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安価で世界観共有してSSでも書かないか? - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [saga]:2011/07/08(金) 22:59:15.67 ID:MIc1OUjw0
まとめ

設定:剣と魔法の世界

舞台:異世界レイス

文明:首都には錬金術師が集まる大学がある
    錬金術自体は発展途上で一般人には浸透していない
    そのため魔法が錬金術(科学)より発達している

種族:エルフ・ドワーフ
    ホビット・獣人族
    モンスター・魔族
    人間

国家:レヌリア帝国
    エリュオス王国 
    ディルフィリウスの森(エルフ居住区)
    機工王国ギムリアース

世界的問題:古き神々の暴走でモンスターの遺伝子崩壊、雌が生まれず
        他種族の雌を苗床とするために襲撃するようになった

vip過去ログ
http://logsoku.com/thread/hibari.2ch.net/news4vip/1309782510
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佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
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全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
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トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
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【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
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ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/08(金) 23:00:56.85 ID:mOv/InI7o
スレ建ておつおつ
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/08(金) 23:09:17.24 ID:JrefbLbn0
よくわからんが期待
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/07/08(金) 23:10:57.08 ID:S5yDEu70o
お、たってた
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) :2011/07/08(金) 23:15:00.60 ID:049rsZQ70
乙。向こうは落とすのか?
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [saga]:2011/07/08(金) 23:16:14.04 ID:MIc1OUjw0
>>5
今wiki作ってくれる人募集中
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) :2011/07/08(金) 23:17:36.24 ID:049rsZQ70
了解。でも俺は作り方分からんな
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) :2011/07/08(金) 23:20:20.82 ID:vUtpStP70
エロいの?
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [saga]:2011/07/08(金) 23:23:41.92 ID:MIc1OUjw0
>>8
エロくなくてもいい
今んとこ例えばモンスターが人類を襲う理由がアレってだけだから
理由に触れなくてもいいし全面戦争でもおk
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) :2011/07/08(金) 23:23:45.33 ID:049rsZQ70
>>8
エロくないよ
安価で決めた設定だから最後に変なの入ってるけど、エロくしたくなかったら世界的問題を絡ませないで話を作れば問題ない
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/08(金) 23:25:22.54 ID:vUtpStP70
>>9
>>10
ありがと把握
ちょっと前スレ流してくる
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/07/08(金) 23:44:28.04 ID:S5yDEu70o
ttp://www14.atwiki.jp/vipperld/
ここまでしかやってあげない
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/08(金) 23:48:31.46 ID:LdW+hLeDO
>>12
ありがとう
有効に活用するよ
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/07/09(土) 00:35:46.37 ID:eHrrJo7I0
そういや錬金術を学ぶ場所は大学なんだよね
じゃあ魔法を学ぶ場所はどうなんだろ? 魔法学校?
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/09(土) 01:01:24.92 ID:cGZFoVLDO
そこら辺は曖昧だけど、逆を言えば早い者勝ちじゃないかな?
矛盾発生時は当事者間で話し合うか、先に投下した方優先か……
少しずつ整備していきたいね
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/07/09(土) 01:07:48.84 ID:eHrrJo7I0
>>15
そっかありがとう

それともう一つ
投下するのはここでいいんだよね?
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/09(土) 01:48:15.83 ID:cGZFoVLDO
>>16
いいと思うよ

今の段階ではまだ手探りな部分が多いから中々筆が進まないかも知れないけど、SSが増えればそれだけこの世界観に深みが増して後の人も書きやすくなると思う
楽しみだね
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/07/09(土) 01:52:29.63 ID:E60Oa47Yo
じゃあ今から適当に書き散らしてくか
今日中に完結させるとかはしなくていいんだよね?
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/07/09(土) 01:56:43.80 ID:eHrrJo7I0
>>18
「つづく」

みたいにすればいいんでない
俺もそんな感じでひとつ書けたから後で投下するよ
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/09(土) 02:18:21.96 ID:1Sg99lPzo
vipに立ってたスレの>>24を下地にして、文明滅亡当時に生きた一兵士の話を書こうと思ってるんだが、

魔術と併せて科学(錬金術)もかなり発達していたから、
滅亡直前には、自動車代わりに魔翌力を燃料とする魔導サイボーグ馬が開発されるくらいの文明水準にしていいかな。
軍事は中世の兵装をデザインそのまま機械化して、重機関銃と剣を併用させるようなビジュアルで。

あと滅亡したこの文明は、世界観的に超古代文明という位置づけでおk?
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/07/09(土) 02:35:40.11 ID:eHrrJo7I0
>>20
早い者勝ちじゃいいと思う
滅亡前なら後のSSにもそこまで影響を及ぼさないだろうし

しかし超古代文明なんだろうか?
滅びてからどのくらいの時間が経過してるのかが疑問だぬ
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/07/09(土) 02:56:24.18 ID:eHrrJo7I0
ちょろっと書けたので投下します
他の人が考えてる設定と大分違うし
いろいろと知識が間違ってる箇所もあるかもしれませんが御愛嬌で許してやってください

それでは7レスほど使わせてもらいます
23 :わたしと教授の秘境探検記 『白鳥海域』 :2011/07/09(土) 02:58:39.83 ID:eHrrJo7I0

 船は不安定なバランスで進んでいた。波は予想の三倍以上は荒れており、わたしは早
くも船に乗ったことを後悔した。たとえ後悔しても口から吐き出たミートパイやグリン
ピースの残骸は決して元に戻らないのだけれど。
「面白い顔をしているなリンス?」
 長い髪を掻き上げながら、意地の悪そうな顔の男が、横からわたしを覗き込む。
 ――おかげ様で! わたしは無視して海に吐瀉する作業を続けた。
「フハハ。ぐうの音も出んか。だから言っただろう。女は都で大人しく待ってろって」
「うるはい」
 相変わらず最低な男だ。ことに彼は女性をいじめることに関して恐ろしいほどの才能
を持っている。こんなのがうちの教授だと言うのだから手に負えない。
 そもそも話を持ちかけてきたのは……
 やっとのことで落ち着いた腹をさする。下を見ると既に吐瀉物の濁った黄色はかき消
され、濃密な白色が広がっていた。
「――あっ!」
 瞬間、目の前を白い鳥が掠める。正確には鳥ではない。それは霧だった。
 鳥の形をした霧の大群が船の進路から勢いよく飛んでくる。
       
「来たぞ――『白鳥海域(ミストスワン)』だ!」

 わたしたちは慌てて船室に駆けこんだ。その際に教授が誰かの足に引っ掛かって転ん
でいたが、誰も手を貸さなかった。ざまあみろ。
24 :わたしと教授の秘境探検記 『白鳥海域』 :2011/07/09(土) 02:59:51.23 ID:eHrrJo7I0

 始まりは一通の手紙だった。教授の旧友らしく技術者として働いている。彼が届けた
便りは、教授どころか、大学全体を熱狂させるくらいの内容だった。
 それというのも、まずは『白鳥海域』に着いて説明しなくてはならない。
 とある、地図にも載らない島がある。今日、未開拓の島など珍しくないのだが、そこ
だけは他と違う。何故なら、その島こそ今までに幾つもの人間の命を呑み込んできた、
死の島とも呼ばれ恐れられている場所だったからだ。
 恐ろしきは島を守る無限の兵隊たち。
 その島は、まるで親鳥が子を翼の中に隠し、守るようにして濃密な霧が全体を包んで
いる。そして巨大な雲のような霧から生まれ出る何匹もの白鳥。その霧の始まる場所か
ら一帯が白鳥海域と呼ばれている。
 白鳥にぶつかってもそこまでの危険性はない。何しろ奴らの真の恐怖は船の動力部分
と衝突してからなのだから。詳しいことはわからないが、そこで運動する魔翌力に反応し
ているらしい。
 魔翌力と触れた白鳥は一個の爆弾となる。
 ドカン!――だ。
 理論は不明。魔法で撃墜するのはもちろん前述の通り不可能。実体がないため武器は
通用しないし、相手は無限に精製されるのだ。あの悪魔の霧から。
 霧の先には島がある。これは過去の、現代よりよっぽど発達していたあの時代の文献
から確認されている。しかし学会には、そこには何もない、文献は嘘っぱちだと言う人
もいる。その人は自分の息子を白鳥海域で失くしていた。
 だからその島は地図に載らない。一文の『危険だから近寄るな』という警告があるの
みだ。
 あるかどうかもわからない、霧で作られたような実体のない島。
 そこに行く方法があるらしい。
25 :わたしと教授の秘境探検記 『白鳥海域』 :2011/07/09(土) 03:00:48.66 ID:eHrrJo7I0

「『蒸気船』ですか?」
「そうだ。よくわからんがアイツはそう言ってたな」
 教授が言うには、例の旧友はなんとも奇妙な男で、自分を別世界から来たとか喚いた
狂人紛いだったらしい。偏屈な教授は彼に興味を持ち、そこからいろいろあったらしい
がわたしはよく知らないし知りたくもない。
「魔翌力を使わずに船を漕ぐ。そんな逆転の発想があったとはな! 確かに現代は過去の
栄華に追いつこうと先人たちが舗装した道ばかりを進んでいた。たまには寄り道もして
みるもんだ」
「だけど信用できるんですか? 魔翌力以外で船を動かすなんて、手漕ぎのボートとかな
ら聞いたことありますけど」
「実は過去にもそういう実験がされたことは証明されているんだ。文献をあされば幾ら
でも出てくる」
「文献ですか」
 白鳥海域にしてもエンジンにしても、すべては先人がやったことの復習でしかないの
か。わたしたちは何時になれば、文献という劣等感を捨て、本物の未開拓の地を踏みし
めることができるんだろう。
「つい最近のことだがな、現代でもそういうのを勉強する学問が認められつつあるらし
いぞ。確か『錬金術』とかいう」
「御託はいいです。それで、どうしてその話をわたしに?」 
 ニヤリと口角を吊り上げる悪魔の顔。これだ。この顔は教授が心底楽しんでいる時の
顔で、そう言う時は大抵、わたしたち女が虐げられる場合なのだ。
26 :わたしと教授の秘境探検記 『白鳥海域』 :2011/07/09(土) 03:01:35.75 ID:eHrrJo7I0

「行きたいか?」
「別に……」
「本当か? いや嘘だ。目が泳いでる、鼻を触ったな――お、髪を弄る時は納得のいか
ない場合。ふふん、そんなに睨むなよ」
「何のつもりですか?」
 なるべく語気は抑えたつもりだ。それでも、それでも!
 自分の心を見透かされたことは構わない。それより、わたしは、こんな最低な男から
の招待でも、行きたかったのだ。現代を生きる人間は、まだ誰も見たことのない、神秘
の霧に包まれた島。そこの初上陸を踏む名誉がどれだけのものか!
「正直に言えば、考えてやらんでもないぞ」
 大きく息を吐いた。
「行きたい、です。教授。お願いします」
 教授はにっこり笑うと、
「やーだよっ」
 ふざけんな。ふざけんな。
「いやぁ、お前が頭まで下げるとはな……よっぽど行きたかったんだな。よしよし安心
しろよ、俺がしっかりこの目玉に島の風景を焼きつけてくるから」
 ふざけんな。ふざけんな。
「うんうん。俺はな、リンス。お前のそういう姿を見るのがたまらなく好きなんだよ」
 ふざけんな。ふざけんな。
「だいたい俺が本気で連れていくと思ったのか?」

「ふざけんなあああああ――!!」
27 :わたしと教授の秘境探検記 『白鳥海域』 :2011/07/09(土) 03:02:20.54 ID:eHrrJo7I0

 悲鳴が上がる。それは戦士たちの悲鳴だ。白鳥たちの泣き声だ。
「奴らお目当ての魔翌力がないもんだから混乱してやがるな」
 そのおかげで船室にいる全員、悪魔に取り憑かれたような苦悶の表情で耳を抑えてい
た。教授は相変わらず飄飄としているが、現在、船はかなり危険な状況にある。
 白鳥たちは見当たらない魔翌力ではなく、微弱ながらも匂うわたしたちの魔翌力に反応し
ていた。船室に我先にとぶつかってくる。
 正直、島まで残りどのくらいで到着するのか。仮に到着できても、どうやって外に出
るのか。誰もその疑問は唱えずとも不文律として船室の空気に溶けていた。
「教授?」
「どうした。怖いのか。子守唄は歌ってやらんぞ」
「要りません。それよりですよ。もし……その、もしも、文献が嘘っぱちで、島が存在
しない、白鳥海域がただ霧の渦巻いてるだけの場所だったら、どうします?」
 ふむ、と教授があごに手を当てる。外で床の割れる音がする。
「どうもしまい。霧を突き抜けて反対側に出るだけだ。まあ、出る前に船が沈むかもし
れんがな」
 やおら教授が立ち上がる。外で煙突の折れる音がする。
「だがな。俺は島がないとは思わない。これは予感だけれど……何かを感じるんだ。こ
の霧の先に、仄かな明かりが宿っているような予感がな」
 ニヤリと口角を吊り上げる悪魔の顔。あの時と同じ顔。
「ふふ。ですよね。わたしも心配なんてしません。持久戦です! 命尽きるまで付き合
いますよ!」
「嫌でも付き合わなくちゃならないんだがな」
 教授が肩を竦める。船室に笑みが弾けた。
「教授っ!」
 わたしは恥ずかしいことを言った。
28 :わたしと教授の秘境探検記 『白鳥海域』 :2011/07/09(土) 03:03:20.62 ID:eHrrJo7I0

 わたしは泣いて教室を飛び出し、廊下を駆け抜け、階段のところで腕を掴まれた。そ
して優しく抱すくめられて、最低の男の胸で泣いた。
 しばらくそうしていると不意に、ぶっきら棒に教授が言った。
「連れてってやるよ」
 
「連れてって下さい」
 島に――絶対に連れてって下さいね。俺は船長じゃないけどな。島の実施調査の時は
ちゃんと舵を取ってください。お前に言われんでもわかってる。ですよね、約束しまし
たもんね。約束って何だ? 知りません。いやいや知らないってどういう
「お、おいっ!」
 初めに気付いたのは誰だったか。少なくとも恥ずかしい言い争いを繰り広げていたわ
たしと教授以外の誰かのはず。船室には、既にわたしたちの会話の音しかなかった。
 窓から眩しい光が顔を出す。船室から出ると、そこには無数の羽が散らばるばかり。
白鳥は見当たらず、悪夢が覚めたように霧もすっかり晴れている。広大な海がキラキラ
と光を反射している。
 さてここはどこか。
 霧の内か、外か、
 わたしと教授は、ぼろぼろになりながらも進んだ勇敢な戦士の手すりを、労わるよう
に握り進路を睨む。
「教授……」
「ああ……」

「「おえーっ!!」」
29 :わたしと教授の秘境探検記 『白鳥海域』 :2011/07/09(土) 03:04:11.90 ID:eHrrJo7I0

 青い海面を吐瀉で汚す。ざまあみろ。白鳥のいないお前らなんてこんなものだ。
 口の端を拭う。しばらくすると、ずっと向こうに陸地が見えた。霧のように曖昧な姿
ではなく、堂々と、島は確かにそこにあった。 
 わたしは隣の男を見る。そして彼に泣かされたことを。あんな真似をしたのはきっと
素面でわたしを誘うことができなかったからだろう。ああでもして、さも罪償いのよう
に見せかけなければ、わたしひとりを誘うこともできない捻くれ者なのだ。
 それでもいいと思う、こうして連れて来てもらえたのだから。
 だけど泣かされた屈辱は忘れない。だからわたしは彼を見返さなければならない。
 例えば――あの島の大地を最初に踏んじゃう、とか。
 女の子を泣かせたんだからそれくらいの権利を譲渡するのは当然だ。
 ふふふ。その時の教授がどんな間抜け面をするか、今からもう楽しみで仕方がない。
 わたしはニヤリと笑った。   〜 fin 〜
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/07/09(土) 03:09:43.48 ID:eHrrJo7I0

設定

・大学
魔法使いを養成する機関。大学を出たの者は晴れて一人前の魔法使いとしての資格を
授与される。そのまま大学に居残り教授となる者たちもいる。
最近になって認められつつある『錬金術』。彼らのために世界で初の錬金術師のため
だけの大学が都に建てられた。しかしリンスも認知していなかったように、まだ一般に
はあまり知られていない。

・わたしと教授〜
秘境探検記でそのまま。大学の教授とその生徒がいろんな秘境を冒険するという内容で
考えます。けど続きは未定。


大学などの設定は自分なりの解釈です
これだと自分が書いたのと矛盾すると思ったら、速やかに無視してください
お目汚し失礼
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/09(土) 03:18:26.89 ID:+7VVXe+DO
乙乙

ここは↑みたいな感じで割と自由(?)に書いてみてもいいの?
思い付いたら書いてみようと思ったんだけども
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/07/09(土) 03:22:26.89 ID:eHrrJo7I0
>>31
基本的な設定(>>1参照)さえ把握しとけば自由
どうか書いたら投下しておくれまし

他のSSはまだ投下されてないみたいだし、一緒に盛り上げてこう!
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [saga sage]:2011/07/09(土) 03:24:03.63 ID:tXQJSe5AO
>>23-30

良いよ良いよこういうの好きだよ俺は!真っ白な本に自分のお話書き込む感じとか!
ちなみにここでは目欄にsagaって入れると魔力が魔翌力にならなかったりするから入れた方がお得だよ
まぁ気にしないならそれでも大丈夫だけど
>>31
世界観共有してれば良いんじゃない?
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage saga]:2011/07/09(土) 03:59:58.75 ID:E60Oa47Yo
>>30
乙乙

ざっと書いてみたんで一つおっことしていきまする。
vipで立ってたというスレを確認していないので、>>1の世界観だけから予測してかいてるんで、変なところがあったら言ってつかあさい
レス数4つ分ほどになりまする
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage saga]:2011/07/09(土) 04:00:39.15 ID:E60Oa47Yo
「家に来ますか?」

 この時に「いいえ」と答えていたら、自分はどうなっていたのだろう。
 ふとそんな風に考えることがある。
 今の生活に不満はない。それどころか満足している。
 それでも思うのだ。色んなものを与えてくれたこの人に、自分は何を返せるんだろうかと。


 言葉をかけられたのは久しぶりで、最初は何を言われたのかすら理解できなかった。
 何かを返さなくてはと思いながらも、「う……」や「あ……」とだけしか言えず、横にいた獣人の機嫌だけが段々と悪くなる。
 自分の目の前にいた人間のオス(顔の判別はつかない。人の顔の判別は難しい)は、そんな私に機嫌を悪くするでもなく、細い目を更に細くさせ、線のようにすら見える目で微笑みながら言葉を続ける。

「僕の家の子どもになりますか?」

 ここで何かを返さなくては、今や機嫌の悪さを人間に隠す事すらせず、不機嫌に舌を鳴らす獣人に後で何をされるかわからない。
 先ほどと同じように言葉を出すのに失敗してはいけないと思い、人間の言葉は正直に言うと理解すらしていなかったけれど、私はこくりと頷いた。
 そんな私を見て、人間は嬉しそうに笑い、横の獣人といくつかの言葉をやり取りした後、幾らかの金銭を渡し、汚く汚れた私の手を握った。
 この日、この時、この瞬間、私はこの人間の所有物となった。


 人間は私を小さな家へ連れていき、温かなお湯で汚れを落としてくれた。
 体中の傷に石鹸の泡が染みて痛かったけれど、人間の機嫌を悪くしてはいけないとぎゅっと手を握り締めて我慢していた時に、それまで微笑んでいた人間が少しだけ悲しそうな顔をしていたのを憶えている。
 いつ人間の機嫌が悪くなり殴られるのではないかと内心怯えていたのだが、予想に反して人間の手は、まるで陶器でも触るように私を優しく洗い流してくれた。

「じゃあこれとこれ、後はこれを着てください。着かたはわかりますか?」

 湯浴みが終わった後、人間から清潔な服や下着をいくつか手渡された。
 本当は自信がなかったのだが、機嫌を損ねてはいけないと思った私は頷いて、着慣れない下着に足を通し、布で出来たシャツを羽織ろうとした。
 だが、焦っていたのか、上手く袖から手を出せず、もごもごと腕を動かし続けるだけの時間が流れる。
 そんな私を見ていた人間は、しびれを切らしたのか両手をぬうっと私へ伸ばしてきた。
 殴られると反射的に思い、体を強ばらせる私を見て、人間はビクッと手を止める。
 怒りに顔を赤くする人間の顔を想像し、おそるおそる表情を伺うと、湯浴みの時にしたような悲しそうな顔をする人間がそこにはいた。

「大丈夫です。痛いことはしません」

 人間はそう言って、表情を笑顔に戻し、服の袖から抜け出せない私の手を優しく袖から出してくれた。
 殴られなかった安堵で胸をなでおろしている私へ、人間は言葉を掛ける。
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage saga]:2011/07/09(土) 04:01:39.91 ID:E60Oa47Yo
「ご飯にしましょうか」

 そう言って人間は厨房へ向かい、しばらくしていくつかの皿を持って戻ってきた。
 皿の中にはパンと、ほのかに湯気のたつシチュー。そして瑞々しいサラダ。
 私はいつも食事の時にしていたように、部屋の端へと座り、人間をじっと眺め、この後に出るであろう自分の食事に心を踊らせる。
 パンのかけらと具のないシチュー、もしかすると野菜くずのサラダも出るかもしれない。夢に見たようなご馳走だ。
 大きな音が鳴り出しそうな自分のお腹をぎゅっと掴み、人間の食事が終わるのを今か今かと見つめる。

「あの……? どうしたんですか?」

 人間は不思議そうな顔で私を見つめ、疑問投げかける。
 私はそんな人間の言葉が理解できず、困ってしまう。
 自分を所有している誰かが満腹になるまで何かを食べ、運がよければその余り物を貰うのがいつもの私の食事なのに、彼は一体なにが不思議なのだろう? 疑問なのだろう?
 人間はなおも不思議そうにしながらテーブルへ皿を置き、私のところまでやってきてそっと立たせて手を引く。

「早くしないと冷めちゃいますよ」

 私をテーブルまで連れていき、木で出来た椅子へ座らせ、自分は正面へと周り椅子へ座る。
 目の前に広がるのは、別々の皿に二人分用意された、ふわふわのパンとほかほかのシチューとキラキラ光るサラダ。

「さあ、どうぞ。味には自信がありませんが、お腹は膨れると思いますので我慢してくださいね?」

 恥ずかしそうに言った後、人間は自分の前に並べていたパンを手に取り口に含む。
 私が、どうしていいかわからず、おどおどと視線を彷徨わせていると、人間は食事をする自分の手を止め、困ったように頭を掻きながら尋ねる。

「あ、もしかしてお腹すいてませんでした?」

 そんな訳がない。
 たくさんいた周りの子より誰よりも弱くて、食べ物の取り合いにいつもいつも負けていた私のお腹はいつもいつもぺこぺこだ。
 だから私が首を横にふるふると振ると、人間は何か思いついたのか「あー、なるほど」などと呟き、また悲しそうな顔をした後、ゆっくりと私の前の皿からパンを手に取り、私の手の上に置いた。

「これはあなたの分です。全部食べちゃっていいんですよ」

 自分の手の中にあるパンをじっと見つめた後、顔を上げると、人間が微笑みながら頷いた。
 いつ取り上げられるのかと思いつつ、震えながら手の中のパンを自分の口へ持っていく。
 だけれどパンは取り上げられることもなく、私の口に入り、香ばしい香りが口いっぱいに広がる。
 それが合図だったように、私の手は自分の意思でも持ったように、次々にテーブルの上の獲物を求めて忙しく動きまわった。

「あー、もっとゆっくり、ゆっくり」

 心配そうな人間の声を他所に、口の中に食べ物を詰め込む。
 途中、詰まってしまい喉を押さえる私へ、慌てたように人間が水の入ったカップを手渡す。
 それを引ったくるように掴んで一気に流しこみ、またテーブルの上の狩りを再開する。
 そんな私を口を開いて眺めていた人間は、しばらくしてから嬉しそうに。本当に幸せそうに微笑んで自分の食事を始めた。
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage saga]:2011/07/09(土) 04:02:10.98 ID:E60Oa47Yo
 食事が終わり、しばらく動けないでいる私へ人間が声をかけてくる。

「それじゃあ今日はお休みしましょうか。疲れちゃったでしょう?」

 初めて味わう満腹という感情に支配されていた私は、人間の言葉を深く考えずに頷き、のそのそと椅子を降りて部屋の端へ移動し丸くなる。

「あ、駄目ですよこんなところで寝ちゃあ」

 そんな人間の言葉を聴き、すっかり回転の鈍くなった頭で考える。
 言われてみればこの部屋は、暖炉の火で暖かいし、何よりも豪華だ。きっと人間の寝床なのだろう。
 私の寝床はどこなのだろうか? この家の入口辺りだろうか。
 ぼろきれの毛布が用意されているといいのだが、見た限りはそんなものは無かったので、今日は寒さで眠れないかもしれない。
 そんな事を考えながら部屋を後にしようとしていると、人間が近づき、手を握って私を部屋の横のドアの前へ連れて行く。

「ここがあなたの部屋です。ちょっと埃っぽいかもしれませんが、今日だけ我慢してくださいね」

 そう言って人間はドアを開け、私を中へと招き入れる。
 部屋の中にはベッドとテーブルに、小さな箪笥と本棚が置いてあった。
 ふんわりと花のような香りが漂い、私を包む。

「寒かったら言って下さい。毛布はまだありますので」

 人間は私をベッドへと連れていき、ぽすんと座らせて部屋のドアへ向かい、何かを思い出したように私へと向き直る。

「そうそう、忘れていました」

 目を線のようにして微笑み、優しく言葉を続ける。

「おやすみなさい。また明日」
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage saga]:2011/07/09(土) 04:03:03.77 ID:E60Oa47Yo
 錬金術で名高い首都に、小さな小さな錬金工房がある。
 そこには、商売下手で人の良さだけが取り柄のような青年がいて、毎日を過ごしている。
 ただし、それは昨日までの話であった。

 この日、この時、この瞬間、小さな小さな錬金工房は、小さな小さな少女を迎え入れることになった。

 このお話は、そんな青年と小さな小さな少女の物語。
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage saga]:2011/07/09(土) 04:07:15.35 ID:E60Oa47Yo
とまあこんな感じで

青年の名前→未定
少女の名前→未定
工房の名前→未定
タイトル→未定

未定だらけの状態です。名前を考えるのが非常に苦手なのです……。
何かいい名前とかリクエスト貰えたら嬉しいかもというか、それをそのまま採用する可能性大。
鳥付けるとかした方がいいのかわからなかったんで、取り敢えず名無しで。

それでは
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/09(土) 06:07:27.86 ID:+7VVXe+DO
乙乙

なんだろう。狼と香辛料的な空気を感じた。続き待ってる




取りあえず探り探りだけど俺も書いてみたから投下してみる
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/09(土) 06:09:12.78 ID:+7VVXe+DO
 「これで――ッ!!」

 俺はモンスター飛びかかるタイミングに合わせて剣を振るう。

 「キシャアアア……アァ……!!」

 オオトカゲのようなモンスターの口から突き入れた剣は、そのまま心臓を貫きモンスターの息の根を止めた。

 完全に動かなくなったのを確認してから俺は剣を抜いた。モンスターの血と内臓がこびり付いている。俺にとってそれは、もう見慣れた当然と言える光景だった。

 「あ、あの……」

 小さな少女が不安そうに俺に尋ねてきた。

 恐らく歳は10歳くらいか。腰まである長い髪はボサボサで、ボロ切れ一枚の薄汚れた格好をしている。その様子からスラム街の子だと一目で分かった。

 俺は剣を背中に隠して少女と目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。

 「もう大丈夫だ。怖いモンスターは全部お兄さんがやっつけたから、早く家に帰りなさい」

 「でも……」

 俺は優しく話しかけながらも、少女にとって一番残酷なことを言っている。

 スラム街に住む少女が自ら外に出る理由、それは極単純なものだ。そう、食べ物だ。食べ物を求めて少女はモンスターの危険も顧みずに外に出ていたのだ。

 「……」

 俺の言ったことに少女はなにも言わずじっと下を向いている。
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/09(土) 06:11:36.19 ID:+7VVXe+DO
 機工王国ギムリアース。


 この国は、少なくとも俺の知っている国々の中で錬金術については目覚ましい発展を遂げている国だ。

 他の国では発展途上な分野であり、一般人はほとんど知らない錬金術だがこの国は違う。

 一般人のほとんどは錬金術の存在を知っている。そして完成された一部技術を町に転用し、人々の生活に溶け込んでいる。

 しかし、そう言った目覚ましい発展にも必ず裏がある。

 この国で一番問題になっているのは貧困問題だ。

 魔法社会から錬金術社会への変化で、沢山の人々がその変化に抗えずに堕ちていったのだ。当然その事は国もお偉方も知っている。だが事実上放置されているのが現状だ。

 「それじゃ、俺は行くよ」

 立ち上がって少女の下から去ろうとした時、俺の服が引っ張られた。

「ま、待って……!」

 振り向くと少女が今にも泣きそうな顔でこちらを見ていた。

 「悪いけど俺じゃこれ以上君の助けは出来ないんだよ」

 俺は目線を合わせずに言った。

 「私、出来ることならなんでもするから! なんでも……! だから、だから……」
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/09(土) 06:13:18.15 ID:+7VVXe+DO
 「それは凄い助かかもしれないんだけど、ちょっと君には出来そうにないかな」

 「出来る! 出来る、からぁ……! 助け、てよぉ……」

 少女はを我慢出来なかったのかその場に泣き崩れた。

 過去にこんなことは何度もあった。その度に俺は1つで質問をする

 「それじゃあ君、人を殺せる?」

 「え――?」

 少女が泣き止んだ。

 この質問で大半の助けを求め、すがってきた人間は俺から身を引く。

 それが当然の反応だ。助けてくれたのはただの気まぐれ。本性は底知れぬ危ない人。子供でも無意識にそう判断し、俺の下から去っていく。

 今回も例外なくそうなるはず“だった”――。

 「こ、……せ……る」

 「な……?」

 「ころ、せるよ……! だって私、もう、人、2人殺してるもん!」

 帰って来たのは予想だにしない反応。

 聞いた瞬間は嘘だと思った。しかし、少女を見た瞬間その疑念は確信へと変わった。

 少女は笑っていたのだ。

 「あのね、外に出るときにどーしつも邪魔な人がいたから頭に大きな石をぶつけてやったんだ! そしたら、頭がぺしゃんこになったんだよ! 気持ち悪かったー」

 嬉々として自らの体験を語る少女に俺は戸惑いつつも、体の奥底から湧き上がってくる高揚感を抑えきれずにいた。

 そして俺はまた少女と目線を合わせるようにしゃがみ込んでこう言っていた。

 「もっと殺してみたい?」

 決して狂ったわけでない。元々“狂っている”のだから。
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/09(土) 06:14:11.47 ID:+7VVXe+DO
 「分からない。だけどそうしていいなら、そうしたい。お兄さんはそういう仕事をしてるの?」

 「そうなんだ。俺は悪い人間を“狩って”いるんだ」

 「か、って?」

 「そう。俺は“人間”じゃないからね」

 「んー? よく分かんないけど、私お兄さんのお手伝い出来るよ! 出来るから! だから……!」

 少女はまた俺の服を掴み懇願してくる。どうやら少女にとっては、救いがないないというのが一番の恐怖対象のようだ。

 「いいよ」

 「ほ、ほんとに?」

 「本当だ。その代わりちゃんと働いてもらうよ」

 「うん! あ、あの、ありがとうございます!」

 少女は掴んでいた手を離し、一歩下がってお辞儀をした。

 「礼はいらないよ。それじゃあ行こうか」

 「どこに行くの?」

 「君にとっては出戻りになるだろうけど、ギムリアースだよ」

 静かに「分かった」と言った少女を連れ、俺は機工王国ギムリアースに向かって歩き出した。
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/09(土) 06:16:12.79 ID:+7VVXe+DO
取りあえず厨二路線でやってみたよー。こんな感じでいいのかな? それとギムリアースの情勢を書いちゃったけど大丈夫かな?


主人公は作中であるように人間じゃない。簡単に言えばモンスターの子
母親が妊娠中に襲われて奇跡的に助かったものの、その時のが原因母子感染した
人間(不完全だったため雌に限定されたい)を襲いたいという欲求を満たすために「悪い人間を狩る」仕事?をしている


少女は社会から弾き出されて色々地獄を見てきて狂った


もうちょっと設定を考えてたけどこれ以上やったら>>1の範囲から外れそうだからここまでにします
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/09(土) 10:30:47.35 ID:1F8PU9Xd0
面白そうな企画だな。
これって参加自由なの?
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/09(土) 10:34:44.36 ID:Q9FiHNNIO
>>46
書いてけ書いてけ
>>1に書いてある設定やら他の人の話をぶっ壊さない限りは大丈夫っぽいし
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/09(土) 10:39:13.70 ID:1F8PU9Xd0
>>47
なるほど、サンクス。
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/09(土) 10:47:13.12 ID:1F8PU9Xd0
そんじゃ即興のヤツだけど投下します。
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/09(土) 11:03:37.77 ID:1F8PU9Xd0
ディルフィリウスの森、我が愛すべき故郷。 百三十年前まで我らエルフの民の聖地であり、難攻不落の要塞であった場所。

だが今から百三十年前、強欲な人間たちの覇権国家が領土拡大の名の下に我らの森に開拓団を送り込んできた。

人間たちは長らく我の良き友であった森の古木たちを容赦なく切り倒し、奴らの建設資材へと変えた。

彼らには森の悲鳴が聞こえぬのだろうか? 我らエルフの民の耳にははっきりと聞こえる。

己が身を切り裂かれ、命を奪われる際の木々の断末魔の叫びが。

51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/09(土) 11:20:37.14 ID:1F8PU9Xd0

正直なところ人間たちと戦うのはあまり気が進まない。

彼らとはかつて魔王を相手に轡を並べて共に戦った仲だ。

しかし彼らは変わってしまった。

先祖の偉業を伝説と誹り、高尚な魔法を子供だましのまじないと虚仮にして、代わりに錬金術とかいう我々には理解しがたい学問を信奉している。

今の人間族は完全に他の異種族を圧倒している。数の上でも技術の上でも。

数千年前に魔王が打倒されてから唯一直接的な戦闘力で人間に勝っていた魔族は人間族に集中的に狩り立てられ、もはや絶滅寸前だと聞く。

今になって魔王の最後の言葉が思い出される。

「私を殺せば、貴様らの命運は尽きる。人間共の勢いを止められるものはいなくなった。貴様ら少数種族が人間共に蹂躙されるのも時間の問題だぞ」と。

ああ、実際にその通りになってしまった。しかしこうなってしまった以上は仕方がない。恐らくは我らも消えゆく運命にあるという事なのであろう。

ならばせめて人間たちに引導を渡してやろう。原初の人間たちに火を与え、言葉を教えた崇高なる部族として。
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/09(土) 11:23:44.93 ID:1F8PU9Xd0
異常に短い上にこれってSSと呼べるのか?って感じですがこれで終わりです。
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/07/09(土) 11:27:50.78 ID:q/5lO2sx0
おつー 

というかディル〜の森のSS今書いてたとこだったから
ネタ被りとか設定とかにひやひやしてた
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/07/09(土) 11:43:11.37 ID:eHrrJo7I0
>>35-38
乙っ!

獣人のおにゃのこはいいな
どっかその辺の八百屋に売ってないかしら?wwwwww

>>41-44
乙だよ!

幼女を拾った青年
どちらもどちらで相当に狂ってるけれど
マイナス×マイナスは果たしてプラスになるのか?

>>50-51
乙乙!

人間はわしが育てた!

いいねSSより設定みたいな感じだけど妄想がひろがりんぐ
俺もディルの森を探検しに行こうかなwwwwwwwwwwww
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/07/09(土) 12:20:57.60 ID:q/5lO2sx0
SS、っていうか偉人伝的な設定を書こうとしたら糞長くなったorz
とりあえず投下してみるけど、後々に都合悪い設定とかあったら普通に無視してくれておkです
結構色々設定作っちゃってるんで

多分7〜8レスとか使うと思います
56 :レイス偉人伝 ‐『先導者』ディルフィリウスに関する記述‐ [sage]:2011/07/09(土) 12:21:58.56 ID:q/5lO2sx0
エリュオス西部、国境周辺。
数多の巨木と様々な種の草木・花によって成る、雄大且つ広大な森林帯が、そこに根を張っている。
その地は、幾重にも張られた結界魔法と幻惑魔法により、通常の方法では通り抜けることはおろか近づくことすら出来ない、聖なる地。
古今東西あらゆる種の生物・植物が存在し、共存し、共生している、生命の楽園。
エルフ種が管理・統治する、レイス最大の超巨大森林帯。
それが、エルフ居住区『ディルフィリウスの森』である。

レイスに現存するエルフ種の凡そ八割が暮らすその森は、今でこそ緑あふれる豊かな地ではある。
だが、今より三百年以上前。エルフ居住区となる前の名も無きこの場所は、中程度の規模を持つに留まる、至って普通の樹林であった。
そこにエルフ達を集めて一つの“国家”を構築し、樹林を拡大することで大規模な“森”を創り出すこととなった事件――『大集結』の切っ掛けとなった、一人の“英雄”がいる。
その人物こそ、かの『先導者』。森林の名にもなっているエルフ種の英雄、ディルフィリウスである。
57 :レイス偉人伝 ‐『先導者』ディルフィリウスに関する記述‐ [sage]:2011/07/09(土) 12:23:19.82 ID:q/5lO2sx0
そも、エルフ種は三百年ほど前まで特定の生息地、ないし居住区というものを持ってはいなかった。
レイス各地に存在する大小様々な森林に、少数のエルフ種が小規模の集落を作り、それぞれが独立した環境・生活体系をもって暮らす。
それが、三百年前までのエルフ種の“生活”であった。

エルフ種はレイスに存在する生物中の中でも比較的長寿命であるため、生殖のために密集して暮らす必要性が薄い。
加えて、自然界に存在する生命・概念と一定のコミュニケーションを図ることも可能なので、風雨や獣害を防ぐために森林を開拓して住居を作る必要も無い。
更に、エルフは魔法の扱いに長ける種でもあるため、魔物の退治も自らの手で行うことが十分に可能である。
その為、わざわざ“国家”などという大それた概念が無くとも、少数が集まるだけで十全な生活を送ることが出来ていたのだ。
58 :レイス偉人伝 ‐『先導者』ディルフィリウスに関する記述‐ [sage]:2011/07/09(土) 12:25:47.66 ID:q/5lO2sx0
その情勢が変化し始めたのが、凡そ三百五十年前のこと。
建築技術の急速な発達と、魔法体系の成長・成熟。それらに伴い、外敵に対する脅威が軽減されたことで、人間種が急激に増加し始めたのだ。
結果、当然の帰結として。人間種の居住区拡張のために、森林の開拓が急速に行なわれた。
木々が斬り倒され、地面が踏み固められ、家屋が建築され、エルフの住処であった筈の緑豊かな森林は、凄まじい勢いで侵食されていった。
一説には、人間種の人口増加傾向が確認されてからの五十年で、全エルフ種の集落の内三割以上が失われた、とも言われている。

そのような経緯があり、急速に住処を奪われていくこととなったエルフ種。
その理不尽な情勢に義憤を覚え、一念発起した人物こそが、『先導者』ディルフィリウスその人である。
エリュオス西部の森林帯に居を構える、比較的大規模のエルフ集落出身であった彼は、開拓者たちによって時々刻々と削られていく自らの故郷を、常々憂いていた。
59 :レイス偉人伝 ‐『先導者』ディルフィリウスに関する記述‐ [sage]:2011/07/09(土) 12:28:44.51 ID:q/5lO2sx0
ただ。
憂いとはいっても、ディルフィリウスのそれは、初めは諦観に似たものであった。
エルフ種は当時、“定め”や“運命”、“自然の意志”といった言葉を強く信仰していたためか、時流に身を任せることの多い種族であった。
その為、人類種の森林開拓も“自然が示した意志”と取り、別段の対策も取らず、時代に流されるままに居住区の減少を眺めていただけだったのだ。
そして、ディルフィリウスとてそれは同じだった。大多数のエルフ達と同じように、傍観に徹していたのだ。
だが、彼は――正確には、彼らの集落は――、ある出来事をきっかけとして、諦観を捨てることとなる。

人間種による、エルフ種の虐殺。『エリュオスの失態』と呼ばれる事件である。
当時エリュオス西部森林の開発統括を担当していた魔術師達が、開拓の功をより多く得るために、また森林伐採の時間と手間を削減するために自分達の魔法――しかも、浅慮にも危険度の極めて高い魔法の使用――によって、開拓を進めようとした。
その魔術師達が使用した魔法というのが、空中から無数の火種を降らせることで広範囲を炎上させる魔法、『焼夷魔法』であった。
『焼夷魔法』は魔術師達の思惑通り、西部森林の凡そ半分の面積を焼き切ったものの、同時に多数のエルフ種がその巻き添えとなった。
西部森林集落のエルフの内、こちらもまた約半分が、魔法の炎によって一挙に焼死したのだ。

当時のエリュオス王はこの件に関し、魔法を行使した魔術師達を即座に処刑した後、エルフ達へ向けて謝罪の意を表明し、多額の賠償を送る旨を記した文書を送った。
しかし、その文書を託された数名の使者は、西部森林で“原因不明の病”に掛かり、全員が死亡したとされている。
――――この病の“原因”をどう想像するかは、この文章を読んだ諸兄に託したいと思う。
60 :レイス偉人伝 ‐『先導者』ディルフィリウスに関する記述‐ [sage]:2011/07/09(土) 12:31:29.09 ID:q/5lO2sx0
ディルフィリウスは酷く悲しみ、同時に激怒した。
自分達に過酷な定めを与えた世界に対して。直接同胞たちを、それも実に下らない理由で殺害した人間種に対して。
……そして何よりも、同胞達を無為に殺してしまった、自分たち自身の意志の低さに対して。
そして、彼は一つの決心をすることとなる。

ディルフィリウスは、魔法の扱いに優れるエルフ種の中でも“天賦の才”を持っていたとされ、特に遠隔地へ向けて情報を送る『念話魔法』を得意としていた。
彼はその『念話魔法』の媒介として、大型の儀式場と巨大な魔法陣を配置した。
それにより、レイスに生きる全生命に自らの『念話』が届くような、かつてない程の規模を誇る魔法術式を構築したのだ。
だが、その大規模魔法の代償は凄まじく、この魔法儀式によって、西部集落で暮らしていたエルフ達の“ほぼ全員”が魔翌力を枯らされて死亡した、とされている。
そしてその代償は、魔法術式の構築段階で既に予見されていたものだった。
しかし、ディルフィリウスは、そして集落のエルフ達は、自らの命など厭わなかった。

全ては、人間種の非道を、愛すべき同胞に伝えるために。文字通り命を掛けて。
彼は、彼らは自らの同胞へ向けて、因縁浅からぬ人間種に向けて、自らの義憤を捻り出すように言葉を放った。
……彼は、念話の最後――と同時に、自らの命の最期――をこう締めくくったとされている。

「我等の暮らしと命を奪い、削り、喰らい尽してでも生きようとする人間種の行為を、諸君らは“自然の意志”として看過するのか。私は同胞諸君らに、改めて問いたい」
61 :レイス偉人伝 ‐『先導者』ディルフィリウスに関する記述‐ [sage]:2011/07/09(土) 12:35:07.37 ID:q/5lO2sx0
後世の魔術師たちから『先導者の宣誓』と呼ばれるようになったこの大規模情報伝達魔法により、全世界の知的生命はほぼ同時に『エリュオスの失態』の仔細を知ることとなった。
そして、事実を知ったエルフ達は一斉蜂起。エリュオス西部森林に集結し、空前絶後の規模を誇るエルフの一大勢力を構築した。これが、俗に言う『大集結』である。
後にこのエルフ勢力はエリュオスに対して独自の領土権を主張、その後わずか数年でエルフ居住区としての『ディルフィリウスの森』の存在を、エリュオスに認めさせるに至ったのだ。

その後の『ディルフィリウスの森』の成長速度にも、人の身としては驚かされる物がある。
焼夷魔法によって面積の半分を失った後、現在の超巨大森林帯としての規模になるまでに費やした月日は、僅か五十年。
森の木々が急激な速度で増殖した理由は、一つ。……彼らは、自らの魔法を利用し、森の生命の成長を促進していたのだ。
自然に育ったものであれば樹齢千年を超える程の巨木が無数に存在しているのも、その成長促進魔法の影響である。
彼らの激情は森の生命に共鳴し、『ディルフィリウスの森』は今でも凄まじい速度にて成長を続け、エリュオスの土地を侵食している。
森の浸食に対し、エリュオスの人間は何も言わない。言えないのだ。……『大集結』の時に見た、エルフ達の凄まじい執念が、脳に深く刻まれているせいで。
62 :レイス偉人伝 ‐『先導者』ディルフィリウスに関する記述‐ [sage]:2011/07/09(土) 12:38:43.72 ID:q/5lO2sx0
レイスに暮らす人間の一部――特にエリュオスの人間――が盲信的に抱いている、エルフへの畏怖。
それは、自らの死すら厭わずエルフ達を導いたディルフィリウスの執念と、それに追随して蜂起したエルフ達の力を見た人々からしてみれば、抱いてしまうのも当然の感情である。
しかし、その他の国に属する大多数の人間は未だエルフの信念の、その恐ろしさを真には感じていない。
それゆえか近年、レヌリア国境部に暮らす人間の一部が、秘密裏に結界魔法などを破り、『ディルフィリウスの森』で建築資材の調達をしていることが、一種の社会問題となっている。

この暴挙に対して、彼らエルフはどのように動くのか。エリュオスの人間は、今も密かに怯えている。
ディルフィリウスの激情は、現代を生きるエルフ達の胸の中にも、確りと刻まれているのだから。
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/07/09(土) 12:41:24.82 ID:q/5lO2sx0
これで偉人伝()は終わりです、ってか見辛い……orz
行間とか文字数とかもっと気にすればよかったか
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/09(土) 12:46:45.01 ID:1F8PU9Xd0
乙乙。エルフの話で被るかとおもったけど俺のより大分出来が良かった。orz
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/09(土) 12:53:22.68 ID:cGZFoVLDO

ある程度貯まってきたら年表や地図も作りたいね
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/09(土) 14:49:00.05 ID:HdGm3f25o
みんな乙乙
エルフの偉人を参考に、wikiで少し書けそうだな
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/07/09(土) 16:10:11.14 ID:eHrrJo7I0
>>56-62
乙だぁ!

いいねエルフと人間の確執がいかにして生まれたか
二つの種族が和解することは可能なのか
いろいろと考えさせられる

しかし皆さん妖精とかの設定を使っているというのに、俺ときたら……
教授とわたしの秘境探検記に新たなページが追加されたようです
なので投下します
今回もいろいろと酷いところもありますが、どうか寛容な心で許してやってください

>>23-29の続きです
68 :わたしと教授の秘境探検記 『白鳥島』 [sage]:2011/07/09(土) 16:12:46.98 ID:eHrrJo7I0

 砂浜に寝転び空を見上げる。一羽の鳥が自慢するように翼を大きく広げて、外へ羽ばたいていくのが見えた。次いでまた一匹ほれもう一匹と
いう具合だ。彼らは自由でいいな、と思った。
 それに引き換えわたしたちときたら……
 
「リーンス! こっち来いよ、凄いぞ! ほら、これも……おや、これはまさか!」
 さっきから教授はずっとあんな調子だ。大きな子供のように顔をてからせながら、あちこち走り回っている。微笑ましいとは思えない。
いやまったく。
「教授、うるさいです」
「うるさいとは何だ! こんな宝の山を目にして、どうして大人しくしていられよう」
「じゃあひとりでやっててください。わたしは今、たそがれてるんです!」

 教授は目をパチクリし
 
「こんな昼間からか?」
 わたしはもう無視することに決めた。だいたい、この状況でどうしてそう能天気でいられるのか。もっと心配事とかないのだろうか。
 
 例えば、もうお家に帰れないどうしよう! とか
 ごめんね、お母さん、お父さん。一人娘の晴れ姿を見せられないで! とか
 幾らでもあるだろう。
 
「――それより教授。この島から出る方法、何か思いつきましたか?」

 教授は目をパチクリし
 
「あー……忘れてた」
 だろうと思った。魂を吐き出すくらい大袈裟に溜息をつくと、教授ではなく海の方に視線を投げる。
 
 背後から鳥の鳴き声が聞こえ、更に一匹が外の世界へ羽ばたいていった。
69 :わたしと教授の秘境探検記 『白鳥島』 [sage]:2011/07/09(土) 16:14:16.55 ID:eHrrJo7I0

 命からがら島に着いて、まず最初にわたしが陸地に飛び降りた。教授が何やらうるさかったけれど無視しておいた。
 
 島はやはり想像通り、抑えるもののない自然がのびのびと成長していた。しかし未知の生物やら何やらはとんと見つからない。精々、島に生息
している鳥たちが僅かながら、魔翌力に反応したことくらいだ。
 教授は先住民(現在はもう滅んでしまったか出ていってしまったか定かではないが、現在は島にいない)の残した変な絵とか文字とかを毎日
恋人を見るようにいつくしんでいる。
 期待していた分、それはとてもがっかりな現実だった。あらかた調査を終えてしまったわたしの脳内で現在最も重大な問題はもちろん
 
 白鳥海域
 
 島を守護する濃密な霧と、そこから発生する無限の兵隊たち。魔翌力に反応して爆発を引き起こすから、今まで誰も島に近づくことはできなか
った。しかし教授の旧友が魔翌力を使わずに動く船を開発したおかげで、とうとう辿り着くことができた。
 
 あの悪魔の海域を超えられたのは奇跡に近い。どうやら霧が見える範囲までが奴らの行動範囲らしかった。島からでは僅かに霧が見えない。
しかし帰る時は、必ずあの霧を超えていかなければならないというのだから気が滅入る。
 
 しかし、わたしたちを運んできた船はもう既に天に召されてしまった。
 非常にまずいことに、早急に代わりを探さなければならないのだが、木造の手漕ぎのボートでは気が遠くなるほどの時間がかかる。魔翌力を
使えば爆撃。打つ手なし。
 完璧に閉じ込められてしまった。

 教授は、わたしは思う、どうしてあんなに余裕なんだろう。あの人は怖くないのか?もう二度と大学に戻れないかもしれないことが。どうし
て、わたしは悔しい、わたしは震えが止まらないのだ。まだ教授よりもずっと子供なのだと思い知らされる。
 
 それが、とても、悔しくて
70 :わたしと教授の秘境探検記 『白鳥島』 [sage]:2011/07/09(土) 16:15:31.53 ID:eHrrJo7I0

「教授、これ、何ですか?」
「白鳥だよ。俺たちを散々いじめてくれたな。魔翌力を放出しておびき出し、捕まえた」

 その鉄製の檻にはあの見るもおぞましい霧の胴体を持つ悪魔たちが何匹も何匹も。

「わたしは食べませんよ」
「誰も食べろだなんて言っとらん。それよりも、何か気付くことはないか?」

 気付くことと言われても。どうして教授がこんなに多くの鳥たちを集めたのか。とうとうシンリ的なストレスで頭がおかしくなったのか……
 
「あ――。この鳥たち、島にいたのと似てますね。特に羽の部分」
「その通り。こいつらは正真正銘あの鳥たちだ。羽だけ……胴体はごっそりと取り替えられちまってる。まあ、つまりはそういうことだ」

 教授曰く、その鳥の胴体、つまり霧にあたる部分はれっきとした魔翌力であるらしい。『反魔翌力』と呼ばれている。まだ発見されてから日の浅
いものだ。
 それは魔翌力でありながら、魔翌力と接触することで凄まじいエネルギーを生み出す。
 船の動力部分と衝突して爆発が起きたのはそのせいだ。しかし接触しただけでは爆発は起きず、近くにたまたま火種となる物があったから
爆発が起きたらしい。
 
「だけど。羽だけが鳥たちって、どういう?」
「島のあちこちに資料が彫られていてな。過去に魔族たちが住んでいた痕跡を見つけた。正確な解読は不可能だったが、大まかな流れを掴むこ
とはできた。
 あの霧は紛れもなく魔族たちが作った物だ。どうやって作ったかはわからんがな。ああして霧が島を覆うものだから、飛び立つ鳥たちは、
いやでもあの霧に捕まってしまう。捕まれば最後、二度と元には戻れない。あの鳥たちは恐らく島の外にメスを探しに出かけているのだろう。
生態系のバランスが崩れているからな。そして鳥たちは魔翌力に反応する性質を持っている。反魔翌力たちはそこに目を付け、鳥たちに寄生し魔翌力
との接触を図っているのだ」

「それ、まるで反魔翌力が明確な意思を持っているような言い草ですね」
 
「意思など持たない。あれはただそういう風に“生きて”いるだけだ。善意も悪意も何もない。そういう仕組みなのだと理解すれば、後は簡単
だ」

 ニヤリと悪魔の顔。
71 :わたしと教授の秘境探検記 『白鳥島』 [sage]:2011/07/09(土) 16:17:07.99 ID:eHrrJo7I0

 ギーンと回転する刃を、思い切り突き刺し、ぶった切る。もう何本目かの木材が倒れた。そろそろいいかしら。
 これだけあればボートを作るのには事足りるだろう。木材を分担して運んで行く。
 魔法を使えれば簡単なのだが、白鳥たちを刺激するのは極力控えるように、と教授が言ったために、こうして力仕事に精を出さなくてはなら
ないという次第だ。
 女にさせる仕事ではない。
 
 教授は手漕ぎボートを作れ、と言った。
 あの鳥たちを使い、魔翌力と反魔翌力の摩擦によって生じるエネルギーを使って船を進めるという作戦らしい。そんなに上手くいくのか、かなり
の不安が渦巻いている。
「というか、当の教授はどこに……」

 いた。海の向こうを、円筒形のよくわからない道具を使って一心に見ている。
 何をしているんですか、と訊ねると、霧が晴れる時間帯を見ているらしいことがわかった。何でも数日間に数秒だけ、霧は晴れるらしい。
「……」
「どうした。何か言いたいことがあるなら言うがいい。三割くらいは聞いてやる」

 わたしは視線を足元に這わせ、舌を軽く噛み、腕を組みながら言葉を探すように少しだけ沈黙して、それから一大決心のように言葉にした。
 
「教授は、……その。何時もはおちゃらけてるじゃないですか。なのに、どうして、こんなときだけ真面目になって――いいえ。違う。そんな
ことじゃない!」

 ――教授は、怖い、って思ったことないんですか?
 
 波の揺れがやけに大きい。鳥たちのさえずりがやけにうるさい。遠くで船造りに精を出す皆の声がはっきりと聞こえる。
 教授は目を細めて、考え込む時によくそうするように、遠くをじっと見た。
 
「怖いな。うん、かなり怖い。だけどそれよりも先に足が動いてるんだ。危険の方へ。口が動いてるんだ。危険に挑ませてくれ、と。俺は頭が
悪いからそんな風に無鉄砲に突き進んじまう。――その、悪かったな」
「悪かった?」
「お前には随分と怖い思いをさせたんだな、って。あんな風に誘って、本当にすまない」

 どうしてそんなことを言うの? どうしてそんな顔であやまるの?
 
 教授はしばらく居心地悪そうにしていたが、やがてまた霧が晴れているか確認した。よくわからない宝物を大事に抱える子供のようにして。
 何だか、その時、わたしには教授がずっと遠くにいるように感じられた。
 絶え間ない波の音があざけっているようだ、わたしは歯がゆい気持ちでいっぱいになった。どうしてこんなことを訊いたんだろう?
 
 気まずくなることなんて、想像できたはずなのに。
72 :わたしと教授の秘境探検記 『白鳥島』 [sage]:2011/07/09(土) 16:18:19.98 ID:eHrrJo7I0

 船が完成した。船室もある立派な手漕ボート(漕がないが)。何故か翼のような装飾が施されている。名前は教授が『白鳥号』と命名した。
 船の尻の部分には捕えた白鳥たちを奴隷のように乗せている。
 霧が晴れる時間帯に法則性を見つけた教授は、早速、出発の時刻を指定した。
 
 教授は他の船員たちと話をしている。わたしはぼんやりと海面を見て、今回はどのくらいの嘔吐するのだろうかと考えた。そろそろ世界記録
に乗るかもしれない。
 海面と言ってもそれは遥かに下にある。白鳥号は、現在、島の中で最も高く海に近い崖の上で停まっている。ここから白鳥たちに魔翌力をぶつ
け、飛び立つという、なんともメルヘンな計画らしい。
 
 わたしは、まだ、やっぱり怖い。
 
「リンス。大丈夫か?」
「……何のつもりですか教授? 下手な作り笑いはやめてください。おぞましいです」
「フン。可愛げのない奴め。心配しないでも白鳥号はそんな華奢じゃない。何しろ俺のアイデアだからな」

 それが最も泥船に近いのだが。
 わたしは身体を抱く。寒さではない。震えが、止まらない。

「リンス……もしも今日が嫌なら、出航日を先に延ばしても」
「いいえ、いいえ、違うんです。だってわたしは今」

 船室から船長が声を張り上げた。時間だ。
 
「船で空を飛ぶなんて、すっごい、楽しそう、です」

 教授は張り手をされたような顔でわたしを見ると、やがてニィと笑った。
73 :わたしと教授の秘境探検記 『白鳥島』 [sage]:2011/07/09(土) 16:19:30.29 ID:eHrrJo7I0

 もちろん肩肘を張った言葉だった。恐怖心は鋭い牙を剥いて、わたしが今まで舐められぬようにしっかりと着ていた虚栄心というドレスを、
あっさり剥ぎ取ってしまった。
 丸裸になったわたしが、それでも最後まで手放さなかった、意地。
 教授はきっと汲み取ってくれたのだ。その消えかけのか弱い最後の炎を。
 
『五秒前――』

 今から船は海原ではなく空を駆ける。霧の裂け目を狙って。わたしたちの後を、どれだけの白鳥が追いかけてくるか、考えただけでもぞっと
する。
 そして、そのままどれだけ飛行するのだろうか。海面に着陸する時の衝撃は?
 
『――三、二ぃ、――』
 
 すべては考えるに値しない。これからの冒険の迫力に比べれば、小さな問題よ!
 
『一っ、――――出航だああああ!!』
 
 わたしはパイプのような機関に思い切り、魔翌力を流し込む。
 出航を祝うような白鳥たちの泣き声。反魔翌力たちの雄たけび。
 船は凄まじい爆音とともに大空に飛び立った。
 

 ねえ教授。何だリンス? わたし、今、笑えてますか? 笑ってるよ。小憎たらしいくらいにな。ですよね、……ヘヘ、どんなもんです、や
っぱ白鳥なんて怖くないです!そうか……おっ、と艫に白鳥が。キャアアアア! 悲鳴を上げるなブス。うるせー黙れクソ教授オゲエエエエエ
エエ。バカ、吐くなこのやろゲエエエエエエエエエエエッ! お前ら汚いわぁ、吐くなら外に吐ゲボロンバアアアアアアアアアアアッ! ギャ
アアア船長がゲロったぞオオオ!
 
 どうしてこんなことに……。酸っぱい物を無理矢理呑み込んで、わたしは船室の地獄絵図と外で重なっているだろう白鳥たちの死屍累々のこ
とを思う。
 酷い画だ。しかし、時に人生は汚れたり震えたりしなくてはならないんだと思う。
 それが冒険というものなのだろう。
 わたしは今、清々しい気持ちで一杯だ。こんな風にこれからも教授と一緒に冒険ができたらいいな、と思う。そして何時かあの人を――
74 :NYT新聞 号外 [sage]:2011/07/09(土) 16:20:45.65 ID:eHrrJo7I0

『時計塔に方舟が突っ込んだ!!

 ××年○○月△△日
 ――住民たちが空を飛ぶ船を見つけたと警察機関に通報が入る。見ると、実際にその船は翼をはためかせて空を駆けていた。また艫の部分か
ら鳥の羽のような物を撒き散らしており、誰かがこれは神鳥の羽だ、と言ったことから地面に落ちた羽を巡るバトルロワイヤルが勃発する。
 船はそのまま飛行を続け、やがて街の重要文化財でもある『ベルベッド時計塔』に突っ込み、停止した。幸いなことに怪我人は出なかったら
しいが、わたしはあの船に人が乗っていたことの方が驚いた。
 アグレッシブな登場を見せたこの白鳥のような船。伝説に記された『ノアの方舟』に何らかの関係があると見做され、様々な大学教授たちが
船員たちにインタビューをしていたが、彼らは喋るより先に吐瀉物による洗礼をした。そのことがきっかけで、教授たちがブチ切れ凄まじい攻
防の果てに時計塔が完全に壊れたらしいが、教授たちは容疑を否認している。
 とある教授はこの騒動のことを『ノアの逆襲』と呼んだ。
 後に判明したが、彼らは『白鳥海域』の調査をしていた一団らしい。彼らがどうしてどうやってこんなことをしたのかは未だ不明である。
 なお時計塔に関しては住民が尽力して復興を急いでいる。
 
                                                NYT新聞より抜粋 原稿:ミケネコ』
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/07/09(土) 16:25:18.57 ID:eHrrJo7I0

終わりです

「NYT新聞」とか「ベルベッド時計塔」、「ノアの方舟」
また「反魔翌力(sageても反魔翌翌翌力になる)」など
考え足らずで固まっていない設定ですが、よろしければ使ってやってください

ちなみにNYT=ニューヨークタイムズからとりました
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/07/09(土) 16:47:56.12 ID:YCjO6J480
○saga ×sage
saga入れないと
魔 力→魔翌力
唐 揚げ→唐翌揚げ
死 ね→[ピーーー]
デ ブ→[ピザ]
粉 雪→こなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいい
のようになる
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/09(土) 21:33:49.47 ID:1F8PU9Xd0
ところで国家の名前とか数とかって時代によって変わると思うんだけど、テンプレの四つ以外にもだしちゃいけないのかな? 誰か教えてくれ。
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/09(土) 21:45:06.07 ID:+7VVXe+DO
今他の国の話を書いてる俺も知りたい

>>1に書いてあるのはその世界の主要大国だという認識でいいのかな?
今ちょうどその大国に属する国の話を書いてたんだけど…
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/07/09(土) 21:48:03.09 ID:v+Jluzvko
良いと思う。
というかバンバン出してくれた方が、世界観が固まっていくし妄想もしやすいしで助かる。
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/09(土) 22:02:04.38 ID:1F8PU9Xd0
>>79
即レスサンクス!
んじゃちょっくら書いてくる。
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/09(土) 22:17:47.79 ID:TX//ZsKho
おおいつの間に立ってたんだ
遅れたけど>>1
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/09(土) 23:25:50.67 ID:TX//ZsKho
誰かいないの?(´・ω・`)
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/09(土) 23:27:32.17 ID:R8H/brt9o
いるよー
勝手にwikiいじって勝手に四大国家を折りたたんで表示するかしないかで悩んでた
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/10(日) 00:08:36.05 ID:0yPpr3CDO
NIPはVIPみたいにどんどん書き込まれるって場所じゃないから一見過疎でもここでは普通だったり
色んなタイプのSSが投下されて盛り上がれば自ずと人は来ると思う
後は安価スレと思って避けられてるか、設定があって逆に書きにくいとかあるのかも?
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/10(日) 00:13:13.37 ID:Yis2jhCwo
そうなんか
でも正直この設定だけで一冊分かけそうだよなあ
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/10(日) 00:28:26.58 ID:axiZJwu3o
本当ならVIPに腰を据えたいところだけどなぁ
パート+SSスレ荒れる要素が大きすぎるか
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/10(日) 00:41:38.55 ID:Yis2jhCwo
そうだよね
同志が集まってしこしこ書いた方が気も楽だし議論もできるからここに立てて正解
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/10(日) 00:53:50.53 ID:0yPpr3CDO
そうそう
今は興味持った人達でしこしこやってけばいいのさ。人が多くなってきたらテンプレなり改良してやってけばいいのよ
89 :1 ◆x8SZsmvOx6bP :2011/07/10(日) 00:57:53.85 ID:KVPGcQg70
俺みたいに是非参加したいけど、まだちょっと現行のが忙しい人もいるんじゃないかな

だんだん設定が深くなってけば、ちょっとした話も書きやすくなって人も増えていくと思うし
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/07/10(日) 00:58:53.96 ID:KVPGcQg70
あげたしトリ消し忘れたorz

釣ってきます……
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/07/10(日) 01:06:04.25 ID:bz3Klm76o
おれもしこしこ書いてるぜ
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [saga]:2011/07/10(日) 01:19:41.24 ID:LspEGUq70
おれはしこしこしてるぜ
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/10(日) 01:22:34.00 ID:Yis2jhCwo
いやはや書くのって楽しいな
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/10(日) 03:15:18.88 ID:axiZJwu3o
目次作るだけで三時間とか笑えねぇ
とりあえず概観はあんなんでいいんだろうか、詳しい人がいると助かるんだけど
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/10(日) 06:39:00.17 ID:0yPpr3CDO
ちょっくら四大国家以外の国を出して見た。2レスと短いけど世界観の掘り下げに繋がればいいかなぁと思う
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/10(日) 06:44:11.83 ID:0yPpr3CDO
 レヌリア帝国にはいくつもの小国が属する大国である。

 その小国の一つにかつてライザール王国と呼ばれた国があった。近年の錬金術の研究に使われて始めているいる鉱石『マナ』の採掘が盛んに行われている国だった。

 ライザールは古い時代からドワーフ族と共存共益の関係にあり、互いの技術を摺り合わせて、他国にはない独自の採掘方を取り入れていた。

 しかし約25年ほど前、この国にとって大きな転機が訪れる。

 本格的に錬金術の研究を始めたレヌリア帝国が、ライザールに対して更なるマナの供給を求めたのだ。

 いかなる国にも肩入れしない中立の関係を取ることによって、小国ながらも常に一定の立場を守ってきたライザールはその要求に対して反対の姿勢を取る。

 次第にライザールとレヌリアの関係は悪化。レヌリアにとっては貴重な地下資源であるマナを確保するためついに強硬手段に出る。

 宣戦布告。

 レヌリアは大国としての強大な国力を背景に、ライザールに侵攻。ライザールは周辺国に助けを求めたが、助けは一兵たりとも来なかった。

 大国であるレヌリアに敵対したとすればどうなるか分からない。明日の我が身だ。極めつけはレヌリアが交わした密約があった。

 その密約の内容とは、マナの採掘利権を分け合うこと。自分の身が大切な役人達がそれに食い付かないはずがない。

 なにもしなくても得が出来るのだ。ライザールを助けるメリットなど存在しなかった。

 そのような状況でライザールはレヌリアの圧倒的戦力差を前に、宣戦布告から僅か三日で陥落支配される。
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/10(日) 06:49:08.45 ID:0yPpr3CDO
 後にこの戦争は、三日間という期間とその時に出ていた月が三日月だったことに準えて『赤の三日月戦争』と呼ばれることになる。

 レヌリアにとっては輝かしい歴史の1ページとして、ライザールにとっては忌々しい歴史の1ページとして深く刻まれることになった。

 戦争終結後レヌリアは、ライザールから採掘技術の提供とマナの一定量の供給を条件に自治を認めた。

 その後、レヌリアは君主制を廃止。王族達はその地位を執政官として引き続き統治することを許された。

 だがその実態はただの肩書きであり、実権はレヌリアが握ったままでいた。

 戦争から約20年後の同じ日、この国にまた大きな転機が訪れることになる。

 街に残る戦争の傷跡は消えて戦争を知らない子供達が大人になり、属国としての立場で落ち着いてきた矢先にその事件は起きた。

 ドワーフ族を中心とした技術集団『クラフター』が、採掘現場を視察に来たレヌリアの要人を人質に取り、レヌリアの関連施設を次々に襲撃したのだ。

 彼らはレヌリアに対して独立を要求。受け入れられなければ更なる襲撃の準備があるとした。

 その事態にレヌリアも素早く動いた。帝国が誇る最強の特殊部隊『インペリアルガード』を動かし、旧王族を処刑。街にその死体を吊して大衆に晒した。

 クラフターはかつて戦争を目の当たりにした子供達が中心となって構成されていた。

 それ故に王族に対して特別な思いを抱いていた彼らの士気は急激に低下。彼らの独立を夢見た反乱は僅か三日で鎮圧された。

 赤の三日月戦争と同じ日、同じ期間での出来事だっため『赤の三日月戦争』に準えて『青の三日月事件』とされ、また新たな歴史が刻まれることとなった。
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/10(日) 07:10:21.70 ID:0yPpr3CDO
終わり。タイトルはレヌリア帝国近代史って感じかな?


世界は基本的に四大国家を中心としてライザールのような小国がいくつもあるとしてみた
その立場は時に中立だったり属国だったり同盟だったりと、小国は小国らしく生き残っている

次に錬金術にかかせない鉱石マナ。リアルで例えるなら石油のような存在
この鉱石マナが世界的に貴重という設定のため錬金術は一般人にはあまり知られず、ごく一部の人たちの分野とされている。そのためまだまだ発展途上

最後にドワーフについて。ドワーフは古い時代から地下を中心として生活しており、近代ではライザールように鉱石採掘を生業として各地に分布している
ちなみにライザールは人間とドワーフの国。ハーフやクォーターは当たり前にいる


こんな感じで世界観の掘り下げになれば幸いです
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/07/10(日) 07:37:46.11 ID:bz3Klm76o
おうおう
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/10(日) 18:35:50.26 ID:I95wtCODO
質問
犬や馬といった動物はこの世界いるのかな?
モンスターに分類されてるの?
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/10(日) 18:52:57.26 ID:mbYW1UyQo
>>100
投下された分を読むかぎりだと、
普通の動植物種もいてモンスター種とは区別されてるみたいかな
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/10(日) 18:55:31.74 ID:axiZJwu3o
鳥やオオトカゲがいる以上いてもおかしくはない
VIPに投下されてたのから考察すると、獣達がモンスターに姿を変え〜ってのは大陸の方だけで他は平気なんじゃね
もちろん大陸以外にもいるだろうけど
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/10(日) 18:59:55.21 ID:I95wtCODO
>>101-102
ありがとう
騎士を出すのに馬か馬型モンスターかで迷ってたの
馬がいるなら馬でいいね
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/10(日) 19:34:07.17 ID:JpV+vNrE0
(´・ω・`)誰かいるかい?
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/10(日) 19:36:22.94 ID:Yis2jhCwo
おうさ
もうちょっとで出来上がるぞう!
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/10(日) 19:37:30.42 ID:I95wtCODO
>>104
うまく書けねぇ!
って泣いてる奴ならここに
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/10(日) 19:59:09.36 ID:JpV+vNrE0
ちょっと書けたんで投下してもよろしいか?
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/10(日) 20:03:25.79 ID:I95wtCODO
>>107
Go
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/07/10(日) 20:03:58.96 ID:JOPUNerZ0
投下すればいいと思うよ
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/10(日) 20:05:49.21 ID:JpV+vNrE0
よろしいようで。んじゃお言葉に甘えて投下。
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/10(日) 20:16:43.22 ID:JpV+vNrE0

機工王国ギムリアース首都トレムレデール。 通称『灰色の街』。

街中にある工場から垂れ流される廃油と煙突から毎日のように吐き出される黒煙。

加えて国土北部にある火山地帯からの降灰が混ざり合って街中が灰色に見えることからそう呼ばれている。

ギムリアース王国自体が大陸の北部に位置している上にこのような外観のため、首都は極めて陰鬱な印象を与え、この街を訪れる旅人たちは奇妙な圧迫感を感じる者が多い。

それは正しい。


この街はギムリアースの内情を映す鏡なのだ。
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/10(日) 20:31:34.01 ID:JpV+vNrE0

俺がこの国生まれたのは今から二十二年前。まだこの国が健在だった頃の事だ。

当時ギムリアースは強国だった。大陸に存在する四大勢力の一つに数えられ、首都であるトレムレデール(輝ける宝石)はその名に相応しい偉容を誇っていた。

街は王族の住まう巨大で壮麗な宮殿を中心に、街の住人の自慢の種だった聖オルム大聖堂や王宮前広場が配置され、そこから放射状に石畳の大通りが街を円上に囲む城壁の門まで伸びていた。

街の通りには商店が軒を連ね、人間だけでなくドワーフやエルフ、少数ながらホビットや獣人までが何を気にすることなく街中を闊歩することが出来た。

ドワーフたちは超金細工工房や鍛冶工房を街の各所に作り、エルフたちは得意の魔法を駆使して摩訶不思議な装飾品を多数生みだし、ホビットたちはビールの醸造所をつくって街の労働者たちに仕事帰りの一杯を提供していた。

全てが上手くいっていた。

そう、あの戦争が始まるまでは………
113 :超金細工って…彫金細工の間違いです [sage]:2011/07/10(日) 20:52:39.73 ID:JpV+vNrE0

その戦争が始まったのは俺が五歳の誕生日を迎える二ヶ月前の事だった。親父が俺の頭を撫でながら微笑んでいたのをぼんやりと覚えている。

当時は何故、俺の後ろでお袋が泣いていたのか分からなかったが、親父の悲しそうな顔を見て、幼かった俺にもあまり喜ばしい事では無いという事は分かった。

親父は俺とお袋を残して戦場に赴き、そして二度と帰ってこなかった。

なんて事は無い、一つの家族に突然降りかかった小さな悲劇だ。こんな話は大陸中どこにでも転がっている。どの国もどの種族も相手を出し抜き従えんと躍起になっているこのご時世にあっては親父が死んだなんて話は酒の肴にもならない。

ギムリアースが開戦した相手は大陸最強の覇権国家レヌリア帝国。

ギムリアース王国が強盛だった当時ですら国力差にして三倍以上という超大国だった。

レヌリアは昔も今も領土拡張に非常に熱心な国家で、隣国に侵攻する隙があればその好機を逃す国ではない。ギムリアースが攻撃を受けたのもその隙をレヌリア側に与えてしまったからだ。

しかも当時レヌリア帝国を率いていたのは後に征服帝と讃えられる皇帝バルトリオ三世であった。軍略の天才であったバルトリオ自らが率いる鉄の規律で知られたレヌリア帝国の精鋭軍を前に様々な種族からなる混成軍であったギムリアース王国軍は壊滅。

ギムリアースの国王はレヌリアに連行され、ギムリアースは国土の豊かな部分を全て帝国に奪われた。
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/10(日) 21:04:09.00 ID:JpV+vNrE0

……そして現在。 ギムリアース王国はかつてとは比較にならぬほど弱体化し、昔日の栄光は見る影もない。

王族の宮殿は帝国軍に徹底的に破壊され、大聖堂は高価な飾りを剥ぎ取られ、今や黒っぽい建材を露出させている。

大貴族家の城は国営の大工場へと変わり、賑わっていた大通りは浮浪者や貧民がうろつくスラムへと変貌を遂げ、更に北方の火山までがこの国の衰退を嘲笑うかのように灰を降らせ始めた。

俺は今、工場で働く労働者だ。今作っているのは金属製の自律型ゴーレム。エルフの魔法とドワーフの製鉄技術と人間の錬金術が組み合わされて出来上がった最高の戦闘兵器。

こいつらがあれば帝国の軍隊ともまともにやり合える。

今度こそは必ず帝国の奴らを徹底的に打ち破って親父の仇を討つ!

ギムリアースの意地を見せるときだ。
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/10(日) 21:05:35.89 ID:JpV+vNrE0
とりあえずここまで。

読み返してみたら短かったorz
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/07/10(日) 21:08:20.25 ID:71ei5+h+0
>>115
乙乙

偉そうなことを言って気を悪くしたらごめんなんだが
今後人が増えたときのために、書きながら投下は控えたほうがいいと思う
もし勘違いなら本当にごめん
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/07/10(日) 21:18:16.65 ID:JOPUNerZ0
乙ー

やっぱあれだね、“帝国”っていうとそういうイメージになるよね
完全に悪役臭しかしないっていう
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/10(日) 21:20:17.46 ID:axiZJwu3o
乙ー
むしろ機工王国なんていう大それた名前からギムリアースをラスボス視してたわww
地盤が固まってきてるねー
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/07/10(日) 21:24:37.57 ID:71ei5+h+0
あと、wikiに「SS一覧」のページ作っちゃったんだけど
今あるSSwikiに保存してもいいかな?
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/10(日) 21:26:56.29 ID:JpV+vNrE0
>>117
スマヌ。書きながら投下してた。ところで一気に投下するのってどうすれば良いの?
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/10(日) 21:29:12.46 ID:axiZJwu3o
まず服を脱ぎます

というのはさておき
とりあえず適当にメモ帳でもwordでもEditでも開いて適当な長さになるまで書いて保存しておけばいいんじゃね
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/07/10(日) 21:34:02.72 ID:JOPUNerZ0
>>119
いいと思うよ
むしろやってくださいお願いします

wiki触りなれてないんだよねーorz
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/10(日) 21:41:47.34 ID:JpV+vNrE0
>>121
なるほど。まずは服を脱ぐ所からかwwww
サンクス、これからそうするよ。

>>119
よろしくお願いしまーす
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/07/10(日) 21:55:52.84 ID:71ei5+h+0
一つ編集してみた
誰かチェックして変なところあったら教えてくだされ
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/10(日) 22:15:21.84 ID:JpV+vNrE0
>>124
乙乙。ところでwikiはどこに逝けば見られる?
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/07/10(日) 22:17:55.70 ID:JOPUNerZ0
>>124
乙と言わざるを得ない
変なとこは全然見当たらなかった

>>125
>>12参照


あと、偉人伝()その2を書いてみたらやっぱり長くなったorz
とりあえずディル〜の森関連を埋めていこうと思って書いてみましたよ
ちなみにこないだのからの続きものっぽい感じになってます

今回も7レスくらい使うと思います
じゃ、勝手に投下しますー
127 :レイス偉人伝 ‐『扇動者』アコナイタムに関する記述‐ [sage saga]:2011/07/10(日) 22:19:35.94 ID:JOPUNerZ0

ディルフィリウスの死後、義憤からエリュオス西部に『大集結』したエルフ達。
彼らを一つに纏め上げ、『ディルフィリウスの森』成立に一役を買ったのは、一人の女性エルフであった。
ディルフィリウスの意志を継ぎ、エルフ達の安住の地を用意するために腐心した『扇動者』、アコナイタムである。

傾国の美女とも渾名され、妖艶かつ魅力にあふれた容姿だったとされている彼女は、ディルフィニウムとはまた別の性質を持った“英雄”であった。

彼女は、他者の感情を上手く制御することに長けていたのだ。
猛り怒り過ぎたエルフ達を宥めつかせ、義憤の先を上手く制御し、彼女は直接の戦闘を行なわずにエリュオスと“戦った”。
つまり彼女は、大規模な“戦争”を起こすことなくエリュオスから“森”を掠め取ることに成功した、エルフ種きっての智者なのである。
128 :レイス偉人伝 ‐『扇動者』アコナイタムに関する記述‐ [sage saga]:2011/07/10(日) 22:21:02.18 ID:JOPUNerZ0
「殺し合いは、この世で一番愚かな行為」。その言葉が、アコナイタムの口癖であった。
――――戦わずして勝つ。犠牲者を出さずに、全てを勝ち取る。
そこに拘ったアコナイタムは先ず、『大集結』によって集まった――血気に逸り、義憤に満ち溢れた――エルフ達の感情を抑えることに腐心した。
不慣れな『念話魔法』にて毎日、エルフ達に演説をし、心からの言葉で彼らの逸る気持ちを宥めつかせたとされている。

「暴虐に暴虐で返すような真似を、ディルフィリウス様は望みません」

念話に不慣れなせいで時々に言葉を途切れさせながら、彼女が涙ぐんで言ったとされる言葉。
半ばディルフィリウスの気持ちを勝手に断言しているかのような科白ではあるが、これに心を動かされたエルフは決して少なくはなかったはずだ。

なぜならば彼女は、エリュオス西部集落のエルフ達“ほぼ全て”の命を賭した大魔法『先導者の宣誓』の、唯一の生き残りだったからだ。
正しい意味で“意志を継いだ”立場であった彼女のその必死な言葉に、同調しないエルフは恐らくいなかったのであろう。

同胞の血を流すことをよしとせず、その身を削って戦いを止めようとしたアコナイタムは、一部のエルフの間では“聖女”とも言われていたようだ。
徹底した不戦主義。そのおかげで、『ディルフィリウスの森』は誰の血も流さずに独立を果たした、と考えられている。
129 :レイス偉人伝 ‐『扇動者』アコナイタムに関する記述‐ [sage saga]:2011/07/10(日) 22:22:13.02 ID:JOPUNerZ0

そうしてエルフからの信仰を得たアコナイタムではあるが、対し人間の彼女に対する評価は、あまり芳しいものではない。

『扇動者』に始まり、『姦雄』、『雌狐』、『悪女』。アコナイタムを指すそれらの悪名は、主にエリュオスの人々の間に広く浸透しているものだ。
人聞きの悪い響きの二つ名が多いアコナイタムではあるが、彼女が当時行なったとされる凄絶な行為を鑑みれば、それも当然のことであると言える。

表向きは不戦を貫き、エリュオスとの直接交渉にて『ディルフィリウスの森』を独立に導いた、“聖女”アコナイタム。
だが。
『人為凶作』と『籠絡傀儡』に代表される、彼女が用いた詭計、搦め手。その仔細を知れば、彼女に向いた悪名も納得できるであろう。

……エルフ居住区確保のため、アコナイタムは直接交渉の場を設けるだけでなく、ありとあらゆる神算鬼謀を巡らせていた。
そして、直接戦いに出ることなく、『ディルフィリウスの森』が認められるまでの数年の間、密かに人間達を苦しめ続けていたのだ。

全ては、安寧の地を得るために。彼女は、一切の妥協をしなかった。
130 :レイス偉人伝 ‐『扇動者』アコナイタムに関する記述‐ [sage saga]:2011/07/10(日) 22:23:42.37 ID:JOPUNerZ0

ここで余談であるが、エルフの英雄ディルフィリウスは、魔法に関して天賦の才を持ち、特に『念話魔法』を得意としていた、とされている。
が、通常のエルフ種が本来得意とするのは、自然に介入し影響を及ぼす類の魔法だ。
例えば、土壌操作や気象制御、水質変性といった具合のもの。言ってみれば、自然環境そのものに直接的な変化を与える部類の魔法である。

その魔法を最大限に利用することで、アコナイタムは一つの策略を完成させた。……その策こそが、悪名高き『人為凶作』である。

一に、農村で整備された農業用水路の水質を僅かに変化させ、作物の成長を抑制する。
二に、期間を極々限定した気候変化――例えば、冬季における数日間の気温低下――を利用し、農作物に被害を与える。
三に、環境変化に弱い特定作物の農場を狙い、局地的に土壌を僅かに変化させることで、その作物の収穫量を激減させる。

不自然なまでの、しかし人為を疑うには自然過ぎる環境変化を起こすことによって、与える被害は大きいままに、エルフ達の消耗を最小限にした“姦計”。
この計略は、当時のエリュオスの食糧事情に多大なるダメージを与えたとされている。

そして、エリュオス国内で飢餓問題が深刻になり始めた時になり、アコナイタムはエリュオス王に“『エリュオスの失態』に対する進言”と称して謁見、森の独立へ向けて交渉を始めたのだ。
謁見の間にて彼女は、“何故か”エリュオスの不作について言及し、笑みを浮かべながら王の耳元でこう呟いたという。

「お怒りになっておられるのですよ。ディルフィリウス様が、貴方達に対して」

『エリュオスの失態』に後ろめたさを感じていた当時のエリュオス王は、この言葉を聞いて心の底からエルフを恐れた、と言われている。

131 :レイス偉人伝 ‐『扇動者』アコナイタムに関する記述‐ [sage saga]:2011/07/10(日) 22:25:17.71 ID:JOPUNerZ0

続いてアコナイタムは、自身と、自身の容姿に並ぶ女性エルフ種の部下、その美貌を最大限に利用した策に打って出た。
王国の要人たちを籠絡し、愚策悪法をエリュオスに蔓延させた姦計、『籠絡傀儡』である。

当時のエリュオス王国元老院議員の凡そ半数を、僅か半月ほどで完全に虜にし、その耳元で民を苦しめる悪法を囁くことで、彼女達はエリュオスの情勢をさらに傾けた。
その、あまりにも手数の多く、また早すぎる搦め手から、彼女達は魅了効果を持つ魔法を行使していたのではないか、とも言われている。

女性エルフ達が議員の耳元に囁いた主な悪法は、“新たな税の導入”と、“既存の税の増税”。
収入を増やすことで元老院議員の私腹を肥やさせ、議員達からの好感を上げつつ、民を苦しめて国力を低下させる。……この策は、かなりの成功を収めた。

何よりも、エルフ達の害意を気付かせない“寝床での進言”という形が、相当の効力を生んだ。
これにより、エリュオスの民達は度重なる重税を“元老院の暴走”と勘違いをし、元老院、ひいては国王への不信感を募らせたのだ。
……これも全て、アコナイタムの計略の内。

『人為凶作』によって、作物の絶対量を大幅に減らし。
『籠絡傀儡』によって、民に出回る通貨量や作物量をさらに減らし、さらには王国の信用を失墜させ。
誰にも害意を気付かせず、エリュオス王国を苦難の最中に陥れた『扇動者』、アコナイタム。
そんな彼女は、王に対してだけ、幾度も幾度も繰り返し、一つの言葉を語り聞かせた。

「お怒りになっておられるのですよ。ディルフィリウス様が、貴方達に対して」

132 :レイス偉人伝 ‐『扇動者』アコナイタムに関する記述‐ [sage saga]:2011/07/10(日) 22:26:04.46 ID:JOPUNerZ0

エリュオス王だけが、気付いていた。否、気付かされていた。エルフ達の、本当の恐ろしさを。
エリュオス王だけが、分かっていた。『エリュオスの失態』こそが、この劣悪な国内情勢の原因なのだと。
エリュオス王だけが、理解していた。この情勢を鎮めるために、“何をすればいいのか”を。

そして遂に、エリュオス王は、“エルフ居住区の存在を公に認める”旨の勅命を出したのだった。
それと時期を同じくして、エリュオスを悩ませていた食糧問題も、政治不信も。ぱったりとその姿形を消した。

……当時のエリュオス王は晩年、このエルフ達の恐ろしい計略を、一冊の本に纏めて出版している。
『妖精の姦計』と題されたその書を読んだエリュオス国民は、エルフに対して怒りを抱く前に、酷く恐れを為したとされている。

当然だ。エルフが本気になりさえすれば、人間はすぐさまに飢餓に苦しむことになるのだから。
食料の大本を、徹底的に潰される。その恐怖は、現代人の目線からして見ても、計り知れないものがある。

133 :レイス偉人伝 ‐『扇動者』アコナイタムに関する記述‐ [sage saga]:2011/07/10(日) 22:27:00.68 ID:JOPUNerZ0

こうして、三百年前の『大集結』から、僅か数年足らずで安寧の地を確保したエルフ達。

彼らの行動の原動力は、ディルフィリウスの激情である。それは確かに間違いではない。
だが、ディルフィリウスの偉大さの影に、一人の姦雄が居たことを忘れてはならない。

『先導者』に対する、『扇動者』。アコナイタムがそう呼ばれている所以は、彼女の二面性ゆえ。

『先導者』の名と立場と意志を継ぎ、同胞たちを守り抜いた“表”。
対して、エルフ達の感情を制御し、直接の戦闘を行なうよりもより狡猾で卑劣な策へエルフの民達を『扇動』した、“裏”。

二つの顔を使い分ける恐ろしさを持った『扇動者』こそ、人間が持つエルフへの畏怖感情の、真の源なのである。
美貌と智謀によって、エリュオス全土に苦難という毒を与えたトリカブト、アコナイタム。
真に恐ろしきは、彼女の頭に秘められていた、数々の猛毒<ちりゃく>なのだ。

134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/07/10(日) 22:28:41.57 ID:JOPUNerZ0
これでおわりです
ってか今回も結構見辛かったか……

とりあえず現状、エルフの偉人伝()はこれくらいにしときますかね
あんまり設定作り過ぎると後々困る人もいるかもだし

次なに書こうかなー
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/07/10(日) 22:30:34.26 ID:71ei5+h+0
>>134
乙ー
アコナイタムさんパネェ
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/10(日) 22:31:51.05 ID:axiZJwu3o
乙!
エルフポテンシャル凄すぎwwww

>>124
あんま原文に手を加えるのは嫌だけど、両サイドがメニューだから大抵の人は文章が折り返すだろうし
違和感が出ない程度に不自然な改行は訂正してもいいかな?
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/07/10(日) 22:34:58.05 ID:71ei5+h+0
>>136
文の内容が変わらなければおkだと思う
お願いします
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/10(日) 22:39:42.21 ID:JpV+vNrE0
乙!
ディルフィリウスに続きアコナイタムか…良いね良いね。
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/07/10(日) 22:57:36.48 ID:IMEq5i9mo
質問なんだけど、魔族ってどんな感じの奴らなの?
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/10(日) 23:03:15.87 ID:axiZJwu3o
絶滅寸前(とされている)の種族

としかされてない。そういや種族の事情とかは安価で決めるのかSSで勝手に作っていくのか決めてないよね
流れ的にはSSで作っていく感じっぽいけど
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/07/10(日) 23:07:29.89 ID:IMEq5i9mo
>>140
なるほど。
取り合えず勝手に考えて書いてみることにするわ。
142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/11(月) 00:23:56.96 ID:ZQEzeCgDO
書けたので投下します。
初投下ですけど、投下するのって少し怖いww
143 :森でのお話 [saga sage]:2011/07/11(月) 00:25:43.00 ID:ZQEzeCgDO
――どうしてこうも私はツイてないんだろう?

