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まどか「ソラノカケラ?」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : [saga]:2011/07/20(水) 20:22:56.57 ID:UFLniq8t0

●エースコンバット04×まどか

●まどかについて。
魔法少女が魔女をやっつけていくお話です。

●エースコンバット04について。
プレイヤーはISAF軍に所属する"メビウス1"というパイロットになり、
敵となるエルジア共和国軍をやっつけていく戦闘機無双ゲームです。

●その敵側であるエルジア視点でSSを書きます。ここ大事です。

●魔法や魔女にはほとんど出番がありません。
そのような世界設定については、SS内でじわじわと描写します。

●さや・あん・ほむはほぼ均等に、
おり・キリは上記3名よりやや少なめに登場します。
配役的にまどか・マミさん・QBにはほとんど台詞がありません。

●メビウス1と黄色13が主役のSSではないため、
酒場の娘と少年の描写もほとんどありません。

●設定や用語に疑問がありましたらどうぞご質問下さい。
SSのネタバレにならないものならお答えします。
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君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713869982/

【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713861164/

トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713798788/

【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713788018/

ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713736565/

【安価】少女だらけのゾンビパニック @ 2024/04/20(土) 20:42:14.43 ID:wSnpVNpyo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713613334/

ぶらじる @ 2024/04/19(金) 19:24:04.53 ID:SNmmhSOho
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713522243/

2 : [saga]:2011/07/20(水) 20:23:29.10 ID:UFLniq8t0

http://www.youtube.com/watch?v=EYwu26iwoL4
3 : [saga]:2011/07/20(水) 20:23:58.96 ID:UFLniq8t0



Amidst the blue skies A link from past to future
    the sheltering wings of the protector



4 : [saga]:2011/07/20(水) 20:24:25.94 ID:UFLniq8t0



The flames of hatred Scorch the skies
   Igniting Magica's funeral pyre



5 : [saga]:2011/07/20(水) 20:25:02.76 ID:UFLniq8t0



     ACECOMBAT 04

       shattered skies
       - ソ ラ ノ カ ケ ラ -



6 : [saga]:2011/07/20(水) 20:25:40.48 ID:UFLniq8t0



7 : [saga]:2011/07/20(水) 20:26:19.68 ID:UFLniq8t0

 小惑星ユリシーズ(1994XF04)の落下から4年後。

 もともと隕石を撃ち落す目的で作られた
エルジア軍の制圧兵器「ストーンヘンジ」は
対空砲としての真価を発揮し、大陸の空を支配していた。

 ISAF(独立国家連合軍)は「ストーンヘンジ」の
空爆を試みるが、これに失敗。

 逆に大陸の主な拠点を失い、東海岸より
大陸から離れた小島にあるノースポイントへ撤退する。

 ここで残存兵力の再編成をはじめたISAF総司令部であったが、
すでに大陸のほとんどを手に入れたエルジア軍は
接収したリグリー飛行場に爆撃機を集結し
ノースポイントをその射程に捉えていた……
8 : [saga]:2011/07/20(水) 20:26:57.20 ID:UFLniq8t0



9 : [saga]:2011/07/20(水) 20:27:46.89 ID:UFLniq8t0

−−− 暁美ほむらの手記より −−−

 私達には、お粗末な航空機しか与えられなかった。

 かつての私は、サンサルバシオン空軍兵として
ストーンヘンジ防空の任を与えられていた。

 しかしエルジア軍の電撃的侵攻により、
私達は戦闘らしい戦闘を経験せずに、ストーンヘンジは接収される。

 その事実を知った私は、迷い無くエルジア共和国に亡命した。

 私は、言ってみれば裏切り者なのだ。



 そんな私には、それまでと同じように
ストーンヘンジ防空の任を与えられる事はなかった。

 今では、エルジア空軍の誇る”黄色中隊”がその役目を担っている。

 私がいくら熱望しようとも、その希望が受理される事はなかった。

 悔しい事ではあるが、今の私では彼らと同じ空を飛ぶだけの技量もない。

 それに彼らに任せている限りは、ストーンヘンジが破壊されるような事は
そう簡単には起きないであろう。

 遠回りでも少しずつ腕を磨き、戦果を上げてエルジア空軍に
私の存在を認めさせる他にないのだ。



 祖国の人間からは白い目で見られる事だろう。

 このエルジア空軍内でさえ、私の通る後には
必ず囁き声が聞こえる。見ろよ、日和見のコウモリ野郎だ、と。

 今はもう会えないあの子も、現在の私を軽蔑している事だろう。



 それでも後悔はない。 

 これが私の選んだ道なのだから。
10 : [saga]:2011/07/20(水) 20:28:33.14 ID:UFLniq8t0

DATE >
1405 / 0919 / 2004

AREA >
Newfield Is.

http://www.youtube.com/watch?v=XlUW4tBHe9g
11 : [saga]:2011/07/20(水) 20:29:14.86 ID:UFLniq8t0

 視界には抜けるような青空。

 眼下には陽の光を反射し、白くきらめく海。

 私の乗るMIG-23戦闘機のコクピットから
見える世界は、そのようなものだった。



 私達、”黒”編隊の4機はこの空を進んでいる。

 ユージア大陸東岸に位置するリグリー飛行場から飛び立った、
Tu-95爆撃機6機の護衛。

 それが私達に与えられた任務であった。



 ISAF最後の拠点を叩く割に、心もとない戦力。

 戦闘機の護衛は私達のMIG-21とMIG-23の4機編隊と、
新兵達の乗るMIG-29の編隊の4機、合計8機であった。

 このような旧式機をあてがわれる事に
最初は不満を持っていたが、今ではもう慣れっこだ。



 AWACS
<< こちら管制機ネボグラズ。各機、そろそろ目標が見える。方位0-4-5 >>

 FRIEND
<< 青1、了解。これでISAFも終わりだな >>

 AWACS
<< 明日は娘の誕生日なんだ。終戦をプレゼントしてやりたい >>

 FRIEND
<< 任せておいてくれ >>
12 : [saga]:2011/07/20(水) 20:30:09.89 ID:UFLniq8t0

 やがて攻撃目標となる島が視界に入ってきた。

 そこで、一時的に沈黙していた無線機から声が流れる。



 FRIEND
<< 青6、レーダーに敵を捉えた >>

 FRIEND
<< 敵の歓迎委員会だ >>



 MIG-29に乗る新兵からそう告げられる。



 AWACS
<< 敵戦闘機は青編隊が駆逐する。黒編隊は爆撃機の護衛にまわれ >>

 Homura
<< 了解 >>



 私とて手柄を立てたかった。
しかし、私はその命令に了解と返答する。

 管制官の方が階級が上だからというわけではない。

 場合によっては格下の相手からでさえ命令を受けるのは、
私達”黒”編隊にとっては当たり前の事であったのだ。
13 : [saga]:2011/07/20(水) 20:30:37.06 ID:UFLniq8t0

 やがて私の乗機のレーダーも、迫る敵の姿を捉える。
合計で6機の光点が、一直線に爆撃機を目指している。

 それに食らい付こうとする味方の4機の光点。
 
 数に劣る彼らは不利な状況なのではないか。そう私は考える。

 それでも、この爆撃が成功すれば戦争が終わるはずだと。
そう考えていたに違いない彼らは気が大きくなっていたのかもしれない。
 


 FRIEND
<< 青1、交戦開始 >>

 FRIEND
<< 敵機視認。ファントムが4機にトムキャットが2機 >>

 FRIEND
<< 敵さんも困っているようだな。あんなオンボロに乗っているなんて >>

 FRIEND
<< まるでウチらの誰かさん達のようだな。ええ? >>



 悪意すら感じるその声を、私達は黙って聞き逃す。
彼らと言い争いをしたところで何にもならない。

 やがてレーダーに映っていた光点は敵との交戦距離に入り
それぞれの戦闘を開始していた。
14 : [saga]:2011/07/20(水) 20:31:13.07 ID:UFLniq8t0

 FRIEND
<< 撃って来ないぞ。トムキャットはフェニックスを積んでいないようだ >>

 FRIEND
<< トムキャットから狙え。あとはザコばかりだ >>

 FRIEND
<< ロックオン。青6、FOX2 >>

 FRIEND
<< 青7、FOX2 >>



 レーダー上に、敵味方から発射されたミサイルの光点が映る。
彼らの放ったミサイルは、味方機の1つを画面から、
同じく敵機の2つの光点をそのレーダー画面から消していた。



 FRIEND
<< 青3がやられたぞ! >>

 FRIEND
<< 残るはファントムだけだ!落ち着いて戦え! >>



 そこに残されのは、無線の内容を聞く限り3機のMIG-29と4機のF-4。

 数の上では不利だが、その性能差を考えれば味方が負けることはないだろう。
15 : [saga]:2011/07/20(水) 20:31:48.78 ID:UFLniq8t0

 そう思って安心していた私は、レーダーに現われた別の光点を見て息を呑む。



 Homura
<< 敵機、爆撃機に接近! >>

 BOMMER
<< 味方の護衛機にやらせろ >>



 かなりの速度で爆撃機に向かってくるその機影。
2機編隊で迫るそれは、明らかにAWACSの支援を受けて
こちらの隙を突くかたちで爆撃機に向かっていた。

 旋回戦に備え、MIG-23の可変翼ピッチを
調節しながら、無線機に声を吹き込む。



 Homura
<< 黒1、交戦開始 >>

 FRIEND
<< 黒2、交戦開始 >>

 FRIEND
<< 黒3、交戦開始 >>

 FRIEND
<< 黒5、交戦開始 >>
16 : [saga]:2011/07/20(水) 20:32:20.86 ID:UFLniq8t0

 迫る2機に機首を向け、スロットルを押し込む。
やがて視界に入ってきた敵機は、2機ともF-14である事が分かった。



 Homura
<< トムキャットよ。各機、長距離ミサイルに注意 >>



 そう無線に告げると同時に、敵機から伸びる炎の筋。

 旧式機とはいえ、私の乗るMIG-23にも搭載されている
ロックオン警戒装置は警告音を鳴らさなかった。

 それが示す事は。



 BOMMER
<< こちら3番機!やられた、高度がたもてない!脱出する! >>

 BOMMER
<< こちら1番機!くそう、まだ爆弾を抱えているのに! >>



 次々と爆撃機から悲鳴が聞こえる。

 それと同時に、私の機体も敵機をロックオンしていた。



 Homura
<< 黒1、FOX2 >>



 そう告げると同時に列機からもミサイルが発射される。

 重い荷物が取り払われ、機にガクンと伝わる振動。
ミサイルは順調に敵に向かって飛んでいた。
17 : [saga]:2011/07/20(水) 20:32:57.26 ID:UFLniq8t0

 加速をするために、可変翼を後退させたままだったのであろう。

 真っ直ぐ飛び続ける2機のF-14の正面に位置取った私達は、
ヘッドオンに近い状態でミサイルを送り込む事が出来た。

 それは、そのままこちらに高速で突っ込む敵機に飲み込まれてゆく。

 片方は空中で爆散し、もう片方は燃える流星となって
きりもみをかけながら私達を過ぎ去って行った。

 その流星は、眼下に広がる大きなクレーターへと吸い込まれる。



 ユリシーズの破片が地上に落ちた跡。

 この大陸で戦い続けて来た私は、それを何度も目にしてきた。

 性能が上回る敵機を無傷で葬れた事にほっとしながら、
機首を爆撃機の方向へ向けるべく操縦桿を引き、
次の敵が居ないかレーダーを確認する。

 味方のMIG-29が戦って居た位置には、
2つの光点しか残っていなかった。

 その光点はこちらへ向けて合流しようとしている。



 そして、その光点がIFFに反応しない事に私は戦慄する。



 BOMMER
<< 目標まで8マイル。まだ敵機が残っているぞ >>

 AWACS
<< 護衛機、何やってる! >>
18 : [saga]:2011/07/20(水) 20:33:28.94 ID:UFLniq8t0

 私の推測が正しければ、この迫る2機の光点はF-4に間違いがないはず。

 その敵機が味方のMIG-29を全滅させた事に驚くが、
似たような戦闘は今の私達も行ったばかりだ。

 戦場では腕の悪い者から死んで行く。

 新兵達は、自分達が自惚れているほどは強くなかったのだ。



 やがてその敵機が視界に入る。

 コクピットに響く警告音。
こちらをロックオンしている合図だ。

 先ほどと似たようなヘッドオン状態で、敵味方ともにミサイルを放つ。



 Homura
<< 回避行動!ブレイク! >>

 FRIEND
<< ミサイルが来ているぞ! >>
19 : [saga]:2011/07/20(水) 20:34:21.73 ID:UFLniq8t0

 敵味方ともにフレアーをばら撒きながら、
回避機動を取り出す。

 ただ1機だけが別だった。

 フレアーを撒きながらなお、こちらに向かい続ける敵機の姿。

 正確には、そのF-4もゆるやかに旋回をしていた。
 
 まるでミサイルの通る軌道が分かっているかのように、
最小限の運動エネルギーで回避機動を行うその敵機。



 私の左側に爆発が起こり、コクピットが明るく照らされる。
列機のうち1機がミサイルの直撃を受けてしまっていた。

 こちらからのミサイルは、全て命中していなかった。
遠くに居るF-4にも、もう目前まで迫りつつあるF-4にも。

 ミサイルを避けるためにバラバラの方向を向いていた私達のうち、
1機のMIG-21に奴は狙いを定めたようであった。



 Homura
<< 黒2、後ろ!6時方向にファントム! >>

 FRIEND
<< くそ、速い! >>
20 : [saga]:2011/07/20(水) 20:34:56.22 ID:UFLniq8t0

 ミサイルからの回避機動に運動エネルギーを食われ、
まだ速度の回復していない彼のすぐ側をF-4が通り抜ける。

 アフターバーナーの炎を炊き続け。

 ここからでも見える曳光弾をばら撒きながら。



 その勇敢な敵機の垂直尾翼に描かれたエンブレム。

 それは黄色いリボンが作り出すメビウスの輪。
21 : [saga]:2011/07/20(水) 20:35:35.72 ID:UFLniq8t0

 光の筋は”黒2”に飲み込まれ、そのまま空の花火へと変化させる。

 パラシュートは見えない。パイロットはあのまま
空中で火葬されてしまっていた事であろう。

 通り過ぎて行った”リボン付き”に狙いを定めるべく、
私はアフターバーナーに点火し、機首をそちらに向ける。

 ほぼ直進していた敵は運動エネルギーを失っておらず、
真っ直ぐに爆撃機を目掛けて飛び続けていた。



 追いつくのに時間がかかる。

 そう考えた私に、無線機から声が届く。



 FRIEND
<< 黒5よりAWACS、これ以上戦闘を行うとビンゴーに達する >>



 それを聞いた私は燃料計を確認する。確かに言われた通り、
これ以上の燃料の消費は基地に帰投が出来なくなるラインであった。

 はるか前方を飛ぶ”リボン付き”は、ミサイルを発射しながら
味方のTu-95爆撃機に突っ込み、曳光弾を浴びせている。

 火を噴く味方の爆撃機を見て、
もうこの作戦は失敗に終わるであろう事を私は悟っていた。
22 : [saga]:2011/07/20(水) 20:36:14.84 ID:UFLniq8t0

 AWACS
<< …ネボグラズより爆撃機隊、護衛機の燃料が尽きた >>

 BOMMER
<< それじゃ俺達はどうなるんだ! >>

 BOMMER
<< こちら4番機、もう持たない!全員脱出しろ! >>



 無線機に混じる悲鳴と警告音。

 その機体が”リボン付き”に攻撃された爆撃機だとはすぐに理解できた。



 AWACS
<< 各自、自衛戦闘を行いつつ撤収せよ。以上 >>



 この時点で爆撃機隊の命運は決まってしまっていた。

 彼らには悪いとは思うが、こちらもこれ以上の戦闘を継続できない。
だから、私は無線機に対してこう告げる。
23 : [saga]:2011/07/20(水) 20:37:01.65 ID:UFLniq8t0

 Homura
<< 黒1より、撤収よ >>

 FRIEND
<< 黒5、了解 >>



 私達がここに飛んで来た方向へ機首を向ける。
背後に残っていたF-4が、私の機をロックする警告音が聞こえていた。

 レーダー画面から分かる彼我の距離を見て、
私はその警告音を聞かなかった事にする。

 F-4に搭載されている双発エンジンの推力が、
その重い機体を飛ばすのには不十分なものだという事と。

 そして、こちらは軽量化された機体に加えて可変翼を持つために
効率良く速度を出せる事を知っていたからだ。



 すぐにロックオン警告はコクピットに響かなくなる。

 十分に距離を取ったところで、
私はアフターバーナーのスイッチを切り、ミリタリーパワーでの巡航に移っていた。
24 : [saga]:2011/07/20(水) 20:37:59.40 ID:UFLniq8t0

 作戦の失敗。

 連勝に次ぐ連勝を重ねてきたエルジア軍にとって、
久しぶりの敗北となる戦闘であった。

 

 私達は善戦した。

 だが、そもそも作戦に投入された戦力が不足していたのだ。

 軍上層部の慢心なのか、あるいは他に原因があるのか。

 そのあたりの事情も、私達”黒”編隊には伝えられる事はない。



 しかしながら、この敗北も一時的なものであろう。

 ISAFは私達を撃退はしたが、今回の出撃基地である
リグリー飛行場には続々と戦略爆撃機が集結しつつある。

 次回の作戦があるのであれば、今回の作戦にはどう見ても不向きな
航続距離の短いMIGシリーズではなく、大型な機体ゆえに燃料を詰める
SU-27戦闘機が爆撃機の護衛に付くであろう。



 そうなれば、私の役目もそこで終わりなのかもしれない。

 後方に流れてゆく雲を眺めながら、
私はMIG-23のコクピットの中で考え込んでいた。
25 :1 M1はここで終わり [saga]:2011/07/20(水) 20:38:32.29 ID:UFLniq8t0



26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/07/20(水) 22:08:09.26 ID:vwcbIHZko
ちょうど昨日04クリアしたところだ、続きに期待
27 : [saga]:2011/07/21(木) 19:48:33.38 ID:n/I3GK8s0



28 : [saga]:2011/07/21(木) 19:49:10.67 ID:n/I3GK8s0

−−− 佐倉杏子の手記より −−−

 今でこそ周知の事実となってはいるが、
魔法少女の力というものは古来より戦争の道具にされ続けていた。

 その理由は、他でもない魔法少女である私自身がよく知っている。

 常人には扱えない魔法と、それによる身体能力の強化。
その存在が知られれば、用兵側の立場にとってこれほどの
大きな戦力はなかったと言えるだろう。

 だが、魔法少女が戦場の王者であった時代は
九年前に終わりを告げていた。



 はるか海を越えた大陸に存在していたベルカ公国。

 彼らは魔力というものを科学によって解明し、
それを武器に隣国に対しての侵攻を行っていたのだ。

 魔力の解明。
それはすなわち魔力というものに対して科学が上位に立つ事。

 人類の作り出した技術と機械は、魔法を封じ込める事にも成功していた。



 そして残されたものは、魔力での身体強化が唯一の取り得となり、
少しばかり常人より運動能力の優れた存在でしかない魔法少女達。

 もともと軍に所属していた彼女達は行き場を失くしてしまっていた。

 今ではグリーフシードを人工的に生み出せるとはいえ
軍としても無駄飯食らいを置いておく余裕などはない。

 

 軍と魔法少女、お互いの試行錯誤の末に彼女達の未来は決まる。

 その身体能力を生かした、地上における索敵・諜報任務。
及び、最大限に能力を発揮した場合には、
常人には耐えられないだけの負荷をかける兵器への搭乗。

 私達が乗っている戦闘機という兵器も、その一つだった。
29 : [saga]:2011/07/21(木) 19:49:46.95 ID:n/I3GK8s0

DATE >
1329 / 1005 / 2004

AREA >
Rigley Air Base

http://www.youtube.com/watch?v=0JNQvwi_40Y
30 : [saga]:2011/07/21(木) 19:50:20.87 ID:n/I3GK8s0

 眼下には一面の雲の世界。

 だが、雲を抜けた上空の景色は
どこまでも青く抜ける空。

 私とさやかは、大陸の東岸に位置するリグリー飛行場へ向けて
この空を真っ直ぐに飛んでいた。



 Kyoko
<< こちら紫1。リグリー飛行場、滑走路まで7マイル。着陸許可を求む >>

 RIGLEY
<< こちら管制塔。紫1、貴隊の機影はレーダーで捉えている >>

 Kyoko
<< どこに降ろせばいい?誘導を >>

 RIGLEY
<< 紫1、貴機はランウェイ1へ。紫2はランウェイ3へ着陸せよ >>

 Kyoko
<< 紫1より飛行場、誘導に感謝する。以上 >>
31 : [saga]:2011/07/21(木) 19:50:47.74 ID:n/I3GK8s0

 2機しかいない私達の”紫”編隊。

 開戦時から、私達はずっと一緒に飛び続けてきた。

 どこの国の軍隊でもそうなのであろうが、魔法少女の絶対数は少なく、
各戦線にバラバラに配置されているのが理由だった。

 

 私達がリグリーを目指す理由。

 軍のお偉いさん方は散々な失敗に終わってしまった
前回のノースポイント爆撃を少しだけ反省したために。

 私達の乗るSu-35といった高性能戦闘機と、
私達というエースパイロットを護衛任務に付けようと考えたのだ。



 だが、それも不十分な内容だと私は考えている。

 本気でISAFの息の根を止めるのであれば、
各戦線にて休憩を取っている開戦以来のベテラン達を
その愛機と共にここへ連れてくればいい。

 それが行われていない現状を知っている私は、
なぜ軍が新米ばかりを前線に送り出すのかが全く理解出来なかった。
32 : [saga]:2011/07/21(木) 19:51:19.90 ID:n/I3GK8s0

 Sayaka
<< …紫1。紫1! >>

 Kyoko
<< 悪い、考え事をしてた。何か言ったか? >>

 Sayaka
<< いんや、今呼んだばかりだよ。ボーっとしてるんじゃないかと思ってさ >>

 Kyoko
<< 何で分かったんだよ >>

 Sayaka
<< ふっふっふ、あんたの事は何でもお見通しだぜ >>



 にやにやと笑うさやかの顔が浮かぶ。
あいつの言う通り、あいつには私の考えがお見通しのようだ。

 それは私にも同じ事が言える。



 この戦争が始まってからも、そしてこの戦争が始まる前からも。

 私達はずっと一緒だったのだから。
33 : [saga]:2011/07/21(木) 19:51:52.20 ID:n/I3GK8s0

 Kyoko
<< そろそろ基地が見える。高度を下げるよ >>

 Sayaka
<< このまま雲の上を飛べたらなぁ… >>



 最後まで言葉を続けないさやか。
だが、その続きは私にも想像できる。

 このまま雲の上を飛べたら、いつまでも平和な世界なのに。

 戦争が嫌いで、戦う事を今でも躊躇うさやかなら
こう言葉を続けて当然だろう。



 操縦桿を倒し、機首をゆっくり下へと向ける。

 速度が出過ぎないように、スロットルを絞りながら。

 そうして私達の”紫”編隊はゆっくりと降下を始める。



 雲の中へ突っ込む私達。

 そのまま一面の白い世界を抜けると、視界に広がる飛行場。



 所狭しと戦闘機、そして爆撃機が飛行場を埋めている。

 平和な世界、などというものとは無縁な光景であった。
34 : [saga]:2011/07/21(木) 19:52:32.60 ID:n/I3GK8s0

 Kyoko
<< 紫1、ランウェイ1に進入する >>

 Sayaka
<< 紫2、同じくランウェイ3に進入する >>

 REGLEY
<< こちら管制塔、了解。ようこそリグリー飛行場へ >>



 対気速度の調節は済ませてあった。
ギアを出すためのスイッチを押し、着陸態勢を整える。

 そして私の乗る大型の戦闘機は、ゆっくりと地上へ近づく。



 ギュっという音と、機体に響く振動。

 車輪が接地した合図。やや上向きだった機首は自然と下がり、
そのまま空を飛ぶ乗り物は自動車のように滑走路を走る。

 コクピットから見える飛行場の風景。

 やや離れた場所にある滑走路には、同じように
さやかの乗るSu-35が着陸を終えていた。
35 : [saga]:2011/07/21(木) 19:53:07.39 ID:n/I3GK8s0

 REGLEY
<< 紫1、着陸成功を確認。貴機はA1誘導路から8番エプロンへ向かえ >>

 Kyoko
<< 了解 >>

 REGLEY
<< 紫2、貴機はA3誘導路から8番エプロンへ >>

 Sayaka
<< 了解。誘導に感謝する >>

 REGLEY
<< まだ混雑しているものでな。格納庫の整理が終わるまでエプロンにて待機せよ >>



 最後の指示を聞いた頃には、私は乗機を駐機場へ向けて
タキシングさせていた。

 言われた通り、忙しそうに地上員の動き回るこの基地。

 彼らに整備される、所狭しと並べられた航空機。

 混沌とした基地の様子を眺めながら、
誘導路の上を走っている時の事であった。
36 : [saga]:2011/07/21(木) 19:53:35.58 ID:n/I3GK8s0

 REGLEY
<< こちらリグリー飛行場。敵機が接近中。スクランブル! >>



 REGLEY
<< これは演習ではない。繰り返す、これは演習ではない。迎撃せよ >>



 嘘だろ、と心の中で反論を唱える暇もなく、
無線機からはその緊急発進命令が繰り返される。

 なんてタイミングの悪い。



 この駐機場へと向かう誘導路は、一方通行である。

 ここで引き返すほどの道幅もなければ、仮に反対側を向けたとしても
さやかのSu-35にぶつかり滑走路には出れない。



 FRIEND
<< 管制塔。敵の数を確認してくれ >>

 REGLEY
<< レーダーに機影は8機 >>

 FRIEND
<< 爆撃機を早く逃がさんとやられるぞ >>

 REGLEY
<< 滑走路に入り次第、離陸しろ >>
37 : [saga]:2011/07/21(木) 19:54:14.47 ID:n/I3GK8s0

 そして、スクランブル命令を受けて滑走路へ向けて
戦闘機が駐機場から走り出している。

 そのほとんどが旧式のMIG-21とMIG-23。


 
 この見える範囲内では最強の戦力となるMIG-29の列は、
滑走路へ向かう誘導路で渋滞に巻き込まれて動けなくなっていた。

 私達はその列の最後尾に並び、離陸の順番を待つ。

 機内に残っている燃料は残り少ないが、このまま地上で
指をくわえてやられるつもりなどはなかった。



 慌しい様子を醸し出す無線機からの声を聞きながら、
私は基地の様子を見回す。

 地上に設置された対空機関銃がその向きを変えつつあり、
滑走路に出ていたMIG-21の何機かはすでに離陸を終えていた。



 そして私の耳を引き裂くような音を鳴らし、対空機関銃が火を噴く。

 その曳光弾の向かう先には、敵機の影が見えつつあった。
38 : [saga]:2011/07/21(木) 19:54:45.05 ID:n/I3GK8s0

 敵編隊の機影はF-4がほとんどを占め、F-16が2機だけ混じる。

 F-4の翼には、編隊のどの機にも爆弾を積んでいるのがここからでも見えていた。



 F-16は翼端に飛行機雲を作りながら、飛び立つことの出来た味方に襲い掛かる。

 残るF-4は皆が高度を下げ、
私達の居る飛行場を目掛けて真っ直ぐに飛んで来ていた。



 Sayaka
<< 杏子! >>

 Kyoko
<< 分かってる! >>



 さやかが逃げようと言いたい事。

 それくらいは私にも分かっている。

 このままここに居ても、離陸が出来るようになるのは
当分先の事であろう。

 地上で殺されるのを待つばかりなら、
さっさと逃げるのが賢明だと言う事も分かっている。



 だが、私達が逃げたら後ろに並んでいる航空機達、
特に敵の目標であろう爆撃機隊はいつまで経っても発進が出来ない。

 私達は死の渋滞に巻き込まれてしまっていたのだ。
39 : [saga]:2011/07/21(木) 19:55:30.17 ID:n/I3GK8s0

 そしてF-4の編隊は爆撃を開始する。

 飛行場に立ち並ぶ施設、航空機用の格納庫。
前方に並ぶ戦闘機の群れ、後方に並ぶ爆撃機の群れ。

 それらを目掛けて。



 爆音。

 ただただ響き続ける爆音と、哀れにも炎の渦に巻き込まれる
地上の構造物、そして航空機達。

 私達の前方に並んでいた戦闘機の群れを目掛けて、
1発の爆弾が炸裂する。

 その衝撃は機体越しに私の体へ伝わり、
カンカンと破片がぶつかる音を私は耳にする。
40 : [saga]:2011/07/21(木) 19:56:02.93 ID:n/I3GK8s0

 その中で、1機のF-4の動きが私の目を捉えて離さなかった。

 並んで接地されている滑走路に対して、
直角に進入するそのF-4ファントム戦闘機。

 翼に積んでいる爆弾をまるで誘導弾だと思えるかのほどの正確さで
滑走路に1発ずつ爆弾を投下しながら通過する。



 3本あったリグリー飛行場の滑走路にはそれぞれにクレーターを穿たれて、
おかげで全てが使用不可能となってしまっていた。

 通り過ぎるその敵機の垂直尾翼に、
黄色いリボンで作られるメビウスの輪が描かれているのを
私はじっと見逃さない。

 そのF-4が私達の頭上を通過し、背後の爆撃機へ向けて
最後の爆弾を投下するのを見ながら、私は無線機に声を吹き込む。



 Kyoko
<< もう離陸は無理だ。逃げるぞ! >>

 Sayaka
<< …うん >>
41 : [saga]:2011/07/21(木) 19:56:40.60 ID:n/I3GK8s0

 私達はそれぞれの乗機のキャノピーを開け、
地面に飛び降りる。

 渋滞の中、爆撃から生き延びる事の出来た航空機も
同じようにキャノピーが開き、ばらばらと搭乗員が逃げ出して来る。

 

 さやかの手を取って基地施設から離れるように走る間、
私はさっきのF-4の動きをじっと見つめていた。

 3本の滑走路に1つずつの爆弾を投下し、
駐機していた爆撃機に向けて最後の爆弾を落とす。

 そうして効率の良い破壊を行った後に、
重い荷物を外して身軽になった”リボン付き”は
上空に作られていた飛行機雲の群れの中へと飛び込む。

 奴が曳光弾やミサイルを放つと、かなりの確率で
その前方に花火が生まれる。同時に黒煙と、地面に向かう流星も。

 

 敵ながら鮮やかな手並みだ、と私は感心していた。

 もう基地から飛び立つ戦闘機はない。

 そして、上空にはエルジアの航空機は飛んでいない。

 このリグリー飛行場をどう料理するのかは、
ISAF空軍の手に委ねられてしまったのだ。
42 : [saga]:2011/07/21(木) 19:57:09.43 ID:n/I3GK8s0

「建物から離れるぞ。もうここは終わりだ」



 私はさやかにそう伝え、基地を囲う有刺鉄線の手前にある
芝生の中に身を埋める。

 上空から降りてきた敵機達は、残されたわずかな爆弾を
コンクリートの建物へ向け。

 そして地上に残されたままの航空機に対しては
機銃弾を用いて一方的な破壊活動を行っていた。

 そこかしこで起きる爆発と、それに合わせて
赤く顔を照らされる私達。



「…あたし達の戦闘機、助かるかな」

「さあね。敵さんに壊さないでくれって祈るしかないさ」

「壊して欲しいんだけどね」



 その気持ちは少なからず私の中にもあった。

 そうすれば、私達はこんな戦争などしなくて済む。
43 : [saga]:2011/07/21(木) 19:58:30.20 ID:n/I3GK8s0

 地上に残されていた最後の爆撃機が破壊された。

 それを見届けた彼らは、全機がやってきた方向へと帰りだす。

 彼らに最初の銃弾を浴びせようとした対空機関銃の砲塔は、
黒煙を上げながら爆撃によって捻じ曲げられ、地面へ向かっていた。



 私達と同じように身を隠していた搭乗員達が
ぞろぞろと飛行場に現われる。

 皆が、この飛行場の惨状に目を奪われていた。

 地面に散らばる瓦礫と航空機の破片。

 どこを向いても火の手が上がっている。
鼻には燃えるジェット燃料の臭いがツーンと染みる。



「衛生兵、こっちだ!早く!」



 遠くで聞こえるその叫びを聞きながら、私は自分の愛機を探す。
44 : [saga]:2011/07/21(木) 19:59:12.32 ID:n/I3GK8s0

 すぐ後ろに並んでいたのが敵の攻撃目標だった割には、
私達のSu-35は今にも飛び立てるのではないかという状態で
傷一つもなく、綺麗に残されたままであった。



 燃える残骸がパチパチと音を立てる中で、さやかはそっと呟く。



「残念だったね」

「…そうだな」



 その問いかけに、私はそう答える事しか出来なかった。
45 :1 M2はここで終わり [saga]:2011/07/21(木) 19:59:49.23 ID:n/I3GK8s0



46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/21(木) 20:48:05.19 ID:qZyt6lrDO
面白い
魔法少女から見たリボン付きってのがいいな
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage  ]:2011/07/21(木) 22:00:55.15 ID:JlFa2WXn0
これは期待。そのうち黄色中隊も出てくるかな?
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/07/22(金) 02:37:13.12 ID:1jc/vxiAO
ジャン=ルイは出ますか?
49 : [saga]:2011/07/22(金) 19:47:01.62 ID:dnUy+bX20



50 : [saga]:2011/07/22(金) 19:47:32.96 ID:dnUy+bX20

−−− 美樹さやかの手記より −−−

 今でも人を殺す事には躊躇いがある。
それは一緒の空を飛んでいる杏子も同じだろう。

 それでも私達は、こうして人殺しの機械に乗り続けている。



 四年前の星が降った夜。

 それ以前から地球への衝突が予想されていた小惑星ユリシーズは地球に迫り、
今では対空砲として使用されているストーンヘンジによって迎撃された。

 その小惑星が原型を保ったまま落着していれば、
今頃の私はこうして手記など残せてはいないだろう。

 だが、小惑星ユリシーズは大小さまざまな欠片に削り取られ、
そのうち規模の大きかった欠片は大気との摩擦熱で燃え尽きる事なく、
このユージア大陸に降り注いでいた。

 私達の住む故郷を、人の住めない土地に変えて。



 後に知ったところによると数百万人ほどもいたとされる難民の群れ。
その中に、私と杏子も紛れていた。

 エルジアに着けば助かる。それが難民達の合言葉。

 しかし、到着した難民キャンプにはありとあらゆる物資がなく。

 私達は毎日のように飢えと戦い続けていた。

 そんな私達を救ったのが、魔法少女の能力を対価として軍属となる事。
当時の私達には、もはや選択の余地などなかった。



 それから四年が経過した現在では、もう食べる事には事欠いていない。
その代わりに、私達の魔力の管理はほとんどが軍によって行われる事となる。

 最初は食料、今ではグリーフシード。

 それが私達に戦争を強制する人質であった。
51 : [saga]:2011/07/22(金) 19:48:07.36 ID:dnUy+bX20

DATE >
1628 / 1010 / 2004

AREA >
Mt.Shezna

http://www.youtube.com/watch?v=qjQpJlEwAc4
52 : [saga]:2011/07/22(金) 19:48:47.92 ID:dnUy+bX20

 視界に広がる一面の雪景色。
白化粧を施され、その姿を様々な形に見せるとても高い山々。

 そして雪の白さによく似合う、透き通る青空。

 今日の私達が飛ぶ空は、そのような景色であった。



 高価かつ希少なAWACS機は、どこの戦線にも投入できるものではない。

 そのために、エルジアは勢力化に置いた大陸北東部のここ、
リグリー飛行場からさらに北に位置するシェズナ山に
大型のレーダー施設を設置していたのであった。

 ほぼ標高が同じ高さの地点、
南側と北側に4マイルの距離を置いて設置された2基のレーダー。



 その南側のレーダー1の上空警戒が現在の私達の任務。

 燃料の許す限りの時間を見回るその任務は、
最初の方こそ壮観な景色を楽しめたのではあるが
飽きっぽい私はすぐに欠伸を漏らすようになっていた。

 無線機のスイッチを入れたまま、私はつい気を許してしまう。



 Sayaka
<< ふあぁ… >>

 Kyoko
<< 聞こえているぞ >>

 Sayaka
<< え、マジで! >>
53 : [saga]:2011/07/22(金) 19:49:22.00 ID:dnUy+bX20

 FRIEND
<< おいおい、もう何度目だと思ってるんだ >>

 FRIEND
<< いくらお前らが特別だからって、あまり調子に乗るな >>

 Kyoko
<< うっせーな、分かってるよ >>

 Sayaka
<< すみませんでした… >>



 無線機からは、北側のレーダーの上空警戒についている
友軍機からの怒り交じりの声も伝わる。

 何もそこまで、という気分がなかったわけではない。
だが、悪いのは私だ。だから私は素直に謝っていた。



 Kyoko
<< じきにアタシ達は交代の時間だ >>

 Sayaka
<< ごめん、杏子 >>

 Kyoko
<< 空に居る間は杏子と… >>

 Sayaka
<< 了解、紫1 >>
54 : [saga]:2011/07/22(金) 19:49:52.96 ID:dnUy+bX20

 杏子からも叱られる前に、私は無線機にそう告げて
彼女の言葉を続けなくさせる。

 彼女は私より順応性が高い。その気になればエルジアの誇る精鋭部隊、
第156戦術戦闘航空団アクィラ隊に入る事さえ出来たであろう。

 敵味方の双方から”黄色中隊”と呼ばれるその飛行隊は
エルジア空軍のパイロット達の目指すべき頂点でもあった。

 事実、”黄色中隊”のスカウトは杏子のところにも来たのだ。

 だが、彼女はそれを辞退する。

 その理由を杏子が話した事はない。
だからこそ、私はその理由を伺い知る事が出来た。

 

 FRIEND
<< 赤1よりレーダー、そろそろ交代が到着するんじゃないか? >>

 RADAR
<< こちらシェズナ・レーダー1、もう交代の機影をこちらは捉えている >>



 その会話を聞き漏らすまいと、私は思考を停止させる。
また私が叱られるような事になれば、杏子に恥をかかせてしまう。
55 : [saga]:2011/07/22(金) 19:50:31.39 ID:dnUy+bX20

 Kyoko
<< 見えて来た。あの2機だ >>

 Sayaka
<< うん…けど… >>



 私達の交代に現われたのは、MIG-23の編隊。

 翼端と垂直尾翼を黒く塗ったその編隊の噂は聞いた事があった。



 FRIEND
<< はっ、特別な奴らの交代もまた特別な奴らか >>



 そんな罵声など聞こえていないかのように
眼前の”黒”編隊から私達に向けて通信が届く。



 Homura
<< お待たせしました。黒編隊、これより紫編隊の任務を引き継ぎます >>
56 : [saga]:2011/07/22(金) 19:51:25.23 ID:dnUy+bX20

 Kyoko
<< やっと来てくれたか。あとは頼んだよ >>

 Homura
<< 任せて下さい >>




 そうして私達のSu-35は旋回を始め、
その空域を背にして進み出す。

 エルジアへの亡命パイロットを集めて
創設されたと言われる”黒”編隊。

 それが裏切り者編隊とも呼ばれている事を、
私は耳にした事があった。



 最前線に投入され続け、それなりの戦果を上げている彼ら。
多大な損耗率をその代償として。

 そんな彼らは、いまだに旧式のMIG-23に乗っている。

そして少数精鋭である私達と違う立場であるにも関わらず
その機数は私達と同じ2機しかいない。
57 : [saga]:2011/07/22(金) 19:51:53.56 ID:dnUy+bX20

 私は無線機に声を吹き込むべきか迷っていた。

 このまま”黒”編隊を置いてきて良かったものか。
その事について、杏子に意見を求めたかった。

 だが、その言葉を無線に入れれば
”黒”編隊にも同じ言葉が届くであろう。

 そうすれば、少なからず訳ありの彼らの怒りを買うかもしれない。
それならばまだいい。彼らを傷つけてしまう可能性さえ考えられる。



 そんな具合に頭を悩ませていたまま、私は飛んでいた。

 そこに目の前の無線機から、緊迫する声が飛び出してくる。



 RADAR
<< こちらシェズナ・レーダー1。敵機侵入、方位1-3-5 >>

 RADAR
<< 全機交戦を許可する。レーダーに近づけるな >>

 Homura
<< 黒1、了解 >>
 
 FRIEND
<< 黒2、了解 >>
58 : [saga]:2011/07/22(金) 19:52:42.20 ID:dnUy+bX20

 Sayaka
<< 紫1…! >>

 Kyoko
<< 紫1よりシェズナ・レーダー。これより上空支援に戻る >>

 RADAR
<< 紫編隊、貴隊の支援に感謝する >>

 Kyoko
<< 空中給油機の派遣を申請しといてくれ。紫2、行くぞ! >>

 Sayaka
<< 了解! >>



 レーダー画面に映っている私達の機影と
同じように帰路についていた友軍機2機の機影。

 彼らは私達と違い、引き返そうとはしていなかった。

 だが、それも仕方がない。

 私達の乗るSu-35とは違って、彼らのMIG-29には
大量の燃料を積む事が出来ない。

 引き返して空戦を行う余裕など、彼らにはないのだ。
59 : [saga]:2011/07/22(金) 19:53:31.52 ID:dnUy+bX20

 Kyoko
<< 戦えるのは5分くらいだ。燃料に気をつけろよ >>

 Sayaka
<< 紫2、了解 >>



 燃料計の数字を見る限り、確かに杏子の言う通りだと分かった。
アフターバーナーを乱暴に扱えば、おそらく5分も戦えないだろう。

 そして、残り少ない戦闘時間を杏子が告げた理由。

 ミサイルを発射してさっさと帰ろう、そのような意味も込められていた。

 雪山へのベイルアウトなんて勘弁願いたいものだからだ。



 レーダー画面の交戦距離範囲内には、すでに戦闘を始めていた
”黒”編隊の2機の機影と迫るISAF機が6機。

 レーダーに映る光点から、”黒”編隊が必死にミサイルを
回避している事が私の目に浮かぶようであった。
60 : [saga]:2011/07/22(金) 19:54:03.54 ID:dnUy+bX20

 FRIEND
<< メイデイメイデイメイデイ!破片をもろに浴びた! >>



 聞こえたものは、男性の声。

 そして続く空電の音。



 それと同時に”黒”編隊を表す光点は、
レーダー画面から姿を1つ消してしまっていた。



 私達に通信を送った”黒1”はまだ生きている。

 彼女だけでも守りたい。



 Sayaka
<< ロックオン!紫2、FOX3! >>



 ガコン、と音を鳴らして機体が振動する。
眼前へ伸びてゆく4本の炎の筋。
61 : [saga]:2011/07/22(金) 19:54:39.38 ID:dnUy+bX20

 Kyoko
<< 紫1、FOX3 >>



 いくらかの間を置いて、杏子が次の長距離ミサイルを放つ。
それがいつもの私達の戦術だった。

 あまり経験を積んでいないパイロットは、ミサイルの回避を行うために
戦闘機の運動エネルギーを大きく消耗させる。

 その隙を突くのが2発目のミサイルだ。
私達はこの戦争が始まってから、このような戦術を発見し、
そしてこうして実行してきた。

 効率よく相手を殺すための技を。



 やがて、遠くの空に爆発が起きる。

 空中に見えた2つの花火は、目標物を2機撃墜した事を
そのような方法で表現していた。

 それはレーダー画面に残る5つの光点からも確認が出来た。

 残された光点の1つは味方機、4つはISAF機。



 Sayaka
<< 紫2より黒1。助けに来たよ >>



 Homura
<< 私を…? >>
62 : [saga]:2011/07/22(金) 19:55:25.53 ID:dnUy+bX20

 空戦域が目視圏内に入る。

 レーダーを確認する限りでは、残った4機の敵は二手に分かれていた。

 2機がレーダー施設を攻撃するために私達から遠ざかり。

 そして2機が、機から黒煙を吐いているMIG-23にトドメを刺すべく。
 


 Kyoko
<< 黒1、急降下できるか。背後の敵を狙い撃ちたい >>

 Homura
<< 指示通りにする >>

 Kyoko
<< 紫1、FOX2 >>

 Sayaka
<< 紫2、FOX2 >>



 当たれば儲け物、くらいの気持ちでミサイルを放つ。
私達の放ったミサイルは、黒1を追っていた2機のF-16に
かすりもしなかった。

 だが、それを回避したがために、
彼らは手負いの黒1への追跡を諦めていた。
63 : [saga]:2011/07/22(金) 19:55:54.58 ID:dnUy+bX20

 Kyoko
<< 紫1より黒1、損害状況を知らせろ >>

 Homura
<< 右エンジンが破片を吸い込んで停止。片肺で飛んでいる >>

 Kyoko
<< そのまま帰投しろ。戦闘の継続は不可能だ >>

 Homura
<< しかし… >>

 Kyoko
<< 無理すんなつってるんだ。足手まといを連れたまま戦う主義じゃないんでね >>



 Homura
<< …黒1、了解。これより帰投する >>

 Sayaka
<< あとは任せておいてよ >>
64 : [saga]:2011/07/22(金) 19:56:24.77 ID:dnUy+bX20

 敵機はこちらに向けて旋回を行っていた。
次の獲物は私達というわけだ。

 だが、そうやすやすと食われてしまう私達ではない。



 Kyoko
<< 手前の敵にミサイルを、紫2 >>

 Sayaka
<< マーク。紫2、FOX2 >>

 Kyoko
<< いいぞ。紫1、FOX2 >>



 敵がこちらへのロックオンを終える前に、
私達はそれぞれの敵機に対し1発ずつの弾頭を送りつける。

 2本の航跡は散らばる敵機を追い続け、
それから逃げるように敵機は旋回を続けていた。
65 : [saga]:2011/07/22(金) 19:57:03.26 ID:dnUy+bX20

 それらのミサイルはまたしても、敵機の操縦によって回避される。

 しかし、杏子にとってはそれも読み通りであった。

 私の放ったミサイルを回避していたF-16は、
急接近する杏子のSu-37に対し、その腹を晒してしまっていた。



 杏子の放つ曳光弾がF-16を引き裂く。


 
 ガリガリと嫌な金属音を響かせて、その哀れな敵機は
煙を吐いたまま地上へとその機首を向ける。

 やがて開かれる落下傘から、その戦闘機が
戦闘不能に陥った事を私は理解していた。



 その様子を目で追いながらも、私はスロットルと操縦桿を
忙しく操作し続けていた。

 勿論、両足ではラダーを小刻みに調整しながら。

 残っているもう片方のF-16の背を取るために。
 


 卓越した旋回性能を誇るSu-35の前に、
F-16はその無防備な背をこちらに覗かせていた。
66 : [saga]:2011/07/22(金) 19:57:43.97 ID:dnUy+bX20

 ヘルメット内に、ミサイルのロックを知らせる音が響く。

 この位置関係であれば、ミサイルはまず外れないであろう。



 それを理解しながらトリガーを押し込む。

 同時に機体へと伝わる振動。
そしてコクピットを照らしながら、標的へ食らい付く炎の筋。



 人工の太陽を輝かせ、フレアーを撒き散らすF-16は
右方向へ向けて旋回を続ける。

 慌てていたのであろう。その敵機からは、
何度も何度もフレアーが射出されていた。

 それが彼にとっての自殺行為だった。

 旋回しながらフレアーを撒き散らしたがために
フレアーの置かれた軌道はそのまま、敵機の旋回した方向を示す。

 欺瞞に騙され続けたミサイルはそのまま右側に旋回を続け、
最後に残ったF-16のエンジンへ突き刺さる。
67 : [saga]:2011/07/22(金) 19:58:19.12 ID:dnUy+bX20

 そうして、敵機はこの青空の中で粉々に砕け散っていた。

 その僅かな時間の間に、搭乗員が脱出する時間などは
残されていなかった。



 また殺してしまった。



 操縦桿を握る右手がぶるぶると震える。

 それを押さえる左手も同様であったために、
震えを止めるには何の効果も果たさなかった。
68 : [saga]:2011/07/22(金) 19:59:47.29 ID:dnUy+bX20

 FRIEND
<< レーダー、応答せよ >>

 FRIEND
<< シェズナ・レーダー1からの通信途絶! >>



 乗機のレーダー画面には、北にあるシェズナ・レーダー2を目指して
北上を続ける2機のISAF機の姿が残されていた。



 Kyoko
<< こちら黒編隊、ビンゴーをとっくに越えている >>

 FRIEND
<< そちらの状況は理解している。こっちの守りは任せてくれ >>

 Kyoko
<< 貴隊の健闘を祈る。黒編隊、これより帰投する >>



 そうして杏子は残されたレーダーサイトを守る編隊に通信を伝え、
機首を基地の方向へと向ける。

 私もそれにならい、帰還の準備を始める。

 彼らの手伝いをしたい気持ちはあるが、
このまま帰れる事に私はほっとしてもいた。

 それどころか、もう基地に戻るだけの燃料など残されてはいない。
69 : [saga]:2011/07/22(金) 20:00:17.00 ID:dnUy+bX20

 真っ白な山々の上空をゆっくりと飛ぶ。

 背後から襲いかかる敵機の姿はなかったものの、
燃料こそが私達の最大の敵となっていた。



 心配しながら燃料計を見つめる私は、
はるか前方を飛ぶ”黒1”の機影を見つける。

 片肺で飛んでいる彼女の機体は、
失速寸前の速度でのろのろと飛行を続けていたのだ。



 Sayaka
<< 追いついた。黒1、基地まで飛べそう? >>

 Homura
<< ええ。バランスを保つのが難しいけれど、真っ直ぐ飛べるだけの燃料はあるわ >>

 Kyoko
<< 足は出せるか? >>

 Homura
<< 分からない。計器が壊れてしまっている >>

 Kyoko
<< 少し待ってろ… >>
70 : [saga]:2011/07/22(金) 20:00:46.75 ID:dnUy+bX20

 そう告げた杏子は、愛機をするりと
MIG-23の下方へ潜り込ませる。



 Kyoko
<< 貴機の下方についた。足を出してみろ >>

 Homura
<< どうかしら? >>

 Kyoko
<< 問題ない、ちゃんと車輪が出ている。しまい忘れに注意しろよ >>

 Homura
<< 本当にありがとう。感謝してもしきれな… >>



 その”黒1”の声を遮るように、私達の待ち望む声が届く。



 FRIEND
<< 空中給油機より紫編隊へ。聞こえているか >>

 Kyoko
<< こちら紫1。腹ペコで死にそうだよ >>

 FRIEND
<< 現在、レーダーへの増援の戦闘機隊へ給油が終わったところだ >>

 FRIEND
<< 列の後ろについて順番を待て。以上 >>

 Kyoko
<< 紫1、了解。支援に感謝する >>
71 : [saga]:2011/07/22(金) 20:01:19.19 ID:dnUy+bX20

 Kyoko
<< そういうわけだ。ここからは一人で行けるな、黒1 >>

 Homura
<< あなた達、そんな状況になるまで… >>



 杏子のSu-37は、クン、クン、と翼を左右に揺らし、
その返事を聞かずに給油ポイントへ向けて旋回を始める。

 だから、私が杏子の代わりに返事を返す。



 Sayaka
<< どうってことないよ。またね! >>

 Homura
<< …本当にありがとう >>



 続けて、私も杏子のように翼を揺らそうとする。

 だが、まだ震え続けている手が思うように動かない。



 そのために、私は杏子のした格好のいい仕草を諦めて
そのまま旋回を始めていた。
72 :1 M3はここで終わり [saga]:2011/07/22(金) 20:02:03.11 ID:dnUy+bX20



