このスレッドはSS速報VIPの過去ログ倉庫に格納されています。もう書き込みできません。。
もし、このスレッドをネット上以外の媒体で転載や引用をされる場合は管理人までご一報ください。
またネット上での引用掲載、またはまとめサイトなどでの紹介をされる際はこのページへのリンクを必ず掲載してください。

新・学園都市第二世代物語 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

1 :LX :2011/07/10(日) 01:47:20.51 ID:Zt+dW98A0
皆様こんばんは。

前作最終投稿後、ずいぶんと間があきましたが、「新・学園都市第二世代物語」を投稿させて頂きます。



*人間関係の基本ラインは、前作「学園都市第二世代物語」を踏襲しています。

「学園都市第二世代物語」 http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1289/12891/1289131383.html

同(まとめwiki)   http://www35.atwiki.jp/seisoku-index/pages/927.html

 今回も主人公は第二世代ですので、オリキャラであります。前作のオリキャラも登場するほか、新たに
 追加されます。

*時系列は、前作より少し前の時点からスタートします。

*書いていて、前作の間違い等が見つかってますので、wikiに収録されている前作を今更ですが修正する
 場合があります。

*エロは殆どありません。そういうのは別の機会に(笑)というか私に書けるのでしょうか?

*バトルは前作でバレております通り、才能がないので巧く書けませんのであっさり目です。

*前作同様、地の文ありです。 
 主人公が語る形式も同じで、場面によっては第三者的記述も出ますし、他の登場人物の語りになる
 ところもあります。


それでは、どうぞ宜しくお願い申し上げます。
【 このスレッドはHTML化(過去ログ化)されています 】

ごめんなさい、このSS速報VIP板のスレッドは1000に到達したか、若しくは著しい過疎のため、お役を果たし過去ログ倉庫へご隠居されました。
このスレッドを閲覧することはできますが書き込むことはできませんです。
もし、探しているスレッドがパートスレッドの場合は次スレが建ってるかもしれないですよ。

いろは「先輩、カフェがありますよ」【俺ガイル】 @ 2024/04/16(火) 23:54:11.88 ID:aOh6YfjJ0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713279251/

【MHW】古代樹の森で人間を拾ったんだが【SS】 @ 2024/04/16(火) 23:28:13.15 ID:dNS54ToO0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713277692/

こんな恋愛がしたい  安部菜々編 @ 2024/04/15(月) 21:12:49.25 ID:HdnryJIo0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713183168/

【安価・コンマ】力と魔法の支配する世界で【ファンタジー】Part2 @ 2024/04/14(日) 19:38:35.87 ID:kch9tJed0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713091115/

アテム「実践レベルのデッキ?」 @ 2024/04/14(日) 19:11:43.81 ID:Ix0pR4FB0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713089503/

エルヴィン「ボーナスを支給する!」 @ 2024/04/14(日) 11:41:07.59 ID:o/ZidldvO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713062467/

さくらみこ「インターネッツのピクルス百科辞典で」大空スバル「ピクシブだろ」 @ 2024/04/13(土) 20:47:58.38 ID:5L1jDbEvo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713008877/

暇人の集い @ 2024/04/12(金) 14:35:10.76 ID:lRf80QOL0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1712900110/

2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/10(日) 01:50:51.24 ID:LDnN+CUv0
スレ立て乙
ずっと待ってた
3 :LX [saga sage]:2011/07/10(日) 01:51:06.48 ID:Zt+dW98A0


「あぁ、ちょっと?……ミサカくん、いいかな?」


ある日の学園都市。



御坂妹こと検体番号10032号を、冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>ことカエル顔の医師が呼び止めた。



「はい、なんでしょうか?」

「念のため確認させて欲しいんだが、君は10032号のミサカくん、で間違いないね?」

「はい。このミサカは検体番号10032号のミサカですが」

「ちょっと君と話したいことがあるんだがね。今、いいかな?」

「長くならないのでしたら、問題ありません。大丈夫です」

「そうかい? じゃぁ、ここではなんだから、すまないがボクの部屋に来てくれるかな?」

「はい」



カエル顔の医師は先に歩いて行き、自分の個室に彼女を招き入れた。

「そこに座ってくれるかな? 楽にしてもらってかまわないよ」

「……」

黙ったまま、検体番号10032号がソファに腰を下ろす。

「これから、ぼくは君にいくつかの質問をするので、正直に答えて欲しいんだが、いいかな?」

「はい……」

「それでね、まず最初に言っておくとだね、まず君はミサカネットワークから一時的に外れた方が良いと思うんだがね。

というのは、これからの質問その他の話は、君個人に関することなのでね、どうだろう、いいかな?」

「何が起きるのでしょうか?」

「心配することはないよ。ただ、全てのミサカくんに君のことを全部教えてしまう必要はないとボクは考えているんだが?」

「……わかりました」
4 :LX [saga sage]:2011/07/10(日) 01:52:41.72 ID:Zt+dW98A0

*検体番号20001号<ラストオーダー>

「あれ? ホントに10032号が回線切っちゃったってミサカはミサカは驚いてみる。……10039号か13577号、19090号、何か聞いてる?」

*検体番号10039号

「現在、10032号は健康診断の結果報告を受けているはずですが?」

*検体番号13577号

「同じく」

*検体番号19090号

「ミサカは今日は休日ですので、街をショッピング中ですが何か?」

*検体番号20001号<ラストオーダー>

「あああーん、もう! 全然あなたたちは10032号を心配していないのねーって、ミサカはミサカは叫んでみる!!」





冥土帰し<ヘブンキャンセラー>と異名を取るカエル顔の医者は何とも言えない顔で話を始めた。



「最近の生活状態はどうかな?」

「……昼間ですが、眠気が襲ってくることが、少しあります」

「ふむ……睡眠はきちんと取っているはずだね?」

「はい……何か異常があるのでしょうか?」

「はは、まだ1つ目の質問だからね。まだわからないよ? ……身体がだるくはないかな?」

「はい。最近そう感じることがときどきあります。風邪かと思いましたが、熱はありません」

「おなかが痛いことはないかな?」

「……全くなかったかとは言えません。覚えていません。

ですが、そういうことがあったとしても、ミサカは暴飲暴食をしていませんので、問題はないと考えています」

「むう……」

カエル顔の医者が(そうか)という感じで小さくうなった。
5 :LX [saga sage]:2011/07/10(日) 01:54:29.11 ID:Zt+dW98A0

再び彼の質問が始まった。



「少し微妙なことを聞くけれど、それは生理のときと同じかな?」

「それは……、かなり不躾な質問ではないかと思いますが?」

「いや、ミサカくん、気を悪くしないでくれるかな? これは医者としてのぼくの質問だから」

「……はい。わかりました。よく似ています」

「すまないね。答えにくい質問に答えてくれてありがとう。気分はどうだい?」

「特に問題はありません。ミサカは平常状態にあります」



今度は少し間を置いて、カエル顔の医者は再び質問を続けた。

「不躾ついでにもう一つ聞くけれど、生理はちゃんと来ているかい?」

そう言うと、彼はまっすぐに、御坂妹こと検体番号10032号の目を見た。



「……それは、若い女性であるミサカに面と向かって聞く事でしょうか?」

彼の視線をものともせずに、彼女は彼の目を見返した。

「ただの男性であれば、もちろんセクハラだろうね。

この質問は、君の健康管理を担当する医者としての、仕事上からの質問であり、君は応える義務がある。いいかな? 

もう一度聞くけれど……」



「遅れています」

はっきりと、彼女は言い切った。
6 :LX [saga sage]:2011/07/10(日) 01:56:18.74 ID:Zt+dW98A0

冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>の質問が続く。

「それは、本来あるべき日にちから数えてどれくらいかな?」

いつしか彼の声は小さくなり、ヒソヒソ声になっていた。



「今日で……2週間と2日遅れています」

少し間をおいて答えた彼女の声も、いつしか彼の低い小さな声に合わせるかのように小声になっていた。



「最近、吐き気を感じたりすることはないかな?」

「それは少し前にありましたが、ここ3日間はありません」



「……ありがとう。質問はこれで終わりだよ。それで、ちょっとこっちに来て、このデータを見てごらん?」

そう言うと、彼は自分のPCにデータチップを差し込んだ。



検体番号10032号が立ち上がり、彼のPCのモニターを見つめる。

「これがなんだかわかるかな?」

「……超音波診断結果、でしょうか?」

「はは、さすがだね、その通りだよ。今回、今までになかったチェック項目があったことには気が付いているね?」

優しい目で彼は検体番号10032号を見る。

「はい。最後の検査ですね?」

「そうだよ? ……それで、答えを言うとだ」
7 :LX [saga sage]:2011/07/10(日) 01:58:02.68 ID:Zt+dW98A0

一旦区切って、かれは言葉を続けた。

「これは『胎のう』だよ」

「たいのう、ですか?」

「そうだ。……ミサカくん、君の状態を世間では何というか知っているかい?」

「……?」

不思議そうな顔の検体番号10032号に、冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>は優しい声で告げた。



「尿検査の結果に、予想だにしなかった事が見つかったので、念のため超音波診断を追加したんだけれどね。



……君は、妊娠している。



まずは、おめでとう」



「……妊娠?」

まるで自分の事ではないかのような感じで、御坂妹こと、検体番号10032号がつぶやいた。



「君に、赤ちゃんが出来たんだよ」

「………えっ!?」
8 :LX [saga sage]:2011/07/10(日) 02:01:20.21 ID:Zt+dW98A0


にんしん?

妊娠。

みごもること。



赤ちゃんが出来た。

あかちゃん。

新しい、いのち。



……私に?

……この、単価18万円の、クローンの私に?



……私に、この、おなかの中に、新しい、命が、宿った?

……この中に、私とは違う、新しい、命が、いるの?



……私自身が、新たな命を、この世に、産み出すの? 培養器も、薬も、何もなしで?

……そんな、ことが、出来るのだろうか?

……そんなことが、私に、許されるのだろうか?



クローンの私が、新しい命を……



御坂妹こと検体番号10032号は、じっと自分のおなかを見つめたまま、微動だにしなかった。
9 :LX [saga sage]:2011/07/10(日) 02:07:43.48 ID:Zt+dW98A0
>>1です。

短いですが、本日投稿は以上です。すみません。

えー、「完成させてから投稿します」と前作最後で言い切っておりましたが、
出来上がっておりません(書きためはもう少し持っています)。
なお、ラストシーンだけ出来上がっています。


いつまでたっても先に進まないので、業を煮やしてプレッシャーを課す意味で
投稿を開始致しました。
ご迷惑をおかけしますが、宜しくお願い申し上げます。

>>2さま
早いです。どうも有り難うございます。頑張ります。

それでは、お先に失礼致します。
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/10(日) 02:10:07.07 ID:LDnN+CUv0
1乙
次回も楽しみにしています
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/07/10(日) 09:20:12.59 ID:USX44WqAO

待ってました
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/10(日) 09:40:25.62 ID:5tbIs2480
待ってました
御坂妹が妊娠・・・相手は誰だろう、続き期待してます
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/10(日) 12:53:09.60 ID:7PU5lVn6o
乙乙
舞ってて良かった
14 :LX [saga ]:2011/07/10(日) 20:08:31.13 ID:fFR+B6no0
皆様こんばんは。
>>1です。

コメント有り難うございます。

>>2&>>10さま、>>11>>13さま、
お待ち頂きまして有り難うございます。頑張ります。

>>12さま
今回はすぐバレちゃいますが、がっかりしないで下さいね。

それでは、これより本日分、今度も短いですが投稿致します。
15 :LX [saga sage]:2011/07/10(日) 20:10:31.61 ID:fFR+B6no0


月日は流れ………



「すみません、わざわざお越し頂きまして」

「いえ、とんでもございません。うちの子が何か……?」



ここは東京のとある小学校。

職員室に一人の「母親」が呼ばれていた。



「いやいや、ご心配するような事ではありませんから。成績も良いですし、体育もまずまずというところ、問題はありません」

「ありがとうございます」

「いやいや、ご家庭の教育方針が宜しいからでしょう。お母様を始め、いろいろと御苦労されていると伺ったことがありますので」



「お母様」のところで「母親」の顔がわずかに動いたようだったが、注意深く見ていない限りわからない程度のものであった。

「ところでどうでしょうか、最近はご両親はこちらに?」

今度は「母親」の顔が明らかに曇った。

「はぁ、忙しいのでしょうか、ちょっとここしばらく戻ってきておりません。それが何か?」

「実はですね、先日の作文の時間にですね、書かれたものがこれなんですが……」

それまでのにこやかな顔が、少し難しい表情になった担任の先生が彼女に作文用紙を渡す。



読み始めた「母親」の顔がみるみる厳しいものになった。
16 :LX [saga sage]:2011/07/10(日) 20:14:03.42 ID:fFR+B6no0


「……ありがとうございます。あの子がこんな事を考えているなんて……」

「叱らないで下さいね。叱ったら彼は心を閉ざしてしまいますから。くれぐれも宜しくお願いします。

……今回お越し頂きましたのは、まぁ、ご家庭の事に口を挟むのはどうかとは思いましたが、一応お伝えした方が良いかと思いましてね。

繰り返しますが、彼はクラスの中では人気者です。女子からの受けも良い方です。

低学年の頃はいじめられた事もあったようですが、今では全くそういうことはありません。

私も気をつけてみていますが、そういう傾向は幸いありません。

なので、私もこの作文をみて、ちょっと驚いてしまったくらいでして」

「有り難うございます。ちょっと家で相談してみます」

「母親」が頭を深々と下げる。



「そうですね、そろそろ難しい時期にさしかかりますしね。……そして、実はもう一つありまして」

「はい……」



今度は何だろうか、という少し不安そうな顔で担任の先生を見上げる「母親」に、担任の先生が小声で言う。

「ご家族はあの『学園都市』にいらっしゃるのですよね? であれば、転校されることも一つの手段になりませんか?

……先日、彼が理科の実験で超能力らしき力を使ったこと、もしかしてまだお聞きになっていらっしゃらない?」

「ええっ!!」
17 :LX [saga sage]:2011/07/10(日) 20:15:51.00 ID:fFR+B6no0


「カズ、今日は負けないからな!」

「ハハ、まぁがんばれよ」

「サトシュンは途中でぶん投げるからダメなんだよ」

「うるせーなー」



ぼくら三人は、放課後の校庭でひとしきり遊んだ後、いつものように連れだって佐藤くんの家にお邪魔すべく帰り道を歩いていた。

「サトシュン」というのは、佐藤俊介(さとう しゅんすけ)くん、もう一人は「メチャ」こと滝沢道彦(たきざわ みちひこ)くんだ。



「ただいまー、カズとメチャが来たよ〜」

インタホンにサトシュンが向かってしゃべる。

「ハイハイ、お帰りなさい」

サトシュンのお母さんの声が聞こえ、かすかにカチャという音がして、マンションのオートドアが開く。

「こんちわー」

どやどやとぼくらはエントランスになだれ込み、マンションの管理人のおじさんに挨拶する。

「お帰りなさい」

おじさんが挨拶を返してくる。

サトシュンの家は5階にある。

「お前、ボタン押すなよー? 閉じこめられるのは勘弁だからなー」

メチャがぼくに向かって少しまじめな顔で言う。

なぜかぼくがエレベーターのボタンを押した時に、二度トラブったことがあったからだ。

幸いに、乗る前だったので助かったけれど、もし乗ってからだったら大変なことになったと思う。
18 :LX [saga sage]:2011/07/10(日) 20:17:36.47 ID:fFR+B6no0


「わかってるよ」

「まぁ、俺のマンションだから俺がやるさ」

サトシュンがエレベーターのボタンを押すと、扉が開いた。

ぼくらはエレベーターで5階へ上がる。



「ただいま〜」

サトシュンが玄関に入る。

「お帰り。ちゃんと手、洗いなさいね?」

お母さんがチェックする。

「こんにちは〜!」

「お邪魔しま〜す」

ぼくらもサトシュンのお母さんに挨拶して中に入る。



「こんにちは。ようこそ」

お母さんがニッコリと笑って挨拶を返してくれる。やっぱりお母さんは、こういう感じで笑ってほしいよな……。

全員で手を洗ってから、ぼくらはサトシュンの部屋に入る。

カバンを放り投げ、メチャがコントローラを取る。サトシュンはモニターを立ち上げて準備OK。

「今日こそ負けないからなー」

「5分と持たないくせにw」

ワイワイ言いながらスタートしたところに、

「こんにちは」

サトシュンの妹が冷えた麦茶とおやつを持って部屋に入ってきた。
19 :LX [saga sage]:2011/07/10(日) 20:19:38.02 ID:fFR+B6no0

「ミサ、ありがと、適当に置いといて」

サトシュンが画面から目を離さずに答える。

「お兄ちゃん、ゲームは1時間だからって、お母さんが言ってたよ」

そう言いながら、ミサちゃんこと佐藤操(さとう みさお)がぼくをちらっと見た。

(やぁ、こんちわ)

視線があったので、そう言うつもりでぼくは少し口元を緩めて彼女を見た。

けれど、彼女はあわてて視線をゲーム画面に合わせた。あれ?なんだよ、挨拶したのにさ。



「うるさいなー、わかってるよ……あ!!」

サトシュンのプレイヤーが相手にのされてしまった。

「アハハハハ、情けねーなー、もう負けかよー」

メチャの容赦ない冷やかしが飛ぶ。

「おまえが余計なこと言うから負けちゃっただろー!!!!」

おいおい、妹に八つ当たりすんなよなー。

「あたしのせいじゃないも〜ん。お兄ちゃんのへたっぴー!」

ほらみろ、ミサちゃん、口をとがらせて、そう言い捨てて、出て行っちゃったじゃんか。



……彼女が引っ込んだあと、麦茶に手を伸ばしたメチャがニヤと笑ってぼくに言う。

「ミサちゃんって、カズのこと、すっげー意識してるよなー」

「えー? なんだよそれ」

予想もしないメチャの発言にぼくは面食らった。
20 :LX [saga sage]:2011/07/10(日) 20:22:45.42 ID:fFR+B6no0


「あー、やっぱそう思う? ……なんかあいつ、最近、露骨に態度が違ってきたなぁってさー、オレとこいつとでさ?」

サトシュンはコントローラを放り出して、おかきをボリボリとほおばりながら同意を示す。

「うん、今もカズだけ見てたもん。オレは眼中にないのかって、ちょっと腹立つな」

メチャが二の矢を放つ。

何言ってるんだ、オレと目があったらミサちゃん、そっぽ向いちゃったんだぞ?

全然わかってないぞ、メチャ?

「まぁなー、カズはもてるもんなー。妹情報だと、お前、お母さんたちからも人気あるって話だし」

なんだそれは。聞いたこと無いぞ、そんな話。

「そうそう。オレの母ちゃんも、クラス写真見て、お前のこと『かわいいわねー』って言ってたな」

やめてくれ。勘弁してくれ。ちっとも嬉しくない。

ぼくは男なんだぞ? 女の子じゃあるまいし、「可愛い」ってなんだよ? キモイよ。

「さ〜て、オレやるわ」

ぼくはコントローラを手に取った。





その瞬間。



ポンという音と共にコントローラーが煙を上げ、ゲーム画面がブツっと消えた。


「え?」
「あーっ!!」
「わっ!?」



「ちょっと、焦げ臭いわよ!! 何やってるの?」

サトシュンのお母さんが部屋に飛び込んで来た。
21 :LX [saga sage]:2011/07/10(日) 20:31:30.16 ID:fFR+B6no0
>>1です。

短くてすみません。本日分は以上のとおりです。

基本的に土日にそれぞれ5コマくらいを投稿しようと考えています。
これくらいならば、なんとか平日に纏めてしまえるだろうという魂胆からです。

前作では短くても15コマ、長い時は50コマくらいを一気に投稿してましたが、そのかわり不定期
投稿でした。まぁヤマ場毎、イベント毎でしたから、それはそれでよかったかもしれませんが。

これで早くも12コマ消費しました。
ストックはまだ50に届いていませんので、これではあっという間に追いついてしまいます。
頑張ります!

それでは早いですがお先に失礼します。
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/10(日) 21:37:10.40 ID:nO2KNTxFo
乙!次も楽しみにしてます!

「カズ」「かわいい」…さすがに特定はまだ無理だな
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/11(月) 02:07:21.30 ID:qztDNJ4DO
うおおお!きたか!>>1
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/07/11(月) 07:06:05.22 ID:SRcQMmKko
おお、好きなスレが。またゆるゆると楽しみたいな。
前スレラスト付近はちと急ぎすぎな感じがしたんでじっくり頼みたいぜー。
25 :LX [saga sage]:2011/07/11(月) 19:44:44.59 ID:GWMTf1KD0
皆様こんばんは。
>>1です。 投稿ではありませんのでsageのままで進行致します。

>>22さま 
コメント有り難うございます。おそらく次回で自己紹介をやってしまうかとw

>>23さま
お待たせ致しました。よろしくお願いします。

>>24さま
確かに、1000以内に納めたいがゆえ、最後は本当にはしょり気味でした。
じぶんで纏めてみまして「なんだこれは」と深く反省しております。



しかし、はやくも今度の土日でストック食いつぶしそうなので、非常に焦ってます。
原稿書きに行ってきま〜す。
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/11(月) 19:57:59.68 ID:ujAv2zVMo
しかし第二世代の方が読みやすい名前って…というか第一世代が読みにくいのか。
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/11(月) 20:41:52.13 ID:qztDNJ4DO
>>25
焦らずにゆっくり書き貯めてくださいね

前作はいまだに読んでるよ
利子の髪に云々で驚いたり、ラスト全開麦のんが格好良かったり
とにかく楽しみに待ってます
28 :LX [saga sage]:2011/07/12(火) 21:29:00.72 ID:XOIWWCEW0
皆様こんばんは。
>>1です。

とりあえず9コマほど昨日は書き上げました。なんとか2日分は先延ばしできたかとw
で、今現在、前に戻って1エピソードを飛び込ませようとしています。
これは今週末には順番が回ってくるので必死です(汗

>>26さま
原作の登場人物があのような名前になっているのは、同姓同名のひとが実在しないように
あえてトンデモ名にしてあるのではないかと思います。
しかし、心理掌握の名前、とりわけ名字にはぶっ飛びました(笑

>>27さま
拙作を今なおお読み頂き、どうも有り難うございます。感激です。
前作は結構あちこちに伏線を張れたのですが、今回はずっと単純になりそうで……
駄作にならぬよう気をつけたいです。


では、しこしこ作文に戻ります。コメント頂き有り難うございました。
29 :LX [saga]:2011/07/16(土) 19:07:22.82 ID:ZTc52Rp40
皆様こんばんは。
>>1です。

本日分、短いですがこれより投稿致します。
宜しくお願い致します。
30 :LX [saga sage]:2011/07/16(土) 19:09:09.84 ID:ZTc52Rp40



(あ〜あ、やっぱり書かなきゃよかった……)



今日は朝から憂鬱だった。

昨日、学校から帰るなり、おばちゃんに目一杯泣かれたからだった。

普段は明るく冗談も飛ばすおばちゃんが、ぼくが家に帰るなり、玄関でぼくにしがみついて

「ごめんなさい、一麻(かずま)くんがそんなこと考えてたなんて」

って涙ぼろぼろ流すんだもの……



正直、ぼくの本当のお母さんと同じくらい綺麗で、とても「おばあちゃん」には見えない(絶対に『おばあちゃん』と言ってはいけない)

おばちゃんを、ぼくは泣かせてしまった。

「男の子たるもの、女の子を泣かせちゃいけない」という、おとうさんの言葉を守っている(つもりの)ぼくは、

そういうわけで非常に困ってしまう立場になってしまったのだ。

事の起こりはというと、先週の作文の時間に「自分の思っていることを正直に書いて下さい」って先生が言うから、

本当に書いていいのかな?とぼくは悩みつつ、「自分の思っていること」を書いた。



お母さんは、どうして、ぼくを学園都市に呼んでくれないのかと。

お父さんは、ぼくが嫌いなんだろうかと。

ぼくは、お父さんとお母さんと、本当は一緒に暮らしたいって。



書いていて、お世話になっている美鈴おばちゃんに絶対怒られるだろうな……とは思っていた。



でも、まさか泣かれるとは思わなかった。

それに。
31 :LX [saga sage]:2011/07/16(土) 19:11:17.44 ID:ZTc52Rp40



……昨日、ぼくは、サトシュンのゲーム機を壊してしまった。幸いなことにモニターの方までは壊れなかったけれど。

(カズ、弁償した方がいいんじゃないか?)

(だよな、絶対、壊したのオレだもんな……)

(いいよ、気にすんなよー、オレのゲーム機だもん。使い方も乱暴だったしさ)

とサトシュンは言うけれど、その顔は逆の事を言っていた。

そのせいかどうかは知らないけれど、今日はサトシュンとは気まずい雰囲気で殆ど話もしていない。

家に帰ってくるのもぼく一人だった。

昨日のことがあったからだろうけれど、ちょっと寂しい。



      ――― ピンポーン ―――



あれ? 誰か来た?

美鈴おばちゃんはさっき買い物に出かけたばっかりだよな。

誰だろう? 勧誘かな?

「は〜い! ちょっと待ってね〜」

よそのうちでは、玄関の鍵は電子ロックが普通なんだけれど、うちは昔ながらの二重サムターンと真鍮のチェーンだ。

ぼくは部屋を出て階段を下りて行く。

「は〜い!」



玄関のドアを開けると、そこに立っていたのは………



「おう! 一麻、元気そうだな?」
「こんにちは、一麻クン」



ぼくのお父さん、上条当麻(かみじょう とうま)と、

お母さんのお姉さんにあたるおばさん、美琴(みこと)おばちゃんだった。
32 :LX [saga sage]:2011/07/16(土) 19:18:04.29 ID:ZTc52Rp40

遅くなったけれど、自己紹介。

ぼくは、御坂一麻(みさか かずま)、東京都のとある小学校に通う、5年生だ。

お父さんは、先に言ったとおり、上条当麻(かみじょう とうま)、お母さんは御坂麻美(みさか あさみ)。

名字が違うのは、お母さんとお父さんは結婚しなかったからだ。いわゆるぼくは婚外子、というらしい。



お父さんのほんとの奥さんは美琴おばちゃんで、ぼくの2つ下になる女の子がいるそうだ。

その子はぼくとは「腹違いの妹」になるらしいけれど、ぼくの「妹」、と言ってもピンとこない。

おばちゃんが連れてきたことがないので、会ったことがないからかもしれない。

名前は……たしか、麻琴(まこと)と言っていたかな。

「まこと」って言うと、男の子の名前かと思うけれど、女の子でも使えるらしい。なんかヘンだけど。



ぼくが、ご飯を食べさせてもらってお世話になっているのは、母方の方のおばあちゃん、御坂美鈴(みさか みすず)おばちゃんと

たまに帰ってくる御坂旅掛(みさか たびかけ)おじ(い)ちゃんだ。

二人とも、おじちゃん、おばちゃんと呼んで欲しい、というのでそう呼んでいるんだけれど、でも本当はおじいちゃんとおばあちゃん

で、ぼくは孫にあたるんだから、本当はそう呼びたいんだけれど。



どういういきさつで、ぼくのお母さんとお父さんが結婚しなかったのかはぼくは教えてもらっていないのでよくわからない。

昔、お父さんに聞いたことがあるのだが、お父さんは苦笑いをしながら「一麻が大きくなったらちゃんと話すからな」

と言ったきり、いまだに教えてくれない。

小学5年生、もう11歳なんだから教えてくれてもいいんじゃないか、と思ってるんだけどさ。
33 :LX [saga sage]:2011/07/16(土) 19:22:40.57 ID:ZTc52Rp40

お母さんのことが出てこないのは、ぼくと一緒にいないからだ。



お母さんはあまり身体が強くないらしい。

ぼくを産む時も大変だったとお父さんから言われた。

ぼくは本当は弟が欲しかったのだけれど、前にお父さんにそう言ったら

「ごめんな、お母さんにはもう子供ができないんだよ。お母さんが悲しむからお母さんに言っちゃダメだぞ」

と、マジメな顔でお父さんが言うので、ぼくはお母さんには言わなかった。



お母さんはぼくを産んでしばらくは元気だったらしい。

お母さんが赤ん坊のぼくを抱いている写真がたくさんある。

順番に見ていくとわかるのだけれど、最初の頃のお母さんの顔は非常にぎこちない。

マジメな顔をしているものが殆どなのだけれど、だんだん顔つきが優しくなってきているのがはっきりとわかる。



ぼくが産まれ、退院してしばらくして、お母さんとぼくは最初はお父さんの実家、上条家に預けられたそうだ。

でも、ぼくらはその後、今度はお母さんの実家である御坂家に居候することになった。

お父さんから聞いた話だと、上条家には、ぼくらの後に、なんとかさんという親子が来たらしい。

なんとかさん、って名前は聞いたんだけれど、忘れちゃった。

美琴おばちゃんがよく知っているひとらしい。お父さんも知っているらしいけど。



そして、美琴おばちゃんの女の子、ぼくの「妹」の麻琴ちゃんも上条さんちにやっかいになっているらしい。

どうして、ぼくのお父さんは自分の子供たちと一緒に、家族で暮らさないのだろう?

貧乏だから、というわけではないし。

ぼくは……、まぁ、仕方ないことかもしれないけれどね。
34 :LX [saga sage]:2011/07/16(土) 19:27:19.75 ID:ZTc52Rp40

ぼくが3歳になったあたりからお母さんの具合が悪くなり始め、ぼくが4つの誕生日を迎えたあと、お母さんは学園都市に行ってしまった。

そこでは最先端の医療技術があるらしく、お母さんはそこで療養することになったのだ。

お母さんは泣いて悔しがった、とお父さんも美鈴おばちゃんも口を揃えて言う。

そのことは、ぼくもうっすらと覚えている。

お母さんは、ぼくをしっかりと抱きしめて、ボロボロと泣いていたような気がする。

お母さんとはそれっきり、一度も会っていない。



小さい頃、ぼくはお母さんに会いたくて、よくだだをこねたらしい。

今でも覚えているけれど、一度小学校2年生の時にぼくは家出をして、学園都市の入り口まで一人で行ったことがある。

エントランスでぼくは保護されて、お父さんと美琴おばちゃんが飛んできて、美鈴おばちゃん家まで「無事」送り届けられた。

結局、お母さんには会えずじまいだった。

お父さんには無茶苦茶に怒られて、ひっぱたかれたけれど、美鈴おばちゃんと美琴おばちゃんが泣いて謝ったので、

それっきりになったっけ……。



それからは、お母さんのお姉さん、美琴おばちゃんが何回かやって来た。

お母さんの声が入ったボイスレコーダーや手紙を持って。

おばちゃんとお母さんはうり二つ、らしい。双子と間違えられたこともあるとおばちゃんは笑って言う。

確かに似てるけれど、お母さんとは違う、と思う。

ぼくにはわかる。



それに。
35 :LX [saga sage]:2011/07/16(土) 19:28:30.16 ID:ZTc52Rp40

ぼくが3歳になったあたりからお母さんの具合が悪くなり始め、ぼくが4つの誕生日を迎えたあと、お母さんは学園都市に行ってしまった。

そこでは最先端の医療技術があるらしく、お母さんはそこで療養することになったのだ。



お母さんは泣いて悔しがった、とお父さんも美鈴おばちゃんも口を揃えて言う。

そのことは、ぼくもうっすらと覚えている。

お母さんは、ぼくをしっかりと抱きしめて、ボロボロと泣いていたような気がする。

お母さんとはそれっきり、一度も会っていない。



小さい頃、ぼくはお母さんに会いたくて、よくだだをこねたらしい。

今でも覚えているけれど、一度小学校2年生の時にぼくは家出をして、学園都市の入り口まで一人で行ったことがある。

エントランスでぼくは保護されて、お父さんと美琴おばちゃんが飛んできて、美鈴おばちゃん家まで「無事」送り届けられた。

結局、お母さんには会えずじまいだった。

お父さんには無茶苦茶に怒られて、ひっぱたかれたけれど、美鈴おばちゃんと美琴おばちゃんが泣いて謝ったので、

それっきりになったっけ……。



それからは、お母さんのお姉さん、美琴おばちゃんが何回かやって来た。

お母さんの声が入ったボイスレコーダーや手紙を持って。

おばちゃんとお母さんはうり二つ、らしい。双子と間違えられたこともあるとおばちゃんは笑って言う。

確かに似てるけれど、お母さんとは違う、と思う。

ぼくにはわかる。



それに。
36 :LX [saga sage]:2011/07/16(土) 19:39:23.65 ID:ZTc52Rp40

美琴おばちゃんがぼくを見る目がそのときによって違うんだ。

あるときはぼくを嫌っているようにも見えるし、愛情がこもっていて優しい時もあるし、正直よくわからない。

当然ながら、ぼくを見る目が厳しい時は「君子危うきに近寄らず」だ。

そう言う時は機嫌も悪いから、おばちゃんが来た時はまず、何よりもそのチェックが一番重要なことなんだ(最近ではまず百発百中だ)。



まぁ、自分の妹が、自分より先に子供を産んで、しかもその子のお父さんは自分の夫、というのは世の中ではあまり良くないことらしい。

でも、それはぼくのせいじゃないと思うんだけれどなぁ。

「子供は親を選べない」

この言葉、ぼくのことを言ってるんじゃないかと思うよ。



サトシュンにしゃべったら、後でおばさんからぼくだけ呼ばれて、

「カズくん、そういう話は他の人にしゃべっちゃダメよ」

って恐い顔で言われたし。

美鈴おばちゃんにも聞いてみたけれど、

「一麻くん、そういうことをよその人にペラペラしゃべるような男の子は、女の子にものすご〜く、嫌われるのよ? いいかな?」

と、珍しくニコリともせずに真顔で言われたのはすごく恐かった。

その時、ぼくはこの事を絶対言わないと固く心に決めた。



ちなみにおばあちゃん(美鈴さんはそう呼ばれるのを死ぬほどいやがるので、あくまでも美鈴おばさんが正解だ)にあたる

美鈴おばちゃんは、ぼくを非常に可愛がってくれている。

なぜなら、おばちゃんのところは全員女の子だったので、ぼくはおばちゃんとおじちゃんからすると、「待望の男の子だった」らしい。



ぼくは、この家が好きだ。めったに帰ってこない旅掛おじちゃんも、美鈴おばちゃんも大好きだ。

ぼくが「息子」に間違えられると、おじちゃんもそうだけれど、とりわけおばちゃんは嬉しそうに「実は孫なんですよ〜」と訂正する。

若く見られているのが嬉しいらしい。

でも、ぼくが「おばあちゃん」と呼ぶことは厳禁なんだ。絶対おかしいよ。そう思わない?

37 :LX [saga sage]:2011/07/16(土) 19:44:02.89 ID:ZTc52Rp40
>>1です。

拙作をお読み頂きましてどうも有り難うございます。
本日投稿分は以上です。

続きは明日にまた投稿致します。
それでは、お先に失礼致します。
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/16(土) 20:21:27.70 ID:6Kt9ZbjLo
今回も序盤はほのぼのかと思っていたら、
出鼻から超重いカウンターパンチをもらったでござる…

前作の背後にこんな昼ドラ的事情が潜んでいたとは夢にも思わなかったわ
え、なに昼ドラ的どろどろはもしかしてミスリーディングかも?
前作の利子ちゃんは中学生→高校生でまこちゃんもそんな感じだったから、
これは時系列的には前になるのか?
そういえば前作に美鈴さんでてきたっけ?麻美さんはしれっと出てたような…?
でも、どっか設定直したらいろいろふっとぶぞ
とか考えながら読んでたらもうなにがなんだか分からなくなったってもう
    /\___/ヽ   ヽ
   /    ::::::::::::::::\ つ
  . |  ,,-‐‐   ‐‐-、 .:::| わ
  |  、_(o)_,:  _(o)_, :::|ぁぁ
.   |    ::<      .::|あぁ
   \  /( [三] )ヽ ::/ああ
   /`ー‐--‐‐―´\ぁあ




というわけで、続きも超期待してる
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/16(土) 21:01:55.34 ID:DH4GxzuA0
上条さんが美琴の前に妹に手を出していたというのもなんだおかしな気もしなくもないし、でも妹が体がどうのこうので一度だけの過ちみたいな可能性も無きにしも非ず、しかしそうなると美琴の反応がなんか違う気がするし、妹前スレで普通に活躍してたしで頭こんがらがってきた……

ようするに何が言いたいかというと、俺も続きを期待しているということだ
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/17(日) 06:17:58.68 ID:7zSh2fGDO
>>1乙です

次の更新が楽しみれす(^p^)
41 :LX [saga sage]:2011/07/17(日) 18:06:31.24 ID:oQbwEsW50
>>1です。
毎度コメントをお送り頂きましてどうも有り難うございます。

>>38さま
>昼ドラ的どろどろ
全然気が付いておりませんでしたが、確かにそのシーンは避けて通れません。
既に書き出しておりますが、まだ纏まっていません。
どこに突っ込むかも決めていませんし(苦笑

御坂美鈴さんは、第一部における背景説明の部分で名前が出てきていますが、当人としての登場は
本編が初です。

>>39さま
読みが深いですね。お手柔らかに。

>>40
有り難うございます。頑張ります。

さて、設定で「しまった」というのが1つ。

前作で、佐天利子が上条美琴と妹達<シスターズ>を見分けていたポイントが「手」でした。
わざわざご丁寧に御坂麻美の手についてうんちくを垂れてしまいましたが、さて、どうしましょう?

一応、言い訳としては「水仕事他は専ら御坂美鈴がやっていた」ということで……
まぁ『苦しいね』と笑ってやって下さい。
当時は第2作など考えてもいませんでしたもので(冷汗

それでは投稿は後ほど。まずは取り急ぎコメントへの御礼まで。
42 :LX [saga sage]:2011/07/17(日) 18:10:59.28 ID:oQbwEsW50
>>40さま

>>41での返答に「さま」が抜けて呼び捨てになってしまいました。
大変失礼致しました。

別件でもうひとつ、
>>35が二重投稿になっています。エラーで「一秒後にもう一度」とでたので再投稿したら
ダブりました。
>>41でも同じように出たのですが、再読込しましたらちゃんと投稿されてました。
危ないところでした。

連投失礼致しました。
43 :LX [saga ]:2011/07/17(日) 20:17:20.87 ID:oQbwEsW50
皆様こんばんは。
>>1です。

それでは本日分の投稿を始めますので宜しくお願い申し上げます。
44 :LX [saga sage]:2011/07/17(日) 20:21:46.11 ID:oQbwEsW50
今日は久しぶりにお父さんと、美琴おばちゃん、そして美鈴おば(あ)ちゃんとの夕飯になった。

いつもとは大違い。賑やかな夕飯だ。

テーブルにはビールとワインが並んでいる。普段、美鈴おばちゃんとの夕食では出てこないものだ。



「で、美琴ちゃんは仕事の方はうまく行ってるの?」

「もう大変なのよ〜。なんだかよろず相談受付所みたいになっちゃって。こいつは全然役にたたないし」

「おいおいおい、それじゃオレがまるで役立たずみたいに聞こえちゃうじゃないか?」

「あら、そのつもりで言ってるんだけど?」

ぷ。あはははは。

お父さん、かたなしだね。



確かに、美琴おばちゃんは学園都市のTV番組では1つレギュラー持ってるし、週刊誌にも出ていたりするんだから、

すごく忙しいんだろう。

「サインをもらってきて欲しい」と言われるようになってから、ぼくはネットを検索したり、新聞を見たりするようになった。

その新聞の週刊誌の広告に美琴おばちゃんが出ていると、その週刊誌を立ち読みしたりして

(女の人の水着姿やヌードが出ているから載って無くても最近立ち読みするようになった。あ、これは絶対ナイショだよ?)

おばちゃんの情報を取るようになってきた。



お父さんはどうかというと、全然無いわけじゃない。

TVでは全くないけれど、ネットで検索すると出ていたりする。

でもどっちかというと、裏話みたいな内容のサイトで、そういうところには結構出ているらしいんだけれど、

ぼくがそこを見ようとすると、ペアレンタルロックに邪魔されて見れないんだ。

さわりの一部分だけは見れるんだけれど、つぎはぎの情報にしかならないので、結局よくわからないままだ。



……お母さんが出てきたことは、残念ながら全く、ない。

まぁ、普通の家庭なら誰も出てこないはずなんだけどね。なんとなく、ね。
45 :LX [saga sage]:2011/07/17(日) 20:25:30.22 ID:oQbwEsW50

「美琴ちゃん酔ったの? 一麻クンがいるんだから、『おちゃらけ』もほどほどにね?」

美鈴おばちゃんが美琴おばちゃんにブレーキをかけた。

まぁ、美琴おばちゃんがワイン飲んで美鈴おばちゃんに愚痴をこぼすのは毎度のことだから、今は慣れちゃってるんだけどさ。

「お、おちゃらけじゃないわよ!  ……ん、気を悪くした?……ごめんね、一麻くん?」

あ、いっけなーい、と言う感じでおばちゃんがぼくに謝ってきた。



「おばちゃん、お母さんは元気ですか?」

空気を変えようと、ぼくはいつものように聞いた。

ハッという感じで美鈴おばちゃんが緊張したのがわかった。



あれ、やばかったかな、これ?



「あはは、ごめんなさいね。忙しくてね、会ってないのよ。今回はちょっと急だったしさ。

帰ったら時間見つけて会ってくるね? それで、今回は勘弁して、お願い、この通り!」

美琴おばちゃんは快活に笑い飛ばす感じでぼくにまた謝ってきた。



別にいいんだけど。

おばちゃんは、忙しいんだもん。

でも。



「で、アンタ? あんたはどうなのよ、会ってないの? どうせヒマなんでしょうが?」

おばちゃんが矛先をお父さんに向ける。

なんかちょっと目が恐いよ?
46 :LX [saga sage]:2011/07/17(日) 20:30:23.37 ID:oQbwEsW50

「い、いきなりなんだよ? どうせヒマって、それはちょっと酷くないですかねー、美琴さんは?」

お父さんがむせながら言い返す。



これって、もう少しボケとツッコミをうまくやれば漫才になるんじゃないかな?



「ちょっと、美琴ちゃんたら!」

美鈴おばちゃんがもう一回注意する。



「こう言うのを、『夫婦ゲンカは犬も食わない』って言うんだよね?」

ぼくは助け船を出した。

が。

一瞬座が静かになった。

あれ、失敗、かな?



「ホホホホホホ、偉いぞ、一麻クン! きみが一番この中でオトナだわ!」



テーブルをバンバン叩いて美鈴おばちゃんが喝采してくれた。

美琴おばちゃん、思いっきり赤い顔してる。

お父さんは何とも言えない顔で固まってる。

よかった。半分は成功したみたいだ。
47 :LX [saga sage]:2011/07/17(日) 20:38:29.24 ID:oQbwEsW50

「ま、まぁな。一麻の言うとおり、かな? なぁ美琴?」

「う、うるさいな、アンタは黙っててよっ! それで母さんたら、いったいどっちの味方なのよっ!?」

「あ〜ら、決まってるじゃない、か・ず・まクンよ♪」



口ではやっぱり美鈴おばちゃんが一番、てことなのかな。

美琴おばちゃんはふくれっつらしてるけど、でも半分は笑ってる。



「こら、一麻クン? そこで下向いて笑ってない! 宿題はちゃんと終わってるのかな?」

おっと、ビシっと指さされてしまった。美琴おばちゃんの矛先がぼくに向いた!



「美琴ちゃん! ひ・と・を、指ささない!」

美鈴おばちゃんがまた突っ込む。でも美琴おばちゃんは平気な顔してる。

ちょっと酔ってるな〜これは。



「う、うん。まだだけど……?」

くそ、これは雲行きやばい、かな?



「そうなんだー? じゃぁ、ちゃんとやらないと、明日は大変よねー? 食べ終わったら、さっさとやっちゃいなさ〜い!」

ニヤニヤしながら美琴おばちゃんは二階を指さす。



ちぇ、つまんないの。

せっかく賑やかで楽しいのに……

まぁいいや、さっさとやってしまえばいいんだろ? 美琴おばちゃんに逆らうと恐いし。



「はーい……。さっさとやってきま〜す」

ぼくは食べ終わった食器をキッチンに下げて、二階へ上がった。
48 :LX [saga sage]:2011/07/17(日) 20:49:06.86 ID:oQbwEsW50

「終わった〜」

算数の宿題は数が多いけれど、それほど苦にはならない。数式をとくのは楽しいし、ね。

ぼくは、トントンと階段を下に降りた。

「お、一麻、宿題終わったのか?」

お父さんが声をかけてきた。

「うん」

「へぇー、さすが、あたしの甥っ子は違うわねぇ、誰かさんとは?」

美琴おばちゃんがまたまた鋭い矢をお父さんに放つ。

「一麻、風呂一緒に入るか?」

お父さん、今度は華麗にスルーした……

え?? お父さんと? 風呂? 確かに……それはいつ以来かな?

「あ〜ら、あたしも一緒に入ろうと思ってたんだけどなぁ〜?」

え―――っ??? ちょっとそれはないよ??

美琴おばちゃん、今日はどうしたんだろう? 

ちょっとヘンだよ? いや、絶対ヘンだ。やたら絡んでくるような気がするし。

「一麻クンはもう、いつもは一人で入ってるんだから。もう子供じゃないのよ、美琴ちゃん?」

美鈴おばちゃん、ありがとう。



そう、ぼくは4年生になってからは一人でお風呂に入っているんだ。

だって、わかるだろ? 美鈴おばちゃんとお風呂に入るのは、恥ずかしいんだよ、もう。

美琴おばちゃんとなんか、もう絶対入れない。

「おーし、一麻、行くぞ〜 突撃〜!」

「うん!」

ぼくらは風呂場へ突撃した。

「あー、あたしだけ除け者にした〜!!」

美琴おばちゃんがダダをこねる声がむなしく響いてる。

どうやら今日は絡み酒らしいや。
49 :LX [saga sage]:2011/07/17(日) 20:54:21.85 ID:oQbwEsW50
>>1です。

相変わらずの短さですが、本日分の投稿は以上です。
次回は場面が変わります。

こういう日常場面ではひょいひょい筆が進むのですが……頑張ります。

それでは、お先に失礼致します。
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/17(日) 21:27:51.81 ID:dpknSNW30
お疲れ様、続きも待ってる
しかし、ここまで母親であるはずの10032号の話題を逸らそうとするのは何の理由があるのだろうか
前スレの佐天さんの娘も色々あったからな。やはり一麻くんにも何かあるのかなぁ
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/18(月) 04:24:28.51 ID:X7UsqHXDO
>>1乙です!
色々と仕掛けられてる感バリバリ。
次も涎ダラダラしながら待ってます!
52 :LX [saga sage]:2011/07/18(月) 11:12:56.10 ID:D/+DjcWy0
皆様、こんにちは。>>1です。
コピペ貼り付けにミスがありました。問題は>>48で一場面がまるまる抜けました。正しくは下記の通りです。スミマセン。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー

「上がった?」

美琴が母・美鈴に小声で尋ねる。

美鈴は階段の下へ行き、部屋に入ったことを確認して戻ってくる。

「部屋にいるわ」

「さて、じゃ今日の本題に入りましょうかしらね」

今までのおちゃらけが嘘のような、まじめな顔つきになった美琴が口火を切る。

「お母さん、一麻くんの話、聞かせて?」

三人は小声で話を始めた。



----------------



「終わった〜」

算数の宿題は数が多いけれど、それほど苦にはならない。数式をとくのは楽しいし、ね。

ぼくは、トントンと階段を下に降りた。

「お、一麻、宿題終わったのか?」

お父さんが声をかけてきた。

「うん」

「へぇー、さすが、あたしの甥っ子は違うわねぇ、誰かさんとは?」

美琴おばちゃんがまたまた鋭い矢をお父さんに放つ。

「一麻、風呂一緒に入るか?」

お父さん、今度は華麗にスルーした……

え?? お父さんと? 風呂? 確かに……それはいつ以来かな?

「あ〜ら、あたしも一緒に入ろうと思ってたんだけどなぁ〜?」

え―――っ??? ちょっとそれはないよ??

美琴おばちゃん、今日はどうしたんだろう? 

ちょっとヘンだよ? いや、絶対ヘンだ。やたら絡んでくるような気がするし。

「一麻クンはもう、いつもは一人で入ってるんだから。もう子供じゃないのよ、美琴ちゃん?」

美鈴おばちゃん、ありがとう。



そう、ぼくは4年生になってからは一人でお風呂に入っているんだ。

だって、わかるだろ? 美鈴おばちゃんとお風呂に入るのは、恥ずかしいんだよ、もう。

美琴おばちゃんとなんか、もう絶対入れない。

「おーし、一麻、行くぞ〜 突撃〜!」

「うん!」

ぼくらは風呂場へ突撃した。

「あー、あたしだけ除け者にした〜!!」

美琴おばちゃんがダダをこねる声がむなしく響いてる。

どうやら今日は絡み酒らしいや。

ーーーーーーーーーーーーーー
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/20(水) 20:22:06.91 ID:cUZo/IFEo
更新乙です
>>22ですがカズというから名前にカズが付いていて、とある一族の彼を思い浮かべましたが、違って良かった…
54 :LX [saga sage]:2011/07/20(水) 21:15:09.36 ID:/NNI6//30
皆様こんばんは。
>>1です。

え〜、お恥ずかしいところを見せておりますが、またまたお恥ずかしいものがありました。
しかもコメントで(泣

>>41で、>>38さまからのお話で、
>前作に美鈴さんでてきたっけ?

という疑問に対しまして、

>御坂美鈴さんは、第一部における背景説明の部分で名前が出てきていますが、当人としての
>登場は本編が初です。

なんてキッパリと言い切ってしまっておりましたが、大間違いでございました。

第2部で、佐天利子が、上条詩菜家の食卓から麻琴に続き自分までもが消えてしまい、
詩菜大おばさまはどうしているのだろうか?と思いを馳せるシーンで、しっかり
上条詩菜とともにどんちゃん騒ぎをしている形で登場させておりました。

前スレ>380
(前略)
>「上条さん、どうしましたぁ?」    御坂美鈴がほんのり赤い顔で言う。
(略)
>「ふーん、寂しいんだ?」    美鈴がからむ感じで突っ込む。
(略)

うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………であります。

ああ、恥ずかしい……

誠にすみません。
お粗末さまでございました。
55 :LX [saga ]:2011/07/23(土) 20:19:44.21 ID:GbkWnME40
皆様こんばんは。
>>1です。

コメント有り難うございました。
>>50さま、>>51さま、
「学園都市、治安悪すぎじゃね?」という声もあるくらい(笑
問題だらけなので、意表を突いて何も……というのもあるのですが……
それだと一麻・利子・麻琴の3人が何故揃って東京に出ているのか、という
理由付けに困るのですよねー。

>>53さま
最初、誰だろうと思いましたが、「あー」と今頃になって(汗


それでは本日分、例によって少ないですがこれより投稿致します。
56 :LX [saga sage]:2011/07/23(土) 20:22:11.30 ID:GbkWnME40

翌日。



「あらあら、当麻さんも美琴さんも、来るなら連絡ぐらい入れてくれると助かるのだけれど?」

上条詩菜が、息子夫婦に向かって困ったような口ぶりで、しかし嬉しそうな顔で軽いお小言を言う。



心なしか寂しそうな顔の一麻と美鈴を残し、御坂家を辞した二人が次に訪れたのはここ、上条家。

上条当麻・美琴の一人娘である麻琴は、ここ上条刀夜・詩菜夫妻、すなわち上条当麻の実家に預けられているのだった。



「ゴメン、母さん。ちょっと急ぎで出てきちゃったから、連絡できなかった」

「申し訳ございません、お義母さま。麻琴の面倒を見て頂いていつも本当に済みません」

二人が深々と頭を下げる。



「あらあら、こちらこそどう致しまして。うふふ、麻琴ちゃん、どんどん可愛くなってるわよ〜? 

 ……当麻さん、まさかあなた、あの子を取り戻しに来たんじゃないでしょうね? そんな恐ろしいことは……」

「母さん、考えすぎだよ。そんな訳無いって。……で、麻琴は?」

「佐天さんのところよ。昨日、佐天さんは出張から戻られたのね。だから、今日はお返しであの子はあっちにお呼ばれ。

 ……。

 ……そう言えば、わたしは呼んでくれないのかしら。

 ……私だって、あんなに利子ちゃんを可愛がってあげてるのに……

 ……いいえ、そんなはずはないわ」



どす黒いオーラが詩菜の周りに漂い始めたのを見た当麻・美琴夫妻は「「はー……」」と揃ってため息をつくが、自分の世界に

入っている詩菜にはもはや聞こえていない。
57 :LX [saga sage]:2011/07/23(土) 20:25:49.46 ID:GbkWnME40

Prrrrrr ! Prrrrr!


重く暗い空気を振り払うかのように、電話がけたたましく鳴り出した。



「来た来た来たわ!」

それまでのどよーんとした泥沼の世界にいた上条詩菜が、思いもかけない俊敏な動作で電話の子機を取り上げる。



「ハイ、もしもし? ……ハイハイ、わかったわ。こちらも少し持っていくわね、麻琴ちゃん、何かいるかしらね?

……そう、わかった。そうそう、あと、ちょっと面白いもの持っていくわ、楽しみにしててね? じゃあね」

ゴキゲンな調子で彼女は電話を切った。



「さぁさ、あなたたちも、一緒に行くわよ!? あなたたちが一緒に行けば、あの子たちも、佐天さんもびっくりよ!」

さっきまでの全暗黒土砂降り天気はどこへやら、夏の太陽ギンギラギンのどピーカン、というようなハイテンションで上条詩菜が

立ち上がる。



「ちょ、ちょっと待って下さいな、お義母さま? あたしたちまではちょっと」

わたわたと美琴が手を振る。

「母さん、そりゃないだろ、メシ時に向こうに迷惑だろ?」

また始まったか、と当麻がまた深くため息をつく。



「あらあらなーに? あなたたち、あの子の親でしょ? 

それともなにかしら、あなたたちは可愛い娘に会おうともせずに黙って帰ろうとしてるのかしら? 

当麻さん、わたしはあなたをそんな情けない男に育てた覚えはありませんよ?」

すっくと立ち、ニッコリと笑みを浮かべた母の顔に、当麻は顔色を失った。



――― 不幸だ ―――
 
58 :LX [saga sage]:2011/07/23(土) 20:36:35.93 ID:GbkWnME40


次の瞬間、美琴が思い切り当麻の太股をつねった。

(アンタ、肝心なこと言わないでどうすんのよ!)

小さな声で美琴が当麻をしかりつける。



「そ、そうだったな、忘れちゃいけなかった。……母さん、麻琴は元気だよね?」

左足をさすりながら、当麻が母・詩菜に娘の近況を聞こうとした。

「あらあら、そんなこと、これから行けば直ぐにわかるわよ? 私に聞くより、当麻さん自身で見れば?」

あっさりと詩菜にスルーされる当麻。



(ああっ、この役立たずがっ!)

ドンとソファに当麻を押し込め、美琴が口を開く。

「あ、あの、お義母さま、実は、その、うちの母のところの一麻クンが、その……電撃を、飛ばしちゃったもので……」

「あらあら……」

上条詩菜の顔つきが一変した。



「まぁ、当麻の方(幻想殺し<イマジンブレーカー>)じゃなくて良かったわ……、あれは当麻だけで沢山だから」

「確かに。正直ほっとしてるところもあるんだ」

上条当麻の右手に宿る、『幻想殺し<イマジンブレーカー>』

異能の力ならば、例え神の奇跡であろうが悪魔の仕業だろうが、

あるいは超能力でも、例えば妻・美琴の超電磁砲<レールガン>だろうが、

全てを消滅させてしまう学園都市の科学でも解明できない謎の力。



だが、「神の加護も打ち消しているんだよ?」とかつて言われたように、彼には不幸がつきまとった。

不幸中の幸いで、家族が欠けるような恐ろしいことは今まではなかったが。

母・詩菜が言ったのは、彼の「不幸」が、彼の息子であり彼女の孫でもある御坂一麻、その子には受け継がれていないことに対する

安堵からであった。

59 :LX [saga sage]:2011/07/23(土) 20:41:32.79 ID:GbkWnME40

3人は、それぞれ手みやげを持つと上条家を出て、一つおいた隣の家に歩いて行く。



上条詩菜が、「佐天」と書かれた表札の家のインタホンを押す。



「はーい」

少し間をおいて返事が返ってくる。



「こんばんは。上条です。麻琴がいつもお世話になっておりまして」

「いえいえいえ、何を仰いますやらそんな。こちらこそとんでもないです! ほら、利子、玄関早く開けてきなさい!」

ドタバタしている様子がスピーカーから聞こえてくる。



その声を聞いた上条美琴の顔がほころぶ。

「佐天さん、元気そうね」

「ああ、久しぶりだなぁ」

美琴と当麻が言葉を交わす。



ガチャガチャと玄関のロックを外す音がする。



「おばちゃーん、どうぞー! ……あれ……?」
60 :LX [saga sage]:2011/07/23(土) 20:44:47.46 ID:GbkWnME40

勢いよく玄関のドアを開けて、顔を覗かせたのは女の子。



「こんばんは。としこちゃん? えへへ、驚いたかな?」



上条詩菜が、「としこ」と呼び挨拶したのは佐天涙子(さてん るいこ)の娘、佐天利子(さてん としこ)である。

詩菜の後に立つ上条美琴は片目をつぶり、口に人差し指を当て、(しぃーっ)とジェスチャーを見せる。

一瞬固まっていた佐天利子は右手でOKサインを出すと、「来たよー」と叫んで中へ戻って行く。

上条詩菜は笑って「ほら」と当麻・美琴夫婦と位置を変えて、二人を前に出した。



その直後、入れ替わりに中からバタバタと走って出てきたのもまた女の子だった。利子よりは一回り小柄だ。



「しいなおばちゃん、遅いよぅ…………!?」



上条詩菜の前に立つ二人を見た女の子も、やはり固まる。

しかし、みるみるうちに、彼女の目には涙が盛り上がる。



「よ、麻琴。良い子にしてたか?」
「ただいま。麻琴、アンタ元気そうね」

上条当麻・美琴の二人は愛娘である麻琴に優しく声をかける。



「……パ、パぁーっ……ママぁーっ!!」



べそをかき、泣き笑い顔の麻琴が二人へ飛びついた。
61 :LX [saga ]:2011/07/23(土) 20:52:09.63 ID:GbkWnME40
>>1です。

ずっとエラーが出っぱなしでして、結局本日一番最初の>>55も、投稿開始の合図であるageで
スタートしたのですが、エラーのせいか上がってませんでした。

ということで、本来ならsageのこのラストをageて本日の終わりとします。
何かヘンですが……

今回は全員が前作のメンバーであります。年代は前作第1部から6年程前に遡っています。
このパートはさすがに慣れているのか、あっという間に書き上がりました。
それでは、また明日。
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/07/24(日) 10:17:57.47 ID:QpJvwyuAO
おつ
これは嵐の前の静けさなのかしら
つづきがまちどおしいんだよ!
63 :LX [saga ]:2011/07/24(日) 20:15:33.81 ID:oXRuuFI20
皆様こんばんは。
>>1です。

本日投稿分ですが更に短いです。
引き伸ばすのも今更ですし、中途半端なところで切るのもちょっとひっかかりますので
ゴメンナサイしておきます。

>>62さま
コメント有り難うございます。

>嵐の前の静けさ
時系列上では、一応嵐は過ぎ、「雨降って地固まる」(固まったのか?)の位置付けにあります。
まだ書き終えてませんが。
もっと派手にやった方が良いか……ただそうすると修復不可能になってしまうので、話が成立しなく
なるので難しいところですね。

それでは、投稿に移ります。
64 :LX [saga sage]:2011/07/24(日) 20:17:37.40 ID:oXRuuFI20

「えぇー? ちょっとやだ、上条さん、いらしてたんですか? あは、そ、その、こんな格好ですみませーん」

キッチンで奮闘していた佐天涙子がエプロン姿のままでバッとお辞儀をする。



「ごめんなさいね、佐天さん、ちょっと麻琴を驚かせようと思って……」

「ほほほ、ごめんなさいね。すこしだけれど、おつまみと飲み物は持ってきたのよ?」

「すまん、佐天。悪い。いきなり来ちゃってゴメン」

口々に上条家の3人が言い訳をする。



「いえいえいえ、とんでもないです。散らかっててお恥ずかしいですけれど、ちょっと適当にお座りになってて下さいな。

ほら、利子! あんたも手伝いなさい! テーブルに椅子並べて、それやったらこっち来て、お皿出すの手伝って!」

佐天涙子が娘・利子に矢継ぎ早にあれこれと指示を出す。

「うん!」

上条当麻にしがみついて離れない麻琴を横目で見ながら、佐天利子が忙しく動き回る。

その姿を母・佐天涙子はめざとく見ていた。

(うーん、あの子は、やっぱりお父さんがいるのは羨ましいのかしら……)



「ほら、利子ちゃんがバタバタしてるんだから、お前も少しは手伝いなさい」

「やだー、パパのそばにいるの!」

麻琴のアタマをごしごし撫でていた当麻が、しがみついて離れない麻琴をたしなめる。



(うーん、やっぱり利子ちゃんはしっかりしてるわねぇ……悔しいけど)

我が娘・麻琴と佐天利子とを見比べて、美琴は利子の成長ぶりに感慨を覚えていた。

65 :LX [saga sage]:2011/07/24(日) 20:22:59.85 ID:oXRuuFI20

「いいんですよ? 麻琴ちゃんも久しぶりにご両親に会えたんでしょ? 利子がやりますから、どうぞ座ってて下さいな?」

キッチンで奮闘する佐天涙子が上条当麻に声をかける。

「悪いわね、佐天さん。あたし、何か手伝おうか? そ、その……料理は佐天さんにまかせるとして……」

手持ちぶさたな美琴が佐天に話しかけると、 

「あはは、何言ってるんですか? 上条さんにそんなことさせたら、この佐天涙子のおんながすたりますって! お任せ下さいな!」

笑い飛ばす佐天のとなりで、頭に三角巾を載せた娘・利子が盛りつけを手伝っている。

時ならぬイベントが嬉しいのか、はたまた母の料理を手伝うことが楽しいのか、顔を輝かせて手伝いをする利子。



その姿を美琴は羨ましく眺めていた。

(麻琴と一緒にご飯作れたら楽しいだろうな……。やってみようかしら……。

やっぱり今度、あらかじめ連絡してから来ようっと)



「さすが、佐天さんだわ〜。あのお料理スキルはすごいわよねぇー、ねぇ美琴さん?」

上条詩菜が感に堪えかねたように言うが、その言葉はグサと美琴の胸に突き刺さった。



「そ、そうですわね、お義母さま。で、でも、わたしだって、佐天さんほどではないですけど……」

「あらあら、じゃぁ今度は美琴さん主催でやりましょうか。麻琴ちゃんもお手伝いしてみたいでしょうからね。

美琴さんと麻琴ちゃんのお料理する姿、なんか想像するだけで楽しくなっちゃうわぁ〜」

「有り難うございます。お任せ下さいな、電撃使い<エレクトロマスター>だけが取り柄じゃない、ってことお見せ致しますわ」

「あらあら、すごいじゃない〜、じゃぁ今度来る時に、美琴さん、お願いするわね? きっとよ? ああ、楽しみだわ〜」

(くっ、なんか、あたし、嵌められたような気がするんだけど……まぁいいわ。この御坂美琴、目にもの見せてさしあげますわよ、

お義母さま!)



(な、なんかあそこで、嫁姑の火花散る戦いが交わされているような気がするんですが……ふ、不幸だ)

ひたすら嫁姑戦争に巻き込まれないよう、息を殺している当麻。
66 :LX [saga sage]:2011/07/24(日) 20:27:54.79 ID:oXRuuFI20

「利子、テーブルにこれ並べてちょうだい!」

母・涙子から渡された、山盛りの大きな皿を落とさないように、真剣な面持ちで運ぶ利子。



「利子ちゃん、おばちゃん手伝おうか?」

美琴が声をかける。



しかし、顔を真っ赤にして皿を運ぶ利子は「ううん」と首を左右にふる。

皿をテーブルに置くと、「重かった〜」とパタパタと手を振る。

「あのね、詩菜おばちゃん家だとね、マコちゃんが全部やるの。……だからね、ここはね、あたしが全部やるの」

まじめな顔で、美琴に、ここは自分のテリトリーであることを伝える利子。



「そっかー、ここは利子ちゃんのおうちだもんね? だから利子ちゃんが頑張るのね?」

美琴がそういうと、「うん」と彼女は少し誇らしげに頷いた。

(すごいわねー、もう自分の城だって認識しているのね……)と感嘆する美琴であった。



それから少し後。

「「「「いただきま〜す!」」」」
「どうぞ、たんと召し上がれ〜!」

佐天涙子・利子親娘、上条詩菜・当麻・美琴・麻琴の6人が食卓を囲む。にぎやかな食卓。



その中で、一人考え込むのは当麻。

(昨日はともかく、一麻も、こういう食卓を囲んだことがどれだけあっただろうか……すまん、一麻。

学園都市に来たら、せめてあいつと3人で一緒に食事をすることぐらいはしてやらないと……オレは、あの子の父親なんだ)

息子、一麻のことを思うと、いたたまれない気になっている上条当麻であった。
67 :LX [saga sage]:2011/07/24(日) 20:39:35.59 ID:oXRuuFI20
>>1です。
わずか3コマでスイマセン。
次からは、いよいよ学園都市でのドタバタなのでここで切る形を選びました。
御了承下さいませ。


さて、当初は>>36からいきなり>>56へ場面が飛ぶようになっておりましたが、上条家のことを
書いておきながら御坂家のことを出さないのは、ちょっとバランス的におかしいかな?と思い
まして、急遽突っ込んだお話であります。

この時点では、利子(としこ)のなかの利子(りこ)はまだ押し込められたままですし、麻琴も
能力者の片鱗は感じられない(だからこそ、一麻の件での美鈴さんからの一報で二人が飛んでくる
ということになった)、二人ともごく普通の小学3年生でありました。

ストック足らない……追いつかれてしまいそうです。頑張ります。
ではお先に失礼致します。
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/07/25(月) 13:52:11.81 ID:d2FxJNiAO
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/26(火) 09:41:31.97 ID:mqhxpoj20
なんかいろいろ複雑そうだな
楽しみに待ってるぜ
70 :LX [saga ]:2011/07/30(土) 20:25:01.39 ID:U6IBJhJL0
皆様こんばんは。
>>1です。

>>68さま、>>69さま、
コメント頂き有り難うございます。 

しばらくだらだらとプロローグが続きます(苦笑
なんか前作の第1部と同じ感じになりそうです……

それでは本日分投稿開始致します。
71 :LX [saga sage]:2011/07/30(土) 20:29:16.31 ID:U6IBJhJL0

「おばちゃん、行ってきます!」

「それじゃ、行ってきます。お義母さん」

「二人とも気をつけてね?」



あれからしばらく経ったある土曜日の午後。

ぼくは、お父さんと一緒に学園都市に行くことになった。

理由は簡単で、先月の理科の実験で、ぼくが「電気人間」だということがわかったからだ。

そして、学園都市の広報スポークスマンとしてよく知られている「上条美琴」おばちゃん(またの名を超電磁砲<レールガン>という)は、

実はぼくのおばちゃんであることも。



一時期、ぼくが電気人間だということがバレて以来、クラスの中でぼくはなんとなく浮いた存在になっていた。

はっきり言って、避けられるようになっていた。

それが、あの上条美琴おばちゃん(旧姓の御坂美琴の方がよく知られているらしい)が、ぼくのおばちゃんだということがわかって以来、

現金なもので今度はやたらおばちゃんの事を聞きに来る子が増えた。

より正確に言うと、お父さんやお母さんに頼まれてサインをもらってきて欲しい、というお願いをされたのもかなりある。



言われて、初めてネットで検索してみたら、おばちゃんが若い頃の写真がものすごくいっぱい出てきた。

周りに超能力者が多い、常盤台中学校の時のものも多い。

知らなかった。

びっくりしちゃった。中学生の時からこんなに有名人だったんだ、おばちゃんは。

高校生の頃のおばちゃんや、大学生のときのものもあった。すごいや。

……ちょっときつい感じだけど、確かに中学生のときは可愛いし、大学生のときはすごく綺麗だ。

正直、おばちゃんにちょっとドキドキしちゃった。

お母さんもきっと、若い頃はあんな感じだったのだろうな。なんか嬉しい。
72 :LX [saga sage]:2011/07/30(土) 20:31:58.82 ID:U6IBJhJL0

「そうか、一麻の友達の親御さんにも学園都市出身の人がいるのか……」

お父さんにその話をすると、お父さんは独り言のようにつぶやいた。



「うん、多いよ? 田中くんや渡辺くんのところは二人ともだって。あと、伊東さんとね……浜田さんかな?」

「おいおい、4人しかいないだろ? お前のクラス全員で何人だよ?」

「33人」

「それなら『それほどはいない』ってのが正しくないか? 多いっていうなら最低でも半分はいないと」

「……」

「もう少し、言葉の使い方を勉強しよう、な?」

「ちぇ、先生みたいなこと言うなよなー……」

負けた。確かに、多いって言って4人じゃな……名前を挙げてみると、思ったより全然少なかった。



「大人が増え過ぎちゃったからね、超能力が見つからなかったひとは戻っても良いことになったんだよ。

昔はね、入ったらなかなか戻してくれなかったんだけれど」

お父さんが優しく言った。



ぼくはその言葉の意味がそのときは全くわからなかった。そう、子供だったから……

そのときのぼくは、

初めて中に入る学園都市への好奇心と、

もしかしたら、そこにいるはずのお母さんに会えるかも知れない、

ということで頭の中は一杯だったんだ。
73 :LX [saga sage]:2011/07/30(土) 20:34:32.76 ID:U6IBJhJL0



「わっ!」

いきなりロボット?がぼくの脇を走り抜けた。

科学展やTV等でロボットを見たことはあるけれど、こんな直ぐ側をロボットが走り抜けるのは初めてだ。

「ああ、一麻? そいつはな、向こうが避けるからお前は避けちゃダメだ。……そうだな、慣れるまでは立ち止まる方が安全だな」

お父さんが笑いながらぼくに注意した。







学園都市のエントランスはすごく簡単に通過できた。

昔、ぼくがうろうろしていたところはここだったっけ?

記憶とは全然違う。こんなに広くなかったと思う。

「どうした? ……そう言えば、お前、昔お母さんに会いたくて、学園都市入り口まで一人で来たことあったんだよな?

あの時、お前が保護された入り口はここだよ。ああ、去年大改造されたけどな」

……そうか、道理で記憶と違うわけだ。

ぼくは安心した。



「まぁ、あの時はな、オレもすごく怒ったけどな。まぁ小学2年生でよくあそこまで来たもんだ」

「そんなの、ぼくだってネットで調べれば行き方だってわかるし、駅だって案内板見ればちゃんと正しく歩けるし。

お金さえ持っていれば大丈夫だよ?」

ぼくは、もうそこまで子供じゃない。



……いや、あの時は間違いなく子供だったけれど。

もうぼくは5年生なんだし、来年は6年生なんだよ? お父さん。
74 :LX [saga sage]:2011/07/30(土) 20:36:54.39 ID:U6IBJhJL0


「一麻、お前のIDカードはこれだ。ちゃんと落とさないように仕舞っておけよ?」

そう言って、お父さんはぼくにカードをくれた。

ぼくの顔と名前、血液型、東京の住所が書いてある。

「自慢じゃないけれど、お父さんはよくこういうものを壊したり無くしたりするんでな。オレが持ってると危ないからな」

お父さん……それ、すごく恥ずかしいと思うけどな。



「うん、わかった」

なんか、ぼくは一人前になったような気がして、そのカードを半ズボンのベルトを通してあるパスに入れ、右足のところに

あるパスケースに仕舞って金具をひねってロックした。

「地下鉄の方が安いけど、外が見えないからな、タクシーでモノレールの駅まで行こうか?」

そう言って、お父さんはぼくの手を引いてタクシー乗り場へ向かう途中……冒頭の、ロボットに出くわしたわけ。





「はは、あれは清掃ロボットさ。必ずグループで行動してるけれど、その理由は1台が落とし物保管役を務めるからね。

これからいくらでも目にするぞ? ……そう、それからな、よく似たタイプで警備ロボもいるからな。そっちは恐いぞ?

気をつけるんだな」



そうだ。忘れてた。

銃を持ってるひとがいっぱいいた。あのエントランスのこちら側には。
75 :LX [saga sage]:2011/07/30(土) 20:41:44.09 ID:U6IBJhJL0

東京では、銃を持っているのはお巡りさんだけだけど、ホルスター?だっけ、それに入って腰につけているから、

銃そのものなんてモデルガンでしか見たことはない。



それなのに。

こっち側に来たら、機動隊みたいな格好のひとが沢山いるんだけれど、みんな機関銃を持っている。えええ?



「お父さん、こっちって危ないの?」

「うん? なんで?」

「みんな、機関銃持ってるから」

「? ……ああ、そう言えばそうだな。言われてみれば、東京じゃあんな銃持ってる警察官はいないもんな。

念のために言うと、一麻な? あれ、機関銃じゃないぞ? それに中はゴム弾だから、普通は死なないぞ」

「でも……」

「まぁな。悪さするヤツはどこにでもいるんだけれど、ただ、学園都市だとそれが超能力者だからなー。

東京より大がかりにはなるかもな」

「えー? ちょっとそれは……」

「お前だってもう超能力者なんだぞ? 電撃使い<エレクトロマスター>の片鱗見せちゃったんだろう?

お父さんなんかレベル0<無能力者>なんだぞ? お前はレベルじゃ既にお父さんより上かもしれないんだからな?」



お父さんがニヤニヤしながらぼくに難しいことを言う。

どう答えて良いのかわからないので黙っていると、お父さんはぼくの肩をポンと叩いて

「ま、まずはお前のレベルチェックから全ては始まるのさ」

そう言ってぼくをタクシーの中に押し込んだ。
76 :LX [saga sage]:2011/07/30(土) 20:52:05.81 ID:U6IBJhJL0
>>1です。

本日分、短いですが以上です。
ようやく学園都市に入りました。

今現在は平和な終わり方になるであろう方向で進んでいるのですが、
バッドエンド(終わりは一緒ですが、内容が違う)が捨てきれずにあります。
個人的にはバッドエンドは嫌いなんですが、話としては進めやすいのです。

その分岐点に投稿が近づいているので少々悩んでいます。
現状のまま通過させることも簡単に出来るのですが、そうなるとどこかで分岐を強引に
しなければなりません。
あ〜悩ましい。

チラシの裏、失礼致しました。ではまた明日。
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/30(土) 21:56:24.31 ID:xle/7N920
乙〜
一麻くん、ついに学園都市にか・・・・・・麻琴ちゃんとは入るときと周囲の落差があるのが、美琴が実の母であるかどうかの差なのだろうか

個人的にあまりバッドにはしてほしくないが、>>1の書きたいようにするのが一番いいよ
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/30(土) 22:05:39.28 ID:S8RhOnxMo
乙です

>>1の話なので>>1の決断なんでしょうが、あえていえばバットは・・・
両方書くって手もありますけど、したくなさそうですしねぇ。
79 :LX [saga]:2011/07/31(日) 19:33:23.63 ID:NaSgzSeX0
皆様こんばんは。
>>1です。

>>77さま、>>78さま、
コメント頂き有り難うございます。

>麻琴ちゃんとは入るときと周囲の落差があるのが

おお、なんと鋭い視点でしょうか!
作者本人が、全く意識していませんでした(爆笑
確かにスターの甥っ子となればそりゃ普通は大騒ぎになりますよねぇ。
しかも似ているわけですし。

まぁ周囲には殆どバレていない設定なので、それもどこか頭の隅にあったかもしれません。
一麻の時がそうだったので、麻琴の時も大騒ぎになるとは予想していなかった、という繋がりが
出来ますから、流れ的にはよろしいかと思います。

方向付けですが、自分の投稿をした直後に決めました(笑
得意技の「先送り」で参ります。

>両方書く
前作とは異なり、こちらは1000は行かない前提ですので、余裕はありそうです。
ただ、複数の話というのはどこか逃げのような感じもしますのでね……
とりあえずは本筋一本で行きます。


それではこれより本日分投稿致します。
80 :LX [saga sage]:2011/07/31(日) 19:38:15.45 ID:NaSgzSeX0


「すみません、予約していた上条と申しますが」

「はい、かみじょう……上条……とうま?さんでいらっしゃいますね?」

「そうです。上条当麻と申します」

「上条当麻さんと、みさか……かずま?さんとお読みすれば宜しいですか?」

「はい、御坂一麻です」

「予約確認出来ました。それでは受付の確認になりますので、こちらでIDカードの照合をお願い致します。

終わられましたら、あちらの待ち合わせコーナーでお待ち頂けますでしょうか? 先生の準備が整いましたらお呼び出し致します」



ここは第7学区の病院。言わずと知れた、冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>のところである。



能力開発のテストであれば、他に専門のところがいくらでもあるのだが、彼・上条当麻は彼を信頼しており、専らこの病院を贔屓にしていた。

高校生の頃には、既に彼専用の個室があった、という逸話は別にして。



そして、ここで御坂妹こと検体番号10032号、いや今は御坂麻美という名前の女性、すなわち他ならぬ一麻の母親が働いている事も

重要なポイントであった。

過去を言えば、彼女の生命維持のための調整機関でもあった、この病院。



当麻としては、彼女を一麻に引き合わせ久方ぶりの親子対面を果たし、一麻の能力調査を行った後で、

久方ぶりに親子3人水入らずで食事に出かけよう、と考えていたのであった。



しかし。
81 :LX [saga sage]:2011/07/31(日) 19:43:34.93 ID:NaSgzSeX0

「すみません、あの、上条当麻さんでいらっしゃいますね?」



しばらくした後で、一人の看護士が彼らの前に立った。

「申し訳ございません。先生は只今急患の対応に追われていらっしゃいまして、約束のお時間に間に合いそうもない、とのことでして、

心よりお詫びする、申し訳ないとの御言伝を与っております」

申し訳なさそうな顔で彼女が頭を下げる。



「はぁ……それでは仕方ないですよね……そちらの方が大切ですからね……テストはどうなるんでしょうか?」

やはり、自分には「不幸」がまだ取り憑いているのだろうか、と落胆する当麻。

その姿を見て、不安そうな顔をする息子の一麻。



「それでですね、えーと、能力テスト・確認の為のご来院ですよね? 先生が、代わりの方を手配されていらっしゃいますので、

もう少しお待ち頂けますでしょうか? もうすぐいらっしゃると思いますので」

大丈夫ですよ、と言う感じで慰める看護士。



「そうですか、それはどうも有り難うございます……先生の紹介なら大丈夫ですよね……」

少しホッとした表情になる当麻に、何故かあいまいな表情を浮かべる看護士。

「ええ、まぁ……申し訳ありませんが少しの間お待ち下さいね……」

彼女は早足でその場を去った。




10分くらい待ったであろうか。

受付で二言三言会話を交わしていた女医さんが上条当麻親子の前にやってきた。

「失礼だが、上条さんで宜しいかな?」

「は、はい。上条ですけれど?」

「わたしは、能力チェックの依頼をうけた、木山春生(きやま はるみ)だ。大脳生理学・AIM拡散力場を研究している。

チェックを受けるのは、そちらのお子さんかな?」
82 :LX [saga sage]:2011/07/31(日) 19:57:18.10 ID:NaSgzSeX0

会議室のような小部屋に、ぼくたちと木山先生は入った。



「じゃぁまず、きみの名前と誕生日を教えてくれるかな?」

パソコンじゃないけれど、ノートでもないものを膝に載せて、足を組んだ木山先生が、優しい顔でぼくに聞いてきた。

「はい。御坂一麻(みさか かずま)です。XX年XX月X日、11歳です」

ペンでノートみたいなものに書き込んでいた木山先生が、「ん?」という顔でぼくを見る。

なんだろう?

「……みさか、くんか…… すまないな、ちょっと立ち入ったことを聞くが、もしかして君は、あの御坂美琴さんの御親戚かな?」

「ぼくのおばさんです。知ってるんですか?」

おばちゃんを知っているんだろうか? すごいな、やっぱり有名人なんだ、おばちゃんは。



「ああ、彼女がまだ中学生の頃からね……随分昔のことだ。そうか、彼女は君のおばさんになるのか……

わたしも歳を取ったものだ、と思ってしまうな。ふふ」

そういうと、先生はぼくの顔をしげしげと見つめてきた。

先生とはいえ、初めて会った女の人から見つめられるのはすごい恥ずかしい。



「な、なんですか?」

「いや、なるほど。どこか彼女の面影があるような気がするな。きみはお母さん似なのだろう?」

「いやぁ、こいつ、ぼくに似ないで良かったですよ、あはははは」

突然お父さんがおかしな事を言い出した。

なんだよぅ?



「きみは……上条さん、と言ったね? 失礼かとは思うが、きみはこの子の父親なのか? それにしては名字が違うようだが」

ああ、やっぱり聞かれちゃった。全く、お父さんがヘンなこと言うからだよ!

ぼくは、(全くもう!)という顔で、お父さんを睨んだ。
83 :LX [saga sage]:2011/07/31(日) 20:10:13.78 ID:NaSgzSeX0

「え? ええ、もちろん、この子の父親です。あの、ちょっとありまして、この子は名字が違うんですが……」

お父さんは「う」という感じで少し口ごもって答えた。

はっきり言ってもいいのに。もう慣れてるから、ぼくは。



先生は、お父さんの言い訳を聞いて、ちょっとまずかったかな?という顔をした。

まぁ、そういうものだろう。

実は、ぼくとお父さんの名字が違う理由をはっきり言ったことは非常に少ないんだけれどね。

なぜか大抵の場合、「いろいろありまして」の一言で済んでしまうんだ。

宿題忘れた時も「いろいろありまして」で済めば良いんだけれどさ……それで済んだ事は一度もない。残念だ。



「そうか、すまないな。プライベートな事を聞いてしまったようだ。許して欲しい。……ん? まさか??」

木山先生はそう言って、ノートを持ったまま、やおら立ち上がったその瞬間、

先生の足がテーブルを蹴る形になり、お茶が入っていた紙コップが倒れた。



「ああ、失礼した。歳を取るとどうもいけない。申し訳ないね」

そう言いながら先生は倒れたコップを直し、ティッシュを取り、こぼれたお茶を吸い取って行く。

「先生、白衣と下の服に……」

と、お父さんが先生の衣服にもお茶がかかっていることを言うと

「ああ、これなら大丈夫だ。粗相をして恥ずかしいな。きみたちにはかからなかったかな?」

と先生は言いながらやおら白衣を取り、

そしてかかったスカートに手をかけて……



「あーっ!!!」

お父さんが叫んだ。



ぼくは茫然として、スカートを下ろしてしまった先生をみつめていた。



     ――― ぼく、見ちゃった ―――
84 :LX [saga sage]:2011/07/31(日) 20:14:25.50 ID:NaSgzSeX0

廊下に引きずり出した木山教授に、上条当麻が赤い顔でくってかかる。



「き、木山先生、子供の前で何してるんですか! 全くもう……」

「いや、別に? こんなおばあちゃんのを見ても何も……それとも君は熟女が好みなのか?」

「病院で何を言ってるんですかっ? そう言う問題ではありません!! いいから早く白衣を着て下さいっ!!」

「言下に否定されるのは哀しいものがあるな……いや、そう言われてもだな、このままではちょっとな」

「給湯室かどこかにタオルがあると思いますから、取ってきますか?」

「……いや、トイレでざっと洗ってドライヤーで乾かせば何とかなるだろう……どうだ、君も来るかね?」 

「女子トイレなんか行けませんって。勘弁して下さい!」

「……いや、そういえば、昔もこんな事があったような記憶があるな……? 

「昔も脱いでたんですか?」

「失礼な事を言う人だな、君も……

うん、間違いない。きみの奥さんがまだ中学生だったときに、彼女にスカートを洗ってもらった事がある」

「よく覚えてますね、まさかその時もあいつの前で脱いだんじゃないでしょうねっ?」

「きみ、そうわたしに脱ぐ話ばかりしないでもらえるかな? まるでわたしが『脱ぎ女』みたいに聞こえてしまう。

それにすまないが、もう少し小さい声でしゃべってもらえないだろうか? 周りに迷惑なようだが?」

ふと、当麻が周りを見ると、数人の看護士と患者が彼ら二人を遠巻きにして見ていたのだった。



「す、すいませ〜ん!! 先生、ちょっとこっちへ!」

「病院の廊下を走ってはだめだぞ! こら、ま、待ちたまえって!」

当麻は木山教授をひっぱって、そこから脱出した。
85 :LX [saga sage]:2011/07/31(日) 20:17:43.84 ID:NaSgzSeX0
>>1です。

いつもながら短くてスミマセン。
本日分はここまでです。

早いですが、お先に失礼致します。それではまた。
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/31(日) 20:29:10.18 ID:3XzAtSsMo
乙です

木山先生ェ・・・絶対まだ独身だわ。
これが一麻君が年上スキーになるきっかけであった・・・わけないか。
87 :LX [saga]:2011/08/06(土) 19:45:32.88 ID:GmN4jOF70
皆様こんばんは、
>>1です。

>>86
ユニークなお母さんにしたいんですが、相手になるダンナがねぇ……
オリキャラになっちゃいますよね。

それでは、本日分投稿致します。
88 :LX [saga sage]:2011/08/06(土) 19:48:23.74 ID:GmN4jOF70

最初、目の前で何が起きたのかよくわからないまま、ぼくはあっけにとられていた。



ちょっと恐いような感じの先生がテーブルをけっ飛ばして、

そしてお茶がかかったスカートをいきなりぼくの目の前で脱いじゃったんだもの。



ぼくだって、男の子だ。

興味がないわけがない。

バッチリ、見ちゃった、あはは……。



同級生の女の子が履いているパンツとは全然違うものだった。

まず、大きさがすごく小さかったし、色が、黒だった。

そんな色のパンツがあるなんて知らなかったし、すごくびっくりした。

確かに、美鈴おばちゃんも、色はともかく似たようなものを履いてるのを何回か見たことがあるけれどさ……



外でひとしきりお父さんの何か叫んでる声が聞こえて、それから人が駆け出す音がして、静かになった。



……二人ともなかなか部屋に戻ってこない。

どうしたんだろう?

ぼくは、ちょっと心配になって、ドアを開けて、廊下を覗いてみた。



「あれっ!?」



うそ、誰もいないじゃないか!

お父さんは? 木山先生は?

どこ行ったんだろう?
89 :LX [saga sage]:2011/08/06(土) 19:50:48.10 ID:GmN4jOF70


こう言う時に、バタバタと走り回ってはいけないことをぼくは経験で知っている。

不安になって走り回るのは、コドモだ。

ここでぼくが動き回ると、親子両方が動いてしまって収拾がつかなくなる。

ぼくは動かずに同じ場所にいた方が、見つけてもらえ易いのだと。



とはいうものの、のどが渇いてきた。

さっき、木山先生がぼくのコップもひっくり返してしまったので、ずっと何も飲んでいないのだ。

一旦気になり出すと、何か飲みたいという欲求をこらえられなくなってきた。

気を紛らわそうにも、この部屋には本もなにもない。もちろんマンガがあるわけもなかった。

ドアを開けて、廊下をもう一度見たけれど、やっぱりお父さん達の姿は見えない。



(確か、入り口のロビーに自動販売機があった)

ぼくのお財布には3千円が入っている。大金だ。

「万一、お父さんがサイフを落とした場合でも、二人で家まで帰れる電車賃だから」と美鈴おばちゃんが入れてくれたものだ。

まぁ、ぼくは子供運賃だから余裕ありありなんだけれどね。多い分には困らない。臨時収入だ。ラッキー♪

――― だから、ジュースの1本程度なら帰りの電車賃には問題ない ――― 

(ロビーまですぐだし、そこで飲まないで買ってまっすぐ戻ってくれば、その間にお父さんたちが帰ってきても大丈夫だ)

ぼくはそう考えて、部屋を出ると、早足で自動販売機のあるロビーへ向かった。



「何これ? 見たこと無いものばっかじゃん?」



ぼくは自動販売機の飲み物を見て途方に暮れた。
90 :LX [saga sage]:2011/08/06(土) 19:55:20.22 ID:GmN4jOF70


そこには、ぼくの全く知らない飲み物がずらりと並んでいた。

本当に、ひとつも知っているものがなかった。



「黒豆サイダー」

「カツサンドドリンク」

「うめ粥」

「山芋DRINK」

「濃厚ひやしあめ」

「レインボートマトジュース」

「いちごおでん」

「ガラナ青汁」

「ハバネロパイナップルジュース」

なんて書いてあるのか読めないものもあるし……



想像してみてくれる?

これが飲み物なんだよ? しかも缶入り。

なんなんだろう、これ? 

どうしてポカリやコーラ、いや六甲の美味しい水でもお〜いお茶でもいいや、どうして普通のものがひとつもないの?

誰がこんなヘンテコなものを買うんだろう?

見ているだけで汗が噴き出てくる。

ぼくは、湯気がたつどんぶりにぷかぷか浮かぶイチゴや、ドロドロになったカツサンドを想像して、少し気持ちが悪くなり始めた。
91 :LX [saga sage]:2011/08/06(土) 19:59:06.76 ID:GmN4jOF70

「ごめんなさい、先にいいですか?とミサカは自動販売機の前で動かない小学生らしき男の子に確認を取ります」



不意に、女の人の声が上から降ってきた。

(みさか?)

ぼくは意識を取り戻し、振り向きながら「あっ、すみませ……」と言いかけたところで、






今度こそ固まった。





     ――― お、かあ、さ、ん? ――





   ……ぼくの第六感は、「おかあさんじゃない」と叫んでいる。



でも、



でもだ、



本当にそっくりだ。

美琴おばちゃんに。

だからたぶん、お母さんにも。
92 :LX [saga sage]:2011/08/06(土) 20:02:35.85 ID:GmN4jOF70

その人は、自動販売機から「ヤシの実サイダー」を取りだしたところで、ぼくの視線に気が付いたらしい。

「ごめんなさい。先に失礼してしまいましたね……とミサカは大人の分別をもって謝ることを選択しました。

ところで、あなたはこのミサカに何か御用ですか?」



ものすごいまわりくどいしゃべり方だ。こんなしゃべり方、子供でもしないよ?



やっぱり、お母さんじゃなかった。

でも。

「あ、あの、ぼくも御坂っていうんですけれど……あの……」

ぼくは、思い切って話しかけてみた。

「ほほう、あなたもミサカというのですか。お姉様<オリジナル>と、私たち妹達<シスターズ>以外では初めてお会いするひとですね、

とミサカは珍しいものをみるような目であなたを見つめます」

なんか酷いこと、さらっと言ってるような気がする。

(作者注* ちなみに「御坂」という名前をデータベースで調べてみましたが、なんと出てきません。ありそうな名字なんですが……)



「そ、それで、あの、御坂麻美っていうのがぼくのお母さんなんですけれど、知りませんか?」

ぼくは、美琴おばちゃんにそっくりな、たぶんお母さんにもそっくりであろうその人に尋ねてみた。



一瞬の間をおいて、突然そのひとは

目を見開いた驚きの顔をぼくに見せて、



――― 走り去った ―――  



ぼくは、唖然としてその人が走って行くのを見ていた。
93 :LX [saga sage]:2011/08/06(土) 20:11:35.86 ID:GmN4jOF70
>>1です。

本日分、例によって短いですがここまでです。
それではまた明日。
お先に失礼致します。
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/06(土) 20:22:21.57 ID:Lmxs5+Qfo
待ってました、乙です!

御坂といえば御坂神社、祀られているのは国津神の大国主(オオナムジ)、小萌先生の名字はツクヨミ。
姫神は比売神にして天津神の大日?貴尊・・・

新約でこの辺の伏線が回収される!わけないか・・・とりあえず姫神だしてくれかまちー!

ちなみにここの話では姫神出る予定ありますか?
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/06(土) 21:49:50.26 ID:Mqj4p/PDO
お疲れ様です。

逃げたミサカは何号だろ?
96 :LX [saga ]:2011/08/07(日) 19:47:53.22 ID:nHyfv/uy0
皆様こんばんは。
>>1です。
コメント有り難うございます。

>>94
姫神さんは。好きなキャラ。でも相方が。
独身の設定?ちょっと可愛そう。
ちょろっと出すのは。もったいない。出すならきちんと。

ということで、今の時点では……

>>95
すぐわかります(微笑

それでは、本日の投稿を始めます。
97 :LX [saga sage]:2011/08/07(日) 19:58:05.37 ID:nHyfv/uy0


一麻が待っていた部屋からほど近い別の一室。

「すると、あの息子さんは、みさ、いや失礼、きみの奥様である上条美琴さんのクローン<妹達・シスターズ>の1人、の子供、

というわけなのだな?」

「そうです。まぁ、いろんな事がありまして、結果として彼女に子供が出来てしまったという訳でして……」

木山教授と上条当麻とは、一麻に聞かれたくない話をしていた。



「……まぁ、きみたちの家庭のことだから、わたしがあれこれ言うことではないが、あまり感心できた話ではないね」

「いやもうその通りですが、一麻に責任はありません。全ての責任はぼくにあるわけでして」

「その話はもう止めようじゃないか。本質には関係がないからね……。

で、話を戻すと、彼は東京の小学校で電撃を放ったというのか?」

「いえ、そこまで極端な話じゃないようです。どっちかというと、自然放電に近い感じ……なのかな。

はっきりしている例では、理科の実験で、レモンに銅板と亜鉛板を刺すと電気が出来るという実験で、

一麻がやったところ銅板を刺した時点でLEDとレモンが破裂したそうなんです」

「ん? どういうことだ? 彼がプラス側を送り込み……電流はLEDとレモンを通り抜け、大地にアースした、ということか?」

「たぶん、そう言うことだろうと思います。ぼくもあまりそっちは得意じゃないので……」

「きみ、小学生の実験だぞ? それはちょっと……」

「ぼくはどうでもいいでしょう? その他には学校の防火シャッター作動ボタンを触り誤作動、

本人が言うには他に、同じくエレベータボタンを押したら誤動作して閉じこめられそうになったこと、

ゲーム機を壊したようなことも言ってます」

「ははは……学園都市のレベルからすれば、可愛らしいものじゃないか」

「学園都市が異常だと思いますよ、ぼくは……」

当麻がため息をつく。
98 :LX [saga sage]:2011/08/07(日) 20:07:17.13 ID:nHyfv/uy0


「あの子は学園都市で能力開発は受けていないのだな?」

上条当麻への木山教授の質問が続く。



「そうです」

「ならば解答はひとつ、だな。『原石』だろう」

「げんせき?」

「ああ。生まれながらの『超能力者』だ。まれに生まれるらしい、がな」

「……」

「きみも、その一人なんだろう、『幻想殺し』くん?」

「先生、その名前はあまり……」

「自分のことをちゃんと認識したまえ。この方面では今や君は有名人なんだからね?

……では、ちょっと考えてみようか?」

木山教授は上条当麻を諭すかのように、一転してゆっくりと話し始めた。

「いいかな? ……彼の母親の『もと』である御坂美琴、彼女は超能力者<レベル5>だ。

最初は能力開発を受けてレベル1からのスタート、努力を重ねてレベル5に到達したという逸話の持ち主。

とはいえ、もともとそれだけの素養があったと考えるべきだろう。

時間がかかったのは、発現しにくい体質だったのかもしれないな。

わたしが直接担当した訳ではないので、断定できないがね」

「ちょっと待って下さい。それなら、ぼくと美琴との間に生まれた麻琴も?」

「きみたちの子かね? もちろん『原石』の可能性はあるだろうさ。気をつけた方がいいだろうな。

原石が生まれるメカニズムや、その能力の発現となるメカニズムは、人工的な能力者とは成り立ちが異なっていると言われている。

数が少ないので研究も進んでいない。

だが、ここは学園都市だ。そういうものに目をつけ、功名を上げることを狙う科学者がいないはずがなかろう?」
99 :LX [saga sage]:2011/08/07(日) 20:20:13.45 ID:nHyfv/uy0

上条当麻はショックを受けていた。

彼の、御坂妹との間に生まれた息子、「御坂一麻」は原石と言われる超能力者の可能性大。

そして、同じく妻の美琴との間に生まれた娘、「上条麻琴」もまた、原石の可能性ありと。



ふと、当麻は気が付いた。

なぜ、美琴が、一麻も、麻琴も、学園都市に置かなかったのか?

なぜあれほど、学園都市ではない「東京」に置くことにこだわったのか?



(あいつは、このことを予期していたのだろうか?)

当麻は、あの日のことを思い出す。



麻琴を、母詩菜に預けて、帰ってきた夜。

義母・詩菜の前では気丈に振る舞っていた美琴であったが、上条の実家を出てからはずっと黙りこくっていた。

二人の会話も少ないまま、就寝したが、珍しく美琴の方からふとんに潜り込んできた。



         ――― あいつは、泣いていた ―――



美琴は自分にしがみついて一晩中泣きじゃくった。

だったらどうして預けるなんて言い出したんだ? とはとても言い出せるわけもなく、優しく抱きしめていてやることぐらいしか

出来なかった……。



あれは、美琴はこのことにうすうす気が付いていたからなのだろうか?

一麻が、もしそうであるならば。

オリジナルである美琴が産んだ娘、麻琴も、また?
100 :LX [saga sage]:2011/08/07(日) 20:28:04.40 ID:nHyfv/uy0

「いっけねぇ、一麻を忘れてた!」

突然、当麻が素っ頓狂な声を上げて飛び上がる。

麻琴のことを考えたところで、一麻を放り出していたことに気づいたのだ。



「心配ないだろう? そんなに時間は経っていないし、ここは他よりは安全なはずだ」

何をあわてているのか、と木山教授がたしなめる。が。

「それは、それはそうかもしれませんが、でも!」

当麻は部屋を飛び出し、最初に入った会議室に走り込む。



直ぐに彼がまた部屋から飛び出してきた。

「どうした?」

ゆっくりと戻ってきた教授が顔面蒼白の彼に声をかける。

「いないんです、あいつが!!」

当麻が叫ぶ。



「トイレの可能性があるだろう? わたしが見てこようか?」

相変わらず悠然とした教授がトイレの方向へ向かおうとしたが、

「せ、先生は女性でしょ! 男子トイレに入れませんよ!! ぼくが見てきますから、先生は他を見て下さい!!」

そう言うや否や、当麻は木山教授の脇を走り抜け、トイレのある方へ廊下をすっ飛んで行く。

「こら! 病院の廊下を走ってはいかんぞ!」

木山教授の叱責も、もはや彼には聞こえてはいなかった。
101 :LX [saga sage]:2011/08/07(日) 20:34:50.77 ID:nHyfv/uy0

(さて、部屋にいない、トイレでもない、とすればどこにいる可能性があるかな?)



その昔、かつて教壇に立ったこともある木山教授は、その経験を元に推理を始めた。

子供が、部屋を出たとすれば、どこに行くか?

しかも、初めて来た場所、そして病院という建物の中で、だ。



(小学5年生、と言っていたな? ならば、そうあっちこっちへと右往左往はしないだろう)

(まずは、最初に出会ったロビーに行ってみるか、それでダメなら保安へ行って防犯カメラのデータをチェック、かな?)

彼女なりの結論を元に、木山教授はロビーに向かう。



直ぐに上条当麻が追いついた。

「ト、トイレにもいませんでした!」

息を切らしながら彼が教授に報告する。

「ふむ、そうか。出す方でなければ、逆に飲む方かもしれないな。自動販売機があるロビーを見てみようか?

そこにもいなければ、無闇に走り回るより、さっさと保安へ行った方がいいだろうな」

あくまでも冷静な木山教授に、冷や汗をかいている当麻がかみつく。

「ああっ、もうっ! だいたい先生があんなところでスカートなんか脱ぐからですよ!」

「なんだ、わたしのせいなのか?」

心外だな、と言う感じで教授はジト目で彼を睨む。

「ああ、もし誘拐でもされてたら、どうすりゃいいんだ……不幸だ」



早足で二人はロビーに向かった。
102 :LX [saga sage]:2011/08/07(日) 20:40:05.50 ID:nHyfv/uy0
>>1です。

いつのまにかスレが100を超えました。
投稿そのものは51しかありませんので、半分は当方のご挨拶と皆様からのコメントであります。
お読み頂き深く御礼申し上げます。

さて、だらだらと続く第二世代物語第2弾ですが、まだしばらくこのペースで続きます。
何卒、平にご容赦頂きたく。

それではまた次回。お先に失礼致します。
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/07(日) 20:57:25.49 ID:/kSLLN+Eo
>>102
イヤッフゥウウウ!更新乙です!原石とはいったい・・・グググ!とは思いますが。


姫神の相手ねえ・・・一麻くんがいるんだから別に上条でいいんじゃね?って気もしますが。
まあ流石にそれは・・・だとすると原石同士で削板とか、記憶を取り戻したヘタ錬か、大穴狙いなら海原(本物)とかですかね?
まあオリキャラでもいいんじゃね?て気もしますが。姫神本人はちょいで子供が活躍すれば良いんですよ!
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/08/07(日) 21:22:47.44 ID:1ZgKU5dSo
上条さんが御坂妹孕ましたで確定なのか?
もしそうならこのSS内での上条さんの印象変わっちゃうな
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/07(日) 21:26:25.68 ID:/kSLLN+Eo
>>104
「認めたくはないものだな、若さゆえの過ちというものを・・・・・・」

稀代の名セリフも台無しだな、こりゃ。
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/07(日) 22:48:26.48 ID:dneco3ww0
>>104
 僕らの上条さんはそんな外道な事はしないと信じてる。

 冗談はさておき、どっかの研究者が御坂妹の卵子と上条さんの精子をかけ合わせた可能性もあるよな。でもそれだと遺伝子的には美琴と変わらない気が…。
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/08/10(水) 20:09:38.82 ID:hljhGxqto
しばらく見ないうちにだいぶ更新きてるヤッフゥゥゥゥゥッ!!!!!!
相変わらず続きが気になるんだぜ

ところで、揚げ足取るようで本当に申し訳ないんだけど、
上条さんと木山せんせいって面識なかったっけ?道案内してて、さらにその場で脱ぎ始めたシーンがあった気がす
それから、原作だと「超能力者⇒レベル5」「能力持ってる人の総称⇒能力者」って使い分けしてないっけ?
細かい話でほんと申し訳ない
ちょっとだけ、ほんとちょっとだけ気になっただけなんで、気にせずどうぞそのままおすすめくださいませ
次も楽しみにお待ち申しております
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/08/10(水) 20:51:30.41 ID:cG5845cVo
上条さんは記憶破壊前だから初対面でいいけど木山先生はどうだろうな、あんま覚えてそうじゃないなあww
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/10(水) 22:42:28.61 ID:fXL0IDIF0
木山先生の道案内はアニメ版だけで、原作超電磁砲の方にはないよ
110 :LX [sage]:2011/08/12(金) 20:47:30.41 ID:7+WZNYID0
皆様こんばんは。
>>1です。
本日の投稿はありませんが、頂きましたコメントにお返しとチラ裏話をと。

>>103
ヒント有り難うございます。
じゃ4人目は秋沙親子で考えてみましょうか(ネタがないわぁ〜)、とか。

>>104様、>>105様、>>106
答えちゃうとネタバレになっちゃいますんで〜
(実はそのネタもまだ1つに絞り切れていないという困ったちゃん状態なのですがww)
ということでとりあえずお許しを<(_ _)>

>>107
御指摘有り難うございます。
その区分けは一応きちんとしてたはずなのですが、読み返してみたら確かに思い切りごっちゃに
なってますね〜 orz
次回より気をつけます。

>>108様、>>109様(あと>>107様が口火を切られてますが)
実はこの部分、最初は上条当麻視点で語られるはずでした。
「昔、路上で脱いだ女の人がいましたが、あれ、先生だったんですね?」という具合に。

ところが、投稿前日になって、アレ?もしかしたら、このエピソードって当麻は記憶喪失前
じゃなかったかな?と気が付きまして、マンガの方を読み返しますと、このエピソードは
載っていないww
wikiの年表で探してみましても載っていない(うわーどうしよう〜)
但し、前後関係からするとインデックスが落ちてくる直前の話のようなので、とりあえず当麻は
この話を覚えていないということにして、急遽木山先生が美琴とのやりとりを覚えていた、
という話に書き換えたのでした。
その上で、質問スレで念のため皆様に確認も取りましたが(暴露


現在もだらだらと書いてるのですが、ちょっとムフフな雰囲気になっている部分が出来まして、
さて、エロは殆ど無いと言ってるのでどうしたものかなと。
カットしても何ら流れには影響ないですし、このSSの雰囲気壊すようなこともないし……

そう言えば、前作で結構グロい表現を無通告で出してるんですが(wikiにもそのままある)
いいもんでしょうかね?

明日の投稿は日曜の分と併せて久方ぶりに10コマ程度になる予定です(日曜はお休みします)
ので、何卒御了承下さいませ。それでは。
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/13(土) 05:11:58.20 ID:CrIJTgybo
>>110
おつかれさまです。

やった!姫神親子期待してます。子供の能力が「吸血殺し」だったら泣けますが。
そもそも「吸血殺し」ってなんですかね?原理すら分からない…


ムフフは…あまり露骨でなければ(R−15位?)いいんじゃないですかね?ガチは困りますが。
ただストーリーに関係ないなら回想ダイジェストでもいいとは思います。


112 :LX [saga]:2011/08/13(土) 21:28:33.11 ID:Edo06nMD0
皆様こんばんは。
>>1です。

>>111
毎回のコメント有り難うございます。
参考に致します。

新約2巻、読んでいる途中ですが姫神さんは例によって、
1行の発言と1行と少しの状況説明でしたねw
(出てこないよりはましか)

それでは本日の投稿をこれより開始致します。
宜しくお願い致します。
113 :LX [saga sage]:2011/08/13(土) 21:31:16.39 ID:Edo06nMD0


「みさか」と言った、その人が廊下を曲がって見えなくなったところで、ぼくは我に返った。


(あのひと、美琴おばちゃんにそっくりだった……

名前も、『みさか』だし、案外親戚だったりして……

でも、なんであのひと、逃げちゃったんだろう……?)



(後を追いかけようか?) とぼくは一瞬考えたけれど、

(会議室からあんまり離れるのはよくないな) と思い直して、

ぼくはサイフから100円玉を取りだして暫く考えた末に、あの「みさか」さんと同じ「ヤシの実サイダー」を買ってみた。

一応、『みさか』さんが「人柱乙」だったわけだしね。



原材料名を見ても、そんなおかしなものの名前はなかった。

プルタブを引き上げ、ぼくはおそるおそる一口飲んでみる。



 ――― なーんだ、普通のサイダーじゃん ―――



ぼくは安心してヤシの実サイダーを飲み干した。

350ml缶だから、一気にはちょっと無理だった。げっぷも出るし、ね。

でも、残して捨てるなんてことは出来ない。

食べ物は大切にしなければいけません、と美鈴おばちゃんにもきつく言われてきたし、それに第一、もったいないもん。
114 :LX [saga sage]:2011/08/13(土) 21:34:31.29 ID:Edo06nMD0


(ちょっと予想外に時間がかかっちゃった。お父さんたち、帰ってきてるかもしれない。叱られちゃう)

ぼくは空き缶を回収BOXに放り込み、部屋へ戻ろうと歩き出した時、後からひたひたと早足で誰かがやってくる気配がした。



振り返ろうとした、その瞬間に。



――― ぞわっと、体中の毛が逆立つような ――― 



そんな感覚は初めてだったので、思わずぼくは首をすくめてしまった。



そして、その直後。



 「一麻!」



女の人の声。



まさか、学園都市の病院で、いきなり名前を呼ばれるとは思わなかった。

「誰?」

ぼくは、反射的に、今度こそ声のした方へ振り返った……



その瞬間、ぼくの視界は遮られ、

ぎゅっと、抱きしめられていた。
115 :LX [saga sage]:2011/08/13(土) 21:41:49.37 ID:Edo06nMD0

1人のミサカが廊下を早足で急いでいる。

彼女の頭の中では、膨大な量の情報が渦を巻いていた。



そのミサカは検体番号13577号。

― 戸籍名:御坂琴江 (読み)みさか ことえ ―

学園都市に「正式に」残っている1人だ。





(あの、『みさか あさみ』っていうのがぼくのお母さんなんですけれど、知りませんか?)

目の前にいた、小学生らしき男の子がわたしに聞いてきた。



―――― 『みさか あさみ』 ――――  

データベースに接続しないでも、自分の知識で直ぐに答えがでた。



― 戸籍名:御坂麻美 (よみ)みさか あさみ

― 検体番号:第10032号

― ミサカネットワーク伝説のひとつである検体番号00000号、通称<フルチューニング>を除けば、

― 現在生存する妹達<シスターズ>のうちの最若番、最古参の個体。

― 「あのひと」から「御坂妹」という愛称をもらえた、唯一の個体<抜け駆け> 



「10032号を、「お母さん」ですってぇぇぇぇぇぇええええええ!!!!!??????」

瞬時に、わたしはMNW(ミサカ・ネット・ワーク)に接続、状況を報告した。



【晴天の霹靂】10032号に隠し子!?【驚天動地】

1 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13577

10032号、あなた、いつの間に!? あの子、誰の子??????


一瞬のタイムラグののち、MNWは、ここ最近見ない程の熱気に一気に包まれた。
116 :LX [saga sage]:2011/08/13(土) 21:45:15.83 ID:Edo06nMD0


2 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka11329

は、半ズボン! ハァハァ


3 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14999

すっこんでろ、この外道


4 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka12345

新手の「どっきり」ですか?


5 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka18071

やーん、かわいいー! なでなでしてみた〜い♪


6 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19211

ええい、ショタ連中やかましい、少し自重してろ!


7 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka17600

確かに、お姉様<オリジナル>の面影があるな、つまり本当に10032号の子供かも?


8 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10203

だーからさぁ、誰の子なのよ?
117 :LX [saga sage]:2011/08/13(土) 21:46:35.21 ID:Edo06nMD0


9 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka18443

10032号だって?


10 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10203

そんなのは>1で知ってるわよ?  相手よ! オトコの方よ! 


11 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14889

>7 スネーク、現場を押さえているか?


12 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20000

やだ、少し半ズボンの前ふくらんでる……ハァハァ


13 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13577

>12
氏ね


14 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090

>12
士ね


15 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13579

>12 
子ね


16 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka17600

こちらスネーク。

>11
現在、美琴お姉様<オリジナル>に接触中。13577号のいる病院とは学区が違う。今はここを離れられない。どうぞ?

118 :LX [saga sage]:2011/08/13(土) 21:50:18.98 ID:Edo06nMD0

17 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20000

うう、3人連続で死ね発言はちょっとミサカ泣いちゃうかも……


18 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14889

>17
かまわん。死にたまえ。
ところで、肝心の10032号は何故返事をしないのか? 聞いてるか? 10032号?


19 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

ひゃほーい、打ち止めだよー。
今日は大漁だねって、普段はろくすっぽ接続してこない悪い子ちゃんたちに皮肉っぽく言ってみたり?


20 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20000

運営様、今日も御機嫌麗しくございます


21 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14889

運営さんは10032号と強制通話出来ませんか?


22 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

>21
んーと、それがね、10年くらい前から10032号とはネットワークがとぎれがちなの。
ただ、病院行くといるからあまり気にしてなかったんだけど。
今も強制指示出してるんだけれど、反応がないの


23 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka15043

何それうらやましす……もとい、こわいです


24 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14889

>22
了解です。では13577号、直接10032号にコンタクトできますか?


25 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13577

>24
現在10032号は冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>とオペ中です。
でも手術室まで行ってみましょう



検体番号13577号こと、わたくし御坂琴江は渦中のその子をロビーに残して、手術室のあるA棟へ現在移動中なり。

119 :LX [saga sage]:2011/08/13(土) 21:54:05.63 ID:Edo06nMD0

一方、少し前のオペ室。



検体番号10032号こと御坂麻美はオペどころではなかった。

彼女は、いきなり飛び込んできた最終個体<ラストオーダー>の強制通話を受け、更にその内容に驚愕した。



(一麻が、学園都市に? あの子が何故ここに来ているの??)



試しに一瞬だけ受信回線をオープンにしてみると、ミサカネットワークでの大騒ぎが怒濤のように彼女になだれ込んできた。

(ああ、ばれちゃったのですね)

回線は既に閉じられたが、取り込まれた妹達<シスターズ>の膨大な思考データが彼女の頭の中を駆けめぐる。



彼女はヘタヘタと座り込み震えていた。

「ミサカくん、どうした? 具合が悪いのかい?」

冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>こと、カエル顔の医者がマスク越しに声を掛ける。

だが、彼女は答えられない。



異常を見て取った冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>こと、カエル顔の医者は直ちに他の看護士に合図し、

交代要員の派遣を管理室へ要求すること、そして彼女を控え室に運ぶことを指示した。



看護士に付き添われ、控え室に入った10032号は少し震えながらもしっかりした声で、

「すみません。このミサカはもう、大丈夫です。オペに戻って下さい。申し訳ありません」

と言い、オペに戻るよう付き添ってきた看護士を促した。

「そう? じゃぁ、戻るけれど、貴女も後で見てもらった方が良いと思うわ? ちゃんと休むのよ?」

彼女はそう言って控え室を出て行った。
120 :LX [saga sage]:2011/08/13(土) 21:59:59.70 ID:Edo06nMD0

10032号は直ぐに使い捨てのオペ衣を脱ぎ捨て、焼却袋に放り込み、パウチした。

手を洗うのももどかしく消毒薬に手を突っ込み殺菌した後、ロッカーから出した私服に着替え、部屋を飛び出した。

オペ室に向かって急いで来ているはずの13577号と会わぬよう、別の階段を駆け下り、ロビーへと急ぐ。



ロビーの手前で、彼女は足を止めた。

懐かしい感覚が彼女を包んだからだ。

(これは……あの子の……感覚)

まだ赤子の時から、産まれて初めてあの子を抱き取った時に感じた初めての感覚。

身体の奥深くを走り抜ける不思議な感覚。

それが、7年の時を経て、彼女の身体を走った。

(一麻が、いる)



その子は直ぐに見つかった。



(わたしの、息子……)



わたしの乳首に吸い付き、全てを吸い込むか、というような勢いでひたすら乳を飲んでいた、ちっぽけなあの子。

目が見えているのかいないのか、でもおなかが一杯になると、わたしの顔を不思議そうにじっと見ていたあの子。

うれしそうに笑いながら、ちっちゃな手で、わたしの顔をピタピタさわっていた、あの子。

歩けるようになって、わたしの手にぶらさがるように、トコトコと歩いていた、あの子。



わたしの後を必死に泣きながら追いかけて、

『おかあちゃん?』  

不安そうな顔で、わたしにしがみついて、

世界中でただ一人、わたしを「おかあちゃん」と呼んだ、あの子。



そう、世界中にたった一人だけ。

わたしの味方。
121 :LX [saga sage]:2011/08/13(土) 22:02:20.67 ID:Edo06nMD0

すっかり大きくなった姿の、あの子が、

そこに、いた。



「一麻?」



わたしの口は、ごく自然にあの子の名前を叫び、

わたしの足は、勝手にあの子の元へ走った。



あの子が振り向く間も与えず、

わたしは、

一麻を

ぎゅっと抱きしめていた。



「わたしの、一麻」



わたしの、記憶にある一麻は、もっと、ずっとずっと小さかったけれど。



でも、この子は、



わたしが産んだ、「世界にたった一人しかいない」わたしの、子供。



「お母さん、ちょっと、苦しいよ?」

我に返ったわたしは、あわてて力を緩めた。
122 :LX [saga sage]:2011/08/13(土) 22:05:57.64 ID:Edo06nMD0

ぼくは、がっちりと抱きすくめられて、身動きが出来なかった。



消毒薬の臭いの他に、僅かに違うにおいがする。

美琴おばちゃんのにおいに似てるけれど、でもどこか違うような気がする、そのにおいは。



ぼくの第六感は瞬時に「お母さん」であることを伝えてきた。

お母さんが、ぼくを見つけてくれたんだ、って。



「わたしの、一麻」



優しい声が、上から降ってきた。

ぼくは、泣きそうになった。

ボイスレコーダーでは聞いたことがある、その、ほんとの声が聞こえたんだから。

ぼくの名前を呼んでくれたんだから。



お母さんがぼくを抱きしめる力がまた強くなった。

ちょっと、これは強すぎるよ、苦しい。

「お母さん、ちょっと、苦しいよ?」

瞬時に力が抜けた。

ぼくは、ようやく振り返ることが出来た。



そこには、美琴おばちゃんによく似た、そして、写真で見たことのあるひとが、涙をにじませて立っていた。
123 :LX [saga sage]:2011/08/13(土) 22:15:28.24 ID:Edo06nMD0
>>1です。

お読み頂きまして有り難うございました。
本日分は以上です。
>>110で述べております通り、明日の投稿は事情により出来ませんので本日10コマの投稿に
なりました。どうか御了承下さいませ。


御坂妹こと10032号、久方ぶりに、母として再登場であります。
これからまた、ぐだぐだとどうでも良い?話が続きますが、ご勘弁の程、宜しくお願い致します。

それではお先に失礼致します。
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/08/13(土) 22:24:21.55 ID:awY91aQAO

しかし何年経っても歪みねぇな20000号ェ…
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/13(土) 23:16:47.04 ID:GNJzdE700
乙!
世界中でたった一人だけの味方って所がすごく気になるぜい
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/13(土) 23:37:21.28 ID:ngt06iFeo
いつもいつもおつかれさまでございます

>>110の件、本当にただの素朴な疑問だったのに、いつもいつも丁寧に説明ありがとうなのです
超電磁砲の方のエピソードは原作とアニメで自分もどうも混乱があったみたいです
インデックスが落ちてくる前だし〜の説明、すごい納得ですわ
本当にありがとう

ムフフな雰囲気の件、自然な流れや描写の必然があるんなら敢えてやめることもないんじゃない?
せっかくその気になってるならYOU書いちゃいなYO
無理にカットしてしまうのはちょっともったいない気がするなあ
あんまりにも濃厚なら話は別かもしれないけどwwwwww
べ、べつにエロを期待してるわけじゃないんだからねっ
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/14(日) 04:18:20.42 ID:byn7Jau3o
いつも乙です。そうですか…新約二巻は未読でしたが、例によっての「生存を確認した」でしたか…
不憫すぎる。

そうか、MNWにも内緒だったのか…
こりゃ父親が上条さんだってばれたら村八分どころか文革の自己批判になりかねんな…
あと自分にもって迫るのも多いだろうな、さてどうなるかな?楽しみにしてます。

あと「ヤシの実サイダー」、この世界では普通のサイダーなんですね。
前に見た別の場所ではナタデココ入りだとかココナッツミルク入りだとかキワモノ設定ばかり(それでもいちごおでんよりはマシだと思うが)でしたもので意外でした。


あと性的描写は「キングクリムゾンさん」という方が日夜尽力されてましてね、彼の力を借りるのも手かと…

128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/08/14(日) 09:55:28.06 ID:8s4ZkEUp0
世界中でたった一人の味方っていい方に何かありそうな予感
上条さんが実の父親ならば、美琴を選んだにしても味方になってくれるとは思うんだが…
やはり、なにかあるのかなぁ
129 :LX [sage]:2011/08/17(水) 20:08:26.51 ID:wLUIHtEM0
皆様こんばんは。
>>1です。

コメントをお寄せ頂きまして本当にどうも有り難うございました。
いくつかお返事させて頂きます。

ムフフの件ですが、とりあえず方向性は決まりましたので、気長にお待ち頂けると幸いです。

それから、姫神ちゃんですが、新約二巻を読み進むと、もう一度登場してました。
「ちゃんと先生と一緒に出てるのですよー」と小萌せんせーに怒られてしまいました。
もちろん会話も、残念ながら小萌先生とですが。
そして口絵カラー1ページに上条当麻にひっついているのもたぶん。


「たった一人」の件ですが、これは女性ならではの答えなのです。
連れを含んで、数人の女性陣に「子供が生まれた時、まず何を思いました?」と訊いてみた
のですが、いろんな答えのなかで全員に共通したものがこの
「自分の味方が出来た」というものでした。
なるほどねぇと。
で、早速採用させて頂いたわけでございます。

「ダンナは別れてしまえば他人」という迷言がありますが、
ああ、反意表現なだけで根っこは同じなんだ、と思いましたねー。

それではまた。投稿なしですみませんでした。
130 :LX [saga]:2011/08/20(土) 18:48:13.75 ID:cPRCy1Ov0
皆様こんばんは。
>>1です。

本日分、これより投稿致します。宜しくお願い申し上げます。
131 :LX [age]:2011/08/20(土) 18:53:01.70 ID:cPRCy1Ov0
あれ?あがってない?

スレッド表示も昔の2ちゃんのものしか見られないし、ここ数日おかしいのですよね……

大変申し訳ありませんがこれをageで投稿してみます。ダメだったら仕方ないです。
普通にいつもの通り投稿して行きます。
132 :LX [saga sage]:2011/08/20(土) 18:55:50.16 ID:cPRCy1Ov0

ぼくは、そのひと、いや「お母さん」に間違いないひとを見上げた。



「お母さん、だよね?」

恐る恐る、ぼくは訊いた。

「わたしの一麻」って呼びかけてくれてるんだから、

絶対にお母さん以外あり得ないんだけれど、

ぼくの第六感は、お母さんなんだって言ってたけれど、

でも……もしも、「いいえ? 違います」って言われたら……

そしたら、どうしようって。

ぼくはやっぱり聞いてみたかったんだ。



「もちろんです。わたしは、御坂麻美。あなたを産んだ、あなたの母です」

きっぱりとそう言って、そのひと、「お母さん」は微笑んだ。

その瞬間に、涙が、ぽろぽろっ……とこぼれたのを、ぼくは見た。



(ああ、お母さん! やっと、やっとぼく、会えたんだねっ!!!)

身体の中から、ぐわぁっと一気に感情がふくれあがって、ぼくの口からほとばしり出た。



「お母さんのバカっ!! どうしてぼくを置いてったんだよ!!!」



(え? ええっ?)

ぼく自身、予想もしていなかった言葉が、出た。
133 :LX [saga sage]:2011/08/20(土) 18:57:11.68 ID:cPRCy1Ov0

「どうして、ぼくを連れて行かなかったんだよ! なんでだよ! ひどいよ、あんまりだよ!!

ぼくは、お母さんと一緒にいたかったんだよ! なのに、どうしてだよ!!

どうして、どうしてぼくを置いてっちゃったんだよぅ……ひどいよ! インチキだよ! ずるいよー!

バカ! バカバカバカ!!!! おかあさんのバカーっ!!!!」



あとは、言葉にならなかった。

ぼくは、お母さんにしがみついて、両手でバシバシとお母さんを叩きながら、ひたすら泣きじゃくった。

お母さんを、責めた。



(違う、違うんだよ、お母さん……。 ぼくは、そんなことを言いたかったんじゃないのに、違うんだよっ!!)



男が泣きじゃくるなんて恥ずかしい…… でも、もう自分でもどうしようもなかったんだ。あの時は……

もっと素直に甘えたかったのに、どうしてあんなことを……



ぼくは、お母さんをなじってしまった。7年ぶりに会った、というのに。

あんなに会いたかったお母さんに、ぼくは。



予想もしなかった言葉を吐いて、

お母さんを傷つけるような言葉を最初に叫んで、

お母さんを責めて、叩いた。

そんな自分が、情けなくて、でも自分ではそれを止められなくて、驚いて泣いたんだよ、ぼくは。
134 :LX [saga sage]:2011/08/20(土) 18:59:18.58 ID:cPRCy1Ov0

「やっぱり、辛かったのだろうな」

木山教授が誰ともなくつぶやいた。



上条当麻と木山教授がロビーに戻った時、目の前では、

御坂一麻が母・御坂麻美(元検体番号10032号)をバシバシと叩きながら泣きじゃくっている光景があった。



当麻の脳裏に、つい先日、佐天家の玄関先で自分と美琴の元へ飛び込んで泣きじゃくった娘・麻琴の姿がオーバーラップする。

「すまない、と思ってます……」

父である上条当麻は小さい声でそのつぶやきに言葉を返す。

(自分の子供を、二人を二人とも泣かせてしまった…………父親失格だな、俺は……)



「どうする? 今のあの様子では、能力の確認調査など出来そうもないが?」

「そう、ですね……ですがこのまま東京に戻るというわけには……」

「まぁ、もう少ししたら落ち着くとは思うけれどね」

「申し訳ありません」



その時、彼らのそばを通りかかった二人連れの会話が耳に入ってきた。

「あれ、超電磁砲<レールガン>のひとじゃない?」

「えーと、それって御坂……美琴さんよね? あれ……? あの人、子供は確かお嬢さんじゃなかったかしら?」

「やっぱりそうよねー?? じゃ隠し子だったりして? ちょっとやだぁ……いや?

……もしかして、まさか昔、噂になった……あの……」

「うそ……でもさ、だったら相手のひと、誰なのかしらね?」



木山教授と上条当麻は無言で頷いた。
135 :LX [saga sage]:2011/08/20(土) 19:01:32.87 ID:cPRCy1Ov0



わたしは、

立ちすくんでいた。



どうして、どうして一麻は怒っているのだろう?



あの子は、わたしに会えて、嬉しかったのではないの?

わたしが、嬉しかったように。



なのに、あの子は、

泣きながら、

わたしを叩いている。

怒って、

泣いている。



どうして?

なぜ?



わからない。



    「麻美!」

 
    ( あ、)




あのひと、の声。


136 :LX [saga sage]:2011/08/20(土) 19:03:28.37 ID:cPRCy1Ov0

「麻美? 元気そうで安心したよ……って、二人とも会っちゃってるんだよな……こら、探したぞ、一麻。心配させるなよな?」

当麻が二人に近づく。

「……あ、なた……?」

驚いたように彼を見つめる麻美。



当麻はふと、彼女のその顔を、以前どこかで見たような気がした。



直ぐに思い出した。

あの時だ。



貨物ターミナルでの、一方通行との第10032次実験。



瀕死の状態の麻美。 

――― 当時はまだ彼女には名前が無く、「御坂妹」と呼んでいたが ―――

彼女の傍に立ったときに、不思議そうに自分を見上げた、あの時の顔にどこか似ている様な気がした。

(あなたは……なにをしているのですか……?)



だが、次の瞬間、彼女は豹変した。

彼女の目に、鋭い光りが宿る。



「あなたが、一麻を、ここに?」

彼女・御坂麻美は、

我が子一麻を守るかのように、

略奪者から息子を隠そうとでもいうように、

二度とこの子を手放すものかという意思表示なのか、

彼の視線から隠すように二人の間に立った。 
   
137 :LX [saga sage]:2011/08/20(土) 19:07:57.71 ID:cPRCy1Ov0
>>1です。

本日投稿分は以上です。

「スレッド一覧」にしても、この板のトップページにしてもそうなのですが、全く数日前から変化がありません。
この「新・学園都市第二世代物語」にしてもカウンターは"129"のまま全く増えていません。
スレッドを開き、リロードするとちゃんと反映されているのですが、ね。(今現在136です)
他の方からはどのように見えていらっしゃるのでしょうか?
ちょっと不安です。

では明日。お先に失礼致します。

138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/08/20(土) 19:32:42.32 ID:YwHWnRQAO
おつおつ
相変わらず続きが気になるとこで引きやがって…

ちなみに携帯からだけど、ちゃんと上がってるし、カウンタも136になってたよ

そういえば昨日どっかのスレで、トップページが更新されないって人見かけたなあ
ちょっと調子悪いのかしら
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/08/20(土) 19:33:38.20 ID:ZyrXZYu9o

あれ? 上条さんと敵対?
これは一体……

>>137
自分は数日前似たような事になったけど、いつの間にか直ってた。ちなみに専ブラJANESTYLE
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/20(土) 19:39:08.59 ID:jcNmJYDgo
乙です

眼に光が宿るか…もう一個体でなく個人として生きてるんだなあ。
上条さんとも不仲って事は本当にただ一人の味方なのか…次回が気になりますね!

こちらはなにも異常無しですねー。自分もPCからで専ブラJANESTYLEですよー。
141 :LX [saga sage]:2011/08/20(土) 19:56:57.24 ID:cPRCy1Ov0
>>1です。
素早いコメントをお送り頂き有り難うございます。
自分はPC/IE8です。

まず、トップページ
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/index.htmlから
     ↓
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/threadlist.htmlへ行けなくなっています。

「スレッド一覧はこちら」をクリックしますと↓
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/subback.html に案内されます。

それで、トップページのスレッドと、この
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/subback.html
の表示が変化していないのです。
ずっと1が”梓「ラリホー」(1)”のままなのです。

私が>>131で「あれ、あがってない?」と書いたのは、そこの表示を見ていたからです。
ちなみに今もわたしの「新・学園都市第二世代物語」のカウンターは129のままで、
位置は704番目になっています。

一方、直接http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/threadlist.htmlへ入りますと、
投稿がちゃんと反映されたカウンターになっておりますし、
スレッドの位置もageを反映したところに存在しているようです。
但し、こちらも木曜日に投稿して、ちゃんと載っていた投稿が消えているものがあります。
(このわたしのスレッドではありません)

ま、ここであーだこーだ言っていても仕方がありませんので、
運営板のほうでお尋ねして来ました。
異常?が確認してもらえると嬉しいのですが。

カキコして下さいました皆様、どうも有り難うございました。
142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/08/20(土) 21:57:12.17 ID:T1EB+KfO0
なんだかおかしくなってるみたいですね、自分もトップからだとうまく表示されてないですし

しかし上条さんから守るようにって……上条さんが父親ならばここまでの豹変はしないような気がするが、うむむ
143 :LX [saga sage]:2011/08/21(日) 09:53:09.92 ID:GQKYPvTx0
おはようございます。
>>1です。

カキコしてしばらくした後、復旧していました。
トップページに
「すべてのスレッド一覧」
「すべてのスレッド一覧(旧)」
「過去のスレッド一覧」
「新規スレッドの作成」
が復活しましたし、また
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/subback.htmlを含めたスレッド一覧リストも
更新されています。
管理人さん(でいいんですよね?)、有り難うございました。

それでは投稿はいつもの通り夕方に行います。少しお待ち下さいませ。
144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空) [sage]:2011/08/21(日) 19:42:35.54 ID:BKaE4oE/0
前作から一気に読ませていただきました。とっても面白かったです。
頑張ってください。
145 :LX [saga]:2011/08/21(日) 20:23:02.76 ID:GQKYPvTx0
皆様こんばんは。
>>1です。

>>144
拙作をお読み頂きまして有り難うございます。
第2作、苦しみつつ書いておりますが、頑張ります。

それでは本日分、これより投稿致しますのでどうぞ宜しくお願い致します。
146 :LX [saga sage]:2011/08/21(日) 20:29:04.79 ID:GQKYPvTx0

さて、その少し前のこと。



「あ、あの上条委員?」

「何、どしたの美子?」



ここは、学園都市統括理事会の中の一つ、広報委員会がある第一学区の合同庁舎の1つ。

上条美琴の執務室に少し強張った顔のミサカが入ってきた。

彼女は、御坂美子(みさか よしこ)、元検体番号10039号である。

彼女は病院勤めをしている検体番号10032号こと御坂麻美(みさか あさみ)とは異なり、オリジナルである上条美琴の秘書役を

務めているのであった。



「あの、個人的なことに属することなので、上条委員ことお姉様<オリジナル>にお聞きして良いことかどうか、

ミサカは少々危惧しつつ、やっぱり訊いた方がよいかと思案を巡らせています……」

起案電子書類のハードコピーをしかめ面で推敲していた美琴は、美子の物言いに(な〜に?)という顔で視線を彼女の顔に移した。



「………」



しばらく彼女を見ていた美琴は「ふっ」と一息ついたあと、

「美子、ちょっとそのドア閉めてくれる?」と彼女に命じた。

美子がドアを閉めると、美琴は「こっちこっち」という感じで彼女を手招きした。



「やはり、止めておきます、とミサカは」

と言いかける美子を遮るように、美琴は彼女に向かって言う。

「あんた、美子じゃないでしょう? 誰よ? 怒らないから正体明かしなさい? 何号なの?」
147 :LX [saga sage]:2011/08/21(日) 20:34:42.73 ID:GQKYPvTx0

無表情のまま、御坂美子(みさか よしこ)は黙って立っている。



「バレてるんだから、さっさと言いなさい? なんで入れ替わってるワケ?」

ニヤニヤしながら美琴は美子に追い打ちを掛ける。



「い、いえ、このミサカは間違いなく10039号のミサカヨシコですが、どうしたのですか?」

心なしか少し焦ったように美子が答える。



「ふーん、……なら美子、どうして渡しておいたアレ、今日はつけてないのかな? おかしいわよ?

それにあんた、なんかちょっと汗かいてるようだけど、どこか具合でもが悪いんじゃないの?」

頬杖をついて、笑いをかみ殺しながら美琴が美子を責める。



「いえ、体調には問題はありません。それから、あ、あの、申し訳ありません、お姉様<オリジナル>。

今日はつけてくるのを忘れました。宜しければ、一旦戻ってつけて参ります」

そう言って、美子は部屋を出て行こうとするが、

「あらそう? いいわ、あんた忙しいんだから、ここにいて頂戴。琴子呼ぶから、どこに置いてるのか教えてあげて? 

取りに行ってもらうからさw」



どうだ、はやく降参しなよ? という目で美子を見ながら、美琴は机の上のトークボタンを押した。

「は、はい、琴子です」

心なしか、少しうわずった調子で御坂琴子(元検体番号19090号)が応答してきた。

「琴子? どうせネットワークでコイツと打ち合わせしてるんでしょうけど、ちょっと来てくれるかな?」



「すみません、お姉様<オリジナル>、降参します。

今日、10039号はショッピングに行きたいというので、臨時にわたしがこちらに入りました、と理由を説明します」

頭を垂れて、御坂美子……ではない他のミサカがしゃべり始めた。



「上条委員、事実です。特に深い理由はありません」

ドアを開けて入ってきたもう一人のミサカがそれに合わせた。
148 :LX [saga sage]:2011/08/21(日) 20:40:07.62 ID:GQKYPvTx0

「それから、わたしから上条委員に質問があります」



新たに入ってきたミサカ、御坂琴子(みさか ことこ)、

――― 彼女は元検体番号19090号である ―――

が、美琴に質問をしてきた。



「美子こと検体番号10039号に渡された『アレ』とはなんでしょうか? 

今、10039号に確認しましたが、彼女も思い出せないと申しておりますが?」

ずい、とばかり琴子が身を乗り出してくる。



「んなものある訳無いわよ、ひっかけだもん。アハハハハ!」

もうダメ、ごめんね、とばかり美琴が笑い出した。



「そうですか、それは良かったです。

もしかしたら、お姉様<オリジナル>は10039号にだけ特別なものをお渡しになったのかと思いましたので。

もしそうであれば、それはそれでまた何かと一悶着が起きる可能性がありますので」

心なしかホッとした表情を僅かに見せて、琴子が引き下がる。



「そ。あんたらのネットワークは怖いからねぇ。で、話戻すと、あんた誰なのよ?」

美琴が偽・御坂美子に視線を投げる。



「失礼致しました、お姉様<オリジナル>。初めてお目にかかります、このミサカは検体番号17600号です。

<スネーク>とお呼び頂けるとハクがつきますので、これからは是非、お願い致します」

偽・美子改め検体番号17600号はそう自分を紹介した。



「ふーん、最初から素直にそう言えばいいのに。別にとって食おうと言うつもりもないし。

で、17600号……じゃなかった、えーと、スネークだっけ? 

言いにくいわね、だいたいスネーク<蛇>って、ろくな意味無いわよ、特に女性の場合は。いいの、そんな名前で?」

美琴が(ホントにいいの、あんた?)という顔でスネークこと17600号に答える。



そのスネークは顔を輝かせて、

「ああ、お姉様<オリジナル>に『スネーク』と呼んで頂けるなんて、このミサカ、学園都市に潜入した甲斐があったというものです」

と小躍りした。
149 :LX [saga sage]:2011/08/21(日) 20:46:45.06 ID:GQKYPvTx0

「ちょっと待った! あんた、今なんて言った? あんた、正式にここへ入って来たんじゃないわけ?」

美琴がスネークの発言に突っ込む。



「とんでもありません、お姉様<オリジナル>。 もちろん入国管理事務所を正しく通過してきております」

心外な、という顔でスネークは美琴を見返す。



「あ、そ。なら良いわ……えーと、それで、アンタ、さっき入ってきた時に、なんだっけ、あたしに訊きたいことがあるとか、

なんか言ってなかった? 早く言いなさいよ。あたし、次の打ち合わせが控えてるんだからさ」

美琴はホログラムクロックの表示を見て少し急いだように言葉を返す。

スケジュールアラートが既に赤く表示されているのだ。あと3分ほどでここを出なくてはならない。



「はい。それでは話を始めます」

スネークこと検体番号17600号は、側に立つ御坂琴子(検体番号19090号)と目配せをした後で、話を切り出した。

「お姉様<オリジナル>は、検体番号10032号を御存知ですね?」

一瞬美琴の顔にかすかに緊張が走るが、そこは手慣れたもので、美琴は普通の声で「もちろん、知ってるわよ」と返した。



(お姉様<オリジナル>の生体電流に乱れがありました、とミサカ19090号は17600号に報告します)

(こちらスネーク。こちらでも感知した。これより核心をつく。警戒せよ)

(ミサカ19090号、了解)

瞬時にミサカネットワークに二人の会話が投下される。

圧倒的多数の妹達<シスターズ>は、固唾をのんで次の質問を待つ。



「10032号は、ここ10年ほどの長期間にわたって、私たちミサカネットワークから外れていることもお姉様<オリジナル>は

御存知でしょうか?」

(えー、そっちかよー)
(なんではぐらかすかね)
(いやいや、搦め手からの質問か、良いぞ)

とたくさんのつぶやきがネットワークを駆けめぐる。



「だいぶ前にそれは聞いてるわ。でも、あの子、病院にいるじゃない? いないなら問題だけど、行けばいるんだからまだましでしょ? 

他にも接続してこない幽霊さんがいるって話、聞いてるわよ?」

美琴はビジネスバックに書類を放り込みながら返事を返す。



「実は先ほど、お姉様<オリジナル>もよく御存知の、10032号と13577号が勤務する『あの病院』で、

10032号の子供と思われる男の子に13577号が遭遇しました」

「何ですって!?」

美琴が叫んだ。
150 :LX [saga sage]:2011/08/21(日) 20:55:04.10 ID:GQKYPvTx0

「ちょっと、どういう事よ!?」



その瞬間、スケジュールアラートがピピピピピピピピピピと非常に耳障りな警告音を鳴らし始めた。

「あぁーっ、このクソやかましいーっ!!」

思わず美琴はそのホログラムクロックに電撃を飛ばし……ということはなかった。



   ピィ―――――――――――――――――――――――――――――――――――



キャパシティダウナーが動作したからである。

もちろん、ずっと動作はしない。最初は警告のため、わずか2秒ほどの作動である。

3人は、頭を押さえた程度で済んだ。



「いたた……やっちゃったわ……」

「上条、委員……ここで電撃は御法度で……」

「お、お姉様<オリジナル>……」



3人が衝撃から立ち直った直後、

「何事ですか!!」
「上条委員!!」
「大丈夫ですか!!!!!」

部屋に3名、衛視役のガードマンが飛び込んできた。



「ごめんねぇ。じゃ、あんた、あとを頼むわね」

事の起こりの主、上条美琴は琴子(検体番号19090号)を連れてさっさと会合へ向かってしまい、

あとに残されたスネークこと検体番号17600号はしっかりと不在2名の分もあわせて油を絞られたのであった。



(あぅー、質問の答えは取れないし、始末書書かされるし、このスネーク、一生の不覚だぁーっ!!!!!!!!)

スネークこと検体番号17600号のうめきに、ネットワークからは

(そう言う時は『不幸だーっ』って言うのよ!)
(やだ、なにこれ、超つまんなーい)
(だっせー、カネ返せ!)
(肝心なこと聞けてねーじゃん、このヘタレ〜!)

不満の声はそれから翌日朝まで、ミサカネットワークを駆けめぐったのだった。
151 :LX [saga sage]:2011/08/21(日) 21:08:56.72 ID:GQKYPvTx0
>>1です。
お読み頂きまして誠に有り難うございました。

突然の場面転換ですが、このエピソードを入れておく必要があることに気が付きまして、
急遽書き上げ放り込みました(苦笑)
あともう一つ書かないといけません。

それではお先に失礼致します。
152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/08/23(火) 20:27:49.28 ID:ujUNfb5AO
乙です!

なにやら次回は波乱の予感。テレビ東海の昼ドラみたいのは勘弁してほしい所ですが…次回も期待してますね!
153 :LX [saga]:2011/08/26(金) 19:06:56.12 ID:Yxd7gOm80
皆様こんばんは。
>>1です。

明日、所用でおそらく投稿できないと考えておりますので、1日早く、本日投稿致します。
なお、日曜日は投稿できると思いますので、例によって短いものになりますが……

>>152
コメント有り難うございます。「テレビ東海の昼ドラ」が見たことがないのでなんとも、ですが
たぶん(笑
流れ的に言うと、第二部はそれで終わるかもしれません(おっとまだ先は未定でした)

それでは本日分、これより投稿致しますので、宜しくお願い致します。
154 :LX [age]:2011/08/26(金) 19:12:33.82 ID:Yxd7gOm80
>>1です。上がってないのでageてみます。
---------------------------------------



再び場面は冥土帰し<ヘブンキャンセラー>の病院に戻る。



予想外の、ぴりぴりとした麻美(元検体番号10032号)の雰囲気に、意表を付かれた当麻はしどろもどろになりながら言い訳を始めた。

「う、うん。ちょっとな、一麻を見てもらおうと思ってさ。お前もここにいるし。ごめん。

その、おまえを驚かしてやろうと思って……あの、わざと連絡してなかったんだよ。すまなかった」



だが、当麻は一つ気が付いていない。

麻美の視線が当麻だけに注がれている訳ではないことに。



「お父さんが戻ってこないからだよ? のども渇いたし、あそこ何にもなかったんだから」

母・麻美の影から出て一麻が文句を言う。

「ああ、それは済まないことをしたね。私の不作法がご迷惑をお掛けしたようだ。申し訳ない」

木山教授が3人に頭を下げる。

「い、いや、先生、あの、頭を上げて下さいよ」

あたふたと当麻が手を振る。



「あなた? それでこちらの先生はどちら様なのでしょうか?」(はぁ、相も変わらずあなたは鈍感なのですね)

麻美がかすかに険のある目で当麻に問いただす。



(おいおいおい、なんですか、なんなんですか? 

久方ぶりに会ったいうのに御坂妹のこの目つき、この態度、この口調!? 

まさか、また美琴みたいに何やら盛大に勘違いしてるんじゃないでしょうか?)



久方ぶりに会ったというのに、どうしてこう剣呑な雰囲気になるのだろうか、と心の中でため息をつきつつ、

「木山先生だよ。脳の専門家。冥土帰しの先生の代わりに一麻を見て下さるんだぞ?

お前からも宜しく御願いしなさい?」

(まさか、お前、木山先生をオレの何かと誤解してるんじゃないんだろうな? これでわかったろ?)

というニュアンスを込めて、当麻は木山教授を麻美に紹介した。
155 :LX :2011/08/26(金) 19:21:55.84 ID:Yxd7gOm80

「そうでしたか? わたしは何も聞かされていないのですが、一麻がお世話になるというのでは礼を失してはいけませんね?」

その言い訳が通じたのか、麻美は(むう)という感じではあるが、警戒を解き、すっと目から険を消した。

少し皮肉っぽい調子で当麻をやりこめておいた後、今度は返す刀で、

「御坂一麻の母、麻美でございます。本日は息子を、宜しく御願い致します」

と、彼女は木山教授に改まってきちんと挨拶を交わしたのだった。



(え、え、え? な、なんなんだよ、今のおまえ? それって、オレにたいする当てつけですか? 

くぅ〜、何ですか、何なんですかいったい? 何が不満なんでしょうか、御坂妹は?

あ〜上条さんはやっぱり今日も不幸ですよ〜っ!)

当麻は心のなかで叫んだ。



「いや、こちらこそ。大脳生理学を主に研究している木山春生(きやま はるみ)だ。

きみのお姉さんだったかな、御坂美琴くんには、昔からいろいろと世話になったよ。

……そう、君たちのネットワークもね。ふふ」

木山教授がいきなり強烈なパンチをかましてきた。



(せ、せんせーっ!!)

上条当麻の顔色がすっと醒めたのは言うまでもない。

しかし、肝心の御坂麻美の顔はというと、かつて「クール・ビューティー」と呼ばれた異名の通り全く変化はなかった。



何故ならば、彼女はまだ内心では警戒を解いていないからである。

(キヤマ ハルミですか……MNWなら直ぐに判明するのでしょうが……仕方ないですね。あとでネットで見ておきましょう)

例え、カエル顔の医者が依頼したと言えども。

お姉様<オリジナル>と「夫」とがよく知っている人間であったとしても。

ここは学園都市。

自分の大切な息子を預けるには、このキヤマなる女性の教授に関する資料は全くもって足らなかった。



「さて、ここで立ち話もなんだ、行こうか、『御坂』家のみなさんたち?」

そういうと木山教授は先にたって会議室へと歩き出した。
156 :LX :2011/08/26(金) 19:34:05.32 ID:Yxd7gOm80


(お父さんと、木山先生に、見られちゃった……)



ぼくの身体は、まだひくひくとけいれんしている。

ちょっと、疲れた。

お母さんに会えて、

泣きだして、

興奮して、

お母さんを叩いて。



そして、そんなところを、みんなに見られた。



うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、すごく、恥ずかしい!!!!!!!!

なんかあったら、ずっと言われちゃうよ〜!!!!

さ・い・あ・く・だ………orz



「おぅ、一麻? お母さんに7年ぶりに会ったのに、さっきのアレ、お父さんはどうかと思うぞ?」

お父さんに叱られた。

そりゃ、そうだよね。

あれは、ないよね、確かに。

「……」

ぼくは黙って下を向いていることしかできない。



「あと、麻美もな、そう、その……まぁ、一麻を怒らないでくれるか? 

あのな、こいつには、今日お前と会うことは言ってあったんだが、もちろん、ちゃんと手順を踏んで会わせるつもりだったんで、

それがいきなり会っちゃったから、その、ちょっとパニくったんだろう。ま、許してやってくれよ」

お父さんがお母さんに言い訳してくれている。



そっと様子を窺ってみると、お母さんは硬い表情のまま、だ。

やっぱり、怒ってる……よ、ね?
157 :LX [sage saga]:2011/08/26(金) 19:39:03.82 ID:Yxd7gOm80

「ほら、一麻。お母さん、びっくりしちゃってるだろ? 謝りなさい、ちゃんと」

お父さんが、ぼくの背に合わせて身体を曲げて、ぼくの顔をのぞき込んで言う。

(ホントは、会って飛びつきたかったんだろ、バカ野郎、しっかりしろ!)

お母さんに聞こえないように、お父さんがささやく。

はは、バレてたよ。

情けないな……。



「お母さん、ゴメンナサイ」

ぼくは、お母さんの目を見ながら、頭を下げて、はっきりと「ごめんなさい」をした。



顔を上げると、固かったお母さんの顔がかすかに動いて、緊張が緩んだのが見えた。

「少し、安心しました。一麻はやっぱり男の子なのですね、ちょっと母は痛い思いをしました」

あれ? やっぱりまだ怒ってるんだろうか?

「でも、わたしはあなたを一人残してここへ戻ってしまったのですから、会えば一麻が怒ることも予想しておくべきでした」

あ、少し笑って……?

「叩かれても良いように、母は戦闘服を着てくるべきでしたね、と反省します」

せんとうふく?

「戦闘服」?

ええええ? なに、その戦闘服って?

お母さん、そんな服、着るの?

自衛隊に、いたことがあるの?

まさか、お母さんがサバゲーやる……わけがないよね……?



「あのな麻美、それ、一麻には通じねぇぞ? こいつ冗談だと思わないぞ、それ」

お父さんがお母さんに突っ込む。

「む、そういえばあなたもこのミサカの戦闘態勢のフル装備を見たことがなかったのですか?と今更のように」

「おーい、君たち〜、早く来たまえ〜! 時間がもったいない!」

木山先生がじれたように向こうのほうから叫んできた。
158 :LX [sage saga]:2011/08/26(金) 19:48:06.62 ID:Yxd7gOm80

「すいませ〜ん、今行きます! ほら、麻美、一麻、行くぞ!」

木山先生の声で、お父さんはお母さんとの話を打ち切っちゃった。

なんか、すごい話みたいなんだけれど、どういうことなんだろう?



お父さんが先に一歩踏み出したので、ぼくはあわてて話を出した。

「お父さん、お母さん、あのさ、ちょっと御願いが、あるんだけど」

「なんだ? 早く言え?」
「なんですか?」

二人がぼくを見る。

「お父さん、ぼくの右手。お母さんはぼくの左手持って?」

ぼくが真ん中で、右手にお父さんが、左手に母・麻美が並んだ形になった。

「あぁ〜、なるほどね」

「横一列ですね」

「これ、やってみたかったんだよ、ぼく。じゃ、先生待ってるから、行こう?」



一麻は嬉しそうに両側に立つ両親を交互に見る。

当麻と麻美、二人は顔を見合わせて「ふ」と少し微笑むと、

「うん。行こうか」
「行きましょうね」



長い間、離ればなれだった親子三人。

父、母、そして彼らの息子。

今、彼らはようやく一つになって、仲良く手を繋いで会議室へと歩いていったのだった。
159 :LX [sage saga]:2011/08/26(金) 19:56:03.79 ID:Yxd7gOm80
>>1です。

本日分の投稿は以上です。

混雑?なのか、ずっとエラーの連続で、ようやく>>156の投稿でエラーが出ずに上がりました。
でもその後はまたエラーの連続(泣

*前回の投稿 >>146>>150が無くとも話に支障がないことがバレてしまう本日の内容でしたw
日曜分もひっくるめて投稿しなかったのは、ここで止めた方が収まりが良かったからです。



それではお先に失礼致します。
160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/26(金) 22:34:09.51 ID:LXKhIh3P0
乙!
三人で手を繋いだところが、余りにも暖かくて泣きそうですよ
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/27(土) 11:54:40.99 ID:NXTzZOfSO
乙。良かった。思ったより険悪にならなくて。
162 :LX [saga]:2011/08/28(日) 19:40:27.16 ID:97vRn+lS0
皆様こんばんは。
>>1です。

>>160様, >>161
コメント有り難うございます。
御坂妹(このSSでは御坂麻美という名前を与えていますが)にとって上条当麻は永遠に
ヒーローですから、彼から離れることはありません。
血を分けた息子はもちろん別格ですしね。

さて、それでは本日分、これより投稿を致しますので宜しくお願い致します。
163 :LX [saga sage]:2011/08/28(日) 19:44:47.21 ID:97vRn+lS0

部屋に入った直後に上条当麻の携帯がブーンとうなる。

(この振動は、美琴からか……何かあったのか?)



「ちょっとすみません、急ぎのメールみたいで……」

当麻はイヤホンを伸ばし、耳に入れ、スイッチをクイクイと押す。

メールの音声読み上げサービスが始まる。

「ワタシ。カズマ ヲ コトコ ニ ミラレタラシイ。アンタ ガ アサミ ト イルトコロ ヲ ミラレルト

オオゴト ニ ナルカラ キヲツケナサイ」

(げ!)

当麻はその内容に、思わず心臓が縮み上がるのを覚えた。



「すみません、ちょっとトイレに行ってきます」

「忙しいんだね、お父さんは」
「はは、君のお父さんは有名だからな。そうだ、きみはお父さんの活躍を知っているかい?」
「あなたは、こんな時まで仕事なのですか?」

会議室に三人を残し、廊下に出た当麻は、周りに人がいないのを確認して身障者対応の大型トイレへ入り、

携帯を取りだして音声・文字同時変換に設定して「緊急送信」メールを選択する。

「こちら当麻。今OKだから電話よろしく」

簡潔に録音し、優先度を「最高」にして送信した。



およそ30秒ほどで、彼の携帯が振動する。

「ああ、美琴? メール有り難う」

低い声で美琴が答えてくる。

「アンタ、今、一麻くんとあの子と一緒?」
164 :LX [saga sage]:2011/08/28(日) 19:49:44.25 ID:97vRn+lS0

相手に合わせるかのように当麻の声も低くなる。

「いや、今、身障者トイレにいる。一麻と麻美と、あと木山先生が一緒だけれど、他の妹達<シスターズ>はいないぞ?」



「木山先生……? 誰? 知らないわ、ゲコ太じゃないの?」

誰それ? という感じで美琴が答えてくる。



「え? お前のこと木山先生は知ってたぞ? う〜んと、お前にスカート洗ってもらったことがあるって言ってたし。

で、カエル先生は今は緊急オペ中。それで、大脳生理学……だったかな、木山先生に頼んだって」



「あーっ! 思い出した!! あの木山先生!? まさかまた脱いだりしてないわよね?」

一瞬、携帯から漏れた美琴の大声がトイレの中に響いたが、直ぐに元の低い声に戻った。

「アンタ、どっから電話してるの? やたら響いてるんだけど?」



お前の声がでけぇんだよ、と一瞬思ったが、もちろんそんなことは口が裂けても言えない。

「トイレだよ」と素直に答える。「そう、トイレでお前にスカート洗ってもらったって言ってたな」



「ちょっ!!! ……あーっ!! 思い出したわ! 確かにあった! あたし、洗ったわよ! うん、やった、やった!

で、アンタもトイレでまさか……その、洗ってるワケじゃないでしょうね?」

「洗っちゃいねぇけど、お茶けっ飛ばしてスカート脱いだよ、俺らの前で」

「はぁぁぁぁぁぁーっ!!!??? そ、それでアンタ見たの!!!???」

「仕方ないだろ、いきなりだぞ! 止められるかよ、離れてたしさ」

「くぁー、やっぱり『脱ぎ女』やってたのか、あの人……ちょっと待ってよ、もういい歳でしょ?」

「……そうだな」

「アンタまたそれで鼻の下伸ばしてたわけ!? 信じられない……って、そんな話するために電話してきたの?」

「話振ってきたの、お前だろうが……で、あのな、メールの話、あれどういう事なんだよ?」

時間が過ぎて行くことに当麻は気が付き、話を本筋に戻した。肝心な話を聞かねばならないのだ。
165 :LX [saga sage]:2011/08/28(日) 19:56:30.77 ID:97vRn+lS0


「あたしはどうでもいいんだけどさ。

要はね、琴江(元検体番号13577号)が一麻君と出くわして、一麻くんが麻美(元検体番号10032号)の子供って事が

バレちゃったらしいのね。それで今、妹達<シスターズ>の間は大騒ぎなのよ」

美琴の声も変わる。馬鹿話は一転して真剣な話へと切り替わった。

「うぁー……そういうことかよ……」


「まぁ、仕方ないわね、そこに行けば少なくとも琴江は絶対いるわけだから、出くわす可能性は高いわよ。

わかるけどさ、だけどアンタ、どうしてわざわざソコ選んだのよ?」

彼女の言葉が当麻に突き刺さる。その通りだ、仰るとおりだ、バカでした、と反省しても後の祭り。

「そりゃあの先生信頼してるからさ」

(それに御坂妹がいるから、って言ったら……死ぬな、止めよう)

確かに、もう一人、美琴のクローン(御坂琴江<元検体番号13577号>)が働いていることは、当麻の頭の中からは

完璧にすっぽりと抜け落ちていたのだった。



「やっぱりね……アンタならきっとそうするだろうな、って。思ってた通りだわね……」

「うう」

「まぁ行ってしまったものは今更仕方ないわね。見られちゃったことだって、もうどうにもならないしさ。

それでね、当然ながら一麻君の父親は誰なのかってのが今の一番ホットな話題のはず。

そう言う時に、アンタとあの子と一麻くんが一緒にいたら、もうイッパツだわよ。その結果はわかるわよね?」

当麻の脳裏に、あの時の悪夢が蘇る。ああ、思い出したくないのに、



さ・い・あ・く・だった。


「……」


「そ。あのときの大騒ぎが繰り返されるのは確実ね。アンタは自業自得だけれど、あ、あの子もそう言う意味じゃ自業自得か……

まぁ覚悟しておくことね。ただ……、かわいそうなのは一麻くんよね」

半分楽しむような感じの美琴のしゃべりだったが、「一麻くん」のところだけは雰囲気が違って聞こえたようだった。

彼女も麻琴という娘を持つ親。子供のことはやはり気になるのだろう。
166 :LX [saga sage]:2011/08/28(日) 19:59:24.01 ID:97vRn+lS0

(はぁ……結局は上条さんがバカでしたーってことかよ……我ながら、ほんと、厭になるわ)

すっかり落ち込んでしまった当麻が美琴にすがるような声で言う。

「じゃ、一緒にいちゃいけないのか? どうすりゃいいんだよ……」



美琴はあっさりと、しかし明確に断定した。

「別にいけないことはないわよ? アンタが腹をくくるかどうかだわね。

ただね、アンタが名乗り出なかったら、あの子のところに妹達<シスターズ>が入れ替わり立ち替わり現れて、

『誰よ誰なの誰なのさ』と根ほり葉ほり問い詰めるでしょうよ。

でもまぁ多分、あの子のことだから、あたしはとっくに腹くくってると思うけど?」



(やはりそうか……そうだよな。責任を取るって、そういうことだもんな)

当麻の頭のなかで、結論が、出た。簡単なことだ。

「そうだな」

だから答えも簡単だった。



「言っとくけど、あたしはこの件、一切口外してないし、しないからね」

美琴が念押しをするような感じで言ってきた。

「ああ、それはわかってる」

「ならいいわ。それから……」

彼女は、一瞬、会話を切った。






そして。

冷ややかな声で。



「今日は『三人で泊まる』のよね?」
167 :LX [saga sage]:2011/08/28(日) 20:06:12.93 ID:97vRn+lS0

当麻はどきっとした。



昨日の段階ではどうなるかわからなかったので、彼は美琴にそこはぼやかして家を出てきた。

「成り行き見て、連絡するよ」と。



だが、一麻を連れて、麻美と会い、さっきは三人並んで歩いた。

嬉しそうな一麻の顔。

久しぶりに会ったせいか、どこか緊張していた感じの麻美の顔。

そしてこれからメインイベントの、一麻の能力検査。

どう考えても、二人を置いて帰れる訳がない。

置いて帰ったらそれこそ、「人でなし」だろう。



「すまない。お前には本当に申し訳ないと思う」

覚悟を決めて、当麻は妻・美琴に今日は帰らないことを告げた。



だがしかし、彼女の返事は予想と違っていた。

「は(冷笑)、あたしはね……あんたがあの子二人だけにして帰ってきたら叩き出してやろうと思ってたけど。

……あの子をこれ以上泣かせるような事だけは、わたし、絶対に許さないからね」



昔も聞いた、鋼のような強い意志を秘めた、美琴の言葉。

(ごめん。美琴。本当に申し訳ない!)

だが、言葉を多く言えば言うほど、どんどん軽くなっていくような気がして、

「すまない」

彼は、妻に対するお詫びを、一言に込めて、言った。



それに対する彼女の返事は、

「じゃ、あたし切るわね。あ、最後に一言」



その後の、

美琴の、

最後の一言。



当麻は首筋に刃を当てられたような思いを味わった。
168 :LX [saga sage]:2011/08/28(日) 20:11:34.51 ID:97vRn+lS0

































               「ちゃんと、『付ける』のよ」







                   電話は切れた。






169 :LX [saga sage]:2011/08/28(日) 20:15:31.06 ID:97vRn+lS0
>>1です。

最後までお読み下さいまして有り難うございます。
本日分の投稿は以上です。

投稿できるように仕上げて投稿して行くのですが、それが追いつかれてしまいました。
頑張ります。

それでは、また。
お先に失礼致します。
170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/08/28(日) 20:33:21.93 ID:J3CQE9Keo
カス上なのか……
171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/08/28(日) 20:46:44.86 ID:jJqrEtPlo
このスレの上条さんただのだめな子じゃないのww
愛想尽かしてる妹達も多そうだなあ。
172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/08/28(日) 20:55:03.09 ID:iNjrdne0o
なに、普通に浮気なの?
これカス条さんと呼ばれても仕方ない
173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/28(日) 21:31:42.90 ID:Mqxz7taro
乙です

うーむ、上のコメントにもあったがなにやら東海テレビの愛憎ドロドロ劇(花衣夢衣とか)がかつてあったような…こわいこわい。

まさか今度は他のミサカ達から制裁を受けるとか…次回に期待です。
174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/08/28(日) 23:07:10.75 ID:/kFC1TP4o
不貞があったのは確定なのか?
つかその場合美琴と麻琴が一番かわいそうだな
175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/28(日) 23:23:39.79 ID:uDHeCPCDO
NTR相手がシスターズじゃ美琴も負い目あるから無理矢理にでも納得するしかないしな
すげー残酷だわ
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/28(日) 23:27:50.18 ID:SrdLD8CUo
麻琴って確か怪我で障害負ってたよな
それで精神的に参ってる状態でこの事知ったら多分トラウマだな・・・ww
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/08/28(日) 23:42:28.79 ID:/kFC1TP4o
>>175
そうそう
妹達に関して自分を一生許さないとか一生背負ってくって思ってるからな
仮に不貞があったとしてそれが自分の全てである上条さんと妹達じゃ自分を殺してでも納得するしかないだろ
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/29(月) 00:35:46.24 ID:WDHMFj44o
上条さんすでに「人でなし」ですよ
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/30(火) 23:10:12.58 ID:5+4ZV7uSO
乙。まだ上条さんがカスと決まった訳じゃないだろ…?俺だって最初見たときはカスだと思ったけど何か理由があるのかもってずっと我慢してたのに、いきなり皆批判し始めたからびっくりした。
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/08/31(水) 06:59:26.45 ID:C29tBwnAO
>>179
後で真相がわかった時手の平返しするための前振りだろ、落ち着けよ。

少なくとも「今」わかってる話では不貞行為があったとしかおもえんが…
「牡丹と薔薇」みたいな話じゃないだろうな?
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
181 :LX [saga sage]:2011/08/31(水) 20:22:35.39 ID:3DXJ9OLi0
皆様こんばんは。
>>1です。

沢山のコメントをお寄せ頂きまして本当に有り難うございます。
10個も頂けたのは記録じゃないかな……と思っております。

上条当麻、ボロカスですねー。
作者としましては、彼もまた可愛い私の作品なものですから、いろいろと彼に代わりまして
あれやこれやと皆様に言い訳を申し上げたいところなのですが、ちょっとまだ……
スミマセンが今暫くご猶予頂きたく存じます。

……で、土曜日の投稿分につきましてはほぼ出来上がりましたが、日曜の分がちょっと
やばいかなという非常事態であります。
基本構文はずっと先まで出来ているのですが、17600号の伏線を回収しようとしたところ、
予想外に大ネタになってしまいまして、既存の基本線に割り込む形になってしまいました。
日曜日投稿予定の分を今見ていますが、どう見ても新規ネタを割り込ます必要がありますので、
さぁこれからネタの組み込み・全体の化粧直しを始めなければなりません。

頑張りますので、引き続き皆様どうぞ宜しくお願い致します。
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
182 :LX [saga sage]:2011/08/31(水) 23:57:56.96 ID:3DXJ9OLi0
>>1です。

連投失礼致します。

>>163
に間違いがありました。

>ワタシ。カズマ ヲ コトコ ニ ミラレタラシイ。

琴子は検体番号19090号。見られたのは検体番号13577号の琴江でした。
orz

失礼致しました。


自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
183 :LX [saga]:2011/09/03(土) 19:57:31.72 ID:SctCF8BU0
皆様こんばんは。

台風ですが、ここ東京は殆ど影響ありませんけれども西のほうは結構被害が出ているようです。
お見舞い申し上げますと共に、皆様十分お気をつけ下さいませ。

それでは本日分、これより投稿を始めますので宜しくお願い致します。

自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
184 :LX [saga sage]:2011/09/03(土) 20:00:18.61 ID:SctCF8BU0



僕たちはさっきの部屋に戻っていた。



「一麻、落ち着いたか?」

トイレから戻ってきたお父さんが、優しい声で訊いてくる。



「うん。もう大丈夫だよ?」



違う。

ぼくは、自分のしたことに、未だとまどっていた。

そして、未だ少し怖かった。


お母さんにぼくは謝ったけれど、

お母さんは、ぼくを許してくれないで、またぼくを捨てちゃうんじゃないかって。

どうしたらお母さんは機嫌を直してくれるだろう?



でも。

お母さんは中腰になって、ぼくの目線と同じ高さに身体を持ってきて、優しくぼくをの頭を撫でてくれた。

「一麻? あなたはお母さんが嫌いなのですか?」

小さな小さな、震えている声で。



馬鹿な。

嫌いな訳がないじゃないか。

さっき手を繋いでここへ歩いてきたじゃないか?

やっと、やっと僕たち三人揃ったのに。

「嫌いじゃない」

ぼくは、下を向いて、お母さんの顔を見ないでそう答えた。恥ずかしかったから。

「そうですか……ではもう一度聞きます。あなたはわたしが好きですか?」

あ、お母さんの声、さっきよりずっと落ち着いた……。

「……当たり前のこと、聞かないでよ? お母さんたら」

ぼくは顔を上げた。



お母さんが、微笑んでいた。



自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
185 :LX [saga sage]:2011/09/03(土) 20:02:20.48 ID:SctCF8BU0

「さて、少し落ち着いたようだが、上条さん、どうしようかな?」

木山教授がようやく今日の本題について話し始めた。

「え? あ……は、はい」

他のことを考えていたのだろうか、いきなり意見を求められた上条当麻は素っ頓狂な返事を返してしまった。



「仕事のことでも考えていたのかな? まぁ能力測定の時は君は用がないから、その時に外と連絡できるだろうから

それまで待ってもらえると助かるがね?」

ちょっと皮肉っぽい調子で木山教授が当麻を冷やかす。



「失礼しました。説明を続けて下さい」

当麻が頭を掻きながらぺこりと頭を下げる。

「じゃぁ、続けようか? テストのレベルは大きく分けて2つあるのだがね。所謂、簡便方法とフル調査方法だが。

簡便方法だと、現在のありのままの状態をみるものだから、正確なチェックにはならないし、被験者の能力がどういう傾向なのか

も不明な場合が多い。その代わり、脳への負担は一時的なものだから、能力の覚醒を引き起こす可能性はかなり低くなる。

いや、まず無いと行って良い。時間も費用もかからないしね。

フル調査だとその逆だ。

どっちを選ぶかは君たち次第だ。そう、君たちご両親が、この子を今後どうするかにもよるな」

木山教授はいったん言葉を切り、三人の顔を見回す。



「極端な事を言えば、学園都市に今日からいるのなら、フル調査も問題ないだろう。

能力が発現してしまっても、ここならば問題ないし、そういう子供はwellcomeだからね。

だが、東京の自宅へ戻ることを考えた場合には、万一その調査で能力が覚醒した場合は、特にそのパワーが強大だった場合は

自宅へ帰ることはかなり難しくなる。能力者が外へ出るには、いろいろとあるのはきみもよく知っているとおりだ。

これは、わたしが決める問題ではないのでね」

木山教授はゆっくりと、わかりやすく説明を行ってゆく。



自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
186 :LX [saga sage]:2011/09/03(土) 20:12:25.13 ID:SctCF8BU0


「お父さん、ぼく、学園都市に引っ越すの?」
「あなた、一麻をここに呼ぶのですか?」

一麻と麻美(元検体番号10032号)が当麻を見つめる。



「うん。結果次第ではそうなるかもしれない」

当麻はあらかじめ想定していたことでもあり、即答した。

「ぼく、引っ越すの? お父さんとお母さんと一緒に住めるの? (美鈴)おばちゃんはどうなるの?」

一麻は、両親である当麻・麻美、そして木山教授の顔に慌ただしく視線を走らせながら父・当麻に疑問を投げかける。



(やっぱり、気が付いたか)

「美鈴のお義母さんは、学園都市には住まないだろう。いや、最悪の場合は入れないかもしれない」

「どうして?」

美鈴おばちゃんは学園都市に入れないの? なぜ?

当然ながら一麻は当麻に反問した。



当麻は難しい顔で言いにくそうに答えた。

「おばさんはね、昔ちょっとあってね……」

「ちょっと、ってどんなことなの? 教えてよ」

「まぁ、大人の話だ。お前が大きくなったら……」

「お父さんずるいよ。前も僕が大きくなったらって言って……」

「だからお前はまだ小学生だからダメなの。お父さんのいう大きいというのはな……

そうだな、やっぱり18歳になったら、ぐらいだろうな」

「そんなに先なの?……納得出来ないよ。ずるいよ、なんでもかんでもお父さんは『大きくなったら』なんだから!」

「仕方ないだろ。とにかくお前が大人にならない限りダメだ」

「ケチ!!」

当麻と一麻がやり合うなか、麻美が頃合いを見計らって口を挟んだ。

「あなた!」

息子・一麻と口論中の当麻は、彼女の厳しい声に

「は、はい?」

と、うわずった返事を返す。

それにかまわず、麻美は難しい顔のまま、当麻にまるで詰め寄るかのような質問を投げかける。

「学園都市の仕組みをわかって言っているのですか? 一麻には説明してあるのですか?」



自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
187 :LX [saga sage]:2011/09/03(土) 20:16:17.80 ID:SctCF8BU0


当麻がまじめな顔で答える。

「すまん、まだしてない。ただな、いいか麻美? 一麻には現に能力の発現が認められているんだよ? 

仮に一麻の能力がまだ軽微なものだったとしたら、今のAIMジャマーでも装着すればとりあえずはクリア出来るかもしれない。

でも、こいつはこれから成長期に入る。だからAIMジャマーだって、単なる一時しのぎにしかならないかもしれない。

もう、後戻りは出来ないんだ。

『パーソナルリアリティ』だっけ? それが正しいあり方を知らないことで、おかしな形で出来上がっちゃったらどうする?

正しく導く方法があるんなら、それに沿ってこいつの能力を伸ばしてやるのが、俺たち親の責任じゃないのか?

そして、もう一つの場合。もし能力が強力でAIMジャマーでは対応出来ないレベルだったら、もう東京へ戻ることは難しくなる。

一刻も早く、きちんと正しい方法で能力を制御するやり方を覚えさせなければ、周りも本人も不幸になる」

当麻はゆっくりと説明する。半分は木山先生が先に説明したことなのだけれど。

「……」

麻美は沈黙した。



「お父さん……、ぼく、もうおばちゃんのところへは戻れない……のかな?」

とまどいを隠さずに一麻が文句を言う。

「それはテストの結果次第だよ?」

再び、当麻と一麻が言い合いを始めた。



「そんなのやだよ。お母さんと一緒になるのはいいけど、おばちゃんのところに帰れないのはやだよ」

「出れない訳じゃないぞ? 問題を起こさなければ、ちゃんと申請すれば出入りは出来る。夏休みや冬休みは戻れるしな」

「う……」

「要はな、一麻。お前が産まれながらにして持っていたその超能力を自分できちんとコントロール出来るかがキモなんだよ?

その超能力がたいしたことのない、可愛らしい物であったなら殆ど問題ないと思うんだ。

だけれど、もし、その力が結構強かったなら、それをお前がコントロール出来なかったらなら、お前は歩く爆弾みたいなものだ。

例えば一麻、おまえが朝の電車に乗って学校に行く途中でいきなり電撃を放っちゃったらどうなる?」

「そんなことしないよ!」

「そうだな、父さんもお前がそんなことをするような子じゃないことはよくわかってる。

でもな、コントロール出来なかったんだろ? 

おまえ、この間ゲーム機を壊しちゃったんだろう? 