フィネットは走りながら己の不運を呪った。後ろからはゴブリン達が追って来ている、落ち着いて呪文を詠唱する暇もない。
――里を追いだされたその日にこんな災難に巻き込まれるなんて!
そもそも森を迂回する道ではなく、突っ切る道を選んだのがいけなかった。馴れ親しんだ森ならまだしも、見知らぬ森はエルフにも冷たい。ましてやフィネットはエルフの内でも若い方だ。
そんな悪条件の重なる中でゴブリンの集団と鉢合わせしてしまったのである、不運を嘆くのも仕方がない。

「っ!?」
開けた場所に出た瞬間、木の根に足を取られ倒れこんだフィネットに、ゴブリン達が迫って来る。慌てて呪文を詠唱しようとするのだが、こんな時に限って思い出すのは、怪我を治したり、花を咲かせたりする呪文ばかりだ。
そんな魔法、今は何の役にも立たない。
為す術もなく、尻餅をついたままあとずさる背中を、樹の幹が阻む。森の陰からその広場に、十数匹のゴブリン達がその姿を現した。

「こうなったら、差し違えてでも一匹くらい仕留めてやる!」
覚悟を決めて腰の短剣を抜き放つと、フィネットは逆手に構えた。
144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/07/11(月) 00:27:06.38 ID:ZQEzeCgDO
辺りにシャッという金属が擦れる音が響く。次の瞬間、横手から飛び出した影がゴブリンに鋭い斬撃を放った。
先頭にいたゴブリンが膝から崩れ落ち、他のゴブリン達は予期せぬ乱入者に怒りの声をあげる。
「大丈夫か?」
呆気に取られたフィネットを、いつの間にか横にいたもう一人が手を取りグイッと立ち上がらせた。
「え……あ、はい。大丈夫……」
フィネットが言い終らないうちにその人影は斧を構えゴブリン達を睨み付けている。その姿は里で見聞きした話に出てきた……
「ドワーフ?」

思わず呟いたフィネットにそのドワーフは再度視線を向けた。
「……なんだ、お前さんエルフの小娘か!」
小娘と言われフィネットは声を荒げる。
「小娘ってなによ!」
「小娘は小娘だろうが!」
「私は小娘なんかじゃ……」
「騒ぐな、エルフのキンキン声は頭に響く!」
「キンキン声!?」

二人が言い争っている間にも、先にゴブリンを倒した人影が、また一匹ゴブリンを切り倒した。
「ベクメル、喧嘩もいいけどそろそろ手伝ってくれないかな」
人影――人間の男はそれでもまだ余裕を持って声を掛ける。
ベクメルと呼ばれたドワーフは軽く舌打ちすると、雄叫びをあげゴブリンに斬り掛かった。
145 :森でのお話 終 [saga sage]:2011/07/11(月) 00:28:35.31 ID:ZQEzeCgDO
口喧嘩で気持ちが落ち着いたのだろうか? その時になってフィネットはやっと思い出せた。
――役に立つ魔法!
フゥッと息を整え精神を集中させると、呪文を詠唱する。

「ウィル、あの娘エルフだぞ」
「だから何だい?」
「ッ……お前は人が良すぎる!」
襲い掛かるゴブリンを薙払い、斬り裂きながら二人はフィネットを守る。……口論も続けながら。
「大体森なんぞ突っ切るから厄介ごとに巻き込まれるんだ!」
「それには君だって賛成しただろう?」
「それは! ……そうだった!」
ベクメルが斧を振り下ろし、ゴブリンが真っ二つになる。
「二人とも、避けて!」
フィネットの声にハッとした二人が、咄嗟に脇に飛び退くと、空気を震わせながら真空の刃がゴブリン達を襲った。
ある者は全身に切り傷を負い、ある者は目をつぶされ、ゴブリン達は恐れをなして森の奥へと逃げ帰っていく。
ウィルとベクメルはその様子を唖然と眺めた。

「すごいじゃないか。今のがエルフが使えるっていう、魔法……なのかい?」
剣を鞘に納めながら、ウィルがフィネットに声を掛けた。その後ろでベクトは憮然とした表情のままそっぽを向いている。
「そう、魔法。もしかして初めて見た?」
「あぁ。エルフは自然を操るって、噂には聞いていたけど、目にするのは初めてだ」
「フン。エルフの小細工なんぞ借りんでも、あの程度サクッと倒せとった」
再び睨み合うフィネットとベクトの間にウィルが割って入る。
「俺はウィルバルツ、こっちはベクメルって言うんだ。それにしてもお嬢ちゃん、こんな森の中で、しかも一人で何をしてたの?」
「お嬢……私にはフィネットって名前があるの。それに私は21歳! 子供扱いされる年齢じゃない!」
これにはウィルもベクメルも驚いた。
「俺より年上だなんて。エルフは長命か、なるほど……」
「ワシよりは年下だ」
「ドワーフなんかが比べないでくれる?」
「何を!」
「何よ!」
売り言葉に買い言葉、今にも取っ組み合いの喧嘩になりそうな二人と、それを宥めるウィル。
「とにかく。フィネットも一人じゃ危ないし、森を出るまで一緒に行こう」
パンッと手を叩いてウィルが先に歩きだすと、フィネットがその後を追う。
「……待てウィル、勝手に決めるな。あ、おい、二人とも待て。待てって!」
後ろからベクメルがしかめっ面のまま二人を追い掛けていった。

この三人、後にエリュオス王国建国に大きく貢献することになるのだが、それはまた別のお話。
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/11(月) 00:30:40.37 ID:ZQEzeCgDO
以上です。
時系列的には一番古く、まだ魔法も一般的でない時代を書いてみました。
設定的に差し障りがあれば右から左にスルーしてください。
147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/11(月) 00:41:00.59 ID:iBdHNs9Go
おお、いいんじゃないか?
おれは好きだ
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/07/11(月) 00:42:18.12 ID:y7a/sUYpo

イイと思う
149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/11(月) 00:53:21.41 ID:ZQEzeCgDO
>>147-148
ありがとうございます、励まされます。

ただ投下してもう一度見直したら名前の部分で書き間違えが残っていたり、改行が無くて見にくい部分もありました……orz
十分見なおしたつもりでもやっぱテンパってたみたいです。
今後はそこら辺気をつけつつ精進したいと思います。
150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/11(月) 01:00:06.94 ID:iBdHNs9Go
書き間違えなんか気にせんでいいよ
これからしっかりやりゃいい話なわけで
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/07/11(月) 01:06:12.92 ID:y7a/sUYpo
むぅ……
魔族の話書こうと思ったのに、全然出てこない。どうしたものか……
152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/11(月) 02:07:31.34 ID:4G5sb93g0
>>149
乙乙。
おもしろそうな話だ。
>151
魔族絡みはまだほとんど出てないからねぇ。ここの設定に準拠してれば魔族がどんな奴らでも好きに書けばいいと思うよ。
153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/07/11(月) 02:09:17.36 ID:KIhLkpUzo
魔族のは丁度書いてるところだが……なかなか
154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/11(月) 02:55:10.80 ID:yPEd5A8+o
とりあえず、今まで出た主な情報をかなり主観的に時系列順にまとめてみた。
間違ってたりおかしな点があったらどんどん指摘修正して。


エルフが原初の人間に火を与え言葉を教える

『森でのお話』

エリュオス建国

モンスター出現、『深影の大陸』の古代文明崩壊
(この文明の錬金技術は当時、核兵器レベルの兵器が実用化されていたほど?)

30年後、『深影の大陸』からは文明圏がほぼ消滅
※(ここで一度、世界から高度な錬金技術が失われた?)

レヌリア建国


※(この間は結構な年月がある?)


エリュオス西部におけるエルフ種の虐殺、『エリュオスの失態』
(この辺りから「中世」にあたる時代区分?)

エルフの『大集結』、『ディルフィリウスの森』が誕生

アコナイタムによる『ディルフィリウスの森』独立
(彼女の計略でエリュオスが弱体化?)


※(ここから「近代史」とされる時代区分?一部の者達が錬金術の実用性を見出し始めた頃?)

レヌリアによるライザール侵攻、『赤の三日月戦争』
(わずか三日で終結した一方的な戦い、既に当時のレヌリアは超大国)

20年後、クラフターが反レヌリアを掲げて蜂起、『青の三日月事件』

レヌリアが帝制へ

>>41 モンスターの子と少女の物語?
(当時のギムリアースでは既に、錬金術の存在が一般にも知られていて実用化もされていた)

レヌリアとギムリアースの戦争(当時の四大国同士であるためかなり大規模な戦役?)

ギムリアース北方の火山が噴火

二大国の戦争から22年後には、錬金術が大々的に軍事転用され魔術と併用されている


追記
※ディルフィリウスの森が破壊されたのは近代に入ってからか。
※錬金術の認知レベルから、初の錬金大学建立と『白鳥海域』は『赤の三日月戦争』前後、
 >>35はレヌリアとギムリアースの戦争前後か。
※エルフと人間の共闘(魔族以外の多種族も加わっていた?)によって魔王が倒される時期は不明、
 数千年前とされるあたり、なんとなくの雰囲気だと古代文明滅亡以前か。
※エリュオスとディルフィリウスの森が存在する大陸と、
 レヌリア・ギムリアース・ライザールの存在する大陸が同一か否かはまだ未設定。
 ただいずれも、雰囲気的に古代文明のあった『深影の大陸』と別なのは確かか。
155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/11(月) 03:55:08.39 ID:VWpZ/L+DO
乙乙


分かりやすくて頭の中を整理できた。みんながみんなそれぞれの想像で書いてるから多少の整合性は致し方ないかな

それにしてもそれぞれ国の背景が出てきて面白くなってきたね。帝国はやっぱりいいイメージ持たれてないとかw


ところでまだ設定が固まってない魔族のことなんだけど、「モンスターの子」ってのは広義では魔族と考えていいのかな?
モンスターの設定上、モンスターの子ようなな設定は珍しいケースではないとないと思ったんだよね
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [saga]:2011/07/11(月) 04:45:31.32 ID:NUINojph0


>>155
魔族は悪魔の眷族みたいなのだと思ってた
まあ固まってない設定なら早い者勝ちでいいんじゃないかな?

問題が発生したら後で改変すればいいと思うし


さてさてまたまたシリーズの続きを作ってしまいました
この前の白鳥島はちょっとわかりにくい部分が多かったので、今回はそれを改善できていればいいなと思います
しかし次のやつを書く度にどんどん文体が変わっていく……
では投下します
157 :わたしと教授の秘境探検記 『ディルフィリウスの森』 [saga]:2011/07/11(月) 04:47:00.09 ID:NUINojph0

 エリュオス西部に位置するディルフィリウスの森。エルフたちの里である。強力な呪いのようにがっちりと里を囲む木々のせいで、入口など
という概念はそこに存在しない。
 ただ巨大な樹木の前にわたしはぽつんと立っていた。
 奥からは頭が溶けてしまいそうな花の蜜の香りが漂っている。

 ここまで来るだけでも相当骨が折れた。結界魔法を通り抜けようとすると、どこからかエルフが現れ、危うく戦闘になりかけた。そこを教授
が――まったく普段のおちゃらけた態度からは想像できないが――交渉をして、ここまで来れた。
 
 ――非は相手方にもある。
 教授が使った人間側の言い分だ。確かに、お祭り騒ぎで気を抜いて結界魔法を一時でも解いてしまったことは明らかに相手側のミスだと言え
る。その小さな穴の中を通り抜けていった“ネズミ”を、わたしたちもエルフも何としてでも捕まえなくてはならない。
 
「通信魔法で居場所がわかったわ」
 一瞬だけ踊る小人のように顔を歪め、即座に慌てて顔を引き締めてから、そのエルフの少女は言った。
 わたしは間髪いれずどこ、と訊ねる。 
 
「すぐ近くよ。いい、ここまで連れてきたのはあくまでアタシたちの非を認めて、人間と対等な位置に立つため。ここから先はアタシたちの仕
事よ。まあその子供とやらも過激派の連中にさえ見つからなければ無事だろうし。アンタたちはちゃんとこの場所で待機して……って、ちょっ
と!? 勝手に中に入ったら――」

 既にその声は、子供の頃の記憶のように、ずっと遠くで感じられた。

 話はほんの少しだけ遡る。
158 :わたしと教授の秘境探検記 『ディルフィリウスの森』 [saga]:2011/07/11(月) 04:48:16.55 ID:NUINojph0

 わたしは少しだけエリュオスに住んでいた時期がある。大学で休暇をもらったわたしは遊びに行くことにした。なにせ、そこにはわたしの
小さなボーイフレンドがいるのだ。
 
 ハイネという名前の少年とわたしのファーストコンタクトは、同年代の子供たちにいじめられていた彼を救ったことから始まる。先祖がどう
たらとか意味不明な理由でいじめられていた奴らをあっという間に蹴散らしたわたしを見るハイネの目は、凄まじい熱を帯びていた。
 それからというもの、彼とよくつき合うようになった。
 
 そして問題。何を思ったか、ハイネが単身でディルフィリウスの森に侵入したという。間の悪いことにエルフたちのドンチャン騒ぎだ。
 やつれたハイネの母親の顔を見れば、探しに行けないわけがない。わたしは早速、そのディルフィリウスの森に行くことにした。
 
 存在は知っていたが、近づくのはもちろん初体験だった。それほど危険な場所と教えられていた。ハイネ……エルフたちに食べられてないか
しら。
 
 森と林の境界のような場所で、わたしは壁にぶつかる。結界魔法だ。透明のデブの腹にぶつかったように跳ね返される。
 もちろんそんなことで諦めるわけにはいかない。わたしは魔法を唱えて、何とか結界を破ろうとした。すべてを破らないでも、少しだけ脆い
場所に穴を開ければいい。
 
「ちょっと待ちなさいよアンタ!」

 結界の先から、豊かな金髪を揺らして、緑目の少女が現れた。エルフだと一目で判断がついた。

「人間がこの森に何の用かしら?」
 エルフが目を細める。
「返答次第じゃ、帰れなくするわよ」 

 好戦的な奴らだ。これではハイネが食われてしまう。
 無理矢理にでも通してもらうしかないようだ。魔法で小さい炎でも出せば大人しくなるだろう。などと好戦的なことを考えていると、後ろから
 
「昨日のお祭り、随分と楽しかったそうだな。思わず結界魔法が解けてしまうほどに」
159 :わたしと教授の秘境探検記 『ディルフィリウスの森』 [saga]:2011/07/11(月) 04:49:14.31 ID:NUINojph0

 さっき棺桶から出てきたばかりな死者のような声。その不健康な顔。
 違う。これはゾンビではない。教授だ!
 
「あの……教授、ですか?」
「どこからどう見てもな。理由は後で話してやる。それよりも……」
 教授がニヤリと口角を吊り上げる。
「エルフの諸君は知っているのかな? 諸君らが楽しくお祭り騒ぎをしている間に人間の子供が森に迷い込んでしまっていたことを」

 エルフはトカゲの死体を突き付けられたように渋い顔をした。

 教授は何故、こんな所にいたのか。
「実は校長からな、エルフと和解するための足がかりを作ってこい、と言いつけられたんだ。エルフと人間たちの冷えた関係はもう数百年前か
らだ。人間たちは必要以上に関わることを辞めている。だからこそ、誰かが歩み寄らねばならん。
 そこで選ばれたのが俺だ。どうも人外たちとの接点が多いからとかいう理由で選出されたらしい。こんな危険度大の任務はお断りしたかった
んだがな……まあ、この前の白鳥の事件で随分と迷惑もかけたし。断るに断れなかった」
 
「どうしてエルフたちがお祭りしてたってわかったんですか?」
「何を言ってんだ。昨日はあの世界的な革命が起きた『先導者の宣誓』が発せられたその日だぞ。ディルフィリウスやその他の命を落とした多
くのエルフの英雄たちを祀る英霊祭が行われたに決まっているだろう。お前は本当に俺の生徒なのか?」
 教授から苦笑いをもらってしまった。

「エリュオスで子供が迷い込んだことを聞いた。お前がひとり突っ走ったこともな」
 半笑いするなお化けみたいだぞ。
「どう口実を作るべきか迷っていたからとりあえず利用させてもらった。このまま里の長に会えればいいのだが。しかし奴らが現在どの程度
人間を嫌っているのかがわからん限り、そうそう安直な行動はとるべきでないな」
 皮肉かよこのクソ教授。
「まあ今からは俺の言うことに従って行動しろよ」

「着いたわ」

 何か言い返そうとしたわたしに、先導していたエルフが冷ややかな声で言う。
 巨大な樹木が胸を張るようにして聳え立っているのが見えた。
「ここから先がアタシたちの里よ」
160 :わたしと教授の秘境探検記 『ディルフィリウスの森』 [saga]:2011/07/11(月) 04:50:23.17 ID:NUINojph0

 再び時間は戻る。
 
 わたしは木々を薙ぎ払うように走った。ハイネがどこにいるのか、肝心な部分を訊かなかったことを早くも後悔する。しかし近くで見つけた
ならば、エルフたちもそのすぐそばで待機しているだろう。
 そう考えを巡らせて走り続けると、少し開けた広場のような場所にエルフたちが数人集っているのが見えた。
 ――ここにハイネがいるのね
 
「ハァ……ハァ、ハァ。おーいリンス、お前は死にたいのか? そんなに死にたいのなら俺が殺してやるぞ。今すぐに。ここはエルフたちの
縄張りで、不用意なことをすれば本気で殺されても文句は言えんぞっ……て、聞いてんのか!?」
「ハイネ……どうしてあんな巨木の上に」

 剥いた栗のような頭をした少年、ハイネは、教授を十人積んでも足りないほどの高さの巨木の上にいた。不安定な足場で、今にも落ちそうで
ある。
 
「恐らく『石苔』で登ったんでしょう」
 追いついたエルフが果汁のような汗を滴らせながら息を整える。
「樹木に張りついて栄養を吸う苔よ。群体で動くの。栄養を吸っている最中は身体が硬質して、まるで小石のようになるわ。それを使って登っ
たのね……だけど石苔は一時間くらいで別の樹木に移動するから、ああして降りれなくなっちゃったわけ。アタシたちエルフはあんなの使わな
いでも登れるからいいんだけど。
 ちょっと、そこのアンタたち。見てるだけじゃなくて、下ろしてやんなさいよ」
 
 巨木を仰ぐエルフたちに呼びかける。しかし彼らは曖昧に首を振るだけで動かなかった。恐らくハイネを餌にするかどうかで揉めていたのだ
ろう。そうはさせない。
 
 教授が後ろで呟く。
「彼らの顔、引っ掻かれたような傷があるが……」
 
 わたしが先に進もうとするのを教授が抑える。その隙にエルフの少女が巨木に近寄り、小さな掌で触り、まるで木の意思を汲み取っているの
だと言うように目を閉じた。
 ボコッとエルフ少女の足元の地面が盛り上がる。地下から登ってきたのは巨木の根のようだ。それが掬い上げるようにエルフ少女をハイネの
元まで運ぶ。
 
 巨木の上でエルフ少女が手を差し伸べる。ハイネはかなり怯えていた――が、意を決したように地面を見ると、
 
「へ?」

 迷わず飛び降りた。
 その顔は、エルフの助けなど借りるものか、とせせら笑っているようだった。
161 :わたしと教授の秘境探検記 『ディルフィリウスの森』 [saga]:2011/07/11(月) 04:51:27.68 ID:NUINojph0

 ハイネの落下地点めがけて走ったわたしやエルフたちを押し退けて、彼を見事キャッチしたのはまさに教授その人だった。
 まるでそうなることがわかっていたように、彼は真っ先に駆け出したのだ。
 
「馬鹿な真似を……これだから子供は考え足らずで嫌いだ」
 教授が顔を歪めながら言葉を吐き出す。
「おい。どうしてこの森に忍び込んだ? 言ってみろ」
 ハイネは答えない。
「無視か。じゃあ、何故この木に登った」
「……エルフたちに見つかると思ったから」
「ふん。覚悟もないくせに忍び込むんじゃない!」
「覚悟ならある。だから僕をエルフの長のところへ」

 教授がハイネの頬を殴った。躊躇も遠慮もなく、本気でぶっ飛ばした。わたしはもう見てられずに、教授からハイネを取り上げた。
 いくら子供が嫌いだからって、それを暴力として形に移したら犯罪である。
 わたしは危ない銀のナイフでも見るように、教授を睨んだ。しかしそれを屁ともせずに教授はまたハイネに質問した。
 
「最後に、お前の名前は? 姓も合わせてな」

 ハイネが答える。
 
「ハイネ・ヴァイスマン」

 強い風が吹き、森が傷つき涙を流しながら震える狼のように咆えた。
162 :わたしと教授の秘境探検記 『ディルフィリウスの森』 [saga]:2011/07/11(月) 04:52:30.91 ID:NUINojph0

 わたしたちは結界魔法の外まで来ていた。見送りはエルフ少女ただひとり。
 
 今回のことは上には報告されなかった、と表向きはそう言われた。しかしエルフの長ならそんなことはお見通しに決まっている。
 しかしそれでも帰してくれるということは、何とか危ない線から出ずにすんだらしい。
 教授もわたしもほっと胸を撫で下ろした。

 しかしハイネはどこか不満げである。やはりゾンビ教授に殴られたことが相当ショックらしい。後できつく油をしぼらなければ、どこかでま
た子供が泣くことになる。
 
「じゃーね。久々に人間と接触できて――それも嵐みたいな騒々しい感じだったけど――結構楽しかったわ」
 エルフの少女が齧られたリンゴみたいな笑顔を作る。
「また今度入りたいときはアタシを呼びなさい。エルフ総出で歓迎したげる……はさすがに無理だけど、裏口からこっそり入れてあげるくらい
はしたげるわ」

 それだけ言うと彼女は結界魔法の奥、自らの森に帰っていった。
 
 わたしはふと疑問に思う。
「教授、よかったんですか? エルフと人間の和解のこと。結局誰にも言わないまま帰ってきちゃいましたけれど」
 教授が苦い顔で煙草に火を点ける。
 
「いいんだよ。軽々とは言えないことも、あるんだ」


 今回の話はこれでお終い。
 ただ最後にひとつ付け加えるなら、わたしが大学の図書室で見つけたとある資料。
 
 あの事件でわたしの知識が不足していると判断した教授は、エルフについてレポートを書くように言いつけてきた。ファック。しばらく調べ
ていると『エリュオスの失態』という出来事にぶち当たった。
 危険な『焼夷魔法』を使いエルフと森の多くを焼死させた事件。その暗い歴史に不名誉な名前を刻んだ一同。
 胸糞悪い気持ちでその羅列を目で追っていると、その中に
 
 『エリック・ヴァイスマン』
 
 という名前を見つけた。偶然と信じたかった。しかしハイネは……
 
 教授は何時から気付いていたのか。どこまでが偶然だったのか。どこまでが踏み込んではいけない事情だったのか。
 決まっている。最初からだ。わたしたちが思うよりも、エルフと人間との歴史は深く、そして暗い。軽々しく口にはできない諍いがある。
それを止める方法は、未だわからない。どちらもどちらで睨み合っているだけなのだから。
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [saga]:2011/07/11(月) 04:58:10.56 ID:NUINojph0

終わりです

変な設定がどんどん増えていきます
それはそうと比喩に動物とかたくさん使っちゃってるけど、この世界にもアニマルズはいるんですよね?
そうでなかったら世界観ぶち壊してすみません
お目汚し失礼いたしましたっ
164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/07/11(月) 05:00:58.31 ID:jicbU6LAO
>>163
お疲れ様です!
その辺は100辺りの文で出てた気がします。
165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/11(月) 10:58:23.58 ID:x1ThD23Co
>>163
乙ー。時たま出てくる対教授専用リンスの暴言が可愛いなwwww
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京西部) [sage]:2011/07/11(月) 12:14:17.26 ID:HQYZiCra0
異世界からの侵略を受ける話書いてみようかと思う
時系列的には未来になるかも
設定に無い国名とか入れる予定
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/11(月) 12:51:08.94 ID:iBdHNs9Go
学校やっと終わった・・・テスト返しとか・・・wwwwwwwwwwwwwwwwww

着々と設定ができつつあるね
俺の書いてるのとどんどんずれてくけど気にしたら負け
168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/11(月) 13:09:32.12 ID:4G5sb93g0
>>163
乙乙。エリュオスの失態を絡めてくるとは予想外だった。今後も期待。

>>166
どんどん書いちゃってくれ。
169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/11(月) 13:28:00.68 ID:YhsYEh2S0
面白そうなスレ発見

別大陸からの侵略とかって書いてもいいモノなのかどうなのか
>>166の人と若干被りそうだし
でも戦争モノが書きたいです!
170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/11(月) 13:42:10.40 ID:4G5sb93g0
>>169
書けば良いと思うよ。モロ被りで無い限り誰も気にしないでしょ。
171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京西部) [sage]:2011/07/11(月) 14:09:19.39 ID:HQYZiCra0
>>168
了解した
書き溜めて来る

>>169
被ってもかまいません
出来ればそちらの設定も入れたいので先に書いてください
172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/11(月) 14:52:38.81 ID:YhsYEh2S0
>>170
どっちかっていうと「別の大陸」ってのが世界観壊さないかと怖いんだがね
逆に>>171が言ってくれてるような感じだったら、異世界から干渉で科学発展なんてのもアリかなと
少し思ったりするのです、大陸間航行可能な船とか必要なわけだし
173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/11(月) 15:11:02.64 ID:x1ThD23Co
まぁぶっちゃけ>>1のまとめから逸脱し過ぎなけりゃなにをしようと自由だし
ビームライフル撃ったりライトセイバー振ったりAIが「ゼロシフト・レディ」とか言い出すようなのじゃなけりゃ良いんじゃない?
174 :172 [sage]:2011/07/11(月) 15:51:21.31 ID:YhsYEh2S0
とりあえず書きためるね!
175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/11(月) 16:32:58.58 ID:4G5sb93g0
(´ ・ω・ `)誰かいますかぁ〜
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/11(月) 16:52:21.52 ID:ZQEzeCgDO
>>175
書けねぇーって泣いてる奴ならここに
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/11(月) 18:09:55.87 ID:YhsYEh2S0
一応短いながら書けましたが、投下しちゃって大丈夫ですか?
勝手に地名とか人名とかも出しちゃってますが。
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/11(月) 18:32:20.47 ID:ZQEzeCgDO
>>177
どうぞ
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/07/11(月) 18:32:20.39 ID:y7a/sUYpo
大丈夫だとおもう
180 :グルックス戦記「キティクルス上陸」 [saga]:2011/07/11(月) 18:40:36.50 ID:YhsYEh2S0
――エリュオス王国東 キティクルス海岸

「今日はえらく大漁でねーか?」
「んだんだ、こう霧が濃くちゃ船さ出せねが磯釣りでもこんだけ取れたら船さいらねなー」
二人の漁師が、会話を交わす。
この季節、このキティクルス地方周辺の海域は毎年濃い霧に覆われる
そのため、漁師たちは船を出すことが出来ない
生活の糧を得るには、地引網や磯釣りで食いつないでいくしかなかった。
「んだけどもよー、それにしてもおおくねが?いつもの3倍はあるべ?」
「んだのー地引の方はどうだったんだべや?」
「おうさ、こっつも大漁だわーなんでが知んねが沖魚まで入ってら」
何気ない会話をしている内に、一人が何気なしに言った。
「そんれにしても、なんが聞こえねか?」
「ん?たすかに、海の方からなんか聞こえるべ・・・・・・」
「海神様の機嫌が悪いかもしれんけ、今日はやめにして帰るべ」
この後、漁師たちは音の正体を知り、愕然とする。
いや、この時点で漁師たちの想像の範疇は遥かに超えて居たのだ。
181 :グルックス戦記「キティクルス上陸」 [saga]:2011/07/11(月) 18:41:18.13 ID:YhsYEh2S0
 「閣下、上陸開始予定地点まであと50分です」
時計を見ながら神経質そうな男が言い放つ。
「海岸の様子はどうな?ロッテラー君」
閣下と呼ばれた男は、人のよさそうな笑みを浮かべながら返す
だが、その表情と共に、鍛え上げられた体が彼が軍人である事を示している。
「霧が濃く、飛龍は飛ばせませんのでなんとも・・・・・・砲撃を開始しますか?」
いや、と手で静止した後
「こちらが状況を把握でき無いのだ、向こうとてすぐには把握できまいて
 下手にこちらからドアをノックしてやる必要もなかろう」
表情を変えることなく・・・・・・閣下―キッツビラー大将―は続ける
「ただし、上陸は数回に分けて行うとしよう・・・・・・あとニ戦隊はここを
 三戦隊はここへそれぞれ上陸地点を変更するように・・・・・・上陸部隊の最終合流地点はここだ」
地図を指し示しながら、キッツビラーは指示を出してゆく。
もっとも、この地図自体が完全な物で無くあくまで目安程度のモノでしか無いのだが
[キューベルストナー事件]の際に制作された物で、海岸線以外の所は
正直まったくの不明と言ってもいいぐらいの出来である。
「しかし、不用意に戦力を分散させては危険ではありませんか?」
ロッテラーと呼ばれた男が答える。
老齢の司令官と、その参謀それが彼らの立場である。
司令官が大胆な策を打ち、そして慎重な参謀が修正する
それが彼らのやり方であり、そしてグルックスの無敗コンビと言わしめた手腕である。
「ふむ、ではこうしよう二戦隊及び三戦隊はここへ、一戦隊と七戦隊はここへ上陸
 残る舞台は洋上へ待機し、橋頭堡確保が確認できた後にこの地点へと上陸・・・・・」
またも、地図上と駒の配置を動かし再度検討を始める二人
「なぁに、これだけの大兵力じゃて・・・・・・少々の敵が居ようとも帰り討ちじゃろ」
老司令官は笑みを崩さない・・・・・・
参謀は眉間に皺を寄せたまま、考え込む。
二人の間だけで時が止まったかのようにも思えた。
「ふむ、ソレならば敵の迎撃があったとしても対処しきれる・・・・・・か
 分かりました、すぐに手はずを整えます。」
182 :グルックス戦記「キティクルス上陸」 [saga]:2011/07/11(月) 18:41:47.77 ID:YhsYEh2S0
上陸はあっけなく終わった。
キティクルスには砦が4つある。
これらはあくまでも漁村や、周囲の村からの税を徴収・一時保存と
獣人や魔物が出現した際の討伐拠点、また住民の避難場所としての昨日を与えられていたに過ぎず
兵が常駐していたのは、この内の一つしかなかった。
残り三つは空城として、まんまとせしめられただけでなく
貯蔵されていた兵糧や、税をそのまま奪われる事となる。
「閣下、念話報告が入りました。この地域の制圧を完了したとの事です。
ロッテラーが、戦況の報告をしてゆく。
「ふむ・・・・・・食料まで手に入るとは僥倖じゃの。
 空になった輸送船団は護衛をつけて本国へ戻せ、艦隊の一部はここへ居残りじゃ」
「すでに手はずは整っております。」
両名の間を沈黙が支配する。
つまり、この時点でもはや何もする事は無くなった。
つまるところ彼らの仕事と言えば、兵力増強のための輸送船団護衛と
海岸沿い攻略の際の支援砲撃のみである。
また、この時点で彼らの侵攻に気づくものはエリュオスの都には誰も居なかった。
183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/07/11(月) 18:45:26.35 ID:YhsYEh2S0
とりあえず3レス分
設定とか書いたほうがいいのかな?
・四国家とは別の大陸に[グルックス帝国]なるものが存在
・大陸間航行能力を持った大規模船団と他大陸侵攻が可能な兵力or状況
・エリュオスが攻撃されるに当たって[キューベルストナー事件]なるものが存在

こんなトコで進めていってます
184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/11(月) 18:51:19.69 ID:ZQEzeCgDO
>>183
地名とか人名を出すのは別にいいんじゃないですかね
地図とか考えやすくなりますし
185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/07/11(月) 18:52:37.49 ID:NUINojph0


エリュオスに忍び寄る黒い影
とうとう戦争勃発か!?

これからに期待したい一作
186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/07/11(月) 18:54:14.47 ID:y7a/sUYpo

戦争って胸が熱くなるな。
ところでコレって時間軸はどこらへんなんだ?
187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/11(月) 18:57:59.97 ID:ZQEzeCgDO
>>183
乙を忘れてました……orz
188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/07/11(月) 19:28:39.05 ID:cQDIodVAO
乙、盛り上がってきたな
>>186
一応未来になるんじゃね?
他の時代は大陸間戦争してる余裕ないし
189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/11(月) 20:11:02.47 ID:YhsYEh2S0
時間軸は特に考えて無いです。
大陸間戦争しかけて来てる側なのでエリュオス側の事情は考慮しないでいいかなってトコで

あと、この戦争周りは私以外の方も参加していただければ幸いです。
私一人だとそのまま突っ走りすぎてやりすぎちゃうかもしれませんので
190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/07/11(月) 20:16:07.64 ID:7cpRI9q80
これって他人のSSの設定を一部使ってもいいものかね
191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/11(月) 20:17:35.30 ID:0ISLGJlj0
各国の主要な都市って決まってるの?

192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/11(月) 20:21:22.00 ID:4G5sb93g0
>>190 あまりねじ曲げたりしなければ構わないと思うよ。

>>191 まだ決まってない。機工王国ギムリアースの首都ぐらいじゃないかな。
193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/11(月) 20:21:39.05 ID:ZQEzeCgDO
>>190
いいと思いますよ
同じ世界の話なわけですから

>>191
まだ決まってませんね
地名はちらほら出てきてますが
194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/07/11(月) 20:25:51.07 ID:7cpRI9q80
>>192-193 サンクス
195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/11(月) 20:28:27.69 ID:0ISLGJlj0
>>192-193  説明ありがとう

主要な都市ないと話膨らませにくいから
書いても問題ないかしら?
196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/11(月) 20:31:32.12 ID:4G5sb93g0
>>195
大丈夫だ問題ない。
神は言っている早く読ませてくれと…
197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/11(月) 20:33:05.96 ID:yPEd5A8+o
>>195
話が作りやすくなるから、どんどん決めちゃってくれるとすごく助かる
198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/07/11(月) 21:04:02.11 ID:7cpRI9q80
投下します
タイトル「ある小さな工房にて」
199 :ある小さな工房にて [saga]:2011/07/11(月) 21:04:31.40 ID:7cpRI9q80
機工王国ギムリアース。その一角に、その工房はあった。



俺はこの工房の助手を勤めている。助手と言う名の、世話係を。
ここで一人篭っている、偏屈な年寄り博士の、身の回りの世話係。
工房とは言っても、別に宝石細工をするわけでもなければ、
剣や鎧などを作ったりするわけでもない。年寄りの博士が一人、来る日も来る日も役に立ちそうもないものを開発しているだけだ。
例えば、持ち主の魔力を注いでやるだけで、卵を調理する機械。
名前だけは聞こえがいいが、その実態はただ卵を割り、殻ごとかき混ぜて焼くだけのポンコツである。
とても食べれたものではないし、どんなに料理が下手な人でも、これよりはマシなものが作れるだろう。

住居提供・三食付という高待遇でもなければ、俺はさっさとこんな工房から出て行っているだろう。

先日、「NYT新聞」を読みながら朝食をとっていた彼が、突然立ち上がり
「これからは人間が空を飛ぶ時代じゃ!わしはその先駆けとなってやるぞ!」
と叫んで、工房に飛び込んでいった。新聞が投げ捨てられていたので拾って見てみると、「時計塔に方舟が突っ込んだ!!」と書かれた記事が。
さらに読み進めていくと、「翼を持つ船が時計塔に突っ込んだ」と、大体そんなことが書かれていた。
まあ多分、博士はこれに影響されたのだろう。
工房からは作業の音が聞こえてくる。数日後には、使えもしないガラクタが工房に一つ増えるのだろう。



――数日後。
「おい!起きるのじゃ助手!ついに空を飛ぶ機械が完成したぞ!」

普段より興奮した博士の、耳障りな声で、普段起きるより数時間早く、目を覚ますこととなった。

「画期的な、新発明じゃ。これが実用化されれば、人類が空を飛ぶ時代が来るぞ!」

博士に案内され、埃だらけの工房に入ると。
そこに、軽い大きな羽根を持つ、まるで鳥のような機械が。

「ここにな、使用者の魔力を注いでやるとな、自動で推進力に変換され、空を飛べるのじゃよ!」

こんなことがあるのだろうか。
博士が、実用化に値する、『役に立つ機械』を作成する、なんてことが。
200 :ある小さな工房にて [saga]:2011/07/11(月) 21:04:58.51 ID:7cpRI9q80
「さあ、実際に飛行テストをするぞ。この機械を、ここから引っ張り出すのを手伝ってくれ」

博士は、これから外のスペースを使って、実際に飛行をしてみるらしい。

博士はその機械を自分の身体に取り付け、

「行くぞ助手よ!よく見ておくのじゃ。人類の新たなる技術が、ついに完成したのじゃ!」

そして。

博士は助走をつけ、走り出した。

機械の後部に取り付けられた機関から、おそらく変換された魔力であろう『何か』が、放出されている。
博士の身体は宙に浮き、そしてどんどん高度を増し。

そこで博士は機械の異常に気付いたらしい。
機械から自分の身体を慌てて取り外し、何とか地面に着地する。

なんらかの異常を起こしたらしいその機械は、さらに高く高く上昇して行き、

爆発を起こして、ばらばらになって墜落した。



結局、今回も失敗作だったらしい。
博士は自分の部屋でしょげているし、俺はいつもどおり、食事の準備をしている。
人類の技術革新、とやらは失敗だったようだ。
少し期待した俺が、間違いだったのかもしれない。



機工王国ギムリアースに存在する、小さな工房。
そこから生まれた飛行技術が、もっと、ずっと先の時代に、
何らかの形で日の目を浴びることになるのを、まだ誰も知らない。
201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [saga]:2011/07/11(月) 21:05:46.31 ID:7cpRI9q80
短い上に読みにくくてごめんなさい。
以上で終了です。
202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/11(月) 21:29:08.43 ID:4G5sb93g0
乙!
良いね面白い。そしてここでも別の作品のネタがちらほら。
結構みんな他の人のネタ仕込んでるなぁ。俺も真似させてもらおうかな…
203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/07/11(月) 21:31:37.58 ID:y7a/sUYpo

工房ものとか大好物です
204 :港町ヴァッサー [saga]:2011/07/11(月) 21:41:30.73 ID:0ISLGJlj0
町の設定ができたので投下。

レヌリア帝国領 港町ヴァッサー
205 :港町ヴァッサー [saga]:2011/07/11(月) 21:42:10.40 ID:0ISLGJlj0
レヌリア帝国の首都から西に存在する港町『ヴァッサー』
古くから交易の要所として栄えている、レヌリア帝国の海の玄関口である。
その海の交通の要所としての価値の高さからか、町の近くの湾に浮かぶ島には堅牢な砦と大砲があり
町自体も半ば要塞と化している。

「全体整列!」
町に駐屯する兵士達の詰め所からは今日も朝早くから上官の大声が響く。
これから彼等は町の見回りを開始するのだ。
何故なら、交通の要所であるこの町には多くの者が集まる。
その集まる者の中には闇商人や犯罪者等も含まれるため、ヴァッサーの兵士達は
毎日のように見回りをし、治安の維持活動を行っているのだ。

「では貴様達はB地区の見回りをしてこい」
町の中心地に到着した兵士達は、あらかじめ決められた地区へ見回りのために散らばって行く。
そのあらかじめ決められた地区にはAからFまでの文字が、軍の使用している町の地図に書かれていて
Aは貴族達が住む場所、Bは店や酒場等が存在する場所、Cは兵士の詰め所にもっとも近い場所
Dは一般人が住む家が多い場所、Eは貧民街と呼ばれる場所、Fは港と区別されている。
その中でBとEは犯罪者等が多く集まる場所として見回る兵士達の数も非常に多い。

「兵士の皆さん!今日はシーサーペント(海竜の一種)の鱗から作られた鎧が入ってますよ!」
B地区に入った途端、商人の威勢のいい声があちこちから聞こえてくる。
「サーペントの鎧か、珍しい物が入ったもんだな」
兵士の一人がふとそうこぼす。
「へぇ、ハンターの連中がたまたま見つけたらしく」
206 :港町ヴァッサー [saga]:2011/07/11(月) 21:42:54.13 ID:0ISLGJlj0
ハンターとは、モンスターを討伐しその体の素材を持ち帰り商人に売る事を生業とする職である。
「そいつは運がいい事だな」
「ですから、この鎧はどうですか?兵士の皆さん」
「悪いが俺達下っ端の兵士に、海竜の鱗を使った鎧は逆立ちしても買えないぜ」
兵士の一人が笑いながら商人に言う。
「もっと手ごろな物が入荷できたら教えてくれよ。
 特に酒とかは大歓迎だぜ」
それから彼等は、朝早くとはいえもう賑わいを見せているB地区の通りを歩きながら
酒場が固まる場所を目指す。

酒場『レーヌ』
この町には有名な酒場が幾つか存在するが、その中で一番有名なのはレーヌと呼ばれる酒場である。
朝でも夜でも深夜でも賑わいが尽きることのないその酒場には多くの者達が訪れる。
そして、同時に喧嘩や殺傷沙汰も多く起きる場所である。
「なにか問題は起きてないか?」
「いえ、最近は起きてないですね」
従業員の男が兵士にそう答える。
「ただ、先ほどまで海賊の方達がいましたけどね」
どうやら見回りを察知して海賊の連中は引き上げて行ったらしい。
「そうか、それならいいんだ」
「今晩はこちらに?」
「いや、今日は金がな……」
従業員と話していた兵士が少々残念そうな顔をしてそう答える。
「さて、次の店に行かんとな」
今日もヴァッサーの兵士達は見回りを欠かさず続けている。
207 :港町ヴァッサー [saga]:2011/07/11(月) 21:44:54.17 ID:0ISLGJlj0
モンスターの情報がWikiをざっと見た感じ皆無なので、海のモンスターをちょっと作ってみた。

シーサーペント(海竜) 容姿  恐竜 フタバスズキリュウのような形
取る事のできる鱗の色は一般的に青

シーサーペントが起こした事件
客船を群れで襲撃し、女性を拉致して行くという事件が航海の最中に数年に1度の割合で発生する。
拉致された女性の安否と生死は不明。


ごめんね港町が大好きなんだ。

それと今回は町の設定をそれほど詰め込んでいません。
いいアイディアが生まれたらどんどんと詰め込んでやってください

以上で今回の投下は終了です
208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) :2011/07/11(月) 21:54:06.44 ID:4G5sb93g0
乙乙。俺も港町は大好きだぜ。今書いてるとこだしな。
ところでwikiはまた設定とかが溜まってきてから編集した方が良いのか、それとも新情報が出るたびに編集するべきなの?
209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/07/11(月) 22:13:06.95 ID:y7a/sUYpo
>>208
できるときにやればいいと思う。俺は出来ないけど……
210 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/07/11(月) 22:22:25.61 ID:y7a/sUYpo
乙忘れてた…
街の設定思いつく人って羨ましい
211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/11(月) 23:32:13.15 ID:YhsYEh2S0
>>207
乙乙だよー
シーサーペント・・・・・・シルドラアアアアアアアアアア!
212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/12(火) 13:28:16.76 ID:b6g2uGJDO
エリュオス王国の建国談2レス投下します。
人名、民族名の他に都市名が出てきますが、エリュオス王国は建国してかなり古い国ですから無くなったりしてるかも知れませんね。
王都に関しても遷都したかもしれませんし、政治体制も変化してるかも知れませんね。
昔々のおとぎ話程度の認識でいいと思いますww
213 :決戦〜建国 [saga sage]:2011/07/12(火) 13:29:39.83 ID:b6g2uGJDO
レイス暦○○年冬、エリュオス地方南部山脈の麓に広がるレムネスト平原にて両軍は対峙する。

エリュオス地方南部を支配するラサ帝国と、それに反発するエリュオス諸国同盟軍の間で、最後の大規模戦闘が始まった。後にレムネストの決戦と呼ばれる戦いである。

決戦の開幕は古式の作法に乗っ取り、日の出と共に両軍指導者が距離を取って対峙し、互いに引く意志が無い事を宣言。

この時の諸国同盟軍の代表は、諸国同盟盟主にして後の初代エリュオス国王となるヨルディア・スウェッテセン、帝国の代表は帝国軍団長クロードリヒ・シュベンタスだと言われている。

剣が抜かれ号令が下されると決戦の火蓋が切って落とされた。

開戦当初、数に勝る諸国同盟軍をラサ帝国騎馬隊が圧倒する。
これはラサ帝国騎馬隊の精強さ、騎馬隊隊長ウォレス・ロンディルの用兵の巧みさもあることながら、諸国同盟軍が寄せ集めの混成部隊であり指揮系統に乱れあった、兵のほとんどが歩兵であった事も起因する。

開戦から一時間、諸国同盟軍の前線部隊はハロン・ゲジャックを始めとする優秀な戦士と兵力の三割を失う大損害を受けていた。
勢いに乗る帝国軍は全軍を突撃させ、諸国同盟軍の分断を図る。

この時左翼前線部隊を指揮していたとされるルネチマ・ヴィヴィが、帝国軍の側面から必死の抵抗を指揮し自ら帝国軍に切り込む活躍を見せ、中央突破を阻止。
この攻防によりルネチマは討死するも、帝国軍は前線の建て直しの為に一時後退を余儀なくされた。

再度の突撃が開始されたのは正午、開戦から三時間余りが経過した頃である。

今度は前線が崩壊することは免れたものの、騎馬兵と歩兵の差で徐々に諸国同盟軍は押されていく。

その時レムネスト草原の東に突如現れた騎馬隊が、帝国軍前線部隊に横合いから突撃。
これは今まで傍観の立場にあった遊牧民族、ノルゲ民であった。

この騎馬隊はノルゲ民の族長メイバロン・シモル自らが率いており、メイバロンはヨルディアに対しその場で諸国同盟軍への参加を伝える。

数で勝る諸国同盟軍に騎馬隊が加わり帝国軍は動揺、瓦解し始める。
騎馬隊隊長ウォレスを始めとする帝国の名だたる武将が討たれ、ついには軍団長クロードリヒが討たれると帝国軍は崩壊、逃走を始める。
214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/07/12(火) 13:31:07.89 ID:b6g2uGJDO
開戦から七時間、ついに諸国同盟軍は勝利を収めた。

ラサ帝国帝都カマルトにその敗北が知らされると、二代目皇帝バンカイトは即日和睦の使者を派遣する。
それはほぼ降伏に近い形であったが諸国同盟はその条件として、二代目皇帝とその一族ことごとくの処刑を要求する。

使者の持ち帰った文書に二代目皇帝バンカイトは反発、徹底抗戦を命じた。
これに残存する帝国軍は抗戦派と降伏派に分裂、カマルトの民衆も蜂起し皇帝の居城へと押し寄せる。

決戦から四日後、諸国同盟軍がカマルトへ到達した時、既に皇帝の居城は火の海であった。
バンカイトを始めとする皇帝一族は首を括られ城門に吊されていた――悪政を敷き我欲のおもむくままに権力を振るった独裁者の最期である。

ここに帝国は43年の短い歴史を終えた。
初代皇帝バランクス、彼の死後わずか16年。
後の歴史研究家はこう語る。
「バランクスに良き後継者さえいればエリュオスは存在しえなかった」

年が明けレイス暦○○年、ヨルディアは諸国同盟軍を引き連れ王都ポートルへ凱旋し、そこで諸国の代表者達と共に新たな時代の到来を宣言する。
後にエリュオス建国宣言と言われるこの宣言で、諸国は諸国の自治を認められ、エリュオス全体に関わることを諸国の代表者同士の会議で決定すると定めた――この議会は現在、元老院と呼ばれる機関として存続している。

レイス暦○○年、こうして一つにまとまったエリュオス地方に、束の間の平和が到来した。
215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/12(火) 13:33:40.45 ID:b6g2uGJDO
終わりです

年号は適当ですww
後で整合性あわせてもらえれば。
216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/07/12(火) 14:56:59.27 ID:JiFOrIfW0
乙だよー

エリュオスの生まれた日だな
しかし一族ことごとくの処刑とはまた恐ろしい
217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/12(火) 15:56:46.61 ID:b6g2uGJDO
>>216
将来の禍根を断つ、許されないほどの罪を犯した、初代皇帝時代からの恨み等、色んな理由があったのでしょう。
最終的に慕われるべき民衆の反乱を受けた二代目さんが、一体どんな酷い事をしたのかは私の口からはとてもとても……

エリュオス王国もまた、エリュオスの失態以外にも悪政や内乱があったと思います。
人間って怖いですね。
218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/07/12(火) 17:20:42.23 ID:AtTcrudU0
存在する種族に関する大まかな設定って決まってるの?
あまり存在しないなら、まとめ的要素含めて少し書いてもいい?
219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/07/12(火) 17:22:45.87 ID:JiFOrIfW0
今のところ人間とエルフくらいしか出てないな
出た分の情報を纏めてくれるならありがたいよ
220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/12(火) 18:33:59.11 ID:PqqcHomZ0
ちょっと書けたから投下したいんだけど良いかな?
俺、書き込む速度遅いから誰か投下予定の人がいるなら夜とかにするけど。
221 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/12(火) 18:36:28.54 ID:iipLlyGS0
>>220
GOGO 
222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/12(火) 18:39:59.48 ID:PqqcHomZ0
>>220
サンクス。じゃあ投下します。
223 :大航海時代 [sage]:2011/07/12(火) 18:47:43.01 ID:PqqcHomZ0

「うん?なんじゃまだ眠っとらんかったのか?」

「なに、月に見とれて眠れなくなったじゃと?まあ確かに今夜は月が綺麗じゃのう。」

「それじゃせっかく月が綺麗な晩じゃし、爺ちゃんの昔話でも聞くかね?」

「何?母ちゃんにバレたら尻を叩かれるじゃと?」

「勿論母ちゃんには内緒にするとも。爺ちゃんは秘密を墓場まで持って逝く漢じゃ。」

「そうか聞きたいか。実はのう、この話を誰かにするのは初めてなんじゃよ。」

「ん?母ちゃんにも話して無いのかって?うむ、そうじゃ話とらん。」

「お前の母ちゃんはああ見えて子供の頃は恐がりじゃったからのう。」

「じゃが、お前さんは親父殿に似て未だ小さいのになかなか肝が据わっとるし、話しても大丈夫じゃろう。」

「そうじゃなあ、どこから話したもんか……」


あれは儂がまだ年端もいかぬ若造だった頃の事じゃ……
224 :大航海時代 [sage]:2011/07/12(火) 18:53:17.79 ID:PqqcHomZ0

大陸最強の覇権国家レヌリアの南部に位置する小国アルヴィング。

気候温暖で風光明媚な美しい国であり、俺の自慢の故郷だ。

三方を山脈に囲まれた要害の地で、唯一海側だけが開けている。

耕作地がほとんど無いに等しく、特にこれといった産物も無かったアルヴィングが

塩と魚以外に商えるものを求めて大海原に乗り出すのにそれほど時間はかからなかった。

それ故にアルヴィングは昔から海上貿易で近隣にその名を轟かせてきた。

大海原を我が物顔で突き進み、遥か遠方の国々の事を語り聞かせる船乗りたちが

築き上げた誇り高き海洋国家。

俺もまた、そんな船乗りに憧れて育った子供の一人だった。

そして成長した俺は念願の商船付きの水夫になった。
225 :大航海時代 [sage]:2011/07/12(火) 18:57:03.02 ID:PqqcHomZ0

だが実際に船に乗ってみると夢見ていたのとは大違いだ。

まず波が荒く船酔いが酷い。子供の頃から海に慣れ親しんできたつもりだったが、

まさか外洋の波がここまで荒いとは……

しかしずっと船端で吐き続けている訳にもいかない。

俺はこの船の水夫で、やらなければならない仕事は山ほどある。

大抵は雑用だが、もしもさぼっている所を先輩の水夫に見つかったりしたら…
226 :大航海時代 [sage]:2011/07/12(火) 19:04:00.26 ID:PqqcHomZ0

「おいマリユス、何をボサッとしてやがる!さっさと積荷を船倉に入れねえか!!」

……こんな風に怒鳴りつけられる羽目になる。

「すんません!すぐに取りかかります!」大声で返事して早速積荷を掴み上げる。

ほらさっそく怒られちまった。船の上じゃあ俺たち水夫に安息の地は無いんだ。

「まったく、近頃の若造ときたら口ばかりよく回りやがって何の役にも立ちゃしねえ。」

俺をどやしつけた古参の水夫がまだぶつくさ言っている。

(ご老体のお約束…か。まったく最近の爺どもときたら…)

俺も心の中で呟いた。

「あ〜あ、もう少し格好いい仕事だと思ってたんだけどなぁ。」

「どうした青年、理想と現実のギャップに悩んでいるのかね?」

独り言に返事が返ってきたのに驚いて振り返ってみると、

そこには貴族の様な風体の男が立っていた。
227 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/12(火) 19:04:46.45 ID:PqqcHomZ0
とりあえずここまでで終了です。
時間かかってスマソ。
228 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/12(火) 19:08:48.47 ID:86vtLca5o
>>227
乙乙
港町が続いたね
アルヴィングやヴァッサーなんかみてると、レヌリアは海に面してるよな
ここから発展もできそうだ
229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/12(火) 19:14:00.58 ID:b6g2uGJDO
>>227
乙乙
そんなに遅くないですよ。
文章も見やすいですし。

船乗りはDQ7やらなんやの影響で好きなので進展が楽しみです。
230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/07/12(火) 19:47:03.92 ID:JiFOrIfW0
>>227
乙!

ここからワンピースを探す冒険が始まるんですね、というのは冗談
どう展開していくか気になるな


それと皆に聞きたいんだけど
ドワーフって、あのよくあるような人間より小さい感じの容姿なのかな?
231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/12(火) 19:58:17.33 ID:86vtLca5o
>>230
ドワーフについて調べてみた。

ドワーフは人間の半分程度の身長でかなり力が強いらしいぞ。
鉱石について詳しいので、鍛冶屋、鉱夫などを営み、生活をしているらしい。
とがった耳に低い背丈、ヒゲを生やしていて、女性(雌?)にも生えているようだ。

鉱石といえば、「マナ」っていうのがあったよね。
それと関連付けても物語が作れそうだよ。
232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/12(火) 20:00:33.12 ID:jkNpTwEY0
俺は種族的なイメージはロード・オブ・ザ・リングで想像してる
233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/07/12(火) 20:09:37.63 ID:JiFOrIfW0
ありがとうございます

やっぱ皆が思い描いてるドワーフ像はだいたい重なるみたいだ
屈強でちょっと背が低いんだよね、チビマッチョなんだよね!
234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/12(火) 20:38:19.89 ID:UFV0oeR8o
これ人が増えるかWikiの編集体制作るかしないと手付かずの状態で放置されるな
まぁNIPだし必ずしもまとめサイトが必要なわけじゃないから良いんだろうけど
235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [saga]:2011/07/12(火) 20:59:26.75 ID:URPrC7vi0
>>234
100or200の倍数踏んだ人がそれまでのSSを保管とか?
できない場合は安価指定
236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/12(火) 21:03:38.41 ID:PqqcHomZ0
>>235
それで良いと思う。ただそれだと安価でたらい回しにされたりしそうで怖いな。
出来るヤツに暇があればとりあえず出来る奴らが優先的に編集することにしないか?
237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/07/12(火) 21:08:11.09 ID:DRitUy4K0
暇はあるけどwikiいじったことないって人結構いそうだ。俺とか
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [saga]:2011/07/12(火) 21:11:42.63 ID:URPrC7vi0
>>236
そうだね、それがいいかも

設定的なもので一レス貰います
239 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [saga]:2011/07/12(火) 21:12:09.08 ID:URPrC7vi0
『魔力泉』、と言うものをご存知だろうか。
おそらく、大半の人々はこの存在を知らないだろう。
『魔力泉』とは、その名の通り、魔力が泉の如く湧き出している、いわばパワースポットである。

『ディルフィリウスの森』も、その一つだと考えられている。
ある文献によれば、『先導者』ディルフィリウスは、『先導者の宣誓 』発動時に、
彼自身の魔力、そして同胞のエルフの魔力に加え、この森の魔力泉から湧き出す魔力も使用していたという。
また、『エリュオスの失態』の一因として、この魔力泉から湧き出た魔力による術式の暴走があると言う説もある。

この魔力泉は、魔力を使用する種族にとって大変有益なものであるが、意図的に見つけることは難しい。
大抵のものは特に何もない場所に発生しているからだ。
強いて挙げられる特徴としては、この周囲では時折、植物が異常繁殖をしているということだろう。

魔力泉は、数年単位で移動している。よって、運よく魔力泉を発見したとしてもそれを使用し続けるのは不可能である。
一説によれば、エルフ族のみが、魔力泉をその場にとどめる術を知っていると言うが、真偽はいまだ不明である。
240 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/07/12(火) 21:28:27.48 ID:AtTcrudU0
>>239 乙 エルフはやはり魔法型なのかな

とりあえず、個人の主観が入ってますが
この世界に登場する主な種族の事をちょろっとまとめてみた。

それゆえ?マークが多いです。
241 :種族 [saga]:2011/07/12(火) 21:29:39.73 ID:AtTcrudU0
生息する種族の大まかなまとめと 設定(設定に関しては決定事項ではありません
                          あくまでこんな感じなのだろうか?という予想)

エルフ:他種族に比べると長寿  人間より魔法等の扱いが先天的に上手な者が多そう
     金髪が多い?

ドワーフ:鍛冶屋等を営む事が上手そう。 筋肉質な体をしていそう  男性比率が多い?

ホビット:成長しても人間の子供ぐらいの身長(小3ぐらい?)  手先が器用そう

獣人族:二足歩行ができるケモノ  成長しても老け具合がわかり難い
     耳や尻尾が生えただけの人は獣人とはいわない

人間:この世界で一番数が多い種族と思われる。
    基本的に得て不得手の境目が存在しない  すべてにおいて平均的な能力があると思われる

魔族:モンスターとそうでない者との境目?
    人と共存できる知能と理性を持った者達の事?
    それとも、モンスターの中でかなり強い力を持つ者達を総括してこう呼ぶのか?

   ハーピーとか吸血鬼とか妖精が含まれるのかな?

   ただし、ハーピーは女性しか存在しないので、存在するとしたらモンスターには分類されない事になる。
   (モンスターの定義が今のところ 雌が存在しない  他種族共通の敵  魔族もモンスターに分類されるのなら
    モンスターの定義が含まれないと破綻する可能性があり)
   ハーピーが存在しない可能性があるが、魔族とはモンスターと姿や一部能力が類似しているだけの種族かも知れない
   (魔族については各々で思う所があると思うので、設定を出し合って煮詰める必要があると思われる)


モンスター:この世界に住まう知識と理性を持つ者達の共通した敵
       雌が生まれないため、他種族の雌を苗床にする

       ゴブリンやオーク等が含まれると思われる。
242 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/12(火) 21:33:38.67 ID:86vtLca5o
>>241
いいね
分かりやすいし設定にも役立つよ
243 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/07/12(火) 21:37:03.12 ID:v4ufZF4Bo
>>241
スゲぇありがたいです
244 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/12(火) 21:41:14.83 ID:b6g2uGJDO
>>241
ありがたや……感謝です。

ところで獣人族って言葉話したり仲良くしたりは出来ると考えて大丈夫ですか?
245 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/12(火) 21:43:53.63 ID:WcHnq8l9o
>>241
いいね乙乙乙

あとゴブリンやオークはどっちかってっと魔族じゃないかな?
ある程度言語での意思疎通が可能なイメージがある

んでモンスターは生存本能ガン無視で延々と襲い続ける、生命として根本的にぶっ壊れてるイメージ
まさにゾンビ的な世界の敵、みたいな感じで
246 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [saga]:2011/07/12(火) 21:49:17.20 ID:URPrC7vi0
モンスターって、巨大ムカデとかオオトカゲとかそんなイメージだな
もしくは↑で出てるゾンビや骨
247 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2011/07/12(火) 21:52:45.01 ID:mLqS2H9ro
モンスターの子の青年と幼女の話の続きを書いてみた。続きと言ってもリスタートみたいな感じだけど……

街や国の設定を考えるのも楽しいんだけど、せっかくなら日々作られていく世界観を歩いてみたなと思ってこの話を続けてみました
――というのは建前で、厨二ラノベ風枠が1つくらいあってもいいんじゃないかなというのが本音だったり

それでは投下したいと思います
248 :種族 [saga]:2011/07/12(火) 21:53:14.37 ID:AtTcrudU0
>>244

言葉を話したり仲良くできると思います。
個人的な主観ではモンスターには分類されないと思う

ちょっとした例をあげるとするなら (ゲームから抜粋してます。申し訳ない)
聖剣伝説LOMのダナエやシエラ、ラルク  ポケモンで言えばミミロップとか含まれるんじゃないかな?

>>245
ゴブリンやオークの中でも 知識や文化に大いに理解のあるものは魔族として扱ってもいいと思う。

ただ、人を襲う者も少なからずいると思うのでそういった者達はモンスターに分類されると思います。

ゴブリンやオークの雌が存在するなら、彼女達は魔族になると思われる。

モンスターとしての定義は各々で色々あると思うので一概にゾンビのようなアンデットにすると
話が膨らませにくいかも。

スライムやワーウルフ、食人植物 虫系の魔物とかもモンスターに含まれると個人的には思います。
249 :マイナスとマイナスはプラス 2 [sage saga]:2011/07/12(火) 21:54:18.32 ID:mLqS2H9ro
1 朝日は体に毒だと俺は思う。別に溶けるだとか、砂になるとかそういうのではない。
 
 じゃあどうしてか。理由は単純。俺の仕事は基本的に夜になることが多い。だから朝日はどうしても安眠の妨げになる。モンスターの血が流れていても作りは人間であるため寝なくても大丈夫とかそういう便利なものはない。

 安眠の妨げと言えば朝日の他にもう1つある。

 俺の隣で寝ている少女だ。
 
 朝日の睡眠妨害を物ともせず静かに寝息を立てている。

 いい加減自分の部屋で寝ろと毎日言っているのだが、全く効果はない。
 一度、少女の部屋で寝てみたが結局着いてきてしまい、この作戦は失敗に終わった。

 そういえばこいつって俺と一緒に暮らし始めてから1人で寝たことあっただろうか?

 俺の記憶が正しければ一度もない。

 俺がいない夜はどうしているのだろうか?
 近い内に聞いておこう。

 カーテンの隙間から入ってくる朝日の日差しが一層強くなってきた。
 やれやれ。日当たりが良すぎるのも考えものだな。
250 :マイナスとマイナスはプラス 2 [sage saga]:2011/07/12(火) 21:55:29.76 ID:mLqS2H9ro
 俺は今、機工王国ギムリアースの首都トレムレデールに居を構えている。居心地はすこぶるいい。

 大通りは毎日沢山の人達で賑わい、王宮周辺はとても綺麗にされていて、初めて見るものの視線を釘付けにするほどの華やかさがある。

 この街の住人は例に漏れず金持ちばかりだ。大部分の人たちは働きに出てきている人たちだ。いつかこの街に……と夢見ながら。

 その街で俺は三年前に家を買った。金はどうにでもなった。いくつか仕事をこなせば家を買うくらいどうと言うことはない。

 この家を買うときに仲介人からこんな話を聞いた。

 この家にはもともと貴族が住んでいたのだが、時代の変革に抗えず家を手放したと。

 時代の変革……それは魔法の社会から錬金術の社会への移行。

 錬金術の発展が著しいこの国では、時代の流れを見きれなかった貴族が一夜にして底に堕ちるなど日常茶飯事のだった。このくらいの話は「あっそう」
と聞き流されてしまう程度の話である。

 この街、この国の華やかな景観は目に見えるところだけだ。

 人気のない裏路地を1つ2つ曲がって奥に進んで行くと、スラム街にでる。

 そんな場所が国内にはいくつもある。社会から見捨てられ、人の目からも見放されたものが行き着く先である。

 スラム街に住む人間(人間に限ったわけじゃないが)には人権もなければ、法も秩序も存在しない。今日を生きるためだけに生きている。

 死体はあちこちに転がっているし、ゴミとしか言えない残飯を奪い合うそんな光景が当たり前の世界だ。

 
 スラム街のことは俺よりこいつの方が詳しいだろう。そこで地獄を見てきているのだから。
251 :マイナスとマイナスはプラス 2 [sage saga]:2011/07/12(火) 21:56:17.69 ID:mLqS2H9ro
 三年前、俺がこの街に住むきっかけとなった出会いがあった。

 レヌリア帝国で請け負っていた仕事が一段落し、次の仕事を求めてギムリアースに向かう途中だった。

 レヌリアとギムリアースを繋ぐ街道の1つ『デートル街道』でスラム街から逃げ出してきた少女に出会った。

 少女はモンスターに襲われていた。助ける理由もなかったが、放っておく理由もなかった。

 年に数回あるかないかの気まぐれの自己満足だった。たまには『いい人間』らしいことをしたくなったのだ。

 助けた少女は普通とは違った。俺と同じ『狂って』いた。

 少女が嬉々として語った人殺しの体験。俺はのその少女に湧き上がる高揚感を抑えきれなかった。

 モンスターの本能が訴えた恐怖にも似た感情。そして昔の自分と重なって見えた親近感。

 今まで感じることのなかった感情が高揚感となって俺の体を駆け巡った。

 そして助け(救い)を求めていた少女に手を差し伸べた。

 少女を保護した俺は便宜上「妹」として一緒にいることを選んだ。
252 :マイナスとマイナスはプラス 2 [sage saga]:2011/07/12(火) 21:57:25.21 ID:mLqS2H9ro
 一緒にいるようになってからはとにかく生き物の殺し方と、武器を扱い方を徹底的に教えた。

 モンスターの血が流れている俺は生き物の急所は直感的に分かる体質であり、多少の傷ならすぐに治ってしまうため、武器の扱いは我流でも身体能力でいくらでもカバー出来た。

 だけど少女は人間だ。

 直感的に急所が分かるわけがないし、我流による中途半端な武器の扱いは死を招く要因になる。

 始めは大変だった。

 人に教えるという事を知らなかった俺は自分の感覚をどう伝えればいいか分からなかった。ましてや相手は当時10歳の少女だ。苦労しないはずがなかった。

 その過程で何度か少女を殺してしまいそうになり、助けたこと公開後悔しそうになった。

 しかし、モンスターを狩るときに見せる少女の狂気は、そんな思いを一瞬にして吹き飛ばした。

 武器の扱いに関しては騎士学校に通わせることにした。

 学校にほとんど行ったこのない俺が教えられないことを学べるし、武器だけじゃなく魔法の扱いも教えてくれるからだ。

 戦い方は血豆がやぶけ、疲労で倒れるまで鍛えた。訓練と実戦は違う。練習は本番のように、本番は練習のようにとはよく言ったものだ。

 簡単な仕事の依頼では少女はを伴って仕事を手伝わせた。

 初仕事は確か武器を横流しして豪遊し、至福を肥やしていた老貴族の粛清だった。

 結果は上々。大きな騒ぎを起こすことなくターゲットを仕留めた。

 その後も依頼によっては仕事にともない、経験を積ませた。そして今に至る。

 少女と過ごす時間は本当にあっという間だった。今までこんなに充実した時間を過ごしたことはなかった。

 俺の隣でまだ寝ている少女はなにを思ってこの日々を過ごしているのか少しだけ気になった。

 
 さて、学校の時間もあるしいい加減に起こすか。

 「起きろ、セラ」

 「ん……ノール……?」
253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/07/12(火) 21:58:47.85 ID:mLqS2H9ro
以上です。多分続く?
タイトルは「マイナスとマイナスはプラス」でいこうと思います


以下SSの補足
・時系列はレヌリアとギムリアースの戦争前くらい

・最後に名前を出しましたが青年の名前が「ノール」少女の名前が「セラ」です。元ネタは特にないです

・ノールの仕事は殺し屋みたいなもの

・モンスターの子という設定は追々深めていければいいなと思っています


この話で出した世界観の設定
・ギムリアースには女性も入れる騎士学校がある

・レヌリアとギムリアースを繋ぐ街道の1つにデートル街道がある
254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/07/12(火) 22:00:35.46 ID:mLqS2H9ro
おっぷす被るところだった

自分の終わったからちょっとwikiいじり挑戦してくる
255 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/07/12(火) 22:05:41.39 ID:AtTcrudU0
>>254

これからどういう道のりを歩むのか期待
256 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京西部) [sage]:2011/07/12(火) 22:13:11.45 ID:0eCrc7oQ0
>>166です
冒頭だけ投下します
257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/12(火) 22:15:38.42 ID:PqqcHomZ0
>>241
乙!見やすいまとめありがとう!

>>247
乙乙。マイナスとマイナスはプラスっていうの好きだわ。
258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京西部) [sage saga]:2011/07/12(火) 22:24:49.28 ID:0eCrc7oQ0
数千年前、数多の戦争が起こった時代が存在した。レイス大陸の各国が鎬を削り、東方の大陸からの侵攻を受けた時代。
繰り返される戦火はある時を境にこの世界からほぼ全て消えてしまった。
それが約千年前から二年半前まで続いた。平和な時代だった。―――そして、今。


―――――――レイス大陸北西部 ガルランド王国 ガルリシア平原 王都ガルリシア近郊 新レイス暦1008年 ラクスの月(7月) 7日 06:30―――――――

ドカン!!俺は咄嗟に伏せ身を守り、すぐに爆発のあった場所を見た。
その場所は爆発の影響で地面が抉られ穴が開いていた。敵の砲撃だ。
先程まで隣にいた俺の旧友であり戦友は数メイル程離れた場所で身動きが出来ずにいた。
「!?ライル!何処をやられた!?」
俺は叫びながら友に駆け寄り傷を確かめた。
「―――ッ!」
致命傷だった。内臓が抉られ片腕は消飛んでいた。少なくとも此処では、この世界では絶対に助かることは無いだろう。
医者ではなくともこの戦争……いや、この虐殺で戦い負傷した兵士達の傷を見てきた俺には嫌でも解ってしまった。
「…………………………」
ライルは何かを俺に伝えようとするが聞き取ることが出来ない。必死で最期の言葉を聴こうと集中したその時だった。
ライルの目が見開かれ、次いで彼は瞬きをせずに見つめる視線の先を指差した。
直後、俺の背後から俺達が使う砲とは異なる轟音が発せられ、敵の砲火が止んだ。
「すまねぇ。随分遅くなっちまった」
俺が振り向くとそこにはありえない光景があった。

この大陸は新たな敵に蹂躙されていた。
俺の祖国等多くの国は既に都が陥落し、残った国はこのガルランドとガルランドの北西に隣接していたラーズウェル大公国の二ヶ国だけであった。
これ等二ヶ国は大陸の中でも小国に位置し、良くここまで戦い抜いていると此処まで退いて来た俺達の様な各国の兵士達から賞賛されていた。
だが、二ヶ国は敵によって陸・海・空全てが分断され最早勝ち目など無かった……筈だった。
そう、彼等が来るまでは。
259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京西部) [sage saga]:2011/07/12(火) 22:34:52.73 ID:0eCrc7oQ0
月や曜日、時間、地名等細かい設定は後でまとめます

大陸が少なくとも五つあります
260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/07/12(火) 22:48:14.82 ID:JiFOrIfW0
>>241
まとめ乙

>>254
乙乙

妹でくるとは胸熱よ
上に出てる意見と同じだけど二人がどう進むか気になるな

>>258
乙だよん

遅れて登場する仲間たちとはまた熱い展開
外の世界たちにも魔法はあるのかな


それとこれから投下する人いますか?
推敲の関係で十一時くらいから投下しようとしているんですが
長いので先にやりたい人がいれば
261 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/07/12(火) 22:53:40.62 ID:v4ufZF4Bo
設定と呼べるようなものではないですが……



レヌリア帝国 宿屋街『ザラード』

レヌリア帝国首都と港町ヴァッサーの丁度中間の辺りにある街。
その優れた立地から、首都とヴァッサー間を移動する旅人や行商人が絶えずこの街に溢れている。
そのため、沢山の宿が立ち並び、ザラードは宿屋街と呼ばれている。


262 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/12(火) 22:56:51.00 ID:86vtLca5o
>>260
投下してくれて結構ですよー
俺も出来次第投下する予定ですゆえ
263 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/07/12(火) 23:00:19.88 ID:JiFOrIfW0
>>261

危ない店とかもそこに含まれてるかもしれませんねwwwwww
っとエロはなしだっけ

>>262
それじゃあ投下させてもらいます
264 :わたしと教授の秘境探検 『カルラ火山』 [saga]:2011/07/12(火) 23:02:20.89 ID:JiFOrIfW0

 ――ギムリアース北部 カルラ火山 山中

 骨が軋むほどの寒さに目が覚める。そして気づいた。まただ、また鼻に灰が入ってる。まるで妖精のお茶目のように……苛立ち混じりに鼻か
ら灰を掻き出した。
 それにしても。くしゃみをする。この寒さはどうにかならないものか。さっきから鳥肌は立ちっぱなしでそのまま大空にはばたいていってし
まいそうだ。うんざりした気分で毛布にしっかり包まり寝転がる。
 
 隣でぐーすか呑気にいびきを掻いてる教授が恨めしい。
 すべてはこいつのせいなのに、わたしがいちばん苦労している。
 
 思えば長い道のりだった。教授の甘言に騙されてほとんど準備もしないままに、この『カルラ火山』までやってきた。気分はピクニックだっ
たわたしは、狐に化かされた顔で教授の顔を見る。ニヤリと悪魔の顔。
 
 騙された、と気づいたとき既に遅し。滑りやすい火山灰地を必死に登り、登る度に寒さは増していき、斜面で教授が三回は転んだ。
 しかも山賊が出るという噂もあり、一歩進む度に寿命が十年縮む思いだった。
 愉快なことなどせいぜい教授が転んだことと寝ている教授にたらふく火山灰を食べさせてやったことくらい。後は……
 
 瞬間、爆音が山を震わせる。山頂から赤い鳥が一斉に飛び立った。
 否、それは鳥ではなく、溶岩である。流星よりも綺麗な眺めとはよく言ったものだ。思えば教授の誘い文句など、それくらいしか合っていな
かった。
 
 綺麗だった。カルラ火山は数時間に一度は小噴火することが有名だ。しかし日が沈むほど落ち着いていくので、眠る分には静かでよかった。
 わたしをここまで歩かせた原動力こそあの噴火だった。本物の噴火口はどうなっているのか。どれほどの熱さなのか。教授を突き落したらど
うなるのか。
 そんな期待に胸を躍らせていなければ、やってられないのが実情だった。
 
 この誰も望んでいない冒険は例によって教授の一言から始まった。
265 :わたしと教授の秘境探検 『カルラ火山』 [saga]:2011/07/12(火) 23:03:48.25 ID:JiFOrIfW0

「山に登ろう」
 教授はその言葉を、古めかしい宝箱を開くような重たい口調で言った。
 わたしは読んでいた流行りの小説『伯爵サンジェルマンは見た 湯けむりバスルーム殺人事件』を閉じて、教授をまじまじと見つめる。
 
「山、ですか? えっ……どこの?」
「それは着いてからのお楽しみということでな」
 歯切れ悪く教授が答えた。
 
 後で知ったことだが、教授はとある組織からの依頼でカルラ火山を調査しようとしていたらしい。カルラ火山は過去に大きな噴火を数度起こ
しており危険視されていた。
 今でもときどき、大きな噴火で機工王国ギムリアースに灰を降らせている。
 
 しかし国を呑み込むほどの溶岩はもう流れて来ないだろう。それがもっぱらの学者たちの見解だった。そこで観光地としてカルラ火山を生ま
れ変わらせるという計画が持ち上がった。教授がどれだけ積まれたのかが気になるところである。
 カルラ火山はそこまで大きな山ではない。教授は取り分が減るのが嫌で、他の人間を雇わなかったのだ。それでわたしを使うことを思いつい
たのかもしれない。
 
 わたしは山に登るという誘いに、少しだけ疑問を抱いていた。だって、今まで教授が連れていってくれた場所にピクニック気分でお弁当を
出してきゃっきゃうふふできるようなところはなく、どこもハンターが血を流してそうな場所ばかりだったから。
 
「怪しいです」
「何を言っとるんだリンス?」
「だって、どうしてわたしを誘うんですか?」
  
 教授はちょっと口をもごもごさせながら小さく呟いた。
 
「それはぁ……お、お前と一緒に、行きたい、から、だ」
 
 本当におめでたいことなのだが、わたしは、そのときちょっとだけ、ほんのちょっとだけだが、嬉しかった。
 傾きかけた心の迷いを完璧に始末したのが、次の教授の謳い文句。
 
「それに、その山からは流星よりも綺麗な眺めが見られる」
 
 カルラ火山行きの止まらない馬車が発車した。
266 :わたしと教授の秘境探検 『カルラ火山』 [saga]:2011/07/12(火) 23:05:37.74 ID:JiFOrIfW0

 三日目の朝。日が昇りわたしたちは目覚めた。鼻にしこたま灰を詰まらせた教授は水筒で鼻を濯いでいた。恨みがましそうな目でこちらを見
ていたが、知らんぷり。
 これくらいの悪戯は当然許されるべきなのである。

「ふん。しかしリンス」
 教授が頭を掻きむしって言う。
 
「こいつらは何だ?」
 
 わたしが聞きたいくらいです。
 わたしと教授をサンドウィッチする形で道を塞ぐ、この謎のぼうぼう灰色髭の屈強な小男たち。何なんだろう。過去に教授が眠っている間に
引き千切った無精髭の呪いだろうか。
 もちろん違う。何故なら、小男たちの正体は、その身体的特徴から割り出される。
 
「親父ぃ、人間ですぜぇ」
 『ドワーフ』のひとりが呟く。呟くと、その中でも最も濃い顔つきの男が口を開いた。
「人間サマが何の用でございましょうかぁ? ここはワタシたちの縄張り……擦り切れたドワーフたちが、人目を憚って暮らしているだけのつまらねぇお山でございます」

 親父と呼ばれたドワーフは膝を折り曲げうやうやしい言葉を連ねた。しかしその口元には髭の他に嫌な笑みが添えられており、まるで山賊の
ような相貌だった。
 
 ――親父の捕えろ、という命令で、わたしたちはあっさりと手枷で拘束された。
 
 そして数時間、どうやらわたしたちは上へ進んでいるらしい。これで下る何てことになったら過酷な重労働に耐えてくれた二本の足に申しわ
けが立たない。
 というのもわたしたちは目隠しをされているのだ。足場が見えないので、何度も転びそうになり教授にいたっては坂から転げ落ちた。しかも
目隠しの布が妙に汗臭くて気分だけが地の底を突き抜けていくようだった。
 
 しばらくして、ようやく着いたらしい。冷気はおぞましいほどだったが、他に強い熱を感じる。目隠しを解かれ最初に見たのは赤色。どうど
うと鳴動しながらうごめく真っ赤な真っ赤な溶岩。火口がすぐそこにあった。足元で落ちていった地の欠片が中に吸い込まれジュッと断末魔を
上げる。
 
 それは背筋が凍ってしまいそうなほどの熱だった。
267 :わたしと教授の秘境探検 『カルラ火山』 [saga]:2011/07/12(火) 23:07:15.84 ID:JiFOrIfW0

「どうです? 凄まじぃ熱だと思いませんかねぇ。ほらほら、こうして鉄の欠片を、見ててください、投げ込んじまうと……どうです、こいつぁ
何でも溶かしちまうんです!
 こいつぁ、いくら世界のあちこちで王様気取りの人間サマでもひとたまりもありゃぁせんですぜ。アハハハハ。そんな顔をなさらないでも、
心配しないでくださいませ。どうか! どうか! ワタシたちにそんな大それたマネはできゃぁせんよ。
 それはそうと見ました、噴火? 今は小噴火は止んでいますがぁ、あの溶岩が噴き上がるときなんて絶景でございますよ。まぁさに、流星よ
りも綺麗な眺めです!」
 
 こんな対面をしたくはなかった。せめて、この火口を見ることだけはいい思い出にしたかったのに。こんなことってない。
 わたしは怒りの矛先を教授にぶつけた。キッと睨みつける。すべてはこいつのせいだ!

 教授は無表情に火口を見下ろしていた。柵などがないので、あまり顔を出すと落ちていってしまいそうだ。しかしこの状況でどうしてこうも
呑気でいられるのか? あまりの熱さに脳が溶けてしまったのかもしれない。
 そんな教授が気に食わないのか、親父ではないドワーフのひとりが苦々しい顔をする。
 
「あんだおめぇ、そんなに落ちたいならオレが落としてやろうかぁ?」
「やめねぇか!」親父が叫ぶ「すんませんねぇ。こいつらぁ、久々に人間サマを見たものだからはしゃいじゃってぇ……血気盛ん過ぎて手を滑
らせちまわないか心配心配」

 部下の首根っこを掴んで引き戻す。そして鋭い眼光で教授の顔を覗き込んだ。
 
「さぁて、ここからは大人の話し合いといきゃぁしょうや。人間サマは、見たところ随分立派な身形ですがぁ、どこぞのお役人ってわけじゃぁ
ないようで……いったい、ここに何の用があってきたんでぇございますかぁ?」
「ご名答。ただの登山客だ」
「それじゃぁ、人間サマたちはぁ、決して、決してここで山賊が出たから退治してきてほしいとか、“ここを観光地にしようとか考えて”来た
わけじゃぁないと?」

 いきなり当てられた。最近のドワーフは読心術に長けているらしい。
 どうするんですか教授、とわたしは口を動かす。
 
 沈黙。教授は火口の奥を覗き込んでいる。それは教授が考え込むときの顔だ。一応この状況を真面目に考えているらしいが、当てにはできな
いようだ。
 親父が沈黙を答えと見做して口を開こうとした、その瞬間――彼の部下がそれを遮った。
 
「親父ぃ、見てくだせぇ!」
 部下ドワーフが、わたしの鞄をを森のクマが蜂蜜壺を抱えるようにして持ってきた。

「こいつ、“お弁当”を持ってますぜ!」
268 :わたしと教授の秘境探検 『カルラ火山』 [saga]:2011/07/12(火) 23:09:26.04 ID:JiFOrIfW0

 場の全員に動揺が走る。
 ――え、弁当でございますか? 火山に弁当ぉ? しかも中身はちょっと可愛らしいぞ。いったい何を考えて。俺ではないぞ、俺はこんなちっ
こい弁当は作らん。じゃあ誰が……あーもう、どうしてこっちを見るの、見ないで、頼むから!

「リンス。まさかこの“二人分”の弁当は?」
「そんなに顔を引き攣らせなくてもいいじゃないですかぁ!」
 三時間分の努力がその箱の中には詰まっている。わたしの渾身の一作が、何故に燃え盛る溶岩の前で開けられなければならないのか。
 
 ドワーフ一同が弁当箱を真剣な表情で囲む。中には涙を浮かべてそれを見ている者もいた。泣きたいのはこっちだった。
 そこに教授が何かを閃いたように小さく呟いた。

「和解の印」
「えっ?」親父が訊く「何ですって?」
「和解の印です。我々はとある情報から少数のドワーフたちがこの森で潜み暮らしていることを知りました。そこで人間代表として、こうして
持ってきたわけです。どうでしょうサンドウィッチのひとつでも召しあがってくれませんか?」

 ――? わたしは疑問符を浮かべる。もしかして教授は……
 ドワーフたちの涎が地面にぽとり。今か今かと親父のやっちまえええ、という号令を待っている。しかし当の親方は鉛を呑もうとするように
鈍い表情だ。
 そこに教授が追撃をかける。
 
「あなたたちは、その、お好きでしょう?」
「……人間サマはぁ、ワタシらのことを?」
「ええ。確証はありませんが予想はつきます。
 過去にレヌリア帝国に乗っ取られたライザール王国を解放するために立ち上がったドワーフたちの英雄がいました。『クラフター』と呼ばれ
ていたらしいですね。
 『青の三日月事件』については心中をお察しいたします。その後住処を追われ、生き残ったドワーフの少数は、このカルラ火山に」

「逃げ込んだ」親父が言葉を続けた「仲間たちを見捨てて、こうしておめおめと……エッヘヘ。ワタシたちは意地汚くけち臭く、こうして山賊
をしながら人間にちっぽけな復讐をしているって次第でございます。
 エッヘヘ。どうして笑っているかって? これが笑わないでいられましょうか? 人間サマが人間サマに襲われているのを助けようとしたら
住処を奪われ、鉱山を奪われ、そして逃げ込んだ先で人間サマを襲ってたら人間サマがお弁当を持ってきた。
 エッヘヘ。面白いご冗談でぇ。笑い過ぎて唾がかかっても、気を悪くしないでくださいませ。どうせワタシらドワーフは恥も誇りもない下等
種族でごぜぇますからね!」
269 :わたしと教授の秘境探検 『カルラ火山』 [saga]:2011/07/12(火) 23:11:59.04 ID:JiFOrIfW0

「えっ?」

 手枷が外される。部下ドワーフたちはわたしたちが落ちないように丁重に触れる。
 教授は手枷が外されるとすぐに親父に近寄る。遅れてわたしも。そして信じられない光景を見た。あの教授が頭を下げたのだ。あの鋼よりも
硬いプライドを持つと比喩された、あの教授がだ!
 