73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2011/07/22(金) 20:41:24.79 ID:knN71as1o
おつ、04はやりこんだからメビウスに無双されるほむほむ達のイメージしか湧かないって言う
74 : [saga]:2011/07/23(土) 17:05:35.09 ID:WJ5P8UK50



75 : [saga]:2011/07/23(土) 17:06:13.21 ID:WJ5P8UK50

−−− 暁美ほむらの手記より −−−

 ”黒”編隊は、いつも危険な作戦にばかり投入されていた。

 何かしらの理由があり、祖国を裏切ったパイロット達で
編成されている”黒”飛行隊。

 私達に与えられるのは、MIG-21、MIG-23といった旧式機のみ。

 ISAFも余裕がないためか、今でこそF-4等の旧式戦闘機を見かけるが、
私達は旧式のミグでF-15、F-16の群れの中へと突入させられる事もあった。

 私達には援護も与えられない。

 AWACSの支援すら、管制外とされる事もままあった。



 当然の事ながら、同僚達は一人、また一人と空に散って行く事になる。

 裏切り者は、またいつ裏切るか分からない。

 面と向かっては伝えられていなかったものの、
このエルジア空軍内で私が感じ取っていた空気は
まさにその言葉通りであったのだ。



 だからこそ、先日の”紫”編隊との出来事は私にとって衝撃であった。

 こちら側に来てから、本当に久しぶりに味わえた他者からの暖かさ。

 それからの調べによって、彼女達が私と同じ魔法少女である事が分かった。
もっとも、今の私は少女と呼べる年齢でもないわけではあるが。

 

 思えばこの5年間、私は自分の殻に閉じこもったままであった。
そして魔法少女である事に対する偏見と、私は常に向き合わされて来た。

 彼女達となら仲良くやれるかもしれない。

 そう思うと嬉しくなる。

 こんな気分になるのは、本当に久しぶりだ。
76 : [saga]:2011/07/23(土) 17:06:48.57 ID:WJ5P8UK50

DATE>
1226 / 1107 / 2004

AREA >
Northwest of Comberth Harbor

http://www.youtube.com/watch?v=hPudxb0S1iI
77 : [saga]:2011/07/23(土) 17:07:15.01 ID:WJ5P8UK50

 私と”紫”編隊が撤退した後に、あのシェズナ・レーダーは
ISAF機の手によって壊滅させられていた。

 その結果として起きた事は、レーダーの索敵範囲にあった
ISAF軍の地上軍を海へ取り逃がすという事態。

 補給戦を断たれ、大陸北岸に孤立していたISAF陸軍は
海上からの救援により、その大部分を脱出させる事に成功したのだ。



 ここのところ出撃のたびに作戦の失敗に立ち会わされてきた私ではあった。

 だが、エルジアが今日まで戦って来た間に
生き残り続けてきた私の操縦技術は次第に評価され出していた。

 雲の多い今日の空を飛ぶ私の乗機は、
これまでの乗機とは比較にもならないほど優れているMIG-29。

 前まで乗っていたMIG-23のように可変翼こそ持たない機体だが、
翼の角度を変える必要がないほどに洗練された空力特性とエンジンパワー。

 もう私一人のみを残していた”黒”編隊は、ここに来て
ようやくエルジア空軍の主力戦闘機を受領する事が出来ていたのだ。



 それがもっと早ければ、同僚達も死なずに済んだかもしれないのに。

 そう思うと少し心が痛む。

 だが、彼らが空に散っていったのは私のせいではない。

 冷酷なようではあるが、
生き延びるだけの技量を持たない彼ら自身に原因があったのだ。
78 : [saga]:2011/07/23(土) 17:08:01.19 ID:WJ5P8UK50

 今日の任務は、味方輸送機の護衛任務。

 空からISAFの息の根を止める事に失敗したエルジアは、
大陸東岸のリグリー飛行場よりさらに南に位置する
コンベース港に海軍部隊を集結させていた。

 戦艦タナガーを旗艦とするエイギル艦隊。

 彼らは開戦以来、海上でのISAFとの戦闘に勝利を重ね
私達からは”不沈艦隊”と呼ばれる存在であった。

 だが、海軍の存在だけでは戦争に勝利する事は出来ない。

 ISAFが最後の拠点としている小島、ノースポイントを制圧するためには
少なくはない陸上戦力も必要となる。



 そのために、エイギル艦隊はコンベース港に足止めをさせられていた。

 今は空っぽの揚陸艦の中身を埋めるために、
今回の護衛対象である輸送機は、人員と装備を満載してコンベース港へ向かうのだ。

 もうすでに始まっている護衛作戦への合流地点、
コンベース港のやや北側に位置するその輸送経路へ向けて
私の乗機は飛び続けていた。
79 : [saga]:2011/07/23(土) 17:08:29.93 ID:WJ5P8UK50
 
 AWACS
<< こちら管制機ネボグラズ。黒編隊、青編隊、間もなく合流地点に達する >>
 
 AWACS
<< 進路そのまま。ここはISAF機の航続距離圏内だ。気を緩めるな >>

 FRIEND
<< 青1、了解 >>

 Homura
<< 黒1、了解 >>

 

 目視できる距離にはいない、私の友軍機も同じ返事を返す。
また”青”編隊か。前回と声の違う”青1”の声を聞いて、私はそう考える。

 まだエルジアは敵に対して新米ばかりを送り続けている。
そこまでする理由は一体何なのか。新人を急いで育てたい思惑でもあるのか。

 そのような事を考えるうちに、護衛対象である輸送機群と
それを護衛する戦闘機の群れが目に入り出す。

 その戦闘機の多くはMIG-29、時折混じるMIG-23。



 そして、一ヶ月前に私を救ってくれた2機のSu-35の姿。

 翼端と垂直尾翼に紫のカラーリングを施された機体を見て、
私は内心喜んでいた。
80 : [saga]:2011/07/23(土) 17:09:01.66 ID:WJ5P8UK50

 だが、続けて耳に入る通信に私の期待は掻き消されてしまう。
今日は万全の調子で、一緒の空を飛べると思っていたのに。



 AWACS
<< こちら管制機ネボグラズ。紫編隊、緑編隊に告ぐ。交代が到着した >>

 FRIEND
<< 緑1、了解。待ってたぜ >>

 Kyoko
<< 紫1、了解。これより帰投する >>



 Homura
<< 黒1より紫1へ。もう帰ってしまうと思うと残念だわ >>

 Kyoko
<< いつかの黒1か。その様子だと、無事に帰れたようだな >>

 Homura
<< おかげさまで。フロッガーも壊されてしまって、新しい機体を貰えたわ >>

 Kyoko
<< 新品か、良かったじゃないか >>

 Sayaka
<< 新しいオモチャを見せてもらってから帰ろうよ >>
81 : [saga]:2011/07/23(土) 17:09:33.31 ID:WJ5P8UK50

 そうして私が乗るMIG-29に施された両翼端の黒いカラーリングの先に、
彼女達の乗るSu-35が距離を置いて囲い出す。

 私の乗機とは違い、彼女達の乗機はエルジア軍でも量産が始まったばかりの
文字通り最新鋭の機体であった。

 嫌味を言うつもりなどは感じられない声が無線機に届く。



 Sayaka
<< フルクラム、良かったじゃん!いい機体だよね >>

 Homura
<< はぁ…あなた達はフランカーに乗れていいわね >>



 Kyoko
<< おしゃべりしない >>



 何かおかしい事を言っただろうか。

 私の愚痴っぽい言い方が気に入らなかったのか。

 私が考えているうちに、無線機からクスクスと彼女達の笑う声が届く。
82 : [saga]:2011/07/23(土) 17:10:48.46 ID:WJ5P8UK50

 Homura
<< 何かおかしい事を言ったかしら? >>

 Sayaka
<< ごめんごめん、気を悪くしないでよ >>

 Kyoko
<< その台詞を言った奴に対しての、アタシ達なりの歓迎の対応なのさ >>

 Homura
<< どういう事なの? >>



 Kyoko
<< そのうちに教えてやるよ >>

 Sayaka
<< 意地悪とかじゃないんだけどね。私達にとっては、大事な言葉なんだよ >>

 Kyoko
<< アンタがフランカーに乗って、アタシ達と並んで飛ぶ日が来たら >>

 Kyoko
<< そうしたら教えるさ。それまでは死ぬんじゃねえぞ? >>



 Kyoko
<< 戦友 >>
83 : [saga]:2011/07/23(土) 17:11:19.64 ID:WJ5P8UK50

 Homura
<< …ええ、心に刻んでおくわ >>



 Kyoko
<< へへっ、それじゃあアタシらは帰るよ >>

 Sayaka
<< お先に失礼。またどこかで、黒1 >>

 Homura
<< ええ、またどこかで >>
84 : [saga]:2011/07/23(土) 17:11:54.35 ID:WJ5P8UK50

 戦友。

 エルジア軍に入ってから、私の初めて聞いた言葉。

 今日の出来事を、私はきっと忘れない。

 陽の光を浴びて、旋回して離れてゆく”紫”編隊の2機を目にしながら
私はその思いをじっと胸に刻む。



 FRIEND
<< お前さんがフランカーに乗れる日なんて来ないと思うがな >>



 そんな言葉も、今の私には耳に入らない。

 私が死ねない理由が一つ増えた。



 いつか、疑問の答えを彼女達から聞き出そう。

 決意を新たにした私は、操縦桿を握る手に自然と力が入る。
85 : [saga]:2011/07/23(土) 17:12:28.89 ID:WJ5P8UK50

 雲の多い今日の空は、別の”雲”にも覆われていた。

 この輸送機群を守る戦闘機隊の他にも、
味方のTu-22MP電子戦機が護衛に付いていたのだ。

 味方には見えないが、敵のレーダー画面にだけ映る”雲”。
それを作り出すための能力を持った大型機である。

 

 私がレーダー画面で確認している範囲では、
護衛対象となる輸送機は合計で3機。

 それを護衛する電子戦機が2機と、
さらに周囲を囲む戦闘機が合計で10機。

 さらにそれらを管制するAWACS機の支援まで付いている。



 私の目から見れば、万全の体制であった。

 このような警戒網の中に攻撃を仕掛けるとなれば
ISAFは大きな打撃を被る事になるであろう。



 私はそんな事を考えながら、
コンベース港へ向けてゆっくりと飛ぶ輸送機群の周囲を警戒する。

 まるで大空の散歩だ。

 それが私の率直な感想であった。
86 : [saga]:2011/07/23(土) 17:12:59.34 ID:WJ5P8UK50

 AWACS
<< 敵機、高速で接近!方位0-3-0! >>

 FRIEND
<< 敵機の数は? >>

 AWACS
<< …6機編隊。真っ直ぐにこちらに向かって来る >>

 AWACS
<< 交戦距離に入り次第、各機自由戦闘。輸送機を落とされるな >>

 FRIEND
<< 青3、了解 >>

 Homura
<< 黒1、了解 >>

 FRIEND
<< 赤12、了解 >>



 一斉に無線機に吹き込まれる友軍戦闘機からの声に混じり
私も了解の意思を返す。

 右手に握る操縦桿を操作し、機首を敵機が迫る北東方向へ向ける。

 

 そうして、MIG-29のレーダーが敵機を捉えるのを
私はじわじわと高度を上げながら待っていた。
87 : [saga]:2011/07/23(土) 17:13:35.38 ID:WJ5P8UK50

 AWACS
<< おい、青編隊は何をしている!電子戦機のサポートレンジ外だぞ! >>

 

 私が警告を吹き込むより、ネボグラズの管制官が怒鳴る。

 新兵達の操るMIG-29の4機編隊は、迫る敵に釣られて
急速に離れていくところがレーダー画面からも確認できた。

 もはや警告も手遅れであろう。

 彼らの出している速度からすれば、彼らはきっと
アフターバーナーを吹かして敵へ向けて飛んでいたから。



 FRIEND
<< 青1、交戦開始 >>

 FRIEND
<< 青4、ロックオン!FOX2! >>

 FRIEND
<< 青6、FOX2 >>



 そのような叱責など戦果を上げれば咎められない。

 そう考えている彼らの態度が、
この無線から聞こえる声からもはっきりと示されていた。

 レーダー画面にはミサイルを示す光点が
敵味方の双方から生まれ出す。
88 : [saga]:2011/07/23(土) 17:14:09.95 ID:WJ5P8UK50

 だが、ISAFのパイロット達は冷静であった。
彼らは自分達の成すべき事をよく理解していた。

 ミサイルを回避しながらも、2機だけをその格闘戦の中に残し
ISAF機の4機は電子戦機の作り出す雲の中へと向かい続ける。



 青編隊はその4機を追う事が出来ない。

 その場に残された2機が、ひたすらにミサイルの光点を
青編隊へ向けてバラ撒いていたからである。

 敵はその倍する戦力を落とそうとはせず、
行動不能にするだけで良しとしたのだ。



 結果として、こちらに向かい続ける敵機が4機。

 それを守るこちらの戦闘機は6機。

 私達の受け持ちは輸送機3機、電子戦機2機。


 全く持って不十分な護衛の数になってしまった。
89 : [saga]:2011/07/23(土) 17:14:37.13 ID:WJ5P8UK50

 迫る4機の光点は二手に別れ、レーダー上に存在している
2つの雲を目掛けて突入していた。

 彼らは電子戦機を潰すところから始めようとしているのだろう。

 その大型な機体は目視でも確認が容易であるため、
彼らが見つかる前に私達が敵を排除しなければならない。



 Homura
<< 黒1、交戦開始 >>

 FRIEND
<< 赤8、交戦開始 >>

 FRIEND
<< 赤12、交戦開始 >>



 きちんと自分の仕事をわきまえ、
その場に留まっていた友軍機からも、続々と交戦開始の合図が届く。

 私の居る位置から近い2機の光点を目指し、
私はスロットルを押し込み、速度を上げ始めた。
90 : [saga]:2011/07/23(土) 17:15:12.52 ID:WJ5P8UK50

 迫った来た敵編隊を、2機のF-4だと私は目視により認識する。

 格闘戦に持ち込めばこちらのMIG-29が圧倒的有利ではあるが
向こうはその意図を見せずに、ただ最大速度で飛んでいるように見えた。

 その調子で飛び続けて、そう簡単に電子戦機を見つけ出せるものではない。

 だが、仮に見つかってしまえば、
彼らはその鈍重な護衛対象を容易に撃ち落すであろう。

 それなりの腕が伴っていれば、の話ではあるが。



 とにかく、彼らの進路を変えるなり、速度を殺すなり。

 私が発砲して損をする事はない。



 あらかじめ高度を取っておいたおかげで、
私は彼らの上方から攻める事が出来る。

 降下による運動エネルギーを、そのまま速度に変換して
彼らの背後を取るのが私の考えであった。
91 : [saga]:2011/07/23(土) 17:15:43.49 ID:WJ5P8UK50

 目論見通り、私のMIG-29彼らの遥か上方に位置していた。

 操縦桿を捻り、私は乗機をそのまま下方へ向けて急降下させる。

 眼前には一直線に過ぎてゆく2機のF-4。



 Homura
<< ロック。黒1… >>



 もうミサイルのトリガーに指をかけ、今にも発射するところであった。

 はるか下方を飛んでいたF-4のうち片方が、
そのまま機首を上方に向けて上昇を開始していた。

 その目指す先は、青空と高度を盾にしていた電子戦機。



 急いで私は乗機からミサイルを切り離す。

 2つの炎の筋を、はるか下方を直進し続ける敵機と
もう片方の上昇を続ける機体へ向けて送り込む。
92 : [saga]:2011/07/23(土) 17:16:13.01 ID:WJ5P8UK50

 おそらくはF-4の限界まで速度を出していたであろうその敵機は、
猛烈な勢いで高度を稼ぎ続けていた。

 そのため、下に向けて放ったミサイルはその敵機とすれ違うかたちとなる。

 残念ながら、今のミサイルに180度も進行方向を変える能力はない。

 

 一方、はるか下方を直進していたF-4はミサイルを振り切れずに
そのまま慣性に従って青空の流れ星と化していた。

 

 Homura
<< 黒1、1機撃墜 >>



 そう無線に呟くと同時に、スロットルを絞りながらエアブレーキを開き
私は操縦桿を両手で力任せに引き上げる。

 遠心力と重力の影響で、体にずっしりと重みが伝わる。

 地面を向いていたコクピットはやがて地平線の姿を見せ、
そしてはるか上空を見渡せる位置に届く。



 まともな人間であれば、今頃は頭から血液が下がり
ブラックアウトの症状を見せていたであろう。

 だが、それは魔法少女の肉体強化の前には影響を及ぼさない。
魔力の使用から来る軽度の疲労以外には。
93 : [saga]:2011/07/23(土) 17:16:42.27 ID:WJ5P8UK50

 上昇を続けていたF-4が視界に捉えられる。

 きらめく太陽の光を全身に浴びたその機体の垂直尾翼に、
いつか見た黄色のリボンのエンブレム。

 またお前か。

 今日は落としてやる。



 しかし、急速な旋回を終えた私のMIG-29は
大きく運動エネルギーを損なってしまっていた。

 それは上昇を続けていた敵機にも同じ事が言えるが、
私はミサイルロックの距離から”リボン付き”を取り逃がしてしまっていた。

 


 AWACS
<< 敵の増援4機、急速に接近中!方位0-6-0! >>



 伏兵を用意する余裕があるなんて。

 まだ沸いてくるISAF空軍に驚かされながらも、
私は眼前の”リボン付き”を目指してアフターバーナーを炊いていた。
94 : [saga]:2011/07/23(土) 17:17:14.05 ID:WJ5P8UK50

 ちらりと遠方を通り過ぎる電子戦機を見やる。

 ”リボン付き”はその姿に気が付かなかった様子で、
私から逃げるために、あるいは電子戦機を探すために
ひたすら直進を続けていた。

 そこでようやく私のコクピットに
ミサイルのロックを知らせる警告音が鳴る。



 Homura
<< 黒1、FOX2 >>



 敵へ向けて伸びるミサイルの航跡。

 それと同時に、上昇をしながらフレアーを撒く”リボン付き”。



 これ以上の高度を稼ぐなんて。

 その異常さに、私はそこで気付くべきであった。

 私は自分の発射したミサイルに目を奪われていたのだ。
95 : [saga]:2011/07/23(土) 17:17:41.65 ID:WJ5P8UK50

 上昇したリボン付きは、
いつの間にかアフターバーナーの炎を消していた。

 ほぼ慣性のみで運動エネルギーを上空に向け、
それにより私から放ったミサイルの回避に成功した敵機。

 

 奴が上昇した理由は、失速するためであった。

 上昇を続けて速度を殺した奴は、空中で宙返りをする。

 そして機首を下に向けるや、再びアフターバーナーを炊き
そのまま降下をして速度を稼ぐ。

 

 それに私が気付いた時には遅かった。

 スロットルを絞り、エアブレーキを開くも、
そう簡単にアフターバーナーを炊いていた戦闘機のスピードは落とせない。

 私のMIG-29は、下方を向いているF-4の真下を通り過ぎる形になった。

 曳光弾の雨を浴びながら。
96 : [saga]:2011/07/23(土) 17:18:17.61 ID:WJ5P8UK50

 ガリガリと機体に響く衝撃。
それに伴い、激しく揺さぶられるコクピット。

 首を回すと、左翼が穴だらけにされているのが見える。

 そこから燃料が漏れ出しているのを見て、
私の機に火が点かなかった事を心の底から感謝する事になっていた。



 響き続ける警告音の音量に負けないよう、
私は無線機に現在の状況を知らせる。



 Homura
<< こちら黒1、攻撃を浴びた。戦闘継続は不可能 >>

 AWACS
<< ネボグラズ、了解。離脱出来るか? >>



 レーダーを見ると、”リボン付き”を示す光点は
私にトドメを刺す意思がないようであった。

 奴は代わりとなる獲物を見つけていたのだ。
97 : [saga]:2011/07/23(土) 17:19:44.55 ID:WJ5P8UK50

 Homura
<< 燃料が漏れている。だが離脱に支障なし >>

 AWACS
<< 了解。黒1はただちに帰投せよ >>

 AWACS
<< 赤9、赤12は黒1の担当空域を… >>



 乗機のレーダー画面に表示されていた、
ジャミングの効果範囲を示す円が一つ消滅してしまっていた。

 首を回して後方の空を見やると、そこには地面へ向けて伸びてゆく黒煙の筋。



 私の護衛対象であった電子戦機は落とされてしまっていたのだ。

 おそらくは、あの素晴らしい腕前を私に見せ付けた”リボン付き”に。
98 : [saga]:2011/07/23(土) 17:20:10.97 ID:WJ5P8UK50

 FRIEND
<< Tu-22がやられたぞ! >>

 AWACS
<< まだ1機残っている!守りきれ! >>

 FRIEND
<< こいつらには見えているのか? >>



 味方の慌てる声が無線機から届く。

 しかし、今の私も深刻な状況だ。
機を飛ばすのに支障はないが、基地に辿りつくまでに燃料が持つのか。

 貰ったばかりの機体を壊すとはついていない。

 あの”リボン付き”の操縦技術は恐るべきものだ。
あれと出会わずに済むよう祈る他にないのかもしれない。



 そんな事を考えながら、まだ空戦を行っている事を知らせる
味方機の緊迫した声を聞き続け、私は機を降下させて速度を稼いでいた。

 十分な加速を得られたところで機を水平にし、帰路へとつく。
99 : [saga]:2011/07/23(土) 17:20:37.75 ID:WJ5P8UK50

 ISAF機が手負いの私に食らい付く事はなかった。

 私は速度を抑えながら、一目散に味方基地へと飛んでいたのだ。



 流れる景色と雲を眺めながら、無線機から届く声が私の耳に届く。



 FRIEND
<< 食らった!ダメだ、火だ!脱出する!>>



 その叫びと共に、レーダーに示されていたジャミング圏内を知らせる円は
完全に姿を消してしまう。

 高価な電子戦機の2機目も、どのような手段によるものか
今の私には分からないが、結果として撃墜されてしまっていた。



 TRANSPT
<< 話が違うぞ。このままじゃ落とされる >>

 FRIEND
<< 1機でも多く港にたどり着かせろ >>

 FRIEND
<< 条件が同じなら性能はこっちが上だ >>
100 : [saga]:2011/07/23(土) 17:21:18.83 ID:WJ5P8UK50

 それを最後に、私の乗機には味方からの無線の声は届かなくなっていた。



 いつ落ちてしまわないか、燃料計と睨めっこをしながら
私のMIG-29はなんとか味方基地まで帰る事が出来ていた。

 着陸前の申請により、滑走路の脇には消防車が用意される。

 そんな彼らの出番を作る事はなく、私は乗機を地上に降ろして。



 そして、あの作戦の結末を基地に居た人間から聞く事になる。



 ISAF機は電子戦機を葬り、まずはレーダージャミングを消し去った。
そして伏兵として登場した4機のF-14が、その自慢の長距離ミサイルを万遍なく放ち。

 護衛目標であった輸送機隊は全滅。
電子戦機を2機失い、戦闘機も4機が撃墜された。
101 : [saga]:2011/07/23(土) 17:22:05.36 ID:WJ5P8UK50

「お前だけは逃げ帰れて良かったな!」



 唾と共に言葉を吐き捨てる男の姿が私の視界から消えてゆく。

 彼が怒る気持ちも理解出来るが、私一人の力ではどうにもならない。

 もちろん、自分の力量が足りなかったと反省させられる面もある。
しかしそれ以上の、様々な要因が重なっての敗北だと私は考えていた。

 ヘルメットを脱ぎ、汗に濡れる髪がパイロットスーツにへばりつく。



 今日は早くシャワーを浴びたい。

 そんな気分であった。
102 :1 M4はここで終わり [saga]:2011/07/23(土) 17:22:32.59 ID:WJ5P8UK50



103 : [saga]:2011/07/23(土) 17:24:48.62 ID:WJ5P8UK50
エスコン04を知らない方で、このSS見ている人いるかな?
地名が多くなってきたためお粗末ながら地図を作りました。


あと乙くれた方々、ありがとうね。
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2011/07/23(土) 19:27:58.29 ID:LfoKF0IPo
最初の3ネタにワロタww
続きも期待してるんよ
105 : [saga]:2011/07/24(日) 16:35:39.77 ID:WZnnFayQ0



106 : [saga]:2011/07/24(日) 16:36:24.02 ID:WZnnFayQ0

−−− 呉キリカの手記より −−−

 今日も織莉子の戦略論を聞かされた。

 頭の悪い私は全てを記憶出来た訳ではなかったが、
その内容はおおむねこのようなものだ。

 いくら私達が落としても、その数を減らさないISAF空軍。
彼らには、世界中の様々な国から援助が行われていた。
供与された戦闘機に乗る義勇兵パイロットを含めて。

 それと戦うこちらは、新米パイロットばかりを前線に送る。
その理由について織莉子は、そう遠くない未来に起こるであろう
オーシアとの戦争を睨んでパイロットを養成していると考えていた。

 海を越えた大陸に存在していた、世界の憲兵を自称する超大国。

 彼らは今のところはベルカ戦争の復興をしてはいるが
その傷が癒えたところで、きっと私達に牙を向くだろう。

 大陸のこちら側で行われている戦争は、私達が開始した侵略戦争。
オーシアを含めた世界中が、そのような見方をしている。

 私達エルジアがそうせざるを得なくなるまで、
追い詰められて始まったのが今回の戦争だと言うのに。



 あと少しで息の根が止まるISAFに対して、
ベテランパイロットを温存してまで新人の育成を図る。

 それが、我がエルジア空軍に損害が増え続けている原因であった。
 
 その事実に私は憤りを覚える。それは織莉子とて同じ事だった。

 

 だが、それを私達の立場で捻じ曲げる事は出来ない。
オーシアとの戦争に備えるという考えもまた、間違いだとは言い切れないから。

 戦争とは外交の延長線上に存在するもの。

 政治家の失敗は、私達軍人が拭わなければならない。

 それも織莉子からよく聞かされていた事だった。
107 : [saga]:2011/07/24(日) 16:37:02.69 ID:WZnnFayQ0

DATE >
0550 / 1119 / 2004

AREA >
Petrochemical Complex

http://www.youtube.com/watch?v=xBnLM1MMgJg
108 : [saga]:2011/07/24(日) 16:37:31.99 ID:WZnnFayQ0

 うっすら朝日が昇ってきてはいるが、夜の闇が残るこの空。

 私達はまだ真っ暗なうちにサンサルバシオンから飛び立ち、
コンベース港の空を守るために近隣の航空基地へ向かっていた。



 度重なる失敗に、ついに軍も慌て出したのであろう。

 リグリー飛行場での大損害。

 大陸北岸からISAF陸軍を取り逃がす事態。

 そしてエイギル艦隊と共にノースポイントを目指すはずであった
陸上部隊と装備の喪失。多数の航空機の犠牲をおまけに付けて。



 この空域において、ISAFは全盛期のそれほどではなかったものの
いまだに活発な行動を行っていた。

 もはや私達の受けた損害は許容出来ないレベルにまで達していたのだ。

 今になって気付く事、それ事態がすでにおかしい事なのではあるが。
109 : [saga]:2011/07/24(日) 16:38:01.43 ID:WZnnFayQ0

 ISAFの活動範囲は、主に大陸東岸である。
 
 まだ我々エルジアが勢力下に置いているとは言いがたい地域。

 そして制海権を握っていない海。



 こちらの新米パイロットが撃墜されれば、敵の捕虜になる。
だが、敵は逆の立場だ。

 奴らは落ちても落ちても、落下傘が壊れていない限りは
彼らは自軍の陣地に戻る事が出来る。

 そして、貰い物の新品の航空機に乗って再び戦場へと現われる。

 

 その悪い流れを断ち切るために、お偉方は決断を下した。

 この空域への第156戦術戦闘航空団”アクィラ隊”の派遣を。



 そのために、私が乗る翼端に黄色のカラーリングを施された
Su-37戦闘機は、この空を飛んでいた。
110 : [saga]:2011/07/24(日) 16:38:41.89 ID:WZnnFayQ0

 Oriko
<< 黄13より各機、もうすぐ目標基地へ到着する >>

 Kirika
<< 黄4、了解 >>

 YELLOW
<< ここまで長かったからな。基地に着いたら休めるのか? >>

 Oriko
<< ネガティブ。給油を終えたら、私達はそのままスクランブル待機だ >>

 YELLOW
<< なんだよ…早起きしても何の得にもならなかったな >>



 まだ薄暗い空ではあるが、目視によってもかろうじて
私達を構成する5機編隊の姿は確認できる。

 列機のうちの一人が漏らした愚痴は、私も少しは同調していた。

 私達パイロットに生活リズムなどは存在しないようなものではある。

 夜中から行動していた私の体は、
ここまでの退屈な旅も相まって欠伸を連発していた。

 やはり人間は、夜は眠り朝に起きるものだ。

 そこまで考えて、私は自嘲気味に笑う。



 ああ、そうだ。私は人間じゃなかったっけ。
111 : [saga]:2011/07/24(日) 16:39:12.05 ID:WZnnFayQ0

 Oriko
<< レーダーに感。艦載機か? >>



 無線機の沈黙。
編隊の全員がレーダー画面を確認していた事であろう。



 YELLOW
<< 黄3、こちらでも捉えた。コンベース港へ向かっているようだな >>

 Kirika
<< これだけの数で攻撃を仕掛けようっての? >>

 YELLOW
<< 嫌がらせの薄暮攻撃だろう >>



 そのIFFに反応しない光点は8機編隊。

 港に停泊する艦船を攻撃するには、あまりにも少なすぎる戦力。
112 : [saga]:2011/07/24(日) 16:39:38.31 ID:WZnnFayQ0

 だが、見つけてしまった以上は放っておくわけにもいかない。

 それは編隊長である織莉子も良く理解していた。



 Oriko
<< こちらアクィラ隊、コンベース港。聞こえているか >>



 Oriko
<< 繰り返す、こちらアクィラ隊。コンベース港… >>

 TANAGER
<< こちらエイギル艦隊旗艦、タナガーCIC >>

 TANAGER
<< あなた達と話せて光栄です、黄色中隊。用件は… >>

 Oriko
<< 港へ接近中の敵編隊を発見した。私達がこれを排除する >>

 TANAGER
<< 承知しました。北部の石油プラントを警戒飛行中の機も居ますが… >>

 Oriko
<< 増援の必要はない >>



 Oriko
<< 燃料だけが心配だ。空中給油機を呼び出せるか、照会を頼みたい >>

 TANAGER
<< 了解しました。確認が取れ次第、再度連絡を行います >>

 Oriko
<< 支援に感謝する。以上 >>
113 : [saga]:2011/07/24(日) 16:40:04.57 ID:WZnnFayQ0

 いささか高慢にも聞こえるやりとり。

 分隊の編隊長とはいえ、たかだか1人のパイロットが
隊の行動決定を行い、あまつさえ空中給油機の派遣まで要請する。

 それは織莉子に与えられた特権でもあった。



 今日までに53機の撃墜を果たしている、全エルジア空軍内での
トップエースだった織莉子には、前線指揮官としての権限を与えられていた。

 それは当然の事ながら、彼女の撃墜数への功績から与えられたものではない。

 織莉子は常に列機となる4機を自らの手で選定し、
そして戦いの空へと上がってゆく。

 そして織莉子に指揮された”黄色中隊”は、ただの1機として撃墜されていない。

 列機は必ず連れて帰る。それが彼女の信念であった。



 Oriko
<< 行くわよ。アフターバーナーの使いすぎだけに注意 >>

 Kirika
<< 黄4、了解 >>



 私に続けて列機からも、了解の合図が届く。
私達には、そのような簡潔な指示だけあれば十分であった。
114 : [saga]:2011/07/24(日) 16:40:33.18 ID:WZnnFayQ0

 レーダー光点を見つめながら、
スロットルを押し込み操縦桿を引く。

 空戦において必要なものは、第一に不意打ち。

 叶わぬ場合には、第二にスピード。

 ”黄色中隊”に入った私が織莉子から叩き込まれたものは
要約するとその二つであった。



 彼我の位置関係から、理想的な不意打ちは望めそうにない。
だから、私は速度を稼ぎながら高度を取る。

 高度は高ければ高いほどいい。
高度の数字は、そのまま速度にも変換出来るからだ。

 手袋の中が汗で濡れるのを感じる。

 戦闘前に味わう、いつもの緊張感。



 こればかりはエースパイロットと囃し立てられるようになった今でも
なかなか慣れる事の出来ない生理現象であった。
115 : [saga]:2011/07/24(日) 16:41:02.76 ID:WZnnFayQ0

 Oriko
<< レーダーロック。黄13、FOX3 >>

 Kirika
<< 黄4、FOX3 >>

 YELLOW
<< 黄3、FOX3 >>

 YELLOW
<< 黄8、FOX3 >>

 YELLOW
<< 黄9、FOX3 >>



 織莉子を最初として、私達は順番に長距離ミサイルを放り込む。

 1機から4発ずつ、合計で20発の航跡が私達から伸びる。

 そのミサイルは高価かつ、命中精度も低いものであるために
これだけの数を発射したところで、敵を落とせれば儲け物という程度ではあった。



 しかし、ミサイル4発の重量というものは馬鹿にならない。

 格闘戦を行う前に身軽にしろ。これも織莉子から教わった事。
116 : [saga]:2011/07/24(日) 16:41:39.65 ID:WZnnFayQ0

 レーダー上に敵機を示していた光点は、まばらな雲に覆われる。

 敵編隊がレーダーロックミサイルから回避を行うために、
チャフをばら撒いている姿が私にも想像できた。

 その雲の中から抜けてきた光点は合計で6機。



 Kirika
<< あまり落とせなかったね >>

 Oriko
<< 想定内よ。黄色13より各機、格闘戦に入る。いつも通りに >>

 YELLOW
<< 了解 >>



 そうして私達はアフターバーナーを炊いて、
敵を囲い込むように左右二手に分かれる。

 黄13に付いて行く私の2機編隊と、黄3、8、9の3機編隊と。
117 : [saga]:2011/07/24(日) 16:42:05.98 ID:WZnnFayQ0

 まだ外は暗く、その敵機の姿を確認できたのは
彼らのアフターバーナーの炎によってであった。



 Oriko
<< 敵機視認。ホーネット >>



 視力の良い私でさえ見えないのに、よく見えるなと感心しながらも、
距離を詰めてゆくにつれてそのシルエットは私にも見えて来ていた。

 やや小型のその戦闘機が、レガシーホーネット。
所謂、古い型のF/A-18戦闘機である事が理解できた。



 Oriko
<< ロックオン。黄13、FOX2 >>

 Kirika
<< 黄4、FOX2 >>



 耳にロックオン完了を示す警告音が聞こえた瞬間、
私はトリガースイッチを押し込む。

 そして暗闇の中を噴射炎に照らされて進む、私と織莉子が放った2つの弾頭。
118 : [saga]:2011/07/24(日) 16:42:35.20 ID:WZnnFayQ0

 私達と敵機との位置関係はほぼ直角であり、
そのミサイルが容易に回避される事は分かっていた。

 敵はバーナーを炊いたまま、機体の進行方向に
ほんの少しの角度を付けるだけでミサイルから逃げてゆく。



 だが、ミサイルには耐えられない旋回角度も、
私と織莉子のSu-37はそれを越える事が出来る。

 スロットルを絞りながら速度を調節し、操縦桿を思い切り引く。

 そして体にかかる重力を感じ、うめき声を上げる。



 そうして見上げたコクピットからの視界の先には、
F/A-18の双発エンジンから漏れる2つの炎。

 やや距離が離れてはいるものの、私はロックオン完了と共に
トリガーを押し込む。やや間を置いて、さらにもう一度。



 2つ目の贈り物を、敵は受け取ってはくれなかった。

 1つ目のそれを受けて、
敵はその喜びを機体の爆発という形で表現していた。



 Kirika
<< 黄4、一機撃墜 >>
119 : [saga]:2011/07/24(日) 16:43:04.42 ID:WZnnFayQ0

 自身の戦果を確認している間に、コクピットの左上方から
その前方の暗闇に向けて曳光弾が放たれる。

 その光に照らされて、暗闇の中に姿を覗かせるF/A-18戦闘機。



 その翼から炎が上がり、曳光弾の助けを借りずとも
戦闘機はその姿を闇の中にあらわにしていた。



 Oriko
<< 黄13、1機撃墜 >>

 YELLOW
<< こっちもすぐ終わる >>



 その言葉が聞こえる前に、遠くの空にミサイルの炎がいくつも伸びる。
その前方を飛んでいた戦闘機のアフターバーナーの炎を目掛けて。

 彼らから発射されるフレアーの炎が空を照らす。

 速度を出しすぎている敵機は、深い旋回角を取れない。



 ゆるやかに曲がってゆくミサイルの炎は、
同じように曲がっていた敵機の背に次々と飛び込んでいた。
120 : [saga]:2011/07/24(日) 16:43:33.84 ID:WZnnFayQ0

 そして次々と上がる打ち上げ花火。

 敵にAWACSの支援がついていれば、彼らも違う行動が取れたであろう。

 今落とした哀れな敵機達は、
もしかしたら私達を振り切るつもりでいたのかもしれない。

 MIG-29やSu-27相手なら、それも悪くない選択肢。

 だが、ストーンヘンジ防衛をしているはずの私達が
こんな場所に存在している事など、敵は予想もしていなかったであろう。

 Su-37というエルジア最高の戦闘機が相手になるという事も。

 エルジア空軍の最新鋭機であるSu-35のエンジンを
さらに高性能なものに換装し、性能を引き出した私達の愛機。



 YELLOW
<< 最後のホーネットは誰が頂く? >>



 その言葉が無線から流れると共に、
輝く曳光弾の流星が最後の花火を作り上げる。

 コクピットに届く爆風の振動を感じながら、
無線機から流れる続きの言葉を私は聞いていた。



 Oriko
<< 黄13、1機撃墜 >>
121 : [saga]:2011/07/24(日) 16:44:03.71 ID:WZnnFayQ0

 YELLOW
<< 相変わらず手が早いな、隊長 >>

 Oriko
<< 給油機が確実に来れるとは限らない。各機、進路を2-7-0へ >>

 YELLOW
<< 了解 >>



 寮機からの言葉を無視するかのように次の指示を伝える織莉子。

 燃料計を確認すると、だいぶ燃料を消費してしまってはいたが、
まだまだ最寄の基地には帰れるラインであった。

 指示通りに機首を西に向け、私達は帰路につく。



 そうして今更ながらのエイギル艦隊からの無線が届く。
122 : [saga]:2011/07/24(日) 16:44:30.60 ID:WZnnFayQ0

 TANAGER
<< エイギル艦隊旗艦タナガーより、黄色中隊!聞こえているか! >>

 Oriko
<< 黄13、聞こえている。給油機… >>

 TANAGER
<< それどころじゃなくなった!港から北の石油コンビナートが攻撃を受けている! >>

 Oriko
<< こちらの燃料が持たない。給油機の支援を得られなければ援護に向かえない >>

 TANAGER
<< コンベース港上空に来てもらえるように手配した >>

 Oriko
<< それでは遠すぎる。もっと北側に待機させて >>



 TANAGER
<< しかし…ISAF機の航続距離圏内には… >>

 Oriko
<< そうしてもらえないのであれば、私達は満足に戦えない >>
123 : [saga]:2011/07/24(日) 16:45:03.70 ID:WZnnFayQ0

 Oriko
<< ジオフォンから艦載機を発艦させて、給油機の護衛に回しなさい >>

 TANAGER
<< こちらの一存では… >>



 GEOFON
<< 割り込んで済まない。こちらエイギル艦隊航空母艦ジオフォンCIC >>

 GEOFON
<< こちらからもコンビナートへの援軍を発艦させている >>

 GEOFON
<< 彼らの一部を給油機の護衛に回そう。黄色中隊は一刻も早く現地へ >>



 Oriko
<< 黄13、了解。安心して戦える >>

 GEOFON
<< 諸君らの健闘を祈る。以上 >>
124 : [saga]:2011/07/24(日) 16:45:30.35 ID:WZnnFayQ0

 Oriko
<< 黄13より各機、内容は聞いていたな? >>

 YELLOW
<< はい。隊長、指示を >>

 Oriko
<< 各機、進路を0-4-5へ。燃料と残弾に注意 >>

 Kirika
<< 黄4、了解 >>



 そうして私達は機首を東北へ向けて、アフターバーナーに火を入れる。

 全盛期の織莉子なら、このような事態をも
その魔法の能力で余地できていた事であろう。

 だが、今の彼女にはそのような力は残されていない。

 魔法少女のピークが第二次性徴期にあるという
インキュベーターの話は本当の事であったのだ。



 私しか知らされていない、そんな織莉子の能力の秘密。

 今となっては数分先を見るのが精一杯。
それでも、魔力の使用に体が耐えられないの。

 今年で20歳になる彼女が、そうこぼしていたのも
私にしか知らされていない。
125 : [saga]:2011/07/24(日) 16:46:01.08 ID:WZnnFayQ0

 先ほどに比べて高さを持ち出した太陽。

 まだまだ景色は薄暗いが、水平線の向こうに見えるそれは
私達の姿を照らし出しているかのように思えていた。

 目的地であるコンビナートに近づくにつれ、
無線機から次々と悲鳴が聞こえ出す。



 FRIEND
<< うしろに敵だぞ!回避しろ! >>

 FRIEND
<< だめだ!高度が上がらない! >>

 FRIEND
<< 早くきてくれ!追われてる! >>



 FRIEND
<< 援軍はまだか >>
126 : [saga]:2011/07/24(日) 16:46:46.66 ID:WZnnFayQ0

 やがてレーダーに映りだす光点の群れ。

 IFFに反応するものは7機ほど、
その他の機影は20を越える大部隊。

 先ほど私達が落とした敵機は、ただの陽動部隊に過ぎなかったのだ。



 敵は二手に分かれ、レーダー上に2つの集まりを作り出していた。

 その位置の示すところは、沿岸部の石油精製・備蓄施設と、
やや離れた場所にある洋上の油田採掘施設。

 エイギル艦隊の動力源となっているここを攻撃する事で、
我々の侵攻を遅らせるのがISAFの目的であったのだ。



 Oriko
<< 黄4は私に続け。残りは洋上、採掘施設の援護へ >>

 Kirika
<< 黄4、了解 >>
127 : [saga]:2011/07/24(日) 16:47:14.72 ID:WZnnFayQ0

 Oriko
<< 黄13より全機、ISAF機を始末しろ >>

http://www.youtube.com/watch?v=M8RwnByNE_s
128 : [saga]:2011/07/24(日) 16:47:50.32 ID:WZnnFayQ0

 YELLOW
<< 了解。撃墜します >>



 織莉子の操るSu-37は、速度を最大まで引き出して
敵機の群れへと迫る。

 私もそれを追いかける。

2機で10機ほどの相手に突っ込む無謀にも思える行動。



 しかし、私達には負ける気などはない。

 これまで勝利を重ねてきた私達の愛機と。
そして勝利を掴み取ってきた自分達の腕への信頼。

 

 やがて視界に見え出す、地上施設が上げる炎。

 そしてレーダーに映る、仕事を終えて帰ろうとする敵機。

 その最初の3機の群れを、私達は捉えていた。


 Oriko
<< ロックオン。黄13、FOX2 >>
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/24(日) 16:48:15.88 ID:IhGTuWGr0
これ魔法少女とクロスにする必要なくね?
普通にエスコン04の話書けよ。
130 : [saga]:2011/07/24(日) 16:48:29.40 ID:WZnnFayQ0

 織莉子にはミサイルがまだ残されているが、
私の乗機には1発しか残っていない。

 彼女は2発のミサイルを放った。

 残る1機は私の仕事だ。



 私はアフターバーナーを吹かしたまま、
レーダー画面を見つめる。

 炎上するタンクが眼下を流れてゆく。

 やがて1機のF-16が私の視界に入っていた。



 逃げろ、とでも指示をされたのだろうか。

 彼らがこちらに向かってくる事はなく、
皆が一目散に逃げようとしていた。



 敵機を真正面に捉えるべく、
スロットルとエアブレーキを調節しスピードを絞る。

 そして足元でラダーを忙しく踏みながら、射軸を合わせる。
131 : [saga]:2011/07/24(日) 16:48:56.71 ID:WZnnFayQ0

 今だ。

 私がトリガーを引くと、夜空を引き裂く曳光弾が前方に流れる。

 それはそのまま正面にいたF-16の翼を切り裂き、
敵機は2つの破片となって地上の火葬へと向かって行く。



 その戦果に満足する私が次の獲物を見つける前に、
私のコクピットに警告音が鳴り出す。



 Oriko
<< 黄4、ミサイル!ブレイク! >>



 闇を切り裂き、こちら目掛けて飛んでくる炎の筋。

 それはかなりの遠距離から放たれたものであり、
この機体の旋回性能を持ってすれば、新兵が操っていても回避できそうなものであった。
132 : [saga]:2011/07/24(日) 16:49:28.10 ID:WZnnFayQ0

 レーダー画面上には、1機だけスピードを落として
旋回をしていた敵機の姿。

 こちらに向けてミサイルを放ったのはコイツだろう。

 今更になって私達に背を向けたから、速度が出ていないのだ。



 次の獲物を決めた私は、その光点へ向けて速度を上げる。

 織莉子の機影は、また別の光点の群れへと目掛けて
急速に速度を上げていた。



 そして見えてきた機体は、今日一日で出会ったどの戦闘機よりも
旧式なF-4戦闘機。

 薄い太陽の光に照らされて、はっきりと私の目にも見えた。

 その垂直尾翼に黄色いメビウスのリボンが描かれている事を。



 その勇気だけは賞賛に値するものであろう。

 自分を犠牲に仲間を逃がそうという行為を、勇気と言えるのであれば。
133 : [saga]:2011/07/24(日) 16:49:58.21 ID:WZnnFayQ0

 Kirika
<< 黄4、FOX2 >>



 機体に最後の重荷が外される振動が伝わる。

 ほとんど真後ろに近い位置から放ったミサイル。
おそらく外れる事はないだろう。



 ”リボン付き”は一瞬だけ機体を上向きにし、フレアーを撒く。

 そしてすぐに機首を下方の海面へと向け、ぐんぐん降下をかけていた。



 理想的なフレアーの撒き方だ、と私は感心する。

 機の位置と欺瞞の位置とを直角に置くことで、
ミサイルはその欺瞞に騙されやすくなる。

 案の定、私の放った弾頭はゆるやかに上昇を行っていた。



 仕方ない、付き合ってやるか。

 私は機銃のトリガーに指を置きながら、
その格闘戦においては天と地ほどの性能差があるF-4を追いかける。
134 : [saga]:2011/07/24(日) 16:50:24.84 ID:WZnnFayQ0

 鈍い。

 海面へと迫る”リボン付き”を見て、私の敵へと向ける感想はそれだった。

 やがて海面近くまで辿りついた敵機は、水平飛行に移る。



 そこで私は再度、この敵機に対して感心させられる。

 すぐ下方が海であるため、私はこの敵機に対して
推力を活かした通り抜けながらの射撃が行えない。

 私はヤツの後方につき、嫌でも水平旋回戦を行うしかないのだ。

 そのような敵の思惑に乗せられて。



 私のSu-37も、水面近くで水平飛行に移る。

 さすがの私も、この暗闇の海へ向けて
降下攻撃を行う度胸はなかった。

 それに、Su-37の空力特性とエンジンパワーを持ってすれば
水平での戦闘においても一方的な勝利が得られる。

 私はそう確信していた。
135 : [saga]:2011/07/24(日) 16:50:55.21 ID:WZnnFayQ0

 スロットルを少し押し込み、速度を上げる。
燃料が気になるために、アフターバーナーは使わない。

 それでも、バーナー全開に見える敵機との距離は
縮まりつつあった。



 右ラダーを踏み続け、射線の中へ敵を捉える。

 貰った。

 そう思った私がトリガーを引く直前に。



 前方の敵機が、フレアーを機体の後方から撒く。

 その輝きは一瞬の目くらましにしかならないが、
目視照準による機銃攻撃を行おうとしていた私には効果絶大であった。

 

 セコい真似を。

 そう思った時には、敵機は僅かに上昇をしていた。

 それに追従すべく私が操縦桿を引くと、
今度は”リボン付き”がゆるやかな降下を行う。



 眼下に広がる真っ黒な海面に曳光弾を飲み込ませながら。
136 : [saga]:2011/07/24(日) 16:51:33.20 ID:WZnnFayQ0

 その水飛沫は高く跳ね上げられ、
敵を追いかけていた私のキャノピーに水滴が舞う。

 イライラする。

 だが、そう私に思わせるだけの効果をそれは上げていたのだ。



 Oriko
<< 黄13、こちらは燃料の限界だ。各機状況を知らせろ >>

 YELLOW
<< 黄9、同じく。これ以上の継戦は不可能 >>

 Oriko
<< 黄13より全機、戦闘を止めて撤収せよ >>

 Kirika
<< ちょっと待って!コイツだけでも… >>

 Oriko
<< 繰り返す。戦闘を止めて撤収せよ >>



 Kirika
<< …黄4、了解 >>



 北へ向けてバーナーを炊き続ける敵機を眺めながら、
私は唇を噛んで操縦桿を引く。

 

 やがて編隊の5機は合流し、ここから近くに配置された
味方空中給油機の光点を目指してゆっくりと進み始めていた。
137 : [saga]:2011/07/24(日) 16:52:05.46 ID:WZnnFayQ0

 Oriko
<< あなたが獲物を逃がすなんて珍しいわね >>

 Kirika
<< 敵機はセコい奴だったよ >>

 YELLOW
<< お前から逃げるなんてなかなかの腕前じゃないか? >>

 Kirika
<< そんな大したもんでもないよ。その、あれだ。些細だ >>

 YELLOW
<< そういう事にしておくか >>



 コケにされたようで腹立たしい気分ではあったが、
寮機の言う通り、敵はなかなかの腕前を持っていた。

 もしも性能が同じ機体に乗っていたのであれば、
私達ともいい勝負をするパイロットかもしれない。



 再び出会う事があれば、最優先でヤツは潰しておくべきだ。

 朝日が昇り始めたこの空の中、私はその思いを胸の中に刻み込んでいた。
138 :1 M5はここで終わり [saga]:2011/07/24(日) 16:53:02.71 ID:WZnnFayQ0



