすべきなんでしょうけど、申し訳ありませんが続けさせて下さい
保守、的な意味での生存報告です

自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/15(木) 20:30:17.37 ID:wTrFjSrSO
楽しみなんだから

頼むぞ
27 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/09/21(水) 03:47:53.87 ID:d/PdmHsAO
 保護対象の博士は、死にそうな顔で背中にへばり付き気絶していた。

ある意味幸運であろう。

 やれやれと臍を曲げながら霊夢に近寄った途端、後ろの車両が破壊された。

スクラップ工場のような不快で不規則な破壊音が、圧縮された時間に発生してけたたましい雑音となり響きわたる。

咄嗟に前方へ飛んだ二人は振り向く暇無く兎に角かけた。

 「大丈夫か霊夢!?」

「そっちこそ!」

なるたけ全力で逃げる。

アクションゲームのように、二人綺麗に揃って障害物――電車からすれば彼らこそ障害物だが――を飛び退けて。

先頭車両を踏みつけ飛び出す最中に見た背後の驚異は、さっきPF団が居た電車だった。

わざわざどこかで線路を変えて、彼女ら消し飛ばす為に追い掛けて来たのである。先端に巨大なドリル付きで。

「またこいつかよ!」

「観念なさい!」

霊夢に貫かれた手は、真っ赤な布地で無理やりに縛られていた。

28 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/09/21(水) 03:48:56.13 ID:d/PdmHsAO

 列車のサイドがガチャリと外れ手のようなそれが姿を表す。

つまり列車と思っていたそれは、BF団が特殊任務の作戦遂行の場合にのみ投入する巨大兵器だったのだ。

「BF団ロボットだったのか…!」

如何に個人用ヘリを余さず殲滅出来たとは言え、人間は巨大ロボットと喧嘩出来るようには出来ていない。

それが出来るのは極々一部の、超一級の連中だけである。

流石の慧音も舌を鳴らした。

そんな時である。

 「走って、もっと速く。」

と、今まさに逃げている二人に子供の声が届く。

「何、速くだと?馬鹿野郎!このガキが、どこのどいつだ!」

まさに猛牛として鼻息荒く周りを睨む。しかし声の出所は分からない。

その中で霊夢の指輪が小さく点滅していた。

まさか?

耳に指輪を近づけると、「そのまま真っ直ぐ」と聞こえる。

やはりこれだ。

しかしその真っ直ぐの先にある跳ね橋は、船の通過により上がり始めていた。
29 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/09/21(水) 03:49:54.87 ID:d/PdmHsAO

 六度の傾斜を下りる時、実は人間はかなり転び易い。八度程度の登り坂を自転車で登るのは大変だ。十五度を超えると、車ならギアを落としてアクセルをわりと踏むレベルである。

我々人類にかかる、傾斜による重力の増加は想像以上にキツいのである。

だが跳ね橋は、すでに七十度程度まで、停止した。つまりほぼ壁。上がりきっていた。

超人的身体能力を持つこの二人のエキスパートでも、息が切れる程度の傾斜に。

とりあえずジャンプして壁に食らいつく。橋とドリルのサンドイッチはごめんだから。

 「小癪な、逃がさんぞ!」

高速のまま橋に体当たりした、だが逃がした。

今度は少し後退してからキャタピラをフル稼働させ無理やりに椛は追いかける。

BF団の技術の粋を集めたロボットは、この程度ではビクともしない。

「この維新竜・馬で捻り潰してやる!」

その気迫から逃げる為、たまらず二人は間一髪飛び降りた。

30 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/09/21(水) 03:50:43.10 ID:d/PdmHsAO

 運河を通過するタンカーへ、真っ直ぐ落下。そして甲板から更に逃げねば。

そんな事を瞬間的なアイコンタクトで交わした二人へ、巨大な手が出迎えた。

タンカーを破って出た、鋼鉄の巨大な手が。

「なっ…!」

もう一体がいた?やられる!

そんな頭は働くのに、身体は自由落下に逆らえるわけはない。

 左手に包まれた三人が聞いたのは、巨大な一撃の音。

敵をひき殺し損ねた椛が見たのは、巨大な右手によるストレートパンチ。

 ちょうど腹に当たる。空中にいる巨大ロボットを押し返す程の一撃。

吹き飛ばされた竜・馬は背中から大門に叩き付けられ、そのまま俯せで地を流される。

懸命に両手で地面を撫でるが、キイキイと高めの不快音を鳴らすばかりで止まりはしない。

そのまま真っ赤な社の、南京と書かれた小門に激突させられた。

「ぐっ…いたたた……。」

横になった操縦席で痛めつけられた体を起こし、舞い上がる埃の先に見えたのは巨大ロボット。

自分を吹き飛ばした謎の邪魔者。

急いで立ち上がり操縦桿に力を込める。だが動かない。

「こ、の…この、くそ!」

椛は、冷や汗が止まらなかった。

31 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/09/21(水) 03:51:30.76 ID:d/PdmHsAO

 あれには見覚えがあった。

かつてPF団に所属していた稀代の天才科学者、河城にとり。その者が作った史上最大地上最強と謳われるロボット。

粛清される事無く壊れる事無く今日まで存在し続ける伝説の裏切り者。

 まさか、そんな、だがしかし……。

ぐるぐると頭の中を駆け巡る。

 「こ、これは…!」

やはり、そう、あれは…。

「ぎゃあああ!ヒ、ヒソウテンソク!」

間違いない、間違える筈がない。

顔に張り付いていた瓦礫が落ちたその姿は、頬の辺りにあるタラップに居る操縦者の少女は。

 寝ている夫を蹴飛ばす鬼嫁のように、強烈な蹴りで竜馬は叩き起こされる。

だが怯む暇は無い、椛とてロボットと一緒にスクラップなどごめんだ。

 「ま、まぁぁるきゅうチルノのぉ、たぁぁめぇぇにぃぃ!!」

左手は高く目線より少し高く奥を指して掲げながら。

ドイツのハイルヒトラーや日本の天皇陛下万歳のように、偉大な指導者を、PF団の主を崇める敬礼である。

32 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/09/21(水) 03:52:36.75 ID:d/PdmHsAO

 痛む右手を酷使して軋むクラッチを無理やりに動かす。

本当に本当の奥の手。キャタピラーやボディの各所から大量にトゲ、否ドリルを展開させてそのまま体当たり。

流石のヒソウテンソクも、この一撃は防ぎきれまい。

焦燥とほんの少しの余裕が椛に複雑な笑みを浮かべさせる。

だが現実は非常に非情で無上と呼べるほどに無情だった。

 「パンチだ、ロボ!」

左手首にある腕時計型のリモコンに、彼女が声をかける。

そしてロボ、即ちヒソウテンソクはそれを人間ように聞き取り理解して実行した。

落下して来た竜・馬を弾き飛ばした剛腕が再び振るわれ、紙でも破いたかのように敵の胴体に風穴が開く。

ドリルなどモノともせず、その緑ががった装甲を文字通りに「叩き潰し」て貫通させたのだ。

「そんな馬鹿なあああ!」

爆発を始める竜・馬にて、椛はその機体と運命を共にした。

33 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/09/21(水) 03:53:06.36 ID:d/PdmHsAO

 「霊夢、慧音、しっかり捕まってろよ?」

竜・馬の破片が降り注ぐ中、ロボも左手にて守られている二人へ魔女帽子の金髪少女は笑いかけた。

「あいつは、霧雨魔理沙…」

「そしてこれが、ヒソウテンソク…!」

 バチバチと竜・馬だったものが火花をあげ、このままでは南京の町で大爆発を起こしてしまう。

「ロボ、急速上昇。」

だから背中のジェットでその巨体を持ち上げ、遥か上空にその残骸を運び出す。

まだ小さな子供に見える彼女にはあまりに不釣り合いな力とロボット。

後に霊夢は、この時の事件をこう語る。

 「思えばこれが私と魔理沙との出会いであり、事件第一日目だったのかも知れません。」

「そう、誰にも忘れる事の出来ない、七日間・・・。」

と。
34 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage]:2011/09/21(水) 04:00:34.35 ID:d/PdmHsAO
散々待たせてしまった分、せめて一気にと思ったらたった7レスだと…あるぇ……

