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ゆきあつ「め、めんま…?」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/08(金) 22:07:22.60 ID:VM4J427F0
ある、暑い夏の日。
ジリジリと唸る蝉の声にイライラしながら、俺は溜息をついた。
…ああ、そうだ、宿題があったんだっけ。
見かけだけでも『優等生』になりきるため、面倒くさいながらもノートを開く。

ふー…つまらない…。

夏が来るとめんまを思い出す。
めんま…
「わあー、難しそうだねえ」
そういえばめんまに似合いそうな髪飾りあったんだよな…
「案外そんなこともないな。公式を当てはめれば簡単に」
「これってえっくす?えっくす?」
「Xだ………っ……え?」

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トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713798788/

【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
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ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713736565/

【安価】少女だらけのゾンビパニック @ 2024/04/20(土) 20:42:14.43 ID:wSnpVNpyo
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ぶらじる @ 2024/04/19(金) 19:24:04.53 ID:SNmmhSOho
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旅にでんちう @ 2024/04/17(水) 20:27:26.83 ID:/EdK+WCRO
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木曜の夜には誰もダイブせず @ 2024/04/17(水) 20:05:45.21 ID:iuZC4QbfO
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/08(金) 22:11:40.90 ID:VM4J427F0
「?」
「な・・・な・・・っ」

力の抜けた指から落ちたシャーペンが、机を転がってからんと床に落ちる。

俺が振り向いた先に居たのは、考えられもしない・・・考えられもしない、

「め・・・めんま・・・?」
「めんまだよー!びっくりしたあ?」

初恋の女の子だった。


幻だろうか。嘘だろうか。夢だろうか・・・。

カーテンを押して入ってくる風になびくその銀髪の動きの、なんてリアルな事。
青い瞳の瞬くのの、なんて懐かしい事。
首をかしげた時に柔らかく揺れたワンピースの、なんて懐かしい事・・・・・


3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/08(金) 22:23:32.72 ID:VM4J427F0
「ゆきあつ?」
俺の名を呼ぶ少女の声は、あの頃と変わらず可愛らしいままだ…、



落ち着け…。落ち着くんだ。
俺は、宿題の最中だった。今の時期は6月半ば。振り返ったらめんま。めんま。・・・



何故、めんまがここにいる。あの日死んでしまったはずのめんまが。
やはり、幻か。


いや、しかし、幻だとしたら俺の頭が生んでいるに違いない。
俺の目の前にいるめんまは、背は平均よりも低いものの、成長している。おそらく、俺と・・・いや、俺たちと同じ・・・15歳だ。

俺がいつまでも同じポーズのままで、何の反応も示さないから、めんまは飽きてしまったのか、俺の隣に回りこんで来た。そして、教科書をぺらぺらとめくっている。

横目でその姿を確認。

おおー、と呟きながら教科書を見つめるめんまの瞳は、青いガラス玉のようだ。

あの頃と、同じだ。

どんな空の色も海の色も再現出来ない、柔らかでどこまでも透き通るあの、青色と。




・・・幻なのか?
これが?

幼少時のめんましか知らない俺が・・・こんなに、こんなにリアルな動きをするめんまを・・・、思い浮かべることが出来るのか?こんなに、細かな動きまで?

・・・いや、俺ならやりかねないが・・・でも、
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/08(金) 22:33:31.38 ID:VM4J427F0
「あ、ゆきあつ、シャーペンおちてるー」
「え?」

めんまはしゃがんで、床に転がったシャーペンに手を伸ばす。

「はい、どうぞ!」

「・・・・・・・え、あ」

そして、シャーペンを、

持・・・った・・・?

手のひらに乗せられたシャーペンを静かに握る。
嘘だろ?
確かに、確かにめんまによって渡されたものだ。

「ゆきあつは偉いねえ、勉強ちゃんとしてるし」
「い、いや、・・・当たり前だ、それより」

「めんま、」

「ん?」

強い風にさらりと流れためんまの髪が、めんまの肩を掴もうとした俺の手に触れる。

「・・・・・」

俺が持つめんまに似せたウィッグなんかよりも、よっぽど柔らかくて、サラサラで、


「ゆきあつはずーっとぼーっとしてるねえ?」

甘い香りがしたんだ。

5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/07/08(金) 22:35:55.31 ID:AfBgtSj40
おぉ、期待
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/08(金) 22:42:59.39 ID:VM4J427F0

涙が出そうになった。

「めんま・・・」

俺は、教科書をめくろうとするめんまの白い手に触れる。
「ん?」
「めんま、なのか」
「めんまだよ?」
「ほんとうに、めんま」
「うん、めんまだよ?」


「・・・・・めんま」
本当は幻でも、夢でも嘘でも何でもよかったんだ。それが俺にとってのめんまなら。

何でもよかったのに、俺の目の前に居るめんまは、嘘じゃなかった。
「・・・ゆきあつ?」

近くに居るからだろうか。
風が吹くたびに微かに漂うめんまの髪の香りが、どうしようもなく俺を冷静ではなくさせた。


「ど・・・どうして泣いてるの?どうしたの?」

おろおろと慌てるめんまの声に、懐かしさがこみ上げる。
俺がこけたときも、そうだったよな、めんま。

そっとめんまのワンピースを掴む。

「勉強しすぎで疲れちゃった?」
ああ、俺はまだまだだな。
ワンピース、こんな生地だったのか。俺が買ったワンピースより、若干薄いんだ。

「あ、おなか減ったんだね!めんまなにか、つくろーか!」

このめんまは幻なんかじゃ、ない。
俺の生んだ幻想でもないし、当然、俺自身でもないのだ。



だってこんな甘くて優しい香りは、めんましか持ってない。

7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/08(金) 22:55:34.41 ID:VM4J427F0
* * *

「おはよう」
「ああ、おはよう鶴見」
「・・・なにかあった?」
「何でだ?」
「・・・なんか嬉しそうよ」
「気のせいじゃないか?」

相変わらず勘の良いやつだ。
鶴見の言ったとおり、俺の機嫌は良かった。そこそこ、じゃない。すこぶる、だ。
こんなに朝から嬉しいのなんて何日ぶりだろうか。
上辺だけじゃない、心のそこから満たされる『喜び』の感情は、随分と久しぶりな気がする。


「一日中期限良かったわね、珍しい」
「そうか?珍しいことでもないだろ」
「そうかしらね。定期テストで98点取ったって嬉しそうにしなかったくせに」
「100点じゃないと満足できない。そうだろ」
「理想が高いのよ、あんた・・・・・・、」
「・・・どうした」

鶴見は目線をわざとらしく避ける訳でもなく、さりげなく顔を横に背けた。
先ほど鶴見が見ていたあたりを見ると、何処と無く見覚えのあるやつが1人。


「誰だっけ、あれ・・・安城か?」
「・・・そうでしょうね。あの癖っけ」
「あー、昔からすごかったよな」
「・・・・・・」

安城は、俺や鶴見の昔の知り合いだ。
今見ると、外見がかなり派手だが・・・昔はそんなでもなかった。むしろ目立たない方だった気がする。
安城は同じく派手な女連中2人と遊んでいるようだ。

「行くか」
「ええ」
別に声をかける必要も無い。



>>5
ありがとう
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/08(金) 23:08:13.15 ID:VM4J427F0
今では他人も同然だ。
気にする必要は無い。俺たちは会話を交わしながらそれぞれの家へ帰る。


「ただいま」
「おかえりー」
「おかえりーゆきあつー!」
母親の声に重なって聞こえる元気な声に、思わず頬が緩む。


昨日確認したのだが、めんまは母や父には見えないようだ。
やはり幻ではないのか、って?どうやらそんなことはないらしい。
母親が俺の部屋にたずねてきて、ノックを聞いためんまがドアを開けたとき、ドア付近には居ない俺を見て母親が驚いていたからだ。


・・・では、何、なのか?
物に触れられ、俺には見えるが俺の母と父には見えず、しかし確かに居る。

・・・・・・・聞いたところによると、めんまは、幽霊、だそうだ。
そして、めんまが言うには―――

「めんまはね、お願いをかなえて欲しいんだと思う」

「お願い?」

「うん、お願い。でも、皆じゃないと・・・できないの」

「・・・・・・みんな?」

「超平和バスターズ!!」
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/08(金) 23:18:06.20 ID:VM4J427F0
随分人がいないな・・・。あの花SSは需要がないのだろうか


そのときのめんまの、いい笑顔といったら。
可愛いのだが、可愛くてたまらないのだが――小さな不満を感じる。


母と父に見えないんだ、どうせ俺以外のやつらにも、めんまは見えないんだろう。


「お願いをかなえたら、めんまはどうなるんだ?」
「めんまはねー、多分・・・「消えるのか」
「え?」
「消えるのか、めんま。」

そう聞くと、めんまは少し困ったように眉尻を下げると、
「・・・消えちゃうかも」

と。


めんまが消えることを知っていて、俺がどうしてわざわざ消すだろうか。

めんまに選ばれた身としては申し訳ないが、俺は願いを叶える気が無い。

だって俺は、ずっとめんまを想っていたんだ。
めんまがいなくなってしまっても、ずっとめんまを想っていた。いや、めんましか想えなかった。


こうしてまた会えたのに、また消えてしまうなんて俺は耐えられない。たえられない!


だから、めんま
俺と2人で居よう。

仁太・・・・・・宿海には見えないんだろ?そうなんだろ?

今度は、ライバルなんて居ない。
俺にしか見えないめんまと、俺にしか見てもらえないめんまの間に、誰が入ってこれる。
宿海なんて目じゃない。アイツはめんまが見えないかどうかなんてどころか、外にでてくることも出来ない!!
あいつはもう、遠き日のリーダーだ。

今はリーダーなんかじゃない。
めんまもそんなやつのことなんてもう、好きじゃないよな?
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/07/08(金) 23:21:09.14 ID:AfBgtSj40
俺は大好きだけどなぁ
みんな魔女の宅急便見て風呂でも入ってるんじゃないかな
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/08(金) 23:26:04.88 ID:VM4J427F0
「ゆきあつ・・・聞いてる・・・?あのね、だからね、めんまは・・・」
「お願いって、どんなお願いなんだ?」
「え・・・
それがあ、忘れちゃったんだなあ」
「・・・そうか。じゃあ、今何がしたい?」
「今?」
「思いつくことを何でもやろう。それがめんまのお願いかもしれない」
「あ、そっかあ、ゆきあつはあたまいいねー!」
にこにこ笑うめんま。
なんて純粋なんだろう

「めんまお腹すいた・・・かきたまのラーメン食べたいっ!」
幽霊だっていうのに、お腹がすくなんて不思議だ。生まれてはじめてみたが、幽霊とはこんなものなのだろうか。

「そうか、じゃあ作ってくる。」
「やったーー!」

めんまの為なんだからいくらでも作ってやるよ。

だけど、『お願い』はかなえてやらない。
消えることなんて許さない。
めんまに協力するふりをして、結局何もしなければいい。

そうすればめんまは消えない。
俺の思惑も伝わらない。
完璧じゃないか。


ずっと一緒にいよう。
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/08(金) 23:42:27.88 ID:XUZ2qEOl0
ほほう、ゆきあつルートか…。

なか面白い…、続けたまえ。
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/08(金) 23:47:49.35 ID:VM4J427F0
>>10
!!そうか…。確かに今、魔女の宅急便か…。そうだよな、
見てくれる人が1人でもいるなら俺はがんばる。


* * *
それから、3日ほどたった。
めんまと暮らす日々はとても幸せだ。

クローゼットの中も見られた時にはあせったが、焦るほどのこともなかった。
「・・・ゆきあつ、これ・・・」
「め・・・めんま!そこは・・・っ!」
「かわいいー!!!」
「!」
「このワンピース、めんまのに似てるねっ!
・・・あー!かみかざりもあるー!」
やはり女の子は、あんなものがあると嬉しいのだろうか。
全部めんまに似合うだろうと思って買ってきたので、喜んでくれるのは嬉しい。
出来れば身につけてみてほしかったが、めんまは眺めるだけで良かったのか、それを髪に飾ることはしなかった。




幸せすぎて怖いというのは、こんなことなんだろう。そんなことを考えながら、適当に相槌を打っていた帰り道。


「・・・聞いてた?」
「え?ああ、ごめん。」
「最近上の空ね・・・」
ふう、と溜息をついて、鶴見は一言だらしない、と加える。
仕方ないじゃないか、最近は楽しくて仕方がないんだ。

本当は走ってでも家に早く帰りたいのだ・・・。
そのとき、前方にニット帽と眼鏡をつけた男を発見した。
やや慌しげに周りを見回すその姿に、自然と口元が吊り上る。

すれ違う直前、俺は大声で笑いたくなるのを堪えて声をかけた。

「よう、宿海」

「・・・!!」
男、宿海は体を一回びくりと震わせて、こちらを見た。

「久しぶりだな」
「・・・・・・」

宿海は何も応えない。
ああ。これか?俺が着てるこの制服。
お前も志願してたもんな。この制服着るの。

「何だよその顔。
嬉しくないか?久しぶりの友達にあってさ」
「ちょっと、集」
鶴見の静止も気にせず、俺は話し続ける。

「ああ、そういや、最近安城のこと見たぜ。お前と同じ高校だよな?」

俯く宿海は、歯軋りをしてることだろう。

「・・・っせえ」
「は?」

悔しそうな表情を浮かべると、宿海はニット帽を手で抑えてそのまま走り去る。

「・・・行っちゃったじゃない」
「そうだな」
「・・・・・・」


ああ、気分は最高だ。
高翌揚。

悔しいだろ、宿海。

なあ、お前にめんまは見えるのか?
どうせ見えないだろ?
会っても見えないだろ?

見えないだろ、めんまを!!

14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/07/08(金) 23:54:38.55 ID:AfBgtSj40
ワンピースwwww
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/09(土) 00:02:23.13 ID:TEQrmipH0
>>12
書き溜めてないから遅いが、すまないな。

ごめん、>>13は高翌翌翌揚じゃなく高翌揚。



家に帰ると、めんまはいつもどおりおかえりと言ってくれた。
母親のおかえりなんて耳に入らない。俺のただいまは、めんまだけに向けられている。

「めんま、今日お菓子買ってきたんだ。チョコ、好きだよな?」
「!!好きー!」
買っておいてよかった。
袋から数種類のチョコを取り出す。
菓子のことはよく分からないが、これだけ買えばどれかひとつはあたるだろう。

「うわあいっぱい!」
「どうだ?好きなのありそうか?」
「うん、ぜーんぶおいしそう!」
「気に入ったのあったら言ってくれ。毎日買ってくる」

良かった。
めんまが喜んでくれた。
嬉しそうにチョコを食べてくれるめんまを見てほっとする。最高に嬉しい。

ぺろりといとも簡単にチョコを食べていくめんまが話し出した。
「ねえゆきあつー、お願いのことなんだけどね」
「ああ、」
お願い、か。
何だろうな。

「めんまね、」

自分の指についたチョコをティッシュで拭き、

「超平和バスターズのみんなに会いたいな!」

めんまは、可愛らしく小首をかしげて言った。


「・・・」

超平和バスターズの皆に会いたい、か。
宿海に会いたい、じゃなかっただけ、良かったか。
・・・いや、それでも、俺にとっては結局、都合の良い願いではないのは変わらない。
どうする。

「めんまね、みんながどうなったか知りたい!」


めんまのことを、・・・俺以外のやつ等にも話すのか?

嫌だ。
めんまが俺のものだけじゃなくなるのは。

「じんたんとかあなるとか・・・。」
嫌だ。

「ゆきあつもおっきくなって、成長してるし!」
嫌だ


でも

「・・・分かった。話してみる。」
「!」

叶えなけりゃいいんだ

「ありがとう、ゆきあつ!」

『お願い』 なんて
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/09(土) 00:07:49.11 ID:CNejVYGG0
嫌われたくないから行動しちゃうけど、消えて欲しくないから叶わない方向に持っていくのか。

あと多分投下中は遠慮してる人もいるんじゃないかな。俺は我慢できずに書き込んじまったが。
とにかく期待
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/09(土) 00:15:57.38 ID:bwSCXqh70
需要が無いなんてとんでもない。ゴキブリの如く書き込みする奴の10倍はROMがいるもんだ
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/09(土) 00:17:55.59 ID:TEQrmipH0

次の日。

俺はめんまにこう告げた。
「みんな、駄目だった」

めんまは目を丸くして、立ち尽くしている。

ワンピースの裾をきゅっと握って、めんまは俺に聞いた。

「・・・じんたんも?」

めんまのその問いに、俺の中の何かが震えた。

なんで宿海なんて気にするんだ。

「ああ。あいつ、俺と話すらしてくれなかった」

話しかけにすら行ってないけどこれでいい。嘘も方便だ。

めんまには確かめる術はないのだ。



「そ・・・っかあ・・・・・」


そう寂しげに呟いためんまの瞳からは、何より綺麗な青い瞳からは、
涙が零れ落ちていた。

「・・・!」

ワンピースを強く握り震えるめんまの手。
めんまは立ったまま、ぼろぼろと涙を流している。
床に落ちるめんまの涙。


めんまが泣いてる姿を見るのが辛くて、辛くて、俺は震える体でめんまの小さな体を抱きしめた。
緊張する。めんまと手を繋いだことはあっても、抱きしめたことなんてなかった。

甘い香り。
細い体。
力を込めたら、壊れてしまうかもしれないと本当に思うくらい、はかない。
宝物を扱うように、こめる力は最小限。そっと。


・・・めんまは抵抗するでもなく受け入れるわけでもなく、めんまは同じくたったまま泣いている。


俺のせいなのに。
自分でこんなことをするなんて、俺は大概酷いやつだと思う。
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/09(土) 00:29:25.78 ID:TEQrmipH0
>>16
!そんな・・・遠慮なんてしなくていいんだのに・・・。ありがとう、がんばる

>>17
良かった…。あまり、あの花SS自体少ないから不安だった



「めんま、泣くなよ」

めんまは答えない。


「・・・俺がいる」

俺の言葉は、めんまのしゃくりあげる声の近くで静かに消える。


どうしようもなくて、めんまの閉じた瞳からもとめどなく溢れる涙を、そっと指先でぬぐった。


静かな空間。
蝉の声と生ぬるい風に、どこか罪悪感を煽らされる。
けれどどうしようもなかった。

もう二度と離れていって欲しくない。
それがどんな我がままだとしても、もうめんまがここに居るのを知ってしまった限りは。

もう二度と離したくない。
・・・あの時は、『離す』だなんてとんでもない、元からとどめる腕も俺のものではなかったけれど。


* * *
俺が部屋に戻ったとき、めんまは寝ていた。
目の周りを赤く腫らしたまま。


指先でめんまの、白銀の綺麗な髪に触れる。
これからどうするか、なんて。
めんまの『お願い』を聞き入れながら、叶えることは避けて、極力俺とずっといっしょに居させたいと思わせるようにして・・・。

これでいいのだろうか。

これで。


良くないかもしれない。でもめんまが消えるのは、めんまが泣くのを目の前で見ることより辛いことなんだ。



携帯のアドレス一覧には、『ぽっぽ』の文字。
一応、あるにはあるが、あまり連絡を取り合ったりはしていない。
『ぽっぽ』宛ての新規メール画面を開くが、結局書くことは何も思い浮かばず、仕方なく保存ボックスに入れておいた。そして俺も寝た。
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2011/07/09(土) 00:36:02.20 ID:k2HbBXyV0
需要あるよ。期待してる。

相変わらずゆきあつキメェな
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/09(土) 00:37:23.14 ID:TEQrmipH0
朝目覚めると、夜にはいたはずのめんまがいなかった。

焦って、家中を駆け回ると、めんまは玄関に居た。

「おはよう、ゆきあつ」
「めんま!心配したんだぞ・・・!
・・・どこにいくんだ!?」
「めんま、違うお願い見つけたの。」
「違う、お願い?」

めんまはこくりと頷いて、眩しいけれど、どこか寂しさも混じった笑顔を俺に向けた。


「秘密基地に、行きたいな」




ごめんなさい俺・・・眠る・・・。
誰か保守ってくれる人居るかな・・いないかな・・・
もし残ってたら、明日の夜には続きをかく。
でも、誰か他の人が続き書いてくれても構いません。
付き合ってくれてありがとう。


俺のSSスレいつもすぐ落ちるから、なるべく残っていることを願って・・・。
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/09(土) 00:39:16.11 ID:TEQrmipH0
ごめん。

もしこのままで落ちてたらもう一回立ててもいいかな
完結はさせたいんだ

我がままばかりすまない

>>20
ありがとう。良かった。
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2011/07/09(土) 00:42:02.36 ID:r8m9Rf3AO
ん、ここは落ちないんじゃなかったっけか?

まぁ、心配せずともみんな待ってるお。期待してる。
24 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2011/07/09(土) 00:42:44.83 ID:DeFQFdY60
期待大
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/07/09(土) 00:50:42.56 ID:5Y/04LXlo
よしよし期待
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [saga sage]:2011/07/09(土) 00:56:32.80 ID:DeaNisK90
ここはVIPと違って作者が3ヶ月放置しない限り落ちない
まあ、作品が>>1000到達前に終了した場合、HTML化依頼ってのを出さないといけないよ
後はsagaとかいろいろ。とりま期待してます
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/09(土) 03:00:52.34 ID:nrfbtTOlo
こんな時間でも期待
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/09(土) 04:09:23.08 ID:eE2Ek65/o
元見てなくて何となくの情報しか知らんが面白い…上手いなぁ
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/09(土) 10:20:03.93 ID:qMyYc0n1o
ぱっと浮かんだVIPとここの違い
・投下中に書き込む人は少なめ。冷やかし目的で覗く人も少なめなんでVIPよりは静かな印象。
・自動的にスレが落ちる事は無い。落とすには>>1000まで埋めるか、HTML化依頼スレで依頼するしかない。
 但し作者の書き込みが無く三ヶ月放置すると自治っぽく見回ってる人が代行で依頼をかける事がある。
・一部単語が勝手に変換されてしまう(死 ね→[ピーーー] 等)。抑止するにはメール欄に「saga(さが)」と入れる必要あり。

SS速報でのあの花SSは自分は初めて見るんで期待してるぜ
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/09(土) 13:14:00.77 ID:jzA2r7aIO
メンマァー!
ユキアツー!
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/09(土) 23:28:43.69 ID:j6HwZIJDo
ゆきあつモノとか読むしかない
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/10(日) 00:16:11.01 ID:jveJiyoH0
>>23-31
なんかもう、みんなありがとう…。
遅くなるかもしれないが今日もがんばる。



・・・今日は休日だ。めんまに言われたとおり、俺は素直に秘密基地に向かうことにした。
・・・●●に行きたい、という願いは、叶えないようにすることが難しい。
いや、いずれにしても、秘密基地の場所くらいめんまは覚えているだろう。勝手に出て行かれてしまっても困る。
それにあんな辺鄙な場所にあるんだし、超平和バスターズはほぼ解散したも同じだし、秘密基地には誰も居ないだろうと、踏んでいた。


甘かった。



「・・・ゆ、ゆきあつ!?」
「・・・・・・な・・・」
手に持っていたペットボトルが地面に落ちる。
俺の目には、出来れば会いたくなかったうちの1人の姿がうつり、

俺の耳には、歓喜のめんまの声が聞こえる。
「あーっ!ぽっぽおおー!!!」

あの頃と比べると飛躍的に成長し、俺の背も越した大男となった久川を・・・、何故、たった一目で『ぽっぽ』だと分かるんだろう。


「久しぶりだなゆきあつー!!」
こちらに向かってくるぽっぽ、いや、久川。
動揺を隠せない。
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/10(日) 00:28:44.76 ID:jveJiyoH0
「どうしたんだよ、こんなところにまで着て!」

嘘だろ?なんでいるんだよ・・・!
なんでまだこんなところにいるんだよ!
「お前こそ・・・」

「ぽっぽーー!」

めんまは駆け出して、ぽっぽの背中に抱きつく。
ぐらりと揺れるぽっぽの体。

「うお、なんだ?!」
・・・。
やはり、久川にもめんまは見えないらしい。しかし、めんまはそのことを気にせず、嬉しそうにぽっぽの大きな背中に顔をうずめた。

「おっきくなったねえー!」

本当に、嬉しそうだ。

俺はそんな光景を見て、静かに苛立つ。
俺には抱きつかなかった。

・・・いや、こんなこと考えている場合じゃない。

「久川。お前、どうしてこんなところにいるんだよ」
「ん?ああ。俺さ、ここに住んでるっつーかさ・・・」
「住む・・・?」
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/10(日) 00:55:46.22 ID:jveJiyoH0
・・・久川は、自分でバイトして金をため、世界各地に旅行に行ってるらしい。そういえば、よく意味の分からないメールが不定期に届いてたりしたな・・・。

「・・で、日本にいるときはここを住処にしてると」
「ま、そーいうことよ!」
「ぽっぽー!ぽっぽー!」
めんまはずっとぽっぽぽっぽと連呼している。非常に嬉しそうだが、それは見ないふりをした。

「・・・なんか背中が重いなー・・・」
「疲れが溜まってるんじゃないか?」
「そーかもな・・・。
でさ、なんでゆきあつはここに来たんだ?」

・・・どう答えたものか。
めんまはじいっとこちらを見ている。

「・・・あー・・・えっと、」
「あ、もしかして超平和バスターズ、懐かしくなったのか?」
久川は人差し指を立てて、嬉しそうに言う。

――そんな訳あるか
と思っていても、めんまがいる手前、そんなことはいえない。

めんまはそう!そうなの!と、返事をもらえないのに久川に話しかけている。
「・・・・・・そうだな」

「そう、だよな、うん。
なんつーかさ・・・」


少し、元気がなくなったようだ。
久川は黙り、そして。

「あのさ――」

久川はどこか、焦ったように。


「また・・・みんなで集まりたいな」

こう言った。
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/10(日) 01:24:55.02 ID:jveJiyoH0

ドクン。

体の芯が、冷えてくるような熱くなるような不思議な感覚。

ドクン。

鼓動が、ゆっくりと、しかし強く、鳴る。


耳に聞こえる蝉の声が、浮いている。


「・・・みんな?」
『みんな』・・・?

『みんな』って誰だよ。

「お、おお・・・。じんたんとかさ・・・あなるとか、ほら・・・つるこも、・・・みんなで、」


「・・・めんまが、」

「・・・ゆき、あつ・・・?」
めんまの声。
俺にしか聞こえないめんまの声。



ドン、と握り締めたこぶしで思い切り壁を殴った。
めんまが目を丸くして、俺を見ている。

「・・・めんまがいなくて、『みんな』って言えるのかよ!!!」
思った以上に大声だったらしい。

久川は驚き、そしてどこか怯えたような表情で、

「・・・・・・・ごめん」
そう言った。

――嗚呼、くそ。俺の馬鹿野郎。
最悪だ。この展開はまずい。
めんまが会いたがってた仲間達の1人と喧嘩。
それについ最近俺は、めんまに、『超平和バスターズのみんなと会うことは出来ない』と言ったばかりなんだ。微妙な矛盾が、先ほどの会話にあらわれてしまった。そうだ・・・

まず、『久しぶり』はおかしい。めんまに会うのが駄目だった、と俺はめんまに言った。ということは、既に久川には会って、めんまに会うのかどうなのかとかを聞いているはずだ。久しぶりな筈はない。
36 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2011/07/10(日) 01:55:13.93 ID:jveJiyoH0
それに、『皆で集まりたい』というのも変じゃないか?
めんまには会わないのに、めんま以外の皆では会う・・・。
いや、そんなこともないか?でも、


1人で混乱しかけていると、久川が静かに言う。消え入りそうな声。
「そうだ、よな・・・。」







なんか頭混乱してきた・・・矛盾してないよな多分
時系列系は苦手だ
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/07/10(日) 21:35:23.26 ID:S4dgGAPR0
おぉ、続き来てたか
ゆくーりでいいからね
38 :1 ◆BycwRokz6k :2011/07/11(月) 22:25:38.05 ID:Gi0sDQRu0
「いや、ごめん、わすれてくれ!そうだよな、めんまも、いないのに」


久川の言葉に返事もしないで、俺はめんまの腕を引っ張って、秘密基地を出た。


「・・・ゆき・・・っ!」

「・・・・・・」

「ゆ・・ゆきあつ!めんまは・・・めんまは、べつに・・・っめんま、いなくたって・・・!
めんまと、めんまと会うの、みんながいやでも・・・、
でも、みんな、・・・みんなで、集まって・・・仲良くしてくれるなら・・・!めんまは・・・!」

声が震えている。
ああ、そうさ。めんまは例え自分の分のアイスがなくたって、皆の分のアイスがあればいいというような、そんな優しい女の子だった。いつでも。いつでも!

「めんまは、みんなにめんまに会うの、嫌って言われて・・・
き、きらわれちゃ、ったかも・・・し、しれないけど・・・でも・・っじんたんとか・・・あなるとか・・・超平和バスターズのみんな、・・・が、仲良くしてくれるなら・・・嬉しい、よ・・・」


今、めんまが泣きそうなのは、俺がめんまの願いを叶えようとしなかったばっかりに現われてしまった『矛盾』のせいだ。
情けない。情けなくて、イライラする。

今俺が怒っているのは、自分の不甲斐無さにたいしてでもあるが、

「・・・俺が、嫌なんだよ!」
めんまが息をのんだ。


「・・・超、平和、バスターズ・・?」
何言ってんだよ・・・。
『超平和バスターズのみんな』って時点で、おかしかったんだよ。

「違う・・・」


めんまがいないなら、それはもう、
「めんまが欠けてて、言えるかよ」

『超平和バスターズ』じゃない!


「超平和バスターズなんて、言えるかよ!!!」


俺は間違っているだろうか。
でもあの頃、俺にとっての『超平和バスターズ』は、めんまがいてこそ成り立っていたようなもんだった。
俺は間違っているだろうか。

めんまがいなくても、『超平和バスターズ』は、『超平和バスターズ』なのだろうか。



「・・・・・・」
それきり、しんと黙ってしまっためんま。
俺は、めんまの細い腕を絶対離さない様に、少し強めに握る。

懐かしい、秘密基地へ続く山道の景色が頭に入ってくるばかりか、逆に俺の苛立ちを加速させる。
あの頃、こんな風にめんまの手を引っ張って秘密基地に戻ったこの道は、あれほどまでにいとおしくて、大切な場所だったのに。





「・・・」

めんまは今、泣いているんだろうか。

振り返れない。


秘密基地から家へと帰るこの俺と、
秘密基地へ向かう子供の頃の俺が、
今、すれ違った気がした。




39 :1 ◆BycwRokz6k :2011/07/11(月) 22:40:26.82 ID:Gi0sDQRu0
>>37
ありがとう。遅くてすまない、がんばる



「・・・ゆきあつ、・・・手・・・いたい・・・」

めんまがしゃべったのは、俺の家の前についてからだった。

「あ、・・・悪い」
「・・・・・」
めんまの白い腕には、うっすらと赤い痕。
俺の手の痕だ。

(ずっと消えなけりゃいいのに)

ああ・・・、俺は本当にバカだ。



その日めんまは一日中元気がなく、
おやつも、夕飯さえ、あまり嬉しそうに食べてはいなかった。
いつも寝る時間に、今日は寝ていない。
窓から見える月をずっとひたすら、見つめている。

どうすればいいのだろう。

「ゆきあつ。めんま、散歩いってくるね」

やはり、俺のせいだろうか・・・って、え?

「え、お、おい、めん・・・」

めんまは走って、階段を降り、玄関のドアを開けて外へと出て行ってしまった!

「!めんま!!」

俺も急いで後を追う。

* * *
めんまはあんなに足が速かったのだろうか?
俺が靴をはこうともたついている間に、家の周辺あたりより遠くへ行ってしまったらしい。
くそ・・・!
どこにいったんだ、
めんまは携帯なんてもってないし、普通の人には見えないのだから聞くこともできないし・・・!

「・・・めんま・・!」

とにかく、走った。
検討なんてつかないけど、めんまを無理矢理にでも連れ戻さないと、二度と戻ってこない気がして。




近くのコンビニ。いない。
十字路。いない。
俺のランニングコース・・・。もちろんいない。


そして、息を切らせてやってきた歩道橋。

夜の暗さもものともしない、銀色の髪。

・・・居た!



40 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2011/07/11(月) 22:49:31.13 ID:Gi0sDQRu0
しかし、俺は階段を上がったものの、めんままで駆け寄らなかった。


信じがたい光景がそこにあった。
信じたくない光景が、そこにあった。



「・・・めんま?」



呟いたその声を、俺はつい最近聞いた。

何故、お前がここにいる。

・・・・・・・宿海・・・!!!