139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/25(月) 01:26:20.91 ID:hCwIa7lDO
ちょっと
コンビナート行ってくる

      /|
    _/⌒)A
  _//三///\_
 ∠__‖‖//___>
- - -∠◎◎_> + - -
ニ +-/////iニ - ニ +-
_三___三_三_三
////////////////////
140 :1 AAレスに何故か吹いた [saga]:2011/07/25(月) 19:50:12.04 ID:TlIe6TM/0



141 : [saga]:2011/07/25(月) 19:51:08.25 ID:TlIe6TM/0

−−− 佐倉杏子の手記より −−−

 魔法少女と会った人達は、様々な反応を示す。

 常識を超える存在に対して恐怖を抱き、距離を置く者。
あの手この手の嫌がらせをし、アパートや職場といった
自分の世界から排除しようとする者。

 私が魔法少女だと言う事は、私が軍属となった時点で
あっという間に知れ渡っていた。人の噂は千里を走る、というものだ。

 TVでは華々しく活躍を紹介される魔法少女。
実質のところ、その存在に希望を持つのは小さな子供だけ。

 私とさやかが兵舎に居ない時に使っていたアパート。
玄関のドアに書かれた沢山の罵倒のメッセージからも、
その事実が理解できる。



 そして、隣の部屋に住んでいた小さな男の子からも。

 彼だけは私が見てきた中で、私達に対して偏見を持たない
純粋な子供だった。

 彼がよく残念がっていたのを思い出す。

 僕は男だから、お姉ちゃんみたいに魔法少女になれない、と。



 そんな彼は、私が戦闘機に乗っている時の話を聞くのが
大のお気に入りであった。

 男の子らしく、戦艦や戦車といったものに興味があったのだろう。

 そして、彼はよく自慢していた。

 僕のお兄ちゃんはジオフォンに乗っているんだよ、と。



 エルジア海軍の誇る正規空母。

 それに乗る兄の話をする彼の目は、とても輝いていた。
142 : [saga]:2011/07/25(月) 19:51:43.08 ID:TlIe6TM/0

DATE >
1200 / 1123 / 2004

AREA >
Comberth Harbor

http://www.youtube.com/watch?v=YVBJ43vzLTQ
143 : [saga]:2011/07/25(月) 19:52:20.80 ID:TlIe6TM/0

 少し曇りがちな空を、私のSu-35は全速で飛ぶ。

 スクランブル。

 基地内の兵舎にて待機していた私達にその報せが届いたのは
ほんの30分前のことであった。



 コンベース港へのISAF航空隊からの奇襲作戦。

 またしても、軍のお偉方は戦局を見誤った。



 ほんの4日前に行われた、石油コンビナートへの攻撃。

 それはエルジア軍の貴重な500万バレルの備蓄と、
その施設が1日に生み出していた25万バレルの採掘量を
粉々に打ち砕いてしまっていた。

 にも関わらず。

 ”黄色中隊”がISAF空軍に大打撃を与えた報告を受け、
私達のボスはこう考えてしまったのだ。



 ISAFによる大規模な活動は当面は見られないであろう。
144 : [saga]:2011/07/25(月) 19:52:49.04 ID:TlIe6TM/0

 その結果がこのざまだ。

 港の上空を守るものは、今は空母ジオフォンの艦載機しかいない。

 コンベース港の西に存在する航空基地を飛び立ったのも、
私達を含めて8機の編隊でしかない。

 なにしろ、燃料が不足していたのだ。

 全力出動でこれなのである。



 さらに憂慮すべき事態として、お偉方は”黄色中隊”を
2日前には彼らの所属するサンサルバシオンに戻してしまっていた。

 大規模な活動とやらは当面見られないであろう、という
楽観的な観測に基づいて。

 

 対して、コンベース上空を示すレーダー画面には、
こちらのIFFに反応しない光点が30以上。

 これだけの攻勢を行う余力が、ISAFには残っていたのだ。
145 : [saga]:2011/07/25(月) 19:53:15.57 ID:TlIe6TM/0

 Kyoko
<< 紫1より2へ、とにかく敵の攻撃機を叩くぞ >>

 Sayaka
<< 紫2、了解。背中を取られないようにね >>

 Kyoko
<< そうしたら振り切ってやるさ >>



 やがて遠くの空に黒煙の帯が見え出す。

 港より先に見えたそれが示すこと。

 

 すでにISAFの攻撃は、港湾施設にダメージを与えている証拠であった。

 場合によっては、そこに停泊していたエイギル艦隊にも。
146 : [saga]:2011/07/25(月) 19:53:42.91 ID:TlIe6TM/0

 FLEET
<< 港湾施設も壊滅的なダメージを受けています >>

 FRIEND
<< だめだ、味方機がほとんど上がっていない >>

 FLEET
<< 全速でこの海域から離れろ! >>



 味方からの切迫した状況が伝わる無線通信。

 それを聞いている間に、私のコクピットは
ロックオンされている事を知らせる警告音が響き出す。



 港の上空で私達を待ち構えていたもの。

 それは4機編隊からなるF-14と、彼らの長距離ミサイルによる歓迎であった。
147 : [saga]:2011/07/25(月) 19:54:08.19 ID:TlIe6TM/0

 Kyoko
<< ミサイル接近!ブレイク! >>

 Sayaka
<< 了解!ブレイク、ブレイク! >>



 固まって飛んでいた私達の8機編隊は散り散りに回避を行う。

 まずするべき事はチャフの散布。

 そして、続いての回避運動。

 命中精度こそ低い長距離ミサイルではあるが、
真っ直ぐ飛び続けていたのでは食らってしまう。

 そのためにアフターバーナーを切り、やや速度を落としながらも
私は乗機の操縦桿を強引に引いていた。



 Su-35の翼がきしむ感覚。

 だが、この複合素材で作られた翼は
ちょっとやそっとではもげてしまう事はない。

 長くこの機に乗っていたからこそ、この機の性能の限界まで
私達は引き出す事が出来るのだ。

 上向きのピッチを30度ほどに抑え、そのままの角度で上昇を続ける。
148 : [saga]:2011/07/25(月) 19:54:39.56 ID:TlIe6TM/0

 上昇する私達のSu-35の下方を、敵から放たれた炎の槍が通過する。
その間に私は機首を少し下ろし、逆にロックオンを果たしていた。



 Kyoko
<< 左から2つを狙う、撃ったらそのまま抜けろ。FOX3! >>

 Sayaka
<< 了解!紫2、FOX3! >>



 長距離ミサイルはF-14の専売特許ではない。

 こちらも積んでいた同等のミサイルを、敵に向けて送り込む。



 トリガーを押すと同時に、するりと伸びてゆく炎の筋。

 さやかの機体から発射されたものと、合わせて4本の航跡。
149 : [saga]:2011/07/25(月) 19:55:06.62 ID:TlIe6TM/0

 目論見通り、今度は敵が回避を強要される番となった。

 そして、相対距離は今回の方が近い。



 私達の発射したミサイルのうち、さやかの1発が敵に命中する。

 その爆発を私は目視によって確認する事が出来ていた。

 続けて見えたものは、その可変翼の角度を広げ、
旋回機動を行っているF-14。

 狙えそうだ。



 そう考えた私は、操縦桿を力任せに引く。

 このSu-35は”行きたい場所へ行ける”素晴らしい戦闘機だった。



 逃げ回る3機の敵のうち、1機がコクピットをこちらに向けるかたちで
旋回している様子が見える。

 それが私の獲物。
150 : [saga]:2011/07/25(月) 19:55:39.37 ID:TlIe6TM/0

 Sayaka
<< 紫2、FOX2! >>



 隣ではさやかのSu-35から噴煙が伸びる。

 彼女もまた、残った敵機への攻撃のチャンスを
わざわざ無駄にはしたくなかったのであろう。

 私も同じ考えを持っていた。ただし、これから待ち受ける敵の数から
ミサイルを温存し、機銃による撃破を考えていたという違いはあるが。



 速度の乗ったSu-35はぐんぐん獲物に近づく。

 そのコクピットにレティクルが収まり、私はトリガーを引く。



 音と破片の様子から命中弾を浴びせた自信はあったものの、
火を噴かないまま飛び続けるF-14の後方を私は通り過ぎる。
151 : [saga]:2011/07/25(月) 19:56:05.99 ID:TlIe6TM/0

 Kyoko
<< このまま突っ切るぞ! >>

 Sayaka
<< わかってる! >>



 F-14をいくら落としたところで、艦隊護衛という目的は果たせない。

 彼らは地上への攻撃手段を持たない、純粋な戦闘機であるからだ。

 それを理解している私達は、全速でこの空戦から抜け出す。
後方に付かれないように、レーダーを確認しながら。



 私が機銃弾を浴びせた敵機を示す光点が消える。

 さやかの放った短距離ミサイルは外れてしまっていたが、
行きがけの駄賃に2機撃墜なら上出来だ。

 私達の後方から追ってきていた味方機が、
残されたF-14との空戦に入り出すのを見る。

 そして私は前方の光景に意識を集中させる。
152 : [saga]:2011/07/25(月) 19:56:34.21 ID:TlIe6TM/0

 いくつもの黒煙の筋が地上から空へと上っていた。

 その出所は、燃料タンクやクレーンといった港湾施設。

 そして、近くに停泊していた艦船。



 FLEET
<< だめです、火が消せません! >>

 FLEET
<< 動けん船に乗っていても無駄だ。退避しろ >>



 無線に入り続けている声は、おおむねがそのような内容。

 停泊していた船のほとんどが、水兵を陸に上げてしまっていたのであろう。

 

 そしてまた一つ、遠くの施設に爆発が起きる。



 FLEET
<< 総員退艦せよ。総員退艦せよ! >>

 FLEET
<< 艦尾に浸水! >>

 FLEET
<< 旗艦タナガーは港を脱出したそうです >>
153 : [saga]:2011/07/25(月) 19:57:46.79 ID:TlIe6TM/0

 錯綜する無線通信の中に、唯一の希望の声が混じる。

 レーダー画面には溢れんばかりの敵機ばかりであったが
確かに港から沖合いへ向けて航行する艦船の姿も確認できた。

 IFFの反応には、その鈍足な6つの光点が示す艦船名が表示される。

 旗艦タナガー、空母ジオフォン。その護衛をする4隻の巡洋艦。



 そして彼らを逃がさんとする勢いで、雲霞のごとく集まるISAF機。

 彼らの群れの中に、味方機はもうわずかに4機しか残されていなかった。



 Kyoko
<< 脱出できた船の援護だ。行くぞ >>

 Sayaka
<< でも… >>

 Sayaka
<< いや、了解 >>



 さやかの言いたい事は分かっていた。

 私は今、どちらの命が重いのかの決断を下した。



 まだ港に停泊したまま、身動きの取れない艦船に乗る命と。

 脱出できた、戦術戦略的価値の高い艦船の命とで。
154 : [saga]:2011/07/25(月) 19:58:13.65 ID:TlIe6TM/0

 FLEET
<< 上空敵機多数!上空敵機多数! >>

 FLEET
<< こちら巡洋艦フェンリス、傾斜が止まりません! >>

 FLEET
<< あきらめるな。最後まで努力しろ! >>



 まだごま粒ほどにしか見えない艦隊は、どの船からも黒煙を吐いていた。

 原子力推進の船から出るその煙。

 それは被弾をしていた証拠でもあった。



 幸いな事に、船はまだ浮いている。

 その上空に群がる敵機に食われてしまわなければ。



 Kyoko
<< 手当たり次第にやるぞ!紫1、FOX3! >>

 Sayaka
<< 紫2、FOX3! >>
155 : [saga]:2011/07/25(月) 19:58:43.63 ID:TlIe6TM/0

 レーダーで確認した限りでは、その場にいたIASF機は13機。

 私達を含めて、護衛戦闘機の数は6。



 どれを落とそうなどと選んでいる場合ではない。

 目に入るものを全て落とすつもりで戦う。



 私とさやかの発射した4発の長距離ミサイルは、
全て敵に回避されていた。

 ミサイルを追うように敵に接近を続けるも、
敵側もこちらが来るのを待ち構えている。

 その証拠が、コクピットに響くロックオン警告音。



 相対するF/A-18から炎の筋が伸びる。

 正面から迫るそれを回避するために、
私はフレアーを撒いて操縦桿を引く。



 敵も変わらずこちらに直進して来ていた。

 正面から迫ったミサイルを避けたところで、
私からお返しのプレゼントをお見舞いする。
156 : [saga]:2011/07/25(月) 19:59:09.58 ID:TlIe6TM/0

 両機は接近しすぎていた。

 私は自分の放ったミサイルの破片から逃れるために、
操縦桿をさらに強く引く。



 機体を揺るがす爆風と、キャノピー越しに伝わる振動。

 爆音と共に、私がマークしていた敵機の光点は消えていた。



 Sayaka
<< 紫1、ミサイル!ブレイク! >>

 Kyoko
<< くそっ! >>



 いつまでたっても鳴り止まないロックオン警告音。

 いくら腕に自信があったとはいえ、いくら焦っていたとはいえ。

 考えもなしに敵中に飛び込んだのはまずかった。
157 : [saga]:2011/07/25(月) 19:59:40.61 ID:TlIe6TM/0

 操縦桿を倒し、それから再び引き上げる。

 左旋回を続けていた私のSu-35は、その機体をくるりと半回転させて
右旋回に入り出す。そこでフレアーを放つ。



 後方に流れてゆくミサイルを示す光点。

 だが、敵機は変わらず私の尻に食らいついてきていた。



 少なくても2方向から、私は狙われている。

 そのような状況下、私が旋回できる方向は限られすぎていた。



 Sayaka
<< 紫1、そのまま真っ直ぐ飛んで! >>



 操縦桿への力を緩める。

 後ろの敵は、さやかが何とかしてくれる。
158 : [saga]:2011/07/25(月) 20:00:10.07 ID:TlIe6TM/0

 警告音が鳴り響くコクピット内で、それが鳴り止むのをじりじりと待つ。



 Sayaka
<< 紫2、FOX2! >>



 レーダーから確認していた、背後の敵機が旋回する様子が見える。

 敵は私に向けていた機首を、回避行動のために逸らしたのだ。



 私は周囲に目をまわし、こちらに向かってくる敵機へと向かうように
操縦桿を操作する。



 Sayaka
<< ホーネット撃墜!敵が多すぎるよ! >>

 Kyoko
<< アタシらがやらなきゃなんねーんだよ! >>



 F/A-18が曳光弾をばら撒きながら、私の機を通り過ぎる。

 その照準は甘く、機銃弾は私のSu-35のはるか上方を通り過ぎていた。
159 : [saga]:2011/07/25(月) 20:00:40.28 ID:TlIe6TM/0

 ロックオン警告音が鳴り止む。

 今のうちなら、敵機は誰も私を狙っていない。

 どの敵機から片付けるか、レーダー画面をじっと睨む。



 そこで気付いた、高速で迫る4機編隊。

 IFFに反応しないそれは、高度200ftという低空を
艦隊目掛けてまっすぐに飛んでいた。



 Kyoko
<< さやか!3時方向、高度200!最優先だ! >>

 Sayaka
<< 見えている! >>
160 : [saga]:2011/07/25(月) 20:01:11.14 ID:TlIe6TM/0

 機首を下方に向けようと思った瞬間に、
私の正面の少し離れたところで旋回をするF/A-18が見える。

 もう近距離ミサイルが3発しか残っていないのだが。

 急降下をかけている最中に、こいつに背を取られたら困る。



 そう考え、敵機に向けて1発を放り込む。

 それの行く先を見届けずに、私は機をひねりこませ、
ほぼ真下を向く角度で急降下を始めていた。



 視界には艦隊に高速で接近する4機編隊。

 F-4が2機とF/A18が2機ずつ。

 それが通過するであろう地点へ向けて、ぐんぐんと海面に近づく私。



 私達と敵機との角度は、見たまま直角ではあったが。

 攻撃を止められればそれで十分。



 2機のF/A-18へ向けて、1発ずつのミサイルを私は送り込む。
161 : [saga]:2011/07/25(月) 20:01:40.43 ID:TlIe6TM/0

 撃たれた事に気付いたF/A-18は、それぞれが逆方向に旋回していた。

 彼らの攻撃の意図を挫く事には成功した。

 残りは2機。



 海面が近づくにつれ、スロットルを絞りエアブレーキを開く。

 F-4の片方しか狙えない。

 2機のうち、先を飛んでいるF-4に狙いを定める。



 ここだ。

 操縦桿をやや引きながら、私はトリガーを引く。



 曳光弾は眼前に居たF-4の破片を散らし、
確かな手ごたえを感じさせてくれていた。

 だが、なおも黒煙を引きながらその敵機は艦隊を目指し続ける。



 浅かったらしい。だが、次で終わりだ。
162 : [saga]:2011/07/25(月) 20:02:13.01 ID:TlIe6TM/0

 海面に向けて垂直に降りていた私は、操縦桿を引きながら降下したために
今では海面から水平に飛んでいた。

 眼前には黒煙を上げながら飛び続けるF-4、その左後ろにもう1機。

 煙を引いている方からトドメを刺そう。

 じっと見つめれば、そのダメージを与えた事を示す煙の向こう側に
敵機の両翼に描かれたマーキングが見える。



 黄色のリボン。どこかで見かけた敵機。



 どこでだったろう。

 どちらにしろ、眼前の”リボン付き”の命はここで終わる。



 Sayaka
<< 紫1、6時方向! >>



 私の意識はその声によって別方向へ向けられる。
163 : [saga]:2011/07/25(月) 20:02:49.84 ID:TlIe6TM/0

 いつの間にか鳴り響いていたロックオン警告音。

 先ほど私が放った2発のミサイルは、完全に裏目に出てしまう。



 回避行動を終えて、再び艦隊を目指そうとしていた
2機のF/A-18は、今は私の背後についていたのだ。



 Sayaka
<< ミサイル!ブレイク!杏子! >>



 畜生。

 フレアーをばらまき、操縦桿を引く。



 私が機首を上向きにする前に、前方を飛んでいた”リボン付き”も
同じように機首を上に向けるのが見えていた。

 

 その動作が示す意味。

 

 自由落下爆弾の飛距離を伸ばすために取る行動。
164 : [saga]:2011/07/25(月) 20:03:34.40 ID:TlIe6TM/0

 背後から撃たれたミサイルを探すのと。

 そして逃がしてしまった”リボン付き”の動向を見届けるために、
私はコクピット内で首を回していた。



 まず見えたものは、戦艦タナガーの中央部に生まれた2つの爆発。

 そして、敵機の飛行経路の直線状にあった空母ジオフォン。



 そして、私の後方を通り過ぎるミサイル。

 せめて、攻撃してきたF/A-18だけでも落とさないと。



 私は機を旋回させ続け、再び艦隊を目指す敵機の背後に付く。

 彼らの背後には、すでにさやかのSu-35が付いていた。
165 : [saga]:2011/07/25(月) 20:04:11.80 ID:TlIe6TM/0

 Sayaka
<< 紫2、FOX2! >>



 私が狙っていない方へ向けて、ミサイルを示す光点は
レーダー画面上を走る。

 私は敵機を完全に正面に捉え、曳光弾を送り込み続けた。



 海面に生まれた2つの花火。

 彼らが爆弾を積んでいたのか、対艦ミサイルを積んでいたのかは
分からないが、少なくても艦隊への脅威を2つ排除できた。

 そうしてほっと一息付く間もなく、視界に入っていた巡洋艦へ向けて
1機のF/A-18が降下をかけるのが見える。
166 : [saga]:2011/07/25(月) 20:04:58.76 ID:TlIe6TM/0

 敵の数が多すぎた。

 戦う前から、私達の敗北は決まっていたのだ。



 その敵機が下方へ向けて炎の矢を放ち、
旋回をかけて水平飛行に移る。

 矢の刺さった巡洋艦の艦橋は吹き飛び、
戦闘艦を燃えたまま洋上を浮かぶ物体へと変化させていた。



 Sayaka
<< ミサイル残弾0 >>

 Kyoko
<< アタシもだ。やれるところまで… >>



 周囲にどれだけの敵機が残っているのか、
それを確認するために首を回す。

 そうして目に入ってきたもの。

 それはエイギル艦隊の誇る空母ジオフォンの変わり果てた姿であった。
167 : [saga]:2011/07/25(月) 20:05:34.35 ID:TlIe6TM/0

 空母ジオフォンの飛行甲板が炎に包まれている。

 どんどん斜めに傾くそれは、甲板上に待機していたMIG-29K艦載機を
ずるずると押し出し、海へ向けて投げ込んでいた。

 それだけならばまだいい。

 暖かい地方とはいえ、もうすぐ12月を迎える海の中へ向けて
人間が次々と飛び込む。

 次々と甲板上で起きる爆発に、乗組員はダメージコントロールを諦めたのだ。



 私はその光景から目を離せない。

 喉元あたりまで、胃の内容物がこみあげる感覚を覚える。



 Sayaka
<< 杏子、杏子… >>



 涙声で何かを訴えるさやかの声。

 それを聞いた私は、さやかを探そうと空母から目を逸らす。



 その空母の先に見えたものは、さらに凄絶な光景。
168 : [saga]:2011/07/25(月) 20:06:23.40 ID:TlIe6TM/0

 船体を支える竜骨が折れてしまったのか。

 戦艦タナガーの巨体は、その中央部で綺麗に割れて
二つの浮島となってしまっていた。



 私がそれを目にした時には、二つに割れたタナガーは
重量の軽い船の先頭部と最後尾をそれぞれ天に向け、
船の中心部から眼下に広がる海へと飲まれ始めていた。

 そこに作られる二つの渦。



 そして、もはや垂直に立っている船からこぼれ落ちる黒い粒。

 手足をじたばたさせながら、落ちてゆく小人達。



 目を逸らす。

 だが、しっかりとそれは私の脳裏に焼き付けられて。

 

 もう耐えられなかった。

 ヘルメットを急いで脱ぎ、射出座席に備えられているサバイバルキットを開く。

 そこにあったビニール袋に、私は全てをぶちまける。
169 : [saga]:2011/07/25(月) 20:06:51.02 ID:TlIe6TM/0

 それからの戦闘の様子は、あまり記憶に残っていない。



 自らの作り出した悪臭の漂うコクピットの中で、
ただスロットルを操作し、ただ操縦桿を引く。

 

 逃げる敵と追う私。

 追われる私と迫る敵。



 何度となく繰り返されるそのやりとりの中で、
ようやく私の耳に無線機からの指示が届く。



 AWACS
<< こちら管制機ネボグラズ。ISAFは撤退を始めた >>

 AWACS
<< 全機撤収せよ >>
170 : [saga]:2011/07/25(月) 20:07:31.18 ID:TlIe6TM/0

 気付けば、あれだけ居た敵機の存在もまばらであった。

 生き残った私達も帰り支度を始める。



 Kyoko
<< 紫1より紫2、生きてるか? >>

 Sayaka
<< 紫2、これよりそちらに合流する >>



 その声を聞いて少しだけ落ち着けた私は、
その場に留まり旋回を行う。

 眼下の海面には燃える残骸しか残されていない。



 どれだけの人間があそこに浮かんでいるのだろう。

 どれだけの人間が海の中に沈んでしまったのだろう。
171 : [saga]:2011/07/25(月) 20:08:05.94 ID:TlIe6TM/0

 すぐに私達は合流を果たし、進路を西へ取る。

 そこには、負け戦から逃げ出す戦闘機達が
続々と集まって来ていた。



 誰一人として口を開かない。

 喋る事など、何もないから。



 ジオフォンに乗っていたあの子の兄は無事だったのだろうか。

 1パイロットでしかない私が、海軍兵の生死について
照会を得る手段はあるのだろうか。

 何にせよ、基地に戻ったら真っ先に尋ねよう。

 誰に尋ねるのだろう。まずはそこから、誰かに尋ねよう。



 そう考えていた私に、友軍機からの声が届く。
172 : [saga]:2011/07/25(月) 20:08:42.40 ID:TlIe6TM/0

 FRIEND
<< おい、無線の共用周波数… >>

http://www.youtube.com/watch?v=bqaBtjdFQZ8
173 : [saga]:2011/07/25(月) 20:09:14.41 ID:TlIe6TM/0

 FRIEND
<< あいつら… >>

 FRIEND
<< 歌ってやがる… >>



 同僚達のくぐもった声が無線から入る。

 私は感情を抑えきれずに、計器板を殴りつけていた。

 何度も。

 何度も。



 Kyoko
<< 畜生共っ!! >>

 Sayaka
<< 杏子、落ち着いて… >>

 Kyoko
<< アンタは平気なのかよ!こんな… >>



 Kyoko
<< こんなの… >>



 Sayaka
<< ごめん… >>
174 : [saga]:2011/07/25(月) 20:09:48.56 ID:TlIe6TM/0

 さやかの声を聞いて、胸がちくりと痛む。

 八つ当たりをした自分が見苦しいとも分かっていた。

 しかし、謝るつもりにはなれない。

 この怒りをどこに向ければいいと言うのだ。



 FRIEND
<< みんな、今日という日を忘れるな >>

 FRIEND
<< 奴らは行動の代償を払わなければならない >>

 Kyoko
<< 必ず償わせてやる >>







 これほどまでに敵を憎いと思った事はなかった。

 奴らにとっては、人殺しは鼻歌混じりで行う事なのか。



 友軍機から伝えられるまでもなく。

 私は今日という日を忘れないだろう。
175 :1 M6はここで終わり [saga]:2011/07/25(月) 20:10:21.43 ID:TlIe6TM/0



176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2011/07/25(月) 20:37:15.05 ID:4ilHe25Co
やっぱ話が暗くなるね、負けまくりの戦いだからしょうがないが
にしてもメビウスいつまでF-4に乗っている…、もうF-16とかミラージュに乗れたはず
貧乏か
177 : [saga sage]:2011/07/25(月) 23:34:26.03 ID:TlIe6TM/0
>>176
負け戦スキーなもので…
いつまでもF-4な理由について、今後も描写しそうにないのでここで弁明します。
メビウスの乗機をあまりコロコロ変えると読者が混乱しないかな、というのが1つ。
M4-M6と海沿いの戦闘空域であるために、空母から発艦して来たと考えた方が熱いじゃないか!
という脳内設定がもう1つです。さて、次のミッソンの場所は…
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/26(火) 02:48:11.81 ID:T8cXas+DO
「これでも、負け続ける戦いは得意でね!」
こいつらは最後に勝てたけど・・・
次は調子こいてポイント稼いでたらスクラップにされた思い出
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/07/26(火) 14:17:42.31 ID:TMFJ+JMl0
心理状況などが地の文にこまかく書かれていていいですね!

自分にもその文章力を分けて欲しい・・・
180 :1 応援サンクスよ〜 [saga]:2011/07/26(火) 19:35:36.68 ID:XT3bWjlE0



181 : [saga]:2011/07/26(火) 19:36:13.97 ID:XT3bWjlE0

−−− 暁美ほむらの手記より −−−

 小惑星ユリシーズの落着による被害規模は
核弾頭200万発分にも及ぶと概算されていた。

 その衝撃は地球を灰で覆い尽くす”核の冬”の到来すら予想されていたのだ。

 地球規模に及ぶ未曾有の危機を防ぐために、
世界各国は団結し、取りえるだけのあらゆる対策を施そうとした。

 しかし当時の人類は、地球に迫るその大型隕石を
破壊させるだけの手段を持ち合わせてはいなかったのだ。



 そんな混乱の隙を突くように始まった、遠いオーシア大陸でのベルカ戦争。

 世界に先駆けて魔法の力を科学によって解明したベルカ公国は
魔力を対空砲に転用した施設である"エクスキャリバー”を実戦に投入させていた。

 しかしベルカ公国は敗北し、戦勝国はその技術を接収する。

 そうする事で、人類はユリシーズに対抗する手段を得る事が出来たのだ。



 ここユージア大陸でも、その技術を用いての隕石迎撃砲の建設が開始された。

 それがSTN計画である。

 しかしながら、航空機を撃墜するための存在であった”エクスキャリバー”とは違い、
STN計画は大規模な隕石を迎撃することを目標としていた。



 そのために計画は難航していた。

 巨大な質量を破壊するだけの魔力をどのように集めるのか。

 連日のように科学者達が頭を悩ませ、そして無為に時間が過ぎてゆく。



 彼らの疑問への回答は、一つしかなかった。
182 : [saga]:2011/07/26(火) 19:36:55.72 ID:XT3bWjlE0

DATE >
1640 / 1216 / 2004

AREA >
Faith Park

http://www.youtube.com/watch?v=Ttfo5Bj3y6E
183 : [saga]:2011/07/26(火) 19:37:30.95 ID:XT3bWjlE0

 夕焼けが私の目に染みる。

 眼下には太陽光発電所施設のソーラーパネルが、
日の光を反射させてきらめいている。



 破壊されたリグリー飛行場から西へ数百kmほど離れた、
フェイス・パーク地方に存在していたこの発電所。

 近隣に存在するエルジア軍需工場へ供給される電力は、
その大部分をこの太陽光発電所にて作られていた。

 その上空警戒が現在の私の任務。



 現在のエルジア空軍は、大幅な改編の只中にあった。

 3週間前に発生した、コンベース港での大敗北。

 虎の子のエイギル艦隊を失ったエルジア軍には、
敵の本拠地を叩き潰すだけの戦力が残されていなかったのだ。

 ついに歴戦のパイロット達が各戦線に送り込まれ、
前線には彼らの操るSu-27戦闘機が舞い踊る。
184 : [saga]:2011/07/26(火) 19:38:47.13 ID:XT3bWjlE0

 彼らを護衛に付けての大規模な戦略爆撃。

 それが現在のエルジア軍にとって唯一の、
ISAF本拠地ノースポイントを陥落させる手段。

 そのための改編は、当然の事ながらすんなりとは進まない。

 長い準備期間をかけ、リグリー飛行場で失った爆撃機の穴を埋め。
それから行われる予定の作戦ではあった。

 

 こちらの準備期間中に、ISAFは黙ってそれを見逃すだろうか。

 その答えに対して、エルジア軍の上層部から末端に至るまで
Noの返答を返していた。

 彼らが講和に応じないという事。

 それは彼らが断固として大陸を取り戻そうとする意思の表れでもある。



 そのために、私はこのエルジア軍需工場への送電の大半をまかなう、
この重要な施設の上空警護にあたっていた。
185 : [saga]:2011/07/26(火) 19:41:23.14 ID:XT3bWjlE0

 仮にISAFが来たところで、私達は彼らを返り討ちに出来る。

 そう私が考える根拠は2つある。

 私と一部の新兵が乗っているのはMIG-29であるが、
周囲を飛ぶ味方機のほとんどがSu-27であった。

 根拠の1つ目が、エルジア空軍戦闘機のハイ・ローミックスのうち、
ハイの機体がそこら中にいたためと。

 そして2つ目、何より大きい理由が、この発電所施設が
”ストーンヘンジ”の砲撃圏内ギリギリに存在していたという事。



 この大陸からエルジア軍がISAFを追い出す事が出来たのは、
ストーンヘンジの砲撃により完全な制空権を得ることに成功したからなのだ。

 彼らがやってきたところで、私達は勝利を約束されている。

 隕石を撃ち落す目的で作られた対空砲は、
航空機に対してもその絶大な威力を発揮していたのである。

 私達には勝利の女神のように扱われるストーンヘンジ。

 それは私にとっては、女神そのものでもあった。
186 : [saga]:2011/07/26(火) 19:42:15.82 ID:XT3bWjlE0

 AWACS
<< こちら管制機ネボグラズ。接近中の敵機10を確認。方位0-4-5 >>

 FRIEND
<< ここにISAFが来たってのか?何かの間違いだろう >>

 AWACS
<< 残念ながら事実だ。発電所施設を守りきれ >>



 AWACS
<< これからストーンヘンジの砲撃要請を行う。以上 >>

 FRIEND
<< 赤1、了解 >>

 FRIEND
<< 青5、了解 >>

 Homura
<< 黒1、了解 >>



 了解の意思を返し、彼らは空中で編隊を組み
発電所を背に東進を始める。

 SU-27が8機、それに付いて行くMIG-29が私を含めて5機。

 私には組む編隊がいないため、こういう時は楽が出来るのだが。
187 : [saga]:2011/07/26(火) 19:42:46.32 ID:XT3bWjlE0

 そのまま敵を捉えられる位置まで移動するのかと考えていたが
Su-27で構成される”赤”編隊は旋回を始める。



 FRIEND
<< 赤1より各機、この辺りで敵を待ち伏せる >>

 FRIEND
<< フルクラムのひよっこ共、俺達から1マイル後方に下がれ >>

 FRIEND
<< こちら青7、俺達だって… >>

 FRIEND
<< 敵を落とす事ばかり考えるな。発電所を守るのが俺達の仕事だ >> 



 FRIEND
<< 青5、了解。みんな下がるぞ >>



 私も旋回する”青”編隊について行く。

 ベテラン達が前方に壁を作り、
そこから漏れて来た敵は私達の管轄となる。



 経験者達が即席で作り出した作戦であった。
188 : [saga]:2011/07/26(火) 19:43:20.74 ID:XT3bWjlE0

 FRIEND
<< 赤1より各機。レーダーに捉えた。交戦開始 >>

 FRIEND
<< 赤4、交戦開始 >>



 彼らは旋回を止めて、再び東へと機首を向ける。

 私達は旋回を続けたまま、その様子を見送る。



 それから時を置いて、無線機から戦闘を知らせる声が聞こえだす。



 FRIEND
<< 敵機視認。ファントム、イーグル、ファルコンの混成部隊 >>

 FRIEND
<< レーダーロック。赤8、FOX2 >>

 FRIEND
<< 赤4、FOX2 >>
189 : [saga]:2011/07/26(火) 19:43:53.01 ID:XT3bWjlE0

 次々と聞こえるミサイル発射を知らせるコール。

 敵の機種を知らせる声の中にF-4が混じっていたのを
私は聞き逃さない。

 前回、私を散々な目に合わせた”リボン付き”。

 その黄色いメビウスの輪のエンブレムが私の脳裏をよぎる。



 FRIEND
<< 赤7、1機撃墜 >>

 FRIEND
<< 赤14、こっちも貰った >>

 FRIEND
<< うしろに敵だぞ!回避しろ! >>



 FRIEND
<< まずは弱い敵を落として数を減らせ。次はF-16からだ >>
190 : [saga]:2011/07/26(火) 19:44:19.79 ID:XT3bWjlE0

 迫り来るISAF機は、”赤”編隊のブロックにより阻まれていた。

 そしてあちらで起きている空中戦の様子を伺い知る事は出来ないが、
会話の内容を聞く限り、F-4は全てが落とされたように聞こえる。

 あの”リボン付き”もベテラン達にはかなわなかったのか。



 FRIEND
<< くそ、イーグルが何機か漏れた! >>



 レーダー光点には、ドッグファイトを抜け出して
こちらに迫り来る4機の光点。

 その背後に付く、ベテラン達の駆るSu-27。

 そして、またその背後に付く敵の光点。

 数珠繋ぎになっていた彼らはミサイルを放ち、
そして思い思いの方向へと散らばってゆく。
191 : [saga]:2011/07/26(火) 19:44:45.31 ID:XT3bWjlE0

 味方機のいくつかと、迫り来る4つの敵機を示す光点のうち1つが消える。

 残った3機はこちら目掛けて、速度を上げながら向かって来ていた。



 Homura
<< 黒1、交戦開始 >>



 私につられるように、続々と繋げられる”青”編隊からの交戦開始のサイン。

 迫り来る敵機に狙いを付けると同時に、
敵からのロックオンを知らせる警告音がコクピットに届く。



 Homura
<< 黒1、FOX2 >>



 素早くFCSの制御を行い、1発目を発射した後に
ロックオンの対象を切り替えて、2機目の敵を狙う。

 私がミサイルを放つと同時に、敵からも炎の筋が伸びだす。

 フレアーを撒き、私は操縦桿をぐっと引く。
192 : [saga]:2011/07/26(火) 19:45:16.95 ID:XT3bWjlE0

 FRIEND
<< 青8、FOX2! >>



 彼らが狙った敵を確認する余裕などはない。
だが、私の狙っていない最後の1機を狙い撃ったのであろう。



 私からのミサイルは旋回を続ける2機のF-15には届かず。

 そして彼らから送り返されたミサイルも私には届かなかった。

 旋回戦に備え、私はスロットルを絞り込む。

 眼前のF-15は、操縦桿を引きすぎたために
最初の進路からほぼ90度近い角度を取っていた。

 その背中に食らい付くために、私は速度を落とし。

 そして目論見通りに、敵へと食らい付く事が出来ていた。
193 : [saga]:2011/07/26(火) 19:45:49.28 ID:XT3bWjlE0

 F-15の双発の丸いエンジン径がハッキリと見える。
そのくらい、私達は接近していた。

 間違いなく当たる確信を持って、機銃のトリガーを引く。

 その瞬間に聞こえたかと思えるくらいの爆音が、
前方のF-15から聞こえていた。



 慌てて操縦桿を引く。

 運が悪ければ、爆発する敵機に私は飲み込まれていたかもしれない。

 だが、燃える火の玉と化したF-15は私とは逆に、
どんどん高度を下げていた。

 落ちていく前に見たF-15の翼。

 そこにはミサイルではない物体が搭載されているのを私は見逃さない。

 それが誘導型なのか、自由落下爆弾なのかまでは判別が付かなかったが
敵機は対地攻撃を行えるF-15Eであり、その目的もハッキリとしていた。

 ここで撃ち落せなければ、私達の作戦は失敗に終わる。
194 : [saga]:2011/07/26(火) 19:46:23.05 ID:XT3bWjlE0

 レーダーをちらりと見る。

 ”青”編隊の4機は1機がすでに失われ、
敵の光点1つを取り囲んでいる。

 だらしがない。4対1で何をしているのか。

 だが、それの手助けをする事は出来ない。

 私の背後に、もう1機の光点が付きつつあったからである。

 私は操縦桿を思い切り引き、機体を垂直に上昇させる。

 バックミラーには、後ろに付いてくるF-15の姿。

 それに狙い撃たれては元もないので、コクピットの上を向けば
地面が見える程度になるまで、さらに機体に角度を付ける。



 そこで機体のエアブレーキを開き、急速に速度を殺す。

 もともとスロットルを絞っていたために、上昇により失速気味だったMIG-29は
さらに速度を失い、地上へ向けて降下を始める。
195 : [saga]:2011/07/26(火) 19:47:07.72 ID:XT3bWjlE0

 以前に”リボン付き”に見せてもらった技。

 今回は残念ながら敵を狙い撃つまでは至らなかったが、
上昇を続ける敵機と降下を始めた私と。

 真後ろを取られていた不利を、一瞬で振り出しに戻した事に私は満足する。
196 : [saga]:2011/07/26(火) 19:47:34.82 ID:XT3bWjlE0

 速度を出しすぎないように旋回を続ける私。

 上昇したままインメルマンターンの形をとり、
反転する敵機。

 ここで私達はヘッドオンの状況となった。



 ロックオンは間に合わない。

 トリガーを引き絞り、閃光弾の流れを生みながら
操縦桿とラダーの操作を行う。

 撃ちながら狙おう、そう考えていたのだ。



 その狙いは私にとって幸いであった。

 敵機のコクピットに命中したと思われる機銃弾は、
F-15の風防を内側から赤く染める。



 煙も吐かないその敵機は、旋回をやめたと思えば
地上へ向けてそのまま突き進んで行った。
197 : [saga]:2011/07/26(火) 19:48:01.54 ID:XT3bWjlE0

 Homura
<< イーグル2機撃墜 >>

 FRIEND
<< 誰か、助けてくれ! >>



 気付けば”青”編隊を示す光点は1つを残すのみ。

 そして、その背後に付く敵の光点。

 彼らは1機のF-15に全て落とされようとしていた。



 スロットルを押し込み、アフターバーナーに火を入れる。

 速度が出てきたところで、レーダーに映る
敵が放ったミサイルの印。



 その光点は、レーダー画面上をゆくりと味方機へ向けて移動して…



 FRIEND
<< ちくしょう!やられた!煙で見えない! >>
198 : [saga]:2011/07/26(火) 19:48:38.20 ID:XT3bWjlE0

 無線から悲鳴を上げる新兵。

 その頃になって、味方を撃墜した最後のF-15を私は捉えていた。



 Homura
<< 黒1、FOX2 >>



 私の放ったミサイル、F-15、燃えるMIG-29の残骸。

 私の前方は、そのような順番で並んでいた。

 そして眼下には太陽光発電所のパネルが反射する光のきらめきも。



 敵機はフレアーを撒き、上方右側に旋回を行う。

 機敏な反応を見せたその敵機の翼に、あの見慣れたエンブレム。



 リボンが付いている。

 ヤツはその愛機をより上位のものにし、
自身のパイロットとしての腕を発揮させようとしていたのだ。
199 : [saga]:2011/07/26(火) 19:49:07.86 ID:XT3bWjlE0

 今回も私はヤツの背を取っている。

 しかし、どのような手段で”リボン付き”が私を攻撃してくるか、
今の私には見当も付かない。



 油断さえしなければやれるか。

 少なくても前回の空戦ではそうだった。



 私はスロットルを絞りながら、目の前の敵機を逃がさんと
ぐんぐん機体を旋回させる。

 ”リボン付き”はやがて右側への旋回をやめ、
F-15の翼をとにかく上昇させ出した。

 それに追従するために、私は絞ったスロットルを再び開き
アフターバーナーに点火をかける。



 垂直方向へ追いつ追われつの空中戦。

 私の機体からゆっくりと速度が失われてゆく。

 にも関わらず、縮まらない敵と私の距離。
200 : [saga]:2011/07/26(火) 19:49:44.13 ID:XT3bWjlE0

 まずい。

 

 私はせっかく取れていた”リボン付き”の背後という位置を手放し、
機体を左側に旋回させる。

 ヤツは明らかに狙っていた。

 その証拠が、空中で失速状態になりつつも
宙返りをしている”リボン付き”のF-15であった。



 その不意打ちを避ける事が出来た事に一瞬だけ安堵するが、
すぐに自分の追い込まれた立場を理解する。

 上昇をしている間は前方から順番に、敵、私と並んでいた位置関係。

 降下を始めつつあった今の私達の位置関係は、逆転していたのだ。



 バックミラーを見ながら、機を旋回させ続けて敵の動向を探る。

 しかし、私のコクピットにはロックオン警告音が鳴り出さない。
201 : [saga]:2011/07/26(火) 19:50:28.69 ID:XT3bWjlE0

 しまった。

 そう考えた時には、”リボン付き”はその翼にぶら下げていた
爆弾をひょいひょいと放り出す。

 ヤツが降下する先には、太陽光発電所のソーラーパネルの列。

 そして、発電所施設そのもの。



 もう爆弾を止める事は出来ない。

 それならばせめて。



 ”リボン付き”が爆弾投下のために急降下をしていた事で、
高度の位置関係は再び逆転していた。

 ヤツが下、私が上に。

 私は再び機を”リボン付き”の後方へ向かせて、
ヤツの背中を取る。
202 : [saga]:2011/07/26(火) 19:51:00.34 ID:XT3bWjlE0

 機銃弾のトリガーを引きながら、射線を敵へと向ける。
先ほども敵を葬ったやり方。

 その時ほどは上手く行かなかったが、”リボン付き”の翼を横切った曳光弾は
ヤツの機体から黒煙を噴かせる成果を上げていた。



 それに満足する暇もなく、地上の施設で続く激しい爆発。

 そして、今頃になって届く無線。



 AWACS
<< ネボグラズより各機、ストーンヘンジの発射態勢が整った >>

 AWACS
<< データを送信する。各機、砲撃の射線から離れろ >>

 FRIEND
<< くそっ、急だな!各機、戦闘を中止して離脱しろ! >>
203 : [saga]:2011/07/26(火) 19:51:32.80 ID:XT3bWjlE0

 AWACS
<< 初弾の弾着まで30秒 >>

http://www.youtube.com/watch?v=cc944kBDnmo
204 : [saga]:2011/07/26(火) 19:52:05.66 ID:XT3bWjlE0

 FRIEND
<< 逃げろ、赤9!逃げろ! >>

 AWACS
<< 以後、10秒ごとに連射される。各機、離脱を急げ! >>



 無線を聞く事に集中していたために、
前方を飛んでいた”リボン付き”は私の射線から抜けてゆく。

 だが、それを追従している時間はない。

 私はレーダーに表示された赤い線を避けるために、
速度を下げずに機のピッチを水平にし、ひたすら乗機を直進させる。



 AWACS
<< 初弾が発射された。弾着まで10秒 >>



 もうレーダーに映る味方機は、ほとんどが射線から逃れていた。

 私は倒し損ねた”リボン付き”の行方を目で追う。



 黒煙を引くそれは、このフェイスパーク地方の谷の中へと消えて行った。
205 : [saga]:2011/07/26(火) 19:53:24.57 ID:XT3bWjlE0

 あれは落ちていったのか?

 操縦不能になったのか?