ぶっちゃけると、書き始め時からビッグファイアはチルノで決まりでしたが「ビッグチルド」とか「グレートチルノ」とか呼び名が全く決まらないから進まないでいたりします
――決まらないならそこを飛ばして書け、と言われるでしょうが、それが出来ない不器用野郎ですいません――

まあ最終的にHチルノになり良かった良かった(誉め言葉)

もうラストまで頭にはしっかりありますので、続きは来週までに指を酷使してうpします
さっさと第一話終わらせねば…
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/22(木) 00:17:40.65 ID:NH+n1tCSO
第一話が終わったら誰が誰なのかまとめてくれると嬉しい

HチルノだとPFはなんなんだ?
書いてあったらスマソ

36 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/09/28(水) 00:06:39.10 ID:K+oYAh/AO

 せわしない雷鳴と忙しい雨音を聞きながら、報告を聴くパルスィは苛つく内心を抑えつけていた。

ジャイアントロボ。またあいつかと。

小さな溜め息と共に受話器を戻すと、電話番である下級妖怪がそれを持って引っ込む。

暖炉の火はすっかり小さくなっていた。

「ケースは完全に敵の手に落ちました。」

椛は恐らく戦死、南京は大打撃、維新竜・馬は大破。全く困った事態である。

「そろそろあの魔理沙と言う小娘を、本気で始末する必要があるな。」

手持ち無沙汰に左手の中で転がしていた黄色い球が、その発言と共に握り締められる。

霧雨魔理沙とヒソウテンソクに邪魔された案件は一度や二度ではない。

その存在はいい加減に目障りになっていたのだ、最高幹部の一人に目を付けられる程に。

37 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/09/28(水) 00:07:19.23 ID:K+oYAh/AO

 「ふふふ、十傑集ともあろう御方が情けない、ミス萃香。こちらにはまだサンプルが二つある。」

そんな小さな決意を彼女は笑った。

「そう。二つでもあればジャイアントロボなど敵ではありません……。」

テラスへ向かいながら傘をクルクルと弄び、やはり不敵に笑った。

それがやはりパルスィは癇に障った。

「貴様、萃香様に無礼ではないか!」

 感情に呼応してその瞳が緑色に輝き、鋭く見開いた先に居る分を弁えぬ愚者を眼光が貫く。

右手に力を込めながら素早い足捌きでその側へ。もはや一発叩き込まなければ気が済まない。

だがそれは、あの懐刀に阻まれた。

何にも変わらぬ無表情で、息もかかる程に近い場所にその顔。

人形や能面ですらもっと温かみがある。否、冷たさがある。

そんなマイナス面だって感じない虚無の顔なのだ。
38 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/09/28(水) 00:07:49.92 ID:K+oYAh/AO

 「うぐ。」

引けば己のプライドが、延いては伊吹萃香の顔へ泥を塗る。だがしかし、行けばこの綿月豊姫を敵にするのはあまりにも強過ぎる。だからといって。

嫌な汗が背中を撫でる。

 「まぁまぁ、お目付役の綿月豊姫殿を困らせる事もないでしょう、私のコードネームは幻夜……。」

そう、美しい幻の夜。

「それを忘れなければよいだろう。」

儚い実態の無い虚像。その笑みに良く似たコードネーム。

 「パルスィ!」

「はっ。」

その一言で瞬時に主の傍らへと戻るパルスィ。緊張の糸が撓む。助かったのはパルスィか、或いは…。

「ケースは後から取り返すと言う事で構いません、予定通り地球の静止作戦を敢行しよう。」

「うむ。」

萃香に歩み寄る幻夜は、フロア中央で向かい合う形となる。その中間、パルスィは二人の横顔が分かる位置に立つ。

そして揃って片手を宙に掲げる。

「我らのHチルノの為に!」

39 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/09/28(水) 00:08:30.10 ID:K+oYAh/AO

 パリ。かつてその地方一帯を勢力下に置いていたパリーシ一族に名を由来するそこは、時の皇帝カエサルによるガリア遠征によって、シテ島にあった砦ルテティアとしても有名だ。

現在はヨーロッパを代表する都市の一つである。

そんな華の都に、ノートルダム教会の鐘が今宵は怪しく響き渡っていた。

鐘楼には三つのそれと一人の人間。

地から溢れ出す怪しい光で街が裂けていく様を、彼女は口惜しく見つめた。

「しまった、遅かったか。」

 地面から漏れ出す緑色の光に照らされ、世界を支えるこーりんドライブの開発者達の変わり果てた姿がさらけ出される。

小悪魔。リリーホワイト。レティ・ホワイトロック。

その宙吊り死体には黒い猫が何匹も集っていた。死肉を求めてか、またはあの世からの迎えか。

 「ふふふ、ご苦労だったね、国際幻想機構パリ支部所属、稗田阿求。」

「貴様か、こんなむごい事を!」

世界を救った英雄達を殺害し、このような場所に晒す悪意。

阿求はそれに激昂し、伸びる屋根の先に立つ蝋燭を持つ何者かに銃を構えた。
40 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/09/28(水) 00:09:02.92 ID:K+oYAh/AO

 そこに居たのは、青い衣に金色の体、輝く九つの尾と白き肌は、その姿は、その威厳は、在るはずが無い存在だった。

「ふはは、ふはははは!」

「ま、まさか、あなたは……。」

稀代の頭脳。圧倒的なカリスマ。そして、全世界を瀕死の危機に陥らせた狂気の女。

遥か昔にインド、中国、日本の三国を騒がせた伝説の妖獣と同じ種族。

「白面金毛九尾の狐…八雲藍博士……。」

有り得ない。何せ彼女は「死んだ筈」なのだから。

「復讐だ。」

彼女の顔を照らし出していた、その片手に持つ蝋燭の火が風の悪戯によって闇に身を潜める。

同時のその神々しい姿も。

「ま、待ってください博士!」

直後、一際大きな揺れ。

地震、地割れ、断層。そのどれでも無い。

辺り一面に溢れ出す悪夢を見せる緑色の光がひっそりと静まり返ったのだ。

周りの全てを道連れに。

「消えていく、パリの、パリの灯が消えていく。」

この日パリは交通、医療、軍事、日常雑貨、ありとあらゆるものが停止し、夜の闇に居るだけの置物と化した。
41 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/09/28(水) 00:09:32.87 ID:K+oYAh/AO

 次々と巨大なモニターに場面が映し出される。

崩れた家屋、半分になった列車、それはボロ布のようなパリの姿。

「以上、現在とらえる事の出来るエリアからの超望遠映像です。」

オペレーターが告げると、モニターは沈黙した。

 「こ、これは一体どうしたってんですかい、長官。」

「うむ、ナズーリン先生、君の科学者としての意見を聞かせてくれるかね。」

難しい顔をしていた長官たる霊烏路空は、慧音の質問を参謀に受け流す。

この場の彼女が安易に答える事は、すなわち北京支部最高責任者が答える事。

その一言は時として人命より重い。

故に先ずは往々にして周りの発言を聞くのが仕事なのだ。

「はい、事件がおきたのがパリ時刻二十四時、こちら北京では六時。」

軍師ナズーリンの言葉に呼応し、再びモニターに変わり果てたパリの状態が移り変わって映る。

「あの断層が隆起して六時間が経ったばかりで詳しいデータが無く、今の所はコメントしかねます。ですが確かな事が一つ……。」

この先は出来れば口にしたくない、そう言いたげな雰囲気を纏いながらナズーリンは続けた。
42 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/09/28(水) 00:10:04.66 ID:K+oYAh/AO

