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ダイブ イン ダンジョン - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆Q6CGh0.8HA [saga]:2011/07/23(土) 16:55:36.25 ID:bvTD07yQ0
・息抜き程度にゆっくり

・勇者もの書きたかったんだよ

・字の文はがっつりある。申し訳ないレベルだが

・一応オリジナル

・タイトルに意味はない。三秒で考えた

・私の文藝力は5.3です

・遅筆

・おっぱい


それが許せるかつお肌に合う方ならどうぞ、読んで下さいまし
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諸君、狂いたまえ。 @ 2024/04/26(金) 22:00:04.52 ID:pApquyFx0
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少し暑くて少し寒くて @ 2024/04/25(木) 23:19:25.34 ID:dTqYP2V2O
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渾沌ゴア「それでもボクはアイツを殺す」 @ 2024/04/25(木) 22:46:29.10 ID:7GVnel7qo
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二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
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佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713966248/

全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
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君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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2 : ◆Q6CGh0.8HA [saga]:2011/07/23(土) 16:57:18.50 ID:E6OwcOrSO
「すみません!誰か、私と魔の王を倒して下さい!」

世界中の冒険者が集う日夜繁華な声が絶えないギルドは一瞬だけ静まりかえり、その後大笑いの渦に包まれた。

豪快に大口を開けて笑う戦士。
呆れたように柔らかく口元を緩める僧侶。
小馬鹿にクスクスと笑い合う魔法使い。
こちらに背を向け肩を震わせるアーチャー。
愛しみを零す盾士……。

とにかくとにかく、どれだけ居るかも数えきれない程の人達全員が笑っていた。

「まぁ、なんだ。仲間を探したいなら受付でな、お嬢ちゃん」

噴火した笑いの大合唱の衝撃に当てられ、ただ目をぱちくりとさせていた私はお店の人のその言葉で一気に現実の味を確認した。

笑われているのは私なんだ、と。

「けっ、結構です!おおお、お騒がせしてすみませんでしたっ!!」

そうして、自分の夢が如何に夢であるかを見せ付けられた田舎娘は、これでもかっ!という具合に顔を赤くさせ、ぺしぺしと心を叩く笑い声と恥ずかしさから慌てて逃げ出したのだった。
3 : ◆Q6CGh0.8HA [saga]:2011/07/23(土) 16:59:07.36 ID:E6OwcOrSO
ダンジョンがある。

それは誰が、何時、何の為に作ったのか分かっていない。

人型類が記録を付け始めた頃には既に存在していた。

つまり、少なくとも2800年以上昔の遺産ではある。

ダンジョンへの入り口となる魔方陣は世界の各地で見付かっている。

それこそ、山の頂でも、空中でも、海の底でも何処でも。

世界に点在するダンジョンはっきり言ってしまえば異世界で、不思議な性質を持つ。

例えば、入る度に形を変えること。
例えば、財宝の詰まった宝箱が有ること。そして、それが決して絶えたりしないこと。

後者から、ダンジョンは富を求める人型類に長く利用されてきた。

ダンジョンを中心に人が集まり国になるのだ。

ただ、そこには魔物や魔人、総じて魔生物と呼ばれる、これまた決して絶滅したりしない特殊な力を持った敵が沢山いた。

彼らの存在が、ダンジョンを普通の人は潜れない危険な場所にし、ダンジョンに潜り繁栄を持ち帰る冒険者を生んだ。

正確には一瞬だけ、調査団なるものがとある亡国に誕生したが、彼らはダンジョンの性質に弾かれて即時解散となった。

前述していないその性質は、一度に四人以上が魔方陣に乗ると、皆バラバラな世界に飛ばされてしまうというもの。

人と冒険者とダンジョン。

この関係は崩れることなく歴史は進んでいった。
4 : ◆Q6CGh0.8HA [saga]:2011/07/23(土) 17:00:09.80 ID:E6OwcOrSO
技術が進歩し、魔法の幅が増え、冒険者達は次第にダンジョンの深く深くへと入れるようになった。