 

 いくら待ってみてもその谷からは爆発の炎が見えない。



 まさか、と思ってその前方に目をやる。

 ヤツは飛んでいた。谷底を這うように。



 その操縦技術にも驚かされるが、敵の行動も迅速だ。

 敵側のAWACSから、高度を下げるように指示を受けたのであろう。



 そんな”リボン付き”を見つめている間に、背後から伸びて来る光の筋。

 桃色に輝くそれは、私から遥か前方の空で破裂する。

 耳を引き裂く炸裂音。

 光の矢は私の遥か前方で破裂し、そこに光の球を生み出す。

 半径200mほどを覆うそれは、隕石を打ち砕くための魔力の集合体。
206 : [saga]:2011/07/26(火) 19:54:38.99 ID:XT3bWjlE0

 私にとっては懐かしい、桃色の光。

 それが薄れてゆくにつれて、地面へ向かう2つの黒煙が目に入る。

 犠牲となったISAF航空機。あれにもパイロットが乗っていたはずだ。

 だが、あれに巻き込まれれば、落下傘で脱出しようと関係がない。

 呑み込まれた者には問答無用で死をもたらす輝き。



 私はその光に目を奪われていた。



 AWACS
<< 弾着まで10秒前 >>

 FRIEND
<< いつ見ても壮観だな >>

 AWACS
<< 5、4、3、2、1、弾着、今! >>



 再び前方の空を埋める、桃色の光。



 こんな形で力を使われる事を、あなたは悲しんでいるでしょう。

 そんなあなたの気持ちは、誰よりも私が理解している筈なのに。
207 : [saga]:2011/07/26(火) 19:55:21.87 ID:XT3bWjlE0

 それでもきっと、今の私は笑っている。

 私はこうしてあなたに会える事が嬉しくて仕方がない。

 たとえ、こんな機会しかなかったとしても。




 どれだけ嫌われてもいい。

 どれだけ蔑まれてもいい。



 いつかあなたに再会できる日まで、どれだけこの両手を血で染めたとしても。

 あなたを守るためなら、私は煉獄の底に閉じ込められても構わない。



 たった一人の、私の友達。



 耳を引き裂く音と共に、光弾が前方で炸裂する。
208 :1 M7はここで終わり [saga]:2011/07/26(火) 19:55:50.56 ID:XT3bWjlE0



209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/26(火) 21:01:28.20 ID:seNEDUrDO
乙、もしや貴方はほむら「ガングリフォン?」さんでは?
210 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2011/07/26(火) 21:41:30.91 ID:0lSlb0ayo
まさかのまどかinストーンヘンジ?
まどかはISAF側だと勝手に思ってたんでこの登場は意外だ
211 : [saga sage]:2011/07/26(火) 22:42:50.14 ID:XT3bWjlE0
>>209>>210どちらも正解。景品は描き忘れていたユージア大陸の地図で…
エルジア勢力圏とISAF勢力圏を色分けしてみました。
212 : [saga sage]:2011/07/26(火) 22:48:09.72 ID:XT3bWjlE0
描き忘れてたのでぽいっと。エルジア勢力圏とISAF勢力圏の色分けしてみました。


知らないよ。ヤークトパンターとかまた負け戦とか知らないよ。
213 : [saga sage]:2011/07/26(火) 22:49:39.02 ID:XT3bWjlE0
んまー更新したのに表示されなかった>>211が憎い…
お見苦しいところを見せて申し訳なし。
214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/27(水) 02:01:40.06 ID:l/68cXqDO
おつ、更新ペース早えーな
ピンク色の砲撃・・・この話見るまで魔法少女物ってこと忘れてたww
あと質問、この世界の戦闘機はミサイル100発格納したり気化爆弾10個ぶら下げられるマジカル☆戦闘機だったり?
215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/27(水) 05:17:20.38 ID:QvSVYwKIO
弾切れ描写有るからリアルタイプじゃないかな。
マニューバだけゲーム内級で。

……ところで、まどかもエルジアならつまりぼっちさん
216 : [saga sage]:2011/07/27(水) 19:24:10.50 ID:Rr7ZQVAF0
ザ・書き溜めパワー。>>1にとって設定みたいなものなので、手記だけは最後まで書いてたり。
戦闘機について、というかエスコン側でいじった設定を挙げます。
・戦闘機がミサイルを80発も積めない
・敵側の無線が例外を除いて聞こえない
・基本的にはエルジア航空機をロシア機、ISAF航空機をアメ機で統一
・言うまでもなくストーンヘンジ
リアルな戦争()を書きたかったからです。深い理由でもありません。
だいたい>>215の言ってる事で合ってます。

……ところでぼっちさんをマミとか呼んでる奴、あっちの円卓で鬼神が呼んでたよ。
217 : [saga]:2011/07/27(水) 19:28:05.58 ID:Rr7ZQVAF0



218 : [saga]:2011/07/27(水) 19:29:06.60 ID:Rr7ZQVAF0

−−− 呉キリカの手記より −−−

 不沈艦隊の敗北は、エルジア軍上層部に大きな衝撃を与えていた。

 ここに来てようやく、軍は焦りの色を隠そうともせずに
ユージア大陸からISAFを追い出すのに貢献した
歴戦のパイロット達を前線に投入する事を決めたのだ。

 しかし、その決定は遅すぎたと織莉子は批評する。

 こちらの新兵を生贄にして、ISAFのパイロット達は育ちつつある。
こちらの意図していた事が、そっくりそのまま敵の成果となっていたのだ。

 海を越えた場所にあるISAFの本拠地へ侵攻するための戦力を
エルジア軍が再度整備するには、決して短くはない時間がかかる。
その時間を、彼らはゆっくり待ってくれるのだろうか。

 

 これからは忙しくなりそうだと、織莉子は話していた。

 織莉子はこれまでにも、戦況の推移をたびたび予測していた。
以前には数ヶ月単位で未来を予測できた彼女の能力は失われていたが、
それにも増して彼女はとにかく頭が良かった。

 私は過去に、織莉子が持つ回転の良さの秘訣を尋ねたがある。

 父親を尊敬する彼女は、父親と同じ道を歩もうと政治家を志していたらしい。
だが、彼女がどれだけ勉強をし、どれだけの知識を得ようとも、
その道は魔法少女であるという理由だけで閉ざされていたのだ。

 織莉子が政治に関われるのは、政治の延長線上にある戦争だけ。



 そんな織莉子を守り続ける私。
何故かと問われると、曖昧な返事しか私は返せないのではあるが。

 自分で自分の存在理由を疑っていた私に空軍を紹介し、
自身の持つ戦術を徹底的に教えてくれた織莉子。

 死んでいた私は織莉子のおかげで生かされて、
そして織莉子のおかげで今日までの戦いを生き延びる事が出来ていた。

 ならば、私は死ぬまで織莉子を支えるのが道理だろう。
219 : [saga]:2011/07/27(水) 19:29:41.97 ID:Rr7ZQVAF0

DATE >
1335 / 1231 / 2004

AREA >
Comona Is.

http://www.youtube.com/watch?v=WUc0XIy-GuM
220 : [saga]:2011/07/27(水) 19:30:09.00 ID:Rr7ZQVAF0

 まばらに見える白い雲の塊。

 それ以外には、透き通る青空と眼下に広がる海。

 季節が季節でなければ、飛び込みたくなるような青さ。

 今の私達が飛ぶ空は、そのような情景であった。



 戦争が始まって以来、2度目となる年越し。

 それを私達の基地が存在するサンサルバシオンで迎えようとしていた時、
私達にもスクランブルの要請が出た。



 4年前のユリシーズ飛来の際に破壊され尽くした、
現在はISAFを形成している独立国家群の持っていた軍事衛星。

 今になって彼らは、それを打ち上げようとしていたのだ。

 それを察知したエルジア空軍は、12機からなる
Su-34とMIG-27の戦闘爆撃機の編隊を送り込んでいた。

 現在の私達が目指す、コモナ諸島へと向けて。
そこはコンベース港からさらに南下した洋上に浮かぶ、小さな島の集まりであった。
221 : [saga]:2011/07/27(水) 19:30:37.44 ID:Rr7ZQVAF0

 その編隊は、全機がISAF航空隊により撃墜される。

 それが今朝の出来事。

 彼らは30以上の戦闘機を持って守りを固め、
衛星打ち上げに対する姿勢をハッキリと示していたのだ。

 

 そのために増派されていた戦闘爆撃機は全機が道半ばで旋回待機。

 制空権の確保のために、代わりとなる制空戦闘機が続々と送り込まれていた。

 ISAFの打ち上げロケット基地を破壊するだけの目的。

 それを達成するために必要なものはどんどん膨れ上がり、
気付いた時には過去に例を見ない一大航空戦となっていた。



 その制空戦に参加するよう要請を受けて、私達は飛んでいる。

 眼前の空に見えつつあった、夥しい数の飛行機雲を見つめながら。
222 : [saga]:2011/07/27(水) 19:31:03.52 ID:Rr7ZQVAF0

 Oriko
<< そろそろ戦闘空域。各機、いつも通りに >>

 YELLOW
<< 黄7、了解 >>

 YELLOW
<< 一番落としたヤツに、みんなで新年を祝う酒を奢るってのはどうだ >>

 Oriko
<< その言葉、忘れるなよ >>

 Kirika
<< おいおい、賭けにならないじゃないか >>

 Oriko
<< そう思うのなら敵を落とす事に集中しろ。黄13、交戦開始 >>

 Kirika
<< はいはい。黄4、交戦開始 >>



 そうして私達は2組のグループに分かれて。

 空中の舞踏会へ参加するべく、私はスロットルを押し込む。
223 : [saga]:2011/07/27(水) 19:31:31.89 ID:Rr7ZQVAF0

 眼前の空中戦の様子に気を取られていたが、
気付けば海に浮かぶ島も見えていた。

 そこに近づくにつれて、細長く高い構造物が目に入る。

 あれがISAFの衛星打ち上げロケットの発射台だろう。



 機銃弾で破壊可能なものであろうか。

 一瞬だけ、そのような考えが浮かぶ。



 Oriko
<< 乱戦になっている。槍はここで捨てていくぞ >>

 Kirika
<< 黄4、了解 >>



 意識を空戦に戻させられ、長距離ミサイルのロックオンを行う。

 HUDに映るターゲットコンテナの密集する地点を探し出し、
4発の長距離ミサイルのロックが完了するのを私は待っていた。
224 : [saga]:2011/07/27(水) 19:31:59.25 ID:Rr7ZQVAF0

 Oriko
<< 黄13、FOX3 >>

 Kirika
<< 黄4、FOX3 >>

 ほぼ同時に行われるアクティブレーダー誘導弾の発射コール。

 Su-37の翼から一斉に離れる4発のミサイルは、
それぞれの目標へと向けて航跡を伸ばしてゆく。



 その命中結果よりも、気になるものが見えた。

 2機のF-14に追い回される1機のMIG-29。

 それは今の私達より低い高度で、追いつ追われつの旋回戦を繰り広げている。



 Kirika
<< 黄4、これより味方機の援護に向かう >>

 Oriko
<< 黄13、了解。お互いに離れすぎないように >>
225 : [saga]:2011/07/27(水) 19:32:26.50 ID:Rr7ZQVAF0

 降下をかけて速度を稼ぐ。

 彼らは視界の中にいるMIG-29しか見えていない様子で、
私がその背に付こうとしている事には気付いてもいなかった。

 片方には威嚇。

 もう片方は撃ち落そう。



 Kirika
<< 黄4、FOX2 >>



 こちらから距離の離れている方のF-14を狙い、ミサイルを放つ。

 スロットルは押し込んだまま、もう片方の敵機に私は急接近する。

 ミサイルに狙われた方のF-14は獲物狩りを途中で抜け出し、
そのまま急旋回を始めていた。

 対してもう片方のF-14は、数珠繋ぎの先頭に位置している
MIG-29が左旋回を始めたために、それに釣られて同じ方向へ機首を向け出す。

 おかげで私の射撃予定位置のあてが外れてしまい、
私はエアブレーキを開きながら敵機の旋回を追従しようとしていた。
226 : [saga]:2011/07/27(水) 19:32:53.69 ID:Rr7ZQVAF0

 不意に先頭を飛んでいたMIG-29がミサイルを放つ。

 その先には、別の味方機を追いかけている最中のF-15。

 炎の筋は見事に直撃し、炎の流星となったF-15は海面へと向かい出す。



 逃げながら攻撃を行い、撃墜するとは見事。

 私も負けてはいられない。

 機銃の射撃予測位置を示すレティクルが敵機を捉え、
私は射撃トリガーを引く。



 そして黒煙を上げ出すF-14。

 その1連射で仕留めきれずに、敵機は旋回を始めようとするが
その動作の直後にF-14の右翼はもげ落ちてしまう。
227 : [saga]:2011/07/27(水) 19:33:27.83 ID:Rr7ZQVAF0

 くるくるときりもみをかけながら落ちて行く敵機。



 Kirika
<< 黄4、1機撃墜 >>

 FRIEND
<< 黄色中隊だ!ヤツらが来ているぞ! >>

 FRIEND
<< 黄色中隊にばかりまかせていられないぞ >>



 騒々しい男達の歓喜の声の中で、一つだけ混じる女性パイロットの声。

 だから、そのような混線の中でも私は聞き取る事が出来た。



 Homura
<< 黒1より黄4へ、助かったわ >>

 Kirika
<< 何、君も大したものだったよ >>
228 : [saga]:2011/07/27(水) 19:34:07.02 ID:Rr7ZQVAF0

 翼端を黒く塗られた、助けたばかりのMIG-29。

 それは次の敵を求めて、そのまま敵機へ向けて
アフターバーナーに火を点けていた。



 Kirika
<< なかなかいい腕をしていたよ >>

 Oriko
<< 裏切り者を私の部隊に入れるつもりはない >>



 私が続けたかった言葉を遮るように、織莉子は通信に割り込む。

 それが”黒1”に聞こえているのも承知の上で。



 Oriko
<< 国を愛せない者が最後まで戦えるはずもない >>

 Kirika
<< はいはい、分かっているよ >>
229 : [saga]:2011/07/27(水) 19:34:40.01 ID:Rr7ZQVAF0

 私の価値観からすれば、妙なところで彼女は頑固だった。

 私としては、背中を預けられるだけの技量を持ってさえいれば
同じ空を飛ぶには十分過ぎるくらいなのではあるが。



 そのような事を考えながら、レーダーと周囲の空へ交互に目を向ける。

 360度、どこを向いても何かしらが飛んでいる。

 そこに私の注意を引く爆発の輝き。



 左前方、10時下方にて粉々に砕け散る味方のSu-27。

 その背後に付いていたのはF-15が1機。

 今度はこいつを撃ち落そう。

 そうして敵機を見つめた時に、私はそいつと再会した事を知る。
230 : [saga]:2011/07/27(水) 19:35:07.47 ID:Rr7ZQVAF0

 眼前のF-15に描かれた、黄色いリボンのエムブレム。

 前に会えたセコいヤツと同じもの。

 今日こそは叩き落してやる。



 私はスロットルを押し込み、操縦桿を力の限り引く。

 味方機を葬った”リボン付き”は、そのまま私に付かれまいと旋回を始め出していた。

 前回は逃げていくばかりの敵であったが、
今回は私の方へと向けて旋回をしている。

 やる気か。



 位置関係がお互いにヘッドオンになったところで、
私も敵機も同時にミサイルを翼から切り離す。

 そして同時にフレアーを撒きながら、回避行動を行う。

 私は右旋回。ヤツも右旋回。
231 : [saga]:2011/07/27(水) 19:35:36.75 ID:Rr7ZQVAF0

 お互いに離れて仕切りなおしたところで、
私は再び旋回を始める。

 旋回半径を小さくするために、スロットルを絞りながら。

 それは敵も同じ考えであったようで、”リボン付き”のF-15は
再び私とヘッドオンの状態で向き合う。



 そうして放たれる炎の筋。

 それを回避するために放たれる炎の塊。

 続く旋回、まるで先ほどの状況の再現であった。



 このままじゃ埒があかない。

 Su-37の機動性を活かして背後を取りたいが、
正面反攻戦を繰り返されては回避運動を強いられる。

 ならば、やってみるか。
232 : [saga]:2011/07/27(水) 19:36:14.37 ID:Rr7ZQVAF0

 そして速度を絞りながら旋回を行い、
また私は敵機と向き合う。

 だが、今度は敵がミサイルを放つのをじっと私は待っていた。



 前方からミサイルの噴炎が見え出す。

 私はフレアーを撒き、操縦桿を思い切り引く。



 空の中を上空へ向けて泳いだ私のSu-37は、またしても敵弾の回避に成功し。

 速度を出していなかった私の機体は、空の中で静止しているように見えたであろう。

 そして私からミサイルを放たれなかった事に安心した敵機は、
一直線に私を目掛けて飛んでくる。

 

 それを確認した私は機を垂直に立てたまま、FBWのスイッチを切り
アフターバーナーに点火する。

 そのまま操縦桿を引き続けると、コンピュータによって補正されなくなった機体が、
踏みっぱなしの右ラダーによってふらふらと空を滑り出す。

 機首は天を向いたままであるが、Su-37の自慢のエンジンは
垂直方向を向いている私の機を強引に空の中に留めていた。
233 : [saga]:2011/07/27(水) 19:36:51.78 ID:Rr7ZQVAF0

 危険ではあった。事実、通り過ぎる”リボン付き”の曳光弾が
機体の翼スレスレを飛んでいくのが見えていた。

 だが、私は敵からの攻撃を回避した。

 そして、通り過ぎていく敵機の姿も見えていた。



 そこで私はさらに操縦桿を引く。

 機体はよろよろと引っくり返り、コクピットの上面には海と島が見え出す。

 即座にFBWのスイッチを入れなおし、逆向きではあったが
水平飛行の形を取ったSu-37は機体の安定性を取り戻す。



 眼前には、その背を晒して旋回降下を始める”リボン付き”。

 食らい付いた。

 一度背を取ってしまえば、このSu-37の機動性とエンジンパワーなら
そう簡単には敵機を逃がしたりはしない。
234 : [saga]:2011/07/27(水) 19:37:20.63 ID:Rr7ZQVAF0

 こちらは速度をほぼ殺してしまったが、
即座にSu-37の双発エンジンがスピードを取り戻す。

 降下しながら速度を稼ぐ眼前の”リボン付き”。

 それは私から逃げるために行っている機動だと思い込んでいた。



 ヤツの進路方向に、私の愛機と同じペイントを施されたSu-37。

 即座にレーダーに映るIFFの照会を済ませて、私は警告を送る。



 Kirika
<< 黄3、6時上方! >>

 YELLOW
<< 何だと! >>



 警告は遅すぎた。

 別の敵機にも追われていた彼は、そちらに意識を取られていたのであろう。

 ”リボン付き”は曳光弾の筋をSu-37へと伸ばす。



 それが呑み込まれた先には、翼から破片を撒き散らし。

 そして煙を吐くSu-37の姿があった。
235 : [saga]:2011/07/27(水) 19:37:52.75 ID:Rr7ZQVAF0

 YELLOW
<< くそ、どいつにやられたんだ?今俺を撃った奴を確認してくれ >>



 彼は攻撃されながらも生き残り、こうして喋っている。

 それに対してトドメを刺されないよう、私は前方の”リボン付き”へ向けて
ミサイルを送り込んでいた。

 残念なことに、距離が開きすぎていたミサイルは
ヤツにとっては容易に回避が行えるものでしかなかったのだが。

 逃げ去る”リボン付き”のすぐ側で、別の機体が爆発している。

 黄3を追っていたと思われる、ISAFのF-14戦闘機であった。



 Oriko
<< リボンのエンブレムだ >>

 Kirika
<< 黄4より3、離脱できそう? >>

 YELLOW
<< 黄3より4、飛ぶだけなら行ける。空戦は無理だ >>

 Oriko
<< そちらの3機は互いをカバーしながら帰還しろ。私と黄4は… >>
236 : [saga]:2011/07/27(水) 19:38:24.70 ID:Rr7ZQVAF0

 AWACS
<< こちら管制機ネボグラズ、貴隊の状況は把握した >>

 AWACS
<< 黄色中隊、全機帰還せよ。これは上からの命令だ >>

 Kirika
<< ちょっと待ってくれよ。まだ弾も燃料も… >>

 AWACS
<< 無敵の黄色中隊が落とされたりなどしたら、全軍の士気に関わる問題となる >>

 Kirika
<< そんな理由で! >>

 Oriko
<< 黄13よりネボグラズ、了解した。全機撤収する >>



 彼女がそう決めた以上、私はそれに従わなければならない。

 私達は敵機をやり過ごし、白煙を吐きながら飛び続ける
黄3を囲うようにして編隊を組み始めていた。
237 : [saga]:2011/07/27(水) 19:38:58.34 ID:Rr7ZQVAF0

 YELLOW
<< すまん、こんな目に合っちまって >>

 Oriko
<< 戦果よりあなた達の命の方が大事。生き残れた事に感謝するのね >>

 YELLOW
<< ああ。黄4、13、お前らが敵を追っ払ってくれたおかげで助かった。ありがとよ >>

 Kirika
<< それなら今日は君の奢りだね >>

 YELLOW
<< へっ、文句も言えねえや >>



 またしても”リボン付き”を落とす事が出来なかった。

 そしてヤツの力量は、織莉子もその目で確認したはずだ。

 こうして強力な敵と出会った場合、織莉子は基地に戻ってから
敵の飛び方への論評を始める。



 そして、それに対抗し、撃ち落す方法も彼女は見つけ出す。

 次に会う時には、私達の黄色中隊は全力でヤツを潰すだろう。
238 : [saga]:2011/07/27(水) 19:39:36.62 ID:Rr7ZQVAF0

 洋上から飛び続け、大陸の岸が見え出した頃に
私達は6機のTu-22M爆撃機編隊とすれ違う。

 彼らの向かう先は、私達の居たところ。

 味方は制空権を握れたのであろうか。

 ISAFの偵察衛星の打ち上げを、彼らは阻止出来るのだろうか。



 私達を見た彼らは、何を考えたのだろうか。

 無敵の存在であった黄色中隊機が煙を吹いているのを見て、
彼らは不安に思ったりはしなかったであろうか。



 可変翼を後退させ、爆撃機とは思えないスマートな彼らの機体が
はるか後方に過ぎ去るまで、私はそれを目で追っていた。
239 : [saga]:2011/07/27(水) 19:40:15.39 ID:Rr7ZQVAF0

 基地に戻った私達が受けた報せは、
この作戦は戦術的にも戦略的にも失敗に終わった事であった。

 まず、衛星打ち上げの阻止が行えなかったこと。
これはいつか来るべき、ISAFの大陸上陸作戦を強力に支援するはずだ。

 そして、今回の制空戦において多大な損耗を出してしまった事。

 それは敵にも同じ事が言えるはずであったが、
彼らには国際社会が味方に付いているため、兵器の供給には困らない。

 対して私達は、つい先日にも軍需工場への送電施設が破壊されて
空軍への戦闘機の供給ペースがかなり落ちていた。



 迎えつつある新年。

 大半の時期は一方的な展開であった今年と違い、
来年は私達にとっても大きな苦労を伴う事になるであろう。



 嫌な事は飲んで忘れてしまうに限る。

 私は織莉子につづいて、その酒場の明るい室内へと入って行く。
240 :1 M8はここで終わり [saga]:2011/07/27(水) 19:40:41.97 ID:Rr7ZQVAF0



241 : [saga sage]:2011/07/27(水) 19:42:06.77 ID:Rr7ZQVAF0
戦況図 
242 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2011/07/27(水) 20:11:51.99 ID:bf1rD9Jfo

コモナは全シリーズ通して好きなステージ
ちょくちょく出てくる特殊機動がマニアック、織莉子が見せたのはコブラかな?
243 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/28(木) 00:29:12.12 ID:JIn4EVrDO
コブラからの90度クルビットでマミウス1の背後に回った?
244 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/28(木) 02:41:17.00 ID:1m6buwiDO
おつー、原作再現してるねぇ
ゲームでも黄色は被弾後に離脱してくし
オリコの機動がまだ現実的でよかった、イカみたいな変態機動で回避したらコメントに困るとこだったぜ
245 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/28(木) 14:11:28.90 ID:1ufXe5iIO
ヴィルコラクは許してやれよ……
246 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/28(木) 15:04:13.92 ID:01fi3BxIO
>>216
ぼっちさんマジマミ乙
おや、なんだか今日は南十字星が綺麗だなあ
247 : [saga sage]:2011/07/28(木) 19:29:23.60 ID:BrEMkxns0
マニューバの名前ググってみたけど見つからなかった。図解しようと思ったけど諦めた。
>>243のイメージで多分正解です。パイロット以外は。織莉子じゃなくてキリカだよ!
これらの機動はリアルじゃアレですけれど…これがなければ黄色じゃないと思って書きました。

ついでに>>242に触発されてToyBox行って来た。F-117に萌えた。
248 : [saga]:2011/07/28(木) 19:30:23.52 ID:BrEMkxns0



249 : [saga]:2011/07/28(木) 19:31:20.32 ID:BrEMkxns0

−−− 美樹さやかの手記より −−−

 久しぶりに昔の夢を見た。


 荒野を埋め尽くすように立ち並ぶテント。
少し高いところから見下ろすと、それは地平線まで続いていた。

 その隙間には、どこに行っても人、人、人。

 どこを向いても生気を無くした顔。
そして辺りに漂う悪臭、熱気。

 そこには食料の配給もろくに行われず、
医療品など持ってのほか。衛生観念などとは全く無縁の場所。



 それがエルジア国境にあった難民キャンプの情景であった。

 一回の配給が行われるたびに起きる暴動。
わずかな食料を奪い合う人間の姿。

 やろうと思えば、魔法少女の力を使って
その奪い合いを制する事も出来た。

 だが、そんな事をするために契約を交わした覚えはない。
それは一緒に居る杏子も同じ事であった。

 だから、杏子は私の手を引いてテントを一軒ずつまわる。

 食べ物を分けてくれませんか、と。

 罵声が返ってくるのは当たり前。
ひどい時には言葉もなしに、彼女はただ殴られる事さえあった。



 それでも、顔を腫らした杏子は私に笑ってこう言うのだ。

 気にするなよ。次に行こう。



 濡れている枕の感触。私は目を覚ましていた。
250 : [saga]:2011/07/28(木) 19:31:49.15 ID:BrEMkxns0

DATE >
1700 / 0124 / 2005

AREA >
Halle / Crowne / Caranda Beach

http://www.youtube.com/watch?v=GJf1X2r5TJo
251 : [saga]:2011/07/28(木) 19:32:18.79 ID:BrEMkxns0

 バチバチと音を立て、風防に雨が突き刺さる。

 時折混じる、稲光の音。

 時刻はまだ夕方ではあるが、辺りは一面が雲に覆われて
私の視界を遮っていた。



 大陸南端に位置する、その海岸へ向けて飛んでいた理由。

 ISAF総司令部にほど近い、大陸北東沿岸の守りを固めていたエルジアは
見事に裏をかかれてしまっていた。

 ついに彼らは、自分達の住んでいた大陸を取り戻しに来たのだ。

 エイギル艦隊が沈められた事により、
フリーハンドとなった海上戦力と航空戦力に援護されながら。
252 : [saga]:2011/07/28(木) 19:32:46.94 ID:BrEMkxns0

 FRIEND_G
<< こちらクラウンビーチ、第7防衛部隊指揮官のパヴェル中尉だ! >>

 FRIEND_G
<< ビーチに続々とISAFの飛行機が来る!話が違うぞ! >>

 HQ
<< こちら作戦本部。増援の航空機を送った >>

 HQ
<< 彼らが何とかする。海岸線を確保せよ >>

 FRIEND_G
<< わかった、努力する。パイロット達にリメンバー・コンベースと伝えてくれ。以上 >>



 Kyoko
<< 言われるまでもねえよ >>



 そう返事する杏子のSu-35には、彼女が始めて搭載する武器が積まれていた。

 基地を飛び立つ前に彼女が搭載する事を希望した、自由落下型の爆弾。

 敵の上陸作戦を阻止するための武器ではあるが…
253 : [saga]:2011/07/28(木) 19:33:15.82 ID:BrEMkxns0

 Sayaka
<< 紫2より、良かったの?爆弾なんて積んできて >>

 Kyoko
<< 心配すんな。必ず当ててやるからさ >>



 そのような意味で聞いたわけではなかった。

 杏子がそれを初めての実戦でも有効的に使えるだろうという事は、
彼女の持っている才能とシミュレーターによる結果からも判断が付いた。



 そんな事ではない。

 あの出来事から、杏子は急に刺々しくなった。

 今の彼女は、相手を殺す事を望んでいるようにすら思えていたのだ。



 私はいつも通りの、空対空ミサイルのみを搭載したSu-35に乗っている。

 この戦場には、味方の対地攻撃機も多数が投入されている事は
作戦開始前のブリーフィングからも聞かされていた。
254 : [saga]:2011/07/28(木) 19:33:49.14 ID:BrEMkxns0

 Kyoko
<< アタシが地上を狙う間の援護を頼む >>

 Sayaka
<< うん…でも… >>

 Kyoko
<< そもそもこの作戦の目的はISAFの上陸阻止だろう? >>



 Kyoko
<< 対空ミサイルしか積んでこないなんて、何考えてんだ >>

 Sayaka
<< 杏子! >>

 Kyoko
<< 悪い、言い過ぎた。謝るよ >>



 彼女はおそらく謝るつもりなどない。



 私が自分の手を汚す事が嫌だからという理由。

 自衛のために殺すのではなく、戦争に勝つために殺すのが嫌だからという理由。
 
 私は対地攻撃の任務を他人に押し付けているに過ぎない。

 以前は私と同じ気持ちであり、
それを知っている杏子からの本音だったのであろう。
255 : [saga]:2011/07/28(木) 19:34:17.72 ID:BrEMkxns0

 地上の様子は、そこが低い山になっている事を
かろうじて私に教えてくれている。

 そして、その終着点。平坦な地面が、その先に広がっている事も。



 海岸線には、様々な光が見えた。

 いくつもの照明弾の明かりに照らされるビーチ。

 地上から空へ向けて伸びる、夥しい数の曳光弾。

 上空では雲の中にちらほらと光が走るのが目に付く。

 それが空中戦による爆発なのか、稲光なのかまでは分からないが。



 ビーチ上空には、戦闘ヘリを含めた味方機達。

 そしてそれを追い落とさんと食らい付く、ISAF戦闘機の姿があった。

 互いの数はそれぞれ10機前後。

 その中へ向けて、私はスロットルを押し込み参加の意思を見せる。



 Kyoko
<< 紫1、交戦開始 >>

 Sayaka
<< 紫2、交戦開始 >>
256 : [saga]:2011/07/28(木) 19:34:50.65 ID:BrEMkxns0

 海岸の上空を舞う敵機達に対して、
長距離ミサイルのロックオンを終える。

 暗い空の中で、普段より一層輝いて見えるミサイルの噴炎。



 杏子はいつものように、そのミサイルを追うように
アフターバーナーの炎を輝かせ、敵へ向けて突進してゆく。

 その目標は、高度を取っている敵ではなく
地上に展開しつつあるISAFの上陸部隊を目指しているのは明らかであった。



 その動作には躊躇いなど見えず。

 杏子は空からの殺戮に、自ら加担しようとする意思を示していたのだ。
257 : [saga]:2011/07/28(木) 19:35:23.92 ID:BrEMkxns0

 私が放った4発の長距離ミサイルは、1発だけが敵機に吸い込まれて
それを示す光点をレーダー上から消し去る。

 そして撃たれた事に気付いた敵機のうち2機が、
私を目掛けて真っ直ぐ向かって来ることも確認できた。



 青空の中であれば、今頃は見えて来ているはずの敵機。

 相手の機種も分からないまま、私のSu-35に警告音が鳴り出す。



 対進状態で放たれた、敵からの炎の槍。
それと同時に私からも同様のものが打ち出される。



 照明弾かと見紛うほどの輝きを見せるフレアー。

 敵も味方も、それぞれの回避運動を始める。

 フレアーの輝きから生まれたシルエットにより、
向かってきた2機がF-15だと私はそこで理解していた。



 Kyoko
<< 上陸用舟艇、1隻撃沈 >>
258 : [saga]:2011/07/28(木) 19:35:56.32 ID:BrEMkxns0

 無線から聞こえる杏子の声。

 しかし、それについてあれこれ考えている暇はない。

 迫りつつあるミサイルと、1機のF-15のシルエット。

 敵味方のミサイル、それぞれがロックオンしていた目標から通り抜けて行く。



 私が回避のために旋回した方向に、そのF-15も同じ方向を目指していた。

 HUDに機関砲の射程内という事を示すレティクルが表示される。

 この暗い空は、私から距離感をも奪っていたのだ。



 レティクルと敵機が重なった時、私は反射的にトリガーを引く。

 曳光弾の光はF-15の影へと向けて一筋の列となり、
けたたましい金属音と黒く散らばる破片を私に見せる。

 敵機の翼に火が付くのを見て、私は操縦桿を倒して反対方向へ旋回を始めた。



 首を回してそれの行方を見るうちに、その敵機に付いた火が消える。
ダメージが浅く、消火装置がうまく機能したためであろうか。

 だが、それにより戦意を喪失したと思われる敵機は海へ向けて旋回を始め、
背をこちらに向けたまま進み出していた。
259 : [saga]:2011/07/28(木) 19:36:30.25 ID:BrEMkxns0

 戦えなくなった相手を殺すつもりもない。

 そして、残る1機のF-15の行方を探す。



 ロックオン警報。

 レーダー画面上には、私の左後方に映る機影。

 再びコクピットの中で首を回せば、おおよそ検討のついた地点から
こちらに向けて伸びる炎の筋が目に入る。

 下…はだめ。スピードがついたまま地面を向けば、そのまま墜落してしまう。

 ならば上。

 私はアフターバーナーに点火し、操縦桿を思い切り引いていた。
260 : [saga]:2011/07/28(木) 19:37:04.43 ID:BrEMkxns0

 Kyoko
<< 上陸用舟艇、追加で1隻撃沈 >>



 Kyoko
<< 歌う気分にはなれねえな >>
261 : [saga]:2011/07/28(木) 19:37:42.14 ID:BrEMkxns0

 もともと速度に乗っていたわけでもなく、
私は引きすぎた操縦桿を少しだけ倒す。

 私が放ったフレアーに騙されたミサイルは、
私のSu-35の後方を過ぎ去って行くのが見えていた。

 それからほとんど間を置かず、1機のF-15の影が
私の背後に食らい付くところも。



 雷光。



 それに照らされた敵機に施された、黄色いリボンのエンブレム。

 そして上昇を続ける私の機体へ向けて、放たれる曳光弾の矢。
262 : [saga]:2011/07/28(木) 19:38:14.62 ID:BrEMkxns0

 これが。

 殺される側の気分。



 怖い。

 怖い。



 あれだけ人を殺しておきながら、私は。

 こんな所で死にたくない。

 無我夢中で操縦桿を操作し、足元のラダーを蹴りまわす。
263 : [saga]:2011/07/28(木) 19:38:43.15 ID:BrEMkxns0

 FRIEND_G
<< こちら第7防衛部隊のパヴェル中尉、敵上陸部隊の第二波が接近中! >>

 FRIEND_G
<< このままだと俺達は包囲されちまう!何とかしてくれ! >>

 HQ
<< こちら作戦本部、増援のSu-24攻撃機を6機送った >>

 HQ
<< 彼らの到着まで持ち堪えてくれ >>

 FRIEND_G
<< 了解!お前ら、あと一踏ん張りだ! >>

 FRIEND_G
<< 敵を全滅させる必要はない。釘付けにするだけでいい >>

 FRIEND_G
<< ここの通行料は高いぞ! >>
264 : [saga]:2011/07/28(木) 19:39:13.67 ID:BrEMkxns0

 違う。

 助けて欲しいのは私だ。

 右側に、左側に流れる曳光弾の光。



 そして乗機を引き裂く金属音。

 どこにダメージを受けたのかまでは分からないが、
機体の油圧がどんどん下がりだす。

 操縦桿がずっしりと重くなり、魔法で強化された肉体でさえ
機体を意のままに操る事が難しくなっていた。



 Sayaka
<< 杏子! >>

 Sayaka
<< 助けて、杏子!! >>



 Kyoko
<< …少しだけ待っててくれ >>
265 : [saga]:2011/07/28(木) 19:40:15.11 ID:BrEMkxns0

 上昇を続けた先には、雲の上の世界。

 地上に吹き荒れていた嵐の様子とは打って変わり、
薄暗い空に夕焼けの光が私の目に刺さる。

 しつこく私を追い続ける”リボン付き”が放つ
曳光弾の輝きが、赤みを帯びた空に彩りを付けていた。



 Kyoko
<< 紫1より2、全部投下し終えた。今から向かう >>



 爆弾の投下。

 それが私の悲鳴よりも、今の杏子にとっては大事なもの。



 それでも、私を助けてくれるのは杏子しかいない。

 取りすぎた高度を下げて彼女が追いつきやすくするために、
私は力の限り操縦桿を倒し、機を急降下させる。



 あまりにも重い操縦桿。

 それで降下を行いつつバレルロールをかけるのは、大変な苦労を伴った。
266 : [saga]:2011/07/28(木) 19:40:43.78 ID:BrEMkxns0

 再び視界の悪い雲の中。

 今度は上方から打ち下ろされる”リボン付き”の曳光弾。



 Kyoko
<< 紫1、FOX2 >>



 その言葉のすぐ後に、眼前に見え出す炎の塊。

 それに当たるまいと、私は操縦桿を引き絞る。

 杏子の放ったミサイルは私のすぐ側まで迫り、
私の背に食らい付いていた”リボン付き”を目掛けて過ぎ去ってゆく。



 バックミラーを確認しても、背後の様子はまるで見えない。

 私はそのまま降下をかけながら速度を稼ぎ、
雲を抜けたあたりで操縦桿を引き、機体を水平に戻していた。
267 : [saga]:2011/07/28(木) 19:41:41.19 ID:BrEMkxns0

 レーダー画面に映る、私の後方から迫る光点。

 それを見て私はゾっとするが、IFFに反応するそれは
杏子の乗機のSu-35である事を示していた。



 Kyoko
<< 煙を吐いてるな。このまま飛べるか? >>

 Sayaka
<< 油圧系統が駄目になってるけど、なんとか >>

 Sayaka
<< …今の敵機は? >>

 Kyoko
<< 追いかけてくる様子がない。このまま基地まで送って行ってやるよ >>
268 : [saga]:2011/07/28(木) 19:42:12.74 ID:BrEMkxns0

 Sayaka
<< ごめん、足を引っ張って >>

 Kyoko
<< 気にすんなよ >>



 その言葉、その声のトーン。

 それを聞いた私は少しだけ胸を撫で下ろす。

 どれだけ変わったように見えても、杏子の本質的なところは変わっていない。

 まだ杏子は杏子のままであるように見えたのだ。

 

 それを確認出来ただけでも、私には嬉しい。
269 : [saga]:2011/07/28(木) 19:42:52.17 ID:BrEMkxns0

 並んで私達のSu-35は東を目指す。

 今回の出撃基地となった、ロスカナスの飛行場へ向けて。

 

 ビーチから離れた私達を追いかける敵機は居なかった。

 代わりに、ビーチへ向かう6機の味方光点に群がる
ISAFの航空機達。

 おそらく、彼らが増援のSu-24の編隊なのであろう。



 FRIEND
<< 命中した!海に落ちたぞ >>

 FRIEND
<< ちくしょう!食らった!だめだ! >>



 あえて速度の出ないようになっているその機体は、
その設計目的である対地攻撃に適したものではあった。

 それ故に、彼らは戦闘機に狙われればひとたまりもない。
270 : [saga]:2011/07/28(木) 19:43:28.26 ID:BrEMkxns0

 当然ながら、味方戦闘機も健闘してはいるのだろう。

 だが彼らは攻撃機の編隊を守りきれずにいた。

 ぽつり、ぽつりと消えてゆくSu-24の光点。



 空の戦闘だけではなく、地上の戦況も絶望的になっていた。



 FRIEND_G
<< また味方機が落とされたぞ! >>

 FRIEND_G
<< くそっ、トーチカが!上から攻められては手が出ない! >>

 FRIEND_G
<< 上空の味方機、かまわんから全弾ここに落としてくれ! >>



 戦闘機からのものとは決定的に違う無線通信。

 彼らの悲鳴は、銃撃音と爆音に混じっていたから。
271 : [saga]:2011/07/28(木) 19:44:53.99 ID:BrEMkxns0

 FRIEND_G
<< こちらクラウンビーチ!味方機がほとんど残っていない! >>

 HQ
<< …これ以上の増援は送りこめない >>

 FRIEND_G
<< 何だって!じゃあ俺達は… >>



 FRIEND_G
<< 火炎放射器だ!隣のトーチカがやられたぞ! >>

 FRIEND_G
<< くそ、機関銃を回せ!撃てるヤツなら誰でもいい! >>



 HQ
<< もうここは持ち堪えられないと司令部は判断した >>



 HQ
<< …作戦は失敗だ。全軍、撤退せよ >>

 HQ
<< 上空を飛んでいる機は撤退の援護をしろ。以上 >>
272 : [saga]:2011/07/28(木) 19:45:30.28 ID:BrEMkxns0

 一斉に無線に響く罵声の叫び声。

 そして時折混じる、すすり泣く声。



 彼らの努力、そして死。

 それらは全てが無駄な努力に終わってしまったのだ。

 ISAFは上陸作戦に成功し、私達が反撃部隊を掻き集める前に
この海岸線に橋頭堡を築き上げるであろう。



 無線では、本部の通信士と命令に従わない前線指揮官とで
激しい言い争いが繰り広げられている。



 劣勢になってもなお、こんな場所に留まろうと思えるのか。

 これが戦争なのか。
273 : [saga]:2011/07/28(木) 19:46:10.33 ID:BrEMkxns0

 HQ
<< クラウンビーチ、パヴェル中尉。聞こえているか?撤退せよ >>



 FRIEND_G
<< こちらユーリ軍曹。第7防衛部隊の指揮を引き継ぎました >>

 FRIEND_G
<< 俺達は包囲されています。もう撤退は不可能です >>



 HQ
<< …作戦本部、了解。貴官の判断で投降せよ >>

 FRIEND_G
<< 了解しました。指示に感謝… >>



 耳を引き裂く音。

 狭い室内に響くような、銃撃によって生み出された。

 いくつも重なって聞こえるその音が、
1丁や2丁の小銃から発生したものではない事くらい、理解できてしまう。
274 : [saga]:2011/07/28(木) 19:47:03.78 ID:BrEMkxns0

 HQ
<< ユーリ軍曹? >>



 彼の続きの言葉は無線に届かない。

 流れるものは早足の足音。



 やがて聞こえてきた言葉。



 ENEMY_G
<< 大陸を返して貰うぞ、クソ野郎共 >>



 最後に1発の銃声が聞こえたかと思えば、
無線から流れるものは空電の音だけ。



 防衛隊の新しい指揮官がどうなってしまったのか。

 想像もしたくない。
275 :1 M9はここで終わり [saga sage]:2011/07/28(木) 19:47:32.50 ID:BrEMkxns0



276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2011/07/28(木) 20:34:49.34 ID:yQp+RSOvo
( ^ω^)おっおっ
クラウンビーチの中尉だと…より悲惨なことになったし
杏子もなんかヤバげな感じががが
あと毎回メビウスと同型機に乗って撃墜されてる機体がいるけど、まさかね
277 :1 よくそこに気付いてくれた [saga]:2011/07/29(金) 19:27:10.49 ID:Aa1ma4k30



278 : [saga]:2011/07/29(金) 19:28:09.54 ID:Aa1ma4k30

−−− 佐倉杏子の手記より −−− 

 私達は前線の基地を転々とし、あのアパートへは帰れずに居た。

 それがせめてもの救いであった。

 私はあの子の前に、どのような顔を見せればいいのか。



 それを思うたびに、残されるものは怒り。

 一隻の駆逐艦、一隻の戦艦、一隻の空母。

 それらにどれだけの人間が乗っていたのかは、
不勉強なパイロットである私にはあまり良く分かっていない。

 もちろん、沈められた艦に乗っていた人員の
全員が死亡していたわけではないだろう。

 だが、あのコンベース港での戦死者数は
1300名を越えると発表されているのを私は知っていた。

 

 それだけの人間を殺しておきながら、奴らのした事。

 思い出したくもない、胸が焼かれるような感覚。



 奴らがそのように振舞うのであれば、私も躊躇わない。

 鼻歌を歌いながらミサイルを放ち。

 そして、冷たい水の中に沈んでいった数多の無念を晴らそう。



 それが仇を討ちたいという気持ちから来るものなのか。

 ただ奴らが憎いだけなのか。

 今の私には、その判断が付かない。
279 : [saga]:2011/07/29(金) 19:28:39.60 ID:Aa1ma4k30

DATE >
1415 / 0228 / 2005

AREA >
Tango Line

http://www.youtube.com/watch?v=4h_herdkh58
280 : [saga]:2011/07/29(金) 19:29:22.07 ID:Aa1ma4k30

 眼下に広がる一面の緑。

 ひたすら広大なジャングルの中にそびえ立つ、いくつもの切り立った岩山。

 雲の少ない青空の中、私はその光景を遠くまで見渡す事が出来る。

 上陸を果たしたISAFの進軍を止めるべく、彼らの上陸地点から
北西に位置するこの天然の要塞。

 岩山の上空に設置された飛行場から、戦闘機が飛び立つ姿を
私の目は捉えていた。



 このイスタス要塞は、ISAFの内陸への進撃を食い止めるための
タンゴ線と呼ばれる防衛ラインの軸となる場所であった。

 彼らが上陸してから1ヶ月、ひたすら上がり続ける私達の出撃ペース。

 始めのうちはどうしてそこまで、と考えていた。
だが、今の私はその答えをなんとなく想像している。

 それは、エルジアに航空機が足りないという事。

 コモナ諸島における制空戦の結果、
エルジア空軍はなかなか立ち直れないほどのダメージを受けてしまっていたのだ。
281 : [saga]:2011/07/29(金) 19:29:48.71 ID:Aa1ma4k30

 この1ヶ月の間、私達には攻撃命令が下される事もなく。

 こうして要所の哨戒飛行に駆り出され、
時折ちょっかいをかけにくるISAF機を何機か撃墜したのみであった。

 しかしながら、軍は空軍機の損耗を恐れていたのであろう。

 上陸したISAFを海に追い落とそうとは思わずに、
こうしてストーンヘンジの射程内に防衛線を張り、彼らを迎え撃とうとしていた。



 Homura
<< こちら黒1、お久しぶりね。紫編隊 >>



 その声と共に、こちらに近づく1機の光点。

 遠くの空に見えたそのMIG-29の姿を見て、
その乗機のパイロットが無線通信の主だという事を理解する。
282 : [saga]:2011/07/29(金) 19:30:17.74 ID:Aa1ma4k30

 Sayaka
<< こちら紫2、元気そうで良かったよ。フランカーには乗れそう? >>

 Homura
<< コモナでは何機も落としたわ。そのうちにあなた達にも追いつけそうよ >>

 Kyoko
<< んな事を自慢しに来たのか?作戦行動中だぞ >>

 Homura
<< …ごめんなさい。邪魔をしたわね >>

 Sayaka
<< こっちこそごめんね。最近、彼女ピリピリしてるの >>

 Homura
<< 紫1、何かあったの? >>

 Kyoko
<< うっせーな、何もねえよ >>
283 : [saga]:2011/07/29(金) 19:30:47.61 ID:Aa1ma4k30

 どいつもこいつも。

 ISAFが上陸を果たしておきながら、私達はじっと待たされるだけ。

 どうしてニコニコ笑っていられる。



 Homura
<< 哨戒地点に向かう途中だっただけだから。もう行くわ >>

 Sayaka
<< なんかごめんよ。また会おう、戦友! >>

 Homura
<< ええ、必ずまたどこかで >>



 腹を見せて離れ行くMIG-29。

 綺麗な青空の中で、翼端の黒いマーキングが印象に残る。
284 : [saga]:2011/07/29(金) 19:31:15.90 ID:Aa1ma4k30

 それから空を旋回し続ける私達を待っていたのは、退屈な時間。

 これなら、黒1を冷たくあしらわずに話を聞いてやっても良かったか。



 イライラする。

 敵を攻撃出来ない事にイラつくのか。

 嫌なヤツになっている自覚があるからイラつくのか。



 AWACS
<< ネボグラズより各機!敵の大編隊が接近中! >>

 AWACS
<< 機数36、方位1-3-5。ストーンヘンジに砲撃の要請を行う >>

 AWACS
<< 各機、砲撃に注意せよ。砲撃の射線はレーダーにリンクさせる。以上 >>

 Kyoko
<< やっと来てくれたか >>

 FRIEND
<< ここが落とされたらロスカナスは目の前だ >>

 FRIEND
<< 何としてもここで食い止めるぞ >>
285 : [saga]:2011/07/29(金) 19:31:44.34 ID:Aa1ma4k30

 AWACSが次々と出す指示に割り振られ、
上空で待機していた戦闘機達は各々の持ち場へと移動する。



 AWACS
<< …紫編隊、貴隊はVTOL機飛行場の上空援護を >>

 Kyoko
<< 紫1、了解 >>



 そこは私達のいる場所から、すでに見えている飛行場であった。

 岩山の山頂から地面に30mほどの穴を空け、それをコンクリートで補強する。

 そこは水平方向からの攻撃を受け付けない。

 ゴルフで言うホールインワンのように、
真上からの攻撃しか受け付けない天然の掩蔽壕であった。



 Kyoko
<< 紫1より2へ、指示は聞こえていたな。行くぞ >>

 Sayaka
<< 紫2、了解 >>
286 : [saga]:2011/07/29(金) 19:32:12.23 ID:Aa1ma4k30

 岩肌にいくつも空けられた蛸壺。

 その中に鎮座している、多数のMi-24戦闘ヘリと
Yak-141VTOL戦闘機。

 何機かは戦闘に参加するため、あるいは戦闘から退避するために
この穴の中から離陸して来てはいた。

 だが、その作業はスムーズに行えているとは言い難い。



 私がじれながらその様子を眺めているうちに、
南の空で始まった空中戦の様子が、いくつもの飛行機雲から見て取れる。

 その位置にあるものは、サイオン飛行場。

 私達のように他の基地から派遣されて来た戦闘機と、
そこから飛び立った要撃戦闘機が戦闘を始めていたのだ。
287 : [saga]:2011/07/29(金) 19:32:41.12 ID:Aa1ma4k30

 空中で起きる爆発。

 地上でも起きる爆発。

 レーダー上からは敵味方問わずに光点が消えてゆく。



 FRIEND
<< くそっ、抑えきれない! >>

 FRIEND
<< ストーンヘンジの砲撃はまだか >>

 FRIEND
<< 滑走路に敵機が向かっているぞ! >>



 そして見えた爆発。

 それが飛行場の滑走路への攻撃だったのかは、
今の私には分からない。

 ただ分かった事は、光点のうち8つがこちらへ高速で飛び続けている事。

 IFFに反応しない彼らの目的は、私達の守るVTOL基地であろう。
288 : [saga]:2011/07/29(金) 19:33:08.42 ID:Aa1ma4k30

 Kyoko
<< 紫1、交戦開始 >>

 Sayaka
<< 紫2、交戦開始 >>



 周囲には味方機が11機。

 Su-27で構成された”白”編隊と、基地から飛び立ったYak-141。

 彼らからも続々と交戦開始のコールが伝えられる。



 Kyoko
<< 撃ち落すより行動の阻害を優先しろ。アタシは手前の編隊を撃つ >>

 Sayaka
<< 了解、後ろの4機を狙うよ。紫2、FOX3 >>

 Kyoko
<< 紫1、FOX3 >>
289 : [saga]:2011/07/29(金) 19:33:47.59 ID:Aa1ma4k30

 私とさやかの機体から伸びる、8本の白い煙。

 矛でもあり盾にもなる長距離ミサイル。

 撃たれた以上、敵機は回避行動をせざるを得ない。

 そのために、彼らは私達へ機首を向ける事が出来ず、
ロックオンすらままならない状態となるのだ。



 それを知っているため、ミサイルを追うように真っ直ぐ飛び続ける私達。

 後方には、”白”編隊の4機も続いて来ていた。



 私の放ったミサイルを示す光点は、全て敵機をすり抜ける。

 さやかの方は1発が敵機に命中した様子で、残る敵機の数は7機。

 その様子は、前方の空に生まれた火の玉からも。

 そして散り散りに旋回を始め、飛行機雲を作り出していた
敵編隊の数からも確認する事が出来ていた。
290 : [saga]:2011/07/29(金) 19:34:19.25 ID:Aa1ma4k30

 Kyoko
<< 前に出る。背中を任せるよ >>

 Sayaka
<< 了解。突っ込みすぎないで >>



 F-15が4機、F/A-18が3機。

 手近なところで旋回を続けていたF-15の1機に私は狙いを定める。



 それはミサイルの回避を終えて、私達のやってきたVTOL基地へと
機首を向けるために旋回を続けていたのだ。

 その動作を見つめながら、これから放つミサイルが当たる確信を持つ。



 Kyoko
<< 紫1、FOX2 >>



 機が軽く揺れて、ミサイルは空中に躍り出る。

 旋回を終えつつある敵機のちょうど鼻の先へと目掛けて。

 あの機のパイロットはさぞ驚いているだろう。

 目的地を目指すつもりが、目の前に弾頭が置いてあるなどと。
291 : [saga]:2011/07/29(金) 19:34:51.19 ID:Aa1ma4k30

 Kyoko
<< 紫1、1機撃墜 >>

 Sayaka
<< イーグルが基地を目指してる >>



 F/A-18の3機に対しては、味方のSu-27が食らい付いていた。

 だがF-15の残り2機は、私が撃ち落したヤツと同じように
VTOL基地を目指して旋回を追え、速度を上げつつあった。

 通すつもりはない。

 スロットルを押し込み、アフターバーナーにも点火させて
私はその2機を追いかける

 それに気が付いたためなのか、2機は左右に分かれての旋回を始めていた。



 左から狙おう。

 特に理由もなく、私は操縦桿を倒してその敵を追従する。

 早く追いつけるよう、速度を上げたままで。
292 : [saga]:2011/07/29(金) 19:35:18.94 ID:Aa1ma4k30

 Sayaka
<< 杏子、速度警告!オーバーシュートする! >>



 何を馬鹿な。

 一瞬でもそう思ったのが、私の間違いだった。



 眼前の敵機はその背を私に晒したまま。

 問題となったのは、右側に旋回をしたもう片方のF-15。

 ヤツは速度を一時的に落とし、私を追い越させていたのだ。

 レーダーに、続いてバックミラーに目を向ける。



 食らい付く敵機の姿。

 その翼に描かれた、黄色いリボンのエンブレム。

 忘れもしない、タナガーとジオフォンを沈めた敵。



 私の乗機に、ロックオンを知らせる警告音が飛び込んで来ていた。

 だが、ヤツからのミサイルが撃ち込まれる事はなかった。

 速度をほとんど殺していないヤツは、機銃の射程に私を捉えていたからだ。
293 : [saga]:2011/07/29(金) 19:35:46.31 ID:Aa1ma4k30

 Kyoko
<< くそっ、後ろの敵を頼む! >>

 Sayaka
<< もう撃ち込んでいる! >>



 さやかの言葉は事実だった。

 背後に付いた”リボン付き”に向けて、さらにその後ろから
いくつもの炎の筋が伸びるのを私はバックミラーから確認していた。

 にも関わらず。

 ”リボン付き”の放つ曳光弾を避けるために、私は旋回を強要されている。

 そんな私に追従するように、ヤツも旋回を続けていた。

 その動作を利用しながらフレアーを撒き散らし、誘導弾を回避していたのだ。



 Kyoko
<< バケモノが…! >>

 AWACS
<< 各機、ストーンヘンジの砲撃弾着まであと30秒 >>
294 : [saga]:2011/07/29(金) 19:36:18.23 ID:Aa1ma4k30

 Sayaka
<< 杏子、逃げて! >>



 この忙しい時に。

 レーダー画面に映り出す、砲撃の射線を示す赤いライン。

 それはこのVTOL基地上空に向けて、
何本もの線を作り出していた。

 完全に私に対しての衝突コース。

 味方のはずのストーンヘンジが、
よりにもよって”リボン付き”と共同しながら私を追い詰めていたのだ。



 夢中で操縦桿を動かしまわす。

 そうしている間に、背後から途切れる曳光弾。



 バックミラーにもレーダーにも、私に食らい付いていた敵機の姿はなかった。
295 : [saga]:2011/07/29(金) 19:36:44.13 ID:Aa1ma4k30