「頼みます。どうか。どうか! 我々はあなたたちと仲直りをしたい。せめてサンドウィッチだけでも……」
「サンドウィッチですかぁ。懐かしい。昔は人間サマがどうしても、と言うから食べたもんです。泣きそうな顔で差し出す女の子がいましてねぇ。
めんこいめんこい言い可愛がってましたが、その子も戦争でねぇ、
 しかしワタシらは少しここに長居したようです。ほれ、見てくださいませ。この髭も、昔はもっと黒々としたんですがぁ、灰にまみれて、
薄汚れちまいました」
「あなたたちは誰よりも誇り高い! それはよく知って」

「ワタシらが本当に誇り高けりゃ、女の子の手作りを勝手に平らげちまうことはできませんね」

 その一言に教授は膝をついた。親父はわかっていたのだ。教授が口から出まかせを言ったことを。しかし、彼らを見る教授の目の輝きだけは
 
「あの、親父さん!」
「どうかしましたか? 人間サマのお嬢さん?」
「教授は意地悪で意地汚くて陰気で馬鹿ですけど、本当は大馬鹿なんです!」
「おいリンス」教授が言う「フォローになっとらんぞ」
「教授は黙っててください。だから教授はさっきのことを、何の話かはよくわからなかったけれど、それでも本気で言ってるんだと思うんで
す。確かにそのサンドウィッチはわたしが作った物です。だけど、だけどっ……」

 言葉が繋がらない。感情が破裂して今にも何もかもぶちかましてしまいそうだ。
 そんなわたしを安心させるように親父は言った。
 
「大丈夫! 大丈夫ですよ人間サマのお嬢さん! ワタシらはちゃんとわかっておりますとも。こちらの人間サマが立派なお方だということ、
その真心をちゃんと受け止めましたとも。
 人間サマに誓います。これからは山賊行為はいたしません。ですから、どうか、この山から追い出さないで……いいえ、人間サマ、あなた方
ではありません。別の人間サマたちでございます。その方たちから、どうか、どうかお守りください! 我々も追い剥ぎしたくて山賊をマネて
るじゃぁありませんからねぇ」

 そう言うと彼らは岩陰の奥に消えていった。わたしと教授はその場に取り残される。
 火口の鳴動する音が、やかましいネズミに出てけと非難しているようだった。
 ――お弁当、どうしよう?
270 :わたしと教授の秘境探検 『カルラ火山』 [saga]:2011/07/12(火) 23:12:58.69 ID:JiFOrIfW0

 カルラ火山が噴火するらしい。巷を駆ける住民たちの間で、今最も気になる噂話である。これから数カ月はこの噂一色だろう。それに感化さ
れて本当に引越していった人もいた。
 大学でも授業なんてそっちのけでぺちゃくちゃ喋っている。わたしもそのたちの悪い噂話に妙な尾鰭をつけて楽しんでいた。
 もちろん、わたしはそれが眉唾の話だと知っている。
 
 火山でドワーフの山賊たちと会って以来、教授には覇気がない。
 観光地で一山当てようとした組織に、あの山は近いうちに大きな噴火を起こす、と予言するクールなことをしてのけたが、それ以降はめっき
りとやつれた。
 二三日後に骸骨が授業をしていてもわたしは決して驚かないだろう。
 
 あれからわたしは図書室でドワーフの歴史について当ってみた。青の三日月事件ではほとんどが子供兵だったと書いてあった。もしかしたら
親父というのは……
 それはそうと親父の写真を発見した。クラフターの資料に彼の――随分と変わっていたけれど一目でそうと理解できた――記事が一ページを
丸々使って書かれていた。
 
『  グレゴリー・ミシェロビッチ
 クラフターの幹部であり青の三日月事件にてその怪力で奮闘した。一説によればドワーフの貴族であり、神話時代の英雄『鉄の騎士ベクメル』
の血を引いているとも。
 礼儀正しく誇りを重んじる性格で子供好きだった。人間との関係も良好であり、人間が作ったサンドウィッチが何よりの好物だったと伝えら
れている。
(中略)
 彼がライザールにもたらした繁栄は並々ならぬものであった。
 “彼を青の三日月事件で失ってしまったこと”は、人間としてもドワーフとしても大きな損失である。彼を屠ったのはライザール随一の騎士
でありながらレヌリアの飼い犬と成り下がった『黒犬 クルス・ガンドッグ』である。
 過去に親友だった二人に何があったのか、それは次のクルスのページで述べよう』
 
 教授にそのページを見せると、何も言わずにその本をごみ箱に捨てた。図書室の本なのに。わたしが抗議しようとすると、それを手で抑えて
 
「リンス。お前はつまらん物を読んどらんで、こっちにしろ」
 教授は『初心者から始めよう おいしいサンドウィッチの作り方』を差し出して、またトイレに駆け出した。わたしが見た中ではこれでもう
九回目だ。
 ……あのサンドウィッチが三日で腐っていただけだと信じたい。だってわたしも食べたのになんともなかったんだから。
271 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [saga]:2011/07/12(火) 23:17:19.04 ID:JiFOrIfW0

教授が腹を壊したのは何が理由だったのでしょうか?
そんな謎を残したまま今回のお話はお終いです

また変な設定を作ってしまいました
これで四回目ですがまだまだ増えて、設定も量産されていくと思われます

この設定が誰かの閃きの手助けになれば幸いです
272 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/12(火) 23:19:01.23 ID:86vtLca5o
>>271
乙乙!
このシリーズ好きだな
面白いし、設定も出来上がるし。
273 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/07/12(火) 23:23:53.64 ID:v4ufZF4Bo
>>271

ドワーフって悲しい種族だったんだな
それと秘境みたいなのって凄く胸キュン
274 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/07/12(火) 23:27:05.41 ID:mLqS2H9ro
乙乙

ちょっと気になった点
クラフターは技術集団の名前で、青の三日月事件は赤の三日月戦争のときに子供だったやつが中心だったはず

275 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [saga]:2011/07/12(火) 23:35:29.16 ID:JiFOrIfW0
>>274
すみません

開放のために立ち上がったという部分は
そのために作られた、という意味ではなく、元からある組織が一肌脱いだ
という風に解釈してもらえればありがたいです

そしてグレゴリーの親父設定は
子供中心だけど親父もいたという設定にしてくださいませ、どうか、どうか!
276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/12(火) 23:51:39.88 ID:86vtLca5o
よっしゃやっと出来たわい
推敲しおわったら投下するが大丈夫かな?
277 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/12(火) 23:54:23.70 ID:UFV0oeR8o
探検記の人乙!相変わらず面白い!
あなたの設定の活かし方、俺は好きだよ

>>276
多分平気だと思うよ
278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/12(火) 23:59:36.01 ID:86vtLca5o
>>277
ありがとう



初期のほうに書いたので、やたら説明口調ですが見逃してくださいな……。
では投下
279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/07/13(水) 00:00:16.73 ID:dTIsYeFoo
とある少年はレヌリア帝国に居を構えていた。
少年の名はロトといった。
二人の妹を持つ彼は、ディルフィリウスの森へ出向いてはエルフ族の少年と共に魔法修行にふける生活を送っている。
いつものように夕日に染まる街を家に向かって歩いていると、広場のしょぼくれた噴水に腰掛ける少女が目に入った。
その少女は、『いつ、何族かも分からない雄に襲われるか』も気にかけないでぼーっと落ちる夕日を眺めているのだった。
それが気になって少年はつい声をかける。
「あの、えーっと……お一人、ですか?」
「あら、もしかしてナンパ?」
…………予想外だ。こちらは心配して声をかけたんだぞ……。
「いや、そうじゃなくて……お連れはいらっしゃらないんですか?」
「やっぱりナンパじゃない」
質問の意味を履き違えている気がする。まったくいい迷惑だ、くそっ。
「貴女旅の方でしょう!?」
つい強い口調でたずねると、少女はくつくつとした笑いをとめて、『どうして分かったの?』とでも言いそうな顔をした。
「いえ、このあたりの事情を知らない人は、そういう風に反応するんです。ちなみに貴女で三人目です。」
そういうとロトはここ千年におきた、この地域、つまり『レイス』にまつわる神話を説明した。
すなわち、『神罰』のことを。
280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/07/13(水) 00:01:47.98 ID:dTIsYeFoo
『神罰』とは、その昔、神々の領域に足を踏み入れた人間たちに対し、神たちは宣戦布告、獣たちを従わせ襲撃させてあらゆる種族の雌が激減した。
結果、キメラのように次々と生物の進化、あるいは退化を経て今の世界『レイス』が出来上がった、というものである。
少女は話を聞き終えると、『ああその話ね、あはははーっ』と笑う。
今さら知ったかぶっても遅いだろ、と心の中でだけツッコむ。
「でも、そうか……。野宿でもしようかなー、とか考えてたんだけどなー」
ちらっ。
「考えてたんだけどなー」
ちらっちらっ。
「だけどなー…………」
「こっち睨むんじゃねえ!」
「睨んでないもん期待の眼差しだもん!」
「ぐっ……!」
281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/07/13(水) 00:02:57.10 ID:dTIsYeFoo
とある少年はレヌリア帝国に居を構えていた。
少年の名はロトといって、大変なお人好しであった。
二人の妹を持つ彼は、少女を家に連れて帰って、案の定質問攻めにあっていたのだった。
「……で、連れて帰ってきたわけ?」
「えと、それじゃあ、仕方ないんじゃない、かな……?」
妹たちは一応許可するようだ。
「でも何で貴女は……ええと」
「マルーハ」
「マルーハさんは旅をしているんですか?自分探しとか?黒歴史創作中ですか?」
「にやにやしてバカにしてるでしょう!?……そうじゃなくて、まあしいて言うなら『視察』かな」
「視察……。まさか、『エリュオス王国』の偵察か!?」
282 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/07/13(水) 00:03:47.98 ID:dTIsYeFoo
「えりゅー……なんだって?」
どうやら彼女はそうではないらしい。すこし拍子抜けしてしまう。
「いや、なんでもないです」
「なになに気になるじゃない」
食いついてくるとは……。まあ教えてあげないのも可哀想なので教えてやるとしよう。
「エリュオス王国っていうのは、ここからちょっと歩けばみえてくる、人間と科学の町です。
あそこの連中はこれまでにあった魔法を否定して、新しく『錬金術』を開発したんです。
そこに加わったのが、機械王国『ギムリアース』。特に発展して、大学も建校されて、一般人ですら使いこなす奴らなんですよ。
もちろん、私たちは魔法族ですし、向こうとは属国も含め対立する立場。貴女が通ってきた、『ディルフィリウスの森』も私たちと同盟を組んでいます」
ふーん、とマルーハは納得したようなしていないような複雑な顔をして、次にこう言った。
「で、そこの人たちは『悪い人たち』なの?」
「えっ?」
「『悪い人たち』、なの?」
思わずロトは黙り込んでしまう。
「君がそう言うんならそうだろうけど、違うかもしれない。まだ見たこともないのに決め付けるのはどうかと思うわよ?」
確かに、彼女の言う通りかもしれない。しかし、こうして対立している以上、そう認識するしかない。反対すれば、どうなるか分からないのだ。
と、ロトが渋面をみせると、マルーハはとんでもない提案をした。
「じゃあさ、見てみない?エリュオス王国の街を」
283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/07/13(水) 00:05:05.23 ID:dTIsYeFoo
翌日。ロトは一人の少女、マルーハと共に、エリュオスの関門を抜け、王国ギムリアースの首都トレムレデーレの街を観光していた。
とがった耳を隠すために、ロトは深々と帽子をかぶっている。
ロトは魔法族であり、耳もとがっているが、マルーハは見たところ人間だ。
今回はとにかく、レヌリアの関門をどのように突破したのだろうか。ちょっと気になるが、今は楽しむ事にする。
「へぇ、結構機械化が進んでるのね。あ、あの建物が大学か。ここからでも見えるなんてなかなか大きいんじゃない?」
と、マルーハはキャイキャイはしゃいでいるが、ロトは機械の吐き出す臭い息に眩暈を起こしていた。
「うう……どうも僕には辛いですよ……ちょっと休憩しませんか?」
「軟弱ねえ……まあ、カフェにでも入る?」
ロトは頷くと、からころと音を立てて店内に入っていった。マルーハもそれに続く。
しばらくすると、注文したコーヒーとサンドイッチが運ばれてきた。
「どう?エリュオスやギムリアースの街は。これでもまだ、悪い人たちは多い?」
ロトは俯いて逡巡したが、すぐに向き直り、
「みんな、僕たちと変わらずに生活していました……。子供も、大人も、おねーさんも」
「おい」
「やっぱり、貴女の、言う通りでした。ろくに目も向けないで、敵対視して……」
「まあ見方が変わったんだし、いい旅になったと思わない?」
ロトは『ええ』と自嘲気味に笑う。
284 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/07/13(水) 00:05:38.03 ID:dTIsYeFoo
と。
その時。
「大変だ!王様の勅令だ!レヌリアへの侵攻が正式発表された!すぐにでも軍は動くらしいぞ!!」
一人の男が息せき切って店に飛び込んでそう告げた。
「なっ……!」
「女どもはエリュオスの城へ逃げ込め!レヌリアの奴らも攻め込んでくるぞ!」
「そんな……」
店内は一瞬でパニックに陥った。出口へ向かう数十の人々に紛れて、ロトとマルーハは男に詰め寄る。
「なんでですか!?争いごとを避けていたのはそちら、あぁ、いや……エリュオスの方だったじゃないですか!!」
「詳しいところは分からねえ。なんでも、こっちの人間が向こうの奴らを拉致った、ってえ噂もある。目撃情報もあるみてえだ。
と、ほかの奴らにも伝えなくちゃいけねえ!あばよ、幸運を祈るぜ!」
男はすぐに姿を消した。すると、今まで黙っていたマルーハが口を開いた。
「私たちのことだ……。私の見た目は人間に似せたから……。やはり、人間と魔族は相容れないものなのかも知れないの、かな……」
「なん、ですって……?そんなのおかしいじゃないですか!魔族と人間は共存できるって、貴女が……!」
「そんなことより、妹たちは大丈夫かしら!?家で留守番してるんじゃなかった?」
「ッ!!」
そうだ。妹には留守番を頼んでいた。早く家に戻らねばなるまい。
285 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/07/13(水) 00:06:31.95 ID:dTIsYeFoo
家に着き、二人に事情を話す。
「そんな……どうなるの……?」
「にげようよ!死んでも奴らなんかには捕まりたくない!」
その言葉を、ロトは残念に思う。
エリュオスを見てきた彼には、ある決意が胸にあった。
それは、『人間と魔族の共存』。
二つの種族が手を取り合い、共に道を歩む。
これまでのロトには、決して芽生える事のなかった感情。
その決意は、無駄になんかしたくなかった。
マルーハのおかげで、気付けた。
マルーハのおかげで、理解した。
マルーハのおかげで。
「!? どこ行くのお兄ちゃん!」
「兄貴!」
「奴らを、説得する。戦争なんか世界で一番知られている『馬鹿馬鹿しいこと』だ」
しかし。
ロトが家を飛び出るより早く。
武装集団が部屋になだれ込んできた。
――向けられる銃口。
――いやらしく歪んだ口。
それらが視界に映され、空気が、身体が固まる。
ジャキッ、と火を噴く機械は音を立てる。それは、少しでも動けば一瞬で蜂の巣になることを最も早く、最も簡単に表す。
一人の男がにやりと不気味に笑い、
「女どもはついてこい。男はここで死んでもらう」
286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/07/13(水) 00:07:45.08 ID:dTIsYeFoo
「ぐっ……!!」
機械がロトたちに突きつけられる。
「お兄ちゃん……」
「兄貴……」
妹たちは涙を眼に浮かべてこちらをせがむ。
マルーハがロトの耳元で囁く。
「これでもまだ、彼らと共存できると思う?」
同じ世界に住み。同じ生活をし。同じ時間を生きている。
なんでお互いがいがみ合う?     ――相手を知らないから。
なんでお互いを嫌う?        ――相手を認めたくないから。
なんで――――?          ―――――――――――。
       相手がいる。お互いにある。
        憎む理由が、どこにある?
「できるさ……。できるに、きまってる……!!」
それでも、ロトは。
決意を曲げなかった。
マルーハは聖母のような微笑みを浮かべ、
「その言葉がききたかったわ」
そういうと彼女は、
「私が囮になる。貴方たちは裏口から逃げなさい」
漫画でしか聞いた事のない台詞に、ロトはたじろぐ。
「でも、貴女は……ッ!」
「言い忘れたけど、私、人間でも、魔族でもないの」

   「私、実は『天使』なのよね」
287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/07/13(水) 00:08:45.66 ID:dTIsYeFoo
『な、に……?』というロトの声は、マルーハから放たれる閃光に飲み込まれる。
「できるだけ遠くへ!そうだゾアルの国へ行きなさい!」
ゾアルの国はレヌリア帝国の端にある属国だ。ただ、帝国からの支配はほとんど放置され、なかば独立状態である。
ベルベッド時計台が重要文化財へ指定されていたのが唯一の自慢だった気がする。
男たちがひるんでいる間に、ロトは裏戸を蹴破って走り出し、妹たちもそれに続いた。
家に背を向けて走り出すとき、ロトは『絶対に振り返らないで!』というマルーハの声を聞いた。
ロトは二人をつれて何十分と走っただろうか。
不意に、背中に熱い得体の知れない重圧がかかってきた。
ものすごい風圧で吹っ飛ばされる。
周りの木々がなぎ倒され、大地が焦げる。
次に襲ってきたのは、目をつぶすほどの光だった。
ロトは地面に身を投げ出されたまま二人を抱えて固まった。
決して後ろは振り返らなかったが、ゾアルの建物が紅く燃えるように色をつけていた。
288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/07/13(水) 00:09:34.92 ID:dTIsYeFoo
『な、に……?』というロトの声は、マルーハから放たれる閃光に飲み込まれる。
「できるだけ遠くへ!そうだゾアルの国へ行きなさい!」
ゾアルの国はレヌリア帝国の端にある属国だ。ただ、帝国からの支配はほとんど放置され、なかば独立状態である。
ベルベッド時計台が重要文化財へ指定されていたのが唯一の自慢だった気がする。
男たちがひるんでいる間に、ロトは裏戸を蹴破って走り出し、妹たちもそれに続いた。
家に背を向けて走り出すとき、ロトは『絶対に振り返らないで!』というマルーハの声を聞いた。
ロトは二人をつれて何十分と走っただろうか。
不意に、背中に熱い得体の知れない重圧がかかってきた。
ものすごい風圧で吹っ飛ばされる。
周りの木々がなぎ倒され、大地が焦げる。
次に襲ってきたのは、目をつぶすほどの光だった。
ロトは地面に身を投げ出されたまま二人を抱えて固まった。
決して後ろは振り返らなかったが、ゾアルの建物が紅く燃えるように色をつけていた。
289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/07/13(水) 00:10:43.57 ID:dTIsYeFoo
何分かたっただろうか、いつの間にか轟音は消えていた。
ロトは恐る恐る振り返る。
……何もおきない。どうやらマルーハの仕事は済んだらしい。
二人にはここへ残るように伝え、ロトはレヌリアの地へ舞い戻る。
が、轟音とあまりに膨大な光で、平衡感覚が保てない。
ふらふらとした足取りで道を引き返すと、白い何かが風に乗って流れてきた。
レヌリアはの町並みは、塩で覆われていた。
いや違う。塩に変わっていた。
あの黄色い壁も、あのオレンジの屋根も、あの大理石でできたしょぼくれた噴水も、なにもかも。
ふと、ロトは足を止める。
その噴水の近くに、塩の柱があった。
それは。見覚えがあった。あの。

マルーハだった。

まるで彫刻のように、永遠にその美を残すように立っていた。
慈悲の心を映すように閉ざされた瞳。祈りをささげ、組まれた手。
その何物でもないマルーハが、立っていた。
ロトは言葉を出せず、ただ呆然と、いつまでも立ち尽くしていた。
転んで擦り切れた膝に、塩が滲みる。
その日、レイスを象徴する四大国家はどこまでも白く、美しく月の光を映していた。
290 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/07/13(水) 00:11:47.88 ID:dTIsYeFoo
後の文献によると、
「その日、紅と橙の天落つ。空黒く染まり、大地揺れる。
街、塩に埋もれ、海となって沈む。
カルラの山赤く火を噴き、天使未だ立つ。」
と書かれている。
焼夷魔法とも核兵器とも違う、全く未知の力によって四大国家は一夜にして散った。
その後、一人の青年と二人の女が人里はなれた洞窟群『ホールウォール』にて目撃されたという情報が数件確認されている……。
291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/07/13(水) 00:13:09.78 ID:dTIsYeFoo
以上です。
まあバッドエンドでしたが、遠い遠い未来のお話です。
本編とは違う「外伝」としてお楽しみいただければ、と思います。
作るのも書くのも初めてだったのでお見苦しいとは思いますが、完結できたのでよかったです。

ちなみに、この話のモチーフは、「ソドムとゴモラ」でした。
この後の展開はちょっとエッチだったりするのでやめておきました……。

あとミスしたな……。
恥ずかしすぎて穴があったらブラジルまで直通レベル
292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [saga]:2011/07/13(水) 00:23:42.98 ID:CzHxGLKh0
乙!

ホールウォールがあったら入りたいということかwwwww

いいね面白い
天子様のさばきでレヌリアが塩っ辛くなったのは
今まで暴食を続けてきた報いってわけかな

最後にロトたち(?)が洞窟に入ったのは何故なんだろう?
293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/13(水) 00:28:40.72 ID:dTIsYeFoo
>>292
「ソドムとゴモラ」で調べると面白いかも。
あと、すこしづつ設定をいじってます。
(ロトには妻がいた、その妻が塩の柱になった、など)

洞窟は、実際にロトが入ったとされるものが存在します。
妹たちはロトに酒を飲ませて酔わせた後に、子作りしちゃったりしちゃいます。
近親相姦ですよふうううう!!
294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/13(水) 01:19:17.76 ID:dTIsYeFoo
そういえばタイトルを決めていなかった・・・
「冒涜の世界は終焉を迎える」
でいいや。よろしゅうおねしゃす。
295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/07/13(水) 02:30:35.37 ID:+Ea7sAvu0
投下いたします
296 :グックルス戦記「ベスファト要塞攻城戦」 [saga]:2011/07/13(水) 02:31:48.38 ID:+Ea7sAvu0
「まだ落ちんのか!あの要塞は!」
ライトマイヤーは苛立ちを露にした。
キティクルスへの無血上陸以来、グックルス軍は
ここを橋頭堡とし、各方面へと破竹の進軍を遂げる事となる。
つい最近までは、何事も無くただ税の搾取だけを目的とされた
各城は、洗練された彼らにあっという間に駆逐された。
それゆえに、更にライトマイヤーの苛立ちは普段の倍だ。
事実、幾度にわたる突入で味方の損害は既に無視できないレベルにまでなってきている。
「ここまでが順調だったからこそ、余計に梃子摺っているようにも感じますからな。」
その横でかっかっかと笑う、髭を蓄えた男性―レニエ准将―は
ライトマイヤーとは対照的にのんきに欠伸などしている。
「だからといって、ここで立ち止まるわけにもいかん!兵の士気にかかわる!」
3ヶ月前、彼らはここから離れた遥か彼方の大陸よりこのレイスの大地を踏んだ。
エリュオスからすれば想像だにしない事態であり、また近隣各都市・拠点にも
兵力というものはほとんど無かった。
そして、彼らは2ヶ月で国土の1/5を失う事となる。
「初期の兵力だけで攻め落とすことが出来ると言ったのは貴官であろう?」
苛立ちの矛先を向けられたレニエも黙っていない。
「予想には反しましたな・・・・・・とはいってもこの山脈内ではそれ以上の兵力は展開できませんしなぁ?」
 最初に上陸したグックルスの兵力は3個歩兵師団2個砲兵旅団そして1個騎兵師団である。
これだけの兵力で、広大な範囲を支配する事は難しく本国から更に兵力の追加があった。
実情は現地民たちは彼らに協力的であり[圧制を強いる支配者からの解放者]として歓迎する風潮すらあった。
最終的にこの増援も各地の施設設営や、警備の他はほとんどが攻勢のまわされているのだ。
かくして、4個歩兵師団と2個砲兵旅団に加えその他支援部隊が5個連隊
このレムネスト山脈のベスファト要塞を包囲する事となって3週間・・・・・・
彼らは今だこの地にいた。
297 :グックルス戦記「ベスファト要塞攻城戦」 [saga]:2011/07/13(水) 02:32:29.69 ID:+Ea7sAvu0
 西に広がる広大な森―ディルフィリウスの森―から山脈を迂回することも考えられたが
住人に案内を頼んだところ、誰一人としてこの件には承諾を得られなかった。
ためしに斥候を放っては見たものの・・・・・
30人放った斥候は誰一人として帰るものがいなかった。
「閣下、港より念話通信が入っております。どうやら各地を経由した本国からだそうですが」
チッと舌打ちをしながら、ライトマイヤーは副官へとその仏頂面を向ける。
「わかった、系念機を持って着てくれここで話す。」

 初代ベスファト要塞はまだエリュオスが建国後の混乱にあった中
はじめはレムネスト平原とキティクルス地方を行き来する人からの
通行税を取る目的の関として作られた。
だが、その重税が彼らの反感を買い後に[キティクルスの反乱]と呼ばれる事態にまで発展
一時は、山脈を超え王都ポートルへと迫った。
だが、この時の騎士団長アレン・ベスファトにより瞬く間に押し返されることとなる。
そして、この地へ再度の侵攻を挫くように作られたのが初代ベスファト要塞である。
反乱から230年たった今、老朽化からまた要塞を作り続け自然の要害を含め
難攻不落のベスファト要塞群としてキティクルスの民達を苦しめ続けた。
その難攻不落の神話も今撃ち砕かれようとしている。
「シュラウドラフ」
「はっ!」
名を呼ばれた副官はライトマイヤーの方へ向き直った。
「第17師団と第3師団の2・4・5連隊は下げろ
 第9砲兵旅団をそこの穴に入れる第3師団の残りはこの護衛に当たらせろ。
 2・4・5連隊は副将のイッセルシュテットに任せる。2日以内に完遂させろ」
副官へむかって、次々と指示を出してゆく
彼の副将兼参謀はのんきに欠伸をしたままだ。
「閣下、それでは第8師団にはいつでも下がれるように準備をしておくようこちらから指示をしておきます」
などと、小声で話しながら。
298 :グックルス戦記「ベスファト要塞攻城戦」 [saga]:2011/07/13(水) 02:33:03.01 ID:+Ea7sAvu0
5日後レムネスト山脈を仰ぎ見るカレファに大規模な荷馬車部隊が到着した。
カレファの主な産業は牧畜で、警備部隊の駐屯所があるばかりで
グックルス軍としてもたいした干渉はしていない。
駐屯所ですらかなり離れているハズなのだが・・・・・・
「あんれまー、なんさこんの荷馬車はー」
「んだのーえれぇ多いのぉーくっくるどーの軍隊だべさ?」
「んばか、おんめぇグックルスだっつの、まぁおらたちにゃ関係ないべさ。
 ベコの世話さすんぞ」
住民たちは暢気に、喋りながらも普段の生活を続ける。
どうせ、自分たちには関係ないと言う体である。
そのとき、東の空から黒い影の群れがかの地を目指していた。
「閣下、報告いたします。通信で、『青き山は火を吹く』とのことです。」
今か今かと待ち望んでいた通信だ。ライトマイヤーは意気揚々に指揮杖を握り
陣屋から飛び出す。
「全軍に伝えよ!コレより総攻撃へと移る!魔術部隊は敵防御術の妨害を開始せよ!
 続けて砲兵部隊は砲撃を開始せよ!他歩兵及び騎兵部隊は現状のまま待機」
先日までの仏頂面が一点、表情が生き生きとしているのが
副官シュラウドラフ中佐の目にもはっきりと分かった。
 砲は火を噴き、要塞を瓦礫へと変えるべく弾を吐く。
要塞へと着弾するその瞬間弾は炎と化し蒸発する。
今までと同じ結果、何度繰り返しても要塞壁面に傷をつけることすらかなわず
この一ヶ月近くこの地へととどめられていたのだが・・・・・・
「やはり、効果はあがりませんな・・・・・・」
レニエが呟く。これでいい、とライトマイヤーは返す。
その事はレニエ自身も理解しているので、また欠伸を一つ
普段であれば欠伸をしている場合ではないなどと叱責もあるのだろうが・・・・・・
「現状敵に損害は認められません。砲撃を続けますか?」
砲兵部隊の指揮官から伝令が来たが
「かまわん続けろ。全力で射撃する必要はない休み休み適当にやれ!」
299 :グックルス戦記「ベスファト要塞攻城戦」 [saga]:2011/07/13(水) 02:33:29.30 ID:+Ea7sAvu0
「報告します、敵が攻撃を開始しました。ですが、我が軍の防御術に阻まれ
 当要塞への損害はありません。」
当たり前だ。と心の中で舌打ちしながらベスファト要塞司令官
マルス・ファイツェフは司令官席へと座りなおす。
「ふん、今回もどうせ嫌がらせだろう。魔術師どもには余裕があったら撃ちかえせとでも入っておけ。」
「はっ!」
「ふんっ忌々しい侵略者どもめが」
彼は、元はこのキティクルス地方の総監である。
長年住人達へ重税を課し、その一部で私腹を肥やしていたのだが。
「兵力さえあれば、このワシ直々に叩き潰してくれるものを!」
事実、要塞を守備する兵力は多いとは言えない。
もともと税金の搾取と反乱に対する監視という意味合いから
多くの兵はいなかった。
キティクルス各地が陥落するにつれ、本国からの増援はあった。
しかし、手元の兵力はあまりに少ない。一度要塞から打って出たことはあったが
圧倒的な兵力差と、未知の兵器によりあっという間に押し返され
このベスファト要塞に押し込められてしまったのだ。
旧要塞を支城とし、再度攻勢に出ようと機はうかがっていたものの・・・・・・
結局は防御術に長けた首都の魔術隊を追加しただけで最後の本要塞にこもる形となってしまったのである。
「南東方向に何かが見えます!」
直後、要塞から火の手が上がる。
300 :グックルス戦記「ベスファト要塞攻城戦」 [saga]:2011/07/13(水) 02:34:00.76 ID:+Ea7sAvu0
 「なんだ!?いったい何が起きた!?」
ファイツェフは突如の衝撃で椅子から転げ落ち
頭を抑えながら叫ぶ。
「分かりません!突如爆発がおこりました!」
司令官ですらまったく把握できていない状態なのだ
先ほどまで、敵の砲撃をモノともせず余裕すら見せていたエリュオス将兵たちは
自分たちの身に何が起きたのか分からず、一挙に混乱した。
「防御術に参加している魔術師から優先的に排除せよ!」
要塞内部では、混乱の中戦闘が始まっていた。
まだ、ライトマイヤー達の部隊は突入を開始していない。
「なんじゃ!?何がおきておる?」
ファイツェフも爆発以外の事態の異様さに気づいた。
敵はまだ目の前にいる、だが内部では戦闘が起きているのだ。
「敵です!空から敵が!」
「人が空を飛べるわけがなかろう!」
部下を叱責しながら要塞内の兵へ指揮を取ろうと振り向いた瞬間彼は閉口した。
化け物に乗った人が空から襲って来たのだから。

「有効射確認!」
「よぉし!全力射撃はじめ!全軍突入する!」
レムネスト山脈を砲声と怒号が埋め尽くす。
大きく部隊を展開できないとはいえ前面部隊だけで8千人からなる大部隊だ
「撃ち方やめ!突入!」
3日後、何とか脱出した残存部隊は王都へと走った。
要塞守備兵力1万8千の内帰還したのは50名だったと言う。
だが、この50名も敵前逃亡として全員が処刑されることとなるが
実際は要塞陥落の口止めであった。
301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/07/13(水) 02:36:46.95 ID:+Ea7sAvu0
以上です。
なんかいつの間にかかなり敵の侵入を許してしまったエリュオス王国
果たしてこのまま滅亡してしまうのか!
302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/13(水) 03:24:30.82 ID:D5nvjevDO
投下します。
今度はきっと書き間違え無い……はず。
303 :砂漠のお話 [saga sage]:2011/07/13(水) 03:25:44.22 ID:D5nvjevDO
額に浮かんだ汗が、頬に流れ落ちることなく乾いていく。時折吹く砂混じりの熱風が疎ましい。

熱砂の広がる大地を、三つの人影が麻布のマントに身を包み歩いていく。
一人が歩きながら地図を広げると、立ち止まり辺りを見回しす。

「もうそろそろ町が見えてくるはずなんだけど……」
汗を拭いながらウィルが呟いた。

「あー、もう! 身体中砂だらけで気持ち悪い!」
服から砂を叩き落としながら、フィネットが文句を言う。
「水浴びしたい!」
それでも汗一つかいていない彼女に苦笑いしながら、ウィルはもう一人の相方に手を貸す。
あちらとは対照的に、ベクメルは暑さと乾きでフィネットと喧嘩する気すらなくしているようだ。

「フィン、少し待って。大丈夫かい、ベクメル」
返事をするのもめんどくさそうに、ベクメルはただ手を振るだけである。
「だから砂漠馬を買おうって言ったのに……」
ウィルの言葉に、この頑固なドワーフはプイッと横を向くだけだった。


「ウィルー! 見えたよ!」
日が傾きかけた頃、先を歩いていたフィネットが砂丘の上から声を掛けた。
「水か!」
ウィルより先にベクメルが反応し、足取りを早める。
砂に足を取られながら二人はフィネットの元に辿り着いた。
「ね、あれ」
嬉しそうに彼女が指差した先にその町はあった。砂漠のオアシス――クレタノトッド。

石造りの町並が円を描くように広がっている。その円の中心に湖があった。
古代語で『旅人の安息』を意味するクレタノトッドの名に相応しく、人間の他にホビットやドワーフなどもこの町を利用する。また砂漠を横断する商人達の中継地点としての役割も果たしている――はずなのだが、ウィル達が辿り着いた時、町はどこか活気を失っているように見えた。

「いやぁ、死ぬかと思った」
街を歩き回り、ようやく見つけた宿屋の一室。ウィルが買ってきた革袋一杯の水を一気に飲み干し、ベクメルは豪快に笑った。

「半日歩き通しだったからね」
「それもあるが、まさか砂漠を通るなんて聞いておらんかったからな」
「話したはずだけど」
「そうかぁ?」
ベクメルは髭を撫で付けながら首を傾げた。
304 :砂漠のお話 [saga sage]:2011/07/13(水) 03:26:44.94 ID:D5nvjevDO
その日の夜――
眠りかけていたウィルは、突如として鳴り響く角笛に跳ね起きた。
窓に駆け寄り外を見回すと、やはり同じように窓から顔を覗かせる人々、そして数人の男達が慌ただしく走っていくのが見えた。

――何かあったのか?
男達の走っていく方向から角笛が聞こえてくるのがわかる。
「ウィル!」
隣室から駆け込んできたフィネットに「分かってる」と返すと、熟睡していたベクメルを無理矢理起こし、宿屋の亭主を探す。とにかく何が起こったのかが知りたかった。

宿屋の亭主は入り口から不安そうに外の様子をうかがっていた。
「何かあったんですか?」
「あぁ、お客さん。……申し訳ないんですが、今夜は外に出ないでください」
「あの角笛にはどんな意味があるんですか?」
陽に焼けた肌に皺を何本も刻んだ老亭主は、深くため息を吐いた。
「盗賊団ですよ。最近ここら辺を荒らすようになりましてね」

亭主は椅子に座るとゆっくりと話し始めた。

クレタノトッドは現在ルーフ・ベスファトという地方領主の庇護を受けている。
ベスファト家は代々私兵からなる自警団をクレタノトッドに派遣し、旅の商人達の安全や町の治安も守ってきた。
ところがここ数年の内にラサ帝国と諸国同盟の戦乱が拡大し始め、ついにルーフ・ベスファトは諸国同盟への参加を表明。領民に加え各地に派遣していた私兵を呼び戻す。
クレタノトッドの自警団も例外ではなく、町に残されたのは元の二割にも満たない数だった。それから一年――

「商人の方々はそれでも、自ら護衛を雇うなどしてこの町を訪れてくれますが、中には護衛無しで町に逗留する方もおられます。
お客さん方のような旅人、それに私のようにこの町に生活する者もたくさんおります。色々と対策はしておるのですが……」
「ルーフって人に町の現状を伝えればいいじゃないですか」
ウィルの言葉に老人は首を振る。
「町の長殿が書状を何通も送っているんですが、兵力を割けぬ、としか返ってこないらしいんですよ」
「……自分勝手な領主だなぁ」
ウィルまでため息を吐く。
「仕方あるまい。
地方領主が自ら戦争に参加するなんて大博打に打って出たんだ、何が何でも諸国同盟を勝たせてそれなりの戦果を上げたいんだろう」と、ベクメル。
「なら、逆にこっちから盗賊のアジトを襲撃すれば……」
「それが何度かそうしようとしましたが、奴らのアジトの位置がとんと掴めんのです。
砂漠馬の足跡を辿っても途中から風にかき消されてしまって」
老人が首を振る。
「倒しに出向くとして、その間の町の守りはどうするの?
それにいくら倒しても、町の警備が薄いと解ってるんだから、他の盗賊団が来て同じ事の繰り返しになるだけよ」
フィネットの言葉にウィルは腕を組んで考え込む。
「町の者達で自警団の穴を埋めても、今は防ぎきれないのが現状なのですよ……」
「ふぅん……おいウィル、また変なこと考えてんじゃないだろうな?」
ベクメルの言葉にウィルは無言のまま外を眺めた。
305 :砂漠のお話 [saga sage]:2011/07/13(水) 03:27:39.36 ID:D5nvjevDO
翌日、クレタノトッドは一つのニュースで騒がしくなっていた。
――昨晩の襲撃の時に、落馬し気絶していた盗賊を捕まえたらしいぞ!

そのニュースはウィル達の耳にも届いた。
ウィルは渋い顔のベクメルとフィネットを言いくるめ、盗賊を尋問しているという町長の家へと向かう。

町長の家の前は多くの人でごった返していた。
自警団、商人達、商人の護衛達、旅人、町人――皆盗賊団により苦汁を味わった者達である。中には今にも町長の家に飛び込んでいきそうな者までいる。

殺してしまうのか、生かしておくのか、逃がすのか、皆がガヤガヤと意見を交換していると、町長が家から出てきた。

「皆聞いてくれ。……盗賊団のアジトが解った」

壮年の町長が一呼吸置いて口にした言葉は、再び大きなざわめきを巻き起こした。町長が何度か手を叩くと、人々は口を閉ざし次の言葉を待つ。

「この半年間、我々は奴らに煮え湯を飲まされてきた。
皆も知っている通り、私の妻も、子も、奴らの手に掛かって倒れた……出来る事なら奴らを一掃してやりたいと思うのは、私とて同じだ」
含みのある言い方に疑問の声が上がる。

「奴らの数は我らが自警団の約三倍……60人近くに昇る。
そして、この盗賊団を倒したからといって、他の盗賊共に狙われる可能性が無くなるわけではない」
村長の言葉に、シンと人々は静まり返った。

「――しかし」

村長は言葉を続ける。
「だが、それでも私は諦めることができない。
私の愛する人に、商人に、旅人に、この町に暴虐を振るった奴らを、神が許しても私が許すものか!」
最後は叫びに近かった。その時人々の後ろから声が上がる。
「盗賊団のアジトを攻めるなら、俺手伝います! アタッ」

その声に呼応するように、あちこちで上がる賛同の声。
「俺も手伝うぞ!」
「俺もだ!」
「私も何か手伝えるなら手伝おう!」
次々と参加の意志を表明する人々に、町長は目頭を押さえながら深く頭を下げる。
「行こう、我々の手でクレタノトッドを守るんだ!」

ウィルは人々の後ろで足を押さえて呻いていた。最初に手を上げた結果、ベクメルとフィネット両方から強かに蹴られたのである。
「やっぱりやらかしおった」
ベクメルが不機嫌そうに鼻を鳴らす。フィネットも呆れ果てた顔をしていたが、ふと人々の方を向いて呟く。
「人間って不思議ね。
普段は自分のことしか頭に無いような人も、いざとなるとエルフ並に団結出来るんだから」
306 :砂漠のお話 [saga sage]:2011/07/13(水) 03:28:45.66 ID:D5nvjevDO
集まったのは力自慢の町人、腕に自身のある旅人、商人に雇われていた護衛等様々だった。その数は自警団と合わせて70人近くに上る。
その中から20人弱を町の備えとして残すと、寄せ集めの『義勇兵』達は町長と共に盗賊団のアジトへ進軍を開始した。

「ベクメル、砂漠馬の乗り心地は?」
「……は、話し掛けんでくれ」

真剣に手綱を握りしめるベクメルの姿に、ウィルとフィネットは思わず笑ってしまう。
「ねぇウィル、何で手伝おうと思ったの?」
「……わからないや。
けど町長の許せないって気持ちは解るし、あの宿屋のおじいさんを助けたいって気持ちもあったし」
「そういう奴なんだよ、お前は。いつも考え無しに走りだす。
そんなんだからワシも放っておけんのよ」
「そうだね、ありがとう」
ウィルの返事にフンと鼻を鳴らすベクメル。その拍子に落ちそうになり、慌てて踏張る。ウィルとフィネット顔を見合わせた。

前方に岩地が見えてくると町長は砂漠馬の歩を止めた。
「あの岩地の奥に切り立った崖と洞窟がある。そこが奴らのアジトだ」
皆一様に黙り込む。

「皆、羽根を付けてくれ」
町長の指示に義勇兵達は各々の胸元に鳥の羽根を付ける。同士討ちを避ける為、フィネットが提案した作戦である。

「見張りがいるはずだ、用心して進もう」
岩地の陰に砂漠馬を残し、各々が周囲を警戒しつつ進む。
先行していた剣士が岩陰から覗き込み、皆に向かって大きく頷く。見張りを見つけたのだ。

弓を持った若者が剣士と場所を変わり覗き込む。あくびをしながら洞窟の横に座る見張りが一人……
若者がホビットの青年に耳打ちすると、そのホビットは器用に岩を登っていく。

若者が弓に矢をつがえ、ホビットの青年の様子をうかがう。青年は弓を持つ若者の準備が整ったのを見届けると、若者が身を隠す岩の反対側に向けて上から石を投げた。
カツン、と音がして見張りが視線を横に向け立ち上がる。
その隙に若者は岩陰から姿を現すと弓を引き絞る。
ヒョウッ、と放たれた矢は見事見張りの首を貫いた。
突然の痛みに振り向いた見張りが、最後に見たものは自分目がけて飛んでくるもう一本の矢だった。

若者の会心の笑みを見た義勇兵達は見張りを倒したことを知った。しかし洞窟の中には、まだたくさんの敵が潜んでいる、油断は出来ない。
数人の見張りと町長を残し、皆が息を潜めて洞窟に入っていく。騒ぎを起こされてはマズい。

洞窟の中は篝火が灯してあり、時折採光用の穴が開けてある箇所もある。

「意外と素敵な住居だな」
斧を構えたベクメルがボソリと呟いた。

「ドワーフは洞窟が好きだものね」
小声でフィネットが茶化す。

「シッ……」
そんな二人をウィルが片手で制す。奥の方から話し声が聞こえてくるのだ。

話し声と笑い声に、時折カチャンカチャンと食器の鳴る音が聞こえる。そっと様子をうかがうと粗末なテーブルを挟んで二人の男が笑いながら食事をしているのが見えた。
指で位置と数を示しながらウィルが振り向くと、ベクメルとフィネットが頷く。ウィルも頷き返すと、左手で指折り数え始める。

……3……2……1……

ウィルが飛び出しながら剣を抜き、ベクメルがその後に続いて斧を振りかぶる。左手の男は笑った顔のまま首を飛ばされ、右手の男は叫ぼうとして頭から首を縦に割られた。
食器が派手に割れ大きな音を立てた。ハッとしてフィネットの方を向くと、彼女は辺りに耳を澄ませながら頷いた。どうやら気付かれずに済んだようだ。
307 :砂漠のお話 終 [saga sage]:2011/07/13(水) 03:29:47.39 ID:D5nvjevDO
しばらく進むと洞窟は行き止まりになっていた。
「こっちはもういないみたいだ、他を探そう」

引き返し始めた時だった。

「誰だコラァ!」
「敵だ!敵がいるぞぉ!」
どうやら仲間が見つかってしまったらしい。

「ベクメル、フィン、気をつけて」
前方から羽を付けていない男達が走ってくる。振り下ろされた剣をウィルが防ぐと、横からフィネットの短剣が素早く男の喉を切り裂く。ベクメルの体当たりに残りの男達が盛大に吹っ飛ばされた。
起き上がろうとする男達を切り倒し、三人は再び駆け出す。

分かれ道で胸に羽を付けた仲間と出会う。
「こっちはもういない、そっちは」
「終わった」
「じゃあ向こうだ」
頷き合い共に進んでいくと、再び叫び声が上がった

「首領を倒したぞ!オレ達の勝ちだ!」

その声に洞窟のあちこちで歓声が上がる。ウィル達も顔に笑みを浮かべた。


盗賊団の略奪品を外に運ぶ内に、辺りは夕闇に染まりかけていた。全てを運びだした後、町長の指示で洞窟の入り口は崩され洞窟は見えなくなる。負傷者は出たものの義勇兵に死者はおらず、完璧な勝利を収めたと言っていいだろう。

町へ帰還する間、皆は一様に静かだった。その脳裏には、また町が襲われるかもしれないという不安もあったかもしれない。
しかし、今は全員が事を成し遂げた後の心地よい疲労感で満たされているのは間違いなかった。
ホビットの青年は弓を背負った若者と同じ砂漠馬で揺られている。
剣士は胸の羽根を大事そうに懐にしまった。

町が見えてくる頃、空には満天の星空が広がっていた。角笛は聞こえてこない。帰りを待ちわびていた町の人々が手を振っている。

翌日の朝、ウィルは酷い二日酔いで目を覚ました。隣ではベクメルがまだ鼾を鳴らしている。
水樽から水を掬い、顔を洗っていると横から布が差し出された。

「やぁ、フィン。おはよう」
「おはよ」
顔を拭うと少しはマシになった。

「昨日は楽しかったみたいね?女の子達に囲まれて」
「飲み過ぎてあまり覚えてないよ……」
部屋に戻る間、他愛の無い話をしながら昨晩を思い出す。

宴の途中で町長が盗賊団の略奪品について、皆に公平に分けると言った時に、一人の商人が進み出た。

「正直なところ、私はその略奪された物が返ってくる事は諦めていました。お気持ちは嬉しいのですが、いかがでしょう?
その品々を元手に、クレタノトッドに新たな自警団を設立するのは」

商人の申し出はほとんどの人々に拍手をもって受け入れられた。町長は驚いた顔をしていたが、商人の手をかたく握り締め――

「――ねぇ、聞いてる?」
「……えっ、何?」

フィネットの声に、我に返ったウィルは聞き返す。ため息を吐くフィネット。

「次はどこに行くの?って聞いたの」

「そうだなぁ……南に行けば山脈、東に行けば草原――東に抜けてみようか」

その答えに満足したのか、フィネットは機嫌を直し笑みをこぼした。
部屋の扉を開けると、ベクメルが目を擦りながらあくびをしている。

「よぅ、放浪人」
「おはよう、ベクメル」

付き合いの長い相方はウィルの顔を見るとすぐに尋ねた。

「昨日の今日でもう出発か。なぁ、欲しいものがあるんだが……」
「珍しい。目を引くものでもあったの?」

少し驚きながらウィルが尋ねると、ベクメルは照れ臭そうに鼻を掻いた。

「ワシな、砂漠馬が気に入っちまった」
308 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/13(水) 03:32:38.72 ID:D5nvjevDO
以上です。

森から一〜二週間後の話ですね。
砂漠馬は、多分ラクダみたいなもんです。
309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/14(木) 16:12:03.31 ID:MleTW9zP0
>>308
乙乙、砂漠の話はこの作品が初めてかな?
三人の活躍、これからも期待。
310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/07/14(木) 16:25:45.48 ID:TZxoZQgAO
こんなスレがあったのか
面白そうだけど俺みたいな初心者が書いて迷惑にならない?
311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/07/14(木) 16:29:57.46 ID:RvAJg15G0
>>310
問題ない。
312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/14(木) 16:34:53.43 ID:MleTW9zP0
>>310
全然問題ないよ。むしろ書いてくれ。
313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/07/14(木) 17:25:06.86 ID:TZxoZQgAO
>>311-312
ありがとう
読んでて気になったんだが人間以外に錬金術を使う種族って確認されてる?
局地的に錬金術の盛んな村(この村出身の錬金術大学教授とかいて)を題材にしたいんだが
314 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/07/14(木) 17:33:41.01 ID:RvAJg15G0
>>313

モンスター以外は大学に行っていれば使えると思うよ
錬金術は四大国家の首都にある大学で学べるそうだし、
人間以外の種族が通っててもなんら問題はないと思う
315 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/14(木) 19:15:13.16 ID:cVYBAKzdo
また一人仲間が増えたな!
さて、新しい物語でも作るかね
316 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/14(木) 19:23:25.97 ID:MleTW9zP0
この前の続き書けたんだけど投下しても良いかな?
317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/14(木) 19:31:41.96 ID:cVYBAKzdo
>>316
ありがたい
318 :大航海時代 [sage]:2011/07/14(木) 19:35:43.61 ID:MleTW9zP0
>>317
ありがとう。それじゃ投下します。
319 :大航海時代 [sage]:2011/07/14(木) 19:37:15.60 ID:MleTW9zP0

この辺りでは珍しく、あまり日焼けしていないその男はこちらを値踏みするような目つきで見ている。

「あんたは確かこの前入港した時に乗ってきた…」

「そうそう、旅人だよ。君はこの船の船員かい?」

「ああそうだけど。」独り言を聞かれたのが恥ずかしかった俺はぶっきらぼうに答えた。

その口調で俺の気分を推し量ったのか、男はすまなさそうに頭を掻きながら謝罪してきた。
「悪かった、盗み聞きするつもりじゃなかったんだが聞こえてきたものでつい声をかけてしまったんだ。気を悪くしたなら謝るよ。」

「別に謝られるほどの事じゃないから気にするな。」

「そうか、それなら良かった。ところで君は水夫の仕事に不満でもあるのか?」

「いや不満っていうか失望だな。船乗りってもっと格好いい仕事だと思ってたんだが、実際は地味できつい仕事だったんだ。それでついつい今みたいにぼやいちまうのさ。」

「…そうか。」そういうと男はなにか考え込むように俯いて黙ってしまった。
320 :大航海時代 [sage]:2011/07/14(木) 19:39:59.23 ID:MleTW9zP0

「どっか良い転職先無いかな。」アルヴィングは他の国に比べて就ける仕事の幅が狭い。

他国では一番の労働人口を占める農夫が耕作地の無いアルヴィングにはほとんどいないためだ。

その為アルヴィングで就ける仕事は船乗りかガラス工房や繊維工房で働く職人ぐらいしか無い。

しかし俺は手先が不器用なので端から繊維職人は無理だ。ガラス職人も最近は外国のギルド勢に押されて衰退気味で、工房が次々に閉鎖されていると聞いている。

つまりここで船乗りを止めてしまうと俺は再び仕事に就く事が出来なくなる訳だ。

「どうしたもんかねぇ」            

「一つ良い仕事を知っているんだが、やってみる気はないかね?」悩んでいる俺に男が再び声を掛けてきた。
321 :大航海時代 [sage]:2011/07/14(木) 19:41:53.61 ID:MleTW9zP0

「良い仕事?」思わず食いついてしまった。

「ああ、こんな退屈な積荷の上げ下ろしや甲板掃除じゃなくて本当の船乗りがやるような仕事だ。」

「本当の船乗りがやるような仕事?」

「お前さんが憧れているような未知の海を探検したり、財宝を探したりするような仕事だよ。どうだ?やる気があるなら紹介してやるぞ」

「…その話、本当なのか?」いかにも怪しそうだが…

「嘘などつくか。…と言っても信じられんだろうな。では証拠を見せてあげよう。」そう言って男は懐から袋を取り出して俺に手渡した。
受け取ってみるとズシリと重い。

「開けてみなさい」そう言われて俺は袋の口を縛っていた紐をほどいて中を覗いた。

「…金塊だ…」金塊なんて初めて見た。

「どうだね、こいつは遥か西方にある孤島で採れた金塊だ。我々が行ったときにはまだ沢山あった。
また今度行くことになっているんだが人手が足りなくてね、あちこちの港町を渡り歩いて新人の勧誘をやっているんだが、
なかなか集まらない。見たところ君は水夫になってそれなりに経つんだろう?まだ若くて体力もありそうだし、どうだね?」

正直なところ迷った。いかにも怪しい話だったからな。けどその時は船での雑用に
飽き飽きしてて、ここから抜けられるならどんな仕事でもやってやるって気分だったんだ。

「是非頼む。いや、お願いします。」だから俺はついて行くことにした。

「決まりだな。」男はニヤリと笑った。
322 :大航海時代 [sage]:2011/07/14(木) 19:43:47.44 ID:MleTW9zP0

「そういえば自己紹介がまだだったな。私の名前はテルデンだ。」

「マリユスだ。これからよろしく頼む、テルデン。」

「こちらこそよろしく頼むよマリユス。次に停泊する港、確かヴァッサーと言ったかな?そこで私の仲間が待ってる。船を降りるから準備しておいてくれ。」テルデンはそう言うとふらりとした足取りで船室へと引き返していった。

再び一人になった俺は嘆息して海の方を見やる。海はいつも通り何事にも無頓着に、ただそこに茫漠と広がっていた





323 :大航海時代 [sage]:2011/07/14(木) 19:45:24.27 ID:MleTW9zP0
この時違う選択をしていれば、あの未来も変わっていたのだろうか…
324 :大航海時代 [sage]:2011/07/14(木) 19:46:45.39 ID:MleTW9zP0
投下終了です。
やっと投下のやりかた分かった。ヤッホォォ〜
325 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/14(木) 19:49:17.21 ID:cVYBAKzdo
>>324
おつかれさん

続きが気になるなww
326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/07/14(木) 20:02:05.47 ID:w1HKUHCA0
うおおおおおおおおwikiの編集のやり方がわからねえぞおおおお!
みんな自分のヤツは自分で編集してるみたいだからこっちも自分でやらないと

あと、コレから先用語集増えてきたら
地名と人名はわけとかないとまずくないか?と
327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/07/14(木) 20:32:20.38 ID:Ndls49IHo
あ、ありのまま今起こった事を話すぜ。SSを書いてる途中で書き溜めが飛ぶなど都市伝説だと思っていた
パソコンがどうにかなったかと思った。書き溜めた20レス分なくなったとか、それが民法レポになっていたとかそんなチャチなもんじゃ断じてねえ
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……

メンテだからと張り切って書き溜めてたんだけどちょっと心折れた……
皆ちゃんと確認して保存するんだぞ
328 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/07/14(木) 21:35:30.50 ID:RvAJg15G0
>>327
ああ、よくあるよそういう事。

短い奴を投下します
329 :着物の娘 [saga]:2011/07/14(木) 21:36:18.97 ID:RvAJg15G0
レヌリア帝国領 港町ヴァッサー

カァーン……カァーン……
「では、今日の授業はこれで終了といたします」
授業の終了を告げる鐘の音が響き、教室で授業を聞いていた者達が
各々、喋り始めたり帰る準備をしだしたりあわただしくなる。
「ああそうだ、明日はこの教室に転校生がやってきますよ。
 獣人の商家の娘さんのようですが、西の方からやってきたらしく変った召物をしているとか」
「先生、変った召物ってなんですか?」
「校長先生から聞いた話では着物という物を着ているとか……
 ごめんなさいね、先生は見たことないのよ……着物というのを」
ヴァッサーに存在する学院。
ここには各地から多くの留学生が訪れる。
何故なら貿易で栄えるこの港町には多くの者達が長、短期間訪れるからだ。

もっともこの学院、レインチルダには相当の学力か大金を持つ豪商、又は貴族の子供しか
入る事のできないハイレベルな学院である。
しかし、この学院を卒業した者達は軍のエリートコースや、そのまま大学へと進む事ができたり
するので、学力の方でこの学院を目指す者はとても多い。
330 :着物の娘 [saga]:2011/07/14(木) 21:37:00.57 ID:RvAJg15G0
「なあ、お前ん家に着物っていう服ある?」
ホビットの青年に話しかけられたエルフの青年は少々考え込んだ。
「うーん、もしかしたら見てるかも知れないし、見てないかも知れないな……
 ほら、家は色々な服やその素材を取り揃えてるからさ」
「じゃあお前の父さんに聞いてみたら?」
「そうだな、聞いてみる事にするよ」
エルフの青年はそう言うと、友人のホビットの青年と共に帰路へとついていった。

「ただいま」
「お帰りなさいませ」
エルフの青年の家は中々に裕福な家庭だった。
彼の父が営む店の品物は、様々国から仕入れを行っている結果
珍しい物を好む貴族が、よく買い物をしにきていた。
「父は今日はどれくらいで帰ってくる?」
「旦那様は今日は商談の関係でお帰りなさいません」
メイドの話を聞いた青年は、ふむ…と小さく漏らすが、
致し方なしと諦め、まだ見ぬ着物に思いを馳せる事にした。
331 :着物の娘 [saga]:2011/07/14(木) 21:38:01.39 ID:RvAJg15G0
「あれがヴァッサーか」
海面に浮かぶガリオン級の船の上で、黄色く大きな尻尾とツンと尖った先が黒い耳を揺らしながら
一人の獣人の娘が呟いた。
「そうだ、あそこがワシの故郷のヴァッサーじゃ…どうだ?でかいじゃろ」
娘の隣にいたドワーフがパイプタバコを咥えながら得意げに話す。
「たしかに、私の居た島にはあのような巨大な壁や魔弾を発射する大砲等存在しないな」
「あれも全ては外敵を寄せ付けぬための処置というものじゃ」
「お主から聞いておる……争いが絶えぬのであろう?
 モンスターという脅威が存在しているというのに、随分と余裕がある事だな」
「まあ、お主がいた島では争いは存在しなかったからのぅ……もっとも…」
ゴホンッ…
そう言い掛けた所で、ドワーフは軽く咳き込みパイプを咥えなおす。
「まあなんにせよ、これからはあそこがお前の新しい故郷になるのだ。
 文化や風習の違いはあるが、早めに慣れておくれよ」
「解った」
「それと、お主の着ている服も相当に目立つからな……
 こちらで主流となっている服にも早めに慣れるのだぞ」
「あちらには着物がないのだったな…」
獣人の娘は少々残念そうに零す。
「仕方なかろう。ヴァッサー……いやレヌリアには着物という服は存在せぬのだからな」
娘は改めて自分の身に纏っている服と、船の上で忙しなく動いている水夫の着ている服とを見比べる。
紅葉の模様が織り込まれた袖の長い上着、一方の水夫は鎖帷子や鉄で出来た胸当てのしたに
簡素な作りのシャツを着ている者が殆どであった。
もっとも、水夫と比べること事態が失礼なのであるが
332 :着物の娘 [saga]:2011/07/14(木) 21:38:51.18 ID:RvAJg15G0
「彼等は帯をしないのか?」
「帯はないが、ベルトは存在するよ」
「帯と似た物なのか?」
娘の問いかけに、ドワーフは自分の履いていたズボンからベルトを取り、それを見せる。
「帯と違って金具がついておるな……」
「金属加工が最近は発達してきておるからな……と、言っても魔法で作られた金属の加工のほうが
 今も主流だかの」
「ふむ……」
魔法の金属、と言われても実物を見たことのない娘にはチンプンカンプンなのだが、
とりあえずは返事をする。
後で実物を見てみればよいだろうと考え合っての事だ。
「最後にひとつ聞いてもよいか?」
「なんじゃ?」
「褌はあっちでも売っておるか?」
そう言い、娘は自分の股を覆う白い布を指差した。
「ないであろうな……」
「流石に褌無しで生活はしたくないぞ」
「……追々なんとかしよう」
どうしたものか……ドワーフは、娘の下着についてしばらくの間悩む事になる。
「お、港が近づいてきたぞ!」
「そうじゃな、降りるとしようか……ミヤビ」
「うむ」
ミヤビと呼ばれた狐系の獣人の娘は赤い瞳は輝かせ、力強く答えた。
333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/14(木) 21:39:03.80 ID:MleTW9zP0
>>326
俺もそう思うけど人名と地名の分け方が分からん。

>>327
ど、どう慰めればいいのか分からんが、とにかく頑張ってくれ。
てかほんとに書き溜めが飛んだりするんだな。
334 :着物の娘 [saga]:2011/07/14(木) 21:41:34.47 ID:RvAJg15G0
今回はこれで終了。

これからレヌリア帝国の事を書いていこうと思います。
また時代背景は、クラフターの反乱が終了してからといった感じです。

レヌリア関係で色んな街とか登場させるつもりだけど大丈夫かしら?
335 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/07/14(木) 21:43:18.96 ID:RvAJg15G0
>>333
ページに新しく人名の項と地名の項を作ればいいと思う
336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/14(木) 21:46:01.75 ID:MleTW9zP0
ブフォッ!投下中に書き込んじまった。スマヌ。
>>334
乙!
俺もレヌリア関連の話書いてるから是非参考にさせてくださいな。
337 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/14(木) 21:46:38.40 ID:cVYBAKzdo
>>334


いろんな街が出たほうが面白いしおk
街にそれぞれ特徴があるとさらにいいよね
338 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/14(木) 21:55:28.91 ID:Xg/10qHjo
必要なら人物と土地を増やすけど、分け方は今まで通り五十音順で良いの?
339 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/14(木) 22:03:56.39 ID:MleTW9zP0
>>338
それで良いと思う。
ところでwikiの話だよね?
340 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/14(木) 22:06:37.94 ID:Xg/10qHjo
いえす
341 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/14(木) 22:12:27.45 ID:cVYBAKzdo
wikiの編集できないお
誰かやってくれないかお
342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/07/14(木) 22:17:27.93 ID:w1HKUHCA0
誰かだいたいの年表まとめなおせ下さい。
ないと不便だけどあると縛られるから微妙だけどね
343 :年表(暫定) [saga]:2011/07/14(木) 22:28:29.33 ID:RvAJg15G0
>>342
個人的な主観だけど

(暫定的なもので決定ではありません)

神罰による崩壊する前  旧暦
  ↓
 崩壊後    レイス暦0年?
  ↓
エリュオス建国 レイス暦???年
  ↓

エリュオスの失態  現代の300年前

  ↓

ライザール崩壊
  &
クラフター反乱
  ↓
 現 代    レイス暦××××年

たぶんだが、秘境探検記 工房 −−は+

とかが含まれるのかな?

  ↓
 未 来   新レイス暦1008年
  
  ↓

四大国滅亡の刻 新レイス暦

と、いった感じかしら?

344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/07/14(木) 22:34:20.33 ID:w1HKUHCA0
>>343
ありがとう、自分の書いてるのがどれぐらいで認識されてるのかってので
摺り合わせしたかったんだわ。あるていどしとかないと矛盾が発生しちゃうし
345 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/14(木) 23:17:38.46 ID:Xg/10qHjo
手探りでアンカーとか調べて作ったから不具合や誤植があるかもしれないがとりあえず一通り整理した
346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/14(木) 23:52:20.05 ID:MleTW9zP0
>>345
サンクス。まとめお疲れ様。
347 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/07/15(金) 00:06:19.83 ID:9czdKUxP0
>>345 お疲れ様です。
    色々と助かります
348 :年表(暫定) [saga]:2011/07/15(金) 00:07:55.79 ID:9czdKUxP0
>>154をベースに年表を書き直し >>154の年表製作者さんに感謝します。

エルフが原初の人間に火を与え言葉を教える

古代文明の時代(旧暦)

モンスター出現、『深影の大陸』の古代文明崩壊 ←神罰の伝説
(この文明の錬金技術は当時、核兵器レベルの兵器が実用化されていたほど?)
(高水準の生活ができていた程?車の代わりに魔導サイボーグ馬が存在)

30年後、『深影の大陸』からは文明圏がほぼ消滅
※(ここで一度、世界から高度な錬金技術が失われた?)

(ここで現代の暦がスタート?)

『森でのお話』 (既にモンスターが出現しているため、神罰後)

『砂漠のお話』

エリュオス建国

エリュオス諸国同盟軍とラサ帝国がレムネスト平原で戦争が勃発
(この戦いでラサ帝国は43年で崩壊する)

レヌリア建国

※(この間は結構な年月の経過がある?)

エリュオス西部におけるエルフ種の虐殺、『エリュオスの失態』が300年前に起きる
(この辺りから「中世」にあたる時代区分?)

エルフの『大集結』、『ディルフィリウスの森』が誕生

アコナイタムによる『ディルフィリウスの森』独立
(彼女の計略でエリュオスが弱体化?)

※(ここから「近代史」とされる時代区分?一部の者達が錬金術の実用性を見出し始めた頃?)

レヌリアによるライザール侵攻、『赤の三日月戦争』
(わずか三日で終結した一方的な戦い、既に当時のレヌリアは超大国)

20年後、クラフターが反レヌリアを掲げて蜂起、『青の三日月事件』

レヌリアが帝制へ

>>41 モンスターの子と少女の物語?
(当時のギムリアースでは既に、錬金術の存在が一般にも知られていて実用化もされていた)

レヌリアとギムリアースの戦争(当時の四大国同士であるためかなり大規模な戦役?)

ギムリアース北方の火山が噴火

二大国の戦争から22年後には、錬金術が大々的に軍事転用され魔術と併用されている
(この辺が現代?)


※ここでさらに数千年の年月が立ち、新レイス暦へと移る
(新レイス暦に移る前に東方の大陸から侵攻された過去有り)


新レイス暦1008年
大陸北西部に五つめの大国ガルランド王国 ラーズウェル大公国ができている

グックルス戦記?

四大国の崩壊
349 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/15(金) 00:10:33.02 ID:Fqb3Nyr4o
>>348
なんか感動した
素晴らしい
350 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/15(金) 00:14:59.85 ID:PgJk7dH7o
>>348
乙乙すげえ
各々の想像に任せて書いてるのに世界観がちゃんと形になりつつあるな
351 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/15(金) 00:21:45.73 ID:dBxETexDO
>>348
乙乙
ただエリュオス建国と諸国同盟戦争は順序逆かもね
352 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/07/15(金) 00:23:53.66 ID:/kVGLGFP0
>>348
乙です
グックルス書いてる人だけど真レイス1008の前後どっちになるかが微妙な感じ
後だと別に大陸侵攻の話がないと繋がらんしなぁ・・・・・・
353 :年表(暫定) [saga]:2011/07/15(金) 00:25:12.98 ID:9czdKUxP0
>>351
まあ暫定だから書き直しはいくらでもできるね!

エリュオス建国と同盟戦争とレヌリア建国については
情報不足なので作者さんが書いてくれればその辺の位置はかなりハッキリできると思う
354 :年表(暫定) [saga]:2011/07/15(金) 00:27:29.39 ID:9czdKUxP0
>>352
グックルス戦記の方はこちらも年代がよく解らないので
想像であそこの位置に…

作者さんの作中に登場する情報をお待ちしてます
355 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/07/15(金) 01:16:33.18 ID:/kVGLGFP0
俺一つ気づいちまったんだ!

タイトル間違えてた事に!
356 :年表(暫定) [saga]:2011/07/15(金) 01:47:38.98 ID:9czdKUxP0
>>355 すまぬ…すまぬ…  書き直し致しました。

>>348の書き直しをしますた(・ω・) 歴史を纏めるのって楽しいです^q^
357 :年表(暫定) [saga]:2011/07/15(金) 01:48:24.44 ID:9czdKUxP0
エルフが原初の人間に火を与え言葉を教える

古代文明の時代(旧暦)

モンスター出現、『深影の大陸』の古代文明崩壊 ←神罰の伝説
(この文明の錬金技術は当時、核兵器レベルの兵器が実用化されていたほど?)
(高水準の生活ができていた程?車の代わりに魔導サイボーグ馬が存在)

30年後、『深影の大陸』からは文明圏がほぼ消滅
※(ここで一度、世界から高度な錬金技術が失われた?)

(ここで現代の暦がスタート?)

『森でのお話』 (既にモンスターが出現しているため、神罰後)

『砂漠のお話』

エリュオス諸国同盟軍とラサ帝国がレムネスト平原で戦争 (レイス暦??年)
(この戦いでラサ帝国は43年で崩壊する)

エリュオス建国

レヌリア建国 (この頃から帝制の可能性有り)

※(この間は結構な年月の経過がある?)

エリュオス西部におけるエルフ種の虐殺、『エリュオスの失態』が300年前に起きる
(この辺りから「中世」にあたる時代区分?)

エルフの『大集結』、『ディルフィリウスの森』が誕生

アコナイタムによる『ディルフィリウスの森』独立
(彼女の計略でエリュオスが弱体化?)

人間によるディルフィリウスの森の伐採が始まり、騒乱があった模様。
(これにより、森のエルフと人間との関係は数百年経過しても冷え切っている)

※(ここから「近代史」とされる時代区分?一部の者達が錬金術の実用性を見出し始めた頃?)

レヌリア帝国によるライザール侵攻、『赤の三日月戦争』
(わずか三日で終結した一方的な戦い、既に当時のレヌリアは超大国)

20年後、クラフターが反レヌリアを掲げて蜂起、『青の三日月事件』

マイナスとマイナスはプラス
(当時のギムリアースでは既に、錬金術の存在が一般にも知られていて実用化もされていた
 しかし、魔法社会から錬金術社会への変化の影響でスラム街があちこちに出来る)

皇帝バルトリオ三世率いるレヌリア帝国がギムリアースに侵攻(当時の四大国同士であるためかなり大規模な戦役?)
この戦いでギムリアースは大幅に弱体化する(それから22年が経過し、水面下では不穏な動きが続く)

ギムリアース北方のカルラ火山が噴火 灰が首都のトレムレディールに振り注ぎ『灰色の街』と呼ばれる
(現在も数時間に一度小規模な噴火が起きている程火山活動は活発な模様)

私と教授の秘境探検記が始まる → ギムリアースの小さな工房で空を飛ぶ機械が作られ爆発する。

(この辺が現代か?)

※ここでさらに数千年の年月が立ち、新レイス暦へと移る
(新レイス暦に移る前に東方の大陸から侵攻された過去有り)

新レイス暦1008年
大陸北西部に大国ガルランド王国 ラーズウェル大公国が存在している

グルックス戦記?(この位置は大きく前後する可能性有)

四大国の崩壊 (遠い遠い未来の出来事)
358 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/07/15(金) 01:58:14.84 ID:/kVGLGFP0
>>356
違うんだ!書いてる本人が間違えているんだ!
359 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京西部) [sage saga]:2011/07/15(金) 11:02:12.62 ID:5GjiF+SQ0
>>258です

>>357
ガルランド及びラーズウェルは小国に位置します
時系列上恐らく最も未来になる可能性があります
錬金術並びに魔法がかなり発展しています
後で>>258の話の設定を纏める予定なので、それを参考にしてください

他の作者さんへ
自分の書いている話は設定が細かくなる可能性が有るので、皆さんを縛らないように時系列上平行世界設定OKにします

このスレに参加している皆さんへ
SS処女作になるため至らない点が多々あると思います
遅筆のため年表等に矛盾が生じてしまう恐れがあります
すみません
360 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京西部) [sage saga]:2011/07/15(金) 11:04:47.02 ID:5GjiF+SQ0
投下するときは age た方が良いですか?

連投スマソ
361 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [saga]:2011/07/15(金) 13:33:06.55 ID:ooojHwbC0
未来の話とかいいね

age進行のほうがいいんでない?
このスレは多人数参加だからageてるほうが人来るだろうし
362 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京西部) [sage saga]:2011/07/15(金) 16:40:01.14 ID:5GjiF+SQ0
>>361
分かりました
投下するときはageます

戦争物なので地図(紙媒体)を作成中
可能であれば随時うpします
363 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京西部) [saga]:2011/07/15(金) 16:40:48.34 ID:5GjiF+SQ0
スマソ
sageちまった
364 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/15(金) 20:36:04.28 ID:+gmx5ZOJ0
(´・ω・`)誰かいる?
365 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/15(金) 20:53:16.81 ID:+gmx5ZOJ0
(´・ω・)誰もいないのか……
366 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/07/15(金) 20:55:50.71 ID:7juBtmpZo
いるぜ
367 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/15(金) 21:08:57.20 ID:+gmx5ZOJ0
いたのか、良かった。
368 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/15(金) 21:11:31.81 ID:PgJk7dH7o
ここにもいる
369 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/15(金) 21:29:29.20 ID:/kVGLGFP0
今帰ってきた
370 :年表(暫定) [saga]:2011/07/15(金) 21:42:03.85 ID:9czdKUxP0
俺も今帰ってきたぜ

しかし暑いなたまらん
371 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/15(金) 23:22:22.82 ID:Fqb3Nyr4o
決めた。



次  は  ギ  ャ  グ  を  書  く
372 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/16(土) 01:02:32.70 ID:39yHEvX5o
初念話魔法…ども…

俺みたいなエルフで魔法wiki見てる腐れ野郎、他に、いますかっていねーか、はは

今日の大学の会話
あの氷系の魔術かっこいい とか あの魔本ほしい とか
ま、それが普通ですわな

かたや俺は大木の上でそれを見て、呟くんすわ
it's a magic wolrd.キョドってる?それ、誉め言葉ね。

好きな音楽 草笛
尊敬する人間 エリック・ヴァイスマン(エリュオスの失態はNO)

なんつってる間に日没っすよ(笑) あ〜あ、森の掟の辛いとこね、これ
373 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [saga sage]:2011/07/16(土) 01:37:34.00 ID:SIhLKU5F0
コピペ改変クソワロタwwwwwwww
しかも好きな音楽が草笛ってwwwwwwwwwwwwww
374 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/16(土) 01:55:41.57 ID:79pSi8QCo
尊敬する人間 エリック・ヴァイスマン(エリュオスの失態はNO)

ハゲワロタ
375 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/16(土) 10:43:41.05 ID:bIINSp6H0
ワロタwwww
なんぞこれwwwwwwww
376 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [saga]:2011/07/16(土) 16:28:24.44 ID:3C6AZ78U0
wikiにある「SS一覧」のぺージは
もうメニューから削除してもいいんじゃないか?
377 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京西部) [sage]:2011/07/16(土) 17:30:35.50 ID:eAZ5LfRv0
>>258です
少し書けたので投下
378 :異世界の戦友 [saga]:2011/07/16(土) 17:34:26.93 ID:eAZ5LfRv0
第一部:異世界からの侵攻 第一章:彼等との出会い

―――――――レイス大陸中央部北 中央盆地 イラステイン王国 王都ノラリアレイス郊外 ノラリアレイス空軍飛行場付近 1005/1/30 09:20―――――――

『イラステイン』とは古い言葉で『山の民の国』という意味だそうだ。成程、確かにこの国は国境が全て山か川であり、山の民が多く暮らしている。
そして、『ノラリアレイス』とは『レイスの中央の北』、レイス大陸のほぼ中央の僅かに北に存在するからであった。
夏はとにかく暑く、冬はとても寒い。季節によって風向きが変わる乾いた風が一年中吹き抜ける。
盆地といっても殆どの土地が非常に険しい山岳で、山になれたドワーフや獣人でも暮らすのは困難を極め、麓の王都の様な僅かに住める場所に人口が集中している。
しかし、こんな環境でも水源と土には恵まれ、高山植物の花畑がある。
世界中でこの国と大河リアレイスラインを国境とする南の隣国リヴァテイン王国の二ヶ国でのみ栽培が可能な貴重な薬草『リアレイス草』を求めて東のレヌリア帝国や南の王制時代のエリュオス等に度々侵攻され苦汁を舐めさせられた事から同じ被害者のリヴァテインとは同盟・友好関係にあり、リアレイスの兄弟といわれている。
現在は互いに独立を保ち、貿易産業の成功と美しい花畑のおかげで経済大国、観光大国として名を馳せている。
俺はこの国で生まれ育った。一番近い海岸でも数千キロメイルも離れているため、26歳になったにもかかわらず未だに海を見た事が無い。
陸軍中尉の俺は今日、大事な兄弟リヴァテインとの合同軍事演習の為にノラリアレイスの飛行場近くの宿に泊まっていた。
自宅からでも十分近いのだが、年二回の恒例行事(北と南で一回ずつ行われる)の北での演習の際には必ずこの宿に旧友のリヴァテイン人と泊まる様にしている。
「久しぶりだな。マック」
読んでいた新聞を畳み顔を上げると旧友がいた。
彼の名はライル、ライル=ブランディー。
彼はこの中央盆地の二ヶ国の民の中では珍しいエルフだ。
若いといってもそこはエルフ、明日で170歳になる。とても聡明で冷静、軍人として、何より友人として尊敬していた。
「ああ、半年振りだな。でも半年振りは久しぶりに入るのか?特にお前の場合は」
「他の種族よりも長生きするエルフだからこそ多種族の友人・知人との限られた時間を大事にしたいんだよ。知り合いが死に絶えて友達が出来ずに数百年間もぼっちなんてのは嫌だろう」
「確かに、そんなのは俺も御免だ」
これが俺達の何時もの挨拶だった。
「そういえば知っているか?」
「何をだ?」
「例の無人大陸の話だよ」
「そりゃあ知らない奴のほうが珍しいだろう」
彼の言う無人大陸とはかつてレイスに侵攻した東方の大陸、現在の中央大陸から更に東へ行った所に在る。
あらゆる種族が住む事の出来ない過酷な環境の広大な未開の土地が広がる大陸で、レイスに対して反対側に位置する事から『ヒールレイス』(地獄のレイス)と呼ばれる。
百年程前に発見されたが、三十年前の調査・先遣隊は各国から選び抜かれたエリート集団(全種族の混成隊)であったが、上陸後一週間と持たずに撤退した。
彼等先遣隊が見たものは多くは無いが、海岸線は全て噴火中の活火山地帯であり溶岩と複雑な海流・潮流の為接岸できず、噴煙と積乱雲が常に上空を覆っている為航空機での接近も出来ず、更に地上付近は常に大陸からの暴風が吹き荒れる。
運良く上陸出来ても烈しい気温の変化が有り、暴風を避けて洞窟に入れば火山性のガスや強酸で防護服が数時間でボロボロになるという。
暴風には砂漠特有の砂が混ざっていた事から火山地帯を抜けた先は砂漠になっていると推測されている。
結果的に調査不可能・無人のレッテルを貼られ、この大陸周辺の海域・空域は航行禁止になっている。
「さっきもテレビでやっていたが、まさか無人大陸が無人で無いとはね。この新聞にも一面大見出で載ってるぜ」
俺はライルに新聞を渡した。見出しにはこう書いてある。
「無人大陸人」「無人大陸からの使者」「無人大陸は無人に非ず」
無人大陸から一人の人間がやって来たのだった。
379 :異世界の戦友 [saga]:2011/07/16(土) 17:35:34.61 ID:eAZ5LfRv0
最初は何かの冗談だろうと思っていた。皆そうだった。
しかし、直にこの男が本当に無人大陸から来たのだと証明される事になる。
先遣隊が持ち帰った情報よりも正確でより多くの無人大陸の情報、どの国や地域の物でもない言葉や所持品や服装や技術、何より決定的だったのは殆どの者が知らない筈の無人大陸までの航路と海図を持ち、彼の水先案内で無人大陸に存在する港まで着いてしまったのだから。
その後は更に驚きの連続であった。
先ずは経緯。
彼等はこの世界の住人ではなく、彼等の世界に突然開いた白い靄の様なゲートを潜るとこの世界に着いたと言う。つまり異世界人だったのだ。
直に先遣隊を送り調査をしたものの、彼等が着いた場所は辺りが広大な草原となっている海岸地帯で誰にも会わなかった。
海岸近くにキャンプを設営して調査を続けたが、古代の森を抜け巨大な山脈を越えた所で砂漠に出てしまいそこで調査を一旦打ち切ったそうだ。
ゲートから第二・第三の調査隊を派遣、新天地として活用するためキャンプを拡大し一つの町にした。
数年後、調査が進み他の大陸に住人がいる事を突き止めあの男が使者として中央大陸の東岸の小さな魚港に辿り着いたのであった。
次に技術。
異世界から来た人間達はこの世界の魔法でも錬金術でもない技術を持っていた。
彼等の世界では魔法は無く、錬金術も無い。
代わりに錬金術とは異なる科学が発展し、この世界では治療が困難な病気にかかった者を意図も簡単に治してみせた医者や俄には信じ難いが自分達の故郷の惑星から月や他の惑星にまで行った者までいるという話だった。
この世界でも自分達が惑星に住んでいることは既に周知の事実であるのだが、未だに大気圏の外側へ行った者は無く月へ行くなど夢物語である。
こんな具合に彼等の技術は明らかにこの世界のそれを遥かに凌駕していた。
「今度はかなりの人数でやって来るらしいって話だろ?」
「ああ、もう中央大陸のラースの港に着く頃だろう」
「それじゃあもうすぐ俺達にも彼等異界人を拝む機会が訪れる訳だな」
「……っと、もうこんな時間か。よし、行くとしますか」
「そうだな。今日も頼むぜ」
「もちろんだ」
俺達は持って来た葉巻(御守)を交換して夫々のポケットにしまう。演習終了までのお楽しみだ。
車を走らせ飛行場へと向った。
380 :異世界の戦友 [saga]:2011/07/16(土) 17:36:12.79 ID:eAZ5LfRv0
―――――――ノラリアレイス空軍飛行場 全軍総帥執務室 10:34―――――――

コンコン。
「入れ」
「「失礼します」」
「ライル=ブランディー少将、マクドネル・コナー中尉、只今出頭しました」
「久しぶりだな少将、今日も期待しているぞ」
「期待に答えられるよう尽力いたします。総帥閣下」
俺は内心笑っていた。
目の前のイラステイン全軍総帥殿(シロヒゲハゲチャビンジジイ)よりリヴァテイン陸軍少将殿(イケメンの若者)の方が遥かに年上で経験豊富で優秀だということよりも、「さっさとくたばれジジイ」「若造め、貴様こそどこぞでのたれ死んでしまえば良い」「どちらが若造だテメェ」「それなら貴様はクソジジイだな。反論は出来んだろう」と目で果てしない攻防を繰広げているからだ。
この攻防が行われるのは決まって俺と総帥殿の秘書を除き誰もいない時だけだ。つまり俺はこの二人からかなり信用されている。
こんな攻防を会う度に行う二人だが、総帥殿は少将殿の方が自分より優秀であると知っているし、自分の引退後は少将殿に演習の総司令官を任せる積もりだったりする。
ようは他者を見極める目はとても良いという事だ。
「……話は変わるが」
総帥の顔が急にさっきのケンカとは別の真剣な表情に変わる。
「貴様等も知っていると思うが、異世界からやって来た連中が今度中央大陸に来る。その後各地を視察するそうだがこのレイス大陸中央盆地の案内は貴様等二人に任せようと思う。特に少将、貴様はこの国でも珍しいエルフだ。そこいらの連中よりこの土地に詳しいだろう。連中の案内を頼むぞ」
「「はっ、了解しました」」
「未だ正式に決まった訳ではないから貴様等に決まり次第追って通達する。以上だ」
その後無事に三日間の演習を終えた俺達は街に繰り出し飲んでいた。
そこで俺達は正式に異界からの客人を案内せよとの命令を受けた。
381 :異世界の戦友 [saga]:2011/07/16(土) 17:36:49.72 ID:eAZ5LfRv0
―――――――ノラリアレイス市街 レイス横断鉄道イラステイン王城広場駅 2/17 07:35―――――――

国賓専用の列車が到着すると車内から見慣れぬ衣服に身を包んだ数十人の集団が降りて来た。
「ここがこの大陸の中心地か、話には聞いていたが……寒いな」
「でしょう、ここは高所であり盆地でもあるため冬はとても寒いですから」
「あなた達が……」
「ええ、今日からの視察に同行し案内役を務めるライル=ブランディーと」
「マクドネル・コナーです」
「ああ、よろしくお願いします。ブランディーさん、コナーさん」
俺達は彼等と挨拶を交わし早速案内を始めた。

視察は順調に進み互いに打ち解け彼等から多くの事を教えてもらった。
彼等の世界の国や都市、言葉や文化、この世界に来て驚いた事や彼等の世界で起こった悲しい出来事。
そして俺達は一人の男と親密な関係になった。飲屋で馬鹿騒ぎをして三人とも店主にボコボコにされる位に。
二週間の視察の最終日
「今度来るときは俺の仲間を誘ってみるよ」
そう言って彼は他の皆と列車で帰って行った。

一ヶ月後、彼はまたやって来た。視察団の一員としてではなく俺たちの友人として。
そして彼と彼の仲間達と俺達は何度も飲み交わし親友となった。
半月後
「じゃあな。ライル、マック元気で。また会おう」
彼等は自分達の故郷へ帰って行った。
彼等がこの世界の命運を握っているとは俺達には知る由も無かった。
382 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/07/16(土) 19:10:28.61 ID:SIhLKU5F0
まずは出会いですね
ファーストコンタクトとしての好感度は理想的な高さ
これからマックたちとどんなドッキドキイベントがあるのか楽しみなところ

文章力とか設定に感服、次の展開が気になります
383 :異世界の戦友 設定 [saga]:2011/07/16(土) 19:29:41.78 ID:eAZ5LfRv0
>>381までの設定を投下
参考にしてください

登場人物

レイス大陸の住人

マック(マクドネル)・コナー(26):人間族、イラステイン人、イラステイン陸軍中尉、実戦経験無、本作の主人公

ライル=ブランディー(170):エルフ族、リヴァテイン人、リヴァテイン陸軍少将、実戦経験無、マックの旧友

イラステイン全軍総帥(?):人間族、イラステイン人、一応イラステインで行われる合同軍事演習の総司令官、シロヒゲハゲチャビンジジイ、マックとライルを信頼

異界人

彼等:異界出身の三人組、マックとライルの親友達、マックとライルは全員の名を知っている

使者の男(?):最初に中央大陸にやって来た異界人、チョイ役、この後出番が有るかは不明


大陸の設定

レイス、ヒールレイス、中央大陸と後二つの計五つ存在
中央大陸には国際議会が存在し各国から代表として議員が三名選出される

国・地域等の設定

ガルランド王国:別名「鋼鉄の岩盤の国」、都はガルリシア、鉱山国、人間・ドワーフが多く住む、レイス大陸北西部の小国、隠れ精錬技術大国

ラーズウェル大公国:別名「癒しの国」、エルフが大半だが大公は人間、姫は人間とエルフの混血、ガルランドの北西の隣国、ガルランドと友好関係、小国だがガルランドと共に最後まで抵抗していた

イラステイン王国:国名の意味は「山の民の国」、都はノラリアレイス(意味はレイス中央北)、中央盆地の北側の国、マックの祖国

リヴァテイン王国:国名の意味は「川の民の国」、都はサルリアレイス(リアレイスラインの南に在るのでこの名)、中央盆地の南側の国、イラステインとは同盟関係、ライルの祖国

レヌリア帝国:かつての超大国、現在も大国、過去に何度も中央盆地に侵攻

エリュオス共和国:世界初の共和制国家、王制時代に何度も中央盆地に侵攻

中央盆地:イラステインとリヴァテインの在る盆地、レイス大陸のほぼ中央から僅かに北に存在、高山植物の花畑が広がりリアレイス草の栽培が行われている

リアレイスライン:レイス大陸中央部から東部を南北に別ける大河、レヌリアの現在の南の国境線でもある
384 :異世界の戦友 設定 [saga]:2011/07/16(土) 19:32:12.12 ID:eAZ5LfRv0
>>382
気に入ってくれて嬉しい
また書き溜めてから投下する
385 :異世界の戦友 設定 [saga]:2011/07/16(土) 19:39:15.67 ID:eAZ5LfRv0
スマソ
忘れていたので>>383に追加

ガルリシア平原:ガルランド内の小さな平原、ほぼ中央の海岸近くに王都ガルリシアが存在
386 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/07/16(土) 20:44:30.21 ID:e8BDNZJDO
質問、剣と魔法の力で動く巨大人型兵器が魔力で宇宙に浮かぶ大地を舞台に戦うって話でもいいの?
387 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/16(土) 20:49:10.18 ID:bIINSp6H0
>>384
乙!異世界との交流か…わくわくする展開だな。続きも期待してますぜ。
>>386
なかなかぶっ飛んだ設定だなぁ。基本は異世界レイスでの物語だから、俺一人の意見では決められん。他の人がおkなら俺も異存は無いが…
388 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/07/16(土) 20:53:26.03 ID:/T6Np1FUo
>>386
錬金術の延長として無理矢理こじつけるのは可能だろうけど
多分フレーバーぶっ壊しちゃうと思う
389 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/16(土) 21:09:24.32 ID:e8BDNZJDO
そっか
>>1の設定範囲外の大陸の侵攻や異世界の登場が大丈夫ならこれもいけそうって思ったんだが
とりあえずやめとくね
390 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/16(土) 21:17:17.00 ID:xHPguKyuo
基本主旨は世界観を共有しようというものだからね
あまりにも他とかけ離れてしまうのは厳しいかなと思う
391 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/16(土) 22:48:40.79 ID:39yHEvX5o
いまwikiみてて思ったんだけど人物集のマルーハちゃんの名前違う・・・
誰か直してとても僕の手じゃ負えられないお
392 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/16(土) 22:48:48.67 ID:P2p2BYqI0
さすがに宇宙を舞台にするのは受け入れがたいけれど、旧暦の、錬金術が失われる前の時代なら巨大人型兵器はあってもいいかと思う
393 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/07/16(土) 22:57:37.50 ID:SIhLKU5F0
巨大人型兵器とか胸厚
それが現代まで残ってて、それを見つけてしまった少年がパイロットになるとかかな?


さてさて
随分と時間がかかってしまったけれどまた一応書けましたので投下させてもらいます
今回はこれまでの話とはかなり毛色の違うものです
更に言うと知識が圧倒的に足りてないので、所々「んっ?」と思う部分があるかもしれません

そこは、まあ、ご愛嬌ということで許してください

これは、まだ物語が始まる前の物語です
394 :わたしと教授の秘境探検記 『外伝』 [saga sage]:2011/07/16(土) 22:59:54.98 ID:SIhLKU5F0
 どこかで女の悲鳴が上がった。一瞬身を竦ませるが、すぐにそれが風で揺れたカーテンの音だと気づく。心臓の鼓動音を掻き消すように一歩
を踏み出す。
 腐った床に破れたカーテンやカーペット、床に散らばる本から小さな虫たちが出て来て我が物顔で這いずり回る。明かりはない。差し込む
月明かりだけが頼りである。
 もう慣れたものだ。しばらく歩いて、歩き方のコツのようなものが掴めるようになった。こういう場所では立ち止ってはいけない。考えても
暗闇はなにも答えてくれないのだ。
 
 ここは我ら大学の『図書室』の成れの果てだ。
 途方もない年月にすっかり蝕まれており、もしも世界中の本好きが革命を起こしたら真っ先に飛びつく場所である。現在は立ち入り禁止。
 こんな陰気な場所、わたしは……しかし、言いつけられてしまったものは仕方がない。
 
 目指すのは図書室の最深部だ。わたしたちの大学は「弱小」なくせして、大きさは半端ない。それは、わたしたちの大学がとりわけ古株だか
らだろう。どうしてここまで寂れてしまったのかが気になるところだ。
 図書室は地下三階まであり、わたしはやっとその最深部まで辿り着いたところだ。そこまで見てくればこの探検もお終い。
 
 まったく、教授も着いてきてくれればいいものの。
 
 後で来るとか適当にはぐらかしてわたしを突入させた。つまり囮にされたのだ。大学教授ともあろう者が、“使われていない図書室から夜な
夜な聞こえる足音”の正体に怖れをなしたというわけだ。実は結構、尊敬していただけにがっかり。
 だいたい足音くらいでビビるなんて、大の大人がしっかりしてほしい。田舎にあるわたしの家など三日に一度は知らない足音が聞こえたもの
だ。
 
 やれやれ。表紙に騙されて残念な内容の小説を読んだときのような気分が、今のこの気持ちを最も的確に表しているだろう。嘆息する。この
図書室も同じだ。いかにも“出そう”な雰囲気を醸しているが、ただそれだけ。ここは忘れられた本たちの墓場でしかない。実際にはなにもな
かった。
 嘆息。一歩。思考。嘆息。一歩。思考。嘆息。一歩。一歩、一歩……
 
 ふと、仄かな明かりが、視界の先に揺れているのを見つける。ランプだろう。恐らくは足音の正体。わたしは本棚の影に隠れ一歩一歩、慎重
に距離を詰めて、そして
 
 凍りついた。
 
 気配に気づいてこちらを見たのは、まるで人間の髪のような黒蛇をわんさか頭に乗せて、むしろ人間のような図体に大勢の虫を引っつけて、
もしや人間なのかもしれないなどと疑ってしまうほど人間に近しい化物だった。
 ギャーーー!! わたしは悲鳴を上げてひっくり返った。
395 :わたしと教授の秘境探検記 『外伝』 [saga sage]:2011/07/16(土) 23:01:09.40 ID:SIhLKU5F0
 時間は遡る――
 
 
  レヌリア帝国 帝都カテドラ エインズワーク魔法大学
 
 選択の地理学の科目は、わたしたちの大学では最も人気がある授業だ。
 
 まずやることが派手だ。教科書などはほとんど使わず、講師自身が自ら出向いて取ってきたその地方特有の生物や鉱物などを持ってくる。お
まけに講師は二枚目だし、その澄んだ声は耳の穴が三倍広がると有名な代物。思わず右耳から左耳まで滑らかに通り抜けていってしまうほど。
 この科目を受けていない同級生たちは涎を垂らして羨ましがり自分の選択を後悔する。受けている同級生は講師のイケメンフェイスに涎を
垂らしながら釘付けである。
 
 しかし、なにか違う。確かに話を聞くだけの睡眠導入講義よりはよっぽど面白い。
 多様な生物とかたくさん見られる。教え方も上手い。
 だけどそれだけのことのために田舎から飛び出してきたのかと思うと……家の裏庭にもそんなのはたくさんいたし、それ単体で見せられても
仕方がない気がする。
 
 それに教授の笑顔には、なんだか影があるように思えてならない。

 だいたい、わたしがあの牛の胃の中みたいに緩やかな時間の流れる、魔力泉が村の中央に残っているだけの黴くさい村を出てきたのは、もっと
別のなにかを求めていたからだ。閉じた世界を捨てていろんなものを見ていろんなものに触れていろんなものを知っていろんな場所に……

 
「起きられますか?」
 
 澄んだ声に耳の穴が三倍広がった。欠伸をして起きると……おやおや皆さんどうしてこちらを見ているのかうふふふふ。教室中の視線がわた
しを突き刺していた。
 どうやら居眠りしていたらしい。涎を拭う。よりにもよってこの講義でとは……ほとほとついていない。
 
 寝惚け頭に教授のイケメンヴォイスが炸裂する。 
「大丈夫ですか? 僕が誰だかわかる?」
「はい……『バーンハート先生』」
「よろしい。頭は大丈夫みたい。体調が優れないようなので医務室へ――誰か付き添いは要る?」
「いいえ。ひとりで行けます」

 特に体調が悪かったわけではない。しかし、わたしは一刻も早く教室を出ていかないと恥ずかしさで身体がポンと破裂してしまいそうだっ
た。
 ――後で僕のところへ来てください、バーンハート教授はそれだけ言うと講義に戻った。
396 :わたしと教授の秘境探検記 『外伝』 [saga sage]:2011/07/16(土) 23:02:04.03 ID:SIhLKU5F0
 わたしはバーンハート教授に呼ばれた教室の前にいた。ノックをしようとすると、中から長髪の男が現れる。こちらを一瞥するとさっさと
歩き去っていった。きょとん。どうしてこの教室の中から? 疑問に思いながら扉をノック。
 
「失礼します、バーンハート先生」
「ああ。よく来たね」

 すっかり遅い時間帯だというのに、教授の笑顔は輝きを失わない。沈まない太陽。眩し過ぎて思わず目を反らしてしまったほどだ。
 
「さっきの人は?」
「ん?」教授は少し考え「ああ、彼ですか。いちおう教授。講師の仕事はしていなくて、研究専門だから、きみが知らなくても無理はないね」
 大学ではちょっとした有名人なんだよ、とピンで空間に留めるようなウインクをした。
 
 椅子に座り向かい合う。教授の顔は眩し過ぎるので床に視線を落とす。
 バーンハート教授は苦笑いして言った。
 
「まあ、そんなに緊張しないで。居眠りくらいで目くじらを立てるほど人間が小さくもありませんから。体調はもう大丈夫そうですね」
「はぁ……はい」
「しかし、どうも集中力が続かないね、きみは。授業はそんなにつまらない?」
「い、いえっ!」慌てて否定する「まさか、まさか、バーンハート先生の授業は、その、とても面白いです。みんなにもとても好評だし」

 教授はよく通る声で笑った。わたしの顔に赤みが差す。しばらく教授はわたしの顔を眺めて、やがてこう切り出した。
「図書室って知ってる?」
「図書室ですか?」ドキッ「はい、知ってますけど……あそこはもう使われてないはず」
「そう。そこに夜な夜なこそこそ忍び込んでる不埒な人物がいるらしい」
「えっ?」
「大学中でもなかなか有名になってる噂。図書室から夜な夜な聞こえてくる足音、って」
「――それで?」
 凄まじく嫌な予感がする。
 
「深夜のパトロール」

 イケメンスマイル! やめて、目に痛いです、目が焼けてしまいます!
 そんな顔でして来てくれるよね、と持ちかけられたらイエスと答えるしかないじゃないですか!
「僕も後で行くから、頼んだよ。入口は南校舎の一階の突き当たりね」
「知ってますよー」わたしは泣き顔で言う「うう、行ってきます」
397 :わたしと教授の秘境探検記 『外伝』 [saga sage]:2011/07/16(土) 23:03:05.05 ID:SIhLKU5F0
 そして現在。
 わたしと化物は限りなく不毛な悲鳴の応酬を続けていた。何故だか化物の方も悲鳴を上げている。しかしそんなことはどうでもいい。わたし
は急いで立ち上がり、図書室を出てバーンハート教授に人型モンスターの存在を伝えなくてはならない。
 立つ。走る。逃げる。
 しかし襟首を掴まれた。離せ、ともがく。力で床へ抑えつけられた。
 
「――待って」

 その右耳から左耳へ貫通して夜空に流星となって消えてしまいそうな声は、
 
 バーンハート先生!――イケメンがわたしを助けに来た。さすがだ。自分の役割というものをきちんと理解しているらしい。
 わたしは抑えつけられながらも、バタバタと陸に上がったサバみたいな動きで全身を使い喜びを示した。それに耐えかねたのか、化物の手が
わたしから離れる。
 そして獰猛な化物が教授に襲いかかり――と思えば、
 
「ハート。こいつが例のあれか?」
「うん。ご苦労さま。それより服にめっちゃ虫がへばりついてる。取った方がいいよ」
「ああ。この虫ども、本の死体に群がってやがる。酷いものだ
 それよりハート、知っているか? さっきこの図書室の歴史を読んだのだが、この図書室が使われなくなったのは、ここで阿呆な生徒が“禁術”
の本を発見し、それを試そうとしたせいらしい。失敗に終わったらしいがな。この荒れ具合は時間のせいだけでなく、そのときの被害もあるの
かもしれんな。よくよく調べてみたがこの虫どもも、どうやら普通のそれではなくモンスターの一種みたいだ――クソ、離れろ離れろ」
 
 ――? どうしてバーンハート教授は人型モンスターと楽しげに話して人型モンスターがモンスターに悪態ついて……わたしにはこの状況が
一部たりとも理解できない。いや、少しだけ理解できる。だけど、だけれど、まさかバーンハート先生はわたしのことを?
「バーンハート先生は知っていらしゃったんですか?