そんな中、賢者達によってダンジョンの謎が一つ一つ明らかになる。

今まで何となく囁かれていたダンジョンの深度と財宝、敵の強さの関係にも裏打ちがされた。

全てのダンジョンは最終的に一つになるという仮説も立てられもした。

そして今より100年前、数多の学説を統計し、『これら全ての事象には何者かの意志が、魔生物を束ねるダンジョンの主とも言うべき魔の王の計らいが有る』との学説が無名の賢者から出される。

この知らせは世界を駆け巡り、前年にダンジョンが一部の大災害を噴き出すことが証明されたこともあり、大混乱に陥った。

恐れを抱いた人々はダンジョンの無い国へと濁流のように流れ込んだ。

怒りに刺された人々は魔方陣を破壊しようと無闇に刺激し、証明された通りの大災害を招き、多くの国が欠けた。

血気盛んな若者達は続々と冒険者になり、魔の王を倒さんとダンジョンの奥へ向かい、その殆どが消息を絶つことになる。

結局、証拠不十分としてこの学説は撤回され、国を騒がせた罰として無名の賢者はダンジョンの一つに閉じ込められた。

今現在、魔の王の話は一種の都市伝説として息を潜めている。

そうして、時折夢見る冒険者によって浮上しては笑いをお越し、また沈みを繰り返す。
5 : ◆Q6CGh0.8HA [saga]:2011/07/23(土) 17:03:44.96 ID:E6OwcOrSO
思ったより書き貯め短いな。三つ分っておいコラ


ま、こんぐらいゆっくりだけど宜しく

所詮息抜きだから、飽きたら直ぐに依頼出すかもね
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/07/23(土) 17:08:51.69 ID:gcKq+DGu0
文藝力5.3てことは後変身が2回残ってるんだな
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/07/23(土) 17:42:14.67 ID:XZJK8XXAO
wwktk
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/23(土) 23:15:49.34 ID:o60krXcIO
ふむ
9 : ◆Q6CGh0.8HA [saga]:2011/07/23(土) 23:59:31.77 ID:E6OwcOrSO
>>6
変身出来たところで何かが変わったりはしないがな!

>>7
あなたの期待に応えたい

>>8
オーケー、しっかりと見定めてくれ。駄目だったらしっかり駄目出ししてくれると助かる
10 : ◆Q6CGh0.8HA [saga]:2011/07/24(日) 00:00:06.51 ID:PczzSqKSO
勢い良くギルドを出て、宿に向かって一直線に走っていた私の前に突然影が落ちた。

当然、身体は多少強張るだけでブレーキをかけようとはせず、そのままにぶつかってしまう。

村では猪娘と呼ばれた私の突進を咄嗟に耐えることなど出来ず、混ぜ合わせになって地面を転がる。ただし、ダメージは申し訳ないことに相手方が……

そう思っていたのだが、案外すとんと受け止められた。

背中に回る逞しい腕や服越しに感じる堅い筋肉で、直ぐに男の人だと分かり慌てて離れる。

「すす、すみません!い、急いでいたものでっ!」

「いや、お前を止める為にわざと前に出たんだ。悪かったな。怪我はないかい、勇者ちゃん」

「……はい?」

聞き慣れない言葉が私に向けられ、思わず間抜けな声が出てしまった。

優しい低音の声からは別段怒気など感じはしないが、もしや穏やかに怒る人だったりするのだろうか。

それで、無謀にも図に乗る田舎者を比喩して勇者だなんて。

そう思い、自分の爪先を一所懸命に眺めていた視線を上方へと流す。

金の短髪、鋭い鳶色の瞳、2mは有りそうな大きくがっしりとした身体、顔に走る雷を彷彿させるタトゥー。
私を受けとめたのはそんな人だった。
11 : ◆Q6CGh0.8HA [saga]:2011/07/24(日) 00:00:42.87 ID:PczzSqKSO
『都会には平気で人を騙すような非道な人や危ない人がいる。ようく気を付けるんだよ』