いつのまにか思いきり握り締めていたこぶしが震える。


『・・・めんま?』って、なんだよ。

・・・なんでだよ


「・・・・・え?・・・」

掠れた声によって、宿海の口から零れた。


めんまは動きを止めている。





おい、宿海、嘘だろ。
お前には見えないはずだろう?
お前なんかに見えるはずないだろう!?
なあ・・なんで!なんでお前、めんまが・・・!

めんまが立ってる場所を見てるんだよ!!


なんでだ!?なんで、なんでなんで

(めんまも見てる、宿海を!)

なんでめんまと視線合わせてんだよ・・・?


41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(広島県) [sage]:2011/07/12(火) 00:39:21.00 ID:h1C+8GFQo
おもろい
しえん
42 : :2011/07/12(火) 01:09:27.18 ID:s643i/O30
いい
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/07/12(火) 17:19:29.23 ID:uN8sPAoco
いいんだけど 
レス乞食っぽい真似はしないほうが良いと思う
そういうのを不快に思い人もいるし
その日の投下が終われば自ずと感想レスがつくもんだよここは
44 :1 ◆BycwRokz6k :2011/07/12(火) 23:13:27.48 ID:8iIrXT310
>>41>>42
ありがとう、みんなありがとう
>>43
ごめんな・・・妙に凝り性なところがあって、悪いところとか矛盾してるところとかがあるか気になってしまうんだよ・・・



しっかりと視線を合わせ、まるで石像にでもなってしまったかのように動かないめんまと宿海。

俺が見えるのはめんまの後姿だけで表情こそ見えないけど、
それでも、めんまはきっとその大きな瞳を、ぱちくりとさせているだろうと予想できる。



この歩道橋の近くでは車も走っている。雲も流れているし、コンビニの中の人も動いている。
そんな風に、絶えず時間は動いているはずなのに、この歩道橋の上だけ時間が止まったかのように思えた。



時間が動き出したのは、宿海が動いてからだった。
宿海は俯いて、虚しげに呟く。

「・・・な、ワケ・・・ねーか」

そんな宿海の小さな呟きは、俺に確かに聞こえた。

宿海は顔をあげようとせず、そのままめんまの横を通り過ぎようと歩き出す。

(・・そうだ・・・!そのまま帰れ・・・!お前の見たものは幻だ、嘘だ!俺の横を通り過ぎたらバカにしてやるよ、何してんだよこんな夜中にって・・・!)

しかし、この静寂を宿した空間に響いた、俺の大好きな声が、宿海を引き止める。

「じん・・・たん・・・?」

・・・その声は、宿海にとっては夏の風鈴のように懐かしく、そして綺麗に聞こえたことだろう。
めんまの方向を見た宿海の表情が、それを物語っていた。


「・・・・・じんた・・ん」

ひんやりと、俺の体温が下がる。
生ぬるい温度の夜のはずが、雪さえ降ってきそうな程、寒く感じるのは何故だ。


俺がいることなんて知らないで、めんまも宿海も会話を続けていく。

めんまは、ぽつりと。
「めんま、が・・・・見えるの・・・・・・?」


宿海は、目を大きくして。
「・・・見え、る・・・って?」

目をこすり、顔を上げて宿海はまた目をこすり、頬を引っ張った。

「・・・え・・・、いや、ちょ・・ちょっと待て。嘘だろ、何で・・・」
「見えるんだね、じんたん・・・」
「は・・・っちょ・・・嘘だろ?」
「じんたん、めんまだよ、嘘じゃないよ!」


ああ、ああ、あああああ。
嘘だ
嘘だ!
嘘だ!!!
宿海、中途半端のまま腐っていった宿海!!
昔のリーダーの面影もなく、情けないその姿!お前、めんまに顔向けすら出来ないだろうが!!

お前にとってはめんまの声は幻聴にしかすぎないんだ!!そうだろ!そうなんだよ!!
お前なんかに、お前なんかに!



思い切り握り締めている拳を隠したまま、めんまと宿海に近づいた俺は、不機嫌な様子を隠すことなど出来ないまま、

「めんま。」

めんまに話しかけたんだ。


45 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2011/07/12(火) 23:21:54.09 ID:8iIrXT310
――・・・俺はどうして、今、宿海に話しかけなかったんだろう。
『よお、何してんだよ宿海。何1人で話してんだ、あやしいな』と、お得意の人をバカにする笑顔を浮かべながら、めんまは幻だと仕立てあげ、宿海を帰らせなかったんだろう。
そうしていたら、宿海にめんまの存在が、本当だとばれずにすんだのに――
・・・とも、頭の隅の方では考えていた。
しかし、どうしようもなかった。


俺は、めんまと宿海の会話を邪魔したかったのだ。
そして、宿海だけじゃなく、俺も見えてるししかも一番最初に見えていたんだと、宿海に知らしめてやりたかったのだ。



めんまは銀の髪を揺らして振り返る。そして、後ろで頭に!?を浮かべている宿海のTシャツを引っ張って、嬉しそうに言った。

46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2011/07/13(水) 00:06:31.36 ID:dT2pw1E50
おお、

面白いな
47 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2011/07/14(木) 18:55:28.93 ID:0vFVI8tB0
「ゆきあつ!あのね、じん――」
言わせない。
聞きたくない。

俺はめんまの言葉に声をかぶせて、めんまの腕を引っ張る。
「帰るぞ」
「えっ?ゆ、ゆきあつ?」
「お、おい」

震える宿海の声がした。

「お前にも・・・見えるのか、めんま・・・」

お前にも、って何だよその言い方。
俺は何も答えず、怪訝な表情だけを宿海に見せ、めんまの腕を引っ張る。

「あ、ま・・・まって・・・ゆきあつ」

めんまの声にも答えない。
すると、宿海が大きな声で言う。
「・・・無視、すんなよ!」

うっとうしいあまり、俺は宿海を睨むが、宿海は視線を逸らさなかった。宿海は睨む、とまでは行かないが、俺を見ている。

「どういうことなんだよ・・・説明してくれよ」
このまま無視して通り過ぎようと思っていると、めんまが、俺の服のすそを引っ張って言った。

「ゆきあつ・・・、
どうして怒ってるの・・?」
不安そうなめんまの声。
何て言ったらいいのか分からなくて、何もいえない。
「・・・」

めんまはくいくいと、俺の服を引っ張る力を強めながら、言った。

「お願い・・・ゆきあつ、じんたんにも話して、めんまのこと」

48 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2011/07/16(土) 00:40:24.35 ID:Nlglb3vz0
「・・・・・・」
納得がいかない。しかし、めんまが言うのだ。
俺は懇願の視線を受けて断れるほど、めんまに対して強くない。
宿海を睨みつけながら、簡潔に説明することにした。

「・・・めんまは、お願いをかなえてほしいそうだ」

すると、宿海は阿呆っぽく口を開いたまま、ぱちくりと目を開いたり閉じたりする。

「お願い・・・?
てか、やっぱめんまは、本物なのか・・・?」

「幽霊。俺にも物にも触れる。
久川には見えなかった。
お前に見えるなら本物なんじゃないのか」

「・・・えへへ」
めんまは薄く笑った。
何でなのかは分からない。

「・・・なんでお前はめんまと・・・?」
「めんまは俺の家に住んでる。俺の元にめんまが現れたんだ」
「・・・へー。
・・・ぽっぽに見えなかったって・・・会ったのか?」

質問ばかりだな。うっとうしい。

「・・・ああ。めんまが秘密基地に行きたいっていうから、連れて行ったんだ。
久川が居た。見えてなかった。
これでいいか?」
「・・・」
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/07/18(月) 19:58:22.27 ID:2x8pD7bio
ここで切れてるだと・・・乙
50 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2011/07/19(火) 15:19:19.40 ID:aJWdzYz00
「みんなは知ってんのかよ、お前がめんま見えるってこと」

「・・・」

都合の悪い質問だ。
ここで肯定すればひとまず落ち着くが、後々の修正が大変になる。
かといって否定するとめんまにいったことが嘘だとばれてしまう。
ああ、いっそ無視してしまおう。
質問を振り切って帰ればいいんだ。

「全員にあったのか、・・・あの、昔のみんなと」

「・・・」
ちらりと横目でめんまをみると、めんまは俯いて震えていた。

「・・・おい!」

答えない。
このまま帰れば、宿海もそれほどしつこく聞いてこないだろう。
この話はこれで終わりだ。
全く、最近はやけに懐かしい連中と顔をあわせるからこまる。しばらくここいらに出ないようにしようか・・・
「・・・っおい、聞け「もーっ!!!」

そのとき、宿海の声を遮ったのはめんまだった。
「「!?」」
俺と宿海が驚いてめんまを見たところ、めんまはきっと俺らを睨んで、まず俺に言った。

「ゆきあつのばか!どうしてじんたんのこと無視するの!!」

「・・・め、めんま・・・?」

「なんで怒ってるの!ゆきあつなんて、ばかばかあほ!」
ぽかぽかと細い腕で俺に殴りかかるめんま。
逆らおうにも逆らえずにいると、ひとしきり殴って満足したのか、(正直ダメージはあまりない)今度は宿海を睨み、そして宿海に向かって走る。

「な・・!?」

どかーん。

タックルだ。
タックルをした。めんまが。宿海に。

いやしかし、めんまは細身だ。宿海にも同じくダメージはないだろうが、運悪く頭を打ったらしくもだえていた。
頭を抱えて倒れる宿海の上にのしかかり、めんまは叫ぶ。
「じんたん!けんかしないでっ!!」
「・・・ってー!なんなんだよお前はー!」
「なんでもないもん、めんまだもん!」
「なんでタックルするんだよ!いてーだろ!」
「じんたんが聞かないからだー!」


・・・ああ・・・。
どうしてだろう。
こんな光景が、無性に懐かしいと共に、にくい。
昔も今も、めんまにとって宿海は大切で、そして俺にとっては昔も今も、宿海が邪魔な存在なのだ。

あの頃の俺は、こんな風に仲良くじゃれあう2人を遠くから見ていた。
・・・こんな気持ちで。

51 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2011/07/19(火) 15:42:15.30 ID:aJWdzYz00
どうして、今になってまたこんな気持ちにならなきゃいけないのだろう。
悔しくて悔しくて、胸の中をかきむしりたくなる気持ちに。

もう二度と経験しないと思っていた。
もう二度と。


めんまと宿海はまだじゃれあっている。





・・・昔の俺は2人が仲良くするのを目の前にして、ただただ時間が早く終われと願うばかりだった。
今の俺は、違う。
違うんだ。




めんまのところまで歩いて、宿海は視界にいれないようにして言う。

「めんま、帰ろう」
「えー」
「帰ろうぜ、もう遅いし。な」
「んー、わかった・・・」

「・・・・・」

じゃあな。
お前が大嫌いだよ、宿海。

「・・・めんま!また・・・っ、い、いつでもいい!あの・・・」

宿海が体制を立て直して、めんまに言った。

「・・・じんたん」
「・・・あの・・・めん・・・・ま・・」
「・・・行こう、めんま」
ぐい、とめんまの腕を引っ張る。


「待ってゆきあつ・・・じんたんが」
「いいよ。大丈夫、行こう。俺があとで聞いとくからさ」
「でも」

めんまはちらちらと振り返りながら、宿海を心配している。
宿海は黙っていた。
もういい。そのまま黙っていろ、俺はイライラしてるんだ。


しかし俺の願いを裏切って宿海は、遠ざかる俺たちにむかって叫ぶ。

「・・・めん「うるさい!お前がめんまなんて呼ぶな!」



お前なんて消えてしまえばいい。
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/20(水) 23:11:15.29 ID:8GltHY2i0
続きが気になってしかたない!
53 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2011/07/21(木) 22:02:04.16 ID:cV3BulkT0
レスできなくてごめん、待っててくれる人ありがとう。遅くて本当にすまない


* * *
「おはよう」
「ああ、おはよう」
今日も暑い。
だんだんと真夏に近づいていくな。


あの夜のあとは、特にさしたることもなかった。
めんまはいつもどおり風呂に入り、いつもどおりの時間に就寝。めんまは変わらない態度だったが、強いて言うなら・・・少し嬉しそうだったかもしれない。
めんまに、『近いうちに宿海にまた会おうな』といったからだろうか。

・・・それが原因なら、気に食わないな。

まあ、宿海に会うだなんて嘘だけど。
3日のうちに宿海への怒りも多少落ち着いた(『めんまが見える』ということに関して)。
・・・よく考えてみれば俺はめんまと一緒に住んでいるのだから、宿海に引けなんて取らないんじゃないか?逆に俺の方が優位だろう。
それに宿海にめんまが見えようが見えまいが、結局のところ会わさなきゃいいんだ。
めんまだって会いたいとは言ってこなかったし。

うん。そうだそうだ。完璧じゃないか俺。



「そろそろ夏休みね」
「そうだな。なんだ、楽しみなのか」
「別に。どうせ何処に行く訳でもないし」
「そうか。
今日の帰り、ちょっと寄りたいところあるんだけどいいか?」
「寄りたいところって・・・また、女物の・・・?」
「そう。」
「全く・・・。誰に貢いでるんだか。」
(そんなの一生分からないだろうよ)

うん。久しぶりに(といっても2週間程度か)めんまに何か買っていこう。
めんまが傍にいる時に買うのといない時に買うのとじゃ、買いやすさが全然変わってくるからな。ああ、めんまにはどんなのが似合うだろう。



放課後。
最早常連となってしまったファンシーショップで、めんまへのプレゼントを選ぶ。
あの長い髪には・・・こんなのも似合う。あ、逆にああいうのも似合うんじゃないか?うん、あとで服も見てみよう。
ああ、やはり毎日見ているとイメージしやすい。


夢中になっている俺に、不意に鶴見が話しかけてきた。
「ねえ、集にもメール来た?」
どこか意味深な問いに、俺は振り返る。
「メール?何の・・・」
「ぽっ・・・・・・、久川くんから。」
「・・・・・・久川・・・?」
「見てないの?」


・・・嫌な予感がする。
今日は一日中、めんまへのプレゼントのことだけを考えていたから・・・携帯なんて気にしていなかったのだ。

急いで携帯を開き、受信ボックスを見ると、2,3通のメールに埋もれていた『久川』の文字。
・・・本文は!?


『7月25日、皆で秘密基地に集合!
なんかしようぜ!
時間は8時から!』


・・・!?
一瞬、思考が停止する。


何故だ!?
この前会って話して・・・皆で集まることを諦めてたじゃないか!
なんでだ・・・なんで・・・!
54 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2011/07/21(木) 22:13:19.02 ID:cV3BulkT0
「どうする?行く?」
「・・・25日って、何かあったか」
「・・・特にないと思うけど・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・別に無理していかなくてもいいんじゃない?私は行くけど」
パタン、と携帯を閉じる。

「みんなっていうのは・・・超平和バスターズのことだよな」


「・・・・・・・そう、じゃないの」

めんまがいないから超平和バスターズじゃないって俺は久川に言ったはずだ。それなのに・・・久
川は・・・。


しかし、これで行かないというと、不自然に思われるかもしれない。
他のやつらは、俺の『超平和バスターズ』のイメージや、それに対する想いを知らないのだ。
久川には勢いあまって吐露してしまったけれど、・・・他のやつらは知らない。


溜息を吐き、考えとくとだけ言ってレジに向かった。
この溜息にどんなに重いものかなんて誰にも分からないのだ。



めんまへのプレゼントを大切に持ちながら、岐路につく。
・・・どうすればいいんだろう。

「みんな、来るのかしらね」
「さあな。でもどうせみんな暇人だろ」


・・・いや、今答えを出さなくても別にいいのだ。ゆっくり考えよう。焦りは禁物だ。
55 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2011/07/23(土) 16:16:23.81 ID:q+ebnDpR0

「おーっかーえりーい!ゆきあつー!」
ひょこりと階段から顔をだすめんま。

「あ、めん・・・」
「?なにー?」
「・・・いや、何でもない。ただいま」
咄嗟に背中に隠した袋。
・・・何故か、渡すことが出来なかった。



部屋のカレンダーに目をやると、25日は土曜日だった。というか、明後日だ。
・・・どうしたものか。
もし俺が出かけたら、めんまは一人ぼっちになってしまう。それに内容まで知られたらめんまはまた泣いてしまうかもしれない。



ピンポン!

誰かがやってきた。母は買い物だろうか。出かけていていない。
俺は階段を下がり、扉を開ける。
「おー!ゆきあつ!」

そこには久川と・・・

「・・・よう」
宿海がいた。

思いも寄らない人物に、一瞬言葉につまった。
「何だ。こんな時間に」
「いんや。メール届いたか?って聞きに。みんなの家まわってたらこんな時間になっちまった」
「・・そうか。メールは届いたが」
「暇だったら来いよ!あなるもー、つるこもきてくれるってさ!」
「へえ・・・」
だから何だ?

「・・・それだけか?」
俺は久川の隣の宿海に視線を向けて言う。
「・・・いや、あのさ「めんまも、つれてこいよ」

久川の言葉を遮って、宿海が言った。

「・・・・・は・・・?」

何言ってんだよ・・・こいつは・・・!久川もいるんだぞ!

「・・・25日。めんまもつれて来いよって言ってるんだ」

どうする。
ここは誤魔化した方が得策か。

「何・・言ってんだよ。めんまって・・・本間のことか?お前・・・「誤魔化すな!」

俺をまっすぐ見る宿海に、自身の顔が引きつるのが分かった。

「お前と俺が、めんま見えることはぽっぽにも言った」

時間が止まる。
久川は少し気まずそうにしていた。


なんでだよ・・・!!
馬鹿かこいつは!何故久川にも言いふらすんだ!


「・・・ここにいるんだよな、めんま」
「宿海・・・っおまえ」
スゥ、と宿海が息を吸う。
「おい!めんま!でてこいよ!!」

久川の声が家中に響き渡る。
「やめろ!!」
「めんま!めんま!おい、ぽっぽも!」
「・・・!」
久川は頷き、大きな声でめんまを呼ぶ。
ふざけるな・・!
「めんま!」
「めんま!」
「やめろ!!!やめろおお!!」
56 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2011/07/23(土) 16:18:20.48 ID:q+ebnDpR0
「おーっかーえりーい!ゆきあつー!」
ひょこりと階段から顔をだすめんま。

「あ、めん・・・」
「?なにー?」
「・・・いや、何でもない。ただいま」
咄嗟に背中に隠した袋。
・・・何故か、渡すことが出来なかった。



部屋のカレンダーに目をやると、25日は土曜日だった。というか、明後日だ。
・・・どうしたものか。
もし俺が出かけたら、めんまは一人ぼっちになってしまう。それに内容まで知られたらめんまはまた泣いてしまうかもしれない。



ピンポン!

誰かがやってきた。母は買い物だろうか。出かけていていない。
俺は階段を下がり、扉を開ける。
「おー!ゆきあつ!」

そこには久川と・・・

「・・・よう」
宿海がいた。

思いも寄らない人物に、一瞬言葉につまった。
「何だ。こんな時間に」
「いんや。メール届いたか?って聞きに。みんなの家まわってたらこんな時間になっちまった」
「・・そうか。メールは届いたが」
「暇だったら来いよ!あなるもー、つるこもきてくれるってさ!」
「へえ・・・」
だから何だ?

「・・・それだけか?」
俺は久川の隣の宿海に視線を向けて言う。
「・・・いや、あのさ「めんまも、つれてこいよ」

久川の言葉を遮って、宿海が言った。

「・・・・・は・・・?」

何言ってんだよ・・・こいつは・・・!久川もいるんだぞ!

「・・・25日。めんまもつれて来いよって言ってるんだ」

どうする。
ここは誤魔化した方が得策か。

「何・・言ってんだよ。めんまって・・・本間のことか?お前・・・「誤魔化すな!」

俺をまっすぐ見る宿海に、自身の顔が引きつるのが分かった。

「お前と俺が、めんま見えることはぽっぽにも言った」

時間が止まる。
久川は少し気まずそうにしていた。


なんでだよ・・・!!
馬鹿かこいつは!何故久川にも言いふらすんだ!


「・・・ここにいるんだよな、めんま」
「宿海・・・っおまえ」
スゥ、と宿海が息を吸う。
「おい!めんま!でてこいよ!!」

57 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2011/07/23(土) 16:22:06.83 ID:q+ebnDpR0
すまん!
>>55>>56は忘れてくれすまない・・・


「おーっかーえりーい!ゆきあつー!」
ひょこりと階段から顔をだすめんま。

「あ、めん・・・」
「?なにー?」
「・・・いや、何でもない。ただいま」
咄嗟に背中に袋を隠した。

丁寧に包装された袋の中には、めんまの為に買ってきたシュシュやアクセサリーや色んなものが入っている。
めんまの為に買ってきたのに。
めんまの姿を見て・・・何故か、渡すことが出来なかった。



部屋のカレンダーに目をやると、25日は土曜日だった。というか、明後日だ。
・・・どうしたものか。
もし俺が出かけたら、めんまは一人ぼっちになってしまう。それに内容まで知られたらめんまはまた泣いてしまうかもしれない。



ピンポン!

誰かがやってきた。母は買い物だろうか。出かけていていない。
俺は階段を下がり、扉を開ける。
「おー!ゆきあつ!」

そこには久川と・・・

「・・・よう」
宿海がいた。

思いも寄らない人物に、一瞬言葉につまった。
「何だ。こんな時間に」
「いんや。メール届いたか?って聞きに。みんなの家まわってたらこんな時間になっちまった」
「・・そうか。メールは届いたが」
「暇だったら来いよ!あなるもー、つるこもきてくれるってさ!」
「へえ・・・」
だから何だ?

「・・・それだけか?」
俺は久川の隣の宿海に視線を向けて言う。
「・・・いや、あのさ「めんまも、つれてこいよ」

久川の言葉を遮って、宿海が言った。

「・・・・・は・・・?」

何言ってんだよ・・・こいつは・・・!久川もいるんだぞ!

「・・・25日。めんまもつれて来いよって言ってるんだ」

どうする。
ここは誤魔化した方が得策か。

「何・・言ってんだよ。めんまって・・・本間のことか?お前・・・「誤魔化すな!」

俺をまっすぐ見る宿海に、自身の顔が引きつるのが分かった。

「お前と俺が、めんま見えることはぽっぽにも言った」

時間が止まる。
久川は少し気まずそうにしていた。


なんでだよ・・・!!
馬鹿かこいつは!何故久川にも言いふらすんだ!


「・・・ここにいるんだよな、めんま」
「宿海・・・っおまえ」
スゥ、と宿海が息を吸う。
「おい!めんま!でてこいよ!!」
58 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2011/07/23(土) 16:22:45.89 ID:q+ebnDpR0

宿海の声が家中に響き渡る。
「やめろ!!」
「めんま!めんま!おい、ぽっぽも!」
「・・・!」
久川は頷き、大きな声でめんまを呼ぶ。
「めっ・・・めんまー!俺だああ!ぽっぽだーーあ!」
ふざけるな・・!
「めんま!」
「めんま!」
「やめろ!!!やめろおお!!」


「やめない!
めんまを隠すなよ!そんなの・・・めんまのためになんねーよ!」

うるさい!お前に何が分かるんだ!

「皆にも言ったんだ!皆信じてくれた!皆めんまを受け入れてくれる!」

・・・皆にもだと!?
こいつ!!!

「・・・うるせえ!」
なんでだなんでだなんでだ!
めんま!めんまが!!

「ふざけるなよ!!!宿海!」

めんまが俺だけのものじゃ無くなってしまう!!




「・・・じんたん?」
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/07/26(火) 23:38:14.05 ID:amUSH8r90
続き期待age
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2011/07/27(水) 12:08:37.66 ID:/MbDr/xD0
ゆきあつが誘拐犯にみえる
61 :1 ◆BycwRokz6k :2011/07/27(水) 20:36:47.80 ID:Xi8bsySR0
いつも遅くてすまんな
ageてくれてありがとう。


このときばかりは聞きたくなかっためんまの声が、すぐそばの階段から聞こえた。

「めんま・・・・・」
めんまは玄関にいる宿海と久川を見て、嬉しそうに顔を輝かせる。
嬉しそうに。・・・嬉しそうに。

「めんま!」
宿海のその声と、俺の動揺とそして、俺と宿海の視線の一致。めんまを見えない久川からしても、めんまが何処にいるのかは分かったようだ。
「お!?おお!?いるのか、めんま?」
「ぽっぽもいるー!」
「めんまあ!おお!おれ!ぽっぽだぞー!」
「ぽっぽ!ぽっぽー!めんまだよー!」
めんまはがっしりと、久川のでかい腰にしがみつく。
「えへへー!2回めだねえ」
「おっ!?こ、これ・・・前にもあったな・・・も、もしかして!」
と、久川は俺と宿海を交互に見た。
「ぽっぽの腰んとこにめんまがしがみついてる」
「う、うっひゃえー!マジかあ!めんま!めんまー!」
「ぽっぽぽっぽおぽーっぽー!」

何も考えられなかった。
どうすればいいのだろう。
もし宿海が、何故俺が皆にめんまのことを言わなかったのかとたずねてきたら?
たずねてこないまでも、それを示唆するようなことをめんまの前で言ったら?

「久しぶりだねえ、こんなにみんなが集まるのー!
あとあなるとつるこもいればぜんいんなのにー」
「そうだな」
「あ、ほらじんたん!ぽっぽも!入って入って!!」
めんまは宿海と久川の腕を引っぱり、何のためらいもなく俺の部屋へ連れて行こうとする。
「め、めんま、どこに行く気だ」
「え?ゆきあつの部屋だよ?いいでしょ?」
「・・・・・」
めんまや、気の知れたやつ以外を入れるのには抵抗があるのだが・・・
特に宿海なんかは入れたくない・・・しかし、どうも俺に拒否権はないらしい。
めんまは元気に先陣を切って、俺の部屋へと2人を連れ込んでしまった。




「・・・つまり、あれだ。
ゆきあつにもー、じんたんにもめんまが見えるんだよな。」
こくりと宿海が頷いた。いやいやながら、めんまの視線を受けて俺も頷く。
「・・・で、俺には見えないと。なんでだよめんまー・・・」
「なんでだろうねえ・・・?」
なんだかんだいいながら、めんまは久川の隣に座っている。
久川へのめんまの返事を、久川は受け取ることはできない。

「んでさ、本題。めんまにもさ、25日っつーか、あさって、きてほしいと思ってさ」
「あさって?ゆきあつ、何かあるの?」
「・・・秘密基地で何かするらしい。ごめんな。言うのが遅れて。明日言おうと思ってさ」
俺は今までに、何度めんまを欺いてきただろう。
嘘が嘘を呼んで、いつか取り返しのつかないことになるかもしれない、ということは、想像したくない。

「皆でさ。なんかはまだ決まってねーけど・・・なんかするんだよ。来るだろ、めんま!」
「・・・みんなも?」
きょとん。
・・・確かに、自分を拒否したと思っていた全員が、その全員で遊ぶ約束をしていた上、拒否していた自分を誘うとは・・・混乱するのも当たり前だろう。
事態をややこしくしたのは俺だがな。

めんまは、意外すぎるほどあっさりと、誘いを承諾した。

「めんまも行くーっ!!」
それを聞いた宿海が、めんまの言葉を久川に伝える。
「めんま行くってさ」
「おお!やった!よーし!めんまは何がやりたい?」
「えー?えーとねー!すいかわり!」
「すいかわりだとさ」
「スイカかー!まー夏だしな!あそこ海じゃなくて山だけど・・・まあ買っとくか!な、めんま!」
「うん!やったあ!」


・・・なんだ、この入り込めない空気は。
62 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2011/07/31(日) 21:36:49.80 ID:9p8En8dQ0
「んでねー!んでねー!こう・・・どーんとねっ!割るの!」
久川の隣で、すいかを見事に打ち割るジェスチャーをしているめんま。
「――じゃあ、そういうことだ!ゆきあつもちゃんと来いよ!」
「あ、ああ・・・」

結局・・・俺の心配していたようなことは起きなかった。
帰り際の宿海は俺を少し見ていたような気もしたが、何も言わなかったし。
「あ、8時って、朝の8時な!」
「は?あ、朝の?」
「そ!一日中遊ぼうぜい!」

めんまはめんまで、本当に嬉しそうに俺に楽しみだね、楽しみだね、と言ってきた。
俺たちの話していたことも聞こえていなかったようだ。・・・良かった。

「ねえ、ゆきあつ!めんま、うれしい!」
「・・・そうか」
「うん!」
めんまは一度、俺がいったことを忘れているのだろうか。皆、めんまと会うのを、駄目だと断ったということを。それとも、信じていないのだろうか。それとも――――

(知った上で笑っている、のか?)

まあ、全て俺のせいだけど、な。

* * *
25日。時間は8時か・・・。
隣を歩く、まだ少し眠そうなめんま。夏は、このくらいの時間帯がすごしやすいな。俺は涼しい風を浴びながら思った。

「めんま、大丈夫か?眠そうだな」
「んー・・・だいじょぶ・・・」
目をこすり続けるめんま。少しふらふらしている。
63 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2011/08/07(日) 10:19:22.24 ID:IsLNobdG0
歩いているうち、めんまは何度かふらつく。
そんな姿を見てると、自然と笑顔になってしまう。

秘密基地か。
まさか全員でもう一度集まることになるなんて・・・な。


「・・・あれ?」
「?どうしためんま」
「あれ、あなる?あなる?」
「え?何処・・・」
「あなるー!あなるがいるう!」
「あな・・・」
俺が安城の姿を見つけ出す前にめんまが駆け寄った。しかしまだ眠いらしく、スピードはゆるい。
どうやら前方の方にいたらしい。その安城の背中にめんまがどーん!とぶつかると、
「うわっ!?」
との声を出して安城は少し揺れた。

「・・・?な、なんなのよもー?」
「あーなる!あなるだー!わあー!!久しぶりいー!」
「・・・」
安城は左右を慌しく見回し、誰もいないことを確認すると、何いまの、へんなの、などとぶつくさと何か呟いていた。
「よう、安城」
俺が声をかけると、めんまがぶつかったときよりも大きく安城の肩が震えた。
「・・・ゆ・・・、いや、・・・松雪・・・」
「元気そうだな。さっきよろけてたけど、どうした?」
「え?い、いや別に・・・」

・・・そういや安城も知ってるのか。俺と宿海が、めんまを見えること。
半信半疑なんだろうな。長年会話してなかったこと含めても、視線がわざとらしいし、気まずそうだし。

「秘密基地いくんだろ?どーせなら一緒にいこうぜ」
「え?あ、う、うん」
64 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2011/08/10(水) 17:36:39.07 ID:L3acdiUj0
「・・・そんな警戒しなくても」

「は、はあっ!?け、警戒なんて・・・」
「信じてないんだろ、めんまの事」
「・・・っ!」
『めんま』と言ったとき、おおげさに安城の肩が揺れた。
そしてちらりと俺を見て、躊躇いがちにいった。
「・・・別に・・・信じてないわけじゃないけど・・・」
安城は片方の手で自分の腕を握った。
「・・・あのっ・・・宿海も、松雪も・・・ふざけてるわけじゃないのよね?」
「当たり前だろ」
「・・・そ」
それだけ言うと安城は、斜めに俯く。
俺は特になんとも思わず、安城の腕にしがみつくめんまを見ていた。
羨ましい。
おっと。安城にまで嫉妬まがいの気持ちを起こしてしまうとは。
・・・心が狭いな、俺は。


* * *
「おーっ!きたきた!おはよーっす!」
秘密基地に来ると、久川が元気に俺たちを迎えてくれた。
既に俺ら以外のメンバーは揃っていたようだ。
「おっはよー!」
めんまは元気に返事を返す。
「朝から元気だな、お前は」
「まーな!」
ちらりと秘密基地を見回すと、今日遊ぶためなのだろうか、色々と置いてあった。バトミントンやら、ボールやら、めんまが言った西瓜やら・・・。一体何をして遊ぶのだろうか。

めんまがはじの方にいる宿海に近寄って挨拶をしにいく。
「じんたんおはよー!」
「お、おう、はよ。」
「「!?」」
安城と鶴見が目を見開いて宿海に視線を移した。
「・・・っ、・・・め、めんま・・・?」
「あ?」
「め、めんまと挨拶したのかっていってんの!!」
「え?お、おう」
「・・・っ」
なんともいえない表情の安城。鶴見はふー、と深呼吸をしている。

「そうそう!もう知ってるだろうけど、一応な!
めんまがーっ帰ってきましたーっ!パチパチパチ」
わーい!と久川と一緒に拍手をするめんま。信じがたいといった表情の女子2人。俺も見えてなかったらこの2人とおなじようなリアクションをしていたことだろう。いや、そのまえに、ふざけるな!と怒っていたかもしれない――。


65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/10(水) 23:04:10.73 ID:J339zzvSO
期待してるよ
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/11(木) 00:15:11.63 ID:vij6cUbSO
これはブクマ決定だな…
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/11(木) 21:06:59.65 ID:wKioggTIO
ゆきあつが予想通りクズでよかった
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/08/15(月) 13:42:26.75 ID:bDClyN8AO
まだか…!!
舞っているぞ!
69 :1 ◆BycwRokz6k :2011/08/17(水) 23:31:38.56 ID:tZbsLeRR0
うおお・・・ごめん・・・
ちょっと熱中症もどきにかかってパソコンにさわれなかった
みんなありがとう!!!