学校の非常ドアを動かしたんだろう? お前自身は、そんなつもりは全くなかったのに、な?」

「……」

一麻も黙った。



再び、母・麻美が口を開く。

「一麻、あなたは電撃使い<エレクトロマスター>なのですか? でも私はあなたの生体電流に大きな変化は感じ取れないのですが?」

「そんなこと言われても、ぼく、わからないよ」

少しいらつくように、一麻が口答えをする。

まさに、その『わからない』ことが問題なのだ、が。



自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
188 :LX [saga sage]:2011/09/03(土) 20:21:56.69 ID:SctCF8BU0


助け船を出したのは、木山教授だった。

「それでいいのさ。それを調べるのが、今日の能力測定<システムスキャン>なんだ。一麻くん、いいかな?」

「……」

「まだ、きみ自身の考えも纏まっていないようだね。

……それでは上条君、わたしが思うに、今日は簡便法でやったらどうだろうね? 何もしないよりは一歩前進すると思うんだが?」 

当麻を向いて、木山教授が決断を促す。

「先生、ぼく、受けます」

父・当麻が答えるより先に、一麻が答えた。

「簡便法で、いいんだね?」

優しい顔で木山教授が一麻に尋ねる。

「はい。自分の事がわからないのは、やっぱりいやだから……ごちゃごちゃ言ってごめんなさい。御願いします」

はっきりと自分の決意を述べた一麻を、(ほう)と言う顔で見た木山教授は、

「ということなんだが、ご両親、どうだろうか?」

と今度は当麻・麻美の方を見る。


二人はお互いに顔を見合わせたあと、

「はい。御願いします」
「わかりました。宜しく御願いします」

と答えた。



(まぁ、そんなところだろう。……さて、簡便法ではどれくらいの精度で能力がチェック出来るのかというと、少し心許ないが)

そう思いながら、

「じゃ、一応規則なのでね? こちらに一麻くん、君の名前を書いてくれるかな? ご両親には、この紙とその一麻くんの下に

サインを御願いしたい」 と、木山教授は能力検査<システムスキャン>受信承諾書を出した。

3人はそれぞれ自分の名前を承諾書にサインする。



承諾書を確認した木山教授はビジネスバックにその承諾書を挟み込むと

「さて、じゃ、皆さん行こうか?」

と彼らを促した。



1人の教授と3人の家族は測定室へと向かって歩いていく……。


自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
189 :LX [saga sage]:2011/09/03(土) 20:36:18.12 ID:SctCF8BU0
>>1です。

本日の投稿は以上です。

前に御指摘頂きました、「能力」と「超能力」の使い分けですが、

1)学園都市で使われる超能力全般を意味する「能力」と、レベル5の能力者を意味する「超能力者」という区分けがあったと思うのですが、
当SSにおいては、
2)木山先生や上条当麻などが小学生の御坂一麻に対しては、超能力全般をそのまま「超能力」
という言葉を用います。理由は、一般人の一麻に対しては「超能力」という言葉のほうが
明確に意味することがわかるだろうから、というものです。


……能力検査と能力測定がごっちゃになってる……
「能力測定」ですよねー? 失礼しました。

それでは、また明日。お先に失礼致します。





間に合うのかなぁ??



自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/09/04(日) 17:16:54.32 ID:DpDUxAwwo
乙。次回の投下を楽しみにお待ちしています。
凡庸で気の利かないレスですがご容赦を。

自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
191 :LX [saga ]:2011/09/04(日) 19:33:10.30 ID:jwn08RCA0
皆様こんばんは。
>>1です。

>>190さま
いえいえ、何を仰いますやら。
コメント頂き、有り難うございました。頑張ります。

それでは本日分、これより投稿致します。





自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
192 :LX [saga sage]:2011/09/04(日) 19:35:43.85 ID:jwn08RCA0


それから2時間後。外はすっかり夕方になっていた。

会議室で待つ家族3人の前に、測定データを持った木山教授が戻ってきた。



「結果が出た」

「……」
「……」
「……」

三人が固唾をのむ。

「今時点では、レベル1に非常に近いゼロだ。レベル1といえる部分もあるのだがね。総合評価で言うとゼロということになった」

木山教授はまぁそんなものだろう、と言う感じで淡々と結果を告げた。



「……そ、そうか」

沈黙の時が少し流れた後、上条当麻が息をつくようにつぶやいた。

一麻は自分とは違って完全無能力者ではなかった、それにとりあえず東京へ一旦戻れるな、という安堵と、

やっぱり自分の血をひいたことでレベルは低いのだろうか、という無念のような思いが錯綜する複雑な感傷と共に。



「お父さん、ゼロって、ぼくには超能力がないってことなの?」

本人、御坂一麻は「ゼロ」という数字を言われたことで、ぼくはどうなるんだろう?という不安の色を浮かべて父を見る。

木山教授は、直ぐに彼の不安と不満を見て取った。

「そういうことではない。いいかい、一麻くん?」

不安を打ち消すように、教授は穏やかな微笑みを浮かべて補足説明を始める。 

「君は、何も能力開発を受けていないのに超能力という力が発現しているんだよ?

こういう例は初めてではないけれど、珍しいことなんだ。それをまず理解して欲しい、いいかな?

確かにここ学園都市には数多い超能力者がいることはきみも知っているとおりだ。

でもね、その殆ど全ての人たちは、この学園都市で何らかの能力開発を受けた結果、初めて超能力が発現したんだよ?

もちろん彼ら自身の努力によるところも非常に大きいけれどね。そう、きみのおばさんのようにね。

そしてまた、それ以上に、残難ながら超能力が発現しなかったレベルゼロの人たちがとっても沢山いるんだ。

確か、きみのお父さんもレベルはゼロだったかな?」

説明の最後に、木山教授はニヤリと笑って当麻を見る。

「ちょ、なんかそういうように引き合いに出されると、上条さんはヘコんじゃいますよ」

彼は場を和らげるつもりで少しおどけて返したが、残念ながら場の空気は張りつめたままであった。




自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
193 :LX [saga sage]:2011/09/04(日) 19:40:22.72 ID:jwn08RCA0



木山教授の話は続く。

「次に、君のその超能力は、今の時点ではまだ微力だということだ」

御坂一麻の顔を見ながら、丁寧にかんで含めるようにゆっくりと話してくれている。

「そして、その超能力をだ、きみ自身は全くコントロール出来ていない。これが一番大きいマイナス評価になった。

ただ、これについては、さっきも言ったとおり、きみ自身が能力開発を受けていないのだから当然の事なんだ。

だから君が悩むことは全くない。そうなるのが当たり前なんだ」

そう言って、教授はよろしいかな? と言う顔で彼に微笑みかけた。

そして、再び話を続ける。

「だから、通常ならばここ学園都市できみの超能力を十分引き出し、かつ100%コントロール出来るように訓練し、

身につける必要があるんだが……」

そして今度は父親である上条当麻へ視線を移し、

「……これはあくまでも私の個人的な考えなんだが、この程度ならば、そのまま東京にいても問題はないのではないかな?」

息子・一麻は心配そうに父の顔を見る。



「でも、ものを壊した事例がありますよね? このままだとこの子は問題児になってしまうかもしれません」

少し考えて当麻が言葉を返す。

「ああ、そうだったな……もし、学園都市に転入する気があるのであれば、それまでの間、一時的にAIMジャマーを貸与する

ことぐらいは出来るかもしれないな。この程度の能力であれば、今の小型AIMジャマーの性能でも十分対応出来るはずだ。

それで時間を稼ぐことは可能だろう。あわてて今日明日にでも転入しなければならない、ということは避けられると思う。

例えば……そうだな、区切りが良い、6年生に上がる段階で転入を考えても良いのではないかな?

ただね、言っておくと、もし能力開発を受けるのであれば、早いほうがいいのはきみも知っての通りなのでね。

中学校に上がる段階まで延ばしてしまうのは、状況次第だけれど、ちょっと遅いような気がするな」

木山教授はそう言って締めくくった。

「ありがとうございます。ちょっとみんなで相談することにします」

そう言って当麻が頭を下げると、息子・御坂一麻とその母・御坂麻美も頭を下げた。

「ああ、そうした方が良いね。お疲れ様でした」



そこに、突然ノックの音が響き、ドアが開いた。

「いやぁ、待たせてしまったね。ああ、木山先生、忙しいのに呼び出してしまって申し訳なかったね」

冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>と異名を取る、カエル顔の医者が入ってきたのだった。





自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
194 :LX [saga sage]:2011/09/04(日) 19:47:27.12 ID:jwn08RCA0



木山教授はカエル医者に軽く会釈して

「いや、最近はこういう実地試験などは殆どやっていませんのでね。久しぶりでしたが、なかなか興味深いものでした」 と御礼を述べる。

「そうかい? そう言ってくれると、ぼくもちょっと安心するね」  カエル医者もホッとした様子で言葉を返す。

「先生、ご無沙汰しています」  上条当麻がカエル医者に挨拶する。

「ああ、上条君か。本当はぼくには会わない方がいいんだけれどね? 元気そうで何よりだ」  彼は当麻に挨拶を返すと、

傍に立つ御坂麻美(元検体番号10032号)に声を掛けた。

「さっきはちょっと心配したけれど……、どうやら大丈夫なようだね? やっぱり彼の隣が良いのかな?」



「もちろんです。このひとはこのミサカの全てなのですから」  

ちょっと冷やかすようなカエル医者の言に、麻美はきっぱりと言い切った。

「ははは。ごちそうさまだね。そういえばミサカくんも、彼とは久しぶりなんじゃないかな?」

おお、それならば違う角度からどうだろうかな?と言う感じで、彼はカマをかけた発言をしてみた。

「はい、確かにその通りです」  

麻美は横目で(だいたいこのひとは)と当麻をチラと睨んで

「お姉様<オリジナル>とならばまだしも許せますが、それ以外の女性と懇ろにしている時間があるのであれば、

もう少しこのミサカにも気を遣ってくれてもいいのではないかと」 と爆弾発言をする。



「おーいおいおい麻美さん? 『それ以外の』って誰のことでせうか?」  

いきなり予想外のところから飛んできた砲弾に当麻があわてる。

「ここで名前を挙げることは慎んだ方がよいとミサカは空気を読んで賢い妻を演じます」 

(わたしが知らないとでも思っているのですか?)と言うかの如く、しれっとして斜め上を見ながら麻美が言い放つ。



「上条くん、きみ、他にも女性がいるのか?」   あきれたように木山教授が独り言を言う。

「木山先生まで!? 止めて下さいよ、一麻の前で何を言うんですか?」   勘弁して下さい、とわたわたと当麻が手を振る。

「だから名前を挙げることは「きみが、一麻君、なんだね?」」

おかしな方向へ話が流れるのを嫌ったのか、子供の前と言うことを考えたのか、麻美が言いかけようとしたところで

カエル医者は強引に話を切り替えた。




自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
195 :LX [saga sage]:2011/09/04(日) 19:52:27.09 ID:jwn08RCA0



「は、はい。ぼくは御坂一麻(みさか かずま)です」  

大人達の話を困ったように聞いていた一麻は、いきなり自分に質問が飛んできたので、少しまごついたようだった。

カエル医者は、そんな様子の一麻を見て、少し笑いながら

「おお、全体的にはお父さんに似ているけれど、でも顔はお母さんに生き写しだね? きみ、女の子にもてるんじゃないかな?」

とからかうように聞いてきた。

「……そんなこと、ないです」 

見知らぬ人からのそう言う質問には慣れていないのか、一麻はうつむいて小声で返事をする。



ムッとした顔で麻美はカエル医者を睨み付けると、一麻を励ますように、

「一麻? あなたはそんなところまでこの人のマネをしなくても良いのですよ?」と一麻の頭を撫でた。

最後のところで、当麻をチラと横目で睨みながら。



「あのなぁ、どうしていちいちオレが引き合いに出されなくちゃ行けないんだよ、ああっもう上条さんは不幸ですっ!」

「うん、確かに君はカワイイと思うな。女の子だけじゃなくて、お母さんたちも放っておかないだろう?」

せっかく収まり掛けたのに、今度は木山教授がまじめな顔で問いかけてくる。

「だから木山先生は煽らないで下さいって御願いしてるのにっ!!」

当麻が頭をガシガシとかきむしる。



ひとしきり漫才のような時間が過ぎたところで、麻美がまじめな顔でカエル顔の医者に訊く。

「あの、宜しければ、一麻のAIMジャマーのことで段取りを決めたいと思うのですが、宜しいでしょうか?」

カエル医者がおお、そうだったね、と言う顔で木山教授を呼ぶ。

「ああそうだね。木山先生? 彼の能力測定<システムスキャン>の結果はどうだったのかな?」

「失礼しました。こちらを」

木山教授はハンディターミナルをプリンターに繋ぎ、ハードコピーを取り、カエル医者へ渡した。

カエル顔の医者はその紙をざーっと読んで行く。

「……ふーむ……なるほどね……ほう?……はは、そういうことか」




自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
196 :LX [saga sage]:2011/09/04(日) 19:54:52.90 ID:jwn08RCA0



ざっと目を通したカエル顔の医者は、穏やかではあるが真剣な眼差しを当麻へ向けた。

「上条くん? 君はこの子をどうしたいんだい?」

「いや、ぼくがどうしたいと言うより、一麻がどう考えているかを……」

例によってはっきりしない答えをした当麻を、カエル医者は見すえて強い言葉で彼を諭すように言った。

「それは少し違うような気がするね。

『子供の意見を尊重して』、一見、物わかりの良さそうな親に見せているが、単に決断から逃げているだけだよ?

『子供がそう言ったから』と、子供に責任を押しつけているだけじゃないのかい?

親たる君の考えをぼくは聞いているんだがね?」

当麻はぐうの音も出ない。

(先生の言うことは、確かにそうかもしれない。でも、本当にオレの意思でコイツの人生を決めてしまって本当にいいのか?

仮にオレが決めるにしても、コイツの考えも一応は聞いておく必要があるだろう?) 



しかし。

「私は、この子と一緒に暮らしたいと思います」

「ほう?」

当麻がグダグダ考えているうちに、麻美がさっさと自分の意思を述べてしまった。

「お、おい麻美……」

「さて、お父さんは煮え切らないから、先に一麻くん、君はどうかな?」

当麻が頭の中で考えているうちに、事態はどんどん進んで行く。

既に、カエル医者は次に一麻の意見を尋ねている。

「……わかりません」

「うん。どうわからないのかな? いや、決まらないのかな?」

「ぼくは、お父さんと、お母さんと一緒に暮らしたい、です。でも、東京の美鈴おばちゃんとも別れたくないんです。

クラスの友達とも別れたくないし……どうすれば」

「そうか。なるほどね。きみの考えはわかったよ」

優しく答えたカエル医者は再び当麻を見すえて言う。

「それじゃあ上条くん、ぼくにどうしたらいいのか、考えておいてくれるかな?」

当麻は今度ははっきりと答えた。

「わかりました。それで、あの、お返事はいつまでにすれば良いでしょうか?」

少し考えてカエル医者は答えた。

「そうだね……AIMジャマーを作ることを考えると、明日の朝10時までに連絡が欲しい。遅くとも夕方には出来上がるだろう。

ああ、もちろんこのまま学園都市に残るのならばAIMジャマーはいらないから、その限りではないね」




自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
197 :LX [saga sage]:2011/09/04(日) 19:58:23.08 ID:jwn08RCA0




「わかりました」   

当麻の答えを聞いた彼は、次に一麻の方を見ながら「一麻くん、いいかな?」 と念押しをする。

「はい。ありがとうございます」   一麻はカエル医者の目を見ながら、はっきりと答えた。

「おお、良い返事だね? じゃぁ今日はこの辺で。ところで木山先生、貴女はこの後は?」     

「特に今すぐ、という用事はありませんけれども?」

「そうかい? よかったらちょっと意見を聞きたいことがあってね、少し時間をもらえると助かるんだが」

「かまいませんよ」

木山教授はそう答えた後、当麻に向かって

「ああ、上条君、今日はなかなか楽しかったよ、有り難う」と軽く会釈した。



「い、いえ、こちらこそ色々とお忙しいところ有り難うございました!」

「先生、ありがとう」

当麻と一麻の親子が同時に頭を下げる。

「ああ、じゃぁ一麻くん、またどこかで会うこともあるだろう。では」  

その仕草がそっくりだったので、思わず顔をほころばせてカエル顔の医者は一麻に手を小さく振って挨拶した。



カエル医者がふと目をそらすと、立っていた麻美と視線が合う。

「この度は有り難うございました。あ、あの先生、明日、わたし」

「ああ、もちろん呼び出すようなことはしないさ。ゆっくりと休日を楽しんでくるといいよ?」

「すみません」

深々と彼女は頭を下げた。



その姿をみて、カエル医者はひとつのことを思い出した。

「あ、そういえばミサカくん?」

部屋を出ようとした当麻たちの足が止まる。

「受付ロビーにきみの仲間たちが数人固まっていたんだが、どうかしたのかね? 身体調整は殆ど問題ないはずだし、

いや、そもそもきみたちは、公の場所ではあまり群れないはずなんだけれどね?」

当麻は真っ青になった。




自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
198 :LX [saga sage]:2011/09/04(日) 20:06:41.49 ID:jwn08RCA0



>>1です。
本日投稿分は以上です。お読み頂きまして誠に有り難う御座いました。

自動で各レスにローカルルール(以下省略)の通知がくっついてしまうので、上下を3〜4行
開けて投稿しています。少しは見やすいかな?と思っておりますが如何でしょう?

さて、先にも愚痴をこぼしましたが、下書きを伸ばす事を一生懸命やっておりましたところ、
投稿用の仕上げたものに手が回らず、完全に追いつかれてしまっています。
次回の土日分はこれから仕上げなければなりません。
間に合わなかったらごめんなさいです。
頑張ります。

それではお先に失礼致します。




自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/04(日) 22:39:37.22 ID:qfdvJR4zo
まだ色々確定じゃないんだろうけど今の段階じゃ
やっちまった上条さんが奇麗事言ってもなんだかなぁとしか思えないよね
200 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/05(月) 01:51:11.78 ID:Vew0n+db0
一麻が生まれたのは美琴と結婚する前なんだよな。何があったんだろ
201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/05(月) 13:02:38.12 ID:Ww/jf1MCo
お疲れ様です。
前にレスしたように妹達による麻美への自己批判が始まるのか…プラカードは勘弁してほしいですが。
さてまだ名誉回復には程遠い上条さん。ゲス条さんの汚名返上はいつになるのかねぇ…次回待ってます。

202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県) [sage]:2011/09/07(水) 20:16:37.88 ID:/qVE9tuM0
上条さんは口癖で不幸って言ってるけど
親世代のいざこざで親にまともに会えなかった一麻の前でそれを言うのがなぁ
203 :LX [saga sage]:2011/09/07(水) 21:08:14.33 ID:xNh7nftt0
皆様こんばんは。
>>1です。
とりあえず土曜日投稿分は仕上がりました。あとは日曜日分ですね。頑張ります。

コメント頂き有り難う御座います。

>>199
やみくもにしてしまった訳ではないのですが、納得して頂けるかはわかりません、
と当麻が申しておりました。

>>200
いずれ、恥を忍んでお話しすることも御座いましょう、今暫くお時間を頂きたく存じます、
と当麻が申しておりました。

>>201
妹達<シスターズ>とのやりとりは、まもなく結果が出ます。
私のことはともかく、御坂妹は責めないで下さい、
と当麻が申しておりました。

>>202
あれ、一麻がいるところで叫びましたっけ?と確認してみましたところ、
しっかり>>195で叫んでしまってました。よほど動転していたのだろうと思います。
仰るとおり、一麻の前では言うべき言葉ではありません。
深く反省致します、次からは言いません、
と当麻が申しておりました。

と、毎回「ネタバレするのでうんぬん」という言い訳では申し訳ないので、当麻に回答を
押しつけたような文章にしてみましたが、ご不快であれば止めます。

それでは次回投稿まで今暫くお時間を頂戴致します。宜しくお願い致します。
204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/09/10(土) 14:40:55.32 ID:rT7yMycAO
ふぅ追いついた
>>1
205 :LX [saga]:2011/09/10(土) 19:53:42.57 ID:h6rBEIOY0
皆様こんばんは。
>>1です。

>>204さま
お読み下さいまして有り難う御座いました。

それでは本日分、例によって短いのですが投稿を始めます。
宜しくお願い致します。
206 :LX [saga sage]:2011/09/10(土) 19:56:20.31 ID:h6rBEIOY0


一方、麻美(元検体番号10032号)は平然としている。

「問題ありません、先生。 妹達<シスターズ>はわたしに会いたいのでしょう。

あなた? 一麻と先に出て下さい。わたしは後から行きますので、連絡を下さい。番号は変わっていませんから」

そう言うと彼女は受付へ向かおうとした。



(あの子はとっくに腹をくくってるわよ)という美琴の言葉が当麻の頭をよぎる。



「待ってくれ、麻美。オレが説明する。お前は一麻を連れてここへ行ってくれ。予約してあるから大丈夫だ」

当麻は彼女を押しとどめ、メモを渡す。

「お父さん、お母さん……」   不安そうな顔で一麻が二人を見、麻美の手をそっと握る。

「はは、大丈夫だよ。久しぶりに、昔の仲間が揃ったみたいなんで、ちょっと話をしてくるだけさ」   

そう言って、当麻は一麻の頭をがしがしとなでまわす。

「あなた、大丈夫なのですか?」 一麻の手をしっかと握りしめた麻美が当麻の目を見る。

「お前の仲間だろ? 全く問題ないさ」 当麻は大丈夫、と言う感じで二人に軽く笑いかけた。



「それで、先生? すいませんが、彼女と息子をちょっと面倒見てもらえると助かるのですが」 とカエル医者に当麻が頼む。

「正面からは出にくいかね? 地下急患入り口という手もあるが、タクシーをまわすのはちょっとねぇ……

さて、どこから出たらいいかねぇ……」 カエル医者が腕を組んで考え込む。

「わたしが送ってあげようか?」  木山教授が助け船を出した。

「先ほどのお話ですが、小一時間ほど外出しても大丈夫でしょうか?」  彼女はカエル医者に都合を確かめる。

「ぼくはかまわないよ。クルマは地下?」

「ええ」

「有り難いお話ですが」と麻美が割り込む。

「既に御坂琴江こと検体番号13577号が配置に付いています」

「はは、さすが妹達<シスターズ>だねぇ」  感心したようにカエル医者がまぜっかえす。

「オレが呼べば問題ないさ。ここにいる全員を受付ロビー……じゃ邪魔だな。先生、この会議室をお借りして良いでしょうか?」
207 :LX [saga sage]:2011/09/10(土) 20:03:05.38 ID:h6rBEIOY0

検体番号13577号こと御坂琴江とはち合わせしないよう、大回りして地下駐車場へ向かう木山教授と麻美・一麻の親子を見送ると、

当麻とカエル医者は正面ロビーへと向かった。

「ぼくもいた方がいいんじゃないかな?」

「お気遣い有り難う御座います、先生。でも大丈夫です。ぼくらの家族の問題、ぼく個人の問題ですから。

別にあいつらもぼくを捕って食おうと言うワケじゃないでしょう」

当麻は笑ったつもりだったが、カエル顔の医者には少々ひきつって強張っているように見えた。

「そうかい? じゃぁぼくは、あの子のAIMジャマーの作成に取りかかることにするよ」 そう言って、彼は当麻の肩をバンと叩いた。

「え? 先生、それはまだ?」  当麻は驚いてカエル顔の医者の顔を見つめる。

「何を言ってるんだ? そのつもりなんだろう? 年寄りは気が短いんだ、ぐだぐだと待たせるもんじゃないよ? はははは」

じゃあな、とでも言うように片手をひょいと上げて、彼は通路を正面ロビーと逆の方向へ角を曲がっていった。

(ありがとうございます。すいません、先生!)

ぺこりと頭を下げた当麻は正面ロビーへ早足で向かった。





正面ロビーから見える外はすっかり暗くなっており、事務窓口も大半が閉まり、案内窓口にも人の姿はなくなっていた。

閑散としたロビーにいたのは数えるほど。



(あれ? 少ないな??)

すぐに当麻は気が付いたが、そこにいたのはわずかに2人、の妹達<シスターズ>であった。

1人の妹達<シスターズ>が、彼に気が付き会釈をした。

「よ、元気そうだな」

先に当麻が声を掛けた。

「こんにちは、とミサカは挨拶します」
「直接お話しするのは初めてですね、とミサカは少し緊張して挨拶を返します」

「あれ? 琴子(元検体番号19090号)と美子(元検体番号10039号)だよな? なんで(話し方が)昔に戻ってるんだ?」

当麻は(違うの?)という「?」を顔に浮かべて二人に問い尋ねた。
208 :LX [saga sage]:2011/09/10(土) 20:08:21.56 ID:h6rBEIOY0

二人は顔を見合わせて

「うふふ」
「ほほほ」

と笑い合い、美子がすこしバツが悪そうな顔で答えてきた。

「すみません、上条当麻さん。わたしは検体番号10039号ではありません。このミサカは検体番号17600号のスネークです」

へ? と当麻の顔が変わる。

「検体番号17600号にあわせる為に、このミサカもしゃべり方を昔に戻してみただけです。

もし、お気に召さないのであれば、普通のしゃべり方に戻しますが、どちらがいいですか?」

琴子こと検体番号19090号が(いたずら成功!)という顔で聞き返してくる。

(作者:注 妹達<シスターズ>もいまや30代に乗っていますから、当然ながら常盤台の制服なはずがありません。
夜に誰かの趣味で着せて遊ぶ、というのは別にしてw
当然髪型も変えていますので、それで当麻は見分けている、とお考え下さい)


「いやもうどっちでもいいさ。ところで二人だけなのか?」

妹達<シスターズ>が群れている、というあの医者のニュアンスからすれば、もっと多くいるだろうと予想してきたのだが。

これではちょっと拍子抜け……。

「あ、それは私たちがひとかたまりになっていると色々と問題を起こしますので、今は散開しています。

お望みであれば直ぐに集まりますが」  と琴子が少し笑いながら答える。

「ごめん、全員呼んでくれるかな? それでえーと、全部でどれくらい集まるんだ?」

「あと検体番号10039号、12500号、13577号、15214号の4人です。従って合計6人ですね」

スネークこと検体番号17600号が瞬時に答える。

「ところで、上条さんは今日はどうしてここに? また何か身体に問題でも?」

小首をかしげて当麻を斜め上に見上げる琴子。

その仕草が無意識なのか意識的なのかはわからないが、一瞬どっきりした当麻はあわてて彼女の発言を否定する。

「こ、琴子さん? 上条さんはここの常連ではありませんのことよ?」



そこへ大荷物をぶら下げた妹達<シスターズ>の1人が入ってきた。

「19090号、何をそんなに親しげにお話ししているのですか?」

(少し険のある言い方だし、誰だ?)声の主を見て一瞬あれ?と思ったが、

(ああ、なーんだ)と声を掛ける当麻。

「お、美子か。なんだ、買い物でもしてきたのか?」

「はい。お休みを取って一日買い物しちゃいました!」

目をつり上げて、むすっとした声からコロッと180度うってかわって、明るい声と笑顔で当麻に答えるのは、

本物の御坂美子(みさか よしこ)こと検体番号10039号であった。
209 :LX [saga sage]:2011/09/10(土) 20:12:19.95 ID:h6rBEIOY0

「お姉様<オリジナル>には内緒ですからね?  そうだ、当麻さん、ちょっとこれ、見て頂けます?」 

がさごそと袋を開け、帽子を被る美子。 なかなか可愛らしい。私服のセンスは美琴の機能優先型とはまるで違う。

「お、おう?」

独身だから、ファッションは美琴より若いものを選ぶのかなぁ……等と考えてしまう当麻であるが。

「あたし、お姉様<オリジナル>の影じゃないですか? 

だからいつもお姉様<オリジナル>と同じファッションでないといけないんですよ……。

滅多にこういう服着れないんですよ? 似合います?

そうそうそれで、今日はアルナージュが店内改装記念の全品半額セールでしたので朝から並んで、エヘヘ♪」

(あーそういうことか、しかし、美琴には言えねぇな)と納得する当麻。



一方、瞬時に美子の言葉に食いついたのは琴子である。

「ええっ? 10039号、どうしてそれを皆に教えなかったのです!?」 声が少し高くなる。

「教えたらあなたも絶対来るでしょう? ライバルは少ない方がよいかと」 ふふんと鼻で笑うかのように言う美子。

「ひどいです。ならば貴女にはもうユーノ・ディエールの新製品先行試食会の案内は流しませんから!」

よろしい、戦争だ! と言わんばかりに琴子が声を張り上げる。

「そんなこと教えてもらわなくても結構です!調べればわかりますし!」
「あら、わたし最近いいお店を新たに見つけたのですけれど、そこは13577号と行くことに致しますわホホホ」

ジャブの応酬だなー、と当麻は二人のバトルを眺める。

が、周りを見渡すとやはり殆どひとはいないものの、まだ開いている1つの窓口にいるお姉さんの眉間にしわが寄っているのが見えた。

(まずい) 当麻は口論絶好調の美子・琴子の傍に寄り、二人をなだめようと

「まぁまぁ二人ともこんなところでみっともないから『当麻さんは!』『黙ってて下さい!!』……」

……即答速攻大否定、であった。



その脇で、壁に手を突き、思い切り黄昏れている1人の妹達<シスターズ>。

「……バーゲンセールのために、そしてわたしは2時間もオフィスで説教を……ぶつぶつ」  

それはスネークこと17600号である。



「情けないですね、スネーク?」

声を掛けられた17600号がキッとそちらを向く。

「12500号?」

12500号と呼ばれたミサカが入ってくる。

「お久しぶりです、上条当麻さん。私は東京の科学技術振興財団におります御坂美雪(みさか みゆき)こと検体番号12500号です。

前回、お名前を頂戴した時以来ですから10年が過ぎましたが、お変わりありませんか?」
210 :LX [saga sage]:2011/09/10(土) 20:22:13.66 ID:h6rBEIOY0

当麻は申し訳なさそうに彼女に答える。

「ご、ごめんな、美雪。あんときはものすごい数だったんで、名前つけるのに精一杯で一人一人まで覚えていないんだ。

気を悪くしたのなら謝る。……けどさ、お前、黒髪なんだけれど、あの時に本当にいたか? 黒髪だったら覚えてそうなもんなんだが」

すると美雪こと検体番号12500号は(そっか、失敗したな)という顔になって

「いえ、あの時はまだ、地毛の栗色でした。今はお役所みたいなところに勤めていますので、髪も黒く地味でないと」 と答えた。



*余談であるが、この後、学園都市を含む日本にいる妹達<シスターズ>の間では髪を黒く染めるのがブームになった。

理由はなんのことはない、当麻が言った「黒髪だったら覚えている」としゃべった一言である。

逆に目端の利く数人は逆を狙って金髪やプラチナブロンドにした。

結果は、黒髪が周り全体に埋没してしまったのに対し、こちらは狙い通りかなり人目をひくことになった。

とはいえ、彼ら自身と肝心の当麻とが会うチャンスが残念ながら殆ど無かった事と、30歳を過ぎた日本人であるミサカたちに

金髪やブロンドの髪はあまりマッチしたものではなかったことで、その努力はあまり報われなかったのであった。



「あ、上条さん、こんにちは、ミサカは、あい、さつを」 はぁはぁ言いながら入ってきたのは検体番号13577号の御坂琴江だった。

その後から「10039号、あなたはずいぶんと馴れ馴れしく接していますのね?」と、さっきの本物の美子(検体番号10039号)の如く

とがめるような声と共にもう一人のミサカが現れた。

「何よ、15214号? お姉様<オリジナル>の監視なしでお話出来ることなんか、そう滅多にないんだからいいじゃないさ」

と、これまた先ほどのブリッ子が台無しだろうと思わせるほどの豹変を見せる美子。

「何を言っているのですか10039号? 圧倒的大多数のミサカは直接会ったことすらないのですよ? 

お姉様<オリジナル>の監視付きであろうが、直接お会いできてお話まで出来る、そんな幸運の下にいることを忘れてはなりません」

そう言うと、15214号と呼ばれたミサカは当麻の方を向き、

「このミサカは初めてお目にかかります、15214号のミサカです。ヨーロッパ派遣組の代表として来ております。

ドイツにずっとおりましたので、お名前を頂けておりません。出来れば学園都市にいる間にお名前を頂けると嬉しいのですが」



*ちょっと待て、誰が代表ですって? そんな話聞いてない、という声がMNWに流れるがそれは作者都合で省略します



「すまん。その話はあとにしてくれないか? 先に重要な話をすませたいんだよ」

と当麻は軽く頭を下げて彼女に詫びた。

(えーと、これで6人揃ったんだな?)

当麻は6人に妹達<シスターズ>の顔を確認して

「ちょっとみんな、会議室に入らないか? ここでは迷惑になりそうだ」  と場所を変えることを提案した。



「ええ」「そうしましょう」「はーい」「わかりました」「はい」「Ya!」



(昔だったら全員が一斉に同じ答えを返しただろうな……)

個性が出ていることにちょっと当麻は嬉しく思うのだった。
211 :LX [saga sage]:2011/09/10(土) 20:27:22.23 ID:h6rBEIOY0
>>1です。

本日分、以上です。
だらだらと話が続いて行く……のですが、明日の分、実はまだ完成しておりません(汗
頑張ります。

それではお先に失礼致します。
212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/10(土) 23:55:18.36 ID:eVrVnazDO

乙です!
213 :LX [saga ]:2011/09/11(日) 20:59:48.53 ID:F6AYXBz00
皆様こんばんは。
>>1です。

>>212さま
カキコ有り難う御座います。


それでは、これより本日分の投稿を始めますので、どうぞ宜しく御願い致します。
214 :LX [saga sage]:2011/09/11(日) 21:06:35.28 ID:F6AYXBz00

さっきまで皆といた会議室。

今、ここにいるのは6人の女性。

「さてと、おれがみんなのところに来たのは、あることを話す為だ」

上条当麻はゆっくりと6人のミサカたちの顔を見回す。

6人の妹達<シスターズ>もまた、少し緊張した顔で当麻を見る。



昔は、全員が常盤台中学の制服に暗視ゴーグルという画一化されたスタイルに、どこか生気が感じられない、不思議な雰囲気の

彼女たちだったが、今あらためて6人をそう言う目で見てみると、顔立ちこそよく見れば殆どそっくりとはいうものの、

髪型・化粧・ファッション・アクセサリー等に明確に個性が出ており、明らかに差別化が感じられる。

というより、おそらく彼女たち自身が意図的に他の個体との差別化を図っていると言って良いのかもしれない。

先ほどの会話や仕草からみても、今や彼女ら一人一人が独立した人間として生きていることは間違いないだろう。



(たぶん、今のこの状況はネットワークにも流れているんだろうな) と当麻は予想する。

その予想は正しかった。



【晴天の霹靂】10032号に隠し子!? その115【驚天動地】
【晴天の霹靂】10032号に隠し子!? その116【驚天動地】
【上条】キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!! その16【当麻】
【何が】10年前の{禁則事項です]騒動の真実に迫る【あった】
【上条】キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!! その17【当麻】
【晴天の霹靂】10032号に隠し子!? その117【驚天動地】

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
只今新規スレ立て大幅制限中! <鯖落ち危険>
http;//misaka.ne.wk/test/read.cgi/newsmisaka/1314546216/



なんだかんだ言いつつ今もなお、妹達<シスターズ>にとって、上条当麻は「別格」の存在なのである。

ミサカ・ネットワークはサーバー落ち(すなわち、彼女ら自身のフリーズを意味する)の危険があり、管理者である

御坂未来(みさか みく/元検体番号20001号・打ち止め<ラストオーダー>)はてんてこ舞いであった。
215 :LX [saga sage]:2011/09/11(日) 21:13:58.50 ID:F6AYXBz00

例えば……



【晴天の霹靂】10032号に隠し子!? その117【驚天動地】

704 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

運営権限で、各人の書き込み制限かけたから。各人発言後、60秒間の待ち時間を付加しました。

時間内にアクセスするとそこからまた60秒だからね! くれぐれも早まらないように!


705 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10171

上条当麻キター!


706 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10036

10039号なれなれしいわよ、下がりなさい!!


707 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10707

小沢さとるゲット!


708 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10041

>704 承りました運営さま


709 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10042

>704 運営さま乙


710 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10043

>704 運営さん乙

     ・
     ・
     ・
     ・
     ・

1000 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10333

>704 運営乙


1001 Over 1000 Thread


(あの、運営さま、新しいスレッドたてないと、書き込みできないのですが)

と、元検体番号10334号が、直接御坂未来こと打ち止め<ラストオーダー>に打診をしてきた。

<あんたたち〜!!!!! あたしにあんたら全員が挨拶するだけでスレッドがいくつ必要だと思ってんのよ!!!!

馬鹿やってるんじゃないの!!! 直ぐに挨拶止めなさい!!!! 全部抹消しますから、巻き添えくった人は諦めなさいね!!>

あきれ、怒った未来は、上位個体としての権限をもって1時間以内に立った新規スレッドを問答無用で「全て」削除してしまった。

216 :LX [saga sage]:2011/09/11(日) 21:17:54.10 ID:F6AYXBz00

そして、復活の1本目。

【上条】キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!! 再スタートその1【当麻】

(途中略)

133 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10391

ところで10032号はやっぱり?


134 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka18071

んー、ほっとけばいいじゃん?


135 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka16618

えー、だってあの子が張本人じゃないの? 本人が言うべきだよね?


136 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka12443

あんたら、いくらなんでもニブちん過ぎない? なんでここにあのひとがいるのか? つまり、そうなんだよ!


137 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10777

やっぱり? あのひとなの? 畜生、学園都市組は有利だよね……あたしも帰りたいよー。あのひとの傍にいたい……


138 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka11825

あのさ、気が付いたんだけど、「かずま」くんの「ま」って、もしかしてあのひとの「ま」だったりして?


139 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19972

そうかも!! やっぱ確定じゃん!!!!


140 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka15024

あのさ、スレ立ってんだけどさ、あたしが思うに、昔、お姉様との婚や<あなたたち、始まるよ!!>


未来の声がネットワークに流れ、一斉に妹達<シスターズ>は静まりかえる。



「時間がもったいないので、手短に話す。今日、ここで、御坂一麻という小学校5年生の男の子が能力検査を受けた」

当麻が淡々と話を続けている。

「彼の名前から想像が付くと思うけれども、あの子は、御坂麻美、昔10032号と呼ばれていた君たち妹達<シスターズ>の仲間の子供だ」

彼はそこで6人の顔を見る。

<言うのか> wktk
<いよいよ?> wktk
<やっぱり?> wktk
<てめえら黙ってろ!!> ヤーネナガレヨマナイヒトッテ ホントホント

「そして、あの子の父親は」

静まりかえったMNW。妹達<シスターズ>は固唾を呑んで、次の言葉を待つ。

217 :LX [saga sage]:2011/09/11(日) 21:32:22.56 ID:F6AYXBz00

<『 あなた!!!』ない……>



突然MNWに一人の声が流れた。正確には二人なのだが、あとの声の大きさ・強さにかき消されてしまったのだ。

静まりかえっていたMNWに波紋が広がる。

<誰?>
<10032号?>
<あれ? 二人じゃない?>
<あなた、ちゃんと繋がってたのね>
<良かった、生きてたんだ>
<だから病院には、あの子いるんだって>
<もう一人は誰?>
<待て待て待て、『あなた』ってどういう意味だ?>
<そうなのか?>
<そうなんだな?>


「この、おれ、上条、当麻だ!」



一瞬の静寂。



<やっぱりね……>
<なんか、安心した>
<…………>

MNWに、静かなざわめきが池の波紋のようにさーっと広がって行く。

当麻は6人から責められることを覚悟していた。



だが。



6人の妹達<シスターズ>は、憑き物が落ちたように静かに座ったままである。皆、下を向いている。



やがて、琴子(元検体番号19090号)が小さくつぶやいた。

「良かったですね、10032号」

それをきっかけに、

「わたしも、自分の子供に、お母さんと呼ばれてみたい……」 検体番号15214号が、

「10032号、何故もっと早く言ってくれなかったのですか」 琴江(元検体番号13577号)が、

「ちょっと、羨ましいですわね」 美雪(元検体番号12500号)が、

「あ〜あ、あたしも彼氏欲しいな〜、こんな仕事止めて」 スネークこと検体番号17600号が

それぞれが、自らの思いを込めてつぶやいていた。
218 :LX [saga sage]:2011/09/11(日) 21:34:59.66 ID:F6AYXBz00

「君らに黙っていてすまなかった。麻美を始め、君らにも迷惑を掛けた。この通り謝る。ごめんなさい」

そう言って、当麻は頭を下げた。

しかし。



「何故、私たちに謝るのですか? 上条当麻さん、顔を上げて下さい」



琴子が明るい声で話を始めた。

「あなたが謝る必要はありません。

いえ、むしろ、私たち『妹達<シスターズ>』はあなたに改めて御礼を言わなければなりません」



(えっ?)という顔で当麻は彼女の顔を見る。

彼女は微笑んでいた。何故? どうして?



「あなたは、私たち妹達<シスターズ>が、まぎれもない人間であることを証明してくれた人になりました。

……わたしたちは、お姉様<オリジナル>のクローンとして、実験の道具としてこの世に生を受けました。

形は人間でしたけれど、生まれたわたしたちには意思はありませんでした。

そんなわたしたちに、15年前、あなたは10032号を通じて、全てのミサカ達に生きることを、生きる意味を教えてくれました。

そして今度、あなたはミサカ達に次の世代を産み育てることを教えてくれたのです。

私たち自身に新たな生命を宿すことが出来ることを、そう、私たち妹達<シスターズ>は自分の子供を生み、そして育てることが

出来ることを証明してくれたのです。

わたしたちは、伴侶を見つけ、新たな世代を、次の世代を産み育てることを目標にすることでしょう。

あなたはまた、わたしたち妹達<シスターズ>に新しい目標を与えてくれたのです」

琴子が一旦言葉を切る。

5人の妹達<シスターズ>が立ち上がり、

「「「「「本当にありがとうございました」」」」」

きちんと唱和して深々と当麻に頭を下げたのであった。
219 :LX [saga sage]:2011/09/11(日) 21:40:57.27 ID:F6AYXBz00

「そ、そうなのか……」

思っても見なかった、妹達<シスターズ>の答え。 

激怒されると思っていた。

横っ面を張られるかもしれない、とも思った。

なのに。



(妹達<シスターズ>に勇気を与えた……本当なんだろうか、本当にそうなら、それは良かった。

あいつらに人生の目標が出来たんだったら、それは素晴らしいことかもしれない。

でも、……でも、美琴をおれは、あいつの心をおれは、傷付けてしまった……一生消えない傷を、おれは)



「……一人にさせて、くれる、かな……?」



放心状態の、茫然とした美琴。



「一人にさせて、って言ってんでしょ!!!!」

美琴の悲痛な叫びが。



「上条さん?」

琴子の声が、当麻を現実に呼び戻した。

屈託のない、明るい笑顔で、彼女は当麻にささやいた。

「早く、10032号のもとへ行ってあげて下さい。彼女が待っています」











誰もいなくなった会議室。



いや、たった一人。



「聞き、たくなかった………あたしだって………わかってたけど……どうして、なんでよ…………とうまのバカぁ」

ボロボロと涙を流し、机に突っ伏して嗚咽する一人のミサカ。





足下には、今日買ってきたばかりの帽子がぐしゃぐしゃになってころがっていた。
220 :LX [saga sage]:2011/09/11(日) 21:47:04.40 ID:F6AYXBz00
>>1です。

お読み頂きまして有り難う御座いました。
本日投稿分は以上です。

ようやく本文が100を超えました。だらだらと続いておりますが、とりあえず一山超えました。
今月中にはもう一山越せるかな?と思っております。

仕上げに手一杯で、全然先のあらすじが伸びていません。
直ぐに追いついてしまいます。やばいなーと(汗
頑張ります。

それでは本日はこの辺で、お先に失礼させて頂きます。
どうも有り難う御座いました。
221 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/11(日) 21:53:16.52 ID:/kZOuvGDO

乙です!

なんとなく上条さんも被害者に見えてきた……

先がとても楽しみです!

222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/11(日) 22:28:59.14 ID:eAK73Po3o
美談だねぇ
223 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2011/09/11(日) 23:45:20.56 ID:GQKUehI30
上条さん、一体どういうことだ?
酒の勢いでやっちゃった系か?

続きが気になるけど怖くて読めない、しかし読みます!
乙です!
224 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/09/12(月) 08:59:11.93 ID:ktdyi3sAO
乙…
我慢してる美琴が可哀想です…
ここからどうなるのか、次回待ってます。
225 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/12(月) 10:28:43.15 ID:Wds0maZSO
超乙です!!!
これからの展開が超気になります!!
226 :LX [saga sage]:2011/09/15(木) 00:59:19.70 ID:NPHj2SiQ0
皆様こんばんは。
>>1です。

コメント頂きいつも有り難う御座います。
本日は御坂妹こと元検体番号10032号、御坂麻美が御答え致します。口調は昔風でセットしました。

>>221さま
はい、あのひとはある意味間違いなく被害者であるとミサカは考えています。

>>222さま
はい。ミサカを始め、妹達<シスターズ>の結束は固いですから。
そしてまた、外部の人には絶対にあのひとの悪口は言わせないのですよ?

>>223さま
いつの日か、お話しすることもあるでしょう、とミサカは思わせぶりな返事を返します。

>>224さま
お姉様<オリジナル>には申し訳ないとミサカは思っています。ですが、(以下禁則事項です)。

>>225さま
有り難う御座います。
しばらくはミサカのターンですからお待ち下さいね、とミサカはこれからの(以下禁則事項です)。



土日投稿分、書き上がりました。引き続きその先も頑張ります。

それでは今日はこの辺で、ミサカと共に失礼致します。
227 :LX [saga]:2011/09/17(土) 20:04:06.97 ID:4ys3MRx00
皆様こんばんは。
>>1です。

これより本日分、投稿を始めます。宜しくお願い申し上げます。
228 :LX [saga sage]:2011/09/17(土) 20:06:49.69 ID:4ys3MRx00

ぼくたちは、ファミレスで夕食を取っていた。



木山先生は、ぼくらを下ろすと、直ぐにまた病院の方へ戻っていってしまった。

「いつかまた会うこともあるだろうね」と言って。



結局、お父さんは少し遅れてやってきた。お父さんが来た時のお母さんは、すっごく嬉しそうな顔をしていた。

そんなお母さんを見て、なんかぼくも嬉しくなった。

「ねー、今日はお母さんのところに泊まるの?」

どんなところに住んでるんだろう? 部屋はどうなってるのかな?

「ああ、それはね『わたしのところは病院の寮で、家族が泊まれるような広さはないのです』……そういうことだ」

お父さん、お母さんの住んでるところ、知ってるんだ……そりゃそうだよね。知らない方がおかしいよね。

「じゃぁ、お父さんのところ?」

お父さんと美琴おばちゃんの家も見てみたい。おばちゃんばっかりぼくの家に来て、ぼくが一度も行かないのは不公平だもんね?

「それも考えた『お姉様<オリジナル>に迷惑がかかりますからダメです』……あのなぁ?」

んもう。ま〜たお母さんに否定されてる。お父さん、お母さんの尻に敷かれてるんだ。

なんか情けないなー。お父さん、男だろ? しっかりしてよね。



「えー、じゃぁどうするの?」

ぼくが考えたアイディア、ぜ〜んぶ、見事に全部、お母さんに駄目出しされてるし。つまんない。面白くないよ。

今から東京に帰れって言うことなのかな……?

「ああ、だからホテルだよ?」

え? ここにお家があるのに、お父さんもお母さんもわざわざホテルに泊まるの? なんかお金がもったいないよ、それ。

「へー……あの、お父さん、お金あるの?」

ぼくがいくら小学生だからっていったって、3000円じゃ絶対無理だよね。ほんとに大丈夫なのかな?

「くぅー、小学生のお前に心配されるほどお父さんは文無しじゃありませんのことよ?」

そう言って、お父さんはおなかをぽんと叩いた。

あれ?そう言う時は、普通は胸を叩くんじゃなかったっけ? 
229 :LX [saga sage]:2011/09/17(土) 20:08:30.19 ID:4ys3MRx00


「あなた、本当に大丈夫なのですか?」

麻美が二人の話に割り込む。

「おいおい……お前までそういうのかよ……」

「あなたの学生時代は悲惨でしたから」

「う゛ぁーぁぁぁぁぁ、やめてくれ〜! はっきり言って思い出したくない過去なんですが」

「お母さん? お父さんとそんな昔から付き合ってたの?」 初耳だ、と言う顔で一麻は父・当麻の顔を見る。

「ふふ、そうなのですよ? ミサカが産まれて間もない頃から……」 昔を懐かしむような声。

麻美はちょっと遠くを見ていた視線を、当麻の顔にちらりと合わせ、そして一麻に向ける。

不思議そうな顔の一麻を見て、ニッコリと微笑む麻美。

「え?」  どういうこと? と言う顔の一麻。

「ちょ、ちょっと麻美、言い方がおかしいっての。一麻が混乱するだろ?」 焦る当麻。



確かにその通りなのだが、その言葉の意味を理解できる人間はそう多くはいない。

当事者であった妹達<シスターズ>、お姉様<オリジナル>の上条(御坂)美琴、中止となる原因を作った上条当麻……



「……確かに。一麻に言うのであれば、あなたが缶ジュースをもてあましていた話をするのが妥当と考えます」

少し考えた後で、そう言って麻美はいたずらっぽい目をして当麻の目を見る。

「……そう、だったな。あれが初めて『おまえ』と会った時、だったな」

「お父さん、何のこと?」  

話が見えないんだけれど、と不満げに一麻が文句を言う。

「ああ、お母さんと初めて会ったときのことさ」

まぁそうふくれるな、お父さんがまだ高校生の頃の話なんだからな、と当麻は笑って言う。

「聞いたことないよ、初めて聞いたよ、ぼく」

「そうか? 言わなかったっけ?」

あれ、そうだったかな?という顔をする当麻。
230 :LX [saga sage]:2011/09/17(土) 20:10:55.09 ID:4ys3MRx00

それを聞いて再びムッとする麻美。

「あなた、そんなことを他人<ひと>にしゃべっているのですか?」

ついさっきまでのムフフ的な顔が一転して、(このおしゃべり野郎、いっぺん絞めたろか)的な厳しい顔に変わっている。



あわてたのは当麻である。

「麻美、今日はどうしたんだ? なんでそうつっかかってくるんだ、おかしいぞ?」

「……その後のことを思い出しましたから。あの銀髪シスターと巫女スタイルの女子高生とあなたは……」



ぞわっとする当麻。よく覚えてるよな、と思う。

その反面、(麻美、その話は古すぎるぞ)という反発も出てくる。

「いつの話をお前はしているんだ? あいつらとは何もなかったって前にも言っただろ? 信用しろよ?」

ついつい当麻も言葉がきつくなった。 

「ごめんなさい。ちょっと言い過ぎました」

当麻の声の調子で、言い過ぎたことにはっと気が付いたのか、麻美は素直に謝った。

「お父さん、お母さんをいじめるないでよ?」

「……いじめられてるのはお父さんですのことよ……はぁ……」

お前は母親の味方なのね、ああ、父親は辛いです、と自嘲的に当麻は小さくつぶやいた。



「ところで、ホテルは予約してあるのですか?」

麻美は、ちょっとおかしくなった雰囲気を変えようと違う話題を振ることにした。

「もちろん、大丈夫。そこまで間抜けではありません!」

まかせろ、と言う感じで当麻が胸を張る。

そういう単純なところが憎めないけれど、ミサカはちょっと心配なのです、と彼女は心の中で小さくため息をつく。
231 :LX [saga sage]:2011/09/17(土) 20:13:54.57 ID:4ys3MRx00

「どこをですか?」

「インペリアルホテル」

「!………あなた?」

思わず、麻美は声を出した。

そこは、学園都市でも1、2を誇る高級ホテル。

医療機器の業界が賀詞交換会をこのホテルの宴会場を使って行った時が何度かあり、彼女も一緒に付き合わされたことが何回かある。

だがもちろん、泊まったことなどは、ない。

「信用してないな……オレの仕事の関係で、格安料金で泊まれるのさ」

安心しろ、という顔で当麻が片目をつぶる。



そうなると今度は、(麻美は)自分の服装が気になってくる。

今のスタイルは、いつもの通勤着だ。カジュアルすぎる。ヘタをするとドレスコードに引っかかりかねない。

あのホテルに行くにはちょっと恥ずかしい。

少し腹も立ってくる。

そんな高級ホテルに行くのだったら、前もってわたしにちゃんと教えておくべきでしょう? と。

教えておいてくれたら、それなりに準備もしようものを。

お泊まり道具だってちゃんと持ってくるのに。

着替えだって持ってくるのに。

下着だって、ちゃんとそういうのを……



もう、あなたは、本当に、鈍感なんだから、にぶちんなんだから、

お・ん・な・ご・こ・ろ・がわかってないんだから。     

こぉの、大馬鹿やろーぉぉぉぉぉぉぉがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!



思い切り心の中で毒づき、糾弾し、しばき倒しておいてから、彼女は静かに当麻に言った。

「あの、泊まるところがわかったので、わたしは一旦家に戻って泊まる用意をしてきたいのですが」



彼女の心の中で袋だたきにあっているとはつゆ知らず、当麻はのんびりとした返事を返す。

「ああ、なるほどなぁ……そうだ。買っちゃえばいいじゃないか?」
232 :LX [saga sage]:2011/09/17(土) 20:18:42.81 ID:4ys3MRx00

「そんな……もったいないです」

それは、嬉しいけれど、いいのですか? と不安になる麻美。

その……

美琴お姉様にばれたら、あなた、大目玉食らうんじゃありませんか?



「いいから。お前には普段、何もしてやってないんだから。たまにはこういうことがあってもいいだろ? 気にするな。

よぉし、じゃぁメシ終わったら買いに行くぞ!」



そこまで仰るのなら、と麻美も腹を決める。

それに、このひとにお洋服を買ってもらえたら、他のミサカに対する牽制にもなるな、と麻美は思う。



当麻命の妹達<シスターズ>は、かなりの数に上るのだが、幸いなことに彼女らは1人を除いて学園都市にはいない。

その「1人」というのは、美琴お姉様の影役に抜擢されている御坂美子(みさか よしこ)こと検体番号10039号。

彼女は要注意だ、と麻美は考えている。

あの子は、「このひと」に対する思いを全く隠していない。

「このひと」が鈍感なおかげで助かっているのだけれど。

今回、一麻の正式なお披露目を行い、そしてこの子の父親が「このひと」であることが「このひと」自身の口から明らかになった。

これはとっても大きなアドバンデージになった、と麻美は考える。

たぶん、これで大半のミサカは諦めるはず。



でも、諦めないかもしれない、あの子は。  

あと、もしかしたら、未だロシアにいる検体番号10777号も。




なら、どうする?



              ―――― もう一度 ―――



嬉しそうな顔で話しかける一麻と、隣で笑う当麻。



            ――― 今度は、出来れば女の子が ―――


233 :LX [saga sage]:2011/09/17(土) 20:21:40.08 ID:4ys3MRx00
>>1です。

相も変わらず短くて申し訳御座いません。
本日分は以上で御座います。

また明日、残りを投稿したいと思っております。
未だ少し修正したいところがありますもので……

それではお先に失礼致します。
234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/09/17(土) 21:09:49.44 ID:Hm2byHXAO
>>1
麻美ェ
235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/17(土) 21:34:13.18 ID:Id7M9BpBo
世間的には許されないことを美談に仕立てる映画とかドラマとかあるけど
そういうのを見た後ってなんとも言えない気持ちになるよね
236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/17(土) 21:34:36.40 ID:a1kYkFAP0
乙!
修羅場確定か? ってか、麻美さんもう子供は産めないんじゃ・・・
237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/09/18(日) 06:30:42.68 ID:rYyF5tlAO
乙!麻美さんよぉ…あまり調子にのらないほうがいい。
終いにはマミっちまうぞゴラァ!
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/18(日) 12:37:52.98 ID:08UF/llDO
>>235
よくあるねぇそういうの
あれ系の話に感動できる人って羨ましいわ
俺は反吐が出てしゃーない
239 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/09/18(日) 15:50:26.97 ID:WdKl9cMco
>>238
遠回しにこのSSディスってんのか、
単に気付いてないだけか、
現実とSSの区別つけてる俺カコイイなのか、
どれだ。
240 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/18(日) 16:00:46.66 ID:eptZq6Cpo
>>239
スルーも出来ない馬鹿なのか煽って荒らしたい馬鹿なのか
どれだ。
241 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/09/18(日) 16:27:22.59 ID:WdKl9cMco
>>240
すまんかった。前者だ。
242 :LX [saga ]:2011/09/18(日) 19:16:26.24 ID:5OrnkYlh0
皆様こんばんは。
>>1です。

なにやら怪しげな(汗
麦野さんが出てきて原子崩し<メルトダウナー>ぶっぱなしそうなので、
穏やかに御願い致します<(_ _)>
今回出番がないので不満たらたらでして……

それではまもなく投稿を始めますので宜しく御願い致します。




麦野「呼んだか、>>1
オ・シ・オ・キ・か・く・て・い・なのはどいつだ? あん? 
オブジェになりたいってェのは?!!!!!!」 

あららららら……
243 :LX [saga sage]:2011/09/18(日) 19:20:05.44 ID:5OrnkYlh0

「すごーい」
「いいのですか? こんなお部屋を……」

ベルキャプテンが部屋から出て行くと、2人が感嘆の声を上げた。

「へっへっ、お父さんを見損なっちゃいけませんのことよ。どうだ、スゴイだろ〜」

自慢げに言う当麻。

ここはインペリアルホテルの58階、インペリアル・クラブのスイート・キング・ルーム。

角部屋であり、学園都市の夜景が大きな窓に美しく映える。 



「相撲出来るかも」

一麻の言葉に、当麻は吹き出した。 なんという発想だろうか、と。

だが、直ぐに気が付いた。麻琴からはこんな発想は出てこない。男の子ならではの発想じゃないか。

そう言えば、一麻とキャッチボールとサッカーはやったことがあるが、相撲はやったことがない。

床には、ふかふかの絨毯が敷き詰められている。

「一麻、やるか?」 そういって、当麻はテーブルと椅子を脇に移動させ始めた。

「いいの?」 顔を輝かせて一麻がそれを手伝う。

麻美はパウダールームかベッドルームにでも行ったのか、姿が見えない。

「よし、こい!」 当麻が腰をかがめると、一麻がダッシュして当麻に正面から突っ込んだ。

「あはは、どうだ一麻?」 一麻の突進は軽く受け止められ、腰のバンドを捕まれて一麻はあっけなく床に転がされた。

「くそー、もう一回!」 起きあがった一麻がもう一度当麻に突っ込む。

「いいぞ、それでこそオレの子だ!」 がっちりと受け止めた当麻は、今度は一麻の足を払い、再び一麻を床に沈める。

「ちっくちょー」  今度は一麻はぶんぶんと両手を振り回しながら突っ込んで来た。

当麻は一麻の張り手もなんのその、前へ出て一麻の身体を抱え込み高々と彼を持ち上げるとすいすいと部屋の隅っこに行き、

身体を前に曲げてドンと一麻を下へ落とした。一麻はしりもちをついてしまう。

「はいはい残念だなぁ、どうした一麻? もう終わりか?」 当麻がまた一麻を挑発する。

「こーんのやろー!」 叫んだ一麻は当麻の左足にかじりつく。

当麻は再び一麻のバンドを手かがりに彼の身体を持ち上げる態勢を取るが、一麻も今度は簡単には手を放さない。

当麻の左足にかじりついて耐えている。



「いい加減にしなさーい!!」



「一麻、水入りだってさ」
「……」

行司・麻美が怒った顔でそこに立っていた。
244 :LX [saga sage]:2011/09/18(日) 19:22:54.82 ID:5OrnkYlh0

「本当にもう、あなたも子供じゃないんですから!」 まじめな顔で麻美が怒っている。

「まぁ少しくらいいいだろ? 男親でしかこんな事出来ないんだからさ」 頭を掻き掻き当麻が答える。

「隣の部屋や下に迷惑がかかります!」 何を言っているのですか、と言う感じで麻美が責める。

「仕方ないな、止めるか一麻?」 安アパートじゃないんだから絶対大丈夫なんだよ、と思いつつ、一麻に聞く当麻。

「え〜」  不満をあらわにする一麻。楽しいよ、もっとやりたいよぅ、という目で彼は母を見る。

「一麻?」 なんですか、と見返す母・麻美。

「……は〜い……」  だめだこりゃ、と不承不承、降参する意を見せる一麻。

「ほら、テーブルと椅子、元の場所に戻しなさい」 そう言って、ちゃっかりと一番楽な椅子を持ち上げる麻美。

男二人は仕方なく重いテーブルを運び、椅子を並べ直した。



-----------------------



「お父さん、眠くなった……」  一麻が眠気を訴えてくる。

「それじゃ風呂入るか?」  

「うん……今日は……お母さんと、だめ?」 一麻が予想もしないことを言ってきた。  

「あれ? 一麻、お前もう一人で……? 」 

確か、この前、美鈴義母さんの家に行った時には、こいつ、一人で入っているって言ってたよな……? と当麻は思う。

「だって、お母さんとお風呂に入った事って、ぼく、記憶ないから」

「そうですか。じゃぁいっしょに入りましょうか?」 麻美がちょっと嬉しそうな顔で一麻を誘う。

「じゃぁお父さんも一緒に……」

「あなた、いくらここでも、3人同時に入れる程には広くないですからね?」

「……ハイ。わかりました」    あえなく当麻の案は却下された。



「じゃぁ、入りましょう?」

「うん!」
 
245 :LX [saga sage]:2011/09/18(日) 19:33:51.77 ID:5OrnkYlh0



麻美と一麻、母子はシャワーブースにいた。

「いつもはお風呂はどうしているのですか?」

「もう一人で入ってるよ。昔は美鈴おばちゃんと一緒だったけれどさ」

「まぁ……じゃぁ今日はどうして?」

「言ったじゃん、……一緒に入りたかったからって」

「あら、そうなのですか? ふふ……じゃあ、まずわたしがあなたの頭を洗ってあげましょう」



麻美はヘアシャンプーを手に取り、一麻の頭をゴシゴシと洗ってゆく。

「お父さん程ではないですが、あなたの髪も硬いのですね」

一通り洗い終わると彼女はシャワーのレバーをひねる。

天井からザッとシャワーが降り注ぐ。

さしもの一麻の髪もぺたっと張り付き、顔の輪郭があらわになる。

しげしげと息子の顔を眺めていた麻美は柔らかな微笑を浮かべて語りかける。

「でも、こうしてみると、一麻はわたしに似たのですね」

ちょっと赤い顔になった一麻が母親に答える。

「うん、言われるよ……。美鈴おばちゃんも美琴おばちゃんもみんな『あたしにそっくり』って言うんだ。

スゴイ嫌なんだけれどさ」

「どうしてですか?」  不思議そうに彼女は息子に尋ねる。

「だって……男だから。オンナの子みたいって言われてるみたいだから……恥ずかしいよ、ぼくは」

(まぁ、そんな意味に取ってるの? この子は) 

麻美はそんなことを考えながらヘアコンディショナーを手に取り、手で伸ばした後、一麻の髪に揉み込んで行く。

「一麻? あなたはこの母に似ていることが恥ずかしいのですか?」  今度は言葉を変えて聞いてみる。

「そうじゃないよ。そんな事言ってないよ……うー、うまく言えないけれど」

「……」  (あぁ、やっぱり違うんだ。あぁ良かった) 彼女は少し安心する。

「怒った?」  一麻がおそるおそる、母に聞いている。

「……」  (この子自身に言わせた方が良い)そう思った麻美は黙っている。 

「……あのね、お母さんに似ているっていわれるのはキライじゃないけれど、女の子みたいに言われるのがいやだ、ってことなんだよ」



彼女は再びシャワーを出して、息子の髪のコンディショナーを軽く洗い落としてゆく。
246 :LX [saga sage]:2011/09/18(日) 19:41:29.38 ID:5OrnkYlh0

シャワーブースでミストシャワーをざっと浴びた後、スポンジにボディシャンプーを含ませ、麻美は息子・一麻の手、腕、脇、背中を

ゴシゴシとこすり洗って行く。

「それならば、わかります。一麻は女の子ではありません。

一麻? あなたは上条当麻というお父さまと、ミサカというこの母から産まれた立派な男の子なのです。

あなたのお父さまは、母であるこのミサカを助ける為に、無敵と言われた学園都市第一位に武器もなしに戦ったのですから」

「うん、おばちゃんから聞いた、知ってるよその話」



「はい、一麻、こちらを向きなさい」

麻美は一麻をぐいと向きを変えさせ、彼のおちんちんとおなかを洗って行く。

(まだ生えてないし、剥けてないのね) 

看護士である麻美はそちらの知識も持っていたし、病院の入院患者の世話もしているから、別にそう気にはしていなかった。

「お、お母さん、あの、……その……そこは自分で洗うからいいよちょっと……」   赤い顔になった一麻が訴えてきた。

「どうしたのですか? ここは男の子の大事なところなのですから、いつも綺麗にしていなければなりません。

一麻のここは正常なようですね。母は安心しました」  そう言って麻美はふふ、と一麻のほほをつつく。 

「当たり前だよ……お母さんでも、ちょっと今のは……恥ずかしかったよ……」  一麻が赤い顔のままつぶやく。

(小学5年にもなって、お母さんにおちんちん洗ってもらったなんて、最悪だよ……やっぱり止めときゃ良かった)

深く反省し唇をかむ一麻であった。



「それでは泡を落としましょうね」  マルチシャワーで身体全体の泡を瞬時に落とした後、彼女はバスタブに入るよう息子を促した。

「わたしはこれから身体を洗いますから、あなたはそこで暖まっていなさい」

そういうと彼女は再びシャワーブースに入ろうとした。

「お母さん、ぼくが今度背中洗ってあげる」 そう言って一麻はスポンジにボディシャンプーをまぶした。

「そうですか? では背中をこすってくれると嬉しいです」  そう言うと彼女は息子が洗いやすいようにユニットからバーを引き出し、

彼に背を向けてそこに腰掛けた。



一麻は、母親の背中を洗おうとして直ぐに気が付いた。

彼女の背中から脇腹にかけて、ところどころに何かあざのようなものがあることに。しかも大きいのだ。

(美鈴おばちゃんにも、美琴おばちゃんにもこんな跡はないし? どうしたんだろう?)
247 :LX [saga sage]:2011/09/18(日) 19:45:17.73 ID:5OrnkYlh0

(こすったら、痛いかも知れないな)

そう思った一麻は、そのしみを避けるようにスポンジを動かして行く。

その不規則な動きは直ぐに麻美にもわかった。

(この子、心配してくれているのね) 一瞬ぐっとくるものを押さえて、麻美は背中にいる一麻に話しかけた。

「一麻? あなたは母の背中の傷跡を見たのですね?」

一麻はどきっとした。(ああ、わかっちゃった) 

彼はまるで自分がいけないことをしているかのように、かすれた声で母に答えた。

「ごめんなさい、お母さん。痛かった?」

麻美は身体をずらして一麻の方を向き、息子を抱きしめた。

一麻の耳元で、母・麻美はささやく。

「この傷は、昔、母が闘った時に付いた傷です。

そう、あなたのお父さまが助けに来て下さらなかったら、このわたしは間違いなくその場で死んでいました。

瀕死の状態にあったわたしを、あのひとは、お父さまは『勝手に死ぬんじゃない』と叱り、わたしの代わりに闘い、

大けがをしながらも勝ちました。

わたしがこうして生きているのは、そしてあなたを生むことが出来たのは、ひとえにお父さまのおかげなのです。

だから、わたしは、普段見えない場所の傷あとはあえていくつか残したのです。お父さまに受けた恩を絶対に忘れない為に」



麻美は胸に抱きしめていた彼を少し離し、息子の目をしっかと見ながら話を続けた。

「一麻? あなたはそのお父さんの血をひく立派な男の子です。この母から受け継いだその能力を不正なことに使ってはなりませんよ。

いいですね?」  

「うん。もちろんだよ?」 一麻は素直に頷き、返事をした。
 
「そうですか、それでこそ、あの人とわたしの子供です。一麻、あなたはこのミサカの大切な息子です」 

麻美は微笑み、一麻の髪と顔をなでまわす。

「えへへ、お母さん、なんか、照れちゃうよ……あの、背中、どうしよう?」

ちらちらと視線を母の乳房に当てながら、恥ずかしそうに一麻が聞く。

「洗ってもらいましょう。痛くはないですから、普通に気にしないでこすってかまいませんよ」 そう言って麻美は背を向けた。

「うん、わかった」 一麻はスポンジを母の背に当ててザッザッと動かし始めた。
248 :LX [saga sage]:2011/09/18(日) 19:58:40.45 ID:5OrnkYlh0
>>1です。

本日投稿分は以上の通りです。
今回の投稿分の中に、本SS内の独自設定を設けています。
お気づきになられたと思いますが、麻美こと10032号の怪我の跡のことです。
原作では特に記載が無いと記憶しますが、アニメ禁書目録2で、御坂妹の着替えのサービスシーン
がありましたが、それによれば傷跡はなかったようです。
実際に各人がいろいろ怪我をしていますが、冥土帰しの手腕もあると思いますが学園都市の外科
手術では跡が殆どわからないように回復させることが可能、と言うことになっていますので、
このSSではあえて「残した」という設定にしております。
コレを言わせる為だけに、えんえんと引っ張ってきたような(汗

お風呂シーンですが、当初はアルコールが入っていた時に肉付けをしたせいか、やたら詳しく
ちょいとおかしい描写がありましたので、ざっくり削りました。およそ半分になっています。

さて、来週ですが……頑張ります。

それではお先に「テメェ、あたしの出番あれだけかい? まずはテメェから……」失礼致します。
249 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/09/18(日) 20:06:20.07 ID:QJ23xEpAO
>>1






おい、一麻ちょっとそこ代われ



250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/18(日) 21:35:31.01 ID:Y8q8eQUDO
>>1乙です。

何か一麻が不憫で……
251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/18(日) 23:44:18.58 ID:JjrO5mNno
ここの御坂妹は上条さんラブ過ぎてお姉様の事なんかどうでもいいって感じなんかな・・・
自分の感じてるこのもやもやがそげぶされてくれるといいんだけど
252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/19(月) 01:38:12.35 ID:QPc2fQic0
姉として慕っているが、女として母としては……ってとこなんだろうな
253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/19(月) 01:45:48.80 ID:VlCxWg11o
姉は妹たちに負い目感じてるしある意味やりたい放題だな
つか御坂妹は他の妹達出し抜く為に子供作ろうとしてるの?
なんか美琴も麻琴も一麻も不憫すぎるわ
254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/09/19(月) 09:36:36.84 ID:Zerfcp0io
さすがにそれは結果論だと思うぞ。
好意が第一にあって、結果的に子供が出来たから出し抜いたように感じてるだけで。
255 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/19(月) 10:54:37.28 ID:+tSb7aJDO
妹たちが上条さんに御礼言ったのもなんかなぁって感じ
どんなに綺麗事並べても許されないことってのはあるんだから一人くらい糾弾する個体がいてもな
256 :LX [sage saga]:2011/09/21(水) 16:43:42.32 ID:1EmsTQHQ0
皆様こんにちは。
>>1です。

台風で会社は早引けとなりました。被害が少ないことを祈るだけです。

さて、とりあえず土曜日分は仕上がりまして、日曜日分を仕上げにかかっています。
会話形式であらすじを組んでいる為に地の文を組み込んで行くのですが、


どうしようかな。

もともとはもっと単純な話だったはずなのに、
→あの設定で単純に済むわけないですわねw

どう考えても三部構成になること確定です。このへんは前作と変わり映えしませんねー。
わたしの構想力が貧困なせいでしょうか……。

257 :LX [sage saga]:2011/09/21(水) 17:33:37.08 ID:1EmsTQHQ0
>>1 です。
だんだん風雨が強まってきました。もう少しグダグダしてたら帰れなくなったかも知れません(冷汗

さて、それではコメント頂いた皆様に、本日は上条美琴より御礼申し上げます。

-----------
上条美琴です。

>>1に成り代わりまして、お読み下さりコメント頂きました皆様に篤く御礼申し上げます。


>>249さま
あの子はね、そういう手合いの患者さんのあしらい方もよぉ〜く知ってるから(笑
アタシはお勧めしないなぁ、どうなっても知らないわよ?

>>250さま
「子供なんて勝手に育つものよ〜」なんて達観してる同級生もいるのよね。
アタシはそこまでは言い切れないわね。
でも、娘の麻琴のことを考えると……、あたしはあの子にあーだこーだ言う資格はないわね。

>>251さま
あはは、言ってくれちゃったわねー?
貴方の違和感には次の>>252さんがアタシの答えを代弁してくれちゃったわ。
それでね、いずれその辺は>>1が書くわよ、たぶん、ね。

>>252さま
ごめんなさいね、先に答えてもらっちゃったわね。どうもありがとう。
あの子は真面目だからね。

>>253さま、>>254さま
アタシが言うと>>1が怒るというか困るんで、あんまり言えないんだけれどね、
あの子は、アイツがアタシに取られると思ったのは間違いないわね。
美子(10039号)もそうだけれど、ただ、美子はわりと楽天的なのよ。
でもね……あの子、麻美(10032号)はまるで違った、のよ。

>>255さま
うーん。そうなんだけれど、そう言う子はたぶん興味がないから黙っていた、というか聞いてなかったんじゃないかな。

興味ある子、すなわち「アイツのこと大好き妹達<シスターズ>」だけしかそこにはいなかったと思うのよ、たぶんね。
だから、当然ながらそこでは、アタシはあの子達のライバル、いや敵みたいなもの。
こと、「アイツ」に関して、だけどね。
だから、アタシの想像だけど、「よくやった」「でかした」っていう感じだったんじゃないかと思うのよ。笑っちゃうけどね。

あの子たちって、中では一人一人がそれぞれ競争して張り合ってるんだけれど、
ひとたび外部から干渉を受けたり、外との物事への対応なんかでは一致団結するの。
それはホント、見事なものよ?


こんなとこかな? じゃぁ、今日はこの辺でさようなら、かしらね。この後も宜しくね!

そうだ、ところで>>1、アタシの出番まだ? 時間かかりすぎなんだけど?

----------------------------

美琴が出てくるのはこの調子では来月の投稿くらいになるかと……

それでは引き続き頑張りますので、どうぞ宜しく御願い致します。


258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/09/22(木) 13:16:17.87 ID:olOzH3yAO
乙!更新楽しみにしてます。

しかし…この場面で美琴が出てくるとクリントンが浮気した時のヒラリーにしか見えないから困るww
259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/23(金) 01:18:09.22 ID:7JNNkDcFo
いいぜ、おまえたちが昼ドラ的展開に耐えられないっていうなら
その幻想をぶち壊してどんなドロドロでも受け入れるッ!!!!
260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/09/24(土) 18:30:15.27 ID:6eJnwtmAO
そろそろくるかな?
261 :LX [sage saga]:2011/09/24(土) 19:40:17.16 ID:8UQIM93d0
皆様こんばんは。
>>1です。

それでは本日分、これより投稿を始めます。

>>260さま 
お待たせ致しました。
>>258さま
あはは、確かにそう見えますね。着眼点に敬服致します。
>>259さま
なんかドロドロが主題になってしまいました(汗
まぁこんなSSがあってもいいですよね?

今回の投稿内容はちょっと……なので、申し訳御座いませんがsage進行で進めたく存じます。
それでは。
262 :LX [sage saga]:2011/09/24(土) 19:42:36.20 ID:8UQIM93d0

寝室。



「麻美? 寝たか?」

「いえ、起きています」

小さな声で、当麻と麻美がささやきあう。

「一麻は寝たようだね」

「ふふ、嬉しそうな寝顔です……美鈴お母様はこういう顔を何度も見ていたのですね、羨ましい」

そういいつつ、麻美は眠る一麻の髪と頬を優しく、でも彼が目を覚まさない程度に撫でている。

彼女の顔には、ようやくまた、息子に会えた母親の喜びが溢れていた。 

「お前だって、子供の頃は見ていたはずだろ?」

「それは、もちろん……でも、あなたは殆どいなかった」

かすかに恨みがましい声になる麻美。

うっと言う感じでつまる当麻。

「それは……仕方ないだろ?」

「ええ、わかっています……。この子を挟んで、こういう形で寝ることを『川の字』と言うのですね……

あの子だけでなく、このミサカの願いでもありました」

独り言のようにささやく麻美。だが、その言葉は当麻にグサグサグサと突き刺さる。



アラブの王様もかくや、というようなスーパーキングサイズのベッド。枕は硬軟2タイプが3人分用意され、6個が並ぶ。

一麻は「こんな大きなベッドみたことないよ!」と興奮して、両親に向かって枕投げを挑み、あえなく撃沈された。

そして、自分を真ん中にして両親が挟み込む『川の字』で寝たいと言い張り、ようやくのことで彼は眠りについたのであった。



「そうか…まぁ、そう何度も出来ないけれどな……」

「あなた、そういう寂しいことを言わないで下さい」

「すまん」

「それで、これからどうするのですか」

「そうだな、ちょっと話しようか? あっちに行こう」

一麻を起こさないようにそっとベッドから起き、メインルームへ向かう二人。
263 :LX [sage saga]:2011/09/24(土) 19:52:11.46 ID:8UQIM93d0

「一麻をどうするのですか?」

寝間着の浴衣のまま、ソファに座っている麻美。

「オレもどうするのが一番良いのか、よくわからないんだ。一番良いのは、親子揃って同じところに暮らすことだろうけど」

当麻はブランデーグラス2つにレミーマルタンを注ぎ、麻美はチーズを切り、クラッカーに載せ、ミックスナッツを皿に開けた。

「ミサカに異論はありません。わたしだってそうして欲しいのですが」

軽くグラスを当て、挨拶を交わす二人。

「それが出来ればな……」

グラスを手で暖め、香りを楽しみつつ少し飲む。

「そうですね。言ってどうなるものでもないのに……」

麻美はブランデーグラスをクルクルと廻しながら考えている。

「気にするな。で、ならば東京に住むのか、ここに住むのか、だ。東京に住むとした場合、お前は大丈夫なのか?」

「普段はもう問題ありません。数年に一度、戻って調整を行う必要があるかもしれませんけれど。

問題は長期にわたる『外出』をここ<学園都市>が認めてくれるかどうかです」

そう言うと麻美はコニャックをくいっと飲む。

「そう、だな。でもまぁ、他の妹達<シスターズ>も、今は外に出ているメンバーは正式な扱いになっているんだろう?」

ミックスナッツを口に放り込む。

麻美はこっくりと頷き、チーズクラッカーをパリパリと食べる。

「そうなると、問題は、あいつの能力がどこまで伸びるのか、だな。お前と同じレベルであれば、対処もしやすいけどな」

「むぅ、それはこのミサカをバカにしているのですか」

そういうと、麻美はグラスを持って、当麻のそばにトン、と腰掛け、当麻に軽く肩を当てて抗議した。

湯上がり残りの少し高めのぬくもりと、寝化粧の押さえられた香り、上目遣いににらむ麻美。

鈍感力には定評のある当麻でも、これには太刀打ちできない。
264 :LX [sage saga]:2011/09/24(土) 20:01:51.08 ID:8UQIM93d0

少しどきっとした当麻は、たしなめるつもりで口を開いた。

「おいおい、そんな目でにらむな。美人が台無しだぞ」 

「そんな甘言でごまかされるものですか、とミサカは」 瞬時に全くの平常運転で対応する麻美。



「まぁまぁ、先に進むぞ? で、万一、一麻のレベルが今度借りるAIMジャマーのレベルを超えるくらいに伸びてしまう、

あるいはそうなる可能性がある場合は、東京には居れない、ということだ」

そう言うと、当麻はコニャックを再びグラスに少し注ぐ。

このひと、そんなに飲んで大丈夫かしらん、という顔で麻美は黙って見ている。



「では、次は学園都市に住むとなった場合、ですね?」

ピスタチオを2つほど取った彼女はカリカリとかじり、彼の顔を見る。

「ああ。能力発現についてはこの場合問題にならない。むしろ奨励されるからな。問題は、基本的には寮生活になることだろうな」

当麻は足を組み、グラスに手を伸ばす。



「ミサカが寮に一緒に住むわけにはいかないのですか?」

のどが渇いたのか、麻美はチェイサーに手を伸ばし、クックックとのどを鳴らして水を飲む。

「それじゃ寮にならないだろ? 普通は無理だって」

気持ちはわかるけれど、と言う感じで顔をしかめて麻美の顔を斜めに見る当麻。



一瞬、そうですわね、と素直に聞いた麻美の脳に、当麻の寮を初めて訪問した時のことが蘇る。



(………!!!!!)



自分のことを棚に上げて何をたわけたことを、と麻美はやや強い口調で、しかし一麻を起こさないように気を遣った低い声で

「あなたは昔同居人を置いていたではないですか? しかも女の子を、と昔を思い出してミサカは不機嫌に」

一瞬だが彼女の髪から僅かに紫色の放電が走り、部屋が一瞬明るくなる。

薄暗い部屋で、それは彼女の怒りを鮮やかに当麻に見せつけた。ドスの効いた低い声と共に。
265 :LX [sage saga]:2011/09/24(土) 20:10:51.89 ID:8UQIM93d0


「ああああ、麻美、あいつの話はなし!なし!」  電気製品ぶっこわす気かと彼はあわてて右手で彼女の頭を押さえる。

一瞬、彼女はひるみ、そのまま彼の右手で自身の発動した能力を消したが、くいっと頭をひねり右手から逃れると

「だんだん思い出してきました……だいたい、他にも沢山の女の子とあなたは!」

そう静かに叫んで、彼のふとももをグイグイとつねる。



「痛い痛いです痛いだろって!!!……はぁ……お前もそういうところは、ホント美琴と一緒なのな……」

パンパンと麻美の肩を叩き、「参った」を意思表示する。



「お姉様<オリジナル>でなくても、女であればおなじ反応をすると思いますが?」

ずっと昔、初めて会った頃を思わせる無表情な顔で、冷たい答えが返ってくる。

だが、当麻は彼女の顔を見て、心底厭だというかのように顔を背け、少し震える声でつぶやいた。

「麻美、頼むからその顔は止めてくれ。お前たちのその顔は、見たくないんだ」

(え?)と麻美は驚き、瞬時にその顔を消した。



「ああもう、どうしてそう言う方向に話が行くんだよ、一麻の話をするんだろ?」

ほっとした表情で、痛ぇなちくしょー、とつねられたところを撫でさする当麻。

「そんなに強くつねったつもりはないのですが、少し赤くなっていますか? それでは♪」

お詫びに消毒を、と麻美は彼のふとももに顔を寄せ、ペロペロと舌でその部分を舐め始めた。

「こらこらこら、やめなさい、それはいいです、大丈夫だから、そんなことしないでいいから!!」

泡を食って当麻は彼女の肩を持って引き離す。

「あなた、声が大きいです。一麻を起こしてしまいます、とミサカは小声で注意します」 不満そうに睨み、起きあがる。



「あの、麻美さん?」

「いきなり『さん』づけとは。……あなた、どうしたのですか?」  なんでしょうか、というニュアンスの麻美。

「どうしたもこうしたも、いつの間に、その」     (おいおい、お前)

「さっきからそばにいるのですが」  

「いやそれはわかりますが」             (履いてないってか) 

彼女は起きあがると、つねった左のふとももを跨ぐ形で座り、当麻に抱きつく格好になっていたのだった。

麻美の腰が、当麻のももをクイクイと刺激する。
266 :LX [sage saga]:2011/09/24(土) 20:16:13.06 ID:8UQIM93d0


「すこ〜し苦しいので、離れてくれると当麻さんとしては嬉しいのですが」

「……ミサカが傍にいるのはキライだと?」

そういうと、彼女は当麻の足から降り、少し間を空けて当麻の右隣に座り直し、斜めに背を向ける形になった。



「そんなことはないですが?」 何を拗ねているのかと返すと、麻美はくるっと回れ右をして 少し照れたようにはにかみつつ、

「それでは許可が下りたのでミサカはもっとお側に」 そういうと今度は堂々と彼に馬乗りしてしがみついてきた。



「お前、今日はちょっとおかしいぞ?」  

美琴はストレスが多い職場のせいか、飲むと絡みがちになるタイプだが、麻美はやたらハイになるタイプなのかな、と当麻は思う。

「おかしくはありません。ずっと会いに来てくれなかったので、ミサカはとても嬉しいのです」

しがみついたまま、当麻の耳元で秘めやかな声でそうささやくと、彼女はしなやかな指で愛しげに彼の髪を撫でまわし、濡れた目を向ける。 

「そ、そうなのか」

「あなたは、ミサカに会うことが嫌なのですか」 

麻美は身体をずらし、当麻の傍に座り直すと、コニャックの入ったグラスをあおり、飲み干した。

「嫌なわけがないだろう?」

その返事にキッとふりかえった彼女は今度は当麻の胸に倒れ込み、もつれ合った二人はソファに倒れ込む。



「では、どうして、なぜ、このミサカに会いに来てくれなかったのですか」 か細い声で麻美がなじる。

「こらこら、酒グセが……」悪いぞ、と言いかけたが、暖かい液体が胸に垂れてくるのを感じ、当麻は黙り込んだ。





「いや、すまなかった」 病院勤めだからか、かつての「短髪」と言われた頃とさして変わらないショートの髪を優しく梳く。

「このミサカには、あなたしかいないのに。 悲しい、寂しい」 髪を梳かれながら、彼女は胸に顔を埋めたままつぶやく。

「……」

彼女は少し身体を上に滑らせ、頭をほぼ同じ位置に持ってきた。

二人の浴衣は前が乱れ、肌が直接触れあうようになる。
267 :LX [sage saga]:2011/09/24(土) 20:20:27.34 ID:8UQIM93d0


「今日だって、一麻が来たからこのミサカを呼んだのでしょう? 

もし、一麻が来なければあなたはここへは来なかったのでしょう?

わたしは、あなたにとって、一麻の母親でしかないのですか」

切々と訴え、彼にしがみつく。胸を押しつけ、離さないとでも言うように当麻にからみつく麻美の肢体。



「違う、それだけな訳がないだろうが」  当麻も彼女を抱きしめる形になる。

彼の右肩に頭を預けるような形で、右手で彼の身体をなで回しながら彼女は話を続ける。

「あなたの一番大切なひとは、美琴お姉様<オリジナル>であることは百も承知しています」

そう言うと、彼女は頭をあげ、当麻の目を見る。

「最初からそうでしたし、今後もそうでしょう。わたしはお姉様<オリジナル>に取って代わろうとは考えていません。

そんなことは出来ません。でも、このミサカがあなたを慕い、あなたを愛していることはどうか忘れないで下さい」

「忘れるわけ、ないだろう?」  当麻も彼女の目を見返す。

「忘れていたのでは、ないですか?」

「忘れてない」

「うそばっかり」

「うそじゃ……む」



麻美の唇が当麻の弱々しい反論を押さえ込んだ。




















268 :LX [sage saga]:2011/09/24(土) 20:27:32.82 ID:8UQIM93d0
>>1です。

本日分、以上でございます。

「殆どありません」と>>1で書いてましたが、
>>110で愚痴りましたとおり、このシーンをどうしようかと。
全くなくても話を進めることは出来るのですけれど、これくらいならあってもいいかなと。

また、会話だけの方が想像かき立てられるかなぁ、
と殆どをカットしたのも作ってみたのですが、とりあえずこっちで投稿しました。

それでは、お先に失礼致します。
269 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/09/24(土) 20:34:25.97 ID:6eJnwtmAO
>>1
270 :LX [sage saga]:2011/09/25(日) 19:40:32.82 ID:1Xt72YUU0
皆様こんばんは。
>>1です。

本日は昼間からずっと飲み続けとなりまして、先ほどようやく開放され自宅に戻りました。
すみません、本日の投稿は出来る状態にありませんのでパスさせて下さい。

ごめんなさい。
271 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/09/25(日) 20:15:48.66 ID:WDRECTTAO
>>1飲み過ぎ注意なんだよ!!
あとそろそろわたしの出番がほしいかも!!チラッ
272 :LX [sage saga]:2011/10/01(土) 20:14:12.96 ID:qJkAG6500
皆様こんばんは。
>>1です。

先週に引き続き、本日分もsageで進行致します。
今日の投稿でageてしまうと前回のsage進行の意味がありませんので……

>>269さま
素早いお返しを頂き、有り難う御座いました。頑張ります。

>>271さま
いやー、我ながらよくあれだけ飲んだものだと正直感心しております。
その割には当日吐きませんでしたし、二日酔いにもならず……酒が上質だったのでしょう。

『わたしの出番がほしいかも』
口調から推測しますと、禁書目録<インデックス>さんのようですが、彼女はちょいと
難しそうです。魔術サイドを入れると膨大なキャラクターを考慮しなければならないので……
しかもやたら女性多いし、その半分くらいはこれまたシスターだしw

科学サイドだけの、ちんまりとした集合体の中での話ですら結構たいへんなので(笑

それでは投稿開始致します。
273 :LX [sage saga]:2011/10/01(土) 20:17:33.84 ID:qJkAG6500




カーテンから漏れる日の光でぼくは目を覚ました。

ふっと目を隣にやると男の人がいる。

      ――― え? ―――

反対側を見ると、そこには女の人が寝ていた。

「あれ?」



頭が回っていないぼくは、一瞬、ここはどこだろうかと真剣に考えてしまった。

今まで、こんな状態で寝ていた経験がないからだ。

(あ、お父さんとお母さんじゃないか……そうだ、ここは、学園都市だった)



    ――― トイレに行きたい ―――



でも、今の状態はちょっと大変かも。

お母さんのにおいがぼくを包んでいる。

美鈴おばちゃんとも、美琴おばちゃんとも違うし。

なんか幸せな気分。それで、かな?



掛け布団を少しめくって起きあがったところでお母さんが目を覚ました。

「誰?……ああ、一麻でしたか? 起きたのですか?」

「うん。おしっこ行ってくる」

「まぁ、はいはい。場所はわかりますね?」

お母さんが少し笑っている。

なんとなく、昨日のお母さんとは違うような気がするんだけれど、なんでだろう?

ほんの少しだけ、ぼくは釈然としない感じを持ったままトイレへ入った。

朝の7時半だ。目覚ましなしでもぼくの体内時計はいつも通りの時間で動いている。
274 :LX [sage saga]:2011/10/01(土) 20:21:05.76 ID:qJkAG6500

「あなた?朝ですよ」と麻美が当麻をとんとんと叩く。

(なんだか、新妻が良人を起こすような動作ですね、とミサカは思わず赤くなります。

美琴お姉様<オリジナル>もこうしてあなたを起こしているのでしょうか、とミサカはお姉様<オリジナル>を羨んでみます)



「う……ん、あと5分……むにゃ」

「は……、あなたは寝ぼすけなのですね、む?」

麻美は、自分の身体の奥にある感覚を覚え、一麻が入った方ではないもう一箇所のトイレへ早足で入った。




ぼくが歯を磨き終えて、顔を洗っているところにお母さんが入ってきた。

「おはよう、一麻。きちんと自分で出来るのですね?」

と優しく声を掛けてくれたんだけれど、

鏡に映ったお母さんは………その、あの、



    ――― 一糸まとわぬはだか ―――



だった!! 

ぼくは思わず顔を赤くして「ちょっと、お母さん、なんで裸なんだよ?」

と叫んでしまった。洗面所のシンクに身体の前を押しつけながら、ね。
                                   


「わたしはシャワーを使おうと思ったのですが、いけませんか? 一麻も使うのですか?」

と不思議そうな顔でぼくを見る。

いや、確かに昨日、ぼくはお母さんと一緒にお風呂に入ったけれどさ、それはお風呂であって、

その、朝からそんな姿は、ねぇ? おっぱいも、その、秘密のところも……うわぁぁぁぁぁぁ!



「一麻もシャワーを浴びますか?お母さんが洗ってあげましょうか?」

「い、いや、いいよ。大丈夫だよ!」

「そうですか? では」

お母さんは少し残念そうな顔でシャワーブースに入った。

ぼくは、あわてて口をゆすぎ、パタパタと洗面所から出た。

ちょっと、お母さんには今の状態を見られたくないし。

昨日はお風呂に一緒に入っても大丈夫だったのに、なんで今朝はこうなっちゃうんだろう?

ぼくはヘンタイなんだろうか?
275 :LX [sage saga]:2011/10/01(土) 20:23:37.55 ID:qJkAG6500



結局、お父さんはそれから30分くらいしてから起きてきた。

「おはよう……おまえら、早いんだなぁ〜ふぁ〜」

なんか、お父さん、昨日より疲れてるような気がする。

「あなた、いつもこんなだらけた朝なのですか?」

お母さんはなんか元気いっぱいだ。

「ぼく、おなか減った……」

「はは、さすが男の子だな。朝から食欲があるのはいいことだよ? ちょっと待ってろな?

朝はブッフェだから、好きなだけ食べられるよ?」

すると、お母さんは

「では、一麻、お父さんはまだ時間がかかるようですから、わたしちは先に行ってましょうか?」と

ぼくににっこり笑って打診をしてきた。

ぼくとしては本当は三人で行きたかったけれど、おなかが空いてどうしようもなかった。

「お父さん、先行って場所取っておくから早く来てね!」

「え? あ、ああ。わかった。じゃ二人とも場所頼むな」

お父さんはすごく残念そうな顔でぼくらを送り出してくれた。





「あ〜ぁ、お父さんはちょっと頑張りすぎました、っての……」

裸足のまま、当麻はソファをちらと見ながら洗面所へ入った。





「あいつもタフだわ……でもあんまり怒ってなかったよな……」

(酒飲み過ぎるとな……、結果オーライ……でも情けないな、はは)
276 :LX [sage saga]:2011/10/01(土) 20:32:20.22 ID:qJkAG6500

(ホテルの2F、 レストラン)

「一麻、あなたはいつもそんなに食べているのですか?」

お母さんが目を丸くしてぼくに訊ねている。

「いや、いつもは時間がないからこんなに食べてないけれど、おなか空いたし、これみんなおいしそうだし」

ぼくの前には確かにたくさんの食べ物がずらりとある。ちょっと多いか、な?

オレンジジュースと牛乳のグラスコップ。水のコップも別にある。

焼きあがったばかりのクロワッサン。厚切りのトースト1枚にバター。

グリーンリーフサラダには粒々コーンとプチトマトに、にんじん・タマネギの短冊切りにスライスしたキュウリ。ドレッシングはサウザン。

ゆでたソーセージ2本にカリカリベーコン、スクランブルエッグ。ミニハンバーグ2個とミートボール2つもある。

「一麻? ブッフェのマナーは、取ってきたものは全部食べなければいけないのですよ? 残したらいけません。

ですから最初は『少ないかな』と思えるくらいでいいのです。足らなければまた取りに行けばいいのですから」

お母さんがちょっとキツイ感じでぼくに注意してくる。

まぁ、大丈夫だと思うんだけれどね、これくらいは。



そういうお母さんは、

おかゆに梅干し、カブとタクアンの香の物、ほうれん草のおひたし、黒豆にひじき、塩鮭に大根下ろし、そして味噌汁と完璧に和風だ。

それもおいしそうだから、次はアレを狙ってもいいかな?

いや、実はおいしそうなにおいがするカレーを御飯にかけてみたいんだけれどね。

いやふかしたてのシュウマイもあるし、ああ、あれもこれもみんな食べたい!!!



そうだ、お父さんは未だ来ないのだろうか?

遅いよね。

「冷めちゃうから先に頂きましょうか」

少し残念そうな感じでお母さんが割り箸を手に取ったところに、入り口にお父さんの姿が見えた。
277 :LX [sage saga]:2011/10/01(土) 20:35:25.83 ID:qJkAG6500

「お父さーん!」

ぼくが呼ぶとわかったらしく、お父さんがこっちへ来た。

「いや、待たせてごめんな、未だ食べてなかったのか?」

「今、始めようかと」

「そう? じゃオレ、今すぐ簡単に取ってくるから少しだけ待ってて? ごめんね」

そういうとお父さんはブッフェへ食事を取りに行ってしまった。



「一麻、あなたは学園都市に来たいのですか、それとも今まで通り東京にいたいのですか?」

いきなり、お母さんが聞いてきた。

美味しそうなご飯を目の前にして、いきなり難しい問題を突きつけられたぼくは、ちょっとむかっと来た。

なんでそんなことを、ここで聞くんだろうって。 かなりシビアな話なのにさ。

だから、ぼくはちょっと投げやりに答えてしまった。

「どっちでもいいんだ」

「どういうことですか?」  

お母さんが、え? どういうことですか、って顔をしている。

「ぼくは……お父さんとお母さんと一緒にいられるなら、どっちでもいいんだよ」 

最初からそう言ってるのにさ。



大失敗だった。

お母さんがうつむいてしまった。うわ、お母さん、泣いちゃったかも……どうしよう……。 最悪だ。



「ごめんね、お母さん。無理なこと言っちゃってごめんね、そうだよね。

でも、学園都市に来たら、お母さんと一緒にはいられるんだよね?」

ぼくは必死だった。
278 :LX [sage saga]:2011/10/01(土) 20:40:53.23 ID:qJkAG6500

「お待たせですのことよ〜」

空気を読まないお父さんが帰ってきた。

どんぶりにご飯が絵に描いたような山盛り。生卵。のり。納豆。みそ汁、香の物。

卵焼きにきんぴらゴボウ、塩鮭に焼き鯖、スパゲティサラダにベーコン、ソーセージ。

和洋折衷って感じだけれど、量が多い。

「お父さん、残しちゃいけないんだよ? 知ってる?」 

この場の空気を変えようとして、ぼくは話題をお父さんに振ることにした。

「もちのロンですことよ? 一麻、お前こそ大丈夫か?」 

お父さんは笑いながらぼくの頭をごしごしと撫でる。

お母さんの状態には気が付いてないみたいだ。それもまた良くないような気もするけれど……とりあえず。

「お父さん、何すんだよ、やめろよご飯なのに〜」 

ぼくは頭をよじってお父さんの攻撃から逃れようとした。



「えー、あー、うぉっほん」  

斜め前のテーブルのおじさんが思わせぶりなセキをする。

ハッとお父さんはそちらを見て、「す、すいません」と頭を下げて謝った。

ほーら、注意されちゃったじゃないか。ほんと、お父さんって子供なんだから。



「さぁてそれじゃいいかな? それじゃ頂きます!」

「いただきます!」

「……」

「おい、麻美?」 

お父さんが今頃になってようやくお母さんの様子がおかしいことに気が付いた。遅すぎだよ、お父さん?

……ようやくお母さんが顔を上げた。うっすらと涙がにじんでいる。うわわわ……どうしよう……?

「お、おい? どうしたんだよ?」  お父さんが何事か、と少しあわてている。

「ごめんなさい。いただきましょうね」

そういうとお母さんはうつむいたままおかゆを食べ始めた。

ぼくとお父さんは、そんなお母さんを黙って見ていたのだった。
279 :LX [sage saga]:2011/10/01(土) 20:43:38.10 ID:qJkAG6500
>>1です。

本日分、いつもの如く短くてスミマセン。
明日は通常通りageでスタート致します。


まだ仕上げ完了しておりませんw
期末で忙しくてタイヘンでございまして(悲鳴

それではお先に失礼致します。
また明日。
280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/02(日) 03:25:37.49 ID:0BIQ5txb0
乙!
上条さん、まさか……『付ける』の忘れちゃった?
281 :LX [saga]:2011/10/02(日) 19:24:12.99 ID:67QDoMTN0
皆様こんばんは。
>>1です。

それではこれより本日分の投稿を始めます。
昨日とその前は一回休み(宴会出席のため)を挟みましてsage進行しましたので久方ぶりの
ageです。

>>280さま
コメントありがとうございます。
よく読まれてますねw
そこはで<恥ずかしいことを言わないで下さい!!> 
ドテボキぐしゃ……

―― ぐぇ ――


それ、では、………始めます……
282 :LX [saga sage]:2011/10/02(日) 19:27:30.07 ID:67QDoMTN0

「えー、寮に入るの?」

ぼくは思わず叫んだ。

それはないよね。意味ないじゃん。

どうしてさ?





少し気まずい雰囲気の中、ぼくは取ってきた分を全部平らげ、

それから気になっていたカレーを茶わんに軽く盛った御飯に掛けてこれも平らげ、

さらにデザートにプリンとメロン、パイナップル、マンゴーをボウルにあけたヨーグルトに混ぜて平らげ……



部屋に戻ったぼくはソファーから動けなくなっていた。

食べ過ぎだって? 

だってね、そんなに1つ1つの量は多くないんだよ?

これは、いろんなものを少しずつ食べるのよ、という美鈴おばちゃんの言いつけだからね。



「基本的にはそうなんだよ。全寮制の学校だって多いしな」  とお父さんが言う。

「ただ、昔と違って、学園都市で働いている人たちがここで家庭を作ることが多くなってね、

そうなると当然、自分の手元から通わせたいというのが親の気持ちだからね」

なーんだ、驚かさないでほしいなぁ。

「ただし、その場合でも、一度は寮生活を経験しないといけない決まりだからな。

例えば6年生でおまえがここに来たとすると、最低1年間は寮暮らしだぞ?」

ええええー?

うーん。1年か。

それくらいなら、我慢出来る、かな。

「その後は、お母さんと住めるのかな?」

「大丈夫ですよ?」

「一麻、おまえ、中学生になっても本当にお母さんと一緒で大丈夫か?」

ぼくとお母さんは、「はい?」と言う顔でお父さんを見つめる。

お父さん、ソレ、どういうこと?

「いやな、おまえもその頃になると、だ。

いろいろとお母さんに内緒の事が増えてくるんじゃないかなーと。

むしろ寮の方がいいんじゃないかなー、とお父さんは自分の経験から言うのですが」

お父さんが、ちょっと明後日の方を見ながらつぶやくように言う。まさかお父さん、見てたワケじゃ……ないよね?
283 :LX [saga sage]:2011/10/02(日) 19:35:02.20 ID:67QDoMTN0


すぐさまお母さんが反応した。

「あなた、自分の経験とは、何をさしているのですか? まさか一麻にも、空から女の子が降ってくるとでもいうのですか?」

へ?

何それ? 

それ、もしかしてオトナのゲームでよくあるってヤツ? 

……あ! ちょっと、お母さんってば!? 髪が!



  ――― お父さんが右手をお母さんのあたまに当てていた ―――



「あなた、あなたは一麻をわたしに預けたくないというのですか?」 

お母さんは、お父さんに頭を押さえられながら、下から睨みつけている。

声は震えてるし、ちょっと怖いよ、お母さん……



「落ち着け! あのな、頼むから電撃は勘弁してくれ。ブラックリストに載っちゃうからな……

それでだ、オレはそう言うことを言ってるんじゃない。

男の子はこれからですね、いろいろと、その、難しいことがあるのですよ」



いや、ぼく、別にお母さんと一緒に寝る訳じゃないし……って、今朝はそうだった、けれど。

確かに毎日は……ちょっと、もう、ね。 もっと子供の時は、いて欲しかったけれどね。

                              

「それに、麻美、お前だって夜勤があるわけだろ? 変則勤務だってある。

そうそう余りないとは思うけれどさ、突発の呼び出しだってあるわけだろ?

一緒でも別々でも、実際にはあまり変わらないと思うんだけれどな」

お父さんがぼくを見る。

そうか……そうだ、お母さん、看護婦さんなんだよね。働いてるんだもんね。
284 :LX [saga sage]:2011/10/02(日) 19:37:46.08 ID:67QDoMTN0

「一緒に住むことが、暮らしていくことが、大事なのではないですか?」

お母さんが、ちらりとぼくを見て、お父さんに言う。

お父さんはようやく落ち着いたお母さんの頭から右手を離した。

(なんだろう、少しひっかかる。このまま話を進めちゃいけないような……)



……ああ、そうだ。 その前にぼく、一応は聞いてみよう。たぶん、ダメだろうけれど、ね。



「お父さんは……一緒は無理だよね?」  そう言って、ぼくはお父さんの顔を見た。

「む」   お父さんがぐっと詰まった。

お母さんは悲しそうにお父さんを見つめる。



やっぱり、ダメだよね。ぼくらが一緒に住んだら、美琴おばちゃんが今度は困るもんな……仕方ないよね。



「……すまない。一緒に遊ぶとか、どっかに行く、というのはまぁ出来るだろうけれど……一緒に住むのは、ごめん。

お父さんは出来ない。許してくれ」  

お父さんがぼくに頭を下げた。



念のため、ね。聞いただけだから。

「うん。わかってるから、いいよ」

ぼくは、そう答えるしかなかった。     

(だめだ。まだひっかかってる。なんだろう?)       



「それでだ、話を戻すとお父さんはだ、おまえは来年春、つまり小学6年生でこちらにくるべきだと思ってる。

理由は簡単で、おまえに能力があることがわかったからだ。

昨日の木山先生の話の通り、おまえは、自分が持って生まれた『超能力』を最大限活用できるようにして、そしてきちんとコントロール

出来るようにならなければいけないんだ。

それは東京じゃ出来ない。

だから、ここへ来なければいけない。そういうことだ」
285 :LX [saga sage]:2011/10/02(日) 19:42:03.40 ID:67QDoMTN0


なんだよぅ、お父さん、決めてたんじゃないか。

だったら最初からそう言えばいいのに。

「うん。わかった。ぼく、学園都市に来るよ」

ぼくは、お父さんの顔を見て、そしてお母さんの顔を見て、はっきりとそう言った。



「一麻?」  お母さんがぼくの顔を見る。ほんとうにいいのですかって顔してる?

「ぼく、1年は寮に住む。そのあと、お母さんと一緒に住むからさ」  

「一麻……」

お母さんがこっちへ来て傍に座って、ぼくの肩を引き寄せた。ぼくのあたまがお母さんの肩に載せられた形になる。

お母さんの体温が感じ取れる。暖かい。



お父さんが僕らを見てふっと微笑んで

「よしわかった。いいんだね? 麻美はそれでいいのかな?」

「かまいません」

お母さんがかすかに笑ったのがわかった。やっぱり、お母さんは笑った方が綺麗だ。



「お父さんはもちろん異議なしだ。じゃ、6年生はこっちで、だな」

「じゃぁ、わたしも今から部屋を当たらなければなりませんね」

「ああ、そうだな。今からなら時間もあるし、良い物件を見つけることも出来るだろうさ」

「一麻が来年からはここに来るのですね」



お父さんとお母さんが嬉しそうに話をしている。

その時、ぼくは気が付いた。



ここに来ると言った瞬間、はっきりとした違和感というか不安感というか、罪悪感と言うべきものが生まれた。

それは。



「美鈴おばちゃん……一人になっちゃうんだ……」



当麻と麻美、二人は顔を見合わせた。
286 :LX [saga sage]:2011/10/02(日) 19:46:25.99 ID:67QDoMTN0
>>1です。

本日分、4コマと更に少ないですがご勘弁のほどお願い申し上げます。
もう一つ投稿しても流れ的には問題ないのですが、ちょっと納得がいかない状態ですので
土曜日まで延ばすことに致しました。

それではお先に失礼致します。
お読み下さいまして有り難う御座いました。
287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/10/02(日) 20:47:59.15 ID:KzfHgjxAO
おつおつ
288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/10/02(日) 21:37:04.36 ID:y0wwVGYAO
>>1乙!学園都市に住むことになったか。でも前作では出てなかったよね…?って事は…一麻君のこれからが不安だな。

>>281
ますますここの10032号がイヤになってくるなあ……
289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/02(日) 22:25:59.67 ID:bnIbKJ1bo
あれ>>275のって上条さん付けてないの?
子がいる親として人としてどうなのそれ
これ美談になるの?
290 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/02(日) 22:44:12.30 ID:CIpD9k6DO
寝ちゃったけど酔ってたから結果オーライって捉えたんだけど違うのか…
美琴傷つけたって後悔してたくせにやることはやるんだな
んで一緒に住むのは断るって立派な愛人関係だ
291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/10/03(月) 09:05:10.95 ID:tOfhcmmz0
ふと、妹達は実は妊娠不可能なはずで、上条相手に突っ走ったらなぜか妊娠しちゃった。とか

だったら、美琴としても落としどころがあるかなあと。
292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/03(月) 11:12:56.96 ID:BgJObRMDO
またやった時点で上条さんに同情の余地なし!

さァて、おしおきの時間だ!!

293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/03(月) 12:50:46.85 ID:O3y8o6V5o
よくよく考えると前作でも佐天さん子供産めない体になってたり
麻琴が一生残る傷こさえてたり
黒子が息子との仲が最悪に拗れてるけどろくなフォロー無かったりと
そこかしこに鬱要素あったものな
このシリーズは割と救いの無い話なのかもしれない
294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/06(木) 03:48:52.46 ID:LH4l3Cgu0
本編でも二次創作でも上条さんは本人にその気がなくてもヒーロー属性が強すぎるのと
現代の日本人的価値観もあってこれまでの行動はどう考えても不義を働いてて援護できないよなぁ
結果として上条家や御坂家に妻や子供達に相当な無理を押し付けてる
295 :LX [saga]:2011/10/08(土) 20:06:55.67 ID:pAVqZVFY0
皆様こんばんは。
>>1です。

コメントお寄せ頂きまして有り難う御座います。

>>288さま
いや、正直、御坂妹がここまで悪役になるとは作者も予想外でしたw
責任は作者にあります。私の好きなキャラなのに(トホホ

>>289さま
えーと、次回あたり(本当は次回だったのですが……)に[以下禁則事項です]

>>290さま
正妻が美琴ですから、御坂妹は愛人1号ですわねー。ちなみにこの時点ではもう美琴は悟っています。
それまでが大変なはずなのですが、さて上手に描ききれるか……

>>291さま
そう言う設定もかなり最初に考えました。ただ不自然なのでそのままでは使えませんでした。

>>292さま
どこまでを許容範囲とするかなのですが、ね。
この時点での美琴の許容範囲は、「10032号を抱く事は許すが、子供を作るような行為は認めない=避妊しろ=付けろ」です。

>>293さま
非常に貴重な観点からのコメント有り難う御座います。
作者としては、主人公ありきで、こちらのメンテナンスはそれなりにやったと自負しているのですが、それ以外はちょっと
ケアが足らなかったかなーと反省している次第であります。
黒子親子は「おまけ」で関係修復の方向を匂わせたのですが、不足でしたか……

>>294さま
えー、確かにこの「上条さん」は自分でも優柔不断すぎてるなぁと反省しております。説教できませんよね、これじゃ……
作者の力不足そのまま(というか作者自身……か)すぎて、ちと不憫であります。


さて、本日の投稿ですが、なんの気なしに追加した行から、どんどん話がふくらんでしまい、今現在必死で調整中です。
いつもでしたらもう投稿している時間なのですが、ちょっとどうなるかわかりません。
明日ごらん頂いた方が良いかも知れません。

取り急ぎ、皆様へ御礼とコメントへのお返し、そして御報告でした。
296 :LX [saga]:2011/10/08(土) 20:56:41.72 ID:pAVqZVFY0
>>1です。

調整完了致しました。
本日、短い4コマですがこれより投稿致します。
宜しく御願い致します。

297 :LX [saga sage]:2011/10/08(土) 20:59:30.90 ID:pAVqZVFY0


ぼくたちは病院に来ていた。



「電池はどこにでも売っている銀電池のSR44だからね。まぁ普段はきみの発生した電気エネルギーを吸収する形を取るから

まず1年以上電池交換の必要は無いと思うけれど、これがバッテリーチェックボタン。赤く点灯しなくなったら電池を交換してくれ」



ぼくの両腕と両足首に、バンドのようなものが取り付けられた。足の方が幅が広いし、少し重い。

これだと、かけっこで遅くなってしまうかもしれない。逆に腕の方は軽い。

AIMジャマー。ぼくの不規則な超能力<電撃>を押さえる為のものだ。

これがちゃんと動いてくれれば、ぼくはもう電気で動くものを触っても大丈夫だ。

これでゲームも安心して出来る……

……だろうって、先生は言ってた。



「気分はどうかな?」  カエル顔の先生が聞いてきたけれど、特にこれといってなんの変化もない。

「大丈夫です。全く何も変わらないです」 ぼくはそう答えた。

「ふーん、それは良かった……相性があるのかな、人によっては装着した直後に違和感を覚える人もいるんだけれどね。

きみには影響が出なかったようだ」

カエル医者は、まぁいいかな、と言う感じで自分を納得させるようにつぶやいた。

「美琴は、最初につけた時は、本体自体が大きくて重いし、頭に靄がかかるようで大嫌いだ、と言ってましたが……」

当麻が昔を思い出して言う。



娘・麻琴を生んだ直後から、美琴は赤子への悪影響を防ぐ為にAIMジャマーを装着しなければならない事になった。



ちょうど美琴たちが高校を卒業するあたりから、能力者の結婚・出産例が出始めたのであるが、出産時の際に妊婦の状態によって

能力が暴走し事故が起きてしまった事例が発生し始めた。

しかも往々にしてレベル3以上の能力者の場合においては、その暴走が自身のみならず赤ちゃんや病院関係者まで巻き込んでしまった

悲惨な例も少なくなかった。

当初、能力者対応ということからキャパシティダウナーを用いて暴走を押さえることが提唱され実施されたが、これもまた100%安全

とはいえず、むしろ強力すぎるキャパシティダウナーによる副作用による事故が連続したことから、直ちにこの方法は禁止された。



これらの事が知れ渡るようになると、高位能力者はむろん、レベル1や2という低位能力者の間でも結婚・出産が控えられるように

なるのは自明の理であり、実際に学園都市内での結婚・出産件数は大きくダウンすることになった。

学園都市の看板でもあった能力者が結婚できない、出産できない、次の世代が産まれない、というのでは話にならず、

このまま放置すれば社会不安が増大し、ひいては学園都市の存在価値にも疑問符が付きかねないことから、

強い危機感を抱いた統括理事会は直ちに、キャパシティダウナーに代わる出産時の暴走を安全に押さえ込む、AIM拡散力場妨害システム

を大至急確立し普及させることを決定した。
298 :LX [saga sage]:2011/10/08(土) 21:08:51.08 ID:pAVqZVFY0

出産時については、妊婦はベッドに横になっており、歩き回ることはないので装置は据え置き型となることから比較的開発は

早く進み、同時に脳の活動を押さえ、パーソナルリアリティ<自分だけの現実>の演算効果を妨害する薬も開発され、

(今までは、『如何に脳の活動を上げ集中力を高めるか』という方向の開発が花盛りであったが、今度は180度逆の方向を目指すものであった)

美琴らが20歳の頃には事故例はほぼ皆無というところまで対応策は確立され、数十件の痛ましい事故と、その事故における十数人の

尊い命と引き替えに、能力者の妊娠・出産に関しての問題はほぼ解消されたのであった。



それと同じ頃、能力者の夫婦からは、自らの能力の暴走による赤ちゃんへの危害を未然に防ぐ為の、自衛手段としてのAIM拡散力場

妨害システム<通称:AIMジャマー>の開発を要望する声が強く出ていた。

こちらの方は、臨床用とは異なり普段身につける必要があったことから、出力は小さくて済む代わり(妨害出来れば良い)

小型・軽量化が必須条件となり、こちらもまた開発・製品化には茨の道が待ちかまえていた。



当時の技術レベルでも、比較的単純な能力の持ち主であった「発電能力者<エレクトロマスター>」である検体番号10032号

(後の御坂麻美である)のレベル3クラスまでは、彼女自身の全面的な協力もあってなんとか対応することは出来た。

1つではなく、複数のAIMジャマーを装着することで、1つ1つのジャマーの性能を押さえることが出来る為、小型軽量化に無理が

少なくて済んだのである。



しかし、学園都市第三位であった「御坂美琴」……彼女の、レベル5というAIM拡散力場、その集中・生成・放射それぞれに

おける強大なパワーに対応できるAIMジャマーについては至難の業であり、しかもその小型版となると、いかに学園都市の科学力

とはいえお手上げであった。

理由のひとつは、レベル5クラスの「発電能力者<エレクトロマスター>」の女性としては、初めての妊娠であったからである。

(作者注:麦野沈利はこの時点で既に出産していましたので、レベル5としては2番目です。但し、彼女の出産は公にはなっていませんでした)



レベル1、2と言うクラスでは一時期の停滞はあったものの、既に妊娠・出産経験者はそれなりの数に達しており、いずれも

対策はそれなりに出来ていた。

レベル3以上になると、使用者個人の「自分だけの現実<パーソナルリアリティ>」が非常に際だったものになってくることから、

事実上オーダーメイド・ワンオフでの製造になる傾向があり量産効果が全く発揮できない他、製造工程もまたコンピュータの助けを

借りてはいるが、実質手作りに近く技術者の手を必要とする事などから希望者の要望を満たせない状態になりつつあった。

そして、出産時のトラブルがほぼ解消したことから、今まで妊娠を見合わせていた反動から、学園都市にはベビーブームとでも

言うべき事態が訪れており、レベル3・4向け育児用AIMジャマーの品不足・納期遅れが発生していた。
299 :LX [saga sage]:2011/10/08(土) 21:12:21.92 ID:pAVqZVFY0

そこへ持ってきて、レベル5の第三位御坂美琴の婚約・結婚という事態が起こったのだった。



だがしかし、彼女の場合は少し状況が異なる形になった。

彼女は有名人であり、そしていずれ学園都市においてもそれなりの地位に就いていくであろう事は、殆ど全ての人間が一様に、かつ

容易に予想できることであった。

当然のことながら、妊娠した彼女に自社のAIMジャマーを装着して使用してもらい、その性能について(優秀な性能とか小型軽量の

よさとか)語ってもらえれば、そしてあわよくばCMに出てくれれば、と製造メーカーが妄想をたくましくするのは必然の理であった。

かくして、レベル3、4の妊娠した女性たちがAIMジャマーの順番待ちで悩むなか、彼女には逆に全メーカーからサンプル試供の

申し入れが殺到するという形になったのである。

まだ婚約したばかり………結婚したばかり……だというのに。(彼女は二つ返事で引き受けた)



とはいうものの、彼女、御坂美琴改め上条美琴は学園都市においてレベル5<超能力者>の第三位に君臨するだけあり、

AIMジャマーのメーカーの技術者たちは「人間」の能力の底知れぬ恐ろしさを味わうことになった。



試行錯誤の末、ある程度まで出来た試作品を、その都度モニターとして彼女に装着してもらう訳だが、ほぼ全ての製品がその場で

あっけなく陥落し続けることになった。

最も最初の頃では、装着する以前に全てのジャマーがお役御免になってしまっていた。

なんせ、彼女は発電能力者<エレクトロマスター>、それを妨害しようとするAIMジャマーもまた電子部品のかたまりであり、

真正面からぶつかり合うという、相性が最悪の組み合わせだからであった。

しかも、彼女はプログラムのハッキングも可能、というつわものであった。

このような相手の演算を、いったいどのようにして崩せばよいのか? 

いかなる方法で彼女の「自分だけの現実<パーソナルリアリティ>」の構築を妨害できるのか?



あまりのことにさじを投げ撤退するメーカーもいくつか出始め、彼女が妊娠した時点において、彼女のところに試作品を持ち込む

メーカーは当初の1/4程度にまで減少していた。
300 :LX [saga sage]:2011/10/08(土) 21:18:02.36 ID:pAVqZVFY0

ただ、さすがに学園都市に存在するメーカーだけのことはあり、残ったメーカーは、上条美琴が長女・麻琴を出産した頃には

まだまだ不十分な点があるものの、あるところまでは対レベル5クラス用AIMジャマーとして使えるものが試作され、彼女は

モニターとしてそれを試用していたのだった。

(作者注:

  前作>317で、

>まだ試作品であり、それぞれは結構大柄でフルに装着した姿はやや異様であった。

  とあるのは、この頃のものを指しています)



更にそのフィードバック効果もあって、発電能力者<エレクトロマスター>系のAIMジャマーの開発はみるみる進み、小型軽量化も

同時に行われたこともあって、今この時点でレベル2以下の能力者向けとしては、連続装着しても日常生活に支障をきたさないものが

汎用品として製造され、供給されるようになっていた。

                              

但し、外観・重量は改善されたものの、元々の目的が装着者の能力行使の制限・阻害、と言うことから、レベル1、2クラス向けの

製品であっても装着時の違和感だけはまだ改善が難しい状態にあった。

この点については、とりわけ高位能力者ほど顕著であり、いかにして性能を落とすことなく、装着者の不満を和らげることが出来るかと

いう相反する問題の解決が急務かつ最大の難関であった。



「まぁね、能力がはっきりしない場合に予防措置的なジャマーを作ってみたこともあるんだけれどね。

まぁアレは簡単に装着できないし取り外すことも事実上出来ないから、きみの息子さんにはお勧めはできないがね……」

冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>という異名を持つカエル顔の医者は、とある子供の顔を思い浮かべる。

必死の形相をしていた若い母親の顔も……



(いつまでアレは保ってくれるだろうか……構造は単純に作ってあるから壊れにくいはずだが)
301 :LX [saga sage]:2011/10/08(土) 21:23:31.55 ID:pAVqZVFY0
>>1です。お読み頂きまして有り難う御座いました。

本日分は以上です。
明日の分はまた場面が異なりますので、今回は短い4コマで止めました。

だらだらと続くお話が300まで来てしまいました。
なんとか来月中には第1部を終わらせたいところです。

第2部はもう少しシャキシャキと進めたいものです。(内容はともかく……)
第3部もあることですし。

それではお先に失礼致します。おやすみなさいませ。
302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/10/08(土) 21:56:02.73 ID:jwkafvaAO
来ないかと思ったらきてたでござる
303 :LX [saga ]:2011/10/09(日) 19:27:41.59 ID:X599FlHd0
皆様こんばんは。
>>1です。

昨日の投稿ではお騒がせして失礼致しました。

>>302さま

はい。>>295を書いたときは目一杯テンパってまして、こりゃどう頑張っても今日は無理だろう
的な感触だったのであのように書いたのですが、結果的にアタマを冷やす効果があったようで
その後はスムースに追加修正が出来てしまいました。

それでは本日分投稿を始めます。
今日も実は短いのですが、御了承くださいませ。
304 :LX [saga sage]:2011/10/09(日) 19:30:34.65 ID:X599FlHd0

すっかり日も落ちた秋の夕暮れ。



「一麻、おまえ、そういえば宿題はどうなってるんだ? 大丈夫なのか?」

ふと気が付いたように当麻が聞く。

「今から帰れば十分出来るよ? だいたい1時間あれば出来ちゃうもん」

問題ない、と言う感じで一麻が答えてくる。

「お父さんに似なくてよかったですね、と母は安心しました。一麻は私に顔が似ただけではなく、頭も似たようですね」

ふっふっふ、と含み笑いをしながら、さすが我が子、とばかりに軽く一麻の肩をぽんぽんと叩く麻美。

「そ、そうですね、そこはお父さんに似なくて本当に良かったですのことよ……」

出来の良い息子を持ったことを喜ぶべきなのだろうが、かつての自分を思うと、逆に自分が情けなくなる上条当麻であった。



「それでお前、仕事はどうなってるんだ?」

当麻が麻美に尋ねる。

「わたしは明日の夜勤からスタートです。今日は休みですから大丈夫です」

問題ない、という顔で麻美は答える。

「そうか、じゃぁゲートまで一緒に行こうか。美鈴義母さんが迎えに来てるはずなんだ。久しぶりに顔を見せてやれよ?」

どうだ?という顔で当麻が麻美に問いかける。

「私はかまいません」

「え、美鈴おばちゃん、来てくれるの?」

一麻が当麻に驚いた顔で聞く。

「ああ、さっき連絡した。ゲートに6時。タクシーで行って、出て10分前くらいってところだ。ちょうど良いんじゃないの?」



三人はタクシー乗り場に着き、荷物をトランクに入れてタクシーに乗り込む。

「お母さん、うちに来れば?」

一麻が爆弾を投げた。
305 :LX [saga sage]:2011/10/09(日) 19:33:00.96 ID:X599FlHd0

 
「あー、それはいいかもしれないな。いけね、気が付かなかったよ……。

麻美はずっとご無沙汰してしまってるんだろ? ちょうどいいさ。一麻と一緒にお邪魔すれば?」

良いアイディアだな、と言う感じで当麻が誘う。



「あなた、そんな無責任な発言は止めるべきです。お義父さまやお義母さまにはなんの連絡もしていないのですよ? そんな失礼なことを」

麻美が反対する。

「お母さんは……ぼくと一緒に美鈴おばちゃんのところに帰るのは、嫌なの?」

悲しそうな顔で一麻が母・麻美の顔を見上げる。

せっかく良いアイディアを出したのに、と。もう1日一緒にいられるのに……と。

「そんな事を言っているのではありません。わたしはマナーの問題を指摘しているのです。6年以上ずっと失礼していた人間が

いきなり連絡もなしに……」

「うーん、この時間だと美鈴さんは電車の中だよな……メールで聞いてみるわ」

「ちょっと、あなた!」

麻美が前に乗り出し、声が高くなる。



「麻美、タクシーの中だ。静かにしろ。運転手さん、すいませんね」 助手席の当麻が運転手に会釈する。

「ははは、手だけは出さないで下さいねー、それから背中蹴ったりしないで下さいよ? 危ないですからね。

まぁ、夫婦ゲンカは犬もくわない、って言いますから、私は何も?」

「お母さん、ケンカはダメだよケンカは」

運転手さんに続けて、一麻も母・麻美を注意する。



麻美はむすーとふくれて、少し荒っぽく身体ををリヤシートに沈めた……。
306 :LX [saga sage]:2011/10/09(日) 19:40:04.85 ID:X599FlHd0

( わたしは、学園都市から出ることが出来るだろうか?)



御坂麻美は少し危惧していたが、案ずるより生むが易しの通り、なんのとがめもなく、三人は学園都市を出た。



中央線の駅へ向かうバス停の前にいた男の人が立ち上がってこちらへやってきた。

「上条君!」

「おじちゃん!」

「旅掛さん!」

「………」

上条美琴の実父、御坂美鈴の夫である御坂旅掛(みさか たびかけ)であった。



「麻美さん、元気そうじゃないか? 確か病院に勤めてるんだっけな、キミは?」

「はい、ご無沙汰致しております。お義父さまもお元気そうで何よりです」



お辞儀する麻美を優しい目で見た旅掛は、今度は身体をかがめて一麻と目の高さを合わせて訊く。

「ははは、どうだ一麻、お母さんに会えて嬉しかったか? すぐにわかったのかな、うん?」

「うん! すぐにわかったよ!後から抱きすくめられた時はびっくりしたけどさ。最初お母さんにそっくりなひとと会ったけど、

別人だってわかったし」

ほう? と言う顔で旅掛が一麻の顔を見て、再び麻美の顔を見る。



「琴江(元検体番号13577号)と会ったのですわ、お義父さま」

麻美の説明に、ああ、そういうことか、と言う顔になった旅掛は

「そうかそうか、それならわかるな。えーとその子も……」

「はい。わたしと同じ病院に勤めております」

そう言って彼女は微笑んだ。



「えーと、それで聞くけど、麻美さんは一麻と一緒に今日はうちに泊まると言うことで良いんだね?

当麻くんは残念だけど、学園都市に戻るそうだが、やっぱりだめなのかい?」

一麻は少し寂しそうな顔をする。

「すみません。明日朝から会議が入ってまして、これからもちょっと下準備がありますので……」

すみません、と当麻が頭を下げる。
307 :LX [saga sage]:2011/10/09(日) 19:49:33.75 ID:X599FlHd0

「やれやれ、宮仕えは大変だね。まぁ仕方ないさ。まぁ、またと言う時もあるだろう。

じゃあ、帰ったら美琴によろしく言っておいてくれるかな? 父さんは元気でいるってね。頼んだよ?」

そう言うと、旅掛は当麻に手を差し出す。

「はい。わかりました。あいつもいろいろ忙しくて、苦労してますよ」

二人は握手を交わす。



そこで、ふっと旅掛は当麻の肩を抱き、麻美たちに背を向けて小声で当麻に話しかける。

(美琴とはどうなんだ? うまくいってるのか?)

はっと言う顔をした当麻も小声で言葉を返す。

(ギクシャクすることもありますけれど、大丈夫ですよ。ぼくの妻はアイツですから)

(ならば、いいがね。それで、二人目はどうなんだ? 出来ないのか?)

(はぁ……いろいろやってるんですが、ちょっとうまくいってません……)

(それはすまんことを聞いたな。まぁ、二人目が出来たら、今度は、『ウチ』だからな。頼むぞ?)

(は、はい)



「はっはっはっはっ!!! じゃぁな頑張ってきたまえ! 美琴に宜しく!」

バン!と背中を叩いた旅掛はくるりと麻美たちに向き直った。



  ――― キュキュッ ヴォム! ―――  



止まっていたバスのエンジンに火が入った。

”XX駅南口行きです。乗車口はうしろです。整理券をお取り下さい” 

静かだったバス停がにわかにざわめき始める。



「お父さん! こんどはいつ来るの!?」

一麻が当麻に聞く。

「うーん、クリスマス前には一回来れると思うけれど、はっきりしてないな」

「……わかったよ。 元気でね。6年生には行くからさ」

「ああ、待ってるさ。しっかり勉強しろよ?」

「あなた、じゃ、わたしはこれから御坂のお義父さまの家にお邪魔してきます。それから」

そう言った麻美はすっと当麻に近寄り、なんだ?と言う顔の当麻にやはり小声で

(今度、途中でヘタレたら絶対許しませんからね)

と思い切り睨んだのであった。
308 :LX [saga sage]:2011/10/09(日) 19:55:12.37 ID:X599FlHd0
>>1です。
お読み頂きまして有り難う御座いました。

次もまた場面が変わるものですから、本日分4コマで止めざるを得ませんでした。
何卒御了承下さいませ。

それから、次回投稿は都合により「sage」進行で参ります。宜しくお願い申し上げます。

それではお先に失礼致します。
309 :名無しNIPPER [sage]:2011/10/09(日) 21:11:12.55 ID:BE7TnLoAO
麻美がどんどん嫌な女になってる気がす……


310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/09(日) 22:26:27.69 ID:klk4UXIDo
上条さんがアホなだけだろ
311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/09(日) 23:23:21.68 ID:0qWq4Ybq0
女には、許されざる事と分かっていても手に入れなければならないものがあるんだろ
312 :LX [sage]:2011/10/15(土) 19:29:09.30 ID:VwwVKaJh0
皆様こんばんは。
>>1です。

いつもコメント頂き有り難う御座います。

>>309さま
子供を前にすると、女性はたいてい母の面が出ます。男からすると、ある時は女として見ろ、
ある時は妻だ、そしてある時は子供の親、と見事に使い分けしてやがる、と思うのですが、
彼女らは別におかしい事だとは思ってません。で、男が同じ事をやると(ry

>>310さま
この上条さんは理解してますww で、下手に出ることをモットーにしています。
触らぬ神に(ry

>>311さま
ハイ。マジになったおんなは、そりゃ恐ろしいものがございます……

それでは先に記しましたとおり、sage進行で参ります。
宜しく御願い致します。
313 :LX [sage]:2011/10/15(土) 19:32:29.70 ID:VwwVKaJh0



「ただいま」

当麻はドアを開けて玄関に入った。

出迎えは、ない。

(あるわけないよ、な)

彼はふっと自嘲の笑いを浮かべて靴を脱ぎ、スリッパに履き替えて廊下を歩く。

(昔はあいつも可愛かったよなぁ……)



その昔、まだ二人が若かった頃、部屋は小さく、玄関からダイニングキッチンは丸見えであったが

その代わり、当麻が玄関を開けると(お帰りーっ!)と美琴が飛びついてくるのが二人の日常だった。

最初は恥ずかしがってぎごちなかった彼女も、僅か3日ほどで逆にハグを迫るようになった。



「上条くん? それは失敗だね」

仕事場での飲み会の席で、「新婚さん」としてサカナになっていた当麻が、ぼやいてその話をしたところ、

年上の上司が(あ〜あ)と言う顔で彼に言ってきたのだった。

「最初はキミも可愛いからということで面白がってやっていたんだろう? だが、もうキミは飽きているはずだ。

いつまでそんなことやってるんだ?ってね。それが男の考えだ。

しかし、女は違う。前はやってくれたのに、どうして今はしてくれないのかと。女は不満を溜める。機嫌が悪くなる。

だから、最初からそんなことをやってはいけないんだ。癖をつけちゃいけなかったんだよ」



(まぁ娘もいる歳にもなって、今更ハグでもないよなぁ)



しかし、そういう甘い幻想をぶちこわしたのが他ならぬ自分であることを思い出すと、

当麻は(自業自得とはいえ、寂しい)とため息をつく。

彼はクラッチバックを持ったまま洗面所に入り、手を洗い、うがいをした。

まず最初に手を洗い、うがいをする。

もう10年以上にもなる、美琴から躾られた習慣であった。

「おぅ?」

洗面所を出た当麻の前には、美琴が緊張した顔で立っていた。
314 :LX [sage]:2011/10/15(土) 19:36:50.44 ID:VwwVKaJh0


「ただいま」

「……おかえりなさい」

二人はちょっとぎこちない挨拶を交わす。

「ちゃんと守ってくれてるのね」   

ふっと視線をそらしながら美琴が言う。

「お、おう。もうすっかりクセになってるからな。順番間違えるとなんか調子狂うしさ」

「ならいい」

そういうといきなり美琴は当麻にしがみついた。



「お、おいおい、どうしたんだよ」

彼女は答えない。黙ってぎゅっとしがみつくだけである。

「黙ってちゃわかんねえだろ? なんかあったのか?」

黙ったままの美琴。

顔を背けて埋めるかたちなので、当麻からは彼女の顔が見えない。

「……」

致し方なく、当麻も黙ったまま美琴の身体を抱きしめる。

その柔らかさに一瞬昨日の麻美のことを思い出すが、瞬時にその妄想は消えた。

(泣いてる……のか?)

ほんのかすかに、嗚咽が聞こえる。そう言えば美琴の肩は僅かに上下している。

(なんで泣いてるんだ……誰がこいつを)




その瞬間に彼は漸く理解した。

(オレ、か……原因は)

当麻は今更のように自分の愚かさを呪った。
315 :LX [sage]:2011/10/15(土) 19:41:44.58 ID:VwwVKaJh0


当麻は優しく美琴の髪を梳きながらそっと囁いた。

     「泣かして、ごめん」





        「ばか」





漸く、美琴が言葉を返してきた。普段の彼女からは想像出来ないほど、弱々しいなみだ声。

顔はやはり埋めたままだ。



       「すまない」

       「黙ってて」


先ほどよりは少し落ち着いたようで、返事がすぐ返ってきた。

声にも張りが感じられた。



黙って彼は愛おしむように右手は美琴の頭と髪を優しくなで、

彼女を抱く左手は安心させるかのように、ぽん……ぽん……とゆったりとしたリズムで軽く叩く。





     「ありがと。もういい」



数分間だろうか、あるいはもっと長い時間だったろうか。

ようやく落ち着いたのか美琴がはっきりした声で言った。



「いいのか?」

本当に、いいのか?というニュアンスを込めて小声で当麻が答える。

「お風呂入って!」

はい?という感じで当麻がフリーズする。

「いいから、グズグズしない! ほら、さっさと入るのよ!」

視線を合わせないまま、ぐいぐいと美琴は当麻を引っ張り、そして脱衣所へ押し込んだ。
316 :LX [sage]:2011/10/15(土) 19:47:07.52 ID:VwwVKaJh0


(美琴、やっぱりちょっと不安定だよな……)



当麻は熱いシャワーを頭から浴びながら、さっきまでの美琴の様子を考えていた。





(考えてみれば、あいつはずっと一人だったんだよな……)

一麻と歩く麻美の顔。喜びに溢れた、幸せ一杯そうな顔。



(麻琴と一緒だったら……美琴ももう少し違ったんだろうか……)



当麻の想像はそこで止まった。

本人の美琴が裸で入ってきたからだった。



「お、おい?」

「いいでしょ? それとも何よ、あたしとは入りたくないって?」

「そんなこと、言って「アンタ、ちょっとこっち来なさいよね」……」

当麻を一度睨みつけておいて、シャワーキャップを被った美琴はいきなりスポンジを取り、ボディーシャンプーを塗りつけて

彼を自分の方へひっぱった。



いきなりの事に頭が追いつかない彼は、いきなり彼女にひっぱられてバランスを崩しよろける。

「お、おいおい危ねぇだろ?引っ張るなよこけるよ」

「うるさい!黙って立ってなさい。あたしが全部綺麗に洗ったげるんだから!」
317 :LX [sage]:2011/10/15(土) 19:52:55.62 ID:VwwVKaJh0

きりりと唇を真一文字に結んだ美琴が当麻の身体を念入りに洗って行く。

まるで、彼の身体に汚いものが一面に付着しているかのように。

当麻は黙って彼女のなすがまま。



美琴がしゃがみ込み、手にシャンプーを泡立て、当麻の男根をやわやわともみ洗い始める。

「おい、ちょ……っと、あの、その、そこは」

当麻がうめく。

ぐいと彼の男根が天井を向く。美琴の手に、膨張したソレはいつもの堅さを伝えてくる。

(え? なんで?)

おかしいな、と思いつつ、彼女はしごく手を緩めない。

「アンタ、ちゃんと付けたのよね?」

左手で袋を握ったまま美琴が立ち上がり、当麻を睨み付ける。返答次第ではタマを握りつぶしかねない顔。



一瞬彼女と視線を合わせた当麻は、彼女に握られた息子に視線を落とす。

「……立たなかったんだよ、ホントにさ」

「なによそれ……」

あきれかえる美琴。

「絶対そう言うことになるのはわかってたから……だったら飲んでしまえば立たなくなるから……オレが馬鹿になれば済むからさ」

「情けないわね、アンタ……それで、今コレなわけ?」

美琴の右手は幹を握り上下にしごき、左手はタマ袋を柔らかくもみほぐしている。

じわじわと、彼女の顔に少しほくそ笑む色が見えてくるのは気のせいか。



「と言う訳で、今日はその分も頑張りますのことよ!!」

当麻は美琴をぐいっと引き寄せ、泡だらけの身体を美琴の裸身に押し当てると、

そのまま前に押して行き、彼女を浴室の壁にぴったりと押しつけた。



「ちょ、ちょっとアンタ、こんなとこで、あたしはあの子の代わりじゃm……」



いきなり積極的に迫られ、攻守逆転してあわてる美琴の唇に、当麻の唇が合わされ、舌が躍り込む……
318 :LX [sage]:2011/10/15(土) 19:55:45.13 ID:VwwVKaJh0


”下校の時間になりました 校庭・校内に残っている人は早く下校しましょう ”

下校時間の案内放送が流れてきた。



「カズ、帰ろうぜ」

「うん、もう帰ろう?」

あれから1週間。ぼくは普段通り、東京の学校へ通っていた。

足首と手首にはサポーターに似せたAIMジャマーというものをつけて。



これは、ぼくが無意識に電撃を放つことを防いでくれるしろものなんだ。 

確かに、これを付けてから、電気にからむトラブルは皆無になった。

最初はおそるおそるだったけれど、非常扉やエレベーター、その他何でも気にせずに扱えるようになったので、

ぼくとしてはとても嬉しいことだった。

ちなみに、お母さんのAIMジャマーはブレスレットとイヤリング。

すごく格好良かったので、素直にそう言ったらお母さんはすごく喜んで、ぼくは思い切り抱きしめられてしまった。

中央線の電車の中で。

アレはいくらなんでもちょっと……。





下駄箱に来たところで、サトシュンは

「いっけねぇ! ゴメン、忘れものしちゃった。ちょっと待っててくれ」

と言って階段を駆け登っていった。



ふんふんと鼻歌を歌いながらサトシュンを待っていると、

「あ、あの」と声を掛けられた。

それは知っている女の子、そうサトシュンの妹のミサちゃんだった。
319 :LX [sage]:2011/10/15(土) 19:57:55.01 ID:VwwVKaJh0


「や」とぼくはミサちゃんから目をそらして簡単に挨拶した。

彼女の顔をパッと見た瞬間、サトシュンのニヤニヤした顔が浮かんだからだ。



(ミサがなぁ、お前のこと、すげぇ気にしちゃってさぁ〜♪)

この間、ニヤニヤしながらサトシュンがぼくに言ったのだ。

おかげでそれ以来、本当にぼくはミサちゃんの顔を正面から見られなくなってしまった。



思わず、ぼくは周りを見渡して、人がいないことを確かめた。

兄貴のサトシュンならともかく、他の連中に女の子としゃべってるところなんか見られたら、

「熱い熱い」

「デキてる」

って冷やかされるのは確実だから。



「学園都市に、行っちゃうの?」

ミサちゃんが、本当にそうなの? という感じでぼくに訊いてきた。

あいつ……もうしゃべったのかよ……



「もしかすると、ね……。それ、サトシュンから?」

「うん。兄ちゃんがこの前、言ってた」

「そうなんだ……あのさ」

ぼくは冗談で言ってみた。

「(学園都市に)来るかい?」



すると、ミサちゃんは真剣な顔で

「うん。行く」
320 :LX [sage]:2011/10/15(土) 19:59:49.10 ID:VwwVKaJh0

これにはぼくもびっくりした。

だって、ぼくは冗談のつもりなのに、彼女は真顔なんだもん。



正直、ぼくはまだ心の底では迷っている。

美鈴おばちゃんを置いていっていいのかどうか……

それなのに、ミサちゃんは……。



「ホントに?」

「カズ兄ちゃんが行くなら、わたしも行くの」

真っ赤になった顔で、でもミサちゃんははっきりと宣言した。

「そ、そうか」

ぼくは、なんとなくミサちゃんの言わんとしたことの意味を理解した。

これ、そういうこと、なんだろうか? サトシュンの言ってたことって、ほ、ほんとなのか……な?

なんか、ものすごく気まずい。



「あたしにも、きっと、超能力、あるから」

ミサちゃんがとんでもないことを言い出した。

「ええっ、ほんと?」

そんな話は初耳だったので、ぼくは半信半疑でミサちゃんに訊いた。

「うん。本で読んだの。 『能力開発』を受けると、ちゃんと出るんだって。だから、あたしにもあるはずなの」

……うーん、それはちょっとどうなんだろうな?

ぼくのお父さんの例だってあるし。

美琴おばちゃんの話でも、現実は結構厳しいんだって。

昔、学園都市は能力のあるなしに関係なく学生を集めた為に、無能力者と判定された人たちは不良化して問題になったから、

今は入学試験の他に能力テストが追加されて、完全無能力のひとは入学できないって言ってた……

ミサちゃんには、超能力、あるのかな……?
321 :LX [sage]:2011/10/15(土) 20:01:44.55 ID:VwwVKaJh0


「カズ兄ちゃんは、どこの学校に行くの?」

ミサちゃんが真剣な顔で訊いてくる。

ぼくだってそんなことは知らない。教えてもらってないし。



「カズ〜!」

サトシュンが駆け下りてきた。

ぼくらはお互いに顔を上げてサトシュンを見る。

重苦しい空気がバッと消える。

「ごめんな、ちょっと時間かかっちゃったよ……って、あれ? ミサじゃん? お前なにしてんだよ、ここで。

どうした?……って、あ〜、はっは〜ん?」

サトシュンがぼくらを見て、雰囲気から何があったのか見当が付いたらしい。



「な、何よ、ヘンなこと言ったら怒るから!」

ミサちゃんが赤い顔のまま怒る。説得力無いな。

「ああ、ああ、ゴメンなミサ。なんか良いところ邪魔しちゃったみたいだなぁ〜ww オレ、一人で帰るわ?」

「お前、なにくだらねーこと言ってるんだよ?」

ぼくは精一杯怒鳴った。恥ずかしさを隠すために。

「バカにぃ! 知らないから!」

ミサちゃんは泣きそうな顔で走って行ってしまった。



「あ〜ぁ、思いっきり『バカ』はねぇよなー、いくら図星さされたからってさ……、ひでぇよなぁ。兄貴だぜ、オレ? 

……ホントに可愛くない妹だっての」

ひとしきり愚痴をこぼしたサトシュンは今度はぼくに向かって言った。





「あいつまで学園都市に行くって言い出しちゃってさ、お前のせいなんだぜ?」
 
322 :LX [sage]:2011/10/15(土) 20:05:16.42 ID:VwwVKaJh0
>>1です。

本日分、いつもの倍(といってもわずか9コマ)投稿致しました。

明日は通常通りの量を、通常通りageてから投稿致します。

それでは本日はこの辺で。
お読み頂きまして誠に有り難う御座いました。
323 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/15(土) 20:58:14.04 ID:EwO3QZoDO
いちはんのりでおつ〜
324 :名無しNIPPER [sage]:2011/10/15(土) 23:19:32.30 ID:mBWw/YJAO
おつおつ禁書SSでこんな感じのは少ないから期待してる
325 :LX [saga]:2011/10/16(日) 20:06:58.99 ID:dkjB6zLN0
皆様こんばんは。
>>1です。

コメント有り難う御座います。

>>323さま
ありがとうございます。宜しく御願い致します。

>>324さま
そう言って頂けると嬉しいです。あんまり需要は無いのでしょうけれど、自分のスタイルは
どうもこういうタイプのようです。頑張ります!

それでは本日分、ageておいてからの投稿です。宜しく御願いします。
326 :LX [saga sage]:2011/10/16(日) 20:09:09.45 ID:dkjB6zLN0


数日後。



「なんだそれ?」

「これだもんなぁ……お前ホント死ねよなー? うん、死んで良い。いや死んでくれ、マジで。俺が許す」

「だから、お前がモテ過ぎるのが全ての発端なの!」

「さすが、モテキング・カズだねぇ」

ケンこと桜井健二(さくらい けんじ)、ショウこと田中昇(たなか のぼる)がいつものメンバーに加わって、

どうでも良い話がだんだんずれてきて、いつの間にかぼくへの嫌み攻撃になっていた。

もちろん半分ほどは冷やかしみたいなものだが残り半分は本気(マジ)で。



だが、その話はなかなか衝撃的だった。



「すげーよな、女の子が親衛隊作っちゃうんだぜ?ありえねーよ」



メチャとケン、ショウがうんうんとお互いに頷いている。メチャはぼくのあたまをポンポンと叩く。少し痛い。

おいおい、親衛隊ってなんだよ?

「誰が言い出してるんだよ、そんなの?」  サトシュンがぼくの代わりに聞く。

「館川。それに小田だろ、そんで長谷川、ってところだな」

「えー、2組女傑三人衆かよ? 信じらんねぇ……」



説明すると、我がクラスの女子14人のうち、体格が良く、きかない性格の女子3名を、

「5年2組女傑三人衆」

というあだ名で呼んでいた。


小田雅(おだ みやび)

館川若葉(たてかわ わかば)

長谷川優子(はせがわ ゆうこ)

である。
327 :LX [saga sage]:2011/10/16(日) 20:11:30.34 ID:dkjB6zLN0

はっきり言うと、

みやびだの、優しい子だの、ご両親は淑やかな、可愛い女の子になることを祈ってつけたんだろうけれど、

誠に残念ながら、彼女らの名前と性格と顔は全く一致してい(うわ、黒板消しが飛んできた!!!)



「ショウ! なにウワサしてるんだコラ? はったおすぞ!」



5年生の女の子がいう言葉か、これが?

マジで、こいつのどこが「やさしい子」なんだよ???

ほんと、女の子なのに……恐ろしい。



「お前らの大事なカズくんに当たって、顔がゆがんじゃったらどうするんだよ?」

ショウが言い返す。

「あたし、そんなド素人じゃないし!」

そう。長谷川優子はソフトボール部のエースなのだ。

「そ、御坂くんさえいるなら、あんたたちなんかどうなってもいいのよ〜♪」

キャハハハと女の子たちが一斉に笑い出す。どう見ても多勢に無勢。



「おまえら、オレをバカにしてるのか!」


ぼくが立ち上がって怒鳴ると、

またもやキャーっと黄色い歓声が上がって、

「御坂くんが怒ったー♪ 」
「男らしい〜♪ 」
「ねーねー、もっと怒ってみてー! 」
「かっこいい〜! 」


……なんなんだ、これ? いったい、何が起きているんだ? 

絶対、これって、ぼくはバカにされてる、よね?
328 :LX [saga sage]:2011/10/16(日) 20:14:38.63 ID:dkjB6zLN0


「お前さぁ、いっそ芸能人になれば?」

メチャがとんでもないことを言い出す。

「絶対、おまえなれると思うんだけどなー」

「お前、何考えてるんだよ?」

「いや、お前いろんな女の子と知り合いになれるはずだから、カワイイ子紹介してもらおうって。ウチのクラス、ブスばっかじゃん?」



あ、おまえ、死んだな。



「いててててててて、痛い、痛いよっ!!」

「メチャ、ちょっとこっちにおいで。ないしょのお話、しよ?」

若葉がズリズリとメチャを引きずってゆく。彼女はクラスで一番大柄な女の子で、力もあるんだ。間違いなくケンカしたら負ける。

あ〜ぁ南無阿弥陀仏、だな。





とはいうものの、彼女らの「親衛隊」なるものは、ぼくのまわりを取り囲んでどうこうすると言うわけではなく、むしろ

「抜け駆けを許さないようにお互いに監視しあう、クラス外の女子からの誘惑には団結して断固排除する」

というしろもの、らしい。



ということは、つまり女の子にぼくは見張られてるわけで、非常に不気味だ。

もうコンビニで、週刊誌のえっちなページなんか見れないよ。

スカートめくりなんか、論外だ。

いや、逆に、やってみたら女の子に嫌われて、もうまとわりつかれなくなるかもしれない。どうかな?



……何を考えてるんだろう、ぼく。

ああ、ぼくは、


 
     ―――― 不幸だ ――― 

329 :LX [saga sage]:2011/10/16(日) 20:17:14.75 ID:dkjB6zLN0

そして、あの日。



授業が終わった。今週は、ぼくはめんどくさい掃除当番ではない。

「カズ、メチャ、帰ろうぜ?」   

サトシュンが誘ってきた。

「ああ」
「オッケー」
「新しいゲーム買ったから、やろうぜ?」
「あ、オレも買った。今度持ってくるわ」



僕らがワイワイ話をしながら下駄箱に来ると、

「お兄ちゃん、帰るんでしょ?」   

そこには、ミサちゃんがいた。



「よ」  

ぼくは彼女に挨拶した。

あれから少し経ったので、意識はしてるけれど、なんとか普通に(?)挨拶は出来るくらいに戻っていた。

「こんにちは」  

彼女は軽く会釈して、明るく返事を返してきた。少し頬が赤い……かな? 気のせいか可愛く見えるような。

やばい、完全に意識しちゃってるよ、オレ……。



「何だよー、おまえら、そういうことか?」

メチャがニヤニヤしながらサトシュンとぼくを見る。

「そういうこった」

サトシュンがあはは、と笑って言う。

「お前もそう言うところはバカ兄貴なんだなー」   

メチャが笑う。

なにをこいつら言ってるんだろう? 話についていけない。なんのことだ?
330 :LX [saga sage]:2011/10/16(日) 20:23:53.33 ID:dkjB6zLN0


「いくぞ」

ぼくらは校舎から出て校庭を横切ってゆく。




「カズ兄ちゃん、学園都市に行ってきたんだよね?」

ミサちゃんが話しかけてくる。

女の子ってすごいな、さっき冷やかされて「バカにぃ!!」って怒ったばっかりなのに。

で、その原因って、ぼくとの仲なんだけど。  

切り替えが早いよな……



「うん。初めて行ってきたんだけど、未来って感じですごかったよ?」

「いいなぁ、あたしも早く行ってみたい」

「テスト受けないとダメなんだよ?」

「知ってる。カズ兄ちゃんは受けたの?」

「簡単なのをね。本格的なのを受けちゃうと、もしそれで超能力が見つかると帰ってこれなくなるかもしれないって言われて」

「それで、どうだったの?」

「あはは、レベルゼロだったよー。でもね、1に近いゼロだって。何もしてないのに超能力が出るのは珍しいんだってさ」

「うわぁ、すごーい♪ やっぱりカズ兄ちゃんは違うんだねー」



二人の少し後を、兄サトシュンとメチャがなんとも言えない顔で歩いて行く。気を効かせた、のだろう。



(ちょっと、入り込めねーな)

(ほっとけよ)

(なんか、ホンモノだな)

(ああ、もうなんか諦めてるさ。好きにしろって)

(兄貴も大変だな。けど、あの二人、ケッコンしちゃうかもな)

(んー? そしたらカズは弟になるのか? アハハハハ、なんかすごいヘンだなー)
331 :LX [saga sage]:2011/10/16(日) 20:27:00.03 ID:dkjB6zLN0

突然、

「ちょっと待て〜!!!」
「こら〜!!」

いきなり怒鳴られた。

「わ!出た!!!」

我がクラスの、女傑三人衆だった。

「その子、誰?」
「ちょっとアンタ、勝手に御坂クンに話しないでよ」

大柄な若葉が前に出て威圧する。

ミサちゃんは只でさえ小柄。完全にのまれている。

「お前ら、オレの妹に何すんだよ?」

サトシュンが、妹を庇って前に出る。さすが、兄貴だ。

「え?サトシュンの?」
「うそ、全然似てないじゃん」
「勝手に御坂くんに近づいたらダメなの!」

意表を突かれて、若葉が怯むが、口撃力では最強の優子が今度は前に出てくる。

「お前ら、オレが誰と話そうが関係ないだろ?」

いいかげんにしろよ、ふざけるんじゃねーよ、と噂の本人であるぼくが前に出る。

「何言ってるの、これは5年2組女子全員で決めたことなんだから」

本人に突っ込まれて、さすがの優子も一瞬はたじろいだが、直ぐに反撃してきた。

「だからなんでオレが」

「御坂クンは黙ってて!これは女の子の話なんだから!!」

「お前らオレが兄妹で家に帰っちゃいけないのかよ?」

「兄妹『だけ』ならいいわよ。でもそこに御坂クンが入るのはダメ」

「質問だけどさ、御坂親衛隊が御坂本人に逆らうのって、おかしくね?」

メチャの質問がツボをついたのか、一瞬女傑三人衆が黙る。





「やれやれ、人気者はツライねー、モテ男クン」

突然、違うひとの声が聞こえた。
332 :LX [saga sage]:2011/10/16(日) 20:35:41.35 ID:dkjB6zLN0
>>1です。

本日分、以上です。

さて、再来週に当方はちょっとの間出張することになりました関係で、
今度の土日に投稿できるかどうかわかりません。

どういう状況になるか直前でも御報告できるとは思いますが、念のため。

それではお先に失礼致します。
333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/16(日) 20:45:32.84 ID:vXxzmK8N0
乙!
親子三代にわたってフラグ体質とは……。さすが上条遺伝子
334 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/10/16(日) 21:21:26.48 ID:UpZbVMBAO
おいWW上条家いい加減にしろWWW
335 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/17(月) 18:01:13.92 ID:kvAVxiO90


樹形図の設計者がないから素養格付けも作れないし、仮に作れたら入学者がほぼいなくなるし
能力開発は脳に電極さして薬物投与で脳の回路を変異させないと能力使えないからテスト不可能じゃない?
336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/10/17(月) 18:19:19.59 ID:Hd3xWB7AO
>>335一麻は原石だった可能性がごにょごにょ…

337 :LX [saga sage]:2011/10/22(土) 18:37:30.73 ID:mIGbxUZI0
皆様こんばんは。
>>1です。

いつもコメント頂きまして有り難う御座います。

>>333さま
三代? と一瞬思いましたがそうですね、「あらあら刀夜さんたら」ですものね。
その一つ上もどうだったのか(笑

>>334さま
当麻は、いくらなんでもというくらい誇張されすぎているので、
オリキャラの一麻は、母親似として御坂妹にそっくりの男の子という設定にして、
男女間の事柄については比較的普通の感受性を与えたのですが、如何でしょうか?

>>335さま、>>336さま
22巻読み直しました(笑)
素養格付<パラメータリスト>を作るのに樹形図の設計者<ツリーダイヤグラム>を必要
としたかは書かれてませんが、このSSシリーズで勝手に設定した「簡単なテスト」
「本格的テスト」なるものには樹形図の設計者<ツリーダイヤグラム>は不要、と
お考え頂けると幸いです。
能力開発自体は学園都市に入ってからの話なのですが、それを受けるに値するかどうかを
判定するのが前作の「先行体験・見学講習会」における(簡易)テストであり、更に入試
でのチェック(どこにも書いてませんが)、という二段構えを取っている、と自分の
脳内では勝手に設定しておりました。
今回、一麻が受けたのは、その(簡易)テストの方であります。
ちなみに>>336さんが述べられた通り、彼は上条麻琴と同じく「原石」であるという設定です。

さて土曜日でありますが、すみません、本日の投稿はございません。
投稿できる原稿自体はあるのですが、流れ的に非常に中途半端になることから
纏めて投稿したいのですけれど、そこまではまだ完成していない、という
困ったちゃん状態にあります。
何卒ご了解を頂きたく存じます。

それでは失礼致します。
338 :名無しNIPPER [sage]:2011/10/22(土) 20:12:08.85 ID:m6FdwV2AO
舞ってる
339 :LX [saga]:2011/10/23(日) 18:24:28.40 ID:14UMczit0
皆様こんばんは。
>>1です。

昨日は投稿できず、大変失礼致しました。

>>338さま
お待たせ致しました。

それでは本日、いつもより早いのですが出張の準備もありますのでこれより投稿を開始致します。
最後まで一気に参ります(と言ってもそう多くはありませんw)ので宜しく御願い致します。
340 :LX [saga]:2011/10/23(日) 18:27:54.22 ID:14UMczit0

う……

そこにいたのは、あまり、いや、はっきり言って評判の良くない6年生男子が3人。

正直、話をしたくない連中だ。

女傑三人衆もこいつらには分が悪い。

そうは言っても、こうなってしまっては仕方がない。ぼくは前に出た。

「何ですか?」

蛇のような目で一番背の高いヤツがぼくの前に立ち、

「目障りなんだよ、お前」

そう言うと、いきなりぼくのシャツの襟首をひっつかんだ。

「な、何するんだよ!」

それを見て、気の強い若葉が叫ぶ。

「ちょっと、何すんのよ!!」

「うるせーすっこんでろ」

「あんたたちこそなによ!」

「邪魔だ!!」

そいつはぼくの襟首から手を離すと、若葉に向き直り、おもいきり蹴りつけた。

「キャッ!!」

さしもの若葉もいきなりの蹴りは予想してなかったのだろう(いや、ぼくらだって予想してなかった)、

もろにくらって校庭に吹っ飛んだ。

「あ!」
「あ!!!」
「わ!」

蹴り飛ばした6年生はまたぼくに振り返るとぼくのまえに立つ。

「そもそもてめぇがむかつくんだよ」

「よくも、ウチのクラスの女の子を蹴ったな!」

ぼくは頭に血が上った。

確かにあいつは、生意気だし、態度はでかいし、ぼくを冷やかすし。

でも、若葉は、ぼくのクラスメートだ。そして、女の子だ。(可愛くないけど)

「お、いいねぇ、やるかい?」

6年生のそいつは、ぼくの顔を見て、せせら笑うように言った。
341 :LX [saga]:2011/10/23(日) 18:30:12.59 ID:14UMczit0


「みさかクン? 先に言っておくけど、ぼくら、強いからね? プッ!」

もう一人のヤツが嫌みったらしく言った後で、ぼくに向かってツバを飛ばし、ぼくの顔にかかった。

(このやろう……!)

「アヒャヒャヒャ、こいつもろに被ってヤンの! あ〜ぁ、素敵な顔が汚れちまったぜ、アヒャヒャヒャ!」

「情けねぇ〜、マジでなっさけねぇよぉ〜 ヒヒヒヒヒヒヒ!!! ほらどうした、お前?

早く、そこの女の子に顔拭いてもらえよ、なぁ?」

残り2人がぼくを煽る。





そのとき、ぼくは、本気で「この野郎!!」と思った。それだけを。





「カズ兄ちゃん!!」
「てめえら、なにすんだよ」
「ケンカやめて!!」



遠くの方で、みんなの声が聞こえたような、気が……した……














気が付くと、6年生の3人が倒れていた。
342 :LX [saga]:2011/10/23(日) 18:32:18.48 ID:14UMczit0



ぼくは思わず、左腕に付けていたAIMジャマーを思い切り外した。



「痛ぇっ!!」



AIMジャマーの一部分は黒く焦げていて、その部分はぼくの皮膚とくっついてしまっていたことにぼくは気が付かず、

一気に外した瞬間、その部分の皮膚と少しの肉を持っていった形になったのだった。

腕からは血がたらたらと流れて出し、地面に滴った。



「お、おい!」

「カズ!! ち、血が!!」

「せ、先生呼んでくる!!」

「カズ! 保健室に!!」



ミサちゃんがぼくの腕の肩に近い部分をハンカチで縛ろうとして、長谷川優子はタオルでぼくの怪我の部分を押さえているが、

タオルは見る間に真っ赤に染まり、それはだんだん広がってゆく。

「ど、どうしよう!!」

小田雅が青い顔で震えている。



ぼくの右腕のAIMジャマーも黒くなっていて、そこがものすごく痛い。

「痛いよ……うぁ……痛い……」





「どうした!」

先生が走ってきた。
343 :LX [saga sage]:2011/10/23(日) 19:12:56.06 ID:14UMczit0
>>1です。

どうもサーバーの具合が良くないみたいです。エラーだらけ。
集中しすぎかな?

2つ投稿してるのですが、どっちも反映されてません。初めてです。
これも通るかわかりませんが……

少し間を空けてみますので少々お待ち下さい。
344 :LX [saga ]:2011/10/23(日) 19:49:29.22 ID:14UMczit0
>>1です。

テスト投稿失礼します
345 :LX [saga sage]:2011/10/23(日) 19:54:12.24 ID:14UMczit0




二学期の最後の日。



「それでは、御坂くんに挨拶してもらいます」

ぼくは、転校することになった。

新しい学校は、学園都市。第7学区第五小学校、というところらしい。



6年生の怪我はたいしたことはなかったらしく、ぼくが保健室に担ぎ込まれた時には気を取り戻して逃げてしまっていたそうだ。

翌日、3人は先生に呼ばれてそれから病院に連れて行かれたらしいが、特に身体に異常はなかったらしい。

一方ぼくの方は怪我が酷いということで、応急処置もそこそこに、近くの学校指定のお医者さんのところへ先生のクルマで

運び込まれたのだった。





ぼくが寝た後、お父さんが家に飛んできたらしい。

朝起きたら、お父さんがいるのでぼくはびっくりしてしまった。

お父さんと美鈴おばちゃん、ぼくらは3人で学校に行った。

すごく恥ずかしかったな……。

先生と話し合った後で、ぼくらはあいつらの家に謝りに行くことになった。

なんでぼくが謝らなきゃいけないんだ、とお父さんに必死で抵抗したけれど、

「それが世間てもんなんだ。オトナへの一歩だからまず、お前がオトナの見本を見せてやるんだ」

とよくわからない説明をして、ぼくはしぶしぶ頭をさげることに了解した。全然納得できなかったんだけどさ。

「そうよね、一麻くんは不良と闘ったんだよね」 

そう言って、おばちゃんはぼくを優しく撫でてくれた。

うーん、それもちょっと違うような。

闘うも何も、「このやろう!」と思った後、気が付いたら、あいつらがひっくり返っていたわけで……

わけがわからないよ。




2人のところはどっちも、謝りに来たぼくが怪我をしている様子を見て、逆に自分の息子をどやしつけ、ぼくに自分の子を謝らせた。

お互いに「すみません」で済んでしまった。

ぼくはちょっと拍子抜けしてしまった。

あの不良がしぶしぶ頭を下げさせられてるのを見たら、ぼくもそう悪い気はしなかった。



しかし、残る1人が問題だった。
346 :LX [saga sage]:2011/10/23(日) 19:57:12.47 ID:14UMczit0

その子のお母さんは激怒していて、ぼくらは玄関にも入れなかった。

そしてぼくらに「学園都市に行け」とののしった。



その後にも、学校とPTAにねじ込んだらしい。

そう、モンスターペアレントだったのだ。



学校もPTAも、あの時一緒にいたサトシュンやメチャ、親衛隊女子(笑)、そして難癖をつけた他の2人の話からも、

きっかけを作ったのは6年生側ということがわかっていたのだが、なんせモンスター相手には論理的な話が通用しない。

最終的に、ぼくが「言われた通り」学園都市に転校する、ということでモンスターは漸く矛を収めた、らしい。



まぁ、ぶっちゃけ、AIMジャマーをぶっ壊す能力の発現があったことで、ぼくの学園都市行きは動かなかったわけなんだけれどね。



女の子は泣いていた子が多かった。

男子は……女の子のアイドルがいなくなる、というので喜んでいたのが多い、とメチャから言われた。

まぁそうかもしれない。ぼくとしては面白くなかったけれど。



親衛隊の締め付けは今日はなかったのか、沢山の子から沢山のプレゼントをもらった。

ご丁寧に女傑三人衆は紙袋を用意してきていて、かいがいしくそれらを詰め込んでくれた。

そういうところは、ああ、こいつらも女の子だったんだなと(イテテテテテ痛い)

男子からはずっと白い目で見られていたけれど。

家に帰ると、美鈴おばちゃんと旅掛おじちゃんがプレゼントの山に驚いていた。





夕方、ぼくはサトシュンの家に行った。

彼のうちで御馳走してくれるからだと。

行って驚いた。

ミサちゃんがおめかししていたからだ。

もちろん化粧している訳じゃないけれど、見たこともない綺麗な服を着て、髪も整えていて。

最初、誰かと思った。

そう言ったらひっぱたかれて拗ねられた。

「いや、オレも見間違えた」とサトシュンが言い、「バカにい!!」とミサちゃんにしっかり怒鳴られていた。

それで安心した。ああ、ミサちゃんなんだなって。

お母さんは苦笑していた。

お父さんはまだお仕事なので帰ってきていないそうだ。

きっとお父さんもミサちゃんをみたらびっくりするだろう。
347 :LX [saga sage]:2011/10/23(日) 20:03:47.99 ID:14UMczit0

「わたし、中学生になったら学園都市に行く」

ミサちゃんは、果たせるかな今日も断固として自説を曲げなかった。

「あのさ、学園都市に行くにはなんか超能力が無いとダメなんだぞ?

カズはさ、あの超電磁砲<レールガン>のひとの甥っ子なんだから、俺らとは違うんだよ」

サトシュンは、言い張る妹とやっぱり今日も口げんかを始めた。

「あたしにだって、あるもん!」

「ウソつけ、お前にそんな能力あるわけねーだろ」

「あるの!」

「じゃ見せてみろ」

「今はないの!」

「ほらみろ」

同じところでミサちゃんが詰まるのも一緒。ここ最近のおきまりのコースだ。



おばさんが困った顔で二人を見て、ぼくの顔を見てきた。

(すみません) 

なんでぼくが謝るのか、よくわからないけれど、なんかそう言った方が良い気がした。



「あんまりいじめるなよ」

おばさんにまで頼まれちゃ、仕方ない。ぼくは仲裁に入った。

「何言ってんだ、もともとお前のせいなんだからな、責任取れよ?」

サトシュンの矛先がぼくに向いた。新しいパターンだな、これ。

「どう取るんだよ」

「むぅ、そうだな……」

サトシュンが詰まる。なんだよ、お前、考えてないのかよ……?

「コイツがホントにそっち行ったときは出来れば面倒見てくれ。まぁ基本的に寮生活らしいけどさ」

「一人で大丈夫だもん」

ミサちゃんがフンとそっぽを向く。

えええええええ? 

冗談じゃなかったのか?

お、お前、ホントに本気でミサちゃん、学園都市に行かせちゃうのか?

いいのか、そんな簡単に決めちゃって? おじさんは? おばさんは? 本気ですか、いいんですか?



ぼくは反射的におばさんを見る。困ったような顔してるよ……普通はそうだよ、ねぇ?
348 :LX [saga sage]:2011/10/23(日) 20:10:20.02 ID:14UMczit0

困ったぼくはサトシュンに矛先を向ける。

「お前は来ないのかよ」

「オレにはお前みたいな能力はまずないし、そんなことに興味ない。こっちで頑張るさ」

あっさりとサトシュンは帽子を脱いだ。

「そうか」

それにしても、随分とあっさりしてるな……いいのか、妹と離れちゃって?

「あたしが行くから、お兄ちゃんはこっちで寂しく頑張りなさい」

ミサちゃんは完全に行く態勢だ。

正直、ぼくよりはっきりしてる。まだ4年生なのに。

「けっ、お前なんか毎日きっと泣いてるってさ」

「カズ兄ちゃんがいるから平気だもーん」

そういうと、ミサちゃんはぼくの顔を真面目な顔で見つめる。

「知らねーよ」

ぼくは恥ずかしくなって、ぷいと横を向く。

「やだ、ダメ。そんなの止めて」

ミサちゃんが飛びついてぼくの袖をひっぱって言う。

「それはオレもダメだ」

お、お前までなんなんだよ、この、裏切り者〜!!



    ――― パンパン ―――


ふいに手を叩く音でぼくらは振り返った。

おばさんはサトシュンとミサちゃんの顔を見て、ニッコリと笑って言った。

「あなたたち、そんなことより何か重大なもの忘れてない?」

「何?」
「なにを?」

兄妹は声を揃えた。

「俊介、操、二人とも通知表!」

「「あ……」」
349 :LX [saga sage]:2011/10/23(日) 20:13:18.08 ID:14UMczit0

時は戻る。

一麻が電撃で6年生男子3人を気絶させた、その日の夜。



「それで、一麻の怪我は大したことはなかったのですか?」

心配そうな声な当麻の声。

「腕のAIMジャマーが過熱したので、そこの部分がやけどしたの。足は大丈夫だったんだけれど。

水ぶくれしてるから直っても跡は残るだろうって。

それから左腕は、自分で強引にAIMジャマーを外したので、皮が剥けて少し肉も持ってかれたらしくて、かなり出血しちゃったの。

こっちの方はちょっと酷いかもしれないわ」

御坂美鈴が電話で答えている。

「相手の方は?」

「全然大したこと無かったらしいの。一時的な電気ショックみたいね。心臓が止まっちゃったら大変だったけれどね。

お友だちの話だと、あの子が血を流して大騒ぎしてる時に気が付いて逃げてったって言うくらいだから、たぶん大丈夫なんじゃない?

可愛そうにあの子、丸損だわ」

「そうでしたか……」

当麻が沈黙する。

二人の会話が少しとぎれる。

「当麻さん? あのね……」

ようやく美鈴が言いかけたあと、当麻が引き継ぐ。

「お義母さん、すみません。今回の事故で、あのAIMジャマー程度ではもう役にたたないことがはっきりしてしまいました。

あいつの能力が本格的に目覚めたというか、もしかすると逆に目覚めさせてしまったのかもしれませんが。

お義父さん、お義母さんには誠に、本当に申し訳ないのですが、一麻を早急に学園都市に連れてこないと駄目なようです」

「……」

「ぼくらの方から御願いして、あいつを育てて頂いたこと、あいつが真っ当な男の子に育ったのはお義父さんとお義母さんの

おかげです。本当に言いようがないくらい、感謝してます」

「いいのよ。あたしたち、美琴、女の子ひとりだったし。男の子欲しかったし……ね。お父さんだって麻美さんと一麻くんが

来てくれて、本当に喜んでいたんだから。あのひと、一麻くんを自分の息子みたいに思ってたのよ? 