『気を付けるって言ったって、そんなの分からないよ』

『そういう人達はね、独特の雰囲気を纏ってる』

『雰囲気?』

『見ればコレだ!って分かるから』

『本当かなぁ?』

『後は……』
12 : ◆Q6CGh0.8HA [saga]:2011/07/24(日) 00:02:13.76 ID:PczzSqKSO
村を出る前日、急に訪ねて来たお隣さんが保存食を渡すついでに始めた都会の危険性講座の記憶。

見ただけで分かるなぞ、そんな不可思議な感覚が在るものかと訝しんで聞いていたが、今それが世界の真理だと分かった。

この人はつまり、そういう危ない人なのだ。
ぶつかった私の状況も大変かんばしくないに違いない。

「あ、あの……ゆ、勇者とは……?」

私は田舎の出だが、純白の貝殻に包まれている阿呆ではない。この場でいう危険が何を指すかは、かなり正確に想像出来る。

なるべく、なるべく相手を刺激しないように話は合わせる。
望まれていないなら、謝罪通しは止めた方が良い。

我ながら随分冷静な判断である。褒めてつかわす。

これが墓穴だと知るのはそれから五秒後だ。
13 : ◆Q6CGh0.8HA [saga]:2011/07/24(日) 00:03:00.78 ID:PczzSqKSO
「いやぁ、お前さ、さっきギルドで魔の王倒すって言ってたじゃん。古来より悪を討つは勇者って相場が決まってる。だから、勇者ちゃん」

折角逃げ切れたと思ったのに。

嘲笑が、軽笑が、大笑が、高笑が、爆笑が、憫笑が、朗笑が、蹄を打ち鳴らして近付いてくる。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

生傷に塩を塗りたくられ、私は目の前が真っ暗になった。
14 : ◆Q6CGh0.8HA [saga]:2011/07/24(日) 00:03:36.75 ID:PczzSqKSO
こんな夢を見た。

私が仲間とともに魔の王を討つ。

皆ボロボロになりながらも、笑顔で手を取り合う。

その瞳は純粋で、これで世界は救われるんだと祝杯を交わす。

でも、国に戻ってそのことを話すと、大笑いが巻き起こった。

居るはずがないものをどうやって倒したんだ、と。

どこに行っても嘲笑を向けられ、泣きながら逃げて逃げて逃げて。

でも笑い声が頭から離れなくて。

死にたいより、悔しいより、とにかく恥ずかしかった。

私たちは何て漠迦なことを言ってしまったんだろう!
15 : ◆Q6CGh0.8HA [saga]:2011/07/24(日) 00:04:52.80 ID:PczzSqKSO
「……天井がある」