「うおっし!じゃあ前起きも終わったことだしー!
朝飯にすっかーイエーイ!!」
久川の大きな手が大きな音を鳴らす。
「うーわーーい!」
めんまも嬉しそうに小さな手で音を鳴らした。
しかし、そこで安城が気まずそうにひとこと。
「・・・あたしもう食べてきたんだけど・・・」
「え?」
次いで、鶴見。
「私も・・・」
「え?え?」
「え?だ、だって待ち合わせ八時でしょ?普通食べるじゃん・・・」
「ま、マジかよー!せっかく皆のコメ持ってきたのによー・・・」
「こ、コメって・・・」
久川ががっくりと肩を落としたまま、遊び道具やらなんやらがたくさん重なっている所を指差す。
「うわ、ほんとのコメじゃん!何してんのよ!どう食べるつもりだったわけ?」
久川と安城の漫才のようなやり取りが始まった。・・・なんか、相変わらずだな。
「買うにしてもこう・・・なんかあったでしょ」
「えーー・・・」
じゃあ俺だけじゃん、としょんぼりする久川。しかし。俺も久川同様、まだ朝飯を食べていない。
「俺、まだだ。朝飯。」
「えっ!?」
そして宿海。
「・・・俺も」
「うおーっ!!さぁすが!男どもはよくわかってるなー!」
「めんまもー!めんまも食べてないよぽっぽー!」
ぴょんこぴょんこ跳ねるめんま。当然ながら久川は気づかないが、めんまはそれでも尚言った。

「・・・っていっても、お米がこの状態じゃあね・・・」
鶴見が呆れた声で言った。
めんまは久川の腕にしがみつくのに飽きたのか、宿海の近くに移動してきた。

「ねーねーじんたん、じんたんはおかず何がいい?」
「は?お、おかずう?」
宿海のその声に、全員が宿海に注目する。
「めんまはねー!めだまやきがいいの!あ、でもねー、ハムもすきー!」
にっこり笑うめんま。
・・・なんだよ。宿海の朝ごはんのおかずなんてどうでもいいだろうに・・・
俺はめんまの横に移動して話す。
「そうか。じゃあめんまには今度ハムエッグ作ってやるよ」
「ええ!ほんと!?」
ぎょ、っとしたような3・・・いや、4人の目線も気にせずに、俺はめんまと会話を続けた。
「あ、こがしちゃだめだよ!こげはねーいけないんだって!うん!・・・体に悪いんだよ!ね、じんたん!?」
ぐるっと宿海に顔を向けるめんま。宿海は少し体をのけぞらせながら、
「お、おう・・・苦いしな」
等と間抜けなことを言った。
「ちーがーう!にがいけどー・・・うーん」
めんまの言葉が聞こえない3人にとっては、何がなんやらさっぱりだろう。
ひょこひょこと目を丸くさせながら移動してきた久川が、俺と宿海の顔を交互に見る。


そして、俺と宿海の間に空いた、1人分のスペースをまじっと見て、ほっと笑ったのだ。

「やっぱ・・・めんま、いるんだな・・・」

瞳を潤ませた久川を見上げて、めんまは柔らかく笑った。
めんまのかける言葉が久川に届かないのと同じように、めんまのその笑顔を久川が見れなくても。





「うん。」

そう言ってめんまが伸ばした白い手を、久川は知らない。

「いるよ、めんま。」

そのめんまの声は、久川には聞こえない。
久川の目線は、めんまが本当に居る場所とは少しずれたところに向かっている。


それにめんまは、少しだけ―――、寂しそうに、困ったように。
また、笑った。
70 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2011/08/17(水) 23:48:24.82 ID:tZbsLeRR0
なんだかんだで朝飯は、コンビニのおにぎりになった。
俺たち男3人が飯を食べている間、鶴見と安城の間に会話はなく、安城が気まずそうに俯いていた。
その鶴見と安城の座る椅子の間にめんまはいて、話しかけている。
「つるこー、髪のびたねえ!かわいくなった!」
えへへと笑い、鶴見の顔を除きこむ。
鶴見は頬杖をついて秘密基地の中をぼうっと見ていた。
「あなるもおっきくなって、かわいくなったねえ!ふふふ!」
今度は安城の方を向いて笑いかける。
安城は暇そうに、伸びた爪で毛先をいじっていた。

「あ、お茶だー!」
めんまは今度は宿海のペットボトルに手を伸ばす。
急に宙に浮いたペットボトルに、隣の久川が噴出し咳き込んだ。
「め、め、めんま?」
ペットボトルを指差す久川。
俺は素直に頷く。
「おい、めんま、それ俺の・・・」
「喉かわいたよーっ」
「あ、ふ、振るな!あわ立つだろ!」
空中で激しく上下運動をするペットボトル・・・と、めんまの見えない3人には見えているのだろうか。
「喉かわいたってさ」
俺の通訳に久川は素直に、
「おお、そうか。
めんまー!コーヒー飲めるかー!?」
久川の問いかけに、めんまは顔をしかめていった。
「めんまにがいのきらーい・・・」
「嫌だって」
「ええ!?・・・まーそうか、めんまニガいのはなあ・・・」
「俺、めんまにジュース買ってきた。のむか、めんま?」
「うん!のむ!!ありがとうー!」
「・・・あ、あのさっ・・・」

がたん、と立ち上がったのは安城。
「・・・?なんだよ、あなる?」
「あ、あなるって呼ぶな!じゃなくて・・・あの・・・さ」
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/08/18(木) 21:41:47.30 ID:DRjMWmSAO
更新キター!!
よくがんばった!
次の更新予定日はいつになりますかー?
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/19(金) 08:58:59.89 ID:d961LH+SO
乙!おかえりー!
73 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2011/08/21(日) 16:16:14.07 ID:fQRLQN3p0
不定期ですまん・・・いつなのかは分からないんだ、すまねえ!




「・・・・・・やっぱ・・・何でもない。」
安城が視線を斜め下の、宿海のお茶に向ける。
・・・ハッキリしないな。
「・・・今日、何すんの?」
不機嫌を隠しきれていない安城。
それを気にしない久川が、じっと考えた。
「そーだな・・。やっぱ虫取りとか」
「はあ!?む、虫取りって・・・」
「今夏だし!」
「・・・他には?」
「あとはー、バトミントンだろ、鬼ごっこだろ、あとバーベキューもして・・・んでメインはめんまが言ったすいかわりだな!」
「鬼ごっこ!?わーい!」
めんまは嬉しそうに身を乗り出す。
「鬼ごっこ・・・」
「なんだよつるこ、不満なのか!?」
「別に・・・。懐かしいな、と思っただけよ。・・・靴できてよかったわ」


「よし、じゃあ食い終わったしやるかー!まずは虫取りからっ!レッツ ゲット グラスホッパー!」
「色々間違ってるわね」
「バッタ取るの・・・?」
冷静にぽっぽに指摘をする女子2人。
そしてぽっぽを先頭にして、昔よく虫とりをした場所へ向かった。

昔は少し時間がかかったものなのに、成長した俺らの足ならば本当にあっという間についてしまう。
「おー・・・」
「懐かしいな」
「・・・ねー・・・」

しばしの間、足を踏み入れることなく、俺たちはこの景色の懐かしさにふけった。


広がる地面。茂る木々。五月蝿い虫の鳴き声。背景の青い空。
・・・懐かしい。


俺たちは、虫をとろうと思うならいつだってここに来た。
俺たちの虫取り場所は、ここだった。
皆して虫取り網を振り回して、誰が一番大きい虫を取れるかとよく競ったものだった。
その競争で宿海はいつも一番大きいのを捕まえていたし、久川は宿海や安城の近くで大きそうな獲物を探していた。安城は何だかんだで一生懸命捕まえようとしていたような気もする。でも、ふざけてまわるぽっぽを叱ったり、宿海の捕まえた虫を褒めたりもしていた。鶴見はスケッチブックを両手にして、あまり参加していなかったような記憶がある。めんまは宿海の捕まえる様を見ていたり、ぽっぽと虫を探したり、安城と一緒に捕まえたり、俺に応援の声をかけてくれたり、鶴見の絵を褒めていたりと日によって違っていた。が、俺の記憶が正しければ、そんな中でも宿海の近くにいるのが一番多かったと思う。

俺は・・・・・、宿海に勝ちたくて、めんまに凄いといってもらいたくて・・・汗を拭いながら真剣に虫を探して、一心不乱に網を振り回していたような気がする。

74 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2011/08/21(日) 16:37:56.37 ID:fQRLQN3p0
↑ごめん!ぽっぽじゃなくて久川だ。
なんかぽっぽってぽっぽって感じで久川って感じじゃないんだよな・・・


あの蒸し暑い温度の中でも、木がつくる日陰の中はひんやりと涼しかったものだった。
よく休憩したっけな。
影が狭いときには、ぎゅうぎゅうに詰めてまで。
「熱いー・・」
「みんな同じとこにいるからだよー・・・」
「他の影ねーのー?」
6人がぎゅうぎゅうにつめていれば熱いのも当たり前だろう。みんながうだって不満を漏らすそんな中、めんまは楽しそうだった。
「でもみんないっしょだね!たのしいねっ!」
って言って、笑って。
――こう笑顔で言われてしまうと、俺らは何も言えなくなるんだ。
めんまの笑顔にほだされて、そうだね、と皆で顔をあわせて笑い合ってしまう。
あはははは、あはははは・・・
そんな風に響く子供たちの笑い声は、どんなに楽しそうだっただろう・・・。





・・・全員が全員黙っていたのは、皆がこの景色を見て、各々の記憶を思い出しているからだと思う。

めんまもそうだ。
その青く透き通った瞳に景色を映し、ぼうっとしていた。

何を思い出しているのか。

久川の失敗?安城の説教?鶴見のスケッチ?俺の捕まえたセミ?皆の姿?
それとも――宿海の、勇士か。


めんまは一体何を見てきたんだろう。
めんまの思い出の中に一番多く登場するのは、誰なんだろう。
めんまの瞳が一番映していたのは、めんまが追っていたのは、誰なんだろうか。

(めんま・・・)

めんまの思い出しているものが、一番大きなクワガタを捕まえて、誇らしげに先頭を歩く宿海の後姿ならば。
めんまの頭の中に響くものが、宿海の『めんま!俺が一番大きいのとったぜ!見ろよ!』という声ならば。
俺は。


75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/08/22(月) 01:52:42.50 ID:x7eBgcIAO
お疲れ様です
不定期ですか…焦らずに自分のペースで進めて下さい!!
ただ、生存報告は1ー2週間に一度はして下さい。自分勝手ですいませんが何卒、よろしくお願いします。
頑張って下さい応援しています
76 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2011/08/24(水) 20:32:01.72 ID:uXeRvMYY0
>>75
わかりました。
わざわざありがとう。遅くて申し訳ないが、見てくれる人がいるのが本当に嬉しい。



「・・・うん。虫取りやろうぜ!」
沈黙を遮った久川の明るい声で、俺はハッとした。
周りを見てみると、先ほどより何処となく柔らかな雰囲気が漂っているように思えた。昔の記憶は楽しいものばかりだったからか分からないが、少なくとも、久川に渡された網と籠を嫌そうな顔をして受け取るやつは1人もいなかった。

ふと隣を見てみると、宿海はなんだか新鮮そうに網の持ち手を握ったり離したりと、プラスチックの網の感触を確かめていた。少し嬉しそうだ。・・・そうだな、お前、虫取りのときはほとんどいい虫捕まえて、めんまにいい格好見せれたもんな。

俺はそんな宿海から視線を外し、久川に渡されためんま用の網と籠をめんまに手渡した。
めんまは嬉しそうに網を振り上げ籠を持ち上げて大きな声で言う。
「よーし!いっぱいとるぞー!」
無邪気なめんまの笑顔に、自然と自分が笑みを浮かべているのに気づく。
「はりきりすぎるなよ、めんま」
「だーいじょうぶ!」
可愛らしいガッツポーズとともに、めんまは一目散に木に向かって走り出した。
空中に浮く網と籠を見た久川が、おっ!と嬉しそうに声をあげる。
「めんまー!抜け駆けか!?ずりーぞ!」
「へっへー!いっちばーん!」

めんまとめんまを追う久川がたどり着いた木は、あの頃には確か、一番虫が取れると評判だった(俺らの中で)木だ。
めんまは早速、ひょこひょこと網を動かして虫を捕まえようと忙しい。

「おーい!じんたんもー!」
振り返って声をかけたのは久川だ。
「・・・おー。」
まんざらでも無さそうに、宿海もめんまたちの集まる木に走りよった。

・・・それとは対照的に、参加を渋る後ろの女子2人に俺は呆れつつ、仕方なしに声をかける。
「おい、いこーぜ」
「・・・」
「おいてくからな」
はあ、と溜息。鶴見のだ。
「行くわよ」
「・・・まっ・・・待ってよ!あたしも行くし!」
鶴見の後姿を見て、やっと安城も動き出した。
昔と違って扱い方が難しくなったかもな、こいつら。


77 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2011/08/24(水) 20:48:07.90 ID:uXeRvMYY0
・・・なんだかんだで、全員が全員、虫取りを真剣(?)にやっていた。
最初は3人で固まっていためんま達も、段々と自分の持ち場、というか、狙いの木を定め、今は1人1人が別々の場所で虫を捕ろうと励んでいる。

安城はなかなか苦戦しているようだ。久川は・・・既に3匹をその籠に収めていた。やはり昔とは違うわけだ。

木を睨んでいるというか、凝視している鶴見は一匹も取れていない。昔はこいつも虫取りに参加してなかったからだろう、コツがつかめていないようだ。

反対の方向にいて、俺と位置が離れている宿海の状況は分からない。ただ、2回ほど『よし』という言葉が聞こえたから――2匹は捕まえたんじゃないだろうか。


ミーンミンミンミン・・・

集中しているからだろうか。
蝉の鳴き声や、葉のざわめく音が、異様に五月蝿く頭の中に響くのだ。

ミーンミンミン・・・ジリジリジリ・・・
ザアザザジリ・・・ザア・・・

ああ。
うるさい。

ミーーンミンミンミン・・・ジャナイ・・・
ジリジリ・・・
ザアア・・・ザザザ・・・ッタ・・・

ジリジリジリジリ

うるさい、静かにしろ。
俺は集中してるんだ


虫の声が、葉の音が、ザワザワと重なり合ってとてもうるさい。静かにしろ


ミーンミンミン・・・アーモー・・・
ジリジリ・・・だろー・・・ザザザ・・・
・・・うわよ!・・・ミーンザアアザジリジリジリ・・・



ああ。そうか。虫の羽音さえ聞き逃さないくらいに集中しているから、木々の音だけではなくて周りのやつらの声が入ってくるのだ。


ミーンミンミンミンミーーン・・・
「・・・あーもー・・・ちょっ・・あ!逃げんなこらっ!・・・あー・・・。・・・むずかしいなー・・・」
「うるせーぞあなるー!」
「なっ!あなるって呼ぶな!バカ!!」
ジリジリジリジリ・・・
「おーいつるこー、何木睨んでんだよ?」
「・・・・・」
「睨んでるだけじゃ虫はおちてこねーぞ!」
「・・・分かってるわよ」
「・・・」
「?何処見てんだあなる」
「!ど、どこでもいーでしょ別に!!!」
ザア・・ザザザ
「・・・お、・・・よし」

ぽつりぽつりと時折かわされる会話。その声は暑さを助長させるセミよりは五月蝿くはないが、しかし煩わしく感じる。

78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/26(金) 11:09:09.40 ID:tVp/uVUSO
続き楽しみにしてるよー!
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2011/08/27(土) 04:16:13.08 ID:NKEQoG/K0
続き楽しみにしています。頑張ってください!
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2011/08/27(土) 04:16:53.29 ID:NKEQoG/K0
続き楽しみにしています。頑張ってください!
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2011/08/27(土) 04:17:22.41 ID:NKEQoG/K0
続き楽しみにしています。頑張ってください!
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2011/08/27(土) 04:17:58.82 ID:NKEQoG/K0
続き楽しみにしています。頑張ってください!
83 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2011/08/27(土) 12:24:28.92 ID:5V9OegDx0
>>78->>82
おお・・・!ありがとう!嬉しい。
たいしたものじゃないが、一生懸命書く。


その中で俺を苛つかせないのは、めんまの声くらいではないだろうか。

――あれ、あれ、いっちゃった
――えい!
――・・・あれえ・・・逃げた?
――てーーい!
――ようし、とった!
――わーい!とったとったー!

めんまの声は、なんて甘く響くんだろう。
俺の脳が喜んでいる。
もっと聞きたい、もっと聞きたい。そう言って喜んでいる。

めんまの声は何処までもいとおしく俺の頭に残るんだ。

うん。
心地いい。

他の音なんかが、雑音に聞こえる。

「うおっ!」
「じんたんじんたん!」
「・・・お前なー・・・いきなりのしかかってくんなよな・・・」
「いーからほらみてじんたんってばー!あれあれ!ほらあ!」
「・・・どれ?」
「あそこっ!ほら、あれくわがただよ?じんたんよく捕まえてた、くわがた!」
「どれ・・・おお、あれか」
「とってとってー!」
「お?じんたん何話してんだ?」
「めんまがさ、あそこにクワガタいるから捕れだって」
「!!
よし、まかせろ!今このぽっぽが捕ってやるー!」
「わあーいっ!」
めんまと久川と・・・宿海の会話。

溜息をつきかけて、はっと気づく。気を抜けば、いや、無意識のうちにもめんまに気をとられている。俺は目の前の虫にだけ集中しようと、持ち手を強く握った。

・・・けれど集中すればするほど、何故か宿海の声や久川の声、葉の音、虫の声が五月蝿くなっていく。
めんまの声はもっと大きくなる。というより、めんまの声を俺の耳は逃がさないのだ。
意識が、あっちこっちに飛んで安定しない。

84 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2011/08/27(土) 12:33:18.28 ID:5V9OegDx0

「あ、逃げた」
「あー・・」
「ご、ごめんめんま!」
「・・・あ、待て。いるぞ、ほらあそこ」
「お!?おお!?ホントだ!?」
「わー!やったぽっぽ!とってとって!」
「よっしゃ!とるぞー!」


・・・周りの騒がしい会話が耳に入るし頭に響くのだが、もう気にしないようにしていた。
冷静に虫を探して、網を振る。
確かに、うるさい。けれどうるさいだけだ。

「がんばれー!ぽっぽー!」

なのに、ザワザワとした木々の音を背景に、めんまの声がふわりと滲んで頭に響く。


・・・あ!
そのとき、濃い緑の葉の間の中に揺れる、かなり大きい虫を発見した。
これは・・・。かなり、うん。今日見た中では確実にトップだ。

めんまの声がふわふわと脳髄を優しく刺激するのを、遠くに遠くに感じながら俺は、す、と網を振る。
虫は、案外簡単に捕まった。

思わず口角が上がってしまう。だって、

――やったー!やったー!

おお、丁度めんまも狙っていた虫を捕まえてもらえたようだ。タイミングがいいな。
――とったとった!わーい!
ああ、俺も捕ったぞめんま。やったな。俺も飛んで喜びたいくらいだ――

響く。
響く、めんまの声。

俺は籠の中でうごめく、今日一番大きな虫を見下ろした。
――ああ、きっと俺が一番だ。今日のトップは俺だ。こんな大きな虫、今までに見たこともないだろう・・・


響く、
響く。めんまの声、そして久川の声も宿海の声も安城の声も鶴見の声も、わいわいわいわいわいわい。
ああ・・・あれ?みんな、こんな声高かったか・・・?ききおぼえがあるってことは、もしかして、あの頃の声、っぽい。かも、しれない。


あーもーこらっ逃げるなー!(こらぽっぽ!)
ちょっと、うるさいわよ静かにして(・・・ゆきあつ、とれたの?)
イライラしてるなつるこー!(じんたんつえー!!これなに!?これ何虫!?)
おお、そこまで喜ぶか・・・?(へらくれすオオカブトだぜたぶん!)
えへへっ!やったー!やったー!(じんたんすごーい!ねえゆきあつ、ゆきあつもとれた?)


85 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2011/09/03(土) 21:23:45.86 ID:FKPQdiyn0

・・・ん、おかしくないか?集中してる時は逆に、音なんて聞こえなくなるんじゃなかっただろうか――・・・

「・・・っ」

いつのまにか遠くなる緑の葉。
眩しく白く光って、目を刺激する太陽の光。



あの頃から思っていたのだ。
いつか、めんまに言ってやろうと。
『俺』が、言ってやろうと。
『俺が一番大きい虫をとったんだ』って。
俺が一番なんだって。
自分のとった一番大きな虫をめんまに見せてやろうって。

『やったねゆきあつ!』と喜ぶめんまの笑顔が、見たくて、俺は


めんま―――・・・



* * *
目を開けると、秘密基地の天上が見えた。

「ゆきあつ!」


「・・・虫は・・・」

視線を向けると、テーブルの上に虫かごが6つ。
6つの虫かごの中には、それぞれ色んな虫が入ってる。その中に、見覚えのある虫を見つけた。俺のとった、カブトムシだ。それが動いていた。一番大きい。一番大きな、カブトムシ。俺の、カブトムシ



やった・・・勝ったぞ、宿海に・・・

ざまあみろ、宿海。お前は俺にかなわねーんだよ、もう俺にはかなわねえんだよ・・情けねえよな宿海は、なあ、そうだよな、めんま・・・
ああ、そうだ、めんま、見てくれ
俺が一番大きい虫取ったぞ、俺が宿海を越して一番になったんだ。
すごいねって褒めてくれよ、めんま
めんま


「・・・・・・めんま」
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/06(火) 23:05:14.91 ID:m2NBTbXSO
しっかしこれ、なんか文がしっかりしてて(?)良いなぁ…
壁┃ω・)続きマダカナー
87 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2011/09/07(水) 23:29:09.59 ID:x8qmRIYA0
>>86
ほめられた・・・うれしい・・・ありがとう!




「おきたみたいね。」

誰かの声が聞こえる。しかし俺はじっと虫かごを見つめていた。虫用のピンク色したゼリーを、俺のカブト虫は美味しそうに食らっている。
「情けないわね、なんで倒れたりなんて「大丈夫ー?」
声を遮り、遠くの方から誰かの声。
「ええ、大丈夫。今起きたわ」


なにかさわがしいと思ってちらりと顔を横に向けると、秘密基地の前で皆が何かやっていた。

「バトミントンよ。」
「・・・」
「めんまもやってるんだけど、・・・なかなか上手なのね。久川くん、苦戦してるわ」
ああ、鶴見か。
俺はやっと、めのまえの椅子に座る人物を認識した。ってことは、さっきの声は安城のだな。
「・・・めんまもか」
「・・・ええ。楽しそうだって、宿海くんが。」

それに何も返さず、俺は体を起こす。やけに背中が痛いと思ったら、俺は即席のベンチに寝かされていた。
「ちょっと、おきて大丈夫なの?」

多分、久川とか・・・宿海とかが運んでくれたんだろうな。あとで礼を言おう。
めんまは、心配していてくれただろうか。

「大丈夫だ」
「・・・そう。」

俺はバトミントンのシャトルと、笑い声が飛び交う輪の中へと進んだ。

「あ、ゆきあつ!大丈夫だった?」
いの一番にめんまが俺にかけよってきてくれた。久川の打ち返してきたシャトルも無視して。
「ああ。ありがとな、めんま」
「おー!ゆきあつ!大丈夫だったか!?」
「ああ。お前・・・らが運んでくれたんだろ。迷惑かけたな」
「いいってことよー!」
「急に倒れるからびっくりしたじゃない」
「本当よね」
そういいながら現れた鶴見が、ぽとりと地面に落ちていたシャトルを拾って宿海に渡す。

なんだか、随分と雰囲気が良くなっているみたいだ。少なくとも、今日の朝よりかは全然。
一番おどおどして元のメンバー達に近寄らなかった安城も、少しは抵抗なく離せているようだし。いくらかかはある各人のいざこざなんかを除けば、少しだけ昔に戻っているような気もする。

「おお、サンキュ」
「めんまに渡して。私、見えないから」
「ありがとうつるこ!よーし、いくよぽっぽー!」
と、ラケットを構えるめんま。
「おいぽっぽおー、めんまが始めるぞってさー」
「おっ!!よっしゃあめんま!俺の奥義を見せてやる!」
「ていやあーー!」
ぽおん、とラケットに飛ばされてシャトルが宙を舞う。
確かになかなか上手だ。
「秘儀っ!ぽっぽクラーーッシュ!!」
「なんのおっ!ウルトラめんま返しーっ!!」
何がなんだかよく分からないがとりあえずラリーは続いている。そんな2人を見ていると、さっきまでぽっぽの近くに居たはずの安城が、宿海の方に移動しているのを見つけた。

「・・・や、宿海っ」
「・・・?何だよ?」
「あっ、あんたも・・・!やろうよ、ほら、あたしと!」
「俺は別に・・・。めんまの通訳しないといけないし」
「え・・・。あ、そ、そう、」
あーあ。安城がんばって誘ったのにな。
すると安城はラケットを両手で握りながら、遠慮がちにちらりと鶴見に視線を向ける。

「じゃ、じゃあやろうよ、つる・・・つるみ、さん」
「・・・え?私?」
「・・・うん」
「行ってこいよ」
と、俺が後押しすると、鶴見は安城の元へ歩いた。
「私下手なんだけど」
「そんなの別に・・あたしだって」

88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2011/09/11(日) 22:29:23.53 ID:oYG42mmT0
続き楽しみです。応援してます!!
89 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2011/09/13(火) 20:12:19.83 ID:GjWZ2/LU0
>>88
ありがとうございます!がんばります


さて。
俺はラケットを握り、めんまたちの近くに小走りで向かった。
そして、白熱している久川とめんまの戦いを眺めている宿海に話しかける。
「おい宿海、丁度4人いるんだし、ダブルスやらないか?」
「え・・俺も?」
「当たり前だろ」
「・・・別にいいけど、チームは?」
「・・・そうだな、
・・・じゃあ、じゃんけんで勝った方が、めんまとチームだ」
「なになに?みんなでやるのー?」
「おいおいなんだよゆきあつー!それじゃ俺めんまのおまけかよー!」
・・・おまけ?それは違うだろう。全然違うだろ。ていうか、いつの間に来たんだ。2人ともバトミントンやってたじゃないか。
しかしそれらを全て流して、俺は不満そうな久川に言った。
「めんまは女子だろ。ハンデだろ、ハンデ」
「そーいうもんか?」
「じゃ、行くぞ宿海。」
「・・・おう」
「「じゃんけんポイ!」」



チョキと、パー。




「おー」
90 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2011/09/13(火) 20:22:18.46 ID:GjWZ2/LU0
「てことは、何?俺が・・・」
久川に向かってめんまと俺はほぼ同時に言った。
「じんたんと!」
「宿海とだな」

「・・・」
宿海はじ、っと開いた手のひらを見つめている。
・・・ハハ。やったぞ、勝った。また、かった。

「よし、めんま。行くぞ」
「おーっ!ふたりともやっつけるー!!」

「おっしゃあ!負けないぜ、なあじんたん!!」
「・・・・・」
どうした?宿海。
悔しいか、そうだよな。
・・・そうだよな!!

宿海はパーにしていた手をぎゅっと握り締める。
そして、短く呟いた。

「ああ。」
と。


「・・・なんか、じんたんカッケー」
「は?何言って・・・」

「おい、始めるぞ。」
宿海と久川の会話を遮り、俺はめんまにシャトルを渡す。
「よーっし!いくよー!てえいっ!!」

ぽーん!シャトルが空を飛ぶ。

「絶好球(?)だぜ!でりゃあっ!!」
すかさずぽっぽがめんまのサーブを打ち返す。そして返ってきたシャトルを、今度は俺が思い切り打ち返す。バトミントンか、久しぶりにやったが・・・こんなもんか。

「うわっ!やべ、取れ・・・」
久川が取れなかったので、後ろへ飛んでいくシャトル。
久川が慌てて振り向いたそこには、しっかりこぼれだまをフォローする宿海がいた。
「よっ」
久川は宿海を振り返ったまま動かない。おお、チャンスだぞ、めんま。
「・・・?おい、ぽっぽ。おま・・・「じっ・・・じんたんつえーーー!!!」

テンション高いな、おい。
91 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2011/09/20(火) 22:48:43.72 ID:UrMXxR9D0
「やっぱじんたんはつえーよ!」
久川は興奮しているようで、俺らに背中を向けたまま。宿海はかなり焦っている。このまま頂くぞ、行くんだめんま!
「いまだーあっ!めんまアターック!」
久川がめんまの掛け声に気づく!
「お、おいぽっぽ!!早・・「俺をなめてもらっちゃこまるぜ!ぽーっぽがえーーーっし!!」
「うわあ!とってとってゆきあつー!」
思いのほか早いスピードで返ってきたシャトルは、めんまがラケットを振るよりも早くめんまを通り過ぎる。
だが焦ることはない。
「ああ、まかせろ」
俺は久川の打ってきたシャトルをスマートに打ち返す。
何故俺が後ろにいるかといったら、こんなときのためだろう。

「くっそお・・・さすがゆきあつ・・・。手抜かりがねえな・・・」
シリアスな面持ちで久川。そういいつつもしっかり返してくる。
今思ったが、久川が前だとかなりやりづらいな・・・。あいつは体もでかいから・・・

そろそろ一点取るか。
「めんま。俺が久川にも宿海にも厳しいコースを狙って打つ。
めんまは返ってきたシャトルを思い切り打ち返してくれ。」
「よくわかんないけど分かったあ!」
どっちだろう。
とにもかくにも打ってみるしかない。

宿海にも久川にも捕りづらい場所・・・。俺は右端を狙うことにした。

俺は自分で思ったよりもコントロール力が優れているらしい。久川も宿海も取れず、1点入手。
喜びに浸る暇もなく、勝負心を揺さぶられた久川に打ち込まれ相手も1点入手。
次はめんまが1点取り、すると宿海が1点取り、俺が1点取り、続いてめんまも1点取ったかと思ったら久川に追いつかれ・・・と、気がつけば7対6と進んでいた。

接戦だな、と気を引き締めていたところで、久川が口を開く。

「ていうかよ・・・バトミントンて、何点で終わりなんだよ・・?」
「・・・あ」
「・・・」
「?」
そうだ。そういえば何点制なんだろう。
「好きに決めていいんじゃないか?8点とか、9点とか・・・」
「そーいうもんか?」
「めんまは12だと思う!12!」
「11じゃなかったか?」
「えー、そうかなー?」
「「・・・」」
少し離れたところで打ち合いをしていた女子2人組にもきいてみると、
「はあ?知らないわよ・・・。9とかじゃない?」
「奇数だった気がするけど」
と、曖昧な返事。
92 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2011/09/20(火) 22:57:14.13 ID:UrMXxR9D0
結局誰も分からない、と言うことでお開きに。
俺はなんだか複雑ではあったが、めんまがうれしそうだったのでいいとする。

「あー、楽しかったあ!」

「じゃ、次にするか!次!」
「ねえ、そろそろお腹すいたんだけど・・・」
安城の言葉に時計を開くと、時刻は11時。
「今から昼でも間違ってはいないな。」
「何か買いに行くの?」
との鶴見の問いに、久川が人差し指を前に出して左右に振る。「指をふる」みたいだと思ったのは、昔よくその手のゲームをしていたからだろう。
「ちっちっち・・・」
「?」


「昼は・・・バーベキューだ!!」
久川は両手を広げて太陽に向かって叫んだ。とてもうれしそうだ。
「わー!バーベキュー!バーべキュー!」
「・・・材料はあるんだよね?」
安城の疑いのまなざし。
「もちろん!野菜もあるしウインナーもあるぜ!あと米もあるぞー!」
「こ、米は・・・まあ好きにすればいいけどさ」
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/21(水) 12:57:54.46 ID:bMnnlGMSO
続き待機 待機
94 :1 ◆BycwRokz6k :2011/10/01(土) 12:07:20.25 ID:M4v6j3HV0
「おし、ウインナー・・・っと」
「ウインナーはめんまがきるのーっ!」
「おいめんま・・・。急にそんなことしたらぽっぽが驚くだろ」
「かにさんっ!かにさんっ!わにさんったこさーん!」
「聞けよ!」
ウインナーの袋ごと久川の手からかっさらっためんまが、秘密基地の中へ入っていく。そしてそれを追う宿海も。
さらにそれを追って、俺はめんまの背中に声をかけた。
「俺もいっしょに切らせてくれよ、めんま」
めんまは頭の上にウインナーを掲げている。微笑ましくて思わず笑ってしまった。
「じゃあ、めんまがたこさんね!じんたんはーわに!ゆきあつはかにさん!」

え、わ、わに?と聞き返す宿海を置いて、どたどたとキッチンへ駆けていくめんまを追う。
めんまは危なっかしいからな・・・って、怪我とかするのか、めんまは?


