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青年「チョコレートケーキと抹茶の相性は」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :1 :2011/07/11(月) 13:16:16.18 ID:W7KQJ5jAO
注意

・オリジナル
・暴力、流血表現有り
・勝手に考えた魔術が出てくる
・更新は遅い
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佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
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全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
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トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
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【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
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ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
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2 :1 :2011/07/11(月) 13:17:06.23 ID:W7KQJ5jAO
零話 こうふくのもけい

迫害されていた私を
殺害されかけた私を
助けてくれたお姉ちゃん。
今度は私が助けにいく番だ。
どんな犠牲を生もうとも構わない。
私にはあなたしかいないのだから。
3 :1 :2011/07/11(月) 13:18:28.62 ID:W7KQJ5jAO
一話 ちょこれーと


比較的大きな机に、図形や文字がびっしりと書き込まれた紙が何枚か散らばっている。
その紙のそばにはシャープペンシルや万年筆や羽ぺんが散乱していた。
それらの持ち主である青年は意識を手元に注いでいる最中だ。

青年「あれだな、」

ぴりぴりとチロルの包装紙を外しながら彼はいった。

青年「チョコは甘いのがいいんだよな。95%のビターチョコは外道だろ」

彼のそばの椅子に腰掛け、ポッキーをリスのようにかじっていた少年はぱちくりとまばたきした。
4 :1 :2011/07/11(月) 13:19:15.09 ID:W7KQJ5jAO
自分はポッキー、相手はチロルに集中していたのでそれまで無言だったのだ。
少年のサファイアブルーの瞳がルビーレッドの瞳の持ち主を捉える。

少年「ああ、あの95%チョコは凄かったですね。グランデなんか悶えてましたですし」

なんだか妙な話し方だった。
少年はその事を思い出したのか、目を細め、くっくっと喉の奥で笑う。
それはその幼い外見とは似つかない年取ったような笑い方で。
青年はそのことに慣れているのかなんなのか、一切触れない。

青年「苦すぎだったな…あれは」
5 :1 :2011/07/11(月) 13:20:11.01 ID:W7KQJ5jAO

遠い目をしながらチロルを口に放り込んだ。包み紙は近くのゴミ箱に捨てる。

青年「でも甘すぎるとくどいんだよな」

少年「そうですね。ミルクチョコあたりがベストだと思いますですよ」

青年「俺もそう思う」

話が一段落したころ、ばたばたと扉の向こう側が騒がしくなった。
青年は「ゲッ」と漏らして机から足を下ろし慌てて立ち上がる。
逆に少年は落ち着いたもので、ポッキーの箱を勝手に机の中へしまった。
そしてササッと部屋の隅へ寄る。
6 :1 :2011/07/11(月) 13:20:39.29 ID:W7KQJ5jAO
つまり、部屋に入った人間はまっ先に青年を見ることになる。

青年「あっ、ずる――」

抗議の声は勢いよく開いた扉の音によって掻き消された。
そこに立っていたのは、秘書を任せている女だった。
見た目からして年は青年と同じ十代後半か二十代前半ぐらい。
そんな彼女が電卓片手にぜぇはぁと肩で息しているのはなかなかシュールな光景だった。
青年はひきつった顔で事態の流れに身を任すしかない。
やがて、息を整え終わった女が叫んだ。

秘書「今月も赤字なんですけどぉぉぉぉ!」
7 :1 :2011/07/11(月) 13:21:30.53 ID:W7KQJ5jAO
* * *

秘書「面倒くさい『仕事』でも、受けないと駄目って言ったじゃないですか」

青年「ハイ、ソウデスネ」

床の上に直接正座している形で青年はお説教をうけていた。
少年は彼女が入ってきたのと同時に外へ逃げた。
前回巻き添えを食らったことから色々学んだようだ。
最初からマークされている青年は逃げようもないが。

秘書「なんか、他に副業みたいなのやりませんか?」

青年「副業か。例えば?」

秘書「うーん……人捜し、とか」
8 :1 :2011/07/11(月) 13:22:01.13 ID:W7KQJ5jAO
青年「人捜しって。そりゃ探偵の仕事だろ」

秘書「そりゃそうですけど。でも公に捜せない人も中にはいるかもしれませんよ」

青年「あー、なるほどな。…考えとく」

出来ないことではないし、『仕事』が増えて赤字を回避して怒られないのならばいいか、と考える。
彼女は普段温厚なのに赤字が出た瞬間に鬼となるから扱いが難しい。
そうなると落ち着かせるのにとてつもない神経を使うので、それが避けられるなら喜ぶべきだろう。
まあ、現実はそう甘くはないだろうが。
話し合いが平和的に終わりかけたときに、静かに扉がノックされた。
9 :1 :2011/07/11(月) 13:23:41.81 ID:W7KQJ5jAO
青年が許可を出すと、隙間から細身だが190センチはあるだろう巨体が覗いた。
扉に頭が軽くぶつかったのはいつものことだ。

大男「エデ、ちょっと手を貸してほしい」

エデと呼ばれた女は不思議げに大男の顔を見た。

秘書「良いですが…怪我でもしたんですか?」

大男「いいや、怪我したのは俺じゃない。こいつだ」

そう言って身体を軽く捻らせ、背中におぶっているものをみせる。

――全身を血で染めた少女を。

10 :1 :2011/07/11(月) 13:24:43.24 ID:W7KQJ5jAO
秘書「……色々聞きたいですが、今は手当てをしないと」

意識のない少女の手首を持ち、脈を測る。
するするとその表情が険しいものへと変化した。

秘書「脈が弱まってる…」

青年「奥から三番目のところに空き部屋があっただろ。そこ使え」

秘書「ありがとうございます。では彼女をこっちへ」

ぱたぱたと二人が廊下に消えるのを見て、青年はため息をついた。
11 :1 :2011/07/11(月) 13:26:28.18 ID:W7KQJ5jAO
しびれた足を気遣うように立ち上がり、片足で軽く床を蹴った。
彼を中心に黒々とした魔法陣が床の上に現れる。
次の瞬間、一気にそれは広がって彼らが今居る建物を囲んだ。そして色を失って透明になる。

少年「『隠蔽魔術』ですか。ご主人、だいぶうまくなりましたですね」

先ほど逃げたはずの少年がいつの間にか彼の横に立っていた。
青年は恨ましげに少年を睨んだが首を振って再びため息をつく。
12 :1 :2011/07/11(月) 13:32:03.18 ID:W7KQJ5jAO
青年「あいつ、魔術師だろ」

少女から魔術が身体からかすかに漏れていた。
あの二人は分からないが、青年は視覚でも聴覚でもない感覚でそのことに気付いていた。
傷ついているというのは誰かと戦闘をした結果。
ならば、その誰かさんは止めを指すべく少女を捜しているかもしれない。
そして匿っている(つもりではないのだが)ことばバレるとややこしいことになる。
だから魔術の気配を一時だけ隠すことにしたのだ。

少年「そうですね。それも生まれつきの」

青年「生まれつき……ね」

少年「はぁ。彼も厄介なの拾ってきますですね」

青年「まったくだ。前回の野良猫といいあの野郎」

毒つきながら青年たちも後を追った。
13 :1 :2011/07/11(月) 13:33:52.70 ID:W7KQJ5jAO
今日はここまでです。
まだ名前が一人しか出てきてないという…
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/11(月) 15:59:27.96 ID:EwnxaGYA0
お?面白そう、期待してる
15 :1 :2011/07/15(金) 09:40:50.30 ID:ESpt7DcAO
外からの見た目に反して長い廊下を歩いていく。
そして目的の部屋――奥から三番目の部屋の扉を開いて、

青年「うわぁぁ!?」

目にした光景に思わず叫んでしまった。
後ろから付いてきた少年は特に反応をしなかった。
床に少女が横たえられており、そばにエデが屈んでいる。
どうも全身の傷を調べている最中だったらしい。
16 :1 :2011/07/15(金) 09:41:57.78 ID:ESpt7DcAO
彼女の周りには血にまみれた衣類と下着が散らばっている。

つまり、要するに、全裸。

局所はさすがにタオルで隠されてはいるが。
同じ女として何かしら気配りをしてあげないのだろうかとつい思ってしまう。
まあ治療のしやすさ優先にした結果なのだろう、なにやら色々失わせてる気もするが。
女の子のプライバシーとかプライドとか。
同席している大男は天井を睨み付けている。
見ないように努力してるのがありありと伝わった。
エデはそんな叫びや気まずさを無視して淡々と報告をする。
17 :1 :2011/07/15(金) 09:44:09.94 ID:ESpt7DcAO
秘書「心臓に深い傷が。生きていることが奇跡ですね」