靄がかかった状態の頭が思い付いた率直な感想だった。

「んっ……」

瞼と胃の腑に妙な重さが落ち、全身の筋肉が強張りを持っている。どうやら、私は眠っていたようだ。

「此処は……お家?」

「目が醒めたんだな。いやー、良かった良かった。あ、ホットミルク飲むか?」

「あ……はい……」

何やら顔に雷の刺青を入れた強面のお兄さんが居るのだが、誰なのだろうか。

親切にしてくれるところを見ると、知り合いのようなのだが頭が働かない。

「トラウマになっちゃったんだねぇ。考えりゃ、君みたいな純粋な娘が傷を負わないワケねーよな。配慮足らんかったわ」

トラウマって……あぁ、そうだ。私は都会に出て来たんだ。

それで、魔の王を倒そうと言ったら笑われて、逃げて、この人が……あ。

「さっきの意地悪なお兄さんだ……」

「あ?あぁ、ま、確かに意地悪になるのか。いや、意図したワケじゃねぇが」

そうだ。私は倒れたんだ。この人に出来たばかりの傷をさらに抉られて。

うーん、何とも情けない話である。

ん?なら、此処に連れてきたのはこの人なのか。ずっと診ててくれたようだし、ホットミルクもくれた。

……そんなに悪い人ではないのかも。

「あ、あの、ご迷惑をかけてごめんなさい。それと、助けて頂きありがとうございました」

「いいのいいのー」

「それで……その、此処は何処、何ですか?」

「君が取ってた宿だよ」

「私が……?」

確かに、私はギルドに行く前に宿を取っている。

でも、そのことをあの短い会話の中でこの人に伝えた記憶はない。

「もしかして、探してくれたんですか?」

「知らぬ部屋に女の子入れるのは流石に気が引けるからな」

「本当にありがとうございます」

分かった。確定した。この人は少し強面で、それをさらに引き出たせる雷光が顔に走っているけど、いい人だ。

悪いことされるなら、私が寝ている間にとっくにされている。

「だから良いって。俺、結構打算で助けてんだし」
16 : ◆Q6CGh0.8HA [saga]:2011/07/24(日) 00:06:46.82 ID:PczzSqKSO
彼は褒められた子供のような照れ笑いをした。

まだ脳が寝ているのでなければ、少し不安になる単語をさらっと放った気がする。

「ははは、打算ってそんな」

「おう。何かなきゃ、こんなことしねぇよ」

身体の芯から一気に寒さが広まった。

私の考えは何処までも浅い。世界の広さを知らないで、自分の小さな定規だけで計って完結して。

あぁ、そうだ。この場が私の取った宿だって保証は無い。だって、私は部屋の中は確認していない。

「意識戻ったなら、さっき言いたかったこと言わせてもらうわ」

大きな身体がベッドに横たわる私に近付いてくる。

次に出る言葉は金か、この身か、血か。

私は俯いて掛布を握り締め、せめてもの意地で身体の震えを抑えていた。

「勇者ちゃん、魔の王を倒すなら俺も一緒に連れていってくれ」

「えっ!?」

ナンダソレハ

「アハハ、犯されると思った?止めてくれよ、俺、こう見えても惚れた女以外抱く気ねぇから」

「おっ、犯されるって、その……はい……」

あんな事件が有ったというのに、私は相当に図太いようだ。

彼の快活な笑い声に身体の強張りが一気に解けると同時に、今まで散々に怯えたり疑いを持ったりするのがアホらしくなった。

一日と立たない付き合いだが、彼の人となりの本質が分かった気がする。

「思いますよ、そりゃ」

「盗賊みたいな顔だもんなー」

「さっきの冗談も止してください。びっくりします」
17 : ◆Q6CGh0.8HA [saga]:2011/07/24(日) 00:07:52.63 ID:PczzSqKSO
「冗談じゃねぇ」

急に鋭さを増した声にはっとして彼を見ると、真っ直ぐに伸びる鳶色の視線とぶつかった。

「俺はな、待ってたんだよ。声高らかに魔の王を討つなんて叫ぶ、俺と同じ夢を持った、俺と同じアホな奴を」

「待ってたんだよ、ずっと」

自分の悲運を描いていた時とは違う緊張が私にまとわり付き、喉から言葉が押し出せなかった。

気圧されたのもある。だが、それ以上にぐちゃぐちゃだった。

それきり彼も黙ってしまい、部屋には沈痛な空気が流れていた。

「明日の朝迎えに来る。その時に答えを聞かせてくれ」

石像になるまで永遠に続くのではないかと思われた時間を破ったのは彼で、去り際にはっきりと響く声を残していった。

ドアが閉まるとともに身体がベッドに落ちる。

何なのだろう。

始めて都会に訪れ意気揚々と向かったギルドで出鼻を挫かれ、走ってぶつかったら気絶して、パーティーに誘われて、それが恥ずかしさから覚めようとした夢をともに見てくれる人で。

一日とはこんなに次々と何かが起こるような物だったか。

重大な決定項目が目の前でちかちかと点滅していたが、そんなことに思いを馳せていると私の身体はまどろみの泥中に吸い込まれていった。
18 : ◆Q6CGh0.8HA [saga]:2011/07/24(日) 00:08:54.00 ID:PczzSqKSO
Q アナタはこの早さを維持出来ますか?