ううん、あたしだって、ホントはおばあちゃんなんだけどね、一麻くんは……ぐす、かずまクンは……」

昔を思い出しているのか、美鈴の声が涙声になる。

「ごめん、なさい……なんか……昔を……あの子はね……私には授からなかった、私の息子……みたいで……ごめんなさい」

「いえ……それで、あの、今から、そちらへ行っても宜しいでしょうか? ちょっと遅いので失礼かも知れないんですけれど」

「……」

「学校やら、相手のお家やら、お詫びに行かないとマズイですよね。それにはやはり、父親のぼくが」

「ううん、大丈夫。私にやらせて? 最後まで私にあの子の面倒を見させて欲しいの。御願い」

「わかりました。では2人で行きましょう? 今からお伺いしても大丈夫ですか?」

「食事は?」

「済ませてます。ご心配おかけしてすみません。駅に着いたら電話します」
350 :LX [saga sage]:2011/10/23(日) 20:21:18.31 ID:14UMczit0

そして、その翌日の夕方。



「お父さん……」

一麻が不安そうな顔で父・当麻を見上げる。

「家に戻ってから、話そうな。一麻、ちょっとは世の中ってもんがわかっただろ?」

当麻は少しひきつった顔を無理に笑い顔にしているので、一麻にも事の重大さが伝わっているのだろう、下を向いてしまった。

「アレって、モンスターペアレントだわよねー、あんなひと、ホントにいたんだ……びっくりしちゃったわ」

美鈴があきれた、という感じでひとりごちる。

「あはは、完全に一方通行でしたね。こっちの言うことは何も聞かない。一方的にまくし立てるだけ。当麻さんも参りました」

そう言うと、当麻は一麻の頭をごしごしと撫でる。

「でも、お前もよく我慢したな。先の2人の時は、ちゃんと『ごめんなさい』出来たじゃないか」

「……」

一麻は下を向いたまま答えない。

「まぁ、お前は不服だろうな。でもな、お前が被害者なのはお父さんも美鈴おばちゃんも、先生も、友達もみんな知ってる。

それでいいんじゃないか? お前が先に『ごめんなさい』したから、相手もそれをきっかけにして『ごめんなさい』出来たんだ。

お前は、あいつらより先に『おとな』の対応を取ることが出来たんだ。立派だったぞ?」

「そうよ。一麻くん、立派だったわ」

当麻と美鈴が、一麻を褒める。

「でも、あのおばちゃんは……」

一麻は顔を上げて、当麻の顔を見る。

「ぼく、悪くないよね?」

「ああ、もちろんだ。お前はやるべきことを全部やったんだ。もうこの話は終わりだ」



暫く黙っていた一麻だが、顔を上げると少し明るくなった顔で、

「うん。お父さん、おなか減ったよ」

一麻が空腹を訴える。

「どうしましょうか、食べていきます?」

「そうね、あのひともいないし。帰ってから作ると遅くなっちゃうから、どこかで食べてきましょうか」

今日は外食、ということでオトナ2人が場所を考える。

「うーんと、ここだと……駅前まで行きますか」

「ラ・コッパはどう?」

「ぼく、知らないよ……?」

「ははは、スペイン料理だ。美味しいぞ?」

「えー?」

「男の子でしょ? 何でも食べる! もうすぐ6年生なんだし大丈夫よ、じゃぁ行きましょう!」
351 :LX [saga sage]:2011/10/23(日) 20:28:58.13 ID:14UMczit0

 

「一麻、少しの間だ、ちゃんと起きてろな?」

「うん。でも眠いから早くね……」



家に着いた3人は手を洗うと居間に集まった。

「一麻、今回の件で、お前の超能力はAIMジャマーを壊すレベルに上がっていることがわかった。そのことはお前自身

が一番良くわかってると思うがな?」

当麻が一麻に話を始めた……が。



「……学園都市に行かなきゃいけないんでしょ?」

先に一麻が結論を言ってしまった。

「……」
「……」



「おばちゃん、ぼく、学園都市に行くけど、大丈夫?」

一麻が少し泣きそうな顔で美鈴を見る。

「ぼく、行ってもいいの?」

「当たり前でしょう!」

美鈴がぴしゃりと言い切った。



「おばちゃんは、一麻くんが大好きよ。

だから、しっかり勉強して、持って産まれた超能力を磨いて、お母さんや美琴を凌ぐ使い手を目指して頑張りなさい。

そのためには学園都市しか行くところはないのよ? 胸を張って行きなさい。

行きたくても行けない人の方が多いんだからね? その力を人の為に役立てるように、ちゃんと自分のものにするのよ?」



そう言うと、美鈴は一麻の傍に行き、彼の頭を撫で、頬を撫で、そっと抱きしめた。

「おばちゃんの事を心配してたんだ? 有り難うね、優しい子」



一麻は黙っていた……が、

「うわぁーん、おばちゃーん、おばちゃぁーん!!!!」 大声で泣き出してしまった。

(おっと!?)

当麻はあわてて立ち上がり、右手をすっと一麻の頭に当てる。

この辺は、さすが美琴で慣れているだけのことはあった。



「一麻くん? おばちゃんはやることはいっぱいあるから、一麻くんが学園都市に行っても大丈夫。

でも、夏休みには帰って来なさい? よかったらお友だちも連れてきていいからね?」

「うん……わかった」

「ほら、ハナ出てるから、しゃんとしろ、一麻」 

当麻が涙と鼻水でぐしょぐしょの顔をこする……。
 
352 :LX [saga sage]:2011/10/23(日) 20:33:41.49 ID:14UMczit0

そして、年も押し詰まった数日後。

とうとうその日が、来た。



「行ってらっしゃい」

「うん、行ってくるよ。夏休みには帰ってくるからね。じゃ元気でね」

「身体には気を付けるのよ!」

「はーい」

「しっかり勉強してきなさい。元気でな」

今日は、旅掛も孫の旅立ちを祝福すべく家にいた。

(せめて正月くらいは一緒に過ごしたかった……。あと少しなのだが、致し方ないか。今度の正月は寂しくなるな)

旅掛は傍らに立つ美鈴の顔をそっと窺う。

美鈴は明るく笑って送り出そうとしているのが、彼には痛いほどわかった。

むろん、当麻にも。

(すみません、お義母さん)





「じゃ、お義母さん、一麻と一緒に行ってきます」

「お義母さま、有り難うございました」

当麻と麻美が深々と頭を下げる。




親子三人を載せたタクシーが走り出す。

美鈴が手を振る。

「元気でねーっ!」

一麻の声が通りに響く。








美鈴はずっと、ずっと見送っていた。



車が見えなくなってもなお、立ちつくしていた。

白いハンカチを握りしめて。




(第一部 完)
353 :名無しNIPPER [sage]:2011/10/23(日) 20:39:07.01 ID:lkPsvovAO
>>1おつおつ
一瞬エタるフラグかとおもた
354 :LX [saga sage]:2011/10/23(日) 20:45:41.73 ID:14UMczit0
>>1です。

なんとか、10月中に第1部を終わらせることが出来ました。
お読み下さいました皆様、どうも有り難う御座いました。
こういう内容でしたので、分割も出来ず、昨日の投稿は失礼した次第です。

はっきり言いまして、御坂一麻は、前作の上条麻琴と全く同じ道を歩んでおります(苦笑
作者のセンスのなさ、アイディアの少なさによるものなのですが、
「血は争えない、と言うことでいいんじゃねーの?」
という言い訳を既に作者は用意して御座います。なにとぞ御了承下さいませ。

さて、本来ならこの後、第1部の登場人物の御紹介になるのですが、この後はもう時間が
ありませんので、帰国後の来週に投稿出来ればいいかな、と思っておりますが……。

第2部は、引き続きこのスレに投稿する予定です。
単発イベントが数個あるだけなので、構築に時間がかかりそうです。しばらくお時間を頂戴します。
生存報告は適宜カキコ致します。

それでは、これより準備です。お先に失礼致します。
355 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/10/23(日) 21:23:54.15 ID:gw4IMEJy0

上条当麻のクソっぷりが現れていて面白かった

コピペミスか何かだろうけどカギ括弧の中に謎の空行があったのが気になった
コピペには気をつけた方がいいよ
356 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/23(日) 23:53:58.14 ID:YFLc4EGJo

男女平等そげぶパンチをして説教しまくってた上条さんが大人になりやがって・・・
357 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2011/10/24(月) 00:56:14.92 ID:vOm++dnAO
お父さん女関係さえしっかりしてたら文句無しなのに……
358 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/24(月) 01:10:48.14 ID:VrLqx1Ddo
茶番にしか思えない
359 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/24(月) 17:27:51.15 ID:0FqelvnD0
二代目物は前主人公の影響力が強すぎるから前主人公を[ピーーー]かカスにしないと現主人公が立たないんだよね

茶番と言うか主役以外投げ捨てのバッドエンド系の作品だしいいんじゃないかな?
360 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/10/25(火) 20:28:52.51 ID:vr/dahn90
>>358
茶番と言うよりもむしろ、仮面夫婦にしか見えなかったww

と、ここまで読んで思い出したけど、前スレの178で

>美琴は当麻に電話をかけるが、繋がらない。理由は先に記したとおりだが、美琴はまだその事情を知らない。
>
>「あのバカ、本当に肝心なところで役に立たない!」
>
>ひとしきりののしったところで、ミサカ美子(10039号)へ電話する。

という描写があって、これを読んだ時にちょっとした違和感を覚えていた。
美琴の上条さんへの感情がやたらと冷淡というか、無下というか、未来設定上琴結婚ものでは極めて珍しい
タイプの美琴だなー、と。
でもその時は「結婚から十数年経ってるんだし、倦怠期もあるんだろう」とか軽く考えていたが、
今ここに来てようやく合点がいった。
浮気した上に子供まで出来てたら、そりゃ冷めない方がおかしいわww と。 
そして、年を追うごとに夫婦関係は悪化しているのかなー、とも。

今作のこの展開まで念頭に置いた上で、前スレ178の描写を書いていたのだとしたら、>>1の伏線張りの手腕に
脱帽と言うか感服と言うか……もう実にお見事としか言いようがない。

それにしてもこの夫婦、娘の麻琴が成人するなり結婚するなりして自立したら、それを機に離婚するんじゃね?
とか思ったりしてww
361 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/25(火) 21:21:32.00 ID:2DXespF9o
浮気ってされた方は相当精神ダメージ来る割にした方は妙に軽くしか思わないもんだしなぁ
前科を作った以上どれだけ言葉や態度で示そうと償おうと信じたくても信じられなくなるし、
増してやこの上条さん、ちっとも反省した様子も無く浮気相手とお泊りとか平気でかます最低っぷり・・・
362 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/25(火) 22:43:27.31 ID:FDrZ2yRto
禁書原作やら超電磁砲漫画の妹達編で美琴は相当苦しんでたってのを知ってるし
妹達編後も妹達には相当な負い目を感じてるって設定が付いてるから余計に不憫でならない
363 :名無しNIPPER [sage]:2011/10/26(水) 06:33:39.94 ID:JHLcPq+AO
>>358そんなこといったらラノベなんてだだの茶b…ゲフンゲフン

364 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/26(水) 06:35:10.73 ID:0iZ/GMp1o
茶番にしか思えないってのは人としての道を外れたことしてんのに何奇麗事抜かしてんだって感じだからかな?
携帯小説とかあんなノリ
御坂妹が美琴に対してどんな思いかってのの詳細がないからなんとも言えないけど
現時点じゃ姉が強く出れないことを良いことに自分の欲望に忠実なただのスイーツだな
美琴や美鈴さんや詩菜さんや前作の麦野や佐天さんみたいな「母親」とはなんか違う
365 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/26(水) 12:52:38.30 ID:CXloAWX5o
美琴自身は恩人で愛する人である上条さんも負い目のある妹相手にも自分の気持ち殺してしまいそうだけど
個人的には旅掛さんや美鈴さんが平然と受け入れてるのが物凄い薄ら寒いというか狂気を感じる
366 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/26(水) 13:46:16.19 ID:pKzEB8Et0
その辺のところは、御坂妹の妊娠発覚から出産までの過程がまだ書かれていないから何とも……
第二部第三部の今後に期待としか言えないよな
367 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/26(水) 15:43:02.13 ID:NFT8B8lw0
旅掛とか美鈴は一悶着あったけど「子供に罪は無い」って感じで受け入れて大人の対応をとるのは分かるけど、美琴は可哀想だよな。

けど上条って原作の時点でゲスいからいいんじゃね?
皆が笑える結末とか言いながら敵の事情を一切考えず「あいつが悪い」で殴る。そして後始末は投げっぱなし。
敵が任務失敗したら粛清される可能性があっても、何も考えず「お前が悪い」って言って殴るだけ。後始末は(ry
敵でも殺 すなとか言って独善振りかぶってるけど動物愛護団体と考え方が変わらんし、後始末は(ry
自分の正義しか信じてないし、自分の価値観でしか物を見れないから自分が悪いとは思えない人間。
殺しとかの汚れ役は土御門や一方通行がするし、上条って自らの手は汚さない勧善懲悪的な分かりやすい主人公じゃない?
368 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/26(水) 23:17:07.88 ID:0iZ/GMp1o
子供には罪はないって便利な言葉だな
>>367
まぁそういう独善的な部分もファンが多い理由でもあるしね
俺は自分の正義振りかざして押し付けて女子供でも容赦なくぶん殴る上条さんは好きだけどな
茶番や上辺だけの奇麗事受け入れられないと禁書ファンなんかやってられないわけで
このSSの中でも上条さんは相変わらず自分勝手だけど受け入れがたいのは
浮気やら生々しい話が絡んでるからなんだろう
369 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県) [sage]:2011/10/27(木) 00:39:58.71 ID:jvoavjZGo
>>367
原作では魔術と科学の陰謀に上条さんが巻き込まれる形で命掛けの独善の結果救われた人々がいる
このSSの上条さんは今のところは自分の蒔いた種の不始末を周囲に押し付けて迷惑掛けてるだけのだらしない男
370 :LX [sage]:2011/10/29(土) 00:20:13.77 ID:nx3zjh2S0
皆様こんばんは。(今現在、こちらは”おはようございます”です)
>>1です。

拙作に沢山のコメントを頂戴致しました。本当に有り難う御座います。
最初開けた時、異様にカウンターが進んでおりましたので何があったのかと……

本来ならばいつものようにお返事致したいのですが、時間がありません。
改めてお返事したいと思います。


当方は本日、帰国の途につきます。
少しは書けるのかな?と思っておりましたが全くそんな余裕は御座いませんでした。

登場人物紹介の投稿は本日は無理ですので日を改めます。

取り急ぎコメントへの御礼と生存報告でした。
それでは失礼致します。
371 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/29(土) 02:41:45.89 ID:BpbvUHLAo
>>370
乙です
気をつけて帰ってきてください
372 :LX [sage]:2011/10/30(日) 15:30:52.75 ID:xqCXRW6R0
>>1です。
帰国致しました。

>>371さま
有り難う御座いました。無事戻りました。


さて、時差ぼけで死んでます。
むちゃくちゃ眠いのですが、ここで寝てしまうと時間調整に失敗してしまうので
起きていなければなりませんが、しかしあまり難しいことはとても考えられないので(苦笑
本日の投稿もなし、とさせて下さい。
宜しく御願い致します。
373 :名無しNIPPER [sage]:2011/10/30(日) 16:46:57.21 ID:Ni0SRSXAO
乙カレー
舞ってる
374 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(東日本) [sage]:2011/11/03(木) 18:34:32.69 ID:fu6Q6pDX0

皆様こんにちは。(外はもう真っ暗なのですがまだ6時前なので)
>>1です。

ひとまず登場人物紹介は書き上げました。あとは推敲です。

大変遅くなりましたがコメントへのお返事です。巧くお答えできないコメントもありますので平にご容赦下さいませ。

>>353さま
すいません、エタるとは……?

>>355さま
「コピペミスか何かだろうけどカギ括弧の中に謎の空行があったのが気になった」
すみません、ものすごく情けないのですが、自分では発見できませんでした……どこでしたでしょうか?

>>356さま
男女平等そげぶパンチを出す場面を作り出せないヘタレな作者でして、申し訳御座いません。
巧く書きこなせていらっしゃる作者の方も多いのですが、うーむ。

>>357さま
原作のあの調子でオトナになったら、相手によっては当麻は刺されてるかもしれませんww

>>358さま
まぁウソくさい話ではありますね。ここまで「否定」するヒトが出てこないのですから。全員が肯定なんて実際はありえませんよね。
そこのところは煮詰め方が足りませんでした。やはり書きためたほうが良かったのかも知れませんが、なんせ筆が全く進みませんでした
ので、あの調子ではきっと今でも発表できるようにはなっていなかったと思います。
正直、皆様のコメントに助けられる形でなんとか書き続けらたのでした。有り難う御座います。

>>359さま
「二代目物は前主人公の影響力が強すぎるから前主人公を[ピーーー]かカスにしないと現主人公が立たないんだよね」
おお、目から鱗、であります。
言われてみれば確かにそうかもしれません。前作で当麻が空気なのは、無意識にそうしていたのかも知れません。
有り難う御座います。

>>360さま
「それにしてもこの夫婦、娘の麻琴が成人するなり結婚するなりして自立したら、それを機に離婚するんじゃね?
とか思ったりしてwwww」
実際にこういうことがあったならば、普通はそもそも絶対結婚しませんww
そのねじ伏せ方がキモなのですが、正直自信がありません(苦笑)。 「なーんだwwwww」と言われそうで。
それから前スレ178の件ですが、もちろんその当時はこの第2作のプロットなどは全く頭にありませんでした。
ただ、美琴と当麻の夫婦関係は、当初はともかく子供が中学生くらいになって、また仕事を持ち外部社会との接触が多いままであれば
精神面での自立は促され(中学生の時点でもかなり強調されてます)経済面での依存度も低いわけで、ズルズルべったりな夫婦関係と
いう事はあり得ない、と思っています。
さらに2つ下程度だと、「お前、オレを年上だと思ってないだろ?」「うん♪」そういう実例がありましてww

>>361さま
仰るとおりなのですが、うー御答えにくい……
確かに、美琴は許してません。認めては居ますが。

>>362さま
はい。そう読んで頂けるとほっとします。第二部でどこまで書き込めるか……

>>364さま
原作を読むと、妹達<シスターズ>は基本的に「陰」のタイプのようです。御坂妹10032号はその通り「陰」で進めてみたら
こんなキャラクターになってしまいました。その代わりに同じ当麻命として10039号を設定してますが、こちらを明るい「陽」の
タイプとしました。どうでしょうか?

>>365さま
>>358さんと同じ違和感をお感じになっていると推察します。ええ、仰るとおりです。
正真正銘自分の娘と、そのクローンとを同じに扱えるのか、と。無理ですよねー、普通は。
作者の力量不足です。どこまで挽回できるか?

>>366さま
ありがとうございます。御期待に添えるよう頑張りたいです。

>>367さま、>>368さま、>>369さま
どちらかというとお三方のお話のようなので、自分がお返事するのもヘンな気がしますが、
原作における上条当麻への見方について、自分はそこまで深読みしてませんでしたので、非常に新鮮な感じを受けました。
カキコ有り難う御座います。


それでは土曜日に登場人物紹介を投稿いたします。宜しく御願い致します。
375 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/11/05(土) 01:27:59.11 ID:NaIDcFql0
「台詞一行目〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

台詞二行目〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

台詞三行目〜〜〜〜〜」

地の文一行目〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

地の文二行目〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「台詞一行目〜〜〜〜〜

台詞ニ行目〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

台詞三行目〜〜〜〜〜」

地の文と台詞がごっちゃになる。
地の文の最中に改行があるから何処から何処までが一文なのか分かりにくい。
ブラウザによっては一行何文字で折り返されるのか違うから下手に改行をすると、変なところで改行される。

地の文一行目〜〜〜〜(中略)〜〜〜〜(折り返し)
地の文二行目〜〜、

地の文三行目〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。
↑みたいな感じね
だから一文が終わる「。」で改行しないとおかしい。
あと、作風なんだろうけど二行三行の空行が多すぎて見にくい。
376 :LX [saga]:2011/11/05(土) 21:04:21.84 ID:jmd8GcLA0
皆様こんばんは。
>>1です。

本文ではなく資料ということで、登場人物紹介(終わった第一部ですが)をこれより投稿します。

>>375さま
ありがとうございます。
改行の仕方ですね……
ちょっとじっくり読ませて頂きます。

自分のPCの(B5ノート)で、文字(中)で合わせて見てましたのが、
他でどう見えるかは気にしてませんでした。
う〜ん……
377 :LX [saga sage]:2011/11/05(土) 21:09:32.67 ID:jmd8GcLA0

新・学園都市第二世代物語 第一部
(前作・学園都市第二世代物語 第一部より6年前の物語です。導入部の検体番号10032号の妊娠は更に12年の月日を遡ります)

 
【 登場人物紹介 】


1.主人公とそのまわり  

主人公:御坂一麻(みさか かずま) *オリキャラです

   現在東京都某区立小学校5年生 満11歳。 通称:カズ
   父は上条当麻、母は御坂麻美(元検体番号10032号)、婚外子。父・上条当麻の認知はある。
   従って、上条麻琴(かみじょう まこと)は異母妹になる。(遺伝子的には兄妹になる……はず)
   現在、叔母である東京の上条美琴の実家・御坂家に住んでいる。 
    
   5年生になって、母と同様の電撃能力が発現し始める。
   母親似であり、女の子みたいと言われるのが苦痛。



母親:御坂麻美(みさか あさみ)*一部に当SSでのオリジナル設定があります    
                *前作では妹達<シスターズ>は「ミサカ」であり、彼女も「ミサカ麻美」でした。
                 後述する妹達<シスターズ>もそうなのですが、戸籍名はやはり漢字……ですよねー。 
   
   通称:御坂妹、クールビューティ *どちらも一児の母となった今では殆ど使われていません。
   戸籍上の年齢:32歳。21歳で長男、一麻を産む。
   お姉様<オリジナル>の実家、御坂家に一時身を寄せるが、一麻が4つの時に一人学園都市に戻る。
   今も冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>の病院に勤務する看護士である。


父親:上条当麻(かみじょう とうま) 

   満34歳。妻は上条美琴(かみじょう みこと)であり、彼女との間には娘、上条麻琴(かみじょう まこと 満9歳)がいる。
   御坂妹こと検体番号10032号(のちの御坂麻美)との間に産まれたのが、息子である御坂一麻である。   

   学園都市統括委員会メンバーであるが、美琴ととは違う部署。 



祖母(母方):御坂美鈴(みさか みすず)*原作にある、学園都市から目を付けられ殺害予告まで出された設定を生かしています。

   満54歳。上条(旧姓・御坂)美琴の母。夫は御坂旅掛(みさか たびかけ)。
   主人公・御坂一麻を預かり、自分の息子同様に育ててきた。
   

祖父(母方):御坂旅掛(みさか たびかけ)*原作でも年齢不明なため、当SSでも設定できず。
   
   妻は御坂美鈴。エージェントの仕事は継続中。従って家にいないことも多い。
   御坂美鈴(みさか みすず)が妻、娘は美琴(みこと)で上条当麻に嫁いだ。



叔母(母方):上条美琴(かみじょう みこと)

   満32歳。旧姓御坂(みさか)。上条当麻と22歳で結婚、翌年一人娘の麻琴(まこと)を出産する。
   主人公・一麻の母、麻美は彼女のクローンである。
   元学園都市超能力者<レベル5> 第三位。超電磁砲<レールガン>の異名の方が有名。
   学園都市統括委員会、広報部員である。
   

祖母(父方):上条詩菜(かみじょう しいな)*前作での設定を基本的にそのまま準用しています。

   満54歳。主人公御坂一麻の腹違いの妹、上条麻琴を預かり育てている。
   更にまた、1つ飛んだお隣、留守がちな佐天涙子(さてん るいこ)の娘、佐天利子(さてん としこ)も事実上育てている。   
   息子・当麻と御坂麻美との間に、一麻という男の子が居ることはもちろん知っている(第一部ではそういう場面はありません)
378 :LX [saga sage]:2011/11/05(土) 21:12:37.19 ID:jmd8GcLA0

2.主人公のクラスメート *当然ですが、全員オリキャラであります。

佐藤俊介(さとう しゅんすけ)通称:サトシュン

     一麻の友人であり、一番仲がよい。妹がおり、名前は操(みさお)。


滝沢道彦(たきざわ みちひこ)通称:メチャ

     一麻の友人。ちょっと皮肉っぽいところはあるものの、悪気がある訳ではない。
    
*一麻は上記二人と意識している訳ではないが、結果的に三人組を組んだ形になっている。 


桜井健二(さくらい けんじ) 通称:ケン

     一麻の友人。上記二人ほどではないが、一麻とは仲がよい。


田中昇(たなか のぼる)   通称:ショウ

     一麻の友人。サトシュン・メチャ・ケン・ショウ、そしてカズで五人組となる。



*五年二組女傑三人衆こと御坂親衛隊主力メンバー


小田雅(おだ みやび) 通称:ミヤ

     一麻のいる五年二組の女子のなかでは、下の舘川若葉に次ぐ身長がある。
     三人衆の中では比較的おとなしい。


舘川若葉(たてかわ わかば)通称:ワカ
     
     一麻のクラス、二組では男女ひっくるめて最も体格が良く、力もある。活発な子。
     *妹がいる設定です。

        
長谷川優子(はせがわ ゆうこ) 通称:ユッコ

     女子ソフトボール部のピッチャーでエース。口も達者で、女の子らしからぬ言葉も飛び出す。       
     彼女はクラスの女子では三番目の背の高さになる。



3.その他東京在住メンバー

佐天涙子(さてん るいこ) *基本設定は前作に準じます。

     満31歳。この時点ではまだ駆け出しの気象学者。シングルマザーであり、一人娘は佐天利子(さてん としこ)9歳。
     上条当麻の実家の1軒おいた隣に家を買い、住んでいる。上条詩菜には大変世話になっている。
     (詳細は前作・学園都市第二世代物語第一部をご覧下さい)


佐天利子(さてん としこ) *オリキャラ。前作の主人公で、基本設定は前作に準じます。

     満9歳。現在東京都某区立小学校三年生。母は佐天涙子で父親は不詳。
     この時点では、彼女はまだ、ごくごく「普通の」小学生である。
     母・涙子は仕事で殆ど不在なために普段は上条詩菜家に世話になっており、上条麻琴とはあたかも姉妹のような関係にある。
           

上条麻琴(かみじょう まこと)*オリキャラ。基本設定は前作に準じます。

     満9歳。上条当麻・美琴夫妻の一人娘。上記の佐天利子と同じ小学校に通う三年生。
     東京の上条家に預けられている
     親友、佐天利子より一回り小柄であり、そのせいか妹的立場にいる。   
     彼女もまた、この頃はどこにでも居る「ごく普通の」小学生である。         
379 :LX [saga sage]:2011/11/05(土) 21:25:12.85 ID:jmd8GcLA0

佐藤 操(さとう みさお)*オリキャラです。前作第二部に出てくる佐藤操と同一人物であります。

     一麻のクラスメート、サトシュン(佐藤俊介)の一つ下の妹。小学校4年生。
     一麻を「カズにいちゃん」と呼び、一途に慕っている。一麻の後を追い、学園都市に行くと決めているが……



4.学園都市

カエル顔の医者:冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>

     相変わらず名前がわからない困った人です(笑)。
     前作同様、学園都市の作品には無くてはならない人であります。


木山 春生(きやま はるみ)

     本当は前作でも出したかった人ですが、今作でデビューです。40代後半の設定。
     大脳生理学では世界的権威だろうと思われるのですが、にもかかわらずカエル医者に頼まれると、たかだか一人の小学生の
     簡易能力テストにも時間を割いて来てしまうという、ちょっとあり得ないような(苦笑)先生です。
     そして、あの困った癖も健在であります。



5.妹達<シスターズ> 

*    戸籍名は当SSシリーズでのオリジナル設定であります。
     また、妹達<シスターズ>同士では戸籍名でよびあうことはなく、以前通りの検体番号で呼び合う、という
     前作でのオリジナル設定はそのまま当SSでも適用しています。 
            
**(おしらせ)**
     妹達<シスターズ>の戸籍名ですが、前作では「ミサカ麻美」「ミサカ琴子」というように、カタカナの姓を
     名乗っておりましたが、第2作の当SSでは普通の「御坂」に変更しており、こちらを正にしたいと思います。
          

a) 学園都市メンバー

*性格の設定は、打ち止め<ラストオーダー>以外、当SSシリーズでのオリジナル設定であります。
             

検体番号10039号  戸籍名:御坂美子(みさか よしこ)
          学園都市広報部に勤務している上条美琴の、私設第一秘書。時によっては美琴の影役も務める。
          10032号(御坂麻美)と同じく、当麻命派であるが、彼女は陽のタイプである。

検体番号13577号  戸籍名:御坂琴江(みさか ことえ) 
          10032号と同じく、冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>の病院に勤務する看護士である。

検体番号19090号  戸籍名:御坂琴子(みさか ことこ)
          学園都市広報部に勤務している上条美琴の、私設第二秘書。御坂美子(検体番号10039号)が美琴の影役を
          努める場合には彼女が第一秘書である御坂美子の代わりになる。

検体番号20001号  戸籍名:御坂未来(みさか みく) 通称:打ち止め<ラストオーダー>、最終個体、上位個体  
          黄泉川家を出て、一方通行<アクセラレータ>と同棲中。当SS第1部はMNWにのみ登場する。


b)学園都市外メンバー

*他の作者の方が設定された性格をそのまま準用している個体番号が存在します。
見落としがあるとは思いますが、今まで登場していないと思われる個体番号については当SSで独自設定しており、戸籍名を
与えてしまったメンバーも存在します。


(b-1) オリキャラ+モブ役での妹達<シスターズ>

10041号、10042号、10043号、10171号、10203号、10333号、10334号、10391号、12443号、13579号、14999号、15024号、 

15043号、16618号、18443号、19211号、19972号、


(b-2) オリキャラ+モブ役であるが、当SSで性格を設定した妹達<シスターズ>


検体番号10036号 上条当麻命派

検体番号10707号 ミリタリーオタク

検体番号11825号 上条当麻派
380 :LX [saga sage]:2011/11/05(土) 21:27:47.09 ID:jmd8GcLA0

(b-3) 他の作者の方が与えた性格を準用した妹達<シスターズ>でモブ役 

「MNWネタSS作成支援ツール」 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1273850588/
に基づいています。彼女らの説明文は、それをコピペして使っております。

*必ずしもそのままの性格を表に出していないメンバーも居ます(MNW上だけの話ですから) 
   
検体番号11329号 萌え上がるショタコンことショタレンジャーレッド

検体番号12345号 童話好き+上位個体に従順で、劇の準備などを「一晩でやってくれました」を地でいく上位個体専用ジェバンニ

検体番号14889号 自称漢子。漢前。冷静。やだ…カッコいい…。アップルマンゴーとたこわさと唐揚げが好物

検体番号18071号 煌めくショタコンことショタレンジャーイエロー

検体番号17600号 プロスネーク。海原が師匠

検体番号20000号 ロシアのノボシビルスク出身の変異体の変態。媚薬もつくれる。行動は主に変態、極々稀にさわやか。
         MNWブラックリスト最上位


b-4) 原作に居る妹達<シスターズ>でモブ役

検体番号10777号 今なおロシアから離れていない。上条当麻命派。 


b-5) オリキャラであるが、作中で登場した妹達<シスターズ>

検体番号12500号 戸籍名:御坂美雪(みさか みゆき)
         東京在住、科学技術振興財団に勤務する。現在黒髪に染めている。

検体番号15214号 ドイツ在住であり、自称ヨーロッパ組代表と皆に名乗り、顰蹙を買う。
381 :LX [saga sage]:2011/11/05(土) 21:34:29.68 ID:jmd8GcLA0
>>1です。

さて、登場人物はこれでほぼ網羅したのですが、非常に狭い範囲でのお話、
と言うことがわかっちゃいますねー。

第二部はもっと狭い世界でのお話になりそうです。

書きためをこれから始めますので、しばし投稿はお休み致します。
年内には再開したいのですが、遅筆なのでどうなることやら……
頑張ります。

今気が付きましたが、私の設定ですと上条詩菜さんは二十歳で当麻を産んでることになりますが
そうでしたっけ?

それでは失礼致します。
382 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/05(土) 21:47:41.11 ID:JCNJ8X/DO
>>1乙です

ところで、佐藤 操って能力発現の見込みがないって湾内さんに言われた子?
383 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/11/05(土) 22:18:58.66 ID:NaIDcFql0
>>1


文字数は環境によって1行35~80文字くらいかな。
台本形式なら改行しても大丈夫だけど、小説形式だから何度か迷子になった事があった。
場面転換や人称転換が多いから、特に台詞と地の文が被る。
それにオリ登場人物が多いから、誰が何を喋っているのか分かりにくくい。
原作は特徴的な口調のキャラが多いから、登場人物が多くても迷子にならないけどね。
文字サイズやフォントを変えてみるとガタガタな文章になるよ。

何だかんだ言ったけど面白いし楽しみに待ってるよー
384 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/11/05(土) 22:27:14.20 ID:klxceQ0vo
>>1
今前作まとめ見たら確かに操がいて驚いた
他にも伏線張ってそうで楽しみにしてます
385 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/05(土) 23:54:07.91 ID:enN40Gbmo
人物紹介乙
ずっと待ってるからゆっくり書きためてきてほしいんだぜ

まあ、正直、見やすさは読む人間の環境と趣味次第だからなあ
自分としては現行で十分読みやすいし、迷子にもならないけど…

ちなみに「エタる」は書き手が失踪することね
ずっと書き込みがない→永久に書き込みが来ない→永久=エターナル→エタるってことらしいよテライミフ
386 :LX [saga sage]:2011/11/07(月) 22:46:58.72 ID:MZZIL4280
皆様こんばんは。
>>1です。

素早いコメントをお寄せ頂きましてどうも有り難う御座います。

>>382さま
えー、確認頂けるとお解り頂けると思いますが、違います(冷汗

>>383さま
御指摘有り難う御座います。
自分としては、長い文章が折り返された時に1行開けた形にならず、
**********************
**
という形になるのが嫌で、意図的に途中のキリの良いところで改行していたのですが、
確かにブラウザの設定によれば
*************
** ****
なんてこともあるかもしれないですね。
次は改行をしないでやってみます。

>>384さま
タネあかしをするかどうか実は大変迷いまして、まぁ言っちゃえと(笑)
書いてしまったのですが、投稿した瞬間に反省……

>>385さま
説明有り難う御座いました。よくわかりました。

第二部の出だしが決まらない〜(苦笑
頑張ります。
それでは失礼致します。
387 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 17:16:07.60 ID:3DMyt1kDO
>>1
>>382です
違いましたか……早とちりしてしまった

あ、>>1乙です
388 :LX [saga sage]:2011/11/16(水) 21:38:00.41 ID:WBL/rFtw0
皆様こんばんは。
>>1です。

第二部、書き始めましたがいくつか書いたパートをうまく繋げられずちょっとスランプです。
気晴らしに第三部の書き出し始めたりしてますが、あーうまくいかねー(泣

あげくの果てに、巧く纏まったーと思っていたとあるパート、設定と致命的な食い違いがあるのを
発見してしまい全部オシャカ。ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

ごめんなさ〜い、まだかかります、スイマセン。
第二部、もう少しお待ち下さいませ。

>>387さま
いえいえ。オリキャラばっかりですからなかなか頭に入らないですよね。
389 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [sage]:2011/11/23(水) 17:14:49.56 ID:5ReEug1AO
>>1舞ってる
390 :LX [saga sage]:2011/11/23(水) 19:47:52.14 ID:EXije8c70
皆様こんばんは。
>>1です。
生存報告兼現状の言い訳です(ごめんなさい

いくつかのパートが出来つつありますが、それぞれがまだ繋がるところまで行っていません。
一番やっかいだったのは、出だしパートの3コマ目でして、情けないことにここで10日間以上
ひっかかってました。ここが纏まらないので、どうにもならないという……
結局、当初の設定を変更してなんとかそこは抜けられて10コマは出来ました(遅い〜)
違うイベントを放り込んだのですw
早い話が先送りなので、煮詰まってしまったイベントは残ったまま。これを片づけないと
次に進めない(ううう〜)

流れ上、インデックスを登場させざるを得ず、ちょろっと出したら予想通りステイルに神裂、
シェリーとゾロゾロ出てきてしまい、収拾がつかなくなりまして、ばっさり切りました。
もったいないですが、わたしのおつむでは全く纏まらないので……
「ああ、ここか」と直ぐわかると思いますので、その節は笑ってやって下さい。

今度の土日は出かけますので、投稿はありません。
すみませんが12月になること確実です。忘年会シーズンに入る前にはスタートしたいです。
>>389さま他、今暫くお待ち頂きたく存じます。
391 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/25(金) 18:25:47.33 ID:er8RsFlto
乙です。
気長に待ってますんで。続き待ってます。
392 :LX [saga ]:2011/12/03(土) 19:33:07.47 ID:7DoxxPIR0
皆様こんばんは。
>>1です。
12月に入りました。もう今年も残り僅かです。

第二部ですが、やっぱりどうも先に進まないので見切り発車致します。
この調子ですと週2回投下できるかわかりませんけれども頑張ります。

本日の投稿は10コマです。
今までは土日でそれぞれ5コマでしたが、キリが悪いので一気に(大したこと無いですが)
投稿します。
それでは宜しく御願い致します。
393 :LX [saga ]:2011/12/03(土) 19:39:01.70 ID:7DoxxPIR0
新・学園都市第二世代物語
<第二部>

-----------------------------
 

「お、今日も来てやがりましたかね?」

「ちょぉっとなによ、その言い方? ちっとは少しぐらい嬉しそうに『今日も来てくれたのか、美琴?』ぐらい言ってみなさいよ」



ここは学園都市。第五学区。

大学生が主体となる街。

その中の、とある学生マンションの一室。



いつものように(?)とある二人の口げんかが始まった。

いやそれは、正確には世間で言う「痴話ゲンカ」というものであろう。



「へいへい、じゃぁな……むさ苦しいところにお越し下さり感謝しております、美琴さま」

「だーめ。ぜ〜んぜんダメ。却下。心がこもってない」

ぷい、とふくれて横を向くのは御坂美琴。

またの名を『レベル5第三位』『超電磁砲<レールガン』、口の悪い連中は『学園都市の宣伝塔』とも言うが。



「いつもありがとう、美琴。本当に助かってる」

なら、これでどうだ、とばかりに美琴をぐいと抱きしめ、彼女の耳元で低い声でささやいた男は、上条当麻。

またの名を『幻想殺し<イマジンブレーカー>』、友人達からは『一級フラグ建築士』と言われる男。



「ちょ、ちょっと、……やだ、バカじゃないの、な、何すんのよぅ、こんな明るいウチから……」

頬を染めてあたふたする美琴。それまでの口調が別人のように甘くなる。

「ほほう、夜ならかまわないとおっしゃる?」

「こ、このヘンタイ! そそそそ、そんなこと言ってないっ!」

真っ赤になってうつむいてしまう美琴。

「……ったく、素直じゃないですねー美琴さんは……。あぁ言えばこう言うし、当麻さんは美琴さんに振り回されっぱなしですよ」

困ったコンニャロゥめ、と言う感じで美琴の髪を撫でる当麻。

「うううう、うるさいな、って、だ、だいたいアンタが普通に挨拶しないから、アンタがいけないんだから!」

赤い顔で上目遣いに睨む美琴。

「まぁな、それに、お前に振り回されるのは今に始まったわけじゃないしな。長いつきあいだし、諦めてますよ」

少し笑いを浮かべながら、意地悪く視線を泳がせるのは当麻。

「……あたし、迷惑なの? そ、その」

ふいに自信なさげに当麻を見上げる美琴。
394 :LX [saga sage]:2011/12/03(土) 19:41:28.15 ID:7DoxxPIR0

「いやいや、お前のおかげでなんとか卒論のめども立ったしさ、それについてはホントに助かったんだぞ。ホントに感謝してるんだから」

がらりと真面目な顔になって御礼を述べる当麻。

「ホントに?」

「ほんとだ」

「絶対にホント?」

「ああ、間違いなく、本当にほんと、だ」

「ならいい。……ほんとにもう、最初から素直にそう言いなさいよ、……ばか」

そういうと、ぽてっと顔を当麻の胸に埋めてしまう美琴。

「こらこら、そんなことしたら手も洗えないだろ? わかったから洗面所に行かせろよ」

(なによぅ、少しぐらい良いでしょー)

顔を埋めているので、美琴の声はモゴモゴとくぐもって聞こえてくる。

「あれれれー?『帰ってきたら直ぐに手を洗うの!』って母親みたいにうっさい事言ってたのは誰でしたっけねー?」

(う゛ぁー、もう)「わかったわよぅ、さっさと手洗ってきなさいよね」

ほんのりと赤い顔を上げて美琴は洗面所を指さす。

「へいへい」

「返事は一回で!」

「Yes, my sweet honey」

あはは、と笑った当麻がひらひらと手を振って洗面所に入る。



(ど、どこでそんな言葉、覚えてきたのよ?! この、無自覚おんな殺し<フラグゲッター>は!) 

後にはあっけにとられた真っ赤な顔の美琴がひとり。
395 :LX [saga sage]:2011/12/03(土) 19:46:07.23 ID:7DoxxPIR0

「いや、いつも思うんだけど、美琴がこういうもの上手く作るってのは、なんか驚いちゃうよな」

「アンタねー、前にも言ったと思うけどさ、あたしをなんだと思ってるのよ?」

ほっこりとした肉じゃがをつつく当麻と美琴。



上条当麻、22歳。

御坂美琴、19歳。

このところ美琴は、特に何もない時には殆ど毎日のように当麻の家にやってきていた。

いっそのことここで二人で住んだらいいのに、とも思ったことがあったが、美琴が真面目な顔で「成人するまではやだ」と一線を引いていたの
で、まぁそういうものかな、と当麻は鷹揚に構えていた。



ちなみに来週の水曜日、その日は美琴の二十歳の誕生日である。



――― 絶対にアイツを家に連れて行く ―――



美琴は固く心に決めていた。



美琴の渾身<スパルタ>の教育がなんとか功を奏し、奇跡的に?大学へ無事入学出来た上条当麻。

高校生時代に同居していた銀髪シスターはこの頃にはもうUKに帰国してしまっており、美琴から見れば最大のライバルが消えたわけで、

彼女がほっと一息ついたのも無理はなかった。

とはいうものの、大学生になった当麻は第五学区へ引っ越しせざるを得ず、第7学区に住む美琴とは離ればなれになってしまった。

当麻と同じ大学の付属高校に転校することも一瞬考えた美琴だが、そうしたところでその高校も同じ第7学区なので意味はない。

こうなると新たな不安が生まれてくるのは必然であった。

なんせ、あいつは歩く旗立て人(フラグゲッター)なのである。

(一難去ってまた一難か……)

まさにその通りであった。
396 :LX [saga sage]:2011/12/03(土) 19:47:56.71 ID:7DoxxPIR0
うう、改行失敗……

すみません。
397 :LX [saga sage]:2011/12/03(土) 19:51:43.09 ID:7DoxxPIR0

かつて暴飲暴食シスターが同居していた頃は、その彼女がらみのトラブルは掃いて捨てるどころか、

学園都市の清掃ロボットを総動員しても追いつかないくらいの量であった。

いや、それどころか彼自身がある時は行方不明になったくらいである。

で、たいていそう言うトラブルのときには、もれなく「女の子」が付録に付いており、

しかもよりによってその殆ど全員が「可愛い」「スタイルの良い」子ばかりなのであった。

しかも年下・同い年・年上と見事にばらけているのである。

「どこが不幸なんだバカヤロー」と怒鳴る男は数知れず。

そして忘れがちであるが「あんたってひとは」と怒りオーラ全開放という女の子の数も実は多かったのである。

正面から爆発するか、陰で爆発するかの違いはあったが。(あ。それは。わたし)

そして御坂美琴もまた、その中の一人であった。



しかし、視点を変えてみると、実はターゲットが決まらない、決めているヒマもないというメリットが隠れていたことに美琴は気が付いた。

とにかく次から次へと可愛い子が現れ、一旦仲良くはなるものの、すぐ次の女の子が「現れる」ために、

彼は特定の子と「お付き合いをする」ことが出来なかったのである。

しかも、家に行けば、ドンと銀髪シスターが居座っていて、しかもそのシスターの面倒を当麻は何から何まで見ていたのだ。

相当数の女の子は(なーんだ)と、ここで脱落した。

そのためだろう、なんだかんだ言っても彼のところに残る女性陣は、結局はあの銀髪シスター関係の人間が殆どであり、

学園都市の女性陣で彼の元を離れなかったのは、実は数えるほどしか居なかったのである。

そして、問題の銀髪シスターがUKへ帰国してからは、晴れて自分の天下になった……と美琴は思った。



(大学でもフラグ立てちゃうだろうってことは覚悟してたけど、まさかね……)

「いや〜上条さんは今日も幸せですねー」と美味しそうに自分の料理を食べるのを見て、

「ま、まぁ、そう言ってもらえるとやっぱり嬉しいわね」とにこやかに笑って言葉を返す美琴。

だが、彼女の頭の中では小さな一つの出来事が渦を巻いていた。



2年前の春。



――― 当麻の第7学区から第五学区への引っ越しの手伝いには、美琴の他には誰もいないはずだった ―――



いつものようにエレベーターを降りて、当麻の部屋へ向かった美琴。

当麻の部屋の扉が開き、出てきた人間を見て、彼女は固まった。

それは、彼女そっくりの、妹達<シスターズ>。

御坂妹こと検体番号10032号(以下、御坂妹と記す)ともう一人のミサカだった。



*ちなみに隣の部屋の主であった土御門元春は既に引っ越しを完了していた
398 :LX [saga sage]:2011/12/03(土) 20:01:33.36 ID:7DoxxPIR0

「ちょ……」

「これはこれは、お姉様<オリジナル>。ご無沙汰しています」

美琴の姿を認めた二人のうち、一人のミサカがいつもながらの端正な顔<クールビューティ>を変えずに、慇懃無礼という感じで会釈する。

「ちょっと、なんでアンタたちがここに来てるのよ!?」

美琴の声が険しくなる。

手伝いに来るのは自分だけだったはずなのに、という思いがあっけなく崩されたこと、

昨日の夜、あんなことこんなことを一人で勝手に想像をたくましくして、そのあげく寝付けなかったことを思いだし、

独り相撲を取っていた愚かな自分を彼女は呪った。

( 期待した自分がバカだったわね…… )

そして、目の前にいるのは、よりによって自分のクローンであり、しかも当麻<アイツ>に好意を持っている御坂妹であること、

そしてどういうわけかもう一人のミサカがいることに、美琴の血圧は上昇する。

「ミサカは頼まれたのです、お姉様<オリジナル>」

御坂妹ではない、もう一人のミサカが冷静に答えるが、その冷静さが更に美琴をいらだたせる。

「アンタ、何番だっけ?」

「このミサカは10039号です。髪型も変えてるのに……お姉様<オリジナル>にも見分けが付かないのかと、小一時間ミサカは」

「一人で好きにしゃべってなさいよ、えーと、10039号だっけ? で、頼まれたってアイツから?」

ぐいと美琴は検体番号10039号の前に身を乗り出す。

「正確にはこのミサカがあのひとから頼まれたのです、

とミサカは目を血走らせているお姉様<オリジナル>の魔の手から10039号を救うべく助け船をタイミング良く出します」

今にも10039号に掴みかからんばかりの美琴に対して、

右手の手のひらを立てた検体番号10032号はもう一人のミサカを庇うかのように美琴の前に立った。

「おーい、御坂妹〜、どこに居るんだ〜? ちょっと来てくれ〜」

部屋の中から当麻の声が聞こえた。

「ちょっとどきなさいよ!」

怒髪天を突く勢いで御坂妹と検体番号10039号の間を押しのけて、美琴は部屋に飛び込んだ。

「ちょっとアンタ!」

飛び込んだ美琴は段ボール(を抱えた当麻)と思いっきり正面衝突した。

「ぐわぁっ!」
「キャッ!」

ドンと美琴はしりもちをつき、段ボールは同じく倒れた当麻の上にドスンと落ちる。

「いったーい……」
「うぅ……不幸だ……」

二人とも直ぐには起きあがれない。

「あなた!」
「お姉様<オリジナル>!」

妹達<シスターズ>の二人が飛び込んでくる。
399 :LX [saga sage]:2011/12/03(土) 20:03:48.31 ID:7DoxxPIR0

御坂妹は奥に倒れている当麻に駆け寄り彼を抱き起こし、10039号は手前の美琴を抱き起こす。

「「頭は打ちませんでしたか」」

同時に二人がそれぞれ問いかける。

「いたた……頭は打ってないわ。腰が痛いけど……大丈夫。手で支えたし……」

しかめ面で美琴が10039号に答える。

「いてて……着るものの箱で助かったよ……本だったらシャレになんねぇぞ……」

御坂妹の顔を見上げ、箱をどけた当麻は、向かいで10039号に支えられている美琴を見た。

「え……お前、美琴……か?」

「他の誰だと思ってんのよ、このバカ!」

少し回復した美琴はいつもの調子に戻ってののしる。

「バカって、なんだよ? お前がいきなりぶつかってきたんだろうが!!」

さすがに当麻の声にも怒気が混じった。

「う……ご、ごめんなさい」

確かにその通りであり、美琴は一旦素直に後退する。

「で、美琴? お前、大丈夫か? ケガなかったか?」

普段通りの優しい声に戻ったのを聞いて美琴はホッとしたが、同時に妹達<シスターズ>の二人の前でドジを踏んでしまったことに気が付いて顔が赤くなった。

「う、うん」
              
「お姉様<オリジナル>、上条さん? ここは狭いですから、いったん奥へ入るべきではとミサカは一つ提案します」

検体番号10039号が二人を見て声を掛ける。

「あ、ああ。オレは大丈夫だけれど、美琴が心配だな。スマン、御坂妹、美琴を見てやってくれるか?」

「わかりました。ですが、あなたは立てるのですか?」

御坂妹は、一瞬美琴を見たが再び心配そうな顔で当麻を支える。

それを見る美琴の中に、もやもやしたものが再び吹き上がる。
400 :LX [saga sage]:2011/12/03(土) 20:11:16.33 ID:7DoxxPIR0

「ハハハ、これくらい当麻さんは何ともないのですよ、おっとぉー?」

大丈夫だ、とばかりに立ち上がった当麻だったが、バランスを巧く取れず、大きくよろける。

「危ないっ!」

瞬時に御坂妹は、倒れかかる当麻の右肩に自分の左肩をスッと差し込み支えたのだが、

勢いは殺せず二人ともよろけてしまい、そのまま御坂妹は右肩をドンと壁に当ててしまった。

「あ、ゴメン!!」

反射的に当麻の顔は御坂妹の方を向く。

声を掛けられた御坂妹も当麻の顔を見る。

「お」

「あ」

まさに目と鼻の先。

漫画ならばここでキスしてしまう、というような場面。

「悪い!」

当麻は真っ赤になってそっぽを向くが、御坂妹は「あ……」と言う顔で固まっている。



(アンタら、あたしの目の前で何してるんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)

目の前で当麻と御坂妹のいちゃいちゃ(ではないのだが)を見せつけられた美琴は怒りと興奮でブルブル震えている。

「ち」

小さい舌打ちが聞こえた。

(は?)

美琴は最初、聞こえた音がなんだかわからなかった。

「お姉様<オリジナル>、ちょっとお待ちを」

目をつり上げた顔で(そう美琴の目には見えた)彼女にそうささやいた検体番号10039号は美琴の傍を離れ、

脱兎の如きスピードで当麻の左側に身体を滑り込ませると

「何をしているのです、10032号? さっさと当麻さんを奥へお連れしなければ、とミサカはだらしない相棒を叱咤します」

鋭い目で御坂妹を睨んだ検体番号10039号は、そういうと彼女もろとも引きずる勢いで当麻を居間に連れて行った。



(え……えええええええええええ? ちょっと、ちょっと何? 今のどういうこと? まさかあの子も、そういうことなの????)

後には美琴一人が残された。
401 :LX [saga sage]:2011/12/03(土) 20:15:13.08 ID:7DoxxPIR0

「それじゃ御願いします」

「はい。ではまた向こうで」

引っ越し業者に荷物を全部引き渡し、当麻たちは空き部屋となるかつての部屋へ戻る。

大物家電製品や付属の家具、作りつけの本棚や戸棚は寮の付属品なので、もちろん勝手に持って行くことは出来ない。

もっとも、彼の部屋の付属品は度重なる「事故」のため、結果的に最新の製品になっていたが(苦笑)

TVやら冷蔵庫、洗濯機にテーブル、エアコンなどはそのままなので、一見すると引っ越しが終わったようには見えないのだが、

一冊も本がない本棚やむき出しのベッドなどが、空き部屋になったということを実感させる。



「寂しいな」

「そうね」



ふと、当麻の脳裏には銀髪シスター、インデックスの姿が甦る。

一時期の大食らいも影を潜め、一気に大人びた彼女は、ある日「ロンドンが、わたしを必要としてるんだよ」と、彼にすがりついて泣きだしたのだった。

彼女の属する「必要悪の教会<ネセサリウス>」から帰国命令が出たのだと。

最後の日、彼女はろくに食事も取らず、一晩中ひたすら彼にしがみついて泣き明かした。

翌朝、彼女は「ありがとう」の言葉と共に当麻と最初で最後の口づけを交わして、学園都市を去った。

それから1年あまりの時が過ぎていた。



思い出の詰まった部屋とも今日が最後。

「あのシスターのこと、思い出してたんでしょ?」

美琴がからかうかのように言う。

「まぁな」

素直に当麻も答える。

「あたしも随分ここに来てたんだけどなー? 勉強も教えてあげたのになー? 食事も作ったげたのになー」

茶化しながらも、彼女は上目遣いで彼の反応を確かめていた。

「思い出になっちゃうんだな……みんな」

(こ、コイツ、全然聞いてないってか……全くもう……まぁ、仕方ないわね……でも、もうこれからは)

美琴は思い出に浸っている当麻を、諦め半分、悔しさ半分で眺めるのだった。
402 :LX [saga sage]:2011/12/03(土) 20:19:54.68 ID:7DoxxPIR0

「あの、当麻さん、お姉様<オリジナル>」

「な、なぁに?」

「お、おう、ゴメン。ちょっと昔を思い出してた」

御坂妹が声を掛けて来たことで、美琴と当麻はそれぞれ現実に引き戻された。

「申し訳ありませんが、ミサカは今日これから夜勤シフトに入りますので、そろそろ戻らなければなりません。

新しい寮での作業のお手伝いが出来ないのは大変残念ですが、ここで失礼させて頂きます」

かすかに残念そうな色を見せながら、御坂妹が会釈する。

「そうか、これから夜勤なんだ? ……その、良かったのか、休んでなくて大丈夫なのか?」

当麻がそれは失敗しちゃったな、と言う感じですまなそうに答える。

「あんた(御坂妹)も、そんな状態なら無理しなくても良かったのに……体調は大丈夫なの?

そもそも、だいたいアンタ(上条当麻)が声掛けるからよ。この子が断るわけないじゃないさ」

美琴が当麻を責める。

彼女は当麻から、スーパーの買い物帰りの時に出会った御坂妹と立ち話になり、その際に引っ越しの話をしたので、

という説明を受け、不承不承ながらふくれ面を納めたのだった。

「いえ、私は声を掛けて頂いてとても嬉しかったのです。お姉様<オリジナル>にはお邪魔でしたかもしれませんが、

このミサカにとっても、ここは思い出がある場所でしたから」

一瞬遠い目をした御坂妹は、次に当麻の目を見つめ、僅かに微笑んだ。

(く、やっぱりこの子……) 

美琴の心のメーターが、ビンビンと大きく振れる。

「お姉様<オリジナル>も10032号も、ここに思い出があるとは、このミサカには羨ましいかぎりです、

と除け者になりそうな10039号は話に割り込みます」

むすっとした顔で検体番号10039号が口を挟んできた。

「あはは、ごめんな。お前も手伝ってくれたし、さっきは手助けしてくれたし、今日は随分お世話になちゃったな。ありがとう」

当麻が悪い悪い、すまんな、と言う顔で頭を掻き掻き10039号に優しい顔を向ける。

「いえ、このミサカも当麻さんに肩を貸すことが出来て、今日はとても良い日です、とにこやかに言葉を返します」

「ところで、あんたはこの後は? あたしは手伝いに行くけど?」

美琴が検体番号10039号に尋ねる。

「このミサカは時間があります。宜しければ引き続き新しい寮でお手伝いを致しますが? とミサカは期待を込めて回答します」

(この嬉しそうな顔。やっぱり、この子も……)

美琴は確信した。この10039号も、10032号と同じく、アイツを。

「そう、じゃ御願いしちゃおうかって、肝心のアンタはどうなのよ?」

主導権を取らせないように巧みに会話を繋ぐ美琴。

「そりゃぁ人手がある方が助かるけど」

いいのか、と目で聞く当麻。

「じゃ、さっさと行きましょうか? 荷物放り出されてたらいやでしょ?」

せかす美琴。

「では、ここでお別れですね。お疲れ様でした。10039号、後は頼みました、とミサカは念押しをしてこの場を去ります」

名残惜しそうな10032号が歩き出す。

「あ、一緒に降りよう? みんな行こう?」

当麻、美琴、御坂妹、そして検体番号10039号の4人は、思い出深い部屋を後にしたのだった。
403 :LX [saga sage]:2011/12/03(土) 20:23:07.89 ID:7DoxxPIR0

<美琴の回想終了>

(やれやれ、わかってたとはいえ、ライバルが増えるってのは……困ったものね。しかも)「あの子たちなのは」

「ん? あの子たちって誰のことだい?」

「はいっ!?」

最後の部分を声に出してしまった美琴を、不思議そうな顔で当麻が箸を止めて見つめる。

「いや、さっきから難しい顔してさ、なんかブツブツ言ってるし、それが聞こえちゃって。

その、ゴメン。あの、聞き耳立ててたわけじゃないぞ? でさ、お前なんかあったのか?」

(あー、そんなに詳しく言わなくても良いんだってば! よけい恥ずかしいじゃないの、この鈍感!)

ひとしきり心の中で、自分を見つめている当麻をののしった美琴は、今日の本題をぶつけることにした。

「あ、あのさ、来週の水曜なんだけど……」

「ん? 来週の水曜……あ〜、そうか。そうだったな。美琴、おめでとう!」

一瞬目を泳がせた当麻はカレンダーを見ると、美琴を見て優しく微笑んだ。

「う……あ、ありがとう……」

そこには、赤マジックで大きく花丸が描かれ、「美琴20歳」と書き込まれていた。

もちろん、美琴が彼に書かせたものである。

「あはは、忘れてたとか思ってたんだろう、美琴さんは? 当麻さんはちゃんと覚えているのですよ」

「どうだか。カレンダー見て思い出したくせに」

「酷いな。当麻さんは、ちゃぁんと、その日は空けてあるのですよ?」

「うそー?」

「真面目に答えるけど、ホントに空けてある。お前の大事な日じゃないか」

「あ、ありがとう……じゃ、ウチに来てくれる……かな?」

「えぇーっ? そ、それは嬉しいけど、絶対無理だろ? お前のとこ、女子寮で男子禁制でしょーが」

「誰が寮に来てって言ったのよ? 実家よ」

「そ、そうか。なら大丈夫……って、え?……じっか?」

「そう。あたしの家」

サイは投げられた。
404 :LX [saga sage]:2011/12/03(土) 20:31:30.51 ID:7DoxxPIR0
>>1です。
本日の投稿は以上です。400を超えてしまいました……。

第二部は、第一部より更に時は遡り、美琴と当麻はまだ学生です。
かなり原作に近づいた時代になりますので、あんまり突飛なことも出来ません。
結構気を遣います。

次の場面は出来ているのですが、肝心のこの後が完成していませんので明日の投稿は断念します。
来週までになんとかしたいです。

それではお読み下さいました皆様、どうも有り難う御座いました。お先に失礼致します。
405 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 21:48:52.76 ID:Sfq6jO4Z0
乙!
いよいよ秘められた過去編ですね。楽しみにしています

ただ、上条さんと美琴の年齢差は最大で二歳なのでは?
406 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/04(日) 17:44:00.47 ID:Py0Y7Zy/0


ただ改行多くて読みにくい。
せっかく丁寧に作りこんでる文章なのに、水増しと言うかスカスカに見えちゃう。
407 :LX [saga sage]:2011/12/05(月) 21:09:19.56 ID:32/3jIOU0
皆様こんばんは。
>>1です。

コメント頂き有り難う御座います。

>>405さま
アニメ他で判明していることは、当麻が高校1年の時、美琴は中学2年でした。
ということから、学年は2年違います。従って2つ違いです。

二人の誕生日が不明なので(ですよね?)以下の事例が該当するかは不明なのですが、
*当麻の誕生日が5月で、美琴が10月とした場合、9月の時点では当麻22歳とした場合は
美琴はまだ誕生日が来ていないので19歳、10月の誕生日が来て20歳となるケースが想定できます。

>>406さま
申し訳ありません。前半は注意していたのですが、後半部分は昔のままでした。
ちなみに以前も指摘を受けた3行空けの改行ですが、あれは意図的でして、場面の切り替えや
人物の切り替え等の場合、元々が1行空けなので文章を1つ飛ばしたと計算し3行空けています。
また強調したい場合は文章2つ飛ばし、ということで5行空け等も行っています。

確かに水増ししている場合もあります。物語の流れを考えて、あまりおかしな位置で投稿コマを
切りたくないものですから、あるコマは多く、あるコマは異様に短くなるのはちょっとまずいと
思いまして、だいたいどのコマも同じくらいの分量になれば……と(なっていない場合も多いです)
いうことで、水増ししている場合もあるのですが、どんなものでしょうか。

今度の土曜日はOB会があります。酔いの程度では日曜の投稿になるかも知れません。
何卒御了承下さいませ。
408 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/05(月) 21:58:17.05 ID:jPNjFDBho
原作では上条さんは誕生日は不明ですがみずがめ座だから15歳ですよ
1月から2月生まれで遅いです
美琴も不明ですが初登場時から設定が14歳だったので誕生日は早いのではないかという通説が…
409 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/12/05(月) 23:24:32.46 ID:Kk1PVjVno
美琴の誕生日は4月から6月17日の間
410 :LX [saga sage]:2011/12/06(火) 19:25:11.67 ID:EIHuRg860
こんばんは。
>>1です。

>>408さま、>>409さま、
情報、本当に有り難う御座いました。
当麻は早生まれなのか……知りませんでした。
情報スレで先に聞いておけばよかったなぁ……ショックです。

ということであれば、>>395の当麻の年齢は21歳と言うことで宜しく御願い致します。
美琴の二十歳(はたち)の方は譲れませんので(苦笑

昨日、いちゃいちゃ書き始めたらそれだけで5コマも使ってしまいました。
ちょっと浮きそうで顰蹙かな。

週末の投稿に向けて頑張ります!
411 :LX [saga]:2011/12/11(日) 19:16:54.08 ID:4RwNR2iJ0
皆様こんばんは。
>>1です。

一昨日と昨日、連チャンでした。
まぁそれほどベロベロにはなりませんでしたが、結構しんどいですね。

それでは本日分、これより投稿致します。宜しく御願い致します。
412 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/11(日) 19:17:19.70 ID:eKBtFeZOo
待ってました!
413 :LX [saga sage]:2011/12/11(日) 19:18:37.47 ID:4RwNR2iJ0


「マジですか」

「びびってるの? 当麻」

美琴は真剣だった。ここで断られるようではこの先が思いやられるからだ。

数多いライバルを蹴散らすには、まずは既成事実の積み上げが必要なのだ。

この、ヘンに優しく、ヘンに鈍感なコイツを縛る為には。
 
「い、いや、そうじゃないけどさ。男が、その女の子の家に行くってのは」

「なーに? あんたさ、お誕生日会なんかに呼ばれたこと無いの?」

「自慢じゃないけど、一度もない。……つか、今はそういう話では済まないんじゃないの?」

(なんだ、わかってるんじゃないのさ)

美琴は心の中でつぶやいた。

「いやだ、ちょっとアンタ、怖じ気づいたの?」

「な訳無いだろ? ……てか、お前の家に行くってことは、当然お前のご両親に会うわけだろ?」

「もちろん。当麻は母さんには会ってるわよね?」

「ああ。お前そっくりのすげー美人のな。お姉さんかと思ったよ、あの時は」

当麻が高校1年生、美琴が中学校2年生の頃の大覇星祭。その昼食の時に、当麻は彼女の母、御坂美鈴と出会ったのだった。

インデックス曰く「不自然に若い大人」と評した、とても中学生の娘がいるとは思えない女性だった。

「で、父さんもその日はいるから、紹介するわ」

「ホントかよ!?」

「あったりまえでしょ? あたしの二十歳の誕生日なのよ? ……父さんは忙しいから、あたしの誕生日に居たことなんか数えるほどしかなかったけど」

「どんな感じ?」

「厳しいけど、甘いかな。あたしが彼氏連れて来たなんて知ったら、ふふ、どうなるのかなー?」 

「……」

「美琴に相応しい男かどうか、オレがとっくりと検分してやるー!……ぐらいはいうかもね」

(ちょっといじめちゃった、かな?) 美琴は当麻の出方を探る……が。

「あのー、美琴さん?」

「何よ?」

「本当に、おれでいいのかな?」
414 :LX [saga sage]:2011/12/11(日) 19:28:01.29 ID:4RwNR2iJ0
「はい?」

(あー、またコイツ、弱気の虫が出ちゃった!) 美琴はほぞを咬む。

(ちょっとやりすぎた、かな)

「いやさ、お前も知っての通り、おれは今まで決して「当麻!」」

美琴は身を乗り出してしっかりと当麻の目を見つめる。

「自分に自信を持ちなさいよ! アンタは確かに普通の人じゃ考えられないほどの経験をしてきたわ。

アンタが自分で言うとおり、『不幸』なことも沢山あった。でも、あんたはそれらを一つ一つ乗り越えてきたじゃないの?

いい? アンタは、あたしが知ってる限り少なくとも2回は『死んでいる』のよ?

最初は、記憶を失ったこと。そして2回目は冷たい北極海に沈んで行方不明になったこと。

でも、アンタは生きて、生き返って、ここに帰ってきて、あたしの前にこうしているじゃないの? あたしの料理食べてくれてるじゃないの?

自信を持ってよ、そして、父さんの前で自信を持って名乗ってよ、『僕が上条当麻です』って! ちゃんと言ってよ、言いなさいよ!」

美琴は、半分べそをかきそうになりながらも当麻を叱咤激励する。

(しっかりしてよ、当麻。御願いだから、あたしが惚れた、上条当麻に戻ってよ)



当麻の顔は時にゆがみ、そして一瞬遠い目になり、そして再び美琴を力強く見つめた。

「そうだな。そう、確かにその通りだな……すまないな、美琴。ははは、我ながら今のは情けなかったな、ちょっと」

「大丈夫?」

「うん! 安心しろよ。お前のお父さんが、娘の彼氏にどんな理想を持ってたのか知らないけれど、例えその理想の男に今のおれが全然ほど遠かったとしても、いつかその理想の男に近づいてみせる、いや追い越してみせるさ!」

真剣な顔で彼、上条当麻は目の前の御坂美琴にはっきりと宣言した。

「……あ、ありがと……あたし、すっごく嬉しい」

(良かった……立ち直ったわ) 真っ赤な顔になった美琴がうつむく。

「あ、あたし……あんたに……当麻にそう言ってもらえて……すっごい幸せ……今日、思い切って言って良かった、ほんとに良かった」

ぽとぽとと涙が落ちる。

「い、いやぁ、ちょっと恥ずかしいこと、言っちゃったかなって……で、あの、もしかして美琴さんは泣いてるのでせうか?」

ちょっと照れた顔で、当麻はポリポリと頭を掻く。

「当麻のばか」

そういうと、美琴は顔を殆ど上げずにティッシュボックスから数枚の紙を取り、顔を覆う。

そしてそのまま身体をずらし、後を向いてチンと鼻もかむ。
415 :LX [saga sage]:2011/12/11(日) 19:29:42.93 ID:4RwNR2iJ0

(はは、美琴も、こういうところは可愛いよなぁ)

ほんわかとした気持ちで美琴を見つめる当麻。

「落ち着いたか?」

「……うん。ごめんね」

ようやく落ち着いた美琴が顔を当麻に向けた瞬間、当麻の顔が奇妙にゆがんだ。

「あ……お、おまえ……ぷ」

「え? なに、ヘン、あたし?」

「いや、ちょっとその、鏡見て来いよ、な?」

「えーっ!!!!!!????? や、やだぁ、み、見るなーっ!!!!!!」

バタバタと洗面所に走り込む美琴。

次の瞬間、悲鳴が上がる。

「うっそー! 何よこれ〜 信じられなーい!!!」

アイラインがにじんで垂れ、そこをティッシュで擦ったことからとんでもない事態が花の顔(かんばせ)に起きていたのだった。

「あはは、美琴せんせー? ゆっくり作り直せよな、待ってるからさ」

「う、うるさい!!!!! ばかっ!!」



美琴との他愛もないやりとりをしながら当麻は考えていた。

(ああは言ったものの、オヤジさんと会って、おれ、ちゃんと挨拶できるだろうか?)

(いやいや、びびるな、上条当麻。おれは美琴の彼氏なんだから、あいつに恥をかかせるわけにはいかない。しっかりしろ!)

(でもなぁ、『お前のような不幸づくしの男なぞ娘に近づくな!』とか言われたら、どうしようか……)

(上条さんは幸運をはねつけてしまうひとですからねー。はぁ……いや、きっとあいつのオヤジさんはすげー人だったりしてな。

あいつみたいな良い女の子とお付き合いしてるだなんて、そんな幸運が舞い込むなんてマジで上条さんにはあり得ないことですよ)

一人で考えているうちに、再び彼はどんどんマイナス思考に走って行く。
416 :LX [saga sage]:2011/12/11(日) 19:34:24.42 ID:4RwNR2iJ0

「こら! またヘンな事考えてるでしょ?」

「わっ!!!」

後からぽん、と肩を叩かれて飛び上がる当麻。

「ちょ、そんなに驚くことないでしょーが」

元通りの顔に戻った美琴がニッコリと微笑んでいた。

「お、驚かすなよ……心臓が止まるかと思ったぜ……」

当麻はやれやれ、と再び腰を下ろす。

「北極海に沈んで生き返ったひとがなーに言ってるんだか? 大丈夫。あたしもいるんだから、ね?」

美琴は後から当麻の右肩にそっと抱きつき頬を寄せる。

ほんのりと化粧の香りが当麻を包む。

「そ、そうだな」

「そんなに、心配?」

耳元でささやく美琴。

「まぁ……ちょっと、な」

「じゃ、おまじないしてあげる……」

美琴は身体の位置をずらし、左腕ですっと当麻の肩を抱き寄せ、唇を当麻の唇に押し当てる。

「む?」

「……」

当麻は目を見開くが、直ぐ前にある美琴の目は閉じられている。

(まつげ、綺麗なんだな)と、当麻は全く場違いなことを一瞬考えたが、すっと美琴の右手が伸び、彼女は自分の身体を彼の前に持ってきた。

美琴の両腕が彼の身体にしがみつくのを感じると、当麻も目を閉じた。

美琴の身体から発する熱が感じられる。

彼も美琴の身体を抱きかかえるかのように両腕を彼女の身体にまわす。

(細いな、美琴は)

そう思った瞬間、男の本能が目を覚まし、彼の舌が美琴の唇を割ろうとすると、彼女も応じるかのように少し口を開けた。

「Ummm……」

彼の舌が美琴の口腔に侵入し、美琴の舌と絡み合う。お互いにじゃれ合うかのように舌が踊る。

(モンダミンの味だ……)

妙に冷静な思いがよぎる。化粧を直したついでに、口もすすいできたのだろう。

(オレの方は、肉じゃがの味がするのかな……? ああっ、キスしてるのに当麻さんは何を考えてるんでしょうかっ!)
417 :LX [saga sage]:2011/12/11(日) 19:41:14.70 ID:4RwNR2iJ0

二人の頭が位置を少しずつ変える。

美琴の右腕は当麻の頭をしっかりと抱えている。

一方の当麻の腕は、細い美琴の背をなで回す。

指が違和感を感じた。

(あ、これって、ブラの金具?) 触って良いものなのか、当麻は一瞬躊躇した。

「いやっ!」

ふいに美琴の唇が離れた。

当麻もパッと目を開ける。

はぁはぁと肩で息をする、真っ赤な美琴の顔が目の前にあった。

「あ、あんた……その、前よりずいぶん、キスが上手……なんだ?」

上目遣いで睨む美琴。

「え……? そんなわけないだろ?」

「うそ」

「うそって……そういうお前だって、おれが巧いとかヘタとか、どうしてわかるんだよ?」

「え? ……………………そ、そ、そ、そんなこと、そんなことわかるかぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

美琴の毛が逆立つ。電撃が走ろうとする、その瞬間。

「バカっ!!!止めろ!」

当麻の右手が瞬時に美琴の頭に載せられた。





「ううううううう」

「あぶねーなぁ……、頼みますよ、美琴さんよ……」

二人の顔は文字通り、目と鼻の先のまま。

真っ赤になってプルプル震える美琴と、ふぅ……と小さくため息をつく当麻。

「あああああアンタってひとは! おまじないなのに、な、なんで舌まで入れてくるのよ! ヘンタイ! スケベ!」

言葉こそ激しいが、声は大きくない。

二人はまだわかっていなかったが、世間ではそれを「睦言」と言う。
418 :LX [saga sage]:2011/12/11(日) 19:45:30.42 ID:4RwNR2iJ0

「おまえさぁ、どうしてそうムードぶち壊すこと、言うの?」  当麻の声も低い。

「だって……当麻が、えっち……だから」 

美琴は赤い顔のまま、再び当麻にしがみつく。昔より遙かにボリュームを増した美琴の胸がしっかりと存在を主張する。

「こらこら、あんまり刺激すると、さすがの紳士の当麻さんも狼に変身しちゃいますよー?」

自分のある部分の変化を悟られぬよう、わざと茶化して見せる当麻。

「ふーん、当麻は狼になるんだ? じゃ、あたしは、かわいそうな赤ずきんちゃんなんだ?」

ふふっ、といたずらっぽい声と、挑発するような目で当麻を見る美琴。

(赤ずきんちゃんは、もっとか弱い女の子ですよーって言ったら殺されるな)

そう思った当麻は、あえてお芝居を続ける。

「そうですよー? 赤ずきんちゃんは悪い狼に食べられちゃうのですよ?」

「そっかー、あたし、当麻に食べられちゃうんだ………ふふ、でもきっと、あたし、美味しくないかも、よ?」

思わず、ぞくっとなる当麻。

「じゃぁ」

頂きましょうか? と挑発に乗ろうとしたその瞬間、

「で・も、今日はダメ〜!」

キャハハと笑ってパッと逃げ出す美琴。

「こらぁ、紳士の当麻さんをからかいましたねー!」

玄関へ逃げた美琴を追いかける当麻。

「やん、助けて〜」

鬼さんこちら、というような誘う走りで玄関へ逃げた美琴は、あっさりと当麻に捕まった。



「元気になった? 当麻」  当麻の腕の中で小さく笑う美琴。

「……ったく、美琴さんは当麻さんを年上だと思っていないんじゃないでしょうか、ねー?」 こらぁ、と言う感じで答える当麻。

「うん。ぜ〜んぜん思ってなーい」   甘える声で答える美琴。

「そういういけない子には、お仕置きが必要ですね」

当麻の答えにも美琴は動じない。

「ふふ、じゃぁお仕置きしてみて?」
419 :LX [saga sage]:2011/12/11(日) 19:48:35.38 ID:4RwNR2iJ0

「それじゃ、仰せのままに、と」   

当麻はすっと美琴の顔に手をやり上を向けさせる。

「え……?」   僅かに美琴の顔に不安の陰がよぎる。

「お仕置き、その一」

当麻は美琴のおでこにちょん、とキスをする。美琴の顔がまた赤くなる。

「ちょっと、おでこって……?」

「だから、お仕置きその二、です」    

そう言うと当麻は今度は美琴の形の良い鼻の頭にちょん、とキスをする。

「ば、ばか。お鼻なんて、もっとやだ」  ささやくような小さい声で、美琴が抗議する。

「お仕置きですから。その三」

当麻は今度は、美琴の右頬にチュッとキスをする。

「もう……子供じゃないんだから……」  

美琴はどういうお仕置きゲームなのかを理解して、むしろ当麻のキスを期待する顔になる。

「まだまだですのことよ」    

そして左の頬にもキスをする当麻。

さぁ、最後のお仕置きは? と期待するほんのりと上気した顔の美琴。

「お仕置きは以上です」  あはは、と笑う当麻。

「い・や・なの! ダメなの! ちゃんとしてくれなきゃやだ!」  ここまでしておいて、なによぅ!と言う顔で睨む美琴。

「ふうん、なにをちゃんとして欲しいのかな?」   イタズラっぽく当麻が美琴に聞く。

「……キス」 恥ずかしそうに答える美琴。

「どこに?」 意地悪く問い返す当麻。

「……き、決まってるでしょ?」 

「いや〜わからないなぁ?」  お仕置きは終わったからなぁ、と澄まし顔で答える当麻。

「く、……」

「く?」

「いじわる! 唇に、キスしてよぅ」  泣きそうな顔で睨む美琴。

「はいはい、わがままなんだから、美琴姫は」



二人の唇が再び重なった。
420 :LX [saga sage]:2011/12/11(日) 19:52:34.29 ID:4RwNR2iJ0

「子供じゃないんだからいいってば」

「いえいえ、紳士の上条さんには大事な女の子を送り届ける使命があるのですよ」

バカップルさながらに、甘ったるい雰囲気のまま、手を繋いだ二人は夜の街を歩いていた。

「か弱い女の子にあんなことしちゃってさ、どこが紳士よ?」

「おやおや、上条さんは美琴さんのご要望にお応えしただけですけれど?」



美琴の寮の前に辿り着いた二人。

「ありがと」

「どう致しまして。今日もメシ、ありがとな」

「あれくらい、どうってことないから。来週、しっかりしてね?」

「ああ、上条さんに全部任せて起きなさいのことよ?」

「あきれた。あれだけ落ち込んでたひとが……調子いいんだから」

「あはは、おまじないのおかげですよ」

「……ばか」

ふと美琴は辺りを見回すと、当麻の手を引き、少し寮の前から戻る。

「どうしたんだ?」 不審そうに当麻が訊く。

「あそこ、監視カメラに入っちゃうの」

美琴が声をひそめて言う。

「よく知ってるな」

「寮の女の子ならみんな知ってるわよ?」

平然と美琴は言う。

「だ・か・ら、最後にもう一度」

美琴が当麻にチュッ、とキスをした。

「お、おう」

「おやすみ、当麻。今日はありがとう」

明るく微笑む美琴に当麻も笑顔で答える。

「こっちこそいつもありがとうな。じゃぁおやすみ」

「バイバーイ! 気を付けて帰ってねー!」

手を振りながら門に駆け戻ってゆく美琴を当麻は見送った。



しかし、その週の金曜日、二人は驚愕することになる。
421 :LX [saga sage]:2011/12/11(日) 19:57:35.03 ID:4RwNR2iJ0
>>1です。

短いですが、本日投稿分は以上です。
拙文をお読み頂きまして有り難う御座いました。

>>412さま
あまりに素早い合いの手、少々驚きました。有り難う御座います。
なかなか先に進まなくて済みませんが、どうぞ宜しく御願い致します。

それではまた、今週末投稿できるよう頑張ります。お先に失礼致します。
422 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/11(日) 20:28:48.79 ID:eKBtFeZOo
乙です。

>>1の実体験なのか?なにやら妙にナチュラルに甘い上琴。

さてここからテレビ東海昼ドラ風愛憎ドロドロ劇になるのかと思うと怖いですね…

次回期待してます。
423 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/11(日) 20:49:48.88 ID:V+AsUeZTo


美琴の一人称って私じゃなかったっけ?
424 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/12(月) 19:33:03.35 ID:Bq9LrBuAO
乙。

今幸せそうな美琴がこの後…可哀想だぜ…マジ辛いな。
425 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/12(月) 20:40:13.24 ID:efG+5LdM0
こんばんは。
>>1です。

先週土曜日に新約3巻がでましたので買ってきました(本屋の3軒めでようやく見つかりました)。
正直疲れますww まだ半分くらいしか読んでませんが、まぁラストのアクセサリーの件ぐらいで
当SSにはあまり支障はなさそうですが、原作の当麻はぶれてませんねぇ(苦笑
自分のは名前借りてるだけで別人です、ホント。自分の力不足をひしひしと感じます。

毎回コメントを頂き、本当に感謝です。

>>422さま、>>424さま、
そうですね。この後の展開を、どう納得できる形で設定した状況に持ち込むかがキモだと思っています。

>>423さま、
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……
御指摘有り難う御座います。仰るとおりですね! 基本線を間違えてはいけないですね。
第二部は、美琴・当麻・御坂妹で話が進みますので、気を付けます。

自分も十二分に注意致しますけれど、他の方でも間違いをが発見されましたら御指摘下さいますよう宜しく御願い致します。

それでは今夜はこれにて失礼致します。
426 :LX [sage saga]:2011/12/17(土) 19:43:05.97 ID:aty7HU0L0
こんばんは。
>>1です。

本日の投稿はありません<(_ _)>
とある人物の口調が難しくてなかなか進みませんでした。
(実は殆ど毎日飲み会でしたので……)
出して大丈夫か?という不安もあるのですが。

今日は超電磁砲7巻を買ってきました。
レベル5の第五位食蜂操祈が登場するのはネット記事で知っておりましたが、
空白の第六位以外全員出てくるとは思いませんでした。
水着姿で登場したフレンダの格好がちょっとエロいですしw

大覇星祭では沢山の学校名が登場してくるので、SS作者としては大いに助かりましたw
でも使えないかも……

明日投稿できるよう頑張ります。
427 :LX [saga]:2011/12/18(日) 19:09:53.05 ID:zdxjDH6S0
皆様こんばんは。
>>1です。

なんとか書き上がりましたので、本日分をこれより投稿致します。
宜しく御願い致します。
428 :LX [saga sage]:2011/12/18(日) 19:12:39.22 ID:zdxjDH6S0

大学へ登校した当麻は、周りの雰囲気がいつもと違うことに気が付いた。

明らかに、周りからの視線を感じるのである。しかも、どちらかと言えば冷ややかな。

(な、なにかあったのでせうか? まさかレポートの結果が恥ずかしいことになっているとか、それが晒されてるとかいうんじゃ……)

IDカードをかざし、教室に入ると、それは一層顕著になった。

自分が入った瞬間にざわめきが一瞬起き、そしてシーンとなったからだ。

(えええ? やっぱり、オレですか? なんですか、なんなんですか、なんなんだよ?)

何回か話をしたことのある女子学生と目があったが、その瞬間彼女はフンとそっぽを向いた。

いつもなら「よ、上条くん?」と挨拶する男の友人も、今日は何故か誰も寄ってこない。

席につくと、後から丸めた紙が飛んできた。

なんだ?と手にとって見る。

開くと殴り書きで「死ね」と黒マジックで書かれている。

(誰だ、こんな事書いたヤツは!)

当麻は振り向くが、それらしい人間の姿は見えない。

(どういうことだ? オレがなにかしでかしたのか? なんだ?)

周りの空気はひんやりと冷たいまま。

当麻の携帯がブルブルと振動した。

(ん? メールだ)

反射的に当麻は腰のケースから携帯を取り出そうとするが、その時スクリーンが下り、講師が演壇に上がり、講義が始まった。

授業中は携帯は禁止であり、当麻はやむなく携帯を取り出すことを諦めた。

やがて、講師の話に集中していった当麻は携帯メールが届いたことも忘れていた。
429 :LX [saga sage]:2011/12/18(日) 19:18:08.91 ID:zdxjDH6S0

90分の講義が終わり、当麻は教室を出た。この後は午後まで講義はない。

さてどうしたものか、と考えていた当麻は、見知った顔を見つけた。

同じ高校から来た織原伸行(おりはら のぶゆき)である。彼とは学部が違うが。

「おう、おりはら〜!」

当麻は久方ぶりに見るかつての同級生を呼んだ。

「なんだよ、有名人?」

苦笑いを浮かべた彼の顔をみて、当麻は「?」を浮かべる。

「はぁ? 何、その、有名人ってさ?」

「なぁにをおっしゃいますやら。この女たらしが」

いよいよもって当麻は訳がわからなくなる。 女たらしとは誰のことだ? まさか、オレのこと、なのか? どこが?

「お前さ、気を付けた方が良いと思うぞ? この学校だって親衛隊はいるんだからさ?」

「あースマン。何を言われてるのかちっともわからねぇ。わかるように言ってくれよ?」

困惑した顔で当麻が尋ねると、織原はあきれたように

「お前、高校の時から自分の位置付けをわかってなかったみたいだけどさ、そういうの、スゲー腹立つんだけどな」

睨み付けるように言う。

「ごめん、やっぱりわからない」 いよいよ当麻は混乱する。

「あのさぁ、あれだけのことやっといて、『何を言われてるのかわからん』ってなんなんだよ? オレの方がお前のアタマわかんねぇよ」

話していくうちに、織原の雰囲気が険悪になってきたことに当麻も気が付く。

「なに怒ってるんだ? おれ、お前になんか悪いことしたのか?」

その時、ブルブルと再び携帯が振動する。

「ごめん、電話だ」 当麻は携帯を腰から取り出す。ジャラとゲコ太ストラップが垂れる。

「御坂美琴からじゃねーの?」 織原が冷たい声で言う。

「まさか」 当麻は答え、あわてて「もしもし」と答える。

「アンタ!! なんでメールに返事しないのよ!! このバカ!!」

ガンガンと怒鳴りまくる美琴の声に反射的に当麻は携帯を離す。そのため、織原にも美琴の声が聞こえてしまう。

「ほら女の子じゃん? 彼女なんだろ? じゃぁな、女たらし。オレは行くからな」

そう言い捨てて織原が歩き出した。

「お、おい! 織原!!」

「ちょっと、当麻! 何してんのよ? アンタ、シャッター見た!?」

携帯からは美琴の声が割れんばかりに周りに響く。
430 :LX [saga sage]:2011/12/18(日) 19:23:15.36 ID:zdxjDH6S0

近くのコンビニにはシャッターは何故か一冊もなく、とって返した大学生協の書店で、当麻はソレを見ることになった。



『遂に発見! 超電磁砲のらぶらぶシーン!!』

『学園都市のアイドルが毎日通い妻!!』



「なんなんだ、これは……」

センセーショナルなPOPの下に置かれたゴシップ週刊誌「シャッター」の前に立ちつくす当麻。 

茫然とする彼の周りに、気が付いたのだろう、数人の学生が遠巻きに見ている。

女子学生の1人は携帯でフライデーを見る当麻の写真を撮っている。

(あれ、彼よね)
(実物見るの、初めてだー)
(ウチの学生だった、ってのは本当だったんだね)
(チクチョー、うまいことやりやがって)
(なんでオレには出来なくて、あんなヤツが超電磁砲<レールガン>の……)

まわりのひそひそ話が当麻の耳に入ってくる。

あわてて彼は2冊ひっつかむとレジへ走り、学生カードで支払いを済ませるや否や、外へ飛び出す。

「ねーねー、結構これ、面白くない?」
「あはは、完璧。投稿しちゃいなよ?」
「いくらもらえるかなー?」

はたしてその写真は、次週の「シャッター」におもしろおかしくキャプションが付けられてグラビアの見開きを飾ることになる。



-----------------



上条当麻は、男子トイレの中にいた。

ドンと身体を個室の壁に当てて、息を整える。

(なんなんだ、いったい、何が……)

震える手で、丸めてある「シャッター」を開く。

表紙にはでかでかと赤文字で『遂に発見! 超電磁砲のらぶらぶシーン!!』という店頭POPと同じ文句が走っている。

目次の次のページ。

見開きのグラビア写真。

そこには美琴が当麻にキスしている写真がどんと鎮座していた。
431 :LX [saga sage]:2011/12/18(日) 19:27:21.59 ID:zdxjDH6S0

「うっそだろー!」

思わず声が出てしまった。



(あのとき、か)

そう、数日前の、美琴の寮の前で、おやすみなさいのキスの時のもの。

思わず美琴の唇の感触が甦り、はしたなくも身体の一部分が反応する。

その一方で、当麻の手は次のページをめくる。

見慣れた自分の寮のエントランスに立つ美琴の姿。手にはスーパーの袋らしきものが写っている。

(あいつが、ウチに来た時の、か)

さすがに寮にまではカメラマンも入らなかったのか、その他にはない。

だが、その隣のページには、当麻と美琴が「お手々繋いで」寮へ帰る時と思われる写真が載っていた。

まるで、キッチン洗剤のCMに使われそうな後ろ姿である。

(こんなとこまで、撮られたのかよ……)

その写真のコピーがぶっとんでいる。

『か弱い女の子にあんなことしちゃってさ、どこが紳士よ?』



直ぐ傍にでも居ないと聞こえるはずもない、美琴の言葉。

だが、しっかり書かれている。

何も知らない人は、この言葉で何を思うか。

当然ながら、「あんなこと」「こんなこと」に決まっている。

(さ・い・あ・く、だ……)

当麻は頭を抱えてしまう。



ブーンと携帯が振動する。

(美琴か?)

あわててチェック画面を見ると発信人は「土御門元春」。 

扉を開けて個室から当麻は飛び出した。
432 :LX [saga sage]:2011/12/18(日) 19:32:31.11 ID:zdxjDH6S0

「カミや〜ん、どうしたんだにゃ〜? 時間かかったけど、もしかして、お取り込み中、愛しの彼女とアツアツだったのかにゃー?」

笑いを抑えているような、ちょっと皮肉っぽい感じで画面の土御門元春が話しかける。

「いきなり電話でそれかよ……違うわ、トイレにいたんだよ!」

「おお、それは失礼したにゃー。でもなー、カミやん? しばらくは外、歩けんかも知れないぜい?」

少し真剣な顔で彼が言う。

「今朝の授業で経験済みだよ……『死ね』って紙つぶてもらったしさ」

当麻は心底参った、と言う声で答える。

「まぁ、自業自得だぜい、カミやん? 紙つぶてで良かったぜい。もしかしたら火の玉とか氷の剣とか、ヘタしたらマンホールの蓋なんかが飛んで来たかもしれないにゃーw 

そうそう、マンホールの蓋はカミやんの右手でも防げないぜい?」

土御門は笑いながら言うが、当麻には冗談に聞こえない。なんせここは学園都市。起こりえる話なのだ。

「お前、楽しんでるだろ?」

「楽しんだのはカミやんだぜい? ……それよりなぁ、カミやん?」

がらりと雰囲気が変わり、声を低めて土御門元春が問いかける。

「禁書目録<インデックス>が去った後、超電磁砲<レールガン>の彼女が一歩先んじたわけだが、カミやんを好きだった女の子は学園都市<ここ>にも数多くいたわけだ、カミやん? それはわかってるよな?」

「そんなにいるわけないだろ? 美琴だって、何でオレみたいなヤツを選んだのか、正直わからない」

「いいか、カミやん?」  ドスの利いた低い声で土御門が言葉を続ける。

「カミやんの近くにいる、カミやんを好きでたまらない女の子が、これでさらなる実力行使に出るかもしれない。

女の子が思い詰めると、恐ろしいんだぜい? 気を付けろよ、カミやん。じゃな」

「あ、待てよ! おい!」

土御門元春からの電話はあっけなく切れた。
433 :LX [saga sage]:2011/12/18(日) 19:38:59.07 ID:zdxjDH6S0

「お姉様!!」



その日の朝のこと。

とある女子寮の一室。



「う〜ん、くろこ……うるさい……黒子!?」

え? と思うまもなく、どさっ!! と美琴の上に重いものが落ちてきた。

(ちょっと!? なんでアンタが?)と寝起きの頭が考える前に美琴の唇が暖かいものでふさがれた。

「む!?」

はっきりと見開いた美琴の目に、これまた驚いた目の白井黒子の顔が大写しで飛び込んできた。

(なにやってんのよ!! ええい、離れんかぁ、こらぁぁぁぁぁぁぁぁ!)

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」

美琴の電撃で黒子は硬直して美琴の上から転げ落ちた。

「な、な、な、なにすんのよっ!? ひとが良い気持ちで寝てるのに、あ、アンタ朝からなんてこと!」

唇をこすりながら、真っ赤な顔の美琴が怒鳴る。

「おねぇ……さまと…………キスしてしまいましたわ……うへへへへへへ」

ピクピクと痙攣しながらも幸せそうな顔でつぶやく黒子。

だが、次の瞬間に彼女はハッとして起きあがった。

「わ、わたくしの熱いベーゼをお姉様が素直に受け止めるとは……なんと言うことでしょう、お姉様?」

「な、なによ?」

突然真剣になった黒子にたじろぐ美琴。

「以前のお姉様でしたら、わたくしの気配をお感じになるや否や、いち早く防御態勢を整えていらっしゃいましたわ……。

それなのに、今のお姉様は全くの無警戒でしたの……やっぱり、お姉様はあの殿方にたぶらかされて、すっかり骨抜きになっておしまいになったのですわね……

おのれ、許せませんわ!! あの類人猿め!!!!」

しかし、黒子からは言葉こそ激しいものの、かつてのように鉄矢を取りだしこれから直ぐに成敗に行きますの、と言うほどの激情は感じられなかった。

「アンタ、何ひとりでカッカしてるのよ? 少し頭冷やしなさい! 

……って、そもそもなんでこんな早くから、というか何しにここまで来たのよ?」

美琴の方も、以前のように黒子の攻撃に派手に応戦する、というそぶりはなかった。お互い、それなりに成長していたのだ。

「そ、そうでしたわ。肝心なことを忘れておりましたの」

既に電撃のショックから立ち直っている黒子は、部屋の隅に転がっていたバックから雑誌を取り出した。

「お姉様、落ち着いてご覧あそばせ? 今日発売された、このいかがわしい雑誌にお姉様のスキャンダラスなことが載っておりますの」



美琴の目に飛び込んできたのは、赤文字のド派手のキャッチコピー。、

『遂に発見! 超電磁砲のらぶらぶシーン!!』
434 :LX [saga sage]:2011/12/18(日) 19:45:15.26 ID:zdxjDH6S0

「ちょっと貸しなさい!! な、なによコレ!!??」

ひったくりページをめくる美琴。

はぁ、とため息をつき、黙って美琴を眺める黒子……だが、美琴の髪が逆立ち、今まさに強烈な電撃が四方に発散されようとしたその瞬間、

彼女の姿はかき消え、



    ――― ビィー!!! ―――
  


ほぼ同時に、部屋にある非常用キャパシティダウナーが動作したのだった。



30分後。

押し寄せた寮監やら警備ロボがようやく立ち去り、ヘロヘロになっていた美琴の前に再び白井黒子が姿を見せた。

「黒子……」

「お姉様、動転するのも理解できますが、もう少し自己コントロールをしっかりなさいませんと、社会に出て困りますわよ?」

「誰のせいで、こうなったと思ってるのよ……はぁ……朝からもう……不幸だ」

「ちょ……その最後の言葉、気になりますわね? それは確か、あの不埒な類人猿の口癖ですわね?

はぁ……もうお姉様は身も心もあの殿方のものになっておしまいなのですわね……?」

寂しそうにつぶやく黒子。

「あ・の・さ、訂正しておくと、私、まだそんな事してないからね!」 少し赤い顔で黒子に訂正を求める美琴。

「えええええええええええ???????????」

頭を抱えてふらつく黒子。

「あ、あの、お姉様? 『まだ』ということは、その時が来たら、お姉様は純潔をその殿方に捧げる意思がおありになる???

そこまで人生設計を立てていらっしゃるとは……お姉様ほどの方が、よりによって、あのウニ頭の冴えない類人猿と……

どこで、どう間違えられてしまったのでございましょう……?」

ブツブツと小声でつぶやき、黒子はよろめき歩いた後、美琴のベッドに倒れ込む。

「ちょ、ちょっと黒子? 大げさすぎるわよ」

「お姉様? その発言はいかがなものかと思いますわよ? 

お姉様は学園都市のレベル5第三、いえ、今は第二位に君臨するお方なのですわよ?まぁ、その呼び名は今は公式には呼ばれませんけれど……

ですがその代わり、今やお姉様は学園都市のイメージリーダーと言うべき存在ですのよ?

そのお方が、殿方のお部屋に頻繁にお出向き、逢い引きをなさり、こともあろうに口づけの情景を、よりによってこんないかがわしい雑誌に掲載されてしまうなど、とんでもないことですわ」

「う……」

懇々と説教する黒子の剣幕に黙り込んでしまう美琴。
435 :LX [saga sage]:2011/12/18(日) 19:51:17.07 ID:zdxjDH6S0

「お姉様ももう二十歳、立派な大人の女性でいらっしゃいますけど、その分、まわりの目は厳しくなりますのよ?

恋人と語らうのも、愛する殿方のお部屋に遊びに行くのもごくごく自然な事だと思いますの。

でももう野放図な行動はくれぐれもお慎みあそばさないと、思いがけないことで足下をすくわれますわ。軽率な行動はお控えくださいまし」

切々と訴える黒子の言葉に美琴は何も言い返せない。



暫く沈黙の時が流れる。

その沈黙を美琴が破った。

「あのね、黒子」

「はい?」

「私、来週の誕生日、アイツを実家に連れて行く」

「……」

黒子は目を大きく開き、驚きの表情を一瞬浮かべる。

「それでね、その、アイツを、わたし……両親に正式に紹介しようと……」

真っ赤な顔の美琴はそこで言葉を切った。

再び沈黙が訪れる。



「ご決断されたのですね、お姉様は」

真っ赤になっている美琴が恐る恐る黒子の顔を見ると、彼女は優しく微笑んでいた。

「お相手の類……失礼致しましたわ。もうそんな言葉で呼んでは無作法ですわね。その……お相手の方にはお話されたのですわね?」

「うん……例の……その、写真撮られたその日に」

「道理で……それでお姉様も警戒が薄れていらっしゃったのですわね……

おかしいと思いましたの。お姉様ともあろう方が、どうしてあのような破廉恥な写真を撮られていることに気が付かなかったのか、とっても不思議でしたの」

「そうね、この御坂美琴、一生の不覚だったわ」

「お気を付けあそばせ? この後はしばらくそこら中で大騒ぎですわよ?」

「そうよね……ちょっと待って、黒子? アイツにメールしちゃうから」

「わたくしがいない方がよろしいのでは?」

「ううん、いて頂戴? ちょっと助けて欲しいから」

「喜んで。で、何をどのように?」

「来週、学園都市を出る時のことよ。とてもアイツと二人で仲良く、ってわけにいかないでしょ。これじゃ?」

「……ですわね……」

かつての常盤台コンビが頭をよせて作戦を練り始める。



だが、この週刊誌を見たのはもちろん学生だけではなかった。
436 :LX [saga sage]:2011/12/18(日) 19:58:56.19 ID:zdxjDH6S0
>>1です。
拙文をお読み下さいまして有り難う御座いました。
本日投稿は以上です。
相変わらず短いのですが、キリがよいのでここで止めました。

さて、今回、土御門元春を登場させたのですが、このキャラ、非常に扱いが難しいので出すべきかどうか最後まで悩みました。
まぁ美琴の方とバランスを取ろうとすると、このキャラを出さないのは不自然で、彼のまわりは全員オリキャラ、というわけにもいきませんから。

話が膨らんできて、年内の投稿の中で彼らは学園都市を出られるのか怪しくなって参りましたが、頑張ります。
それでは本日はお先に失礼致します。有り難う御座いました。
437 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/18(日) 21:22:00.45 ID:j8zsTifdo

学園都市も声豚ストーカーみたいなの多いんだなぁ
438 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/18(日) 21:40:34.20 ID:rG23z03Io
海原はいなかったのか
439 :LX [saga ]:2011/12/25(日) 19:56:44.54 ID:z0ijDc7f0
皆様こんばんは。
>>1です。

えー、結局全く書けませんでした。申し訳御座いません。

コメント有り難う御座います。

>>437さま
偽海原もその一種かと。
学生だらけ、そこでの人気者となれば話題になって当然、黒子が言う通りかと思いますので、こういうエピソードを入れてみました。一方で、妹達<シスターズ>も話題にならなければおかしいのですが、彼女らはある意味「不可侵」的な存在であると考えてまして、そういう話題は全てつぶされているというように考えています。

>>438さま
漠然と彼をどうすべきか考えておりましたが、御指摘を受けてちょっと真面目にプロットを立ててみました。彼は魔術サイドの人間なので、あちらサイドは可能な限り排除しておく、という私のこのシリーズでの方針からすると出さない方が無難なのです。インデックスとのお別れのやりとりを書いたところ、芋づる式にゾロゾロ魔術サイドの人間が集まってしまい往生したのはつい先日のことなので(苦笑
とはいうものの、美琴ラブのストーカーがそう簡単にいなくなれるのか、ということもありまして正直ここで筆が止まってしまっています。


それではストックから極少量、内容的にもちょっとアレですがこれより投稿致します。
440 :LX [saga sage]:2011/12/25(日) 19:59:44.16 ID:z0ijDc7f0

当然ながら、ミサカネットワークは大騒ぎである。


【盗撮は】お姉様<オリジナル>実力行使!【犯罪です】

1 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090

ミサカ一同、ちゅうもく〜!!!!!!!!!!!!!!


2 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10039 
  
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!


3 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka11112

いぇーい、華麗に2げっとぉぉぉぉ


4 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka17600

>3


5 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka15088

>3


6 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka15089

>3


7 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14889

おまえらスレ無駄遣いするんじゃねぇ自重しる


8 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19001

お姉様<オリジナル>…………


9 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10777

こんなのってないよ……ひどすぎるよ……ロシアから……学園都市に戻りたいよ……


10 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka16012

ようやく一歩先に進んだのですね。ミサカも頑張るぞー!


11 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka16013

>10
なにを頑張るのですか? 16012号?


12 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka13577

19090号、次見せて下さい
441 :LX [saga sage]:2011/12/25(日) 20:02:21.93 ID:z0ijDc7f0

13 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka17777

今北産業


14 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19090

お姉様<オリジナル>とあのひと
お手々繋いでラブラブ
ばっちりラブシーン乙


15 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka12500

東京で売ってるかな?


16 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka11899

誰か買って送ってよ〜ぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお


17 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka17000

こっちにも送ってくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ


18 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20000

なーんだぁ、ズコズコバコバコギシギシあっはんじゃないのか……wwwww


19 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10039

>18
氏ね


20 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14889

>18
回線切って首吊って志ね


21 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka12345

>18
子ね

22 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19999

>18
逝ってよし


23 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20000

>22
おまえモナー


24 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10032

お姉様<オリジナル>が……


25 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka18551

着々と手を打ってますねぇ


26 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14222

お姉様<オリジナル>GJ! ……なわけねーだろ、ああ、もうダメだ


27 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka10037

まだだ、まだおわらんよ
442 :LX [saga sage]:2011/12/25(日) 20:04:39.64 ID:z0ijDc7f0

28 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka12053

インドじゃ遠すぎる……


29 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka15110

>28
直行便が飛んでるじゃないさー、ここじゃ2日かかるんだよ?


30 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka19900

ブリザードがないだけ、よっぽどましだっつーの


31 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

あ〜あ、あのひと最近ぜんぜん手を繋いでくれないの、ってミサカはひとり黄昏れてみる
うらやましいな……


32 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14510

おのろけ乙、としか言えませんが、運営さま?


33 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

えー? だってもうミサカはお年頃なんだよー? 
もう立派に子供だって産めちゃうよ? ってミサカはぐっとセクシーさをアップしたナイズバディを披露してみる! 


34 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14889

上位個体、初潮が済んだことは以前にお聞きしましたが、ナイスバディにはもう少し時間が必要かと


35 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka20001

14889号? 覚悟はいいわね?


36 以下、名無しにかわりましてミサカがお送りします ID:Misaka14889

えええええええっ、だって本当の話なのにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぁぁぁぁぁぁぁbbbbbbbbbbbbb


【Misaka14889が退出しました】





ミサカネットワークの喧噪から離れたミサカがひとり、ベッドから起きあがる。

彼女はおもむろに寝間着を脱ぐとそのまま姿見の前に佇み、ゆっくりと鏡に背を向け、そこに写る自分の背中をじっと見つめる。



背中に残る、あざと傷跡を彼女は見つめ、立ちつくしていた。
443 :LX [saga sage]:2011/12/25(日) 20:13:19.33 ID:z0ijDc7f0
>>1です。

本日分、僅か3コマで失礼致しました。
それでは海原をどうするか、考えるお時間を少し頂戴致します。

本日はこれにて失礼致します。有り難う御座いました。
444 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/28(水) 23:40:47.29 ID:41WQMObuo
┌─────┐
│い ち お つ.│
└∩───∩┘
  ヽ(`・ω・´)ノ
445 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/29(木) 17:41:45.91 ID:0QPH/oLEo
乙です。
背中の痣と傷跡…さてこれがどうしてできたのかが鍵か。

まさか爪の跡とキスでできた痣とかじゃないよな…?
446 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/31(土) 01:24:56.08 ID:2roJ+AsM0
>>445
一方通行戦の傷跡をわざと消さなかったって>>247にあるよ。
447 :LX [saga sage]:2011/12/31(土) 11:38:04.30 ID:j8TPbsHa0
こんにちは。
>>1です。
毎回拙文をお読み下さいまして誠に有り難う御座います。

これより帰省します。
いつもですと、土曜・日曜に投稿しておりますが、今回はちょっと無理です(大晦日と元旦では……)
新年は3日に帰宅しますので、そこで少量ですが投稿致します。

本年は3月11日以降、本当に辛い1年でした。未だに解決していない問題も山積みですし……
来年こそは平和な年になるよう切に祈ります。
それでは皆様、良いお年をお迎え下さい。
448 :LX [saga ]:2012/01/03(火) 21:22:14.31 ID:UBf5UB7F0
皆様、明けましておめでとう御座います。
>>1です。
本年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。

それでは本日も短いですがこれより投稿致します。
449 :以下、あけまして [sage]:2012/01/03(火) 21:23:34.25 ID:rlAxnzDao
あけおめことよろ!
450 :LX [saga sage]:2012/01/03(火) 21:29:20.42 ID:UBf5UB7F0

「ごめん、今日そっちに行けそうもないわ」

「気にするな。それよりお前、大丈夫なのか?」

「あはは、そこらじゅうでしっかりお説教喰らったわよ。悲惨だったわ……」

「ごめんな、俺が余計なことしちゃったから……」

「ううん、そんなことないわ。私のドジだもん。でも、まさかだわよ……わたしにパパラッチなんてさ、良い根性してるわよ。

次は絶対ぶっ飛ばしてやるから、跡形もなくやっちゃうから!」



御坂美琴、その後。

黒子との打ち合わせのあと、昼食を取っていたところで彼女は学生課に呼び出され、始末書提出ということになった。

通常であれば1〜3ヶ月の停学処分であるが、今回は特に免じて、と恩着せがましく嫌みを言われながら、である。

それよりも堪えたのは、事務局の男性職員の好奇の目、女性職員の蔑視の視線であった。

(おー、超電磁砲<レールガン>じゃん、実際に会うとやっぱ可愛いねー)
(いい気味だわ、少しはおとなしくなるかしら)
(うらやましーねぇ、あの子とキスしたあの野郎)
(いやいや、大分色っぽくなって、いいねぇ若い子って)
(さーて、この後、彼との間はうまくいくのかな〜面白そう♪)

彼女は身のすくむような思いをその間じゅう味わうことになった。

そして次に、これは彼女も予想しなかったことであるが、なんと学園都市統括理事会広報委員会から呼び出しをくらったのである。



「御坂美琴です」

「中でお待ちです。どうぞお入り下さい」

殆ど人気のない静まりかえった中に響く、無人受付の機械応答・合成音声が更に緊張感を与える。

彼女の五感はいやがおうにも研ぎ澄まされる。

各種センサーが動作する際に発する僅かな電磁波が、緊張する彼女の神経を刺激し続けていた。

美琴はノックをし、扉を開けた。

「御坂美琴、入ります」

扉を開けると、そこにいた予想よりは若い(といっても40代前半?)女性が答えを返す。

「ようこそ。どうぞおかけになって」

美琴はざっと部屋を眺める。だだっぴろい部屋に、シンプルだが品の良い応接セットがデンと設けられている。

「はい」

(スーツで正解だったわ……)

最近着る機会が増えてきたスーツに身を包んだ美琴は、緊張しながらも示されたソファへ浅く腰掛けた。
451 :LX [saga sage]:2012/01/03(火) 21:32:35.02 ID:UBf5UB7F0

「私は、笠原真彩(かさはら まあや)、以後よろしくね。お茶、コーヒー? それとも紅茶が宜しいかしら?」

「は、はい。お茶を御願いします」

「あら、気にしなくても良いのに」

テーブルの真ん中が開き、お茶のセットが出てくる。

笠原女史がポットからお湯を注ぐと、狭山茶の香りが辺りにほんのりと香る。

「今日はお呼びだてしてごめんなさいね? 時間もないし、貴女もこんなところじゃ窮屈でしょうから、さっさと話を進めるわね?」

「なんでしょうか」

「予想してると思うけど、今回の盗撮のこと。とんだ災難だったわね」

「……はい」

「あらかじめ言っておくと、貴女は被害者である、ということで私たちの意見は一致していますから、その点は誤解しないでね。

シャッターについては、貴女の写真が載ったあの号は店頭から即刻回収したわ。

さすがに買っちゃった人のものは直接的に取り上げることは出来ないから、そこは策を講じていくらかは回収できるように手は打ったわ。

ネットの動画は全部削除。データの分析は全部完了してNG登録してあるから、upされた直後に削除がかかるようになっているの。

写真データについては、貴女の写真に意図的にウイルスを仕込んでばらまいておいたわ。

もちろん駆除ソフトで消されるでしょうけれど、貴女の写真にはそういうものが仕込まれている、と言う話が広まればいいのよ、ね」

「あ、あの……」

「質問、歓迎するわよ? 何かしら?」

美琴が不思議そうな顔で笠原を見る。

「なぜ、そこまで、そんなことをするのですか? 私、私自身は、そうして頂けると、その、嬉しいかなと思うのですが、

なぜ、私の事に、学園都市の統括理事会の方までが……」

「御坂さん? 貴女、ご自分の立ち位置を御存知? 貴女はこの学園都市にとって、いったいどういう人なのかお解りかしら?」

笠原が美琴を見すえる。

美琴は最初、笠原のその視線に反発するかのように見返し、そして力無くその視線を外し、小さくため息をついた。

「本当、なんですか?」

「あら、わかってるのなら話は早いわよ?」

「正式にお話を頂いたわけではありませんから」

「そりゃそうね。でもね……それは、昔の貴女の行跡を覚えているひとが何人かいてね、その人たちの覚えはすっごく悪いのよ、貴女」
452 :LX [saga sage]:2012/01/03(火) 21:47:41.09 ID:UBf5UB7F0

「5〜6年前になるのかしらね。全て事故扱いだったし、間に戦争も挟んでるから普通の人で覚えてる人なんかいやしない。

私だって当時は下っ端だったから、全然覚えてないわ。

ただね、御坂さん、貴女のことは全部記録に残っているのよ? もちろん、普通の人は見ることも知ることもできないけれど。

……随分派手に立ち回ったものよね……。正直、反対する人がいるのもわかるわ」

視線を外し、遠くを見るように笠原は話してゆく。

美琴は黙って話を聞いている……が、次の言葉に彼女は明確に反応した。

「私は、直接あの話には参加してないし、今でも興味すらひかないわね。バカバカしい話だわ」

美琴の目が一気に険しくなり、笠原を思いきり睨み付ける。

「そう仰いますが、そのバカバカしいことでどれだけの命が……」

「ストップ。その話は止めましょう。過去の話を論じても、起きたことは今更やり直せないのよ。SF小説ならともかく、ね」

「……はい」

だが、美琴の目は納得していない。



不意にピピピと目覚ましのようなアラームが鳴る。

「あら失礼。次の予定の開始時刻まで10分、ってこと。気にしないでいいわ? 待たせておけば済む話だから。

今日のお話は二つ。

1つ。今回の件で、貴女は被害者で、当方から罰則とかそう言うものは無し。

但し、次のことに繋がることから、貴女にはもう少し身辺をきちんとしておいて欲しい。

下らないことに巻き込まれぬように貴女自身も周りに気を配って頂きたいわ。よろしい? それが一つ目よ」

笠原の声は優しいが、彼女の目は笑ってはいなかった。

「それから、二つ目、ね。この件については、まだ確定していません。

もう少し時間がかかるだろうけれど、説得工作は続いてるし、こういう事は時間が解決することもありますからね。

いずれ、貴女にはこの学園都市の正式な『親善大使』役を務めてもらうことになると思うから、しっかり勉強しておいて下さい。

特に外国語。最低でも6カ国語はマスターしておいて欲しいわ」

一方的に笠原は話を終えた。

その間、黙って聞いていた美琴はようやく言葉を返した。

「それは、ご命令、でしょうか?」

「親善大使役のこと? 貴女には今までもちょこちょこ、ボランティアみたいなことはやってもらっていたんだけれど、いつまでもそれじゃ申し訳ないでしょ? 

だったらいっそ明確に役付けすべきだと思わない?」

「お断り致します、と申し上げたら?」

鋭い目のまま、美琴は笠原を見る。

「貴女は断れないわよ?」

自信ありげに笠原は美琴を見返す。

「……どうしてですか?」

「貴女には、1万人の妹達<シスターズ>がいるじゃない?」
453 :LX [saga sage]:2012/01/03(火) 22:04:39.62 ID:UBf5UB7F0

(……!)

驚愕に美琴の目が大きく開かれる。

「別にいまさら捕って喰おうというわけじゃないから勘違いしないようにね。ただね、あの子たちが、世界に散らばった貴女のクローンがとにもかくにも生き長らえているのは何故か、ちょっと考えてくれると嬉しいんだけれど」

(くっ……)

美琴の、膝においた手に力がこもる。

(こ、こいつら……まだ、あの子たちを……実験道具じゃなくなったら、今度は、人質ってことなの?)

奥歯を噛み締めて、彼女は必死で耐えた。



「えーと、学園都市に今いるのは4人よね? ちょっと待ってね……」

そんな彼女をちらりと眺め、ふっと小さく口で嗤うと笠原はすっと立ち上がり、ゆっくりと自分の机に戻りパネルに向かい指示を出した。

「今現在、学園都市に残っている御坂美琴のクローンの数と番号のデータを送って」

はっと美琴が顔を上げると、10秒ほどで壁のボードが点灯し、そこに彼女ら(妹達<シスターズ>)の番号とデータが表示された。



検体番号 10032  病院勤務

検体番号 10039  事務職派遣社員

検体番号 13577  病院勤務

検体番号 19090  エステサロン勤務



4人のデータを見た笠原は意外そうな顔で誰とも無く語りかける。

「さすがよね、一時期は無職だったのに、ちゃんとそれなりに皆さん立派に働いてるのね。どこかの糞ニートにも見せてやりたいわ……」

(糞ニート? 誰のこと?) 

4人の検体番号と仕事先を食い入るように見つめていた美琴は、ふとその言葉を投げかけられた人間が少し気にかかった。

なんと、なく、だったが。

「彼女達が今の生活を続けていけるかどうかは貴女にかかってるわ……というほどではないけれど、でもまぁゼロではないのよ。

覚えておいて頂けると私たちも助かるわ。宜しく御願いしますわよ?」

わかったか、この小娘? と言う顔で笠原が美琴を見すえる。

「で、御坂さん? 余計ついでに言っておくけれど、貴女いずれ必要になると思うから、今のうちに彼女らの中から秘書役を選んでおいた方が良いわよ?」

「は……?」

いきなり自分に振られた美琴は答えを返せない。

(秘書? 秘書ってアレ? なんで学生の私が秘書を?)

今まで険しい顔だった美琴に、明らかに困惑の色が浮かぶのを見て、面白そうに笠原が二の矢を放つ。

「まぁね、別に誰でも良いんだけれど、貴女そっくりの秘書の方がなにかと便利、よ?」

ふふ、と彼女はかすかに下卑た笑いをもらした。
454 :LX [saga sage]:2012/01/03(火) 22:23:15.06 ID:UBf5UB7F0

美琴はふと我に返る。

「美琴、おい、美琴? 聞いてるのか? 返事しろ? おい!!??」

当麻の声が携帯から響く。

「聞いてるわよ! そんなに怒鳴らなくても良いでしょ!?」

ついつい言葉が荒っぽくなる。あの笠原のせいだわ!

「なんなんだよ……あのさ、お前、物騒なことは止めろよ? これ以上問題起こすとまずいぞ?」

「アンタまでそう言う事言うの!? あのババァみたいな事はもう沢山!」

「お、おいおい、どうしたんだよ? ババァって誰よ? なんか言われたのか?」

(いけない、当麻に知られたらまずい。彼には関係ないことなのだから)

美琴は深呼吸をして当麻に答える。

「……ゴメン。ちょっと興奮しちゃったね……そいつったらさ、ううん、コレ、やっぱり会った時に話す……って、ちょっとアンタ、ちゃんと聞いてる?」

「聞いてるよ、安心しろよな? で、もう今週になるんだけど、お前の誕生日、どうするんだ?」

「……そ、そうだった! よかったー、先週のうちに許可取っておいて……。今からだったら絶対無理だったわよ」

「それは俺も同じだけどな。でもな、ちょっと二人揃って、っていうのはかなり難しいな」

「うん。それはもう諦めてる。で、そのことなんだけど、私の指示に従って動いて欲しいんだけど、いい?」

「あのさ、俺はいいけど、お前、派手なことは止めろよ? お前はさ、スターなんだからな?」

「ちょっとやめてよ、アンタまでそんなこと言うの? もうたくさんなんだけど、御願い」

「……すまん。ごめんな、美琴」

「ううん、私の方こそ、ごめんなさい。アンタまで巻き込んじゃって……じゃ、水曜の朝7時に連絡するから。

その時間には出られるようにしておいてね」

「朝7時、な。わかった。寝坊するなよ?」

「なっ……大丈夫に決まってるでしょ! じゃ、特に連絡無ければそのまま実行、ということで宜しくね」

「じゃぁな、美琴。おやすみ」

「お休み。好きよ、当麻」

「ああ、俺もお前が好きだ。愛してる」

「えへへ、あ、ありがと……今度、会った時にも言ってくれる?」

「ぷぷ。なーに照れてるんだよ?」

「ちょ……う、うっさい、このバカ。なんでせっかくいいムードぶち壊すのよぅ、この唐変木!!」

「あはは、やっぱりお前はそう言う方が似合ってるよ。じゃな。改めておやすみ」

「ちょっと、何よその言い方? 会ったら酷いから、期待して待ってなさいよっ! バカっ!」



……二人のじゃれあいはようやく終わった。

美琴は部屋の明かりを消し、カーテンの隙間から外を眺める。

寮の周りの通りには数人の不審者が見えた。

一発を狙うパパラッチとみて間違いない。

通報しても、ジャッジメントあるいは警備員が来た頃にはどこかへ消えてしまっている。完全なるいたちごっこであった。



「黒子は、ああ言ってくれたけど、うまくいくかな……あいつの方も心配だし……はー、もういやんなっちゃう」

美琴はベッドに潜り込んだ。
455 :LX [saga sage]:2012/01/03(火) 22:31:56.47 ID:UBf5UB7F0
>>1です。

短いですが、本日分は以上です。まだ学園都市出られない(苦笑
当初のプロットでは1コマで終わっていたのですが。


>>445さま、
次の>>446さまが御指摘の通りです。
作者の私も>>248で「当SSの独自設定」であることを御説明しておりますので、宜しければ御参照下さい。

>>444さま、
>>449さま、

今年もよろしくお願い申し上げます。

それでは本日はこの辺で。
明日より仕事開始です。仕事始めの方、お互いに頑張りましょう!
456 :以下、あけまして [sage]:2012/01/03(火) 23:27:44.19 ID:H9c8R3dgo
乙ですの
457 :LX [saga]:2012/01/09(月) 20:06:40.55 ID:dFjfvc2t0
皆様こんばんは。
>>1です。

昨日は投稿できず、失礼致しました。
1日遅れですが、本日分、これより少量投稿致します。
宜しく御願い致します。

>>456さま
ありがとうございます。
頑張ります。
458 :LX [saga sage]:2012/01/09(月) 20:10:37.66 ID:dFjfvc2t0

かくして水曜の朝6時半。

目覚まし時計に携帯アラームのダブルで当麻はしっかりと目覚めていた。

とりあえず前の日に買っておいたサンドイッチをかじり、簡単な腹ごしらえは済ませた。

「いつものように」洗濯を済まし、現在、急速乾燥機で乾かしているところであった。



         ――― ブー ブー ブー ―――



突然、当麻の携帯が振動する。

思わずクロックで時刻を確認するが、まだ6時40分である。

(誰だ? 美琴からにしては時間が早い、何かあったか?)

携帯を見ると、「御坂妹」からである。

「おはよう。どうしたんだ、こんな早くに?」

ホッとして当麻は安堵の声で御坂妹こと検体番号10032号に話しかける。

「……おはようございます」

最近の彼女は、以前よりはっきりと感情を表す言葉使い、そして表情で話すようになっていたが、今朝はどういうわけか以前のような感情のない無機質な声色であった。

それに、ここ最近は画像・音声同時通話が殆どであったのに、今日は音声のみの通話である。

だが、当麻はその違いに気づかなかった。

「なんかあったのか?」

「……いえ、なんでもありません。ミサカは今週は昼勤なので、これから出勤します」

「そうか……大変だよな、看護婦いや看護士さんてのも。俺もお前の病院にはしょっちゅうお世話になってたから、看護士さんの苦労は少しはわかるつもりですのことよ?」

「……」

御坂妹の答えがない。さしもの当麻も少し様子がおかしいことに気が付いた。

「おう? どうしたんだ? 何かあったんじゃないか? どうした?」

声を掛ける当麻。

「……いえ、あの件以来少しご無沙汰でしたので……このミサカはあなたの声が聞きたかったのです……。特に他意はありません。

それ……では、出勤時間ですので……失礼します」

一方的に彼女の電話は切れた。

「なんか、変だったな……あいつ大丈夫かな……? まぁあとで御坂に聞いてみるか」



御坂妹こと検体番号10032号が、ベッドで携帯を握りしめ、枕に突っ伏して泣いていたことを当麻は知らなかった。
459 :LX [saga sage]:2012/01/09(月) 20:14:34.99 ID:dFjfvc2t0

7時ジャストに再び携帯が振動する。

「おはよう、美琴」

「おはよ、当麻」

画面に映る顔は今度こそ、間違いなく御坂美琴だった。

「出られる、わよね?」

美琴が大丈夫、よ、ね? と言う顔で訊いてくる。

「準備万端、いつでもOKのことよ?」

笑い顔で当麻が答える。

「これから出発してもらうけれど、あんたの家にも、たぶんパパラッチが張ってるはずだから、それを撒いてもらわなきゃいけないのよ」

「えー? マジかよ?」

「もちろん。100%は期待してないから。半分以下になればめっけもの、ってところね。いい?」

「なんかバカにされてるような気がするけど?」

「盗撮・隠し撮りにはアンタの右手は全く役にたたないでしょ? 殴ったら大事になるしさ」

「だな」

「いい、今から言うから、ちゃんとその通りにしてよ?」

「お前はどうするんだ?」

「私は気にしなくて良いから。私には心強い味方がいるもの」

「おはようございますですの、上条当麻さん?」

いきなり携帯の画面がグルグルとまわり、白井黒子の顔が大写しになる。

「あ、白井……さん?」

「あら、覚えて下さっていらっしゃいますのね。光栄ですわ。

お姉様のエスコートはこの白井黒子がしっかり努めさせて頂きますですの。

あなたの方こそ十二分にお気を付けあそばせ? 

もし、お姉様を泣かせるようなことがあれば、この白井黒子、どこまでも追いかけて必ずや成敗して目にもの見せてさし上げますの。ホホホホ」

「黒子、余計なこと言ってるんじゃないわよ、時間もったいないから! 当麻!ちゃんと頭に入れてよ、とりあえず第1段階だけだから」

再び携帯画面がぐるんぐるんと動き、美琴の顔が写る。

なんなんだよ、と思いつつ、当麻は美琴のプランを訊いてゆく。
460 :LX [saga sage]:2012/01/09(月) 20:17:23.54 ID:dFjfvc2t0


当麻は寮の玄関を出た。

果たせるかな、道路にいた数人の人間が一斉に当麻の方を見る。あまりにそのタイミングが合いすぎて、当麻は思わず吹き出しそうになる。

そのまま彼は自転車駐輪場へと向かう。

「自転車を使うぞ!」

「バイク、スタンバってるか?」

声が聞こえてくる。

(はー、マジですか。バイクまで準備してんのかよ……)

当麻は思わずため息をつく。

美琴の言うとおりだった。まさか、と半信半疑だった彼も、腹をくくるしかないな、と覚悟を決めた。

(自転車、だったよな)

彼は自転車を引き出し、さっと跨ると、そのまま裏口の一方通行出口に突っ込んだ。

「チャリだ!」
「バイク行け!」

後でボム!とバイクのエンジンが吠え、あっという間にそのエンジン音は後に近づき、そして当麻が必死に走る小道に響いた。

すると、

    ――― ピーィ ―――

笛の音が当麻の直ぐ後に聞こえ、

「ジャッジメントだ! 一方通行逆進! 止まれ!!」

男性の怒鳴る声が後で聞こえる。

だが、バイクはその警告を無視したらしい。エンジン音から想像するに、むしろ加速したようだ。

「ダメだ! 実力行使で止めろ!」
「クソッタレが!」

次の瞬間、止まらずに通過したパパラッチのバイクは、運転者もろとも宙を飛び、ジャッジメントの腕章を着けた男子学生の前に叩きつけられた。

エンジン音が急激に小さくなった事に気が付いた当麻は、ブレーキを掛けて停まり、後を振り返る。

倒れたバイクのところに学生が二人ほど、そしてパパラッチだろう、数人の男との間でもみ合いが起きているようだった。

(スイマセン、先いきます)

普段なら、彼はその争いの仲裁に入ったであろう。だが二人の学生はジャッジメントであり、しかも結構強かったのか既に2人をのしてしまっている。

美琴からも電話で厳しく言われていることもあり、彼は駅へと再びチャリをこぎ出した。

461 :LX [saga sage]:2012/01/09(月) 20:21:55.53 ID:dFjfvc2t0


モノレールの駅で彼は列車が入ってくるまで北行き・南行きどちらのホームに上がるか解らないようにコンコースに立つ。

「まもなく、列車が参ります」

南行きの列車が入ってきた瞬間に彼はエスカレータを駆け上がる。

南側に張っていたのだろうその後をやはり1人が追いかける。

当麻は列車に飛び込んだ瞬間、扉が閉まった。車内にいた数人の乗客は(あぶねーなぁ)という顔で当麻を見る。

気が付くと、追いかけてきた1人はホームドアに遮られ乗れず、ホームで悪態を付いていた。

はぁはぁと荒い息をつきながら、当麻はホッとする。

モノレールは鋭い加速で駅を出ると、「次は3丁目です」という案内放送が流れた。

彼は携帯メールを指定された番号へ打電した。



そして2つ目、「断崖大学前」の駅で、今度は扉が閉まりかけたその瞬間、彼はホームへと飛び降りる。

危ないギリギリのところで、当麻の身体はホームドアに挟まれずに済んだ。

走り出す車両を眺めていると、1人の男がこっちを睨んでいたのが見えた。

乗車した5丁目駅のホームにあらかじめいて、彼がエスカレータを駆け上がってきた時に何喰わぬ顔で先に乗り込んで張っていたのだろう。

(急がないと、追いつかれちゃう)

彼は脱兎の如くエスカレータを駆け下りてゆく。



改札を抜け、交差点を渡ったところにあるコンビニの駐車場で、手を振る女性の姿が見えた。

白ベースに赤のツートーンの上下。跨っているのはどうやらホンダのCBRのようである。

「おはよう御座います、上条当麻さん。 お待ちしておりました」

それは、嬉しそうな、しかし少し緊張した顔のミサカであった。

「あ、ああ、おはよう。えっと……ミサカってことは、その」

「ハイ。このミサカは検体番号10039号です。覚えておいて下さいね! とけなげなミサカは懸命に当麻さんにアピールします!」

勢い込んでそう言いながら、彼女、10039号は当麻にヘルメットを渡す。

「その……ミサカ、君はバイク運転できるんだ?」

メットを被りながら彼はミサカに確認をする。美琴も御坂妹もバイクは運転できない。

「その質問に答える前に、済みません、ミサカは連絡を入れなければなりません」

そう言いながら彼女は胸のポケットから小型携帯を取りだし、ちょいちょいと弄ったあと、再びポケットにしまった。

見つめる当麻の視線に目を合わせたミサカ10039号は、口元に少し微笑みを浮かべて、

「お姉様<オリジナル>です。『合流しました、出発します』という定型文を送ったのです」と言い訳がましく言った。

そして、間髪入れずに彼女は当麻のメットの中の脇に指を入れ、スライドスイッチをオンにする。

「このメットにはインカムが装備されています。これから通話チェックを行います。宜しいですか?とミサカは確認を取ります」

「ああ、良く聞こえるぞ?」

当麻が答える。

「このミサカは、車両を用いた戦闘実験が予定されていましたので、陸上の軍用車両の殆どを扱うことができるのです。全く問題はありません」

真面目な顔で、ミサカ10039号は先ほどの答えを返す。

思わず、当麻は唸ってしまう。

あの貨物操車場での、一方通行との死闘。

瀕死の御坂妹、10032号の姿が脳裏に浮かぶ。
462 :LX [saga sage]:2012/01/09(月) 20:30:05.81 ID:dFjfvc2t0

「それよりも、ま、また今度、ご一緒させて欲しいのですが、とミサカはドキドキしながら上条さんに御願いをしてみます!」

少し早口になったミサカの声が、当麻のヘルメットに響く。

ふいに現実に戻された当麻はとっさに返事が出来ない。

「聞こえてますか? 上条さん? そ、その、やっぱりダメでしょうか?」

少し赤い顔をメットの中から見せるミサカは、彼を見上げている。小首をかしげた姿がとても可愛らしい。

「あ、ああ。俺でよかったら?」

パッと彼女の声が明るくなる。

「ホントですね! 勇気を出して言ってみるものですね、とミサカは心でガッツポーズを決めてみます! じゃ、出発しましょう!!」

ヒュイ! と口笛を吹いて、バイザーを下ろした彼女は再びマシンに跨る。

「高速では飛ばしますから、しっかりミサカにしがみついてて下さいね!」

「お、おう……」

当麻はその瞬間、彼女のどこに手を当てればよいのか、真面目に悩んだ。

肩はおかしい。胸? まさか、冗談ではない。ありえない。

胴回り、だろうな……でも、女の子にしがみつくのって、ホントにいいのかな……と当麻は悩む。

「どうしました?」 ミサカが聞いてくる。

「い、いや……バイクに乗っけてもらうのって初めてだから……」

「大丈夫ですよ、ミサカも初めてですから!」

「……え?」

ホントに大丈夫か?という気がしてくる当麻である。

「足はそこのステップに載せて下さい。特別に大きいのを付けてあります」

そんな当麻の葛藤にはお構いなしに、彼女はCBRのエンジンをスタートさせた。

ドドドドという低い排気音があたりに響き渡る。

「さぁ早く乗って下さい。追いつかれますから」

ままよ、と当麻もミサカの小型のシートに跨り、えいっとばかりにミサカ10039号の胴に腕を廻す。

「キャッ!」

ミサカが声を上げる。

「ご、ごめん!!」

当麻はその瞬間に手を離す。反動で少し身体が揺れる。

「い、いえ、ミサカも慣れてませんでしたから、すみません。もう一度、御願いします」

彼女の声は少し緊張している。いや、声だけではなく、背中しか見えないけれども、彼女の全身に緊張が走っているのが明らかにわかる。

「手、廻すぞ」

「ど、どうぞ」

当麻は、今度はそっと腕を回し、ミサカのお腹のところで両手を組み、身体を寄せる。

彼女の細い身体に自分の身体を預ける格好になる。

「では、行きます!!」

「宜しく!!」

爆音と共に、ホンダCBRが駐車場から飛び出した。
463 :LX [saga sage]:2012/01/09(月) 20:40:51.18 ID:dFjfvc2t0
>>1です。

本日分、5コマと3連休でありながら非常に短いものですみません。
2輪には詳しくないので、あちこち調べていたら非常に時間がかかりましたw

えー、ここでまた当SSでの独自設定を設けました。
学園都市在住の妹達<シスターズ>の一人、10039号についてです。

1)彼女が参加する予定だった第10039次実験では車両を用いた戦闘が設定されていた
2)従って参加する検体番号10039号は各種免許を持ち、軍用車両も含めた各種陸上車両を運転できる

というものです。
まぁ、原作では浜面仕上が「免許なんかどうでもいい、技能がありゃいいのよ」的にうそぶいていますが、
それでいいじゃん?という話も考えましたが、まぁ正統派で行きましょう、と言うことで。

これは10039号を、陰の10032号と対比させる事を考えて陽の性格と設定した事も影響しています。

相も変わらずダラダラ続きますが、引き続き宜しくお願い申し上げます。

それでは今日はこの辺で失礼致します。
464 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/10(火) 03:42:27.10 ID:brShLFYs0
>>1
10777号は戦闘機も操縦できたわけで、ミサカネットワークで記憶共有してる10039号が各種車両を運転できても全然違和感ないからいいんじゃないか?
10032号側の描写も期待して待ってるぜ。
465 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/01/14(土) 21:18:42.50 ID:Z/qpdowE0
前作から追い付きました。>>1乙!
楽しみに読ませてもらってます
466 :LX [saga ]:2012/01/15(日) 20:29:20.35 ID:ki9z4SET0
皆様こんばんは。
>>1です。

これより本日分を投稿致します。宜しく御願い致します。

>>464さま
コメント有り難う御座います。
10032号は後ほど出てきますのでお待ち下さいね。

>>465さま
前作をお読み頂き、有り難う御座います。今なお読んで頂ける方がいらっしゃることにとても喜びを感じます。
第2作も頑張ってますので宜しく御願い致します。

それでは開始致します。
467 :LX [saga sage]:2012/01/15(日) 20:31:08.85 ID:ki9z4SET0

さて、話題の主、美琴の方はどうであったろうか?



女子寮前は、さすがに先日の盗撮写真が出て以来警戒が厳しくなっており、さしものパパラッチも、あるいは正統派芸能マスコミの張り込みはなかった。

その代わり、およそ30mほど離れた辺りに点々と張っており、さらに彼らと美琴たちのトラブルを期待する野次馬連中までが加わり、まだ朝も早いというのに異様な雰囲気を醸し出していた。

……7時を廻った頃、少し離れたところで待ちかまえる群衆にさーっと静かなどよめきが起きた。

「来た!」
「正面からか!」
「堂々としてるな……」

話題の人物、御坂美琴ともう一人の女子大生? が堂々と寮の正面玄関から出てきたのだった。

群衆を見た二人は寮の前で立ち止まると、ふっとその姿を消した。

「テレポーターだ!」
「消えたぞ!」
「周辺部に一度姿を見せるはずだ、そう遠くまでは飛べないはず!」

マスコミの面々はあらかじめ予想していたのか、すぐさま周りに待機する他のメンバーに連絡を取り始める。

「わ、すげー、目の前で見ちゃったよ」
「大覇星祭以来だなー」
「ちぇ、これじゃ何も起きねーな」
「超電磁砲<レールガン>ぶちかますところ、見たかったのになぁ……」
「オレ、見たことあるぜ」

野次馬連中はそれぞれ勝手なことを言いながら、三々五々と散り始めた。

「駅に向かってるってよ!」
「よし、モノレールと地下鉄の駅に向かおう!」
「彼氏はモノレールに乗ったってさ!」

報道陣とパパラッチは、周辺に展開していた仲間達と連絡を取り合うと、一斉に寮の前から大半が姿を消した。

数人が残ったものの、8時前には彼らも姿を消し、寮の前は以前のように静かなたたずまいを取り戻した。

そして8時を過ぎた頃、1台のメルセデスが寮の前に停まる。

一人の女子大生が出てくると、彼女はそのメルセデスに乗りこみ、なんの妨害も受けることなくどこかへと走り去った。
468 :LX [saga sage]:2012/01/15(日) 20:33:56.36 ID:ki9z4SET0

「お疲れ、黒子。今日はホントにありがとね」

「どうってことございませんでしたわ。しかし、聞きしにまさる不埒な連中ですの。お姉様の御苦労、身にしみてわかりましたわ……」

「で、あの子はうまく逃げ込めた?」

「もちろんですわ。まぁ今頃はもうジャグジーにでも入って、朝風呂を堪能していらっしゃることでしょう」

「ありがと。でもいいなぁ……私もここしばらく行ってないし」

「あら、そ、それでは、是非、この週末にでもこの黒子と一緒に参りませんこと? お姉様の身体の隅々までこのわたくしめが」

「止めんかー、こらぁ!」

「あのー、クルマの中で暴れないで欲しいんですけど」

「す、すみません」
「申し訳、ございません……ですの」

美琴と黒子が乗っているクルマ、メルセデスを運転しているのは、漣健介(さざなみ けんすけ)、白井黒子の許婚である。



タネ明かしをすれば、最初に寮から出た御坂美琴は偽者であり、妹達<シスターズ>の一人、検体番号19090号のミサカであった。

彼女は、今日の早朝に白井黒子と共に寮へ入っていた。周りで張り込んでいるパパラッチたちの警戒が最も緩くなる時間帯である。

当初19090号は一人でも大丈夫であると言い張ったが、念を入れて黒子がアシストしてテレポートにより一緒に入ったのである。

寮の能力者センサーは、美琴が昨日寝る前にハッキングしてスイッチを切ってあった。

そして、今朝、美琴の影武者としての彼女・検体番号19090号はテレポートを駆使する白井黒子にサポートされて、追っ手を翻弄した後に無事第二十二学区にあるスパリゾートへ入ったのである。

一方、彼女ら影武者部隊によってパパラッチ・報道陣が釣り出されたあと、本物の御坂美琴を迎えに来たのが彼、漣健介であった。

そして、彼らは攪乱の役目を終えた白井黒子を第十八学区にある長点上機学園の前で拾い上げ、最終目的地へと走っているのであった。
469 :LX [saga sage]:2012/01/15(日) 20:39:30.12 ID:ki9z4SET0

既にクルマは高速を走っている。中心から出る方向なので道は比較的空いていた。

「漣さん、今日は本当にすみませんでした。お忙しいのに。でも本当に助かりました」

美琴が深々と頭を下げる。

「いやぁ、とんでもない。なんてことないですって。そんなこと止めて下さいよ? なんせ、他ならぬ黒ちゃんの頼みですからねー。

それに、噂の御坂さんに直接お話できるチャンスなんてめったにないですから」

漣があはは、と笑いながら答える。

「ちょ、ちょっと健介さん!」

黒子が赤くなって抗議する。

「そうそう、黒子、あんた、『くろちゃん♪』て呼ばれてるんだって〜?」

ほれほれ神妙に白状せい、と言う顔で美琴が黒子を弄りにかかる。

「お、お姉様まで、そんなことを!」

「いや〜、実はさっきクルマの中で漣さんから聞いちゃったんだけどさ〜? 

私も今度からあんたのこと、『♪くろちゃん♪』って呼んであげようか? むふふふ」

「全くもう、冷やかさないで下さいまし! ちょっと、健介さん!? お姉様に何をベラベラしゃべってるんですの!?」

「止めなさいよ、黒子、いや、く・ろ・ちゃん? 私が強引に聞いたんだし、漣さん、クルマ運転してるしさ。

……そういえば、さっきは聞き忘れたんだけど、漣さんは、黒子、いや『くろちゃん』からはなんて呼ばれてるんですか?」

美琴は矛先を運転する漣に向ける。

「ちょっとお姉さ『ああ、僕は”健ちゃん ”ですよ。つまんないでしょ?』……あ、ぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!!」

「ケンちゃん!!?? えええええええええっ????? あ、あんたが? うっそ……信じられない……

……ちょっと、ちょっとごめんね。黒子がそう言うこと言うのって、私、ちょっと想像できなくて、あはははは」

「そんな……お姉様、ひどいですわ……わたくし、そんな……ううっ」

美琴は吹き出したが、黒子は耳まで真っ赤にして顔を座席とドアの部分に隠すようにうずくまってしまった。
470 :LX [saga sage]:2012/01/15(日) 20:42:59.72 ID:ki9z4SET0


「……ごめん、黒子。バカにするつもりじゃなかったんだけど。怒ったんならごめんね」

ちょっとまずかったかな、と思った美琴は今度は一転して黒子をなだめにかかる。

「いいんですの」

うずくまったまま黒子が答える。彼女の声は涙声になっていた。

「ちょっと、そんなに泣かないでよ、謝るから、ね?」

「お、お姉様にそんな女、はしたない女だと思われてしまったなんて、もう、黒子は生きて行けませんの……」

さめざめと黒子は泣き伏したまま。

あらららら、と言う顔で、漣はチラチラとミラーで後のやりとりを見ている。

「黒子、子供みたいに拗ねてんじゃないわよ。悪いと思ってるから私も謝ってるじゃないのよ」

美琴もすこしむっとした声色になる。

が、黒子はひくひくとすすり泣くだけ。

暫く沈黙が続く……が、ついに根負けした美琴は

「わかった、わかったから。今度の週末、黒子につきあってあげるから、機嫌直してよ、ね?」

しょうがないな、という顔で美琴は黒子をなだめた……が。



「本当ですの!? さすがお姉様ですの! では、早速この後に予約を入れなければ!!」

バッと跳ね起きた黒子は、(勝った!)とばかりモバイルパッドを取りだし、ピコピコと予約を入れ始める。

「ちょ……ちょっとアンタ! 黒子!!」

「アハハハ、御坂さん、黒ちゃんの勝ちですね! いやー、さすがだ。アハハハハ」

あっけにとられる美琴をよそに、漣がこりゃおかしいとばかりにステアリングを叩いて笑う。
471 :LX [saga sage]:2012/01/15(日) 20:54:09.36 ID:ki9z4SET0



上条当麻を乗せた、検体番号10039号が操るホンダCBRはヘリポートへと滑り込んだ。

「ふぇ……つ、着いた〜」

「なんとか、無事、着きましたねーと、ミサカは肩の荷を下ろします」

バイザーをあげてヘルメットを取った10039号が深呼吸する。

「ありがとうな、ミサカ」

「いえいえ、どういたしまして。初めての二人乗りでしたが、案ずるより生むが易し、でした」

「いや〜、当麻さんとしては、もう少し落ち着いて乗ってみたかったと正直思いますよ」

コンビニを出た直後、彼らは追いかけてきたパパラッチのバイク2台に発見され、ちょっとしたチェイスが行われたのであった。

既に通学時間帯に入っており、一般車通行止めになった道路や、また幹線道路の交通量も増えていた事から、追っ手を撒くのは冷や汗ものであった。

「ちょっと飛ばしましたから……(でも、ミサカに当麻さんがしがみついてくれたのは、役得でしたね!)」



――― ちょっと10039号、何を抜け駆けしているのですか ―――

――― 裏山しすぐる〜 あー、あたしもバイク買っちゃうー!!!! ―――

――― 絶対にゆるさない、絶対に、よ!! ―――



……実は、緊張のあまり、検体番号10039号はミサカネットワークへの接続を切り忘れたのである。

集中していた彼女は全く気が付いていなかったのだが、当麻とコンビニの駐車場で落ち合ってから今に至るまで、全てがミサカネットワークにダダ漏れなのであった。

当然ながら上条命のミサカたちからは轟々と非難の声があがる。

(おっと、いっけなーい!)

怒濤のごとく押し寄せてくるミサカネットワークの声にようやく気が付いた10039号は、あわててネットワークを遮断した。

(他のミサカに、こんな幸せな気持ちを味合わせてなるものですか! 今だけは、当麻さんはこのミサカのもの!)



「美琴たちは、まだかな……あっちは大丈夫なんだろうか……?」

入り口の方を眺め、美琴を心配する当麻の姿に、10039号の心は揺れるが(さ、もう一頑張りです、10039号!)自分に気合いを入れて、彼女は当麻に話しかける。

「大丈夫だと思います。お姉様<オリジナル>のことですから。

……それで、あの、出発の時の、あの、その、今度、またご一緒して頂けるというお話ですが、いつ頃ならいいですか?

このミサカは一応働いている身なので、出来れば来週以降で御願いしたいのですが?」

赤くなりながら、懸命に話を繋げようとする10039号。

(けなげな女の子を演じることが重要、でもあんまりしつこくてもいけない、と本にありました。ミサカは着実に1歩ずつ前進します)

「え? あ、ああ。そうだったよね。う〜ん、今日の御礼もしなきゃいけないよな。そうだな、あのね……」

携帯でスケジュールを確認し始めた当麻。

内心でガッツポーズを決める10039号。

し・か・し。

「お待たせしましたですの」
「おはよう……って、ちょっとアンタ、なにやってんのよ?」

可愛そうな10039号。

彼らの前に、白井黒子と御坂美琴がテレポートして来たのだった。
472 :LX [saga sage]:2012/01/15(日) 21:00:12.85 ID:ki9z4SET0

「おはようございます、お姉様<オリジナル>」

(どうしてさぁこれから、と言う時にお姉様<オリジナル>が来ちゃうのでしょうか、とミサカはこんちくしょうという気持ちを出さずに、お姉様<オリジナル>に爽やかな挨拶をして得点を稼ぎます)

だが、彼女の顔は内心そのままに、かつての無表情、いや仏頂面であった。

「なにあんたふくれっ面してるのよ? ……あ〜ぁ、そうか。ははーん」

(またこの男、今度はこの子<検体番号10039号>に旗立てたってわけね……冗談じゃないわよ。只でさえこの子、当麻に気があるってのに)

美琴は矛先を当麻に向ける。仕方なかったとはいえ、当麻のことで妹達<恋のライバル>に助力を頼んだ自分にも腹が立っていたが。

「アンタ(当麻)ねぇ、御願いだからこの子にまでちょっかい出すのは止めてよね?」

「何言ってるんだよ? 朝早くから俺の為に、仕事休んでまでここまでやってくれてんだぞ? 

そりゃお前の妹だけどさ、でも御礼をどうするかぐらい考えるのは当然だろ?」

美琴を少したしなめるように、むっとした声で当麻が反論する。

一方、当麻の後に立つ10039号の顔は、これ以上ないくらい喜びに輝いていた。

もし第三者である白井黒子がいなければ、美琴を制するために当麻にしがみついていたかも知れない。

めざとく美琴はその危険を察知した。

しかし、その前に。

「まぁ、こちらはライダー姿の妹さんですのね? ご無沙汰しております、わたくし白井黒子ですが、お変わり御座いませんの?」

黒子が乱入してきたのだ。

一瞬10039号はとまどった表情を見せたが、直ぐに立ち直り、

「はい。おかげさまでこの通りです。こちらこそガサツな姉がご迷惑をおかけ致しております」と答え、チラと美琴に視線を投げかけた。

一瞬目に皮肉の色が浮かんだことを美琴は見逃さない。

「あんた、自分の姉に対してよくそんなこと言えるわね?」

再び矛先を10039号に向ける美琴。

「ミサカは事実を指摘したまでです。そもそもそれに学園都市の外に出るだけなのに、これだけ大騒ぎしなければならないのは、お姉様<オリジナル>の不注意な行動が原因ではないのですか?」

辛辣な10039号の言に美琴はカチンときた。

「事実だけれど、わざわざそれを言うことないでしょ? あんた、姉に、この私にケンカ売る気?」

パッと美琴の髪が逆立つ。一瞬ではあるが僅かに放電が起こる。

ふんと言う顔で10039号も負けずに言い返す。

「一つ抜けました。ケンカっ早いという形容詞も必要でしたと『ミサカ、そこまで』」

応戦態勢に入った10039号に当麻が待ったを掛ける。

そして、

「まぁまぁ、ところで、妹さんのそのレーシングスーツ、良くお似合いですわぁ……

うへへ……お姉様<オリジナル>はこういうカッコはなさいませんからなんかとっても新鮮ですわぁ、ちょっと記念に撮らせて頂けますかしら?ぐふふふ」

いつの間にか、変態モードに切り替わった黒子が10039号ににじり寄っていた。

「あんたも手を出すなぁーっ!!!!!!!!」

黒子に美琴の電撃が飛んだ。
473 :LX [saga sage]:2012/01/15(日) 21:04:42.67 ID:ki9z4SET0



「しかし、ヘリで出発ってよく考えたなぁ」

「あはは。殆どは出国ゲートに張ってたらしいわ。こっちは二人だっったっけ? でも黒子のおかげで助かったわ。

しかし、あいつらもヒマなのね、いったい私たちにどれだけの人間動員したんだろうね?」

羽田へ飛ぶヘリの中で、当麻と美琴が語り合っていた。



さすがに出国管理所(イミグレーション)を強引に突破することは不可能であり、張っていた数名に発見されたものの、黒子の根回しで彼らは職員通路を使ってヘリ搭乗エリアへ出たのだった。

これで指定区域で待ちかまえていたパパラッチ二人は肩すかしを食った形になった。ヘリの爆音に彼らが気づいた時には既に遅かった。



「でさ、さっき、あの子に何迫られてたのよ?」

「え? あ、ああ。また今度、落ち着いてのんびりツーリングしてくれって話だよ。まぁ一度くらいいいじゃないか。会社、年休出してまで走ってくれたんだって言ってたしさ」

「ふーん。アンタってそんな義理堅かったんだ?」

そう言うと、美琴は唇をかんで当麻を睨み付け、思い切り彼のももをつねった。

「いてててて! 痛い! 痛いです! 美琴さん、止めて!!」

当麻が叫んで足をばたつかせる。

「すいません、お客さん、後でドタバタするのは止めてもらえませんか?」

操縦するパイロットからすかさず警告が飛んだ。

「す、すみません」
「失礼しました(痛いだろ、何すんだよ!)」
(アンタが悪いのよ!)
(どこがだよ、つねることないだろ!)

「すいませんがねぇ、痴話喧嘩はヘリ下りてから御願いしますよ? 仲が良いのは解りますけどね。あと少しですから」

再びパイロットから注意された二人は、赤い顔で黙るのだった。
474 :LX [saga sage]:2012/01/15(日) 21:10:04.29 ID:ki9z4SET0
>>1です。

本日投稿分は以上7コマです。
ようやく二人は出国しました。当初の予定稿ではあっさり1コマで済ませていたのですが、なんでここまで……
非常に時間がかかりました。

引き続き頑張りますのでどうぞ宜しく御願い致します。
それではお先に失礼致します。
475 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/15(日) 23:37:53.25 ID:SZGfF4Oao
乙にゃんだよ!
476 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/01/16(月) 19:48:36.68 ID:U7bxzhaeo
乙です

黒子・・・今はこうなのに後であんな事になるんだよなぁ・・・
477 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/16(月) 21:20:17.50 ID:Npy2nAqh0
>>1乙。

>>476
>>1の考えとは違うかもしれんが結婚なんて、子供で来て3年もしたら恋人でもなんでもなくなる。
特に親同士の決めた結婚だし、当初は仲がよくても一旦すれ違うと一気に瓦解すると思うぞ。
>>313で上司も指摘してるような事があるだけでも…。
478 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/18(水) 05:08:48.43 ID:1WVWmHge0
そんな時にテレスティーナが…。
しかし、あの木原に引っかかるとは漣もアレよのう。
479 :LX [saga ]:2012/01/22(日) 20:26:57.94 ID:YlqCPHyk0
皆様こんばんは。
>>1です。

コメント頂きまして有り難う御座います。
皆様、よく前作のスジを覚えていらっしゃいますようで、作者は改めて緊張致しております。

>>475さま
有り難う御座います。頑張ります。

>>476さま、>>477さま、
えー、恋人関係ですら3年経つとかなり惰性になってしまいます(爆
いわんや夫婦関係になると……
特に問題なのは子供が出来て父親になった男性でして、何故か女房を「(お)かあさん」と呼ぶのですw
子供と一緒になってしまう。
まぁ「おい」と呼ぶのは最近では少ないのかもしれませんが。
そして女性の方も、もっぱら「子供の母親」としての存在になってしまいがちです。
まぁ共働きだとそうでないかも知れませんが、少なくともウチは(機密事項です)

>>478さま
コメントのお返しをしようとして、前作の間違いを発見致しました(苦笑
黒子の夫(当SSではまだ許婚ですが)であります漣健介(さざなみ けんすけ)ですが、
前作の>887では漣健太郎になっておりました……
ちなみに漣健介を直接誘惑したのは、作中では明言しておりませんが(これを確認すべく前作877を検証しましたw)テレスティーナ自身ではありません。
何故か漣健太郎という名前、実はこのSSでも最初書いてまして、念のため確認したら健介だったという……。

長くなりましたが、それではこれより本日分の投稿を始めますので宜しく御願い致します。
480 :LX [saga sage]:2012/01/22(日) 20:36:48.36 ID:YlqCPHyk0



「久しぶりに東京来ると、なんか違うよな」

「やっぱり? あんたもそう思うんだ……。なんだろうね、なんかが学園都市と違うのよ……うーん巧く言えないなぁ」

上条当麻と御坂美琴の二人はお互いに他愛もないことを言いながら電車に乗っていた。

「まぁ今日は平日だしな。この時間だと普通みんな学校だろ?」

「……! それよ!」

パンと当麻の背中を叩いて、美琴が解ったように叫ぶ。

なにごとか、と周りに立っていた人や座っていた人の何人かが「ん?」という顔で彼らを見る。

(おいおい、いきなりでかい声出すなよ、みんなびっくりしてるだろ?)

(ゴメン! あのね、おじさんおばさんが多いのよ、ここは)

(おー? 鋭いなぁ、そうだ、そうだよな。……大人が多いんだよ、どこもかしこも)

学園都市は、彼らが高校生ぐらいの時が最も学生数が多く、全人口230万人のうち、180万人ほどが学生、という極めて異常な人口比であった。

このため、石を投げれば学生に当たるという状態であったし、実際に彼らはそういう場所で育ってきた。

従って、久しぶりに「学園都市の外」に出た彼らが目にするのは、おびただしい「大人」たちの姿であり、なまじ同じ日本人であるが故、著しい違和感を覚えたのだった。



その頃、学園都市上層部にとって、頭の痛い事態が急速に進行しつつあった。

学生だった人間も当然ながら年を経れば学校を卒業してゆくわけで、所謂学生以外の人口が増加し始めていた。極めて当たり前のことである。

しかしながら、学園都市の中に就職先がそれほどあるわけもなく、このまま無闇に学生数を増やすことは将来に禍根を残すことが明白であり、そのために本来の目的に反する「新入学生」の絞り込みに手を付けざるを得ない状況になっていた。

また、卒業生についても、試験的ではあるが、無能力者(レベルゼロ)については希望者に限り学園都市からの転出を認めるようになっていた。

割を食ったのが、いわゆるレベル1クラスの低能力者であり、なまじ能力が発現したが故に学園都市からの転出も思うように出来ず、かつ就職先も少なく、バイトで生きて行かざるを得ないという苦しい立場に追い込まれていた。

しかし、これとて、一時しのぎにしかず、しかも能力者全体に占める割合が非常に多いこのレベル1の能力者たちをどう処遇するかが学園都市の大きな問題になりつつあった。



御坂美琴は成績も優秀、容姿端麗、そこに加えて学園都市に在籍するレベル5の一人、という人間であったから問題は全くなかった。

それどころか、既にいくつかの企業からオファーが入っているくらいである。

しかし、上条当麻はというと……彼の今の状態は、彼自身が一番良く解っていることであった。

そこを聞かれたらどうしよう、と当麻は一人悩んでいるのであった。
481 :LX [saga sage]:2012/01/22(日) 20:45:29.70 ID:YlqCPHyk0


「こ・こ・よ」

美琴が、とある家の前で立ち止まった。

「へー、普通の家だな」

「ちょっと、第一声がそれ? アンタ、どんな家想像してたのよ?」

「いや、お前、常盤台のお嬢様だったじゃん? だからてっきり大豪邸でさ、クルマのまま門から入り口まですーっと入っていくとか……」

「あんた、バッカじゃないの?……そう、悪かったわねー普通の家で。大豪邸のお嬢様でなくて失礼致しました!」

「おいおい、怒るなよ、勘違いだっての。オレは安心したんだよ!」

「あ〜ハイハイ、それはようございました。……私一人娘だったし、その私もさっさと学園都市に行っちゃったし……でかい家なんかいらなかったのよ。

……お父さんもろくすっぽいなかったしさ。正直、あんまり思い出ないんだ、ここ」

「そう……だっけ。すまん。悪かった」

「別に謝る必要ないわよ。そういうアンタの家はどうなのよ?」

「形は違うけど、似たようなもんだ。まぁ俺のところもオヤジはよく出歩いてたし」

その父のおみやげで、とんでもない事が起きてしまったことを一瞬当麻は思い出す。

「ふーん」

「あのさ、あの、御坂……さん?」

「何よ、突然しゃちほこばっちゃって? どうしたの?」

「その、お前の、そのお父さんって、今日『いるわよ、もちろん』……そ、そうですか。そうですよね……」

「当たり前でしょ? 娘が久しぶりに実家に帰ってくる、可愛い一人娘がよ? しかもその娘が、大切な、そ、その……な、なんていうかその……」

美琴の口調もまた、突然おかしくなる。心なしか、頬に血の気がさしている。

「どうしたんだ?」

不思議そうに美琴を見る当麻。

「う、うるさいな。あんたこそ、お父さんに会ってびっくりするんじゃないわよ?」

(恥ずかしいでしょ! 全部女の子に言わせる気なの? この鈍感!)

美琴は心の中で突っ込むが、恥ずかしくて彼の顔に視線を合わせられない。

「お、おう。大丈夫、だと思うぞ」

「と、とにかく入るわよ! って……あたしたち、門の前でなにやってんだろ」

深呼吸してインタホンを押す、美琴。

「はい。御坂です」

太い男の声が応答した。
482 :LX [saga sage]:2012/01/22(日) 20:50:25.71 ID:YlqCPHyk0


「良く来てくれたわね、上条くん? 美琴ちゃんの面倒見るのって大変でしょ?」

ニコニコしながらお茶を出すのは御坂美鈴(みさか みすず)、美琴の母である。

相も変わらず、若い。彼女ももう40代であり、さすがに「美琴の姉」には苦しくなったものの、しかし二十歳の娘がいる様には見えない。

「い、いえ、その……はははははは」



二人は実は学園都市で何度か会っていた。

大覇星祭の時に数回。それと……忘れもしない、あの、断崖大学データセンターでの救出劇で。

「ちょっと母さん、何よその言い方? もうちょっと普通の挨拶出来ないの?」

美琴が目をつり上げて母・美鈴に突っ込む。

「あの時は、どうもね」

美鈴は娘の非難をどこ吹く風と聞き流し、

「あなたの傍においておいた方が安全かな、と思ったんだけど、結果的に間違って無くて良かったわ」

とあたかも独り言のように言いながらコーヒーカップを当麻の前に、そして美琴の前にも置いた。

娘に見えないような角度で顔を当麻に向け、ウインクを送りながら。

一瞬当麻はどきっとするが、どこかで聞いたその言葉は、瞬時に当麻にあの時の様子を思い出させた。 

(え? ……あ、そうだった、『美琴ちゃんはパス』だったよな)

断崖大学データセンターで、スキルアウトに襲われた美鈴を当麻が文字通り体を張って助け出した、あの時だ。



――― 美琴を巻き込んだら、私はもうあの子に顔向けできない ―――



死ぬかも知れないその時に、美鈴が言った言葉が甦る。

「い、いえ、とんでもない。僕の方こそ、みこ、いや御坂さんにはとってもお世話になってますんで」

どぎまぎしながら当麻は答えを返す。

そんな当麻をニコニコしながら見ている美鈴。

二人の様子に何やらありそうな、と気が付いた美琴が、すぐさま突っ込んだ。

「へーぇ、今のやりとり聞くと、母さんとこいつ、なんかあったワケ?」
483 :LX [saga sage]:2012/01/22(日) 20:57:16.53 ID:YlqCPHyk0


(ホントこういうところ鋭いよな、こいつ) 

一瞬当麻の顔が強張るが、さすが美鈴はぴくりともしない。年の功であろうか。

「そうよー? なぁに、美琴ちゃん、羨ましいのかなぁ?」

はっはっはっ、と言う調子で娘のツッコミを軽くいなす美鈴。

「羨ましいって、そんなことあるわけ無いじゃない!」

「じゃあ、教えてあーげない、っと」
 
(さすが母親、娘の性格よく掴んでるなー)

当麻は当たり前のことながら、母・美鈴のあしらい方に感心する。

「ちょっとあんた、母さんと何があったのよ? 今までなんで黙ってたのよ?」

母には勝てない、と見切りを付けた美琴はもっぱら当麻へと突っ込むことにしたらしい。

「ごめんなさいね、上条さん。ホントこの子、女の子なのにガサツで。こら、ちょっと美琴? 言葉遣いに気を付けなさい! 

大事な方なんでしょ? なんですかその言い方。『こいつ』だの『あんた』だの、どういう事? はしたないったらありゃしない。

そういう言葉遣いはやめなさい!」

真面目な顔になった美鈴が美琴を睨み、叱りつける。

へー、と言う感じで当麻は美鈴の怒った顔を見つめる。初めて見る、美鈴の怒った顔だったからである。

「う……ご、ごめんなさい」

不満たらたらの顔で、美琴は不承不承当麻に頭を下げる。

「美琴ちゃん? あなた、もう大人なのよ? 中学生の子供じゃあるまいし、そんな蓮っ葉な言葉遣い、まだしてるの? 直らなくなるわよ?」

美鈴はまだ追及の手を緩めない。

(いやぁ、もう手遅れです、昔から全然変わってないですよ、って言ったら死ぬな)

そう心の中で突っ込んだ当麻は、美琴の視線を感じて彼女の顔を盗み見る。

(あんた、覚えてなさい! あとで、ひどいから!!) 彼女の目はそう叫んでいた。

不幸だ。 そう当麻はつぶやいた。また俺が悪いのか、美琴? と。



――― カンカンカン ―――


ドアをノックする音が響いた。

三人はハッと顔をあげる。当麻と美琴はびくっとし、身体に緊張が走る。

「おお、ようこそ、上条くん。私が御坂旅掛(みさか たびかけ)、美琴の父です。以後よろしく」

扉を開けて入ってきた男はそう名乗った。
484 :LX [saga sage]:2012/01/22(日) 21:04:15.54 ID:YlqCPHyk0


-----------------------------

冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>の病院の女性専用宿舎。

御坂妹こと検体番号10032号は同じ妹達<シスターズ>の一人である検体番号13577号と共に、彼の病院で看護士として働いていた。

一応、担当病棟は別になっており、ローテーション組もずらしてあるので、二人が出くわすことは殆ど無い。

(作者注:ここからまた、検体番号10032号を御坂妹と記します)



(今日は、あのひとと、お姉様<オリジナル>は……)

昨日の夜から、御坂妹は寝付けなかった。

検体番号10039号と19090号から流れてきた、お姉様<オリジナル>の影武者仕事、そして「あのひと」の護衛兼トランスポーターの仕事。



検体番号10039号は無邪気に喜んでいた。彼女は人をあまり疑わない、そして明るい性格だった。このミサカとは違う、天真爛漫に。

そして、彼女は「純粋に」あのひとに憧れていた。そう、少し前の、このミサカのように。

一方の検体番号19090号は、久方ぶりの荒事、というので興奮していた。

最初、彼女は完全武装してお姉様<オリジナル>の寮へ深夜潜り込む、と言い張ったくらいだ。

しかし、「万一発見された場合でも一般人相手なんだから、能力による制圧も武器による制圧も不可よ」と聞かされると、彼女は意気消沈してしまった。

加えてしかも、あの白井黒子<へんたいゆりおんな>のサポートが付く、というのでは確かに違う意味で彼女が身の危険を感じるのも無理はない。



御坂妹はネットワークから離れた。

(このミサカは、どうしたいのでしょうか……どうすればよいのでしょうか……)



そんなこんなで結局夜が明けた。彼女はどうしようもないもやもやした気持ちのまま、「あのひと」に電話を掛けた。

満足に寝ていない酷い顔を見られたくないから、音声通話で。

いつもの、いつもの「あのひと」の声が。

全然わたしの、この気持ちに気が付いてくれない、あのひと。

悲しい。悔しい。どうして……あなたは、どうしてそうなのですか? あなたは、どうしてわたしを……ああ。

気が付けば涙が流れていた。



言えなかった。

「行かないで下さい」と。
485 :LX [saga sage]:2012/01/22(日) 21:08:06.23 ID:YlqCPHyk0

(このミサカは『あのひと』に嘘をつきました)

彼女は今日は休みだった。いや、休みにしてあった、と言うのが正しいだろう。

なぜなら、集中して仕事が出来るような精神状態を保てるかどうか彼女には自信がなかったからである。

年休を申請した時は、実はそこまでは考えつかず、どちらかと言えば反射的に出したのであったが。

(いざ今日になってみると、情けないことにこのザマです。正解でしたとミサカはため息をつきます)

と彼女は自嘲の笑みを浮かべた。

(こんな状態ではとても医療勤務につけません、とミサカは冷静に自分の精神状態を分析します)



のろのろと彼女は寝間着を脱ぎ、シャワーを浴びに浴室に入った。

熱いシャワーを浴びながら、彼女は意識をミサカネットワークに繋ぐ。

いきなり膨大な数の声が、視覚が流れ込んでくる。

その中で彼女は検体番号10039号を探す。

いた。

恐ろしい勢いで風景が流れてゆく。バイクのエンジン音が、風切り音が飛び込んでくる。

ひたすら前を、時折ミラーを見て、追跡者の有無の確認をする。

(ひとり、なのかしら)
(まだ、あのひととは会っていないのかしら)
(いっそ会えない方がいいのに)

「ミサカ〜誰も付いてきてないから少しスピード落としてくれよー」

ふいに、男の声が聞こえて来た。

御坂妹はビクッと体を震わせた。その声は、まちがいなく、あのひと。

(あなた……乗っているのですね) 

10039号のうしろに、彼女にしがみつく形で、あのひとが、そこに。

「いえ、油断は出来ません。今は朝の通学時間帯です。渋滞に引っかかれば簡単に追いつかれます。稼げるうちに距離を取る必要があります!」

御坂妹の思念に気づかないのか、10039号の凛とした、でもどこか嬉しそうな声が流れてくる。

(もう、たくさん。これ以上聞きたくありません)

彼女・御坂妹は鬱々とした思いを抱えたまま、再びネットワークから離脱した。
486 :LX [saga sage]:2012/01/22(日) 21:16:46.57 ID:YlqCPHyk0




――― 激痛が足に走った。

自分の足が吹っ飛んで行くのが見える。上から何かが降ってきた? いきなり頭に重い衝撃が来て、視界が消えた。



――― スコープに捉えた目標に向けて、ライフルを撃ち込む。

その直後、閃光と爆音、そして熱い金属が体中にねじ込まれて痛さのあまり気が遠くなる。



――― 目の前で爆発が起き、自分の身体が高く宙に浮き、紅蓮の炎が自分を包む。熱い! と思った瞬間、意識は飛んだ。



――― まわりには、死んでいるミサカが何体もあった。私が最後のミサカ。

ふいに目の前に何かが飛んできて、いきなり世界がぐるっと廻り、目の前が真っ赤になった。熱い液体が顔にかかる。

あれ、あれは誰……頭がない? 直後に、音のない、闇の中へ。



――― 赤い目をした、白い髪の男が、口をゆがめながら「さーて質問です」と話しかけてくる。

遠くに聞こえるその声に何か言おうとしても、思うように口も身体も動いてくれない。

不意に何かが右肩の傷口に触れた。

激痛が走ると同時に、胸が、心臓がぐわっと膨張し、身体じゅうが裂ける感触の後、世界が消えた。



――― 地面に叩きつけられ、わたしは息が出来ない。

いつもの、白い髪の、赤い目をした怪物が何か言っている。

「オイ……この場合、実験ってなァどォなっちまうンだ?」

息が苦しくて、身体のそこここには激痛が走り回り、わたしは何も答えられない。



      ――― 離れろ ―――

あ。

  ――― 御坂妹から離れろっつってんだよ! ―――

ああ。

その声は。



「あなた!」



御坂妹は飛び起きた。
487 :LX [saga sage]:2012/01/22(日) 21:23:10.69 ID:YlqCPHyk0
>>1です。

本日分の投稿は以上です。
現在、週一投稿になってしまってます。本来なら10コマは投稿したいのですが、なかなか巧く行きません。

頑張りますので宜しく御願い致します。
それではお先に失礼致します。おやすみなさいませ。
488 :LX [saga ]:2012/01/29(日) 19:44:14.17 ID:HEl0hJis0
皆様こんばんは。
>>1です。

本日分、これより投稿致しますので宜しく御願い致します。
489 :LX [saga sage]:2012/01/29(日) 19:45:58.70 ID:HEl0hJis0

そこは、見慣れた自分の部屋。これといって装飾もない、すっきりとした、悪く言えば殺風景な部屋。

(ああ……いつの間にか、ミサカは寝てしまっていたのですね)

ベッドの上に、バスタオルを身体に巻いたただけの姿。髪は中途半端に乾いたためにぐしゃぐしゃになっている。

(あれは……ミサカ達の記憶……恐ろしかった)

ブルッと御坂妹は身体を震わせる。

――― あ、起きた! ―――

ミサカの声が聞こえた。

御坂妹は、ミサカネットワークに繋がっていたことを確認すると、直ちに遮断した。



世界中に散らばっている妹達<シスターズ>。

彼女らが夢を見ている時に、まれにではあるが自動的にミサカネットワークに接続されてしまう事があり、その場合は他のミサカたちに夢は筒抜けになる。

最初の頃こそ皆面白がって話のネタになっていたが、今ではむしろ厄介ものであり、ミサカ達の不満の一つになっていた。

何故かならば、地球の反対側にいるミサカたちはちょうど起きている状態の為、彼女らは正真正銘の「白昼夢」を見させられるからである。

そして、あれから6年が経とうとしているが、妹達<シスターズ>の何人かは今までにその夢を見たことがあった。

「あの実験」の悪夢を。



――― ピーンポーン ピーンポーン ピーンポーン ―――



不意にオートロック装置のチャイムが鳴る。

(誰が来たのでしょうか? これは珍しいことです)

ベッドの脇にあるオートロックのタッチボタンを触るとモニターにはメルメットを被った女性の姿が映った。

「検体番号10032号? ひとに悪夢を見させておいて、自分はさっさとネットワークから落ちるとはいったいどうしたのですか? 

検体番号13577号によれば今日は休みだそうですが、また身体の具合が悪くなったのですか?」

(あ、10039号?)

