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マミ「もう何も怖かねぇ!」 -
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1 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/24(日) 16:23:12.54 ID:cCeqzXxK0
0
カシャア……(幕の開く音)
ほむら「こんにちは。今日はわざわざお越し頂きありがとう」ペコリ
ほむら「何が始まるの?という気持ちかもしれないけれど、これから始まるのは”マミ「もう何も怖かねぇ!」”
という二次創作のSSよ」
ほむら「こんなタイトルだけど、実は主役は私なの(キリッ。期待していた人はごめんなさいね。
でも、巴マミも活躍するわよ。だからこそこのタイトルなんですもの」
ほむら「タイトルからすでに内容を推している方もいるかもしれませんが、一応注意書きよ。作品が始まる前に読んでね」
ほむら「この作品には、公式スピンオフ”おりこ☆マギカ”のキャラクターもみんな出ます。
また、”おりこ☆マギカ”の次の時間軸という設定です。」
ほむら「あと、残虐的というか、どぎつい描写がちょっとあったりするのも、気にする人は注意してね。」
ほむら「さて、そろそろ始まるみたいね」
ほむら「いろいろ書いたけれど、楽しんでいただけたら幸いよ。」
ほむら「SSが始まってすぐには私は出ないけれど、あとで出るから、私の活躍も、是非見届けてね」ニコッ
ほむら「お話は、巴マミがシャルロッテにマミられた後日から始まります。」
ほむら「SSの終わりには、素敵なプレゼントのお知らせもあります!」
ほむら「それでは、見ていってくださいね!!」フゥォン(テレポートで消える音)
1.5 :
荒巻@管理人★
(お知らせ)
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=^・ω・^= ぬこ神社 Part125《ぬこみくじ・猫育成ゲーム》 @ 2024/03/29(金) 17:12:24.43 ID:jZB3xFnv0
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VIPでTW ★5 @ 2024/03/29(金) 09:54:48.69 ID:aP+hFwQR0
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小テスト @ 2024/03/28(木) 19:48:27.38 ID:ptMrOEVy0
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満身創痍 @ 2024/03/28(木) 18:15:37.00 ID:YDfjckg/o
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part8 @ 2024/03/28(木) 10:54:28.17 ID:l/9ZW4Ws0
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旅にでんちう @ 2024/03/27(水) 09:07:07.22 ID:y4bABGEzO
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1711498027/
にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:26:18.81 ID:AZ8P+2+I0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/gomi/1711459578/
にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:26:02.91 ID:AZ8P+2+I0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/gomi/1711459562/
2 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/24(日) 16:23:37.24 ID:cCeqzXxK0
0.1
最初vipに投下していたSSですが、分量が多く完走が困難と思い、またss速報向きという指摘も
いただいたので、こちらで書き直しています。
そんな不甲斐ない寡少のSSにお付き合いいただけたら嬉しいです
3 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/24(日) 16:24:52.34 ID:cCeqzXxK0
1
第一話「残念だったわね。トリックを使ったのよ」
朝食の目玉焼きを見つめながら、まどかは昨日の出来事を思い起こしていた。
病院で孵化したグリーフシード。
その魔女の結界に踏み入ったさやかを助けるために、マミと一緒になってさやかを追うさなか、
まどかはマミと”魔法少女コンビ”の結成を約束して。
その矢先。
約束はつかの間の幻想に消え、マミは…… 魔女に頭から喰われてしまった。
一緒に魔法少女になって戦うって約束して…あんなに嬉しそうだったのに。
マミさん…。
思い出すほどに、まどかは堪えきれなくなって、涙を目に滲ませてしまう。「う…うう…」
それを、自分の料理のせいと勘違いしてしまった父の知久が、声をかけてきた。
「まどか、料理、まずかったかなあ…」
「ううん。おいしいの…」
まどかは手で涙を拭いながら、言った。「生きていると…パパのごはんが…こんなにおいしい…」
しかしその朝食が、まどかにとっても、家族との最後の食事になるとは、まだ思いもよってなかった。
4 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/24(日) 16:26:27.71 ID:cCeqzXxK0
2
その悲劇、凶兆のはじまりは、いつもとは違う時間帯で聞こえてきた、ゴミ収集車の音だ。
ブロロロロ。
鹿目卓に近づいてくるその車の音に、最初に気づいたのは母親の詢子だった。
「……ん?収集車?」
「曜日が変わったのかなあ?」
まどかの父、知久が不思議そうに言うと、慌ててゴミ袋を両手に抱え、収集車がいってしまう前に
急いで家の玄関を出た。
「おーい、待ってくれー!おーい!」
やってきた収集車にむかって、知久が声をだして呼びかけると、収集車がそこで止まった。
ふー。間に合った。知久が安堵の息をついた。
「いったかと思ったよ」
と、知久が収集車の作業員に声をかけると。
作業服に身を包んだ二人が車から降りた。
一人は青髪のショートカットで、もう一人は長い赤髪のポニーテールだった。
おかしいのは、二人ともゴミ収集車の作業員にしては背が小さいし、まるで女の子のようだし、
赤髪のほうに至っては口にポッキーを咥えている。
だが、何よりも異常だったのは、その赤髪の少女の手に一つの短機関銃が取り出されたことだろう。
「とんでもねえ」
赤髪の作業員が口にポッキーを咥えたまま、言った。「アンタを待ってたんだ」短機関銃の銃口が知久に向けられる。
次の瞬間、知久が驚く間もなく、彼の身体は火を噴いた機関銃の銃弾の雨を浴びていた。
「うわああああう!」
全身を貫かれた身体は糸の切れた人形のように崩れ、その倒れた身体に。
ズバババババ!
追い討ちかけるように、赤髪の作業員がもう一度銃弾を死骸に浴びせていた。
死体に穴が増えたところで満足した彼女は、ゴミ収集車に乗り直すと青髪の作業員と共に
その場をあとにした。
5 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/07/24(日) 16:26:50.40 ID:nXI4MMbDO
こっちきたか
私怨
6 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/24(日) 16:28:24.83 ID:cCeqzXxK0
3
さてゴミ収集車の作業員を装った彼女は、名前を佐倉杏子といったが、今では普段着に着替えていた。
ゴミ収集は彼女の本業ではなく、ある計画を進めるための変装だった。
そしてその計画の手始めとして、鹿目まどかの父を暗に殺してしまったのだった。
その杏子はいま、車のショップに足を運び、店員から商品の車の説明を受けている。
「車はアメリカで生まれました。日本の発明品じゃありません。わが国のオリジナルです。
しばし遅れをとりましたが、今や巻き返しの時です。」
「キャデラックは好きだな」杏子が言った。
「キャディーがお好き!?結構、ではますます気に入りますよ!さあさどうぞ」
店員がはきはき言いながら、杏子を車の運転席にドアを開けて案内する。
「キャディーのニューモデルです。」
杏子が運転席に座ると、店員がすかさず言う。「快適でしょう?」
車の窓から顔をのぞかせ、話し続ける。
「んぁあ!仰らないで。シートがビニール。でもレザーなんて見かけだけで、夏は暑いし、よく滑るわ、
すぐヒビ割れるわ、ろくなことはない。天井もたっぷりありますよ。どんな長身の方でも大丈夫!
どうぞ回してみてください」
店員に促されて杏子はキーを回すと車にエンジンをかける。
「いい音でしょう?余裕の音だ、馬力が違いますよ!」
自信たっぷりに語りかける店員にむかって、杏子が車のハンドルを握ると、問いかけた。
「なぁアンタ、アタシが一番気に入ったものが何かわかるか?」
店員が訊いた。「なんです?」
口にポッキーを咥え、店員にむかってニッと笑ってみせると、杏子は答えた。「値段だよ」
杏子は店内で車をバックさせた。ハンドルを操作すると、店のショーウィンドーにむかって
発進させはじめる。
「あぁちょっと、何を!?ああ待って、ここで動かしちゃダメですよ!」
慌てふためいた店員が車の前に立ちはだかり、制止しようとするのも構わず、杏子は店のショーウィンドウを
突き破ってガラス越しに店の外に出た。
「待って、止まれ!うわあああ」
身体を張った制止も効かず店員は杏子の運転する車に跳ね飛ばされ、砕け散ったカラスと一緒に
道路に投げだされ、血まみれになって横たわり気絶してしまった。
何食わぬ顔で町の路上へ車を走行させた杏子が、また満足げにニッと笑った。
「いっちょお買い上げっと♪」
7 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/24(日) 16:29:52.39 ID:cCeqzXxK0
4
鹿目一家に、危機が忍び寄っていた。
繰り返された時間のなかでも、これまでになかったような、恐ろしい悲劇が。
母と一緒に、洗面台で身支度をしていたまどかは、まだ身に迫るその危機に気づいていない。
まどかは、鏡の前で赤いリボンを髪に結びながら、学校へ出かける準備をしていたし、
その隣で母親はまだメイクをしている。
まさか父親が死体となって道路に横たわっていようとは思いもしていない。
だが、残された家族の二人にも脅威の手は伸び始めていたのだ。
聞こえてくるヘリコプターの、空でプロペラのはためく音。
日常生活の中でも、それは時折耳にする音ではあったが、今回は何かが変だ。
あまりにも音が近い。
近いのに、それがまだどんどん接近してくる。
まるで、今にもヘリコプターが目の前に現れそうな…。
ガシャァン!
大きな破裂音が轟いた。
鹿目宅の洗面台の部屋のガラスが、いきなり木っ端微塵にに割れた。
部屋にパラパラとガラスの雨が降りそぞき、衝撃の揺らす地鳴りに思わずまどかはその床に身を伏せた。
「きゃああ!!なに!!?」あまりのことにまどかの驚きの声があげる。
広い洗面台のガラスの部屋に、一台のヘリコプターが突っ込んできていた。
部屋のなかで、ヘリのプロペラは高速で回転を続け、強風を振りまいてガラスの破片を散らしている。
そのヘリコプターの機内から一人の金髪の巻き髪の少女が、近世風の女性衣装を身にまとって部屋に降りてきた。
8 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/24(日) 16:31:57.40 ID:cCeqzXxK0
「だれなの!?」
まどかが吹き荒れる強風の中を、両手で頭を守りながら叫んだ。「家に入るなら玄関から入ってよぉ!」
「てめー!」
詢子が叫び、侵入者に対し怒りを露にする。「なんてことしやがるんだ!タダじゃすまさねーぞ!そのヘリをよこしな!」
「うるいさわね」金髪の少女がマスケット銃を詢子にむけると、引き金を引いた。
マスケットの銃弾は詢子の脳天を一発で貫き、頭から血を飛び散らせて詢子はバタリと倒れた。
「そこに寝てなさい」金髪の少女が一言付け加えた。
「ママ!」
まどかが悲痛の叫びをあげ、涙を溜めた目を見開いた。目の前で起こっていることが信じられない。
混乱の極地に達しようとしている。それに、今の声は…。
「鹿目さん。わたしに着いて来てくれる?」
聞き覚えのある声がまどかを呼ぶ。まどかは恐怖に駆られ、本能的に逃げようとした。
でも恐怖が身体にすっかり浸透してしまって、震えるばかりで動かない。動けない。
侵入者の足音が近づいてくる。「どうしたの鹿目さん?それじゃまるで生まれたての小鹿よ」
「やだ……誰か……助け……!」目に涙を浮かべ、身体を震わせながら必死に助けを求めたまどかのもとに。
「まどか!」
まどかの祈りが通じたのか、彼女を助ける何者かが現れた。
いつの間にやら誰かの腕に抱かれ、洗面台のガラス部屋を抜け出していたまどかは、その抱きかかえた何者かの、
長く艶やかな黒髪を見た。
「ほむら……ちゃん?」
まどかに迫る危機に颯爽と現れた”暁美ほむら”──つい最近、見滝原中学に転校してきた彼女のクラスメートは、
魔法少女の制服姿で、まどかを腕に抱えて、家の廊下を走っていた。
「ベッドの下に隠れて!」
ほむらは、まどかを彼女の部屋まで連れて行くと言い、彼女を降ろした。
「そんな……ええ?」
いきなりすぎる事態にまだ頭の収拾がついていないまどかは、混乱するばかりで動こうとしない。
「はやく!はいって!」
ほむらはそのまどかの背中を、無理に部屋へ押し出すと、前につんのめったまどかがようやく
ベッドの下に身を潜らせた。
それを目で見届けたほむらはドアを閉め、腕の円形シールドからミニミM249機関銃を取り出すと、
鹿目宅の廊下を慎重に進んだ。
9 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/24(日) 16:34:13.10 ID:cCeqzXxK0
洗面台の部屋では、まどかを捕らえ損なった金髪の少女が、一緒に行動していた
赤髪の少女・佐倉杏子に、ぼやいていた。
「目標を逃がしちゃったわ。暁美さんが近くに沸いて出てるみたい」
「例の、時間停止の魔法少女ってヤツか?」
少女の隣で、杏子が二本目のポッキーを口にすると、言った。
金髪の少女がコクリと頷く。
「アタシらの知らないところで時間止めてんだろ?どうして分かるのさ?」
杏子が怪訝そうに眉を寄せて訊ねると。
金髪の少女が、杏子の顔をまっすぐ見ると、口を開いて答えた。「匂いで分かるのよ」
ほむらはまだ、まどかの家を襲う何者かの正体をつかめていない。
前回の時間軸では謎の魔法少女、美国織莉子との死闘を演じたほむらだったが、
まどかの家を襲撃する者が現れるという事態は初めてのことであった。
(この時間軸でもさっそくイレギュラーが…)
ほむらは廊下を進み、まどかの母親の寝室のドアを開ける。
中に入ると、部屋の椅子にちょこんと腰掛けている、憎き白い獣の姿を目に捉えた。
「…あなたの仕業なの」
と、M249の銃口を”そいつ”に向けながら、ほむらが口を開いた。
「まあ落ちついてよ。暁美ほむら」
キュゥべえ───本名インキュベーター──が、椅子に腰掛けたまま、話しかける。
その獣は、憎たらしいことに、なんと白い頭にまどかの赤いリボンを結んで、まどかっぽくおめかししていた。
「銃を突きつけられちゃビビって話もできやしないだろう?」
そう言い聞かせても、ほむらはむすっとした表情のまま、キュゥべえに銃を向けたままだった。
「鹿目まどかは無事さ。暁美ほむら。少なくとも今のところはね」
と、キュゥべえは小動物っぽい仕草で前足で耳を掻くと、続けた。
「この先どうなるかは、キミ次第だ。ボクはすでに鹿目まどかを襲った犯人の見当をつけているんだ。
休戦協定を結ぼうじゃないか。暁美ほむら」
キュゥべえが耳毛を揺らす。ほむらは、ただ黙ってインキュベーターの提案を聞いていた。
「無事まどかを救いたければ、ボクと協力してよ。OK?」
するとほむらは、一歩前へ踏み出ると答えた。「OK!」
返答と同時にマシンガンが火を噴き、その炸裂する銃弾をキュゥべえにお見舞いしてやった。
「あぅ!」キュゥべえの頭にぽっかり穴が開き、椅子と一緒に後ろへ倒れこんだ。
すばやく寝室をあとにしたほむらは、まどかの部屋に戻ると、すでにまどかは何者かに連れ去られてしまった後だった。
窓から外を見ると、キャデラックの車にまどかが乗せられているのが目に入る。
(まだ間に合う…!)