A 絶対に無理です


大体そんな感じ
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/24(日) 08:59:08.09 ID:C9dPx9uIO
ふむ、かまわん、続けろ、支援
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/24(日) 23:24:04.36 ID:o5tFSdsIO
ふむふむ(´・ω・`)
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/25(月) 00:52:52.93 ID:7TT+bHevo
とりあえず期待
22 : ◆Q6CGh0.8HA [saga]:2011/07/26(火) 22:17:54.76 ID:bXKN1DVSO
>>19
アリガトー!アリガトー!

>>20
へむへむ(`$皿$)

>>21
いつか本気にさせてやるよ


うぇーい、投下じゃーい
23 : ◆Q6CGh0.8HA [saga]:2011/07/26(火) 22:20:41.38 ID:bXKN1DVSO
不覚なのは飯を食わずに寝てしまったこと。ついでに言えば、重要な案件を放り出してしまったことも。

幸運なのは慣れないベッドにもかかわらず、私の身体の中で出来上がったサイクルはきちんと機能してくれたこと。
農家の朝は早いのだ。

不幸なのは早くに起きすぎて空腹感を持て余しているということ。

緊急事態であり回復するための保存食も持ってはいるのだが、数刻の我慢だと手を伸ばすのは止めた。

「……ハァ」

この判断が英断であることは誰しも否定出来ない事実だろうが、悲しむは考え事が捗る状態ではない。

これでは、折角の早起きが無駄じゃないか。

煉瓦の上に打ち付けられた薄板を眺めていても食欲の空きを埋めることは叶わないと判断し、私は外に出ることにした。

このままでは五秒前に我慢した保存食に手が向かいかねなかった。
24 : ◆Q6CGh0.8HA [saga]:2011/07/26(火) 22:22:19.28 ID:bXKN1DVSO
宿は確かに私が取った宿だった。もう連れ去られたとは思っていなかったが一応の確認だ。

そうして、また一つ彼への小さな信頼を勝手に積み重ねた私は、まだ太陽の登らぬ町へと足を進めたのだった。

浅ましくも、その主な目的は食べれるナマモノは転がってないか。

まずは腹ごしらえが基本にして頂点。お腹一杯に食べるつもりはなく、せめて思考の邪魔にならない程度に胃を満たそうと思っていた。

勿論、私とてそれが如何に変な行為かは自覚している。人目がないからの大胆さなのだ。

「勇者ちゃん、随分早いんだねぇ」

そんな賤しい私を待ち構えていたのは、済み渡った朝の爽涼な空気に似合わぬ攻撃的な煙草の煙と大柄の男。

眼の下に隈が入り、昨日より悪人面が輝いている。

「なっ、なななななっ、なっなっな?なっ!なぁっ!?」

「そんな、な、ばかり言われたって分からねぇよ」

うわっ、本当に笑い方だけは子供のように幸せに満ちたものだ。特技なのか、ソレは。

……ではなくて!

「何故に!なにゆえ!何でアナタが此処にっ!?」

「待ってるって言った筈だが」

違う。答えになっていない。いや、答えではあるのだけれでも答えじゃない。

早い。早すぎる。

もしや、この都会に染まり切った男にも農家の倅をしていた時期が在ったりするというのか。

「いや、実は緊張して眠れなくてさ。そわそわし過ぎて夜中からずっと待ってたのよ。笑えるだろ」
そんなワケないか。
25 : ◆Q6CGh0.8HA [saga]:2011/07/26(火) 22:26:30.22 ID:bXKN1DVSO
しかし、見かけに寄らず可愛い理由だ。心がほっこりする。それと共にズキリともする。

