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【ポケモンSS】タイトルは決まっている - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/20(水) 18:34:34.05 ID:sKk6p5Ou0
最近、ふとポケモンのハートゴールドを懐かしくプレイして…
ポケモンの小説を書きたくなった、
設定は色々と考えたが、ブラック&ホワイトのポケモンは知らないので出せない。

話も適当に考えてある。
だが、しかし読ませれるレベルかどうかは非常に怪しい。

誰か……
一緒にヤラないか?
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二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714049241/

佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713966248/

全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713869982/

【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713861164/

トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713798788/

【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713788018/

2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/20(水) 18:46:46.05 ID:H+LgKa0DO
タイトルは?
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/20(水) 18:47:08.98 ID:L9b1ibsuo
早く書きなよ
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/07/20(水) 18:47:50.86 ID:iPer3xVe0
ぶっちゃけSSなんだし、日本語としておかしくなければよくね?
5 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/20(水) 19:07:52.98 ID:sKk6p5Ou0
タイトルは

"ポケットモンスター パープル"

に決まっているお。

主人公の相方は

ミュウツーというところまで決まっているお!
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県) [sage]:2011/07/20(水) 19:09:55.14 ID:ge/h6RVA0
ああ駄目だただの無双SSの予感しかしない
7 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/20(水) 19:10:03.42 ID:sKk6p5Ou0
主人公がポケモンの言葉が分かるというテンプレは装備。
8 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/20(水) 19:14:02.07 ID:sKk6p5Ou0
ネタバレになるんだけど

とりあえず、面白そうか分からないから

設定だけ全部投げていいか?考えてあるぶん
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県) [sage]:2011/07/20(水) 19:26:18.75 ID:ge/h6RVA0
他人任せにするくらいならhtml依頼出せよ
10 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/20(水) 19:37:32.60 ID:sKk6p5Ou0
世界観としては

ポケットモンスター赤・緑の世界から10年後。

ポケモン関係の従事者を育てる学校っていうのがあって
トレーナーや学者、技術者、etc...を育てるって感じのがあって

主人公は、そこに通う。1年生ぐらいにしようと思っている。
主人公は基本的に成績ダメ子ちゃんだけど
ポケモンと話せる力とミュウツーを所持している。

その秘密は後々明るみになるようにストーリー展開しようかなと思っている
11 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/20(水) 19:47:26.06 ID:sKk6p5Ou0
設定画
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1809459.jpg

絵は描けない人なので
誰かにお願いしたいところ><

主人公は♀で行きます。
パープルだけに紫重視で
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/07/20(水) 20:54:56.15 ID:WWp3KygAO
成績ダメ子はミューツーなんて捕まえられません><
13 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/20(水) 21:04:31.65 ID:sKk6p5Ou0
貰ったという可能性も十二分に
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/20(水) 21:06:42.78 ID:H+LgKa0DO
設定画は自作?
15 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/20(水) 21:29:43.71 ID:sKk6p5Ou0
その初期設定は友達に、とりあえず冒頭とイメージだけ伝えて
さくさくーっと描いてもらった。俺は絵師では無い。すまない。
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/07/20(水) 21:34:58.08 ID:LnL3+F60o
ミュウツーは本来の力を封印されていて、ストーリーが進むにつれて力を取り戻していくって感じじゃない限りはミュウツー無双になりそう
ミュウツー以外の手持ちはいるの?
17 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/20(水) 21:37:51.67 ID:sKk6p5Ou0
主人公プロフィール

名前…シズク
(本名:パープル=D=トキワレイト)

本名は基本的に物語の展開に沿って意味を持ってきます。
シズクは、本名を隠す為の社会用の呼び名として使います。

身長は158〜161程度と少し高いめを想定
髪の色は紫

他の所持ポケモンは

リオル
ミニリュウ
イーブイ

が固定枠。
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/20(水) 21:54:40.87 ID:Yj1TofoDO
面白そうなんだが注文が多そうで乗っとる気にもならん
余程酷くなければ読むからHKB
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/20(水) 22:01:45.40 ID:i+UYdhGDO
本編書く前に設定載せちゃう人って・・・
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/20(水) 22:02:35.06 ID:i+UYdhGDO
本編書く前に設定載せるとか典型的なダメssの例
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/20(水) 22:03:09.84 ID:i+UYdhGDO
本編書く前に設定載せるとか典型的なダメssの例
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/20(水) 22:03:41.56 ID:i+UYdhGDO
本編書く前に設定載せるとか典型的なダメssの例
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/07/20(水) 22:05:57.92 ID:LnL3+F60o
大事なことなので(ry
設定は良さそうだから書けばいいんじゃないかな
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/07/20(水) 22:39:29.35 ID:kuzKngRAO
面白ければ何でもいいよ
個人的には使うポケモンがメジャーどこの強ポケで新鮮味がないし、なにより二次オリジナルはまず作者が筆を執らねば設定だけいくら練ろうと横からみてて真面目なほど寒くなる

まずは自分で書いてみるといいさ
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/07/20(水) 23:07:26.70 ID:eWQhrJfd0
期待
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山陽) [sage]:2011/07/20(水) 23:13:13.49 ID:MteZFTIAO
四の五の言わずにとっとと書け太郎
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/21(木) 00:14:05.82 ID:oqSikcsSO
    | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
    |  アナログ放送  |
    |終了まで あと3日|
    |________|
.     _     ||
.    ,^   `ヽ ||
   <h>〃ハヽ>||
   | |(l ゚ ヮ゚ノi| ||
.   j /   つΦ
28 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/22(金) 02:34:47.51 ID:lvNVTI/v0
プロローグ

 ある町の小さな研究所。
 日は沈み、ホーホーの鳴き声も聞こえる夜遅く。

「この子を君に託そう」

 一人の少女に一つの紫色のボールが手渡される。
 10歳にも満たない少女は、その手渡されたボールに入っているのが"ポケモン"だと知って喜ぶ。
 
「不思議な声が聞こえる?」

 受け取ったボールを両手で大事そうに持つ少女は呟く。
 ボールを手渡した、男は「やはり、そうか」と言わんばかりの顔を見せ小さく頷いた。

「フンッ」

 その様子を見て、もう一人の若い男が鼻で笑う。睨むようなその男の瞳に少し怯えた感じの少女。
 その男は、自分の腰についているボールを一つ手に取り、その少女に軽く投げる。

「持っておけ」

 二つ目のボールを必死にキャッチして二つのボールを抱え込む。
 すると男は振り返って、その部屋を静かに出て行ってしまう。

「お父さん……」

 残った男は、机の上のバイブで震える通信機を手に取った。
 数十秒、話を聞いた後に「わかった」と口にして電話を切る。

「事態は深刻だ。君には、しばらくマサラタウンのある研究所で暮らしてもらうことになるよ」

 何も分からないと言った感じの少女は、ただ小さく一度頷くだけであった。

「リオル!? 君も、この娘に付いていってやりなさい」

 すると物影から一匹のポケモンが姿を現す。そのポケモンは少女に寄り添い小さく頷いた。
 この少女に懐いているらしく、リオルの頭を撫でて笑みを見せる。

「さぁ、行こうか」
「はい」

 小さく大きな一歩を踏み出した。


プロローグ 終
29 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/22(金) 02:35:18.90 ID:lvNVTI/v0
第1話

数年後……

 
 ここはトキワシティ郊外、数年前から活性化しだしたこの町にはポケモン従事者を育成する学校がある。
 トレーナー、研究者、コーディネーター様々なポケモンのエキスパートになる為に学ぶ学校。
 トキワの森の一部を切り崩し建設された膨大な面積を誇るこの学校は、今やトキワシティの名物となっている。

「行きなさいっ!! ガーディ」
「頑張ってね、ミニリュウ」

 校内に備え付けられている対戦用のバトルフィールド、ポケモンバトルも授業の一環である。
 
「ガーディ! 体当たり!!」

 こちらの炎ポケモン"ガーディ"使う強気な目元が特徴的な赤髪の女の子。
 腕を組み颯爽と構え不敵な笑みを見せる。それは、勝利の確信に近いものを感じさせる。
 
「あぁ、ミニリュウ……」

 ガーディの勢いある一撃を受け弾き飛ばされるミニリュウを両手で受け止めてキャッチする紫髪の少女。
 彼女の名はシズク。理由あって、この学校に通っている特に目的も無い……悪い言葉で言えば落ちこぼれの生徒。

「ミニリュウ、ダウン!! シズクさん次のポケモンを」

 審判をしている女の先生が、手持ちのボードに何かを書きながらシズクに指示を出す。
 それに対し、少し困った顔で腰に掛る服を少し捲り上げ、ベルトを見せるシズク。

「私、ポケモン3匹しか居ないんで……もぅ負けでいいです」

 今日の授業は4対4という設定で行われていた。先生は小さく頷いて了承すると、またボードに何かを書き加える。
 対戦相手の女の子を指して勝利のコールをする。しかし、その相手の女の子は何処か不服そうな顔をしている。
 シズクはミニリュウをボールに収めると、すぐにそのバトルフィールドのある教室から出て行ってしまう。

(お疲れミニリュウ)

 廊下に出て水道の前、蛇口を一気にひねって溢れ出る水で顔を洗い流す。
 後を追うように先ほどの対戦相手の女の子が、教室を出てシズクの元へと駆け寄ってくる。

「ちょっと……あなたッ!」
「?」

 タオルで顔を拭きながら頭をあげるシズク、急に呼ばれた事に驚き困る感じの表情。
 視線の先には、力の籠った感じで怒った顔をしている対戦相手の女の子。

「ルリカ……さん?」
「ルリカさん?じゃないわよ! さっきの戦い、私を舐めてますの? 技の指示も出さずにボーッとして」
「私だって、アンタじゃありません。シズクです」

 興味のなさそうな冷めた視線に、答えになっていない返事。
 そう言ってタオルを畳んで手にかけると、すぐにルリカに背を向けてその場を去ってしまう。
 気に入らないという感じの表情を見せるルリカであったが「フンッ」と振り返って元の部屋へと戻って行く。


続く…
30 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/22(金) 02:36:53.31 ID:lvNVTI/v0
第2話

 模擬戦の授業は、自分の番が終わったら基本的には授業が終わるまでは休憩。
 一応、教室内にいるのが原則だがそれを守っている生徒は少ない。先生もいちいち取り締まってはいられない。
 シズクは廊下を進み、階段を上る。透き通った青空が見える誰も居ない屋上、シズクの安息の場所。
 隅の方まで歩いて柵に手を掛ける。

「はぁ〜」

 しゃがみ込んで深い溜息を吐く。
 屋上からの景色、トキワの森で虫取りをしている数名の生徒達が見える。

(昆虫科? お気楽ね)

 溜息の後に座り込む。腰からボールを一つ手に取って、ジーッと眺める。

「痛かったねぇ……さっきの体当たり」

 ボールを左右に小さく振って少し寂しそうな顔で話かける。
 そのまま腰を降ろし、体育座りをして俯いて黙る。
 そこに一匹のピカチュウが寄って来て俯くシズクの隣にチョコンと座った。
 俯いたまま少し頭を傾けて、そのピカチュウを確認する。

(ピカチュウ?)

 すると後ろから足音が聞こえてきた。

「おいおい、先に行くなよピカチュウ……ん? 誰か泣いてるのか?」

 気の抜けた緩い声、隣にいたピカチュウはすぐにその男の元へと走って行く。
 ゆっくりと近づく足音、どうやら男はシズクに向かって歩いてきているようだ。

「どうしたんだ? ここは一人で泣くような場所じゃねーよ」

 先程のシズクと同じように柵越しに外を見ながら男が喋りかける。

「泣いてません」

 その言葉にグッと頭を上げるシズク。

「おやおや、確かさっきルリカ嬢に完敗を規したシズクさんだったかな?」
「……誰?」

 すると男はシズクの横に腰掛ける。同時に、ピカチュウがその男の頭に乗っかる。

「同じクラスになって半年だというのに覚えて欲しいね。俺は、ジルだよ。専攻は雷の予定」

 頭に乗っているピカチュウを指差して笑顔で話す。シズクと同じクラスの生徒である。
 この学校では2年生になると、属性別の専門授業があるようだ。
 ジルは、態勢を変え柵に背を向ける。

「だったら昆虫科の見学? あんまり虫カゴは似合いそうにないけど?」
 
 先ほど下に見えるトキワの森を確認したのか親指で森を指して笑顔を見せる。
 親しく話そうとするジルに対して、シズクは無言で立ち上がりボールを腰に収める。
 そのまま振り返って、屋上の入り口に向かって静かに歩きだす。
 それに気付いたジルは一瞬、見下すような鋭い視線を見せシズクの背を睨みつけた!
「クールぶってるくせに、落ちこぼれなのか?」
 その棘のある言葉が霧消に頭に来たシズクは眉にしわを寄せ振り返る。
 すでにジルは方膝を付き自分のピカチュウの頭を撫でていた。先程の圧力は感じられない。
「だって、そうだろ? ルリカの攻撃は体当たりから"かえんほうしゃ"への連携にあった。
あの体当たりは囮みたいなもの、それは彼女も分かっていた。それなのに、その体当たりが直撃」
 呆れたような小さな溜息をついた後にピカチュウを肩の上に乗せて立ち上がりシズクに近づいて来る。
 対峙、向かい合って分かるジルの圧力。緩い感じの声とは真逆の存在感。
 シズクの視線はジルの肩ぐらいの高さ、ちょうどそこに乗るピカチュウが無邪気にシズクの頭を触る。
「このトレーナーズベルト……そうなってるんだね」
 ピカチュウに気を取られている間にジルはシズクの上着を軽く捲っていた。
 シズクのパンツに巻かれているベルトを見て呟く。
「ちょっと……! 何をッ」
バン! とジルの胸を押して間を取る。ふらふらになった落ちそうになるピカチュウが慌ただしい。
「ポケモンを3匹しか持っていないんじゃなくて、そのベルトには3ヵ所しかボールをつける所が無かった。
 通常、商品化されているトレーナーズベルトは最低でも6ヵ所の設置場所が存在している。おかしいと思ったんだ」
 軽くベルトを指差して不敵な笑みを見せる。
「見たのッ?!」
 睨みつける嫌悪な表情。フッと小さく笑って見せるジル。
「誰にでも隠し事ってあるもんだよ」
そう小さな声で呟くとシズクの横を通り抜け、屋上の出口へと向かって歩き出す。


続く……
31 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/22(金) 02:37:28.90 ID:lvNVTI/v0
改行を1回で乗せられるように調整してみたけど
見にくくなるんで、素直に分割して一つの話を乗せるようにします。
32 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/22(金) 02:37:54.49 ID:lvNVTI/v0
第3話
「待ちなさいよ」

 屋上を去ろうとするジルを呼びとめる。その力の籠った声にジルの耳がピクッと動く。
 フッと小さな息をこぼして「やれやれ」という表情で振り返る。

「どうしたんだい? 秘密を知られたからには俺を生かしておく訳にはいかないって?」

 逆に挑発的な笑みを見せつける!
 右肩に乗ったピカチュウの頭を撫でながら強気な視線で睨み返す。

「授業以外でのポケモンバトルは、教室バトルフィールド内で教員1名以上を引率しての場合のみだよ」
「私は、何も言ってないわよ?」

 言葉でそう言っても明らかに喧嘩を売っているような微笑。
 ベルトから1つのモンスターボールを手に取り、手元で強く握る。

「なるほど、お戯れという訳か」

 鼻で笑った後に首を軽くひねって合図を出す。それをきっかけに肩に乗っているピカチュウが手前に飛び出した。

「ピカピッ!」

 可愛らしい鳴き声と共にシャドーボクシングをするように手で数回ワンツーをして構える。

「見ての通り、俺の手持ちはピカチュウ。 君が、ポケモンを出したら開始。1オン1で軽く遊ぼうか……!」

 ポケモンを出したら開始。ポケモンの入れ替え全般に言える事であるが
 通常ポケモンはボールから出た後にオーナーの指示を聞いて行動に入る。
 数秒、わずか数秒であるがすでに場に出ているポケモンと新たに出ているポケモンではタイムラグが生じる。

(俺のは、素早い雷タイプのピカチュウ。一手目は"でんこうせっか"で行かせてもらうぜ)

 シズクがポケモンを出すのを腕を組んで待っている。その間、頭の中で計画を立てるジル。
 するとシズクは、静かに瞳を閉じて祈るように手に持ってボールを額に近づける。

「ん……? 確か、さっきの模擬戦でもポケモンを出す前にやっていたね。祈ってもバトルは運任せじゃないぜ?」
「行くよ。ミニリュウ」

 ジルに聞こえないほどの声で言葉を漏らす。それと共に瞳を大きく開く。
 手元を離れ宙を舞うモンスターボール、2〜3回ゆるりと回って地に着く。
 開口時の独特な光がボールから溢れ出しポケモンの形を形成して行く……

33 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/22(金) 02:39:34.15 ID:lvNVTI/v0
第3話
「待ちなさいよ」

 屋上を去ろうとするジルを呼びとめる。その力の籠った声にジルの耳がピクッと動く。
 フッと小さな息をこぼして「やれやれ」という表情で振り返る。

「どうしたんだい? 秘密を知られたからには俺を生かしておく訳にはいかないって?」

 逆に挑発的な笑みを見せつける!
 右肩に乗ったピカチュウの頭を撫でながら強気な視線で睨み返す。

「授業以外でのポケモンバトルは、教室バトルフィールド内で教員1名以上を引率しての場合のみだよ」
「私は、何も言ってないわよ?」

 言葉でそう言っても明らかに喧嘩を売っているような微笑。
 ベルトから1つのモンスターボールを手に取り、手元で強く握る。

「なるほど、お戯れという訳か」

 鼻で笑った後に首を軽くひねって合図を出す。それをきっかけに肩に乗っているピカチュウが手前に飛び出した。

「ピカピッ!」

 可愛らしい鳴き声と共にシャドーボクシングをするように手で数回ワンツーをして構える。

「見ての通り、俺の手持ちはピカチュウ。 君が、ポケモンを出したら開始。1オン1で軽く遊ぼうか……!」

 ポケモンを出したら開始。ポケモンの入れ替え全般に言える事であるが
 通常ポケモンはボールから出た後にオーナーの指示を聞いて行動に入る。
 数秒、わずか数秒であるがすでに場に出ているポケモンと新たに出ているポケモンではタイムラグが生じる。

(俺のは、素早い雷タイプのピカチュウ。一手目は"でんこうせっか"で行かせてもらうぜ)

 シズクがポケモンを出すのを腕を組んで待っている。その間、頭の中で計画を立てるジル。
 するとシズクは、静かに瞳を閉じて祈るように手に持ってボールを額に近づける。

「ん……? 確か、さっきの模擬戦でもポケモンを出す前にやっていたね。祈ってもバトルは運任せじゃないぜ?」
「行くよ。ミニリュウ」

 ジルに聞こえないほどの声で言葉を漏らす。それと共に瞳を大きく開く。
 手元を離れ宙を舞うモンスターボール、2〜3回ゆるりと回って地に着く。
 開口時の独特な光がボールから溢れ出しポケモンの形を形成して行く……

34 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/22(金) 02:45:24.21 ID:lvNVTI/v0
ミニリュウ VS ピカチュウ

「ピカチュウ!! 先手必勝だ!"でんこうせっか"!」

 四足で素早く駆け出し、まだ光に包まれている状態のミニリュウの目の前まで一気に間合いを詰める!
 その勢いのまま体全部を使って体当たりを仕掛け頭から突っ込んだ。

「雷ポケモンの"足《素早さ》"舐めてもらっちゃ困るぜ」

 攻撃は命中した! そう確信したジルが親指をパチン! と鳴らして意気がった言葉を飛ばす。
 それを確認もせずに、次の指示を出そうとした時の事だった……

「ピカ〜」

 何かに弾かれたように"でんこうせっか"から"たいあたり"を仕掛けたピカチュウが後ろに跳ね返る。
 宙を舞って着地に失敗、あお向けに倒れこむ。

「なっ……あのボールは、確かミニリュウのはず」

 弾け飛んだピカチュウを見て驚きを隠せない様子。焦った素振りで視線をピカチュウからミニリュウに移す。

「!!」

 ジルはその姿に目を疑った。ボールから出てシズクは一言も発していない。
 しかし、そのミニリュウはピカチュウの攻撃を読んでいたかのように"まるくなる"による防御態勢を取っていたのだ。

「まるくなる……だと?」
「ピカチュウ、まだ行けるか? ミニリュウは足の速いポケモンじゃない、不意打ちさえ喰らわなければ!」

 視線をピカチュウに戻す。ピカチュウはジルの掛声に答えて素早く立ち上がり「ピカピッ」とファイティングポーズをとる。
 それを見て少し安心するジル、しかしピカチュウは不思議そうな顔をしてキョロキョロと周りを見回している。

「どうした?」
「……高速移動」

 シズクが呟いた。ジルも気付く、視界からミニリュウの姿が消えている事に……

「ミニリュウは、もともとはそんなに素早いポケモンじゃないわ。 でも、こういう技もあるの!」
「くっ……」

 身構えるピカチュウの前に突如、ミニリュウが姿を現した。
 咄嗟の出来事に少し驚いた感じで一歩後ろに退くピカチュウ。

(……くっ、間合いを詰められた。次の技は何だ?)

 焦った様子のジルがシズクの方を見る。しかし、シズクは胸の前で腕を組んだまま一言もしゃべらない。
 そちらに気を取られている隙にミニリュウが次の行動を行っていた。
 ピカチュウの目の前で、その長いしっぽを撹乱するように振りだしたのだ。
 それにつられて左右に振られるしっぽをついつい目で追ってしまうピカチュウ。

「これは、"しっぽをふる"!? つられるなピカチュウ! 隙が出来るぞっ!」

バシッ!!!

 ジルの声が届く前にミニリュウのしっぽがピカチュウの頬を勢いよく弾いた。
 眠気も覚めるような一撃によりピカチュウは横に流れるように吹き飛ばされる。

「"たたきつける" は、今ミニリュウが出来る一番強い技。これを受けて立たれると困るわ」
「ちっ……」

 ジルは素早くピカチュウの元に駆け寄りピカチュウを抱き上げる。
 ポケットの中から"きずぐすり"を取り出し頬に当て応急処置と言ったところである。

「ふっ、俺の負けだぜ」

 抱きかかえたピカチュウをボールに戻しジルが少し悔しそう口にする。

続く……
35 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/22(金) 02:46:48.35 ID:lvNVTI/v0
第4話
「何故だ? お前が口に出して指示したのは"高速移動"だけだった」

 先程のバトル、ジルの言う通りシズクは技の指示を一つしか行っていない。
 しかし、ミニリュウはテンポ良く行動しピカチュウの隙をついて大打撃を与えた。
 その事が不思議で仕方が無い様子のジル。

「落ちこぼれの私に戦術を聞くの?」

 少し嘲笑うかのような強気で不敵な笑み。
 これが"本当の実力!" といわんばかりのコンビネーションに思わず瞳を大きくするジル。

「悪かったよ。その事は謝ろう」

 軽く両手を挙げて謝罪、それに対して笑顔を見せるシズク。
 一歩、二歩とシズクに近づくジル。

「それで、謝ったら教えてくれるの?」

 少し恥ずかしそうに指で自分の右頬を触って喋る。
 するとシズクは少し悩むような困った顔を見せ振り返り背を向ける。
 一歩、二歩と歩き再び柵の方まで歩いて遠ざかる。

「信じなくても良いんだけど……」
「?」

 ジルに背を向けたまま青空を見上げて喋り出す。
 葉が擦れるようなか細い声。少し張りつめた感じで続く。

「私、ポケモンの 声(想い)が聞こえるの」
「……」

 予期せぬ解答、さしずめジルはボールから出る度、一連の技を繰り出すように最初から指示してあるものだと予想していた。
 その答えに唖然とした感じの表情を見せる。
 普通なら「それは気のせいだよ」とか「勘違いじゃないだろうか?」「思いこみだよ」等、否定する言葉が出てくるだろう。
 しかし、ジルは違った。

「そうか、凄いな」

 この事を口にした何処か寂しげなシズクの表情、ミニリュウを出す前に見せた祈るような行動。
 そして、ジルの人柄。その全てを総合した結果、ジルは何一つ疑う事なくそれを信じる。

「良いのかい? 簡単に話すには、結構重大な事だと思うけど?」
「いいよ。あまり信じてくれる人いないし」

36 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/22(金) 02:47:29.71 ID:lvNVTI/v0
それだけでは無かった。シズクは先程の「誰にでも隠し事ってあるもんだよ」というジルの一言。
 つまりそれは、ジルにも何か隠し事があり。あまり、それを詮索しないという性格と予想してのことだった。

「いや、まいったね。"落ちこぼれちゃん"にそんな能力があったとわ」

 ははっと笑いながら一歩づつシズクに向かって歩き出す。
 先程座っていた柵の方にまで再び歩く。

「また言った!!」

 頬をプクッと膨らませて頭だけ振り返るシズク。
 それを見て「プッ」と吹きながらも歩を進めシズクの横に立つ。

「悪い悪い。そんな顔も出来るじゃないか」

 一戦交え、話を聞いて一気に交友関係が良好になる二人。
 ジルは先程と同じようにそこに腰かけ、ピカチュウの入ったボールを取り出した。

「なぁ、俺のピカチュウは何て言ってる?」

 試すように手に取ったボールをシズクに向けて伸ばす。
 それに気付いたシズクはボールを受け取って、ジルの隣に腰掛ける。
 先ほど対戦前に見せたように瞳を閉じてボールを両手で包むようにして持つ。

「今度は負けないって、嫌われちゃったかな?」

 少しムッとしてボールを投げ返す。手を伸ばせば届く距離なのに投げられて一瞬驚き慌ててキャッチするジル。

「じゃあ、あの"高速移動"は? 何であれだけ指示を出したんだ?」
「ぇ、あれはピカチュウが思いのほか後ろに弾いちゃったから……かな?」
「ふーん、なるほどね。 さっきみたいにボールかポケモンに直接触れてみないと分からない訳だ」

 人差し指を立てて少し得意気に語るジル。
 指摘されて少し恥ずかしそうに「うん」と頷く。シズク的には"この話"を真面目に聞いてくれる人がいて嬉しいという感じである。

「ぁ、でも。分かる子もいるの……離れていても」
「?」

 するとシズクはベルトからミニリュウのとは異なるモンスターボールを一つ取り出して手の上に乗せる。

「この子は"リオル" 昔からずっと一緒にいるんだけど。この子の声は何処にいても聞こえるんだ」
「"波紋ポケモン"か…… なるほど、そいつなら分からない事も無いな」

 右手を顎に添えて考えるような素振りを見せるジル。
 リオルは、人間の言葉を理解できるポケモンとしても有名であり、その波動も解明されている。

「……」

 ボールに入ったリオルを手に固まるシズク。
 
「どうした?」

 ジルの声に我に変えるシズク、少し焦った感じで頬を赤くしつつボールを片手に持つ。

「リオルがね。私のこと"楽しそう"だって」
「俺もそう思うよ」

 クスっと小さく笑った後にジルがそう付け加える。
 そして、立ち上がり首を左右にゴキゴキと傾け伸びをする。

「そろそろ戻らないといけない時間だ」

 腕に巻いた時計を確認するジル、そろそろ模擬戦の授業が終わる頃である。
 シズクも小さく頷いて立ち上がる。ジルは、再びピカチュウの入ったボールを取り出し地面に落とす。

「ピカーッ」

 先程の戦闘から少しボールの中で癒えたのか元気なピカチュウが飛び出した。
 シズクの方を向いて少し強気な目つきになりシュッシュッと手でワンツーのポーズを取った後にジルの肩に飛び乗る。

「こいつが近くにいないと不安でね。俺は先に行くよ、また今度……その"ベルト"の話とか聞かせてよ」

 ニッと笑みを見せてジルは先に屋上から立ち去って行った。
 誰一人いない屋上にただ一人のシズク、立ち去るジルをただ静かに見ていた。

(……惚れたな)
「ウルサイッ!! リオルッ!」

 開閉スイッチを押さずにボールを地面に叩きつける!