 “図書室から夜な夜な聞こえる足音の正体がわたしだっていうこと”」
 
「……居眠り常習犯は夜の散歩のせいですか。だめだめ、ちゃんと授業を受けないと陰険教授の恨みを買ってこういうことになるからね」
「現行犯で捕まえるために、パトロールなんてお題目をつけたんですね」

 つまらない大学生活。わたしが求めていた刺激は、バーンハート先生の講義にはなく、立ち入り禁止の図書室にあった。タブーを犯すという
快感。わたしは虜になった。そして気がつけば大学中の噂話にまで上り詰めていた。
 気分が悪かったとは言えない。それだけ危険なことはわかっていたが、自分が話題の中心にいるというのはかなりの快感だった。
 
 だいたい、誰に迷惑をかけたわけでもない。散歩のような冒険だったのに。
398 :わたしと教授の秘境探検記 『外伝』 [saga sage]:2011/07/16(土) 23:03:48.59 ID:SIhLKU5F0
「それで、わたしをどうする気ですか?」

 よろよろと起き上がって訊く。
 まさか、黙っててやる代わりに貴様の肉体とたーっぷりお話させてもらおう、とかいう展開はないと願う。バーンハート先生はともかく、も
うひとり――どうやら人型モンスターではなく、さっき教授の部屋から出てきた男らしい。
(これも教授なのか。ネクロマンサーの間違いではなく)こんな奴に軽々しく触れさせられるほど乙女の肉体は安くない。
 
「ふふ」バーンハート教授が不敵に笑う「こうするんです!」

 ペチン――ぶたれた。手加減とかそういうレベルではない。虫を払う――いやもっと、愛しい孫を撫でるおばあちゃんの手のような力加減だ
った。
 思わず「はっ?」と声を出してしまう。もう一匹の教授も戸惑っているようだ。
 教授は相変わらず様になるウインクで答えた。
 
「既成事実です。あなたたち二人、勇敢な二人組に取り押さえられそうになった、図書室の足音の犯人は、最後の抵抗に生徒の方の頬を思わず
殴ってしまった。しかし犯人はさすがに逃げ切れないと覚悟を決め、呆気なく二人に捕まってしまいました」
「おい」ネクロマンサー教授が眉を顰める「お前、それ本気で言っているのか?」
 バーンハート先生は満面の笑顔で答えた。まるで重い荷物を下ろした後の馬のように素晴らしい笑顔だ。それを見てネクロマンサー教授は口
をつぐんだ。
 
 しかし。待ってよ。そんなのわたしは納得できない。つまり教授はわたしの罪を被る、と言っているわけだ。そんなのおかしい。大きな罪だ
とは思わないが、それを他人が肩代わりするというのは気分が悪い。
 バーンハート教授を真っ直ぐ見つめ言う。

「どうして、どうしてっ――そんな、おかしいです。忍び込んでたのはわたしで、罰を受けるべきなのはもちろんわたしで、バーンハート先生
はなにもしてないじゃ」
「悪いね。僕はもう疲れたんだ。講師というポジションに……」
「どういうことですか?」

「きみもきっと感じていたと思うけれど、僕は結構無理をしていました。ああいうのは向かないよ、やっぱり。僕みたいな小手先だけの道化じゃ
駄目なんだ、ああいうのは講義じゃなくて所詮はパフォーマンスの部類。自己満足です。
 本当に人になにかを教えられる人間っていうのはもっと違う。たとえば、足音の正体を探ろうと持ちかけて子供みたいに目を輝かせて二つ返事
する人間とかなんです。自分が本気じゃないのに、なにかを教えられるはずがない」
 そう言ってわたしから視線を反らす。
399 :わたしと教授の秘境探検記 『外伝』 [saga sage]:2011/07/16(土) 23:04:30.61 ID:SIhLKU5F0
「待て」ネクロマンサーが言う「お前、まさか俺に後釜を」
「大学中を騒がせて、挙句の果てに女の子を殴った。講師解任は間違いない。いいだろう、きみは今の今までずっと研究に没頭できたんだか
ら。そろそろ僕と交代してくれよ」
「しかし、俺なんかが講師になったら、教室がすっからかんになっちまうぞ」
「それでも! きみも男なんだから覚悟しなさい」
 ぴしゃりとネクロマンサーの言い分を断ち切るように言う。

 そしてバーンハート教授がわたしに向き直る。
「ねえ、きみ……名前で呼んでいいですか?」
「えっ?」わたしは驚く「だけど、知ってるんですか?」
「『リンスレット・フリア』、名前くらいは覚えてるよ」

 そのときようやく理解した。バーンハート先生は講師として半人前だ。
 
 わたしは苦笑いして、ウインク。
「『リンスレット・フレア』ですよ。リンスと呼んでください」

「あー、やっちゃった。どうかボロを出さないまま終わらせたかったんだけどな。
 ねえリンス、きみはやっぱり僕のことをわかってないと思うから言わせてもらうけれど、僕は別に同情して罪を被るわけじゃないんです。む
しろ僕は卑怯者です。自分が辞めるための口実にきみを利用しているだけでしかない」
「けれど教授は良い人です。それだけは、確かです」
「ハハハ。良い人ですか、それはいい。良い講師と言わないでくれてありがとうリンス」

 バーンハート教授は床に落ちていた本を一冊、拾い上げる。開くと中からぶわっと虫たちが飛び出してきてから、顔を顰めていた。
 
「ここの本と同じです。誰もがみんな、究極的には自分の収まるべき棚があるんです……僕は収まる器でないから、きっと今回の事件がなくて
も勝手に講師なんて辞めることになっていました。いや、間違えた本はきっと、運命という管理人の手で振り落とされるものなんでしょうね」
「そうだな」もうひとりの教授が言う「俺もその器でなければ自然と落とされる。ひとつ棚探しでもするか、仕方なくな」

 バーンハート教授は、わたしともうひとりの教授を見て微笑んだ。
 
「リンス、きみの棚はきっと彼に着いていけば見つかるよ。

 だってきみらって、ぱっと見は違っても、書かれている内容は同じ本なんですから」
400 :わたしと教授の秘境探検記 『外伝』 [saga sage]:2011/07/16(土) 23:06:32.45 ID:SIhLKU5F0
 現在、大学には二つの大きな話題がある。
 ひとつは大学からバーンハート先生が消えて、地理学の講義で見知らぬネクロマンサーが教鞭を振るっていたことだ。このA級ホラーのせいで
半数の生徒が気絶したり、医務室の先生がヒステリックを起こしたりもしたのだが、その話はまた今度にしよう。
 バーンハード先生は教授の名誉を剥奪され、別の大学へ飛ばされた。しかしあの人ならきっとすぐにでも肩書きを取り返すほどの働きをする
だろう。
 大学側も今回のこの劇的な変化を前にした生徒たちの気持ちを斟酌し、今更ながら選択科目を変更することを許した。
 
 半数以上が消えた。けれど、講義を受ける前に変えた連中はどうせ顔しか見ていないのだろう。判断するべき材料は、すべて講義の中で示さ
れるはずなのに。
 まあしかし、講義を受けてから出ていった連中の気持ちはわからないでもない。教科書はバリバリ現役で使われるようになり、どちらかとい
えば睡眠導入講義に変わってしまったのだから。
 今日の講義でもほとんどが船を漕いでいた。わたしも寝ていた。午後の授業はないのでわたしは『図書室』へ行くことにした。
 
 ――あのとき、バーンハード教授に言われた言葉を思い出す。
『もしも、少しでも自分に罰がほしいなら、この図書室の床に溢れた本たちを再び、元の場所に戻してあげてください』

 それからしばらく時間をかけて図書室は見事に復興していた。まだ使用するまでには至らないが、これからも清掃を続けていけばいずれは開
放できるだろう。
 もうひと月もすれば図書館が使用できるようになる――本当かどうかはいまいちだが、それがバーンハート教授の大学からの脱退と並ぶ話題
である。

 図書室には既にネクロマンサーが来ていた。
「ん? なんだお前か」
「お前とか言わないでください。わたしはリンスレットです」
「俺に名前で呼んでほしいとは、一生徒がおこがましいわ」

 こんな性格だ。嫌われても文句は言えない、ちなみに既に学部内ではネクロマンサーは彼の正式名称に認定されている。流行らせたのはもち
ろん、わたし。 
 わたしはイーッ、と歯を剥いた。
 
「わたしだってあなたのこと、『教授」なんて呼びませんから!」
「おうおう。頼まれたって呼ばせねーよ」
「なによ。生徒からの支持率5%未満のくせして。センセー、授業がつまらないときはどーすればいーんですかー?」
「知るか。自分で考えろ、そんなもの。だいたい今までの俺は手加減していたにすぎない。お望みなら明日からでも噴火間際の火山にピクニッ
クしに行ってやろうか?お前のような軟弱な女にはとても耐えられないハードな内容にしてやる!」
401 :わたしと教授の秘境探検記 『外伝』 [saga sage]:2011/07/16(土) 23:07:29.17 ID:SIhLKU5F0

 これは、まだわたしがリンスと呼ばれていなかった頃の話で
 
 
「「なにを〜」」
 
 
 これは、まだわたしが教授と呼んでいなかった頃の話で
 
 
「「フン!」」


 これは、まだ物語が始まる前の物語
402 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [saga sage]:2011/07/16(土) 23:11:45.74 ID:SIhLKU5F0
ということでお終いです

最後まで題名をどうしようか迷っていましたが、とりあえず『外伝』にしておきました
時系列は「秘境探検記」シリーズでは最初にあたります

今回はかなり自己満足なものなので、幸か不幸かあまり設定も残せませんでした
403 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/16(土) 23:14:52.17 ID:39yHEvX5o
>>402
乙カレー!
このシリーズ大好きなのに終わっちゃうのか・・・
404 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [saga sage]:2011/07/16(土) 23:17:52.65 ID:SIhLKU5F0
>>403
終わるわけではありませんよー
だけど後数作投下して、そろそろ一区切りつけるつもりです
別のアイデアも考えているので
405 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/16(土) 23:18:42.54 ID:39yHEvX5o
勘違いでしたかwwwwwwwwwwwwwwwwwwそうですかwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
406 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga sage]:2011/07/16(土) 23:34:39.09 ID:oEdpFsXt0
>>402
乙です。
教授との出会いにこんな裏話があったとは。
しかし、ネクロマンサーとは色々誤解を与えそうなあだ名だなぁw
407 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2011/07/17(日) 01:06:36.88 ID:FxAUT++30
完成したので投下致します。

魔法の世界っぽい道具を追加してみました
408 :着物の娘 [saga]:2011/07/17(日) 01:07:09.33 ID:FxAUT++30
レヌリア帝国領  港町ヴァッサー

レインチルダ学院
「よぅ、着物は見れたか?」
席についた途端親友のホビット、ソルトに話しかけられる。
「いや、父さんは商談にでていて、着物を家で扱ってるか聞けなかったよ」
「そっか……じゃあ、転校生の着ている物を見て判断するしかないか」
僕の返答にソルトはそう言いながら席へと戻っていく。
鞄の中から教科書を取り出しながら、周辺に居る学友達の話に聞き耳をたてると、
やはり今日転校してくる着物の子についての話題で持ちきりのようだ。
「なあ着物ってどんなもんなんだろうなぁ?」
「俺たちの着ている服と、どう違うんだろう」
僕達が一般的に着ている服は、主に羊の毛やモンスターの体の一部を切り出して
加工したりしている。
他にも綿毛とか麻とか色々と服の材料はあると親に聞いた事がある。
「皆さん席についてください!転校生の紹介をしますよ」
教科書を机の上におき終えた途端に現れる教師。
僕と同じエルフである先生は、教室のざわめきが静まるのを待っていた。
「では、紹介します……この地より西方の島からやってこられた。
 獣人のミヤビさんです」
ミヤビと呼ばれた転校生が教室に入ってくると、僕はその異様な格好に目を奪われた。
彼女が身に纏っていた上着は、いままで僕が見たことのないような刺繍が施され、
服自体も胸の辺りは黄色いのだが、袖の部分にいくにしたがって紫に近い色になってゆく。
これは相当な身分の商人の子供がやってきたんだな……僕はそう思った。
何故なら、彼女が身に纏っている服は貴族の貴婦人が着ていてもなんらおかしくはない出来だからである。
もっともあのような服を身に着けて社交界に出席すれば、良い意味でも悪い意味でも人目を引くのだろうなぁ…
409 :着物の娘 [saga]:2011/07/17(日) 01:07:55.40 ID:FxAUT++30
「雅と申します……こちらに来て日は浅いためよろしくお願い致します」
ペコリと頭を下げたミヤビは、先生に言われた席に向かい歩き出す。
そして僕はまたも衝撃を受ける。
彼女は、スカートを履いていないのだ……。
代わりに長めの上着が下半身を少し覆っているだけ。
もしかしたら彼女は露出癖があるのだろうか?
流石にそれはないと思いたいのだが……でも、彼女の履いているパンツは正直気になる。
やはりパンツも見慣れない(植物の葉?なのだろうか)刺繍が施してあるのだろうか?
「あの転校生すっげぇなぁ〜なあコール、あの服はお前ん家で扱ってるか?」
「いや……僕は見たことがないよ、今日始めて見た」
ソルトの質問に、僕は素直に答えを返す。
物心ついてからあのような服は見たことがないと、言い切れるからだ。
「そっか、お前ん家でもないのか……」
「もっと上の商屋に行けば取り扱ってるかも知れないが……
 明らかに貴族や王族御用達レベルだね……とてもじゃないが、父の店では取り扱えないよ」
「って事はあの子はそんだけ格式高い商家の娘さんって訳か……」
「それとも、着物をこちらの貴族や王族に広めようと、西方の商人が態々ここまでやってきたのか……
 謎は尽きないね」
「態々やってきたとしたら、かなりの大金持ちになれるだろうなぁ……貴族ってのはああいう珍しい物が
 大好きな奴って多いし」
「それだけ金があるって事だろ」
僕の返答に、ソルトは小さく笑いながら頭をぽりぽりと掻く。
その拍子に僕の机の上に彼の茶色い髪の毛が2本落ちたが、僕は彼に気づかれないようにそれとなく
抜け落ちた髪の毛を床に払い落とす。
410 :着物の娘 [saga]:2011/07/17(日) 01:08:32.78 ID:FxAUT++30
毛で思い出したが、僕はミヤビのような黄色い毛を主とした獣人を見たことがない。
というより彼女のような種族を見たことがない。
獣人の中には犬や猫、ヤギや羊、兎等色々な種族が居るのは知っているが、
彼女は一体なんという種の獣人族なのだろうか?
犬に近いのかな?とか僕は思考を巡らせる。
「ねーねー、貴女の履いてる下着ってなんていう名前なの?」
教室にいた獣人族の女の子がミヤビに下着の事を尋ねていた。
いつの間に下着を見たんだ!?とか思っていたが、椅子に座っているミヤビを見たら普通に見えた。
たしかにあのような下着は見たことがない……いや、ある水着にああいう似たような物があったな。
父さんが雇っているメイドにあんな感じの紐っぽい水着を着せていたっけか……
その後母さんに見つかって打ん殴られていたが。
「これは褌というものだ。こちらでいうパンツと同じ役割をするものだ」
「へぇ〜そうなんだ」
「フンドシだってよ、面白い名前の下着だな」
「よくよく考えるとパンツも結構面白い名前だと思うけどね」
僕の返答に、ソルトはそれもそうだと小さく笑いながら言う。
それから1時間程は、教室内で彼女に対して自己紹介をしたりする時間が与えられ
僕もソルトも彼女に簡単な自己紹介をした。
411 :着物の娘 [saga]:2011/07/17(日) 01:09:18.87 ID:FxAUT++30
自己紹介が終わる。
これでようやく授業が始まる。
そうすれば、私を見る幾多の二つの珠が少しは減るだろう。
「では、今日は135ページの『魔水晶』について勉強をいたしましょう」
魔水晶?初めて聞く名前だ。
私は急いでページをめくり、135ページに目を通す。
『魔水晶とは特別な水晶の中に魔力を閉じ込めた物で、宿した属性に従い色も変わる不思議な水晶である。
 たとえば、火属性を宿した水晶は赤くなり、水属性を宿せば青くなる。
 土なら黄、風なら碧、光なら白、闇なら黒と非常にわかり易い』
「では、先生が実物を使って水晶の力の極一部を御見せしましょう」
ページを読んでいると、教師が青い水晶を取り出した。
私はこれから何をするのか興味がわき、青い水晶を見つめる。
「では!」
教師の掛け声と共に水晶が薄く輝き始め、水滴が水晶から垂れ始める。
そして、垂れた水滴が教卓の上で氷の塊になっていた。
島に住んでいたため大陸の技術には非常に疎いが、こういった技術を見ると
大陸の魔術の発展は非常に進んでいると思う。
私も欲しいな……。
そんな事を思っていると、茶色い髪をしたホビットが教師に値段の質問をした。
「先生!それって幾らぐらいするんですか!?」
「そうですね、これは魔力を閉じ込めただけで一切加工はしてないので値段はつきません。
 というか市場には出回りませんが、加工をした水晶……『水晶具』は物にもよりますが
 一番安くて金貨20枚はしますね」
金貨20枚、高すぎる。私は最高で銀貨1枚を持った事しかない……。
仕方がない、水晶具は諦めよう。
412 :着物の娘 [saga]:2011/07/17(日) 01:09:59.34 ID:FxAUT++30
それから教師は、水晶具の説明を始めた。
永遠に手にする事はできない代物だと思うが、説明自体は非常に面白かった。
「水晶具とは先ほどの水晶を加工して作られた代物で、一般的には指輪とか腕輪、
 剣の柄とかに埋め込まれています。
 高位の軍人さんの持っている剣の柄に綺麗な石がはめ込まれてるのを見たことがある人も
 いると思いますが、あれが水晶具です。
 次に、皆さんの中に将来水晶具を持つ事がある人が必ずいると思うので、水晶具の注意点も
 説明させていただきます。137ページを開いてください」
私は137ページを開き、目を通す。
「水晶具は、実は二つの物を身につけるが非常に難しいです。
 先天的に魔法の素質がある人は、二つの水晶具を身に着けて水晶具の力を引き出すことが可能ですが、
 素質のない人が二つの水晶具を身につけて力を引き出すと、お互いの力が反発し合い
 不発してしまうか、最悪水晶具が壊れてしまう事があります。極稀に成功する事がありますが、たいていは不発
 してしまうので、水晶具を身につけて力を引き出す際は注意してください。
 逆に先天的に魔法の素質がある人は、本人が魔法を扱うのが上手くても下手でも二つ操る事ができるんです。
 あ、ちなみに先生は素質がないです」
そう言いため息をつく教師。
なにも生徒の前で態々ため息をつかなくてもいいと思うけど、よっぽど残念なのだろう。
それから水晶具の歴史について講義が昼食の時間まで続いた。
昼食の時間は、私の生まれた場所や身につけている服等について色々と質問をされた。
大陸外からきた私が珍しいのだろう……。
やたらと質問攻めをしてくる彼等を少々うっとおしく思った。
そして同時に私の住んでいた島に彼がやってきた時、もの珍しさから様々な質問をしたのを思い出し
彼もこんな気持ちだったのだろうか、と思っていた。
……帰ったら聞いてみよう。
413 :着物の娘 [saga]:2011/07/17(日) 01:12:27.88 ID:FxAUT++30
今回の投下はこれで終わりです。

水晶具を反魔力に近づけるのは駄目絶対。
爆発して体の部位の一部を失いますよ。
414 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/17(日) 01:20:10.80 ID:CvJct2P7o
>>413
乙カレー

みてて思ったんだが、そういえば通貨ってどんなものなんだろう。
金貨、銀貨なら、それに彫り物があるんだろうし、紙幣はどうなんだろう。
思いは募る
415 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/17(日) 02:29:00.53 ID:NFXROdpI0
>>413
otuだよー
着物を着た獣人の少女……ジュルリ…

>>414
紙の印刷技術があるかどうかだろうなぁ。まあ硬貨なら金貨は君主の横顔で銀貨は国家を象徴する
植物とかを彫るだろう。銅貨はよく知らないけど。
416 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/17(日) 03:08:29.19 ID:H2gOZdw00
>>413
乙です
魔翌力を宿していない魔水晶も流通していないのかな?


>>415
『わたしと教授の秘境探検』では新聞が流通しているようだし、同じ時代では印刷技術は発達していると考えていいと思う
国だって安定しているだろうし、紙幣が発行されていてもおかしくない
417 :異世界の戦友 設定 [sage saga]:2011/07/17(日) 08:02:21.87 ID:z+cu54Sg0
>>385です
ラーズウェルの位置をガルランドの北西から北東に変更
本文とまとめを脳内補完しておいてください

リアレイス草:貴重な薬草、魔法薬や錬金術の素材、これから作られる魔法薬はとある事情で世界中で必要、中央盆地のみ栽培可能
418 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/17(日) 11:51:47.75 ID:NFXROdpI0
一つ書けたんだけど投下しても良い?
419 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/17(日) 12:04:54.24 ID:NFXROdpI0
返事がない、ただの屍のようだ。
そんじゃちょっと投下させていただきますぜ。
420 :語り継ぐことを許されなかった遥か昔の物語 [sage saga]:2011/07/17(日) 12:07:00.33 ID:NFXROdpI0

深影の大陸という名をご存じだろうか。

そう、遥か昔に繁栄を極め、しかし神々の怒りに触れて滅び去ったというあの大陸だ。

そこから逃れてきたという少数のエルフの内の一人が、死の間際に私に譲ってくれたものがある。

それがこの古びた日記帳だ。何冊かある内の一つ、赤い背表紙のものを手にとってみる。日記帳、とは言うがその分厚さは百科辞典をもはるかに凌ぐ。

よほど長い間書き綴ったのだろう。とはいえ、その中身はかなりの部分が茶色く変色していてほとんど解読できないのだが。

表紙には流麗な古代文字でただ『日記』とだけ書かれていた。

考古学の学者である私は、その中身を頭の中の知識と照らし合わせて現代語訳していく。



それはこんな風に始まっていた。
421 :語り継ぐことを許されなかった遥か昔の物語 [sage saga]:2011/07/17(日) 12:08:37.49 ID:NFXROdpI0
(勇士の日記)

時々、私は皆が考えているような人間では無いのではないかと思うことがある。

勇士たる私が顕現した今こそが城壁の内から打って出るときで、徴とも一致していると、哲人や賢人たちは私に言って聞かせる。
 
それでも、私は悩んでいる。

本当は私は勇士などでは無いかもしれない。

どうしてか彼らは間違って私のような男を選んでしまったのではないかと、そんな考えばかりが私の頭の中をぐるぐると駆け巡っている。

あまりに多くの人々が私を頼りにし、予言の言葉に縋り付いている。

しかし実際のところ、私はただの農夫の小倅に過ぎない。期待されているような力など何一つ持たない凡夫なのだ。

彼らは私の中に潜む、虚偽と堕落の影を見てとることが出来ないのだろうか。



彼らは本当に私が魔王討伐の使命を神より与えられた勇士だと信じているのだろうか。

422 :語り継ぐことを許されなかった遥か昔の物語 [sage saga]:2011/07/17(日) 12:10:19.11 ID:NFXROdpI0

美しい秋晴れに似合わず世界の終焉は近い。魔王とその眷属の勢いはいや増し、

もはや単一の種族ごとの攻撃では太刀打ちできない程に強大になっている。

そんな情勢の中で、この大陸に住まう魔族以外のあらゆる種族が同盟を結ぶに至った事は近年では珍しい朗報であろう。

とはいえ、魔王の軍勢と対等にやり合える程の戦力をすぐにでも用意できたのは人間とエルフの2種族のみであるのだが。

ドワーフは各地に散在しているために集結に時間がかかり、この場にいるのはごく少数のみ。

ホビットは体格の小ささから最前線で戦うのには不向きである為、補給線の確保など後方支援に徹している。

私の親友、エルフ族の王子であるグローフェンドとドワーフ族の族長であるギルワイムは私の床几の左右に侍り、

相対する魔王の軍勢に連合軍をどうぶつけるかで口論をしている。

グローフェンドの言い分はこうだ。
「敵は必ずいくつかの部隊を後方からの奇襲に使ってくるだろう。我が方も軍の一部隊を後方の警戒に残すべきだ。」

もう一方のギルワイムの言い分はこうだ。
「敵は雲霞の如き大軍勢、こちらの全軍をもって当たらなければ撃破はおろか互角にやり合うことも難しいだろう。ここは一気に総攻撃をかけるべきだ。」
 
423 :語り継ぐことを許されなかった遥か昔の物語 [sage saga]:2011/07/17(日) 12:12:19.27 ID:NFXROdpI0

どちらの言い分も的を射ている。

魔王は狡猾で強力であり、全力で戦いつつ背後も気にしなければならない。

わたしがここに留まっていれば魔王の手下たちも下手にこちらを攻めることは出来ないだろうが、私はここに留まることは出来ない。

というのも、私の使命が魔王の軍勢を殲滅することでは無いためだ。

グローフェンドとギルワイムを信じて、この場は任せるほか無い。

我が使命は滅びの危機に瀕する世界を救済することだ。

そのために私は探求の旅を続けなければならない。私の中に眠る力を覚醒させると予言にあった、ある場所に向かって。

その場所はここから遥か北方にある。伝説の眠る地、カハル。

錬金術が著しく発達し、魔法との区別すら曖昧になってしまったこの時代に『伝説』などとは、時代錯誤も甚だしいと

常人ならば鼻で笑うだろう。

私自身でさえ最初にその話を聞いたときは呆れてしまったのだから無理もないことだが。

しかし我が友グローフェンドの父であり、私を勇士であると断定したエルフ王クウェンヤダールの話によれば

彼の地には古き神々の力を封じた巨大な魔力泉が実際に存在するという。

数千年に一度顕れるというその魔力泉に封じられている力を私が取り込めば魔王とその眷属を滅ぼすに十分な力が手に入る。

少なくとも予言にはそうある。

しかし予言は、私がその力を取り込めば世界を救済することも破壊することも自在になるのだと仄めかしている。
424 :語り継ぐことを許されなかった遥か昔の物語 [sage saga]:2011/07/17(日) 12:13:36.50 ID:NFXROdpI0

過ぎた力は災いを招くのみだ。それが神々の力であるとするなら尚更のこと。

これを読む者があれば警告しておこう。

力を求めてその軛につながれることなかれ。

とはいえ現実の脅威がすぐ身近な所まで迫っているとするならば、その力が後になっていかなる災いを招くとしても使わざるを得ないだろう。

残念な事ではあるが、人は世界の命運が問題となるとき、使えるものならばなんであれ使うものなのだ。

ともあれ私は我が朋輩の予言者に事の次第を伝えた。彼、獣人の一族出身の予言者グリムは私の探求の旅に最初に参加した仲間である。

農夫の小倅に過ぎなかった私を勇士に祭り上げ、人々にもそれを認めさせた男だ。

彼の助力なしにこの旅を完遂することは難しいだろう。そんな予感がする。

実際、伝説の眠る地カハルは、彼ら獣人たちの故郷だ。

彼の地では今まで以上にグリムの力を借りる必要があるだろう。

時間は限られている。破滅の刻限が迫っている。急ぐ必要があるだろう。

魔王が世界を破壊し尽くすその前に神々の力が眠っているとされる場所にたどり着かなければ、この世界には骨と廃墟しか残りはすまい。

425 :語り継ぐことを許されなかった遥か昔の物語 [sage saga]:2011/07/17(日) 12:15:01.15 ID:NFXROdpI0

この旅はどこかの国の王や皇帝が始めた訳ではない。

大いなる国の首都から華やかに旅立った訳でもない。

この事実は人々に記憶されるべきだろう。

それはどうということのないちっぽけな農村に住む若造によって始められた。

それはこの私から始まったのだ。
426 :語り継ぐことを許されなかった遥か昔の物語 [sage saga]:2011/07/17(日) 12:16:19.18 ID:NFXROdpI0

時々思うことがある。あそこに留まっていたらどうなっていたろうかと。

私の生まれ育ったあの退屈な村に。

恐らくは父の跡を継いで私も農夫になっていただろう。

農場で朝から晩まで働き、村娘の誰かを娶り、子供も授かっていたかもしれない。

そして他の誰かがこの重責を担うことになったろう。私などよりずっと上手く担えるだろう者が。勇士に相応しい人物が。
427 :語り継ぐことを許されなかった遥か昔の物語 [sage saga]:2011/07/17(日) 12:18:33.29 ID:NFXROdpI0

物事を正しく観るならば、私の幾度かの結婚は、諸王たちとの間に血の流されぬ結びつきを与えることになり、

それよりはるかに多かった敵対国の討伐も、来るべき魔王との決戦に備えて、

全世界を統合するという我々の究極的な目的の為の足がかりとなるものであった。

だが、一体私以外の他に誰がこんな後付けの言い訳で納得するというのか。

明らかに私は勇士の使命から逸脱している。予言には、勇士が世界を制覇するなどとは一言も記されていないのだ。

今や私は周囲から大帝陛下と呼ばれるようになっている。

世界統一を果たした私に対する皮肉だろう。私が勇士としての本来の使命から逸脱して行動している事に
一番胸を痛めていたのは私の旅の仲間たちであったのだから。

おそらく影では私のことを予言を盾にとった圧制者か、血塗れの暴君とでも呼んでいることだろう。

別にそれでも構わない。私の目的は人類の、いや魔族を除く全種族の存続を確実にすることであって、人々からの支持を得ることでは無いのだから。


428 :語り継ぐことを許されなかった遥か昔の物語 [sage saga]:2011/07/17(日) 12:20:02.22 ID:NFXROdpI0

私は昨日、許されざる罪を犯した。

旅の仲間の一人を殺めてしまったのだ。

今までのように事故のために失ったのではない。私がこの手で殺したのだ。

彼女を生かしておくことは出来なかった。あのまま放置しておけば取り返しの付かない事になっていただろう。

だが、彼女を殺したことが本当に正しい判断だったのか自分でも分からない。

彼女、エイダは私の旅の仲間のグリムの同輩で『探索者』の一人だった。

その彼女が旅の途中に突然私を勇士などではないと言い出したのだ。

いやしくも『探索者』の一人がそう断言したのだ。私が率いていた旅の一行は大混乱に陥った。

その混乱を収拾するためには、彼女を黙らせるほか無かった。

二度と世迷い言を吐けなくなるように。

しかしグリムは私のこの処置に不満げであった。当然だろう。

グリムとエイダは将来を約束し合った仲であったのだから。

429 :語り継ぐことを許されなかった遥か昔の物語 [sage saga]:2011/07/17(日) 12:21:56.91 ID:NFXROdpI0
とりあえずここまで。半分終わりです。
全部投下しようとしたら時間かかるので、後半はまた別の機会にでも。

あとこの話の時代設定はかなり昔です。御影の大陸にまだ文明があった時代の話です。
430 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/07/17(日) 12:37:36.19 ID:km9KapAdo
投下作品を書くときに一番難儀するのは、どうやって短くするかだもんな……
431 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/07/17(日) 15:33:37.13 ID:X+NhBmk90
乙です!

身分相応な力を持った人間は壊れてしまうわけですね
非道勇者は果たしてその汚名を雪ぐことができるのかな?
432 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/07/17(日) 15:54:41.04 ID:X+NhBmk90
ひとつ書けたので四時から投下しますが構いませんかね?
433 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/17(日) 15:59:26.27 ID:ZChcFW950
かまいませんとも
434 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/07/17(日) 16:00:26.01 ID:X+NhBmk90
それでは投下させてもらいます
435 :クレセント [saga sage]:2011/07/17(日) 16:01:57.31 ID:X+NhBmk90
 ――これは、悪夢?
 
 とうとう『ライザール』は敵兵の侵入を許してしまった。今までかろうじて持ち堪えていた体勢が一気に崩れる。味方兵たちの士気も既に
限界だ。
 反抗の気力は蛮行の前に踏み潰される。それは既に戦争ではなく、虐殺と呼ばれる部類のものだった。敵兵が死屍累々を踏みしだきながら、
それを更に生み出していく。
 
 ひとりのドワーフ――まだ子供だ。彼はドワーフの死体に埋もれながら、この凄惨な画をひたすら目に焼きつけていた。隠れ蓑にした死体
は、彼の母親のものだった。重さは意外なことに感じず、ただ身体を守るように濡らす温かな血の味と匂いと感触だけが、彼の意識を現実と繋
ぎ止めている。
 ふと、敵兵のひとりが視線に、ドワーフの子供の存在に気がついた。
 
 一歩、一歩――段々と近づく死神の足音。ドワーフの子供は虚ろな目で追い、そして
 
 どこかで牝馬の泣き声のような号令が聞こえた。
 
 それは戦争終結の号令である。やっと、ライザールは負けを認めたのだ。敵兵も子供へ向かった足を止める。そしてなにかを探すように空を
見上げた。
 そこには、人間から兵隊になる過程で預けておいた、人間らしさとか心とか呼ばれるなにかがあるのかもしれない。そうでもなければ無表情
に人を切り殺せるわけがなかった。
 ドワーフの子供もそう考えて空を見上げた。
 
「おいドワーフのガキ」敵兵が笑う「そっちじゃねーよ」
 子供は首を傾げる。
 敵兵は真上ではなく、遠くのライザールの城よりも遠くを指さした。しかし死体の下敷きとなっているせいで、上手く見えない。仕方なく
敵兵がその中から彼を引き摺り出し、肩車をした。
 
「見えるか? あの火山? 『カルラ火山』って呼ばれててな、噴火ばっかしてて周辺の住民たちをいつも困らせてるんだ。むかつくだろ」
「でも、レヌリアだって同じ」
「かもな」敵兵が苦笑いする「あー、どうして俺はこんなことしてるんだか……
 お――ッ!? 見ろよガキ、……見えるか? 火山の溶岩が月にかかって、ヘヘ、まるであの赤い三日月が噴火のせいでそうなってるみたい
で、おもしれぇぜ」
 
 ドワーフと人間が決定的な溝を作ったのは、普通は『青の三日月事件』が原因だと言われている。しかし、本当は『赤の三日月戦争』の時点
でそこには決定的な溝が出来ていたのかもしれない。
 
「アハハハハ! 故郷のガキンチョたちも見てんのかな」
 
 火山が噴火する轟音が聞こえた。空に浮かぶ赤い月がやけに印象的だった。
 『グレゴリー・ミシェロビッチ』は、今でもそのときのことをよく夢に見る。火山も三日月も敵兵も、なにもかもが遠くのことに思えた
あの、すべての始まりを……
436 :クレセント [saga sage]:2011/07/17(日) 16:03:07.68 ID:X+NhBmk90
 ――それから約二十年後 ライザール王国 酒場『ヴァニッシュ』
 
「グレゴリーさん、どうかご決断を!」
「しかし、そう言われてましても――『カルロス』さん? ワタシとしてはどうも納得がいかないのです。どうして今更なのでしょうか? もう
赤の三日月戦争から約二十年が経とうとしています。征服されているとはいえ、今はそれなりに平和ではありませんか」
 
 もちろん搾取されるというデメリットに目を瞑ればの話だが。しかし、
 グレゴリーは目の前の人間の男を見る。実直で真剣そうな黒い瞳、鉄の剣が人間となればそのまま彼になるのだろうと思わせるほど、鍛え抜
かれた肉体。
 
 赤の三日月事件以来、ドワーフたちは人間と少しずつだが着実に距離を取り始めた。彼らの少数は街から出ていき、半数近くが採掘現場の近
くに集落を作り、人間たちとの交流も少なくなっている。
 現にグレゴリーも採掘現場の近くに居を構えている。しかし、ライザールには頻繁に出かけており、人間の顔見知りも少なくはない。
 こうして今日も街へ鉱物を運ぶついで、知り合いの元に足を運んだのだ。
 
 カルロスが持ちかけたのは、数ヵ月後に採掘現場の視察に来るレヌリアの要人を人質に取り、ライザールの独立を認めさせる、という作戦だ
った。
 街全体で協力すれば、本気でレヌリアに打ち勝つことができると思っているのである。
 無謀だ。その程度で落ちるほどレヌリアは脆くない。

「しかし要人は『インペリアルガード』に守られています。彼らを捌くだけでもかなりの血が流れることでしょう」
 インペリアルガードは帝国が誇る最強の特殊部隊である。要人の護衛には間違いなく、彼らが引っ張りだされる。ドワーフなど髭の量くらい
でしか勝ち目がない。
「それに関しては大丈夫です。『クルス・ガンドッグ』を?」
「いえ。聞かない名前ですね」
 カルロスが熱を込めた口調で説明する。
「弱冠十八歳にしてライザール随一の剣の使い手。その腕を見込まれてレヌリアがスカウトしたんです。インペリアルガードにね」

 カルロスが悪戯気に笑い、グレゴリーが目を見開く。
「つまり、その、クルスさんに頼むわけですか?」
「ええ。今までの働きで信頼は充分に得ていますからね。今回の視察の護衛に抜擢されました。前代未聞の事態ですが、これを利用しない手は
ない。頼みますグレゴリーさん! 運命の神が我々に微笑んでいるんですよ、今しかチャンスはないんです」
 
 カルロスは『クラフター』の幹部であるグレゴリーを納得させれば、ほとんどのドワーフが仲間になると思っているのだろう。しかし、今の
ドワーフたちは人間に少なからずの反感を持っている。グレゴリーに従う者も多いだろうが、反対意見も少なくないだろう。
 ――だいたい、ワタシ自身、人間のことは
 
「とりあえず、今日、仲間と一緒に相談します。明日には返事を」
「わかった」クライブが答える「よい返事を待っています」
437 :クレセント [saga sage]:2011/07/17(日) 16:04:32.29 ID:X+NhBmk90
 黒斑点の模様を持つ犬が駆け抜ける。その後ろを追うのは街の子供たちで、両手には山ほど石を抱えている。それを見た花屋のおばさんが嗄
れた声で叱りつけるものの、既に子供たちは遠くに行ってしまっていた。
 そのとき、豪華な馬車が道を荒々しく駆け抜け、外に置いてあった花屋の植木鉢をなぎ倒していった。やるせなくなったおばさんは荒々しく
店を閉めて中に籠る。
 
 ライザールの町並みは、レヌリアの支配下に置かれて以来、どこか枯れていた。グレゴリーは子供の頃の記憶を頼りに、その比較をしようと
するが、上手く思い出せずに諦める。
 思い出せないのはきっとそんなものが存在しないからだ、そう結論をつけた。
 
 ――しかし、どうしたものか。
 仲間たちはなんと言うだろうか。反対だけならまだしも、それが切っ掛けでドワーフと人間との縁が本当に立ち切れてしまうのではないか。
そんな心配がぐるぐる渦巻く。

 人間とはなんだろう。グレゴリーはときどき考える。彼らも同じ大地の上に生きし者である、などという簡単な問いではない。
 思い出されるのは赤い三日月が空で笑っていたあの日のこと。終戦の号令が鳴ったとき自分を殺そうとした敵兵があんなに表情豊かに笑って
いたこと。あのことを思い出す度に、人間は自分たちとは全然違う価値観を持つ生物ではないか、とよく感じるのだ。
 
 グレゴリーに人間の知り合いは多くいる。しかし、どうしても彼らを友達や仲間だと思うことはできないでいた。
 
 ――クルス・ガンドッグでしたか。あのカルロスが珍しく熱を込めて語った人物の名は。ライザール随一の剣の使い手か知らしいけれど、要
は人を切るのが上手いというだけの話ではないのか。それをカルロスは英雄の逸話を語るような口調で……
 グレゴリーが英雄という単語で思い浮かべるのは、もちろんドワーフの英雄『鉄の騎士ベクメル』である。エリュオス建国に一枚買った男で
あり、自分の祖先でもあるらしい。
 
 しかし自分はどうだろう、グレゴリーは思う。ただ鉱物をとるだけの日常、支配されたライザールを捨てて呑気に暮らす自分はとても英雄な
どではない。真の英雄なら……

 ふと、視界の端で嫌なものを見た。まだ髭も生えてない年齢の少年たちが、ポニーテールの少女をぐるりと囲んでいる。少女の怯えた表情で
すぐにグレゴリーは理解した。
 それはいじめと呼ばれる行為だった。
 グレゴリーは子供が好きだ。大人のようにややこしい知恵がない分、なにかを疑うことがない。彼は何事も実直なのが好きなのだ。
 
 ――子供を殴るのは気が引けますが、教育には愛の鞭が必要不可欠です。
438 :クレセント [saga sage]:2011/07/17(日) 16:05:29.53 ID:X+NhBmk90
 少年たちの間に割って入ろうとしたグレゴリーは、しかし、自分より先に反対側の道から飛び出してきた黒い影に気がつく。
 黒いマント。まるで影から飛び出してきたような陰鬱なオーラを纏うその男は、少年たちのひとりの襟首を掴み上げて静かに言った。
「俺は弱い者いじめが嫌いだ」

 少年たちがわなわなと震えている。悪魔のような相貌の男がミスマッチなことを言ったからではなく、その鋭い眼光がこれからの運命を語っ
ているような気がしたからだ。
 それからは早かった。逃げようとする少年たちを男はひとりも逃さず、その場で、石畳の上で座らせた。それからぼそぼそと聞き取りずらい
声でひたすら、少年たちが反省しましたと涙を流しながら言っても無視して、延々と説教を続けた。
 
 めちゃくちゃな男だ、グレゴリーは思った。しかし同時に手を叩いて髭を抜いて賞賛したい気持ちにもなった。取っ払うだけでなく、ちゃん
と教育をしているところがいい。

 説教が終わる。少年たちが一目散にその場から立ち去った。囲まれていた少女はぽかんと口を開けて一連の流れを見守っていた。そして男
は、ぽんと少女の頭を軽く叩いてそのまま歩き去っていくところだった。
 慌ててグレゴリーは男の前に飛び出す。
 
「すみませんが、見させてもらいました。……その、勇敢なお方ですね、感動しました。どうか、ワタシにお名前だけでも教えさせてもらえま
せんか?」
 グレゴリーは最初、男の名前を聞く気はなかったのだが、あまりにこの頬を染めて男を見上げるる少女が不憫に思えたので、そう助け舟を出
したのだ。
 名前を聞いておけば、いつでもお礼を言いに行けるはずである。それにグレゴリー自身もこの男の名前が少し気になる。このような男なら顔
見知りになってみるのも面白いかもしれない、と考えたのだ。
 男は目をぱちくりさせながら、小さな声で告げた。

「クルス――クルス・ガンドッグだ。あんたは?」
「わたしはグレゴリー――グレゴリーミシェロビッチです。よろしくクルスさん」

 ふたりはがっちり硬い握手をした。お互い、聞いた名前だと感じたかもしれない。片や技術集団クラフターの幹部、片やライザール随一の騎士。
 しかし、そんなことは関係ない。横で必死に自分の名前を告げる少女も関係ない。人種は違えどふたりは握手をした瞬間、お互いをなにかを
感じ取ったのだ。
 
 クルスがニッ、と傾いた三日月のように笑う。
「グレゴリー。俺はこれからなけなしの財産で酒場に行こうと思っている。恐らくはそこでラム酒をたらふく飲んで、そのうち店の親父に追い
出されるだろう」
「では、わたしもひとつ予言を。追い出されるあなたの隣には、もうひとり毛むくじゃらのべーべーに酔っぱらったドワーフがいることでしょう」
「ふっ。いいぜグレゴリー。行こうか、俺たちの戦場へ」

 これが運命の出会いであり、後の悲劇の伏線なのだということは、まだ誰も知る由がなかった。
439 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [saga sage]:2011/07/17(日) 16:08:04.49 ID:X+NhBmk90
ということで四レス使わせてもらいました

まだ教授の方が終わってないのに作ってしまったがご愛嬌で(ry
クルスとグレゴリーをメインにしたキャッキャウフフの内容にしていきます
萌えてもいいですよwwwwww

ちなみに クレセント=三日月
440 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2011/07/17(日) 17:33:30.92 ID:iyKCSSoI0
乙です!
上手ぇ……。台詞回しと言い何と言い、目標にさせてもらいたいですマジで。
クルスとグレゴリー、二つの種族、二人の出会いがこれからどうなるかも楽しみに待たせてもらいます。

で、自分も1レス投下します。続き物になる予定ですがたった1レスです。
441 :H.E.G [sage saga]:2011/07/17(日) 17:34:57.62 ID:iyKCSSoI0
 乾いた大地を走るようなスピードで駆け抜ける影が一つ。

「いやっほう! 爽快痛快、実に良い具合じゃないか、リム!」

 いかにも機嫌は最高だと言わんばかりなテンションの高さで、女のエルフ――銀の髪に褐色の肌が目を引く――が声を張り上げる。彼女は巨大な丸太が如き何かに腰掛け、陽気に鼻歌を歌っていた。
 スレンダー気味故に少し小振りな彼女の尻からその丸太へと視線を移してみれば、それは丸太ではなく巨大な『腕』であることに気がつくだろう。
 そう、『腕』である。細身とはいえいっぱしのエルフを片腕だけで持ち上げているそれは、人のようで、人ではなかった。

「ルヴィ……お前は爽快かも知れないがな、俺は暑苦しくて適わないんだが!」

 人のようで人ではない、それ。少し寸胴な鎧を着込んだ騎士のようにも見えるそれは、ギムリアースで極秘に研究されていた金属製の戦闘兵器、自律型ゴーレムと寸分違わぬ姿をしていた。
 しかし、その中には人間が搭乗しているのか、どこかくぐもった声が内部から響く。ともすれば、自律型ゴーレムが自我を得た上で発声しているのかも知れない。

「はっ、文句言うなっての。こいつを動かせるのはお前しかいない、んで、私ぁ使える物は使う主義なのさ」
「くそっ、とんでもない女に捕まっちまった……」

 言うと同時に、兜を模したゴーレムのフェイスプレートが勢いよく跳ね上がり、その内部を外気へと晒した。
 中に詰まっているのは錬金術と魔術の結晶、などではなく。ただの人間の顔がそこにある。
 まだ若い青年のようだ。その顔は汗に塗れ、髪の毛はべっとりと額に貼り付いてしまっている。

「言ってくれんじゃないか、リム。あんた、誰のお陰で殺されずに済んだと思ってんのさ?」
「ああ、それについては感謝してるさ。ウチの国の切り札を勝手に改造した俺は死罪確定だったものな」

 苦々しげな顔で、リムと呼ばれた青年が吐き捨てた。その様を見、褐色のエルフ――ルヴィと呼ばれていた――は、愉しそうな笑みを漏らす。

「そう、そういうこと。あんたは私にこき使われりゃいいってことさ。このゴーレムさんを使ってね」
「……こんなことなら人が乗れるような改造を施すんじゃなかった」
「はっはっは、まあいいじゃないか。適当に世界を巡って、適当に金を儲けさせていただきましょう、ってね」

 豪快に笑ったルヴィの横顔を半眼で眺め、リムは大きな溜息を吐いたのだった。


 これは、一人の技術者と、一人のダークエルフ――足して二人の冒険者たちの物語。
442 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2011/07/17(日) 17:36:55.89 ID:iyKCSSoI0
ダークエルフのねーちゃんと、元ギムリアースの技術者がゴーレム使って色々する話になる予定です。
多分自律型ゴーレムなんてものがあったら、それに乗りたいって考える人はいると思うの!
443 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/07/17(日) 18:57:01.69 ID:X+NhBmk90
>>441
乙でーす!

ゴーレム登場におれ歓喜です!
いいのういいのうダークエルフのねーちゃんとか鼻血ブーブーものだ

しかしダークエルフって既存のエルフたちとどう違うんだろ?
444 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2011/07/17(日) 19:00:42.98 ID:iyKCSSoI0
褐色設定だけでダークエルフって呼称しちゃったあたり浅慮でしたなあ……。
個人的には魔法よりも戦闘特化な種族というイメージがあるけれど……、どーでしょ?
445 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/07/17(日) 19:05:54.87 ID:X+NhBmk90
褐色エルフなのか
確かに戦闘民族っぽい感じがしないでもないよね、ダークだし

おれひとりじゃなんとも言えませんが
住んでる場所とかで呼ばれ方が違うってだけでもいいんじゃないかね?

南方の熱い国に住んで日に焼けたエルフ、みたいな
446 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2011/07/17(日) 19:10:30.81 ID:iyKCSSoI0
なるほど。
ディルフィリウスの森の外で暮らすエルフらの一部族みたいな感じでも良いかもしれない。

とはいえ、自分がダークエルフなる呼称を勝手につけてしまったが故に生じた問題なので申し訳なく思います。
447 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2011/07/17(日) 19:11:01.68 ID:iyKCSSoI0
なるほど。
ディルフィリウスの森の外で暮らすエルフらの一部族みたいな感じでも良いかもしれない。

とはいえ、自分がダークエルフなる呼称を勝手につけてしまったが故に生じた問題なので申し訳なく思います。
448 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2011/07/17(日) 19:11:30.49 ID:iyKCSSoI0
連投すまぬ……
449 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/07/17(日) 19:17:49.89 ID:X+NhBmk90
大事なことだもん仕方ないよ

とりあえず他の人から異存が出なければ
好きなように設定を作ってもいいんじゃないですかね

謝らなくてもいいでぬよ
450 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2011/07/17(日) 19:19:44.50 ID:iyKCSSoI0
ありがとう……ありがとう……!
451 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/17(日) 21:37:51.82 ID:GP1ZrAKDO
誰ぞ見てる?
どうせだから安価で貨幣の名称決めね?
とりあえず金貨と銀貨と銅貨でさ
452 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/07/17(日) 22:00:16.02 ID:km9KapAdo
みてない!
453 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/17(日) 22:06:57.12 ID:GP1ZrAKDO
>>451
なるほど、確かに貨幣の単位や形状は時代や国、民族によって違うから、わざわざ統一する必要もないね
理解したぜ、スレ汚しすまない
454 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/17(日) 22:08:45.32 ID:GP1ZrAKDO
安価ミスった
これじゃひどい自演になるww
>>451>>452
455 :着物の娘 [saga]:2011/07/17(日) 23:15:45.65 ID:FxAUT++30
>>416
魔力を宿してない水晶は、それこそ本当に無価値なので
販売される事はないと思います。
それに魔力をこめて魔水晶へとし、魔水晶から魔力をより引き出しやすくするために
水晶具へと加工をして、初めて商品のレベルになると考えています。

ただし、水晶具から引き出せる魔力の量は減りますが、魔水晶自体からも
一応は魔力を引き出せるので、魔水晶自体は裏ルートとかで仕入れる事ができるかも
456 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/07/18(月) 15:18:24.68 ID:1nasgaIR0
>>455
空の水晶に自分で魔力を込めて即席魔水晶の完成、これなら雅にも手に入るじゃん、って思ったんだ
けどそういう訳にもいかないのか
457 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [saga]:2011/07/18(月) 21:35:55.98 ID:1CTzYE0l0
魔力泉の近くに水晶の鉱脈があった、とかで
天然モノの魔水晶が出来たりすることはあるのかな
458 :着物の娘 [saga]:2011/07/18(月) 22:24:18.45 ID:/JeLDVTl0
>>457
魔水晶は魔法で作り上げた人工の水晶に、訓練をつんだ職人が魔力を宿して始めてできるものですので天然物は存在いたしません。

水晶という名前をしていますが、魔水晶につかうのは魔力を通しやすい加工をした人工の水晶です。

ちなみにいうと あまり透き通ってません。
魔力を宿して、初めて綺麗な色になります。
459 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/19(火) 17:19:18.76 ID:83hU/J3C0
いま機工王国ギムリアースの治安維持組織の話を書いているのですが
そう言うのってOKですか?
460 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/07/19(火) 17:20:38.92 ID:SF4W0Azfo
OKです
461 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) :2011/07/19(火) 23:52:27.42 ID:83hU/J3C0
>>460
ありがとうございます。
投下します。
462 :守る者たち〜file0、プロローグ〜 :2011/07/19(火) 23:59:29.35 ID:83hU/J3C0
夜、このギムリアースのとある裏通り
私は目の前にいる犬のような下級モンスターに対して対犯罪者用の警棒で殴りつける。
キャウン! と声を立てて派手に吹き飛んだ魔物は動かなくなる。

「これは本来、軍の仕事ではないんですか」

「我慢しろ、これも俺たちの仕事だっ」

そう言いなから先輩は魔動銃で魔物に穴を空けながら言う

「どう考えても治安維持局の仕事じゃないですよねモンスター退治って…」

「この奥に手配中の兵器用魔物の密売人がいるのは確かだ、静かにしろ」

さっきの戦闘の音で気づかれてると思うが言わないでおこう、
どうせ奥にある部屋からは穴でも掘らなきゃ逃げられない。
先輩が扉を蹴破ると私が宣言する

「治安維持局です! モンスター密売及びトレムレデールの女性にモンスターの子を孕ませた罪状で逮捕します!」

463 :守る者たち〜file0、プロローグ〜 :2011/07/20(水) 00:01:53.85 ID:7tdqUQ9B0
「おとなしくお縄につけ!」

ここ、商業都市サンテーンはその物流のの激しさから密売が後を絶たない、

「エルフか、大方が知能が低いモンスターを魔法で従わせて輸出してたんだな」

「おとなしくしなさい!」

私は男を取り押さえようと武器を構え近づく。

「まっまて! お前らは今の国に不満はないのか!? 今の国あり方に不満はないのか!」

悪人面のエルフが苦し紛れとばかりに言う

「だそうだ後輩、どうだ? 国に不満とかあるか?」

先輩は銃を突きつけながら言う

「そうですね、あるっちゃありますね…」

男は即座に食いつく

「そうだろ! ここで俺を見逃せば! その国をだな!
464 :守る者たち〜file0、プロローグ〜 :2011/07/20(水) 00:17:34.16 ID:7tdqUQ9B0
「行きつけののおじいさんのセクハラがひどい事とか? 給料とか?」

「なっ! まじめに答えろ!」

一体どんな答えを待っていたんだろうか?

「いや、そんな急に聞かれてもですね…」

結構本気なんだけどなあ、この悩み

「それだけなお前と違って、おれはだな…

「いつまで続ける気だ後輩、 それとお前は国家転覆罪も追加だな」

先輩が不毛なやりとりに横槍を入れて男を取り押さえようとする

「くそっ! ギムリアースの犬に捕まってたまるか!」

男は水晶具と思われる指輪を翳す

「先輩! 魔法です!」

「わかってるって!」

先輩は即座に男の懐に入ると男の鳩尾を殴りつける、結局使えなきゃ魔法は無意味だ

「グォエア!」

蛙がつぶれたような奇妙な声を出して男は意識を手放す

「逮捕です!」

私は男の指輪を奪って握り砕くと男に特殊合金でできた手錠をつける

「事件解決だな」

先輩が呟く、後の尋問は捜査課の仕事だ
465 :守る者たち〜file0、プロローグ〜 :2011/07/20(水) 00:18:58.28 ID:7tdqUQ9B0
……次の日の朝、サンテーン治安維持局支部

「はあ…」

私は報告書を書きながらサンテーン名物(自称)エキゾチックハイパースーパーりんご飴をなめる
何がエキゾチックハイパースーパーなんだか
私には一切わからないが別に問題にはなっていないからいいだろう。

「普通のりんご飴だな、うん」

「のはあ!」

普通にびっくりした!

「せんぱい! 突然現れて人の飴食べないで下さい!」

「いやいや、うまそうだったから、つい」

先輩は何時も通りのなんでも見透かしそうな目を輝かせなから言う
先輩は甘いものが好きなのだ、と言うか甘党だ。

「だからって! 突然人の飴に食いつかないで下さい!」

うはあああまだ心臓がバクバクいってるううううう
うわあああああ。
466 :守る者たち〜file0、プロローグ〜 :2011/07/20(水) 00:20:26.83 ID:7tdqUQ9B0

じゃなくて

「それより先輩! 報告書まとめるの手伝って下さい!」

「そう言うデスクワーク苦手なんだよなあ」

頭をかきながら先輩は言う

「さっさと全部終わらせましょう」

私は机から報告書や捜査資料の山を取り出す

「うげえ これ全部?」

「しょうがないでしょう、ほかの課のもあるんですから」

私はため息をつきながらも万能インクペンを取り出す

「なんで他の課のやつまでやんなきゃなんねえんだよ」

「なんでも・かんでも・やりますよ がこの 総合特別課 のキャッチコピーですからね」

「そうだけどさあ…


「そうだぞ、何でもやるのがこの課の特徴だからな」
467 :守る者たち〜file0、プロローグ〜 :2011/07/20(水) 00:21:52.65 ID:7tdqUQ9B0
私と先輩は部屋の入り口に目をやる、そこに立っていたのは気だるそうな顔に指定の制服を着崩した男性、

「課長!」

「おはようございます、ホールス課長」

「よお、テオ、アレス」

私たちの上司 ジョージ・ホールス課長だ

「課長も手伝って下さいよ、いつもより多くて下手したら徹夜ですから」

私はすぐに作業に戻って手を動かしながら言う

「あー、っと…アレス」

「何でしょう課長」

私は作業をしながらホールス課長の話を聞く

「また厄介ごとですか!」

先輩は、よほどデスクワークが嫌だったらしくホールス課長の話にすさまじい速さで食いついた
468 :守る者たち〜file0、プロローグ〜 :2011/07/20(水) 00:22:25.50 ID:7tdqUQ9B0
「厄介事、というのかは分からんがお前たちに少し見てきてもらいたい物がある」

「見てくる…ですか何でしょう? 課長」

ホールス課長の言葉に先輩が質問する。

「東の町外れの辺りの空で突然魔法の物と思わしき爆発が起こったと通報があった、幸い死傷者はゼロだが一応見てきてもらいたい」

東の町外れの辺りには変わり者の発明家のおじいさんが暮らしていると言う、大方その人がらみだろう

「なるほど、大方の犯人は分かっているから大人数の捜査官は裂けない、
だからと言って機動課を動かすほど大きな事態でもないからこの小回りの利く 総合特別課 の出番ですか」

私は一応自分なりの推論を述べる

「 小回りが利く ってそりゃ課長含めても3人しかいねえもんなあ」

「そうですね」

「ほらほら!さっさと行って帰ってきて書類を仕上げてくれ!」

課長が急かしてくる、確かに一応緊急任務ではある

「いくぞ! 後輩!」

先輩が部屋から飛び出す

「了解です、先輩」

私は腰に銃と特殊警棒がついている事を確認すると先輩の後を追った
サンテーンには今日も変わらず生活を営む人々の声が響いている。
469 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) :2011/07/20(水) 00:27:18.81 ID:7tdqUQ9B0
ここまでです
プロローグだけですがおそらく本編も書いてる限りでは大した量ではないです。
お目汚し失礼しました
アドバイス等いただけましたらありがたいです。
470 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/20(水) 01:22:51.90 ID:FQReR7Hk0
乙乙

これからの展開が非常に気になる内容ですね。
サンテーンはギムリアースの首都にある商業区画なの?
それとも首都の付近に存在する都市?
471 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/07/20(水) 02:05:11.06 ID:nhzaQm8DO
乙乙

銃って現実に存在するような銃なのか、それとも別物なのか気になりますな
錬金術で作られた魔力を撃ちだす魔法銃とかなら大好物ですw
472 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/20(水) 11:09:17.08 ID:nhzaQm8DO
よし、投下します
473 :草原のお話 1 [saga sage]:2011/07/20(水) 11:15:05.45 ID:nhzaQm8DO
見渡すかぎりの大草原。空に雲が流れ、風は優しく大地を撫でる。

集落があった。
父親達は放牧のかたわら息子達に馬術や剣術を教え、母親達はその様子を眺めながら洗濯や料理をする。女の子達には水汲みを手伝う子もいれば、草花を編んで花冠を作る子もいる。彼らの周辺では羊や毛長馬の群れが、思い思いに過ごしていた。
代々受け継がれてきた日常の光景。
夕闇が迫ると、彼らは一つのテントに集まり夕食を共にする。五つの家族が集まり、慎ましくもにぎやかな団欒の時が過ぎていく。
夜の帳が降りると家族はそれぞれのテントに戻り体を休める。
寝ていた毛長馬達がざわつき始めたのは、ちょうどその頃だった。


「ウィル、あの煙」
フィネットが指差した丘の向こうに、数本の煙が棚引いていた。
「地図には村なんて無かったはずだけど……」
砂漠馬に乗せた荷物から地図を抜き取り、確認するウィル。
「その地図もだいぶ古いからなぁ。それにこの草原は遊牧民の領域……ま、いずれにしろ、行ってみりゃわかるさ」
怪訝な顔のウィルもベクメルの言葉に頷き、三人は煙の立ち上る方へと歩を進めた。


「こりゃノルゲ民の移動集落だな」

焼け落ちたテントの間を歩きながらベクメルが呟く。
テントの支柱だった木はまだ熱をもち、所々燻っていて、襲撃からまだそんなに経過していないであろう事がわかる。

「盗賊に襲われたのかしら?」
「いや、盗賊なら戦利品を殺したり放置したりしない」
ベクメルは周りを見回す。
飼育していた馬や辺りに放牧されていた家畜達は散り散りになっているようだ。

「……それに盗賊は、わざわざこんなことしない」

ウィルの見つめる先に、一際大きな煙が上がっている。そこに積まれているのはおそらく、この集落に住んでいた人達の成れの果て。
その仕打ちは底知れぬ狂気すら感じさせる。


遠くから馬の啼きが聞こえた。放牧されていた毛長馬が戻ってきたのだろうか?
「ここを襲った奴ら、まだ近くにおるかもしれんな」
いずれにせよ、ここに立ち尽くしていたところで埒が明かない。
「無用の誤解を招く可能性もあるわ、行きましょ」
せめて埋葬してやりたいというウィルを説得し、三人はこの場所を出ていく。

が――

「……遅かったみたい」
フィネットがため息混じりに漏らす。草原をこちらに向かって駆けてくる騎馬集団を見つけたのだ。

「逃げるか?」
「それこそ無用の誤解を招く可能性があるんじゃないかな……話せばわかってくれるさ」
話している間にも騎馬集団はどんどん近づいてくる。

「止まれ!」

幾重にも重なる蹄の音、そしてそれに負けない野太い声。数十人はいるであろう騎馬集団が三人を包囲する。
「こいつらもノルゲ民だな」
ベクメルが低い声で呟く。

指揮者らしき男がゆっくり馬を進め、ウィル達の前で馬から降り立つ。
「後ろの、あの集落を襲ったのはお前達か?」
「違います、俺達はただの旅人です」
ウィルが答えると、その男は品定めをするようにジッとウィルを見つめる。
「襲ったのが誰かわかるか?」
「いいえ、俺達にも分かりません」
男は、今度はウィル、ベクメル、フィネットと順に視線を移していく。

「……完全に信用する事は出来ない」
「何!」
声を荒げたのはベクメルだった。
興奮するベクメルの鼻先に槍の穂先が差し出される。ウィルがベクメルの肩に手を置き、グッと力をこめる。
「君達がここを襲った奴らの仲間でない、という証拠があるか?」
「随分猜疑心が強いのね」
「抵抗せずに付いてきてもらえると助かる」
「無関係なのは見ればわかるでしょう!」
「我々だけで判断する事は許されない。族長の裁可を仰ぐ」
咄嗟にウィルは剣を抜こうとした。だが後頭部に鈍い衝撃が走り、暗闇へと沈んでいった。
474 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/07/20(水) 11:18:37.35 ID:nhzaQm8DO
騎馬集団に囲まれながらウィル達は荷台の上で揺られている。その後ろをやや遅れて砂漠馬が付いていく。
負傷者や遺品を運ぶ予定だった荷馬車が、素性のわからない三人を乗せることとなったわけだ。

「おい、ボンゴゴに無茶させるんじゃないぞ!」
ベクメルはひたすら砂漠馬を心配しているが、ボンゴゴと呼ばれた砂漠馬は楽しげに後を付いてきている。

「ウィル、ウィル!」
フィネットの呼び掛けにようやく意識を取り戻したウィルは、自分が後ろ手に縛られていることに気付いた。
「……頭がズキズキする」
同じように縛られたフィネットとベクメルがウィルを覗き込んでいた。

フィネットが言うには、ウィルが剣を抜こうとするのを見て、男達の一人が後ろから槍の石突きを打ち付けたらしい。その後自分達も捕まり、襲撃を受けた集落の家畜達や食料を集め、埋葬を済ませてそこを離れたとの事。だいぶ長い間気を失っていたようだ。
「なぁにが無用の誤解を招くだ、お前が一番無用の誤解を招いとるじゃないか」
「まさか有無を言わさず捕まえられるなんて思わなかったんだよ」
「フン……まぁ、確かにな。何やら殺気立っとる」

騎馬集団の行く手にやがて多くのテントが集まった集落が見えてきた。

(あそこに族長ってのがいるんだな……)

ウィルはまだ痛む頭でそんな事を考える。
やがて集落へ入り、広場まで来たときにようやく三人は馬車から降ろされた。

「族長に話してくる。お前達は逃げないよう見張っておけ」
さっきの男が奧にある一際目立つテントへ歩いていく。

「で、これからどうすんじゃ」
「……話せばわかってくれるさ」
「さっきは話してもわかってくれなかったみたいだけどね」
「……」

気付くと周りで見張る男達も異様に殺気立っている。
話してわかってもらえるだろうか……
ウィルは少し不安になりつつあった。

「おい!おまえらか!怪しい奴らってのは!」

数人の男達が荒々しく見張りを押し退け怒鳴り声を上げる。その中でも一際目付きの鋭い男が三人の前に立つ。ウィルより少し年上だろうか。

「俺達はただの旅人です」
「じゃあなんでクェルム達の集落にいた!」
「偶然通り掛かっただけです」

やめないか、という見張り手をはねのける男。彼の声が聞こえたのか、広場には人が集まりだした。

「反抗しようとしたらしいじゃないか!」
「はなっから疑われて、有無を言わさず捕まえようとされれば、誰だって抵抗する!」

男の高圧的な態度にいい加減ウィルは腹を立て始めていた。周囲の視線も気にせず怒鳴り返す。

「大体何でそんなにピリピリしてるんだ!俺達はただの旅人、あんたらとは関係ないだろ!」
「それが本当ならな!本当ならすぐ解放してやらぁ。だがそれを決めるのは族長だ!」

男がウィルの胸ぐらを掴み上げ怒鳴り散らす。負けじとウィルも男を睨み付ける。
一方フィネットとベクメルは周囲を見回しながら、やはり全体的に殺気立っている事に気付いた。
「お前さん、気付いとるか」
「うん、何かに怯えているみたい……」
男達はともかく、集まりつつある人々の目には不安と焦燥が入り交じっている。
「なるほど、怯えとるか……確かにな」


ウィルはウィルで口喧嘩をする一方、なぜこんなに自分が熱くなっているのか分からずにいた。
「チッ、口の減らねぇ野郎め!」
男がウィルを突き倒すと、ウィルは手を縛られたまま足を上げ反動を利用して起き上がる。
「そっちこそ!縛られた相手に乱暴するような卑怯者め!」

ピクッと表情を強ばらせる男。隣にいた背の高い男に耳打ちをすると、ウィルの手を縛っていた縄を解く。

「おい、アディマ!何を勝手に……」
成り行きを見守っていた見張りが声を上げるが、男は耳を貸さない。
ウィルが手首をさすっていると、背の高い男が持ってきたものを投げてよこす。それは堅木を削り作られた木剣だった。

「何のつもりだ」
「平等というやつだ。お前はもう縛られてはいない」
同じ木剣を握った目付きの鋭い男、アディマがゆっくり構える。
「勝てたら逃がしてやらないこともない」
見張り達が止めようとするが、アディマの取り巻き達に阻まれる。
フィネットとベクメル、広場の周囲に集まったノルゲ民達は事の成り行きを見守る。
「俺が勝ったら、俺を卑怯者呼ばわりした事を這いつくばって詫びろ。
そして潔く罪を認めろ」
ウィルはしばらくアディマを睨んでいたが、やがて木剣を手に取る。心配そうに声を掛けるフィネットに微笑むと、深呼吸をして木剣を構えた。
475 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/07/20(水) 11:19:55.40 ID:nhzaQm8DO
族長のテントにはウィル達三人を連れてきた男、族長、そしてもう一人の男。
族長のメイバロン・シモルは長い髭を撫でながら報告を聞いていた。

「では、セルバマの一団も……」
「残念ながら」
「これでクェルム達と合わせて六つの子等が絶えてしまった……」
「我々がもう少し早く着いていれば……!」
男の言葉にシモルは肩を叩く。
「子等の集結を急がせねばなるまい」
冬を待たずしての集結、事態は深刻化している。男達は頷くしかなかった。

「ところで族長、クェルムの集落にいた三人の見極めですが」
「旅人……か。
ん?何やら騒がしいが?」

ウィルとアディマは互いに一歩も引かなかった。
木剣とはいえ当たりどころが悪ければ、死。
最初周囲はただ騒めくばかりだった。だが、二人が剣を打ち合わせ続ける内に広場の人々は次第にその闘いに引き込まれていく。
アディマが鋭く突きを放てばウィルは横に滑るようにして躱し、ウィルが踏み込み切り上げればアディマは後ろに引いて躱し、二人は再び木剣をぶつけ合う。
ウィルは内心アディマの強さに絶句していた。一瞬でも気を抜けば打ち込まれる、なんとか打開しなくては――!
一方アディマは剣を振るいながら、内心首を傾げていた。
――おかしい、こいつの剣捌きとは『噛み合い過ぎ』ている。
アディマの剣術はノルゲ民伝統の剣術。本気で切り掛かっているはずだが、何故か目の前の男には太刀筋を読まれているような感覚に陥る。

何十分そこで斬り合っただろうか。正確には十分も経っていなかったのだが、二人も周囲もこの『闘い』に身を任せていた。
それはシモルも同じだった。
騒ぎを沈めようと広場の喧騒に近づいたが、二人の闘いに思わずそれを忘れていた。

「何をしておるか!」

雷のような怒号を発したのは、ウィル達三人を連れてきた男だ。
その声に広場にいた全員がハッとする。ウィルとアディマも闘いを止め、怒号の主を見つめる。

「アディマ、またお前か!」
「親父……」

詰め寄ろうとする男、アディマの父をシモルは手で制しウィル達を見やる。アディマが離れると、ウィルは手に持っていた木剣を静かに置いた。それを見てシモルゆっくりと族長としての判断を下した。

「向こうの二人も縄を解いてやりなさい」

シモルの指示に従い縄を解かれたフィネットとベクメルは、ウィルに駆け寄る

「ワシがノルゲの民を率いる族長の、メイバロン・シモルだ」
シモルは三人に近づくと少し頭を下げ、出来る限りやさしく声を掛けた。

「我が一族の無礼を許してほしい。そして、出来るならば君達の話を聞かせてもらいたい」

族長自らが頭を下げると思っていなかったウィルは面食らった。
「疑いが晴れるなら喜んで。ね、ウィル」
フィネットに言われ慌てて頷く。
シモルに促され、彼のテントに向かおうとした時。

「おい」

アディマが呼び止める。

「俺を卑怯者呼ばわりした事、許したと思うな」
ウィルを睨み付けると、アディマは男達を連れて歩み去る。

ウィルはしばらくその後ろ姿を見ていたが、ベクメルに促され、族長のテントへと入っていった。
476 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/20(水) 11:22:47.52 ID:nhzaQm8DO
以上です
砂漠から2〜3週間後ですかね
暑さでぐだります
477 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/20(水) 11:28:25.96 ID:7tdqUQ9B0
乙でございます。
まだ続きますよね?
478 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/20(水) 11:56:02.90 ID:nhzaQm8DO
>>477
前後編、コナン風に言うなら事件編と解決編のような
ただ、後編の展開を考えてたら余りに長くなりそうだったので、いったん区切って投下しました
なので後編はまた後日になります
479 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/07/20(水) 17:08:24.31 ID:/oAp4ixs0
乙乙

三人(と一匹)はこれからどうなっちゃうんでしょうね?
後編を楽しみに待ってまーす

それと、どうでもいいけど遊牧民ってなんか憧れる
480 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/07/20(水) 20:05:08.37 ID:/oAp4ixs0
俺もかけたんで投下します
481 :クレセント [saga sage]:2011/07/20(水) 20:07:04.24 ID:/oAp4ixs0
  ライザール王国 酒場『ヴァニッシュ』店前
  
 鋼の筋肉がぶおっと風を切る。一撃をもろに顎に食らい、そのドワーフはおよそ十メートルはぶっ飛ばされた。冗談のようにドン、ドン、と
ドワーフの肉体が石畳の上を跳ね、跳ねた部分に小さな亀裂が走る。
 見守っていたポニーテールの女給『マリア』はもう駄目だ、と思った。『グレゴリー』は既に十発以上を連続で食らい、ずっと相手のドワーフ
に一撃も与えられていない。
 このままではなぶり殺されてしまう。なんとかして止めなければ。
 
 大きな声で応援を送ったり、野次を飛ばしたりする人だかりの中、腕を組んで、静かに戦闘の状況を観察する男がいた。マリアは彼に視線で
訴えかける。
 ――グレゴリーを助けて、『クルス』お兄ちゃん!
 クルスは微動だにしない。ただ難しい本でも読むような顔で戦闘の成り行きを見守る。
 
 ――――話は少しだけ遡る

 酒場『ヴァニッシュ』は小さいがそれなりに繁盛している酒場で、夫を戦争で亡くしたという経緯を持つ“親父”が娘たちと切り盛りしてい
る。“彼”は、元々は女性だった。しかし帝国が開発したとある技術によって「親父」として転生したという。
 ちなみに、その技術はまだ実用化はされておらず、実験協力のために彼が志願したらしい。まだ研究は中途半端だったらしく、親父の容姿は
かなり中性的である。
 今日もオネエ言葉で本物のオネエと間違えられながら、新入りの客を口説いている。
 
「相変わらずですね。親父さんは」
 グレゴリーはそう言って、苦笑いした。そして正面のドワーフに向き直る。横には相変わらず墓石のように無口な『クルス・ガンドッグ』が
座っている。
 しかしクルスが喋らないのは、それが口出しすべきでないことだと理解しているからである。これはドワーフ同士の問題だった。周りの席
も、各々の会話を中断して、その席の様子を示し合せたように窺っている。
 少し前までは客のほとんどが人間だったが、しかし、とある出来事がきっかけで、現在は人間とドワーフの数が均衡していた。
 
「サ、サンドウィッチです。ど、どど……どうぞ、召し上がってくださいまへえ!」
 女給のマリアがサンドウィッチの皿を震える手で置いていく。グレゴリーは心中で苦笑する。彼女はクルスにべた惚れで、こうしていつも
サンドウィッチをサービスしてくれる。こんなときでさえ。
 彼女は他でもない。グレゴリーとクルスが出会った切っ掛けでもある、あのときのいじめられていた少女だった。
 
 グレゴリーはよく空気を読みふたりきりにしたりしているのだが、そこに薔薇色ムードは皆無で、ただただ葬式会場のような陰鬱な沈黙が漂
っているばかりだ。
 無口と初心の会話は、鞭を振らない御者と鞭を待つだけの馬のようにいつまでも発車しない。
482 :クレセント [saga sage]:2011/07/20(水) 20:08:12.85 ID:/oAp4ixs0
 髭をなぞりながら、グレゴリーの前に座るドワーフが口を開いた。
「グレゴリー、オメエが例の計画を持ちかけたとき、オレがなんつったか覚えてるか?」
「はい」グレゴリーが姿勢を正す「『オメエがしたいようにやれ』ですよね、リーダー?」
「そうだ。オメエが上手くやったみたいで『クラフター』の連中はみんな無料馬車に乗るみてぇにオメエの考えに次々と賛同している。やっぱ
頭の良いヤツは違うのお。次のリーダーはオメエで決まりだ」
「そんな……勿体ないお言葉でございます」

 グレゴリーはそう言ってクラフターのリーダーである男、『ヨセフ・アルバトーレ』を見つめた。老年のドワーフであり、赤の三日月戦争で
も一肌脱いだ、過去の英雄である。
 確かに視力と聴力が少し衰えているものの、まだ引退には早い。グレゴリーはまだまだ彼を当てにしていた。両親を失った自分の親代わりと
なってくれた存在でもある。究極的にはグレゴリーは彼に頭が上がらなく、今回の件でも少しだけ後ろめたさを感じていた。
 
 あのあと、クルスとの出会いで腹を決めたグレゴリーは、クラフターの仲間たちに協力を仰いだ。意外なことに反発は少なかった。どころ
か、協力派がほとんどだった。
 どうやら『カルロス』は他のドワーフにも頼んでいたらしい。抜け目ない男だ。本当に頭の良い男とは、彼のことである。思えば人間たちを
扇動したのも彼だった。
 
 その後、グレゴリーの尽力でほとんどのドワーフを味方に引き入れた。
 しかし、最後までリーダーであるヨセフは、反発はしないものの賛成もしないという、どっちつかずの曖昧な立場だった。一見すると三度の
食事より血を見る方が好きなようにも思えるが、彼はかなりの穏健派なのである。
 ヨセフは今まで、多くのドワーフたちが街に出ていく中、ずっと坑道の奥にいた。
 
「グレゴリー。オレらクラフターは知っての通り、鉱石マナを掘り出して、それを加工したりして生計を立ててる……どっかじゃあ、オレらの
ことを荒くれ者が集まったヤクザみてえに勘違いしているが、そんなもんじゃねえ。ただの技術集団だぁ」
 ヨセフが改まってそう言った。クルスは黙って聞いている。
 グレゴリーは、ヨセフがなにを言いたいのか理解していた。あくまでもクラフターは技術集団だ。闘うための目的で作られたわけではない。
本質を見誤るな、とヨセフの瞳がそう言っている。
 
「ええ」グレゴリー「しかし、我々がどれだけ尽力しようと、レヌリアは着々と坑道を蝕んでいます。このまま坑道まで奪われれば、ワタシた
ちドワーフの行き場がなくなることもまた事実。ワタシたちはレヌリアに対し、完全な独立をしなければなりません。
 ヨセフさん……いえ、リーダー。あなたの部下の命、ワタシに預けてください!」
 それだけは必ず言葉で示してもらわなければならない。死者がひとりも出ないことは決してないだろう。それでも、それだから、グレゴリー
は命をくださいと言葉にするのだ。
 
 ヨセフは釜戸に炎を灯すように瞳を光らせ、静かに立ち上がった。グレゴリーも彼の意思を理解して立ち上がる。
 どこかの席で誰かが呟いた――決闘だ
483 :クレセント [saga sage]:2011/07/20(水) 20:09:34.29 ID:/oAp4ixs0
 ――――時間は戻り、そして

「どうしたぁ? もうお終りかぁ?」
 ヨセフは手繰り寄せるように訊ねた。しかしグレゴリーにはもう言い返す気力すらない。ただ割れた石畳に蹲り、血反吐を吐きながら、彼を
見上げることしかできない。
「グレゴリー。オレはなぁ、ダテに今までクラフターを背負ってきたわけじゃねえんだぞ。オメエがどれほどの覚悟を持ってるか知らんがなぁ
アイツラぁ、全員、オレの子供同然なんだよ。命を預けてほしいだぁ?――ふざけんなあっ!!」

 ヨセフが振り下ろした拳が石畳を粉砕する。マリアが悲鳴を上げた。その拳はグレゴリーの顔を僅かに掠めていた。
 グレゴリーにはわかる。彼の仲間思いのことを。自分がどれだけ残酷な決断をさせようとしているかを。それでも、それだから、グレゴリー
は命をくださいと言葉にするのだ。

「リーダ、命を、……ワタシに、預けて、ください……」

 ヨセフが再び拳を振り上げる。マリアが飛び出す。見物人の多くがそれに続く。クルスは冷静にグレゴリーを見る。グレゴリーは――
 ――グレゴリーはゆっくり立ち上がろうとする。それは十倍の重力を感じているかのような動きだった。飛び出した見物人たちの動きが止ま
り、ヨセフが身体を固める。グレゴリーが動くっ
 
「リーダー……いや、親父! 兄弟たちの、命を、ワタシに、くださいっ…………」

 グレゴリーが頭を下げた。それが彼の最後の抵抗だった。
 
「……人間たちは信じられるんだな」ヨセフが拳を下ろす。
 グレゴリーが頷く。やがてヨセフがぶるっと髭を振るわせ、鉄を打つような力強い声で答えた。
「オメエの考えは理解した。わかった。息子たちの命を預ける。……しかし、ガキどもが気張っている間にオレだけが呑気に茶を啜ってるわけ
にゃいかねえ……
 だからグレゴリー、愛すべき息子よ……オレの命も預かっちゃくれねえか?」

 割れんばかりの喝采が場を包み込んだ。どこからか現れた酒場の親父がぶちまけるような勢いですべての客たちに酒を振る舞う。
 グレゴリーは笑って返事をした。それからヨセフに杯を渡し、誓いの契りをする。それを皮切りに場はいよいよ、人間もドワーフもどちらも
が入り混じり、揺さ振られ、振り回されるような混沌に支配された。
 
 しかし、クルスだけは最後まで、混沌から切り抜かれた影のような静謐さを保ち続けて、杯を進めていた。

 ――――『青の三日月事件』から七日前の出来事。
484 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/07/20(水) 20:12:42.29 ID:/oAp4ixs0
終わりです

父との闘いで遅々と物語が進みません
続きは一応書けているので、また少ししたら投下するかもしれません
485 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/20(水) 21:14:38.73 ID:7tdqUQ9B0
乙です
なんだか寂しい話ですね。
後、今自分が書いている中で魔翌力機関とか出しているのですがそれは良いですか?
486 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/07/20(水) 21:48:43.88 ID:/oAp4ixs0
まー、オチがわかってるからね

魔翌力機関っていうのは錬金術と魔法が組み合わさって最強になるっていうあれのことかな?
年表と照らし合わせて矛盾がないようならいいんじゃない
487 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/07/20(水) 21:50:47.61 ID:Quav4T4yo
くっそー
きちっと文章書けないから投下できねえ
488 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/20(水) 22:36:06.52 ID:ql2VEPuAo
>>487
きちんとしてなくても、「書きたい!」って気持ちがあるなら十分
おれもめっさ下手だしなww
489 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/07/20(水) 22:37:49.57 ID:Quav4T4yo
わかった、書く
490 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京西部) [sage]:2011/07/21(木) 00:27:37.63 ID:MtbYDF+z0
>>381です
短いですが続きを投下
491 :異世界の戦友 [sage saga]:2011/07/21(木) 00:29:36.39 ID:MtbYDF+z0
第二章:『空白の千年』の終わり

後の世に『空白の千年』と呼ばれる時代がある。
繰り返されていた争いが突然この世界のあらゆる所から消え、約千年続いた平和な時代。
超大国であったレヌリア帝国政府・軍部は過ぎた他国への侵攻で自国民・属国民・他国からの非難が集中、分離独立を果そうと属国や自国自治領で内戦が勃発、次々に独立国家が生まれ領地は次第に狭められた。現在でも大国ではあるがかつての影響力は失った。
エリュオス王国はレヌリアとの大戦に敗れ、低下していた国力を軍事費に充てようと試みたがこれが失敗。
国民から見放された政府は、かつてレヌリアに支配されていたリンデン王国に薦められたこともあり共和制を導入、世界初の共和制国家、『エリュオス共和国』として生まれ変わった。
その他の大国・小国も事情は異なるが夫々継戦不可能になり、中央大陸で停戦・反戦・軍縮条約が締結されたのであった。
水面下での争いは続いていたものの、全ての国が批准しているこの条約を破るような馬鹿はいなかったので、とても平和であった。―――あの日までは……。
492 :異世界の戦友 [sage saga]:2011/07/21(木) 00:30:14.04 ID:MtbYDF+z0
―――――――中央大陸 中央永世中立地 国際議事堂 国際議会議長室 1006/1/3 16:00―――――――

「先程の演説お見事でした」
「ただ書いてあった事をそのまま読んだだけだ。だが、これで正式に決まったな」
「ええ、全会一致の可決。賛成であれ反対であれ219人全員の意見が一致したのは久しぶりです」
「自分にとっては議長になって初めてだ」
「何時もギリギリですからねぇ」
「……嫌味か?」
「いえいえ、滅相もございません議長」
議題は彼等の世界に此方から使者を送るのか否かという内容で、賛成多数どころか全員賛成であった。
これで正式に使者を送る事が決定。明後日から使者の選定に取り掛かる訳だ。
「それで、使者の選定ですが……」
「それは他の奴に任せてあるんだろう。ならその者を信じれば良い」
使者の選定にいちいち口出ししていては一任した意味がない。
だいたいこのオヤジは政敵が多く、自分の議長の席が危ういので口出ししている暇が有る訳が無いのだ。
「分かりました。それでは此方の書類の束に議長のサインをお願いします」
「何とかならんのかね?この書類は」
「無理です」
「ハァ……」
秘書に渡された……。否、押し付けられた書類の束を見るなり愚痴を言ってはみたものの、結局は自分がやらされる不幸を嘆きながら彼は書類に取り掛かった。
493 :異世界の戦友 [sage saga]:2011/07/21(木) 00:30:50.45 ID:MtbYDF+z0
―――そして、三日後の東雲を迎えた頃。
連日の徹夜の甲斐があり、ようやく書類が片付いた時であった。議長室に突然秘書が駆け込んできた。
「議長!起きて下さい!」
肩を揺さ振られ、無理矢理夢の世界から現実世界へ呼び戻される。顔には見事に赤と黒の現代アートがペイントされていた。
「……なんだ、ようやく書類が片付いたというのに……」
「それどころではありません議長!彼等が来たんです!」
「彼等とは誰だ?」
「異世界人ですよ!」
「……は?何言っちゃってんの?頭大丈夫?」
「ふざけている場合ではありません」(キャラじゃないのに無理すんな糞野郎」
「……聞こえているぞ」
「失礼しました。しかし、彼等が来たのは事実です!」
「彼等は1009年末までは来ないと言って旧無人大陸に帰った筈……」
「ええ、ですが此処に来ています」
「目的は?」
「不明です」
「人数は?」
「不明、しかし前回より多いと思われます」
「何故多いと判る?」
「彼等の船舶数ですが、少なくとも大型船十隻は確認出来ました」
「それ程の規模……、一体何が……」
議長が窓際に立ち、外を見た時であった。
パリンという乾いた音が鳴った。音に気付いた秘書が不自然に思っていると、隣からドサッという重い荷物を降ろした時の音がした。
見ると議長が倒れていて既に意識は無かった。窓ガラスと議長の額には小さな穴が開いていた。
494 :異世界の戦友 [sage saga]:2011/07/21(木) 00:31:22.24 ID:MtbYDF+z0
―――――――イラステイン ノラリアレイス イラステイン国防庁 1/6 18:26―――――――

俺は上官の呼び出しを喰らっていた。どうやら書類にミスが有ったらしい。面倒臭い書類の修正が終わり家に帰ろうとしていた時だった。
通信室の前を通り掛った俺は偶然、此処の士官が上層部に報告している所を聞いてしまった。
「中央大陸永世中立地から緊急入電!中央大陸国際議会議長が狙撃され死亡!同時に未確認の部隊による奇襲攻撃を受け、議会守備隊及び周辺の中央大陸の国の軍と現在交戦中の模様!異世界人による中央大陸への奇襲攻撃と思われます!」
耳を疑った。何かの間違いだと思った。
俺は忙しなく動く彼等通信兵達をただただ呆然と見つめていた。
―――1006年1月6日、『空白の千年』はこの日終わりを迎えた。
495 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京西部) [sage]:2011/07/21(木) 00:34:19.59 ID:MtbYDF+z0
今回は此処で終了
次を書き溜めてからまた来ます
496 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/21(木) 10:37:58.44 ID:xpszj02k0
乙です。
何章くらいになる予定ですか?
497 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/07/21(木) 15:12:13.72 ID:/ILaPqv20
乙乙

所々に入る小ネタが面白いですね
しかし、異世界人はイイモンだったはずなのにどうしてたんだろう

続きを楽しみに待っています
498 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/07/21(木) 15:37:37.10 ID:/ILaPqv20
そういえば質問

音楽活動を行っている人って
今まで出てきたことがないけど出していいですかね?
それと、魔法で動くレコードなども
499 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage ]:2011/07/21(木) 18:23:26.26 ID:JlFa2WXn0
>>498
良いと思う。
というか是非だして欲しい。
500 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/07/21(木) 19:14:37.09 ID:/ILaPqv20
>>499
ありがとうございます

そしてまた>>435>>481の続きが書けたので投下します
ちなみに今回の話では>>498の設定は出て来ません
501 :クレセント [sage saga]:2011/07/21(木) 19:16:20.92 ID:/ILaPqv20

  ライザール王国 酒場『ヴァニッシュ』裏手

『マリア・ライクデビル』は自分の名前が大嫌いで、また自分の名前を言うことも大嫌いだった。同い年の子供たちにからかわれるのが我慢
出来なかった。しかし普通に暮らしていれば、秘密は鉄が腐っていくように自然と剥がれてしまうものである。
 