寝てしまうのも腹減りが気になるのも、きっとこの決定が私の中で言葉だけの重さだから。

彼の真剣さを見ると、自分の情けなさが浮き彫りになり苦しい。

「で、どうなの。決めてくれた?それとも今から散歩?」

彼の意思と向き合いたい。向き合うのが道理だ。

「かつっ!」

「うぉっ!?」

両の頬を出来る限りの強さで叩く。痺れるような痛みが心を引き締めてくれる。

「ど、どうしたの?」

「気合いを入れました!」

「地べたに座るのも?」

「はいっ!」

奇妙だろう。だが、こうしないと報えない気がするのだ。

「……ふーん」

何かを察したのか、彼も私と同じように地べたへ膝を折り畳み、背筋を真っすぐに伸ばしてくれた。

「私はまだ何も決めていません!悩んですらいません!」

「あぁ」

「なので、今から決めます!」

「分かった、聞こう」

鳶色の瞳が昨日私を震わせた時と同じ色を放っていた。
だが、今日は覚悟がある。

私の誠実さは彼から見れば弱々しいかもしれないが、それでも私も同じように意志を瞳に乗せ、彼を跳ね返す勢いでぶつける。

『後は……妙に親切な人。こういう人にも気をつけなさい』

忠告が蘇る。

心配しなくていい。私には分かる。彼は妙に親切な人じゃない。

「私と魔の王を倒しに――

そこまで発言して、何処からかキュゥっとへんてこりんな音楽が鳴った。
26 : ◆Q6CGh0.8HA [saga]:2011/07/26(火) 22:28:15.20 ID:bXKN1DVSO
いや、良い。私のお腹だ。結局は覚悟しても鳴ってしまうのだ。根っからの演奏家なのだ。

「……」

「……」

この超自然のお導きにより完全に勢いを殺されてしまい、二人して次の言葉を探して視線をあちらこちら動かす。

「あー……こ、これから宜しくな、勇者ちゃん」

彼は聞こえなかった、という選択を掴んだようだ。

「はい……宜しくお願いします……」

ならば、私もその時流に乗りたい……ところだったのだが、やはり恥ずかしさで声が尻すぼみになってしまった。

弱い。恥ずかしい。死にたい。消えたい。
誰か小娘一人が収まるような穴を掘ってくださいませんか。

「……やっぱダメだな」

俯き加減の私の頭上からそんな声がする。

蓋を開けてみればなんてダメな子なんだ。がっかりしたぜよ、と契約の解消に移るんだ、きっと。

「旅のパーティーの結成が、こうしみったれてちゃやれねぇよ。酒でも交わしながら豪快にいこう」
「え?」

「仕切り直しだ。まさか、考えが変わるとか言わねぇよな?」

彼は、失敗を犯して流されそうになる私の前に葦束をぶら下げてくれた。
27 : ◆Q6CGh0.8HA [saga]:2011/07/26(火) 22:29:49.99 ID:bXKN1DVSO
「ぜぜぜ是非!是非そうしましょう!良いですよね、お酒っ!」

私が好意という名のその葦を必死に胸元まで手繰り寄せて、噛み付くようにしがみ付いたのは論ずるまでもない。

「じゃ、俺は酒やらなんやら取ってくる。少し待たせることになるからコレやるわ」

彼はそんなことを言い、ウエストのポーチから取り出した厚地のクッキー数枚を私に握らせて去って行った。

闇の奥に消える前に全部食べて良いからー、と要らぬ優しさも添えて。

彼の善意に乗っかったのは私だ。だが、このようなオチを付けられると少し悔しく恨めしい。

餌は欲しいが人が怖くて近寄れない子猿の為に、食べ物を置いたらさっさと去るという構図まんまではないか。

だが、此処でつまらない意地を張るのもどうかと思い、ため息ながらにクッキーを頬張る。

しっとりサクサクで、茶葉を入れてあるのか深みのある良い香りがした。

あ、コレは美味い……。
28 : ◆Q6CGh0.8HA [saga]:2011/07/26(火) 22:33:07.57 ID:bXKN1DVSO
中々進みてぇとこまで行かねぇなぁと思いつつ本日は終
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/07/27(水) 15:26:23.83 ID:iwPlpkKco
わりと期待
30 : ◆Q6CGh0.8HA [saga]:2011/07/30(土) 12:42:08.88 ID:mswEjedSO
>>29
わりと嬉しい。いや、かなり嬉しい。いや、服を脱ぎ捨てたいぐらい嬉しい
31 : ◆Q6CGh0.8HA [saga]:2011/07/30(土) 12:43:16.30 ID:mswEjedSO
彼の目に私はどう移ったのだろう。