直ぐに彼女はネットワークに接続する。

――― あ、10032号がまた繋がったよ、とミサカはミサカはみんなに10032号の復帰を報告してみる! ―――

真っ先に飛び込んできたのは、未だに少し幼さを残した「打ち止め」こと最終個体<ラストオーダー>、検体番号20001号のホッとした声だった。

続いて、

――― 検体番号10032号? ドアを開けて下さい、と入り口に立つ検体番号10039号は依頼します ――― 

少しばかり怒気を含んだ10039号の声が、御坂妹の頭の中に響く。

一瞬躊躇したものの、彼女はのろのろとロック解除のボタンを押した。

――― 10032号、あなたアレ見ちゃったんだね? 大丈夫? ってミサカはミサカは「生き証人」の10032号をすっごく心配してみる ――― 

また打ち止めの声が響く。

――― 大丈夫です、上位個体。身体のどこにも異常はありません、と検体番号10032号は問題がないことを報告します ――― 



――― ビー ――― 

オートロックから今度はブザーのような音が流れる。

部屋の前の呼び出しの音である。

――― 開けて下さい10032号? 検体番号10039号です ――― 

10039号がネットワークで呼びかけてきた。
490 :LX [saga sage]:2012/01/29(日) 19:53:14.21 ID:HEl0hJis0
*御坂妹の寮で向かい合う二人の妹達<シスターズ>

具合はいいの? と心配そうな顔で尋ねるのは検体番号10039号。

「どうしたのですか、検体番号10032号? 顔色は良くないようですが? と検体番号10039号は質問を投げかけてみます」

若干青白い、かつての無表情で答えるのは御坂妹。

「その前に、貴女に御願いがあります、とミサカは検体番号10039号に交渉を開始します」

「なんでしょうか?」

「少しの間、ネットワークから外れて欲しいのです」

――― えー、二人揃って? それはあまり好ましくないなー、とミサカはミサカは難色を示してみる ――― 

最終固体<ラストオーダー>の不満そうな声が二人の意識に飛び込んでくる。

「聞いての通り、上位固体<ラストオーダー>は拒否していますが? とミサカは検体番号10032号に返します」

「病院内の一般人に関する話なので、個人情報保護の観点で御願いします、とミサカは押し返します」

そう言うと、御坂妹はミサカネットワークを遮断した。

「では仕方ないですね」

――― ちょっと! 10032号は勝手に切っちゃうし、大体それ本当な ――― 

最終固体<ラストオーダー>が叫んでいる声は途中で切れた。

「ミサカネットワークを遮断しました、とミサカは検体番号10032号に緊急措置を取ったことを伝えます」

そういうと、10039号はニコッと微笑み、

「さあ、これで邪魔者はいません。あのひとの話をしたいのでしょう? と、ミサカはドヤ顔で検体番号10032号に迫ってみます」

御坂妹の顔に浮かぶ緊張の色が少し緩んだ。

「うまくいきました。ですが、その前に検体番号10039号にもう一つの提案があります」

「なんでしょうか?」

「そのレーシングスーツを脱いでシャワーを浴びて来てはどうでしょうか?とこのミサカは提案します」

「そうですね! いいのですか?とミサカはその申し出を受ける気満々で返事を返します」

「かまいません。そころでお腹は空いていませんか?とミサカは検体番号10039号に更に魅力的な打診をしてみます」

「そういえば、出がけにおにぎりを1コかじっただけでした、と思い出した瞬間にミサカは空腹に気が付いてしまいました。

検体番号10032号は朝食は済ませたのですか? とミサカは部屋主の検体番号10032号に確認を取ります」

「いえ、まだです。それでは検体番号10039号がシャワーを浴びているうちに、このミサカが朝食の準備をしておきましょう、と商談が成立したことをここに宣言します」

「これは取引なのですか?とミサカは検体番号10032号にマジレスしてみます」

「シャレです、気にしないで下さい、とミサカは華麗にスルーを推奨します」
491 :LX [saga sage]:2012/01/29(日) 19:54:41.31 ID:HEl0hJis0

「♪〜」

浴室では、一仕事終えた10039号が鼻歌交じりにシャワーを浴びている。



御坂妹はトースターにパンを入れ、スイッチを押す。

テーブルには、フレッシュサラダのボウル、ドレッシング3種。

軽く焼いた厚切りハムに目玉焼き。

缶詰を開けたフルーツとヨーグルトのカップ。

コーヒーの香りが部屋を満たす。

一通りの準備は終わった。

「さて、こんなものでしょうか。いつもよりは少し華やかになりましたね」

御坂妹は独り言をつぶやく。

自分一人の時は、ここまでは手を掛けないことが多いからだ。

(そろそろパンも焼き上がるのですが、10039号はまだなのでしょうか)

彼女は脱衣場のドアを開けてみた。

(あ、これ……)

ハンガーに掛けられたレーシングスーツ。

思わず御坂妹はそのスーツにそっと触れてみた。

(これを着た検体番号10039号の後に、あのひとが……)

彼女自身はバイクを運転したことはない。

しかし、他の妹達<シスターズ>にはもちろん沢山いるので、その記憶は共有出来ており、およそどのようなものかは見当が付く。

御坂妹は、自分がバイクを運転して後に上条当麻を乗せている姿を想像してみた。

(あのひとの手が、私の腰を抱いて……)

その時の感触を想像してみるのだが、いかんせん本人の検体番号10039号は肝心のその時には全く意識を払っておらず、また御坂妹も直ぐにネットワークを遮断してしまった為に、彼女は何も得ることが出来なかった。

実際にあのひとを乗せて走ったことのあるミサカは、今シャワーを浴びているゴキゲンな10039号以外には、いない。

(今から思えば、なんというもったいない事を……でも、他のミサカも何も得られなかったのですから良しとしましょう)

「そこで何をしているのですか、検体番号10032号?」

不思議そうな顔で彼女を見つめる10039号が目の前に立っていた。
492 :LX [saga sage]:2012/01/29(日) 19:58:26.27 ID:HEl0hJis0


「検体番号19090号は優雅に朝からスパを楽しんでいるというのに……このミサカはあれだけ働いたのに」

ブツブツと文句を言いながらバタートーストをかじる検体番号10039号。

しかし、彼女の顔は言葉とは逆に明るい。

「何を言っているのですか、検体番号10039号? 貴女は他のミサカには出来ない経験をしてきたではありませんか?」

ムッとした顔で彼女を睨む御坂妹。

「そうかもしれませんね。週末のツーリングの約束も取り付けたことですし、とこのミサカはライバルを一歩出し抜いた満足感に浸ります」

うふふ、という顔で笑みを浮かべる10039号。

「それは聞き捨てならない発言です、とミサカは詳細を聞くべく身を乗り出します」

なんですって? と言う顔で10039号を見つめる御坂妹。

「それはこのミサカのプライベートな事ですから、他のミサカに広く周知徹底するようなまねは慎むべきと考えます」

斜め上を見て、知ーらないっと、と言う顔をする10039号。だが、御坂妹は、彼女の顔に自慢げな笑みが溢れていることを見逃さない。

「貴女はこのミサカに一宿一飯の恩義があります。ですからこのミサカにはその話を聞く権利があると声を大に主張します」

「一宿はしていませんが、一飯と一風呂の恩義はあるかもしれません、とミサカは冷静に答えを返します」

そう言い返した10039号は、御坂妹の顔を見つめる。

「ほほう? 検体番号10032号の頭には血が上っているようですね。先ほどよりは随分血の巡りが良くなっているようです、と派遣労働者のこのミサカは看護士の検体番号10032号の体調の変化をチェックしてみます」

「その言い方……貴女はこのミサカが羨ましいのですか?」

無表情の御坂妹が10039号を睨み付ける。



「……羨ましいに決まっています、と検体番号10039号は冷たく言い放ちます」

少しの間をおいて、そう答えた10039号はバスタオル1枚の姿のまま席を立ち、浴室の方へ歩いてゆくと、携帯を持って帰ってきた。

「ですから、このミサカには、検体番号10032号を羨ましがらせる権利があります」

そう言うと、彼女は携帯からスクリーンを引き出し、そこに絵を映し出す。

そこには、あのひと、ヘルメットを小脇に抱える上条当麻と、レーシングスーツ姿の検体番号10039号が並んで立っていた。



……但し、二人の間には、すこしひきつった顔の御坂美琴<お姉様>が割り込んでいたが。
493 :LX [saga sage]:2012/01/29(日) 20:04:52.63 ID:HEl0hJis0

自慢げに「三人」の記念写真を御坂妹に見せる検体番号10039号。

写真の中のレーシングスーツ姿の10039号もまた、嬉しそうな笑顔。

すこしへばっているのか、なんとなくギクシャクとした笑顔のあのひと。

そして、二人の間に、必死になって割り込んでいるお姉様<オリジナル>の真剣な顔。

(お姉様<オリジナル>、なんと大人げないことを)

御坂妹はこらえ切れずに「ふふふふふ」と笑い声を小さく立ててしまった。

「何がおかしいのです、検体番号10032号? ひとの写真を見て笑うとは無礼ではないですか? と検体番号10039号は怒りを抑えて警告を発します」

かなり機嫌を損じたらしく、目をつり上げた10039号の顔には赤みが差している。

バスタオルが落ち、すっぽんぽんになっていることにも彼女は気が付いていない。

「笑ったのは、貴女のせいではありません。気分を悪くしたのであれば謝ります。大人げないお姉様<オリジナル>の顔が面白かったのです、と
このミサカは怒り心頭に発している検体番号10039号に言い訳をします」

そう言って御坂妹は陳謝の意を込めて目を伏せた。

「確かに、まさかお姉様<オリジナル>が割り込んでくるとは思いませんでした、とこのミサカもお姉様<オリジナル>の無粋な行動に強い遺憾の意を表します。

お姉様<オリジナル>はこれからしばらく当麻さんと一緒なのですから、せめてこのミサカに感謝の意味を込めて1枚くらいはツーショット写真を撮らせる度量の広さがあっても良いではないか、とミサカは今頃になって抗議の声を上げます」

「このミサカも全くもって同意しますが、その怒りをこのミサカにぶつけないで欲しい、とささやかな御願いをこのミサカは10039号に御願いします」

……その後、ひとしきりお姉様<オリジナル>への不満をぶちまけた10039号は、言いたいことを言い尽くしたのか会話がとぎれた。

我に返った10039号と御坂妹とが顔を見合わせる。

「言いたいことは全部済みましたでしょうか? とミサカは確認を取ります」

「ええ、終わりにしましょう。パンもコーヒーも冷めてしまいました」

二人の口論はとりあえずここで一件落着、と言うことで、御坂妹はコーヒーを入れ直し、10039号はテーブルの上のパンをレンジに入れて暖める。

「ところで、貴女はいつまで全裸でいるのですか、女性同士とはいえ、はしたないですからせめて下着くらい付けなさい、と部屋主の威厳を持ってこのミサカはすっぽんぽんの検体番号10039号に注意を促します」

「その警告には全面的に同意しますが、検体番号10039号はあのスーツ以外に何も持ってきていません、と実情を吐露します」

「世話が焼けるミサカですね、とこのミサカはため息をつきます」

「何を言うのですか、学園都市にいる4人のミサカのなかで、一番動静がつかめない検体番号10032号を心配したからこそ、予定外の行動をこのミサカは取ったのですから、その責の一部を検体番号10032号が負うのは理にかなった事と考えます」

「別に何も心配するようなことは起きていません、このミサカは無事ですと先ほども上位個体に状況報告をしたばかりです、とミサカはもう一度
貴女に特別に報告を行います」


その答えを聞いた10039号は少し躊躇いつつ再び彼女に言葉を返した。

「……あの夢を見るミサカは、おそらくもう貴女だけでしょう、と検体番号10039号は『唯一の生き残り』である検体番号10032号に事実を突きつけます」

え? という表情を浮かべる御坂妹だった。
494 :LX [saga sage]:2012/01/29(日) 20:31:33.08 ID:HEl0hJis0

なんやかんやとあちこちに脱線を繰り返しながらも、二人の朝食はようやく終わっていた。

「借りておいて失礼ですが、少しこのブラはこのミサカにはきついようです、と遠慮がちに検体番号10032号に状況を伝えます」

「それは暗に、検体番号10039号はこのミサカよりも胸が大きいと自慢しているのでしょうか、とミサカは内心の動揺を隠して反発を試みます」

「事実を述べたまでです、とこのミサカは回答します。更に言えば、クローゼットの中を見た限りでは検体番号10032号のファッションはあまりに色気がありません。

もう少し女の子らしいものを選ぶべきです、とあえてライバルにアドバイスを与えて度量の大きさを見せつけてみます」

「このミサカは病院勤めですから、患者に不要な刺激を与えるような服装は出来ないのです、とミサカは厳しい状況を伝えてみます」

「休日があるではありませんか、とミサカは検体番号10032号に追い打ちを掛けてみます」

「休日とはいえ、いつ何時緊急呼び出しがあるかもしれませんし、実際に何度もこのミサカは臨時出勤したことがあるのです」

「では、検体番号10032号はショッピングやスイーツ食べ歩きなどをしたことがないのですか? ミサカは信じられません、と驚きをあらわに発言します」

「その通りですが、とミサカは検体番号10039号の発言を肯定します」

「……」

10039号は黙ってしまう。しばらく沈黙が支配するなか、10039号が意を決したように言った。

「わかりました。では今日、特別にこのミサカが検体番号10032号に人生の楽しみを教授して差し上げましょう、と結論を述べます」

「いえ、お気遣いは嬉しいのですが」

「異論は認めません。検体番号10032号? お互いせっかく拾った命なのです。有意義に使わねば、助けて頂いたあの方にも、お姉様<オリジナル>にも申し訳がたちませんよ? さぁ出かけましょう!」

かくして、10039号は、しぶる御坂妹を引きずり出し、街へ繰り出す段取りを付けた。

「それで、どこへ行くのですか?」

「第十五学区へ向かいます、とミサカは宣言します」

「よくわからないので、ミサカはおとなしく子羊のように10039号にドナドナされることにします」

「それは正確には仔牛ですが、とミサカはネタにマジレスしてみます」



色気がない、と10039号に言われたことで、あのひとが全然振り向いてくれない理由はそこにもあるのかもしれない、と御坂妹は考えていた。

(このミサカも、少し積極的になってもいいのかもしれません、ね)
 
495 :LX [saga sage]:2012/01/29(日) 20:38:49.40 ID:HEl0hJis0
>>1です。

本日分の投稿は以上です。相変わらず少なくて申し訳ありません。
妹達<シスターズ>の会話ですが、かなり長いものが多くて苦労しました。
改行はこれで良かったのか少し心配ではあります。

もうすぐ500になろうとしてますが、我ながら回りくどくてなかなか山場に到達できてません。
なんとか春までには……

それではお先に失礼致します。
496 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage saga]:2012/01/30(月) 00:01:06.58 ID:QEP6df0l0
乙!
497 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/30(月) 00:59:49.36 ID:K5SD8dyXo
乙ですの
498 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2012/01/30(月) 11:51:48.65 ID:s4x/fqnAO
今追いついたぜ乙
前スレから一気読みしてきたからかわからんが、昼ドラ展開には違和感感じないな
偉い人なんて大抵私生児の1人や2人いるもんだから、上条さんや御坂妹がゲスって言ってる奴らには落ち着いてもらいたいね
NTR大好きです(*´∀`*)
499 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/31(火) 00:16:17.78 ID:2YSU7b3B0
>>1乙。
前作および第1部の年齢関係から、10032号が妊娠するまで、数ヶ月以内、早けりゃ上琴コンビが戻ってきてすぐってとこか?
あまり時間がなさそうだな。
だとしたら、一気に積極的になりすぎだろう…。
いいぞ、もっとだ、一気にNTってくれ。
500 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/31(火) 01:20:16.18 ID:26dC64W/o
普通の人間の感覚じゃゲスって感じるのは当たり前だわな
現実的にも禁書の設定的にも
偉い人には〜とかドラマの見すぎな人間の感覚はわからん
501 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2012/01/31(火) 13:22:26.96 ID:ijXhrK4AO
>>500
ドラマの見過ぎじゃなくてエロゲーのやりすぎだろう
502 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/31(火) 17:38:17.09 ID:VRnc4oMDo
別に恋愛観なんて考え方は様々だけど、
妹達を半分人質みたいにされて脅迫まがいに言われるのを耐えてる美琴って描写のすぐ後に
横恋慕で上条さんかっさらおうという妹達の描写があるんで
嫌な印象抱き易いのも仕方ないとは思う
503 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/31(火) 18:53:20.27 ID:Uh6jRudt0
姉の心妹知らず、って事さ
504 :LX [saga]:2012/02/05(日) 20:07:56.22 ID:wkzQzq6H0
皆様こんばんは。
>>1です。

コメント沢山頂きホッとするやら嬉しいやら。有り難う御座います。

>>496>>497さま
有り難う御座います。頑張ります。

>>498さま
前作からお読み頂いたとのこと、感激です。有り難う御座います。

余談ですが、先日改めて過去スレの方を読んでみました。(設定条件の確認等のため読み返すことがありますが、大抵はまとめの方を使ってますもので)当然ながらまとめにはない皆様のコメントを読めるわけで、非常に新鮮でした。
有り難う御座いました。

>>499さま
非常に有益なコメントを頂戴し、誠に有り難う御座いました。
タイムコントロールは荒いものしか作ってませんでしたので、正直「え、そうなんだ」と……(アホですね
と言うわけで、巻いて参ります。

>>500さま、>>501さま、>>502さま、>>503さま、
大所高所からの視点で見て頂き、有り難う御座います。
どうしても本人になったつもりで書いてしまいますので、冷静な目も必要だなぁと改めて感じます。

それでは本日分、これより投稿致します。
505 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/02/05(日) 20:09:49.56 ID:dcjoZ77po
舞ってた
506 :LX [saga sage]:2012/02/05(日) 20:12:49.08 ID:wkzQzq6H0

一方、御坂家では……



「うちの美琴がずいぶんと世話になっているそうだね。ありきたりだが、お近づきの一杯だ。まぁ飲め」

御坂旅掛がぐい呑みを当麻に渡し、2合徳利から酒をなみなみと注ぐ。

「はい。頂きます」

こうなることを予想していた当麻は、息を整えてぐいっと一気に飲み干す。

「ほう、いけるじゃないか。空、ということはもう一杯だな」

「お父さん、ちょっとまだ昼……」

美琴が止めろ、と言うニュアンスで口を挟むが、旅掛は意にも掛けず、逆に

「む? なんだ、お前もお相伴に与りたいのか? ああ、そうか。そうだったな。おめでとう美琴。

まぁ確かに今日から堂々と飲めるわけだな。いやぁ、娘と一緒に酒が飲めるとは、これは実に嬉しいことだ。うむ。父親冥利に尽きるな」

と、旅掛は一人で合点している。

「誰が昼間っから酒飲むって言ったのよ? ……ったく、勝手に決めないで欲しいんだけど?」

「あ〜ら美琴ちゃ〜ん? 何無粋なこと言ってるのかしら〜? 貴女も目出度く二十歳になったんだから、今日はお祝いなんだから〜♪

パパとママの娘が飲めないわけがないでしょう? ほらほら、しかめっ面してないの。シワが増えちゃうわよ?」

さーて、それじゃいっちょ始めるか、と言う感じで純米大吟醸のボトルとグラスを持って美鈴が割り込んでくる。

それを見た当麻は、またあの時の美鈴を思い出し、思わず声に出してしまう。

「あ、あの〜美鈴さん、酒はほどほどにしておいた方が……」

「ん?」
「何?」

父・旅掛と娘・美琴が「どういうこと?」と言う顔で同時に当麻を見る。4つの目で見すえられた当麻は瞬時にやばい、と悟る。

「い、いやその、一人くらいはしらふでいた方がいいんじゃないかな、と思いまして……」

「ちょっとあんた、私が飲むって勝手に決めつけないでよ! ……アンタ、まさか……母さんと飲んだことがあるってわけ?」

(うわー、ヤビヘビ! やっぱ黙ってれば良かった……最悪ですよ当麻さんは)

鋭く突っ込んでくる美琴。どうしたものかと頭を抱えてしまう当麻を救ったのは、やはりこの女性。

「あ〜ら美琴ちゃん、あなた、飲まなくて良いわよ? ……もう、飲んでもいないのにそんな絡むようじゃ、貴女に飲ませたらとんでもないことになりそうだもんね」

いたずらっぽい顔で美鈴が美琴に突っ込む。

「ちょっと酷いってば、母さん。私、絶対にそんな醜態さらさないから。わ、私がそんなわけないでしょ?」

「あらそう? ホントかしら?……じゃぁ試しにちょこっと飲んでごらんなさい? 軽くでいいから」

「おう、そうでなくちゃな。今日は美琴の目出度い日なんだからなぁ、本人のお前が飲まんでどうする? じゃぁ、それはワシが開けてやろう、いいな?」

かくして、当麻のミスは美鈴が巧妙に話をすり替え、逆に美琴はお祝いとはいえ、大吟醸を飲む事になってしまった。

未だ日も高い、午後の昼下がりに。
507 :LX [saga sage]:2012/02/05(日) 20:18:59.83 ID:wkzQzq6H0

そして、およそ1時間後。



「ははは、どーしたとーまクン、参ったならまいったと言いたまえー。この旅掛ぇー、決して無理強いはせんぞーぅ?」
 
相当御機嫌なのは御坂旅掛。

「はは、み……さか……さんって、強いですね、うー、ふ」

かなり青い顔になっているのは上条当麻。

そして、ソファにひっくり返っているのは御坂美琴。真っ赤な顔で荒い息を吐き、少し苦しそうに寝ている。

「あーらー、ちょっと残しちゃったわねー。高いお寿司だったのにー。あー、もったいなーい。冷蔵庫にいれとこっかー?」

こちらもかなり出来上がっている御坂美鈴。

彼女の手元もかなり怪しいが、食い散らかした寿司をしまおうと考えられるだけ、まだ余力があるようだ。

「で、だ。上条、くん?」

「なん、です。か?」

「美琴、はどうなんだ? いや、どう、したい?」

「は、はい」

当麻は青い顔を上げて、旅掛を見る。

「僕には、もったい、ないくらい、の、女の……子です」

「ほう」

「正直、ほんとに、いいのか、とも、思い……ます」

「だけど、あい、つは、僕を……だから、僕も答えなきゃいけない……と、思うんですよ」

「む……」

旅掛は黙ったまま、たどたどしくしゃべる当麻を見ている。

「僕は……でも、まだ、この先が、全然決まって……ません」

「……」

「僕は……あいつを、幸せに、あいつの、その……うーん、世界を、護ると、決めて、ます」

「……」

「学生でした、から、それで……良かった。でも、社会人に、卒業したら、どう生活するのか……見えてません」

「どう食っていくのか、ちゃんとした、人間になって、こそ、あいつに、ふさわ、しい男に、ならなきゃ、なって、初めて、僕は……」

「ふむ」

「すいません。ちゃんと、独り立ち出来たら、したら、僕は」

当麻はぐらぐらしながらも、精一杯しゃんと背を伸ばした。

「きちんと、改めてご挨拶、に、参ります。彼女、に結婚、を申し込みます」
508 :LX [saga sage]:2012/02/05(日) 20:24:49.57 ID:wkzQzq6H0

「そうか。わかった。……美鈴、みすず、違う、水だ、彼に水を持ってきてくれい」

「はーい。ここにあるわよー?」

冷やしてあったボトルからコップに水を注いで、美鈴が当麻に渡す。

「ほら、上条くん、飲んで。大丈夫かな?」

あららーちょっと飲み過ぎちゃったわねー、と彼女はつぶやきながら、水を飲む当麻を見る。

「はー、生き返り、ましたー」

少し落ち着いた顔の当麻。

「貴方も、真面目な話するんならー、こんなに飲ませたらダメでしょーが!」

美鈴が旅掛を軽く睨む。

「んー? 男、たるもの、好きな女の家に来たら、それくらい覚悟しておくのが当然、じゃないかね?」

「あー、自分のこと、棚に上げちゃってー。貴方、私のとき、そんな覚悟してたっけー?」

ケラケラと笑う美鈴。

「昔のことは、忘れた」

そう言って水を飲む旅掛。

「あ〜ら、都合良く忘れるのねー、ふ〜ん、そうなんだぁ?」

そう突っ込んでおいて、美鈴は当麻を見る。

「あなた、就職先見つかってないの?」

「は、その、通りなんです」

当麻が頭を垂れる。

「僕、あんまり成績良くないんで……それに、無能力者だと、ホントに求人少ないんですよ、あそこは」



「いいんだってば……、わたしが、働いて、稼ぐんだから、アンタは……気にしなくていいんだって」

「はい?」
「なに?」
「え?」

ソファに寝ていたはずの美琴が身体を半分起こして、当麻を見つめていた。

一筋の涙がつーっと彼女の頬を滑って落ちた。
509 :LX [saga sage]:2012/02/05(日) 20:28:07.19 ID:wkzQzq6H0

「止めてくれ、美琴」

「なんでよ、いいじゃないの。アンタはね、今まで、今までずーっと命を張って、傷だらけになって、ずっと闘ってきたのよ?」

「違う、違うんだ、美琴」

「違わない!」

泣き顔の美琴はふらふらと歩き、ばさっと脇から当麻にしがみつく。

「こら、美琴、みっともない」
「美琴ちゃん、ちょっと、離れなさい?」

両親は驚くが、美琴はフルフルと頭を振り、当麻を見つめて言葉を続ける。

「嫌なの。もう沢山。あんたが北極で、海に沈んだ時、私がどんな思いだったかわかる? 

ううん、アイツと闘ってボロボロになったときだってそう。

アンタはもう十分、他の人が一生かかっても出来ないくらいのことをずーっとやってきたの!」

そこまで言うと、美琴は咳き込んだ。

「美琴、ま、まず水飲めよ、な?」

「うん」

当麻は自分の飲んだコップに水を入れ、美琴に渡すと、彼女はなんのためらいもなくごくごくと飲み干した。

中学生ならば(わー、間接キスだー♪)と囃すところだろうが、二人の仕草はなんら不自然さを感じさせないものだった。

(はーぅ……なんか、もう夫婦って感じじゃない?)
(あの子が、なぁ……大きくなったもんだな)

旅掛・美鈴の両親は、若い二人をほほえましく見る。

「その……、フィアンマの時のことは、すまない、と思う。でも、俺はあの時、お前と一緒に逃げるわけにはいかなかったんだ。

アレをあのまま落としたら、世界は」

「だから! アンタは、いっつもそうやって一人で抱え込んじゃうから、ダメなのよ!

どうしてあんたは一人で突っ走っちゃうの?

どうして、なんで一人で何とかしようって考えちゃうの?」

「み、こと……」

「そんなに私が信用できないの? 信用してよ! 信じてよ、御願いだから、ねぇ、当麻ったら!?」

「……」

「ね?」
 
そういうと、美琴は当麻の唇に自分の唇を押しつけた。

「む……!?」
「……」


目のやり場に困ったのは両親の二人。

(わしたち、お邪魔、だな?)
(ううん、いいわねぇ〜若いって……でも美琴ちゃんも随分正直になったわよねぇ……昔はちっとも素直じゃなかったけど、うふふ)
510 :LX [saga sage]:2012/02/05(日) 20:32:38.63 ID:wkzQzq6H0

当麻は美琴の肩を優しく押さえ、彼女と少し距離を取る。

不満そうな美琴の顔。

「わかったよ。……それは、よくわかってるさ。俺だってまだ死にたくないし」

「だったら!」

「だから、別にそんな無茶するようなことはもうしないって。それに、無茶って言ったら、お前だって相当なもんだぞ?

いくら……、おまえがレベル5だからって、限界ってもんが、あんだろが?」

「ふーんだ。悪いけど、アンタよりその限界はずっと上なんだけどな」

「……その通りです」

「わかれば、よろしい……ふー。水、もう一杯ちょーだい?」

「ああ。……ほら」

「ありがと。……って、あれ……これって、もしかしてアンタのコップじゃないの?」

「そうだけど、お前、さっきも飲んでたし?」

「うそー!? ちょ、ちょっと、それってアンタぁ!」

更に赤くなる美琴に、

「あ〜ら、美琴ちゃん? さっきの様子、どこのご夫婦かと思ったわよ〜?」 

ニヤニヤしながら美鈴がチャチャを入れる。

「ふ、ふ、夫婦って、ちょ、ちょっと母さんって、酒の上の発言でも、それって、それって!」

「いや、悔しいが、正にそうだったな。酒の勢いとは言え、わしらに堂々と二人の世界を見せつけるとは思わなかった。

……随分と仲がよい、ということはわしも、ちょっと面白くないがよーく、理解したがな」

「し、失礼致しました」
「ご、ごめんなさい」

当麻と美琴、二人が並んで旅掛の前で頭を下げる。

「まぁ、お前が見つけてきた男だ。お前がそこまで言うのなら間違いあるまい。美鈴も認めてるようだしな」

二人が顔を上げて美鈴を見る。

へへーんと言う顔でVサインを出す美鈴。

はぁーと脱力する二人。

「なんだ、その顔は。わしだってそれなりに調べてあるしな。ここであーだこーだ言うことでは、ないが。

まぁ美琴を選んでくれた事には、父親としては感謝する。こんなじゃじゃ馬でも可愛い娘なんでな」

「じゃじゃ馬で悪うございました! お父さん」

「こら、美琴ちゃん、黙ってなさい」

美鈴の注意が飛ぶ。
511 :LX [saga sage]:2012/02/05(日) 20:35:30.39 ID:wkzQzq6H0

「ありがとう、ございます」

当麻が頭を下げて、そして美琴を見て言う。

「あのさ、美琴」

「自分の食い扶持……っていうのかな、お前の稼ぎには、たぶん、おっつかないだろうと思うんだ、俺の、実力じゃ、な」

酔っぱらいつつも真剣な顔で美琴に話しかける当麻。

「残念だけど、たぶん、ね」

涙の跡が残る泣き顔のまま、美琴が少し微笑む。

「でも、お前にもたれかかる、ような真似だけは、したくないんだよ。笑うかも知れないけど、さ」

「わたしは……」

「さっきも言ったんだけど、自分で、ちゃんと独り立ち出来たら、食っていくめどがついたら、その時、俺、お前を迎えに行くから。

ここにまた、挨拶に来るからさ」

「あんた……」

「だから、少し待ってて欲しいんだ。頼む。必ず迎えに来るから、な?」

「わかった……待ってる」

「すまない」

「忘れたら、酷いからね」

「忘れないさ。約束だ」

見つめ合う二人。



「よぉーし、決まった!! うちの美琴と、上条くんとは、これで婚約だ! 目出度い。実に今日は目出度いな、なぁ美鈴!?」

宣言する旅掛。

「あはは、嬉しいわぁ、ようやく私に息子が出来たのねー! んもぅ、可愛い〜 もうスリスリしちゃう〜!!」

すっと身体を寄せた美鈴は当麻の頭をひっつかんでぐりぐりと自分の胸に抱きしめる。

「こらぁー、酔っぱらい〜! どさくさに紛れてなにすんのよぉぉぉぉぉぉぉぉー!」

美琴が叫ぶ。

「ちょ、ちょっと気持ち良いけど気持ち悪いんです〜 勘弁してくださ〜いぃぃぃぃぃぃ……」

不幸、いや幸せ、どっちだ? と考えるうちに当麻の意識は薄れてゆく。

「えー、気持ち悪いってそれは失礼じゃないー?」
「ちょっとアンタぁぁぁぁぁ―――!?」

という美鈴と美琴の叫びを遠くに聞きながら……。
512 :LX [saga sage]:2012/02/05(日) 20:41:04.23 ID:wkzQzq6H0

翌日。

当麻が去った御坂家。

旅掛と美鈴が話し合っている。ちなみに美琴はまだ起きて来ていない。

ぶっ倒れてしまった上条当麻を客間に寝かしつけた後、親娘3人で再び宴会が始まり、今度こそ美琴もつぶれてしまったのであった。



「ねぇ貴方、あの子の就職先、なんかいいところ知らないの?」

「むぅ……思い当たる先がないわけではない。なんせ、わしは『足らないものを示す男』なんだからな。それくらいなくてどうする?」

「さすがー。でもなんで教えてあげなかったの? 今日だって二日酔いなのに、帰って就職活動しなきゃって言って帰っちゃったし」

美琴ちゃんが知ったら怒るわよー、と美鈴がため息をつく。

「紹介するのは簡単だが、それじゃ彼のためにならんだろう? それに恐らく彼はまだ自分で見つけたいと思っているようだしな。

まぁ、就職先まで我々に斡旋してもらったのでは、彼の沽券に関わるだろうしな」

「ふーん、そんなものかしら……?」

「頑固だぞ、あの男。昨日でわかっただろう? 美琴の世話にはなりたくない、自分で仕事を見つけて、ちゃんと生活の目処が立つまでそれまでは結婚しないと言い切った。

……まぁ、あそこでホイホイ美琴のヒモになります、なんぞ言う男だったらたたき出しておったがな」

「彼はそんなこと言う男の子じゃないわよ、絶対」

「だろう? 調べた通りの男だったよ……。

調べたと言えばな、まぁ、彼の人脈は空恐ろしいものなんだよ。10代の若さで、よくもまぁあれだけ作り上げたものだ。

まだ自分ではその存在、というかその、重要さに全く気づいておらんのが惜しいところだな。あれも才能の一つだよ。

……学園都市の連中も馬鹿じゃあるまい。ま、わしが何かせんでも、恐らく向こうから接触してくるとは思うのだがな」

「あら、そうなの? だったら大丈夫、ってこと?」

「まぁな。その点はあまり気にしなくとも大丈夫だと、正直わしは思ってる。ただ、問題がないわけじゃない」

「あら、何が問題?」

「みんな女性がらみだ、ということなんだよ。まぁ彼のことだから大丈夫だとは思うが」

美琴が耐えられるかどうか、と旅掛は天井を見上げる。まだ2階から美琴は下りてこない。

「何よそれ? まるで誰かさんみたいだけど?」

美鈴がふーん、と横目でにらむ。

「おいおい、それはまさか、わしの事じゃないだろうな?」

「どうだか」

「わしは関係ないだろう? それよりだ、もう一つある。これはわしらにも大いに関係することなんだがな」

「?」

「知っているだろう? あの子の、妹達<シスターズ>のことだ」

「……そう、よね」



それきり、部屋には沈黙の時が訪れた。
513 :LX [saga sage]:2012/02/05(日) 20:48:05.68 ID:wkzQzq6H0
>>1です。

本日分の投稿は以上です。

一応、新約3巻までは読んでおりますが、次の新約4巻のあらすじ?がネットに出ておりまして、自分の設定にひっかからなければいいなーとドキドキおります。
また、独自設定で、御坂旅掛・美鈴夫妻は妹達<シスターズ>の存在を知った、知っている、ということにしてあります。

それでは本日はお先に失礼致します。お読み頂きましてどうも有り難う御座いました。
引き続き頑張ります。
514 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/05(日) 22:36:35.90 ID:yoDJcpwNo

これからの展開にwwktkしつつgkbr
515 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2012/02/05(日) 22:55:30.76 ID:HWmhmP9AO
乙なんだよ!
過去編は結果がわかってる分余計にハラハラするね
一麻くんが幸せになりますように

魔術サイドの第二世代を妄想したら楽しくなってきた(/ω・\)チラッ
516 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/05(日) 23:54:18.19 ID:PGbRj0HCo
乙ですの
517 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/06(月) 23:06:39.39 ID:WnkA2ukKo
前スレから読んでやっと追いついた
バトル描写苦手って言ってるけど、全然そんなことはないと思うぜ
518 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/06(月) 23:33:29.83 ID:tjgbZkko0
>>1乙+お詫びを。
>>499だけど>>410を失念してました。22歳だと思ってた…。
もう少し余裕がありそう…。
519 :LX [saga]:2012/02/12(日) 19:28:47.98 ID:hKj2xVWl0
皆様こんばんは。
>>1です。

今回もコメント頂きましてどうも有り難う御座いました。

>>505さま
お待たせしてすみません。しかし、早いですw
>>514さま、>>515さま、
そうですね。いよいよ接近して参りました。どう繋げてゆくのかが難しいところです。
「細けぇことは……」と仰って下さる方もいらっしゃいますが、あまりにいい加減なのはマズイですから。
>>516さま
頑張ります。
>>517さま
前作もお読み下さいまして、誠に有り難う御座います。ちびちび、ちびちびの更新で申し訳御座いませんが引き続き宜しくお願い申し上げます。
>>518さま
わざわざ有り難う御座います。
ですが、いよいよ決定的な出来事はまもなく、です。(かな? 余計な話が膨らんでますし……)

それでは、本日分投稿します。
520 :LX [saga sage]:2012/02/12(日) 19:31:05.54 ID:hKj2xVWl0

「まさか、この帽子のおかげで助かった、なんてことはない、よなぁ」

二日酔いでフラフラしながら当麻は大学の中を歩いていた。



「当麻クン? せめてこれ被っていきなさいな。うちのひとのだけど、ほとんど使ってないし。あなたのその頭、イッパツだからね?」

ウチでゆっくりしていきなさい、という美鈴と旅掛の話を「就職活動しないといけませんから」と丁重にお断りする当麻に、

じゃぁ、気休めだろうけれど変装ってことで、と美鈴が持ってきてくれたのが、帽子とサングラスであった。

いやいや結構ですから、もうお気になさらず、とこれまた断る当麻に、「わしのものは気にくわないのかね」という旅掛の一言。

(さすがに、あそこまで言われたら断れねーし)

今日は追っかけられたら走れねぇな、と独り言をつぶやきながら、それでも緊張しながら彼は入国管理所を抜けたのだが、

――― 何も起きなかった ―――

のである。昨日の朝の大騒ぎはいったい何だったのか、夢じゃなかったのか、と思えるくらい、拍子抜けの学園都市入りであった。

(結局、お目当ては美琴、ってことなんだよなー。すげーな、あいつ)

改めて、自分はとんでもない女の子と付き合っているのだ、と思い知らされる当麻であった。



「就職活動しなければなりませんし」と言い切った彼であったが、大学の就職部のウェブサイトに出ている内容はおとといと同じだった。

もしかするとウェブに載っていない情報があるかもしれない、と念のため足を運んでみたアナログの掲示板に出ている内容もまた同様であった。

(はー……あーあ。ああ見栄切ったのはいいけど、ホントどうしよう。こりゃマジでバイトで食いつなぐしかねーかも……

いやいや、そんなことだと、いつまで経ってもあいつのとこ行けないし)

だから、あたしが稼いでくるから、と言い切った美琴の顔が思い浮かぶ。

「冗談じゃねェよな。あいつの稼ぎに頼るなんて、そんな情けないことは天地がひっくり返ったってできねーよ……」



「誰の稼ぎに頼るって?」

椅子に座って二日酔いの頭をコンコンと叩いていた当麻の上から、突然女性の声が降ってきた。



「上条当麻。久しぶりだな……ってお前、酒臭いな。二日酔いか?」

「雲川、先輩……?」

まさに、雲川芹亜(くもかわ せりあ)、そのひとだった。
521 :LX [saga sage]:2012/02/12(日) 19:34:18.06 ID:hKj2xVWl0

「雲川先輩も、こういう店入るんですか?」

「お前が二日酔いらしいから合わせたまでだ。ラーメンくらいなら入るのだろう?」



二人はラーメン店で昼食を取っていた。

「あ、ありがとうございます。その通りです、ははは」

「で、どれくらい飲んだのだ? あの上条が二日酔いになるほど酒を飲んだ、ということには少々驚いているのだけれど」

「そりゃ僕だって酒飲むことくらいありますよ……昨日は確かに飲みすぎたけれど」

「御坂美琴と二人でか?」

「ぶっ! ゲホッ!!ゲホゲホッ!!! す、すいません! ゲホッ!」

「キャッ!?」

いきなり核心を突いたツッコミに、当麻はむせた。

食べかけのシナチクやらネギ、麺のかけらがテーブルに飛び散り、そのいくつかは対面に座っていた彼女の服にまで飛び散った。

「やれやれ……その調子だと図星だな。さっさと水を飲め、バカもの……あ〜あ。しかし、ちと高いものについてしまったな」

ゴホンゴホンと咳き込みつつ水を飲む当麻を、あきれた顔で見る雲川。

彼女は小脇のバックから優雅にウェットクリーナーを取りだし、服に付いた汚れを一つ一つ取ってゆく。

「あああああ、すみません、服汚してしまって。弁償します」

少し落ち着いた当麻が頭を下げるが、

「ははは、貧乏学生の上条が私に何を言うか? だいたい私の可愛い後輩でもあるお前にだ、私はそんなことは言わせないね」

どうってことないさ、と平然と答える雲川に、当麻は申し訳なさそうな顔で縮こまる。

「ああ、そうか。あのシスターは今はもういないのだったな? なら少しは経済状況は好転しているのか」

ふふーん、という顔の雲川。

「あ、あの、雲川先輩は、そこまで御存知で?」

「私が何も知らないとでも思っているのか、上条? ふふーん、そう言えば今は御坂がお前のところに出入りしているのだったな。

大食いの居候から、甲斐甲斐しい通い妻に代わったわけだから、随分と生活は楽になっただろう、違うか?」

当麻は驚きで何も言い返せない。

どこまで知っているのか、いや何でも知っていそうなこの先輩、雲川芹亜に当麻は完全に気圧されていた。

「しかし、相変わらずお前の廻りには女が常にいるのだな……。ちょっと待て、上条? もしかすると」

一旦思わせぶりに話を切った雲川は、いたずらっぽい顔になり、ニヤリと笑うと、とんでもないことを言った。



「お前には、常に廻りに女を侍らせる能力<ハーレムマスター>、とかいうのがあるんじゃないのか? 

幻想殺し<イマジンブレーカー>という訳のわからない力の他に、もう一つ?」

「そんなのあるわけないでしょー?????」
522 :LX [saga sage]:2012/02/12(日) 19:37:57.21 ID:hKj2xVWl0

(し、しかし、ここは落ち着かねーよ)

ここは雲川芹亜の家。

広大な応接間にぽつんと一人、彼は座っていた。

(学園都市に、こんなところがあるなんて知らなかったよ……)



雲川芹亜。

聡明で、美人で、しかしどこかに陰のある、謎の女子高生、と噂されていた彼女。

何回か彼女とは話をしたことがあるが、詳しいことは結局解らないまま彼女は卒業してしまい、いつしか記憶の中のひと、になっていた。



あの後、

「話がある。私の服を汚した代償に付き合ってもらおうかな」

と言われ、いつ来たのか、学生街のラーメン屋の前に停まっていた廻りの風景に全く不釣り合いなキャディのリモに押し込められた。

静かな車内では、彼女は一転して目を閉じて黙って座っており、その雰囲気に当麻も黙って座っているしかなかった。

リモは第五学区から高速に入り、第一学区を通り過ぎて第八学区へと入って高速を下りた。

「先輩は、ここからあそこ(高校)まで通っていたんですか?」

どうにもこの沈黙が耐えられず、話の種のつもりで当麻は彼女に言葉を掛けた。

「そうよ」

閉じた目を開くこともなく、彼女は短く答えた。

「結構遠かったんじゃないですか? ここら辺からだと」

「大したことないわ」

静かにして、とでも言いたげな彼女の返事に当麻は再び黙るしかなかった。



しばらく走ったあと、リモは大きなマンションの中に吸い込まれた。

「お疲れ様。着いたわ」

ようやく目を開けた彼女はかすかに微笑んで言った。

「ようこそ、上条当麻。わたしの家に」



家に入ると、「着替えてくるから」と言い残し、彼女はどこかへ行ってしまった。

かくして、彼は一人、(リモの中にあった)ミネラルウォーターのペットボトルから水を飲みつつ、手持ちぶさたにボトルを弄り廻していたのだった。



「お待たせしたわね」

その声に振り向いた当麻は絶句した。

ぴちぴちの胸が大きく開いたシャツと、これまたぴちぴちのスパッツという、体型がもろに出る扇情的な出で立ちであったからだ。
523 :LX [saga sage]:2012/02/12(日) 19:43:27.15 ID:hKj2xVWl0

「あ、あの、先輩? その格好はちょっと……」

(み、見ちゃいけないけど、見えてしまいますって。健康的な男の子の当麻さんは、やっぱり、その、気にしちゃいますのことよ〜!!!)

頭ともう一カ所、血が上る当麻。

「ん? ここは私の家だからな。家の中くらい、楽な格好で過ごしてもいいだろう?

それとも何だ、バニーちゃんが良かったのか? ……ああ、あれはお前の趣味じゃなかったな。お前はそう、エロメイドだったか?

では今度はその姿……どうしたのだ、上条当麻? まだ酔いが醒めてないのか? それともクルマに酔ったか?」

掛ける「言葉」は優しいが、口調は明らかに当麻を翻弄する気満々の雲川だが、当麻の顔が赤いことに気が付く。

「い、いえ、おかげさまで酔いは大分醒めましたけれど……」

視線を合わせないように、少し斜めを見ながら答える当麻。

「そうか。もしまだ酔っているのであれば、いっそ迎え酒、ということも考えて来たのだがな。どうする、飲むか?」

ほらほら、どうするね? とイタズラッ気そのままに責めてくる雲川。

「いえいえいえ、もう沢山です有り難う御座います水で結構です、御願いします先輩!」

「なんだ、つまらんな。お前と一度飲んでみたいと思っていたのだが、まぁいいか。これからもあるだろうし」

では、お茶でいいな、と言うと彼女は茶を入れ、それを持って来た。

そして彼の脇に来ると、いきなりしゃがみ込み、膝を床について茶受けに載せた茶碗をテーブルに置く。

言うまでもなく、当麻の視線は雲川のその姿を追う事になり、高い位置にいる彼は、彼女のシャツの大きな開口部に覗く、豊かな胸と谷間を見ることになる。

そして、ぴちぴちのスパッツから伸びる、健康的な太腿もまた。

「せ、先輩、そんな格好しないで下さいよ!!」

「何を言う? これが正しいお茶の出し方なのだぞ、そんなことも知らないのかお前は?」

してやったりと言う顔で反論する雲川。

「そ、そうかもしれませんけれど、そんな後輩に気を遣わないで下さい、普通で良いですから普通で」

「だ・か・ら、これが普通なんだがな、何を興奮しているんだお前は?」



当麻の手がズボンの前にあるのを見て、彼女は小さく笑う。

「お前、私の胸を見たのか?」
524 :LX [saga sage]:2012/02/12(日) 19:50:54.59 ID:hKj2xVWl0

「見てません見えてません、絶対に見てません」

必死になって抗弁する当麻だが、雲川芹亜の方はもっと上手である。

「ムキになって否定するところが怪しいぞ、上条。それに、見たくないとは言っていないしな、お前は。正直なところが良いな。

……別に、お前になら見られてもかまわないのだけれど、私は」

下から見上げる雲川。そして存在を誇示する二つの盛り上がった丘もまた。

(うわぁ、その顔とその胸は反則です、勘弁して下さい、雲川先輩〜!!!)

必死に耐える当麻を見て、更に彼女の口撃はヒートアップする。

「見ていないのなら、その手を上に上げてみろ、上条?」

(鬼です、悪魔です、いや、女王様、もう許して下さい〜!!)

心の中で叫ぶのは当麻。

「出来ないのかな、か・み・じょう?」

いきなり口調を変えた雲川に当麻の視線は再び彼女の顔に向く。

ゆっくりと立ち上がった彼女は当麻の脇に座り、彼にしなだれかかりながら肩に手を伸ばし、そして小声で囁く。

「御坂はこんなことをしてくれないの?」

バッと飛び離れる当麻。

「せ、先輩、まさか酔ってないですよね? しらふですよね? で、でもちょっと変ですよ、しっかりして下さい」

悲鳴を上げる当麻を追いかけて、さらににじり寄るのは雲川。

「バカを言うな、上条。私は真面目だし、酔ってなぞいるものか。で、どうなんだ、御坂とは? キスはすませたはずだが?」

「は、はい〜?」

怒ったせいか、いつもの口調に戻ってしまう雲川。

「まぁキスはあの写真で全世界に公開してしまっているからな。だから聞いているのはその先だ。

胸は触ったのか? いや、エッチしたのか? どうなんだ?」

「そ、そんなことしてません、やってません、何もしてません、これで良いですか? 話ってこんな事だったんですか?」

「ほほう、そうか。まだ、なのか」

妖艶な笑みを浮かべ、彼女はそう言うと、

「話はあとだ。それよりどうだ、触ってみるか、上条? 気持ちいいぞ? 私ならいつでも、お前なら胸でも尻でもどこでも触って良いのだぞ?

いや、その先も全然かまわないのだけれど?」と彼に迫る。

逃げ腰の当麻は、それでも男の本能で、迫る雲川の顔を見て、そして思わず胸をみてしまう、が。

シャツに飛び出る2つの突起。

視線を読んだ雲川がくくっと笑う。

「おやぁ?ノーブラが珍しいか、上条?」
525 :LX [saga sage]:2012/02/12(日) 19:54:20.21 ID:hKj2xVWl0

ソファの端まで追いつめられた当麻と、追いつめた雲川。

「遠慮するな、上条。安心したぞ。お前も男だとよくわかった。お前、しっかり興奮してるんだろう?」

潤んだ目で当麻の目をしっかと見る雲川。

「してません、全然してません!!」

「……お前、そう言うところは、本当に女ごころってものがわからんヤツなのだなぁ……それは恥ずかしさをこらえて本音で迫ってる女を侮辱するものの言い方だぞ?」

むすっとする雲川。

「すいません、ごめんなさい、でもこんなのはおかしいです、変ですよ、先輩、しっかりして下さい」

「ああ、十分しっかりしているぞ。上条? 女の私がここまで本音でぶつかってるのに、お前は私を無視するのか? それでも男か?」

(いや、男ですけど、興奮してますけど、どこか根本的に間違ってますって!)
(これが据え膳食わねば、ってやつか?)

当麻の脳裏では、二つの声が交差する。

「私は、そんなに魅力がない女なのか? 私はちょっと悲しいぞ? 当麻、どうなんだ?」

迫る雲川。



――― ブー ブー ブー ―――



テーブルに置いてあった当麻の携帯が振動する。

「?」

一瞬、当麻の注意が逸れ、携帯に向いたその瞬間。

「ほっておけ」

そう言い捨てた雲川の手が当麻の首へ伸び、ガシッと位置を決めると、

「むっ!?」
「ふむっ」

雲川の唇が当麻の口を捉えた。

そして、そのままの勢いで雲川は当麻をソファへ押し倒す。



携帯はまだブーブーと振動を続けている。
526 :LX [saga sage]:2012/02/12(日) 20:12:15.54 ID:hKj2xVWl0

目を閉じた雲川が当麻の唇を押さえ込む。

本能か、ぐりぐりと押しつけられる熱く柔らかく重い彼女の胸は、当麻にその量感を余すことなく伝えている。

そして、2つの突起がその存在を誇示するかのように彼の胸板にすりつけられる。

(み、美琴より重くて、でかい……それにこれってその、先輩の乳首???)

思わずそんなことを思ってしまう当麻だが、

「ちょ……せ、先輩!」

さらに今度はぐい、ぐいと下から腰を押しつけて、当麻をしごくような、興奮を確かめるかのような動きが始まった。

目を開けた雲川芹亜は唇を離すと、ふふ、という少し上気した顔でつぶやく。

「立ってるのね。ふふ。いやらしい後輩だこと」

「!」

「もっと気持ちよくしてあげよう。可愛いやつ」

彼女は身体を浮かし、右手を当麻の股間に伸ばし、すりすりとなで始める。

「それ、ダメ! 止めてー!」


――― ブー ブー ブー ―――

先ほど一旦切れたが、再び鳴りだした当麻の携帯。

「……ったく、五月蠅いヤツ。当麻、出ろ」

そういうと、しらけたのか、彼女は未練がましく身体を起こす。

「空気が読めんヤツ……いや、空気を読んだのかもしれんな。何をしている、上条? 早く出ろ。五月蠅くてかなわん」

チッと小さく舌打ちをして、彼女は立ち上がるとドアの方へ歩いてゆく。

(た、助かったのことよ……いや、ちょっと残念だったかな……?)

息を整えながら、そして胸に残る彼女の胸の感触、股間に残る腰と手の感触を思い起こしながら携帯を取り上げると、

「御坂美琴」

の名前が画面に出ていた。

(空気を読んだって……、そういうことですか? ともかく、助かったですのことよ……)

そう思いつつ、彼は「通話」を押す。

「お、おう、俺だ。どうした?」

「当麻!? 出るの遅い!! なにかあったの? 今良いの? どこにいるの、今?」

キンキンキンと美琴の声が響き渡る。
527 :LX [saga sage]:2012/02/12(日) 20:17:36.11 ID:hKj2xVWl0

「す、すまん、ちょっと携帯を離れた場所に置いてたもんで、気が付かなかった」

「そう? で、今はいいの? 具合、大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ」

「よかった……もう、またあんたが何かとんでもないことに巻き込まれてるんじゃないかって、すっごく心配したんだから! バカっ!」

安心したからだろうか、少し涙声の美琴。

(とんでもないことってのは、当たってますのことよ……お前、本当に鋭すぎるよ)

突っ込む余裕が出てきた当麻。もちろん脳内ではあるが。

「すまん、悪かった」

「そうよ! だ、大体なんで先に一人で帰っちゃうのよ!? しかも黙って行っちゃって……」

「お前が起きてこないからだろー?」

「ならアンタが起こしなさいよ、バカ」

「お前の家で、お前が寝てる部屋にオレが行けるわけないだろ? 美鈴さんがお前を見に行って『起きれないようです』って言ってくれたしさ」

「う、うっさい! 帰ったら怒るからね、私、怒ってるんだから、酷いからね! 覚悟しなさいよっ!」



「上条、いいかげんに電話を終わらせろ。話が出来ない」

頭の上から、またもや雲川芹亜の声が降ってきた。

えっ? と言う顔で上を見る上条当麻の手から、彼女はスッと携帯を抜き取る。

「ちょ、ちょっと先輩!」

抗議する当麻をフンという顔で無視した雲川は、彼の携帯でしゃべり始める。

「すまないな、御坂美琴。ちょっと彼を借りている。少し遊ばせてもらったけど。礼を言う」

「ちょっと、誰アンタ? なんで当麻の携帯にアンタが出んのよ? どういうことよ、ちょっと当麻に代わってよ!?」

「ああ、私は雲川芹亜だ。上条の2年上にいた。だからお前が入った時に私は卒業したわけで、お前の先輩でもある。

すまんが、彼とこれから重要な話をするので切らせてもらう。話の内容は後で上条から聞くと良い。

……しかし、実にいいところでキミは電話をしてきたな? さすが伊達にレベル5、学園都市第二位を張ってはいないな。

……ああ、それから忠告しておくと、お前が当麻をものにしないのなら、私が頂くかもしれんぞ? いや、私以外にもそういうのはいるからな、覚悟しておくんだな、ハハハ」

真っ青になる当麻。

一瞬絶句したあと、低い美琴の声。

「あんた……当麻に何かしたの?」

当麻の方を向き、ニヤと笑った雲川は何も答えずに「ピ」と通話を切った。

「上条? 五月蠅いから電源も切っておけ」

そういうと、ひょいと彼女は携帯を当麻に返し、今度は彼の向かいの椅子に腰を下ろした。

いつの間にか着替えてきていた雲川芹亜。

先ほどの妖艶さは綺麗さっぱり姿を消し、威厳を伴った一人の女性がそこにいた。

「さて、本題だ。……手短に言おう。上条当麻、お前には学園都市統括理事会の外交委員会に入ってもらいたい。異論は許さないが質問は許す」
528 :LX [saga sage]:2012/02/12(日) 20:27:19.55 ID:hKj2xVWl0
>>1です。
本日分の投稿は以上です。お読み頂きまして有り難う御座いました。

えー、>>513で、
>また、独自設定で、御坂旅掛・美鈴夫妻は妹達<シスターズ>の存在を知った、知っている、ということにしてあります。

と書きましたが、原作SS2巻において、御坂旅掛は妹達<シスターズ>が原石確保のための戦闘に従事したことについて、アレイスターに対して抗議すると共に場合によっては対決する事も辞さない事が書かれてますので、公式でも知っているということに訂正致します。御坂美鈴が知っているような記述はまだありませんので、とりあえず彼女においては独自設定、ということに致します。

それでは本日はお先に失礼致します。
529 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2012/02/12(日) 21:17:48.62 ID:1Dt2zkqAO
(゚д゚)乙これは乙じゃなくてポ(ry

雲川先輩エロすぎワロエナイ
まあ上条さんに職をあげる前の悪戯ってとこなのか
次回も楽しみ!
530 :LX [saga sage]:2012/02/12(日) 22:55:42.15 ID:hKj2xVWl0
>>1です。

>>329
すみません。
>*エロは殆どありません
て書いておきながら……ねぇ。

しかもそういうの投稿する時はsage進行のままだったのに、いつものようにageちゃうし……忘れてました。

以後気を付けます。
531 :LX [saga sage]:2012/02/12(日) 23:02:09.82 ID:hKj2xVWl0
また間違えちゃった。恥ずかしいアンカーミスです。
上の>>530ですが、

>>329
ではなく、

>>529さま
でした。ごめんなさい。
  
幸い、>>329は投稿本文なので助かりましたけれど。何やってるんでしょうか。
失礼致しました。
532 :LX [saga]:2012/02/19(日) 19:45:44.76 ID:1l8w7IH90
皆様こんばんは。
>>1です。

前回はいろいろヘマ致しました。
本日はしっかりやりたいと思います。
今回もageてからの通常進行ですが、内容は問題ありません。

それではこれから投稿を始めますので宜しく御願い致します。
533 :LX [saga sage]:2012/02/19(日) 19:49:32.10 ID:1l8w7IH90

(……ったく、油断も隙もあったもんじゃないわよねー。ホントにあのバカッタレは。信じられないわよ。

昨日、あんなことみんなの前で言って喜ばせておいてさー、嬉しかったけど。

なのに、その舌の根も乾かないうちに、何なのよ、さっきのアレはいったい……

大体、いくら先輩だからって、女の家にホイホイ付いていくバカがどこにいるってのよ!

……覚えてなさい、今日という今日は、目一杯とっちめてやるんだから)

御坂美琴は怒りと嫉妬で身体からかすかに放電させながら、学園都市の中を当麻の寮目指して早足で歩いていた。



既に彼女は、学園都市のエントランスで、待ちかまえていたパパラッチ達と一戦を交えていた。

最初こそ意識して「軽く」電撃を放ち、全てのデジカメ・ビデオカメラをオシャカにした程度で済ませていたが、なおもしつこくつきまとった数人に彼女はキレた。

自業自得とはいえ、彼らはある意味とばっちりをくらったの被害者ともいえる。学園都市でのパパラッチ仕事は辛いのだ。

尤も、レベル5第一位の一方通行<アクセラレータ>、第三位の原子崩し<メルトダウナー>に挑むパパラッチは皆無であった。

さすがに命を賭して突撃する猪武者はいない。誰もが命は惜しいのである。

(作者注)
*第二位であった未元物質<ダークマター>は順位<ランク>から消えており、第三位の超電磁砲<レールガン>以下の面々はそれぞれ順位がひとつ繰り上がっっていた。

但し、第二位がどうなったのかはどこからも何の発表も無く、ある日突然順位<ランク>から消えた、のだった。



さて、話を戻し、数時間前の昼。

彼女は二日酔いでトイレで吐いた後、フラフラの状態で冷蔵庫からポカリを出して飲んでいると、彼女の様子を見に来た母・美鈴から当麻が先に帰ったことを知らされた。

彼女は美琴をひとしきりからかった後に、(ほら、これ飲みなさい。女の子が二日酔いなんて恥ずかしい)と二日酔いによく効く丸薬を渡し、飲ませた。

もし、そこに当麻がいたら、(美鈴さん、貴女がソレを言いますか)と突っ込んだであろうが、もちろん美琴はそんなことは知らない。

「1時間くらいですっきりすると思うけど、もう少し寝てなさい。ホント、飲み過ぎよ、美琴ちゃん?」

誰が飲みたくもない酒を私にガバガバ飲ませたんでしたっけー? と突っ込み返すだけの気力は、まだ彼女には戻っていなかった。

「うぅ、地球が回ってる……」

美琴はぐらつく頭を押さえながら、フラフラと部屋にまた戻った。



(なんで一人で帰っちゃうのよー、あのバカったら)

(いっしょに帰りたかったのにな)

(あー、でも二人で帰るとまた大騒ぎになるかもね、いや、なっちゃうな絶対)

(アイツも就職活動大変そうだしなー。でも、決まらないと、結婚できないし。もしかしたら黒子に先越されちゃうかも)

(……キャ恥ずかしい、わ、私ったら何考えてるのかしら! いやらしい。もうやだ〜)

(カッコつけちゃって、あのバカったら。でもちょっと見直しちゃったかな)

(あー、でも頭痛いなー)

二日酔いも手伝って、ベッドの上でたわいもないことを想像して、枕を抱えてごろごろと転がる。
534 :LX [saga sage]:2012/02/19(日) 19:51:27.78 ID:1l8w7IH90

ふと時計をみると、もう1時をまわっている。

(ごはん食べたかな、あいつ?)

やおら美琴は携帯で当麻を呼び出す。

当麻は二日酔い、大丈夫だったのかな……? とつぶやきながら。



prrrr,prrrrと着信音が鳴り続ける。

(出ないな、どうしたんだろ?)

10回鳴らしたところで彼女はいったん切った。

少し経って(彼女はすごく長い時間待ったような気がしたが、実際には30秒も経っていない)もう一度掛ける。

着信音は鳴り続けるが、当麻は出ない。

最初は冗談のつもりだったが、こうなってくると笑い事ではない。

(まさか、また、何かあったんじゃないかしら)

(また変なことに巻き込まれてたら、どうしよう)

(絶対おかしいわよ、こんなの)

時間と共に、想像は悪い方へ、悪い方へと走り出す。

へらへらしていた美琴は気を引き締め、携帯を肩に挟み、起きあがるとパジャマのボタンを外し始め、着替えの下準備を始めた。

二日酔いがどうした、とか言っている場合ではない。

(あのバカ、未だ出ない……これは絶対、なんかに巻き込まれてるわね。もう間違いないわ)



そのとき、ようやく当麻の声が聞こえた。

「お、おう、俺だ。どうした?」

(よかった、当麻、無事だった……)

「当麻!? 出るの遅い!! なにかあったの? 今良いの? どこにいるの、今?」

……



15分後。

驚きいぶかる両親への挨拶もそこここに、美琴は家を飛び出した。
535 :LX [saga sage]:2012/02/19(日) 20:08:10.24 ID:1l8w7IH90

当麻の寮。

メインエントランスの暗号キー付きカードは、当麻からコピー(正式なもの)をもらっている。

もちろん彼女の能力からすればどうということはないもので、ハッキングして数秒で解析出来て簡単に開いてしまう低レベルな代物だ。

センサーに叩きつけるようにしてタッチしてドアを開け、彼女は中に入り、エレベーターで上に上がる。

彼の部屋の前。

チャイムを押すと、ドタドタという足音の後、ガチャと音がしてドアが開く。

「お、おう。お帰り。……その、もう具合はいいのか?」  

当麻の顔がそこにあった。

「ただいま。大丈夫よ、ありがと……って、ちょっと何よ、その顔?」

美琴は当麻の顔を見て、一瞬気が緩む。が、ここで甘い顔を見せては沽券に関わる。まずは挨拶代わりの軽いジャブからである。

「ん? なにか付いてるか?」

ぎくっとしたのか、動揺がすぐに出てしまう当麻。

(まったく。あんたはホントにウソがヘタなんだから、このばか)

心の中で苦笑しながら、美琴は厳しい顔で二の矢を放つ。

「うっさい、ばか。あんた、なんで私が今日帰ってきたのか、わかってるでしょうね?」

「う……怒ってるんだろ? あれだけ言われればしっかり覚えてるって。って言うか、ここじゃなんだし、ま、入れよ」

「ふん、帰れと言われたって今日は入らせて頂きますからね」

憎まれ口を叩きながら美琴は部屋に入った。



「その……先に帰ってしまってすまなかった」

「いいわよ。二人で帰ってきたらまた大騒ぎだもん。あんた、どうだった?」

「あはは、なーんにもなかった。昨日の大騒ぎがウソみたいだったよ」

「へー」

他愛もない話をしながら美琴は手を洗いに行く。

ふと。

彼女は普段嗅いだことのない香りに気が付いた。かすかに香る、この化粧品の匂いは?

(ちょっと……これ、どこから? まさか?)

そっと洗濯機の蓋を開けると、当麻の汗の匂いの他に、ほのかに香る香り。それは彼女の使っているものではない。

それは、ほ・か・の・お・ん・な・の存在。

(やっぱり!)

(あの、雲川ってひとのだわ、絶対! 当麻もバカよねー、頭隠して尻隠さずなんだから。ほんっとにあのバカ!)

危なく放電しそうになるのを押さえた美琴は、手を洗った後、置いてある自分専用のコップでうがいをすると、居間に向かう。

心なしか、ビクビクしているような感じの当麻がそこに座っていた。

「さーてと、あんた? 何から説明してもらいましょうかしら、ね?」

冷たい微笑を浮かべて、美琴は当麻の前に座る。
536 :LX [saga sage]:2012/02/19(日) 20:12:03.69 ID:1l8w7IH90

当麻の一通りの説明の後。

「ふーん。それで、雲川先輩のお話って何だったのよ?」

「ああ。オレに就職先を紹介してくれたんだ」

「へー。スゴイじゃない。なんてとこ? 何する会社?」

「貿易商社。サイエンティフィック・インターナショナル・トレーディングってとこだと」



当麻は雲川芹亜から釘を刺されていた。

曰く、統括理事会直轄の外交委員会に所属することは、他言無用。もちろん美琴にも。しゃべったらその時点でクビだと言われていた。

そして、ダミーとして紹介されたのが、サイエンティフィック・インターナショナル・トレーディングという貿易商社なのであった。



「ふーん。当然調べたわよね?」

「ああ、ネットで検索はしたさ。5年くらい前に出来てるから、わりと新しいところみたいだな。社員は30人弱だから小さいな。

今年は採用は無いみたいで、何も書いてなかったよ。でもまぁ、当たってくだけろ、ですよ」

「あんた、英語大丈夫だっけ?」

「中学校レベルなら大丈夫だぜ?」

「あんたねぇ……中学校の英語が完璧だったら、単語さえ覚えれば日常生活には問題ないレベルなんだけど? ホントに大丈夫なんでしょうね?」

「た、たぶんな。で、今度の土曜日……あ」

「なに? どしたの?」

「被った……ミサカの10039号とツーリングに行くはずだったっけ……」

(また女かい! しかもあの子って、この浮気者! よくもいけしゃぁしゃぁと……) 

就職が決まるかも知れない、うふふ、これで結婚への第一歩が……と胸算用を始めていた美琴の胸に再び炎が燃え上がる。

「あんたねぇ、自分の将来がかかってるんだから、そんなの後回しよ? あの子とのツーリングなんか後でも出来るでしょ!?」

「うーん、でもなぁ、先に約束しちまったし……」

「アンタ! 鼎の軽重が問われるような馬鹿なこと言ってるんじゃないの! 何考えてるのよ?」

「だよなぁ……仕方ない。またにしてもらおうな」

「あったり前でしょうが。……まぁ、あの子、泣いちゃうかもしれないけど、きっと次の手を考えるでしょ。(油断も隙もないけどね)

……で、アンタ? 私になんか言うことあるんじゃないのかな?」

ジロリと美琴は当麻をにらみつける。氷の微笑と共に。

「は、はい?」 蛇に睨まれたカエルならぬ、美琴に睨まれた当麻。

その反応を見て(有罪<ギルティ>)の判決を頭で考える美琴。

「く・も・か・わ・先輩がねー、私に、『遊ばせてもらった、礼を言う』って挨拶して下さったんだけれど、アンタ、何して遊んであげたのかな?」
537 :LX [saga sage]:2012/02/19(日) 20:27:13.75 ID:1l8w7IH90

「い、いやそれは別に特に何もなかったというか、単に美琴に当てつけただけなんじゃないかなと思ったりして……」

「ふーん、そうなのかなー? ま・さ・か、アンタ、不埒なことはしてないでしょうねー?」

「そんなこと、するわけないだろ? するわけないですよ」

確かに、当麻は不埒なことはしていない。されたのである。であるから、確かにウソではない、が。

(そんなこと、ここで言ったら殺されますって、ああ、当麻さんはなんて不幸なのー!!!!)

当麻は正直頭を掻きむしりたかった。不満をぶちまけたかった。

なんで被害者の自分が追求されねばならないのか、それも、凍ったような微笑をたたえた自分の好きな女の子から、恐い目で睨み付けられながら、だ。

美琴の容赦ない追求が続く。

「へーぇ。そうなんだー。良かった。わたし、もしかしたら雲川先輩と抱き合ってたんじゃないかと思ってたんだけどなー?」

「そそそそそそ、そんな羨ましすぎる場面は全くなかったのことよ、いや想像も出来ませんって、そんなラッキースケベなことは、この世界一不幸な当麻さんには起こりえないことなんですよ?」

(くっ、言うに事欠いてひとの神経逆なでするような事を……このバカたれがぁぁぁぁぁぁ!)

「ふーん、当麻は羨ましいんだ、そうなんだ……」

当麻を睨み付けている美琴の髪からパチパチと静電気が飛び始める。

「あ、あ、あの、みこと、さん?」

マズイ、とばかりに当麻は右手を美琴の頭にさっと当てる。

美琴はそれをバシっと振り払い、顔を上げて当麻を見すえる。

「あんた、昨日、お父さんになんて言ったっけ?」

「い、いや、その独り立ち出来たら、お前を迎えに行くから……待っててくれって……」

「はい。その通りです。良くできました。なのに、その翌日によ? なんで私は知らない女から『あんたを借りて遊びました、ありがとう』って言われなきゃなんないのよ?

どういうこと? よーくわかるように説明しなさいよ?」

「いや、だから、昼飯って、ラーメンを、雲川先輩はチャーハンだったけど、飯をおごってもらって、それでちょっと冷やかされたときにオレが吹いちゃって、先輩の服汚しちゃったから、着替えるついでに話をするから、って付いていっただけなんだってば」

「それはわかったわよ。そこは別に問題にしないし、するつもりもない」

「……で、家について、すげー邸宅だったけれど、そこの部屋で、お前に就職先が見つかってないのは解ってるから、お前に良いところをを紹介してやるから直ぐに連絡して行ってこいって話だったんだよ。それだけだっての」

「……」

「雲川先輩はさ、イタズラが大好きでさ、高校の時も何度か弄られたことがあるんだけど。美人だし、スタイルもいいんだけど、あの性格ががなぁ、それさえなけりゃ……?」

当麻は気が付いた。 

刺すような鋭い目、そして口の片方がクイとつり上がっている美琴の顔に。

過ぎたるは及ばざるがごとし。
538 :LX [saga sage]:2012/02/19(日) 20:31:43.39 ID:1l8w7IH90

「ふーん、雲川さんって美人でスタイルがいいんだー。ねー、と・う・ま? 私とどっちがい・い・の・か・し・ら??」

答えによっては、電撃どころか超電磁砲<レールガン>が飛びかねない緊迫感が漂う。

冷や汗たらたらの当麻。

口は災いの元、雉も鳴かずば撃たれまい、沈黙は金なり、物言えば唇寒し秋の風……格言がぐるぐると頭の中を駆けめぐる。

「い、いや、雲川先輩は、オレよりずっと年上だし、その、大人の女性って感じだし、お前は若さ溢れる女子大生だし、ジャンルが違うっていうか……」

「な・る・ほ・どー。アンタは、大人の女性に可愛がってもらうことに憧れてるんだー? そっかー。わたし、大人っぽくないのか……」

「いや、だから4つも違えば、全然違うって。それに、あっちは社会人だし」

「そーなんだ……全然違うんだ。で、どう可愛がってくれたのよ、その『全然違う』大人の女性のそのひと?」 目を細める美琴。

「だから、何もないって!」 叫ぶ当麻。

「ふーん。そうやって、あくまでもシラを切るんだ……じゃぁ仕方ないか」 そう言うと美琴はすっと立ち上がり、つかつかと洗面所に向かう。

「お、おい! どこ行くんだよ、ちょっと待てよ!!」 さしもの鈍感な当麻も気が付いた。そこはマズイですって!!

洗面所の手前で彼は美琴を捕ま、後から抱きすくめる。

「何すんのよ!! 離してよ、不潔よ! アンタなんか嫌い!! 知らない! 離しなさいったら! わたし、帰る!!」 

逃れようと身体をねじりながら美琴が叫ぶ。

「いや、離さない! 絶対に離さないからな!」 

当麻も怒鳴り、帰しちゃいけない、と更に美琴をしっかりと押さえ込む。

「うるさい! アンタなんか、雲川さんと、先輩と好きにしてればいいのよ! 何さ、デレデレしちゃって! どうせ私なんかガキなんでしょ!」

「違う、絶対違う! オレはお前が好きだ! お前を、美琴を愛してる!」

「ウソよ、信じられない! だったらなんで、アンタのシャツに女の匂いが付いてるのよ!? もういや! 他の女の匂いがするとこなんかいたくない! 帰る!!」

「だから違うって! 先輩のイタズラなんだ! 勝手に抱きつかれただけなんだ! お前の電話でオレは助けられたんだ! お前のおかげなんだよ!!」

ふいに美琴が黙る。逃げようとする抵抗も止んだ。

当麻も必死。なんとしても、絶対にこの誤解を解かなければいけない。

狭い洗面所に、二人の荒い息だけが響く。



「あんた」  ようやく美琴が口を開く。

「なんだ?」

「私ね、その人に、言われたこと、すっごいショックだったの」 美琴が泣きそうな声でつぶやく。

「なんて?」

「私が……あんたをちゃんとものにしないのなら、私がもらうって、あんただって聞いてたんでしょ?」
539 :LX [saga sage]:2012/02/19(日) 20:45:30.08 ID:1l8w7IH90

「そのことか……あれは、ちょっと冗談にしてはきついよな」

「ばか。あれは冗談じゃないわよ。本気よ。解らなかったの? あんた、本当に鈍感なのね、そういうとこ」

「まさか、あれは先輩一流の……」

「あんたに向かって言ったんならそうかもしれない。でも、アレは私に対して言った言葉。あれは宣戦布告。わたしはそう受け取ったもの」

「……」

少しの間、沈黙が場を支配する。



沈黙を破ったのはやはり美琴。

ついさっきまでの、激しい感情の爆発そのままの調子ではなく、彼もあまり聞いたことのない弱々しい口調で。

「あのね、当麻? さっきの言葉だけど……」

「ん?」

「私、信じていい? そ、そのね、私を好き、私を愛してるって、こと?」

「当たり前だろう!? 信じてくれよ、信じろよ、信じなさい! オレは、お前が好きなんだ。愛してるんだ。結婚して欲しいんだ! 一緒にいて欲しいんだよ!」

「……本当ね? 私、あんたの傍にいていいのね?」

「本当だよ。その、何って言って良いのかな……とにかくずっと一緒だ」

美琴の身体から力が抜けた。

「お、おいおい、しっかりしろ、大丈夫か?」 当麻があわてて美琴を支えるが、彼女が少しずり落ちたせいで彼の腕に美琴の胸が乗り上がる形になる。

「おっと、ご、ごめん」

当麻は、あわてて抱擁している腕を解こうとしたが、美琴の手がその手を上からさっと、しかし優しく押さえる。

「いいから、ちょっとそのまま」

「え? だ、だって?」

どういう風の吹き回し?と言う感じでとまどう当麻。

向こうを向いたまま、少しうなだれた感じの美琴が小さい声で言う。

「抱いてくれる?」

「え? 何?」 聞こえなかったのか、当麻が聞き返したその瞬間。



「あ!」 美琴が叫ぶ。

床がドンと突き上げられた。

「地震!?」
540 :LX [saga sage]:2012/02/19(日) 20:48:30.34 ID:1l8w7IH90

数秒の縦揺れのあと、横揺れが襲う。

「結構揺れてるね」

「ああ。でももう収まりそうだ」

物が落ちるほどではなかったが、震度3くらいはあっただろうか。

「お前、予知したんだ?」

「うん。本物の地震の時はね、地電流に大きな変化があるの。それでね。残念だけれど、直前じゃないと解らないんだけれどね」

二人はまだ抱き合ったままである。

「そうか、惜しいな。もう少し前に解れば、すごいもんなんだけれどなぁ」

「人をナマズのように言わないでよ、失礼ね……あ、うそ」

びくっと美琴の身体が震える。

「お、おい、また地震か?」

「違う、……ちょっとどうして……ゴメン、ちょっと離して、早く!」

美琴がせっぱ詰まった様子で身体を振るので、当麻も彼女の身体に廻していた腕を下ろす。

美琴はダッと小走りでバックを取りに行き、直ぐに戻ってきた。

「ゴメン、トイレ借りるね!」

そう言うと、彼女はトイレに駆け込み、バンと扉を閉めた。

「アンタ、女の子がトイレに入ってるんだから、あっち行ってよ!」

中から美琴が叫ぶ。

「大丈夫か? 腹でも下したのか?」 

当麻が心配そうに聞くが、

「この鈍感!! いいからさっさとあっち行って! 大丈夫だから!! バカ!!」 

美琴がまた怒鳴る。

まぁ、確かにそうだよな、そりゃ恥ずかしいよなー、と思いながら、当麻は居間の方へと戻ってゆく。



(なんで今頃来ちゃうんだろ、早いわよ、もう……いつもはこんなに狂ったことないのに……)

(どうしてこう言う時に来るかなぁ……勇気を出して言ったらこれって……しばらく無理じゃない、ああっもう!! )

トイレの中で手当をしながら、彼女は自分の身体に起きた予定外の現象に文句を垂れていた。
541 :LX [saga sage]:2012/02/19(日) 20:54:47.26 ID:1l8w7IH90
>>1です。
お読み下さいました皆様、有り難うございました。
本日分投稿は以上です。手直しをしながら投稿しておりましたので、間が不規則に空きまして失礼致しました。

作者注)の部分は当SSの独自設定です。
また、美琴が地震の襲来を直前に感知する、というのも当方の勝手な設定です。ちなみに超電磁砲アニメでのポルターガイスト由来の地震では、特にこれといった表現がなかったと記憶しておりますが、アレは本当の地震じゃないから、ということでまぁいいかと考えております。

それでは本日はお先に失礼致します。
542 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/19(日) 22:09:39.03 ID:wfWvH2USo
おつにゃんだよ!
543 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2012/02/19(日) 22:18:25.46 ID:4u+64AqAO

本当の地震ってそういう事か。言われなきゃ気づかなかった
544 :LX [saga]:2012/02/26(日) 19:16:21.28 ID:10sfWO230
皆様こんばんは。
>>1です。

本日の投稿ですが、ちょっと見直しをしておりますのでいつもより遅い時間になりそうです。
すみませんが今暫くお時間を頂きたく、宜しく御願い致します。

なお、sage進行すべき内容ではありませんので、投稿の際は再度ageてからスタートの予定です。
545 :LX [saga]:2012/02/26(日) 21:02:34.49 ID:10sfWO230
>>1です。

それではこれより本日分、投稿を始めます。宜しく御願い致します。
546 :LX [saga sage]:2012/02/26(日) 21:04:47.84 ID:10sfWO230

「どうしたんだよ、突然……大丈夫か? 具合はいいのか?」

(……!! この鈍感! でもまぁ、今はその方がいいか……)

心配そうに言う当麻に、トイレから戻ってきた美琴は心の中で苦笑する。

「もう落ち着いたから。心配しないでいいの」

「そっか。いやびっくりしたよ。あの話のあとだから、もっとすごい地震が来るのかと思ったよ」

「だ・か・ら、私はナマズじゃないって言ってんでしょうが……ダメだ、はぁ……なんか気分が乗らない……」

普段なら思いっきり突っ込んでくるはずが、どうしたことか、くたっと床に座り込んでしまう美琴を見て、当麻は不安になった。

「おい……やっぱり具合悪いんじゃないか? 大丈夫か? 少し休めよ? その方が良いぞ?」

当麻は彼女の肩を支えて立たせると、少し歩いてソファに座らせ、そして身体を倒させて横にする。

「ほら、少しは楽だろ? 俺に遠慮すんなよ、な?」 

そう言って当麻は彼女を安心させるかのように微笑む。

その顔と、優しい言葉に美琴はまたほろりと来そうになる。

「ありがと。大丈夫だから。でもちょっとね、わたし不安定だったかも。……さっきは取り乱しちゃったしね、ごめん。

わたし、なんか恥ずかしい……やっぱり子供なのかな」

そういうと、耐えきれなくなったのか、顔を背けると、くっくっと嗚咽の声が漏れる。

(まぁ、ちょっと今日は感情の起伏が激しいみたいだな。頭に血が上ってバーっと怒ったと思えば、今度は泣いちゃうし。やっぱり具合が悪いんだろうな) 

当麻はそう判断し、静かに美琴に語りかける。

「はは、それを言うならオレも同じだったさ。まぁ、昨日は朝早くから大騒ぎだったし、お前の家に行けばどんちゃん騒ぎだったしさ。

酒も結構飲んだんだろ? オレがぶっ倒れた後もさ。それだよ、一番の原因は。

……それに今日は、その、オレが『もういいの。もう、言わないでいいから』……そうか?」

美琴は強引に当麻の話を止めさせ、当麻は黙る。



部屋には静かな時が流れてゆく。

日差しも傾きかけている、学園都市の夕方。
547 :LX [saga sage]:2012/02/26(日) 21:07:51.48 ID:10sfWO230



ひくひくしていた美琴もしばらくして落ち着いた。

ふと、当麻は美琴の手を取ってみた。ひんやりと冷たい。

「あんた、手、暖かいのね」 美琴が気が付いたようにつぶやく。

「お前の手が冷たいんだよ。冷え性ってやつなのか?」 

どれ、それじゃぁ、と彼は両手で彼女の細い手を包み込む。

「どう、暖まる?」

「うん、ありがと。……あのね、当麻? 心の温かい人は手が冷たいって言うんだけど、あんた知ってる?」 

ふふ、と笑って美琴が当麻の目を見つめながら言う。

「なんだよ、その都市伝説みたいなのは……それじゃオレは心が冷たいってことなのか? ひでーなー、それ」

「あら、そうなんじゃないの?」

「な訳ないだろー? まったくもう」

そう言うと、当麻は美琴の傍に座り込み、彼女の右手を立てた膝の上に置き、左手で手軽く押さえる。

そして「幻想殺し」の右手で彼女の髪をすーっとなで始める。

「髪をそう触られるのって、なんか変な感じがするのね」

「はは、お前の幻想を壊してるからじゃないか?」

「わたし、幻想なんか持ってないもん! ばか」そう言いながらも美琴は気持ちよさそうにしている。

「少し寝たらどうだ、な? オレはどこにも行かないから……そうだ、メシ作らなきゃ! おかゆにでもするか?」

「いいわよ、少し経ったら私やるから、気にしないでよ?」

「あのな、病人にメシ作らせるほど、わたくし上条当麻は鬼畜ではございませんよー? 今日はオレがやるから黙って寝てろ。いいな?」

起きあがろうとする美琴を押さえ、そう言うと、当麻はちゅっと美琴の唇を奪う。

「む……ば、バカっ! 変態! 寝てる女の子に、あ、アンタ、いきなりなんてことするのよ?」

「え? いや、だって前にさ、お前に『なぁ、キスしていいか?』って聞いたらさ、『そんなの、畏まっていうもんじゃないの! 恥ずかしいでしょ!』って言ったじゃん?

だから、こう言う時は黙ってした方がいいのかなって」 いけなかったのか? と困った顔の当麻。

「そういう変なことだけ覚えてるのね、あんたってひとは」 彼女の顔にわずかに赤みが戻る。

美琴は、ふいに顔をそらして当麻に見られないようにして、小さい声で言う。

「あのね、あんた、さっき、あたしの言ったこと、聞いてた?」
548 :LX [saga sage]:2012/02/26(日) 21:13:07.09 ID:10sfWO230

青かった彼女の顔に、更に血の気が増す。

「はは。実はちゃーんと聞こえてた。でも、ホントなのかなって思ってさ」

(正直、ちょっと期待しちゃいました、って言ったらまた激昂するかもしれないし)

あくまで、当麻さんは紳士なのですよ、ということにして当麻は答えを返す。

「いじわる」  向こうを向いたまま、ぽつりと美琴が言う。

「いや、だって、いきなり言われたらさ」

「いやらしいんだから……でも、ごめんね、当麻」 彼女はこちらを振り向き、一瞬だけ視線を合わせたが、直ぐに外してしまった。

「ん?」

あれ、なんで謝られるのかな、もしかして、紳士の当麻さんは答え間違った? と彼は一瞬どぎまぎする。

だが、彼女の次の言葉はもっと直接的だった。



「アレになっちゃったから、今日、ダメなの」



「はい? え?……あ、あのさ、その、あれってもしかして、さっきの、あれ?」

アレって、あれのこと? だよな、女の子なら月に一度あるっている、アレだよな?

思わずとっちらかった答えにならない答えが口をついて出た。そして、その直後に浮かんだ一言は、

(ああ、美琴も女の子だったんだな)

もっとも、これを口に出したら最後、即、彼女の超電磁砲三連射をくらい夕暮れの空に儚く消える事確定であるが。



「だから、さっきからそう言ってるじゃないの、恥ずかしいこと何度も言わせないでよ、この鈍感! バカ!」

(あんた、あたしのこと、なんだと思ってたのよ? まさか本当に下痢だと思ってた? このうすらトンカチ!! バカ! 鈍感!)

美琴は美琴で、勇気を再び振り絞って言ったはずの言葉を、なんだか軽くあしらわれた気分で思わず当麻を睨み付ける。

「いや、だってオレ、男だし……すまん。その辺はよくわからないからさ。

えっと……ま、まぁそれは、まぁ仕方ないな。その、なんというか、当麻さんは紳士ですけれど、正常な男性ですから、少しは、な」

素直に男としての欲望に沿って言って良いのか、はたまたここは「紳士らしく」またの機会に、と言うべきなのか彼は解らず、彼としては恐る恐る少し本音を出して様子を見る事しかできなかった。

「そう、なんだ……当麻? そ、その……ね、あ、あんたさ……」 

さっきの威勢の良さはどこへやら、再び彼女は言葉に詰まる。

「なんだよ? はっきりしろよなー、さっきからお前らしくないし」 

?と言う顔で当麻が訊く。 

「……したかったの? その、わ、わたしと、さ……?」 

そこまで言うと美琴はまた向こうを向いてしまう。
549 :LX [saga sage]:2012/02/26(日) 21:17:34.75 ID:10sfWO230

ええええええ?と当麻は驚くと共にその意味を考える。

……ホントなのか? 「あの」美琴が、あからさまに、男のオレにそんな質問をするのですかーぁぁぁぁぁぁぁ? 

普通、女の子がそんなこと訊きますかぁぁぁぁぁぁぁ??????

そりゃぁ健全な男の当麻さんは、したいかと言われれば、それは当然……いや待てよ? 話がうますぎる。これは孔明の罠だ。

落ち着け、当麻。

……もともとは、雲川先輩のいたずらが原因だ。

と、いうことは、うかつに「はい」と答えると、きっと「ほらやっぱり。アンタは私でなくても、女なら誰でも良いんでしょ?」とか言うに決まってる。

……危ない危ない、当麻さんはそんなトラップには引っかかりませんのことよ!

ここまで考えて、ようやく当麻は返事を返す。

「あんまり当麻さんを刺激しないで欲しいものですねー。まぁ、男だからな。でも生理中の女の子に迫るほど、当麻さんは変態ではありませんから」

気にするなと言うべきだったかな、と彼は思う。

「そ、そうなん……だ。

その、ね、さっきの話だけどね、私、あんたにあげても良いなって思ってて、でもね、自分から言うのも恥ずかしいし……。

そんなはしたない女の子って思われたらどうしようって。

でもね、あの時、あんたに抱きすくめられて、あんたはうしろ側だったから、私の顔見られなくて済むし、これなら言えるかな、って思って」

美琴は視線を少し外して赤い顔のまま話を続ける。

「そしたらさ、地震が来て、そして、アレまで来ちゃって。わたし、もう恥ずかしいったら……ねぇ? 

抱いて、って言って、その後すぐにダメって……私、これじゃまるでバカだもん。

でね、他の子の話なんか聞くとね、その……男のひとって、そ、そのね、一回始めちゃうとね、さ、最後までいかないと気が済まないんだって言うから……。

だ、だから、もし、もし、よ? あ、アンタがさ、ガマンできないって言ったらどうしようって……」

美琴は恥ずかしさを必死にこらえて言葉を選びつつ、当麻に話しかける。

一方の当麻も、自分の思っていたのとは逆方向へ向かっている美琴の話にとまどうばかり。

(も、もしかして当麻さんは一世一代の大間違いをしてしまったのでしょうか……?)

果たせるかな、美琴の次の言葉。



「だ、だからさ、わ、わたし、その、私の手でしてあげてもいいかなって思ったんだけど……」



ぶっ飛ぶ当麻。

手で? 手でなにを? 何をしてくれるって言うんですか、美琴さん? ナニをしてくれるんですってぇぇぇえええ? なにそのエロゲ? 

思わず当麻の一部分が反応する。

しかし。

「でも、あんたがそう言ってくれて、ちょっと安心したわ。……そ、そのね、あんたが嫌いってわけじゃないけど、ないんだけど。

でもね、落ち着いてみると、そ、その、心の準備がね、わたし、まだ出来てなかったって言うか、じゃいつ出来るんだって言われると困るんだけど……」
550 :LX [saga sage]:2012/02/26(日) 21:25:19.80 ID:10sfWO230

当麻は感じていた。

最大のチャンスが去ってしまったことを。

どうやら、美琴はいろいろ考えていて、彼女なりに覚悟を決めていた、らしい。

だが。



「いつもはね、私、わりと狂わないのよねー……やんなっちゃう」



肩の荷が下りたのか、美琴の口はさっきよりは遙かに軽くなり、いつもの調子に戻りつつあった。

その様子を見れば、とても冗談にも(ちょっと御願いします)などと言い出せる雰囲気ではなかった。

もはや、機会は失われたのである。

そうなれば、彼の対応はひとつ。いつものように、彼女に合わせることしかない。いささか不満ではあるが、もはやどうにもならない。

「その、28日周期とか?」

「なによ、アンタ知ってるんじゃないのよぅ? いやらしいわね」

「いや、保健体育で一応は教えられるし」

「そうだっけ?……でね、ホントならまだだったんだけど……なにがあったんだか……」

「どうする? もし、辛いならこのまま泊まっていくか?」

「ばか。そんな重病人じゃないわよ。いろいろあるんだから、帰るわよ。下着の替えももうないし。女の子にはね、やることがあるものなの!」

「そうか。まぁ、それならそれでいいんだけど。さっきの調子見てたら、結構しんどそうだったからさ? お前、その、きつい方なの?」

「そう。って、アンタ、女の子に向かってなんて言うことを訊くのよ、この変態! ……あ、でも、あんたには知っててもらっても良いかな?」

美琴が軽く当麻を睨む。

「まぁ軽い時もあるんだけど、今日はちょっと辛い日ってとこね」

「ふーん、女の子って大変なんだな」

「そうよ、大事にしなさいよねー。手放したら二度と手に入んないわよー?」

「だな。お前のようなヤツは他にはいねーよ」

その瞬間、当麻の頭の中を一人の女の子の顔がよぎった。

(はて、なんで、突然?)

なんでかな?と考えた当麻にビリッと軽い電撃が飛んだ。

「わっ!!??」

「アンタ、誰のこと今考えてた?」

美琴が当麻の左手を掴み、思い切り睨んでいた。
551 :LX [saga sage]:2012/02/26(日) 21:32:05.18 ID:10sfWO230

(あ〜あ、なんでこうなっちゃうかな、私。アレが来ちゃったからといって、あんな雰囲気になって、せっかくアイツも乗り気だったのに情けないったらありゃしない。

びびって自分からムード壊しちゃうなんて、わたしって、ホント馬鹿だ……。

だいたいそれにアレだからって、手とか口とかやる方法いくらだってあるって雑誌に書いてあったし……やだ、私、今日マジでおかしい? 

絶対変? なに考えてるのかしら?)

結局、大幅に遅い夕食の後、美琴はタクシーで自分の寮に帰っていった。クルマの中でひとり、悶々と悩みながら。



一方の当麻。

美琴が悶々と悩んでいたとはつゆ知らず、彼は彼でまた、自己嫌悪に陥っていた。

(あー、紳士ぶるんじゃなかったですよ〜!! せっかくあいつもその気だったのに、最後まで出来なくても、ペッティングくらいは出来たかも知れないって言うのに〜

ああ、大失敗でしたのことよ〜!!!!)

後悔先に立たず。



……あれから10数年経った今でも、たまに当麻は思うことがある。

もし。

もし、あのとき、美琴に生理が来なかったら。

もし、あのとき、美琴と結ばれていたら。



二人、いや三人はどんな人生を歩んでいたろうか?



その度に、彼は思い直す。

もし、そうなっていたら、

一麻は?

麻琴は?

美琴とは?

麻美とは?



皆、どうなっているのか、全く予想が付かない。

特に二人の子供については、いったいどうなっていたか、全くわからない。彼の想像はいつもここで止まるのだった。



誰もが、一度は考えたことがあるだろう、人生のやり直し。

だが、それは小説の世界だけ。

それは空想の中だけ。

現実にはそれは出来ないこと。

望んだにせよ、望まなかったにせよ、起きてしまったことは、もう取り返しが付かない。やり直しは出来ないのだ。

だったら、過去を言っても始まらない。精一杯、明日を信じて生きてゆこう。明日は、今日よりも良いことがあるさ、と。
552 :LX [saga sage]:2012/02/26(日) 21:38:38.70 ID:10sfWO230
>>1です。
お読み下さいまして有り難うございました。
本日分は以上です。

ようやく作品そのものの投稿が250を超えました。前作よりは遙かに遅いペースであります。
このペースでは1年超えるかも知れないと最近思い始めました(汗

もう少し纏められれば良いのですが、時間取っても筆が進まないので意味がありません。あー難しいです。

>>542さま、>>543さま
カキコ有り難うございました。つたないながら頑張りますので引き続き宜しく御願い致します。

それではお先に失礼致します。
553 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/28(火) 00:09:41.39 ID:4EYbu4840
乙。
551の内容からすると麻美こと10032号とイタしちゃうのは、このすぐ後なのかな?
何にせよ、期待してます。
554 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県) [sage]:2012/02/29(水) 18:10:45.18 ID:joIP6FXqo
前スレから追いつきましたよっと

完成度高いSSでついつい読みふけってしまいました
上条さんがただの不埒な男で終わらないよう願ってます
555 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/29(水) 22:27:42.82 ID:QiLDL3Euo
おつにゃんだよ!
556 :LX [saga ]:2012/03/04(日) 19:41:10.08 ID:uPuC0Jn70
皆様こんばんは。
>>1です。

コメント頂きまして誠に有り難うございます。正直、ホッとしております。
やっぱりゼロだと悲しいものがありますもので……

>>553さま
その時はちゃんとsage進行と言う形で……
エロはないって>>1で書いておきながらなんですけれど。
でも、ソレが主題のSSではありませんので、自制して書いております。もちろんお酒はなしで。

>>554さま
前作をお読み下さり有り難うございます。
完成度は正直「えへへ」なのですが、よくあれだけまとめ書き出来たもんだと思います。今も頑張ってはいるのですが。

>>555さま
ありがとうございます。頑張ります。

それでは、本日分、これより投稿致しますので、宜しく御願い致します。
557 :LX [saga sage]:2012/03/04(日) 19:45:03.70 ID:uPuC0Jn70


「10032号、貴女は聞きましたか?」

最近では珍しい、無表情の(仏頂面と言った方が正しいか?)検体番号10039号。

御坂妹は、その顔の中に悔しさの色を瞬時に見て取った。ああ、このミサカも同じ状態なのですね、と思う。

「聞きました。お姉様<オリジナル>から、直接」

御坂妹も意図的に無表情で答える。きっと検体番号10039号と同じような顔をしているに違いないと思いつつ。

「そうですか。貴女も聞いたのですね」

それきり二人のクローンは黙り込む。



事の起こりである、前日木曜日の夜。

「もしもし? 私だけど」

御坂妹こと、検体番号10032号の携帯に美琴からの音声通話が入ってきた。

「どうしたのですか、お姉様<オリジナル>? あのひとに何かあったのですか?」

「ちょっと、いきなりそれって……アンタねぇ、なんで私がアイツのことでアンタに電話するわけ?」

「お言葉ですが、お姉様<オリジナル>からの音声通話は今年に入ってから4回ありましたが、全てあのひとに関係した事でした、とミサカは冷静に事実を述べてみます」

「くっ、あ、アンタ、人の電話、全部数えているわけ? 信じられない……そ、そりゃ今までそうだったから、と言って次も同じとは限らないでしょっ?」

「ちなみに昨年は下半期6ヶ月で13回でしたが、それも全て、ひとつ残らずあのひとがらみの話でした。

しかもそのうち4回は100%ノロケ話でしたが、とミサカは厳然たる事実をお姉様<オリジナル>に突きつけます」

「ああ、もうわかったわよ! そうよ、アイツのことよ、今回も! それでいいわね? 気が済んだ?」

「気が済むとかどうとか言う話ではありません。単に無意味な否定をしなければ良いだけなのですが、美琴お姉様<オリジナル>?」

「はいはい。有り難く聞いておくわよ。で、あんた、明日の出勤は朝番? 日勤?」

「このミサカの明日の出勤は朝番です。14時半には自由の身ですが、それが何か?」

「あっそ。じゃ、明日、その頃行くわ? 少し時間頂戴?」

「……かまいませんが、なにか重大なお話ですか?」

「んー、重大といえばそうかもしれないし、そうでないかも知れないけど。ま、まぁ先の話だから、どうなるかわかんない話よ。いい?」

「わかったような、わからないようなお話ですが、承りました。それではロビーで良いのでしょうか?」

「そうね、待ってるわ」

腹の探り合いを隠しながらの漫才のような会話は終わった。



(お姉様<オリジナル>が、私に話があると……。このミサカにとっては、決して良い話ではないでしょうね)

検体番号10032号・御坂妹は、大きくため息をついた。

(このミサカは、いったいどうすればよいのでしょうか……、このままでは、あのひとはお姉様<オリジナル>が……でも、)

電話を取るのではなかった、と自己嫌悪する御坂妹であった。
558 :LX [saga sage]:2012/03/04(日) 19:56:30.76 ID:uPuC0Jn70
>>1です。

すみません、ちょっと修正掛けたいところが出て参りました。
投稿中誠に申し訳御座いませんが少々お時間を頂きたく存じます。
559 :LX [saga sage]:2012/03/04(日) 20:18:52.79 ID:uPuC0Jn70

「あんたにひとつ、教えとくことがあるの」   

開口一番、美琴が単刀直入に切り出した。ミサカネットワークは切っておいてね? との御願いと一緒に。



金曜日の、夕方も近い頃。

第五学区の喫茶室「シャガール」に、双子姉妹のような二人がいた。

「なんでしょうか?」  

答えた言葉こそ丁寧だが、無意識のうちに御坂妹は身構えるかのように緊張した。

そんな彼女を見て、ふぅ、と小さく息を吐いた美琴は一瞬間をおいた後、小声ではあるがはっきりと口に出した。



「わたし、御坂美琴はね、アイツと……上条当麻と、結婚する」



「……」

言葉を発せず、じっと美琴を見る御坂妹の目に負けるものかと、美琴も正面から視線を交える。

「その、いきなりすぎたかも、ごめんなさいね。アイツも、その、ようやく腹決めたの。ま、私が決めさせたと言っても良いんだけど。

大変だったわよアイツの……」



御坂妹の視線は動かなかった。しかし、彼女の頭の中では、今の美琴の言葉が渦巻いていた。

「アイツと結婚する」

「アイツとけっこん」

「アイツと……」

あのひとが、

わたしを救ってくれた、あのひと、が……お姉様<オリジナル>と。

とうとう、あのひと、は……わたしを選んではくれなかった……。



「アイツも、その、ようやく腹決めたの。ま、私が決めさせたと言っても良いんだけど」

え……?

それは……?

お姉様<オリジナル>、それはどういう意味でしょうか?

お姉様<オリジナル>は……まさか、まさか私の想いを知って、だから? 

でも、お姉様<オリジナル>が、そんなことを……? 本当に?

御坂妹の心に、初めて黒い疑念がわき起こり、顔からは血の気がひく。



「ちょっと、アンタ、で、喜んでくれるの、どうでもいいの、怒ったの、何か言ってよね?」

ふっと、彼女の意識が戻った。

「お姉様<オリジナル>、それは本当のことなのですね? とミサカは内容の重大さを考えて念のため確認を」

「そうだって言ってるでしょ?」

「そう、ですか」
560 :LX [saga sage]:2012/03/04(日) 20:27:51.91 ID:uPuC0Jn70

「……あんたが、あいつのこと、好きだったのは解ってる。あいつは、あんたを命がけで救ったんだもの。

命の恩人への思いが、愛情に変わるのは当たり前よね。

でもね、それは私も一緒。私はあの時、自分を殺すことであの気違いじみた実験にケリをつけるつもりだったし」

「お姉様<オリジナル>、その話はもう止めて頂けますでしょうか?」

思い出したくもない、あの悪夢のような実験。そして、その実験被検体として何ら疑いも持たず、死んでいった自分たち。

つい先日も、まさにその悪夢を見た、御坂妹。

「そう? ……そうよね。思い出させちゃったかしらね、ゴメンね。そんなつもりじゃなかったのよ」



美琴は、御坂妹の表情が暗く沈み血の気がひいたことを、自分が当麻と結婚する事と、話の流れとはいえ、あの悪夢のことを口に出したからだ、と解釈した。

……彼女の血相が変わったことには、そんなことよりももっと深い理由、しかも自分の発言がきっかけだったとは、その時の美琴は全く想像だにしなかった。

美琴は、御坂妹の心をわかっていたつもりだった。

だからこそ、一番最初に伝えるべきだと思っていた。

しかし。



「お姉様<オリジナル>、お聞きしたいことがあります」

「はいはい、何でもどうぞ? 答えられる事だったら、何でもいいわよ?」



美琴は悪気で言ったわけではない。ちょっとおかしくなった雰囲気を和らげようと思っただけである。

だが、心乱れ、疑念に捕らわれている御坂妹には、美琴が自分を見下して、勝者がおちゃらけているかのように見えたのだった。

彼女の語気は当然強いものになる。

「先日の、学園都市からの脱出行についてですが、どうしてこのミサカには声を掛けて下さらなかったのですか?

何故、検体番号10039号と検体番号19090号を選ばれたのですか? このミサカに何か不都合があったのでしょうか?

それとも、あのひとにこのミサカを会わせたくなかったのですか? そんなにこのミサカを危険だとお思いでしたか?」

火の出るような発言であるが、彼女の顔は、昔の無表情。

しかし、美琴は瞬時に、蒼白になった御坂妹は今、怒っているのだと感じ取った。

それは、ある意味、予想していたことであったが、質問の内容には少しクビをかしげざるをえなかった。

なぜ? 今頃になってその質問はどういう意味なのかしら? と。

彼女は、自分の不用意な発言に全く気が付いていなかった。だから、御坂妹の声も理解できなかった。

「あんた、それは考えすぎよ。落ち着きなさいな。あんただけじゃないわよ? もう一人アンタと同じ病院にいるじゃない?

彼女にだって頼んでないわよ? まぁ、あんたがアイツが好きなのは勿論知ってるけれど、だから外したって訳じゃないのよ」

病院で働いてるあんたらに頼めるわけないでしょう? と美琴はゆっくりと答える。

御坂妹は唇を真一文字に結んだまま、目を伏せて黙る。

(一応は理屈は通ってるけれど、通り過ぎてて白々しいかな……この子、この顔じゃ全然納得してないわね)

その様子を見た美琴も考える。

半分は間違いなく本当だ。だが、残り半分は、御坂妹の言う通りだった。

彼女だから、アイツを心底愛しているミサカだから、美琴は会わせたくなかった。たとえ、妹達<シスターズ>であっても。

いや、妹達<シスターズ>だからこそ。
561 :LX [saga sage]:2012/03/04(日) 20:48:36.44 ID:uPuC0Jn70


美琴は学園都市にいる4人の妹達<シスターズ>のメンバーを思う。

ミーハーな19090号。

マジメ一徹を絵に描いたような13577号。

人懐っこい10039号。

そして、一見は物静かな”クール・ビューティ”である10032号こと御坂妹。

あれからわずか6年。

それこそアクセサリーか何かでマーキングしないと誰が誰だか解らなかったあの時からすれば、今は4人とも全く違う。

おそらく、外にいる妹達<シスターズ>も同じように個性が出ていることだろう。



その学園都市にいる4人の妹達<シスターズ>のなかで、御坂妹はある意味で一番、大人っぽいミサカだ、と思う。

それは、彼女が病院勤務であり、ひとの生き死にを見ているからかもしれない。

それは、一度、彼女自身が生死の境目を彷徨ったからかもしれない。

そして、その時にアイツに助けられたからかもしれない。

そして、思い焦がれる人(アイツのことだ)が出来たからかもしれない。

一番、敵にしたくないけれど、でも当麻のことでは引き下がるわけにはいかない。一度は対決せざるを得ないミサカ、検体番号10032号。

美琴は腹に力を入れ、気を引き締める。



……しばらくの沈黙の後、御坂妹が口を開いた。

「わかりました。それで、いつご結婚されるのでしょうか?」

「うん……それはまだ決めてないの。『先の話』と電話で言ったのはそのことなのよ。

あいつは少なくとも自分で金稼げるようになってから、って宣言しちゃったから、少なくとも大学卒業して社会人になってからよね」

この子、本当に納得してくれたのかしら、と思いつつ、話を進める美琴。

「あのひとは、無事卒業出来るのでしょうか?」

「あはは、良いところ突くわねー。でもね、させてみせるわよ、絶対に。私の人生もかかってるんだからさ。

なんとか単位は取れてるようだし、何とかなるんじゃない? そうそう明日ね、あいつ、就職試験受けるんだって」

「就職……試験?」

「? あ、そうか。あんたはあのカエルのところにそのまま収まっちゃってるから、試験は受けてないんだっけ?」

「いえ、テストならばこのミサカは各種の多様なテストを受けていますけれども?」

「うーん、あんたのそれとはちょっと違うと思うけどね。まぁ、いいわ。とにかく社会へ飛び出す第一歩ってところなのよ」

「では、来年ですか?」

「……いやね、あたしもまだ学生じゃない? まぁここじゃ学生多いから、奥様になってる学生も珍しくないけどさ……。

ちょっとそれは避けたいなって私は思ってるの。そ、それにさ、もし、子供出来ちゃったら、その、恥ずかしいでしょ?」

「今ひとつ、現実味がわかないのですが。子供が生まれると何か問題でも?」

「えー、だって、そしたらやっぱり縛られちゃうじゃない? 私もそうだけど、あいつも、ね。

子供を育てるのって、そう簡単じゃないわよ? やっぱり親になるって、何かを犠牲にしなきゃやれないもの。

『親はなくとも子は育つ』って言うけど、真面目に育てようって思ったらとてもとても」



その時、御坂妹の心に、何かが宿った。このとき、それが何かはわからなかったが。
562 :LX [saga sage]:2012/03/04(日) 21:09:58.46 ID:uPuC0Jn70


「お姉様<オリジナル>はそこまで人生設計を進めていらっしゃるのですか?」 

「あはは、止めてよ、まだ頭の中だけよ? まだ口約束の段階だもの、結納とかさ、なんかいろいろ難しいことあるのよ」

「結納……? 日本の古い風習のことでしょうか?」

「うん」

「そう言うところはお姉様<オリジナル>も古風なのですね」

「あはははは、そうよね。でもいいんじゃない? 昔から続く慣わしってのもいいものよ? 

それに親も楽しみにしてるし。あんまり親孝行してないから、それぐらいしてあげなきゃね」

「……」

「ね、紅茶、お代わりもらわない? 同じヤツでいいかな? ケーキは? もう一つトライしない?」

黙り込みがちな御坂妹を元気づけようと、美琴はテーブルの発注ボタンを押す。



しかし、御坂妹は首を振り、再び美琴に質問を投げてきた。

「お姉様<オリジナル>、この話はもう他の誰かにお話はされたのでしょうか?」

「してないわよ。まず、あんたに話をすべきだと思って」



(ああ、やはり、お姉様<オリジナル>は……最初に私をつぶしに来たのですね)

思い切り深く沈み込んでゆく御坂妹。

美琴にとっても、御坂妹にとっても不幸なこと、それはその後に続く美琴の言葉を御坂妹が聞き漏らしたことだった。

「だって、このこと、あんた、他の誰かから聞いたらいやでしょ?」



まさか、美琴もこの言葉を彼女が聞いていないとは思わなかった。

だから、彼女は平然と次の話題に転じたのだった。

「でね、良ければ、あんたには私の結婚式に出てもらおうかな、と思ってるんだけど、どうかな?」

繰り返すが、美琴は決して悪気で言っているわけではなかった。

しかし、し・か・し。

今の状態の御坂妹からすれば、これは美琴の一方的な勝利宣言に他ならない。

(お姉様<オリジナル>、貴女はわたしに、そうまでして見せつけたいのですか……どうして、どうしてですか!?)



狂った歯車はどこまでも狂ってゆく。

そして、二人はそのことに気づかないまま……
563 :LX [saga sage]:2012/03/04(日) 21:20:36.41 ID:uPuC0Jn70

「そ、そうなのですか?」

「うん。昨日、あいつを実家に連れて行って、その場で決まっちゃった。

でもね、あいつも頑固でね、私のカネで暮らしたくない、自分で食えるようになるまで結婚しません、メシが食えるようになったら、私を迎えに来るから待ってろって♪」

「はぁ……そうなのですか……」

「あ、それでね、土曜日、あいつ面接があるから、あんたとのツーリングは延期するしかないんだけど、聞いてるよね?」

「それは聞いていました。でも、お姉様<オリジナル>と結婚するというお話は当麻さんからはありませんでした、とこのミサカはショックを隠せません」

美琴と話をしているのは検体番号10039号。御坂妹の次にこの話をしなければならないミサカである。

「ああ、それはほら、アイツ鈍感だから、あんたも解ってるでしょ、そのことは? ま、私が先走っちゃったかもしれないけれどさ?」

いっけなーい、アイツに念押ししとけば良かった、と美琴は思う。

当麻が、アイツが自分から言うはずがないし。

……でも、あのミサカ10032号、御坂妹には絶対に先に話をしておかねばならないし、この子だって安心は出来ないし。

とにかく先手必勝で、アイツはわたしのものになった、と言うことを、少なくともこの二人には釘を刺しておかなければならないもの。

ロシアの10777号も危ないけれど、さすがそう簡単には学園都市に戻って来れないだろうし、とりあえずはやはりこの子たちよね、と。

美琴はそう考えていた。



後で、美琴は悔やむことになる。

あまりにも浮ついていた、もう少し待って、頭を冷やしてから、どう彼女たちに説明するかきちんと作戦を考えてから行動すべきだった、と。

体調のせいもあったかもしれない。ともすれば、精神状態が安定しにくい時もある「あの時」に、よりによってこんな面倒な話を持ち出すべきではなかったと。



後からなら、何とでも言えるわよね、と彼女は後に自嘲した。

不安だった。

自分の両親に引き合わせて、その場で酒が入っていたとはいえ、当麻の口から「結婚します」という意味の言葉を聞き、ようやくここまで来たかと舞い上がった自分の心は、その翌日あっさりと「雲川芹亜」なる年上の女性に叩き落とされた。のみならず、挑戦状まで叩きつけられた。

ぐらつき、不安におののいたあの時のわたし。

その裏返しで、わたしは、一番弱い(と考えた)、自分の妹達<シスターズ>に強気に出ることで自信を持とうとした。

そして、私が一番警戒していたあの子、検体番号10032号を皮切りに、同じく当麻に好意を抱いていた検体番号10039号を叩くことでバランスを取ろうとしたのだ。

なんという卑怯者だったのだろう。

あの子たちがどう思うか、なんてことは考えても見なかった。考えたつもりだった、と。





しかし、それは自分の立場での、自分本位での考え方でしかなかった。

その時の彼女は、そんなことまで考えもせず、行動に移してしまったのだった。

後悔、先に立たず。
564 :LX [saga sage]:2012/03/04(日) 21:24:46.88 ID:uPuC0Jn70


再び、場面は最初に戻る。

ただ、話が止まってしまった彼女らは、第八学区にある談話室「瀧本」を出て、今は小さな緑化公園にいた。



「このミサカは、お姉様<オリジナル>が幸せになることを」

「決して邪魔しようとは思っていません」

「なのに」

「どうして」

「このミサカは素直に喜べないのでしょうか」

ぽつりぽつりと切れ切れにつぶやく検体番号10039号。

「笑って下さい、検体番号10032号。このミサカは、当麻さんを好きになってしまったことを、今、初めて認識しました」

黙って聞いているのは御坂妹こと検体番号10032号。もちろん笑うはずもなく、彼女の表情は変わらなかった。

「初めてお会いしたのは第10031次試験の撤退の時でした。そう、検体番号10032号は既に当麻さんと私的接触をした後でしたね?

今思うと、どうしてあの時、このミサカは逆方向へ歩いてしまったのだろうかと思い悩むのです。

どうしてこのミサカではなく、検体番号10032号に当麻さんは出会ってしまったのだろうかと」

検体番号10039号が空を見上げる。

御坂妹は、そんな彼女をやはり黙って見つめるだけ。

「検体番号10031号が予定通り役目を果たし終え、検体番号10032号がそれを運ぼうとしたところに当麻さんは現れた。

あの時は、正直このミサカは『なんだこの一般人は』『ミスりましたね、検体番号10032号』と思いましたが」

「検体番号10039号だけではありませんでした」

ふいに御坂妹が口を挟む。

「一般人に見られた、何をしゃべっている、余計なことをするな、早く荷物<死体>を処分しろ、とそこら中から言われました、あの時は」

「ふふ、確かにそうでしたね……ああ、思い出すとこのミサカはいても立ってもいられなくなるのです」

不思議そうな目を向ける御坂妹。

「わからないのですか、検体番号10032号? 当麻さんは、他ならぬ貴女を、検体番号10032号を必死になって捜していたのですよ?

実験動物に過ぎなかったこのミサカを、たかだかちょこっとお手伝いをしてお話をしただけの検体番号10032号を、検体番号10031号と勘違いして死んだのかと思って」

「検体番号10039号、訂正して下さい! あのお手伝いは『たかだか』と言われるほどつまらないものではありません。

このミサカにとっては忘れられない、忘れてはいけない思い出の一つですなのです!」

キッと言う顔になって、御坂妹は検体番号10039号に驚くほど強い調子で叫んだ。

そんな彼女を、同じように強い目でにらみ返した検体番号10039号は、やがて視線を逸らすと再び夜空を見上げる。

「貴女が参加した第10032次試験において、このミサカは検体番号10032号の処理を担当するよう、検体番号10038号と一緒に命じられて、あの場所に待機していました。

実験がまもなく終わろうか、と言うときに当麻さんはやってきました。

そして、瀕死の検体番号10032号、そう、貴女に『お前は世界に一人だけ』『勝手に死ぬな』と言い、そして一方通行<アクセラレータ>に勇敢に立ち向かい、奇跡的な勝利を得ました。

あのときから。このミサカにとって、当麻さんはヒーロー。忘れられないひとになりました」

御坂妹は黙って聞いている。

だが、彼女の頭の中では、あの時の様子が克明に蘇っていた。

「思い出しているのですか、検体番号10032号」

涙ぐみ、声が震える検体番号10039号はつぶやくように言う。

「このミサカは、貴女が、検体番号10032号が羨ましい」
565 :LX [saga sage]:2012/03/04(日) 21:26:56.97 ID:uPuC0Jn70

「前にも言っていましたね。何故検体番号10039号はこのミサカが羨ましいのですか?」

御坂妹が静かに問いかける。

「このミサカは死にかけたのです。そう、最後の実験従事検体がわたし。

このミサカの身体は、そのせいかあなたを含む他のミサカより大きく損傷した部分があります。

一時期は生命維持も危ぶまれたことすらあります。そんなミサカを何故羨ましいと?」

御坂妹は不思議そうに、赤い涙目の検体番号10039号を見つめる。

「検体番号10032号? だから、あなたは当麻さんに唯一、たった一人だけ別格扱いされたのです。いいですか?

検体番号10032号以外のミサカは、上位個体<打ち止め>以外、お姉様<オリジナル>のクローンの一人でしかありません。

検体番号10032号だけが、<御坂妹>という二つ名を他ならぬ当麻さんから付けられ、あらゆる場面において、妹達<シスターズ>のなかで特別扱いされてきました。

検体番号10032号は、そのことに気づいていないのですね」

「!」

(そう、なのですか)

目を見開き、驚く検体番号10032号、御坂妹。

「そうですとも。いいですか、検体番号10032号? もし……もしですよ? 検体番号10032号が当麻さんに興味がないのであれば……このミサカにその座を譲って下さい」

「……!!」

「このミサカは当麻さんが好き。あのひとの傍にいたいのです。検体番号10032号、どうなのですか?」

「出来ません」

瞬時にきっぱりと言い切った御坂妹。

「このミサカの記憶は、体験は、このミサカのものです。誰にも譲れません。検体番号10039号があのひとを好きなことはわかりました。

ですが、あのひとが特別な存在であることを、このミサカは誰よりも一番良くわかっています。

検体番号10039号に深く感謝します。このミサカにとってあのひとが何なのか、今、はっきりしました」

えっ?と言う顔の検体番号10039号。

「こうしてはいられません。ミサカは速やかに行動を起こします」

そういうとぺこりとお辞儀をした御坂妹は脱兎の如く駆けだした。



「敵に塩を送ってしまったのでしょうか、それともヤブヘビ……?」

呆然と佇んでいた検体番号10039号が、ぽつりとつぶやいたのは、それから暫く経った後だった。
566 :LX [saga sage]:2012/03/04(日) 21:33:01.26 ID:uPuC0Jn70



御坂妹は走る。

愛しいあの人の下へ。

ひたすら走る。

あと少しで、あのひとに会う。あの人に会わねばならない。

そして、はっきりと言おう。

「愛しています」と。



死の淵からあのひとに救い出されて、6年。

命の恩人だったあのひと。

わたしを、妹達<シスターズ>を守ってくれたひと。

特別なひと。

妹達<シスターズ>にとっても、

そう、お姉様<オリジナル>にとっても。

このミサカにとっても、いいえ、それは絶対違う。違います。

「御坂妹」という名をあのひとからもらった、「わたし」にとって、あのひとは。



滅多に会えぬが故、思い出は美化され、誇張され、そしてその想いは純化されて光り輝く。

しかし、彼女の想いは心の中の奥底に沈められ、今まで表に出てくることはなかった。

それが何なのか、何だかわからないものをどうすれば良いのか、わからなかったから。

表に出して良いものかすらわからなかったから。



今、答えは出た。

二人から、答えをもらった。

一人は、仲間。同じ妹達<シスターズ>から。

そして、もう一人は、他ならぬお姉様<オリジナル>自身。

表に出た、吹き出した彼女の想いは、彼女自身を走らせる。

恋する人の下へ、愛する人の下へ。
567 :LX [saga sage]:2012/03/04(日) 21:37:33.24 ID:uPuC0Jn70

今まで、ひたすら純に、不器用に当麻を思い続けてきた御坂妹。

そして今、彼女の頭の中は、ただひとつ。

あのひとのことだけ。



あのひとを、お姉様<オリジナル>はわたしから取り上げて自分のものにしようとしている。

そんなのは嫌! わたしは、嫌です!



怒りと悲しみの涙で、視界が僅かににじみ、彼女は立ち止まる。

「お姉様<オリジナル>!」

あの日と同じ、夜空に向かって彼女は慟哭する。



わたしは、お姉様<オリジナル>の恋を邪魔なんかしなかったのに。

わたしは、お姉様<オリジナル>と争いたくないのに。

わたしは、お姉様<オリジナル>にあこがれていたのに。

それなのに。

どうしてですか、お姉様<オリジナル>?

どうして、わたしからあのひとを取り上げるのですか?

ごめんなさい、お姉様<オリジナル>。

わたしは……今日、わたしは、わたしの為に、行動します!



純粋に「あのひとが好きだった」

純粋に「あのひとと一緒にいたかった」

純粋に「あのひとを愛していた」

御坂妹。



彼女のうちに秘められていた、美琴がぼんやりと感じ取っていた、「おんな」の情念が、はっきりと表に吹き出す。

彼女は今、妹達<シスターズ>の中の一人、から、一人の女性になったのだった。

そして、初めて、彼女の心に「打算」が生まれた瞬間だった。
568 :LX [saga sage]:2012/03/04(日) 21:47:54.89 ID:uPuC0Jn70
>>1です。

本日投稿分は以上です。

今回、第10031次実験において10039号が処理班にいたこと、その次の第10032次実験において、10032号の遺体の処理は10038号と10039号だった、という独自設定を設けております。

途中で、どうしても追加しなければならない部分が見つかりまして、そこを追加修正していったのですが、
投稿の区切りを変える必要が出来たり、内容を追加する必要が生じたりで、ものすごく時間がかかりました。
お恥ずかしいところをお見せしてしまい、大変失礼致しました。
リアルタイムでお読み下さっていた方には深くお詫び申し上げます。

なお次回ですが、ちょっと投稿出来るかわからない問題がありまして、もしかするとパスになってしまうかもしれません。また、投稿出来た場合でも、内容の都合上、sage進行で参りますので、宜しくお願い申し上げます。

それでは本日はお先に失礼致します。
お読み下さいまして本当に有り難うございました。
569 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/04(日) 21:53:56.04 ID:Hnj//Te70
>>1乙。
どういう内容にしろ、物語の核心にせまりつつあるので期待しているじぇ。
570 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県) [sage]:2012/03/04(日) 21:58:18.01 ID:9xqL32h4o
すれ違いによって起きた悲劇、か
571 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/05(月) 01:00:33.61 ID:TvK4yavDO
御坂妹も軍用クローンの一人だから、いくらカエル顔の医者や学園都市のグレーな力のおかげで「人らしい」生活ができているとはいえ、「人らしい」の域を超えられない。
だから、仮に自分が選ばれたとしても、法的、社会的に結ばれにくい。そう考えると、かなりの悲恋だな。
もっとも、横恋慕という時点で悲恋だが。
572 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/03/05(月) 01:29:02.48 ID:nwLD43t5o
物語で一旦マイナスの感情を持ってしまうとそれを挽回するのは難しい
それを実感しています
御坂妹の事情もわかるけど…わかるけど…やはり彼女に向ける視線は冷たいものになってしまう
573 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/05(月) 16:00:10.01 ID:rr/mra0vo
おつおつ
ここの御坂妹は心底美琴のことどうでもいいんだなとしか思いようが無いなぁ
これが一時の迷いで、この行為を後悔したようなそぶりや美琴に対して申し訳ないという思いがこの未来にあればいいけど、
既に描かれてる未来だと欠片もそんな場面が見られなかった上に自分だけが被害者みたいな態度だったし・・・
574 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2012/03/06(火) 11:13:03.12 ID:1iMmtS8AO
必死だからこそ一筋縄じゃいかないんだな
近年稀に見る愛憎劇に僕は敬意を表するっ!
575 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/08(木) 03:17:22.54 ID:LlYiYmwo0
おつ。いいね、御坂妹、これが女って奴だよな、うん。

>>574
パンナコッタさん!?なにしてはるんですか!?
576 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2012/03/08(木) 03:43:26.22 ID:kptIK0s20
一方通行の子供いる?ww
レス呼んで無いものでできれば教えて〜ww
577 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/08(木) 08:16:01.83 ID:WXlcZXpI0
wktk
578 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県) [sage]:2012/03/11(日) 10:54:11.96 ID:Y/k4VVROo
>>576
とりあえずこのスレの一方さんは生殖能力が低いようで
579 :LX [saga sage]:2012/03/11(日) 19:33:52.87 ID:W49tB26r0
皆様こんばんは。
>>1です。

たくさんのコメント有り難うございます。
コメントのために書いてるんじゃない、なんて突っ張ってみたりしますけど、コメント頂けると素直に嬉しいです。
また、自分が力入れて書いたところはやはりコメントを多く頂けるので、さすが皆さん良く見てらっしゃるのだな、と改めて思う次第です。

>>569さま
有り難うございます。第二部はこの作品の過去回でありまして、前作(佐天利子物語)の伏線の回収回でもあります。(ああ、自分でハードル上げてどうするのでしょうか)
うまくプロットどおり破綻せずに纏まればいいのですが。

>>570さま
有り難うございます。言葉足らずって恐いです。自分でも経験ありますし。

>>571さま
有り難うございます。人数が多すぎるというのもあるでしょうね。仮に2人くらいだったらごまかせたのではないかと思いますけれど、1万人弱はもうどうしようもありません。廻りも本人たちも悲劇です。

>>572さま
有り難うございます。そう思われるということは、それなりに彼女のキャラが出来ていると言うことだと思いますので、作者としてはちょっと安心しました。

>>573さま
有り難うございます。前作では彼女はモブキャラでしたので、この作品の「未来」についてと解釈しますが、第三部が第一部の先の時代(前作よりは前です)になります。そこのラストまでに、彼女がどう大人コドモからひとつ成長するかが巧く書ければいいのですけれど。そこまでお付き合い頂けると嬉しいです。

>>574さま
有り難うございます。彼女の必死さを書いたつもりでしたので……ちょっと嬉しいです。

>>575さま
はい。女性心理を書くのはとっても難しいですw なのでそう言って頂けますと嬉しいですね。有り難うございました。

>>576さま
有り難うございます。>>578さまのお答えの通りです。あと、恐縮ですがコメント頂ける場合は是非、sage進行で是非御願い致します。

>>577さま
頑張りますので宜しく御願い致します。

>>578さま
代わりにお答えして頂いてしまい、すみませんでした。有り難うございました。 

本日投稿はsage進行でひっそりと投稿致す予定ですが、まだ終わりの方が修正中です。
内容が内容だけに、分割2回はしたくないので、できあがり次第静かにこっそりと(苦笑
それでは、後ほど。
580 :LX [saga sage]:2012/03/11(日) 22:34:21.27 ID:W49tB26r0
細い腕が自分に絡みついてくる。自分の胸板に、ぎゅっと押し当てられた彼女の乳房は、余すところなくその重量と柔らかさを伝えてくる。

耳元では、はぅ、はぁ、という荒い息と、ときおり唾を飲む音も響く。

「愛してます……あなたを」   濡れた声が耳元にささやきかけてくる。



美琴が当麻にのしかかっていた。もちろん、裸である。うっすらと湿り気を帯びた、火照った肌が心地よい。

ああ、これ淫夢だ……夢だけどいいなぁ、今日はついてるわ、と夢の中で当麻は思う。

何度も見た、自分に不幸な出来事が襲いかかってくる夢を思えば、今日の夢はサイコーに極楽だわー、と。

目を閉じた美琴は、熱に浮かされているかの如く当麻の唇にむしゃぶりつき、自分の口の中を彼女の舌が暴れ回る。

(おおぅ、すごく激しいな、夢なのが残念だけど、でも夢でもいいや)と思いつつ、当麻もそれに応じる。

彼女の細い二の腕、そして肩から背中を撫で回し、下へ手を滑らせてお尻へと辿り着く。

冷たいお尻を撫で回し、ふいに思い切りグイと掴むと「あぅ、や」という甘い悲鳴が聞こえる。

ならば、パチン、と開いた手のひらで厚いお尻の肉を叩いてみると、「やん」と、先ほどとはまた違う、官能を刺激する小さな悲鳴が耳を楽しませる。

暫くパンと張ったお尻の肉の感触を楽しんでから、手を彼女の恥ずかしいところへ進めようとすると、察知した彼女は「そこはだめ」と彼の手を振り払う。

「いいじゃん、夢なんだからさ」と当麻は言うと「いやらしい」と彼女は目を開き、軽く睨む。その目は潤んでいる。

「お前だって、裸じゃん? わかるだろ? 俺、立ってるの?」  いじめるように言ってみる。

「はい。すごく、固い……おおきいのが、お腹に……」  と彼女は目を伏せて恥ずかしそうに言う。

「触ってもいいよ?」

「いいのですか?」  大丈夫なの? と目を開いた美琴が目で訊いてくる。顔がほんのりと上気している。

「握ってごらん?」

美琴が恐る恐る身体を起こすと、彼女と自分の下腹部に挟まれていた彼のモノがクイと存在をアピールする。

既に、先っぽからは透明な雫がにじんでいて、彼女の腹に細い糸を引いた。

「すご……これ、歩く時、邪魔にならないのですか?」

「邪魔にはならないよ。産まれた時から付いてるしさ……それに普段は縮んでるし」

緊張を和らげさせるようにあはは、と軽く笑う。

おっかなびっくり、と言う感じで彼女がそれを握る。

「熱いのですね、脈打っているのもわかります」

「そう、そんな感じで、そーっと……それでゆっくりしごいてみて?」

言われるままに、ゆっくりと上下に動かす美琴。 

……だが、やはり慣れていないからか、動きは機械的である。

「あの……本で読んだのですが、その、これを口に含む愛撫方法があると……してみても、いいですか?」

おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!! マジですかぁあああああああああ!!!!!!!

思わず当麻は感動する。実に素晴らしい夢だ。いいか、絶対に起きるなよ? ここで目が覚めたら泣くに泣けねぇ……目覚めないようにしなきゃ。

「美琴、おまえ、すっごくエッチな女になったな?」

夢の中で当麻はそう言って、彼女の反応を期待する。

(うっさいばか)か、(あんたのせいでしょ)かな?……いや夢なんだからもっと可愛いのがいいな……

だが、帰ってきた言葉は予想もしないものだった。

「……あなたは、わたしとお姉様<オリジナル>の区別も付かないのですか?」

へ? 

視線を、下向きの円錐形の綺麗な胸から上に走らせてゆくと、


素肌の、美琴の首からは、見たことのあるネックレスが下がっていた。
581 :LX [saga sage]:2012/03/11(日) 22:36:38.65 ID:W49tB26r0

「ええっ!!??」

当麻は目を覚ました。薄暗い部屋、自分の部屋だ。

――― 夢か?―――

しかし、その瞬間、彼は身体に重みを感じる。上に人がいる。身体が柔らかい。女……? まさか。誰が? どうやって? 何も着ていない? 

素裸の女から発する熱が、化粧の僅かな匂いが、一気に当麻を押し包む。

豊かな胸が目の前を通り過ぎるとパッと枕元の明かりがともる。少し、まぶしい。

(わぅ?)

また胸が目の前に来た。直ぐ傍で、形の良い乳房が息づいている。

青い血管がすこし透けて見えるくらい白い肌に盛り上がった胸、その頂きには小指大にとがっている赤みの強い乳首があることを当麻は目ざとく見た。

(あ、乳首たってる)と寝ぼけ頭で当麻は思う。まだ夢? じゃねーよなと目をパチパチとしてみる。

「起きたのですね、あなた」

滑らかな、やや冷えた女の手が、当麻の顔を撫で回してくる。気持ちが良い。

「お前、ミサカ……いもうと?」

自分を「あなた」と呼ぶ女は一人だけ。それは、御坂妹、検体番号10032号だけだ。

すっと彼女の顔が目の前に来る。明らかに拗ねた表情で。

「はい。寝言とは言え、わたしに抱かれているのにお姉様<オリジナル>の名前を呼ぶというあなたの無礼には耐えられませんでしたので、失礼ながら電撃で目を覚まさせて頂きました。

安心して下さい、起こすだけでしたからほんの僅かなもので何も影響ありません」

お前を、抱きながら? オレが? すると、さっきの夢は、もしかしてホントだったのか? あの、あんなことや、こんなことも?

「夢の中に出てきたのって、もしかして、お前?」

拗ねた顔から、明らかに今度は羞恥を含んだ顔に変わる御坂妹。

(か、かわいい)思わずドキッとしてしまう当麻。

「どのような夢を見ていらしたのかわかりませんが、あなたはとても情熱的でした。あんなキスは初めてでした。わたしは今、性的な興奮状態にあります」

「お、おまえ、性的興奮状態って言ってもだな……」

仕草は可愛いし、答えてきた内容はかなりえっちな事なのだが、言葉が固いところがやはり妹だな、と思う。

が。



当麻は気が付いた。

あれ? 身体が、動かない? 夢じゃないのに? いや、夢の中では、確か身体を撫で回していたような……?

「お前、何をしたんだ?」
582 :LX [saga sage]:2012/03/11(日) 22:39:43.86 ID:W49tB26r0

御坂妹の顔が悲しそうにゆがむ。

「すみません」

当麻はその顔を見て思い出す。そうだ、さっき……

「お前、どうしたんだ、いったい? 何があったんだ?」

------------------------------------

明日に備えて早めに寝よう、寝坊は許されないし、と寝る準備をしていた時に、玄関のチャイムが鳴る。

美琴? なわけはないな、今日は辛い日だからごめんね、とメールが来たくらいだしな……誰だろう? と彼はモニターを見る。

――― 女の子? ミサカ? ―――

なんでこんな時間に? 今頃オレのところに来る女の子って、御坂……妹とか? 10039号? でも二人とも働いてるし、と当麻は考える。
 
再びチャイムが鳴る。

「誰ですか?」 寝るところだったのに、と思いつつ、相手が女性では怒鳴るわけにもいかず、丁寧に答える。

「わたしです。御坂妹、検体番号10032号です」

はー、あいつか、最初の予想が当たったなー、いや、ちょっと待て?

彼は、瞬時に昔のことを思い出す。

まだインデックスがいた頃、荒い息を吐きながら、思い詰めた表情で、

「あなたに御願いがあります。ミサカとミサカたちの命を、助けて下さい」と駆け込んできた彼女の姿を。

まさか、またあいつに何か危険が? 一気に緊張する当麻。

そう思った当麻は直ぐに電子ロックと二重式サムターンを解除し、扉を開ける。

そこには、走ってきたのだろう、あの時と同じようにはぁはぁと息をし、せっぱ詰まった顔の御坂妹が立っていた。

「どうした、また何か事件なのか?」 まさかな、と思いつつ、当麻は彼女に訊く。

「あなたに、御願いが、あります」 荒い呼吸のもと、彼女は答える。

うわ、まるであの時と一緒じゃないか、と当麻は思う。

「すみません、中に、入って、良いでしょうかと、ミサカは、あなたに、確認を、取ります」

思い詰めた表情の中に、どこか緊張した気配が漂う。また、事件に巻き込まれているんだろうか?

「ああ、入れよ。走ってきたんだ? 誰かに追われてるのか?」 

まだ肩で息をしている御坂妹を中に招き入れ、体を入れ替えた当麻は用心深く一旦外へ出て、廻りを一通り見て誰もいないことを確認して扉を閉める。

狭い玄関のたたきで、彼の目を見つめながら、今にも泣き出しそうなくらい真剣な顔で、御坂妹が訴えてくる。

「いえ。そうではありません。今回は、わたしの御願いです」 

彼女はそっと当麻の左手を取り、両手で包み込む。

「お、おう? 何だ、どうした?」 面食らったような当麻の問いかけに対する彼女の返事は、



「わたしを、抱いて下さい」



は・い? 今、なんて? と思った瞬間、御坂妹の電撃をくらった当麻は床に崩れ落ちた。
583 :LX [saga sage]:2012/03/11(日) 22:41:12.95 ID:W49tB26r0

「はは、まさかお前に電撃をくらうとは思わなかったよ……」

当麻が自嘲する。左手を捕まれて電撃をくらわされては、さしもの「幻想殺し(イマジンブレーカー)」も役にたたない。

「申し訳ありません。でもこうでもしないとわたしの御願いを聞いてくれるとは思えませんでしたから」

ごめんなさい、と言いながら、彼女は彼の上から降り傍にぺたりと座り込むと、やおらうなだれているソレと袋をやわやわと右手でなで始める。

まるで、産まれたばかりの子猫のようですね、とつぶやいて、頭を指先で撫で回す。

「お、おい、ちょっと、いつの間に? 何してるんだよ、そんなことするなよ?」

いきなりのことに動転する当麻。いつの間に脱がされてたんだよ、と思う。

だが、身体は正直である。男だから。正常な男性だから。

「あ……また、固くなってきたのですね……固くなったり、柔らかくなったり、大きさも変わりますし、不思議ですね」

幹になってきたそれを、熱心に見つめる彼女。

「いや、それが普通の健全な男性ですから、ってゆーか、お前、そんなことをしに来たのかよ?」

「はい。あなたを取り上げられてしまうのなら、その前に……その前にミサカは……」

当麻の方を見ずに、自分に言い聞かせるかのように小さくつぶやく御坂妹。

だが、次の瞬間。

「ミサカはこうするしかなかったのです」

御坂妹は、彼に向き直るとキッパリと言い切り、そしてやおらしごいていた手を止め、いきなり口にソレを含んだ。

「うっ!」

熱い舌が先をなで回す。技巧もへったくれもない、かなり荒っぽい動き。チュバッ、チュバッとわざとらしい音も気に障る。

そして歯が敏感な部分に当たり、快感よりむしろ痛い。

「お前、止めてくれ、ちょっと痛い、歯を立てないでくれる? それはなぁ、ソーセージでもバナナでもないんだからぁ!」

彼女はぴたりと動きを止めると口からソレを吐き出し、悲しそうな顔でささやく。

「すみません。本で読んだだけなので、わたしのやり方は間違っているのでしょうか?」

「男のオレに聞くなよ……歯を立てずにやるんだと思うぞ? て言うか、もう止めよう、お前、今日はどうかしてるぞ?」

「……わたしがヘタなことは謝ります。ですが、わたしの気持ちはそれでは収まらないのです。

あなたは、女のわたしに恥をかかせるのですか? あなたに全てをさらけ出しているこのわたしに、このまま帰れと仰るのですか? 

それはあまりにむごいです」

「いや、お前の気持ちは……」

「どうなのですか?」 

そう言うと、御坂妹は目を閉じ、再び当麻を口に含む。今度は音も出ない。彼女は歯を立てないように、そうっと頭を上下させる。

唾液がたらたらと幹を伝って流れ落ちるのがわかる。

今度は角度を変え、ハーモニカを吹くように、幹に沿って上下に唇を滑らせる。

丸いその頭を、唇で撫で回し、舌で尿道口をつんつんと弄る。そしてまたずるっと口に含む。

(き、気持ちいいけど、その姿がすんげぇいやらしいっ!)

その姿に当麻も興奮し、彼の意思に反してそこは目一杯いきり立つ。快感がグンと湧き上がってくるのが感じられる。

「はぁ……ピクピク動くのですね、ここは」

頭を外した御坂妹はべとべとの幹をクイクイとしごき立てる。夢の中の時の愛撫とは全く違う。

――― やばい、出ちまう ――― 

快感はゴールに向かって加速し始めた、が。
584 :LX [saga sage]:2012/03/11(日) 22:43:26.30 ID:W49tB26r0

「あなたの返事を待っているのですけれど?」  

不意に手を止めて、御坂妹が身を乗り出して、当麻に迫る。

「止めてくれ、頼む。お前、そんなことをしちゃいけない」

「わたしを嫌いだから、なのですか?」  再び彼女の手はぐいぐいと幹をしごき出す。

「うっ……誰もそんなこと言ってないだろう? お前を嫌いだなんて、オレが一度でも言ったことあるか?」

「……ありません。そうですね、安心しました……でも、わたしを愛している、好きだ、とは言って下さらないのですか?」

「それは違うだろう? いいか、御坂妹、こういう事は、本当に好きな男とすべきなんだ。お前は……」

当麻は詰まる。こいつ本当に? そうだったのか? ええっ?

詰まってしまった当麻に、果たせるかな御坂妹はきっぱりと宣言した。

「わたしが愛しているのは、あなた、上条当麻、その人に他なりません。わたしが心に決めた男性は、あなたしかいません。

わたしは、あなたを本当に、本当に心から愛しています。御願いです、もう、冷たい言葉はたくさんです。

わたしをを愛して下さい。わたしをを可愛がって下さい。わたしをを好きだと、言って下さい、わたしはもう……」

今にも泣き出しそうな悲痛な顔の御坂妹を見る当麻。

「ミサカ……どうしたんだよ、お前、絶対おかしいぞ? 何があったんだ?」

「……今は行動の時です、とミサカは宣言します」

そう言うと、御坂妹は当麻の上に跨り、右手で当麻のソレを自分の秘所にこすりつけ始めた。

クチャクチャ、ぴちゃぴちゃと卑猥な音が聞こえる。

既に彼女のそこはしとどに濡れていた。

「ちょっと、おい!」

当麻が叫ぶが、御坂妹には聞こえていない。

彼女は位置を決めると、腰を沈めるが、頭はなんとか入ったものの、そこから先へは巧く入らない。

「おかしいです……見たどの映像でもスムースに入っていくのに、どうしてうまくいかないのでしょうか……場所が違う? 

いえ、ここで間違ってはいないと……しかも、気持ちいいと本には書いてありますが、ミサカは痛いだけです……

それに女性は映像では『よがり声』をあげているのに、ミサカは出ませんし……何が間違っているのでしょうか?」

自問自答を繰り返しながら、じれたように先端をそこに銜えたままの状態で腰を振る御坂妹。



薄暗い中でも、御坂妹の発する熱気と悩ましい呼吸が当麻を包む。

彼女の形の良い胸が目の前でブルブルと揺れ動く。

エネルギー溢れる正常な男性である当麻が耐えられる訳がない。

彼の下半身の興奮もまた、一気に限界に近づいてゆく。

「痛い! あっ!?」
585 :LX [saga sage]:2012/03/11(日) 22:45:44.73 ID:W49tB26r0

腰を振り回すこと何回目か、位置が巧くあったのかタイミングがあったのか、ぐっと当麻のそれが半分ほど入ったのだった。

一瞬彼女の動きが止まる。

「痛っ……」  

何かが切れた感覚が、激痛と共に身体を走る。そして、弾力がある固いものが彼女の身体に入り込んだのを覚えた。

(これが、『結ばれた』『ひとつになった』『女になった』と言うことなのでしょうか……それにしても痛い、です)

一瞬、そんなことを考えた御坂妹。

御坂妹の目尻から涙が流れ落ち、当麻の頬に垂れた。

それに刺激されたのか、当麻は無意識のうちに腰を突き上げた。

(あ、また奥に、入ってくる! あのひとのものが、わたしの中に!!)

「あっ! いやっ! 痛いっ、あっ! あン!」 

二度、三度と繰り返される当麻の攻撃に、御坂妹が声を上げる。

それは、先ほど彼女が自問自答していた「よがり声」そのものだったのだが、今の彼女にはもはやそんなことを考える余裕はない。

首を曲げ、のけぞる御坂妹。

彼女もまた本能か、当麻の腰の動きが止まると、自ら思い切り腰を落とし、当麻を奥深くまで迎え入れる形になる。

「すごい、いっぱい!」

当麻は自分が輪っかの中をくぐり抜けたように感じ、彼の先端が思い切り熱い湯の中に沈んだのを感じ取った。

同時に、下腹部に彼女の体重がぐっとかかった事を感じた当麻の性感はもはや耐えきれず、一気に終末へと急上昇した。

「あっ!だめだっ! いくっ!」
「あっ、おっきくなった!」 

堰が切れ、熱い精の迸りが幹の中を駆け上がり、一気に噴出する。

熱い精の噴出を感じた御坂妹が叫ぶ。

「熱いの! 奥にいっぱい!」  

本能のままに、彼女は当麻に思い切りしがみつき、ぐいぐいと上下に腰を振る。

二度、三度と当麻の先から精が放出され、その度に「あっ、あっ」と御坂妹が反応する。

当麻も、彼女の身体に自分の精が溢れ、同時に彼女の筋肉が、彼の全てを搾り取ろうとするようかのように入り口をぎゅっと絞るこむのを、しっかと幹に感じ取った。

                             

結局6回ほど律動して、当麻のソレは動きを止めた。

二人の荒い息だけが部屋に流れる。
586 :LX [saga sage]:2012/03/11(日) 22:49:11.50 ID:W49tB26r0

「はぁ……すごくたくさん出るのですね……」 ぐたっと身体を当麻に預け、彼の耳元で囁く御坂妹。

「出ちゃった……いっちゃったよ……すげー早すぎだよ……」 当麻は、まだ荒い呼吸を続けながら小さな声で答える。

またその時、無意識に彼女の入り口が当麻の根本を絞るようにクイクイと動き、それに応じるかのように最後の精を垂らしたが、それを感じた彼女は

「あ、また出る……?」と思わず声に出してしまい、赤面する。

「やっちまった……ほんとにやっちゃったなぁ」 目を閉じる当麻。

呼吸が収まってきた彼女がゆっくりと身体を起こすと、力を失ったソレはぬるりと抜けた。

「あ……」 

御坂妹は思わず声を出す。

「す、すみません、紙をお借りしたいのですが」と彼に場所を聞くと、トンとベッドから降りテイッシュ箱へと歩く。

(う、ちょっと腰に違和感があるし、中から垂れています) まだ、そこに何かが挟まっている、残っているのではと思う。そして鈍痛もまた。

それに、彼女の中から溢れたものが、腿を伝い流れているのがわかる。正直、あまり気持ちの良いものではない。

ようやくティッシュ箱からバッバッと纏めて紙を取ると、彼女はまず足首まで垂れた粘液をぬぐう。

そして、腿、そして局部へと。

彼女はふと、局所をぬぐったちり紙を見てみる。そこには血とクリーム状になった精と愛液とが入り交じった、形容しがたいものが大量に付着していた。

当麻から見えないように隠して、そっと匂いを嗅いでみると、強烈なその臭いに彼女は驚いた。

恐る恐るちょっと舐めてみると、苦く少ししょっぱい。僅かに鉄臭いのは血の匂いだろうか。

(あのひとの……こんなに溢れて……痛かったけど……ミサカの身体はおかしくなかったのですね、良かった……)

クローンの自分、普通の方法で生まれ出なかった妹達<シスターズ>の一人、検体番号10032号、御坂妹。

自分が愛した、自分が唯一、肌を許すことに決めていた愛しいあのひとと、やり方は稚拙だったけれど、ともかくは結ばれて。

そして愛する人が自分の身体で興奮してくれて、そして自分の身体で愛する人が達してくれたことは、彼女に大きな自信を与えたのだった。

一通りぬぐった後、彼女は自分のバックを取りに行き、中から携帯用ウエットティシュを取りだすと再びベッドに戻り、自分の身体を見せつけるように立ち止まった。

「気持ちよかったですか?」

「……まあな」

その言葉を聞いた御坂妹はそっと息を吐く。

(あのひとが、わたしのこんな身体を、気持ちよかったと言ってくれた……ああ、嬉しい。クローンのわたしでも、あのひとに喜んでもらえた……してよかった)

そしてゆっくりと愛しいひとの隣に座ると、持ってきたウエットティシュを取りだし、彼のその部分を拭き始めた。

「ちょ、ちょっとくすぐったいってさ!」 叫ぶ当麻を見て、彼女は少し優越感を覚える。

(あのひとが、こんな声を出すなんて……あのひとが可愛く思えるのは、何故なのでしょうか?)

小さくなってしまい、「おちんちん」に戻ってしまった当麻のそれを見て、彼女は不思議そうにつぶやく。

「さっきはあんなに大きかったのに、今はこんなに可愛いのですね。病院でもそうでしたが、男性の生殖器は実に不思議です」

当麻が苦笑しながら答える。

「可愛いって言われるのは、なんかちょっと男性の尊厳を打ち砕かれたみたいで、ちょっと落ち込むんですが?」

「そうなのですか? 可愛い方が良いのでは?」

「いや、女性はそうだけど、男は違うのですよ、男は」

「わかりました。では『可愛くないですね』と言えば良いのですね?」

「いや、それもダメ。この話、終了!」

「わかりました、と聞き分けの良い女性をミサカは演じることにします」

そうつぶやき、かれの局所を拭き終わった御坂妹は、身体を彼にすり寄せて添い寝し、彼の胸に頬を寄せる。

「わたしは、もうあなたのものです。永遠に」
587 :LX [saga sage]:2012/03/11(日) 22:51:55.07 ID:W49tB26r0

その声には普段の御坂妹にはなかったある感情が含まれていることを、当麻は感じ取った。

それが、肌を許した男に対する「媚び」というものであることに、彼はまだ気づいてはいなかった。

そして、他ならぬ彼女自身も解っていなかった。

「みさか……いもうと?」 

当麻が呼びかけると、彼女は(なんでしょうか?)というように彼を見上げる。

当麻は彼女の目を見ながら囁く。

「お前、オレの生体電気を弄った、のか?」

御坂妹は困った表情を見せ、

「すみません。軽い電気ショックを与え、一時的に上半身の感覚を狂わせています。ですが、もう動くはずですが、ダメですか?」

消えそうな声で言葉を返してきた。

「え? 動くの?」 

ほんと?と疑ったが、それと同時に彼の腕は今までがウソのようにぶんぶんと動く。

「なんだよ、動くじゃん……なんでだよ」

自嘲するかのようにつぶやく当麻。その声を聞いて、御坂妹は当麻に身体をすりつけながらずり上がり、彼の目を見つめる。

「あなたは、怒ってますか、このミサカに……?」

そう言いながら、彼女は当麻にしがみつく。

(*繰り返すが、それは「媚態」そのものなのであるが、ついさっきまで、処女と童貞であった二人にそんなことがわかるわけは、ない) 

うるうると不安一杯の彼女の目に、当麻は「コラッ!」という意思を強く込めて一瞬だけ見つめると、「ひっ」と彼女は声を上げて頭を下げて縮こまった。

彼のそげぶパンチが来るとでも思ったのだろう。

その姿がいじらしく、彼は思わず彼女を抱きすくめる。

「え?」 予想と違った当麻の反応に彼女は混乱する。

「バカ。ちょっとはな。だけどな、お前……これじゃレイプと同じだぞ? 全くもう、女が男レイプしてどうすんだよ?」

「そ、そんなつもりではなかったのです。ごめんなさい」

彼女は恥ずかしそうに彼に背を向けた。



シミひとつ無い綺麗な背中……おい、なんだ、それは? 当麻の目に、異様なものが映る。

「その背中、どうしたんだ?」
588 :LX [saga sage]:2012/03/11(日) 23:02:13.85 ID:W49tB26r0

背中のそこここに、醜く残るアザ、そして傷跡。

色白の、きめ細かい肌が故に、余計に目立つ、それは。

「これは……戒めの、わたしの、メモリアルです」

「……」

「わたしは、検体番号10032号は、あのとき、あそこで死ぬはずでした」

背を向けたまま、淡々と御坂妹は、あの操車場での、呪われた実験の事を話してゆく。

「お、まえ……まだ……」

「わたしは、このミサカはあなたに、命を救われました。

わたしは、あなたのことを忘れたことは只の1日も、いえ、一分たりともありません

わたしは、あの日のことを、あなたのことを忘れません。いえ、絶対に忘れてはならないのです。

ですから、あえて残したのです。この一生消えない傷跡を見ることで、あなたに助けて頂いたことを、あなたの恩を、一生忘れないように、と。

あなたに助けられた、死の淵から救い出された、妹達<シスターズ>唯一の個体、それがわたし。これはわたしであることの証明です」

切々と語る御坂妹。

「……」  そう、だったのか……オレって、相当な鈍感、なんだなと、反省する当麻。

「わたしは、あなたを、心から愛しています」 そう言うと、くるりと身体を戻す。涙に濡れた顔も。

「わたしを、捨てないで下さい。わたしから離れないで下さい。御願いです。どこにも行かないで下さい」

そういうと、堪えきれなくなったのか彼女は当麻の胸に顔を押し当て、ひっそりとむせび泣く。

暖かい涙が当麻の胸に落ちてゆく。

(それで、こんなことをしでかしたのか……) 当麻は、なんとなく彼女の行動がわかったような気がした。

美琴との結婚の話を誰か(おそらく、美琴だ)から、聞いたのだろう。

それで、俺が御坂妹から離れてしまうとでも思ったのだろう。

他人になってしまうとでも思ったのだろう。

だから、その前に、自分が俺と関係を持てば、俺が離れていかないかもしれない、と一縷の望みを託したのだろう。

馬鹿、というにはあまりにもいじらしすぎる。女の武器を使ってまで……か。

「馬鹿だな……どこへも行くわけないだろ? お前を捨てるだなんて、あり得ないじゃないか? どうしてそんなことを言い出すんだ?」

当麻は嗚咽をもらす御坂妹の髪をやさしく撫で、梳いてやる。

「誰かに、何か言われたのか?」

小さくこくりと頷く御坂妹。

「お姉様<オリジナル>に、他ならぬお姉様<オリジナル>に、私は拒絶されました……」

「え?」  思わず当麻の手が止まる。

「お姉様<オリジナル>は、あなたを『強引に』説き伏せて、結婚を承諾させたと。そして、いの一番にわたしにそのことを自慢しに来たのです。

そして、私にその結婚式に出ろ、というのです。あなたと、お姉様<オリジナル>の晴れやかな姿を、わたしに見せつけてやるというのです。

そんな残酷なしうち、わたしには耐えられません。どうしてお姉様<オリジナル>がそんなことを……何故なのでしょうか……」

泣きながら、ようやく彼女が話したことは驚くべき話だった。

収まりかけた嗚咽がまた激しくなる。
589 :LX [saga sage]:2012/03/11(日) 23:10:05.62 ID:W49tB26r0

「そうか、それは悲しいよな。どうして良いかわからなくなっちまうな……でもな、ちょっとオレからも言いたいことあるんだけど、聞いてくれるかな?」

よいしょ、と当麻は右腕を彼女の肩にまわし、左腕で腰を抱く形にして、右手は後からぽんぽんとゆっくり優しく右肩をたたく。

何かあったら直ぐに右手で頭を押さえこめる形でもあるが。

「いいかな?」

「はい」 御坂妹がうなずく。

「まず、美琴との結婚だけど、あいつに引きずられる形じゃなかったよ? それははっきりと言えるからな。

なんかさ、お前に申し訳ない事を言うことになっちゃうけど、おれは、あいつ、御坂美琴って女の子と結婚したいんだよ。俺自身の意思でね。

まず、そこ、わかって欲しいんだけど、どうだろう?」

御坂妹の嗚咽は収まり始めたようだが、当麻はまだ、彼女の肩を優しく叩き続ける。安心させるかのように。

「……はい」  長い沈黙の後、小さく彼女は答えた。

「それからな、お前に一番最初に言いにいった理由だけど、たぶん、あいつは、お前の俺に対する気持ちを知ってたんじゃないかな?」

「だから、一番最初に私をつぶそうとしたのです! そんな事、酷いです!!」

ふいに御坂妹が激昂する。 おっとっと、と当麻は彼女の頭に右手を当てる。

「こらこら、人の話が済んでないのに、怒っちゃいけないだろ? そういうのは上条さんは嫌いなんですが?」

右手の威力か、はたまた『当麻に嫌われる』事を怖れたか、直ぐに彼女は大人しくなった。

「俺が思うんだけどさ、仮に、だよ? 美琴がずっとお前にさ、俺らの結婚の事を言わなかったら、お前、どう思うよ?」

直ぐに彼女は当麻の顔を見上げ、泣き濡れた顔を見せる。

「もっと、怒ります」

当麻は微笑んで御坂妹にまた質問する。

「だろ? お前、一番最初に、美琴から言われるのと、誰か他の人……そうだな、ほら、こないだの10039号とかさ、彼女から聞かされるのと、

それから、ずーっと誰からも聞かされずに、ある日突然俺らが結婚したってのを聞くのと、どれが一番良いかな?」

黙って聞いていた、彼女は少し笑って答えた。

「決まっています、わたしと結婚する、という話が出れば良いのです」

「こら、前提条件を変えちゃ、質問の答えにならないでしょーが?」

そう言いながら、当麻は、彼女の顔に浮かんだ笑みを見て、ああ、これで大丈夫かな、機嫌直したかなと思う。

――― たぶん、間違ってないはずだ ―――

あいつの言葉が足らなかったか、何かで、御坂妹が誤解したのだろうな、と彼は思う。

確かに御坂妹がそう考えてもおかしくないほど、微妙な内容だ。

もう少し言い方考えればいいのに、と自分の鈍感力を棚に上げて当麻は思う。
590 :LX [saga sage]:2012/03/11(日) 23:15:13.77 ID:W49tB26r0
「出来れば、あなたから言って欲しかったです、とせめてもの無い物ねだりをしてみます」

ん? 甘えてきた、のかな? と当麻は気が付く。まぁいいか、と彼は思う。

こういう事はもう出来なくなる。なら、せめて今だけでも、御坂妹が喜ぶことをしてあげてもいいんじゃないか、と。 
 
「それも、最初、俺は言ったんだよ。俺が話すよってさ。でも、アイツに止められたんだ。なんて言ったと思う?

酷いんだぜ、『アンタが言ったら、絶縁状叩きつけることになっちゃうでしょ、わたしがちゃんと言っておくから』って言ったんだよ。

なぁ、俺の方が良かっただろ?」 

強張った気持ちをほぐすように、軽い調子で話す当麻に、彼女も落ち着いてきたのだろう、調子を合わせるかのように答える。

「そうですね、きっと逆上して思い切り電撃を叩き込んでいたかも知れませんね」

ふふっと楽しそうな声で答えてくる御坂妹を見て、当麻は、もう大丈夫か、と思う。
  
「シャワー浴びて来いよ、もう遅いぞ?」 そう球を投げてみる。

すると、彼女は彼の胸に頭を預けて向こうを向いたまま

「今日は遅くなっても良いのです」 と答え、くるりと再び顔をこちらに向け直すと、

「ミサカは、いえ、わたしは、とても嬉しいのです」と微笑む。その微笑みはとても美しく、思わず当麻も見とれてしまう。

「わたしは、クローンとしてこの世に生を受けました。遺伝子的には、そう、美琴お姉様<オリジナル>と全く同じと聞いています。

ですが、不安でした。クローンのわたしが、男のひとを、あなたをちゃんと受け入れられるのかどうか、と」

「ですが、杞憂でした。あなたは、わたしの身体が気持ちよかった、と仰ってくれました。わたしは今嬉しいのです」

そして、御坂妹は身を乗り出して、恥ずかしそうに言う。

「その、もう一度、わたしを愛して頂けませんか?」 

御坂妹が、濡れた目で上目遣いで聞いてきたそれは、ちょっと予想していなかった御願いだった。

(うーん、ここで踏みとどまらないとズルズル行っちゃうような気が)と当麻は思う。

自分でも不思議に今日はよく冴えているな、と感心する。

(それは、だめだと言うしかない)

当麻は御坂妹を抱き起こすと、自分も体を起こす。

ベッドの上で、二人は向き合う形になった。

「すまない、それは、ダメだ」

当麻は御坂妹の目を見ながら、はっきりとノーを突きつけた。

「はい……」

断られるとは思わなかったのか、みるみる彼女の顔が青くなる。せっかく明るくなった顔がまた暗く沈んでゆく。

以前の無表情はどこへやら、実にわかりやすい感情の動きだな、と当麻は思う。

それだけに、自分に惚れて惚れてしまってどうしようもないと苦しむ女の子に、俺はなんて事を言うんだろうな、と当麻は心が痛む。

でも、俺は美琴を選んだんだ、だから、彼は思い直す。

「はっきり言うけど、その、もしお前がこういう事をいつまでも俺に迫るんだったら、俺はお前と会えなくなっちまうんだがいいか? 

あのな、オレは美琴と結婚する。それは変わらないんだ。あいつがおれの嫁さんなんだ。すまん。俺に惚れてくれたお前には本当に申し訳ない。

じゃ、お前は、わたしはなんですか、と聞くよな? 

俺は、お前が好きだ。美琴の次に、だ。お前も俺の、大切な人間なんだよ。だから、俺はお前を邪険になんかしない。

もし、もしだぞ? 美琴が、あいつがお前を除け者にしようとするならおれは怒るから。

だから、お前は今まで通り、オレのところに遊びに来ても良いよ。安心して来いよ、な? 

でも、こういうことはもうダメ。これだけはダメだ。美琴を裏切っちゃうからな。

俺はあいつを泣かすわけにはいかないんだ。わかってくれ。頼む」

そういうと、当麻は頭を下げる。
591 :LX [saga sage]:2012/03/11(日) 23:29:54.91 ID:W49tB26r0

「あなた? 頭を、あげて、下さい」

そういうと、御坂妹は彼に再びしがみつく。

「もういいのです。こんな、わたしに、頭など下げないで下さい。わたしまで悲しくなりますから」

悲しみの涙が、当麻の肩にも落ちてくる。震える御坂妹の身体。

もっと、早くにこいつの気持ちがわかっていたら、(わかっていたら? どうだったんだ? 御坂妹を選んだのか?)

一瞬、当麻の心に揺れが生じる。

が、それは強い意思の力が打ち壊した。(美琴が、俺の女、だ)

抱きついて泣きじゃくる御坂妹の身体を少し離し、彼女の目を見ながら当麻は諭すようにささやく。

右手で、頭を、髪を、頬を撫でながら。

「いいか、御坂妹? お前と俺には、これで秘密が出来たんだ、わかるな? お前と俺、二人『だけ』なんだぞ?

死ぬまで黙ってろ、な? 俺ももちろん言わない。な?」

「わかりました」 しゃくり上げながら、御坂妹は答える。

「ならば、せめて今日だけは、今ならいいでしょう? わたしの最後の御願いです、御願いします」

必死な目。全身全霊を込めたような、熱を帯びた瞳。

「さっきは、自分がしたこととはいえ、わたしの一方的なものでしたから。せめてもう一度、もう一度でよいのです。わたしは、あなたに抱かれてみたいのです

それで、もう終わりにします。あなたを、お姉様<オリジナル>をこれ以上苦しめるのはわたしも望みません」

「これで、終わりたくないのです。勝手かも知れません、でも、御願いです。御願いします」

当麻は悩んだ。1回だけなら事故とも言える。だが、もう一度、は。

改めて、当麻は御坂妹を見る。

思い詰めた、蒼白な顔。一心に、ひたすら請い願う目。 もし、断ったら、かえって良くないことになるかもしれない、と当麻は見て取った。

否定するだけじゃ、駄目な時もあるしな、と。

「わかった。じゃ、最初で最後、だぞ?」

当麻は腹をくくった。

御坂妹は、みるみるうちに顔色が戻り、肌にも赤みが増す。全身から喜びのオーラが見えるかのようだ。

「は、恥ずかしかったけれど嬉しい……私は、今、とても幸せです。わたしは、いつまでも、あなたを愛していますから……」

御坂妹は、目を閉じる。

当麻の唇が彼女の唇に触れる。

御坂妹はぶるっと身体が震えるのを感じた。自然に腕がのび、彼の身体を抱く。

(ああ、私は、これから愛するこのひとに、抱かれるのですね……今度こそ、わたしは、このひとの女になるのですね。ああ、生まれてきて、よかった)

二人の身体が再びベッドへ沈む。



――― 今、わたしは幸せです。ごめんなさい、お姉様<オリジナル> ―――




 
――― あのひとと、わたしの、『ふたりだけの秘密』 ―――

     ――― なんて素敵なことば ―――

 

592 :LX [saga sage]:2012/03/11(日) 23:42:58.95 ID:W49tB26r0
>>1です。

本日の投稿は以上です。あー、疲れましたw

昨日、新約禁書4巻買ってきまして読み終えました。すごく分厚いのにまず驚き。
美琴どこ行った? いやー、関係が進まなくて助かりましたけど。
え、雲川先輩に妹いたの?
いやいやそれよりも、「垣根帝督復活しちゃうの?」 
いや、同じような身体になるのかは5巻のお楽しみなのでしょうけれど。
わたしのシリーズは垣根帝督はいない前提で作られてますからねー。
心理定規<メジャーハート>なんか恋いこがれたまま絶望して飛び降りしちゃってますし、どうしよう(苦笑

5巻が出る前に終わらせる。……これ、かなり難しいです、たぶん。
第二部どこまでいくか、プロットは出来てますが、絶対風呂敷広げちゃうし……
第三部の出だしとオーラスは実は完成してるんですけれどw
ヘタすると、第三部の方が先に完成しちゃうかも……(書きためになるから、それは正解なのです)

ともかく頑張ります。
次回投稿は、内容には何の問題もありませんが、問題部分の後なので、一応sage進行といたしますので宜しく御願い致します。
それではお先に失礼致します。
593 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/13(火) 00:19:13.89 ID:yadkELuo0
>>1乙。
ようやく、御坂妹の妊娠の秘密がわかった…んですかね?
まさか、この後もずるずると関係を…の結果の妊娠だとフォローのしようがないですが。

御坂妹は当麻が初恋だし、肉体年齢と実年齢に14の差があるから、
この感じが何ともアンバランスな女のリアリティをそそるじぇ。

あと心理さんは死亡描写がないから、実は死に切れなくて再登場は可能とか、
垣根さんも麦野や木原でも小物であろうテレスが知らないだけで生きてるとかいう設定でもいけますって。

今後は、冒頭→妊娠発覚→美琴に話して>>219…って流れでせうか?
ということで、続きも楽しみにしてます。
594 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/13(火) 01:04:46.35 ID:cOVhZpNUo
原作だと上条さんの不幸って多いだけで一つ一つは軽いけど
ここの上条さんって本当に不幸だな
595 :LX [saga sage]:2012/03/18(日) 19:21:27.54 ID:s0xKUm7/0
皆様こんばんは。
>>1です。

>>593さま
コメント有り難うございます。
すでに公表されている結末に合わせるように、それまでの過程を妄想するのはなかなかしんどいものがありますw
とはいえ、頑張りますので宜しく御願いします。

>>594さま
コメント有り難うございます。
まぁ原作の方は、ついてねぇ的な不幸みたいなものがありますからねー。どこが不幸だバカヤローってのもありますし。
少し、リアル方向に振ってみたのがこのシリーズなのですが、如何でしょうか?

それでは、本日分、前回のような内容ではありませんが、sage進行でこれより投稿致しますので宜しく御願い致します。
596 :LX [saga sage]:2012/03/18(日) 19:27:24.38 ID:s0xKUm7/0


        ――― ガン!! ―――

「痛ってぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

頭に強烈な痛みが当麻を襲う。反射的に横へ転がり、痛む頭を押さえて彼は侵入者を見上げる。

涙でにじむ彼の目に映る、その姿……は。

「なーに幸せそうに寝てるんだってばよ、上や〜ん?」

大学生生活もあと1年を切っているというのに、いつもながらのラフな格好の土御門元春がそこに立っていた。

「火花散ったぞ、マジで!? てめぇ乱暴過ぎるだろ!?」

「何言ってるんだ、上やん? 何遍電話しても出ないから様子を見に来たんだにゃー。

管理人にここまで来てもらうのだって、大ごとだったんだぜい?

しっかし、この様子じゃ……そりゃ起きないのも無理無いかと思っちまうぜい……。

上やん、単刀直入に聞くけどなぁ……第三、いや第二位と遂にやっちまったのかにゃ〜?」

興味ありまくり、と言う顔で身を乗り出してくる土御門。

しかし、肝心の当麻はまだ頭が働いていない。第二位? 何それ? やったって、美琴となんかあったっけ?

「はぁぁぁ?なんだよそれ?」 

しかし、一方の土御門は、ならば仕方ねぇ、証拠はあがってるんだ、神妙にしやがれぃ、という顔で突っ込み始める。

「ごまかしは効かないぜい、上やん。入るや否や、オンナの臭いがぷんぷんして、さすがのオレも思わずのけぞっちまったくらいだからにゃー?」

「へ……!?」

「管理人なんか、苦笑いして帰っちまったんだぜい? 嘘だと思うんなら、一遍外出てからもう一度入ってみればわかるぜよ。

しかも、ちと生臭いってのがまた泣かせるにゃー」

臭くてたまんねーぜい、と言う顔の土御門であるが、突然彼の顔が驚きにゆがむ。

「ん? うぉぉぉぉぉ!!!!!! そ、それ……どうやら上やんだけじゃなくて、相手の女の子も仲良く大人の階段を上っちまったみたいだにゃー?

ゆ、許せねぇ、こいつぁちっと許せねェですたいっ!」

「なに一人でコーフンしてんだよ、どういう意味だよ?」

「おいおいおいおい、上やん、そこまでオレに言わせるのかぁ? さすがの温厚なオレもムカッと来ちまうぜい。自分のベット見てみー?」

起きあがった当麻が見たものは、

シーツには、淡い黄色いシミと、既に黒ずんだ血の跡が点々と。

「うわ、やっぱり……あれ、夢じゃなかったのか」 青ざめる当麻。

「くぁー、上やん、死ねやゴルァ!」    

――― ガツン! ―――  

嫉妬のげんこつが再び当麻の頭に炸裂する。

「てめぇぇぇぇぇぇ二度もなぐったなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

さすがの当麻もくってかかるが、

「フン、青髪ピアスが一緒でなくて、ホント良かったぜい……アイツも上やんも。こんなの見たら、間違いなくアイツ発狂しちまうぜい」

どこ吹く風の土御門。

「あー、そういやずっと会ってねーな。あいつ今何やってるんだ?」

「そんなのんきなこと言ってる場合か、上やん? 今何時だと思ってる?」

「ん? あ、そうだ! って……あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」 

時計を見て、思わず放り投げてしまう当麻。既に、昼近い。
597 :LX [saga sage]:2012/03/18(日) 19:30:25.09 ID:s0xKUm7/0


「えらく怒ってるぜー、雲川女史がなぁ。ありゃー1日ご奉仕するくらいでは機嫌直らないかもしれんにゃー、上やん」

ニヤニヤしながら土御門が冷やかすように言う。

「そんなことより、服だ服!」

泡を食いながら、下着を取り替え、Yシャツを取り出す当麻。

その様子を見ながら、ちとやりすぎたかにゃーとつぶやいた土御門は、彼を安心させるかのようにゆっくりと告げる。

「大丈夫だ、安心しろ上やん、スケジュールは変更したからにゃー。まずシャワー浴びろ。そんなオンナ臭い身体であそこへ行ったら間違いなく上やんは生きて帰れないぜい?」

「どこだよ?」

「いいから早くしろ。5分で終わらせろ! 時間がない!」

10分後、土御門は表に待たせてあったリムジンに当麻を押し込むと、直ちに出発させた。



「ちょっと待て、なんでお前が一緒にいるんだよ? そもそもオレは今日就職面接なんだぞ? どこへ向かってるんだ?」

「あはは、知ってるぜい。だからこれから面談なんだにゃー」

リモが停まる。まだ5分も走っていない。降りるとそこは運動公園……だったが、轟音を立ててローターを廻しているヘリが待機していた。

「お、おい、まさか? これ?」

「そうだ、上やんが彼女との素敵な夢を見て起きてこなかったから、時間短縮をしなければならなくなったんだにゃー。

早く乗れ。時間がもったいないぜよ。ああ、このヘリの費用は上やん持ちだからな」

「へぇぇぇぇぇぇぇ??????? いくらすんだよ? そんなカネねえぞっ??」

「出世払いだな。給料天引きってヤツで支払えばいいにゃー?」

「不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

二人が乗り込むや否や、サブクルーが二人をセイフティベルトで締め付け、直後ヘリは離陸した。



「土御門、その、もしかすると、お前……」 爆音が響くヘリの中で、隣に座る土御門に訊く。

「ああ。オレもメンバーなんだぜい。まぁ上やんよりずっと先輩になるけどにゃー」

「で、ヘリで飛んでるってことは……」

「相変わらずそういうことには察しがいいんだにゃー上やん。オンナの方はさっぱりだけどな。その通り、俺らはこれからロンドンへ飛ぶ」

「ちょっと待て、土御門。そんな話は聞いてねぇし、パスポートを持ってきてないぞ、オレは?」

「大丈夫だって言ったろー、上やん。今までのパスポートはもう不要ですたい。あとで返却すればいいぜい? 今度からこれを使うんだにゃー」

そう言うと土御門は腰につけていたポシェットから一つの冊子を取り出し、彼に渡す。

「お、おい、これ……」

当麻は愕然とする。

" DIPLOMATIC PASSPORT " ホログラム文字が輝く茶色の表紙。

それは、学園都市発行の外交官用パスポートであった。
598 :LX [saga sage]:2012/03/18(日) 19:36:54.57 ID:s0xKUm7/0

そしてその翌日、日曜の昼前。

「なんで電話出ないんだろ……全くもう!」

美琴はイライラしながらタクシーで当麻の寮に向かっていた。



理由は二つ。

土曜日の、ナントカという貿易商社の面接試験の結果についてである。

何時から始まるのか迂闊にも時間を聞いておかなかったので、気を遣って夕方にまずメールをしたが返事が来ない。

夜になって、もういいだろうと思い音声通話に切り替えたのに、やっぱり出ない。

(まさか面接で失敗して、恥ずかしくて連絡も出来なくて……悲観して多摩川に飛び込んで……いや、あのバカはそんなこと考えつかないし)

(またおかしな事件に巻き込まれてないわよね……?)

こういう時に頼りになるのは初春さん、かな?と考えたのは当然であるが、その前に一応情況を見ておかなくちゃ、ということで出張ってきたのだ。

大騒ぎしたあげくにアイツは自宅で寝てました、なんて結果だったりしたら初春さんの格好のエサになってしまう。

当然そこから佐天さんにも……いやいやそれより、またあの黒子が飛んで来るに違いないし……。 あ!

黒子で美琴は思い出した。思い出しても腹が立つ。

(あのバカ、まんまとまた撮られて!)