確かに胸の辺りが赤を通り越して浅黒くなっいる。タオルまで鮮やかに染めていた。
そっとエデが未だ流れ続ける血を指先で掬って、躊躇いもなくそれを口の中に入れた。

秘書「あ、AB型のR+ですね。良かった、私と同じです」

ほっとする彼女とは対照的にに青年はひくりと頬をひきつらせる。

青年「……いつも思うが変な特技だよな」

まず他人の血を口に含むところから変だが。

秘書「ソムリエみたいなものですよ」

青年「そんなもんか」
18 :1 :2011/07/15(金) 09:48:09.69 ID:ESpt7DcAO
会話を交わしながら腕の内側などを念入りに見ていく。
夏の名残であろう少し日焼けした肌。
虐待のようにあちこちが痣だらけでもない。
胸以外はすり傷程度の軽い怪我だった。
奇妙だと青年は考える。
まるで心臓だけを狙ったような傷。
そんな芸当は普通の人間には出来ない。
やはり魔術師が絡んでいると見た方が良さそうだ。
エデが立ち上がり、スッと空中に人差し指をなぞらせる。
彼女の指先から金色のインクがさらさらと流れてきた。
地面に落ちることなくそれは空中に留まったままだ。
そして少女の周りを舞うように図形を――魔法陣を一筆書きの要領で描く。
すぐに少女一人をすっぽりと囲む魔法陣が出来た。
19 :1 :2011/07/15(金) 09:50:20.70 ID:ESpt7DcAO
秘書「 、 」

小さく唱えると金色のインクが輝き出した。
くるくると投げられた円盤のように魔法陣が回り始める。
金色の粉のようなものが少女に降り注いで。
終わった頃には少女の全身の傷は癒えていた。
エデは満足げな表情で青年達に振り向いた。

秘書「後は彼女の目覚めを待ちましょう」

そう言って、自分の腕から少女の腕に例の金色の線を引いた。
まるでチューブのような。どうやら輸血をするようだ。

大男「…加熱無しで良いのか?」

秘書「魔術でなんとかします」

青年「アバウトだな」

秘書「あなたにだけは言われたくありません」
20 :1 [saga]:2011/07/15(金) 09:59:56.88 ID:ESpt7DcAO
しばらく時間が過ぎた後。
「ちょっと入れすぎたかな」といいつつ立ち上がった彼女に、気まずげに大男が切り出した。

大男「……服は?」

秘書「上着はもう諦めましょう、真っ赤ですし。スカートは無事ですが…」

チョキにした指で線を切りながら少女が着ていた服を観察する。
紫色のパーカーは胸に穴が開いた赤いパーカーになっている。
元通りに戻すのは絶望的だろう。

青年「そういやグランデ、お前も背中真っ赤じゃねえか」

大男「ああ…まあ仕方ないですね」

今更のように背中を気にする。
背後から通り魔に合ったみたいな人だった。

大男「で、会話に戻るが。服はともかくとして――下着は?」
21 :1 [saga]:2011/07/15(金) 10:07:00.86 ID:ESpt7DcAO
ぴきり。
小さな破裂音がした気がした。

秘書「………私のが小さいと言いたいんでしょうか?」

青年「事実その通りじゃないのか?」

青年がタオルで隠されている少女の胸の膨らみに目をやる。
エデが1なら、少女は3というあたりか。

秘書「………」

大男「………あ」

青年「……?」

少年「あっ、ボク、用事あるんであっち行ってますですね!」

殺気を感じた少年はにこやかにすばやく退出した。
あとに残ったのは血色がだいぶ良くなった、眠り続ける少女と、
ブチッとどこかの血管が切れた女と、
死亡フラグをたてた男二人。


怪我人が二人増えた。


22 :1 :2011/07/15(金) 10:11:50.68 ID:ESpt7DcAO
続く
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/07/15(金) 16:58:59.82 ID:h54AP0dAO
期待
24 :1 :2011/07/15(金) 20:44:57.06 ID:ESpt7DcAO
* * *

少し時間を遡って。
青年の知らないところ。

栗色の髪をなびかせながら目的の部屋へと女は歩く。
カツカツとヒールの音が通路に反響する。
目的の場所へとつくとヒールは沈黙し、通路は酷く静かになった。
厳重に閉められた扉を軽々と解いて、ノックもなしに入る。
中には長い緑色の髪を持った女が、質素なベッドにうつ伏せに寝ていた。

緑髪「……何のようですか」

こちらには顔を向けない。
不貞腐れたような。
あきらめたような。
そんな連れない態度で聞く。


25 :1 :2011/07/15(金) 20:46:38.66 ID:ESpt7DcAO
栗色「ご報告よ。妹っぽい子が探しにきたわ」

ぴくっと緑髪の女の肩が動いた。
それを見て栗色の髪の女は楽しげに唇を吊り上げる。

栗色「ま、追い返したけどね」

緑髪「……それで彼女は?」

栗色「心臓を裂いて捨てたけど。今頃野垂れ死んでんじゃない?」

緑髪「!」

その言葉を聞くなりがばりと起き上がり相手を睨む。
憎しみと怒りが髪と同色の瞳に浮かんでいた。
その表情に栗色の髪の女はどこか満足げな顔をした。

栗色「ああ、アナタそんな顔できんのね」

緑髪「…何故そんな重症を負わせたんですか!」
栗色「あら。あんな『害悪』を生かすのがマチガイよ?」
26 :1 :2011/07/15(金) 20:47:46.67 ID:ESpt7DcAO
わけがわからないわ。
栗色の髪の女はそう言った。
怒られている意味が分からない、と。
悪いことなんかしてないみたいに。

緑髪「あの子は害悪なんかじゃありません!」

叫ぶと共にするりとベッドから立ち上がる。
その細い腕には銀色に光る腕輪が大量につけられていた。
ファッションにしては異様すぎる。

栗色「ムリムリ。今はアナタの魔術を封じてるもの」

余裕げに女は笑うと、カツカツと緑色の女に近寄る。

栗色「そうね…少し眠ったらどうかしら?」

パチンと指を鳴らした。
それだけで緑髪の女はがくりと膝を折り、倒れる。
27 :1 :2011/07/15(金) 20:53:14.82 ID:ESpt7DcAO
緑髪「ん、の……」

小さな恨み言を最後に声は消えた。
腕輪が耳障りにガチャガチャと音を立てたが、それもすぐ止む。
足元に倒れ伏した彼女を見下ろしながら歌うように呟いた。

栗色「早く残りの“カギ”、集まらないかなァ」


倒れたままの彼女に毛布を一枚放り投げ、部屋から出ていく。
鍵をしめ、見張りに指示を出して栗色の髪の女はカツカツと歩く。
ステップを踏むように。

夜はまだ始まったばかり。
そして朝はまだこない。
28 :1 :2011/07/15(金) 21:42:57.94 ID:ESpt7DcAO
* * *

深夜。
突然ぱちりと少女の瞼が開かれ、緑色の瞳が覗いた。
真っ先に目に入ったのは見慣れぬ天井だった。

少女「………」

驚くでもなく叫ぶでもなく、ゆっくりと起き上がる。
どうやらソファに寝かされていたようだ。
場所はリビングのようなところ。
少女はぼんやりと辺りを伺って、ふと斜め下に視線をやる。

少女「………」

これまた見知らぬ女が床に座り、ソファに寄りかかっていた。
窓からわずかに入る月光が、彼女の緑がかった金髪を照らしている。
顔はここからでは見えないが、穏やかに肩が上下している。
29 :1 [saga]:2011/07/15(金) 21:45:59.79 ID:ESpt7DcAO
それをしばらく見るともなしに見た後、そっとソファから足を下ろし、
そして胸に指を這わせた。
どうしてか傷が塞がっている。
これが一番不思議だった。死を覚悟したような怪我だったのに。
更にワイシャツに着替えており、あとは下着がなんかキツイ。

少女「………」

横で眠っている金髪の女をもう一度見る。
恐らくは彼女が面倒を見てくれたのだろうと予想をする。
それに――弱いが魔術師の気配がする。
彼女もまた自分と『同類』か。
気になって意識を集中させると、もう一人別の部屋に『同類』がいるようだと感じた。
だが魔術師は魔術師でも、もっと違うもの。
30 :1 [saga]:2011/07/15(金) 21:48:51.51 ID:ESpt7DcAO
少女「……契約者」

ぼそりと呟くと音もなく立ち上がる。
どういう意図で『契約者』が魔術師を助けたのか、いや『契約者』が
魔術師と一つ屋根の下に生活しているのか気になるが、少女には関係ない。
「早く行かなければ」という焦燥感が少女の心を埋め尽くしている。
世話になったお礼を言わないまま出るのは心苦しいが――
――それ以上に事態は切迫していた。
予定など元から考えてはないが、もし合ったなら大幅な遅れだ。
早くその遅れを取り戻さなければならない。
ふらりと一歩、二歩、ドアへ歩き出したとき。