 おかげで砲撃の射線から逃げる事が出来る。

 私はアフターバーナーに点火しながら、周囲の空に目をやっていた。

 どこに行った。



 AWACS
<< 弾着まで10秒。9,、8、7… >>



 カウントダウンを告げるAWACSの声。

 それと同時に私が見たものは、はるか上空で宙返りを終えていた”リボン付き”。



 ヤツはその機首を真下に向けて急降下をかけていた。

 その方向にあった、味方VTOL機の飛行場へ目掛けて。

 翼に搭載されていた荷物を投下させながら。



 AWACS
<< 4、3、2、1…弾着、今! >>
296 : [saga]:2011/07/29(金) 19:37:13.01 ID:Aa1ma4k30

 谷間を飛んでいる私の上空で、空が揺れる。

 桃色の炸裂弾が大気を振動させるのが、私のSu-37にも伝わる。



 いくつかの黒煙が尾を引き、地上へ落ちてゆくのが見える。

 だが、その死者の群れの中にはヤツの姿はなかった。

 光弾の輝きを背にしながら、”リボン付き”は私を目掛けて降下していたのだ。

 ヤツの背後の岩山に、魔力の弾丸とは違うものから生まれた
火柱が高く吹き上げるのを私は見逃さない。

 ヤツの投下した爆弾による被害。



 Kyoko
<< クッソォ! >>



 桃色の光に照らされる岩壁。

 その隙間を縫うように、ヤツの追跡戦が再び始まる。



 こちらは山に衝突しないよう、操縦するのが精一杯なのに。

 ヤツから伸びてくる曳光弾は、私の前方の岩を崩しながら
乗機の左右に光の筋を伸ばす。
297 : [saga]:2011/07/29(金) 19:37:38.46 ID:Aa1ma4k30

 Sayaka
<< 砲撃が終わった!上へ逃げて! >>



 その声を聞いて、私は操縦桿を思い切り引く。



 Sayaka
<< 紫2、FOX2! >>



 さすがの”リボン付き”も地形追従・敵への攻撃・ミサイルからの回避と
3つの行動を同時には行えなかった様子であった。

 私への攻撃を諦めたヤツは、谷間をそのまま進み続け、
背後から迫るミサイルを岩壁へと命中させる。

 そのおかげで、私には離脱が出来た事のみならず
ヤツの背後を取る絶好の機会が生まれていた。
298 : [saga]:2011/07/29(金) 19:38:06.17 ID:Aa1ma4k30

 Kyoko
<< アイツだけは逃がさねえぞ! >>



 さやかに向けて放つ、付いて来いという意思表示。

 谷間を抜けてきた”リボン付き”の左上方に位置を取れていた私は、
さっきのお返しと言わんばかりの勢いでヤツの背後に食らい付く。

 ここで殺してやる。

 トリガーにかけていた指に力がこもる。



 目標にしていた黄色いリボンのマーキングの上下が引っくり返った。

 ヤツは進行方向をゆるやかに旋回させながら、
水平飛行でのバレルロールを行っていたのだ。

 その目的は、こちらからの攻撃に対する回避行動のみならず。

 空中をわざわざそのような飛び方をする事で、ヤツは”遠回り”をしているのだ。

 そうする事で機体の進むスピードを遅らせて。

 そして私の機を追い越させようとするために。
299 : [saga]:2011/07/29(金) 19:38:33.16 ID:Aa1ma4k30

 なんという操縦技術。

 いざとなれば、私は乗機であるSu-35フランカー系列の得意技、
コブラやクルビットを行う事が出来る。

 私が”リボン付き”を追い越してしまう事はない。

 だが、私がその動作を行えば射程範囲から逃してしまう事になる。



 Kyoko
<< 紫2、ミサイルは残ってるか! >>

 Sayaka
<< ラスト1発だけ!撃ち込むの? >>

 Kyoko
<< 頼む! >>

 Sayaka
<< 紫2、FOX2! >>



 速度の落ちている敵に対してならば、ミサイルの信頼性も上がる。

 背後から伸びて来る炎の筋をバックミラーにて確認し、
私は前方の”リボン付き”がどう動くかを観察していた。
300 : [saga]:2011/07/29(金) 19:39:01.83 ID:Aa1ma4k30

 右旋回。

 同じ方向へ向けて、操縦桿を倒す。

 違う。

 一瞬だけ右方向へ機を動かし、フレアーを撒いたかと思えば
ヤツは素早く機体を切り返し、左へ向けての旋回を始める。

 そのフェイントに、さやかの放ったミサイルも、私の脳も騙されてしまっていた。

 すかさず操縦桿を捻り、同じ方向への旋回を始める。



 その一瞬の隙の間に、機銃の射程からヤツは逃れていた。

 私の後方に位置していたさやかのSu-35が前方に躍り出る。



 Kyoko
<< あいつに追いつけるか? >>

 Sayaka
<< やってみる! >>
301 : [saga]:2011/07/29(金) 19:40:19.95 ID:Aa1ma4k30

 今度は私が援護する番だ。

 ”リボン付き”に接近して行くさやかのSu-35を横目に、
私はそのまま敵機へのロックオンを果たす。



 Kyoko
<< 紫1、FOX… >>



 ミサイルの発射コールを叫び終わる前に。

 私の頭上の空を、ISAFのF-15の4機編隊が通り過ぎる。

 そのために、私のコクピットは一瞬だけ影に覆われていた。



 Sayaka
<< あいつら味方基地に! >>

 Kyoko
<< 分かってるよ、畜生! >>



 駄目でもともと、ロックオン完了と共にミサイルを送り出す。

 相変わらずの機敏な動作で、やや降下をかけながら右旋回をする”リボン付き”



 当たらない。

 落とせない。
302 : [saga]:2011/07/29(金) 19:40:51.16 ID:Aa1ma4k30

 もはや1機の戦闘機にこだわっている場合ではない。

 基地の1つは”リボン付き”に破壊されてしまったが、
まだまだ味方基地はこのイスタス要塞に数多く残っているのだ。

 私は機を反転上昇させ、すでに距離の離れてしまった
F-15の編隊を追いかける。

 レーダーには私に追従してくるさやかの機体。



 そして、ISAFがやってきた南東方向へ向けて
飛び続ける”リボン付き”の光点が示されていた。

 弾薬がないのか、燃料がないのか。
 
 とにかく、ヤツからはもう戦う意思がない事がその様子から理解できる。



 畜生。

 死んでいった人間の仇も討てない。

 何がエースパイロットだ。

 何が魔法少女部隊だ。
303 : [saga]:2011/07/29(金) 19:41:20.46 ID:Aa1ma4k30

 眼前に4機の編隊を捉えてはいたものの、距離が縮まらない。

 じれている私の目に飛び込んだものは、はるか前方から
そのF-15の編隊へ撃ち込まれたミサイルの群れ。

 離陸に成功したYak-141の部隊が、自分達の基地を守っていたのだ。



 ミサイルを回避するために、敵機の群れは二手に散らばる。

 速度を殺して旋回をしたために、私はついにそれらを射程に捉えていた。



 Kyoko
<< 紫1、FOX2! >>



 残っていたミサイル全てを、右手に逃げて行った敵に向けて送り込む。

 タイミング良く、基地に設置されていたSAMが
奴らの前方にミサイルを放っているのが私の目に見えた。

 前後をミサイルに囲まれた奴らに逃げ場はなく。

 2機のF-15は順番に花火を作り出し、高度を下げながら飛び続けていた。
304 : [saga]:2011/07/29(金) 19:41:46.42 ID:Aa1ma4k30

 Kyoko
<< 紫1、弾が切れた! >>

 FRIEND
<< こちら白2、VTOL基地のカバーは俺達に任せてくれ。守りきって見せる >>

 AWACS
<< ネボグラズより紫1へ、増援の戦闘機を送った。後は彼らに任せろ >>

 Kyoko
<< 紫1、了解。必ず戻って来るからな >>

 FRIEND
<< お前らが居ると心強い。頼むぜ >>

 Kyoko
<< 紫1より2へ、全速で戻るぞ >>

 Sayaka
<< 紫2、了解 >>



 AWACS
<< ストーンヘンジの砲撃弾着まであと30秒。各機、射線から退避せよ >>
305 : [saga]:2011/07/29(金) 19:42:16.81 ID:Aa1ma4k30

 私達が飛び立ったロスカナスの飛行場へ向けて、
機首を北西に向ける。

 燃料はだいぶ使ってしまったが、いくらかは無茶をしても
基地に戻れる範囲だと私は判断していた。

 アフターバーナーに点火をし、言葉通りに全速で飛び続ける。



 AWACS
<< 4、3、2、1…弾着、今! >>



 私達とすれ違うようにして、何本もの桃色の光芒が空を埋める。

 はるか後方の空で炸裂する光球。

 そこに生まれる黒煙、航空機の屍。



 だが、それはISAF航空隊に対して有効打を浴びせているとは言い難い。

 そもそも高度のある基地を巻き込んでしまわないように、
ストーンヘンジからの砲撃はかなりの上空を狙っていたのだ。

 それに気付いているのか。

 敵の侵入高度は2000ft以下の低空であった。



306 : [saga]:2011/07/29(金) 19:42:57.00 ID:Aa1ma4k30




 見慣れたロスカナス飛行場。

 滑走路脇に待機させたままのSu-35に、整備員達がミサイルを搭載させている。

 私はコクピットに乗ったままヘルメットを脱ぎ、彼らが持って来てくれた
ペットボトル入りの水をがぶがぶ飲んでいた。



「出撃中止です」

「何だって?」

「司令部は…タンゴ線の放棄を決定しました」



 伝令に来た基地の兵士は、私の目を見つめたまま。

 地上で作業を行っていた整備員達も、私を見つめたまま。

 やや後方のSu-35に乗ったままのさやかも、私を見つめたまま。



 彼らは嘘を付いた。

 何が守りきって見せるだ。



 私も嘘を付いた。
307 : [saga]:2011/07/29(金) 19:43:37.82 ID:Aa1ma4k30

「何が必ず戻るだ!!」

 手に持っていたペットボトルを、地上に向けて投げ捨てる。

 水を撒き散らしながら、軽い音が滑走路に響く。



 それを聞いて余計に腹が立ち、今度はヘルメットを地面に向けて投げつける。



「杏子!やめてよ!」

「畜生!!」

 

 私が出せた言葉はそれだけ。



 滑走路には、砕けたヘルメットのバイザー部分が散らばっていた。
308 :1 M10はここで終わり [saga]:2011/07/29(金) 19:44:05.14 ID:Aa1ma4k30



309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2011/07/29(金) 21:58:10.94 ID:M9m/bHIUo
      、′     、 ’、  ′     ’      ;  、
          . ’      ’、   ′ ’   . ・
       、′・. ’   ;   ’、 ’、′‘ .・”
            ’、′・  ’、.・”;  ”  ’、
       ’、′  ’、  (;;ノ;; (′‘ ・. ’、′”;
         ’、′・  ( (´;^`⌒)∴⌒`.・   ” ;  ’、′・
      、 ’、 ’・ 、´⌒,;y'⌒((´;;;;;ノ、"'人      ヽ
           、(⌒ ;;;:;´'从 ;'   ;  ;) ;⌒ ;; :) )、   ヽ  -‐,
           ( ´;`ヾ,;⌒)´  从⌒ ;) `⌒ )⌒:`_,,..・ヽ/´
   ′‘: ;゜+° ′、:::::. :::    ´⌒(,ゞ、⌒) ;;:::)::ノ‐''"..,,_ <イジェークト
            `:::、 ノ  ...;:;_)  ...::ノ  ソ,. r ''" `''‐,,._ X
           ,ゝ `く/ /  〉 /  ∧_ ...::ノ  '' "
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310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/29(金) 22:38:27.40 ID:OTPET9oDO
あああ先に貼られた・・・
とにかく投下おつー、あんこちゃんが魔女化しそうだグリーフシードとかあんのかなこの世界
311 : [saga sage]:2011/07/29(金) 23:33:07.40 ID:Aa1ma4k30
 ぽいっと地図。
グリーフシードについては>>28を。あるにはあります。
また魔法少女らしくないって怒られちゃうかもですが、
魔法とか魔女とかそういう所ではない魔法少女らしさ?
というかまどからしさ?に挑戦したかったので…
312 : [saga]:2011/07/30(土) 19:39:54.11 ID:AQDOILk/0



313 : [saga]:2011/07/30(土) 19:40:33.07 ID:AQDOILk/0

−−− 美樹さやかの手記より −−−

 最近の杏子は、すっかり軍人らしくなっていた。

 死なない程度に火の粉を振り払うさ。
今となっては、それが口癖だった頃の杏子が懐かしく思える。

 杏子はエースパイロットらしく振舞い、自ら敵を求めてはそれを撃破する。

 コンベース港での出来事が彼女を変えてしまい。
そして復讐心を燃やしている事は、いくら私にでも予想が付いていた。

 

 私はそんな杏子を見るのが辛くて仕方がない。

 どのような心境の変化があったにしろ、
杏子は人を殺す事に躊躇いを持たないような人間ではなかったはずなのだ。

 それを一番良く知っているのは、私をおいて他にはない。



 あちらこちらで餓死者が出る難民キャンプで、
私の手を引いて食料を求めて歩いていた杏子。

 もう自力ではを飲み込む事さえも出来ない幼子の口の中に、
迷わず自分のパンを押し込んでいた杏子。

 その子の短い人生の終わりを見て、悔し涙を流していた杏子。



 誰よりも命の重さを理解しているはずの彼女なのに。

 ミサイルのスイッチを一つ押せば、いくつかの命が失われる。
その事を杏子は忘れてしまっているように思える。

 だから私はこうして文章にする事で、ここに決意を示す。



 私は何としてでも杏子を連れ戻す。

 彼女が修羅の道を歩き出す前に。
314 : [saga]:2011/07/30(土) 19:41:10.96 ID:AQDOILk/0

DATE >
1531 / 0314 / 2005

AREA >
North of Chopinburg

http://www.youtube.com/watch?v=M2NEuCNSMpU
315 : [saga]:2011/07/30(土) 19:41:40.05 ID:AQDOILk/0

 ENEMY
<< エアイクシオンへ。状況を説明して下さい >>

 Flt.702
<< こちら702便。エルジア軍機が高度23000で接近中!急いでくれ! >>

 Flt.701
<< こちら701便。離陸時に機長が負傷、副操縦士のナガセが操縦しています >>

 ENEMY
<< 了解。護衛機が行きます。両機とも、進路を維持して下さい >>



 その無線通信は、私達の紫編隊が戦闘空域に辿りつく前に聞こえていた。

 作戦の詳細な目的は告げられず、旅客機を撃墜しろというだけの命令で
私達はこの雲の多い空の中を飛んでいる。

 密度の薄いそれは、雲というよりは霧のような感覚であった。
316 : [saga]:2011/07/30(土) 19:42:16.16 ID:AQDOILk/0

 FRIEND
<< 第一目標は旅客機の撃墜だ >>

 FRIEND
<< 的はでかい。撃てばあたるぞ >>



 おぞましい会話を広げる、先行していた味方機。

 彼らが旅客機の通信の中で知らされていた、
高度23000で迫るエルジア軍機だろう。



 FRIEND
<< こちら青5、敵戦闘機だ >>

 FRIEND
<< 目標を護衛する戦闘機は1機 >>



 Flt.702
<< 乗客に窓の外をみせるな >>



 国際共用周波数から流れる、撃墜目標からの声。

 いかなる理由があれど、私達の狙っているものは民間機なのだ。
317 : [saga]:2011/07/30(土) 19:43:07.55 ID:AQDOILk/0

 Sayaka
<< 杏子… >>

 Kyoko
<< 空の上では名前で呼ぶな >>

 Sayaka
<< …ごめん >>



 私と違って、杏子からの声には震えがない。

 本当に私はあれを撃ち落すのか。

 本当に杏子はあれを撃ち落すつもりなのか。



 FRIEND
<< メイデイメイデイメイデイ、こちら青5!操作不能、脱出する! >>



 レーダーから消える味方機の光点。

 映っているものは、私達の遥か前方を飛ぶ5機の味方機。
さらに私達と一緒に飛ぶ、2機のMIG-29。

 そして1機のIFFに反応しない光点。

 ISAF側の護衛戦闘機に、先行していた味方機は食われてしまっていた。
318 : [saga]:2011/07/30(土) 19:43:48.80 ID:AQDOILk/0

 何故か、ばらばらの高度で飛んでいる、2機の旅客機。

 同じ高度で飛んだ方が、護衛もしやすいであろうに。

 その疑問は、敵側も同じ事を考えていたようであった。



 ENEMY
<< 701便、高度を上げられませんか?その方がISAF機が護衛しやすい >>

 Flt.701
<< ネガティブ。客室内の気圧が保てない。高度は上げられません >>



 何かの事故があったのだろうか。あるいは攻撃を受けたためなのか。

 701便と呼ばれる旅客機は、6000ftという高さを飛んでいた。

 それを目掛けて襲い掛かる、味方機の2機編隊も同じ高さで。
319 : [saga]:2011/07/30(土) 19:44:16.41 ID:AQDOILk/0

 敵の護衛機が、味方機の背後に食らい付く。

 レーダー画面からも分かる、激しい空中戦。

 彼らの旋回する様子、ミサイルの航跡。
それらは全てが薄暗い画面の中の光点として記されていた。

 

 ミサイルは1機の味方機に吸い込まれ、画面からその姿を消す。



 Flt.701
<< すごい。あの戦闘機、本当に1人で戦ってる >>

 FRIEND
<< くそっ、高度が上がらない! >>



 残っていた味方機も攻撃を受けてしまっただろうか。

その光点は背に付かれているにも関わらず、
旋回をやめて真っ直ぐに飛び続けていた。

 しばらくした後に、その光点はレーダー画面から消えてしまう。
320 : [saga]:2011/07/30(土) 19:44:49.56 ID:AQDOILk/0

 Kyoko
<< たった1機になにをてこずっている >>

 Flt.702
<< こちら702便、エルジア軍機が接近中! >>



 さらに前方を飛んでいた3機の味方機が、
高空を飛んでいる702便を目掛けて突き進む。

 それに誘導されるように、敵戦闘機の位置を示す光点もぐんぐん高度を上げて。



 Kyoko
<< アタシ達の受け持ちは6000ftを飛んでいるほうだ >>

 Sayaka
<< …本当にやる気なの? >>

 Kyoko
<< それが命令だ。指示は聞こえたか? >>

 Sayaka
<< …了解 >>
321 : [saga]:2011/07/30(土) 19:45:19.46 ID:AQDOILk/0

 FRIEND
<< 敵は1機。リボンのエンブレムだ >>

 FRIEND
<< ハエにかまうな >>



 Kyoko
<< リボン付きか >>



 私もそのエンブレムは忘れない。

 たびたび私達の前に姿を現し、そして私達に何かしら苦渋をなめさせる。



 Sayaka
<< 紫2より1へ、敵がリボン付きなら全員でかかった方が… >>

 Kyoko
<< ちょうどいいじゃないか。アイツの目の前で旅客機を落とせれば >>



 Kyoko
<< アタシの味わった気持ちが、アイツにも分かるだろうよ >>
322 : [saga]:2011/07/30(土) 19:46:10.14 ID:AQDOILk/0

 3機を撃墜するだけであれば、”リボン付き”にとっては
容易い作業であったのかもしれない。

 だが今回のヤツは、護衛する対象が存在している。

 交互に702便への攻撃を繰り返そうとしては、
味方機はヤツに追い払われていた。

 その代わり、”リボン付き”も味方機を落とせないままに。



 彼らが空戦を繰り広げている様子が、私の頭上の空に見え出す。

 曇り空を切り裂く曳光弾と、撒き散らされるフレアーの輝きと共に。



 そして彼らから遥か下方、私達の正面にいる701便の姿も。
323 : [saga]:2011/07/30(土) 19:46:45.88 ID:AQDOILk/0

 ヤツは夢中になっている。

 3機の味方機から、旅客機への攻撃を防ごうと。

 このまま”リボン付き”の下方を私達は通り抜けられる。



 通り抜けてどうする?

 私は旅客機を撃てるのか?

 いや、心配するところはそこではない。

 杏子に本当に撃たせるのか?



 空高くに見えた爆発。

 味方の1機が食われてしまっていた。

 そうして2対1の状況となったヤツは、
背後に食らい付かれた状況すらものともせずに。

 背中に付いた味方機の射撃をかわしながら、前方に居るSu-27を撃ち落し。

 そしてに残る最後の1機へ向けての旋回を始めていた。
324 : [saga]:2011/07/30(土) 19:47:17.49 ID:AQDOILk/0

 FRIEND
<< くそっ、どんどん落とされる! >>

 Kyoko
<< アイツから殺るか? >>

 FRIEND
<< そうするべきかもしれない >>


 FRIEND
<< 戦闘機をおとしてから旅客機を撃つ >>

 Kyoko
<< 仕方ねえ、そうするか >>



 杏子がその判断を下した事に、私は内心ほっとする。

 当面の時間稼ぎは出来た。

 私達があの”リボン付き”を落とすまでの時間稼ぎ。

 それとも、私が落とされてしまうだろうか。



 緊張に手が震え、操縦桿に上手く力を入れられない。

 次々と上昇を始める味方機に置いて行かれないよう、
私はなんとか操縦桿を引いてSu-35を天に向ける。
325 : [saga]:2011/07/30(土) 19:47:54.75 ID:AQDOILk/0

 残されていた1機のSu-27が今にも撃たれようとしているところに、
私の放った長距離ミサイルが”リボン付き”を目掛けて空を昇る。

 ヤツが旋回しているうちに、今度は杏子が同じものを放つ。

 ついに”リボン付き”は回避行動を取りながらの攻撃を諦め、
降下をかけながらの旋回に移り出した。



 長距離ミサイルはすでに702便にロックオンを終えていた。

 だが、私はそれを見なかった事にする。



 杏子の機体からも、それ以上の長距離ミサイルが放たれる事はなかった。

 表向きの態度がどうあれ、彼女も内心はこんな事をしたくはないのだ。



 杏子だけではない。

 ISAF戦闘機を狙いだした私達、全員の間に感じられた空気。

 旅客機を落とすのかどうか。

 この”リボン付き”を落とすまで、全員が自分の判断に保留をかけていたのだ。
326 : [saga]:2011/07/30(土) 19:48:39.36 ID:AQDOILk/0

 1機のSu-27、2期のMIG-29、2機のSu-35。

 それが1機のF-15を追い回している。

 私達の放つミサイルはひらりひらりと回避されていた。

 ヤツは急降下をかけて速度を稼いだと思えば急上昇し、
私達に機首を向けて反撃に移る。

 多勢に対抗するために、一撃離脱の戦法を取っていたのだ。



 苦し紛れの戦法。

 最初はそう思い込んでいた私の意識は、私のすぐ左前方で
すれ違いざまの曳光弾を浴びたSu-27と共に粉々に砕ける。



 FRIEND
<< また1機食われたぞ! >>
327 : [saga]:2011/07/30(土) 19:49:06.80 ID:AQDOILk/0

 Kyoko
<< あれを当てるか普通… >>



 その思いは私も同じであった。

 この相手に油断は許されない。

 私と杏子は同じ事を考えたようで、
Su-35の機体を強引に旋回させ、通り抜けて行ったF-15の後を追う。

 エンジンからの推力を偏向させるノズル、そして機体の空力特性。

 すんなりと空を”曲がる”Su-35は、思っていたよりも旋回半径を広げずに
”リボン付き”の方向へ向きなおす事が出来たのだ。



 Kyoko
<< 紫1、FOX2! >>

 Sayaka
<< 紫2、FOX2! >>



 ほぼ同時に叫ぶ私達。

 それに呼応するように、敵機へと向けて伸びる火柱。
328 : [saga]:2011/07/30(土) 19:49:44.09 ID:AQDOILk/0

 その炎と煙のラインは上昇をしたと思えば、やや下降を始める。

 急に機を宙返りさせ、降下を始めた”リボン付き”に追従するために。

 それはヤツの降下に追いつけず、F-15の後方を通り過ぎていた。
 


 FRIEND
<< このままやっていても埒があかない >>

 FRIEND
<< 紫編隊、隙があれば旅客機を撃ち落してくれ >>






 Kyoko
<< …紫1、了解。アタシが背中を狙われないようにしてくれよ >>

 FRIEND
<< そのくらいは役に立って見せる >>



 杏子のSu-35は旋回を始める。

 空戦により下がっていた高度から近い、701便の方向へと向けて。
329 : [saga]:2011/07/30(土) 19:50:14.18 ID:AQDOILk/0

 Flt.701
<< こちらエアイクシオン701便。乗員は民間人だ。攻撃するな >>



 女性の声。

 彼女の訴えは、明らかに私達に向けられたもの。



 Flt.701
<< 繰り返す。民間人が乗っている。攻撃をやめなさい! >>
330 : [saga]:2011/07/30(土) 19:50:47.75 ID:AQDOILk/0

 Sayaka
<< ターゲットは本当にこの民間機なの? >>






 Kyoko
<< 考えるな。アタシ達はただ仕事をすればいい >>
331 : [saga]:2011/07/30(土) 19:51:18.14 ID:AQDOILk/0

 長距離ミサイルの射程圏に入った事を示す音。

 ジーっと音を鳴らし続けるそれを聞きながら、私は杏子のSu-35を見つめていた。



 ミサイルは放たれない。

 ほとんど私と並んで飛んでいる杏子も、ロックオンを終えているはずなのだ。






 どれだけの時間が経ったのだろうか。

 ついに無線機が、長く続いた沈黙を打ち破る。



 Kyoko
<< 紫1、FOX… >>

 Sayaka
<< 杏子、だめ! >>
332 : [saga]:2011/07/30(土) 19:51:53.44 ID:AQDOILk/0

 会話がフライトレコーダーに記録されて。

 味方機にも、AWACSにも聞こえている事は分かっていた。

 それでも…



 Sayaka
<< 杏子があれを撃ったらだめだよ! >>



 Sayaka
<< 杏子…帰ってこれ、なくなっちゃう、から… >>



 声がかすれても、伝えたい事を口に出す。

 杏子に残っているはずの心に希望をかけて。
333 : [saga]:2011/07/30(土) 19:52:24.58 ID:AQDOILk/0

 杏子の機体からは、ミサイルが放たれない。

 彼女が今、何を思っているのか。



 私にはその様子をじっと見守る事しか出来ない。

 それが悔しくて、視界が滲む。



 その視点の先に、きらりと輝くもの。



 Sayaka
<< 紫1、9時方向! >>



 気付けば味方機は全てが落とされていた。

 眼前に迫りつつある”リボン付き”の手によって。
334 : [saga]:2011/07/30(土) 19:52:57.24 ID:AQDOILk/0

 杏子のSu-35は、ひらりとその身を舞わせる。

 やや上方から、その背後に付く”リボン付き”。

 私も操縦桿を引き、ヤツの背に機首を向ける。



 Kyoko
<< さやか、コイツに1発送り込んでくれ! >>

 Sayaka
<< あんたを落とさせはしない!絶対に! >>



 Kyoko
<< …………な >>



 ぼそっと呟かれるように聞こえた続きの言葉。

 そして私は敵機に対してロックオンを完了させて、
ミサイルを送り込む。



 それと同時に、”リボン付き”からも放たれる炎の筋。
335 : [saga]:2011/07/30(土) 19:53:34.96 ID:AQDOILk/0

 アフターバーナーを吹かせて、旋回を続ける杏子。

 撒き散らされたフレアーに、空が輝く。

 私はミサイルを1発と言わず、積んでいただけの量を全て
”リボン付き”に対して送り込んでいた。

 さすがのヤツもそれだけの量を回避するために、
杏子への追従を諦めて逆方向への旋回を始める。



 Kyoko
<< メイデイメイデイメイデイ!紫1、破片をもろに浴びた! >>

 Sayaka
<< 杏子!! >>



 その言葉を聞いた時には、心臓が凍りつく思いであった。



 だが、視界にあるものは真っ直ぐ飛び続ける杏子のSu-35。

 火も出ていなければ煙も吹いていない。
336 : [saga]:2011/07/30(土) 19:54:11.31 ID:AQDOILk/0

 Kyoko
<< 紫1、これより帰投する。紫2、援護を頼む >>

 Sayaka
<< 紫2、了解 >>



 アフターバーナーに火を入れて、私達は飛んできた方向へ戻り出す。

 背後に付かれないように、レーダーを見つめたまま。



 離れつつある旅客機の周りを旋回したまま、
”リボン付き”は、私達を追いかけて来る事はなかった。



 彼我の距離がだいぶ離れたところで、
無線から嬉しそうな声が届く。



 Flt.701
<< スカイアイへ、こちら701便。全員無事です! >>

 Flt.701
<< あの戦闘機にありがとうと伝えてください >>
337 : [saga]:2011/07/30(土) 19:54:46.61 ID:AQDOILk/0

 Kyoko
<< 紫1よりネボグラズ、作戦は失敗した >>

 AWACS
<< ネボグラズより紫1へ、状況は把握している >>



 Kyoko
<< その…な… >>



 AWACS
<< なお、一時的にこちらに無線機の不調があった >>

 AWACS
<< 従って、諸君らの交信内容は私に聞こえていない >>



 AWACS
<< 以上 >>
338 :1 M11はここで終わり [saga sage]:2011/07/30(土) 19:55:21.39 ID:AQDOILk/0



339 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/30(土) 20:11:13.55 ID:Z60BxqDDO
乙、今回のネボグラズ△。
340 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2011/07/30(土) 20:48:57.65 ID:uTr5wnSCo
やだ…このAWACS惚れる
341 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山形県) [sage]:2011/07/31(日) 00:35:44.47 ID:ghtQaIp+o
>>337
> AWACS
><< なお、一時的にこちらに無線機の不調があった >>

> AWACS
><< 従って、諸君らの交信内容は私に聞こえていない >>

濡れた
342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/31(日) 01:32:49.74 ID:tSw2zReDO
管制機イケメンすぎワロタ
343 :1 ESCORTの熱さは異常 [saga]:2011/07/31(日) 21:17:43.66 ID:0Fe7R7Nw0



344 : [saga]:2011/07/31(日) 21:18:13.51 ID:0Fe7R7Nw0

−−− 暁美ほむらの手記より −−−

 あのインキュベーターですら認めていた彼女の才能。
残念ながら、彼女の力だけでは全てを解決する事は出来なかった。

 14歳の少女が、成層圏から飛来する小惑星、
ユリシーズの軌道をどうして予測できようか。

 1000km上空の目標へ、どのように魔法の矢を撃ちこめようか。

 そして、砕いた隕石から生まれるであろう破片の処理は誰が行うのか。

 私の最後の抵抗に対し、科学者達が放った言葉はこのような内容であった。



 この時点で彼女の意思は決まっていた。

 他人の力になりたい。それがそもそも彼女が魔法少女の契約を行った理由。

 まどかは自らの命とも言えるソウルジェムを差し出したのだ。

 魔力と科学の融合により、人類へ降りかかろうとしていた惨禍を止めるために。



 かくして小惑星ユリシーズはストーンヘンジにより迎撃され、
その破片により大きな被害を出しながらも、人類は滅亡へのカウントダウンを止める。

 そして、いまだ衛星軌道にはユリシーズの欠片が大量に存在しており、
このユージア大陸に向けて散発的に落下して来ている。

 まどかのソウルジェムは、あの対空砲施設の地下に閉じ込められたままなのだ。

 ユリシーズの脅威が完全に消滅するまで。
そして、それが何時になるのかは誰にも分からない。


 だから、私はストーンヘンジの空を守りたかった。

 何者も彼女に触れる事が出来ないように。



 今となっては、たった一つだけ最後に残った道しるべ。
345 : [saga]:2011/07/31(日) 21:18:50.40 ID:0Fe7R7Nw0

DATE >
1000 / 0402 / 2005

AREA >
STONEHENGE

http://www.youtube.com/watch?v=kZaO01tphw4
346 : [saga]:2011/07/31(日) 21:19:19.47 ID:0Fe7R7Nw0

 やや雲が多いが、視界に困る程度ではない曇り空。

 眼下には7門の大型対空砲。



 円形の陣地に備えられたそれを上空から見る事で、
”ストーンヘンジ”と名前が付けられた事が良く分かる。

 ついに奴らはここまで来てしまった。

 

 周囲に張り巡らされる、対空陣地。

 そして急造の飛行場からも、続々と要撃機が上がる。

 2年前にエルジアがここを襲い掛かった時には、
このような厳重な防御網などは存在しなかった。

 それ故に、エルジアは”ストーンヘンジ”を破壊せずに接収したわけだが。
347 : [saga]:2011/07/31(日) 21:19:46.28 ID:0Fe7R7Nw0

 だが、今は違う。

 エルジアはここを破られる事が敗北に繋がる事を知っている。

 それは、敵であるISAFも同様に。

 

 そして、奴らはここを破壊するつもりであろう。

 もはやエルジア空軍がかつて見せていた勢いは衰え、
純粋な兵力だけではISAF空軍に太刀打ちが出来なくなっていたのだ。

 ISAFはここを奪わずとも、戦争に勝てる。

 衰えゆく経済と国力の中、最後の賭けとも言えた電撃戦に勝利し、
大陸を手中に収めたエルジア軍とは違って。



 このような形でストーンヘンジ防空の任に再び就くなど。

 胃がきりきりと痛む。

 私はまどかを守りきれるのだろうか。
348 : [saga]:2011/07/31(日) 21:20:26.46 ID:0Fe7R7Nw0

 AWACS
<< 敵機24、高度1500ftにて接近中。方位0-9-0 >>

 FRIEND
<< 黄色中隊は何故来ない? >>

 AWACS
<< 離陸前にレジスタンスの妨害にあったようだ。滑走路が襲撃を受けたらしい >>

 FRIEND
<< くそ、こんな時に >>

 AWACS
<< 彼らの到着まで、諸君が守るしかない >>

 AWACS
<< ストーンヘンジの射線をリンクさせる。砲撃に注意せよ >>

 FRIEND
<< 了解 >>
349 : [saga]:2011/07/31(日) 21:21:02.31 ID:0Fe7R7Nw0

 ストーンヘンジ上空を旋回していた味方機達は、
AWACSの管制を受けて敵へと向かい出す。

 私のMIG-29と、他にも何機か残されたSu-35達は
このまま上空で待機。

 彼らが撃ち漏らした敵を仕留める役割。



 砲の1つから桃色の輝きが漏れる。

 これまでにも何度か見たその光景。

 砲撃のために、コンデンサ内に収束される魔力の光。



 そして炸裂音。

 東へ向けて伸びる光芒は、そちらへ飛んでいた味方機を追い越してゆく。

 次々と地上の砲塔は東に向けて旋回を始め、
たった今の砲撃に倣って魔力を集め出す。



 その動力源は、ストーンヘンジ中央部の地下に設置されたソウルジェム。

 エルジア軍がここを接収してから急造された、
同じく魔力を動力源とする対レーダージャマーも地上に存在している。
350 : [saga]:2011/07/31(日) 21:21:35.07 ID:0Fe7R7Nw0

 FRIEND
<< 白8、交戦開始 >>

 FRIEND
<< こちら緑3、砲撃の高度を下げられないか? >>

 AWACS
<< ネガティブ、ストーンヘンジの俯角を越えては砲撃が行えない >>

 FRIEND
<< 上から狙い撃て。ハエ叩きだ >>



 交戦が始まった。

 敵機へ向けて襲い掛かる、エルジア戦闘機16機の光点。

 ストーンヘンジの射線を知っている彼らは高空から迫ったために、
ISAF側は彼らにミサイルを送り込む事が出来ずにいた。

 味方機が初撃で一斉に放ったミサイル。

 敵を示す光点のうち3つほどが消える。



 彼らは散り散りになり、それぞれが相手の背を取るべく
光点の群れはくるくると回りだす。

 散発的に表示される、ストーンヘンジからの砲撃を示す
赤いラインもそこに向けられて。
351 : [saga]:2011/07/31(日) 21:22:04.41 ID:0Fe7R7Nw0

 ドッグファイトから抜け出して来る敵機。

 3機を示す光点が、私達の居る場所へ向けて
一直線に向かって来る。

 

 FRIEND
<< 青4、交戦開始 >>

 Homura
<< 黒1、交戦開始 >>

 FRIEND
<< 赤9、敵機視認! >>



 絶対にここを通しはしない。

 スロットルを押し込み、自分にそう言い聞かせる。
352 : [saga]:2011/07/31(日) 21:22:30.54 ID:0Fe7R7Nw0

 迫ってきた敵編隊はF-16が3機。

 相対する位置を取り、そのまま真っ直ぐに相手へ向かう。



 敵機はもう視界に入っている。

 それでも、私の機にはロックオン警告音が鳴らない。

 彼らのレーダーは完全に封印されているのだ。



 FRIEND
<< 青6、FOX2 >>

 Homura
<< 黒1、FOX2 >>



 撃って来れない相手へ向けて、私は遠慮なくミサイルを放つ。

 位置取りの甘かった味方機からのミサイルは外れていたが、
正面から送り込んだ私の贈り物は敵機のうち1つを吹き飛ばす。
353 : [saga]:2011/07/31(日) 21:22:59.54 ID:0Fe7R7Nw0

 FRIEND
<< ミサイルをケチるな。とにかく撃て >>

 FRIEND
<< これを潰されたら我が軍もおしまいだぞ >>



 たった2機のISAF機を追い回す私達の数は9機。

 敵機は初撃のミサイルを避けてはいたが、
その先に起こす行動が何もないように私には見えた。

 どこを向いても、背中を取れる。

 そのように私達は2機を包囲していたのだ。



 FRIEND
<< 青4、FOX2 >>

 FRIEND
<< 撃て、撃て! >>



 いくつもの煙を引き、たっぷりと弾頭が送りつけられる。

 彼らはそれ受け取る事を拒む事も出来ずに、
次々と火の玉を作り出しては地上へ向けて落下して行った。
354 : [saga]:2011/07/31(日) 21:23:27.00 ID:0Fe7R7Nw0

 前衛部隊は良く頑張っている。

 敵も味方も、それと示す光点がぽつぽつと消しながらも
彼らは僅かな敵機しかそこを通さなかった。

 

 漏れてきた敵機は私達に囲まれて、目標までは辿りつけない。



 そして弾薬を消耗し尽した味方機が、ぽつぽつと飛行場に降り出す。

 私も燃料の事が気になりだし、その列に紛れようかと思っていた時であった。



 AWACS
<< 新たな敵編隊、14!方位1-8-0から接近中! >>

 FRIEND
<< くそ、まだ隠し持ってやがったか! >>

 FRIEND
<< 着陸中止、防御に戻るぞ!機銃だけでも戦え! >>

 FRIEND
<< 早く空に上がれ、畜生! >>
355 : [saga]:2011/07/31(日) 21:24:02.13 ID:0Fe7R7Nw0

 私達を待ち受けていたものは混乱。

 東で戦闘を続けている味方機は、そこで足止めを食らっていた。

 強引にこちらに戻ろうとした機が食われるのを、
レーダーを見つめていた私は確認する。



 そして画面に映り出す敵機達。

 高度1000ftの低空で向かって来る14の光点を迎え撃つものは、
弾薬燃料ともに心もとない私達の7機編隊。

 基地から上がってきた機はこちらに向かって来てはいたが。



 誘導弾を温存しながら戦って来た私は、まだ2発のミサイルが残っている。

 敵の方から高速で向かって来ているのを見て
私はアフターバーナーを使わずに南へ向けて機を旋回させていた。
356 : [saga]:2011/07/31(日) 21:24:47.48 ID:0Fe7R7Nw0

 低空で飛ぶそれは、F-15、F-16で編成された混成部隊。

 かなりの高度を持っていたため、それらを見下ろす位置を取った私。



 機体をひねり、背面を向いてから操縦桿を引く。

 スプリットSの機動を用いて、彼らの背後を取る。

 最初に敵機とのドッグファイトに入った味方機と同様に、
向かって来る敵機は私に機首を向けていない。

 それ故に彼らからの攻撃は行われず、
私はあっさりと彼らの背後を取っていた。



 Homura
<< 黒1、FOX2 >>



 眼前の編隊へ伸びてゆく炎の筋。

 私に続いていた味方機も同様にして、敵への攻撃を始め出す。



 フレアーを撒きながら、旋回を始める敵機達。

 まずは奴らの目標、高速でのストーンヘンジへの突入を阻止出来た。

 問題になるのはこれからだ。
357 : [saga]:2011/07/31(日) 21:25:18.42 ID:0Fe7R7Nw0

 私はとにかくF-15を狙う。

 ”リボン付き”が居るとすれば、ヤツの乗機がそれであるから。

 燃料の具合は気になるが、ここでアフターバーナーに点火をし
散り散りになって逃げるF-15を追いかける。



 味方機もばらけながら、各々の獲物を決めている。

 そして前方からは、補給を終えて離陸した味方機も迫っている。

 大丈夫、きっとここで阻止出来る。



 ミサイルを回避し終え、再びストーンヘンジに向けて旋回をしつつある2機のF-15。

 それらはすでに私の機銃の射程内に入りつつあった。

 射線を示すレティクルを敵機に合わせる。

 ラダーを踏み、操縦桿を小刻みに引きながら。



 ぼろぼろと剥がれる敵機の欠片。

 黒煙を引きながら、曳光弾を呑み込んだ敵機は
真っ直ぐに飛びながらも高度を下げてゆく。
358 : [saga]:2011/07/31(日) 21:26:08.11 ID:0Fe7R7Nw0

 もう1機。

 今撃ち落した敵の右側に居たF-15に機首を向ける。



 自らの寮機の最後を見届けたためなのか、
今頃になって慌てて旋回を始めていた敵。

 その動き、その判断の鈍さ。

 そしてマーキング。

 リボンの付いていないその敵機が照準内に収まる。



 そして火を噴くそれ。

 まだ彼の寮機はかろうじて空を飛んでいた。

 だが、目の前の敵機は相棒が地上に激突するところまでは見届けられずに、
空の中の花火となってしまっていた。
359 : [saga]:2011/07/31(日) 21:26:36.73 ID:0Fe7R7Nw0

 味方機達はかなりの数の敵を食い止めてくれていた。

 それでも、多勢に無勢。

 何機かが漏れて、ストーンヘンジへ向けってゆく。

 

 少しだけ躊躇したが、私は残りのミサイルを敵に向けて送り込む。

 飛行場へ降りた味方機も、私に加勢するために向かって来てくれている。



 私の放ったミサイルから逃れるために、敵のF-15が空を昇る。

 そこに生まれた桃色の光。

 炸裂音と共に広がるそれにF-15が呑み込まれるのを見て、
ミサイルが無駄にならずに済んだとほっとする。



 1機。

 地面すれすれの高度で、速度を上げてストーンヘンジへ向かうF-15。



 その垂直尾翼に、見慣れた黄色いリボン。

 私はアフターバーナーに点火し、それを追いかける。
360 : [saga]:2011/07/31(日) 21:27:08.07 ID:0Fe7R7Nw0

 進入コースを修正するためか、
こちらに腹を見せてわずかに旋回をしたその敵機。

 その翼にはミサイルと爆弾が搭載されていたが、
私の目を特に引いたもの。

 それは機体のセンターラインに搭載された大きな爆弾。

 地上の構造物を破壊するためのものではなく、
地下施設にダメージを与えるのに丁度良さそうな。



 エルジア軍が用いているバンカーバスターとよく似たそれを見ながら、
私の中に疑問が沸く。

 何故それを知っている。

 確かにストーンヘンジの心臓部は、そこにある。

 だがそれは一部の人間を除いてはストーンヘンジの技術者しか
知らない極秘中の極秘なのだ。



 何故、まどかの居場所を知っている。
361 : [saga]:2011/07/31(日) 21:27:41.34 ID:0Fe7R7Nw0

 どちらにせよ、水平飛行からの投弾では貫徹爆弾は効果を発揮しない。

 ヤツの今の狙いはレーダージャマーだろう。

 それが壊されてしまっては、こちらの優位が崩れ去る。



 機銃の射程内にヤツを捉える。

 高度300ft、だいぶ接近されてしまったが
まだストーンヘンジ施設までには距離がある。

 まだ爆弾の投下は出来ないはず。

 トリガーを引いて、機銃が発射される事を示す音と光を眺める。

 初撃から当てるつもりでいたが、曳光弾が伸びると同時のタイミングで
”リボン付き”も旋回を始めていた。



 左旋回。

 機首を上向きにし、翼の荷物を放り投げながら。
362 : [saga]:2011/07/31(日) 21:28:15.43 ID:0Fe7R7Nw0

 旋回しながら投下なんて。

 ヤツの旋回を追うべく、私も操縦桿を引く。

 そうと思えば、再び右旋回を始める”リボン付き”。

 照準に捉えたかと思えば、曳光弾はヤツの後方を通り抜ける。



 再び機首を上向きにし、翼の爆弾が放り投げられる。

 もうヤツの真下にあった、レーダージャマーへ向けて。



 炸裂音。

 地上に生まれた、桃色の魔力の塊。

 ヤツが最初に放った爆弾は、発射準備前の砲塔に命中していたのだ。

 コンデンサ内に貯められていた魔力が行き場を失くし、
地上でその輝きを見せる。



 それはストーンヘンジの敷地内に、大きなクレーターを作り出してしまっていた。

 幸いな事に、他の砲塔からは射撃がまだ行われており、
射撃準備中の砲塔からは桃色の魔力が漏れている。

 その様子から、まどかのソウルジェムが無事であった事が分かる。
363 : [saga]:2011/07/31(日) 21:28:43.14 ID:0Fe7R7Nw0

 残念な事に、その爆発は”リボン付き”を巻き込んではいなかった。

 今起こった爆発に比べると、ずいぶんと地味に見える火の玉が
ストーンヘンジ中央に生まれる。



 FRIEND_G
<< ジャマーと2番砲塔が破壊されたぞ!早く敵機を落としてくれ! >>

 FRIEND
<< くそ、これからはヤツらもミサイルを撃ってくるぞ! >>



 その証拠は、ヤツを追いかけながら機銃を撃つ私が見ていたもの。

 はるか前方から補給を終えたSu-35が、
眼前の”リボン付き”に向けてミサイルを放つ。

 それと同時に、ヤツの翼からもミサイルが放たれていたのだ。
364 : [saga]:2011/07/31(日) 21:29:29.55 ID:0Fe7R7Nw0

 まずい。

 味方機のミサイルが”リボン付き”に当たろうが、
すぐ後ろを飛んでいる私は弾頭の破片を浴びてしまう。

 ヤツがばら撒くフレアーを見て、
追跡を一時中断し操縦桿を思い切り引く。



 空に生まれた花火は1つ。

 戦闘に参加したばかりのSu-35からのもの。

 

 ヤツは上昇を始めていた。

 古臭い手段ではある急降下爆撃。

 運動エネルギーを味方に付けるそれは、
その攻撃目標と使用する爆弾にはぴったりのものであった。



 させない。

 再びヤツの右後方に付いた私は、敵と距離が詰まるのをじっと待つ。



 小柄な機体にそれなりのエンジンを2つ付けたMIG-29。

 大型の機体に力強いエンジンを2つ付けたF-15。

 一度離れた距離を詰める事が出来たのは、もうかなりの高度を取ったところではあった。
365 : [saga]:2011/07/31(日) 21:30:21.02 ID:0Fe7R7Nw0

 レティクルに敵機を収め、トリガーを引く。

 曳光弾の光が”リボン付き”へ向けて伸びて行き…



 その光はすぐに消えた。

 何度トリガーを引いても、光は生まれない。



 代わりにコクピットに響く警告音。



 残弾0。



 私からの攻撃を回避するために旋回していた”リボン付き”は、
そのまま機体を捻りこんで降下を開始する。
366 : [saga]:2011/07/31(日) 21:30:51.14 ID:0Fe7R7Nw0

 ”リボン付き”は爆撃コースに入りつつある。

 それを止めようとするこちらは弾がない。



 出来る事は1つだけ。



 Homura
<< うああぁぁァッ! >>



 アフターバーナーを全開にしたまま、私は突撃する。

 ヤツをこのMIG-29で止めようと思って。
367 : [saga]:2011/07/31(日) 21:31:30.96 ID:0Fe7R7Nw0

 こちらがあらかじめ速度を出していて。

 なおかつヤツが降下前の旋回により速度を殺していたのが幸いだった。

 ”リボン付き”は操縦士によって操られる誘導弾から身をかわすため、
投弾コースを外れて旋回を始める。

 

 それを見た私も、スロットルとエアブレーキを操作しながら
ヤツに追従するべく旋回していた。

 味方の増援が来るまで。

 いや、この”リボン付き”が諦めるまで。

 刺し違える事が出来るのなら、それでも構わない。



 上空に居たF-15が再び降下を始めようとする。

 私は再び、ヤツへ向けて一直線に向かう。

 ヤツが闘牛士で私が牛。

 私達の様子を見ている人間が居たとすれば、
そのよう感想を抱いている事であろう。
368 : [saga]:2011/07/31(日) 21:32:07.70 ID:0Fe7R7Nw0

 それも長くは続かない。

 2回目の特攻を見た”リボン付き”は、これを脅威と捉えた様子であった。

 次に行ったヤツの旋回。

 その対象は私。

 ヤツは投弾を行う前に、私を片付けようと考えたのだ。



 こちらとしては願ったり。

 あとは味方機が駆けつけてくれるまで、このまま時間稼ぎをすればいい。



 MIG-29の背後に付く”リボン付き”をバックミラーから見る。

 そのような状況でありながら、驚くほど冷静な私。



 ヤツの機から曳光弾が放たれる。
369 : [saga]:2011/07/31(日) 21:32:41.47 ID:0Fe7R7Nw0

 Homura
<< 黒1より、黄色中隊はまだなの! >>

 AWACS
<< もう基地を飛び立ってこちらに向かっている。持ち堪えてくれ! >>



 藁にもすがる思いでレーダーを見つめる。

 薄暗いレーダー画面は、背後から延びる曳光弾の光にちらちらと照らされて。

 ストーンヘンジの東に、そして南に飛行機の群れ。

 彼らはドッグファイトの最中であり、こちらに来る望みは薄い。

 ここへ向かおうとして背後を敵に取られてしまっては本末転倒だからだ。



 最後の望みは、飛行場に降りて弾薬を補給している味方機…
370 : [saga]:2011/07/31(日) 21:33:15.20 ID:0Fe7R7Nw0

 AWACS
<< 飛行場に2機向かってるぞ!誰か! >>



 私が叫ぼうとしたタイミングで、AWACSの管制官がそれを行う。

 東で互いの背を追いかけながらも、そこをすり抜けたISAF機。

 もしもそれが対地攻撃の手段を持っていたならば。



 Homura
<< こっちは弾が切れてる!お願い、早く上がって! >>

 FRIEND
<< くそ、なかなか離してくれない! >>

 FRIEND
<< 白7,、白8.お前達は飛行場へ!俺はこれからストーンヘンジに… >>



 爆音。

 そして空電のノイズ。
371 : [saga]:2011/07/31(日) 21:33:54.19 ID:0Fe7R7Nw0

 操縦桿を振り回し。

 私は背後から迫る”リボン付き”の攻撃を避け続けていた。



 正確には、避けきれてはいなかった。

 ヤツが連射を行うと、時々混じる衝撃音。
それは確実に私のMIG-29を切り刻む音。

 だが、計器に異常はない。

 燃料はもう僅かにしか残っていないが、知った事ではない。



 操縦にも支障はない。

 ヤツの弾切れまでは、このまま時間を稼いでみせる。
372 : [saga]:2011/07/31(日) 21:34:32.08 ID:0Fe7R7Nw0

 私がそう考えている間に、地上からの砲撃音が届く。

 東へ向けて伸びるそれは、飛行場に迫る敵機を狙ったものであろう。



 その射線のはるか下方に見える2機の影。

 その編隊がF-15だと視認できるほどに、それは接近していたのだ。

 私にも、味方機で溢れている飛行場にも。



 Homura
<< 早く!早く上がって! >>



 地上の対空陣地から、曳光弾とミサイルの煙が伸びる。

 それを追うように、滑走路から離陸するSu-35の姿。
373 : [saga]:2011/07/31(日) 21:35:05.52 ID:0Fe7R7Nw0

 まだ加速を終えていないその味方機へ、敵はすでにミサイルを放っていた。

 