* * *
わにとかにのウインナーはどうにかできた。わには疑わしいが、まあめんまのたこに比べた・・・いや、もちろんめんまのたこウインナーが一番おいしそうだ。決まっているじゃないか。

「はーいウインナーですよー!」
「おい、ウインナー切れた・・ぞ」


「ちょっとお!何よその野菜の切り方あ!」
「なんだよそんな気にすんなってー!相変わらずだなーあなるは」
「あなるって言うなああ!」
「・・・・・」
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/03(月) 23:09:01.57 ID:si6bzUdd0
今夜から「あの花」再放送するらしいから、読者が増えるかもな
96 :1 ◆BycwRokz6k :2011/10/05(水) 22:47:28.03 ID:mNG7Qo/N0
>>95
そういえばそうだったな


久川、鶴見、安城、の3人は、野菜を切る係だ。
鶴見はただ淡々と野菜を切り、安城も特に問題はないようだが、どうも久川の大雑把すぎるきり方が几帳面の安城にとっては気に食わないらしい。

「うわっ何よこのキャベツ!でか!」
「そーか?」
「・・・。」
「ウインナー切れたよー!」
ウインナーの皿を持って久川たちに近づくめんま。
「おいぽっぽ。ウインナー切れたぞ」
「おっ!じゃあもう食べちまうか!腹も減ったし!」
「そうだな」
「わーい!」


特に何もなく昼も終了。まずくはなかったな。
しかし、そういえばめんまの切ったカニのウインナーを見たときには、久川が泣きそうになっていた。そのくらいか。


「よし!じゃあ次は鬼ごっこだ!」
「えー!?ご飯食べたばっかなのにー」
「食べたあとすぐ寝ると牛になるって聞いたことあるぞ」
「はっ?な、何よそ「あなる牛さんなの?もーもー!」
「プッ・・・」
しまった。噴出してしまった。
「ちょっと!!何笑ってんのよ!もー!」
「・・・クッ」
「な・・・宿海!あんたねー!!」
「じんたん、逃げろ!」
「え!?」
久川に腕を引っ張られて走る宿海。
俺もめんまに声をかけて走り出した。鶴見もちゃっかりついてきている。
「な、え?あ、あたしが鬼なの!?ちょっと!せめてじゃんけんくらいしなさいよー!」
「わーい!鬼ごっこー!」


97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/10/06(木) 00:11:35.69 ID:yzyFtnhAO
しばらく見んかったけど、今回からは定期的(or投下宣言)に書き込み出来る〜?
楽しみすぐる。 だが無理はしないどくれ
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/06(木) 04:21:17.35 ID:/8ZrpehDO
おれ宿海鶴見を期待してたんだ
結局アニメもssでもなかったがな
99 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2011/10/08(土) 22:41:12.57 ID:GbDS3ULm0
>>97
なるべくがんばる。あの花一挙放送終見て、もうゆきあつ、ゆきあつ・・・ってなったから・・・!

>>98
そういえばじんたんとつるこは聞いたことないな・・・もうゆきあつるこが主流で



「はっ・・・はあはああ・・・もーーーッムリッ!!」
鬼ごっこ開始から10分弱。早々に安城が悲鳴を上げた。
「なんだよ、体力ねーなー」
と、久川の不満そうな声。
「わっ、わたし・・・・っ、さ、サンダル・・・なんだから、ねっ・・・はあ」
「あなるー、大丈夫ー?」
めんまが安城に駆け寄る。安城は木に片手をついたままだ。体力回復中ってところか。
「仕方ないな。じゃあ俺が代わる」
「ゆきあつ!いいのか?」
「ああ。まかせろ」
「あなるっあなるっ!早く逃げなきゃー!」
「おい安城。早くしろ、いくぞ」
「はあ、はあ・・・え?じ、・・や、宿海?」
「ほら!ゆきあつが来る!早く」
「きゃーっ!にげろーう!」
とりあえず女子は狙えないとして・・・うん。久川にするか。

「うえええー!俺かよゆきあつー!」
毎日走りこみしているかいがあってか、俺はとくに苦労もなく久川をタッチ。
「はい、タッチ」

* * *
「えー、もう終わりー?」
正直運動が得意ではない鶴見、全く外に出ていなかった宿海、サンダルの安城・・・と、普段そこまで運動をしない3人の疲労がたまるのはあっという間だった。
ぐったりとする3人。・・・鬼ごっこは早めに切り上げられることになった。子供のときはあんなに走り回ってたのにな。

「つっ・・・つかれた・・」
「大丈夫、じんたん!これタオル!はい、あなるも、つるこも!」
「!・・・、ありがと・・・」
「はは、鬼ごっこは駄目だったか」
「わ、笑ってんじゃないわよ・・・」
俺はめんまの献身的な介抱(?)を受ける3人の前にいる。久川は、秘密基地の中で何かやっていた。
「まだ二時かー。ちょっち早いけど・・・」






100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/09(日) 21:24:36.69 ID:pqLxjqyHo
再放送で初めてあの花観た俺が来ましたよ
超期待してます
101 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2011/10/12(水) 17:42:40.17 ID:wLMKX1a10
>>100
たいしたものかけない上亀ですまないが、がんばる。ありがとう


「じゃっじゃーーん!」
大きな声を張り上げ、久川が頭の上に乗せたそれは、

「うわーーお!」
スイカだった。

めんまの瞳が輝いている。すいかー!すいかわりー!とはしゃぎ始めためんま。安城や鶴見は唖然としていて、喜んでいるのはめんまばかりのように見えたが、俺はめんまが喜んでいる姿を見るのが嬉しい。久川、お前よくやったよ。
「すいか・・・」
「す、すいかわりって、ここ山、なんだけど・・・」
「べっつにどこだってOKOK!めんまがやりたいっつってんだからよ!」
「・・・ま・・・そう、か」
「めんまーあ!ほれ!棒だぞーーっ!」
全く検討外れの場所を見てめんまを呼ぶ久川に駆け寄っためんまは、やったー!と棒を握った。
「おっ!そこかーめんま!はい、これ紐!」
「?ひも?」
「それで目隠しするんだ、めんま」
「なるほどー!」
めんまはそういって一旦棒を地面に置くと、紐を頭の後ろで縛って自分の目を隠す。

「めんまの目って、そこにあるんだ・・・」
なるほど、と言ったように、めんまが見えない3人は呟いた。
「身長伸びたのね・・・」
「・・・そうだよね、成長した姿って言ってたもんね」
「でもちいせえな・・・。めんまああ!」

横を向き宿海を見ると、どうやら苦笑しているらしかった。気持ちは分かる。

「あれ?棒は・・・」
「ほら、めんま」
「ありがとー!よっし!」
めんまは棒を両手で持ち、汚れないようにと引いた新聞紙の上にあるすいかを割りにかかる。
・・・3人には棒と、めんまの目を隠す紐だけが見えるわけだ。俺は得も知れない優越感を抱いていた。


「てえいっ!んー?あれ?」
「あの頼りない軌道・・・やっぱめんま、いるんだよなあ・・・」
久川はいちいちめんまがいるということを実感してるらしく、目の端に涙を浮かべつつそう言った。
めんまはてい、てい!と力強い掛け声といっしょにあちらこちらへ棒を振るが、肝心のすいかにはかすりもしない。助け舟を出そうか、と声をかけようとしたとき。
「めんま!もうちょっと右だ、右!」
宿海の声。
「え?右?」
分かりやすくくるりと向きを変えるめんま。
「いや、ちょっとっていっただろ・・・」
「ぷっ」
突如噴出したのは安城だ。
「何だよ・・・」
「・・・っなんか・・・うん、今更だけどっ・・・・・めんまっぽいなって・・・」
笑いをこらえながら安城。
めんまはそれに首を傾げて、にこりと笑った。
「そうね。・・うん」
「めんまーっ!がんばれー!もうちょっと左だぞー!!」
「え?左?」
「ちょっとだって、ちょっと!」
「ちょっとっていわれてもー・・・どのくらい、じんたんー!」
「んなこと言われても・・・あ、そこだ!そのまままっすぐ!」
ふらふらとめんまが宿海の指示道理に進む。
「ていや!」
「もーちょっと前!前!あ、前っていうのはそーいうんじゃなくて、えっと、先!」


102 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2011/10/13(木) 21:29:09.82 ID:ySQ2EA7F0
「んも〜・・・・前とか右とかひだりとか・・・どこなのかわっかんないよーっ!」

――ばこん!

「おおー!」
「割れた!」

半分やけくそだっためんまの一撃が、見事すいかにクリーンヒットしたのだった。
「・・・あれ?」
「ナイスだぜー!めんまー!!」
割れたすいかに近寄る全員の顔は、何故だかとても嬉しそうな表情をしていた。


え?え?と戸惑うめんまの視界を隠す紐を、俺は外しにかかった。
ひらり。

開いためんまの視界には、笑顔の仲間たちと割れたすいか。

笑う宿海。笑う久川。笑う安城。笑う鶴見。笑う俺。
「めんまっ・・・・う、・・・割れたね・・」
「何ないてるのよ」
「なっ、泣いてないわよ!」

めんまは瞳を丸くして目の前にいる5人を見つめていた。
青い瞳にじわりと浮かぶ水分が見える。めんまは急いで目を腕でこすった。



「えへへ・・・」
そしてめんまは顔を上げ、瞳の端に少しの涙をきらめかせながら、嬉しそうに少し頬を染めて笑ったのだった。


――よかったな、めんま。嬉しいだろうな、とてつもなく。
――・・・・・・・・
103 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2011/10/16(日) 08:55:10.70 ID:QZixE9VN0
もう、皆はめんまを疑わない。
めんまがみえなくても、めんまを疑わない。



めんまは笑う。
嬉しそうに笑う。

俺だって笑う。
昔ながらの仲間達といっしょに笑う。



けれど、
これは俺にとって・・・、めんまが見え始めた時の、2人だけでいたあの数ヶ月より・・・楽しい時間だろうか。



104 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2011/10/20(木) 15:52:29.52 ID:cCfnDnxH0
あらって食べよう、そうだねー、綺麗に切りなおすー?

楽しそうな声が聞こえてくる中、俺はぼんやりと思い出していた。


『わあー、難しそうだねえ』
完全に頭は教科書の世界に入っていたいつもと変わらぬ午後、ふいにあらわれためんま。
揺れる銀髪に、思考が停止したのも覚えている。

『・・・ゆきあつ?』
成長しためんまの可愛さは、どんなものにも変わらない。めんまの心は、あの日と変わらぬ無垢なまま。
どうかしたの、と小首をかしげていた。

『めんまはね、お願いをかなえて欲しいんだと思う』
確かこのとき、意味が分からなかったけれど、ただとにかく俺は思った。
めんまのどこか覚悟したような声に。
もしかして、もしかして、めんまのそのお願いってやつをかなえれば――消えてしまうんじゃないかと、

『ありがとう、ゆきあつ!』
俺の思惑なんて知らず、嬉しそうに微笑むめんま。
可愛くて、愛しくて、後ろめたさもあったけれど、でもめんまが傍にいてくれるならそんなもの、押し潰してやると思っていた。

『秘密基地に、行きたいな』
そう言って、寂しさの影を伴う笑顔をつくるめんま。
どこか遠くを見つめていた青い瞳は、きっと幼少時代の超平和バスターズを思い描いていた。


『・・・ゆきあつ、・・・手・・・いたい・・・』
俯きながら


『めんま、が・・・・見えるの・・・・・・?』
覚えている。
瞳を見開いて動きを止めためんまを。宿海を見るめんまを。一瞬輝いためんまの瞳を。

宿海への煮え滾るような怒りと、あの、切なさを。
だって宿海もめんまが見えるんなら。
――めんまが、二度と俺のもとに戻ってこなくなってしまうんじゃないか。




『いるよ、めんま。』
確かにめんまはいるけど、 いないんだ。
久川も、安城も、鶴見も、めんまのあの切ない笑顔を、しらない。


『ねえ、ゆきあつ!めんま、うれしい!』
なんて清らかな笑顔なんだと俺は思った。
めんまが笑ってくれて嬉しい。
嬉しいのに、悔しい。

俺だけじゃ、駄目なんだ。
俺が傍にいるだけでは、駄目なんだ。
俺はめんまがこうして傍にいてくれるだけで、それだけで――いいのに。



銀色の髪が舞う。
白いワンピースが風をはらんではふくらみ、そして揺れる。

「すいかー!すいかー!」
今尚輝く、めんまの笑顔。




お願いってなんなんだ、めんま。
消えてしまうのか、めんま。


お願いを教えてくれ、めんま。

叶えないから。
105 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2011/10/20(木) 15:57:24.02 ID:cCfnDnxH0

↑すまん、書き忘れ

『・・・ゆきあつ、・・・手・・・いたい・・・』
俯きながら呟くめんまの、白い腕に残る赤いあとと、か細い声。
そっと手を離した時の、切なさとやるせなさ。
独り占めできたらいいのにと、どれほど思ったことか。


106 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2011/10/21(金) 12:45:18.54 ID:3ATmRpB60
「いったん洗わなきゃねー」
「お皿どこ?」
「あー、そこらへんにあるだろ?」
「これか?」
「もっと大きいのないの?」
「めんまも手伝う!」
広がる。


「いいって、お前は」
「えー」
「めんまはどれがいいんだ?」
「んー、めんまはねー、おおきいの!」
広がる。


「大きいの、だってさ」
「合点承知の助ーってな!」
「なんだそりゃ・・・」

「なになにそれー!!ぽっぽおもしろーい!」


めんま、

めんま。
107 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2011/10/27(木) 21:37:47.70 ID:36QPwJs/0
「・・・・・・」
「つるこ?」
「何?」
「どこ見てんの?」
「別に・・・。なんでもないわよ、あなる」
「っ!?あ、あな・・・っ!もー!つるこまでー!!」
「つるこ?」
「・・・あっ!」
「ほら。おあいこでしょ」
「〜〜〜…!」
「早くお皿もって行きましょ」


「ほーらめんま!塩だぞー!」
「おしお?」
「お皿持ってきたわよ」
「おー!ご苦労さん!」
「サンキュ」
「何その塩?」
「すいかに塩かけるだろ?」
「何それ!普通砂糖じゃない?」
「塩かけるだろー!なあ、じんたん?」
「うちは何もかけないけど」
「ええ!?マジかよー!つるこは?」
「うちもスタンダード派ね」
「スタンダード・・・」
「んなこといったってよー・・・めんまだって塩かけた方がいいよなあ?」
「おしおかけたらしょっぱくならないー?」
「塩かけたらしょっぱくなるよ、ってさ」
「だーいじょうぶ!これがまたうまいんだって!ホント!マジ!」
「そーいうもんかなー」
「人それぞれってことね」

「塩派俺1人かよー。なあ、ゆきあつはどーなんだ?」
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/10/31(月) 00:54:16.83 ID:CwDjIn3V0
あの花SSなんて珍しいな
俺も好きなので期待

あとその日の分の投下終わったなら投下終了宣言するといいかも
109 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2011/10/31(月) 20:34:05.27 ID:s1Zs0WsO0
>>108
おお、投下終了宣言・・・。なるほど。そうする!



久川の呼びかけに俺はハッ、と我にかえる。
「・・・ゆきあつ?」
「あ・・・ああ、俺は・・・塩、だな」
皆の視線が俺に集まっていた。めんまも俺のことを見ている。しかし次の瞬間にはすぐに久川の方へと視線を戻してしまうのだった。
「おっ!ゆきあつも塩派じゃねーかー!ほれ見ろ!すいかには塩なんだって!」
「砂糖よ砂糖!」
「いーや、塩だな!なあめんま!」
「めんまは普通に食べるよ?」
「めんまは普通に食べるってさ」
「いや!今日は塩でいこう!うまいからマジ!」
そういうなり久川は、不ぞろいに割れたすいかに塩を豪快にかけまくった。響く安城の絶叫。
「ちょっとー!塩にしたいなら自分のだけかけてよね!!なんであたしまでー・・・」
「それにしたってかけすぎだろ・・・」
騒がしい会話。めんまの言ったことは宿海を介してみんなに届く。めんまが話せば宿海が伝え、めんまに尋ねればめんまが答えたものを宿海が伝え、だからしっかり会話が出来ていた。
めんまは笑っている。あははははと俺の耳に届くめんまの笑い声が、浮かんできた俺の迷いを、自分に対しての疑問を、揺らす。


あの日に戻ったかのような光景の中で、ひとり、俺だけが異質だった。




また明日!
110 :1 ◆BycwRokz6k :2011/11/12(土) 00:54:07.44 ID:xpKjCRB20
「・・・で、どうすっかなあ」
「ネタ切れか、ぽっぽ?」
「鬼ごっこもしたしー・・・あ、あれは!?ドロケー!ドロケーやってないじゃん!」
「・・・嘘、私もう走りたくないわよ」
「つるこは貧弱だなー!」
「・・・」
「どーしようねえ」
めんまは足をぶらぶらさせ、宿海と視線を合わせて笑った。
俺はぎゅっと拳を握り締める。


――深く考える前に、口が勝手に開いていた。
「・・・帰るか」



しん。

秘密基地は、水を打ったかのように静まり返った。
皆が俺を見ている。
驚いたように。

俺は、余裕な表情をつくれているか、自信がない。

「・・・え?」

口元を若干ひきつらせた安城が、短く零した言葉がそれだ。

「お、おい!何言うんだよゆきあつー!まだ始まったばかりだろ?」
「そ、そうよ!何言ってんの」

久川と安城の言葉は、既に耳を通り過ぎていた。俺はめんまに向けられた、どうして?というような絶望の入り混じった視線から逃げる。
「やりたいことはやっただろ?バーベキューに鬼ごっこ、すいかわりだって・・・。
満足だよな?めんま」
「なんで?ゆきあつ、どうして?」
「こうして夜までいたってやることないし。また今度集まってさ」
ここまで言うと、不思議と誰も俺の言葉に同意するやつは出てこなかった。
ただしいんと、人形のように皆、俺を見つめたままだ。


「どうしたの?ゆきあつ・・・、ねえ」

めんまの腕を掴む。
「なんで、いやだよゆきあつ」
「おい、ゆき・・・っ」
宿海がガタリと椅子を押しのけて立ち上がった。
「ねえ、めんままだ、みんなと遊びたいよ!」

めんまはつかまれた腕を揺さぶって、俺を拒絶する。

「やだっ・・・」

「めんま」

「おい、ゆきあ・・・っ!」

じろりと一瞬で宿海を睨む。静止する様子はない、けれど俺はめんまに耳打ちをする。

「何やってんだよ、おい、ゆきあつ!」


・・・・・・覚えてるだろ、めんま。こいつらは一度、めんまと会うのを拒んだんだぞ・・・・・

「そんなの、・・・関係ないよ!だって今、いっしょに」
「ゆきあつ・・・っ!」
めんまと俺の間に、宿海が割って入ってくる。
なんだ、その目。苛つくな。むかしっからお前は正義感溢れる奴だった。でもどうでもいいんだよ。今は違うだろ、お前こんなときばっかりリーダー面しやがって。何睨んでるんだ、それでめんまを守ったつもりなのか。

「邪魔だ。どけよ、宿海」

111 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2011/11/21(月) 01:27:49.09 ID:49jKwMrN0
こうして嫌悪感をあらわにして睨んでも、宿海は怯まない。
すげえな宿海。おまえ、すげえよ。どうしたんだよ、この前はすれ違っただけで肩震わせてたのによ。こんな短期間のうちに、何がお前にこんな度胸あたえたんだ?


めんまの姿が、半分以上宿海で隠れてしまった。けれどめんまの瞳が涙を生み出そうとして潤んでいるのは見えた。
きらりと、もう瞬きをすれば落ちてしまいそうなくらいに涙が溜まっている。


「ゆきあつ・・・お前、どうしたんだよ」
「どうもしてない」
「・・・めんまが・・・っ「めんま」
宿海の発言を押し切り、めんまを呼ぶ。
宿海の後ろでびくりと肩を震わせためんまは、ついに瞳から涙を零した。
ぽつり。

「めんまは俺のところにきたんだろう?」

「っ!!!」
俺の言葉に、めんまはまたも肩を震わせた。

「一番最初に、俺のところに来たんだろ」
めんまは何も言わない。


「もういいだろ」
満足だろ?
そう付け足す。
めんまは何かを言いかけて、やめた。

「帰ろう、めんま」
「おい!ゆきあつ!」
「・・・」
めんまが、そっと宿海の服の端を握った。
それに気づいた宿海がめんまを見下ろすと、めんまは首を2,3横に振る。
「な・・・」
ごめんね、じんたん。

めんまは呟いて、宿海の服から指を離した。

「めんまねっ・・・!皆と会えて、楽しかった、よ」
宿海という盾を通り過ぎためんまは、俺に腕をひかれるままこちらに来た。
しいんとした空気は、宿海の張り上げた声でいっぱいになる。

「めんま!!!」
よし、これでいい。もう宿海は相手にしなくてもいい。
俺はくるりと、開け放してある入り口に向かった。
112 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2011/11/21(月) 01:29:09.64 ID:49jKwMrN0
「めんま!お前・・・っなんでだよ!ゆきあつの言いなりになんなくたっていいだろうが!!めんま!」

「・・・ありがとう、じんたん」

「・・・・・・っありがとうじゃねーよ!!」

「大丈夫だよ、じんたん。・・・大丈夫」

「大丈夫そうな顔かよそれが!」

宿海とめんまの会話を聞きながら、俺の頭に、こんな無理なことをすれば、めんまに嫌われてしまうんじゃないかとの不安がよぎった。
現に、めんまの瞳はまだ潤んでいたし、俺に向ける目つきも、少なくとも好意的なものではない。
…けれど、めんまは俺に、怯えているわけではない。
ほっとして、そのまま歩を進めた。

もうあと一歩で秘密基地を出る、その寸前。
「めんまっ!!!」
まだ諦めない宿海の叫びが、めんまの動きを瞬間、止めた。


ああ。
うるさい。

「めんま、聞くなよ」

ぴくり。
腕から伝わる、めんまの動き。わかりやすいくらいにめんまは動揺している。

・・・・・・・・どうしたんだろう。今日の俺は、驚くほど素直だ。
いつもならつかえてしまって言えない言葉が、こんなに簡単に出てくる。

めんま、俺はもう無理なんてしない。
やっと会えたんだ。
ずっと会いたかったんだ。

「聞かなくて、いいんだ」
めんま、もうお前は。


「そうだろ」

もう、俺のものだ。きっと。




――めんま、わかんないよ。
・・・・・・めんまの呟きが、ポツリと秘密基地に取り残される。それは俺の耳にもしばらく留まって、けれど消えた。
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関東) [sage]:2011/11/23(水) 18:40:11.66 ID:333ioprAO
いつも楽しみにしてる。

ゆきあつに憑いてることで原作とは違ったしこりが生まれつつも
魅力である青酸っぱさナイーブさが損なわれず再現されてるようで、好感触。

がんばって続けてね
114 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2011/12/03(土) 22:52:48.75 ID:IOqROHYa0
>>113
ありがとう、そんな・・・ありがとう。がんばる



* * *
バタン。

部屋の扉を閉める音は、思いの他乱暴に響く。
秘密基地を出たときの、あの空気を引きずったままだったからか、帰り道は会話が一切無かった。
どう見ても不穏な空気だ。それに耐え切れないのか、俺の真正面にいるめんまは斜め下を見ていた。

けれど、その空気を感じるより先に俺はほっとしていた。めんまが俺の部屋にいることが、俺の空間に囲っておけることが――俺を安心させていたのだ。


「めんま」
声をかければ、びくり、とめんまが震えた。
「・・・・・」
同時に、ぎゅっとめんまは拳を握る。めんまは顔を上げずに下を見たまま。
俺はもう、自分のことで精一杯だ。
めんまの悲しそうな表情や、めんまの少し驚いた仕草を見ても、気にしてられなかった。

そっとめんまの肩に手を伸ばす。
意外な事に、今度はめんまはびくつかなかった。ゆっくりと顔を上げ、瞳を見開いためんまは、俺の顔を見たのだ。

「お願いだ。・・・お願いだから」

青い瞳は、じっと俺を見ている。
先ほどまでの、悲しそうな――・・・何処か申し訳なさそうな瞳の色は、どこかに消えてしまっていた。


めんまの、白い、小さな肩。本当に小さな、肩。
青い、ガラス玉より綺麗な瞳。あの頃のままの白いワンピース。


涙が溢れそうになる。
声が震える。
俺は今、どんな顔をしているんだろう。
情けない顔をしているに違いない。だってめんまの瞳にうつっているだろう自分の顔を覗き込もうとするほどの余裕は無いのだから。


「もう、いなくならないでくれ・・・・・・」
めんまの肩に触れる手に力がこもる。

隠していた思いはどんどん俺の口から滑り落ちていく。
「俺のそばにずっといてくれよ・・・・・、めんま・・・・・」
そう言うと、めんまはひゅっと息を呑んだようだった。同時に、めんまの表情が切なく歪む。

「めんま・・・?」


呟けば、めんまの表情はさらに悲しそうなものになった。カッとなって、大きな声を出してめんまに詰め寄る。理性はもうないようだった。
「なら、なんで俺の前に現れたんだよっ!・・・なんで!!」
ぐっ!と感情のままにめんまの肩を強く握ってしまって、めんまが苦痛を耐える表情が薄く重なる。
115 :1 ◆BycwRokz6k :2011/12/03(土) 23:18:42.73 ID:IOqROHYa0
そうだ。何故俺のところに現れたんだ。

最初はめんまが俺に会いに来てくれたのかと思ったのだ。
俺だけに見えるめんま。俺だけが分かる。俺だけの。


「なんで宿海にも見えるんだよ!」

もう泣き出してしまいそうだった。そこまで言うと、めんまはついに口を開いて、激しく反論してくる。
けれどその口調に反して、瞳が涙にきらめいていた。
めんまも泣き出してしまいそうなのだ。

「そんなの!
めんまだってわかんないよっ!」

「!」

「だって!めんま!めんまは!」
ぽろり。
ぽろり。

目の前で涙を流すめんま。動揺して俺は、手の力を緩める。

「・・・・・めんまも・・・っ!・・・『お願い』、叶えて欲しくて・・・・・っ!だから・・・だから、こうして・・・・・」

めんまはがくりと膝を折って、床にへたりこんだ。
両腕で涙を拭いているのが分かる。


俺はめんまの頭と、めんまがしゃくりあげるたびに動く白い肩を見下ろして、呆然と考えていた。


『お願い』?
無理だよ。無理だ、俺には、無理だ。

だって、おかしいじゃないか。
二度と会えないはずだった、ずっと好きだった初恋の女の子にまた会えたんだぞ。
ずっと会いたかった女の子に、会えたんだぞ。

嘘じゃないんだろ?
夢じゃないんだろ?

消えると知って、どうして消すだろう。
叶える訳がない。誰だってきっとそうだ。やっと手に入った大切なものを、消すために努力するなんて、しない。

・・・・・・あのときの返事だって、ちゃんと聞いてないのに。


――最初から、宿海のもとに現れていればよかったんだ。



いつのまにか、雨が降り始めていた。
昼の暑さをかき消すかのように、雨足は強くなっていく。

それでもどこからか、まだ、蝉の声が聞こえていた。




ごめん、これから一週間くらいはまた更新できそうに無い。すまない。
116 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 14:49:17.49 ID:showqB1Fo
お気に入り追加したぜ
待ってる。乙!
117 :1 ◆BycwRokz6k :2011/12/19(月) 22:48:28.47 ID:UQ7oUQN70
いつも遅くてゴメンな。色々用事が終わったよ。がんばる!
>>116
ありがとう、がんばるぜ



* * *
蝉が、鳴いている。
頬を撫でる熱風。

――夏は、まだ終わらない。

8月も中盤に差し掛かった今日この頃、これから俺は1週間は学校に登校しなくてはならない。
自由参加の選択授業があるのだ。本当ならば受けたくはなかったのだが、文化祭のしたくもあるというから、ついでに。
「ちょっと、・・・集!」
「なんだよ」
振り返ると鶴見がいた。だいぶ息を切らしている。
「朝は・・・っ「おう。久しぶりだな」
「・・・・・。」
「なんか言ったか?」
「・・・・・そうね」
「で、用でもあるのか」
「・・・別に、ないけど」
「そうか。一緒にいくか?」
「・・・・・」
鶴見は何度か荒く息を吸って吐いて、呼吸を整えてから、俺を見据えた。
つかつかつか、と。歩み寄り、・・・ではなく。
「けっこうよ!」
俺の横を通り過ぎた。

(なんだ、ヘンな奴)


それにしても暑い。
今日も何か買って帰ろうか。めんまも暇して待ってるだろうし。
一応、ゲームはあるか。まだクリアしてないだろうから、…アイスでも買って帰ろう。

帰宅の計画もしっかり立てたところで、校舎内に入ったのだった。




* * *
めんまは家にいるだろうか。
また、散歩にいってるかもしれない。

岐路に着いた俺は、買ったばかりのコンビニ袋を片手に引っさげて、7月26日…つまり、超平和バスターズで集まった日の翌日のめんまのことを思い出していた。


あの日の朝、めんまは赤くはらしたような目で、俺が目を覚ましたとたんにこう言った。

   めんまね!お願い叶えてほしいけど、どうしてお願い叶えてほしいのか、わからないの!
   お願いも、わからないし。
   じょうぶつ、っていうのをするためなのかな?
   めんま、これから何していいか、いつまでいれるのか、あと、なんでいるのか、色々わかんないことばっかだけど、
   ちゃんと、ちゃんと考えるね。
   だってめんまには、それしか、それくらいしかできないから・・・
最初にはいつものような、元気な顔をしていたのに、最後の方で力なく笑っためんまは、明らかに迷っているようだった。
一晩中泣いて悩んでいたのだろう。でも、どうしたらいいのか、本格的にわからないようだ。


   ゆきあつ、ゆきあつはめんまに、消えて欲しくないんでしょ?
   でもね、めんまはきっと、それはできないよ?
   だって・・・・・・・めんま、いつか消えちゃうと思う!ずーっと幽霊のまま、ここにいられないと思う!
   結局消えちゃうなら、お願い、叶えてから消えたいよ、めんまは。
   だってめんまは、お願い叶えてほしくて、きたんだよ。
   どうしてかは、わからないけど・・・とにかく、お願い叶えて欲しくてきたの!
   だからね、・・・だからね、ごめんねゆきあつ。
   めんまもね、お願いかなえてかなえてって、いうだけじゃなくて、ちゃんと考えるから。
   あれ?さっきと言ってること、おんなじになっちゃったね

118 :1 ◆BycwRokz6k :2011/12/19(月) 23:12:06.01 ID:UQ7oUQN70
めんまは、困ったように笑った。けれど急に表情を変えて、ぱちりと手を打った。

   あとねめんま、考えたの!
   めんまがゆきあつのところに、一番最初に現れたのは、
   ゆきあつにしか出来ないことがあるからなんだよ!
   じんたんは、ゆきあつの次くらいにできることが・・・

先ほどの笑顔とは違って、いつものめんまの表情と、あわあわと忙しく手を動かす様子が、とても微笑ましかった。

   「じゃあ、俺が一番ってことか?」
   へ?
   「とにかく、俺が一番なんだよな?」
   うーん?えーとお・・・?・・・たぶん?たぶん、そう。めんま理論でいうと!