  「体力までは戻っていないはずですけどね」

背後から声が聴こえ、振り向く。
31 :1 :2011/07/15(金) 21:49:59.65 ID:ESpt7DcAO
続く!
魔術師やら契約者やらはまた今度説明させます
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/07/15(金) 22:50:25.62 ID:h54AP0dAO
>>1
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/17(日) 12:00:21.33 ID:DgxIlj9Y0
余計なお世話かもしれんけど一回の投下量少なくね?
ストーリーはもちろん面白いけど……
34 :1 [saga]:2011/07/18(月) 22:17:26.87 ID:e+cWMAKAO
いつの間にかに少年が窓の側に立っていた。
本当に、いつの間にか。
横切った気配も隠れていた気配もなかったというのに。
存在感が特別ない…というのでもない。

少年「それに、まだ疲労が溜まってますですよ」

少女「………」

少年「見た感じ、ずいぶんとまあ酷使してるみたいですから。疲れとか感じないんですか?」

少女「まず、誰」

年の言葉を遮り、短く疑問を口にする。
ひどく素っ気ない問いに対しても少年は笑顔を崩さない。
笑顔の仮面を外さない。

少年「ここの住人ですよ」

少女「へえ。それで私に何か用?」
35 :1 [saga]:2011/07/18(月) 22:19:47.59 ID:e+cWMAKAO
少年「血の濃い魔術師は久々ですので。興味を持ったのですよ」

少女「そうかもね。親は従兄弟同士だし」

それまでの無表情を崩して、自嘲気味に少女が笑う。
少年は同情の言葉ひとつかけない。少女もそれ以上言わない。
会話が途切れ、静けさが部屋をつつむ。
どちらもその場に固定されたように身動ぎ一つしない。
緑色の目と青色の目が月光の中交差する。
感情のない視線が互いに絡み、ぶつかり、ほぐれ。
少女が瞬きをして、奇妙な時間は崩れ去った。
沈黙を破るように少女は口を開く。

36 :1 [saga]:2011/07/18(月) 22:24:47.34 ID:e+cWMAKAO
少女「あなた、人間なの?」

少年「はて。ボクが人間に見えないんですか?」

少年はおどけながら聞き返した。
あどけない顔つき。華奢な四肢。陶器のように滑らかで白い肌。
見た目は美しい十歳前後の男の子だ。
気持ち悪いぐらいに。
作り物の人形みたいに。
まかり間違えても犬や猫には見えない。

少女「違う、あなたは人間じゃない。断定できる」

きっぱりと否定をした。

少女「人間の皮を被って人間と言い張れるなら、誰だって人間になれる」

少年「ええ、ひどくないですか? 名誉毀損ですよ」

少女「何を言っているんだか。一番分かっているくせに」

37 :1 [saga]:2011/07/18(月) 22:30:32.78 ID:e+cWMAKAO
少年「ま、そうなんですけどね」

観念したように両手をあげた。
ついでにいたずらっ子のようにペロリと舌を出す。
それを引き抜いてやりたい衝動を押さえて、少女は深く嘆息した。
とっても面倒くさい相手に会ってしまったといわんばかりに。

少年「別に正体がバレたところでどうってことありませんですが」

少女「そうでしょうね」

バレたならバレた時点で少女は死んでいるはずだろう。
死人に口無し。
口封じには生命活動そのものを止めるのが手っ取り早いからだ。

少年「ついでに取って食ったりもしませんです。安心ですね」

少女「血抜きしないと肉は美味しくないからね」

噛み合っているのかいないのか分からないやり取りをしながら少女は再び扉へ歩く。
だが、再び少年が呼び止めた。

少年「もうちょっとここに居てくれませんですかね?」

少女「……まさか、私を止めるように言われているとか?」

38 :1 [saga]:2011/07/18(月) 22:32:53.74 ID:e+cWMAKAO
少年にとって少女はただ単に『面白そうだから観察する』ぐらいの存在であり、
そんな存在をここまで止めようとすることはないだろう。
暇つぶし目的の玩具をここまで止める理由。
ならば、彼以外の誰かに言付けされたのではないだろうか。
勝手に出ていかせるな、引き留めろ、と。

少年「はい、そのまさかでして。そこの彼女に」

指差された先にはすやすや寝続ける緑がかった金髪の女。

少女「…お節介」

少年「ボクもそう思いますけどねー」
39 :1 [saga]:2011/07/18(月) 22:33:29.15 ID:e+cWMAKAO
始めて困ったような表情をして頭を掻いた。
どうやら弱味を握られているようだ。

少年「ま、どこか行くなら彼女に挨拶ぐらいしてって下さいよ」

少女「そうさせてもらう。さっさとあの指パッチン女を倒さなきゃ」

揺り起こそうと少女は女に近寄る。

少年「……指パッチン女? あれ、指パッチン?」

何か気にかかったらしい少年の反復を無視して、少女は女の肩に手を乗せる。
そして軽く揺すってみる。
起きない。
もう少し強く揺すってみる。
起きない。
更にもう少し強く揺すってみる。
40 :1 [saga]:2011/07/18(月) 22:36:47.89 ID:e+cWMAKAO
ひっぱたいてやろうかと考え始めた頃、ようやく反応があった。

秘書「むー……」

唸ったかと思うとぎゅうっと少女を抱き締めて共に倒れた。

少女「にぎゃ」

床に叩きつけられた腕が悲鳴をあげる。
しかもがっちりホールドされてしまったため身動きができない。
しかも、もがくとか暴れりしたらなんだか怖いことが起きそうな予感がする。

少女「あの、私は抱き枕じゃ…」

秘書「ていはんぱつ……」

少女「…………」

なんかもうダメだと悟った。
これは朝になるまで起きない。
夢を見てるということは浅い眠りなのだろうが。
41 :1 [saga]:2011/07/18(月) 22:40:54.89 ID:e+cWMAKAO
少年「では、朝までお休みなさいです。良い夢をー」

どうやら、嵌められたらしい。
こうなることが分かっていたと言わんばかりの言動だ。
過去に同じような目にあったことがあるのだろうか。
何故かキラッとポーズを取りながら扉を開ける少年。
扉を使わないで部屋に入ったのに扉を使って部屋を出るのはどうなのだろう。
見せびらかしなのだろうか。
ついでにその顔には『計画通り』と浮かんでいた。

少女「あっ、ちょっと待っ――」

少女の叫びを無視して、パタン、と無情にも扉が閉まった。

少女「………はぁ」

諦めて寝るしかない。
42 :1 [saga]:2011/07/18(月) 22:42:53.39 ID:e+cWMAKAO
* * *

二話 ぐりーんてぃー

ピチチと窓の外の小鳥の鳴き声で目が覚めた。
時刻は六時半。
節々が痛いと思ったら床に寝ていた。
やけに暖かい抱き枕だと思ったら人間だった。
胸の辺りが柔らかい……なんでもないことにした。
何故か少し顔をしかめながら寝ている少女の顔をぼんやり眺め、
やっと頭が完全に起動を開始した。

秘書「…あれ? おかしいな…」

どうしてソファに寝かせていたはずの少女を抱き締めていたのかさっぱり分からない。

秘書「まあいいか……」

抱き枕になっている本人にとっては全然良くないのだが。
43 :1 [saga]:2011/07/18(月) 22:47:20.26 ID:e+cWMAKAO
そっと拘束を解いてソファの上に乱雑に置かれている毛布をかける。
客を、それも元重傷人を床の上で寝かせるのは抵抗があったが
自分の力では持ち上げられない。なのでこれで我慢して貰うことにした。
静かに歩き、扉をゆっくり開けて洗面所へ向かう。
昨日の自分用タオルを洗濯機に放り込んで新しいタオルを出す。
それから顔を洗って髪を梳って、鏡に映る自分を眺めた。
一年前、バッサリ短くした髪は肩甲骨まで伸びていた。

秘書「…もうちょっとしたら切ろうかな」
44 :1 [saga]:2011/07/18(月) 22:53:14.43 ID:e+cWMAKAO

今の自分は髪が短い方が好きだから。
“昔”の自分が髪を伸ばしていた理由なんてもう分からない。
好きな人が長髪が好きだったのか、願掛けだったのか、ただ伸ばしていただけか。
もうエデには関係のないことだ。

秘書「……朝から何アンニュイな気分になっているんだか」

苦笑いをして、洗面所から出る。

  「ただいまぁー」

タイミング良く玄関から暢気な声がして、出迎えに行く。
夜のお仕事用のドレスを纏った茶髪の女が眠たげに手をあげた。
そして玄関の隅に置かれた靴を指差す。

茶髪「なんかお客さんきてんの?」

秘書「はい。説明云々かんぬんがあるので、お昼前には起きて下さい」

茶髪「りょーうかい」
45 :1 [saga]:2011/07/18(月) 23:01:44.16 ID:e+cWMAKAO
だるそうに敬礼のポーズを取るとトタトタと自室に目指す。
エデと共同で使っている部屋なのだが、何しろ使う時間が
バラバラなので一人部屋みたいなことになっていた。