 友達はいない。ひとりもである。いじめっ子たちの遊び道具にされ、おかげで外に出て散歩することもままならく、無期引き籠りの刑を言い
つけられたように、ほとんどを家の中で過ごした。
 その日も、酒場を経営している母からドワーフの客に忘れ物を届けろ、と言いつけられなければ、絶対に外には出なかったろう。早くもいじ
めっ子たちに囲まれたマリアは家を出たことを後悔し、母を呪った。
 しかし、運命の神がそこに颯爽と、黒い疾風のように舞い降りたのだ。
 
 ――『クルス・ガンドッグ』と彼は名乗った。素敵な名前だ。しかもイケメンだ。ちょっと影があるところがまたいい。海藻みたいに揺れる
黒い長髪もチャーミング。
 名乗るのは嫌いだったはずだった。しかし、気がついたら自分の名前を声高らかに叫んでいた。恥ずかしいことに、マリアは彼に一目ぼれし
てしまったのだ。
 
 マリア・ライクデビルという名の“少年”の初恋だった。
 
「あー!! またクルスお兄ちゃんと目が合っちゃった。ふふ、今日はついてるかもっ」
 マリアが酒場の裏でひとり呟く。女給の仕事はあくまでお手伝いの部類に入るので、こうしてサボっていても構わないのだ。クルスが用事と
かで、『グレゴリー』を残して先に帰ってしまったので、マリアも仕事を終えた。
 グレゴリーと『ヨセフ』の親子喧嘩(?)以来、客もますます増えた。酒場の息子としては喜ぶべきなのだろうが、クルスやグレゴリーと喋
る機会も自然と減ってしまう。複雑だ。
 クルスとグレゴリーはよく酒場にきてくれる。クルスとは相変わらずだが、グレゴリーとはすっかり友達になっていた。彼も積極的に話しか
けて来て、またクルスとのことも全部承知しているのか、空気を読んでくれる。良いドワーフだ、とマリアは思った。
 
 ライザールに住むドワーフたちは多くない。あまり顔を合わせることもなかった。
 こうして友達ができるまで、ドワーフという種族はマリアの中では、未知の存在だった。同じ街に住んでいても、その間にはどこか身体的な
特徴とか髭の有無とか親しくなるために邪魔な検問所のような物があった気がしたのだ。

 それが取り壊されたのは、丁度、クルスと出会ったときからだったとマリアは思っている。クルスとグレゴリーが頑張って検問所をぶっ壊し
てくれたのだ。そのことも手伝い、もはやクルスはマリアの中で神格化されている。
 もうすぐ革命が起きるかもしれないということは知っている。死者も出るだろう。しかしそれはライザールを開放するためであり、マリアは
その日が来るのを今か今かと楽しみにしていた。
 ――革命が終わったら、僕は、クルスお兄ちゃんに……
502 :クレセント [sage saga]:2011/07/21(木) 19:17:22.25 ID:/ILaPqv20

 マリアは父親を戦争で亡くしていた。赤の三日月戦争ではなく、その後のレヌリアの骸で作られた覇道に組み込まれたのである。母親がマリア
を身ごもっている間だったので、顔を合わせたことはない。三人の姉に言われて作られたあやふやな父親像が存在するだけだ。それでもレヌリア
に恨みがないとは言えない。
 
 しかし、もっと恨んでいるのは母親(または親父)の方だ。夫の死で頭がいかれてしまったのか、怪しげな技術で「親父」となり、自分の息
子にマリアなどという女々しい名前をつけ、挙句の果てに、女として育てるという非道をしてのけたのだ。
 おかげでそれがすっかり板に着いてしまった。今でも街のほとんど(グレゴリーも含め)がマリアを少女だと勘違いしている。
 
 女でも男でもない、神話に出てくる天使のようだ、と姉は言う。
 とんでもない。天使どころかデビルではないか。マリアは自分の「マリア」という名前が大嫌いだった。こんな風に育てた母親も面白がって
いる姉たちも大嫌いだった。
 しかし、クルスと出会い、始めてそんな自分とそれを作り上げた周囲の悪意を、素直に愛することができるようになった。アイ・ラブ・マリア

 クルスがいない酒場で働くのはただの労働でしかない。マリアは今日の女給はもう辞めにしようかとエプロンを脱いだ。どうせなので、久々
の散歩と洒落こもう。
 クルスにこっぴどくやられて以来、懲りてしまったのか、いじめっ子たちはもうマリアに顔も合わせなくなった。反応しても、遠くから嫌味
を言うくらいである。女装しているというだけでここまで嫌われるとは……マリアはもう友達関係については諦めていた。
 代わりに、猛勉強して都会の学校に行きそこで友達を作ろうとか考えていたりした。
 
「あっ!? クルスお兄ちゃんだ!」
 街からちょっと出たところに、林と森の中間地点のような場所がある。そこにクルスの影を発見した。声をかけるか躊躇っていると、どうや
ら待ち人がいたらしい。女性だった。背が高く狐目、その容姿はどこかアイスピッグの鋭利さを連想させる。
 まさか――マリアが妙な心配をして、木の後ろに隠れながらドキドキと飛び出しそうな心臓の音を抑え、覗き見をした。
 
「――なるほど、ドワーフたちが要人の人質を取り、街の人間たちがレヌリアの関連施設、とりわけ軍事施設を中心に攻める計画ね。まさか本
当に“夜の内はほとんどの兵員が就寝しているから無防備”という情報を信じるなんて」
「貴様らが捏造した情報だ。喜べ。きちんとカルロスに伝えてやった。どうやらあいつは自分が先導者になっているつもりらしいがな」
「地獄までのね」女が微笑む「クルス。それでいいのよ。あなたはそうやって“裏切り者を務めてドワーフたちを皆殺し”にするの。そうすれ
ばいずれ、夢も叶うんじゃない?」
「夢か」クルスが目を閉じる「随分と遠くなっちまったな」
「うふふ、捨てたほうがこの世界では楽よ。そうすればあたしみたいに、夢想家な新人の馬車に乗せてもらえるからね。
 ま、三日後まで精々、上手くやりなさい。それじゃ、あたしはこれで」
「待て、『スレイ』! 最後にひとつだけ教えてくれ。どうして貴様らレヌリアはこんな計画を立てた? どうしてそこまでドワーフに拘る?」
503 :クレセント [sage saga]:2011/07/21(木) 19:18:16.56 ID:/ILaPqv20

「クルス。あなたはライザールの採掘場――『フレザーム坑道』の実情を知っている?
 ライザールの人間たちのほとんどは、レヌリアが戦争に勝ったことで鉱山を牛耳ったと考えてる。だけど、それは大きな間違いよ。あなたも
知っているでしょ、赤の三日月戦争以来、ドワーフのほとんどが街から出て行って、鉱山の脇を固めているという話。
 レヌリアがライザールの自治を認めたのがまずかったの。あくまで技術を握っているのはドワーフ……採掘場では戦争に勝ったレヌリアの方
が彼らに頭を下げて、せせこましく鉱物の残りかすを取らせてもらっているのが現状。
 学者連中が密かに調査したんだけど、あの坑道の鉱物マナの採集率は異常な数値よ。とある意見だと鉱物マナを取り過ぎれば坑道が崩れる、
とも。
 あそこは火薬庫なの。上手くやり繰りすれば莫大な財産にもなる。けれど選択を誤れば被害は凄惨。坑道が崩れれば、毒ガスとかの二次被害
も考えられるわ。だから慎重に扱わなければならないの。わかるでしょう?」
「だからドワーフたちを追い出すと?」
「違う。皆殺しにするの。じゃないと、また仕返しに来るかもしれない。禍根を絶つためにもそれは必要よ。採掘技術は二十年でほとんど完璧
に教わった。もうドワーフは用なしよ、用なし。それに……」
「なんだ?」
「上の連中、あの髭が気に食わないんだって」

 会話が終わった。いや、それは報告だった。スレイと呼ばれた女性の顔には見覚えがある――『インペリアルガード』だ。
 スレイが奥の方へ消え、クルスはしばらく空を見上げた。それから急に、笑い出した。それは狼の遠吠えのように力強く、人の涙のように切
ない笑いだった。
 マリアは走った。街の方へ。明確な目的があったわけではない。ただなにか、大きくて黒いなにかが自分を追いかけて来るような気がして、
恐ろしくなったのだ。追いつかれてしまえば、自分の信じていたものが音を立てて崩れていってしまう気がして。
 
 木々の間を駆ける、草むらを突っ切る――街に着いた、何事かと目を剥く人々をふっ飛ばすつもりで駆ける、鉢植えを踏み潰す、おばさんの
悲鳴が上がる、無視――駆ける、駆ける、駆け抜ける、転ぶ、痛い……背中を踏まれる、睨みつける、誰だっ?
 見覚えのある嫌らしい笑みに囲まれていた。こんな所で、ついていない。いじめっ子たちだ。構ってられない。無視だ。先を急ごうとする。
転ぶ、立つ、転ぶ、蹴られる……
 
 いじめっ子たちの笑みが、クルスのそれを被る。違う。こんなのとは全然違う。だってクルスは、クルスは……
 
 しばらくして、痛みの感触もなくなった頃、急にいじめっ子たちが散り散りに逃げていく。見上げるとそこにはドワーフ……グレゴリーが涙
を流して立っていた。どうしてグレゴリーが泣いてるんだろう。マリアは考えた。頬に髭が触れる。
「グレゴリー、……ごめんなさい」
「どうしてマリアが謝るのですか? すみません、守れなくてすみません……マリア? どうして、笑っているんですか? 頭を打ちました
か? 早くお医者様へ……マリア? マリア? ……どうしました、マリア、マリアッ!?」
 
 ――――『青の三日月事件』から三日前の出来事。
504 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage saga]:2011/07/21(木) 19:20:12.99 ID:/ILaPqv20
終わりです

DQNネームの女装少年が出て来ました
そんだけです
あと、ドワーフと人間が坑道の所有権巡って争ってます、進展はそんだけです
505 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage ]:2011/07/21(木) 20:58:54.95 ID:JlFa2WXn0
>>504
乙だよ!
ドワーフと人間が鉱山の利権を巡って血みどろの争いを繰り広げるわけですか。
ぞくぞくしてきた。

ところで前に投下した話の続きを投下したいんだけど良いかな?
506 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/21(木) 21:26:27.67 ID:YmCVcbZv0
>>505

態々聞かなくても 投下するよーって一言言って投下すればいいと思うよ
507 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage ]:2011/07/21(木) 21:26:49.95 ID:JlFa2WXn0
(´・ω・)返事がない。誰もいないのか?
508 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage ]:2011/07/21(木) 21:33:12.68 ID:JlFa2WXn0
>>506
分かった、これからそうする。
それじゃ投下します。

>>420の続きです。
509 :語り継ぐことを許されなかった遥か昔の物語 [sage  saga]:2011/07/21(木) 21:35:11.99 ID:JlFa2WXn0

今週の初めに、カハルの地を取り囲むラウロス山脈の麓に到着した。

この辺りは未だ魔王のもたらす破壊の影響をあまり受けていないらしく、牧歌的な生活を営む獣人たちが静かに暮らしている。

ここの景色を見て美しいと思ったことは言い添えておかなければなるまい。

雪を被った雄大な山脈と、それを湖面に映す静かな湖、その麓に広がる緑の草原。そこで群れて草を食んでいる羊たち。

私はもう随分久しく景色を見て美しいと思ったことは無かった。

ここに来てその感情が再び私の中に蘇ったようだ。感謝しなければならないだろう。

私の探求の旅も終わりに近づいている。この雪と氷でできた巨大な山脈を越えた先に伝説の眠る地が横たわっているのだ。

もう私は迷わない。泉にあるという古き神々の力を手に入れ、それを使って魔王を退ける。




そういえば故郷に残してきた家族は今頃どうしているだろう。まだ生きていると良いのだが。

510 :語り継ぐことを許されなかった遥か昔の物語 [sage  saga]:2011/07/21(木) 21:36:33.86 ID:JlFa2WXn0

グリムが私を裏切った。やはり、と言うべきか。

エイダを失って以来、私は、私を見つめるグリムの瞳の中に憎悪の炎が燃え盛っているのを見てとっていた。

彼の碧き双眸は、さながら凍り付いた炎のようだった。

噂によればグリムは私のことを偽りの勇士と呼んでいるそうだ。彼こそは私が勇士であると最初に主張した男であったのだが。

グローフェンドもギルワイムも激怒して彼のことを非難しているそうだ。しかし私は彼らのようにグリムを責めようとは思わない。

やむを得ない事だったとはいえエイダを手にかけたのはこの私だ。

彼が私を心の中で憎悪していたとしてもそれは仕方のない事なのだ。

彼にはその権利がある。

しかしグリムがいなくなってしまった為に、カハルの地に入る道が分からなくなってしまった。

仕方ないがここの住民に道案内を頼むとしよう。

511 :語り継ぐことを許されなかった遥か昔の物語 [sage  saga]:2011/07/21(木) 21:38:49.05 ID:JlFa2WXn0

彼が、今や私に反対する人々の中心となっているという噂には眉をひそめざるを得ない。

私がこの世界を強引に統一した時から抵抗し続けている者たちがグリムの元に集結しつつあるというのだ。

魔王との決戦を控える今この時に分裂を許すことは断じて出来ない。グリムが個人的に我が元から離反するならそれも良いだろう。

が、もしもグリムが私に表立って反抗するというのなら叩き潰すより他に道は無い。

世界の命運はこの私に懸かっている。私は失敗するわけにはいかない。



私の邪魔をするというのなら、かつての親友であろうと排除するのみだ。

512 :語り継ぐことを許されなかった遥か昔の物語 [sage  saga]:2011/07/21(木) 21:40:25.08 ID:JlFa2WXn0

初めて彼と出会ったのは、私がまだ只の農夫の小倅に過ぎなかった頃の事だ。

当時、ある事情からあの驚嘆すべきグレイオンの公文書館に赴いていた私は、そこで彼と出会った。

その後の私の人生を大きく変えるグリムという名の男に。

彼は獣人と呼ばれる珍しい人種の一人で、更に珍しいことに、ある伝説を大真面目に探求している『探索者』と呼ばれる者の一員だった。

彼はその時、あの公文書館の一隅で己の馬鹿げた好奇心を満たすために読書に耽っていた。

人狼と呼ばれるタイプの獣人だった彼は、その外見からとても人目を惹いていたが、彼はそういった好奇の視線の一切を無視していた。

私も彼の外見に興味を覚えたが、獣人である彼に自分から関わろうとは思っていなかった。

だが偶然にも、私の探していた本と彼が次に読もうとしていた本が被ってしまったのだ。

『勇士は実在するか?』という題名のその本に、私と彼は同時に手を伸ばしていた。



それが切っ掛けだった。
513 :語り継ぐことを許されなかった遥か昔の物語 [sage  saga]:2011/07/21(木) 21:41:39.39 ID:JlFa2WXn0

その時は彼が私に譲ってくれてそれっきりだったのだが、それから一年ほど経ったある日、思いがけず我々は再び遭遇したのだ。

その時の事は十年以上経った今でもはっきりと覚えている。

彼は私を見るなり興奮して訳の分からぬ言葉を叫びだした。

最初は何を言っているのか理解できなかったが、やがて彼がとんでもないことを言っている事に気が付いた。

彼は私を大陸中に流布する伝説に登場する『勇士』、即ち『救世主』であると言ったのだ。

この伝説はかなり昔から大陸で一番有名な伝説として語り継がれてきた。

この伝説をモチーフにしたお伽話は星の数ほどもあったし、伝説の勇士を騙る者も後を絶たなかった。

まさか自分がそんな狂人の仲間入りをする羽目になるとは、と当時は驚きよりも怒りが募ったものだ。

まさか本当に己が勇士であったとは、当時はまったく考えもしなかった。

514 :語り継ぐことを許されなかった遥か昔の物語 [sage  saga]:2011/07/21(木) 21:44:14.61 ID:JlFa2WXn0

まさかラウロスの峰々がこれほど峻険だったとは。

麓から見ていたときはここを越えることは容易いと思っていたのだが、その認識は改めねばならないようだ。

現地で雇った獣人の水先案内人がいなければ、とっくの昔に深い雪に足を取られて崖下に転落していたことだろう。

やはり彼ら獣人はこの周辺の地理に明るい。彼らに尋ねたところによれば今我々は山の中腹辺りにいるらしい。

これだけ登ってまだ半分とはラウロスの山々はどれほど高いのか。

だがこの山を抜ければカハルまでは一直線だ。

そこに眠る神々の力を取り込めば、今この瞬間にも世界を蝕んでいる魔王を容易く打ち破ることが出来よう。

我らの一行の中でも気の早い者たちは、もう既にカハルにあるとされる巨大な魔力泉の名前をどうするかで議論している。

我らの新たな歩みが始まる場所として、後世にその名を残そうとしているらしい。

聞き耳を立てていると、『新生の泉』と『即位の泉』の二つが候補として上がっていた。

私の個人的な意見としては前者の方が好ましい。だがどうやら皆の意見は後者で一致しそうだ。



さて、皆の意見も出揃った所でそろそろ出発すべきだろう。ラウロスを越えるまでは気を抜くことは出来ない。
515 :語り継ぐことを許されなかった遥か昔の物語 [sage  saga]:2011/07/21(木) 21:45:06.31 ID:JlFa2WXn0



ラウロスの峰はもう目と鼻の先だ。あそこを越えれば眼前にカハルの地が広がっている。


恐らくあと数時間の内に彼の地をこの目で見ることが出来よう。


私の探求の旅はまもなく終わる。魔王は打ち倒され、新たな時代が幕を開けることだろう。






願わくは、この素晴らしき世界に古き神々の祝福あらんことを!

516 :語り継ぐことを許されなかった遥か昔の物語 [sage  saga]:2011/07/21(木) 21:46:14.15 ID:JlFa2WXn0

赤い背表紙の日記はここで終わっていた。

途中の大部分は茶色く変色していて解読できなかったが、それにしてもこんな終わり方は無いだろう。

これではこの日記の主が使命を完遂したのかどうか分からないではないか。

ちょっとした欲求不満に陥った私は、他の本には何が書いてあるのだろうかと黒い背表紙の本に手を伸ばした。



表紙を見てみる。

そこに書かれた『日記』の二文字。

どうやら違う人物も日記をつけていたらしい。まあ日記帳なのだから日記をつけていてもなんら不思議は無いのだが。

こちらも赤い背表紙の本と同じくかなり分厚い。解読には手間が掛かるだろう。

しかし梲の上がらない考古学者の私には、時間だけはたっぷりある。



それでは早速解読に取りかかるとしよう。
517 :語り継ぐことを許されなかった遥か昔の物語 [sage  ]:2011/07/21(木) 21:47:49.81 ID:JlFa2WXn0
後半部完結です。

これを補完する話を現在制作中。
518 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/21(木) 22:45:52.92 ID:YmCVcbZv0
>>517


なんだかだんだん物騒な思想になってきましたな
519 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京西部) [sage]:2011/07/21(木) 23:42:51.16 ID:MtbYDF+z0
>>496
スマソ、全く決めていません

>>497
後で理由が明らかになります(……の予定)
520 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage  ]:2011/07/22(金) 01:24:15.45 ID:Aqr+q7fA0
しまったああァァァァ!!
痛恨の投下ミス!1レス分投下し忘れてました!
済みませんが>>514>>515の間に↓の文章が入ります。
521 :語り継ぐことを許されなかった遥か昔の物語 [sage  saga]:2011/07/22(金) 01:26:25.29 ID:Aqr+q7fA0

我々一行を導いてくれている獣人たちのリーダーは、名をオロナルという。

灰色の髪と碧い眼が特徴の青年だ。グリムやエイダと同じく人狼である彼は、無愛想な男ではあるが、しっかりしていて頼もしい。

聞けば彼はグリムの甥であるという。そういえば彼の目や髪の色はグリムにとてもよく似ている。

ただ、オロナルはグリムが私を裏切った事については何も知らされていないようだった。

彼は私からその話を聞いてから何を話しかけても黙ったままだ。

恐らくショックを受けているのだろう。

私との関係について、グリムは色々とこの地の同胞に報告していたようだから無理もない。

522 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/22(金) 01:34:51.84 ID:CEN90pTko
思ったんだが、この手の魔物、モンスターって日本妖怪とかも出ていいのかな
鬼、九尾、化け猫、天狗・・・etc
523 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/22(金) 01:48:43.33 ID:TJbtx/Fw0
>>522
問題ないんじゃないかしら?
524 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [saga]:2011/07/22(金) 19:10:20.40 ID:4wY9OOQc0
この世界における獣人ってのは
獣に近い(MHで言うアイルー?)のか
人に近い(猫耳とか尻尾程度)のか
525 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/07/22(金) 19:48:42.86 ID:aJ9nTT5AO
獣人は爬虫人類みたいな風体を想像してた

獣人の中にも、より獣に近い、より人に近いというように種類がある、ってのもいいかもしれない

もしくは人間との間に作った子が、人の姿に獣耳尻尾がはえた格好になるとか

526 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/22(金) 21:15:28.96 ID:2mPkUYBM0
>>524

>>241
を見ればいいと思う
527 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/22(金) 21:40:43.77 ID:CEN90pTko
西洋の妖怪も出すぞー!
ドラキュラとか出るぞー!うおー!
528 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/07/22(金) 22:17:34.88 ID:DlZcGPXC0
ちょっとメタっぽい短編を書いてしまったんだけど
そういうのって大丈夫かな?
529 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/22(金) 22:59:21.13 ID:yrRUbsKDO
>>528
見てみないことには判断しかねますわ
大抵のはOKされてますから大丈夫だと思いますけど

宇宙で戦う魔導機兵はダメでしたけどねww
530 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [saga]:2011/07/26(火) 06:43:00.10 ID:lCdnx7+B0
ひといねえな
531 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/26(火) 09:24:13.59 ID:vq/8Jshv0
私はいますよ。
532 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/26(火) 16:23:27.46 ID:NqJuplADO
魔族って種族じゃなくて職業に近いのかもしれない
と妄想しました
誰でもがなれるわけではなく、なればなったでその者の意志と関係なく魔族の意志に支配されてしまう
そんな悲しい生き様を妄想しました
533 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/26(火) 16:43:54.80 ID:oZEHq8NKo
>>532
身分ともとれるよね
生まれてきた時点で決まっている、という
534 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/26(火) 16:59:25.64 ID:NqJuplADO
>>533
魔族にも子を作れるタイプと憑依支配するタイプがいると考えれば、またそこから厨二的なストーリーが妄想できますな
魔族の子として迫害を受けた主人公が魔族に憑依された暴君に立ち向かうとか
535 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/29(金) 10:51:46.47 ID:K8w50sTso
なんや・・・だれも居いひんのお
536 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/07/29(金) 10:54:42.58 ID:qN5LwHMLo
おおん
居るよ
おおん
537 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/29(金) 16:07:27.23 ID:m/Mn9t5M0
kokonimoiruze!
538 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/02(火) 15:03:18.38 ID:VnHIH75DO
投下します
539 :草原のお話 2 [saga sage]:2011/08/02(火) 15:04:30.98 ID:VnHIH75DO
「行くのかね?」

テントに入ってきた三人の顔を見て、彼らが口を開くより先にシモルは尋ねた。
「はい」

ウィルが答えると、ベクメルとフィネットも頷く。

「押しつけるようで、本当に申し訳ない……」
三日前、この場所でウィル達と初めて話した時のことを思い出しながら、シモルは三人を見つめた。



テントの中に招かれ、最初にウィルが感じたのはキツい香木の匂いだった。
遊牧民であるノルゲの民は川が近くに無い場合は水の使用を控える。時には数ヶ月水浴びをしないのも稀ではなく、こうして香木を炊くことで体臭をごまかすのだ。

「旅の方、悪く思わないでもらいたい。
この者の行為は我々ノルゲの民の為を思っての事、そしてそれを命じていたワシにも非がある」

改めて謝罪の言葉を掛けながら、族長シモルは直感的に感じていた。――この者達は嘘を吐いていない。

「……そうしなければならない理由があったんですよね、族長さん?」
フィネットが口を開く。

「ここの人達は何かに怯えているように感じます。耐えているような……
私達が見たあの集落では何が起きたんですか?
あなた達に何が起こっているんですか?」

シモルは唸った。
――教えたのか? と、隣に立つ男に目を向けるが、彼は首を振る。

「……わかるのかね、小さきエルフ。
話せば長くなる。座られよ」
シモルが先に座り、ウィルとベクメルは「小さくない!」と騒ぐフィネットを宥め透かして、ようやく座った。


ノルゲ民達を脅かす存在が現れたのは恐らく一ヶ月程前だろう。
たまたま遠出をしていたあるノルゲの青年が、遠くに黒煙が立ち上るのを見つけた。
炊事で黒煙が上がることなど滅多にない。不審に思った青年が駆け付けると、そこにウィル達が目にした光景と同じものが広がっていた。
焼き討ちによる黒煙。仲間達の遺体が積み上げられ、そこから沸き上がり燻る黒煙。

――支族が何者かの襲撃を受けた、その知らせは早馬ですぐ族長の元にもたらされる。シモルは他の子等(支族を指す)に注意を喚起すべく、矢継ぎ早に早馬を飛ばした。しかしその間にもまた別の子等が襲撃を受けたと報告が入る。
一つまた一つと報告が入るにつれ、警戒する以外の対策を講じねばならなくなった。
そこで比較的近い位置の子等を集め、精鋭を選りすぐり襲撃者の探索と残る子等の保護を命じたのだ。


「アンタもその精鋭の一人ってわけか」
ベクメルの問いに三人を連れてきた男は黙って頷く。
「たかが三人であんな事できるわけないじゃろ」
「逃げ遅れた一味、もしくは間諜だと思ったのだ。すまなかった」


ノルゲ民は牧畜と交易によって生活している。羊毛や羊肉、毛皮などを売買し穀物や木の実などを手に入れる。
こうした交易は実りの時期、秋の中程まで行われる。そして冬が訪れる前に全てのノルゲの子等が族長の元へ集い冬を越す。
この草原は冬にしか現われない昆虫型モンスター、ヤンヴァイビトルが多数出没するため冬はノルゲ民総出でヤンヴァィビトルに備えるのだ。
ノルゲの大集落と呼ばれるその集まりではモンスターへの備えの他、厳しい冬をノルゲ民全体で乗り切る、子等の再配置や新たに子等を分ける、といった一面もある。
そして春の訪れ……ヤンヴァィビトルの消滅と共に、子等は再び草原地帯の方々へ散っていくのだ。
だが――


「ノルゲの子等は、報告を受けただけでも既に六つ失われた……
これ以上の被害を許すわけにはいかん。付近の子等は集結させたのだが……まだ合流出来ていない子等がいる。
彼等が合流するのが先か黒煙が上がるのが先か、集まっていれば襲われないのか、交易出来ず集められた羊や毛長馬達の飼育はどうするのか、ヤンヴァィビトルへの備えはどうするのか。
皆がその不安に脅えている」

シモルの溜息と共に、テントの中は沈黙に包まれた。
540 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/08/02(火) 15:05:21.54 ID:VnHIH75DO
「……クレタノトッドは、そこに食料や金目のものがあるから襲われていた。
じゃあノルゲの人々が襲われている理由は何なんだろう」
ウィルがポツリと呟いた。
「族長さん、今までの襲撃で奪われたものは?」
「子等の命、平穏な暮らし……」
フィネットの問いにシモルが答える。

「ノルゲの子等にとって一番の財産は、放牧する毛長馬や羊……しかしそれらは殺されはすれど奪われてはおらん」

「ポートルやアルアロン、ハイレスに保護を求めてみては?」
草原付近の有力国の名前を挙げてみるが、族長シモルは首を振り、唐突に三人の名を尋ねた。

ウィルバルツ・ストレイン、フィネット・ヴィア、ベクメル・レイロン、三人が名を告げる。

「フム……君達三人は旅人と言っておったが、ポートルに行ったことはあるかね?」
「いいえ。ベクメルとフィンは?」
ウィル同様首を振る二人。
「ではハイレスは」
「一度立ち寄ったことがあります」
「え、私行ったことないよ?」
「そりゃお前さんと会う前の話だからな」

シモルは目を閉じた。
「十年以上前より、エリュオスを南北に分ける戦争が続いているのは、君達も知っていると思う」
「はい、北の諸国同盟と南のラサ帝国の争いですね?俺達も旅をしていて幾度か戦乱の影響を目にしています」

ウィル達は旅の途中クレタノトッド以外でも、戦乱の余波を目にすることはあった。

「我々ノルゲの民はどちらにも属していない。終わりの見えない戦に加担し、若い子等の命を散らすなど……」
言葉を区切りシモルは髭を撫でる。
余談ではあるが、その仕草がドワーフのそれと似ていてベクメルはこの族長を大いに気に入ったとか。

「諸国同盟、ラサ帝国、双方の勧誘を断った。無論いい顔はされておらん。
広大な草原地帯に中立勢力があるのは双方とも望んではおらなんだろう……この一連の襲撃、どちらかの仕業かもしれん」
「でも、今更襲ってくるって遅すぎない?
戦乱は十年以上続いてるんだから、少なくともノルゲの人達が自分に組しないとわかった時点で襲撃すると思うんだけど」
「それ故に我らも対策に難儀しているのだ」
シモルの考えを代弁するように、傍らの男が口を開いた。


その日の夜、あてがわれたテントの中でウィル達は眠れずにいた。

「ウィル、また変な気を起こしたりしてないよね?」
「クレタノトッドやマルバドリアの時とは事情が違う……俺たちが動いてどうこうできる範囲の問題じゃない」
「それでも無茶をするのがお前さんだからな。油断出来んわ」
「助けたいとは思うよ。けど、相手の出方も正体もわからない。
当面の危機の排除が出来るような根の浅い問題じゃないんだ」

ウィルは寝転ぶと、返してもらった自分の剣を撫でた。

「だからって、ずっとここにいるなんて言ったら、かえって彼らの迷惑になるかもしれないからね」

戦は関わる関わらないに関係なく、その規模に応じて数多のものを巻き込んでいく。

「俺達だってどこかで関わっているかもしれないし、これから関わるかもしれない。
けど、なるべくならそんなの関係なしに旅を続けたいね」

やがてベクメルの寝息が聞こえ始めると、ウィルとフィネットも眠りに着いた。
541 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/08/02(火) 15:06:07.86 ID:VnHIH75DO
翌日の朝早く、ノルゲの大集落には新たに二つの子等が合流した。人々は無事に再会出来たことを喜び、友の死に涙した。
一宿一飯の恩とばかりに、ウィルとベクメルは新たなテントの設営や厩、柵などの設置を手伝った。男手が子等の保護に駆り出されていたので、ノルゲの民はこの旅人達の手助けを歓迎した。

また馬と共に暮らすノルゲ民にとって、砂漠馬は非常に興味深い存在だったようだ。ベクメルも興味津々な人々にボンゴゴを自慢したり、普通の馬とは勝手が違う砂漠馬の乗り方を教えて上げたりした。
フィネットは子供達に好かれた。魔法で花を咲かせたり、エルフに伝わるお守りの作り方を教えてあげている。
子供と同じという扱いされるのは気に食わなかったが、子供と接するのは里を追いだされて以来の事。この子達の不安や恐怖を少しでも癒してあげたい、そう考えるようになるのに時間は掛からなかった。

その様子をテントの前でシモルとウィルは眺めていた。
「昨日の今日でこれほどまでに打ち解けるとは……旅を続ける身ならば、良い素質だ。
……ところで、ストレイン殿の出身はどこかね?」

「遠い北にあるメハという小さな村です。色んな村や町を転々としていたので、メハ自体はあまり覚えていませんが」

「フム……剣はどなたに教わった?」

「父です」

シモルは昨日のウィルとアディマの闘いを思い出す。アディマの感じていた違和感を族長シモルもまた感じていたのだ。

「君のお父上は名は……」
「ヨーデリッツ・ストレインと言いますが……それが何か?」

ヨーデリッツ・ストレイン――知らない名だ。しかし昨日彼が見せた剣術が父譲りだとすれば、恐らくは……

「どうやら君のお父上は、何らかの形で我々ノルゲの剣術を会得されていたようじゃな」

「ノルゲの剣術?」

「左様、細かな部分に差異はあれどストレイン殿の剣はノルゲの剣術とほぼ同じものだとワシには見えた。
我々は互いに稽古はすれど、ノルゲの民同士が本気の殺し合いなどする事はない。
アディマも、さぞかしやりにくかったであろう」

アディマは本気で戦っていた。そしてその本気を凌ぎきったウィルをシモルは評価していた。

「親父の剣術がノルゲ民の剣術……
でも、親父はノルゲの話なんて一度もしてくれなかった」

「ノルゲの民には草原を離れた者も少なからず存在する。ストレイン殿のお父上はそういった者達から教えを施されたのであろう。
知らずとはいえ、ストレイン殿達がこの地に訪れたのも何かの運命かも知れんな」

――運命。その言葉をウィルは心の中で反芻する。

「しかし、昨日ストレイン殿に喧嘩を売った者……
アディマというのだが、腕は確かなのだが血の気が多くてな。
あ奴ももう一皮向ければ子等を任せられるというに」

「今、彼は?」

「子等の護衛隊として選ばれておる。あと三つの子等が合流すれば、大集落に全ての子等が集う事になる」
「……本当に集まれば襲われなくなるのでしょうか?」

「少なくとも、奇襲に対する備えは万全に取れる。冬の間はヤンヴァィビトルのお陰で、こちらもあちらも動きにくくなるだろうがな」

「相手の戦力が上回っていたら……」

「ストレイン殿」
シモルが言葉を遮る。

「我等とてそれはわかっておる、わかっておるがこうするより仕方ないのだ。
これ以外に方法が見つからなんだ」

ウィルは黙って聞いていた。

「ノルゲの民はあの草花と同じようにこの大草原に生き、草の揺りかごに生まれ、花と実を結び、枯れては大地へと還る」

シモルが呟いたのはノルゲ民が自分達を表するのに使う言葉、いわばノルゲの生き方だ。
ウィルは今まで、旅の途中で見てきたたくさんの人々を思い返す。それぞれがそれぞれの生き方をしていて、その生き方を否定する事なんて誰にも出来ないはずだ。
ノルゲの民の生き方も昔からそうだったに違いない。そこに不吉が影を落としている――

気付けば辺りは再び夕闇に包まれつつあった。
542 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/08/02(火) 15:06:57.14 ID:VnHIH75DO
次の日の昼頃、アディマ達ノルゲ騎馬隊はノルゲの子等をまた一つ保護して大集落へと帰還する。
同時に、一つの子等がまた襲撃を受け殺されたという知らせももたらされた。

「また一つ子等が失われたか……」

シモルはため息を吐く。心なしか皺が増え老け込んでも見える。
しかし、あと一つ子等が合流すればノルゲの民は全て集結することになる。そうすればそう簡単に襲撃は出来なくなるはずだ。

そして、アディマ達は新たな収穫を持ち帰っていた。

「おい、旅人」

アディマがウィルを呼び止める。今日は以前のように取り巻きは連れていない。
高圧的な態度は変わらないが。

「族長がお呼びだ。他の小さいのと一緒に来い」

三人がアディマと共にシモルのテントに入ると、騎馬隊を率いるアディマの父や他の騎馬隊の男達が顔をそろえていた。

「ストレイン殿、レイロン殿、ヴィア殿。
呼び立ててすまない。早急に見てもらいたいものがある」

シモルが布の上に何かを置き、三人に差し出した。
ウィルとベクメルが覗き込むと、そこには焼け残ったような木片が鎮座していた。
幅は中指と人差し指の横幅を合わせた程度、長さは小指くらいだろうか。焼けていない部分にはなにやら文様が描かれているようにも見える。

「……これは?」

「焼かれていた遺体のうちの一人が握り締めていたものだ」

アディマが答える。

「このようなものは今までの襲撃では見つかっておらなんだ。旅をしてきた君達なら何か知っているかと思ったんじゃが……」

シモルが付け加える。

「俺は見たことないな……ベクメルは?」

「ワシもない」

ただ一人、フィネットだけは木片を睨み付けるように見ていた。

「フィン、知っているのか?」

ウィルの声にハッとすると、フィネットは首を振る。

「知らない――知らないけど、とても嫌な感じがする……」

「そりゃそうだろう、あんな現場にあったものならいやな感じぐらい俺だって感じるぜ」

フィネットはアディマの言葉を強く否定した。

「そう言う意味じゃない!これはあの場所で、あの方法で燃え尽きなきゃいけなかったものなの!」

「燃え尽きなきゃいけなかった?」

「きっと息が残っていた人が偶然握りこんで、発見も早かったから燃え尽きなかったんだと思う……」

「何かの儀式を行ってるって事か?」

「確実にそうだとは言いきれないけど……」

フィネットは思い返していた。自分達が見たあの現場で感じた狂気、その原因はこの木片が燃やされて噴出したものではないか……いや、そうに違いない。
でもこんな物を燃やすためにわざわざノルゲの人々を殺したのか?
だいたいこの木は何なんだ?

フィネットは中途半端に知ってしまうが故の苦悩を感じた。ノルゲの人々が犠牲になった理由がこんなものを燃やす為だけなのだろうかと疑問を抱き、こんな事をする輩が小さな子供達まで脅かしているのかと考えると怒りが湧くのだった。
543 :草原のお話 2 終 [saga sage]:2011/08/02(火) 15:07:53.58 ID:VnHIH75DO
「あまりお役に立てず、申し訳ありません」

「いや、気にしないでくれ。この燃え残りは――」

「俺達に預けていただけませんか?」

ウィルが申し出るとその場にいた全員が驚きの表情を見せた。

「フィンが言った通りならこれは災いの根源に近いものでしょう。
俺達は旅を続ける身です。どこか遠い場所に捨てるなり、これを本来あった場所に戻すことも出来ます」

「フム……皆の意見を聴きたい」

その場にいた者達は反対しなかった。旅人の言う事を鵜呑みにしたわけではないが、この木片は忌まわしい襲撃者が残した物。出来れば捨ててしまいたい。
それは木片を見つけたアディマも同じ考えだった。

「では……お願いしたい」

布で包まれた木片は腫物を扱うようにして差し出された。それを受け取り、ウィルは力強く頷く。ベクメルとフィネットもまた同様に頷いてくれた。
シモルは三人の表情を見て静かに目を閉じると解散を命じるのだった。



そして翌日の早朝――

「押しつけるようで、本当に申し訳ない……」

シモルの言葉にウィルは首を振る。

「押し付けられたわけでも、追い出されるのでもありません。俺達の選んだ事です」

「そう言ってもらえるとありがたい……どれ、見送ろう」

シモルに付き添われ三人はテントを出る。まだ人々が起きだす時間ではないようで、人影はまばらだ。

「聞いていなかったが、君達の旅の目的地はどこなのだ?」

「目的は……まだ決めていません。ただ、この世界の色んなものを見ていきたいと」

「世界か……」

「我々が生きるエリュオス地方は広大です。けれど、世界から見ればそれはほんの一部に過ぎないのかも知れない。
そう考えるとワクワクするんです。知らない国や知らない生き物、知らないものをもっと知りたいって」

昨日預かった木片の事など忘れているかのように瞳を輝かせるウィル。横ではフィネットが笑顔で頷いている。ベクメルはやれやれと首を振りながらも、まんざらでもなさそうだ。

「根っからの旅人じゃな……そうだ」

シモルはふと思い立ち、三人に厩へ一緒に来てもらった。

「こちら側に繋がれた馬達は襲撃により主人を失った馬じゃが……よければ君達に差し上げたい」

願ってもない申し出だ、断る理由はない。ただベクメルだけは「ワシにはボンゴゴがおるからな」と、気持ちだけ受け取ることにした。
大集落の外れでウィルとフィネットは栗毛の馬に、ベクメルは砂漠馬ボンゴゴに跨ると、シモルに一礼する。

「縁があればまた会うこともあるじゃろうが……旅の幸運を祈っておる」

「族長さんもお元気で。ノルゲの方々が平和に暮らせるよう祈ります」

馬首を返し、東へと歩き出す三人を朝焼けが照らしている。それを見送るシモルの隣に、いつの間にか小さな女の子が立っていた。

「お姉ちゃん達、言っちゃったの?」

手にはフィネットが作ってくれたお守りが握られている。シモルはそんな女の子の肩に手を置き空を指差した。

「ワシらノルゲの民が草原に生きる草花なら、彼らは空を流れる雲なのだよ。
ずっと同じ場所にある雲はいないじゃろう?
さぁ、皆のとこへ戻ろう」

シモルと女の子はそんな話をしながら、大集落の中へと戻っていくのだった。
544 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/02(火) 15:10:35.14 ID:VnHIH75DO
以上です。
夏は嫌いだけど、テスト期間とかもっと嫌いです。

ヤンヴァィビトル:
草原地帯に生息する虫型モンスター。冬虫夏草って文字見て「わぁ、モンスターっぽい」って思って考えだしました。
545 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/08/02(火) 20:58:03.97 ID:UvQ+8XVW0
乙乙です 
虫型モンスターの外見や攻撃の特徴などはどんな風ですか?
546 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2011/08/02(火) 22:04:50.45 ID:VnHIH75DO
>>545
全長約20〜60cmのバッタのようなモンスターです。
触角部分が草のようになっていて、春から秋は触角部分で光合成します。
冬の訪れで気温が一定以下になると土からニョロリンと這い出し、捕食行動を開始します。
捕食に成功した固体は地面に卵を産み着け、再び餌を探し始めます。
基本的に共食いはせず、その鋭い牙で獲物の体液を吸い取ります。
冬の終わりが近付くと段々と衰弱していき地面に落ちて朽ち果て、春になる頃にはほぼ全ての成体が息絶えます。
その死体は急速に分解され、地面に生みつけられた卵の栄養となると同時に周囲の草花の肥料にもなります。

冬版セミ風迷惑バッタモンスターですなw
547 :「ある小さな工房にて」 [saga]:2011/08/02(火) 23:03:21.61 ID:8Zwi+KxT0
投下します。
548 :「ある小さな工房にて」 [saga]:2011/08/02(火) 23:03:47.51 ID:8Zwi+KxT0
「まいったな……どうすりゃいいんだろこの状況」



博士から休暇を貰ったので、久々に故郷に帰ってみた。
もっとも、故郷とはいえすでに数年前に家族を亡くして独り身なので、
帰省というわけではないのだが。

昔、まだ家族と住んでいたころに、よく食材を取りに行っていた森が近くにあった事を思い出す。
よくお使いで、木の実やらキノコやらを取りに行かされたものだ。
あの森はまだあるのだろうか。

故郷の村を出て徒歩数十分のところに、その森はまだ存在していた。
この様子を見る限り、伐採されたり、荒らされたりしたということは無いようだ。
博士に木の実でも持って行ってあげよう。この前の失敗のことで、まだしょげている博士も、
美味いものを食べれば、少しは気が紛れるだろう。
こんなことを考えつつ、森の奥に入った、その矢先の出来事であった。

エルフの少女が倒れていたのだ。

このまま放っておくわけにはいかないだろう。
ここで先ほどの言葉が出てきたわけだ。

「あの……大丈夫ですか?」

返事が無い。意識を失っているのだろうか。
しばらく待ってみようか。

不意に、ガサガサッ、と背の低い草の揺れる音がした。
前方からも、左右からも、そして後方からも。

「しまった!囲まれたか!」

普段より油断していたせいで、モンスターの接近を許してしまった。
俺は今、最低限の護身用武器しか持ってはいない。
そんな状況で、意識を失った少女と、逃げ切ることは出来るのだろうか。
549 :「ある小さな工房にて」 [saga]:2011/08/02(火) 23:04:21.44 ID:8Zwi+KxT0
見たところ、モンスターは6体ほど。
体格はそれほど大きく無いが、明らかに獰猛な体つきをしている。
噛み付かれでもしたら、ひとたまりも無いだろう。
そう判断した俺は、護身用の武器――博士作の飛び出すナイフを構え、
目の前に立っている1体に狙いを定め、射出した。
飛び出したナイフは、宙を裂き直進して。

モンスターの眼球へと、直撃した。

「ギャオオッ!」

俺はこの時ほど博士に感謝したことは無い。
もし、護身用の武器がこれでなく、ただのナイフだったら。
恐らく、俺は10秒とたたずに肉塊と化していたに違いない。

とっさに怯んでいるモンスターの脇を駆け抜け、全速力で逃げる。
幸い、あのモンスターたちは待ち伏せ型で、追いかけるほどのスタミナ、スピードは無かったようだ。
ほっと一息つき、少女を地面に降ろす。と、少女は目を開けた。

「あなたは……?」
「俺は機工王国ギムリアースのある工房で、助手をしているものだ」
「どうして、こんな森に……」
「この森は、俺が小さいころよく来ていた森だからな。それにしても妙だな、昔はモンスターなんか居なかったはずなのに」
「モンスターが、世界中いたるところで発生しているようです。ここも例外ではないのでしょう。」
「そうか……」

エルフの少女は、俺に警戒心を持たなかったようだ。
珍しいことだ。

「助けていただいて、ありがとうございました。では、私はこれで……」

そういって立ち去ろうとする彼女に、俺はあわてて声を掛ける。

「行く当てはあるのか?あるなら、止めはしないが……」
550 :「ある小さな工房にて」 [saga]:2011/08/02(火) 23:04:48.68 ID:8Zwi+KxT0
彼女は、きょとんとした顔をしつつ、答えた。

「いえ、特にはありませんが……?」
「じゃあ、うちに来ないか?俺はさっきも言った通り、工房で助手をしている。
 工房では魔力を使った機械を作っているから、魔力に詳しい人がいると、とても助かるんだ」
「そういうことでしたら、行かせていただきます。私も行き場所が無くて、困っていたところですし」









機工王国ギムリアースの一角に、工房がある。
その工房には、変わり者の博士と、その助手が住んでいる。
最近では、その二人に、新しくエルフの助手が加わったとか。
551 :「ある小さな工房にて」 [saga]:2011/08/02(火) 23:05:46.23 ID:8Zwi+KxT0
以上です
何か指摘、アドバイスがありましたらお願いします

今回は工房関係ないですな……
552 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/08/03(水) 00:40:38.31 ID:OCnx8wpIo
乙です
いいですね工房の紅一点か
553 :異世界の戦友 設定(地図草案) [sage]:2011/08/03(水) 23:00:32.59 ID:q1nQT5tQ0
勝手に地図を描いてみた
あくまでも草案(その1)にすぎない
意見を求めます

http://nullpo.vip2ch.com/ga4397.jpg

本編の投下は近直行います
554 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/03(水) 23:49:01.19 ID:wvoJUG8z0
>>553
乙カレー
世界地図の登場で胸熱だわ。
ただ、少し大陸同士の距離が近すぎるんじゃないかと思う。
描いて貰ってる分際で厚かましいこと言ってゴメンよ。
555 :異世界の戦友 設定(地図草案) [sage]:2011/08/04(木) 00:26:51.17 ID:u7BvDPY70
>>554
紙が小さくてつい
まぁ、態と近くにしてるんですけどね
仕様だと思ってください

島嶼は描いていない
一番西側の一際大きい大陸がレイス
中央の小さな大陸が中央大陸
更に東に行くとヒールレイス
南と北の大陸の名称も後々(と言うか直に)登場予定
556 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/04(木) 02:52:20.75 ID:FzRh30v30
>>555
乙です

ところで『深影の大陸』の名前がないけれど、この時代での呼び方がヒールレイスに変わっているだけなのですか?
557 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2011/08/04(木) 03:06:10.03 ID:uO27+z9g0
>>556
俺もそれ思った。どうなんだろう?
558 :異世界の戦友 設定(地図草案) [sage]:2011/08/04(木) 06:50:20.72 ID:u7BvDPY70
>>555-556
呼び方は変わっている
また、ヒールレイスは『深影の大陸』とは別物
559 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/08/05(金) 22:47:18.56 ID:Ye84oRtR0
乙です
大陸の場所なら過去でもそんなに変わらないから
完成したら僕も小説で使って良いですか?
560 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/08/05(金) 22:47:18.37 ID:Ye84oRtR0
乙です
大陸の場所なら過去でもそんなに変わらないから
完成したら僕も小説で使って良いですか?
561 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/08/05(金) 22:48:00.19 ID:Ye84oRtR0
乙です
大陸の場所なら過去でもそんなに変わらないから
完成したら僕も小説で使って良いですか?
562 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/08/05(金) 22:50:45.52 ID:Ye84oRtR0
すいませんミスって連投しました
563 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京西部) [sage]:2011/08/05(金) 23:24:57.49 ID:YGFTeRwD0
>>558です
>>559
どうぞ使ってください
大事な事だけに三度も言われちゃ断れませんよ
564 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京西部) [sage]:2011/08/05(金) 23:28:36.73 ID:YGFTeRwD0
>>558です
>>559
どうぞ使ってください
大事な事ですよね
三度も言われちゃ断れませんよ
565 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京西部) [sage]:2011/08/05(金) 23:34:23.28 ID:YGFTeRwD0
やっちまったスマソ
566 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/06(土) 19:57:08.90 ID:+1rrR9pDO
エリュオス地方だけでユーラシア大陸並の広さと想定してたけど、まずいですかね
567 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京西部) [sage]:2011/08/07(日) 22:10:54.27 ID:VpIm8C1k0
>>566
俺はパラレルOKだけど他の作者や読者はどうするかによる
パラレルならどの話に対してパラレルなのか説明をお願いします
あと出来れば名前欄に(パラレル)と入れてください
568 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/08/08(月) 00:42:42.44 ID:7D1YeY4d0
今のところ大陸が滅びる話がバラレルだったはず。
だけどせっかくのスレだし俺は可能な限りほかの人の設定を使いたいですな。
569 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/08(月) 10:11:30.20 ID:zssgYGADO
>>567-568
まずいなら止めておきます
森のお話〜草原のお話、エリュオス建国史の削除をお願いします
570 :「ある小さな工房にて」 [saga]:2011/08/08(月) 17:38:44.84 ID:L/21xFMi0
>>569
パラレルはパラレルでいいと思うし
〜のお話系楽しみにしてるからぜひ書いてくだしあ
571 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/08(月) 19:24:06.09 ID:zssgYGADO
>>570
そう言っていただけるのは有り難いのですが、設定を皆で共有するのがこのスレの主旨ですし、最初に自分の考えた設定に関する是非を問わなかった私に落ち度がありました
土地の広さに関する設定は私の考えていたストーリーのみならず他の方々の創作活動、ひいては世界観そのものにも影響を与えます
しばらく読者として皆さんの作品を読みながら、自分の駄文については打開策を練りたいと思います
572 :守る者たち [sage]:2011/08/12(金) 12:33:48.60 ID:0kWxKxqw0
物語を投下するとき続くのか続かないのか書いていただけるとまとめる時
やりやすいのでお願いします。
>>571
本当に消してもいいのですか?
最終確認です。
573 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/12(金) 12:37:10.86 ID:fLQ6baNDO
>>572
いいですよ
574 :守る者たち :2011/08/12(金) 13:00:53.26 ID:0kWxKxqw0
わかりました、
>>573さんの作品を心からお待ちしております。
575 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [saga]:2011/08/16(火) 21:40:18.03 ID:sfvQmcED0
今更ながらに思うんだが
したらばに立てたほうがよかったのではあるまいか
現状だと議論とSSがごっちゃになるで
576 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京西部) [sage]:2011/08/16(火) 23:04:43.57 ID:2+mRZqX+0
更新のお知らせ

今日、明日、明後日辺りに更新予定

>>494の続きを書いたので久しぶりに更新するね
age進行で行くよ
577 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/08/17(水) 22:52:11.92 ID:P2Y1hkzZ0
期待
578 :異世界の戦友 設定 [sage]:2011/08/18(木) 00:43:57.92 ID:zEVPyyWW0
更新の前に第二章の設定を投下

登場人物

国際議会議長:「ヤラレチャッタ!」人間族、チョイ役の筈が第二章で出しゃばり過ぎて作者の怒りを買ったのか故人にされる

議長秘書官:議長が「ヤラレチャッタ!」時に隣に居た人間族、本編では一切触れられていないが議長死亡後に自分も「ヤラレチャッタ!」に、噂では議長と同じ理由で故人にされたらしい

国・地域等の設定

リンデン王国:立憲君主制、中央盆地を取囲む山脈に存在する小国、レヌリアの隣国、数百年前までの仮想敵国はレヌリア、エリュオスに共和制を勧めた、エリュオスに対し最も影響力が強い国の一つであり一番の友好国、イラステイン・リヴァテインが中心のリアレイス同盟にも加盟

その他設定

空白の千年:戦争史における争いの無い時代、文字通り約千年続いた
579 :異世界の戦友 [saga]:2011/08/18(木) 01:05:31.07 ID:zEVPyyWW0
第三章:リアレイス防衛戦

開戦後、千年以上実戦経験の無い(平和ボケしていた)この世界の住人は見た事が無い大量の兵器群を持つ異世界人との戦力差によって敗走を続けた。
彼等異世界人の部隊は中央大陸を完全に掌握し、その勢いのまま北の白翼大陸、南の暗黒大陸を次々に制圧してしまった。
残るこのレイス大陸も数週前に帝都陥落、リンデンとの国境近くまで戦線を後退させられた。
対異世界連合国軍は中央盆地に戦力を集中、この地を現時点での最重要防衛線とした。
理由は主に三つ
1.リアレイスラインは河川等の少ない大陸中央部における貴重な水源であり戦線を維持するには必要不可欠
2.此処は周囲が険しい山岳地であり守り易く攻め難い地形
3.この地でのみ栽培が可能なリアレイス草は多くの病や怪我に非常に有効な上、モンスターの性転換を促す作用を持 ち、現在世界的問題であった多種族への襲撃をほぼ無くしている、この為世界的に必要不可欠
という事であった。
ただ、もう一つ大事な理由が俺達には(俺達だけでは無いが)有った。俺達の祖国であるという理由が。
その為に俺達はレヌリアから帰って来た。
580 :異世界の戦友 [saga]:2011/08/18(木) 01:06:15.44 ID:zEVPyyWW0
―――――――レイス大陸中央部 中央盆地 イラステイン王国 リアレイスライン北岸東部 1007/8/23 11:30―――――――

俺は小隊を率いて後方支援を担当している部隊の本部(仮)に来ていた。
支援部隊及び物資の護衛任務に就いていた為だ。
「イラステイン陸軍マクドネル・コナー中尉であります」
「エリュオス陸軍オルガ・スパート、階級は中佐だ。一応、この部隊の部隊長を任されている。よろしくな」
俺が部隊長に連合軍式の敬礼をすると、美人の女性士官はそう言って答礼した。
エリュオスの兵士達から聞いた話だが、彼女はエリュオス陸軍の上層部の注目の的(……個人的な意見を述べると身体の方も注目に値する)らしく、将来有望だそうだ。
「上からの情報によると、貴官は異世界人達との交戦経験が有るそうだな」
「はい、その通りであります」
「わたしや部隊の者は後方支援ばかりで彼等との戦闘経験はおろか、見た事のある者も居なくてな。実際に戦ってみた感想を教えてくれないか?」
「分かりました、話します」
俺はレヌリアで見た光景をそのまま話した。
彼等の戦力は俺達のそれと比べ、あらゆる面で上回っていた。
陸では、数十km(キロメイル)もの射程距離を持つ砲を搭載した戦闘車両や械仕掛けの銃火器を持つ歩兵に殲滅され、海では、大型の戦闘艦が艦隊を組み、巧みな連携と圧倒的な火力で次々に連合艦隊を沈め、空では、たった数十機の航空機の編隊に既に数百機も落されていた。
彼等は魔法や錬金術が使えないので、連合側はエルフや魔族を掻き集めて超大魔術を使用したり、優秀な錬金術師達に大規模錬成をさせたりして対抗しているのだが、大きな戦果を挙げる事は出来ていない。
都市も村も、森も山も、海も空も焼かれ血に染まっていた。
そこは、最早地獄だった。
「……彼等と戦って勝てる可能性は現段階ではほぼありません。出来るのは逃げるくらいです」
「そうか……、ありがとう。やはり上からの情報より現場の者の意見の方が参考になるな」
「いいえ、礼には及びません」
「明日02:24に我々は出発する、今は休んでいろ」
「了解しました」
俺はテントから出ると次に自分が率いる小隊がいるテントに向かった。
581 :異世界の戦友 [saga]:2011/08/18(木) 01:06:59.26 ID:zEVPyyWW0
「戻ったぞ」
「隊長!丁度好いところに!」
「なんだ?」
「カードゲームの人数が足りなかったんですよ。是非入って下さい」
「ライアン、またお前だけサボってやがったな!?」
「否定はしません。ただ、肯定もしません」
「おい、否定しろよ……」
「隊長、気にしなくとも大丈夫です。コイツがサボってなかったら天変地異の兆候ですよ」
「ノフル!お前は仲間のサボり癖を何とかしようとは思わないのか!……天変地異の兆候なのは認めるがな」
「思っていようが実行しようが出来んものは出来んって事ですよ」
「既に諦めていたか……。ところでジェニーは?」
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」
「……またか」
テントから顔を出し辺りを見回す。すると涙目で苦しみ悶えている男が居た。
「おいジェニー、今度はどうした?」
「た、隊長〜〜〜。助けて下さい〜〜〜」
このテントの隣で別のテントの設営をしていた様だが、途中で放り出して此方へ駆け寄ってくる。
見ると左手の親指が見事に腫上っていた。どうやら誤って自分の指をハンマーで打ち付けてしまったらしい。
「あ〜これは……無理だな。うん。助けらん無い」
「そ、そんな殺生な〜〜〜」
「……………」
「……………」
完全無視を決め込むノフルとライアン、こういう時は息がピッタリで羨ましい。
「……………ハァ」
仕方なく俺が適当に処置をしておく。このヘタレ一等兵の尻を拭くのも何時の間にか俺の担当になっている。
良くこんな小隊で生残れたものだと我ながら感心しているが、何だかんだ言ってこいつ等(約一名除く)は中々優秀だったりする。
副隊長・曹長のノフルは冷静沈着な戦場を選ばぬオールラウンダー、特に錬金術に長けそれを応用した工作が得意。
伍長のライアンは小隊一の怪力の持主で豪傑、獣人の血なのか鼻が良く遠くの敵も察知出来る。
一等兵のジェニーは……、優秀の筈だが……、……ヘタレ。
俺がレヌリアで共に戦った仲間達の評価は大体こんなものだ。
テントの設営を全て終えると、俺達は明朝に備え寝袋に潜り込んだ。
582 :異世界の戦友 [saga]:2011/08/18(木) 01:07:46.24 ID:zEVPyyWW0
―――――――イラステイン王国 山間部 東部国境付近 リアレイスライン北岸 8/24 05:03―――――――

「もうすぐ国境ですよ。中佐」
「流石に地元の者はこの辺りにも詳しい様だな。皆、もうすぐ砦だ!」
俺達二つの部隊は山間部に新たに造られた砦に向かっていた。
到着すればそこで別の部隊と護衛役を交代し、砦の防衛任務に就くので中佐達とはこれでお別れだ。
その時であった。
『隊長!敵の臭いだ!直ぐ近くに居るぞ!』
三台の車列の最後尾に陣取っていたライアンから通信が入った。
「了解!方角と数は!?」
『10〜8時、一個〜二個小隊、散開しています!』
「崖の上から散開、三方から挟む気か!中佐!」
「分っている!皆、速度を上げろ!前方を塞がれる前に突破を図る!」
『『『了解!』』』
中佐の部下が返事を返した時には既に俺の乗るトラックはグングン加速していった。
暫くすると崖から降りて来る敵が見えた。未だ崖の中腹ほどだ。
車列は敵の前を通過し、更に速度を上げていく。数分後には敵はもう見えなくなっていた。
583 :異世界の戦友 [saga]:2011/08/18(木) 01:08:28.69 ID:zEVPyyWW0
―――――――イラステイン王国・リヴァテイン王国 国境 山間部 東リアレイスライン要塞 06:45―――――――

「えーっと……お!いたいた!ようライル!」
「マック!ようやく会えたな!で、此方の方は?」
「ああ、オルガ・スパート中佐。俺達が護衛して来た補給部隊の隊長」
「成程、これがエリュオス軍で噂の隊長さんか」(中々美人だな)
「誰だこいつは?この男、貴官の知合いか?」
「ええ、旧友ですよ。ライル、緊急報告しなきゃいけない事態になっちまった。重要事項だから直接此処のボスに話したい。そこへ案内してくれ」
「分った、ついて来いよ」
「了解」
「ちょっと待て、夫々の持場は極秘事項につき守秘義務が有、上官命令でも話してはならない。貴官は何故この男が案内できると知っているんだ?」
「彼の持場を知っているからですよ。何故持場を知っているのかは直に分りますよ」
「何だったら今直ぐでも良いぞ、中尉」
「了解であります。将軍」
「………は?貴官は今何と言った?」
「『了解であります。将軍』と言いましたがそれがどうかしましたか?」
「なっ!そ、それは本当か!?」
「間違いありません。確かに言いました。彼はリヴァテインの少将ですよ。中佐」
その言葉を聴き青褪める中佐。
この男呼ばわりしていたのであるから当然の反応だ。
「あ、あ、あ、す、しゅみませn(ガリッ)――――――――――ッ!!!」
((……可愛い))
噛んだよ、噛みましたよこの人。中々可愛いとこ有るじゃないですか中佐殿。
でも痛そう。血出たみたいだ。
そして笑顔の少将殿、これは何か企んでやがる。
「申し訳御座いませんでした!エ、エリュオス陸軍中佐、オルガ・スパートであります!すみません!すみません!」(痛い。恥しい。そして死にたい)
「リヴァテイン陸軍少将、ライル=ブランディーだ。よろしく中佐」
答礼後、握手を求める少将殿。
その笑顔の裏に何を隠していやがる。
「はいぃ!よろしくお願いしますぅ!」
「大丈夫、大丈夫。誰にでもミスは有るさ。勿論、戦場でのミスは命取だから気を付けるようにな」
「はい!気を付けます!」
「それから、そんな涙目で居ないでくれるかな?可愛い顔が台無しになっちゃうよ?」
「……はい」(可愛い……、ってあれ?良く見ると少将けっこうイケ面かも……)
おい、まさか……。
「ほら笑顔笑顔」
「はい」
中佐が笑顔を作る。そこでにっこりと笑みを浮べる少将。
「可愛い子にはやっぱり笑顔が良く似合うよ。オルガちゃん」
「……はい///」[ズキューン!!]
584 :異世界の戦友 [saga]:2011/08/18(木) 01:09:11.57 ID:zEVPyyWW0
【マック脳内】

今、明らかに銃声が聞こえたぞ!しかも特大のやつが!
中佐!確りして下さい!
ああ、駄目だ!
ど、ドクター!誰か医者を!
〔わたしに診せろ!〕
〔――――――――クッ!〕
何で?
何で首を横に振るんだよ!?
頼むよドクター!
クソッ!クソッ!クソッ!チクショー!!
585 :異世界の戦友 [saga]:2011/08/18(木) 01:09:48.42 ID:zEVPyyWW0
【現実】

結論から言うと、中佐は戦場に散った。
この男の放った凶弾に倒れ、それまでの人生に幕を閉じた。
そして……。
「未だですか?将軍♪」
「もう着くよ。中佐」
「……………」
彼女の新たな人生が幕を開けた様だ。
出会って僅数分の間に落した奴と落された奴が目の前でイチャイチャしやがっている。
お前等くっ付き過ぎ、ちょっと離れろよ……。
って言うか中佐は良くあんなので落されたな……。ハッキリ言って呆れるぜ。
「おっ!此処だ此処」
「ようやく着いたか」
そこは大部屋で皿のような形状になっていて、中では所狭しと将校たちが歩き回り、中央の低い所に在る大きなテーブルには魔法で自動制御されたモニターに地図が映し出されていた。
「ようこそ、連合軍レイス中央方面東リアレイスライン峡谷陸軍基地司令部(仮)へ」
「無駄に長いな……。で、早速デブリーフィングを始めたいのですけど」
「こっちこっち、中央聖都のお偉いさん方が一応此処のリーダだからそこに行く。まぁ、ハッキリ言って実権は俺達レイス人の側にあるがな」
「中央大陸の軍人さんねぇ」
テーブルの中央に陣取るデブに向かって歩く、恐らく彼が此処のトップだろう。
「司令官、報告します。補給部隊が到着しました」
「ああ、ごくろう。後ろの二人かな?」
「ええ、補給部隊の隊長スパート中佐と護衛の隊長コナー中尉です」
「オルガ・スパートであります」
「マクドネル・コナーであります」
「此処の総指揮を担う、マーク・ウスバルだ。よろしく」
中央大陸の連中の名は相変わらず分り辛い。
そういえば異世界から来た彼等も変わった名だった。まぁ、世界が違うのだから仕方が無い。
「それで、緊急事態とは?」
「はい、0503時、我々が峡谷を通っていた時です。恐らく我々を目標とした敵奇襲部隊と遭遇、その際、敵部隊の接近にコナー隊の隊員が逸早く気付き事無きを得ました。彼等が居なければ我々は今頃死体としてこの基地に流れ着いていた事でしょう」
「敵部隊の総数は?」
「一個〜二個小隊、全て歩兵の様です」
「解った。他に何も無ければ以上でデブリーフィングを終了する。ああ、護衛の引継ぎは追って連絡する。下れ」
「「了解しました」」
「ブランディー少将、基地内の将軍達を緊急招集。0715時より此処で緊急会議だ」
「了解しました。直ちに召集します」
より一層慌しく動き出す室内、俺達はどうやらお邪魔虫らしい。
「じゃあなライル、頑張れよ」
「また後程、将軍♪」
「ああ、終ったらな」
俺達は各々割当てられた部屋に向かう事にした。
586 :異世界の戦友 [saga]:2011/08/18(木) 01:10:38.77 ID:zEVPyyWW0
―――――――東リアレイスライン要塞 8/25 10:00―――――――

あの後、なんとか時間が取れた俺達三人は集り、談笑した。
中佐はベッタリとライルにくっ付いてとても幸せそうだった。
だが、今日は中佐とお別れだ。
本来なら昨日でお別れなのだが奇襲の一件で上がそれどころでは無かった様だ。
……が、此処で少し……否、大きな問題が浮上した。中佐がグズっているのだ。
「離れたくないですぅ」
「我侭言っちゃ駄目だよ。オルガちゃん」
「でもぉ」
涙目の中佐。やっぱり美人だ。
「駄目。任務だろう?それに此処に居たら危険なんだよ。守るべき存在がまた一つ増えたのに守りきる自身が無いんだ。ごめんね」
ライルよ、何時からそんなキャラになった?
「いえ……、そう言って頂けて嬉しいです。……分りました。命令通り帰還します」
「良かった。じゃあね、オルガちゃん」
「また会いましょう。中佐」
「お手紙書きますね。将軍♪、それから中尉にも」
「了解。待ってるね」
「直に返事を送りますよ」
中佐が敬礼をする。
「それじゃあ二人とも御気を付けて。失礼します」
俺達も敬礼を返す。
「そっちもな」
「俺達は必ず生き残って見せます。生きていれば会えるはずです。だから次に会う時までは、さようならです」
「ああ、さようなら」
中佐は手を振りながら昨日通った道を逆走していった。
―――それから三日後の事だった。この基地に敵の大部隊がやって来たのは。
587 :異世界の戦友 [sage]:2011/08/18(木) 01:13:13.45 ID:zEVPyyWW0
第三章途中ですが今日は此処まで
明日後半を投下します
588 :異世界の戦友 設定 [sage]:2011/08/18(木) 01:18:17.61 ID:zEVPyyWW0
オルガ・スパート(23):人間族、エリュオス陸軍中佐、エリュオスの有望株で美人、ライル(様)にゾッコン

コナー小隊(イラステイン陸軍第三師団(中略)第七小隊):小隊でありながら隊員は四名

マック(隊長・中尉)

ノフル・クリービー(25)(副隊長・曹長):人間族、冷静沈着、無口なオールラウンダー、工作兵で錬金術による爆破のプロ

ライアン・バスター(23)(伍長):人間族と獣人族の混血、怪力、豪傑、鼻が良く感知能力に優れている、サボり癖有り

ジェニー・マクレーン(19)(一等兵):人間族、ヘタレ、本当はエリート……の筈

マーク・ウスバル(89):人間族、中央大陸永世中立地中央聖都独立防衛軍総司令官兼連合軍陸軍総司令官

東リアレイス要塞:連合軍がリアレイスラインが流れる峡谷を塞ぐ様に造った要塞
589 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/08/18(木) 01:20:17.81 ID:mPq9smu50
乙でした
相変わらず文章構成がお上手でうらやましいです。
590 :異世界の戦友 設定 [sage]:2011/08/18(木) 01:24:55.79 ID:zEVPyyWW0
注意事項

この後の展開で戦闘機とか出て来る
設定をかなり未来にしたのはその為

このSSに合わなかったらごめんなさい
591 :守る者たち [sagesaga]:2011/08/18(木) 01:34:48.70 ID:mPq9smu50
むしろ今自分が書いている下書きだと
魔力機関を使った機関車がでてくるので。
つながっているかんじになってむしろありがたいです
592 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/08/18(木) 02:51:47.04 ID:bfQ92gUzo
いいなー文才ある人いいなー
593 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/08/18(木) 06:58:14.98 ID:dQT8CxK+0
戦闘機でも
錬金術が発展したとか魔力機関とかで
大丈夫だと思うよ
594 :異世界の戦友 設定 [sage saga]:2011/08/18(木) 10:13:25.05 ID:zEVPyyWW0
>>589>>592
どもです
自分、文才なんて無いです

>>591>>593
お二人の言う様に、兵器は主に魔法(魔力)と錬金術の発展した形です
595 :異世界の戦友 [sage]:2011/08/19(金) 00:45:36.50 ID:JMue7Gwp0
投下します
596 :異世界の戦友 [saga]:2011/08/19(金) 00:46:25.59 ID:JMue7Gwp0
―――――――東リアレイスライン要塞 8/28 10:25―――――――

ブリーフィングルームに各隊長達が慌しく入って来る。緊急招集が掛かったからだ。
早く着いた俺は前の方の席を陣取る事に成功した。
「えー、先ずは楽にしてくれ。と言いたいところだがそうもいかん。緊急事態だ」
司令官が話を始める。恐らく他の部屋でも既に始まっているのだろう。
「皆既に知っているだろうが奴等が来た。例の異世界人達だ。予測通り河の下流から陸路と水路でこの砦に接近、現在敵は戦力を集結、直にでも此方に攻めて来るだろう。此方はこの砦で迎え撃つ事になる。作戦を伝える。これを見ろ」
モニターに地形図や敵味方の配置が示される。
峡谷の真中に馬鹿でかい壁が聳えている。この基地だ。
約200メイルの高さを誇るこの壁は狭く強力な砲列を備え、この世界の住人達には攻略は不可能なのではないかと想わせる威圧感を放っている。
「詳細不明だが、敵は陸空合せて約数万〜数千。此方の戦力は我々陸軍が20万、内戦車334、空軍は戦闘機120、爆撃機15」
数では上回っていても連中の戦力と比較するとまともに戦えるのか不安だ。
「峡谷内は非常に狭い、その為河は急流となっている。それを利用し我々は奴等を河に沈める事にした。奴等を水攻めにし、敵の艀、戦車、歩兵共を一気に叩く。その後残敵を駆逐する。勝利の後この砦は反攻作戦の要ともなる。よって最後の一兵まで死守せよ。以上だ。各隊配置に付け」
水攻めだと!?自棄になっていないか!?
有効な手段だとは思うが、一回ポッキリの戦術じゃないか。
それに「最後の一兵まで死守せよ」だと!?
全滅して世界が乗っ取られるのが目に見えている。
反撃も出来ずにこんな所で最期を迎えるなんざ糞喰らえだ。
何処の馬鹿が考えたのだろうか?
俺はそんな事を考えながら部屋を後にした。
597 :異世界の戦友 [saga]:2011/08/19(金) 00:47:06.36 ID:JMue7Gwp0
―――――――東リアレイスライン要塞 8/28 15:43―――――――

俺達コナー隊の持場は砦の最上部だった。
下流から砦に向かう時に渡る橋が見える。かなり高い位置に在る。
敵戦車が橋を渡って来たら爆破する手筈になっている。
爆破はノフルの十八番だ。
アイツに爆破出来ない物は殆存在しないのではないかと思う。
「ノフル、準備は良いか?」
「…………何時でもOKです」
「ライアン、鼻を利かせろ。奴等の正確な位置を知りたいからな」
「解ってますよ隊長。既に始めています」
「そりゃ良かった。敵が迫っているのにサボられちゃ敵わんからな」
「酷ぇ」
「当り前だ。ジェニー、お前は……そこに居ろ。そして指示を出すまで何もするな。絶対にだ」
「酷いです〜〜〜。隊長〜〜〜」
「「「……………」」」
「」[シクシク]
全員に無視されていじけるジェニー。放っとこう。
とその時、基地内に警報が鳴り響いた。
『警告!警告!敵が接近!総員第一級戦闘態勢!繰返す!敵が接近!総員第一級戦闘態勢!』
遂に敵が来た。下流に陣取っていた連中が遡上して来たのだ。
『敵の先頭を探せ!見付け次第報告しろ!』
『砲門開け!全部だ!』
『コナー隊!爆破準備は!?』
「此方コナー隊、準備完了、何時でもいける!」
無線が混線している。
端末からは絶えず誰かの声が響く。
598 :異世界の戦友 [saga]:2011/08/19(金) 00:51:08.79 ID:JMue7Gwp0
「隊長!奴等を確認しました!」
「でかしたライアン!何処にいる!?」
「橋の数百m(メイル)下流です!奴等真直ぐ橋に向って来やがる」
「そいつは願ったり叶ったりだ。ノフル!お前の出番だ!タイミングは任せる!」
「……了解」
「ひぃぃぃぃぃ!!!来るなぁぁぁ!!!」
「うるさい!ジェニー!お前は黙ってろ!」
「」
「橋までの距離、残り200!」
「「……………」」
「150!」
「」[ガクブルシク]
「100!……80!……50!……30!……20!……10!……0!」
敵が橋を渡り始める。だが、ノフルはまだ何もせずにじっと待つ。
敵が橋の中程に来た時、ノフルが動いた。
大規模練成に必要な錬成陣の最後の部分を描き終えると、素早く練成を開始する。
数秒後、橋の支柱で爆発が起こり少し遅れて轟音が谷に木霊した。
支え切れなくなった橋は自重で敵諸共谷に崩れて行く。
爆破成功だ。
峡谷内は道が一本しか無く、その唯一の道を繋ぐ橋が破壊された。
これで敵戦車は下の河を渡って対岸に行くしか方法は無い。
だが、河を渡ろうとすれば砦からの水攻めが待っている。
「此方コナー隊、爆破成功。繰返す。爆破成功」
『了解、良くやった。敵の損害は?』
「確認出来た物は敵戦車五輌、残りは不明」
『了解。そのまま持場で待機だ』
「了解」
『放水用意!』
『水系統の錬金術師及び魔術師は準備OKだ!』
『敵が河を渡る瞬間まで待てよ!』
『此方も準備OKだ!何時でもいけるぞ!』
相変わらず混線している無線から良く知った声が聞こえてきた気がした。
俺の旧友も将軍として、魔術師として舞台を任されている。
彼は水と火の系統が得意だった筈。
大量の水を使う今回の作戦には打って付の人材だった。
『敵が谷を下り始めた!河に向かっている!』
『了解、予定通りだ。そのまま敵から目を離すなよ!』
『空軍に連絡を!もうじき出番だ!』
敵が河に差掛る。河には敵の艀が居た。
艀と合流しようとしている様だ。
艀で戦車を渡す心算だろうか?
どうやらその様だ。次々に戦車が艀に乗込み河を渡ろうとする。
『今だ!やれ!』
『了解!放水開始!』
『術を発動させろ!全部だ!』
砦の真中に穴が開く。咳き止められていた水が谷に流れ込む。
錬金術や魔術によりその水量、水圧、流速は増していく。
濁流はまるで生きているかの様に、そして自らの敵を薙ぎ払おうとする様に敵に迫る。
濁流は敵の艀も戦車も飲込み、獲物を追う狩人の様に逃惑う者達を喰らい尽して行った。
599 :異世界の戦友 [saga]:2011/08/19(金) 00:51:57.33 ID:JMue7Gwp0
『此方連合軍東リアレイス陸軍基地、敵を洗い流す事に成功、空軍は直ちに爆撃を開始せよ』
『此方連合軍空軍早期警戒管制機ブルー・ベインツ、了解、飛行隊は攻撃を始めよ。爆撃開始』
『了解、投下する』
爆撃機の編隊が残敵を攻撃しに行く。護衛の戦闘機も一緒だ。
無線の内容からして、地上では次々に爆発が起こっている様だ。初勝利はもう直だ。
だが、俺は出来過ぎていると思っていた。
その予想が的中したのは爆撃の第二派が敵に迫った時だった。
『敵機接近!敵機接近!』
『何!?何処だ!?』
『峡谷内を低空飛行中!爆撃隊全機、緊急退避!』
『了解!退避すr……』[ザ―――]
『三番機!どうした!?応答しろ!』
『此方二番機!三番機は墜ちた!味方戦闘機は現空域からの離脱を支援s……』[ザ―――]
『駄目だ!二番機も墜ちた!』
『対空砲用意!』
『此方五番機!一番機と十番機も墜ちt[バァン!]―――ッ!被弾した!高度を保てない!』
『味方機が一機火を噴いてこっちに突っ込んで来るぞ!』
『要塞に当てるな!味方の基地だ!全力で回避するぞ!』
『了解です!機長!』
『突っ込んで来るのは五番機か!?』
『此方五番機、俺達の家族に宜しく言っといてくれ……じゃあな』
直後、大型機が黒煙を上げながら、失速するのも構わず左へ無理矢理急旋回する。
峡谷の南側(俺達から見て右側)の崖へ鼻先から突っ込む。爆音が轟、火柱が上る。
あの状況下で良くあれだけの事が出来たものだ。
だが、感心している暇はない。
「皆、連中が来る!備えろ!」
「言われ無くともとっくに備えてますよ!」
「…………やるしか無い」
「」[ガクガクブルブル]
「確りしろ!お前の力が必要だ、ジェニー!」
「は、はいぃ……」
「大丈夫だな?頼むぞ!」
「……はい」
「良し」
ジェニーはやれば出来る。
それを俺は知っている……よなぁ?
不安だ。
決してジェニーを疑っている訳ではないが……。不安だ。
600 :異世界の戦友 [saga]:2011/08/19(金) 00:52:43.97 ID:JMue7Gwp0
『此方ファンツィン1、敵機は五十機程だ!』
『此方ブルー・ベインツ、了解、全機に通達、敵機を全て墜せ!』
『全て墜せだぁ!?こっちが撃墜されない様にするので精一杯だっての!』
『クソッ!尻に付かれた!』
『イメルダ2から離れやがれ!』
『ミサイル接近!ブレイク(回避する)!』
『クソッ!速過ぎる!ロック出来ない!何時も何時も何々だこの性能差は!』
『来るな!来るn』[ズガァン!]
『バリオス3が墜ちた!』
『爆撃機は残り三機だ!』
『戻るのは不可能だ!爆弾全部落してやる!』
『此方十二番機、四番機、俺達も一緒に行かせてくれ』
『此方十五番機、俺達も付合う、戦闘機は道を空けてくれ』
『四番機了解、残り三機で奴等を道連だ!』
『此方ブルー・ベインツ、それは命令違反だ!戻れ!』
『悪いがそいつは無理な相談だ。もう戻れないよ』
『全機!花道を造れ!敵機を近付かせるな!』
『止せ!死ぬんじゃない!』
『そいつは嬉しいね。けど手遅れだ』
『十二番機、投下!』
『十五番機、投下!』
『……四番機、投下!』
最後の爆撃を終えたその時、数機の敵機が味方戦闘機の群れを突破し、爆撃隊に迫った。
しかし、三機とも回避行動など取らない。まるでカカシ(動かぬ的)の様に簡単に機銃で穴だらけにされる。
そのまま三機とも峡谷へ墜ちて行った。
俺がこの三機の最期を知るのは戦後になってからだった。峡谷が曲りくねっている為、四角になっていたのだった。
俺がこの時知り得たのは、自分の目で見た味方爆撃機の墜落と無線での遣り取りくらいだった。
『爆撃機三機、反応ロスト!』
『……クソッ!』
『此方バリオス4、彼等は全滅した』
『此方レディオルム3、此方も確認した。最高(さいてい)だが最低(さいこう)の最期だった』
『感傷に浸っている暇は無いぞ!』
『味方の残機は!?』
『もう50機も居ないぞ!』
『相変らず減るのが速過ぎる!』
『こりゃ新記録だな……。敵もそれだけ本気って事か』
『空軍はもう持たないぞ!』
『地上の部隊だけでも此処を守るんだ!』
『撃て撃て!奴等を叩き墜せ!』
『ぐあぁ!……此方レディオルム4、足をやられた。機体も駄目だ。……畜生!イジェクション・シート(脱出装置)がイカれた。ベイルアウト(脱出)出来ねx……』[ドゴォン!]
『レディオルム4、墜落!』
『バーリエン1が火を噴いた!』
『――――――――!!』
『駄目だ!脱出する!』
『おい、止めろ!ベルリーニ2!お前にはまだその軌道は無理だ!』
『……く、苦しい。……息が……出来ねぇ』[ハアハア]
『レイミー!命令だ!戻れ!』
『……………』
『レイミー!敵機g[ドガァン!]レイミー!!!』
『ベルリーニ2、墜落!』
601 :異世界の戦友 [saga]:2011/08/19(金) 00:53:21.30 ID:JMue7Gwp0
空軍は敵に良い様に弄ばれていた。
そして俺達陸軍も次第にこうなるであろう事を皆理解していた。
『敵機接近!敵機接近!大型輸送機20機!砦に向かって直進している!』
『新手か!?』
『十二時方向だ!』
『十二時って何処だ!?誰から見て十二時なんだ!?』
『西だ!西から来ている!』
『砲火を輸送機に集中しろ!恐らく空挺部隊だ!』
『地上戦に備えろ!お客さんだ!』
『此方ブルー・ベインツ、レッドドラゴン、スカイアロー、ゴメスの各隊は敵輸送機を撃墜せよ!残りは彼等に敵機を近付かせるな!』
『此方レッドドラゴン1、了解。下の連中を守る。レッドドラゴン各機、付いて来い』
『此方スカイアロー1、了解した。僚機と共にレッドドラゴンの後ろに付く』
『ゴメス隊、後ろに付く』
『空軍だけでは防ぎ切れん!奴等が降下して来る前に地上からも攻撃を加えろ!』
『味方に当てるなよ!』
『輸送機が撃墜出来なかった場合は敵の降下中を狙え!良い的になってくれる!』
『奴等は堅いぞ!』
『落下傘を狙え!勝手に大破してくれる!』
『輸送機を視認。攻撃する』
『此方ゴメス隊、取巻きを引付ける』
『了解。頼むぞ!』
『そーら、こっちだ!』
『退け退け!お前等の相手はこの俺達だ!』
『今だ、攻撃開始』
『一機撃墜!』
『しまった!敵の編隊が抜けた!輸送機攻撃隊!注意しろ!』
『二機目を撃墜!』
『スカイアロー各機、此方に来る編隊の足止めを試みる。レッドドラゴンは攻撃を続行しろ』
『了解。ゴメス隊、バトンタッチだ』
『了解。輸送機攻撃に移行する』
『おらおら!今度は俺達が相手してやる』
『スカイアロー2!やられた!』
『レッドドラゴン3!被弾した!』
『此方スカイアロー4!駄目だ!後は頼んだぞ!』
『敵輸送機が見えたぞ!』
『撃て!此方に来させるな!』
『味方機!気を付けろ!地上からも攻撃する!当るなよ!』
『ゴメス5!墜落する!』
『ベルニーニ1!尻が火事だ!脱出しろ!』
『やられた!蜂の巣だ!』
『三機目を撃墜!』
『敵戦闘機が地上への攻撃を開始!対空砲を鎮める気だ!』
602 :異世界の戦友 [saga]:2011/08/19(金) 00:54:03.88 ID:JMue7Gwp0
「一機こっちに来るぞ!」[バッ]
「伏せろ!」[サッ]
「…………ッチ!」[スゥ]
「おい!そこのお前等!死にたくなかったらコイツの後ろに下がれ!」[ユビサシ]
「出番だジェニー!」[ニヤッ]
「ぎぃやぁぁぁぁぁ!!!」(人生オワタ!)[ビエーン]
此処に居なければ不味い事になるので、皆してジェニーの後ろに隠れる。だが、決して彼を捨駒にしているのではない。
彼に期待しているのだ。
「――――――――――――――――――」(←魂の叫び?)
敵機が迫る。
ジェニー!さぁ、見せてやれ!お前の実力を!
「」[プッツーン]
来た来た来たぁ!
これだよこれぇ!
「ニョワアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!」[ピカァー!!]
ジェニーが叫ぶ!
そして彼が光り輝く!
迫る敵のミサイル、だが今のジェニーには無意味だ。何故なら……。
こうなったジェニーはほぼ無敵だからだった。
「―――――――――――――!!!!!」[ズドオオオオオオォォォォォォォォォォンンンンンンンンンン]
ジェニーから何かが放たれる。
その輝きに包まれたミサイルは一瞬で蒸発し、敵機は光に掠っただけで爆散した。
たった一人で敵機を撃墜。
流石だぜ。
意識を失い倒れこむジェニー。
お疲れさん。
俺達が砦の最上部に配置されている理由、それは爆破の件も有るが、何よりもジェニーが居るからだった。
この攻撃力では下手に使うと基地に甚大な被害が出てしまう。
また、これはジェニーが死掛けた時のみ発動するらしい。よって最も安全で危険な場所に配置されたのだった。
多分コイツがこれを連発出来、且自在にコントロール出来たなら戦局は今より大分マシだったろう。
今の攻撃で一瞬怯んだ様にも見えたが、直に敵は攻撃を再開する。
「ライアン、ジェニーを頼む」
「了解」
ライアンはジェニーを担ぐ。
603 :異世界の戦友 [saga]:2011/08/19(金) 00:54:48.39 ID:JMue7Gwp0
さて、そろそろ向うの命令にも従わないとな。
先程ライアンにジェニーの後ろに下がれと言われ、一部始終を目撃し呆然としていた兵士達に俺は告げた。
「おい、死にたくなかったら付いて来な」
「…………は?」
「だから、死にたくなかったら付いて来いっての」
「けど持ち場は!?」
「良いから。中の隊長の言う事聞いとけって」
「…………どうせ此処に居ても死ぬか捕虜になるだけ」
「しかし、命令違反です!」
「あぁ、それなら問題無い。俺達は上からの命令で此処を離れるからな」
「そちらが良くても我々はそんな命令は受けておりませんので此処を離れる訳には行きません」
「そうだろうな。ただ、こっちは連れて来れるなら出来るだけ多く連れて来いという命令も受けているものでね」
「隊長、もう余裕は無いです。さっさと行きましょう」
「まあまて、此処に留まり反撃の機会を与えられずこのまま此処で犬死するのか、一緒に来て反撃を試みるのか好きにしろ。因みに此処で俺達と共に行く事にしても命令違反でも敵前逃亡でも無いからな」
「……解りました。付いて行きます。中尉殿」
「そりゃ良かった。これ胸に付けときな、それからそこに隠れていてくれ。さてと、あーあー、総員に通達。此方MSY実行部隊プランR−1終了。プランR−2へ移行。繰返す。プランR−2へ移行」
『此方司令室、誰だ?何を言っているんだ?』
『此方MSYM2、了解。張りぼてを用意する』
『此方MSYリーダー、予定通り作戦を開始する』
『貴様等何を言っているんだ!おい!何処へ行く!』
『アンタは此処に残るんだ。総司令官』
『なっ!?これはどう言う事だ!わたしに銃を向けるな少将!』
『アンタが敵と通じていた事はとっくに分ってたんだ。MSさんよ』
『わたしの名はマーク・ウスバルだ!イニシャルが違うぞ!』
『おやおや、これは失礼。それなら「無能な嘘吐き炙り出す作戦」略して「MUA作戦」の方が良かったかもな』
『戦闘機各機、撤収だ!急げ!』
『こんな事をしていたら敵に利用されるだけだぞ!少将!それにこの戦いで死んだ連中はただの犬死ではないか!』
『アンタがまともなら犬死せずにすんだんだよ』
『大体、本当に犬死だと思ったのか?』
『何!?どう言う事だ!』
『少々基地等に細工をしましてね。魔法で戦闘機等の幻影を作り出して味方がやられている様に見せていたんですよ』
『何だと!?』
『つまり、味方機の損害は非常に軽微。パイロットの肉声は事前に録音したものですよ。爆撃機とその人員全て失ったのは誤算でしたがね』
『クソッ!衛兵!コイツを取押えろ!』
『無駄だ。この作戦に参加していないのはアンタだけだ。つまりアンタの味方は存在しない!』
『何ぃ!?』
『さあ選びな!此処で総司令官として名誉の戦死を遂げるのか裏切者として歴史に記されるのか!』
『わたしが居なければ連合軍は負けるぞ!』
『居ようが居なかろうがこのままでは負けるだろうがアンタが指揮するより大分マシだ無能裏切野郎!有能な指揮官ならレヌリアにもエリュオスにもこの中央盆地にも居るんだよ!』
『総員退避!総員退避!奥の手を使う!急げ!』
『空軍は退避完了!』
『MSY実行部隊!早く退避を!』
『敵が迫っている!』
604 :異世界の戦友 [saga]:2011/08/19(金) 00:55:24.72 ID:JMue7Gwp0
「もう良いか。良し、コナー隊退避開始!お前達は俺達に続け!」[ダッ!]
「了解。しかし、あれは本当なのですか?」[タッタッタッタ]
「ああ、本当だ。奴は俺達を売って戦後の自らの地位を確保しようと企み俺達に気付かれたのさ」[タッタッタッタ]
「そんな……。これから俺達はどうすれば……」[タッタッタッタ]
「後で考える時間は有る。今は走れ!……おっ!あれは!」[タッタッタッタ]
数台のトラックが此方へ走って来る。ナンバーを見て思わず笑顔になる。
あいつ話しやがったな。
「コナー隊!乗れ!」[キィー!!]
「オルガ中佐。本国へ帰ったのでは?」[ニヤニヤ]
「この御方の役に立たなくてどうする?」
「やれやれ……」
トラックの荷台に次々と仲間達が乗込んで来る。
助手席には確りとライルが座っていた。俺達よりも先に乗っている所をみると、差し詰め移動系の魔法を使ったのだろう。
「あの馬鹿司令官はどうした?」
「死んだよ。自害するって言うんで銃を渡したら俺を撃とうとした。だけど魔法の掛かった特殊弾だったから俺を避けて行ったんだよ。そしたら運悪く兆弾した弾が頭蓋を貫いちゃったんだよな」
「そうか……。ライル、俺達で最後だよな?」
「ああ、さっき確認した」
全員が乗込み終わる。
「中佐、出して下さい」
「ああ、この基地ともおさらばだ」
トラックが走出す。
見上げると次々と降下して来る空挺戦車の群れが居た。
魔法が掛かった対空砲や戦車の張りぼてを攻撃する戦闘機も居た。
まだ敵は俺達が逃出した事に気付いていない様だった。
トラックは谷を走る。今度は盆地に向かって。
走り続ける事数十分、もう敵も基地も見えない。と、ここでライルが俺に一言。
「そろそろか?」
「そろそろだな。……ノフル。やれ」
「…………了解」
ノフルが何かを行う。
暫くすると基地の方から轟音が聞こえて来た。
巨大な火柱が上がる。基地そのものを爆破したのだった。
この戦いでの敵の損害はこの時点までで最も大きな物だった。
トラックは停まる事無く峡谷を走り続けた。
605 :異世界の戦友 [saga]:2011/08/19(金) 00:56:33.61 ID:JMue7Gwp0
―――――――イラステイン ノラリアレイス イラステイン国防庁 8/29 10:20―――――――