 モニターには、国際幻想機構が保有する偵察衛星からの映像が表示された。

映像と言っても正確には、X線検査機のように地上を分析したデータである。

「あのノートルダムをいただいた大断層を中心として、全てのこーりんシステムの機能が停止していきました。」

全て、そうまさか、全て。
今時まず有り得ないというのに全てだ。

「小さなものだとライターまで、ありとあらゆるこーりんドライブが停止したんです。」

そして切り替わった先は、パリの惨状を全体から見渡した映像。

街は、既に死んでいた。
43 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/09/28(水) 00:10:39.28 ID:K+oYAh/AO

 こーりんドライブ。

十年前、ベルギーの片田舎の粗末な研究室で、五人の科学者がある発明をした。

それは完全リサイクル、絶対無公害の画期的エネルギーシステムであった。

陸に、空に、海に、平和に、そして戦争に、工場に、オフィスに、個人に、おおよそ考えられる限りのエネルギーは瞬く間に置き換わり、石油資源の浪費は終わり、全ての原子炉は解体の道を歩んだ。

今や空気や水と同じように、この地上に存在するそのシステムは開発者の名をとって、こーりんドライブと名付けられた。

しかし……。

 「では君はこーりんドライブが原因だと?あのバシュタールのように。」

長官の一言に霊夢は顔を強張らせ、ナズーリンは語気を強めた。

「そんな事はありません!そもそもこーりんドライブは完全無欠のエネルギーシステムです!それでなくては――」

そこまで一気にまくし立てて、彼女はハッとした。博麗霊夢、彼女の前では失言であったと後悔した。

44 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/09/28(水) 00:11:12.53 ID:K+oYAh/AO

 「そうだこーりんは完璧だ。だがそのシステムに今、何か恐ろしい影が近づいてきている。」

こうべを垂らしたナズーリンに代わり、空は結論を出すことにした。

なにより、恐ろしい影は間違い無くパリを陥れた。それはノートルダムの事件が証明していたからだ。

「こーりんドライブ開発チームの三人だ、稗田君はこれを追ってたんだ。」

パリが死ぬ直前に阿求がなんとか送付して来た映像がモニターに映る。

シズマ博士こと森近霖之助と共に開発した三人、もはや生き残っているのはシズマ博士だけである。

そう、阿求の送ったデータには、五人目の開発たる八雲藍の姿は映っていなかった――阿求が断続的に送っていたデータは先ほどの死体が最後であった――為に、彼女らのいる北京支部にはその情報が無かったのだ。

「ちょっと待ってください、シズマドライブの停止とあの死体が、どういう関係があるんで?」

「誰かが…いやおそらくHチルノだろう、再びバシュタールの惨劇を望んでいるならば、彼等は邪魔な存在だ。」

慧音の問いは至って最悪な形で答えられた。

故に質問者はまさしく、げぇ。と顔をしかめて、

「そんなぁ…。」

と肩を落とす。

客観的に見てそうとしか判断出来ないが、そうであって欲しくはないと思ってしまうのが人の性か。

「まだ何も断定出来ません。とにかく我々の手には、システムの生みの親、シズマ博士がいます、彼なら。」

そう森近霖之助本人ならばきっと、この絶望に希望の光を差し込ませてくれるだろうと。

 「来るぞ、奴が、奴が来る、奴が来る……!」

その時の博士が、酷く怯え震えていたなど知らないから。そう思えていたのだ。
45 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/09/28(水) 00:21:12.35 ID:K+oYAh/AO
一週間内に滑り込みでスイマセン
そして小悪魔とリリーとレティと椛ファンの方がもしこのスレにいらしたら、序盤でぬっころしてごめんなさい

また来週までに進めます、まだ1話は終わりそうにないのは許して下さい…

さて、今後語る予定も必要も無い設定
この世界には人間やエキスパートや妖精や幽霊や妖怪や兎に角そういうのが沢山居ます
だからモブキャラ達はそういう原作でも名も無い妖怪や人間やエキスパート達なので安心して下さい


PF団はパーフェクトフリーズ団の略です

では今夜もこんなちまちまグダグダでしたが、ありがとうございました
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/28(水) 20:40:09.34 ID:xYrLUscSO
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/28(水) 22:37:52.76 ID:xYrLUscSO
そうそう>>36でヒソウテンソクがジャイアントロボになってるぞ
48 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/10/07(金) 14:04:45.29 ID:W1ZAXU6AO
あばばばばば、遅れてすいません
書いてた部分がアニメをチェックしたら色々間違ってしまったので書き直し中です
今夜中にはうpします

>>47
やっちまった…
もうジャイアントロボことヒソウテンソクって事にして下さい
白い悪魔ことガンダムとかみたいなノリで
いやスイマセン、脳内修正お願いしますorz
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/07(金) 19:04:32.15 ID:Rf4JoUaSO
よし期待
50 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/10/08(土) 03:01:49.48 ID:CLGjC/8AO

 ロボットとは、言わば人間の代わりに何かをしてくれる機器そのものである。

つまりそれは大まかに表すならば、培養にしろ溶接にしろ通信にしろ人間の周りにある人間が生み出した機械全て。

だからむしろ、PF団が作る巨大ロボットなど特異中の特異であり、通常はそれ用に何かを作ったりなどはしない。

車が無いのにホイールだけ買って磨いているようなもの。

国際幻想機構においてもそれは同じであり、巨大ロボットはヒソウテンソクのみ。

故に整備は運搬にはわざわざそれ用に改造された巨大飛行船が必要だ。

それが国際幻想機構に北京支部に到着したポンドトードなのである。
51 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/10/08(土) 03:02:17.71 ID:CLGjC/8AO

 『飛行船ポンドトード、北京支部に到着。』そのアナウンスと共に格納庫は一気に騒がしくなる。

巨大な煙突のような入口からゆっくりとヒソウテンソクがドックへ降下され、同時に多量のロボットアームと作業代が壁から伸びる。

「格納を急げ。」

『上腕ロックボルト解除。』『第一、第二下降機閉鎖。』『脚部固定完了、オールグリーン。』『了解。』

「ワイヤーケーブル収納。」

「冷却水チューブ急げ。」

弾薬の補充や機器の交換、人機分担して一つの芸術を作る。

階段を登りその場に出た霊夢は、その様に思わず笑みを零した。

 あの後、ヒソウテンソクと魔理沙と博士の三名はポンドトードへ。霊夢と慧音は一足先に北京基地へと飛んだ。

そして基地に飛行船が来たということは即ち……。

「お、姉御ー!」

隣人の突然の叫びにハッと前を見る。

そこにはエレベーターから降りたばかりの魔理沙と、慧音が誰よりも慕う怪力乱神の星熊勇儀が居た。

「姉御、お帰んなせえ。」

「おう、そっちも無事戻れたみたいだ。」

子供のように目を光らせる様は、誠に分かり易く憧れと敬愛を示し、それは普通誰でも向けられれば嬉しいものである。
52 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/10/08(土) 03:02:55.14 ID:CLGjC/8AO

 「で、どうだったい帰りは?」

ニタァと勇儀が笑いながら、妹分を肘でつつく。

「銀鈴と二人っきりだったんだろ?おう、おうおうおう。」

その発言に頬を僅かに染めるも、魔理沙に微笑む霊夢が見えて首をブンブンと振った。

「それより南京じゃ冷や汗が出ましたぜ、それに戴宗の兄貴が助けに来てくれると思ってたのによ。」

肩をすくめオーバーに手を返しながら、つくづく残念がって嘆く慧音。

「あんなクソガキが来るとはよ!」

ケッ、と件のクソガキを睨むと、相手も睨み返して来た。

だが、何をこいつと思った矢先にその身は宙に浮き、遠心力に振り回されながら作業中の人工的な絶壁に晒される。

「誰がクソガキだって?」

言葉のなってない子分を制裁すべく、勇儀ががっしりと首に腕を回したからだ。

「だいたいなそのガキに助けてもらったのはどこん誰だ?え、誰だ?」

肩をすくめる霊夢。慧音の恋は、実るにまた遠退いただろう。

一方慧音は、自分の体重で首にめり込み続ける剛腕に、「ほー、ぶぃー、ぬわ!」と言語ではない叫びをあげながら、顔は真っ赤に染めて行く。

無論苦しさから。
53 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/10/08(土) 03:03:25.09 ID:CLGjC/8AO

いつも持ち歩く瓢箪で一杯飲みながら勇儀の折檻は終わらない。

「それとも、文句があるなら素手で戦ってみるかい?」

戦う?