秘書「ちゃんとドレスをハンガーに掛けといて下さいよ?」

茶髪「あーい。エデちゃんは怖いからなぁ」

飄々と笑いながら「おやすみ」と言って部屋へと消える。
いつもの光景だ。
お昼すぎにはお腹すいたと訴えながら起きるだろう。
そしてその後は彼女を姐さんと慕うグランデを弄るのだろう。
多分、それはあの少女がいても同じこと。
自分が来たときもここの日常は壊れなかったから。
46 :1 [saga]:2011/07/18(月) 23:05:44.91 ID:e+cWMAKAO
秘書「なんか物思いに耽る朝だなぁ」

こめかみをぐりぐりと意味もなく押してみる。
こうすると視力が良くなると聞くが本当なのだろうか。
ぺたぺたとひんやりした廊下を歩いていく。
もう少ししたら廊下を軽く拭いて、皆を起こそう。
天気がいいから久びさに布団を干すのもいいかもしれない。

秘書「まずは朝ごはんを作りますか」

そう言ってキッチンへと入った。
47 :1 :2011/07/18(月) 23:07:53.40 ID:e+cWMAKAO
終わり
全然話が進まない

>>33
もうちょっと増やしてみます
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/19(火) 08:09:25.43 ID:ZHph2eQA0
乙〜
がんばれ
49 :1 :2011/07/23(土) 21:40:26.16 ID:3noYj8BAO
* * *

七時半。
爽やかな朝とは正反対の、重苦しい空気がリビングに漂っていた。
今ここにいるのは青年、少年、エデ、グランデ――そして少女。
他に寝泊まりしている数人はまだここへは来ていない。
起きていない、のほうが正しいか。
まずは少人数かつ事情を知っているメンバーで話を聞いた方が
いいと考えた結果、まだ全員が完全に揃わない今の時間になった。

青年「さてと。最初に自己紹介といくか、魔術師」

そう言いつつまだ手をつけていない朝食を脇に退ける。
50 :1 :2011/07/23(土) 21:41:10.72 ID:3noYj8BAO
向かい合って座る少女は黙ったまま青年を値踏みするようにじっと伺う。
その頭の中でどんな考えが渦巻いてるかは分からないが、
おおかた信用するべきか否かを天秤にかけているのだろう。
少女はちらりと横に立つ少年を一瞥してから今日始めて口を開いた。

少女「…アイリス・マクロライド。158センチ、体重は秘密」

渋っていたのが嘘のようにすらすらと自己紹介をする。
高すぎも低すぎもしない澄みきった声。

青年「ノアル・フォルス。15…、てめぇ……俺に身長を言わせるつもりか?」

少女「少し気になって」
51 :1 :2011/07/23(土) 21:42:25.61 ID:3noYj8BAO
悪びれる様子もなく少女――アイリスは首を横に振る。
事実、座高からしてアイリスの方が少し高い。

青年「…好奇心は人を[ピーーー]ぞ。覚えとけ」

秘書「153センチですよ。体重は分かりませんけど」

青年「えぇぇぇぇぇ!?言っちゃうぅぅぅぅぅ!?」

釘を刺した直後、真横で言われたものだから堪ったものじゃない。
どこ吹く風でエデはそっぽを向いた。
やれやれとグランデは額に手を当て、少年はクスクスと静かに笑った。

少女「良かったね、150は越えていて」

青年「同情するなら身長をくれチクショウ!」

52 :1 :2011/07/23(土) 21:44:40.43 ID:3noYj8BAO
どうやら本気で悩んでいたらしい。
少し悪いことをしたとアイリスは思った。謝らないが。

秘書「次は私ですね。エデ・エコノミです」

大男「グランデ。よろしく…なのか?」

少年「ルキです」

少女「どうも」

ぺこりと頭を下げる。
目を反らしたり声が上擦ったりしないところからみて、人見知りではないようだ。
アイリスはふと気づいたように胸をなぞり、聞く。

少女「私の傷を治したのはあなた?」

秘書「え? あ、はい」

少女「ふぅん……。治癒師<ヒーラー>は事情がない限り
   一ヶ所には留まらないと聞いたけど…」
53 :1 :2011/07/23(土) 21:46:18.54 ID:3noYj8BAO
秘書「治癒師?」

なんのことやらといった表情で首をかしげる。
アイリスはそれに怪訝そうに顔をしかめた。

少女「回復魔術は治癒師しか使えないからてっきりそうだと思ったんだけど……違うの?」

秘書「回復魔術…治癒師…えっとすいません、私は…」

青年「それは長くなる話だし、お前には関係ないだろう」

ノアルは困り顔のエデに助け船を出す。
出会ったばかりの人間には話せない事情があるのだ。

少女「そうだね」

アイリスは反論せずあっさりと引き下がった。
もっと何か文句を言うかと思っていたため拍子抜けした。
いや、このほうが楽は楽なのだが。
54 :1 :2011/07/23(土) 21:47:58.70 ID:3noYj8BAO
子供にしてはあまりにも世渡り慣れしすぎている感じがある。

青年「――ずいぶん逸れたが、本題に移るか」

用意していた質問を目の前の少女に突きつける。


青年「お前は、どうして誰と何をしていた?」


隅でグランデは分かりずれぇと小さく漏らした。

55 :1 :2011/07/23(土) 21:49:00.47 ID:3noYj8BAO
* * *

少女「………」

膝の上に置いた手に目を落として黙りこくる。

何か触れてはいけないものに触れてしまったのだろうか。
「あー…」と困ったようにノアルはまだ乱れたままの髪をかいた。
年下の、しかも女子の扱い方はいまいち分からない。
迷子の子猫を保護した犬のお巡りの気持ちがなんとなく分かった気がする。

青年「言い方が分かりにくかったか?」

ふるふると首を振るアイリス。
そして短く息を吸った後に話し出した。

少女「…お姉ちゃんが誘拐されて」
56 :1 :2011/07/23(土) 21:50:01.09 ID:3noYj8BAO

青年「お姉…ちゃん?」

少女「だから、魔術使って居場所特定してそこ行ってボスっぽいのに勝負を挑んだけど――」

青年「負けて、重傷まで負わされたってことか」

少女「そう」

負けたとはっきり言われてもアイリスは気分を害した風もなく頷いた。
すごく不親切に短い説明のためあやふやな部分はあるが大体理解した。
姉をさらわれたために連れ戻そうと
単身敵地へ突入したら反撃食らって瀕死になった、ということだろう。

秘書「他の人…例えば家族には相談しなかったの?」
57 :1 :2011/07/23(土) 21:52:07.32 ID:3noYj8BAO
少女「…私にはお姉ちゃんしかいない。お姉ちゃんと言っても従姉妹だけど」

秘書「ああ……」

何かを察したのかエデはそれ以上聞かなかった。
他人の家庭内事情に首を突っ込むのは野暮だ。

青年「相手の攻撃方法は見たか?」

少女「一度しか攻撃を見れなかったからよく分からない。でも、確か」

アイリスは右手を顔の前にかがげ、親指と人差し指同士を擦った。
慣れていないのか音は出ない。
うまくいけばパチンと鳴りそうな動作。
だが――その場の空気を冷やすには十分だった。

少女「こう、指パッチンで魔術を発動してた」

青年「…そいつ、栗色の髪した『契約者』じゃなかったか?」

58 :1 :2011/07/23(土) 21:57:23.84 ID:3noYj8BAO
少女「知ってるの?」

青年「知ってるもなにも、一度戦ったことがある」

蒼白い顔で口をつぐむエデと、その時のことを思い出しているらしいグランデ。
少年――ルキだけが変わらない表情で立っていた。
ノアルは苦虫を噛み潰したような顔で続けた。



青年「あやうく殺されかけたんだよ、俺もエデも」


それはまだ彼が弱かった頃の話。
弱さゆえに一人の少女が消えてしまった、悪夢にも近い出来事。
59 :1 :2011/07/23(土) 22:00:54.28 ID:3noYj8BAO
* * *