俺は、馬鹿なんだ。
『何の』一番かはわからないけれど、『一番』とめんまに認めてもらえたことがたまらなく嬉しかったらしい。
119 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/19(月) 23:35:04.26 ID:CD70aG/AO
それは…
120 :1 ◆BycwRokz6k :2011/12/27(火) 18:45:25.87 ID:XcIGF8xl0

そして、そして、そのとき目の前にあっためんまの笑顔がとても可愛くて、
元気の無い顔より、困った笑顔より、泣き顔より、何よりもやはり笑顔が可愛かったから、言ってしまったんだ。

   「お願い分かったら、言ってくれ」

と。
この台詞の後、めんまは本当に嬉しそうに、うん、と笑った。



非常に体裁のいい台詞だと思った。
お願いを教えてくれとは言ったけれど、でも俺は、協力するとも叶えるとも、言っていない。


(めんまをできることなら泣かせたくない。
だったら、嘘はつけない。
でも俺だって、辛い思いはしたくない。)
大丈夫だ。すべて解決。
めんまがお願いを思い出したら、それを教えてもらって、叶わないよう細工すればいいんだろ?

嘘はつかなくていい。手間はかかるかもしれないが、結局は最初と同じってわけだ。


* * *
家に辿り着く。
帰るなり自室へ向かい、ドアを開けるのと同時にめんま、と声をかけてみるが返事は無かった。
(出かけたのか・・・)
毎回毎回何処に行っているのだろうか。まあ、すぐに帰ってくるから外出も許してはいるが。

ふと、生ぬるい風が強めに吹きこんできた。
「?」
窓が開いているのだ。大きいものが何か動いていると思ったらカーテンだった。
めんまが窓を開けっ放しにしていってしまったようだ。網戸はしめてくれといつも頼んでいるのに。
風が止まない。カーテンが風に押されて、何度も何度もはためいた。




アイスが溶けてしまわぬうちに、リビングに向かう。
めんまが帰ってくるまで、何をしていようか。

121 :1 ◆BycwRokz6k :2012/01/04(水) 23:06:03.32 ID:aW+AGva/0
アイスをしっかり冷凍庫に入れた後、することもないので部屋に戻る。
開けっ放しにしている窓に手をかけて、なんとなく道路を見つめた。もしかしたらめんまが帰ってくるかもしれないと期待していたが、そうタイミング良くいくわけも無い。数分もしないうちに視線を部屋に戻し、網戸を閉めた。

椅子に腰掛け、机を見ると、何故か広げられたままのテキスト。風がめくったのか、興味を示しためんまが開いたのかはわからないが、場所を取られるのは嫌なので閉じ、机の端に寄せる。・・・どうせ後でやることになるのだ。

(めんまは、まだか)
時間は2時半。
(ちゃんと昼飯は食べたかな)
ああ、何処にいっているのだろう。探しにいこうか。
(でもいつもこのくらいには帰ってくるしな)
入れ違いになるのはごめんだしな。

はー、と大きく溜息をつく。非常に手持ちぶさたである。
何もすることは無い。この瞬間。張り切ってロードワークに行こうと言う気持ちでもないし、勉強に集中しようという気持ちでもない。ただ、この時間帯はめんまを待つ時間だということは、最近体に身についた。
暇だが、苦痛ではない。
何処となく幸せでもある。


めんまを待つ――・・・か。
前までは考えられないことだったな。


ふう、と息をついて、そういえば制服だったということに気付く。
今のうちに着替えておくことにした。

制服は微妙に窮屈だが、嫌いではない。何でだろうな。

122 :1 ◆BycwRokz6k :2012/01/22(日) 22:31:18.99 ID:bz+3+roO0

今日は日差しが強い。帰り道、道路際に咲く花も力なく首をもたげていた。カラカラのアスファルトに照り返す太陽光が、また地上の温度を上げているのだ。夏の午後は本当に暑い。



「たっだいまー!」
一階から元気な声。
座っていた椅子から腰を上げる。トントントントンと、階段をあがってくる音に、心が躍った。

「あ、ゆきあつ!」
ドアの隙間から顔を見せためんまは、にこりと笑って俺におかえり、と言ってくれた。
「めんま!・・・おかえり」
「うん、ただいまー!」
部屋に入ってきためんまはころりと床に寝転がり、クッションに顔を乗せて一息ついた。つかれたあー、と呟くめんまが浮かべるのは、言葉と裏腹にうれしそうな顔。
俺はなんとなしに尋ねる。
「めんま、最近どこにいってるんだ?」
「んー?」
「最近よく出かけるだろ?」
「えとねー・・・」
めんまは言いかけて、口をつぐんだ。
宙に視線を漂わせ、思案するポーズを見せた数秒の後に、
「なんでもないよっ!」
――と。
めんまはそれをいうやいなや、ぼふっ!とクッションに顔をうずめた。

・・・怪しい。

(なんだ、あの反応は・・・?ただの散歩じゃなかったのか?)


「・・・アイス、買ってきたんだ。今持ってくる」
「!やったー!わーい!」
がばっとクッションから顔をあげためんまに笑いかけて、一階の冷蔵庫に向かった。
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2012/01/22(日) 23:23:32.79 ID:OcerNUrAO
読みやすくて面白いな
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [sage]:2012/01/23(月) 00:17:51.82 ID:EEmCDWclo
しかも面白い
125 :1 ◆BycwRokz6k :2012/01/28(土) 02:26:47.25 ID:e9IHCWlV0
>>123
>>124
そんな・・・滅相もない。でもうれしいです、ありがとう!



冷蔵庫を開けると、白い冷気が立ち上った。こんなに暑いと、冷蔵庫の冷気も心地よい。
買ったばかりのアイスを2つ取り出す。どちらもソーダ味。おそろいだ。

「わー!ソーダ味だ!」
「ああ。この前、めんまが喜んでたからな」
「めんまはアイスなら何だって好き!」
「はは。
確かにそうかもな」
そう笑いながらアイスを手渡す。
「ほら」
「わーい!」
うれしそうに、ぎざぎざした開け口に手をかけるめんま。
俺はアイスよりも先に、そういえば回し忘れていた扇風機のスイッチを入れた。ブー、と扇風機の音。夏らしくて、良い。

「お」
袋を開けるとき、ぺりりと音がした。持って帰ってくるときに少し溶けてしまっていたのかもしれない。めんまの分の袋も一緒にゴミ箱に捨てる。
めんまは早速アイスに齧りついていた。
「ふへひゃーい!」
「なんて言ってるのかわかんないぞ、めんま」
「えへへへー」

カーテンが、網戸からの生ぬるい風で揺れる。
めんまと俺の髪も服も、扇風機からの、冷たいかと思いきや予想外にぬるい風で揺れる。


こうして俺の部屋で、2人だけでアイスを食べる日が来るとは。
隣のめんまを横目で気にしながら思う。

意外と、めんま達を俺の部屋に連れてくることは少なかった。子供の頃は、俺のうちで遊ぶよりは、宿海や安城の家で遊ぶことが多く、またそれよりは、外で遊ぶことのほうが多かったから。
それにいつも6人だったから、めんまと2人でいるなんてことはめったになかった。

好きな相手と2人だけで過ごす時間。平和な時間。ただ隣にいれる時間。
(報われたぞ、俺)
良かったな、なんて、実は必死にめんまを追いかけていた子供の頃の自分に、呑気に投げかけてみた。

「あー!ゆきあつ、溶けてるよ!」
「・・・え?」
はっとしてアイスをみると、めんまの言うとおり、下のほうが溶けてきていた。指には冷たくもぬるくもない液体の感触。
・・・夏の暑さを舐めていた訳じゃないが、そういや、食べる手が止まっていたかもしれない。見れば、めんまのアイスは3分の2くらい減っているのに対して、俺のアイスは3分の1も減っていなかった。

「あーあー、あ、そうだ!ティッシュティッシュティッシュ!」
当の本人である俺よりも大騒ぎしながら、めんまがティッシュを俺に渡した。
「あ、ありがとなめんま」
「はやく拭いて拭いて!」
と、めんまはアイスを片手に、アイスを溶かしてしまった俺を応援(?)してくれている。
急かされた俺は、なるべく早くアイスの液に浸食された持ち手の棒や自分の指を拭く。そして下のほうの溶けかかる部分を、少しはしたないかもしれないが舐めてどうにかする。
一安心だ(指先に甘いにおいとべたつきが残ってはいたが)。めんまも一息ついている。

「もー、ぼーっとしてちゃ駄目だよ!アイスはね、すぐ溶けるんだからっ!」
「ああ、確かにそうだな・・・って、めんま!」
「え?」
めんまが小首をかしげる。
めんまは気付いていない。めんまが右手に持つそのアイスも、大変な事態になっていることを。
「めんまも溶けてるぞ!」
「えっ?」
さっと片手を確認するめんま。
めんまが持ち手を傾きがちに持っていたアイス。半分以上食べられたアイスの、その下端に、今にも落ちそうになっている水色のしずく。
「あ、あーーー!ほんとだーー!」
ティッシュティッシュティッシュ、とあたりを見渡すめんまの姿が可笑しくて可愛くて、俺は自然とこみあげてくる笑いをこらえることができなかったのだった。



126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/29(日) 20:20:18.29 ID:we7qaldDO
追いついてしまった

続き期待
127 :1 ◆BycwRokz6k :2012/02/07(火) 21:28:34.09 ID:C1Hww1xC0

幸せだ、と心の中でつぶやく。
もう何度目だろうか。数えてはいないけれど、めんまが来てから、この言葉を呟くことが多くなった。

(幸せだ)

めんまがいなくなってから、ずっとずっと祈って望んできた。
めんまの笑顔をまた見たいと。

『お願い』だって、俺が消すよ。
いいや、めんま自身が『お願い』なんて忘れるくらい、この俺がいる世界を楽しめばいいんだ。

(幸せだ)

ただ、幸せだ。
いつか消えるのだろう、なんて、考えもしない。


考えもしない。
128 :1 ◆BycwRokz6k :2012/02/13(月) 00:40:35.94 ID:JW7FGhsL0
>>126
ありがとう!

+ + +
秘密基地の山道を。
コンビニが近くに見える横断歩道を。
川の見える歩道橋を。
ゆきあつに手を引かれて、通り過ぎた。

前にも、こんな風に帰ったことがあった。
あれは、めんまが秘密基地にいきたいな、っていって、連れて行ってもらって、偶然ぽっぽと会ったとき。
やっぱりゆきあつは、あのときも怒っていた。
でもあのときは、途中でじんたんと会ったんだっけ・・・。


ゆきあつの部屋に入ると、ドン!と扉が閉められたから、怖くてうつむいてしまった。
「めんま」
・・・やっぱり、怒ってる。
めんま、どうすればいいんだろう。

肩にゆきあつの手が置かれたとき、ゆきあつの手が、震えていた。
ゆきあつは、心細いのかもしれない。
そっと見上げたそこにあった、ゆきあつの、もう、今にも泣いちゃいそうな、すがるような目つきを、今でも覚えている。




ゆきあつは・・・





ミーンミーン・・・
「!」
ぱっと目を覚ますと、そこはゆきあつの部屋だった。
せみが、鳴いてる。そのせみの声が、だんだんと夢と今とをはなしていく。

そっか。夢だったんだ。

幽霊も夢なんか見るんだ。じんたんのお母さん、知ってた?めんまは幽霊になって、たぶんはじめてみたかも。夢なんて。

「おはよう、めんま」
「おはよう、ゆきあつ」
「今日は遅かったな、もう9時だぞ」
泣きそうなゆきあつ。
悲しそうなゆきあつ。
夢の中のゆきあつと、目の前にいるゆきあつが重なっている。

「めんま?」
はっ。
ぼーっとしてしまっていた。
目の前のゆきあつは、不思議そうな顔をしている。

「・・・今日は眠かったみたい」
「そうか。夜更かしはあんまりしないほうがいいぞ」
「うん」


あの日の夢だった。



+ + +
どうろ。
ポスト。
公園。
駅。
秘密基地。
(・・・超平和バスターズ)
町はなんだか、どこもかしこも懐かしい。
でも、めんまが知ってる町とは全部一緒なわけじゃなくて、不思議な感じ。
たとえば、あのコンビニの近くの横断歩道の白い部分なんて、めんまのいたころははげはげだったのに、今じゃきれいに真っ白になってる。ふみがいがありそう!
あと、公園と家の間に立ってるおっきな木も、切られちゃったのか、切りかぶみたいになってる。
あそこの塾もなくなって、よくわからない張り紙がいっぱい張ってある。

めんまのいない間に、新しくなっているんだ。

129 :1 ◆BycwRokz6k :2012/02/13(月) 00:43:06.72 ID:JW7FGhsL0

今は1時。街中を歩いているのに、お昼の時間だからか、人はあんましいない。
めんまはしっかりたべたもんねー。今日はねー、チャーハンだったよ!


人はあんましいないけど、いないわけじゃない。
何人か人と通り過ぎる。けれど、誰もめんまに気づかない。
めんまは『幽霊』だから。
・・・なんでじんたんやゆきあつにはめんまが見えるんだろう?




「あっ!」
揺れてる茶色いしっぽ。
「猫さん発見!」
「フニャーッ」
触ろうとして手を伸ばしたちょうどその時、猫は振り返って、どこかに走っていった。
「残念・・・」

ねえ、じんたんのお母さん。犬とか、猫とかはね、人が見えないものも見えるのかもしれません。
めんま、よくほえられたり、見られたりするもん。
ほえられると、ちょっと寂しいね。『あっちいけ』って、言われてるみたいで。



めんまはここ最近、ずっと散歩にでかけているけれど、いまだに、超平和バスターズで集まって遊んだあの日のことが忘れられない。んー、今日は、8月の13日だから、25ひく13・・・?あれ、ちがう。えーと、31ひく25たす13?えーとだから、8たす13・・・で、21!
21だから、もう3週間も前になる。それなのに忘れられない。
楽しかったけれど、それだけじゃなかったからかなあ。
あの日の夕方ころ、みんなより先に、ゆきあつと家に帰っちゃった。
・・・それが、こころのこり。

130 :1 ◆BycwRokz6k :2012/02/24(金) 19:16:28.97 ID:dUYgT0F00

ゆきあつは、めんまに消えてほしくないそうです。
そういう風なことを、ゆきあつに言われたから。でも、めんまは、それを聞いてもうれしくなれなかった。
なんでだろう・・・。
やっぱりよくないことだからかな?

(ゆきあつは、生まれ変わりって知ってるかな・・)
信じるかな、それとも・・・。
(じんたんは・・・)
信じるかな、どうかな・・・。


いなくならないでっていったときのゆきあつのお顔、普段ゆきあつがめんまと一緒にいるときのお顔と、まるで正反対だった。
あのね、ゆきあつ、泣きそうだったの。
怒ってて、悲しんでいた。
めんまは、そのとき、目の前にあった、涙があふれそうなゆきあつの瞳を見つめながら、泣かないで、って、そんなことを、冷静に考えていた。

だって、泣いてほしくなかった。
いやだった。

その次の日、めんまとゆきあつはお話をしたの。
めんまは、ずっとずっと解決するつもりで、でも自分じゃわからないからって、頼ってばかりで、ほったらかしにしていた『お願い』を、しっかり考えるよって言いました。
ゆきあつは、ちょっと黙ってから、
『お願い分かったら,
言ってくれ』
っていってくれた。

ちょっと、ゆきあつの気持ちは、やわらいだのかな?って思った。
131 :1 ◆BycwRokz6k :2012/03/04(日) 15:25:45.77 ID:MgyXms+a0

(なつかしいなあ)
それもけっこう前のこと。
あれから、みんなとは会ってない。
町を歩いていても、見かけない。

・・・みんな、怒ってないかなあ。
大丈夫かなあ。
・・・じんたん、めんまの名前、よんでくれてたなあ・・・。

みんなに、会いたいなあ。
超平和バスターズのみんなと、また、遊びたいなあ。




「・・・あ」
小学校のところの時計が、3時を示していた。
もう帰んなきゃ。
1回、夕方ごろに帰ったとき、ゆきあつにすごく心配されたから。
顔をすごく辛そうにしかめていたから、もう遅くに帰っちゃだめなの。めんまは決めたの。


「たっだいまー!」
「おかえり、めんま」
「ゆきあつもおかえりー!」
「めんま。お腹すいてないか?」
「うーん、ごぶごぶってところかな?」
「五分五分・・・?」




めんまには、超平和バスターズのほかにも、ずっと気になっていたことがあるの。
・・・めんまのおうち。

めんま、こっちに来てからゆきあつのおうちに住んでて、ほかにはほとんど外に行かなかったから・・・。



明日。・・・明日、行ってみよう。

+ + +

今日が決行の日。
ゆきあつは夏休みだけど今日も学校だから、いない。
ちょうどお昼の時間かあ・・・めんまのおうちのお昼ご飯なんだろ?

思い出す。
めんまの部屋。白い壁。屋根。玄関。小さなお庭・・・。

うれしいような、懐かしいような、・・・ちょっと怖いような、不思議な気持ち。
扉をそっと開ける。
「いってきまーす」

もちろん、誰の「いってらっしゃい」もない。


132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/05(月) 18:51:42.12 ID:Q7owqB2DO
133 :1 ◆BycwRokz6k :2012/03/09(金) 21:31:52.01 ID:pZ/tH/qm0

+ + +
「・・・わあ」
道のりは、ちゃんと覚えていた。

どこにでもあるようなおうちだけど、ちゃんと『本間』の表札がかかげられている。
とても懐かしい懐かしい、めんまのおうち。
目の前に立つそれに、めんまは、ちょっとだけ目を奪われていた。


「・・・めんまの、おうちだあ」

・・・なんだろ。
玄関のところ、こんなにせまかったっけ。ドアも、このところの壁も、こんなに低かったっけ・・・?
「わ、・・・あれえ?」
ぽろり。
ほっぺに水。

なみだ。

「こんなことで泣いてちゃ・・・だめ」

涙をぐいっと乱暴にぬぐって、めんまはおうちを見据えた。

「めんま、ファイトお!」
ちっちゃくガッツポーズ。


「おじゃましまあーす・・・」
ただいまのがよかったかなあ?っていっても、どうせめんまの声は誰にも聞こえないんだけどね!
静かに静かにドアを閉める。
玄関のところに、靴はひとつしかおいてない。きっとママの。
さーくんは、部活かな?じんたんが高校生ってことは、もう中学生だもんね。
パパは、まだお仕事かな?今日は月曜日だもんね、めんまたちがお休みでも、パパたちはお仕事忙しいんだもんね。


静かに静かに廊下を渡る。
床の感触も、壁の色も、
匂いも、
なつかしい。

リビングへの扉は開いてたから、やっぱり静かに入ると、白い髪が目に入った。


「・・・ママ?」
ママだ。


肌が白くて、目が青くて、やさしいママ。
ちょっとだけ、年取っちゃったかな。
でも・・・。

134 :1 ◆BycwRokz6k :2012/03/09(金) 21:34:34.71 ID:pZ/tH/qm0

(・・・あ)
畳の部屋に仏壇をあるのを見つけた。
たぶん、めんまのだ。

たたた、と駆け寄る。



「・・・めんまがいる」

額縁の中で、お祭りの屋台を背景にめんまが笑っていた。
写真の隣には、お花が飾ってある。
お花が新しい。ちゃんと、替えてくれてるんだね・・・


「ママ・・・。」


来よう、って思い始めたときは、あんなにワクワクしてたのに。
いざとなっておうちに入ったら、こんなに悲しい気持ちになるなんて。
・・・・・思わなかった・・・・・。


目のところがあつくなる。
じわじわ、あつくなる。
そしてこんどは、目の前の世界がゆがむ。
まばたきひとつしたら、生まれた涙が落ちる。
それがわかるから、急いで目をこすった。

泣いてばっかりだ、めんまは。


「めんま・・・は」

ママは、椅子に腰掛けて頬杖をつきながら、テレビをぼんやり見ている。

「めんまは・・・ね・・・ママ・・・」

返事が無いと分かっていても、話しかける。
こんなに近くにめんまはいるけど、ママは気づかない。ママは分からない。
ママの世界だと、めんまの声なんてどこにもなくて、このリビングではテレビの音しか響いてないの。
『人』との距離が、とおい。


「こうやって死んじゃって・・・幽霊になって・・・ずっとゆきあつのおうちにいる・・・けど・・・・・」

いつまでこうしていられるんだろう?


そう思うと、もう声にはならなかった。


めんまは、消えなくちゃって、成仏しなくちゃって思うのに、少しだけそれが寂しいと思ってる。
ゆきあつに、あんなに偉そうに『お願いしっかり考えるよ』なんていってるくせに、頭だと分かってるのに、でも、まだ『寂しい』。

ママは、ぼんやりテレビを見続けている。

「でも・・・消えなくちゃ・・・」

ママ。
きっと、さーくんやパパと、仲良くね。
幸せになってね。


「成仏しなくちゃ。」


立ち上がった時に、ママが一瞬こっちを見たような気がした。

135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/09(金) 23:25:17.96 ID:9euIilcDO
一気に読んだ
表現とか素敵だよね。涙腺弱くなるわ…
136 :1 ◆BycwRokz6k :2012/03/13(火) 16:10:12.07 ID:mJKuvJqj0
>>133>>135
ありがとう。もっとがんばるぜ


+ + +
(今日はもう、帰ろうかなあ・・・)


俯きながら、めんまは歩いていた。コンクリートに木の影は映っても、めんまの影が映らないのには、もう慣れたよ。
いつもの散歩終了の時間まで、まだたくさん時間はあったけど・・・。もう今日は、散歩をする気になれない。
蝉の音も、すれ違う人の足音も、ぼんやり遠く聞こえる。

――がさっ!


「?」

何の音だろう、と思ったら、誰かが荷物を落としちゃったみたい。目の前で、ちゃんと中身の入ったコンビニ袋が地面に落ちていた。
拾わないのかな?

「な・・・な・・・」

ちっちゃな声が。
その声が聞き覚えのあるように思えたから、顔を上げるとそこには、
はねはねの黒い髪で、赤いTシャツを着て、メガネをかけた人。
それは、よく知ってる顔。


「お前・・・!」




わなわなとめんまに指をさしてる
じんたん。



・・・じんたん?

137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/17(土) 01:08:10.48 ID:xmRsO7TSO
追いついた!
待機!
138 :1 ◆BycwRokz6k :2012/03/19(月) 16:03:03.43 ID:CANSaD0U0
「め・・・っ、めんま?」

じんたん、だめだよ。めんまのこと、見えてるのじんたんだけなんだよ。話しかけたら変だよ、周りの人が見てるよ?

「なんでこんなとこに・・・っ」

じんたん。
じんたん、久しぶりだね・・・
メガネ、じんたん、似合わないのに。どうしてつけてるの・・・


「じんたん・・・」

あ。
「・・・・・っ」


「!?ちょ、おい!」

じんたん・・・、
めんまは・・・ごめんね、ああ、だめだなあ・・・。
我慢できないよ、ごめんね・・・

じんたんを見たら、何故か急に涙が溢れ出してきた。アスファルトに落ちていくと丸く形を残す。
「泣くなよ・・・ってこれじゃ俺ただの変な人・・・ああもう!ちょっ・・・来い!」
「や・・・まって・・・・・・じんたんっ・・」
「はあ!?」
「にもつ・・ひっくう・・・・・っにもつ忘れてるう・・・っ」
「えっ!?あ、あーマジだ!」
こくこくうなずく。ガサリと荷物を拾って、あたりをきょろきょろ見回す。
「ほら、行くぞ・・・」
めんまの手を引くじんたん。
「・・・おい、めんま」
「じんたん・・・っ」
「・・・なんだよ?」
「ありがとうは・・・っ?」
ぐすん。
ごしごし。
こすりすぎて目がいたくなっちゃった。

「は・・・・」
「お礼・・・言わなきゃ、だめなんだよ・・・っあい、さつは・・っ大切なんだよ」
「・・・・・・・ありがとう?」
「うん・・・、っ・・・えへへ・・・」

泣いているのに可笑しいなんて、変。
へんなやつ、とじんたんにも言われてしまった。
139 :1 ◆BycwRokz6k :2012/03/19(月) 16:31:48.44 ID:CANSaD0U0

+ + +
結局、外は暑いし、いい具合に人の目をかわせる場所もないので、じんたんのおうちにいくことになった。

「うわー・・・じんたんのおうちだあー・・・」

木の壁。広いリビング(居間っていうのかなあ?)。かわらないなあ、と思っていると、めんまの目の前にお茶が出された。

「麦茶だけど」
「ありがとー!」
「おー。・・・で、なんでお前外に出てるんだよ?ゆきあつは?」
「散歩だよ、散歩っ」
「散歩って・・・まさか黙ってしてるんじゃ・・・」
「ううん、ちゃんとゆきあつも知ってるよ!」
ゴクゴクと、自分の分の麦茶を飲みきって、息をつくじんたん。のど渇いてたんだね。
「そー・・・なのか?」
「うん。3時くらいまでならいいの。だから最近ずっと、めんま散歩してるの・・・」
「お前・・・にしたって誰かに見つかったりとか・・・」
「だってめんまのこと見える人、じんたんとゆきあつ以外にいないもん。あ、ネコさんとかにはよくにらまれるけど!」
「・・・お前なあ・・・」
はーー、とじんたんは大きな溜息をついた。
めんまはその時、はっ、と、あの、超平和バスターズで集まった日のことを、思い出した。そうしたら謝らずにはいられなくて、めんまはじんたんに言った。

「ごめんね・・・」

そういうと、不思議そうに目をしばたたかせるじんたん。
「・・・なんで、謝るんだよ?」
「ゆきあつと、めんまが・・・あのとき・・・・・急にかえちゃったから」
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/03/20(火) 23:30:03.79 ID:7qj/CAd10
おもしろくて引き込まれます
頑張ってください楽しみにしてます!!
141 :1 ◆BycwRokz6k :2012/03/27(火) 22:50:59.99 ID:zgSE9+pB0

ちょっと静かになる。じんたんはちょっとだけ、めんまから目線をそらしたように見えた。

「――ああ」

「みんな・・・何か、いってた?」
「・・・・・・」

(・・・・・っ)
じんたんの無言に身構える。
・・・こわい。

みんなの様子を聞くのが、こわい。

どうしよう、めんまのことを怒ってたら。
どうしよう、ゆきあつのことを怒ってたら。
・・・どうしよう。みんなに嫌われてたら。
ぎゅっとスカートを握る。そういったつもりはないけど、じんたんの顔を見るのが怖くて、俯いた。

「何も。」
「え」

「何も言ってない」
「・・・ほんとに?」
顔を上げてじんたんを見つめる。
じんたんは特に変わった様子もなくて、普通の顔をして言った。
「何で嘘つかなきゃならねーんだよ。あの後はー・・・まあ、ばらばら帰ってさ・・・」
「そうなの?」
「そ」
「そのあとは?みんなであったり・・・」
「してねえよ」

そうか。お開きになっちゃったのかあ。
・・・めんまが、結果的には、みんなをバラバラにしちゃった。

・・・そう、だったのかあ・・・。

ほっとしたような、がっかりしたような、そんな気分でいると。じんたんがなんだか言いづらそうに、もごもごと喋った。
「・・・てか、大丈夫だったのかよ」

よくわからなかったから、たずねる。
「・・・?何が?」
「めんまがだよ、めんま!」
「え?」
「ゆきあつ怒ってたろ・・・なんか、・・・すげえ。だからなんか・・・」

ぱっと思い出す。

ゆきあつは怒ってた。
そして、悲しんでた。

「うん・・・大丈夫」

そう。ゆきあつは、悲しんでいたから。
ゆきあつも色んなことおもってたんだもんね。

「ゆきあつも、たいへんなんだよ」
にへへと笑ってみると、じんたんはちょっと変な顔をしてから言った。
「まー、なら、いいけど」
「うん・・・っあ!」
「?」

めんまが言葉をいいかけてやめたからか、じんたんは不思議そうにこっちをみる。
めんまは、思い出した。
ちゃんとじんたんに言いたいことあったの!

「じんたん!」
「!?」
「あのとき、めんまの名前、呼んでくれて、ありがとね」

目を丸くするじんたん。
めんま、あのときのじんたん、よく覚えてるよ。
秘密基地をでる瞬間まで、めんまの名前を呼んでくれてたこと。
めんまのことを心配してくれて、ゆきあつのこと、止めようとしてくれた。
これじゃ、ゆきあつが悪いみたいな言い方になっちゃうから、あんまりよくないかな?
142 :1 ◆BycwRokz6k :2012/04/04(水) 18:00:46.16 ID:Pr4nfihW0
「おっきなこえだった」

思えばじんたんには、よく、めんまの名前を呼ばせてしまったような気がする。
けっこう前だけど、ゆきあつのうちまで来て、玄関のとこから、めんまの名前を呼んでくれたときもあったよね。めんまおぼえてるんだよ!

「ありがとう、じんたん・・・」

めんまがお礼を言うと、じんたんはなんだか、ちょっと俯きがちになって、黙ってしまった。
???


「じんたん?」
「・・・・な、なんだよ」
「・・・?どうしたの?」
「どうもしてねーよ」
「してるよー!下向いてるもん!」
「あーもう!うっせー!」

と、言うなり、顔を机に伏せてしまったので、めんまはひとり首をかしげることしかできなかった。

「ねーじんたん」
「・・・」
「じんたんってばー!」
「・・・なんだよ」

くぐもった声。
聞こえづらいでしょっ!お顔をあげなさい!

「じんたん顔あげてー」
「やだ」
「やだじゃないのっ!」

しーん。
まったく。何をそうめんどくさがるんだかじんたんは。
もしかして眠くなってきちゃったとか。うんうん、わかるわかる。めんまもよくその格好で寝るよ。下向いてると眠くなるよね!

「むー。
・・・あ。夏休みももうちょっとだねえ」
「唐突だな・・・」
「じんたんは学校行かないの?」
「はっ?」

とたんに、じんたんは顔を上げる。ありゃ。何故かむすっとしてる。

143 :1 ◆BycwRokz6k :2012/04/04(水) 18:05:06.22 ID:Pr4nfihW0
「なんでだよ」
「だって、ゆきあつは学校いってるよ?ぶんかさいだって」
「文化祭・・・・・・?」

じんたんは急に気の抜けたような表情になって、ほっとしたような声でつぶやいた。

「あー。夏休み中な・・」
「?」
「いや、なんでも・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「じんたんは?」
「いや、俺はそういうのじゃないし・・・」
「ふーん!じんたん学校たのしーい?」
「・・・・・」
「じんたん?」
「い、いや・・・べつに」
「べつにってなにさー!高校って、小学校とちがうんでしょ?ねーねー!なにがちがうの?ともだちは?ごはんは?」

しーん。
じんたんは口を閉じてしまった。
静まり返る部屋。
しばらくの間のあと。
言いづらそうに、じんたんは言った。

「っつーか・・・行ってない」
「いってないって?」
「・・・・・学校にだよ」
「えー!?なんでー!だめだよ!」

しょうげきのこくはく。
ゆさゆさゆさゆさとじんたんを揺さぶるけど、じんたんの苦そうな表情はかわらない。
視線を外して、ばつが悪そうに床を見るじんたん。

「・・・むー」

どうして学校にいかないんだろう?
何か理由があるのかなあ?お勉強難しいとか。給食がおいしくないとか。

(めんまにはわからん!)
「まあめんまはいつだっておやすみだけど!じんたんが学校おやすみなのよりずっとおやすみ!」
「お前・・・それ、慰めてるつもりかよ?」
「・・・・・・えへへー・・・ばれたか」

はあ、とじんたんの溜息。

「・・・へったくそなフォローの仕方」
「じんたんがさせたんでしょー!」
「へいへい」
144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/08(日) 22:02:02.24 ID:j9yIk0Oso


ゆきあつだよ、やっぱり
145 :1 ◆BycwRokz6k :2012/04/10(火) 20:04:37.51 ID:QG35qQvx0

+ + +
「あっ!めんまもう帰らないと!」
気がつけば、もう3時。そろそろ帰らないと、ゆきあつが心配しちゃう!
知らない間に机に広げていたお菓子とかを見ると、楽しい時間はあっというまなんだなって本当に思う。

(楽しい時間は・・・)
寂しいなんて・・・・・・・・・
(あっというま)
思っちゃいけない。

「今日はありがとね!じんたん!」
「ああ」

じんたんが薄く笑ってくれたから、安心。玄関まで一緒に来てもらって、じゃあいくね、とじんたんの家を出ようとすると。

「・・・あのさ」

じんたんが呼び止める。
振り返ると、じんたんの口元は小さく動いているだけで、なんとなくものを言いづらそうにしているのだった。

「次は・・・、・・・・・」

「・・・・・」

言葉を待つけど、じんたんは何も言わない。
・・・だから、めんまから。

「明日も来ていい?」
「!」
じんたんはわかりやすいくらい驚いて、目を丸くした。

「あのねめんま、じんたんとまたおはなしできて、楽しかったから・・・
・・・・・じんたんは?」
「・・・・・」

「・・・じんたん・・・・・・」

「・・・・・・・っ、お、俺も」

どうしよう。うれしいなあ。なんだか、すごくうれしい!
めんまは笑ってじんたんに手を振る。

「またあしたねー!」
そうしたら、じんたんも手を振りかえしてくれた。

じんたん、学校いってないっていってたなあ。
でもきっと、もったいないよそれって。めんまはそう思うよ・・・。何かきっかけがあればいいのに・・・ねえ、じんたん?