「あいつとよぉ。」

何のこっちゃと思った視線の先にいたあいつ。巨大ロボットヒソウテンソク。

「え、いやあの…堪忍してくれよ姉御!」

いくらなんでもムチャ過ぎる。

いくら特殊訓練を積んだエキスパートでも、人間は――彼女は半分は牛の妖なのだが――巨大ロボットと戦えるようには出来ていない。

「え、どうだ慧音?」

 勇儀はバタバタともがく姿を、「へへへ、ほほほ。」と楽しんでいたものの、やっとこさその遊戯にも終止符を打たれる。

「勇儀さん、慧音さん、基地に帰ってきたからってまだ任務が終わったわけじゃ…!」

「なんだと、このガキのくせになめやがって、生意気に!」

首を決められながら、壁を蹴りバック宙の要領で拘束を抜ける。

真っ正面に向かい合い睨み合い、一触即発とはこういう事を言うのだろか。
54 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/10/08(土) 03:03:57.76 ID:CLGjC/8AO

 「いい加減にしなさい慧音!」

それを、紅白のめでたい、むしろ愛でたい女性が割って止めた。

「さ、こんな子供みたいな人達はほっといて、報告をしましょ。」

そのまま肩に手を回して魔理沙を連れていってしまう。

「そんな、このぉ……。」

青菜に塩。想い人に拒絶。分かり易いほど肩が落ちてしまった。

日常茶飯事だけれども。

 「ご苦労だったねぇ、そちらはどうだったかな。」

四人の遣り取りの何時から居たかは知らないが、すぐそばに待っていた空が労う。

「はい、任務は完了しました。シズマ博士は今メディカルルームで保護したのですが…」

「やっぱり、あれから何も?」

煮え切らない報告に、霊夢が首を捻る。

「はい、ただこれをナズーリン先生にと預かってきました。」

渡されたのは黒いアタッシュケース。

見た目を厳密に形容するならば茶色がかった色だろう。

だがこれは、黒い、と現すに相応しいアタッシュケース。

血と欲望と憎悪と悲劇と忌まわしい記憶が詰まっている、黒い、アタッシュケース。

どうでもいいが、厳密には預かって保護したのは八割は慧音らである。
55 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/10/08(土) 03:04:28.39 ID:CLGjC/8AO

 「ほう、これが例の。しかし、今更シズマ博士が私達に何を?」

常に持ち歩くダウジングロッドを袖口にしまい、受け取ったケースを訝しげに見つめる。

その疑問は、ケースを開けてやっと理解された。

「これは…まさか!それで大作君、博士は黙ったままなんだね?」

すぐにケースを閉じ鍵をかけてナズーリンは確認する。

「は、はい、…それが一度だけ。」

 う、うう、大作君。

君がヒソウテンソクを操縦するような勇気が、私にはもうないんだよ。

そう、二度とバシュタールのようにはいかんのだ…。

 ケースを手渡された時に聞いた、唯一のセリフ。

怯えながら森近霖之助が語った言葉。

「僕にはよく意味が分からなかったのですが…。」

霧雨魔理沙は知らなかったのだ。

否、知りようもなかった。

バシュタールとは、既に存在しない場所、過去の名前。

歴史から消し去られた、忌まわしい場所。

森近霖之助が、こーりんがシズマと変わって言った元の場所だったから。
56 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/10/08(土) 03:08:02.22 ID:CLGjC/8AO
あるぇ…なんでこんな短いの…

週一はやっぱダメですな、もっと自分を追い詰める事にします…

次の更新は、おこがましいですが上げますね
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/08(土) 13:26:10.05 ID:t4jp/Dpdo

ところどころ、キャラ名とか一人称とか置き換え忘れてるみたいなのが
気になるといえば気になるけど、楽しみにしてる
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/08(土) 19:10:32.82 ID:bLdnv0eSO
>>57
しかし俺にとってお陰で誰が誰なのか少し分かったのも事実
59 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/10/16(日) 21:35:21.24 ID:s8KrHC6AO

 「長官、後で少しよろしいでしょうか。」

口元を隠しながら、小さな大将は相棒に問うた。

それが深刻な用件であることは表情が語るが、寧ろ雰囲気から顔を見ずとも分かってしまう。

だから空も、「うむ。」と簡素且つ確実且つ重厚に頷く。

 「ありがとう魔理沙くん、これは確かに受け取ったよ。」

一瞬前の事が嘘のように、緩やかに微笑むナズーリンと空。

「良くやってくれたね、これからも宜しく頼むよ。」

この言葉に魔理沙はどれだけ舞い上がったか。子供ゆえに子供らしく子供だからこそ、素直な賞賛はとても甘美であった。

「ロボにも、そう伝えておいてくれ。」

「はい、ありがとうございます!」

とんがりを後ろに下げ、帽子の鍔はピンと天を突く。目一杯真剣に、笑顔を滲ませてしまいながらそう答えた。

すっかり慧音と勇儀は蚊帳の外である。

が、ちぇっとふてくされる暇も無く、「では解散。」と"命令"が出た。

すなわち、基本的にこれ以上任務についての言動は禁ずると同義。

「あ、はい!」

慌てて背筋を伸ばし敬礼。長官を見送りながら、頭は休暇の予定を考える事にした。
60 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/10/16(日) 21:35:58.77 ID:s8KrHC6AO

 メデイカルルームの一室。

まるで囚人であるかのように隔離され、特殊なガラス越しに見つめられ続けている。

そこで博士は怯えていた。

四角形たる壁の隅に座り、白いシーツを引き摺って被り震えていた。

さながら子供のように。

 「どうかしら?」

「わかりませんね、ずっと黙ったままですよ。」

時たま独り言は言ってるみたいですが。と監視役の妖精は苦々しく答えた。

聞き取れない、という事だ。

それでは理解が出来ない、かと言って近寄れば更に怯えるジレンマ。

様子を見に来た霊夢も、その異常さは分かる。だが理由が分からない。

仕方なく彼女は、「そう。」とだけ話してその場を後にした。

どのみち専門家の報告を待つしか無いのだ。

「来る……ヤツが、ヤツが来る……ヤツが来るぞ……!」

それからもずっと。誰にも届かない悲鳴を、森近霖之助は漏らし続けた。

61 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/10/16(日) 21:36:26.24 ID:s8KrHC6AO

 南中した太陽が照りつけ作業車が忙しなく走る作業場を、魔理沙はのんびりと見下ろしていた。

中庭にある小高い丘となっている自然物そのままのちょっとした休息スペースにて、楽しみにしていた。

「お、来た!」

補給車。

旧時代なら給油や充電や注水をしていた筈の補給が、今は違う。

六角形に並んだこーりんドライブの束を取り出し、用意して来た新しいドライブシステムと交換するだけ。電池と同じ。

専用の挿入口に回し入れればドライブ内の緑色の液体は順次赤く変わり、エネルギーを供給し始める。

一番大きなサイズでもせいぜい瓶ビール程度で、複数個並べるだけで直列繋ぎの如くパワーは跳ね上がる。

しかも完全無害且つ完全リサイクル可能。

人類の叡智が到達したエネルギーシステムにおいての終着点だろう。

それを見つめていた。

 「ご熱心ね。うふ、好き?こーりんドライブ。」

霊夢はぶらりと現れながら尋ねた。

そして「だって凄いじゃないか。」と目を輝かす魔理沙の横に並び、一緒に眼下の様を眺める。

確かに、あんな信管がライターも飛行機もロボットも動かし、しかも完全リサイクルだなんて、子供でも凄いと分かるだろう。
62 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/10/16(日) 21:36:56.83 ID:s8KrHC6AO