話が進む前に、魔術について説明をしよう。
おおまかに魔術は黒魔術、闇魔術、白魔術の三つに分けられる。



黒魔術は魔法陣を描くことによって発動する。
魔法陣が大きく、複雑化するほど強い術となる。
もっとも使われているのがこれだが、一部(契約者、魔術師)を除いてはいちいち
魔法陣を描かなければならないという手間がある。
60 :1 :2011/07/23(土) 22:01:22.19 ID:3noYj8BAO
二つ目の闇魔術は口頭呪文によって発動する。
唇の動きだけでも発動するという、黒魔術より簡単な魔術――なのだが
副作用のようなもので術者の精神に干渉をしてくるために
使う本人が発狂することもしばしばのため使うものは余りいない。
61 :1 :2011/07/23(土) 22:02:55.39 ID:3noYj8BAO
三つ目の白魔術。
これはあまりにも情報が少ない。
術者はおろか、白魔術本体が存在しているかも怪しい。
術師ではない一般の人間の想像ではないかとの説がある。
精霊や天使を呼び出すと言われているが定かではない。
62 :1 :2011/07/23(土) 22:06:05.47 ID:3noYj8BAO
『魔術師』はその名のとおり、魔術を使う者。
その才能を持って産まれたものを指す。
魔術師の血筋を引く家系から生まれるが、まれにそうではない家系からも生まれる。
ただその場合は死ぬまで己の力に気づかないか変人扱いされる。
魔術師と言えど、ピンからキリまでいるのが実情。

『契約者』は『魔術師』と違い、普通の人間が悪魔と契約して
魔術を使う力を得たものを指す。
魔法陣をいちいち描く手間から解放されると
共に力を借りるため契約していない者に比べると非常に強い。
しかし、悪魔との契約は魂を売り渡すことにもなる。
だいたいは期限付きの契約だという(つまり期限が来たら魂を渡す=死)。
悪魔については不明な点も多いが、天使や死神と仲は宜しくない。
63 :1 [sage]:2011/07/23(土) 22:07:50.07 ID:3noYj8BAO
終了。
マジで投下数少ないですが勘弁して下さい。

分からねーよカスってところがありましたらどうぞ遠慮なく。
オリジナルの世界観なので至らない部分もあります
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/23(土) 23:06:34.31 ID:+GMcqouto
65 :1 :2011/07/26(火) 14:25:48.25 ID:QptMXEVAO
* * *

少女「……そんなに強いの?」

青年「ああ、強いな。手加減抜きで殺りにかか――」

そこではっとしたように言葉を止める。

青年「まてよ、じゃあ今回も『鍵』集めを……!?」

突然立ち上がり、がたんと椅子が後ろへひっくり返った。
アイリスは訳も分からずに首をかしげる。

少女「『鍵』……?」

説明は私が、とエデが座っているアイリスと視線を合わせるように屈む。
澄んだ蒼い目が目の前に来る。何故かどきりとさせられた。
66 :1 :2011/07/26(火) 14:26:33.01 ID:QptMXEVAO
秘書「そのままの意味です。『鏡』『石盤』『魔術師』――この三つを集めると、」

少女「集めると?」

秘書「簡単に言えば魔界の扉を開くことができます」

少女「いきなりファンタジーな話になったね」

予想の斜め上を突っ走っていた。
どこの子供向けの童話だ。

青年「魔界っていってもうじゃうじゃ魔物が来るわけじゃないがな」

ノアルは倒した椅子を持ち上げながら補足する。
話ぶりからすると、どうもその『鍵』関係で色々あったようだ。
67 :1 :2011/07/26(火) 14:27:20.47 ID:QptMXEVAO
青年「強大な力を手にいれるための儀式って感じだ。
  それにはその三つの『鍵』が必要なんだよ」

少女「へぇ……」

成功してしまえば恐らく術者に想像を越える力が宿るだろう。
身体が持てばだが。
あの女があれ以上の力を持ってしまうとなると、かなりやばいことになる。
そうなればそこらの魔術師契約者は相手にもならないだろう。

青年「てっとり早いのは『鍵』を壊すことだ」

少女「待って。壊す?」

アイリスが静止を促すように手をあげた。
68 :1 :2011/07/26(火) 14:30:56.03 ID:QptMXEVAO
少女「私のお姉ちゃんが『鍵』として誘拐されたと仮定するけど」

青年「仮定というか確定だろうな」

少女「あなたは、例え人間でもそれが『鍵』なら壊すつもり?」

柔らかい言い方をしているが、実際は「人間を[ピーーー]のか」という問い。

青年「ああ。今回こそは片っ端から破壊していく」

それにノアルは即答した。
前から決めていたように―いや、実際決めていたのだろう―、
迷う素振りすら見せずに。
相手の目から視線を反らさずに真っ直ぐに見据える。


青年「お前の姉でもな」

69 :1 :2011/07/26(火) 14:31:45.63 ID:QptMXEVAO
それは挑発か、煽りか、仕掛けか。
ともかく、その一言は一人の少女を立ち上がらせるのに十分だった。

少女「……そう。じゃあ、まず私はあなたを倒さなければいけないね」

カタッと静かに椅子から腰をあげる。
さらりと緑色の髪が揺れた。

青年「そう来ると思った。やってみろよ。悪いが、俺はてめぇには負けない」

少女「ふぅん。ずいぶん自信あるんだ」

青年「はん。泣いても許さねえぞ、ガキ」

少女「泣くのはそっちじゃないの、チビ」
70 :1 :2011/07/26(火) 14:32:45.30 ID:QptMXEVAO
売り言葉に買い言葉。
もはや助けた助けられたなど関係ない。
ゆっくりとふたつの殺意と殺気が部屋に染み渡っていく。
なにか少しの物音で、激戦へ発展してしまうだろう。
ケンカなど生易しいものではない。いわば戦争だ。
一歩間違えれば、死。
そんな状態だというのにルキは止めることはせず、
むしろどこか楽しげに二人を見比べている。


大男「……少し落ち着いてください」

さすがにやばいと思ったのかグランデが刺激しないように呼び掛ける。
だが効果はないようだ。
というか、室内で戦闘くり広げるつもりなんだろうか。
71 :1 [saga]:2011/07/26(火) 14:34:22.31 ID:QptMXEVAO
仕方がないので、力ずくでも止めようとして。

秘書「私がやります」

大男「は?」

秘書「私がやります」

大男「いやいや、聞こえなかったんじゃなくてだな…」

ぽかんとするグランデを置き去りにエデは息を吸い込んで怒鳴った。

秘書「今ここで争っている場合かーーー!!」

そしてにらみ合っているノアル、アイリスそれぞれの
後頭部をひっつかみ、思いっきり互いの額に衝突をさせた。
鈍い痛そうな音がひとつ生まれた。

72 :1 [saga]:2011/07/26(火) 14:35:09.29 ID:QptMXEVAO
青年「!?」

少女「!?」

秘書「しかもまだ朝ごはんもありますし! 埃が舞ったらどうするんですか!」

大男「そういう問題かよ」

少年「おやおや」

起こったことを処理しきれていない二人にお母さんよろしく叱りつける。
ついでにもっともなグランデの意見はスルーされた。
いまだクエスチョンマークを浮かべながら涙目で額をさするアイリス。
同じく赤くなった額を押さえるノアル。
73 :1 [saga]:2011/07/26(火) 14:35:35.58 ID:QptMXEVAO
緊迫感から一転、なんだかよく分からない空気が流れていく。

秘書「それと……せめて、『鍵』にされた人は助けてあげませんか」

小さくなった声。
見上げると、どこか悲しげな表情をした金髪の少女がそこに居た。

青年「……調子が狂うな」

ぽつりとそう言って、ぽすんと座る。
彼女にそんな目をされると断れない。

青年「俺はお前の姉を助けねぇぞ」

少女「……」

青年「自分の身内は自分で助けろ」

少女「…じゃあ」
74 :1 [sage]:2011/07/26(火) 14:37:11.50 ID:QptMXEVAO
すいません用事が出来ました
また夜に。
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/27(水) 21:18:47.69 ID:jtoeuC7Y0
人いないんかね?
76 :1 [sage]:2011/07/28(木) 00:02:24.39 ID:n7bcU6ZAO
次の日の夜に来るとか自分は馬鹿なのか。
そしてまだ推敲が済んでません

>>75
地の文パレードですしね…
でも乙ひとつで頑張れます
77 :1 [saga]:2011/07/31(日) 00:03:12.72 ID:B4W0c/zAO
青年「ま、そういうことだ。お前らには俺からは手を出さない」

そこまで言って、ちらっとエデを見て。

青年「そういうことでいいよな、エデ」

秘書「は、はい」

話を振られたのであわてて同意をした。
まさか自分の意見が通るとは思ってなかったらしい。

青年「但し、だ。あのクソ女の相手は俺の仕事だ」

威圧感に圧されて思わずアイリスは頷いた。
あんなのをまた相手にしなくて内心ほっとしたのもあるが。
時計を見れば8時15分。
なんやかんやあったせいで朝食はすっかり冷めていた。
だが。
78 :1 [saga]:2011/07/31(日) 00:03:20.87 ID:B4W0c/zAO
青年「ま、そういうことだ。お前らには俺からは手を出さない」