ほむらは急いで鹿目宅を外に出る。車庫にむかい、停車された車のボンネットを開けて中身のエンジンを確認する。
10 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/24(日) 16:36:00.36 ID:cCeqzXxK0
そのエンジンも襲撃者によって既に壊されていた。
ほむらが中身のプラグコードを持ち上げると、切断されたコードの切れ端が顕になる。
(エンジンが壊れているだけ。問題ない)
ほむらはボンネットを閉じ、車のドアを開けると、運転席には乗らずに、開けたドアをそのまま力任せに押し始めた。
力で押された車がゆっくりとタイヤを回し、進み始める。
ほむらはそのまま、車を道路の下り坂にまで運んだ。
下り坂に到達した車が一気に下り始めた。それと同時にほむらが車の運転席に乗り込み、ハンドルを握る。
その重力を利用した車の運転で、まどかが連れ去られたキャデラックの車を追う。
キャデラックの車を運転していた杏子が、急な下り坂を先回りして下ってくるほむらの
運転を見て呟いた。
「おい、追ってくるぞあのバカ」
坂を真っ逆さまに落ちながら、ハンドルを必死に操作して追いかけるほむらをバカと呼び、
杏子はまた言った。
「まだ追いかけてきやがる。ぶつける気だぞ」
ポッキーを咥えながら杏子がそう呟いたあとで、ほむらの車は急激な降下に耐え切れずついに派手に横転して炎上した。
「けほ…けほ!」車の爆破から辛くも脱出したほむらは、砂埃だらけの身体を起こす。
手に再びマシンガンを取り出し、引き金をひいてキャデラックにむけて銃弾をぶっ放そうとしたが、その瞬間。
後ろから何者かに、何か細長く固いものに力強く首の後ろを打たれた。
「うっ!?」視界がぐらつき、身体が脆くも倒れこむ。
うつぶせに倒れこんだ体を翻し、起き上がろうとしたが。
そのアゴ先に、マスケットの銃口が突きつけられた。ほむらの動きがそこでピタと止まる。
マイケット銃を自分に突きつけていたのは、つい先日魔女に喰われてしまったはずの、巴マミだった。
ほむらは、驚いたように目で見上げると口を開いて言った。「巴マミ!?アナタ、殺されたんじゃ……」
「残念だったわね。トリックを使ったのよ」
得意そうな金色の瞳でほむらを見下ろしたまま、目と同じ色をした金髪の巻き毛の少女───
巴マミが、マスケット銃をほむらに突きつけたまま、言った。
「前にも言ったわよね?話し合いだけで済むのは、あの時が最後だって」
と、マミは話す。「その言いつけを守らなかった罰がコレよ」
いい終えるのと同時に、マスケット銃の最後の一発が、放たれた。
11 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/24(日) 16:36:40.33 ID:cCeqzXxK0
4.1
事は予定通り、運んでいるよう。明日の今ごろ、私は世界の救世主となっているでしょう。
暁美ほむらも今回は私に協力的。すぐにまた会えるわ。どう?最悪の絶望。嬉しいかしら?
次回予告:第二話「殺すのは最後にしてあげる」
12 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/24(日) 16:39:45.47 ID:cCeqzXxK0
一話が終わって一旦くぎり。
一日にチャプタ5ずつくらいのペースで投下していこうかなと思っています
では一旦ノシ
13 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/07/24(日) 16:42:05.29 ID:XKOjBcnH0
vipからC
14 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/07/24(日) 16:42:05.16 ID:GstD4OCIO
何が始まるんです?
15 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(山陽)
:2011/07/24(日) 16:49:51.67 ID:IfL+UTFAO
>>14
第三次大戦だ
16 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/07/24(日) 17:51:15.87 ID:Cp6YzL6Vo
来たか、ほマンドー……!
17 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)
[sage]:2011/07/24(日) 19:32:34.26 ID:i/stV/Fho
魔法少女は希望をもたらすと言ったな。あれは嘘だ
18 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/07/24(日) 21:13:19.59 ID:Yoc6UZsVo
いいssだ、今すぐ支援してやる
19 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/07/25(月) 12:57:03.56 ID:lP/qL8jVo
やっとか
20 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/25(月) 17:48:16.70 ID:f3T3l2o10
5
第二話「殺すのは最後にしてあげる」
「う…」
目を覚ますと、ほむらは自らの体が魔法のリボンに拘束されている状態に気づいた。
台に仰向けに縛り付けられている。
縛られたほむらの見上げる天井に、巴マミの顔がひょいと現れた。
いや、巴マミだけではなかった。
佐倉杏子や、美樹さやかまで……そして、驚いたのは、その二人はまだしも、以前の時間軸でまどかを巡った
対決を繰り広げることとなった、白い魔法少女・美国織莉子まで、その顔を覗かせていたことだ。
(……今度の時間軸では何が起こるというの……?)
困惑に目を細めたほむらにむかって、巴マミが告げてやった。
「麻酔弾よ」
佐倉杏子がその横で口にポッキーを咥えて光景を見物している。
「本物の魔弾使いたかったものだわ!」皮肉たっぷりにほむらの胸元を乱暴に掴むとマミが言う。
「まどかはどこ!?」ほむらが怒鳴り、身を起こそうとしたが、拘束するリボンにそれを阻まれた。
すると次は、魔法少女狩りの黒幕、美国織莉子が顔をだしてくると、静かな口調で語りかけてきた。
「私を覚えているかしら?暁美ほむら」
「誰が忘れるもんですか…」
ほむらは怒りを目にたぎらせて、言い放った。「あなたのせいで、どれだけの魔法少女が殺されたか…」
「暁美ほむら」
織莉子が穏やかな声で告げ、たしなてきた。「貴女には、この見滝原の置かれた状況が、全く理解できていない…
この町には冷徹までに厳正な正義で死滅から救い導く、そんな魔法少女が……必要なのよ」
「そうしてまたまどかを狙うというの」ほむらの顔が怒りに燃える。
前回の時間軸で、この魔法少女にまどかが殺された。ほむらはその恨みを忘れてはいない。
「未来をみた私は」織莉子が答えた。「世界が破滅してしまう運命を知った……その最悪の絶望が
何であるかも知った…そしてあの絶望がなぜあれほどまでに最悪なものに育ったのかも知った…」
織莉子は拘束されたほむらのアゴに指先をつきつける。
、、、、、、、
「あなたが育てた。あなたがあなたの都合で時間を好き放題にまき戻され、繰り返され、
その度に最悪の絶望が育てられ、この世界の破滅を助長している……それを話したら見滝原の魔法少女は
みな私に力を貸してくれたわ」
そう語る織莉子の後ろに、さやかや杏子が並び立つ。
どうやら彼女らはこの時間軸では、最悪の魔女の脅威をきいて、みんなそれを阻止しようとする織莉子に
なびいてしまったらしい。
21 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/25(月) 17:49:32.03 ID:f3T3l2o10
「ぐっ…」
ほむらは悔しさに歯を食いしばった。
(なんてこと……前の時間軸に引き続き、また美国織莉子と対決することになるなんて……
しかも、今回は魔法少女がみな織莉子の味方……発生するイレギュラーが前の時間軸よりひどい…)
「ねえ…」
ほむらはどうにか、この不利な事態を打開しようと説得を試みる。
「こんなこと、してる場合じゃないでしょ……明日が何の日か知ってるでしょ…」
今日はワルプルギスの夜が訪れる、その前日だった。
「もちろんですとも。いえ、何の日か知っているからこそよ」
織莉子が答えた。
「明日、あなたはワルプルギスの夜に立ち向っていくのでしょうけど、力不足なあなたはまた負けて
また時間をまき戻す。だから私たちはそれを阻止しにきた。鹿目まどかを捕らえてね」
パチン!と織莉子が指を鳴らして合図する。
すると、奥の扉が開かれた。扉の奥から一つの車椅子が運ばれてくる。
その車椅子に縛り付けられ、自由を奪われたまどかの姿が、ほむらの前に晒された。
車椅子はさやかが押していた。
「まどか!」縛られたまどかのあられもない姿を見るや、思わずほむらが叫んだ。
「ほむらちゃん…」
まどかは椅子に拘束されたまま、目に涙を溜めて、悲しげにほむらを見つめている。「わたし……」
「まどかを放して!」ほむらがえらい剣幕で怒鳴る。「放しなさい!」
「そうはいかないわ」動じず、織莉子も答える。「少なくともワルプルギスの夜を倒すまで、
鹿目まどかにはあのままでいてもらいます。最悪の絶望を世に放つわけにはいかない」
キッと、ほむらが織莉子ほ無言で睨みつける。まどかを”最悪”と称す口ぶりに腹を立てたのだ。
「ただし…もしあなたが私に助力を捧げる…というのなら、ワルプルギスの夜を倒せば、
鹿目まどかを自由にしてあげましょう」
織莉子が続ける。
「でもそれまでは、鹿目まどかは私が今日一日中監視する。要はこの子が契約しなければ
世界の破滅は防げるのだから。その間あなたは他の魔法少女と手を合わせ、私たちにとっても
強敵であるワルプルギスの夜を倒してくださればいい」
「ウソよ」ほむらがすぐに言葉を挟んだ。「ワルプルギスの夜を倒したら、あなたはまどかを殺すつもりでしょう」
「そこはご心配なさらず」
織莉子が答える。
「だって貴女は鹿目まどかが命を落とせばまた時間を繰り返すだけですもの。それでは意味がない。
それどころか、絶望と破滅が増すだけ。分からない?だから私は貴女に自ら妥協を申し出ているのよ。
暁美ほむら。鹿目まどかを殺すのではなく、”生け捕り”にしておく、という妥協にね…」
22 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/25(月) 17:52:05.35 ID:f3T3l2o10
そこまで言うと、織莉子は目配らせでさやかに合図する。「ただし…」
合図を受けたさやかがコクリと頷き、手に剣を取り出す。それを、まどかの喉元に沿わせた。
光をキラリと反射する剣がまどかの喉下を這う。
「ひっ…」
剣を見下ろすまどかの顔が恐怖に青ざめ、目に溜まる涙が増えた。
「やだよ…。さやかちゃん、やめて……」震える声で訴える。
「もし貴女が私たちに少しでも反抗する姿勢……例えば裏切っておかしな行動をみせたら……
そんなことを考えている節を少しでも見せたら……その瞬間に鹿目まどかを殺す。そしてあなたに監視を
つけて貴女も殺す。」
また織莉子がさやかに目で合図する。すると、さやかはまどかの喉下から剣を離した。
「だからあなたは、今日一日限り、鹿目まどかのことは忘れ、ただワルプルギスの夜を倒すことだけに
心掛けてくださればいい」
織莉子は続ける。「何度も繰り返し戦っている貴女なら知っているはずでしょう。その出現場所も。
その戦略も全てみなに教えてあげてあげなさい。ゆまと美樹さやかが、監視がてらにそれを聞くわ」
「…」
拘束状態のほむらは、織莉子の提案に従わざるをえなかった。
かくして、織莉子と手を組んだ魔法少女らの手によって、まどかを人質に取られてしまったほむらは。
その脅しに屈して、ゆまと美樹さやか、そして佐倉杏子の監視を受けながら敵対関係にありつつも、協力して
ワルプルギスの夜と戦わなければならないという、今までのどんな時間軸でも経験したことのない状況に
追い込まれてしまった。
これはそんな、原作では描かれなかった、ほむらが一度だけ経験する、”おりこ☆マギカ”の延長線上に存在した
時間軸での、孤立無援、無理難題、暁美ほむらのスーパー・バトルアクションSSである。
まどかを人質にとられ、魔法少女全員が織莉子の側についてしまったこの時間軸に、ほむらの活路はあるのか──。
23 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/25(月) 17:54:54.78 ID:f3T3l2o10
5.1
puella magi commando
”I do not fear any more”
〜be an extension of oriko magica〜
[今の状況図]
まどかを救う側 まどかを捕らえる側
暁美ほむら 美国織莉子(黒幕。まどかを人質に取っている)
呉キリカ(織莉子の相方)
佐倉杏子(この時点でなぜ織莉子に協力的か不明)
巴マミ(この時間軸だと織莉子と仲がいい)
美樹さやか(この時点でなぜ織莉子に協力的か不明)
千歳ゆま(杏子と仲がいい)
24 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/25(月) 17:56:00.80 ID:f3T3l2o10
6
巴マミらの襲撃で荒らされまわった鹿目宅の痕跡を、キュゥべえと、
同じインキュベター仲間の、ジュゥべえが、見て周りながら、会話を交わしていた。
「暁美ほむらはまだ見つからないかい」と、キュウべえが言った。
「いぇぇあ、二人の死体だけだぜぇ」ジュゥべえが答えた。「まだ他にもあるの?」
「暁美ほむらが生きているなら、まだボクの死体は増えるはずだよ」
そのキュゥべえの言葉からは、暁美ほむらがいかに危険で恐るべき存在であるのかの
片鱗を物語っているのが感じ取れた。
25 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/25(月) 17:57:47.86 ID:f3T3l2o10
7
暁美ほむらは数分前までの宿敵・美国織莉子とのやり取りを思い出していた。
あれから結局、拘束された状態のほむらは魔法を使うこともできず、なすすべなく美樹さやか達に連れ出された。
まどかは捕われ、織莉子の手に落ちたまま、救うことができなかった。
このままでは、前回の世界と同じ結末の繰り返しだ。
そして、監視につく美樹さやか・千歳ゆま・佐倉杏子。三人の魔法少女。
このメンバーと一緒にワルプルギスの夜を討伐しなければならないらしい。私の持ってる情報全て吐き出して。
”必ず戻ってくるわよ!”