もう一つの理由が、金曜に発売された、くだんの「週間シャッター」である。

あのおばはん(笠原真彩)の言った通り、今回は美琴に対する直接のネタではなかった。

今回のターゲットは当麻だったのである。

メインは、先週の自分たちの盗撮写真を載せたシャッターのPOPを「アホ面」で見上げる当麻、そしてそのシャッターを手にとってレジで並んでいる写真。

プロが撮ったものではなく、明らかに素人(たぶん学生だろう)が撮ったものであるが、それだけに余計リアルであった。

ご丁寧にキャプションには「上条さん、今週号もお買いあげ、お待ちしてますねっ!(はあと)」とまで書かれている。

(あンのバカたれ……しかし、この顔、なんて間抜けヅラ全世界に晒してるのよもう、ああ、私、なんか情けないっ!)

何故美琴が情けなくなるのか、という突っ込みは野暮である。

既に彼女の中では、彼ら二人は一心同体であるからだ。



しかし、彼女の一体感を打ち崩すものが、そこに、いた。
599 :LX [saga sage]:2012/03/18(日) 19:43:50.04 ID:s0xKUm7/0

「こんにちは、お姉様<オリジナル>」

「こんにちは……って、あんたが、なんでここに来てんのよ?」

今、二人がいるのは当麻の寮のエントランスホール。



*ちなみに、ここは男性寮である。今更ではあるが、何故女性の彼女らが入れるのであろうか?

彼の大学では、学生は準大人というような位置づけであり、フリーパスではないものの、正式な申請があればパスキーが交付されることになっていた。

ちなみに、女子大生の寮は?というと、学校次第である。もちろん大半の寮が異性の入場をエントランスまで、としていたが。



「……あのひとから、今まで通り遊びに来てかまわない、とお許しを頂いています。それが何か?」

「ちょ……って、今まで通りって、あんた、ここ来たことあったっけ?」

「ふふ、ご想像にお任せします」

「何よ、その思わせぶりなものの言い方は?」

ふと、美琴は御坂妹に違和感を感じた。

何だろう、この自信ありげな態度は……金曜のあの時の彼女とは、何か違うような気がする……?

本当に、この子は、あの10032号?

「そんなこと、あいつと、いつ話したのよ?」

「金曜の、夜ですが?」

「あの後ってこと?」

「はい。その、あのひとに何かあったのですか?」

(この言い方は間違いなく10032号よね……おかしいわね……気のせいかしら) 

美琴の第六感は、得体の知れない違和感を訴える。

「う……ん、ちょっとあってさ、連絡が取れないのよ」

「それで心配になって見に来た、と言うわけですね」

「ま、そんなところよ」

「ふふ、お姉様<オリジナル>もずいぶん素直になられたのですね?」

「うっさいわね、何よその言い方?」

「いえ、今までのお姉様<オリジナル>でしたら、『そ、そんな心配なんかしてないわよ、私の電話に出ないから頭に来てとっちめに来たのよ!』とか、返事をされていたと思いますので」

「あんたの話聞くと、私、そんなガキだったのかと落ち込むから止めてくれる?」

「承りました……素直なお姉様<オリジナル>は、とても可愛らしいですね」

(やっぱりおかしい。私に突っ込むにしても、以前は単なる毒舌だったのに……? やっぱり変だ、この子)

美琴は御坂妹の異変をいぶかしく思うものの、まず先にあのボケナスの行方を確かめなければならないと思う。

「いいから、ほら、まずは管理人さんいるから聞いてみるわよ?」

二人は管理人室へ向かった。
600 :LX [saga sage]:2012/03/18(日) 19:46:35.38 ID:s0xKUm7/0

あっけなく結果が出た。

「会社訪問:日程 X月X日〜X月X日 7日間」との届けが出ていたからである。

ただ、詳しいことは<開示不可>となっていたため、どこに行ったのかは不明であった。

美琴の頭には、どこか学園都市外の就職先を探しにでも出かけたのだろうか? というあまり宜しくない考えが一瞬よぎった。

会社訪問が7日間連続でしかも不在ということに少々疑問は持ったものの、彼女は、面談がうまくいって、どこかに研修にでも連れて行かれたのだろう、と良い方向に考える事にした。

面談の直後に出張研修なんてあるのかしら、といささか乱暴な自分の想像にも疑問を持ったけれども、まぁ、貿易商社であるから当然相手は海外になるわけで、語学その他やらねばならない事は山ほどあるだろうことは容易に想像が出来た。

だから、たぶんどこかに缶詰になっているのだろうと彼女は考えた。

(まぁ、あいつの語学力じゃちょっと心許ないかもね)

その瞬間、彼女も思い出した。

(御坂さんも少なくとも6ヶ国語はマスターして頂かないと)

うわー、ヤバイ事思い出しちゃったな、と彼女は苦い顔になる。

「面談はうまくいったのでしょうか?」御坂妹がつぶやく。

「まぁ、ハネられてたら、いきなり会社訪問で連続7日間もでかけないでしょ。とりあえずパスして、どっかに連れてかれてるんじゃないの?」

「そうですか。それは目出度いことですね……お姉様<オリジナル>にとっても嬉しいことなのではないですか?」

(また、だ)と美琴のカチンと来る。

(ま、仕方ないかもしれないわね。この子もアイツを好きだった訳だから……)

美琴はそう思い直す。

「まぁね。自分で食えるようになってから、結婚しようって言ってたしね。まぁ、あたしは、アイツがいてくれればいいの。

今まで散々さ、命賭けるような事ばっかりしてきたんだからさ、気にしないで私に頼ってくれてもいいのにさ……。

私、アイツが無職でもバイト生活でも気にしないのに、そう言うところは、昔気質なのよねぇ……。

傍にいてくれるだけで、いいのにさ。あんた、そう思わない?」

「強烈なお惚気話、有り難う御座いました。もうお腹一杯です」

そういうと、御坂妹は微笑む。

「お姉様<オリジナル>も、わたしと同じなのですね、とミサカは少し安心しました」

「あんたねぇ……さて、じゃここにいても仕方ないし、帰ろっか? あんた、この後なんか予定あるの?」

「わたしは、今日から夜勤シフトに入りますので、戻って休息を取るつもりです」

「そっか。昼ご飯は?食べたの?」

「いえ、まだですが」

「おーし、じゃ行こう? たまには良いでしょ?おごったげるからさ!」

「ミサカは社会人ですので、学生のお姉様<オリジナル>に御馳走になるのは如何なものかと」

「なら、言ったげるわよ、妹なんだから姉の言うことには従いな・さ・い。いいわね?」

「言うことを聞かない姉には困ったものですね、とミサカは嘆息します」

「いいから黙って付いてきなさ〜い!」

双子のような二人はじゃれあいながら、街へと消えていった……。
601 :LX [saga sage]:2012/03/18(日) 19:57:20.39 ID:s0xKUm7/0

「アンタ、黙ってどこ行ってたのよ! すっごい心配したんだから! どういう事なのよっ? そうだ、それより面談うまく行ったの? 落ちたの? ちょっと、何か言いなさいよ!」

日本に戻ってきた翌日、予想したとおり、美琴が押しかけてきた。そして開口一番。



「お前な、それだけ一気にまくしたてといて『何か言いなさいよ』もクソもあったもんじゃねーだろ? 落ち着け。順を追って話すから」

そうは言っても、絶対に言えないところがあるのだ。

なんせあの雲川先輩に加えて土御門までもが念を押したのだから。

「なぁ上やん? くれぐれも第二位のあの子には絶対ナイショなんだからにゃー? 例え寝物語でも漏らしたら一巻の終わりだぜい?」



そして、空港に着いたら出口では、ぐっと色っぽくなった五和が待ち構えていて、いきなり抱きつかれたり、とか。

あの、アニェーゼ=サンクティスがまるで別人のように成長していたこと(勝ち気なオルソラ、と言ったところだ)とか。

そして、とどめ。

連れて行かれたところはあの、聖ジョージ大聖堂……。

最大主教<アークビショップ>の任に就いていた、あのインデックスに会ったこと。

彼女は当麻より少し高いくらいの背に伸びていて、かつての面影はその豊かなプラチナシルバーの髪と穏やかな目鼻立ちに残っていたが、かつて彼に噛みつきまくったり、「おなかへった」と駄々をこねまくった、トンデモ少女とは同一人物とは全く思えないくらい変貌していたのだった。

もちろん、直ぐ傍には精悍さを増したステイル=マグヌスが相も変わらず鋭い顔で見張っていたことも。

そういうところに、彼は、科学サイドの代表である「学園都市」窓口として「交渉人<ネゴシエーター>」である土御門元春に、魔術側の1つであるイギリス清教に紹介されたのであった。

つまり、彼はあくまで裏方としての役目であり、いわば最後の「歩くホットライン」である。

表に出せる話のわけがなかった。つまり、美琴には今回の話は全く説明出来ないのである。

「あ、ああ……それでさ、いきなり連れ出されてさ、車に乗せられてそれからヘリに乗って」

美琴が目を丸くする。

「着いたところがどこかよくわかんねーところなんだよ。どっかの島らしいんだけどさ。

もう完全に外界と隔絶されてる研修施設でさ、電話も通じないんだよ。ごめんな、心配させちゃって」

「ふーん。そうだったんだ。ほんとにもう……またどこかで事件に巻き込まれてるんじゃないかって思ったんだからね」

美琴は信用してくれたらしい。当麻は安堵し、そして彼女にすまないと心の中で思う。

「すまん。でも、土御門が管理人に簡単に説明していったはずだったんだけど、知らなかった?」

「そ・れ・を・き・い・た・か・ら、この程度で済んでるんだからね! そうじゃなかったら、今頃あんた黒焦げにしてやってるんだからっ!」

「お前さ……もう二十歳なんだからさ、そういう過激な愛情表現、何とかなんないのかよ……」

「な、なにが愛情表現なのよ、バカっ! う、うぬぼれるのもいい加減にしなさいよねっ! 誰があんたなんかに……」

「おれなんかに? なんなんだ?」

「う、うるさいな、いちいちひとの揚げ足取らないの!」

「だから、俺が事件に巻き込まれてるんじゃないか、って心配してくれたんだろ?」

「……うん」

「だから、説明したじゃないか?」

「言葉だけじゃ、だめなの」

「?」

「……鈍感」

「はい。そのとおりです」

「いいから、もう……ばか」

二人の唇が重なる……
602 :LX [saga sage]:2012/03/18(日) 20:05:09.74 ID:s0xKUm7/0



そして、1ヶ月ほどしたある日。

「当麻か? 酷いじゃないか、婚約したんだって?」

それは、当麻の父、上条刀夜からの電話であった。

「う、どっからその話聞いたんだよ?」

「なんだ、やっぱり本当なのか。いや、母さんがな、昨日、その、お相手の方の、ええと『みすずさん!』そう、美鈴さんからその話を聞いたんだそうだ。

お前、あちらさんのお家に、その、御坂さんのお嬢さんと一緒にお邪魔したそうじゃないか? もう『あなた、代わって!』お、こら!」

いきなり、母・詩菜の声が飛び込んでくる。

「当麻なの? ちょっと。あなた、母さんに黙ってたって、どういう事なの? わたし、大恥かいちゃったじゃないの!?

当麻さん? いいこと? 直ぐに帰ってらっしゃい! 出来れば、そのお相手の、御坂さんも一緒によ! 

まったくもう、どうしてウチの男どもは、こうわたしを蔑ろにするのかしら!? ああ、もうホントに腹が立つわ! 情けないわ、わたし」

激怒モード全開でまくし立てた母・詩菜が鬱モードに転じた隙に、当麻は叫ぶ。

「か、母さん、わかった。今度美琴連れて帰るから! また後で電話するから! ちょっとこれから面接なんで、ごめん!!」

そう言って電話を切る。

すぐさま、リダイヤルが来るか、と思って彼は待機したが、どうやらあちらで何やら始まったのだろう、電話はかかってこなかった。

「……不幸だ……でも、確かに、うちに連れて行ってないよな……いっぺん連れて行かなきゃなんないな」



しばらくして、当麻は美琴にメールを打つ。

(今度、俺の実家に行って欲しいんだが、どうだろう?)

しばらくして、当麻の携帯に音声着信が入る。もちろん、美琴である。

「いつ行くのよ?」 

いきなりのど真ん中ストレートから会話が始まった。

「い、いや決めてないけど、お前の都合もあるしさ。って、お前、全然動揺してないけど、知ってたのか?」

「フン。いつになったら、アンタは私を正式に御両親に紹介してくれるのかなーって、ずーっと待ってたんだからね、この鈍感!」

「はぁぁぁ? バカやろ……それだったら、早く言ってくれよ、俺、母さんに怒鳴られちまったし」

「なによ、そんなはしたないこと、女の私から言えるわけないじゃない。アンタってホント、そういうところは鈍いんだから!」

容赦ない美琴。とはいえ、声には明らかに嬉しそうな喜びの色があったことで、当麻は少し安心するが。

「じゃ、日程決めようか、いつなら良い?」

「そうねー、出来れば大安の日が良いなー、えっと……」

「お前、そう言うところはえらく非科学的なのな」

「うっさいわね。私自身は気にしなくても、こういうのを気にする人はいるってことなの。今週と来週はダメだわ……さ来週の木曜がいいわ」

「わかった。じゃ、その日開けといてな? 俺は問題ないし。家に言っておくから」



……しかし、それどころではなくなる日がその前にやってくることを、その時の二人は知るよしもない。

彼らの人生を一変する、運命の日が。
603 :LX [saga sage]:2012/03/18(日) 20:17:05.49 ID:s0xKUm7/0
>>1です。

最後までお読み下さいまして有り難うございました。
本日の投稿は以上です。

流れ上、やむなく魔術サイドの人間を形式的にですが出しています。
(前作とは異なり、魔術サイドは出ませんとは>>1でも書いておりませんしw)
まぁ当麻の方は魔術サイドに顔が利くわけですし。土御門を出したのはこれに対応する意味合いもありました。


次回はいつも通りageてからの進行となります。
しばらく書きためのない部分になるので不安ですが頑張ります。それではお先に失礼致します。
604 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/19(月) 20:50:52.48 ID:kwlfnac90
>>1乙。
まだ>>599の時点では御坂妹は自分の妊娠を知らないんだよな。
だが、生理予定日から2週間と2日遅れてるって冒頭で言ってるけど、さ来週の木曜は行為から3週間弱。
その日の前に冒頭の妊娠発覚だとすると、排卵日あたりで行為をしたから妊娠した、
と考えると、かなりギリギリな感じが。
605 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県) [sage]:2012/03/19(月) 20:55:53.27 ID:Tr+lzENEo
学生の時の「アレがこないの」はトラウマレベルの破壊力だぞ
606 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/20(火) 03:40:58.07 ID:6tuaE1400
>>605
アレがこないの、どころか、赤ちゃん出来ちゃったの、だもんな。
上条さんは就職も決まってるので、相手が本命であれば婚約も決まってて、
そこまでの威力はないんだろうが、問題は本命の妹的存在がお相手であることが
さらに威力に拍車をかけているな。
もはや御坂妹のもう一回おねだりは一縷の望みに賭けた確信犯に見えるレベルだ。
607 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/20(火) 15:42:02.96 ID:SGjFtge9o
>>606
いつから確信犯でないと錯覚していた?
608 :LX [saga]:2012/03/25(日) 20:12:15.94 ID:UnNK66XU0
皆様こんばんは。
>>1です。
今回はageてからの進行です。


毎度コメント頂き有り難うございます。

>>604さま
タイムカウントをして頂きまして有り難うございます。
自分でちゃんとしろ、とお叱りを受けそうですが。
えーとですね、逃げとして、>>602の最初に、
>そして、1ヶ月ほどしたある日。
と入れております。ですから、逆に結構早く「その日」が来るのでは、と。どうでしょうか?

>>605さま、>>606さま、>>607さま、
えー、作者本人には幸いそう言う経験がないのですが、うーん、どうなんでしょうねぇ。
*結構このカキコには影響されまして、実はちょっと筆が止まってしまってますw

ということで、今回の投稿はちょっと短いのです。
何卒御了承下さいませ。
それでは参ります。
609 :LX [saga sage]:2012/03/25(日) 20:17:33.44 ID:UnNK66XU0


御坂妹こと検体番号10032号、そして13577号。

彼女ら二人は、冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>の病院に勤務している。

その理由は、

二人という複数のサンプルをチェックすることで、世界中に散らばっている妹達<シスターズ>の身体状況の目安を付けることが出来る。

そのためには、彼女らが病院にいる方が「極めて」都合がよい。

そう言う理由を冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>が主張し、特に反対意見もなかったため、彼の案は採用された。

もっとも、検体番号10032号の場合には、それに加えて「最後の実験従事個体」であったために肉体の損傷度が他に残ったどの個体よりも酷かったことから、必然的に病院に残さざるを得なかった。

従って彼女は真っ先に「残る」側にノミネートされ、彼女もそれを望んだ為に直ぐに決まった。

このため、同一ロットで番号が近い検体番号10039号は候補から外され、13577号と19090号のどちらかに残ってもらうこととなった。

本人に希望を訊いた結果、検体番号19090号は病院に残ることに難色を示し、検体番号13577号がどちらでも良いと答えたことで、残る1人は検体番号13577号に決定し、今に至っている。



かくして、たまたまタイミングよく(?)行われた身体チェックの結果、検測システムは、彼女、御坂妹の身体に今までは存在しなかったものがあることを報告してきた。

検査担当技師は、驚きのデータをあのカエル顔の医者に報告した。

「彼女は妊娠しています」と。



冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>の彼は一瞬驚いたものの、直ちに手を打ち始めた。

少なくとも、わかっている限り、妹達<シスターズ>の1万人の中で妊娠が確認されたものは今まではいない。

(接続してこない、幽霊と言われる行方不明のミサカ達は除く。ちなみに御坂妹も殆ど接続していない為、もし学園都市外にいたら幽霊の1人と言われたことであろう)

彼女ら自身は欠陥電気<レディオノイズ>と見下され、今や能力開発という観点では殆ど研究価値がないと見なされていた。

しかし、そのクローン体が妊娠したとなれば、興味を示す連中が出てこない、とは言いきれないからだ。

動物のクローン発生事例は20世紀にすでに存在しており、特に目新しいものではない。

だがそれが人間に対して適用された事例は表向きはゼロである。

これが公になると正面からは倫理面から攻撃され、水面下では人間のクローンの開発競争が激化することは見えていた。

加えて、そのクローン体が人間同様に妊娠した、となればそれら反学園都市派に格好の攻撃材料を与えることになる他に、能力開発以外の点でも好奇の目に晒されるのは確実だからだ。



まず、彼は彼女の測定データの隠匿から開始した。

担当技師へは固く口止めを依頼した。幸いなことに、検査そのものは今や殆ど自動化されており、彼女の検査にタッチしていたものはわずかに2名であり、彼の腹心でもある。

そして、彼は最悪の場合に備え、どこに彼女を隠すか、と言うことまで考え始めていた。

もちろんミサカネットワークからの完全離脱まで含めてである。

だがその前に、根本的な事を問わねばならなかった。

「ああ、すまないが看護士のね、コードM、10032番のミサカくんを呼んでくれるかな……?

そうだ……彼女に、ぼくの部屋に来て欲しいと伝えてほしいんだがね」

お腹の子の父親は、誰か?と。
610 :LX [saga sage]:2012/03/25(日) 20:20:43.43 ID:UnNK66XU0

その質問に対して、彼女はあっさりと答えた。

「もちろん、あのひとです」

「ええと、それは……すまないが、出来れば名前を具体的に出してもらえると嬉しいんだがね?」

おそらく、あの彼だろう、とカエル顔の医者は想像したが、彼女に予断を与えてはならない、と考えた彼は御坂妹に答えを問うた。

「このミサカにとって、『あのひと』と言えば、ただ一人、上条当麻(かみじょう とうま)さんしかあり得ません」

今さら、わかりきったことを何故貴方は訊くのですか、と言う顔をする御坂妹。

「念のため確認するけれど、上条、上条当麻くん、ということ、なんだね?」

「はい。このミサカの身も心も、全てはあのひとのものです。他の男性に、ミサカは自分をゆだねるつもりは毛頭ありません」

彼女はきっぱりと言い切った。

あの、彼か……最近はここへ来ていないようだが……とカエル顔の医者は、一時期ひんぱんに担ぎ込まれていた名物学生の顔を思い出す。



  ――― 若さ故、のあやまちなのか ―――



なぜ、避妊しなかったのか、彼もそう言う意味では、普通の男だったのかな、とカエル顔の医者は心の中で嘆息する。



彼は再び御坂妹に質問する。これもまた、極めてsensitiveなことである。

「教えてくれてありがとう。もうひとつ、失礼な質問を許して欲しいんだが、君には、その子を産み、育てる意思はあるのかい?」

果たせるかな、彼女はまなじりを上げ、彼をキッと見据えて即答した。

「もちろんです。このミサカに、あの人の子の命が宿ったことは、運命の必然です。

何があってもわたしはこの子を産み、立派に育てることを決意します」

「自分の命にかえても? もし、どちらかの命しか助からない、としたら?」

「あなたは冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>でしょう? そのようなことは起きえないと思いますが」

にこりともせずに御坂妹は答える。

「万一、そうなったら、わたしは、このミサカの命に代えてでも、この子を守ります」

「ははは、これは一本取られたね。そうだね、ありがとう。

もちろんぼくはそのつもりだよ? 君の協力を得ることもあるだろうけれど、ぼくは全力を尽くす。

ぼくの畑違いの分野のこともあるかもしれないが、そこは信頼できる人間に頼むことにするし、安心してくれていいよ?

君は、健康な赤ちゃんを産むことに専念して欲しいね」 

「もちろんです、先生」

初めて、彼女は僅かに微笑んだ。
611 :LX [saga sage]:2012/03/25(日) 20:26:12.03 ID:UnNK66XU0

「元気そうだね」

「有り難う御座います。先生もお変わり無くお元気そうで何よりです」

「ははは。いろいろとあってね、とても病気になっている暇はなさそうだよ。それで、今日、わざわざ来てもらったのはだね」

一旦話を切るカエル顔の医者。彼は、当麻を呼んだのだった。

「君はうちで働いているミサカくんたちを知っているね?」

「え?ええ。先生のところは確か2人とか」

「うむ。当初4人いたのだけれど、2人は他の職を見つけてここから離れたんだね。

学園都市にはね、どうやら他にも実は何人かいるらしいんだが、特に調べる事でもないし、そもそもそういうことは僕の仕事じゃないからね。

それに僕に用があるってのは、君はよく知っているだろうけれど、余り望ましいことではないからね?」

「まぁ、お世話にならない方がいいですよね……」

当麻は苦笑する。一時期は指定部屋まで存在した、という逸話、いや都市伝説の持ち主になってしまった自分のことを思い出す。

だが、彼のそんな昔の思い出は、直ぐに厳しい現実に木っ端微塵に打ち砕かれることになる。

「10032号にあたるミサカ君のことなんだけれどね」

当麻は一瞬どきりとする。御坂妹に何かあったのだろうかと。

「この間、健康診断があってね、そこで、彼女の身体に重要な変化があったんだね」

「……」

「彼女は妊娠している」

「へ? え?」

一瞬、彼は頭の中が真っ白になる。

妊娠? え? それって赤ちゃんが出来た、ってことです……よ、ね? 誰の……あの時の? もしかして、お・れ・の……????

「なんだ、知らなかったのかい?」

茫然とする当麻にカエル顔の医者は追い打ちを掛ける。

「知らないですよ、そんなの!?」

反射的に当麻は答える。

「それでだ、相手は誰なのか、と聞いたらば、それは君だと彼女が答えたんだが、君としてはどうだろう、かな?」

もはや、当麻は医者の言葉などは聞いていなかった。

彼の頭の中ではぐるぐると色々なことが駆けめぐっていた。

赤ちゃんを抱きながら、これ以上幸せなことはないという顔をして自分の傍に経つ御坂妹の姿が目に浮かぶ。

だから言ったろう? 上やん……と土御門が哀れむような顔で。

上条、今度からお前を、ハーレムマスターではなく「やれば出来る」男だと言ってあげよう、と雲川先輩が……。

父が……母が……。

いやいや、問題なのは、美琴だろ、と彼は頭を抱える。

憎しみのこもった目で自分をにらみ、今からアンタに超電磁砲<レールガン>をぶちかましてやる、という美琴の顔が浮かぶ。

あいつにどう言い訳しよう、いや言い訳なんか出来ない。

美琴に言ったら、もう婚約どころじゃねーよ、絶交だよ……慰謝料だよ……

ひっぱたかれて、泣かれて、「死ね」って言われるよな……白い目で軽蔑されるんだろうな……

御坂妹だって、嫌いじゃないけど……

最初のあれで、か……あれはもうどうしようもなかったよな……洗うとか、そんなこと考えてる余裕なんかなかったし……。

彼には、お決まりのセリフも言う余裕もなかった……。
612 :LX [saga sage]:2012/03/25(日) 20:33:14.36 ID:UnNK66XU0

「上条君? どうなんだろう? いや、答えられないのならそれもまたかまわないんだけれど?」

しばらく彼の様子を見ていたカエル顔の医者は、そろそろいいかな、と言う感じで当麻に再度質問する。

「先生、それは本当なんですよね? 何かの見間違い、とかそう言うことではないですよね?」

当麻は質問とは全く別のことを訊いてくるが、彼は素直にその質問に答えた。

「ああ。間違いではない、事実だよ。データを見るかい?」

「嘘だとは思えませんが、一応見せて頂けるのなら……」

「わかった」

そういうと、彼は自分の腰に付けてあるキーホルダーから一つのチップを取り出し、PCに読みとらせた。

「妹達<シスターズ>の生き残りの約1万人の中で、妊娠したというはっきりとした報告は、実は彼女が初めてなんでね、念の為用心しているんだよ」

「は……?」

「厳しいことを言えば、彼女たちは、君もよく知っている通り、御坂美琴くんのクローンとして命を得たわけだけれど、その能力については彼女本人よりも大幅に落ちるものであった、ということは君も知っていると思うんだが?」

「まさか……」

当麻は思っても見なかった事を言われ、愕然とする。また、また彼女は狙われるのだろうか、と。

「そうであることを僕は祈っているんだけれどね。この老いぼれの杞憂であれば、何も問題はないさ。

だが、こういう仕事をする以上、常に最悪のことも考えておかねばならないのでね、ははは、いや僕も歳のせいか心配性になっちゃってね。

……普通に考えれば今更彼女、いや君の子供さんかな、どちらにせよ、彼女らを利用しようと考える連中なんかはいないと思うんだけれどね?

だが、ここは君も知っての通り、『学園都市』だからね、一応用心だけはするつもりなんだよ。

で、さっきの質問に対するきみの答えなんだが……」

「僕の子供、です」

「……」

当麻は思う。いきさつはどうであれ、生まれてくる子は、自分の子供なのだ、他ならぬ。

その子を、そして母になる御坂妹も守らねばならない。その子の父親として。

「僕は、彼女と関係を持ちましたから。責任は僕にあります」

カエル顔の医者は、緊張で強張っている当麻を見て、静かに話かけた。

「そうか。有り難う。どうしてそうなったかは僕の仕事には全く関係ないからね、だから僕はその理由は聞かないよ。

君はこれからどうするのか、それを考えなければいけないとは思うけれど」

「先生……?」

なんだね? と言う顔をする冥土帰し<ヘブンキャンセラー>。

「彼女、いますか?」


613 :LX [saga sage]:2012/03/25(日) 20:46:31.69 ID:UnNK66XU0

むう、と唸るカエル顔の医者。

ま、普通は本人の話を聞きたいと思うのが普通だろう、と彼も思う。

だが、一言断っておかねばなるまい、と彼は考えた。

「呼ぶかい?」

「出来れば」

「手荒なマネはしないだろうね? 出来れば僕は立ち会いたいくらいなんだがね」

「そんなことをするわけがないでしょう!?」

そう叫んだ当麻は、自分の声に驚き、あわてて恐縮する。

「すいません、大きな声出しちゃって……で、その事ですけれど、かまいません。それに、その方があいつも安心するでしょうし」

(どうやらもめなくて済みそうだ)とカエル顔の医者は少し緊張を緩めた。

「ありがとう。ちょっと待ってくれるかな?」

そう言うと、彼は端末を弄り、「僕だ。B棟担当のミサカ君、看護士コードMの10032番だけれどね、彼女を呼んで、僕の部屋まで来るように伝えてもらえるかな?」

「はい、ナースステーション担当、琳(りん)が承りました」

二人の間に沈黙が流れる。



当麻には、長い、長い時間が経ったように思えた。



   ――― コンコンコン ―――

ノックの音が響く。

当麻はびくっと反応した。



「誰かな?」

<ミサカです。参りました>

インタホンから、彼女の声が聞こえる。

「ああ、入ってくれるかな?」

「失礼します、ミサカです……!!」

入ってきた看護士は立ちすくむ。

「あ、あなた?」

あの、激しく愛を交わしたあの夜以来、初めて、当麻と御坂妹は顔を合わせた。

614 :LX [saga sage]:2012/03/25(日) 20:57:38.60 ID:UnNK66XU0
>>1です。
本日分の投稿は以上です。

えー実は、ここは非常にキリが悪い部分なのですが、この後の部分がどうもすっきりとしません。
もう1週間だけ時間を頂いて考えてみたいと思っておりますので、申し訳ないのですがここで止めさせて頂きました。

で、この結果、困ったことに次回もあまり長くないのです。(本来なら、そこまで今日投稿したかったのですが)
いきなり書きためしてある場面まで飛ばしていいのか、もう少し書くべきなのか、ちょっと悩んでます。
で、ちょっと書いたら大嵐になりそうで……
「修羅場のドロドロはイラネ」という声もだいぶ前から頂いておりますし。

というわけで、今さら悩んでおります作者でした。

しかし、第二部は長い……第三部に入れるのはいつになるんだろう、と思いつつ、頑張ります。
それでは、お先に失礼致します。
615 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/03/25(日) 21:00:22.41 ID:u8y7+A71o
ミサカを実の親のように面倒見ているカエル医者はもっと怒ってもいいと思うんだ



ドロドロ大好きです
616 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県) [sage]:2012/03/25(日) 21:08:14.42 ID:INljEyk9o
流石ちゃんと考えてるな、カエル医者
617 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/25(日) 21:44:53.12 ID:h9ccLybIo
乙です

この設定でここまできて修羅場もドロドロも無しに書く方が難しいような・・・

まあ直接対談で美琴に納得は無理でも我慢してもらうしかないのかなあ、美琴ちゃんカワイソス
618 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/25(日) 21:58:56.02 ID:ezzTpq6ho
おつおつ

この二人を周りはどうやって許す、または受け入れたのか・・・
しかもその後子供を間に置いたとはいえ平然と一晩ほぼ二人きりの状態になるのを許してるってのが信じられんww
619 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/25(日) 22:44:35.15 ID:UGgEUakA0
乙。
当麻は御坂妹から、じゃなくて冥土帰しから聞いたのか…。ちと予想外でした。
で、ネタがネタな以上、ドロドロない方が不自然、と思います。
回想的にすっとばすのもありかもしれないですが。
620 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/03/26(月) 19:29:19.87 ID:ESdO5qQAO


こうなると夕日をバックに河原で二人殴り合いするしかドロドロ回避無いんじゃないか?
621 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2012/03/26(月) 21:11:26.05 ID:vIBcpc2B0
乙ー。
もうコメに左右されずに
>>1の好きなように書いていいんじゃないかな。
622 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/26(月) 22:04:10.98 ID:gH+scTbZo
>>621が良い事言った
623 :LX [saga]:2012/04/01(日) 19:52:50.49 ID:asRSIU/H0
皆様こんばんは。
>>1です。
今回も沢山コメントを頂き嬉しく思います。本当に有り難うございます。

>>615さま
冥土帰しは感情を露骨に出さないタイプに描かれてますので、当SSでもそこは壊さないようにしています。
まぁ、激怒する彼を想像できないから、というのが正解ですが。

>>616さま
そう受け取って頂けたようで、作者はほっとしております。

>>617さま
はい。これから非常に書くのが難しい場面が続きます。いつもの投稿後のボヤキでそこらへんを……w

>>618さま
えーと、全ての女性がそうかはわかりませんが、「自分が正妻である」とはっきりしており、その座が守られる限り、
他の女性に対しての「遊び」を認める人がいるのは事実です。(この場合、彼女は亭主より精神面で上位にいます)
しかし、「遊び」でなくなった場合、あるいは「正妻の座」を脅かすような場合になったときは、容赦しません。
第一部の時点の美琴は、そういう境地にいる、とお考え頂けると幸いです。

>>619さま
御坂妹は基本的に受け身型という設定です。その彼女が……というところが衝撃的なのですけれど。
ですので、彼女自らが当麻に妊娠の事実を告げるという場面は全くありませんでした(10039号は言うでしょうね)

>>620さま
美琴と御坂妹、でしょうか?

>>621さま、>>622さま
有り難うございます。

ドロドロOKというご意見を表明して下さいました方、どうも有り難うございました。
特に制限掛けることなく進めて参ります。

で、本日分、前置きが長くなりすぎましたがこれより投稿致します。短いのですが、宜しくお願い申し上げます。
624 :LX [saga sage]:2012/04/01(日) 19:55:19.93 ID:asRSIU/H0

「みさか……いもうと」

「はい」

当麻と、御坂妹が対峙する。

彼女は真っ直ぐに当麻を見つめる。

当麻は、その視線が恐かった。とても真正面からは彼女の顔を見ることが出来ない。彼は視線を僅かに外し、彼女の襟元を見る。

「あのときの、か?」

「間違い、ありません」

「聞くけどお前、あの時、最初からそういうつもりで、来た、のか?」

御坂妹の顔がかすかにゆがむ。

カエル顔の医者はめざとくその変化を見て取り、(ほう?)と心の中でつぶやく。

「今となっては……わかりません。最初は、あなたのところへ行かなければ、と思った時には、そういう気持ちがあったことは……事実です。

でも……あなたの顔を見てからは、あの時は、もう無我夢中でした。信じて下さい。あの時はもう、何も考えてはいませんでした」

彼女はうつむき、低い声で独り言のようにつぶやいた。

「わたしは……このミサカは、あなたと離れたくなかった……それだけでした」

(そういうこと、か) 冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>の彼は、ようやく合点がいった、という顔をした。

一方の当麻は、何かを決めたような顔で御坂妹に確認をする。

「……産む、んだな?」

「はい。私の希望ですから」

先日、カエル顔の医者に答えた時と同様に、彼女の答えは明瞭だった。

「わかった。そういうことなら、俺はお前と、お前の産まれてくる子供に責任がある。御坂妹、結婚、しよう」

当麻は何かふっきれたかのように、彼女の目を見つめて、答えた。

「……え?」

彼女の顔に驚きが浮かぶ。誰が見ても、はっきりとわかるくらい。

「結婚する、と言ったんだよ」

笑みは、ない。

どこか、諦めたような感じの、当麻の顔。

しばらく、御坂妹は茫然としたまま、当麻の顔を見つめていた。



「……どうして、今になって、そんな……」

御坂妹が両手で顔を覆ってしまった。

悲痛な色を帯びた、嘆きの声と、共に。
625 :LX [sage saga]:2012/04/01(日) 19:58:22.71 ID:asRSIU/H0

「どうしてって……?」

当麻も予想外の事に動揺する。

何故悲しむのだろう? そう願っていたのではないのか、御坂妹?



(むぅ?) カエル顔の医者も黙ったまま、事の成り行きを見ている。

もののはずみで、というような簡単な話ではなさそうだ、これは聞かない方が良かったか、と後悔の念が起きるが今さらどうにもならない。

(ともかく、最後まで見届けるしかないな)彼は開き直った。



「もっと前にその言葉を言って下されば……ごめんなさい、それはわたしは、出来ません」

「どういう、こと、なんだ?」

よもや、御坂妹から拒絶される言葉を聞こうとは思わなかった。なぜ? 当麻は彼女の心が理解できない。

「それは、とても嬉しい言葉でしたが……すみません。わたしは、このミサカは、それではお姉様<オリジナル>に、申し訳がたちません」

「何だと……? 今さら……お前、いったい何を言ってるんだ?」

御坂妹は顔を上げて、当麻を見つめる。涙をにじませた目で。

「わたしにとって、このミサカにとって、あなたも、お姉様<オリジナル>も、かけがえのない大切な人です。

でも、今回のことで、お姉様<オリジナル>は、あなたとわたしとを切り離そうとなさいました。ミサカはそう思いました。

だから、わたしは、あなたから切り離されないように、あなたとの間に、切れない繋がりが必要だと考えました。

切れない繋がりとは何か、それは何かを教えて下さったのは、他ならぬ、美琴お姉様<オリジナル>でした」

「……」

「『子はかすがい』とお姉様<オリジナル>は仰いました。わたしは、わらにもすがるつもりで、それにすがるしかなかったのです。

あの時、わたしには、このミサカには、それしか考えられませんでした」 

「それで、それで……あんなことを、したのか? 子供を、生まれてくる子供を、お前は……」

「あなたとお姉様<オリジナル>が結婚することに、わたしは最初から反対ではありませんでした。

わたしは、ただ、あなたと離れたくなかった、離されたくなかった。あなたを見失いたくなかった。

……でも、もう大丈夫ですから。わたしはあなたの血をひく子供を得たのですから」



当麻の顔に赤みが差す。彼女が話し終えるや否や、彼は拳を握りしめて怒鳴った。

「っざけるなぁ!」

「上条くん!」 

思わずカエル顔の医者は立ち上がり、御坂妹の前に立ちはだかる。
626 :LX [sage saga]:2012/04/01(日) 20:06:56.25 ID:asRSIU/H0

「すいません……」

冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>の異名をもつ、カエル顔の医者の気迫の前に、当麻の頭に上った血がすっと下がる。

「思わず、カッとしてしまいました……もう大丈夫です」 

「水だ。頭を冷やすにはこれもいいだろうさ」 

カエル顔の医者は当麻に冷えた水の入ったカップを渡し、青い顔の御坂妹にうなずいてみせる。

「レモン水だけど、きみもどうかな?」

しかし、蒼白な顔の彼女は、力無く僅かに顔を左右に振り、視線を下へ落とした。

当麻は一息で飲み干すと、顔を上げていないままの御坂妹に向かって問いただす。

「御坂妹?」

呼ばれた瞬間、彼女は当麻を見たが、再び視線を床に落とす。

「俺は今、お前に対して怒ってる。お前の言ってる意味がわからねぇ。

お前、何を、何を勝手なことを言っているんだ? 今さら何を言ってるんだ? 

いいか? お前は、もう、あいつの、美琴の幸せを、夢をぶち壊したんだぞ? わかってるのか?」

「……言わなければわからないことではないですか?」 

彼女が反発するが、その声は、まるでつぶやくかの如く、小さい。

「お前、俺に、あいつにウソをつき通せというのか?」 

再び当麻の声が大きくなる。

「言ったではないですか、これはお前と俺の秘密だと。死ぬまで黙っていろと、私に仰ったではないですか?」

キッと顔を上げ、当麻を見すえて叫ぶ御坂妹。だが、その言葉に覆い被せるように当麻が怒鳴る。

「勝手にいいとこ取りをするな! 一度きりの過ちだから黙っていろと言ったんだ!

……それであれば、黙っていれば済んだ。お前と俺、二人だけだからな。でも、子供が出来たのなら、三人だろうが。

その子には、俺にも責任があるんだよ、御坂妹。俺は、その子の父親になるんだ。俺は、その子を父無し子にはしたく、ない」

後の方は、自分に言い聞かせるかのような当麻の言葉。



しかし、御坂妹は。

「かまいません、わたしは、この子を育てます。あなたは、お姉様<オリジナル>と幸せになって下さい。それが私の願いです」

「お前……どこまで身勝手なんだ……? お前、自分一人で子供育てられると思ってるのか?」

「やってみせます!」

「出来るわけないだろう!?」

「出来ます!」

「なら、勝手にしろ! もうわかった! 好きにしろ!!」

627 :LX [sage saga]:2012/04/01(日) 20:16:54.60 ID:asRSIU/H0




「ミサカは……わたしは、間違えたのでしょうか……」

一人、自問自答する御坂妹。



あのひとと、口げんかをしてしまった。

あのひとは、怒って帰ってしまった。

あのひとは、わたしにもう会ってくれないかもしれない。

どうして、こんな事になってしまったのだろう。

どこを間違えたのだろう。

わたしは、あのひとと一緒にいたかったのに。

お姉様<オリジナル>とも一緒にいたかったのに。

こんなはずじゃなかったのに。



憤然と席を立ち、帰っていった当麻。

いつの間にかいなくなっていたカエル顔の医者。

冥土帰し<ヘブンキャンセラー>の部屋に、自分がたった一人だけ残っていたことに彼女が気が付いたのは、ずっと時が過ぎたあと、であった。



彼女は重い足取りで寮へ戻る。

気分が悪い。

洗面所で、彼女は吐く。

食欲もない。

病院でもらった栄養剤を飲む。 少し、不快感が消えるが不安は消えない。

「どうしたらいいのでしょうか」

自分のお腹に宿る新しい命。

祝福されるべき、新たな、命。

なのに、どうして……



不安を抱えたまま、彼女は暗い天井を見つめたまま、いつしか眠りに落ちた。
628 :LX [sage saga]:2012/04/01(日) 20:21:37.70 ID:asRSIU/H0

重い気分で当麻は寮に帰った。

正直、酒でも飲んで帰ろうかとも思ったくらいである。

だが、正直それは怖かった。酒の勢いで誰かに当たり散らすかもしれない、と思ったからだ。彼は、自分が何をしでかすか全く自信がなかった。

(情けないヤツ)そう思うことで、心を奮い立たせよう、ともした。



寮に戻り、ドアを開けた瞬間、彼は予想もしなかった光景を見る。

「おっ帰りー、勝手に来てごめんねー?」

エプロン姿の、美琴が立っていた。

「えへへ、どう、これ? 驚いた?」 茶目っ気たっぷりに笑う美琴。

当麻は声も出ない。

なぜなら、さっき、その姿を思い浮かべてしまったから。

但し、それは美琴ではなく、御坂妹……。

思わず、彼はそこにへたり込み、土下座のスタイルになる。

「ちょ、ちょっと、何よそれぇ?? まさか酔ってる? 下から覗こうなんて思ったって、今日はジーンズだからねー♪」

顔を赤くした美琴は、次の瞬間、あわててキッチンへ戻る。

「あ、ちょっ、お鍋、お鍋! 焦げちゃうからちょっと! あぁんもう! アンタ、早く手を洗ってきなさいよ!!」

美琴の声が、グサグサと心に刺さる。

(何も知らない、何も知らないんだ、美琴は!)

とても、言えない。言えないけど、言わなきゃならない。何も知らない、こいつに。

俺は、お前を、愛してたのに。お前と家庭を築きたかったのに。

「ひゃー、危なかったぁー。ちょっと、アンタ、何やってるのさっきから? なんかあったの?」

さすがに美琴もおかしいと思ったのだろう。鍋をIEレンジから外すと当麻に近寄る。

「あんた、どうしたのよ? 具合、悪いの?」

「すまん、本当に、すまん」

「……まさか、あんた、会社、落ちた?」

心配そうな顔でのぞき込む美琴。

当麻は耐えられなかった。もう美琴の顔が見れない。

「お前に、本当に、申し訳ないことをしちゃったんだ。ごめん。本当に、ごめんなさい!」

「え……? ちょっとあんた……それ、なに? どういうことなのよ、なんなの、それは……」

美琴も、よほどのことがあった、とわかったのだろう。声が低くなる。

「許してくれ、ごめんなさい。俺が全部悪いんだ。全部、俺のせいなんだ」

「……言って、当麻。わかったから、言って、わかんないから」

当麻は強張った美琴の顔を見て、もう一度頭を下げ、平身低頭して、事実を告げた。

「あいつに、御坂妹に、子供が、出来た……」

美琴はまっ青になる。  彼女も、言葉が出ない。



「俺の、子だ」



ポットがピーと、

鳴いた。
629 :LX [sage saga]:2012/04/01(日) 20:43:23.20 ID:asRSIU/H0
お読み下さいまして有り難うございました。

>>1です。
本日分、以上5コマで短いのですが、ここまでと致したく。

わけわからん御坂妹の発言ですが、非常に苦しみました。
まぁ、当麻の「結婚しよう」発言から全ては起きているのですが、まぁこれは普通あるだろうと。
彼の性格を考えれば「下ろせ」はありえませんし、「そうか、じゃぁな」もないと。
これしかないな、となりました。
となると、御坂妹の答えをどうするか。
「嬉しい!宜しく御願いします」だと、めでたしめでたし? 
いいえ、それでは話が根底から覆ってしまい成り立ちません。
この部分の前後は1ヶ月以上前に出来ていたのですが、彼女の発言が難問でした。

同じように難問なのが、この後の美琴の心の動きです。
何パターンかが想定できるのですが、更にその後に起きる騒動やら最終的に起きる「当麻との結婚」まで
繋がることなので、うかつな事が書けません。
一応出来ているのですが、ひとつはちょっと第三者すぎる、もうひとつは、感情むき出しなのはいいとして
辻褄があってない……

しかも今、違う場面で登場人物が暴走してまして、それじゃ話が変わってしまうということで、
これまたどこから修正すべきか非常に往生しています。エピソードの順番もなんかごっちゃになってるし……

巧く纏まるか非常に神経質な部分なので、もしかするとちょっとお時間を頂戴するかもしれません。
なんとか今週に纏めたいところではありますが。
愚痴書いて申し訳ありません。

それでは本日はこれにて、お先に失礼致します。
630 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/04/01(日) 20:44:49.27 ID:1PZf5wDlo


なんつーとこで止めてくれるんだ
気になってしょうがないじゃないか
631 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/01(日) 21:48:37.50 ID:r8cai2qP0
御坂妹最低だな
632 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/01(日) 22:37:46.88 ID:z6AlwX0v0
でも実際に、御坂妹みたいな考えをする女の人いるよ。
おれは理解できる。共感は出来ないけど。
633 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/04/01(日) 23:51:04.29 ID:xRKqoCZAo
仕出かした事の意味を今回の話からよーーーーやく知る事になる、って感じかね
生半可な理解で終わらない事を祈りたいけど第一部の妹の様子を見るとだめっぽいとしか思えない
もどかしい話だな
634 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/02(月) 02:09:25.98 ID:v1lbLM4P0
乙。

実年齢と肉体年齢が14も違う、さらに学習装置ベースの為、知識も経験も偏ってる御坂妹だからこその突っ走りっぷりですな。
あー、でも現実でもいそう…そう考えるとクローンだから、じゃすまないし…
うん、今後どういう展開になるのか、ちょっとずつでもいいので投下まってるよ>>1
635 :LX [saga]:2012/04/08(日) 19:30:32.75 ID:TWpm6pHq0
皆様こんばんは。
>>1です。
今回もコメントをお送り頂きまして誠に有り難うございます。

>>630さま
有り難うございます。そう仰って頂けますと、狙った通り、と嬉しくなります。
なるべく期待を持たせるような場所で切れるよう考えておりますw
今日はちょっと……でしょうか。

>>631さま
有り難うございます。なんかそういうキャラになってしまいましたので、今は逆に、突然良い子ちゃんにならぬよう気を付けないといけません。頑張ります。

>>632さま
はい。ここまで極端だったのかどうかはわかりませんが、聞いた話をベースに作っておりますw
まぁ、「話」だったのかもしれませんが……

>>633さま
第三部で、どこまで書けるか、ですね。ハードル高いなぁ(自分で上げてるのですが)
第二部、まだ当分かかりそうなんですが、頑張ります。

>>634さま
>実年齢と肉体年齢が14も違う、さらに学習装置ベースの為、知識も経験も偏ってる
以前にも、どなたかから似たコメントを頂いたように思いますが、当初はこのような意識は持っておりませんでしたけれども、最近ではそう考えた方がいいかなーと思い始めましたw

それでは本日分、これより投稿致します。短いですが宜しく御願い致します。
636 :LX [saga sage]:2012/04/08(日) 19:41:02.77 ID:TWpm6pHq0

「あれ……なんでここに来たんだっけ……?」

気が付くと、彼女は多摩川にいた。

そこは、彼女が中学生の頃、何度となく上条当麻(アイツ)とケンカをした場所。

電撃を飛ばし、砂鉄剣を振り回し、果ては雷撃、いや超電磁砲<レールガン>まで打ち込んだ、その場所。

そして、少し離れた場所には、あの、運命の第10032次実験の直前に、彼と命を賭けたやりとりをした鉄橋もある。

既にその鉄橋はその時の損傷が元で、改修工事を受け補強も掛けられ、かつての姿とはだいぶ姿を変えてはいるが。

  ――― 久しぶりだな ―――

大学に入り、第五学区に引っ越してからは殆ど、いや一度も来ていないこの場所。

なにがどうして、この場所にいるのか、彼女は思い出せない。

思い出したくないから、だろうか。



(私、確かにとんでもないガキだったわね、あれじゃ友だち出来るわけ無いわよねー)  ふふ、と自嘲の笑いをこぼす。



「私、帰るね」

「ひとりに、させて」

「触るな! その手で私に、触らないで! 不潔よ!」

「アンタなんか嫌い、大ッ嫌い!! わ・た・しが、バカだった!! アンタなんか顔も見たくないわっ!!! さよならっ!!!!!」



ああ、そうだったっけ。



信じられない。

私という彼女がいながら、しかも、この私とは、正式じゃないけど事実上の婚約までしたってのに。

あいつ、しちゃってたんだ。

しかも、相手が、よりによって、あの子。

子供が出来た、ですって? よくも言ってくれちゃったものね……




信じられない。

あいつ、あの子を抱いた手で、私を……

あの子にキスした、その唇で私にキスを……

気持ち悪い。

そんなアイツに、私ったらのぼせ上がって、キスをねだったりして……

やだ、なんか吐きそうになって来ちゃった。

信じられない。 ああああ、恥ずかしい! 私って、ホント最悪!!



だいたい、あの子は抱いておいて、私にはキス止まりって、どういうことよ?

この私より、あの子の方が良かったから?

そんなことってある?

なんでなのよ?

どうしてなのよ?
637 :LX [saga sage]:2012/04/08(日) 19:49:31.48 ID:TWpm6pHq0


ふふ、まんまと出し抜かれちゃったなぁ、私。

どうすんだろ、あいつ。こういう時、普通は責任取って結婚するよねー。

やだ、それって出来ちゃった結婚になるわけじゃない、あいつも笑いものよね。あ〜あ。

指さして笑ってやろうかしら。



バカね、指さされて笑われるの、私じゃないのさ。

自宅に連れて行って、両親に披露して、婚約成立だなんてはしゃいじゃって、

そしたら、妹に、いいえ、自分のクローンに寝取られて、出来ちゃった結婚見せられて?

うわぁぁぁぁぁぁ、想像もしたくないって、ホント、さ・い・あ・く・よねー。

信じられない。私、完全にピエロだよねー。



ふ。寝取られた姉としては、妹にお祝い言いに行って上げないといけないかしらね。

「おめでとう」って、

「しっかりやんなさい」ってほうがいいかしら。

どれ、祝砲でも打ってあげましょうか?



美琴はジーンズのポケットに手を突っ込みコインを取り出すと空を見上げる……が、空がはっきりと見えない。

「あ……れ? やだ、わたし……」

彼女は、自分がボロボロ泣いていたことにようやく、気が付いた。

涙が一気に溢れ出る。

「当麻の、馬鹿」



バカ! 大バカ!! 

あんたなんか、あんたなんか!!!

あんなに好きだったのに!



嘘つき! 女たらし!! 浮気者!!!

あんたなんか、あの時、死んじゃえば良かったのよ !!!

あのまま北極海でも、どこでも、浮かんでなんか来なきゃ良かったのよ!!! 

沈んで、死んじゃえばよかったのよ!!!



ばか! バカ!! 馬鹿!!!
638 :LX [saga sage]:2012/04/08(日) 19:52:43.14 ID:TWpm6pHq0





  ――― ううん、一番馬鹿なのって、私じゃないの……? ―――





あの子が、結果的には勝者……



ああ、そうか……

それでか、最近のあの子が、なんか、やたら上から目線だったのは……



あの子が狙ってた通りの……結果に……なっちゃった……



        狙って……た? 


      

     ――― まさかね ――― 




         まさか? 









         まさか……



639 :LX [saga sage]:2012/04/08(日) 19:54:57.72 ID:TWpm6pHq0
ここは冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>の病院。

今日は珍しく彼の手を必要とするような急患もなく、カエル顔の医者は溜まっていた書類の整理を行っていた。

そこに、総合受付からのコールが入る。

「なんだい?」

「総合受付の伊藤です。先生にアポ無しの面会希望なのですが」

「すまないな、それは断ってくれるかな? あ、念のためだけど、どこの誰だかわかるかな?」

「はい。みさか、みことさんという若い女性の方で……あれ、もしかして、この名前……レベル5の方かしら、このひと?」

その名前を聞いたとたん、彼の顔は引き締まった。、

「伊藤くん、すまないけれど前言取り消しだね。彼女なら、僕は会った方がいいはずだから」

しかし、受付の伊藤嬢は声を低めてこう言ったのだった。

「そうですか。でも気を付けて下さい。ちょっと雰囲気がおかしいので」

-----------------

「来たんだね?」

彼は、彼女がやってくることを予期していた。

「すみません先生、ご相談があります」

そう言って入ってきた御坂美琴を見た彼は、思わず(おう?)と唸った。

(なるほど、受付が危惧するわけだね)

化粧はしているようだが、透けて見える青ざめた膚、目の下に隈ができたはれぼったい顔。

疲労の色の濃い表情の中、目だけが鋭い御坂美琴は、ダークグレーのパンツスーツと相まって彼女の周囲に「凄惨」という雰囲気を漂わせていた。

「あまり具合は良くなさそうだけれど、大丈夫かい?」 

彼は、まず先に彼女に具合を聞いた。答えは分かり切っているが。

「大丈夫です。それより、お話を」

予想通りだった。彼は腹をくくった。この間と同じ事が起こるだろうと。だが、大きく異なることがある。美琴がレベル5であることだ。

彼はポケットに手を突っ込み、非常用キャパシティダウナーのスイッチを入れた。

美琴が敏感に(何、今の?)という感じで反応するのを見て、彼は心の中で苦笑する。

(さすが、エレクトロマスターだ)

彼は美琴に向き直り、優しく問いかけた。

「ぼくに出来ること、なんだね?」

「はい」

「もしかして、妹さんのことかな?」

ズバリ、と彼は切り込んだ。

「そうです……特に、10032号という番号を与えられた、妹のことです」

うーむ、と言う感じで深い息をついたカエル顔の医者は腕を組む。

「彼、から聞いたのかな?」

美琴は下を向いた。

両膝に置いた手を握りしめた彼女の肩が震えている。

「……は、い……」

こらえきれなくなったのだろう。

ぽとぽとぽと、と涙がぎゅっと握りしめた手に落ち、グレーのパンツスーツにシミを作って行く。

部屋には、美琴のすすり泣く声がしばらく満ちた。
640 :LX [saga sage]:2012/04/08(日) 19:59:59.38 ID:TWpm6pHq0


「すみません……お忙しいところを……いきなり押しかけて、お見苦しいところをお見せしてしまって……」

少しは落ち着いたのか、ひくひくとしながらも美琴ははっきりした声でお詫びを述べた。

「気にすることはないよ? ぼくは医者だからね?」

優しい声をかけ、彼はティッシュボックスを美琴に渡す。

「申し訳、ありません……ちょっと失礼しても宜しいでしょうか……?」

ティッシュで顔半分を隠してはいるものの、真っ赤な目でそのまわりの化粧がぐちゃぐちゃになってしまっている美琴は、恥ずかしそうに小さな声で訊く。

「そうだね、パウダールームの場所はわかるね? 出て右、10mくらいだよ? 人にぶつからないようにね」

優しく微笑んだ彼に黙礼した美琴は、バッグをかかえて部屋を出て行く。



「さて……彼女はどういう答えを持ってきたんだろうね……?」

そう独り言をつぶやいたカエル顔の医者は、カップを二つ取りだし、コーヒーを注ぎ入れた。

ひとつには、精神安定剤を入れて。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

しばらく経って、御坂美琴はやつれた青白い顔で戻ってきた。

冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>と異名を取る彼はその顔を見て若干の危惧を覚えた。

美琴の目にただならぬ気配を感じたからである。

(これは、ちょっと気をつけたほうが良いかも知れない)

「お忙しいところ、大変失礼致しました」

しっかりした口調で彼女は頭を下げた。

彼女を見る彼は、背中の産毛がチリチリと動くのを感じ取る。 

   ――― これは、「殺気」 だ ―――

「いやいや、どうということはないさ。コーヒーを入れておいたけれど、どうかな?」

「有り難うございます。ちょっと胃の具合が良くないので刺激物は控えてますから、それで」

(うむぅ、飲んで欲しかったところだが……)カエル顔の医者の思惑は外れた。

「すみませんが、彼女、10032号を呼んで頂けますでしょうか?」

「かまわないけれど、ぼくもその場に立ち会うことにしたい。いいかな?」

え? と言う顔で美琴はカエル医者の顔を見つめる。

「ぼくは一応彼女らの保護者みたいなものだからね? もちろん内容については守秘義務があるから、絶対に口外することはない。

……こう言ってはなんだけれど、今日の御坂くんの様子からは只ならぬものを感じるのでね。

そう、『殺気』みたいなものを僕は感じるんだけれど」

彼は先手を打ち、機先を制した。

だが。

美琴の口元に、かすかに見えたのは……冷笑だろうか?
641 :LX [saga sage]:2012/04/08(日) 20:05:59.81 ID:TWpm6pHq0

「お……ねえ……さま……?」

美琴の姿を認めた御坂妹は立ちすくむ。



入り口に立ちつくす彼女に美琴が声を掛ける。優しい声で。

「そんなとこで立ってないで、ほら、そこにお座りなさいな?」

その声で、我に返ったのか、御坂妹はおずおず、といった感じで彼女の前に座る。だが、視線は美琴には合わせない。

目ざとく彼女のお腹を確認した美琴は、今度は彼女の顔を真正面から見つめて問いかける。

あくまでも声は優しく。

「アンタ、身体はいいの?」

「はい。特に問題はありません」

「……ウソ言いなさい。あんた、妊娠してるんですって?」

ズバッと切り込む美琴。

「え……」

「本人が言ったわよ、私に。泣いて謝ったわよ。謝って済むなら誰も苦労しないわよ。ほんとぶち殺したいくらいだけど」

「そう、ですか……あのひとが、お姉様<オリジナル>に……」

「自分から言ったのは褒めてやるけど、それ以外ホント、人間のクズよ、人でなしよ! どこに、婚約者の妹を孕ませるヤツがいるのよ!

信じられない。ホント、今もあんなヤツを好きだったなんて、思っただけでも自分自身に反吐が出るわ。

あんなやつ、死んじゃえばいいのよ。二度と顔も見たくない。声も聞きたくないわ!」

美琴は一気にまくし立てる。溜まっていた憤懣が、憎悪が、言葉となって彼女の口から流れ出る。



御坂妹はショックだった。

恐ろしかった。

お姉様<オリジナル>が、恋のライバルだったけれど、それ以上に尊敬する、愛するお姉様<オリジナル>が、

あのお姉様<オリジナル>が愛した、このミサカが愛した、あの人を責めている。

あの人を罵倒し、さげすみ、憎み、呪っている。

言葉が、恐ろしい言葉が、お姉様<オリジナル>の口から出るなんて。

お姉様<オリジナル>、もう、止めて下さい!



「でね、あんたには、ほんと、なんて謝ったらいいのかわかんないの……ごめんなさいね、私がしっかりしてなかったから……」

そう言うと、美琴は御坂妹の手を取る。

そして。



「その、あんたのお腹の中の子供だけどね、堕ろしちゃいなさい。今ならまだ間に合うでしょ。

その子に罪はないけど、望まれてない子は結局不幸になるだけよ? あとは任せておいて。慰謝料は目一杯ふんだくったげるから!」 



御坂妹は、耳を塞ぎたかった。
642 :LX [saga sage]:2012/04/08(日) 20:16:57.38 ID:TWpm6pHq0
お読み下さいまして有り難うございます。
>>1です。

ちと中途半端で申し訳御座いませんが、本日分はここまでと致したく。
美琴と御坂妹とのやりとりが難しいもので、この先2コマ分は出来ているのですが、3つめで引っかかってしまっております。かなり微妙な部分ですので、一気に書き飛ばす自信が御座いません……

考えると、もうすぐGWなのですね。
なんとかそこまでには第二部を終わらせたいなと思ってはいるのですけれど。

相変わらずのちびちびですみません。それではお先に失礼致します。
643 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/04/08(日) 20:22:14.92 ID:r3zqPFq8o
乙です

>御坂妹は、耳を塞ぎたかった
塞ぎたいのはこっちの方だYO!

いやあドロドロしてきましたね、本番はこれからなんでしょうがね・・・
どうやったら和解できるのか、次回に期待
644 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/04/08(日) 20:34:31.37 ID:dTlSKh4ao
これが過去編でなく現代編だったら、絶望してしまうわ
その意味で、これを過去編にしたのは正解かもね
とりあえず現在は、少なくとも表面的には和解しているってわかってるから


645 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/08(日) 22:51:52.48 ID:an3+n9h/o
そりゃ美琴からすりゃ和解するしかないからな
646 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/04/09(月) 07:18:26.54 ID:lvoGIvnAO

ヤンデレールガンか……
現代編で結果はわかっていてもどうやってそこに向かうのか…次回も期待
647 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/09(月) 14:14:21.74 ID:RTfwrbZ40

鏡の裏表なんだよな、美琴と御坂妹は
二人の婚約を聞き思い詰めて、上条さんとの絆を求めた御坂妹
御坂妹の妊娠を知り追い込まれて、二人の繋がりを断とうとする美琴
二人とも上条さんを切り捨てる選択肢が無いくせに、相手の事も上条さんの事も考えない所なんかもね
648 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県) [sage]:2012/04/10(火) 22:32:35.63 ID:pNm5DKMU0
乙である

>自宅に連れて行って、両親に披露して、婚約成立だなんてはしゃいじゃって、
>そしたら、妹に、いいえ、自分のクローンに寝取られて、出来ちゃった結婚見せられて?

正直[ピーーー]る
649 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/10(火) 22:52:54.89 ID:LSEa7Erbo
ほんと酷い話だな
一般的な姉妹ならまだしもクローンだしそ美琴はクローンの為に死のうとまでしたのにこの仕打ち
しかも妹は自分のことしか考えてないという
650 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/12(木) 21:35:41.89 ID:pO6Cy0fz0
愛しい愛しいとかおかしいと思うんだが
あんな行動しといて、なのにいまだに好きだとか勝手すぎる
そういうのは腹が立つな
651 :LX [saga]:2012/04/15(日) 19:17:28.35 ID:GbuCbABA0
皆様こんばんは。
>>1です。

コメントお送り頂き本当に有り難うございます。
大変励みになっておりますし、ヒントになることも、えっそうなの?とブレーキ役(良い意味です)になることもあり、
とても参考になっております。

>>643さま、>>644さま、>>645さま、>>646さま、
正面対決は(以下ry
第二部、過去編の最後までに、まだ宿題がたくさんありまして……。

そこで、お詫びを。
>>642で、
>考えると、もうすぐGWなのですね。
>なんとかそこまでには第二部を終わらせたいなと思ってはいるのですけれど。
とか自分で書いておりますが、第二部はこの期間には絶対終わりません。スイマセン。
終わらせようと思っていたのは、美琴と御坂妹の直接対決編でした。
これはとりあえず(ry
なお、二人の和解にはイベントが必要なのですが、さーて(苦笑

>>644さまの「現在編」というのはちょっと考えましたですね。
ただ、現在進行形で書けたか? といいますと、前作「学園都市第二世代物語」がこの作品の後の時代を書いておりますので、このお話の人間関係はそのまま繋がらないといけません。
となりますと、せいぜいこの作品の第1部と第2部を入れ替えるだけのことになりそうです。
で、時系列順にダラダラ書いて行ってどうかなーと言う気はします。この場合、和解してしまってから後、全く場が持たないような気がします。
で、話は変わりますが、次の話のネタも少し含ませておいた方が良いのかと言う気も実はしてますし(この作品が書き上がってもいないのに)非常に悩ましいこの頃です。

>>647さま
おお、そこまで読んで頂けるとは、作者冥利に尽きますです。
ぶっちゃけそこまで余り意識していないのですが、ただ、漠然と美琴ならこうだろう、御坂妹ならこうするだろう、10039号なら13577号ならこう言うだろう、という考えは持っています。(19090号は性格がちょっと決まってませんね……)

>>648さま、>>649さま、>>650さま、
そう思って頂けるということは、御坂妹のキャラがはっきりしているということなので、作者としましては実は嬉しいです。彼女については、どっちかというと10代前半女子の純粋な「好き」というイメージなのです。
まぁ、稚拙な「打算」が入りましたが、そういう不器用な点もひっくるめて、作者はこのキャラが好きなのですけれど。
前作ではモブの一人にしか過ぎませんでしたけれど……。
一方、美琴の方はそう言う意味からすればもう少し大人に近づけています。巧く書けるか分かりませんが、そこらを表現できればいいなと……

大変長くなりました。
それでは本日分、これから投稿致しますので、宜しく御願い致します。
652 :LX [saga sage]:2012/04/15(日) 19:20:38.40 ID:GbuCbABA0


ののしる美琴の言葉を黙って聞いているカエル顔の医者。

「責任は僕にあります」と言い切った彼。あの時の話を思うと、一方的に責められる当麻がさすがに気の毒に思えてくる。



「あんたが、アイツ好きだったのはわかってるけど……だからってね、それにつけ込んで……ひどい話よね? 本当にごめんなさい」

二人の会話は続いていた。

「……お姉様<オリジナル>? 何故わたしに、このミサカに、お姉様<オリジナル>が謝るのですか?」

ずっと黙っていた(というか、美琴がずっとしゃべりまくるので、言葉を返せなかった、というのが妥当だろう)御坂妹が初めて言葉を発した。

え? と言う顔で美琴が言い返す。

「当たり前でしょう? だってそうでしょ、あいつは、私の婚約者だったのよ? 

……それがこともあろうに、アンタに手を出して、あげくの果てに妊娠させて……私がちゃんとしていれば」

「お姉様<オリジナル>、事実関係に重大な誤解があります。ですから、あのひとを悪く言わないで下さい。あのひとをののしらないで下さい」

うつむいている御坂妹の顔が苦しげにゆがむ。

「は……? どこが、何が違うのよ? まさか、たちの悪い冗談だったとか? そんなの止めてよね?」

美琴の緊張が一瞬緩む。

「お姉様<オリジナル>、冗談ではありません。わたしが妊娠しているのは、事実です。

ですが、あのひとが、わたしに手を出したのではありません。それに、この子は望まれていないわけではありません」

「え……?」

「逆なのです。わたしが、強引にあのひとと関係を結びました。わたしが、このミサカの意思で、あのひとの子を産めたら良いと考えて、あのひとの部屋に押しかけました」

僅かの時をおいて、美琴の顔に血の気が差す。

彼女の顔が一気に険しいものになった。

少し緩んだ空気が瞬時に一転して、再びビリビリとした尖ったものに変わる。

「なん……ですって?」

「お姉様<オリジナル>は、私からあのひとを引き離そうとなさいました。

私はあのひとから離れたくありませんでした。奪われたくありませんでした。

ですから、お姉様<オリジナル>に教えて頂いた方法を使いました」

「……それ……どういうことよ!? 何を言ってるの、アンタは!? 私が何を言ったって?」

「仰ったではないですか? 『子供が生まれれば縛られる』と」

「それって、あんた、意味が……って、あんた、それを……」

「ミサカは、あのひとにたぶらかされたわけではありません。あのひとに乱暴されたわけでもありません。

あのひとに責任はありません。あのひとは『半分は俺の責任』と仰いましたけれど」

「……」

「お姉様<オリジナル>、申し訳ありませんが、この子は堕ろしません。私と、あの人の繋がりを、私は壊すことは出来ません」



御坂妹は、美琴の心の内は読めない。しかも、彼女は美琴の顔を見ていない。

もし、彼女の顔を見ていれば、もう少し言い方も変わったかもしれなかった、が。
653 :LX [saga sage]:2012/04/15(日) 19:23:53.72 ID:GbuCbABA0

冥土帰しの右手は、白衣の中に突っ込まれている。

その手の中には、非常用キャパシティダウナーの起動スイッチがある。

既にそれは動作しており、不測の事態に備えている。

彼が握りしめているのは、ひとつは二人の間に非常事態が起きた場合に備えている為。

もうひとつは、キャパシティダウナーが動作した場合に、妊婦である御坂妹こと検体番号10032号にどのような影響が及ぶかが不明であり、異常が見られた場合には直ちに動作を止める為、であった。



「ふーん、そう。私のせいなんだ……確認するけど、あんた……いつよ、それ?」

御坂妹は初めて顔を上げ、美琴を見る。

彼女の、突き刺すかのような視線を受け止めた御坂妹の顔色が変わる。それは、恐怖の色。

美琴の形相は、今まで見たこともない恐ろしい顔だったから。

「お姉様<オリジナル>から、あの人と婚約をした、と言う話を聞かされたそのあと、です。あのひとの部屋に行く前に検体番号10039号と会いましたが」

かろうじて、御坂妹は美琴に言葉を返す。消えそうな、かぼそい声で。

「何ですって? あの子も、10039号も知ってるの、このこと?」

美琴の声は高くなる。

妹達<シスターズ>にこのことが知られたら、大事になる、取り返しが付かない、と美琴は瞬時に考える。

「いえ、何も知らないはずです。このミサカはずっとミサカネットワークには接続していませんし、今もしていません」

「あいつとセックスした時も?」

「はい。他のミサカに教える気はありませんでしたから。知っているのは、あのひと、先生と」

御坂妹は、カエル顔の医者に視線を向ける。それにつられて美琴の視線も彼を向く。

「検査担当の方、そしてお姉様<オリジナル>だけです」

御坂妹は視線を美琴に戻し、そう言い終えた。

(先生も知ってたんですか!?) 美琴の視線がカエル顔の医者に突き刺さる。

「先週の定期健康診断で、彼女の妊娠が判明したんだね。もちろん、担当者には口止めしてある。僕の部下だ。信用して欲しい」

この場にいる、大人の男、として彼は極めて冷静に静かに答えた。これ以上二人を刺激することは危険だからだ。

「そうですか。それは本当にどうも有り難うございます」

美琴は吐き捨てるかのように言い放つと、御坂妹へと向き直る。
654 :LX [saga sage]:2012/04/15(日) 19:33:23.15 ID:GbuCbABA0



「要は、あんたは私がアイツを独占すると思いこんで、それで、先にアイツに抱かれて、子供を作ってしまえばいい、と考えたってことね?」

「……そう、です」

「それって、あんた」

美琴は憤然と立ち上がり、怒りと憎しみに燃える目が、御坂妹を見下ろす。

そして、彼女の口から飛び出した言葉。



「この……泥棒猫!!!」

「!」

「裏切り者! よくも……よくもアンタ、私、絶対に許さない! 出来ることなら、ここでアンタを、そのガキもろとも灰にしてやりたい!!」



一歩前に出た美琴から殺気がほとばしる。

思わずカエル顔の医者は腰を浮かせた。場合によっては、美琴を止めなければならない。

「アンタ、よくも大人しそうな顔して騙くらかしてくれたわね! 

よくも、この私の婚約者をかっぱらってくれたわね、盗人(ぬすっと)! この泥棒!! 

人のものを取ることが、どんなにいけないことなのか、アンタにこの私が手ずから教えてやるわよ、覚悟しなさい!」

御坂妹は、美琴の発する殺気と言葉の罵倒にすくみ、目を開いたまま動けない。



だが、殺してやる! と叫んでいる美琴の目のふちに、光るものを、彼女は、見た。

(お姉様<オリジナル>、泣いている、の、です、か?)





止める間もなく、美琴の右手が御坂妹ののど元に伸び、

美琴の前髪からバッと紫電が飛んだ瞬間、



「キャッ!」
「あっ!!」



二人の身体が崩れ落ちた。

キャパシティダウナーが動作したのだった。



「危機一髪だったね……万一これが動作しなかったら、手動でも動かなかったら……大変なことになっていたよ……」

冥土帰しの額には汗が噴き出していた。
655 :LX [saga sage]:2012/04/15(日) 19:39:55.22 ID:GbuCbABA0

気を失った美琴は鎮静剤を打たれ、そのまま病室へ送り込まれた。

奇しくもその部屋は、上条当麻の指定部屋であった。



一方の御坂妹は身を失うほどではなかったが、直ちに産婦人科病棟へ廻され、彼の部下である医師の診断を受けた。

幸いなことに母子共に異常はないという結果が出た。

だが、御坂妹はすっかり怯えきっていた。



「すまなかったね。やはり、君に美琴くんを会わせるべきではなかった。申し訳なかった」

冥土帰しは御坂妹に頭を下げた。

「先生……ミサカは、大変なことをしてしまったのですね……」

彼女は震えながら小さい声で話しかけてきた。

「君には君の考えがあったんだろうけれどね……だが、もう自分を責めてはいけないよ」

「お姉様<オリジナル>が……ミサカはお姉様<オリジナル>を裏切ったのですね……あのひとにも、お姉様<オリジナル>にも、ミサカは……」

御坂妹は目を閉じる。

一筋、涙が流れた。

「合わせる顔が、ミサカには……もう」

「少し、休みたまえ。今日はいろいろなことがあったからね。しばらく、ここで休養を取るべきだと思うよ?」

優しく彼は語りかける。

「ここは嫌です……もう、ここには、いたくありません……それに、ミサカは恐いのです。今日のことが、夢に……」

むう、とカエル顔の医者は唸る。

「もし、ミサカの夢がミサカネットワークに流れたら、他のミサカもきっと同じように……わたしを」

「そのことだったら心配はないよ?」

彼は優しい顔で彼女を励ますかのように答える。

「君が妊娠したことは、他に伏せておいた方が良いと思ったのでね。

君用に、君たちの脳波リンクを妨害するチョーカーを今試作してるんだが、未だ間に合わなくてね。明後日には出来てくるはずだけれど。 

その代わりに、この部屋はね、君たち妹達<シスターズ>の脳波のリンクをシャットアウトする事が出来る部屋なんだ。

君が第1号だね。試しに接続してごらん? 出来ないはずだよ?」

(本当ですか?)という顔をした御坂妹は、素直にミサカネットワークに接続しようとしたが、妹達<シスターズ>の声は聞こえてこなかった。

「接続、できないです」

「ね? だから、安心して、ゆっくり休みたまえ」

「有り難うございます……その、お姉様<オリジナル>は?」

「彼の部屋だよ? 君もよく知っているあの部屋で休んでいる。僕はちょっとこれから彼女の様子を見てくるつもりなんだが?」

「そう……ですか。このミサカが、申し訳ありません、と謝っていたとお話しして頂けるでしょうか?」

「ああ、お安い御用だね。じゃあ、ゆっくりとお休み?」

「はい」

御坂妹は目を閉じた。

しばらくして、彼女の寝息が聞こえ始めた。ようやく安心したのだろう。

(やれやれ、しばらくは大変だね、君も、僕らも)

心の中で、そうつぶやくと、冥土帰しの異名を持つカエル顔の医者は部屋を出て行った。

「面会謝絶」のスイッチを入れて。
656 :LX [saga sage]:2012/04/15(日) 19:43:18.86 ID:GbuCbABA0


学園都市レベル5第一位の、一方通行<アクセラレータ>が当麻を蹂躙する。

美琴は倒れている御坂妹に叫ぶ。

「アンタにしかできない事があるの!」
「御願いだから、アンタの力でアイツの夢を守ってあげて!」

「その言葉の意味は分かりかねますが、何故だか、その言葉はとても響きました、とミサカは率直な感想を述べます」

そう言うと御坂妹は微笑んで立ち上がる。

「お姉様<オリジナル>? 見て下さい」

そういうと、彼女は倒れている当麻の手を取り、彼を抱き起こす。

「お姉様<オリジナル>に報告します。ミサカは、このひとと結婚します」

唖然とする美琴。

「このミサカのお腹には、このひとの子がいますから」

ウエディングドレスを着た御坂妹が、美琴に背を向けると、当麻と並んで去ってゆく。

「待ちなさい!! アンタ何してるの? ちょっと当麻!? どこ行くの、私と、わたしと婚約したでしょ!!?? なんで、そいつと行っちゃうの?」

美琴を残したまま、二人は見えなくなってしまう。



――― アンタ! アンタってばっ!! ―――



その声で美琴は目を覚ます。

「あれ……?」

白い天井。

「どこ……? ここ?」

廻りを見る。殺風景な、部屋。

(びょう、いん? なんで、こんなところに……?)

青のパジャマを見る。

「どうして……? わたし、どうしちゃったんだろ?」

ゆっくりと身体を起こしてみる。軽い貧血だろうか、一瞬くらっとふらついた。

「やだ、私ったら……そういえば、荷物は? 服はどこ?」

脇のスツールを開けてみると、バッグがあった。自分のお気に入り、ロエベのバッグ。

「あったー……、時計、時計っと」

起きたばかりで、はっきりしない頭で、美琴はごそごそとバックをかき回し、時計を取り出す。

……えぇっ? 11時過ぎてる! XX日?? うそ、今日って、アイツの実家に行く日じゃなかったっけ!?」



その瞬間、彼女は茫然とする。

「あ……」
657 :LX [saga sage]:2012/04/15(日) 19:49:53.33 ID:GbuCbABA0


「やあ、気が付いたようだね。具合はどうかな?」

入ってきたのは冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>の異名を持つ、カエル顔の医者。

「先生……」

茫然と、ベッドの上でうつむいていた美琴が彼を見る。

「おっと、無理しちゃいけないよ? きみは昨日まるまる1日寝込んでいたんだからね? お腹は空いていないかい?」

にこやかに明るい顔で問いかけてくるカエル顔の医者。

「すみません……ちょっととんでもないことをしてしまいました……」  

彼女は目を伏せて、頭を下げる。

「思い出したのかな?」

「……はい」

「アレはちょっと問題だったね。決して褒められるものではなかったよ。一つ間違えば、やっかいなことになるレベルの話だったからね。

しかし、1人の人間として言わせてもらえば、ぼくはきみの気持ちは非常にわかる。怒らないひとはいないだろうね」

「……」

「けれど、彼女も自分のしたことの意味をわかったようだよ? 『ごめんなさい、申し訳ありませんでした』と」

「その話は止めて頂けませんか!?」

美琴は彼の言葉に覆い被せるかのように強い口調で叫ぶ。

「……」

「すみません、怒鳴ったりして……でも、今は、わたし……」

「いや、こちらも失礼した」

「先生、あの……」

「なんだい?」

「私の体調は…?」

「まぁ、基本的に問題はなかったね。でも精神から来る疲労かな、それは見受けられたよ? 

一応、昨日は点滴を打ったんだけれど、今日は止めているよ。食欲はあるかい?」

「そういえば、ちょっとお腹、空いてます……」

「ははは、それは良いことだね。どうする、食堂に行くかい、それともここで取るかな?」

「あの、よろしければ、ここで御願いできますか? あまり外へ出たくないので……」

「わかった。持ってこさせよう。退院はどうしようか? 少し様子を見ようか?」

「……そうですね、宜しければ、明日にしようと思います。それに、あの、誰とも会いたくない、のですけれど……」

「……わかった。面会謝絶、ということにしよう。君がここにいることも外部には出さない、と言うことでいいね?」

「そうして頂けると、助かります」

「気にしないでくれたまえ。ゆっくりと休んでいくと良い。たまにはいいだろう? まぁここが気に入られても困るんだがね?」

そう笑い飛ばすカエル顔の医者だったが、美琴の顔に笑顔はなかった。
658 :LX [saga sage]:2012/04/15(日) 19:59:48.28 ID:GbuCbABA0
>>1です。
本日分、ちょっと考える事が出来まして、ここで止めさせて下さい。
短くて済みません。

さて、ここのところ日曜の晩に5コマ程度投稿、というパターンで来ておりましたが、ただでさえ憂鬱な日曜日の
この時間に、更に重苦しいネタの話を投稿して良いものかな、とふと思ってしまいまして。
まぁ土曜日の晩ですと、不在の場合もありますし、土曜日を推敲の日に出来る(実際は全然違いますけれどw)ので
日曜のこの時間は作者としては助かるのですが、どんなものでしょうか?

それでは本日はこの辺で失礼致します。
お読み下さいまして有り難うございました。
659 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/04/15(日) 20:01:59.18 ID:gPbcoCPPo

ヤンデレールガン降臨か……
660 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/04/15(日) 20:10:00.86 ID:oEZQadmAo
乙です・・・

>>658
>>1がやり易いならこちらは気にせずこの時間の方が良いかと。

さてここからどうなるのか。これからも期待してます
661 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県) [sage]:2012/04/15(日) 20:24:23.94 ID:8rZiSr/B0
乙。とんでもない話になってきましたな……。
同上でやり易い時間でやってくだされ、この先の展開が読めるだけでも十分でございます
>>659
ヤンデレールガンというよりもこれが普通の反応。てかこれでもまだ御坂は押さえ込めてる方なのよな
命の恩人であり円満な夫婦の片方を横恋慕で無理矢理寝取り崩壊させるって訳だからな
662 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/04/15(日) 22:07:53.33 ID:wjJxzdv+o
御坂妹の言葉がいちいち軽くて薄ら寒い笑いしか浮かばない
浮気とかNTRって現実にその身に降りかかった時こんな程度で済むのは奇跡というか人間とは思えないほどの自制心が必要なもんだぜ・・・
っていうか今んとこカエル先生ってば御坂妹の肩ばかり持ち過ぎだよね
全ての患者に必要なものを必ず用意するのが彼のアイデンティティーの筈なので多分この後相当美琴に対しても手厚いフォローがあったのだろうとは思うけど
663 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2012/04/15(日) 23:08:16.13 ID:aFfH+ByAO
まだ追いついてないけどこれは過去の話でいいのかな?
664 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/15(日) 23:28:11.50 ID:th1YnVU2o
ヤンデレなのは妹のほうだろ。つかキチガイレベル
奇麗事並べてるけどやってることは最低の行為
携帯小説の自分に酔ってるヒロインみたいだ
665 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/18(水) 20:46:53.73 ID:lbFlCTTD0
御坂妹を叩いてる人多いけど、たいていのちょっと頭の悪い系の女なんてこんな感じだろ。
逆にリアル過ぎるのか?
666 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/18(水) 21:53:34.41 ID:gVzCqetDo
普通の姉妹やそこらの頭の悪い女だったら大したことじゃないのかもしれんがクローンだしな
原作の設定やら美琴の行動やら、このSSでも妹たちのために色々やってるのにこれじゃ恩を仇で返すってレベルじゃないだろ
自分のことしか考えてない妹がほんと屑にみえる
667 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県) [sage]:2012/04/18(水) 21:57:30.44 ID:ojP+zOZI0
>>665
こんな感じだろ、でこの行為を済ませられるほどに慣れてる時点で尊敬する上に少し心配するぞ
我欲で恩義ある人間達の人生を歪め、その人間達と周囲の人間達の幸福を強奪し、見事に多大な恩を仇で返したって事だからな。嫌悪するのが普通である
まぁここまでえげつない話をリアルに書く>>1が何だかんだで凄い訳だが
668 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/04/18(水) 22:05:19.51 ID:feqqfDO+o
精神年齢が実年齢に追いついてない弊害ってことじゃないの?
669 :LX [saga ]:2012/04/22(日) 19:13:29.43 ID:rvILcllf0
皆様こんばんは。
>>1です。

毎回コメントお送り頂き誠に有り難う御座います。作者、感激でございます。

>>659さま
当SSでは、可愛そうに美琴は数々の試練に立ち向かうことになりますが、全て堪え忍び乗り越えてゆきますので、
病みっぱなしはありません。ご安心下さいませ。

>>660さま
有り難うございます。投稿時間帯ですが、変えて欲しいという積極的なご要望を書かれた方はいらっしゃいませんでした
ので、引き続きこの時間帯に投稿致します。

>>661さま
キャパシティダウナーがなければ、雷が落ちたであろうことは容易に想像できますが、話が終わってしまいますもので……

>>662さま
彼女の言葉が軽いのは、作者の技量が及ばないからなのですよね。想像力・創造力、それに加えて文章力が要求される
のですがいやはや、本当に苦しい。それでもお読み下さり有り難うございます。
美琴のフォローですが、当初は>>657でこの項は終わり、次の場面に転換するはずでしたが、投稿した直後に
(これでは少し足らない)と思いまして、急遽投稿を止めたのでした。本日、1コマですがフォロー(?)します。

>>663さま
分かりづらくて申し訳ありません。当SSの第二部は、美琴が二十歳前後の時代でありまして、前作と合わせましても
一番若い時代(現在刊行中の原作小説・アニメ・コミックからしますと未来ですが)の物語になっています。

>>664さま、>>665さま、>>666さま、>>667さま、>>668さま、
現実の世界ですと、御坂妹の位置にいる女性は子供をとっかかりに、相手の男の「妻」の位置を占めること(この場合の
妻は戸籍の妻とは限定せず、その男性における女性の第一位を指します)を目論むのが普通ですが、このSSの御坂妹の
場合はそうではない、というところが嘘くさいので、違和感はそこにあるかと思います。独占欲の形がいびつですし。
ここを不自然にならないように書ければ最高なのですが、作者の力が及びません、すみませんです。


前置き長くなりましてすみません。
これより投稿を始めますので、宜しく御願い致します。

670 :LX [saga sage]:2012/04/22(日) 19:18:30.05 ID:rvILcllf0

夢の中にまで、あの子が出てくるなんて……

あの時、あの子を助けたのは間違いだったの……?

こんな形で、こんな事が起きるなんて……あんまりだ。あんまりすぎるわ。

酷い。

悲しい。

こんな、馬鹿な事って……許されるの? 許せないわよ!



クローンなんて、生かしておくんじゃなかった……

(実験なんか、止めなければ、良かった……の?)

だって、あの子たちが、みんないなかったなら……



そこまで考えた時、ふいに美琴の脳裏に浮かぶ一人のクローン。

それは検体番号9982号。

初めて会った、自分のクローン。

態度のでかい、口の悪い、ああ言えばこう言う、始末に負えない……でも、私の身体から「生まれた」「一人の」「妹」。

そして、私の目の前で、一方通行(アクセラレータ)に操作された保線機械に無惨に押しつぶされて、命を落とした「妹」。



美琴、何を考えているの? 

バカも休み休み言いなさい。

あなたがやったことは、間違ってない。

自分の心の中で、二人の美琴が言い合う。

(そう。あの時は間違ってなかった。でも、その結果がこれなのよ!?)



忘れかけていた、上条当麻の言葉が甦る。

<自分が生まれてきた事だけは、きっとお前に感謝してたと思う>

あんな死に方をした、あの子も、私に感謝してた?

そんなはずはない。

そう、だから、私は、もうこれ以上あの子たちが死んでいくことを許さなかった。

だから、闘った。

<お前が、たった一人で塞ぎ込む事なんか期待してないから>

うっさい! 私、目一杯してるわよ! 一人で苦しんでるわよ!!

バカじゃないの、あんた? あんただって被害者なのよ? わかってるの? 

……当麻の馬鹿。あんたって、どこまでお人好しなのよ、バカ!!

あの子に、あんなことされて。

私は許さないからね! 絶対に許さないから!



心の中で、当麻の声をしたもう一つの自分の心と言い合いをするうち、美琴は眠りに落ちてゆく……



翌日。

美琴はカエル顔の医者から驚く話を聞くことになる。
671 :LX [saga sage]:2012/04/22(日) 19:22:53.58 ID:rvILcllf0

数日後。



【Misaka13577が入室しました】

「上位個体<ラストオーダー>、確認したいことがあります、と、ミサカは真面目な顔で問いかけます」

「ひゃほーい、どうしたのってミサカは検体番号13577号の問い合わせに興味津々で答えてみたり」

「真面目な話なのです、と不真面目な応対をする上位個体の態度にいささかむっとした感情をおくびにも出さずに、年上の寛容さを持って丁重な言葉を用いてミサカ13577号は再び問いかけをしてみます」

「んもぅ、冗談が通じないんだから、ってミサカは検体番号13577号のくどい問いかけをスルーして独り言を聞こえよがしにつぶやいてみる」

「話が進みません、上位個体。良いから黙って自分に話をさせろコンニャロウと、すこしドスを利かせて上位個体に圧力を掛けてみます」

「だからー、さっさと本題に入りなさいって、ミサカもシビレを切らせて少しむっとしてみるんだからーって!」

「検体番号10032号の姿が最近見えないのです。何か情報はありませんか? とミサカは単刀直入に本題をぶつけます」

「なにそれ? 検体番号13577号と同じところで働いているんでしょ? 自分で聞いてみればいいじゃないの? とミサカはググレカスのニュアンスで返事を返してみる」

「それが、秘密の特別勤務だから、との一点張りで詳しいことを全く教えてもらえないのです、とミサカは人事グループのお役所的回答に怒りを覚え、憤懣をぶちまけます」

「ミサカにその不満をあからさまにぶつけないでよねーって、ミサカはとりあえず答えてみる。

それで、ミサカは特に何も情報を持っていないけれど? まずは検体番号10039号、それから検体番号19090号、何か聞いてない?」

「検体番号10039号ですが、特別勤務については何も聞いていません。最近会っていませんし」

「検体番号19090号も何も知りません。強制通話はどうなのですか、とミサカは掟破りの逆質問を上位個体に投げ返します」

「それがね、なんだかおかしいの。反応がないの。死んではいないと思うんだけどってミサカはちょろーっとつぶやいてみたり」

えーなにそれ、そんなこと出来るの、どうやればできるのかな、ミサカもそうしたいなー、と他のミサカたちの勝手なつぶやきがネットワークを駆け巡る。

「仕方ないなー、じゃ、あした、学校の帰りにミサカがリアルゲコ太に聞いてみるねって、上位個体らしい宣言をしてみる!」

「たまには良いことをいうのですね、とミサカは上位個体の気まぐれに驚きを隠せません」

「……えぃ!」

「え、上位個体それはぁぁぁぁぁぁぁぁぁばばばばあばばばばばばばばばbbbbbbbbbbbb」

【Misaka13577が退出しました】



翌日、上位個体<ラストオーダー>こと御坂未来(みさか みく)は、第七学区の「リアルゲコ太」の病院に冥土帰しを訪ねていった。

しかし、彼女に対しても彼は「10032号のミサカくんは、ある特別な仕事に従事することになって、この病院から転勤した」という説明を繰り返すにとどまった。

唯一、彼女に対して新たな情報が与えられた。

「機密保持のために、彼女にはミサカネットワークへのアクセスを制限してある」と。

その直後、御坂未来へのアクセスが急増した。

「ハイハイハーイ、ミサカもそれ御願いします!」
「わたしも、そのテストモニターになりたい! 立候補します!」
「それ、いつ発売になるんですか? amazonで買えますか、いえ、ebayに出してくれませんか? その場合代金はpay-palでいいですか?」


閉口した未来がカエル顔の医師に文句をぶつけると、彼は苦笑いをするだけであった……。



(彼女は、少しは元気を取り戻したろうか……?)

冥土帰し<ヘブンキャンセラー>という二つ名の彼は、自分の手元を離れていった、検体番号10032号を想った。
672 :LX [saga sage]:2012/04/22(日) 19:28:51.75 ID:rvILcllf0

ところで何故、上位個体 / 最終個体 / 打ち止め / ラストオーダーと既に4つの名前と1つの番号を持つ、検体番号20001号に「御坂未来」(みさか みく)という名前があるのか?



それは、彼女が「学校に行きたい」と強硬に言い出したことによる。

以前にも一度、美琴が高校生になった時のセーラー服姿を見た時に、彼女は学校に行ってみたいな、ともらしたことがある。

この時は、それほどの大騒ぎにはならなかった。一方通行<アクセラレータ>が反対すると、わりとあっさりと彼女は引き下がった。

しかし、今度は違った。彼女は今度は折れなかった。断固行きたい、絶対に行くのだと言い張り続けた。

手に余った保護者役の一方通行<アクセラレータ>は、今なお教師とアンチスキルという二足のわらじを履き続けている黄泉川愛穂に話を投げた。

彼女が「良いことじゃんよ? なら中学校から行けばいいじゃん」とあっさりとGoサインを出してきた事で、彼も腹を決めた。



しかし、ではどこの学校を選ぶか、というところで彼はまたもやバンザイすることになり、結果、現役教師でもある黄泉川を入れての打ち合わせとなった。

彼は全寮制の学校を推した。自分が手間を掛けないで済む事を名目にしていた(本音は実は別のところにあったのだけれど)。

打ち止め<ラストオーダー>は、一瞬だけ悲しそうな顔をしたが、彼女も同意した。

黄泉川は、彼女の顔に浮かんだ悲しみの色を目ざとく見てとったものの、本人と今の保護者がそれで良いというのでは、余計なことは言えない。

若干の違和感を覚えつつ、黄泉川が最初に上げたのは3つのエリート学校、つまり御坂美琴の卒業した常盤台学園中学校、そして霧が丘女学院中学、長点上機学園中学校であった。

常盤台中学校の名前が挙げられた時、一方通行<アクセラレータ>は黙っていた。内心では絶対反対断固拒否であったが。

彼にとって幸いだったのは、本人が「お姉様<オリジナル>の後をなぞるのはイヤ!」という、美琴が聞いたら激怒しそうな理由で拒絶したことである。

ぶっちゃけ、彼女の能力が自称レベル3ランクぎりぎり、ということもあり、万一それが原因で常盤台中学の入試を落ちようものなら彼女の威光は地に落ちてしまう。

次の霧が丘女学院は、彼女の特殊性を考慮すると合格出来る可能性が高かった。

しかし、それは同時に妹達<シスターズ>の存在を外部に漏らすことになり、非常にリスクが高いと2人は考え、候補から外した。

残るエリート校で、一方通行<アクセラレータ>の母校? である長点上機学園中学は、彼が一言ではねつけた。

「オマエみたいなガキが行くところじゃねェンだ、クソッタレ」と。

かくして、アレはだめ、これもダメで、最終的に決まった候補は、平凡な、特に特色があるわけでもない第七学区立旭日中学校であった。



幼かった打ち止めことラストオーダーもこの頃にはすっかりティーンエイジャーであった。

それとともに、一方通行<アクセラレータ>の憂鬱さは深く進行していた。

そう、彼女の姿かたちが、年を経る毎にあの時の妹達<シスターズ>に近づいて来たからである。

もし、彼女が常盤台中学にでも入ろうものなら、彼の目の前に、正真正銘のあの「ミサカ」が再び復活してしまうことになる。(あのゴーグルはさすがにもう無いが)

それは、分かっていたこととはいえ、彼にとっては正直耐え難いものであった。悪夢であった。彼自身はそのことに一言も言わなかったが。

ラストオーダーは、彼の苦しみを十分理解していた。

髪を伸ばし、意図的に変えて三つ編みに。言葉遣いも、彼の前では意図的に昔のままで通していた。

一度、口げんかの時に、他愛ない悪戯ごころで妹達<シスターズ>の口まねで答えたところ、彼は家に3日戻らず、そして1週間口をきかなかった。

そして、彼が元通り、自分を見てくれるようになるまで1ヶ月かかったのである。

彼女は深く反省した。二度と彼の心を弄るようなまねはすまい、と。

だから彼女は常盤台中学への入学は最初から選定の中に入れていなかった。

そして、旭日中学校に決めた時も、彼女は寮に入ろうと考えていた。
673 :LX [saga sage]:2012/04/22(日) 19:33:32.93 ID:rvILcllf0

ほっとしたのもつかの間、入学届を出す際になって再び問題が起きた。

「えええっ!? なんで小学校に行かせてなかったんですか!?」

学校の先生の前で、ぐうの音も出せずに頭を垂れる一方通行の姿はミサカネットワークでは永久保存データとされている。

彼一人の付添ではお話になるまい、と危惧した黄泉川が一緒でなかったら、はたして彼女が旭日中学校に入れたかは定かではない。



打ち止めは置き去り(チャイルド・エラー)みたいなものだった、という黄泉川の機転で、小学校の通学記録がないことはとりあえず了解された。

問題の学業の方は、ものは試しで中学校1年生の試験問題をやらせてみたところ、国語・数学・理科はそれぞれ10分程度で満点を取り、社会でも80点というものだった。

これだけ優秀であれば、いくらか問題があっても支障は来さないであろう、という大甘の判断で校長判断の上、連絡する、と言う結果になった。

「まぁ、チャイルドエラーならば、学校に行かせてもらえなかったとか、そういう事があっても不思議ではないですから……でも、よかったですね」

(そう言うことがあっては困るじゃん、もしそういう子供がいれば救い出すのが、いやそれ以前に、そう言う目に遭わないように子供たちを守り育てるのが我々大人の義務じゃんよ)

黄泉川はそう心の中で叫んでいた。



しかし、それ以前に。

                           

「名前かよォ……」

「えー、ミサカじゃだめなの、ってミサカはミサカは不満をあらわにしてみる〜」

正確には、戸籍も、である。

IDカードは、ある。

冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>が作ったものである、が。

学園都市の中だけならば、これで十分通用する、はずであった。

実際、今まで不自由なく過ごしてきたのだが、学園都市内での「学籍簿」を作成する段階で彼らは行き詰まった。



最終的には、彼女はここでも「置き去り(チャイルド・エラー)」と言う形を取り、冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>が身元引受人ということで仮戸籍が作られることになった。

両親は『不明』とされた(判明すれば、学園都市内ならば申請して戸籍を改訂できる)。

残る問題は、名前である。

名字は「御坂」は良い。名前でもめた。

一方通行<アクセラレータ>はハナから投げていた。

自分にはそんな資格はない、と。

打ち止め<ラストオーダー>は彼に付けてもらいたかった。出来る事ならば、彼の名前の1文字をもらって。

だが、彼は頑強に抵抗した。

「絶対にダメだ。どォしてもっつンなら、オレは出てくわ。そして二度とオマエに会わねェが、どっちがイイ?」

あまりの剣幕に泣き出してしまった打ち止めは、黄泉川のところへ駆け込み、彼女に泣きつき、かき口説いた。

泣きつかれた彼女も困り果てたが、そこは年の功。

「打ち止めには頼もしいお姉ちゃんがいるじゃんよ?」
674 :LX [saga sage]:2012/04/22(日) 19:40:59.07 ID:rvILcllf0

……かくして、お鉢はオリジナルである御坂美琴へと回ってきた。

彼女は高校1年の時の担任だった黄泉川の話を聞くと顔をしかめた。不思議そうな黄泉川に美琴はしぶしぶ説明した。

学園都市に残っているミサカたちから去年、名前を付けて欲しいと頼まれていて、それがまだであると。



要は、満十八歳になった美琴に、妹達<シスターズ>が自分たちも独り立ちするに当たって名前が必要になるから是非名前を付けてくれ、と言うことだった。

最初は乗り気だった彼女も、落ち着いて考えてみると名前を付けるのは言い出しっぺの3人(検体番号10039号、13577号、19090号)だけで済むわけがなかった。

残りの1万人弱のミサカが我も我もと押し寄せる可能性に気が付いた彼女は、なんだかんだと理由を付けて引き延ばしていた。

そういうところに、上位個体とはいえ、末っ子の打ち止め<ラストオーダー>に先に名前を付けたらどうなるか?



黄泉川はその話を聞くと、彼女もまた考え込んだが、ふと思いついたように案を出した。

「お前の『美琴』という字を使ってつけてやればいいじゃんよ? プログラムは比較的簡単じゃん。相棒の芳川に作らせるじゃんよ」
         
つまり、「美」と「琴」をどちらかに、加えて前後、さらに漢字二文字と三文字、そしてひらがな混じり等の方法を使う、というのである。

「そ、そんなことをしたら、私の、その、生まれてくる子供の名前が無くなります!」

色をなして美琴が抗議する。

「ほーぉ、既に人生設計をしてるってか、御坂? そんなことは簡単じゃん。自分の子供に付けたい名前は先に取っておけばいいじゃん?

それに、男の子だったら何も問題はないじゃんよ」

なぁに、足らなくなったら、お前の母親や父親、それに親戚の字まで選択の幅を広げればいいじゃんよ、と。

「それに、お前の子供の名前は、上条にも相談すればいいじゃん? 当麻の2つの字も使えばもっと選択肢が広がるじゃんよ」

悪戯っぽく黄泉川が、彼の名前をぽんと出す。

「せ、先生!!!」 

「ま、そっちはまかせておくじゃんよ。仲良くふたりで頭付き合わせてあーでもないこーでもない、ってよろしく決めればいいじゃん?」

真っ赤になった顔が恥ずかしいのか、うつむいてカーペットの毛をむしり始めた美琴を、黄泉川愛穂は優しく見つめ、「それじゃ」と彼女の家を辞した。



しかし、肝心の打ち止め<ラストオーダー>は御機嫌斜めであった。

彼女は、他の妹達<シスターズ>とは異なり、美琴を年の離れた「姉」と認識していた。

自分のオリジナルであり、そして母のごとく見上げるような存在。

学園都市の超能力者<レベル5>第二位、そして女性のトップに君臨する美琴。それはあまりにもまぶしい存在。

他の妹達<シスターズ>が言うような、毒舌に近いタメ口は逆立ちしても出来なかったし、逆に皆はどうしてあんな言い方が出来るのか彼女は不思議でならなかった。

一方、自分はといえば、上位個体で、残る1万人の妹達<シスターズ>を指揮する権限を持つ、とはいえ実際にそういう行動を取ったことは数えるほど。

能力にしても、エレクトロマスターのレベル3とは言っているものの、実際にはレベル2程度であり、美琴のレベル5とは雲泥の差。

それはもう、悲しいくらいに圧倒的な差。

他の妹達<シスターズ>はと言えば、あの番外個体<ミサカワースト>だってレベル4(大能力者)であり、検体番号10032号と10039号はレベル3にいる。

頑張っているのに、どうしてもレベル3の壁が越えられない。

自分は、ひとりだけ年の離れた末っ子で、常に庇護される立場。

一方通行<アクセラレータ>に守られることで、何度も死線をくぐり抜けてきたに過ぎない自分。

そう思うと、彼女は自分自身が歯がゆかった。情けなかった。

(これで、名前までお姉様<オリジナル>に頼っちゃったら、わたし、一生お姉様<オリジナル>に頭が上がらないもん)



打ち止め<ラストオーダー>は思春期のまっただ中にいた。

彼女自身は全く気が付いていなかったけれど。
675 :LX [saga sage]:2012/04/22(日) 19:45:13.01 ID:rvILcllf0


そんなこととはつゆ知らず、美琴は黄泉川からもらったデータを持ってファミレスに打ち止め<ラストオーダー>を呼び出した。

それは、一方通行<アクセラレータ>と顔を合わせたくなかったからである。

一時期、美琴は彼と行動を共にしたことがある、が、正直言って積極的なものではない。

「レベル5」が必要とされたから、

「あのバカ」がいたから、

であり、「あいつ」が絡んでいない話であれば出来れば避けたい相手の一人、である。

しかも、今回は、妹達<シスターズ>の末っ子の話。



会って見て、美琴は少し妙な気分になった。

髪型こそ違え、まるで昔の自分を見るようだったからである。ならば、当然きっと……

「あんた、アイツに避けられたりしてない?」

打ち止め<ラストオーダー>は顔を伏せて答えた。

「うん……やっぱり、あの人、昔を思い出してるのは間違いないって思うの。

だから、ミサカは外へ出るべきだと思う。学校に行って、寮に入るの」

「そういうことなのね……常盤台は絶対無理ね」

「ダメダメダメ、それだけは、絶対ダメ。絶対に……他にも学校はあるのに、なんで常盤台なンだって聞かれたら、ミサカは答えられない……嫌がらせ以外の何ものでもないもの」

「個人的には、それくらいやっても良いような気がするけど、まぁ反省してる人間の傷口に塩塗るマネもアレよねぇ」

「お姉様<オリジナル>、もう止めてあげて? 今もあの人、苦しんでるから」

「ハイハイ。誰も面と向かって言うとは言ってないでしょ? それくらいわかってるわよ。で、あんたの名前、ざっと作ってきたけど、どう?」

3次元ホログラムビュワーを起動させ、名前データを投影してゆく。

「うわぁー……」

最初、彼女は目を輝かせて名前の列を見ていたが、そのうちに目を伏せてしまった。

「なによ、どうしたの? 気に入る名前出てこない?」

美琴は興味を失ったかのような打ち止め<ラストオーダー>に優しく問う。

「お姉様<オリジナル>? あのね、決してお姉様<オリジナル>の字をもらうのが嫌なんじゃないのね。

そうじゃないの……うまく言えないけれど、ミサカは妹達<シスターズ>の一人は嫌。

ミサカはね、一人の「普通の」女の子になりたい。妹達<シスターズ>のミサカではいたくないの。ごめんなさい、美琴お姉様」



美琴はなんとなく打ち止めの思いがわかったような気がした。

必死にもがいている、この子は自分を縛るくびきから逃れようと苦しんでいるのだ、と。

名字が御坂、更にそこに自分に由来する文字が入る名前では、私の影がこの子に一生ついて回ることになる。それが嫌なのだろうと。

(やっぱり、少し違うのね、この子は)と美琴は思う。
676 :LX [saga sage]:2012/04/22(日) 19:52:03.46 ID:rvILcllf0

妹達<シスターズ>のうち、検体番号10039号などは最初から美琴の字を1つ入れて考えて欲しいと注文を付けてきていたくらいである。

それを聞いた検体番号13577号は、ならば10039号と異なる文字を入れて欲しいと切り出した。

「美」「琴」を二人で分け合いましょう(明らかに区別出来る名前になる)というのである。

そして、最後の検体番号19090号はもじもじしながら

「で、ではこのミサカはお姉様<オリジナル>の名前を入れ替えた『琴美』で御願いします」と言ってのけた。

しかし、それを聞くや否や、目を吊り上げた10039号と13577号は

「図々しすぎます」
「その名前は全員一致で選択外とすることが決まっています、聞いていたはずですね、19090号?」 
「これは問答無用ですね」
「ええ。折檻ですね」
「そう、折檻です」

と19090号に飛びかかったのであった。驚いた美琴が水をぶっかけて、このキャットファイトはようやく収まったのだが。


----------------------------------


さて、どうしたものか、と考えていた時に、都合良くソイツは現れたのだった。

「チッ、つまンねェ時にはつまンねェヤツにぶち当たるもンだ。情けなくて涙が出ちまうわマジで……」

「あ……?」

美琴は吹き出しそうになった。もう中学生になろうかという女の子を捜しにコイツ、一方通行<アクセラレータ>はやっぱり来たのだ、と。

そりゃいくらなんでも過保護でしょ? と美琴は突っ込みにかかる。

「あーら。打ち止め<ラストオーダー>を探しにやってきたってワケ? アンタもホント心配性なのねぇ」

「うっせェ、くだらねェことブツブツいってるンじゃねェ、オレがコーヒーを飲みに来ちゃいけねェって法律でもあンのか」

「あってもアンタ、守る気ゼロでしょーが」

「あーうぜェ、18過ぎて、ちったァ大人になったかと思ったが、あいも変わらずギャーギャー言ってやがンのか、三下も可愛そォになァ」

「アンタに関係ないわよ。勝手に宜しくやってるから心配して頂かなくて結構ですよーだ」



……二人の掛け合いに口を挟めず、黙ってみている打ち止め<ラストオーダー>であった。



----------------------------                                  



「あー、難しいわぁー……」

「オレがハナから投げた理由がちったァ分かったか、クソアマ」

「最初から投げたヤツに言われたくないわよ! 黙ってなさいよねっ、イライラするからっ!!」

そこは一方通行<アクセラレータ>と打ち止め<ラストオーダー>が住んでいるマンションのリビングルーム。



一方通行<アクセラレータ>と打ち止め<ラストオーダー>は二人でとあるマンションを借りている。

最初の頃、美琴は打ち止めに、「あんた、その、アイツに迫られたり、とか、そういうこと、ないの?」と聞いたことがある。

打ち止め<ラストオーダー>は、当時トレードマークであったアホ毛を指で弄くりながら即答したのだった。

「うん、悪戯したりするとね、こらぁーって、ペシペシ叩かれたりするの。乱暴じゃないよ、でも?」と。

今回、彼らの家に行く途中、久方ぶりに美琴は興味本位でまた同じ質問をしてみた。彼に聞こえないように。

すると、彼女はパッと頬を染めて下を向き、小さな声で答えてきた。

「ううん、一度も、ないの」と。
677 :LX [saga sage]:2012/04/22(日) 19:59:49.57 ID:rvILcllf0

「アンタねぇ、だから、どういう名前が良いわけ? まさか、エリザベスとかイザベラとかアレクサンドラとかそんな名前にでもするの?」

ぐたーっとテーブルにのびた美琴が頭をテーブルに載っけたまま、打ち止め<ラストオーダー>を見る。

その彼女もソファベッドにごろんとひっくり返っている。その脇にはホログラムパッド。中身は名前辞典である。

「良いのがない……ってミサカはブー垂れてみる……疲れた……」



「……ったく、ンな名前なンかでオマエの未来が決まるってワケでもねェンだから、最初にイイと思ったヤツにすりゃイイだろがァ」

あきれ果てた顔でコーヒーを飲みつつ、それでもウェブの子供人名一覧リストを眺めている一方通行<アクセラレータ>がつぶやく。

「あー、ひとの名前だからって、ひとの未来だからってそんないい加減なこと言うのねアナタは、ってミサカは……『未来』……?」

ふと、打ち止め<ラストオーダー>は聞きとがめたように、その言葉を反芻し始めた。

「何よ?……未来? えぇー? 『みさか みらい』? なんか変よ、音が重なってそれじゃ?」

美琴がたしなめる。しかし、彼女はどうやらお気に召したようでブツブツと何やら必死につぶやいている。

「うーん。でも、未来って言う字はちょっと気に入ったかなってミサカは……あ! 未来を『みく』と読んで、『みさか みく』? 

ちょっと、いいかも」

「ふーん……ちょっと待ちなさい、運勢見るから……」

やれやれ、ようやく決まりかしら、と美琴は姓名判断のサイトへ飛び、打ち止め<ラストオーダー>が選んだ名前をチェックした。

「あら、結構良さそうね。『知性開花運―才能に恵まれ、大きな夢を持つことにより開花する』ってよ?」

「やったー! お姉様<オリジナル>有り難う! これにするって、ミサカはミサカは自分の名前が決まったことを大々的に宣言する!」

「けっ、ホントに女ってやつァ星占いだの姓名判断だのって、やたら非科学的なもンを信じやがってなァ、くっだらねェ」

あー決まったか、とこちらもホッとした顔でモバイルを充電ドックに戻す一方通行<アクセラレータ>。

「うっさいわね、ヘンなの出るよりいい話が出た方が良いに決まってるでしょ? 何もしてないひとに言われたくないわよ」

「お姉様<オリジナル>、それは違うの。あのひとが『未来』って言葉を言ってくれたから、あのひとが見つけてくれたといってもいいの。

ミサカはすっごく嬉しいなって」

「ちょ……何のろけちゃってんのよホントに……アホらしいったらありゃしないわね。ったく、それじゃぁ私の努力はいったいなんだったのよ?」

美琴がブツブツ言いながらテーブルの上を片づけ始める。

「ううん、そんなことはないです。お姉様<オリジナル>が来て下さって、沢山の名前を考えて下さったからだもの。本当に有り難うございます」

御機嫌が悪くなったお姉様<オリジナル>に、ちょっとあわてた打ち止め<ラストオーダー>は頭を深々と下げる。

「冗談よ……まぁ、気に入った名前が見つかって良かったじゃない? これで戸籍も出来て、学校にも行けるわけだし、まずはめでたしめでたし、でしょ?」

くたびれ果てた、と言う顔の美琴であったが、それでも打ち止め<ラストオーダー>にはにっこりと微笑みかける。



ふと視線を左へそらすと、そこには何とも言えない顔をした一方通行が立っていて、視線があった瞬間「フン」と鼻を鳴らすと彼は自分の部屋へと戻っていった。

はっとした美琴が打ち止め改め御坂未来(みさか みく)をまた振り返ると、寂しげな顔の彼女の目は、彼が消えた部屋を見つめていた……。





翌月。

御坂未来は、無事寮に入って、そこから旭日中学校へ通い始めた。憧れのセーラー服を着て。
678 :LX [saga sage]:2012/04/22(日) 20:16:24.05 ID:rvILcllf0
>>1です。

本日分の投稿は以上です。

先にも書きましたように、今回の投稿のうち、>>670だけが先週の投稿の続きです。
非常に収まりが悪いのですが、先週最後の投稿>>657のあと、次は>>671をそのまま投稿する予定でした。
しかし、>>657を投稿した後で、これではだめ、足りなすぎる、と思いまして>>670を急遽書き始めたのですが、
うまく纏まりません。そこで皆様には申し訳なかったのですが、>>657で投稿を一旦終わらせたのでした。

さて、打ち止めの名前付けエピソードですが、元々こんなに長くなる予定ではありませんでしたが……(苦笑)
全部書きためてあれば、どこにどのエピソードを入れるのが最適なのか確認できるのですが、うーむ。
この部分、もう1カ所挿入できる場所がある(はず)ですが、さて、どっちが良かったのか。
シリアスムードをぶった切る投稿なので、如何でしたでしょうか。

次週はまた違う場面でのスタートです。
それでは本日はお先に失礼致します。

お読み下さいまして本当に有り難うございました。
679 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/04/25(水) 21:12:32.07 ID:pYx72HJK0
超乙です!
前作から読み始めてようやく追いついた!
禁書で家族物てほぼ見かけないし内容もすげーどストライクすぎる…>>1さんの発想と構成力に脱帽です

ただ今作の家族状況が自分とかなり被っててワロタ状態なんですけれどww いや現実はワロエナイですがww
似た様のな境遇な自分の所のですが、腹違いとは言え兄弟同士の仲は悪くないですし共に両親を恨んだ事はほぼ無いですね。
ただ母親同士は極力会わない様にしてますけれど。
現実でもそんな感じなので作品の内容にかなり共感を覚えてたりしてます。
続きも期待してるので頑張ってください!(プレッシャーとか掛けてる様に感じてたら申し訳無いです…)
680 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/04/26(木) 08:34:35.32 ID:yxvAmlJAO
事実は小説より奇なりか…
姉の離婚とか両親の別居とかはあったがそこまでは無かったわ、頑張ってな

さて美琴の回想シーン、これが入ると益々御坂妹の罪深さが際だつなぁ…助けて下さいゲコ太先生
681 :LX [saga]:2012/04/29(日) 20:32:48.66 ID:W/PWo5k00
皆様こんばんは。
>>1です。

先ほど結構揺れました。かなり早くに横揺れに移りましたので「まぁこんなものか」とは思いましたが、
今回その横揺れが長く続きました。ここのところ、銚子沖の地震が増えてきているのが非常に不気味です。

今回もコメントを頂き本当に有り難うございます。

>>679さま
前作もお読み下さったとの由、どうも有り難うございます。作者冥利につきます。

>ただ今作の家族状況が自分とかなり被っててワロタ状態なんですけれどww いや現実はワロエナイですがww
げ、それは重いお言葉ですよ。もちろん、このお話は当方の妄想以外の何者でもないわけですから、ご安心下さいまし。
その後の文を読みますと、今はもう冷静に客観的に眺めることが出来るようになっていらっしゃるのですね。
自分は幸いなことに、この作品のような境遇にあったことがありませんので、想像するしかない(その想像がこの作品
なのですけれど)のですが……

うぅ……ありそうな話、で書いてきたのですが、似た境遇の方がいらっしゃったとは。
作者、ものすごいプレッシャーです、ハイ(苦笑
でも、コメントがヒントになることもありますから、遠慮なくコメント下さいませ。宜しく御願いします。

>>680さま
有り難うございます。
この第二部では、美琴には数々の試練が降りかかります。(当麻もそうですが)


伏線回収もありますし、第二部がメインになっちゃいそうな……
御坂妹が出てくるパート、どんどん後へずれてゆきます。大丈夫なのかしらん。

長くなりましたが、それでは本日分、これより投稿致します。
宜しく御願い致します。
682 :LX [saga sage]:2012/04/29(日) 20:36:56.27 ID:W/PWo5k00


「当麻か? 父さんだ。連絡がないのでちょっと電話してみた。

その、なんだ、御坂さんを連れてくる、と言う話なんだが、どうなってるんだ?

母さんがやきもきしててだな、『ちょっと当麻? 私だけど、どうなってるの? こっちも準備というものがあるんだからはっきりして?

いつ来るの? 今日これから、っていうのはダメですからね? 早く連絡頂戴ね じゃ』あ、かあさ」

音声通話の伝言は以上です、といって留守電は切れた。



上条当麻は空虚な日を送っていた。

やる気が出ない。

美琴は来るはずもない。

御坂妹が来ることはもっとない。

いや、一度妹達<シスターズ>の一人、検体番号10039号が寮まで来たことがあったが、彼は居留守を使った。

彼女には申し訳ないことであったが、彼は今、「彼女の顔」を見たくなかった。



今度は携帯が震えた。

メールの着信である。

画面を見ると、それは、御坂美鈴からであった。



件名:ケンカしたのかな?

本文:最近、美琴ちゃんの様子がおかしいんだけど、もしかしてケンカでもした? 
   喧嘩するほど仲が良いっていうから気にしてないけど。
   そうそう、先日お母様にまたお会いしました。
   その節はウチの娘をヨロシクね♪


当麻は頭を抱えてしまう。

だめだ。

行って、お詫びしなければならない。



あの時と、なんと世界は変わってしまったのだろうか……。

あの時は、学園都市を出る時は、映画のようなドタバタだったけれど隣には美琴がいた。後輩もいた。

頼りになる妹達<シスターズ>もいた。



だが、今は。
683 :LX [saga sage]:2012/04/29(日) 20:40:44.18 ID:W/PWo5k00

「ただいま」

「なんだ、帰ってくるなら言ってくれれば良かったのに……お前一人なのか?」

「ちょっと、当麻さん? 親を驚かせるもんじゃありませんよ?」

玄関のドアを開けるや否や、両親が口々に文句を言う。

が、突然だろうがなんだろうが、離れたところで生活している息子が帰ってきて、嬉しくない親がいるわけがない。

「ほらほら、早く入んなさいな。まぁまぁ、随分と立派になって」

「当麻、今日は泊まっていくんだろう?」

はしゃぐ両親。



これから起きる事を想像する。

こんなに喜んでいる二人に、自分はとんでもないことを言わなければならない。

どんなに落胆するだろう、がっかりするだろう、悲しむだろう?

(ごめん、父さん、母さん)

こみ上げてくるものを必死で当麻は押さえ込もうとする。



「父さん?」

「なんだ?」

「話が、あるんだ」

「お、おう。聞くぞ? なんだ、お金が足らないのか? 家でも買うのか? そりゃ少し早いぞ?」

「……」

「とにかく、中に入れ。こんなところでは話も出来んからな」

黙ったまま、当麻は玄関に入り、ドアを閉めた。だが、彼は靴を脱がずにそこに佇む。

両親が怪訝そうな顔で彼を見る。



立ったまま、顔を上げた当麻が低い声で言った。

「破談に、なると思う」

「……!?」
「えっ……?」

絶句する刀夜と詩菜。



「オレの、子供が、出来ちゃったんだ……美琴の、『妹』に」





それからが大変だった。
684 :LX [saga sage]:2012/04/29(日) 20:44:31.00 ID:W/PWo5k00

「だったらこの子は何も悪くないじゃないの? 悪いのはその、相手の妹さんの、その子でしょ?

なんでウチが謝りに行かなければならないのよ? 向こうがむしろ謝るべきでしょ? おかしいわよ」

詩菜が激昂する。

「まぁまぁ母さん、そういきり立たないでも……」

なだめに入る刀夜。だが、詩菜は収まらない。

「何を言っているんです、刀夜さん? これは、ウチの、この子の名誉に関わる問題なんですよ?

女に迫られて、そのままいいようにされる当麻も当麻だけど。

元々貴方の血筋なのかしら、女に甘いのは?」

「おいおいおい、母さん、どさくさに紛れて何を言い出すんだ? オレの血筋はそんな事はないぞ?」

「あーら、そうかしら、刀夜さん? む・ね・に・て・を・あ・て・て、よーく、お・か・ん・が・え・あそばせ?」

「また脱線する! そんなことより、当麻の話だろう?」

どす黒いオーラがハッと消える。

同時に、はた、と何かに気づいたのか、詩菜が当麻に向き直り、やおら問いただしにかかる。

「……ちょっとおかしいわね? 美鈴さんはいつも『一人娘』って言ってたわよ? 『妹』がいるんじゃ話が合わないわよ? 

それ、絶対におかしいわよ。当麻? あなた、騙されてない? その子、本当に、その美琴さんの『妹』さんなの?」

ぐっと詰まる当麻。思いもかけない母の突っ込みであった。

「そうなのか、当麻? そう言えば……確かにあの時も一緒にいたのは美琴さんだけだったな?」

父がいうのは、大覇星祭の時、期せずして両家の顔合わせになってしまった、あの時のこと。

「おかしいでしょ、当麻? あなた、その子に騙されてるのよ。とんでもないことだわ。

しかし、信じられないことを言う女もいるのね……どんな顔でそんなウソを言うのかしら」



「そっくりだよ。御坂妹は」



当麻がぼそっと言う。

「あの子は、御坂妹は、美琴の『いもうと』じゃないんだ、父さん、母さん」

言葉を切った当麻は、今度ははっきりと言った。



「あの子は……美琴の、クローンなんだ」 



「は……?」
「……!?」



刀夜・詩菜の二人はまたもや絶句した。
685 :LX [saga sage]:2012/04/29(日) 20:48:57.61 ID:W/PWo5k00

「そんなことが……」

「信じられない……そんな、恐ろしいことって、あの子が……?」



学園都市の闇のひとつ。

量産型能力者<レディオノイズ>計画、そしてその後、新たに作られた絶対能力進化<レベル6シフト>計画。



さすがにこれを両親に伝えることは出来なかった。

絶対に言えない、そう彼は決めていた。

そんなことをしたら、二人の身に何が起こるか分かったものではないからだ。

知らない方が安全なのだ。

「当麻を、学園都市にやるべきじゃなかったな……」

「そ、そうよ。当麻さん? あなた、こっちへ帰ってきなさい、ね? ごめんなさいね、私たち、知らなかったの。そんな恐ろしいところに、あなたを」

「遅いよ、母さん。もう俺はあそこからは抜けられないんだ。俺はあそこで生きていくしかないんだよ」

身を乗り出してきた両親に、当麻は静かに答える。

そう、既に彼は学園都市の外交委員会メンバーの一人なのだから。

「そんなこと、だって……」

なおも食い下がる母・詩菜。

「ダメなんだよ、母さん。それに……あそこにはね、あいつが、美琴がいるんだ」

当麻は母を諭すようにいう。

「美琴だけじゃない……御坂妹だって、その他の『妹達<シスターズ>』たちもいるし……あいつの友達だっている」

そこで、彼は何かを決心したかのように、両親の顔をはっきりと見る。

「オレ、決めたことがあるんだよ。もうずっと前だけれどね……そうだよ。そうだったんだ。オレは、あいつの、美琴の世界を守るんだって。

そう、あいつだけじゃなくて、その廻りも全部ひっくるめて、守るんだって、そう決めたんだ。約束したんだよ。

こんなことになっちゃったけれど、ね……。今さら、こんな事になって、どの面下げて何を言ってるんだ、って怒鳴られそうだけど、ね。

……だから、オレは逃げない。あそこから、学園都市から離れるわけにはいかないんだ。美琴が、みんながあそこにいる限り」



「わかった」
「あなた!?」

しばらくの沈黙の後、刀夜は一言だけ、言った。

詩菜は息子の決意が固いことを知った。が、それでもなお、母親である彼女は不安をぬぐいきれなかった。



彼女の理性は、息子の決断を理解した。

しかし、彼女の感情は、

息子を愛する、ひたすら息子の幸せを願う母親としての感情は、

その息子の決断に納得出来なかったのだった。
686 :LX [saga sage]:2012/04/29(日) 21:00:01.90 ID:W/PWo5k00

美琴はずっと家に閉じこもっていた。

食事も、一度食堂で知った顔に会って以来、行かなくなった。

今では全部、ケータリングサービスで済ませている。



もう、何もかもが信じられなかった。

メール、電話にも一切出なかった。

大学の友達も来たけれど、帰ってもらった。

同じ寮の彼女は心配して来てくれたのに、八つ当たりしちゃって本当に悪いことをしたと、今は思う。



様子がおかしい、と見た白井黒子が二回ほど寮に来たが、二回とも追い返した。

「ごめん。私、今、誰にも会いたくないから」と。

黒子を二回も追い返したことに心が痛む。

でも、美琴は、黒子が羨ましかった。

今、幸せ一杯の黒子の顔は見たくなかったし、それに何よりも、惨めな自分を彼女に見せることを怖れ、躊躇したから。





そんなある日。

インタホンが鳴る。

また誰か来たんだろうか、と美琴は思う。

「管理人の早瀬ですけれど、御坂さん、具合は如何ですか?」

と内線のスピーカーがしゃべる。

こればかりはどうしようもない。センサーで彼女が部屋にいることはばれている。

各人の部屋にはAIMジャマーがあるので、能力で弄くることは出来ないし、さすがにそこまでやることは気がひけた。

「来客の方が上がりますから、宜しく御願いしますね?」

一方的に切れた。

誰? 誰にも会いたくないって言っておいたのに、なんで上げるんだろう? と美琴は少しむっとする。

仕方ない、また追い返すか、と彼女は思う。

馬鹿なヤツ、と思った一瞬、当麻かな? と彼女の脳裏には彼の顔が浮かんだが、直ぐにありえないわ、と否定した。

アイツが来るわけ無いじゃない、どの面下げてここへ来れるのかと。

それに、アイツはここへは入れないし、バカね、アンタ何期待してるのよ、と彼女は自嘲する。



部屋のチャイムが鳴った。

「誰だかしらないけど帰って!」

不思議なことにドアが開いた。

「!」

「心配したぞ、美琴?」

……茫然と立ちすくむ美琴の前に立っていたのは、父、御坂旅掛であった。
687 :LX [saga sage]:2012/04/29(日) 21:05:24.17 ID:W/PWo5k00

「いやはや、どうしたんだ、おまえらしくもない。ん? ちと臭いぞ、この部屋」

あきれたように部屋を眺める父、旅掛。

「……そう?」

投げやりに答える娘、美琴。

「気が付いてないのか? まぁ、中にいると鼻が慣れてしまうからな……空気入れ替えないと、ホントに病気になるぞ、お前」

そう言いながら、彼はさっさとベランダのサッシを開ける。

「具合でも悪かったのか? 母さんも心配しててな、一緒に来たがったんだが、まだダメでな。わしだけ来たというわけだ」

もういいかげんに入れてくれても良いのになぁ、と笑う旅掛だったが、直ぐに厳しい顔になり、

「何があったかはともかくだな、この部屋をどうにかしなさい。父さんも整理整頓はあまり得意ではないが、これは酷すぎる」



およそ、女の子の部屋とは思えないほど、中は荒れていた。

自動食器洗い機があるにも関わらず、汚れた皿はそのまま。

ケータリングサービスのパッケージがそこここに転がっている。

ゴミは溢れ、異臭を放っている。

服は乱雑に散らばったまま。

「何もしたくないの」

「何を言ってるんだ、バカもの!」

ついに雷が落ちた。

「いい年した娘がなにをやってる。そんなことじゃ彼に嫌われるぞ? だいたい……?」

説教が続けられなくなった。

なぜなら、娘、美琴がしゃがみ込んで、腕の中にすっぽりと頭を入れて丸くなってしまったから。

娘のそんな姿を見るのは初めてだった。さすがの彼も、これはただ事ではないと気が付いた。



「何が、なにがあったんだ、美琴?」

彼は娘に近づき、同じようにしゃがみ込むと、ささやくように話しかける。

「どうしたんだ? ん? わしに言ってみろ?」

美琴の肩が震え出す。

その肩に優しく手を置き、そして髪を撫でる。

「辛い、とっても悲しいことが、あったのか? なら、一人で抱え込むな? わしはな、お前のお父さんなんだから、な?」

ごくりと美琴ののどが鳴る。

ふいに顔を上げた美琴。その顔は涙でぐしゃぐしゃ。

「お……おとう……さん……、わたし、わたし……もう、うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!」

貯め込んでいたものが一気に堰を切って怒濤のように溢れ出た。

父にしがみついた美琴は思い切り泣き、嗚咽した。ただただ、ひたすら。



ずっと昔、彼女がまだ小さかった頃のように。
688 :LX [saga sage]:2012/04/29(日) 21:12:56.04 ID:W/PWo5k00

御坂家。

「すみません、ウチの主人、ちょっと今朝から学園都市に行っておりまして……あら、なんだか完全に行き違いですね?」

申し訳なさそうに言うのは御坂美鈴。

強ばった顔の上条当麻。

どう切り出したものか、とタイミングを計る上条刀夜。

「なんか、ウチの娘のことで気になることがあるって言ってまして、せっかくお越し下さいましたのに、誠に申し訳ないと。

……その、上条さん?」

美鈴が当麻を見つめて少し微笑んで訊ねてきた。

「何か、御存知でしたら、その、教えて頂けたらなぁと。こんな時に失礼かとは思いますけれど……」

思わず当麻の顔がひきつる。

「い、いえ、、そのですね」

刀夜が口を開いた。

「ちょっと、ウチの息子のことで、その、御坂家の皆様にお伝えしたいことが御座いまして……」

「え? なんですか、それは」

改まった言葉遣いに、美鈴の顔にも緊張が走る。

「ウチの美琴が、何か粗相を?」

「とんでもありません」
「違います」

親子二人が殆ど同時に答える。

普段の彼女ならば「まぁ、やっぱり親子なんですね」と笑って突っ込むところだが、今はそんな雰囲気ではない。

「そう、ですか」

「全て、僕の責任なんです」

当麻が答える。

「……どう、されたのですか?」

美鈴は予感していた。聞かない方がいい、と。

でも、親子二人が正装して来た、そして当麻の「僕の責任」という言葉。

これは良くない話なのだ、と彼女は瞬時に身構える。
689 :LX [saga sage]:2012/04/29(日) 21:24:33.46 ID:W/PWo5k00

どうにも美鈴と目を合わせられないまま、刀夜が話を始めた。

「御坂さんのお嬢様と、ウチの豚児との、まだ、正式に決まった話ではないと聞いておりますが、二人の将来の件につきまして、その、当方に不始末がありまして、謹んでお詫びしなければならなくなりました」

「……」

「自分が、はっきりいいます」

当麻が床に座り、深々と頭をさげる。

「自分の過ちで、他の女性に、子供が出来ました。誠に申し訳ありません。深くお詫び致します」

「な……?」

刀夜も床に座り、同じように深く身体を折り曲げて平伏した。



沈黙が部屋を支配した。



さすがの美鈴も、子供が出来た、とまでは予想していなかった。

そして悟った。娘の様子がおかしい、という理由が。

美琴は、このことを知ったのだと。



ようやく、彼女は口を開いた。

「驚きました」

「お詫びします。すみません」

「私からも、今回の、息子の不始末につきましては、なんとお詫びすればよいのか……」

「美琴ちゃ、いえ、娘には、この話をしたのですか?」

刀夜の言葉が聞こえないかのように、美鈴は当麻を詰問する。

「すみません。もう、話はしました」

「そう……かわいそうに、ね」

「ごめんなさい」

「上条くん?」

「はい」

当麻は平伏したまま、返事をする。

「どうして、なの?」

「……」

「あなた、ウチの娘を、美琴ちゃんを好きだったのよね? 愛してくれてたわよね? そうよね?」

「はい……そうです」

「じゃぁ、どうして?」

「……」

「ねぇ、どうしてこんなことになったの? なんで? あなたはそんな不誠実な男の子じゃなかったはず?

何があったの? 教えてちょうだい。いえ、教えてもらいます。私たちには、それを聞く権利が、知る権利があるわ。

そうでなくっちゃ、どうして、こんな、理不尽なこと、信じられるわけ無いでしょう?」

「……」

悲痛な顔で当麻に詰め寄る美鈴。

当麻が顔を上げて、美鈴を見る。

美琴の面影を写すその顔は、あの時の美琴の顔にそっくり、だった。
690 :LX [saga sage]:2012/04/29(日) 21:38:48.71 ID:W/PWo5k00

「その、ですね」

「父さん! いいんだ」

「お前……」

言いかけた刀夜を、当麻が強い調子で押さえる。

「御坂妹」の話を美鈴にしゃべってはならない、と彼は思ったから。

「なんですか? 二人でもごもご言わないで、はっきり言って下さい!」

美鈴が叫ぶようにぴしゃりと言い放つ。

しかし、当麻は再び平伏すると、こう言ったのだった。

「何でもありません」

「上条くん!」

ウソ言いなさい、と美鈴が叫ぶが、

「僕が、僕がいけなかったのです。全て、ぼくの責任です。美琴さんには、なんら問題はありません」

「私はそんなことを聞いてるんじゃないのよ!? 言ってちょうだい。何をあなたは隠してるの?」

「いえ、それが全てです」

「そう……何も教えてくれないのね……じゃ、もう一つ。相手の女の子は誰? 娘はその子を知ってるの?」

「……言えません」

平伏したままの当麻を見て、美鈴はわかった。その子を、娘は知っているのだ、と。

「……」

「何も、そんなことも言えない……って事なの?」

「申しわけありません」

「そう……残念ね……残念すぎるわ」

「誠に申し訳ないことになりまして、本当に申し訳御座いません。

今日は御主人も御不在、ということですが良くない話は直ぐに、ということで取るものもとりあえずお伺いしました次第でして……。

また改めてお話を致したいと思いますが、如何でしょうか?」

刀夜が顔を上げて、一旦ここを辞したいとの意を伝える。

「……なんと言えば良いんでしょうね……わたしは……」

「誠に済みません。当麻、お詫びの言葉以外に何か、あるか?」

「そうね、私から、聞いて良いかしら?」

「はい」

「あなた……上条君は、今でも、ウチの娘を愛してくれてる? こんな事があった後でも好き?」

平伏したままの当麻の身体が震え、しばらくの沈黙の後、ようやく彼は答えた。

「すみません、僕には、その資格が、もうありません。本当にすみません。ごめんなさい」

「そう、わかったわ。タクシーを呼びましょうか?」

「とんでもない。そんなことをされては困ります。

……誠に申し訳ありませんでした。本日は失礼致します」



二人が玄関を辞して、角を曲がって見えなくなって、美鈴はようやくため息とともに誰ともなくつぶやいた。



「御坂家、最悪の日、ね」
691 :LX [saga sage]:2012/04/29(日) 21:51:58.23 ID:W/PWo5k00
>>1です。

本日分、以上です。

再び暗いお話へ逆戻りであります。
楽しいGWになんという話を書いてるんだか……(苦笑

もうすぐ700に届きますが、この分だと今回確実に1000を超えそうです。前作では1000に収める為に途中から駆け足になりましたが、今回は開き直ってますので大丈夫かと。

それでは今日はお先に失礼致します。
最後までお読み下さいまして誠に有り難うございました。
692 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2012/04/29(日) 21:55:32.36 ID:lO/Ib2PG0

上条さんも悪いんだろうけど、凄くかわいそう。
親もつらいよなー。
そして美琴も病んでますね。
693 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/29(日) 23:23:59.28 ID:MhZEsaCIO
いくらなんでも、この期に及んで御坂妹の事隠すのは独善を通り越してクズすぎんだろ…
「実の娘」が被害にあってるんだからどんなに危険な話だろうが少なくとも真実を話す義務があるだろ…
694 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/04/29(日) 23:40:50.34 ID:tFiejTG/o
御坂妹ガチクズですがな…
誰も幸せにならない…
695 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県) [sage]:2012/04/30(月) 08:38:39.78 ID:3/etBOsQo
ふと思ったが、この時点で打ち止めには御坂姓の名前が与えられてるんだから、美鈴さんは当然妹達のこと知ってるんだよな
696 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/04/30(月) 15:36:23.95 ID:ujOxC5ZZo
さすがに、妹達だとは思ってないだろうな
697 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/01(火) 16:58:39.77 ID:o5++QRie0
>>695
置き去りに戸籍を作成しただけの扱いだろうから、御坂家と打ち止めの御坂性は
無関係なんじゃないのか、と思ってるんだが、どうなんだろうね。


御坂妹は勝率の激低い博打に出て賭けに勝った?わけで、前途多難だろうが、
俺はスレの行く末とともに見守るぜ。てなわけで>>1乙。
698 :LX [saga]:2012/05/06(日) 22:26:53.93 ID:RpQV+FS/0
皆様こんばんは。
>>1です。
先ほど帰宅しました。本日は通常の登校時間よりかなり遅くなりましてすみません。

まずはコメント頂けましたことに篤く御礼申し上げます。

>>692さま
コメント有り難うございます。
前作のあとがきにも書いておりますが、作者は「親の視点」という部分を少し入れてみたかった(うざ〜い、と言われる
こと覚悟しておりますが)ので、現実よりかなり親の干渉部分を多くしております(普通なら同世代の友人に相談する
事の方がが多いはずですが)。さて、どんなものでしょうか。

>>693さま
コメント有り難うございます。
本日の投稿で、そこらへんのニュアンスをくみ取って頂ければ幸いですけれど……。
*この部分は書きため部分に最初から含まれておりまして、決してコメントに左右されたわけでは御座いません。

>>694さま
コメント有り難うございます。
仰るとおりなのですが、三人ともそれなりに前進しますので、宜しく御願いします。

>>696さま、>>696さま
コメント有り難うございます。
御坂旅掛・美鈴の二人は、「妹達<シスターズ>」の存在を知ってはいます。但し、全貌は知らないと言う設定です。
一応>>512において、夫婦の会話の中にちょろっと書いておりますし、本日の投稿にもそこらへんについての話題が
出ます。

なお、打ち止めの御坂姓については、>>697さまが正解を出していらっしゃいますw

>>697さま
コメント有り難うございます。
投稿の前半の方ですが、作者より上手にお答えして頂いちゃいました。有り難うございました。
後半部ですが、エール有り難うございます。
引き続き頑張りますので宜しく御願い致します。

それではこれより、本日分投稿致します。
699 :LX [sage saga]:2012/05/06(日) 22:34:53.19 ID:RpQV+FS/0

「なんてこと、かしらね……」

美琴がおかしくなったと言う理由はこれでわかった。

母・美鈴は、学園都市に一人でいる美琴を思う。

今すぐにでも飛んでいって、あの娘を抱きしめて上げたかった、慰めてあげたかった。

あの娘は、どれほど打ちのめされたことだろうか。

あの娘は、どれほど悲しかっただろうか。

あの娘は、どんなに悔しかっただろうか。

勝ち気な性格がわかりやすいから、みんなはあの娘をそう言う目で見ているけれど、それは、あの娘の一面でしかないのに。

「お父さん、大丈夫かしら……」

落ち込んでいる美琴をみて、あの人(旅掛)は、うまくあの子を慰めているだろうか? 

大丈夫だろう、と彼女は思い返す。自分の可愛い娘だもの、うまくやるわよ、と。



チャイムが鳴った。

「あら、上条さんかしら」

何か忘れ物でもしたのだろうか? 今まで彼らが座っていたところをもう一度ざっと見るが、そこには何もない。

(誰かしら?)

しかし、モニターに写った人物を見て、美鈴は脱兎の如く玄関に走り、焦る手でロックを外すと思い切りドアをバンと開けた。

「おう、連れて帰ってきた」

そう言いながら、夫・旅掛が門扉を開けて入ってくる。

乗ってきたのであろうタクシーが、家の前から走り去って行く。

「……」

旅掛の後に隠れるように立つのは、ウインドブレーカーで顔を隠している美琴。

うつむいたまま、一言もしゃべらない娘に美鈴は思わず駆け寄り、ひし、と彼女を抱きしめた。

「辛かったでしょ? 苦しかったでしょ? もういいの。もういいから、ね? お母さんが、わたしが守ってあげるから」

娘を安心させるように、小さく、でもはっきりと耳元でそうささやく美鈴。

「お母さ……ん?  ……う、うっ……ううっ……ぐ、うっ」

美琴の肩が震え始め、必死で耐えていたのだろう、嗚咽が再び漏れ始める。

「お、おいおい、ようやく落ち着いたのに、母さん、ここでまた……」

黙らっしゃい、と無言でにらみつける美鈴の目に、旅掛は黙りこむ。

「さぁ、美琴ちゃん、おうちへ入ろう? そこでぜ〜んぶ聞いて上げる。もう、我慢しなくて良いんだから? ここは、貴女のおうちなんだから、ね?」

彼女は、肩をリズミカルに優しくポンポンと叩きながらささやきかけ、そしてゆっくりと抱きかかえるようにして美琴を玄関の中に招き入れた。

「お……母さん、わ、わたし……わたし……、取られちゃった、あの子に、アイツを、取られちゃったのぉぉぉぉぉもういやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

よろよろと美鈴に支えられて、玄関に入った美琴は、今度こそ誰にはばかることもなく大声で泣き出した。美鈴にしがみついて。

旅掛が(あの子って誰だ?)という顔で美鈴を見る。

美鈴は(知りませんよ)と目で答える。
700 :LX [sage saga]:2012/05/06(日) 22:41:35.05 ID:RpQV+FS/0

「それで、二人は帰ったのか?」

「もう5分早ければかち合ったわね。そんなことになったら、どうなったかわからないけれど」

美琴を寝かしつけた二人は、下の居間で声を潜めて話を続けていた。



よほど精神的に参っていたのであろう、美琴は母・美鈴から離れるのを極度に嫌がった。

美鈴は嫌な顔一つせずに、娘が甘えるままにしていた。

そんな娘を見る父・旅掛は、若干それに不満ではあったが、なんせ今の娘は普通ではないのだからと自分を押さえ、美鈴に全部預けることにした。

美琴は、自分のほほを撫でさする美鈴の手にすがりつき、ようやく安心したかのような微笑みを浮かべると、直ぐに寝入ったのだった。

美鈴は、やつれた娘の寝顔を、痛々しい思いで暫く見つめていた。



「そうだな。そんな話を聞いたら、わしは自分を押さえられたかわからんぞ? 

しかし、そんなこととはな……見損なったな……上条という男」

「そうなんだけど、なんか……引っ掛かるのよね。なんか隠してるって感じで」

「なんだ、あいつの肩を持つのかお前は? 美琴がこんな目に遭ってるのに!」

「ううん、ちょっと違うの。すごく不自然なのよ。何も言わないで、全部自分が悪いの一点張り。それって、細かい事は聞くな、ってことなのよ? 

でもね、あの子はちゃんと相手のひとのことを知ってるらしいのに、ね?」

「ああ、美琴も言ってたな、『あの子に取られた』と。ふむ……そうか、『あの子』と言うからには、結構知ってる女の子ということだな。

なるほどな……余計ショックが大きかったんだろうよ。かわいそうに」

「あなたと会ったときはどうだったの?」

「その事は全く何も言わなかったな。ただ泣きじゃくるだけだったよ。

いや、正直驚いたぞ、幽霊かと思ったくらいだからな。生気はないし、部屋は匂うし。酷いものだったよ」

「そうそう、香水でごまかしてたけど、あの子、ちょっと臭かったわよ? 貴方が?」

「ああ、そうだ。風呂にも入ってないんじゃないか? だから出がけに適当な香水をふり掛けてきたんだが?」

「いやぁね、顔と首だけでも拭いてあげれば随分違うのに……男親ってこれだから……」

「そんなことが出来るくらいなら、わしも苦労せんわ……ようやくのことで連れ出したんだぞ? 寮を出るのだって苦労したしな……。

管理人が気を利かせてくれてな、ここへの外出申請も出してくれたし、それに自分のクルマでゲートまで送ってもらったんだ。

美琴は有名人だから、この状態で玄関から出たら格好の週刊誌のネタになると言われてな……」

「まぁ……それじゃ、後で御礼しなければね。それで?」

「見た通り、パーカーで顔を隠してだな、後部座席に寝かせて寮を出た。さすがにゲートではそうもいかなかったが、まぁ気づかれてはいないと思うがな」

「ホントに大変だったのね、お疲れ様でしたわ、あなた」

「ああ。さすがに参ったわ、あの子がとにかく口を利こうとせんのだからな……」

「え? そうなの?」

「ああ。ずっと、心ここにあらずという顔をしておったな。ゲートの係官もいぶかしむくらいにな。わしの顔をまるで誘拐犯のように見ておったわ。

外へ出て気が緩んだのか、タクシーの中じゃポロポロ泣き出してな、ずっとグスグス言っておって往生したよ……。

だから、ようやく落ち着いたのにと文句を言ったわけだ」                                                                                                        
「そうだったの……。辛かったのね、きっと。かわいそうな美琴……」                                

「まぁ、せめて思う存分寝かせてやろう。今のわしらには、それぐらいしかこの子にしてやれん。情けない話だがな」                                         


美琴は泥のようにぐっすりと眠っていた。

「学園都市、女性能力者の頂点」「レベル5<超能力者>の学園都市第二位」というくびきから逃れられる、唯一の場所。

四面楚歌の中、ようやく辿り着いた「普通の場所」で、「二十歳の御坂美琴」に戻れた彼女は、初めて安息を得たのだった。
701 :LX [sage saga]:2012/05/06(日) 22:45:17.73 ID:RpQV+FS/0

美琴は、その後もずっと眠り続け、翌々日の昼過ぎに漸く下へ降りてきた。

「お腹減ったんだけど……」と、ふらふらしながら顔を赤くして決まり悪そうに言う美琴に、二人は口々に叱りつける。

「いくら何でも寝すぎじゃないか? ああ、いいから先に風呂に行ってきなさい」

「年頃の女の子がなんてザマなの? 恥ずかしいからさっさと身体洗ってきなさい!」

「えー、それどういう意味? まさか匂ってる? 臭いの? やだ、恥ずかしいっ!」

風呂場へと走り込む娘を見て、二人はほっと顔を見合わせた。



「あー、生き返った……」

湯上がりの上気した顔で、パジャマ姿の美琴が居間に戻ってきた。

おとといの、死人のような青白い顔が消えていることに、二人はとりあえず安堵した。

「お腹減ってるっていうから、とりあえずトースト焼いておいたわ。夕飯までそれでもかじってなさい」

「うわー、良い匂い、美味しそう!!」

目を輝かせて、バターをざっくりと塗りたくると、大きく口を開いてかぶりつく。

「おいひぃー、ほれ〜♪」

幸せそうな顔であっという間に1枚を平らげる美琴。

「何か飲む?」

「とりあえず、冷たい牛乳がいいな」

「お腹冷やすわよ? 暖めた方がよくない?」

「大丈夫だってば」

1gパックのムサシノ牛乳を美鈴が持ってくる。

「あはは、そうそうこれこれ。一時期飲んだなぁ、これ……。母さんね、これ飲むと胸がおっきくなるって話知ってた?」

「そうなのか?」

「やだ、お父さんのエッチ。何聞いてるのよぅ、都市伝説だってば〜」

家に着くまでの愁嘆がウソのようにはしゃぐ娘を見て、旅掛は狐につままれたような顔をする。

「そうなの?」

「学園都市でね、結構女の子の間じゃ有名だったの。母さん、固法先輩って知ってたっけ?」

「ゴメン、覚えてない」

美鈴も娘の異様なはしゃぎぶりに、その裏を読もうと感覚を研ぎ澄ます。

「中学の時にね、よく行ってた風紀委員<ジャッジメント>の支部にいたんだけど、胸がおっきくてね、でその先輩の飲んでた牛乳がこれなのよ。

黒子とか、初春さんとか、結構みんな飲んでたんだ〜♪ ふふふ」

「そんなもので大きくなるわけなかろうに」

「やぁだ、お父さん? イイのよそれで、みんな気休めなんだからさー。みんなで飲む、ってところがキモなのよ」

「そう言うお前はどうしたんだ?」

「えへへ、あの時は私も胸小さかったしさ、みんなに隠れてだけど一時期飲んでた、アハハハハ! でも飲み過ぎてよく下痢したな〜」

「……ったく」

「そんなもんなのよ。所詮はね、話なの。話……話で済まなかったものも、あるけど」

明るくはしゃいでいた美琴の様子が変わり、両親ははっと身構える。
702 :LX [sage saga]:2012/05/06(日) 22:48:32.58 ID:RpQV+FS/0

二人が緊張したのを感じ取ったのか、美琴は神妙な顔になる。

「やだ、そんなに緊張しないでよ、お父さん、お母さん……ごめんね。心配掛けちゃって。

……ちょっとね、辛かったから。誰にも話せなかったから……それにね、あそこ<学園都市>じゃとても話せなかったから」

「……」
「美琴ちゃん……?」

「ここなら、大丈夫だと思うから……それで、あのね、私には、『妹』がいるの」

「……」
「……」

二人は黙っている。

「あれ? 驚かないの?」

驚かない両親に、逆に美琴は驚いた。

「その子たちに会ったことはない。だが、話には聞いていた。わしは事の張本人にも聞いたことがあるのだ、お前そっくりの、『妹達<シスターズ>』のことを、な」

「あなた……」

いきなり核心をつく話が始まったことに、美鈴ははらはらしていた。

「そう、なんだ……そうか……二人とも知ってたんだ……」

「こちらから、お前に言う話ではないからな。それに、お前が知っていることなのかどうかもわからなかったから、とても言えるわけなかろう?」

「そうよね……言えないよね……じゃ、聞くけど、その子たち、全員で2万人いるの、ううん、『いた』のは知ってた?」

「!!」

「2万人!? ちょっと、それ、どういうことなの?」

さしもの二人もこれには驚いた。

桁が違いすぎる。まさに、桁違い。想像もつかないほどの数だった。

世界各国で得たアングラ情報。それは、娘・美琴に似た女の子の情報。その中には、銃撃戦等の物騒な話も含まれている。

それらを総合すれば、到底一人二人では済まない数であることは、旅掛は覚悟していた。

だが、娘の話によれば、その数は2万だという。恐るべき数字であった。この地区の総人口が3万人なのだ。その2/3に相当する数。

よもやそんなにいたとは思いもしなかった。

「だって、クローンだもの。あの子たちが自分自身をこう言っていたわ、『ミサカは単価18万円で、ボタン一つでいくらでも生産できる』って、ね。

『実験動物』だって、自分たちで言ってたのよ。信じられないけど」

「……」

あの野郎、と旅掛は唇をかむ。今はもういない相手を、彼を呪った。

よくも……なんてことを……。

「そんな、クローンだからって、人間を実験動物だなんて……なんてことを」

「それでね、半分はその通り、実験で殺されてしまった……。私は止めようとして、必死に闘ったわ。

非合法よ、もちろんね。でも、そんなこと気にしてなかった。そんなもの、くそくらえだった……。

でも、止められなかったの、壊しても、壊しても……。相手は学園都市そのものだったから」

驚くべき話を淡々と進める美琴。

黙ってその話を聞く、両親。
703 :LX [sage saga]:2012/05/06(日) 22:52:35.75 ID:RpQV+FS/0

キッチンでご飯が炊けたアラームが鳴ったが、席を立つものはいない。

美琴は話を続ける。

「でね、私は、その実験を止める為に、自分が死ぬことで止めようと思ったの……。

私が実験に参加することはそいつらの想定外だったし、もちろん私が死ぬことも実験の計算外だったから」

「おまえ……!」
「美琴ちゃん……」

さらりと出てきた「私が死ぬ」という言葉に両親は驚愕する。

まさか、娘がそこまで追い込まれていた、とは。

お前は何をしていたんだ、と旅掛はギリリと歯を食いしばり、両手を握りしめる。

母・美鈴は心底、娘を学園都市に送り出したことを後悔した。

自分の未来に夢と希望を持って胸を膨らませて、まるで遠足に出かける時のように家を出て行った、幼い美琴の姿を思い出す。

(なんてことを、私は……) 

(知らなかった。そんなところへ、私は……この子を、送り出したの?) 

「死ぬ覚悟だった私を、わたしをね、文字通り身を張って止めたのが、あいつだったの……」

「……それが、上条、くん、だったのか?」
「えっ!?」

二人は同時に美琴を見る。

「そう。本当にあのバカはね、私に向かってきたの。まぁ、前から、あいつとはしょっちゅう勝負してたし。

……でもね、私、あいつに全敗だったの。一度も勝てなかったんだ、何やっても……。

いっつもあいつの右手が勝っちゃうのよ、おかしいわよね、無能力者なのにね」

昔を思い出しているのか、楽しそうな顔で、声でしゃべる美琴。

「あの時は、私もテンパってたから、邪魔するヤツはただではおかないって、ホント私って、馬鹿だったわ。

私が、余計なことをしなければ、あいつももっと早く実験場に着けたはずだし、もう少し楽に勝てた、かもしれないのにね」

そう言うと、彼女は牛乳を飲む。

「それで、結局、あいつはボロボロになっちゃって、でもその身体で、あいつはね、クローンのあの子と、わたしを助けるために、実験場へ行ったわ」

結果的に、あいつは、勝ったの……信じられないけれど、学園都市のレベル5の第一位に勝ったのよ。

私も一度、そいつと闘ったことあるけれど、まるでお話にならなかった相手なのよ。

そんなヤツを相手にね、右手一本で、勝ったの……あいつは。

そのおかげで、あの、恐ろしい実験は中止になって、あの子は九死に一生を得たわ。それに、生き残っていた残りの『妹達<シスターズ>』も助かったってわけ……」

「そう、だったのか」
「……」

両親二人が、お互いに顔を見合わせる。

「あの子にとって、だから、あいつはね、命の恩人なのよ。ううん……それ以上ね。

あいつは、あの子にとって全てなの、生きる意味、そのものなのよ」

旅掛と美鈴は今、理解した。

土下座して詫びた上条当麻、彼の子を身ごもった女が誰なのか、美琴が「あの子に取られた」と言った、その「あの子」が誰なのか、を。

704 :LX [sage saga]:2012/05/06(日) 22:56:03.00 ID:RpQV+FS/0

美琴の話は続く。

再び彼女の顔は、暗くなる。

「失敗だったのかな……私はね、真っ先にあの子に、あいつとの話をしたの……。

一番のライバルだし、私の次に、いいえ、私と同じくらい、あいつを慕ってる女の子だったもの。

自分の口から伝えるべきだと思ったし、他の人から聞いたらショックだろうと思ったから……」

いよいよ核心部分に話は入ってきた。

一言も聞き漏らすまい、と両親は耳を傾ける。

「そしたらね、あの子は、実力行使に出ちゃったのよ……。あの子は自分から押しかけて、あいつとセックスしちゃったのよ。

そして目出度く御懐妊ってわけ」

苦い顔の美琴。

「それじゃ……意味が違うじゃないか」
「あなた!」

思わず口に出してしまった旅掛を美鈴がなじるが、美琴がそのまま聞き流す訳がない。

「え? どうしたの? 意味が違うって何? なにか聞いてるの?」

「……あなた……」
「ううむ……」

ほらみなさい、と美鈴が旅掛を睨み付ける。

「ちょっと、はっきりして? 私がこれだけ説明してるんだから、お父さんもはっきり言ってよ。どういう意味なの、今のこと?」

「い、いやな……」

「お父さんはそこにいなかったんだから、私が言います」

まずかったな、と言う顔の旅掛。

一方、美鈴は姿勢を正して、美琴の目を見ながら話し出した。

「美琴ちゃん? あのね、一昨日来たのよ。あなたが帰ってくる直前、ほんと5分前くらいかな、ちょうど帰ったところだったの」

「……うそ? ホントに?」

驚く美琴。

誰とは言わない美鈴だが、美琴は正確に誰が来たのかを把握した。

「お父さまと二人でね、正装でいらっしゃったわ。それで、他の女の子に、自分の子が出来てしまいました、誠に申し訳ありませんって土下座までして……」

「……」

「でもね、詳しいことは何も言わなかったの。その、もちろんあなたの『妹』だなんてことも一言も言わなかった。言えないからって」

「……」

「きっと、あなたに『妹』がいることを私たちに言いたくなかったんでしょうね。気を遣ったのよ。私たち、知ってるのにね」

「それで、それで?」

黙って聞いていた美琴が、先をせかす。

「自分に全ての責任があるから、美琴ちゃんには何も問題はないから、って。

自分たちに責任があることだから、今後どうするかは私たちに決めて欲しいって暗に言っていたわ。まぁそうよね。自分たちから破談にして、とは言えないわよね」

「……」

「彼が、浮気して他の女に手を出して、妊娠させたんだと、わしは思ってな、正直激怒したし、ぶん殴りたかったし、悔しかったし、な。

だが、今のお前の話を聞くと、少し状況は違うようだな」

「少しじゃないわ! 全然違うのよ!! アイツは、アイツがバカなのよ!」

旅掛の言葉に美琴が反発する。両親が驚くほど、強い調子で。
705 :LX [sage saga]:2012/05/06(日) 22:57:53.92 ID:RpQV+FS/0

「美琴ちゃん……それは言い過ぎじゃないの?」

娘の剣幕に驚きつつ、やんわりと美鈴は合いの手を入れる。娘の本心がどこにあるかを探る為に。

「だってそうだもん! あの子はね、最初からそのつもりでアイツのところに押しかけたんだから!

私にアイツを取られると思って、子供をかすがいにして、離れられないように仕組んだの!

あの子、そう言ったわ、はっきりと、私の前で!! 恥知らずよ! 

そんなあの子に、あのバカったら、まんまと嵌められて、子供を作られて……」

「1回、でか?」

何回か逢瀬を重ねたのではないか、と旅掛はつぶやくが、美琴はそれも聞き逃さない。

「そこまで知らないわよ! だいたい聞きたくもないわ!!」



――― パンパン ―――

「美琴ちゃん?」

興奮する美琴を落ち着かせようと、美鈴が手を叩く。



「……ごめんなさい、お父さん……大きな声出しちゃって……あいつがなんか言ったような気がするけど、全然覚えてないし」

功を奏したか、我に返った美琴が静かになる。

「……まぁ、出来ちゃう時ってのは、そんなもんかもな……」

「あなた!? 随分と実感こもってるけど、経験でもあるの?」

今度は美鈴が、実感味がこもった夫のつぶやきに敏感に反応する。

「おいおい、真剣な話なんだから、つまらん事で脱線させないでくれ。そんなことは、ない!」

ええっ? と自分に向いた妻の矛先をかわすべく、旅掛は断言する。

「ふーん、まぁ良いわ……それじゃ、彼も被害者みたいなもんじゃないの? まぁ、避妊すれば、ってそんなヒマなかったのかもね。

女がその気だったら、男なんかちょろいもんだし……」

「お母さん……?」
「美鈴……?」

昔を思い出すかのような美鈴のつぶやきに、今度は夫・旅掛と娘・美琴が絶句する。

「え、何その顔……やだ、ちょっと? え、何よ、何勘違いしてるのよ、バカね、私は潔白ですからね!」

あわてて否定する美鈴に旅掛がふふん、という顔で答える。

「ふん、これでおあいこだ。……さて、で、どうするね。向こうは、その、破談も覚悟してるようなんだがな……」

旅掛が何気なしに話を美琴に振る。

両親は娘の反応を注視する。果たしてどんな答えが彼女から返ってくるのか?



「そんなの……わかんないわよ!」

(あら、そうなの?)

美鈴は、その答えに頭をフル回転させる。
706 :LX [sage saga]:2012/05/06(日) 23:02:16.66 ID:RpQV+FS/0

美鈴は考える。

(娘の答えをどうみる?)



彼に愛想が尽きていたならば、当然こう言うだろう。

「当たり前でしょ、破談に決まってるじゃない!」と。

だが、そう言わなかった。あの子は「わからない」と言った。

なぜ、「わからない」のだろうか?

全部ご破算にする選択をしていないからだ。

今のこの返事、そしてさっきの怒り方から想像するに、二度と顔も見たくない絶交よ、というほど頭に血が上っているわけではなさそうだ。

その、クローンの「あの子」の策略に嵌った彼に怒っているだけだ、と。

簡単に許せる話ではないことは当然だ。私たちだってその点は同じだし。

ただ、どういう形で落とし前を付けるか、その方法が決まっていないから、だから「わからない」という答えになるのだ。

ふーん、そういうことなのか。

一昨日の彼の答えから察するに、上条くんは、娘には未練があるようだ。

娘はもともと彼に惚れていた訳だし……じゃ、わざわざぶち壊す事もないでしょうね。

それに、仮によりが戻った場合、こちらは非常に有利な、強い立場をキープ出来るし。



一瞬のうちに、頭の中でそう話を纏めた美鈴は、静かに宣言した。

「元々急ぐ話でもなかったし、放っておけばいいんじゃないのかしら」

夫が余計なことを言って、話をぶち壊されてはたまらない、と彼女は考えた。

「お母さん!?」

美琴が美鈴を睨み付ける。

(まぁ、あなたはそう言うわよねぇ) でも予想の範囲よ、と美鈴は心の中で娘に言う。

「美琴ちゃんが、もう二度と顔も見たくないなら、これで終わりだし。彼がその子と結婚するなりどうするなり、ご自由にってこと。

今すぐ宣言しちゃってもいいけれど、そうしたら感情的に見られちゃうけど、あなた、それでもいい?

まぁ、向こうからは言い出しにくいでしょうから、嫌がらせっぽく時間をかけて、それから改めて破談にするというのもあるけど?

向こうはとにかく、ウチが動かなければ何も出来ないわけだし、ね?」

美鈴は含みを持たせるように、そう言う。

旅掛は直ぐにその裏を読み、(いいのか、本当に?)という顔で彼女を見る。

娘、美琴はどうしたらよいか分からない、と言う顔である。



美鈴は、娘の本心を探るべく、もう一度問いかけを仕込んでいた。

(破談にしたら、彼はその子と結婚しちゃうけれど、美琴ちゃんはそれでいいのかしら?)と。
707 :LX [sage saga]:2012/05/06(日) 23:06:33.39 ID:RpQV+FS/0

実際、美琴は迷っていた。

最初、土下座した当麻から「衝撃の告白」をされた時は、彼女は動転した。

正直、自分が何を言ったのか、正確にはもう覚えていない。

(いいや、大体想像つくけど、今さら思い出したくもないし、それに)

美琴は答えた。

「少し、考えることにする」

「そう。じゃ、そうしましょ?」

美鈴は同意を求めるかのように、夫・旅掛の顔を見る。

何か企んでるな? という顔をしながら、彼も「うむ」と返事を返した。



(ここで破談って言っちゃったら、アイツはあの子のところに行って私のところには戻ってこなくなる……。

それって夢のとおりじゃないの。そんなバカなことしたら、あの子の狙い通り。そんなこと絶対にさせるもんか)

ウエディングドレスを着て、当麻の傍に立つ御坂妹の姿。夢にしては異様にリアルだったその記憶。

絶対にあの悪夢を現実にしてたまるものか、と美琴は思う。

まさに、美鈴が考えたとおりであった。

(でも、私、どうしたらいいんだろう……? 

今さらアイツのところになんか行けるわけないし、って、どうして私が折れなきゃいけないのよ? アイツが頭下げるべきでしょ? 

そ、そうよ、これを元に、アイツを縛り付けちゃえばいいのよ。だって、私は悲劇のヒロインなんだから。

みてなさい、アンタ(御坂妹)。

寝取られた私がどうするか……覚えときなさいよね、最後に笑うのは、勝つのは私なんだから!)

こうして両親と会話のキャッチボールをすることで、美琴の腹は決まった。



<あの子『クローンの、その子』の思うとおりには、絶対させない>

美鈴、美琴の考えは、結局は一緒であった。

すなわち、「おんなの敵はおんな」という、古来から変わらぬ普遍の真実であった。



かくして、上条当麻は、首の皮1枚を残して繋がった。

しかし本人は、そのことを知らない。



それどころか、刀夜と共に自宅に戻った彼には、更なる予想外の出来事が待っていたのだった。
708 :LX [sage saga]:2012/05/06(日) 23:12:40.08 ID:RpQV+FS/0
>>1です。

本日分の投稿は以上です。

*御坂妹が、当麻に対して「結婚しません」と言い切ったことは、当然ながら御坂家の人間は全く知りません。
どこかにこの注釈をいれよう、と算段したのですが、入れると文章の繋がりがおかしくなるので諦めました……。

もう一つ注釈を必要とする事があるのですが、これについてはまたどこかで本人が語るか、
地の文で語ることにしようと思います。

さて今年のGWも終わってしまいました。終わってみればあっという間でした。
また明日から仕事です。頑張ります!

それでは本日、お先に失礼致します。
709 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/07(月) 00:01:58.83 ID:rT0LkdpW0
>>1乙。
「結婚しません」の注釈は、読んでれば流れでわかるようになってると思いますよ?
といあえず、更なる予想外の出来事ってのが思い浮かばんので1週間期待して待たせてもらいます。
710 :LX [saga]:2012/05/13(日) 19:29:06.89 ID:5Ilf9fTa0
皆様こんばんは。
>>1です。

>>709さま
コメントありがとうございます。
注釈の件は、御坂美鈴・美琴とも、異様に当麻に好意的すぎないか? と思われるのではと思いまして。
美鈴は当麻に借りがありますし(原作の通り)、娘の相手としては彼はいいんじゃない? という基本線で
このSSは書いておりますのでまぁわかるにしても、美琴があれだけ落ち込んでいながら随分早い立ち直りだよねーと
思われたかと。
そのキモは、本文にもありますように「御坂妹が当麻を持って行くことを認めるか否か」というところがあります。
仮に御坂家の人間が、御坂妹が結婚しないと言い切ったことを知っていたら、反応は全く変わったはずですから……
(そうなった場合、ちょっと作者もこのお話をどう締めるのか見当が付きません……)
美琴の立ち直りですが、メモ書きに以前に書いたものを今頃見つけました。
こっちの方が良かったかなぁ、とも思いましたが、既にそのシーンは通過してしまいました……orz



読者の方の予想外の出来事になるかどうか、かなり不安ですが、本日の投稿はそのお話であります。

しかし、「登校時間」(>>698)って……orz

それではこれより投稿を始めます。
どうぞ宜しく御願い致します。
711 :LX [saga sage]:2012/05/13(日) 19:33:07.70 ID:5Ilf9fTa0

なんでウチの息子が謝りに行かねばならないのか、と不満たらたらの母・詩菜は、仲間はずれにされたというストレスの矛先を帰ってくる二人に合わせて待ち構えていた。

針のむしろ状態からようやく開放された二人は、今度は自宅で詩菜の憤懣をぶちまけられることになった。

(踏んだり蹴ったり、だよ……なんで母さんにまで怒鳴られなきゃなんないんだろ……)

彼女の悪口雑言の猛爆撃中に、当麻の携帯にかかってきた電話。

その発信人は、冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>であった。





御坂妹が学園都市から消えて数日後。

冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>の直通電話に1本の電話が入って来た。

「ああ、僕だがなにか……なんだって、おい、それは、本当かい? 

……それはいかん、それで?

……ああ、たぶん、君の予想通りなんだろうね。ううむ……それは……最悪の手段を選んでしまったようだね……

ありがとう。直ぐに対応しよう、なに、彼女の病気に効く特効薬はわかっている、直ぐに送るよ。

……うむ、それはだね……」



3時間後、彼の部屋には上条当麻がいた。

「やぁ、せっかく親御さんと水入らずのところを申し訳なかったね」

「いえ、母から怒られてたところで……正直、抜けられてむしろ助かったかなって……」

「ははは……その、もしかすると、今回のこと、かな?」

「まぁ、そんなとこですよ……で、本題ですけど、僕の御指名だそうですが、何かあったんですか?」

「ああ。君にしか出来ない事を御願いしたいんだがね」

「僕、がですか? この右手の力ってことでしょうか?」

「いや、その力は今回は要らないはずだ。内容そのものは単純だからね……。

一言で言うと、直ぐにある人のところに行って欲しいんだ。他の人では役にたたない。君自身が行って、その人に会うことが重要なんだ」

「僕自身が行かないと……? 先生、それって……あの、もしかして……?」

「ああ。その通りだ。10032号の、ミサカ君が危険なのだ」

当麻は、すっと血がひくのを感じた。
712 :LX [saga sage]:2012/05/13(日) 19:36:17.04 ID:5Ilf9fTa0

まさか、襲われたのだろうか? 

それとも、誰かに攫われた、のか?

一瞬の間に、恐ろしい事態を想像してしまうのは、彼の過去の記憶がなせる業、であろうか。

「そ、そんな……何が起きたんですか? どこですか、どこに彼女はいるんですか?」

「安心したまえ。彼女は、今は聖ルカ病院にいる。東京だよ」

いや、ちょっと驚かせちゃったかな、申し訳ないね、とカエル顔の医者は当麻に詫びる。

「なんだ……でも、東京? 学園都市の外に? どうして、なんで、また?」

ついさっきまで自分がいた東京に彼女はいる、ということで、彼の張りつめた気は抜けてゆく。

だが、冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>の話は、彼を再び驚かすには十分だった。

「うん、ちょっとあってね……。あの後、彼女はここ(学園都市)にいることに罪悪を感じるようになってしまってね。

どこかへ行きたいと言い出してしまってね、ちょっとノイローゼの症候を見せ始めたんだよ。

気分転換も必要だろう、ということで内緒で外へ出すことにしたんだが、もちろん、どこでも良いってわけじゃないからね。

それで、僕もよく知っている、東京にいる他の妹達<シスターズ>の面倒を見てもらっている人間に預けることにしたんだがね。

もちろん彼女の、ここを離れたいという、『強い』希望があったからなんだが」

「彼女が……あいつが罪悪感を?」

「ああ。彼女は今回の件で、酷く参ってしまったようなんだね。

それで、向こうに行って状態は快方に向かえば良かったんだがね。

先ほどの連絡によれば、快方に向かうどころか、どうも悪化したらしくて……おい、上条くん?」

いきなり立ち上がった当麻は、部屋を出がけにカエル顔の医者に向かって叫んだ。

「聖ルカ病院ですね!? 行ってきます! あいつのお腹には、僕の子供がいるんですから!」

そう言うや否や、彼はバンとドアを開け、一目散に飛び出して行く。

「病院内では走るなよ!!」

その声は、当麻に届いただろうか?



「ああいうところは、彼はちっとも変わっていないね……まぁそれが彼の良さ、なんだが」

ため息とともにつぶやいた冥土帰し<へヴンキャンセラーは、やれやれという顔で頭をかいた。
713 :LX [saga sage]:2012/05/13(日) 19:44:02.61 ID:5Ilf9fTa0

東京、聖ルカ病院。

ここは9階の特別病棟。

ナースステーションで確認すると彼女の部屋は一番奥だった。

最初は「そんな人はいませんが?」と言われ、「そんなはずはない、自分は学園都市から来た上条当麻です」と名乗ると、当直の看護士はどこかへ電話を掛けた。

「どなたの御紹介でこちらへ?」と問われ、そこで冥土帰しの名前を出すと、ようやく「上条さんですね。話は聞いております」と許可が下りた。

静かな廊下を歩き、部屋の前に立つ。

一回深呼吸をした後、控えめにノックをする、が答えはない。

静かに引き戸を少し開け、少し間を置いた後、彼は小さな声で声を掛ける。

「上条、当麻です。……御坂妹、入るぞ?」

返事はなく、静かなままの部屋の雰囲気に当麻は不安になる。

聞こえるのは空調の音だけ。

まさか、まさか?

彼は、動悸が速くなるのを感じた。



彼女は寝ていた、が。



(お、おい……?)

最初、当麻は違う部屋に入ったのかと思ったくらい、御坂妹はやつれ果てていた。



美琴と同じ色の髪は艶を失い、肌は荒れ、頬はこけていた。

栄養剤の点滴だろうか、脇のスタンドからチューブが伸び、布団の下に伸びていた。

おそるおそる、当麻は傍に寄り、彼女の顔をじっと見つめる。

遠い日の事が思い出される。

――― ミサカはあちらから来ただけですが、と指差します ―――
――― ミサカには一つ、致命的な欠陥がありますから ―――
――― 猫なのに、いぬ、ふふ ―――

……可愛いのに、どこか普通でない雰囲気をまとっていた、御坂妹。



――― ミサカはきちんと死亡しましたよ ―――
――― あなたは……なにをやっているのですか? ―――
――― ミサカは、必要な機材と薬品があれば、ボタン一つでいくらでも自動生産出来るんです ―――

……恐るべき実験の「道具」だった、御坂妹。



――― ミサカから、もう、何も奪わないで下さい ―――
――― このミサカは、永遠に、あなたのものです ―――
――― 私は今、とても幸せです ―――

……素肌を晒し、僅かに甘えを見せ、「おんな」の一面を見せつけた、御坂妹。



最初は自ら力ずくで関係を作った彼女。だが、それだけでは悲しいから、と甘え、おねだりをしてきた彼女。

自分が、初めて抱いた女(ひと)、そして処女(むすめ)だった、彼女、御坂妹。
714 :LX [saga sage]:2012/05/13(日) 19:58:31.87 ID:5Ilf9fTa0

眠り続けている御坂妹。

生気のない彼女の顔を見ながら、バカ野郎、と当麻はつぶやく。

(私から離れないで下さいって言っておきながら、そのお前が離れちまってどうすんだ? 