「それで、作戦は?」
「無能な裏切者を片付ける事には成功しました。また、敵の部隊に大打撃を与える事に成功、これで侵攻を少しは遅らせるでしょう。気休め程度ですがね」
あの無能裏切総司令官を切捨てた俺達は、この作戦を立案・指揮していた黒幕の一人と会っていた。
連合軍上層部の中でも一早く総司令官の裏切りに気付いた一人で、他の黒幕達と連携し、総司令官を追詰めた影の立役者だ。
部屋には黒幕と俺、小隊のメンバーの三人だけが居た。
「だろうな。……良くやった中尉。いや、少佐と言うべきだな」
「階級を偽るのも結構大変なんですよ。総帥」
「すまないな。だが、もう偽る必要は無かろう。そこの三人も同様に本来の階級で良いぞ」
「「「はっ!」」」
「ノフル・クリービー大尉、了解であります」
「ライアン・バスター中尉、同じく了解」
「ジェニー・マクレーン一等h……じゃなくて少尉、り、了解です」
そう、俺達コナー隊の面々はこのシロヒゲハゲチャビンジジイの命令で、全員が偽の階級証を身に着けていたのだった。
俺達はたった今からそれまでの建前であるイラステイン陸軍第三師団(中略)第七小隊から、イラステイン全軍総帥直属特殊部隊に復帰する。
この特殊部隊は陸・空両軍合せて数百人程で構成され、命令が有れば王族等要人警護からこのジジイの暇潰しの相手、果は迷子の子供やペットの捜索までこなす。
言ってみればただの便利屋だ。
極秘の特殊部隊なのに国民なら誰でも(精鋭部隊及び便利屋部隊として)知っている為、こうして所属と階級を偽る事も多々有る。
「コナー隊、ご苦労。……すまないがマクドネル以外は外してくれ。それからライルを呼べ」
「解りました。失礼します」
ノフル達が部屋を出ると直にライルが入ってきた。
「ブランディー少将。良くやってくれた……。そこのお嬢さんは誰だ?」
「エリュオスのオルガ中佐ですよ」
「は、初めまして総帥。エリュオス陸軍中佐、オルガ・スパートです」[ガチガチ]
「スパート中佐、そんなに硬くなるな。少将、何故この部屋に入れた?」
「オルガが離れたくないって言うもので」
「だってぇ〜。将軍と一緒じゃないと不安なんですよ〜♪」
この発言の瞬間。ジジイが此方に目で尋ねて来た。
(おい、マック!これはあれか?)[チラッ]
(そうですよ。まったく……)[チラッ]
(どうだ、俺の彼女は?ジジイには一生無理だろ?)
(貴様の目は節穴か?ワシの妻の方が美人だな)
(あのババアの何処が美人だ?オルガの方が美人で可愛いだろうが)
(上等だ。此処で一戦殺り合うか?糞ジジイ)
(良いぜ。決着を付け様と思っていたところだ。オチビちゃん)
また始まった。中佐も居るってのに……。
ん?一寸待てよ?中佐が居るのに何で始めているんだ?
この訳は直に解った。
「さて、この中央盆地に敵が攻入るのも時間の問題。屈辱では有るが、ワシ等はイラステイン・リヴァテイン両国から撤退する事になる。だが一つ問題が有る。奴等の進軍が余にも速い事だ。そこで奴等を足止めする何かが必要だ」
「成程、それで俺達を呼んだのですか」
「その通りだ少佐。少将は解っていた様だがな」
「そんなのは駄目です!」[バン!]
総帥に詰寄る中佐。瞳には涙を浮べている。
やっぱり気付いたか。
「オルガちゃん……。誰かがやらなきゃいけないんだ」
「でも、将軍に死なれたらわたし生きていけません!」
「…………ありがとう」(本当は……)
「三人とも聞け。連合軍はこれより西へ向かう、お前等はそこに合流しろ」
「……えっ!?」
キョトンとしている中佐。
何を言われたのか解っていないらしい。
「正気ですか!?総帥!」
「正気だ、少佐」
「あなたは連合軍に必要な存在だ!此処で死なすわけに良くか!」
「必要なのはワシではなくてお前達だ。ワシはもう十分生きた。ワシが出る」
「でも……」
すっと手を俺の前へライルが出す。
その手が何も言うなと伝えて来る。
「二人とも聞け。恐らくこれで最後の命令だ。ワシを置いて行け」
「了解した」
「……了解」
「それから三人に個人的なお願いだ。生き残ってくれ」
「「「分りました」」」
「あとそれから、スパートさん。この馬鹿を宜しく頼みます」
「はい」
俺達は部屋を後にした。
ノフル達と共に歩き出す。この建物には総帥と俺達以外はもう誰も居ない。
建物を出て正面に停めてあった中佐のトラックに乗込む。そしてトラックは静かに走出した。
振返ると総帥と話をしていた部屋だけに灯りが点いていた。
トラックは街道を西へ走り続けた。
606 :異世界の戦友 設定 [saga]:2011/08/19(金) 01:04:03.31 ID:JMue7Gwp0
改めて設定投下

オルガ・スパート(23):人間族、エリュオス陸軍中佐、エリュオスの有望株で美人、ライル(様)にゾッコン

コナー小隊(表:イラステイン陸軍第三師団(中略)第七小隊、裏:イラステイン全軍総帥直属特殊部隊):小隊でありながら隊員は四名

マック(隊長)(偽:中尉)(真:少佐)

ノフル・クリービー(25)(副隊長)(偽:曹長)(真:大尉):人間族、冷静沈着、無口なオールラウンダー、工作兵で錬金術による爆破のプロ

ライアン・バスター(23)(偽:伍長)(真:中尉):人間族と獣人族の混血、怪力、豪傑、鼻が良く感知能力に優れている、サボり癖有り

ジェニー・マクレーン(19)(偽:一等兵)(真:少尉):人間族、ヘタレ、本当はエリート……の筈、(ある意味最強)

マーク・ウスバル(89):人間族、中央大陸永世中立地中央聖都独立防衛軍総司令官兼連合軍陸軍総司令官、糞野郎、故人

その他設定

東リアレイス要塞:連合軍がリアレイスラインが流れる峡谷を塞ぐ様に造った要塞、異界人諸共吹飛ぶ(戦闘開始から半日程)
607 :異世界の戦友 設定 [sage saga]:2011/08/19(金) 01:13:29.60 ID:JMue7Gwp0
途中からもの凄い急展開になってしまった……orz

実は異界人の部隊は水攻めの事を事前に知っていて(裏切者が情報を流していたのでは無い)、濁流に飲込まれた戦車や艀は無人のカカシです
しかし、マック達が仕掛けていた奥の手までは見抜けなかったという事なんです
解り難いですよね、ごめんなさい
608 :異世界の戦友 設定 [sage saga]:2011/08/19(金) 01:21:49.93 ID:JMue7Gwp0
修正

実は異界人の部隊は水攻めの事を事前に知っていて(裏切者が情報を流していたのでは無い)、濁流に飲込まれた戦車や艀は無人のカカシです
彼等としては濁流が過去った後に空挺部隊を送込む予定でした
しかし、マック達が仕掛けていた奥の手までは見抜けなかったという事なんです
解り難いですよね、ごめんなさい

SS書いていて感じた事→アイディア出て来ねー
また書き溜めて来ます
609 :守る者たち [sage saga]:2011/08/19(金) 04:52:07.68 ID:Dk7Nd9Ri0
乙です
魔法機関の詳しい設定は
私がが書いてもよろしいでしょうか?
610 :異世界の戦友 設定 [sage]:2011/08/19(金) 10:04:47.17 ID:JMue7Gwp0
構いませんよ
あなたのやり易いように設定を書いちゃってくれてOKです
この話に合わない場合はこちらで独自解釈&修正します
また、この時代の動力源については幾つか種類がある心算です
611 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/08/19(金) 22:30:30.08 ID:VPx98gME0
>>575
したらばか
微妙なところだな
612 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/08/19(金) 22:32:00.13 ID:VPx98gME0
>>610に乙を忘れていた
613 :異世界の戦友 設定 [sage saga]:2011/08/22(月) 10:59:06.94 ID:gx0h/1gS0
忘れていたので設定追加

国・地名等設定

白翼大陸:北方の大陸、地図上で翼(羽)の様に見える事と北部が厚い氷河に覆われている事からこう呼ばれる、大陸を南北に隔てる山脈の南にエルフの大国(魔法が掛けられていて温暖)が存在、山脈以北は果てし無い大氷原が広がる無人・不毛の極寒地帯

暗黒大陸:南方の大陸、魔族等が住む、旧名は深影の大陸
614 :「ある小さな工房にて」 [saga]:2011/08/22(月) 21:27:28.69 ID:8+PdiOpD0
唐突ですが3人の名前を安価で決めます
助手+3
エルフ+6
博士+9
でお願いします
615 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/22(月) 22:46:34.24 ID:kQtju2qR0
ksk
616 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京西部) [sage]:2011/08/22(月) 23:38:42.49 ID:gx0h/1gS0
↓に任せる
617 :守る者たち [sage]:2011/08/22(月) 23:58:21.70 ID:6V1XZLZ40
マイサとか?(適当 
618 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) :2011/08/23(火) 09:17:09.55 ID:BUuycF6D0
ksk

619 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/08/23(火) 09:37:47.85 ID:5fvg7tHAO
タコヤキマン
620 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) :2011/08/24(水) 00:00:57.96 ID:MVIuFViH0
人いませんな
621 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京西部) [sage]:2011/08/24(水) 10:53:23.55 ID:c/nf4cET0
取り合えず俺はいるよ
622 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/08/24(水) 13:34:01.32 ID:6s3sxqxv0
623 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/24(水) 14:06:44.97 ID:PFwV/1+j0
ツンデレデーモン
624 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) :2011/08/24(水) 18:56:24.35 ID:MVIuFViH0
カオスwwwwwwww
625 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/08/24(水) 23:02:00.19 ID:MVIuFViH0
夏休みだったのでwikiを少しいじったのですが
http://www14.atwiki.jp/vipperld/
これで良いでしょうか?
626 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/24(水) 23:58:03.34 ID:6s3sxqxv0
ありのまま今起こった事を
仕事が忙しくて久々にきたらwikiから自分の存在が消えていたんだぜっ
超スピードとかなんちゃらかんちゃら

ま、消えてたら消えてたで新しく書きなおしますか
設定上の無理があったから止まってたてのもあるし
627 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/08/25(木) 00:07:31.63 ID:Xzq0cA4N0
すいません!作りなおします!
タイトルは何でしょう
628 :気が早いがテンプレ案 [saga]:2011/08/25(木) 07:53:03.01 ID:FZYOB5P20
ここは皆で世界観を共有してSSを書くスレです
まずはまとめwikiの世界観のページに目を通すことをオススメします

まとめwiki:http://www14.atwiki.jp/vipperld/

世界観に合っていれば、ギャグ、バトル、ラブコメ何でも可です
書いたら投下してみる、これ大切

投下されたSSには乙を
気に入らないからといって叩くのは禁止

以下過去ログ
629 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/25(木) 22:34:08.70 ID:CFHC2qpZ0
久しぶりにカキコ。
ちょっと短編が書けたんで投下します。
ギムリアースのお話(仮)の続きです。
630 :続・ギムリアースのお話 [sage  saga]:2011/08/25(木) 22:36:45.36 ID:CFHC2qpZ0

堆く積まれた屍の山から流れ出た血が川を作って流れていく。

流れ出た血液からもうもうと湯気が出て、酷く生臭い。辺りの気温が極めて低いためだ。

鉛色の空から灰に混じって雪が降っている。既に祖国からはるかな遠方にいるが、この地域でも灰は降っているようだ。

吐く息は白く凍り付き、虚空に溶けていく。

俺は側に無言で佇む相棒、金属製ゴーレムの『ウィンリィ』を見やった。ウィンリィの銀色の肩の上にも灰混じりの雪が積もりだしている。

この季節に素手でウィンリィに触るのは自殺行為だ。即座に凍傷にかかってしまう。

戦地での凍傷はやっかいだ。薬も防寒具も不十分な現状では特に。下手を打てば足や腕を切り落とさなければならなくなる。

俺の戦友も何人かそれで手足を失った。
それだけならまだ良いが、中には死に至る者もいる。


故郷ギムリアースを離れてはや数ヶ月、俺の所属するギムリアース民兵団はこういった予想外の事態に戸惑いながらも順調にレヌリア帝国軍を撃破して来た。

俺たちが密かに製造していた金属製の自律型ゴーレムの軍団が、予想以上に大きな戦果を上げてくれたお陰だ。

帝国の連中は初めて見た怪物兵器に驚き戸惑い、ほとんど抵抗する間もなくゴーレムの鋼鉄の拳の前にその身を粉砕されていった。

奇襲が功を奏した事や、以前から入念に準備していた事、レヌリア帝国軍の虎の子であるインペリアルガードがまだ出てきていない事など、もろもろの事情を考慮しても、ここまでの大戦果を上げられたことは自慢して良いと思う。



あの世で親父も喜んでくれているんじゃないだろうか。



とはいえ油断は出来ない。斥候部隊の報告によれば、帝国は俺たちギムリアースの残党を根絶やしにすべく大部隊をこの地域に送り込んで来るそうだ。

その数は六万八千。対するギムリアース民兵団は五千七百。文字通り桁違いの戦力だ。

更に帝都カテドラからの増援もこちらに向かっていると聞いた。

多分その増援はインペリアルガードだろう。鉄の規律と良質な武器、そして高い士気を誇る大陸でも屈指の精鋭部隊だ。

だが、たとえインペリアルガードが相手でもこのゴーレム軍団が負けるとは思えない。



奴らに思い知らせてやろう。このゴーレムの力を。俺たちギムリアースの民の憎しみを。



俺たちに失うものは何もない。そういう男達ばかり集まったから。

俺たちが死んでも祖国は口をぬぐって生きていける。

あれは国を捨てて逃げ出した難民共が、食うに困って大々的な略奪行為を働いたのですとでもレヌリアの馬鹿共に言えば良いのだ。
明らかに金属製ゴーレムは軍用品だが、軍の組織が無きに等しいギムリアースの軍事備蓄を俺たちが勝手に盗み出したとでもいえばなんとか切り抜けられるだろう。

ギムリアースが失うものは何もない。




さあ、地獄に向かって進軍だ。
631 :続・ギムリアースのお話 [sage  saga]:2011/08/25(木) 22:40:19.88 ID:CFHC2qpZ0
1レスだけですが投下終了です。

一応ギムリアースのお話(仮)の続きです。
ではでは〜
632 :守る者たち [sage]:2011/08/26(金) 12:24:47.64 ID:9xwmmTTx0
乙です
消した作品は戻しました。
本当にごめんなさい
633 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京西部) [sage]:2011/08/26(金) 13:40:25.90 ID:qBjtDEDa0

ちょっとWikiを編集します
間違いがあったら指摘してください
634 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2011/08/29(月) 07:07:28.61 ID:5Z6r7PTLo
人が居ない
635 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京西部) [sage]:2011/08/29(月) 11:55:10.03 ID:VK6n2WIv0
俺は居る
636 :「ある小さな工房にて」 [saga]:2011/08/29(月) 19:37:45.33 ID:5Z6r7PTL0
安価がおかしなことになったので
とりあえず名無しのまま続けます
そのうちまた安価するからよろしく
では投下
637 :「ある小さな工房にて」 [saga]:2011/08/29(月) 19:38:31.40 ID:5Z6r7PTL0
新しく工房に来たエルフの少女は、やはりというべきか、魔力にとても詳しかった。
博士の失敗作のうち、コンセプト自体が終わっているもの以外はたいてい彼女の指摘によって
使い物になるものになった。
失敗した『空を飛ぶ機械』ですら、その欠点を指摘し、小型のモデルならどうやら飛ぶようにになったようだ。
人を乗せて飛ぶという、本来の目的には程遠いが。

彼女は料理も上手だ。
俺より上手に下ごしらえも調理も、そして盛り付けもする。
準備も片付けも手際がいい。
俺は『博士の世話係』から『工房の雑用係』にランクダウンしてしまったようだ。
ため息が出る。

「どうしました?お茶でも淹れましょうか?」

「いや、いい」

まさか彼女の目の前で言うわけにもいかないだろう。
格好悪い。

やることも無いので、外に出ることにした。
さて、どこに行こうか。
638 :「ある小さな工房にて」 [saga]:2011/08/29(月) 19:39:15.82 ID:5Z6r7PTL0
結局、ギムリアースのスラム街に来てしまった。
ここでは、金さえ出せばほとんどの物が手に入るという。
それだけ、物が多いのだ。
事実、あたりを見渡すと、機械の残骸やら、得体の知れないゼリー状のもの、
魔水晶――ずいぶんとボッタクリな価格だ――、踊る石人形、
驚いたことに、人間の頭蓋骨まで売っている。誰が買うのだ。

「酒冷えてるよ。どうだい一杯?」

「あんたの運勢を占ってあげよう」

「よう兄ちゃん。金持ってそうだな、取引する気は無いかい?」

「恵んでくれー。金を。食い物をー」

少し歩けば、さまざまな人から声がかかる。
この喧騒は、慣れた者にとっては心地良いものだ。

「ギャァァァァァッ!許してくれ!それだけは!」
639 :「ある小さな工房にて」 [saga]:2011/08/29(月) 19:40:00.12 ID:5Z6r7PTL0
路地裏から悲鳴が聞こえてきた。
よくあることだ。ふらふらとここを訪れ、持ちもの全て取り上げられ、次の瞬間には金に代わっている。
そして哀れな被害者は置いてけぼりで、その金で宴会が始まるのだ。
首は突っ込むまい。余計なことに巻き込まれる。

「腹減って無いかい?芋、安くしとくよ」

提示された額を見て、俺は一つ、食うことにした。
腹も減っていたし。
スラム街の食い物の中ではどうやら当たりの部類に入る物のようだ。
不思議な味付けだが、美味い。量も結構ある。

食いながら歩いていると、不意に後ろから声がした。

「――!――じゃないか!」

誰だよ馴れ馴れしい。そう思って振り向き。

「――……なのか?」

懐かしい奴に出会った。
640 :「ある小さな工房にて」 [saga]:2011/08/29(月) 19:42:13.28 ID:5Z6r7PTL0
えー、投下終了です
勝手にスラムとか出しちゃってよかったんでしょうか?
後この世界の通貨?むしろ国ごと?は決まってるのか?

読みにくい点やわかりにくい点があればご指摘ください
641 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/08/29(月) 23:56:19.06 ID:MYegztx10
乙です
スラムとかは自分も出す予定だったので帰ってありがたいです
642 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/08/30(火) 00:05:39.61 ID:tXojgrVQ0
字、間違えました
643 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京西部) [sage]:2011/08/30(火) 10:24:30.48 ID:TDRIhxEk0


通貨か……決まってたかなぁ?
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
644 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/08/30(火) 22:24:21.01 ID:X4L8qP5K0
人が少なくなってきたな
人増やしたいな
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
645 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京西部) :2011/08/31(水) 14:57:12.24 ID:xXDIYaAO0
それならageる
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
646 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) :2011/09/02(金) 19:25:48.95 ID:wdD2Nk1z0
それでもageる
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
647 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage ]:2011/09/03(土) 00:15:17.41 ID:tm5AYheG0
誰かー!!まだ生きてるか!生きてたら返事をしてくれー!!
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
648 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) :2011/09/03(土) 03:19:57.72 ID:PCFmDo0Z0
生きている、だからageる
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
649 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [age ]:2011/09/09(金) 02:21:56.40 ID:9PgL8FO50
このスレ残ってんの何人くらいなんだろうな。
650 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) :2011/09/10(土) 01:26:36.73 ID:XzBcA3JS0
おれはいるぞ

651 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [age ]:2011/09/10(土) 15:53:35.58 ID:8MWqaznc0
新たにちょこっと書けたんで投下。
この前の続きです。
652 :ギムリアースのお話B [sage saga]:2011/09/10(土) 15:56:14.94 ID:8MWqaznc0

………俺たちは一体何処で間違えたのだろう?

頬に触れる地面が冷たい。まだ雪が残る大地に、赤い斑点が飛び散っている。

…俺の、血だ。

辺り一面、白い雪原に赤い色が混ざって奇妙なマーブル模様を描いていた。

戦友達の屍から流れ出た血だ。

…どうやらこの辺りでまだ生きているのは俺一人のようだ。

…どうしてこうなったんだ?

予定通りなら今頃は帝都カテドラまで進撃して、玉座を皇帝ルイジアン五世の血で染めている頃合いだったのに。

だめだ、腰から下の感覚が全くない。凍傷の為か腰骨を切られた為か、あるいはその両方が原因か?

俺たちの進路上で待ち伏せしていたインペリアルガード、あいつらは真性の化け物どもだった。精鋭なんて生易しいものじゃなかった。

鬼神。まさにそんな形容がピッタリな連中だった。

俺たちのゴーレム軍団を紙切れのように粉砕し、軽々と俺たちの部隊を壊滅させた鬼ども。
帝国はあんな化け物みたいな連中を飼っていたのか。

通りでどの国も勝てないはずだ。クソッたれめ。

…だが、これで良かったのかもしれないと思っている自分もいる。


正直なところ俺はここ最近疲れていた。


653 :ギムリアースのお話B [sage saga]:2011/09/10(土) 15:58:41.18 ID:8MWqaznc0

毎日繰り返される血塗れの死闘。激闘に次ぐ激闘。徐々に数を減らす戦友たち。見知った仲間たちはどんどん俺を残して消えていった。

ダークエルフのカミラ、ホビットのボルフレン、ドワーフのガンデル。

みんな俺の前からいなくなってしまった。

それでも、帝国にギムリアースの旧領土を返還させるまでは撤退など論外だった。

俺たちは狂ったように戦った。目についたものはそれがなんであれ壊し、殺した。

無抵抗な女子供も、それを護ろうとする男達も容赦なく。いつしか俺たちは戦う理由を見失っていた。

ただ帝国憎しの一事で結束しているだけの狂戦士の群れ。

かつては祖国復興を謳い、共に打倒帝国を誓った戦士たちの成れの果て。

だが、帝国は一夜で打倒するにはあまりに巨大で強力だった。

トレムレデールで生まれ育った俺は、世界の大きさを今まで知ることが無かった。

地図上では五センチと離れていない場所にたどり着くのに、現実では何週間もかかるのだ。

そんな風に苦労してたどり着いた先で守備隊と死闘を演じ、それが終われば近場の村や町を襲い、嬰児に至るまで殺戮して次の地域に移動する。

そんな生活に疲れていたのだ。

…最後に鏡を見たのは何時だったろうか。今の俺はきっと酷い顔をしているに違いない。

強く正統なギムリアースの復活は失敗した。少なくとも武力に拠っては。

だが、ギムリアースにはまだ有能な商人や職人がたくさん残っている。

彼らに後の事は任せよう。正面から行って勝てないなら搦め手に回るまでだ。

一夜で帝国を打倒できないなら長い年月をかけて帝国をひっくり返してやるのも良いだろう。

盛者必衰は世の習い。我が祖国もその例外ではなかった。それなら帝国だってそうだろう。



いつか、いつかギムリアースが帝国勢力を一掃し、かつての繁栄と栄光を取り戻さんことを切に願う。



654 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/10(土) 15:59:34.22 ID:8MWqaznc0
短いですが以上です。
ではまた次の機会に。
655 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京西部) [sage]:2011/09/10(土) 23:36:33.85 ID:Vhx7X/KN0


次の展開は頭に有るのに技術力不足で書けねぇ……(T_T)
656 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) :2011/09/11(日) 05:11:47.40 ID:iYspX3B40
乙です
まとめて良いですか?
657 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/11(日) 21:11:33.05 ID:ZYmK+VOf0
>>656
上の作者ですが、よろしくお願いします。^^b
658 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/11(日) 22:40:22.61 ID:ZYmK+VOf0
近々SSを二作品ほど投下する予定です。
合わせて十数レスくらいになるかと…
なんかここ最近このスレも失速気味ですけど、盛り上げていきましょうず。

>>655
頑張って書いて投下してくれ!君もこのスレを盛り上げる為に必要だ! 
659 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/11(日) 22:48:18.34 ID:rleVYdTCo
まったり行こうず
俺はVIPに立った頃から追ってるくせにまだに一回も投下してないが、地味にちびちび書き進めてる
660 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) :2011/09/11(日) 22:56:28.39 ID:iYspX3B40
>>658さん
キャッチコピーとかありますか?
661 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/09/11(日) 22:57:10.83 ID:iYspX3B40
ageてしまった…死にたい
662 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/09/11(日) 23:23:23.40 ID:iYspX3B40
http://www14.atwiki.jp/vipperld/pages/1.html
wikiをくるくるいじってます。
意見やご指摘があればどうぞ。
663 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/12(月) 00:46:34.65 ID:vwuipZRF0
>>662さん、仕事早いですねぇ。感謝です。
あと、キャッチコピーとかは特に考えてないです。
664 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/09/12(月) 00:46:37.86 ID:ecDLgAlAO
書きたいんだけど、モンスターと魔族って別物に考えていいのかな。女魔族はアウトなのかな、どうなんだろ
665 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/12(月) 00:47:39.99 ID:vwuipZRF0
>>664
全然オッケーだすよ。書いちゃってくださいな。
666 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [age]:2011/09/13(火) 18:18:03.04 ID:AaUegupm0
投下準備完了!

投下開始!! 
667 :大航海時代(続) [sage saga]:2011/09/13(火) 18:19:21.78 ID:AaUegupm0

「見えたぞー!ヴァッサーだ!!」

マストの上から見張りの声が響いた。

テルデンとのあの会話から二週間の後、やっと目的地に到着したのだ。

「ようやく到着か。案外時間がかかったな。」

「仕方あるまい。アルヴィングの船は船足より船の安全を重視しているんだからね。それよりほら、マリユス見てご覧、ヴァッサー自慢の要塞だ。」

テルデンはそう言って陸の方を指さした。


その方向に目をやる。
668 :大航海時代(続) [sage saga]:2011/09/13(火) 18:21:04.60 ID:AaUegupm0

………なんだ、あれ。

テルデンの指さした方向には、完全に要塞化された小島がヴァッサーに面した湾を塞ぐように浮かんでいた。

要塞は戦略的要地に砦を設け、それらを堅牢な石壁で繋げたような五角形をしている。

砦には衛兵が詰めているらしく、時々巡邏中の衛兵の鎧が陽光を反射して輝いているのが見えた。

要塞の塔の天辺にはレヌリア帝国の国旗がはためいている。

紅地に双頭の竜が描かれたその旗を眺め、いつ見ても軍事大国らしい旗だなと思いながら要塞をもっと観察してみた。

砦も石壁も、高いというより厚いという印象を受ける。

砲弾の直撃を受けても、あれだけ壁が厚ければそう簡単に崩れたりはしないだろう。

石壁の所々には四角い穴が開いていて、そこから大砲が顔を覗かせていた。

おそらく航行中の船の横っ腹を吹き飛ばせるように、あの位置に置いているんだろう。

海側から襲い来る者たちはここで砲弾の洗礼を浴びて門前払いされてしまうというわけだ。


こいつは徹底的に大砲対策の施された近代的な要塞だ。


それくらい、大して軍事技術の教養のない俺にだって分かった。

故国アルヴィングにもあれと同じような形の要塞がいくつかあるからだ。

だが、ここまで徹底的に対策の施された要塞を見るのは初めてだ。



669 :大航海時代(続) [sage saga]:2011/09/13(火) 18:22:09.93 ID:AaUegupm0

「驚いたかい?初めてヴァッサーを見た人は大抵ここで驚かされるんだよ。」

テルデンは驚愕を露わにしている俺を見て愉快そうに笑っている。

「ヴァッサーは豊かな街だからね。よく他国の私掠船団やら海賊やらが襲ってくるのさ。」

「なるほど、それでこんなに警備が厳しいのか。」

物々しい要塞島を尻目に船は湾内を滑るように進んでいく。

「しかしヴァッサーはでかい街だな。ひょっとしたらアルヴィングよりでかいかも。」

「レヌリア帝国最大の港湾都市だから。」

「……格が違うなぁ。」やれやれ、この街じゃあ俺は完全に田舎者扱いだな。



アルヴィングが都会だと思っていたからショックだ…
670 :大航海時代(続) [sage saga]:2011/09/13(火) 18:23:21.49 ID:AaUegupm0

「なに、気にすることはないさ。街の大きさだけでその街の良さが決まる訳ではないのだからね。ヴァッサーにはヴァッサーの、アルヴィングにはアルヴィングの良いところがあるものさ。」テルデンはそう言うとニヤリと笑った。

どうでも良い事だが、テルデンは普通の笑みをあまり浮かべない。

今のようにニヤリと口の端を歪めて笑うばかりだ。最初は海賊のような笑い方で気味が悪かった。

しかし、テルデンは貴族的な風格を備えた人格者だ。ここまでの船旅でそれが良く分かった。

嵐にあった折には船長と並んで水夫たちを励まして荒波と大風を乗り切り、シーモンスターに襲われたときには自ら率先して銛を振るって追い払った。

結果、この船に乗っていた者たちは船長から一般の乗客まで皆が彼を慕うようになっていた。

俺もその例外では無く、今やテルデンの言うことなら大抵は疑いもせず信じ込んでいる。



別にそれで不都合なことも無かったからな。

671 :大航海時代(続) [sage saga]:2011/09/13(火) 18:24:16.03 ID:AaUegupm0


中央大陸最大の港湾都市ヴァッサー。

かつては南のアルヴィング、東のルオレット、北のメイリンストックと並び、西のヴァッサーの名でその名を轟かせた四大海洋都市国家の一角、世界中の海を股にかける船乗りたちの国だった。

しかし数十年前にレヌリア帝国に併合され、その領土の一部となってからは船乗りの街の特徴である自由な気風は取り締まりの対象となり、かつてのような自由奔放な空気は今の街からは影も形もなくなってしまった。

とはいえ、帝国もこの街のことは貴重な財源と見なしており、さまざまな特権を与えてかなりの保護をしている。



いや、まあこれはテルデンに教えて貰った歴史の受け売りなんだけどな。



672 :大航海時代(続) [sage saga]:2011/09/13(火) 18:26:35.93 ID:AaUegupm0

仲間が待っているという市場への道すがら、テルデンはお得意の蘊蓄を俺に披露してくれた。

「この街は都市国家として自由を謳歌するより、帝国に政治を丸投げして自分は安全にお金を稼ぐ道を選んだのさ。」

「自由と自決を捨てて従属するなんて俺には理解できないなぁ。」

「ヴァッサーの為政者たちはそうは考えなかったんだろう。まぁ実際、君の考えは間違っちゃいないよ。北方の機工王国ギムリアースなんかも未だに帝国の侵略に抵抗しているようだしね。」

ギムリアースの民兵団についての噂は俺もよく耳にしていた。

なんでも十数年前のレヌリア・ギムリアース戦争の結果をいまだに引き摺っていて、強く正統なギムリアースを取り戻すと公言して憚らない危険な国粋主義者たちの集まりなんだとか。

彼らの不穏な噂は、遠くアルヴィングまで届いていた。



………その残虐なやり方も。



だが、俺個人としては彼らの信条を応援したい気分だ。

レヌリア帝国の覇権下でいつ潰されるかと帝国の顔色ばかり窺いながら細々と自治を保つ自分の故郷の事を思うと、他人事とは思えない親近感を感じる。

「やっぱりテルデンもそう思う?亡国の民になるなんて嫌なもんだぜ。きっと。」

俺にはアルヴィング公国が消滅するなんて事は想像できない。


自分の故郷が消えて無くなることを一体誰が望む?


ヴァッサーを帝国に売り渡した当時の連中はそのことを何とも思わなかったんだろうか?

「ふむ、私はてっきり君が祖国に愛想を尽かして冒険家に志願したのだと思っていたが、意外に愛国者なのだな。」テルデンが眼を細めて俺の顔を見ながら呟いた。


ぞくりと背筋が粟立った。


テルデンと出会ってかれこれ二週間は経つが、いまだにこの表情には馴れることが出来ない。

テルデンは温厚な人物だが、いかんせん顔が怖いのだ。初見で損をするタイプだな。




673 :大航海時代(続) [sage saga]:2011/09/13(火) 18:29:52.56 ID:AaUegupm0

「すっげぇ、これがヴァッサーの市場か。」

見渡す限り人、人、人。ヴァッサーの市場は大勢の人でごった返していた。

「ああ。とても活気づいているだろう?ここには毎日百隻近い数の船が出入りするからね。
異人種、異文化、異言語のるつぼさ。」そう言ってテルデンはいかにも商人らしい目付きで市場の目抜き通りにところ狭しと並んだ露店やら商店やらの品物を品定めしていた。

一方そのころ俺はといえば、通りの一角でやっていた大道芸にすっかり心を奪われていた。

今までほとんど眼にしたことのない肌の色(褐色に近い色)のセクシーな踊り子達が、音楽に合わせて踊っていたのだ。

彼女たちの着ている服は薄い更紗の舞踏着らしく、肌がギリギリの所まで見えていて、この大道芸を見ている観客の大半が男である理由が窺い知れた。

だが、そんな客へのサービスを抜きにしても彼女たちの踊りは素晴らしかった。

蝶のように可憐に舞い、くるくると回る彼女らの姿は、故郷の有名な教会のステンドグラスに描かれた『天使のワルツ』と呼ばれる題材をなんとなく思い起こさせた。

両手両足につけられた金色のアームレットとアンクレットが彼女らの動きに合わせて鈴のような音をたてている。

どうやら鈴に似た丸っこい楽器が飾りとしてくっついているらしい。

彼女たちがくるくると回る度に薄い更紗の舞踏着が大きく広がって、さながら天使の翼のように見える。



………褐色の肌の天使、か。悪くないな。



などと一人妄想に耽りながら俺は踊りを眺めていた。


674 :大航海時代(続) [sage saga]:2011/09/13(火) 18:31:25.91 ID:AaUegupm0

出来れば最後まで彼女たちの踊りを眺めていたかったのだが……

現実は非情だった。

ちょうどクライマックスに入ったというところでテルデンの邪魔が入ったのだ。

「やあやあ、こいつは随分と良い品だ!マリユス、こっちに来て見てご覧!!」

唐突に何かを見つけたらしいテルデンが興奮したように大声を出して俺を呼んだため、俺は渋々舞姫たちから眼を背け、何事かとそちらに目をやった。

そこには真っ黒い粒が大量に入ったザルを見て、年甲斐もなく有頂天になっているテルデンの姿があった。

「おいマリユス、これがなんだか分かるかね?」

そう言ってテルデンは黒い粒を掌に載せて俺の鼻先に突きつけてきた。

「……見りゃわかる。胡椒だろ?」

「ご名答。」

「胡椒くらい商いやってるなら珍しくも無いだろうに、何をそんなに興奮してるんだ?」

「こいつがただの胡椒じゃないからだよ。」そう言ってテルデンはあのニヤリと口の端を歪める独特の笑みを浮かべた。

「おお、お客さんお目が高いねぇ。コイツがそんじょそこらの胡椒とはモノが違うって事をお分かりでいらっしゃる。」ザルの向こう側で胡座を掻いて座っている肌の浅黒い商人が得たりとばかりに得意げに語り始めた。

「こいつはずっと南東にある香料諸島で栽培されてる希少種の胡椒なんでさぁ。香り良し、色つや良し、ただの肉料理に一振りするだけであら不思議、世界で一番美味い肉料理に大変身で御座い!今なら一袋で帝国銀貨三十枚だよ!!」




675 :大航海時代(続) [sage saga]:2011/09/13(火) 18:32:50.37 ID:AaUegupm0

その一言に俺は衝撃を受けた。

一時的に麗しの舞姫達の事が頭の中から吹っ飛んだほどだ。

え、今なんて言った?と思わず聞き返してしまった。

「帝国銀貨で三十枚だとさ。少し高いが、ま、今の時期では仕方がないか。」だがテルデンは落ち着き払っている。そして待て、この値段で高いだと?

「いや、ちょっと待ってくれよ。胡椒が銀貨三十枚だって?いくら何でも安すぎるだろ!?」

そう、俺の故郷アルヴィング公国では胡椒はそんなに安くなかった。

最安値の時の相場でも金貨で十五枚、銀貨換算で百五十枚くらいはした。

普段の相場であれば銀貨二百枚はくだらないような超のつく高級品のはずなんだ。

アルヴィングに限らず、気候風土の問題で香辛料が育たない中央大陸の大半の国々では胡椒のような香辛料はとても貴重な品だ。

しかしここヴァッサーでは事情が違うらしい。

胡椒がこんなに安い値段で手に入るとは、流石は大陸最大の港湾都市と言うべきなんだろうか………

676 :大航海時代(続) [sage saga]:2011/09/13(火) 18:34:02.22 ID:AaUegupm0

「レヌリア帝国は様々な国と通商関係を結んでいるからね。遠方の特産物でも国が運営している定期交易船団が決まった月に品物をこの街に荷揚げするのさ。で、その交易品をギルドが一括で買い上げて小売業者が売り捌く。間に第三国を置かない直接交易だから余計な税金もかからないし、街のギルドと帝国政府の協議のお陰で相場の変動も少ないから安定して値段を低く抑えられるんだよ。」

胡椒を買えるだけ買い込んで、待っているという仲間の所に向かう途中、テルデンからそう聞かされた。

……なるほど、ギルドと政府が手を組むのもアリなのか。

ウチではギルドと政府は別行動をとっているから摩擦が生じやすい。

というかそもそもギルド自体が政府からの過干渉を嫌って商人達が設立したものであるため、政府との協調自体あり得ないと考える商人もいるほどだ。

お陰で商売に差し障りが出る場合もある。

そう考えると帝国のやり方もアリなのかもしれないな。


ただ、ギルドの存在価値はほぼ無いに等しくなるが……
677 :大航海時代(続) [sage saga]:2011/09/13(火) 18:35:02.84 ID:AaUegupm0

ところでテルデンはさっきから何処に向かっているんだろうか。

市場でテルデンの仲間が待っているという話だったのだが、どうも事情が変わったらしい。

テルデンは俺にその事情を簡略に説明すると先に立って歩き始めた。

市場を抜けると急勾配の坂が立ち塞がっていた。石畳で整然と舗装された広い道路が坂の上まで続いている。

「ここを登れば私の仲間が待っている場所に着く。急ごうか。実はもう結構彼らを待たせてしまっているのでね。」

「それは分かったけど、なんで急に集合場所を変えたんだ?何かマズい事でもあったのか?」

「すまないが今はそれについて話すことは出来ない。だが君の心配が杞憂に終わることは保証するよ。」

テルデンはそれだけ言うとさっさと背を向けて坂を登り始めた。俺はその後に黙って従った。



議論は無用。



テルデンの背中がそう語っているように見えたからだ。


678 :大航海時代(続) [sage saga]:2011/09/13(火) 18:36:45.94 ID:AaUegupm0
これにて投下終了!!

ではまた次の機会に。ノシ
679 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/09/14(水) 01:04:27.36 ID:+V8hZ7+Z0
乙ですな
http://www14.atwiki.jp/vipperld/pages/85.html
こんな風にまとめておきました
意見、修正などございましたらどうぞ。
680 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/09/14(水) 01:33:28.85 ID:+V8hZ7+Z0
続きますか?
681 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage ]:2011/09/14(水) 18:54:03.99 ID:lwDEa1Io0
>>679さん
毎度ご苦労様です。

上の作者ですが、続けようと思ってます。
682 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage saga]:2011/09/20(火) 14:44:20.76 ID:T9cN7uwyo
どうも、>>35です。
どたばたしていた日常が落ち着いてきたので、続きをぺそぺそ書いてきました。
という訳でこっそり投下を。
683 :ラピスラズリ [sage saga]:2011/09/20(火) 14:45:18.67 ID:T9cN7uwyo
 私はふわふわと空を飛んでいた。
 ぽかぽかのお日様が空から降り注ぎ、暖かく身体を包む。
 雲ひとつ無い真っ青な空と、大地を埋め尽くす草原ははどこまでもどこまでも続いていて、そんな中を私は飛んでいく。
 どこまでもどこまでも。
 ふと、眼下の草原に小さな点のようなものを二つ見つけた私は、自然と体をひねり、ゆっくりと高度を下げていった。
 段々と二つの点は形を変え、ようやくそれが人影だと認識できたその時、私はまどろみの世界から目覚めた。

「いってらっしゃい」
684 :ラピスラズリ [sage saga]:2011/09/20(火) 14:46:21.76 ID:T9cN7uwyo
 閉じていたまぶたの隙間から、ほのかに暖かい光が差し込む。
 ぼんやりとした頭と、まるで痺れているかのような身体中の筋肉を総動員して起き上がり、ゆっくりと目を開けると、少し冷たい空気が頬を撫でた。

「…………?」

 ここはどこだろうか。
 しょぼしょぼする目をこすりながら周りの様子を伺うと、まずは自分の体を包む毛布とベッドが目に入る。
 次に、綺麗に整頓された部屋の内装と、暖かな陽の光を漏らすカーテンの付いた窓が目に映った。
 どろどろだった思考が速度を上げて覚醒し、自分の状況を思い出させる。

 そうだ。私は昨日、人間に買われたのだ。

 そこへ思考が辿り着いた瞬間、私は飛び跳ねるようにベッドを抜けだした。
 とんでもない事をしてしまったという考えで頭がいっぱいになる。
 日の高さから見て、どうやら今は昼に近い。
 普段の自分ならば、寒さで深く眠ることもない為、日の昇る前には起き上がり、人買のために水桶いっぱいに水を汲んでいたのに。温かな寝床というものは、こうまで人を油断させるものなのか。
 恨み言を考えても仕方がない。まずは罰を受けなければ。どれだけ人間が怒っているのか想像もできないけれど、昨日の様子から考えるに、殺されるようなことはないとはずだ。

「……っ!」

 考えるのももどかしく、ゴムまりが跳ねるように部屋のドアを開けると、そこでは昨日の人間がお茶を飲みながら本を読んでいた。
685 :ラピスラズリ [sage saga]:2011/09/20(火) 14:47:20.18 ID:T9cN7uwyo
「おや? そんなに慌ててどうしたんですか?」

 人間の言葉が終わるか終わらないかの所で、私は身体を床に這いつくばらせ、頭を下げる。
 こういう時、何かを言うのは逆効果でしかない。静かに、悲鳴をあげず、ただ殴られ、蹴られ、相手が飽きるまでは耐えるしかない事を私は知っている。
 相手が欲しいのは謝罪の言葉などではなく、自分を苛立たせた相手が血を吐き、苦痛に呻くのを見たいだけなのだ。
 この後に来るであろう苦痛を少しだけ想像し、震えてしまう身体を抑制しようと力を込めるが、真逆に震えは大きく、誰からも見えてしまう形で現れる。自分にも聞こえる音で歯がカチカチと鳴るのがわかる。
 そんな私の耳に、人間が椅子から立ち上がる音が入った。人間は椅子から立った後、ゆっくりとこちらへと歩み寄ってくる。
 まずは蹴られるのだと予想し、人間が来る側へぎゅっと力を込める。だが、予想された衝撃は来ない。
 音と気配で人間が私の前に立ちはだかっているのがわかる。この体制ならば、踏みつけられるか殴りつけられるか。もしくは蹴り上げられるのか。
 どの選択肢を選ばれるかわからないため、頭と身体は混乱し、自然と瞳から涙がこぼれる。
 どうしてベッドの中で眠ってしまったのか。眠りに付く前に、こうなることを予想し、ベッドから抜けだして床で寝るという選択肢もあったはずなのだ。
 それなのに、油断してしまった。この人間の与えてくれた食べ物と、暖かい寝床を享受し、甘えてしまった。
 幾度も幾度も人買いから殴られ、蹴られ、絞めつけられ、繰り返し言われた言葉を今になって思い出す。

 私は『物』なのだ。

 物には意思も、自由も、尊厳もありはしない。
 ただ主を喜ばせるためだけに存在し、主のためだけに尽くさなければならない。自分自身が幸せを享受するなど以の外。そう学ばされたではないか。
 思考は堂々巡りを始め、瞳からは涙が溢れ、喉からは嗚咽が染み出す。
 そんな私に業を煮やしたのか、人間が身体を近付けるのがわかる。どうやら人間は殴りつける選択肢を選んだようだ。
 そう考え、頭と背中に力を込めようとするが、混乱した身体はうまく力を込められない。このままでは痛みが増してしまう。悲鳴を上げてしまう。苦痛が続いてしまう。
686 :ラピスラズリ [sage saga]:2011/09/20(火) 14:48:12.83 ID:T9cN7uwyo
 死にたくない。

 思考がその言葉でいっぱいになった瞬間、私の耳に、人間の言葉が優しく飛び込んできた。

「安心して。ね?」

 おそるおそる顔を上げると、困ったような、それでいて笑顔の人間がそこにいた。

「涙と鼻水で顔が大変なことになってますよ?」

 人間は苦笑し、自分の服の袖で私の顔を拭う。
 混乱した私がどうしていいかわからず、顔を上げたままで固まっていると、人間はゆっくりと優しく私の身体を抱きしめ、ポンポンと優しく背中を叩き、言葉を続けた。

「大丈夫。大丈夫ですから」

 その言葉はとても優しく暖かく、ゆっくりと私の心に染み込んでいった。
 不思議と体の力が抜け、同時にカチカチとうるさかった歯も、身体の震えも収まる。
 だが、涙だけはどうしても止まること無く、後から後からぼろぼろと溢れ、優しく抱きしめる人間の服を濡らし続けた。
687 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage saga]:2011/09/20(火) 14:51:26.39 ID:T9cN7uwyo
という訳で前半部分となります。

書いてたら異常な長さになったので前後編に分けたら、前半が異常に短くなってもうた……。
夜に後半部分をこっそり投下しに来ようと思いまする。
それと、名前欄にも記載しましたが、タイトルは「ラピスラズリ」にしようと思います。
今の時点じゃなんでそのタイトルやねんという状態ですが、その辺りはいずれ。

それでは。
688 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage ]:2011/09/20(火) 21:40:55.82 ID:BYplIXyx0
乙っす!続きも期待してますぜ。
689 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/09/21(水) 00:18:29.81 ID:veRzkVrk0
乙です
http://www14.atwiki.jp/vipperld/pages/94.html
こんな感じでよろしいですか?
何か前書きやキャッチコピーなどあったらどうぞ。
690 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/09/21(水) 00:34:38.64 ID:veRzkVrk0
http://www14.atwiki.jp/vipperld/pages/94.html
様々なミスをしていたので修正しました
691 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [saga]:2011/09/21(水) 02:19:34.83 ID:jsIaMOm8o
後半でけたー!ってもう2時とか……
まとめあざーっす!キャッチコピーとしては
「青年と、小さな小さな少女の物語」
とかですかねえ。実にセンスが無いのを痛感するので、何かいいのがあれば、どなたかぺそっとつけてもらっても構いません
では後半いきまーす。
692 :ラピスラズリ [sage saga]:2011/09/21(水) 02:20:30.44 ID:jsIaMOm8o
 私が泣き続ける間、人間は怒るでもなく、何かを言うこともなく、ただ優しく抱きしめ続けてくれた。
 どれほどの時間が過ぎたのか、自分でもよく思い出せないが、ようやく涙も枯れ果て、私が顔を上げると、人間は優しく微笑んで語りかける。
 
「落ち着きましたか?」

 のろのろと頷くと、人間は床に這いつくばったままの私の手を取り、ゆっくりと立たせる。

「では朝食……いや昼食ですかね。おっと、昼食の前に、顔を洗っちゃいましょうか」

 そう言って人間は部屋を出て、しばらくして水を張った桶を持ち戻ってきた。
 促されるままに顔を洗い、滴り落ちる水を人間の渡してくれた手ぬぐいでごしごしと拭う。

「では、しばらく座って待っていて下さい。すぐ用意しますので」
693 :ラピスラズリ [sage saga]:2011/09/21(水) 02:21:53.95 ID:jsIaMOm8o
 私を先ほどまで自分の座っていた椅子へ座らせ、人間は水桶と手ぬぐいを持ち、部屋を出た。
 残された私は、どうしていいかわからず、部屋の中をきょろきょろと見渡す。
 昨日来た時は疲れ果てていた事や、目まぐるしく変わる環境について行けず目に入らなかった物が色々と飛び込んでくる。
 落ち着いた色の家具。ぱちぱちと燃え、部屋を暖める暖炉の炎。昨日、食事を取ったテーブル。そして、人間が読んでいた本。
 小さな興味が湧いて、その本へ顔を近付けていると、人間が部屋へ戻ってきてしまった。驚いた私がじたばたしていると、人間は少しだけ驚いた顔をした後、いつもの笑顔を見せて言う。

「本に興味がありますか?」

 興味も何も、私は字が読めない。その事を伝えようとする私を人間はじっと見つめた後、少しだけ思案して眉をひそめた。

「昨日から少し気にはなっていましたが……失礼、食事の前にちょっとだけ確かめさせて下さい」

 そう言って人間は私へ近づき、顔へ手を触れた。
 身体を強ばらせる私に「大丈夫。痛い事は絶対にしません」と言った後、慎重に喉や頬に手を当てる。

「口を開けてもらってもいいですか?」

 人間の言葉に少しだけ躊躇したが、心配そうな顔をしている人間を見た後、決心して口を開いた。
 私の口の中を見た瞬間、人間の顔が険しい物に変わる。驚いた私が思わず口を閉じると、人間は慌てて表情を変えた。
694 :ラピスラズリ [sage saga]:2011/09/21(水) 02:22:51.70 ID:jsIaMOm8o
 その表情は、笑顔ではあるのだが、今にも泣き出しそうな顔に見える。心配になった私は、おずおずと手を差し出すが、自分でもその手をどうしていいのかわからない。そんな私を、人間は不思議そうに見つめた。
 結局、差し出した手をどうしていいかわからずに下ろすと、人間はぽんぽんと私の頭へ手を置いて、無言で私へ背を向け、おそらく、昼食を用意するためなのだろう厨房へと向かおうと歩き出す。
 反射的に体が動いた。

「え?」

 ぽすんと背中へ飛びついた私を、人間が不思議そうな顔で見つめる中、私はさっきしてもらったように両手を回し、ぎゅっと抱きしめる。
 なんとなく。なんとなくだが、こうしないといけないような気がしたのだ。そうしないと、ずっとこの人間は何かの罪を背負い続ける。そんな気がしたのだ。
 そんな私の心中を知ってか知らずか、人間は少しだけ困ったような顔をしたが、すぐに先ほどとは違う、心からの笑顔を私に返して言ってくれた。

「ありがとうございます」

 そう言って人間は、今度こそ厨房へと向かう。手持ち無沙汰な私が椅子に座ってしばらくすると、昼食を運んできた。

「すいません、昨日の余りのシチューがメインになります」

 人間は苦笑して私の前へシチューと目玉焼きを置き、テーブルの真ん中にパンを幾つか入れたバスケットを置いて正面に座る。

「では頂きましょうか」
695 :ラピスラズリ [sage saga]:2011/09/21(水) 02:23:32.33 ID:jsIaMOm8o
 昨日の様子からだと、どうやら私も一緒に食事をするようなので、おそるおそるではあるがシチューに口を付けると、人間はとても嬉しそうな顔で微笑んだ。
 昨日の残りだというシチューは一晩寝かせたからか、具に味がよく染み込み、噛まなくても具がほろりと崩れてとても美味しい。パンは少しだけ硬かったが、そのパンを味の染みたシチューと一緒に食べると、得も知れないような幸せな気持ちになる。目玉焼きはちょっと焦げてはいたものの、胡椒の風味が鼻をくすぐり、これもパンとよく合う。
 あっという間に目の前の昼食をぺろりと全て平らげた私へ、青年が微笑みながら声をかけた。

「お粗末さまでした」

 そして空になった食器を厨房へと運んだ後、不思議な香りのするお茶を自分と私の分用意し戻ってきた。
 差し出されたお茶を口に含むと、果実のような香りが鼻を通り抜け、味はほのかに甘く、思わず頬が緩む。そんな私を人間はじっと見つめた後、自分の分のお茶に口を付けず、私に話しかけてきた。

「あなたが喋らないのは……いえ、喋れないのは、その口の中に施されたもののせいですね?」

 私はお茶を飲む手を止め、人間をしばらく見つめた後、こくりと頷いた。

「なるほど。ではもう一つ。僕の今までの言葉は『全て』理解できていましたか?」

 しばらく考えた後、首を横に振る。

「そうですか……」

 人間は思考を始めたのか、視線を中に彷徨わせ始めた。
696 :ラピスラズリ [sage saga]:2011/09/21(水) 02:24:22.79 ID:jsIaMOm8o
 今、人間の言った通り、私は奴隷として幾つかの術を施されている。
 細かい原理はわからないが、それは口を起点とし、思考にも影響を及ぼすものらしい。
 その為、私は喋れない。喋ろうにも舌がうまく動かせない。耳から入る言葉の幾つかが理解出来ない。
 下卑た笑いを私に向ける人買いに言われたことがある。私の耳は、人の悪意をよく聞き、善意を聞き逃すのだと。最後まで怯え、悪意に飲まれて死ぬのだと。
 獣は獣らしく、人様の為に死ね。そう言いながら私を殴る人買いの姿を思い出す。自然と体は動き、椅子を降り、今も思考を続ける人間の足元へ膝をつき、這いつくばって頭を下げる。
 私はこの人間に買われ、生かされているだけなのだ。今は食事や寝床を与えてくれるかもしれない。だが、気まぐれで私を殺す事も出来る。
 死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。
 ただその言葉だけが脳裏を埋め尽くす。

「顔を上げて下さい」

 人間の言葉が聞こえる。きっと、顔を上げれば殴られる。怒りに任せてか、気晴らしのためかはわからないが、きっと殴られる。蹴られる。
 殴られるのも蹴られるのも嫌だ。痛いのは嫌だ。その先にある死は恐ろしく、常に私を見つめている。
 私が恐怖で身体を縮こまらせていると、人間が椅子を降り、私の頭に手をかけた。
 髪を掴まれ引きずり回されるのか。無理やり顔を上げさせられ殴られるのか。そう考える私の頭を、人間はゆっくりと撫でる。優しく優しく。まるで触れたら壊れてしまう物を扱うかのように、そっと。
697 :ラピスラズリ [sage saga]:2011/09/21(水) 02:25:05.65 ID:jsIaMOm8o
「あなたを助けます」

 まるで耳に膜が張ったかのように人間の言葉を聞き逃そうとする意思を無理やり抑えつけ、思考を張り巡らせる。
 今、この人間はなんと言ったのかを必死に思い出す。さらさらと砂のように溶けて散る言葉を繋ぎ合わせ、単語にする。

 あなたをたすけます。

 人間はそう言った。
 あなたを。私を?
 たすけます。助ける?

「僕の助けを望みますか?」

 今度は聞き逃さない。一度理解した言葉は、危うくではあるものの耳に捉えることが出来た。
 のろのろと顔を上げると、人間は怒るでもなく、さしとていつものように微笑むでもなく、真剣な眼差しで私を見つめていた。
 おそらく、私が拒絶すれば、この人間は何もせず、いつも通りの微笑みを返してくれるのだろう。これから先も、暖かい寝床と美味しい食事を与えてくれるのだろう。
 だが、それだけではいけない。私は、この人間に何かを与えなくてはいけない。その為には、今のままでは駄目なのだ。この歪んだ思考と、言葉を喋れない口のままでは駄目なのだ。
 
「……!」
 
 私が喋れない口で願うと、人間は微笑んで自分の指を差し出した。

「ちょっと早いですがおやすみなさい。次に目覚めた時は……」

 ぱちんと目の前で何かが弾けた気がした瞬間、私の意識はお日様の光りに包まれたように、ふわりと暖かな陽気に包まれ、夢の世界への旅を始める。
 とろとろとした蜂蜜のような世界を見ながら、人間の言葉の続きを耳にする。

「あなたのお名前、聞かせて下さいね」
698 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage saga]:2011/09/21(水) 02:29:08.83 ID:jsIaMOm8o
後半以上となりまする。
ようやくOPみたいな部分が終わった……今の時点じゃご飯ばっか食べてる……
今後は、世界観の説明なんかを入れつつ、今の段階で特に決まっていないような部分を肉付けできたらいいなー

ではまた
699 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/09/21(水) 10:36:11.70 ID:veRzkVrk0
http://www14.atwiki.jp/vipperld/pages/94.html
出来ましたよ、意見・要望などあればどうぞ
700 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage ]:2011/09/21(水) 23:46:23.13 ID:Aw308jBG0
もしかして今このスレにいるの神奈川さんと千葉さんと俺だけじゃね?
他にもいたら返事してくれ。
701 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/09/22(木) 13:40:42.04 ID:4p3RTGxd0
俺がいるぞ!
702 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) :2011/09/23(金) 13:52:15.60 ID:rC/fhUVS0
あげ
703 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/24(土) 21:39:36.58 ID:aWb7B2r70
>>683-686>>692-697
乙!
ほんわかした雰囲気でいいね
704 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京西部) :2011/09/26(月) 14:02:59.74 ID:C51wDTKt0

俺も居るぜ!
あげるよ
705 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage ]:2011/10/06(木) 21:45:51.44 ID:s65NChSC0
     \、,,)r゙''"''ー弋辷_,,..ィ 
  =、..,,,ニ;ヲ_     ヾ彡r''" _ 
   ``ミミ,   i'⌒!  ミミ=-  
   = -三t   f゙'ー'l   ,三 7,、  
     ,シ彡、 lト  l!  ,:ミ... f      , -―  、
     / ^'''7  ├''ヾ!       /       丶
    /    l   ト、. \    /          ヽ
    〃ミ ,r''f!  l! ヽ       i   _,,_ル,,rョュ 、 i
 ノ ,   ,イ,: l! , ,j! , ト、    |  ィ rっフ , 弋ミア |r,
   / ィ,/ :'     ':. l ヽ.  _|  "''"~ ハ   ハ   .i;{  <お 辞 儀 を す る の だ ! !
 / :: ,ll         ゙': ゙i  } ;    / " '  ヽ   |j
 /  /ll         '゙ ! \λヽ    r―''"入  |
   /' ヽ.          リ   `"i    廷廾ニツ  j
  /  ヽ        /       i、      ̄   .ノ
  /  r'゙i!     .,_, /      | ` ー ,,___,,. イ: |  _
 /.     l!       イ     r -'          > ´

706 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage ]:2011/10/06(木) 21:52:58.26 ID:s65NChSC0
ズレちまった…
707 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/08(土) 14:33:49.51 ID:585Gy2Kb0
人いないなあ
誰かいるんか?
708 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/08(土) 16:44:49.22 ID:xpo3BBXg0
いるんか
709 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2011/10/09(日) 00:35:23.34 ID:DpoDj+9to
みんな実は飽きてきてね?
710 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/09(日) 18:50:28.91 ID:yl6WUsrQ0
ってか今少しずつ書き書きしてる
あと少しで投下できるかと…
711 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/09(日) 22:19:09.52 ID:2c2R18Cd0
>>710
期待
712 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/14(金) 17:44:06.47 ID:A9epDqsDO
ちょっと見学に来ました
剣と魔法メインみたいだけど銃とか機械は使っていいのかしら
昔思い付いてぶん投げてたエセ西部劇の話をここにあわせて再構築して書いてみたい
銃駄目だったら魔法とか錬金術にすれば良いし
713 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/14(金) 18:35:18.53 ID:sJdKcxu/0
>>712
wiki一読していただければなんでもOKですよ。
もし無理だったりしたら言っていただければ消しますので。
ガンガン書いて下さい
714 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/14(金) 23:29:21.84 ID:A9epDqsDO
>>713
了解
じゃあ明日辺りに投下してみる
715 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/15(土) 21:02:43.73 ID:9ix2b0G70
という訳で投下します
長いのに加えて稚拙な文章ですがどうぞおめこぼしを
716 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/15(土) 21:06:34.02 ID:9ix2b0G70
【magical ballet“noon moon” act1〜The man with the machine gun〜】

「あと何日で次の村だったっけぇ?」
「あと二十四分の一日ほどですわお兄さま。」

 命の価値がなくなり、死人が金になる場所に賞金稼ぎがやってくる。
 この二人もつまりはそういう類の人種である。
 
「こんな片田舎くんだりまで来てよー、本当はいませんでした―とかさあ!
 既に他の奴らにぶっ殺されてました―とかさあ!
 そーいうのはマジで勘弁だぜ妹ちゃんよぉ!」
「その時はその時ですわお兄さま。鉱山があるらしいですし金でも掘ってきてくださいな。」
「勘弁だぜそういうのー」
 
 棺桶に腰をかけて、新聞を眺めながら馬車に揺られるエルフの青年。
 肌は浅黒く、切れ長の瞳にチラリと覗く八重歯が特徴的な美形だった。
 その姿からは賞金稼ぎとは思えない、どことなく気品さえ感じさせる。
 荒野よりは街中で女性を連れている方が似合っているタイプの雰囲気だ。

「何を読んでらっしゃるのですかお兄さま?」

 小さな体で馬を御すエルフの少女。
 青年を兄と呼ぶが似ているのは切れ長の瞳だけ。
 肌は荒野の烈日のもとでもなお白く、彼女もまた場にそぐわないという意味では兄と大差無かった。。

「新聞だよ新聞。二人組の凶悪強盗犯がまた町を壊滅させたんだと。
 なーんと史上最速で百万超の賞金首だとさ。」
「やあね、物騒だわ。」

 夕日が遠く彼方へと沈んで行こうとしている。
 獣一匹たりとて気配のしない大地。
 夜の帳が下りてしまえばそこは魔性が跋扈する地獄と化すこと必定である。
 それでも彼らは急がない。

「ウワアアアアアアアアアアアアア!」
「おい悲鳴だぞ妹ちゃん。助けに行ってやれよ。」
「嫌ですわ、もう少しで町ですもの。」
「馬鹿、助けて恩を売ればタダ飯タダ宿だろうがよ。」
「流石お兄さま!その賤しい発想ができる辺り大好きですわ!」
「後で鳴かす。」
「鳥ですか?」
「鳴かぬなら、殺してしまえホトトギス。」

 少女は悲鳴の方向に馬車を走らせる。
 すると少女よりずっと幼い少年が馬に乗ったゴブリンの群れに囲まれていた。
717 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/15(土) 21:07:16.68 ID:9ix2b0G70
「お兄様、私は両手がふさがってますわ。」
「解ってるっつーの。」
 
 身軽に馬車の上に乗る青年。
 グラグラと揺れる馬車の上で仁王立ちになる。
 青年は躊躇うこと無くやや腰を落としながらホルスターのリボルバーを抜き引き金を引く。
 銃声は一発、倒れたゴブリンは五体。
 残りはあと十数体といったところだ。
 彼らは突然の闖入者に対して少年のことを後回しにし、石斧をとって迫る。
 青年は腰に銃をためながら的確に銃弾をゴブリンに当てていく。
 一体のゴブリンの頭蓋に直撃した銃弾が頭蓋を通してわずかに軌道を変え別のゴブリンの鼓膜を射ぬく。
 一体のゴブリンの石斧を折った破片が隣のゴブリンの目に突き刺さり、俺対し斧はゴブリンの乗った馬を叩き切る。
 一体の馬の足を撃ちぬき玉突き事故を起こさせてゴブリンたちの足を止める。

「ごめん!弾切れた!」
「知ってます!ロシナンテ、少し頭を下げてなさい。」

 少女の指示に従って馬は頭を垂れる。
 妹はゴブリンたちが動きをとめた隙を突いて背中に背負っていた弓矢を構える。
 射るごとにゴブリン達は確実に動きを止めていく。
 彼女の背中の矢が無くなる頃には息をするゴブリンは一匹も居なくなっていた。

「リロードオワッタヨ!」
「もう遅いですわお兄さま。」

 ゴブリンが全滅したことを確認すると二人は少年に近づいた。
 
「よう、大丈夫だったか少年?
 魔物ならお兄さんがぜーんぶやっつけちまったぜ?」
「お兄様働いたの最初だけですよね?」
「細かいことは気にしちゃダメダメ。」
「お、お兄ちゃん達だれ……?」
「俺はジャンゴ、ジャンゴ・マードック。
 こっちは俺の妹、ダリア・マードック。」
「よしなに。」
「えと、僕は……」
「ぼっちゃま!トーマスぼっちゃま!こちらにいらっしゃったのですか!」
「あ……!」

 遠くから駆けてくる柄の悪そうな男。
 彼を見つけた瞬間少年の身体がビクっとすくむ。

「お怪我なさっておりませんか!?
 ブルーノめはぼっちゃまが町を出たと聞いて生きた心地がしませんでしたよ!
 ささ、街に帰りましょう!
 ところでそちらの方々は……?」
「僕がゴブリンに襲われている所を助けてもらったんだ。
 命の恩人だよ。」
「なんとなんと!それはありがとうございました!
 これは手厚くもてなさねばなりますまいな!」

 ゴソリ、とブルーノの背後でゴブリンが蠢く。
 鎧を着込んでいる親玉、その鎧故に矢の刺さりがどうにも浅かったようだ。
718 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/15(土) 21:07:44.75 ID:9ix2b0G70
「伏せろブルーノさん!」

 ゴブリンの親玉がブルーノに向けて斧を振るう。
 再び銃声、それと同時に斧が割れ、鎧が砕け、心の臓が破裂した。
 旧式のシングルアクションとは思えない威力と狙いの良さを間近でみて少年とブルーノは目を剥く。

「危なかったな、で、あんた達の町ってこの近くだよな?」
「え、ええ……。」
「俺はジャンゴ、こっちは妹のダリアって言うんだが……良ければあんた達のところに泊めてくれないか?」
「もも、勿論でございます!ぼっちゃんだけでなく私の命の恩人でもありますから!」
「そいつぁありがたい。じゃあ馬車にのって、道案内してくれ。」

 ブルーノと少年を馬車に乗せて一行は一路町に向かう。
 
「そういえばお兄ちゃん、さっきと言い、今と言い、その銃すごい威力だよな。」
「おう、こいつは“昼の月”って名前の魔弾が入ってるからな。化物くらいイチコロさ。」
「そんなすごいもの有るんだ……もしかして城下町で買ったの?」
「なんだ、城下町に行ったことないのか?」
「うん!一度は行きたいと思ってるんだ!」
「残念だがこれは俺が作った物だ。町に行っても売ってないぜ。」
「なーんだ……。」
「あら、ブルーノさん。あれが町ですか?」
「はい、そうでございます。」

 門をくぐって町に入る。
 だがどうにも雰囲気が暗い様子だ。
 しばらく走ってから馬車は町の真ん中にある一際大きな邸宅の前に止まった。
 
「こちらがぼっちゃまのお父様、旦那様の屋敷でございます。
 今は旦那様が居らっしゃらないので実質ぼっちゃまの屋敷となっておりますが……。」
「居ない?」
「鉱山の落盤事故に巻き込まれて行方不明なのでございます……。」
「ふーん、そいつは災難だな。」
「とにもかくにも部屋はすぐにご用意させて頂きます。
 ひとまずお酒でもいかがですか?」
「すきっぱらにアルコールはちょいときついな。」
「それでは夕食の方をご用意いたします。
 おいお前ら!客人だ!もてなしの準備をしろ!
 お客様の馬は離れの方で丁重にお世話しろよ!」

 恐らくこちらの方が地なのであろう凄みの聞いた声で邸宅の中の下男下女たちに指示を出すブルーノ。
 兄妹がびっくりするほどの早さで晩餐のテーブルが準備され、それらを食べ終わるとすぐにこんな田舎ではとうていお目にかかれないような上等な酒を出された。
 ブルーノの話によれば少年の父親は金鉱山で鉱夫たちのリーダーをしており町の商人に頼らずに独自に販路を築いたおかげで大きく儲けたのだそうだ。
 ブルーノはグレていた頃に少年の父親に手酷く痛めつけられてそれ以来心根を入れ替えてここで働いているとのことだった。
 
719 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/15(土) 21:08:23.85 ID:9ix2b0G70
「さて、もうこんな時間ですし寝室の用意をしております。
 よろしければ案内させますが……」
「そうですね、そろそろ寝ないと、明日も早いものですから。」
「明日にはここを発つのですか?」
「私たち、生き別れになった父親を追っているんですよ。」
「トーマス君と似たようなもんです。
 彼には秘密にしておいてくださいね。」
「確かに、それを聞いたらぼっちゃまが鉱山まで乗せて行けと煩くなりそうだ。」
「ちがいない。」
 
 兄妹はメイドに連れられて寝室に向かう。

「ベッドが一つしか無いわ。」
「もうしわけございませんお客様。
 あとのベッドはとてもとてもお客様にお出しできるようなものが……」
「いえ構いませんよ、ガキの頃は兄妹で良く一緒に寝たものですから。」
「申し訳ございません、それでは失礼させて頂きます。
 どうぞごゆっくりおやすみ下さいませ。」

 メイドはそう言ってドアを閉じた。

「さーて……寝るか。」

 そう言ってジャンゴがベッドに寝転び、天井を見上げた瞬間だった。

「おにいさま〜!」

 彼の視界の中に妹が居た。
 思い切りよくのしかかられた。

「うわ馬鹿やめろ、重い、熱い、苦しい!」
「そんなこといって〜、実は喜んじゃってるくせにぃ!」
「物音出したら迷惑かかるだろうが!」
「大丈夫、お兄様が抵抗しなきゃ静かだから!」
「そういう問題じゃねえよ……。」
「お兄様ったらひどい、久しぶりにベッドで眠れるから嬉しかっただけなのに……。」
「ワケガワカラナイヨ」
「でも最初の頃よりは抵抗しなくなりましたよね、最初は兄妹でこんなことーとか言ってたくせにー。」
「とりあえず宿を貸してもらってるんだから今日はやめましょう。」
「うー……。」
「添い寝はするから。」
「おやすみのちゅーは?」
「解った、解ったから。」

 わりとげんなりした気分になりながらも妹の指示に従うジャンゴ。
 満足そうな表情をしたかと思うと彼女はすぐにすやすやと寝息を立て始めた。
720 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/15(土) 21:09:59.39 ID:9ix2b0G70
「ノンキなもんだなおい……。」

 彼が何気なく窓の外を眺めるとブルーノが歩いていた。
 何やらガラの悪い男達と話し込んでいる。
 背中に棺桶を背負った巨体の男と針金みたいな体格の男の二人組が後ろに立っている。
 どうもガラの悪い男たちの用心棒らしい。

「なにやってんだこんな夜中に。」

 彼は気づかれる前にそそくさと窓から離れてベッドに入った。
 厄介ごとには基本的に関わらない主義なのである。
 そんな時、突然ドアがノックされる。

「誰だ?」
「僕だよ。」
「トーマス、どうしたんだ?」
「お兄ちゃん、僕を助けて。」
「待て待て待て、俺はもうお前を助けた。」
「違うんだ、話を聞いて。」
「まあとりあえず部屋に入れ、ダリアがもう寝ているから静かにな。」
「うん。」

 少年を部屋に招き入れて座らせる。
 
「僕のお父さんを殺したのはブルーノなんだ。」
「どういうことだよ?」
「ブルーノは僕のお父さんを事故にみせかけて殺して金鉱脈を自分のものにしようとしているんだ!
 僕も金の場所を知っているから生かされているだけで何時殺されるか分からないんだよ!」
「はぁ?」
「本当だよ!」

 少年の瞳は真剣そのものである。
 ジャンゴには彼の言葉が嘘のようには感じられなかった。

「ま、それが本当だったとしてもだ。俺はあんたを手伝えねえな。」
「なんでだよ!お兄ちゃん達さっきだってたすけてくれたじゃん!」
「第一にお前を助けたってお前の親父が帰ってくるわけじゃない。
 つまり俺たちには一銭の得にもならない。」
「結局大人は皆損得で動くのかよ……。」
「第二に、俺は口を開けて間抜け面で助けを求めることしかできない人間が嫌いだ。」
「う……、じゃあせめてその銃の使い方を教えてくれよ!」
「駄目だね、この銃も、魔弾も、特別製だ。」
「銃はお父さんから貰ったものがあるんだ!弾さえあれば……」
「なおのこと駄目だ、これは超特別な弾だからな。」
「……うぅ、解らず屋!」
「悪いね、俺たちを追い出したいならどうぞご自由に。」

 トーマスは何も言わずに部屋を出る。
721 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/15(土) 21:10:29.24 ID:9ix2b0G70
「でも助けちゃうんでしょ、お兄様は。」
「起きてたのか。」
「だってお兄さまがパタパタ動き回っているんだもの。
 きっと昼寝のしすぎよ。」
「解った、俺ももう寝るよ。」

 ジャンゴが諦めて寝ようとしたところで再びドアが鳴る。

「すまないジャンゴさん、起きているか?」
「その声はブルーノさんか?こんな夜中に一体なんだ?」
「ここからで良いから話を聞いてくれ、先ほどここにぼっちゃまが来ただろう。」
「ああ。」

 ジャンゴは枕元の銃に手を伸ばす。
 リボルバーにしっかり弾が込められていることを確認する。

「さっき見せてもらったがたいした腕じゃないか。あんた達の腕を見込んで頼みがある。
 トーマスぼっちゃまを守り、旦那様の仇をとってほしい。」
「……どういうことだ?」
「旦那様を殺したのは断じて俺じゃないってことだよ。」
「それは……」

 銃声が二発、それに続いて子供の悲鳴。
 トーマスの物だ。

「ぼっちゃま!?」
「ブルーノォ!中にいるんだろ出てこいよ!俺たち古〜い友達だろぉ?」

 表から先ほどブルーノと話していた男の声が聞こえる。
 窓からはロープでぐるぐる巻きにされた少年の姿が見えた。

「くっそあいつら!」
「おいおいおいおい、マジで訳がわからんぞ?」
「旦那様を殺したのは奴らなんだ。
 仇をとりてえのは山々なんだがあいつらには腕利きの用心棒が居て、あいつらに味方する振りしながらぼっちゃまを守るので精一杯だったんだ……。
 とりあえず俺は表に出る、あんた達にぼっちゃまを憐れむ心が有ったらあの子を助けてくれ。
 俺はどうなっても構わねえがぼっちゃまだけは……」
「おい待てブルーノさん!今行ったら思う壺だぞ!」
「ぼっちゃまを危険に晒す訳にはいかねえんだ、頼んだぜ“お客様”。」

 そう言ってブルーノは表に出る。
 
「ブルーノ!お前よくもお父さんを!」
「ヒャッハッハッハ!まだ勘違いしてやがるぜこの糞ガキは!」
「恩知らずも良いところだっつーの!」
「誰か真相を教えてやれよ!」
「その前にまずはこいつだ、やっぱり俺たちを裏切っていたんだから少し痛い目をみてもらわねえとな!」

 外ではブルーノが男たちに殴られている音が聞こえる。
 ジャンゴは予備の弾を置いていた机の上を月あかりを頼りにして手で探る。
722 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/15(土) 21:11:09.25 ID:9ix2b0G70
「あれ?ない?」
「うーん、弾ならあのおぼっちゃまに持ってかれたんじゃないですか?」
「止めろよ馬鹿ぁ!っていうか起きてるなら手伝え!」
「解ってますわお兄さま。」

 二人は駆け足で階段を降りて裏口をまわって建物の陰からブルーノ達に近づく。
 息を殺し、それぞれの手に得物を持って助けに向かう最良のタイミングを伺っていた。

「ってわけだよ糞ガキぃ!お前らのパパをやったのはこの俺たちってことさ!」
「う、うそだ!」
「嘘だと思うならそこのブルーノに聞いてみればいいじゃねえか!」
「ブルーノ、ブルーノは本当に僕を守っていてくれたの?」
「う……申し訳ございませんぼっちゃま。」
「親子共々馬鹿なんだから救いようがねえなあ!」

 男たちは大声で笑う。

「お父さんを馬鹿にするな!」

 縄で縛られたトーマスが突如として縄を抜け、銃を抜いて男たちに向けて撃ちまくる。
 そうはいっても狙いも構えもなにもかもが滅茶苦茶な銃弾が当たるわけもないのだが。
 それでも隙はできた、兄妹は互いに眼を見合わせて頷く。 
 しかし彼らが躍り出ようとした瞬間、彼らの隠れていた建物が機関銃で吹き飛ばされる。

「物陰に隠れている二人組!銃を捨てて大人しく出てこい。」
「え?」
「流石先生!たすかりやすぜ!」
「高い金出して用心棒を雇っておいて良かったぜ!」
「私たち兄弟は史上最速で百万を超える賞金首になったんだ。
 その腕に見合う報酬を支払うのは当たり前じゃないか?」
「へへへ……ちげえねえ。」

 兄妹の接近に気づいていたのは痩せて針金のような男ととにかく巨大な男の二人組。 
 先ほど棺桶を背負っていた身体の大きな男が機関銃を兄妹に向けて構えている。

「出てこないとこいつらを殺すぞ!」
「しかたねえなあ……。」
「え、行くんですか兄様!?」
「行かねえとかっこつかんだろうよ。」

 ジャンゴは銃を捨てて両手を上げて、上半身裸で物陰から現れる。
723 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/15(土) 21:11:55.19 ID:9ix2b0G70
「武器は持ってないから撃たないでくれ。
 あと俺が知っている金鉱の場所も教えるから命だけは勘弁してやってくれ。」

 ジャンゴは適当な嘘も織りまぜながらトーマスとブルーノに小声で話しかけられる位置まで近づく。

「お兄ちゃん!」
「ようトーマスぼっちゃん。」
「お兄ちゃんの嘘つき!あの弾、魔弾でもなんでもなかったじゃないか!」
「あーすまんな、嘘だよ嘘。嘘だったんだ。あれは魔弾じゃない、只の安物の銃弾だよ。」

 トーマスの顔に絶望の色が浮かぶ。

「おい、女のほうはどうした!てめえらが兄妹だってのはとっくに調べがついてんだぞ!」
「ああー、あいつは逃げた。」
「はぁ?騙し討ちにかけようったって……」
「行くわよロシナンテ!巻き込まれる前に少しでも遠くに!」

 猛然と走り去る馬車。
 乗っているのは間違いなくダリアだった。

「ほ、本当に兄貴見捨てて逃げやがった!」
「なんて女だ……。」

 唖然とする男たちを気にするでもなくジャンゴはトーマスに向かって話しかける。

「本物の魔弾は……これから見せる。伏せてろ少年。」
「え?」
「いけませんぼっちゃん伏せて!」

 これから起こることをなんとなく察知したブルーノはトーマスと一緒に地面に伏せる。
724 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/15(土) 21:13:55.93 ID:9ix2b0G70
「おいお前らぁ!」

 大声で男たちを呼ぶジャンゴ。
 男たちはジャンゴの方を振り返る。







「真昼の月を見たこと有るか?」







 爆音。
 属性も何も無い直径30mmの魔力塊が圧倒的物量を以て襲いかかる。
 発射速度毎分3,900発
 銃口初速1,067 m/s
 有効射程1,220 m
 これは間違いなく魔力によって行われている攻撃である。
 繰り返す、これは間違いなく魔術である。
 あまりにも無骨、あまりにも凶暴、優雅さの欠片も無い暴力そのものではあるがこれは魔法なのだ。
 エルフでありながら父祖伝来の魔法を封印し、
 “自らが銃を持っていない時にしか使えない”など種々の制約をかけて、
 それでやっと青年が手に入れた単純にして無敵の破壊魔法。

「無属性魔術弾丸、“昼の月”」

 たった五秒、五秒だけそれがうなりを上げた。
 それだけで先程まで居たゴロツキ達は原型を留めないミートパイの元になっていた。

「真名“復讐者”」

 再び静寂を取り戻す夜の街。
 ジャンゴは地面に伏せていたトーマスに手を伸ばした。
 優しく微笑みかけて彼を助け起こす。
725 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/15(土) 21:14:35.87 ID:9ix2b0G70
「おう、やるじゃねえかトーマスぼっちゃん。
 わりと感心したぜ。」
「うるせー、嘘つきやがって。でも……ありがとう。」
「ありがとうございましたジャンゴ様。」
「で、ブルーノさん、これからあんたはどうするんだい?
 トーマスの親父さんは……」
「待てお前ら!」

 針金のような体躯の男がよろよろと立ち上がる。
 どうやら防弾ジャケットを着込んだ上で仲間を盾にしていたらしい。
 
「お前らよくも邪魔してくれたなあ……。
 せっかく悪名高い賞金首の振りして上手いこと飯にありついてたのによお……!」

 ジャンゴが指を鳴らすと先ほどまで地面に投げ捨てていた彼の銃が彼のホルスターに収まる。

「だったらどうする?」
「てめえも銃士なんだろ?なら決闘だ!始まりの合図は……次に梟が鳴いた瞬間だ。
 さっきのヘンテコなマジックさえ無ければこの俺が貴様に負けることはねえ!」
「ふーん……イイぜ。トーマス、ブルーノさん、隠れてな。」

 ジャンゴと男は向かい合う。
 互いに銃はホルスターに収めたままだ。
 待つこと三十秒、何処か遠くで野犬が一匹鳴いた。
 男は引き金を引く。
 間違えたのではない、イカサマだった。
 だがしかしそれで動ずるジャンゴではない。
 男が動いたのを見て 銃を抜いた瞬間に右親指で撃鉄を起こして一発。
 空いてる左手の親指と薬指でそれぞれ撃鉄を起こしてもう一発ずつ。
 合わせて三発を一箇所に撃ちこむスポットバーストショット。
 これがトーマス少年やブルーノの前で見せた魔弾の正体だった。
 魔術でも何でもない只の技術。
 ジャンゴは男の持つ最新鋭の銃から放たれた凶弾を銃弾二発で弾き飛ばし、
 そして残り一発は違うこと無く男の心臓に命中させた。

「魔……魔弾?」
「魔術じゃねえ、技術だ。」

 既に動けなくなった男の耳元でジャンゴは囁く。

「運が悪かったな、賞金額十万の“偽物”さんよ。」
「な、じゃあてめえが……」
「地獄で会おうぜ、もっとも俺たちは弱いものからは奪わない主義だが。」

 ジャンゴは男の眉間に銃弾を撃ち込んだ。
726 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/15(土) 21:15:23.35 ID:9ix2b0G70
「ふー……一宿一飯の恩は返したぜ。」
「重ね重ねありがとうございました。」

 再び頭を下げるブルーノ。

「聞きそこねちまったけどあんた達はこれからどうするんだ?」
「これからも私はトーマスぼっちゃまのお世話をさせていただくだけです。」
「ごめんねブルーノ、疑って……」
「いえ疑われるのも当たり前です。
 奴らに脅されて旦那様の居る鉱山に爆薬を仕掛けたのは私です……。」
「だがいい仕事だったぜブルーノ!
 その爆薬の量を調節して上手いこと俺を鉱山から脱出できるようにしてたんだからな。
 しかもトーマスをちゃんと守ってくれていた。」
「そ、その声は!」
「よう。」
「旦那様!」
「お父さん!」
「街の前で倒れてた所をこちらの嬢ちゃんに助けてもらってな。
 彼女の治癒魔法がなきゃ危なかったよ。」
「お兄様、私だってたーだ逃げてた訳じゃあないんですよ!」
「はいはい解ってます。」

 馬車から下りてくる髭のダンディな男性。
 トーマスの父親である。

「さて、ブルーノを脅して俺を嵌めやがった奴をこれからぶちのめ……」
「もう終わりましたよ。」
「なーんでぃ。じゃあ飲もうか。今日は命の恩人達にお礼をたっぷりせにゃあならんな!」

 こうして始まった宴は夜を通して続いた。
 翌日、兄妹は日が高くなってからこの街を後にすることになる。
 彼らが去る頃には暗かった町の雰囲気もほんの少しだけ明るくなっていた。
727 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/15(土) 21:16:45.71 ID:9ix2b0G70
「お兄様、お兄様ほどではないけどトーマスくんのお父様は素敵な方でしたわね。」

 街を出てから数時間後。
 馬を御しながら妹はそう言った。

「俺たちの親父とは大違いだ。」
「ええ、私とお兄様のお母様を二人共あんな目に遭わせて殺すなんて許せません。」
「まったくだ。」
「見つけたら絶対に……。」
「そうだな、俺たちが殺す。」

 夕日が遠くへ向かって落ちていく。

「西だ、奴の目撃情報があるのはそこだからな!」
「あとこの賞金首も換金しないといけませんしね。」
「その通り。」
「久しぶりの大きな町、楽しみですわ。」

 彼らが父親の為に用意した棺桶にとりあえず突っ込まれている二人の男の死体。
 彼らはこれを換金するためにとりあえずここから西の大きな町に向かおうとしていた。


【magical ballet“noon moon” act1〜The man with the machine gun〜 to be continued】
728 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/15(土) 21:21:03.25 ID:9ix2b0G70
というわけで似非西部劇調、スキヤキ・ウエスタンで一本
2日で18kbくらい書いたのでアラだらけかもしれないのですがお許し下さい
世界観とかwiki見たけれども上手く合わせられなかったかもしれないところもお許し下さい
729 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/15(土) 21:49:26.27 ID:QXJeB1qd0
乙です
これのタイトルって何でしょうか?
730 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/10/15(土) 22:55:02.64 ID:kLKgzmn40


展開が二転三転するところがハラハラさせてよかったよ
ジャンゴの「昼の月」は面白い設定だね
その名称の由来も気になるところ

そして終わり方で戯言思い出した
731 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/15(土) 23:03:52.64 ID:8obXKkFI0
乙だよん

VIPに一回宣伝に行ったら人増えるかな
732 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/15(土) 23:05:16.30 ID:9ix2b0G70
タイトルは Magical ballet“noon moon” でお願いします
最近のマイブームが刃鳴散らすで
「魔剣・昼の月」の名前だけ頂きましたって感じです
ジャンゴとダリアは腹違いの兄妹で近親相姦楽勝でした状態だけどまあ……うん
ジャンゴの方の母親がダークエルフで、ダリアの母親が普通のエルフで、みたいな
父親はどこぞの鬼畜勇者をイメージしてるがさてどうなるか……
生粋の戯言厨で特撮マニアで虚淵信者でHUNTERXHUNTER信者な上に型月厨でもあるのでまあ影響受けまくっているとは思いますが笑ってゆるしてやって下さい
733 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/16(日) 00:03:28.02 ID:a+h0XgWh0
http://www14.atwiki.jp/vipperld/pages/97.html
こんな感じでよいですか?
なかなか面白いですね。
734 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/16(日) 09:15:32.25 ID:I3kalcH00
今日日曜だしVIPにスレ建ててくる
午後まで待つから反対意見があったら言ってくれ
735 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/16(日) 09:18:44.08 ID:I3kalcH00
今日日曜だしVIPにスレ建ててくる
午後まで待つから反対意見があったら言ってくれ
736 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/16(日) 09:20:58.16 ID:I3kalcH00
連投スマソ
737 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/16(日) 10:32:36.76 ID:OyvN6zZDO
宣伝ってスレ立ててどんなことやるんですか?
738 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/16(日) 10:36:10.89 ID:I3kalcH00
>>737
とりあえずここのwikiとスレのURL貼って
暇なやつこいとかすればいいんじゃないかね
739 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/16(日) 16:13:04.75 ID:I3kalcH00
よし五時になったらいってくる
740 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/16(日) 17:22:47.84 ID:+XvsvIaso
知らない
知らない
知らない

VIPのスレ確認
741 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/16(日) 19:19:59.78 ID:OyvN6zZDO
vipのスレはどうなったんだ…
742 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/16(日) 20:25:06.30 ID:a+h0XgWh0
VIPのスレって何処ですか?
743 : ◆rpv9CinJLM [saga sage]:2011/10/16(日) 20:30:15.15 ID:IPchy05+0
>>733
キャッチコピーだけ
「――――天意も知らぬ
 ――――神仏も知らぬ
 我らこの銃弾に賭ける修羅」
に変えていただけるとありがたいです
744 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/16(日) 22:34:25.33 ID:a+h0XgWh0
http://www14.atwiki.jp/vipperld/pages/97.html
こんな風でよろしいですか?
745 : ◆rpv9CinJLM [saga sage]:2011/10/16(日) 23:38:34.97 ID:IPchy05+0
思った感じです!
ありがとうございます!
そして第二話投下
一日で書いたから荒いかもしれないので先に土下座
746 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/16(日) 23:55:52.30 ID:IPchy05+0
【Magical ballet“noon moon”act2〜She looks like an angel with a shotgun〜】

「それにしても久しぶりの現金収入ですわねお兄さま。」
「ああ、そうだな。」

 先の賞金首を換金してふところがホクホクとしている兄妹。
 二人は馬車から下りてロシナンテを休ませつつゆっくりと街中を歩いていた。

「十万もあればしばらく豪遊できますわね。」
「やめようぜ妹ちゃん、お前の豪遊は本当に洒落にならないから。」
「嫌ですわお兄さま、旅の息抜きは必須だってお兄さまが言ってくれたじゃないですか。」
「いやそうだけどさあ……とりあえず宿をとろうぜ。そして一晩ゆっくり休んだらこの街を離れよう。」
「あら、何時にもまして早い旅立ちですこと。」
「うん、なーんかこの街、嫌な感じがするんだよねー。」
「臆病風に吹かれたのですか?」
「そうは言うがお前……見てみろよ。」
「え?」
「この街、屋外に女性が居ない。」
「あら、そういえばそうですわ。」
「やれやれ、良いのは視力だけかな?」
「お兄様のいぢわる。」
「おいあんた達。」

 二人は後ろから声をかけられる。
 年老いた男性だ。
747 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/16(日) 23:56:57.58 ID:IPchy05+0
「見たところそちらの子は女性のようだが……旅の人かい?」
「ええ、そうですが……。」
「今この街の辺りに吸血鬼が住み着いているんだ。
 やつら見境なしにこの街の女を攫ってて……
 旅の神父様のおかげで流行病が終わったと思えばこれさ。」
「旅の神父?」