連れ出される直前、ほむらは悔し紛れに、そう織莉子にむかって叫んだ。
”ええ。楽しみに待っているわ。暁美ほむら。吉報を持ち帰ってきて頂戴ね”
織莉子は最後、巴マミと二人で紅茶を愉しみながら余裕に、そう答えたのだった。
それが数分前までのやり取りで。
今ほむらは、さやかたち三人の魔法少女に見張られながら、見滝原のとあるデパートに連行されている。
そのカフェは、いつかほむらが、まどかと二人で話したカフェのあるデパートであった。
「このデパートのカフェにまで、ゆまとさやかが同行する。ゆまが聞くから、そこでワルプルギスの夜について
アンタの戦略を話してくれ」
杏子がほむらに、今後のいきさつを説明する。
「その二人からの連絡が途絶えたら、まどかってヤツはバラバラの死体になってアンタのもとに届くってよ」
少し面白そうに、微妙にニヤつきながら杏子が言う。
「貴女が織莉子の側につくなんてね…」
ほむらは軽蔑にも似たような冷たい視線を杏子に浴びせ、言った。
「私の覚えているところだと、美国織莉子は国会議員の娘だった…杏子、あなた織莉子にいくらもらったのでしょうね」
杏子が答えた。「10万ドルポンとくれたぜ?だけどな、ほむら。アンタをぶち殺せと言われたら、
アタシはタダでも喜んでやるぜ」
「…」ほむらは無言で杏子を睨みつけるだけだった。
26 :
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(チベット自治区)
[saga]:2011/07/25(月) 18:00:29.41 ID:f3T3l2o10
ゆま、さやか、杏子の三人に挟まれて連行されるまま、ほむらはデパートのエスカレーターをのぼる。
「前回の世界じゃさぁアンタ、マミさんとや杏子と一緒に織莉子と戦ったんだって?」
さやかがほむらに話しかけてくる。
「アタシも一緒にアンタと戦ったことあるのかなぁ?戦友ってのはさぁいいもんだよねぇ。
ま、あんたみたいな感じ悪い転校生だけは願い下げだけど」
カフェの入り口にまで辿り着く。すると、さやかが、カフェで飲み物を注文するための千円札を
ほむらのスカートのポケットに詰め込んでやった。
「コーヒーでも飲んでリラックスしなよ」
得意げにニヤっと笑ってみせて、さやかが言う。
「まどかの面倒はこの親友さやかちゃんが、しっかり見ててあげるからさ☆」
「ぬへへ……」その横で杏子が怪しげに笑みをこぼした。
「美樹さやか、あなたって面白い子。気に入ったわ」
ほむらが冷たく言い放ち、さやかをうっすらとした細い目で睨みつけると、一言だけ付け加えた。
「殺すのは最後にしてあげる」
さやかの笑みが強張り、一瞬ひきつった。
まだ魔法少女になってからの経験も少ないさやかにとって、紛れもないベテラン魔法少女のほむらに
はっきりと殺すと宣言された瞬間、いいしれぬ恐怖を感じ取ったのだ。
「はやくしろ!」
さやかに生意気な口をきくほむらに、イラっと杏子が言ってほむらを連れ出す。
だが、さやかにとってこの約束も、最期には裏切られる結果となった。
27 :
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[saga]:2011/07/25(月) 18:03:16.65 ID:f3T3l2o10
8
カフェにはゆま一人だけが同行し、カフェの外でさやかが待機するという形になった。
三人まとめてほむらの時間停止魔法に巻き込まれることへの対策だかなんだか。
ほむらは、さっき杏子に言われたばかりの杏子の台詞を思い出していた。
(いっとくが時間なんか止めたってムダだかんな。まどかってヤツの居場所が分からないのに時間とめても
どうしようもないだろ?時間止めていればアタシたちの誰かかが気づく。その時点で織莉子に連絡がいってシメーだ)
あれこれ考えてるうち、ほむらとゆまの二人はカフェの入り口をくぐった。
カフェの店員が二人を席へ案内するとき、マニュアル的な質問をされた。
「手荷物はございますか?」
店員に聞かれ、ほむらは答えた。「いえ…これだけよ」”これ”といって幼女も同然のゆまを手で示す。
すると先に座席についたゆまが、ほむらに対して明らかな不快感を示し顔を近づけると告げた。
「今度余計なことを言うと口を縫い合わすぞ」
”これ”扱いされたことがよほど、ゆまにとって気に障ったらしい。
「……」
忠告を受けたほむらが無言でゆまの隣に座ったが、仕方なしにアイスコーヒーを二人分注文してやる。
こんな調子で、ほむらは大人しく杏子たちの指示に従っているように見えた。
が、実は脱出の機会を密かに狙っていた。
それにも気づかず、ゆまはカフェのメニューに目を通し始める。
するとほむらは、ゆまの顔面をいきなり肘で突付いた。
「がぅっ!」仰け反ったゆまの首を腕に包み込むと、ゴリっと首の骨を捻じ曲げる。
一瞬の出来事だった。
気絶したゆまはぐったりと背もたれにかかり、もう動かなくなった。
そのあとで、ほむらはこっそりとゆまの魂ともいえるソウルジェムの指輪を手に盗み取る。
注文したアイスコーヒーが届くと、ドリンクを運んできた店員をほむらは呼び止めた。
「ごめんなさい。頼みがあるのだけれど、この子を起こさないであげほしいの。魂抜けるほど疲れたみたい」
そうとだけ店員に告げるとほむらはアイスコーヒーを飲み干し、カフェをあとにした。
28 :
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(チベット自治区)
[saga]:2011/07/25(月) 18:05:33.38 ID:f3T3l2o10
9
さやかは同じデパート内で、公衆電話から事の次第を巴マミに話していた。
「あっ。マミさん?転校生ならいきました。あと荷物もいっしょです」
「OKわかったわ。これで私たちにとって最悪の魔女が誕生するのも防げそうね」
電話の向こうでマミが答える。
「ふぅ…」電話を終えると、さやかは受話器を置く。
これで一仕事終えた。なんだか、清々しい気分だな。役に立ったって感じで。
と、そのさやかの目に、丁度フロアを歩いていたクラスメートの仁美が歩いているのが見えた。
「おっ、仁美じゃん。今日暇?」
さやかが仁美に話しかけると。
「クソして寝な」
仁美はすぐに去っていった。
「あどーも」
さやかは歩き去っていく仁美の背中を見送りつつ、ため息ついて肩を落とした。「どうも最近の仁美はきついなあ」
その美樹さやかの姿を。
カフェから脱出したほむらの目が、遠くから捉えていた。
(美樹さやか……逃がさない…)
29 :
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(チベット自治区)
[saga]:2011/07/25(月) 18:08:46.57 ID:f3T3l2o10
自分の屋敷のガーデンで、美国織莉子は、ティーテーブルで紅茶を愉しんでいた。
テーブルの対面する席にはマミが座り、織莉子と一緒に紅茶の時間を過ごしている。
屋敷の壁際には、椅子に縛り付けられ放置されたまどかが、くやしそうに口を噤んで、
もぞもぞともがいていた。
「帰してよ!放してよ!」拘束と格闘しながら、まどかは怒っていた。「エイミーに餌あげる時間なんだから!」
誰もまどかに受け答えない。
織莉子はまたティーカップに口をつけて紅茶を飲むと、フッと満足そうに笑みを浮かべた。
つい先ほど入った美樹さやかからの連絡内容を聞いていたのだ。
「事は予定通り、運んでいるよう。明日の今ごろ、私は世界の救世主となっているでしょう」
織莉子が語る。
放置され、椅子に縛り付けられた鹿目まどかを、鑑賞でもするかのような目で眺める。
「暁美ほむらも今回は私に協力的。すぐにまた会えるわ。どう?最悪の絶望。嬉しいかしら」
世界を破滅させる魔女も、こうして捕らえてしまえば無力な少女。恐るるに足らないものだ。
監視さえしていれば、あの獣と契約なんていう展開になることもない。
一秒たりとも、まどかの監視を外すつもりはなかった。
するとまどかは、縛り付けられた椅子で涙目ながらも威勢を張って、挑戦的な口調で言い返してきた。
「見てればいいよ!…あなたたちなんてみんなみんな、ほむらちゃんに捻り潰されるんだからね!」
織莉子の顔が少しだけ強張る。
”必ず戻ってくるわよ!…”そういい残して連れられていったほむらの言葉を信じているのだろうが、
無駄な期待だ。
美樹さやかの報告によれば、暁美ほむらは私の命令どおりに動いている様子なのだから。
前回の世界ではほむらに殺された。
だが、今回はそうはいかない。私が勝つ。そして今、圧倒的優位に立っているのだ。
30 :
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(チベット自治区)
[saga]:2011/07/25(月) 18:10:42.30 ID:f3T3l2o10
ところが、そうだというのに、同じティーテーブルで紅茶を飲んでいた巴マミが、
不満そうというか、浮かない顔をしていた。
せっかくこの美国織莉子が直々に、高い紅茶を入れてやったというのに。
ティーカップを皿に静かに置くと、巴マミが、口を開いた。いよいよ不満の内容を話してくれるようだ。
「暁美さんと鹿目さんを捕らえたさっきの時点で」
マミが織莉子をまっすぐ見つめ、言った。「二人とも殺してしまえばそれでよかったのではなくて」
「それで済めばもうやってるわ」
織莉子もうっすらとした目を細めてマミを見返すと、答える。
「何度も何度も未来を見通してきた。誰もワルプルギスの夜には勝てなかった……”鹿目まどか”を除いては」
マミが眉を寄せる。「…」
「暁美ほむらはワルプルギスと何度も戦っている。あの魔女について知っていることもあるはず…
その情報と……協力が必要なのよ。望むと、望むまいと」
マミが肩をすくめ、ため息をついた。「暁美さんを一瞬でも自由にしたことが──」
そして告げた。「私たちの破滅に繋がらないよう、祈りましょう」
31 :
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(チベット自治区)
[saga]:2011/07/25(月) 18:13:18.84 ID:f3T3l2o10
10
美樹さやかと同じ見滝原中学のクラスメート、志筑仁美は。
デパートをあとにし、駐車場に停めた自分のポルシェに乗り込もうとしているところだった。
買い物した荷物をトランクにしまい、運転席に着こうとする。
が、その矢先。
仁美は、突然に背後から何者かに肩を掴まれ脅された。
「動かないで」
聞き覚えのあるような少女の声が告げる。「何もしないわ」その声が命令する。「脇へどいて」
突然降りかかった恐怖に駆られながら、仁美は困惑気味にいった。「でも今動かないでと…」
「どきなさい」
声がもう一度いうと、無理やりどかされた。何者かが、手で車のドアを開けると命じる。「車にのって」
仁美が運転席につくと、自分を脅しつけている人物が、つい最近に転校してきた暁美ほむらだということが
分かった。しかしそのほむらが次にとった行動をみて仁美は仰天した。
ほむらは助手席のシートを力ずくで引き剥がすと路上に投げ捨てたのだ。「きゃああ!一体なんですの?」
「頼みがあるの」
シートを剥がした助手席に勝手に乗り込むと、ほむらが言った。「私の言うことを聞いて」
仁美は怯えて身を震わせつつ、拒絶しようとした。
「いけません、七時半に空手のお稽古がありますの。付き合えませんわ!」
だが、それはほむらにあっさり一蹴された。「その必要はないわ」
そして、美樹さやかの運転する車を指す。
「あの車をつけて」
仁美は悔しそうに唇を紡ぎ、ため息を漏らしてアクセルを踏んだ。「はうう…。そう来ると思いましたわ…」
こうして暁美ほむらは、まどか救出への一歩を踏み出した。
32 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/25(月) 18:14:16.48 ID:f3T3l2o10
10.1
[今の状況図]
まどかを救う側 まどかを捕らえる側
暁美ほむら(監視網を脱出) 美国織莉子(黒幕)
志筑仁美(巻き添え) 呉キリカ(織莉子の相方)
佐倉杏子(10万ドルで買収)
巴マミ(この時間軸だと織莉子と仲がいい)
美樹さやか(杏子と仲がいい)
千歳ゆま(魂抜けるほど疲れてる)
33 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/25(月) 18:14:56.13 ID:f3T3l2o10
10.2
いえ…どの道まどかを殺す気でいることは分かっている。裏切りに気づかれる前にまどかを取り戻すしか
……手がないのよ。私には……まどかが全てなの。
次回予告:第三話「あれは嘘よ」
34 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)
[sage]:2011/07/25(月) 18:43:39.82 ID:s0Z6ArIAO
乙
35 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/07/25(月) 18:52:04.97 ID:fNalCZ44o
乙
今日は休め
36 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/07/25(月) 21:46:06.95 ID:wWKDbUkDO
ゆまちゃん…
杏子に育てられたから口調が似ちゃったのかな?