走ってお酒を取って帰ってくると、自分のあげたクッキー七枚を見事に完食し、充足した顔で包み紙をウサギにしたり鳥にしたりしている私は。

苦笑する彼の表情からは深くは読み取れない。読み取れないが、何となくやってしまったのは自分でも分かる。

くそぅ、都会に出てきてからこんなのばっかだ。

「ハハハ、やっぱ勇者ちゃん良いわ。あ、嫌味じゃなくてね」

相変わらずの笑み。

「分かってます、それぐらい」

こんな私の何が良いのかは分からないし、言われても理解出来ないだろうが。

「んー、流石だね。ホラ、受け取りな」

彼が取り出したのは緑ガラスのごく一般的な酒瓶。
ただ、ラベルの紙は色褪せていて、その酒が暗冷室でもの静かに生きてきた悠久の時がひしひしと感じられた。

それだけでも酒と言えば自家製果実酒である私には一歩引いて畏まるに値するのに、瓶口からグラスへと注がれる液体は何処までも透き通る黄金で、夕焼けに照らされた清流をそのまま捕まえてしまったかのよう。

コルクを抜いてから広がった香りもうっとりするような花蜜で、混ざり気なし、一種類の花を何処までも高尚に濃くした透明さだった。
32 : ◆Q6CGh0.8HA [saga]:2011/07/30(土) 12:47:20.59 ID:mswEjedSO
「えっ、いや、でも……」

そんな酒がなみなみと注がれたグラスがずい、と眼前に現れたのだ。余りの高貴さに当てられた私は素直に手を出せなかった。

「遠慮すんな。高い酒ってのはこういう時に一番輝くんだよ」

空いた間を見て彼は言う。

やっぱり高いのか。

まぁ、そんなことで何時までもビクビクしていては平行移動するだけなので、覚悟を決めてしっかりとグラスを握る。

「受け取ったな。それじゃぁ、乾杯の合図は勇者ちゃんに任せる。好きなタイミングでどーぞ」

「私がするんですか!?」

「そりゃそうよ。勇者ちゃん、リーダーだもの」

む、無茶苦茶だ。勇者だなんて私は自分から名乗ったことはない。
なのにいつの間にか私がリーダーで、乾杯を取るのが私の役目だと言うのか。

「分かりました」

偶像対象として扱うかのような彼の態度に少し、ほんの少しだが腹が煮えた。

理想の押し付けの犠牲としているワケではないと分かっているが、今のは似たようなモノだ。

女神様への賛美から始まり、人々の愛を説き、魂の善なるを唄い、この世の救いを祈ってからお互いに契約を交わし、乾杯。

言われた時は困惑しながらもそんな形式通りのやり方をしようかと頭の隅で考えていたが、今をもって完全に破棄。

乱暴だろうがなんだろうが言いたいことを吐き出せてもらおう。

「グラスを掲げて!」

「おう!」

杯が私達の頭上に並ぶ。

ちょうど朝日も照りだし、世界の全てが幻想的な朱と黄金に満たされる。

「我ら此処に祝わん!愛する女神の祝福と大バカ野郎2人に!」

「は?」

「乾杯ッ!!」

茫然とする彼を置いて一方的に杯を打ち付け凛とした音を朝焼けに乗せて、勢いままに注がれた酒を一気に喉へと放り込んだ。

美酒はまだ冷室の気を残しており、ひんやりとした中に滑らかな甘さと一面に咲き誇る花の芳香が際立つ。
その優美な見目と上品な味わいに反してアルコールは攻撃的に高く、喉奥に心地よい熱と刺激をもたらし、身体中の血が瞬く間に踊りだす。