お前は、こんなにやつれ果てて……お前は、今までいったい何をしてたんだ、大バカ野郎!)

思わず手を伸ばし、彼女の頬をなでる。化粧ッ気のない、荒れた肌の感触が一層やるせなさを感じさせる。



そのとき、不意に一つの予感が彼の頭に閃く。

(まさかお前、死ぬ気だったのか……?)

  

  ――― 勝手にしろ! ―――



怒鳴りつけ、彼女を振り返らずに出た自分。彼女はあれからどうしたのだろうか?

頼りにしていた自分からも拒絶され、生きることに絶望したのだろうか?

だとしたら、俺は、美琴ばかりか御坂妹までも傷つけたのだろうか? 俺は、二人の女の子を絶望の縁に追いやったのだろうか?

なんということだ! 俺は、とんでもないことを、またしてしまった……



いいや! だけど、今は、それよりも、

まずは、まずは、こいつを、御坂妹を助けなければ!

彼は、点滴チューブが刺さっていない方の手を握りしめて、低く、小さく、だが、彼女を力づけるようにはっきりと耳元で話しかける。

「死ぬな、生きるんだ、御坂妹! 

……お前は死んじゃダメだ、勝手に死ぬなと言っただろ? 

……俺は、お前に、まだ山ほど言うことが残ってる!!」



偶然にも、それは、あのときの言葉と同じ。



だが、その後は、あの時とは違った。

彼女の冷えた、潤いが感じられぬ唇に、思わず彼は自分の唇を押し当てていた。
715 :LX [saga sage]:2012/05/13(日) 20:03:31.57 ID:5Ilf9fTa0

その頃、ミサカネットワークではちょっとした異常事態が起きていた。

原因は、「あの悪夢」である。

悪魔のようなあの忌むべき実験の記憶、無惨に死んでいった10031人の記憶は、そのまま生き残った彼女らの記憶に焼き付けられている。

その記憶が、まれに夢の中に現れ、更にまれではあるがミサカネットワークに接続されることによって、生き残っているミサカ・妹達<シスターズ>に自動配信されてしまう。

起きているミサカたちは、ネットワークから自らを切り離すことでこの悪夢から逃れられるが、寝ているミサカの場合は、その悪夢は浸食して行き、やがて取って代わるのだ。



今回もまた、あの悪夢が。

そう、今回は第10032次実験であった……が? どうやらいつもと様子が違う。



(やめて、あの人はもう、二度とそんなことをしないんだから、御願い、止めて! この夢止めて! ダメなんだからー!!)

叫んでいるのは、最終個体<ラストオーダー>こと、御坂未来(みさか みく)である。

――― 御坂妹から、離れろっつってんだろ!! ―――

    (ああ、あのひとだ)
    (何度聞いても、かっこいいわぁ……!)
    (やっぱり、ヒーローはこう来なくっちゃねー)

1人のミサカが見ている夢に現れている上条当麻、それを見る「当麻・命」派の妹達<シスターズ>のささやきが、ネットワークを駆け巡っているのだった。



――― 俺は、お前を助けるために、ここに立ってんだよ! 他の誰でもない、お前を助ける為に闘うって言ってんだ! ―――

   (最高よ、ああ、ホントに私、もうどうなってもいい!)
   (素敵……やっぱりわたしの、王子さま……)
   (ミサカ、もう全裸で待機しちゃったー!)
   (おまえら静かにしろ! 聞こえなくなるだろー!?)


――― お前は世界にたった一人しかいねぇだろうが! ―――

   (ああん、わたし、幸せだ……)
   (別に、あんたに言った訳じゃないでしょー)
   (そういうあんただって同じでしょ、なにさ)
   (もう一度、今度はこのミサカの前で言って欲しい……)
   (ほらほら、来るわよ! 静かに!! とどめのアレよ!!!)

――― 勝手に死ぬんじゃねえぞ。お前にはまだまだ文句が山ほど残ってんだ ―――

        キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
    キタワァ.*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!!☆
  キタ━━━ヽ( ゚∀゚)人(゚∀゚ )メ( ゚∀゚)人(゚∀゚ )メ( ゚∀゚)人(゚∀゚ )ノ━━━!!!!
キタキタキタキタ━━━(゚∀゚≡(゚∀゚≡(゚∀゚≡(゚∀゚≡゚∀゚)≡゚∀゚)≡゚∀゚)≡゚∀゚)━━━━!!!!!!!!!!

   (ああ、わたし、もう死んでもいい!!!)
   (だから死ぬなって言われてるじゃんw)
   (これよこれ! もうホントに最高なんだから!!)
   (御願いです、わたしが死ぬまで、ずっと文句を言って欲しいな……)  

(あれ、この視点は……これは10032号じゃないの? じゃ、この発信人は……! ちょっと10032号、起きなさい! あなた、どこにいるの?)

黄色い嬌声がネットワークを駆け巡るなか、たった一人、御坂未来は気が付いた。

だが、その直後。

今回は予想だにしないことが、起きた。

あこがれのヒーロー、命の恩人の彼が、キスしたのだ。



(キャァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)



その瞬間、ミサカネットワークは落ちた。
716 :LX [saga sage]:2012/05/13(日) 20:10:47.69 ID:5Ilf9fTa0

生気のない唇が動いた。

「あ」

当麻が目を開くと、まさにいま、彼女が目を開くところだった。

あわてて、彼は彼女から飛び離れる。

「お、、起きた……起きてくれたのか、御坂妹?」

寝起きのせいか、違う理由のせいか、彼女の目の焦点が定まっていない。

「……最終個体<ラストオーダー>……?」

「しっかりしろ、御坂妹」

小さいが、元気づけるように力強い声で当麻が呼ぶ。

彼女の目が、当麻に向き、焦点が合う。

「あ、あなた……? なぜ、ここに?」

今にも消えそうな、か細い声。

そして、彼女のその目は、かつての、あの時の、第10032次試験の時の目。

「バカ野郎! しっかりしろ!」

しかりつけるように囁く当麻。

だが、彼女は再び目を閉じると震える声で答えてきた。

「ごめんなさい……」
「ミサカは……わたしは……とんでもないことを、してしまいました……」
「わたしは、お姉様<オリジナル>にも、あなたにも、合わせる顔がありません……」

泣いているのだろうか、だが、涙は流れていない。当麻の不安は高まる。

「止めろ、もういい、もういいんだ、もう何も言うな」

だが、聞こえないのか、彼女の懺悔の言葉は続く。

「私は、お姉様<オリジナル>を怒らせて、そして泣かせてしまいました。わたしは、取り返しのつかないことをしてしまいました」

「美琴が……来たのか」

それは、彼にとって初めての話。

あの美琴だ、思い切りののしっただろう、と当麻は思う。

「病院に、お姉様<オリジナル>がいらっしゃいました。見ていられないほど、やつれて、疲れ果てていて……みんな、ミサカのせいなのです」

「……」

「お姉様<オリジナル>は、最初、あなたを酷い言葉でののしりました。

あなたがこのミサカをたぶらかしたのだと、お姉様はあなたと別れるといい、泣いて私に謝りました。

あなたとは別れるから、ミサカにも別れろと、そしてこの子は堕しなさいと」

当麻は息を呑む。あの美琴が、そんなことを……
                              
「ミサカが、それは違います、私が進んであなたと強引に関係を持ったことを言うと、お姉様<オリジナル>は泣いて怒りました。

そして、わたしを泥棒猫、と」

「あいつ……」

「その通りなのです。私は、あなたとお姉様<オリジナル>に一生消えない傷をつけてしまいました。もう、ミサカには」

「バカやろう!」

最後の言葉を言わせまいと、当麻はそう小さく叫んで、軽くこつんと御坂妹の頭をこづいた。
717 :LX [saga sage]:2012/05/13(日) 20:14:53.20 ID:5Ilf9fTa0

「あなた……少し、痛いです」

驚き、何をするのですか、と当麻を見る御坂妹に、静かに当麻は答えた。

「お前のその幻想をぶち壊したからな……言っただろう? お前のお腹の中にいる子は、お前だけの子供じゃないと。半分は俺のものなんだぞ?」

「……」

「それに、以前言ったと思うがな、覚えているか、御坂妹? 『勝手に死ぬんじゃねえぞ。お前にはまだまだ文句が山ほど残ってんだ』って、思い出したか?」

(ああ、その声は、さっきの夢のとおり……あれは、もしかして、夢じゃ……ない?)

御坂妹は、その言葉を思い出す。

忘れてはならないはずのあの実験の時に、そしてついさっき、夢うつつで聞いた、その言葉を。 

枯れていたはずの涙が、溢れてくる。

「は、はい……ミサカは、覚えて、います」

「そうか」

「あと、どれくらいあなたの言うことを聞けば、ミサカは死ぬことを許されるのでしょうか?」

「さぁな……少なくとも、今は全然ダメだな。それにだ、お前は永遠に俺のものですって、お前、自分でそう言ってたよな?」

「はい」

「じゃあ言うぞ。俺のものなんだから、俺が良いと言うまでお前は死ぬことは許されない。わかったか?」

「はい。わかりました」

彼女は目を閉じる。その目尻から、つーっと涙がこぼれ落ちてゆく。

「宜しい」

「ミサカは……このまま生きていて、いいのですか」

彼女は目を開き、当麻を見つめる。流れる涙を拭こうともせず。

「当たり前だろう」

「でも、お姉様<オリジナル>が何というか……」

「あー、それは仕方ねぇな。俺にも会ってくれないし。まぁ時が解決するかもしれないけれど、しばらくは反省して大人しくしてろ。

一番ショックを受けてるのは美琴なんだから」

「申し訳ありません……」

「いいな、もう二度と変な気を起こすんじゃねぇぞ。お前一人じゃないんだから。わかったな?」

そう言うと、当麻は枕元の私物置き場にあるウェットティッシュを取り、彼女の涙を優しく拭いてゆく。

「はい。あの……」

「?」

「ひとつ、御願いが……」

「どうした? はっきり言えよ?」

「ミサカは……お腹が空きました……」

恥ずかしそうに言う御坂妹。

その顔を見て、初めて当麻の顔に微笑が浮かんだ。
718 :LX [saga sage]:2012/05/13(日) 20:35:14.75 ID:5Ilf9fTa0
>>1です。

本日投稿分は以上です。
これが大事件ですか?と仰られる方もいるかと思いますが、言い訳ですが、「当麻にとっての大事件」なので……(汗

今回もまた、注釈を入れることが難しかった説明が一つございます(どこかで冥土帰しに語らせたいですが)。

問)10032号にはミサカネットワークへの接続を押さえ込むチョーカーが付いていたはずなのに、
どうして彼女の夢がネットワークに流れたのか?ということです。

答)チョーカーの基本エネルギーは、彼女自身が発する微弱な電磁波を利用し、バックアップ用電源としては
ボタン電池(リチウム系とでもしておきます)を使用することになっていましたが、彼女が食を断つことで死を考えた
ことから(あ、本文を修正し忘れました……お粗末orz)この生体電力も大幅に減少したためにその機能を失った為です。

さて、この後ですが、いろいろとまたイベントが起きるわけですが、順番の見直しやらタイムスケジュールとの
照合やらちょっと大変です。頑張ります。

それでは本日はお先に失礼致します。
719 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/13(日) 20:47:09.19 ID:mA4tMOgQ0
>>1乙。
本編から御坂妹が一時退場してると思ったら、とんでもない事に…。
一麻と離れ離れになったのも、この時の無理がたたったとかだと切ないが…。
とりあえず、あんまり注釈とか気にしすぎ無い方がいいのでは?とか思うが、どうなんですかね。
また次週の続きを待ってる。
720 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage saga]:2012/05/17(木) 20:14:37.06 ID:542Q2ERa0
いかん、ヤバい。重面白くて夜も寝られん。

こんな気持ちになるのは、随分前に「婚約者M子」を読んだ時以来だ。

万人受けはしないだろうが、美味しいと思ったら病み付きになって止められなくなる珍味のような面白さがこの話にはある。

しかし、上条さんは御坂妹の子供を認知し、プロポーズまでして、さらに御坂家に謝罪に行っている時点で既に、美琴との復縁は諦めているだろうなぁ。
これでもし、美琴が上条さんを安易に許そうものなら、作中で言っているように、まるで道化としか思えないというか……。
結局許す許さざるにかかわらず、どんな道を歩むにしても美琴は死ぬほど辛かろう……。
それこそ学習装置を使うか、心理掌握に頼んで7〜8年来の記憶を全消しするのが一番幸せなんじゃないかと確信するレベルだ。

ともかくどうなるにせよ、これからも刮目しています。
721 :LX [saga]:2012/05/20(日) 19:52:24.03 ID:8Ks9kkwp0
皆様こんばんは。
>>1です。

今回もコメント頂きまして、本当に有り難うございます。

>>719さま
一麻と別れて学園都市へ戻るのは、第三部で明らかになります。理由は(ry
注釈については、結局本日投稿分で出てきますので、>>718で書く必要はなかったな、と反省しておりますorz
確かにくどい感じですものね。

>>720さま
前にも「あまりないタイプのSS」との講評を頂いたことがあります。内容も前作は一気に原作の25年後くらいまで
飛ばしておりますし、これも第一部は18年と、原作主人公をおっさん・おばさん世代にずらした設定になってます。
(現在の第二部は原作の6年後とかなり近い時代ですけれど)あまりない設定だと思っています。
前作途中から、御坂妹が子供を産んだら、それが当麻の子供だったら、という妄想が出来まして、とにもかくにも
始めたのがこの「新・学園都市第二世代物語」です。

「婚約者M子」は検索して読んでみました。いや〜……でしたね。一部はどう見てもフィクションでしょうけれど。
美琴はそこまでは弱くないですから、大丈夫です(何が?)
逆にあんまり強すぎても、今度は麻琴が産まれない未来になってしまうので困ります(汗

ハードルがだんだん高くなるので大変ですが、頑張ります。


それでは今回も前置きだけが長くなりました。
これより本日分、投稿を始めますので宜しく御願いします。
*今日は短いです。申し訳御座いません。
722 :LX [sage saga]:2012/05/20(日) 19:59:53.84 ID:8Ks9kkwp0

「まだ、検体番号10032号は戻ってきていないのですか?」

「すまないね、なかなか難しい仕事なんだよ。しばらくはまだここへは戻って来れないと考えててくれるかな?」

「そうですか……でも、彼女の夢もこの間配信されてきましたし、彼女が無事ならいいのです。わかりました」

いつの間にかいなくなった御坂妹こと検体番号10032号について、同じ看護士の検体番号13577号はむろんのこと、検体番号10039号や検体番号19090号、果ては御坂未来(みさか みく)こと検体番号20001号までもが、度々カエル顔の医者に彼女の行方を問いただしてきた。

その都度、彼は彼女らに検体番号10032号は無事でいること、そして彼女は今現在、ある特別な医療技術の開発に従事してもらっており、その内容は極秘事項の為、彼女とのコンタクトは極めて限られた人間のみであり、それは妹達<シスターズ>であっても適用される、と説明した。

彼女たちは不承不承ながらその内容に同意したが、あきらめずにその都度、彼女の居場所くらいは教えて欲しいと食い下がった。

「それは、出来ない」 彼は常にそう答えるのだった。



冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>は、御坂妹こと検体番号10032号の居場所を上条当麻だけには教えていた。

彼がいれば、彼女の精神は安定し、次の逢瀬を頼りに彼女の精神は緊張を保つだろうと考えていたからである。

確かに、その通りであった。

しかし、その結果、彼女の当麻への依存度は加速的に高まることになる。



彼女は一人ぼっちだった。

昼間はまだ良かった。具合が良い時は聖ルカ病院が手配した月極のマンションから出て、街を歩いて見て回る事が出来たから。

学園都市では見られない、古い建物や商店が雑然と並ぶ町並み、学園都市では売っていない食べ物、そして数多い大人、全てが珍しかった。

しかし、夕方以降はたった一人。

育児書を何度も読み、時間を潰していたが、やがて殆ど全てを暗記してしまうと、またすることがなくなってしまった。

彼女の心の支えは、たまにやってくる当麻だった。

ひたすら彼を恋い慕う彼女は、当麻の来訪を楽しみに生きていた。

僅かな逢瀬の時間を、ひたすら彼女は彼に甘えて過ごした。

普段大人しい彼女だが、やってきた当麻にはそれまでにあったことを、嬉しそうに楽しそうにあれこれと喋り、楽しそうに笑った。

「どんどんあなたに染まってゆくのが、わかります。わたしは、あなたの女……ミサカは幸せです」



当麻もまた、美琴と会えなくなってしまった今、寂しさを紛らわせるのは彼女しかいなかった。

自分に頼り切っている御坂妹の姿は、美琴とは正反対で珍しかった。

そして会うたびに艶っぽくなって行く彼女を見るのはある意味楽しいことでもあった。

しかも、彼女のお腹には、彼の子供がいるのだ。



それでも、当麻の心には、美琴がいた。

「ひとりにさせて!」 

振り返らずに走っていった、美琴のうしろ姿が。



会えなくなってわかった、美琴への思い。

自分が愛している女性は、間違いなく、彼女。

だが、今や自分だけを頼りにして生きている御坂妹を冷たく振りきる事は、もはや彼には出来なかった。

そんなことをすれば、彼女は、お腹の子は……。
723 :LX [sage saga]:2012/05/20(日) 20:04:20.80 ID:8Ks9kkwp0




「街のそっくりさん大集合!!」

とある女性誌の特集である。定期的に行われる、よくある他愛もない企画の一つであった。

その中に、「学園都市のスーパーアイドル、超電磁砲<レールガン>御坂美琴さんのそっくりさん」として、5人の女性が掲載された。

そのうち、2人が問題だった。

検体番号10039号と検体番号19090号の2人であったからだ。

そっくりなのは当たり前と言えば当たり前であるが、一般社会において彼女らの存在はあくまでも陰である。

二人とも化粧や髪型を変えているが、美琴と並べて載せられたら、「双子ですか?」というくらい誰が見てもうり二つである。

ネットの反応では、直ぐに「フォトショ乙」「コラ職人自重汁」「吊れますか?」という冷めたものが多かった。

しかし、そのうちに「4番のサカミさんって、エステXXの人?」「3番のミカサさんは隣の会社にいる人に似てる」と言う書き込みが出て、「本物なの?」という声が高まる。

そのうちに、電凸する猛者も現れ、スレが乱立した。

検体番号13577号が載らなかったのはもっけの幸いであったが、見ているひとはいるもので、「第7学区のXX病院にも似てる看護婦さんがいるけど、掛け持ちなのかな?」と言う話が出てしまい、こちらも「俺、会った」「わたしも」とこれもまた話題になった。

アングラ板・都市伝説板では、かつての「軍用クローン」のネタを覚えている人間がいた為か、久しく忘れられていたこの話が復活した。

だが、次の日には、これらの記事・スレッド・ツイートその他は1件残らず消えてしまっていた。

元ネタとなった女性誌は完売し、オークションでは高値で落札されることから出品が相次ぎ、不思議なことにいずれもが通常はあり得ない高価格で落札されるのだった。

雑誌が出た当日の午後には彼女らは早退してしまい、押しかけた物見高い連中は空振りに終わった。

また、検体番号13577号は夜勤にシフトされ、かつ受け持ちが長期療養患者担当に変更となった。

ちなみにこれはその後の話になるのだが、そのエステサロンと会社は閉店・廃業してしまったことから、いつしかこの話は新たな学園都市伝説の1つに追加されることとなる。



「こういうことがあるからねー、貴女に言っておいたんだけど……困ったものね」

ここは学園都市統括委員会・広報委員会のビルの一室。

嘆息とともにぼやくのは笠原真彩(かさはら まあや)。

その前に無言で座っているのは御坂美琴。

あの、今までの彼女の人生が変わるか、というほどの大騒ぎからおよそ2ヶ月。

彼女は学園都市に戻っていた。

美琴は当麻とはあれきり一度も会っていない。

会った方が良いんじゃないか、いや自分から会いに行くのはおかしい、と振り子のように心は揺れ動きながら。

そんな時に彼女はいきなり大学の仲間から雑誌を見せられ、驚愕する間もなく広報委員会から呼び出されたのだった。



「彼女たちも可愛そうだからね。私と違って、貴女も彼女たちも、みんな美人だから只でさえ目立つし、目をつけられやすいのよ。

化粧と髪型でごまかせるのも限度ってのがあるしね……どう、少しは考えてくれたのかしら?」

笠原女史が美琴を口説きにかかる。

「……わたし、学生ですし」

視線を合わせぬまま、とりつく島はありませんから、という答えをする美琴。

だが、笠原も負けてはいない。

「あら、別に中退でもよくてよ? 『中退』の方がハクが付くギョーカイだってあるくらいなんだから……。

この世の中、実力勝負だし、とりわけ貴女の場合、そんなの全然関係ないわよ?」
724 :LX [sage saga]:2012/05/20(日) 20:11:06.09 ID:8Ks9kkwp0

「私が嫌なんです」

「ふぅん。マジメなのね」

「茶化さないで下さい」

「困ったわね。彼女たち、今失業中なのよねー。働いてお金を稼いで使って楽しむ事を覚えちゃったから、昔のように病院とかに飼い殺しにするわけにはいかないのよね」

正攻法では話にならないとみた笠原女史は搦め手から攻め始める。

「飼い殺しって、そんな」

果たせるかな、美琴の反応が変わる。

「ものの例えよ。要はね、そんなことにはもう彼女たちは精神的に耐えられないのよ。それに、看護士にしたって3人も同じ場所にいたら今回どころの騒ぎじゃないし。

それで、ものは相談なんだけど?」

「漸く本題ですか?」

「あら厳しいわね。あなた、1年くらい留学してこない、かな?」

「留学? 私が? どこへですが?」

「アメリカ、学芸都市。マル秘の任務だけど」

「いきなりなんですか……でもそれ、全然丸秘になりませんが?」

ここから姿を消せば、少なくとも今の状況からすればいずれバレる話でしょうに、と美琴は思う。

しかし、笠原の話は美琴の予想を上回るものだった。

「ううん、こっちでは妹達<シスターズ>の1人に、貴女の代役をやってもらうの。御坂美琴のかわり、としてね。

そうね、1人じゃなくて、2人でもいいかもしれないわね。交代要員も必要でしょうし」

「はい?」

ちょうど良いじゃない、うんうんそうすべきよね、と自分で納得している笠原に、美琴は付いていけない。

「あら練習よ練習。2年後、貴女が社会人になって、広報委員になったときには貴女には彼女たちが必要になるはずよ、どう?」

「そんな、まるで私の進路が決まったような言い方って……ちょっと失礼じゃありませんか?」

いつ、私が学園都市の広報委員会に入るって言いました? と美琴はむっとして言い返す。

が。

「あら〜? 貴女には職業選択の自由は残念ながら認められないんだけど。学園都市在住のレベル5である以上、ね?」

「そんな、バカな……」

今まで、どちらかと言えば軽い調子でしゃべってきた笠原が、急に一転して、重々しい声になった。

(このひと、本気、か……)

美琴は緊張する。

学園都市は、本気で私を取り込むつもりなのか、と。

膝に置いた手に力が入る。

険しい顔になった美琴を見た笠原は、あらやだ、そんなに真剣にならないで、とまた柔らかい調子に戻って話を始める。

(そんな猫なで声に騙されるものか)

美琴は心の中でそう叫ぶ。

「そうね、もし、それが嫌なら、方法は二つ。一つは能力を捨て去り、ただの人になること。

そうはいっても、貴女の場合、ちょっと有名になりすぎてるし、彼女たちもいるから難しいと思うわね」

「……」

皮肉っぽい調子で笠原は話を続ける。

その裏には、貴女に出来る? 出来っこないわよねぇ、という彼女の嘲るような本音が透けて見えていた。
725 :LX [sage saga]:2012/05/20(日) 20:15:37.58 ID:8Ks9kkwp0

美琴は、席を立ちたい衝動をぐっとこらえるしかなかった。

彼女が、学園都市が何を考えているのか聞かねばならないからだ。

「もうひとつはね、貴女がここに入って、ここで偉くなって、この街の仕組みを変える事よ? 

今の貴女にはその力はない。でも、地位が上がれば、どうかしら?」

「そんな、元も子もないような話……」

思いもかけない話だった。

しかし、中に入ればこちらのもの、というような彼女の物言いに美琴は心で反発する。

(ものは言いよう、よね)

「あ〜ら、よっぽど実現性のある話よ? 貴女の性根ひとつなんだし。昔やったクーデターのような暴力に訴えるやり方よりはよっぽどスマートだと思うけれど?」

「……」

「ただね、一つ言っておくとね、この方法を採った場合、あなたは権力を握る側になる。

人間は弱いものでね、権力を握っちゃうと、それまでの意気込みは消えちゃうのよ。

それもそうよね、苦労して手に入れた地位を、力を、富を、名声を、全部消し去る事って、自分が思ってるほど簡単じゃないのよ」

「……」

途中から、笠原の口調が自嘲のような物言いに変わったことに敏感に美琴は気づいた。

(え、それって、もしかして自分自身のことを言ってるの、このひと?)

「そうね、もうひとつあったわ。まぁ貴女はしないと思うけど、流れに乗って、流れのままに泳いで行くことも出来るわよ?

それはそれで一つの人生だし。そう言う人も多いわ。

貴女は若い。どの道も選べる。ある程度までならやり直しも効く。羨ましいわ、もう私なんかどうにもならないのよ」

「……そうなんですか」

(ひっかけかしら、それとも、ある意味、事実なのかしら? 後で調べてみようかしら)

美琴はそう考えた。そう思うと少しは気を紛らわすことが出来そうだったから。

「ふふ、おばさんにだって、目標はあったのよ。そう、あったの……なーんてね、そんな事を言わない人生を歩みなさいな」

「はい」

「ところで、彼とはその後、うまくいってるのかしら?」

予想だにしない、とんでもない爆弾質問が飛んできた。

「は……?」

「ま、プライベートな事だから、聞くのも野暮かな、とは思ったんだけど。安心してると、足下すくわれるわよ? 気を付けなさいね?」

意味ありげな、笠原の顔、そしてその物言いに、美琴は緊張すると同時に恐怖を覚えた。

(まさか……)

「ええ、有り難うございます。おかげさまでなんとか……」

強張った顔のままなんとか答えた美琴を、彼女はどう見たか。

「じゃ、さっきの話、近いうちに返事聞きたいから、よく考えなさいね」

笠原真彩はそう言って、話を終えた。



だが、美琴がその返事をする前に、それは起きた。

726 :LX [sage saga]:2012/05/20(日) 20:23:37.30 ID:8Ks9kkwp0
>>1です。

誠に済みませんが、本日分は以上です。

本日投稿分の>>723>>725は当初、この位置での投稿でしたが、あることから2番目にずれることになりました。
しかし、話の内容から見て、やはり最初がよいだろう、と言うことで再びこの位置になり無事投稿となりました。

で、次のイベントなのですが、プロットは1行で済む話だったのですけれど、書き出すと難しく、
まだ全部終わっておりません。
ということで、中途半端なところで投稿を切るよりは、4コマの投稿だけれど切りがよいところで、と言うことに
なりました。何卒御了承下さいませ。

それでは本日はお先に失礼致します。
最後までお読み頂き、どうも有り難うございました。
727 :LX [sage saga]:2012/05/20(日) 20:29:45.49 ID:8Ks9kkwp0
>>1です。

お詫びをひとつ。

 >>721で、>>719さまへのお答えの中に
>注釈については、結局本日投稿分で出てきますので、>>718で書く必要はなかったな、と反省しておりますorz

と書いておりますが、本日投稿分にはありませんでした。
入れ替えたのを忘れてました。
大変失礼致しました。 <(_ _)>
728 :LX [saga]:2012/05/27(日) 19:09:02.14 ID:IGkAb8mz0
皆様こんばんは。
>>1です。

本日分、これより投稿致します。
どうぞ宜しく御願い致します。
729 :LX [saga sage]:2012/05/27(日) 19:10:47.65 ID:IGkAb8mz0

きっかけは、些細な好奇心からだった。

「あの子、どうしてるだろう?」



病院での御坂妹こと検体番号10032号との対決の後、キャパシティダウナーの衝撃と精神疲労から寝込んだ美琴に冥土帰しはこう伝えていた。

「あの子は、ここ(学園都市)から出ることになったよ。ああ、言っておくと、これは極秘事項だからね? 

もちろん僕ら以外は誰も知らないし、妹達<シスターズ>も知らないからそこは頼むよ?

一応、聞かれた時には『医療関係の極秘事項に関わる仕事』についてもらったと言っておくから」

「あの子たちにはネットワークがありますけど?」と美琴が疑問を述べると、

「勿論対策済みさ。僕がそのことを知らないとでも?」とカエル顔の医者は笑って答えた。

*尤も、その彼も、まさか御坂妹が絶食による自殺を図った結果、彼女の生体電力を基本エネルギーとしたチョーカーが、よもや電力不足で機能を止めてしまう事態が起きるとは、このときは想像だにしなかったのだが。



気兼ねなく過ごせる東京の実家で過ごすことで、彼女の深く傷ついた心は、完全ではないにせよ、ある程度まで回復していた。

しかし、いかに彼女が優秀とは言え、半月近く大学の講義を欠席するのは危険であり、彼女は再びキャンパスに戻ったのである。

少し落ち着いてきた美琴が思うのは、当麻と御坂妹のこと。

もちろん、彼女はまだ御坂妹を許していない。許す以前の問題だ、と彼女は考えている。

しかし、その一方で、学園都市から離れた御坂妹が、今、どうしているのかには興味があった。

いや、どこかで美琴は彼女を気にしていた、と言っても良い。

何故かならば、彼女は、御坂妹は、彼女・御坂美琴自身であったから。

正確に言えば、御坂美琴という人間が持ついくつかの性格の中で、ある一つのパターンのみで出来上がっている人間、それが彼女、御坂妹であることに美琴は気が付いていた。

(あれは、あの子はもう一人のわたし、私自身だわ……)
(だから……私にはわかる。今のあの子が、どういう状況にあるのか……)

そこへもってきて、笠原女史の、あの意味ありげな発言。

(あのひとは、知っているわ、たぶん……)

何故、広報委員会にいるあの女が、あのことを知っているのか、彼女にはわからなかった。

あれほど、カエル顔の医者がはっきりと断言したことなのに、何故バレているんだろうか? と美琴は恨めしく思う。

(ま、ここでグダグダ考えてても仕方ない。まずは行動しなきゃね!)



まず最初に美琴は正攻法を取った。つまり、冥土帰し<へヴンキャンセラー>へ聞きに行ったのだ。

予想通り、彼の答えは「元気にしている、居場所は教えられない」というものだった。

本当だろうか、と美琴は思う。

でも、万一、あの子の身に何かあったら、あの先生ははっきり言うはずだ、と。

(お姉様<オリジナル>である、この私に黙っているはずがない)

まだ、彼女にはそれくらいの自負心はあったし、彼を信じる気もあった。

もう一つの疑問点、この話が他にもれていないかどうかについて、それとなく彼女は聞いてみたが、彼の答えははっきりしていた。

情報が漏れることはない、と。

(カマをかけられたのだろうか?) 

美琴はそうも思ってみたが、あの時の笠原女史の目を思い返すと、とてもそうは思えないのだ。

あれは、間違いなく内容を知っているひとの目。
730 :LX [saga sage]:2012/05/27(日) 19:13:38.36 ID:IGkAb8mz0

(もう一人、いた!)

美琴は気づいた。カエル顔の医者が、あの子についての話をしそうな人間を。

(まさか、アイツがしゃべるなんてこと……いや、そんなみっともないこと、いくらアイツでも自分からしゃべるわけ無いわ。でも、他に……どうしよう?)

そう、上条当麻、アイツにはリアルゲコ太はたぶん話をしてるはずだ、と美琴は推測する。

アイツは、あの子にとって、生きる望みそのものなのだから。

あの子のお腹の子の父親は、アイツなんだから。

そうは言っても、今さら当麻のところに行って、あの子のことを聞くようなまねは出来ない。

あり得ない。

そんなみっともないこと出来るわけがない。

(そこまでしてまで、あの子のことを調べる義理なんかないでしょ? ほっとけばいいのよ)
(ほっとけるわけないでしょ? 情けないこというんじゃないわよ)

2つの声が心の中で響く。

彼女は決断した。

「まずは、自分で出来ることをやろう!」

美琴は愛用のモバイルPCを持ち出し、いくつかあるポイントへと向かった。



「ふーん、とりあえず東京へ出て、その後ここには戻ってきてはいないのね」

美琴は検体番号10032号の入出国データを閲覧していた。

それはハッキングによるものでであり、勿論違法行為である。

彼女について、その他何か変わったことはないかと大急ぎで見て回ったものの、情報は皆無だった。

(ま、陰の存在だもんね。逆にたくさんあったら大変だし)

そう思い直して、美琴は今度は当麻のデータを見に行く。

すると、思いもよらぬデータが現れた。

いくつかのデータがSランク指定でカバリングされていたのだ。

(何これ? なんであいつの入出国データがSランクになるのよ?)「そんなバカな!……って、あ……」

美琴は独り言にしては少々大きな声で叫んだことに気が付き、あわてて周りを見る。

幸いなことに、彼女に気を払う人間はいなかったようだが、彼女はこそこそとその場を逃げ出した。

(どういうことなの、このあたりって、あいつと連絡が付かなかった日じゃない? 就職面談で、そのあとどこかの島に連れてかれた、って言ってたわよね、確か)

走りながら、彼女は頭の中で記憶をたぐる。

違うポイント、人が少ない公園まで走った美琴は再びハッキングを開始する。

勿論、今度はランクSでの不正アクセスである。

このクラスでのハッキングは至難の業であるが、彼女は何度も成功していた。

(よし、クリアした)

長時間のアクセスは危険であり、手短に行わなければならない。

手っ取り早く彼女は「上条当麻」の人物データを検索した。

(う……そ……、どういう、ことよ、これ)

そこに出ているデータを見て、美琴は絶句する。
731 :LX [saga sage]:2012/05/27(日) 19:16:54.17 ID:IGkAb8mz0


(統括理事会付特命委員……統括理事会外交委員会委員心得……心得って何よ?

……但し大学卒業迄の間、特別に委員に準ずる待遇とする……? ちょっ……と、これって……いったい何なのよ?)

それは、美琴が予想だにしなかった彼の、上条当麻のステイタス情報であった。

美琴はあまりの事に放心状態になる。

(アイツ……うそついてたんだ、わたしに……)

当麻も好きこのんで委員になったわけではなかったが、美琴がその事を知るわけもない。



茫然としていたその時、彼女の頭に閃くものがあった。

彼女は猛然と検索を再開した。茫然としていた時間(ロスタイム)を取り戻すために。

(ちょっと、まさか、もしかして……あ、これか、って何よ!? あの女(雲川芹亜)って副委員長じゃないのよ!

……もしかしてまさかこの女……やっぱり。信じられない、これ、全部出来レースじゃない!)

そう、当麻を誘惑し、自分に挑戦状を叩きつけた女、雲川芹亜(くもかわ せりあ)。

外交委員会メンバーの中に、その女の名前はあった。

ご丁寧に、彼女の人物経歴欄には、来年1月1日付けでサイエンティフィック・インターナショナル・トレーディング社代表取締役就任予定、ということまでも。



――― お前が当麻をものにしないのなら、私が頂くかもしれんぞ? ―――

――― いや、私以外にもそういうのはいるからな、覚悟しておくんだな、ハハハ ―――



あの時の声が脳裏に甦る。

あの時は、単に頭に血が上っただけだったが、今になって思うと、悔しいほど示唆に富んだ話だったな、と彼女は思う。

そして、思う。あの時、アレにならなければ、アイツとなし崩し的にそう言う関係になったかもしれないのに、と。

(まさか、こんな事になるなんて、このひとだって……、いやちょっと待て?)

美琴は次の瞬間、ぞっとした。

このひとも、10032号がしでかしたことを、知っているんじゃないだろうか、と。

「私以外のそういうの」が、誰を指しているのかはわからない。

あの子がその中に入っているのかどうかもわからない。

でも、笠原女史が本当に今の事を知っているのなら、この女も……



ピッピッというアラームで美琴は我に返る。あらかじめ5分で設定したアラームが、残り1分になったという警告である。

「い、いけない、そんなことは後で考えればいいんだわ。それよりあのバカ、どこ行ってたか見ておかなきゃ」

時間はもうない。接続時間が5分を超えるのは危険だからだ。

(世界一周? なにそれ、なにやってんのアイツ?……BA? ロンドン?……で、ローマ?……ワシントンD.C.……AA?

ホノルルって、ホントに?)

ピピピとアラームが鳴る。躊躇無く美琴はPCをクリアした。  

(今日はこれくらいにしよう。捕まっちゃ意味無いし)

美琴は飛ぶようにしてその場を去った。
732 :LX [saga sage]:2012/05/27(日) 19:24:46.40 ID:IGkAb8mz0

次の日、美琴は第十五学区にいた。

引き続き、情報収集のためである。

(う〜、なんか身体の調子ヘン。ビールなんか飲まなきゃ良かったな……ふう)



昨日、家に帰ると美琴は疲れを感じた。

それは、当麻が自分に嘘を付いていたことに対するショックから来るものであった。

立て続けに起きた、彼に関する秘密の新たな暴露は、美琴の心に更なる刃を突き立てていた。

(なんか、疲れちゃったな……)

目が冴えて眠れなかった彼女は、コンビニに出かけ、初めて缶ビールを数本買い込んで部屋に戻った。

生まれて初めて缶ビールを自ら買った美琴は、恐る恐る口を付け、その苦さに閉口し、失敗したなーと反省しながらも350mlを1本開けた。

何の気なしにPCの写真データを流していた手が止まる。

それは、当麻二十歳の成人式の時の写真。当然ながら隣には、緊張した顔の自分が写っている。

(アハハ、この時、私も良い根性してたわよねー)



大学の面々やら高校の時?の男友達など、彼の廻りにいた人をかき分けて、私、突撃したっけ。

(なんやー、みこっちゃんやないか〜? 今日どうしたん? ああ、上やんとまだ続いてるん?)

なんか青い髪の大柄な男性に見つけられて、根ほり葉ほり聞かれた記憶がある。

そうそう、途中から彼は何故か怒り出し、アイツ殴ったる!と息巻き始めたから、軽く電撃をお見舞いして黙らせたはずよね……と彼女はクスっと思い出し笑いをする。

彼が伸びた瞬間、マズイ、と思ったんだけれど、誰も注意を払わないのには驚いちゃったよねー。

この写真、撮った後にアイツを引っ張り出そうとしたら、私、女性陣にものすごい目で睨まれたんだよね、確か。

んー、確か……なんて言ったっけ……長い髪の……名前が出てこないや……まあいいか。女だし……なんか眠い……

そのまま、彼女はテーブルに突っ伏して寝込んでしまった。

--------------------------



午後は講義がない美琴は、今度は第十五学区の繁華街へと繰り出した。

今日は最初からSランクでのハッキングを行うつもりだったので、昨日とは違う、人が多いところを狙ったのである。

荷下ろし中のバンの脇で、美琴は検索を始めた。

昨日見つけた、当麻の海外出張のレポートがどこかにあるはずだから、それを見れば何をしに行ったか、誰と会っているかを確認できるはず、というのが彼女の目論見だった。

しかし、見つからない。探し出す前に時間が来た。

(あのバカ、レポートくらい書きなさいよね!)

あきらめた美琴はログオフし、パッドを閉じた。

その瞬間、彼女の前に人が立った。

「おやぁ珍しいところで会ったにゃー、御坂ちゃん?」

土御門元春だった。
733 :LX [saga sage]:2012/05/27(日) 19:27:58.75 ID:IGkAb8mz0

(バレた?)

その瞬間、彼女の頭に浮かんだのはそのことだったが。

「どうしたにゃ〜、そんな恐い顔して? あれ、もしかして俺のこと忘れちまったんかにゃ、それはちとショックだぜい」

頭をかきながらひょうひょうと彼は答えるが、直ぐに美琴にずいっと顔を寄せ、声を殺してささやく。

「超電磁砲<レールガン>、一度、カミやんと会ったほうがいい。突っ張りすぎると、元も子もなくなるぞ?

そしてもう一つ、お前が突っ張ったままだと、『あの子』に影響が及ぶ恐れがある。そんなことはお前も望んじゃいないだろう?」

     ――― あの子 ―――

その言葉に真っ青になった美琴は、鋭い目で彼を睨み付ける。

「アンタ、あの子に何を!?」

「大きな声を出すな。これはカミやんの友人としての御願いと、『警告』だ。どっちも内緒でな。カミやんと、お前が悲しむ姿は見たくないからな」

そこまで言うと、土御門は顔を上げて、

「それから、チェックもほどほどに、な?」 とニヤリと笑う。

美琴は言葉を失ったまま、茫然としている。

「じゃ、御坂ちゃん、カミやんに会ったらよろしくにゃ〜」

そう言うと彼はさっと走り去った。



「どこ行ってたんだよー、兄貴?」

尋ねるのは義妹の土御門舞夏。

「いや、なんか昔知ってた顔を見かけたと思って、あわてて戻ったんぜよ」

「へー。で、誰だったんだー?」

「あー、それがにゃー、中学の時のクラスメートだと思ったら全然違ったにゃー。他人のそら似だったぜよ」

まいったな、と言う顔で答える元春。

「なんだーそれ? こっちはいきなりいなくなるからびっくりしたんだぞー? 

それで、兄貴、今日ここへ来たってのは、何をごちそうしてくれるんだー?」

「スマン、まだ考えてなかったにゃー、舞夏、うまい店知ってたら頼むにゃ」

二人は他愛もないことを言い合いながら人混みの中に消えていく。



PCパッドを握りしめた美琴は、バンが走り去ったことにも気が付かぬまま、一人立ちつくしていた。
734 :LX [saga sage]:2012/05/27(日) 19:31:12.26 ID:IGkAb8mz0

それからまた1週間ほどが過ぎた。

美琴は、土御門の「『あの子』に影響が及ぶ」と言う言葉に戦慄し、何故、彼が「御坂妹」検体番号10032号の事を知っているのかを探ろうとしていた。

だが、最後に言われた「チェックもほどほどに」という言葉が彼女の行動を邪魔していた。



そして、ある朝、彼女は久しく来ていなかった、当麻の寮の前にいた。

来てから既に小一時間が経過している。

入る勇気がなかった。自信がなかった。

彼の顔を見た瞬間、何を言い出すか、自分でもよくわからなかった。

「何しにきたの?」と言われたら、なんて言えば良いんだろう?

理由はいくらでもあった。

何故、学園都市外交委員会に入ることになったのか?

何故、それを私に黙っていたのか? ウソをついたのか?

雲川芹亜という「あの女」が外交委員会副委員長であることと、当麻が就職することになるサイエンティフィック・インターナショナル・トレーディング社代表取締役であることの関係は?

「あの子」の事を他の誰かに漏らしたことはないのか?

「あの子」が今どこにいるのか知っているか?

友人である「土御門元春」とはどういう男なのか?

それと、



……アンタは、まだ……私のこと……



そこまで考えて美琴はブルブルと頭を振る。

バカなことを考えるんじゃないの、美琴!

そんなことを聞く為に来たんじゃない!

活を入れる為に、美琴は自分の頬をパンパンと叩く。

……不思議そうな顔の女性と視線が合った。あわてて彼女はそこを走り去った。



更に1時間後の11時過ぎ、ようやく意を決した彼女は寮の管理人室にいた。

馴染みの管理人と話をしたところ、彼は今日は朝から東京へ外出してるよ、と言われたのだ。

何気なしに「珍しいですね」と美琴がかまを掛けると、「いや、最近何回か出てるよ? あれ、聞いてなかった?」という答えが返ってきた。

そこまで聞けば十分だった。

御礼もそこそこに、彼女は寮を出た。
735 :LX [saga sage]:2012/05/27(日) 19:35:07.70 ID:IGkAb8mz0

「久しぶりですねぇ〜、御坂さんもいろいろ大変ですね?」

有名人である事への羨ましさ半分、その反面でなんだかんだと話題にされてプライバシーもあったものではないことへの同情半分、という顔で、初春飾利はパスタをほおばりながら言う。

「そうよー、大変なんだから……もう嫌んなっちゃう」

美琴がぼやく。

ここは、学園都市の治安を司るアンチスキルの総合本部、正面ロビーにある喫茶室。

二人は少し早いランチを取っていた。



初春飾利は、美琴の一つ下である。

ジャッジメント時代から情報分析に長けていた彼女は、高校を卒業するとそのままアンチスキルに就職し、そのまま総務部に配属された。

もちろんこれはダミーであり、実際には情報分析チームに属していたが、もちろんこのことは外部には極秘であった。

彼女は荒事には全く向いていなかったし、そしてそんな些末なことを補ってあり余るだけのスキルを持っていたからである。

「学園都市の守護神」とまでささやかれる彼女のスキルには更に磨きがかかっていた。



「そうそう、わたし見ましたよ〜、そっくりさんって、ホントにいるんですね! あの本見たときには、これ、絶対コラだと思いましたよ♪」

屈託なくケラケラと笑う初春。トレードマークの花飾りはぐっと大人びたものになり、本数も減ってはいるものの健在である。

「止めてよ、もう……最初に友達から見せられた時は、心臓が止まるかと思ったんだから」

ティーカップの紅茶をぐるぐる意味なさげにスプーンでかき回す美琴に、初春が偏光パッドを立ててちらりと見せた。

――― 私にどんな御用でしょうか ―――

瞬時に読みとった美琴はバッグからメモを取り出し、その1頁を初春にやはり一瞬だけ見せる。

(ある人間の位置情報を知りたい)

チラと視線をそのメモに走らせた初春は、嬉しそうな顔で美琴に言う。

「知ってます? 今度の土日、ホテル・ザ・ロイヤルでケーキ&スイーツバイキングがあるんですよぅ。

わたし、行こうかなって思ってるんですけれど〜?」

「へー、そうなんだ? じゃ、一緒に行こうか? 奢ったげるわ?」

「うわぁー、さすが御坂さん、太っ腹ですねー♪ 宜しく御願いします〜!」

商談成立である。

「そうだ、御坂さん、ちょっと付き合ってくれません? 小一時間くらいですけれど」

あくまで今思いついたように、しかし意味ありげな顔で初春が美琴に尋ねる。

「いいけど、貴女、外へ出てもいいの?」

昼休みとはいえ、勤務時間中じゃないの? と美琴が不審そうに訊くが、彼女は笑って答えた。

「何の問題もありませんよ? わたしはどこでも仕事出来ますから。これからクルマ出してきますから、正面玄関で待ってて下さいねー」 

そう言うと、彼女はIDカードをテーブルのキャッシャーに当てて支払いを済ませた。

「あら、良かったのに」と美琴が言うと、

「とーんでもない、ここはわたしのテリトリーですよ? あ〜ケーキバイキング楽しみ〜♪」

……高い授業料になりそうだ、と美琴は心の底で思った。
736 :LX [saga sage]:2012/05/27(日) 19:39:47.74 ID:IGkAb8mz0

「初春さん、免許取ってたんだ?」

美琴が感心したようにつぶやく。

「えへへ、これでもアンチスキルの端くれですからねー。必修なんですよぅ」

実はあんまり運転しないですけどね、だからちっともうまくならないんですと茶目っ気たっぷりに笑う初春。



二人の乗ったハリアーは、多摩川べりの駐車場に止まった。

「随分走ったわねー」

「そうですね。でもここだと、衛星でしかチェック出来ませんから、クルマの中なら衛星カメラには捉えられません。

密談するにはもってこいなんですよ? で、誰を捜すんですか?」

「二人ね。まずは……その、アイツ、上条……当麻」

「ええええええええ、どうしたんですか、御坂さんの彼氏さんじゃないですか? なんでまた?」

目を大きく開いて、思い切り驚く初春。

「だから知りたいの。そ、それより、絶対、絶対内緒だからね、このこと!」

「ふぁ〜い、ま、深くは聞きませんけど……えっと、どれで探しましょう?」

美琴の気迫に初春はあっさりと降参して、白旗を上げた。

「アイツは、今ここにはいないって聞いてる。東京にいるんだって」

「なーんだ、知ってるんじゃないですかぁ……って、そうか、学園都市外ですか……何で追跡できるかな……ナノGPSかなぁ……」

ブツブツ言いながらも、初春の手は忙しくラップトップの画面を走査する。

「えっと、届け出を見ますと、ナノGPSですね。じゃこれで……えっと……これで……あ、出た。簡単なもんですねー」

「早いわね、さすがアンチスキルね……で、どこだって?」

美琴も身を乗り出す。

「ちょっと、ちょっと待って下さいねー……マップ重ね合わせないとわかんないですから……へー、築地? 聖ルカ病院?

なんで病院……って、上条さん、ケガでもしたんでしょうか……?」 

(病院……まさか?)

美琴の顔色が変わる。

「そ、そんなことは、違うわよ、絶対。だって今日、今朝出て行ったって言ってたもの!」

思わずうわずった声で叫ぶ美琴。

「そうですよねー、じゃちょいっと、過去の移動履歴を見てみましょうか……?」

やっぱり彼のこと、心配なんだなー、御坂さんって相変わらず可愛いなぁ、と初春は思う。

実は、全く違う理由で美琴の顔はひきつっているのだが、初春にはそんなことはわからない。 

「あ、ここに寄ってますね……どこだろ……ウィークリーマンション明石町? なんか、よくわからない行動で……」

初春の言葉は途中で消えた。

美琴の雰囲気が変わっていたからだ。とげとげしい、針のような気が彼女から発散されていた。

(え、まさか、これって浮気とか、まさか修羅場? うっそー!!)

緊迫した空気がクルマの中に充満する。
737 :LX [saga sage]:2012/05/27(日) 19:41:56.43 ID:IGkAb8mz0

「ごめん、初春さん、このデータってどこまで遡れるのかしら?」

言葉こそ丁寧だが、氷のような冷たい響きのこもる美琴の口調に、初春は自分の想像がそう外れていないことを確信した。

(うわぁー、これ、絶対浮気調査ですよぅ……、でも、あの上条さんって、そんな風に見えないんだけどな……

でも、これって、上条さん、御坂さんを裏切ってるってことなんでしょうか? )

「どう、初春さん!?」

鋭くせかすような美琴の言葉に、初春は我に返った。

「へ? あ、す、すいません! えっと、と、とりあえず2週間ぶんは直ぐに出ますけど、それ以上はこの端末ではちょっと……」

彼女は体中の毛が逆立つようなピリピリした空気に圧倒され、どもってしまう。

「ごめん、そんなんじゃないから、心配しないでいいの。怖がらせてごめんね。じゃ、ちょっと2週間のうち、アイツが前にもここに来てたか見てくれる?」

(そんなんじゃない、って、もろにそれですって、それ以外のなにものでもないですってば!)

心の中で初春は突っ込みを入れながらも手は素早くデータを入力してゆく。

「……2回、ですね、今回も入れて……」

「同じところね……わかったわ」

「えっと、それじゃぁ、もう一人ですね、誰ですか?」

「ああ……ううん、大丈夫。アイツの行動だけでもう全部わかったから、もうOKよ。ありがとう」

「そうですか……じゃ、切りますね」

「そうだ。あのね、初春さん?」

「なんですか?」

「私、これからちょっと外に出るから、外出届、受けてくれないかしら?」

「……はい?」

-----------------------

「あ、あの、くれぐれも、その、問題行動は慎んで下さいねっ!」

「あはは、そうだ、貴女、アンチスキルだものね。ハイハイ、わかりましたって……大丈夫よ。そんな顔しないで? じゃねー」

美琴は、初春のハリアーから降りると運転席の初春飾利に明るく声を掛けて、すたすたとゲートに向かって歩いていく。

初春は、寄らば切るぞ、とでも言いだしそうな美琴の後ろ姿を不安そうな顔で見送っていた。

彼女は、目が笑っていなかった美琴の顔が忘れられなかった。

警告はしてみたものの、何の役にもたたないであろうことは火を見るより明らかだった。

「絶対、修羅場ですよね……どうしよう……」
738 :LX [saga sage]:2012/05/27(日) 19:43:53.28 ID:IGkAb8mz0

「どうだって?」

「全く問題なく、順調に育っているとのことです」

「そうか。気をつけろよ?」

「もちろんです、あなたにも責任はあるのですから、とミサカはすこしせり出してきたお腹をあなたに見せつけます」

「いや、それはよくわかってるし」

上条当麻と御坂妹の二人は、聖ルカ病院からの帰り道をゆっくりと歩いていた。

「少し残念なお知らせがあるのですが」

「なに?」

「来週から、定期診断で検体番号12500号が来院するそうなのです。今日先生から連絡がありました。

断続的ですが、およそ10日間は彼女に接触する可能性がありますので、ミサカは病院はむろん、外へも出れなくなります」

「へー。12500号って、普段はどこに?」

「今年初めの情報では、検体番号12500号は千葉県習志野市に住み、東京の大学に通学しているようです。……あなた、彼女に興味が?」

かすかに嫉妬の色を見せた目で当麻を見る御坂妹。

「興味が、って、そりゃそうだろ? 俺は妹達<シスターズ>のほんの一部しか知らないし、会ったのだってお前とバイクの10039号と、えーと、病院にいる……」

「それは検体番号13577号のことですね?」

「そうか?……その子入れて……たった3人じゃないか?」

(かわいそうに、検体番号19090号は忘れられているのですね)

くす、とかすかに笑った御坂妹は、ふと悪戯を思いつく。

「なんなら、呼びましょうか? ネットワークであなたが妹達<シスターズ>に会いたがっている、と言えばたちどころに数千人単位で集結すると思いますが」

「止めてくれよ、冗談じゃないよ、数千人の女性に取り囲まれるって、そりゃ恐怖だよ」

あわてて手を振り、早口で否定する当麻を見て面白がる御坂妹は、皮肉っぽく二の矢を放つ。

「そうでしょうか? 毎日違う妹達<シスターズ>と会っても数年は保ちますよ? 素晴らしいハーレムのような気もしますが?」

「じゃお前、数千人の男に取り囲まれてみたいか?」

「……前言を撤回します。わたしは、あなたがいてくれればいいのですから」と言って、彼女は当麻の腕を取りしなだれかかる。

「こらこら、暑いからそうくっつくなっての」



マンションの前。

ピタリと御坂妹の足が止まる。

「どうした?」

「お姉様<オリジナル>が、いらっしゃいます」

「ホントか?」

くっついていた二人は少し離れ、緊張した面持ちでマンションの入り口へと角を曲がる。



「お帰り。あんた、元気そうで良かったわ」

固い表情の美琴が、マンションのエントランスに立っていた。
739 :LX [saga sage]:2012/05/27(日) 19:50:13.77 ID:IGkAb8mz0
>>1です。
本日分の投稿は以上です。

>>718で書きました注釈、本日の>>729でようやく入りました。
お粗末様でした。

それではお先に失礼致します。
最後までお読み下さいまして本当に有り難うございました。
740 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/27(日) 20:12:00.42 ID:whL0hMLzo
やばい。
なんかもう、整合性とかどうでもいいから、このままど修羅場が見たい自分がいる
741 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県) [sage]:2012/05/27(日) 20:50:38.05 ID:qUJEGLvr0
>>1
ここまで来ると御坂妹が屑を通り越して哀れになってくるな。美琴のメンタルの強さには尊敬せざるを得ない
そして中々に事が複雑で面白い事になってきましたな、wktkして来週を待ちまする
742 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/28(月) 01:53:37.48 ID:OZjEceaF0
>>1
俺はこの作品では、美琴より御坂妹のが共感出来るんで御坂妹を応援するぞ!
…10数年後の未来が既にわかってしまっているのでアレだが…。
743 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2012/05/28(月) 02:25:42.74 ID:dgDVEUxHo
共感?
744 :LX [saga ]:2012/05/28(月) 18:42:08.82 ID:JuK3Mh9F0
皆様こんにちは。

拙作をお読み下さいまして誠に有り難うございます。
本日は御連絡です。

本日、作者は転勤を命ぜられました。日本国内ですが、結構遠距離です。
転居先のネット環境がどうなのかいまひとつわかりません(ADSLくらいはあるのでしょうけれど)。
とりあえずギリギリまで書けるところまで書きますが、その後生活が安定するまでしばらく途絶えるかもしれません。
一応作者最後のカキコから3ヶ月(2ヶ月ルール適用前にスタートしていますので)は猶予がありますから、
いくらなんでも落ちることは無いと思いますが。

せめて第二部は終わらせたい……と考えている作者でした。
取り急ぎ御連絡まで。
745 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/05/29(火) 00:26:16.32 ID:6eqEuHpn0
お疲れ様です。いつも楽しみにしております。
転勤はサラリーマンのつらいところですよね…。

ネットについてはWiMAXやLTEが維持費も安く、転勤族にはうってつけだと思います。
光ファイバーとADSLでは急な転勤には対応できないので。

後は対応エリアが問題でしょうか。ご参考までに。
746 :LX [saga]:2012/06/03(日) 19:41:30.03 ID:1JS8rMWZ0
皆様こんばんは。
どうにも精神的に落ち着かない>>1です。

今回もコメント頂きまして有り難うございます。

>>740さま
有り難うございます。包丁持ち出して、というようなことは……(苦笑

>>741さま
御坂妹が元に戻ってしまったのですが、作者としてもここらへんどうしたものか、と考えてました。
違う原稿では、彼女は学園都市内に残っておりまして、もう少し違った展開になったのですが
後が続かず、投稿した話の流れの方を選択しています。

>>742さま、
おお、おそらく、初の御坂妹フォローカキコではないかと……。ありがとうございます。
廻りも見ない、ひたすらまっしぐらというのも10代の恋としてはありかと……(ちと手段は10代にあるまじきものでしたが)
ここらは美琴との対比になるのですけれど、美琴の方はもう少しかかりそうです……。

>>745さま、
アドバイス有り難うございます。
作者のマンションはBフレッツが導入されてますもので、ずっとそれでした。
プロバイダーの説明を読んでおりますが、最悪の場合、メルアドは切り替えになるかも知れません。

しかし転居先の情報が全く入ってこないってのは精神的によくありませんw

とりあえず行けるところまで参ります。
それでは本日の投稿を始めますので、宜しく御願い致します。
747 :LX [saga sage]:2012/06/03(日) 19:46:44.01 ID:1JS8rMWZ0

御坂妹はごく自然に姉<オリジナル>の美琴に会釈して、挨拶をする。とはいえ、若干その顔は固い。

「有り難う御座います。お姉様<オリジナル>もお変わり無く」

「お腹の子は、どうなの?」 

美琴の声も固い。

「先ほど、診断を受けて参りました。順調に育っている、とのことでした」

「そう。あんた、ちょっとコイツと話あるから、先に部屋へ戻っていてくれるかな? 直ぐ済むから」

御坂妹は、当麻の顔を見る。よろしいのでしょうか? という問いかけの、目。

当麻も目で、かまわないから部屋へ戻っていろ、と答えを返す。

美琴は、その二人の暗黙の会話をめざとく読んだ。

「はい。それではミサカはお先に失礼します」

そう言うと彼女はエレベーターに乗って上に上がってゆく。5階でエレベーターは止まった。



「アンタたち、そこまでもう行ってるんだ。たいしたものよね」 

揶揄するかのような彼女の物言いに、当麻がやんわりと答える。

「世話してれば、それくらいになるさ。お前とだってそうだったろ?」

「ふん……まぁ、そうだったわね」  

そう、確かに当麻と美琴の間では、既に「夫婦の会話」とでも言うべき会話がしょっちゅう成立していた。

「アレはどうしたっけ?」
「それは、ほら」
「あー、そうだったな、すまん、同じ事を聞いてしまった」

(アンタねぇ、それってあの子と自分との関係が夫婦並みになってるってことなんだけど、全然フォローになってないわよ?)

美琴は、予想外の自分の反応に少し驚いていた。そういえば、前にはそんなこともあったかしらね、と。

(まるで第三者よね、私……なんでだろ? ……あぁ、そっか……もう、私は……)

美琴は、思わず笑いたくなった。もう、自分は、自分を当事者だと思っていないのだ、と。



「御坂妹と会ってて、怒ってるんだろうな」

「うーん、確かに前はそうだったけど。今はなんか、もうそう言う雰囲気じゃないのよね。そう、憑き物が落ちたって言うか。

あんたたち見ていて、お似合いだと思うもん。なんか私一人、怒ってるのってバカバカしくってさ」

美琴は、冷めた顔でどこか他人事のように淡々と話をしてゆく。

だが、その言い方に、当麻の方が驚く。

「どうしたんだよ美琴……人ごとのように……それに、これは違うんだ」

「はぁ、何言ってんの? 何が違うのよ、どこが違うって? もういいの。あの子、私に気を遣ってただけよ。本心は違うのよ?

あの子は、アンタが好き、大好き。アンタを愛してる。アンタ、まさかそんなこともわかってないの?」

当麻の言葉に、美琴は反応したが、それとて以前とは比べものにならないほど静かなものであった。彼女は言葉を続ける。

「もし、気が付いてないなんて言うんだったら、それこそ私、アンタを軽蔑するわ。怒る。

姉<オリジナル>として、アンタを許さない」

「お前、じゃ俺がお前のことをどう思ってたか、いや今だってどう思ってるか、俺のことなんか、もうどうでも良いのか?」

「そうは言ってない。でもね……私、もう、あんたを愛せない」

美琴は、遂にそう宣言した。
748 :LX [saga sage]:2012/06/03(日) 20:00:21.43 ID:1JS8rMWZ0

言ってしまって、美琴は肩の荷を下ろした気になった。

ああ、言ってしまった。終わったんだ、と。

「おい、ちょっと待てよ」

当麻が言いかけるのを無視して、美琴は言葉を続ける。

「正直言うとね、私、アンタをあの子に取られたくなかった。だから怒った。すっごく悔しかった。あの子に負けたくなかった。

親にも言われたわ。そう、母さんとあんた、何があったか知らないけど、母さんは必死だったわよ?

一生懸命あんたと私の仲を修復しようとして、ね」

「……」

「でも、もういいの。私、あんたとの話、終わりにする。お終い。破談。もうあんた、自由だから。私も自由」

「待て、待ってくれよ、なんで俺の話も聞かないでそう突っ走るんだよ?」

当麻は食い下がるが、冷たい笑いを浮かべた美琴は突き放す。

「何言ってるの? あんた、私の親に言ったでしょ? お父さんと一緒に来て、全部この先のこと、御坂家に判断を預けますって? 違うの?」

一瞬詰まるが、当麻はなおも言葉を続ける。離れてゆく美琴を引き留めようとして。

「それはそうだけど、そうだけどさ、俺の言い訳だって聞いてくれたっていいじゃないか?」

「こんなところで言い訳? ハハ、みっともないわよ? さぁて、アンタ、あの子待ってるから、早く行って上げなさいよ。

あの子をないがしろにしたら、今度こそほんとに酷いからね、覚悟しなさいよね? じゃね」

ぴしゃりと言い切った美琴は、もう用事は済んだとばかりに彼に背を向け、外へと歩き出す。

「ちょっと待てよ、美琴!」

去ろうとした彼女の手を、当麻は右手で掴み、ぐいと美琴を引っ張った。

「ちょっと!? 離しなさいよ、何すんのよ!? 人呼ぶわよ、バカ! あんたとはもうなんでも無いんだから!」

美琴は厳しい顔で当麻を睨み付け、叱りつけるように叫ぶ。

「いいや、離さねぇ! お前が、俺の話を聞くって言うまで絶対に離さねぇからな!」

当麻も負けずに力任せに美琴を抱き寄せるが、彼女は当麻から逃れようと必死にもがき、罵倒する。

「うるさい! 離せ! この嘘つき! 卑怯者! けだもの!」



――― 御坂さん!! 上条さんも何してるんですか!? 二人とも止めなさい! こんなところで! ―――



思わぬ人の声に、二人の動きが止まる。

「初春……さん?」
「初春……どうして、ここに?」

もみ合う二人の前に飛び込んできたのは、初春飾利であった。

「あなた……? お姉様<オリジナル>どうしたのですか、この騒ぎは?」

そこに再び現れた、御坂妹。

「うっさい! なんで戻ってくるのよ! 事の起こりは全部アンタなんだから!」

「え? 御坂さん……? え、双子? あれ……もしかしてそのお腹」

美琴にそっくりな御坂妹、そして誰が見ても妊婦に見える彼女を見た初春は、驚愕する。

「いいから、初春さん、ほら、逃げるわよ!」

時ならぬ初春飾利の登場と、心配になって様子を見に来た御坂妹が現れたことで気が緩んだ当麻の隙をついて、美琴は彼の腕を振り払い、救世主? の初春と共に外へと走り出た。



「美琴!!」     当麻の悲痛な叫びを後に残して。
749 :LX [saga sage]:2012/06/03(日) 20:09:19.11 ID:1JS8rMWZ0

「あの時の御坂さんの様子が……その、ものすごく怖かったので……」

「うっそー、そうだった? う〜ん、確かに、気は張ってたかも」

「あのまま一人で行かせたら、それこそ血の雨でも降るんじゃないかって思っちゃって。

東京だから私、なんの力もないんですけれど、あ、学園都市でも同じですけれど、でも、止めることくらいは、頭に昇った血を下げることくらいは出来るんじゃないか、って思ったんですよう」

美琴と初春は、銀座資生堂パーラーでお茶をしていた。

「あの時」の興奮はどこへやら、初春はしっかりと「季節のパフェ」を選択し、今は幸せそうな顔をしながらパクついていた。

そんな彼女の顔を見る美琴の心は、不思議と静かだった。

「憑き物が落ちた」と自分でも言ったが、そんなものなのか、と彼女は自問自答する。



当麻の東京の訪問先が「病院」とわかった瞬間、私はそこが「あの子」のいる病院だと確信した。

なんの根拠もなかったのだが、その時の私には、絶対間違いない、という自信があった。

そして、ウィークリーマンションの存在。当麻が借りたものか、あの子が借りたのか、どっちなのかはわからない。

でも、もう、そんなことはどうでもよくなった。自分が待ちかまえるそのマンションに、二人は戻ってきたのだから。

仲良く、仲むつまじく戻ってきた二人の姿を遠くから見て、なぜか私は不思議と腹が立たなかった。

むしろ、「ああ、やっぱりこうなったんだ」と、私は悟った。

「あの子の思う通りにはさせない」と息巻いていた自分が恥ずかしくなった。

むしろ、あの二人のほうがごく自然だった。

当麻と過ごしてきたこの数年間の全てが、もうそれは、どこか遠い日の話。



「御坂さん、御坂さんってば、聞こえてます?」

むうぅ、という顔の初春が呼びかける声で、はっと彼女は我に帰る。

「あー、やっと帰ってきた……御坂さん、やっぱり、その、上条さんの話を聞いた方がよかったんじゃないんですか?」

恐る恐る、と言う感じで初春が質問をしてくる。

「聞いても仕方ないの。聞いてたでしょ? 『言い訳』なんて、そんなの時間の無駄よ」

美琴はすっぱりと切って捨てた。

「……その、ショック、でした?」

初春は違う方向から今度は聞いてきた。

だが、美琴はその質問には答えず、違う話を返す。

「見てわかったでしょ? あの子のお腹」

「え? あ、は、はい。妊娠してましたね……って、あの、その……」

言葉に詰まる初春を見て、美琴は苦い笑いとともに自ら答えを言った。

「そう、アイツの子なんだな、これが」

「えーっ!? ほんとにホントだったんですかー!?」

目を見開き、思わず声が大きくなる初春だったが、直ぐに気が付きあわてて小さくなる。

「何よ、それ……まさか、あなた、なんか知ってるの、初春さん?」

まさか、彼女にまでバレていたのか? と思い、少し詰問調で問いただす美琴。

「い、いえ、その、頼まれた時の様子が、まるで浮気調査みたいだったので……もしかしたらって」

「そっか。そういうことか……」

おずおずと答える初春の様子に、思わず美琴はほっとして身体の力を抜いた。
750 :LX [saga sage]:2012/06/03(日) 20:26:04.40 ID:1JS8rMWZ0

「あの、御坂……さん? あの、失礼かもしれませんけれど、その、ひとつ質問が……」

「良いわよ? ふふ、あの子が私そっくりだってこと?」

「えー! どうしてわかったんですか!?」

「あの子を見た後で、質問っていったらそんなことだろうと思うから」

「そうなんですよぅ……で、あのひとなんですけれど、そ、その昔、都市伝説のひとつに、あの、御坂さんのクローンが軍事用途で作られたと言う話があるんですが……」

初春が声を低めて質問してきた。それに合わせて美琴も声を落として答える。

「まぁ会っちゃったしね……そう、その通りなのよ。あの子はそのうちの一人」

「やっぱりそうなんですか?……そうなんですね……あの、もう少し聞いて良いですか?」

「詳しくは答えられないけどね」

「はい、もう一つだけですから。その、まだ、他にも?」

「そうね……学園都市には、まだ3人いる、とだけ言っておくわ。あの雑誌に出ちゃったのは本物、事実なの」

「そうなんですか……道理でそっくりなわけですよね……白井さんがもし遭遇したら大変ですねー」

その言葉に美琴は、検体番号10039号に迫った黒子の姿を思い出した。

そして、あのバカと一緒に記念写真を撮ろうとしていた10039号の間に割り込んだ自分の行動をも。

(ちょっと大人げなかったわね、姉<オリジナル>としては)彼女に済まないことをしたかな、と思う。



「御坂さん、私、ちょっと不思議なことがあるんですよ」

もの思いに再び沈んだ美琴に、初春は空気を少し変えようとして話しかけた。

「へー、なに? どんな事?」

「いや、御坂さんて、レベル5で、美人で、頭良くて、学園都市の広告塔みたいな役も引き受けてて、私、いっつもすごいなーって憧れてたんですけれど、結構ゴシップネタ出ますよね?」

美琴は苦笑する。

「その通りよね。恥ずかしいし、情けないわよね」

初春は、廻りをさっと見回し、廻りの席に人がいないことを確かめつつ、再び声を潜めて喋り始める。

「それでですね、その後始末が私たちに廻ってくるんですよぅ」

「は?」

「学園都市じゃ絶対出来ない話なんですけどね。御坂さんが秘密のこと、私に教えてくださったんで、そのお返しも兼ねて、ですけど。

私の仕事分野にはそういう仕事も入ってるんです。御坂さんに関する話で、『あー、これ、絶対まずい』っていうものが出るとですね、早ければ1時間くらい後にですね、消せっていう指示が来るんです。

他にも同じような仕事の人がいて、誰だかお互いには知らないんですけれど、あそこじゃその仕事は出来なくて、みんな違うところで内緒でやるんです。

だからほら、私、『どこでも仕事できます』って言ったんですよ?」

とんでもないことを初春はしゃべってきたので、美琴は少し青くなった。

「ちょっと、あなた、そんなこと言って大丈夫なの?」

だが、彼女は平然とキッパリ答えた。

「大丈夫ですよ。ナノGPSに音声録音機能はありませんから。位置情報記録だけです」

「ふーん、ならいいか」

彼女はアンチスキルだから、自分のクローンの事がバレても、仕事上必要な内容だったと言い張れば済む。

しかし、彼女が自分の極秘任務のことを私にしゃべったとなれば、それはただでは済まないだろう、と美琴は考えたからだ。



「それでですね……ずーっと昔、御坂さんからなんだかよくわからないアルファベットの羅列の調査を依頼されたことがあったんですけれど、それって、覚えてます?」

とんでもない発言が初春の口から飛び出した。
751 :LX [saga sage]:2012/06/03(日) 20:44:42.88 ID:1JS8rMWZ0

忘れられるわけがない。

それは、あの、哀れな検体番号9982号の死の実験のとき。

止められなかった、彼女の実験。

初めて会った、自分のクローン。

「さようなら、お姉様<オリジナル>」

それが、本当に最後の会話になってしまった、あの子。

守ってやれなかった、彼女。

保線機械に押しつぶされた、9982号のミサカ。



「それで、私、調べちゃったんです……」

「え」

美琴の顔からは血の気が引く。だが、なおも初春の言葉は続く。

「その……とんでもないことも」

ダメ! 言っちゃいけない! それは、いけない! 

美琴は思わず叫んだ。

「ストップ! 初春さん、それ以上言っちゃだめ! 絶対にだめ! 止めて!」

「は、はいっ!?」

美琴の剣幕に初春は思わず水のグラスを倒してしまう。

あ……と、我に返った二人は茫然とするが、ウエイターが「大丈夫ですか?」とナプキンとおしぼりを持って駆けつけてきた。

「す、すみません」と二人が恐縮するが、ウエイターは「服にお水はかかりませんでしたでしょうか?」と訊いてくる。

「大丈夫です」

「かかりませんでした。すみません」

二人は彼らに軽く頭を下げて小さくなる。



(それで、あなた、このこと、誰にも言ってないわよね? 佐天さんにも、黒子にも、誰にもよ?)

(もちろんですよう、言えるわけないですよぅ)

ヒソヒソ声で二人は話を始める。

(良かった……あなた、もしそれが他のひとにばれたら、あなた、最悪、消されるわよ?)

(……!)

今度は初春の顔が青くなる。

(御願い、忘れて。いいえ、これは命令。忘れなさい。そうしないと、あなた、すごく危険よ?)

もう6年も前の話だ。計画は中止されたし、統括理事長も今は替わっている。

でも、全く関係ないはずの彼女が、あのことを知っているということが学園都市サイドの人間にばれたら、何が彼女に起きるかわかったものではない。

油断してはいけない。ここは思い切り脅かしておくべきだ、それが彼女のためになる、そう美琴は考えた。

(そうですね、忘れます)

緊張した顔で初春は答え、美琴も硬い表情のまま、僅かに微笑んだ。 
752 :LX [saga sage]:2012/06/03(日) 21:15:45.01 ID:1JS8rMWZ0

「それで、初春さんはこの後どうするの? また戻るの?」

美琴は全く違う話を切り出し、青くなっていた初春も緊張を解き、ホッとした表情で答える。

「そうですねー、久しぶりに出たので、せっかくですから家に帰ろうかなってちょっと思ってます」

「あら、良いアイディアじゃないの? そうしなさいよ。あなた、お家どこだったっけ?」

「西葛西ですよ? ここからなら……日比谷線でアキバへ出て、岩本町から新宿線に乗ればOKですから。御坂さんは?」

「うーん、さっさと帰るのもなんか……ちょっと銀座歩いてみようかな、なんて?」

「あー、じゃ、私もそうします。オトナのファッションも見たいな、って思いません?」

「あはは、それいいかも? じゃとりあえず出よう?」

二人は勘定を済ませると、夕闇迫る銀座の街に繰り出した。



美琴は、ごく普通のファッションと美味しいものに目がない、当世の女子大生のようにふるまった。

初春は、そんな「ふりをする」美琴に合わせるかのように、彼女もまたはしゃぎ、おしゃべりをし続けた。

二人とも、上条当麻と、美琴のクローンの事を、心の奥底にしまいこんで。
                            


美琴は、この時、土御門の警告を完全に忘れていた。





その頃、学園都市。

「それでは、第5号議案。結論、御坂美琴(みさか みこと)の件について、広報委員会の預かり、ということで各委員、異議はもうありませんな?」

議長の声が響く。

「異議なし」のグリーンマーカーが、出席者の頭上にずらりと点灯する。

「ここに、第5号議案は全員一致で承認されました」 

事務方を司る審議投票システムの自動音声がそう宣言すると、「承認」のマーキングが文書データにくっきりと日時データとともにプリントされた。

「次に、第6号議案。第5号議案の決定を鑑み、結論。担当被験者は今回、麦野沈利(むぎの しずり)1名。

第二世代問題調査委員会の預かり、ということで各委員、異議はありませんね?」

議長が確認を求める。

再び「異議なし」のグリーンマーカーが、出席者の頭上にずらりと点灯する。

「ここに、第6号議案は全員一致で承認されました」 



関係者傍聴人控席に座っていた笠原真彩(かさはら まあや)は深くため息をついた。 

(良かった……これで、あの子は私の部下……あんなクソ委員会にあの子を使い潰されてたまるもんですか)



二人の、レベル5の女性の運命は、この時に大きく分岐したのだった。
753 :LX [saga ]:2012/06/03(日) 21:27:09.25 ID:1JS8rMWZ0
>>1です。

本日投稿分は以上です。
最後の>>751->>752は大幅に改訂しておりましたので、投稿の間が開いてしまいました。すみませんでした。

さて、投稿ですけれども、以後6月中に関してのみ、できあがり次第投稿、と言う形に変えるかも知れません。
いままで、日曜日午後7時頃の投稿開始、ということでお読み下さるかたも、作者自身も非常にわかりやすかったと
思っておりますが(遅筆申し訳御座いません)、なんせ時間がありませんもので、少しでも先に進めておきたく、
今月中の特例ということで宜しくお願い申し上げます。

お知らせも兼ねまして、今回、投稿完了のこのコマ、ageと致しました。何卒御了承下さいませ。

第二部エンドも、第三部エンドも書き上がっておりますし、絶対に完走するつもりです。頑張ります。

それでは本日はお先に失礼致します。
754 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/04(月) 00:43:16.44 ID:kSUR/l/E0
>>1乙。
リアル環境が大変そうだが、気長に待つので無理はなさらず。
ちなみに御坂妹擁護派だけど、一部や前作から結婚相手が美琴とわかってるのがちと虚しいやね。
755 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/06/04(月) 00:45:42.74 ID:8xYT9LFPo
特別御坂妹を責めるつもりはないけど現状美琴が報われないのは普通に可哀想に思う
一番気になるのはこっからあの状況に落ち着くまで生半可な経緯だけじゃとても到達できなそうなのを一体どう収集つけるのかだけどね
756 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2012/06/07(木) 00:14:39.68 ID:0yMtQxUF0
>>755
現状どころか、今後将来に渡って美琴が「本当に」報われることは永久にないと思う。
上条さんの浮気と御坂妹の妊娠・出産という現実がある以上、絶対に。
よりを戻して結婚まで至るのは分かるけど、ある意味で冷めきった上条夫妻の描写が前にあったし、
生まれた甥っ子への感情は複雑なようだし。

以前に、美琴と御坂妹と、どちらに共感できるかなんて話題があったけど、
自分は御坂妹には共感できないが、最近は美琴の方がもっと共感できなくなって来た。
妹との愛人関係を認めてまで、なぜ上条さんとの結婚を強行したのだろうかと。
空虚で悲しい結婚生活の場面があったから、なおさらそう思えてしまう。

そう言った点も含めて、今後どう展開するかがまた楽しみな訳なんだけど。
757 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2012/06/07(木) 00:29:23.96 ID:02gUB6iCo
御坂妹が清清しいほどの屑っぷりで逆に感心するわ
758 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/07(木) 00:34:33.10 ID:UrlkYWkwo
10代の恋だから、とか未熟だから、という事にされてるけど
なんつーかそれ以前に人間としての中身の無さみたいのを感じて正直怖いっつーか
無知な子供の無邪気さが起こす残酷さというか、感情も愛情も道理も表面の言葉でしか理解できないシリアルキラー思考に似た何かを感じる
759 :LX [saga]:2012/06/08(金) 00:22:26.97 ID:anln+97A0
皆様こんばんは。
>>1です。

毎々コメントを頂き恐縮です。本当に有り難うございます。

>>754さま
お心遣い有り難うございます。
とりあえず、引っ越し先は確定しました。
ネット環境は、幸い現在とほぼ同じくフレッツ光を使えるので、なんとかなりそうです。

>>755さま、>>756さま
正直、自分の用意している内容で、読者の皆様が納得されるかどうか自信がありません(汗
まぁ自分でハードルを上げまくったわけで、自業自得なのですが。
本当ならば、一気に書き上げられれば流れの勢いでごまかせそうなのですが、この調子ですととても無理そうで……

>>757さま
御坂妹のファンであります作者としては、自身のふがいなさを痛感致します……
どうしてこうなった?

>>758さま
うーん、もっと内面にまで入り込めれば良いのでしょうが、すごく難しいです。
本職の小説家のひとの凄さを改めて思います。

それではこの時間ですが、本日分をイレギュラー投稿致します。宜しく御願い致します。
760 :LX [saga sage]:2012/06/08(金) 00:26:24.62 ID:anln+97A0

そして、それからおよそ1ヶ月が経過したある日。



またしても、きっかけは週間シャッターであった。

「超電磁砲<レールガン>破局か!!??」

センセーショナルなPOPが踊る。



根拠は簡単なことであった。

殆ど毎日のように上条当麻の寮に行っていた美琴が、ある日を境にぷっつりと行かなくなったからである。

最初の1週間ほどは何か都合があるのだろう、と考えていた美琴ウォッチャーも、半月が経過し、ひと月が経ち、2ヶ月を経過して……となると明らかに異常と考えるのは当然である。

しかも、ある時期には彼女は寮から外出すらしなかった時があった。

大学の授業をサボる、ということは、今までの彼女の学生生活ではゼロではないものの、寮から出た形跡がない、というのは普段の彼女からみて、おかしなことである。

そして、ある日、彼女は人目を避けるように父親らしき人間に付き添われて学園都市を出ていた。

その時の様子は、張り込んでいた人間が見るに、明らかに彼女に何かが起きたことを如実に物語っていたという。

もっとも彼女は1週間ほどして学園都市に戻っており、今現在は大学へ通ってはいる。

しかし、相手の上条当麻の寮を訪問したのは3ヶ月ほどが経過した今に至るも一度きりであり、しかも彼がいない時であった。

一方の上条当麻にしても、彼女の寮に足を運んだ形跡は一時期は皆無、その後数回あったものの、ここ最近は美琴同様皆無である。

どこかで落ち合っているのではないか、という説は双方のデータを照らし合わせた結果、「ないな」の一言で捨てられた。

つまり、あれほど夫婦同然のバカップルだった二人が、今は全く顔を合わせていないのだ。

こうなれば、結論は誰が考えてもひとつ。



「二人は別れた」



しかし、このスキャンダル記事が大幅に遅れた理由は、週間シャッターの側にあった。

御坂美琴に関するゴシップ・スキャンダル報道は、部数が稼げ話題になる反面、非常に危険が伴うことでもあった。

前回のすっぱ抜き(キスシーン)では、学校の書店・購買での1ヶ月販売禁止(美琴が学生だからという理由で)処置が取られ、学生が多いこの街ではかなりの売上ダウンという損害を被った。

話題性という点では確かに群を抜いたものの、広告宣伝料と割り切ってもなお、売り上げマイナスは直接出版社の懐に響く結果となったのだった。

よって今回、不確かな想像で記事をブチ上げ、それが間違いだったと判明した場合、学園都市の歩く広告塔ともいうべき彼女への中傷、ということになり、同社にとんでもない処罰が下る可能性があったからである。

しかし、時間が経過しても、この状況を覆すような事態は起きていない。相変わらず二人はそれぞれ別行動を取っていた。

彼らは腹をくくり、大ネタをぶっ放すことに決めた。

今回は具体的な写真はなく、状況証拠のみの、今ひとつインパクトに欠ける内容ではあった。



が、しかし。

証拠写真がなかろうが、状況証拠だけだろうが、このスキャンダルにとんでもないインパクトを受けた人間たちがいた。





妹達<シスターズ>である。
 
761 :LX [saga sage]:2012/06/08(金) 00:29:24.37 ID:anln+97A0

「こんにちは、お姉様<オリジナル>。信じられない噂がMSW<ミサカネットワーク>を流れているのですが……」



ミサカ2人と出くわしてしまった。

正直、見たくもない顔。

最悪だ。



……自分の顔を見るようで

……違う。あの子たちより、わたしの方がもっとひどい顔をしているだろう。

……ある意味、あの子たちの方がわたしなんかよりずっと……ああ、だから、わたしはあの子たちに会いたくないんだ。そうか……

……どうせ、今日のゴシップ記事の話よね、間違いなく……



「あんたは……?」

「むう、まだミサカはお姉様<オリジナル>に覚えて頂けませんのでしょうか? このミサカは『そっくりさん2番』の検体番号19090号です」

「ミサカ達は遺伝子レベルで共通ですから難しいのかもしれませんね、と検体番号19090号より少しお姉さん風を吹かせるこのミサカは検体番号13577号です。

このミサカは『そっくりさん』には載りませんでした」

美琴は自己紹介した二人のクローンをざっと眺める。

検体番号19090号は、以前エステサロン勤務だったと言うだけのことはあり、さすがに化粧はうまい。

髪もロングにしており、ファッションセンスも、そう高くないものを上手にコーディネートしており、洗練されている。

良く締まった足首、程よい太さの足、高いヒール。

一方の検体番号13577号は、あのリアルゲコ太の病院に残って、あの子と一緒に働いているはずだ。

検体番号19090号とは一転して、化粧は控えめ、髪はショートボブ、服装も地味だ。

立ち仕事のためだろう、19090号と比較すると、黒のストッキングでごまかしているとはいえ、明らかに下半身、特に腿は太い。

靴もいわゆるパンプスでビジネス用と言っても通じるもの。

随分とまた、毛色が違う組み合わせの二人ね、ううん、こう見るとそれなりに個性が出てきてるじゃない、と改めて美琴は思う。

顔だって、『よく見れば』違ってるじゃない? とも思う。

でも、この子達と3人で並んだら……あの雑誌のとおり、三つ子で通るわよね……



しかし、そんな美琴の思いをぶち壊すような発言が飛び出した。

「おや、お姉様<オリジナル>? ウエストが2cmほどこのミサカより広がっているように見えますが、とダイエットの効果を確認できた検体番号19090号は優越感を隠しきれない顔でお姉様<オリジナル>に話しかけます」

当麻との縁を切った美琴は、反動のせいか食事の量が増えていた。

ぶっちゃけ、体重も(内緒)kg増加しており、気にしていたところをズバリ指摘されたのであった。

「あんたらは、私をおちょくりに来たんかぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!」

紫電がビン! と前髪から飛ぶ。
762 :LX [saga sage]:2012/06/08(金) 00:32:57.47 ID:anln+97A0
MNWですよねー、何なんでしょうMSWって……

すみません。
763 :LX [saga sage]:2012/06/08(金) 00:35:25.44 ID:anln+97A0

むう、と言う顔をして検体番号13577号がなだめにかかる。

「お姉様<オリジナル>、私たちに電撃は無意味です、と冷静な13577号はお姉様を止めに入ります」

「それよりも噂の確認をしたいものです、とミサカは本題に入ろうと画策します」

しれっとした調子で、検体番号19090号はいきなり話を戻す。

「あんたが事の起こりでしょうが!!!」

「おお、お姉様<オリジナル>がようやくいつもの調子に戻られたようですね」

苦笑しながらも突っ込むのは検体番号19090号。

「私はむやみやたらと電撃をかます暴力女かいっ!?」

「おや、お姉様<オリジナル>はご自分をそうとはお考えではないのでしょうか? 

少なくとも10代前半の記録を見るに、当たらずとも遠からず、と言えるだろうと考えておりますが?」

違うのですか? と言う顔で今度は検体番号13577号が攻めにかかる。



そう、だった。

そう、私は、むやみやたらと、アイツに……

アイツのことなど考えもしないで……自分勝手に、自分のことだけで……

やだ、なんでまたアイツのことを思い出すのよ、あんな人でなしのことを……



(ああ、また黄昏れてしまわれましたね……)

(検体番号13577号がおかしな質問をするからです、とミサカはお姉様ぶる検体番号13577号に非難の目を向けます)

(何を言うのですか、検体番号19090号こそ先ほどからお姉様<オリジナル>に向かってあれやこれやと突っ込んでいるではないですか、と検体番号13577号は無実の罪を着せられるのではたまらないと反論します」

<ちょっと待ちなさい、検体番号13577号と19090号! あのひとのことなのに、なんで私に声を掛けなかったのですか!?>

怒りの声がミサカネットワークを通じて飛び込んでくる。それは検体番号10039号のミサカ。

だが、それを押しつぶすかのように膨大な声が大波の如く押し寄せた。

<ちょっとあんたら、そんなことより、さっさと本題に入りなさいよ!>
<そーよ、航空券ポチるかどうか待ってるんだから!>
<もまいらの下らない漫才を聞く為に眠いのガマンしてるんじゃないんだぞ!>
<早くお姉様《オリジナル》に聞けよ!>

閉口した二人は改めて真面目な顔になり、美琴の前に並ぶと質問を投げてきた。綺麗にハモりながら。


「「お姉様<オリジナル>、あの方との関係が壊れた、破局した、という話が週刊誌に出ております。

これを見たミサカたちの間で、お姉様<オリジナル>とあの方との御婚約が破談になった、御結婚はなくなったのではないか、という噂が流れています。

単刀直入にお尋ね致しますが、これは事実なのでしょうか?」」
764 :LX [saga sage]:2012/06/08(金) 00:39:50.78 ID:anln+97A0

やはり来たか、と美琴は身構える。

「なんで、そんなことをあんたたちに言わなければいけないのよ?」

眉をひそめて美琴は突っぱねるが、二人のクローンは意にも介さない。

「お姉様<オリジナル>の問題は、我々妹達<シスターズ>の問題でもあります。

しかも今回は、噂の内容がお姉様<オリジナル>の今後の人生に多大な影響を与えるであろうことが予想できます。

これは我々妹達<シスターズ>にとって、見過ごす事は出来ません」

冷静な物言いで検体番号13577号が答えてくる。

「うるさいわね、心配してくれなくて結構よ。ほっといてよ」

「否定なさらないのですね?」

痛いところを検体番号19090号が突っ込んでくる。

「……」

「そうですか、何があったかはお聞き致しません。失礼致しました」

検体番号13577号が丁重に答え頭を下げた直後、今度は検体番号19090号が思いもかけないことを言い出した。

「お姉様<オリジナル>、今のお話から私たち妹達<シスターズ>に、新たなひとつの目標が正式に出来たことを御報告致します」

「……なによ、それ?」

美琴は嫌な予感がした。虫の知らせ、というやつだろうか?

なんだかわからないが、この子がこれから言い出すことは、とんでもないことなのだと……

にっこりと笑う検体番号13577号と19090号の二人。

美琴はその笑顔が恐ろしく不気味だった。

その彼女を見つめながら検体番号13577号が口を開く。

「はい、お姉様<オリジナル>があの方との結婚を取りやめられたことにより、我々妹達<シスターズ>にチャンスが生まれました」

「……??!! ちょ……っ!?」

そう? 

ええっ? 

それってまさか……この子たち……?

しまった! 迂闊だった!! 

あの子や10039号だけじゃなかった……

美琴の脳裏に浮かんだのは、遠い異国、ロシアの雪原で出会った検体番号10777号。

あの子もそうだった……
765 :LX [saga sage]:2012/06/08(金) 00:41:52.42 ID:anln+97A0

検体番号19090号が話を続ける。

「私たち、妹達<シスターズ>の中には、熱狂的なあの方のファンがおります。

あの方は、命を賭してミサカ達を救う為に闘って下さいました。

あの方になら全てを捧げてもよい、いえ、そうしたいと考えるものは数千人を下りません。

念のため申し添えますが、もちろん残っている妹達<シスターズ>全員があの方のファンというわけではありません。

また、今なお健康体を得られず調整中のもの、現地で伴侶を見つけ結婚したもの、既に鬼籍に入ったもの、死亡確認はされていないが音信不明のもの、などもおります」

「あ、あんたたちね……」

美琴は理解した。

この子たちは、あんたたちは、これから……

「お姉様<オリジナル>が、あの方と結婚するということで、我々は競争することを諦めておりました。

ですが、そのお姉様<オリジナル>が降りた、ということで本命馬が試合放棄したことになりました。

我々妹達<シスターズ>のうち、あの方と結ばれたいというものたちが、噂が広まった段階でスタートラインに一斉に横並びしておりました。

そして、スタートの合図が、先ほどのお姉様<オリジナル>への噂の真偽、事実の確認でした」

検体番号19090号はニヤリとし、片目をつぶった。

「そんな……バカな」

「スタンバイ中の妹達<シスターズ>へ報告します。お姉様<オリジナル>とあの方との婚約は解消されました」

検体番号13577号が明瞭に言い切った。

「止めなさい! バカ言ってるんじゃないの! あんたたち、アイツのこと……」

美琴の悲鳴に近い声があがる。

が。

「これより、あの方、上条当麻さんの」

「止めろって言ってんでしょーが!」

「争奪戦を開始します!」

「ふっざけんなーぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!」

美琴の電撃が飛ぶが、二人は楽々とそれをかわし、やれやれ困ったものだ、と言った顔で彼女を見る。

「賽は投げられました、お姉様<オリジナル>。現在スタートラインに立っていたミサカの数、1327名です」

「検体番号19090号、その数はもはや古いです。既に1803名に上りました」

「学園都市にミサカが溢れる可能性がありますが、御了承下さい、とミサカはあらかじめ通告します」

二人のクローンはぺこりと頭を下げると、美琴に背を向け、歩き去ってゆく。



茫然と立ちすくむ美琴に出来たことは、ただただ、去ってゆく二人を見送ることだけであった。
766 :LX [saga]:2012/06/08(金) 00:47:30.52 ID:anln+97A0
>>1です。

本日投稿分は以上です。
いつもの日曜日に投稿できるかわかりませんでしたので、予定を早めました。
いつもお読み下さっていらっしゃる方には済みませんでしたが、何卒御了承頂きたく存じます。

気が付くと、この第二作、初めて投稿してからまもなく1年になろうとしておりますが、まだかかりそうです。
遅筆申し訳御座いません。

それでは本日はこの辺で失礼致します。
お休みなさい。
767 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/08(金) 01:16:46.51 ID:MlwZbbVj0
>>1乙。
妹達キター!
けど、第1部から、誰も上条を落とせなかったであろう事がわかっていてむなしい…。
しかも、10032号の事もバレなかったんだろうな…。
妹達、何手抜きしてたんだし…。
768 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/08(金) 01:17:46.38 ID:XiBU3puAo
乙。ゆっくりやってくれ。続きも楽しみにしてる
769 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/08(金) 01:28:04.51 ID:3sQT3neho
おつおつ
御坂妹以外の妹達もこれだけ期間が経ってるんだしもう少し純粋にお姉様の事を心配するとか思い遣るとかそういう描写があってもいいんじゃないかしら
上条さんを間に挟む=恋の鞘当てオンリーってのは原作でも良くある構図だけど、原作よりよっぽどシリアスで重くてデリケートなテーマなんだし少しは温かみが欲しい
その辺のバランスに情愛や温かみが少な過ぎて余計に違和感を助長してるのかも

なんかウザい事ばかり言ってごめん
それだけこのお話にハマってて楽しみにしてるって事でもあるんだと思う
770 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/06/08(金) 14:36:48.49 ID:c82neoWBo
結局人の心がわからんのかね
771 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/08(金) 19:40:31.02 ID:4F+6PgAWo
>>770
そういう展開ならそれはそれで納得する
772 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2012/06/08(金) 22:22:03.06 ID:V6mVNo0Ko
姉が妹達を人質にかつて敵対してた学園都市に利用されそうになってんのに色狂いにもほどがある
婚約中の不貞、しかも間女が妹なんて普通の家庭なら姉から絶縁&親から勘当ものなのにww
御坂妹は論外として他の妹達にしても自分の立場やら周りの状況とか全く関係ないんだな
ここまで恩を仇で返す人間は現実でもなかなかいないわ
773 :LX [saga]:2012/06/10(日) 23:46:56.34 ID:u/7fUOgg0
皆様こんばんは。

>>1です。
イレギュラー投稿にもかかわらず、お読み下さいまして有り難うございます。
コメントお寄せ下さいました方々、有り難うございます。

>>767さま
すみません。先がわかっているので安心できると言う方もいらっしゃいましたし、
そこら辺は難しいところですね。どういうことがあってあの結末になったか、というところが第二部のキモですね。

>>768さま
ありがとうございます。
第二部は、前作の伏線回収もやろうとしてますので、ちと詰め込みすぎかなとも思っております。

>>769さま
今回、一番考えさせられるコメントでした。うーむ、そうかもしれないな、と。
確かにちょっと極端すぎるのかもしれません。
次の>>770>>772さまのコメントもそう言うところに引っかかっていらっしゃるのかもしれませんね……。
情けないことに、今回少しやってみようと思いまして書いてみたのですが、全然まとまりませんでした。ということで、今まで通りのような流れになってしまいまして……
コメントして頂きました点については留意して話を纏めていきたいと思います。

>>770さま、>>771さま
登場人物は、作者自身の投影だと言われてますので、グサとくる一言でした。
ちとやりすぎましたかしら。

>>772さま
前にも同じようにコメントされたことが御座います。そう言われても仕方ないかな……と。

それでは本日分、これより投稿致します。
宜しく御願い致します。

774 :LX [saga sage]:2012/06/10(日) 23:58:45.16 ID:u/7fUOgg0

「上条さん、いまどちらに?」

「お、おう、寮だけど、なんだ、どうした10039号? そんな恐い顔して?」

「今すぐ、その寮を出て下さい!! 危険が迫っています! 以前に待ち合わせたコンビニ覚えてますか?」

「ん? ああ、あの時の? うん。わかるぞ?」

「では大至急来て下さい!! とにかく早く! 直ぐに!! 今すぐに!」

「はぁ? 何だよ危険って? 俺にか? どういうことなんだよ?」

「説明は後でします! とにかく、今はこのミサカを信じて、直ぐに来て下さい!」

「んー、わかった。じゃ、これから出るわ」

「御願いします!!」

せっぱ詰まった顔でまくしたてる検体番号10039号の画像・音声同時通話にせかされるように、当麻は寮を出た。

果たせるかな、その15分後、当麻の寮に2人のミサカが現れた。

1人は検体番号19090号、そしてもう一人は検体番号17600号、であった。



そして、今、二人は検体番号10039号の部屋にいた。

「はぁぁぁぁぁ? なんだそりゃ?」

「そうなのです。上条さんはこれから数千人のミサカに追われることになります」

「ちょっと待てよ、信じられねぇよ。そんな、バカな……」

「事実です。既にミサカが上条さんの寮の前にいます。危ないところでした。おそらくこれからその数は加速度的に増加するものと思われます」

「なんでそうなるんだよ……」

「当分の間、寮へは戻れないでしょう……申し訳ありません、とこのミサカはミサカを代表して上条さんに陳謝します」

「いや、そんなことはいいよ。で、それは止められないのか?」

「恋する女は盲目ですから。今まではお姉様<オリジナル>の存在がブレーキ役を果たしていましたが、この雑誌の」

検体番号10039号は週間シャッターを当麻の目の前に置く。

「はぁぁぁぁぁ? なんだこれ!? またこんな事書かれてるのかよ!?」

「検体番号13577号と検体番号19090号が、この真偽をお姉様<オリジナル>に確認したところ、お姉様<オリジナル>はこの話を否定されませんでした」

「……」

「それで、ブレーキが外れたミサカたちは、一斉に走り出したのです」

(美琴……)

――― もう、あんたを愛せないから! ――― 

美琴の言葉が胸に突き刺さる。

その美琴にそっくりな検体番号10039号が目の前で、当麻の顔を注視している。

なんでこうなっちまったんだろうか、と当麻はギリと唇をかむ。

「念のため、お聞きしますが、この話は本当なのですか?」

「お前、俺のこと、ネットワークに流すのか?」

「否定されるのであれば、流した方が良いのではないですか? ですが、肯定されるのであれば、今さら流しても仕方ありません、とミサカは考えます」

「いや……今、俺と美琴との関係は最悪ってところだ。この雑誌が書いているとおり、だな」

「……そうなのですか……お姉様<オリジナル>と上条さんとは、羨ましいくらい仲が良かったカップルだったのに、どうしてそうなってしまったのですか?」

不思議そうな顔で検体番号10039号は当麻に訊いてくる。

それがどれほど当麻の耳に痛い質問なのか、彼女にはわからない。
775 :LX [saga sage]:2012/06/11(月) 00:15:01.48 ID:FxMeYeFV0

「……俺のせいなんだ。詳しくは言えないけれど」

目の前にいる検体番号10039号は全くの別人ではあるが、まるで美琴に責められているように当麻は思う。

「何か、お姉様<オリジナル>を傷つけるようなことでも?」

グサっと心に届く言葉の刃。

「すまん、許してくれ。それ以上は言えないんだ。絶対に」

苦しそうに答える当麻。

「苦しんでいらっしゃるのですね? でも、お姉様<オリジナル>はもっと辛いのではないかと、このミサカは思っています」

そうだろうな、と当麻も思う。

プライベートなことを何度も興味本位で書かれ、そして妹達<シスターズ>からも責められ……

(俺はあいつの世界を守る、って言ったのに、何一つ出来ていやしない)

「このミサカも、上条さん、あなたを慕うミサカの一人ですが、まだ、あなたはお姉様<オリジナル>を愛していらっしゃるのですか?」

かすかに頬を染めて、いきなりとんでもないことを言い出した検体番号10039号。

「え? お、お前もそ、そうか?」

「当たり前ではないですか? 好きでもない男性を、自分の部屋に上げるような女性がいると思いますか?」

ほんのりと頬を染めた検体番号10039号にキッ、と思い切り睨まれた。

確かに、そうだ。普通は、ないよな、と当麻は思う。

そう思い至ると、急に当麻は女性の部屋にいる、ということを意識し始めた。

部屋に漂う女性の香り。香水のような、石鹸のような、ほのかな、とても心地よい香り。

調度品も、慎ましやかではあるが、センスの良いもの。実用一点張りの自分の部屋のものとは全く違う世界。

「女性の部屋をじろじろ眺めるのはマナー違反だとミサカは思いますが?」

まったくもう、と言う目で検体番号10039号が睨む。

「あ、ああ。す、すまん。ちょっと意識しちゃってさ」

ゴメンゴメンと手を振る当麻に、ふっと微笑んで答える検体番号10039号。

「ふふ、でも、上条さんに興味を持ってもらえるのなら、ミサカは全然気にしませんよ? とミサカはちょっと誘惑してみます」

「お、おいおい?」

まさかお前もか? と少し後ずさりする当麻。

「まぁ、何もそう露骨に避けなくても良いではありませんか? と少し気分を害したミサカはふくれっ面をしてみます」

フン! と拗ねるミサカ、検体番号10039号。

「お前、結構気分屋なのな……」

「男性の気を引く仕草、というものをを実行してみただけです、とミサカは種明かしをします……それで、先ほどの答えはまだでしょうか?」

いたずらっぽく笑った彼女は真面目な顔になって答えを迫る。

「あいつは、もう俺を愛してないって言い切ったけど……俺は今でもあいつが好きだ。あいつの全部が好きだ。今さら言えた義理じゃないけどな」

当麻は美琴に言うかのように、検体番号10039号の顔を見すえて答えた。

「お姉様<オリジナル>にそう言えば良かったのに、とミサカの顔を見ながらお姉様<オリジナル>に言うべき言葉を吐いた上条さんに、少し気分を害したことは内緒にします」

自分ではなく、美琴を思い浮かべながら答えたことがわかったのか、検体番号10039号は不満の声とかすかに寂しさをにじませて

「上条さんの気持ちは、わかりました」と答えた。
776 :LX [saga sage]:2012/06/11(月) 00:22:54.65 ID:FxMeYeFV0

「ならば、上条さんは、ミサカたちの前でそう言いきるべきだと思います」

検体番号10039号は言葉を続ける。

「それで、引き上げてくれるだろうか?」

「わかりません。お姉様<オリジナル>がそう仰ったのであれば、むしろ逆効果の可能性もあります。

ならば、このミサカが上条さんを振り向かせて見せるわ、と言う方向に進むかもしれません……いえ、そうなるでしょう。

すみません、先ほどの意見は撤回します」

あっさりと彼女は「ミサカ達の前で宣言すべき」という案を引っ込めた。

「どうすりゃいいんだよ……」

「一番良いのは、上条さんとお姉様<オリジナル>とがよりを戻すことが一番でしょう。このドタバタ騒ぎの前提が消えるのですから」

「それが出来ればなぁ……一番良いんだけれどな、俺にとっても……でも、それは無理だ」

当麻は頭を抱える。

悩む彼の姿を見た検体番号10039号はすっと立ち上がり、当麻の傍に身体を寄せた。

彼女の身体が発する熱と、化粧の香りに気づいた当麻は顔を上げると、直ぐ目の前にミサカの顔があった。

「おぅ? びっくりさせるなよ?」

だが、そんな当麻にかまわず、彼女は彼の目を見つめ、

「あまり良い方法ではありませんが、もう一つあります」

そう、検体番号10039号がささやいた。

「え?」

「上条さんが、このミサカを選ぶことです」

そう秘めやかに言うと、彼女は自分の唇を当麻の唇に押し当てた。

彼女の腕が当麻の身体に絡みつく。



当麻はミサカを見る。

閉じた目に、美しくカールしたまつげ。形のよい小鼻が少しひくつく。

ひたすら、当麻にしがみついて震えるその姿は、


――― 美琴と同じ ―――


思わず、当麻は唇を引き離し、ささやく。

「ミサカ、お前の気持ちはわかった。でも、すまない、お前の気持ちに答えられないんだ。わかってくれ、ごめん」

「あなたというひとは、どうしてこういう時に、そういう無粋なことを……」

恨めしげな上目遣いで睨む検体番号10039号。

彼女はまだ腕を当麻の首に絡めたままだ。

「このミサカの、初めてのキスだったのに」

「すまん」

「ミサカと一緒にツーリングに行く約束もまだだし」

「……そうだった、な。ごめん」

「勇気を振り絞って言ったのに、ミサカのアプローチは受け入れてくれないし」

「申し訳ない」

「全部、あなたへの貸しにしておきます。ミサカとのデートを忘れたら、酷いですよ? 今のこれ、ネットワークに流しますから」
777 :LX [saga sage]:2012/06/11(月) 00:31:26.46 ID:FxMeYeFV0

「お、おいおい、それはないだろ?」

あわてる当麻。

強引にキスされたのは俺の方なのに、と彼は思う。

「冗談です。これは、このミサカの一生の宝物の記憶です。他のミサカになど渡せるものですか、ふふ」

小声で笑う検体番号10039号。しかし、彼女の目が笑っていないことに当麻は気が付いていた。

「もうひとつ、あなたにお聞きしたいことがあるのですが」

彼女はようやく腕を解くが、今度は彼の傍にすり寄り、肩に頭を載せた。

シャンプーの香りが当麻の鼻をくすぐる。

「検体番号10032号の行方がずっとわかりません。あの医者に訊いても教えてくれません。あなたは、何か聞いていませんか?」

思わず当麻の目がピクリと動くが、ミサカが顔を上げたのはその後だった。

「いや、何も聞いてない。連絡が取れないのか? いつから?」

嘘をつかねばならないことに、当麻の胸は痛む。

だが、絶対に言うわけにはいかない。

「本当ですか? 検体番号10032号のことですから、『あなた』には何か伝えているのではないかと思っていたのですが……そうですか……。

『あなた』にも言えないということは、本当に極秘事項の仕事なのですね……」

「無事なのか? そこらへんはどうなんだ?」

無事もなにも、彼女は今や立派な妊婦だった。お腹の中にいる、自分の子と共に。

「無事なのは間違いないようです。その点では安心しているのですが……あの医者はそこまでウソは付かないでしょうし」

「やっぱり心配なんだな」

「もちろんです。同じミサカですから……いえ、ミサカの中で、検体番号10032号は誰よりもあなたに恋い焦がれていました。憎たらしいほどに。

お姉様<オリジナル>から、あなたとの婚約が決まったと聞かされたあと、このミサカは検体番号10032号と愚痴をこぼし合ったのですが、突然彼女は走って行ってしまいました……。

その後、一度も会っていません。検体番号10032号はもともとネットワークにはあまり接続しないミサカでしたし……!!??」

突然、検体番号10039号の顔に緊張が走る。

「当麻さん、靴を履いて下さい」

「ん? どうした?」

「ミサカが接近中です。微弱ですがミサカ達特有の電磁波を感知しました。1人のようですが……当麻さん、ベランダに出ていて下さい。

運が良ければ追い返せますが、部屋に入られたらアウトです……」

そう言いながら、彼女はベランダに面したサッシを開け、タタキにあったワイヤーステップを下へ投げ落とす。

「これで最悪、下へ降りられます。とりあえずベランダに」

検体番号10039号はそう早口で説明した。

「ありがとう。俺は降りるよ。ミサカは時間を稼いでくれると助かる。いろんな話をしてくれて有り難うな、また連絡する」

そう言うと当麻は片手をひょいと上げて挨拶する。

「はい。待っていますから。これも貸しですからね?」

顔を輝かせて検体番号10039号は満面の笑顔を見せた。



だが、当麻はただではすまなかった。

検体番号10039号の部屋からの脱出には成功した。

しかし、寮の様子を見に戻る途中でミサカの一人に見つかり、かつてのような学園都市内を走り回る追いかけっこが始まったのだった。

その相手は美琴ではなく、彼女のクローンであることが、昔とは違っていたけれど。
778 :LX [saga sage]:2012/06/11(月) 00:39:04.09 ID:FxMeYeFV0



「御坂美琴です。失礼します」

「お久しぶりね。ささ、お入りなさいな」

何度目だろうか、美琴はまた広報委員会の笠原真彩から呼び出しを受けていた。



「呼び出したりしてすみませんでしたね、でもどうしても貴女とお話ししたかったからなの。どうぞお掛けなさい」

「はい。失礼致します」

「コーヒーがいいかしら、それとも紅茶? なんならワインでも大吟醸でもいいのよ?」

「そ、そんな……紅茶を頂きます」

「ほほほ、ホントにお酒って言われたらどうしようかと思ったわ?」

「とんでもない。出頭を命じられて出て参りましたのですから」

「あら、ずいぶん殊勝な心がけね。学園都市レベル5の第二位、お転婆電撃娘も立派な大人になったものねぇ」

「く……いつのお話でしょうか、私、そんな、いつまでも子供じゃありません!」

「ごめんなさいね。ちょっとからかってみたくなったのよ。ま、それだけ言えれば大丈夫かしら」

笠原女史が入れた紅茶に、美琴は口を付ける。



暫くの沈黙の後、再び笠原女史が話を始めた。

「早速だけれど、貴女のクローン、妹達<シスターズ>の事なんだけれど」

美琴の顔が一気に緊張する。

「ここのところ、学園都市に入る彼女たちの数が激増しているのだけれど、オリジナルである貴女は御存知かしら?」

「……」

「彼女たちの生い立ちについては、貴女に責任はないから、そんなことで貴女を責める為に呼んだわけじゃないから安心して頂戴ね?」

「……はい」

「貴女も知っての通り、彼女たちを生み出したのはこの学園都市。

よって、彼女たちが参加するはずだった実験が中止された後、彼女たちの生命を守る責任がこの街にはある。

ということから、生命維持に必要な医療を施す為に、彼女たちは世界各国へと送り出された。

ここや日本だけではとうてい間に合わないから、と言う理由でね」

「……」

「不運な事故等で、何人かは亡くなったけれど」

「……」

「で、そんなことをお話しする為に貴女に来てもらった訳じゃないのよね」

「そう、でしょうね」

「何故、今、彼女たちが大挙して学園都市に入ってきているのかしらね?

さすがにね、入国管理局でも音を上げてるのよ。毎日毎日同じ顔の、殆ど同じ名前の美女が現れてるのよ、世界各国から。

それで全員違う指紋だから別人だしね。

最初のうちは冗談みたいな話で済んでいたけれど、さすがにこう連続して来るとねー。もう冗談を通り越して、問題になってるのよ」
779 :LX [saga sage]:2012/06/11(月) 00:43:17.60 ID:FxMeYeFV0

「……」

美琴は口を引き結び、笠原のボヤキとも文句とも言えない話を聞いている。

「で、入って来た彼女たちも直ぐに出国してくれればまだ良いんだけど、出ていった妹達<シスターズ>がゼロ。ドンドン増えてるわけ。

貴女には本当に迷惑な話でしょうけれど、また昔の都市伝説が蘇ってるのよね。口コミとネットで。ネットは消せるけど、口コミがね……

貴女のことだから御存知よね?」

「聞いています」

「この調子で行くと、4桁に届くのは時間の問題ね。もう900人は入ってるし」

「それで、私へのお話というのは?」

「貴女のプライバシーに係わることなんだけれど、宜しいかしら?」

「覚悟してます」

「ごめんなさいね。わたしもこんな事言っちゃいけないとは思うのだけれど。

貴女が、上条当麻との婚約を破棄したこと、それで彼に思いを寄せる妹達<シスターズ>が空席になった彼の隣の席を巡って大挙押し寄せた、どうかしら?」

「……間違いない、でしょう」

「とんでもないハーレムの話だわよね。冗談でしょうと私も思ったけれど、本当にホントの話なのね。

恋する女、の話なんだけれど、行動力ありすぎよね」

「申し訳ありません」

「だから、貴女の責任じゃないわよ。彼女たちを生み出したここの問題よ。

産まれた彼女たちには責任はない。そして彼女たちの恋路を止めることもね」

「……」

「でも、このままだと、貴女のクローン問題が公になってしまう。

それは私たちにとって絶対に避けなければならないこと。これ以上事を大きくすることは出来ないの。

大至急対策を打たなければならないの」

「まさか、またあの子たちに手を出す、ってことではないですよね?」

美琴は蒼白になりながらも強い視線で彼女を見返す。

「そんなことをするわけがないでしょう? 彼女たちは軍用クローンとして養成されたのよ?

最終的には勝てるでしょうけれど、その為には時間と金と人間の命、学園都市の被害が多すぎるわよ」

そう言って最後に彼女が笑って言う。

「それに今やレベル5第二位の、学園都市の広告塔の貴女を敵に回すわけがないでしょう?」

美琴はホッとしたが、直ぐに一つのことに思い当たる。

「まさか……あの子を?」

「鋭いわね、さすがだわ。そう、もともとこういう時の為に彼女は作られたのだから、彼女に手伝ってもらわないといけないわ」



……最終個体<打ち止め>、検体番号20001号、ラストオーダー。御坂未来(みさか みく)

二万人に上る妹達<シスターズ>を統率する為に作られた特別なミサカ。
780 :LX [saga sage]:2012/06/11(月) 00:47:33.51 ID:FxMeYeFV0
>>1です。

本日分の投稿は以上です。
修正やら投稿コマ調整やらで時間がかかりました。夜も遅いのに失礼致しました。

結局、今までの路線を修正できませんでした。また怒られそうですが(汗

それでは本日はこの辺で失礼させて頂きます。
最後までお読み下さいまして有り難うございました。
781 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/11(月) 01:33:57.48 ID:PUTiiQ3d0
>>1乙。今週は2度見れてハッピーだぜ。
あと、路線修正とかいらないんじゃね?
結末は第一部で見えてるんだし、逆に違和感でそう。
俺はこのスレの御坂妹&妹達好きだしね。
782 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/11(月) 02:00:58.75 ID:dEGlvTwqo
おつおつ
俺もgdgd言ったクチだけど今回の流れにはそれほど不満は無いというか、妹達のお姉様へのスタンスは割りとしっくり来たよ
路線変更というよりもう少しだけ描写を多方面に掘り下げて深みを持たせるだけで違ってくるって事なんだと思う
この先の話も楽しみなんで待ってますよー
783 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/13(水) 00:15:46.73 ID:gQHOVceDO
>>1乙です
10039号とのやり取りがせつないぜ……
784 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2012/06/13(水) 15:30:00.83 ID:hsS+4NiU0
乙ー
このSS見てたら「無自覚」って罪なんだなーと思いました
上条さんしかり 御坂妹しかり
785 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/13(水) 19:05:17.17 ID:MHyUklYy0
10039号、第一部のぐしゃぐしゃの帽子といい、今回といい、報われなさ加減が…。
俺、10039号なら応援したい。
786 :LX [saga ]:2012/06/15(金) 22:00:47.02 ID:3KeMYVEQ0
皆様こんばんは。
>>1です。

毎度コメント頂きまして、有り難うございます。

>>781さま
お褒め頂き有り難うございます。当初、10039号にお姉様<オリジナル>うんぬんの話を始めさせたのですが、
そうすると当麻との初々しいシーンとまるでかみ合わなくなってしまいました。
どっちを取るか? と考えた結果、投稿した内容になっております。

>>782さま
ご説明有り難うございます。
今まではボロが出るのを避ける為、あるいはネタバレするのを避ける為に、とある一方向からの視点のみで
仕上げておりました。
長くなるかもしれませんが、そう言うことにもトライしてみたいと思います。

>>783さま、>>785さま、
有り難うございます。書いている作者も、なんだか10039号が可愛く思えてきておりますw
第二部では難しいので、第三部のどこかになんかイベント作ってあげても(過去の思い出、という形も可能ですよね)
いいかなー、とも思っているのですが、前作では本妻にひっぱたかれてますし……
美琴の目を盗んで……というのは10032号で十分ですから……ぼやかす手もありますねw

>>784さま
上条当麻に限らず、最近のアニメなどでは、ハーレムの中心にいながら女性に鈍感、という現実にはちょっと
居そうもない男性がメイン、というものが多いのですけれど、いくらなんでも嘘くさすぎますよねー。
まぁ自意識過剰すぎて、ちょっとした事に舞い上がってしまって、「アイツは俺のことが好きなんだきっと」と
思いこんでしまうのもまた困ったちゃんですけれど。

御坂妹の感情の動きですが、実はボツ原稿に結構重要なシーンがありまして、それが入っていれば結構締まった
のではないか? 作者以外の方にもよくわかってもらえたのではないか?と今になって思うのですが、
前提条件(主として、シーンの場所、そしてその時の彼女の精神状態等)がまるで異なっておりまして、
それを入れると全く違う話になってしまいます。やむなく物語の流れからその部分をカットしてしまいました。
まとめに載った時に(載りますかね?)、その部分は作り直しになりますが、修正できたらなと思います。

それでは、イレギュラー時間の投稿ですけれども、本日分、これより始めます。
宜しく御願いします。
787 :LX [saga sage]:2012/06/15(金) 22:06:24.02 ID:3KeMYVEQ0

(あの子を……使う、というの?)

美琴は愕然とする。

そんな美琴を見ながら、笠原女史は話を続ける。

「まぁ、そう大げさな内容じゃないし、ここ最近彼女を使っていないしね。久しぶりの指示としては無難だし、まぁ良いかなと思って。

おそらく彼女だって、事の起こりはね、そのネットワークで当然知っているでしょうから、協力はしてくれると思うのね。

いえ、協力してもらわないと困るの。そう……してくれないと、ね……。

当人たちは真剣でしょうけれど、違った意味で私たちに取っても、これは結構真剣な問題なのよ?」

(してくれないと、って……もし、協力しなかった場合は、このひと、どうするつもりなのだろう?)

美琴は、彼女の発言の裏に隠された本音を必死で考えようとする。

とにかく、このひとにしゃべらせなければならない。そう考えた美琴は、彼女に言葉をぶつける。

「まさか、私にその席に同席しろと仰るのですか?」

「そんな恥ずかしいマネはさせないわよ。これは単なる事前通告よ。貴女にも関係する話だしね」

即座に笠原女史は否定した。

その後に続いた『事前通告』、という言葉の意味を美琴は考える。

つまり、このひとは、いや、学園都市は勝手に事を進める、と言うことなのだ。

問題は、その内容がどういうものか、だ。

素直に妹達<シスターズ>が言うことを聞けば、話は簡単に済むかも知れない。

だが、そうならなかった時は……?

「あの子が納得するでしょうか……」

「してもらわないと困るわね。万一、そうなったら……そうね、そのときこそ貴女に頼もうかしら。

そうね、一番良いのは……事の起こりである貴女と彼の関係が戻るのが良いけれど、さすがに無理よねそれは」

「な、なんて事……そんな無茶な……無理です! お断りです! 当たり前です!」

思わず美琴は感情的に反発した。

私に、アイツに、あのバカに頭を下げろというの?

違う! アイツじゃない。

あの子に、あの子に私が屈するなんて……冗談じゃない!

怒髪天を突く勢いの美琴に、笠原女史があらあら、と言う顔でなだめにかかる。

「おお、怖い。冗談よ、冗談。言い過ぎたかしら……でも、どうしてそうなっちゃったのかしらね? 不思議だわ」

「どうでもいいでしょう? それこそ、プライバシーの問題です! 二人の間で決めたことですから!」

色をなしてくってかかる美琴。だが、笠原女史の次の言葉はそんな美琴を黙らせるものだった。



「他に、いいひとが出来たとか、かしら? よくある話だけど」
788 :LX [saga sage]:2012/06/15(金) 22:12:14.00 ID:3KeMYVEQ0

思わせぶりなその発言に、美琴は言葉を失った。

そんな美琴に、笠原女史は衝撃的な二の矢を放つ。

「しかも、その子に子供が出来ちゃった、とか……まさかね、そんなことはないわよね?」

「……!」

「あら、何、どうしたの、その顔? いやだ、これも冗談よ、冗談。ごめんなさいね。聞かなかったことにして?

……まぁ言えないわよねぇ、『妹達<シスターズ>』の一人に彼の子が出来たからだ、なんてとんでもないスキャンダルよね、ふふ」

終わりの方は、あたかも独り言のごとく、しかし、美琴にはちゃんと聞こえるように計算したかのように。

「……!!」

予想もしなかったその内容に美琴は蒼白になる。

「ごめんなさいね、ちょっと冗談がきつかったかしら……やだ、どうしたの、そんな顔して? あらあら、まさか、図星? まさか」

(冗談? 冗談なわけがない! このひと、知っている。間違いなく知っている……どうして?)

美琴は、今さらのように、学園都市に怒りと、そしてその底知れぬ闇の中にうごめくものに、かすかに恐怖を感じた。



「あらいけない、お茶が空っぽね? ごめんなさいね、気が利かなくて……紅茶おかわりする? それともコーヒーとか他のものがいいかしら?」

とってつけたような彼女の言葉に、ようやく美琴は言葉を返した。わずかに震える声、で。

「お話は……もう終わり、ですか?」

「ええ、終わりよ。最後のことは余計だったわね、ごめんなさいね」

軽く小首を傾け、会釈する笠原女史。

即刻立ち上がろうとした美琴に、だが笠原女史はまたも独り言のようにつぶやいた。やはり、彼女にいい聞かせるように。

「いいこと、御坂さん? 全部忘れなさいな。彼の過ちも、その結果起きたことも。何もなかったのだから、ね?」

(何も、なかった?)

思わず、美琴の背を、ぞわっと悪寒が走る。

笠原女史の顔は、今度は笑っていなかった。 

「すごくひっかかるんですが、そのお言葉に」

笠原女史を睨み付け、この私に喧嘩を売るおつもりですか? とでも言うような切り口上で返事を返す美琴。

「ひ・と・り・ご・と、よ。言ったでしょ?『聞かなかったことにして』と私、言ったでしょ?」

しかし、柳に風とばかりに美琴の言葉を受け流した彼女は、二人以外には誰もいない空間に向かって指示を出す。

「御坂さんが帰られるそうよ? 御案内して頂戴」

「承りました」

スピーカーから、応答の声が聞こえ、暫くしてドアにノックの音が響いた。



乗り込んだタクシーに自分の寮の場所を伝えると、美琴は大きくため息をつき、深々と身体をリアシートに沈めたのだった。
789 :LX [saga sage]:2012/06/15(金) 22:19:28.92 ID:3KeMYVEQ0



着替えもせずに自分のベッドに寝転んだ美琴は、身じろぎもせずに天井の一点を見つめていた。



彼女は驚愕していた。

主に3つの点で。



1つは、御坂妹こと検体番号10032号に子供が出来たことで、美琴が婚約破棄を伝えたことがばれていたこと。

婚約破棄自体は既にミサカネットワークにばれているから仕方がない。しかし、子供の話を何故笠原委員が知っているのか?



2つ目は、押し寄せている妹達<シスターズ>を排除する為に、御坂未来(みさか みく)、最終個体<ラストオーダー>を使う、と明言されたこと。

彼女本格的に使用するのはここ美琴が知る限り恐らく、初めてだろう。

(*実は彼女が知らないだけで、既に実績はあった)

不明な点は、彼女が拒否した場合、学園都市統括理事会がどのような手段を取るか、である。



そして、3つめ。

最後に投げかけられた、言葉。

彼、つまり上条当麻の過ちも、その結果起きたこともなかったことになる、とは?



美琴は思わずかっと頭に血が上るのを感じ、ぶるっと身震いした。

――― そんなこと、決まっているわ ―――

御坂妹こと検体番号10032号。

――― あの子を、あるいはお腹の子を、最悪は両方とも ―――

――― どうにかする ―――

ということだ。
                
ここ<学園都市>ならば、ここ<学園都市>には、そんなことをやりかねない連中が、確かにいる。



あれは冗談でも何でもない。明らかに、あのひとは知っていた。あの子に子供が出来たことを。

どこから知ったのか?誰がしゃべった?

ううん、もう、そんなことはどうでもいい。



――― あの子に危険が迫ってる ―――



電話をしようとして、彼女は一瞬ためらった。

御坂妹とあいつが呼ぶ、唯一のクローン、検体番号10032号。

彼女の顔が、勝者の顔が、美琴を躊躇させた。
790 :LX [saga sage]:2012/06/15(金) 22:29:46.69 ID:3KeMYVEQ0

再び、どす黒い声が心にささやく。



ふぅん、あなた、許せるの?

あの子のおなかの中には、あいつの子がいるのよ?

あなた、その赤ん坊を笑って抱ける?

あなたが愛したあの男は、あなたではなく、あのおんなを抱いたのよ? セックスしたのよ?

あのクローン<おんな>は、あいつに抱かれて、悦びの声を上げたのよ?

あいつのの唇が、指が、舌が、あなたのクローン<コピー>の唇を、胸を、秘所を舐め、さわり、愛撫し、

そしてあのクローン<おんな>の膣に精を放ったのよ?

あのクローン<おんな>は、あなたを見て、勝ち誇ったのよ?

あなた、それでも、あの子を助けるの?

あのおんなが産む、赤ん坊を助けるの?

さすが、お姉様<オリジナル>ね、素晴らしく、良くできたひとね?



「止めて!!!!!!!!!!!!!」

美琴は立ち上がった。



私を……

私を……なめるな……

私は、御坂美琴、みさか みことだ。

私は、誓ったんだ。

私は、絶対に、あの子たちを見捨てない!!!



例え、あの子が、私を裏切ったとしても。

例え、あの子が、私を出し抜いたとしても。



オリジナルとして、私は誓ったんだ。決めたんだ。

あの子たちを、二度と実験動物扱いさせない、道具扱いさせないと。

絶対に、あの子たちは、殺させない!



「絶対に、そんなこと、させるもんか」

改めて、そう美琴は自分に誓った。
791 :LX [saga sage]:2012/06/15(金) 22:42:13.56 ID:3KeMYVEQ0

  

どれくらいの時間が経ったのか、美琴は、またあの河原に立っていた。

既に、あたりは夜のとばりが降りていた。

(なんで、私、またここへ来ちゃったんだろう……?)

数ヶ月前、上条当麻から「御坂妹に子供が出来た」という、とんでもない話を聞いたあとに、やっぱりここに来たことを思い出す。

(あの、バカったれ!)

こめかみに青筋が浮かぶ。



反射的に美琴はポケットに手を突っ込んだ。

(アンタなんか、あの子とくっついてたら良いのよぉぉぉぉぉぉっっっっ!!!!!!!!)

夜空に向かって、高々とコイントス。

美琴は落ちてきたコインを弾き、レールガンをぶっ放した。

――― ズドゥム ―――

オレンジ色に輝く光の線が、重い衝撃波と共に夜空を引き裂いて、消える。



(誰のおかげで、今の今まで、あんた、生きて来れたと思ってんのよぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!)

――― ズドゥム ―――

再び、オレンジ色に輝くエネルギー線が、闇を裂いて、消えた。



(私に、私に、どうすればいいって言うのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!)

そしてもう一度。

――― ズヴォォォム ―――

一番長く、太く輝く光の線が雷のような大音響と共に夜空に走り、そして四方に放電と落雷の如き残響をぶちまけながら、やがて消えていった。



最後に強烈な一発を放ったあと、彼女はそこへへたり込んだ。

はぁはぁと荒い息を吐く美琴は、自嘲の笑みを浮かべ、夜空を見上げ、誰ともなくつぶやいた。



「姉なんて、なるもんじゃないわね」
792 :LX [saga sage]:2012/06/15(金) 22:52:28.30 ID:3KeMYVEQ0
>>1です。

本日投稿分、以上です。
相変わらず短くて済みません。

状況の御報告も少し。
送別会の連続で少々しんどいですw
幸い、書きためがある部分なので、なんとかなっています……が、この次をどう繋げるかがはっきりしてません。
一応書きためはあるのですが、そこまで一気に飛ぶか、間にイベントを新たに挟むか……
日曜の投稿は今現在未定です。
また、来週は送別会がない時は段ボールへの詰め込み作業のはずなので、ちょっと状況が読めません。
最悪、新天地での投稿になるかもしれません。その場合は7月まで間が空くことになりそうです。

それでは本日はお先に失礼致します。
最後までお読み下さいまして有り難うございました。
793 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/17(日) 12:10:41.55 ID:T+kFnh1Po

自分のペースでやってくれよ。待ってるから
794 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/18(月) 13:08:31.19 ID:kbYrAQhzo
それでも姉である事を辞めない美琴さんを心から応援する
待つのには慣れてるので無理せず頑張ってくだせえ
795 :LX [sage]:2012/06/25(月) 22:18:35.98 ID:8KjnOOmQ0
皆様こんばんは。
>>1です。
生存&現状報告です。


コメント有り難うございます。

>>793さま
有り難うございます。無理はしないようにしています。
まぁ、不思議と締め切り前になるとアイデアが出ることが多いので、なんとか続けていくことが出来てます。

>>794さま
なんとか第二部のエンドに繋がる形に持って行けそうです。
書きためをドン・ドンと投稿してしまうことも出来るのですが、説明抜きに場面を進めますと、
また前作の終わりの如く、はしょりすぎになってしまいそうなので……


さて、いよいよ明日お引っ越しです。会社の荷物整理はようやく完了しましたが自分のは全然(笑
プロにおまかせするしかないと諦めてます。

社宅そのものには光ファイバーが来ているのですが、自分の部屋には前の人が希望しなかったのか、
末端線がありませんでした。
NTTに工事を依頼しておきましたが、さて間に合うのかどうか……

それでは、開通次第、また御報告しますので、今暫くお時間を頂戴します。
宜しく御願い致します。
796 :LX [sage]:2012/06/29(金) 20:44:13.23 ID:uXbwRM890
皆様こんばんは。
>>1です。

新天地からのカキコです。
とりあえず引っ越しましたが、ここのところ連日荷物整理に悪戦苦闘しています。
まだ作品に手を付けられません。
申し訳ありませんが今暫くお待ち下さると嬉しいです。

それでは、また。
797 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/29(金) 20:48:34.83 ID:K63xyIlpo
報告乙です
いつまでも待ってますよ
798 :LX [sage]:2012/07/12(木) 23:59:24.31 ID:8NztQsLY0
皆様こんばんは。
>>1です。

新シリーズを書き始めて1年が経過してました。まだ第二部が終わらないというのはかなり遅いですね……。

部屋はちっとも片づいていないのですが、とりあえず最低限のものは出せて生活パターンもほぼ決まってきましたので、
最近ちょこちょこと書きため始めました。
程よいところまで書いて投稿する予定ですので、もう少しお時間を下さい。
宜しく御願い致します。

生存報告ですみませんでした。
799 :LX [saga]:2012/07/22(日) 20:34:57.33 ID:xs0nTr/s0
皆様こんばんは。
>>1です。

前回の投稿から1ヶ月ちょっと空いてしまい、大変お待たせしてしまいました。
どうもすみません。

短いですが本日分、これより投稿致します。
宜しく御願い致します。
800 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/22(日) 20:36:27.49 ID:htGkCafmo
待ってました!
801 :LX [saga sage]:2012/07/22(日) 20:38:18.02 ID:xs0nTr/s0

「おはよう、当麻」



それは、朝一番に美琴からかかってきた音声通話だった。

当麻は緊張する。

決定的に嫌われた、もう修復出来ないだろう、そう思っていた矢先に美琴からの電話。いったい何の話だろうか、と。

「美琴? どうしたんだ、何かあったのか?」

「私のことなんか……どうでもいいのよ。それよりね、今から会える?」

「うん? かまわないけど?」

「良かった……あのね、あんたにやって欲しいことがあるの。あんたにしか出来ないことをね」

「え……? そりゃかまわないけど。何をすれば良いんだ?」

「会って話すわ。電話じゃ盗聴されるから。で、あんた、今、どこにいるの?」

「俺か? 友達の家だ。寮にはちょっと帰れなくてね」

「……そっか……そうよね……ごめんなさいね。あの子たちのせいね」

「い、いや、気にすんな。お前のせいじゃないさ」

「あんたね、第十二学区あたりで知ってるところない?」

「第十二学区? 珍しいところを、なんでまた?」

「いいから。あのシスターがらみでもいいわ。どこかない?」

「……聖オルソラ教会ってのがある。住所はxxxx、xxxxだが?」

「検索するわ……わかった。あんた、直ぐ出られそう? お金ある?」

「なんだよそれ? お前ほどじゃないけど、出かけるのには不自由しないぞ? まさかお前、お金がいるのか?」

「誰がよ、バカね。あんたが、またサイフごと落っことして、待ち合わせに来れなくなったら困るから聞いただけよ。

じゃ10時にそのオルソラ教会の入り口、直ぐ来て?」

「……わ、わかった。あの、みこ……」

美琴からの電話は一方的に切れた。



「どうした、カミやん? もしかして、彼女から呼び出しかにゃー?」

聞き耳を立てていたのだろうか、土御門元春が興味津々という顔で当麻に話しかけてくる。

「そんなところだ。ちょっと行ってくる」

「ほぉぉぉぉ? 冗談のつもりがヒョウタンから駒ってかにゃー、仲直りするんなら応援するぜい? 頑張ってにゃー?」

「あんがとな。ここ、助かったぜ」

「お安い御用だぜよ」

妹達<シスターズ>を撒くことに成功した当麻は、土御門の家に潜んでいたのであった。
802 :LX [saga sage]:2012/07/22(日) 20:44:53.76 ID:xs0nTr/s0

「じゃ、いいわね? 頼んだわよ?

……あ〜あ、あの子たちのことで、あんたにまた借りが出来ちゃったわね……」

終わりの方は殆ど独り言のようであったが、美琴は話を締めくくった。



美琴と当麻は久方ぶりに顔を合わせていた。

科学の街である学園都市において、日本古来の寺社仏閣、あるいはキリスト教における教会、イスラム教におけるモスク等はここ第十二学区に集中して置かれている。

ここ聖オルソラ教会はローマ・カソリックであり、欧米系らしき10数人の中には日本人らしき人の姿はなかった。

二人はそこの小会議室を借りて、話をしていた。



「いや、それは貸し借りとか、そういう話じゃないだろ?」

「いいの。私の気分の問題だし……それから、あんたをかくまってくれてるのは、舞夏のお兄さんの土御門元春……さん、で間違ってないのよね?」 

「ああ、そうだけど? 何かあいつに?」

「ちょっとね。で、会ったら伝えて欲しいんだけど、いい?」

「あ、ああ。直接言えないことなのか?」

「詮索無用よ。いい? 『決めた』って言えばわかるから」

美琴はピッと人差し指を立てて当麻の唇に押しつける。



(ん? 機嫌はいい……ってことだよな?)

美琴の機嫌が良いこと自体は、なにも悪くない。でも、いったい何を美琴は「決めた」のだろう? 

当然ながら当麻は疑問に思う。

だが、美琴のふっきれたような顔は、そして彼女の目は、その質問を許さないものだった。

「わかった。言っておくよ」

「ありがとう」

「それで、美琴、あのさ……」

「なに?」

「くどいかも知れないけど……未練たらしいって思うだろうけど、俺は、俺はやり直したいんだ。

お前からすりゃ、その、随分と虫のいい話だとは思うんだけど……でも、俺は自分を偽れない。お前を愛してる。お前だけを、だ」

真剣に、美琴の目を見すえて語りかける当麻。

「ありがと。それくらい真剣にやってくれるなら大丈夫だわね」 

斜に構え軽く流す美琴。

「バカ野郎! 俺はそんなつもりで言ってるんじゃない! これは本気なんだ! わかってくれ、頼む、本気なんだ! 美琴!」

頭を下げてひたすら許しを請う当麻。



しばらくの沈黙のあと、美琴は立ち上がり、当麻の傍に来ると、身体をかがめて当麻の目を見すえながら小声でささやく。

「本気なの?」

「もちろん」

「……じゃ、抱いて」

美琴の目は笑っていなかった。
803 :LX [saga sage]:2012/07/22(日) 20:55:06.42 ID:xs0nTr/s0

「こんばんは、お姉様<オリジナル>! 珍しいですね、あのことですか?」

「こんばんは。さすがね、そのとおりよ、未来(みく)」

美琴は、懐かしい場所を訪れていた。

彼女が高校での3年という月日を過ごした、女子寮である。

自分と同じ高校の制服を着ることになった、御坂未来(みさか みく)、検体番号20001号、最終個体<ラストオーダー>こと「打ち止め」。

美琴は、そこにかつての自分を見るような思いだった。

「あの人」の心の傷に触れたくないから、自分の能力の問題から、そして「お姉様<オリジナル>の後追いはいや」という思春期の反発心から、彼女は常盤台中学に進学しなかったことは前にも述べたとおりである。

しかし、高校では彼女は美琴と同じ高校を選ぶことになった。

何故かと言えば、それはその高校に、一時期ではあるが彼女の親代わりを務めた黄泉川愛穂、その彼女が今も先生をしていたからである。

そして、未来から連絡を受けた一方通行<アクセラレータ>が、「いちいち連絡してくんな、クソッタレ」と言いつつも、密かに安心していたのは紛れもない事実であった。

「……このミサカにもちょっと手に負えないかなって……。

昔は、あの頃はみんな、今のように各個体の個性もほとんどなかったし、だから、上位個体であるミサカの命令で全員が一致乱れずに行動も出来たんだと思う。

でもね、今は随分違う。どのミサカにも個性が表れているの。ミサカのみんなが、それぞれ違うミサカになりつつある。

だから、昔みたいにわたしが、このミサカが命令しても、他のミサカが素直にはいそうですかと言うことを聞いてくれるかは未知数なの。

最悪の場合、ミサカが『力ずく』でやることは出来るけれど、それは今となっては本当に最後の手段になるから、滅多なことでは使いたくないのね」

ため息をつきながらも慣れた手つきでコーヒーを入れる未来。

(あいつに仕込まれた、って感じかな) 

その姿を見る美琴は、ふと一方通行<アクセラレータ>を思う。今はどうしているのだろう? と。

「それがね、ちょっとまずいことになっちゃってるのよ……ううん、まずいどころじゃない、あんた達、危ないのよ?

先日、統括理事会の中の人に呼ばれてね、いよいよとなったら、あんたの力を使うことになるって脅しまで言われちゃって。

今回はホント参っちゃってるのよ……」

頬づえをつき、物憂げにスプーンでコーヒーをかき回す美琴。

「あら、お姉様<オリジナル>ともあろう人が、随分と弱気なお言葉を? なんか、珍しいですよねー」

そんな美琴に、未来は軽い調子で皮肉を飛ばす。

「失礼ね。いいじゃないの、姉に愚痴ぐらいこぼさせてよね」

どこか心ここにあらず、と言う感じの美琴に、未来はこれならどうだ、と直球を投げてみた。

「時にお姉様<オリジナル>、本当に、いいんですか? あれだけ好きだった人を?」

だが、美琴はその質問に答える前に、彼女に逆に問いただしてきた。

「未来? 念のため聞くけど、今、あんたネットワークに流してるの、これ?」

「いいえ? お姉様<オリジナル>がいらっしゃる、と聞いた時から私、本当はいけないんだけど繋いでないの。

だからお姉様<オリジナル>、何を話しても大丈夫だから、安心して?」

にっこりと笑う未来。屈託のないその笑顔を、汚れなきその笑顔を美琴は羨ましく思う。



打算で動くような「おとな」にだけはなりたくなかった。

だが、その「おとな」にならざるを得なかった自分。

汚れてしまった自分。

だけど。

身勝手だとは思うけれど、自分の勝手な願いだけれど、この子には、この子の笑顔は曇らせたくない。

美琴はそう思うのだった。
804 :LX [saga sage]:2012/07/22(日) 21:01:43.13 ID:xs0nTr/s0

一方その頃。

当麻は、築地の御坂妹のウィークリーマンションを訪れていた。

「あなた? 今日は予定ではなかったのに、いったいどうしたのですか?」

驚いた表情の中にも、彼の来訪を喜ぶ御坂妹。

彼女のお腹は今や十分にその存在を誇示しており、顔も少しむくんだように見える。

だが、今はそれよりも。

「ああ。お前のことで、ちょっと気になる情報があってね。美琴と相談して、お前を一旦違う場所に移ってもらうことにしたんだ。

身重のところ、すまないな」

「いいえ。ですが、このことは先生には連絡したのですか?」

「ああ、もちろんさ。行き先も教えてある。聖ルカ病院での診察は今まで通りだから、ちょっと遠くなるのが問題だな」

「一体何ごとですか? その、私のことが公にでもなったのですか?」

「まさか。ああ、でもな、確かに公にはなってないが、知った連中の中にお前に手出ししそうな奴らがいるって話があってな……」

御坂妹の顔が険しくなる。

「まぁ、実際にちょっかいをかけてくる可能性はゼロに近いらしいんだが、念を入れた方がいいだろうってことでさ。

荷物、持っていけるか? ウィークリーマンションだから、着るものくらいかな?」

「本があります。衣服はそれほど多くありません。そっちは私が運びますから、あなたは本を御願いします」

「いや、お前は身重なんだから気にすんな。そこに座ってればいいよ?」

そう言ってクロゼットに向かおうとした当麻の腕を、顔を赤くした御坂妹がガッチリと掴む。

「あなた? もうあなたってひとは……少しはミサカの、女性の身になって考えて下さい! 『衣服』には下着だってあるのですよ?」

一瞬、はた、と立ち止まった当麻はすっと赤くなる。

「あ、そ、そうか。そうだな。そりゃそうだ……わかった! すまん。じゃ本を俺持っていくわ。台車取ってくる!」

そう言うと彼はあたふたと玄関から飛び出してゆく。

「まったくもって、あのひとは……勝負下着ならともかく、こんな妊産婦用の下着みたいな、色気も何もないものを見せられるわけがないでしょう……」

ブツブツと文句を言いながら、御坂妹は袋にパッパッと肌着類を詰め込んでゆく。

(そう言えば、わたしはどこへ連れて行かれるのでしょうか?)

肝心な事を聞いていない、と御坂妹は玄関を見つめ、戻ってきたら直ぐに聞こうと考えながら、衣服をハンガーから外し机の上で畳んで行く。



その机の上にあるもの。

数冊の育児本、そしてかき集めた情報をプリントアウトしたファイル、胎教に良い音楽を聴く為のミニコンポセット……

805 :LX [saga sage]:2012/07/22(日) 21:10:37.63 ID:xs0nTr/s0
>>1です。

短いですが、本日投稿分は以上です。
本当ならば、次のコマを投稿してちょうどキリがよくなるのですが、どうにもこうにも難しく、
今ひとつ「これでよし」というものが出来上がりません。
ここが出来上がれば次のイベントはスムースに流れるのですが(当初は一気に進めるはずでしたが)
どうにも糞詰まり状態でしたので、プレッシャーも兼ねて見切り発車致しました。
長い間お待ち下さいました読者の皆様には大変失礼かと存じますが、何卒ご容赦下さいませ。

>>800さま
速攻のエール、ありがとうございました。
頑張ります。

それではお先に失礼致します。
806 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/22(日) 21:13:03.14 ID:htGkCafmo
乙でした
今回の話を読んでて『わかってる何時までも夢見る少女じゃいられなーい♪』って歌詞思い出した
807 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岐阜県) [sage]:2012/07/23(月) 17:22:59.86 ID:U7b3ELMQ0
乙です
忙しい中更新ありがとう! 
無理せずマイペースでいいので、今後ともお願いします
808 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/24(火) 15:06:09.25 ID:EDZdh/PC0
>>1乙。引越しお疲れ様。また読めて嬉しい。
一箇所気になったけど、キリスト教じゃなくて十字教、ローマ・カソリックもローマ聖教とかの
方が禁書っぽい気がしたんだが、このSSじゃ別物扱いって認識で読めばいいんだよね?
809 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/24(火) 23:37:05.20 ID:79kd8IX4o
イスラムって禁書的には何教だろう
三日月教?
810 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/26(木) 20:46:40.51 ID:FrbflOvWo
乙です。
しかしこれは一麻どころか真琴さえも祝福されて生まれてきた感じがしなくなってきたな
前作の麦のん佐天親子の方が生まれ方は特殊だけどよっぽど愛されて生まれ育まれてきた感じがww
もはやヒーロー属性ないそげぷされるべき上条さんと自分を殺して妹達と一麻を救おうとしている美琴が
どうなって行くのかブラックな楽しさがあるww

あと妹達の保護者のもやしはここで動かないのか?
811 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/05(日) 20:59:09.89 ID:UeIUOjK/0
まずは>>1乙だが、間をあける告知無しに2週連続日曜にも音沙汰がないのは珍しい。
引越し直後で忙しいのかな?
812 :LX [saga]:2012/08/05(日) 22:23:58.35 ID:7azhN7K10
皆様こんばんは。
>>1です。

まずは、先週無通告でお休みしましたことをお詫びします。
>>811さま
当地は先週からお祭りでして、当方の家族が来ておりました関係で全く投稿できませんでした。
また平常運転ではないので、月曜あたりに投稿すればいいかなー等と考えておりましたが、
全然進まず、今日に至りました。すみませんでした。

さて、大変遅くなってしまいましたがお返事です。

>>806さま
始まりと締め、有り難うございました。相川七瀬ですよね?

>>807さま
有り難うございます。ちびちびですみませんが頑張ります。

>>898さま、>>809さま、
コメント有り難うございます。
禁書の十字教という表現も考えたのですが、魔術サイドはこのSSでは殆ど絡みませんので、違和感の少ない
普通の名前にあえてしたのですが……さて、どうでしょうか。
とりあえず今の素案では彼らは出てきませんので。

また、イスラム教はいろいろと難しいので、オリジナルでは出さないのではないでしょうかね。

>>810さま
鋭い御指摘ですね。どうも有り難うございます。
いや、正直その観点は考えてませんでしたw
ただ、美琴からしますと麻琴は間違いなく自分の血を分けた娘ですから。
ネコ可愛がりはしないと思いますけれど。
旦那は、別れたら「ただのひと」ですが、娘は別れても「娘」なのは変わりませんからね。

一通さんは……さて?

それでは本日も少量です(言い訳はのちほど……)が、これより投稿致します。
宜しく御願い致します。
813 :LX [saga sage]:2012/08/05(日) 22:37:16.33 ID:7azhN7K10

場面は再び、打ち止め改め御坂未来(みさか みく)の部屋。

御坂美琴と御坂未来は向き合い、未だ御互いに腹の探り合いをしていた。



「なんかねぇ……いいのよ、もう。そのことはね、ケリつけたの、私」

「ケリって……お姉様<オリジナル>、また何やら一人で抱え込んでません?」

「あら……ちょっと未来? あんた、ずいぶん大人びた事言うようになったわね? 何があったのよ?」

「え? それは……ミサカだって、こんな私だって、生きていればいろんな事がありますよ……」

はぁ……とため息をつくかのように未来がしみじみと言う姿に、一瞬、美琴はどうしたのかと思う。

ま、どうせまたあいつ(一方通行<アクセラレータ>)と口げんかでもしたんだろうな、と深く突っ込むことは止めた。

今日はそんな話をするために来たのではないからだ。

「……それに1万人のミサカたちの経験も全部入ってきますから、耳年増にもなるってことですよ、お姉様<オリジナル>? 

さて、ミサカの話はこれでいいですね? それでは話を元に戻して……と、お姉様<オリジナル>、どうなんですか?」

話をはぐらかされてたまるものか、とばかりに未来は食い下がる。

「あんた、しつこい女の子は嫌われるわよ?」

「うふふ、その点はご心配なく、お姉様<オリジナル>」

そう言うと、未来はいかにもたった今思いついた、と言うように斜め上を見ながら聞こえよがしにつぶやいた。

「……まさか、今回のお姉様<オリジナル>の破談騒ぎに、行方不明の検体番号10032号が何か絡んでいるとか?」

「……!」

未来とやり合いながらも、どこか上の空で心ここにあらずといった感じで、手持ちぶさたにコーヒーをかき回していた美琴の手が一瞬だけぶれ、コーヒーがカップから少しだけこぼれた。

その不自然さを、姉の姿を盗み見るように視界の隅に入れていた未来は見逃さなかった。

「あれ、冗談のつもりだったんですけど、まさかの大当たり一等賞?」

「はぁ? 知らないわよ! それにあの子が、その、行方不明だなんてホントなの? あんた上位個体でしょ? そんなことでいいわけ?」

一瞬の動揺を覆い隠そうと、突っ込み返す美琴。

「訂正しますと、正確には『連絡が取れない』です、お姉様<オリジナル>。

ゲコ太先生の特命事項で、検体番号10032号はマル秘のお仕事に就いているそうです」

美琴の突っ込みを軽くいなす未来。

(ふうん、あの医者、私だけじゃなくて妹達<シスターズ>にも全く同じこと言ってるんだ、まぁその方がボロ出しにくいわよね)と美琴は一人納得する。

(そこまでして、あの子の妊娠を隠す必要はあるのかな?) 一瞬彼女の頭を疑いがよぎる。

(まぁ、あの子の相手は誰よってなったら、あのバカ以外いるわけないわよねー。それが理由?) 当麻の子供、ということが問題なのだろうか?

(そういや今頃、あの二人はどうなってるだろ? うまくいったかしら? 一悶着起こしてなければいいけど……まぁ、一応言ってはおいたし……)と美琴は、当麻と御坂妹に思いを馳せる。

いきなり、未来の声が美琴を我に返した。

「お姉様<オリジナル>……やっぱりそうだったんですね? 冗談半分で言ってみたんですけれど、検体番号10032号と何かあったんですね? ふふふっ♪」

そう言われて、美琴は初めて、自分の顔をじっと見つめている未来に気が付いた。
814 :LX [saga sage]:2012/08/05(日) 22:45:13.24 ID:7azhN7K10

「ちょっとあんた、何をひとのこと勝手に決めつけてんのよ? 私、ほんとに知らないわよ?」

怒りの表情の美琴。

「はいはい、わかりました。そういうことにします。お姉様<オリジナル>がそう仰るんですから」

飄々として全く悪びれた素振りも見せない未来。

「アンタさ……言うことにいちいちトゲがあるんだけど? いつからそんなに性格悪くなったのよ?」

「あーぁ、お姉様<オリジナル>にまで言われちゃった……。あのひとにもたまにそう言われますけど」

ぺろっと小さく舌を出してえへへ、と照れ隠しに笑う未来。

「まぁ、さっきもちょろっと言いましたけど、末っ子の私にもいろいろあったということですよ? 

……うーん、なんで私の話になっちゃうかな? お姉様<オリジナル>、さすがですね」

「アンタが一人で右往左往してるだけ、って思うんだけどね」

「ひっどーい! ああん、もう、話を戻します!! それで、何があったかはわかりませんけど、お姉様<オリジナル>にしてはこのところ弱気な面が目に付くかなって」

「弱気……? 私が?」

思いもかけない言葉に驚く美琴。

「ええ。あんな事書かれて、昔のお姉様だったら乗り込んで、訂正文やら詫び文くらい出させていたんじゃないですか? 

さすがに超電磁砲<レールガン>はぶっ放さないと思いますけれど」

「あんたねぇ……二十歳にもなってまだそんな中二病丸出しな訳ないでしょーが。はぁ、ほんと昔の自分を思い出すといやんなっちゃう」

「おおー、ずいぶんと大人になられたのですね、お姉様<オリジナル>」

へー、意外だ、という顔の未来。

「言ってくれるわね。あんたこそ、なりは昔の私みたいなくせに、中身はやたら大人くさいのはどうかと思うんだけど」

「外見は仕方ないですよ。成り立ちが成り立ちですから。それに中身だって、けっこうお姉様の血をひいて似ているところもあると思いますけれども?」

「はいはい。でもね、育った環境が大きくものを言うからねー。外の世界に出てから、みんな性格に個性出てると思うけれど、あんたもそう思わない?」

「うふふ、そうですね。もともと、私たちはネットワークで結ばれてますから、各個体がそれぞれ好き勝手に性格を選びつつ、お互いの経験を交換して過ごしてきましたけれど、最初に選んだ性格がやはり大きなウェイトを占めてますね。

でも、ほとんどネットワークに接続してこない個体は元々の性格に、その個体の経験のみの経験を積むので、私たちとはずいぶん変わってきているのではないかと思うんですけれど……」

「……あの子、のように?」

「検体番号10032号のことですか? ほーらお姉様<オリジナル>ったら、やっぱり気になるんですね?」

「いちいち突っ込むんじゃないの! あんたたち妹達<シスターズ>の中で、なんだかんだで一番絡んでるからよ。

それに……あの子はね、実際にあいつと闘った唯一の生き残りなのよ? 私と一緒にね?」

あ……

言った後で、しまった、と言う顔になる美琴。「彼女」の前で、わざわざ愛しい人の暗い過去を持ち出してしまった、と。



だが、「彼女」、未来は顔色も変えずに「姉」の言葉に軽く頷くと、美琴にとって初耳の話を始めたのだった。

「そう……ですから、検体番号10032号『だけ』が、今なおあの闘いを夢に見るんですよ。

彼女にとって、絶対の存在である上条さんが、自分のところに来てくれる、自分を見て、自分を叱りつけ、自分を励ましてくれる。

何よりも、『1人の人間としての自分』の存在を認めてくれたひとが、愛するひとがボロボロの自分の傍にやって来て、自分を痛めつけた悪役をやっつけてくれるんですよ?

それって女の子にとって恍惚の一場面ですもん。そんなシーンなら何度だって見たいでしょ?」

美琴は頭を思い切り殴られたように思った。
815 :LX [saga sage]:2012/08/05(日) 22:52:07.52 ID:7azhN7K10

自分も、あの闘いを夢で見たことがないわけではない。

でも、その内容はと言えば、当麻に成り代わって何故か自分が一方通行<アクセラレータ>を殴りつけている時もあれば、逆に、当麻が倒され、自分も遂に一方通行<アクセラレータ>に殺される……という悪夢もあった。

正直言って、どう逆立ちしても見て楽しい夢ではない。それどころか精神的に疲れる夢の一つである。

最近でこそずっと見ていないが、一時期かなりの頻度で見た為に、彼女は寝不足となり疲労困憊したことがある。

とはいうものの、実はそれをきっかけにして、当麻との仲が進展したのだったけれど……。



それなのに、あの子は、あの恐ろしい記憶を、夢と言う形で何度も再生していたのだと言う。

美琴自身は、当麻より遅れて実験場に着いたくらいだから、あの子とあいつ(一方通行<アクセラレータ>)との実験(たたかい)がどのようなものであったかは知らない。

ただ、思い出したくもないが、数回見たことのある内容からすれば、一方的に彼女は攻められていたに違いない。

あの子は「予定通り」死んで、「実験」は予定通り終了するはずだったのだ。

しかし。

アイツ(上条当麻)が間に合ったことは、アイツがあいつを打ち倒したことは、どっちも奇跡だったのだ。



あの子にとって、アイツが自分を助けに来てくれるシーンは、いわば奇跡の場面。

そしてヒロインは他ならぬ自分。

か弱く、虐げられたお姫様(自分)のところに王子様が現れて、悪人を蹴散らして追い払い、王子様はニッコリと笑って自分の手を取り……

うわぁ、ちょっと、これって典型的な昔話、童話の世界じゃないの?

ラブ・ロマンスの王道よね? 自己陶酔の気もあるけれど……純情(うぶ)よね。ずいぶん可愛いじゃない。



でも、あの子のやったことって、無茶苦茶エグいことだったわよねー……どこが純情なんだか。

全然違う。

誰か、よからぬ入れ知恵したんじゃないのかしら?



「おねーさまー、大丈夫ですかー?」

ふと気が付くと、未来が首をかしげて自分を見つめていた。



「びっくりしちゃったわよ。あんな事、二度と思い出したくないような事なのにね」

そう言う美琴に、苦笑いしながら未来が答える。

「それでですね、一つ重要なことがあるんです。

検体番号10032号は気が付いていないでしょうけれど、彼女が何度もその夢を見た結果、何が起きたと思います?」

「知らないわよ、人の夢なんかで何が起きたのかなんて」

つっけんどんに答えを返す美琴に、いたずらっぽい顔になった未来が含み笑いをしながら答えを言う。

「その夢が何度も私たちのネットワークに流れた結果ですね、特に直接実験に参加しなかったミサカに多いんですけど……」

一旦話を切り、焦らせるかのように間をおいて、未来が言う。

「検体番号10032号のように、上条さんに憧れちゃったミサカが大量に生まれたんですよー、うふふふふふっ♪

まさか彼女も、自分がお気に入りのシーンを見ることで、ライバルを自ら産み出していたとは気づかなかったでしょうね」

あのひとが怖い顔で出てくるから、このミサカは全然見たくないけど、と未来はしぶい顔で話を締めた。
816 :LX [saga sage]:2012/08/05(日) 23:04:55.06 ID:7azhN7K10

美琴は頭を抱えた。

前言撤回。

なんという、なんたるお馬鹿さんなのよあんたは、と思う。

感覚を共有出来る、しかもベースが共通な妹達<シスターズ>。

そこに、一人のミサカが、自分のお気に入りのラブロマンスシーンを繰り返し流したらどうなる?

しかもみんなまだ純情(うぶ)な頃だってのに、刷り込みしてどうするのよ……自分でライバル増やしてって、あんたバカァ?

今回の事の起こりの根源の一つは、あの子の夢からか、と。

「すごいですよー、検体番号10777号なんか、検体番号10032号の夢をコピーしちゃってますからねー。

彼女の夢、私も見たことがあるんですけれど、寸分違ってないんです。

でも唯一違うのは、闘ってるのは検体番号10032号じゃなくて、自分、そう検体番号10777号自身なんです。

完全になりきってたんですよ。私ですら『あれ、検体番号10777号って、あの場にいたかしら』って一瞬思ったくらいですもん」

……検体番号10777号か。えーと、ロシアに居る子よね……? そう、あの子もアイツに惚れてたわよね。

酷寒の地で出会った、自分のクローン。アイツへの思慕を隠さなかったミサカの一人。

「お姉様<オリジナル>はロシアにいるあの子とは以前会ってますよね? 覚えてます? 

検体番号10777号の自慢の一つが、お姉様<オリジナル>と一緒に闘ったことなんですよ?

今回こそは、って意気込んでたんですけれど、まだ飛行機のチケット買えてないみたいです。出遅れてますよね。間に合わないかも……」

目ざとく、未来は検体番号10777号の情報を美琴に教える。

(お姉様<オリジナル>たら、あなたのこと忘れてたみたいよ? なんて言ったらあの子、泣くだろうな)と思いつつ。

その美琴は、あの子は今回も会えないのだろうか、あんなに会いたがってたのにちょっと可愛そう、と考えていたが、未来の「間に合うかな」という言葉にようやく本題に入るきっかけを見いだしたのだった。

(やれやれ、長い前ふりだったわね)と彼女は心の中で自嘲する。

「で、一体全体、今、妹達<シスターズ>って、ここに何人いるわけ?」

「本日夜7時現在で、学園都市内にいるのは1597名です。

現在、学園都市への直行便に乗っているのが11名。日本国内にいて、学園都市エントランスに向かっているのが27名。

従って、明日の朝8時20分にデリーからの直行便で到着する検体番号12053号を最後に一区切りでしょうか。合計1635名、ですね」

スパッと即答する未来の話に、美琴はへー、と言う顔をする。

「わりと少ないのね。私、アンタらのことだから、もっと大量に押しかけてくるのかと思ったんだけど」

なんか拍子抜けよね、と冗談っぽく軽い調子で美琴は言葉を返した。特に考えもせずに。

だが未来からは、美琴が予想もしなかった反応が返ってきたのだった。

「お姉様<オリジナル>? 皆がみな、裕福な生活をしているわけじゃないんですよ? 生きるために必死なミサカが沢山いるんですよ?

そんな言い方はないですよ! そんな酷いことをよく言えますね!? だいたい、それに……」

いつになく激昂した未来に、美琴は驚く。

未来の目から涙がこぼれ落ちていたからだ。

「ちょ、ちょっと未来? どうしたのよ、何怒ってるの? そんな泣くほどのことなの?」

「……う、ぐすっ、うわぁぁぁぁぁーん!」

ついに、未来は本格的に泣き出してしまった。 



――― また、何かが起きている? ――― 



美琴は泣く未来を見て、言いようのない不安に襲われたのだった。
817 :LX [saga sage]:2012/08/05(日) 23:28:22.36 ID:7azhN7K10
>>1です。

本日分は以上、わずか4コマです。短くて申し訳御座いません。
当初、なんとか書き上げたものの、どうも納得出来ず、グダグダしておりました。
ごく普通の会話のシーンなんですが。

で、風呂に行く直前にぽんとアイデアが浮かびまして急遽ざっと書き上げ、風呂から戻ってきて手を入れて修正し、
投稿したわけです。自分でもこれならいいかなと。
しかし、この後は当初の、ごく変哲もない話で繋がっておりましたので、ここは一部書き直す必要が出ました。
本日も短い、と先に申し上げましたのはそのような理由からです。

しかし、第二部は長いです。
一麻くん、すっかり忘れられてます。第二世代なのに。


さて、投稿のパターンですが、今までは日曜の19:00〜20:00頃から始めるというものでしたが、
こちらでの生活のパターンではそれは無理で、もう少し遅い22:00頃から開始、と言う形になりそうです。
何卒御了承下さいませ。

また、来週はお盆に入る関係で当方も帰省します。例によってネット環境が存在しませんので、投稿が出来ません。
こちらもご了解頂きたく存じます。

それでは皆様、お先に失礼致します。
818 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/06(月) 15:17:29.09 ID:IAkBxMZ+0
>>1
続きは19日ってことかな?
打ち止めが気になるので待ってるぜ。
819 :LX [saga sage]:2012/08/11(土) 07:53:29.57 ID:BIwanYpi0
皆様おはよう御座います。
>>1です。

これより帰省します。
挨拶だけでは寂しいので、3コマくらいは投稿しようかと思ったのですが、見返してみると、手を入れるところが
次から次へと……お恥ずかしい次第です。

>>818さまのコメントの通り、19日(日)には投稿するつもりです。頑張ります。

>>818さま、
有り難うございました。

それでは失礼致します。
820 :LX [saga]:2012/08/19(日) 20:40:46.22 ID:4tGOQ92R0
皆様こんばんは。
>>1です。

今日は生活のパターンを変えてみたところ、この時間に投稿出来ることになりました。
22:00まで待つのも何なのでこれより投稿致します。

どうぞ宜しく御願い致します。
821 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/19(日) 20:41:30.82 ID:E5MVPKMNo
待ってた!期待待機!!
822 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/19(日) 20:48:06.72 ID:yXkWZmMR0
よし、こい、おらぁ!
823 :LX [saga sage]:2012/08/19(日) 20:48:16.86 ID:4tGOQ92R0

第三学区、国際展示場。

学園都市の科学技術を紹介するイベントが数多く開かれる、その場所。

今日は展示会の谷間なのだろう、だだっ広い会場には殆ど人の姿がない。

学園都市が誇る警備ロボットや清掃ロボットたちも、手持ちぶさたのように静かに佇んでいる。



しかし、その中の一角、C棟だけにはバスが次々と横付けされて人が降りてその中に入ってゆく。

珍しいことに、降りてゆくのはどうやら女性ばかりのようだ。

まだうら若き美女たちの大集団。

もし、その場に居合わせたひとが居れば、その女性たちは、髪型・化粧・ファッションは違えど、何故か全員がよく似た顔立ちであることに気づいたことであろう。

そう、彼女らは上条当麻争奪戦に参加した妹達<シスターズ>の面々であった。

全世界に散らばった妹達<シスターズ>、その数およそ1万人。そのうち1600人ほどが今、この場所に集結しつつあった。



実は、彼女ら自身、今まで一カ所にこれだけの仲間が集まった経験はないため、ちょっとした興奮状態にあった。

普段はミサカネットワークという脳波リンクで繋がっている彼女らであるが、息をし、熱を持ち、言葉をしゃべる現実の身体を持って集まって来ている1600人という膨大な数の「ミサカ」たちの存在を、自らの五感全てで実感するということは初めてであり、いやがおうにも心地よい緊張と興奮を呼ぶのだった。

更に、ここにいるミサカ達は、通常は疑似姉妹(もちろん並列ではあるが、一応普段はロットが古いものが、そして番号が小さいものがお姉さん的立場になる。とはいえ、これだけいると殆ど意味がない)であり、仲間であり、そして最も重要なことであるが、今日に限っては全員がライバルであったこともその一因であった。

彼女らは、最初は非常に静かであった。

というのも、彼女らの特徴の一つであるミサカネットワーク、すなわち各人の脳波の相互リンクがあり、これを用いれば会話をせずとも瞬時にあたかもテレパシーの如く意思の疎通が可能であり、しかも記憶すらも共有が可能であるからだ。

しかし、この場において、それはむしろマイナスに作用し始めた。

というのは、今日の目的である、お互いにどう「あのひと」を攻略するか、廻りにいる同じ「ミサカ」たちがどのような作戦を考えてきたかが、共有によってそのまま全員に筒抜けになってしまうからである。

かくして、彼女らは次々にミサカネットワークから離脱し始めたのだが、そうなると今度は意思の疎通には当然ながら「会話」が必要になる。

そう、それは昔ながらの、「おんな同士」の、虚々実々の駆け引きを含んだ「会話」という名の、お互いの腹の中の探り合い。

時代の最先端をゆくはずの学園都市の展示会場C棟の中は、古今東西の昔から変わらない、女性同士の姦しいおしゃべりが支配していたのだった。



会場を見下ろせる控え室の中で、彼女らのお姉様<オリジナル>である御坂美琴もまた、人知れず心を高ぶらせていた。

一つには、自分のクローン、妹達<シスターズ>の生き残り約1万人、そのうちの約1/6とはいえ、1600人に上る姿を目の当たりにしたからだ。

なんせ、優に一つの大規模な高校に匹敵する数なのである。

「……1600人って……こんなに、いるんだ……そして、この6倍の、あの子たちが……ううん、そんなことよりも」

6年前のあの恐るべき実験では、ここに集まっている6倍もの数の妹達<シスターズ>が殺された。

それを思うと、今なお彼女の心は言いようのない悲しみと怒りに締め付けられるのだ。

だが、悲しんでいる時間はない。

同じくらいの数の、今を生きている妹達<シスターズ>がいるのだ。目の前に居る、6倍に上る数の、必死に生きようとしているミサカたちが。

そして昨日、最終個体である御坂未来(みさか みく)から聞いた驚愕の事実。

私は、さっさとこのイベントを片づけて、その問題に取りかからねばならないのだ、と。



「ふん、しかし……よくもまぁ、これだけの茶番を仕組んでくれたものよね」

美琴は吐き捨てるように小さく、そうつぶやいた。
824 :LX [saga sage]:2012/08/19(日) 20:53:47.48 ID:4tGOQ92R0

昨日、私は、あの子たちの上位個体である打ち止めこと御坂未来(みさか みく)と、今日のこの事について下打ち合わせを行っていた。

そこで私は、妹達<シスターズ>に関係する、一つ気になる話を未来から聞いた。

あの子たちの中の、海外で調整を受けている子に死亡事例が出ているのだと。

しかもその中で、理由がはっきりしている事例は全て不幸な事故によるものであるが、それは非常に少なく、圧倒的な他の死亡事例については原因が不明なのだと。

しかも、例外なくそれらのミサカ達はネットワークから離れていたために、途中経過が全くわからないのだと。



ある日ある時、何の予告もなく、未来の脳に、それまでコンタクトが途絶えていたミサカの情報が飛び込んで来る。

それは、そのミサカの

       ――― 死 ―――

のサイン。

「わたし、何もできないの。上位個体なのに、このざまなの。私、どうすればいいの? ねぇお姉様<オリジナル>?」

泣きながら、ようやくあの子はこれだけのことを話してくれた。



恐ろしかっただろう。

辛かったろう。

悔しかっただろう。

そう思うと、私は、自分も涙を流しながら、あの子を黙って抱きしめてあげることしかできなかった。



結局、未来の部屋に泊まることになった私は、安心して眠る未来の傍で、その対応策を考えていた時に重大なことに気が付いた。

どうして、あの子たちは出国出来たの?

どうやって、あの子たちはこの学園都市に入れたの?

どこに、あの子たちは泊まっているの?

……



アメリカやカナダの如く、出国の際にパスポートをチェックされない国もある。でも、チェックされる国は多いと聞いている。

日本の如く、普段は身分証明書がなくても普通に生きて行ける国もある。何かあった時は大事になるけれど。

だが、この学園都市に入るには、それなりのチェックを受けなければならない。



妹達<シスターズ>は、この学園都市で生まれた。

しかし、あの子たちには、戸籍はないはずだ。

必要最低限のデータしか入っていないIDカードが交付されただけと聞いている。

今回、ここに帰ってきたあの子たちは、そんなIDカードで入管を通過してきたのだろうか? まさか。

いや、それよりも、学園都市外に「調整」に出されたミサカたちは、果たして正式に「出国」したのだろうか?

未来の話からすると、あの子たちは、「二度と戻らない」前提でここを出されたように思われる。

それもまた腹の立つ話だが、そんな、いわば捨てられたも同然のあの子たちが、どうして1600人ものクローンが、学園都市に無事に入れた、帰って来れた、のか?



そして、1600人もの妹達<シスターズ>は、今、いったいどこに泊まっているのだろうか?
825 :LX [saga sage]:2012/08/19(日) 20:59:44.09 ID:4tGOQ92R0

朝、未来に聞いてみたら、いとも簡単にあの子は答えた。

「最初は普通のビジネスホテルに泊まっていた子もいましたけれど、今は全員、第二十学区のスポーツスタジアム併設の選手村みたいなところに集まってますよ?」と。

「ええっ、何よそれ、どういうこと? 誰かの指示ってこと?」

「わかりません。なんでも入国の際に、集合場所はどこそこだから、というような文書をもらったそうで」

「そんなバカな……それ、今、あんたか誰か、持っていない? そんな怪しい文書、いったいどこが出してるのよ?」

「私は当然持ってませんけど……ちょっと待って下さいね、ネットワークで訊いて見ます……ありがと、それね……ええっ? ホントに? ううん、心配はないから、大丈夫よ? じゃね。

あの、お姉様<オリジナル>、わかりましたよ。とりあえず30人ほどの答えですが、どれも同じく『学園都市広報委員会』が出してます」

私は絶句した。 あのクソ女め……

でも、それって、あんたら、絶好の攻撃目標でしょうが! 不用心すぎる!!  思わず、私の声は高くなった。

「あんた、学園都市を信用しちゃダメでしょうが!」

しかし、あの子は、そんなことは先刻承知、という感じで落ち着いた声で答えた。

「え? 大丈夫ですよ、お姉様<オリジナル>」

そして、少し自慢げに言い放ったのだ。

「あのひとが、見張ってますから」と。

思わず私は吹き出しそうになった。

あいつが、スタジアムの屋上で缶コーヒーを飲みながらブー垂れている姿を想像したからだ。

「なんでこのオレがあいつらの面倒見なきゃいけねェんだ、クソッタレ」と。

なんだかんだ言って、結局あいつはこの子の尻に敷かれているらしい。まだ高校1年なのに大したものだ。

……そう言う点では、あの子の方が上かも知れない。

そうよね、だから私、アイツをあの子に取られちゃったんだもの……


……ああっそんなこと、どうでもいいじゃないの!