幼女に口を縫い合わせられるなんて…
ゾクゾクする
37 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/07/26(火) 17:13:33.58 ID:xsYdRtbIO
いったいなにが始まるんです?
38 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/07/26(火) 20:38:57.01 ID:yasWOCib0
第三話だ。
39 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/26(火) 22:01:19.99 ID:IUly5t9D0
11
第三話「あれは嘘よ」
「ねえ、どうしてこんなこと私(わたくし)にさせますの?」
見滝原町の路上を運転しながら仁美は、急に助手席に乗り込んできた謎の転校生にむかって聞いた。
「一口ではいえない。とにかく私を信じて」
助手席でほむらが答える。「置いてかれるわ」といい、仁美にアクセルを無理やり踏ませる。
「きゃあああっ!」
車が急にスピードをあげる。仁美が黄色い声をあげる。
「いいわよ」対してほむらは、平静そうな声で囁く。
いま仁美は、勝手に助手席に乗り込んできたほむらによって半ば強制的に、美樹さやかの車の追跡をさせられている。
「どんな事情があって私(わたくし)にこんなことを?」
ハンドルを操作しながら、仁美がきくと。
「今朝、ゾンビに命を狙われたの」
ほむらが助手席で経緯を話した。向かい風を受けて長い黒髪をなびかせながら。
仁美はジトっとした横目でほむらを見やると、ひっそり嫌味を呟いた。「私だって狙いたいですわ」
「…」ほむらの紫の目が仁美を見返す。
二人の間に気まずい空気が流れ、ほむらはただ沈黙した。
「……その格好は?」
さすがに気まずさに耐えかねたのか、今度は仁美が自分から話題をふってみた。「……コスプレか何か?」
それでもほむらは無口のままだった。
が、考えたような間をしばらく置いたあとで、ぶすっとした口調でついに答えた。「…まあ……そんなところよ」
「そういうご趣味とは知りませんでしたわ」仁美は運転を続けた。
40 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/26(火) 22:04:25.48 ID:IUly5t9D0
それからというものの、仁美の車はさやかの車を尾行しつづけた。
つけてくる仁美の車の存在に、さやかはバックミラーで気づいていたが、あえて気づかないフリをして
平常どおりに運転した。
(あはは……仁美ったらツンデレだなぁ…)
心でほく笑んださやかは。
その助手席に乗り込んだほむらの姿にまでは気づけなかった。
最初にほむらの引っぺがしたシートの効が、そこで成していたのだった。
追跡から五分くらい経っただろうか。
美樹さやかの車がある建物の地下の駐車場に入った。それを追って仁美のポルシェも、同じ駐車場へ下る。
ほむらが横で勝手にハンドル操作し、乱暴に対向車線を横切らせたので、不満げな一般車のクラクションが
その時鳴った。
その建物は、さっきのカフェとは別のデパートで、ほむらの記憶によれば、よくさやかが上条に送る
CDを買うショップのあるデパートだった。
さやかは車を停車させると、仁美の追跡を知っていながら何食わぬ顔で駐車場を歩いて、エレベーターに乗り込む。
それを追う形で仁美の車も駐車場につく。
車が停車すると、ほむらは素早く助手席を降りた。そして仁美にも降りるよう促す。「降りて。はやく」
「あの…、私がいると足手まといでは…?」
仁美はただ開放してほしい一心でそう言ったが、ほむらは聞く耳もたなかった。「もう少し付き合って頂戴」
「はぅぅ…」困ったような仁美のため息がまた漏れる。その仁美の手を、ほむらは強引に手にとって連れ出す。
不思議な雰囲気の片だと思っていましたが、こんな勝手なお方だったなんて。仁美は心でそう思っていた。
41 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/26(火) 22:05:55.35 ID:IUly5t9D0
強引に仁美を連れて、ほむらはデパートに入り、エスカレーターに乗る。
魔法少女の変身姿のままデパートを平然と歩くので、一般客の視線が集まっている。
そのほむらに手を引かれ、連れられている仁美が顔を赤らめていた。だがほむらは気にかけてない。
さやかはエレベーターで三階フロアまで昇っていく。
追ってほむらもエスカレーターで三階まで昇る。さやかはCDショップへと姿を消した。
それを目で追うとほむらは、仁美を柱のある所まで連れて歩き、その柱の影で説得をはじめた。
「ワケを話すわ。まどかが誘拐されたの」
ほむらは自分たちが目立ってないか一瞬、周囲を見回して確かめた。
「私の姿が他の魔法少女に見つかったら、まどかが殺される。だから貴女に頼るしかないの」
小さな声で仁美に囁きかける。
「鹿目さんが…?」
仁美が驚いた顔をた。鹿目まどかとは、登下校を共にする親友だった。
「美樹さやかが、最後に残った手がかりなの。あの子を言葉巧みに誘って、ここまで連れてきて。あとは私がやる。
それで貴女は自由。いい?」
「いやですわ!」仁美が嫌がった。
「お願いよ、助けて!」
だがほむらも必死だった。
「ワルプルギスの夜まで、あともう10時間しかない!そしたらまどかも、この町の人々も、
みんな死んでしまうのよ!そしたら私はまた、別の時間へ行かなければ…!」
「わかりましたわ!…わかりました……」
ほむらの意味不明な話に圧されながらも、仁美がなんとか答えた。だが、仁美の心中からはもうこの電波を
相手にする気はすっかりなくなっていた。
「やってみますわ…やってみますから……」
そう口にしながら、仁美はほむらから少しずつ離れる。
ほむらは一瞬、やってみると答えた仁美の言葉を信じていいのか不安になったが、しかし今は、ただ仁美が
きちんと美樹さやかを誘いかけてくれることを祈って、ここでじっと見ていることしかできなかった。
そしてその祈りは結局、裏切られる結果となった。
42 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/26(火) 22:09:11.87 ID:IUly5t9D0
フロアを歩きつつ、仁美はCDショップへと向かう。その様子を、柱の影からひっそりとほむらが見守っている。
仁美は、その視線が自分を捉えている内は素直にほむらの言葉どおりにしたがっているフリをしていたが、
CDショップに入り、ほむらの目がもう届いていないことを確認するや、デハートの警備員に助けを求めた。
「すいません」
仁美は警備員に声をかける。
「あの、あそこにコスプレしている女の子がいるんですけど、あの子、頭がおかしいの。魔法少女とか
ワルプルギスとかワケ分からないことばかり言って、ずっと私を付け回しますの!助けてください!」
「みてきます」
警備員は答え、フロアに向かう。
「ありがとうございます…」
仁美は、ようやく身が開放されたことの安心に胸を撫で下ろした。
警備員はCDショップの人ごみを抜け、フロアに出る。
見ると、柱の影からこちらを覗き込む、制服のようなコスプレしているらしい少女の姿が確かにあった。
視線があうと、その少女がさっと柱に身を隠す。が、身は隠れても長い黒髪がはみ出ていた。
確かに頭のおかしな女らしい。
警備員は腰に携えたトランシーバーを手に取り出しすと、口元に添えて連絡を取りはじめた。
「ビックスいるか、ビックス?頭のイカレたストーカー女がいる。一人では手に負えん」
ビックスと呼ばれた黒人の警備員が、別フロアでトランシーバーに応答する。
「よーし、すぐいく」
それから、丁度話し込んでいた女性客二人にむかって、さわやかに笑うと言い切ってみせる。
「カッコいいとこ、見せますよ?」
女性客二人はウフフと笑みを漏らした。
「全警備員へ」
ビックスは宣言どおりカッコいいとこを見せるべく、自らトランシーバーで告知した。「三階で非常事態だ」
彼はその詳細を、たっぷり悪口も添えて伝えた。ほとんど愚痴をこぼすみたいな口ぶりだった。
「容疑者は女性、身長160cm、黒の長髪、胸は絶壁、コスプレ趣味の変態ストーカー女だ」
こうしてデパート内の警備員がフル動員されはじめたなかで。
三階フロアではほむらが、さやかを連れ出してくる仁美の姿をじっと期待して待っていたが。
美樹さやかが来ない代わりに何人もの警備員がフロアを移動し、明らかに自分に接近しているのを認めると、
ほむらは悔しさに唇をかみ締めて仁美に怒りの眼差しを向けた。
仁美は結局のところ、鹿目まどかを救おうとする自分を裏切ったのだ。
「…」
ほむらの怒ったような視線に気づいた仁美が、思わずCDショップの壁に身を寄せると、
じっと成り行きを見守った。
43 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/26(火) 22:12:21.50 ID:IUly5t9D0
ともかく、ほむらの仁美への説得は失敗に終わったのだった。
その代償がコレだ。
「…」
警備棒を手にした警備員二人が、威圧的に自分に接近してくるのを、ほむらはうっすらとした薄目で
じっと無言で睨み返していた。
「ここで何してる?」警備員の一人が問い詰めてきた。
「友だちを待っているの」
なるべく穏便に済ませたいほむらが、努めて普通に答えたが、内心の焦りが顔にでていた。
魔法少女姿の衣装に身を包む自分を、警備員二人は明らかに不審者扱いしている。
その様子を仁美は、CDショップの影から見守っていたが、急に後ろから誰かに声をかけられた。
美樹さやかだった。「やあ仁美。私をお探し?」さやかはにこやかな顔で仁美の手を取る。
「一緒にこい!」
警備員は言い、ほむらの肩を掴んで連行しようとした。
が、ほむらは反抗にでた。
肩を掴んできた警備員の腕を締め上げると、顔面を思いっきり殴りつける。
「う!」
殴り飛ばされた警備員が後ろのビックスと一緒になって二人して共倒れした。
「こいつ!」
新たに駆けつけてきた警備員との乱闘に入り、ほむらは次から次へと組みかかってくる警備員を跳ね除け、蹴散らした。
警戒棒を振り下ろしてくる警備員の腕を掴んでとめ、顔を殴り飛ばす。
しかしそれだけの騒ぎを起こせば目立つのも当然の帰結で、仁美の横で美樹さやかがその光景に気づいてしまった。
「あれは……」にやけていたさやかの笑みが消え、一気にこわばる。「て、転校生!?」
身に迫る危険を感じ取ったさやかは、慌てて仁美のバッグを勝手に漁った。
「ちょっと小銭っ!小銭を借してよ!」
暁美ほむらの裏切りを、すぐにでも仲間に連絡しなければならない。
仁美のバッグから財布を強引にぶんどり、さやかは電話ボックスめがけて一目散に走りだす。
美樹さやかが動き出すのとほむらが動き出すのは同時だった。
さやかは一刻もはやく仲間に連絡をしようとする。ほむらは一刻もはやくそれを止めようとする。
場面は急転、まどかの命運わかつ、その一刻を争う修羅場になる。
44 :
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(チベット自治区)
[saga]:2011/07/26(火) 22:15:43.98 ID:IUly5t9D0
「どいてったら!」疾走しながらさやかは、ぶつかる一般客を手でしりぞける。
フロアを全速力で駆け抜け、さやかは電話ボックスにありつく。それを猛烈な勢いでほむらが追いたて、
三階フロアから二階のエスカレーターまで飛び移ると、さやかに迫る。
そのほむらを狙って、さやかのピストルが電話ボックスの中から一発放たれたので、それを見たほむらはとっさに
手すりに身を隠すとそれをよけた。
ほむらは一気に電話ボックスまで詰め寄った。さやかの入った電話ボックスを鷲掴みにすると、無理やりに
ガシャガシャと力ずくに揺さぶる。
電話ボックスのガラスがボロボロと砕け落ち、さやかはその怪力ともいえるほむらの火事場の馬鹿力に
震え上がる恐怖を味わっていた。