 「そうね、もう石油の埋蔵量なんて心配ないし、エネルギー公害も無くなったわ。」

少し遠い目をしながら、霊夢は呟く。

そう、この信管は凄まじい。凄過ぎる。

「ほんとうだぜ、だからこんな素晴らしいエネルギー機関を開発した博士を救助にいけたなんて…感激なんだぜ!」

「そうね。」

溜め息混じりに、優しく微笑んでみせた。

正直、悟られたくはないから。

「何もかもあのシズマ博士が……いえ、森近霖之助博士がこのシステムを作り出してからなのね。」

だんだん、なんとなく仮面が崩れかけた霊夢に嬉しい邪魔が入る。

「おーい、霊夢!」

ヘラヘラと分かり易い緩んだ笑みを浮かべながら豪快に手を振り駆けたくる。

良き姉として万人から頼れる、上白沢慧音であった。

「よう、お硬い任務は終わったんだ、ぷわーっと気晴らしにでも行こうや。」

正面の手すりには、どこから来たのか星熊勇儀が飛び乗って眩しく笑っている。

緊張感が無いというか日常がだらしないのが玉に瑕ではあるが、本当に有り難い話だった。

笑顔が仮面の罅を直してくれたから。
63 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/10/16(日) 21:37:31.02 ID:s8KrHC6AO

 「なあ魔理沙、お前ももう十二歳だってな?栄転祝いに、いい所にでもつれてってやろうか?ええ?へっへっ……。」

首に腕を回して胸元に抱き寄せ、あからさまにニヤニヤしながら誘う勇儀。

この場合の"いい所"は、おおよそ成人が行く場所の筈だが、この女がどこまで本気なのか。

だが問題なのは、本人が本気かどうかに関わらず周りの意思に無関係に豪快に連れ出してしまう不思議な雰囲気である。

これも酒と宴を好む鬼の本質だろうか。それとも星熊勇儀の人格だからなのか。

「え、遠慮しとくぜ。」

現に魔理沙も顔を赤くしながら断ってはいるものの、陥落など時間の問題であった。

 それを止めたのは、やはりさっきと同じ女性。

「駄目よ魔理沙、こんな人たちと一緒にいると、どうしようもない悪い大人に、なっちゃうわよ?」

霊夢は、悪女の腕からさらりと魔理沙を引っ張り出すと母親のように人形のように背後から立ったまま抱き締める。

そのままチラッとサイドの二名を確認して、もっとももらしく肩を竦めた。

「どうしようもない?」

「悪い大人?」

誰の事かと思ったが、ああやはりこの場には四人しかいない。

慧音と勇儀が互いを見つめ、一刹那後に牛は鬼を指差した。

お前だな、とばかりに。

途端に鬼は首を横に振る。

どうしょうもない哀れな大人の姿が、そこにはあった。

そしてトドメの一撃。

「そうよ、魔理沙はお姉さんとデートがあるのよね。」

「へっ?」

素っ頓狂な声をあげる魔理沙。意地悪く笑う霊夢。硬直した慧音。

「ぬあああああああああああ!」

慧音、この日一番の絶叫である。
64 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/10/16(日) 21:38:01.95 ID:s8KrHC6AO

 デート。

男が女を、男が男を、女が女を、女が男を。

老いも若きも気持ちを焼き身を焦がし心を酔わせ盲目にさせる甘き緩き健やかでくすぐったい。

それが恋。

その恋をしているの者同士が親睦を深めるのがデートである。

 それはつまり、

一緒に街でショッピング。

一緒にアイスを食べる。

一緒に海で遊ぶ。

そして結婚して、新婚旅行で高級ホテルなんかに泊まっちゃって。

 そんな思い描いていた幸せな未来が粉砕した。

だって言葉の通りなら霊夢の隣にいるのは、自分じゃなくてこんな小娘になるのだから。

脂汗なのか冷や汗なのか分からないそれが顔中から滝のように落ちる。

「で、デート……?」

「そうよ。」と乙女の笑顔で微笑まれたらもうなにも言えない。

 「ごめん、私は用事があるから行くぜ!」

その場に屈む事で霊夢の腕の中から抜け出し、空中に置き去りにした帽子を右手で掴んで走り出す。

「おい、どこ行くんだ?」

「整備の手伝いに、ロボが待ってるから!」

そのまま手を振りながら子供らしい笑顔で消えていった。

 「あーあ、振られちゃったか。」

「ロボットに負けるなんて、ちょっとショックかも。」
65 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/10/16(日) 21:40:26.22 ID:s8KrHC6AO

まだまだ色恋に疎い子に張り合う必要は無いが、妹が独り立ちしたような気がして小さく笑う。

純朴な彼女には、このまま純朴に生きて欲しいと願いながら。

 「あ、あの……もし、暇だったら、で、デート……。」

チラチラと顔と足下に視線を動かしながら、背後から霊夢に話しかける。

だが今までの流れからして勿論上手くいくわけがなくて、

「行ってくれば?勇儀さんと二人で、"いい所"にでもね。」

一度も振り返る事無く行ってしまった。

あ……あ、うぐ……がっくし。

と古典的な漫画のようにヘコむ慧音に、ずいっと瓢箪が差し出される。

鬼の必需品、酒を生む瓢箪が。

「やるか。」

今夜は飲み明かそうと勇儀は笑った。

まだ昼下がりなのはご愛敬。
66 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/10/16(日) 21:40:54.64 ID:s8KrHC6AO

 北京基地の地下。特殊保管区域にエレベーターが降りる。

その先、長い廊下を進む空とナズーリンの顔は険しい。

「どうする先生、もはや残るはシズマ博士のみ。」

「それにもうひとつ。今入った探査データによりますと、ノートルダムの地下500メートルの位置に、巨大な金属反応が発見されました。」

ノートルダム、即ち三人の博士が死亡した場所の地下に何かがあるということ。

「だが不思議なのは、その金属反応を包む空洞のエリアのみの動力反応なのです。」

「するとそれがこーりんドライブ停止現象を生んでいると考えて間違いはないな。」

その場所を中心にエネルギー停止現象が発生し、且つそこだけは動力が止まって居ないのだから至ってシンプルな結論。

だが問題なのは、"何故、彼等はそれ以上動かないか"である。

そしてその理由は恐らく……。

「これを必要としているのでしょうね。」

最深部に保管されていた、例の託されしケースを開く。

中にはこーりんドライブの信管が一つ。

だが普通のとは違う。

赤い核を浮かべている緑色した液体は何故か泡立ち、多量の機器と管に繋がれて、まるで生命維持でもされているかの如く厳重で。
67 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/10/16(日) 21:41:49.72 ID:s8KrHC6AO

 「これが、あの十年前の遺産というわけか。」

「間違いないでしょう。これを作り上げられるのは、あの方以外には不可能です。」

顔を片手で多いながら答うる姿に、苦々しく呟く空の顔が更に不味く歪む。

「では、君はあの惨劇から生き残ったというのかね?」

あの方とは一名しかいない。

十年前に死んだはずの、白面金毛九尾の狐、八雲藍。

 「そんなはずはありません!」


有り得ない矛盾。

生き残る筈は無いが生き残っていなければ作り出せる筈が無い。

「そんな、そ、そんな……。」

有り得ない。そう、有り得ない。


 「いえ、藍博士は、確かにあの時…。」

ハタと我に帰り、慌てて沈着に答える。

時として感情的になってしまうのが、ナズーリンの未だ克服出来ぬ弱点だった。

「だが一体誰が、何のために。」

「わかりません。ですが、もしこれが三つ揃えば、あのバシュタールが再び……。」

もしこの特殊なこーりんドライブが全て揃ったら、考えたくない最悪の未来が起きる。

パリで起きたエネルギー停止現象と森近霖之助の異様な恐怖が、その解を導き出させた。

68 : ◆Wm01vvGoQ2 [saga]:2011/10/16(日) 21:47:01.99 ID:s8KrHC6AO
前にお伝えした一章時点にて登場したキャラ達です
まだ一章は続きますが、キャラは出揃ったので
一部ちょいとした拘り(こじつけ)があったりします