とにかく、これで読めた。

この話は、全部、出来レースだ。

黒幕は、学園都市。統括理事会、広報委員会だ。

最終ゴールは、

私の、学園都市への屈服。

たぶん、私の、広報委員会入りだ。



でも、本当にもしそうなら、もうケリは付いたはずだ。

悔しいけれど、あいつらの手はずどおりに事は運んだ、ってことよね……



でも、見てなさい……!

私は、あんたたちの思うとおりになんか、絶対に動いてやらない。

ううん、絶対に動くものか。



さぁてと、さっさとこの話、終わらせましょうか。

さぁ、行くわよ、美琴。
826 :LX [saga sage]:2012/08/19(日) 21:04:42.37 ID:4tGOQ92R0

美琴が扉を開けて、ホールに姿を現すと、天井にまで反響するほどのざわめきが瞬時に消えた。

言葉を発しない代わりに、ミサカネットワークではミサカたちの思念が飛び交う。

( キタ━━━ヽ(∀゚ )人(゚∀゚)人( ゚∀)人(∀゚ )人(゚∀゚)人( ゚∀)ノ━━━!!!! )
( お姉様<オリジナル>キタワァ.*:.。.:*・゚(n‘∀‘)η゚・*:.。.:*☆ )
( おおお、本物のお姉様<オリジナル>だ……初めて見た )
( あれ、昔より胸ある? )
( 化粧、いつもより濃くない? )
( オーラ半端ねェよ…… )
( この感覚……これが、お姉様<オリジナル>…… )
( ふっ、あれなら勝てる )
( ぎゃははは、あんたたちバカねぇ、お姉様<オリジナル>が来たって事はさ(ry )

ヘアスプレーやら香水やらファウンデーションやらの香りが充満する中、1600人の視線が自分に集中するのを美琴は感じた。

その視線が、肌をピリピリと刺激する。

一糸乱れぬ、「同い年」の女性の、無言の圧力。

負けじと美琴は、妹達<シスターズ>を一通り見回すと、はっきりと良く通る声で第一声を放った。

「おはよう、妹達<あんたたち>!」

妹達<シスターズ>は、練習したわけではないだろうが、それは見事に綺麗に揃えた挨拶を美琴に返した。

「「「「「「「おはようございます、お姉様<オリジナル>!!!!」」」」」」」

1600対1である。

しかも、自分と極めてよく似た顔。よく似た声。よく似た体格、体型。

自分とよく似た身体電流の波形。

一人一人の能力は自分より下でも、数の圧力がひしひしと伝わってくる。

頭で考えていたよりも、妹達<シスターズ>の圧迫は遙かに上だった。

だが、そんなものに負けては居られないのだ。

「まずは、あなたたちに会えて、私はとても嬉しいと思ってます」

美琴は口火を切った。

「「「「「「「私たちも同じです。お姉様<オリジナル>に会えて、とても感激しています!!!!」」」」」」」

妹達<シスターズ>も負けては居ない。

「でもね、ちょっと厳しいこと言わせてもらうと、あんたたち、いい加減にしないと大変なことになるわよ!」

「「「「「「「大変とは、どのようなことが起きるのでしょうか、お姉様<オリジナル>!?」」」」」」」

「あー、いちいち大勢でハモるの止めて! とんでもない大合唱なんだから! 誰か一人、代表で御願い」

美琴は、閉口したような口ぶりで妹達<シスターズ>に、答えを一人に絞るように頼んだ。

すると、妹達<シスターズ>の動きが止まる。

おそらく、ネットワーク上でケンケンガクガクの大騒ぎになっているのだろう。

しばらくして、居並ぶ妹達<シスターズ>の中をかき分けるようにして、1人の、どこかで見たような制服をまとった女子高生が前に出てきた。

「ちょ……あんた、その格好……」

「えへへ、どうですか、懐かしいでしょ? お姉様の後輩の私でーすw ちょっと目立つように制服で来ました♪

まったくもう、あんたたちは……都合の良いときだけ私を使っちゃって」

居並ぶ妹達<シスターズ>を、コンニャロウと言う顔でにらむ、女子高生。



そう、それは御坂未来(みさか みく)、検体番号20001号、最終個体・上位個体・ラストオーダーと5つの名を持つ、彼女であった。
827 :LX [saga sage]:2012/08/19(日) 21:08:46.55 ID:4tGOQ92R0

「で、お姉様<オリジナル>、大変なこととは具体的にどのようなことなのか、仰って頂けますか?」

はっきりと、良く通る声で聞く未来。

居並ぶ妹達<シスターズ>も固唾を呑んで美琴の答えを待つ。

「学園都市が、どのようなことを、あんたらにしようとしてるのか、私もまだ知らない。

だけど、わかっていることは、未来(みく)? 学園都市はね、あんたを使って、この子達をこの学園都市から一斉に排除させるはずよ」

「わたし、まだあのひとに会ってません!」
「私も」
「私だって!」
「あのひとに会いたいです!」
「それじゃ何の為にここまで来たのかわからないわ!」

轟とまたもやミサカ達のどよめきが起き始める。

「黙らっしゃい!」

御坂未来が叫ぶと、ピタリと妹達のざわめきは止む。

「ちょっとあんた、今?」

美琴が未来に訊ねると、未来は

「いいえ、ネットワークも併用して叱りつけただけですが?」

と少し緊張した顔で答えた。

「そう。じゃ、私が恐れている事を、正直に、言うわ」

未来を見据えて、美琴がいう。

「最悪の、場合ね? これは、私の想像だけど……、学園都市は、この街は、あんたたちに『自決しろ』という命令を出すわ」

えええーっ、というどよめきが辺りに響くが、未来の顔に驚きはない。

「そうでしょうね。私たちは、集団戦闘能力者軍団としては今や並みのレベルになりつつあります。

外国の軍隊相手の軍事クローンとしてはもうコストが釣り合わない。1万人はもういらない。

そう、半分でもまだ多いかもしれない。ちょうど良い機会だから減らしちゃいましょう、と考えるひとはいるでしょうね」

自嘲気味に、独り言をつぶやくかのように語る未来。

「あんた、第三者みたいに言ってるけど、あんた、それで良いの? あんたたち(妹達<シスターズ>)もはい、わかりましたと唯々諾々としてそんな命令を聞くの!?」

美琴が叫ぶように未来を、妹達をなじる。

「お姉様? 昔、私、あの人に言ったことがあるんですよ?」

ふふ、と遠い過去を思い出すように未来は言う。

「わたしたちは、もう、一人だって死んでやることはできないって。今もその気持ちは変わっていません」

きっぱりと未来はそう言いきった。

「そう。ならいいんだけど? ただね、あんたがどこかへ連れ去られて、洗脳みたいなことされて、あんたの意思に反した命令をしちゃうかもしれないでしょ?」

「お姉様? 大丈夫です。あの人がそんな企みを許すわけがありません」

へぇ、と美琴は思う。彼女の言う「あの人」とは、一方通行<アクセラレータ>以外にあり得ない。

「ふうん、あいつを信じてるのね」

「もちろんです」

彼女は、まだ存在を誇示していない胸を張って答えた。



「安心しろ、心配する必要はない」

思わず美琴が後ろを振り返ると、いつの間に来たのだろうか、土御門元春がそこに立っていた。
828 :LX [saga sage]:2012/08/19(日) 21:15:04.74 ID:4tGOQ92R0

「何よ、あんた? なんで関係ないあんたがここに来るわけ?」

「何者ですか、あなたは?」

尖った声で美琴がなじり、不審者を見る目で未来が問いただす。

居並ぶ妹達<シスターズ>も瞬時に格闘戦の構えを取った。

しかし、土御門は平然として柳に風と受け流し、美琴と未来に向かって小声で話しかけてきた。

「おおっぴらには言えないが、関係ないわけではないんだな、超電磁砲<レールガン>、そして打ち止め<ラストオーダー>。

オレは土御門元春という。それでだ、5分だけ時間をもらいたい。御坂美琴とサシで話がしたい」

「ちょ、何勝手なことを言ってんのよ!? なんで私がアンタと」

美琴と未来は、昨日の打ち合わせの中で、恐らく学園都市広報委員会からの指令が何かの形であるだろうと予想はしていた。

しかし、こんな形で使者がやってくるとは考えておらず、いわば虚をつかれた形になっていた。

そんな二人にかまわず、土御門が(いいぞ、やってくれ)と小声で呟いた瞬間、彼と美琴の姿は消えた。

(テレポーター?)

一瞬茫然とした未来は直ぐに立ち直ると、騒然となっている妹達<シスターズ>に向かって叫んだ。

「みな、静まりなさい! 約束の5分だけ待ちましょう!」



----------

「で、話って何かしら? それに、広報委員会の仕事に外交委員会のあんたがなんで絡んでるのかしら?」

二人はどこかの会議室にいた。

美琴が鋭い目で土御門を睨みつける。

「ほー、そこまで知ってるとはにゃー、さすが伊達に学園都市の広告塔を勤めてはいない、ってところかにゃー」

「その、わざとらしいしゃべり方、止めて欲しいんだけど」

「そうかにゃー? 舞夏はこっちのほうが良いって言ってくれてるんだがにゃ。ま、ご要望とあればそうしよう」

「時間の無駄よ。ちゃっちゃっと話してくれないかしら」

「その通りだな、超電磁砲<レールガン>。それでだ……本当に、いいのか?」

一瞬、土御門の目に、痛ましげな色を美琴は見たような気がした。

「あら、あんたに言われる筋合いなんか、ないと思うけど?」

同情なんかまっぴらよ、と美琴は突っ張る。

「ほう、厳しいな。だがな、後悔しないか? あいつらの命と引き換えに、自分の将来を、未来をこのクソッタレな街に売り飛ばしたことを?」

一瞬、美琴の顔が強張るが、直ぐに彼女の顔には、冷笑が浮かんだ。

「おあいにく様。そんなことでくよくよするような、ヤワな私じゃない。この私、御坂美琴はそんな人間じゃないわ」

言い切った美琴の顔を土御門はじっと見つめ、ため息と共につぶやいた。

「茨の道か」
829 :LX [saga sage]:2012/08/19(日) 21:17:35.47 ID:4tGOQ92R0

「ふ……私が気持ちの良い散歩道に変えてみせるわよ」

不敵に笑う美琴を、土御門は難しい顔で見つめる。

「で、妹達<シスターズ>に、そう言うのか?」

「は? そんなことをあの子達に言ってどうするのよ? あの子達に余計な負担をかけるのはやめて。私はそんなことは望んでない。

私はね、あの子たちには、もう二度と悲惨な目にあってほしくないの……いいえ、絶対にさせない、させるもんですか」

「上条当麻を取られても、か?」

美琴の目がつり上がる。

「誰がそんなことを? あのバカが、アンタに?」

「まさか! カミやんは一言もそんなことは言ってない。これは信じてくれ」

美琴の剣幕に驚いた土御門は、即座に否定した。その様子から、当麻がしゃべったわけではなさそうだ、と美琴は見当を付けた。

「じゃぁ、どこからアンタ、そんな噂聞いたのよ?」

どこから情報が漏れたのか、ヒントが掴めるかも知れない、と美琴は土御門を攻めにかかる、が。

「噂は本当なのか?」 

土御門は逆質問でかわしにかかる。

「ふん、言いたいヤツには言わせとけばいいのよ、そんなことは」

やっぱりダメだったか、と美琴は諦めた。この男が、学園都市の人間が、そんな簡単に情報ソースを明かす訳がないのだ、と。

「いや、すまなかった。余計なことを聞いてしまったようだ……。

さて、本題だ。妹達<シスターズ>を穏便にここから退去させるには、お前に一肌脱いでもらわねばならないが、それは理解してくれてるな?」

「当然でしょう? 何の為に、私がここに来たと思うの?」

「そうだな。愚問だったか」

「私はね、腹をくくったのよ。それだけのことよ」

「そうか。ならいい」

美琴が立ち上がると、土御門もそれに合わせて椅子から立ち上がる。

滑り止め効果の高い床材に椅子が引っかかり、ギギッという音を立てた。

「私が引き起こしたことだから、私がケリをつけるわ。それが一番無理のない方法だから」

「すまなかったな。話は終わりだ……彼女を戻してくれ!」

土御門がそう言った瞬間、冷たい微笑を浮かべた美琴は小さく言葉を続けた。

「たとえそれが、形だけでも、ね?」



美琴の姿は、会議室からふいに消えた。

テレポートされる直前に、彼女には(えっ?)と言う顔の土御門の顔が、一瞬だけ見えたような気がした。
830 :LX [saga sage]:2012/08/19(日) 21:24:18.55 ID:4tGOQ92R0

(これって、もしかして、あの赤毛の女かしら)

レベル4である黒子ですら、自分以外をテレポートさせる場合には、あらかじめその対象物に触れていなければならないのに、自分にも、あの男にも、触れるどころか姿も見せていない能力者。

それでいて、自由に大人二人をテレポート出来る能力者。美琴はそういう能力者を1人、知っている。



「お姉様<オリジナル>、お話は無事に済みましたか?」

御坂未来(みさか みく)が少し緊張した表情で尋ねてきた。土御門元春なる人間の登場は、打ち合わせの予定外の出来事だったからかもしれない。

「大丈夫よ。なんて事なかったから、安心しなさい」

そう言って、ニッコリと美琴は微笑んだ。

「そうですか、それなら良かったです」

未来はそう言って緊張を解く。それと共に妹達<シスターズ>も戦闘態勢を解いたのだろう、明らかに場の空気が緩んだのを美琴は感じた。



「わ、女の子ばっか……あ、あのう……ここで、いいんでしょうか……? あれ、美琴?」

時ならぬ男の声に、一斉に妹達<シスターズ>が注目する。

恐る恐る……という感じでドアから顔を覗かせているのは、今日の主役、上条当麻。



   ――― キャァァァァァァァァァァーーーーーーーッッッッ!!!!!!! ―――



本能の為すわざか、黄色い叫び声がどっと上がり、ガラスが震えた。

どよめく1600人の妹達<シスターズ>。

( あ…… )
( あのひとだ )
( うわー、ナマ当麻だぁ! )
( ホンモノだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!! )
( バカ、興奮するんじゃないの! )
( 生きてて、ホント、良かった…… )
( やっと、会えた……私、幸せだ…… )
( ホントに来たの? )
( そこにいるってばさ )
( あー、もう飛びつきたいよぅ )
( こらぁ、がまんしろ! )
( もう、これでいいや……もう、十分 )
( 何泣いてんだよ )
( なら、すっこんでろ、ミサカがものにすっから )
( バカ言いなさい、射止めるのは私なんだから! )
( えー、もう会ってるの? あと学園都市まで1時間なんだけど? )
( あああこん畜生ー、生理休暇でも忌引きでもなんでもいいから休めば良かった!!! )

『あんたたちーっ!! ネットワークで会話しない!! 落ちちゃうから!! 会話禁止!!! しちゃダメ!!!

あっ!? こらっ、そこ! 検体番号10038号! 検体番号10039号! 抜け駆け禁止!! 止まりなさい!!』

アクセス集中で、ミサカネットワークの負荷は急上昇し、大あわてで未来がネットワークに警告を流し、叫ぶ。

その隙をついて、何人かのミサカが駆け出そうとしたが、未来が強制的にストップさせる。



「静かにしろって言ってんでしょうが無視すんなやゴルァァァァァァァァァ!!!!!!」


放電しないギリギリの高電圧を身に纏い、大音声で怒鳴りつける美琴。

一瞬にして、妹達<シスターズ>が静まりかえる。



「で、アンタ、そこでなにやってんのよ?」

美琴の前に、右手を突き出した当麻が立っていた。
831 :LX [saga sage]:2012/08/19(日) 21:28:42.62 ID:4tGOQ92R0

「何やってる、って、お前こそこんな場所で電撃飛ばすんじゃねーよ!」

「だから飛ばしてないでしょ! 私が考えもなしに電撃飛ばすわけないでしょッ、バカっ!」

二人の言い争いが始まろうとしたその時、未来が困った顔で仲裁に入った。

「あの、お姉様<オリジナル>、上条さん? 仲が宜しいのは結構ですが、夫婦ゲンカはお二人のお家で思う存分御願いしますね?」

(夫婦ゲンカって?)
(え? あの二人、お姉様<オリジナル>とあのひと、夫婦なの?)
(何それ、話違うじゃん?)
(バカ、話のたとえだよ、たとえ)

未来の突っ込みに、ミサカ達からの突っ込みが入るが、未来は意にも介しない。

一方、注目の二人はというと、「はい?」「へ?」という顔から、さっと赤くなり揃って下を向いた。

「あ、あのさ」
「美琴、その」

二人は、漫画に良くある通りに、同時にお互いに声をかけ、二人揃って言葉に詰まる。

「お姉様<オリジナル>、しっかり!」

未来が声をかけるが、美琴には聞こえていないようだ。



一方、見つめる妹達<シスターズ>、その中の一人、検体番号10039号の顔色は真っ青だった。

ふと左隣を見ると、二人を見つめている検体番号10033号は唇を震わせながら、じっと二人を注視している。

右隣の検体番号10038号は黙ったままだったが、顔に血の気はない。

ぐるりと廻りのミサカ達を眺めまわしてみると、半分ほどのミサカは、この後の展開に気が付いたのか、強張った顔をしている。

(そういうこと、なんですね)

検体番号10039号は再び愛しいひとを見つめ、そして目を伏せると再びネットワークから離脱した。

彼女は、このセレモニーの結末を理解した。

今、そんな彼女に出来ることは、たったひとつ。

だから、彼女だけの、あのひととの甘美な記憶は他のミサカに見せるわけにはいかなかった。ましてや上位個体などもってのほか。



……初めての、あのひととのキス。あのひとの匂い。

まだ、果たされていない、二人だけのツーリングの約束。

――― もしかしたら、あり得ないことだけど、でも、もしかしたら ―――

ほんのかすかな、淡い期待を持って、この会場に来た彼女。

だが、美琴お姉様<オリジナル>がここに現れたことで、彼女のその淡い期待は木っ端微塵に打ち砕かれたのだった。

(やっぱり、私じゃ、だめなんだ……)



雲行きがおかしいことに、妹達<シスターズ>の面々も気が付いたのか、大半のミサカは大人しくなった。

検体番号10039号にとって、いや、居並ぶ1600人の妹達<シスターズ>にとって、あまりにも残酷なシーンが、今、まさに始まろうとしていた。
832 :LX [saga sage]:2012/08/19(日) 21:38:31.62 ID:4tGOQ92R0

「当麻?」

「なに?」

「アンタ、まだ、私を愛してる?」

「……もちろんだ。俺は、お前を、御坂美琴という女性を、愛している」

妹達<シスターズ>の間にざわざわざわーっとどよめきが伝わってゆく。

先頭に立っていた御坂未来の頬は紅潮する。

よく知った人からの、ストレートな愛の告白。

聞いてはいけないような、なんとなく聞いている方が恥ずかしくなるような、むずかゆいような、感覚。 

だが、そんな感慨を抱くものだけではなかった。



検体番号10033号は、ポロリ、と涙を流した。

----------

第10032次実験の後、引き続き自分の実験が行われる場合に備えて、彼女、検体番号10033号は既に次の予定地に待機していた。

自分に与えられていた武器の点検を繰り返し、攻撃方法を頭の中で何度も繰り返していた時に、その知らせは飛び込んできた。

   ――― 一方通行<アクセラレータ>が倒された ―――

最初、彼女はその知らせの意味を良く理解出来なかった。単純に、ああ、今日は実験はないんだ、としか思わなかった。

だが、次の日も、その次の日も、実験は行われなかった。

そして、突然、彼女は実験の無期延期を伝えられ、「身体の調整」という名目で学園都市から見知らぬ国へと送り出された。14人のミサカと共に。

検体番号10032号の記憶を共有することで、自分の前の第10032次実験が、どういう結末になったのか、彼女は知ることが出来た。

   ――― 上条、当麻 ―――

彼女は、彼と直接会ったことはない。

第10031次実験の時点においても、既に彼女は自分の指定された座標地点、つまり実験場所に移動していたからである。

彼女は、彼をうとましく思った。

――― 彼が来た為に自分は実験に参加出来なかった ―――

――― 自分は、自らの役割を果たせなかった ―――

それどころか、実験そのものがなくなってしまった。自分を必要とした目的が消滅してしまったのだ。

更に、あろうことか、自分は無用の長物のような扱いで学園都市を追い出された。

自分の存在価値をなくす原因を作った人間、として検体番号10033号は彼を記憶したのだった。

----------

送り込まれた街では、彼女らは「調整」の見返りとして、高級コールガールに仕立て上げられた。

自分たちの欲求を満たすだけではなく、来訪した要人への夜の接待等に用いられる為に、まだ青い身体に徹底的にあらゆる性技が叩き込まれた。

1年も経つと、彼女ら自身も性の喜びを覚え、性技にも磨きがかかり、外見とその性のテクニックとのアンバランスが絶賛を呼び、彼らの目論見は大成功を収めたのである。

だが、単純な性的奴隷にされなかったという点では、まだましだったかも知れない。

彼女らは病院の近くに豪華なアパートメントを与えられており、普段の生活には何の不自由もなかった。

高級コールガールは性技だけでは不可であり、知性と教養が要求される。

そのために、毎日、アパートメントには教官がやってきて、ゲストルームの1つは事実上彼女らのための教室と化した。

彼女らのアンバランスな知識は適正に修正され、中途半端な語学についても教え込まれた。お相手の要人が多岐に渡るためである。

これらには当然、それなりの費用がかかるわけであるが、学園都市から「身体調整費用」という名目で、毎月相当な金額が送金されていた。

彼らは金づるを失うような愚かなまねは避けたのである。
833 :LX [saga sage]:2012/08/19(日) 21:42:43.77 ID:4tGOQ92R0

ちなみに、このような事例がなぜ公にならなかったのか?

理由は単純で、「ネットワークに流すな」と命令されたからであった。

彼女らの当時の精神年齢は6歳程度であり、よく言えば素直であった。そう言うものだと言われれば、素直にそう信じた。

性の相手にしても、最初こそ意味がわからなかったものの、相手が喜ぶのを見るのは楽しかったし、そのうちに自分も楽しむことを覚えた。

検体番号10033号もその一人であった。

自分の存在価値を見失っていた彼女は、ようやく自分の存在価値が認められるポジションが出来た……と思っていた。

 

そんなある日、彼女は某国の賓客を迎えることになった。

いつものように彼女は事を始めようとしたのであるが、今回は勝手が違った。

この男は、女をいたぶることで満足を覚える、最悪の相手だった。

所謂SMプレイの場合では、Sは相手の反応を常にチェックしていなければならない。

相手が冷めてしまっては、SMプレイは成り立たない。単に欲望のまま力をふるうのは単なる暴力であり、そのような人間は外道である。

相手には服従せよ、と厳しく言われているものの、こと今回の相手に関しては、彼女は生命の危険を感じた。

なにせ、キスの最中にいきなり首を締め上げられたのである。

意識が遠くなりかける中、必死に彼女は電撃を飛ばし、男の手から脱出することには成功した。

だが、生まれて初めて「自分自身」の肉体に加えられた暴力=首を絞められたこと、「自分自身」が感じた恐怖=死、このために彼女はすくみ、動くことが出来なかった。

恐るべき事に、電撃を受けたはずのこの男はものの数分で立ち上がり、自分に反抗したという理屈でナイフを持ち出した。

まだ思うように動けない彼女は、手の届く範囲にあるものを男に投げつけるのが精一杯。

その姿に男は更に興奮し、彼女にナイフを走らせ、脚と腕に傷を付けた。

流血する彼女の姿を見て、男は服を脱ぎ、全裸になり、さぁこれから思う存分哀れな犠牲者をいたぶろう、としたその時、物音に気づいたSPが部屋に飛び込み、血に濡れたナイフを持つ男に飛びかかった。

彼女の付け人が飛び込んできた。

彼は、無惨な有様の部屋に驚き、血を流しているミサカを見つけると彼女を抱き起こした。

「傷は深くない。大丈夫、直ぐに病院へ」

「はい」

……彼は、彼女の最初の男(ひと)であり、彼女に性技を教え込んだ男でもあり、普段の生活の一切の面倒を見る人間でもあった。

その彼が、羽交い締めにされた男に向かってこう叫んだ。

「うちの『商品』に傷をつけやがったな!? とんでもねぇ野郎だ! ぶっ殺されたいのか!」



――― 私は、ミサカはやっぱり、『商品』なの? ―――



ケガをした為ではなく、その言葉を聞いたショックで、彼女は意識を失った。



検体番号10033号の怪我はそれほど酷いものではなかった。しかし、心の傷は深かった。

――― うちの商品に傷をつけやがったな ―――

元々は「実験動物」だったわけだけれども、高級コールガールになってしまったけれど、「人間」として自分は扱われていると彼女は信じていた。

でも、それは幻想だった。

あの時の一言。

それはあえなく砕け散った。
834 :LX [saga sage]:2012/08/19(日) 21:52:46.21 ID:4tGOQ92R0

そしてもう一つ。

今まで、沢山のミサカの死の瞬間は、ネットワークで流れてきており、知らないわけではなかった。

しかし、今回、初めて感じた「自分の死」というものの衝撃は大きかった。

                          

そんな時に、検体番号10032号の「悪夢」が流れてきたのだった。

実は彼女の夢はこれが初めてではない。だが、この時に見たあの「悪夢」は、彼女にとって今までとは全く違うものに思えた。

検体番号10032号が感じた「死」の恐怖を、検体番号10033号は、今までになく深く感じ取っていた。

第10032次実験での検体番号10032号に、彼女は自分をダブらせていた。

一方通行<アクセラレータ>に一方的にあしらわれる検体番号10032号。

それはあの時の自分にとてもよく似ていた。

そこへ、彼 ――― 上条当麻 ――― がやってくる。

今までは、うとましい、好ましい人間には思えなかったのに、今日はどうしてだろうか、彼がとても待ち遠しかった。

<他の誰でもない、お前を助ける為に闘うって言ってんだ!>

検体番号10032号に向かって放たれた言葉なのに、その日は、まるで自分に向かって言われた言葉のように聞こえた。

そして、あの、叫び。

<お前は世界にたった一人しかいねぇだろうが!>

今まで、好きになれなかった彼、上条当麻の言葉が、ずどん、と自分の中に収まった。



泣いている自分に気が付いたのは、少し後の話であった。

----------

そして、今。

検体番号10033号は戸惑っていた。

どうして涙がこぼれているのだろう、あの時とは、全然違うのに? 

いや、そもそもどうして自分はここに来たのだろう?

彼に会いたかったから……? そう。会いたかったから。何故だかわからないけれど、無性に彼に会いたかった。

検体番号10032号を助けた、いや妹達<シスターズ>を、ううん、違う。このミサカを助けてくれた、彼に会って、御礼を言いたかった。

それから、たくさんお話をしてみたかった。いっしょにいたかった。

そして……もし、彼が望むのであれば、私は自分の全てで、彼を好きなだけ、思う存分に悦ばせてあげたかった。



……なのに、彼は、お姉様<オリジナル>に向かって「愛してる」って。

それって、ミサカを抱く時に男が似たような言葉を言うけれど、彼もお姉様<オリジナル>を抱きたいのだろうか?

それなら、私がしてあげるのに。いくらでも悦ばせて上げられるのに、そう、絶対にお姉様<オリジナル>よりも上手に。

……何だろう、この不思議な感情は?   



検体番号10033号は気が付いていなかった。それこそが「恋」というものであることを。

そして、運命は皮肉だった。

彼女が「初恋」というべきものを明確に感じたイベントにおいて、それを打ち砕く出来事が起きたのだから。



そして、新たに芽生えた感情があった。

ひとが、「嫉妬」と呼んでいる、その感情が今……
835 :LX [saga sage]:2012/08/19(日) 21:57:52.71 ID:4tGOQ92R0

ミサカ達の感情は揺れていた。

ミサカネットワークには諦めと、哀しみの想いが流れてゆく。

(やだよ、こんなの……)
(やっぱり、あのひとは、お姉様<オリジナル>しか見ていない、のですね……)
(ミサカたちは、やっぱり、十把一絡げの、お姉様<オリジナル>のクローンでしかないのでしょうか)
(だーから言ったじゃん? ミサカたちにはね、勝ち目なんてなかったんだよ……悲しいけど、それが現実なんだよ)
(なによ……ミサカがアピールする間もなかったじゃない……そんなの、ないよ……)
(これなら、行かなくて良かった……かな……)
(ま、現実は厳しいってことよ。よくわかった、子猫ちゃんたち?)
(ちょっと? なにそれ? アンタ誰よ、その上から目線は?)
(私のいる国では一夫多妻が認められてます。1番がダメでも2番を狙えばよいのです)
(えー? 学園都市って一夫多妻OKだっけ?)


検体番号10039号が、うつむいたまま、すっと場所を離れてゆく。

未来は彼女の動きに気づき、一瞬、反射的に手を出しかけたが、その手は力無く下へ落ちた。

彼女には、これから何が起こるのか想像できたから、検体番号10039号の行動が痛いほどよくわかったのだ。



どこへともなく、検体番号10039号は早足で歩き出し、そしていつしか駆け足になって行く。

彼女は、もう、そこに居たくなかった。その後のシーンを見る勇気は彼女にはなかったから。

だから、ミサカネットワークも切断した。

視界が急に潤み、乱れた。涙が、どっと溢れ出たから。

彼女はとにかく、そこから離れたかった。自分の泣き顔を、誰にも見られたくなかったから。

彼女はホールを飛び出し、広い展示場を走って行き、そしていずこかへと消えていった。



警備ロボットが、走り去る検体番号10039号に一瞬反応したが、直ぐに元の位置に戻った……



----------

「そう、ありがとう」

美琴は冷ややかな目のまま、当麻の前に進む。

「キスして」

「えっ?」

「女の子に、二度も言わせないの! バカ」

「ごめん……ちょっと、驚いちゃって……」

「じれったい、もう、この!」

美琴は前に進み出ると、少し背伸びをして、じっと当麻を見つめ、そっと目を閉じた。

「美琴、愛してる」

そうささやくと、当麻は美琴を二度と離すものか、とばかりにしっかりと抱き寄せ、唇を合わせた。

ため息があたり一面に響く。



「未来? あなたたちには悪いことしちゃったと思う。姉<オリジナル>として、みんなにお詫びするわ。ごめんなさい」

美琴は深々と、未来に、そしてそこに居並ぶ妹達<シスターズ>に頭を下げた。

そして、当麻もまた。

「その……みんな、ごめんな。オレたち二人、美琴の卒業後に、結婚します!」

ため息とともにまばらな拍手が起き、そして、だんだんとホール一面にその拍手は広がり、最後には全体に響き渡ったのだった。
836 :LX [saga sage]:2012/08/19(日) 22:10:50.40 ID:4tGOQ92R0
>>1です。

本日分の投稿は以上です。
久方ぶりに纏まっての投稿となりました。

今回の投稿では、当SSでのオリジナル設定を入れています。
妹達<シスターズ>が死ぬと、上位個体である打ち止めにその知らせが入る、というものです。
ミサカネットワークに繋がっている場合には有りそうな話ですが、繋がっていない場合でも、
というのは……ですが、まぁ笑って許して下さい。

10033号のネタですが、ここまで詳しく必要有るかなーと正直思っておりますが、upしちゃいました。
彼女の実験中止直後の心証は、以前に読んだことのあるSSからヒントを得ています。
ですが、どうしてもそのSSが見つかりません。どなたかの個人の方のサイトにあったSSだったのかもしれません。

さて、この後、このドタバタの結末まであと少しあるのですが、修正が間に合いませんでした。
一応ここでも一区切りついてますので、まぁ許して頂けるかも、ということで……

>>821さま、>>822さま、
エール有り難うございました。

それでは今日はこの辺で。
お先に失礼致します。
837 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/20(月) 04:48:54.63 ID:lzntWrxB0
>>1乙。
予想以上に学園都市外の他の妹達に関しては設定が重いなぁ。
10033号はMNWスレじゃドM変態として扱われてるが、その初期SSに心理描写があったかな?
どっちかというとギャグ調でここまでシリアスじゃなかったが。
結末は来週かな?待ってるよ。
838 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/20(月) 13:34:18.62 ID:z24FcGmAO
10033号の境遇を知ったら美琴と上条さんは必ず救い出しに行くだろ…というか救ってあげてほしい。一方通行と打ち止めも救いに行くと思うけど。あと上条さんは妹達の気持ちをきちんと知るべき。もし美琴が妹達を守る為に容認すれば上条さんは仕事柄、海外に行くのが多そうだから現地妻にするのも有りだと思う。少なくともヘビーな境遇から妹達を守れるし10039号や他の上条派の妹達の願望も叶えられる。さらに上条さんに余計なフラグを建てさせるのを防げる。何が言いたいかというと上条さんと10033号の絡みがみたいです。あと作者様、毎回楽しみにしてますので無理せずがんばって下さい。
839 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮崎県) [sage]:2012/08/20(月) 19:34:05.58 ID:A8XL6Jfgo
それを言うなら冥土返しが患者であったはずの妹達をそんな下種なとこに送るかって話だ
しかし上条さんは自分で撒いた種とはいえ愛されないまま美琴の策略で結婚とは
一部や前作考えると今後ずっとマダオのままなのかww
840 :LX [saga ]:2012/08/26(日) 21:26:14.07 ID:s3IR9i8w0
皆様こんばんは。
>>1です。

毎度コメント頂き有り難うございます。

>>837さま
外部に送られた妹達<シスターズ>については第三部でも触れていますのでお待ち下さいね。
10033号ですが、何故か筆が勝手に走って前回のような話が出来上がりました。
なお、有名なMNWの10033号のネタですが、リアルに読んでましたw
で、私の読んだSSは、その変態10033号が登場するよりもずっと前に書かれたものです。
ヒロインはもしかすると10034号だったかもしれません。
直前で実験が終了してしまい、自分の存在価値を見失った彼女は自分を閉ざしてしまうのですが、ある時
彼女の前に現れた少年が、その閉ざされた彼女の心を開いてゆく……という小編でした。

>>838さま
詳しいコメント有り難うございます。書かれた内容については……おっとネタバレしそうになりましたw
10039号に加え、10033号もとなると大変です。美琴さん、気が休まりませんねw
あ、すいません、10032号がその前にいました……
引き続き頑張りますので宜しく御願いします。

>>839さま
上条さんの扱いが非常に難しいです。
正直、描き方に苦しんでます。
前作では空気でよかったのですが、今作、特に第二部では副主人公ですからねー。
同性だからでしょうか。

それではこれより投稿を始めます。
宜しく御願い致します。
841 :LX [sage saga ]:2012/08/26(日) 21:30:57.97 ID:s3IR9i8w0

「未来、ごめんね。皆に悪いことしちゃったよね……」

「いえ、納まるものが納まるべきところに納まったわけですから。お姉さまも、これで良かったのでしょう?」



ここは美琴の部屋。

妹達<シスターズ>が全員バスに乗り込んだのを確認すると、御坂未来(みさか みく)は疲れ果てた顔ではあったが、今日はお姉様<オリジナル>の部屋に行きたいと言いだし、美琴は喜んでその話に応じた。

もう一人の主役であった上条当麻は二人に気を利かせたのか、はたまた失意の妹達<シスターズ>に気をつかったのか、「ごめん、どうにも断れない用事があるから」と言って何処かへ消えた。

その心遣いを評価する自分と、妹達<シスターズ>の目の前で、彼女らの夢をぶち壊すキスをした上に結婚宣言までしておきながら、どうして今日は一緒に帰ってくれないのか、と不満に思う自分がいることに美琴は少し驚いた。

なんだかんだ言っておいて、自分はまだアイツを完全に諦めきっては居なかったのか、結構未練たらしいところがある女だったのだと美琴は思った。

そう思うと、ひたすらアイツに恋い焦がれていた妹達<シスターズ>の方がよっぽど純情だった、と思われて、それに引き替え自分は……

私は、あの子(御坂妹)にされたことを、何も知らない妹達<シスターズ>にやりかえしたのだ、と。

なんと意地の悪い、人でなしの女なのだろうか、と彼女の気分は落ち込むのだった。



会場から出てゆく妹達<シスターズ>は、ただの一人も振り返らなかった。

あたかも軍隊のパレード行進のように、綺麗に揃って出て行った。

あの時は、特に気にもしなかったが、今思うと、彼女らの心の内がなんとなく読める。

一つには、私に対する、せめてもの抵抗。

お姉様<オリジナル>おめでとう、私たちはとても喜んでいます、とは言った。だが、彼女らの目は必ずしもそうは言っていなかった。

不自然なくらいに、意図的に並んで出て行ったあの子たち。

それは、軍用クローンとして生まれ出た彼女らの、精一杯の意思表示だったのだろう。

そして、おそらくもう一つには、彼女ら妹達<シスターズ>同士の中での牽制だろう、と。

全員が揃って出てゆくことで、抜け駆けを押さえ込んだのだ。

もっとも、未来に言わせると、問題児が一人紛れ込んでいて、結構危なかったらしい。

彼女が「矯正」して大事には至らなかったのだそうだが。



美琴の部屋に入るや否や、それまで疲労困憊、と言った感じだった未来は俄然元気になった。

手洗い・うがいもそこそこに(黄泉川家で覚えたしつけ、だそうな)、彼女は、自分の、いや自分たち妹達<シスターズ>のお姉様<オリジナル>である美琴の小さい頃の写真を見たがった。

勢い込む未来に美琴は面くらい、あんたそっくりの私見てどうすんのよ、と茶化してみたけれども、古びたアルバムをめくる未来の耳にはその言葉は聞こえていなかった。



彼女が、食い入るように見つめていたのは、美琴の七五三の写真。

家族三人が、御坂旅掛、美鈴、美琴が、並んで写っている微笑ましい家族の写真だった。
842 :LX [sage saga ]:2012/08/26(日) 21:41:05.94 ID:s3IR9i8w0

「紅茶、入ったわよ?」

美琴がそう呼ぶと、未来はアルバムを名残惜しそうに置き、テーブルへとやってきた。

「なーに、自分の方が可愛かった?」

そんなことで、あのアルバムを見ていたわけはあるまい、と美琴は思うが、わざと彼女はそう言ってみた。

「そうですね。でも、あの頃は、ミサカは鏡を見たことがなかったので、自分がどんな女の子だったのか全くわからないの……」

美琴ははっとする。

そうか、この子は、あの頃はずっと培養装置の中にいたのだ……と。

「私、会ってみたいな……」

小さく、ごく小さく独り言をつぶやく未来。

そのつぶやきを美琴は聞き取った。

(ふーん、会ってみたいのか)

クローンに、親はいない。強いて言えば、美琴が母体であるが、年が近いせいもあり、やはり親とは言い難い。

「二人とも、あんたたちのことは知ってるわよ?」

えっ?と言う顔で未来が美琴を見る。

「父さんは入ってこれるから、タイミングさえ合えばOKよ。問題は母さんね……」

そう言って、美琴は閃いた。

認めさせればいいのだ。この学園都市に。

(そうよ。今なら、きっと……)

「お母様は入れないのですか?」

不思議そうな顔で未来が訊ねてくる。が、美琴は明るい顔で答えた。

「うん。今まではね。前に戦争あったでしょ? あの時に、母さんは私をここから脱出させようとしたんだって……。

それで今でも要注意人物のリストに入ってるらしいの」

「どうして? 何故そんなことを? お姉様<オリジナル>はレベル5じゃないですか」

「だって戦争よ? あんたの彼みたいに何でも反射出来れば死なないかも知れないけど、私はそこまでは無理」

未来は思い出す。

あの人は何にも言わないけれど、目覚めない私を助ける為にあちこち飛び回り、大変な思いをしたということを。

ミサカネットワークの情報では、断片的なものしか入手出来なかったけれど、その内容は想像を絶するものだったことを。

そして、あの子(おんな)との闘いも。

……。



考え込んだ未来に、美琴は明るく言う。

「ま、そんな訳だけど。大丈夫よ、結婚式には出られると思うわ。ううん、絶対に来てもらう。この御坂美琴の結婚式に、両親が揃わないなんて事が有るわけがない!

……そう、その時、あなた、妹達<シスターズ>を代表して出なさいね、いいわね?」

一瞬ぽかんとする未来。

だが、次の瞬間に、未来は顔を輝かせて微笑みを浮かべた。

「おめでとう御座います、お姉様<オリジナル>!」
843 :LX [sage saga ]:2012/08/26(日) 21:46:26.36 ID:s3IR9i8w0

美琴と未来の話は続く。

「妹達<シスターズ>としても、優柔不断なお姉様<オリジナル>の尻をけっ飛ばして、とにもかくにも発表にこぎ着けさせたのですから、まぁ良しと言うわけですよ」

「え? 私は最初からそのつもりだったわよ。アイツを実家に連れてったくらいだしさ。

そ、そうね、ちょっと早くマリッジ・ブルーが来ただけよ、そう、それだけよ。うん」

「ふーんそうなんですか……随分と長かったですね?」

「いいのよ。もう終わったんだから。あんたもお疲れ様だったわね。どうも有り難う。おかげで助かったわ…… 

そうだ、……未来、あのね、今から少しの間、ネットワークから外れてくれる?」

「いいですよ? 内緒のお話ですね?」

「そう。わたしの、御坂美琴の本音よ」

「お姉様<オリジナル>……」

「未来、いい? 私は、あなた達を絶対に守ってみせる。

あなた達自身が『もう一人だって死んでやらない』と言うとおり、私もあなた達を生み出したものとして、最後まで責任を取るわ。

そのためにはね、私は、何だって、何だってするわ」

言い切った美琴の顔を見つめる未来。

彼女の目が大きく見開かれる。驚きの表情の未来が、恐る恐る美琴に訊ねた。

「……お姉さま、それって……それって、もしかして、そのため、に?」

お姉様<オリジナル>は、私たちの為に、一旦は破談になったと聞く結婚を、改めて決めたのですか?と。

でも、あのひと(上条当麻)との結婚が、なぜ、そんなことになってしまったのですか、と。

泣きそうな顔の未来を、美琴は優しい目で見つめる。

「馬鹿ね。あんたはね、そんなこと気にしなくて良いのよ。むしろ、あんたたちに迷惑かけちゃったわけだし、ね。その点は謝るわ。

それにね……別に、あいつとは長いつきあいだし、大好きだったし……。

ただね、ちょっと醒めただけだから……ふふ、もうあいつとは他人じゃないのにね」

「え? あの、お姉さま、それって……もしかして?」

何気ない美琴の最後の一言に、未来が鋭く反応した。

「え? 何……? あ……やぁねもう! いいの! そういうことだから、深く突っ込まないの」

赤くなりながら、突っ込むなと言う美琴の言葉には何の説得力もない。

そもそも彼女自身、未来が想像したであろう事柄を否定すらしていないのだ。

未来は、にま〜っと笑いながら、美琴を弄りにかかった。

「……あの時、ですか?」

「な、なによ」

目を合わさぬまま、美琴が言葉を返す。

「この間、うちにいらした時です。いつもお姉さまが使われているシャンプーと化粧石鹸の香りが違いましたから、あれ? どうしたのかなと」

「う」

確かに、その通りだった。

当麻と結ばれた後、彼女は身体全体がだるかったが、翌日に行われる予定の大騒動の前に、どうしても未来と下打ち合わせを行っておかねばならなかった。

本来なら家へ一旦帰って、改めて身支度をして出てゆきたかったのだが、それには時間が全く足らなかった。

送ろう、という当麻をなんとか振り切って、その後、一人で喫茶店で少しばかり身体を休めただけで、彼女は未来の家に直行したのだった。

(そういうところは、もう大人なのね)

美琴は未来を甘く見ていたことを反省した。この子は、もう一人前の「おんな」なのだと。
844 :LX [sage saga ]:2012/08/26(日) 21:55:40.11 ID:s3IR9i8w0

むふふふふふふ、と言う顔で未来は追い打ちをかけてきた。

「それに、上条さんを見るお姉様<オリジナル>の目が違ってましたし」

「ど、どういう風によ?」

「うふふ、気になりますぅ? じゃぁ特別に教えてあげますね♪」

「なにもったいぶって……憎たらしいわね」

「あはは、そう言って頂けて光栄です。以前はですね、お姉様<オリジナル>が上条さんを見る時って、どこかしら不安な気持ちが僅かに出てたんですよ。

なのに、今朝のお姉様<オリジナル>は、ものすごく落ち着いてて、自信が漲ってましたもん。

これで確信したんです。あー、そういうことかー、と。

……そっかー、むふふ、お姉さまもやっとおんなになったのかー」

うんうんと頷くような言い回しの未来であったが、最後の一言に今度は美琴が「ん?」とひっかかった。

「ちょっと、『やっと』とは何よ、その言い方、まるであんた……って、え? ええっ? まさか、ちょっと、あんた?」

あいつとデキてるの、とまではさすがに言えなかった。自分だってそんな言い方はされたくなかったからだ。

が、しかし。

「さぁ、どうでしょう、うふふ」

はぐらかすような答えに、美琴は半分切れかかる。

「ちょっと未来? 名付け親として、姉として知っておく必要があるわよ! あんた、ほんとにそうなの?」

「それはヒミツですよ、お姉さま? あ、そうだ、名付け親で思い出しました」

一瞬、やば、まずい、という目をして話題を逸らしにかかる未来を、美琴は見逃さない。

「都合よく思い出すんじゃないわよ。話をそらそうったって、そうは問屋が卸さないわよ?」

「いえ、妹達からの依頼です。いっけなーい、何しに来たんだか、すっかり忘れてた……」

ぺろりと舌を出して、上目遣いに美琴を見る未来が話を続ける。

「今日来た彼女らからすれば、上条さんをお姉様<オリジナル>に譲ったのだから、お姉様<オリジナル>からも彼女らに何かあってしかるべきだと。

はるばる学園都市までやってきて何も成果がないのは寂しいと」

そう言って、未来はいったん言葉を切り、美琴に向かってうふふ、と笑うと上目遣いでチラチラ見ながら切り出して来た。

「それでですね、妹達<シスターズ>として、お姉さまに名前をつけてほしいとの強い希望があるんです」

美琴は思わず叫ぶ。

「はぁぁぁ?なんですってぇ?」

彼女は瞬時に思い出した。

この、こまっしゃくれた末の妹が学校に行きたいけれど、名前がないので行けないの、と駄々をこねてさんざん苦労させられたことを。

あれを、また?
845 :LX [sage saga ]:2012/08/26(日) 22:02:53.33 ID:s3IR9i8w0

「あ、それから出来れば、上条さんにも一緒にいてほしいって。せめて挨拶くらいしたいって言ってました」

血の気が引いた美琴のことなぞ気にも留めないかのように、未来は話を続けてゆく。

「あんたねぇー、どこぞのアイドルタレントの握手会じゃあるまいし、いったい何人いるわけ?」

ざっと1600人いることは、とっくにわかっている。だが、念のため、本気なのか? というつもりで訊いてみたのだ。

あの、恐るべき数。

あの子たちに、1600人もいる、あの子たち全員……に?

「今現在で1638人です」

それが何か?と言う感じで、当たり前のように未来は答える。

「冗談でしょ……?」

「真・面・目、ですよ?」

「1638人全員?」

「全員ですよ?」

「勘弁してほしいわ」

「お姉さま? 9970人の生き残りのうち、たったの1638人ですのよ? 

わざわざ、遠路はるばるここまでやってきたミサカもいるんです。お願いします」

ここで話が壊れようものなら上位個体としてのミサカの鼎の軽重が問われます、と言わんばかりに未来が圧してくる。



あのひとにはろくすっぽ会えないわ、

ようやく会えたらお姉様<オリジナル>とのお熱いシーンを眼前で見せつけられるわ、

あげくの果てには「結婚します」と宣言されてしまうわ、

妹達<シスターズ>としては憤懣やる方ないわけで、上位個体たる未来は荒れる妹達<シスターズ>をなだめすかし、ようやく折を付けたのがこの提案なのであった。

彼女としては、何が何でもここはお姉様<オリジナル>にうんと言ってもらわねばならなかったのである。

「何をお涙頂戴のドラマみたいなことを言ってるのよ? 元々は、私とあいつとが破談になった隙をついて、あいつにプロポーズするためにやってきたんでしょーが?

私のライバルみたいなもん、いいえ、ライバルだったわけじゃないのよ!」

未来は考える。

お姉様<オリジナル>が吠える。たしかに、その通りだ。

でも、今はもう、そんなことはどうでもいいのだ。あの件は、お姉様<オリジナル>が勝ったのだから。

今度は、私たち、妹達<シスターズ>のターンだ。



とどめの一撃を未来は放つ。

「すみません、もし御願いが聞き届けられないのであれば、ならば今度はここ、お姉さまの寮におしかけると言ってましたが」

「ちょっと、なに言ってんのよ、馬鹿なこと言うんじゃないわよ! ああっ、もうホントに不幸だわ!」

「あれ? お姉さま、そのフレーズは」


846 :LX [sage saga ]:2012/08/26(日) 22:08:18.32 ID:s3IR9i8w0

結局美琴は未来にかき口説かれ、学園都市に来たミサカ達全員に名前をつけることになった。もちろん、上条当麻も同席である。

その際に役に立ったのは、他ならぬ御坂未来の名前を考えた時の、黄泉川愛穂/芳川桔梗合作(実際には芳川の単独製作であったが)のプログラムであった。

基本的に、美琴の「美」と「琴」を使い、最初は二文字、そして三文字とした。

当然足らないので、最後の方ではひらがなとカタカナで「み」「ミ」と「こと」「コト」を使った名前も入れた。

美琴は、生まれて初めて漢字の存在に感謝した。

今、学園都市に来ている人数の倍くらい、3000人の名前は何とか作り出せたからである。

しかし、生き残っているミサカたち妹達<シスターズ>はまだあと7000人いるのである。

いずれ、今回参加出来なかった妹達<シスターズ>のうち、かなりの人数は、学園都市に行くとお姉様<オリジナル>から名前がもらえる、となればここへ押し寄せてくると思われた。

その彼女らに付ける名前をどうするか。「美」「琴」に関係ない名前をつけるしかないのだが、これは宿題という形にしておいた。



それから、予想されたことだが、このイベントでもすったもんだが生じた。

まずひとつが、場所。

そもそも国際展示場は、笠原真彩-統括理事会広報委員会のつてにより強引に借りたものであった(幸い、奇跡的に空いていた)が、さすがに今度は不可能であった。

第二に、警備。

むしろ問題はこちらだった。

御坂美琴そっくりのクローンが、いかに変装しようが、1600人もいるのでは完全に外部との接触を絶つことは不可能に近かった。

しかも、あちこちに散らばっているのならまだしも、一箇所に1600人が集まるというのではそれは不可能である。

第七学区の大運動場が空いていたが、外から丸見えなこと、警備が難しいことでハネられた。

八方塞の美琴への助け舟は、上条当麻からもたらされた。

上条当麻→土御門元春→雲川芹亜のルートで、今度は外交委員会のつてで借りることが出来たそこは第一学区、国際大会議場であった。

確かに、そうめったに使われるものではなく、バスで入ってしまえばそこは安全であった。

場所を聞いた美琴は最初安堵し、そして不機嫌になった。

どう考えても、その場所を押さえるには、あの雲川芹亜(おんな)が一枚咬んだとしか思えなかったからだ。

当麻は土御門の力だよと笑って誤魔化していたが、美琴は雲川芹亜の存在を忘れていなかった。

自分の婚約者に手を出しかねない女に借りを作ることがどれほど危険なことか、美琴が神経質になるのは当然であった。

当麻と結ばれた今、あの時とは状況が違う。更に二人は1万人の妹達<シスターズ>に対して「結婚する」と宣言してしまっているのだ。

彼女に対して、美琴は一歩も引く気はなかった。
847 :LX [sage saga ]:2012/08/26(日) 22:22:24.63 ID:s3IR9i8w0

幸いなことに? 雲川芹亜も、そして笠原真彩の姿は今回もなく、美琴は人知れずほっと安心したのは内緒である。

そんなこととは露知らず、妹達<シスターズ>と美琴、当麻との対面は始まった。

なんせ1600名である。1人ずつやっていたのでは1人にわずか1分充てたとしても1600分、飯抜きでぶっ通しでやっても27時間ほどかかる計算になる。

これではどうしようもないので、番号順に20名ごとに纏め、各組5分を持ち時間として、名前の発表、メンバーとの記念写真、という、ひたすら数をこなすだけ、味気ない機械的流れ作業のような具合になってしまった。

学園都市在住の3人(10032号は不在なので最初から外されていた)は、別に今日でなくてもかまわない、ということで彼女らはサポート役にまわっていた。

報酬の見返りに、彼女ら三人は先に自分の名前を選んで良いという条件を出したので、三人は皆二つ返事で即座に同意したのである。

名前の発表についても、いちいちミサカ一人一人にどの名前が良いかを訊ねる時間はないので、頭から順番に当てはめてゆくことにしてしまった。

「お姉様<オリジナル>が付けて下さるのでしたら、ミサカ達に異論はありません」と未来が言い切ったからである。

そんなものなのかな、と美琴も当麻も若干の疑問を抱いたものの、彼女の言を却下出来るほどの名案もなく、上位個体である御坂未来を信用することにした。



最初のうちは、妹達<シスターズ>も節度を持っておとなしく流れていっていた。

しかし、午後に入り、長く待たされていた妹達<シスターズ>の中で、ストレスを溜め込んでいたのだろう、二人のミサカが我慢の限界を超えたのか、当麻に過激なアプローチで迫ったのだった。

その一人は当麻にしがみつき、彼の唇を奪って逃げた。

驚き騒ぐ他の妹達<シスターズ>の隙をついて、もう一人のミサカはハーフコートを脱ぎ捨てると、その下は素裸であった。

呆然とする当麻の頭を抑えたそのミサカは、自分の胸に彼の顔を思い切り押し付け、何がなんだかわからぬ彼にやはりキスすると、コートをすばやく拾い上げ、逃げにかかったところで……美琴の電撃を浴びてのびてしまった。

「 ちょっと!? 」
「 え? 検体番号20000号!? 」
「 なんであなたがここに? 」
「 ひどい! 」
「 この! 」
「 ミサカ、そんなことしてないのに!」
「 ずっるーい! 」
「 それなら私だって! 」
「 あ、こら、この泥棒ネコ! 」

歯止めがなくなった妹達<シスターズ>が当麻にいっせいに襲い掛かる。

「ちょ、ちょっと待ってくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

天井の高い国際会議場に、妹達<シスターズ>の叫び声に混じって当麻の悲鳴が響く。

「アンタら!! いい加減にしなさい!!なにやってんのよ!」

美琴が叫ぶがもはやなんの抑止にもならない。

もみくちゃになっている当麻はもはや声も聞こえない。



     「全員!! 起立!!」



甲高い一声が響くと、

1600名のミサカ全員が、

ピシッと直立不動の姿勢を取り、

嬌声が渦巻いていた会議場は、うそのように静まり返った。

「皆、頭を冷やしなさい! 恥ずかしいと思わないの?」

御坂未来、打ち止め<ラストオーダー>と言われ、妹達<シスターズ>を統率するために作られた特別なミサカ、検体番号20001号が、その役目を果たした瞬間だった。
848 :LX [sage saga ]:2012/08/26(日) 22:28:00.88 ID:s3IR9i8w0



大騒動が一段落し、少し経ったあと。



学園都市広報委員会からの人事発表があった。

「XX年10月1日付 準職員 新規採用 御坂美琴

 **年 1月1日付 広報委員会付特命大使 御坂美琴」



これは学園都市広報委員会からの正式発表であることから、マスコミは大手を振って記事を書き立てた。

記者会見が行われたが、緊張のせいか、美琴の顔は強張っており、ぎこちない笑顔であった。



第八学区の、とある街にある、ごく普通のアパート。

「御坂さん、あんまり嬉しそうじゃなかったように見えるけど……」

「そうですか? さすが佐天さんですねー。私もそう思いますね、ふぁ〜眠い……」

「ちょっと初春、あんた徹夜でもしたの? ひどいクマができてるよ?」

「えー、そうですかぁ……聞いて下さいよ、佐天さん? もう大変なんですよぅ。連日2〜3時間しか休めてなくて……」

「あんたも苦労してるんだねー」

「そういう佐天さんは、最近どうなんですか? カッコイイ彼とか、見つかりました?」

「あっはっはっはっは、出っきるわけないじゃーん、それどころじゃないんだよぅ。もう毎日レポートでさ。

初春がのって来てくれたんで、あたしも久しぶりに寮から出る気になったわけだし」

「はーぅ、ホント、あたしも出会いがなくって……学校行った方がよかったかな……眠い……」

「学校だって、そんなにいい事ばっかじゃないよ……やっぱさ、無能力者に戻ると、風当たりが全然違うんだもん。

でもさ、自分で選んだ道だから、自分で決めたんだから、辛くてもとにかく前に進むしかないんだよね……あれ、初春?」

「zzzzzzzzzzz……」

「寝ちゃったか……初春も頑張ってるんだね……御坂さんも、なんか遠いところに行っちゃったけど……やっぱり悩みなんかあるのかな」

クッキーをほおばりながら、佐天涙子はそっとつぶやく。

気持ちよさそうにテーブルに突っ伏してすうすうと眠る初春を、さて、どうやってベッドへ放り込むかを考えながら。
849 :LX [sage saga ]:2012/08/26(日) 22:35:39.88 ID:s3IR9i8w0
>>1です。

本日分の投稿は以上です。

ようやく妹達<シスターズ>編、終了しました。心なしかほっとしてます。

前作からの宿題のうち、当麻と美琴の結婚と、妹達<シスターズ>に名前が付いている理由はなんとか出来たかなと。
まだまだ沢山宿題があるのですがね(苦笑

さて、第二部ラス前のイベントの書きためが残り少なくなりました。
平日、早く帰って来れる日がある割には原稿が進まず参っています。
頑張ります。

それでは、本日はこの辺で、お先に失礼致します。
最後までお読み下さいまして本当に有り難うございました。
850 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/26(日) 22:57:09.14 ID:nJyarImgo
20000はやっぱり20000なのかwww

851 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/27(月) 11:23:31.41 ID:/IhjllpV0
SSwikiで見つけて以来追いかけてきた者です
美琴さん、ゲス条さんを良く許せるようになりましたね・・
普通なら親だって許さないのに最終的に許してるし・・ww
というわけで御坂妹は(ry
>>1乙なんだよ!
852 :LX [saga]:2012/08/28(火) 23:57:12.07 ID:3gYmC9F80
皆様こんばんは。
>>1です。

まずはコメントの御礼から。

>>850さま
速攻のコメント有り難うございます。
検体番号20000号については非常に強烈な個性を今までの皆様が与えてらっしゃいますので、当方もそれに乗っかる形で使用させて頂いています。
彼女を主体にして全く関係ないSSを書いてみたいのですがw

>>851さま
前作もお読み下さいまして有り難うございます。
以前にもそう仰って下さいました方がいらっしゃいますが、その方でしょうか?
(違いましたら失礼しました)

苦しい結末なんですが(笑
まぁ、そういうことなので……
相手が御坂妹だったので、美琴にしても御坂家の両親にしても、ある意味仕方ないという諦めみたいなものを持ってくることで、こういう結果もあるのではと。
逆の、肉親なるが故の骨肉の争いになる可能性も高いのですが。
ただ、少なくとも相手が五和さんだったり姫神さんだったら、絶対に美琴も両親も許さないと思いますね。破談・慰謝料請求のコースかと。


さて、日曜日に投稿出来なかった部分を、イレギュラーですが本日投稿します。
どっちかというと、「おまけ」に近いものですが、内容から考えるとここのタイミングが一番よさそうなのです。
日曜日に投稿できればよかったのですが、手直しが間に合いませんでしたので……

ということで短いです。
何卒御了承下さい。
853 :LX [saga sage]:2012/08/29(水) 00:00:25.29 ID:hMizSivz0

とある日のこと。

大学の門を出た当麻を呼び止めるものがいた。

「こんにちは、上条さん。お久しぶりですね、とミサカは一般的な挨拶からスタートします」

「お、おう、こんちは。えっと……お前、19090号だよ、な?」

「はい。ですが、今やこのミサカにも名前が付いています。出来ればそちらで呼んで頂けるとミサカはとっても嬉しいのですが」

えーと、と当麻は携帯を見る。<ミサカ・ネーム一覧>というデータボックスにアクセスし、番号をピピピと入力する。

「あ、琴子さん、か」

「むう……元から学園都市にいるミサカの名前くらいは早く覚えて欲しいものです、とミサカは少しふくれてみます」

そう言いつつも、まんざらではない表情の御坂琴子(みさか ことこ)こと検体番号19090号。 

「ごめんな。一斉に名前が付いたもんで、なっかなか番号と名前が一致しなくてさ。早く覚えるように努力するよ」

「宜しく御願いしますね。とはいえ、正しい番号でこのミサカを呼んで頂けたのは嬉しいかぎりですが」

ニコニコする琴子の顔を見ていると、当麻も少し嬉しい気持ちになる。

(随分と表情が豊かになったよな……昔とは大違いだよ) 

「あはは。それくらいならもう、さすがの上条さんでも4人の区別は十分つきますですよ」

明るく活発、積極的な検体番号10039号。

生真面目で、少し理屈っぽい検体番号13577号。

派手目でいつも華やいでいる検体番号19090号。

そして……検体番号10032号。

全員が違う個性を全面に出している。常盤台中学の制服に暗視ゴーグル、という画一的だったあの妹達<シスターズ>はもういない。

「え、本当ですか? どこで、どこでこのミサカがミサカであるとわかるのですか? 御願いです、教えてくれませんか?」

そう言いつつ、琴子は当麻に向かってずい、と身を乗り出してくる。

彼女の香水の香りが鼻に押し寄せる。香水を普段から付けているのは10039号、そして19090号の2人だけである。

実は美琴もつけてくる時がある。それは、彼女からのとあるサインなのだが、それは内緒にしておこう。

で、この3人の香りはみな違う。当麻は彼女らからブランドを聞いたことがあるのだが、興味がなかったので直ぐに忘れてしまい、美琴からは電撃をくらったこともあった。

(化粧が一番上手なのはお前だから、って言ったらまずいかな)

目と鼻の先で、何やら期待を込めた目で見つめる琴子を見ながら、答えようとしたその瞬間、



「ちょっとアンタ、なにやってんのよ?」



よく知った女性の声が響く。風に乗ってきた、ツンとするイオン臭い空気とともに。
854 :LX [saga sage]:2012/08/29(水) 00:07:05.36 ID:hMizSivz0

「ええっ? み、美琴? ど、どうして? お前、アメリカに行ったんじゃなかったのか?」

当麻はひっくり返るほど驚いた。

そう、そこに立っていたのは、確かに昨日、国際空港からUSAに向けて飛び立ったはずの御坂美琴(みさか みこと)だった。

心なしか、彼女の目はつり上がっているように見える……

ああ、怒ってるな……と当麻は思う。

その瞬間、彼女の前髪からバリッと紫電が放電した。

「ふふーんだ。私がいなくなったら、羽を伸ばしたアンタが何するかなーって思ってさ、出張したと思わせたってわけ……ったくもう、油断も隙もないわね。

それに、だいたい検体番号19090号、あんた当麻に何ちょっかい出してんのよ?」

声音こそ静かだが、内容は随分なものである。

上条さんはああ、やっぱり信用されてないのですね、と落ち込むしかなかった。

「お姉様<オリジナル>、ミサカは単に挨拶をしていただけですが、何故にそこまで怒るのでしょうか?」

一方、むっとした顔で美琴をにらみ返すのは検体番号19090号こと御坂琴子。

「……」

「……」

よく似た顔の二人がにらみ合い、双方の髪からはかすかに火花が散る。



    ――― ほほほほほ! ―――



突然、美琴が笑い出した。

二人を止めようと、右手を前に出そうとした当麻は面食らい、いったいどうしたのかと美琴を見る。

「なんですか、もう止めてしまうのですか? と、検体番号19090号は、お姉様<オリジナル>の皮を被った検体番号10039号に確認を取ります。

あと一つ、お姉様<オリジナル>は、親しい人の前では上条さんを『当麻』とは呼びません。先ほどの場面であれば『コイツ』が妥当と考えます」

(なんだそれ?)と当麻は怪訝な顔を琴子に向け、混乱するままつぶやく。

「今のって、あの、こいつ、美琴……じゃなくて、その……えっと……」

検体番号10039号だってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ??????????

えっと、名前は……何だっけ、と彼女の名前がわからず、言葉に詰まった彼は再び携帯を取り出す。

「んもう……このミサカは、御坂美子(みさか よしこ)です。もう忘れたのですか? ちゃんと覚えて頂けないと困ります」

腰に両手をあてて、あんたってひとは、とジト目で彼を睨む検体番号10039号の美子。

その仕草は、まさに美琴そのものだ。
855 :LX [saga sage]:2012/08/29(水) 00:10:00.17 ID:hMizSivz0

「お、お前、ホントに美子か? 美琴じゃないって、やっぱりそうだよな……安心したよ……。

つか、なんでそんなことすんだよ? 全く……驚かすなよ! びっくりしただろ!?」

「すみません。実は、美子はお姉様<オリジナル>の秘書になりました。

そして、場合によっては、このミサカはお姉様<オリジナル>の影武者を勤めることもある、と言われています。

今回、お姉様<オリジナル>がアメリカへ出張されましたので、早速ミサカの出番が予想されます。

それで、お姉様<オリジナル>になりきって街を歩いていたのですが、あなたを見かけたので、検体番号19090号と組んでテストをしてみたのです」

慣れていないのか、そういう検体番号10039号自体、一人称で「美子(よしこ)」という名前は一回だけで、あとは以前の「ミサカ」のままだ。

(お前だって自分を言う時は『ミサカ』のままじゃん)

と言葉が出かかったが、目の前のいたずらっぽい顔の美子は、美琴とはちょっと違う可愛らしさがあって、当麻は少しどっきりした。

「お、お前な、人をテスト台に使うかぁ?……いや、でもほんとにそっくりだったよ。なんで昨日見送った美琴が、と思った……」

「そうですか。あなたを騙せたのであれば、ミサカは第一の関門を突破したことになります。それでは次は第二のかんも……」

「そこまでです、検体番号10039号。お姉様<オリジナル>の予想通りですね。それはあなたには認められておりません。さぁ、戻りましょう」

当麻に抱きつこうとした美子に、やおら厳しい顔になった琴子が彼女をがっきと取り押さえ、当麻から引き離す。

「え? 何をするのです、私は御坂美琴ですよ!? 痛い!? 痛たたたっ!! ちょっと!? 痛い!

あのひとの家に一緒に帰って何が悪いのですか、こら、離しなさい!」

叫ぶ美子にかまわず、琴子は彼女の腕をきめると、軽く当麻に会釈して離れてゆく。

この状況をさっぱり飲み込めていない当麻は、反射的に小さく頷き、目で挨拶を返すだけであった。

「だから、全てお姉様<オリジナル>はお見通しなのです。諦めなさい、検体番号10039号!」

「いや、離して! あなた、助けてっ? その役得があるから、私、秘書になったのに!? 話が違う! やだ、離しなさいってば!」

琴子に、泣きながら引きずられてゆく美子の声が遠くなって行く。

(あいつ、美琴になりすまして俺のところに押しかけてくるつもりだったのか……?)

そして、すっかり忘れていた約束を彼は思い出した。ツーリングである。あれからかれこれ半年が過ぎている。

(あー、いっけねぇ、まだ一緒に行ってねぇよな……でも、美琴の留守に二人で行ったら、疑われるよなぁ絶対に……)


 
かくして、検体番号10039号こと御坂美子は、普段は第一秘書として。そして美琴の居ない時は、何回かとちりながらも彼女の影武者としての役目を果たしていった。

そして、普段は美琴の第二秘書、美琴の不在時には第一秘書である御坂美子になりすます検体番号19090号こと御坂琴子もまた、秘書役をそつなくこなしていった。

美子はなんとか役得、つまり憧れの当麻への接近をあれやこれやと画策し、美琴からの特命事項を受けた琴子はそうはさせじと邪魔をするという、二人の長い暗闘はこの時から始まったのであった。
856 :LX [saga sage]:2012/08/29(水) 00:14:52.58 ID:hMizSivz0
>>1です。

本日のイレギュラー投稿は以上、3コマでした。
長さも内容も、まさに「おまけ」ですよねー。

お読み下さいました方、どうも有り難うございました。
それでは、本日はこれにて失礼致します。
857 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/08/29(水) 12:32:50.79 ID:UAn4rutXo
乙です

これで一区切りってことは次に黒子パートかな?期待
858 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/08/30(木) 00:22:47.46 ID:Qq73UPD9o
お姉様<オリジナル>って表記が気になる
原作は普通に「お姉さま」じゃなかったっけ?
確かじゃないけど…

既に触れてたらごめん
859 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2012/08/30(木) 00:58:26.17 ID:5uhDTMOgo
シスターズの美琴への呼び方はお姉さまにオリジナルってルビだな
860 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/08/30(木) 02:24:30.15 ID:Qq73UPD9o
>>859
そっか、勘違いしてたわ
ありがとう
861 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/31(金) 03:54:21.65 ID:xAbZw6tr0
>>1乙。
一番不憫なのは、10039号だと俺は思ってる。

>>858-860
そういや、アニメじゃ妹達は美琴をお姉様<おねえさま>と呼んでいたから、勘違いしてる人多いよな。
862 :LX [sage saga]:2012/09/02(日) 19:37:00.14 ID:FAlMj78a0
皆様こんばんは。
>>1です。

すみません、本日の投稿はありません。書き切れませんでした……

>>857さまの「黒子パート」ということで、以前に書いてあったものを手直し出来るかと思ってチェックし始めたのですが、当麻と美琴の仲が第二部最初の頃のアツアツらぶらぶカップルでして、これを書き直すのは事実上、無理でした。

で、ふと、黒子の結婚のタイミング、生まれてくる漣孝太郎、同じく生まれてくる御坂一麻と上条麻琴等との関係をチェックしておりましたところ、美琴の誕生日をいつに設定するかで、一麻の学年が1年ずれることが判明し、その場合には彼と麻琴や佐天利子と2つ違いという設定が成立しない可能性がある他、上記のボツ原稿だと漣孝太郎の学年も合わなくなる可能性までも出てきてしまいました。
ここら辺は、前作の時もそうなのですが、各メンバーの誕生日をきちんと設定していない(公式でも設定されてなかったりしますけれど……)ことから、辻褄が合わなくなることが起きるわけです。ぶっちゃけそこまで考えてなかったと(苦笑
お気づきかと思いますが、この第二部では季節感を示す設定が殆どありません。
それはこのスケジュールがないため、迂闊にかけなかったのです。あー情けない。
つくづく下準備というものが必要だと思います。

>>858&>>860さま、>>859さま、
ま、作者も「お姉様<オリジナル>」というのは正直くどいと思うのですが。
それに、人前で「オリジナル」とは言わないだろうと。
ま、それを言い出しますと全てが(苦笑

>>861さま
ちとひいき過ぎたかなーとも思いますが……
確かに、これで10039号を認めちゃったら、残りの当麻命の妹達<シスターズ>はまた押しかけるのは目に見えてるから美琴は絶対に阻止するでしょうねー。
当麻としても、10032号はアクシデントだったと言えるでしょうけれど、10039号となると……
さて、第三部でなにやら進展はあるのか、ですねw

と言うわけでして、まだ3コマしか書けておらず、しかもイベントの途中なので、申し訳ありませんが延期ということで何卒御了承致したく存じます。
頑張ります。
863 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/06(木) 20:44:50.06 ID:lRDRWDD/0
作者様
お疲れさまです。
いつも思いますが、学園都市のlevel5の中でも御坂美琴さんの事務能力というのか社会人としての能力は
極めて高いですよね。level5としての計算能力は当然のことながら、ほかの人と違いまずまともな性格
でかつ、電子制御系はSクラスのハッキングすら行えるのですから、しかも当然のことながら荒事もいざ
となればできるので、しかも美人ですからね。広報委員会も放置しないわけですね。
それはそうと、広報委員会に就職したということはノルマの6言語習得したというわけですね。
864 :LX [sage saga]:2012/09/09(日) 22:01:58.53 ID:5manmM8p0
皆様こんばんは。
>>1です。

誠に申し訳ありませんが、本日もパスさせて下さい。ちと公私とも珍しく忙しい為に進みません。
お待ち下さっていらっしゃる読者の方に深くお詫び致します。
一応昨日は2コマほど書き上げておりますが、落としどころが今ひとつでして……

>>863さま
コメント有り難うございます。
美琴の言語能力ですが、wikiのまとめ見ますと、原作において既に常盤台中学の時点で英・仏・露は問題ない様です。
普通に考えますとこれに独は加わるであろう事は火を見るより明らかなので、残り2つとなります。
伊と西でしょうか。
実際はこれにラテン語と中国語(北京語)くらいは追加されそうですがw

うまくゆけば、イレギュラー日時に投稿出来るかもしれません。
なんとかしたいです。それでは失礼致します。
865 :LX [saga]:2012/09/16(日) 21:04:26.03 ID:XIEedObl0
皆様こんばんは。
>>1です。

暑くてペースが上がらない、忙しい、でなかなかはかどりません。
第二部の終わりが近づいてきているというのに……

ブツブツ言っていても仕方ありません。頑張るだけです。
それでは本日分、これより投稿致します。
宜しく御願い致します。
866 :LX [saga sage]:2012/09/16(日) 21:15:08.18 ID:XIEedObl0
新年。

ここ数年は当麻も美琴もそれぞれ一旦実家へと戻り、その後は大晦日の夜に二人はいつものように騒ぎを起こしつつ年明けを祝い、新年の恒例の行事(つまり、初詣だ)に勤しむのであったが、今年はそうはいかなかった。

当麻は年末からサイエンティフィック・インターナショナル・トレーディングのアルバイト、と言う名目で土御門元春に引っ張り出され、世界一周の旅に連れ出されたのだった。

「新年の挨拶の他に、いろんなところのいろんな人に、報告しなきゃならないことがあるんじゃないかにゃー、カミやん? んんん???」

というわけである。新年挨拶とはいうものの、要は結婚の報告に行け、ということなのであった。

もちろん、土御門が単純に報告だけで終わらせるわけもなく、とりわけイギリスにおいては彼は建宮斎字(たてみや さいじ)と組んで、五和を欧州での現地妻にしてしまおうというプラン(いたずら)を組んでいた。

二人は、単にイギリスでの面倒見を彼女に頼むつもりで、半分冗談で話をしたところ、五和はそれを逆手に取り、あっさりと二つ返事で引き受けたのである。

あわてたのは二人の方で、五和に平謝りするも、彼女はてこでも後に引かぬ決意を示し、聞く耳をもたなかった。

結果的に当麻がどのようにして、すっかり覚悟を決めていた五和をなだめすかしたかは、それだけで一つのSSが出来るくらいであったが、本筋ではないので省略しよう。



一方の美琴はというと、彼女は学園都市の「顔」として、年末から新年にかけて学園都市の新年イベントに出ずっぱりであった。

そのハードスケジュールの裏には、第一秘書兼影武者である御坂美子(みさか よしこ=検体番号10039号)と、美琴の第二秘書である御坂琴子(みさか ことこ=検体番号19090号)の存在があり、彼女ら無くしては成り立たないものだった。

さすがに、上司である笠原真彩(かさはら まあや)も危惧し、いくつかのイベントを外したくらいである。



美琴は、実家に帰りづらかった。いや、帰りたくなかったというのが正しいかも知れない。

なぜなら、実家には、あの、検体番号10032号、御坂妹がいたからである。(彼女には、まだ名前をつけていなかった)

彼女を実家に預けるというアイディアは、実は彼女自身が言い出したことだった。

「あの子がいるから、私、家に帰りたくない」などという事は、口が裂けても言えるわけがなかった。

そもそも、自分の実家に預けることで、御坂妹こと検体番号10032号を自分と当麻のところから遠ざける事が出来、なおかつ監視も可能、という読みがあったことを美琴は内心認めていた。

そのことは彼女に後ろめたさを感じさせることになり、その裏返しで、彼女は意地でも実家に帰るわけにはいかなかったのだ。

そこにもってきて、婚約者の当麻はこの時期に海外出張だと言って来たのだった。

正直、彼女はそれを聞いた時、おもわず安堵した。

(これで、あの子に顔を合わせなくても済むわ……)

アイツが実家に帰るならば、当然自分も帰らねばならない。

そうなれば必然的にあの子と顔を合わせなければならなくなるが、それは苦痛以外の何者でもない。

美琴がホッと胸をなで下ろしたのはむべなるかな、であった。

肩の荷が下りた開放感から、

「年末年始に海外出張とか、まだ大学を卒業もしていない学生を随分こき使ってくれるじゃないの?」と軽い冗談ぽく答えた美琴だったが、あることにハタと思い当たり、俄然彼女の機嫌は悪くなった。

「アンタ、それって、あの銀髪シスターのところへ行くって言うんじゃないでしょうね?」

その瞬間、携帯の当麻の画像は大きく揺れ、彼がうわずった調子で答えて来たのに対し、美琴は画像通話を切った。

怒りのあまりに、ではなく、彼のあまりの右往左往ぶりに、思わず笑い出しそうになったからであった。

(ホントに、ウソがへったくそよねー、アイツ)

実は、一瞬だけムカッと来たものの、当麻が統括理事会外交委員であることを直ぐに思い出し、まぁ、お役目なんだろうな、と彼女は冷静さを取り戻していたのであった。

まぁ、アイツが事情を説明するまで、私がアイツの本当の姿を既に知ってしまっていることは内緒にしておこう、と美琴は思った。

当麻がどんな言い訳をしてくるかが楽しみであったからだ。

果たせるかな、携帯が振動した。もちろん、当麻からだ。

(さて、アイツはどういう話で切り出すのかな〜?) 美琴はくすっと笑いをかみ殺し、不機嫌そうな顔を作ると画像通話を開始した。

「うっさいわね。なに?」
867 :LX [saga sage]:2012/09/16(日) 21:20:39.21 ID:XIEedObl0

さて、御坂妹はどうしていたのだろうか?

彼女が御坂家にかくまわれて、はや1ヶ月以上が経っていた。

既に彼女は御坂家になじんでいた。



あの日。

当麻に連れられて築地のウィークリーマンションから出た御坂妹こと検体番号10032号は、ワゴンタクシーから降り、当麻が示した家の表札を見て立ちすくんだ。

「御坂」

突っ立ったままの彼女の脇で「上条です。参りました」と、当麻がインタホンに向かって挨拶をする。

その声で、彼女は我に返った。

「あの」

「驚いたか? 美琴の実家だよ」

目を見張って、御坂妹は訊ねる。

「どうして、私が」

その時、門が開いた。

「いらっしゃい。待ってたわ」

御坂妹は、思わず反射的に後ずさりし、当麻の斜め後ろに隠れた。

当麻の陰で、こちこちに固まりつつも自分をじっと眺める御坂妹の視線をものともせず、美鈴はニッコリと微笑んで彼女に優しく言葉を投げかけた。

「そうよ、私が、美琴の母親。御坂美鈴(みさか みすず)よ? 覚えておいてね?」

美鈴は、無意識のうちにざっと御坂妹の身体に視線を走らせていた。

その視線に気が付いた御坂妹は、我が子を庇うかのようにサッと両手をお腹の前で合わせた。

その動作を見て、自分が今何をしたのか気が付いた美鈴は、心では苦笑しながらも、あくまでも明るく

「さぁさ、疲れたでしょ? さ、お入りなさいな。今は『他に誰もいない』から」

と言って御坂妹の前に進むと、やにわに彼女の手を取り、

「遠慮しないの。さ、どうぞ」と言って、今度は彼女を後から柔らかく肩を抱き、彼女を中へと導いてゆく。

戸惑うかのようにチラチラと、後から付いてくる当麻を振り返る御坂妹に、

「まぁ心配するな。美鈴さんにまかせろよ、な」と当麻は励ますように声をかける。

「あら、上条クンたら嬉しいこと言ってくれるのねー。でも、何にも出ないからね」と美鈴が混ぜっ返した。
868 :LX [saga sage]:2012/09/16(日) 21:25:09.37 ID:XIEedObl0

(ここが、お姉様<オリジナル>の、『家』……)

あのひとに連れられて来た、この家の前で、私は動くことが出来なかった。

逃げだそう、という気持ちと、お姉様<オリジナル>の御両親は、いったいどんな人なのだろうという怖いもの見たさの気持ちがぶつかっていたからだろうか?



  ――― 私は ―――

お姉様<オリジナル>を裏切った女。

お姉様<オリジナル>の婚約者である上条当麻を寝取った女。

お姉様<オリジナル>から生まれたクローンのくせに。



私は、生まれてくる我が子の為に、何を言われようとも耐え抜こう、生きてゆこうと決意していた。

自分の取った行動に、最後まで責任を取らなければ、そして、その結果生まれてくる我が子を、あのひとの子供を育てるために。



そのはず、だったのに。

お姉様<オリジナル>の御両親に会うのだ、と思っただけで、心に決めたはずのそれは、あっけなく崩れてしまった。

なんと情けないことだろう。

なんと恥ずかしいことだろう。

自分がこんな人間だったとは。



心の中で、言い訳をしている自分が居た。

(だって、知らなかったから)

(お姉様<オリジナル>の家に行くと知っていたら、きっと来なかった)

(せめて一言言ってくれれば心の準備も出来たのに)

(だいたい、あのひとはどうして私をここへ連れてきたのでしょう? そうです。あのひとがいけないのです。まったくもう、いつまで経っても……)

そう、正直に言えば、私は少しあのひとが恨めしい。

私は、築地のマンション暮らしにも慣れたし、それなりに楽しみも見つけていたのに。

私だって、気さくな街の人ともぽつぽつと話をすることもあったのに。

私は、ウィークリーマンションでは一人だったけれど、学園都市の女子寮でも似たようなものだったし、別に気にもしていなかったのに。

身重の自分に危険が迫っている、と言うことに恐れはあったけれど。

でも、何故、よりにもよって「お姉様<オリジナル>」の実家に? まさか、ここで、一緒に? 本当に?

お姉様<オリジナル>は知っているのだろうか? 



「いらっしゃい、待ってたわ?」

突然の声に、私は瞬時に身体を引き、無意識のうちにあのひとを盾にして、その主を凝視した。

――― お姉様<オリジナル>に似ている ―――

第一印象は、そうだった。

(このひとが、お姉様<オリジナル>の、お母様? お姉様<オリジナル>はこのひとから、『生まれた』の?)

なぜだろう、私はお姉様<オリジナル>を初めて、羨ましいと思った。
869 :LX [saga sage]:2012/09/16(日) 21:35:27.93 ID:XIEedObl0

「今は、うちの人いないからくつろいでね? ほらほら、そんなに固くならないの」

そう言いながら美鈴がお茶を出してきた。

「そう、ですか」

当麻は心なしかホッとした感じで湯飲みに手を伸ばすが、御坂妹は心持ちうつむいて固い表情を崩さないままである。

「うん。新しいお家、見に行ってるの」

「え? 引っ越されるのですか?」

なんでまた、と当麻が訊ねる。御坂妹も(え?)という顔をして、美鈴を見る。

「半分正解ね。ここだとね、美琴ちゃん知ってる人、多いから。勘違いされても困るでしょ?」

いたずらっぽい調子で美鈴は御坂妹を見て当麻に答える。

「は……」
「……」

御坂妹は下を向く。

「まぁ、ほかにもあるけど、気にすることはないわ? あの子にも言ってあるし」

「美琴にも?」

「そう」

「あの、」

初めて御坂妹が口を開いた。

何かしら? という顔で美鈴は優しく微笑んで御坂妹を見る。

「このミサカも、その新しいところへ?」

もちのロンよ! というように美鈴は大きく頭を振り、

「そうよ? 最初はね、赤ちゃんが生まれてから来てもらおうかなー、と思ってたんだけど、こんなに早く来ることになったのはちょっと予想外だったかな」

うんうんと頷く美鈴に、御坂妹はぽかんとした表情になる。

「ちなみに、どっちなの?」 と美鈴が訊ねてくる。

「男の子、と言われました」

「えーっ?」
「ホントなの!? やったぁーっ!! 男の子だ! ああっ、もうどうしようかしら、ううーん、もう私待ちきれないわぁー!」

御坂妹は、当麻が驚いたことにもびっくりしたが、もっと予想外だったのは美鈴の反応であった。

どうして関係のないこのひと(御坂美鈴)が、こんなに喜びはしゃぐのだろうと。

「お、お前、わかってたんなら言ってくれよな?」 

当麻が少し怒った調子で言うと、

「すみません。当然知っているものだとばかり……」 

御坂妹は、まさか怒られるとは思っても見なかったのだろう、しゅんとして俯いてしまった。

「あ、すまん。そんな怒るつもりじゃなかったんだけど、ゴメンな? ……でも、そうか、男の子なのか……」

謝りつつも少し険しい顔になった当麻と、はしゃぐ美鈴。

この対照的な二人に御坂妹が恐る恐る、という顔で控えめに訊いてきた。

「あの、男の子だと、何か特別良いことでもあるのでしょうか? ミサカは学園都市以外の事はよく知らないものですから……」

と美鈴に聞き、当麻には

「逆に、あなたは女の子の方がよかったのですか? とミサカは内心の動揺を隠しながら訊いてみます」と。
870 :LX [saga sage]:2012/09/16(日) 21:38:16.14 ID:XIEedObl0

美鈴と当麻は顔を見合わせ、

「あ、それはね」
「あ、それはな」

返事が被った二人は「どうぞお先に」「あら、責任者のあなたが先に」と譲り合った末に、年長者である美鈴が先に答えることになった。

「簡単なことよ。私は娘、そう美琴ちゃん一人だけだったから……ホントはね、次は男の子が欲しかったんだけれどね、だから男の子にすっごく興味があるの♪ 

いけないかしら? うふふふふ」

(すっかりその気だな)
(私の子供なのに……)

ノリノリで楽しそうな美鈴に二人は心の中でため息をつく。

「おれの番だな」と当麻は口を開いた。

「あのな、気を悪くするなよ?」と言って、彼は御坂妹の目を見つめる。

「はい……なんでしょうか?」 御坂妹は思わずしゃきっと座り直し、当麻に向かい合う。

「男の子だと聞いてな……」 当麻は、

「オレのようにならなきゃいいなって……思ったんだ、うん」

そう言うと、彼は右手を上げ、ちらと眺め、そしてまた御坂妹を見る。

御坂妹は彼を凝視し、美鈴ははっとした顔になる。

「まぁ、よく考えればさ、女の子でも同じなんだけどな」

自分を睨む2人の女性に気圧されたのか、いやいや冗談だから、違うからさ、というように手を左右に振る当麻。

「当麻クン、あなた以外にその不思議な能力持ってた人って、今までいたのかしら?」

美鈴が当麻に聞く。

「いいえ、少なくとも父の方にも母の方にもそういうひとはいなかったようです」

「あなたの身の回りで、最近不幸なことはありましたか?」

御坂妹が話に割り込んでくる。

「うーん……そう言えば、昔みたいなことは殆どないな。お気に入りのシャツ、ひっかけて破いちゃったくらいか」

「それは単なる不注意ではないか、とミサカは考えます。それに」

「もし、この子にあなたが心配するようなことがあっても」

話を続ける御坂妹は、言葉を一旦切ると当麻の顔を見上げた。両手は、お腹の子を庇うかのように。

「このミサカがこの子を守ります。ミサカの、命に代えても」

そう、彼女は言い切った。



(美琴ちゃんに、ちょっと似てたかしらね)

そう、御坂美鈴は御坂妹の横顔を見て小さく頷いた。
871 :LX [saga sage]:2012/09/16(日) 21:42:09.73 ID:XIEedObl0
>>1です。

本日分、短くて済みませんが、以上です。
書きため分(5月に書いてあったものですw)がこの後に入ってくるのですが、
辻褄が合わない部分が見直し中に見つかりまして、修正を図りましたが結構タイヘンで……
本日は見送りました。中途半端で申し訳ないです。
近いうちに投稿出来れば良いのですが。

最後までお読み下さり、有り難うございました。
それではお先に失礼致します。
872 :LX [saga]:2012/09/23(日) 21:06:56.47 ID:ZCbdZhPS0
皆様こんばんは。
>>1です。

本日分、これより投稿致しますのでどうぞ宜しく御願い致します。
873 :LX [saga sage]:2012/09/23(日) 21:11:44.66 ID:ZCbdZhPS0

その日の夜。

就寝の為客間に御坂妹が下がってしばらくした頃に、御坂旅掛が戻ってきた。

三人は、低い声で言葉を交わしてゆく。

「家具なんかはもう揃っているのでね。身の回りのものは持ってきたそうだな? すまんがそれを持って移動してもらおう」

「その……皆さんは、ここのものはどうするんですか?」

「もちろん持っていくがね、二世帯住宅だから後でもいいのさ。わしも暫くはこっちにいるし。とりあえずは、あの子と美鈴に先に行ってもらう」

「明日、午前中には入りたいから、9時に出るわ。上条クン、いいかしら?」

大丈夫よね? という顔で美鈴が訊いてくる。

「いえ、僕は明日、学園都市でちょっと用事がありますので、すいません。出来ればそろそろお暇しようかと」

「あら、そうなの? 残念ね」

「申し訳ありません」

「それでは仕方ないな。話があるのだが簡単に済ませよう。それで、だ」

旅掛が真剣な顔で当麻を見る。その視線に、思わず当麻も居住まいを正す。

「上条君。その、生まれてくる子のことだが、君はどうするね?」

「もちろん、僕の子ですから」

「ふむ。その前に、あの子には戸籍があるのかね?」

当麻はあっと思う。そうだ。そもそも彼女、御坂妹には戸籍がない。簡単なIDカードは所持しているが、それだけである。

と言うことは、生まれてくる男の子は……

「そうか……」 当麻は頭を抱える。

「そう言うことだ。戸籍上存在しない人間の子をどうやって登録するか、だ。

と、いうわけで、XX市の市長と助役に会ってきた。市長はわしの中学校の同級生なのでな」

「え? そこって、今度引っ越すところ……ですよね?」

「そういうことだ。で、とりあえず彼女の戸籍を先に作る。国籍は国に申請しなければならないがね。

それに一応、今学園都市にいる3人のことも話しておいた。

……XX市で、彼女ら妹達<シスターズ>の戸籍を作成してもらえることになった」

そう言い終わると、ぐいと旅掛はビールグラスを空にする。

微笑んだ顔で、美鈴が空のグラスにビールをまた注ぐ。

(キミは飲まないの?)という顔で美鈴が当麻を見るが、彼は僅かに顔を左右に振り、遠慮しますと目で答え、再び旅掛に質問を投げかけた。

「そんなことが出来るのですか?」 

そんな簡単に戸籍って出来るんですか?と言う顔の当麻に対して、

「もちろん、彼女たちが無国籍である事が前提で、彼女らを保護するために、という建前がいるんだが。

ま、学園都市で生まれているので、正直年齢も不明なんだが、と言ったら『ああ、学園都市ですか……ありそうな話ですね』で納得されてしまった。

あそこは、そう言う目で見られているのだな」

旅掛はそう答えると、再びぐいっとビールをあおる。
874 :LX [saga sage]:2012/09/23(日) 21:17:03.49 ID:ZCbdZhPS0


「いい話じゃありませんね」  

美鈴が再びグラスにビールを注ぎながら、ため息と共にそうぼやくと、 

「いや、この件においては、ある意味幸いだったね。普通はこんな簡単に話は進まないからね。

……とはいえ、そうなると次は日本国内にいる他の妹達<シスターズ>をどうするか、だな」

妻の合いの手に、そう旅掛は答えると、再び当麻の方を向き、

「美鈴に訊いてもらっても良いんだが、君の方が良いと思うのでね、日本国内(こっち)に妹達<シスターズ>は何人いるのか聞いておいてくれるかな?」

と訊ねると、当麻は少し明るい顔で返事を返した。

「わかりました。それで、海外は?」

「おいおい、そんなに一度に出来ないさ。それに、海外には戸籍ってものがないところが多いからね? やり方がみんな違うからそりゃ大変だよ?」

「そう、ですか……あの、僕は貿易商社勤めになるんで、もしかしたらお役に立てることがあるかと思います。是非協力させて下さい」

当麻が真剣な目で旅掛に訴える。

「そうだったな。何かの時に、頼むことがあるかも知れないな」

もちろん旅掛は、彼の就職する貿易商社、サイエンティフィック・インターナショナル・トレーディングがダミーであることにとっくに気が付いていた。

そして、彼が学園都市統括理事会外交委員会の特命事項担当者であることも。
                                     
「そこでだ、上条くん、君にもう一度確認しておきたいのだが」  旅掛が当麻を見すえる。

「はい」  当麻も旅掛を真っ直ぐに見る。

「昨日、美琴から話があった。君と結婚することを決めたと。君は?」

当麻はその瞬間、今日の美琴の全てを理解した。

明日の、妹達<シスターズ>への報告会、いや最後通牒の話を聞いても、本当だとは思えなかった。

終わったら、「ああするしかなかったから、ゴメン。この話はなかったことにして」と話を翻されるのではないかと不安だった。



<やさしく、して?>

カチカチに緊張して、震えていた美琴。



<じゃ、明日、ね>

事後、恥ずかしさか、気まずさか、二人はろくすっぽ話もしないまま別れ、打ち合わせの通り、彼は御坂妹を連れてここに来たのだった。

当麻には一抹の不安があった、美琴と結ばれても。

だが、これでその疑念も晴れた。

当麻は旅掛の目を見つめて、そして頭を下げて答えた。

「はい。間違いありません。僕は彼女と結婚することを約束しました。彼女が大学を卒業した後ですが」

「ふむ。では聞こう。あの子、御坂妹と言っている、あのクローンの子はどうする? そして、そのお腹の子のことは?」

鋭い質問だった。
875 :LX [saga sage]:2012/09/23(日) 21:24:27.29 ID:ZCbdZhPS0

当麻の顔が強張る。

「御坂……妹とは……別れます。僕の、妻は、美琴ですから、はい。

でも、お腹の子は、認知します。いえ、認知させて下さい。生まれてくるあの子は、僕の子ですから。僕はあの子の父親ですから」

ゆっくりではあるが、当麻ははっきりと宣言した。

「……」
「……」

旅掛・美鈴の二人は無言。



しばらくの沈黙の後、再び当麻が口を開いた。

「美琴には、迷惑をかけるかも知れませんが、生活費と養育費は送ろう、と思ってます。御坂妹が受け取ってくれればいいんですが」

「ふむ。上条くん。実は、美琴とはその件についても話をしたのだよ」

「は……?」

旅掛は美鈴と頷き合い、訝しげな顔の当麻へ語りかける。

「あの子は、引き続きウチで預かることにした。幸い、美鈴も乗り気なので、ウチは問題ない。

学園都市は危険があるというし、さりとて、あそこを出て来てもらいながら、日本のどこででも暮らしていけ、と道端に放り出すわけにはいかんのでな。

美琴の父、と言う立場では非常に思うところがあるが、御坂旅掛という人間は、妹達<シスターズ>を放っておけないのでね」

当麻は理解した。

御坂妹を、ある意味、隔離したのだ、と。

確かに学園都市外にある美琴の実家に預けてしまえば、もう特別な時以外学園都市で会うことはない。

そして、監視するのは美琴の両親。安全で、確実である。

問題は、御坂妹を狙う連中が、ここまで押しかけてきたら……



「あー、もしかして、私たちのこと心配してくれてるのかな? それはね、もう大丈夫だって、美琴ちゃんが言ってた。

訳は教えてくれなかったけど」

美鈴がピリピリしている空気を和らげようとして助け船を出すが、その甲斐もなく浮いてしまい、話が続かない。

「それで、美琴がウチに寄る時には、君は一緒に来ても良いそうだ。但し、帰る時は一緒だそうだが」

子供には会わせてくれるのか、と当麻は思う。美琴の監視つき、と言う条件に、彼は思わず心の中で苦笑した。

そして、ふと彼は思った。

(母さんは、孫を見たら、御坂妹を許してくれるだろうか)
876 :LX [saga sage]:2012/09/23(日) 21:38:57.99 ID:ZCbdZhPS0

そして日は変わって、今は正月、ここは御坂家である。

「新年あけましておめでとう御座います」

「しんねん、あけまして……おめでとう、ございます……?」

「ははは、びっくりしたかね? いや、まずは新年あけましておめでとう。今年も宜しく」

妊娠6ヶ月となった御坂妹はいつものマタニティ服で現れたのだが、御坂旅掛は紋付き袴、美鈴はこれまた松が描かれた正調の着物である。

「あの……」

目をぱちくりさせて、言葉の出ない彼女を二人は手招きして椅子に座らせた。

「麻美さんは、たぶん、日本の伝統を知らないだろうと思ったのでな、ならば一つ、わしらが日本の正月というものを見せてやろうと思ったまでさ」

「そうそう、知っておいてソンはないからねー」

ニコニコしている二人の前で、御坂妹こと御坂麻美は気まずそうに少し視線を落として小さい声で答えた。

「はい……有り難うございます。あまりに見慣れない服装でしたので、ちょっと驚いただけです。他意はありません」

「じゃ、それじゃ始めようか?」

旅掛が美鈴に合図した後、続けて麻美に席を移動することを促すと、彼女は恥ずかしそうに

「あの、私はこんな格好で宜しいのでしょうか? そう服は持っていませんが、もう少しフォーマルっぽいのがありますけど……」と言うと、

「ううん、気にしないで良いのよ? ここは貴女の家でもあるんだから。来年はきちんと出来るでしょうからね?

……あ、でも赤ちゃんの世話でそれどころじゃないかな、ふふふふ♪」

何やら楽しそうな美鈴が、取りなす。

「じゃ、美鈴、それに麻美さん、新年の儀式を始めるから、向こうへ行こう。大丈夫かね?」

旅掛が立ち上がり、麻美がそれに続き、後から美鈴が彼女の様子を注意しながら付いてゆく。

----------

御坂家、恒例の新年行事なるものを一通り済ませた後は、食事である。

美しく盛りつけられたおせち料理に、麻美は目を見張り、目に焼き付けておこうとでも思ったか、しばらくの間じっとそれを注視し、その後からは矢継ぎ早に美鈴にひとつひとつの料理に質問を浴びせかけ始めた。

最初のうちは何とか答えられていた美鈴であったが、あまりの質問の細かさに遂にギブアップした。

「ゴメンね、麻美ちゃん、これ、料亭のものだから。私にもよくわかんないのがあるのよー。アハハハ、ばれちゃった」

「そうなのですか? こんな沢山の種類をこれだけ少ない量に仕上げるのは、相当の手間暇とロスが生じたのではないか、と思っていたのですが」

「いやね、自分でも作るんだけど、こんなに手間掛けてられないからね、もっと少ない種類でその代わり量があるんだけどさ。

ま、麻美ちゃんの初めての正月だから派手に行こうって思ってたから、フンパツしちゃったのよ」

「そうだったのですか。有り難うございます。見ていると、食べるのがもったいないくらいです。こんな素晴らしい料理があるのですね」

「まぁ、プロだからねー。味付けもそうだけど、見栄えが素晴らしいわよね。美琴ちゃんがいた頃はゲコ太をかたどったカマボコとか作ってみたものよ……」

「それ、私も見てみたいです。今度、是非」

「へー、麻美ちゃんもゲコ太好きなの?」

「お姉様<オリジナル>ほどではありませんが」

「えー、オッホン! 二人ともおしゃべりはそこまでにして、そろそろおせちを頂こうではないかね?」

果てしなく続きそうな二人の女性のおしゃべりを、おあずけ状態で待たされていた旅掛が、申し訳なさそうな顔で断ち切ったのだった。
877 :LX [saga sage]:2012/09/23(日) 21:52:09.31 ID:ZCbdZhPS0

それは突然やってきた。



「私の携帯に着信です」

美鈴とのおしゃべりを突如中断し、そらを注視していた御坂麻美(御坂妹)がつぶやいた。

「え、そんなことわかるんだ?」

「はい。自分はこれでもレベル3ですので。ちょっと部屋に戻ります」

「へー、便利だね。足もと、気を付けてね?」

「ありがとうございます」

便利ですか? と言う顔で彼女は客間に戻って行った。



旅掛は御神酒のせいで、僅かに赤い顔をしている。

美鈴は御坂妹こと御坂麻美が来て以来、アルコール類は控えており、今日は御神酒だからと言うことで杯に軽く一杯のみである。

ちなみに麻美はお腹の子に何かあっては、とわずかに舐めた、という程度だった。

「では、そろそろ初詣にでも行くか? 天気も良いし」

沈黙を破るように、旅掛が美鈴に話しかける。

「タクシー呼びましょうか?」

「いや、今年は近くのにしよう。そこの神明さんで良いだろう? ゆっくり歩いても10分ほどだ。遠くではあの子が疲れてしまうからな」

「あらあら、随分と優しいこと」

「冷やかすな。女性には優しく、とくに妊娠しているひとには余計にな。なんせ子供は国の、いや世界の未来を担う宝なのだからな」

「大きく出たわねー。私の時、そんなこと言ってたかしら?」

「昔からそう思っていたが、美琴が生まれて、改めてよぉくわかったのだ」

「あーら、うまく逃げたわね」



夫婦の他愛もない掛け合いが続く中、麻美が戻ってきた。

二人を見て、彼女は立ち止まる。

「誰からだったの?」

「……学園都市に至急戻って欲しい、という連絡がありました。すみませんが、これから私は出かけなければなりません。

せっかくの楽しい時をぶち壊してしまって申し訳ありません」

心なしか、緊張している麻美の顔は青く見えた。
878 :LX [saga sage]:2012/09/23(日) 21:57:11.82 ID:ZCbdZhPS0
>>1です。

本日分、相も変わらぬ5コマと少なくて申し訳ありませんが、以上です。
引き続き頑張りますので宜しく御願いします。

それではお先に失礼致します。
最後までお読み下さりまして、誠に有り難うございました。
879 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/25(火) 21:33:51.85 ID:fkijj6j0o
乙!
880 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2012/09/26(水) 01:07:08.78 ID:bxrjg6LT0
いつも楽しく読ませてもらってます。
美琴と当麻がそもそもどういう風に美鈴に話をしたのかも気になるところ。
そこら辺の描写も期待して待ってる。
881 :LX [saga ]:2012/09/30(日) 20:03:26.15 ID:21DH1Xvd0
皆様こんばんは。
台風がやって参りました。くれぐれもご注意を。

>>879さま
有り難うございます。頑張ります。

>>880さま
コメント有り難うございます。
まるで先を読まれていたかのような内容ですね。御期待に応えられれば良いのですが。

それでは本日分、これより投稿致しますので宜しく御願い致します。
882 :LX [saga sage]:2012/09/30(日) 20:11:31.75 ID:21DH1Xvd0

「父さん、母さん、おめでとう!」

「元気そうだな、ああ、おめでとう!」
「おめでとう。美琴ちゃん、風邪ひかないようにしてる?」

「あのねぇ、もう子供じゃないんだから……」



ここは神奈川県と学園都市第二学区との連絡口。

学園都市に戻らなければならない、という御坂妹こと御坂麻美を送ってきた御坂旅掛・美鈴の2人と、学園都市から出迎えの為に出てきた娘・美琴とはつかの間の逢瀬である。

ふっと会話がとぎれる。

美琴の目が、両親の後にいる人間を捉えていた。

「ちょっとアンタ、隠れてないで出てきなさいよ。ほら、主役が隠れててどうすんのよ?」

やや刺々しいのは、やむを得ないだろうか。

「はい。新年あけまして、おめでとう御座います。今年も宜しくお願い申し上げます、お姉様<オリジナル>」

麻美が大きなお腹を抱えつつ、新年の挨拶をする。

「アンタ、そんなお腹なんだから、無理してお辞儀なんてしなくて良いから! そうね、今年も宜しく」

美琴は、麻美のお腹を見ながら、ややつっけんどんに挨拶を返した。

「美琴ちゃん? もっと丁寧にしないと、お姉さんとしての示しがつかないわよ?」

やんわりと美鈴が美琴をたしなめるが、美琴は

「ほら、アンタ、病院で先生待ってるんでしょ? 行くわよ!」 と麻美を促す。

「はい。それでは御坂さん、美鈴さん、それでは行ってきます。1日2日で戻れると思いますから」

そう言って、麻美は軽く二人に会釈した。

「おお。戻る日が決まったら教えてくれ。迎えに来てあげるから」
「気を付けてね。待ってるから」

旅掛・美鈴の二人は心配そうな顔をしながら麻美としばしの別れの挨拶を交わす。

(なんか、まるで私が強引に連れ去る人さらいみたい。冗談じゃないわよね、忙しい中、来てあげたってのに。

そ、だいたいあのバカが海外出張なんかするからいけないのよ! 

アイツがいれば、こんな仕事なんかしなくても済んだし、こっちに戻れてたのに! 

ホントに使えないんだから、まったくもう!)

心の中でブツブツ文句を垂れながら、美琴は3人のお別れのセレモニーを眺めていた。


「お姉様<オリジナル>、お忙しいところすみませんでした。宜しく御願い致します」

そう言って会釈する麻美を美琴は無視するように

「じゃ、お父さん、お母さん、この子連れて戻るから。身体、気を付けてね! 時間出来たら、『アイツと一緒に』帰るから! 

じゃね! バイバイ!」

ことさら「アイツと一緒に」を強調するかのように言って、両親に手を振りさよならを言うと、くるりと廻って麻美の手を取った。

「さ、それじゃゲコ太先生のとこ、行こうか?」

「はい。御願いします」



ゲートに消えてゆく二人を、御坂旅掛・美鈴の両親は見えなくなるまで手を振っていた。
883 :LX [saga sage]:2012/09/30(日) 20:17:00.97 ID:21DH1Xvd0

「あの、こんな立派なクルマ、ミサカが乗っても良いのですか?」

「私が乗ってるんだから良いのよ。ほら、気を付けてさっさと乗る!」

ゲートを出た二人は、統括理事会広報委員会が利用しているリムジンに乗りこんだ。

正月は学園都市を離れるお偉いさんも多い為に専用車には空きが出る。

それで、格としては下っ端の美琴でも使うことが出来たのである。

運転席と後部シートとは隔壁で仕切られている他、窓ガラスの色の濃度も任意の濃さに設定出来るため、人目を避けたい二人にはうってつけのクルマであった。

「で、具合はどうなの?」

美琴は、麻美をチラと横目で見た後は素知らぬ顔で前を見ている。

「はい。順調に育っているようです。問題はないとお医者様から言われています」

麻美はそう言うと、そっぽを向く美琴をしばらく見つめ、やがて諦めるかのようにわずかに俯く。

しばらく、沈黙がリムジンの居室を支配する。

道路の継ぎ目の音がかすかに響く。防音・防震が効いているのだ。

「私ね、」

美琴が独り言のように言う。

「はい」

麻美が返事をする。

「あんたの名前、認めてないから」

「え……」

麻美の顔色が変わる。

「私に断りもなく、私の娘につけるはずの名前、勝手に名乗っちゃって、何考えてんのよ? ずうずうしすぎるわよ」

「……そんな」

「他の妹達<シスターズ>は、ちゃぁんとそこらへんは理解してくれてたわよ。私の名前の『美琴』をひっくり返した『琴美』は自主規制してたくらいだしさ」

(それは私も知っています。だから)と麻美は心の中で美琴に答えていた。

「ホント信じられない。姉たる私から名前の字を取るのはいいわよ? だけど、その他に、姉の亭主になる男の名前を使うって、どういう神経してんのよ?

どこまで人をバカにすればいいのかしら」

麻美は黙って下を向いている。

「美」という字は、お姉様<オリジナル>のお母様、「美鈴」さんから頂いたものですし、旅掛のお父さまと美鈴お母さまも納得して頂いたのですけれど、とでも答えようものなら、間違いなく電撃が飛んでくること確実だからだ。

自分は発電能力者<エレクトロマスター>の端くれなるがゆえ、ある程度の電撃には耐えられる自信があった。

しかし、お腹の中の子供がそれに耐えられるかは全くもって不明。

彼女はじっと堪え忍ぶしかなかった。
884 :LX [saga sage]:2012/09/30(日) 20:27:37.02 ID:21DH1Xvd0

「男の子なんだって?」

美琴が今度は麻美を見ながら訊いてきた。

「はい」

「名前はどうするの?」

そう来たか、と彼女は思う。正直、まだ麻美としてはそこまで考えていなかったのだが。

「まだ、決めておりません」

「あっそ。じゃ、これ」

美琴はバッグからメモを出して彼女に渡す。

「それ以外の名前にしてね。そこに書いてある名前は、私の子供のために取っておいて」

麻美はそのメモを見る。

「誠」「麻琴」等の「まこと」、「当也」の「とうや」、「当樹」の「とうき」……

そこには、ずらりと当麻の字をあてた名前が書き出してあった。

(お姉様<オリジナル>、よくぞここまで……恐ろしいくらいの執念ですね)

麻美は小さくため息をついた。

それを聞きとがめた美琴が突っ込んでくる。

「何ため息なんかついてるのよ? 不服でもあるの?」

麻美もさすがにこれにはカチンと来た。だが、お姉様<オリジナル>に逆らっても何も良いことはない。

「いえ、ふと気づいたのですが、お姉様<オリジナル>はあのひとと結婚なさるのでしょう?」

「そうよ? 悪い?」

「いいえ。であれば、やがて生まれて来るであろうお姉様<オリジナル>のお子様は『上条』を名乗ることになりますね?」

「そうね、私も『上条美琴』って名乗るかも」

「であれば、ミサカが『御坂麻美(みさか あさみ)』という名前になったとしても、お姉様<オリジナル>のお嬢様とはかち合わないので、何も問題は起きないのではないでしょうか?」

そう来たか、と美琴は鋭い目で麻美を睨み付ける。

「そういう問題じゃないのよ。気持ちの問題なの。わっかんないかなー……

それによ、私がアイツとよ、万一よ、万に一つよ、アイツと離婚したら? ないとは言えないし。

そうしたら娘に麻美ってつけていたら同じ名前になっちゃうじゃないのよ? アンタ、そんなことも考えていないの?」

すると、麻美はニッコリと笑って美琴に答えた。

「いいえ、その場合でも大丈夫です。万が一、お姉様<オリジナル>があのひとと離婚された場合には、このミサカがあの人の下にお嫁に参ります。

そうすれば、このミサカは『上条麻美』になりますし、お姉様<オリジナル>のお嬢様は『御坂麻美』になりますからやはり問題はないかと」

言い終わると御坂妹はお腹を優しく抱き、窓の外を見る。

美琴は唇を振るわせて麻美を睨み付け、黙りこむしかなかった。



美琴が娘を当麻に残した場合、あるいは娘に『上条』姓を残した場合はかち合うが、美琴の性格からすれば、そのどちらもないだろうというのが御坂麻美の読みであった。

そして、美琴の反応は彼女の予想通りだった。



リムジンは冥土返しの病院へと、正月の人気のない道を走って行く……
885 :LX [saga sage]:2012/09/30(日) 20:38:20.54 ID:21DH1Xvd0

「ホントなのか?」

「こんなこと、冗談で言えるわけ無いでしょ」

「いや、だって……」

「言っておきますけど、私、あんたらを許した訳じゃないからね? そこんとこ誤解しないでよね?

今回は、母さんたちが言い出したことなんだからね? 私が決めたことじゃないんだからね?」



時は少し遡った昨年の11月。

共に忙しく、久方ぶりに当麻の寮へお泊まりした美琴と当麻であったが、仲良く睦み合った後の寝物語は、ついさっきまでの甘ったるい睦言とは180度逆の険しい話になっていた。



妹達<シスターズ>大集結の際に、統括理事会広報委員の笠原真彩を通じてもたらされた「御坂妹」とそのお腹の子への脅迫に対し、美琴は彼女を自分の実家に預けるという苦渋の決断で対応した。

更に、妹達<シスターズ>への脅迫についても、自分が広報委員会へ就職するということでケリをつけた美琴の元に、実家から驚くべき知らせが来たのだった。

「検体番号10032号に日本国籍を取らせ、お腹の子供に迷惑がかからないようにした。名前については、御坂麻美(みさか あさみ)と言う名前にした。これは3人で考えて決めたので宜しく」

美琴は激怒した。

何故にそんな重要なことを、私抜きに決めたのかと。

どうしてそんな重要なことを盗聴されている携帯回線を使って連絡してくるのかと。

怒った美琴は、秘書の御坂美子(みさか よしこ:元検体番号10039号)にさんざん八つ当たりした後、自分の仕事を彼女に放り投げて早退したのだった。

とばっちりを受けたのは御坂美子一人ではなく、本来非番であった御坂琴子(みさか ことこ:元検体番号19090号)にも及んだ。

美琴の影武者を美子が勤めるために、美子の影武者を琴子が演じなければならなかったからである。

その美琴は速攻で一時外出許可を取ると、第十二学区から東京へと出た。

バスに乗り、とあるバス停の前にあったコンビニに公衆電話があるのを見つけると急遽バスを降り、その公衆電話を使って家に電話を掛けた。

しかし、怒りをぶつけるはずだった美琴は、それどころではない、母・美鈴からもっと驚く話を聞くハメになったのである。



当麻の胸に頭を乗せている美琴。火照った身体が熱いからか、片足は掛け布団からにゅっと外へ伸びている。

「そうだろうけど……」

「まぁね……それに、ここにいるよりは、あっちの方が比較的安全かなって。

もし、あそこにいるあの子たちに手を出したら、それってこの私に正面からケンカを売るってことだからさー。

それだけ度胸ある連中は今となってはそう多くはないと思うのよね」

自分を広報委員会へ入れる為のブラフは、もはや必要はない。その通り自分は広報委員になったからだ。

であれば、むしろ自分たちに危害を加えようとするものは学園都市の敵と見なされる。これは十分抑止力たり得る、と美琴は思っていた。

「まぁな……でも、やろうって連中がホントにいたら、ここだろうが東京だろうが、あんまり関係ないとは思うけどなぁ」

「縁起でもないこと言うんじゃないわよ? まったくもう……」

頭を上げて、当麻を睨む美琴。

「でもさ、本当に、いいのか、その……なんというか、俺の子ではあるけど、その、お前からすれば面白くないと言うか、問題の、子なんだしさ……」

「あんたって、ホント自分から墓穴掘るのが好きなのね……あきれちゃうわ、ホント。

いい? アンタはね、私だけじゃなくて、御坂家に対して、返せそうもないくらいの大きな借りを作っちゃってるんだから、そこ、よーくわかってる?」

「いや、それはそうかもしれないけどさ、こないだのあの件で少しは返してると思うけどな?」

「ううううううるさーいい!!! 黙らっしゃい! あんたは少し黙ってなさい!」

はいはい、と当麻は美琴を引き寄せ抱きかかえると、彼女の唇を自分の唇で塞ぐ。

形ばかりの抵抗をして、目を閉じ「むぅ」と唸る美琴は、しなやかな腕を彼の肩に絡めると、自分の身体を彼の上に滑りこませた。
886 :LX [saga sage]:2012/09/30(日) 20:41:45.17 ID:21DH1Xvd0

美鈴の話というのは、御坂麻美(元検体番号10032号)とその子を引き取る、というものだった。



聞く耳を持たぬ上条詩菜が頑張る上条家はともかくとして、最初の衝撃が落ち着いてくると御坂家の立場は微妙だった。

当麻の子を孕んだのが、もし全く関係のない女の子であったなら話は単純だっただろうし、御坂家としても明確な対応を出したことだろう。

しかし、その相手は、他ならぬ自分たちの娘・美琴のクローンであった。

美琴自身に責任がある訳ではない。しかし、妹達<シスターズ>に対しても同じことが言えるのか?

普通に言えば、ない。

だが、人間として今現在存在する御坂麻美に対して、しかも産まれてくるであろう赤ん坊をお腹に抱えた、身体こそ大人だが、人としての経験はまだ6年ちょっとしかない彼女を「関係ないから」と言って放り出せるほど、彼らは冷酷になれなかった。

当然ながら美琴は大反対であった。

しかし、

「じゃぁ、美琴ちゃんは、あの子が彼の周りを、子供を抱いてうろうろしても良いのかな?」

と美鈴に問われ、美琴は返事に窮した。

「それとね、もし、彼の実家にあの子が行くようなことになったら、あなた完全に白旗だけど?」

「止めてよそんなの、絶対にだめ! それはだめ!」

「でしょ? あの子は、あなたのクローンだと言っても、私が腹を痛めて産んだ子じゃないのよ?

でもね、赤ちゃんは彼の子なんだから、上条さんからすれば孫には違いないわけだし……」

思い切りふくれ面をする美琴であるが、その通りであり、彼女としては非常に面白くない。

「どうすればいいのよ?」

「だから、言ってるでしょ? ウチで、私が見張っててあげるから。いいわね?

それより、美琴ちゃんは彼をしっかり捕まえときなさい? 気を抜くと、他の女に持ってかれるわよ? しっかりしなさいな」

「わ、わかってるわよ、そんなこと! 今さら母さんに言われなくたって、しっかりしてるから!」
 
「そう? ならいいけど。じゃ、そういうことで、美琴ちゃん、しっかりね?」

かくして、美琴は陥落した。



実は、これも美鈴の策略だった。

美琴は知らなかったが、彼の母親である上条詩菜は、御坂麻美を今なお「私の息子をたぶらかした性悪女」と思いこんでおり、どう逆立ちしても、家で面倒を見るなどとは口が裂けても言うはずがなかった。

実のところ、美鈴すら詩菜から当初は避けられていたくらいである。

ある時、いつものように美鈴がスポーツクラブに行くと、ちょうどトレーニングウェアに着替え終わった詩菜と出くわした。

「こんにちは!」

「……ど、どうもね」

ぎこちなく詩菜は挨拶するといきなり彼女は更衣室にUターンした。

「あら、これからではなかったんですか?」

あれ? と言う感じで彼女が不思議そうに訊ねると、詩菜はうるさそうに

「ええ、今日、用事があること忘れてて、うっかりしてました。ごめんなさいね」

そう言い、彼女はあたふたと自分のロッカーの方へ消えていった。

その後、詩菜は彼女を見かけると帰ってしまうことが2回ほどあり、美鈴も彼女が自分を避けていることをはっきりと自覚するに至った。

それが、一昨日、どうしたことか彼女が美鈴の家を訪ねてきたのだった。
887 :LX [saga sage]:2012/09/30(日) 20:48:19.91 ID:21DH1Xvd0

「ご無沙汰して失礼しました」

「いえいえ、とんでもない」

紅茶を入れてきた美鈴に、つまらないものですけれど、と詩菜はクッキーの小袋を渡す。

あら、すみません、じゃこれ、ご一緒しません? と美鈴は袋を破くと小皿にそれを空けた。

「わたし、最近サボっちゃってるんだけれど、御坂さんはちゃんと通われてるの? 羨ましいわ、いつもお綺麗で」

「止めて下さいな、ご冗談ばっかり……おかげさまでちゃんと行ってますわ。また一緒に行きません? 気分転換には良いですわよ?」

狐と狸の化かし合いのようなジャブの応酬から二人の会話は始まった。

他愛もない、腹のさぐり合いの話が一通り済んだ後、詩菜が話を切り出した。

あたかも、独り言をつぶやいたと見せかけて、である。

「あ〜ぁ、わたしもおばあちゃんになっちゃうのねぇ……」

来たか、と美鈴はすぐさまその釣り針にあえて引っ掛かってみせる。

「あら、言われなければわかりませんわよ? とてもそんなには見えませんもの」

「まぁ、相変わらずお上手ですわ……御坂さん、あの、その後何か聞いてらっしゃる?」

「あら? 息子さん、何も御連絡されてないんですか? お母様がこんなに心配されてるっていうのに」

突っ込んでくることを予想して、美鈴は釣り球を放ってみた。

しかし、詩菜の返事は少し違ったものだった。

「私のせいなんですわ、きっと。そう……あの子を思い切り叱りつけたから……それでまた怒られると思って、ずっとダンマリ決め込んでるんですわ」

「まぁ……」

「それで、不躾でごめんなさいね? あの……お嬢さんはどうなんですか? その、アチラの方もですけれど」

さぁ本命が来たわね、と美鈴は気を引き締める。

「問題の子の方ですけれど、ウチの方で面倒見ようかと思ってるんです。

私の実の娘ではない訳ですけど、放っておく訳にもいかないでしょうし……。

こっちに置いておけば、上条さんにも、息子さんにも御迷惑をおかけしなくて済みますし、うちの娘もあっちで顔を合わせることもないし、精神的にも楽になるでしょうから……」

私の考えですけれどね、と断りを入れておいて、美鈴はそう直球を投げた。

さて、詩菜はどう出るか? 美鈴はそっと腹に力を込めた。 

「まぁ……でも、御坂さん、本当にそれで宜しいの? その……クローン、の子って、あなたのお嬢さんを苦しめた女でしょ? 

そんな女を家に入れて本当に大丈夫なの?」

本気なの?と言う顔で詩菜は訊いてくる。

確かに、娘の婚約者を寝取った女を自分の家に迎え入れるなど、常識ではちょっと考えにくい話ではある。

「まぁ、そうですわね。でも、その子って、ウチの娘とそっくりなんですよ? 

そんな子が、赤ん坊を連れておかしなことされたら、それこそ新聞沙汰にでもなったらウチだって困りますもの。

周りが目に入らなくなっている人間ほど怖いものはありませんでしょ?

だったら、うちで囲い込んでしまえばいいんじゃないかなーって。そう思いません?」

さて、上条さん、どう出ます?と美鈴は言葉を切る。

「そう……かもしれないですわね。でも、産まれてくる子は……うちの子の血をひいてるんですよね……」

端正な顔に苦渋の色を見せる詩菜。
888 :LX [saga sage]:2012/09/30(日) 20:55:31.00 ID:21DH1Xvd0

「私だってね、産まれてくる子はね、気にくわないとか憎たらしいとか、そうじゃないんですのよ?

でもね、その子(麻美)はね、どうしても私は許せないの。第一、そこまでやるんだったら駆け落ちでもなんでもして初心貫徹すべきでしょ? 

それをなんですか、優柔不断ていうか、中途半端っていうのか……」

「そういえばそうですね。でも、もしそんなことされてたら、うちの娘は立ち上がれませんわ、きっと。いいえ、私たちだって……」

「そうね……そうよね……」

「ご心配頂き、有り難う御座います。でも、大丈夫ですから。そちらにはご迷惑をお掛けしませんので」

あくまで柔らかく、しかしぴしゃりと美鈴は「決めました」と宣言した。

詩菜の反対は、なかった。

正直、彼女としては、理由はどうあれ自分の息子と関係を持った女に息子の血をひく子供が生まれるというのに、自分たちはその親子を拒否し引き取ろうともせず、逆にあろうことか本来の婚約者の女性の実家がその親子を引き取るという、およそ常識では考えられないような事態に、非常に引け目を感じていたのだった。

しかし、美鈴は彼女に逃げ道を用意しておいた。

御坂さんが、強硬に引き取ると仰ったから、と。

詩菜はその逃げ道を使うことにしたらしい。

申し訳なさそうな、しかしその一方で、ホッとした安堵の色が浮かぶ詩菜に、美鈴は柔らかく微笑んでいた。

彼女は、詩菜と話をすることで自分の決断をより強固なものとし、かつ詩菜の同意も得たことで外堀は首尾良く埋まったことを確認した上で、美琴に話を切り出したのであった。



美琴の「破談」騒ぎの時、一番骨を折ったのは実に美鈴その人であった。

夫・旅掛は上条当麻が御坂妹とその後も会っていたことを知ると、不愉快さを隠さなかった。

もちろん、理由も聞いているからこそ、彼の「理性」は他に手の打ちようがないことなのだから、と理解したわけではあるが、娘を思う「父親」としての感情はそう簡単ではなかった。

本当なら「お前はわしの娘を一体なんだと思っているんだ!?」とでも怒鳴ることが出来れば、ずいぶん楽になったかもしれない。

それが出来ない旅掛の機嫌はすこぶる悪かったのである。



(あのとき、私、なんであんなに必死だったんだろう?)

麻美(御坂妹)に続き、一麻も学園都市に行ってしまい、また夫婦二人だけになった静かな家で、美鈴は思い返すことがある。

(借りを返す為、かしら?)

紛争の直前、断崖大学データセンターでの銃撃戦で、彼に命を助けてもらったから、だろうか?

(それは間違いなく、あるわよね……)

半分以上、間違いなくそうだろう。では、残りは一体何なのだろう……?

半ば無意識に、彼女は自分の引き出しをあけて、そこから薄いアルバムを取り出した。

そこには、1枚の写真だけがあった。

旅掛、美鈴夫妻が後に立っている。向かって左に旅掛、右に美鈴。

真ん中には孫娘・麻琴を抱く娘・美琴が椅子に座り、婿・当麻は彼女の向かって右隣に立ち、あの右腕を伸ばし、優しく美琴の右肩に手をかけている。

(従って、旅掛の前に当麻がいる形)

そして、美鈴の前、美琴の向かって左側に、麻美が立ち、緊張した顔の一麻を右手で押さえていた。

(そうそう、彼を真ん中にしたら?って言ったら、あの子激怒したわよねー、大人げないんだから……)

ふふ、と彼女は思い出し笑いをする。



(もう一人、出来てたらな)

男の子が欲しかったからかしらね、と遠い目で美鈴はかつての日々を想うのだった。
889 :LX [saga sage]:2012/09/30(日) 21:00:50.89 ID:21DH1Xvd0
>>1です。

最後までお読み下さいましてどうも有り難うございました。
本日投稿分は以上です。

引き続き頑張りますのでどうぞ宜しく御願い致します。
台風通過地域の皆様には十分ご注意下さいませ。

それではお先に失礼致します。
890 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/02(火) 20:51:54.28 ID:r4PD5LiM0
作者様
いつもお疲れ様です。美琴さんちょっと怖いかなと思いつつ、世間一般の女子と比べて
寛大な方だなと思っています。

ところで、妹達はlevel3なのでせいぜい数百万Vの電撃に適応できるのは理解できますが
最大10億V超の美琴さんの電撃では死んでしまうのではと思いますが、善人の美琴さんは
加減してしまうのでょうか?
どうでもいい疑問ですが?いかがでしょう?
891 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/03(水) 03:46:21.66 ID:DNsQdPBSo
乙です。しかし美琴は過去のこの段階で本当に味方いないよな
旦那は優柔不断で問題はほぼ丸投げで気持ちは子持ちの麻美の方に片寄ってる感じだし
両親は思惑は別であれ麻美の名付け親になって母子共に保護してるし
妹達は旦那の事と麻美の問題で敵に回りかねないし、しかも守るという誓約があるというww
唯一味方になりそうなのは未来、事情を知ってる初春位か・・・20代前半でこの修羅場は悲惨だ
892 :LX [sage saga]:2012/10/07(日) 21:56:15.70 ID:0C4L7M2x0
皆様こんばんは。
>>1です。

諸般の事情で、本日の投稿は明日に延期させて下さい。
申し訳御座いません。

何卒御了承下さいませ。
                <(_ _)>
893 :LX [saga]:2012/10/08(月) 19:05:52.60 ID:vRcZk8Ww0
皆様こんばんは。
>>1です。
昨日は大変失礼致しました。

コメントを頂き有り難うございます。

>>890さま
>世間一般の女子と比べて寛大な方だなと思っています。

ですね。ある女性に意見を聞いたところ、
「そんな男とは縁を切る。顔も見たくない。信用出来ない。妹の子供は堕ろさせるし、縁を切るよう説得する」
でした。普通はそうだよねぇ、と思います。作者、苦しいです。

さて、美琴の電撃を御坂妹はかわせるのか、ですが漫画超電磁砲で、麦野のビームを美琴は逸らすことが可能でしたが、
同じ事を御坂妹も出来る、という解釈では如何でしょうか?
落雷においても、地面から誘導電流を放出し、落雷を狙った場所に誘導するという実験を記憶してますので、同様に美琴の電撃を巧みにそらせ、直撃を防ぐというわけです。

>>891さま
うーん、以前にも美琴に冷たい、とい御指摘を受けたような気がします。
確かにヘビーな試練の連続ですし。
何が彼女の人生の楽しみ、心の支えなんだ? と言われるとううむ、何だろうと。
そこらを考えますと、書き直した方がいいかもしれませんね。

それでは、本日分、これより開始します。
宜しく御願いします。
894 :LX [saga sage]:2012/10/08(月) 19:15:06.38 ID:vRcZk8Ww0

「やぁ、新年、あけましておめでとう」

「あけましておめでとう御座います、先生。今年もどうぞ宜しく御願い申し上げます」
「新年、あけましておめでとう御座います。本年もどうぞ宜しくお願い申し上げます」

美琴が「リアルゲコ太」と呼ぶ、カエル顔の医者。ひとは彼を冥土冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>と呼ぶ。

今、いるのは美琴が借り出した広報委員会のリムジンの居室である。

正面玄関にクルマを着けようとしたところ、警備員に一旦止められ、美琴が名前を伝えると新たに駐車場所を伝えられ、そこで待っていると彼がやってきたのだった。

美琴は正直、麻美と一緒に彼に会うのは気が進まなかった。

精神的に参っていた状態で、彼の前で麻美との大立ち回りを演じ、その後も醜態を晒してしまったことが昨日のことのように思い出されて、非常にきまりが悪かったのである。

とりわけ、あの時の惨めな姿を見られてしまったことは、痛恨の極みであり、今の彼女にとっては無かったことにしたい最悪の記憶であった。

一方の麻美はといえば、こちらもこちらで気恥ずかしい記憶が甦っていた。

美琴との修羅場、その後の鬱状態を見られ、それを心配した彼の手配で学園都市を逃げるように出て、聖ルカ病院へ移ったことが頭の中に鮮やかに甦っていた。、

二人はそれぞれの理由で(視点が違うだけで、全く同じなのだが)、ややナーバスになっていた。

しかし、幸いなことにそれは杞憂に終わった。

「新年早々呼び出したりして済まなかったね、ああ、そう言えば、君にも名前がついたそうだね?」

何事も無かったかのように、彼は麻美に水を向けた。

さすが情報が早いわね、と美琴は改めてこの人間の情報網に舌を巻く。

「はい。お姉様<オリジナル>と、御両親には大変お世話になりました。おかげさまで、向こうで戸籍を作成して頂き、名前も『御坂麻美』という名前を頂きました」

そう言うと、チラと麻美は美琴の顔を見るが、さすがに人前では彼女も喚くことはない。一瞬視線が合ったが、直ぐに美琴は視線をそらせた。

「ほう、それは素晴らしいことだね? 学園都市で暮らす分なら、とりあえず僕が手を回しておいたあのIDカードでも不都合は殆ど無いけれど、でも正式に戸籍があるのと無いのとでは雲泥の差だからね」

「そうなのですか?」

「もちろん。きみもそうだが、生まれてくる次の時代を担う、その子もだよ? ああ、御坂くんだったね、君のお父さんには本当に感謝するよ。

学園都市の中ならば、僕も少しばかりは政治力ってものが使えるんだが、さすがに外では思うようにはいかないからね」

「あの、すみません、お話が少し見えないのですが?」

どういうことですか? という顔で美琴はカエル顔の医者を見る。

おっと、と言う顔になった彼は、

「おお、いけないいけない、まだ行き先を伝えていなかったね。すっかり忘れていたよ」

そう言うと彼は手元のスピーカーボタンを押し、指示を出した。

「すまないが、第八学区の緑が丘にある柏原病院へ急いでもらえるかな? ああ、それから入り口は緊急患者搬入口の方へ廻ってくれ。

新藤医師の担当患者だと言えばわかることになっているからね。それで、もし先に急患が入っていた場合には、もちろんそちらが優先だ。僕らは次だからね?」

彼がそう言い終わると、リムジンはすっと動きだし、病院正面ロータリーをぐるりと廻って再び大通りへと出た。

「さて、話の続きだが、御坂くんは聞いていなかったのかな、ここ学園都市にいる妹達<シスターズ>の残り3人にも日本の国籍を取る、そしてその準備は全部きみのお父さんが手を回してくれたんだが?」

美琴は驚きをあらわにし、御坂麻美(元検体番号10032号)も目を見張った。

「聞いてません、そんな話……」 

その答えを聞くと、冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>の顔が険しくなった。

「そうなのかい? いや、それは失礼してしまったね、君にも君のお父さんにも。許してくれるかな、ちょっとおしゃべりが過ぎたようだ」

「いえ、そう言うわけでは……」

「いやいや、きっと君のお父さんは、ちゃんと機を見計らって君に話をしようとしていたはずだよ? あの人は、そう言う人だ。

お父さんの心遣いを僕がぶち壊してしまったのだからね、申し訳ないことをしてしまった。済まなかった」

そう言うと彼は薄くなった頭を下げた。
895 :LX [saga sage]:2012/10/08(月) 19:20:16.63 ID:vRcZk8Ww0

「止めて下さい、先生。私、怒ってませんから、頭を上げて下さい、困ります!」

美琴は恐縮しっぱなしで少しあわてている。麻美もこの光景には驚いた。彼が頭を下げるのを見たのはこれが初めてだったからだ。

「先生、そんなことより、今日の説明を?」

美琴はならば話題を変えようと試みる。

「ああ、そうだね。今日は……その、麻美君の出産に備えて、AIMコントローラーのデータ取りと、装着型AIMジャマーの試作品のチェックを御願いしたいんだね。

ああ、そういえば既に御坂君は長いこと協力をしてくれていたんだったね? いや、どうありがとう、と御礼を言わなければいけなかったね」

彼は穏やかな顔を美琴に向けてそう言うと、美琴も真面目な顔で、答え始めた。

「はい、ベッド据え付け型の試作には結構昔……2年近く前にいろいろと手伝わせて頂きました。

……今はもっぱら小型の装着型AIMジャマーの開発ですね。試作機のテストも2回……病院ではなく、製造メーカーでしたけど、2回とも全部ダメでまだものになってません」

美琴は真剣な顔で答え、隣の麻美を見る。

麻美の顔には不安の色が浮かび、ほほに緊張が走っている。右手はお腹を庇うように置かれていた。

「ああ、そう心配することはないよ? 出産時の能力の暴走を防止するAIMジャマーは最初の試作型投入からもう1年以上が経っている。

効率が高くなっているし、それなりに小型化されてデザインもずっと良くなったと聞いているからね。

実際、あのジャマーが出来て以来、出産時の能力の暴走による悲惨な事故は皆無だからね。もし不安なら、これから行く病院の新藤医師に聞いてみるといいよ。

彼は今やこの分野の第一人者だから、なんでも教えてくれるさ」

「先生はこの分野は不得手なのですか?」

麻美がズバッと聞くと、隣の美琴があわてて、バカ、なんて失礼なこと言うの? と怒った声で注意する。

「ははは、全然知らない訳ではないよ? このAIMジャマーの基本動作システムは僕の思想が入っているし、おっとまたしゃべりすぎるところだったね。

まぁ、産婦人科に関して言えば僕よりも専門的な人は多いのでね。そう、彼の方が僕よりよっぽど詳しいんだよ? だから僕は大人しく引っ込んでいることにしているんだよ」

そういうことで、いいかな? とカエル顔の医者はクーラーボックスからミネラルウォーターのボトルを取り出す。

「きみたちもどうかな?」とグラスを3つ取り出すが、女性二人は「有り難うございます、が、今は遠慮します」と手を伸ばさなかった。

そうかい? と冥土帰しはボトルを開け、水をグラスに注ぐが、ふと気づいたようにマイクボタンを押した。

「あとどれくらいかな?」

「そうですね、ちょっと混んでますので……推定では20分と出ました」

わずかの間をおいて、ドライバーから返事が来た。

「ありがとう……そうだ、『大地の森ホテル』は過ぎたかな?」

「すぐです。1分かかりません」

「ではちょっと寄ってくれるかな? 女性二人が化粧を直したいそうだ」

「わかりました」

「先生……」
「すみません」

美琴と麻美が恥ずかしそうに頭を下げる。

「いや、気が付かなくてすまなかったね。でも直ぐ寄れてよかったよ?」

リムジンはホテルのエントランスへ滑り込んだ。
896 :LX [saga sage]:2012/10/08(月) 19:24:12.67 ID:vRcZk8Ww0

「あけましておめでとう御座います。初めまして、御坂麻美と申します。宜しく御願い致します」

「あけましておめでとう御座います! 新年早々にすみません、僕、新藤兼嗣といいます。宜しく御願いします」

「姉の御坂美琴です。宜しく御願いします」

「え? あ、ああ……あの『超電磁砲<レールガン>』の御坂さん? 確かによく似てらっしゃいますね?」

「そう言われます」



新年、元日。

学園都市第八学区にある柏原病院。

御坂美琴と御坂麻美(元:検体番号10032号、御坂妹)はそこにいた。



「先に簡単な検査を行います。直ぐ終わりますので、あちらの部屋へ御願いします」

女性看護士に案内されて、麻美が別の部屋へと消える。

「今はどこまで進んでいるのですか?」

美琴が訊ねるのは、先ほど挨拶をした新藤医師。

「そうですね、他ではよく知りませんが、少なくとも出産の際に用いられるものとしては、今はAIMジャマーよりもAIMコントローラに開発の主力が移っている、というのが正しいですかね。

とりあえず、能力の暴走を緊急避難的に押さえよう、ということでAIMジャマーの小型化が進められ、同時にそのキャパシティのアップが図られたのは御存知ですよね?」

「ええ。単純に演算妨害、というキャパシティダウンは私が中学生の時にはもうありましたから」

あの、頭が割れそうになる強力無比なキャパシティダウン装置。

あれを作り出した、マッドサイエンティスト、木原=テレスティーナ=ライフライン。

彼女は今もまだ、牢の中にいるのだろうか、と美琴はふと思い出す。

「あれこそ緊急避難だね。副作用も何も全く考慮外だったからね」

カエル顔の医者が苦い顔でつぶやくように答える。

「そう、それで脳の負担を無くす、あるいは非常に小さいものにする、と言うことで作られてきたのがAIMジャマーなんですがね。

これの有利な点は、能力者のパーソナルリアリティの内容如何に関わらず対応が可能なことです」

「はい」

「こちらは、今は更に小型化して、少なくとも身につけられるくらいに出来ないか、という方に開発の方向が向いています。

ただ、問題は大きさが小さくなるに従って、ジャマー自体の能力が下がってしまうことなんです」

「そうなんだね。割り込んで済まないが、新藤君、僕は、そこについては、数で勝負する方法を今考えているんだよ。

小型になるのなら、何も1つである必要はないからね。

そりゃもちろん、小さいヤツを1コ、首から提げておけばOK、というのが究極の姿だろうけれど、エネルギーをどこから得るかという問題があるんだね」

新藤医師と冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>の話に、美琴も引き込まれている。

「で、今、ちょっとしたアイディアがあってね、前に書いた論文を元にして開発を始めているんだよ」

「どんなものですか?」

美琴がカエル顔の医者に訊くと、彼は笑って答えた。

「そうだね、例えば、髪の毛ぐらいの細いジャマーを作れないかってね。これの利点は、外観からでは見分けがつきにくいことだ。

それに、僕が今考えている方法でならエネルギー源に心配がないんだよ。

しかも僕の方法は、非常に効率がよいと思われるので、出力は小さくてもレベル3以下の能力者であれば、1つで能力の暴走を阻害するのには十分であると見ている。

更に、高位の能力者に対しては、数を増やすことで合計の出力をいかようにも調整出来ることだ」
897 :LX [saga sage]:2012/10/08(月) 19:30:21.41 ID:vRcZk8Ww0
「それって、能力者の犯罪者にも応用出来そうですね」

感心したように言う美琴。

「ああ。人権の問題は残るだろうけれど、能力を無力化することであたかもロボトミー化してしまう危険性はないから、今よりは遙かにましだろうね」

「出来そうですか?」

「それが、さすがに難しいんだね。いやはや、正直こんなに苦労するとは思っていなかったよ。でも、絶対に作り出して見せるさ」

「私、応援します」

「御坂さん、くれぐれもこの件は内緒にしておいて下さいね? 外部に漏れて悪用されたりすると大変ですから」

新藤医師が笑いながら美琴に釘を刺してきた。彼女は敏感にそれを感じ取ると、心配御無用、とばかりにニッコリと微笑んで答えた。

「もちろんです。何かお手伝い出来ることがあったら、遠慮無く仰って下さいね……って、話がAIMジャマーになっちゃいましたけれど、AIMコントローラーはどうなっているのでしょう?」

美琴は話を元に戻す。

「ははは。いやこれはすまなかったね。僕がついつい自分の話をしてしまったからいけないんだね。新藤君、説明を御願いするよ」

まいったね、と薄くなった頭をピタピタと軽く叩く冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>。

「まぁいいんじゃないですか? 先生がどれくらい力を注いでいるかがわかりますから。

それでですね、AIMジャマーとは違った形でトライしているのがAIMコントローラーなんです。

これは能力者のAIM拡散力場に干渉するものですが、AIMジャマーと違い、妨害はしないんです。まぁ厳密に、正確に言えばある種の『妨害』とも言えますが。

AIMジャマーが真正面から拡散力場の動きを制限すべく個人の脳内の演算を妨害するのに対し、こちらは個人のAIM拡散力場の流れに干渉し、狙った方向に個人のパーソナルリアリティを誘導し能力の暴走を未然に押さえるのです」

「催眠術のようなものですか?」

「うーん……語弊はありますが、簡単に一言で言えば、そんなものでしょうね。この方式の利点は、一切副作用がないことです。

また、特定個人のAIM拡散力場に干渉することから、該当する人以外の能力者には影響がありません。一方のAIMジャマーは、出力次第でどうとでも出来てしまいます」

「欠点は?」

「装置がどうしても大がかりになることですね。それに各個人個人の拡散力場に干渉する、ということから、あらかじめ安静時の個人データを取っておく必要があります。

先ほどのAIMジャマーの裏返しで、汎用性がありません」

「一長一短なんですね」

「そうです。でも、今回のように、能力者の出産時における能力の暴走の回避、という目的においては、比較的単純です。

精神的に落ち着いている時の拡散力場の流れを基準(スタンダード)としますから、出産時においては被験者の拡散力場の流れを精査して、その平常時と同じように動くようにコントロールするわけです」

「なるほど」

「御坂さんに超電磁砲<レールガン>を撃ってもらおう、というのであれば、大揺れする拡散力場の流れを合わせるのは相当大変ですが、寝ている時のような安定した方向へ誘導するのは比較的単純ですからね」

真面目な顔のまま、目で冗談ですよ、という新藤医師に美琴も冗談で返した。

「私が出産する時には、間違っても超電磁砲<レールガン>をぶっ放すような誘導はしないで下さいね?」

彼女がそう言って笑うと、もちろん絶対しませんよ、僕も命が惜しいですからね、と新藤医師も笑いながら答えた。



「すみません、検診終わりました」

緊張した顔の麻美が帰ってきたのは、その頃だった。

「お疲れ様でした。では1時間ゆっくり休憩して、それからAIM拡散力場のデータを取りましょう。データ取りそのものは30分ほどです。

そのあと、6時に夕食を取って頂き、食後の7時、就寝前の10時にデータを取ります。

今日と同じようにですね、明日は起床時間の朝7時、食事後の8時半、昼食前の12時、昼食後の13時にデータを取り、それで終わりです。

宜しいでしょうか?」

新藤医師がスケジュールを告げると、麻美がうんざり、という顔をしたのを美琴は見逃さなかった。
898 :LX [saga sage]:2012/10/08(月) 19:34:36.34 ID:vRcZk8Ww0


結局、御坂麻美が退院したのは翌日の夜であった。

実際には昼で今回の測定は終わっていたのだが、人目に付くのを避ける為に夜まで待ったのだった。

「有り難うございました。新藤先生に宜しくお伝え下さい」
「お世話になりました」

「お気を付けて」

看護士が2人、見送っていた。

「お姉様<オリジナル>、今日はあの大きなクルマではないのですね?」

これくらいがちょうど良いですね、と麻美が言うと

「なに贅沢言ってんのよ? 今日のだってレクサスだし、私だって普段乗れないのよ?」

と美琴がビシっと突っ込む。

「いやぁ、学園都市のレベル5の御坂さんだったら、空いていればいつでもOKですから! こりゃ正月からツイてるぞって、仲間ウチじゃ結構話題になりましたからね」

「あら、それはどうも有り難う。ちなみに、ドライバーとして、誰をどこからどこに乗せた、なんてことを仲間うちであっても話すことは規定違反なのを御存知ですよね?」

美琴はやんわりと真綿で首を絞めるが如くドライバーに注意する。

「す、すいません。失礼しました! 今のこと、内密に御願いします!! すいません!」

こちらからはドライバーの顔は見えないが、彼の声の調子は思いっきりうわずっている。

「そうねぇ。スクールバスではもう無人運転が実用化されてるんだし、契約車だって無人運転にしては? という声もあるのよねー」

あさっての方向を見ながら、美琴が何気ない調子でつぶやく。

「勘弁して下さい、僕ら無能力者がここで仕事見つけるのって、ホント今大変なんです。絶対に何も言いませんから、御願いです!」

悲痛な声で、土下座せんばかりの哀願をするドライバーに美琴はふぅと息を吐き、

「ほらほら、ちゃんと前見て! 男ならしっかりしなさい。安全にお客さんを目的地に運ぶのが仕事でしょ? それ以上でもそれ以下でもないでしょ?」

「は、はい」

それっきり彼は黙った。

「お姉様<オリジナル>、あの」

麻美が言いかけると、美琴は

「ごめん、ゲート出てからお話しましょうね」

ぴしゃり、と美琴はそこで会話を打ち切った。
899 :LX [saga sage]:2012/10/08(月) 19:43:01.47 ID:vRcZk8Ww0

出国ゲートを出た二人は、タクシー乗り場の方へ歩いて行く。

「リムジンだとね、運転席と客席とは仕切られてるから良いんだけど、ハイヤーはね、中での会話筒抜けだから、用心しないとね」

「はい。気を付けます。ですが、あそこまで脅かさなければいけないのでしょうか?」

「念には念を入れろって言うでしょ? 一応名前も控えておいたし。生活かかってるから大丈夫だとは思うんだけれどねー。

私もスキャンダル多いからさ、用心するに越したことはないのよ」

美琴は、ドライバーのID番号と名前を控え、アンチスキル(初春飾利のことである)に監視を頼んだのである。

彼の落ち込みぶりは傍目にも気の毒なくらいであった。

「アンタだってそうなのよ? 人ごとみたいに考えてない? 他の妹達<シスターズ>にバレたらどうなると思う? 

アンタ、ただじゃ済まない『お姉様<オリジナル>、わかりました。もう止めて下さい』……」

麻美は唇を振るわせて抗議する。

美琴も麻美がそこまで反撃してくるとは思わなかったのか、話題を変えた。

「でさ、検査はもう全部終わったわけ?」

「いえ、それが……もう少しデータを取らせて欲しいということで、来月の月初に来て欲しいということになりまして」

「えー、そうなの? 面倒なのね……で、日程は決まってるの?」

「はい。来月の……」

「ちょっと待って。スケジュール見るから……えっと……」

「いえ、お姉様<オリジナル>、一人でも大丈夫ですし」

「何バカ言ってるの、あんたは。私そっくりのあんたが、そんな大きなお腹して街なか歩いてたら大変なことになっちゃうじゃないの?

さっきの話、ほんとに意味わかってるの?」

「……すみません。そうでした……」

「はい、さっさと日程言いなさい」




出口には美琴の母、御坂美鈴が一人、立っていた。

「遅くなっちゃってゴメンね……あれ、父さんは?」

美琴は父・旅掛の姿を探す……が。

「それがね、なんか電話が入って、昼過ぎに飛び出して行っちゃったのよ。学園都市から行った方が早いって、そっちに行ったんだけど、美琴ちゃん連絡あった?」

美鈴がすまなそうに美琴と麻美の顔を見る。

「ううん、何もなかったわ。そんなヒマも無かったんじゃないの? で、どこに行くって?」

美琴は、ああ、またいつもの通りね、とため息をつく。

「英国だって言ってた」

美鈴はもう慣れっこなのか、それほど気にしている様子はない。

だが、「英国」と聞いた美琴は一瞬、当麻のことが頭をよぎった。

英国。あの銀髪シスターがいるところ。

あのバカ、今度はあのシスターと何かしでかして、それに父が巻き込まれたとか、ま・さ・か、それはないわよね……と。

「美琴ちゃん、新しいお家来てないでしょ? 今日は帰れないの?」

そんな美琴の想像は、母の問いかけで打ち消された。

「あれ、もう引っ越してるんだっけ?」

「あらちょっと、美琴ちゃん忘れてた? 11月末に完全に引っ越しちゃったのよ?」

「うそー、聞いてないってば。全くもう、父さんといい、母さんといい、ちょっと実の娘蔑ろにしてない?」
900 :LX [saga sage]:2012/10/08(月) 19:50:43.49 ID:vRcZk8Ww0

言った瞬間、しまった、と美琴は思ったが出た言葉は戻らない。

麻美は下を向いてしまい、美鈴もえっ?と言う顔で一瞬言葉を失った。

言いようのない空気があたりを支配する。

「ゴメンね、母さん。私、今は二足のわらじ履いてるの。あっちにクルマ待たせてるし。

ヒマ見つけたら帰るから、風邪ひかないように気を付けてね。お父さんによろしく」

気まずい雰囲気を打ち消そうと、美琴は早々に切り上げることを選択した。

正直言えば、この後の予定はなかった。帰ろうと思えば帰れた。

だが。

麻美と、御坂妹と一緒には家に戻りたくなかった。

いや、「新しい家」には「行きたくなかった」

殆ど記憶になかった家。

小さい頃に出た、あの家。

でも、あれが、あの家が、私のおうち。

それが。

理由はわかるけど。

……でも。



「そうなの?……仕方ないわね、それじゃ……そう、美琴ちゃん? あなた、ちゃんと栄養のあるもの食べなさいよ? 

健康に気を付けてね? 帰ってくるの待ってるから」

「お姉様<オリジナル>、お気を付けて」

それじゃね、と3人はお互いに手を振り合う。

ゲートに向かおうとした美琴は、あ、と言ういたずらっぽい顔で最後に言った。

「ちゃんとあたしの部屋、あるんでしょうね?」

一瞬、はい?と言う顔をした美鈴であったが、直ぐに厳しい顔で答えた。

「正月早々バカ言ってるんじゃないの! あるに決まってるでしょう? 客間にでも寝かせると思ってたの?」

「あははは、それ聞いて安心したわ。じゃねー」

美琴はゲートに向かって走り出した。

何故か、涙があふれでたから。

そんな顔を二人に見られたくなかったから。



「美琴ちゃん、ちょっと変だったわね」

「……お姉様<オリジナル>は、私とは一緒に帰りたくなかったのでしょう」

「そんなこと」

「すみません。私がいなければ、お姉様<オリジナル>は皆さんと一緒に正月を過ごされていた事でしょう。私が悪いのです」

「そんなこと言わないの! あの子だってもう子供じゃないんだから。落ち着いたら帰ってくるわよ。ほら、しっかりしなさい」



コインパーキングに向かう美鈴と麻美。

停めていたクルマの後席に麻美を座らせ、運転席に乗り込もうとした美鈴の動きが止まった。

彼女は、娘・美琴が走り去ったゲートをじっと見つめ、小さくつぶやいた。

「あっちに入れたら追いかけられたのに……いつになったら入れるのかしらね」
901 :LX [saga sage]:2012/10/08(月) 19:53:36.37 ID:vRcZk8Ww0
>>1です。

900に到達しましたねー。
本日の投稿は以上です。

とりあえず、第二部はこのスレで終わらせることが出来そうです。
引き続き頑張ります。

最後までお読み下さいまして有り難うございました。
それではお先に失礼致します。
902 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/08(月) 23:08:09.08 ID:C8OURtroo
>>893
>漫画超電磁砲で、麦野のビームを美琴は逸らすことが可能でしたが、
>同じ事を御坂妹も出来る、という解釈では如何でしょうか?

美琴と麦野の出力は同等程度だから出来る芸当
美琴の出力の1%にも満たない出力とされている妹達がそれが出来るとは流石に思えない
それだったら美琴が心底善人でたとえ想い人をこっぴどい方法で寝取った相手でも妹達相手に無意識に手加減してしまう、の方が説得力あるんじゃないかな?


しかし美琴の味方本当にいないよな・・・
旦那が欠片ほどでも真剣に美琴を支える誠意見せてくれればいいんだけど
第一章の辺り?で浮気相手&その子供と何の監視も無く平気で会っててそっちに対してもいいツラしてたり何の後ろめたさも見せず一緒に寝たりしてるってのがあるからなww
他のどの行動やってもいいけどそっち方面の行動だけはやっちゃアカンやろって思ったwwww
903 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/15(月) 02:37:12.64 ID:AjTfZbYH0
今週は投下無しかな?
報告も無いのはかなり珍しいが、>>1は無事なら報告願うぜ。
第2部の結末を楽しみにしとるんでの。
904 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/16(火) 16:18:45.08 ID:2fsF1jfJ0
とっても心配
905 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/17(水) 20:21:00.54 ID:/F7tmxsR0
作者様
今週はご多忙なようですね。
次回の投稿お待ちしています。
ところで、学園都市的にいうと、成立した場合に一番のビックカップルは
電磁通行か、上琴かどちらなんでしょうね。
電磁通行のほうが学園都市的には大騒動になるんでしょうね。
906 :LX [sage saga]:2012/10/19(金) 20:35:04.47 ID:KUEeDSa10
皆様こんばんは。
>>1です。

無断不投稿失礼致しました。ご心配おかけしましてすみません。
日曜から昨日まで必殺5日連続会食+@というとんでもない状況で死んでおります。
今度の日曜も、もしかすると投稿出来ない可能性があります。
今日修正出来ればよかったのですが、さすがに疲労困憊でして(苦笑

取り急ぎ生存報告まで。
907 :LX [saga]:2012/10/21(日) 22:17:31.54 ID:UzgGY96z0
皆様こんばんは。
>>1です。

予想外の展開になりまして先週日曜日は大変失礼致しました。
結果、5日連続の接待になりまして悲惨でした。

毎回コメント頂き有り難うございます。

>>902さま
いつもコメントありがとうございます。
美琴を強い女性と見てしまっている為に、どうも孤立させてしまいます。
助けいらないじゃん、と言う風になってしまいます。
母・美鈴に「そう言う風に見えるだけ」と言わせてるのですが、どうもその通りになりません。このシリーズではもうこのまま行っちゃうしかないかと……

>>903さま、>>904さま
ご心配おかけ致しまして済みませんでした。

>>906さま
コメント有り難うございます。
一方通行は原作では男性らしいのですが、果たして子供作れるのか、という疑問がずっとありまして(笑
まぁ学園都市的に言えば、3位以下はどうでもいいらしい(?)ので、当方も安心して上琴をくっつけております。まぁ原作読むと、どう考えてもインなんとかさん(還俗しないと難しいでしょうけれど)と当麻ですけどねー。
インなんとかさんは私には動かしにくいキャラなのと、魔術サイド出さないと話が成り立たないのでどうにもなりません……

それでは、アニメ「超電磁砲」II期決定を祝して、本日分これより投稿致します。
宜しく御願い致します。
908 :LX [saga sage ]:2012/10/21(日) 22:22:42.98 ID:UzgGY96z0

そして、いつしか月日は経ち……


桜も五分咲きの4月初旬のある日。

ここは学園都市、第八学区にある柏原病院。

「あ、あの、御坂、御坂麻美(元:検体番号10032号)って女の子が今出産してるって連絡受けまして!」

受付に飛び込んできたのは上条当麻。

「そうですか、それはおめでとう御座います……IDカード御願いします……かみじょう、とうまさんですね?……みさか、あさみさんですよね?」

「そ、そうです」

「ちょっと待って下さいね……」

受付の女性が検索をかけてゆく。

「あら、おめでとう御座います。もうお生まれですよ?」

はぁーっと当麻は息を吐く。

良かった、という思いと、間に合わなかった、という自責の念からだ。

「男の子ですよ」

「そうですか! あ、有り難う御座います。で、今、その二人は? どこ行けば良いんでしょう? もう良いんですか?」

「そうですね、えっと3時間ほど前みたいですから……もう個室に戻られてますね……まだ面会可になってませんが、たぶん1時間ほどしたら大丈夫かと思いますが……」

「そうですか」

「お待ちになりますか?」

「御願いします」

「そうですよね、それではそこのロビーでお待ち下さい。OKになりましたらお呼びしますからここへ来て下さいね。おめでとうございます」

それでは、とロビーへ向かおうとした当麻を呼び止める人がいた。

「やぁ上条君、来ていたのか。まずはおめでとう、かな」

「は? ああ、先生! 有り難う御座います。あれ、どうして?」

それは、カエル顔の医者、冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>であった。

「ははは、僕だってなんでもわかるわけじゃないよ? 産婦人科ならここの新藤君が優秀なんでね。僕は能力者の出産時における不測事態に備えるシステム構築の方なんだね」

「不測事態……とは?」

「一言で言えば、出産時における能力の暴走だね。せっかくのおめでたが悲劇になることは絶対にあってはならない。

今でこそ事故はほぼ皆無といえるレベルだけれど、つい数年前には不幸な実例がいくつかあってね……巻き込まれた人には本当に申し訳ないことをしたと思っているよ。

君の彼女の、その御坂美琴君にも実はね、モニターになってもらっていたんだよ。今、次世代のAIMコントローラーを開発中なのでね。

麻美君と言ったね、僕の元にいた彼女も、実は2回ほどここへ来てもらっていてデータの収集と臨床試験に協力してもらっていたんだよ。

おかげでエレクトロマスター系のデータはずいぶんと揃えることが出来たはずなんだね」

「そう、ですか」

当麻は、御坂家で別れたあの日以来、麻美とは全く顔を合わせていない。メールも送っていないし、送られてきてもいない。

彼女が学園都市に来ていたことも、今初めて知った。

いや、今日出産だと言うことも、美琴からのメールで知ったくらいである。

別れたんだから、そう言うことなんだよな、と当麻は思うが、ちょっと寂しいよな、とも思う。

美琴は許してはくれないけれど、あいつの、御坂妹の、御坂麻美の子供は、自分の子供でもあるのだから、と。
909 :LX [saga sage ]:2012/10/21(日) 22:27:15.62 ID:UzgGY96z0

カエル顔の医者の話は続いていた。

「エレクトロマスター系はね、レベル5の女性がいるからね。

彼女らのピークを押さえ込むのは大変なエネルギーを必要とするから、そうなる前に平静な状態にとどめられれば効率的だし安全だからね」

(美琴のことか……あれ、でも『彼女ら』って言ったよな? 他にもいたっけ、女性のレベル5?)

やや上の空で聞いていた当麻だったが、ふと気になったのはそこだった。

そのとき、部屋から1人の医師が出てきた。

「あ、先生」

「やぁ新藤君、お疲れ様。無事に終わったようだね」

「いや、おかげさまで極めて順調に行きました。今回は大成功と言えるのではないかと思われます……あの、こちらの方は?」

新藤、と呼ばれた医師は、カエル顔の医者と一緒にいる当麻を認め、誰かを確認してきた。

「上条君だ。今回臨床試験のモニターになってくれた御坂君の子の父親、だね」

「はは、そうです。上条です。今回はどうもお世話になりました。ありがとうございます」

当麻はペコリと頭を下げて挨拶する。

「いやいや、こちらこそ。おめでとう御座いました。奥様とお姉様でしたっけ、お二人には御協力頂いてまして、おかげさまで大変助かりました」

(……いや、その、奥さんじゃないんだけど、まぁ、いいか……)

「その甲斐もありまして、今回の出産は非常にスムースに、いや驚くほど平穏無事にすみました。拍子抜けするくらい穏やかな出産でした」

「そ、そうですか」

「もっと臨床例を積んで行けば、少なくともレベル3の方までの出産には十分対応出来るものになると思います。

この分では、近々予定されているレベル5の方の出産にも使用してみる価値がありそうですよ」

「はぁ?」

「新藤君? ああ、上条君、いまのはオフレコだよ?」

珍しいことに、カエル顔の医者が少しあわてたように新藤医師を制す。

(レベル5の女性が出産……誰だろう? 美琴なら知ってるかもしれないが、オフレコって言われたらな……)

一瞬当麻はそんなことを考えた。

「おっと失礼! 上条さん、すいません、今のところは聞かなかったことで御願いします」

「わかりました」

「……以前にはですね、新しい命を授かった、子供が生まれるんだ、と夢と希望に胸を膨らませて、出産の時を迎えたのに、それが悲劇になってしまった例があるんですよ。

新たな生命の誕生という、とっても素晴らしいお目出度い出来事が悲劇になるなんて、そんなことは絶対に許せなかった、悔しかった。

そんな馬鹿げたことがあっちゃいけないんです。だから私たちは、高位能力者でも安心して出産出来る仕組みを確立しなきゃならなかったんです。

なんとかAIMジャマーの開発で、今は最悪の結果はほぼ無くなりました。これからはさらなる安全性の向上と小型化です。

いや、本当に奥様には……」

そこで、進藤はあることに気が付いたのか言葉が途切れる。

彼の名はかみじょう。しかし、彼女はみさか。それはつまり……
910 :LX [saga sage ]:2012/10/21(日) 22:30:50.74 ID:UzgGY96z0

「あの、微妙なところだったら申し訳ない、奥様……で良かった……ですか? もしかして失礼しちゃったですか?」

「いや、まぁ、気にしないで下さい。あはは。彼女も、赤ちゃんも無事なんですね?」

当麻は苦笑しながらも、まぁいろいろと、と言葉を濁し、話題を逸らした。

「もちろんです。正直に言いますと、こんな穏やかな出産に立ち会ったのは初めてなんですよ? 能力の暴走は全く起きませんでしたし。

大成功、って僕が言ったのはそう言うことです。あとは、これを他の能力の人にもうまく運用出来ればいいんですけれど……でも、頑張りますよ。次の世代のためにね」

「この度は、本当に有り難う御座いました。お疲れ様でした」

当麻が改めて深々とお辞儀をし、丁重に御礼を述べる。

「いえいえ、とんでもない。それじゃ、僕らはまた、先生と細かいところを打ち合わせなきゃいけませんのでこれで失礼します。本当におめでとう御座いました」

そう言うと、新藤医師は行きましょうか、とカエル顔の医者を促す。

「じゃ、上条君? あとは面会OKになったら受付が呼ぶだろうから、彼女に会ってねぎらいの言葉をかけてあげてくれるかな?

ああ、それから言っておくとね、出産直後の女性は人によっては警戒心が強まっているからね? 言葉遣いや赤ちゃんの取り扱いには気を付けてね? 

それはだね、子を守ろうとする本能から来るものだから、十分気をつけてね?」

真面目な顔でそう注意を伝える冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>に、新藤医師もうんうんと頷いている。

「はぁ、なるほど……御坂妹はどうでしょうか」

そういうものなのか、と当麻は思う。

ふと、彼は二度目に会った時の、彼女の子猫への執着の強さを思い出す。

(赤ちゃん、見せてくれないかもしれないな)

その後に思い出したのは、ひよこサブレをホンモノのひよこと勘違いしたことでの大騒ぎであったが。

今から思えば、初々しかったあの御坂妹が、



――― 今は、母親か ―――



「そこまでは、さすがの僕もわからないね、じゃ、頼んだよ?」

「は、はい。有り難う御座いました」

カエル顔の医者はポンと当麻の肩を叩くと新藤医師と並んで廊下を歩き去って行く。



その後、30分ほど待ち合わせコーナーで時間をつぶしていると、「上条さ〜ん?」という声が聞こえた。

「お待たせしました、面会出来ますよ?」と言われ、嬉しくもあり、少し緊張する当麻。

看護士に案内された個室に入ると、そこには胸をはだけ、我が子に乳を含ませている御坂妹、御坂麻美がいた。
911 :LX [saga sage ]:2012/10/21(日) 22:35:13.40 ID:UzgGY96z0

「おっと、失礼」

当麻が反射的に顔を背けると、麻美は突然の来訪者に驚いた顔で「あなた……どうしてここが?」と訊いてきた。

一瞬どう答えたものか、と当麻は考えたが

「ん? 美琴が教えてくれたんだよ」と、素直に答えることにした。

「……そうですか」

僅かに彼女の顔が強張ったように見えたが、直ぐに鋭い目を彼に向け、

「あなた、さっきは何をあわてたのですか? この子はあなたの子なのですよ?」と麻美はなじるように言う。

「あ、ああ……そうだよな、母親が子供にお乳をあげるのは別になにも変な事じゃないもんな」

「そうですよ……それとも、あなた? もしかして、あなたは何か邪な考えをしたのですか?」

固かった彼女の顔が少し緩んだように見えたので、少し当麻はホッとする。

「なんだよ、その邪なってのは?」

「出産という女性の大役を勤め上げたばかりのこのミサカの肌を見て、あなたは欲情したのですか?と……」

「何を馬鹿なことを言っているのでせうか、あんたは!」

思わず強い口調で彼は否定する。顔が赤い。

そんな当麻を見た麻美は苦笑しながら視線を落として答えた。

「ふふ、冗談です。正直、ミサカは死ぬかと思いました。もう二度とゴメンです」



沈黙の時が流れ、空調のかすかな音だけが僅かに部屋に聞こえる。

当麻が麻美の傍に腰掛けると、彼女は腰をずらしてそっと寄り添って来た。

「疲れたか?」

「少し。それに、あなたも居てくれませんでしたから、ミサカは一人ぽっちでこの子を産みました。まわりは他人ばかり」

恨みがましい言葉が麻美の口からこぼれ出る。

「すまなかったな」

「いいえ。もとより覚悟はしていましたから……でももう大丈夫です。ミサカはこの子を守らねばなりませんから。

それよりあなた、この子、見て下さいな? 目鼻はミサカそっくりなんですよ? ふふ」

麻美は我が子を少しだけ倒し、当麻に顔が見えるようにと動かすと、目をつぶったままの赤ん坊が離れるのはいや、と言うようにもぞもぞと手足を動かす。

こんなにちっちゃくて、可愛い、という麻美の横顔は、今まで見たこともない優しげなものだった。

赤ちゃんを抱いた麻美のその姿は、絵に描いたような、まさに我が子を慈しむ母親そのものであることに、当麻は感動した。

「そうか? 確かに黒髪なのは俺の方なんだろうけど」

「悔しいのですか? ふふ、この子はミサカの子ですから、ミサカに似るのは当たり前……」

彼女の声が止まる。



――― 彼女は泣いていた ―――
912 :LX [saga sage ]:2012/10/21(日) 22:40:58.19 ID:UzgGY96z0

「お、おいおい? どうした? 苦しいのか?」

突然の事に狼狽する当麻。

麻美はボロボロと涙がこぼれ落ちるにまかせている。

唇を引き結び、嗚咽を押さえ込もうとしているが、その代わりに肩が小刻みに震えている。

当麻は優しく彼女の背中を撫でさする。

彼女は僅かに首を振って、苦しくはない、という意思を表した。



しばらくのちに、少し落ち着いたのか、当麻に身体を少しもたせかけたまま、彼女は口を開いた。

「う、嬉しい、の、で、す。ミサ、カは、実験、どう、ぶつでし、た、でも、この、ミサカは、人間、だったのです、ね」

「当たり前だろ?、お前は一人の人間なんだぞ?」

ひくひくと痙攣を続ける麻美の肩を優しく抱きながら、当麻が答える。

「え、ええ。そう、ですとも。でも、ひと、はこうして、産まれて、くるのです、ね。

……このミサ、カは、けん きゅうじょで、産まれ、カプセルで、育ちました。ほか、の妹達<シスターズ>と、同じ、ように」

「そんな、わたし、が、クローンのわたし、がこうして、新しいいのちを産み出せた、こんな、すばらしい、ことがほか、にあります、か?

この子は、ミサカの、子。 あなた? ミサカは、自分の子を、産めて、本当に、幸せ、です」

「良かったな……ほらほら、そんなに泣かないの。な? お前、生きてて良かっただろ?」

溢れる涙が、あごからぽとぽとと滴り落ち、彼女の胸に落ちて行く。

当麻はタオルはないのか、と目で探すとティッシュBOXがあった。

ちょっとゴメン、と彼女の傍を離れ、箱を持ってくると、彼は彼女の涙をふき取り始めた。

麻美は、大人しく彼にされるがままに黙っていた。最後は鼻をかみ、当麻の作業が一通り終わると、麻美は再び口を開いた。

「……はい。生きていて……良かったです。このミサカは、二度、あなたに命を、救われました」

「え? あの時の後に、お前が危なかったことなんか……あ、あの時か?」

それは、聖ルカ病院に移ったばかりの時、姉・美琴を苦しめ、他ならぬ当麻をも苦しめることになった自分の所行に絶望し、食を断つことで死のうと思った時のこと。

「あなた……去年の事なのに、もう忘れたのですか?」

まったくもう、と恨めしそうに睨む麻美。

「いや、確かにあの時のお前は危なかったな」

「もういいのです。思い出さないで下さい」

「お前が言い出したんだろ?」

麻美は黙り込む。

彼女は気づいてしまった。

お姉様<オリジナル>を苦しめ、このひとも苦しめることになってしまった、私の罪。

でも、この赤ちゃんは、この子は、その結果産まれた子供。

私の罪を、この子に背負わせてしまった……の?



「あ、こちらですよ?」

そこへ、看護士がもう一人の人間を連れて入ってきた。

「お邪魔するわね?」

当麻と麻美は一瞬息を呑む。

それは、お姉様<オリジナル>、御坂美琴であった。
913 :LX [saga sage ]:2012/10/21(日) 22:46:51.37 ID:UzgGY96z0

「あれ、あんた、帰ってこれたんだ?」

美琴は、当麻がいることにちょっと驚いたようであった。

「あ、ああ。運良く飛行機があってな。ちょっと間に合わなかったけれど、まぁなんとか。連絡ありがとな」

頭をかきながら、小さく会釈する当麻。

「ふーん。ま、いいけど。で、あんた、『私の時は』ちゃんと立ち会いなさいよね? わかった?」

腰に手を当てて、いいわね? という顔の美琴。

「へ?」

まだ結婚式すらも挙げていないのに、もうそう言う話なの? という顔の当麻。

美琴は、とりあえず当麻に憎まれ口を利いた事でよし、とみたのか、改めて麻美の方を見る。

本能か、御坂妹はさっと我が子を抱きかかえるようにして身体をかがめ、全身で守ろうという形になる。

「ちょっと、なにそれ? まるで私が敵みたいじゃないの? あんた、落ち着きなさいよね」

むっとした顔で美琴が言うが、御坂妹は背を伸ばしたものの、斜め半身になり、やはり我が子を美琴からは見えないように抱く。

「どうしたのですか、お姉様<オリジナル>?」

明らかに警戒している声で彼女は美琴に問いかける。

「どうしたのって……アンタのそう言うところ見ると、なんか私が悪役やってるように見えちゃうんだけどな……。

あのねぇ、姉として『おめでとう』ぐらい言わせて欲しいんだけれど」

「美琴……」

「あんたは黙っててくれる?」

いきなり剣呑な空気になる二人をなだめようとした当麻であったが、美琴は余計なお世話、とばかりにぴしゃりと彼の口を封じる。

「お姉様<オリジナル>、無事、産むことが出来ました。男の子でした……このミサカは、母になりました」

「そうね。おめでとう。あんたは私より人生の先輩になったわけだしね、これから大変だと思うけど。

子供って、あんたが飼おうとした猫どころじゃないんだけどさ? 覚悟は出来てる?」

「……ミサカは、この子はこのミサカが育てます。絶対に育てて見せます」

麻美は、そう言い切った。

しかし、美琴は覆い被せるように次の矢を放つ。

「その心がけは良いんだけどね、意気込みだけじゃどうしようもなんないことってあんのよ。

あんた、赤ちゃんの世話したことある? ネットで調べればいいなんて安直なこと考えてない? それにどうやって食べて行くの? 