ついにはほむらは電話ボックスごと持ち上げてしまうと、さやか入りの電話ボックスをそっくりそのまま床に
ひっくり返して転がした。
ボックスの切れた電線から火花が飛び散り、あまりの光景に驚愕したまわりの一般客の
悲鳴と驚愕の声が沸き起こる。
「この青ったれ!」
ほむらか罵って悪態ついた。
床を転がる電話ボックスに掴みかかり、中のさやかを引っ張り出そうとする。
事態の収拾に躍起な警備員たちが何人もかけつけてきた。ほむらを取り囲み、押さえつけにかかる。
「離しなさい!」ほむらは警備員たちにむかって怒鳴った。
その隙に、さやかはひっくり返された電話ボックスの中から、辛くも脱出して逃げた。
「うわぁ…!」そのさやかの顔は完全に動揺しきっている。
自分を囲い、密集して押さえつける10人近い警備員を、ほむらは腕を振り上げ一挙に蹴散らした。
その力に圧倒されて警備員たちがあちこちの方向へすっ転ぶ。
ほむらは突っかかってくる警備員の体を掴んで投げ飛ばし、さらに駆けつけてくる警備員数人へぶつけてやった。
警備員たちはドミノ倒しになって共倒れした。「うあああ」
もうデパート内は大騒ぎである。
猛獣のごとく暴れだした暁美ほむらに、キャアキャア悲鳴をあげながら逃げ惑う一般客や、次々に増援しにやってくる
警備員たちが、フロア内を激しく行き来し、混乱を掻き立てる。
45 :
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(チベット自治区)
[saga]:2011/07/26(火) 22:19:01.85 ID:IUly5t9D0
「動くな!」警備員の一人がほむらに拳銃をむけた。「でないと、撃つぞ!」
「いけませんわ!」それを見た仁美が、後ろから警備員の背中をドンと押した。
「うわああ!」警備員は階段へと投げ出され、ゴロゴロと転げ落ちていった。
仁美はほむらを追うために走り去ったが、階下に投げられた警備員がそれを呼び止めた。「オイ君!待て!」
ほむらはまだ警備員たち相手に格闘している。
取り押さえにやってくる警備員の顔を肘でつき、次に股間を突き、ひるんだところをまた肘で顔を突く。
前に立ちふさがるの警備員の顔を殴り飛ばす。
そうして警備員たちをようやく追い払うと、ほむらはデパートのフロアを疾走してさやかを追いかけた。
ワーキャーと、一般客たちがデハートじゅうで喚き散らす。
対してさやかはほむらを退けるために、振り向いて銃を乱射させる。銃声がデパート内に轟く。
銃弾が別の警備員の腹にあたり、警備員は血を流してぐったりして倒れた。
銃弾のあいだを掻い潜りながらほむらはさやかを追いかける。
「はやくしてよ!こののろまエレベーター!」
エレベーターの扉に肩をぶつけてさやかが毒づく。
やっと扉が開いたところで、エレベーターに乗り込む。
フロアじゅうを駆け巡る警備員たちに追われながらほむらは。
三階フロアの手すりから身を乗り出し、地下へ下っていくさやかのエレベーターを見ていた。
先にエレベーターで行かれてしまった。
このままではさやかに追いつけない。
だが、さやかにここで逃げ切られることはすなわち、まどかの死だ。仲間に連絡され、まどかは殺される。
「やらせないわ…!」
ギリっとほむらが歯軋りする。まだまだ警備員たちがフロアを移動し、取り押さえにやってくる。
手段を選んでいる暇はない。
ほむらは、フロアの天井に吊るされていたバルーンに手を伸ばすと、握り、たぐり寄せた。
だが、その途中で再び警備員に囲まれてしまい、阻まれた。
「邪魔しないで!」
逆上したほむらが声を荒げ、警備員の胸元を蹴りつけ、後ろの警備員を殴り倒し、
そいつらも追っ払うと、再び天井のバルーンを持ち、ビリッと風船を引き千切った。
その先端をしっかり手に握ると、ほむらは三階の手すりから身を投げた。バルーンをロープ代わりにして
吹き抜けフロアを一気に飛び越える。すると、さやかの乗るエレベーターの箱の上に着地する。
そのまるでサーカスのブランコの一場面のような眺めに、デパート客の驚嘆の声がまたあげる。
46 :
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(チベット自治区)
[saga]:2011/07/26(火) 22:20:59.26 ID:IUly5t9D0
ゴトっという足の着地音が、さやかの乗るエレベーターの天井で聞こえた。
「なんなのよあの転校生…」恐怖に震えながらさやかは、地下の駐車場に着いたエレベーターから外に出た。
ほむらもエレベーターの箱から飛び降りる。駐車場へむかい、さやかを追いかける。
が、またも警備員たちにそれを阻まれた。
ほむらは警備員の腕を掴むと、膝で腹を蹴りあげ、呻いた警備員の背中を上から肘で叩き落した。
見滝原の建物でありがちなガラス張りの回転ドアを抜けて、ほむらは地下の駐車場に戻る。
すると、すでにさやかが車を発車させていた。
ほむらは立ちはだかり、さやかの車を止めようとしたが、なすすべなくアクセルを全開に踏んださやかの車に
投げ飛ばされ、身体は宙を舞った。
路上に転げ落ちる。
すぐに身を起こすとほむらは、駐車場を駆け足で仁美の車へと急いだ。
運転席に座るとキーを回しエンジンを入れ、さやかを追うべく仁美の車を発進させる。
47 :
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(チベット自治区)
[saga]:2011/07/26(火) 22:23:26.77 ID:IUly5t9D0
12
ほむらから逃げのび、さやかは車を全速力で発進させた。
駐車場の出口のゲートが閉じていたが、さやかは構わないで車で突き抜けた。ゲートのバーはどこかへ弾け飛んだ。
それを追ってほむらもポルシェで駐車場を出る。
路上へ出ると、デパートであれこれやっていた内にすっかり日が暮れたみたいで、あたりはすっかり暗くなった。
見滝原はワルプルギスの前夜を迎えたというわけだ。
アクセルを全開に踏んで発進させようとしたほむらだが、そこで女の子走りで駆けてきた仁美に叫ばれた。
「待って!待ってですの!置いてかないで!」
ほむらが車を停車させる。
「あなた一体なんですの!?きゃあああ!」
仁美が助手席に乗り込んだ瞬間、ほむらが乱暴にアクセルを踏んで急発進させた。すると仁美は、
普段のおしとやかな自分を完全に忘れ去ったかのように次々にまくし立てた。
「車は盗みますし!シートは引っぺがしますし!わたくしを攫いますし!鹿目さんを探すのを手伝えなんて突然
メチャクチャを言い出しますし!かと思ったらコスプレしてデパートで大暴れして死人はだす!挙句は電話ボックスを
持ち上げる!貴女人間ですの!?お次はターザンときましたわ!!どこまでキャラ立てすればお気が済みますよ!?」
興奮し、目を見開いた仁美の質問ぜめは、とどまらない。
「警官が、同じクラスメートのあなたを撃とうとしましたから助けたましたのよ!そしたら私まで追われる身ですわ!」
お金持ちのお嬢様から一転、追われる身になった自分の運命を嘆くように、仁美は両手をあげて悲嘆を
全身に表現しながら、散々に喚き散らすと、最後にほむらに納得のいく説明を求め、問いただした。
「一体何があったのか教えてくださいまし!」
するとほむらは運転席でハンドル操作しながら、一言で答えた。「ダメよ」
「ダメぇ〜〜?」
仁美は途方に暮れたように頬を両手で挟むと、顔を赤らめた。「まぁ〜!なんてことでしょう!パパ!ママ!」
そしてさらに悲鳴をあげる。「あぶなぁぃ!」
ほむらは車のアクセルを踏み切り、さやかの車を追い立てる。
「きゃぁぁっ!」一気に車の速度があがる。
48 :
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[saga]:2011/07/26(火) 22:25:19.93 ID:IUly5t9D0
法定速度を優に越えた二人の車の追走劇が、見滝原の路上で繰り広げられる。
さやかは前を走る一般車を、次から次へと路線変更して追い抜き、赤信号を全て突っ切り、ほむらからの逃走をはかる。
ほむらも負けじと追いかけ、ハンドルを必死に切って一般車をぐいぐい追い抜いていく。
しかし、運転など初めてのほむらの走行はかなり危なっかしい。
時に激突もスレスレで車とすれ違うので、その度に急ブレーキをかけた一般車のクラクションが路上で鳴り渡る。
「いやぁっ!」仁美は目をぎゅっと閉じて、ほむらのメチャメチャな運転に耐える。
自分の車なのに、どうしてこんな目に合っているのだろうと、ふと考えたらしい。
一方、逃走を図って車を走行させるさやかは、額に溜まった汗を腕で拭っていた。
それが冷や汗であることも知っていた。
もし暁美ほむらに捕まれば自分に命はないことが、さやかは直感的に分かっていた。
あの魔法少女は、まどかのためなら何をしでかすか見当もつかない、恐るべき女だ。
先ほどの電話ボックスといい、デパートでの暴走ぶりといい、さやかは既にそれを実体験している。
さやかの車が次の交差点で左折する。
それを追ってほむらもハンドルを回し、追って左折を試みるが。
早すぎるスピードは左折を困難にし、しかも赤信号だった。
「おやめになって!!あぁ、ほぇ─!?」仁美が悲鳴をあげ、手で顔を覆った。「きゃああああっ!」
「くっ!」懸命にハンドルをほむらが切るも、左折した車が対向車線につっこみ、別の一般車と側面が衝突した。
たび重なる悲運に、仁美は車の台を叩いて悔しがった。「今日は厄日ですわ!」
今更であるが、ほむらは運転免許などは持っていない。
だからこのカーチェイスは、文字通りほむらにとって命がけだ。
というより、今の今まで事故を起こしていないのが奇跡みたいなものだ。
気づけば二人の車は、見滝原町から外れた、全く知らない土地にまでやって来ていた。
無我夢中で車を走行させる二人は、帰り道のことなど頭にない。少なくともさやかには、その余裕はない。
前方でさやかがまた左折すると、ほむらはそれを追ってハンドルを切り、地面のグランドへ車を乗り上げさせて
近道を通り、さやかとの距離を詰めようと図る。
「わぉうっ!」
そのとき車の乗り上げる衝撃に仁美が声を漏らした。
49 :
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(チベット自治区)
[saga]:2011/07/26(火) 22:28:58.52 ID:IUly5t9D0
二人のカーチェイスは尚も続き、ついに山道に突入する。
町から外れた、人気のない山の夜道を、二人の車だけが疾走し競争する。
ほむらにとってはそれは、他の一般車の邪魔をされずに存分にさやかを追い立てることができることを意味していた。
さやかが後ろを振り返って、後ろを走行し追ってくるほむらの車を見る。みれば、距離はどんどん縮まってきている。
人気のない山道に入ってしまったのが運の尽きか。
ほむらがさやかに追いつくのも時間の問題にも思えた。
「きゃあああああ!」仁美の金切り声があがる。
曲がり道に入ると、ほむらはさやかの車との距離を一気に縮めた。
さやかの車の後ろにぴたりつく。車を前進させ、さやかの車に後からガシャンと体当たりさせる。
「まぁ!!なんて乱暴な!?」助手席で仁美が嘆いた。「私の車ですのよ!」
ほむらはスピードをあげ、さやかの車の横に並んだ。
ハンドルを思いっきり右に切ると、さやかの車に、勢いよく当たりをする。
ぶつかった衝撃にさやかの車が揺れる。
「おやめに…」
仁美の嘆きを、ほむらは聞かなかった。
容赦なくまた一気にハンドルを切り、山道の斜面側を走るさやかの車へ、体当たりを繰りだす。
追い詰められたさやかも反撃にでた。
さやかもハンドルを左に切ると、ほむらの車に体当たりし返す。
路上を走る二台の車が互いに激突しあう。
さやかは手にピストルを取りだした。並んで走るほむらの車めがけて、ピストルを発砲する。
銃声が轟き、ほむらが反射的に運転席で身を屈めた。頭上を銃弾がかすめる。
「きゃぁっっ!」仁美も助手席で頭抱え、恐怖に絶叫した。「撃たないで!私に何の恨みが?」
車が駆ける夜道に銃声が立て続けに響き渡る。