含んだ酒を飲み込んでから、底から沸き上がる甘い香りと舌に残る妖艶な味覚に時間をかけなかったことを後悔した。

勢いって怖い。
33 : ◆Q6CGh0.8HA [saga]:2011/07/30(土) 12:48:25.80 ID:mswEjedSO
「ハッハハ、カハハハハハ!!」

激情の火が消えた跡に昇る煙に焚かれながら一息しょんぼりとしようか、と構えていると突然彼が笑い出した。

びっくりして見やると実に愉快で実に痛快そうな顔がそこにあった。

「ハハハ、バカ2人ね!確かに、確かにその通りだ!カッハハハハハハ!!」

どうも私がどーんとぶつけた不平は彼の笑いを引っ張り出したようだ。

だが、そんな大いに笑われる状況も悪い気はしない。

不平不満とは言うが、彼と私が大バカ同士という意見は私の本心で直球。
あの時、彼の真摯な態度に応えようと覚悟した時、私の中で確かに浮かんだ真の言葉だ。

滑稽に思っての笑いじゃないことは分かる。なら、私が触れたのは彼の中で漠然としていた正鵠だろう。

「オーケー!女神様とバカ2人の愛に乾杯だ!よろしくな、勇者ちゃん!」

「こちらこそ」

未だ黄金の輝きを放つ杯と朝日を受けて銀光する杯がかち合い、二度目の唄が契約の成立と儀式の終わりを天に知らせた。
34 : ◆Q6CGh0.8HA [saga]:2011/07/30(土) 12:56:05.70 ID:mswEjedSO
その後、儀式は彼の粋な計らいでチーズと雑談を肴にした酒宴に変貌を遂げ、二人して朝からほろ酔いに浸かっていた。

途中で私がお互い名前を言ってないことを思い出し、自己紹介をしようと提案すると彼は

「面白くないし、名前なんぞ改めて言わなくて良いだろ。お前が勇者で俺が僧侶。それで良いじゃねぇか」

と言った。

「肩書きで呼び合うってことですか?でも、私勇者でもなんでもないです」

案自体に抵抗は無かったが、一応の反論。

「呼んだモノ勝ちだ」

全くその通りだった。呼び名は悪口でなければ、最低限お互いに分かることが出来れば自由だ。

勇者という言葉はこそばゆくて嫌だったが、酔っていたせいもあってかこの時の私は寛容だった。

「僧侶も?若干キツい気がしますけど」

私がそう言うと

「いや、俺僧侶だし」

2メートルに届きそうな筋骨隆々の男は軽く笑って応えた。

「いやいやいや、またまたそんな」

彼は酷く酔っているのだろうと思った。だって、どの角度から見ても戦士だ。

「いやいやいや、冗談じゃなくて」

「いやいやいや」

「いやいやいや」

いやいやいやの応酬は彼が証拠のメダルを出すまで続き、私は負けた。

「えっ、ええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

後に生涯最高峰の叫びを上げた私に宿に泊まっていた人はかく語る。

「お嬢ちゃん、あんたは目覚まし鳥の才能があるよ」



     【雷背負う僧侶さん 終】
35 : ◆Q6CGh0.8HA [saga]:2011/07/30(土) 12:57:48.79 ID:mswEjedSO
長い。此処まで来るのに時間かかりすぎだ

続くかどうかは未定ってか、この先の展開マジ白紙。ノリと勢いって怖いね
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/30(土) 13:06:47.94 ID:HXVhUw7fo
素晴らしいノリと勢いだと思います支援
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2011/07/30(土) 17:42:28.79 ID:pOKCKgKeo
ふむ(´・ω・`)
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/09/26(月) 22:49:34.19 ID:4pCoTqkZ0
で、俺「安価で強くなりたい」は?
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