続く……
37 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/22(金) 02:48:00.98 ID:lvNVTI/v0
第5話

「今回の模擬戦、みなさんの成長が著しく伺えます」

 20名ほどの生徒が先程のバトルリングのある教室の隅に集まり教員の話を聞いてる。
 整列しているというよりは、まばらな感じで教員の周りに集まっている。
 授業のデータを記したであろう電子ボードを手に今回の授業のデータを見直す。

「1年生の間は、試合結果はあまり成績には反映されないのですが」

 ボードの一つの項目を見て手を止める。
 小さくため息を吐いて、生徒の中からある人物を探すように見渡す。

「シズクさん。 事前に4対4と連絡を入れてあったと思いますので、せめて頭数は揃えてくださいね」
「ぁ……はい。すみません」

 周りから多くの笑い声が聞こえる。
 勝敗は成績に含まれずとも、ルールを守るという事は大切な事だからであろう。
 それを告げ終わると手元のボードに表示された時間を見て授業終了の指示を出す。

「じゃあ、今日の模擬戦の授業はこれで終わります。みなさん傷ついたポケモンのケアを忘れないように」
『はい』

 一同の元気な返事と共に一礼をして教員は教室を出て行った。

「なるほどっ、このベルトはこうなっているのか」
「へっ?」

 知らぬ間にシズクの後ろでかがんでいるジル。
 背が少し見えるぐらい服を少しも繰り上げて例のトレーナーズベルトを後ろからチェックしている。
 
「ちょっと、またっ!?」
 
 すぐに両手で後ろの服の背びれを下げベルトを隠すようにする。
 そして、すぐに振り返ってジルを睨んだ。少し悪そうに両手を胸前で広げて馬を抑えるように「どうどう」と笑うジル。

「俺の名前も知らなかったんだ。どうせ、学年最初の自己紹介も覚えていないだろう?」
「……?」
「だよな。 俺は、トレーナーというより技術者向けなんだ。 だから、ポケモンに関するアイテムには少し目がなくてね」

 気前良く再び自己紹介をしてみせる。

「ふーん」

 思いのほか興味が無さそうなシズク。

「その"トレーナーズベルト"は、右前にボールの設置個所が3ヵ所。それは君がいつも使っている3匹だが……」

 そう言った後にこちらを向いているシズクの肩をがっしりと掴んでグルッとひっくり返し背を向ける。

「この左後ろの部分にもボールの設置個所が3ヵ所、これで合計6個。数的にはおかしくないけど設置場所が気になる」

 後ろを向かされベルトを晒されるシズク。他に誰も見ていないが、あまり良い気分ではない。
 そして、そのベルトの左後ろに設置されている3つのモンスターボール! つまり、シズクはポケモンを3匹しか持っていない訳ではない!

「秘密の3匹という訳か」

 意味深な表情を浮かべるジル、その間にクルッと手を振りほどいて再び正面を向くシズク。
38 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/22(金) 02:48:37.44 ID:lvNVTI/v0
 
「この後ろの3匹は"未報告"の隠し玉かな?」

 この学校では教員側が生徒のポケモンの成長や使い方などを把握する為に基本的に生徒側の所持ポケモンを把握している。
 先程の戦いで先生がシズクの「3匹しか持っていない」という発言を了承したのはシズクがポケモンを3匹しか登録していないからである。
 もちろん、この登録はあくまで学校側の支援を得るためのシステムで強制という訳でも義務がある訳でもない。

「ううん、この後ろのボール3は空なのっ! 捕獲用のストック!」

 手をばたばたと前で振って、わざとらしく断りを入れるシズク。
 しかし、それがウソだとジルには一瞬で分かった。
 そのシズクの様子を見て真剣な顔になる。

「嘘をついちゃーいけない」
「へ?」
「一つは、普通のモンスターボール。そして、もう一つの灰色のは、ハイパーボールだ……」

 シズクのベルトの後ろにつけられたボールを軽く指差し話を続ける。
 それと同時にシズクの表情も少しづつ引きずってくる。

「俺の記憶が正しければ、最後の一つの"紫色のモンスターボール" そいつは、確かタマムシの事業で開発され生産が見送られた品物。
 トレーナーとしての道徳性を否定するという理由から、俺達の時代には存在しないボール……"マスターボール" なんじゃないのかい?」

 その真剣な一言に少し身構えるシズク。

「まぁ、そのボールには興味あるけど。君が、それで何を捕まえたかなんてどーでもいいんだけどな!
 言っただろ? どちらかと言うと俺はアイテムに目が無い男なんだよ」

 ははっと軽く笑って重苦しい雰囲気を自ら振りほどくジルであった。
 それを聞いて少し胸を撫で下ろし小さく息を吐くシズク。

「どういうことですの?」
「ぇ!?」

 いつの間にかシズクの後ろにはルリカの姿があった。
 何処からかは分からないが、二人の会話を聞いていたようだ。
 腕を組んで少し怒っているような感じの表情で二人の会話に割って入る。

「ルリカさん……!?」
「つまり、何ですの? ポケモンをちゃんと4匹持っているのに私との対戦では出さなかった! そういうことですの?」

 3匹しか居ないという理由で早く試合を終わらせたシズクが気に入らない感じであったルリカ。
 そのことに加え、さらに4匹目以降を持っていたという事を知りさらに御冠の様子である。

「あちゃー」
 
 ジルとピカチュウが一緒に"やっちゃった"と言わんばかりの反応を見せる。
 腕を組んでいたルリカはすぐにその手を解いてシズクのベルト後方のボールを素早く一つ奪い取る!

「あっ!」
「ふーん、ここにいますの? この子を使っちゃ、私に勝ち目がないとでも仰りたいのかしら?」
(うぉ……よりによって"マスターボール" !!)

 手の上にで奪い取った紫色のボール、マスターボールをぽんぽんと軽く投げて強気な視線を見せるルリカ。
 それを見て少し歯を食いしばって困った感じの顔をした後に、すぐに表情が緩くなるシズク。

「何言ってるの? そのボールは、空よ」
「あら……?そうなの」

 シズクが見せた強気な態度にルリカは開閉スイッチのボタンを押してボールを手から落とす。
 ボールは手の平を滑り落ち1回2回とゆったりと回転して地に着いた……


続く……
 
39 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/22(金) 02:49:45.46 ID:lvNVTI/v0
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1814712.jpg.html

http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1814718.jpg.html


これが誰の設定画なのかは分かると思います。
PWは poke です。
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/22(金) 03:13:28.99 ID:E6/tolXto
何だい普通に面白いじゃないか
41 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/22(金) 22:10:39.88 ID:lvNVTI/v0
第6話
 
 手の平から滑り落ちた紫色のボール"マスターボール"!!
 強気な笑みを浮かべるシズクに対して、不敵な笑みを見せるルリカ!
 そして、そのボールの中味を気にしていたジル……緊張の一瞬。

「……!?」

 ボールは地に着くと共に独特の開口音を小さく響かせ開いた。
 中から開口時の光が溢れ出し、モンスターの型を形成して行く!

(そんな代物で捕らえた一匹……こいつは気になるぜ)
(……。4匹目のポケモン、この子を使わなかった理由は何ですの?)

 大きくゴクリと息を飲んで少し前のめりになるジル。
 ボールを離した後、腕を組み直し睨みつけるような感じでその様子を見るルリカ。
 そして、ついにその光が消える!

「え?」

 ルリカとジルの驚いた表情。
 現れたポケモンが以外だったのか、理解できなかったのか驚きに溢れた顔。
 そして、その様子を見て口元で小さな笑みを浮かべるシズク。

「どういうことですの?」
「だから、言ったじゃん」

 嫌悪する感じのルリカの少し大きめの声!
 呆れた感じで抜けた声で返すシズク。ルリカの方を見て小さな微笑を見せる。

「空だって」

 !!
 何と! 開いたボールからは、何のポケモンも現れなかったのである。
 ただ、ボールが開き……そして、何も現れなかった。ただ、それだけである。
 その様子を見てルリカは高々と声を上げて笑い声を上げる。

「ホホホッ、そうね。どうやら、本当に3匹しか持っていないみたいね」

 嘲笑うような笑みと共に地面に落ちたそのボールを拾い上げる。
 どうやら、本当に空だと知って少し喜んでいるようにも感じられる。
 その拾い上げたボールが"マスターボール"という品だという事には気付かない。
 この時代には、流通していない品だからだろう。

「お返ししますわ。このボール、ちゃんと頭数を揃えれるようにゲットしてきなさい」

 ポン! っと軽くボールをシズクに投げて上機嫌でその場を去って行く。
 シズクは手にしたボールをベルト後方に戻すと振り返ってジルの方を向く。

「ねっ? 言ったでしょ? 空だって」

 少し調子に乗った感じの笑みでジルを見る。

「あぁ、確かに……」

 肩に乗るピカチュウの頭を軽く撫でながら一度頷いて口にする。
 それを聞いてシズクも笑みを見せて頷いた。

「昨日の俺なら、信じただろうね」
「!?」

 ジルの疑うような不敵な笑み。
 その一瞬の圧力に負けてシズクも動揺した表情を見せてしまう。

「あの中には、何か入っていたよ。絶対に……」
「ぇ? 何言ってるの? 現に何も出てこなかったじゃん」
「確かに……ここにいる、俺とお前以外にはそう見えたはずだ」

42 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/22(金) 22:11:42.90 ID:lvNVTI/v0
右手を顎に添えて何かを推理するかのように喋りだす。
 
「さっき、屋上で"リオル"とは離れていても言葉を交わす事が出来ると言っていたね?」
「えぇ」
「でも"はどうポケモン"だからか?と俺は考えたんだが、それは違う」
「何なの? バカみたいに真剣な顔しちゃって」

 腕を組んで挑発的な表情を見せつけるシズク。
 それに負けずとジルは考えるように唸って見せる。
 それを真似るように肩に乗るピカチュウも同じような推理ポーズを取って見せる。

「唯一、辻褄があうとすれば」
「何よ?」

 人差し指を軽く付き立て前に出すジル。

「ボールから離れていても声が届くのは、リオルの他に! ねんりき等が使えるエスパーポケモン!」
「……!」
「そして、ボール開口時に"こうそくいどう"ないしは"テレポート"の技を使うように指示をする」

 指をパチン!と鳴らせてシズクを指差す。

「これでどうだ?」

 名推理! と言わんばかりの自信満々の笑みをぶつけるジル!ピカチュウも何処か誇らしげである。
 それを聞いたシズクは一瞬驚いた顔を見せるが、ジルの勢いに驚いたという感じですぐに呆れ顔に戻る。

「はいはい、名推理名推理。 次の授業、始まっちゃうよ。移動移動」

 手をパンパンと叩いて軽く拍手をするようにしてあしらう。
 ジルを無視して教室の出口へと向かって行くのであった。

「おっ、おい!」

 慌てて追いかけるジル。ピカチュウも慌ただしく肩にへばりつく。
 違う教室に移動する間の廊下…、休憩時間も残りわずかとあって人影は少ない。
 1年生の間は全員同じ授業を受ける為、必然的にクラス全員同じ教室である。

「次は"ポケモン進化論"かぁ……あの先生苦手なんだよなぁ」
「おや? 悩み事かい? 何なら俺が相談相手に!」
 
 独り言を言っているつもりだったシズクの後ろから話かけるジル。
 すぐさま横に並んで気さくな感じを見せる。

「何? 馴れ馴れしいわね? 私に興味でもあるの?」

 冗談半分で少し突き放してみせる。

「そりゃ、あるだろー? ポケモンとお話が出来てあのボールまで持っている! 興味津々さ!」
「何か、馬鹿にされてるみたいだから…あんまり言わないで」

 とぼとぼと元気のない感じで歩いて、次の授業の教室に辿り着く。


続く……
43 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/22(金) 22:12:28.80 ID:lvNVTI/v0
第7話

「何で隣に座るのよ?」

 段差式の広い教室、連続する机が立ち並びその階段は6段から7段存在する。
 その教室の後ろの方に座ったシズク、そして隣に腰掛けるジル。
 授業毎に席が決まっている授業は存在せず基本的にどの席で受けるかは自由である。

「良いんだよ。何処でも」

 ジルはそう言って来る途中にロッカーから持ってきたノートパソコンを開いた。
 授業のノートを何で取るかも特に決められておらず自分のスタイルで受ける事が出来る。
 が、さすがにパソコンを持ち込んでいるのはジルだけで、シズクはノートとペンを机の上に置いた。

「随分とアナログ式だな」
「そっちがデジタル過ぎるんです」

 一見、仲良くなったように見えたがシズクは、あまり気が気じゃないという様子。
 今まで半年間、ほとんど一人で過ごしてきたシズクにとって少しありがた迷惑と言った感じだろうか?
 早速、肘を机につけて手の甲に頬を置く。

ウィーン

 そうこうしている間に、銀色のフレームの角の尖ったメガネをかけた女の先生が入ってくる。
 授業が始まり、黙々と教壇後ろのモニターに映像や画像が映しだされ先生が文献を読みあげていく。

「なるほどね」

 カタカタとパソコンに授業のノートを取りながら、ジルが呟く。
 
「zzZZ 」
 
 スースーと隣に座っていないと聞こえないほどの小さな寝息を立ててシズクは眠りについてた。
 手の甲に頬を添えたまま態勢は崩さずに安らかでいて尚、爆睡。

(やれやれ、女の子って基本真面目なイメージがあるけど固定概念は返上かな)

 起こす仕草も無く、そのままシズクを眠らせておく。

「次は、多くの進化が確認されている希少種のポケモン"イーブイ"についてですが」

 スライドが移り変わり"進化論"の授業はイーブイについての話に進む。

「イーブイ……? まずいな」

 小さく言葉を漏らすジル。そう、先程の模擬戦の授業、シズクが使用した3匹のポケモン、それは
 "リオル" "ミニリュウ" そして、もう1匹は"イーブイ"なのである。
 少し困った感じの表情を見せて寝ているシズクの方を軽く見る。依然眠り続けるシズク
44 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/22(金) 22:13:06.51 ID:lvNVTI/v0
「ふふっ」

 先生と寝ているシズクを交互に2,3回見た後…何か閃いたかのような微笑を見せる。
 
「おい、ピカチュウ」

 囁くほどの小さな声、基本的に授業中に関係のないのポケモンを出す事は良い事では無いが
 ピカチュウがポツンとイスに座ると前から見ると机とイスとの間に入る為、先生からは見えないのだ。
 呼ばれたピカチュウはムクッと頭を上げてジルの顔を見る。

「……」

 音が鳴らない程度の指をかすらせて指示を出す。
 特に言葉は発していないがピカチュウも何かを理解してように不敵な笑みを見せた。
 チョコチョコと連なるイスをシズクの方に移動する。

(いけっ!)

 するとピカチュウは手をシズクの体に触れさせ、こっそりとわずかな電気を流す。

「ひっ!?」

 少し大きめの物音を立てて起き上がる。辺りの生徒が一瞬静まり返りシズクの方を見る。
 シズクは訳がわからない感じで頭を左右に振る。

「おい、当てられてるぞ!」

 わざとらしく手を添えてジルが面白そうなものを見るような笑みを見せて添える。

「はっ、はいっ!」

 何が何か分からないままジルの言うことを真に受けて立ち上がるシズク!
 辺りは沈黙……その様子に先生も逆に驚いた顔を見せている。

「クククッ」

 一番に聞こえた声を出るのを堪えるような笑声。その声の主は当然のことながらジル。
 お腹を抱えて片手で口元を抑えている。
 
「ぇ?」

 未だに状況が理解できていないシズクが唖然とした表情を見せる。
 もちろん、シズクは先生に当てられていないし別に問題のようなものも出されてはいない。
 ただただ、突っ立っているだけなのであった。それと同時に回りの生徒も笑い始める。
 前の方に座っているルリカがクスッと小さく手を添えて笑ったのがシズクには見えた。

「オホン、静かに! 怖い夢でも見られましたか? シズクさん」

 生徒を黙らせて少し嫌な感じで言葉を飛ばす。シズクが寝ているのには気付いていたようである。
 続いて、教卓に置いてあった方手サイズの電子ボードを手に持ち操作を行う。

「あら、丁度いいですね。シズクさんは"イーブイ"をお持ちのようですね」

 生徒の手持ち等の情報を記したページがあるようで、そこを見たのだろうシズクを見ながら発する。
 立ったままのシズクが、静かに一度頷いた。

「"イーブイ" は様々なポケモンへ進化する可能性があり。皆さんが2年生になった時には自分にあったポケモンに進化させる事が出来ます」

 一旦、話を生徒全員にした後に再びシズクの方を見る。

「でわ、そんなイーブイをお持ちのシズクさん。"月光ポケモン ブラッキー"への進化条件はご存じですか?」

 もちろん。勉強不足のシズクがご存じな訳が無い。
 カチカチに固まって困っている所にジルが横から小さな声で呟いた。

「"月の石"だよ」
「月の石!!」

 それを聞いたシズクが素早く少し大きめの声で元気に発する!

「違います。お座りください」

 一瞬で撃沈され、また少し笑いが起きる。
 座ったシズクがムスッとしてジルの方を見るとジルは机をバンバンと叩きながら笑いこけていた。

「ムカツク……」

 
続く……
45 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/22(金) 22:13:41.49 ID:lvNVTI/v0
第8話

「放課後、フリーバトルでもいたしませんか?」

 唐突だった。授業を終え皆に笑われ少しムスッとして片付けるシズクの前にルリカが立った。
 上品に右手で口元を少し抑えて、笑いを堪えている感じがしないでもない。

「フリーバトル?」

 この学校は授業時間外であれば、そのバトルリングは生徒トレーナー同士の交流の場として開放されている。
 教室設備のバトルリングには安全確認用の監視カメラが備え付けられている為、教員の同伴は必要では無い。
 互いを高め合う、自由な戦い。まさにフリーバトルなのである。

「いいんじゃないか? どうせ、いつも真っ直ぐ帰っているだけじゃないか」

 シズクより乗り気なジルが頷いて答える。それに流されるようにシズクも小さく息を吐いて頷いた。

「もし、宜しければ……シズクさんのイーブイを私に譲ってくれないかと」

 強気かつ大胆不敵な物言い!
 賭けろ! そう言っている訳では無い。だが流れがそう言っているような気がする。

「ダメだよ。イーブイは……」
 
 困った感じの表情で両手を前に出してあたふたするシズク。
 その様子を見て腕を組みさらに強気な視線で睨むようにして口を開く。

「そんな、イーブイの活用法、いえ進化方法も知らない人が持っているなんて勿体ないですわ!!」

 大きめの声、すでに他の生徒の多くは退室しているが
 残っている生徒達には聞こえたであろうその言葉。一瞬、教室中が凍りつく!

「おいルリカ! そんな言い方は無いだろう」
「そうかしら?」

 ジルの言葉に不服そうな態度を見せる。
 
「まぁ、良いですわ。この話は置いといて、フリーバトルの方は受けてくれますの?」
「……ぁ、はい」

 別にイーブイの件とは別にフリーバトルの話はあるようで
 少し重い感じの空気が解ければと思いシズクは小さく頷いて承諾する。

「じゃあ、私は先に行っておりますわ。バトルリング104号室でお待ちしておりますわ」

 クスっと小さく笑った後にルリカは教室を静かに出て行った。
 この話が教室中に伝わったのか、この一試合を見に行こう等他の残っていた生徒がざわつきだす。

「さっきの模擬戦で、あんだけ圧勝しておいて……なんでまた挑むんだ?」

 不思議そうな顔をするジル。二人は、ルリカが指名した教室へと向かう。
 バトルリング104号室、体育館ほどの大きさの教室にテニスコートぐらいの大きさのリングが4つ設置されている。
 放課後という事もあってか、人はそれほど多くは無い。
 他にフリーバトルを行っている人を除いて見学やお喋りをしている人で十数人ほどである。

「来たわねっ!」

 ルリカであった。
 誰も居ないバトルリングに一人、向う側に腕を組んで立っている。
46 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/22(金) 22:14:14.84 ID:lvNVTI/v0
「はい……」

 少しそれに気圧される感じで小さく返事をして前に歩を進めるシズク。
 その雰囲気を察してか、他のところに座っていた生徒達も自然とそのリングを囲むように集まってくる。

「ルールは2対2の入れ替え方式、ダウンはセルフジャッジで行きましょう」

 モンスターボールを一つ手の上で軽くはずませてルールを説明する。
 ポケモン2匹による入れ替え方式、ダウンの判定は各自が行うというものである。

「……」
 
 シズクは小さく頷いてそれを了承する。

「それと……」
「?」

 不敵な感じの瞳、睨むような視線の後に口を開く。

「さっきの模擬戦みたいに、"わざと" 負けるのは無しよ」
「……」

 ルリカの言葉にシズクは小さく頷いた。ルリカがあの模擬戦で起こっていた理由。
 あまりに手応えが無かったからでは無い、その戦いが不自然だと気付いていたからなのだ!

(わざと……、確かに俺も一戦交えたが"あの能力"があってそこまで圧倒的に負けるはずがない)

 シズク側のコートの後ろに立つジルがその言葉を聞いて考えるように右手を口許に添えた。
 
(だが、シズクの"あの能力"は相手の出方が分かっている時の"後出し"専用みたいなものだ。
 あの試合は俺がピカチュウで行く事を先に宣言していたから出来たようなもの……今度はどうする?)

「ジルッ! 合図なさい!」
「ん……あぁ、分かった」

 ジルが一歩前に出て、ルールの確認と試合開始の合図を出す!
 一期生の中では優秀で有名なルリカの試合に自然とギャラリーが増えて行く!

「行きなさいっ! ロコンッ!!」
「お願いね、イーブイッ!」

 威勢のいい掛け声と共に二つのボールが投げ込まれる!
 2匹は同時にバトルリングに飛び出し相手を確認する。

(イーブイ……、確か模擬戦の時も1匹目はイーブイだったな)

 イーブイの登場に瞳を凝らすルリカとジル

「イーブイ!! 進化の方法もろくに知らないあなたには本当に勿体ないポケモンですわっ」
「"これも"あまり言いたくない事だけど」

 辺りのギャラリーを少し気遣いながらシズクが口を開く。

(…これも? まだ何か特別な事情があるのか)

 シズクに興味深々のジル。

「私のイーブイは特別なのよ!」
「フン! 特別というなら、その強さ見せてもらいましょう!! ロコンッ! でんこうせっか!」
「コンッ」

 勢い良くイーブイめがけて、ロコンは走り出す!