ほむらは銃弾に当たらないよう頭を低くしながら、しかし必死にハンドルを切ってさやかの車に体当たりさせ続けた。
さやかの銃がまた発砲される。
それでもほむらはハンドルをまた思いっきり右に切る。
銃に気がいって、運転をおこたったのが効いた。
グラっと、さやかの車が体当たりを受けてふらつく。ほむらは、とどめにもう一撃体当たりを食らわせた。
「う…うわああああ」
すると、ついにさやかの車は山の斜面に追いやられて乗り上げてしまい、真横に横転した。
カーチェイスにいま、決着がついた。
50 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/26(火) 22:30:42.52 ID:IUly5t9D0
しかしスピードを出しすぎたほむらの車も制止が効かなくなり、止めようもなくなった車が、
前方の電柱に正面から突っ込んで激突した。
へこんだ仁美の車のボンネットが浮き上がり、強烈な反動が二人を襲った。
激突した電柱がひん曲がるほどの衝撃であった。
形はともあれ、車はやっと停まった。
「大丈夫?」ほむらが仁美の肩を両手で支えてやり、きいた。
「死にましたわ…」目に涙を溜めた仁美が助手席でどうにか答える。
「生きてるみたいね」ほむらが言うと、運転席をたった。「そこで待っていて」
車を降りるとほむらは、さやかの横転した車にむかって歩いた。
静まり返った夜道にゆれる黒い長髪がよく似合っている。
横転した車の中で、さやかは身動きとれないでいた。
「ん…んあぁ……あ…はぁ…」
ほむらはそのさやかを力ずくで引っ張り出す。「ん…」さやかの喘ぐ声がする。
胸倉を掴み、横転した車に叩きつけるとほむらは問い詰めた。
「まどかはどこ!」
「アタシのソウルジェムにキスしろ!!」
胸倉を掴まれ苦しい顔をしながら、さやかが罵る。
「どこよ答えなさい!」ほむらは胸倉つかむ力をさらに強める。
「誰が喋るかよくたばれ転校生っ!」さやかも意地張って口を割ろうとしない。
「見上げた忠誠心ね、美樹さやか」
するとほむらは言い、さやかを抱きかかえると、ひょいと持ち上げた。
「けれど、あなたの命を張るほど、値打ちのある相手かしら」
言いながらほむらは山道の崖までさやかを運び、左足だけ手に持って逆さに吊るす。
「さあ頭を冷やして、冷静になって考えてごらんなさい」
逆さ吊りになったさやかの視界に、まっさかさまな崖下が突き詰められる。
51 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/26(火) 22:32:03.20 ID:IUly5t9D0
「どう?まどかの居場所は思い出せた?」
「うわ……あうああ…」
崖に吊るされた恐怖に、さやかの目が回っている。
「いい?美樹さやか。あなたを支えている手は病弱な少女の左手なの」
ほむらは相手の置かれた状況を丁寧に教えてやると、言葉で追い詰めていく。
「それも、利き腕じゃないのよ!」
宙吊りにしたさやかの身体をわざと左手で揺さぶる。
「う…うあああ」さやかの声が怯えたように震えだす。「あ…あたしを殺したら……ま…まどかは見つからないぞ!」
「どこにいるの!?」
「し…しらないよ…」さやかの頭に血がのぼり始める。「杏子がしってる……アイツと会う約束をしたんだ……」
「教会で?」
ほむらがきいた。
「ど……どうしてそれを……」さやかの動転した声が聞き返す。
「適当にいってみたのに当たるなんてね」
ほむらの冷たい紫の瞳が、ジロっとさやかを見下ろした。「美樹さやか……あなたは最後に殺すと約束したわね」
「そ……そうだよ転校生……さっきそう約束したじゃん……助けて…」
宙吊り状態のさやかが息も絶え絶えに懇願したが。
ほむらはさやかを見下ろたままで、こう告げた。「あれは嘘よ」
「うわあああああああッ!!!」
さやかの足を手放した。さやかは悲鳴をあげながら崖下の闇へ転落して消えていった。
美樹さやかは、重力の理に導かれた。
52 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/26(火) 22:33:49.36 ID:IUly5t9D0
事を済ましたほむらが仁美のもとへ戻ると、仁美は自分の車の隣で肩をすくめていた。
「車がなくなりましたわ」
さっきの電柱との衝突で、完全に故障してしまったらしい。
するとほむらは、亡きさやかの横転した車に目を移した。その車に歩み寄り、カジャンと横転した車を手で押すと、
元の体勢に戻してしまう。
「これでできたわ」
ほむらが言うと。
仁美もどうしてだかは知らないが、自然と笑みがこみ上げ、顔が綻んでしまった。
謎の転校生のメチャクチャなペースに、ようやく慣れ始めたのかもしれない。
あるいは自暴自棄になったのかもしれない。
車は、さんざん体当たりしたせいで傷だらけになっていたが、走行はできる。
さやかの車の運転席にほむらが座ると、隣で助手席についた仁美にきかれた。
「美樹さんは?」
エンジン・キーを入れると、ほむらは答えた。「いってしまったわ」
車を一旦バックさせ、発進させる。夜風を受けて黒髪がゆれる。次の目的地は、杏子がいるらしいという教会だ。
ワルプルギスの夜がくるまで、あと7時間残っている。
53 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/26(火) 22:36:50.35 ID:IUly5t9D0
第三話は長いのでこの場面で一旦きりますね
54 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/07/26(火) 22:38:51.80 ID:dhAfaswoo
乙っす
コマンドーってこんな滅茶苦茶な話なんですのね……
55 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/07/26(火) 22:40:26.75 ID:K5p9pksIo
ヒューッ! 見ろよやつの胸板を・・・まるでハガネみてえだ!!
56 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/07/27(水) 18:40:17.90 ID:u28ubGP20
コマンドーがお好き!?結構。このSSを読めばさらに好きになりますよ
57 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/27(水) 21:03:05.45 ID:Gafw+kPn0
13
見滝原の夜道を教会へ向かって車を走らせる。
走る車の向かい風をうけ、黒髪をなびかせながら、ほむらは仁美に話しかけた。
「あなたを巻き込んでしまって、悪いと思っているわ。……ごめんなさい」
「もう事情を話してくれますよね?」
「何もかもまどかのためなの」
運転を続けながら、ほむらは答えた。
「まどかの命を狙っている連中がいる。私はなんとしてでもまどかを助けたい。その連中はまどかを人質にとって、
私に汚い仕事をやらせようとしている。はやく助けないと、まどかが殺されてしまう」
「…その仕事をやっては?」
「いえ…どの道まどかを殺す気でいることは分かっている。裏切りに気づかれる前にまどかを取り戻すしか
……手がないのよ」
そして呟くように、小さな声で一言付け加える。「私には……まどかが全てなの」一瞬だけ頬が赤くなる。
「まぁ…」
仁美が感嘆の息をつき、口元に手を添えると言った。「転校して一ヶ月ほどで……鹿目さんとそんなに急接近して…」
58 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/27(水) 21:05:03.05 ID:Gafw+kPn0
14
会話を交わしながら二人は、しばらくドライブを続けたのち、目的地にしていた教会に辿り着いた。
この教会は、昔は杏子の父親のものだった所で、今では廃墟も同然の状態になっている。
既に杏子がそこにいる可能性もあったので、ほむらは物音立てないように静かに車を止めた。
さやかに比べたら佐倉杏子は魔法少女の経験も深く、戦闘にも優れる。油断はできない。
それにほむらは、これ以上仁美を巻き込むこともはばかれた。
「ありがとう。でもここからは私だけでいく。貴女はもういい」
そう告げたが、心境に変化があったのだろうか、仁美はそこで帰ろうとはしなかった。
「いえ、私も手伝いますわ!」
しかし、ほむらはかぶりを振った。
「ここから先は危険よ」
それでも仁美は引こうとしなかった。
「鹿目さんは、貴女がどれほど大切に思っているのかは分かりかねますけど…
私にとっても、大切な親友ですの。お願いです。暁美さん。手伝わせて…」
「…」
同じクラスの生徒、仁美の勇気と友達への想いに。その時ほむらは心に打たれる何かを感じたのだった。
じっと仁美の目を見つめる。それから、改めて念を押した。「私よりおっかない連中だっているのよ?」
仁美は乙女っぽく、ウィンクすると答えた。
「そんな人、いるはずありませんわ。連れてってください」
「そう。なら……」
ふっと小さく口元に笑みを浮かべ、ほむらが優しげな口調で言うと、仁美の手を取った。
「じゃあ……いくわよ」
「ええ」
連れられるまま、仁美はほむらのあとについた。
59 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/27(水) 21:06:44.23 ID:Gafw+kPn0
ギィー、と古めかしい音をたてて教会の扉が開く。
ほむらはその時点で杏子との戦闘に入ることを覚悟していたが、誰か中にいる様子はなかった。
まるで人の気配もない。物音もない。静かな、無人の廃墟そのものだった。
「誰も……いませんわね」仁美が言った瞬間、いきなりほむらにその口を後ろから手でふさがれた。
「しっ!」小声で耳元に囁きかける。「杏子がきたわ」
「杏子って…!?」驚いて目を見開いた仁美が小声でたずねる。
「今朝私を襲ってきたゾンビよ」ほむらも小声で答えた。「心配しないで。友達なの」
「愉快な友達が多いですのね…」
「静かに」
二人が黙り込むと、外から教会に近づいてくる足音が聞こえてきた。足音は、まっすぐこちらに近づいてくる。
ほむらと仁美の二人が無言で目と目を合わしあう。
「あなたが出迎えて」
ほむらが仁美に指示した。こくりと仁美が頷き、扉の前に立つ。それから、スーっと深呼吸した。
これから、クラスメート・暁美ほむらのゾンビのお友達に対面だ。
ゆっくりと教会の入り口が開けられる。
扉の向こうに、赤髪のポニーテールの女の子が立っていた。口にポッキーを咥えている。
「んぁ?」と、怪訝そうな声を赤髪の少女は漏らした。
見たこともない女が父親の教会にいたのだから無理もない。「アンタは誰だ」
「美樹さんのクラスメートですわ」仁美が答える。
「ふぅん…」
美樹さやかと同じ制服を着ていたことから、そのことには納得したらしい杏子だった。「で、さやかはどこだ」
「中にいますわよ」仁美が返事すると。
「とにかく、アンタは脇へどきな」
杏子は言い、教会の中へ足を踏み入れてきた。「それから、ここはアンタみたいなお嬢ちゃんがくるところじゃねえ」
木片だらけの床を踏みつけけながら、杏子がさやかの名前を呼ぶ。
「おいさやか!いるか?」
寂静とした教会に杏子の声が響き渡る。
と、そのとき、トントンと後ろから誰かに肩を叩かれた。「お、さやか──」それをさやかだと思った杏子が振り返る。
しかしさやかだと思っていたその人物は、さやかではなく暁美ほむらだった。
開く扉の裏側の死角に隠れていたのだ。
「ぶおっ!」反応する間もなく顔面を殴られ、杏子は教会の床に突っ伏した。と同時に、起こっている事態を理解した。
ゆまとさやかの二人を監視につけたというのに、二人してやられてしまったらしい。
杏子は身を起こすと手に銃を取り出し、ほむらにむけようとしたが、その前に手首をほむらに押さえられ、
投げ技で肩から投げ飛ばされた。が、その転んだ拍子に足だけ振り上げてほむらのアゴを蹴り上げた。
60 :
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(チベット自治区)