 その行方を見届けていたかったが、再び私の機体に響く衝撃。

 意識を後方の”リボン付き”と、逃げることに集中させる。

 

 バックミラーにヤツが映らない。

 レーダーを見ると、先ほどまで私の背についていたそれは
旋回を始めていたのだ。

 弾が切れたのか、それとも鬼ごっこに嫌気が差したのか。



 私もスロットルを絞り、操縦桿を引く。

 乗機の翼から白煙が噴いていたのを、そこで初めて確認した。

 だが、まだ。

 まだ飛んでいられる。
374 : [saga]:2011/07/31(日) 21:35:36.03 ID:0Fe7R7Nw0

 再び投弾コースに入ろうとする”リボン付き”。

 またしても体当たりを行う私。



 ダメージを負っているとはいえ、弾も燃料もからっぽに近い。

 積荷のないMIG-29は軽々とした感覚のする加速をかけ、眼前のF-15に迫る。

 ここで落とせれば。



 そう願いながらも、飛んでいる飛行機に飛行機をぶつけるなど。

 実際にこうしてやってみると、それは考えていたよりも難しい行為であった。



 ひらりと身を舞わせるように、私を避ける”リボン付き”。

 諦めない。

 何度でも食らい付いてやる。
375 : [saga]:2011/07/31(日) 21:36:07.56 ID:0Fe7R7Nw0

 Oriko
<< 黄13より各機、ストーンヘンジ上空のヤツから落とせ >>

 Kirika
<< 黄4、了解 >>



 やっと。

 やっと来てくれた。



 その想いが、私の注意を取り払ってしまっていたのかもしれない。

 私が旋回している最中、目に飛び込んだもの。

 

 火の海と化してしまった、味方機の居た飛行場。

 そして、そこに爆弾を投下したと思わしきF-15がこちらに向かってくるところ。

 私の目の前に置いてあった弾頭と共に。



 そこで初めて、私はコクピットに響くロックオン警報に気が付いたのだ。
376 : [saga]:2011/07/31(日) 21:37:10.12 ID:0Fe7R7Nw0

 火。



 コクピットから見える世界は炎で覆われる。

 同時に機体に襲い掛かる振動。

 ベルトで固定されている射出座席から、体が浮く感覚。



 YELLOW
<< 火を噴いてるぞ!脱出しろ! >>



 その言葉を聞いて、私の訓練された体は反応してしまった。

 射出座席の安全装置を解除し、レバーを思い切り引く。



 風防が弾け飛び、私の体は大空を舞う。

 その風圧のために、私は首を回せない。



 何処。

 ヤツは何処。
377 : [saga]:2011/07/31(日) 21:37:44.08 ID:0Fe7R7Nw0

 足元に届く熱風。

 私のMIG-29から生まれた爆発によって生み出されたもの。



 その煙の向こうに、ヤツは居た。

 邪魔者が居なくなり、心置きなく自分の通りたいコースを飛んで。



「うあああああああ!!!!」



 赤子が泣くように。

 私は叫んでいた。


 
 赤子はそうする事でしか、抵抗をする事が出来ない。

 それと同じで。



「ああああああああああ!!」
378 : [saga]:2011/07/31(日) 21:38:18.46 ID:0Fe7R7Nw0

 胴体から切り離される爆弾。



 投弾を終えて旋回する”リボン付き”を追うように、
黄色中隊から放たれたと思われるミサイルが飛んでゆく。

 それはヤツに当たる事はなく、すぐさま”リボン付き”は
反転上昇を始めて、迫る5機の味方機に機首を向け出す。



 ヤツが投下を行った地点には、すでに破壊されたレーダージャマー。

 その跡地へ落とされた爆弾が刺さるまで、私は叫び続けていた。
379 : [saga]:2011/07/31(日) 21:38:52.34 ID:0Fe7R7Nw0

 何も起きない。

 爆弾が落ちたその場所には、何も起きない。



 空の飛行機を見上げて、呟く。



「遅すぎる…」



 地上に見えた、小さな火柱。

 まるで”空けられた穴の底で爆発が起きた”ような。



 生き残っている砲塔。

 今にも砲撃を行おうと、砲塔から漏れていた桃色の光。



380 : [saga]:2011/07/31(日) 21:39:30.49 ID:0Fe7R7Nw0



 きえていった。



381 : [saga]:2011/07/31(日) 21:40:04.50 ID:0Fe7R7Nw0



 地面に打ち付けられる私の体。

 

 体に巻きついた落下傘を取り除く気すらなく。



 ただ、上空で繰り広げられている旋回戦を見つめる。


382 : [saga]:2011/07/31(日) 21:40:45.40 ID:0Fe7R7Nw0



 空に沢山作られていた飛行機雲の1つが、その色を黒く変える。



 その黄色中隊機が地上に辿りつくまで。



 私はそれを見ているだけ。


383 :1 M12はここで終わり [saga]:2011/07/31(日) 21:41:28.04 ID:0Fe7R7Nw0



384 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/31(日) 22:22:31.72 ID:tSw2zReDO
まさかの主人公死亡、と思ったが本編でも死んでたな
人間と兵器の融合と聞くとプロジェクトファンタズマを彷彿とさせる
385 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2011/08/01(月) 00:41:45.68 ID:FAog2JwAo
乙。
あーついにまどか死亡?まだわかんねーか
386 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/01(月) 04:28:50.27 ID:VwQW5nHIO
ぼっちさん許さんッ
387 : [saga]:2011/08/01(月) 19:37:47.83 ID:o9ltMwkl0
せっかく描いたのに地図張り忘れてた。PP懐かしいなぁ。俺は面倒が嫌いなんだ。
388 : [saga]:2011/08/01(月) 19:38:15.36 ID:o9ltMwkl0



389 : [saga]:2011/08/01(月) 19:39:03.33 ID:o9ltMwkl0

−−− 佐倉杏子の手記より −−−

 エルジア軍の切り札は、ISAFのエースパイロットの手により
完全に破壊され、その対空砲としての機能を停止させていた。

 ストーンヘンジに制空権の維持を頼っていたエルジア軍は
ここで大きく劣勢にまわる事になるだろう。

 そこで私達はどうするか。



 薄情だと言われてしまうかもしれないが、
私はエルジアという国家に忠誠を誓っているわけではない。

 まだ幼かった当時の私達が生き延びるために、
仕方なくこのような仕事に就いただけなのだ。

 軍に対していくらかの感情を持ってしまっていたが、
その根本的な事実をさやかが思い出させてくれた。

 さやかのおかげで、私は鬼にならずに済んだのだ。



 戦争の先行きは不透明ではあるが、少なくてもエルジアの勝利はないように思える。 

 だから、私はさやかに提案した。

 戦況がまずくなったら、いつでも脱走してしまおう、と。

 私からそのような話を持ちかけられた事に、さやかは目を丸くしていたが。



 その道は決して楽なものではないだろう。
少なくても、エルジア国内に私達の居場所はない。

 かといって、ISAFへの亡命も私は望まない。

 この戦争と関わりのない、海の向こうのオーシアへ逃げるのが
一番いいのかもしれない。

 自由の国。TVで見た彼らの平和で豊かな暮らしに、
私は少なからず憧れを持っていたのだ。
390 : [saga]:2011/08/01(月) 19:39:47.73 ID:o9ltMwkl0

DATE >
1105 / 0507 / 2005

AREA >
Gnome Ravine

http://www.youtube.com/watch?v=J44EdSItv1s
391 : [saga]:2011/08/01(月) 19:40:30.09 ID:o9ltMwkl0

 Kyoko
<< 紫2、気をつけろ。そこかしこに気球が浮いてる >>

 Sayaka
<< 心配性だなぁ。こんなのにぶつからないよ >>



 一面の霧。

 かろうじて広がる視界の先には、レーダージャマーを搭載した気球。

 それらに囲まれて、私達は飛んでいた。



 謹慎中だった私達を任務に引き戻したのは、軍の逼迫した状況によるもの。

 かつてISAFを大陸から追い出した空軍の姿は見る影もなく、
ストーンヘンジさえ破壊されてしまった我々は大幅な戦線の縮小をせざるを得ない。

 そのために、軍はありったけの気球をこの空域にばら撒き、
少しでもISAFの進軍速度を落とそうと考えていたのだ。
392 : [saga]:2011/08/01(月) 19:40:58.93 ID:o9ltMwkl0

 今日の作戦命令は、前回の旅客機撃墜と同様に
またしても詳細を告げられなかった。

 ただ、エルジア勢力圏に侵入した偵察機を撃ち落せという任務。

 今回の相手は軍用機であり、手加減をする必要はない。

 それでも、敵を見つけられなければそれでもいいや、
そんな風に私は楽観的に考えていた。



 勿論、ISAFの奴らに大勢が殺された事を忘れたわけではない。

 だが、頭を冷やす事が出来た私は気付いたのだ。



 殺しているのは奴らだけではない。

 私達も同じように、彼らを殺している。

 そんな憎しみ合いの中に放り込まれている事に気付いた私は、
この戦争に加担する事が虚しくなっていた。



 気付けたのはさやかのおかげだ。

 感謝してもしきれない。それを面と向かって言うつもりもないが。
393 : [saga]:2011/08/01(月) 19:41:34.18 ID:o9ltMwkl0

 Sayaka
<< 目視で探せって言われても…こんなんじゃ見つかりっこないよ >>

 Kyoko
<< ぶつぶつ言うなよ。これも仕事なんだからさ >>

 Sayaka
<< はぁ…杏…紫1は変なとこでマジメよね >>

 Kyoko
<< また謹慎食らいたくないだろ >>

 AWACS
<< 私語は慎め。偵察機は被弾しており、高度を下げているという報告だ >>

 Sayaka
<< 低空を探してるけど目がちらちらしてきたよ >>

 Kyoko
<< 紫2、喋るなって言われたばかりだろ。交信終わり >>

 AWACS
<< お前らのおかげで私まで謹慎の上に減給だぞ…娘に車でも買ってやろうと… >>

 Sayaka
<< 紫2よりネボグラズ、おしゃべりしない >>

 AWACS
<< 畜生、覚えてろよお前ら! >>
394 : [saga]:2011/08/01(月) 19:42:07.95 ID:o9ltMwkl0

 笑いたくなるのをぐっとこらえる。

 事実、私達のおかげで彼にも迷惑をかけてしまった。

 彼が根回しをしてくれたおかげなのか、それとも例の旅客機について
詳細が私達に知らされていなかったからなのか。

 命令不服従に近い事をした私達に下された処分は、
そうとは思えないほど極めて軽いものであった。



 あの旅客機には、ストーンヘンジの技術者がISAFへの亡命を図って
乗り合わせていたという話も小耳に挟んだ。

 それが事実だったのだとすれば、
私達はストーンヘンジ撃破の大戦犯なのかもしれない。

 それを確かめる術も、私達にはないのだが。



 Sayaka
<< 黒1でも来ないかな。話し相手が欲しいぜ >>

 Kyoko
<< アンタさぁ…今さっき言われた事、すぐ忘れんなよ >>
395 : [saga]:2011/08/01(月) 19:42:36.83 ID:o9ltMwkl0

 さやかの口数が多い。

 戦闘から遠ざかっている任務では、いつもこうだ。

 今日は生憎の視界ではあるが、それでも空からの眺めは素晴らしいものだ。

 こうして飛んでいる限りは、私達の乗っているSu-35が
人殺しの道具だという事を忘れてしまいそうな。

 こんな事を考えるのも、なんだか久しぶりな気がする。



 黒1か。



 Sayaka
<< あんた、今度彼女と会ったら謝りなさいよ >>

 Kyoko
<< あー、んー…何か悪い事したっけ >>
396 : [saga]:2011/08/01(月) 19:43:07.51 ID:o9ltMwkl0

 私の考えていた事を、ずばりと言い当てるさやか。

 咄嗟に切り返しの言葉が浮かばず、曖昧な返事を返す。



 Sayaka
<< おやぁ、いつも後味サッパリを信条とする杏子さんが自分の非を認めないなんてね >>

 Kyoko
<< あーはいはい、アタシが悪かったよ >>

 Sayaka
<< そんな謝り方、黒1にしないでよね >>

 Kyoko
<< うっせーな、分かってるよ >>

 AWACS
<< お前ら、いい加減にしろ! >>

 Sayaka
<< 紫2、レーダーオールクリア >>

 AWACS
<< ジャマーのせいで見えるわけがないだろう!仕事をしろ! >>

 Kyoko
<< 悪い悪い、マジメにやるよ >>
397 : [saga]:2011/08/01(月) 19:44:24.36 ID:o9ltMwkl0

 それにしても、低空を飛んでいるはずの偵察機とは。

 ここノーム幽谷は、標高3000ftを越える山がずらりと並んでいる。

 こんな場所で、しかもこの視界の悪さ。

 一つ間違えれば、山に激突してあの世行きだ。



 それを知っている私達も、ある程度の高度を取っている。

 さやかはどうしているか知らないが、少なくても私は
じっと眼下の空を見張ってきたつもりだ。

 それでも、目に見える人工物はジャマーを搭載した気球だけ。

 いたるところに浮かべられたそれは、私達のレーダーすら遮っていたのだ。



 一面の霧の世界に、動くものはない。

 ここは戦争とは全く無縁の場所であるかのように。
398 : [saga]:2011/08/01(月) 19:44:59.03 ID:o9ltMwkl0

 戦争と無縁の場所、か。

 そこへ行けるかどうかを、私は真剣に考え始めている。



 少なくても、このユージア大陸にそのような場所はない。

 戦争が終わるまで、ひっそりと隠れ住むか?
少しだけ考えて、それを頭の中で否定する。

 軍から脱走したとなれば、エルジア国内に留まる事は危険この上ない。

 また、ISAFが進撃を続けるとなれば、いつか必ず
隠れている場所が戦場となるだろう。

 やはり外国へ逃げるべきか。

 候補として浮かぶのは、エルジアから旅客機便が出ている国。
数少ない友好国であるユークトバニア連邦共和国か、エストバキア連邦。

 エストバキアはユリシーズの被害を蒙り、内戦状態にある。

 戦争から逃げる目的で、内戦真っ只中の国に行くなど論外。
399 : [saga]:2011/08/01(月) 19:45:34.40 ID:o9ltMwkl0

 そうなれば、行き先はユークトバニア。

 10年前のベルカ戦争の結果、半世紀近くも続いていた冷戦の宿敵だった
ユークとオーシア連邦との関係は雪解けの時期に来ている。

 そこで私達はなんとかして身分を偽り、オーシアに潜り込む。

 時期大統領選の結果次第ではあるが、
オーシアは今後、大きな戦争には巻き込まれまい。

 彼らがISAFを支援しているだろうという事は薄々気が付いていたが、
彼らは表立って軍をこの戦争に派遣したりはしないであろう。



 ベルカ戦争に投入された、オーシア連邦軍魔法少女部隊。

 今ではどこの国の戦闘教義にも記されている、魔力を封じられた彼女達の悲惨な末路。

 それは彼女達の活躍を納めようとしたメディアの手によって
オーシア中のお茶の間に生中継されていたそうだ。

 そして発射したベルカ自身の土地を焼き尽くした、史上初の実戦投入された核兵器。



 このような戦争の当事者となったオーシア国民は、
今後しばらくは自ら戦争に加担しようなどとは考えないだろう。

 少なくても、私はそう考える。
400 : [saga]:2011/08/01(月) 19:46:05.98 ID:o9ltMwkl0

 AWACS
<< …紫編隊!応答せよ! >>

 Sayaka
<< 杏子? >>

 Kyoko
<< 悪い、探し物に夢中だった >>



 まさか亡命する手筈を考えてました、等とは言えない。




 AWACS
<< それならば朗報だ。方位0-2-2、かすかなレーダー反応を捉えた >>

 Kyoko
<< ジャマーのシグナルじゃないのか? >>

 AWACS
<< 途切れ途切れではあるが、その反応は移動していると思われる >>

 AWACS
<< 確認のために味方機を何機か向かわせている。お前達も彼らを手伝え >>

 Kyoko
<< 紫1、了解 >>
401 : [saga]:2011/08/01(月) 19:47:05.99 ID:o9ltMwkl0

 西を向いていた私達のSu-35を北東に向け、大きく旋回させる。

 まだ亡命を考えるのは気が早い、私はそう考えていた。



 ストーンヘンジを失ったエルジアは、いつの日か敗北するだろう。

 決定的な打撃を受ける前に、エルジアはISAFに降伏するかもしれない。
そうなれば、わざわざ危険を冒してまで亡命をする必要などはなくなる。

 それに、少なからずエルジア軍には義理がある。

 今日、明日にも飢え死ぬかもしれない状況から助けてもらった義理が。

 どうしようもない事態に陥るまでは、自分達の仕事は果たそう。



 私は自分の気持ちに決定を下し、スロットルを押し込む。

 霧の谷の中を、私達の愛機のエンジン音がこだまする。
402 : [saga]:2011/08/01(月) 19:47:52.85 ID:o9ltMwkl0

 視界の先に、赤く輝くもの。

 全てが霧に包まれた白の世界で、それは私にとても印象強く残された。



 Kyoko
<< 紫1よりネボグラズ、味方機はもう交戦を始めたのか? >>

 AWACS
<< ネガティブ、まだ敵の偵察機を見つけていない。何があった? >>

 Kyoko
<< 前方に爆発らしきもの… >>

 Sayaka
<< 紫2より、11時方向! >>



 同じく見えたもの。

 何かが爆発する赤い輝き。

 

 そして双発のエンジンから吹き出る炎と思わしきもの。
403 : [saga]:2011/08/01(月) 19:48:35.94 ID:o9ltMwkl0

 Kyoko
<< 紫1より、前方に戦闘機。視認できるのは1機、何かを撃っている >>

 AWACS
<< 若干ではあるが、レーダーのノイズが少なくなっている。敵機かもしれん >>

 Kyoko
<< 接近して確認する。紫2、付いて来い >>

 Sayaka
<< 紫2、了解 >>



 爆発の見えた方向へ向かうために僅かにラダーを踏む。

 こんな所で、たった1機で何をしているのか。



 たった1機。



 旅客機の護衛をしていたヤツもそうだった。
404 : [saga]:2011/08/01(月) 19:49:23.01 ID:o9ltMwkl0

 スーツの中で汗が流れる感覚。

 レーダーが効かない条件下、こちらの長距離ミサイルを放り込む事も出来ない。

 戦う距離は赤外線誘導ミサイルの射程距離。

 つまり、ドッグファイト。



 Kyoko
<< 紫1より2、絶対に油断するな >>

 Sayaka
<< 分かってる >>



 前に飛び続けながらも、周囲に忙しく目をやる。

 動く物は必ず見つけて見せる。

 それくらい、私は気を張り詰めていた。



 それなのに。
405 : [saga]:2011/08/01(月) 19:50:01.83 ID:o9ltMwkl0

 Kyoko
<< さやか、5時下方! >>

http://www.youtube.com/watch?v=dJ1HkewwDDg
406 : [saga]:2011/08/01(月) 19:50:35.16 ID:o9ltMwkl0

 霧の谷の中から、アフターバーナーを噴かして上に向けて上昇するF-15。

 その輝きが視界に入ったおかげで、私はそれを見つけていた。



 この霧の中で、下から来るとは考えて居なかった。

 さやかのSu-35が旋回を始めると同時に、ヤツの翼からミサイルが放たれる。

 同時に鳴り出す、私の機体へのロックオン警告。




 速度を落としていたのが仇となった。

 即座にフレアーを射出し、左旋回を始めたさやか。

 反応は悪くなかったのに。
407 : [saga]:2011/08/01(月) 19:51:11.27 ID:o9ltMwkl0

 ヤツはミサイルを放つと同時に、同じ方向に機首を向けていた。

 まるで逃げる方向が分かっていたかのように。



 曳光弾の筋が視界のSu-35を切り裂く。



 Kyoko
<< さやか!! >>



 砕ける機体。

 そして代わりに残される炎。



 Sayaka
<< 食らった、操縦桿が言う事を聞かない! >>

 Kyoko
<< 機から火を噴いてる!脱出しろ! >>
408 : [saga]:2011/08/01(月) 19:51:45.90 ID:o9ltMwkl0

 言葉と同時にキャノピーから飛び出る影。

 吹き飛ぶ風防を見て機体が爆発してしまったのかと肝を冷やしたが、
それはさやかが安全に射出できた事を示すものであった。




 それと同時に私の機へも向けて炎の筋が伸びる。

 操縦桿を折るくらいのつもりで引き続ける。



 Kyoko
<< 紫1より、紫2が被弾してベイルアウトした! >>

 AWACS
<< 敵か?赤編隊、方位1-7-0へ急げ! >>

 Kyoko
<< 機数1、垂直尾翼にメビウスの輪が付いたF-15。かなりの腕だ >>



 FRIEND
<< リボン付きだ。黄4を落としたやつか >>
409 : [saga]:2011/08/01(月) 19:52:20.25 ID:o9ltMwkl0

 Kyoko
<< …何だって? >>



 あの黄色中隊のエース、黄4が落ちたなど。

 私は首を振る。

 いや、ヤツならやりかねない。



 弾頭から吹き出る炎がすぐ側を通り過ぎる。

 幸いなことに、それは私の近くで爆発する事はなかったが、
更なるミサイルがヤツから送り出されているのを見てしまう。



 対気速度がない。

 やや下方から送り込まれたミサイル。
それに対して、上へ逃げるのは得策ではない。

 下は…一面の霧。

 だが迷っている暇はない。
410 : [saga]:2011/08/01(月) 19:52:52.55 ID:o9ltMwkl0

 操縦桿を倒し、機を捻らせて降下を始める。

 スロットルを押し込もうとしたところで、私は左手の動きを止めた。



 山。

 慌てて操縦桿を元の方向へ戻す。

 危うくぶつかるところであった。

 だが…



 コクピットの右側に通り過ぎる炎。

 目に入った瞬間にそれは爆発し、その破片を私の機体へ突き刺す。
 


 上昇を行っていた私は、すぐに異変に気付いた。

 機体が勝手にロールする。

 真っ直ぐに飛べなくなっていたのだ。
411 : [saga]:2011/08/01(月) 19:53:42.60 ID:o9ltMwkl0

 FRIEND
<< 赤6、FOX2! >>

 FRIEND
<< 赤3、FOX2! >>



 その声と共に、遥か遠くから見える炎の塊。

 友軍機が駆けつけてくれたのだ。



 バックミラーには、私から離れて旋回を始める”リボン付き”。

 爆発が起きない所から推測するに、
彼らから送られたミサイルはヤツに命中してはいなかった。



 Kyoko
<< 助かった、アタシも被弾して真っ直ぐ飛べない >>

 AWACS
<< あとは彼らに任せて帰投しろ。紫2への救援隊もすでに向かっている >>

 Kyoko
<< そいつはありがたいな。悪いけど離脱するよ >>
412 : [saga]:2011/08/01(月) 19:54:17.67 ID:o9ltMwkl0

 癖でレーダー画面を確認する。

 だが、そこにはジャマーによる白い霧が作られていただけ。

 傾く機をなんとか操縦している私に対して、敵機からの追撃はなかった。




 一歩間違えれば、二人とも死ぬところだった。

 ヤツと同じ空を飛ぶ限り、これからも同じ目に遭うかもしれない。

 早いうちに軍から抜け出すべきだろうか。

 私は眼下に広がる霧の中にさやかが見える気がして
それをじっと見つめながら考えていた。



 Kyoko
<< 救援ビーコンは出てるのか? >>

 AWACS
<< 出ているから救援隊を向かわせた >>
413 : [saga]:2011/08/01(月) 19:55:00.24 ID:o9ltMwkl0

 いらだたしげに話すネボグラズの管制官。

 これで安心できる。

 撤退続きとはいえ、まだここの地域はエルジア軍の勢力圏内。

 明日にでもなれば、またさやかはあの顔をひょっこり見せに来るだろう。



 Kyoko
<< 良か、った… >>

 AWACS
<< 何か言ったか? >>



 返事は返さない。



 こんな情けない声で、何を言えというのか。
414 :1 M13はここで終わり [saga]:2011/08/01(月) 19:55:28.95 ID:o9ltMwkl0



415 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/08/01(月) 20:02:55.96 ID:Sfysv+xAO
>>1乙です

相変わらず空戦の描写がパネェ…
416 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2011/08/01(月) 21:10:45.65 ID:FAog2JwAo
乙、着々と死亡フラグが…
あと撃墜の描写もなく落とされてたkirikaに乾杯
417 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/02(火) 02:05:07.04 ID:GD778OfDO
キリカェ・・・
オーシアへの亡命も危ないよなぁ
418 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/02(火) 12:52:24.22 ID:vp1yoRuIO
オーシアもユークもオーレリアもアネア大陸も15年間の間に戦争起きるからな……
419 :1 エスコンに詳しいなぁ [saga]:2011/08/03(水) 19:49:40.68 ID:Evyu36s80



420 :1 エスコンに詳しいなぁ [saga]:2011/08/03(水) 19:50:53.49 ID:Evyu36s80

−−− 暁美ほむらの手記より −−−

 ░▒▓█░▓░░░█▓█▒▒▓█░▓░█▓█▒▒▓█░▓░█▓█▒█▓█▒▒▓█░         

 █▓█▓█▒▓█░▓█░▓█▓█▓█▓█▒░░▓█▓█▓█▒░░▓█▓▓█▓█▒░░▓█▓█░;
               
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421 : [saga]:2011/08/03(水) 19:51:24.92 ID:Evyu36s80

DATE >
0256 / 0618 / 2005

AREA >
Ice Creak

http://www.youtube.com/watch?v=XIY2NUuW1eE
422 : [saga]:2011/08/03(水) 19:52:01.23 ID:Evyu36s80

 星のきらめく夜空。

 地上には沢山の氷の塊。

 とっても明るい。

 オーロラが見えたから。



 敵の新たな地点への上陸。

 そこへ向かう味方の巡航ミサイル。

 ISAF機が撃ち落そうとしているらしい。

 止めて来い、って。



 やる気もないのに。

 もう空を飛ぶ意味もないのに。

 ぴかぴかのSu-35。

 これで飛べ、って。
423 : [saga]:2011/08/03(水) 19:52:30.15 ID:Evyu36s80

 軽い機体。

 速い機体。

 もっと早く貰えてれば。

 何もかも遅い。



 輝くレーダー。

 空には私だけ。

 味方もない。

 敵もない。



 AWACS
<< ネボグラズより黒1、敵影は見えるか? >>

 Homura
<< いいえ >>

 AWACS
<< 了解。そろそろ巡航ミサイルが空域へ到達する。引き続き警戒を >>
424 : [saga]:2011/08/03(水) 19:53:06.80 ID:Evyu36s80

 めんどくさい。

 飛びたくない。

 帰りたい。

 ベッドに潜りたい。



 寝ていたい。

 忘れられるから。

 寝ていたい。

 夢の中では、会えるから。



 燃料計。

 あとちょっと。

 仕事の時間。

 すぐ帰れる。
425 : [saga]:2011/08/03(水) 19:53:35.23 ID:Evyu36s80

 それなのに。

 レーダーの光。

 南西から6つ。

 南東から1つ。



 AWACS
<< 敵機1、後続は見当たらない。方位1-3-5 >>

 Homura
<< はい >>

 AWACS
<< 交代の戦闘機が向かっている。残りの燃料にも注意しろ >>

 Homura
<< はい >>
426 : [saga]:2011/08/03(水) 19:54:06.21 ID:Evyu36s80

 AWACS
<< 黒1、様子がおかしいぞ。調子が悪いのか? >>

 Homura
<< 別に >>

 AWACS
<< …まだ我々の制空圏内に単機で侵入した敵だ >>



 AWACS
<< リボン付きかもしれん。十分に注意せよ >>



 スロットルを押し込み、アフターバーナーに火を入れる。

 MIG-29とはまた違う、重みを感じる加速感。
427 : [saga]:2011/08/03(水) 19:54:36.89 ID:Evyu36s80

 東へ。
 
 操縦桿を握り、敵を求めて私は機首を向ける。

 そしてレーダー画面を見つめる。

 遠い、すごく遠い。



 明るい夜空、視界は良好だった。

 乗機はエルジア空軍内では最高位に当たるSu-35。

 前回と違って、弾薬は最大限まで搭載されている。

 この条件でなら負けない。



 距離は離れているが、私のはるか遠く後方には味方の巡航ミサイル。

 はるか前方には、こちらへ向かう1機の光点。

 私は敵の進路上を飛んでいる。

 敵の居る方向を向きながら。
428 : [saga]:2011/08/03(水) 19:55:07.90 ID:Evyu36s80

 Su-35のレーダーがまだ視界に入らない敵をロックする。

 MIG-29にはなかった長距離ミサイル。

 向かってくる敵にそれを放つ。

 夜空の中で目立つ、私の翼から伸びる炎。



 それを回避するためか、敵機が進路を変える。

 まだ西よりに飛んでいるが、若干北向きに修正を加えて。

 このまま連発すれば、相手の向きをどんどん修正させられる。

 けれど、また弾が切れてしまうんじゃないかと。



 どうせ守るものもない。

 敵は1機、これを落とせば帰るつもりだ。

 時間差を置いて、残りの3発の長距離ミサイルを順に放つ。

 落とせはしなかったが、どんどん北に旋回を続ける敵機の光点。
429 : [saga]:2011/08/03(水) 19:55:36.08 ID:Evyu36s80

 私は真っ直ぐに距離を詰めて。

 敵機のアフターバーナーの炎が見えて、左旋回を始める。

 落とすのにこれ以上ないほどの位置取り。

 明るい夜空の中に見えたF-15。



 私の期待通りのエムブレム。
430 : [saga]:2011/08/03(水) 19:56:08.53 ID:Evyu36s80

 殺してやる。

http://www.youtube.com/watch?v=R5EeV80katE
431 : [saga]:2011/08/03(水) 19:56:34.28 ID:Evyu36s80

 残り4発の短距離ミサイル。

 すでにロックオンを終えていた私は、そのうち1つを送り込む。

 いつものように、一瞬の右旋回からのフレアー。

 そしてその欺瞞と直角の位置へ動く”リボン付き”。



 何度もその動きは見てきた。

 私はそれに惑わされる事なく、操縦桿を倒してヤツを追う。

 レティクルにF-15が収まると同時に、トリガーを引く。

 曳光弾から逃れるように、ロールを繰り返す”リボン付き”。



 前回とは逆の立場ね。

 背後から機銃で狙われ続ける気分はどうかしら。

 あの時の私の気持ちなんて、あなたには分からないでしょうけれど。

 今の私の気持ちなんて、あなたを殺す事くらいでは晴れないでしょうけれど。
432 : [saga]:2011/08/03(水) 19:57:00.41 ID:Evyu36s80

 距離がとても詰まっている。

 この距離で爆発したら、私も危ないのかも。

 それでも、ミサイルを送り込む。

 軽やかに空を踊る炎。



 フェイントを入れる暇もなく、その場でフレアーを放ち。

 そのまま曳光弾から逃れたロールを利用して、旋回したヤツの行き先は下。

 ぎっしり氷の張られた大地へ向けて、ヤツは飛び込むように。

 それを追いかける私も、同じように。



 ぐんぐん高度が下がる。

 いつかヤツは、機首を引き上げなければならない。

 そのタイミングを提供するために、もう1発のミサイルを送り込む。

 機体が揺れ、弾頭が眼前のアフターバーナーを追いかける。
433 : [saga]:2011/08/03(水) 19:57:31.34 ID:Evyu36s80

 フレアーを放ち、機首を引き上げるヤツ。

 ミサイルは氷の中に突っ込み、辺りに欠片を撒き散らし。

 そうなる事を予想していた私は、とっくに操縦桿を引いていて。

 ヤツが機を起こしたところに、曳光弾を送り込む。



 空に舞っていた氷とは違うもの。

 ヤツの機から飛び出た欠片。

 気分が晴れないなんて、嘘だった。

 それを見て、私はゾクゾクしているもの。



 バレルロールと上昇の組み合わせ。

 そうして逃げる”リボン付き”を、私はしつこく追い回す。

 あのような運動をしていたら、ヤツはいつか失速する。

 それを狙っているのでしょうけれど。
434 : [saga]:2011/08/03(水) 19:58:01.96 ID:Evyu36s80

 Su-35は本当にすごい。

 こうして垂直上昇をしていても、加速している。

 視線の先で宙返りをしている”リボン付き”。

 ほら、見てみなさい。



 ほとんど空の中で止まっているように見えるF-15。

 機銃のレティクルにそれを収め続ける私。

 曳光弾の光。

 ヤツの翼を切り裂き、黒い欠片が落ちてくる。



 けれど”リボン付き”は砕けていなかった。

 ヤツを追い越した瞬間、私の視界が白く輝く。

 F-15にそこまでのポストストール性能があるとは聞いた事もない。

 それでもヤツは、失速状態の中で機首が振れる方向を知っていたかのように。
435 : [saga]:2011/08/03(水) 19:58:42.38 ID:Evyu36s80

 機体に響く衝撃と金属音。

 どこかに食らってしまったのかしら。

 貰ったばかりの飛行機に傷を付けちゃった。

 別にいいか、これでおあいこ。



 バックミラーにはもう下を向きつつある”リボン付き”。

 ぶっつけ本番だけど、上手く行くかしら。

 FBWのスイッチを切り、エアブレーキを開く。

 操縦桿を思い切り引き、真上を向いていた私は180度の方向転換を行う。



 本当にすごい飛行機。

 後ろに見えていたヤツが、また目の前に居る。

 白い煙を引きながら、急降下するF-15。

 FBWを入れなおして機の姿勢を安定させる。
436 : [saga]:2011/08/03(水) 19:59:16.96 ID:Evyu36s80

 トリガーを引き、曳光弾を送り込む。

 ひらりひらりと機をロールさせ続けるF-15。

 ゆるやかに機首を水平方向に向けながら、曳光弾から逃げる。

 操縦桿が少し重い。ダメージのせいかしら。



 速度が出すぎている。

 トリガーを引きながら、スロットルを調節する。

 さっきまでほど、機敏な反応を見せてくれないSu-35。

 このままだとヤツと衝突してしまう。



 まあ、それでもいいか。

 伸びる曳光弾は”リボン付き”へと続いて行く。

 その光の道筋は、私達の葬儀への案内路。

 さ、一緒に逝きましょう。
437 : [saga]:2011/08/03(水) 19:59:45.17 ID:Evyu36s80



 Sayaka
<< ぶつかる!ブレイク! >>


438 : [saga]:2011/08/03(水) 20:00:20.24 ID:Evyu36s80

 咄嗟の言葉に反応してしまった。

 もう目の前まで、ヤツのエンジンが見えていたのに。

 操縦桿を引いた私は、右側を飛び続ける”リボン付き”を見る。

 ゆるやかに降下しながら、速度を稼いでいた。



 Kyoko
<< そこのフランカー、一体何してんだ! >>

 Homura
<< 邪魔しないで >>



 Sayaka
<< その声…やっぱり黒1なの? >>
439 : [saga]:2011/08/03(水) 20:00:49.83 ID:Evyu36s80

 気付けば2機の同型機。

 紫編隊が、私の両隣を囲むように。



 Kyoko
<< 紫1よりネボグラズ、味方機と合流した。煙を噴いてる >>

 AWACS
<< なんだと、それは本当なのか?黒1 >>

 Homura
<< 関係ないわ >>

 Sayaka
<< あんたはもう戦えないよ。代わりにあたし達がやるからさ >>

 Homura
<< あれを落とすのは、私 >>



 Homura
<< そこに居られると動きにくいわ。どいて頂戴 >>

 Kyoko
<< なあ、一体どうしちまったんだよ >>
440 : [saga]:2011/08/03(水) 20:01:16.19 ID:Evyu36s80

 AWACS
<< 交代の戦闘機がそちらに向かっている。黒1は帰投せよ >>

 AWACS
<< 滞空時間から察するに、燃料もほとんど残っていないだろう >>

 Sayaka
<< だったらなおさらあたし達が… >>

 AWACS
<< バカも休み休み言え、紫編隊も別空域の敵と交戦を終えたばかりだろう >>

 AWACS
<< 残弾がない機に援護要請をした覚えはない。どうしてここに来た >>



 Kyoko
<< 聞き慣れた声を聞いたから、じゃ駄目か? >>

 AWACS
<< 良い訳がない!ただちに全機帰還しろ! >>
441 : [saga]:2011/08/03(水) 20:01:43.29 ID:Evyu36s80

 Homura
<< どうして私に構うの? >>

 Sayaka
<< まるで自殺志願者のような事をしといて、よく言うわ >>

 Homura
<< 放っておいて。私に生きている価値なんてない >>

 Sayaka
<< あるよ >>



 Homura
<< ない >>

 Sayaka
<< あるって >>
442 : [saga]:2011/08/03(水) 20:02:13.99 ID:Evyu36s80

 Sayaka
<< 何があったのか知らないけどさ >>

 Sayaka
<< 少なくてもあたしは、あんたに生きていて欲しいと願ってる >>



 Sayaka
<< それじゃ生きる価値にすらならない? >>






 Sayaka
<< 答えて >>


443 : [saga]:2011/08/03(水) 20:02:57.19 ID:Evyu36s80

 まどか以外から。

 そんな言葉を向けられるとは思ってもいなかった。



 私の記憶の中にしか存在しない。

 優しさ。



 Homura
<< 余計、な、お世話、よ… >>



 Homura
<< なん、で、そんな、に… >>



 続きの言葉が出ない。

 それでも、彼女達は。
444 : [saga]:2011/08/03(水) 20:03:24.09 ID:Evyu36s80

 Kyoko
<< 食い物と命を粗末にするヤツは放っておけなくてね >>

 Sayaka
<< もう何度も一緒に飛んできたじゃん >>



 Sayaka
<< 友達でしょ?あたし達 >>



 Homura
<< そんな、いまさら… >>



 Homura
<< わたし、どうす、れば、いいの… >>


445 : [saga]:2011/08/03(水) 20:03:56.02 ID:Evyu36s80

 Kyoko
<< いいよ、一緒に居てやるよ >>



 Kyoko
<< アンタの悩み、聞かせてよ。一人ぼっちは寂しいもんな >>



 マイクのスイッチを切り。

 私は狭いコクピットの中で叫ぶ。



 ヤツを殺して私が死ねば、全てが終わる筈だったのに。

 どうして余計な事を。



 余計な気持ちを。

 私に…


446 : [saga]:2011/08/03(水) 20:04:24.79 ID:Evyu36s80



 AWACS
<< 話は済んだか? >>

 Sayaka
<< ごめんね、手間かけさせちゃって >>

 Kyoko
<< 紫1より、編隊を解くぞ。黒1は南に進路を変えろ >>



 言われた通りに。

 操縦桿を引く。

 燃料はあるのかな。

 ぎりぎり帰れそう。
447 : [saga]:2011/08/03(水) 20:05:00.31 ID:Evyu36s80

 レーダーの光点。

 巡航ミサイルを目指すリボン。

 それに近づく味方。

 きっと落としてくれるでしょう。



 右側にも飛行機。

 左側にも飛行機。

 仲良く並ぶ私達。

 真っ直ぐ南へ向かって。



 何も考えたくない。

 ベッドに潜り込みたい。

 私はこれからどうするの。

 教えて、まどか…


448 :1 M14はここで終わり [saga sage]:2011/08/03(水) 20:05:40.89 ID:Evyu36s80



449 : [saga sage]:2011/08/03(水) 20:27:25.86 ID:Evyu36s80
忘れないうちにいつもの。
450 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2011/08/03(水) 22:08:22.91 ID:E3f4X+xwo
ほむほむ壊れたああああああ、と思ったらギリギリで持ちなおしたよかった
そしてAWACS△
451 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山形県) [sage]:2011/08/04(木) 00:38:49.77 ID:6XKZDACoo
相変わらずAWACS△が男前すぎる
452 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/04(木) 01:49:14.67 ID:zCKt8FfDO
おつー、最初バグったかとおもた
このミッション初めてやったとき最後のミサイルの回避能力にビビったわ
次はサンバルシオン、このssも佳境に入っているのだろうか
453 :1 あのミサイルは機銃縛り最難関でした [saga sage]:2011/08/04(木) 20:06:01.02 ID:F6kEPrBE0



454 : [saga]:2011/08/04(木) 20:06:53.96 ID:F6kEPrBE0

−−− 美国織莉子の手記より −−−

 私達の街を出て行け、侵略者め。

 それが私に向けられた言葉。

 

 彼女は、私の行きつけの酒場に度々姿を現していた。
まだ年端も行かない彼女が、そうした場所に現われる理由。

 自力で食べるために稼ぐ必要があったのだ。
その小さな少女が得意とするハーモニカの演奏を手段として。

 彼女の家庭に何かしらの事情があるのは分かりきっていた。

 それでも、私達の全員がそれに気付かない振りをして。
私もキリカも、その少女を妹のように可愛がってきたつもりだった。



 いかなる事情、理由があれど。

 私達は異国からの侵略者であり、
そして彼女達は戦争の被害者であるという事実。

 私が目を背けてきていた事実は、
彼女の一言によって思い出させられていた。



 ISAF軍がこの街に迫りつつある。

 ストーンヘンジの防空戦で親友を亡くし、
唯一残った親しい人間からも現実を叩き付けられて。

 それでも、私は飛び続けなければならない。

 まだ小さな少女ですら持っているものと同じように。
私にも、祖国エルジアを愛する心があるから。

 お父様が愛した、このエルジア共和国を守る。

 それが私の戦う理由。
455 : [saga]:2011/08/04(木) 20:07:19.45 ID:F6kEPrBE0

DATE >
0000 / 0710 / 2005

AREA >
San Salvacion

http://www.youtube.com/watch?v=INvn92KVfxE
456 : [saga]:2011/08/04(木) 20:07:50.00 ID:F6kEPrBE0

 つい先ほどまで真っ暗だった街。

 エルジアによる灯火管制が行われていた街は、
日付をまたいだ瞬間に明るくなる。

 闇の中に浮かび上がる、見慣れたサンサルバシオンの夜景。



 FRIEND_G
<< くそ、戦車が来たぞ!どこに隠れてやがった! >>

 FRIEND_G
<< なんで明かりが付いているんだ!これじゃ俺達は丸見えだ! >>

 FRIEND_G
<< 慌てるな。司令部に増援を要請しろ >>



 AWACS
<< 敵編隊が続々とこちらに向かっている。機数38 >>

 AWACS
<< 各機、迎撃態勢を取れ。特に、空港の味方機を無事に空へ上げろ >>

 Oriko
<< 黄13、了解 >>
457 : [saga]:2011/08/04(木) 20:08:24.42 ID:F6kEPrBE0

 私は今、AWACSの管制下に居る。

 ストーンヘンジが撃破された責任の一端は私にある。
そのために、私に許されていた指揮権は剥奪されていた。

 レジスタンスによる滑走路への爆破、それに伴う離陸の遅延。
それに対して不平を言うつもりはない。

 そのような管理の部分まで、中隊に関わる事柄全てに
私は責任を負っていたのだから。



 そして補給の途絶により、整備がろくに行われなかった黄4のSu-37。

 あのストーンヘンジ上空で散ってしまった、私の親友。

 空に上がってからの事は、操縦者が負うべき責任。

 だが、空に上がるまでの事は私が負っていた責任。



 司令部に交換部品の要求をもっと強く行うべきだった。

 あの状態の機体で、キリカを出撃させるべきではなかった。

 悔やんでも悔やみきれない。

 彼女は今、1枚のハンカチとなってこのコクピットに乗っている。
458 : [saga]:2011/08/04(木) 20:08:54.48 ID:F6kEPrBE0

 FRIEND
<< あの黄色中隊と飛べるなんてな。ISAFの奴らを叩き落してくれ >>

 YELLOW
<< り、了解 >>



 可哀想に。

 震えた声の返事をした彼は、一番新しく入った補充兵。

 悪化する戦況に、次々とベテランパイロットは引き抜かれて、
私の中隊は見るも若々しい顔ぶりとなってしまった。

 私は彼らが落とされないように訓練をして来たつもりではある。

 だが、そんな彼らを援護するにはこれまでと同じような、
各々の操縦技術に頼る戦い方であってはならない。

 5機1組で行動し、私が彼らの面倒を見る必要があったのに。



 司令部の”黄色中隊”への期待は、信仰と言えるほどのものになっていて。

 サンサルバシオンの旧市街、官庁街、そして眼下のサンプロフェッタ空港。

 これらの守りに付かせるために、私達はバラバラに配備されていたのだ。
459 : [saga]:2011/08/04(木) 20:10:03.62 ID:F6kEPrBE0

 REPORT
<< …爆発音と戦闘機の爆音が聞こえます >>

 REPORT
<< …街の光が、一斉につきました >>

 REPORT
<< …ユージア中央部標準時、午前0時5分… >>

 REPORT
<< …日の出を待たずして、攻撃が開始されました >>

 REPORT
<< …一部画像と音声が乱れていることを、おわびします >>



 無線に流れる、報道機関のものと思われる声。

 何時だって戦争というものは、人の目を引くものだ。

 だが、彼らは巧みに情報を操り。

 人の目を引かないものは撮らない。

 そう…
460 : [saga]:2011/08/04(木) 20:10:32.83 ID:F6kEPrBE0

 ロスカナスから逃げ出してきた敗残兵。

 市民からの暴行を受け、自力では立つ事も出来ずに
仲間の肩を借りていた彼の姿を忘れない。

 ロスカナスから逃げ出してきた女。

 エルジア人でもない彼女が、なぜ顔中に打撲の跡を残し、
女の命でもある髪を切られ、頭を丸刈りにされていたのか。

 理由の想像は付く。



 FRIEND
<< 青3、交戦開始。頼むぜ、黄色中隊 >>

 YELLOW
<< 黄9、交戦開始 >>
461 : [saga]:2011/08/04(木) 20:11:03.06 ID:F6kEPrBE0

 FRIEND
<< 奴ら編隊を分けて攻撃を仕掛けている。空港にも向かっているぞ >>

 FRIEND
<< こっちの守りは任せろ >>

 FRIEND
<< リボンの戦闘機は来ているのか >>



 レーダー画面には、迫り来る敵編隊。

 数は10ほど。じきに長距離ミサイルの射程に入る。

 共に飛んでいる味方機は、こう言ってしまっては悪いが
背中を安心して任せられるとは言い切れない。

 長い戦いになる。大事に弾を使おう。



 Oriko
<< 黄13、交戦開始 >>
462 : [saga]:2011/08/04(木) 20:11:44.02 ID:F6kEPrBE0

 次々と私に続く、交戦開始の言葉。

 私を先頭にレーダー光点の群れは鏃の形を取り、
同じように迫る敵機達へと向かい出す。

 コクピットにはとっくにロックオン完了を知らせる合図が届いている。

 だが、まだ私は撃たない。

 敵がレーダーロックを受けている事を知らせるだけでも、
この武器は心理的な役割を果たしてくれるのだ。

 格闘戦に入れば、重いミサイルはハンデになってしまうが、
それくらいで丁度いいだろう。

 私に勝てるパイロットなど、ヤツくらいしかいないでしょうから。
463 : [saga]:2011/08/04(木) 20:12:13.94 ID:F6kEPrBE0