+ + +

「たっだいまーあ!」
「お帰りめんま。今日はどこに行ってたんだ?」
「えーとね・・・今日は・・・」

めんまのおうちと、じんたんのおうち。
・・・なんだけど。

・・・・・・・

「いつもとおんなじ!」
「そうか」
「うん!」

ゆきあつ、聞いてね。めんまがんばるって決めたの。きっときっとお願い見つけるからね。
今日ね、めんまのおうちに帰ってみて、気付いたことがあるの。
・・・それはね。



(多分、めんまの部屋に・・・)

うん。
ゆきあつは今、忙しいもんね。

じんたんに協力してもらおう。

じんたんにもめんまが見えるんだから・・・きっと、じんたんにも頼みごとしてもいいんだよね?

146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/14(土) 17:54:04.69 ID:+E4yT/zSO
面白い!
147 :1 ◆BycwRokz6k :2012/04/19(木) 18:13:48.23 ID:nlz8A3+70
+ + +
ピンポーン!

うーん。不思議だなあ。めんまって何で、ものにさわれるんだろう?
そんなことをちょっと自分なりに考えつつも、元気よくインターホンを押す。
「はいはー・・・・・・・、ってめんま!」
「へへー!おっじゃまっしまーす!」
「俺今飯食ってたんだけど」
「ええっ!なになに?なにたべてたの?」
「ラーメン」
「かきたまっ!?!?」
「いや、違うけど」
「ええー・・・・・」
「やめろよその不服そうな顔・・・」
「ふふくってなあに?」
じんたん難しい言葉知ってるねえ。

・・・なんでもねえ、とあきれたようにじんたん。そうして居間に向かうじんたんを追ってめんまも居間へ。
そしてじんたんは座ると、テーブルに用意してあったラーメンを食べはじめる。いいなあ。・・・あっ、熱そう。
しばらくはふはふしたあとで、一口。
「・・・ねえねえじんたん、もう1時だよ!もっと早く食べなきゃ!ちょっとお昼には遅いよ!」
「なあめんま」
「あっ、めんまの話ちゃんときいてなかったでしょ!」
「はいはい。でさあ」

適当に扱われてめんまはちょっとむっとする。

「んー?」
「お前さ、お願いってのを叶えたいんだろ?」
「!」
「それってさ・・・何なんだよ」

ラーメンをすすりながらじんたんは聞いて来るけど、めんまはちょっと困った。

「・・・わかんない」
へへ、と笑う。
ごめんねじんたん・・・。でも迷惑をかけたいわけじゃないんだよ。本当に・・・。

「はあ?!」

「あの・・っじんたん!だからね、めんまね、お願い、今、思い出そうって思ってるんだけど!」
ドン!とコップを机においてじんたんを見据える。

そう!昨日思いついた作戦!
今日はこのこともじんたんに言わないとって思ってたんだ!

「・・・」

「・・・ちょっとだけ、たのみごとしてもいい?」

本当は・・・本当はつらいことなんだ。
ママ達を悲しませちゃうかもしれない。
・・・幸せになってねって、願ったばかりなのに。
めんまは自分勝手だね。
めんま自分ひとりじゃ、何もできないの。
ごめんなさい。

「あのね・・・。」


148 :1 ◆BycwRokz6k :2012/04/28(土) 15:45:28.81 ID:dTQetXe40

* * *
「よーっ!じーんたん!」
「おー」
秘密基地の扉を開けると、ぽっぽがすぐそこに立っていた。この巨体にももう慣れたぜ。
「ひっさしぶりー!」
「・・・そうでもないだろ?」
・・・にしてもあの気まずい空気で別れた後だっていうのに、ぽっぽはいつも道理だ。あんな出来事があったことなんてちっとも匂わせずにいる。
何も考えてないのか、何も考えてないように見せさせているのか。

「で?で?今日は具体的には何の用なのよ?」
ずいずいと顔を近づけてくるぽっぽからさりげなく逃げる。
「めんまの家に行く」
「めんまの?」
きょとんとしたぽっぽに頷いてみせて、歩き出す。ぽっぽは大きな歩幅で俺に追いつく。

「日記帳を取ってきてほしいんだとさ」
「日記帳・・・?」
「そ」
ぽっぽはあ〜、と何度も頷いた。納得してくれたなら幸いだ。
「めんま、日記なんて書いてたのかあ〜・・・確かにやりそーだな・・・、
にしても、何で?」
めんまが言うには、日記を見たらお願い事もわかるかもしれないから、だそうだ。
めんまも自分で探したいのだが、絶対あやしまれるし(そりゃめんまは誰にも見えないからな)、一人だけだと大変だから、らしい。
その旨を伝えると、なるほどー!、とぽっぽは手を打った。

「この間言ってたお願いってののためか」
「!」
バカやろう。
と言えるわけも無く、ドン、とぽっぽに肘うち。
「うお?」
「・・・じゃ、行くぞ」
気付くか?
「いよっし!歩き?歩き?」
・・・・・。
分かってないかもしれない。

「そう遠くもねーし、歩きでもいいだろ」
「そーか。
・・・いっやあ、それにしたってよー・・・。めんまんち行くのなんてひっさしぶりだな・・・・・
花とか買ってった方がいいのかね?」
花。
それにはっとして、隣にいるめんまに視線を向ける。
めんまは俯いている。
花・・・・・。

「・・・どう、だろうな」
言葉を濁して、歩を進めた。

昨日のことを思い出す。
〜〜〜

「日記帳?」
「そう!めんまの!多分、めんまのうちにあると思うの!」
「い、家!?んなこといったって・・・いきなり俺たちが行っても・・・それに何て言えばいいんだよ?
お前んちの家族、お前のこと大切にしてたじゃんか・・・。日記なんて俺に預けてくれるか」
「だから言うの!」
「・・・言う?何を」
「めんまが、探してること!日記帳を!」
「はあ?信じてもらえるわけ・・・」
「・・・でも、そうでもしなきゃ・・・・・・!めんまもできることはするから・・・っ」
「・・・わかったよ!
でもそれは最終手段な!」
「さいしゅうしゅだん?」
「・・・まずはおまいりに来たって言う。で、部屋も見せてほしいって伝えて、そっから日記帳みせてもらってもいいかってきく。もし、この流れがうまくいかなくて見せてもらえそうもないなら、めんまのことを言ってみる」
「うん!わかったっ!」


〜〜〜
「家かー・・・」
「あのさ、めんまも、今いるんだ。だから日記は一緒に探す」
「って・・・おお!?めんまが!?」
めんまをちらりと見る。めんまはこくりと力強くうなずいた。
「めんま、がんばるよ!」
高らかにガッツポーズをしてみたはいいものの、元気が無いのは一目瞭然だ。
生前の家族に会うことを躊躇っているのかもしれない。

149 :1 ◆BycwRokz6k :2012/05/08(火) 18:01:30.89 ID:YrOGSHuD0
「・・・」

どこだどこだめんま!久しぶりだなー!と、ぽっぽはきょろきょろあたりを見回す。
いつものめんまならば、ぽっぽに思い切り抱きつきにいったものだろうけれど、今日のめんまは違う。
ただ、慌ただしくめんまの姿を探そうとするぽっぽを見上げて、力なく笑っただけだった。
・・・俺はぽっぽに話しかける。

「ぽっぽ・・・お前、よく付き合ってくれたな」
「ん?――ああ、そりゃ最初はびっくりしたさ。めんまの名前がじんたんの口から出てきたしさ!・・・でもよ」
ぽっぽが、目線を外して、両腕を頭の後ろで組む。
「・・・本当にめんまはいるって、あの日に証明されたし。
それに、いくら俺たちに見えないからって、それだけで関わることをやめるなんて出来ねえし・・・したくない」
「!」

めんまが青い目を開いて、ぱっと俯いた。ぎゅっと拳を握っている。
(ほら、・・・めんま良かったじゃねえか)
ゆきあつがこれを聞いたらなんて言うのか・・・。どうもゆきあつは、超平和バスターズとめんまを関わらせたくなさそうだからな。
でも、あの日のゆきあつの行動は間違ってた。めんまはやっぱり、あの日、帰りたくなかったに決まってるんだ。


「・・・ありがとう」

こんなの、俺が言うことじゃないかもしれない。だから、これはめんまの代弁のつもりだ。
お前だって今こう思ってるんだろ、めんま。


「当たり前だって!俺だってめんまと話したいんだしよ!」

照れくさそうにぽっぽが鼻の下をかきながら言った。
でもぽっぽにはまだ何か言いたいことがあるようだ。ぽっぽはまた目線を少し逸らして、ちょっと気まずそうに、落ち着いた声で言う。

「・・・そんでそれは、あなるもつるこも・・・いっしょだと思うぜ」
「・・・・・」
ぽっぽが笑う。でも、眉が少し下がっているから、ちょっと無理しているんだろう。

・・・ああ。
「そう、かもな」
あの日の夜。ゆきあつたちが帰った後。
めんまには言わなかったけれど(ていうか、言えねーけど)、本当は少しもめた。

〜〜〜
『ねえ、あのさ・・・。私たちって・・・もう、関わらないほうがいいんじゃないの』
『は・・・?どういうことだよ・・・』
『・・・・・・・・』
『あなる?つるこ?』
『・・・だ、だって・・・辛いよ!』
『辛い?なんで・・・』
『めんまは雪松や、宿海くんに見えても・・・私たちには見えないのよ』
『た・・・っ確かに楽しかったよ!今日は・・・。めんまがいるってこと、分かる。でもさ、・・・でも、めんまがいるからって、うちらどうすればいいわけ?一緒に遊べばいいの?今日みたいに?これからずっと?いつまで?
それで・・・それで、どうするの?』
『・・・ちがう、聞いてくれ!めんまにはお願いがあるんだ!』
『・・・お願い?』
『そうだよ、お願いがあるんだ!』
『なんでゆきあつに頼まないのよ』
『それは・・・わかんねえ』
『そのお願いって何なの?』
『・・・・・・それも分からない。めんまも分かんないんだよ』
『それじゃ・・・尚更うちらにはどーしようも無いじゃん』
『・・・・・』
『あたし・・・帰る』
『私も』
〜〜〜


「・・・っ」
インターホンに指をかざすと、意味も無く緊張したりした。後ろにいるぽっぽに言う。
「・・・お、押すぞ」
「おうよ!」
ぽっぽの頷きと、右隣のめんまのガッツポーズに背中を押され、俺は唾を飲み込んでから、震える指先でインターホンを押した。

ぴーんぽーん。


150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/05/08(火) 18:11:01.13 ID:23Dc8eULo
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/18(金) 20:27:01.75 ID:it8bOzjAO
乙乙

原作では見られなかった会話が、とてもそれらしくて好きです
ノスタルジックで切ないわー…
152 :1 ◆BycwRokz6k :2012/05/20(日) 13:20:00.47 ID:lcTctKP20
毎度毎度亀更新でほんとうすまない
>>137>>140>>144>>146>>150>>151
みんなありがとう!



「はーい」

数秒立って、ガチャリ、とドアから音がする。
ぎゅっと拳を握り、仁王立ちで構えていると、ドアの影から銀髪が見えた。

「どちらさまで・・・」
そこまで言いかけて、ふと顔を上げた銀髪の女性。
授業参観くらいでしか見かけたこと無いけど、なんとなく覚えてる。めんまのお母さんだ。いや、そりゃそうか。めんまの家から出て来るんだもんな。

「・・・・・」

ぱちりと、めんまと同じ色をした、青い瞳と目が合うと、めんまのお母さんは静かに瞬きを繰り返す。
何かを必死に思い出そうとしている様子だ。

「あ・・・、あの」

沈黙に耐え切れず俺が声を出すと、同時にめんまのお母さんは口元に手を当てて、俺の名前をつぶやいた。

「仁太くん・・・?」
「あ、はい・・・。あの、お久しぶりです」
なんとなく照れくさい。
軽くお辞儀をする。

「まあ・・・!昔はよく遊びに来てくれたわよね!久しぶり」
ドアノブを握ったまま、目を大きくしためんまのお母さん。どうやら、なかなか好感触のようだ。
ずっと参ってなかったから、もしかすると受け入れてくれないかも、とも思ったが・・・。

めんまのお母さんは、俺が覚えている限りは――、美人で、物腰が柔らかで、落ち着いていて、いつもにこやかな笑顔を浮かべた上品そうな人だ。そんなお母さんにめんまは似ても似つかない・・・。容姿は似たようだが。

そして次に、めんまのお母さんはぽっぽの方を見上げて、少し自信なさげに言う。

「それで、・・・もしかすると・・・久川・・・鉄道くんかしら?」
「はい、そうっす!」
「やっぱり。大きくなったのねえ」
「ははは、みーんな追い抜いてやったっすよ!」
「ふふふ」

くすくす笑う。ぽっぽ誘って良かったよ・・・
次第にめんまのお母さんの表情は静かに平常に戻った。そして。

「・・・・・・今日は、もしかして・・・芽衣子の?」

少し言い辛そうにして、こう言った。
・・・うお、緊張する。
ジーンズの生地を握って、なるべくはっきり聞こえるように、目的を伝える。

「は、いっ・・・そうです、今日は、そのつもりで・・・いきなり申し訳ないんですけど、お参り、させていただこうと思いまして・・・」

(あー、どもった)
ちょい失敗したが、めんまのお母さんはそれを聞くと、少し俯いて声を震わせる。

「ありがとう・・・。芽衣子も喜ぶわ」

そしてようやくドアノブから手を離し、俺らを家に招き入れてくれたのだ。


「どうぞ、入って頂戴。」

「おじゃまします・・・」
「お邪魔しまっす!」
フローリングの廊下。
ものめずらしそうにぽっぽは家の中を観察していた。かくいう俺もそうなのだが。

めんまの家には、入ったことが無い・・・と思う。玄関くらいは見たことあるけど。

(まさかこんな形で入ることになるなんてな)

確かめんまんちのお父さんが凄く厳しくて、家にあがらせてもらえなかったんだ。家の前で遊んでいただけで、ボール取り上げられたりしたこともあったっけ?そしたら、めんまがごめんねって泣いて・・・、めんまのせいじゃないのに。次の日になって、お父さんに頼んだみたいで、ボール返しに来たんだ。また、ごめんねっていいながら。あいつ、ほんと、泣き虫で・・・。

(うわ・・・なんでこんなこと思い出すんだよ)


153 :1 ◆BycwRokz6k :2012/05/28(月) 19:06:52.53 ID:CYxjJCSI0
最終目的は、日記帳もらうことだろが!

「じんたん・・・?」
(・・・くそっ)

どうにも悲しい。
リビングに入り、畳の部屋を見かけた瞬間、俺はとっさにそこから目を背けてしまった。

「大丈夫・・・?」
「・・・どうぞ、ここです」

いやにめんまとめんまのお母さんとの声が重なった。

めんまのお母さんを見ないわけにも行かず、声がしたほうに目を向ければ、ピースをするめんまの写真が目に入った。

「・・・喜ぶわ、本当に」
「・・・いえ、そんな」
「じゃあ・・・」

正座をしようと床に着いた膝に、服越しだというのにも関わらず、畳はひやりと冷たかった。




チーン・・・・・・。




からっからに乾いた暑い夏の温度が、細く響く金属音を境に、いっきに冷えた気がした。
小さな残響の奥からあらわれた沈黙が導くのは、静かな祈りの時間だ。

俺は・・・目を瞑る。それは多分、ぽっぽやめんまのお母さんが目を閉じるのとは違う気持ちで。
俺は逃げたかったのだ。遺影から。

家に入ったときからずっと思っていた。
この、静かな家や、めんまのお母さんや、・・・遺影を、見ると。

教えられてしまうのだ。めんまが、もう本当にいないっていうこと。



(まだそんなにめんまといないはずなのに)

そう。俺はまだ、この幽霊のめんまに会った回数も少なく、会った時間もゆきあつに比べりゃものすごく短い。
けれど会って、話せる存在となった今、胸を裂くようなこの悲しさは拭えない。だってめんまは、俺の目の前で泣くのに。笑うのに。
同時に、あふれ出てくる昔の記憶と罪悪感。
ずっと俺、めんまに謝りたいって思ってたのに。

(情けねえよ)

154 :1 ◆BycwRokz6k :2012/06/06(水) 21:07:46.66 ID:FlH1Sljy0


フッとゆきあつが頭をよぎった。

ゆきあつといえば、めんまの手を引いて帰っていった後ろ姿や俺に向かって邪魔だといいのけたあの汚いものを見るような目ばかりが、思い浮かぶ。
・・・そういや、歩道橋であったときも、家まで誘いにいったときも、秘密基地で集まったときもそうだけど、ゆきあつは異常にめんまを俺たちと関わらせるのを嫌がっていた。俺とぽっぽでゆきあつの家まで行ったときに、めんまの存在を誤魔化していたところを見ると、多分、あいつは、誰にも、自分がめんまを見えることを話さなかったんだろう。俺がめんまと出会っていてめんまが見えることを知らなければ・・・。それこそひた隠して・・・・・なんて、まあ憶測でしかないが。
あいつ昔からあんなだったっけ?
あんな風に俺のことを睨んだか?

俺と喧嘩や言い合いになることは多々あったが、それでも、あんなに衝動的に、必死に怒ることなんてなかった。

・・・めんまとだってそんなに仲良かったか?いや・・・そりゃ、メンバー内はみんな仲良かったが、特別仲がいいというほどでも・・・なかったはず。まあ、俺がめんまを泣かした時とか、ちょっと言いすぎた時とかは、遠まわしに俺を攻めたり、ちょっと不機嫌な声で注意したりはしてたけど。
昔のゆきあつといったら、俺やぽっぽよりもつること居たような気がする。ぽっぽとは爽やかに会話をし、あなるとはよく言い合いをしてた。・・・めんまと2人で話しているのは、俺はあまり見たことが無いのだが。・・・見たことがないだけか?

(・・・・・なんでだ?)

――執着。
失礼かもしれないが、この二文字が浮かぶ。
それだとしてもなんでそんなゆきあつがめんまに執着してんのかはわかんねえ。
・・・そうだ。3時くらいまでに帰らないと寂しがるみたいなことをめんまも言ってたし。
(ゆきあつはどんな気持ちで、めんまを囲ってるんだ・・・?)
成仏させたいのか、させたくないのか(めんまの話を聞く限りじゃ、お願いは教えてほしいそうだが)。
どういう気持ちなのだ?

俺と同じ――なのだとしたら?離れるのが寂しい、という気持ち、それが。


155 :1 ◆BycwRokz6k :2012/06/23(土) 23:08:11.54 ID:9NasqK3M0
ふいに、めんまのお母さんが、追悼をやめて顔を上げたのが分かった。
両手を静かに膝の上に置いためんまのお母さんは振り向き、俺とぽっぽに上品に笑って見せた。
「・・・今日はありがとうね」
芽衣子も、・・・とそこまでは聞こえたのだが、ここで帰るわけには行かない俺は立ち上がって、めんまのお母さんの言葉をさえぎってしまった。
「・・・あ、あのっ」
「・・・?」
「め、芽衣子さんの部屋とか、あの・・・日記、とか。・・・見せてもらってもいいですか」

相手はめんまのお母さんだっていうのに、こんなにも緊張してしまうとは。手に汗握りつつ、膝立ちでめんまのお母さんの瞳を見つめる。いきなりで不躾だとは思うのだが、どうか、誠意だけは伝わってほしい。
「・・・・・・・・」
めんまのお母さんはしばらくびっくりしたように、なのか、何の反応も示さないまま俺を見上げた。 だが、
「・・・ええ、もちろんよ・・・どうぞ」
と、言ってくれた。


階段を上がり、めんまの部屋だと案内されたそこは、文字道理、空っぽだった。
「え・・・」
きっと引っ越してきたらこんな感じなんだろう、カーペットも敷かれていないむき出しのフローリングは、冷たい。 「・・・・・・」
俺の斜め後ろにいるめんまは目を大きくして、自分の部屋を見ている。
めんまのお母さんは俺の反応に、少しばつが悪そうに笑った。

「・・・お父さんがね、あまりとらわれないほうがいいっていうの。だから、芽衣子の荷物は押入れの中に・・・」
「そうなんスか」
「殺風景で悪いのだけど・・・ああ、日記、だったかしらね?ちょっと待ってね」
どこにあったかしら?と押入れを開け、中に詰まれたダンボールを取り出そうとするめんまのお母さんに、手伝いますよとぽっぽが声をかけた。

* * *
「気をつけて帰ってね」
「はい!」
「ありがとうございます」 ダンボールを何個か開けた末に見つかった。めんまのお母さんには、面倒なことをさせてしまったな。うさぎらしきものの顔がどんとある、水色の表紙。それがめんまの日記帳だった。
(これが・・・めんまの)
これでめんまのお願いの手がかりが見つかるかもしれない。俺たちが靴を履いている間、待ちぼうけのめんまに視線を向ける。めんまはぼんやりと、玄関においてある置物を見ていた。
トントンと爪先で、靴の調子を合わせて、履き終わり、立ち上がった俺は、玄関まで見送りに来てくれためんまのお母さんに頭を下げる。
「今日はわざわざありがとうございました。あの、日記も・・・手間をかけさせてしまってすみません」
めんまのお母さんはゆるく首を横に振った。つくづく綺麗なしぐさをする人だなあと思う。貴族やらを実際に見たことはないが、そんな高貴なものを髣髴とさせる。

「・・・ぜひ、また来てね。芽衣子も、喜ぶと思うの」
「・・・っ、はい、ありがとうございます」
「ありがとうございました!」
挨拶をした後、めんまの家を出た。



156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/24(日) 13:57:54.56 ID:2pZgQJUDO
157 :1 ◆BycwRokz6k :2012/07/08(日) 20:32:15.38 ID:YukHDoCb0
ごめんなさいちょっと暇が無く、もう少しだけまってください
ごめんなさい!
158 :1 ◆BycwRokz6k :2012/07/11(水) 21:01:04.37 ID:nAqyGkRT0
「見つかったな、日記帳!」
「ああ、ありがとなぽっぽ」
「礼を言われることじゃねーって!・・・で、読む?」
「あー・・・」
「めんまもいるしよ、聞いてみようぜ」
「・・・だってさ、めんま?」
俺たちの一歩前を歩くめんまに声をかける。手にした日記帳の表紙を食い入るようにみつめているめんま。
ああ、ぽっぽからしたら、前方に浮いている日記帳だけが見えるのか?よく驚かないなぽっぽは・・・。

「・・・うーん」

くるりと振り返って、日記帳を見せ付けるように押し出すめんま。でもそれ背表紙だぞ。

「みんなでよも!」
「みんなでよもう、だってさ」
「お!じゃあ俺も読んでいいんだな?」
「いいんじゃね?」


めんまが日記帳を俺に渡した。
・・・とりあえず、適当にページをめくってみる。

『2月16日 
きょうは いいてんきでした!
みんなとあそんだけど、ちょっとさむいけど、たのしかったです!』
『3月4日
うさぎさん!
あなるはいっぱいかわいいのを知っています』
「・・・・・・」
「うお!めんまの字―!」
ぽっぽが盛り上がっているのを横目に、大雑把に内容を目で追っていく。
(お願いの、手がかり・・・)

パラパラパラパラ。
ページをめくるが、カラフルな丸文字でかかれた日記の内容は、だいたい『その日一日の感想』だけだ。

「よくやるよなあー・・・めんまも・・・」
「・・・・」
「あーーっ!!」
「!?」
「ど、どうしたじんたん!」
いっきなりめんまが素っ頓狂な声を出すもんだから、思わず体勢を崩しかける俺。
めんまは今にも走り出してしまいそうに、慌ただしくその場でかけあしなんかをしている。
「じんたん、めんま、いかなきゃ!!」
「え?」
「帰らないと、ゆきあつが心配しちゃう!
じんたん、今日はほんとにありがと!ぽっぽもありがとう!日記、もってかえるね!」
と、俺が持ってる日記に手を伸ばすめんま。

・・・あ!
「ま、まてよ!」
ぴたりと、伸びてくる手は動きを止める。
目の前のめんまはぽかんと口を開けている。

「俺が、持っててもいいけど!」

その時俺は、ちょっとずるいことを考えてしまったんだ。
俺が日記を持ってれば、めんまがまた俺に会いにやってくるんじゃないか、なんていうのを、この一瞬のうちに考え付いてしまった。
そして口実となるせりふを吐いてしまった。

「えっ?」
「だ、だからお前・・・ほら、お前より俺の方が覚えてるかもしんねーだろ昔のこと」
「そうなのかなあ?」
「・・・そうだよ、俺が読んでなんか見つかったら・・・・・伝えるから」
「うーん、うーん!でもー!」
「おーい、何の話してんだー?」
「す、すぐ返すから!今はお前、とりあえずホラ帰れよ・・・」
「でも!」
「じゃー明日、またうちんち来い!」

・・・い、言ってしまった。

「・・じんたーん、顔赤いぞ」
「えーっ?なんでよじんたんー!めんまが自分で探すってきめ・・・」
「よ、よく考えろ!お前が日記帳もって歩いてたらまずいだろーが!他人からしたら日記帳が宙に浮いてるようにみえちまうんだぞ!」
「じんたーん」
「う、・・・う〜〜!」
めんまは悔しそうに地団駄を踏む。
「じゃー明日!明日またじんたんちいくから、絶対絶対日記かえしてねっ!」
「わかってるよ!」
159 :1 ◆BycwRokz6k :2012/08/03(金) 01:34:36.41 ID:QmuaFAGq0

* * *


――いつもより帰りが遅くなってしまった。今日に限って文化祭の準備がこんなに長引くとは。もう4時を回っている。めんまは帰ってきているだろうか――
昨日のアイスが喜んでもらえたので、今日もまた買ってきたアイスの入ったコンビニ袋を引っさげて部屋に入る。

「ただいま」

部屋の扉を開けると、返事が無かったので焦った。どこにいるのかと思ったら、めんまは部屋の真ん中に横になって眠っていたのだった。すやすやと寝息を立てている。
静かに荷物を置いて、(アイスは溶けてしまわないか心配だが、無理やり起すくらいならまたあとでもな)めんまの寝顔を眺めてみる。

さらさら流れる銀髪。
半開きの口から、時々、言葉になりきれていない声が漏れる。
細い手足、白い肌。
まだ隠されたままの青い瞳に早く会いたいけれど、しばらくはこんな風にめんまを眺めているのも良いかも知れない。

疲れているのだろうか?

「・・・・・」

眠るめんまを見て、ふとあることを思い出し、引き出しを開ける。
開いたところにすぐ控えてある、花のついたピン・・・・・。――懐かしい。
これを眺めているといつも思い出す、あの日の出来事を。俺が見た、生きた最後のめんまの姿を。
手に取るようにわかる、あの日の、ふくれあがる思いも、緊張も、落胆も、悔しさも。
そしてそれを思い出しきった頃、いつも――胸がチクリといたむのだ。

ピンクの花びら。真ん中に黄色。

きっと似合うと思って、買ったんだ。
めんまのために。

そっとめんまにかざしてみてから、ふと、寝ているしいいか、と思い、めんまの髪に手を伸ばして、
・・・やはりやめた。コトリ、と、引き出しにしまう。



「ん・・・?」
「・・・めんま」

振り返ると、ごしごしと目を擦るめんま。
ああ、早めに戻しておいてよかった。とホッとする。

「・・・おかえりい、ゆきあつ」
「めんま、眠そうだな。どうした?」
「んー・・・急いで帰ってきたから・・・」
「急いで・・・?」
「んー」

要領を得ない返事だが、可愛いから許そう。
まあ、とにかく走って帰ってきた、ということだろうか、最近特によく外に出かけてるみたいだし・・・。・・・・・。引っかかる、という程ではないが・・・。

ふと机に視線を戻すと、コンビニの袋の下がうっすらと湿っている。しまった!

「・・・あ、めんま!アイス買ってきたんだが、・・・どうする?
・・・・・寝起きだし、やめとくか。じゃあ、食後に――」
「え!アイス?やったあ!」
「食べる、か?」
「うん!ゆきあつありがとう!」

パッと目を輝かせためんまは、先ほどの眠気をどこに追いやったのか、嬉々として俺の手からアイスを受け取った。
これだけ喜んでもらえるのなら、アイスもアイスとして生まれた甲斐があったろうに。そして買ってくるこっちが逆に礼を言いたいくらいだ。

「とけかかってるかもしれない、多分」
「ほんとー?・・・ってわー!ほんとだー!」
「い、いったん冷やしてくるか?」
「う・・・でもお」
「大丈夫だ、一緒に後で食べよう、な、めんま」
「うー、・・・そうする・・・」


160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/03(金) 02:57:47.88 ID:pjBsWpTIO
見てるよー
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/08/11(土) 01:54:18.87 ID:PtQtFbUQo
いいね、期待。
162 :1 ◆BycwRokz6k :2012/08/19(日) 21:11:06.71 ID:dfKeYBMq0
>>160
>>161
相変わらず遅いですが、ガンばります!ありがとう!


「じゃ、冷やしてくるな」
「ありがとー、ゆきあつ!」

俺が扉へ向かうと、めんまの目は窓に向けられた。ぼうっとまだ明るい空を見るめんまの横顔は、いつもと何か違う。


+ + +

今日もゆきあつはまた文化祭?だって。大変だなあ。
でも大変なのはゆきあつだけじゃないよ!めんまだって今日は予定がキッチリ!じんたんにあずけた日記を、返してもらいにいくんだもん!

「いってきまあーす」

返事は無いことはわかっていても、やめられないよね!いってきますの習慣は!
めんまのうちに帰って、ママを目にしてから、いってきますを言うと自分のうちの玄関を思い出すようになって、ちょっと胸がきりりと痛いけれど。

うーん・・・めんまの日記帳に、めんまは何をかいてたっけなあ?たぶんあんまり長くは書いてなかったと思うんだよね、めんまは文章にがてだし。
じんたん、全部読んじゃったかなあ?・・・うー、なんか恥ずかしい・・・。

あっ・・・。じんたん、いきなりめんまがいって驚かないかなあ?

「・・・・・・・・。ううん、だいじょーぶ!」

じんたんだもん!めんまが来ることくらい、分かってくれるよね!たぶん。
逆に分かんないかもしんないけど、そしたらめんま、ピンポン押して驚かしてやろうっと。

とたとたとたとた、じんたんちに走る。
その途中で、女の人を見かけた。
あれえ?

・・・つるこ?

後姿だけど、わかる。あの髪の長さと、頭のかたちのかんじは、きっとつるこだ!

(わー、わー!制服きてるうー!)

いいなあ!大人だなあ、つるこ!かいだんみたいなスカート!かわいいっ!じょしこーせー?だね!

つーる、っこ!と、言いながら駆け寄って、背中をぽん!
気付かないことはわかってるけど、いいんだもん。
つるこは、ちょっと驚いたように肩をすくめて、周りをきょろきょろ見回している。
驚かせちゃったのかあ、ごめんね。

それにしても、どこにいくんだろ?もしかして、・・・もしかして、じんたんのうちかなあ?
ついていこうっかなあ。つるこもじんたんのうち行くなら、めんまと行くところもいっしょだし!

「おさんぽおさんぽうっれしいなー!」

つるこのお隣を、歌いながら歩く。
ふふ。話せないのはさみしいけど、こうしていると、昔を思い出すねえ。なんだか楽しいなあ。
今ではめがねをかけているつるこ。横顔をじっとみると、めんまが照れちゃうよ。美人になっちゃって、まー!
あなるもおしゃれになってたし、やっぱり、女の子だもんね!みんなかわいくなった。


てくてくてくてく、歩きながら、一方的にめんまだけ話しているうちに、本当にじんたんちに近くなっていく。

「・・・やっぱり、じんたんのうちいくの?」

もうあと3分もしないうちに、じんたんちつくよ?
163 :1 ◆BycwRokz6k :2012/09/04(火) 18:51:12.42 ID:RgC1TDAr0

「・・・」

つるこは、つかれてもないし、おこってもないし、かなしくもないような、うーんと、つまり普通のお顔のまんま、すたすたと歩いてる。
・・・つるこ、歩くの、はやいなあ。
きれいな靴を見ながら、めんまはちょっと早足で追いかける。

「・・・ねえ、つるこ・・・?・・・この間は、かえっちゃってごめんね・・・」

コツ、コツ、コツ。
おんなじリズムで鳴る靴の音。
コツ、コツ、コツ。

「ゆきあつもね、・・・・・・」

そうやって、上手くいえないでいると、もうじんたんちが見えてきた。

「聞こえない、よね」

しかたない、しかたない。
つるこはまっすぐじんたんちを見てる。やっぱりじんたんちにいくんだね!