国際警察機構→国際幻想機構
ジャイアントロボ→非想天則
草間大作→霧雨魔理沙
銀鈴→博麗霊夢
黒旋風の鉄牛→上白沢慧音
呉学人→ナズーリン
静かなる中条→霊烏路空
神行太保戴宗→星熊勇儀
不死身の村雨健二→稗田阿求

BF団→PF(パーフェクトフリーズ)団
幻夜→八雲紫
コ・エンシャク→綿月豊姫
オロシャのイワン→水橋パルスィ
衝撃のアルベルト→伊吹萃香
オズマ→犬走椛
諸葛亮孔明→八意永琳
ビッグファイア→チルノ

その他
シズマ博士→森近霖之助
フォーグラー博士→八雲藍
塔で死んだ3博士→リリーホワイト、レティホワイトロック、小悪魔
死体に集る鳥→火焔猫燐
草間博士→河城にとり

一部の、ロボットや地名や技や武器なども変換してます(バシュタールとかは例外)

グレタガルボ→ポンドトード=大蝦蟇の池
大きい蝦蟇蛙(ロボ)を収容出来るみたいな感じでちょくちょく入れてるんで、良かったら全部見つけて「下らねえ」と嘲笑ってくだせえ


てか、俺は何でこんなにも書けないんだろうか
ただアニメ見て字にするだけなのに…いつもごめんない
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/20(木) 00:37:16.80 ID:eI6hfYESO
70 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/10/20(木) 12:28:29.24 ID:WwC80EpAO

十年前。

バシュタールに巨大な研究所があった。

中央アジアの空に聳える白い巨塔。世界中から融資を受けて作られた新時代エネルギーの研究所。

数多のライトに照らされる外観とは対照的に、その中心部は非常に暗かった。

 彼女は言う、高らかと。

「未来は現在の我々に栄光の光を与えてくれた。そう、ついに全ての恐怖を克服出来る時がやって来たのだ。」

「太古には木々をこすり合わせ炎をおこし、ある時は鯨から生命を奪い、またある時は石油を戦い争った。そして原子力、いつの時代も危険との隣りあわせだった!」

彼女は言う、はっきりと。

「だがこれからは違う。何の恐れも無い夜、我々は手に入れたのだ!」

彼女は言う、堂々と。

「今度こそ美しい夜を!それは幻ではない!!」

彼女は言う、その全てを賭けて。

「しかし博士にはこれ以上任せてはおけない。」

だが森近霖之助は、そんな藍の言葉を拒否した。
71 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/10/20(木) 12:29:30.26 ID:WwC80EpAO

 「そうだ止めろ、八雲藍を止めろ!」

「彼女は暴走している!」

仲間達も口々に叫ぶ。

「引き離せ、藍をあれに近づけるな!」

小悪魔が指差した先には、長い階段と小さな装置、そして巨大な球があった。アステカの太陽神に生け贄を捧ぐ祭壇のように。

その人工の太陽神は、無数のチューブに繋がれ巨大な目を閉じている。

ドライブシステムが完成した暁には、これ起動させて世界に示す筈の、平和の象徴。

「何もかも失敗か……。」

「そうだ、失敗だ。」

レティとリリーはうなだれる。絶望した顔を隠そうともせずに。

「この実験は完全ではなかった、無謀すぎる!」

霖之助がその腕を掴み、戻るように叫んだ。

だが、

「もう遅い。私はこれと共に生き、共に死す!今更何のためらいがあろうか!!」

藍博士は聞かなかった。

このままでは、エネルギーが暴走する可能性が高いと理解していながら敢えて。

霖之助を突き飛ばして言い切った。

「今となっては、我々はこの場を放棄する。」

もう彼女に言葉は通じない。

そう悟った四人は、その言葉を皮切りにその場から走り去った。

72 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/10/20(木) 12:30:03.01 ID:WwC80EpAO

 「よろしい、貴様らに夜の創造者となる資格は無い!」

走り去る四人の耳に最後に残った藍博士の言葉は、決別と狂気の台詞だった。

「だが私には見える。美しい夜が見える。私はここに誓おう。いつの日か再び、さらに美しい夜を人々にもたらさん事を!」

祭壇にある三角形に並んだ装置、その頂点にはまだ試験品であった二つのこーりんドライブが刺さっていた。三角形に二つ。

最後の穴に入れるべきドライブシステムは、藍が持つ。

彼女はそれを掲げ、勢い良くセットした。

「夜の恐怖に立ち向かう、打ち勝たんが為に!」

そして太陽神の目が開く。三つのエネルギー管による起動。

だがしかし、やはり制御出来ていなかった。

 塔が崩れ落ちる。一人の女の墓標のように。

そして、

「美しい夜を、美しい夜を!再びいつの日か必ず、必ず……!」

爆発した。

73 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/10/20(木) 12:30:45.40 ID:WwC80EpAO

 超高温の爆発は莫大な上昇気流を生み出し、まるで世界を吸い込まんと空気を引っ張り上げる。

そこを中心に大地は円形に崩れ、光が飛び散り緑に染まって行く。

ドライブシステムの核はまるで宇宙そのもののように光を放ち輝き迸り、まさに生きていた。

半壊した塔から剥き出した太陽神は、ゆっくり瞼を閉じながら地面に消える。

そこに、藍博士の姿はあるはずもなかった。

この日が、バシュタールという国がこの地上より消滅した日である。

74 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/10/20(木) 12:31:56.58 ID:WwC80EpAO

 「今度こそ美しい夜を!」

止めて、

「私はこれと共に生き、共に死す、今更何のためらいがあろうか!」

止めて……

「私には見える、美しい夜が見える!」

止めてくれ、

「私はここに誓おう、いつの日か再び、さらに美しい夜を人々にもたらさん事を!」

止めろ!

「美しい夜を、美しい夜を!」

もう止めろ!

「再びいつの日か必ず!必ず!!」

 「やめろぉぉぉぉぉ!」

寝室のベッドで、そう幻夜は吠えた。

「はあ、はあ……はあ。」

明確に蘇る戦慄したバシュタールの爆発。頭に響く八雲藍博士の声。

起床によって薄れる筈の夢を見たという感覚が全く引かず、身体から滲み出る汗と暴れまわる心臓が呼吸を急かす。

 また嫌な夢を見たものだ。あのこーりん管を追いかけているせいかも。

ベッド横に散らばるバシュタールの歴史書を寝る前に見なければ良かったと舌打ちしながら、すぐ側のテラスへ出る。

夜風が汗と体温を奪い、頭の中までじっくり冷やしてくれる。

ぼんやり月が光る中テラスに立つそのしなやかな肉体は、やはり幻夜という名前だけあって現実離れした神秘的な美しさがあった。
75 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/10/20(木) 12:32:32.21 ID:WwC80EpAO

 静寂を取り戻し始めた美しい夜を、野暮な通信音が打ち砕く。幻想的な世界が、急速に日常になる。

「……なに?」

少しトーンが低かったか、通信相手は上擦って答えた。

「は、お休みの所申し訳ございません。昨夜の国際エキスパートの件ですが残念ながら……。」

「そう。」

「それでアルベルト様がお急ぎとの事で。」

「分かった、すぐ行くわ。」

通信後、すぐさまいつもの服装に着替え始める。

今日はこれ以上、夢に惑わされてる暇は無いのよ。

下と揃いの黒いブラをつけながら、彼女は心中で呟いた。
76 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/10/20(木) 12:33:11.34 ID:WwC80EpAO