 REPORT
<< …歴史上、幾度となく戦場となってきたこの都市で… >>

 REPORT
<< …このサンサルバシオンが再び戦火に包まれています >>

 REPORT
<< …この放送は検閲され… >>



 案の定、私が狙いを定めていた敵機はじれてしまったのか、
一直線に空港に向かっていたのに旋回を始める。

 私はすかさずロックを切り替える。

 もうこれ以上は無意味だ。



 Oriko
<< 黄13、FOX3 >>
464 : [saga]:2011/08/04(木) 20:12:41.67 ID:F6kEPrBE0

 撃ち離すのは1発だけ。

 狙われた機も、先ほど旋回をした敵機と同じ向きへと逃げ出す。

 それにつられて旋回を始める、後続の機体。

 ついている。



 編隊機は原則的に、編隊長に付いていかなければならない。

 それが”教科書”に書いてある教え。

 私はアフターバーナーを吹かし、北に機を向けた敵機を追いかける。

 明るい空であれば、もう視認出来る筈の距離であった。



 相対する敵と、少し操縦桿を捻れば背中を取れる敵。

 どちらを狙えば効率がいいのか、味方機も承知していた。
465 : [saga]:2011/08/04(木) 20:13:14.60 ID:F6kEPrBE0

 FRIEND
<< 白4、FOX2 >>

 FRIEND
<< 白11、FOX2! >>

 Oriko
<< 黄13、FOX2 >>



 夜空を埋める炎の列。

 前方から放たれる、きらめくフレアー。



 次々と生まれる爆発。

 それを追うように、私は加速を続ける。



 暗くて姿は見えないが、機のHUDは敵の姿を示す
ターゲットコンテナを表示させてくれている。

 そこに合わさるレティクル。

 私は機銃のトリガーを引いていた。
466 : [saga]:2011/08/04(木) 20:13:45.40 ID:F6kEPrBE0

 REPORT
<< …曳光弾の軌跡とエンジンの炎、そして爆発だけが見えます >>

 REPORT
<< …光と音からして、かなりの数の戦闘機です! >>



 このレポーターは私達の足元にいるのかしら。

 ”かなりの数の戦闘機”それを確認するために。

 たったいま粉々に砕き、炎の流星となっている敵機を横目に
私は暗いコクピットの中で緑に輝くレーダーを見つめる。



 残敵7、味方は8。



 FRIEND
<< 黄13、背中に付かれてる! >>
467 : [saga]:2011/08/04(木) 20:14:14.59 ID:F6kEPrBE0

 言われるまでもなく、レーダーから把握していた。

 そしてすぐに飛び込むロックオン警報。

 一瞬だけ操縦桿を押し、機体を沈める。

 後方に見えた炎。

 フレアーを射出し、操縦桿を引く。



 機が星空を見つめる。

 後方に流れていく敵からの誘導弾。

 そして、その敵が撃ち出していた曳光弾の光も。
468 : [saga]:2011/08/04(木) 20:14:51.58 ID:F6kEPrBE0

 敵の機銃の射程内。

 私は即座にFBWを切り、エアブレーキを開くと共に操縦桿を引く。

 何度も何度も部下達に見せた、クルビットの機動。

 彼らが敵に勝てるように。彼らが敵に殺されないように。

 彼らがエルジアを守るために。



 風防の外の世界がぐるりと回る。

 眼下の空には、沢山の戦闘機から生まれる光。

 そして再び天を向いた時には、私を通り過ぎた敵機のアフターバーナー。



 Oriko
<< 黄13、FOX2 >>
469 : [saga]:2011/08/04(木) 20:15:22.82 ID:F6kEPrBE0

 この機動を見た事がなかったのだろう。

 敵は天を向いたまま、真っ直ぐに飛び続けていた。

 後方から撃たれた事に気付かずに。



 かなりの高度で花火を上げる機体。

 かろうじてF-15だったものだと認識できる程度の残骸は、
自身の姿を炎で照らしながら地上へ向かう。



 こういった曲芸飛行の飲み込みが早かったわね。

 私の目的にあなたを付きあわせてごめんなさい。



 計器板の横に吊らしたハンカチに向けて、心の中で呟く。

 必ず仇は取るから。
470 : [saga]:2011/08/04(木) 20:15:59.34 ID:F6kEPrBE0

 FRIEND
<< 上空の制空権が奪われつつあるぞ! >>

 FRIEND
<< 大陸の空をISAF機に飛ばせるな! >>



 苦戦している味方の通信をよそめに、
私は正面に捉えていた敵機へ向けてミサイルを放つ。

 フレアーとそれに伴う回避運動。

 鈍くはない。



 操縦桿を引き続け、そのアフターバーナーの輝きを追う。

 敵の反応に比べて、私の乗るSu-37が機敏すぎるのだ。

 正面にエンジンからの炎を捉えて、トリガーを引く。

 機銃の発射音。そしてガリガリと削れるような敵機の悲鳴。



 火のついたそれを見て、私はまた機を旋回させる。

 ここまでに3機撃墜。
471 : [saga]:2011/08/04(木) 20:16:32.42 ID:F6kEPrBE0

 残っていた敵機は僅かに3、味方機は6が残っていた。

 空港への攻撃の第一波は防ぎきれるだろう。

 そう考えていたのに。



 FRIEND_G
<< 火だ!滑走路が燃えてる! >>

 FRIEND_G
<< なんだと、駐機している機を退避させろ >>

 FRIEND_G
<< 黄色中隊はどこだ >>



 そんな馬鹿な。

 首を回した私は、炎に照らされると
地上から空へ向けて伸びる対空機関銃の曳光弾を見つける。

 レーダーはずっと確認してきた。

 今だって、敵影は空港上空には見えない。

 まさか。
472 : [saga]:2011/08/04(木) 20:17:02.85 ID:F6kEPrBE0

 ”居るけれど見えない”。

 そんな技術を持つのは、ベルカ戦争に勝利した後にその技術を接収し、
なおかつ自国で軍用機を生産出来るほどの国力を持つ国家。

 世界中を見渡しても、ベルカ、オーシア、ユークトバニアの他には
ステルス軍用機を運用している国などはなかった。

 軍事大国と言われていた我々エルジアは独力でそれを生み出す事が出来ず、
対するISAFにだってそのような技術があるわけがない。

 彼らは自前での軍用機生産を諦め、他国からの輸入に頼っていたのだから。



 炎に照らされる滑走路を見つめる。

 時折高く上がる花火。

 機体か、あるいは機体に搭載されていた武器か。
何かが誘爆している様子を見つめながら、私は考え続けた。
473 : [saga]:2011/08/04(木) 20:17:39.62 ID:F6kEPrBE0

 そのような軍事機密の塊をオーシアが輸出したのか。

 あるいは供与か。どちらでもいい、何故…



 燃え上がる空港の空に見えた影。

 航空誌やネットワーク上でしか見る事のなかった、F-22。



 そうか、何のことはない。



 彼らは試してみたくなったのだ。

 勝敗がほぼ決まり、落とされる危険の少なくなった戦場で。

 新型のオモチャの性能を確かめるために。



 よりにもよって。

 私の愛するエルジアを破壊するために。
474 : [saga]:2011/08/04(木) 20:18:21.42 ID:F6kEPrBE0

 REPORT
<< …戦闘機の姿は見えませんが、エンジン音が聞こえます >>

 REPORT
<< …時折、軍用無線が… >>

 REPORT
<< …あのリボンのエンブレムの戦闘機が、この中にいるのでしょうか? >>



 降下を始めていたF-22、目的は空港の管制塔であろう。

 それに向けて、私は全速で飛び続ける。

 有難い事に、ある程度まで接近すれば
ステルスと言えども完全に見えないわけでもないらしい。

 レーダー画面上にも、そしてロックオン完了を示す警告音からも。

 その事実を私に教えてくれていた。



 Oriko
<< 黄13、FOX3 >>
475 : [saga]:2011/08/04(木) 20:19:14.45 ID:F6kEPrBE0

 至近距離からあえての長距離ミサイル。

 誘導性能の弱いそれを送り込んだ理由は、
得体の知れぬ敵機の機動性を見たかったから。

 撃ち込まれた距離から赤外線誘導ミサイルと勘違いをしたのか。

 フレアーを撒きながら、こちらに背を見せて旋回するF-22。



 速い。

 軽快に動く敵機は、難なくフレアーと直角の位置に身を置く。

 続けて、先ほどとは違う種類のミサイルを送り込む。

 今度は短距離ミサイル。



 90度近い旋回を連続で行うF-22。

 2度とも、私からの贈り物は敵機の後方をすり抜けて。

 そして変わらず空を飛び続けるその姿。

 失速などとは無縁であるかのような機動性。
476 : [saga]:2011/08/04(木) 20:20:07.66 ID:F6kEPrBE0

 だが、それを操る敵の腕は大した事がない。

 1発目のミサイルの回避を行った際には、その機首をこちらに向けたF-22。

 続くミサイルを回避するために、さらに旋回を加えた敵は
私に対してその横顔を見せていたのだ。

 その間、私はずっとアフターバーナーを炊いて前進し続けて。



 そしてレティクル内に敵の持つ菱形の翼を捉える。

 素直に全速で離脱すればいいものを、
さらに機体をロールさせて私にその腹を見せる敵機。

 おかげで私の放った曳光弾は、
労せず敵機の体中に満遍なくダメージを与える。



 そのF-22がそれ以上のロールをする事はなかった。

 斜めに傾いたままの機から、射出座席のロケットが炎を上げる。
477 : [saga]:2011/08/04(木) 20:20:59.09 ID:F6kEPrBE0

 高価なオモチャを壊してしまったわね。

 そのような物を私達の空に持ち込むな。

 相手のパイロットではなく。

 そのF-22を送り込んだであろう国対して心の中で毒付く。



 Oriko
<< 黄13、敵機撃墜。ステルス、ラプターが忍び込んでいる。各機警戒せよ >>

 AWACS
<< 何だと?こちらでは手の打ち様がないぞ! >>

 Oriko
<< AWACSのリンクを頼りにするな。接近すれば、機上レーダーが捉えてくれる >>

 FRIEND
<< くそ、真っ暗で何も見えないってのに! >>



 喚きたくなる気持ちも理解できる。

 こうして周囲の闇の中に、まだ敵機が潜んでいるかもしれないのだ。

 目を凝らしても、見える物は星の浮かぶ黒い空。

 そして炎に包まれるサンサルバシオンの街。
478 : [saga]:2011/08/04(木) 20:21:28.64 ID:F6kEPrBE0

 REPORT
<< …人口が集中する地区での避難は終わっていますが… >>

 REPORT
<< …我々の真横を、ISAFの戦車が通過しました >>

 REPORT
<< …国道に戦車が集結しています >>



 敵軍の状況を知らせてくれるなんて。

 いや、それよりも。

 それを知らせて貰いながらも、私達にはどうする事も出来ない。

 もはや航空機の数では圧倒されていた。

 地上軍は撤退に次ぐ撤退を繰り返し、防衛ラインの構築のために
再編成をされている最中である。

 もはやこのサンサルバシオンを手中に収め続ける意思など、
エルジア軍上層部の本音にはなかったのだ。
479 : [saga]:2011/08/04(木) 20:22:04.21 ID:F6kEPrBE0

 それでも、彼らは抵抗の意思を示さねばならない。

 私達の開戦初期の偉大なる戦果。

 このサンサルバシオンを明け渡さないという意思を。

 絶望に飲まれつつあるエルジア軍の士気のためにも。



 そのために、彼らは手段を選ばなかった。



 AWACS
<< 作戦行動中の各機に次ぐ。地上部隊支援のために爆撃機が向かっている >>



 AWACS
<< …Tu-160が6機。彼らをカバーしろ >>

 FRIEND_G
<< 司令部は寝ぼけているのか?俺達に必要なのはSu-34だ! >>

 FRIEND_G
<< もうこの際、MIG-27でもSu-24でも構わない!攻撃機をよこしてくれ! >>

 AWACS
<< 連絡が届いていないのか?地上部隊は速やかに戦線を離脱しろ >>
480 : [saga]:2011/08/04(木) 20:22:40.27 ID:F6kEPrBE0

 FRIEND
<< 街ごと焼き払うつもりなのか…? >>



 FRIEND
<< 答えろ!戦略爆撃機を送ってどうするつもりなんだ!! >>

 FRIEND
<< おい!聞こえているんだろ! >>



 叫び声。

 無線からはそれしか聞こえない。



 鼻を詰まらせた声。

 周りと違う印象からか、やけに私の耳に強く残る。



 FRIEND
<< 俺達は…エルジアの誇りをどこへやっちまったんだ… >>


481 : [saga]:2011/08/04(木) 20:23:44.80 ID:F6kEPrBE0

 Oriko
<< 誇りだけでは勝てなかった。だからISAFはここまで来ている >>



 水を打ったように静まり返る。

 私とて思うところがなかったわけではない。

 だが。



 Oriko
<< 黄13よりネボグラズ、命令は了解した >>

 Oriko
<< エルジアに命を捧げられる者だけ。私に付いて来い >>



 スロットルを押し込み、操縦桿を引く。

 こちらに向かいつつある、6機の死神へと向けて。
482 : [saga]:2011/08/04(木) 20:24:18.41 ID:F6kEPrBE0

 続々と光点が私の後を追う。

 事態を把握したISAFの戦闘機も。

 そして私と志を同じくするエルジアの戦闘機も。



 Tu-160へと続く直線上に、いくつものレーダー光点の輝きが集まる。

 そこら中で行われていた格闘戦。

 爆撃機を落とすために。爆撃機を守るために。



 不意の警告音。

 機体がロックオンされている。

 どこから。周囲には何も映っていない。

 目を上げる。見えたものは暗闇だけ。
483 : [saga]:2011/08/04(木) 20:24:57.37 ID:F6kEPrBE0

 まずい。

 まずい。

 目を瞑り、意識を集中させる。

 頼む、ここで死ぬわけには行かない。



 見えたものはミサイルの炎。

 それは速度を上げながら、Su-37の左後方から迫り…



 両目を見開き、フレアーを放つ。

 操縦桿を捻りながら、思い切り引く。



 敵のミサイルが来ている方向から、直角になるように。

 左旋回と、それに続く降下。

 体にかかるGと、魔力の使用から来る疲労感。

 疲労感、なんて言葉では優しすぎるか。

 私は喉元まで出掛かったものを、ぐっとこらえていた。
484 : [saga]:2011/08/04(木) 20:25:34.00 ID:F6kEPrBE0

 バックミラーから覗く、私の”予知”通りに流れるミサイル。

 目を上げた先には、それを放ったF-22。

 ミサイルを放ちながらも私を狙い続けていたそれは、
曳光弾の光を見せつけながら私へ向かい続ける。



 格闘戦なら負けない。

 

 敵の下方へすり抜けるように、私のSu-37は飛び続ける。

 機銃の射線が途切れたその場所で、
エアブレーキ・FBW・操縦桿と忙しく手を動かす。

 上から降下をかける敵機、その真下の空で位置を変えずに機首を変える私。

 ぐるりと回る視界を必死で見続ける。

 気持ち悪い。吐いてしまいそう。



 次に見えるものは敵機のエンジンから出る炎。

 そのはずだった。

 空中での宙返りを終えた私は、再び機首を下に向ける。

 そこには、その背のシルエットを全面に晒したF-22の姿。
485 : [saga]:2011/08/04(木) 20:26:09.39 ID:F6kEPrBE0

 お前もか。

 私と同じくクルビットの機動を行うF-22に射線を合わせようとする。

 だが、失速ギリギリの状態から回復した私の機体は、
操縦桿にもラダーにも機敏に反応をしてくれなかった。

 私が機銃を引いた時、曳光弾の光はヤツの隣を流れるだけ。



 その一瞬のきらめきの中で、確かに見えた。

 黄色いメビウスの輪。

 キリカを落としたリボンのエンブレム。



 宙返りを続ける”リボン付き”。

 空の中で止まるヤツの隣を、私のSu-37は流れる。

 もう一度、クルビットをかけるか。

 いや、もう遅い。

 その選択肢を頭から跳ね除け、アフターバーナーに火を入れる。
486 : [saga]:2011/08/04(木) 20:26:59.22 ID:F6kEPrBE0

 今は距離を取り、向きを変えるしかない。

 少しでもヤツが私の位置を見失う事を願いながら、
私は操縦桿を引き続けて旋回をする。

 その見通しは甘すぎた。

 すぐにコクピットに響くレーダーロック警告。

 バックミラーを覗くと同時に、炎に囲まれた黒い弾頭が見える。



 機を倒して旋回。

 機動性ならF-22にも負けないはず。

 

 まただ。

 ミサイルを避けても、ヤツが追ってくる。

 炎の筋から逃れても、曳光弾の光からは逃れられない。

 私の機体を打ち付ける金属音。

 一斉に赤く灯る計器、そして警告音。
487 : [saga]:2011/08/04(木) 20:27:53.19 ID:F6kEPrBE0

 なおも旋回を続ける私を、曳光弾の光が追い続ける。

 エンジンの片方が動いていない。

 速度が出ない。旋回したら失速する。



 ここまで、か。



 YELLOW
<< 黄9、FOX2! >>



 私を追っていた曳光弾が不意に上へと向けて伸びる。

 私の背を取っていた”リボン付き”は、
さらにその後ろから迫るミサイルを回避するために上昇していた。



 レーダーにはぼんやりと映るF-22と、あの震えていた中隊の列機。
488 : [saga]:2011/08/04(木) 20:28:37.25 ID:F6kEPrBE0

 YELLOW
<< 隊長、離脱して下さい >>



 Oriko
<< …すまない >>



 その言葉にいくつもの意味を込めたつもりだった。

 それがいくらか伝わったのか。



 YELLOW
<< 隊長に教えてもらったおかげで俺だけ生き残りました。きっと… >>



 無線から届くロックオン警報。

 後に聞こえるものは、彼が旋回に伴うGに抗うために出すうめき声。



 私はそれを聞きながら、西を目指す。

 戦い続ける仲間を置き去りにして。
489 : [saga]:2011/08/04(木) 20:29:11.34 ID:F6kEPrBE0



 彼らの健闘を祈りながら、レーダーに映る光点の群れを見つめ続ける。



 爆撃機を示す光点は1つ、また1つと消えてゆく。 



 REPORT
<< …爆撃機を撃墜した戦闘機が、上空を通過していきます >>

 REPORT
<< 放送を検閲していた将校も去りました >>

 REPORT
<< 今、私たちは声を大にして言えます。「勝利した」と >>
490 : [saga]:2011/08/04(木) 20:30:21.41 ID:F6kEPrBE0

 REPORT
<< 共同放送、アンドレイ・ペチェルスキィがお伝えしました >>



 レポーターの最後の言葉。

 それと共に"黄9"は消えてしまった。



 レーダー画面からも。

 この空からも。


491 :1 M15はここで終わり [saga sage]:2011/08/04(木) 20:30:48.91 ID:F6kEPrBE0



492 : [saga sage]:2011/08/04(木) 20:44:49.17 ID:F6kEPrBE0
青くなって来ましたねぇ…

493 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2011/08/04(木) 23:07:56.02 ID:FjhcmhH0o

ついにISAFに最強の機体が投入されたか
一方ユークと協力していたのに機体を貰えなかったエルジアかわいそす
494 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/05(金) 01:59:55.50 ID:mApX3vyDO
ホビャァァァァァァァァァァ!!!!!感想でサンサルバシオンの名前間違えてたあああ
エスコンは何度もやってるけど自分の使うステルス機ってノーマルと何が違うのだろうか
495 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/05(金) 07:09:51.13 ID:Q/sn3UbIO
最終的にTLS無双始めるんだよな、5・0・Xって
496 :1 いつもステルス乗らないので [saga sage]:2011/08/05(金) 20:18:01.22 ID:q64/OiRy0
04だけ実験して来ました。黄色が登場するミッソンでF-22A使用、ひたすら離れ続ける。
答え:あいつら真っ直ぐ飛んで来た。余裕のステルス意味なし、他のシリーズだとどうなんだろう。

そうそう、今更ですが架空機を出すつもりはないです。
没になった初期構想では、杏さやを試製フェンリアなんて脳内戦闘機に乗せてたりしましたが。
497 : [saga]:2011/08/05(金) 20:18:42.01 ID:q64/OiRy0



498 : [saga]:2011/08/05(金) 20:19:34.53 ID:q64/OiRy0

−−− 美樹さやかの手記より −−−

 その部屋の表札には、部屋の中に居住する人物の名が記されていた。
暁美ほむら。平凡な名前を持つ私にはうらやましく思える、力強い名前。

 ドアから出てきた綺麗な黒髪のパイロットは、
その名前からは想像も出来ないほどひどくやつれていた。

 彼女の身に何が起きたのかは私には分からないが、
前回の作戦中に聞いた彼女の自暴自棄になっていたとも言える声。

 それを聞いた私と杏子は、このパイロットを尋ねる事に決めたのだ。

 予想通り、彼女は私達の来訪を受け付けない。帰って欲しいと。

 しかし力自慢の杏子は、半ば無理やりに彼女の腕を引いて外に連れ出したのだ。



 少しでも力になってあげたい。彼女には笑って欲しい。

 ショッピングモールには、がらがらになったショーウィンドウが並ぶ。

 ISAFの地上部隊がこの街の近くまで接近しつつあり、
店の持ち主は皆が商品を持って逃げてしまっていたのだ。

 買い物でもして気晴らしを、そう考えていた私達は落胆しつつも、
私は歩きながら、いつまでも馬鹿にしか聞こえない話を聞かせていた。

 杏子は屋台を巡ってはジャンクフードを買ってきて、
3人分あるそれを1つ、また1つと彼女に渡そうとして。

 好意を拒絶されるたび、杏子は2人分のそれを自分で食べる。

 拒まれては食べ、拒まれては食べ。
そして杏子は、ついに顔を真っ赤にして咳き込んでいた。



 私はそれを見て水を渡し、悪いと思いながらも大笑いしていた。

 遠慮がちに、でも確かに。

 彼女も笑っていた。
499 : [saga]:2011/08/05(金) 20:20:06.02 ID:q64/OiRy0

DATE >
1145 / 0815 / 2005

AREA >
Whiskey Corridor

http://www.youtube.com/watch?v=cUWmQE2UZLA
500 : [saga]:2011/08/05(金) 20:20:49.61 ID:q64/OiRy0

 快晴。

 視界を遮るものはなく、気持ちのいい青々とした空。

 地上に見えるのは一面の砂。

 そして砂塵を巻き上げながら前進する味方の戦車、装甲車。



 このウィスキー回廊と呼ばれる平野。

 ランバート山脈とアンバー山脈に囲まれた細長い地形は、
エルジア共和国の首都ファーバンティへの唯一の陸路であった。

 ISAF地上軍から包囲されず、逃げて来れた兵力の大半が、
ここに布陣されつつある。

 文字通り、ここはエルジア軍にとっての最終防衛ラインであったのだ。

 私達エルジア軍がISAFを大陸から追い出した時と同じように、
彼らは進撃に次ぐ進撃に息切れしていた。

 後続の部隊や補給が追いつかず、一時的に前進を止めているらしい。

 その隙に、エルジアはここで決戦を行う準備をする。
501 : [saga]:2011/08/05(金) 20:21:19.23 ID:q64/OiRy0

 私達の任務は、いつもと同じ哨戒。

 ちょっかいを出しにきたISAFの戦闘機や、
彼らの偵察機を撃ち落す任務。

 いつもと違うのは、今日の私達は2機ではない。

 今日の空には、杏子だけではなく黒1も居た。



 Sayaka
<< いやー気付けば黒1も立派なフランカードライバーですねぇ >>

 Homura
<< 黒1より紫2、おしゃべりしない >>

 Sayaka
<< うぐっ。言ってくれるじゃんか >>

 Kyoko
<< よく覚えてたな、それ >>

 Homura
<< ふふっ、ごめんなさい。なんか妙に頭に残る言葉だったし… >>
502 : [saga]:2011/08/05(金) 20:21:47.37 ID:q64/OiRy0

 Homura
<< 大事な言葉なんでしょう?そろそろどういう意味か、教えてくれても >>

 Kyoko
<< 約束だったもんな。アンタがフランカーに乗れたら、って >>



 Kyoko
<< でも悪ぃ、その言葉自体にあまり意味はないのさ >>

 Homura
<< そんな、ここまで来て勿体ぶらなくても… >>

 Sayaka
<< 本当にそうなの。でもさ、黒1はその言葉が頭に残るって言ったでしょう >>



 Sayaka
<< あたし達も同じ。先輩達が言っていたのを、真似しただけなんだよ >>

 Homura
<< それは随分ね。色々と話を聞けるかと思ったのに >>

 Sayaka
<< まーまー、最後まで聞きたまえ >>
503 : [saga]:2011/08/05(金) 20:22:12.90 ID:q64/OiRy0

 Sayaka
<< それ自体はつまらない、意味もない言葉だけどさ >>

 Sayaka
<< いつまでも記憶に残る。それを話した相手の声、顔と一緒に >>

 Sayaka
<< 今日にも、明日にもソラノカケラになっちゃうかもしれない戦場の中でさ >>

 Sayaka
<< 先輩達も、そのまた先輩達も、そしてあたし達も >>



 Sayaka
<< その言葉と一緒に、覚えていて欲しかったんだよ >>



 AWACS
<< なるほど、深い話だな >>
504 : [saga]:2011/08/05(金) 20:22:45.49 ID:q64/OiRy0

 Kyoko
<< いいのかい。アンタまで一緒に駄弁ってて >>

 AWACS
<< 負けが込むと話が辛気臭くなりがちでな。たまにはお前達の会話を聞くのもいい >>

 Sayaka
<< ガールズトークに入って来るなんて、嫌われるよ? >>

 AWACS
<< ガールズトークらしいガールズトークだったら、よりいいんだがな >>

 AWACS
<< 年頃の娘と話を合わせるのにも、お前達の会話は参考になるんだ >>

 Kyoko
<< 勝手に聞いて参考にすんなよ >>

 AWACS
<< そう言わないでくれ。こう見えても、お前達の事は心配しているんだ >>

 Kyoko
<< アタシ達ゃアンタの娘かい。キメェ、超キメェ >>

 AWACS
<< お前達には一生分からないだろうけどな。娘を持つ父親の気分など >>
505 : [saga]:2011/08/05(金) 20:23:22.15 ID:q64/OiRy0

 Sayaka
<< だめだよ、たまには優しくしてあげないと。さあ、父よ!存分に私に甘えるがいい >>

 AWACS
<< なんか腹が立って来るな。私の受けた減給分、お前達から天引きするぞ >>

 Sayaka
<< それは勘弁。そういえば、娘さんの誕生日は来月よね。プレゼントは用意したの? >>

 AWACS
<< 確かに誕生日に間違いないが、お前達に話したか? >>

 Kyoko
<< アンタほど娘が、娘が言ってるAWACSの管制官なんて何処にもいねーよ >>

 Homura
<< 私も何度か聞いたわ >>



 AWACS
<< …おしゃべりはここまでだ、諸君 >>
506 : [saga]:2011/08/05(金) 20:23:56.83 ID:q64/OiRy0

 Sayaka
<< 違う違う、おしゃべりしない… >>

 AWACS
<< 馬鹿者、冗談ではない。方位0-8-0よりISAF地上部隊の接近を捉えた >>

 AWACS
<< かなりの規模だ。奴ら、ここを叩くつもりかもしれん >>

 Kyoko
<< それを言われても、アタシら対地兵装なんてないぞ >>



 Homura
<< ISAF地上軍の兵力だけでは、ここの陣地を突破出来ないわ >>

 Homura
<< …奴らは航空兵力を頼りにするはず >>

 AWACS
<< 察しがいいな。地上軍同士の対決なら、我々は負けない >>

 AWACS
<< 問題は奴らの航空戦力だ。奴らが本気ならば、後続に航空機が続いているだろう >>

 AWACS
<< ISAFがここを突破するには、航空支援に頼るしかない >>

 Kyoko
<< アタシ達がここを守り抜くかどうかも、敵機を落とせるか次第ってコトだな >>
507 : [saga]:2011/08/05(金) 20:24:26.50 ID:q64/OiRy0

 黙りこんで旋回を続ける私達。

 周囲を飛ぶのは、僅かな味方機。

 私達を含めて、14機しかいない戦闘機。

 ISAFはどれほどの数を用意してくるのか。



 Homura
<< あなた達はどうして飛んでいるの? >>



 Kyoko
<< そうするしかなかったから。ってのと… >>

 Sayaka
<< 守りたい仲間が居るから >>



 Homura
<< 守る物が残っているって、うらやましい >>
508 : [saga]:2011/08/05(金) 20:24:58.95 ID:q64/OiRy0

 Sayaka
<< おいおい、つれないなあ >>

 Kyoko
<< 目的がないなら作っちゃえばいいのさ >>

 Kyoko
<< アンタの守りたいものは、私達。そういう事にでもしときなよ >>



 Homura
<< …そうさせてもらうわ >>

 Sayaka
<< いいや、そうするべきだね >>



 Sayaka
<< 私の守りたい仲間には、あんたも含まれてるんだから >>
509 : [saga]:2011/08/05(金) 20:26:02.66 ID:q64/OiRy0

 AWACS
<< 敵機を捉えた。機数26、方位同じく0-8-0 >>

 AWACS
<< 各機、味方地上部隊への被害を最小限に留めろ >>



 AWACS
<< そして全員生きて帰れ。以上 >>



 その言葉が私達に向けられていたような気がして。
510 : [saga]:2011/08/05(金) 20:26:33.37 ID:q64/OiRy0

 Kyoko
<< ったりめーだろ >>

 Sayaka
<< 頑張ってくるね、お父さん! >>



 Homura
<< 死ねない理由が出来た >>

 Homura
<< みんなを落とさせはしない >>

 Sayaka
<< それはこっちも同じだよ >>

 Kyoko
<< 全員で帰るぞ >>



 翼をゆすって編隊の間隔を開くために、旋回を始める杏子。

 同じ仕草を見せて、じわじわと上昇するほむら。

 私の手は…
511 : [saga]:2011/08/05(金) 20:27:00.61 ID:q64/OiRy0



 震えが止まった。

 操縦桿を小刻みに倒し、機が揺れる。

 そして、杏子とは逆方向の右側への旋回。



 ほむらは随分と心を打ち明けてくれるようになった。

 仲間を落とさせないだの、守るだの。

 そのような心配をする必要のなくなる、杏子の計画。



 基地に帰りつけたら、ほむらにも打ち明けよう。

 彼女が乗ってくれれば、もう未練はない。

 いや、きっと彼女の様子なら乗ってくれる。

 この空の景色を楽しめなくなるのは残念だけれど。
512 : [saga]:2011/08/05(金) 20:28:12.93 ID:q64/OiRy0

 続々と味方機が集まりだす。

 それでも、14対32。劣勢は明らかだった。

 地上にカモフラージュして隠されている、対空ミサイル陣地。

 そしてISAFが扱う機種にはあまり搭載されていない長距離ミサイル。

 これらを頼りにしないと、私達は勝ち残る事が出来ないだろう。



 Kyoko
<< 捉えた。紫1、FOX3 >>

 Sayaka
<< 紫2、FOX3 >>

 Homura
<< 黒1、FOX3 >>



 私達だけではない。

 ずらりと並ぶSu-35から、いくつもいくつも噴煙が伸びる。

 前方の空を煙で埋め尽くすように。

 そして遠くの空に瞬く、数え切れないほどのチャフ。
513 : [saga]:2011/08/05(金) 20:28:50.10 ID:q64/OiRy0

 Kyoko
<< 突っ込め!とにかく数を減らせ! >>



 全機がアフターバーナーに火を入れ、長距離ミサイルの後を追う。

 空に上がる花火、花火、花火。

 私達のうち、9機のSu-35に搭載された4発の長距離ミサイル。

 合計で36の弾頭は、実に10機もの敵機を落とす事に成功していた。

 14対22。

 しかも残っている敵機は、ミサイルからの回避のために
それぞれ思い思いの方向へと旋回を始めていた。
514 : [saga]:2011/08/05(金) 20:29:23.26 ID:q64/OiRy0

 FRIEND
<< 白13、FOX2!FOX2! >>

 FRIEND
<< 赤2、FOX2 >>



 敵機を射程に捉えた味方機から、続々と告げられる発射コール。

 敵の編隊はF-15、F-16で混成されるいつものISAFの陣容。

 杏子からの指示通り、まずは数を減らす事を優先する。

 狙うべきは単発のエンジンで重い爆弾を抱えたF-16。



 周囲の戦闘機がそうしているように、翼から贈り物を放つ。

 私が撃ったミサイルを追うように、もう1発が同じ敵を追いかけるのが見える。

 1発目を回避し終えた敵は、その誰が放ったか分からない2発目に
アフターバーナーの炎を向けてしまっていた。
515 : [saga]:2011/08/05(金) 20:30:04.43 ID:q64/OiRy0

 次。

 こちらの背に向けて旋回しつつある2機の光点。



 FRIEND
<< 紫2、後方に注意! >>

 Sayaka
<< 分かってる! >>



 バックミラーに見え出すF-15が2機。

 それを振り払うように、私は操縦桿を動かしまわす。



 曳光弾。

 旋回を続けていた私がその方向を見ると、2機のF-15の
また後ろから全速で追いかける戦闘機。

 翼端が黒いSu-35。

 彼女は見るも鮮やかな手つきで、
2機を火達磨にしては砂の大地へ送り出していた。
516 : [saga]:2011/08/05(金) 20:30:36.64 ID:q64/OiRy0

 Homura
<< 2機撃墜 >>

 Kyoko
<< やるじゃねえか。負けてられねえな! >>



 1航過で、しかも機銃での2機連続撃墜。

 杏子には悪いが、ほむらの射撃の腕は半端ではない。
撃墜数比べをしていたら、きっと杏子は負けていた事だろう。

 後方の脅威が取り除かれ、周囲の空とレーダーを見つめる。

 味方機も落とされてはいたが、戦闘機の数は逆転しつつあった。
517 : [saga]:2011/08/05(金) 20:31:03.90 ID:q64/OiRy0

 ドッグファイトを抜け出し、味方地上部隊の陣地へ向かう敵機が2機。

 それを追いかける味方機も2機。

 私達がこの格闘戦から逃した敵機はそれだけだった。



 それを確認していた私のレーダーに混じるノイズ。

 異変に気付いた瞬間に、無線に言葉が告げられる。



 AWACS
<< クソ、クソ!方位0-3-0、新たな敵編隊16を確認! >>

 FRIEND
<< まさか、北には山と海しか… >>



 そこまで言いかけた彼の言葉を聞いて、私も気付いた。

 そう、海がある。
518 : [saga]:2011/08/05(金) 20:31:31.24 ID:q64/OiRy0

 AWACS
<< ジャミングが強い。恐らくはF/A-18の新型だ >>

 Sayaka
<< 物持ちがいいな、ISAFの連中はよ! >>

 AWACS
<< 東からも敵航空機の増援!機数14! >>

 FRIEND
<< まだ増えるのかよ、畜生! >>

 AWACS
<< 緑編隊、ネボグラズの護衛を放棄して艦載機の迎撃に向かえ! >>

 FRIEND
<< だが… >>

 AWACS
<< 空母がここに居るなら首都は安全だ。首都防空に就いていた戦闘機を呼んでいる >>

 AWACS
<< 彼らのうち何機かをネボグラズの護衛に付ける。こちらの事は心配しなくていい >>

 FRIEND
<< 緑5、了解 >>
519 : [saga]:2011/08/05(金) 20:32:09.55 ID:q64/OiRy0

 AWACS
<< 彼らが到着するまでの辛抱だ。全機、持ち堪えてくれ >>



 増援の緑編隊を含めて、こちらの残存は15機。

 敵の数は35以上。



 Kyoko
<< 全機、戦線を下げろ!防空ミサイルの射程まで戻れ! >>



 味方機の何機かが、ドッグファイトから抜け出して西へ向かう。

 黒1を先頭に、後方から来た緑編隊と合流して
向かってくる敵艦載機を叩くために。
520 : [saga]:2011/08/05(金) 20:32:54.41 ID:q64/OiRy0

 Homura
<< 紫編隊、何をしているの。あなた達も… >>

 Kyoko
<< 逃げられないヤツの手助けさ!紫1、FOX2! >>



 F-15に背中を取られて逃げられない味方のSu-35。

 その敵機を片付けるべく、杏子はここに残る。

 そうなるだろうと予想していた私もここに残る。



 Homura
<< それなら私も! >>

 Kyoko
<< 心配すんな、手前の面倒は見れる >>

 Sayaka
<< すぐそちらに向かう。あんたこそ落とされないでよ! >>
521 : [saga]:2011/08/05(金) 20:33:29.53 ID:q64/OiRy0

 F-16に追われる、煙を噴いていたSu-35。

 それを見つけた私は、操縦桿を意識せずに動かす。

 ヤツは目の前の敵を撃ち落す事に頭がいっぱいのようで、
私が後ろに付いた事にも気付かない。



 Sayaka
<< 紫2、FOX2! >>



 翼が揺れ、炎の筋を放り出す。

 フレアーの輝きが見えて、そのまま機体の爆発も見える。

 ほぼ真後ろから送り込んだミサイルは、上手い具合にF-16を粉々にしていた。
522 : [saga]:2011/08/05(金) 20:33:58.03 ID:q64/OiRy0

 FRIEND
<< 赤9より紫2へ、助かっ… >>



 火球。

 私の眼前で煙を吐いていたSu-35は炎に包まれていた。

 せっかく。

 せっかく助けられたと思ったのに。



 Kyoko
<< もう逃げ遅れは居ない。さ、アタシ達も退くぞ >>

 Sayaka
<< …了解 >>
523 : [saga]:2011/08/05(金) 20:34:31.67 ID:q64/OiRy0

 周囲に残る敵機は3機。

 それぞれの位置から、私達の背に付く事はないと確信する。



 東からはこちらに向かいつつあるISAF航空部隊の増援。

 だが、まだまだ離れているそれは私達を捉えられる距離ではない。



 西では戦闘が始まっていた。

 空の上でも、地上でも。



 FRIEND_G
<< いいぞ、敵は砂漠の地雷原にてこずっている! >>

 FRIEND_G
<< 上空支援は手一杯だ。接客は各自に任せろ >>

 FRIEND_G
<< 踏みとどまって義務を果たせ! >>
524 : [saga]:2011/08/05(金) 20:35:05.21 ID:q64/OiRy0

 電子戦機が混じっているほどのノイズではない。

 しかし、それぞれのF/A-18に搭載されている電子機器は、
この世界でも最先端のテクノロジーを行くものだとは知らされていた。



 Kyoko
<< ベルカと戦っただけある。オーシアは戦闘機の作り方から違うな >>

 Sayaka
<< このノイズはやっぱりあのF/A-18から? >>

 Kyoko
<< ああ、強力なECMだ。ただ、格闘戦になれば私達は勝てる >>



 Kyoko
<< 敵の後続が到着するまでに何とかして… >>


525 : [saga]:2011/08/05(金) 20:35:35.10 ID:q64/OiRy0

 西の仲間達へ向かっていた。

 前線はそこであり、私達を捉えられる距離に敵機はいなかった。

 それなのに、鳴り響くロックオン警告。



 反射的にバックミラーを覗く。

 そんな。

 いつの間に。



 Sayaka
<< 杏子、6時!ブレイク! >>
526 : [saga]:2011/08/05(金) 20:36:13.13 ID:q64/OiRy0

 私達の放つフレアー。

 操縦桿への操作。

 敵から送りつけられたミサイル。



 全てが同時だった。



 杏子は左へ、私は右へ。

 背後の敵も左へ。

 見慣れない戦闘機のシルエット。

 もっと勉強しておくべきだった。

 あれは何。
527 : [saga]:2011/08/05(金) 20:36:50.45 ID:q64/OiRy0

 Kyoko
<< 紫1より各機、ラプターが混じっている!ステルスだ! >>



 その疑問に杏子が答えてくれた。

 F-22とやらも左に旋回する。

 ヤツの狙いは杏子。

 

 いつだった。

 杏子が自慢げにシミュレーターで見せてくれた機動。

 そうだ、フック。

 旋回中の私はFBWのスイッチを切り、エアブレーキをかける。

 失速の振動で機体がガクガクと揺れる。

 それでも、操縦桿を引けばSu-35は動いてくれた。
528 : [saga]:2011/08/05(金) 20:37:22.56 ID:q64/OiRy0

 風防の外の景色が動く。

 ぐるりと回った先には、曳光弾の光を輝かせるF-22。

 それに狙われる杏子のSu-35。



 ロックした。

 残っていた2発のミサイルを、F-22へ送りつける。

 一瞬だけHUDに捉えた敵の姿。

 斜めに傾く特徴的な尾翼には、見慣れた黄色いリボン。
529 : [saga]:2011/08/05(金) 20:38:08.69 ID:q64/OiRy0

 視界にあった2機の行方を見届ける事が出来ずに、私の機はついに下を向く。

 失速により、機体のコントロールがもう効かなくなっていた。

 スロットルを開き、FBWを入れなおす。



 早く、早く。

 ようやく速度を回復したSu-35は、操縦桿に反応してくれた。

 機首を起こし、見失った杏子と敵を探す。



 見上げた空に、飛行機雲。

 杏子のSu-35が作ったそれを”リボン付き”が崩して行く。

 曳光弾の光を巻き込みながら。
530 : [saga]:2011/08/05(金) 20:38:43.66 ID:q64/OiRy0

 アフターバーナーに火を入れる。

 速い。追いつけない。



 逃げ続ける杏子と、追い続ける”リボン付き”を見ている事しか出来ない。

 急げ、急げ。



 杏子の機体が。

 上昇したまま、高度を変えていない。

 コブラ。あれは確かそうだ。



 その背後に居た”リボン付き”が見せていた機動も。

 杏子を追い越さないように、同じ事をしていた。
531 : [saga]:2011/08/05(金) 20:39:29.62 ID:q64/OiRy0

 違う。

 ”リボン付き”は宙返りを続けている。

 こちらを向くF-22の機首。

 合わせて鳴り出す、ロックオン警報。

 

 動け。

 祈るように操縦桿を倒し。

 送り込まれた炎をかろうじてかわす。

 

 外れたミサイルを追うように、降下を続けるF-22。



 私を狙わずに一直線に地面へ向けて飛び、
そして今ごろに機首を起こしつつあるヤツの進路は西。

 私は空の中でふらふらと旋回しながら、それをコクピットから眺める。
532 : [saga]:2011/08/05(金) 20:40:29.62 ID:q64/OiRy0

 Kyoko
<< リボン付きがそちらに向かうぞ! >>

 Homura
<< 何ですって!あなた達は無事なの! >>

 Kyoko
<< なんとか無事だ。そっちこそ… >>



 杏子の声に混じるロックオン警告。

 杏子だけではなく、私のコクピットにも響くそれ。



 私達の編隊が敵に対して行ったように。

 もうここまで追いついていた、敵の増援の編隊が一斉に放ったもの。

 それもやっぱり、空を埋め尽くすかのような炎と煙の筋を引いて。
533 : [saga]:2011/08/05(金) 20:41:13.24 ID:q64/OiRy0

 Kyoko
<< 無理だ!さやか、脱出しろ! >>

 Homura
<< 早くそこから逃げて!聞こえてるの!! >>

 Kyoko
<< 心配すんな。機体なんざ消耗… >>



 言葉を遮る爆発音。

 

 私からは見えた、杏子を乗せた座席のロケット。



 Homura
<< 紫編隊!佐倉杏子!! >>



 返事を返す暇なんてなかった。

 目の前に、黒い弾頭があったから。

 レバーを引いた私の体は、勢い良く風の中へと飛び出る。
534 : [saga]:2011/08/05(金) 20:42:27.77 ID:q64/OiRy0

 私を乗せていたSu-35に、ミサイルが突き刺さる。

 爆発を受けている最中にも、次から次へと。

 

 そして私の落下傘の周囲を、戦闘機が飛び去る。

 いくつも、いつくも。

 それが起こす風に揺られながら、私は降りる事になるであろう地点を見つめていた。



 砂煙を上げながら、前進を続ける車列。

 それがISAFの装甲車だとは分かっていた。

 それでも、どうすることも出来ない。

 今の私は風に流されるだけ。

 空を飛ぶための翼も、エンジンも付いていないのだから。
535 : [saga]:2011/08/05(金) 20:43:04.35 ID:q64/OiRy0

 少し離れた場所を降りる杏子を見つめる。

 彼女の足元に近づきつつある、1台の装甲車。

 それは私の方も同じ。

 車列から抜けてきた2台は、それぞれが私達を待っていた。

 その車内に乗せていた兵隊を周囲に降ろして。



 銃口の群れの中。

 私の体は、地面に叩き付けられる。

 その痛みに呻く暇もなく、着地の時より大きな衝撃。

 何度も、何度も。



 口の中には鉄の味。

 私はただ、頭を両手で抱える事しか出来ない。
536 : [saga]:2011/08/05(金) 20:43:55.21 ID:q64/OiRy0

「コリンズ、やりすぎだぞ!もう止めろ!」



 その言葉をきっかけに、私に向けられていた暴力は止まる。

 いつまでも残る、焼けるような痛みを残して。

 うっすら開いた目の前では、私のパラシュートに付けられていた
サバイバルキットを乱暴に外す軍人の姿。

 そして憎しみの炎を目に宿し、私を見下ろす男。



 鼻に血が詰まっているのか。

 すごく息苦しい。

 すごく痛い。

 どれだけ意識を集中させても。

 私の魔力は痛みを消す事が出来なかった。
537 : [saga]:2011/08/05(金) 20:44:38.36 ID:q64/OiRy0

 スーツの襟を掴まれ、砂の上を引きずられる姿。



「杏子…!」



 声を出してしまったのは、それを見たからではない。

 敵に名前が伝わってしまう事など、考えていられなかった。

 杏子の右足は、ありえない角度に曲がっていたから。



 私の目の前に、赤い髪が無造作に放り出される。



「あ、し…あし…」

「へへ、ドジっちゃったよ。着地に…」
538 : [saga]:2011/08/05(金) 20:45:20.44 ID:q64/OiRy0

「痛みなんか消してるからさ…大丈夫…」



「うそつき…」



「喋っていいなんて言ってねぇぞ!」

「やめて!」



 私が声を出した時には、男は走り出していた。

 助走と共に勢い良く、彼は杏子の体を蹴り上げる。



 それを止めに入る、彼の仲間達。

 その姿だけが、私には救いだった。



「おい、いい加減にしろよ!」

「お前らには分かんねえよ!俺の…!」



「…っぐ…ベルツ中尉…」
539 : [saga]:2011/08/05(金) 20:45:52.90 ID:q64/OiRy0

「きょーこ…きょーこ…」



「気にすんな…よ…」



「さんざん殺して来たんだ…バチが当たったのさ…」

「聖女ぶりやがって!」



 2人がかりで体をしっかり掴まえられている男が、
私達に叫び続ける。

 その視線だけで、私達を殺すかのように。



「お前ら全員、まともに死ねると思うな!地獄に落ちろ!」
540 : [saga]:2011/08/05(金) 20:46:21.25 ID:q64/OiRy0

 Homura
<< 生きてるなら…返事をしてよ… >>



 私は振り返る。

 私のパラシュートに付いていたものなのか。

 1人の男が持っていた無線機から流れる、その声に驚いて。



 Homura
<< 佐倉杏子…美樹さやか… >>



 痛み。

 叫び出そうとした私は、それによって声が出せない。

 私を観察していたその男は、仲間に無線機を渡して
私の目の前にしゃがみ込み、こう告げる。



「お前達の名前だな?」
541 : [saga]:2011/08/05(金) 20:46:55.50 ID:q64/OiRy0



 どうする事も出来なかった。

 答えても良かったかもしれないし。

 それが不利益になるかもしれない。

 何も答えられなかった。



「…連行するぞ。スミス、お前はそっちの赤髪の方を連れて来い」



 砂の上を、私達は引きずられる。

 襟首を掴まれた猫のように。

 私は青い空に浮かぶ飛行機雲を眺める事しか出来ない。



 これからどうなるんだろう、そんな不安はあった。

 それでも、これで戦わなくても済むという安心感。

 色んな思考が頭のなかで混ぜられる。
542 : [saga]:2011/08/05(金) 20:47:29.20 ID:q64/OiRy0

 

 そしてもう1つ、明確に浮かんだもの。

 彼女が見せた、唯一の笑顔。



 ほむら。



 ごめんね。



 あんたは上手くやってね。


543 :1 M16と杏さや終わり [saga]:2011/08/05(金) 20:48:05.86 ID:q64/OiRy0



544 : [saga sage]:2011/08/05(金) 20:57:05.24 ID:q64/OiRy0
いつもの
545 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2011/08/06(土) 00:30:32.51 ID:ZI/MoQEGo
ζ(゚д゚)ξ <乙
二人が撃墜されたけど生きててよかった、とはいえ捕虜になった魔法少女の扱いはどうなるんだろう
架空機出さないのか、最後にほむらがワイバーンあたりに乗ってくると思ってたwwww
546 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/06(土) 02:32:13.16 ID:3E6fKjtDO
フェンリアて04から15年後に開発される機体だじぇW
あとワイバーンはあの前進翼と可変翼でステルス性があることに納得いかない
547 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/06(土) 16:58:56.71 ID:C65DmQxIO
モルガンが10年前、ワイバーンが数年後、ファルケンが5年後、フェンリアが15年後だな。
イカは……まあ無い物として。
548 : [saga sage]:2011/08/06(土) 20:32:56.10 ID:EGBOXBd/0
>>545まみこれかわい…い…?捕虜のその後について考えてはいるのですが、
それを描写しようとすると神様視点になっちゃうので…。
二人のその後についてはご想像にお任せします。
というかみんなホント詳しいね、フェンリア出さずに正解だった……。
549 : [saga]:2011/08/06(土) 20:34:21.14 ID:EGBOXBd/0



550 : [saga]:2011/08/06(土) 20:34:50.77 ID:EGBOXBd/0

−−− 美国織莉子の手記より −−−

 エルジアの切り札。最終兵器メガリスの完成は、
ついにISAFの総攻撃には間に合わなかった。

 衛星軌道に残るユリシーズの破片をミサイルにより人為的に降らせ、
地上にただ災厄をばら撒くだけの兵器。

 それを最後の交渉カードにしようとしていた司令部の意図は挫かれた。
私達はこのまま、ISAFの包囲によって押し潰されるのであろう。

 息絶えようとしているエルジア。もはや私も帰れない身であろう。
この手記が誰かの目に止まる事を望み、書き残す。



 このファーバンティにも残された、大きなクレーター。

 首都の市街に落下した隕石は、数万人の命と
そこに存在していた街並みを海の底へと沈めてしまった。

 私達とて、経済的・人的被害は莫大なものを被っていたにも関わらず。
彼らは自分の都合で、このエルジアに難民を受け入れるよう非難を浴びせていた。

 難民のみならず、自国民にすら食べさせる事が出来ない状態に陥っていたのに。



 そうした状況を切り抜ける方法は、ついに政治家達には思いつかなかった。
代わりに軍人が解決策を見つけ出していた。

 それが今回の戦争の発端である。

 国際社会はエルジア共和国を侵略者と見なしているが、
エルジアに住む私達の意見は違う。

 食べさせる事の出来なくなった難民をエルジアに押し付けて、
のうのうと自国の被害や経済を回復させる独立国家群。

 彼らによって行われた、間接的なエルジアへの攻撃と言わざるを得ない。

 これは私達にとっては、自衛戦争に他ならないのだ。

 少しでも耳を傾けて欲しい。私の声を、私達の叫びを。
551 : [saga]:2011/08/06(土) 20:35:16.49 ID:EGBOXBd/0

DATE >
1820 / 0919 / 2005

AREA >
Farbanti

http://www.youtube.com/watch?v=YbsYrMRs3QE
552 : [saga]:2011/08/06(土) 20:35:43.75 ID:EGBOXBd/0

 夕日が空を染めている。

 これがエルジア共和国が見納める、最後の太陽。

 戦争が終われば、ここには違う国が生まれる。

 それは私の愛したエルジアではないものだろう。



 せめて綺麗な空を見て欲しかったのに。

 ここには色んな国の航空機が飛んでいる。

 私達のSu-35、Su-37。

 技術評価用にエストバキアから輸入したEF-2000。

 そしてISAFとその後ろ盾が送り込んでいるF-15、F/A-18、F-22。
553 : [saga]:2011/08/06(土) 20:36:15.08 ID:EGBOXBd/0

 FRIEND
<< よう、”13”。元気そうで何よりだ >>

 Oriko
<< あなたこそ。今日のコールサインは? >>

 FRIEND
<< さて、な。上は俺達のコールサインを考える暇もなかったらしい >>



 そして3機の前進翼機が、私達”黄色中隊”の隣を飛んでいた。

 ユークトバニアとエルジアが共同で研究を行っていた、S-37と呼ばれる機体。

 概念実証機に過ぎず、戦闘機としての正式番号すら与えられていないそれは
つい3日前に急ごしらえの作戦行動能力を取り付けられたばかりであった。



 そんな機体すら、私達と同じように空の守りのために駆り出されている。
ISAFの総攻撃からファーバンティを守るため。

 それを操るテストパイロット達と共に。

 だが、国家共同プロジェクトのテストパイロットに選抜された彼らもまた、
過去に輝かしい戦績を残す空の戦士ではあった。
554 : [saga]:2011/08/06(土) 20:36:47.40 ID:EGBOXBd/0