そこまで言って、ちらっとエデを見て。

青年「そういうことでいいよな、エデ」

秘書「は、はい」

話を振られたのであわてて同意をした。
まさか自分の意見が通るとは思ってなかったらしい。

青年「但し、だ。あのクソ女の相手は俺の仕事だ」

威圧感に圧されて思わずアイリスは頷いた。
あんなのをまた相手にしなくて内心ほっとしたのもあるが。
時計を見れば8時15分。
なんやかんやあったせいで朝食はすっかり冷めていた。
だが。
79 :1 重い [saga]:2011/07/31(日) 00:08:14.86 ID:B4W0c/zAO

青年「…朝飯を食いたいのはやまやまだが」

言いながら窓へ寄ってちょいとカーテンを捲り上げる。
別に「香炉峰の雪でございます」と言うためにではなく。
視線の先には数人、人が歩いていた。
元々ここらは人通りが多くないところだ。
しかもつい最近通り魔事件が闊歩していたため好んで通るものは少ない。
ただの通行人なら警戒しないが――ただの通行人ではないから警戒をする。
しかもこちらと同じ『契約者』が混じっている。
ノアルは赤い目を細めた。

青年「魔術師。お前、捜されてるんじゃね?」
80 :1 重い [saga]:2011/07/31(日) 00:11:24.23 ID:B4W0c/zAO
少女「私を?」

青年「隠蔽魔術が切れてきたのもあるが…お前魔術が漏れすぎ」

ちなみに『契約者』はここまで魔術の気配はあまり濃くない。
魔術を生まれ持った『魔術師』の宿命というべきか。

少女「自覚はしてなかったけど。そうなんだ」

青年「ああ。ルキ、グランデ。ちょっと奴らにあいさつしにいくぞ」

ここらはいわば彼のテリトリーだ。
好き勝手に魔術を使われてはたまらない。その後色々めんどくさいし。
来ないで下さいなんて警告を聞くような連中ではない。
だからこそ“あいさつ”という名の武力行使をする。
ここら辺にはもう来んなバーカと。
81 :1 [saga]:2011/07/31(日) 00:16:25.31 ID:B4W0c/zAO
大男「分かりました」

秘書「…私はどうしましょう?」

青年「他の奴らを起こしてこい。つか寝過ぎだあいつら」

ここには駄目な人間の例がごろごろ存在している気がする。

少女「待って。私も同行する」

アイリスが名乗りをあげた。
――そういえば、まだこの少女の魔術を見ていない。
『魔術師』『契約者』構わず大体得意な魔術が一つはある。
前もって見ておくのも得策だろう。

青年「まぁいいけど。怪我しても騒ぐなよ」

少女「そんな真似しないよ」

軽口を叩きあう。
それから、エデを残して四人は外へと向かった。
82 :1 [saga]:2011/07/31(日) 00:23:11.69 ID:B4W0c/zAO
大男「俺は『契約者』でも『魔術師』でもないからさ。
  だからこのろう石ってやつで地面に直接魔法陣を描くんだよ」

少女「ふぅん。ろう石っていうんだ」

なにやらろう石談義が始まった横でぴくりとルキが反応した。
ついついとノアルの袖を引っ張って呼び掛ける。

少年「ご主人」

青年「ん?」

少年「どうやらあちらさん、こっちに来てほしいみたいですよ」

青年「なるほどな――何処だ?」

すっと迷いなく南南東を指差す。

少年「最近取り壊された工場跡地です」
83 :1 ミス。81の後にこれが入ります [saga]:2011/07/31(日) 00:25:36.40 ID:B4W0c/zAO
* * *

少年「ご丁寧に人払いまでかけてますですね。こちらとしては好都合ですが」

見えないはずのものをじっと見ながらルキが報告する。
先ほどの人影は見当たらないが、気配に気づいて何らかのアクションは起こしてくるだろう。

大男「用意しときますか」

グランデはポケットから白い石を取り出す。
四角いチョークみたいなものだ。
興味深けにそれを見るアイリスに気づくと苦笑しながら説明する。

84 :1 :2011/08/02(火) 00:35:46.01 ID:64ISpM2AO
* * *

工場跡地はノアル達のいた場所から徒歩二三分の所にある。
先ほどの会話からそれほど掛からずにそこへついた。

青年「すげーなこりゃ」

少女「………」

更地となった土地にピエロのようなお面をした集団が佇んでいる。
相手はざっと十人ぐらいか。対してこちらは四人。
傍目から見るとノアル側が負け試合になりそうな光景。
砂利を踏みしめリーダーと思わしき者が一歩踏み出る。
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/02(火) 00:46:31.52 ID:64ISpM2AO

お面「貴様は『鍵』を知っているか?」

男の声だ。
まずはその言葉から始まった。
挨拶も何もない。

青年「内容ならバッチリだがな。在りかは知らない」

お面「ふむ」

しばらく何か考えた後、アイリスを指しながら言った。

お面「そこの少女を渡して欲しい」

ピリッ、と緊張した空気が走る。
こう言われるというのはノアルもアイリスも予想はついていた。

青年「……なんでだ? てめぇが幼女趣味とかなら別だが」

少女「私は幼女じゃないんだけど」

横からアイリスがぼそりと呟いた。
もろもろの不満は後で聞くことにして。
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/02(火) 00:47:35.07 ID:64ISpM2AO
お面「幼女趣味ではない。『鍵』のレプリカを作るために必要なだけだ」

青年「は? 『鍵』のレプリカ?」

意図組めずと言った感じにノアルが首を傾げる。

お面「そうだ。現在ルージュ・フランボワーズは『鍵』集めをしている」

ルージュ・フランボワーズ。
アイリスには聞き覚えの無い名前だった。
クエスチョンマークが浮かぶ彼女にグランデが
耳元で「お前の姉さんをさらった人」とささやく。
納得したと同時に嫌そうに顔をしかめた。

87 :1 [saga]:2011/08/02(火) 00:48:16.26 ID:64ISpM2AO
青年「…やっぱあの女が絡んでるか。それで?」

お面「『鍵』が完成したら? それこそフランボワーズの天下だ」

青年「だな」

お面「ならば――我らが先に『鍵』の権利を握ればいい」

そう来るか。
壊すという考え方もあれば――先手を取るという考え方もある。

大男「しかし、『鏡』と『石盤』は? レプリカでどうにかなるものじゃないだろ?」

お面「こちらを舐めるなよ。すでに完成済みだ」

少年「人間ってすごいですね」

大男「関心してる場合じゃないな」

88 :1 [saga]:2011/08/02(火) 00:48:42.22 ID:64ISpM2AO
呆れながらツッコむ。
まあ確かにその技術と努力は認めるが。

青年「……で、あとは『魔術師』が足りないと」

それだけは現場調達せざるを得ない。
だからアイリスを狙うのだろう。

お面「そういうことになる」

青年「流れから考えるとその『魔術師』もレプリカ…と思わせるが」

お面「『鍵』候補はそうそういない存在だ。
   だから候補と似通った者を捜している」

89 :1 [saga]:2011/08/02(火) 00:49:53.96 ID:64ISpM2AO
ノアルは横目でアイリスを盗み見る。少しだけ長い前髪が
目元を覆っているためにその表情は伺えない。
確か彼女達の関係は従姉妹だったか。
血が繋がっているのならば狙われるのも納得が行くが。

青年「嫌な話だ」

本命の代わりのモノとして捜されているのだから。
自分が模造品程度の価値だと言われているようなものだ。

お面「『契約者』が同情か?」

青年「はっ。一応感情はあるからな」
90 :1 [saga]:2011/08/02(火) 00:56:28.41 ID:64ISpM2AO
少女「悪いけど」

唐突に、アイリスが割って入った。
話を早く進めんとばかりに。

少女「私は『鍵』なんかならない」

お面「そうか」

あっさり、拍子抜けするぐらいあっさり引き下がった。

お面「幸か不幸か、『鍵』候補はもう一人いるんでな」

青年「なに?」

お面「その候補と同じ位置にいたような気配がしたんだがな――」

すぐに思い当たった。
エデだ。
一年前の『鍵』捜しの被害者。
91 :1 [saga]:2011/08/02(火) 01:12:24.93 ID:64ISpM2AO
青年「……どちらも手は出させらんねぇな」

お面「仕方ない――ならば、奪い取るまでだ」

さっと手をあげる。
それと同時にざざぁとお面達がそれぞれのポジションについた。

少女「…どういう心変わり?
   私を差し出せば戦闘はしなくて済むんじゃないの?」

青年「黙れ。てめぇ差し出したら代わりになろうとする奴がいるんだよ」

ルキとグランデに目配せをしながら続けた。

青年「気に入らないからボコす。それ以外になんの理由が?」

少女「ないね」

青年「ちょっとは手伝えよ」

少女「分かってる」

この時『契約者』と『魔術師』が手を組んだ。
目的はふたつ。
レプリカだとしても『鍵』を破壊すること。
そして、相手を叩き潰すこと。

――午前9時、工場跡地にて。
戦闘を開始。
92 :1 :2011/08/02(火) 01:14:24.50 ID:64ISpM2AO
次回から戦闘です。
うまくできるのかコレ。
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/08/02(火) 07:31:51.03 ID:TzrXTVEb0
乙 面白いよ
94 :1 [saga]:2011/08/02(火) 22:11:08.70 ID:64ISpM2AO
第三話 かきごおり