続く…
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/23(土) 00:21:04.82 ID:RNzFbpjx0
面白い… 続きが待ち遠しいな
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山陽) [sage]:2011/07/23(土) 10:27:25.87 ID:r3ZPVDcAO
これは面白い。
ゆっくりでもいいから完結させて欲しい
49 : ◆.Br/vY/Hx. :2011/07/23(土) 14:04:07.52 ID:OFc3EPdv0
ありがとう。
だが、しかし……もう少し先まではあるけども
迷走して進まなくなっているのも事実なんだ。だから、俺はこのスレを作った。
50 : ◆.Br/vY/Hx. :2011/07/23(土) 14:05:31.43 ID:OFc3EPdv0
第9話


「ロコンッ!! でんこうせっか!」
「コンッ!」

 突如始まったフリーバトル、先制攻撃を仕掛けんとばかりに飛び出すロコン!

「速いッ?」

 その唐突な攻撃にイーブイ、いやシズク自身が反応しきれていない。
 一気に駆け出し間合いを詰めたその攻撃はイーブイにヒットする!

「大丈夫? イーブイ?」

 攻撃の命中で態勢を崩したイーブイは素早く立て直し小さく頷いた。

「あら、さっきのミニリュウとは違って一発ではダウンしませんのね」

 クスッと口元に手を添えて嫌味な感じで笑って見せる。

「ロコン、次は"鬼火" 相手の攻撃翌力を削ぎに行きますわ」

 右手をサッと前に出して支持をする。それを聞きとったのか耳をピクッと動かせて行動に入る。
 ロコンは少し間を置いて口から不気味に黒光りするあやしい火の玉のようなものを無数吐き出した。

「……"鬼火"は相手をやけどさせる技、イーブイッ! かげぶんしん!」

 イーブイは素早く左右前後に軽いフットワークで移動し、残像を残す。
 3〜4個の火の玉を用意したロコンも攻撃対象が定まらず左右を見回している。

「逃がしませんわ! ロコン! "炎の渦" その中に"鬼火"を加えて打ち出すのよ!」

 指示を受けたロコンはイーブイから一歩下がって間を取り大きく息を吸い込んだ後に
 頭を左右に振りながら、口から炎を吐きだし"かげぶんしん"によって発生した残像を包み込む。
 そして、それと同時に"鬼火"で作りだした火の玉をその渦の中に組み込んだ!

(鬼火によるやけどと、炎の渦による行動宣言のコンボか……まだ鬼火が命中していないとはいえ時間の問題か)

 炎に包まれたイーブイを見てジルが頭の中で戦況をまとめあげる。
 炎の渦を受けてイーブイは、かげぶんしんを解き逃げ場のない炎の壁に回りを見回して焦っている様子である。

(炎の渦に包まれるとボールを投げ込む事は不可能、こんなに早く1匹を失うと断然不利だ。どうするシズク?)

 無理矢理、この炎の渦を突破したとしても鬼火を含むその炎、やけどを受ける事は確実である。
 少しの時間が経ち、じょじょにその炎はイーブイに迫って渦の範囲が狭くなってきているようにも感じられる。

「さぁ、どうしますのシズクさん? ダウンはセルフジャッジですわ、あなたがもうイーブイが戦闘不能だと思えば手は退きますのよ?」

51 : ◆.Br/vY/Hx. :2011/07/23(土) 14:07:00.05 ID:OFc3EPdv0
相手を炎の中に閉じ込めたことで、ルリカの余裕な言葉使い。
 
「そろそろ、ロコンの炎も持ちませんわ! 決めさせてもらいますわ」

 反応を見せないシズクに少し怒りを感じたのか、再びロコンに指示を出す。
 ロコンは再度口から炎を吐きだし、一気にその炎の渦をイーブイに近づけた!!

「結局、何が特別なのかも分からず仕舞ですわね」

 やがて、360度イーブイを囲んだ炎は覆い被るようにドーム状にイーブイを包み込んだ。
 それを見て、その試合を見ているギャラリーの全員がロコンの圧倒的な勝利を確信したであろう。
 
……
 シズクはただ俯いて立ち尽くしているだけであった。

「イーブイ、Type-Water……」

 かすかに呟いた葉の擦れるような小さな声。
 その声は、ジルの耳にのみ届いた……。

(ウォーター……? まさかっ?)

 一瞬、その声が聞こえて目がシズクの方に行っていたジルは素早くバトルリングに視線を移す。

「何ですの? これは……?」

 鎮火
 イーブイを中心に包んでいた炎がダムの水を一斉にかけられたかのように消え去ったのである。
 そして、少し焦げくさい臭いと地面から出る煙が今までの炎の強さを物語る。
 一瞬にして鎮火した為、辺りを大量の水蒸気が包み込みバトルリングの様子が見えなくなる。

「これは"あまごい" ? 確かにイーブイは進化前から、進化後の補正技を覚えることができたはず」

 突如起きた、この状況に辺りを見回しながら自分に言い聞かせるように納得するルリカ。
 やがて、水蒸気が広がり薄れて行く……

パチンッ!

 尾のようなものが地を叩きつける音が鳴り響く。
 
「……。そんな?」

 悲鳴のように高く細く、そして美しい甲高い鳴き声が響く!!
 水蒸気が晴れたそこにいたポケモンは、間違いなく"シャワーズ"であった。
 突如現れたシャワーズに、ルリカが状況が理解できない感じで慌てふためく。

「"バブルこうせん!"」

 目視でロコンを捕らえると共にシズクが大きく手を前にかざして支持を出す!
 口からシャボン玉のようなあわを勢いよく発射する!
 急な攻撃にルリカの対応も指示も間に合わず、その攻撃がロコンに直撃する!

"効果は抜群"
 
 ギャラリーを含め誰の目から見ても分かった。
 その一撃を受けたロコンが絵に描いたかのように目をまわして大の字に仰向きに倒れた。

(バトル中に……イーブイが姿を変えた? あの炎の渦の中に"水の石"でも投げ込んだとでもいいますの?)

 今回のフリーバトル、アイテムに関しては特にルールを設けていない。それはトレーナーの自由となる。
 モンスターボールをグッと強く握りしめて、ロコンにポンと軽く投げる。

「ロコンはダウンですわ」

 セルフジャッジ! 誰の目から見ても明らかだが、ルリカはその事を告げてロコンをボールに戻した。

「ルリカ、次のポケモンを」

 それを見たジルが素早く次のポケモンを出すように指示する。

(この私が"水ポケモン" 対策をしてないとでも思っていますの?)

 先にダウンを取られたにも関わらず強気な笑みを見せて腰のベルトからモンスターボールを取り出した。
 一握りして通常の大きさになるボール。

「行きますわっ!!」


続く……
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県) [sage saga]:2011/07/23(土) 14:54:00.10 ID:2QQs1DXco
メールに[saga]を入れとかないと攻撃力が攻撃翌力になっちゃったりピーーーが入るよ
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) :2011/07/24(日) 12:56:35.77 ID:NAQWaLtU0
おいおい
予想以上に面白いじゃねーかよ?
なぁ!おい
54 : ◆.Br/vY/Hx. :2011/07/25(月) 01:19:30.40 ID:kAyhrg/K0
読んでくれてる人いたら、感想とかくれると嬉しいです。
55 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/25(月) 01:20:19.84 ID:kAyhrg/K0
第10話


「行きますわっ!!」

 バトルの最中、炎の渦に包まれたイーブイはシャワーズへと姿を変える。
 突然の出来事に対処しきれなかったルリカ、ロコンはシャワーズの一撃を受けダウンしてしまう。

「抑えは、あなたよ!! デンリュウッ!」

 叩きつけるように勢いよくモンスターボールを地面に投げる。
 現れたポケモンは、電気属性のライトポケモン"デンリュウ"である。
 低い鳴き声と共に構えその存在を大きくアピールする!

「……」

 主に炎ポケモンを使うルリカが繰り出した"電気属性"のポケモンに試合を見ているギャラリーがざわつく。
 試合を見ている一期生の中にルリカを知らない者は居ないのであろう。皆が予想しなかった一匹という訳である。

(なるほど、炎ポケモンの弱点である水属性に対して電気属性のポケモンを用意していた訳か……
 それにしても、あのデンリュウ……あの毛並みに体中を伝っている電気の様子。かなり育てられているぞ)

 現れたポケモンに目を凝らす。
 電気属性を専攻する予定であるジルは、そのデンリュウのレベルを一瞬にして見抜いた。

「私が炎ポケモンを使おうと決めた時……」
「?」
「私が真っ先に育てたのが、このデンリュウですわ!!」

 紹介するようにデンリュウに手で指して強気な笑みを浮かべる。
 炎を使うという前提に置いて一番に弱点を抑える。それがルリカの考えでありスタイルであった。

(確かに一つの属性だけで戦うと相性の壁は越えられない……2対2というルールなら最悪でも後出しができる)

「デンリュウ! 先程のお返しに一撃で決めますわ"電気ショックッ!"」

 重心を少し後ろにずらしてどっしりと構えたデンリュウは、体中を伝わっている電流を一気に放電させる。
 黄色く光る電流が、少し離れた位置にいるシャワーズに襲いかかる! 

「……避けて! シャワーズ」

 右に大きく跳ねて、電気ショックによる電流を避ける。攻撃を命中させるには少し距離がありすぎたようだ。
 デンリュウは電気ポケモンには珍しく、素早さがそれほど高くは無い間合いを詰めるには慎重を要する。
 さらに、その攻撃の動作には大きな振りが存在する為、これだけの距離があればシャワーズでも回避が可能という訳である。

(さぁ、どうするシズク? お前の手持ちに電気ポケモンに強いタイプはあるのか?
 早くポケモンを入れ替えないとこの相性差だ……一撃でダウンする可能性もある、序盤のリードを活かせないぞ)

56 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/25(月) 01:21:05.45 ID:kAyhrg/K0
 ところが……
 シズクは、ルリカよりギャラリーを気にかけるようにチラチラと辺りの様子を見ている。
 まるで、誰かに見られていないか気にかけている様子である。
 
「電気ポケモンを前にして、シャワーズを戻さないとは……単純な相性も分かりませんの?」
「一撃で決まらなかったよ」

 その様子を見たルリカが頭に怒りマークを浮かべて少し声を張りあげる。
 それを聞いてシズクは逆に挑発的な感じで舌を出して言い返してみせた!

「シャワーズ接近して!"かみつく"」

 先ほどまで周りを気にしていたが一変、人差し指を前に突き出してデンリュウを指差し指示を出す。
 指示を受けるとシャワーズは勢いよく駆け出し、デンリュウへと突っ走って行く!

「自ら間合いを詰めてくるなんて……本当に何も考えていませんのねっ!
 デンリュウ、返り打ちにするのよ! "10万ボルトッ"!」

 シャワーズが向かってくる間に拳をグッと握って力を込めるようにして体中に電流を走らせる。
 そして、一気にその電流を放電し走ってくるシャワーズを多い囲むようにして包み込んだ。

「シャワーズッ! Type-Thunder !!!!」

 それを見て突如、両手を口許に添えて大きな声で叫ぶシズク。

「……おいおい、マジかよ」
「嘘……ですわ?」

 ジル、ルリカ……そしてギャラリー全員が愕然とした。
 デンリュウの10万ボルトの電流に包まれたシャワーズは包まれた光の中、姿を"サンダース"へと変えたのである!!
 確かに10万ボルトの攻撃は命中する。しかし"効果はいまひとつ"同じタイプである為か、その攻撃に怯むことは無い!
 そのまま、サンダースはデンリュウの腕に力強くかみついた。

(おいおい……どうなってるんだ?あのイーブイ、いやサンダースは……?
 "石"も使わずにシズクの一声で違うタイプに再進化したとでも言うのか?)

 咄嗟に腕を振り、かみついているサンダースを弾き飛ばすデンリュウ。
 態勢を崩さず着地するサンダース、この攻撃は確実にデンリュウにダメージを与えたようだ。

「どうなっていますの? そのサンダースは……入れ替えましたの? いえ、そんなモーションは……」

 ありえない光景を前にルリカは先程のイーブイからシャワーズへ戦闘中に進化した事を思い出す。
 一度だけなら"水の石"を投げ込んだという可能性も充分にありえたからだ。
 しかし、今度は違う。目の前でデンリュウの10万ボルトを受けながら姿を変えたのだ!

57 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/25(月) 01:22:59.01 ID:kAyhrg/K0

「なるほど、それで特別という訳ですわね」

 誰もが驚きを隠せない中、少し歯を食いしばり冷静な反応を見せる。
 不確定要素を前に慌てふためくルリカでは無かった!

「それなら、物理攻撃で仕掛けますわ。デンリュウ"メガトンパンチ"!」
「高速移動!!」
 
 大きく構えて繰り出されたデンリュウのパンチをワンステップで避けてみせるサンダース。
 同じ電気属性のポケモンであるが、先程のシャワーズと違い圧倒的にスピードが異なる存在である。

「デンリュウのスピードで、物理攻撃だとサンダースは捕らえられないよ」
「電気技が使えないのはサンダースも同じ事ですわ、それなら近づいて来たところを狙うまでですわ」

 互いに手詰まり、不用意に近づくとデンリュウのその一撃を受けてしまう可能性がある。
 その様子を見て誰もが『この試合……少し長くなりそうだ』と思った矢先の事だった。
 シズクはサンダースを手元に呼び戻し、ボールに当ててサンダースを戻したのであった。

(お疲れ、イーブイ。2回も進化して疲れたね)

「シズク、サンダースを戻すなら次のポケモンを」
「うん」

 シズクがサンダースをベルトに戻し、次のボールを取り出して握る。
 その間、デンリュウの体中からバチバチと電気が唸るような強い籠った音が鳴り響く!

「間合いがあったり、手詰まりになったら"じゅうでん"を使うように教えてありますわ」

 腕を組んで強気にクスッと笑って見せる。

(特殊防御を向上させ、次の電気技の威力を上げる補強技……さすが、ルリカ無駄が無い)

 ボールを選んだシズクは強く握って祈るように額にボールをつけて瞳を閉じた。

「何をしていますの? まぁいいですわ、時間を駆ければかけるほどデンリュウのエネルギーが溜まりますわ」

 さらにルリカの指示でデンリュウは1歩2歩と歩を進めシズクの方へと近づいてくる。
 素早さが高くないタイムラグを阻止する為、最初から間合いを詰めておこうという作戦である。

(俺は、あの(行動の)"意味"を知っている。下手に間合いを……)

ドンッ!!

 一撃。ジルがシズクに近づくデンリュウを見ている間にシズクは選んだボールをフィールドに投げ込んでいた……
 刹那。ボールから飛び出した"リオル"は型を形成すると共に近づいていたデンリュウの懐に入り技を繰り出した。
 その攻撃はデンリュウの腹部を捕らえ、一瞬にしてデンリュウは前のめりに倒れこんだ。


続く……

58 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/25(月) 01:23:59.32 ID:kAyhrg/K0
第11話


 "はっけい"(発勁)
 デンリュウに命中する大きな一撃! 一瞬にして前に倒れこむ……

「デンリュッ!!」

 瞳を大きく広げて驚いた表情を隠せないルリカ。
 それもそのはず、ボールから飛び出すとシズクの指示も受けずに急接近して技を繰り出したからだ。
 誰の目から見ても明らかな"ダウン"

「デンリュウッ!! デンリューッ!!」

 少し離れた位置から似合わぬ大きな声で何度もデンリュウの名を呼ぶルリカ。
 その様子が何処か健気で寂しげで、ジルは独断でその試合の終了を告げようとした……

「……」

 するとデンリュウは静かに立ち上がって、再び構えて見せる。

「ダメ……」

 比較的にシズク側の近くにいるリオルとデンリュウ。
 立ち上がったデンリュウの瞳を見て訴えかけるようにシズクが呟いた。

バタンッ!

 その声が届いたのか立ち上がったデンリュウは一瞬にして意識を失い再び倒れこむ。

「"ダウン"ですわ」

 と小さく息を吐いて一歩、二歩とデンリュウに向かってゆっくりと歩いてくる。

「デンリュウ、ダウン!! 勝者、シズク!」

 パッと左手を挙げてシズクの勝利のコールを行う。
 すると、すぐさまジルはデンリュウに駆け寄るように近づいた。

「"はっけい"は麻痺を引き起こす技、あの距離でヒットしたんだ……」

 デンリュウに触れて、状態をすぐに判断する。

「お疲れですわ。デンリュウ、頑張りましたわね」

 倒れたデンリュウの頭を2,3回撫でてモンスターボールに戻す。

「良い子だね。デンリュウ」

 シズクが呟く、一度倒れて立ち上がった時点でシズクはデンリュウが麻痺を患っていた事に気づいていた。
 トレーナーであるルリカの声援に応えようと無理に立ち上がったのがシズクには分かったようだ。

「おい、ダメダメちゃんのシズクが炎熱ルリカに勝っちまったぞ」
「いや……そんなことより、何だったんだ? あのイーブイはっ?」
「それも気になるんやけど、あのリオルの行動の早さは何やったんや?」

 試合を見ていた他の生徒たちが自然とざわつきだす。

「参りましたわ、シズクさん。タダ者では無いと……気にかけてはいましたが、これほどとは」

 らしくないシズクを褒めるような言葉。シズクは少し照れくさそうに笑顔を見せた。

59 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/25(月) 01:24:27.05 ID:kAyhrg/K0
(タダ者では無いか……、それを見抜いたあんたもタダ者じゃねーよ)

 ジルが自分の頭を軽く触りながら心の中で呟く。
 
「それにしても、凄いなシズク、ロコンもデンリュウも一発の攻撃でダウンさせるなんて」
「ぇ……」

 単純な感想を述べた。



―――

「一撃じゃぁーない」
 
 場外から声が聞こえた。野太く低い男の声だ。
 バトルリングを囲んでいたギャラリーが二つに別れ、その間に一人の黒い服、黒いズボンを穿いた一人の大柄な男。
 どうやら、学生……という訳では無さそうだ。年齢は20代半ばぐらいに見受けられる。

「貴様等の目は節穴か?んー?そうだろ、お譲ちゃん」

 空けられた道をドシドシと歩きシズク達の方に近づいてくる。
 その後ろにもう一人、同じく黒い服装に包まれた若い細見の男が静かについて来る。

「……」

 その男の問いかけにシズクは小さく頷いてみせた。

「"しんくうは"だ」

 後ろにいる男が呟いた。

「……?」
「ボールから飛び出すとほぼ同時に、そこのリオルはデンリュウに向かって"しんくうは"を放ったんだよ。
 "じゅうでん"で特殊防御を上げていたみたいだが、先制を得る"しんくうは"を受けて一瞬怯んだんだ訳だ」

 大柄な男が語る。
 次の電気攻撃の威力を上げる"じゅうでん"を行っていたデンリュウも同時に攻撃を仕掛ける可能性があった。
 だからこそ、シズクはほとんどダメージが与えられないと分かっていても先に先制が可能な"しんくうは"を打たせた。
 ダメージが無くとも攻撃を受ければ一瞬は怯む。それが、まだ姿さえ見えない敵なら尚の事であろう。

(一番近くで見ていたのは俺だが……気付かなかった。こいつ等、一体)

「何ですの?あなた達は、教員だとしても見たこと無い顔ですわね」
「あぁ……、俺達か」

―――

「あれ? 教室の扉が開かない……故障か?」

 何度も開閉のボタンを押しても自動ドアは反応を見せない。
 バトルリングのある教室から外に出ようとしている生徒が困っている。

「あっ……開かないよ? 俺達が閉鎖した」
「え?」

 大柄な男が親指で自分の黒い服の胸元にある赤字で書かれた二つのRの文字を指差し悠々と語る。

「俺達は"ロケット団=リターンズ" 通称"RR団"だよ!!」

 強気で余裕に満ちた表情でシズク達3人の方を見て笑みを溢す。
 後ろにいる細見の男は大柄な男の自己紹介の間何も口にせずただ不気味に立ち尽くしているだけであった。

「"RR団"? そちらの方もそうですの?」

 ルリカが後ろの男に問いかけるように聞く。すると男は「あぁ」と小さく呟いて一つ頷いてみせる。
 自然とその二人から距離を取るようにギャラリーであった他の生徒達が一歩、二歩と後ろにさがる。

(ロケット団……聞いたことがある。数年前に滅んだ、ポケモンを使って悪事を働いていた組織の名前だ)

 その名前に何処か聞き覚えのあったジルはルリカとシズクに少し下がるように指示を出す。
 周りがざわついているのを嬉しいのか大柄の男は「はっは」と声を出して笑い出す。

「さぁ、手っとり早く仕事を済ませようか」


60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/07/25(月) 08:54:17.65 ID:3hLZSsZAO
属性ではなくタイプだ
これは譲れない
61 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/25(月) 20:20:01.57 ID:kAyhrg/K0
第12話

「仕事を済ませようか」

 大柄な男は不敵な笑みを浮かべ言い放つ。
 自然と身構えるシズク達3人、そして囲む他の生徒たち十数名も同じく集中する。

「はっは……とりあえず、自己紹介だ。俺は"ガルド=ラインハルト"
 そこの後ろにいる物静かな奴は"ウル=ディ=ヴェルチ"だ。まぁ、コードネームみたいなもんだがな」

 自身を示し、続いて細見の男を指差して話を続ける。
 この緊迫した空気には似つかわしくない饒舌な喋りに逆に緊張感が高まる。
 ガルドは首を左右にゴキゴキと音を鳴らせながら曲げた後、小さく息を吐いた。

「さて……本題だ」
 
 他の人間の顔を見渡すようにして続く。

「お前達のポケモンを全部、頂くぜ?」
「なっ!?」

 驚いたような反応を見せる多くの人間に「やっぱりか」と言わんばかりの表情を見せるジル。
 
「そうはいきませんわ!! 私達ポケモントレーナーが、大切なパートナーを簡単に手渡すとでも思っていますの?」

 ルリカだった。
 一歩前に踏み出して堂々たる態度で言葉を飛ばす。
 その一言に「そうだそうだ」と言わんばかりにギャラリー達もざわついた。

「わかんねー奴だな。別にこの学校を俺達二人で占拠した訳じゃねぇー……
 これだけの人数がいる部屋だが、二人で充分だと判断したということが……!」

 一瞬のプレッシャー

(二人でここにいる全員を相手できると自負しているって訳か悪党とはいえプロフェッショナル、学生が立ち打ちできるのか)

 身構えるように腰のベルトのボールに手をかけるジル。
 その様子に気付いたのかガルドは再度不敵な笑みを浮かべて自らもボールを手に取った。

「それなら少し遊んでやろうか?」

 ジル、ルリカ、ガルドの視線が交わる。
 バトル勃発かと思われた矢先、今まで無言で立っているだけであったウルが一歩前に出る。

「学生風情の雑魚ポケモンに興味は無い」

 刺さるような冷たい視線、ボールを投げようとするガルドを静止してジルとルリカに言い放つ。

「なっ?私達のポケモンが雑魚ですって?」

 するとウルは静かに腕を上げてジルとルリカの後ろに立っているシズクを指差した。

「蔵書庫にあった文献で読んだことがある。旧ロケット団が、改造ポケモンとして開発した属性変換能力を持つ"イーブイ"
 タマムシのジムリーダー"エリカ"に引き取られ、その後旧ロケット団を壊滅させたマサラの"レッド"というトレーナーの手に渡ったと……」

 探りを入れる視線。
 シズクは図星を突かれたかのように瞳を大きく開け驚いた表情。

「当初、"3つのエネルギー"を持っていたポケモンだが……"昼""夜"幾度となく生活を繰り返せば、あるいは……」
 
 他の人間を完全に無視して喋り続けるウル。
 どうやら彼の興味はシズクのイーブイにあるようである。

「なんだ〜? そいつが持っているイーブイは、やっぱり珍しい奴なのか?」
「あぁ」

 ポケットに手を入れたまま余裕の態度であるウル。
 
「それなら話は簡単だ。お前……イーブイだけで良い! 他の奴等のはいらない」

 シズクを指差してガルドが大きな声で言い放った。
62 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/25(月) 20:44:34.36 ID:kAyhrg/K0
「毒霧に沈め……」

 もう片方の手に持っていたモンスターボールを手から零すように落とす。
 黒い靄と共に一匹のポケモンげ形成される。

「……これはスモッグか?」

 口元を抑えジルが一歩下がる。
 ガルドが繰り出したポケモンは"マタドガス"であった。異臭を漂わせ不気味に宙を舞いガルドの手前へと現る。
 マタドガスの登場を見てウルはシズク達に背を向けて一歩二歩とガルドの後ろへと下がって行った。

「どくがすポケモン? あの毒は人体にも有害だ!」
「ポケモンが戦力だというのなら、私達もそれで応戦させていただきますわ!!」

 一歩も退かずに強気な感じで前に出るルリカ。
 自然と攻撃対象になりそうなシズクを庇うようにその前に立ちはだかって見せる。

「おうおう、邪魔はしたいみたいだな〜!? 目的はイーブイだが相手ぐらいしてやるぜ?」

 ガルドの言葉に再び手に持っていたモンスターボールを前に構えて見せる。
 ポケモンのバトルが行えるように数歩下がって間合いを取る。さすがにバトルリングをそのまま使う余裕はないようだ。
 自然と他のギャラリー達もルリカ達を囲むように場所を開けるように広がる。

(教室は閉鎖されている……こいつらは自ら二人で無いと言っていた……。
 他の教室もおそらく閉鎖されているだろう、バトルを受け入れるという事は時間に余裕が無いという訳ではなさそうだ)

 素早く現状を模索し解決策を見つけようと考えるジル。
 後ろでシズクが微かに震えているのにジルが気付いた。

「大丈夫か……」
「うん」
 
 か細い声で答えた。

「おい」
「……?」

 少し離れた位置に立っているウルが視線を合わさずルリカ達の方を見たまま問いかける。

「何だ?」
「お前が、この状態を一番冷静に分析できていそうだ」
「……そいつはどうも」

 ウルの不気味な態度と喋りに手に汗を握るジル。

「あの女では、恐らくガルドには勝てない。お前達がとめてやれ……」
(……何だ? ルリカの心配をしているのか?)