 死んだ都パリ。

爆発でバラバラにメチャクチャに吹き飛び、瓦礫でごった返し自然発生したゴミ山がいくつも出来ている。

その一つ、トンネルが残る場所に稗田阿求は潜り込んだ。

ゴミ山の周りは抉れて切り立ち、水がいくつも漏れ落ちた、横転した電車が斜めに突き刺さったトンネルに。

いまやインテリア程度にしか使われていない、蝋燭かという骨董品を片手に持ちながら。

 窓ガラスを踏みしめてゆっくりと奥へ進むと、なるほど妙な"揺らぎ"を見つけた。

「ここか。」

座席に手をかけながら、バリンと一枚のガラスを蹴破る。

通常なら線路脇に位置するそこに、上手く隠された不自然な扉があったからだ。

その先には、小さい何か人工的な灯りが見えた。この国際幻想機構の支部さえ静止した街に残る灯り、それはPF団の秘密基地しか無い。

「これはまいった……いつの間にこんな基地を?私達フランス支部もいい恥さらしだわ。」

暗い足下を照らしながら、音を立てないように。

二十メートルほど進んだ頃だろうか、巨大な研究施設が阿求の眼前に現れたのは。
77 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/10/20(木) 12:35:14.78 ID:WwC80EpAO

 誰か来た。

蝋燭を吹き消し身を壁際に寄せて耳を済ます。

見下ろした廊下を歩く三人がいる。

「萃香様は、もう北京に着く頃かと。」

「シズマ博士の居場所が分かれば始末しろと伝えるだけでいい、それとサンプルの回収を急がせろ。八雲が待ち焦がれているぞ。」

それはPF団の下級エージェントと幻夜であった。

だが何より、一番気になる言葉が聞こえたのが問題である。

「なんだと、八雲?」

まさかとは思ったが、見上げた先には巨大な球体が目を開けていた。

十年前の爆心地にあった筈の、人工の太陽神。

これを作る人間など限られている。ましてシズマ博士は国際警察機構に保護されていた。となれば、

「やはり、八雲博士が。」

寺院のあれは、本物であったのか。

 幻夜が進む先には、十年前と同じ三角形の装置があった。

指を鳴らすと下級エージェントがすぐさま黒いアタッシュケースを取り出し、開く。

やはり中身は特殊なこーりんドライブで、管に繋がり炭酸のように泡立って緑色に輝いていた。

それをセットしながら、幻夜は思う。

あと少し、あと少しなのだと。

このサンプルが揃うまで、そしてこれを起動させるまで本当にあと少しだと。

十年前の決着がつける為に、彼女はここまで生きて来たのだから。
78 : ◆Wm01vvGoQ2 :2011/10/20(木) 12:43:21.73 ID:WwC80EpAO
週末が忙しくなりそうなのでちょっと早めに出来たし投下
1日およそ500字のペースですいません…
次回は北京の萃香さんからスタートです

本家幻夜さんはブーメランパンツのみで寝ていましたが、ゆかりんがどんな衣装で寝ているかは皆さんの妄想で補完して下さい
自分は"ノーブラにちげえねえ、ナイトキャップとパンツ以外は全裸にちげえねえ"という感覚だけであんまり深く考えず書きました
これのせいで神隠しにあったらゴメンナサイ
ではまた来週にでも
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/20(木) 14:27:59.63 ID:eI6hfYESO
80 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/10/30(日) 23:19:18.17 ID:JOLqxPnAO

 北京空港に、伊吹萃香は降り立った。

パリの異常はとっくに世界中には知れ渡っては居るのだが、遠く離れた北京の地では一種の天変地異程度にしか捉えられていないらしく活気は変わらないでいた。

「所詮は対岸の火事か。」

瓢箪の酒を一口飲み、車の行き交う道を悠々と突っ切る。

空港正面入口の真ん前に、パルスィが車のドアを開け待っていた。

 「これでよろしゅうございますか?」

運転しながら、用意していたA3ほど茶封筒を差し出す。

中身は真の歴史書、『Bashytaylle A.D 2029』と書かれた禁断の本。

表の歴史から抹消された書物の一つだが、裏に生きる秘密結社のエージェントが手に入れるのは容易かった。

 ああ。と軽い返事をしながら受け取ったそれパラパラと捲る。

この胸騒ぎの答えがそこにあるやもと願って。

「ドクター森近、そしてバシュタールの惨劇、生存者は無し……。」

当たり前か。

今更ながらそんな事は分かりきっていた。
81 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/10/30(日) 23:20:20.62 ID:JOLqxPnAO

馬鹿馬鹿しいと自嘲気味に笑いながら、ふと八雲藍博士の写真に目が止まる。

若き日の博士と、まだ思春期も迎えていないような二人の娘が写った家族写真。

「この娘達の為にも、私は研究を続けたい。」と綴られていた。

「ふん、まさかな。」

今度こそ本を閉じる。

頭に浮かんだ仮説が、あまりに突拍子も無いものだから。

車は北京の市街地で、渋滞に巻き込まれていた。

 「萃香様。」

「どうした、さっきから進まんようだな?」

信号待ちにしてはあまりに長い事に、彼女の左目が部下を捉える。

「はぁ、なにやら前の方で酔っ払いが騒いでいるようで……。」

弱った顔をしながら言うパルスィの通り、なるほど何やらやかましい。

 だからこういう街は私には合わん。

元々貴族階級である彼女にとって、こういう俗な場所における"日常"はどうも腹立たしい。

「いい、ここで降りる。」

「は、では私はあちらでお待ちしております。」

小さく頷いて、萃香は徒歩で目的地に向かった。

見知った顔が居た気がして、人混みを一瞥してから。

82 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/10/30(日) 23:23:49.33 ID:JOLqxPnAO

 さて、まだ夕方なのに大通りを遮る程にやらかしているその酔っ払いだが、薄い水色の髪を振り乱しながら異様なテンションで笑っていた。

「酒持ってこーい、でへへへ。」

赤い顔でベタな文句を叫び、野次馬の目を独占し続けている。

その馬鹿な妹分を肩に担ぎ上げ、

「いや、どうもすいませんね。」

と体操服の鬼が苦笑の謝罪を振りまいていた。

あまりに辛抱堪らず、「このど阿呆!」
と叱ってみたところで、

「なんですか、もう一軒?よござんしょ、姉御がいくならどこまでも!なはは!!」

さっきより大声で、じたばた騒ぐだけ。始末に負えない。

「馬鹿たれが目立ちくさってからに。」

ここまで酒癖が悪かったか?と思いながら、ふと野次馬の向こうを見る。見知った顔が居た気がして。

ゴチン、と慧音の拳骨が勇儀を叩いたのはその直後。

「うく、てめえ!」

とりあえず近くのごみ箱にぶん投げた。

83 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/10/30(日) 23:26:13.94 ID:JOLqxPnAO

 餐館、有頂天。

この高級レストランは北京に居ながらにして自然を楽しめる風流さが売りだ。

門をくぐると両脇は崖。空中にちらほらと宝塔型のカンテラが浮かび目を楽しませてくれる。

店内は広く至って普通の高級店だが、ある一面は全て鏡張り、その先には湖がある。
山々に囲まれたカルデラ湖にいくつか浮島のような社を置き、遥か先にはビルの灯りがチラつく。

予約制だが船を出す事も可能だし、時期によって蛍や雪も見られる。

経営するスカーレット社が、開発前の土地ごと買い占めたからこそなせる店だ。

84 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/10/30(日) 23:27:08.03 ID:JOLqxPnAO
 その浮島の一つで、慧音は酒壺を並ばせながらテーブルに顎を乗せていた。

枝豆や漬け物のような定番のつまみから、杏仁豆腐や酢豚、シチューに茹で海老などかなりゴチャゴチャしている。

どうやらかなりやったらしいが、当人はまだ収まりを見せない。

「へ、何がジャイアントロボら!ふん、たかがポンコツの木偶人形じゃねぇか。」

やけ食いやけ酒の後、最初に吐いたのがこれだった。

魔理沙はあんなもんにでも頼らなきゃ何ひとつ出来ない子供だ。
なのに、てめぇ一人でPF団と戦っているような顔をしている。

それが不愉快だと。

「どうした慧音、今日は。」

「面白くねぇ、面白くねぇんだい、うくう……。」

いつになく駄々っ子のような姿に、勇儀は口角をあげた。

「おうおう、魔理沙と霊夢が仲良くなっちまった、それが面白くねぇ。」

イヒヒと意地悪く笑うと、顔を真っ赤にしながら「ち、違います!」と叫び酒を煽る。

図星か。

あくまでも小さく嫌みたらしく笑って羞恥心を煽りまくると、「酒持ってこい。」と店員に吠えた。

そのまま、酔いが酷いのか同様したのか豪快に真後ろに倒れ込む。

慧音はもう立とうとすらしなかった。

全く分かり易い。
85 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/10/30(日) 23:28:59.15 ID:JOLqxPnAO