「・・・・・」

ぴたりと、つるこがじんたんちの前で足を止めた。
ひとさし指を出して、でもそれを戻して。つるこが、ちょっと溜息をつく。

「・・・あれえ?つるこ!ピンポンの場所、わかる?ここだよ、ここ!」

すっ!と前を向いたつるこは、また出した人差し指で、迷わずにピンポンを押した。

ピンポーン。

「おー!せいかーい!」

あ!かけことば?

中から足音が聞こえて、ガラリとドアが開いた。

「おー、待ってたぞ・・・・・・・・・・・・って、え?」
「やっほーじんたーん!」
「こんにちは、宿海くん。・・・待ってた、って?」
「え、お・・・え?い、いやちがくて」
「そんなに驚かなくても」

じんたんはめんまとつるこを交互に指差して、え、とかお、とかよくわかんない声を出しててんぱってる。

164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/10(月) 15:19:45.01 ID:CN+23Y6co
おつ
165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/09/11(火) 22:01:49.37 ID:k+hEYIrRo
追いついた
あの花やっぱいいね♪
166 :1 ◆BycwRokz6k :2012/09/13(木) 19:16:06.16 ID:ieGKIrV60
>>164
>>165
いつも皆さんありがとうございます!


「なんで・・・鶴見が?」
「途中であったの!だから一緒にきた!」
「は・・・はああ?」
「・・・宿海くん?」
「えっ、あ・・・いや、その」
「・・・何?」
「つるこー!めーんーまーだよっ、めんまー!」

つるこの肩に手を置いて、ぴょんぴょん跳ねると、じんたんが何やってんだおい、といった。

「!」


「・・・鶴見?」
「もしかして・・・めんま?」
「うん!そうだよ!」

つるこ、わかってくれたー!えへへ!

「な、なんで・・・」
「・・・やっぱり」

!つるこが、笑った!
ああ、でも。すぐ普通の顔になっちゃった。うー。もっとうれしそうな顔が見たいよー?

「お前・・・なん、だよ。この前・・・、」
「え?」
「・・・違うの」

どしたの?つるこもじんたんも、こわーいお顔して・・・
「?」


「・・・丁度、めんまのことで話があったの」
「でもお前ら・・・っ」
「ええ・・・そうね。ここにめんまが、いる・・・なら・・・、話さない方がいいかもしれない」
「なになに?めんまにかくしごと?」
「なっ、何だよ、そんな言い方・・・。本人を目の前にして・・・」
「・・・ごめんなさい。でも・・・、めんまが聞いて、いい気分をする話じゃないわ。日を改めることにする」
「ちょ、待てよ!悪口言うわけじゃねーんだから、コソコソ言わないでもいいだろ、めんまが勘違い・・・」
「わるぐち・・・」
「あ、ち、ちがう!めんま、あの」

めんまにはわかんない話だ・・

「でも・・・」
「あーもー!いいからもー・・・入れ!超平和バスターズに隠し事は・・・っ・・・・!」
「!」

めんまもつるこも同時に驚いたとき、じんたんははっとして口を手でおおった。

懐かしい響き・・・。

つるこが大人っぽく、手を口のところにもってきて、クスッと笑った。
「なつかし・・・。おきて、ね。」
「・・・お、おう」

超平和バスターズの、おきて。
・・・おぼえていてくれたんだあ。

「・・・でも、本当に・・・大丈夫?」
「は?何が・・・」
「・・・・・・・・、まあ、いいわ。おじゃまします」

つるこがじんたんの横をす、と通り過ぎて、じんたんのお家にはいっていった。

「よかったね、じんたん!」
「え?・・・よかった・・のかあ?」

居間へと向かうつるこの背中をじんたんが目で追っている。


「ほーらっ、はやくはやくー!お茶だしてあげよ!ね!お茶!」
「わ、わかってるよ!」
167 :1 ◆BycwRokz6k :2012/09/13(木) 19:16:32.82 ID:ieGKIrV60
ああ、申し訳ないことに大切なお知らせがあります。
実は>>1、今年受験生です。勉強に本腰を入れるため、パソコンと離れようと思います。
一年で終わらせるつもりだったのに、長引いてしまってすみません。
お付き合いしてくださる方がいらっしゃったら、保守をしてくださると幸せです。
落ちたら運命とあきらめます、ではがんばってまいります。ひと段落着いたらばまた更新をさせていただきたいのですが、

こんなつたない文章にお付き合いくださって、真にありがとうございました
168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/09/13(木) 21:14:35.92 ID:uXaeEiEMo
マジか(-。-;
でも復活期待してるから
169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/13(木) 21:15:59.92 ID:196srYr9o
残念だが受験がんばってくれ
帰ってくるの待ってるよ
170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2012/09/13(木) 21:19:49.86 ID:fcSLnHuKo
SS速報だから保守はほぼ問題ないけど、2・3ヶ月に一回生存報告してくれないと判定に引っかかるぞ
171 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2012/10/09(火) 23:57:59.46 ID:rAcZyqv80
ちらりとよってみた、みなさんありがとう!
>>168
>>169
がんばります!
>>170
なるほど、了解です。生存報告完了です、
172 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2012/12/04(火) 23:14:30.06 ID:Np/vu/Ks0
保守!!
173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/06(木) 13:31:28.79 ID:XwAgN6lko
保守乙

もうすぐ本番ですかね?
応援してます
174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/13(日) 09:57:14.69 ID:3ImQ/6uo0
ラストスパート! 頑張れ!
175 :1 ◆BycwRokz6k :2013/02/25(月) 16:22:25.94 ID:4LkZLBri0
お久しぶりです!受験終了しました!
たくさんの心温まるコメントをありがとうございました!
出来れば映画後悔前には終了させたいという意気込みです・・・またよろしくおねがいします!
>>173
>>174
保守有難うございます!



じんたん、緊張しっぱなし?
居間へと進んだつることめんま。んー、じんたんちの匂いだねえ。つるこは、ここに来るの久しぶりなのかな?じんたんちの匂い、おぼえてる?

「かわらない、わね」

つるこがぽつりとつぶやいた。丁度その時、麦茶を3人分お盆にのせて、じんたんがやってきた。

「ありがとう、じんたん!」
「おー」
「有難う。いきなり来てごめんなさい」
「いや・・・、んで、話って・・・?」

つるこは丁寧に麦茶を受け取って、両手でコップを包み込む。そして麦茶に口もつけず、何か考え事をしてるように動きをとめていた。じんたんもそんなつるこを麦茶を飲みながら見ていて、ちょっと間が開いてから、つるこはやっと、言い辛そうに言った。

「この前――みんなで遊んだじゃない」
「ああ」
「ゆきあつとめんまが、帰ったでしょう。・・・大体分かるわよね?その後話したことなんだけど」
「へっ、あ、あのー・・・」
「?」

・・・?なにかあったの?なんのこと?
ん?でもじんたん、何もなかったよって言ってたよ?

176 :1 ◆BycwRokz6k :2013/02/25(月) 16:29:29.62 ID:4LkZLBri0
ちらっとじんたんを見てみると、ぴきっと動きを固まらせて、目線をぐるぐるひらひらごろごろ動かしている。
なに、なにじんたん!?

「え、えーと・・・」
「覚えてないの?・・・安城さんと、私で「あーあーあー!」

じんたんが大声を出してつるこの言葉をさえぎる。
もー!ちょっと!じんたん!きこえないでしょ!


「ねー何?じんたん!なにかあったの?」
「な、何もねえよ!」

わ!目を逸らした!じんたん・・・あせってる!

「本当に忘れたの?だから、安城さんと私がめんま・・・」
「じんたんのばかー!何もなかったっていってたのにーーっ!」
「あー・・・」
「ばかー!ばかー!!」

じんたんは降参と言うように両手を挙げて、どこか遠いところを見た。
じんたん、めんまに隠しごとした!!さっき、おきてをいってたくせにっ!超平和バスターズに隠しごとはなしなんだよ!?

「じんたんの嘘つき!じんたんの嘘つきっ!」
「い、いやそれはさ・・・」
「・・・宿海くん、忙しそうね」
「だってお前も話しかけるしめんまも離しかけてくるしで・・・うわっ」
「じんたんのばかばか!」
「う、うお!やめろよめんま!いって」

めんまはじんたんに殴りかかった!
ぽかぽか!
痛がるじんたんを見て、つるこは首をかしげた。麦茶に手を伸ばして、飲んでいるようだった。
でも、でもめんまはっ・・・!

「みんな・・・怒ってたの?めんま、・・・きらわれてたの?」

声が震えちゃう。
・・・これは、めんまにとって、一番、一番、辛いこと・・・。
めんまの居場所だった、超平和バスターズ。
そこにもういられなくなってしまうことは、今でも一番辛いことなの。

「お、おいめんま・・・違う!それは・・・」

慌てるじんたん。何が違うのさ!!

ことりと、麦茶を机に置く音が聞こえた。

「ねえ、宿海くん・・・。めんま・・・なんていってるの?」
「じんたんのばか・・・!」
「あああ!な、泣くな!」
「何が起こってるんだかわからないんだけど・・・・」
「だからっ!お前らが前・・・めんまと関わらないほうがいいんじゃねえのって言ってきただろうが!それをめんまには言わなかったんだよ!でも今・・・っ」
「!」

177 :1 ◆BycwRokz6k :2013/02/25(月) 16:40:09.35 ID:4LkZLBri0
つるこは、コップをまた両手で包んだ。そしてうつむく。

「そう・・・だったの・・・」
「じんたん、めんまにウソついたあ!」
「・・・でも、言えっていったのは宿海くんでしょ?」
「そ、そうだけどさ」
「・・・めんま、いるのよね?・・・聞いてる?」

・・・・・、つるこ・・・?

「・・・なあに・・・?」

じんたんから離れて、つるこを見る。
つるこは、ふしぎと、めんまを見ているようだった。
めんまの姿は見えてないはずなのに・・・。

「めんま。そこにいるのよね」

すっとした目がめんまを見る。
真面目で、本を読むのが好きで、絵を描くのも好きで、超平和バスターズで喧嘩があった時は、いつもそれをとめてくれていた、つるこ・・・。
まるで、超平和バスターズの、おかあさんみたいだった・・・。

「ねえ・・・自分が嫌われた、って、言ってたりする・・・?」
「つるこ・・・?」

不安そうな声。
誰かをいつも心配してくれていた、つるこの、優しい声。

「・・・・・・」

つるこは、ちょっと俯いて、眼鏡を少しずらして目元をこすった。

え?・・・つるこ?泣いてるの?
不安になったその時、つるこは顔を上げて、きりっとした目でじんたんのほうを見た。

「・・・それは誤解よ。・・・聞いてほしいことがあるの」
「・・・なんだよ、」
「そう・・・めんまのお願いのこと・・・なんだけど」
「えっ?」

・・・めんま、の?
あれ?どうして、知ってるの?
めんまが『お願い』叶えてもらいたいこと、どうして・・・?

「私たちも手伝いたいの」
「『たち』って・・・?」
「勿論、安城さ・・・あなるよ。
少し時間を置いてから、話し合ったの。私とあなる・・・、2人で」




今日はとりあえずココまで!
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/25(月) 19:38:51.68 ID:KxWRiYwJo
乙!

おかえり!

これから更新楽しみにしてる
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/26(火) 00:42:45.40 ID:lZsH/qjdo
おつ、まってたよ
180 :1 ◆BycwRokz6k :2013/03/09(土) 23:30:31.77 ID:yDPFxkxB0
>>178
>>179
ありがとうございます!!相変わらず進行スペース遅いですが、頑張ります!


そのとき、あなるの姿がふっと頭の中に浮かんできた。
今の成長したあなると、めんまが生きてた頃の小さかったあなるのふたり。
小さいころは、眼鏡をしてた。くせっけを気にしてたみたいだけど、ぜんぜんヘンじゃないよ。あなるの髪、ふわふわして、めんま、いつもかわいいって思ってたよ。
それにとっても器用で、女の子らしくって、ばんそうこうをいつも持ち歩いてたし、秘密基地のお片づけはいっつも率先してやってくれた。

「私達がめんまにできることがあるなら、してあげたいって」
「本当か、それ・・・」
「お願いが見つかっていないのなら、一緒に探そうって」

つるこは髪を軽くかきあげて、

「だめ、かしら?」

唇の端をあげて優しく笑う。

時間が止まったような気がした。
ゆきあつと、じんたんと、ぽっぽに加えて、つるこもあなるも協力してくれる。
とってもとっても嬉しい!
でも、・・・いいのかな?
手伝ってもらっても、いいのかな?
めんまのこと見えてないみんな。なのに、手伝ってくれるって言ってくれる。めんま、みんなの迷惑にならないのかな・・・本当に、ほんとうに

「・・・よかったな、めんま」

ぐるぐる色んなことが頭をかけめぐってた。その考えをふわりと解きほぐすように、ぽんっと、じんたんの手が頭に置かれた。
じんたんを見れば、優しく微笑みかけてくれている。
・・・それがなんだか、めんまにはとっても嬉しくて、なにか、許されたような気がしたの。
何かな。胸のおくから湧き上がってくる、熱いものは、めんまの視界をぼやかして、きらきら輝くじんたんの笑顔までも見えなくさせて・・・・・・。

「・・・・うんっ・・・・」
「泣くなよ・・・お前ってホント、泣き虫」
「まだ泣いてないもんっ!」

その間も、じんたんはぽんぽんと、めんまの頭を撫でてくれていた。

「・・・めんま、泣いてるの?」
「・・・つるこお・・・!」

つるこは心配してくれたみたい。まゆがしょんぼり下がって、口が驚いたように開いて、そんなつるこが、・・・めんまを心配してくれるつるこが・・・・嬉しくて・・・。いつのまにやらめんまは、テーブルに回り込んで、つるこに抱きついていた。
あれえ、とってもいいかおり・・・。おちついた、柔らかいかんじ。

「ありがとうっ・・・!ありがとう・・・う・・・うっ・・・ええん・・・」
「わっ・・・?」

つるこは戸惑ったような声を出す。めんまは構わず、つるこに抱きつき続ける。

「何か・・・・・あったかい・・・ような」
「鶴見、めんま抱きついてる。あとありがとうってさ」
「め・・・めんまが?」

するとつるこのすっと伸びた指が、空中を、何かを探すように動く。めんまのこと探してくれてるんだ、と思って、めんまは急いで自分の涙をぬぐって、つるこの手を握ってみた。
めんま、ここにいるんだよ。
つるこ、わかる?
181 :1 ◆BycwRokz6k :2013/03/09(土) 23:58:45.06 ID:yDPFxkxB0
「ふふ・・・そう、なのね・・・」
「分かるか?」
「ううん・・・でも、ちょっとだけ、あったかいような気がする」
「今、お前の手、握ってるぞ」
「・・・本当?」

気づくかな、分かるかな。
ぎゅっと強く、握ってみる。
めんまには、つるこのあたたかさや、かおりや、柔らかさを全部感じることが出来るのに。めんまのことは、分かってもらえない。
でも・・・そのことは、もうあんまり気にしてないんだ。それは当たり前なの。めんまは幽霊なんだから。
それでもね、めんまのことを少しでも感じてくれたなら、めんまは・・・

「分からない・・・でも・・・右手・・・?」

――そうだよ、つるこ。ありがとう。

そっとつるこから離れた。

「つるこ、ありがとう!ほんとに、めんまも頑張るから!」
「めんまも頑張るってさ」
「フフ・・・」
「超平和バスターズのみんながいたら、きっとお願いも見つかるよ!」
「皆が居ればお願いも見つかるってよ」
「・・・そうね。絶対に探し出して見せるわ」

めんまも、絶対に見つける!!いっぱいいっぱい考えてみる!
・・・ほんとに、ほんとに、ありがとね。
ゴホン、とつるこの咳払いが部屋に響くと、つるこはさっきまでとは見違えるようにキリッとしたお顔になる。めんまもハッとして、ぎゅっと拳を握り締めた!そしてつるこは、こう提案した。


「それでね、もう一度、皆で会う必要があると思うの」

って。なるほどお。さくせんかいぎだ!
んふふー!また皆とあえるんだ!えへへ!うれしいな〜!

「そうだな。・・・・・・でも」
「でも?」
「・・・大丈夫。私がなんとかするわ」
「??」

??
なんのお話してるんだろ?

「じんたんーなあにー?」
「え?・・・何でもねーよ」
「さくせんかいぎするんでしょ?皆で」
「さくせ・・・あー、そうそう」
「なになにー!?でもってさっき言ったよー!」
「いや、だからさ、何でもねーって!!」
「・・・ホントにい?」
「ホントホント!」

じーーっとじんたんを見つめる。うたがいのめ・・・。
じんたんは汗をかきながら、何でもねーって・・・、と、すっかり弱った声で言った。
うーむ・・・。

「めんま、ホント、なんでもないから。なあ鶴見」
「え?・・・ええ。何でもないのよ」

そこまでいうなら、まあ、許してあげよう!

「つるこが言うなら仕方ないなあ。」
「お、おう・・・」

じんたんがふうと溜息をついた。なに疲れてるの?
ふと時計を見てみると、2時すぎ。
今日はゆきあつ帰ってくるのはやいんだって言ってたっけ!

「めんまそろそろ帰る!次はいつ会うの?」
「もう帰るのか、早いな・・。おい鶴見、いつ皆で会うの、ってめんまが」
「・・・そう、ね・・・。そればっかりは皆に話してみないと決まらないから、決まったら伝えるわ。宿海君、教えてあげてね」
「わかった!じゃあじんたんよろしくね!またねつるこ!」
「・・・あっ!おい、めんま!にっ・・・」

「おじゃましましたー!」
帰り際に、じんたんの声が聞こえたような気がしたけど、めんまはウキウキ気分だったから、はっきり聞こえなかった。まあいっか!

182 :1 ◆BycwRokz6k :2013/03/26(火) 00:37:10.27 ID:9d880P4u0
(やった〜〜あ〜〜っ!
みんなが協力してくれるんだ!みんながいるなら、ぜったいかなうよ!めんまのお願い、ぜったいかなう!
だって、だってね!『超平和バスターズ』のみんながいないとかなわないものなんだって、それだけはぼんやり分かってるんだから!)

なんてことをルンルンと考えながら家に帰ってみると、ゆきあつはもう部屋に居た。

「おかえり!ただいま!」
「おかえり、めんま。」

あ・・・そうだ、ゆきあつにも話したほうがいいよね?
こんな嬉しいことめったにないよっ!めんま浮かれちゃう!

「なんだ、めんまご機嫌だな」
「ゆきあつ、あなるとつるこもね、手伝ってくれるって!」
「・・・?何の話だ?」
「めんまのお願い!つるこがね、言ってくれたの!また皆であつまろうって!」

ゆきあつの表情が、凍りついた。
言ってはいけないことだったのかな。
でも、超平和バスターズには、かくしごとはなし、だから・・・。

「ゆ・・・ゆきあつ・・・」
「めんま、ごめん。ちょっと出てくる」
「う、うん・・・いってらっしゃーい・・・」

あわわ・・・・ゆきあつは携帯電話を握って、部屋から出て行ってしまった。
* * * 
つるこが言ってた、ってどういうことだ。めんまは俺と、宿海以外と話せないハズだ。
・・・悩むことなんて何もない。答えは簡単だ。通訳の出来る宿海が、鶴見とめんまと一緒に居たってことだろう。しかし、何故宿海がめんまと、鶴見と一緒に居る。偶然会ったか?宿海が町に繰り出して、偶然そこで3人が?・・・宿海の家の近くの商店街に、わざわざ鶴見が立ち寄るか・・・?そういや今日、鶴見は学校に来てなかったな。・・・そうだ、・・・まだ3人だけとは決まってないぞ、もしかして俺を除く5人で集まってたのかもしれない、そうなると誰かが集まるよう連絡したのか?
めんまは帰ってくるなり言い出したんだ、さっきのことを・・・。だから、今日の・・ほんのさっきまでの出来事だったのかもしれない。

アドレスからすばやく鶴見の文字を探し出し、発信。
2コールの後、電話はつながった。

「もしもし、鶴見か」
「もしもし。・・・何か用?」
「お前・・っ!めんまに、何、吹きこんだ。」
「・・・ああ、めんまに聞いたのね。」

淡々としている鶴見の声が頭に来る。怒りを抑えて、なるべく冷静な風を装うが、声は震えて喉から出てきた。
183 :1 ◆BycwRokz6k :2013/03/26(火) 00:47:42.17 ID:9d880P4u0

「どういうことだ・・・?また集まるって・・・何のつもりだ」

超平和バスターズで集まった日、どう考えたって俺とめんまが抜けた後の空気は最悪だったはず。残りの4人で、壊滅的な空気を持ち直して、また超平和バスターズで集まろうって話になったのか?帰り際、宿海は完全にへしおったはず。あの後の宿海が、残り3人を励ますことや、また集まろうなんて提案することを想像できない。
かといって他の誰か・・・例えば鉄道がそれを言うかと思えば、可能性は低いだろう。意外とあいつは空気を読む方なんだよ。俺がめんまを秘密基地へ連れて行ったとき、安易にまた集まりたいだなんて言った鉄道に俺が怒りを抑えられなかったことがあった。あの後の鉄道の態度で分かる。
安城も無い。他人の目を伺いすぎるんだ、あいつは。だから自分から何かを働きかけることに関しては躊躇しがちだ。特に、あんな空気の時に、気丈に振舞えるほどあいつは強くないと思う。
だが鶴見なら・・・。どうだ?
いつからそうなったのか分からないが、鶴見は思ったことをキッパリ、それがどんな状況であっても口に出す所がある。鶴見がまた、こんなのにめげてないでまた集まろうなんて言った可能性は高い。つまり、今日めんまと宿海と、ひょっとしたらあとの2人も交えて集まって――、めんまに、『お願いの件で協力する』と伝えたのは、鶴見の提案あってこそだ。

「言葉の通りよ。私と安城さんも手伝うわ。めんまには叶えてほしい『お願い』があるんでしょ?」
「・・・っ!」

それは俺とぽっぽと宿海しか知らないはずじゃ・・・!?
・・・クソッ・・・!あいつら、話しやがったな!!
・・・・・・宿海か・・・?

「どうしてそういう大事なこと、あの集まった日に言ってくれなかったの」
「ハン・・・大事?・・・どうせ宿海が話したんだろ?じゃあいいじゃないか」

知られてるなら今更隠しようも無い。半分開き直る俺に向かってなのかは知らないが、鶴見ははあ、と薄く溜息をついて、続けた。

「あなたも知らないのよね?『お願い』の、内容」
「ああ、知らない」
「皆協力してくれるって言ってたわ。今度、集まりましょう」
「やけに行動的じゃないか?珍しい」
「めんまの為に何かしたいだけよ」
「・・・」

『めんまの為に』。
その言葉が俺の心に突き刺さった。
めんまがきいたらさぞかし喜ぶことだろう。
俺だけなのだ。邪な感情で、めんまのお願いの内容を知りたがるのは。
携帯を握る手に力がこもる。何も言い出せずにいると、鶴見が言う。

「じゃあ、日取りは追って連絡するから」

またね、と電話を切られそうになった時、はっとして聞いた。

「・・・今、宿海、そこにいるのか」
「・・・いるけど。代わらないわよ」

カチンと来る。なんだその物言いは。

「何でだよ」
「・・・何となく、どうなるか分かるから」

どうなるか分かる、ねえ。

「そんなに俺はわかりやすいか?鶴見」
「普段はどうでしょうね。でもめんま絡みのあんたの思考パターンなんて単純よ」
「・・・へえ・・・」

ギリ、と奥歯を噛みたくなる。この不満を宿海にぶつけてやろうとそう思ったのに。
今あいつらはどこにいるんだ?予想通り宿海は、鶴見と一緒にいるが・・・。
・・・周りの騒音は聞こえない。しいて言うなら、遠くセミの音が聞こえる。ファーストフード店や街中や公園なんかじゃありえない静かさ。となると、鶴見たちがいる場所は・・・静かな屋内だ。例えるなら、図書館や、誰かの家・・・。


「他には誰かいるのか」
「・・・?居ないけど?」

なるほど。集まったのは5人ではないようだ。だとしたら、鶴見、宿海、めんまの3人で集まってたってことだよな・・・。
何故そのメンバーで集まる?
そもそもどうしてめんまが・・・。俺と宿海しかめんまとコミュニケーションを取れないのだから、めんまは宿海に呼び出されたとしか思えない。
今日たまたまか・・・?
184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/26(火) 01:04:04.79 ID:m7GBAs0Ko
185 :1 ◆BycwRokz6k :2013/03/26(火) 01:42:52.67 ID:9d880P4u0
日取りは追って連絡するってことは、まだしっかり予定は決まってないんだな。超平和バスターズで集まった日からこんなに時間がたってもまだ日取りが決まってないってことは、この3週間近くは計画を立ててない、つまり・・・そもそも、俺とめんまが帰った後、誰も超平和バスターズで集まろうとは提案していなかったが、めんまのお願いのことは聞いていて、つい最近になって鶴見と安城は協力する気になった・・・ってトコか・・・?
・・・どういうつもりだ・・・?分からない・・・。俺には、俺とめんまが帰った後の、秘密基地での4人の状況も、何もかも分からない。

めんまをどうやって宿海は呼び出したんだろう。
電話がかかってきたなら、リビングにあるんだから母が出るだろうし、その後母が俺に伝えるだろう。
直接家に向かって、母でなくめんまが出てくる可能性に賭けた・・・なんてやり方が雑すぎる。
だとしたら・・・めんまが、自分から宿海のところへ・・・?

「じゃあね。一緒にめんまのお願い叶える為にがんばりましょ」

クソ。
厄介なことになった!
『お願い』叶えるなんて、どうして容易に言えるんだ!?
こいつらはめんまが消えたっていいと思ってる!
めんまは消させない!ずっと俺と一緒に居るんだ!
でも――…!
障害が、多すぎる…。

あの日宿海にさえ出会ってなけりゃ、こんなことには!


また、集まるのかよ・・・・・・。
どうしたら・・・!



こうなったら、安城と共同戦線を張る他ないか・・?
いや・・・鶴見と安城とで何か企んでそうだな・・・。
くそっ・・・くそ・・・!どうして、俺とめんまをそのまま平穏に暮らさせてくれないんだ!


186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/09(火) 02:31:26.86 ID:q/sd3P2S0

ゆきあつはめんまに意外と否定的なのな。心情表現いいと思う。

風呂敷は畳めるレベルまでで広げてくれよ?
187 :1 ◆BycwRokz6k :2013/04/21(日) 12:58:58.82 ID:e70HeLFK0
>>184
ありがとう!
>>186
痛いところを突かれた・・・!頑張ります。ありがとう!


・・・もやもやとして、考えがまとまらない。怒りと、絶望とが混じる頭のまんま、部屋に戻る。床で寝転がり、足をパタパタやってるめんまに話しかけた。

「なあ、めんま・・・。最近、どこにいってたんだ?」

めんまはくるっと振り返り、

「ええ?お散歩してたよー。町とか、公園とかっ!」
「じゃあ、今日は・・・どこに行ってた?」
「?じんたんちかなあ?」

時間が止まったかのように思った。
さも平然と言いのけるめんま。
めんま、お前はまた、宿海の近くへ行くのか?
また宿海を追いかけるのか。


「宿海の家か」

「え?」

頭に憎悪しかなかった。
めんまの視線を感じたが、俺は外へと飛び出した。
カラカラの太陽の視線が、じりじりと肌を焼いていく。


* * *
プツリと電話を切った鶴見は、溜息を吐いた。相手は誰なのかわからないけど、鶴見は何となく参ってるような、疲れたような顔をしていた。めんまに関わる話みたいだったから、超平和バスターズの仲間のうちの誰かかもしれない。それも、鶴見が結構仲良くしてる奴っぽい。
鶴見は、電話中暇をしてた俺の姿を見てか、俺に謝った。

「ごめんなさい」
「いや・・・別にいいけど。何か、大丈夫か?」
「大丈夫よ。こうなることは分かっていたし。それで、話の続きだけど」

鶴見はめんまが帰った後、俺の家に留まった。めんまの居ないところで、話があるとか。

「・・・なんでわざわざめんまを除いてはなすんだ?」

その理由はなんとなく分かっていたんだけど、罪悪感からか、俺はそう聞いてしまった。隠し事はナシだろ、なんて掟の話を、無意識とはいえ自分の口から出してしまった以上は、立場上見てみぬふりは出来なかったというか。・・・とか言って、自分もまあめんまにしていたんだが。

「・・・大丈夫、これは隠し事なんかじゃないわよ。どちらかというと、プライバシーに関わることだし」

鶴見はそんな俺の気持ちを分かってか、眼鏡の奥の瞳を柔らかく細めて言った。昔っからそうだけど、鶴見は皆のことは何でも分かってそうで・・・敵わないなって誰かと話した記憶がある。俺は正座していた足を崩して、言った。

「そうかよ。で?」
「・・・松雪のことなんだけど」
「ゆきあつ?」
「・・・分かってると思うけど・・・、あいつは、めんまに依存しているわ」
「・・・・・そう、だよな」
188 :1 ◆BycwRokz6k :2013/04/21(日) 13:02:44.62 ID:e70HeLFK0
気持ちがなんとなく重くなった気がした。

橋のときも、家に上がりこんだときも、そう。
鶴見の言葉で、最早これは疑念ではなく、確信に変わってきている。
ゆきあつは、めんまに依存している。本当に、異常なくらいに・・・。

昔はそんなんじゃ無かったのに。一体何がアイツを変えたんだろう。

――前も思ったことだけど、執着してるんだ。めんまに。

「すげえな鶴見。ホント、何でも分かるんだな」

参った、といった感じに伝えると、鶴見は瞳を丸くした。

「え?」
「あ、いや・・・ホラ、さっきも、『隠し事じゃない』なんて、なんか・・・・・・、後ろめたい、っつーの?そういう、俺の気持ち分かってるみたいにさ・・・」
「・・・そうかしら」

鶴見は自分の手元にあるコップに目を落とす。まだお茶は半分くらい残っている。あまり喉が渇いてないのかもしれない。

「よく見てるから、分かるだけよ」

そういうもんかね。
幼い頃、鶴見の立ち位置はみんなの相談役みたいな感じで、誰も彼もちょっと困ったことがあれば鶴見に意見を聞きに言っていた。
ある日は、めんまに勉強を教えてほしいと頼み込まれ。
ある日は、俺に秘密基地の改装について意見を求められ。
ある日は、ぽっぽにゲームのおき場所を知らないか尋ねられ。
ある日は、安城に日々のちょっとした心配事を相談され。
ある日は、ゆきあつに仲直りの仕方について聞かれ。
6人になって歩く時は・・・多分、後ろのほうに居た。俺らのことを見守ってくれていたのだろう。


「――男子って分かりやすかったしね、昔から」

ぽつりと鶴見の唇からもれ出た呟きに、鶴見に目を向けると、少しだが、楽しそうに唇の端が上がっていた。
ぼんやりそれを見ていると、鶴見と俺の目が合う。少し気まずくて、目を逸らした。

「ねえ、ぽっぽ・・・久川君は協力してくれてるって本当?」

少し道がずれた会話を修正した鶴見。

「ああ。この前・・・そんな感じのことを。だからお前らが手伝ってくれるって言ったら、すげえ喜ぶと思うぜ」

ピンポン。

・・・ん?
189 :1 ◆BycwRokz6k [sage]:2013/04/21(日) 14:12:12.12 ID:e70HeLFK0
そろそろ完結が見えてきたんですが、なかなか上手くまとめられずにいます・・・
どうにか納得の行く形で終わらせられるよう頑張ります!
190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/21(日) 14:51:01.88 ID:Dlok+F6c0
頑張って下さい!応援してます!
191 :1 ◆BycwRokz6k :2013/06/03(月) 23:52:16.83 ID:eMsQ4VIu0
お久しぶりです。
>>190
ありがとうございます!もう少しなので、どうにか頑張ります!映画公開までにはっ!!