 睨むようにウルを見るが、その視線に気づいているはずなのに微動だにしない。

―――

(デンリュウは先程の戦いでかなり消耗していますわ。最強の一手を打ちたい所ですが、ここは……)

 ルリカは手にしたボールを投げ込んだ。

「なぁーんだぁ? 一段階も進化していない"ヒトカゲ"だぁ? こいつは準備運動にもならねーな」

 繰り出したヒトカゲを見てふてぶてしい態度であくびをする仕草をして見せる。

「あまり、甘く見ないことですわ!!」



続く…
63 : ◆.Br/vY/Hx. :2011/07/28(木) 03:18:13.68 ID:Khk66atW0
第13話

「お前達が止めてやれ……」

 試合には全く興味のない感じでポケットに手に入れウルが忠告する。
 ときおり、周りの生徒や教室内を見回したりして勝負内容には本当に興味が無いようだ。

「ヒトカゲッ!"ひっかく"!」
「カゲッ」

 ルリカの指示を受けて間合いを詰めるように飛び出して接近する。
 マタドガスは"浮翌遊"を持ちバトルにおいてそれは"飛行"を持つに等しい。
 当然、地面を蹴って攻撃してもヒトカゲの爪はマタドガスにかすりもしない。

「ハーッハッハ!!」

 ヒトカゲの様子を見て大きく口を開けて笑って見せる。

「ひっかくは接近する為の口実ですわ! その距離なら当てられますね?"かえんほうしゃ" !」

 まるでルリカの意志が最初から伝わっていたかのようにヒトカゲは素早く息を大きく吸って重心を添える。
 宙を舞い、持ち主と同様に余裕と油断していたマタドガスに向けてヒトカゲの体からは想像もつかないほどの炎を一気に吐きつける。

「クッ? こいつ、ヒトカゲのままで"かえんほうしゃ"が使えるのか!?」

 驚いた瞬間にはマタドガスにその攻撃は命中していた。一気に炎に包まれるマタドガス……

「はっ!! そんな炎でやられるかよ! マタドガスッ!」
「ドガーッス」

 体中から薄紫色の霧が吹き出し、逆にその炎を包み込んで鎮火する。
 マタドガスはダメージを受けているようだが、この一撃では決まらない。火傷による余剰効果も見受けられなかった。

「ヒトカゲッ!」
「敵は真下だ。"スモッグ"だ」

 指示を受けたマタドガスはドス黒い汚れたガスを口から勢いよく吐き出す。同時にそれはヒトカゲを包み込む。
 ガスの中で苦しみ「ゲホッゲホッ」と咳をするヒトカゲの姿が浮かぶ。
 自ら詰めた間合いにより、その攻撃を受けてしまう。

「こっちに戻って!早くッ」
「させるかよ……"えんまく"だ! マタドガスッ」

 今度は体中から濁った灰色の煙を一気に散布する……
 それにより、トーレーナーはおろかヒトカゲの視野は閉ざされ方向感覚を失ってしまう。

「あ〜あ〜……俺も見えねーが、これじゃあ、ヒトカゲは帰れねーな」

 仕掛けておいて、わざとらしい言い方をしてみせるガルド。
 おそらく先程のスモッグによりヒトカゲは"毒"状態を誘発している。
 この状態でボールの中に戻れず、フィールドを放浪する事がいかに危険である事か……

「ゴホッ……ゴホ、何処? ヒトカゲッ」

 煙に視野を閉ざされ少し吸って咽ながらも、片目を開けてヒトカゲを探すルリカ。
 ヒトカゲの尾の炎を目印に探そうとするが煙は思った以上に濃く誰の目も利いてはいないだろう。


64 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/28(木) 03:20:07.49 ID:Khk66atW0
―――

「止めなくていいのか?」

 煙を目の前にして尚、ポケットに手を入れたまま微動だにしないウル。
 同じ位置に立って、ギリギリ煙に包まれていないシズクとジルに訴えるように話かける。
 しかし……相変わらず視線は当人の方を向いておらず煙に包まれたフィールドを見ている。

「割って入ると怒られるもんでね」
(……何なんだ、こいつの不気味な圧力は)

 少し笑って挑発的に返して見せるジル。心の中では探りを入れる感じであるがウルは、その言葉にも反応を示さない。
 数秒の静寂……ヒトカゲを呼ぶルリカの声だけが聞こえる。
 ガルドは面倒そうに欠伸をしながら頭を捻ってコキコキと音を鳴らしている。

「助けてやれ、ヤミカラス」

 ウルであった。
 煙を前に数歩下がってポケットから手を出し腰にあるボールに手をつけた。
 手の平に乗せたボールを握って開口すると、中から一匹の"ヤミカラス"が飛び出した。
 バサバサと羽ばたく音を鳴らし、ウルの肩に静かに乗った。

「"ふきとばし"だ」

 頭を少しヤミカラスに向けて指示を出す。頷くようにしてヤミカラスは肩から飛び立ち上空へ
 通常小さい鳥ポケモンは何度も羽ばたいて大きな風を起こすのだが、ヤミカラスは勢いよく一度に大きな風を起こしてみせた。
 
 フィールドを包んでいた"スモッグ"と"えんまく"の混じった煙は一瞬にして消し飛んだ。
 教室が閉鎖されている為か、微妙に教室が濁っている……。
 煙が晴れると同時に、そこに倒れているヒトカゲの姿を発見する。

「ヒトカゲッ!」

 すぐさま近づいて抱きかかえる。毒を負っている様子でぐったりと力が出ない感じである。
 その様子を見てジルが素早く駆け寄った。

「"毒消し"だ、早くこいつをヒトカゲに」
「ぁ、ありがとうございます」

 
―――

「物持ちの良い奴だな」

 ガルドがヒトカゲを介する二人を眺めながら口にする。
 シズクとの対戦の時もそうだったがジルは複数のアイテムを常に持ち歩いているようだ。

「なぁーんで、止めた? ウルゥ〜」
「その女の負けだ」

 一言呟いてみせる。

「わかったか?」
「……?」

 ウルは体をシズクの方に向け口を開く。
 先程、ヒトカゲを助けた事から少しなら話の分かる人なんじゃないかとシズクは思っていた。

(……何? この感じ)

 だが、それは違った。冷たく凍りつくような虚無の瞳。

「簡単な取引だ。お前のその"イーブイ" 1匹でこの場を収めようと言っているんだ」
「で、でも」
「他の仲間が傷付く事になるぞ……あの女のように」

 突き刺さるような視線、何処となく感じる他のギャラリーの生徒達からの「巻き込まれたぜ」と言わんばかりの視線。
 かすかに聞こえる「早くイーブイを渡しちまえ」という他力本願な者の声……
 
「……」

 シズクは、ゆっくりと腰からイーブイの入ったモンスターボールを取り出し手に取った。



続く…
65 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/28(木) 03:20:48.17 ID:Khk66atW0
第14話

 
 イーブイの入ったモンスターボールを手にゆっくりと胸元に近づける。
 しかし、その瞳には降参の文字は無い。そのまま、このモンスターボールを渡そうという訳では無いようだ。

「ダメだぞ、シズク……奴らの力に屈しちゃいけない」

 ジルは明確に"悪に屈しては"とは言わなかった。

「うん」

 イーブイの入ったモンスターボールを渡す気が無いという事を知るや否やガルドが一歩前に出る。

「あ〜? だったら、どうする? 俺を倒すか?」
「ドガースッ」

 ガルドの背後に浮くマタドガスが挑発するように体を震わせて紫色のガスを軽く噴出させる。

(さぁ……どうする? さっきのルリカとの戦いを見た。簡単には勝てない、何か手を……)

 眉をしかめ視線をガルドから逸らさず頭の中で考えをまとめようとするジル。
 すると、シズクが前に立つジルを押しのけて横に並ぶ。そして、小さく一歩前に歩を進めた。

「あんた達なんかに負けない!」

 シズクは体の震えをふるい解き、モンスターボールを持つ右手を手前に伸ばして言い放つ。
 その強気な瞳が気に入らなかったのか、ガルドが不敵に大きく笑い手の指をバキバキと鳴らし出す。

「良いぜ? 特にルールなんてねぇ、俺のポケモンを倒してみせろ!」

 こめかみに血管を浮かばせ、人差し指で挑発するようにクイッ(来い!)と合図をして見せる。
 新たな戦いが始まろうとしているにも関わらず、ウルは再びポケットに手を入れたまま静かに立ち尽くしている。
 先ほど出した"ヤミカラス"はまだボールに戻らず右肩に静かに乗っているままである。


―――

(ちっ……一体、どれだけの人数でこの学校を占拠してるんだ。こんなに時間を掛けていていいのか)

 前に出たシズクを気遣いながらも、少し離れた場所で興味が無さそうにしているウルを見て睨みつける。
 再び、バトル勃発。ウルは静かに充分な戦いが出来るだけの間合いを取るように歩を下げる。ジルも同様にして下がる。

「大丈夫か? ルリカ?」
「え、えぇ」

 しゃがみ込んだまま、まだ元気が出ない様子のヒトカゲを抱いているルリカの横に戻る。
 
「何故……止めない?」

 ウルだった。先ほどと同じように視線は合わせない。ルリカとガルドの方を向いたまま静かに話す。

「あの紫髪の女なら、勝てるとでもいうのか?」

 ギョロッと大きな瞳がジルの方を向く。その気迫に押されつつも強気に言い返してみせる。

「あぁ、あいつがこの中にいる誰よりも強いんだぜ?」

 嘘かもしれない。だが少しのブラフにでもなればと見栄を張って見せたのだ。
 その声を聞いて周りの他の生徒がザワザワと口々に喋り出す。

「ダメダメちゃんのポケモン一匹で解放されるなら……早く差し出せよ」
「あいつが最強? 模擬戦で敗戦続きなのに?」
「やだ……。何で、こんな事に巻き込まれるのよ」

 周りから聞こえる数々の声。
 それに気付いてかウルは"ふっ"と小さく鼻で笑い視線をシズク達二人に戻した。

「黙りなさい」

 ……
「え?」

 ざわつく外野にルリカが小さく言葉を漏らす。
 誰かの聞き返す言葉に、再び大きな声で怒鳴るのかとジルは思った……しかし
 ルリカのその小さな一言は、一瞬にしてギャラリーを黙らせたのだった。

66 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/28(木) 03:22:01.08 ID:Khk66atW0
―――

「マタドガスは、さっきのお譲ちゃんから全然ダメージを受けてねぇ……俺はこいつで行かせてもらうぜ?」

 その言葉を聞いてシズクは持っていたイーブイのモンスターボールを静かに胸元に近づけ瞳を閉じる。

「何ですの? あの毎回見せるシズクさんの行動は……」
「あぁ、また……本人に聞いてくれ」

 そうに問いかけるルリカに対して、不思議とジルは少し自慢気な笑みを見せる。

(イーブイ、今日はもう2回も使ってるけど……まだ、大丈夫?頑張れる?)
(ブイッ!)

 この進化する能力を使うにはイーブイにそれなりの負担が掛るのだろう、イーブイを気遣う。
 シズクの期待に応えてかイーブイは尾を振り元気に頷いてみせる。ボールを通してその意志がシズクに伝わる。

「ぁールールは無しだぜ? 俺達はバトルを楽しみに来てるんじゃねーんだ、マタドガスッ!」

 シズクがポケモンを出すのを待たずにマタドガスは体を震わせながらガスを振りまきだす。

「ゲホッゲホッ、てめぇ! もっと、前に出やがれ」

 ガルドの後方で行動した為、ガスにやられて咽る。不気味にマタドガスは笑いながらガルドの前に出る。

「イーブイ、お願いっ!」
「ブイッ!」

 自分の足元にポンとボールをはずまるとイーブイが元気に飛び出した。

「おーおー、お望みのイーブイじゃねぇーかよ? さっきまでサンダースだったのに戻ってやがる。本物か……」

 ガルドの興味と共にマタドガスが前進しイーブイに接近する。
 それと同時に全身から"どくがす"が噴き出す。一気に弱らせて捕らえようという魂胆である。

「イーブイ、Type-Esper」

 膝を折ってしゃがみイーブイの頭を軽く撫でてシズクが指示を出す。
 イーブイは小さく頷くと共に体を震わせ、薄い紫色の"進化の光"に包まれていく……

 ―― !!

「戻ってっ!! イーブイッ!!」

 一瞬。
 シズクは圧倒的なプレッシャーの接近に気付き、姿を"エーフィー"に変えようとするイーブイにボールを投げつけた。
 素早く投げ込まれたモンスターボールに収容されるイーブイ……一瞬、黒い影のようなものが通りすぎる。
 この出来事に周りの理解がおいつかない。「何だ?」「何だ?」と不思議がるものがざわつく。

「対した反射神経と判断力だ」

 賛美の声。その声の主はウル。
 今まで戦闘に興味が無い様子であったが、一歩踏み出して二人の間に割って入る。

「あ……あいつ!!」

 真っ先に気付いたのはジルであった。

バサッバサッ!!
 羽同士が掠れ合うような音を立て空中から"ヤミカラス"がウルの肩へと戻っていく。
 そう、この進化……刹那の一瞬にウルの肩からヤミカラスが高速で飛びだしイーブイに攻撃を仕掛けていたのだ。
 エスパータイプに対する悪の一撃は相性の関係で致命的であろう。

「騙し打ち……ですわね」
「あぁ」

 反感の視線を全て受け流し、ウルはシズクの方を見て口を開く。

「ルールは無い。誰も一対一だとは言っていない」



続く…
67 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/28(木) 03:23:25.89 ID:Khk66atW0
第15話
 
 ヤミカラスが宙を舞い再びウルの右肩にそっと足を置く。
 ガルドとシズクの間に割って入ったウルは凍りつくような視線でシズクを見た後、微笑を見せる。

「ウル〜俺はこんな奴に負けたりしないぜ? 騙し打ちなんてお前らしくもない」

 少し怒り気味の態度。
 これまで戦闘に興味が無い様子であったウルが突如割り込んでくるのも違和感がある感じであった。

「お前……気付かないのか?」
「あぁ?」

 ウルは振り返り冷めた瞳でガルドを睨む。その圧力に思わずビクッと気圧されてしまうガルド。

「あ、相性の事か? 確かに俺のは毒タイプだが……」
「違う。相性の問題では無い、単純にイーブイがあの"レッド"が所持していたものかもしれないという事だ」

 戦闘を一時中断したウルは、そう一言残すと再び二人に背を向け元の場所へと戻って行く。

「女ッ、俺達の目的はあくまでそのイーブイだ!迂闊に獲物を敵の前に見せるのは得策ではない」

 忠告。戻り際に振り返りシズクに告げる。

「……」

 "悪の組織" それとは掛け離れているウルの行動に戸惑いを覚えない訳が無い。
 シズクだけでなく、その様子を見ていたルリカもジルも同様にそう思ったであろう。

「あー、長引かせるのも面倒だ!! 悪いがもう潰させてもらうぜ」

 あまり気の長い男では無いようだ。ウルの指摘を受けてかこめかみに血管を浮かばせ怒りを露わにする。

「それってお前の事じゃね?」
「そうやね」
「最初からこうすれば良かったのよ」

 気が付くと、ガルドとマタドガスの周りを複数のポケモンが囲んでいた。
 "ピジョン" "ニドリーノ" "ニョロゾ" "コリンク" "ピッピ"
 そう、他のギャラリーのトレーナー達が、事態をおさめようと自らのポケモンを展開したのだ。
 その様子に怯む事無く不敵な笑みを浮かべるガルド……

「ルール無しなんだろ? おっさん」

 ピジョンを腕に乗せた細見の鳥使いの青年が強気に言葉を投げつける。


―――

「お、おい!! やめろ、お前ら」

 その様子を少し離れた位置で見ていたジルは驚いた表情と共に止めるように一歩前に出る。
 ジルは半端に刺激するべきじゃないと……策を考えていたが思わぬ行動だった。

「ふんッ」

 ウルは"くだらん"と言わんばかりに鼻で笑うと背を向けて教室の一番隅の方まで歩いて行った。
 そのウルの様子を見てジルの脳裏に過る。最悪の事態。

「ドガースッ!! "ヘドロばくだん" "スモッグ" "えんまく"だ!」
「させるかよ……
「おーっと、迂闊に攻撃すると"だいばくはつ"を誘発するぜ? 一緒に逝っちまうか? はーはっはは!!」

 囲まれても焦った様子を見せなかった余裕の正体。
 この距離で"だいばくはつ"を使用すればポケモンはもちろんトレーナーの命にも関わる事になる。
 そのガルドの挑発的な言葉に足が竦んで攻撃の指示を上手く出せない他のトレーナー達。

「思い切りは良かったが残念だったな」

 ガルドの笑い声と共に"マタドガス"が指示を受けた3つの技を同時に繰り出す。
 周りのポケモンにヘドロやガスを吹きつけながら体中からガスが吹き出し、ルリカ戦同様視界を奪っていく。

「こいつ等は全員、毒を受けただろうな〜! 物持ちの良いガキも、これだけのアイテムは持っていまい。
 さぁ、イーブイを差し出すなら……この部屋の扉を開けてやろう! はーっはははははは!」

 薄黒く包まれた"えんまく"の中にガルドの声だけが響き渡る。
 鳥使いがピジョンに"ふきとばし"を命じるも毒で体が上手く動かないようで技を繰り出せない。

――

68 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/28(木) 03:25:11.16 ID:Khk66atW0
 毒ガスに包まれ次々と倒れて行くポケモン達……
 ……

「お前のせいで、皆が傷ついているぞ」

 距離がある。聞こえるはずが無い擦れた小さな声がシズクの耳には確かに聞こえた。ウルの声である。

「どうしよう……どうしよう?どうしよう!?」

 混乱し、訳が分からなくなる。ゴホッゴホッと"えんまく"の煙に咽ながらも頭を抱え込む。
 ただ単にこの事態がシズクのせいだという罪悪感で混乱に陥った訳ではない。
 シズクにはイヤでも聞こえてしまう。
 ……
 この煙の中で毒に苦しむポケモン達の嘆きの声が……
 意識している訳では無い。勝手に頭の中に流れ込んできてしまうのだ。
 
「どうしよう……」

 しゃがみ込んで両手に顔をうずめてしまう。

「おい!? 大丈夫か?みんな?ゲホッ……、クソッ。壁際まで走れば、この煙を抜けられるのか?」

 盛大に吹きだしたガスは先程のヒトカゲとのバトルとは比べモノにならないほど膨大な量である。
 一気にこの教室全体を包み込んだ。ウルが隅に退いた事から、四隅はぎりぎり安全なのかもしれない。
 しかし、方向感覚さえ奪われ、広がり薄められたとはいえ"毒"を有する煙の中。そんな余裕がある者はいない。

「……」

 罪悪感とポケモン達の悲痛の声に襲われたシズクの瞳から無意識に一粒の涙が零れ落ちる。
 もはや、シズクの頭の中は真白である。何も、考える事はできないだろう。

(泣いているのか……?)

 シズクの頭の中に問いかけるような一言。リオルの声では無い。
 もっと、威圧感があり、低く包容力のある落ち着いた支えになる声。

「……」

 その声にシズクは顔を上げ我を取り戻す。

(私は……お前を守る為にここにいる)

 直接頭に話かけるその声の主を理解するシズク。
 すると、一気にシズクの表情に活気が満ち溢れ……立ち上がる。

「ごめん。本当はあなたは……」
(構わないさ)

 流れる涙を腕で拭き取り両手で頬をパンパンと叩いて瞳を開ける。
 そして……ゆっくりと、トレーナーズベルト"左後方"から一つのボールを手に取り胸元で強く握る。

 紫色のボールに赤い装飾、真ん中に書かれた一つの"M"の文字。
 そう"マスターボール" ……

「お願い!!」


続く…
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/28(木) 21:32:28.82 ID:vXHPsTZR0
遂に来たか…
70 : ◆.Br/vY/Hx. :2011/07/30(土) 20:23:17.76 ID:j6w3v3D30
第16話


 ポケモンたる万物の存在を無条件に捕獲するアイテム。
 トレーナーとしての道徳性が否定され、世に出回る事なく試作段階で放棄された完全無欠のモンスターボール。
 存在が否定されたアイテム、存在しないアイテム。

 シズクの手に握られたのは"ソレ"……
 名を"マスターボール"

「敵の場所は分かる?」
(無論だ)

 爆発的にガスを噴き出したマタドガスにより視覚は皆無。目を開けている事さえままならない。
 マスターボールを両手で包みこむように持ち胸元の前に、そしてゆっくりと瞳を閉じる。

(状況が状況ですが、あなたの存在をここにいる誰一人にも見られる訳にはいきません)

 改まって喋りが丁寧になる。一瞬にして考えをまとめ瞳を開く。
 慌てふためく他のトレーナーやポケモン達の声や雑音が一瞬、途絶えた。

「この大袈裟な技は"こんらん"を招くもの……こんな煙やガスの中で冷静でいられる方がどうかしてる」

 目を細めて意識を集中する。

("白い霧" "テレポート" "サイコキネシス" 2秒刻み、最後のテレポートを含め10秒以内よ)
(問題無い)

 ボールを通してシズクとポケモンとの意志が通じ合う。
 作戦を伝え終えたシズクはゴクリと息を飲み込んで、ボールを持つ手を前に伸ばした。


―――

「ちっ……視界が悪い。これだけ充満していると"ふきとばし"でも何ともならないぞ!?」

 同じく現状を打破しようと口元を手で覆いながら何も見えない辺りを適当に見回して確認するジル。
 
(こうなったら、壁に穴でも開けて……ガスを外に逃がすしかねぇーか)

 腰にある一つのボールに手をかける。赤い装飾の施された青いボール"スーパーボール"である。
 この教室がバトルフィールドを有する広い部屋だとしても教室である以上、一方方向に歩き続ければ壁に当たる。
 少し駆け足でジルは一歩を踏み出す。

「……人影?」

 途中、煙の中に人影を見つける。敵か味方か分からず簡単には近づかない。
 一定の間合いを取りつつ、所々途絶える煙の隙間から、それがシズクだと分かる……

(シズク? 手にはモンス……いや、あいつは"マスターボール"か??)

 丁度ボールを手前に出しているシズクを目撃していたのだ。
 接近して話かけることも出来ただろう、しかし、ジルの興味はそのボールにあった。
 シズクはジルの存在には気付いていない。

(あのボール、やっぱり空じゃないのか)

 眉間にしわを寄せて集中してシズクを観察する。


―――

「お願いね」

 差し出した手から零れ落ちるように"マスターボール"がゆっくりと地面に向かう。
 その瞬間に息を飲むジル、しかし……そのボールは地に着く前に開口し、それと同時に辺り一面に"白い霧"が発生する。

(何だ? 今度は白い霧か? シズクの奴、一体何を?)

 一瞬だが、その白い霧の中を"テレポート"の際に見える独特の光が走った。
 ポケモンこそ確認できなかったが、その光をジルは見逃さなかった。

「!?」

 数秒も掛からなかった。
 見えないなりに光を追おうと辺りを見回す、そして、次の瞬間にシズクが立っていた前方に明るい光が見えた。

71 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/30(土) 20:23:54.71 ID:j6w3v3D30
「……な、なにーっ!?」
「ドガーッ……」

 ガルドの焦った声と共にマタドガスの痛烈な鳴き声。そして、地面にそれが落ちる音が鳴り響く。
 白い霧は先程までのガスより薄く目を凝らせばわずかに状況が把握できるぐらいには見える。

「一体、何がっ?」

 間近で見ていたジルにも何が起こったのか全く分からなかった。
 だが、次の瞬間同じようなテレポートの光が走りシズクの後ろに一匹のポケモンがゆっくりと着地する。
 一瞬、その(ポケモンの)瞳がジルを睨みつけたかのように感じた。

「……お、おい」

 動揺を隠せないジル。思わず足が笑い腰を抜かして尻もちをついてしまう。
 シズクの背に現れたポケモン。
 美しい白い体に、特徴的な尖った耳、そして全てを見透かすように紫色の瞳。

「……」

 ジルはそのポケモンを知っていた訳では無い。
 ただ、その"圧倒的な存在感"という名の圧力に一瞬にして押しつぶされてしまったのである。


―――

(良い作戦だ。"パープル")

 シズクを背に腕を組んで不敵に笑う。

「もぅ、"シズク" だってば!!」

 一段落ついたと思ってか少し気の抜けた感じで背中越しに"マスターボール"を当ててそのポケモンを戻した。
 そのまま、そのボールをいつもと同じベルト左後方にゆっくりとつける。

「うーん」

 両手を大きく挙げて伸びをしてみせる。
 技の使い手であるマタドガスがやられた為か、白い霧によって掻き消された為かは分からないが
 その黒いガスや煙はじょじょに薄れ、やがて部屋の換気システムの中に吸い込まれて消えていった。

「大丈夫か!! ピジョン」

 他のトレーナー達は自分のポケモンを目視できるようになり急いで駆け付ける。
 やはり、多くのポケモンがマタドガスの攻撃で毒を受けてしまったようで心配そうに抱きかかえるトレーナーが目立つ。

「おいっ!! どうなってやがる!!」

 ガルドは何時の間にか装着していたガスマスクを外し地面に叩きつける。
 完全優位と思える状態で、自分のマタドガスがやられたのだから無理もないだろう。

ガサッ……

 シズクが歩を進め、ガルドの前に近づいた。

「倒したわよ? マタドガスッ」

 大胆不敵、挑発的な笑みを浮かべた。

「ふざけるなよっ!! 学生風情がっ!!」
「……!?」

 誰が見ても分かる、ブチ切れたガルドの態度。大柄な男のその態度に思わず一歩退いてしまうシズク。

「なめるなっ!なめるなっ!!」

 ガルドは大声で怒鳴るとベルトにある別のモンスターボールを強く握り、その腕を大きく振り上げた。

(新手?)