この間の大騒ぎで、妹達<シスターズ>でここに残った連中が結構いてさ、只でさえ中途半端な能力者が多いのに輪を掛けちゃったから、女性に限らず余ってる仕事って少ないのよ?」

あまりの言いように、むかっ腹をたてた当麻は美琴に怒った声で注意する。

「美琴、止めろ。お前が心配なのはわかるけど、お産したばっかりの麻美に今からそんなこと言って、不安煽ってどうするんだよ?」

しかし、美琴も黙っていない。何を甘っちょろいことを、とばかりに

「バカね、現実は甘くないってことを教えてあげてんのよ。アンタだって自分の就職活動で、今の状況がどういうものか身に染みてるでしょ?」

「そんなことはわかってるさ。だけど、お前、じゃどうすればいいんだよ? お前がこの状況だったらどうすんだよ? 何か対策でもあんのかよ? 無責任に」

「うっさい! アンタは黙っててって言ったでしょーが? 聞いてなかったわけ?」

当麻と美琴の、いわば部外者二人の声が高くなる一方、肝心の当事者である麻美は黙ったまま。

そして、美琴が「うっさい!」と叫んだその瞬間、驚いたのか赤ん坊がギャーと泣き出した。
914 :LX [saga sage ]:2012/10/21(日) 22:52:52.36 ID:UzgGY96z0

「お姉様<オリジナル>、子供が泣き出してしまいました……」

ど、どうしようと言う顔の麻美。

「バカね、そういうときはあやすに決まってるでしょ!?」

「あやすとは……?」

はぁ、とため息をついた美琴は、

「ああん、そんなことも知らないくせに、よくも『育ててみせます』だの言い切ったわね、あんた? 貸してご覧なさい!」とずいっと麻美の側へ来た。

だが、美琴がひったくるようにして赤ちゃんを抱き取ると、その子の声は更に大きくなる。

「お、おい、美琴、まずくないか」

「まずくないわよ! 泣いてる赤ちゃんにはね、こうするんだから……どこもおかしくないわよ!」

ほらほら、良い子だねー、あらーどうしちゃったのかなー、と赤ちゃんに笑いかけながら、必死に美琴は御機嫌をとろうとする。

しかし、そんな彼女の努力にもかかわらず、あんなちっちゃな身体からどうやったらこんな大声が出るのだろうか、と思うくらい赤ん坊は泣き続ける。

まさに「火のついたように」泣き声が大きくなるのに対し、美琴の顔からどんどん余裕が無くなっていくのがありありと見えている。

麻美がさすがに不安になり立ち上がろうとするのを当麻は見てとり、彼女の肩を軽く叩き(ちょっと待て)と合図したところで、

「あらあら、どうしました?」

看護士さんが部屋に入ってきたのだった。

彼女は部屋をざっと見て、美琴が赤ちゃんを抱いているのを見て、

「あら、お姉さんが? あ、ちょっともしかすると」

と麻美と彼女を見比べ、

「あなた、もしかして発電能力者<エレクトロマスター>じゃありませんか?」

と訊いてきた。

「え? そうですが……?」

その答えを聞いた看護士さんはビンゴ! と言う顔になった。

「でしょ? ミサカさんはジャマーつけてるから大丈夫なの。あなたの電磁波が嫌なんじゃないかな? ちょっと私に預けてもらえますか?」

看護士さんに抱かれ取られた赤ちゃんの泣き声は心なしか小さくなる。

「……」

「ほらほら、ねー? 良い子だねー、そっかービリビリが嫌だったんだねー? よーしよーし、ビリビリ怖いもんねー、ボクちゃん、もう大丈夫だからねー」

看護士さんは優しくそう語りかけながら赤ちゃんをあやしている。

(あ、その言葉は……ちょっとやばいんじゃ)

当麻が美琴の顔を見ると、彼女は赤い顔でブルブルと震えていた。

「まて、美琴!」
「お姉様<オリジナル>!」

当麻が右手で美琴の頭を押さえると、「バカ、ちょっと! ……ふぅぅぅぅぅぅ……」と彼女の沸騰しかかった圧力が四散するのを見て、麻美と当麻はほっとしたのであった。
915 :LX [saga sage ]:2012/10/21(日) 22:58:17.53 ID:UzgGY96z0

感動の出産から1週間が経った。



「御坂さん、気分は如何ですか?」

看護士が麻美の部屋に来ていた。定期巡回である。

「はい。おかげさまで歩くことにはもう何の問題もありません。走るのはまだ少し……」

「無理しちゃだめですよ? 大変なことをしたばかりなのですからね。そうそう、お子さんの名前、もう決めました?」

「はい、いろいろ相談しました結果、一麻(かずま)という名前になりました。数字の一に植物の麻です」

「あら、麻という字は珍しいわねぇ、もしかして彼の名前から?」

「はい。そうです」

「やっぱりそうなのね。そう、一麻クンも元気いっぱいだし、もう明日は退院ですものねぇ」

「そうですね。本当にお世話になりました」

「いいえ、こちらこそ。データ収集にもいろいろお手伝い頂きましたし、初めての出産で、あの機械の初めての臨床実験にも応じて頂いて、ねぇ」

「……ミサカは元々実験のために生まれてきたのですから、このミサカが実験に参加することで他の方のためになるのでしたら、喜んで」

「まぁ、そんな言い方してはいけませんよ? ご両親が聞かれたらなんて言うか」

「……」

「何かあったら遠慮なくいらっしゃい? そういえばどちらに御住まい? 第八学区?」

「このミサカは今はお姉さま<オリジナル>の実家に身を寄せています。学園都市の外です」

「え? レベル3の能力者なのに学園都市の外に住んでるの? 初めて聞くわ、そんな例。無能力者ならねぇ、改正で学園都市から外に帰れるようになったのは知ってるけれど」

「そうなのですか? このミサカも、自分が珍しい例だと初めて知りました」

「あなた、少し変わってるのね……それに、お姉さまの実家って、あなたの実家も同じでしょ?

もしかして、ああ、ごめんなさいね。言いたくないわよね、そんなこと。

そろそろリハビリの時間ね。じゃ、何かあったら遠慮なくコールしてくださいね」

「ありがとうございます」

看護士は部屋を出て行った。



御坂妹こと検体番号10032号は、トレーニングウェアに着替える。

「……おなかがしわしわですね。まぁあれだけ大きなものが入っていたのですから仕方がありませんが、これでは他のミサカにすぐばれてしまいますね……」

たるんだお腹をつまんでため息をつき、悩む御坂麻美だった。
916 :LX [saga sage ]:2012/10/21(日) 23:02:16.18 ID:UzgGY96z0

そして、翌日。

御坂麻美と一麻の母子が退院の日である。



「おめでとう御座います」

「お世話になりました」

上条当麻、御坂麻美が頭を下げる。

麻美は送られた花束を持ち、当麻が一麻を抱いている。

「いえ、無事に赤ちゃんが生まれてよかったです。おかげさまで我々も貴重な経験をしましたし、データも蓄積できました。

これを元にして、一刻も早く能力者の安全な出産を確立するように、これからも努力してまいります」

挨拶するのは新藤医師。今回の出産に立ち会ったメインの医師である。

「お役に立てて嬉しいです。このミサカでお役に立てるのならいつでも声をかけていただければ」

「いえいえ。お子さんのことで、あるいはご自身のことで何かお聞きになりたいことがありましたら遠慮なくどうぞ。専用の24時間対応の窓口もありますから」

「うちのが大変お世話になりました。あの、先生にも宜しくお伝えください」

「そうですね、御坂さんが無事お子さんと退院されるというので、とても喜んでいらっしゃいましたよ」

「そうですか。有難うございました、とお伝えください」

「もちろんです。あ、タクシー来てますね」

花を持つ麻美がまず先に後席に乗り込み、花は前の助手席に置き、当麻が抱いていた一麻を彼女が抱き取った。

そして当麻が後席に乗り込んだ。

「ありがとうございました」

「お世話になりました」

「お元気で」

挨拶が交わされる。

「宜しいですか?」

運転手が発車してよいかを聞いてくる。

「あ、ここの出国ゲートへお願いします」

「わかりました。それでは動きます」

タクシーが動き出す。

「失礼します」

「さよならー」

「元気でねー」

タクシーが走り去る。

見送りに出ていた人たちが中へと戻ってゆく。
917 :LX [saga sage ]:2012/10/21(日) 23:07:16.56 ID:UzgGY96z0

数分後。

「あの、上条さんという方の依頼で来ました。ベビーバスケット付けてありますので」 とタクシーの運転手が受付に現れた。

「あら、ついさっき乗って行かれましたよ」 と受付の女性が答える。

「え? ホントですか? どこの車でした?」

「気にしてなかったけど……」

そこへ、さっき見送った医療スタッフの一人が戻ってくる。

「なーに、どうしたの?」

「なんかタクシー間違っちゃったみたいなんです」

「そうなの? あららー」

「あの、どちらのクルマでしたか?」

「第一交通さんだったかな、あら、あなたと同じところじゃない」

「わかりました。ありがとうございます」

そう言うとタクシーの運転手は走って出て行った。

「まぁ同じ会社だからいいんじゃないの?」

「あるよねー、違う車に乗ってちゃうのって」

ケラケラと笑う二人。

そこへ先ほどのタクシーの運転手が戻ってくる。

「すみません、ウチの会社に確認したんですが、こちらにまわったクルマは私だけなんですが、ホントにウチの車でしたですか?」

「いや、そう言われても……」

「でも間違いなく第一交通さんだったよ、あのマーク」

「誰か、流しのひとがたまたま入ったんじゃない?」

「……そうですか……おかしいな、誰も来てない筈なんだけれど……すみません、お邪魔しました」

腑に落ちない顔をしたまま、タクシーの運転手は出て行った。



「すみません、御坂麻美はもう退院しましたでしょうか? 待っているのに全然来ないんですが、何かありましたでしょうか」

数時間後。

御坂美琴からの電話で病院は大騒ぎになった。
918 :LX [saga sage ]:2012/10/21(日) 23:16:23.25 ID:UzgGY96z0
>>1です。

本日分の投稿は以上です。

出だしでも述べました通り、「とある科学の超電磁砲<レールガン>S」2期の発表がありました。
妹達<シスターズ>編では、禁書では描かれていない美琴と「アイテム」とのバトルがありますので、是非ともしっかり描いて頂きたいと思う次第です。
ようやく麦野沈利が出てくるのか、と感無量ですw

それでは本日はお先に失礼致します。
最後までお読み下さいまして誠に有り難うございました。
919 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/24(水) 00:15:10.83 ID:KiCInTZz0
>>1乙。
3人とも誘拐でもされちゃったのかな?
第1部からして無事なのは確かなんでアレだが、災難続きですな…。
920 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/25(木) 20:30:24.40 ID:qUDKsctL0
作者様
こんにちわ

超電磁砲2期祝なんですが、どこをラストにするかにより話がぜんぜん印象が違います。
ゲームのあいぞのさんや、広域社会見学やロシアデモでもあったほうが禁書の話とかぶらなくて
いいなあと思ってしまいます。
ところで、美琴さんのイメージですが、level5で唯一会社勤めや公務員ができそうな人というのが
私の印象ですね。もっとも普通の会社ではなく、投資ファンドや、研究機関というとこでしょうか?
作者のイメージのキャリアウーマンは私のイメージする30の上条美琴そのものです。
なので続編を楽しみにしています。
921 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/25(木) 23:46:05.04 ID:b1+9BGsXo
レベル5の子供といえば時期的に利子かな

しかし
>「そんなことはわかってるさ。だけど、お前、じゃどうすればいいんだよ? お前がこの状況だったらどうすんだよ? 何か対策でもあんのかよ? 無責任に」
これは婚約者の妹を罠にかかったとはいえ孕ませた挙句あろう事か学園都市や諸研究機関
暴走する可能性がある妹達への対処を全て婚約者に無責任に丸投げした癖にこの言い草は下種すぎるだろww
美琴がこの先十数年ずっと学園都市に縛られて愛憎入り混じる麻美と一麻のために身をすり減らして行動していたと
考えると居た堪れなくなるし作者にはすまないと思うけどこの話の上条さんは好きになれない
922 :LX [sage saga]:2012/10/28(日) 16:16:23.42 ID:Biir53iL0
皆様こんにちは。
>>1です。
誠にすみませんが、本日の投稿はお休みさせて下さい。
柱だけ出来ている状態でして、なんとか一気に仕上げたいのですが……

コメント頂きまして本当に有り難うございます。
お返事です。

>>919さま
投稿をお待ち頂けると幸いです(汗

>>920さま
今まで禁書関連は2クールなので、今度も同じでしょうか。とすれば話は最低でも2つ。
妹達<シスターズ>編からスタートするようですので、これをどこまで膨らませられるかですね。
禁書三期をやる前に、超電磁砲二期をやらないとアイテム4人衆のお披露目が出来ませんので……。
美琴視点から描くことになるので、同じ場面でも全く違う内容に作ることは可能だと思います。
手抜きすると使い回しが出そうですが、それは勘弁して欲しいかな、と。
ささきのぞみサンは大忙しかな?
後半は(私は知らないのですが)学芸都市篇とかありそうですね。少なくとも大覇星祭はまだでしょうけれど。

それと、美琴のイメージの考察有り難うございます。彼女はイメージ出来ているのですが、当麻のイメージが今ひとつなのです。それであまりにも不釣り合いなので>>921さんに叱られるという(泣


>>921さま
>レベル5の子供といえば時期的に利子かな
そうです(汗
食蜂さんは扱いが難しくて……

>言い草は下種すぎるだろww
それは確かにその通りですね。あー彼は難しい!

それでは来週に向け、頑張ります。今日は御免なさい!!
923 :LX [sage saga]:2012/11/04(日) 17:27:20.29 ID:nJll5LjR0
皆様こんばんは(少し早いかな)
>>1です。

すいません、本日もパスです。
とりあえず繋げてみましたが、唐突にエンドになり説明省略しすぎなのと、今までの流れと書きためてあるエンドとが
微妙に感覚が食い違っており違和感ありまくりなので、見直します。
このままでは投稿出来ません。

で、更に申し訳ないのですが来週11日とその先18日の日曜(その前の土曜も含みます)、
どちらも戻りが遅いことになる予定でして投稿はかなり難しいと思います。
万一巧く出来上がった場合は土日に関係なく投稿しますが……無理かな……?

最近言い訳ばかりで申し訳ありません。何卒御了承下さい。
924 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/18(日) 20:00:39.81 ID:qoEDR6qs0
今週も投下無しの来週かな?
まじ上条親子に何があったのか気になるので、待ってるぜ。
925 :LX [sage]:2012/11/25(日) 22:41:52.24 ID:ZhEMcYRl0
皆様こんばんは。
>>1です。

お待たせして済みません。
あと少しで第二部、完成です。今日中に出来上がるか、と思ったのですが、この時間になってもまだ出来上がりません。
どう見ても20コマも行きませんので最後まで一気に進め度、今日の投稿は中止させて下さい。

>>924さま
待って下さって頂いて、本当に有り難うございます。ごめんなさい。もう少しお待ち下さい。

頑張ります。
926 :LX [saga]:2012/12/02(日) 18:46:24.50 ID:fLg29DFl0

皆様こんばんは。
>>1です。

間があいてしまって誠に済みませんでした。2週間ぶりでしょうか。
本日分、これより投稿を始めます。
およそ20コマ、第二部最後まで参りますのでどうぞ宜しく御願い致します。
927 :LX [saga sage]:2012/12/02(日) 18:49:30.86 ID:fLg29DFl0

第十学区、再開発が予定されているのだろう、工事予定と立ち入り禁止の警告がそこら中に並ぶ区画の中にある、とあるビルの地下駐車場。

本来ならば誰もいないはずの場所に、うごめく者たちがいた。

「ずいぶん簡単だったな」

「超電磁砲<レールガン>っても所詮は女の子だったってことさ」

「で、レベル5の子供なら高く売れるだろ。どうよ?」

「ああ、その点は大丈夫だ。引き合いバンバン来てるし、全く問題ない」

「しばらくは食いつなげるか」

「そりゃ自分次第だな。無駄遣いすりゃ1日で使い切るし、うまく使えば5年は保つさ」



彼らは俗に言うスキルアウトであった。

学園都市に溢れる無能力者(レベル0)については無期限外出許可という名目で学園都市からの退出が可能になり、夢破れ、学園都市での生活に見切りを付けた彼らの多くは再び外の世界へと戻っていった。

だが、彼らは学園都市から出ることが出来ただけまだ良かった、と言えるだろう。

中途半端に能力が発現してしまった者たち、いわゆるレベル1あるいは2というランクの者たちは悲惨だった。

もちろん、彼ら自身の「ささやかな」能力を生かせる職に就けた者、能力を生かし自ら起業した者、技術を習得し職を得たもの、バイトから準職員、そして正社員になったもの等々、学園都市で生きる糧を得た者たちもいた。

だが、そういう人間は残念ながら彼らの全てではなく、一部にとどまった。

残りの人間のうち、あるものは意を決して能力を捨て、レベル0となることで外の世界へと戻っていった。

(単純に捨てる、ということは現実には不可能であり、危険な手術を行う必要があったが、それについては本筋ではない為省略)

そして、昔ながらの無法者、スキルアウトとなる者もまた多かったのである。



「うまく遺伝してくれてりゃいいんだがな」

「つか、男じゃなぁ」

「だよなぁ。女の方が高いのにな」

「ああ。万一無能力者でも女の子ならそれなりに使い道はあるわけだし」

「贅沢言ってるんじゃねぇ、さっさと決めること決めて、とっととずらかるぞ。長居は無用だ」

リーダー格の男はそう言うと、ワゴン車の中に作られた乳児用移送カプセルを開け、タクシーの中から御坂一麻(みさか かずま)と言う名前の赤ちゃんを抱えてくるとその中に寝かせた。

ワゴン車のエンジンを掛けた眼鏡の男は、リーダーらしきかの男が赤ん坊をカプセルに寝かし終えると、彼の機嫌を窺うように言った。

「なぁ、あいつ、どうなったかな」

「あん? ああ、気にすんな。運がよければ後で誰かが見つけるかもしれねぇし、運がなければ明日までそのまま、ってとこだろ」

リーダーらしき男は彼を見ずに即答した。駐車場入り口の途中で放り出し、階段室に放置した男、そう上条当麻の事など気にも留めていなかったのだ。

「そうだな。あれは無能力者だしな」

「しかし危なかったぜ。あいつ(無能力者)にゃAIMジャマーが効かないからな。催眠ガス使うハメになったのはやばかったな」

「ああ。肝心の赤ん坊が死んじまったら元も子もないからな。まぁ超電磁砲<レールガン>が母親らしくかばうだろう、という前提で流し込んだわけだがヒヤヒヤものだったぞ」

「まぁ何にせよ、練習通りうまくいって正解だったさ」
928 :LX [saga sage]:2012/12/02(日) 18:53:26.93 ID:fLg29DFl0

「なぁ、オレ、やっぱあいつどうなったか見てくるわ」

そう言ったのは先ほどの眼鏡の男。彼こそが偽タクシーの運転手であった。

「へ? ほっとけって言っただろうが?」

「そうだよ。男はカネになんねえぞ」

リーダー格の男と、もう一人の小柄な男が口々に彼をなだめようとする。

「そうだけどさ、あの幻想殺し<イマジン・ブレイカー>の右手は売れるんじゃないか?」

「はぁ? お前何考えてんの?」

「いや、そんな話聞いたことがあるもんで……」

「なら、右手だけ切ってこいよ?」 

「おいおい、切っちまったらまずくないか?」

「待てよお前……いいか? 今回はだ、そいつの要望は受けてねぇんだ。そもそも注文もされてないものを取ってきたのはお前のミスだ」

何をいつまでもグダグダ言ってるんだ、とばかりにリーダー格の男が断言する。

「いやそう言ってもよ、一緒にいたんだから仕方ねぇだろ」

「ルールだ。お前の報酬は今回半額。次で挽回しろ」

「そんな……」

勘弁してくれよ、と言う顔になる眼鏡の男。

「文句あるのか?」

「……ちっ。わかったよ。しゃあねぇな。これが終わったらにするわ。仕事が終わったあとならいいだろ? それに俺が売りさばけば文句ねぇんだろ?」

「終わったあとは知らん。勝手にやれや。だがな、覚えておけよ? 万一足がついたら、その後はわかってるな」

「ああ。当然だろう。ドジは踏まねえよ」

「さて、じゃ次は御坂のねぇちゃんか」

とりあえずケリはついた、と見た小柄な男がつぶやく。

「おう、丁寧に運べよ? 目を覚まされたら俺ら黒こげだぜ?」

「ははは、大丈夫だ。半日は目を覚まさないって」

「そうなのか? ならせっかくだし、いい女だし、持っていく前にちょっとやっていい?」

ニヤニヤと狡そうな顔で小柄な男が言い出す。

「お前な……黒焦げになりたいのか?」

リーダー格の男があきれた声で答える。

「え、今ならヤレるんじゃねぇの?」

「もし途中で気が付いたら、お前、間違いなく死ぬぞ?」

「ちぇっ、AIMジャマーがもう少し小型化されてりゃ、こんな苦労しないのにな」

不満そうな顔の小柄な男。

「文句言うな。ステーションワゴンに付けられるようになったんで、この計画できたんだからな」

「そっちは?」

「ああ、赤ん坊だから楽勝だ」

「そうね、この卑怯者」

男達は一斉に声の主に振り向いた。
929 :LX [saga sage]:2012/12/02(日) 18:56:35.01 ID:fLg29DFl0

「私の大事な妹に甥っ子、それにあのバカッタレにずいぶんな事してくれたじゃないの?」

バリバリという轟音とともに、駐車場内に放電が飛び交い、明かりが消えた。

「わはっ」
「ひえっ」

男達が悲鳴を上げて逃げまどう。

「お、おまえ?」

「まさか」

「これって、ホンモノの、超……電磁砲?」

「ええっ? なんでだよ? 超電磁砲<レールガン>はそこに寝てるんじゃねーのかよ?」

「はぁぁぁぁぁぁ? 何それ?? ははーん、そうか、やっぱり。あんたら、もしかして私と間違った?」

難を逃れた非常灯がいくつか頼りない光を放つだけの薄暗い駐車場の中を、バリッ、バリッとあたりに不規則に放電しながら歩いて来るものがいた。

ツンとするイオンの臭いがあたりに漂わせ、やってきた声の主こそ、御坂美琴。

学園都市レベル5の第二位、またの名を超電磁砲<レールガン>。

「間違った、って?」

「うそだろ、おい?」

「じゃ、この女誰だよ?」

「おいおい、じゃこのガキも?」

おののく男達に向かってゆっくりと美琴は近づいて行く、指先と髪から放電しながら。

「あのねぇ、あの子はね、私の妹よ。ほんんんんっとに、あんたら、馬鹿なの? 死ぬの? ほんと、いっぺん死んだほうがいいわね?

私はね、確かに結婚は決めたけど、まだ子供なんか産んでないわよっ? ホントに失礼しちゃうわね!」

「妹?」

「聞いてねぇぞ」

「なんだよそれ、じゃ俺ら、まるで馬鹿じゃん!」

「誰だよ、こんな話持ちかけてきたの? ざけんじゃねーよ!!」

口々に叫ぶ男達をあきれたように見つめる美琴。

「だからねぇ、さっきから言ってるでしょ、馬鹿って? 私、今ね、もーのすごく機嫌悪いからね」

彼女が右手を振り上げると、地響きとともに瓦礫があたりにぶちまけられ、その土埃の中から2本の鉄骨が床をぶち破って駐車場に飛び上がる。

「覚悟しなさいよね? そうそう、遺産分配やってある? 一応聞いておいてあげるから」

ぶぅんぶぅんと風を切って、巨大な鉄骨が宙を舞い始める。

「ごめんなさいぃぃぃぃ!!!」

「許してぇぇぇぇぇ!」

「助けてくれぇぇぇぇぇ!!」

絶叫をあげ、ペタリと座り込む男たち。

「だーめ。許さないから。赤ん坊を誘拐するなんてさ、人間として下の下だから!」

美琴の目がつり上がる。

その瞬間、

「美琴、止めろ、止めるんだ」 上条当麻が、

「おっしゃぁ、赤ちゃんは確保したぜい!」 土御門元春が突入してきたのだった。 
930 :LX [saga sage]:2012/12/02(日) 19:00:19.57 ID:fLg29DFl0

結果。

犯人たち、いわゆるスキルアウトであった彼らは実行犯4名の他にもおり、芋づる的に逮捕され、合計で8名にも上ったのだった。

一方、彼らが誘拐した御坂麻美の子、一麻を入手しようとしていた相手であるが、こちらは巧みに偽装されており、解明には暫く時間がかかることになった。

御坂麻美と一麻は検査の為、再び柏原病院に逆戻りすることになり、さらに事件の被害者ということでアンチスキルの調査も受けることとなり、なんやかんやで1週間の長きに渡って学園都市にいることになった。

そして、ようやく今、今度こそ彼らは学園都市第八学区のイミグレを通過し、神奈川県へと出たところであった。



「お姉様、今回は本当に有難うございました」

しっかりと一麻を抱いた麻美が美琴に向かって頭を下げる。

「気にしなくていいってば」

美琴は麻美には視線を合わせずに、はいはい、という顔で答える。

「美琴ちゃん、たまには帰ってきなさいな?」

そんな娘に母・美鈴は声を掛ける。

「そうしたいんだけど結構大変なのよ。思ってた以上に二足のわらじってキツイのよ…」

美琴は今度は母を見ながら、ため息とともに珍しく弱音らしい言葉を返す。

「まぁ、あと2年もないだろう? もっとも、その後は学生の代わりに家庭という大変な仕事が来るのだがな」

大変だぞ? と言う顔の父・旅掛の言葉に美琴は困ったような声で爆弾発言をした。

「……それがね、三足になりそうで」

「え?」

「はい?」

「?」

驚く皆に美琴が説明を始めた。

「学園都市の看板が社会人じゃサマにならないからって、形の上だけでいいから学生でいてくれってとんでもない話があって……」

「何だと? それでは本末転倒ではないか」 怒る父・旅掛。

「あら、じゃ結婚も延期かしら?」 心配そうな母・美鈴。

「え…?」 あっけにとられる恋人・当麻。

三人三様の反応だが、その中で彼女は気になったのだろう、母・美鈴を向いてきっぱりと答えた。

「それはやだ。それは考えてない。駄目だなんて言わせないから」

「ほう? そうか…」 

そう言うのなら、最後までしっかりやるんだぞ、と父・旅掛は娘を激励する。

うん、と返事した美琴は返す刀で今度は当麻を見る。

「ちょっとアンタ、ちゃんと聞いてる? 理由の一つはアンタなんだからね? アンタをこれ以上ほっといたらどうなるかわかったもんじゃないし」

「う」

指こそ指さないものの、ビシっと締められた当麻はぐうの音も出ない。
931 :LX [saga sage]:2012/12/02(日) 19:07:46.67 ID:fLg29DFl0

「で、お前自身どうするつもりだ?」

父・旅掛の問いに美琴が答える。

「一応、3つくらいの候補が来てるの。資格取る上でメリットある教育大の大学院が第一候補ってところ」

「お姉さまは先生になるのですか?」  目を見開いて訊ねる麻美。

「そうなれば常盤台学園が黙っていないわねぇ」  少し考えて母・美鈴がつぶやく。 

「やっぱりそう思う?……そうなのよ。母さんね、どこからかぎつけたか知らないけど、昨日いきなり連絡が来たのにはびっくりしちゃった。

まだ自分でも決めてないのに、あそこ(常盤台学園)ったら大学院卒業したら是非来て欲しいって……面食らっちゃった」

ビンゴ、とばかりに母の方を向いてまくしたてる美琴に、まぁ落ち着け、とばかりに父・旅掛が皮肉っぽく言う。

「美琴が先生か。ははは、お前に教えられる子供たちも大変だろうな」

「お父さん、それ、どういう意味よ?」  むっとして美琴が言い返す。

「胸に手を当ててよっく考えて見なさい」

「お姉様、む「麻美、止めとけ」」  麻美が余計なツッコミをしそうになり、あわてて当麻が口を塞ぐ。

「当てなくても、わかってるわよ。私、先生には向いてないもの」  少し残念そうに美琴は答えた。

話が途切れ、一瞬沈黙の時が流れる。



「じゃ、私、次の予定あるから」

沈んだ空気を振り払うかのように、明るい笑顔を見せて美琴は別れの言葉を切り出した。

「身体に気をつけるのよ?」  

「美琴、元気でな」

両親は寂しそうな顔で愛する「自分の娘」にしばしのお別れを告げる。

「ありがと。時間出来たら帰るから、またね。あんたもしっかり母親やんなさいよ?」

「はい。お姉様、有難う御座いました。お気を付けて」

今度は美琴は麻美の顔をしっかりと見、麻美も美琴の顔を見て答えた。

「じゃね、バイバイ」  小さく手を振る美琴。

御坂旅掛、美鈴夫妻、御坂麻美・一麻の母子4人が駐車場へと歩き出す。

「また、お世話になります……宜しく御願いします」 

旅掛・美鈴夫妻に会釈して挨拶する麻美の声が小さく聞こえた。





ビッ、と軽くフォンを鳴らし旅掛が運転するBMWが二人の前をゆっくりと通り過ぎてゆく。

助手席で手を振る美鈴、後席で頭を下げる麻美、そしてベビーシートに収まった一麻が見えた。

美琴と当麻、二人は去りゆくテールランプを黙ったまま見つめていた。

そう、見えなくなるまで……
932 :LX [saga sage]:2012/12/02(日) 19:19:37.76 ID:fLg29DFl0

「あんた、一緒に行かなくてよかったの?」

口火を切ったのは美琴だった。

二人の足は学園都市に戻るべく、エントランスへ向かっていた。

「いいんだよ。これで」

「ふーん? 無理しなくてもいいのに」

いたずらっぽく突っかかる美琴に当麻は真面目な顔で答える。

両親と別れる時の彼女の顔に、寂しさの色を見て取ったからだ。

「無理ってなんだよ。もうオレの出る幕じゃないだろ?

それに、何度も言ってるけど俺はお前が大事なの。お前を選んだわけだし、今回はお前に助けてもらったわけだし、いろいろとお前のことも心配だから、なんだよ」

「……あれれー、随分しおらしいこと言ってくれるじゃない? 明日は大雨かしらね」

一瞬の間をおいて、美琴は皮肉っぽく答えてきた。

昔ならデレるはずだったのにな、と彼は少し残念に思う。敵がそうなら、と当麻もボケで返すことにした。

「いや、晴れるって出てるけど」

「馬鹿、つまんない答え返すんじゃないの! ホントにもう……。でもね、昔のアンタだったら一人で突っ走って、何しでかしてたか怪しいもんよ?

あんたも少しはお友だちを見習いなさいよね、ほんと」

少し元気が出てきたようだな、と彼は少し微笑む。



「しかし、平和だよな……この前のあの馬鹿騒ぎ、いったい何だったんだろうな?」

入管を出て、思わず当麻がつぶやく。

自分たち、たった1組のカップルをめぐっての大騒動。それがまるでウソのようだった。

美琴は答えない。

(ゴメンね、全部、あの人たち<学園都市統括理事会広報委員会>のしわざだったのよ。私を取り込む為の)

彼女は心の中で皆に謝っていた。

「ね、どこかで一緒に食べて行こう?」

嫌な思いを振り払おう、と美琴は笑顔で当麻にそう呼びかけた。

「あー、それいいな……あれ、それより美琴、お前、時間、いいのか?」

一瞬嬉しそうな顔をした当麻だったが、さっきの美琴の言葉を思い出し、彼女に訊いてみた。

「いいんだってば……もう、いいの」 

方便に決まってるでしょ鈍感、と言いそうになった美琴は直ぐに思い直し、そう言うとしっかりと当麻の腕に抱きついた。

「おぅ、ど、どうしたんだよ?」 ちょっと驚く当麻に彼女は小さな声で訊く。

「いいでしょ、たまには。それよりアンタ……その、あのね、ホントに私のこと、心配?」

「まぁな」  (お、もしかして?)

美琴の顔を覗き込むと、少し赤い。

照れてるな、少しは許してもらえたんだろうか、と当麻は思う。

「ああ。言ってくれよなー。ホント大丈夫なのか、三足のわらじなんてさ」 (今度は、どうかな?)

果たせるかな美琴の足が止まり、彼女は腕を解いた。

「……あんたの心配って、そっちかいっ?」

(あはは、怒ったか。なんか少しホッとする。いつもの美琴が帰ってきている。そんなこと言ったらまた口を利いてくれないな)

当麻は右手を伸ばし、美琴を抱きとめ、ぐいと引き寄せる。
933 :LX [saga sage]:2012/12/02(日) 19:26:16.77 ID:fLg29DFl0

「こ、こらっ!? こんなとこで何すんのよっ? やめて、離してよ、バカっ!」

言葉こそきついが、美琴の身体の動きは違う。築地の時のような、思い切り暴れるような勢いは全くない。むしろ、誘うようなその動き。

(よし!)

ここぞ、とばかりに当麻は美琴に向かい合う。

「いろいろあったけど、美琴が一番大事なのは変わってないんだぞ? それだけは信じてくれ。頼む」

彼女の目を見つめて、当麻ははっきりと言う。

「……信じるかどうか、あんたの行動次第なんだからね? 私を安心させてよね」

そう言って、美琴も当麻を見つめる。

「うん。美琴、お前が一番好きだ。愛してる」



美琴は、当麻の真剣な顔を見た。

その目を見て、彼女はふと心にやましさを感じた。

(私って……私って、こんな偉そうなこと、言えるのかしら)



ずっと、ずっと昔から、コイツを追いかけてきた私。

ようやく、ようやく想いがかなった、と思ったのに。



……悲しかった。

……悔しかった。

裏切られた、と思った。

忘れようと思った。

二度と会うまい、と思った。

もう、何もかもあの子にくれてやろうと思った。



でも、出来なかった。

どれも、出来なかった。

やっぱり、諦められなかった。

やっぱり、私は、コイツが、このバカが

  ――― 好き ―――



そして、先日の、あの、恐ろしい話。

そして、妹達<シスターズ>の存在。

(私は、コイツを利用しようとしてる……私って、なんて、なんて嫌な女なの?)



そんな内面の葛藤を覆い隠すかのように、わずかに微笑みを浮かべ、ほんのりと上気した顔で彼女は言った。

「……もう一回、言ってくれる?」
934 :LX [saga sage]:2012/12/02(日) 19:30:47.66 ID:fLg29DFl0

真剣な顔の当麻は、素直に彼女の言葉に従った。

「美琴、愛してる。オレの、一番、好きな女の子」

「……もう一度。御願い」 つつつ、と涙が一筋、彼女の目元から流れ落ちて行く。

「お前が好きだ。一番好きだ。愛してる」

「名前が、抜けた……」 わずかに口をとがらせ、甘えを含んだ声で不満をいう、美琴。  

「いっちばん好きな女の子! 美琴、愛してる」 これでどうだ、とばかりに当麻が叫ぶ。

「そんなおっきな声で、恥ずかしいこと、言うな、バカっ!」

そう言うと美琴は当麻の胸に顔を埋めた。

(アンタなんか、アンタなんか……馬鹿、ばかっ、バカぁ!) 

美琴は顔を埋めたままモゴモゴと泣きわめき、バシンバシンと平手で当麻の肩をやたら大振りに叩く。

当麻はじっと黙ったまま、そんな彼女を左腕でしっかりと抱きとめ、右手は優しく髪を撫でていた。



ふいに、人の声が聞こえてきた。

「おいおい、天下の公道で女の子を泣かしちゃぁいけねぇなぁ、彼氏?」
「若いって、いいねぇー」
「いやー、うらやましいねぇ、全く」

涙目の美琴がバッと顔を上げ、当麻もえっと言う顔でまわりを見る。

そこは、タクシー乗り場だったのだ。数人の人と客待ちのタクシーの運転手たちが二人を見ていたのだった。

遠くで指差しながら見ているカップルもいる。

気が付けば、女子高生だろうか、キャアキャア言いながらこっちを見ているグループも2つほど。

「よう、乗るかい? どこでも良いとこまで行くけど?」

人の良さそうな運転手がニコニコしながら言う。

「し、失礼しました!」
「すみません!」

二人は脱兎の如く駆けて行く。

声を掛けた運転手は頭をかきながらクルマに戻ってくる。

「あ〜あ逃げちゃった……ははは、あの二人、これからどうなると思う?」

「うーん、恥ずかしくて何も出来ない方に賭ける」

「えー? そうかな、あれでだぞ? 行くとこまで行っちゃうだろうよ」

「つか、どっかで見たことある顔なんだよね、誰だっけな……」

その後、タクシー乗り場でひとしきり格好のネタにされた二人であった。
935 :LX [saga sage]:2012/12/02(日) 19:36:08.75 ID:fLg29DFl0

当麻の寮。

美琴の香水の残り香に包まれたまま、一人、当麻は天井を見つめていた。



実は当麻は土御門から驚くべき報告を聞いていた。

今回の一麻の誘拐事件では、犯人たちの打診に対してオファーを返した相手が少なくとも30件以上あったことが判明した。

ところが、その中の半分以上がアンチスキルの捜索でも正体が掴めなかったというのだ。

「カミやん、すまなかった。半分もしっぽを掴めなかった。

まだこんなことやる連中が残ってた事に気が付いてなかったのは失敗だった。

超電磁砲<レールガン>のあの子と結婚するんなら、産まれてくる子供には十分気を付けたほうがいい」

申し訳なさそうな顔で、彼はそう謝ったのだった。

改めて彼は、「御坂美琴」という存在の大きさに感嘆していた。

(気を付けろ、って言ったって……どうすりゃいいんだよ……?

美琴に三足のわらじを履かせて、そして子供も面倒見ろって? そりゃあんまりだ、無理だ。

実際問題、あいつの方が、俺より遙かに忙しいんだから……いや、いっそ子供が出来たら、俺が主夫やった方がうまくいくんじゃないか?

外交官の仕事って言っても、今は落ち着いているし、無理して体面を取り繕わなくてもいいじゃないか?

必要な時にだけ出て行けば済むことなんじゃないか?

いや、そんな都合良く物事が進めばいいけど、美琴が海外出張して、俺もまた出かけなければならなくなった時、子供の安全は誰が?)

(レベル5の御坂美琴、その血をひく子供ってのが裏の世界でも人気があるってことがよくわかったぜよ……どうするカミやん?)

いつになく真剣な顔の土御門元春の言葉が甦る。



ふいに、当麻の頭に閃くことがあった。



だが、彼は直ぐにその考えを打ち消した。

ふと隣を見て、彼は身体を起こす。

……さっきまで傍に寄り添っていた美琴を思い出し、僅かに湿ったふとんに手を置く。

もうそこは冷たい。

再び彼は仰向けに寝転がり、天井を見る。

「そんなことは、出来ねぇ、無理だよ」

独り言を彼はつぶやく。

「そんな、残酷なこと、出来るかよ……」
936 :LX [saga sage]:2012/12/02(日) 19:42:38.88 ID:fLg29DFl0


(当麻の回想)


――― ガン! ―――

「痛ってぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

飛び起きた当麻。

ヒンヤリとしたコンクリートで囲まれた場所。少しほこりくさい。階段? 

「起きたか、カミやん? 寝てる場合じゃないぜい、早く行かないと子供とあのクローンの子がヤバイぞ!」

彼を見下ろしているのは親友土御門元春と、赤毛の、やたら胸が目立つ女性。

「? え、どこ、ここ? 土御門? お前、どうして?」

「ふふーん、カミやんの行くところは全部ばれてるんだにゃー? ま、今回はそのおかげで助かったんだがな、感謝するんだにゃ」

「ちょっと、その前に私に感謝しなさいよ? そこのアンタもさ」

今ひとつ状況が飲み込めない、と言う顔の当麻だが、直ぐにアッという顔になる。

「ここはどこだ……そうだ、一麻は!? 麻美は、御坂妹は!?」

彼は跳ね起きて土御門にくってかかる。

「静かにしろ、カミやん……扉の向こうが駐車場で、その奥に犯人どもが三人ほどいるはずだ。外の見張りはさっき潰しておいた」

声を潜めてあごで指し示す土御門に、当麻も声を低めつつもつっかかる。

「なんでわかる? お前らが?」

「おいおい、そりゃねぇぜよカミやん。俺がそんなことして何が面白い? 

御坂美琴の子供に価値があると考える連中がいたってことだ。それであのクローンを御坂美琴と勘違いした早とちりがだ、カミやんもろとも誘拐したってことだ」

「ばかやろぅ! だったら俺が!」

そう叫び、きびすを返し扉に飛びつこうとする当麻を土御門が押さえ込む。

「まぁ待てって? 考えも無しに飛び出しても無意味だ。カミやんがここに放り出されてたのは価値がないと思われたからだにゃー?

あの二人には価値があると見てるはずだから、そう無闇に乱暴なまねはしないぜよ。

……さっき覗き見た限りでは、連中は3人いる。もう1人か2人見えないところにいるかもな」

「どうすんだよ?」

「そろそろ、あいつらはクルマを代えてここから出るはずだ。まずカミやんが突入してあいつらの注意を引きつけてもらう。俺は彼女に」

言葉を切った土御門は目で赤毛の女性を指す。

「その隙にテレポートしてもらって赤ん坊を確保する。カミやんはなるべく派手にやってくれ」

「ちょっと、ちゃんと私の紹介ぐらいしなさいよね、全くもう失礼しちゃうわね!」

「あーそうだったか? 彼女は俺の昔からの知り合いでにゃー、霧が丘女学院の学生で、結標淡希(むすじめ あわき)だぜい」

「何その投げやりな紹介」

バカにして、と彼女はそっぽを向く。
937 :LX [saga sage]:2012/12/02(日) 19:48:26.85 ID:fLg29DFl0


「あ、あの、僕は上条当麻(かみじょう とうま)と言います。その、貴女も空間移動能力者<テレポーター>なんですか?」

あなた「も」って何よ? と当麻を見すえながら結標は答える。

「ちょっと違うんだけど、めんどくさいからそれでいいわよ……あなた、噂どおりホントに能力効かないのね」

「は?」

「さっきね、気を失ってるところ悪かったけど、試しにやってみたんだけど、ぜ〜んぜんダメだったの。

幻想殺し<イマジンブレイカー>ってホントなのね」

「はぁ……すいません」

「だから、カミやんが突入役ってことだぜい。こう言う時は不便だにゃー?」

その時、ボン、と言う音と共に明かりが消えた。

「わ?」
「キャ!」
「停電?」

当麻の頭をよぎったのは御坂妹こと、御坂麻美のこと。彼女もまた、発電能力者<エレクトロマスター>の一人だ。

お姉様<オリジナル>である御坂美琴ほどのパワーはないにせよ。

(まさか、あいつに危険が?)

手探りで壁をまさぐり、ノブを掴むとそっと扉を開け、中を覗き込む。

イオン臭い空気が鼻をついた。

薄明かりの中、遠くに放電が見える。

(え? みこ……と、か? まさか、どうして?)

あれは、麻美じゃない。あのものすごい放電は、美琴以外の何者でもない。

地響きと共に土埃が舞い上がり、床から鉄骨が飛び出した。

風を切る唸りと共に鉄骨が宙を舞い始める。

「おい、待て!」

当麻が反射的に走り出す。

後で「飛ばせっ!」という土御門の叫びが上がった。
938 :LX [saga sage]:2012/12/02(日) 19:55:07.91 ID:fLg29DFl0

「あんた……無事だった?」

薄暗がりの中、興奮が冷めやらない美琴が麻美の様子を訊ねている。

「はい、なんとか……おかげさまで、この子も無事でした」

結標淡希によってテレポートされた土御門元春はあっけないほどに赤ん坊の一麻を確保し、今、その子は母である麻美の腕の中ですやすやと眠っていた。

「アンタは死んでくれた方が私はせいせいするけど、その子には罪はないから」

「……はい」

「美琴、そう言う言い方はやめろ」

刺々しい物言いの美琴を制止しようとする当麻。

「うっさいわね、あんたは黙ってなさいよ! 二人をこんな危険な目に遭わせといてさ、どの面下げて偉そうに」



触らぬ神に祟りなし、とばかりに、雲行きの怪しい三人から少し離れて立つ土御門と結標は顔を見合わせ、小声で話をしていた。

「つまり、あの上条ってのがクローンに子供産ませちゃったって事でいいの?」

「いろいろと理由があるが、事実はそうだ」

「ちょっと待ってよ、そんな男とあの超電磁砲<レールガン>は付き合ってるわけ? あり得ないわよ、冗談でしょ?」

「オレに聞くなよ。当事者に聞いてくれ」

眉をひそめた彼女は吐き捨てるように言い放つ。

「姉妹丼なんて、まるでエロゲじゃないの。あーやだ、気持ち悪い。吐きそう。ね、私、もう帰るから」

「ちょっと待て。もう他のアンチスキルも来るだろう? お前の資格が必要なんだにゃー」

「チッ、取るんじゃなかったわね、こんな資格。めんどくさいだけで、良いことなんか一つもないんだから。マジ騙された」

……学校の先生になるなら断然有利だぜい、という土御門の巧みな勧誘で、彼女はアンチスキルの準職員免状を取っていたのだった。

学生の今はジャッジメントとしての権限はもちろん兼ねており、もちろん社会人になって申請すれば正規職員免状に切り替えが出来るという代物だった。

「でもなー、あわきん? あんまりサボりすぎると免状取り上げってこともあるらしいぜい? そうしたら先生の道は」

「ああもう、わかったわよ! 居れば良いんでしょ居れば!」

「さすが、成績ダントツトップで合格したひとの言うことは違うにゃー」

「バカにしてる? つっちー、アンタ時間つぶしにさ、ちょっとそこの壁に埋まって来るって愉快な冒険やってみない?」 

「スマン、オレが悪かった」
939 :LX [saga sage]:2012/12/02(日) 20:02:42.12 ID:fLg29DFl0


「アンタの顔、見たくないから、このまま私の母に世話になるの、認める」

麻美に向かって、そう美琴は言い切った。

「はい。わかりました」

「美琴……」

美琴は当麻を無視して話を続ける。

「私も腹決めた。学園都市は危険すぎ。東京の人混みの中に紛れ込んでしまう方が安全よ。幸い新しく引っ越してるしね。

もちろん追跡すれば簡単に分かるでしょうけれど、私の子じゃないことももうわかったでしょうし、あんたの子をそこまでして追っかける連中はそれほどいないわよ」

「……」

麻美はしっかりと我が子を掻き抱いたまま、黙って立っている。

「あ、それからね」

美琴はちょっと意地悪い顔になった。

「ちゃんと面倒みないと、その子、母さんに取られちゃうかもしれないから、せいぜい頑張りなさいね」

顔を上げ、美琴を「え?」という顔で見つめる麻美。

「へ?」という顔の当麻。

「母さんはね、私の次にはね、男の子が欲しかったみたいだから。ボケッとしてたらいつの間にか母さんの子供になっちゃうかも」

あー、そう言えばそんなことを聞いた気もする、と当麻は思い出す。

そう言えば、抱きしめられた事も……と思った瞬間、彼は思わず反射的に右手を突き出した。

美琴が飛ばした電撃が右手でバンと打ち消される。

「アンタは余計なこと考えるんじゃないの、ニヤケ面すんな!」

「お姉様<オリジナル>……」

麻美は期待と不安がこっちゃになった何とも言えない顔で小さくつぶやいた。



「お話の途中、申し訳ないけど」

土御門元春が澄まし顔で三人の話の輪に割り込んで来た。

「また病院へUターンってとこかな、皆さん方」

薄暗い中をマーカーランプを煌々と光らせた装甲車が轟音と共に駐車場に滑り込んで来たのだった。



-------------------------------

(学園都市の外で育てる……そりゃあんまりだ)

良い考えが浮かばない当麻は、黙って天井を眺めるしかなかった。今日は寝付けそうもないな、と思いつつ。
940 :LX [saga sage]:2012/12/02(日) 20:11:48.04 ID:fLg29DFl0

一方の美琴は美琴で、異変を感じ取った直後、直ちに初春飾利と連絡を取り、そして彼女から恐るべき内容を聞いていた。

今回の事件では、美琴は初春飾利の全面協力を得て、犯人たちが潜む再開発地区のビルへ突入出来たのだった。

(現行犯人は何人であっても逮捕出来る、という点でクリアできるものの、彼女の能力では過剰正当防衛になりかねないが)

初春から通報を受けたアンチスキルも直ちに出動したが、電磁波を操り自由自在に「空を飛ぶ」ようにフルスピードで駆ける彼女には追いつけるはずもなかった。



例によってこの情報は多摩川べりに停めたクルマの中で、メモ書きで伝えられた。

まず極秘情報1つめ。

高位能力者の結婚・出産について、統括理事会の中で動きがあり、特別チームが編成されたらしい、ということ。

高位能力者とは少なくともレベル4の上位グループ、もしくはレベル5を指すらしい。

ただ、具体的にこの特別チームが何を目指しているのか、美琴のスキャンダルに端を発した動きなのか、あるいは全く違う次元の話なのかは不明。

次に2つめ。

この情報は、ごく一部の外部機関に通達され、そこが密かに動いていると推測される。

今回、御坂麻美の子供を襲ったグループは、この話を聞いたもののうち、御坂美琴の子供、と勘違いして拉致した可能性もある。

最後の部分は初春の推測であったが、美琴はその可能性もあると思った。

妹達<シスターズ>は、自分のクローン。欠陥電気<レディオノイズ>という二つ名もあるが、研究者からは全く相手にされていない。

強いて言えばヒトのクローンの有性生殖という点ぐらいだろう、と。

だが、それとて別に拉致監禁してまで研究するほどの価値はないはずだ。とすれば。

そして3つめ。

人身売買と見られる情報が書き込まれた掲示板があり、現在泳がせていると同時にアドレスの解析を行っている。

少しずつ応札する内容の書き込みが増え、既に30件に届こうとする勢い。

非常に複雑な為、解析に時間がかかっている、とのことだった。

(初春さんでも苦労するんだ……) へーと言う思いでメモ帳に字を書いて行く彼女の横顔を見つめる美琴であった。



初春が最後に書き込んだ文章を見た美琴は苦笑した。

――― インペリアル・ホテルのケーキバイキング、宜しく御願いします! ―――

「えへへ」と笑って美琴を見る、少し隈の出来た初春に彼女も笑顔で答えた。

「お安い御用よ! じゃ、行ってくるね!!」

そう言うと美琴はドアを開け、初春に手を振ると走り出した。

「あ、あのっ!! アンチスキルも出ますからねーっ!!!」

あわてて初春もハリアーから降り、既に遠くに行っている美琴に向かって叫ぶ。

「聞こえてないよね、絶対……ま、昔みたいに暴走はしないでしょうけど……大丈夫かな? 白井さんがこんな時居てくれたらなぁ」

運転席に戻った初春は、そう独り言をつぶやいたが、いっけなーい、と直ぐに端末を操作し始めた。

人身売買の書き込みの解析を行う為に。
941 :LX [saga sage]:2012/12/02(日) 20:15:26.51 ID:fLg29DFl0

タクシーに揺られつつ、美琴は一つのことを考えていた。

当麻と身体を重ね、熱いひとときを過ごした彼女の肉体はまだ熱を持っていたが、彼女の頭は冷えていた。

(子供出来たら、どうしようか?)



自分で育てたいと思う。

だが、危険が多すぎた。

未だ結婚すらしていないのに、もう子供が出来たと早とちりして、クローンの子供を襲った馬鹿もいるくらいだ。



学園都市第二位のレベル5なんだから、と自惚れていた。

まさかそういう地位にいる自分を、自分の子供を狙うわけがない、と。



いたのだ。そう言うヤツが。しかも30人も。

(なめられたものよね)

そう思う。

(三足のわらじはきついなぁ……広報委員会の仕事次第だけど、先生はちょっと無理かも)

1年くらいは育児休暇で休むことも出来よう。

だが子供が保育園に行く年になったら? 幼稚園は? 小学校は?

四六時中見張っていることなど出来やしない。不可能だ。

我が子の為なら、広報委員会を辞めたって良い。

でも、絶対にそんなことはありえない。

そんなことを認めるくらいなら、あれほどまでして私を絡め取るわけがない。

(どうしよう、どうやったら守れるの? ううん、そうじゃない。守らなきゃいけないのよ。私は)

「お疲れのようですね」

「え? え、ええ。ちょっとありまして」

いきなりタクシーの運転手が話しかけてきたので、美琴はあわてた。

「疲れた時は寝るのが一番ですよ。疲れた頭じゃ考えてもろくなこと考えませんから」

「そうですね。ホント、誰かに代わってもらいたいくらい面倒くさいことで」

「あはは。えーと、寮は正面でいいですか?」

「はい、そこで御願いします」

確かにそうかもしれない。明日、考えよう。



その瞬間、美琴の脳裏に、あるとてつもない考えがひらめいたのだった。
942 :LX [saga sage]:2012/12/02(日) 20:30:18.33 ID:fLg29DFl0

そして、年月があっという間に過ぎた、とある日。



「お姉様、本当にお綺麗ですわ。黒子は、この御姿、一生忘れませんわ」

「ありがとうね、黒子。あんたも立派な淑女だわよ……あれ、ご主人と孝太郎くんは?」

「孝太郎はベビーシッターに預けておりますの。御迷惑をおかけしそうですから。

それから、健介は急遽打ち合わせということで、先週から海外出張中ですわ。

本当なら昨日帰ってくるはずでしたのに、ちょっと長引いているようで、まだ帰れないという電話が一昨日ありましたの。

それで、お姉様には本当に申し訳ありませんが、主人はドタ、いえ、出席がかなわなくなりましたの」

「ああ、気にしなくて良いから。それじゃ仕方ないでしょ? あんたのところも大変ね……」

「み、御坂さん、遅くなっちゃって済みません! このたびは、ほ、本当におめでとう御座いますっ!」

「うわぁー、初春さん、こんにちは! ゴメンね、忙しいんでしょ? どうかなと思ったんだけど、来てくれて有り難う」

「そんなぁ、とんでもないですよぅ、今日は大手を振って休んじゃいましたから! 2次会でも3次会でもオッケーですから!」

「うんうん、初春も出会いがない職場だからねー、真剣さが違うよねー」

「そ、その声は? さ、佐天さんですかっ!?」

「おー、覚えていてくれたのー? じゃ早速再会を期して……うーいーはー」

「こらっ! 佐天さんたら、こんなところで何しようとしてるの? お止めなさい!」

「キャッ? あ、その、えへへ冗談ですって……って、あの、もしかして固法先輩、ですよね?」

「半分正解ね。黒妻って言って欲しいな? ふふ」

「えー、やっぱりそうだったんですかぁぁぁぁぁ??????」

「キャー」

「お久しぶりで御座いますの」

「えっと、漣さん、よね? 本当だわねぇ。ご無沙汰しちゃって。あら、初春さん? ちょっと今日のそのお花、派手すぎない?」

「そ、そうですか? 今日は量を減らして、質で勝負のつもりだったんですよぅ」



かつての177支部の仲良しメンバーが集う。

結婚し妻となり、子供を授かり母となった人間もいれば、未婚の人間もいる。

だが、その一角は、あたかも時計の針が8年ほど戻ったようだった。

「お姉様、控え室に戻る時間です、とミサカはタイムスケジュール通りに事を進めます」

「そう? 有り難う。じゃ行きましょうか」

それは、検体番号10039号、彼女に新たに付いた名前は御坂美子(みさか よしこ)といい、美琴の秘書である。

今日は彼女は美琴の影役をする必要は全くない。

検体番号19090号こと御坂琴子(みさか ことこ)のアドバイスを受けた、凛としたスーツ姿である。

「わぁホントに御坂さん、そっく……痛い痛いですって!!!」 と、思わず声に出てしまった佐天涙子を漣黒子が思いきりつねった。

(思っても口に出すのは子供ですわよ!)と。


「御坂さーん、じゃ式場で待ってますねー」
「お姉様、それでは!」
「御坂さん、おめでとう御座います〜!」

美琴は、かつてのメンバーと別れ、御坂美子と共に控室へと足を運ぶ。

今日は晴天、結婚式に相応しい、本当に「お日柄もよい」日になった。
943 :LX [saga sage]:2012/12/02(日) 20:31:40.63 ID:fLg29DFl0

無邪気に、アイツに電撃を放ち、砂鉄剣を振り回し、夜通し追いかけっこをしていた、あのころが懐かしい。

ガキっぽかったけど、ホントにコドモだったけど、

純粋だった。

私は、あいつが好きだった。

ひたすら、あいつを追っかけていたあの頃に戻りたい。もし戻れるのならば……

でも、そんなことは出来ない。もう、子供じゃないから。



結婚しようと言う矢先、暴走した妹<クローン>の1人が、あいつを襲って、子種をもらって子供を作ってしまった。

あのバカのせい、ではないのだけれど、なんかそう、憑き物が落ちてしまったように、私の熱は冷めてしまった。



今日、私は、あのバカと結婚する。

ま、冷めたとは言っても、一時期は恋いこがれ心から愛した男なのは間違いないし、今だって別に嫌いってワケじゃないし。

ううん、どっちかといえば好き……だしさ。

うっさいわね、いいでしょ、バカっ! どうせ私はバカな女よ、ほっといてよ!

でも……打算が無かったと言えば、ウソになる、だろうな。

あいつの人脈、そしてもう一つの世界、あのシスターの世界との繋がりは魅力的だ。

わざわざ捨てることはない。何かの時は絶対役にたつはず。そうでなければ、今さら……

仕方ない。今回は学園都市に貸しを作っておくしかない。また貸し作っちゃったな……。



あのバカ、自分の事が私にばれてないと思っているらしい。

ぜーんぶばれてるってのに、一生懸命ウソ付いて、全くもう、ホント馬鹿なんだから。

ま、そこがあいつのいいところ、なんだけどね。可愛いところもあるのよ、うん。

私のハッキング能力は、初春さんにはかなわないけれど、それなりの実力があるって事、まだわかってないのよね。

まぁわかってもらわない方が、私としては助かるんだけどさ。

あのバカ、しっかりあの大食いシスターやら米国元大統領とか、とんでもない連中と会っているらしい。

まぁ、男はいいけど、女はね。シスターとはいえ、気は抜けないもの。

私は、あいつの「妻」になるんだから。

わ・た・し・「が」、あいつの「妻」なんだからね。

わ・た・し・の、この座を脅かすものは絶対に容赦しないんだから。

もう、二度とあんなことは許さないからね。

出来ちゃったものは今さらどうしようもないし、子供自身に責任があるわけでもない。でも、これ以上は許さない。



……わかったわね、麻美?
944 :LX [saga sage]:2012/12/02(日) 20:37:07.93 ID:fLg29DFl0

私は、妹達<シスターズ>を守る為に、甥っ子の一麻を守る為に、

そしていつか産まれてくるだろう、私の子供たちの為に。

この街で、これから生まれてくる子供たちの為に、

夢と希望を胸に、この街にやってくる子供たちの為に。

未来ある、次の世代の子供たちのために。



……私は、この街で生きて行く。

私は理事会メンバーになって、力を持って、そして、みんなを守る。



とんでもないこの街を、私は変えたい。

いや、変えなくちゃいけない。

そう、絶対に変えてみせる。

それが、大人たる私の、未来ある子供たちへの責任。



……それが、超能力者<レベル5>学園都市元第二位、超電磁砲<レールガン>たる私、御坂美琴の責務。

自分の知らないところで起きたこととはいえ、2万人ものクローンを産み出し、そしてその半分の1万人を殺してしまった、私の責任。

それが、姉<オリジナル>である私が送る、私の代わりに無惨に死んでいったクローンたちへの、せめてもの手向け。

そうよね、未来(みく)? 美子(よしこ)? 琴江(ことえ)? 琴子(ことこ)?



……そうよね、麻美(あさみ)?



あ、それから美子、あんたは私の影役だから、いろいろこれからやってもらわなきゃいけない事が沢山あるから。

――― 頼んだわよ ―――



「美琴、綺麗だよ」

「ありがと。お父さん」

「美琴ちゃん、しっかりね」

「はい。お母さん」

「御坂家の皆様、それでは式場の方へ、よろしゅうございますでしょうか?」

「はい、宜しく御願いします」





美琴、いいわね? 

あなたの人生は……今、決まったのよ。





(第二部 完)
945 :LX [saga sage]:2012/12/02(日) 20:50:45.03 ID:fLg29DFl0
>>1です。

ようやく第二部、完成致しました。
長かったです。
長すぎた、とも思います。
前作の、そして今作の第一部の伏線を回収しようとするあまり、あれもこれもと詰め込みすぎたからでしょう。
正直苦しみましたが、皆様のコメントが萎えそうになる自分を励まして下さいました。
篤く御礼申し上げます。

さて、この後は、恒例の登場人物紹介を挟んで、第三部へと参ります。
再び今作の主人公、御坂一麻の世界に入ります。

で、このスレッドにて第三部を開始すべきか、はたまた新スレで第三部を立ち上げるべきなのか、どんなもんでしょう?



とりあえず今日はここまでです。
人物紹介もこれから作成しますので(苦笑)お時間を頂きたく、宜しく御願い致します。

最後までお読み下さいましてどうも有り難うございました。
946 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/03(月) 01:10:36.80 ID:QttNORvho
乙です
スレの残りは少しですし中途半端にやるより区切りよく新スレで第三部開始したほうがいいような気がします
947 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/03(月) 02:30:30.36 ID:zu++k9XA0
>>1乙です。お帰りなさい&2部完結おめでとうございます。
どんどん美琴の印象が悪化していくのは私だけ…ですかね。

あと、第3部は、私も新スレからでいいんじゃないですかね、と思っています。
数十スレで終わるなら別ですが、そうでないなら、そちらの方が後発の人も読みやすいかと。

そういえば、結標と上条はかつて救急車を呼ばれた&呼んだ間柄で面識があったような?
まあ新約で再会したときに上条は酔っ払ってましたから、詳しくは知らないってトコロですかね。
948 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/03(月) 03:15:49.74 ID:klAXo6Bq0
完、乙です。
第三部はタイトル告知してもらって、新スレがよきかと。
楽しみにまってます。
949 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/12/03(月) 20:38:18.85 ID:XnRUxHwr0
作者様

2部完了おめでとうございます。
このくらい頭が切れるくらいでないと
権力者上条美琴らしくないですね。美琴さんの
頭がいいのは謎の総合コンサルタントの父親似なんでしょうか?
それとも趣味数論の母親似でしょうか?
950 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/03(月) 21:41:49.68 ID:Oq50XrBAO
第二部完乙

んー、大人になってくってのはこういう事なんだろうねぇ
原作が大人でなく少年少女を中心にして不条理を少年少女ならではの真っすぐな感情で貫いていくのを書いてるから特にね、感じちゃうよね

さて次は子供達の話かな?次回も期待してます
951 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/04(火) 19:15:01.53 ID:udyWZeuS0
乙ー
ずっと待ってました!

ここは埋めてしまって、新しく新スレを作ったほうがいいかな
……と遠まわしに番外編を期待してみる
952 :sage [sage]:2012/12/04(火) 21:06:50.24 ID:DkOTV8jk0
作者さま
お疲れ様です。
この作品の美琴さんの最終学歴は教育学校の大学院ですが、美琴さんの教育実習なんて
番外編を期待してもいいでしょうか?でも6ケ国語をしゃべり、Sクラスのハッキングを行う才媛に馬鹿な生徒の相手ができそうにもなさそうですけどね。
953 :LX [saga]:2012/12/09(日) 00:46:32.86 ID:OI8V7OWG0
皆様こんばんは。
>>1です。

沢山のコメント有り難うございました。

>>946さま
御指摘有り難うございます。やっぱりその方が良いと自分でも思います。
前作は1000以内で収まった(収めた?)ので、1つの話で複数のスレを使うのは初めてです。
うまく出来るか心配ですね。最初のコマ、イントロの書き方も考えてます。

>>947さま
>どんどん美琴の印象が悪化していくのは私だけ…ですかね。
まぁそういう風に書いてますもので(失礼)そう仰って頂けると嬉しいです。どうも有り難うございます。
美琴の苦労はこれからも続くのです。茨の道ですね。
実際にひとの上に立つってのは簡単な事じゃありません。
ある時はごまかし、嘘を付き、け落とし、いやなヤツにも仕方なくゴマを擦り……
あ〜見たくもない世界ですねぇ。
山崎豊子の小説読んで、「大人の世界って、こんな汚い事をしなきゃいけないのか」と衝撃を受けた事を覚えています。

>>948さま
アドバイス有り難うございます。その方向で行きます。

>>949さま
コメント有り難うございます。
「権力者上条美琴」これは良い言葉ですね。なんかアイデア出てきました。
今度はこのセンで書いてみようかなと思ってしまいました。
美琴の性格はどうでしょう、基本線は父親旅掛ではないですかね? それに母親の愛情が注がれて基本線が出来たと。
自分としてはそう言う気がします。

>>950さま
コメント有り難うございます。巧く書けたとは絶対に思えない拙作でしたが、そう仰って頂けると素直に嬉しいです。
第三部も頑張ります。

>>951さま
コメントとアドバイス有り難うございます。
番外編ですか……1つ、どうしようか、と思っていたイベントがあるのです。
第三部には入れづらいネタだしな……と思っておりましたが、そう言う手がありましたね。やってみます。
ネタの内容は「sage進行」になりそうなもの、ですが……(苦笑

>>952さま
アドバイス有り難うございます。書き方から想像しますと>>949さんと同じ方でしょうか?
さて、教育実習ですか……中学校の時くらいしか実習を受けた記憶ないですし、学校の先生という職業もよく知らないのでかなりハードル高いです(泣

それでは、遅くなりましたが、第二部の登場人物紹介を投稿致します。
イレギュラー投稿になりますが何卒御了承下さいませ。
954 :LX [saga sage]:2012/12/09(日) 01:01:01.43 ID:OI8V7OWG0

新・学園都市第二世代物語 第二部

【 登場人物紹介 】


1.主人公とそのまわり  

主人公:御坂美琴(みさか みこと) とあるA大学2年生。満20歳。父・御坂旅掛、母・御坂美鈴

学園都市超能力者<レベル5> 第二位。超電磁砲<レールガン>の異名の方が有名。
インデックスがUKに帰った事も幸いし、晴れて上条当麻と恋人関係になるまでこぎつけた。
現在、甲斐甲斐しい通い妻である(とはいえ、まだ肌は許していない)
二十歳の誕生日に両親に当麻を正式に紹介する段取りを立て、そしてよかれと思って
取った行動が全てを変えることになろうとは……。


恋人 :上条当麻(かみじょう とうま) とあるB大学4年生。満22歳 
父・上条刀夜、母・上条詩菜

無能力者<レベル0>であるが、右手に幻想殺し<イマジン・ブレイカー>を宿す。
恋人・御坂美琴の懸命の教育の甲斐もあって、奇跡的に浪人もせずにとあるB大学に入学し、なんとか単位も確保して卒業出来る見込み。   
恋人・美琴の誕生日に彼女の実家へ赴き、就職して無事食っていく目処が立った時に美琴を迎えに来ます、と宣言し彼女の両親から了解を取り付けたのだが、思わぬことから彼らの運命は激変する。
 

父  :御坂旅掛(みさか たびかけ)*原作でも年齢不明なため、当SSでも設定していません。

妻は御坂美鈴。エージェントの仕事は継続中。従って家にいないことも多い。
妹達<シスターズ>については、外国に出ている時に噂を聞き、当時の学園都市統括理事長であったアレイスター=クロウリーの口から裏付けを取っており、娘・美琴に起きた悲劇を知っている。
彼は学園都市へ入る事に問題はない。


母  :御坂美鈴(みさか みすず) 満42歳。

*原作にある、学園都市から目を付けられ殺害予告まで出された設定を生かしています。
夫は御坂旅掛(みさか たびかけ)。かつての第三次世界大戦直前の「回収運動」リーダーであったことから、学園都市から命を狙われることになった。その時に上条当麻に助けられた事を覚えており、娘・美琴と当麻との関係が決裂しかかった際、必死に修復にかかる。
なお、夫と異なり、彼女は今だ学園都市に入る事が出来ない。
また、上条詩菜とはスポーツクラブで顔を合わせることがある。


恋人の父親:上条刀夜(かみじょう とうや)

当麻と結婚すれば、義理の父、舅になる存在。
刀夜が歩けば女性にあたる、というラッキーイベントフラグ体質は当麻にも受け継がれている。
でもやっぱり、詩菜さんには頭が上がりません。これも遺伝するか……?


恋人の母親:上条詩菜(かみじょう しいな) 満42歳。

当麻と結婚すると義理の母、お姑さんになる存在。
喧嘩するほど仲が良い? 但し、喧嘩の際には手当たり次第にものを投げるという漫画のような光景が見られる、らしい。
美琴の母・美鈴と同じスポーツクラブに通っている。
(*この時点では、前作の佐天親娘はまだ登場しません)


御坂一麻(みさか かずま) 今作の主人公。満0歳。 *オリキャラです。

父は上条当麻、母は御坂麻美(元検体番号10032号)、婚外子。父・上条当麻は彼を認知した。
母・麻美共々東京の御坂美琴の実家(新居だが)すなわち御坂家に住むことになる。 

955 :LX [saga sage]:2012/12/09(日) 01:08:03.88 ID:OI8V7OWG0

2.妹達<シスターズ>

*戸籍名は、前作を含め当SSシリーズでのオリジナル設定であります。
また、妹達<シスターズ>同士では戸籍名でよびあうことはなく、以前通りの検体番号で呼び合う、という前作でのオリジナル設定はそのまま当SSでも適用しています。 
但し、妹達<シスターズ>の戸籍名については第一部同様、普通の「御坂」に変更しております。
          

a) 学園都市メンバー

*性格の設定は当SSシリーズでのオリジナル設定であります。
             

検体番号10032号  戸籍名:御坂麻美(みさか あさみ) 満20歳

冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>の病院に勤める看護士。 
第10032次実験で上条当麻に助けられて以来、彼を慕っていたものの、より具体的な行動は取らずにいた。陰のタイプである。
しかし、とある事がきっかけで秘められていた想いは一気に爆発し、誰もが予想しなかった行動に出る。
また、彼女の名前は上条当「麻」と御坂「美」鈴から1字ずつ取るという自分で考えた名前だが、美琴は激怒しこの名前を認めていない。


検体番号10039号  戸籍名:御坂美子(みさか よしこ) 満20歳

派遣社員としてある会社で働いていたが、ある出来事でその職を失うものの、美琴の第一秘書となる。
とあることをきっかけに、彼女もまた10032号同様、自分の恋心に気づき、ひたすらに上条当麻を追う。陽のタイプ。
彼女の熱意はいつ報われるのか…… 


検体番号13577号  戸籍名:御坂琴江(みさか ことえ) 満20歳
         
10032号と同じく、冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>の病院に勤務する看護士である。真面目一途。
第二部ではほとんど空気である。


検体番号19090号  戸籍名:御坂琴子(みさか ことこ) 満20歳

エステサロンに勤務していたが、彼女も又ある出来事でその職を失い暫く無職となるものの、美琴の第二秘書となる。華のタイプ。
また、御坂美子(10039号)が影武者として美琴の役を努める場合には、今度は彼女が第一秘書である御坂美子の代わりになる。
彼女は当麻命派ではないことから、美琴からとある命令を受けている。


検体番号20001号  戸籍名:御坂未来(みさか みく) 通称:打ち止め<ラストオーダー>、最終個体、上位個体 満16歳  

上条当麻・御坂美琴と同じとある高校に通うことになった。
第七学区立旭日中学校に入った時点で黄泉川家を辞しており、現在は他の生徒同様に寮生活に入っている。
一方通行<アクセラレータ>のところへは通い妻状態。


b)学園都市外メンバー

*他の作者の方が設定された性格をそのまま準用している個体番号が存在します。
見落としがあるとは思いますが、今まで登場していないと思われる個体番号については当SSで独自設定しており、戸籍名を与えてしまったメンバーも存在します。


(b-1) オリキャラ+モブ役での妹達<シスターズ>

10037号、11112号、15088号、15089号、16012号、16013号、17777号、18551号、19999号、

(b-2) オリキャラ+モブ役であるが、当SSで性格を設定した妹達<シスターズ>

検体番号10038号 上条当麻命派

検体番号14222号 上条当麻命派

検体番号19001号 上条当麻命派
956 :LX [saga sage]:2012/12/09(日) 01:12:22.90 ID:OI8V7OWG0

(b-3) 他の作者の方が与えた性格を準用した妹達<シスターズ>でモブ役 

MNWネタによく登場する妹達
http://www35.atwiki.jp/seisoku-index/pages/932.html

に基づいています。彼女らの説明文は、それをコピペして使っております。


*必ずしもそのままの性格を表に出していないメンバーも居ます(MNW上だけの話ですから) 
   
検体番号11899号 ベネズエラ在住

検体番号12053号 インド在住

検体番号12345号 童話好き+上位個体に従順で、劇の準備などを「一晩でやってくれました」を地でいく上位個体専用ジェバンニ

検体番号14510号 番外命名、一方恋心(アクセラレーコ)略してレーコ。異端。一方ラブ。表情等、感情表現がやや豊か。
自販機で一方通行に買って貰った水が一生の宝物らしい

検体番号14889号 自称漢子。漢前。冷静。やだ…カッコいい…。アップルマンゴーとたこわさと唐揚げが好物

検体番号15110号 アルゼンチン在住

検体番号17000号 イギリスのガラシールズ在住

検体番号17600号 プロスネーク。海原が師匠

検体番号19900号 南極在住

検体番号20000号 ロシアのノボシビルスク出身の変異体の変態。媚薬もつくれる。行動は主に変態、極々稀にさわやか。
MNWブラックリスト最上位


b-4) 原作に居る妹達<シスターズ>でモブ役

検体番号10777号 世紀の大イベント(当麻命のミサカ達の世界では)に間に合わず。学園都市は彼女にとって遠い故郷か。上条当麻命派。 

番外個体     通称:ミサカワースト。MNW会話にのみ出演。(*しゃべり方でお解り頂けたかと)


b-5) オリキャラであるが、作中で登場した妹達<シスターズ>

検体番号10033号 (後の戸籍名:御坂亜美 みさか あみ))
東南アジア某王国在住。軍事戦闘用として送り出されたが、先方では高級特殊接待要員(コールガール)としての役目が待っていた。彼女は上条当麻を、検体番号10032号の記憶を通じて自分の実験を中止させ自分の存在価値を失わせた人間、として記憶している。 

検体番号12500号 (後の戸籍名:御坂美雪(みさか みゆき))
         東京在住、学生。

(妹達<シスターズ>の項、終了)                
957 :LX [saga sage]:2012/12/09(日) 01:21:18.55 ID:OI8V7OWG0

3.御坂美琴のまわり(友人関係等)


白井黒子(しらい くろこ) 満19歳。

短大2年生。美琴とは学校が異なる。
親が進めた縁談ではあるが、本人も相手・漣健介(さざなみ けんすけ)を気に入っており現在ラブラブお付き合い中。
なお、最後の美琴の結婚式の時点では既に結婚しており、長男の漣孝太郎(さざなみ こうたろう)を産んでいる。


漣健介(さざなみ けんすけ)満25歳。

白井黒子の許婚で青年実業家である。メルセデス・ベンツSECを運転する。
黒子とも波長が合い、アツアツのカップルである。
目出度く結婚し、長男・孝太郎も産まれ、順風満帆、となるはずだったのだが……


初春飾利(ういはる かざり) 満19歳。

<ゲートキーパー>とその筋では呼ばれるスキルは健在。
高校を卒業した彼女は、結局のところ風紀委員<ジャッジメント>からそのまま警備員<アンチスキル>になってしまった。
所属は総務部であるが、それは表向きであり、実際には「情報分析チーム」に属している。
……と言いつつ、実際にはパシリのような雑務も多い、らしい。


佐天涙子(さてん るいこ) 満19歳。

大学2年生。暴走竜巻<トルネードボム>事件を過去に起こしているが、まわりはそれを思い出さないように気を付けている。
(*美琴の結婚式に出た時は21歳になっており、既に暴漢に襲われた際の暴行で子宮・卵管損傷により子供が産めない身体になっています。
この時には麦野沈利に助けられていますが、少しそういう影の部分を匂わせる手もあったかな、と書いていて思います)


黒妻美偉(くろづま みい) 旧姓 固法(このり)  
           
美琴の結婚式にお呼ばれ。ビッグスパイダーの黒妻綿流(くろづま わたる)の押しかけ女房である。
(*年齢がわかりませんが雰囲気的には美琴の3つ上、と言う感じですがどんなものでしょう?)

*美琴には大学の友人はいないのか? という声が出そうですが、実は結婚式の際、黒子と会う前に美琴が大学の友人達とおしゃべりするシーンがありました。
その部分が中途半端な長さだった為に、投稿時に全部カットしてしまいました。


土御門舞夏(つちみかど まいか) 満20歳

繚乱家政女学院卒業後、派遣メイドとして学園都市・日本国内を始めとして世界各国を渡り歩いたが、現在充電中。
メイド教室を開くか、はたまた料理教室にすべきか考えているらしい。
義理の兄・土御門元春とは事実上夫婦である。


一方通行(アクセラレータ) 

学園都市レベル5第一位は健在。打ち止めこと御坂未来(みさか みく)の想い人。
しかし、彼女が成長するに従って、かつての自分の所行が思い出されてしまう。その苦しみを察した未来は彼の元を一旦離れることにした。
*彼は生殖能力に問題があり、自身の子供を有性生殖では出来ない、と判断されていた。
このため、彼は第二世代問題調査委員会の対象人物から外された。


笠原真彩(かさはら まあや) 満?歳。*オリキャラです

学園都市統括理事会広報委員会メンバー。御坂美琴を広報委員会メンバーに引きずり込むためにあらゆる手段を使う。
*第二世代におけるレベル6誕生を目指す第二世代問題調査委員会(特別委員会)と広報委員会の間で、レベル5の女性である御坂美琴と麦野沈利の所属をめぐっての争いがあり、首尾良く美琴は広報委員会が取る事で落ち着いた。
もう一人の女性のレベル5である麦野沈利は、レベル5同士の掛け合わせによるレベル6誕生への母体として扱われることになった。

958 :LX [saga sage]:2012/12/09(日) 01:39:52.81 ID:OI8V7OWG0

4.上条当麻のまわり(友人関係等)


土御門元春(つちみかど もとはる)

学園都市統括理事会外交委員会メンバー。早い話が、魔術サイドとの連絡役。役目上、大学生という身分に偽装している。
愛する義妹、舞夏と同棲中。
暗部・グループ時代の名残で、結標淡希(むすじめ あわき)とタッグを組む事がある。
(*どっちかというと、魔術サイドの彼ですが、上条当麻を描くと彼を出さないわけにはいかないので、登場願いました。
このため、結局魔術サイドの人間が、名前だけですが何人か出てくる事になってしまいました)

a 学園都市サイド・科学サイド


織原伸行(おりはら のぶゆき)*オリキャラ

当麻とは高校時代からの同級生。大学に進学してからは学部が違う為、そう顔を合わせる事はなくなった。


雲川芹亜(くもかわ せりあ) 満24歳  

当麻の2年上。学園都市統括理事会メンバー。外交委員会副委員長を務める他、上条当麻を外交委員会へ引き込む手はずを土御門元春を使って取ったのも彼女。
単純に当麻に興味があるから、というような私情で彼を引っ張ったわけではなく、彼の実績を買ってのことである。
とはいうものの、当麻を誘惑するのは面白いらしい。


結標淡希(むすじめ あわき) 満23歳

座標移動<ムーブポイント> レベル4の彼女もいい年になりました。
小学校か幼稚園の先生になりたい、という切なる願い(怪しい願い?)を持つ彼女に対して、土御門元春がまことしやかに「アンチスキルの仕事してると優先的に採用してくれるらしい」と吹き込んだ事を信じ、今日も頑張るあわきんでした。
元「グループ」の腐れ縁で、彼女はなんだかんだと土御門元春から頼まれる事が度々ある。


b 魔術サイド

インデックス (インデックス=リブロールム=プロヒビトールム)

上条当麻の部屋のベランダにひっかかり、彼の記憶を結果的に破壊してしまった銀髪シスター。
英国・イギリス清教の「必要悪の教会」の最大主教の任をローラ=スチュワートから譲り受けることになったため、泣く泣く上条当麻の元から去った。
成長著しく、既に当麻より背は高く、昔の面影は豊かなプラチナシルバーの髪と穏やかな目鼻立ちに残るのみである。


アニェーゼ=サンクティス

元ローマ正教からイギリス清教への転向者。いかにもイタリア女性、という感じの豊満なシスターに変わっていた。
勝ち気な性格はそのままだが、昔の霊装の一つであるチョピンが履けないのが悲しいらしい。


五和(いつわ)

天草式十字凄教メンバー。すっかり大人になった彼女はお色気むんむん。
上条当麻が欧米出張の際は彼のエスコート役につくが、それではつまらないと考えた建宮斎字と土御門元春が「現地妻に」と唆したところ、彼女は二つ返事で引き受けた、らしい。
曰く「公私にわたるボディガード」らしい。
天草式メンバーの間では、二世の誕生はいつか? 男か女か? という賭けが行われている。


ステイル=マグヌス

あの天才魔術師も二十歳である。インデックスの保護者という立場には揺るぎはない。
が、もう一人、彼が保護する女性が増えていたことは上条当麻はまだ知らない。


5.学園都市

カエル顔の医者:冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>

相変わらず名前がわからない困った人です(笑)。まさか木原とは言わないでしょうね……
前作同様、学園都市の作品には無くてはならない人でありますが、今作ではその彼にも苦手な分野があるという新解釈を入れています。
(どうも外科・脳外科などでは並ぶものがないようですが、内科・産婦人科等においては一歩他の人に譲る、という感じです)


黄泉川愛穂(よみかわ あいほ)

引き続き、アンチスキルと高校教師の二足のわらじは履いたまま。
一方通行<アクセラレータ>は家を出ており、芳川桔梗(よしかわ ききょう)との二人の生活に戻っている。
御坂未来(みさか みく)の良き相談相手である。
                                            以上
                                                   
959 :LX [saga sage]:2012/12/09(日) 01:45:09.83 ID:OI8V7OWG0
>>1です。

登場人物紹介も終わり、これで第二部は無事、終了しました。
お読み下さいまして本当にどうも有り難うございました。

さて、この後は、新スレ(第三部)を立ててその案内通知を入れ、それから番外編を少し入れようと思います。

*まだこのスレは使用しますので、埋めないで下さい。
宜しく御願い致します。

それでは本日はこの辺で、失礼致します。
960 :LX [saga sage]:2012/12/09(日) 23:01:21.74 ID:O0CQXJv20
皆様こんばんは。
>>1です。

次スレ、立てました。
「新・学園都市第二世代物語2」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1355056774/

第三部、スタート致しました。どうぞ宜しく御願い致します。

*「番外編」、作成に入りました。

しばしお時間を頂戴致しますので、何卒お待ち下さいますよう御願いします。
961 :LX [saga]:2012/12/17(月) 21:24:29.09 ID:tdje7QRJ0
皆様こんばんは。
>>1です。

昨日、一昨日は宿泊先から投稿しようと思っておりましたところ、
2カ所ともDNS逆引き出来ません、というエラーメッセージが出て投稿出来ませんでした。

本日、自宅へ戻りましたので少しですが投稿致します。
宜しく御願い致します。
962 :LX [saga sage]:2012/12/17(月) 21:33:59.98 ID:tdje7QRJ0

(番外編)

ある日の学園都市、ここは第一学区にある合同庁舎の広報委員会オフィス。

今日の美琴は、いつもより遅くに出勤して来た。

「おはようございます、上条委員」 立ち上がって挨拶をするのは第一秘書の御坂美子(みさか よしこ:元検体番号10039号)。

「おはよう、美子。ちょっと一緒に来て欲しいんだけれど、いいかな?」 美琴は美子の机の前に立ち、見下ろす形になる。

(おや、お姉様<オリジナル>の顔色が少し……?)

そう思った彼女は、すっと何気なく美琴の手にふれた。

(はて、生体電流に若干の乱れあり……Blue day?……にしてはタイミングが合いません。風邪……でもひいたのでしょうか? 

で、あれば今日はミサカの出番、ということになるかもしれませんね。念のため今日のイベントは……OK)

代わりに出てくれる? と言われるかもしれない、と美琴を見上げながら、美子は直ぐに今日のスケジュール表を画面に出した。

「はい。ですが、それならば検体番号19090号を呼び戻す必要があると思いますが、如何でしょうか?

彼女は現在……ちょっと、検体番号19090号、トイレでのタバコは厳禁でしょう!?」

いきなり怒り出した美子に、へ? と言う顔になる美琴。

直ぐにミサカネットワーク経由で御坂琴子(みさか ことこ:元検体番号19090号)の返事が返ってくる。

「何を怒っているのですか検体番号10039号? これはイミテーションですよ? それに学園都市健康管理センターのお墨付きですが?」

何か問題でも? という調子で言い返してくる彼女に美子はむっとした調子で言葉を返す。

「お姉様<オリジナル>がお呼びです。直ぐに戻って下さい」

「はいはい。おちおち休憩も取っていられませんね、とミサカは誰にともなく独り言をつぶやいてみます」

「お姉様<オリジナル>に直接言って下さい、って、検体番号19090号? その下着、一体なんですかそれ?」

なんと、彼女の下はGストリングなのだった。ほとんどヒモ状態で、クローチはほんのわずかな面積しかない。

「新しいデザインの試作品ですが何か? パンツルックに合わせただけですよ、とミサカはもう少し身だしなみに気を配るべきですと暗にお姉様<オリジナル>と検体番号10039号に警告を発します」

「このミサカはお姉様<オリジナル>の影役を務めるので、お姉様<オリジナル>が直さないと自分ではどうしようもないのです、と責任をお姉様<オリジナル>に転嫁します」

「それでは二人纏めて一度じっくりと教育しなければなりませんね、とミサカはため息をつきます」

「検体番号13577号をハバにするのはどうかと思いますが」

「あのミサカはファッションにはカネを使わない主義なので、言うだけ無駄でしょう。本でも好きなだけ買ってろとミサカは化粧を直しながら、いや、ところでその言葉はどこから来たのですかと質問します」

「検体番号13874号(後の御坂美英:みさか みえ)から聞いたものです。ちなみに彼女のエリアではエビフライを『えびふりゃぁ』と言うそうです、とミサカは覚え立ての知識を披露してみます」

   ――― ザザザッ! ―――

「ひゃっ!?」

「おしゃべり、楽しそうね? で、琴子はどうしたんだって?」

目を吊り上げた美琴が、美子の頭に微弱な電気を送り込んだのだった。
963 :LX [saga sage]:2012/12/17(月) 21:46:37.84 ID:tdje7QRJ0

「ここらでいいかな」

二人は日傘をかざしている。上空から覗かれる事を避ける為だ。

琴子(元検体番号19090号)を留守番に残して、タクシーを飛ばして美琴と美子(元検体番号10039号)は多摩川の河原へとやってきていた。

「お話をお伺いします」 やや緊張した面持ちで美子が答える。

「まず、ネットワーク切ってくれる? ちょっとね、あんたにめんどくさいことを御願いしようと思って」

「はい……接続を一時切りました。OKです。それで、どのようなことでしょうか?」

「しばらく、あんたに私の身代わりを御願いしたいの……そうね、1年……ぐらいかな。もう少し短いかも知れないけれど」

え、もしやと美子はお姉様<オリジナル>、美琴の顔を凝視する。

「もしかして、妊娠、でしょうか?」 

緊張した顔のまま、彼女は一瞬だけお姉様<オリジナル>の腹に視線を走らせた。

「よくわかったわね? 顔? お腹……なわけないか」

目敏く彼女の視線を捉えた美琴は、自分のクローンである「妹達<シスターズ>」の一人、今まで影役をやらせてきた美子の顔を見る。

「少しお顔にやつれが見えますし、先ほど確認したところ身体電流のパルスが平常時と少し異なっています。

若干体温も高いようで、最初は風邪か何かかと思いましたが」

微笑んだ美子は、今度は逆に緊張した顔の美琴を優しい目で見る。

「おめでとう御座います、お姉様<オリジナル>。素晴らしいお話ではないですか、何故他のミサカたちに知らせないのでしょうか?」

「……私は、この子をここ(学園都市)では育てたくないから……よ」 

美琴は彼女から視線を外し、小さい声で答えた。

「は……?」 

どういう意味でしょうかと美子は一歩美琴の方へ近寄った。

「勝手だと思うけれどね……ここにいると、この子はきっと酷い目に合うはずだから」

「ひどい、目ですか……?」

「あんたなら私の今の立場、わかるわよね。学園都市のヒロインとか科学の申し子とか言われてるけど、実際のところ体の良い広告塔よ? 

ま、私は覚悟してたしさ、いいんだけど。

でもね、産まれてくるこの子はどうなると思う? 

私の二世だもの、蝶よ花よと持ち上げられて、何かにつけて比較され、一挙一動がみんなに注目されて。

本当にそうなるかどうか知らないけれど、そういう可能性がある、ううん、今までの事を考えると間違いなくそうなるわ。

この子はね、そこらの子供のうちの一人、で居て欲しい。ただの、普通の子供として育って欲しいの。ううん、そうあるべきなのよ。

私は、この子を自分と同じ目に会わせたくないの。自分だけでもうたくさん。私はね、この子に自分のような人生を歩ませたくないのよ。

それにね、もう一つ……もしかしたら、レベル5の子供、ということで、良からぬ考えを抱く連中だっているかもしれない」

「そんな事はありません、お姉様<オリジナル>。

お姉様<オリジナル>の人生はまだ未来があります。そんなにご自分を卑下するようなことはお止め下さい。

そして、最後の御懸念ですが、私たちがいるではありませんか? 

お姉様<オリジナル>がお出かけの時は、赤ちゃんは、お子様はミサカたち、妹達<シスターズ>が守ります。

お姉様<オリジナル>のお子様は、私たち妹達<シスターズ>にとっても大事な子供なのですから」

真剣な顔で自分の想いを必死に訴える美子。

そんな彼女を見る美琴は、麻美(検体番号10032号)の子、御坂一麻(みさか かずま)のことをふと思い出す。
964 :LX [saga sage]:2012/12/17(月) 22:06:18.17 ID:tdje7QRJ0

そうか、あの子のことは妹達<シスターズ>に秘されたから、この子達の庇護もまた、ないのだな、と。

もし、あの子の事を知ったら、妹達<シスターズ>はどうするだろう? と続けて美琴は考える。

出し抜かれたって、きっと大パニックよねぇ、と少し苦い笑いがこみ上げてくる。

自分だってそうじゃないの、と。

自嘲の笑いを勘違いしたのだろう、美子の顔色が変わった。

「お姉様<オリジナル>……何かおかしかったですか? ミサカがお二人を守れないとでもお思いですか?」

厳しい顔でやや鋭くなった声で問いつめてくる彼女に、美琴はあわててなだめに入った。

「ご、ゴメンね? 違うの、全然違うの。

そのね、赤ちゃんのまわりをね、完全武装のあんたたちが真面目な顔で取り囲んでるのを想像したらおかしくなっちゃって。

それだけだから。有り難う、そう思ってくれるだけで嬉しいから。ね、機嫌直して、ほら?」

必死になってなだめる美琴の姿に、なあんだ、という顔になった美子はバツの悪そうな声で答えた。

「失礼しました、お姉様<オリジナル>。

私たち妹達<シスターズ>はそう言う気持ちで、お姉様<オリジナル>と産まれてくる赤ちゃんをお守りします、という事がお解り頂ければ嬉しいです」

「有り難うね。そう言ってくれると、私、とっても嬉しい。この子もきっと喜んでると思う」

そう言うと、美琴は新たな生命が宿った自分のお腹をそっと撫でる。

「それで、1年ということはどういうことなのでしょうか?」

美子は真剣な顔で話を続ける。

「そうね。そのことなんだけれど、私はね、出来れば妊娠した事を表沙汰にしたくないからなの。ひっそりと東京で産みたいのよ」

「お気持ちはわかります、お姉様<オリジナル>。

ですが、能力者の妊娠、出産についてはいろいろと問題があると言う話を検体番号13577号(御坂琴江:みさか ことえ)から聞いた事があります。

出産時の痛みなどで、能力が暴走してしまう事故があったとも聞いています。

ただ、今では対策が取られたことで、今では事故は根絶されたとも言われています、でもそれはここ学園都市だからでしょう。

外部でそのような対策が取られているとは到底思えません。それにお姉様<オリジナル>はレベル5です。

むしろ危険だと思います。リスクが高すぎると考えます。外部での出産は止めるべきです、お姉様<オリジナル>」

「そこは考えたわ。仕方ないからその時はここへ戻ってくるしかないと思う。

一応アテもつけてあるし、まぁその時はその時で割り切っちゃえばいいかなって」

美琴のいうアテとは、麻美のときに世話になった新藤医師と柏原病院のことであり、東京の聖ルカ病院のことでもある。

もちろん、昔からの腐れ縁である、あのリアルゲコ太の病院も、だが。

なんせ、彼女は昔から妊産婦用AIMジャマーの開発に参加しており、今回遂に自分がホンモノの被験者になることにある感慨もあった。

「さすがお姉様<オリジナル>ですね。アテというのは、もしかしてあの病院でしょうか? 

あそこなら検体番号13577号(御坂琴江)もおりますし……

そういえば依然として検体番号10032号(御坂麻美)は音信不通なのですが、いったいどうしているのでしょうか……?」

空を見上げ、心配そうな声の美子に、美琴はごめんね、と心の中で謝る。

(あの子は、無事よ。私のママのところにいるの。アイツの子供と一緒にね)

「お姉様<オリジナル>は何か聞いていらっしゃいませんか? 

どうやら彼女は東京にいるらしい、という噂がミサカネットワークでは流れているのですが」

美子は不安そうな目を美琴に向ける。

(さすが妹達<シスターズ>ね) と美琴は彼女たちの情報網に舌を巻く。
965 :LX [saga sage]:2012/12/17(月) 22:28:52.30 ID:tdje7QRJ0

「え、そうなの? 学園都市じゃなくて外? 東京なの? 誰か会ったの?」

美琴は彼女ら妹達<シスターズ>を騙す事に良心の呵責を感じつつ、彼女に情報の中身を探りに走る。

「いえ、誰が会った、と言うような話ではありません。

ただ、東京の病院で検体番号12500号(後の御坂美雪)が定期調整を受けた際に、普段のメンバーではないミサカが通院していた、と言うような話を聞いたそうなのです、お姉様<オリジナル>」

「……」

「ミサカたちは、基本的に同じ場所でチェック、調整を受けています。これは昔から基本的に変わっておりません。

ですので、もし、この話が事実であれば、そのイレギュラーなミサカは検体番号10032号の可能性があるわけです」

「そうなんだ。でも、その『妹』が彼女だったとしたらどうして東京で調整なんか受ける必要があるのかしらね、おかしいわね」

「そうなのです。ただ、あの医者は『極秘の特別な仕事』についている、と言っていました。

だとすれば、彼女はまだ、その任務が終わっていないのでしょう、とこのミサカは考えています」

「私も以前にそんな事をあのリアルゲコ太から聞いた様な気がする。そう、打ち止めすら連絡出来ないんだっけ?」

「はい。未だに連絡すら取れないと、こぼしていました。上位個体の面目丸つぶれだと愚痴たらたらでした。

もちろん強制指令を使うという手がありますが、生命の危険が迫っていると言うわけでもないので、単に連絡が付かないというだけで極秘任務についている彼女を呼び出すのもはばかられるし、と愚痴っておりました」

(ごめんね、未来<みく:元検体番号20001号>。あんたにまで迷惑かけて。みんな、ウソ付いて、本当にごめんね)

美琴は喉元まで出掛かったその言葉を必死に飲み込んだ。                     

「ごめん、話を戻すけれど」

美琴はバツの悪さをごまかそうと、話を元に戻す事にした。

「はい。こちらこそお姉様<オリジナル>の話を脱線させてしまい、申し訳ありません」

「お腹が膨らんできたら、私は実家に戻るつもりよ。さっきも言った通り、私が妊娠している事は知られたくないの。

まぁ、いつかはバレるだろうけれど、それは遅ければ遅い方がいいから」

「はい。わかりました。このミサカ、どこまでお姉さま<オリジナル>になりきれるかわかりませんが、最大限やってみます」

「ごめんなさい。とんでもない話だとは思うけれど。御願いするわね」

「もちろんです」

そう言い切った御坂美子(元検体番号10039号)の顔は緊張が走っていた。

美琴は、その緊張が、自分の影を1年続けるという大変な仕事から来るものだと思っていた。

だが、彼女の緊張した理由はそんなことではなかった。

「そのかわり、この件についてミサカからも一つ御願いがあります」

思い詰めた様子で、だが、美琴の目を真っ直ぐに見て、彼女は「御願い」なるものを切り出した。

その目をみた美琴は瞬時に思い出した。あの子(御坂麻美)の顔だ、と。得体の知れない嫌な予感がぐわっと彼女を押し包む。

「何かしら? 私に出来ることなら」

心なしか、美琴の声はうわずった。

「はい。私はお姉さま<オリジナル>、上条美琴になるわけです」

「そう……よ?」

「ですから、当麻さんの面倒もその間はこのミサカが承ります」

「ちょっと……アンタ」

「あの方をずっと一人にしておかれるのですか、この学園都市に? 

そうだ、と仰るのならばそれは当麻さんがあまりにかわいそうです、寂しすぎます。

ならば、その間、せめてこのミサカがお姉様<オリジナル>に成り代わって、精一杯あの方をお慰めいたします」

頬をかすかに染め、しかし彼女は明確に言い切った。

当麻に恋い焦がれてきた一人の乙女は、今、おんなとして美琴に宣戦布告した。
966 :LX [saga sage]:2012/12/17(月) 22:34:34.38 ID:tdje7QRJ0
>>1です。
とりあえず本日の投稿は以上です。
最後までお読み下さいまして有り難うございました。

第三部もやらなければいけませんし、なかなか大変です。
それではお先に失礼致します。
967 :LX  [saga ]:2012/12/29(土) 22:13:07.79 ID:gzPvFJAO0
皆様こんばんは。
>>1です。

今年も残すところあと僅かになりました。
本日、少量ですが投稿致します。
どうそ宜しく御願い致します。
968 :LX  [saga sage]:2012/12/29(土) 22:20:43.65 ID:gzPvFJAO0

(結局、この子も、か)

美琴は絶望に折れそうになる自分の心を叱咤し、おんなに変貌した自分の影(クローン)と対決する。

「あんた、自分が何言ってるのかわかってるの?」

「もちろんです。お姉様<オリジナル>同様、いえ、お姉様<オリジナル>に負けないくらいこのミサカはあの方を愛しています。

そう、ずっと昔から。このミサカ、心を込めてお世話致します、お仕え致します。どうぞご安心を」

美子(元・検体番号10039号)は今やはっきりとわかるほどの赤い顔で一気にまくしたてた。

真正面から、彼女は美琴に対して当麻への熱い想いを一気にぶちまけてきたのだ。

「どうぞご安心をって、アンタ……私が安心出来るわけないでしょうが? そもそもそう言う問題じゃないでしょう? 

あいつの妻は私なのよ? アンタの言ってる事、めちゃくちゃ!」

美琴は美子を見すえて強く、かつ押し殺した声で彼女の「御願い」なるものを断固拒否した。

姉<オリジナル>として、妻として、このおんなに負けるわけにはいかないのだ。

美子は美琴の反論に沈黙した。

だが、僅かの時をおいて、彼女は「あの」無表情の顔で、だが目はしっかりと美琴を見すえたまま、静かに答えた。

「であれば、ミサカはこのお話を受けられません。『上条美琴』が居るのに夫のあの方とご一緒しない、出来ない、というおかしな夫婦はありえませんでしょう?

伊達に2年ほど、このミサカはお姉様<オリジナル>の影を勤めてきてはおりません。大丈夫です、あの方も間違えるくらいに完璧にこなして見せます」

相変わらずの無表情ではあるが、今度はやや色を失った顔の美子はそう言うと、初めて美琴から視線を外し、うつむいた。



美琴は既に琴子(元検体番号19090号)を代打ちにすることを考えていた。彼女は当麻命ではないからだ。

だが、彼女は自分の影武者を務めることは到底無理だった。

どう頑張っても美子の影が精一杯だった。

そもそも彼女の場合は、自分の影を引き受けるかどうかすら、未知数だ。

妹達<シスターズ>だから、彼女たち同士のすり替わりは比較的楽なのだ。

もちろん生活環境も何もかも違う場合は難しいが、美子と琴子は同じ学園都市に生活していたし、他の二人の妹達<シスターズ>(麻美と琴江)と比べれば性格は似た方に入る。

結果的にこの二人はベストの組み合わせだった。

だが、自分の影になれるのは、目の前のこのおんな、美子だけだった。

美琴は自分の判断を悔やんだ。呪った。

美子もあいつを好きだったことは昔からわかっていた。麻美(元検体番号10032号)ほど警戒はしていなかったけれど。

だから美琴は彼女を第一秘書に選んだのだ。

ずっと一緒にいれば、自分の傍においておけば、監視できると思っていた。実際、うまくいったと思っていた。

だが、今やその思惑は裏目に出た。逆手に取られたのだった。

(琴子にしておけば……)

だが、もはや取り返しはつかない。では、どうする?

もう一度? 冗談じゃない!

あいつを渡せるものか、妹達<シスターズ>に。

そりゃ私に昔ほどのお熱はない。「自分だけの現実」が揺らぐような恋心はとっくにない。ティーンの頃の純粋な気持ちは、終わったのだ。

大人になるって、そういうことだ。少し悲しいけれど、仕方がない。

だけど、あいつは、私の夫だ。私のオトコだ。それは今でもはっきり言える。

あの子(麻美)にまんまと嵌められて、私より先に子供作られるというウルトラ馬鹿だけど、それでも、アイツが私の夫だ。
969 :LX  [saga sage]:2012/12/29(土) 22:24:49.44 ID:gzPvFJAO0

そもそも、アンタたち妹達<シスターズ>を守る為に、産まれてくるこの子たちを守る為に、私はあいつを、あいつの力を、あいつの仲間を頼った。

あいつと、あいつのグループの力を頼む為に、私は「昔、死ぬほど恋した」男を選んだ。

あいつの力を、仲間を利用して、私がここ学園都市でのし上がる為に。

このイカれた街を、私の手で作り替える為に。

ずるいかもしれない。計算ずくだと言うのならその通り。「正解」といって笑ってやろう。

その私が、

  ――― 待ってよ、じゃ、どうするの? 私の ―――

美琴の、頭の回転が、止まる。

――― お腹にいる、この子は? この子をここで、この学園都市で育てるの? ―――



それは絶対に嫌だった。

「見せ物」は、自分一人でもう沢山だ、と美琴は唇をかむ。

ものごころが付くか付かないかのうちから、衆人環視の元におかれ、一挙一動に注目が集まる。

蝶よ花よともて囃される。

鵜の目鷹の目でチェックされる。

何かあったら手のひらを返すように、それ見たことかと叩かれる。

「レベル5の子供なのに」「親の七光りっていいわよね」……

いや、

「レベル5の子供」だから、狙われるかも知れない。

麻美の子供が、一麻くんが間違って狙われたことは、たまたまじゃない。

赤ちゃんのときは?

自分の手を離れる幼稚園に上がれば大丈夫? 

小学校に上がったら安心? 

とんでもない。その気で来られたら大人だって抵抗できない場合があるのだから。



いや、逆に、無能力者<レベル0>だったら?

いや、レベル1でも、2でも、レベル5未満だったら?

親の自分と絶対に比較される。何かにつけて、「親はレベル5なのにね」と言われ、嘲られるだろう。いじめられるだろう。



――― 何も良い事はない ―――

今まで、何度も考え、そしてやっぱり同じ結論に美琴は辿り着いた。



――― 学園都市の外で、育てよう 普通の子供として ―――



(そのためなら、私が、我慢すれば……)



自分と、当麻と、その間に挟まってはしゃぐ我が子、家族三人の姿が一瞬浮かんで、



……消えた。
970 :LX  [saga sage]:2012/12/29(土) 22:33:30.71 ID:gzPvFJAO0

(いっそ、こんなとこ、アイツと一緒に飛び出して、どこかで親子三人で暮らそうか?)

一瞬、美琴はそんなことすら考えた。

だが、そんなことは、許されるはずもなかった。

(私のワガママに、アイツを付き合わせる事なんて、絶対出来ない)

そして、ハッと思い当たる。

(私も馬鹿ね……そんなことをしようものなら、この街は絶対に、妹達<シスターズ>を人質に取ってくるに決まってるじゃないの)

意味がなかった。万事休すだった。

美琴は心の中で、逃げようと思った自分を嗤う。

自分は、逃げる事は許されないのだと。そう言う道を、闘う道を選んだじゃないの、と。



となれば、答えは決まっている。

因果なものだ、と美琴はため息をつく。

あの馬鹿を慕う妹達<シスターズ>は、少なくとも2、000人はいるはずだ。

困ったことに、全員が本気だ。油断も隙もあったものではない。

いや、もはや彼女らに手を出させない、と言う方が無理である。どうあがいても1対2、000は勝ち目がない。

学園都市に集まった1,600人の妹達<シスターズ>と対峙した、あの気迫を彼女は忘れては居なかった。

――― それなら ―――

毒をもって毒を制す……美子に任せる方がむしろ良いかも知れない。

彼女も女だ、他の妹達<シスターズ>に取られるような真似は絶対にしないはずだ。

必死に他の妹達<シスターズ>の接触をはねつけるだろう。うまくすれば、琴子も協力するかもしれない。

いや、今、既に彼女は私の指示を守っているのだから、恐らく大丈夫なはずだ。

悔しいが、あの子一人で済むのなら……

――― ううん、私は「上条当麻」の「妻」なのよ! ―――

美琴は、改めて自分に強く言い聞かせるように心の中で叫ぶ。

あとは、あいつがどう考えるか、だ。それには自分の話を聞いてもらわなければならない。



「あの、日を改めましょうか、お姉さま<オリジナル>」

申し訳なさそうな顔で、美子は言葉がない美琴に話しかけてきた。

自分とよく似た顔の美子を彼女は見つめ、彼女は言葉を返す。

「そうね、時間を、ちょうだい」

「はい。かまいません。今日明日でなくても大丈夫でしょう。お返事をお待ちします、お姉さま<オリジナル>」

「それで、済まないけれど、今日、影役、御願い出来るかしら? 今日は外へ出る仕事はなかったから問題ないと思うし」

「承りました。確認事項は処理致します。結果は簡単に纏めておきますので明日ご確認下さい。お姉様<オリジナル>の判断が必要な事項は御連絡して指示を仰ぎます」

「そうして。でもたぶんそんな事は無いと思うけど。明日で間に合うのは明日やるから宜しくね」

「畏まりました。それでは私はこの後、検体番号19090号と打ち合わせを行います。お姉様<オリジナル>、どうぞお大事に」

二人はいつもの広報委員とその秘書、に戻っていた。

……表面上、では。
971 :LX  [saga sage]:2012/12/29(土) 22:44:49.18 ID:gzPvFJAO0
>>1です。

本日投稿分、以上です。
「番外編」というのは、どっちかというとそう長くないはずだと思うのですが、悪い癖でまたズルズル伸び始めています。
この後のイベントをカットするかどうかちと結論が出ませんもので、今日はここで止めることにしました。すみません。

さて、当方は明日に帰省致します。例によって実家にはネット環境がありませんので、次の投稿は年明けになります。
こちらはさっさと終わらせて、第三部に集中したいところではありますが……(汗

読んで下さっていらっしゃいます皆様、どうも有り難うございました。
どうぞ良い年をお迎え下さいませ。
972 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/30(日) 00:46:13.68 ID:cxq7S08y0
乙!

来年も楽しみにしています。
そちらこそ、どうぞ良いお年を!
973 :LX  [saga ]:2013/01/03(木) 23:10:53.80 ID:pp/Lc+sn0
皆様、あけましておめでとう御座います。
>>1です。
本年もどうぞ宜しく御願い致します。

無事、戻って参りました。明日1日出て、また土日というのは調子狂います。
年休入れようかと思いましたが、明日のスケジュール見て諦めました。
年休取ったら大顰蹙確実ですもので(苦笑
他の場所は皆休みなのに、なんで当所だけ出なきゃいけないのかなぁ……

>>972さま
有り難うございます。今年も頑張ります。

それでは本日分、これより投稿致します。
974 :LX  [saga sage]:2013/01/03(木) 23:19:29.05 ID:pp/Lc+sn0


「ただいま」

重い気持ちで玄関のドアを開く美琴。

「おう、遅かったな。お疲れ」

出迎えたのはエプロン姿の当麻である。



早退した美琴であったが、そのまま家へ帰る気分にはならず、あちらこちらを当てもなく彷徨い歩き、喫茶店で時間を潰し、結局ほぼいつもの時間に家に戻った形になっていた。

「ごめんね、そんなことやらせちゃって」

「ん? いや気にすんなよ。昔からやってたしさ。お前ほど上手くならないのが問題だけどな」

「何言ってるのよ……ばか」

当麻の顔を見ると、美琴は思わずこみあげてくるものを抑えられなくなった。

長い時間を掛けて心に決めてきた事があっけなく崩れ落ち、自己嫌悪の念が膨れあがる。

私は……わたしって、なんて事を、何て嫌な女なのだろう……、と。

「ごめん」

かろうじてそう言うと、彼女は彼の脇をすり抜けるようにして洗面所へと走りこむ。

「お、おい? どうした?」

何かあったのだろうか、委員会で苛められたのだろうか、と思う当麻。

美琴には内密だが、外交委員である彼の元には各委員会における基本的なスケジュールその他が配信されてきており、それによればこの一週間は特にこれという懸案事項はなかったはずだった。

しかし、洗面所からは抑えた嗚咽の声が漏れている。愚痴やら文句やらは言うものの、滅多に泣かない妻・美琴が。



ふと、当麻は思い出す。

あのときと、同じ。

立場が逆だけれど。

当麻はいやな予感がした。



美琴はしばらくしてからダイニングルームに入ってきた。

「ごめんね。すぐ着替えてくるから。あーお腹減っちゃったなぁー」

一見明るく振舞う美琴は、そのまま自分の部屋へと向かう。

だが、その目が赤く腫れていることは隠しきれて居ない。涙声であることも。

「おぅ、ワイン飲むか?」

気づかないふりをして、わざと彼は明るい声で妻に声を掛けてみた。

返事はなかった。

(絶対に、おかしい。ただごとじゃない)

彼は調理の手を止め、エプロンを脱ぐと美琴の部屋へと向かった。



明かりをつけぬまま、暗闇の中に彼女は茫然と立ち尽くしていた。
975 :LX  [saga sage]:2013/01/03(木) 23:28:31.51 ID:pp/Lc+sn0

「苛められた、のか?」

そっと当麻が声を掛けるが返事はない。

「話してみろよ、な? こんなオレでも何か役に立つかも?って、お、おぅ!」

思わず彼はよろけた。

美琴が飛びついたからだ。

彼は黙って彼女をしっかりと抱きしめる。

美琴の身体が震えているのがわかる。

こういうときは自分は黙っているべきだ、落ち着いたら美琴は自分から話し始めるから、と彼は経験で覚えていた。



しばらくして、ようやく気分が落ち着いたのか、美琴は顔を上げずにもごもごといい始めた。

「あんた……?」

「どうした?」

「あのね」

「うむ?」

「いい話と、悪い話、どっち聞きたい?」

「両方だな。まずは悪い話を先に聞くよ」

当麻は優しく美琴を抱きしめながらささやく。

「話の順番が逆になるんだけどな」

彼女は充血して真っ赤な目を向けて見上げる。

(なんか、昔もこんなことあったな)

いつだったろうか、彼女が泣いたことがあった。その時は顔を作り直せ、と言った記憶がある。

今、同じ事を言うのは何故か気が引けた。

そんなことより、美琴が言いたがっている話の内容を彼は知りたかった。

「何だよ、それ……話の順番があるんならその通り言えよ、な?」

ぐいともう一度、美琴を強く抱き寄せる。弾力のある胸の感触が心地よい。

「ばか。苦しいでしょ? 話ずらいってば」

彼女はこういう身体を密着させる行為が好きだった。

たとえ機嫌が良くない、ぶすっと黙り込んでいるような時でも、抱き寄せられると文句を垂れながらも機嫌を直すのだった。

だが、今回はそうではなかった。彼女の声は沈んだままだった。

「いい話はね、赤ちゃん、出来た」

「……ホントか!? そうなのか? やったな、おい!!」

当麻は大声を出し、美琴から少し離れると、力の入ったガッツポーズを決めた。

「そうか、やったな!! いや、それはいい話だよ! 良かったな美琴!! そうか……美琴もママになるんだな」

あははは、と嬉しそうに笑う当麻に、美琴はわずかに苦い笑いを浮かべる。

(あんた、既に前からパパだったでしょうが、バカねぇ)
976 :LX  [saga sage]:2013/01/03(木) 23:40:13.37 ID:pp/Lc+sn0

今は御坂麻美という名を持つ彼女のクローン、検体番号10032号との間に、彼は男の子をもうけていた。

ものの見事に出し抜かれた美琴であったが、今、無邪気に喜び、自分を褒め激励してくれる夫の姿は嬉しかった。

あの子の「策略」で生を受けたあの男の子と、こうして望まれ喜びを受けて生をうける(だろう)自分の子。

そう思うと、美琴は自分を誇らしく、そしてほっと安心したのだった。

だが、すぐに彼女は暗い気分になる。

あいつが、あんなに喜んでいるアイツに、私は。

「で、どっちなんだ? 男? 女?」

嬉しそうな顔で自分の顔を覗き込み、お腹に視線を走らせる当麻に、内心の忸怩たる思いを隠して彼女は

「わかるわけないでしょ、バカ! まだ無理。もう少したたないとわかんないわよ」

とつっけんどんに答えるしかなかった。

「そっか、そりゃそうだよな、うん。さーて、美琴に子供が出来たって教えてやらなきゃな。

そうだ、お前、自分の家にはもう連絡したか?」

美琴のぶっきらぼうな返事も気にせず、当麻は嬉しそうに目を空に走らせ、再び彼女の顔を見る。

「まだ」

「連絡してやれよ、お父さんもお母さんも間違いなく喜ぶぞ? なんたって……」

後の言葉が途切れる。そう、彼女の実家には……

「気にしてないわよ。あとでするから」

「そうしろ、いや今しちゃえよ、な? オレも早速連絡すっからさ」

彼の頭の中では、旅掛・美鈴の祝福を受ける妻・美琴の姿が、そして刀夜・詩菜とともに喜ぶ自分の姿が投影されているのだろう。

「ダメ。今はだめ」

「何でだよ」

不思議そうな顔になる当麻。

美琴は一瞬躊躇した。が、言わなければならない。

(あんた、ごめん。当麻、ごめんなさい) 顔を上げて、彼女は言った。

「悪い話があるから」

「…おい」

顔をしかめる当麻。

「まさか、お腹の子に何かあるって言うんじゃないだろうな?」

「そうじゃないけど……でも、この子に関する事よ?」

「どういう事だよ?」

「……この子は……学園都市の外で育てたいの……だから私もしばらく、外で暮らすつもり。御願い、そうさせて?」

びっくりした顔の当麻。

(そうよね、普通、驚くよね)

美琴は申し訳なさで胸が一杯になる。

だが、当麻の驚きは少し違っていた。

彼も以前に、まさにこの荒唐無稽な話を思いついた事があったからだ。

その時は、美琴がそんな馬鹿げた話を認めるわけがないし、「子供を愛していないの?」と激怒するに決まっていると考え、捨てた考えだった。

まさか、妻たる美琴が……そんな自分の子を……?

二人はお互いにうつむき、黙って立ちつくすしかなかった。
977 :LX  [saga sage]:2013/01/03(木) 23:47:28.19 ID:pp/Lc+sn0


「良かったわねぇ、美琴さん、本当におめでとう」

「有り難うございます」

「当麻さん? あなたしっかりしなさいね。もうお父さんになるのだから」

「え?……ま、まぁな」

「何ですか、そのやる気のない返事は? 良いですか、当麻? あなた、ちゃんと美琴さんの出産の際には立ち会うのですよ?

あなたの父親は、こともあろうに海外出張という理由を付けて逃げたんですから。母さんはたった一人でどれだけ心細かった事か……

ああ、思い出したら私、何だかものすごく腹が立ってきましたわ! 美琴さん、しっかりしなさいね? 私が付いていてあげますから」

「は……はい、有り難うございます」



当麻・美琴の夫婦は、子供が出来たという報告に上条家を訪れていた。

刀夜が海外へ出かけ、一人寂しく過ごしていた詩菜が「そんな目出度い事を電話1本で済ますのですか」という理屈をこね回し、二人を呼びつけた次第である。

彼女は今なお、御坂麻美(みさか あさみ:元検体番号10032号)を「当麻を誘惑した敵」というスタンスで捉えていた。

しかし、彼女とその子供(一麻)を引き取り、東京へと引っ越していった御坂美鈴(みさか みすず)がどうやら生活に新しい張り合いを見つけ、宜しくやっている事に焦燥感のようなものを抱いていた。

彼女は一度、美鈴に電話をした事がある。

電話に出た彼女の後では、子供の笑う声やら、何かその子がしでかしたのだろうか、母親らしき女性の小さな悲鳴と泣き叫ぶ子供の声やらが聞こえていた。

電話を切った詩菜は、静まりかえった自分の家を思うと、やりきれなかった。

子供を育てるというのは多大なエネルギーを消耗する。

子供が大きくなるのと反比例して、自分エネルギーを吸い取られるかのように老い、衰えて行く。

正直、あの大変さはもうゴメンだ、という思いも心にはある。だが、この家の逼塞感は彼女にとってたまらなく嫌なものだった。

当麻を育て上げた事で、私の人生はもう終わったのだろうか……いいや、違う。

まだまだ、私は若い。パワーだってあるんだから、と彼女は萎えそうになる自分の心を励ましていた。

そこに、当麻の結婚、そして、目出度く嫁の妊娠の知らせ、である。

詩菜がはやるのも無理はなかった。



「それで、男の子、女の子、どっちなのかしら?」

「いや……さすがにまだどっちだかわかりません。私は健康であればどっちでもいいんですけれど」

自分の妊娠の時もかくや、と思わせるほど身を乗り出して様子を訊く詩菜に美琴は圧倒されっぱなしである。

「そうよね……でもね、よく言うでしょ、一姫二太郎って。最初はね、女の子の方が楽なんですって、大人しいし」

「よく聞きます。でも、私、結構腕白みたいだったらしいですけれど」

「今でもそうだもんな、痛ぇっ!」

ウケ狙いで合いの手を入れた当麻の足を美琴は素知らぬふりで蹴った。

目の当たりに見た詩菜はまぁ、と言う顔になり、美琴はあわてて頭を思い切り下げる。

「あらあら、いちゃいちゃするのはお家で仲良く好きなだけやってね? 

……この子はね、本当によく病気にかかったし、しょっちゅうケガもしていたの。ホント、毎日大変だったわ。でもそれも良い思い出、ね」

当麻ははっとする。彼には昔の記憶がないからだ。

尤も、今、母が話しているような事は、仮に記憶があったとしても覚えているかどうか怪しいくらい昔の事であるが。
978 :LX  [saga sage]:2013/01/03(木) 23:56:43.03 ID:pp/Lc+sn0

「良く他のお母様たちと話をしたものだけど、どこの家でも男の子の母親はひぃひぃ言ってたわ、乱暴だし、やたら活動的だしね。

ほんと、女の子だったらどんなに良かったかしら、って言ってたのよ?」

ドヤ顔で当麻を見る詩菜。しょぼんとする当麻。目を丸くする美琴。

「でもねぇ、女の子しかいないお母さんはね、男の子が欲しいって言うのよ。何もわざわざ苦労するようなことしなくても良いのにね……

あら、それならどうぞウチのを持っていって下さい、って言った事もあるけど?」

美琴には、思い当たるふしがあった。

(母さん、弟が出来なかったから、あの子を引き取ったんだろうか?)

「そう言えば、美琴さんはご実家に帰られるのかしら?」

何気なく、詩菜がそう美琴に質問した。

美琴はとっさに返事出来ない。

「そうよね、美琴さんはあそこの一枚看板みたいなものですものね、そうそう休めないわよね……

でもね、無責任かも知れないけれど、産むのは貴女自身なのよ、無理して変な事になったら大変よ? 

学園都市が責任取るって言ったってどうにもならないんだから」

「母さん、縁起でもないこと言うなよ」

「そうだわ、当麻さん? あなたはどうなの? 自分の妻たる美琴さんをどうするつもりなの? まさか知らぬ存ぜぬなんて事はないでしょうね?」

「な訳ないだろ!? 考えてるさ!」

「……実家へ戻ります。私の代わりは、あの子たちがやってくれますから」

母子が言い合いになりかかったその時、美琴は静かに自分の決断を述べ、二人ははっとして静かになった。

「そうよね、その方が良いわ。親元でのんびりと……」

詩菜の言葉が止まった。

そう、美琴の実家には、彼女の不倶戴天の敵(と詩菜は思っている)である、あの子が子供といる事に詩菜は気づいたのだ。

「あ、大丈夫です。妹みたいなものですし、それにあっちの方が子育てでは先輩になるから、困った時に役にたつかな、なんて……」

詩菜の言葉が止まった理由に気が付き、心配ないですと言って笑う美琴。

だが、その笑い顔がどこか不自然である事に、詩菜も当麻も直ぐに気が付いた。なんせ、本人が途中で笑顔を消してしまったのだから。 

「こう言っては失礼だけれど、美琴さんのご実家、そんなに広いお家なの?」

美琴は言葉に詰まった。

強いて言えば、住めない事は、ない。

自分の部屋はちゃんとある。ざっと6畳ほどであるが、まぁ1年くらいは何とかなるだろう。だがそれ以降は……

「何とかなるでしょう。自分の家ですから」

当麻は黙っている。理由はともあれ、あの子は自分の子なのだ。
 
「あのね、美琴さん?」

居住まいを正した詩菜は、名前を呼ばれて居住まいを正した美琴に向かって、驚く事を言い出した。

「よかったら、ウチにいらっしゃらないかしら?」

嫁・美琴を引っ張り込もうとする姑・詩菜は話を続ける。身を乗り出さんばかりの勢いである。

「うちはね、この子が居なくなってからこの有様なの。そんなに広い、って訳じゃないけど、家に1人でいるのは寂しいの。

ご飯作っても誰も一緒に食べてくれないし、話し相手もいないの。あの人は突然居なくなるし、居なくなったら暫く帰ってこないしね。

仕方ないから外に出かける事もあるけれど、ずっとおしゃべりしてるわけにも行かないし。

それにね、こんなおばちゃん一人で居るというのは、いくら警備会社に頼んでるとは言っても決して安全とは言えないし……

ね、一人で寂しい思いをしてる義理の母を助けると思って、来てくれないかしら? もう空いてる部屋好きに使ってもらっていいから?」
979 :LX  [saga sage]:2013/01/04(金) 00:00:39.32 ID:JCikDjuT0

(貴女も、自分の亭主を寝取った女と一緒に居たくないでしょ?)と言うような、美琴のプライドをぶち壊すような事はおくびにも出さず、あくまでも自分の問題だから、と言う事にして彼女は美琴を誘ったのだ。

怒濤の押しっぷりに土俵際に詰まる美琴だが、彼女の配慮は直ぐにわかった。

(すみません、お義母さま) 彼女は心の底で深く感謝した。

正直、有り難い話ではあった。彼女が暗に言う通り、麻美と一緒に住む事には非常に抵抗があった。

もっとはっきり言えば、「嫌」であった。如何に「母」の元と言っても。

それに、彼女の表向きの理由にも美琴は共感していた。確かにこの家にたった一人、ぽつねん、と居るのは寂しい事だろう。

古来から今なお存在する、「嫁」VS「姑」という対立する関係になる可能性も高いが、麻美と一緒に住むことで何かにつけて比較されることになるのは避けたかった。

また、彼女自身もおそらく嫌だろう。自分の過去の過ちをいやでも毎日思い出す事になるのだから。

とはいえ、この場で安請け合いはしたくなかった。

自分にもささやかだがプライドがあるし、それに自分の母にも言わなければならない。母はどう言うだろうか?



「いえ、お気持ちは大変嬉しいのですが、それではお義母さまにご迷惑がかかりますし……」

「あらあら、だからそう難しく考えなくていいのよ? 私が貴女に御願いしてるのだし。

前向きに考えて下さっているのよね? ああ、良かった、これから女同士、心おきなくおしゃべり出来るのね!

ホント、美琴さんが一緒にいてくれるのならもう夜も安心だわ ね、どのお部屋を使いたい? ちょっと見に行きましょ?」

あ、あの、と言う間もなく、詩菜は美琴の手を取って立ち上がり、彼女を引きずるようにして二階の階段を上がってゆく。

(こりゃ、こっちで決まっちゃうな、間違いなく)

後に残った当麻はぬるくなったコーヒーを流し込む。

彼も、正直、美琴がこの家に住む事には反対ではなかった。

父・刀夜が世界各国を股に掛けて飛び歩いている為に、母が寂しい思いをしているであろう事はうすうす感じていたが、それをはっきりと目の前で言われたのだ。

(とはいえ、美琴も本当なら自分の親元でのんびりしたいだろうな……)

そう、本来、実家に戻って出産するという事は、精神的な不安を和らげる事に加え、母から娘へといろいろな事の伝承を受けるという事でもある。

嫁と姑。如何に仲が良いように見えたとしても、所詮は他人同士。女対女である。

だが、彼女の実家には。

(今さら、入れ替わってもらえないかな、なんて言えねぇよ……)



それでも彼は、美琴が洗面所に立った時、母親にそれとなく訊いてみた。

すると母・詩菜は、額にしわを寄せて息子を睨むと静かに答えた。

「当麻さん? あなた、この母に向かって、私にようやく出来た『娘』を取り上げるというのかしら?」

ある意味予想していた返答だったが、一つ予想外だったのは、自分の妻であり、そして彼女にとっては『嫁』にあたる美琴を『娘』と言った母の言葉であった。

そしてもう一つ、麻美を母は今なお全く認めていない、という事もまた。

「いやいやいや、例えば、仮の話だから。ほら、美琴も自分の母親の方が気楽だと思うしさ」

「自分の娘が来るから、なんて理由であの美鈴さんが考えを翻すわけがないでしょう? 

当麻さん、それって、あの子たちを『もの』扱いしてるってことなのよ? 馬鹿も休み休み言いなさい。

それに、そもそものこの不始末、あなたにも責任があるのですよ? わかってる? あなたは黙ってなさい」

彼は黙るしかなかった。
980 :LX  [saga sage]:2013/01/04(金) 00:26:40.14 ID:JCikDjuT0

新しい御坂家。

美琴もまだ3回目、であるし当麻は初めてだったが、玄関に入った瞬間に、二人は思わず顔を見合わせた。

上条家は死んだように静かな空気であったのに対し、ここはエネルギーに満ちていた。

玄関にある、可愛らしい運動靴が、そこここに転がっているおもちゃが、明確に子供の存在を示していた。

御坂家には、明日に向かって伸びようとするエネルギーが満ちあふれていた。二人は、その勢いを敏感に感じ取っていた。

当麻は正直、一麻がどれくらい大きくなったか見るのが楽しみであった、が、母・麻美と共に二人は公園に行ったという事で不在であった。

母・美鈴が気を利かせたのだろうか、と美琴は考えた。

彼女自身は正直、ほっとしたことには間違いなかったが、夫・当麻の顔に差した影を見逃しはしなかった。



「ごめんなさいね、これでも片づけたんだけど、直ぐにねこうなっちゃうの。すごいわぁ、やっぱり男の子って」 屈託なく笑う美鈴。

「すみません、ほんとご厄介になってます」  頭を下げる当麻に、美鈴は、

「いや、美琴ちゃんもお転婆だったけど、全然違うのね、男の子って。まだ二つなのにね、結構力も強いの。元気いっぱいでね、もう大変よ?」

そう言うと、娘・美琴に向かってにやりと笑い、

「あんたも覚悟しときなさいよ? 男の子だったら一日引きずり回されちゃうからねー? まぁ元気な子ならどっちでもいいけど」

ポンと軽く娘の肩を叩き、優しくお腹を撫でさすった。

「えー、私、子供の時は大人しかったわよ?」

「あら、そんな事あったかしらねぇ? ま、ここで話すのもなんだから、客間に行きましょう?」

笑いながらそう言って、彼女は二人を案内して客間へと入った。



「美琴ちゃん、おめでとう。よかったわね、貴女もひとの親になるのね、なんだか私、急に歳取っちゃったような気になるわ……」

お茶を入れながら、しみじみとつぶやく美鈴。娘に言い聞かせるような、自分に語りかけるような雰囲気で。

「ついこないだまで、ゲコ太のぬいぐるみ持って走り回ってた子がねぇ……ふふ、あ〜ぁ私もおばあちゃんか、やだなそういうの」

「ちょっとお母さん、誤解されるでしょ、それ? それって、ずっとずっと昔の、うんと小さい時の話でしょっ?」

美琴が色をなして抗議する。

「いや、今でもゲコ太の……」と言いかけた当麻が、美琴に思い切り抓られて「痛ぇ!」と叫ぶ。

「貴女もそのうちわかるわ。親から見る子供はね、いつまで経っても子供のままなのよ」

「そんなこと……」

「私が大切にしてる美琴ちゃんの記憶って、子供の時のものだからね……私の宝物だもの。

ま、貴女も苦労するでしょ、でもね、その分だけ、思い出が出来るのよ。親だけに許される思い出が、ね。

大切にしなさいね、二度と帰ってこない時間なんだから……」

当麻は、神妙に義母・美鈴の話を聞いていた。だが、話の終わりで、彼は美琴の横顔をそっと盗み見た。

彼女は、俯いて、じっと母の言葉を聞いていた。

彼は、一瞬迷った末、「あの、ですね」と切り出した。美琴が言い出せないのでは、と思ったからである。

「ありがと。私、言うから……私の口から、言うから」

決意を秘めた真剣な顔で、彼女は夫・当麻の顔を見て、母親に向かって話を切り出した。

「お母さん、私、この子は学園都市には置かないつもりなの。この子は、ごく普通の子として、育てたいの、育って欲しいの」

「どういうこと?」

驚くかと思った美鈴は、案に相違して落ち着いた顔で娘の顔を見返す。
981 :LX  [saga sage]:2013/01/04(金) 00:38:52.13 ID:JCikDjuT0

「私が妊娠した事も公にはさせない。それは了解を取ったわ。

私の代わりには、『妹』の一人を当てて、彼女に影武者をやってもらうことにしてる。

基本的にはこっちに居て、お産のときは能力者対策の問題があるから、学園都市に戻るけれど」

「ふーん、美琴ちゃん? あなた、それでどこに住むつもりしてるの? 言っておくけれど、ウチは難しいわよ?」

厳しい顔で、そう美鈴は宣言した。

美琴は一瞬「え?」という顔になったが、直ぐに元の難しい顔に戻った。半分、予想外であったからだ。

一応、そう言う答えが返ってくるかも知れないとは考えたが、最初から否定はしないだろうと思っていたからである。

「ウチには、あの子がいるのよ? あなた、あの子と一緒に住めるの? 今までの様子からみると厳しそうに見えるんだけど?

まさか、美琴ちゃん、自分が帰ってくるからあの子はどこか出てきなさい、なんて事は考えてないでしょうね?」

「そんな事考えてもないわよ! 私がそんな『もの』扱いするわけないでしょ!?」 美琴は叫んだ。 

「そりゃ嫌いだわよ、憎たらしいわよ、許せないわよ。でもね、それでも、あの子は『妹』の一人なの。私の『妹』なのよ」

彼女は興奮し、荒い息を吐く。

震える手でお茶碗を取り、ぐいっと茶を飲み干す。

「そ。ならいいわ。それだけ念のため訊いておきたかったの。そうそう、当麻くん?」

「は、はい」 いきなり話を振られた当麻はビシッと緊張する。

「お母様、どうだった? 行ってきたんでしょ? 喜んでたでしょう?」

ニヤニヤしながら美鈴が当麻を問いつめる。

「は、はぁ…確かに、もう手放しで喜んでましたけど……その」

まさか、と言う顔で彼は義母の顔を見る。

「美琴ちゃん、あなた、お姑さんとうまくやっていく自信あるの?」

軽く彼にウインクした美鈴は、いたずらっぽい顔で今度は娘の顔を見る。

「え……うそ、母さんに話来たの?」

「来たわよ、速攻でね。もう、上条さんたら『もう悪いようにはしないから、ウチに来てくれるように、是非御願いね』って。

貴女、随分と気に入られたみたいよ? さすが、我が娘、ね。

まぁいろいろあるかも知れないけれど、要は『年長者の言う事だから』って割り切っておけばいいのよ」

長いものにはまかれろ、って諺もあることだし、と笑ってお茶を飲む美鈴。

「お母さんてば……」

「ま、たまにはウチにも来なさいよ。あのひと(旅掛)だって美琴ちゃんに会いたいはずだしね。

さ来週には戻ってくるはずだから、その頃戻ってきなさいね、いい?」 

「……」

「昔だったらね、貴女、ウチの敷居はまたげなかったのよ? 『お前は上条の家に嫁いだ女だ、お前の家は上条の家だ』って感じにね」

「いつの話ですか、そんな御大層な……」 当麻があきれた顔で口を挟む。

「あら、だから昔だって言ったでしょ。んー、でも田舎だったら今でもそういう雰囲気濃いみたいよ? ま、ウチはそんなこと気にしないけれど?」

美琴は少し気分が悪かった。

自分を気に入ってくれたのは嬉しいことだけれど、だからといって自分の母にまで手を回し、こっちの話を断るように仕向けさせる、と言う姑の、詩菜のやり方がいやらしかった。

いや、少々無気味に感じたのだった。
982 :LX  [saga sage]:2013/01/04(金) 00:45:06.62 ID:JCikDjuT0

美鈴は娘の感情を目敏く読みとったのだろうか、「当麻クン?」とまた彼を呼ぶ。

「は、はい?」

「ちょっと、あの子たちの様子見てもらってきてもいいかしら? 

いつもはね、二人がかりで一麻クンを遊ばせてるんだけど、今日は一人でしょ?

それに、一応公園デビューもしてるんだけど、あの子、まだちょっと不慣れみたいだから、御願い出来るかな?」

美鈴は一瞬美琴をチラと見て、当麻に話しかけた。

当麻はチラチラと妻・美琴の顔を見るが、彼女はそっぽを向いている。

「そういうことだけど、いいかな?」  当麻は恐る恐る、と言う感じで妻に了承を求める。

「さっさと行ってくればいいでしょ? 自分の子供なんだし、遊んであげなさいよ?」 視線を合わさずに彼女は答える。



――― すいません、公園の場所教えて下さい ―――

――― ちょっと待ってね、ケータイの地図出してくれるかな? ―――

――― えっと……ここは、と ―――



二人が話を始めたことで、美琴は急須を持ってポットのところへ行く。

(滅多に会えないのだから、今くらいはいいか、子供には会いたいだろうし)とは思うのだが、どこかやはり面白くない、という気がする美琴だった。



------------------------------------------


「怒ってるの?」

「別に」

当麻が公園へと出て行き、残ったのは母と娘。

並んで座っている二人はようやく本音の話を始めることが出来た。

「上条さんも寂しいのよ。一人って、たまに無性に寂しくなる時があるのよ」

「……」

「結構頑固なところがあるのよね、上条さんも。上条クンもそういうところ、あるよね?」

「……うん」

「上条さんはね、悪い人じゃないわ。でもね、結構怒ると怖いし、結構覚えてる方だし。そこだけは気を付けたほうがいいかな」

「うん。頑張る」

すると、母は娘の身体を引き寄せ、

「ううん、そんなにしゃちほこ張らなくてもいいのよ? 自然体で行きなさい。

美琴ちゃんはね、ちょっと自分で抱え込む癖あるからねー、まずは彼にぶちまけなさいな。彼は全部受け止めてくれるから、そうでしょ?」

うん、と美琴は頷く。

でも、と彼女は思う。その肝心要のアイツもまた、なんでもかんでも自分一人で抱え込む問題児なのだ。

私たちって似たもの夫婦、なのだろうか、と彼女は思う。
983 :LX  [saga sage]:2013/01/04(金) 00:49:07.06 ID:JCikDjuT0

「彼にも言えない事があったら、その時は、私かな?」

いたずらっぽく、娘の目を見る母。

「ホントならね、ここでのんびり過ごすのが良いんだけど……あの子の前で、みっともないところ見せられない、って思ってるのはわかるわ。

だから、他のところでママは貴女の愚痴、全部聞いてあげる。全部吐き出しなさい?」

「お母さん……」

「だって、それが親の努めだもの。いいこと? 美琴ちゃんはいつまでも私の娘。たった一人の、私が腹を痛めて産んだ娘だからね? 

たとえ貴女が母親になっても、おばあちゃんになっても、貴女はずっとわたしの子供なの。

だから、どんな時でも、私は貴女の味方。世界中を敵に回しても、ママは貴女の味方。それはね、親だけに許された特権なんだから」

「有り難う……」



不安だった。

自分のクローンとその子供を面倒見る(監視する)事で、母は若さを取り戻していた。父も生き生きとしていた。

自分の居場所がなくなったような気がしていた。実家はあの子とその子供を中心に廻っているようだった。

私の家なのに。

私の母さん、父さんなのに。

そして、もしかしたら、と淡い期待を持ってやってきたら、「ウチは無理だから」とあっさり拒絶された。

理由はわかるけれど、その通りだけれど、でも、私は、私は、



――― 実の子供、一人娘でしょ!? ―――



……よかった。嬉しかった。

私、母さんに見捨てられてなかった。

独り相撲だった。馬鹿みたいね、私。



母の胸に顔を埋める娘、その肩をやさしくぽんぽんと叩く母。

「ま、後で3倍返ししてあげるけどねー。それが私の愛情表現だしー?」

くっくっくっ、と忍び笑いする母。

「ちょっとー、せっかくいい話だったのに、それじゃぶち壊しじゃないのよぅ」

当たり前でしょ、もうすぐ母親になろうって大人が何甘ったれてるのよ? と笑う母。

えー、甘えて良いって言ったの、母さんじゃないのよー、と文句を言う娘。



穏やかな、午後の風景だった。

(番外編 終)
984 :LX  [saga sage]:2013/01/04(金) 00:59:24.51 ID:JCikDjuT0
>>1です。

本日投稿分、以上です。番外編、終了です。
原稿を通しでしか書けなかったので、コマ割りする際に加筆修正をしなければならず、随分と時間がかかりました。

さて、あと残り10コマちょっと。
気が付けばミサカ10039号が空気。なんという扱いでしょうかw かわいそうに。

極短編ネタとして佐天涙子・利子親娘が上条家に来るシーンを書き出したのですが、ミサカ10039号と当麻・美琴とのすったもんだの話も捨てがたいものがあります(笑

とりあえず書いてみる事にしますが、入りきらない可能性もあり、その場合は第三部の番外編ということにします。
ただ、そうなるといつになるのか……な?

とりあえず夜も遅いので、今日は失礼致します。最後までお読み下さいましてどうも有り難うございました。
そえではお休みなさいませ。
985 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/05(土) 13:49:10.86 ID:ZuC9hQZk0
乙です
御坂親子の会話が感動した
みこっちゃんマジがんばれ
そして>>1もがんばってください
986 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/06(日) 18:59:07.90 ID:2BaK63eI0
>>1乙です。
10039号ェ…結局美琴は10039号の条件飲んだのかな?
>>970以降空気過ぎてソコだけ気になる…。
987 :LX  [saga]:2013/01/10(木) 21:20:46.14 ID:1IBHAIL60
皆様こんばんは。
>>1です。

コメント有り難うございます。
残コマに気を遣って頂き、次スレの方に書き込んで下さった>21と>22のお二人の方にも取り急ぎこちらで御礼申し上げます。


>>985さま
エール有り難うございます。
美鈴さん、カッコ良すぎの気もしますが(笑)、原作でもカッコイイ(酒癖はアレですが)のでお許しを。
前作SSでは上条詩菜さんが結構頑張ってますが、当SSでは美鈴さんがサブキャラの中では頭一つ出て来ました。
お二人とも書きやすいのです。

>>986さま
番外編その2、これより検体番号10039号の後日談になりますので、宜しく御願いします。

今度の三連休はどうなるかわかりませんので、なんとか取り纏めましてこれより投稿致します。
イレギュラー投稿ですが、どうか御了承下さいませ。
988 :LX  [saga sage]:2013/01/10(木) 21:25:31.32 ID:1IBHAIL60
<番外編その2>

「お疲れ様。じゃ、また明日ね」

「お休みなさい、お姉様<オリジナル>」

「違うわよ『美子』、そこは『上条委員』でしょ?」

「……失礼致しました。失礼致します、『上条委員』」

「オッケー。お休みなさい」

「お疲れ様でした」

上条当麻と美琴夫婦の借り上げ社宅の前で、「美琴」と第一秘書の「美子」が別れの挨拶をかわしていた。



「美琴」と別れた「美子」は、広い通りに出てタクシーを探すが、夜の住宅街ということで困った事に流しのタクシーが全く通らない。

参ったな、と言う顔の彼女は数秒目をつむり、何かを考えたようだった。

しばらくすると、1台の大型スクーターがやってきて彼女の前に止まった。

「忙しい時に来てくれてありがとう、とミサカはまず御礼を述べます」

「それは皮肉ですか、と現在も絶賛求職中のミサカは羨望に若干の妬みを込めて答えてみます」

「代われるものなら代わっても宜しいですが? とミサカは自由を満喫する検体番号17600号に魅力的な打診をしてみます」

「定職、と言う意味では魅力的な申し入れですが、内容を考えると謹んで御辞退させて頂きます、とミサカは検体番号"19090号"に未練がましい答えを返します」

だめですか? はい重ねて遠慮します、とのやりとりの後、検体番号「19090号」は渡されたヘルメットを被り、スクーターの後席に横座りする。

「あまり好ましい座り方ではありませんね、とミサカは暗にちゃんとまたがれというニュアンスを含んだ警告を発します」

「パンツスーツなら良かったのですが、スカートでははしたない格好は出来ません、と、ミサカは早く帰りたいからとっとと発進しやがれ、と苛つきをおくびにも出さずに返事をします」

「落ちても知りませんよ? とミサカは検体番号19090号に確認を取ります」

「落ちないように丁寧な運転を心がけるべきです、とミサカは検体番号17600号に安全運転教本の一文を唱えます」

「やれやれ晩飯1回くらいじゃ割に合いませんね、とミサカは安請け合いをした自分の情けなさに思わず歯がみをします」

そう言うと、彼女はスクーターを発進させた。

「御坂美子」の検体番号19090号の脳裏には、つい先ほど別れてきた、思い詰めた表情の「上条美琴」の顔が浮かんでいた。

(大丈夫でしょうか、検体番号10039号……)



検体番号10039号こと御坂美子(みさか よしこ)は、今、オリジナルである上条美琴(かみじょう みこと)の影武者を演じているのだった。

そして、第一秘書の「御坂美子」は彼女、検体番号19090号の御坂琴子(みさか ことこ)が演じていたのだった。

-----------------------------

「こんなはずじゃなかったのに……」

おもわず、愚痴が口をついて出る。



自分一人には広すぎる家。

今日も美子はひとり、この家にいた。

家の主、上条当麻は現在海外出張中であった。



妊娠したお姉様<オリジナル>、上条美琴から「1年、自分の影武者を演じて欲しい」と言われた御坂美子は、「公私に渡って上条美琴として行動して良いのなら」という条件でその話を受けた。

もっとも、お姉様<オリジナル>がこの条件を呑んで、了解したという返事をくれるまで半月ほどかかったのだが。

ダメもとで条件を出した美子は小躍りして喜んだ。

やっと、やっとあのひとの傍に居る事が出来る、と。
989 :LX  [saga sage]:2013/01/10(木) 21:29:55.26 ID:1IBHAIL60

ミサカネットワークから離れた私の頭で、あれやこれやと想像する。それはとても楽しい時間。

あのひとと私、二人だけの時間が持てる。

しかもお姉様<オリジナル>も了承済み。こそこそする必要もなく、堂々と。

外でお姉様<オリジナル>を演じている時は、あのひとを弄る事も出来てしまう。私だけの特権だ。ウソみたい!

それに、お家に帰ったら、私は本来のミサカに戻れる。ミサカが、このミサカがあのひとを独占出来る。

ああ、なんて素敵なんでしょう、なんて素晴らしいことでしょう。ホント、生きていて良かった。

ミサカ、とっても幸せ。もうなんでもしちゃう。あのひとが喜んでくれるのだったら、求められるままに何でもしてあげたい。

やだー、求められちゃったら……だって。恥ずかしい。何舞い上がってるんだろう、私。 

……お姉様<オリジナル>は怖い顔してたけれど、でも何も言ってなかったよね……

ううん、私は「上条美琴」なんだから、あのひとが求めるんだったらちゃんと答えてあげなきゃダメよね? そうよ、そうだわ、そうなのよ!

あれやこれやと想像は妄想になり、妄想は妄想を呼び、私はその夜、殆ど寝る事が出来なかった。参ったなぁ……



翌日、私はお姉様<オリジナル>と一緒に家に帰った。

家のセイフティロックに私のデータを登録してもらった。これで私は自由に出入り出来るようになった。うう、緊張する。

お姉様<オリジナル>に家の中を案内してもらった。お世話になります。

あのひとに会えるかも、と思ってドキドキしてたけど、まだ帰ってきていなかった。すごく残念。

お姉様<オリジナル>の部屋は見せてもらえなかった。

空気の入れ換えは必要ですよね、と言うと、あのひとにやってもらうから大丈夫、と言われてしまった。

自分の部屋を「他人」に見られるのは確かにあまり気持ちよいものじゃないけど……貴女は他人、と言われたようで、なんか寂しい。

キッチン。

用具は揃っているけれど、自分の持ってきても良いわよ、とお姉様<オリジナル>が言う。

それはつまり、「わたしのものは使わないで頂戴」という意味だ。

ま、そうかもしれない。ここはお姉様<オリジナル>の「城」なのだから。

素直に「そうですね、持ってくる事にします」と言っておいた。私も使い慣れた自分のものがいいし。

冷蔵庫は「全部開けとくから、どう使ってもいいわよ」とお姉様<オリジナル>は言った。

中を見る事はなかったけれど、私も見たいとは思わなかった。見せたくない、見ちゃいけない場所の一つだから。



一通り、中を見終わった頃にあのひとが帰ってきた。言う事をあれだけ考えていたというのに、私の口からは言葉が出なかった。

来週からお世話になります、とだけなんとか挨拶すると、あのひとは驚き、口ごもった。その意味はあとで分かったのだけれど……

食事をごちそうになった私だけれど、緊張の余りさんざんにとっちらかってしまい、お二人に大量に笑いのタネを提供してしまった。

結局、夜も遅いので泊まっていくことになったのだけれど、私の部屋には何もない状態だったので、私は客間に寝る事になった。



夜更け。

ふと目を覚ました私は、どこからか猫の鳴き声? が聞こえてくるのに気が付いた。

起きあがって神経を耳に集中する。気のせいではない。明らかに声がする。人の声? それに、何かの音? もする。

そっとふすまを開けると奥の方から声がする。

耳を澄ますと……それは、お姉様<オリジナル>の嬌声だった。聞いているうちに私は恥ずかしくなり、再びふとんに潜り込んだ。

今思うに、あれは、お姉様<オリジナル>の、私に対するメッセージだったのだろう。

このオトコは、わたしのものだ、と。
990 :LX  [saga sage]:2013/01/10(木) 21:36:17.47 ID:1IBHAIL60

目が冴えてしまった。

お姉様<オリジナル>の淫らな声が、私を興奮させていた。

ふとんの中で、私は本能に導かれるかのように、夢中で自分の秘所を自分でまさぐり、あのひとに抱かれる自分を想像し、自分を慰めた。

私にとって、それは初めてのことだった。

熱にうかされたようなひとときが過ぎ、ふと我に返ると私は急に恥ずかしくなり、トイレに立った。

廊下にはお姉様<オリジナル>の声はもう響いておらず、家の中は静かだった。

その時になって気づいたのだが、そこら中に漏れ出していたお姉様<オリジナル>の電磁波が、かつてないほど乱雑だったことだ。

何も知らずにこの電磁波を感じたら、何事ですかと飛び込んで行っただろう、と思うくらいの無茶苦茶なものだった。

もしかしたら、私がおかしくなったのは、お姉様<オリジナル>の乱れた電磁波に当てられたからかもしれない。

ビデで清めている時に、私はお二人が廊下を歩いていったのを感じ取った。きっとお風呂に行ったのだろう。

少し経ってから、私は客間に戻った。廊下にはシャワーの音が小さく聞こえていた。話し声は聞こえなかったが、もう沢山だった。

部屋に戻って、私は念のため、軽く香水を吹いた。

ショーツは恥ずかしくなるくらい汚れてしまっており、とてももう一度履けるものではなかった。

だが、それは寝る前にシャワーを浴びた時に代えたスペアであり、もう新しいものはない。が、こうなったら仕方がない。

やむなく今日(昨日か)履いていたものをもう一度履いた。まさかノーパンというわけにはいかないから。

私はため息をついて、ふとんに潜り込んだ。

今度はスムースに、疲れ果てた私は泥のように眠り込んだ。



翌朝、お姉様<オリジナル>は驚くほど輝いていた。女の私が驚くほど、羨ましく思うほど。

肌はスキンローションを塗り込んだわけでもなさそうなのに、ぬめぬめと鈍い光沢を放っていた。

「なーに? キスマークでも付いてる? 美子、ちゃんと言ってよ?」

屈託無く笑うお姉様<オリジナル>、お綺麗です。

でも、昨夜のあの悦びの声を聞いた私は、今朝のお姉様<オリジナル>の声がまるで作り物のように聞こえてしまうのに当惑してしまった。

「あんた、ほんと肌綺麗よね。ちゃんとお肌のケアしなさいよ、もったいないから。UVローションどこの使ってる?」

あの、お姉様<オリジナル>と同じものですけれど。香水だって同じものにしてますよ。影として当たり前でしょ、と仰ったのは誰でしたっけ?

「あ、そっか。私と同じにしろって言ったんだっけ……おかしいなー。どこで差が付いてるんだろう?」

それは、ミサカの肉体は14歳レベルまで培養槽の中でしたから、お日様を存分に浴びて育ったお姉様<オリジナル>の肉体とは違いますよ。

御存知でしょう?

「あ、一つ言い忘れてた。あのね、アイツ、土曜日から海外出張だって言ってた」

「えーっ!?」

予想だにしなかった、爆弾発言。

そんな……そんな……ほんとですか? 

……そうか、昨日のあのひとの変な顔は、それ……?

「あの、それであのひとは……?」

「気が付かなかったの? もう出て行ったわよ? 出張前で、朝の会議だとかで、6時半には出て行ったかなー」

私、泣きたい。話が全然違う……

「仕方ないでしょ。今回のは突発らしいし、私だって一昨日聞いた話だもの。

なーに不満そうな顔してるのよ、半月だそうだから、まだ良い方よ? そりゃ1年とかだったら貴女、泣くでしょうけど」

お姉様<オリジナル>が半分ざま見ろ、と笑っているような気がした。

私のプランが、いや妄想がガタガタと音を立てて崩れてゆく……。
991 :LX  [saga sage]:2013/01/10(木) 21:46:05.48 ID:1IBHAIL60

そして今日は、あのひとが帰ってくる日。

毎日、指折り数えて待っていた。たった一人の私は、まるで子供みたいに。

そんな日に限って会議と取材が入っている。あのひとを迎えに行くには、時間的にちょっと難しい。ちょっと残念だ。



今日の会議については、あらかじめ資料・データが配布されていた。

内容を確認すると、今回はひとつだけ私の判断ではまずい部分があったので、お姉様<オリジナル>に相談したところ、資料を見たいからこっちに来なさい、と言われた。

かくして私は昨日の夜、生まれて初めて学園都市の外へ出た。

イミグレでの手続きは拍子抜けするほど簡単だった。苦労したミサカたちもいたのだが、この違いは何だろう、考えてみたけれどさっぱりわからない。

お姉さま<オリジナル>は出口で待っていて下さった。

「元気そうね。大変なこと任せちゃってごめんね」

なんとなく身体が丸くなっていたように見えたのは気のせいだろうか。

タクシーに乗り込むと、お姉様<オリジナル>が寿司屋らしき名前を告げると、クルマは走り出した。

ロボットが走っていない街中はとても新鮮だった。

寿司屋は30分ほど走った場所にあった。

中にはいると、不思議な事にどこにも寿司がなく、そもそも皿を動かすコンベアもなかったので、ここは何のお店なのか不安になった。

そんな私をお姉さま<オリジナル>は笑って見ていた。

打ち合わせは、ふすまで仕切られた角の座敷だった。隣には誰もいなかったが、私たちは声を潜めて話をした。

打ち合わせ自体はそれほど長くはかからなかった。

特別に持ち出したメモパッドを開き、パスワードを打ち込んだお姉様<オリジナル>は資料をざっと読み、私の補足説明を聞くと暫く考えた後、3つほどの選択肢を挙げてそれぞれの場合の対処法を私に指示した。

いずれも納得できる答えだったので、今回の討議内容についての対応は自分の頭で十分理解することが出来た。

取材の件については、お姉様<オリジナル>は笑って、私に任せると仰った。



海外出張に出ているあのひとのことを、お姉さま<オリジナル>は驚くほど詳しく知っていた。

「だって、殆ど毎日連絡してるもの」

そうなんだ……私には2回しかなかった。「無事着いたから」と「明日戻るよ」という簡単なものだけ。

それでも十分嬉しかったのに。ああ、聞かなければ良かった。悲しくなっただけだった……。

「ま、帰ってきたら文句のひとつでも言ったげなさいな」

そして、お姉さま<オリジナル>は最後に厳しい顔で私にこう仰ったのだ。

「もう一度言っとくけど、子供作るようなマネだけは止めてね。そうなったらあんた、外すから」

わかってます、そんなこと。

二度も言わないでください、尊敬するお姉さま<オリジナル>……。



あー、嫌な事を思い出してしまった。

「上条委員? 5分前ですが何かありましたか?」

「秘書・琴子」から確認メッセージが届いた。いけない、こんなことでは。

お姉さま<オリジナル>に笑われちゃう。

「いえ、大丈夫よ。ありがとう、琴子」

今日は「美子」は休みで、代わりに「琴子」が出ている設定なのだ。いいなぁ検体番号19090号は、公にそのままの「自分」で居られて……。

……さてと、仕事だ。「上条美琴」、出陣するわよ!
992 :LX  [saga sage]:2013/01/10(木) 21:58:31.38 ID:1IBHAIL60

予想外にスムースに取材が終わった!

これは、間に合うかもしれない。 あたふたと私は空港のフライト情報板を見る。 

あら、海外からの到着便の案内では出発が1時間遅れてて、到着予定時刻は1時間半も遅い時間になってるじゃない! 

ラッキー! これなら、多分、いける!

「琴子、あとは宜しくね!!」

「お気をつけて、上条委員」

ニヤニヤと琴子が笑って私を見送る。いいでしょ、お姉さま<オリジナル>だってきっとそうしたはずだもの。

エレベーターでロビーに下り、私は脱兎の如く正面玄関を駆け抜けタクシーに乗り込む。

「国際空港、到着の方!」 

私、やっとあのひとに会える! 



着いて5分後、到着のサインが点灯した。無事着いたらしい。良かった。間に合ったー。

30分くらいかかるのだろうか、何人かのミサカの話だと、ひどいところは1時間くらいかかる空港もあるといっているけど。

ここは天下の学園都市なんだからそんなことは…ないよね?



「よ、ただいま」

いきなり肩をたたかれた。

「えっ?」

あのひとだった。

「出迎えてくれたんだ? 有難う。遅れたみたいだけど、ずっと待ってたの?」

すまないな、という顔で、頭をかく、あのひと。

「ううん、今、いま来たばっかりなの」

私はそれしか言えなかった。もっと言いたいことが、あるのに。

たくさん、とってもたくさん、山ほど一杯あるのに……!

「あー、待たせちゃったんだな。ごめんな」

「あ、それ、私持とうか?」 

気を取り直した私は、お姉さま<オリジナル>らしく言って見る。

違う! 私の言いたい事、そんなことじゃないのに。どうしてどうでもいいことばかり言葉になるの?

それでも私の身体は独りでに動いて、あのひとの大きなキャリアケースを持とうとする。

「あ、それはいいから」  あわてたように言うあのひと。

「すまないな、その中には製品サンプルが入ってるんだ。忘れなかっただろうな、上条当麻?」

(誰?) 聞きなれない声がした。

「あれっ!?」

声の主の方を見る、あの人の視線の先にいたのは…

「社長…」

社長? 私はデータベースを探す。

……いた。

 ―― 雲川芹亜(くもかわ せりあ) ―

というひとだった。
993 :LX  [saga sage]:2013/01/10(木) 22:02:14.94 ID:1IBHAIL60

社長、だと言うあの女の、見下すような一言。

「おや……? あ、そうか君が……おお、お役目ご苦労さん」

そして、私の顔を見て、なるほどね、という顔であの女は私にそっと、こう囁いたのだ。

「御坂の代わりも大変だな」

……私は驚愕した。どうして、何故、社長は、いやあの女は私が身代わりだと言うことを知っているのだろう?



あのひとは、結局その場から拉致同然に連れて行かれてしまった。

私はあの一言で呆然としてしまって、あのひとが連れて行かれるのを見ても何も出来なかった。

「ごめん、ちょっと会社寄ってくるから先に帰ってて?」

せめてもの救いは、あの人がそう言ってくれた言葉。



――― 疲れたでしょ? お仕事大変ね ――― 

――― ご飯は? どこかで食べて行こうか? ―――

――― お風呂沸いてるから。えへへ、一緒に、入ろっか? ―――

あれやこれや考えてきたことが、全部妄想に終わっちゃった……。



それにしても、遅い。

もう夜、11時を廻った。

メールくらい送ってくれてもいいのにな……

                 ― ♪ ―

あ、あのひと、帰ってきた!

私は玄関へ飛び出した。

「おっかえりー …? ええっ?」

「…つかれた… しんだ……あ、すまん、遅くなって…」

見るからに疲れ果てた、体力を消耗した、あのひとが立っていた。

「どうしたんですか、いったい何があったんですか?」

「すまんな、頼む寝かせてくれ、もうダメ……耐えられねぇ」

殆ど倒れ込むように入ってきたあのひとを、私は瞬時に抱きかかえるように支えようとした、そのとき。

     

   ― どこでお風呂に入ってきたの? ―



お湯とソープの混ざった香りを私の鼻は捉えていた。しかも、どこかで嗅いだような……

「もう駄目、死にそう……」

ふらふらのあのひとは、それでも洗面所へと歩いていった。

私はというと、どこかでかいだ記憶のある香りについて、必死で記憶を手繰らせる。

「!」

そう、あの、おんな。雲川芹亜のものだった。
994 :LX  [saga sage]:2013/01/10(木) 22:17:17.73 ID:1IBHAIL60

「ごめんな。まさかこんな時間かかるとは思ってなかったんだよ」

疲労の色が思い切り濃い、あのひと。

顔を洗ったら、少し落ち着いたと言って、缶ビールを飲む、あのひと。

「そんな、難しいお仕事だったのですか?」

……でも、私の頭の中では、ろくでもない話が、恐ろしい内容が渦を巻いていた。

まさか、あのおんな、と? 

「うん……契約の中にまずいことがあってね、えらく怒られた。何故そこで抗議してこなかったかって」

「その場でさ、国際電話かけることになって、社長自ら相手とやりあって」

「メールで原稿のやり取り始まって、延々と英作文の添削だぜ、もう死んだ」

あの人は疲労困憊、というように、少しずつ、少しずつ話をしてくれた。

「で、『美子』いや、ごめん、『美琴』さ」

「ううん、いいの……あの、今は『美子(よしこ)』と呼んで下さいませんか?」

他に誰も居ないのだから、お姉様<オリジナル>ではなく、あなたには私を、このミサカの名前で呼んで欲しい。

「そうか? ああ、美子さ、明日は午後からで良いって。半休出してきたから、明日の朝は、一緒に出られないけど、すまん」

そんなこと、どうでもいいのに。でも、やっと私の名前、呼んでくれた。ちょっと、嬉しい♪

「お風呂沸いてますけれど、入りますか?」

「すまん、明日の朝入ることにするよ。悪いな、遅くまで待っててくれたのにゴメン。今日は寝かせてくれ」

お背中、流してあげたかったのにな……ちょっとハプニング、期待したんだけどな……つまんないの。

そのせいではないだろうけれど、あの人は立ち上がって歩きかけたところで足首をひねった。

「痛っ!」  

あのひとは身体のバランスを崩してテーブルに肩をぶつけ、そのまま床に沈んだ。

「痛てて…ふ、不幸だ」

あはは、初めてナマで聞いちゃった。

MNW(ミサカ・ネットワーク)でスレタイにもなったことのある、あのひとの口癖。

おっと、笑ってる場合じゃなかった。あのひと、うめいてるじゃない!

「だ、大丈夫ですか?」

私はテーブルからカップやポットが落ちないようずらせて中程に纏めて置き、それからあの人の肩に腕を差し入れ、

「痛てて、美子、そこ痛い」

え、と思った私があのひとのシャツを脱がすと…



あのひとの両肩に、小さな、でもちょっと深そうな「真新しい」切り傷があった。

血止めクリームが塗られてあるので、出血はしていなかったけれど、確かに痛そうな、傷。

両肩に2つずつ…? いや、よく見ると深いのは2つずつ、浅いのが2つずつ、4つずつの8箇所もあった。

そして、蚯蚓腫れのような、摺ったような細い傷も何本か…

なによ、これ?
995 :LX  [saga sage]:2013/01/10(木) 22:33:31.96 ID:1IBHAIL60

肩を貸して、あのひとをベッドに寝かしつけると、あのひとは間髪を居れずに眠りに落ちた。

未だかつて見たことがないくらい、素早い寝付きだった。

私は自分のモバイルからネットの何でも相談室にアクセスした。

「彼が、背中にこれこれの傷をつけて帰ってきたんですけれど、何の傷でしょう」と。

間髪入れずに、と言っても良いくらい短時間で答えがいろいろ返ってきた。

「ご愁傷様です。女の爪あとですね」
「えー、浮気の証拠じゃん! さっさと別れなよ?」
「それはですね、正常位で下になっている女が男の背中に爪を立てるとそうなります、ってあんたエロ漫画見過ぎじゃね?」
「お前、その彼とセックスしたことないの? ツメ立てた事無いの?」

見ていられずに、私は電源を切った。我ながら、よく放り投げなかったものだと後で思ったけど。



やっぱり。

酷い。

酷すぎるよ。

どうしてよ。

不潔よ! この女たらし! ドスケベ! 変態!

こんなことって、こんなことって。

舞い上がってた、私。まるで、

    ― バカ ―

ね。

私だって、私だって、ミサカだって……ずっと、ずっと、待ってたのに。

バカバカバカバカバカ、上条当麻の、バカーっ!!!!!!!!!!!

------------------

気がつくと、そこは私、検体番号10039号、の部屋だった。

時計を見る。

深夜3時。

私、どうやって帰ってきたのだろうか? 全然記憶がない。

……。

そうだ、怒りにまかせて、何か書きなぐって飛び出してきたんだっけ……ま、いいか。

何言ってるの、いいわけないでしょ! 

ダメだ、こんな事じゃ。せっかくのチャンスなのに、他の女に良いようにされちゃう。

冗談じゃないわ! 負けてなるものですか。

この時を逃したら、わたしの想いは永遠にあのひとに届かないのよ! しっかりしなさい、ミサカ!!

……でも、どうやったら、あのひと、振り向かせられるんだろう?

このままじゃダメだ、このままじゃ。それだけはわかる。

何か、良い方法を考えなきゃ……

待っていちゃダメだ。あのひと、鈍感なんだから。恥ずかしいとか言ってたらダメなんだ。

そうよ、あの女みたいに強引に行けばいいのよ……ようし!
996 :LX  [saga sage]:2013/01/10(木) 22:39:40.85 ID:1IBHAIL60

「怒ってる?」

私は黙っている。

「な、昨日はごめんよ。もう死にそうだったんだよ」

一生懸命、機嫌を直そうとしてあれやこれや言い訳するあのひと。

まだまだ。

我慢、ガマンよ、ミサカ。

一発で決めないと。

失敗は許されないんだから。

「あなた、昨日、あれからどうしたの? 何があったわけ?」

あのひと、目を白黒させてる。おかしい。

ううん、そんなことに心を動かしちゃダメ! お姉様<オリジナル>が許しても、ミサカは絶対許さないんだから!

「あれ、言わなかったっけ……? もう一度言うと、契約の中身の点検を『うそおっしゃい!』……ウソじゃないぞ?」

「ふーん、そう、なんだ?」

「ああ、そうだ」

「じゃアンタ、今ここでそのシャツ脱いで、私に背中見せてご覧なさいよ? ほら」

あはは、ほーら詰まっちゃった。ミサカは騙されないんだから。

あ、え? 何これ、あ、もしかして土下座? これが有名な、あのひとの? あはは、初めて見た。なんか気分いいわね、わたし。

「すみませんでしたっ!」

「アンタ、あの女としたのね?」 謝って済む事じゃありません!

「すみません! クビになりたくなければ言う事を聞けって、もう強引に、本当にごめんなさいっ!」

高い声がいいかな……いや、低い声でドス効かせた方が効果的ね。よし、それで行こう。

「理由はどうあれ、これは由々しき問題です。お姉さま<オリジナル>への重大な背信行為です」

「いや、そうだけど、相手が悪かったんだよ」

「お黙りなさい! あなたの得意技を使えばよかったでしょうが?」

「は?」

「おまえのその幻想を、ぶち壊す! って、アレの事です!」

「……お前、それさ、まだ右も左もわからねぇ高校生の時の話だぞ? 今そんなことやったらどうなると思う? それに、相手は社長なんだぞ? 出来るわけないだろう」

「へーぇ……ふーん、そうなんだー? あなたもオトナになっちゃったんだー。昔は、女の子だろうと誰だろうとぶん殴っていた人が、ねぇ……」

「頼むからもう止めて、もう恥ずかしいから」

「ちょっと、話をずらさないの! まったくもう……やっぱり、お姉さま<オリジナル>に報告致します!」

「おぉい……頼むよ、御願いだよ。美琴には黙っていてくれ、頼む。何でも言う事聞くからさ」

ようし、来た。やっと、言ったわね。ふふふ、これを待っていたのよ。 さぁ、ミサカ、チャンスよ?

「あっそう。何でも言う事聞くんだ……それなら、ま、黙っててあげてもいいかなぁ?」

「そ、そうか。頼む。御願いだ」

「でもねー、ひとつ条件あるんだけどな?」

「な、なんだ?」

さぁ、ミサカ、決めるのよ。そう、傍ににじり寄って、微笑んで! 上目遣いで、さぁ行けっ!!

「私も、抱いて……ね?」

キャ、言っちゃった! ねぇ、嫌とは言わせないんだからね、あ・な・た? うふふっ♪

(番外編その2 完)
997 :LX  [saga sage]:2013/01/10(木) 22:50:33.58 ID:1IBHAIL60
>>1です。

本日投稿分、これにて終了です。
最後までお読み下さいまして本当に有り難うございました。

検体番号10039号、目出度く? 想いを遂げる事が出来た……のでしょうか、ご想像にお任せします。

しかし、このまま行くと、当麻命の妹達<シスターズ>は、皆想いを遂げそうで怖いです。
10033号もいますし、不遇の10777号も、ですねぇ。


>>984で書いた、佐天親娘の話は第三部の番外編に致します。

それでは第三部の構築に頑張りたいと想います。
2010年7月よりお付き合い下さいました皆様、本当に有り難うございました。

第三部、下記のスレで頑張りますので引き続き宜しく御願い申し上げます。

      ↓    

「新・学園都市第二世代物語2」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1355056774/
998 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/10(木) 22:50:48.91 ID:6Ax2ygt2o
上条、軽蔑対象だな、これ
999 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/10(木) 23:33:34.57 ID:hY7vtxTwo
1000 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/11(金) 01:03:21.32 ID:p1EtVbMzo
1000
1001 :1001 :Over 1000 Thread
☆.。 .:* ゜☆.  。.:*::::::::::::::::゜☆.。. :*☆:::::::::::::::::: 。.:*゜☆.。.:*
:::::::::::::=:。.: *  ・゜☆  =:☆.。 .:*・゜☆.  。
:::::::::::::::::::::::::.:*゜☆  =:. :*・゜☆.::::::::::::☆
。.: *・゜☆.。. :* ☆.。:::::::::::::::.:*゜☆  :。.:・゜☆.。
::::::::::::::::: *=@☆.。::::::::::::::::::::::::::::::.:*・゜☆    =磨K☆.。
:::::::::::::::::::.:*・゜☆  :. :*・゜☆.::::::::::::::::::::::::::゜☆.
:  =: :   *  ゜☆.。::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
☆.。 .:* ゜☆.  。.:*::::::::::::::::゜☆.。. :*☆:::::::::::::::::: 。.:*゜☆.。.:*
:::::::::::::=:。.: *  ・゜☆  =:☆.。 .:*・゜☆.  。
:::::::::::::::::::::::::.:*゜☆  =:. :*・゜☆.::::::::::::☆
。.: *・゜☆.。. :* ☆.。:::::::::::::::.:*゜☆  :。.:・゜☆.。
::::::::::::::::: *=@☆.。::::::::::::::::::::::::::::::.:*・゜☆    
:::::::::::::::::::.:*・゜☆  :. :*・゜☆.::::
   ::  !ヽ  :
   :     !ヽ、    ,!  ヽ
                 ,!  =]‐‐''   ヽ:
   :   / ´`)'´    _      !、
            lヽ /   ノ    , `     `!:
       lヽ、  /  Y    ,! ヽ-‐‐/          l
.     =@>‐'´`   l   ノ   ヽ_/          ノ:
      ,ノ      ヽ =@           _,イ:
    '.o  r┐   *   ヽ、 ヽ、_     ,..-=ニ_
    =@   ノ       ノヽ、,  !..□ /     ヽ
     ヽ        .ィ'.  ,!    ハ/    、   `!、    七夕に…
      `ー-、_    く´ =@    /     ヽ  
         ,!     `!  l              ヽ、__ノ    このスレッドは1000を超えました。もう書き込みできません。
         l     `! `! !              l
          l  . =@ ,=@ヽ、 、_ ,ィ      ノ               
         l、_,!   し'   l =@  `l     =@               ://vip2ch.com/
1002 :最近建ったスレッドのご案内★ :Powered By VIP Service
姫「ゆ、勇者様っ」勇者「人違いさ」 @ 2013/01/11(金) 00:18:24.29 ID:DSSXaBrlo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1357831104/

隅っこで流れて小ネタを書いてみる @ 2013/01/11(金) 00:12:13.27 ID:dLM89QCu0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1357830733/

男「…へ?」 魔娘「だから…」 @ 2013/01/10(木) 23:58:05.46 ID:K9QxRI9Ro
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1357829885/

犬娘「わふっ」 @ 2013/01/10(木) 23:56:53.90 ID:UEN2N96IO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1357829813/

とある中国武侠の学園都市――The Cyber Slayer―― @ 2013/01/10(木) 23:55:42.91 ID:YUNojuni0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1357829742/

上条「いろんな能力で物語進める」 ミーシャ「その4」【安価】 @ 2013/01/10(木) 23:52:42.11 ID:NZNVBCDfo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1357829561/

【PSO2】PS Vitaクローズドβテスト特典入手代行 @ 2013/01/10(木) 23:28:17.98 ID:HvLjVd1ao
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1357828097/

菜々「ウサミンこたつバラエティ」 @ 2013/01/10(木) 23:15:10.63 ID:Z/JtIqJ80
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1357827310/



VIPサービスの新スレ報告ボットはじめました http://twitter.com/ex14bot/
管理人もやってます http://twitter.com/aramaki_vip2ch/
Powered By VIPService http://vip2ch.com/

1293.21 KB   
VIP Service SS速報VIP 専用ブラウザ 検索 Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)