 ジャンゴは一瞬怪訝そうな顔をする。

「まぁ…………、同じ女性として心が痛みます。」

 ダリアは辛そうに顔をしかめた。

「だから気を付けないと大変なことになるんだ。」





「例えばこんな風に!」





 老人が牙を剥いて二人に襲いかかる。

「そう」

 目にも留まらぬ早さで散弾銃が老人の頭に突きつけられて……

「決して」

 銃声が響く

「許せません。」

 皮膚が裂け、骨が散る、脳漿は潰れ、そして緋色の花が咲く。

「一撃を以て頭を潰せばいくら吸血種といえど再生は不可能。」
「そういうことだ、学んだね妹ちゃん。」
「ダリア、って呼んで下さいお兄様。」
「善処する。」

 一部始終を見ていた群衆がざわめく。
748 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/16(日) 23:57:28.17 ID:IPchy05+0
「面倒だな、帰って良いか?」
「駄目みたいですわ兄様。あちらから保安官の方が。」
「きゅ、吸血鬼が出たっていうのは本当か!今度こそ儂が……!」

 額にシワを深く刻んだ老人がショットガンを携え馬に乗って走ってくる。
 この街の保安官だ。

「あれ?」
「申し訳ございませんおじい様、もう片付けてしまいましたわ。」
「なんと……」
「あんた、この街の保安官かい?」
「ああ、そうじゃよ。儂も奴らを倒すために手を尽くしてはいるんじゃが……」
「だが?」
「奴ら大勢でかかる度に棲家を上手く変えて逃げさってしまう。
 その上、頼りになる若い男は隙を見て暗殺してしまうんじゃ、正直言って打つ手がないんじゃよ。」
「ふーん……。」
「そうじゃ、あんた達の腕を見込んで紹介したい人物がいるんじゃが……」
「誰だ?」
「この街の市長……彼も息子のジャックを亡くした男じゃ。
 ジャック君は彼と恋仲にあった下女を攫われて、たった一人で……」
「それは……」
「とりあえず市長の方の所に連れて行っていただけませんか?」
「勿論じゃ、ついてきてくれ。」

 二人は保安官の話を聞き、市長に会うことを決めた。
 保安官は二人をすぐに市長と引きあわせてくれた。

「君たちがジャンの話していたガンマンか!」

 病的なほど白い肌。
 口紅でも引いているかのような赤い唇。
 ワックスでも使っているのか解らないがツヤツヤと良く輝く黒髪。
 
「よく来てくれた!魔術の心得もあるらしいね!」

 印象、一言で言えば胡散臭い。
 
「来てさっそくだが君たちにお願いしたいことがある。」
「ヴァンパイア共をぶっ殺せって言うんだろう?」
「ああ、奴らは我々に害を為す魔物だからね。」

 本当に息子を失ったのだろうか。
 そう思わせるほど淡々としている。
749 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/17(月) 00:01:02.62 ID:jd8+ktVv0
「兄様、行きましょう、絶対に許せません。」
「まあ少し待て。俺たちだってビジネスなんだよ。
 報酬について聞かなくては依頼も受けられないだろう。」
「まったくもってその通りだ。何がお望みだい?」
「情報だ。」
「情報?」
「この街に体中傷だらけの神父服を着た魔術師を見なかったか?
 恐らく……棺桶を二つ引きずっている筈だ。
 名前はディエゴ、ディエゴ・マードック。」
「棺桶の神父……。ディエゴ……まさかディエゴってあのディエゴか!
 ハンターのディエゴだったら私の古い友人だよ!
 最近は流行病の治療の為に街中の皆にワクチン注射をしてくれたね。」
「なんだって……?」
「そう、彼なら少し前に街に来た。そして私に……おっと、ここから先は言えないか。」
「礼を言う。あいにくコチラとしては路銀は賞金首を狩るだけで十分でね。」
「成程。ところで今日の宿は決まってるのかい?もう日も傾いてきているしさ。」
「まだだが……。」
「じゃあ家に泊まって行かないか?今日は保安官殿も招いて奴らへの対策を練る予定だったんでね。」

 一瞬だけ、しまったな、という顔を兄はした。

「まあ素敵!泊まって行きましょうお兄さま!」
「いんや、遠慮しておくよ。」
「そうか、それは残念。」
「悪いねえ、ちょっとヤボ用なのさ。行くぞ妹ちゃん。」
「はいお兄様。」
 
 ジャンゴは早足で市長宅を退去する。
 前に停めてあった馬車に乗り込むと彼は妹に言った。

「おい、この街を出るぞ。馬車を出せ、できるだけ早く。
 ロシナンテは戦闘形態にしておけ、何時襲われるか分からないからな。」
「え?」
「本当に良いのは視力だけだな。あの市長がヴァンパイアだ。」
「そんな……」
「説明はあと!さっさと馬車出す!」
「はい!お願いロシナンテ!」

 ロシナンテと呼ばれた白馬は一声高く嘶いたかと思うと全速力で街を駆け抜け始める。
 折悪しく日没。
 吸血鬼が最も活発になる時間が始まる。
 風も強く、空気は乾いていて、月がやけに美しかった。
750 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/17(月) 00:06:48.82 ID:jd8+ktVv0
「俺の推理はこうだ。
 ・恐らくこの街にいる全員が吸血鬼である
 ・少なくとも市長は吸血鬼である
 ・保安官も吸血鬼である可能性が高い
 ・男性は既に皆殺しになっている
 ・女性は良くて死んでいる、悪ければ……
 理由は至ってシンプル。
 第一にこの街でお前が吸血鬼を殺した後、誰一人として死体を辱めなかった。
 妻や娘を奪われた男達がその恨みを死体とはいえ晴らさない訳がない。
 第二にあの市長の態度、やっぱりどう考えてもおかしい。
 第三に最近この街にディエゴ、俺たちの親父が来たってことだ。」
「成程……。」
「頼むぜ妹ちゃん。」
「ねえ兄様。」
「なんだ?」
「もしディエゴを殺せたら……」
「その話は後だ。」

 殺気。
 敵襲。
 二体。
 跳躍。
 抜銃。
 発射。
 直撃。
 爆散。

「敵さんおいでなすったようだ。」
「ロシナンテ、貴方の真の姿を見せてあげなさい。」

 ロシナンテの鬣に黒い十字架が浮かび上がる。
 それは彼の額へと移動して一瞬の内に角へと変わる。

「天に在す我らの神よ、我こそ森の民の末裔。
 貴方に愛あらば魔を祓い愛するものを守る為の力を與え給え。」

 ダリアが胸元のペンダントに手を当てて祈りを捧げる。
 すると一瞬で古ぼけた馬車だったものがまばゆい光に包まれて戦車(チャリオット)に変形する。
 
「パーーーーーーーーーーーフェクトだッ!流石普通のエルフ!」
「信仰を捨てた兄様とは違いますわ。」
「それは言いっこ無しだ!」

 ロシナンテと同じ速度で建物の屋根を伝い二人を追う数多の吸血鬼。
 
751 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/17(月) 00:10:52.02 ID:jd8+ktVv0
「さーて、お仕事の時間だぜ。」
 
 チャリオットの中央に用意された席にどっかりと座り指を鳴らすジャンゴ。
 もはや説明不要の殺戮兵器。
 不可視にして不可避の魔術弾丸。
 音もなく迫り前触れなく砕く復讐者。
 呼称“昼の月”
 真名“復讐者”
 最低のラインさえ超えればいかに魔力を込めようと一定威力、一定速度で敵を蹂躙するその暴力はもはや魔術ではなく機械と形容した方が適切だ。
 彼はチャリオッツを中心にしてロシナンテが展開する結界の外に向けて建物が壊れるのも構わずに撃ちまくる。
 其の分け隔てなきこと神の慈愛の如し。
 一般人ごと皆殺しにせんばかりの勢いである。

「くそっ!こいつら何人居るんだよ!」
「ディエゴが来たのがつい最近……だとしてもこの数はちょっと異常ですわ。」
「――――元ォ叩くかぁ」
「え?」
「逃げるのはやめだ。市長宅に引き返してあいつ殴り飛ばして親父のこと吐かせる。」

 ロシナンテが吸血鬼達を聖属性を帯びた角で蹴散らす。
 チャリオットからはロシナンテの聖なる力を受けた鎌が四方八方に伸びて横から近づく敵を八つ裂きにしている。

「返事は?」
「はい!」

 二人は来た道を引き返して走り始める。
 すると先ほどとは打って変わって急激に襲撃が減り始める。

「予想通りだ。」
「なにがです?」
「俺たちが逃げ出すのも織り込み済みだったんだろうさ。
 でも兵を外の方に外の方に配置しすぎて肝心の内側はなおざり。
 集団で攻めてくる以上頭叩かれれば弱いだろうしね。」
「まあなんて冴えてるのお兄さま、まるで戦闘民族みたい!エルフとは思えない発想ですわ!」
「やっぱ腹立つお前。」
「うふふ、愛してますわお兄様。」
「……俺もだよ妹ちゃん。」

 市長宅にロシナンテに乗ったまま突入する。
 白塗りの壁は砕け、堅牢な門は焼き切られ、美しかった噴水は瓦礫で埋まった。
 
「おい市長!出てこい!」
「なななな、なんだ!?一体何がどうなっているんだ!」
「市長お任せ下さい曲者は私が……って、え!?」 

 エントランスホールで間抜け面を晒すのは市長と保安官の老人。
 襲撃者を予想はしてもそれがまさか今日雇ったガンマンだとは彼らも思わなかったようだ。
 
752 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/17(月) 00:16:25.65 ID:jd8+ktVv0
「なぜ君たちがこんなことを!?」
「お前らが仕掛けたんだろうが!」
「どういうことだ!仕掛けたってなんのことだ!」

 市長の様子のおかしさに気づいてジャンゴは彼を問いただす。

「じゃあ表の吸血鬼はなんだっていうんだ!?」
「表の吸血鬼?街の中に吸血鬼だと!」
「はぁ?でも街の奴らは街中に吸血鬼が出るって言っていたぞ!」
「その件については儂が説明しよう。」

 保安官の老人が市長の頭をショットガンで吹き飛ばす。

「この街は偉大なる市長の息子、吸血鬼として生まれ変わったジャック・アバークロンビーが治める吸血鬼の街なのじゃよ!
 通りを歩く人は全て吸血鬼!旅人の物は我らの物!
 保安官なぞいらぬ、ディエゴ様の指導のもと、この街を起点にして吸血鬼の、否、モンスターの楽園を作るのだ!
 神は人間を捨て、我々を愛してくれているのじゃから!
 ジャック様万歳!ディエゴ様万歳!
 バンザイ!バンザイ!バンッザーーーーーーイ!」

 老人がショットガンを口に咥え引き金を引く。
 老人もまた一瞬で物言えぬ死体へと変わってしまった。

「嘘だろ……」
「本当だよ!」
「誰だ!」
「僕がジャック、ジャック・アバークロンビー」

 煙幕が張り巡らされる。
 声だけがそこらで反響する。
 そして二人の背後から白刃が煌めいた。

「今僕がそこの哀れなお爺様に催眠術で言わせた通り、この街は僕の街。
 僕達吸血鬼の住む吸血鬼の街。」

 間一髪二人は躱してお返しとばかりに銃弾を撃ちこむ。
 
「ヒュー、いい反応してるね。
 でも視界が効かないガンマンはどこまで戦えるのかな?
 ここには僕のお友達も沢山招待してるんだよ。」

 月明かりさえ届かぬ闇の中で赤く光る瞳。
 どうやら本当に吸血鬼らしい。
753 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/17(月) 00:21:27.28 ID:jd8+ktVv0
「みんな!やっちゃ……」

 



「――――真昼の月を見たこと有るか。」





 ピチャ
 ペチャ
 グチョ
 ジャックの背後で破裂した糞袋が中身をぶちまけている。
 据えた匂いがあたりに漂う。

「俺たちの能力について報告を受けてなかったようだな。
 まあ当たり前か、そうならないように“建物まで壊しまくるほど徹底して”破壊しつくした訳だし。
 生き残ってあんたに情報を伝えられる奴も居ないさ。
 この匂いじゃあご自慢の鼻もどうにもならないだろう?」

 ジャックは無言で辺りを見回している。
 煙幕が晴れる。
 仲間の死を確認して、彼は兄妹を見つめる。
 泣いている。

「酷い、なんてことを。
 なんで、なんでなんでなんでなんで!
 なんで人間やらエルフのくせに僕達モンスターを!
 お前らはモンスターに追い回されていれば良いのにいいいいいいい!」

 ホルスターからダリアがショットガンを取り出して目にも留まらぬ早撃ちを決める。
 しかしそれはわずかにジャックの頬肉を削ぐばかり。

「無駄無駄無駄ァ!所詮お前らはモンキー!進化した人類であるモンスターには勝てる道理が無い!」
「進化した人類?」

 ジャックの爪がダリアに迫る。
 だがしかし横合いからジャンゴが彼を思い切り殴りつける。
 簡単に吹っ飛ぶジャック、いくら身体能力があってもとっさの攻撃に弱い所を見ると戦闘経験が浅いのがまるわかりだ。
 
754 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/17(月) 00:26:11.84 ID:jd8+ktVv0
「そうだよ、進化した人類さ!ディエゴ神父が言っていたよ!
 我々人類やエルフ、ドワーフなどはもう神に見捨てられた存在なんだって!
 だから我々もモンスターになって神の恩寵に預かるんだって!
 モンスターが他種族の女を孕ませられるのは神が彼らに世に満ちよとおっしゃったからだって!
 だから僕は神父様に教えられた通り、ワクチンを受けた人々に“合図”をして吸血鬼に変えてあげた!
 あの神父様は本当にすごいよ!人間をモンスターに改造できるなんて!
 ああーそうそう、ちなみにお父さんと保安官さんは外部の人間に怪しまれないように人間のままにしておいたのさ。
 吸血鬼になったって知った瞬間自殺しそうだしね、あの人達!」

 ジャックの拳が迫る。
 ジャンゴはそれを銃撃で弾き飛ばす。
 ダリアはショットガンでジャックの逃げる方向に弾をばら撒く。

「――――しまっ!」

 ジャックの背中がえぐれる。
 しかしあっという間に再生。
 
「あんた達!チンタラしてていいのか?このままだと俺に致命傷は与えられないぜ!
 応援が来たらいくらあんた達でも……」
「うむ、そうだな。
 だがお前がいくらすばしっこくても関係ない処刑方法を思いついた。」

 ジャンゴがマッチの火を地面に投げる。
 火は地面に何時の間にか巻かれていた液体を伝いジャックの身体も包む。

「うわあああああああああああ!?」
「お前の仲間をバラバラにした時に床に、お前を殴り飛ばした時にお前自身に、それぞれ燃料をぶちまけさせてもらった。
 お前の仲間の死体の匂いがきつくて気づかなかっただろう?」
「なぜだ!なぜ消えないいいいいい!」
「聖なる香油入りだ、ありがたく喰らいな。化物(フリークス)!」
「いやだあああああああああああああ!マリア!助けて、マリアアアアアアアアア!!」

 折りしも風の強い秋の夜。
 空気も乾いており、火は猛烈な勢いで街に広がる。
 彼らは急いで市長の部屋に行き、ありったけの書類や日記らしきものをロシナンテの曳くチャリオットに載せる。
 あらかた載せ終わった所で悲鳴が聞こえてきた。
 女性のものだ。

「もしかしたら攫われた女の人!?」
「……助けに行くぞ。」

 彼らが見たのはエントランスホールで泣き叫ぶ一人の女性の姿だった。
755 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/17(月) 00:27:21.47 ID:jd8+ktVv0
「ジャック!ジャック貴方なんで死んでいるの!?
 死なないために吸血鬼になったって!ずっと私とこの街を守るって言ってくれたのに!
 私嬉しかった!強盗団に攫われて、他の女の人たちが次々酷い目に合わされていく中で私の番が来たその時に!
 貴方がまるでヒーローみたいに現れて助けてくれたことが嬉しかったのに!
 子供だって出来たのよ!貴方の子供よ!正真正銘!
 たとえモンスターであったとしても幸せになれる、モンスターになれば大切な人を守れるって言って貴方が街の皆を吸血鬼にしたじゃない!
 女の人は吸血鬼になれなかったから、急の襲撃者から守るために家の中にできるだけ入れるようにして!
 あんなに街を、皆を守るために一生懸命だったのに!
 なんでよ神様!神父様がそう言ってたからジャックはあんなに真面目に頑張ったのに!」
「……ダリア、お前は見るな。」
「え?」

 腰のピースメーカーを抜いて、ジャンゴは引き金を引いた。
 頭、腹、胸、其の順番で風穴が開いてその女性――マリア――は倒れる。

「行くぞ。」
「お兄様なんで!?」
「生き残られると厄介だ。復讐の邪魔になる。」
「そんな……そうだけど、只の人間……。」
「いいから来い!」

 ロシナンテは彼らを乗せて炎の中を走りだす。
 ジャンゴは魔力の続く限り“昼の月”を撃ち続け街に瓦礫の山を積み上げた。
 瓦礫から瓦礫へと火は燃え移り、街はあっという間に跡形もなくなっていく。
 だがそれを見届けず彼らは何一つ言葉を躱さずに一昼夜走り続けた。
 そしてとある大きな街に来た所で歩みを止め、とびきり豪勢な宿屋に泊り、体を洗うとすぐにベッドの中に飛び込んで抱きしめあって子供のように震えた。

「ダリア、ディエゴを殺して母さん達の仇をとったら……牧場でも開こう。
 だれも居ないところで、静かに、二人きりでずっと暮らそう。
 ああ、でも子供が居ても良いかもしれない、俺とお前の子供を大事に育てて、男の子……だったら、さ。銃の使い方なんて教えちゃったりしてさ。
 それで、言うんだ……。」

 泣きそうな声でジャンゴは呟く。

「人に向けて撃っちゃいけないよ……って」
「お兄様は……悪かったよ。でも、でも私は……」
「ダリア、今は兄なんて呼ばないでくれ。」
「……ジャンゴは悪いことをした。」
「うん。」
「でも私だって止めませんでした。だから一緒です。」
「うん。」
「私は神様じゃないから貴方の罪を許せないかもしれません。
 でも私は許します、たとえ許されなくっても……私はジャンゴと一緒に罪を重ねてあげますから。
 一緒に……落ちましょう?」


 二人はそっと唇を重ねた。

【Magical ballet“noon moon”act2〜She looks like an angel with a shotgun〜 to be continued 】
756 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/17(月) 00:34:46.44 ID:jd8+ktVv0
はい、もうフリーダム過ぎてごめんなさい
どんだけ兄×妹好きなんだよっていうね
まあ復讐ですから
正義の味方も悪人も復讐なんてできません
倫理に苦しめられるのは強者でも弱者でもありません
ちょっと道から外れてしまった普通の人が一番苦しいんです
757 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/17(月) 00:44:55.85 ID:rlLGF2ey0

西部劇とファンタジーがマッチしていてとてもいいと思います
wikiに乗せたほうが良いと思う設定などありましたらご明記お願いいたします
http://www14.atwiki.jp/vipperld/pages/99.html
758 :以下、VIPに変わりましてNIPPERがお送りします :2011/10/17(月) 01:21:01.70 ID:B5U93GZGo


つかぬ事を聞くが
あんさんヘルシングは好きか?
759 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/17(月) 07:42:52.64 ID:dfH4RYfDO
wiki掲載ありがとうございます
なんかもう色々ごめんなさい
女性をモンスター化させると色々問題ありそうなので男性だけ吸血鬼化させました
あの犯人は予想外だったはず
第一案では「てめぇの血は何色だ!!」となりそうだったのでこれは第二案
ヘルシングは大好きです
ただドリフはもっと好きです
二巻にルークとヤンが出てきたのは爆笑した
760 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) :2011/10/17(月) 20:06:09.28 ID:/7De+XCB0
乙です

終わり方が切ないですね
ぐっときました

これからも楽しみにしてますよ
761 : ◆rpv9CinJLM [saga sage]:2011/10/17(月) 21:48:14.02 ID:jd8+ktVv0
次の話は木曜を目処に頑張りたいと思います
二人のお父さん最初は単純なわりーヤツにしようかと思ったけどちょっと変えてみるかな
とりあえず六話を目処に終わらせる予定なのでどうか最後までよろしくおねがいします
ところでここってスレで雑談とかってしないんですかね
762 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/17(月) 22:26:10.61 ID:rlLGF2ey0
どうぞどうぞ、私も参加しますので
763 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/17(月) 22:55:25.68 ID:dfH4RYfDO
しかしネタが…
764 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/17(月) 23:34:09.13 ID:rlLGF2ey0
これから書きたいことや設定
質問や、自分の書いている小説以外での設定の提案あったらどんどんどうぞ。
あとこれから書きたいものに関する質問もあったらどうぞ。
765 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/18(火) 07:46:12.56 ID:8/Yc1ZHDO
とりあえずどの話から読めばいいかお勧めを教えてください
766 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/19(水) 12:11:44.52 ID:2WS4Bz5E0
個人的なお勧めになりますが
http://www14.atwiki.jp/vipperld/pages/73.html
とか
http://www14.atwiki.jp/vipperld/pages/76.html
とか
http://www14.atwiki.jp/vipperld/pages/94.html
などを読んでもらえると良いと思います
とても世界観がわかりやすくて面白いのでお勧めです
767 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/20(木) 22:22:25.00 ID:Veo/nkoJ0
【Magical ballet“noon moon”act3〜My name is Legion for we are many〜】


 ジャンゴは目を覚ます。
 熱いシャワーを浴びてさっぱりとしてから服を着る。
 寝穢い妹が枕に涎を垂らしているのを見てやれやれと溜め息をつく。
 馬から降りれば彼が彼女の世話をする番だ。
 とりあえずジャンゴはダリアを起こすことにした。
 
「起きろ妹ちゃんよ。」
「うーん……今何時?」
「朝八時。」
「まだ朝早いじゃないですか。」
「駄目だよ、早寝早起きしないと。」
「もー、おかあさまみたいなこと言わないでください。」
「お兄さんだからな。」
「普通の兄は妹にこんなことしません。」
「そうだな。普通の妹も兄をこんなことに誘わない。」

 ジャンゴは裸のままのダリアを抱えてシャワールームまで運ぶと彼女をそのままバスタブの中に放り込む。
 お互い慣れたもので体勢を変えながらジャンゴは隅までダリアの身体を綺麗にした。
 水を弾く白くて艶やかな肌にジャンゴは思わずため息をつく。

「どうしたのお兄さま?ムラムラしちゃったのですか?」
「馬鹿。」
「……あんまりですわ。」
「解った、悪かった。綺麗だよお前は。」
「キャー」

 頬に両手を当てて小さく歓声をあげるダリア。
 こうしていると歳相応の少女である。
 といっても長命で成長の遅いエルフの一族なので人間から見れば結構な年齢なのだが。

「今日はどうするんですか?」
「どうって?」
「いや、お金はまあ大丈夫としても情報収集とか。」
「うーん。とりあえず人の集まりそうな場所で聴きこみといこうかな。」
「うふふ、ちょっとしたデートですね。」
「あのなぁ……」

 バスタブの中からダリアを引き上げると彼女の身体をバスタオルで丁寧に拭く。
 まるで宝石でも扱っているかのようだ。
 力を抜いて優しく優しく、愛情を込めて丁寧に。
768 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/20(木) 22:25:29.98 ID:Veo/nkoJ0
「くすぐったいです。」
「ちょっと待ってろ、もうすぐ終わる。」
「お兄様はシャワーは済ませたんですか?」
「ああ。」

 裸の彼女をベッドに腰掛けさせる。
 ジャンゴは彼女に足をあげさせてショーツを履かせようとする。
 衣擦れの音。
 ゴクリ、とジャンゴはツバを飲み込む。
 薄い体毛、細く伸びた羚羊のような足、にも関わらず形の良い臀部。
 何度も何度も見たことは有るはずなのにそれでもなお興奮を誘って仕方ない。

「どうしたんですか?」

 いたずらっぽく微笑む。
 
「なんでもないよ。少し立て」

 腰を浮かせたダリアにショーツを履かせ終えると次は両手を上げるように指示をする。
 面倒くさいからブラジャーのホックを胸の前で止めてから後ろに回して、肩にひっかける。
 処女雪のように柔らかな胸に手を触れてみる。

「早く服着せて下さいお兄様。」
「…………ああ。」

 だらしない男だな、と自嘲する。
 何時までこんな関係を続けていられるのだろう、とも思う。
 
「子供の頃にさ。」

 用意していた着替えの服をいそいそと着せながらジャンゴは呟く。

「母さん達に聞かれたじゃん。
 もし世界中の人がだれもいなくなってしまったらどうするかって。」
「そんなことありましたっけ?」
「やっぱり、覚えてないか。」
「え?」
「川で溺れたことは覚えているだろう?」
「あの時はお兄さまが助けて下さりましたよね。」
「…………ああ。」

 ジャンゴの脳裏に故郷の森の記憶が蘇る。
 友がいて、家族が居て、皆笑っていて。
 今はもう居ない。
 だれも居ない。
 彼らの父親のディエゴ・マードックが全てを壊したのだ。
769 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/20(木) 22:30:06.93 ID:Veo/nkoJ0
「いつの間に二人ぼっちになったんだろうな。」
「素敵ですわ、お兄さまと私だけの二人きりの世界。死ぬまで二人きり。」
「邪魔者が居る。」
「ええ、ディエゴを殺したら誰も来ないような森の奥深くでずっと二人で暮らしましょう。」
「いや俺牧場経営したいんだけど。」
「……まあそこらへんは考えますわ。」
「朝食はルームサービスで良いか?」
「ええ。」

 ルームサービスは驚くほどすぐに届いた。
 胡椒の効いたハムサンドイッチに片面だけを軽く焼いた目玉焼き。
 それと香り豊かなコーヒー。
 ジャンゴはボーイに少し多めのチップを渡して彼を帰した。

「食べて良い?」
「ああ。」
「コーヒーが熱そうだわ、フーフーして。」
「やれやれ……。」

 ジャンゴがコーヒーを冷ましている間にダリアはサンドイッチを口に運ぶ。
 香ばしい小麦の香り、甘やかなパンの風味、溺れそうになる味覚を胡椒が引き締める。
 ハムも胡椒の強い香りに負けない味わい深さで噛む度に肉の旨味が目覚めた味覚を揺さぶる。
 目玉焼きは黄身の色が濃くて、こちらには塩胡椒が軽くかけられていただけだったのだが一緒についていたソースをかけて食べると格別だった。
 濃厚な卵の味をソースが薄めて、何時の間にか二つが調和してするりと胃袋の奥へと収まっていく。

「美味しいかい?」
「ええ、とっても。」
「コーヒーが冷めたよ。」
「ありがとうお兄様。」

 一頻り食べ終えるとダリアはコーヒーを飲み始める。

「ここは胡椒が名産らしいけど……うん、美味しいね。」

 ジャンゴが食べる様子を嬉しそうに見つめるダリア。
770 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/20(木) 22:34:41.57 ID:Veo/nkoJ0
「どうした、俺のも食うかい?」
「良いの、お兄様が幸せそうな姿を見ているだけで私は幸せよ。」
「そうか。」
「ええ。」
「今日やっぱりさ、一日中ゴロゴロしてようぜ。」
「ロシナンテが退屈しないかしら?」
「あいつも疲れてるだろう、それにここは設備が良いしあいつだってリラックスできるさ。」
「そうね、じゃあそうしましょう。」

 食器を片付けてもらってからマリアは新聞を読み、ジャンゴはベッドに寝転んだ。
 
「暇ですね。」
「俺は寝るぜ、実は不眠症でなかなか眠れないんだが久しぶりに眠気を感じた。」
「まあ、そんな話初めて聞きました。口から出任せがサラサラ出る辺りも素敵ですわお兄さま。」

 目を閉じる。
 ダリアが鼻歌で懐かしい故郷の子守唄を歌い始める。
 夢が現を蝕み始める。
 鼓膜を震わす懐かしい響きの中でジャンゴは意識を闇の中に落とした。
771 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/20(木) 22:38:25.48 ID:Veo/nkoJ0
「……って、あれ?」
「ヤア、コンニチワ!」

 眠りに落ちた筈のジャンゴは何時の間にかピンク色の空に囲まれた孤島の花畑の真ん中に立っていた。

「いやいやいやいやいや、え?」
「( ノ゚Д゚)こんにちわ、オラはお前の銃に宿った妖精さんだぞ」
「妖精、ねぇ……。」

 ジャンゴとしては妖精とはもっと可憐な生き物だと信じていた。
 だがしかし今彼の目の前に居るのはどちらかと言えばマッチョで……可憐な部位といえば無駄にキラキラと輝いた目だけのおっさんだった。

「( ノ゚Д゚)妖精さんだぞ!」
「可愛く言えば許されると思ったか!」
「( ノ゚Д゚)妖精さんだぞ!」
「妖精さんだね!」
「( ノ゚Д゚)妖精さんだね!」
「そうか!君は妖精さんか!」
「( ノ゚Д゚)うん!」
「……なわけ有るか!」

 腰の拳銃を抜いて引き金を引く。
 妖精さんとやらの額に風穴を三つ開けてそのまま妖精さんは倒れた。

「相当疲れているんだな、うん。」
「そう、奴は偽物よ!私こそが本物!本物の妖精さんよ!」
「うわっ、なんか来た!」
「あきらめないで!」

 今度は女性である。
 雰囲気としては化粧品のCMで「あきらめないで!」とかやってそうな雰囲気だ。
 こちらも妖精さんと呼ぶには少々薹が立っている。

「まだこれからよ!」
「お前はこれまでだけどな!」
「あ゛ふぅ!」

 ジャンゴはとりあえず彼女を撃ってみた。
 やや演技過剰気味に倒れる。

「くそっ……一体なんだって言うんだ……。」
「目覚めよ……今こそ新たな力に目覚める時なのだ……。」

 今度は正体不明の声が遠くから聞こえてくる。

「間に合ってます!」

 とりあえず撃った。
 夢の中ではトリガーハッピーである。
772 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/20(木) 22:42:37.09 ID:Veo/nkoJ0
「間に合ってますとか言わないでよぅ……グスッ。お仕事なんだよぉ……。」
「うわようじょだ。こういうのって普通髭の爺さんが出てくるもんじゃないの?」

 声の方向から現れたのは子供だった。
 褐色の肌、黒い髪、八重歯。
 ちょっと泣きそうになってて可愛い。

「別にそんなのどうでもいいでしょ!あたしつよいんだよー!新必殺技とか伝授できるんだよー!」

 ジャンゴが先ほど撃った筈の弾丸を掌からポロポロと落としてみせる。
 どうやら受け止めていたらしい。

「うわすごいさすがようじょつよい……じゃなくて何者だよおまえは。」
「私は……」
「私は?」

 子供の顔が二つに割れて中から一番最初のおっさんの顔が現れる。
  



「( ノ゚Д゚)妖精さんだぞ(はぁと)」





「うわああああああああああああああああああああ!」

 絶叫と共に目を覚ます。
 そう、今までジャンゴが見ていたものは夢だったのだ。
 
「お兄さま!?」

 心配そうに彼の顔を覗き込むダリア。

「ゆ……夢か?」
「一体何が有ったっていうの?」
「妖精さん、妖精さんが……。」
「お兄様絵本の読みすぎよ、でもそういう子どもの心を忘れない所も好き。」
「違うってばさ……。」
「ちなみに今は昼の十二時よ。」
「もうそんな時間か……。」
「何処かに食べに行く?」
「それも悪く……」

 遠くから聞こえるサイレン。
 人々の悲鳴。
 
773 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/20(木) 22:46:04.08 ID:Veo/nkoJ0
「魔物かしら?」
「だろうな、こんな大きな街にまで襲撃をしてくるなんて思わなかった。
「行くの?」
「この街の警備部隊が居るだろう。」

 ジャンゴはそう言って窓から外を覗く。
 見えたのは人の群れ。
 そしてそれから逃げ惑う人の群れ。
 
「人間が人間を?」
「違うわ、あれは人間じゃない……。」
「え?」
「よく見て、あれは……ゾンビよ。」

 ゾンビ、その言葉を聞いた瞬間にジャンゴの顔色が変わる。
 
「まさかと思うが……」
「調べる価値はあるんじゃない?ディエゴもネクロマンサーだし。」

 それぞれに得物の準備をすると二人は窓から混迷極まる街の中へと飛び降りていった。
774 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/20(木) 22:47:56.31 ID:Veo/nkoJ0
 さて、一方その頃。
 街の北門で一人のカソックを着た男が歩いていた。
 切れ長の細い目と銀縁メガネ、腰にはスミス・アンド・ウエッソンのリボルバー、顔に大きな傷がある。
 男は常人には分からぬ呪文を唱えながらゆっくりと二つの棺桶を引きずり歩きつづけていた。

「子よ、お前は何時も私と一緒に居る。
 私の全てのものはお前のものだ。
 しかし、お前の妹は死んでいたのに生き返り、いなくなっていたものを呼び出したのだから、私が祝宴を開いて喜び合うのは当たり前ではないか。」

 彼の前に保安官達が立ちふさがり銃を向ける。

「貴様がこの騒動の主犯か!」
「永遠の命は欲しくないか?」
「銃を捨てて其の場に伏せろ!」

 男は素早く腰から銃を抜くと目にも留まらぬファストドローで保安官の銃を弾き飛ばす。
 
「あなた達に言っておこう。
 裁いてはならない。
 そうすれば貴方がたも裁かれないだろう。
 人を罪に定めてはならない。
 そうすれば貴方がたも罪に定められないだろう。
 ゆるしなさい。
 そうすれば貴方がたも許されるだろう。」

 逃げようとする保安官の足を地面から伸びた手が掴む。

「や、やめろ!来るな!」
「貴方を、人を捕らえる者ではなく人を救うものにしましょう。」

 男は保安官の額に手を触れる。

「うわああああああああああああああああああああああ!」

 絶叫と共に保安官の皮膚が裂け筋肉が隆起し、額からは角が生える。
 その姿は魔物であるガーゴイルにそっくりだった。

「産めよ増やせよ世に満ちよ、神はあなた達を祝福している。
 ここに楽園を作りなさい。神は人を見捨て給うた。
 ここに住むありとあらゆる生き物はあなた達の為に作られた。」

 男は棺桶を引きずって街の中に進む。

「愛し子らよ、お前達は何時も私と一緒にいる……。」

 漆黒の棺桶に嵌めこまれた十字架が鈍く輝いた。

 
【Magical ballet“noon moon”act3〜My name is Legion for we are many〜 to be continued】
775 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/20(木) 23:04:27.74 ID:Veo/nkoJ0
木曜に何とか間に合った……
第六話までに終わるかなこれ……
776 :以下、VIPに変わりましてNIPPERがお送りします :2011/10/21(金) 00:05:51.10 ID:V3WFJWAio
おつおつ
777 :以下、VIPに変わりましてNIPPERがお送りします :2011/10/21(金) 00:47:22.35 ID:+uNpLWWF0


夢がカオスでワロタwwwwwwwwww
しかし六話で完結してしまうのか
778 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/21(金) 05:37:13.85 ID:E8pjOOdZ0
乙です
どんどん書いちゃって下さい!
http://www14.atwiki.jp/vipperld/pages/100.html
779 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/21(金) 08:00:46.50 ID:GpSEVe3DO
夢のシーンはあれっす
ヘルシングっす
780 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/21(金) 18:24:19.67 ID:E8pjOOdZ0
いつもwiki編集ばっかりの自分ですが
たまには書いてみたいと思います
22時ごろに投下します
781 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/21(金) 20:26:27.20 ID:GpSEVe3DO
楽しみにしてます
782 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/21(金) 20:57:29.84 ID:E8pjOOdZ0
書いてみました。
>>780の宣言から急いで書いたので短いし稚拙ですがどうか生暖かい目でご覧下さい
783 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/21(金) 21:00:36.21 ID:E8pjOOdZ0
fire1〜サンテーン・プリモ〜

機工王国ギムリアース、
今から30年前に戦争に敗れたこの国はレヌリア帝国に国家の半分以上を奪われてしまった。
国家の豊かな部分を奪われ、
国の中は汚職や不当労働、テロに溢れ、さまざまな民族の中で争いが絶えず起こり、挙句の果てには火山が噴火して国を灰色に染めた。
どっちに行っても地獄しかない、と言う言葉が冗談にならないレベルだった。

そんな中煙突の排煙や火山灰に溢れたこの国を立て直した人物がいた
それが アンセイナス・ギムリアース である。
ギムリアースが誕生してから初の女王であり生まれながらの運と国家の指導者としての才能を持った人物であった。
彼女が真っ先に行ったのは国の中枢の見直しであった、
富の独占の象徴のような黄金の宮廷や議事堂から金をはがして国の再建のため用いた
そしてさまざまな都市を作り、学校施設を増やし、労働者の待遇や工場の環境を整備した。
レヌリアやエリュオスとの貿易を行い友好関係を築いたり
率先して小国の名産品を流通させたりして確実に国は元の形を取り戻そうとしていた。
そしてレイス暦207年、火山が火を噴くのを止めた3年後、ギムリアースを大きく変える事件が起こった
魔翌力機関の発明である、魔翌力機関とは一定の魔翌力をスターターとして当てることで特殊なエネルギーを放出し続ける機関である
この発明によって生活のさまざまな部分で変化が生まれた、機関付き馬車や街灯など様々な物で町は溢れ帰り、
アンセイナスは魔翌力機関を使った貿易で国をさらに発展させ、ついにはギムリアースは戦争前以上の発展を遂げた。
彼女の残した改革や制度は、10年経った現在も大きな光となって残されている。

そして大きな光は、
大きな影を生んでしまう。
それを誰も望まなかったとしても、勝手に。


「なあ後輩、私たちは天国なんか求めちゃいない、
ただあの場所を求めていたんだ、それなのに、どうして俺たちは地獄に進んで……いや私たちが進んだ先が地獄になったんだろうな?」
784 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/21(金) 21:01:23.54 ID:E8pjOOdZ0

ギムリアースの中でもサンテーンは貿易が盛んな町である、その性質上人も多く行き来する、もちろんその中には様々な人間がいる…

もちろん犯罪者も。

「まちやがれー!この野郎!」
「待てといわれて、待つやつがあるか!」
サンテ−ンの町の中央に位置する市場、そこで今日も犯罪者とそれを取り締まる者たちが追いかけっこをしていた。
「先輩! 相手は26人殺してる重犯罪者です!さっさと確保しないと!」
そう言ったのは黒毛に眼鏡のまだ女性というには少々幼さを残した少女、アレス・リンジ
「わかってるっての!」
答えたのは金髪に黒い目をした若者、テオ・ライトである
彼ら二人がサンテーンの治安維持局の総合特別課のたった2人の捜査員である。
「そう簡単に捕まってたまるかよぉ!」
そんな間抜けな声を上げながら逃げているのはフレイト・リッパー。
女性に振られた腹いせにその女性を殺し、そのまま成り行きで25人も殺した凶悪殺人犯(47歳、無職、童貞)
である。
「くっそ!こうなったらお前ら全員皆殺しだぁ!」
フレイトは体を翻すと手にナイフを持ってアレスとテオに切りかかる。
ナイフの切っ先は真っ直ぐにテオの喉元に吸い込まれるように向かう、しかし
「甘いっての」
そんな一言をテオが言ったのはすでにナイフが宙を舞い、その持ち主もカウンターキックを喰らいぶっ飛んだ後だった。
「逮捕ですよ」
アレスはそんな一言と共にリンデン産トマトを頭から被ったフレイトに手錠をかける。
785 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/21(金) 21:02:50.63 ID:E8pjOOdZ0
次の日、何もない何時もの特総の部屋にて
手は手でなければ洗えないだなんて格言を残した歴史上の偉人は誰だったか、
自分の脳に問い掛けてみる。
そんな哲学者的に思考しながら片手間に2人分の報告書を進める自分にアレスは
最大限の悲哀と嫌気を覚えつつ目の前にいる 先輩 に目を向ける。
「ん? 後輩も食うか?」
何この人は仕事場でスコーン作ってるんだろうか、紅茶まで付けて午後のティータイムかこのやろう
「遠慮します、というか仕事してください」
普通この発言は先輩が後輩に言うべき言葉ではないのだろうか?
少なくともまともな職種を警察以外経験したことのない彼女にだってそれくらいはわかる、小説で読んだ
「おいおい後輩、今回の件に限っては俺がいなかったら後輩はナイフで穴だらけで生きることになっているぜ」
「先輩、それ死んでます、そもそも定時馬車のターミナルで犯人を見つけたのは誰でしたっけ」
報告書を書き終わった後は他の課の報告書の振り分けをする、正直驚くほどつまらない仕事だ。
今日だってたまたま偶然指名手配犯に出くわしただけなのだ。
自分が事務系だと勘違いしてる人間が多いらしいが自分はむしろ足を使った捜査を得意とするタイプだ。
眼鏡だって火山育ちで小さいころ火山灰の中に突っ込んだためだったりする。
「俺だ」「ふざけるな」
先輩と後輩の会話にしてはあまりに投げやりすぎて泣けてくる、誰が泣くのかは知らないが
「後輩、暇だ」テオはそんな一言を放ちながら手元にある報告書をパラパラと捲る。
「知りませんよ、調書でも読んだらどうですか?」
特別総合課の唯一にして無二のアドバンテージが他の課の調書などが入った書庫に
自由に出入りできるのだ。
と言うか部屋の半分が書庫だ、特総の部屋がおまけだ。
そのせいかこの部屋を尋ねてくる人は極端に少ない。
だから、今自分の目の前のプライバシーの欠片も無い
ウエハースみたいに薄っぺらなドアをノックする者がいたことはアレスにとっては驚きだった。

                   
786 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/21(金) 21:03:52.11 ID:E8pjOOdZ0


「よろしくおねがいします!」
ペコリとアレスとテオに頭を下げるのは10代前半位でその体躯には
似つかわしくない大きなトランクを抱えたの少女。
サンと名乗った少女の観光に付き合うのが今回の仕事だ。
「おい後輩、記憶では俺たちは警察であって観光協会ではなかったはずだが?」
「仕方がないでしょう? まさか支部局長に頼まれるとは思わなかったですからね」
なんと、部屋のドアを叩いたのまさかのサンテーンの治安維持局の支部局長だった、つまり一番えらい人だ
彼が連れてきたのはなんと10代前半の少女であった、一瞬色々(ロリコンとか誘拐とか)不安な単語が脳内をよぎったが、どうやら違うらしい
何でも彼女は支部長の知り合いのいいとこの娘さんであり、彼女たっての希望で特総に観光案内案内を頼みたいらしい。
「まったく、俺はけだものと子供は嫌いなんだよ…」
そんな事を言いながらアレス、テオそしてサンは町の中央通りを東に真っ直ぐ進んでいた。
「テオさんはサンのこと嫌いです
サンはアレスに問いかける、
「気にしなくていいですよ、この人ツンデレだから」とアレス
「つんでれ?」サンが聞き返す、「そうそう、うれさいうるさい!だったり団長だったりメロンパンが好きだったり…
「ストップだ後輩、時空が歪む」テオが静止をかける。
「だって先輩がツンデレだからいけないんじゃないですか」 「誰がツンデレだ! 誰が!」
「先輩が」「OK、喧嘩を超特価で売ってるってことは理解した」
そう言ってこぶしを固めるテオを完全無視してアレスはサンの方を向く
「まあ、ツンデレテンな先輩のことは放置するとして…サンちゃんは何処行きたいですか?」
アレスは真横で激怒しているテオを完全に無視しながらサンに問いかける
「ええっと」
少し考えた後、サンは手に持っているトランクの外ポケットから高級そうなギムリアースの紋章が入った紙を取り出しそれをアレスに差し出す
「おばあちゃんにここに行ってきなさいっていわれたの」
アレスはその紙の中身に一通り目を通すとサンの方に向き直り、そして答える
「OK、全部一日あれば全部回れますよ」
「良かったです!」
そう言って満面の笑みを浮かべるサンとそれと一緒に笑顔を浮かべているアレスから紙をひったくって
テオはその中身を読む。
「ヤードバード門にカーティス港、それに」
辺りを見渡し言う
「このパウエル市場か、」
「なんでお前のばあちゃんはこんな場所選んだんだ? 市場はともかく残りは観光客が行くような場所じゃないぜ」
テオは問いかけるそれに対して少し思い出すような仕草をした後サンは返す
「えっと、おばあさまがこの都市を知るにはその辺りを回ってみなさいっていってました」「ほう」テオは少し関心したような顔をした後再び口を開ける
「気に入った、案内してやるよ」
そう言ってテオはさっきまでのやる気の無さは何処へか、歩き始める
「はいっ! よろしくおねがいしますですです!」
それにサンもトランクを引きずりついて行く
「ちょっ先輩! 待ってくださいよ!」完全に話から置き去りだったアレスもそれを追いかける。



787 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/21(金) 21:04:21.72 ID:E8pjOOdZ0
_______商業都市サンテーン、パウエル市場________

アレスが説明する
「ここ、パウエル市場はサンテーンの商業の中心です、古今東西の様々な物が揃っています、と言うか…」
「歩く必要…ありませんでしたね」
サンは笑顔を浮かべながら言った
「結局入り口に戻ってきたな」
テオは市場の入り口の精巧な鉄細工の門を眺めながら言う
「でもすごいですね! この市場、何でもありそうです!」
サンは目を輝かせながら辺りの商店の物を見て回る、
「まあ商業都市だからな、多分なんでも揃う、が嘘じゃないぜ」
そんなテオの話を聴きながらサンはあたりの商店に陳列された物を見て回る。
おばあさまの言っていたとおり、見たことの無いものばかりだ
「これって何の店ですか?」
サンは怪しげな仮面が飾ってある店を指差して言った。
「それはエドウィンズ魔道具店ですね、魔法の道具を売ってるんですよ」
「魔法! 見て行ってもいいですか?」
サンは 魔法 という言葉に引かれたのか目を輝かせ入っていいかと問う
「いいぜ、俺たちはあくまでガイドだからな」
その言葉を聴くとサンは薄暗い店内の中に入っていき、それをアレスとテオも追いかける。
788 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/21(金) 21:05:13.08 ID:E8pjOOdZ0
魔道具店の中は意外に狭く人気が無かった、寝ているのか起きているのか良く判らない置物のような老婆が一人、カウンターにいるだけだった
「すごいです! 見たこと無いものばかり!」
サンはそう言いながら辺りの商品を見て回る。
「うげえ、すげえ品揃えだな」テオは怪しげな液体を見ながら言う
「先輩、何ですかそれ?」アレスが訊く
「ミツアシドラゴンの体液、つまり血だ」
ちなみにつぼに入っているのはなぜか薄ら光っている緑色の液体だ、
「…これ以上はいいです」
何の用途に使うか訊いたら今日の夕食が食べられなくなりそうだ、
アレスとテオがそんな会話をしていると、サンが壁を指しながら2人の方へと歩いてくる
「これって何ですか?」
「「ん?」」二人は同時に壁を見て「「ああ」」同時に納得し
「これはですね」アレスが説明を始める
「属性配置表ですね」
「ぞくせいはいちひょう?」
サンは聞き返す
「この世界を構成すると言われている属性の配置表ですよ、これはザント式の属性表ですが」
ああ、とサンは納得したような声を出す
「属性ならおばあさまに聞いた事があります、ええっと……何だったっけ?」
「まあ、普通の学校なら中等学校で習う内容ですからね」そう言うとアレスは属性表を読み上げる
「炎、 文明と開拓の象徴」「水、 生命と潤いの元」
「地、 全ての素なる大地」「風、 空を切り命を繋ぐ風」
そこまで言ったところでアレスは表から目を落とす、
「後は上位属性と派生属性とかですね」「派生属性?」聴いたことの無い言葉に思わず聞き返す。
「上位属性はあれだ、光とか闇とかパッと出てこない属性のことだな」
突然テオが割り込んで解説をする
「派生属性はその名の通り派生した属性だ、氷とかがその代表だな、まあ要するに その他 だ」
「ふうむ」
そこまで聴くと少しサンは考えたような顔になった、そして「後でゆっくり考えます」考えた結果、考えるのを放棄した。
「まあ…まだ難しい話ですからね」アレスはずり落ちた眼鏡を戻しながら言った
「じゃあ…次行ってみようか」
テオも少しサンに調子狂わされなからも言った。
789 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/21(金) 21:06:29.40 ID:E8pjOOdZ0
_______商業都市サンテーン、ヤードバード門________

「ここヤードバード門は外からの来客の国内へ入れるように手続きしたり、門の手前にある運河を使ってギムリアース全土から来た様々な物を港へと運んだりするギムリアースの大切な場所です」
アレスがそう言って指差すのは赤いレンガ作りの立派な門、
辺りには船から荷物を積み下ろしする作業をしている人々や、
ギムリアースの国内に用事がある人々などでごった返していた、
そして特総の二人がエスコート中の彼女はと言うと
「すう…はっ!寝てませんよ!絶対に!」
どうやらお疲れのようだ、
「無理も無いさ、ここに来るまでにあんなにはしゃいでいたしな」
サンはヤードバード門に着くまでにあっちを見たりこっちを見たりと
走り回り、危なく反対側に行きかけてしまうほどであった。
「とりあえず少し休むか? いくらなんでも飛ばしすぎだ」
「いえっ!大丈夫です! まだまだ行けます…ぐう」
行けそうになさそうだったので二人はとりあえずサンを休ませる事にする、
近くにベンチを見つけるとそこにうとうとしているサンと共に腰掛ける。
「それにしても以外ですね」
本格的にサンが寝だした頃、アレスが口を開く
「先輩って子供とか本気で嫌いかと思ったけどそうじゃないんですね」
アレスは目を細めながら言う、テオはやや遠くを見ながら返す
「いや、実際あまり好きではない」
アレスは横目にすぐ横で寝息を立てているサンを視界に入れて
彼女を起こさないように、呟く
「あの、先輩ってどんな子供だったんですか?」
「ん〜」
少し目を細めて困ったような顔をすると
「そんな後輩はどうだったんだよ、子供時代は」
意地悪のような困ったような中間の顔でテオは問いかける
「ええっと、今とそんなに変わりないですよ、
私の実家は戦火をあまり受けてませんでしたから」
テオは笑いを浮かべながらさらに問いかける、辺りは少し暗くなり始めている
「どんな風に普通だったんだ? 聞かせてくれよ」
「ええっと、まあ本読んで寝て起きて学校行って本読んで寝てって毎日でしたよ。」
アレスは昔の事を一つ一つ思い出しながら、そして振り返りながら語る
「時間を無駄に浪費していた気がしますねえ」
それでなんとなく大学に入り、警察に入り、ヘマをして飛ばされて今にいたる。
「それで先輩はどうだったんですか? 子供の頃」
「俺か? 俺はな…」
テオは頭を掻きながら少し間をおくと、街灯の暗がりに目を落としてから口を開いた
「なーんか、自分が全部わかった気になってたなあ」
「わかった気?」
「ああ、何でも知ってる気になって…一人歩きして、そして自滅してたなぁ」
「あはは、今と同じですね」
テオはムッとした顔になる
「そんな事は無い」
「いやいや先輩って昔から先輩だったんですねえ〜」
「後輩、怒るぞ」
「先輩、もう怒ってます」
なんとも二人の会話は子供じみていて、
きっと警察手帳と腰の銃と警棒を下げたホルスターが無ければ
どう見ても二人は年頃のカップルにしか見えなかった。
790 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/21(金) 21:07:33.44 ID:E8pjOOdZ0
うはああ。
文章って難しい…
次回は事件です
791 :以下、VIPに変わりましてNIPPERがお送りします :2011/10/21(金) 23:55:09.31 ID:V3WFJWAio
792 :以下、VIPに変わりましてNIPPERがお送りします :2011/10/22(土) 01:21:45.83 ID:UUKATa4a0
乙だよん
どんな事件に絡まれるのか続きが気になるところ

気になった点だけど文章があまり改行してないもんだから
ちょっと読みづらいとおもう

地の文と会話文の間には改行した方がいいんじゃないかな

ともかく
とうとう曖昧だった魔法の設定に曙光がさしてきたわけだ
これを機に設定がしっかり固まれば話も作り易くなるね
793 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/22(土) 01:24:50.73 ID:UNxPgcM/0
私も書こうと思っているのですが

新しいと地名やモンスター名 新展開 もしかしたら物語の根幹に触れてしまいそうな話
等はやっても良いのですか?
794 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/22(土) 06:59:36.19 ID:IUdGPGiDO
乙でした
文字が詰まって見辛いかな?
魔法の設定が固まれば書きやすいね
795 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/22(土) 07:00:44.97 ID:IUdGPGiDO
>>793
とりあえずやりたいこと聞いてみたら?
796 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/22(土) 12:29:24.93 ID:nRwnML6t0
そう言えば次スレの話になりますが
安価が関係無くなってきてるので次スレ名は 世界観共有でSSでも書かないか? で良いですか?
そうすれば安価スレかと思ってた人も来てくれると思うので、

>>793

大丈夫、わからないところは質問してくだされば答えますのでじゃんじゃん書いちゃって下さい、
797 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2011/10/23(日) 10:04:15.65 ID:GV7rVm9P0
>>796
ここでやるの?
798 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/23(日) 16:50:11.69 ID:wsTJlebP0
>>797
そうしたいのですが良いですか?
799 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/23(日) 22:38:51.75 ID:5r+BWo8c0
【Magical ballet“noon moon”act4〜died another day〜】

 駆ける。
 駆ける。
 爆ぜる。
 弾ける。
 ジャンゴは2丁拳銃を手に、ダリアはショットガンを手に、二人で街中を駆ける。
 活き活きとした笑顔で駆ける。
 その姿をエルフというにはあまりに血生臭すぎた。
 そう、二人は気づいていないのだ。
 自分たちが戦いを求め、戦いに喜び、戦いに生きている修羅となっていることに。
 もはや仇を殺したところで血に染まった手で平和な生活に戻れないことに。

「……なんだあれ?」
「大変よお兄様、女の人が襲われています!」

 遠くで女性をゾンビが囲んでいる。

「ダリア」
「分かりました、ロシナンテ!」

 ロシナンテが戦車(チャリオット)を付けない身軽な姿で現れる。
 ダリアは彼にまたがると女性の周りのゾンビを吹き飛ばす。

「ロシナンテ、貴方はこのまま町の人を助けて回りなさい!」
 
 ロシナンテは高い声で嘶く。
 遅れてきたジャンゴは銃口で目の前のゾンビの眼球を貫き脳髄を破壊、グリップで目の前に立ちはだかる二体のゾンビの頭蓋を砕く。
 そしてゾンビの群れの真上をジャンプしながらゾンビの頭を次々撃ちぬいて女性の前に立つ。
 一方ダリアは群れから離れたところから弓矢でゾンビたちを次々仕留める。
 ジャンゴはうずくまっている女性の状態を確かめる。
 生きている。
 酷く虚ろな目をしているがすくなくとも人として生きている。

「大丈夫かあんた!?」
「……死なせてくれればよかったのに。」

 黒く美しい瞳でジャンゴを見つめ、女性は呪うように呟いた。

「あんた一体何を……?」

 言い終える前にダリアがジャンゴの会話を遮る。
800 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/23(日) 22:40:05.94 ID:5r+BWo8c0
「お兄様!やたらたくさん来ています、魔弾は!?」
「魔力は節約させろ!」
「弾薬はどうなるんですか!」
「んなもんそこら辺に転がってるだろ!
 ……うわっ、弾切れじゃん」
「お馬鹿!お兄様は馬鹿です!」

 そんな時、ジャンゴの目の前にゾンビが現れる。
 彼は弾の切れた銃を上に投げて、ゾンビの股を潜って近くにあった保安官の死体の傍まで駆け寄る。
 そしてその死体から銃を引き抜き女性に近づいていたゾンビを撃った。 

「どんなもんよ?」

 上から降ってきた先ほどの銃をキャッチしながらニヤリと微笑む。

「やっぱり馬鹿です」
「格好いいと言え」

 ダリアは舌打ちをすると弓に三本ほど矢をつがえてジャンゴに向けて射る。

「え、ちょ、待った!」
「神の祝福を……!」

 矢の先端に青い火が灯る。
 ジャンゴの背後に居た三体のゾンビの頭に見事的中。
 彼らは其の場で灰になった。

「びっくりした……」
「これですべてでしょうかね
 どうしたんですかお兄様、私が怒ってお兄様を射る訳ないじゃないですか」
「あ、ああ…………
 おいあんた!町の南にはゾンビが少ないから逃げるからそっちから逃げな!」
「……ありがとうございます」

 女性はジャンゴの言葉を聞いてポツリと呟き、とぼとぼと歩き始めた。

「いいから行きましょうお兄様!」

 ダリアが怒っている。
 その理由がジャンゴには分かっていない。

「あ、ああ。」
「随分あの女性にお優しかったですわね」
「ん?」
「何でもないですわ」

 わけわかんねえ、と呟いてジャンゴはため息をついた。
 しばらく走ると男性が一人蹲っていた。
 ジャンゴは男性に声をかける。
801 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/23(日) 22:42:11.43 ID:5r+BWo8c0
「おいあんた!棺桶を二つ引きずった男を見なかったか!そいつが恐らくこの事件の首謀者だ!」
「見たぞ、確か酒場の辺りに居たはずだ」
「ありがとうよ!」
「おい待ってくれ!」
「なんだ?」
「あの建物の中で子供が逃げ遅れているんだ!」

 男性が近くの食料品店に向けて指をさす。

「解ったよ、助けておく」
「そうか……ありがとう」

 男性はピストルをこめかみに当てる。

「おい、何をしている」
「私はゾンビに噛まれてしまっていてね」
「……せめて俺が楽にしてやる」
 
 ジャンゴは男性に向けて引き金を引く。
 男性の頭に穴が開く。

「行くぞ」
「はい!」
「そっちじゃない」
「え?」
「酒場の方だ」
「でも子供は!?」
「ディエゴを殺さなかったら何度でも同じことが起きる」
「……分かりました」



「やれやれ、顔を見るだけにしようと思ったんだが……」



「え?」

 ダリアが驚くのも無理は無い、声の主人は先ほど死んだはずの男性だったのだから。
 ジャンゴに撃たれたはずの男性がすっくと立ち上がる。

「医者を必要とするのは健康な人ではなく、病人である。
 私が来たのは正しい人を招くためではなく、罪人を招いて悔い改めさせるためである
 復讐だけでも罪深いのに、お前たちはそのために子供の命まで見捨てようというのか」

 突如として男性の声色が変わる。
 先ほどまでとは違いまるで地の底から聞こえてくるような厳かな声が響く。
802 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/23(日) 22:45:38.01 ID:5r+BWo8c0
「―――――――――!?」
「……文字通りのデスマスクか。」
「その通り、先ほど私に銃を向けてきた者の皮を……少々借りた」

 男性は被っていた人の顔で作ったマスクをベリベリと剥がす。
 中から出てきたのは巨大な疵の残る顔。
 自ら着ていたコートを脱ぎ捨てて彼のトレードマークである大きな十字架のついたカソックを二人に見せつける。

「久し振りだね、愛しき子らよ」
「ふざけるな!」
「うそ……!」

 そう、彼こそがディエゴ・マードック。
 二人の母の仇。
 彼は優しく微笑み、両手を広げて彼らに歩み寄る。

「剣を取るものは剣によって滅びる。私たちは親子じゃないか……争うのはもうやめないか?」
「黙れ、貴様の罪は黒鉄の弾丸を以て裁いてくれる!」

 ジャンゴの弾丸が空を裂きディエゴの額に風穴を開ける。
 ディエゴは額に穴を開けたままにこりと微笑む。
 ディエゴは高位の屍霊術師、彼の身体はすでに人間とは全く異なるものだ。
 故に彼を倒すためには一撃で心臓を潰さなくてはいけない。

「罪を犯さない人は居ない、そしてそれを許す権能を神は人の子に与えたのだ」
「貴方だけは許さない!」

 続いてダリアの矢がディエゴの両手を貫く。
 しかしそれにも構わずディエゴは語りかける。

「お前たちの母さんは生きている」
「嘘をつけ!」
「そうよ!私たちは母さま達の死体を確認しました!」
「そう、確かに一度は死んだかもしれない、だが生き返った」

 少し息を溜めるとディエゴは詠唱を開始する。
 
803 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/23(日) 22:59:14.72 ID:5r+BWo8c0
「――――――主よ(エリ)
 ――――――主よ(エリ)
 ――――――何故(レマ)
 ――――――見捨てた(サバクタニ)」

 神に謳う、悲しみを。
 神に謳う、怒りを。
 神に謳う、理不尽を。
 神に謳う、愛情を。
 四節詠唱、第二階梯屍霊術。
 大地を揺らして二個の棺桶が現れる。

「呼称(コールサイン)は“愛”、真名は“Yesterday once more”」

 中から現れたのは美しい二人の女性。
 一人は雪のように白い肌のエルフ。
 もう一人は健康的に日焼けしたダークエルフ。
 そう、ジャンゴとダリアの二人の母親。
 彼の妻。
 しかし死体だ。

「ほら、母さんたちならここに居る
 だから、一緒に帰ろう」

 ジャンゴは目を剥く。
 一瞬だけ憤怒の形相を見せたかと思うと泣きそうな顔になる。

「ダリア、時間は稼ぐからお前が決めろ」
「わかりましたわ」

 ダリアが魔法陣の準備を始める。
 それを確認してからジャンゴは銃を収め、詠唱を開始した。
804 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/23(日) 23:03:03.33 ID:5r+BWo8c0
「――――――逢仏殺仏
 ――――――逢祖殺祖
 ――――――逢羅漢殺羅漢
 ――――――逢父母殺父母」

 抱くは覚悟。
 込めるは殺意。
 赤熱する憎悪と弛まぬ意思に鍛えられた砲身は彼自身。
 
「これなる魔弾は不可視不可知にして古今無双の強度を持つ無属性魔術弾丸“昼の月”、
 真名を“復讐者”と号されしもの」

 変則四節詠唱。
 ジャンゴの背後の空間が歪む。
 彼の怒気に呼応して色も無く音もない殺戮兵器がディエゴに牙をむき、ディエゴの身体が醜くゆがむ。
 しかしディエゴの呼び出した二人がジャンゴとディエゴの間に立ちふさがって残りの弾丸を防ぐ魔術障壁を張った。
 激突する魔力と魔力、赤い火花になって辺りの大気を震わせる。
 ディエゴは心の底から悲しげな顔を見せる。
 無理もない。
 この魔術は破壊力のみを極めてその他すべてを捨てた“究極の単一”
 使い手の心持ちが反映される魔術の特性上、それを見れば彼はありとあらゆる物を捨てたのだと分かる。
 ではたった一つ残ったものとは何なのか?
 それは彼自身もまだ理解していない。

「おお何故だ、ジャンゴ……母さんたちも泣いているぞ?」
「あんたって人は……!あんたって人はああああああああああああ!」
「何故だ、生きているじゃないか。お前も、ダリアも、母さんたちも
 何故皆で一緒に暮らしていこうと思えない
 何故なんだ、私たちは家族じゃないか」
「そんな様で!そんな姿で生きているなんて言えるのかよ!」
「生きている。私の屍霊術は完璧だ」

 そう、己の魔術をまだ完全に理解していない。
 それが昼の月という魔術の唯一の弱点。
 それ故に単調に単調に毎回同じコースで同じ速度で同じ威力でしか撃てない。
 その制限をかけないと発動すること自体が不可能なのだ。
 そんな攻撃、ディエゴほどの達人ならば数秒間見続ければ見切ることができる。
 銃声。
 ジャンゴの右足にディエゴの放った弾丸が突き刺さる。
 崩れ落ちるジャンゴ。

「……魔弾破れたり」
 
 障壁から散っていた火花が止む。
 それはすなわちジャンゴの魔弾が止められたということであった。

「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおお!」
「お兄様、落ち着いて下さい。あとは私が決めます。」

 ジャンゴは叫ぶ。
 魔術の準備を終えたダリアは詠唱を開始する。
805 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/23(日) 23:09:33.34 ID:5r+BWo8c0
「――――――ものみな眠るさ夜中に
 ――――――水底を離るることぞうれしけれ
 ――――――水のおもてを頭もて、
 ――――――波立て遊ぶぞたのしけれ
 ――――――澄める大気をふるわせて、互に高く呼びかわし
 ――――――緑なす濡れ髪うちふるい……
 ――――――乾かし遊ぶぞたのしけれ!
 呼称“魔女の鉄槌”、真名“愛玩人刑”!」

 彼女を中心にして空中に描かれた大量の魔法陣が輝く。
 そこから出てきたのは数えきれぬほどの拷問器具。
 無限の針、無限の手錠、無限の毒薬。
 ジャンゴの持つ“究極の単一”たる昼の月とは対照的に“凡庸なる無限”を象徴する魔術。
 たとえ一つ一つがどれほど僅かな力であろうとも七節詠唱に合わせ彼女の憎悪に呼応して無限に変化成長する拷問器具達は相手の弱点を何かしらの形で突く。
 そうなれば最後、徹底的にその攻撃で相手を攻めつづけ最終的には地獄の苦しみの中死を与える極悪な魔術なのだ。
 本来であれば争いを好まぬエルフの扱う魔術ではない。
 しかし彼女が修練の先にこの魔術にたどり着いたのは偏に父への憎悪、そしてたった一人の愛する兄を繋ぎとめたいという歪んだ愛情故。
 だが彼女も、ジャンゴも父への憎悪以外のこの魔術の起源に気づいていない。
 
「生きているなら……死んで!
 貴方達が死んで初めて私達の人生が始まるの!」

 少女の叫びはあまりに悲痛だった。
 彼女の怒りを象徴するように大量の針がディエゴたちを包み込み、彼らを苛まし続ける。
 昼の月に相当な魔力を使った為か魔導障壁が展開された気配は無い。
 だがしかし、鋼鉄の檻の中から指を鳴らす音がしたかと思うと拷問器具は錆びて朽ちてしまいには消えてしまう。
 鉄くずの中から現れたディエゴは泣いていた。

「魔術を見れば分かる……お前たちは本当に苦しかったんだな
 済まなかった、私はお前たちを捨てて逃げたんだ
 そうあの時!お前たちを捨てて逃げてしまった私の心の弱さがお前たちを苦しめ、罪を犯させてしまった
 ならばお前たちの罪は私の罪だ、本当に済まなかった
 許されるとは思わない……」
「なら大人しく死ね!死んで私たちを解放しろ!」

 ダリアは矢を放つ。
 矢はディエゴに向けてまっすぐに飛ぶ。
 だが彼はわずかに身体を捻ってそれを躱す。
 それはディエゴの身体に残された魔力が少ないことを示していた。
806 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/23(日) 23:12:48.51 ID:5r+BWo8c0
「そうはいかない……私が死ねば私の術は解ける
 私はお前を解放する訳にはいかない」

 ディエゴはジャンゴの方を見ながら尋ねる。

「なあ、わかるだろうジャンゴ?」
「…………」
「お前は全てを知っているはずだ」
「どういうことですお兄様?」
「それでも……あんたは間違っている」
「お前を一人ぼっちにしたくないんだ」
「俺は一人でも生きていける」

 嘘だ、自分は妹が居なくては生きていけない。
 ジャンゴは解っている。

「ねえ兄様?」

 しかし彼の心を理解していないディエゴは彼の言葉を彼の本心と勘違いして深く溜め息をつく。

「お前は冷たい子だ、父さんは悲しいよ」
「お前など父親ではない!」

 ジャンゴは叫ぶ。

「お兄様、私に話してくれてないことって……?」
「それについては私から話そう」
「待てっ!その話はするな!」

 ジャンゴは痛む足を引きずって立ち上がった。
 ディエゴに向けて銃を構える。

「さて、息子と娘の望み、どちらを叶えたものか」

 ディエゴはチラリとジャンゴの銃を見る。
807 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/23(日) 23:18:13.97 ID:5r+BWo8c0
「それは私のあげた銃じゃないか……」
「お前を撃つために持っているだけだ」
「ふむ……」

 考えこむような顔つきのディエゴ。
 ジャンゴは彼に提案をする。

「ディエゴ、早撃ちで勝負だ、俺が勝ったらあのことについては黙っていろ」
「さては息子よ、魔力が尽きたな?」
「お前もそうだろう」
「ふん、……まあそうだ」
「お前を殺して、俺はダリアと一緒に生きる」
「それならば何故私を殺そうとする……」
「お前が居たら、俺たちは……」

 ジャンゴはうなだれて首を振る。
 言えやしない、妹と結ばれるためにはお前が邪魔だなどと。
 正直なところ、ジャンゴは知っていた。
 自分の行なっていることが“復讐”などとは呼べないことを。
 それでも彼は、妹と添い遂げるためにディエゴを殺そうとしていた。
 自らの行いへのが彼を締め付ける。
 一方、自分の頭の上を飛び交う会話に不安そうな顔を見せるダリア。
 すがるようにしてジャンゴを見た。

「お兄様……」
「済まない、お前に少しだけ嘘を吐いていた」

 ジャンゴは頭を下げる。

「こいつを殺したら……全部話す」
「…………はい」

 妹の瞳を見て、気持ちを落ち着ける

「ディエゴ!ダリアの投げたコインが地面についたのを合図にするが良いな!」
「ああ、構わないよ」

 ダリアを間に挟むような形でディエゴとジャンゴは互いに五歩ずつ離れる。

「お前が子供の頃はおもちゃの銃でよくやったものだ。」
「うるさい、黙れ。」

 二人は互いのホルスターに手をかける。
 ダリアがコインを真上に弾いてすぐに二人の射線上から離れる。
 コインが宙を舞う。
 コインが地面についた瞬間、銃声が一発だけなった。
 ジャンゴの放った弾は三発、いずれも魔力による強化がなされており、先刻放った昼の月に負けず劣らずの威力だ。
 三回、空中で火花が散る。

「……トリプルバーストショットか、ジャンゴ、それをお前に教えたのは誰だか忘れた訳ではないだろう」
「…………」
「そもそも手傷を負った時点で早撃ちに不利なのは分かっていた筈だ」
「…………」
「トリプルバーストショットには存在し得ない四発目。
 有りて無き物、即ち“昼の月”」
「兄様!」
「名前しか教えてなかったが……これが本物だ」

 ディエゴは懐からタバコを取り出して一服する。

「改めて言おう、魔弾破れたり」

 ディエゴが呟くと同時にジャンゴは其の場に倒れ伏した。
808 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/23(日) 23:19:19.52 ID:5r+BWo8c0
「それは私のあげた銃じゃないか……」
「お前を撃つために持っているだけだ」
「ふむ……」

 考えこむような顔つきのディエゴ。
 ジャンゴは彼に提案をする。

「ディエゴ、早撃ちで勝負だ、俺が勝ったらあのことについては黙っていろ」
「さては息子よ、魔力が尽きたな?」
「お前もそうだろう」
「ふん、……まあそうだ」
「お前を殺して、俺はダリアと一緒に生きる」
「それならば何故私を殺そうとする……」
「お前が居たら、俺たちは……」

 ジャンゴはうなだれて首を振る。
 言えやしない、妹と結ばれるためにはお前が邪魔だなどと。
 正直なところ、ジャンゴは知っていた。
 自分の行なっていることが“復讐”などとは呼べないことを。
 それでも彼は、妹と添い遂げるためにディエゴを殺そうとしていた。
 自らの行いへのが彼を締め付ける。
 一方、自分の頭の上を飛び交う会話に不安そうな顔を見せるダリア。
 すがるようにしてジャンゴを見た。

「お兄様……」
「済まない、お前に少しだけ嘘を吐いていた」

 ジャンゴは頭を下げる。

「こいつを殺したら……全部話す」
「…………はい」

 妹の瞳を見て、気持ちを落ち着ける

「ディエゴ!ダリアの投げたコインが地面についたのを合図にするが良いな!」
「ああ、構わないよ」

 ダリアを間に挟むような形でディエゴとジャンゴは互いに五歩ずつ離れる。

「お前が子供の頃はおもちゃの銃でよくやったものだ。」
「うるさい、黙れ。」

 二人は互いのホルスターに手をかける。
 ダリアがコインを真上に弾いてすぐに二人の射線上から離れる。
 コインが宙を舞う。
 コインが地面についた瞬間、銃声が一発だけなった。
 ジャンゴの放った弾は三発、いずれも魔力による強化がなされており、先刻放った昼の月に負けず劣らずの威力だ。
 三回、空中で火花が散る。

「……ジャンゴ、銃をお前に教えたのは誰だか忘れた訳ではないだろう」
「…………」
「そもそも手傷を負った時点で早撃ちに不利なのは分かっていた筈だ」
「…………」
「トリプルバーストショットには存在し得ない四発目。
 有りて無き物、即ち“昼の月”」
「兄様!」
「これは名前しか教えてなかったが……これが本物だ」

 ディエゴは懐からタバコを取り出して一服する。

「改めて言おう、魔弾破れたり」

 ディエゴが呟くと同時にジャンゴは其の場に倒れ伏した。
809 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/23(日) 23:23:41.71 ID:5r+BWo8c0
「お兄様!」

 ダリアはジャンゴに駆け寄り、彼を抱き起こそうとする。

「ジャンゴ、南東にしばらく行くとタルカスという街がある
 頭を冷やしたらそこに来なさい、歓迎しよう」

 ディエゴはそう言って指を鳴らす。
 すると彼の妻だった死体がダリアの腕をつかむ。

「お母さま!?やめてください!兄様が!ジャンゴお兄様が死んでしまいます!」
「ダリア、ついて来なさい。私がお前の母を殺し、お前の村を焼き払った日に起きた出来事を教えよう」
「やめて!私はそんなのどうでもいいの!お兄様が!お兄様が!」
「そうはいかない、これはお前自身に関わる問題だ」
「待てディエゴ!」

 ジャンゴは撃たれた時に落とした銃に手を伸ばす。
 だがしかし、それに手を掛けたところで彼の視界は真っ暗になった。
 何時まで意識を失っていただろうか、彼が意識を取り戻すと彼の額には何か冷たいものが当たっていた。
 どうやら濡れたタオルらしい。
  
「………………あれ、貴方は」
「目を覚ましましたか、先ほどは助けてもらってありがとうございました」
「ここは何処ですか」
「私の家です」

 ジャンゴが目を覚ますと彼の身体には既に応急処置が施してあり、その上清潔なベッドの上で寝ていた。
 眼の前には女性、彼が先ほど助けた女性だ。

「あそこの白い馬が私に貴方の倒れている場所を教えてくれたんです」
「……ロシナンテか」
「ロシナンテと言うんですか……
 ジャンゴさんでしたっけ、熱も少しありますし……傷が塞がるまでは安静にしていてくださいね」
「……はい」
「それじゃあ家畜の世話が有るので少し部屋を開けますがなにかあったらそこの呼び鈴で呼んで下さい
 あとロシナンテくんは家の馬達と一緒に牧場で休ませてますから心配なさらないで下さい」

 そう言い残して女性は部屋から出ていく。

「俺は……何をやっているんだ……!」

 ジャンゴは深くため息を吐いて天井を見つめた。

【Magical ballet“noon moon”act4〜died another day〜 to be continued】
810 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/23(日) 23:27:54.49 ID:5r+BWo8c0
やべえなにがやばいって恐山ル・ヴォワールやべえ
曲ついてたとかあたし聞いてない
そして大好きな某エロゲに何時の間にか完全版が出ていた
これもやべえ
どのくらいやばいかっていうとさっそく作中で厨二病全開しちゃうくらいやべえ
最初この話書いた時全然筆のらないしリアル忙しいしうあわああああああああ!だったんだけど
そのゲームのBGMとか聞いてたら詠唱の辺りだけすらすら決めて書けた
ああそうそう次回でもう言っちゃうんだけれどダリアちゃんは一度死んでますね
他の死体と違ってゾンビやらなにやらじゃなくて完璧な蘇生なんだけどそれがなぜかってところまで話すつもりですともええ
811 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/23(日) 23:31:27.25 ID:5r+BWo8c0
あと多分余計に二話程入るんで八話終了になりそうっす
牧場のお姉さんを悪漢から救ってからディエゴをぶっ殺しに行くので
812 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/24(月) 03:25:12.82 ID:0QnHNq1y0
dies iraeですね、分かります
ルサルカは良い子だオ
813 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/24(月) 17:43:00.57 ID:xjpJyKc60


たとえアンデッドでもダリアは俺の嫁
814 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/24(月) 17:59:17.41 ID:ehqiP3wDO
>>813
ジャンゴさんチーッス
815 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/24(月) 20:04:38.92 ID:WXMqzkWm0
http://www14.atwiki.jp/vipperld/pages/101.html
遅くなってごめんなさい
816 : ◆rpv9CinJLM [sage]:2011/10/24(月) 22:21:06.07 ID:2rM5w2v90
wikiありがとうございました
話一段落したら第二部書くかどうしようか
817 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/25(火) 01:36:13.21 ID:xkrMTviX0
SSも纏めも乙乙

ディエゴにもいろいろあるんだな
親子の対決のシーンで詠唱魔法が出てきて心が躍ったよ
欲を言えばもう少し各々の見せ場が見たかった

それより詠唱魔法とかザント式属性表とかの設定について一度
誰かが纏めてくれないかな
そうすれば曖昧なイメージが少しは形になる気がするんだけれど
818 : ◆rpv9CinJLM :2011/10/25(火) 15:51:56.73 ID:+y+JLH3k0
うひょほーい
詠唱ほめられたよやったねたえちゃん
確かに見せ場が足りなかったかもしれないので
それぞれのキャラ掘り下げのためにジャンゴメインの回の他にもダリアとディエゴにも一回ずつメイン回書こうかなあと
※そしてまた長引く

詠唱は長ければ長いほど威力アップするし前もって魔法陣を展開すると更に威力アップ
みたいなこと考えているんだけれども詠唱が短い奴の方が結局強いみたいな裏ルールがあったり
あと早撃ち勝負は仕掛けた奴が負ける裏ルールもあります

あとは勉強さえすれば誰でも使える一般の魔術と
自分だけの心のあり方に基づいて幾つもの魔術を組み合わせて使う特殊な魔法があるみたいな設定もあったり
ジャンゴの昼の月の名前の原型はディエゴの四連バーストだけど術理はディエゴの最強魔法だったりとか色々設定あるけど出せるかどうか……
819 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2011/10/25(火) 19:25:07.42 ID:PsJ96yuI0
>>wikiの人
「ある小さな工房にて」の3話が抜けていますよ……というより
投下されたの見ると3話までしかないのに4話まで項がありますよ
820 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/25(火) 19:57:14.06 ID:QuvFd1a20
 ミス指摘感謝です
ちょっと吊ってきます
821 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/25(火) 21:49:29.76 ID:BZ7TX3t30

取り敢えず歴史的には教授の後の錬金術の設定として考えました.

賢石の発掘とその発見で魔法と錬金術の親和性などを教科書風味?で書いて見ました。

矛盾している所や意味不なところは、ご指摘、改変してくださって結構です。

設定として、使えそうな物をwikiに張っていて戴ければ幸いです。

822 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/25(火) 21:50:54.50 ID:BZ7TX3t30

錬金術 基礎の@       カナス・E・カント著作



魔力 概要

基本、魔力には方向性が無い、力また生命力(概念)、魂(矛盾から織り成す世界)、物質にも宿ることから見ても万物の根幹ともとれる。


 魔力は物質的な存在の方向性(在り方)を従わせることができるだけなのか?
  精神にも情報にも法則にも宿る物体(?)・・魔力


干渉によって物理法則を覆す、誰にでも扱える、何処にでもある、このことから魔力は
 魔力を星の生命力(精神または世界の基(概念または法則))と考えるとイメージし易くなってくるかもしれない。
 感覚的には、溶岩(龍脈)の様なモノで地の底にあり、また貯まれば地上に排出される。

(魔力泉から)それ自体が概念(世界の残滓)として生きている(便宜上)のだとしたら、
 動き回ることも在り得ると推測もできる

 その泉も水のように形を換えられるのであれば大気にも含まれることに不思議は無い
 そしてそこに形としての存在 器としての許容範囲 あやふやで在りながら何でも変われる純粋な形ことから
 
魔力(変換可能の水のような物)は物質(存在の引力)に依存する影の様の物と仮定

  気体(空気や気流)→ 液体(魔法や錬金で変化した物)→固体(土地や植物(動物や人を含む)に定着した状態)

    その形やあり方によって扱いや干渉の仕方が代わっていく物とする


823 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/25(火) 21:51:52.04 ID:BZ7TX3t30


始めに



魔力の由来(神話の創世記 第一部  臨む者 第三部から参照)

昔は全て者が純粋な色に別れ万物を操作し自由に世界を飛んだと言う
だが原初の者らが傲慢にも神に挑み怒りを買い
原初の色に混沌を混ぜ大陸を造った
原初の眷属等は力の大半を失い混沌たる大地を彷徨った

〜〜〜〜〜〜〜〜

そして、研究の末に錬金術を作り上げ昇華し再び神に挑んだ・・・・


この様に、昔の者たちはこの大地を混沌と呼びそこから魔力を受けると考えられてきた
故に魔力は原罪の象徴でも有りまた 神の存在の証明でも有る




反魔力の由来

 賢石(けんせき)に反魔力の特性も見られ、 とある教授が既に反魔力と命名していた事もあり、
  
 鉱石の名前を賢石に、その性質全般をそのまま反魔力とした。

 賢石の性質とその精製と加工法を発表した錬金術師が、
 
「まあ、今までの魔力認識を混沌と言うなら これ等の法則を持つ魔力は秩序と言えよう」と言った事も要因の一つと言われている

824 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/25(火) 21:55:15.55 ID:BZ7TX3t30

反魔力 と 魔力 から
 魔力・反魔力の性質


魔力・・・方向性の無い 混沌 (色の無い彩色) 水晶具→不安定 
     
 モノに定着した際にその方向性(あり方)によって色が付く
  故に 水なら青 火なら赤 といった様になる

 普段、魔力は視認できず試験石(水晶の様な物)で見て始めて分かる


 現在、四色(赤,青,黄,碧)が発見されている 
  これ等は一定の法則(反魔力や精神、環境)により色が付く
  因みに錬金術の分野では土属性に次いで金属性も含めた五色を使われている
 
825 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/25(火) 21:56:02.20 ID:BZ7TX3t30


反魔力・・・方向性の有る 秩序(色の有る無色) 賢石(けんせき)→安定
      マイナス属性(闇→黒)、プラス属性(光→白)の二つに分けられる
      法則が定まっている魔力 (安定した法則  変わらない色)

 *1鉱石や結晶で見付かる事が多くその色によって運用方法も変わってくる

    魔力は無意識を持つ事があり魔力を感知したり集めたりする
    そういった無意識を持つ鉱石や結晶は白や黒の色が出る

 反魔力という存在自体、認知されていなかったが錬金術によりその性質が明らかになった

 精製法が確立してから一般にも出回る様になった

 錬金術では無形の色として七色として使われてるが余り一般的に認知されていない

 *2今は無き文明では無色という八色目が在ったとか無かったとか・・・

826 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/25(火) 21:57:22.15 ID:BZ7TX3t30


追記

 反魔力を(固定された状態のモノ)
 魔力を(不安定な状態のモノ)と認識すると分かりやすい

 反魔力は学術的に使われる為、知名度は低い
 一般的にはどちらも魔力として扱われる


 *2大抵は地中のなかで眠っているだが掘り起こされたとき大気の魔力に触れ目を覚ます
   結晶や鉱石の限界地を超えると爆発するので特殊な加工法が用入られる
 
  何故か意識の有る物は見つかっていない(擬似人格を与える事はできる)
   →魔王は魂を持った魔力の塊でありそれ故に未来を予見できたという説も有る

 *3もう一つ属性「無の色」があり、少しの魔力で莫大な魔力を生み出せる代物で白や黒と同様に
   魔力を吸い鉱石の限界より爆発するケースや特質が似ている事から白や黒の高純度の物と見られている


827 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/25(火) 21:58:46.96 ID:BZ7TX3t30


魔力と運用

 魔力が交じり合い紫やオレンジ等の色も作り出すこともできる

 遺伝子が交じり合う事により種族の中での一定の色が無くなり性格や感性により決まることが多い
  つまり精神的にが落ち着いてくる歳に始めて色が決まる(単一色は極まれ)
  この事から魔力の色=魂の色というのが一般論
  故に一部の地方では色が付いたら一人前という考えが多い

  純潔や名家には等の遺伝子や技法には特殊な魔力や法則を扱う者もいるらしい

  魔力の質はその魔力の色が純色に近いほど高い
   魔力の許容量はその者の精神の器による
   どれ程の魔力を有していても器が小さければ使える量も少ない

  
828 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/25(火) 22:00:26.87 ID:BZ7TX3t30


反魔力と運用

 *1 賢石の質と大きさに合せた出力で、安定した魔力を放出できる。
     この為、確立した方法で加工すれば
     赤の魔力 ガソリンやコンロ 風呂焚き 暖房 燈
     青の魔力 水質浄化 鮮度管理 冷房
     等に使うことができる 


 そして黒や白の性質を持った賢石は、無意識を有していて魔力を感知し引き寄せる性質がある。
 その為、特殊な加工法が必要とされている

  これ等の物はコンパス、意識を伝える通信機器、魔物探知、磁石、魔力貯蔵、
        痕跡探し、地脈、水脈探しにも使われる


  *2彩色の魔力(赤や緑など)を刻み込み魔力を使わない魔術を使うことができる(純度が高くないと刻めない)
     例 無詠唱の複合魔術 魔弾 魔法の剣 オートマタ ets・・・
     この様な特殊な武器や物を作る者は賢石職(けんせきしょく)と呼ばれる 


  限界値に達した鉱石を爆弾にしたり炸裂弾にしたりもできる

829 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/25(火) 22:03:02.29 ID:BZ7TX3t30

追記

 魂≠魔力?
  もし魔力で遺伝子や情報のあり方まで変えてしまう物なら魔物の存在も頷ける
 
 *1 加工や調整に失敗すると水は毒に火は火事になったりとするので国際的に技術は公開してある
 *2 複合魔術やオートマタは賢石技術の他に
    複雑な技術と知識が必要なので作れる者も限られてくる
830 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/25(火) 22:04:47.43 ID:BZ7TX3t30

 詠唱と魔法
  普通の状態でも魔力は操れるが自分の世界の魔力と外の世界の魔力の違いで不安定になる。
  その為、術による魔術 即ち法則を組み込む事により効率良く魔術を運用できる。
  教える地域により などが違ったりもする

  詠唱や魔術形態はその在り方によって大きく変わる
   その存在や組み合わせでも変化する



・・・・・・・


と、こんな感じです。
これを元に、何か書こうと思ってのですが・・・

取り敢えず詠唱や魔法の法則は縛ってしまうとこれからの作品の作風まで縛ってしまう恐れがあるので

あまり追求しない方が良いですかね・・


831 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/26(水) 00:26:57.40 ID:P+TXcCgDO
乙でした
あれだよ
家や部族や流派によって違うから
※あくまで一般論です
というあれで…
832 :以下、VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/26(水) 17:19:59.21 ID:cyXUb6ts0
pots gniklat(黙れ)
↑意味不明な詠唱に見えて実は英単語を逆さまにしただけ

使えるか?
833 :以下、VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/26(水) 21:47:15.71 ID:6kMXSOga0
詳細な設定乙ありです!

設定についてまだ理解の怪しい部分があるので少し質問をば


物理法則と書いてありますが、この世界には物理法則と「魔法の法則」があり、その二つの法則が関わり合って世界が機能しているという設定
ですか?
またその物理法則は現実のそれと同じものですか? それとも、土台の考え方に魔翌力の概念を加えたこの世界オリジナルの物理法則ですか?

魔翌力には正確な形状というものがあるのですか?
その魔翌力が気体や液体や個体に変化して世界に存在しているのですか? それとも、現実にある気体や液体や固体に魔翌力が付属して、魔翌力泉や
水晶具になるのですか?

魔翌力の色(属性?)の説明の部分の「色がつく」とは、その性質が変化するという意味の比喩ではなく、実際に変色するという意味ですか?

遺伝子が混じり合うとはセクロスのことですか? だとしたら童貞は一人前の魔法使いになることはできないのですか?
そうすると魔物と女性がセクロスすることは魔翌力を高めることに繋がるのですか? それとも、逆に魔翌力の色が乱れてしまうのですか?


また反魔翌力の解釈について不安定な部分があります。

マイナス属性とプラス属性というのは、片方が魔翌力に引き合う力で、片方が魔翌力を遠ざける力という意味ですか? それとも、両方とも魔翌力と
引き合うのですか?

鉱石の形でよく見つかると説明されていますが、それは魔翌力が気体と液体を司り、反魔翌力が個体を司るという設定ですか?