 身構えるシズク。

72 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/30(土) 20:33:02.87 ID:j6w3v3D30
「やめろ」
「ウッ……ウルゥ?」

 その振り上げられた腕を何ら軽く肩手で静止して二人の間に入る。

(……あいつ、確か?壁際に?)

 まだ上手く立ち上がれず腰をついているジルが、先程ウルが立っていた壁に一度視線を送る。
 そして、再びシズク達の方に視線を戻す。歩いて来たようには感じられなかった……
 一瞬にして二人の間に突如として現れたのだ。

「……」

 ガルドを静止したウルはその手を離すと両手をポケットに入れてシズクを睨みつけた。
 凍るような冷たい瞳、見ているだけで罪悪感と虚無感さえ覚えるプレッシャーを感じさせる。
 そして、ウルはゆっくりと口を開く……
 

続く…
73 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/30(土) 20:35:07.16 ID:j6w3v3D30
第17話 第一章・完

  
「"面白いもの"を見せてもらった」

 凍てつくような瞳で言い放った一言。その視線の先には当然のようにシズクがいる。
 その言葉に大きく瞳を広げ動揺を隠せない表情を見せるシズク。

「フッ」

 その表情を見て小さく鼻で笑い微笑をこぼす。
 他のトレーナーや、ルリカ、ガルドは何故シズクが驚いているのか分からない。

「退くぞ……」
「なっ!! こんな生意気なガキごとき」

 再び声を張りあげるガルド!
 ウルは即座に手の平を口元に翳して静止させる。

「うっ」

ドンドンッ!!

 閉鎖されている教室の自動ドアを叩く音が聞こえる。
 その扉をギロッとウルが睨むとガルドが少しうろたえて黙る。

「さすが、と言うべきか……優秀な教員トレーナーを前に散った奴がいるという訳か」
「ぁー?何だよ、自分の持ち場ぐらい、食い止めろってんだよ!」

 拳を握るガルド。
 どうやら、扉の向こうは駆け付けた教員等と察してか撤退をはかろうとする。
 その様子を見て腰を抜かしていたジルが素早く立ち上がり前に出る。

「させない! 自分達で閉鎖したのが仇になったな!!」

 手には先程握っていた"スーパーボール"
 おそらくジルの主力となるモンスターが入っているのだろう……
 逃がすまいとウルとガルドに向け強く言い放つ。

「買い被りか? 考察力が足りないようだな」

 ジルの言葉を受けてウルが、ゆっくりとポケットに入れた手を出す。
 その手には一つのモンスターボールが握られている。
 それと同時に倒れているマタドガスにボールを投げつけ回収するガルド。

「……エスパーポケモン!?」

 ゆっくりと手から零れおちるボールを見て一瞬で察するジル。
 その言葉を聞いて喜びに近い笑みを見せ不気味に呟く。

「正解だ」

 開口と共に現れたのは"ケーシィ"であった。
 ウルが素早く"テレポート"を指示ると二人は光に包まれ一瞬にして教室から消え去った。


―――


 ウル達が消えて数分後、教室の扉のロックが解除されたのか数名の教員とトキワシティの警察が駆け付ける。
 他の教室や教員達も他の"RR団"のメンバーによって拘束・占拠されていたようだ。
 しかし、元優秀なトレーナーであった教員等はシズク達同様"RR団"を撃退したのであった。

 一部の毒を受けたポケモンとそのトレーナー達は教員の指示でポケモンセンターへと誘導される。
 残ったトレーナー達に駆け付けた2〜3名の警官が事情を聞くために教室内を回っている。

「私はヒトカゲが心配ですので、一応ポケモンセンターに向いますわ」
「あぁ」

 ルリカはヒトカゲの入ったモンスターボールを大事そうに抱えてジルとシズクに告げる。
 そして、せっせと似合わない駆け足で教室を後にする。

「大丈夫でしたか?」

 先程の模擬戦担当の教員、各生徒達に安全の確認をしにまわっているようである。
 シズクとジルは小さく頷いて笑みを見せる。教員も胸を撫で下ろし他の生徒の元へと歩いて行く。

74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/31(日) 00:21:49.15 ID:v/KSoGkSO
>1
乙 普通に面白かったぜ
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/31(日) 00:22:21.05 ID:v/KSoGkSO
>1
乙 普通に面白かったぜ
76 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/31(日) 05:11:59.36 ID:FjNeu9Jz0
「……」
「どうしたの?」
 
 何か言いたげな表情でシズクを眺めているジル。
 しかし、上手く言葉が出ず「いや」と頭を振って言葉を濁してしまう。

(あのポケモンは、見たことが無い。勉強不足か……まぁ形は覚えている)

 するとシズクとジルの元に一人の警官が駆け寄ってくる。
 若い二十代前半ぐらいのいかにも新米感が漂う青年である。

「他の生徒の話によると、君が……犯人のポケモンを倒したって?」
「は、はい」

 凄く驚いた感じの表情を見せたのは警官の方であった。
 警官の話によると占拠された他の教室で"RR団"に立ち向かった者はほとんど居なかったようだ。
 一部の上級生と教員等が上手く撃退したようだが、それ以外の生徒の中にはポケモンを奪われたものもいるようだ。

「凄いね。お手柄だよ」
「あはは」

 シズクは合わせるように笑いながら思う。

(違うよ。最初に立ち向かったのは……ルリカさんだよ。私にはそんな勇気……)

 他の生徒から大体状況や犯人像は聞けていたのかシズク達に詳しく聞き迫る事は無く。
 警官は最後に軽くシズクに握手を求めて、すぐに上官であろう他の警官の元へと駆けて行った。

「ふぅ、これで一段落か? 長い一日になっちまったな」
「そうだね」

 今日、模擬戦を終えて話かけられて……仲良くなったジルだが
 一日の終わりには、すっかり打解け友達になっていた。

「さて、出ろ!ピカチュウッ」

 ボールをポンと投げてピカチュウを出す。ピカチュウは眠そうに伸びをしてジルの肩に上る。

「うわ〜、何か久しぶりだね?ピカチュウ」

 不思議とシズクにライバル心を抱いているように思われたピカチュウだが
 シズクが頭を撫でようとしたのを受け入れ嬉しそうに「ピカピッ」と鳴いて笑みを見せる。

「まぁ、ルリカは大丈夫だろう。今日はもう遅いし、帰るか」
「うん」

 時間は午後5時をまわっていた。
 学校内に捜査の為か多くの警官達が見受けられた。
 撃退する事で収まったが、他の生徒達の中には大切なポケモンを奪われたものも
 バトルを挑んで大ダメージを受けたポケモン達もいたようで、散々たる事件だった事は言うまでもない。


――― とある場所

「お前達の収穫は?」

 薄暗い部屋で顔は見えない。大人の男の声。
 その視線の先には立ち並ぶ数名の黒服の者達、そう胸元には"RR"の文字。

「手に入れた"物"は無い……が、一つ」
「何だ?」

 リーダー格なのか立ち並ぶ者達の前に偉そうに座っている男が問う。
 その問いに答える上司を見る目とは思えない不敵な瞳……ウル。
 強気な笑みを浮かべて、言葉を続ける。

「竜の……雫を見つけた」



― 第一章 完

77 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/07/31(日) 05:14:32.62 ID:FjNeu9Jz0
タイトル
「ポケットモンスター パープル"竜の雫"」

設定…
聞きたい人は、もしくは先の話を一緒に考えてくれる人がいるなら
フリーアドレスでも用意して別途お話したいと思います。

実は、まだこの先の話もある程度考えてはあるんですが
方向性が適当過ぎて、ただただ「章」が進むだけと言った感じです。

物語である以上終わりに向けて話を進めたいのですが
スタートとゴールはあっても間の経路が難しい感じです。

感想とか頂けると嬉しいです
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/02(火) 00:13:28.31 ID:cG6wZw/SO
>1よ生きてるか〜
79 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/08/02(火) 18:10:42.04 ID:lv/ML/7f0
生きてますよー!
毎日見てますよ。
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/03(水) 00:20:16.71 ID:qP13Wg/SO
続き期待
81 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/08/03(水) 22:14:31.55 ID:R1Cqr+Yi0
(^q^)
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県) [sage]:2011/08/03(水) 22:33:47.93 ID:rfvOIlgbo
きたい
83 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/08/03(水) 23:36:18.27 ID:R1Cqr+Yi0
第18話
第二章 

第18話


 トキワシティの学校、強襲事件は次の日にはカントー地方の全ての町に伝わっていた。
 ニュースや新聞等で取り上げられたが、そこに"RR団"を撃退したシズクの名は一つも報道されなかった。
 取材や報道が駆け付けたにも関わらず、あまり乗り気で無かったシズクを気遣ってジルが一つ手を打ったからだ。

「んー……ポケモンの中には石の力で進化を誘発する者もいる」
「そうだな。市販されている物から中々手に入らない物もある」

 今回の事件を経て、捜査の為か学校は一週間の間休校となった。
 その間にいくつかの課題が学校側から出されたのだろう……

「ぁ、イーブイだ」

 ここは"マサラタウン"に構える大きな研究所内の一角
 学校には他の町から来る人の為に寮が設けられている
 
「お前ここに住んでるのか?」
「んーん、ここに泊まる事もあるけどトキワシティの寮もあるし……転々としてる」

 一つのテーブルを囲んで教本を持って頭を抱えるシズク。
 そう、シズクはある理由があって親元を離れこの研究所に預けられている。
 預かった主の意向で、シズクはトキワシティの学校に通う事になった訳だ。

「へぇ、石があれば簡単に進化できるのかな」

 シズクの足元で丸くなって眠っているイーブイの頭を軽く撫でる。
 そう、現在その課題をこなす為に勉強中なのである。

「進化論のレポートなんて適当に書いておけばいいんだよ。俺のピカチュウは雷の石で進化するようです……みたいに」

 適当に手に持つシャーペンをクルッとまわしてレポート用紙にスラスラと文字を並べるジル。
 テーブルの上でピカチュウがごろごろと転がっている。

「う〜、でもどう書いていいか良くわかんないし」
「ふっ……そんな事もあろうかと優秀な助っ人を呼んでおいたぜ?」

 難しそうに頭を抱えるシズクに対してジルが腕時計を見ながら笑みを見せる。
 それとほぼ同時に研究所の扉が開いた。

「あら……本当に、こんな有名な研究所を自宅みたいに……」

 ルリカである、その足元には元気なガーディとヒトカゲの姿。
 白衣に包まれた数名の研究員が色々と調べ事や仕事をしている最中
 一つのテーブルをポケモンとシズク達が囲んであーだこうだやっているのに少し驚いた感じである。

(あの事件の後、ルリカさんとは少し仲良くなった。学校で色々話たかったけど……運悪くすぐに休校だったしね)

 笑顔で「こっちこっち」と手を振るシズク。
 私服とは思えないちょっとドレスみたいな服に研究員も自然とルリカに目が行ってしまう。
 一歩、二歩と周りを見渡しながら近づき、椅子に腰かけるルリカ。

「ここに住んでますの?」
「ぇ……違うけど」

 二度手間なシズクは少し顔を歪めるが、その横でジルが笑っているのが分かった。
 ルリカはすぐに手に持ってたカバンから数枚のレポート用紙を取り出してテーブルに置く。

「実は、私……もう休み中の課題はほとんど終わらせてしまいまして……参考になればと」

 シズクが思っていた以上にルリカは良い人だった。
 少し照れくさそうに自分が終わらせた課題をぽんぽんとテーブルに上に並べて行く。

「さすがだぜ」

 早速それを手にとりペラペラと軽く捲るジル。

「ぁ……お茶入れてくるね。あとお菓子も」


―――

84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/04(木) 00:02:30.56 ID:WlTSpwuSO
おー更新待ってたぜ
85 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/08/04(木) 00:18:46.52 ID:933T+5Zj0
「俺の出身はクチバシティだよ……港がある町でね、親父もそこで働いてたんだが……物流が盛んでね。小さい時から結構見てるよ」
「私はタマムシシティですわ」
「おっ、セレブだねぇ」

 課題は何処へやら知らぬ間に雑談だらけのお茶会になっている。
 改まって自己紹介をしたり自分のポケモンについて色々と話あっている。
 将来の夢、つまりは学校に通う理由等……

「シズクさんの将来の夢は何ですの?」
「ぇ、私は全然決まってないよー」

 急に振られて慌てふためく様子で手を振ってみせる。
 決まっていない。というのはルリカやジル達にとって理解の出来ないものであった。
 誰もが必ず学校に行かなくてはいけない訳では無いからだ……みんな理由があって入学してくる。

 少しの間、沈黙が走った。

「ぁ、リオルも進化するんだ!」

 その流れを断ち切るようにしてシズクは開かれていた教本を指差して言葉を放つ。
 すぐに察してか、ジルとルリカは課題の話にのってくれた。

「さぁ、早く終わらせてしまいましょう」
「そうだな」

 せっせと作業を開始しるジルとシズクであった。

ガサッガサッ!

 研究所の外で大きな物音が聞こえる。何かが飛んできて着地したような音だ。
 3人はその音に気付いて一旦作業を中断する。

バタンッ!!

 勢いのある感じで研究所の扉が開いた。
 そこには首から丸いペンダントをかけた20代半ばぐらいの茶髪の若い男が立っていた。
 先ほどの音の正体であろう、彼の後ろには"リザードン"が立ちつくしている。


―――

「おいおい、これもマジかよ?」
「そんな……」

 驚きを隠せない感じのジルとルリカであった。
 その男はズカズカと研究所の中に入ってくる。他の研究員たちも気付いているが特に気にかけてはいない。
 そして、真っ直ぐにテーブルを囲む3人の元にやってきた。

「シズク!! おじいちゃんはいるかい?」

 知り合いなのだろう少し強い感じの言葉で問いかける。
 それを聞いてシズクは一度辺りを見回して少し考え口を開く。

「オーキド博士なら今日は学会か何かで……出回ってるよ?」

 口元に手を当てながら答える。

「そうか……!」

 シズクの頭をグシャッと撫でると、その男は研究所の奥へと歩いて行った。
 ジルとルリカを気遣ってか少し恥ずかしそうにして見せるシズク。

「……トキワシティのジムリーダー"グリーン" じゃねーか!!」

 グリーンの背を見ながら呟くジルと瞳を輝かせているルリカであった。



続く…

86 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/08/04(木) 00:19:22.23 ID:933T+5Zj0
第19話


「ちょっと!! 紹介しなさいよ!!」

 いきなりだった。瞳を輝かせたルリカがシズクの服を引っ張って大きい声で叫ぶ。
 それにビクッと驚いた感じを見せるも一瞬でルリカの心中を察した。

(ははーん、確かに中々のイケメン。それでいて凄腕のトレーナーと来ている)

 ルリカとシズクのやりとりを見て「フッ」と小さく呟くジルであった。
 肩に乗ったピカチュウがジルの頭をやさしく撫でていた。

「おい、そんな事しなくていい」

 ピカチュウをヒョイっと摘みあげて下に置いた。
 シズクは、立ち上がってグリーンを追うように研究所の奥へと駆けて行った。

「……何よ?」

 凄く嬉しそうなルリカをジーッと見ていたジルは「なにも」と笑って答えた。
 その間にルリカは、研究所内を歩き回っていたヒトカゲを摘みあげて抱きかかえた。

(お? かわいさアピールか?)

 ピカチュウとジルが楽しそうに眺めていると
 シズクが親しげにグリーンの袖を引っ張って連れてくる。

「お、おい……俺は忙しいんだ」

 と言いつつも力を抜いて引きずられてくるグリーン。
 テーブルの前に到着すると改まってゴホンッと咳をして見せる。

「トキワシティのジムリーダーのグリーンさんです!!」

 ジャジャーン! と言わんばかりに手を添えて"紹介"する。

(……いや、知ってるけど)

 頭をポリポリとかいて苦笑するジルに相変わらず瞳が輝いているルリカ。
 ルリカがシズクに相図をして自分の事を凄く指差してアピールしている。

「……」

 グリーンは無言。

「で、こっちがクラスメイトのジル」
「どうも」

 クールに一つ頭を下げて合図をして見せる。

87 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/08/04(木) 00:20:26.71 ID:933T+5Zj0
「それと、こちらが……」
「タ、タマムシシティのルリカです!!」

 急に立ち上がって一歩前に出る。
 本当に忙しいのかグリーンは少し困った感じの苦い表情を見せて頭をかいた。

「ガチガチやね」

 ジルがクスッと小さく笑って肘をついて笑う。

「タ、タマムシシティのね。分かったよ」

 適当に受け流すようにした直後、ルリカは手に抱いていたヒトカゲをグイッとグリーンの方に差し出した。

「……?」
「あ、あの! このヒトカゲ診てください」

 するとグリーンは小さく息を吐いて、ヒトカゲの頭、背中、胸元、喉をスーと軽く撫でるように触る。

「……」

 一瞬難しい表情を見せるも腕を組んでルリカの方を見る。

「良い感じに育っているよ。この調子だと、もうすぐ"リザード"に進化するだろう」
「本当ですか? あなたの"リザードン"みたいに立派なポケモンになれますか?」

 そわそわした感じで続く。
 すると、グリーンは「んー」と一瞬考える仕草を見せる。

「このヒトカゲの事を想うなら、あまり"かえんほうしゃ"を使わない事だ。進化前のヒトカゲには負担が多すぎる」

 一瞬にして、ルリカが普段ヒトカゲに"かえんほうしゃ"を指示している事を見抜く。
 つい最近もRR団襲撃時にもガルドのマタドガスを相手にかえんほうしゃを放っている。

「はい。ごめんね、ヒトカゲ」

 胸元にヒトカゲを戻してギュッと抱きしめるルリカ。

(……確か、トキワシティのジムリーダーの評価は"育てる者" 育成方針を聞くならこれほどの相手は居ないという訳か)

 ジルもシズクもきっとルリカはグリーンのファンなんだと少し期待していたのだが
 別にそういう訳ではなく単純に、グリーンのリザードンを見て感激したようであった。



88 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/08/04(木) 00:21:00.80 ID:933T+5Zj0
―――

 忙しいように見えたが、少しの間3人とグリーンはいろいろな話をした。
 ジムリーダーに至るまでの経緯、ポケモンリーグで準優勝した時の話。
 どれもこれも、素晴らしい話で……3人は熱心に聞き入ってしまう。

「そういえば、何か忙しそうだったけど……よろしいのですか?」

 少し打ち解けたのか落ち着いた感じでルリカが振る。
 忙しそうと分かっていながら、色々と押しかけたのはまるで気にしていない様子である。

ポン!

 手で手を叩き思い出したような仕草を見せるグリーン。

「そんなに焦る事じゃないんだ。ただ、凄いニュースだったからね、早くおじいちゃんに知らせたかったんだよ」
「凄いニャース? 喋るの?」

 シズクがグイッと前に体を乗り出す。

「ニャースじゃない……ニュースだ」

 まだ終わらないレポートを適度に書きつつジルが突っ込む。
 何気に今回グリーンにあって学んだ事もレポートに反映させているようだ。

「何ですの? ニュースって?」
「捕獲されたみたいだよ……」

 少し不敵な笑みを浮かべるグリーンに思わず息を飲む3人。

「ニャースが?」

 ……
 一瞬の静寂。
 クスッと笑って、グリーンが窓の外を見た。
 それに吊られて3人も窓の外に視線を送る。

「……」

 冬では無い。時期的に言えば夏である。
 シズクが嬉しそうに立ち上がり窓に駆け寄って行く。

「雪だ! なんで? サマースノー?」

 尋常じゃないぐらいの喜び。窓の外に少し寒そうなリザードンが見える。
 この状況からジルは理解する。少しの間をおいてルリカも……

「空中の水分を凍らせて雪を降らせる……訪れた街には一足早く冬が来る」

 グリーンは立ち上がりシズクのいる窓際にゆっくりと歩いて行く。
 そして振り返ってジルとルリカに視線を合わせた。

「捕獲されたのは……」

 理解している。だが信じがたい、その次の言葉に思わず息を飲む。

「伝説の鳥ポケモン、フリーザーだ……」



続く…




第二章 「少年と氷の鳥」
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/10(水) 09:27:17.16 ID:pRs8yUeSO
続きまだかね?
結構このSS期待してるんだがな
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/10(水) 16:03:34.24 ID:0lt2Td2Y0
待ってるよー
91 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/08/10(水) 21:31:58.44 ID:xKkqFnBV0
第20話


 事件の捜査も一段落したようで、予定通り一週間で休校は解除された。
 ただ、再び登校した学校はいつもと様子が違った。
 盛大に飾り付けが行われており、屋台こそ出ていないがまるでお祭りのようである。

「何……これ?」

 正門を潜るなり漏れる言葉。
 一緒にいるジルもシズク同様、驚いた表情を見せる。

「ん……?シオンタウンや、タマムシシティの報道関係も来ているようだぜ?」

 視線の先には、記者やカメラを持つ報道関係の人間も確認できる。
 この時点でジルは、どういう事なのかすぐに理解する。

「寒いね。今日」

 ホットパンツに上着1枚といかにも夏な感じの服装。寒そうに両手で腕を摩って見せる。
 どういうことなのかあまり理解できていない様子のシズク。
 ジルの肩に乗っかっているピカチュウもシズクと同じように震えている。 
 
「とりあえず、1限目の戦術講義の教室に行けばいいみたいだな」

 情報の記されたポケナビを片手に教室に向かう。


―――

「ん? 何だ……」

 ジル達が向かった教室の前の廊下には多くの報道人が駆け付けていた。
 それを少し押しのけて教室内に入るも、特に変わった所は無くいつもの面々しか居なかった。

「こっち」

 いつもシズクが座っている後ろの方の席にルリカがすでに座っていた。
 手を振って軽く合図をする感じで、ジルとシズクはそこまで歩き隣に腰かけた。

「今日は"あの話題"で持ちきりみたいですわね」
「あの話題?」
「……あぁ、しかも、あの廊下の連中から察するに……また面白い事になりそうだ」
 
 少し面倒そうに腰を落として目尻を抑えるジル。

「もぅ、一体何なのよね。ねぇピカチュウ」
「ビカ〜」

 机の上にいるピカチュウの両頬をツネって訴えかけるシズク。
 すると教室内からでも充分に分かるほど廊下がざわつきだしたのが分かる。
 シャッター音や、マイク越しに喋るリポーターらしき女性の声が聞こえないでもない。

キンコーンカーンコーン……

 それと同時に鳴る、いつの時代でも変わり映えのないチャイムの音。

ウィーン

 開く教室の扉、それと共に少し涼しい風が教室内に流れ込む。
 戦術講義の40代前半ぐらいの気前の良さそうな男の教員と、その後ろに一人の少年。
 
「……あいつか」
「え?誰?」
「そうみたいですわね」

 夏場には似合わないスーツに、その上に重ね着するコートのようなもの……
 水色の薄い髪に色白の透き通るような肌、開いた瞳は冷たく青色に光る。
 整った顔立ちや服装的に、いかにも良い所育ちな雰囲気がにじみ出ている。

「今日は講義の前に、一つ紹介をしておく」

92 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/08/10(水) 21:32:44.11 ID:xKkqFnBV0
 他の生徒たちもニュースや噂、今日の学校の様子から察しているのだろう自然とざわつきだす。

「この様子だと、すでに皆気付いていると思うが……この度、半年と少しの旅を経てフリーザーを捕獲した」
「ノエル……ノエル=ディ=スタンスです」

 葉が掠れるような囁くような声で少年が名乗った。
 それと同時に「すげー」とか「本物か」とか色々とざわつきだす教室。

「ねぇ、旅ってどういうこと?」

 シズクが少し小さめの声でジルに問う。

「この学校を卒業する方法は二つある」
「……?」

 指で二を示して語り出す。

「一つは3年間の課程を終え、通常通りに学業を終える事だ。そして……、もう一つは」
「伝説のポケモンの捕獲、もしくは……現ポケモン界へ多大な影響を与える発見ですわ」