チャイムの音だ。
・・・めんまか?
「ちょっと行ってくるわ」
「ええ」

鶴見に断りを入れて玄関へ。玄関の扉をがらりと開ける。

「はい・・・っ!?」

頭の片隅に、めんまを思いが居ていたものだから、小柄なめんまと打って変わって俺よりも背が高い人物が居たことに驚きを隠せなかった。
しかもその人物が―――・・・

「・・・よお・・・数週間ぶりだな、宿海・・・」
ゆきあつ。
「な・・、何しに来たんだよ・・・?」

すっと全身の血が引いた思いだ。わざわざゆきあつが俺の家まで来るとは・・・。
目の前のゆきあつは何故か肩で息をしている。急いで走って来たのかもしれない。ますます何の用なのか。
端正な顔は歪んで、俺を憎らしげに睨み付けている。会って早々この表情は何だ・・・。それにしても怖いので、俺は自然と息をのんでいた。

「なあ・・・お前、めんまと会ってたのか?」

子どものころから大事にしていた宝物を壊された時のような。
大事に手入れしてきた庭を踏み荒らされた時のような。
全身全霊の恨みを込めたような声でゆきあつが俺に問う。
単純に怖い。かすれた声しか出なかった。

「・・・は?」

隙だらけの俺はいくらでも突く場所があるのだろう。にらみをきかせながらゆきあつは言う。

「めんま、お前んちに来てたのか?」
「・・・そうだけど・・・」
「いつからだ・・・!!」

めんまは俺と会ったことを伝えたんだろうか。いや、悪いことじゃない。けど、ゆきあつがこんだけ怒ってるのはこれが原因、か・・・。
とことん憎まれてるな・・・、俺は・・・。
今にも胸倉に掴みかかってきそうな雰囲気だが、ゆきあつはまだ玄関の外に居る。

「ゆきあつ・・ソレを確認しに来たのか」
「違う。聞け!・・・これ以上、俺たちに関わるな!」

声を張り上げたゆきあつの表情は、今にも壊れそうに震えて、表情の中にゆきあつの心情が見え隠れしていた。

(・・・ああ、こいつ怒ってたんじゃ・・・なかったのか・・・)

怯えてたんだ。
どうしてか・・・、俺はゆきあつの気持ちが分かってしまった。何となくだけど。

・・・でも、めんまの気持ちにも俺は触れた気がするんだ。
たのみごとしていい?、なんて、凄く申し訳なさそうに話を切り出して。自分のお願いの手がかりを知るために、めんまは俺たちに頼んで、一緒に自分の家に入らせてもらって。道中ずっと静かに俯いて。口数少なく、自分の遺影の前に座って。自分の死に向き合って。やっと手に入った日記帳を持って、その表紙を見つめる背中はどこか寂しそうで。でも、振り返ったら笑ってやがる。

192 :1 ◆BycwRokz6k :2013/06/03(月) 23:53:12.07 ID:eMsQ4VIu0

「手を出すな!めんまにこれ以上、関わらないでくれ!どうして俺とめんまの邪魔をする!?」

今のめんまは、複雑な気持ちなんだ。
超平和バスターズに会うと、めんまは飛び上がるほど嬉しそうだったけど、その一方で、自分の『お願い』についてはしっかり考えないといけないって思っている。
そういえば・・・めんまの『お願い』がかなったら、めんまはどうなってしまうんだろう。考えたこともなかった。成仏ってやつかな。今のあいつ、幽霊だし。
でも、その成仏を望んでるんだろう、めんまは。
ずっとこの世にいることを望んではいない。
そうじゃなければ、日記帳を手に入れようとしない。

「『お願い』叶えるだなんて、お前ら言ってるみたいだけどな!分かってんのかよ・・・」
「雪松・・・?あんたどうしてここに・・・」

大声を聞きつけて、鶴見もやってくる。けれどそんなこと気にもしない。ゆきあつは、わなわなと唇を震わせて声を上げる。

「めんまが消えるかもしれないんだぞ!!?」

子どもが泣き喚く声にも似た悲痛な響きがそこにはあった。
ゆきあつは頭を抱えて、ふらふらと扉から離れる。そして、ぽつりと涙まじりの消え入りそうな声。

「俺から・・・もう、めんまを取り上げないでくれ・・・!」

だから、こんなゆきあつの言葉を聴いたら・・・。俺は。


「お前っ・・・いい加減にしろよ!」

声を張り上げていた。
ゆきあつが目尻に何か潤ませながら、呆然とした表情を見せる。


「超平和バスターズと関わる時は、嬉しそうにしてたけどな!いつか消えないといけないってアイツは、ちゃんと分かってるんだ!」

ゆきあつは俺を見ていた。少し唖然としながら、その顔は段々、悔しそうに歪んでいく。

「お前がめんまをこの世に留めて置きたいのは、俺だってなんとなく分かる!俺だって・・・!ちょっと、思ったよ!」

もし俺がゆきあつの立場で、めんまと一緒に暮らして、めんまの笑顔が、存在が、声が、日常のものとなったなら、・・・俺だってゆきあつと同じように、お願いなんて叶えなきゃいいって、思ってしまうんだろうか。
次の日もめんまにあいたくて、日記帳を俺が引き取った。あの行動の根底にある想いは、ゆきあつがめんまと一緒に居たいと想う気持ちと、多分、同じ。

「でも!それは!!」

ごめんな、めんま。ちゃんと日記帳返さなきゃな。

「俺の・・・お前の、我侭じゃねーのか!」

握った拳が痛い。

「めんまのことを、本当に想うんなら・・・!」

家の外から鳴り響く蝉の声と、俺の怒鳴り声だけが空間に響く。
ふと見たゆきあつの顔は、先ほど悔しそうに歪んでいたのとは違う色を見せていた。

193 :1 ◆BycwRokz6k :2013/06/03(月) 23:54:45.39 ID:eMsQ4VIu0

「・・・めんまのために、めんまの願いを叶えるべきじゃねえのかよ!?」

めんまと関わって数日の俺が言えた話ではない。それは分かる。自分勝手、我侭、だなんて、・・・我が身可愛さに引きこもる俺が、なんて偉そうに。
けれど言い出したら止まらなかった。
めんまのことを想ったら、止まらなかったんだ。
その証拠にこの頭の中にはめんまの顔ばっかりがよぎってしまっていて・・・。だから、よく頭が回らないのに、口が勝手に動いていた。


「めんまだって・・・、つらいんだよ・・!」


いつの間にやら、涙がこぼれていたことにはっと気付く。鼻の中が重い。
涙をぬぐって、ゆきあつを見据える。


――だぁれが、こんなブス!

忌まわしき過去のあの日。
超平和バスターズが、音を立てて崩れ落ちたあの日の。
めんまの泣き笑いのような表情が思い起こされる。


何でだろう。
不思議ともう躊躇なんてせずに。
ゆきあつの目を見据えながら。

「俺」

あの日の、めんまに言うように。

「めんまが好きだ」

今となってはもう遅いのだとしても。

「・・・好きだった」







「俺だって!!!」

ゆきあつはそう吼えるように叫んだ後、握り拳を見てるこっちが痛くなるくらいに強く握り締めながら、去って行く後姿が見えた。

・・・その、後姿が消えてから、しばらくしてから自責の念のようなものが自分の中に立ち上る。自分の怒鳴った声、涙の味、ゆきあつの表情・・・とかが全部がいっせいに俺を襲ってきたので、後ろの鶴見に向かって俺は言う。自分でも情けないと思うような声で。

「ごめん、余計なこと・・・した」
「ううん・・・」

意外にも鶴見の声は落ち着いていて。振り返ると、もっと意外な事に鶴見は、わずかに微笑みすら浮かべていた。

「言えるんじゃない、宿海君」
「・・・え・・と」

それは何に対しての・・・ことだろう。
今までびびりまくっていたゆきあつに対してあれだけの暴言(?)を吐けたこと?
それとも・・・・・・・・・・・・・・、

「あの日も、あんな風に素直になれたら良かったのにね」
「や・・・修羅場になるだろ、・・・」
「そうかしら」


う・・・・ああ・・・顔から火が出そうだ・・・・

鶴見に背を向けて火照っている顔を隠すように、手のひらを広げた時、鶴見が言った。


「あの頃のゆきあつなら、多分・・・。宿海君が正直に気持ちを話していたなら、もう諦めていたと思う」
194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/06/28(金) 22:34:38.21 ID:fvnhnM4qo
このスレ立ってから2年が経とうとしてるのかwwwwww
最古の現役スレじゃね?
195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/07/06(土) 22:39:16.52 ID:mktPuiqDO
譛溷セage
196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/07/06(土) 22:39:59.95 ID:mktPuiqDO
期待してます!
197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/07/07(日) 15:06:51.06 ID:uRs4Gu76O
期待してます!
198 :1 ◆BycwRokz6k :2013/07/10(水) 22:21:52.47 ID:+c8UjBGv0
>>194
ええマジですか・・・!?進むのおそすぎですみません!!速く頑張って終わらせます!
>>195>196
ありがとうございます、たいしたもんじゃなくてすみません!
>>197
ありがとうございます、おそくてすみません!

+ + +
だらーとしながら、ゆきあつの帰りをまつめんまですが。・・・大変なことに気付いたのです!

・・・急いでて!じんたんに!日記帳返してもらうのっっわすれてたあ!


うわあーん!めんまのばか!そもそも今日じんたんち行ったのってそのためなのにっ!うううどーしよう。取りにいこうかなあ・・・
いやでも、また外に出たらゆきあつ心配するかも・・・。
うーー・・・・・

ゆきあつの机の上には、今日も教科書みたいなのと、ノートがおいてある。それを見てみても、難しいからめんまにはよくわからないけど、ゆきあつの字は相変わらず綺麗だっていうことは分かった。ノートの線に沿って、きっちりかかれてる!さすがだなあ、ゆきあつってば。

ノートの上に転がるシャーペン。シャーペンなんて、めんま、ぜんぜんつかったことないよ!ずーっと鉛筆だったもん!シャーペンかあ、クラスのちょっと背の高い女の子が、もってたっけ?いいなあ。


・・・あ、そうだ。

「めんまもなんか書いてみたいなあー・・・っと」

ちょっとかりちゃおう!あとで消せば大丈夫大丈夫!
『めんまもなんか書きたいよ』の歌をうたいつつ、水色のシャーペンを借りて、えっと、上のとんがったとこ押すんだよね?うん、かちかち。それで、ノートのはしっこに・・・・・・はしっこに、

「・・・れ?」

あれえ?書けないよ?
たしかに、ノートに描いてるはずなのに、文字はおろかあとすら残らないで、ノートの端は白いまんま。

「??」

かちゃかちゃ振ってみる。芯がながーくでた。
もっかい書いてみる!

「・・・あれれえ?」

かけない・・・。こんなに芯も出てるのになあ・・・?
はっ!もしかして、落書きは許さないノート・・・?べんきょうのこと以外は、受け付けないノートなのかも!?

「うーむ・・・」

ちょっといんてりめんまだよ!習った覚えのある漢字とか、書いてみ・・・る・・・・・

「えええー?」

・・・なにもかけない。
たしざんも、ひきざんも、書いてみたけどぜんぜんだめ!
書いても書いても、何も残らない!

「・・こわれてる?」

でも、昨日ゆきあつが使ってたし・・・。
199 :1 ◆BycwRokz6k :2013/07/10(水) 22:24:19.28 ID:+c8UjBGv0


「うーん???」

ふしぎだいはっけん。
帰ってきたらゆきあつに話そうっと!明日日記帳もらいにいくとき、じんたんにも言ってみよーっと。・・・あ!そうだ!

「・・・芯がいけないのかも?」

しん、しーん!シャーペンのしーん!ほそーいしんはどこですかー!!

どこだろ?引き出しの中?・・・ちょっとなら開けても平気だよね!
ゆきあつの引き出し、ちらーっと開けてみる。

「しんってどれかなー・・・ん?」

開けたところのすぐ隅に、見覚えのある――・・・

「これ・・・」

桃色の花びらのパッチン・・・

「・・・ゆきあつ」

そっと、優しく、手に取る。

「まだ、持ってたの?」

これ、・・・めんまの死んじゃった日・・・ゆきあつがめんまにくれたパッチン・・・。
・・・かわいいな。キレイなまんまだあ。

「まだ・・・持っててくれたんだ・・・」

じんわりと、思い出す。
ゆきあつ、顔真っ赤にして・・・ポケットから取り出して、これをくれたんだ・・・。
めんまも顔が熱くなったの、覚えてるよ。

「・・・ちゃんと・・・もらっておけばよかったなあ・・・」

あの後のめんまは、足遅いくせに、あの山道をこけそうになるくらい、いっしょうけんめい走って・・・、ゆきあつの言葉が胸にしみてて、バクバクドキドキ、心臓のうごきがとっても速くて・・・

きゅっと握り締める。
・・・なんだか見ちゃいけないようなものを見た気がした。
でも、めんまに関わるものをまだ持ってくれていたゆきあつの思いが、嬉しい。
さっき置いてあった場所にしっかり戻して、引き出しを閉めた。

これは、こんな形で、めんまが勝手にもらっちゃいけないと思うから。



「ゆきあつ・・・」

はやく、かえってこないかな。

200 :1 ◆BycwRokz6k :2013/07/10(水) 22:33:59.11 ID:+c8UjBGv0

+ + +
それから、ほんの数分後くらい。クッションを抱きしめながらそろそろ転がってみようかと暇をしていたころ。
ガチャリ、と玄関からドアの開く音が!ゆきあつが帰ってきたみたい!クッションを放り投げて立ち上がり、部屋の扉を開けて、そこから顔を出しながらゆきあつを待ちます!

「おかえり、ゆきあつ・・・わ!?」

階段を上ってくるゆきあつのお顔!ものすごい疲れたような、落ち込んでいるような・・・!思わず驚いてしまった。

「・・・どしたの?何かあったの?」

ゆきあつは何も言わずに首を振って、めんまを通り過ぎて部屋に入った。

「ゆきあつ、どこに行ってきたの?」

しーんとしちゃったまんま、何も話さないゆきあつ。そして動かない・・・。
部屋の端っこに座り込んじゃったゆきあつは、すんごく俯いちゃってて・・・。

(えーと、えーと・・・)
「ゆきあつー・・・?」

特に何も考えずに、とりあえず、のそりのそりと、ゆっくりゆきあつに近づいて、顔をのぞきこんでみる。ゆきあつはなんだか少し見覚えのあるような悲しい顔をしてた。それは、とおい昔、さーくんが悪いことしちゃったあとお父さんに怒られた時にしてたような顔。

「・・・」

ゆきあつは何も答えないでいる。
(うーむ・・・)

さーくん、おこられた後・・・どーやって泣き止んでたっけ・・・。あっ、ゆきあつは泣いてないんだけど!
お父さんに怒られて、泣いて泣いて・・・・・・・あ、そだ!お父さんに抱き上げられて、いい子いい子をしてもらってたんだ!
さすがに抱き上げることはめんまできないかも・・・。もうちょっとめんまが大きかったらなあ・・・。
めんまの手のひらを見つめる。お父さんの手は大きかったなあ。ちょっとちっちゃい手だけど、ごめんね?

「・・・いい子いい子!」
「!」
「わあ。ゆきあつ、髪の毛さらさらだ!
めんま負けちゃったかもー。えへへ・・・。」
「・・・・・・」
「・・・ゆきあつはいい子ですよー。大丈夫!大丈夫だよー」

なでつづける。ゆきあつはいい子いい子。

「っ・・・」
「大丈夫・・・」

自分で言ってて、何が大丈夫なんだろうって不思議になっちゃったけど、安心させたいから、ね。
きっと何か、いやなことがあったんだと思うから。

「・・・・っ・・・」

何かをこらえるような声。
何があったんだろう、ゆきあつに。

頭を撫で続けながら、ゆきあつを心配する気持ちもあったんだけど、めんまの心ではもうひとつもやもやする気持ちがうずまいていた。
ゆきあつの髪の毛に触れるたび、胸がちくりと痛んだ。花柄のパッチンのありか、ふと思い出す。
あのとき、応えてあげられなくて、ごめんね・・・。
201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/07/18(木) 17:56:36.40 ID:TOOU2N3a0
マジかよ追いついた
みてるよー
202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/07/23(火) 22:42:18.61 ID:CgiZo4ZDO
最近、あの花見た者です!

うおー ゆきあつにもいい思いさせてくれーっ
全力支援です
203 :1 ◆BycwRokz6k :2013/07/28(日) 12:49:56.81 ID:p48VMVYr0
>>201
追いつかれた・・・!?ありがとうございます!がんばる!
>>202
わー!嬉しいです!映画も楽しみですね!
ゆきあつ大好きなのでいい思いさせてやりたいばかりにスレを立ててしまいましたどうにかがんばります!

* * *
ああ、もうすっかり参ってしまった。
宿海に言われたことが頭から消えない。
どれもこれも。


まっすぐ俺を見たあいつの瞳。あいつがリーダーだったあの頃の時のよう、俺らを引っ張ってたあの頃の時の瞳で。

『・・・好きだった』

体が震えた、脳みそが揺さぶられた気がした。
宿海がもしその台詞を、超平和バスターズの最後になった、あの日に言っていたら・・・、そう考えたら。たまらない。
仲間達・・・まあぽっぽは入ってないが、俺らの思惑、暗雲渦巻く空気の中、顔を真っ赤にしためんまと宿海。それにポケットの中で、拳を握り締めたあの日・・・。
お前がそれを言ってたら、俺とあなるが秘密基地から飛び出してたかもな・・・。そしたら、めんまは追いかけてきてくれただろうか・・・。


『俺の・・・お前の、我侭じゃねーのか!』
『めんまのことを、本当に想うんなら・・・!』
『・・・めんまのために、めんまの願いを叶えるべきじゃねえのかよ!?』


・・・分かってる・・・分かってるんだ。
めんまを引き止めたいこの想いは、本当にただの、我侭でしかないってこと。
ずっと昔から引きずってた、消えない、重い恋心が、俺にしがみついてるってこと。
めんまのために、身を引くことができないでいるってこと・・・。

俺も、『お願い』叶えてほしいよ、めんま・・・。
俺に・・・俺に振り向いてくれよ、・・・それだけが俺の・・・ずっとずっと昔からの、誰にも叶えてもらえない『お願い』なんだ・・・。


+ + +
・・・目を覚ますと、朝だった。
っていつのまにやらベッドにいるし!毛布もかかってる!わーゆきあつ運んでくれたのかなあ・・・。あんなに落ち込んでたけど、大丈夫かな・・・。

「えへへえ・・寝ちゃった」

・・・ってあれえ?ゆきあつに言ったつもりだったけど、部屋の中にはもう誰もいない。

「はやいなーゆきあつったら。」

なんて呟きながら立ち上がる。ちぇー。ちょっと寂しいなんて内緒だよっ。
・・・んー!帰ってきたとき元気なかったら、ゆきあつのことまた慰めようっ!
時計をみたら、7時半!もう行っちゃったのかなとは思っていたけど、この時間ならまだ家を出たばかりかもしれないから、ゆきあつの姿を探すように窓を開けてみる。うーん、風がなまぬるーい。

「あれ・・・?」

玄関の前に、誰か2人立っている。窓を開けた音に反応したのか、その2人は同時にこちらに顔を上げた。
あのシンプルなTシャツ、まっくろな髪のくせっけ。
さらさらした髪。高い背。制服。

「!ゆきあつー!!じんたーん!」

なーんだ!こんなところにいたんだねっ!
窓から身を乗り出して手を振ると、ふたりはぎょっとした顔をした。

「め・・・めんま!」
「めんま!?」
「おっはよ〜う!」

待ってえ、今行く!と叫んで、急いで玄関へ!ひとつふたつ、ドンドンと階段を駆け下りる!

「どしたのじんたん!こんな朝早くから〜!」

ガチャ!と扉を開けると、すぐそこにゆきあつが居た。ふと見ると、ゆきあつの手に、見覚えのある水色のカバーの本が。

「あれえ?」

・・・なんで、めんまの日記、ゆきあつが?

「ゆきあつ、それ・・・?」
「あ、これは・・・」

ゆきあつが本の持ち方を変えたとき見えたのは、うさちゃん!やっぱりめんまの日記だ!
じんたんのほうをむいていて、めんまには背中を向けているので、ゆきあつの前に回り込む。
204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/07/30(火) 05:29:12.61 ID:N2B6x3Vu0
めんまのこと好きだけどどうあがいてもめんまへの愛情でゆきあつに勝てない
見てるから頑張れー
205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/08/19(月) 01:45:21.22 ID:qSjDdLaw0
これは面白い
ガンバ
206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/08/19(月) 01:46:42.00 ID:qSjDdLaw0
207 :1 ◆BycwRokz6k :2013/08/23(金) 23:04:28.99 ID:c+rgB3sn0
>>204
本当ですよね。めんまの死を忘れられないでいる超平和バスターズの中でも、ゆきあつは一際忘れられずにいますよね。 そんなに好きなのに、めんまを手に入れることは出来ないなんてもう、本当に可哀想でなりません。 がんばります!ありがとうございます!
>>205>>206
ありがとうございます、大したものをかけるようになりたいです。


(めんまの日記帳・・・)
「・・・もしかして、じんたん、これ、届けてくれたの?」
「おお・・・。お前、忘れてったから、な」

ぽりぽり頬をかきながら、じんたんは少し目線を逸らして言う。えへへ!じんたんやさしーな・・・。

「ありがとうっ!めんま取りに行こうと思ってたんだー!」

ゆきあつから日記帳を受け取って、うでのなかで抱きしめる。 懐かしいなあ。むかしのめんま、これを毎日書いてたっけ。日記の中の1日1日を、ぜんぶ思い出せそうだよ。少し古くなってる日記帳の表紙。なつかしいサイズ。

「おう・・・」

じんたんが言ったのは、それだけ。 しーん。 な、なんだろう・・。このふんいき! ゆきあつとじんたん、なんだか表情が固いよ?少なくとも、さっきまで仲良くお話してた!とかじゃ・・・ないのかも・・・。
・・・2人は、今までもよく、喧嘩してた。・・・2人の間に、なにか、すごくきょりがあるようなきがする・・・。

「・・・・・・・じゃ、それだけだから」

えっ!あ、帰っちゃだめえ!くるりと後ろを向いて帰ろうとしたじんたん!めんまは急いで引き止める!

「!じんたん!待って待ってえ!」
「んなっ・・・」

シャツのすそを思いっきり引っ張ると、じんたんはちょっと体勢を崩してのけぞった!そのままめんまは言う!

「ほーこくがありますっ!じんたん刑事!」
「で、デカってなんだよ・・・」

体勢を持ち直して、じんたんはすそを気にするように、めんまの手を払った。
ゆきあつのことを気にしたのかな?じんたんは不満そうな顔で、めんまの後ろに目を向けた。
そんな早く帰っちゃやだよー・・・。

「はい!えっと、昨日の『シャーペンかけなかったよ事件』を報告しようと思ったのです!」
「は、はあ・・・」
「ゆきあつ刑事、時間はありますかっ!?ゆきあつ刑事にも知らせたいとおもって!」
「あ・・・ああ」

・・・ふたりとももっと楽しそうにしてくんなきゃやだよう・・・。

「・・・あのねー、昨日なんだけどね!ゆきあつのシャーペン借りてね、ちょっとかこうとしたの!・・・・・・んー、何か書くものなあい?」

そういうと、ゆきあつはすかさずカバンからペンケースを取り出して、シャーペンを貸してくれた。ありがと!
どうしたら信じてもらえるかな?やっぱ書いてみるのが一番だよね?

「まっててねえ・・・ほら、」

めんまは日記帳を後ろから開いて、何もかかれてないページに、シャーペンで何か書いてみることにした!
ゆきあつとじんたんが、めんまの手元をのぞきこんでいる。あっ。2人とも同じようなタイミングでめんまの日記を見た。なんか、嬉しいかも!
・・・・・えーと、こうして・・・


・・・あれ・・・?

「あのね、こんなふう・・・・・に、・・・・・・あれえ?」
「なにやってんだよ、お前は・・・」

ノートのはじには『め』とちゃんときるされてある。めんまって、書きたかったんだけど、・・・かけちゃった。あれ?

「し、しん?でも昨日もでてたし・・・」

ペンを使って紙に何か書こうとしたんだから、紙に書けるなんてあたりまえなんだけど、でも、でもちがうんだもん!えー?だってちょっとも、跡が残らなかったんだよ、きのうは!しんもこーしてでてたし、えっと、えっと。 焦るめんまに、じんたんはあきれたように声を出した。

「・・・かけてるじゃねえか」
「・・・ねー?」
「ねーじゃねえよ・・・」
「・・・そういうこともあるだろ、あんまりめんまを責めるなよ」
「・・・そういうこと、って・・・なんだよ・・・てか責めてねーし・・・」

えっ、い、言い合ってる!ややややめてやめてっ!

208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/08/28(水) 01:49:48.13 ID:PFnTsTVs0
このssはゆきあつのどうしようもなく一途なところも汚さも忠実に再現されてて大好きです!
少しはいい思いしてほしいけど、報われなくて、それでもめんまを思い続けるのがゆきあつなんだよなぁと思いつつ、支援!
209 :1 ◆BycwRokz6k :2013/09/06(金) 08:20:20.61 ID:CtEh3eba0
映画後悔までに終わらせられませんでした、悔やまれますすみません
とりあえず今日映画見てきます

>>208
ありがとうございます!たいしたものじゃなくてすみません
ゆきあつのめんまに一途なところとか汚れたところとかが大好きです


「でっでも!昨日ゆきあつのノートにはかけなかったのに・・・」

ずいいっ!と2人の会話を遮って、めんまは自分の意見をしゅちょうした!ふう!けんかはだめだめ!
ゆきあつは日記帳とシャーペンを見つめながら、めんまに聞く。

「めんま・・・芯は、確かに出てたか?」
「出てたよー!いっぱいだしたもん!」
「じゃあ、とりあえずこれに書いてみてくれ」

と、ゆきあつが出したのは、英語?のノート。

「ありがとっ!こっちに書けばいいの?」

よくわかんないけど、ゆきあつの言うとおりにしよう!
めんまはノートを開いて、はじっこに、また同じくめんまと書こうとした!のだけれど・・・・・・・・

「・・・あ、あれ!ほ、ほら!」
「ん?」
「書けてないな」

ほらね!かけないの!
芯もちゃんと出てるし、かけるはずなのに、ゆきあつのノートには『めんま』の、最初のいっかくめすら映らない!

「ちょっと借りるぞ、めんま。・・・・・・」

と、ゆきあつは同じようなことをする。
すると、ゆきあつのシャーペンの先からはしっかり色が出て、ノートのはじにはきれいな文字で『めんま』と、見事に書かれたのだった!

「・・・何でだ?」

ゆきあつは何度か、めんまめんま、と、めんまの名前を書き続けた。最後にはぐるぐるとシャーペンでノートに意味の無い模様をかきつらねていく。めんまも時々シャーペンを借りて書いてみるけど、めんまの時には書けない。なんでだろう?
じんたんがぽつりと言った。

「・・・もしかしたら日記帳にしか、かけないんじゃねえの。・・・めんま」

210 :以下、新鯖からお送りいたします [sage]:2013/09/06(金) 09:55:28.89 ID:RXnvaqYuo
公開と後悔をかけたのか
211 :以下、新鯖からお送りいたします [sage]:2013/09/08(日) 00:46:39.11 ID:YUyx/MPSO
追いついた

………涙腺はまだ大丈夫だ…
でも、思い出すと…少し鼻ににくるわね。
212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/10/01(火) 19:10:54.49 ID:6pPS0fYDO
おつ
10月なったな…
213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/10/25(金) 21:35:05.43 ID:+p+Rs9rpo
来るかな
214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/10/28(月) 10:40:43.84 ID:aVmHLRozo
だめなのか?
215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/10/28(月) 21:45:21.93 ID:jJTnAS8Mo
もう無理だろ
216 :1 ◆BycwRokz6k :2013/11/05(火) 21:38:02.23 ID:EW0qCAPM0
だめでした・・・・・
とりあえず完結はさせたいのでお付き合いください

>>210->>215
公開と後悔かけた形になりましたねもうこれは・・・
みなさんすみません・・・



「・・・!」
「あー!」

ぽん、と手を打つ!たしかにそうなのかも!

「・・・そうだな。俺がかけるんだし、ペンに問題は無い・・・。めんま、日記帳に何か書いてくれないか?」
「うんっ!えーとお・・・さ、す、が・・・」

めんまは、『さすがじんたん!』ってかいた!ふふ、ゆきあつも感心してるよー?
さすが、じんたん刑事(デカ)!めんまひらしゃいんだから、まだまだだー。

「・・・」
「・・・」

・・・2人とも黙っちゃった?・・・むう。
でも、嬉しい!これがあれば、みんなとお話できるんだよね?やっと、やっと、みんなと・・・!嬉しいなあ・・・。
日記帳が、みんなとのつながりになるんじゃないかなあ!
えへへ・・・。
ぎゅっと日記帳を抱きしめた。生きてた頃のめんま、ありがとう・・・。

「じゃ・・・俺帰る、から」
「えっ、なんでえ?」

気がつけばじんたんてば、すごくすごく嫌そうな顔してる。ちょっと顔青いし・・・。
もう速く帰りたいらしくて、もう何歩か玄関から離れてる。

「じんたん?」
「・・・・ほ、ほら・・・」

もういいよな、って言う風に、じんたんの足は今にも、じんたんの家へ向けて動き出しそう。
逃げるようなじんたんに、めんまは悲しくなった。何も言わないゆきあつにも。
もう、ゆきあつとじんたんは・・・昔みたいに、仲良くなれない?もう一回名前を呼ぼうとしたら、その時。

「・・・宿海!」

隣のゆきあつが、じんたんを呼び止めた!めんまも驚いたけど、じんたんも驚いていて、びくっと震えた。そしておそるおそる、振り返る。

「な・・・」
「・・・めんまも聞いてくれ。」
「?」

めんま?

「なにー?」

今良く見れば、ゆきあつのじんたんを見る目つきが、今までのと全く違った。
今までは、本当に、嫌ってるみたいに・・・、何かじんたんを、別の生き物としてみるような目で、見ていたんだけど、今日のこのゆきあつは、真剣に、まっすぐに、じんたんを見ている。リーダーだったじんたんに対する態度のように。

「俺、叶えるから。」
217 :1 ◆BycwRokz6k :2013/11/05(火) 21:39:07.58 ID:EW0qCAPM0

じんたんの目が、丸くなった。

「・・・?前も言ってくれたよー?」

お願いのこと、だよね?
でもありがとう!にっこり笑うと、ゆきあつは少し口元を緩めてから、またじんたんを見た。

「・・・ああ、そうだな」

変なゆきあつ!

「・・・ゆきあつ、お前・・・」
「それだけだ。・・・またな」
「・・・・・おう」

それだけ交わして、じんたんは帰った。最後にゆきあつに、どこか挑戦的に微笑んで。
不思議だな。さっきの会話では、なにか、2人の間にあった、わだかまりが、なくなったようなそんな気がした。
えへへ・・・!わかんないけどめんまもうれしい!

「ゆきあつ!」
「何だ?」
「・・・よかったねえ」
「・・・何がだ・・・?」

本当に分かんないみたいに、困ったような顔するゆきあつ。
でもねー、なんか、前までとは違うよ?ゆきあつ、なんだか、すっきりしたかおしてる!

「ふふ。ねー!日記帳があれば、めんま、皆とお話できると思うんだ!」
「ああ!確かに・・・」
「だから・・・今度こそ、また会いたいなあ。この日記帳つかって、お話もしたい!」
「そうだな」
「・・・ゆきあつ、もう、大丈夫?」
「え?」
「昨日、元気なかったから」

そう聞いたら、ゆきあつはちょっと黙っていた。

「・・・ああ。知りたかったことが、知れたし、な」
「・・・そっかあ?」
「めんま、・・・」

ゆきあつがめんまを見た。きりっと、まっすぐ見てくる。きれいな瞳。・・・何だろう?

「俺に任せてくれ。・・・お前のお願い、叶えたいんだ。」

・・・だから、前も聞いたよ?
・・・でも、・・・でも、何度聞いても嬉しいのは・・・なんでだろう。・・・。


「うん。ありがと、ゆきあつ」

ゆきあつの優しさに、精一杯の感謝を込めて。笑顔を見せれば、ゆきあつも、優しく微笑み返してくれた。

+ + +
218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/11/06(水) 06:31:15.11 ID:7ZvZCbOso
待ってるからがんばってくれ
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