反魔翌力が無意識を持つという説明ですが、無意識だけを持つというのは、現実でいう植物や細菌などとどこが違うのですか? それとも、反魔翌力
が魔翌力に比べて法則性を持っていることへの比喩ですか?
834 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2011/10/26(水) 21:56:31.36 ID:Fy6KNty40
>>832
君が使うんだ!
>>833
個人的には
・魔力には魔力の法則がある
・エネルギー故に形はないが運動エネルギーや熱エネルギーに変換可能、固形化させることも可能ではあると思ってる
・実際の変色もあるとおもう
・セクロスと言うより子供だったり、遺伝子改造手術だったりかなあと、魔物としては種の多様性的に考えて色の乱れは気にしてない気がする
 胎盤として優秀なものは求めているだろうけど

反魔力については知らないでござる
835 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/27(木) 18:16:28.17 ID:bXa316Uv0
http://www14.atwiki.jp/vipperld/pages/39.html
遅くなってすいません、
今後使う魔術の統制と新魔術を気軽に考えられるために、魔術 と言う新項目を
作成したいのですがよろしいでしょうか?
836 :以下、VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/27(木) 20:02:13.29 ID:gnh1mIlk0
>>835
良いんじゃないかな?
837 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2011/10/27(木) 22:34:33.32 ID:AvRJoZrC0
いいと思います
というか剣と魔法の世界だし絶対あるべき
838 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/27(木) 22:37:41.72 ID:AvRJoZrC0
【Magical ballet“noon moon”act5〜Lovers again〜 】

「良いかいジャンゴ、母さんたちはダリアの為に命を使うんだ
 そのことを絶対に忘れるな
 お前はもう一人前なんだから儀式が終わったらダリアを守ってやりなさい」
「はい、父さん」
「ならばよし、マードックの家に伝わる魔術刻印はすべてお前に託した
 父さん達が儀式を終えるまで見張っていなさい」

 これは夢だ
 ジャンゴには分かっていた
 まだ彼が父親にとって聞き分けの良い息子だった頃の夢
 父親が彼にとって尊敬すべき男だった頃の夢
 母親が生きていて、妹が近くの河で溺れて死んでいた頃の夢

「これは……ディエゴ!死者蘇生は禁忌だぞ!」
「貴様らに、何が分かる!」
 
 降り注ぐ火
 焼ける森
 父の持つ最後の呪文“dies irae”の発動
 それが意味していたのは故郷の消失だった

「父さん……何もここまで!」
「…………」
「父さん!」
「済まない、ダリアを頼むぞ」
「おい何処に行くんだ父さん!」
「何かを犠牲にするから駄目だったんだ」
「父さん!」
「誰も傷つけない方法を探しに行く」
「父さあああああああああああああああん!」

 ジャンゴはガバリと起き上がる
 女性が心配そうに彼の顔を覗き込んでいた

「大丈夫ですか?」
「……すいません」
「気にしなくていいんですよ、何か辛いことでも有ったのですか?」
「いえ……」
「そういえば、名前を名乗り忘れていましたね」
「名前?」
「ユリと言います、先日は危ない所を助けていただいてありがとうございました」
「俺はジャンゴと言います、ユリとはこのあたりで聞かない名前ですね」
「ええ、ずっと西の海の向こうからこの国に来たから」
「へえ…………」
「旦那はこっちの出身なんですけどね」
「旦那さんは……」

 ジャンゴは不思議に思って彼女に質問をした
 それを聞いてユリはうつむく
839 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/27(木) 22:38:15.03 ID:AvRJoZrC0
「息子と街に遊びに行った時に……」
「すいません、余計なことを聞いてしまいました」
「いえいいんです」

 気まずい沈黙
 それを破ったのは乱暴なノックの音だった

「おい義姉さん!居るかい?」
「あら、すいません、少し行ってきますね」

 部屋のドアをゆっくりと閉めてユリは玄関に向かった
 一人残されたジャンゴは耳を澄まして会話を聞こうとする

「頼むよ義姉さん、これっきりだからさあ……」
「そう言っても、この家にはもう貸せるお金はありません」
「頼むって!今度こそ上手い儲け話があるんだよ!」
「そう言っていつもお酒に使っているんでしょう?」
「あんただって兄貴の物を独り占めして俺には何一つくれなかったじゃないか!」
「遺言に従っただけです、この家には近寄らないで下さい!」
「チッ……下手に出てりゃあ良い気になりやがって……」

 ジャンゴはドアを開けて玄関に急ぐ
 
「そこの有るじゃねえか!その毛皮のコートとか金になりそうだしよぉ!」
「やめてください!それは主人の物です!」
「もう良いじゃねえか別に!とっくに死んだんだから!」

 その言葉を聞いた瞬間
 彼の中で何かが弾けた
 目にも留まらぬ早撃ちでジャンゴは男の耳を撃ちぬく

「死んだ人間の物ならどうでもいいのか?」

 夥しい殺気
 それが集い蒐まり固まって
 一瞬だけ、ジャンゴの背中に黒い翼が生えたような錯覚を覚えさせた
 
「うがあ!いってえええ!誰だお前!」
「通りすがりだ。」
「ジャンゴさん!?」
「死んだだけじゃあ人ってのは死なないんだよ
 お前がやったことは……人の中で生き続ける死人を殺す行いだ!
 残された人の気持ちを踏みにじる行為だ!」

 彼の胸に浮かぶのは妹の顔
 ジャンゴは男を片手で持ち上げて首を絞める
840 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/27(木) 22:39:40.83 ID:AvRJoZrC0
「なあ……そう思わないか?」
「ゲホッ!ごホッ!苦し……やめろ!」
「ジャンゴさんやめて!死んでしまうわ!」

 ユリの言葉でジャンゴは我に返る
 男を玄関の外に投げ飛ばすとジャンゴは彼に向けて銃を構える

「三つ数える、それまでに俺の視界から居なくなれ」

 男が脇目もふらずに逃げていったのを見てジャンゴはため息を吐いた

「ジャンゴさん、いきなりどうしたんですか……」
「妹が……昔事故で死んでしまって、それがきっかけで家族がバラバラに……」
「ジャンゴさんもつらいことがあったんですね
 でも助かりました、最近では金の無心がひどくなるばかりで……」
「あの男は何者なんです?」
「旦那の弟です、いつまでも働かずにブラブラしてばかりですし……」
「成程」
「何時までもベッドから出ていては怪我に障ります
 まずはゆっくり休んで下さい、また助けてもらったお礼に今日はご馳走を作りますからね!
 好きなものがあったら言ってくれても良いんですよ?」

 ユリがにこりと微笑む

「母さん……?」
「え?」
「いや、なんでもないです
 できれば久しぶりにピクルスをたっぷり挟んだハンバーガーを食べたいなあなんて……」
「はいはい、分かりました
 それじゃあ仕事があるんで失礼しますね」

 そう言ってユリは何処かに行ってしまった
 ジャンゴは自分に与えられた部屋に戻ってからため息を吐く
 まったく別のタイプの女性であるはずなのに彼はユリに自らの母親の面影を見ていた
 
「こんなことしている場合じゃないのに……」

 まだ傷は痛む
 こんな時、妹がいればさっさと治してくれるのに
 いやその妹を助けに行かなくてはいけないんじゃないか
 助けに行く?
 蘇生術式を組んだ父親の元に居たほうが不慮の事故にも対応できるじゃないか
 あいつは親父が母さんたちを殺したと勘違いしているがそれだって順を追って話せば……
 ジャンゴの中で思考が巡る
 そもそも、そう言えと彼に命令したのはディエゴなのだ
 事実、彼が蘇生術を行う技術が無ければ彼の母親達は死ぬ必要が無かった
 事実、彼が蘇生術を行わなければそれを村の人間に咎められもしなかった
 確かにすべての罪をかぶるべきなのは他ならぬディエゴなのだ
 そして彼自身もまたそうしようと思っている
 
841 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/27(木) 22:40:38.09 ID:AvRJoZrC0
「でもだからと言って……俺があいつを村の皆や母さんの仇なんて言うのは……」

 そう、おかしい
 では何故自分はそんな行動を行なっているのか
 それは……
 言語化できなかった
 したくなかった
 それはとてもシンプルな妹への独占欲
 言語化して自覚してしまえば彼は自身の罪深さに耐えられない
 確かに父親さえ居なくなれば誰に気兼ねすること無く妹と結ばれることができる
 でもそのために父親を殺すのか?
 全てを犠牲にして娘をこの世に呼び戻した父親から、娘を奪うのか?
 全てを犠牲にした筈の父親にたった一人残された息子が?
 そう考えるとジャンゴは罪悪感に押しつぶされそうだった

「…………寝るか。」

 結局、それらの思考が無意味に思えて彼は眠りについた
 遠くから聞こえる馬のいななきが耳に心地よかった
 あたりの風景が変わる
 何時の間にかジャンゴは夢の中の世界に……

「( ノ゚Д゚)妖精さんだよ!」
「うわあああああああああああああああ!」

 行けなかった
 世界一周旅行、ただし雨天中止!みたいな!
 
「しまった……騒いで迷惑かけちゃったかも」

 ユリの足音が聞こえてくる
 
「ジャンゴさん、大丈夫ですか?」

 良い香り
 ドアを開けた彼女は皿の上に大きなハンバーガーを載せていた
 彼の大好きなピクルスをたっぷり挟んで今にも零れそうだ

「ああ……また夢を見ていたみたいで」
「まあ、随分と辛いことがあったんですね
 そういえば妹さんは?」
「ああ、あいつは今親父の所に居る筈です
 娘に旅をさせるのが心配になったみたいで……」

 できるだけ心配させないようにオブラートに包んで話す
 しかし彼女は心配そうな表情しかしない
 もしかして解っているのではなかろうか、と彼は思う
 むしろ分からない訳ないのだ
 彼は倒れていたのだ
 撃たれていたのだ
 傷を見れば魔物によるものでないのは一目瞭然
 何かあったことが確実に分かる
 ユリはジャンゴの座っているベッドの傍にあった椅子に腰掛けて皿を近くのテーブルの上に置く
 自分用に作っていたらしい小さなハンバーガーも小さな皿に乗せて一緒に
842 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/27(木) 22:41:04.24 ID:AvRJoZrC0
「お手伝いできることがあれば言ってくださいね?」

 それでも何一つ問わずに
 ユリは彼を控えめに心配するだけだった
 その優しい距離感がジャンゴの気持ちを切なくさせた

「ほら、そんな暗い顔していないで!これでも食べてください!」
「あ、頂きます」
「そうそう、若い人は元気が一番ですから」
「ユリさんだって若いでしょう?これでも俺五十歳ですよ?」
「え」
「エルフって寿命長いですから、人間の年で言えば二十歳くらいです」
「へぇ……そうなんだ」

 ジャンゴはハンバーガーにかぶりつく
 荒く挽いた全粒粉で作られたバンズに鮮度の良いレタス
 それと歯ごたえの有る挽肉が互いに主張しあってさながらジャズのセッションのように一つになっていく
 ケチャップで口元が汚れるのも構わずにジャンゴは頬張り続ける

「お腹減ってたんですか?」
「冷静に考えたらほとんど食ってないんですよね、今朝から」
「まあ……それじゃあどうぞ一杯食べてくださいね」
「あひあほーほざいあふ」
「お酒もありますけど、どうします?」
「少しだけ頂きます」

 ユリが琥珀色の液体をグラスにそそぐ
 自家製のウイスキーである
 実はこの牧場には蒸留施設があってそれが女性一人で牧場を切り盛りしていけている理由だった
 このあたりは法の規制がゆるいので大々的にやらなければ(また、粗悪品で事故を起こさねば)密造酒もお目こぼしされているのである
 ジャンゴはグラスの中の物を勢い良く飲み干す
 香りはきつい
 ぬるめだったためか味もきつく喉にマッチを押し当てられたような感覚がした
 しかしそれが終わると不思議な幸福感が彼を支配した
 
「良い酒ですね」
「旦那が作っていたのを真似しただけですよ」 
「なんというか、申し訳ありません」
「いえいえ、女の一人暮らしですから居てくださるだけでありがたいんですよ」

 その時、ジャンゴの目から涙が一筋零れた
 酒のせい
 それもあるだろう
 だがしかしそれだけではない
 彼の脳裏には母親の影が蘇っていた
843 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/27(木) 22:41:47.46 ID:AvRJoZrC0
「どうしたんですかジャンゴさん?」
「いえ、故郷の母のことを思い出して……」
「お母さんですか?」
「はい、俺には母親が二人居たんですよ」
「二人……というと?」
「そういうのがありだったんですよ、俺の故郷」
「なんだか人間の街とは色々違うんですね」
「ええ、戦争のせいで男が足りなかったってのもありましたしね
 まあエルフなんて言っても森ごとにまた文化が違うんで全てのエルフがそうって訳じゃなかったり……
 このあたりの説明は長くなるので割愛
 とにかく俺と妹の産みの親はそれぞれ違うんですよ
 でも母さんたちは二人共仲が良かったのでまあそこそこ明るい家庭だったんです」
「へぇ……」

 ユリは初めて聞くエルフの生活の細かいことや温かい家庭生活の話に興味津々だった
 ジャンゴもそんな彼女に色々と話すのが気持ち良いのか普段の彼らしくもなく饒舌に語り続ける
 誰かに打ち明けたかったのかもしれない
 妹と彼だけの閉じた世界が怖かったのかもしれない
 どことなく母親を思わせる彼女だったからこそ言えたのかもしれない

「ところがある日、妹が川で溺れてですね」
「まあ、でも元気でしたよね?」
「実は……あいつはその時死んだんですよ」
「え?」
「俺の家は代々魔術を研究している家で、親父は不幸にも死者を甦らせる術を知っていた」
「そんな…………じゃあ」

 ジャンゴは気づいてなかった
 そんな話をすれば彼女がその術に興味を持つことに
 
「あいつは俺の母親を二人共犠牲にして……」
「妹さんを生き返らせたんですか?」
「おかしいですよね、昨日今日会ったばかりの人にこんな話をするなんて」
「…………」
「でも、ユリさんは俺の母さんにそっくりで……」

 ジャンゴの瞳からは涙が溢れていた
 
「じゃあ、良いですよ」
「え?」
「今日だけは、私をお母さんだと思ってください」

 ジャンゴは気づいていない
 ユリがその術を欲しがっていることを
844 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/27(木) 22:42:24.14 ID:AvRJoZrC0
「辛かったこと、苦しかったこと、好きに吐き出してください」

 しかしユリも気づいていない
 反魂の魔術を求める打算的な心持ちだけでなく
 純粋にジャンゴを今は居ない夫や、そして息子に重ねているからこそ
 ここまで甲斐甲斐しく世話しているのだということに
 
「ユリ……さん」
「今は、お母さんですよ」

 ユリは椅子から立ってジャンゴの隣に座る
 ジャンゴは彼女の柔らかい胸の中に顔を埋めようとした
 が、そこで彼の耳に雑音が入り込んでくる
 
「――――ん?」
「どうしたんですか?」
「伏せて下さい、誰か近づいてきています」
「え、ええ……」

 元来森に住む種族であるエルフは五感が秀でている
 たとえ夜であろうとも昼間と変わらず辺りの風景を見渡せるし
 木々のずっと向こうにある筈の小川のせせらぎを容易に捉えられるのだ
 ジャンゴは耳を澄ませて辺りの様子を探る

「牛泥棒でしょうか?」
「五六人ですからその可能性もありますね」
「保安官の方に連絡した方が良いでしょうか?」
「ええ、ただ身を隠すことを優先して下さい
 魔物の可能性もありますし……」
「ジャンゴさんは……」

 ジャンゴはにこりと微笑む

「俺に貴方を守らせて下さい」

 ユリは困ったような表情でジャンゴを見つめる

「でも……」
「大丈夫です、俺強いですから」
「貴方まで居なくなってしまったら、きっと私は死んでしまいます」
「大丈夫です、俺は貴方の前からは居なくなりません」
「分かりました、じゃあ地下室に居ますから何かあったらすぐに逃げてくださいね」
「はい」

 そう言ってユリは部屋を出ると何処からかショットガンを持ってきて彼に渡す

「無茶しないでくださいね?」
「はい」
845 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/27(木) 22:42:56.89 ID:AvRJoZrC0
 ジャンゴはユリに地下室までついていってからショットガンを片手に一階に戻る
 正直な所、今ジャンゴは自分の銃に込める弾が無い
 ホテルに荷物も置きっぱなしだし、ディエゴとの戦いが終わった後目が覚めると懐の予備の弾丸が抜かれていたのだ
 その上魔弾は彼の体の調子が完璧でない以上、暴発の危険性がある
 だから彼は渡されたショットガンと素手で戦うしか無かった
 チャイムの音
 ジャンゴには聞き覚えのある声、ユリの義弟だ
 火薬の匂い、新品の銃……恐らく彼に報復にきたのだろう
 背後には何人かの男の足音も聞こえている
 ユリを地下室に避難させておいて正解だった
 ジャンゴは口笛を吹いてニヤリと笑う

「おい、義姉さんよ!今日という今日は……」

 ジャンゴはドアを蹴破る
 耳のちぎれたあの男の懐から銃を奪い取って銃把で彼の頭部を思い切り殴りつける
 彼の後ろに居た五人の男達の銃口がジャンゴに向けられる
 瞬時に射線を計算し、魔力噴射で跳躍
 弾丸を回避してから五人の内の一人を捕まえてその胸部に銃を突きつける
 肋骨の隙間を縫って肺と心臓を貫く位置
 動きを止めようが命乞いしようがジャンゴは引き金を引く
 貫通した弾丸は耳のちぎれた男の唯一残った耳を破壊
 それに眼を奪われた四人の内一人の右眼を爪で裂いてからその男の銃を奪う
 そしてその銃と奪った銃の二丁拳銃で彼らに狙いを定めた
 ここまでで最初六人居た敵は実質半分に減った
 戦力が半分になれば軍ならばすでに兵士が逃走を始めるレベルである
 彼らも例に漏れずそうであった

「お、おい聞いてねえぞ!こら!」
「こんな化物じみて強いなんて!」
「ババア一人売り飛ばして酒を飲みたい放題って話じゃなかったのかよ!」
「あ、まてお前ら逃げるな!」

 両耳を吹き飛ばされた男だけが逃げ遅れて其の場に残る

「や、やめてくれ!命だけは……」
「どこへなりとも行け、殺せば俺の銃が汚れる」

 ジャンゴに唾を吐きかけられながら男達は這々の体で其の場から走り去る
 彼はこっそりと彼らについていき彼らが全員牧場を出て魔物が出る森の側の唯一の街道に近づいたところまで見届けた

「あんな血の匂いをさせて夜の街道なんて移動したら魔物に襲われるに決まっているのにな」

 くるりと回れ右、悲鳴が聞こえてくる
 ジャンゴは万が一にでも魔物に襲われて彼らが抵抗できないようにさっきの戦いで銃を奪っておいたのだ

「才なく心なく銃を弄んだ愚物共、その醜さに相応しい惨めさで死ね」

 ジャンゴはあくびをひとつすると牧場に戻り地下室に向かった
846 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/27(木) 22:43:31.67 ID:AvRJoZrC0
「ユリさん?」
「バタバタしていましたけど大丈夫でしたか?」

 中からユリが出てくる

「ええ、追っ払いました
 泥棒でしたけど殺しはしてませんから安心して下さい」
「」
「あの」
「なんですか?」
「全部の面倒ごとが終わったら妹を連れてここに来て良いですか?
 あの子もきっと母親に飢えているだろうから……」
「……そうですね、是非来てください
 実は私、娘も欲しかったんですよ」

 もう叶わないですけど、といってユリは悲しげに笑う
 
「あいつも母親の記憶が少ししか無いんです
 だから……優しくしてもらえれば……っと」

 ジャンゴの身体がよろめく
 ユリがそれを受け止める
 
「無理し過ぎちゃったかもしれませんね
 今日はもう眠らせてもらいます」

 ジャンゴはあてがわれた部屋に戻ろうとする
 が、彼の腕をユリがつかむ

「今日は……一緒の部屋で眠ってくれませんか?」
「え?」
「少し怖くなってしまって……
 それに、家族なら一緒に寝たって良いでしょう?」

 ジャンゴは何も言えず、彼女に誘われるままについていった

【Magical ballet“noon moon”act5〜Lovers again〜 to be continued 】
847 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/27(木) 22:45:47.61 ID:AvRJoZrC0
あれ?
これ上手く端折れば第六話で終わらせられるんじゃね?
六話で終わらせて後から番外編として端折った分書いたほうが楽じゃね……
どうしよう
848 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/27(木) 22:47:14.13 ID:AvRJoZrC0
あと幼女良いよね幼女
ペロペロ幼女
でも年上のお姉さん萌もあるのですよええ
849 :以下、VIPに変わりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/28(金) 19:11:52.63 ID:W47Oy2Yp0
乙です

幼女と熟女とを兼ね備えたロリババアこそ至高
850 :以下、VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/28(金) 22:29:44.77 ID:J6tdwyEa0
>>847
乙乙

なんか盛り上がってきたな
いいね
851 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/29(土) 23:38:37.99 ID:e4NL603v0
【Magical ballet“noon moon”act6〜La decroissance crepusculaire〜】

 目を覚ます。
 私はベッドの中で眠っていたらしい。
 
「眼を覚ましたか」

 父の顔。
 憎い男の顔。
 この男さえ居なければ私は何の気兼ねもなくお兄様と結ばれることができるのに。
 
「お前に、どうしても話さねばならないことがある」

 わりとどうでもいい。
 私が一度死んでいようと
 私の母とお兄さまの母の命を代償に不完全な蘇生を果たしていようと
 親なのだから子供の為に死ぬのは当たり前じゃないのか?
 そして何時か私も子供の為に死ぬ。
 そうやって返し切れない恩を次の世代につなげていく。
 それで十分じゃないか、其の程度のことを話すのに何の躊躇いが居るのだろう?
 
「……というわけなんだ」

 知っている。
 全て知っている。
 だいぶ昔、酒に酔ってお兄様がボロボロ喋っていた。
 飲ませればあの人はボロボロ泣くし何でも話すし何でも言うことを聞いてくれる。
 彼はそんな人なのだ。 
 とっても愚かで、とっても愛おしい、たった一人のお兄様。

「言葉を失うのも分かる、信じられないとも思うのも当然だ」

 いえ、知ってますし。

「しかしこれが真実なんだ、ジャンゴがお前に言っていた話は……
 俺がお前を傷つけないように……」

 いえ、そんなどうでもいいことに傷つくほど感受性豊かじゃないですし。

「とにかく、本当に済まなかった」
「ではお父様、私は半分死んでいるようなものなのですか?」
「…………ああ」
「ならば私は本物の命が欲しいのですお父さま」

 私が欲しいものは今も昔も変わらない。
 お兄様、ああ愛しのお兄様、貴方は今何処にいるのでしょう。
 怪我した身体を引きずって私の元へと急いでいるのでしょうか。
 ロシナンテに跨って一人荒野を駆けているのでしょうか。
 素敵ですお兄様。
 たった一人の妹、たった一人の家族のために、貴方の命が駆けていく。 
852 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/29(土) 23:41:31.77 ID:e4NL603v0
「教えてくださいお父様、私はまだ生きていたい
 この素敵な世界で優しさに包まれながら幸せになりたい
 ねえ、お父様
 お父様が居て、お母様が居て、お兄様が居て、家族が平和に暮らしている世界
 私はいつか素敵な殿方に連れられ家を出なくてはならないのでしょうがその時が来たら笑顔で皆に感謝を伝えられる世界」

 父が泣いている。
 私が心変わりしたとでも思ったのだろうか。
 理解してくれたとでも思ったのだろうか。
 愚かだ。
 兄と変わらぬ愚劣、されど醜悪。
 自らの傲慢に気づかず人々を不幸に陥れる。 
 
「……我が家に伝わる泰山府君の魔法は理を曲げる大魔法
 しかし得るもの以上の犠牲が求められる術でもある
 一人生き返らせるためにそれ以上の犠牲が必要だ」
「だからお母様が二人共犠牲に?」
「そう、一人生き返らせるためには生き返らせる対象の両親を生贄に捧げねばならない
 私が死ねばお前の身体に残された魔法式と魔法陣が勝手に起動して泰山府君の法は完成する」
「そう、そうなんですか」
「だがもう少し、あと少しだけ私に時間をくれ
 ジャンゴともう一度だけ話したいんだ……」

 黙って頷く。
 ならば良し、この男はもう用済みだ。

「お父様、親子らしい会話をしても良いでしょうか?」
「ああ、構わないが……」
「実は私、すきになってしまった人が居るんです」
「え?」
「旅の最中に出会った人なのですがね、優しくて素敵な人なんです」
「名前は……なんというんだ」
「ジャンゴ・マードック」
「え?」

 父は動揺して硬直する。
 詠唱を破棄してアイアンメイデンを召喚、彼を拘束する。
 アイアンメイデンの棘が突き刺さり、中からディエゴの真っ赤な血が吹き出る。
853 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/29(土) 23:42:48.52 ID:e4NL603v0
「――――――ものみな眠るさ夜中に
 ――――――水底を離るることぞうれしけれ
 ――――――水のおもてを頭もて、
 ――――――波立て遊ぶぞたのしけれ
 ――――――澄める大気をふるわせて、互に高く呼びかわし
 ――――――緑なす濡れ髪うちふるい……
 ――――――乾かし遊ぶぞたのしけれ!
 呼称“魔女の鉄槌”、真名“愛玩人刑”!」

 アイアンメイデンの中に注がれる大量の毒液。
 屍霊術を利用して物理的ダメージで死に至り辛い身体に至っているあの男であろうと関係ない。
 傷口という傷口から注ぎ込まれる酸性の猛毒は身体を焼き、治癒が間に合わぬ損傷を与える。
 血管を経由して脳に至り、詠唱を不可能にする。
   
「俺はただ家族が……」

 最後になにかつぶやいていた気がするがまあどうでもいい。
 こうして私を邪魔するものは居なくなった。
 
「お兄様、待っていて下さい」

 身体に力がみなぎる。
 久しく感じていなかった胸の鼓動。
 そう、私の魔法は何のために生まれたのか。
 やっと理解できた。
 それはきっと私の愛を邪魔するものに鉄槌を下す為。
 そして私の愛しいお兄様を捕まえて絶対に離さない為。

「ダリアは貴方を迎えに行きます。」

 昔聞いた唄を口ずさみながら私は今、私の人生を歩き始める。

【Magical ballet“noon moon”act6〜La decroissance crepusculaire〜to be continued】

854 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/29(土) 23:45:33.31 ID:e4NL603v0
ついにラスボス降臨
行き当たりばったりなんだけどその時々で常に全力で思いついたネタ叩きこめば最後は面白い方へ面白い方へ収束してくれると信じたい
多分自分の魔法の起源みたいなのを理解すると威力が上がる
無事にハッピーエンドになったら本格的に帝国とか王国とか回りたい
855 :以下、VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/30(日) 00:44:15.82 ID:pKAPX3on0
乙だよ

ダリアたんがラスボスとは予想だにしなかったぜ
しかしこのマードック家サーガには悲劇しか予想できないなwwwwww

ただどれもみんな、五話に出てきたようなただの悪人じゃなくて
何か信念みたいなのを持ってるんだよな
そこに信念どうしすれ違いぶつけ合いが起きるから、結局は誰かが……

何はともあれ、あなたの全力投球の作品、最後まで付き合わせてもらいますよ
856 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/30(日) 01:01:17.20 ID:xVdWIoxDO
作者は善悪をテーマに作品書き続けてきたので今回もそんな感じになるかなあと思ってます
世の中に純粋な悪なんていません
世の中に純粋な善もありません
ダリアは悪いことをしましたが彼女が本当の意味で自分の人生始めるにはあれしかなかった
このあとの暴走を抑えて彼女を守るのは兄貴の仕事だと思ってます

857 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/30(日) 05:28:58.43 ID:Ghf0jbJb0
http://www14.atwiki.jp/vipperld/pages/97.html
遅くなって本当にごめんなさい
858 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/30(日) 05:33:47.37 ID:Ghf0jbJb0
http://www14.atwiki.jp/vipperld/pages/106.html
とりあえず形にしてみました、
属性の特徴や魔法は小説以外でもどんどん考えちゃって下さい
859 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/30(日) 05:43:38.07 ID:Ghf0jbJb0
http://www14.atwiki.jp/vipperld/pages/107.html
ついでに自分の小説の行間を空けてみました、読みやすくなりましたか?
860 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/30(日) 06:49:19.78 ID:pKAPX3on0
wiki乙乙

「魔法」の項目には作中に出てきた魔法を書き込めばいいのかな?
それとも魔法だけ作って書き込んだりとかもいいのかね?

SSの方はぐっと見易くなった
あらためて先輩爆死しろと叫んでしまったよwwwwww
861 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2011/10/30(日) 08:13:07.91 ID:X896iG4e0
ウィキ乙でした
幸せそうじゃなあ幸せそうじゃなあ
次のスレタイって決まってたかしら
862 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/10/30(日) 13:29:27.73 ID:Ghf0jbJb0
>>860
小説以外でもどんどん魔法考えちゃって下さい。
属性ごとの特性についても募集中です
863 :以下、VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/11/10(木) 07:13:00.48 ID:9VMLp8Gl0
人いないお
864 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(長屋) [sage]:2011/11/11(金) 01:42:42.72 ID:3vZvXuLho
こんなスレあったのか
ようやく通しで読み終わったけど面白そうじゃないの
865 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/11(金) 03:22:52.24 ID:/znsOS7B0
どんどん書いちゃってください
まとめますので
866 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(長屋) [sage]:2011/11/11(金) 07:28:21.73 ID:48DVHWhoo
オッスオッス
wikiに特に記述がないことは捏造してっちゃっていい感じなんだよね?
867 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage saga]:2011/11/11(金) 17:10:04.88 ID:/znsOS7B0
肯定です、
もしwikiと違ったら修正しますので
868 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/11/11(金) 22:30:33.20 ID:epkNECaE0
ふと疑問に思ったんですが

ギムリアースがレヌリアに大敗した22年後が「ギムリアースのお話」
しかし>>783を見ると大敗の二十年後にはアンセイナス王女が現れているようなんですが

実際のところはどうなっているんでしょうか?
869 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/12(土) 00:32:57.51 ID:NgyR4jZ80
>>783
すいません、書いた本人ですが後付けでわかりにくいですね

負ける→ギムリアースのお話(>>783ではテロや争いと表記)→アンセイナス表で活動開始→火山止まる→10年→現在

って書きたかったんです。
いくらカリスマでも登場後すぐに改革はできないだろうと思ってそうしました。
わかりにくい上に意味不明でごめんなさい。
870 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/11/12(土) 11:05:43.27 ID:Aer9dlen0
>>869
するとこういうことになるんですか?

負ける→アンセイナス王女が登場→ギムリアースのお話(>>783ではテロや争いと表記)→アンセイナス表で活動開始→火山止まる→10年→現在
871 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [sage]:2011/11/12(土) 12:56:22.49 ID:QvmB/guto
レヌリア帝国の国旗とか紋章って決まってたっけ?
872 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/12(土) 13:21:32.02 ID:NgyR4jZ80
>>870
そうなります
実はアンセイナスの登場からラグがあるのは理由があるのですが、それはおいおい本編で

>>871

決まってません、ってか絵関係は絶無です、どの国も紋章とかもありません
873 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [sage]:2011/11/12(土) 16:17:46.15 ID:pyR+hA7Ho
>>872
なるほど
ありがとうございます
874 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(大阪府) [sage]:2011/11/13(日) 00:09:46.24 ID:BkjtG6Wk0
随分久しぶりに来てみれば新しいお話が始まってるじゃありませんか。
続き期待してますよ。
875 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(愛知県) :2011/11/18(金) 21:53:24.66 ID:g6q1LFdZ0
始めまして
僕も書いてみたいんですがいいでしょうか?

ただ地理がいまいち掴めていないので
地図や大まかな国の場所があれば教えていただきたいです
876 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(愛知県) :2011/11/18(金) 22:44:14.67 ID:g6q1LFdZ0
>>875
書き忘れ
地図というのは>>553の方の世界地図ではなく(レイス?)大陸の地図です
877 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/11/19(土) 00:11:20.56 ID:w/m4xoDo0
>>875さん
時代設定によりけりですが、
基本はレヌリア帝国、ギムリアース機工王国、エリュオス王国、エルフの森の四大勢力があって、
あとはいくつかの小国に分割されているような感じです。

以下、自分の勝手な解釈ですが…

・レヌリア帝国…レイス大陸中央部
・ギムリアース機工王国…大陸北部
・エリュオス王国…大陸東部
・エルフの森…大陸西部

のように解釈しています。まぁ、決定事項ではないので参考程度に思ってください。
878 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(愛知県) :2011/11/19(土) 00:17:23.09 ID:O+EC30jJ0
>>877
ありがとうございます
おかげで大体の設定が掴めてきました。

もう一つ、
深影の大陸は>>553の世界地図の一番下にある場所という解釈であってますか?
879 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/11/19(土) 14:31:00.37 ID:w/m4xoDo0
>>878
いえいえ、お役に立てば幸いですよ。
あと、御影の大陸については、また自分の勝手な解釈ですいませんが、一番東の端にある大陸だと思っています。とはいえ、これも確定事項ではありませんのでご自由にどうぞ。
880 :以下、VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/11/24(木) 23:39:03.81 ID:pEciD8EQo
四大国?の英語表記って決まってたっけ?
881 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/11/25(金) 22:38:38.35 ID:zDsEoUpY0
>>880
別に決まって無いんじゃね?
882 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/25(金) 23:42:08.42 ID:jIR04r9u0
VIPに立ってた時にちょこっと考えたてた話の導入部分が今更掘り起こせたけど、設定が増えた今晒してももはや意味ないな・・・
883 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/11/26(土) 08:26:58.04 ID:NNslWW2do
>>882
晒してみなよ
過疎だし
884 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/11/30(水) 00:13:05.59 ID:ti1NPRlBo
誰もいないのか
885 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/30(水) 08:59:38.40 ID:TcXsrhIF0
ところがギッチョン
886 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/12/02(金) 17:14:16.69 ID:Nc5lO3s00
四大国って同じ大陸にあるの?
887 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(大阪府) [sage]:2011/12/02(金) 23:31:41.97 ID:qzB2knoG0
そうだよ。
888 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/12/03(土) 11:26:57.09 ID:dojtl44s0
なのにわざわざ中央大陸に議会を置いたの?
889 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/03(土) 19:08:22.62 ID:aDGzjvcf0
そうなってるな。
まあ理由は後付けすればいいでしょ
890 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/12/03(土) 19:32:19.84 ID:dojtl44s0
そうだね
それより気になるのは中央大陸は誰がつけた名前なんだろう?
世界の中心を決めたのは四大大国じゃないのかな?

そういえばヴァッサーって
>>671を見ると中央大陸最大の港町らしいんだけど、wiki見るとレヌリアの西にある
間違ってるんなら訂正を頼む
891 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/12/03(土) 21:38:08.71 ID:TjoNRoqT0
>>890
まあ四大大国って認識であってるんじゃないか。
それと、ヴァッサーが大陸最大の港町で西にあるっていうのは別に不思議なことでも無いと思うんだが。
892 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/12/03(土) 22:31:57.78 ID:dojtl44s0
地図を作る時は作った国が中心にくるものだぜ
ヴァッサーが問題だと思ったのは「中央大陸」最大の港町というところ
レヌリアがレイス大陸にあるならちょっと問題じゃ?

粗捜しみたいな言い方だけど、俺はこういう設定の不明瞭なところと
他の作者の釈然としない設定――つまり、それを正当化するために後付け解釈をしなければいけないこと・その設定が自分の書いていたSSの設定と違っていること・その設定に自分が合わせなければならなく、そのことで執筆が制限されること――
とかの理由に筆を折った
他の書き手さんが消えていったことにも関係しているんじゃないかな?
893 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/12/03(土) 22:31:58.87 ID:1/xywicq0
錬金術っていわゆる科学とか工業って認識でいいのかな
ギムリアースは産業革命真っ只中の国みたいな感じでいいの?
894 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/12/03(土) 22:40:34.94 ID:dojtl44s0
>>893
秒数近かったね

俺もそういう風に解釈してるけど、他の作者はどうだろう?
そういえば錬金術は最近になって進出した学問みたいだけど、それ以前のギムリアースはどうだったのか?
四大大国って何時から生まれた概念なんだろうかね?
895 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/12/03(土) 22:54:06.61 ID:1/xywicq0
>>894

四大大国って言っても一つは実質エルフの自治区だしもう一つは今のところその支配下だからな
勢力で言えばギムリアースとレヌリアの二強なのかな
896 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/12/03(土) 23:03:46.76 ID:dojtl44s0
>>895
世界観の根底なのにそこら辺の解釈は難しいね
ギムリアースは支配されたかと思うと三十年ほどで独立して、レヌリアと貿易する関係になってるようだし

一度今までの設定を見直した方がいいかもしれないな
897 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京西部) [sage]:2011/12/03(土) 23:06:42.37 ID:sOEJ7ics0
皆さんお久しぶりです。『異世界の戦友』の作者です。暫く投下できなくて本当にごめんなさい

数ヶ月前に世界地図をうpしたのは自分ですが、なんかその事で揉めているみたいですね
余計な事してしまったならあやまります。ごめんなさい
一応、ある程度国境や地名を書いてみた物もあります。需要があればうpします
898 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/12/03(土) 23:07:17.78 ID:1/xywicq0
>>897
見てみたいな
うpしてくれ
899 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京西部) [sage]:2011/12/03(土) 23:09:51.79 ID:sOEJ7ics0
わかりました。早ければ明日辺りにうpします
900 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/12/03(土) 23:11:19.81 ID:dojtl44s0
>>897
お久しぶりです

地図を書いてくれたことは正直に嬉しかった、謝らないでください
だけどそれ以降の設定が中途半端なところで終わっていたから困っていた

俺からもうp頼む
901 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/12/03(土) 23:20:47.94 ID:1/xywicq0
というかもう900か
年末までには次スレ行くか?
902 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/12/04(日) 00:10:18.16 ID:VP9utTyX0
>>892
ありゃ、レイス大陸と中央大陸ってのは別もんなのか?知らんかった。
おらは今までレイス大陸=中央大陸だと思っとったわ。

あと、設定は絶対的な拘束力のあるもんじゃないから好きに書いても良いと思うんだけどなぁ。
読む側もある程度は脳内補完できるだろうし。
政界地図は是非お願いします!
903 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/12/04(日) 00:12:53.27 ID:VP9utTyX0
連レスすまん。
そろそろまた世界史年表みたいなものを作る必要があるかもしれないな。
904 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/12/04(日) 18:21:23.15 ID:KNcV9vQc0
>>902
地図を見ると分かりますが、左側の大陸がレイス大陸で、中央の小さめな大陸が中央大陸
解釈の違いがあるとまた混乱するかもしれないから、この設定はwikiに乗せた方がいいと思う
年表も更新しないとね、この前からまた随分SS増えたし

それと俺は設定は絶対厳守するもんだと思ってた
ここでもまた解釈の違いがあったね、実際はどうなんだろう? 普通に設定と違っててもいいのかな?
905 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/12/04(日) 19:21:25.39 ID:VP9utTyX0
>>904
難しい問題だなぁ。俺が書いてた時は、大枠は設定に従うけど、完璧に設定遵守はしてなくて、自分オリジナルの設定を付け足してたわ。
あと、大陸の説明サンクスb
906 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京西部) [sage]:2011/12/05(月) 12:18:32.75 ID:IjzEEw8s0
>>899です
地図うpしました

【安価で世界観共有してSSでも書かないか?】世界地図草案 新レイス暦1008年現在

http://wktk.vip2ch.com/vipper27736.jpg


あと自分は>>905のやりかたでOKだと思う
907 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京西部) [sage]:2011/12/05(月) 12:22:08.94 ID:IjzEEw8s0
連投スマソ、>>906の補足

まだ出て来ていない地名がありますが、後々自分の書いているSSに出す予定
908 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/12/05(月) 19:11:38.04 ID:a6hU3I620
>>906
地図乙です
今後ヒールレイスに上陸する予定があるのかな?

それから皆さんの意見を聞いて、俺が設定に縛られ過ぎていたことが分かった
もう少し余裕をもって書いてみる、いろいろ馬鹿を言ってすみませんでした
909 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/12/05(月) 19:21:22.03 ID:nyXDkJmK0
>>906
地図乙!!良い感じですなぁ。これで書き手さんたちもやる気出してくれるかも。
俺も書いて来るわ。
910 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/12/06(火) 00:20:40.68 ID:mI089GTU0
wikiにも乗せたい! 
けど自分管理者じゃないんですよねえ
911 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/12/10(土) 20:36:31.92 ID:K8eVZKf00
>>910
いいんじゃないか?一応まだ特定の管理者はいないはずだぞ
善意でやってくださってる方はいるけど
912 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage saga]:2011/12/12(月) 18:36:44.76 ID:fWv+fNOy0
そんなこといっといてなんですがwikiって
どうやって画像張るんでしょうか?
913 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [age]:2011/12/12(月) 23:39:04.05 ID:G7ZdJwWN0
>>912
画像って張れるんだっけ?
それはそうと、ちょっと書けたんで投下したいと思います。
914 :名も無き戦士の帰還 [sage saga]:2011/12/12(月) 23:43:18.50 ID:G7ZdJwWN0

機工王国ギムリアースの首都に、例年より早く厳しい冬が訪れようとしていた。

人々は来るべき大寒波に備えて暖炉にくべるための薪を買い求め、街は日没まで束の間活気に溢れる。

日は既に西に傾き、天高く聳える大聖堂の鐘楼から聞こえてくる鐘の音が、街の住人に日没が間近であることを知らせていた。

この国は大陸最北部に位置しているため、日が落ちるのが早い。

今年は北方の火山群が盛んに噴火したためか、人々は素晴らしい夕焼けを眺める幸運に恵まれた。

赤く巨大な太陽が、空を茜色に染めながらその巨体を地平の彼方に沈める姿は、息を呑むほど美しい。
915 :名も無き戦士の帰還 [sage saga]:2011/12/12(月) 23:44:22.79 ID:G7ZdJwWN0

暮れゆく太陽に照らされて赤く染まった街を、町外れの小高い丘の上から一人の青年がじっと見つめていた。

ボロボロの外套を纏い、ボサボサの髪の下から覗く蒼い双眸は、曇った鏡のように何も映していなかった。

彼は今、長らく留守にしていた故郷へようやく帰還してきたのだ。

だが、彼はこの街の雰囲気にまったく馴染みがなかった。

それも仕方のないことかもしれない。

彼が故郷を離れている間に、かつては排煙と降灰で汚れ、黒く煤けた街並みをさらしていたこの街は大変貌を遂げた。

あの屈辱的な敗戦以前と同じ、いやそれ以上の繁栄を謳歌するまでに復興していたのだ。

旅立った時とはまったく違う、穏やかで清潔な街の姿。

何故かそれが、彼の心を酷く動揺させた。

「…っ」青年は一瞬苦痛を感じたかのように顔を歪ませたが、すぐにもとの無表情に戻り、トレムレデールの街を目指して丘を降りていった。
916 :名も無き戦士の帰還 [sage saga]:2011/12/12(月) 23:45:42.17 ID:G7ZdJwWN0

夜中にドンドンと扉を叩く音でクレスは目を覚ました。

初めは空耳かと疑ったが、再度強い力で扉が叩かれ、自分が寝ぼけているわけではないことを確信した。

こんな時間に一体誰がどんな用だろう?不審に思いながら、扉の鍵穴から外を覗きむ。

今夜は満月だったためか、外は比較的明るく、相手の節くれ立った大きな手と、がっしりした大柄な人影が良く見えた。

…こんな時間に男?……まさか……

一瞬、ある予感が脳裏を掠める。

この街の治安は昔に比べれば随分良くはなったものの、まだ用心するに越したことはない。


917 :名も無き戦士の帰還 [sage saga]:2011/12/12(月) 23:46:48.64 ID:G7ZdJwWN0

「こんな時間に一体どちら様ですか?」

嫌な予感に身震いしながらクレスはそう訪ねた。

が、予想に反して、その男は彼女のよく知る人物だった。

「俺だよ、クレス。出来れば今夜一晩の寝床を借りたいんだが」

その声を聞いた途端、クレスは眼を大きく見開いた。

次の瞬間、彼女は扉を大きく開け放ち、近隣住民から苦情が来そうなほどの大音声で叫んでいた。

「やっと帰ってきやがったわね、ボリス!!!」

クレスはさあ、馬鹿たれを目一杯ぶん殴ってやろうと身構えたが、ボリスと呼ばれた青年は、扉が勢いよく開いた反動で吹っ飛ばされたのか、家の向かい側でぐったりしていた。




918 :名も無き戦士の帰還 [sage saga]:2011/12/12(月) 23:50:00.69 ID:G7ZdJwWN0

―――!

―――――――――!!!!

凄まじい絶叫と共に、ボリスは目を覚ました。

服が汗でぐっしょりと濡れている。

ボリスは震える手で、額の汗を拭った。まただ。またあの夢を見てしまった……

身体を半分起こし、辺りを見回してみると、懐かしい家の一室だということが分かった。

昨日のことはあまり良く覚えていない。

あの一戦を辛くも生き残り、長い旅の末にようやく故郷に辿り着いたが、帰ってみると家が無くなっていた。

年老いた母の行方も分からずじまいで、仕方無く昔馴染みの家に寝床を借りようと訪ねてみれば、
突然吹っ飛ばされ、気がつけばここにいた。

おそらく昨日のうちにクレスが自分を運び込んでくれたのだろう。

彼女は可憐な見た目に反して恐るべき怪力の持ち主だから別段驚かない。

それにしても寒い。寝床から這い出すのに苦労するだろうな、とぼんやり考えながら、ボリスは窓の外を眺めていた。

まだ日の光は弱々しい。柔らかな日差しの下には、きっと雪が積もっているだろう。

雪合戦をしているらしい子供たちの歓声が外から聞こえてくる。

束の間、ボリスは少年時代のことを思い出していた。あの敗戦を喫する前、祖国が未曾有の繁栄に沸き返っていた頃の事を。




919 :名も無き戦士の帰還 [sage saga]:2011/12/12(月) 23:51:54.37 ID:G7ZdJwWN0

確かにこの街はあの頃と見紛うばかりの復興を遂げた。そして今も発展の最中だ。

だが、この街は懐かしいあの頃の故郷とは違う。

いくら上辺だけ作り直してもダメなのだ。

自分の知っていたトレムレデールの街はもうない。

昔一緒に転げ回って遊んだ仲間、魔法硝子工房のお転婆娘カミラ、金細工職人の倅のガンデル、
ビール醸造所の親方の末っ子ボルフレン。それに一緒に旅立った一万もの若者達。

みんな、戦場で失った。

あの時の仲間で残っているのは、義勇軍に入らなかったクレスただ一人だ。

旅立っていった者たちの中で自分だけが生き残り、今こうして生き恥を曝している。

義勇軍に入った時、皆で約束したではないか。

『我ら生まれた時は違えど、同年、同月、同日に死なん!!』
『共に願わん、祖国の栄光を!!』
『共に誓わん、仇国の討滅を!!』

あの時の誓いは、今でも耳に木霊している。生涯忘れることはないだろう。

長旅で疲れ切った身体はまだ睡眠を要求していたが、またあの悪夢を見る羽目になったらと思うと、もう一度眠る気にはなれなかった。



920 :名も無き戦士の帰還 [sage saga]:2011/12/12(月) 23:55:16.32 ID:G7ZdJwWN0

ボリスがもう一度眠るべきか思案していると、いきなり部屋の扉が音を立てて開き、顔を強張らせたクレスが入ってきた。

「ボリス、大声出して一体どうしたの?」

おそらくさっきの叫び声を聞きつけたに違いない。だがボリスは、そのことをクレスに深く追求されたくなかった。

だから普通を装うことにした。

「おはよう、クレス。」

「え?あ、おはよう。ちょっとボリス、さっきの悲鳴あんたでしょ?何があったのよ。」

「大丈夫だ。ちょっと悪い夢を見ただけだよ。」

「…本当に?あんた凄い悲鳴上げてたわよ?」

「いや、本当に大丈夫だ。それよりクレス、昨日はありがとな。」

「別に。友達がぼろぼろの姿で戸口の前でのびてたら、大抵の人は一晩の宿くらい貸すでしょうよ。」素っ気なく返された。

こういうトコは昔から変わらないよな、とボリスは心の中で呟きつつ、クレスに一番気がかりなことを訪ねた。

「…ところでクレス、一つ聞きたいことがあるんだが。」

「なに?」

「お袋がどこにいったか分かるか?昨日帰ってみたら家もお袋もどこにもいなかったんだ。」

「あぁ……それは……」

クレスは何かに迷っているような様子で再びボリスを見据えた。

「…何か?」嫌な予感がした。

「…おばさまは亡くなったわ。」

「!?」何を言っているのか分からなかった。


921 :名も無き戦士の帰還 [sage saga]:2011/12/12(月) 23:58:31.74 ID:G7ZdJwWN0
「半年くらい前にね、前からちょっと元気ないなぁとは思ってたの。でもほんとに急だったから驚いたわ。あんたが街を離れてからずっと寂しがってた。」

「………」

「でも多分一番の原因はあの話がこの街まで届いたことかしら。」クレスのその言葉に、ボリスは心臓を掴まれたような気分になった。

「市民広報に載ってたわ。八か月くらい前にね。『ギムリアース民兵団、レヌリア帝国領ファルム雪原にて潰滅。生存者は確認されていない』って。」

「………………」

「多分あれがおばさまには耐えられなかったんでしょうね。」

「あぁ。」ボリスの声は僅かに震えていた。たまらない。俺は戦友も家族も故郷も全部失ったのか…

「あんたが生きてるってこと、もう少し早く伝えられたらよかったんだけど…」

「…なあクレス、俺を軽蔑するか?」ボリスはそっと呟いた。

「どうして軽蔑するの?」

「ただ一人の肉親ほったらかして義勇軍に入った挙句、死にかけて、親まで失っちまったんだから、俺は最低の」

「馬鹿なことを。わたしがそんな間抜けに見えるわけ?」クレスの思いがけない強い言葉に、ボリスはたじろいだ。

「親友の生還を喜ばない人間がいると思ってるの?だとしたらボリス、あんたは相当イカレてるわ。
おばさまだってあんたが生きてることを願ってたのに。それじゃあんまりじゃないの?」

「…すまん、悪かった。ちょっとどうかしてた。」

「分かればいいのよ。あんたが生きてることを軽蔑するような奴は頭の腐った軍人くらいなんだから、胸張って生きれば良い。」

クレスはそれだけ言って黙り込んだ。目は相変わらずボリスを睨み付けたままだが。

何か聞きたそうな顔をしているが、じっとボリスを見つめるだけでなにも聞こうとしない。

だが、やがてその沈黙に飽きたのかクレスは再び口を開いた。




922 :名も無き戦士の帰還 [sage saga]:2011/12/13(火) 00:01:04.20 ID:P5yo7rKG0

「………ねぇ」

「なんだよ。」

「……汚い。」

「なにが?」

「…アンタ、最後に身だしなみ整えたのって、いつ?」
ボリスは、クレスが何を言いたいのかを即座に理解した。クレスはいつだって単刀直入な女なのだ。

「ええと、多分二ヶ月くらい前だな。」

「なるほど、通りでね。」
クレスは鼻をひくつかせると顔をしかめた。

「どうやら身体の方も丸洗いの必要がありそうね。」

「…そんなに臭うか?」
そう言ってボリスは、着ていたシャツの匂いをかいだ。別段変な臭いはしない。

「たぶんもう慣れっこになって臭いを感じなくなってるのよ。今のあんたの体臭なら下水の臭いと良い勝負ね。」
クレスはそう言ってクスリと笑った。

「失礼な所は昔と全然変わんねぇな。」ボリスはやれやれという風に肩を竦めると、寝台から起き上がった。




923 :名も無き戦士の帰還 [sage saga]:2011/12/13(火) 00:02:38.63 ID:P5yo7rKG0

「石鹸とタオル貸したげるから、その垢まみれの身体洗ってきなさい。」
クレスはそう言って戸棚から石鹸とタオルを取り出すと、ボリスに放って寄越した。

ボリスは受け取ろうと、反射的に右手を伸ばした。が、石鹸とタオルは空中で受け取られることなく、虚しく床に落ちた。

ボリスは苦笑してそれらを拾いあげた。……左手で。

「あんた、腕が……」その時になってようやくクレスはボリスの異常に気が付いた。
彼には、右腕がなかったのだ。肩の部分からバッサリと。

「ファルムの雪原で切り落とされた。」それだけ言って、ボリスは足を引きずるようにして部屋を出ていった。


924 :名も無き戦士の帰還 [sage]:2011/12/13(火) 00:04:23.43 ID:P5yo7rKG0
ここまでで一応投下終了。続きも近日中に上げたいと思います。
駄文スマソ(´・ω・`)
925 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/12/13(火) 00:06:31.98 ID:P5yo7rKG0
連レスごめん。言い忘れてたけど↑の作品はギムリアースのお話の続編です。
926 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage saga]:2011/12/13(火) 21:45:43.36 ID:yH1KM8p80
http://www14.atwiki.jp/vipperld/pages/88.html
こんな感じで良いですか?

地名、魔法等につきましては個別に設定を書いていただけると誤解が無いのでお願いします
927 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/13(火) 21:52:12.38 ID:iygwi5g/0
乙!
一人だけ生き残ったなんて複雑だよな
発展した町を見る目とかもうね…

それと画像はやり方知らないけど貼れたはず、やり方知らないけど
928 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/12/13(火) 23:32:40.87 ID:P5yo7rKG0
>>926
早速の編集ありがとうございます!
…編集してもらってる分際で申し訳ないんですが、上の作品の題は『名の無き戦士の帰還』でお願いします。
ギムリアースのお話はあくまで短編の連作なので、このまま長編を繋げるのは少しマズいので……

あと設定ですが一応ここに書いておきます。

・トレムレデール…ギムリアース機工王国の首都。

・北方火山群…正式名称カルラ火山帯

他になにかご質問があれば是非聞いてください。
考えてないこともありますが(´・ω・`)

929 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/14(水) 00:44:27.87 ID:zyi+DvVj0
>>928
戦士の帰還はアンセイナスさん登場後ですか?
930 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/12/14(水) 01:52:08.99 ID:LVQdQ0mI0
>>929
そうです。一応即位から四、五年くらい経った時期という設定です。
一応首都近辺の復興はほぼ完了していますが国全体の復興はこれから、というかんじ。
まだ旧臣の多くがアンセイナス新女王の政治手腕に対して不信の念を抱いているような状態です。
宮中の大貴族や軍や新興の商工人の勢力が互いに利害をぶつけ合っていて、国内は決して一枚岩ではなく、レヌリア帝国に対する憎悪も消えていません。
931 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京西部) [sage]:2011/12/14(水) 09:36:52.54 ID:1Ct8wez20
まだ読み終わっていないですけど、とりあえず乙です
まぁ4、5年では国全体の復興は不可能でしょうね
SS書きつつ次の投下待ってます
932 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage saga]:2011/12/14(水) 22:29:40.63 ID:tJ2it72U0
http://www14.atwiki.jp/vipperld/pages/88.html
こんな風になりましたがよろしいですか?
933 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/12/14(水) 23:34:02.04 ID:LVQdQ0mI0
>>932
本当にありがとうございます!!何度も煩わせてしまってすいません。
次回も短いですが、もうちょっとで投下できると思います。
934 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/12/15(木) 21:32:21.59 ID:TQayrpGI0
wikiのURLってどうやったら貼れるんですか?
935 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [age]:2011/12/15(木) 21:33:07.45 ID:TQayrpGI0
あ、今のは>>932さんへのレスです。
936 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage saga]:2011/12/16(金) 01:17:23.81 ID:oh77xJK40
URLを普通にコピペすればできますよ
937 : ◆rpv9CinJLM [sage]:2011/12/18(日) 13:15:29.88 ID:pWkzKHzDO
やっとこさ最終話が書けました
やっぱり完全なハッピーエンドを書けなかったのが辛いけど一応話に決着はつけられそうです
938 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/18(日) 15:27:55.64 ID:/Q1IL50Y0
投下楽しみにしてますよ
私もそろそろ投下できそうです
939 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/12/18(日) 16:30:37.93 ID:HbrMU9Bu0
【Magical ballet“noon moon”act7〜Supreme ombre, supreme aurore〜】

「それじゃあ行ってきます」

「ええ、お気をつけて」

 ジャンゴは馬車の御者台の上から静かにユリに向けて頭を下げた。
 傷も癒え、魔力も充実し、闘志に溢れ、銃も整備が終わっている。
 やるべきことはたった一つ。
 戦うことだけ。

「はい」

 頷いて馬車を走らせようとしたその時だった。

 釘が、槍が、螺子が、注射針が、ありとあらゆる物が突如として降り注ぎ、
 皮を裂き、白い脂肪の層を貫き真っ赤な血と肉の色を描き、臓物を切り裂いて一人の人間をあっという間に解体していく。

「―――――!?」

「待っていたわお兄さま」

 少女は歌う。

「待っていても来ないから」

 少女は笑う。

「迎えに来たわお兄様」

 花の笑み、小鳥の音色、風に揺れてる長い髪、眠りそこねた朝の月を背負い、彼女はそこに居た。

「私ね、やっと分かったの」

「お前……なんてことを!」

「どうしてお兄様はそんな顔をしているの」

 ゆっくりと彼女はジャンゴに近づいていく。
 甘えた猫なで声を出しながら、先ほどまでユリだったものを踏みつけながら。

「ディエゴなら私がもう始末したわ、これでもう私たちは自由よ?
 私たちの敵はもう居ない、二人でずっと、いつまでもいつまでも暮らしました、ソレでオシマイ」

「……何故殺した」

 ディエゴを殺した、この言葉にも驚いていたが今の彼には妹の行動のほうが衝撃的だった。
940 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/12/18(日) 16:31:38.82 ID:HbrMU9Bu0
「だってほら、二人で何時までもずっと平和に暮らしました、でしょう?」

 ダリアはジャンゴを抱きしめて、彼の胸に顔を埋める。

「邪魔じゃない」

 路傍の石を蹴り飛ばした時、罪悪感を覚える人間は居ない。
 それ自体は至ってアタリマエのことなのだろう。
 しかし、お前が蹴り飛ばしたつもりの小石は人だ、産まれて生きて物語があって、死ぬ人間だ。
 ジャンゴは目の前のイモウトが恐ろしかった。

「それにお兄様に色目を使っているんだもの、その女
 許せないわ、お兄様には私以外要らないの、私にもお兄さま以外誰も要らないの
 二人の間には誰も入ってこなくて良い、入ってくるならば邪魔者で
 排除しなくちゃいけない」

「お前たち何をやっている!」

「あら」

 その時、突如として保安官が現れる。
 恐らく先日の事件があったのでまたチンピラに襲われていないかユリを心配して見に来たのだろう。
 
「待ってくれ違うんだ!」

 保安官はこう思ったはずだ。
 流れ者が善人を装って牧場の主人を殺したと。
 しかもとりわけ残酷に。

「あー、大変見つかっちゃったー」

「やめろダリア!もう殺しは沢山だ!」

 ダリアの魔術により幾つもの拷問器具が保安官に向けて飛ぶ。
 が、それは全て彼を外れて地面に突き刺さる。

「ひ、ひいいいい!?」

 彼我の実力差を理解し、保安官は馬に乗って逃げ出す。
 ダリアは薄ら笑いを浮かべながらそれを見送る。
941 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/12/18(日) 16:32:13.43 ID:HbrMU9Bu0
「何故こんなことをした!?」

「うふふ、どの道もう私たちはお尋ね者なんですから細かいことを気にしちゃ駄目ですよお兄様」

「だからって、だからってもう目的は達成したんだ!もうこれ以上……!」

「ところで良いんですかお兄様、あの保安官逃しちゃって」

「…………え?」

「顔も見られちゃったし、そのうち応援とか呼んでくるかもしれませんよ?」

 迂闊だった。
 突然のことに気が動転していたが確かにその通りだったのだ。
 
「これは困ってしまいましたね、逃げないと大変なことになってしまうかもしれません」

「お前は……!」

 彼女の狙いはそれだった。
 ジャンゴによる弁解の機会を完全に潰して彼と自分を共犯に仕立て上げることだったのだ。

「お兄様は可愛い妹を捨てて逃げるのですか?
 きっとお兄様も共犯だと思われてそれでお終いですよ?
 それにそもそも私を保安官に突き出すことなんてお兄様にはできない、そうでしょう?」

 艶然と舌なめずりをしてダリアはジャンゴに問いかける。

「だって、お兄様は私を愛している。どんな時も私を守ってくれる
 それはお父様と約束したことであり、お母様たちと約束したことであり、何より自分自身が誓ったこと
 他人との約束ならば破ることはできる、でも自分にした約束は破っても破りきれるものではない
 何時までも自身の心に楔を打ち込んで決して解き放たれることなど無い
 だって約束した相手がずっとそこにいるのだから」

 ダリアは背伸びして馬車を曳くロシナンテの鬣を撫でる。
 ロシナンテはすこしばかり様子の変わった主人に驚いたもののそれでもその感情を表に出すこと無く彼女に頭を擦り付ける。
 ロシナンテとしては自らが住みつけるエルフの森があればそれで良く、人間の生き死になど大したことではない。
 むしろダリアとジャンゴにエルフの森を再建してもらうためにもこんな所で引きこもられては困ると思っていたところだったのだ。

「寂しかったわロシナンテ、貴方は最高のお友達よ」 

 ロシナンテは機嫌良さそうに蹄を鳴らす。

「さあ、馬車に早く乗ってお兄様、急がないと囲まれてしまうわ」

「違う、こんなの……こんなの間違ってる」

「お話なら後で聞きます、時間は幾らでも有るんですもの」

「でも……!」

 何かを言いかけたジャンゴの口をダリアが唇で塞ぐ。
 彼はそれを拒絶できない。
 心まで吸い取ってしまいそうなほどにダリアはジャンゴを貪る。
 彼はそれを拒絶できない。
 小さくて冷たい唇、死にかけた蟲のようにのたうち回る舌、薔薇の花より甘い香り。
 そして足元には屍。
 退廃と虚無と官能だけが支配する時がすぎる。
 何もかも捨ててこのまま二人でどこかに消えてしまおう。
 それが出来る程度にはこの大陸は広い。
 そんな考えがジャンゴに浮かぶ。
 そんな時、彼女の唇がジャンゴから離れる。
 名残を惜しむように彼はダリアを抱きしめて彼女の頬と自らの頬を重ねた。

「ねえ、助けてお兄様、私怖いの……お兄さまが居ないと私きっと生きて行けないわ」

 ジャンゴにはもう他の選択肢は無かった。
 
942 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/12/18(日) 16:32:42.56 ID:HbrMU9Bu0
 数年後、二人は緑の濃い山の中で静かに暮らしていた。
 なんせこの大陸は広い、そしてエルフにはそこで自由に暮らす為の秘術と技術がある。
 二人はもともと自然が豊かだったこの山の自然をより一層豊かにしながら隠れ家を作り上げていた。

「……また税があがるのか、俺達には関係ないけど」

「戦争に魔物、外には面倒なことが沢山有るのですね」

 新聞を読みながらジャンゴは呟く。
 彼は魔術で外見を変えて時々山を降りては新聞なんかを手に入れているのだ。
 
「ここは平和で良いところです」

「俺達と動物だけしか居ないしな」

 ロシナンテが遠くで野生の馬群を率いて走っている。
 栗毛の馬たちの中で芦毛の彼は一際目立った。

「あら、もう一人増えますよ」

 そう言ってダリアは自らの腹をさすり笑う。
 父が知れば、母が知ればなんというだろうか。
 そんなことをジャンゴは一瞬だけ考えた。
 しかし風が吹いたと同時にそんな事も忘れてしまっていた。
 それくらいに両親のことは過去のことで、どうでもいいことだった。

「幸せだな」

 長い沈黙の後、何かに納得したように彼はそう言った。

「はい」

 彼女は答えた。
 寄り添う二人を真昼の月が何時までも照らしていた。


【Magical ballet“noon moon”act7〜Supreme ombre, supreme aurore〜fin】
【Magical ballet“noon moon” fin】
943 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/12/18(日) 16:36:48.23 ID:HbrMU9Bu0
いやもうほんと理不尽極まりないなあ
と思いつつもコレ以外結局書けなかったでござる
ハッピーエンドしか書けない病で悩んでいて、試しに書き始めてみたらこのザマでござる
これ以上バッドにしようとも考えたんだけど尊敬しているライターさんの丸パクリぽくていやだし
これ以上はっぴーになんて上手に書けるわけでもないし
今まで徹底してバトルばっかりやってきたから最終回だけは絶対に戦わせまいとしたらこれしかなかったという……
いやバトル入れた所でなにも変わらないんだけどさ
という訳でこの話は一旦終わりです
彼らの息子の話で本格的にクロスさせられたらなあとは思います
944 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/18(日) 19:39:42.26 ID:/Q1IL50Y0
乙です
最後まで救いのない話でした

この話の時代設定ってどうなってるんですか?
945 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/18(日) 19:46:54.33 ID:pWkzKHzDO
>>944
時代設定はハッキリ決めてないんですよね
お勧めとかあったら教えていただけるとありがたいっす
946 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/18(日) 20:08:11.69 ID:/Q1IL50Y0
>>945
お勧めですか
たぶん銃器とか沢山登場してるし現代じゃないですかね

詳しく決めてないなら決めないままでもいいんじゃないですかね?
947 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/19(月) 12:10:26.89 ID:9UviRye00
乙!!
救いのない最後って個人的には素敵だと思いますぜ。
948 :名も無き戦士の帰還 [sage]:2011/12/19(月) 12:12:42.47 ID:9UviRye00
続き書けたんで投下します。
ちょっと長くなるかも
949 :名も無き戦士の帰還 [sage]:2011/12/19(月) 12:14:08.58 ID:9UviRye00

もともと、寒く乾燥した地方であるためか、ギムリアースには入浴という概念自体が希薄だ。

そのため、南方の諸国との交流によって入ってきた風呂というものを備えている家はあまり多くない。

長い冬の間、暖炉には欠かせない貴重な薪を一度に大量消費するため、
非効率な薪の消費の仕方だとギムリアースの民から敬遠されているのも普及が遅れている理由の一つだろう。

無論、クレスの家にも浴室などというものはない。

ただ、首都であるトレムレデールの街には少数ながらも公衆浴場が存在していた。

使用料金は少々高めだが、長く続く冬の間まったく体を洗わないというのも不潔であるという理由から、
主に女性や富裕層が利用している。


950 :名も無き戦士の帰還 [sage]:2011/12/19(月) 12:16:07.43 ID:9UviRye00

ボリスもそこへ向かっていた。

日は既に天頂にかかっているというのに、外は身を切るように寒い。分厚い服を着込んでいても、骨まで染み透ってくるようだ。

昼間だというのにこの寒さ。

ギムリアースの国は、毎年多くの旅人が死亡することで悪名高いが、その責任の大部分はこの凶悪な気候にある。

まるで皮膚に噛み付いてくるかのような寒さだ。

見れば石畳の小道に降った雪が凍りつき、それが太陽の熱で少し溶けて氷道になっているではないか。

片腕を失い、バランスをとるのが常人より難しくなっているボリスにとっては特に危険な状態だ。

滑って転倒すれば、容易には起き上がれない。

転ばないように上手く姿勢を調整しながらゆっくり歩いて行くと、見覚えのある場所に出た。

王宮前広場。

戦争前は市民の憩いの場であり、レヌリア軍が入城していた頃は公開処刑の場となり、そして今は商店が軒を連ねる市場となっている。

売り子の元気な呼び声と子供達のはしゃぎ回る歓声が広場のあちこちから聞こえ、ボリスは久しぶりに頬が緩むのを感じた。

この寒さの中で元気なものだ。



951 :名も無き戦士の帰還 [sage]:2011/12/19(月) 12:18:01.08 ID:9UviRye00

と、王宮の方から喧しい声が聞こえてきた。

どうも王宮から出てきた人間に、広場にいた人々が集まって何か言い立てているようだ。

聞き耳を立てていると、どうも非難を浴びせているらしい。

一体誰なのだろうと、そちらに向かってゆっくりと歩を進めた。

だが王宮から出てきた人物を見たとき、ボリスははたと立ち止まった。

さきほどまでの心楽しい気分は霧散し、顔が引きつっているのが自分でも分かる。

視線はその人物の顔を凝視したまま動かない。いや、動かせない。

あまりにも見覚えのあるその容貌。

遠目からでもよく分かる美男子ぶりは、一年前から何一つ変わっていなかった。

気が付けば、ボリスは残った方の拳を固く握りしめていた。

忘れるわけがなかった。

彼は、ボリスたちを統率する立場でありながら自分だけ後方の安全地帯に残った、卑怯者なのだから。

奴には後できっちりと仲間達の分まで借りを返させてもらおう。

「五体満足で生きていけると思うなよ、くそったれの旅団長どの。」

ボリスは暗く濁った眼で彼の顔をもう一度凝視すると、その場を立ち去っていった。




952 :名も無き戦士の帰還 [sage]:2011/12/19(月) 12:20:44.84 ID:9UviRye00

旅団長、と呼ばれている人物がいる。

読んで字の通り、ギムリアース国軍の高級将校だ。

ただ、彼は国軍の他の将官たちとはある一点に於いて違う。

彼は、かの義勇軍の司令官も務めているのだ。いや、正確には務めていたと言うべきか。

一年前に義勇軍が潰滅して以来、彼はその責任を取らされ僻地に左遷されていたが、昨月になってようやく許されて首都への帰還が叶ったのだった。

だが彼は軍上層部のこの仕打ちに大いに不満を抱いていた。

そもそも義勇軍の連中をレヌリア帝国に対して投入すること自体、自分は反対だったのだ。

正規軍でさえも正面から激突すれば敗北必至な帝国軍を、寄せ集めの義勇軍ごときがなんとかできる訳がない。



953 :名も無き戦士の帰還 [sage]:2011/12/19(月) 12:22:15.91 ID:9UviRye00

だが、大衆からの熱狂的な支持を受けた義勇軍を解散させることで生じるであろう
世論からの突き上げを恐れた上層部は、義勇軍に帝国への無差別攻撃を許した。

あろうことか正規軍にすらまだ配備されていない自律型の金属製ゴーレムまで与えて。

帝国に奪われた旧領土奪還の大義を掲げた義勇軍は勇んで祖国を出立したが、その結果は惨憺たるものだった。

自分が案じた通り、寄せ集めの義勇軍は帝国の精鋭とぶつかって為す術もなく全滅。

義勇軍が残した唯一の功名といえば、あのインペリアルガードの力量をはっきりと確かめられた事くらいだろう。

しかしその為に払った代償はかなり高くついた。

一万人の命と引き換えにして得たものがその程度なのだからお笑いだ。


954 :名も無き戦士の帰還 [sage]:2011/12/19(月) 12:23:39.07 ID:9UviRye00

順当な責任の所在から言えば、更迭されるのは自分ではなく、義勇軍創設を容認した軍上層部の連中の方であるはず。

それなのに何故自分が左遷されねばならなかったのか。

旅団長はその不満を、久しぶりに再会した同僚の将校であるバストーク少将にぶちまけていた。

「………なるほど。貴様の言うことにも確かに一理あるな。」

銀髪を短く刈り込んだ赤目の将官は、口に咥えたパイプから煙を吐きながら同情するように言った。

今、二人は安楽椅子に深く腰掛け、暖炉の方に足を向けてくつろいでいる。

「だろう?上層部の連中は責任を全て私に押しつけたのだ。
広場に出た途端に民衆から罵声を浴びせかけられたのもきっとそのせいだろう。一体どうなっている。」

同僚の発言に対して旅団長は憤懣やるかたない、と言わんばかりにしかめ面をして見せた。



955 :名も無き戦士の帰還 [sage]:2011/12/19(月) 12:25:30.62 ID:9UviRye00

「確かに今の上層部の連中はあまり上等な輩とは言い難い。立派な奴は先の戦争であらかた死んだしな。が、ハウスマンよ。
貴様が失態を演じたのは事実なのだろう?なら左遷されるのは当然というものだ。民衆からの罵声も良く考えれば理由は分かるだろう?」

「そうは言うがバストーク、お前は知るまい。カルラ火山山麓の田舎で守備隊の訓練をやらされるのがどれほど耐え難い屈辱か。
私はハウスマン家の嫡男だぞ。あれほどの辱めを受けたのは初めてだ。」

「あの時貴様が義勇軍の出撃を許可していなければ、これほど多くの若者を失わずに済んだのだ。左遷でもまだ甘いくらいの大失態だぞ。
名門ハウスマン家の嫡男なればこそ、この程度の処分で済んでいるんだ。それが分からないのか?死んだ連中の遺族が、お前の謝罪を求めていることも、お前は知らんのだろう。」

956 :名も無き戦士の帰還 [sage]:2011/12/19(月) 12:26:45.47 ID:9UviRye00

バストーク少将のこの言葉に、旅団長は失笑でもって応じた。

「謝罪だと?おいおい、一体誰に何を謝ればいいと言うんだ?あの尻の青い若造共を戦場に駆り立てたのは他ならぬ大衆自身じゃないか。
それを今さら私の責任にするのかね?大衆も上層部の連中と変わらんな。この国には救いがたい阿呆しかいないのか。」

旅団長が吐き捨てるようにそう言うと、少将は眉を顰めてたしなめた。

「ハウスマン、それは言ってはならん事だ。大衆が愚かなのは今に始まったことではない。それを守り導くのが、我ら軍人の務めというものだよ。」

「ご立派な理想だな。私はとうにあきらめたよ。広場で罵声を浴びせてくるような物分かりの悪い連中ばかりでは理想など抱いたところで無駄だ。」



957 :名も無き戦士の帰還 [sage]:2011/12/19(月) 12:28:36.35 ID:9UviRye00

旅団長のそっけない返答に少将はやれやれと肩を竦めて、ふと何か思い出したように口を開いた。

「そういえばハウスマン、相談したい事とは一体なんなのだ?さっきから愚痴ばかりで肝心のその話をまだ聞いていないぞ。」

「ああ、そういえば忘れていたよ。バストーク、貴様は国軍再編の噂を聞いたことがあるか?」

「いや、ないが。一体なんだそれは?」

「聞いたとおり、我らギムリアース国軍を再編するという噂だ。あの新女王ならやりかねないと、今若手の将校たちの間で話題になっている。」

「ほほう。女王陛下は遂に武官の任命権だけでなく、軍の内情にまで手を付ける気になったか。」

「他人事ではないぞ。確かな筋からの情報によれば、女王は国軍を縮小する腹だそうだ。」

「その確かな筋とは貴様のお父上のことかね?」

「……よく分かったな。」

「当たり前だ。女王の動向を知るなど、ごく一部の大貴族にのみ許された特権。しかも女王の新政策の内容まで知っているとなれば貴様の親父殿くらいだろう。ハウスマン宰相閣下なら、アンセイナス陛下の政策に口を出せるしな。」

「その話は今は置いてだ、女王は軍備を縮小するというんだぞ。信じがたい話だと思わないか?」




958 :名も無き戦士の帰還 [sage]:2011/12/19(月) 12:33:11.93 ID:9UviRye00

「レヌリア帝国との武力衝突を予想しているなら、確かに正気の沙汰ではないだろうな。」

「貴様もそう思うだろう。まったく、小娘風情が軍の内情に口を出すなど、言語道断なことだ。
小娘は小娘らしく王宮に閉じこもって夜会のドレス選びに精を出せばよいものを。」

「王に対する不敬は裁判なしでの死罪だぞ。俺は貴様を剣の錆にはしたくない。それにハウスマン、
貴様と女王陛下は同い年ではないか。」少将は呆れたように目をぐるりと回して嘆息した。

「なあ、貴様は女王陛下を非難しているが、そもそも王の政治方針を知っているのか?」

「いや、詳しくは知らん。」

「…ま、左遷されていた身では知らぬのは仕方がないか。」

「もったいぶるな。どういう政治姿勢なのか教えろ。」

「女王陛下は周辺諸国全てとの融和を目指しておられる。」

「おいおい、私はいよいよ女王の正気を疑いたくなってきたぞ。周辺国全てとの融和だと?
もしやと思うが、その中にはレヌリアも含まれているのか。」

「当然だ。そもそもレヌリア帝国との敵対関係を解消するために打ち出された政策だからな。」


959 :名も無き戦士の帰還 [sage]:2011/12/19(月) 12:35:14.69 ID:9UviRye00

「………貴様はそれを許容するつもりか、バストーク。」

「…それが女王の意向だと言うのなら、俺個人の感情など重要ではない。我が身の全ては王の為にある。
例え相手が恨み重なる怨敵であろうと、手を結べと言われればそれに従うまでだ。」

「私は女王のその政策には賛成できないな。レヌリアの奴輩は我らギムリアースの民にとっては不倶戴天の敵だ。
そんな連中と付き合うくらいなら私は自害する方を選ぶ。」

「ハウスマン、これは女王陛下ご自身が決定された政治方針だ。逆らうことは許されない。
それにあの方は今までの歴代の王とはどこか違う。俺はこの国の未来をあの方に託すつもりだ。」

「貴様は随分と女王に心酔しているようだが、私はどうあっても賛成できない。
バストークよ、貴様は私か女王か、どちらの味方をするんだ?」

「その問いは前提からして間違っているぞ。そもそも陛下と貴様とでは同じ天秤に掛けられるものではない。
故に俺はどちらの味方でもない。貴様こそ、幼少の頃は女王陛下と机を並べて学んだ仲だろうに何故それほど陛下を嫌うのだ。」

こういうときの彼は絶対に中立の立場を貫く。公明正大をなにより重んじる彼の態度は自分がいつも評価する所であるのだが、
今のような場合、同僚のこの態度は甚だしく不愉快だった。



960 :名も無き戦士の帰還 [sage]:2011/12/19(月) 12:37:04.43 ID:9UviRye00

「もういい。貴様に相談した私が馬鹿だった。よく考えれば、私が左遷されている間にまんまと少将のポストに収まった貴様が、
女王に反感を抱く筈がなかったな。」

「………どういう意味だ。」静かだが、確かに怒りを覚えているらしいことは口調の鋭さで分かった。

彼は自分と同じくプライド高い。

エリートの誉れ高い首都の士官学校を主席と次席で卒業したのだから当たり前だが。

彼とは長い付き合いだ。どこをどう突けば彼が怒るかは熟知している。そして旅団長はいつになく好戦的になっていた。

「だいたい貴様は公明正大などと御託をぬかしているが、その実、失敗を恐れているだけの臆病者に過ぎん。そんな男が少将とは笑わせる。」

「士官学校一の秀才も落ちたものだ。この一年で心の底まで腐りきったか。
ならば俺は友としてその腐った根性に活を入れてやらねばならんな。」

バストーク少将は椅子を蹴り飛ばすような勢いで立ち上がり、怒気も露わに旅団長に迫った。






961 :名も無き戦士の帰還 [sage]:2011/12/19(月) 12:38:21.20 ID:9UviRye00

身の丈が六フィート四インチ(約百九十センチ)を超えるバストーク少将が傍によると、
身長五フィート八インチ(約百七十センチ)の旅団長はかなり小さく見える。

「本当のことを言われて怒るのは万人に共通のようだな。その自慢の巨躯で私を殴り飛ばすのか?」

警戒してそう訪ねた旅団長を、少将は侮蔑の目で見た。

「いや、今の貴様にはその価値すら無い。女王に従うことを何故それほど嫌がる?」

「…お前に言っても分かるまい。下級貴族出のお前にはな。」

「……そうか」少将はフンと鼻で笑うと旅団長に一歩近づいた。




962 :名も無き戦士の帰還 [sage]:2011/12/19(月) 12:40:03.52 ID:9UviRye00

「貴様が義勇兵旅団を任されたのは、女王の口添えがあったからだ。それを知らないわけではあるまい。
准将の身で一個の旅団の長となるなど、他の理由では不可能だ。」

「それは分かっている。が、私は女王に従うつもりはない。バストーク、どうしてお前はそこまで己を偽る?」

「単純な事よ。国家に対して忠誠を誓うとは己を[ピーーー]と言うことだからだ。貴様はそんな覚悟もなく軍に入ったのか?」

また一歩少将は彼に近づいた。

「だがそれは人の生き様とは言えない!それh」

旅団長は何か言いかけたが、少将の大声に掻き消された。

「准将、いい加減に軍人としての覚悟を決めろ!!」

最後の言葉を言い終わるか終らないうちにバストーク少将自慢の脚蹴りがハウスマン准将の顔面を捉えていた。


963 :名も無き戦士の帰還 [sage]:2011/12/19(月) 12:40:54.85 ID:9UviRye00

痛む頬をさすりながら宿舎の廊下を歩いていた旅団長は、とある若い士官に呼び止められた。

聞けば総統が自分を呼んでいるという。

左遷が明けたばかりの自分を呼ぶとは、一体いかなる理由によるものだろう。父が何か手を回してくれたのだろうか?

考えても仕方無い。会ってみれば分かるだろう。

准将は顔から表情を消すと、深呼吸を幾度か繰り返し、被っている軍帽を直してから扉をノックした。

964 :名も無き戦士の帰還 [sage]:2011/12/19(月) 12:42:31.27 ID:9UviRye00

「入り給え。」

思っていたよりすぐに帰ってきた返事に戸惑いながら、ドアノブに手をかける。

「ハウスマン准将、入ります。」そう言って部屋へと足を踏み入れた。

中には初老の男性が、豪奢にしつらえられた椅子に座って煙草を燻らせていた。

内装の豪華さの割に、彼自身の服装は簡素なものだ。

通常の将官の軍服となんら変わりない。

彼の名はベルクト・ファーレン・ギムリアース。ギムリアース国軍の最高司令官である。

姓が示す通り、彼はギムリアースの王家に連なる人物で現国王アンセイナスの大叔父に当たる。

昔から伝統として、王太子以外の王子は軍へ入ることが義務付けられている。

ベルクト親王の名で知られている彼もその例に洩れず先々代の国王の第二王子だった。

「一人で来たのか、ご苦労。」彼は旅団長の方に向き直ってそう言った。

どうして分かったのかと訝かったが黙っておいた方が賢明だろう。

総統の顔を間近で見るのは初めてではないが、やはり見慣れるということがない。

長年の間戦場を駆け回ってきた結果、顔にはいくつも戦場で付けられた生傷が残り、本来の年齢よりやや老けて見える。

ただ、その表情には他の追随を許さない威厳が備わっていた。

「いやぁ、今日は特に冷えるな。外は寒かったろう。」

「はぁ」

「何か飲むかね?ちょいとばかりきついが良いウォトカが有るぞ。身体が温まる。」

総統は豪華な戸棚からこれまた値の張りそうな酒瓶を取り出してきた。

「いえ、仕事中ですので結構です。」

「そうか。なら私一人で勝手にやらせてもらおう。」そう言って総統は遠慮無く一杯やり始めた。

いいから早く用件を言えよと内心いらいらしたが、無論、総統に向かってそんな事を言えるはずもなく、旅団長はただ黙って俯いているほか無い。

「私が何故君を呼んだか分かるかね?」と、総統は唐突にそんなことを言い出した。


965 :名も無き戦士の帰還 [sage]:2011/12/19(月) 12:44:00.06 ID:9UviRye00

虚を突かれた旅団長は、何も答えられなかった。

黙りこんでしまった旅団長を愉快そうに見ると、総統は椅子から立ち上がって旅団長の方に近寄ってきた。

「ハウスマン准将、実は君を見込んで一つやって欲しいことがあるのだ。」

「小官にできることでしたらなんなりと。」

真面目腐った返答に総統は微笑を浮かべ、旅団長の耳元に酒臭い口を寄せて、こう囁いた。

「アンセイナス女王を、殺せ。」



966 :名も無き戦士の帰還 [sage]:2011/12/19(月) 12:48:29.35 ID:9UviRye00
これにて投下終了です。えらい長文になってもうた(′ ・ω・`)
一応補足ギムリアースのお話を読んでいない人用です


〜義勇軍創設から壊滅までの略歴〜
当時、レヌリアに敗れ軍隊の体を為していなかった正規軍の機能を補うため、民間から有志を募る形で義勇軍が結成された。
元々の義勇軍の役割は国内の治安を維持することだったが、軍内部の過激派は正規軍を再編するまで
これをレヌリア帝国軍に対する時間稼ぎに使うことを思いついた。
『強く正統なギムリアースを我々の手で取り戻す』の謳い文句に、現状に大きな不満を抱いていた多くの若者が先を争って入隊した。
敗戦の屈辱感と現状への閉塞感が、ギムリアース機工王国の将来を支える前途有望な若者達を無謀な冒険に駆り立ててしまったのだ。
結果、一万人もの若者たちが故郷からはるか遠方の雪原で犠牲となり、二度と再び祖国の土を踏むことはなかった。

967 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/19(月) 21:22:39.84 ID:RYaVIHoI0
少し見ないあいだに二作も投下されてるじゃないですか!

>>943
乙です

まさかこういう決着になるとは思わなかった
でもやっぱ妹ちゃんとは、どんな理由があろうとも闘えませんよねーww
カタルシスのない後味の悪い終わり方だったけど
たまにはこういうのも悪くない、かな?

けれど最後まで闘わせないとしようとしたあなたの優しさは素晴らしいと思いましたよ
改めて、長いあいだおつかれさまでした!次回作も楽しみにしています!
968 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/19(月) 21:41:45.21 ID:RYaVIHoI0
>>966
乙です!

淡々とした文体から登場人物の感情が浮き上がってくるようでした
また、旅団長と将校の会話はハラハラしながら読みました
設定も詳しく作りこまれていて、いいですね

女王暗殺計画にポリスの思惑――続きがとても気になります!
969 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage saga]:2011/12/19(月) 22:01:52.92 ID:zv310ouZ0
乙です
次スレ立ててもよろしいですか?
後、いつものようにまとめておきました。
http://www14.atwiki.jp/vipperld/pages/88.html
http://www14.atwiki.jp/vipperld/pages/97.html
970 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/19(月) 22:26:04.00 ID:5Tl6nkhG0
テンプレはどうするん?
出来れば広めるためage推奨で行きたいところ
971 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/19(月) 22:51:35.44 ID:1wWVs/yq0
投下乙でした
剣呑な雰囲気になってきたなあ
なにかこうスペースオペラ的なノリを感じました

自分の作品の時代はじゃあ特に決めないということで
妹と撃ち合った所で幸せになんてなれないしバッドでもハッピーに終わらせるのがまあ妥協点だったというか
972 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [age]:2011/12/22(木) 21:49:18.27 ID:6FasOBl70
どうにも筆が進まないんだぜ。
それはそうと、次スレどうするかそろそろ議論した方が良くないか?
973 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage saga]:2011/12/23(金) 09:32:51.28 ID:Ow3AcXDJ0
テンプレは一応http://www14.atwiki.jp/vipperld/の改変で用意してあるんですけどね。
974 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/24(土) 00:42:34.10 ID:5Qcno13k0
>>973
gjと言わざるを得ない。
975 :magic & alchemy [saga]:2011/12/24(土) 23:02:35.82 ID:Cc8c8vGR0
スレも残り少ないのに空気を読まずに投下
未来?近未来?の設定
まだ信仰などの設定がなかったので勝手に作中に入れてしまっています、要検討。
では
976 :magic & alchemy 「序章」 [saga]:2011/12/24(土) 23:03:15.05 ID:Cc8c8vGR0
【Forest Dillphirius】
『聖木』に向かって祈りを捧げる一人の老いたエルフと、その後ろで彼を見守る若いエルフがいた。

老エルフは、何事かぶつぶつと呟いた後、手を組んで空を見上げた。
若いエルフは、微動だにしない。

しばらく空を見上げていた老エルフは、その後再び聖木に向き直り一礼した後、
顔を歪めて若いエルフの方を向いた。

若いエルフは尋ねる。

「どうした、『星読み』?気分が優れないようだが?」

対し、星読みと呼ばれた老エルフは答える。

「報告でございます、『長』。我らが先祖は告げております。もうじきこの森に、かつてない災いが降りかかると」

老エルフはさらに続ける。

「たくさんの我らの同胞が傷つき、死んでいきます。敵は火を吐く鉄の龍に乗り、筒を持ってやってきます」

老エルフは一旦間を置き、そして述べる。

「これは警告です、『長』。我々は今まで以上に、行動に気を付けるべきです」

若いエルフは報告を聞き、しばらく沈黙した後、こう返答した。

「…………分かった。ご苦労だった、『星読み』」
977 :magic & alchemy 「序章」 [saga]:2011/12/24(土) 23:04:02.27 ID:Cc8c8vGR0

そして二人は、居住区へと戻って行く。

「……」

(今までにない不吉な予言だ……。何事もなければよいが……)

「『長』」

「何だ?」

「我らは一体……どうなるのでしょうか?」

「案ずるな、『星読み』。誰一人として、死なせはせん」








――――彼らの頭上には星が瞬いている。これから起こる悲劇など、まるで知らないかのように。
978 :magic & alchemy 「序章」 [saga]:2011/12/24(土) 23:04:36.59 ID:Cc8c8vGR0
作中用語解説
・聖木……かつて「ディルフィリウス」が先導者の宣誓を発動したのち、倒れたとされる地に
     生えている巨木。彼らエルフはこの木を信仰対象として祀るとともに、死んだ仲間を埋葬する
     共同墓地としても使用している。それ故、聖木には先祖の魂が宿ると言われ、この木になった実を
     食することで、先祖の力が身に宿るとされる。
・星読み……エルフの伝統的な職業?聖木に祈りを捧げた後、空を見上げることで、先祖の力を借り、星から未来を知るという

投下終り
979 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage saga]:2011/12/24(土) 23:39:26.99 ID:kbcmdT8C0
短編ですか?
あと次スレ立てちゃいますね。
980 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/25(日) 00:03:48.41 ID:4rZllaVk0
立てたら誘導お願いします

>>978
新しいシリーズ始めるんですね、期待してます
981 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/25(日) 00:35:45.81 ID:69jbG3O60
次スレ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1324740401/

小説
http://www14.atwiki.jp/vipperld/pages/111.html

設定
http://www14.atwiki.jp/vipperld/pages/19.html#id_ea7ad21c

とりあえずやっつけですが。
982 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 00:43:59.92 ID:gMQXmSXso
>>981
983 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 16:58:52.57 ID:6WlCRx1L0
乙です
984 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/26(月) 01:12:30.17 ID:m8hztq3y0
うめ
985 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/26(月) 01:36:37.11 ID:3Wgct2bQo
埋め
986 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/26(月) 02:36:02.22 ID:m8hztq3y0
うめ
987 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/26(月) 02:37:09.76 ID:8KT/a8Klo
うめ
988 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/26(月) 03:07:13.84 ID:m8hztq3y0
うめ
989 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/26(月) 04:26:35.06 ID:m8hztq3y0
うめ
990 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/26(月) 20:16:59.63 ID:le7L0B8N0
991 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/26(月) 20:22:26.97 ID:3Wgct2bQo
9
992 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/26(月) 20:30:06.60 ID:m8hztq3y0
9
993 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/26(月) 20:30:25.29 ID:8KT/a8Klo
うめ
994 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/26(月) 21:36:30.62 ID:le7L0B8N0
umeeee!
995 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/27(火) 08:33:46.79 ID:qDZadQ+/0
ume
996 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/27(火) 13:49:55.91 ID:qDZadQ+/0
ume
997 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/27(火) 13:52:17.08 ID:qDZadQ+/0
umre
998 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/27(火) 13:59:33.47 ID:qDZadQ+/0
umr
999 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/27(火) 14:03:46.83 ID:qDZadQ+/0
umre
1000 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/27(火) 14:34:48.79 ID:qDZadQ+/0
uma
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  、 ァ .つ | 十    |///| { ,,;;;;i :: |.|ii ii、 i  !    i  i
  ┐用 .う  .レ.cト、   |シ从|.|,,,;;;" ̄~"|.|.ii ヾ、、 ヽ    i  i|
  ~ー‐ 、、    、、  |//i、.|| ii!' ,,, -‐.|.| 乂 \  \   i
  ┼ __  -|―|‐    |i i.i|. r| li!く  ゚ |ト /  i;; \  \  i
  ノ 、__   !_    | ii ||/"| l!`ミニ=ニ||'  /;;;;;: \  `、、_
              { |、{{..(| ll! i!;;;;;;; /|  '、:::...:  \  `ー-
   |-    /       | i!|1ト、|lili! !;;;;;;;/ .!  ii|il= il!   .` ー
  .cト、   /⌒し    |!i从/i∧i! i::::    ili!'__iI!--―'' ナ`-ト
          、、   |/いi|l!∧ ::  ー'''''二 ==--一"ヲ/  ||
    O  -|―|‐    .|./i i i|/∧ : :: ヾ-'"        / ;;;::リ'
         !_       | .|/i i!!リi ヽ:: :: ::|li、´ ̄ ̄ ̄ ̄ン ;;;: /
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村長「感謝しますぞ、勇者様」 勇者「どうってことないですよ」 @ 2011/12/27(火) 12:25:46.88 ID:k5Vlb2dG0
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東方幻想来 @ 2011/12/27(火) 10:09:11.63 ID:hZVpR61V0
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【風子】エロうるさくてもインフルエンザには注意だよ 8 @ 2011/12/27(火) 09:20:24.17 ID:Wsh/ry9ko
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姉(テレパシーが使えるのよ………) @ 2011/12/27(火) 06:05:14.86 ID:/zPF5x330
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【ギャルゲ】初心者◆Z62ETnTQwwの成長を見守るスレ【シナリオ】 @ 2011/12/27(火) 04:27:13.47 ID:4HDIWIqpo
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