 ルリカが続いた。
 この大学には特別授業枠として3年間掛けて"伝説のポケモンの捜索"という名目で旅に出る事が出来る。
 学校名義色々なサポートを受ける事が出来るが、当然"伝説"の存在。
 多くの学生が一発卒業資格の名に吊られ旅に出るが何のヒントも得られぬまま1年で諦める者も多い。

「この教室に来るって事は、奴は1期生だ。半年と少しって事は……入学してすぐに旅に出てやがる」

 腕を組んで不敵に笑うジル。
 シズク達が雑談をしている間、教員が今回の話やノエルの簡単な紹介を行っていた。

「彼はすでに卒業資格を持っているが、彼の意志でこれからも授業を受けてもらう事になった。つまり、クラスメイトだ」

 
―――

「卒業資格があるって事は、授業の単位は必要ないって事ですわね」
「あぁ、確かにそこを気にしなくていい学校生活は……楽しそうだな」
「ふーん」

 あまり興味のなさそうなシズクに色々と分析しているジルとルリカであった。

「さぁ、運が良いぞ!お前ら、戦術講義の後は実技の模擬戦がある!! どういうことか分かるなーーっ!?」

 乗り気な教員にそれに対して盛り上がる生徒達。
 ノエルもその雰囲気に圧されてか笑みを見せる。

「まぁ、その前に戦術講義だ。ノエル君、好きな席に座ってくれていいぞ」
「はい」

 教室の前の方の席は例によって多く空いている。
 しかし、ノエルは一歩二歩と静にその歩を進め段差になっている後ろの方まで歩いて来る。
 その様子を見ている教員、そして生徒達……そして、自分達に近づいてくるのを見ているシズク達。

「隣に座ってもいいかな?」

 線を引いたような目と微妙な笑みでシズクに問いかけた。
 通路をはさんで逆側の机には誰も座っていない……しかし、ノエルはシズクに問いかけた。

「う……うん」

 断れるはずもなく頷いてみせる。どこか汐らしい態度を見せるシズク。

「ノエルです。良ければ、お名前を」

 続いて握手を求めるように手を差し出すノエル。
 まだ、席につかず立っている為か有名人なせいか教員も他の生徒もそのやりとりをジッと見ている。

「シ、シズク……」

 少し頬を赤くして恥ずかしそうにその手を握る。
 ノエルは再び笑みを見せて、その隣に腰かけた。

(つ、冷たい)



続く…
93 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/08/10(水) 21:33:29.22 ID:xKkqFnBV0
第21話

(冷たい)

 握手に差し出された手は今まで氷でも掴んでいたかのように冷たかった。
 優等生が急にダメダメと噂のシズクに近づいた事で他の生徒がざわつく……
 教員がそれを沈め授業に入った。

「今日は、技の有効範囲について説明するぞー」

 
―――

 4人が座ると余裕を感じさせない、教室後方の長い机。
 気付かって横にずれたルリカ、同様に一人が入れるようにジルとシズクは横にずれる。
 そして、頭を一つ下げてそこにノエルが腰掛けた。

 ルリカは何も気にしない感じで坦々と授業内容をノートにまとめていく。
 ジルは、ノエルの事が少し気に掛るのか、いつものノートパソコンも出さず漠然と授業を聞いているだけである。

「zzZZ」

 いつも通りだった。
 授業が開始するや否や腕に頭を埋めて前のめりに眠り出すシズク。
 ノートをとるどころか授業を聞く気のない様子にノエルは一瞬驚いた感じを見せるがすぐに笑みを見せる。

「面白いだろ? ほとんどの授業をこうやって寝てるんだぜ?」

 軽くアクビをしながらジルがノエルに聞こえるように口にする。
 ノエルも手ぶらで筆記用具のようなものは一切持っていない……
 確かに、すでに卒業資格を持つノエルにとって授業など集中するに値しないものなのかもしれない。

「天才肌というやつですね」

 また一本線を引いたような細い目で笑みを見せ小さく頷いた。
 "天才肌"その言葉にジルの耳がピクッと反応を見せる。

(こいつもシズクの"特別な"何かに惹かれたのか?)

 自分は何気なく近づいた。
 しかし、次いでルリカ……そして、ノエル。
 ジルはシズクには何かしら人を引きつける特別なものがあるのだと納得した。


―――

 授業は進みスライドに色々なポケモンやバトルフィールドの状況等が記される。

「さぁ、状況はこの通りだとして……有効な技は何か分かるか?」

 投げかけるように教員が問いかける。
 いつの時代の授業風景も同じで生徒の反応は薄いものだ。

「ん? どうした? ピカチュウ」

 少し狭い中、ジルの膝の上に乗っているピカチュウが状況を察してか
 いつしかのシャドーボクシングのように手をシュッシュと交互に前に出してワンツーを見せる。
 少し鋭い目つきで、その視線の先には隣の隣に座るノエルの姿があった。

「ふーん、良いね」

 その様子を見て何かを察するジル。
 スッと静かに手を挙げ教員の注意をひく。

「おっ、珍しいな! ジル=ルーク、答えてみなさい」

 その挙手が目に入ったのか教員は嬉しそうにジルを指差した。
 するとジルはピカチュウを机の上に置いて静かに立ち上がった。

「先生、俺じゃー分からないんで……ここは"優等生"のノエル君に説明を貰おうかなと」

 似合わない笑みを見せる。
 その言葉に自然と教室中の生徒の注目が集まる。

「おっ? そうか!? それなら、ノエル……答えてみるか?」

 ノリの良い教員でジルの言った通りノエルにその矛先を向けた。

94 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/08/10(水) 21:34:05.67 ID:xKkqFnBV0

「中々、粋な事をしてくれますね」

 クスッと小さく笑ってノエルが立ち上がる。同時にジルは席についた。

「画面に映っているのは、ニョロゾですね。そうなると答えは、おそらく"れいとうビーム"でしょう」
「正解!」

 即座に答えるノエル。教員も素早く正解と言うがノエルは、ここで座らなかった。

「ただし……」

 他の生徒、そして教員は唖然とした。
 ノエルは正解を導き出したにも関わらず……話を続けた。
 独自の考察、戦闘理論、覚えているであろう他の技、相手との間合いの計算。
 次々と簡単には理解できないような式や意見が飛び出し、言葉を並べて行く。

「……」

 3分ぐらい話続けただろうか? 軽い発表を終えるような感じでノエルが結論を口にする。

「つまり、授業内容的には"れいとうビーム"が有効ですが……
 "さいみんじゅつ"や"マッドショット"等を考慮すると、より威力の高い"ふぶき"の方が有効な場合もあります」

 静寂が走った。
 
「そ、その通りだ!! す、凄いなノエル君……はははっ」

 理解がやっとおいついたのか少しの間を置いて教員は焦るようにまとめだす。
 無意識なのか〜君付けになっている点からもその焦り具合が良く分かる。

「分かりましたか?……えっと、ジル=ルーク君」

 クスクスッと笑みを見せノエルはジルの方を向いて言葉を漏らす。
 気のせいか教室中から微かな笑い声が聞こえたような気がした……
 それはおそらく、この状態に持って行ったジルの不甲斐なさを笑うものだろう。

「よーし、座っていいぞ」
「はい」

 教室内からは自然と拍手のようなものが湧きあがった。
 少し照れくさそうに小さく頭を下げてゆっくりと腰掛けるノエル。

「……」

 ジルは無言だった。
 目を大きく開けてノエルでは無い一点を見つめていた。
 ピカチュウが素早く肩に飛び乗ってジルの頭をポンポンと叩いた。

「あらあら、格好悪いことですわ」

 唇を噛みしめるジルに対してルリカが嘲笑うように口にした。

「さ、さすがだぜ!!」

 怒っているのかと思えたが
 少し嬉しそうにジルが小声で呟いた。


―――

「よーし、とりあえず! シズクを起こしてやれ!」

 授業が終わるには少し時間があるが、教員がそのように指示を出す。

「先生は空気が読めるから……今日は少し早く終わって! 次の授業の準備をしようじゃないかぁ!」

 生徒達が嬉しそうにガヤガヤとざわつく。
 まだ廊下には報道の人間が多くいるようで、授業の終わりの合図と共にノエルは教員に呼び出された。
 教室の扉が開くなり数々のフラッシュの光やマイクが彼に向けられたのは想像するまでもない。

「……ぁれ? もう授業終わったの?」

 ムクッと頭を上げて起き上がるシズクであった……



続く…
95 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/08/10(水) 21:34:44.93 ID:xKkqFnBV0
第22話

「さっきの授業で言った通り、状況を見て有効な技を指示していけー」

 数十名の生徒の前で腕組みをする教員。
 この教室に設置されたバトルフィールドは3面、話の後バトルの組み合わせを適当にクジで決めようとする。
 教室中央にある大きな黒板のような電子ボードに手元の小さなボードからデータを送信する。

「僕……ですか?」

 そこにノエルの名前が一つだけ表示された。
 少し戸惑う感じで自分を指差して言葉を漏らす。

「あぁ、みんなも"アレ"を見たいだろうからな……最初の1試合はみんなに見てもらおう」

 ざわざわとまわりが口々に喋り出す。もちろん期待が高まる事だろう。
 広い教室の隅には数台のカメラと報道のリポーターらしき女性が数名構えている。

「まさに見せ物って訳ですわね」

 少し不服そうに口にするルリカ。

「さて……対戦相手だが、なるべく成績のいい奴をぶつけたいな〜」

 教員が手元のボードでこれまでの授業データを見ている。
 すると教員の横に立っていたノエルが一歩二歩とこちらに向って歩いて来る。

「僕と遊びませんか?」

 紳士らしく手を前に流し一度、小さく頭を下げて見せる。
 教員及び他の生徒達の唖然とした顔、ルリカとジルの何となく分かっていたという表情。

「え? 私?」

 そう、ノエルが対戦相手として選んだのは"シズク"であった。
 授業中もずっと寝ていて一度挨拶しただけなのに何が何だか分からない様子である。
 それを見て教員がシズクのこれまでの授業データを見て少し顔をしかめる。
 少し報道陣を意識しながらポリポリと頭をかいてみせる。

「いや、私なんかじゃダメだよ」

 と慌てる感じで手をバタバタとさせるシズク。

「ダメじゃない」

 咄嗟にその手を掴むノエル。
 いつも線のように細めている目をギラッと光らせてシズクの目を見る。
 その雰囲気に気圧されて少し頬を赤く染めるシズク。

「嫌がってる」

 少し迫る感じであったノエルに一言飛ばし一歩前に出たのはジルであった。
 その言葉を聞いて少し悪ぶるように手を離しジルの方を向く。

「その勝負、代わりに俺が受けよう? 構わないよな? 先生」

 振り返って教員に言葉を飛ばす。
 再びジルの授業データを確認し問題無しと頷いて見せる。

「ねぇ……何か様子変じゃない?」
「え?」

 数秒の静寂、睨みあっているようにも見えるジルとノエル。
 その様子を察してか、サッとルリカのいる所まで身を退いたシズク。

「何かジルがカリカリしてるような気がする」
「え……えぇ」

 少しごまかすように返事を曖昧にするルリカ。
 先ほどの授業で少し悔しかったのであろうその様子が伝わっていたのだ。


―――

96 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/08/10(水) 21:35:37.93 ID:xKkqFnBV0
「ポケモンは2匹、交換制で行こうか!」

 右手に"スーパーボール"を握りジルが所定の位置につく。
 一つ小さく頷いて「あぁ」と言うとノエルもその対面にある所定の位置へとついた。
 すると同時に報道のカメラがその試合を撮影するようにフィールドを囲んだ。

「よし、じゃあ……ルールは2対2の交換制! 試合開始!!」

 教員の合図と共に二人はモンスターボールをフィールドに投げ込んだ。
 ノエルの一匹目のポケモンに誰もが注目する。
 そして、二つのモンスターボールはほぼ同時に開口する!

「エレブーッ!!」
「ニョロッ」

 勢いよく飛び出す2匹のポケモン。
 黄色い体に黒い雷マークを模した模様のある人型、でんげきポケモンのエレブー
 片方はお腹に渦巻き模様のあるおたまポケモン、第一進化のニョロゾである。

ニョロゾ VS エレブー

「やれやれ、相性は最悪のようですね」

 誰の目から見ても分かる相性の差。
 素早さもエレブーの方が少しばかり速そうである。

「一匹目の相性はジャンケンみたいなもんだ……早急に変えてくるんだろ?」
(……だが、奴の主力は間違いなく今回話題の"フリーザー" 飛行タイプなら、この相性の差は変わらねぇ)

 一匹目の顔合わせにギャラリーや報道がざわつく。
 教員も少し不思議そうな顔をしている。


―――

「おかしいですわね?」
「……何が?」

 ルリカが手を口元に添えて少し考えるようにニョロゾを見た。
 全く分からない様子のシズクがルリカに問いかける。

「あの方の切り札が、あの"フリーザー"だとするのなら弱点が被るポケモンを2on2で最初に選ぶなんて……」
「そうなの?……そうだよね」

 頷いて納得するシズク。

「弱点を抑えれる地面タイプか、対になる雷タイプを選んでくると思ったのですが……」

 フリーザーは地面タイプに強い。つまり1匹目を雷タイプにすれば弱点を突かれてもすぐに交換ができる。
 それがルリカの"優等生"としての一般的な考えであった。

「でも……私はニョロゾも分かるな」

 小さく呟いたシズクの一言……瞳を大きく広げ驚いた感じでシズクを見るルリカ。


―――

「エレブー"雷パンチ"だ」
「ブッ」

 電気の帯びた拳で次々とパンチを繰り出すエレブー
 それをギリギリな感じでニョロゾが左右に避けて行く。

「ニョロゾ……"さいみんじゅつ"」

 ニョロゾは頷くが中々行動に出ない。エレブーの一撃を意識して大きく行動出来ない感じである?

「受けるかよ? 少し距離を取って"電気ショック"だ」

 後方に飛んで下がり体中から電気を発生させ投げつけるようにニョロゾに発する。

「"かげぶんしん"」

97 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/08/10(水) 21:36:07.75 ID:xKkqFnBV0
 コクッと頷くと同時にエレブーに近づき電気ショックを受ける前にニョロゾが走った場所に残像が発生する。
 同時にサイドステップを軽快なフットワークで踏み、そこに残像を残して分身していく。
 そして、やがてエレブーを囲むように6つの分身を形成する。

「どれかは本物なんだ……深く考えずに全部一斉に打ち抜け"10万ボルト"だ!!」

 指示を受けると体中に一気に電気を集中させ
 周りを囲むすべてのニョロゾに照準を合わせて一気に放つ。

「やったか?」

 その攻撃は全ての対象に命中し、そのすべてを一瞬にして消し飛ばした。
 だが……一匹のニョロゾは目の前に平然と立っていた。

「"みずてっぽう"だニョロゾ」

 勢い良く手から水を吐き出し油断していたエレブーに命中する。
 だが、それほどダメージは受けていない様子である。その水を一気に手で跳ね除ける。

「どういうことだ?」

 分身した全てのニョロゾは"さいみんじゅつ"を放っていたのである。
 知らぬ間にそれに掛り"眠り"までは行かずとも本物のニョロゾを見失うほどの催眠状態には陥っていた。
 事実、エレブーは"水てっぽう"の攻撃を受けるまでニョロゾを目視できていなかったのだ。

「目は覚めましたか?エレブー?」

 ノエルはクスッと小さく笑みを見せる。



続く…

98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/15(月) 10:07:22.04 ID:sIqeITlSO
続きまだー?
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/15(月) 14:15:54.03 ID:oANYArc80
wktk
100 : ◆.Br/vY/Hx. :2011/08/18(木) 19:38:46.74 ID:IlOtZ6Cg0
第23話

「目は覚めましたか?」

 挑発的な笑みを零すノエル。
 ニョロゾは"かげぶんしん"との連携で"さいみんじゅつ"を同時に放っていたのであった。
 眠りには至らずともジルのエレブーはニョロゾの実態を見落とす結果となった。

「ニョロゾ!メガトンパンチッ」

 先程の"みずてっぽう"で目覚めたエレブーだが、この攻撃を避ける事が出来なかった。
 ニョロゾの勢いのある右手ストレートがエレブーの胸元へと入る。

「当てたな?」

 ジルの不敵な笑み。それと同時に攻撃を繰り出したはずのニョロゾの体の周りを薄い電気の膜が覆う。
 一瞬にしてその状況を把握したノエルは即座に指示を出す。

「"あわ"を盾に後退!!」

 ニョロゾは口から無数の水の泡を吐き出しエレブーに目隠しをするように浴びせる。
 今まで、ゆったりとした感じのノエルであったがこの命令の声は少し大きく聞こえた。
 メガトンパンチ、あわによる連続攻撃を受けたエレブーだが怯む様子は全く見受けられない。

「迂闊だったな」

 後ろに下がり間合いを取ったニョロゾが片膝を地に着けた。

「エレブーの特性"せいでんき" こいつに触れたポケモンは"まひ"を引き起こす。水ポケモンだったら尚更だろう?」
(……だが、変だ。水攻撃があまり通じないとはいえ、わざわざ苦手な相手に接近してまでの"メガトンパンチ")

 口では強気に出るが、頭の中では納得できないその攻撃に考える仕草を見せる。

「やれやれ"まひ"を誘発する確率は30%程度だと聞いていましたが……あてにはなりませんね」

 目を線のようにして緩い感じの言葉を飛ばす。
 続いて、上着のポケットからモンスターボールを取り出して手に握る。

「さすがに相性の悪い相手にまひ状態では戦えないってか?」
「さて……それはどうでしょう? でも、危険なのは確かですね」

 クスッと状況よりはわずかに余裕に見える笑みを見せニョロゾにボールを投げ込んだ。
 2対2のバトルで一匹目のニョロゾが手元に戻る、同時に報道陣のキャスター、他の生徒……
 そして、ジルも大きく息を飲んだ。

「雷ポケモンに飛行タイプは相性が悪いぜ? 別に期待に応えて、そいつを出す必要も無い」

 不敵な笑みと共にノエルに言葉を投げかけるジル。
 確かに、次の一手が伝説の鳥ポケモン"フリーザー"だとしても飛行である限りはエレブーと相性が悪い。
 だが、その問いかけを受けてもノエルは微動だにしない。

……

 スーッと冷たい風がバトルフィールを駆け抜けた。
 ノエルの表情は一変し真剣な感じになり、ポケットから一つのモンスターボールを取り出した。

「凍えろ……」

 呟かれた小さな一言と共に、そのボールはノエルの手からゆっくりと地に向かって落ちる。
 ボールが地につき開口すると、一瞬……今までとは比にならないほどの寒風が吹き付けた。

「……こ、こいつが!?」

 美しい水色の羽に頭には氷のクリスタルを思わせる3つの鶏冠……長く光輝く尾
 最後に何者も寄せ付けぬような気高さが漂う、赤い瞳

 誰もが一瞬で理解する。これが伝説の鳥ポケモン、氷の鳥……"フリーザー"

 ほとんど人に懐くことが無いと言われている伝説のポケモンだが
 フリーザーは、想像のつかぬ嬉しそうな笑みをノエルに見せた。するとノエルは優しくフリーザーの顔を撫でる。

「頼めるかい?」

 ノエルのその一言にフリーザーは甲高い鳴き声を挙げ、その存在を大きく示した。
 一歩、二歩……空を舞うのでは無く、ゆっくりとエレブーに近づくようにフィールド中央に歩いてくる。

「……ニョ、ニョロゾに代わって!! ノエル、フリーザーッッツ!!」

 フリーザーがここまで歩いてくるまでの間、誰一人として言葉が出ないほどその美しさに気を持っていかれていた。
 ここまで来て初めて、審判をやっていた教員がポケモンが交換された事を大きな声で叫んだ。
101 : ◆.Br/vY/Hx. :2011/08/18(木) 19:39:36.85 ID:IlOtZ6Cg0
「寒いよ。寒いよ、ルリカちゃん」

 薄着のシズクは比較的、夏場にしては厚着のルリカに抱きつくようにして近づく。

(ちゃん付け……?)

 少し戸惑いながらもルリカは素早く腰についているモンスターボールを一つ手に取って開口する。

「コンッ」

 ロコンだった。ブルブルッと身を震わせるロコンをルリカはすぐに抱きかかえた。
 "抱きしめるとほんのり温かい"と定評のあるロコンを体を温める用に出したようだ。

「ずるいよ……私も〜」

 ロコンに手を掛けて引っ張ろうとするシズク。
 ムカッと来たのかルリカは無言のまま、すぐにもう一つモンスターボールを手にして地面に投げる。

「カゲッ」

 ヒトカゲが元気に飛び出した。が、次の瞬間には凄く寒そうに両手で悴んでみせる。
 スッとヒトカゲの尾の尻尾を指差してシズクに示すルリカであった。

「ダメだよ。ヒトカゲは寒い所苦手なんだから〜」

 わがままにダダをこねて見せる。

「そうですわね」

 そう言ってすぐにヒトカゲをボールに戻してしまうルリカ。
 この対戦、いやフリーザーの試合を見ていたいのか少しシズクとのやりとりが面倒そうである。

「ねぇ、ガーディ出してよ」

 しゃがみ込んで地面に落ちていた石をポンと投げていじけるシズク。
 それに見かねたのかルリカは溜息をついた後にシズクの方にガーディのモンスターボールを投げた。

「ワゥッ!?」

 現れたガーディを勢いよく抱きかかえようにも少し重かったのか
 抱えるのを諦めて座っているガーディを後ろから抱いて座るシズクであった。

(……寒いの苦手なのかしら?……この格好で?)


―――

(さぁ……?どうする、相手は仮にも"伝説のポケモン" だからと言って飛行タイプに違いはない)

 眉間にしわを寄せ少し難しそうな表情を見せるジル。
 相手のフリーザーも先に動く様子が無く時折、羽をくちばしで整えたりと余裕な感じである。

「チッ……まずは攻めてみる!エレブー"10万ボルト" 空に逃げるようなら続いて"かみなり"だ」

 右手の指を前に突き出し、素早くパターン分けした指示を勢いよく行う。

「……」

 この距離から聞こえないはずが無い。ジルの指示は届いたはずなのにエレブーは行動に移らない。

「どうした? 伝説のポケモンが相手だからってビビッているのか?お前らしくないっ!」

 声を張りあげるジル。
 
「そういえば」

 はぁーと自分の手を温めるように息を吐きかけるノエル。
 問いかけるように視線をジルに移して口を開く。

「その、エレブー……"水に濡れて寒そうだね"」
「!!?」

 その言葉を聞いて、審判の教員はノエルを示す旗を上げる。

「エ、エレブー……状態異常"こおり"。この授業では"こおり"はダウンと同義とする!!」

 触れてはいない。技を放ってはいない。
 ニョロゾとの戦闘を経て、フリーザーを前にして……その存在は静かに凍りついた。


続く…
102 : ◆.Br/vY/Hx. :2011/08/18(木) 19:40:31.76 ID:IlOtZ6Cg0
第24話


「エレブーダウン!」

 教員のジャッジによりジルは苦しくもエレブーをモンスターボールへと戻した。
 雷タイプを前にして技を放ち続けたノエルの1匹目、ニョロゾ……
 ニョロゾの攻撃の一つ一つが確実に次への布石となっていたようだ。


―――

(でも……私はニョロゾも分かるな)

 この光景を見て先程のシズクの一言がルリカの脳裏を過る。
 単純な相性や、技の効果性だけでなく……もっと単純な事
 水に濡れた体で寒い場所におもむくことの危険性という子供でも分かる簡単な話。

「あーぁ"氷の鳥"だもんね……」

 ボールの中に戻るエレブーを見ながらシズクが呟いた。
 時折、手元にいるガーディをギュッと抱きしめてガーディの頭の上に顎を置いて頬を膨らませる。

(ジルの1匹目が倒されたのが気に入らないのかしら)

 クスッと小さな笑みを見せるルリカであった。


―――

「ジル、エレブーはダウンだ。次のポケモンを!!」
「あぁ……」

 数秒の静寂、ギャラリーや報道陣は未だフリーザーの美しさに見とれている。
 眉間にしわを寄せて右手を口もとに添えて考える仕草を見せる。

(1匹目のニョロゾはまだダウンしていない……数では俺が不利、相性で凌駕できるのか?)