 向こうに見える山と夜空を、仰向けでぼんやりと眺めながら口を開いた。

「でもよ姉御、今回の作戦じゃ私と霊夢が必死の思いしてあれ持ってきたんら。」

ポツリポツリと雨のように。

「それをあいつは自分の手から支部長に渡しやがって。」

雨足が早まる。

「まるでよ、自分の手柄みてぇによ。」

ビルの光で星は見えない。

「これじゃ任務の途中で死んでいった他の仲間は一体なんだったんら。」

そのイライラがどうしょうも無くて。

拳骨くらい大きな伊勢海老を足の指で挟むくらい柔らかい体で、少し力を込めたら殻だけを弾け飛ばせられる器用な体で、そのまま丸かじりした体で、それでも抑えられなくて。

「『何だったんだ?』か……慧音、あたしらはエキスパートだったんじゃないのか?」

分かりきってた、答えも意味も、でも姉御は改めて聞いてきた。

「お待ちどうさま!」

そうして、ちょうど看板娘の青娥が酒壺を置いていって、姉御がそれに口をつけた。

86 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/10/30(日) 23:31:06.58 ID:JOLqxPnAO

 「いいかい、魔理沙はまだ子供だ。十二だぜ。」

上弦より少しふっくらした十三夜の月を見つめながら、猪口の酒を口に運ぶ。

「考えてもみろ、あたし達が十二の頃、どこで何をしていた。」

「今の場所に拾われた、そんな頃か。」

肘をついて頭を支えながら、慧音は背中で答える。

「そうだ、あたしと初めて会ったあの頃だ。でもその頃のあたし達に、今の魔理沙のような事が出来たか?」

お互いに、もう酔いなんか消えていた。

87 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/10/30(日) 23:32:49.87 ID:JOLqxPnAO

 「あたし達は自ら望んでエキスパートとして育てられたんだ。だからこそ様々な任務も遂行できるし、死をも覚悟出来るのかもしれんな。」

流れ着いた梁山泊で修行し続けた日々が一気に駆ける。

「だが魔理沙はそんな時分にいきなり、あんな地上最強のロボットを背負わされ、何の覚悟もないままエキスパートの使命をおわせられた。」

修行で得た力、技術、そして心。それが重く肩にのし掛かり慧音の胸を突き刺す。

「いきなりだ、なにもかもいきなりだ。あたし達が十二の頃、そんなものに耐え切れたか?」

それは誰にも分からない、無理だったかもしれないし出来たかもしれない。
魔理沙の人生は魔理沙だけの歴史だから。
「何も知らずに気づいたときには、母親をPF団に殺され、残されたのはヒソウテンソクだけだ。」

それはありふれた悲劇。だがしかし、ヒソウテンソクという特異性だけはやはり世界一特異ではある。世界には特異性なんかありふれているが、それでもやはり、それに耐えきれるかは本人次第で、それが本人の人生だ。

どちらに転んでも――それこそどうしょうもないクズになったとしても――誰も本人責められないし責めてはいけない、それが生きる事で、この世で一番残酷な「自由」という選択肢だからだ。
88 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage saga]:2011/10/30(日) 23:35:22.43 ID:JOLqxPnAO

「そんな子供に対してあたし達に何が出来る……そう何も出来ん、だが一つだけあるとすれば、あたし達は魔理沙を間違った大人にしてはいけない、それだけだ。」

そう、誰も責めてはいけない。だからこそ、周りは支えてやりそして支えて貰うのかもしれない。

アーチ橋のようにお互いに痛みを分かち合い力を合わせて、生きるのかもしれない。

「でもよ姉御、私は十二の時にはもう……。」

じっと動かないまま、慧音は言った。

「人を殺していたんだ。」

それはやはりありふれた悲劇で、魔理沙だけが特別視される理由にはなりえない。
人生とは誠に理不尽に不運を与え不幸に落とす不公平たる不孝の塊たるのが、現実なのだから。

 懐にしまった慧音の鏡と、腰に提げた勇儀の瓢箪の蓋が赤く光る。

本部からの呼び出しサイン、それが意味するのは火急の帰還。

何かがあった。

次の瞬間、飲み代だけを残して二人のエキスパートが風となった。

89 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage]:2011/10/30(日) 23:44:08.25 ID:JOLqxPnAO
なんとか神隠しにはなりませんでした、相変わらず短いですが今週分でした
来週はやっと一章が終わります
もう一人称とか二人称がぐっちゃぐちゃだなあぁぁ…
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/02(水) 21:12:22.77 ID:colMwoKSO
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/05(土) 21:27:35.29 ID:Fg7epgDjo
依頼スレ見たけど板違いってことはねーよ少なくともルール的な意味では
ただ需要層がずれてるという意味なら否定は出来ないな・・・ 東方は他に定住の場所があるから
みんなそっちに行ってるんだろうね
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(新潟・東北) [sage]:2011/11/06(日) 11:50:28.77 ID:cbPdwuRAO
いや、需要が無いのは最初から分かりきってたんですけど、これは最初の方で行ったとおりのジャイアントロボの世界でのキャラクター差し替えに過ぎないわけです。

極端な言い方ならジャイアントロボで東方キャラが無双してるだけになります
無双そのものはまだ良いとしても、世界観拝借のみだったら、なんらクロスオーバーらしい混成要素が無いなと――Aの世界にBの住人しかいないなら、それは混色じゃなく塗りつぶしでは?と――思いまして、ならばそれはイコール「誰かのSSを丸パクリしているのと変わらない」なと。まさしくチラ裏や自分のサイトにでも書くものだなと。
故にまことに勝手ながら畳ませていただこうと思ったわけであります。

一カ月も待たせたりしてしまったのに常在して毎回乙下さった方までいらしたのに本当にすいませんでした。

もしもまた、この酉やくだらない言葉遊びを見つけたら、嘲笑って他の方のスレを覗いて下さいな。
ではこれにて、失敬。
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/06(日) 20:25:33.03 ID:84hT2jxSO
なん……だと?

結構楽しみにしてたのにorz



なあ、せめて終わるまで頼むよ
なあ……
94 : ◆Wm01vvGoQ2 [sage]:2011/11/06(日) 20:45:32.44 ID:cbPdwuRAO
>>93
多分いつも乙して下さったソフトバンクさんですよね?本当に申し訳無いです…ただやはりSS速報で書くようなモノでは無いのではと思ってしまい筆が進まない為、許して下さい…
もしもまた書く時はどっかのSNSにやるか、「だが、戦いは続く」まで全て書き切ってからVIPにでもスレ立てて投下しますので…いつもありがとうございました
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/06(日) 21:02:59.87 ID:84hT2jxSO
>>94
知ってたのか嬉しいな

東方知らない俺にはジャイアントロボの世界観が東方キャラになる新鮮さがあったから楽しみだったんだ

ジャイアントロボのSS自体少ないからな

見つけたジャイアントロボのED

話が終わるごとに話のEDを投下しようと思ってたんだ

http://www.youtube.com/watch?gl=JP&hl=ja&client=mv-google&rl=yes&v=r0LxAK7d_G4
http://www.youtube.com/watch?gl=JP&hl=ja&client=mv-google&rl=yes&v=SN6DoPdHYDA
http://www.youtube.com/watch?gl=JP&hl=ja&client=mv-google&rl=yes&v=Dfrg0xwaQlY

orz
73.19 KB   
VIP Service SS速報VIP 専用ブラウザ 検索 Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)