『契約者』はたいてい魔術を使うときは動作(モーション)が必要だ。
例えば、ノアルは壁や床に触れる。
例えば、ルージュは指を鳴らす。
そのモーションを行う部位を攻撃され動きを封じられると、
彼らにとって最悪な命取りになる。
戦車相手に素手で勝てと言っているようなものだ。
逆に考えるとそのモーションがバレなければ不意打ちも可能となる。
95 :1 [saga]:2011/08/02(火) 22:12:04.04 ID:64ISpM2AO

少女「!」

何かに気づいたようにアイリスが空を見上げる。
つられてノアルも頭上を仰いで、

青年「マジかよ!?」

叫んだ。
大量の氷柱が四人のすぐ上に迫っていた。
お面は大きい動作なしに魔術を発動したようなので、
見えない部位かごく小さなモーションで魔術が使えるといったところか。
いや今はそんな悠長に解析などしてる暇ではなく。

青年「こんっの……!」

ダンッと強く地面を蹴ると周りに転がる石が浮き上がった。
それらは大小関係なく氷柱にぶつかる。
何度も何度もぶつかり、氷柱は粉々になり降り注ぐ。
96 :1 [saga]:2011/08/02(火) 22:13:15.25 ID:64ISpM2AO
ときおり大きい欠片が当たって痛いが仕方ない。

大男「どいて下さい!」

後ろからの鋭い声に弾けるようにノアルとアイリスは横へ退いた。
巨大な蛇が地面に描かれた魔法陣から飛び出てまっすぐにお面を狙う。
蛇は彼に向かって大きく口を開いてそのまま飲み込む。
が、すぐに蛇の腹が引きちぎれ、その場には無傷のお面が変らず立っていた。

青年「――っは。それなりに経験は積んでるみたいだな」

肩に残った欠片を払い落とす。


97 :1 [saga]:2011/08/02(火) 22:14:05.62 ID:64ISpM2AO
少年「あ、来ますですよ」

青年「は?」

少年「ちょっとバリア張っとかないとやばいですね」

暢気な警告と共にカチコチ何かが重なる音がして、お面達のすぐ上を向く。

青年「うぇ」

氷に何処まで執着してるのかは分からないが――
半径5メートルはありそうな氷の球が作られていた。
禍々しい光まで宿っていて、攻撃の他の用途がもはや思い付かない。

お面「行け」

前へ手を伸ばして指を曲げた。
98 :1 [saga]:2011/08/02(火) 22:14:58.75 ID:64ISpM2AO
九人分の魔術と、一人の『契約者』の力が一斉に襲いかかる。
ノアルは急遽屈んで地面を殴り付ける。
そこを中心に真っ黒な魔法陣が四人を囲んだ。
しかし、アイリスはすたすたと歩いてその魔法陣から出てしまう。

大男「ちょ、お前!? 何してんの!?」

少女「そういえばまだ私の魔術見せてなかったから」

こっちだけ見せないのはアンフェアでしょ、と付け加える。
そして襲いかかる氷の球に立ち。
少女は呟いた。





少女「巻き添え食らわしたらごめん」





99 :1 [saga]:2011/08/02(火) 22:15:58.53 ID:64ISpM2AO
* * *

『あれは処分だ』

誰かが言った。
何も知らないくせに。

『我ら一族を滅ぼしかねん』

誰かが同意した。
何も分からないくせに。
『成長する度に力が増す。あれはまさに化物だ』

誰かが賛成した。
何もできないくせに。

『クラリシッドよ。この役目を命ずるぞ』

誰かが命令した。
何もしないくせに。

『―――――――――嫌です』

私は、拒否した。

100 :1 [sage]:2011/08/02(火) 22:46:02.08 ID:64ISpM2AO
終わり。なんか短いな。
これから閑話でちょっとずつ皆の過去をチラッチラッと書いていきます。多分
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/06(土) 02:37:33.89 ID:q+akKmKh0
最初から読んだ、面白いにゃ 期待っ
102 :1 :2011/08/12(金) 23:57:39.05 ID:77Z2OUCAO
* * *

ノアル達の目に映ったのは透明な冷たい球に押し潰された肉の残骸――ではなく。
ただ変わらずそこに立つアイリスの姿があった。

そして驚くことには氷の球が、消えていた。

僅かな時間、霧のようなもやはあったがアイリスが腕を
横に振るとそれもかき消えてしまった。

青年「……はい?」

大男「え、消滅…した?」

何が起きたか分からないのは向こうも同じようだ。
お面を着けているので表情は見えないが、動揺は隠せない。

少年「消滅したというより、分解されたが正しいですね」
103 :1 :2011/08/12(金) 23:58:11.01 ID:77Z2OUCAO
落ち着いた様子で説明を始めるルキ。

青年「分解? 分解って、まさか」

少年「はい。恐らくは分子レベルにまで」

青年「マジで?」

少年「マジマジ」

どっと力が抜けたような気がする。
分子レベルまで分解など非科学的すぎるだろう。
…よく考えてみれば魔術使ってる時点で非科学的だった。

青年「しかし…なんつー力だよ…」

ノアルのやり方ならまずはヒビをいれて、大まかに解体してから本格的に破壊…と
いくつかのステップを踏む。その方が時間がかかるものの確実だからだ。
104 :1 :2011/08/12(金) 23:58:40.95 ID:77Z2OUCAO
しかし、アイリスの場合ダイレクトに破壊をした。分子レベルまで。
よほどの力と自信がなければできない。というよりやりたくない。

青年「……!」

びきりっと魔法陣が音を立てた。
見れば亀裂が入って、それはさらに広がっている。
ついにはガラスの割れるような音を鳴らしながら魔法陣は崩壊した。

青年「…驚くことばっかだなぁオイ」

それなりにノアルの力は強いほうだ。
慌てていたとはいえ、ちょっとやそっとで壊れる魔法陣のはずではない。
105 :1 :2011/08/13(土) 00:00:10.81 ID:/5rE/CQAO
だがしかし、たった今それは目の前で壊れた。
逆に考えれば、魔法陣を張ってなければ自分達が危なかったのではないか。
そんなことを頭によぎらせてグランデは冷や汗をかいた。

少女「余波だね。私の」

アイリスは当たり前のように言う。
先ほど破壊した時、余った力が余波としてそこらへんを壊しているのだそうだ。
下手すれば巻き添えを食らいかねない空恐ろしい話だ。
さっきの巻き添え食らわしたらごめん云々はこれのことだったらしい。
106 :1 :2011/08/13(土) 00:01:01.21 ID:/5rE/CQAO
青年「お前いったい何者だよ。他の魔術も同じぐらいなのか?」

少女「ううん」

と、彼女は首を振った。

少女「私に使えるのはこれだけだから」

そう言ったときの顔はどこか悲しげで、ノアルは少し疑問に思った。
何かその能力に劣等感でも抱いているのか。
ふいに列の一番隅のお面が声をあげた。

お面2「その魔術…貴様、まさかアイリッシ――……!!」

そこまで言って、彼の肩の肉が弾けた。
107 :1 :2011/08/13(土) 00:01:45.96 ID:/5rE/CQAO
飛沫が花のように一瞬咲いたあと地面に落下し土に染み込む。
くぐもった呻き声を漏らしながら彼は倒れる。

少女「誰のこと?」

さっきとはうってかわって冷酷な表情と声音。
それは、15歳の少女の顔では無かった。
残虐な処刑執行人の方がまだしっくりくるだろう。

お面2「くっそ……気をつけて下さい、あいつ、フタロシアニン家の、」

何がそこまで駆り立てるのか、危険をとにかく周囲に伝えたいのか、
肩の大部分が削げたお面は尚もリーダーに警告を続けようとする。
108 :1 :2011/08/13(土) 00:02:37.04 ID:/5rE/CQAO
少女「声帯潰さないと、いけないかな?」

青年「おい待て馬鹿野郎」

有言実行しそうな彼女をノアルが後ろからぺしりと頭を叩いた。
グランデはその叩いた手も破壊されるのではないかとヒヤヒヤしたが、特に何も起こらなかった。

少女「……何?」

青年「突っ走りすぎだ。早漏は嫌われるって言われるだろうが」

少年「生物学上、彼女は女なのでそれはありませんですよ」

青年「例え話だ」

大男「例え話でもそれは女の子にいうものじゃないですよね」
109 :1 :2011/08/13(土) 00:04:21.92 ID:/5rE/CQAO
青年「うっせ。他に浮かばなかったんだよ」