 対戦の間、ジルの後方でジッとしていたピカチュウが駆け出してジルの肩に乗る。
 このピカチュウは、基本的にボールには入れず放して飼いしているようだ。

「ピカピッ」

 難しい表情のまま肩に乗るピカチュウの頭を撫でる。

「ジル、さすがにあのフリーザーに勝てる手は無いと思うが……良い機会だ!最後まで闘っておけ」

 負けは確実、だが諦めるなと言わんばかりの教員の声。
 その声にジルは小さく呟く……

「良い機会か……」

 相性の優位はあれど絶対的な存在の差がある現状。
 それでもジルは「フッ」と不敵な笑みを見せてピカチュウの乗る肩をクイッと上にあげる。
 それが相図なのかピカチュウは勢いよく前に飛び出した。

「ピカーッ!!」

 シャドーボクシング風に2,3発ワンツーを繰り出して赤いホッペに電気を充電させて存在をアピールする。
 首を捻ったり羽を整えたりしているフリーザーがピカチュウに気付き視線を合わせる。

「ピカッ!?」
「伝説のポケモン特有の"プレッシャー"だ……相手に呑みこまれないように注意しろ」
「ピカーッ」

 ジルが2匹目に選んだポケモンは"ピカチュウ"であった。
 それを確認すると教員はポケモンが入れ替わったことを大きな声で告げる。

「ピカチュウ……"マスコット"かと思いましたよ」

 目を線のようにして再び笑いかけるノエル。
 "マスコット"とは戦いには使わない好きなポケモンやシンボルなど非戦闘要員を現す言葉。

「ピカチュウ……本気だ、こいつを使え」

 スッと丸い黄色い透き通る玉のついたペンダントのようなものをピカチュウに投げた。
 それを綺麗に頭でキャッチして首にかける。その瞬間、その黄色い玉がピカチュウと連動するように光り出す。
 まるで雷を帯びているのかのように電気が迸る
103 : ◆.Br/vY/Hx. :2011/08/18(木) 19:41:45.29 ID:IlOtZ6Cg0
「アイテム?」
「"でんこうせっか"」

 ジルの一言と共にピカチュウは目にも止まらぬ速さだ駆け出しフリーザーの頭上に飛びあがった。

「速い? 回避だ、フリーザー」

 油断していたのか指示を受けたフリーザーは羽をバサバサとばたつかせ飛びあがろうとする。

「遅いな……」

 "でんこうせっか"からの連携で"こうそくいどう"をピカチュウは独自の判断で行っていた。
 図上から突如消えたピカチュウは雷が走るような一瞬の速さで羽ばたくフリーザーの足元で構えていた。

「"たいあたり"だピカチュウ!」
「ピカッ」

 ビシッ!と人差し指を立てるジルの合図と共にピカチュウが勢いよくフリーザーの懐に飛び込んだ。
 フリーザーの油断もあった、ピカチュウの動きが速かったのもあった……結果、その攻撃はフリーザーに命中する。
 少し後方に流されたが、もともとそれほど体重のないピカチュウの体当たり、ダメージは期待できない。

「体当たり……? 雷系の攻撃をしていればダウンとは言わずとも、かなりダメージを与えられたはず」

 始めて見せた焦った感じのノエルにジルが不敵に笑う。

「サービスだ」


―――

「ダウンしてた」

 いつの間にかガーディに乗っかっているシズクの声がバトルフィールドに聞こえた。
 ただのお喋りの声……だが、そのピカチュウの戦いに皆、息を飲んで静かだった為かシズクの言葉は響いた。
 教員、ノエル、ジル……そして、他の生徒達もシズクに注目する。

「ぇ?」

 みんなの視線を感じて焦った様子で左右を見回すシズク。

「だって……あのピカチュウが持ってるの"でんきだま"でしょ?」

 それを聞いて視線がピカチュウの首元へと移る。ペンダントに加工されているが真ん中の黄色い玉は、まさにそれ!
 "でんきだま"とはピカチュウが所持する事で全ての技の威力を"2倍"に跳ねあげる専用のアイテム。
 その一撃は進化後の"ライチュウ"の攻撃翌力さえも上回るとされる……最強のアイテムなのである。

「フフッ、確か……アイテムには目が無い男でしたわね」

 その隣でルリカが少し嬉しそうな表情を見せる。


―――

「あーぁ、おしゃべりだな……あの二人は」

 少し余裕のある意気がった感じの喋り。髪を弄りながら「まいった」と言わんばかりの表情。
 一方、ノエルからは笑みが消え去り真剣な眼差し伺える。

「もう、こんな下手は打たない!! フリーザーッ!」

 焦ったのか突如声を張り上げて指示を出すノエル。
 しかし、フリーザーの反応は思ったほど機敏では無い。
104 : ◆.Br/vY/Hx. :2011/08/18(木) 19:42:13.56 ID:IlOtZ6Cg0

「特性"せいでんき"……本来なら直接攻撃を受けた反動で発生する効果だが
 電気の帯びた体に触れる事で発生するという根本原理は変わらない……分かるか?天才少年」

 指をパチンと鳴らし人差し指でノエルを示すジル。
 そう、体に触れる事……それは、つまり先程の"たいあたり"を意味する。
 常にピカチュウの体には電気が生じており、さらに、それはでんきだまで2倍になっている。

「俺の見立てでは完璧とは言わないが、30%ぐらいは"まひ"の症状を見せるはずだぜ?」

 ――計略的
 ニョロゾの水技とフリーザーという存在によるコンビネーションを見せたノエルに対して
 ジルは即座にピカチュウとでんきだま、さらに技と特性を組み合わせたコンボで叩き返してみせた。

「さぁ……動きが止まればこちらのものだ、そろそろ幕引きと行こうか!ピカチュウ」
「ピカーッ!!」

 体中に電気を蓄えて力を込めるピカチュウ。

「フッ……」

 それを見てノエルは鼻で笑う。まるで勢い付いたジルとピカチュウをバカにするような感じで……

「あぁ、幕引きにしよう」

 そのただならぬノエルの雰囲気を感じ取ってか
 多少なり体が痺れるはずのフリーザーは、それを振りほどき背筋を伸ばして雄々しく構えて見せる。
 ノエルはスッと右腕を水平に挙げてフリーザーに指示を出す。



「"こころのめ" だ……フリーザー」



続く……
105 : ◆.Br/vY/Hx. :2011/08/18(木) 19:43:01.09 ID:IlOtZ6Cg0
第25話

「"心の目"だ……フリーザー」

 外見からは分からないがノエルから只ならぬ怒りのようなものを感じる。
 表情には出ていない、ただ圧倒的なプレッシャーがそれを確かなものと感じさせる。

「"心の目"!?」

 姿勢を整えたフリーザーの目がギラッと一瞬光る。
 全神経を集中させるかのように一度瞳を閉じ……静けさが辺りを包み込む。

(影分身? 高速移動?ダメだ、撹乱の一手は確実に通じない)

 一瞬の間に考えをまとめようとする。
 1秒2秒……ジルの考えがまとまる前にフリーザーはその瞳を開き活目する。
 本気でマズイと思ったのか苦い表情を見せる。


―――

「おそらく次の一手は一撃必殺の氷技"絶対零度"ですわね」

 次の攻撃を確実に命中させる技"心の目"との有名なコンボ攻撃。
 理論値では100%命中する一撃必殺を前にルリカは体が震えた。

「でも、ポケモンバトルは教科書通りには進まない」

 ルリカとは真逆にその状況を楽しそうな笑みで見つめるシズク。
 シズクの一言一言が気になる様子のルリカはロコンを強く抱きしめる。


―――

(俺のピカチュウは"ボルテッカー"を習得している……
 足の速さなら負けてはいない、電気玉を持つピカチュウのボルテッカーを受けて耐えれる訳がねぇ)

 刹那……
 ジルに過る一つの勝機。
 ピカチュウもこの雰囲気を察してか時折ジルの方をチラッと見ながら力強く身構える。
 いつでも動き出せるように、いつでも最大の力を発揮できるように頬に電気を蓄えて。

(どうする……?)

 流れ落ちる一粒の汗が、フリーザーの冷気に冷やされ冷たく額を駆ける。

「フリーッ!」

 確実にピカチュウを"心の目"で捕らえたのか、それを知らせるように羽を大きく広げた。
 本当に少しの時間だが、本来ならこの間に考えずに攻め込むべきであったのかもしれない。
 気を散らせる事でその技(絶対零度)を不発させることもできだであろう……
 しかし、用心深い性格のジルは考え込んでしまった。時間を使ってしまった。

("心の目""絶対零度""ボルテッカー""電気玉"……"伝説の鳥ポケモン"……報道陣)

 1秒も経たぬ間にジルの頭の中に、現状を説明するありとあらゆるワードが立ち並ぶ。
 
「フリーザーッ!"絶対……」

 手を前に差し出したノエルが技を宣言しようとした時の事だった。
 フリーザーも察していたのか体中に冷気を漂わせ構えていた。

「降参だ」

 ジルが右手を大きく挙げて小さく息を吐いて口にする。
 それを聞いてノエルは一瞬、驚いた表情を見せフリーザーに技の中止を指示する。

「ピカチュウ棄権!! よって、この試合……ノエル=ディ=スタンスの勝利!!」

 教員が嬉しそうにノエルの方の手を挙げて大きく叫ぶ。
 試合を見ていた生徒達から大きな拍手、報道のカメラも近づいてフリーザーを撮影する。
 ピカチュウは「ふぅー」と息を吐いて胸を撫で下ろしジルの元へと駆け寄った。
106 : ◆.Br/vY/Hx. :2011/08/18(木) 19:43:54.23 ID:IlOtZ6Cg0
「ピカピッ」
「お前を公共の電波の前で氷漬けにはできねーよ」

 先ほど安心した顔を見せた割には"自分は戦えた"と言わんばかりの表情を見せるピカチュウ。
 そんなピカチュウの頭をグシャッと強く撫でて"電気玉"のついたペンダントを外した。

「ピカ」

 ピカチュウは嬉しそうにジルの肩に飛び乗った。
 ノエルは知らぬ間に報道陣のキャスターやカメラに囲まれていた。
 一応授業中ということもあり教員が割って入り、それらを押し退ける。

「あんな怖い鳥に睨まれちゃーねぇ」

 フフッと小さく笑ってジルはバトルフィールドを出て、シズクとルリカがいるフィールドサイドまで、ゆっくりと歩いてくる。

「お疲れ〜」

 ガーディに抱きついていたシズクが立ち上がって右手を上げる。
 それに応えるように軽く手を挙げて二人の前に立つジル。

「あなたが空気を読める人間だとは思いませんでしたわ」

 クスッと笑った後にジルの目を見てルリカが呟く。

「可愛いな」
「ぇ?」
「この、ロコン……」

 ルリカの胸元で抱かれているロコンの頭を撫でてジルが喋る。
 フリーザーの冷気にやられて冷えたのか体の温かいはずのロコンが目をウルウルさせて少し震えている。

「ねぇーっ! 寒いから早くフリーザーしまってよ!!」

 みんなが思っていたがその美しさに見とれて口にしようとは思わなかった言葉。
 シズクは少し遠くにいるノエルに文句をつけるように言い放つ。
 報道陣の少し嫌な顔が目に入ったが、ノエルは頷いてフリーザーにボールを投げかけた。

「どうした?顔が赤いぞ?」
「なっ? 何でもありません」

 ルリカはロコンをバンッと乱暴にジルの手元に投げつける。
 慌てながら、そのロコンを必死に抱きかかえる。ピカチュウもバランスを取るのに必死。
 あいた手で腰のベルトからボールを取り手早くロコンを戻すルリカ。

「ガーディも戻って」

 まだ寒そうにガーディに寄り添っているシズクを差し置いて、ガーディを戻す。
 
「あぁ……」

 物欲しそうにガーディが戻ったボールを見つめるシズク。
 フリーザーが戻ったおかげか教室の暖房設備が適温に調整しようと動きだしたせいか……
 気付かぬ間に、それほど寒さを感じなくなっていた。

「ピカチュウもお疲れ〜使っちゃえば良かったのに」

 ニコニコな笑みでジルの肩に乗るピカチュウの頬を引っ張る。
 いやそうな表情は見せずに「ピカ〜」と嬉しそうに鳴き声を上げる。

「……」

 唖然とした表情でピカチュウをつねるシズクを見ているジル。
 その視線に気づいたのかシズクが不思議そうな顔でジルを見た。

「何?」
「いや……何でもない」

 ピカチュウに向けられた言葉。
 それは、次の一手"ボルテッカー"に気付いていたのではないか?というジルの疑念。
 本来、ピカチュウが雷タイプ最大威力を誇るボルテッカーを習得する事は難しい。
 シズクも何となく口にしたのかもしれないが……ジルには印象深く残った。


「さぁー興奮も冷め止まぬ間に、どんどん! 模擬戦を行っていけ〜」

 教員が手をパンパンと叩きながら生徒達に指示を出す。
 ノエルとジルの戦いに感激したのか他の生徒達のテンションは異常に高かった。

107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/18(木) 22:15:20.56 ID:KAu5JpSSO

続き期待
108 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/08/20(土) 19:42:11.28 ID:0BBdeNUu0
第26話
――キンコーンカーン

 いつも通りに鳴り響く授業を終える合図。
 伝説のポケモン"フリーザー"を見れたおかげかテンションのおかげか……
 授業がいつもより早く感じられ、充実感もあった。

「よーし、良い汗をかいたなっ! 今日の授業はここまでだ各自解散」

 他の教員のように最後に一言加えるでもなく適当に解散の指示。
 どうやら、今回の件についてこの教員もインタビューを受けているようだ。
 "我が校の生徒が〜"だの"彼は〜"だの……と言葉を続ける。

「おいおい、入学と共に旅に出た"彼"を知っている奴なんていないだろう?」

 その受け応えする教員を尻目にジルが話す。

「っていうか……私、そんな制度知らなかったんだけど?」

 活々と話す教員を遠目に見ながらシズクが応える。

「それは、お前が入学式のときにでも寝ていたからだろう」
「……というかシズクさん、入学式にいらっしゃいましたか?」

 この学校は1〜2限目を終えるとお昼となる。
 講義と実技で1〜2限続きの授業の為、ここで昼休みに入る訳である。
 
「あはは、多分……行きたくないってダダこねてたかも」

 少し恥ずかしそうに頭を弄りながら答えるシズク。
 やれやれという感じで呆れ顔のルリカとジル……そして、ピカチュウ。

グゥ〜

「あはは」

 タイミング良くシズクのお腹が音を立てる。

「自己主張の激しい奴だな……とりあえず、飯にするか」
「そうですわね」

 3人は視線を教室の出口に向ける。
 
「食事ですか……失礼ながら、僕もご一緒してもいいでしょうか?」

 後方から聞こえる声。
 振り向かずとも、その声の主が誰なのかすぐに分かった。
 
「あぁ、いいぜ? 学校に来るのは今日が始めてだろう? 案内してやるぜ」

 ジルが振り返って答える。
 3人の思った通り、そこにいたのはノエルであった。
 1本線を引いたような目で笑みを見せて小さく頷いた。

「いえ、入学式の時に一度」

 クスっと笑みを見せた応える。

「もう、インタビューとかはよろしいのですの?」

 ルリカが報道陣に囲まれている先ほどの教員を軽く見て話す。
 ノエルは両手を肩の高さまで挙げて分からないという表情を見せる。

「なら気付かれねぇーうちに出た方がよさそうだな」
「ごもっともで」

 ルリカはジルがノエルの事をあまり気に入らないのだと思っていたのだが
 気さくに話す感じのジルと当たり障りのない態度のノエルに少し安心した様子である。
 2人はスタスタと歩いて先に教室を出ていってしまう。

「……あの二人、仲良いの?」
「そうみたいですわね」

 ポカーンとしたシズク。
 バトルを通じて得るものでもあったのだろう。

――― 食堂
 この学校には3ヵ所の食堂があり、どれもほぼ同じ大きさを誇る広々とした空間である。
 3面ガラス張りでテーブルやライトの白が際立つ明るい空間、一列に30名ほどは座れるであろう長机が無数に置かれている。
109 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/08/20(土) 19:48:16.27 ID:0BBdeNUu0
第26話
――キンコーンカーン

 いつも通りに鳴り響く授業を終える合図。
 伝説のポケモン"フリーザー"を見れたおかげかテンションのおかげか……
 授業がいつもより早く感じられ、充実感もあった。

「よーし、良い汗をかいたなっ! 今日の授業はここまでだ各自解散」

 他の教員のように最後に一言加えるでもなく適当に解散の指示。
 どうやら、今回の件についてこの教員もインタビューを受けているようだ。
 "我が校の生徒が〜"だの"彼は〜"だの……と言葉を続ける。

「おいおい、入学と共に旅に出た"彼"を知っている奴なんていないだろう?」

 その受け応えする教員を尻目にジルが話す。

「っていうか……私、そんな制度知らなかったんだけど?」

 活々と話す教員を遠目に見ながらシズクが応える。

「それは、お前が入学式のときにでも寝ていたからだろう」
「……というかシズクさん、入学式にいらっしゃいましたか?」

 この学校は1〜2限目を終えるとお昼となる。
 講義と実技で1〜2限続きの授業の為、ここで昼休みに入る訳である。
 
「あはは、多分……行きたくないってダダこねてたかも」

 少し恥ずかしそうに頭を弄りながら答えるシズク。
 やれやれという感じで呆れ顔のルリカとジル……そして、ピカチュウ。

グゥ〜

「あはは」

 タイミング良くシズクのお腹が音を立てる。

「自己主張の激しい奴だな……とりあえず、飯にするか」
「そうですわね」

 3人は視線を教室の出口に向ける。
 
「食事ですか……失礼ながら、僕もご一緒してもいいでしょうか?」

 後方から聞こえる声。
 振り向かずとも、その声の主が誰なのかすぐに分かった。
 
「あぁ、いいぜ? 学校に来るのは今日が始めてだろう? 案内してやるぜ」

 ジルが振り返って答える。
 3人の思った通り、そこにいたのはノエルであった。
 1本線を引いたような目で笑みを見せて小さく頷いた。

「いえ、入学式の時に一度」

 クスっと笑みを見せた応える。

「もう、インタビューとかはよろしいのですの?」

 ルリカが報道陣に囲まれている先ほどの教員を軽く見て話す。
 ノエルは両手を肩の高さまで挙げて分からないという表情を見せる。

「なら気付かれねぇーうちに出た方がよさそうだな」
「ごもっともで」

 ルリカはジルがノエルの事をあまり気に入らないのだと思っていたのだが
 気さくに話す感じのジルと当たり障りのない態度のノエルに少し安心した様子である。
 2人はスタスタと歩いて先に教室を出ていってしまう。

「……あの二人、仲良いの?」
「そうみたいですわね」

 ポカーンとしたシズク。
 バトルを通じて得るものでもあったのだろう。

――― 食堂
 この学校には3ヵ所の食堂があり、どれもほぼ同じ大きさを誇る広々とした空間である。
 3面ガラス張りでテーブルやライトの白が際立つ明るい空間、一列に30名ほどは座れるであろう長机が無数に置かれている。
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岐阜県) [sage]:2011/08/21(日) 04:19:28.49 ID:IexXGjYH0

「とりあえず、テーブルは確保。報道で来てる奴らも学校の食堂使ってるんだな」
「はは……申し訳ない」

 パスタに丼もの、カレーに定食……毎日何でも揃う食堂。
 適当にその日に食べたいものをチョイスしてテーブルに運んでくる。

「なるほど、ポケッチに電子マネーの技術を取り入れて代替えができるんですね」
「凄くハイテクだね」
「いや……普通だろう」

 と、適当な雑談をしつつ席に着く。
 シズクの隣のジルが、対面にノエルそして横にルリカ。
 しばしの無言と静寂、おのおのが食べる手だけが進む。

「いやー……あの"RR団"を退けたという噂は聞いていましてね」
「ん?」

 突如静寂を破ってノエルが口を開いた。
 話題は以前発生した"RR団"襲撃事件の事のようだ。

「だからこそ、シズクさんとは一度お手合わせしてみたかったのですが」

 ニコッと笑って、そのまま少し頭をジルの方に傾ける。
 
(なるほど、それを俺が妨害したって訳か)

 ジルも返すように適当な笑みを作って返す。
 その会話を納得いかなような表情で聞いているルリカ。

(ニュースや新聞では"シズク"さんの名前も、ましてや"学生が退けた"とも報道されていないはずですが)

 言葉のあやというものだろうと思いルリカは何も言わずに食事を続ける。

「いやいや、そんな大袈裟の事じゃないよ」

 いつもと同じように両手をバタバタとさせて謙遜するシズク。
 その様子を見てノエルが一瞬、目を光らせた。

「やはり、あなたでしたか」
「え?」
「フフッ、そうだよな? 噂なんてなかったはずだぜ?」

 ルリカと同じように思っていたのかジルが口を開く。
 そう、ノエルがカマをかけたのである。

「いいえ、確かに報道はされていませんが……ここの学生ということぐらいわ」

 ジルが一つ手を打ったとはいえ
 他の学生達が家で家族に話したり、その家族が町の誰かに話したり……
 完璧にその"噂"というものを断つ事はできないということだろう。
 ノエルものその流れで曖昧ながら一つ情報を掴んでとのことだろう。

「でも……何で私って」

 本気で分からない表情を見せるシズク。
 しかし、ルリカとジルは何も言わずに"何となく分かる"という表情を見せた。
 シズクの目を見てノエルは再度笑みを見せる。

「何となくですよ」
(やっぱり……)

 話が上手くまとまらないまま4人は食事を終えた。

(親睦というには中々しまりませんね)



続く…
111 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/08/21(日) 04:20:48.02 ID:IexXGjYH0
第27話


「じゃじゃーん、ここが私お気に入りの屋上でーす」

 活々と両手をいっぱいに広げて青空を見上げる。
 ルリカも屋上に上がった事が無いのか少しワクワクしている感じである。

「良いですね。広々としていて、それでいて綺麗だ」
「眺めも良いんだよー」

 嬉しそうに駆け足で柵の方まで走るシズク。
 スタスタとその後をついて行くノエルに、ゆっくりと歩くジルとルリカ。

「こっちが"トキワの森" !」

 柵から少し上半身を乗り出して指を指す。

―――!!

 一瞬、森の中を紫色の薄い光のようなものが走り。
 瞬く間に視界から消え去った。

(……また、来てる)

 驚いたというよりは、馴染み深い感じの表情を見せるシズク。

「どうかしました?」

 追いついて柵から"トキワの森"を見降ろすノエル。
 いつものように虫取りに精を出す"昆虫科"の生徒達が目に入る。

「虫取りですかー」
「ぁ……うん」

 クルッと柵に背を向けるシズク。
 そこにルリカとジルが到着する。

「トキワの森、小さくなりましたわね」
「……まぁ、この学校自体トキワ郊外に森を削って作ったようなもんだからな」

 同じく森を眺めて呟くルリカに応えるジル。
 
「あちらは"お月見山"ですか?」

 ノエルが同じ方角の少し遠くに漠然と見える灰色の連なる山を指差した。
 それに釣られて3人も同じようにノエルの指先にある山を見る。

「そうですわ」
「そうなんだ」

 ルリカが答えシズクが続く。

「それがどうかしたのか?」
「いえ、先程……教員から今度、授業の"自由研究"で探索に行くと聞かされましたので」

 笑みを見せて応える。
 ノエルは、いわゆる特別枠の生徒……卒業資格を持っているということは
 履修等に縛られず好きな授業に好きなように参加する権利が与えられている。
 ルール無視と言えば聞こえが悪いが、教員側からすれば彼の存在は大きいのだろう。

「ぇー? 山? 川が良い……」
「カントー地方は、ほぼ平野だから川は、ねーよ」

 突っ込むジル。

「お月見山……」

 瞳を大きく広げ少し只ならぬ様子のルリカ。
 山といえば地面や岩タイプのポケモンが目立つ、炎を軸にする自分では……
 と、悩んでいるのかもしれない。

(ピッピ……欲しい……)



112 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/08/21(日) 04:22:42.05 ID:IexXGjYH0
―――

「さぁ……もう、ここもいいだろう? 長くいても景色は変わらねーぜ?」
「う、うん」

 柵から離れるシズク。

「シズクさん」

 呼びとめたのはノエルである。
 クスッといつも通りの笑みを見せて続く。

「まだ、もう少し時間もあります」

 ポケッチを確認するノエル。
 この雰囲気……前にも何処かで味わった事のある感じ。
 ジルはもちろんのことシズクもそれに気付いていた。

「どうですか? ワンゲーム」

 人差し指を立てて挑戦状を叩きつけるノエル。
 よほど、シズクと戦いたいらしい。

「ぇ、でも私……"フリーザー"なんかに勝てるポケモン持ってないし」

 焦った感じで両手を前に出して、いつも通りの断りを入れる。
 少し釣れない表情を見せるノエル。
 
「ぁー 面倒臭ぇ」
「ピー ピカピッ」

 ジルが吐き出した一言、いつの間にか肩に乗っていたピカチュウも同じ口調を見せる。
 
「勝負したがってんだ? 1回ぐらい戦ってやんな」
「そうですわ、シズクさん! ファイトですわ」

 両手をグッと強く握るルリカ。

「だが、フィールド外でのバトルは校則違反だ。フリーザーは目立ちすぎるぜ? 屋外だしな」

 ノエルの方を向き挑発的な感じでジルが続ける。
 一つ頷いて「わかっていますよ」と答えるノエル。
 知らぬ間に勝手に勝負を受けるような流れになっていて困った感じのシズク。

「はぁー、わかりましたっ! やればいいんでしょ! やれば」

 3人から離れるように屋上の入口の方に小さく駆け足で移動する。
 ジルとルリカは邪魔にならないように長方形の空白が出来るようにして広がった。

(さーて、またお前の戦い見せてもらうぜ? シズク)
("天才少年"と……私を倒したシズクさんの戦い! 注目ですわね)

 シズク以外の3人は皆嬉しそうな顔をしている。

「あなたと戦えて光栄に思います」

 紳士的に手を前に流して頭を下げる。
 ベルトから一つのモンスターボールを手にする。

「まぁ、1対1で良いだろう?」

 ジルが適当にルールを付け加える。

(入れ替え方式だとシズクは強すぎるからな、相手のタイプ次第で動けるイーブイか?)