[saga]:2011/07/27(水) 21:09:02.08 ID:Gafw+kPn0
こうして二人の格闘がはじまった。互いに距離を取り、にらみ合う。
「怖いか?クソったれ。当然だぜ」
ポッキーを口に咥え、両手を握り締めて身構えると、杏子が自慢げに言い張った。
「親父が元グリーンベレーのアタシに勝てると思うか?」
ほむらもまた両手を握り締めて格闘の構えをとり、その挑発にのった。
「朝食のパンにちょうどいい」眉をクイとつりあげる。「お腹も空いてきたし」
「くだらないですわ…」二人を横で見ている仁美が呟いた。
さて始まった二人の魔法少女の戦いは、杏子が先に仕掛けた。
握った拳をほむらの顔面にむける。ほむらがその杏子の手首を掴み、そらせると杏子の顔を殴りつける。
「うぶ!」杏子の体勢がひるんだところに、さらに足をのばして腹に蹴りを入れる。「ぐうっ!」
「いけませんわ…女の子同士でそんな……それは禁断の、恋の形ですのよ!」
容赦ないほむらの蹴りが杏子の腹にまた入る。
今度は足をふりあげて杏子の顔を蹴飛ばすと、ついにバランスを失った杏子は鼻から血を出して
また教会の床にぶっ倒れた。
業を煮やした杏子が、再び銃を手に取ると、ほむらにむけて発砲する。ほむらは前かがみになって前転すると
銃弾をよけ、その回転の勢いで両足を伸ばすと杏子を蹴り出した。
蹴りが直撃し、杏子が転げてひっくり返る。が、どうにか身を立て直すと銃をほむらに向けた。
「くたばれくそったれが!!」杏子は叫び、銃の引き金を引いて発砲したが。
カチ。
聞こえてきたのは、空の弾倉が廻る音だけだった。
「くたばるのはあなたね杏子」
銃が空になったのに愕然としている杏子に対して言い、ほむらは銃を持つ杏子の手を掴まえて引き寄せると
勢いよく顔面を殴りつけた。ひるんだところをまた投げ技で転倒させる。
61 :
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[saga]:2011/07/27(水) 21:11:07.81 ID:Gafw+kPn0
「お二人とも、過激すぎますわ!」仁美が叫んだ。
転倒した杏子の胸倉を持ち上げ、今度は教会のステンドグラスにむけて投げ飛ばす。
ガシャンと音をたててガラスは杏子にぶつかって割れ、杏子はガラスの破片を頭から全身にかぶった。
ほとんど抵抗する力も失いかけてる杏子にほむらは容赦なく追撃し、下腹に拳を入れる。
「もぁい!」
呻く杏子のアゴを殴り上げ、その体を思い切り飛ばす。「どぁら!」
そして宙を飛んだ杏子の体が地面を打った瞬間、杏子の鈍い悲鳴が教会に鳴り響いた。
「う、うああああっ……」
ほむらが近づいてみると、割れたガラスの一辺が杏子の体を貫き、血で真っ赤になったガラス破片が
倒れた杏子の腹から突き出ていた。杏子の口から、とめどめなく血が溢れだす。
「杏子、まどかはどこなの」
ほむらは倒れた杏子の傍らに座ると、問い詰める。
だが、杏子は何も答えない。口から溢れるのは言葉ではなく血だけだ。
「杏子!まどかはどこ?答えなさい!」
ほむらが杏子の身体を揺さぶって問いただしたが、既にそれは死体になっていた。
目に生気がなく、ぐったりして動かない。
ほむらは杏子からまどかの居場所を聞きだすのを諦め、次の出がかりを探すべく教会をあとにした。
「この車を使いましょう。杏子にはもういらないでしょうし」
といい、キャデラックの車の運転席に乗り込む。仁美もそれについて助手席へまわる。
エンジンキーを差し込む。
ところが、キーを回してもかすれたエンジン音が途切れ途切れに唸るだけで、一向にエンジンは掛からない。
ほむらを拒否しているのだろうか。
「動きなさい、このポンコツ!」
ほむらは怒ったように言い、ドンと拳の甲を台を叩き入れた。「動きなさいよ!」
すると、キャデラックにエンジンが掛かった。「この手に限るわ」
そうして仁美とほむらを乗せたキャデラックは、次の舞台へと向けて発進したのだった。
62 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/27(水) 21:12:05.23 ID:Gafw+kPn0
15.1
[今の状況図]
まどかを救う側 まどかを捕らえる側
暁美ほむら 美国織莉子(黒幕)
志筑仁美(ほむらに協力的) 呉キリカ(織莉子の相方)
佐倉杏子(車を必要としない)
巴マミ(この時間軸だと織莉子と仲がいい)
美樹さやか(放してくれた)
63 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/27(水) 21:12:42.49 ID:Gafw+kPn0
15.2
ワルプルギスの夜が終わったら暁美さんは、鹿目さんを取り戻しにくる。鹿目さんが生きてようといまいと関係ない。
あの子はあなたを追いかける。貴女を暁美さんから守ってあげられるのは─────私だけよ。
次回予告:第四話「何が始まんです?」
64 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/07/27(水) 21:16:38.03 ID:7p1AGCrDO
なんか一気につまらなくなったな
65 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)
[sage]:2011/07/27(水) 21:17:01.13 ID:syAfSy/Wo
この緑の頭はどうかしとるぜ!
66 :
訂正
[saga]:2011/07/27(水) 21:18:07.57 ID:Gafw+kPn0
15.2
ワルプルギスの夜が終わったら暁美さんは、鹿目さんを取り戻しにくる。鹿目さんが生きてようといまいと関係ない。
あの子はあなたを追いかける。貴女を暁美さんから守ってあげられるのは─────私だけよ。
次回予告:第四話「何が始まるんです?」
67 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/07/27(水) 21:44:36.61 ID:nh9z22nro
元グリーンベレー(乙)
68 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)
[sage]:2011/07/27(水) 21:44:51.91 ID:p44Qtk2AO
乙
69 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/07/27(水) 22:01:07.99 ID:1JvCxavUo
お、乙……
ソウルジェムって何だったんだろうな
70 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/07/28(木) 01:57:14.05 ID:oQgnZacIO
モアイ……?ドアラ……??
71 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(山口県)
[sage]:2011/07/28(木) 17:00:59.37 ID:jFstE6j+0
呻き声も原作準拠とはやることが派手だねぇ
72 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(山口県)
[sage]:2011/07/28(木) 17:16:41.70 ID:jFstE6j+0
呻き声も原作準拠とはやることが派手だねぇ
73 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/28(木) 20:46:46.00 ID:UeGCjysI0
16
第四話「何がはじまるんです?」
まどか誘拐の黒幕───キュゥべえと契約した魔法少女・美国織莉子は、まだほむらの裏切りに気づけていない。
今も美樹さやかや、ゆま達と一緒に、ワルプルギスの討伐について話し合い、力をあわせていると思っている。
そうは思っていたが、しかし、万が一の事態というのにも備えて。
狡猾な織莉子は、人質のまどかを見滝原でも最も安全な場所に隠すことに決めた。
巴マミ、キリカの二人を連れて、織莉子は装甲車に乗り込み、見滝原の町を移動している。
まどかを後部座席に座らせる。その隣に巴マミがついて、逃がすことがないように見張る。
そのまどかは、後ろ手にリボンで固く縛られ、目隠しもされている。
「帰してよぅ…」か弱い声で、まどかが懇願しても、誰も聞く耳を持ってくれなかった。
「ねぇ?織莉子」
まどかには関心ないといった感じで、キリカが織莉子に話しかけた。
「私たちさあ、ドコ向かってるの?」
こんな装甲車みたいなものに乗って、どこに向かっているのか。キリカでさえ知らなかった。
「心配しないで。キリカ。とても安全なところよ」
織莉子がゆったりとした喋り方で答える。
「絶対に、暁美ほむらには見つけられないところであり」
不適な笑みを浮かべ、言うと。
「仮に見つけても、絶対に暁美ほむらには近づけもしないところ」フフフと、最後には笑う。
「ま、まさかココって…」
そこまで織莉子が語ると、マミも今どこにむかっているのかに、感づいたようだった。
だから自分達は、装甲車に乗っているのか。そしてその装甲車を、武装した兵隊が運転しているのか。
「そう。その通りよ。巴マミ」怪しげな口調が告げる。「こんな安全なところもないでしょう?」
そりゃあ、そうでしょうに…。マミは心で思った。
そして美国織莉子という魔法少女の、考えることのスケールのでかさに圧倒された。
(美国織莉子……なんて念入りなの。さすがは国会議員の娘というか…)
身よりもない、孤塁の魔法少女である自分とは、やることも考え付くこともまるで違う。
同じ魔法少女といえど、社会的身分に差が出ることもあるということを、マミは思い知った気がした。
74 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/28(木) 20:47:33.48 ID:UeGCjysI0
(……どこにむかうの?)
一方、まどかには行き先の察しがつかなかった。
魔法少女たちの会話を耳で聞いててもその謎は解けなかったし、目隠しされてるせいで、
進む先の景色も分からない。
そのまどかを乗せながら、装甲車は、見滝原の山奥へと、ゆっくり進んでいった。
(…誰か助けて…お願い…)
心細く祈りながら。
75 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/28(木) 20:49:12.15 ID:UeGCjysI0
17
ワルプルギスの夜がくるまで、あと六時間くらいだろうか。
町の死は、そのカウントを確実に切り始めている。
そうなる運命を知ってか知らずか、深夜の見滝原は涼しく、そして静まり返っていた。
ほむらは、仁美の車から始まって、人の車を勝手に使うのがこれで三台目だった。
そのキャデラックも、杏子が無料でお買い上げしたものではあったが。
「暁美さん、見て。こんなものを見つけましたわ」
助手席で仁美が言った。座席の台に置かれた何かを見つけたらしい。
「なに?」車を一度停車させ、ほむらが仁美からそれを受け取る。「杏子のメモ?」
ノートから切り離された1ページのメモが一枚。
メモには、まどかを誘拐した黒幕の織莉子と、彼女に協力する杏子との打ち合わせ内容が記されていた。
電話の一本さえ使えない杏子のための確認メモなのだろう。
「…」
紫色をした瞳で、ほむらはじっとそのメモの内容に目を走らせる。
それによると、織莉子、呉キリカ、巴マミの三人が鹿目まどかを監視、確保する一方で、さやか・杏子・ゆまが
ほむらを見張りがてらワルプルギスの夜を倒す陣営という振り分けらしい。
事実、魔法少女達はその構図に則って行動していた。
(とすると……呉キリカともまた戦うことになるのね……)
このメモで最も重要な情報は。
事がすめば、あるいは、何か”不本意な”ことがあれば、私たちの元へ戻って来いとの指示────
その場所も記されていたことだ。
自衛隊駐屯地。
(……────織莉子!)