緊張感溢れる空気にそぐわない会話をして、再びノアルはアイリスに向き直る。

少女「殺しはしないよ? 直接的には」

青年「ああ。別に殺そうが[ピーーー]まいが俺には関係ないんだけどさ」

ちらりと向こう側を伺う。
介抱を行っているようだ。

青年「ルージュと戦うほうに力を残したいから、無駄な争いはしたくないんだよ」

リベンジマッチには万全な体調で行きたかった。。
いやむしろ万全な体調じゃないと辛い。
こんなところで遊んでいる暇ではない。
110 :1 :2011/08/13(土) 00:08:06.97 ID:/5rE/CQAO
少女「そっか。そうだね」

青年「さっさと話に区切りつけるぞ。腹減った」

少女「そう言えば早漏ってなに?」

大男「それはまだもう少し早いかな」

青年「大人になりゃ分かる。さーてと、終わらせるか」

少年「それが終わらないみたいですよ、ご主人」

青年「は」

変わらぬ笑みを浮かべたままルキは上を指差した。
巨大な氷柱数本がノアル達を潰さんと、貫かんと狙いを定めて落ちてくる真っ最中だった。
111 :1 :2011/08/13(土) 00:13:09.54 ID:/5rE/CQAO
同じような攻撃だがしかしまあ、性格が悪すぎる。
相手は思いっきりこちらを[ピーーー]気ではないか。
『鍵』を狙ってるはずだが、そこら辺考えていないのか。
重症でも生きていればいいや主義なのかもしれない。
ちょっとした期待を込めてアイリスを見やる。
しかし彼女も困ったようにぼそりと呟いた。

少女「……私、まだいっきにあの量破壊できない」

青年「俺も全部は無理だ。……つまり」

串刺し確定ね、かもしれない。
112 :1 :2011/08/13(土) 00:15:39.31 ID:/5rE/CQAO
今日は終わりです
さが忘れた

113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/14(日) 12:18:37.04 ID:TuTX4uX0o
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/22(月) 06:22:43.24 ID:9bFRQrxW0
面白いな、展開に期待
115 :1 :2011/08/23(火) 20:09:11.92 ID:S//Qh+ZAO
青年「でゃああああちくしょおおおおおっ!!」

少女「っ―――!」

ノアルとアイリス、両方が歯を食いしばりながら必死に氷柱を消していく。
さすがに分子レベルまで破壊する暇はないらしく、さらさらとこなあああああああああああああああゆきいいいいいいいいいいいいいいいいいのような破片が落ちてくる。
二人の奮闘をポカンとただ横で見ていたグランデにルキが話しかける。

少年「グランデ。あなたもぼんやりできませんですよ」

大男「え、俺? ………あちゃー」

針のように尖った氷柱の先と彼の脳天まであと数m。
116 :1 :2011/08/23(火) 20:10:43.12 ID:S//Qh+ZAO
ノアル達がそれに気づいたがもう遅い。
残酷にも氷柱はグランデを貫く



ことはなかった。


寸前のところで拳を振り上げて氷柱を叩き割った。
どしゃあと重々しい音を立ててその凶器は地面へと転がる。

少女「………あ?」

状況整理がさっぱり追い付かないらしく折れた氷柱とグランデを交互に見る。

青年「怪我は?」

大男「擦りきれたぐらいですかね」

それなりに痛かったのか手をぶらぶらさせつつ答える。
骨が粉砕してもおかしくないのに、ただ皮膚が破れただけという。
117 :1 :2011/08/23(火) 20:11:51.94 ID:S//Qh+ZAO
魔術を使った風でもない。
否、彼は図を描かないと発動できないのではないか。
そんなことをグルグル考えているアイリス。当然のごとく答えはでない。

大男「要らないから返す」

そう言って巨大氷柱をまるで発泡スチロールのように軽々と持ち上げ、投げる。
長さ7〜8mはあろうかという氷の塊を、片手で。
それは綺麗に弧を描いてお面達へと落下した。

お面「……あり得ない」

一応攻撃を反らされる等のことは予測していたらしく、特に慌てる様子もなく消した。
118 :1 :2011/08/23(火) 20:13:45.61 ID:S//Qh+ZAO
まさか素手で投げ返されるとは思っていなかっただろうが。

少女「……あり得ない」

少年「それ今さっき相手も言ってましたですよ」

スルーしとけばいいものを、律儀につっこむ。

少年「それにあり得ないなんてあなたが言う台詞じゃないでしょうです」

少女「…私はともかく、彼は人間でしょう?」

容赦ない物言いにアイリスは少しむっとしたように受け答える。
その言葉に多少の引っ掛かりを感じたが、ノアルは
とりあえず目先の問題を解決するべく相手に話しかけた。
119 :1 :2011/08/23(火) 20:14:35.98 ID:S//Qh+ZAO
青年「……で、諦める気はないのかよ?」

お面「ない。ルージュ・フランボワーズの好きにさせておくつもりか


青年「ねーよ。残念ながら俺はあいつが嫌いだからな、全力で邪魔をする」

お面「どうやって? 」

青年「直接潰すに決まってんだろーが」

お面は鼻で笑ったらしい。
無謀だと言わんばかりに。

お面「馬鹿か。悪魔が作ったといわれる『鍵』相手に人間が敵うはずがない」

青年「馬鹿はお前だ。俺もお前も『契約者』じゃねーか。
  その悪魔どもと契約している身だろうが」
120 :1 [saga]:2011/08/23(火) 20:15:09.67 ID:S//Qh+ZAO
お面「悪魔が味方をすると? 人間の? それこそ滑稽な話だろう」

ルキがことさらにっこり微笑んだ。
誰もそれには気づかない。

青年「ああ、そっちは契約したあとは悪魔と離れてんのか」

お面「当たり前だ。事が終わるまでの間は共にいるメリットがない」

青年「それは俺も思うな。――閑話休題だ」

言葉の応酬に少し疲れてしまったのかぐりぐりと眉間を押す。
代わりましょうかと聞いたグランデの問いに首を振った。

青年「…あとさ、お前、『鍵』の発動にどれだけの犠牲が必要だと思うんだ?」
121 :1 [saga]:2011/08/23(火) 20:16:13.37 ID:S//Qh+ZAO
お面「犠牲、とは魔法陣を描く際の血のことか?」

青年「そうだ。一体何人の人間が血を搾り取られてミイラになるのか知ってんのかよ」

それを聞き驚いたようにアイリスはルキを見た。

少女「…血を搾り取られる?」

少年「下準備で血で魔法陣を描くんですよ。出来るだけ使う人数は少ないほうがいいんです」

少女「………」

言葉を失ったように黙る。
『鍵』である魔術師以外にも犠牲になる人間がいると知りショックを受けたらしい。

お面「世界の日常ためならたかが数人の犠牲などいとわない」
122 :1 訂正じゃおらぁぁぁ [saga]:2011/08/23(火) 20:19:02.67 ID:S//Qh+ZAO
青年「でゃああああちくしょおおおおおっ!!」
少女「っ―――!」
ノアルとアイリス、両方が歯を食いしばりながら必死に氷柱を消していく。
さすがに分子レベルまで破壊する暇はないらしく、さらさらと粉雪のような破片が落ちてくる。
二人の奮闘をポカンとただ横で見ていたグランデにルキが話しかける。

少年「グランデ。あなたもぼんやりできませんですよ」

大男「え、俺? ………あちゃー」

針のように尖った氷柱の先と彼の脳天まであと数m。
123 :1 [saga sage]:2011/08/23(火) 23:19:33.31 ID:S//Qh+ZAO
変な修正入れちゃったから台無しやー
また来ます
粉雪…
124 :1 [sage]:2011/09/05(月) 10:38:18.25 ID:OauPZbeAO
一拍の沈黙のあと。
その言葉を頭の中で反芻した後に。

少女「それ、きれいごとじゃない?」

首を傾げながら彼女は批判した。

お面「何?」

少女「誰かを犠牲にするという罪悪感を
   世界の日常とかそんなものに押し付けてるだけ」

平和を盾にした、言い訳。
正義を言い訳にした、暴力。

少女「本当のこといいなよ。ただ純粋に力が欲しいんでしょ?」

即席で作られた彼女一人の演説は続いた。
ノアルは沈黙を守ったままだ。
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/12(月) 23:54:29.15 ID:Mw+kAVVvP
名前があるのに台詞の左が青年とか少女なのが変な感じ
126 :1 [sage]:2011/10/06(木) 23:09:53.41 ID:ks8/04mAO
生存報告
もうしばらく待ってくだされ

>>125
アイリス「」も考えましたが、もしも途中からの人が見たら分かりにくいかなと
すいません、これでいかせてください
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