 ククッと予想を立てながら笑うジル。


113 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/08/21(日) 04:25:05.26 ID:IexXGjYH0
―――

 お互い出すポケモンが決まったようで手には一つずつのモンスターボールが握られる。
 やる気が無い様子だったシズクも少し真剣な感じの表情である。

「始めッ」
「ピカピッ」

 ジルが右手を上に挙げて合図を出す。
 いつも通り、シズクがボールに願うように最初に指示を出すものだとジルの視線はシズクに……
 すると、予想に反してシズクはノーモーションでボールを投げ込んだ。

「お願いねっ!」

 勢い良く投げ込まれたボールから無言で現れたのは"リオル"であった。

「暴れて来い!」

 リオルが現れると同時にポンッと軽く投げいれられたノエルのボールが開く。

「ワニッ!」

 元気よく飛び出したのはおおあごポケモンの"ワニノコ"
 はしゃいで早速フィールド上を走りまわっている。


ワニノコ VS リオル



114 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/08/21(日) 04:35:13.10 ID:IexXGjYH0

「リオルッ!! "でんこうせっか"!!」

 張りあげるような大きめの声と共に人差し指を前にビシッと突き出しシズクが叫ぶ。

「ワニノコッ、上手く回避して"かみつく"で捕らえろ」

 その大きな声を聞いてノエルが素早く手前にいるワニノコに指示を出す。
 ワニノコはグッと構えてリオルが視界から消えないように目を凝らし集中する。

「ワニッ?」

 リオルは動きださない。一歩二歩ゆっくりと歩を進めワニノコに近づく。
 "でんこうせっか"といえば高速の一撃、拍子抜けなリオルの行動に動揺する。
 
「気を抜くな!」
「ワニッ」

 するとリオルは足を止め立ち止まり、腕を組んだ。
 
「フッ」
 
 鼻から息を軽く吐いてワニノコをバカにするような視線で見下すように睨む。
 時折、欠伸をするような素振りを見せつつも"相手にならないな"と言わんばかりの表情をワニノコに浴びせる。

「……この技は"いばる"か? 相手のペースに乗る必要は無い。 ワニノコッ」
「ワーニッ」

 頷いてリオルの態度を無視する。

「ちょっと!! 何やってんのっ!"けたぐり" !!」

 リオルは一度頭だけ振り返ってシズクの方を見て指示を聞きとると溜息を吐く。
 続いて、膝を折りしゃがみ込んで爪を立てる。

「……?」

ギリギリギリッ、ガリガリガリッ、ギーーーッ!

 何とも頭に響く"嫌な音"をたてるように地面をひっかいた。
 音の出が微妙なのか、リオルはすぐにやめて溜息を出す。

「まさか?」

 ノエルが驚いた表情を見せる。

「……」
「言う事を聞かないのか? そのポケモンはっ……」

 瞳を大きく広げて愕然とした表情。
 先ほどの戦いを見ても分かるが、フリーザーは絶対的な信頼感を持ってノエルに接していた。
 ノエルにとってポケモンとの信頼関係は最も重視するべきこと……言う事が聞かないなんて事態は問題外。

「そんな"RR団"を退けたと聞いて……僕はこんなにも期待していたのに」

 震え立つノエル。
 ジルとの戦いの時もそうだったが、気が立ち込めてか……
 我を忘れたように雰囲気が変わり、怒りに満ちた感じが周りに迸る。



―――

115 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/08/21(日) 04:35:45.29 ID:IexXGjYH0
「どういうことですの? 私の"デンリュウ"を倒した……あのリオルですの?」

 ノエル同様に驚いた感じのルリカ。
 不甲斐ないリオルとシズクの戦いっぷりにノエル同様に少し怒りを感じているようにも見える。

「……」

 面白いものを見るように手を顎に添えて不敵に試合を観戦するジル。
 どうやら、彼も何か思うことがある様子で他の2人のように驚いている様子は一切感じられない。

「フフッ」

 何かを察したのか小さく笑みを零す。


―――


「失望させないでくれ……ワニノコ!"みずてっぽう"だ」
「ワニッ」

 一度、大きく息を吸って口から勢いよく水をリオルに向けて放射する。
 シズクの指示も無くリオルはワンステップで左に跳ねて回避する。

「まだだ、少しずつ間合いを詰めて"みずてっぽう"を放っていくんだ」

 先程より大きく息を吸い再び口からみずてっぽう。
 頭を左右に振ってテンポ良くリオルを狙って行く。

「リオル! "みやぶる"で上手く避けて」
「……今度は言う事を聞くのかい? そのまま距離を詰め続けろ」

 連続して"みずてっぽう"を使用し少し疲れた様子ではあるが
 元気が取り柄の"ワニノコ" 全くめげずに左右に体を揺らしながら"みずてっぽう"で攻撃を仕掛ける。

(おかしい……言う事を聞いている様子は無いが。攻撃は一行に命中しない、それなりのレベルではあるのか?)

 リオルは、まるで踊るように華麗にワニノコの"みずてっぽう"を次々と避けて行く。
 しかし、リオルからは攻撃を仕掛けてくる様子は無く時折クルクルッと回ったりしながら余裕な感じで避け続けるだけである。
 
「もーっ!! リオル、いい加減に反撃ッ!」

 踊り続けるリオルに対してシズクの怒りが頂点に達したのか
 プンスカと怒りながら一人ジタバタとしている。

「ワニノコッ"みずてっぽう"はもう良い……リオルに追いついて"きりさく"攻撃だ」
「ワニッ」

 一瞬、静止して……まだ踊っているリオルのステップに目を合わせて集中する。
 勢いよく駆け出すワニノコ、中々のフットワークで一気にリオルに接近する。

「行けッ! きりさけっ」
「リオル!! "フェイント" "カウンター" "こらえるーっ"」

 ヤケクソになったのか口元に手を添えて大声で叫ぶシズク。

「貰った」

 ワニノコの鋭い爪が丁度ステップを踏み終えたリオルの着地を狙って振りかざされた!
 それに気付いたのか一瞬、リオルは驚いたのか集中をしたのか瞳孔が開いたように目が色光りする。
 しかし、着地を捕らえたワニノコの一撃を回避する事は不可能。

「ワニッ」

 勢いよく振り下ろされたワニノコの右手の爪は確実にリオルの腹部を捕らえた。

「リ、リオルッ!!!」

 シズクの声が響く……

バタンッ

 次の瞬間に地面に倒れ込むような大きな物音が屋上に響き渡った。

116 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/08/21(日) 04:37:01.82 ID:IexXGjYH0
―――

「そんな? どうしてですの……」
「……」

 あまりの呆気なさか予想外の出来事だったのかルリカは口元を覆うようにして言葉を漏らす。
 ジルは唇を噛み締めて、そのポケモンが地面に倒れ込むのをただジッと見ているだけであった。



続く……
 
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/21(日) 23:55:28.57 ID:QkpTBYnSO
乙どんどん更新してくれたまへ
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岐阜県) :2011/08/23(火) 03:48:43.19 ID:WWWheOUc0
第29話


「何……だと?」

 唖然とした表情、瞳を大きく広げ……今まさに倒れ行く"ワニノコ"を見つめる。
 頭の中で理解がおいつかない、ワニノコが倒れるのがスローモーションに見える。
 攻撃をいつ受けたのか? どのような攻撃を受けたのか? ノエルには分からない。

――バタン!

「ワニノコ、ダウンッ!! 勝者、リオルッ」

 ジルが素早くバトルフィールドに入りこんでシズクの方の手を挙げる。
 すぐさまノエルはワニノコに駆け寄って安否を確認する。
 絵に描いたように目をグルグルとまわして気絶している。予想外のダメージと言った所である。

「リオル!! やったー」
「……」

 クールに腕を組んで小さく頷いたリオルに対して勢いよく抱きつくシズク。

(痛い……恥ずかしい、当たってる)

 リオルの頭をグリグリと拳で「このこのっ」と突いて離す。
 少し頬を赤く染め、フンッと首を振って再び腕を組み直すリオル。

「一体、何が?」

 ワニノコを両手に抱え膝をついているノエルが呟く。

「甘く見たね? 全部、ダメダメちゃんの作戦だよ」
「ダメダメって言うなーっ」
「痛てっ」

 耳を強く引っ張るシズク。

「作戦?」
「どういうことですの?」

 気に掛る感じでルリカが歩を進め3人に近づいて来る。
 今回のシズクとリオルの戦い方に気付いているのか、少し得意気なジル。
 
「作戦……トレーナーの指示を聞かないようなポケモンと作戦だっていうのか?」

 優等生のノエルには分からない。優等生だからこそ分からない。
 優秀なポケモンとはトレーナーの指示を的確に聞いてそれを実行する者。
 優秀なトレーナーとは相手の動きや戦況などをしっかりと把握し、的確な指示を出す者。
 事実、ノエルはシズクの命令を無視するリオルの動きをしっかりと見てワニノコに指示を出していた。

「分からない。一体どんな作戦が」
「秘密」

 人差し指を唇の前に立てて笑みを見せる。

「勉強不足だってことだ」

 何故か強気に出るジル。よほどシズクが勝ったのが嬉しいと見える。
 ルリカは秘密と言われて少し不機嫌な様子である。

「ワニノコをポケモンセンターに連れていきます。失礼します」

 言葉が気に入らなかったのか、ワニノコをボールに戻して屋上から出て行ってしまう。

「お、おい……次の授業。って卒業資格持ってるんだっけ」

 背を追うようにジルが呼びかけようとしたが、卒業資格に気付き言葉を濁す。
 ゾッと気配を感じるジル……恐る恐る振り返る。

「それで……私にも秘密ですの?」

 ツンッとした迫力のある瞳でジルを睨みつける。
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岐阜県) :2011/08/23(火) 03:49:43.88 ID:WWWheOUc0
するとシズクがルリカの前に立って口を開く。

「この前、ルリカちゃんにも教えたよね……私がポケモンと話せるってこと」
「え……えぇ」
(ほ、本当ですの?ファンシーなお話だと思って、適当に受け流していましたのに)

 仲良くなったルリカはシズクの"能力"について一度聞かされていた。
 本人はジルと違って、あまりそれを信じていない感じで、今回もその件はまるで覚えていなかったようだ。
 
「"リオル"は離れていても会話が出来る……聞かなかったか?」

 リオルの前でしゃがんでリオルの頭を撫でるジル。
 リオルが何だか少し不機嫌そうな表情でジルを睨んでいるがお構いなし。

「えぇ……聞きましたけど」

 それを踏まえて改めて考える仕草を見せる。
 あまり、思考に時間は掛らなかった。理解が早いという意味では間違いなく優等生であろう。

「……フェイク。 ですわね?」

 何かに気付いたようにルリカが口を開く。

「正解」

 ニコッとシズクが笑みを見せる。
 それでも、まだ少し納得のいかない様子のルリカ。

「対した"芸"ですわね」
「違う! 作戦……」

 頬をプクッと膨らませるシズク。


―――(回想)

(リオル、聞いて……今から口で言う"技名"は全部無効。こっちでの指示を聞いて)
(……分かった。が何で、そんな面倒な事を? )
(良いから!!)

「リオルッ!! "でんこうせっか"!!」
("いばる"! 相手を挑発してっ……)


―――

「あの、リオルが踊ってらしたのは?」
「"剣の舞"だよっ! 攻撃翌力がグーンッと上がるやつ」
 
 手を胸元からグイッと頭の上の方まで伸ばして比喩する。
 頷いて納得するルリカ。

「最後のワニノコの攻撃は当たったように見えましたけど?」
「あれは"剣の舞"の中に"かげぶんしん"を混ぜたの……」

 坦々と語るが、それがどれほど複雑な事なのかシズクには分かっていない。
 逆にそれを理解しているルリカは頷きつつも驚きを隠せない感じである。

「じゃあ、最後に叫んでいたのは? 一つは"かげぶんしん"ですわね」
「"バレットパンチ"と"真空波"だよ」

 再び膝をついてリオルの頭を撫でながら答えるシズク。
 単純に答えるが、それほど簡単にはルリカに伝わらない。
 まず……シズクが、心で思っている事と違う"技名"を口にするという複雑な事自体出来るのか?と問いたい感じである。

「"バレットパンチ"と"真空波"だったのか……最後の攻撃は速すぎて俺にも分からなかったぜ」

 どちらも"先制"の特性を持つ、ファーストストライクの技。
 影分身に気を取られて油断していたワニノコには、どちもクリーンヒットしたようである。
120 : ◆.Br/vY/Hx. :2011/08/23(火) 03:50:17.97 ID:WWWheOUc0

「たまにポケモンに指示を出すと相手に行動が筒抜けになると……ポケモンを自由に戦わせたり。
 技を暗号化して最初からポケモンに覚えさせていたりするトーレーナーなんかはいますが」

 凄過ぎて逆に呆れ呆れと言った感じのルリカ。

「既存の技と同じ名前で暗号化されているようなもの……まともなトレーナーじゃ対応できませんわね」

 まいりました。という表情を見せた。

「ね、凄いでしょ?」
(これは、信じざるを得ませんわね)

「えぇ……凄いですわ」

 考えるより信じた方が簡単だと分かったルリカは笑顔を見せた。


続く…
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/24(水) 00:02:23.66 ID:r6Fcu1BSO
続きワッフル
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/24(水) 04:51:29.46 ID:5YNnXHF10
ポケモンとの会話に関して否定的だけど完全な会話ならともかく
研究者やトレーナー育成学校でポケモンとの意思疎通できないほうが落ちこぼれじゃね
声帯の関係上人語を話せないだけで知能レベルは人を超えてるポケモンも多いし
あといくつか設定が破綻してる箇所あるから見直してみ
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/25(木) 00:48:53.71 ID:o1fiCcjSO
>>122

お前さ、せっかく面白い流れで物語が進んでるのに水を差すようなこと言うなよ
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/25(木) 05:56:05.71 ID:QTJ+Jfks0
>>122は特におかしなことを言ってもいないしただの指摘じゃね?
指摘もするなだとブログでやれになるぜ
125 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/08/25(木) 19:32:31.33 ID:mcZMUO+t0
コメントありがとうございます。
今後、その部分を意識するようにはしますが
一名様のコメント(感じ方)のみで作品を大きく変更する事は当然できません。
多くの読者の方が違和感を感じ、その点に関するコメントが増えた場合、改良しようと思います。

感想ありがとうございます。
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/26(金) 12:56:37.00 ID:1rDaaR0K0
>>125
コメントじゃなくてレスね。
違和感を感じるだと二重になってて馬から落馬や頭痛が痛いとかお腹が空腹とか(ry
設定をかいじるのは改良じゃ無くて修正ね。
別に設定をかえなくても「私ポケモンと会話できるの!」「へ〜凄いね」程度にすりゃいいんじゃね?

質問だけ模擬戦の後って回復しないの?
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/26(金) 15:22:00.54 ID:BIy5qRNDO
会話云々の設定に関してはこのままでいい気がするけどなあ
楽しみにしている身としては気にしすぎて筆が止まってしまわないかが不安
128 :◇.Br/vY/Hx [sage]:2011/08/26(金) 18:59:50.84 ID:UC/VLsc/0
修正作業のため更新を一時休止します
再開をお待ちください。申し訳ありません。
129 :◇.Br/vY/Hx [sage]:2011/08/26(金) 19:00:22.98 ID:UC/VLsc/0
修正作業のため更新を一時休止します
再開をお待ちください。申し訳ありません。
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/26(金) 20:34:12.89 ID:1rDaaR0K0
トリップは偽装しようとしても中抜きの◇なるから意味ないよ
地名表記の()も自分で書くと太字になるから偽装不可能
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/26(金) 20:56:57.33 ID:gnPb6bgSO
>128-129

お前何者だ?
◇◆
132 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/08/27(土) 20:18:56.00 ID:J2smTuln0
>>126
模擬戦の後も自動的には回復しません。
ポケモンセンターに行かないと回復しません。
休んで体力が回復した。ぐらいの回復はします。
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/28(日) 00:13:06.74 ID:VpQfk37SO
続き続き
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/28(日) 03:25:52.58 ID:TPlv1lm50
>>132
授業なのにすぐに回復もさせずに待機命令するの?って聞いてるんじゃね
教師は授業終了後に回復させとけって指示してたみたいだけど勝手に外出てもいいみたいだし
シズクはミニリュウが模擬戦の後に回復なしでピカチュウとやらせてたし
135 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/08/28(日) 04:33:20.54 ID:dUokgFcG0
>>134
シズクは模擬戦ではミニリュウを"わざと"敗北させているので体力はほとんど使っていない。
というふうに認識しています。ルリカもあまりダメージを与えていないのに倒した事に違和感を持っているような発言をしていたと思います。

別段不思議には思いません。
136 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/08/28(日) 04:34:19.49 ID:dUokgFcG0
第30話 第二章・完

いつしかのホームルーム

「今度、遠足がてら"お月見山"の方に自由研究に行ってもらう事になっている」
「え〜」「お〜」

 学年担当の教員が資料に目を通しながら全一期生の前で読み上げる。
 生徒達ほ反応は様々で、楽しみにしている者から面倒そうにする者まで様々である。

「ノエル君が言ってたやつだね」
「まぁ……当の本人を最近、あまり見かけないけどな」
(ピッピ……ピッピ……可愛い)

 頬を少し赤く染めてウズウズしているルリカ。適当な雑談をするシズクとジル。
 ノエルはこのホームルームには参加していない、そもそも各授業に参加する必要性も無い。

「一応、野生のポケモンもいるからな! 普段の授業を活かして"相性"というものを考えて準備しておくように」

 注意事項なのか読みあげる。

「私はイーブイやリオルが何とかしてくれるかな?」
「お前のイーブイ反則じゃね? リオルは一応、格闘か……地面には微妙だがな」
「問題はジルとルリカちゃんだよ〜 雷に炎? 洞窟の中じゃ"能無し"だ〜」
「フフッ、甘く見るなよ?」

 シズクとジルが何だかんだで楽しそうに話す中、その会話に入らないルリカ……

(ピッピの為に捕獲用のモンスターボール用意しなくちゃ……30個ぐらいで足りるかしら)

 そうこうしている間に適当なしおりのようなものが配られホームルームは終了する。



137 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/08/28(日) 04:35:04.62 ID:dUokgFcG0
―――

 ここは何所か分からない場所、建物の中なのか地下なのかも分からない。
 ただ膨大な面積を誇っている事は確かである。幾人もの人間が行き来している。
 足元を照らす程度の暗い通路、そこにはいくつもの扉があり部屋が存在する。

「"伝説の鳥ポケモン フリーザー"が捕獲されたぁ? しかも、ガキにじゃねーかよ」

 荒らしい男の声。その無数の部屋の一室、それほど広くは無い窓のない部屋。
 最近のニュースが書かれた新聞のようなものを読み終えテーブルに投げつける。
 
「……」

 長めのテーブルが一つ置いてあり、その部屋には4人の人影。
 先程の男の手前にいる、別の男がカタカタとパソコンで何か操作を行っている。

「ウルゥ〜! そのガキも、あの"竜の何たら……って奴なのか?」

 その問い掛けにウルは操作している手を止める。
 ギロッと瞳を言葉の主ガルドにぶつける。

「"竜の雫"だ。"作戦コード"ぐらい覚えろ……伝説を捕獲したんだ可能性はある」
「おっ、ぉぉ」

 ガルドが戸惑った感じで納得するとウルは再びパソコンに目を向ける。


「何がッ!"竜の雫"だってんだよッ……ハッ」

 テーブルの先に、さらに二人の人影。
 足をドンッとテーブルの上に乗せて組み行儀の悪い男。
 蛇のように細めた目でウルを睨んでいる。

「だいたい……何でウチ等が、こんな倉庫みたいな所を持ち部屋にさせられてるわけ?」

 その横で椅子に座って腕を組んでいる若い女が一人。
 明るい目立つ髪を両方でくぐって巻いている、そして口に似合う強気そうな目付き。
 この2人はどうも機嫌が悪そうである。

「俺達は、トキワの学校で……物質的な成果を上げていない。当然と言えば当然だ」
「だからって、目標自体は当初の予定を超えて……作戦は成功だったんだろうがッ!」

 バンッと強く拳でテーブルを殴りつける男。

「実際に敗北して後退を速めたのはお前達の責任だ」

 作業を中断せず受け応えをするウル。

「ハッ! 確かに負けはしたが、あんなクソ学校の教員に負けた訳じゃねぇーッ」
「負けたのに威張る事かよ」

 肘をテーブルについてダルそうにするガルド。

「そうよ、ウチ等……あんなのがいるって聞いてない訳だし?」
「何がいたんだ? "赤いギャラドス"でもいたのか?」

 ガルドが適当に聞き返す。

「"グリーン" だよ、グリーン!! トキワのジムリーダー!ポケモンリーグでも準優勝しているような奴だぜッ?」
「運が無かったのよ、ウチ等」

 両方の手の平に顔を埋める女。

(俺なんか、良く分かんねー小娘に負けたっーの……まぁ言わねーけど)

138 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/08/28(日) 04:35:40.29 ID:dUokgFcG0
フンと笑って見せるガルド。

「ハンッ……俺達、本当に"幹部クラス"なのかよ? 扱い酷でーっての」
「認められたければ仕事を成功させろ」
「アンッ? お前も俺達と同じ立場だろうがよっ」

 冷たい視線が、その男に突き刺さる。

「……」
「ぁあ、そうだな」

 ウルは作業を終えパソコンの電源を切った。
 それと同時にガサガサッと扉を何かがひっかくような音が聞こえる。

「来たか……」

 静かに立ち上がり。扉を開ける。
 そこには一匹の"デルビル"の姿があった。
 体に専用の袋のようなものが巻き付けられており、そこには一つの封筒がある。
 
「オイッ? 前から思っていたんだが、パソコンのあるこのご時世に……指令書だけ封筒の手紙なんだ?」

 指さして指摘する。

「コンピュータの情報がいつ漏洩するか分からない」
「ハーッ? じゃあ、犬に運ばせて大丈夫なのかよッ?」

 カッカと口を開けて笑って見せる。

「"デルビル"は犬じゃない」

 小さく呟いて、その封筒から指令書を取り出して黙読する。
 そして、すぐにデルビルの口元に添える。すぐさま小さな火の粉を吐き出し隠滅する。

「次こそ成功させないとっ!」
「で…… 次は何をしろってッ?」

 3人の視線がウルに集中する。
 ウルは振り返って小さく口を開く。


「――― "お月見山"に向う!」




― 第二章 完
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/28(日) 09:46:15.45 ID:VpQfk37SO
>1

乙!
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/04(日) 23:21:46.15 ID:i26Aw9uSO
続きまだ?
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岐阜県) [sage]:2011/09/05(月) 05:39:27.55 ID:8NTls03g0
この作品、ネットにあがってるよね?
142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/07(水) 01:30:45.41 ID:L5oLuCnSO
続き早く
143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岐阜県) [sage]:2011/09/09(金) 12:40:29.18 ID:cpj2aZQG0
http://ncode.syosetu.com/n5688g/
144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/09(金) 15:04:21.84 ID:WFlMQDWNo
>>143
随分古くから書かれてたみたいだけど……つまりどういうことなんだ?
145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/09(金) 16:56:24.83 ID:hzCMH5Td0
HGおもしれえww小説かきてえww

そういや前に書いて放置してたのあったな、けど時間あいて気まずくいよな

SS速報に移籍すればいいんだww

バレたくないな〜よしタイトルは同名にせず誤魔化そう!

一応偽装しようかな、設定ガチガチに固めれば誰も乗っ取らないだろww

よし誰も気がついてないな、黙々と投下

指摘?うっせえ俺がこう思うからこうなんだよ!

バレちゃった

って感じじゃない?
最初の馴れ合いみたいな空気から一瞬で作者様になってるし向こうの人っぽい
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/10(土) 07:50:13.18 ID:fpJQqiVSO
昔からあったとか成り行きは知らんがただ>>1は続きを淡々と書いてればなんら問題は無い
147 : ◆.Br/vY/Hx. [sage]:2011/09/10(土) 12:03:39.68 ID:IMMm0WiO0
143が私である。
続きを書きたいのは事実で続きの話もあるのだが
スタートとゴールがあっても間が上手く繋がらない形で
そこをどうすればいいかが思いつかない。

スレには読者というより作成補助を求める感じで来たのだ。
一時的ではあるが、そのサイトでポケモン単体では一番人気になったから
多分、面白いのかな?わからんけど。

協力者にフリーアドレスでも出すから、ちょいと考えないか?
むしろ、このスレで考えないかってことで
>>1の一緒にヤラないか?である。
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/10(土) 12:51:55.68 ID:somlsuXN0
小ネタ、総合(ポケモン単体の総合はないけどオリ、オール総合がある)、製作者だのいけばいいのに何で立てたの?
共同思想なら設定とかガチガチにせず妥協点やどうしても譲れない部分の2,3箇所だけ指定するのが普通
一位になったか知らんけど結局自慢したくて調子こいでアシスタント欲しいだけでしょ

上から目線も中学生っぽい
149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/10(土) 15:06:39.03 ID:fpJQqiVSO
最初からそういえば良かったのに

誰か協力してやれよ

まぁ俺は>>1を応援するぜ
150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/16(金) 23:59:34.75 ID:P3DTK4aSO
早く続き書いて
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山陽) [sage]:2011/09/23(金) 02:02:30.45 ID:LzdnSX/AO
作者の口調がまるで違うからこりゃ偽者だな
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