 AWACS
<< バリー隊は司令部の上空援護を。黄色中隊は引き続き、管制機の護衛 >>

 FRIEND
<< 了解、アンタの声を聞くのも久しぶりだな。娘さんは元気か? >>

 AWACS
<< 明日が誕生日だった >>



 AWACS
<< もう娘が19歳になる事はない >>


555 : [saga]:2011/08/06(土) 20:37:21.57 ID:EGBOXBd/0

 AWACS
<< どうしてあの子が… >>

 AWACS
<< 畜生!畜生っ!! >>



 FRIEND
<< バリー隊よりネボグラズ、仇は取ってくる >>

 AWACS
<< 奴らを地獄に落としてくれ >>

 AWACS
<< 頼む!奴らに思い知らせてやってくれ!! >>



 絶叫に近い管制官の声。

 空で戦い続けて来た彼には、彼の独善的な戦争しか見えていない。

 ここに来たISAFの連中も、同じ憎しみを込めてこの街に押し寄せているのに。



 この管制官だけではない。

 空で戦ってきたパイロット達は、なかなかその事実に気付けないだけ。

 それを口に出そうとは思わないが。
556 : [saga]:2011/08/06(土) 20:37:49.81 ID:EGBOXBd/0

 遠ざかるバリー隊の3機。

 もはや敵はあらゆる方位から進入してくる。

 主には陸路で地上軍を護衛しながら向かって来る西からと、
空母が存在しているだろうと思われる南からと。



 私達はAWACSの護衛のために、
戦域から離れたここファーバンティ市街の北部から離れらずに居た。

 絶望的な前線の様子を伝える、味方からの無線通信を聞きながら。



 FRIEND_G
<< 頭の上をリボンが飛んでる! >>

 FRIEND_G
<< あいつの下じゃ、戦車も鉄の棺桶だ >>

 FRIEND_G
<< 手だれとはいえ1機だぞ!何とかならんのか! >>



 YELLOW
<< 前に出れないのは歯がゆいな、13 >>
557 : [saga]:2011/08/06(土) 20:38:21.84 ID:EGBOXBd/0

 私に話しかける”黄3”。

 彼だけは、この戦争の初日からずっと今日まで生き延びてくれていた。

 残る3人は初めて出会った時こそ新兵であったが、
じっくり訓練を積ませ、そして何度かの実戦経験も積ませた。

 1ヶ月前から度々攻撃を仕掛けてくるISAF艦載機から
共にこの首都ファーバンティを守る任務に連れ出したのだ。

 満点を与えるまではいかないが、あらゆるものが欠乏している
今のエルジア軍の状況から考えれば、彼らの技量は満足のいくものになった。

 この状況にあって、我が”黄色中隊”はある程度の戦闘力を取り戻したのだ。



 AWACS
<< ネボグラズより黄色中隊、敵機4が接近中。方位1-9-5 >>

 Oriko
<< だそうよ、黄3。私達には私達の仕事がある >>

 YELLOW
<< 了解。こんだけ敵が来てくれりゃ、アンタのスコアに追いつけるかもな >>
558 : [saga]:2011/08/06(土) 20:39:00.74 ID:EGBOXBd/0

 新たにレーダーに加わったその光点。

 白いもやが画面にかかり、敵機を示す位置が
ぴょんぴょんとレーダー画面を跳ね回る。

 強力なECM、電子機器を持つ敵。



 Oriko
<< 敵機、スーパーホーネット。私と黄3は前衛に >>

 YELLOW
<< 黄3、了解 >>

 Oriko
<< ルーキー達は高度を取って後方へ。鉄則を忘れるな >>

 YELLOW
<< 黄17、了解。撃ったら離れろ、ですね >>

 Oriko
<< よろしい。黄13、交戦開始 >>
559 : [saga]:2011/08/06(土) 20:39:31.65 ID:EGBOXBd/0

 敵の姿が目に見えるまで、
Su-37のレーダーは彼らをロックする事が出来なかった。

 彼らの持つ電子機器は私達の目を眩ませ、
私達の機器の持つ能力を効果的に削ぎとっていたのだ。

 4機のF/A-18。

 編隊の先頭を飛ぶ機をロックした頃には、
私のコクピットにも敵からのロックオンを知らせる警告が響く。



 Oriko
<< 黄13、FOX3 >>



 赤外線誘導の短距離ミサイルも撃てる間合いではあった。

 どちらを撃とうが構わないが、重い荷物から捨てていく。

 隣を飛ぶ”黄3”と、正面から向かって来る敵機達も同じ行動。

 夕焼けの空を、噴煙とフレアーの光が彩る。



 スロットルを押し込み、上昇をかけながらのフレアー射出。

 すぐさま操縦桿を捻り、機を背面飛行の状態にして飛び続ける。
560 : [saga]:2011/08/06(土) 20:40:02.42 ID:EGBOXBd/0

 頭の上を通り抜けるミサイル。

 すぐ後に続くF/A-18の姿。

 至近距離を抜けたそれの衝撃で機体が揺れる。

 もう1機。

 そこで私は操縦桿を引く。

 4機編隊の最後尾から、敵を叩こうと考えたのだ。



 YELLOW
<< 黄12、FOX2! >>

 YELLOW
<< 黄15、FOX2 >>



 よくやった。

 レーダーに映る”黄3”も、相変わらず私の期待通りに動いてくれている。

 敵編隊から見れば、前方にはルーキーの乗る3機のSu-37が。

 後方には私と”黄3”が位置取っているように見えていたはずだ。
561 : [saga]:2011/08/06(土) 20:40:31.86 ID:EGBOXBd/0

 乗機が再び水平飛行に移った時には、
眼前にF/A-18のエンジンの炎。

 彼らは散り散りに逃げようとしながらも、
3発のミサイルに狙われた1機が空の中から吹き飛ばされていた。



 Oriko
<< 3機1組、1機を集中的に狙え >>

 YELLOW
<< 黄3より13、俺には指示はないのか >>

 Oriko
<< よく言う >>



 彼が狙っていた敵機は、私の左前方で曳光弾によって引き裂かれる。

 翼をもぎ取られたそれは、きりもみをかけながら地上の森へと向かっていた。



 前方の敵機がしつこく旋回をかける。

 その動きは、緩慢そのもの。

 あの大型の機体は、格闘戦には向いている機体ではないのだ。
562 : [saga]:2011/08/06(土) 20:41:11.18 ID:EGBOXBd/0

 私が放った機銃弾は、私の思ったところへ命中する。

 旋回をしていたF/A-18のコクピット。

 ネボグラズの言葉に感化されたわけではないが、
私も彼らに罪の深さを思い知らせるつもりでいた。

 このファーバンティに土足で入り込んだ罪を。



 FRIEND
<< 不死身の戦闘機など存在しない >>

 FRIEND
<< あれも飛行機なんだ、当たれば落ちる! >>

 FRIEND
<< こちら赤9、誰か後ろの奴をやってくれ! >>



 AWACS
<< ネボグラズより黄色中隊、新たな敵編隊12が当機に接近中 >>

 Oriko
<< 黄13、了解。各機… >>
563 : [saga]:2011/08/06(土) 20:41:45.97 ID:EGBOXBd/0

 AWACS
<< ただし、護衛の必要なし。貴隊には司令部の防空支援を命ずる >>

 YELLOW
<< 黄3よりネボグラズ、言っている意味が理解出来ない >>

 AWACS
<< これより当機は北へ向かい、敵機を引き付ける。少しは時間稼ぎになるはずだ >>



 なるほど、合理的だ。

 AWACSは非常に高価かつ複雑な兵器であり、
情報化された空中戦において、その価値は戦闘機数十機ぶんに等しい。

 だが、管制機の補助を受けるほどの味方機がこの空には飛んでいない。

 そしてISAF機の姿は、どこを見回しても存在する。



 もはやこのファーバンティ防空戦において、
AWACSの戦術的価値など残されてはいないのだ。
564 : [saga]:2011/08/06(土) 20:42:21.49 ID:EGBOXBd/0

 Oriko
<< 黄13、了解した。私達に伝えたい事は何かあるか? >>

 YELLOW
<< おい、13…ネボグラズ、本気なのか? >>



 AWACS
<< 乗組員全員の合意だ >>



 AWACS
<< 諸君の健闘を祈る。以上 >>


565 : [saga]:2011/08/06(土) 20:42:49.76 ID:EGBOXBd/0

 北へ向かうネボグラズ。

 彼らを一直線に追いかけるF/A-18の編隊。

 その光点を見つめながら、黄色中隊は南下を続ける。



 IFFがバリー隊と知らせてくれていた光点は、1つも残ってはいない。

 映るものはISAF機だらけ。
わずかに残る味方機は、敵に追い回され続けている。



 レーダーからも確認出来た、不自然な空。

 司令部の直上に近いそこだけは、敵機の姿も味方機の姿もなかった。



 そこに紛れ込んだ味方機の光点が、また1つ消える。

 それを見た私は確信に近い物を得ていた。



 私の最後の敵。

 決着を付けましょうか。


566 : [saga]:2011/08/06(土) 20:43:21.23 ID:EGBOXBd/0

 火の手を上げ続ける、美しい街並。

 落とされたジョンソン記念橋。

 黒煙を吐いている、座礁させた戦艦。

 ファーバンティの空を乱舞する、いくつもの飛行機雲。



 南西に眩しい太陽。

 その光に照らされて。

 F-22のシルエット。



 Oriko
<< 1機で戦うな。5機でやる >>
567 : [saga]:2011/08/06(土) 20:43:55.65 ID:EGBOXBd/0

 レーダーからはISAF機が集まりつつあるのが分かる。

 彼らに包囲される前にケリをつけなければならない。



 Oriko
<< 黄13、FOX3 >>

 YELLOW
<< 黄3、FOX3 >>



 対進状態だった私達は、お互いにミサイルをぶつけ合う。

 ヤツは機を沈ませるように、ゆるやかな降下をかけたまま直進。

 それを見た私は右旋回。

 意図を察してくれた”黄3”は左旋回。



 後続の3機がヤツを上から叩いてくれる。

 勝負はそこからだ。
568 : [saga]:2011/08/06(土) 20:44:44.34 ID:EGBOXBd/0

 YELLOW
<< 黄10、FOX3! >>

 YELLOW
<< 黄12、FOX3 >>



 そうだ、全部撃て。

 私が旋回をした先で見たものは、
”黄3”に機首を向けていたF-22の姿。

 すれ違いざまの射撃戦。

 彼らは再びヘッドオンとなり、お互いに曳光弾の雨を投げかけていた。



 YELLOW
<< 畜生、いくらか貰っちまった! >>

 Oriko
<< 戦闘に支障は? >>

 YELLOW
<< まだ飛べる。ここでヤツを落とせれば俺も英雄だ >>
569 : [saga]:2011/08/06(土) 20:45:16.77 ID:EGBOXBd/0

 眼前に捉えつつある。

 ”リボン付き”は執拗に旋回を繰り返してはいたが、
それに追いつけない私とSu-37ではない。

 トリガースイッチを押し、ミサイルを送り込む。

 フレアーの光。

 その向こうで右旋回を行っていたヤツは、
より深い旋回角で機を曲げ出す。

 まだ速度を落とせるのか。

 こちらも出来る限り、速度を落として旋回半径を狭めていた。

 それでも、ヤツが照準に収まらない。

 HUDに入りかけたと思えば、また逃げていくF-22の姿。



 見上げた空から、列機の放つ炎の筋。

 上空で隙を伺っていたルーキー達が放ったミサイル。

 それに向かうように、ヤツは急上昇を始めていた。
570 : [saga]:2011/08/06(土) 20:45:45.46 ID:EGBOXBd/0

 距離が離されている。

 上昇のために、アフターバーナーを噴かしているに違いない。

 私もエンジンに火を入れ、操縦桿を思い切り引く。

 流れる3本の航跡が、ヤツの下、
続けて私の下を流れて行った。



 気付くのが遅かった。

 ”リボン付き”の居る場所より遥かに遠い場所から、
ルーキー達を狙う敵機の姿に。



 Oriko
<< 3時方向!狙われている! >>



 ばらばらと逃げ出す彼ら。

 残念ながら、面倒を見ている暇はない。
571 : [saga]:2011/08/06(土) 20:46:15.71 ID:EGBOXBd/0

 もうすぐ。

 レティクルに収まった”リボン付き”を見て、機銃のトリガーを引く。

 ヤツは空の中で機首を上に向けたまま、
右側に倒れ込むような旋回を見せる。

 特別な機動ではない。

 極限まで速度を殺し、旋回半径を狭めたからそう見えただけ。



 ヤツの行き先へ目掛けて、”黄3”が上昇して来るのが見える。



 Oriko
<< またヘッドオンになる。早まるな、ミサイルで牽制… >>

 YELLOW
<< ここで仕留めて見せる >>
572 : [saga]:2011/08/06(土) 20:47:36.88 ID:EGBOXBd/0

 せめて私がミサイルを発射するのを待て。

 そう告げるだけの時間はなかった。

 機首を下に向けた”リボン付き”が曳光弾を放ち。

 機首を天に向ける”黄3”も、同じ事をしていた。



 ヤツを後ろから追っていた私には良く分かった。

 F-22に乗るパイロットがラダーを踏みながら飛び、
迫る"黄3"からの射軸をずらしていた事に。



 Oriko
<< 黄13、FOX2 >>
573 : [saga]:2011/08/06(土) 20:48:05.70 ID:EGBOXBd/0

 フレアーを放ち、ヤツは機を左に旋回させる。

 追従するために操縦桿を引くと同時に、
その輝きを突っ切って来るSu-37の姿。



 フレアーのせいかと思ったが。

 見間違いではなく、それは炎に包まれていた。



 Oriko
<< 黄3、脱出しろ >>



 返事もなく。

 パラシュートも開かれず。

 開戦から同じ空を飛んで来た仲間は、
ただすぐ近くに見える海へ向かって行くのみだった。
574 : [saga]:2011/08/06(土) 20:48:35.50 ID:EGBOXBd/0

 変わらず鋭い旋回を見せるF-22。

 間合いに踏み込めない。



 さらに速度を落とし、私も旋回角を深める。

 失速警報が鳴り響く。それほどまでに対気速度が落ちていたのだ。

 私とヤツは、ぐるぐると水平方向に回る。

 まるでその旋回円の中心に棒でもあるかのように。



 打つ手がない。

 逆方向へのフックをかけて、強引にヘッドオンにする事も出来る。

 だが、それをヤツは待っているようにしか思えない。

 私が90度の方向転換をした直後にヤツが同じ事を行えば、
私がその背を狙われる立場に回ってしまう。



 しかし、こうして考えている間にもISAF機は集まりつつある。

 悩んだ末に私が取った行動は、上への旋回。
575 : [saga]:2011/08/06(土) 20:49:29.21 ID:EGBOXBd/0

 機首が天を向き、すぐに私は操縦桿を倒して機を引っくり返す。

 スプリットSの機動を用いて、ヤツを頭から叩こうと思ったのだ。

 

 視界の先にヤツを捉える。

 ”リボン付き”の取った行動は、コブラ。

 間に合え。

 今なら当たる。



 私の願いも虚しく、ヤツの方が早く私に機首を向けていた。

 その結果は、コクピットに響くロックオン警報と同時に見えた炎。

 即座にフレアーを放ち、操縦桿を倒す。



 ギリギリのところで私の側を逸れていくミサイル。

 賭けに負けた代償は、バックミラーに映るF-22の姿。
576 : [saga]:2011/08/06(土) 20:50:06.05 ID:EGBOXBd/0

 降下をかけたぶん、速度を出していた。

 どう旋回しても、ヤツに捉えられてしまう。

 スピードに頼る他にない。



 響き続けるロックオンアラート。

 背後から次々と送られる弾頭。

 フレアー。操縦桿。スロットル。

 手を休める暇もなく。

 左に、次は上に。炎の筋は流れ続ける。



 YELLOW
<< 隊長、もう俺達は囲まれてます! >>

 Oriko
<< 限界だと思ったら躊躇するな。教えたはず >>

 YELLOW
<< 隊長こそ脱出して下さい!もう… >>
577 : [saga]:2011/08/06(土) 20:50:38.16 ID:EGBOXBd/0

 何かが壊れる音。

 続いて聞こえるものは空電のノイズ。

 あれが彼の最後の言葉だったのか、と。



 だが、私はここから逃げるつもりもない。

 敗北の先にどんな未来を描けと言うのか。



 バックミラー。

 ミサイルの雨が止まった。

 操縦桿を倒し、左の旋回をかける。
578 : [saga]:2011/08/06(土) 20:51:19.94 ID:EGBOXBd/0

 機体を打ち付ける音。

 一瞬だけ聞こえたそれと、風防の外を流れる曳光弾の光。

 いつの間にか、距離を詰められていた。

 旋回を続けながら、背後に映るF-22を見つめる。



 ヤツは私の旋回に追従しきれず、Su-37の後方を通り過ぎ、
再びこちらを向こうとしていた。

 今しかない。

 これが最後のチャンス。

 私は目を瞑り、意識を集中させる。



 私に残った魔力。

 どうかお願いだから。

 最後にヤツの動きを見せて。


579 : [saga]:2011/08/06(土) 20:51:56.18 ID:EGBOXBd/0



 美しいファーバンティの街。



 夕焼けに染まる空の中。



 ハンカチが舞っていた。


580 : [saga]:2011/08/06(土) 20:52:35.51 ID:EGBOXBd/0

 私は目を見開き、計器版の横にあったそれを掴み取る。

 うっすら香る、彼女が使っていた香水の匂い。



 ああ、駄目だったんだ。



 エルジアを守れなかった。

 申し訳ありません、お父様。

 あなたを守れなかった。

 ごめんね、キリカ。



 コクピットを埋める炎。

 私が最後に見たものは、それ。


581 : [saga]:2011/08/06(土) 20:53:11.66 ID:EGBOXBd/0



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──────

───


582 : [saga]:2011/08/06(土) 20:53:55.27 ID:EGBOXBd/0



───

──────

─────────


583 : [saga]:2011/08/06(土) 20:54:50.44 ID:EGBOXBd/0



「…エルジア軍兵士に告ぐ。戦闘を停止し、つぎの場所へ投降せよ」



「中央公園総合テニスコート、国立図書館噴水広場…」



 拡声器から伝えられる声が私の耳に入る。

 私は図書館の通りに座り込み、そこに集まる兵士達を見つめていた。



 肩を落として列をなす彼ら。

 ごめんなさい。

 私にはどうにも出来なかった。
584 : [saga]:2011/08/06(土) 20:56:13.18 ID:EGBOXBd/0

「どうしたの、キミ。こんなとこ座り込んで」



 その女性を見た事がある筈なのに。

 なんでだろう。思い出せない。



「私はたくさんの人を殺したの」



「それでも、何も守れなかった。私は立てないの…」



「ふーん、よくわかんないけど。でっかい荷物、持ってるって事かなぁ」



「じゃあ!私が半分、持ってあげよう!」
585 : [saga]:2011/08/06(土) 20:57:12.51 ID:EGBOXBd/0

 彼女は私に手を差し出す。



「だから。一緒に行こう」



 私がその手を掴んでも。

 動けない。彼女がいくら引っ張っても。

 立ち上がる事が出来なかった。



「ありがとう。でもいいの…」



 私は、この街を見つめていた。

 いつまでも、そうしているつもりだった。



 彼女は私の隣にそっと腰を下ろす。

 そうして二人で。

 兵隊の列と、美しい街を。

 いつまでも……


586 : [saga]:2011/08/06(土) 20:57:43.55 ID:EGBOXBd/0



─────────

──────

───


587 :1 M17と織キリは終わり [saga]:2011/08/06(土) 20:58:19.87 ID:EGBOXBd/0



588 : [saga sage]:2011/08/06(土) 21:17:24.32 ID:EGBOXBd/0
589 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2011/08/06(土) 23:57:39.18 ID:ZI/MoQEGo

あらためてリボン付きは死神だな、イケメンネボグラズも撃墜されて織莉子も未来予知で見た先が自分の死って皮肉だ
ところで最後に出てきたキャラって誰かな?
590 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/07(日) 03:23:18.40 ID:BPoDNF7DO
ああああ全滅しちゃった。
もともとそういうゲームだけどマミウスの無双っぷりが凄まじい。
591 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/07(日) 08:09:22.82 ID:Ms2CtQyIO
鬼神でも悪魔の長機でも凶星でもいい、エルジアに来てくれ……と思ってしまうな。
592 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/08/07(日) 13:23:40.96 ID:Rq5ymW4AO
モビウスの戦闘能力が圧倒的だな

しかし、本当にどちらが正義かわかんないな

それがこの話の魅力のひとつなんだけど
593 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/08/07(日) 17:31:50.59 ID:JSjPTk9AO
一番の悪は何にもないところに線を引きたがる国家だろ?
594 : [saga]:2011/08/07(日) 21:14:18.82 ID:od7BITRC0



595 : [saga]:2011/08/07(日) 21:15:25.58 ID:od7BITRC0

−−− 暁美ほむらの手記より −−−

 ░▒▓█░▓░░░█▓▒








































596 : [saga]:2011/08/07(日) 21:16:14.45 ID:od7BITRC0



597 : [saga]:2011/08/07(日) 21:16:48.69 ID:od7BITRC0

 もはやこの世界には守るものも存在していない。

 この戦争を共に戦ってきた戦友達も大空に散った。

 心の中には、絶望、恨み、呪いの言葉しか残ってはいない。

 私の持つソウルジェムは、驚くほどの早さで黒く濁ってゆく。



 それでも、私は魔法少女の成れの果ての姿となる事はなかった。

 人造のグリーフシード。

 科学の進歩のおかげで。

 何も残されていない抜け殻の私は生きながらえて。
598 : [saga]:2011/08/07(日) 21:17:31.37 ID:od7BITRC0

 私が今いる基地に存在している唯一の航空機。

 翼端を黄色く塗装された、精鋭部隊の証であるSu-37。

 そのコクピットに座る私は、
無線機から流れる司令の訓示を聞いていた。



「…諸君。ついにここまで敵がやって来た」



「エルジア政府は降伏した。しかし、我々はまだ戦う力を残している」



「この"メガリス"さえ守りきれば、最終的な勝利は必ず我々のものとなるだろう」



「諸君の活躍を信じている。諸君の信念、愛国心、愛する者を失った悲しみを」



「我々の空を我が物顔で飛びまわる奴らに、思うようにぶつけて欲しい」



「…エルジアに栄光のあらん事を」


599 : [saga]:2011/08/07(日) 21:18:07.68 ID:od7BITRC0

 司令の声からは、覇気が感じられない。

 それもそのはずであろう。



 航空機こそ"黄色中隊"を気取ってはいる。

 それに乗る私達は、ISAFの包囲網から逃げ切れた
寄せ集めのパイロットの集まりでしかない。

 急造の"黄色中隊"が上手く"メガリス"を守りきってみせたところで、
武器弾薬、燃料の補給も、戦力の補充も行われない我々の敗北は決定的なのだ。



 私はここに集まるパイロット達に比べて一日の長があったために、
この部隊の編隊長とされていた。

 司令官の声色とは裏腹に、パイロット達の士気は高い。

 彼らは皆、最後まで戦う意思をその両目に燃やしていた。

 その理由を全て聞き込んだわけではない。
だが、聞かずともおおよその事情は分かるつもりだ。



 彼らは皆、それぞれの戦う理由を秘めてこの場所に居るのだ。
600 : [saga]:2011/08/07(日) 21:18:40.84 ID:od7BITRC0



「私はどうしてここに居るの」

http://www.youtube.com/watch?v=P6D7ObES3vo


601 : [saga]:2011/08/07(日) 21:19:15.75 ID:od7BITRC0

 もはやこの世界には守るものも存在していない。

 この戦争を共に戦ってきた戦友達も大空に散った。

 心の中には、絶望、恨み、呪いの言葉しか残ってはいない。


 それならば、私は何のためにここに居るのか。

 私が戦う理由は、一体何なのか。



 その問いに答えてくれるのは、奴しかいない。

 奴の存在だけが、私を駆り立たせていた。



 私は愛機のエンジンを始動させ、無線機に短く吹き込む。


602 : [saga]:2011/08/07(日) 21:19:50.53 ID:od7BITRC0



「黄色中隊、出撃」


603 : [saga]:2011/08/07(日) 21:20:20.50 ID:od7BITRC0



 格納庫に響くエンジン音。

 次第に高まるそれを聞きながら、ゆっくりと開く掩蔽壕の扉。



 差し込むものは、私を待ち受ける空の光。



 さあ、行きましょう。

 

 奴に奪われた"ソラノカケラ"を取り戻しに。


604 : [saga]:2011/08/07(日) 21:20:58.08 ID:od7BITRC0



605 : [saga]:2011/08/07(日) 21:21:30.98 ID:od7BITRC0



Amidst the blue skies A link from past to future
    the sheltering wings of the protector


606 : [saga]:2011/08/07(日) 21:21:59.67 ID:od7BITRC0

DATE >
0800 / 0926 / 2005

AREA >
MEGALITH

http://www.youtube.com/watch?v=VU1rNl3OxR4
607 : [saga]:2011/08/07(日) 21:22:50.00 ID:od7BITRC0

 5機1組の編隊を3つに分けて。

 私達に残された全ての戦力、15機のSu-37が海上を飛ぶ。

 目に映るものは、曇り空の上を落下してゆく
いくつもの燃え盛る流星。

 耳に入るものは、甲高いエンジン音のみ。



 列機は誰もが重苦しく口を閉ざしていた。

 このような作戦に投入される敵のパイロットは、
選りすぐられた精鋭に違いないと考えていたからだ。



 向かってくるISAF機は合計で10機。

 そのうちの4機は、レーダー画面に微弱な反応しか見せていない。

 おそらくはステルス機なのであろう。

 "メガリス"のレーダー施設からのデータリンクがなければ
私達はこれを見落としていたのかもしれない。
608 : [saga]:2011/08/07(日) 21:23:21.50 ID:od7BITRC0

 じわじわと彼我の距離が詰まってゆく。

 お互いの行っている電子戦のおかげで、
長距離ミサイルのロックオンが行えなかったのだ。

 私達も、敵機達も。



 迫る敵機が視界に入り、寮機達が声を上げる。



 YELLOW
<< 敵が見えた、敵機視認! >>

 YELLOW
<< 黄2、交戦開始 >>

 YELLOW
<< 黄3、交戦開始 >>

 YELLOW
<< 黄9、交戦開始 >>

 YELLOW
<< 黄15、交戦開始 >>



 Homura
<< 黄17、交戦開始 >>


609 : [saga]:2011/08/07(日) 21:23:58.46 ID:od7BITRC0

 私達の編隊に黄4と黄13は居ない。

 伝説的な撃墜数を残した彼らのコールサインを
借り受けるなど、恐れ多い。

 部下達がそう話していたのを思い出す。

 

 彼らは私の撃墜数を知ると、
私に"黄13"を名乗るように促していた。

 だが、私は断固としてそれを拒否する。



 まどかを守りきれなかったパイロットなど。

 黄色中隊を名乗るだけでも忌々しいのに。
610 : [saga]:2011/08/07(日) 21:24:31.17 ID:od7BITRC0

 YELLOW
<< 大変だ、ホムラ!敵は全部リボン付きだ! >>

 YELLOW
<< 大陸の空を飛ぶのは、エルジアの航空機だけだ >>

 YELLOW
<< 俺達の空から追い払え! >>



 紛い物の青いリボン、それは私の目にも入っていた。

 彼らからのロックオンを知らせる警告音が私のコクピットに鳴り響く。

 だがミサイルの射程を飛んでいるのは、相手とて同じこと。

 こちらも先頭を飛んでいた”リボン付き”を捉え、
ロックオンを果たしていた。



 トリガースイッチを押すと同時に、ガクンと機体に振動が伝わる。

 ミサイルが順調に機体から離れた合図。

 愛機からミサイルが発射されたのをこの眼で確認する。
611 : [saga]:2011/08/07(日) 21:24:56.81 ID:od7BITRC0

 それと同時に、こちらに向かって来ていた敵編隊からも、
炎の筋が私達を目掛けて伸びて来ているのが見えていた。



 YELLOW
<< ミサイル!ミサイル! >>

 Homura
<< フレアー、回避行動!ブレイク! >>



 敵味方を問わず、その場に居た全機が
輝くフレアーを放出しながら、旋回行動に入る。

 おびただしい数のミサイルの航跡と、
空中に撒き散らされたフレアー。

 そしてその場に居た全機とも、被弾を受ける事なく
敵の背を目掛けての旋回戦に移りだす。
612 : [saga]:2011/08/07(日) 21:25:22.16 ID:od7BITRC0

 ミサイル、フレアーといった様々な炎の中を突っ切り、
1機のF-22が私の左側から突入して来るのが見える。

 操縦桿を引き、その敵へ機首を向けようとする。

 旋回のために重力の力が体にかかり、ぐっと腹に力を入れる。



 F-22が機銃弾を発射するのが見えたため、
私は倒していた操縦桿の角度を変える、

 旋回からの上昇を行うことにしたのだ。



 キャノピーのすぐ側をかすめる曳光弾。

 もう少し深い角度で旋回していたのであれば、
その弾は私の体を粉々に砕いていた事であろう。



 その攻撃をかわしたとはいえ、私は敵にペースを握られていた。

 機銃による攻撃で私の行動を制限させ、上昇をするよう仕向けられたのだ。
613 : [saga]:2011/08/07(日) 21:25:57.38 ID:od7BITRC0

 私の背後にF-22が付くところを、バックミラーから確認する。

 だが、私とてこの状況になる事を考えて居なかったわけではない。

 だからこそ、上昇をして速度を殺す事にしたのだ。



 私の乗るSu-37も、相手となるF-22も、
お互いに桁外れのエンジンパワーを持つ戦闘機。

 垂直上昇を行える私の乗機を、相手もまた同じように追いかける。

 射線をずらすために左ラダーは踏みっぱなしだ。

 そのために敵はなかなか射撃位置に付けないでいた。


 
 ここだ。

 エンジンの出力をカットし、FBWのスイッチを切る。

 そうして操縦桿を引く事によって、上昇を続けていた私のSu-37は
失速して宙返りをする。
614 : [saga]:2011/08/07(日) 21:26:29.98 ID:od7BITRC0



 機体に響く揺れを感じる。

 背後に居たF-22が私の隣を通り過ぎた為に。

 即座にFBWのスイッチを戻し、アフターバーナーに点火をする。



 失いかけていた運動エネルギーを即座に取り戻し、
私はなんとか機体を制御させて機首を敵に向ける。

 そうして敵の背後に付いた事で、私は目にする事になった。



 眼前のF-22の尾翼に描かれたリボンのエンブレム。

 それは現在の私達のパーソナルカラーと同じ色。



 黄色いリボンを付けていた事を。


615 : [saga]:2011/08/07(日) 21:26:57.96 ID:od7BITRC0

 本物の"リボン付き"を目にして、私の目の色は変わっていた事であろう。

 私の友人達を空の欠片にしてしまった相手。

 私の愛するものを、この世界から消滅させてしまった相手。



 今すぐ殺してやる。

 

 私に背を取られた事を理解した"リボン付き"は、
上昇をやめて降下に移りつつあった。

 それに機首を向けながら、HUDのレティクルを敵に合わせ続ける。

 ロック完了を知らせる合図が目に飛び込むと同時に、
私はミサイルを敵に送り込んでいた。
616 : [saga]:2011/08/07(日) 21:27:26.89 ID:od7BITRC0

 フレアーを射出させながら、素早く機体を旋回させる敵。

 F-22の推力偏向エンジンを上手く利用し、
フレアーと機体とをほぼ直角の位置に置いた"リボン付き"。

 私からの贈り物は奴に届く事なく、通り過ぎてゆく。



 そのまま敵は翼端に雲を作りながら、
機を旋回させながらの降下へ移っていた。

 古典的なバレルロール。

 それを追従する事など容易い。

 敵を追尾する前に、ちらりとレーダーに目を向ける。

 そうするまでもなく、周囲の戦況は無線越しに私の耳に届いていた。



 YELLOW
<< 格闘戦の性能はこっちが上なんだ。自信を持て! >>

 YELLOW
<< やった!リボンを落とした! >>

 YELLOW
<< よくやった、ミハイル! >>

 YELLOW
<< ISAF機を一機残らず叩き落せ >>
617 : [saga]:2011/08/07(日) 21:27:54.32 ID:od7BITRC0

 いくつか味方を示す光点は消えていたものの、
新兵だらけの"黄色中隊"は健闘していた。

 それを確認した私は迷い無く、
眼前の敵のみに意識を集中させる。



 くるくると回るような軌道を描きながら
降下を続ける"リボン付き"。

 それを追いながら機銃弾を送り続けるも、
今度はこちらが相手を上手く射線に捉える事が出来ずにいた。



 高度がどんどん下がってゆく。



 気付けば、海面に飲み込まれた曳光弾が
水飛沫を上げているのが目に見えていた。

 跳ね上げられた水を避けるように、"リボン付き"は水平飛行に移る。

 降下をかけていたために、私のSu-37は
危険と言えるまでの速度を出していたのだ。

 そのため、敵機への攻撃を中断しスロットルを絞りながら操縦桿を引く。
618 : [saga]:2011/08/07(日) 21:28:32.10 ID:od7BITRC0

 水面から200ftほどの高度を水平飛行に移る。

 "リボン付き"を視界に捉えるために。

 そして奴が逃げていった方向へ機を向けるために
操縦桿を忙しく操作しながらそうしたつもりだった。

 私の読み通りに、再び眼前に姿を現す"リボン付き"。



 予想と違ったのは、それが機首を上空へ向けていた事。

 先ほど私が行った機動と同じように。

 奴もまた機首を上に向け、機体を失速ギリギリまで
速度を殺す事によって私を追い越させようとしていたのだ。



 射線には捉えられない。
 
 そのような調整を行っている間に、
私は奴を追い越してしまっているだろう。

 そうなれば、無防備な背を奴に晒す事になる。
619 : [saga]:2011/08/07(日) 21:28:59.58 ID:od7BITRC0

 私の取った行動は、再びFBWのスイッチを切って
操縦桿を引き、スロットルを調節する事。

 コブラ機動を行っている"リボン付き"を
追い越すギリギリのところであった。

 私のSu-37も、奴の右側で同じ機動を行う。

 並んで青空へ機首を向ける2機の戦闘機がそこに居た。

 

 近い。

 とても近い。

 こちらのキャノピーのすぐ向こうに、F-22のキャノピーが見える。



 敵のパイロットの姿も、ここから見える。

 ヤツもまた、ヘルメットを被った頭をこちらに向けているようであった。
620 : [saga]:2011/08/07(日) 21:29:30.25 ID:od7BITRC0

 憎い。

 紫編隊の二人を撃ち落したお前が。



 殺してやりたい。

 まどかの存在を消してしまったお前が。



 右手で操縦桿を操作しながら、左手を"リボン付き"へ向けて伸ばす。



 そうすれば、奴の首を絞められるかと思って。


621 : [saga]:2011/08/07(日) 21:30:10.04 ID:od7BITRC0



 奴は変わらず、顔をこちらに向けている。

 そのヘルメットの向こうでは、あなたはどんな顔をしているの?

 こんな私の姿を見て、滑稽だと笑っているの?

 感情を抑えきれず、唇をぐっと噛む。



「返してよ…」



 ヘルメットの中で、私は呟く。



 その声が届くはずもないと理解しながら、私は金切り声を上げていた。


622 : [saga]:2011/08/07(日) 21:30:42.82 ID:od7BITRC0



 Homura
<< みんな返してよ!! >>


623 : [saga]:2011/08/07(日) 21:31:11.58 ID:od7BITRC0

 奴は機首を天に向けたまま、
アフターバーナーを吹かして垂直に上昇してゆく。

 上から叩かれると厄介だ。

 私はそれまで飛んでいた方向から機を180度転換させるために、
操縦桿を倒してSu-37をくるりと反転させる。

 キャノピーの上方に海面が見えたところで、
アフターバーナーを吹かしながら機を水平にする。

 一時的な仕切りなおし。



 逃がしはしない。



 はるか上空まで垂直飛行を続ける"リボン付き"。

 対する私は、海面上で速度を稼いでから機首を敵に向け出す。



 上空では、敵もこちらに機首を向けて降下しつつあった。
624 : [saga]:2011/08/07(日) 21:31:45.96 ID:od7BITRC0

 ヘッドオン。

 HUDにはすでにロックオンを完了させる合図が届いていた。

 翼から離れるミサイル。

 私からも、敵からも。



 フレアーを放ち、操縦桿を少しだけ引く。

 ほぼ垂直に上昇する姿勢となった私は、
同じようにほぼ垂直に降下をかけるF-22を見つめ続ける。



 ミサイルの炎が通り過ぎ。



 そしてヤツの姿が私の機に隠れるその時まで。
625 : [saga]:2011/08/07(日) 21:32:23.35 ID:od7BITRC0

 必ず殺してやる。

 

 もう何度も入れなおしているFBW。

 操縦桿を引き続け、頭上の空が海へと変わる。

 その方向に見えるヤツの姿。



 2機の戦闘機からは同時に炎の筋が伸びる。


626 : [saga]:2011/08/07(日) 21:32:55.53 ID:od7BITRC0



 あまりに接近しすぎていた。

 そのミサイルの軌道を、私は目で追う事が出来なかった。



 機体に響く爆音と衝撃。

 それに伴い、私の体は前方に投げ出されそうな感覚を受けた。

 射出座席に固定されていたハーネスが、ぎゅっと私の体に食い込む。



 コクピット内に鳴り響く警告音と、ぐるぐる回る視界。

 機体はきりもみ状態になっていた。

 それもそのはず。

 敵から放たれた弾頭は、私のSu-37の右翼を吹き飛ばしていたのだ。
627 : [saga]:2011/08/07(日) 21:33:40.20 ID:od7BITRC0

 YELLOW
<< ああ!ホムラがやられた! >>

 YELLOW
<< 落ち着け!ジーン、指揮を引き継げ! >>



 機体に響き続ける警告音に混じって、無線機から届く味方の悲鳴。

 私はぐるぐると回る空を見ながら、
機を立て直そうと操縦桿を動かし続ける。



 飛行機雲を作りながら、飛び去っていく”リボン付き”



 やがて残されていた運動エネルギーを使い果たしたSu-37は、
その鋭い機首を青空から海面へと向けていた。


628 : [saga]:2011/08/07(日) 21:34:35.77 ID:od7BITRC0



 どうして。

 どうしてなの。



 何度やってもあいつに勝てない。



 悔しさに涙が滲む。 



 私は射出座席の安全装置を解除し、レバーを思い切り引く。
629 : [saga]:2011/08/07(日) 21:35:18.90 ID:od7BITRC0

 これまでも奴と戦うたびに行わされて来たその行動。

 手順に間違いはなかったはずなのに、
Su-37はこれまでと同じようにキャノピーを吹き飛ばさない。

 勿論、射出座席のモーターに点火する事もなかった。



 もう一度、レバーを引いてみる。

 それでも結果は同じだった。



 まだ斃れるわけにはいかない。


630 : [saga]:2011/08/07(日) 21:35:53.05 ID:od7BITRC0



 ぐるぐると回る機体の中で、私はレバーを何度も引く。



 お願い。

 言う事を聞いて。

 あいつを殺すまでは死に切れない。



 私の機が目指す先には、雲の切れ間から光が差し込む場所。

 海は白く光を反射させ、きらめきながら私を待ち受けていた。

 それを見つめながら、私は渾身の力を振り絞る。


631 : [saga]:2011/08/07(日) 21:36:46.48 ID:od7BITRC0



 ─── もういいんだよ ───



http://www.youtube.com/watch?v=qAwGldIrFDw
632 : [saga]:2011/08/07(日) 21:37:17.21 ID:od7BITRC0

 ひどく懐かしいその声。

 顔を上げた先に見えたもの。

 陽の光を反射させて白く輝いていたはずの海。

 

 それは桃色の光に包まれていた。



 なんて暖かい光。

 なんて心休まる光景。



 思い出の中に居る彼女との記憶。

 それは今まさに、私が感じている感覚と同じものであった。



 ソウルジェム。

 今では役立たずの”それ”が、私から離れて浮かび上がる。
633 : [saga]:2011/08/07(日) 21:37:43.17 ID:od7BITRC0



 ─── もう誰も恨まなくていいんだよ ───


634 : [saga]:2011/08/07(日) 21:38:29.52 ID:od7BITRC0



「あなたなの…?」



 射出座席のレバーを引きながら、私はヘルメットの中で呟く。

 懐かしい声と耳に残し。

 懐かしい光を目にしながら。
 


 黒に染まりつつあったソウルジェムから。

 そして私が乗る翼へと、光の中へと包まれていく。



 まるで彼女に抱かれているように思えて。


635 : [saga]:2011/08/07(日) 21:38:58.99 ID:od7BITRC0



─────────

──────

───


636 : [saga]:2011/08/07(日) 21:39:25.75 ID:od7BITRC0



───

──────

─────────


637 : [saga]:2011/08/07(日) 21:40:25.22 ID:od7BITRC0



 海面が見える。

 そこに浮かぶ、”黄17”のナンバーが振られた、Su-37の砕けた尾翼。

 私の戦いはここで終わった。



 先ほどまで見えていた桃色の光は、今はもうどこにも見えない。



 あなたを戦いに巻き込みながら、私はこの両手を血に染めて来た。

 あなたはきっとそれを望んではいなかった筈なのに。


638 : [saga]:2011/08/07(日) 21:40:52.90 ID:od7BITRC0



 雲の切れ目から見える青空。

 そこにあなたが居るような気がしたから。



 私はあなたに会う資格があるの?

 あなたは今でも私に優しいの?






 聞こえる物は何もなく。

 私の問いかけは透き通る青さの中へと消えて……


639 : [saga]:2011/08/07(日) 21:41:24.41 ID:od7BITRC0



─────────

──────

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640 : [saga]:2011/08/07(日) 21:42:04.46 ID:od7BITRC0



641 : [saga]:2011/08/07(日) 21:42:37.10 ID:od7BITRC0

DATE >
2300 / 0411 / 2008

AREA >
Oured
642 : [saga]:2011/08/07(日) 21:43:31.41 ID:od7BITRC0



 "メガリス”内部の兵舎から回収されたその手帳。

 最後の2ページは、インクの滲んだ文字が読み取れなかった。

 この手帳の持ち主は、どんな気持ちでそれを書いていたのだろう。

 

 戦争が終わってもう三年。

 最後に私の元へ届けられたその手帳。

 これまでにも届けられたものを合わせて、手元には五つの手帳があった。
 
 この戦争で功績を挙げた私の願いを、軍は聞き入れてくれたのだ。

 

 なぜそのような願いをしたのか。

 一つ目の理由は、私の戦った相手の事を知りたかったから。

 二つ目の理由は、ある民間人から私宛に届いた手紙。

 それに対して、相手が納得できるような返事を書けなかったために。
643 : [saga]:2011/08/07(日) 21:44:07.32 ID:od7BITRC0

 その手紙を声に出して読み上げる。

 そうすれば、いい返事が浮かぶかもしれないと思って。



「心地よく鼻をくすぐった ジェット燃料の燃える匂いもかすれ果てた」

「"黄色中隊"の野戦滑走路も今では、ただの自動車道にすぎない」

「私は今、手紙を書いています」

「あのむなしかった戦争の最後にあなたのような好敵手と巡り会えたのは」

「彼女には、望外の喜びだったに違いない」



「せめてそう信じたいものだと」

「それを確かめる相手は彼女を墜としたあなたしか残らない」



「だから、こうしてあなたへの手紙を……」


644 : [saga]:2011/08/07(日) 21:44:47.51 ID:od7BITRC0

 そこで私は、手紙を読み上げるのを止める。



 手紙の相手は"黄色中隊"の事を知りたがっている。

 その返事を書くだけであれば、手元に届いた手帳を参考にすればいい。



 だが、私はもっと多くの事を教えたかった。



 何人もの人間が、それぞれ信じる正義のために戦い、そして散って行った。

 それを全て伝えてあげたい。

 この手紙に記されたように、むなしかった戦争の全てを。



 それを文章にまとめあげるのは、並大抵の努力では済まないだろう。
645 : [saga]:2011/08/07(日) 21:45:48.59 ID:od7BITRC0

 窓の外を眺める。

 夜景の綺麗な街。



 彼女達に助力を請うためなのか。

 私は何を求めていたのか。

 義足の元パイロットと、その友人がここに住んでいると聞いた私は
ここオーシア、オーレッドの都市へ飛んでいた。



 何も知らずに空を飛んでいた私は、戦う勇気をいくらでも持ち合わせた。

 それが正義だと信じていたから。

 地上に降りた私は、この街で私が為すべき最後の戦いに出撃する勇気が出ない。



 ここに来てから気付いたのだ。

 私は彼女達に何を話すのだろう、と。

 どのような言葉を用意して、彼女達と向き合うのだろう、と。
646 : [saga]:2011/08/07(日) 21:46:23.44 ID:od7BITRC0



 手に持っていたティーカップを机に置き。

 ふぅ、とため息を漏らす。


 手紙の返事を書けるのは、いつになる頃かしら。


647 : [saga]:2011/08/07(日) 21:46:55.86 ID:od7BITRC0



648 : [saga]:2011/08/07(日) 21:47:26.06 ID:od7BITRC0



     ACECOMBAT 04

       shattered skies
       - ソ ラ ノ カ ケ ラ -


        〜 fin 〜


649 : [saga sage]:2011/08/07(日) 21:47:54.23 ID:od7BITRC0



650 : [saga sage]:2011/08/07(日) 21:52:41.93 ID:od7BITRC0
以上で終了です。
随分と独りよがりなものを書き続けましたが、
それでも読んでくれた方々、応援して下さった方々、ありがとうございました。

04好きな方に説明するまでもないでしょうが、もしもご存知ない方がいらしたら
是非とも「AC04Web」のユージアニュースを眺めて見てください。
本当に色んな見方をする事が出来る、大好きなゲームです。
651 : [saga sage]:2011/08/07(日) 21:54:34.89 ID:od7BITRC0
と質問に答えを。
>>589 やっぱあれじゃ分からないですよね…
最後の彼女はキリカさんです。
おりマギ最後のシーンを取り入れたら、あんな描写になっちゃいました。
652 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [sage]:2011/08/07(日) 22:00:22.38 ID:PbBc5Lbto
乙華麗

ほむほむは…いや、何も言うまい
653 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/07(日) 22:46:49.51 ID:DszN9Skso
乙!
ACはゼロが一番好きだが、AC04も捨て難いと感じた。
面白かったです。
654 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2011/08/07(日) 22:59:48.10 ID:ggdjSqLl0

描写が細かくて良かったです!
655 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2011/08/07(日) 23:48:00.63 ID:3yBhiO6/o
完結乙
ほむほむは最後にまどかと逢えたと考えればまだ救われる…
ここまでハードというか硝煙臭い話を書ききったのはすごいと思います
ともかく、お疲れさん!!!
656 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/08(月) 05:02:16.43 ID:Z/RBxT3IO
Xから入ったX好きでも4のランク上がりそうなSSだった。
しかし、リボン付きさん最後までぼっちだったな……ace's highか。
657 : [saga sage]:2011/08/08(月) 20:23:44.52 ID:tzkkgooD0
>>655 硝煙臭いのが大好きで…と今更の言い訳になりますが
フェンリア出してた初期構想の書き溜めを今見ても、
(自分で言うのも何ですが)投下したのよりずっと魔法臭かったんですよ。

電子レンジ砲、衝撃波ミサイル、光学迷彩、コフィンとトンデモ設定の塊。
これらの動力源が魔力だという設定で、杏さやを頑張らせてました。

登場時期に突っ込まれたら、「試作ってことで…」で本気で流すつもりでしたし。



結果→マミウスがマミるか、もしくは杏さやが超絶ヘタレパイロットになるか、のどちらかになってしまい…

チート兵器は難しいね、と素直に彼女達をフランカーに乗せ代えました。
658 : [saga sage]:2011/08/08(月) 20:29:20.42 ID:tzkkgooD0
>>657 このSS内ではぼっちさんに見えますけれど、04遊んだ皆様なら
マミさんは決してぼっちじゃなかった事はご存知でしょう。

目を瞑れば聞こえてくるはずです。
最後にメビウス隊に編入されるまで一緒に空を飛んだ、
レイピア隊、ヘイロー隊、ヴァイパー隊の彼らの声。
そして>>309
659 : [saga sage]:2011/08/08(月) 20:32:31.61 ID:tzkkgooD0
↑のレス先間違えた。>>656宛です。

>>546 X-02のステルス設定というのも時代を感じますよね。

ロシア「S-37は(自称)第五世代戦闘機」

軍オタ「第五世代だってよ。ステルスに決まってる」

こんなやりとりがあったのも今は昔。
660 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/08(月) 20:48:16.78 ID:HUiokKFDo
乙です
ところでQBはどこに出てたんだ?
661 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/08(月) 23:42:12.18 ID:IgsmA5bS0
4売ってしまったんだが…

このSS読んでもう一度買い直そうと思ったんだ
662 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/08(月) 23:43:06.68 ID:IgsmA5bS0
4売ってしまったんだが…

このSS読んでもう一度買い直そうと思ったんだ
663 : [saga sage]:2011/08/09(火) 20:38:04.10 ID:D/kh5h290
>>660 人類によるグリーフシードの量産化により、
絶望エネルギーを回収出来なくなったので母星に帰っちゃいました。
…で終わらせるのも申し訳ないハナシなんですが、QBが戻ってくるプロセスを書いたら
それはAC04ではないモノになってしまって…

帰ってきたQBの物語を考えているうちに、エスコン3なら世界観も合うなと思って
そっち方面で妄想を膨らませている最中です。
納得出来る答えではないでしょうが、申し訳ない。
664 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/10(水) 08:56:14.71 ID:cCkeH+eIO
人間に擬態したQBがナバロとして先進技術兵器を率いてオーレリアに攻め込む話を妄想。
グリ1がほむほむで、ユジーンがまどかになったわ。
665 : [saga sage]:2011/08/10(水) 19:51:57.50 ID:FisnDSpP0
>>664 まみそれ面白そう。
あーXのSS読みたいわ〜、読みたいわ〜(チラッチラッ
666 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/11(木) 01:51:37.28 ID:D8IDy58IO
俺に文才無いからこっちみんなwww
667 : [saga sage]:2011/08/15(月) 20:17:33.28 ID:2GH2A46P0
ぼちぼちhtml依頼を出して来ます。
最後に皆様、ありがとうございました!
668 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/15(月) 21:20:03.63 ID:MqdM7wLDO
次も待ってるぜ
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