ほむらはメモをくしゃりと握りしめた。
ともあれ、ついにほむらは、ずっと知りたかったまどの拉致された場所の情報を掴む。
76 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/28(木) 20:50:57.06 ID:UeGCjysI0
あの織莉子は、前回の時間軸での敗北に反省したのかどうかは知らないが、強力な仲間をつけることにしたらしい。
国会議員の娘だ。そのあたり軍事的方面にも通じる人脈があったのかもしれない。
見滝原の町の外れにある自衛隊駐屯地───は、ほむらが度々、魔女を倒すための武器を調達しているところだったが、
今は魔法少女たちにそこを占領されているらしい。
まどかもその場所に拉致されているに違いない。
「でも……まさか自衛隊基地に乗り込みに行くおつもりでは…?」
と、メモを隣で見ていた仁美が不安そうにきくと。
「いえ……まだよ」
ほむらは車のハンドルを握る。
そうとも。例えようやくまどかの拉致された場所が分かったとしても、手ぶらで突っ込んでいくのではダメだ。
その前にどうしても寄りたいところが、ほむらにはあった。
「では……どちらへ?」
仁美が聞き返した。
ほむらは困惑したような仁美の顔を見ると答えた。「買い物に行くのよ」紫色の瞳がまっすぐ仁美を見つめる。
しかしその答えは、仁美を余計に困惑に陥らせるだけだったらしい。
「買い物…ですか?」
不思議そうに首を傾げて、仁美は呟いた。
77 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/28(木) 20:53:09.52 ID:UeGCjysI0
18
仁美は、これからのまどか救出にむけて、一体何を買い物するのだろうと思っていたが、
行き着いた場所はそのこと以上に不思議だった。
普通、買い物ときけば、中学生の少女が想像する場所は大方にして町のコンビニか、デパートか、
仁美も例に漏れずそういったところを想像していたのだろう。
だが、ほむらが買い物と称して辿り着いたストアーはこう看板を掲げていた。
”軍放出品販売 ”
とはいえ、女子中学生を、軍放出品ストアーがその入り口を開けて迎え入れるはずもない。
その入り口は固く閉じられている。
銃火器を置いている店だ。防犯対策もされているだろう。
しかしその仁美の心配をよそに、ほむらはすでに大型ブルドーザーの操縦席に乗り込んでいた。
シャベルを上昇させると、レバーを操作し、店にむけてブルドーザーを一直線に発進させる。
ブルドーザーが音を立てて発進をはじめた。ガタガタとキャタピラが動くたびに、地鳴りがする。
軋む音をたてながらブルドーザーは、徐々に軍放出品店の閉ざされた入り口に迫った。
迫る鋼鉄の柵にも怯むことなく、ほむらはブルドーザーを推し進めていく。
まるでこの破壊行為に慣れっこであるかのよう。
ついにブルドーザーがストアーの入り口に衝突したとき、入り口を塞いでいた柵はその枠組みこと外れ、
中に押し出された。ほむらはブルドーザーごと、入り口を破壊しながら店内に押し入る。
そして店内の邪魔物を何もかもブルドーザーで全て綺麗に奥へ押しやると、ほむらはブルドーザーを停止させ、
操縦席から降りた。
そんな襲撃ともいえるような入店を終えると、ほむらは黒髪を手で靡かせると、仁美に手で来るように合図する。
破壊された入り口をくぐって、仁美も店内に入った。
そして、二人の”買い物”が始まった。
78 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/28(木) 20:54:48.57 ID:UeGCjysI0
19
買い物かごのカートを運ぶ役割を任された仁美は、軍放出品ストアーの
充実した軍用品の品揃えにあっけに取られながら店内を見まわしていた。
ほむらが率先して店内を歩き、棚に並べられた武器を手に取ると、次から次へと仁美の運ぶ
カートの中に詰め込んでいくのだが、その量の多さといったらまさに武器庫そのものだ。
棚にはありったけの量のマシンガン、サブマシンガン、ライフルが置かれているのに、ほむらはまるで
自分が使いやすいものを熟知しているかのようにその中から武器を選別しながら手に取ると、仁美に手渡し、
それを仁美がカートに入れていくのだが、あまりにも次から次へと即座に武器が手渡されるので、
仁美も慌てふためいている。
こんな調子で、ほむらは魔法少女姿のままで、軍放出品ストアーの中を歩き回り、武器を掻き集めていく。
続いてほむらは防弾ガラスを拳の甲でガシャンと叩き割ると、中からUzi機関銃を取り出してそれもカートに入れる。
さらにほむらは、後に着込むことになる軍服、軍用靴、軍用ズボンなどを持ち出すと、カートにぶち込み、
戦いに必要な備品を買い揃えていく。
すでに仁美の運ぶカートの半分近くが軍放出品で埋め尽くされつつあったが、武器の買出しはこれからが本番った。
「開いてちょうだい…お願いだから」
ほむらはひとり呟きながら、コード入力機にパスワードを入力する。
ブッとブザーの認証音が鳴り、店の壁が扉となって左右に開いた。
79 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/28(木) 20:57:14.48 ID:UeGCjysI0
開いた扉の先の壁一面に、軍放出品の銃火器がズラリと並んでいる壮観を、ほむらは目で眺める。
「まぁ…」その横で仁美も感嘆の息を漏らした。
その部屋に入り、ほむらはさっそく銃の回収に取りかかる。
Mossberg M500 散弾銃。
Valmet M78 アサルトライフル。
IMI desert Eagle ハンドガンだ。ほむらのお気に入りである。
MINIMI M249 没収された武器をこれで再び入手した。
M67 手榴弾 手榴弾はほむらの対魔女戦の常用武器である。
M18 Claymore 対人地雷 地面に突き立ててスイッチ遠隔操作するタイプの地雷だ。
そのスイッチの接触具合ももちろんチェック済みである。
全てを順番に仁美に手渡していく。仁美がカートに入れる。
次にほむらは、部屋の片隅に飾られたある重火器を取り出す。
「それは一体?」
仁美がそれが何か聞いた。
「ロケットランチャーよ」
ほむらは答え、四つの発射口のあるロケットランチャーを両手で抱え持つと、仁美に手渡した。
「これも」
ほむらはまだまだ武器を集める。「これも」「これを」次々と仁美に渡す。
「いって」
一式の武器を買い揃えると、ほむらが仁美に指示する。
マニュアル付きのロケットランチャーを、軍放出品で溢れんばかりになっている買い物カートの上に乗せ、
仁美はカートを引きずり、慎重に店の外へ持ち運んでいく。
店の外まで持ち運ぶと、仁美はカートの購入品をキャデラックの後部座席へ次々と放り込んでいく。
一方で、店内に残っていたほむらは、必要な品をおおむね揃えたにも関わらず、まだあっちの武器もこっちの武器も
手にとっては品定めしていた。
ついつい買い物に熱が入り、あらゆる銃火器に目移りしてしまったのである。
気に入った機関銃を見つけると、二丁も三丁も肩に掛けて持ち運ぼうとする。
そして、その行為に夢中になりすぎたばっかりに、ほむらは自分に犯した失態に気づけなかった。
「動くな!」
警備にやってきた見滝原の警官二人が、ほむらに銃をむけていた。「武器を静かに下ろせ!」
ほむらは唖然として固まっていることしかできない。
そして…。
見滝原中学二年生女子・暁美ほむらは、あっさりと逮捕されてしまった。
80 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/28(木) 20:59:45.35 ID:UeGCjysI0
20
さてほむらが買い物と呼んで行った営為は、世間一般には”盗難””強盗”とも言うべき犯罪であり、
軍放出品店という犯行現場に駆けつけたパトカーの鳴らすサイレンの音を聞きながら、ほむらは警官に連行されて歩いていた。
「ようし、中に入るんだ」
護送車の入り口に連行される。「さあ、乗った乗った」
護送車に乗せられると、後ろから鍵をかけらた。
「くっ…」
閉じ込められた護送車の中に座りこみ、ほむらは悔しそうに唸ると、時計を確認した。
「ワルプルギスの夜まで……もう五時間もない」
その表情に焦りが生まれ始める。「はやく……なんとかしないと…」
ほむらは護送車の鉄格子つきの対面窓を開けると、運転席側の警官二人へ協力を求めた。
「鹿目まどかという子を探しているの。」
対面窓から顔をだして、ほむらは話しかける。「誘拐された子なの。あなたたちからも捜査してほしい」
「鹿目まどかだぁ?」運転席の警官がおちゃらけて答えた。「そいつ先週ぱくったの俺らだったよなぁ?」
「ぬへへ」隣の警官もそれを聞いてへらへら笑うだけだ。
ほむらは警察のお粗末にすぎる返答に言葉を失い、呆然とした。見滝原町の治安の悪さは知られていたが、そもそも
警察がこんなだからなのではと心で思った。
護送車はほむらを護送し続けた。
深夜の物静かな見滝原の路上を走行をしていたが、赤信号にひっかかって仕方なしに停車する。
すると、キャデラックの車がその横に並んだ。
警官が窓から顔をだして見てみると、横に並んだキャデラックの運転手は、上品そうな女の子であった。
「ヘイヘイ、お嬢ちゃんだ」運転席の警官が言った。「悪かねぇぜ」
だらしなく腕を窓から垂らし、舐めまわすように見てくる警官に対して、仁美がニコっと明るく微笑んでみせる。
その可愛げな笑顔は警官を満足させた。
信号が青になり、護送車が発進したが、キャデラックの車は停止線に停車したままだった。
発進する様子もなく、仁美は運転席で立ち上がり、ただじっと護送車を見つめる。
「ん?何する気だ?」
妙な女の子の挙動を不思議がって、助手席の警官が訝しがる。
「俺たちに何かみせてぇんだろう?」
運転席の警官がニヤつきながら、答えた。「ハハ。ストリップかな?えへ。ぬへへへ…」
81 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(群馬県)
[sage]:2011/07/28(木) 21:02:37.64 ID:ED2AnrVTo
警官ェ…
82 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/28(木) 21:03:20.51 ID:UeGCjysI0
そんな警官の期待を受けながら仁美が見せたものは、手に取り出して肩に担ぎ持った、
ロケットランチャーの発射口だった。
狙いを定めて、引き金を引く。
すると、ロケットランチャーは音をたてて逆向きへ弾頭を放ち、仁美の後ろで道路上の電話ボックスが炎をあげて
吹き飛んだ。
「あら…ごめんあそばせ」
仁美が振り返って感嘆の息を漏らした。ロケットランチャーの持ち方が反対だったらしい。
「な…なんだありゃあ!?」
一方、考えもしなかった事態に警官二人は慌てふためいた。「なんだ!?」
仁美はロケットランチャーを持ち直し、正しい向きにすると、護送車へもう一度発射口をむけた。
今度こそ本当に狙いを定める。
「こっちをねらってるぞ!」警官が叫ぶが、時すでに遅し。
再び仁美のロケットランチャーが発射され、ロケットは煙の軌跡を描きながら一直線に護送車へと飛んでいった。
発射の瞬間、反動で仁美が車の座席に転げる。
「うわあぁぁあ」
放たれたロケットは護送車の後輪タイヤに着弾し、炎を噴き上げた。爆発の衝撃で浮き上がった護送車は
完全に運転のコントロールを失い、横滑りになりながら路上に横転し、炎に包まれた。
「やりましたわ…!」
護送車の撃破に成功した仁美が声をはずませる。
警官たちは辛くも炎上した護送車から脱出したが、すっかりうろたえ、嘆息を漏らすだけだった。
「ケホ…!ケホ…!うぅ…けっほ!こぅぇわ…」
ほむらは破壊された護送車を抜け出し、仁美のキャデラックへと歩いて戻った。
「どこで使い方を覚えたの?」
助手席につきながら、ほむらが訊いた。
「説明書を読みましたのよ」
仁美は答え、ほむらを乗せてアクセルを踏むと車を発進させた。
まどかの居場所を突きとめ、戦いの準備も揃えたほむらは。
残された敵たち───織莉子、呉キリカ、巴マミとの決戦へむけて始動したのだった。
83 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/07/28(木) 22:34:11.53 ID:1zv/UjsLo
ここで区切りか?乙
84 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)
[sage]:2011/07/29(金) 00:46:54.87 ID:p5UOFFKao
デエエエン
85 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/07/29(金) 02:49:12.30 ID:nPZQ23Soo
乙
コマンドーもう一回見直すわ
86 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/29(金) 21:07:31.14 ID:cfemzx9K0
21
見滝原に覆いかぶさった、新月の夜。その月のない夜も、もうすぐ明ける。
織莉子は、心で思い描く。
私が魔法少女になって最初に予知で見た夜明けと、同じ空模様だった。雲ひとつない。煌く星々。
それが見滝原にとって、もし運に見放されたならば、眺めうる最後の夜であり、夜明けだ。
一日のはじまりに、夜は剥ぎ取られ、血染めの日が明ける。すると見滝原の命運は尽きゆく。
それが運命というのであれば。それを止めるのが私の宿命だ。
私が救世しなければ。
そうでなければ、この夜があけると共に、魔女どもが絶望の鐘を打ち鳴らし、夜明けの空気に澄み渡らせ、
狂気で空を包み込み、すると世界からは光の粒子法則は消え、死人の叫びと共にやがて呪いが殻を破り、芽を出す。
最悪が。
ティーカップで紅茶を啜りながら。織莉子は世界の命運を予兆する夜空をずっと、眺めていた。
綺麗な夜空だった。
今まで見てきた中で、きっと一番綺麗な、夜空。
ワルプルギスの夜がやってくる。
「ワルプルギスの夜まであと、どのくらい時間は残されているのかしら」
織莉子の対面する席でマミが、飲んでいた紅茶のカップを皿に置くと、言った。
「あと三時間もないでしょう」
織莉子が答えた。
「でも私たちは、もっと恐ろしい絶望を抱えている。それを忘れてはいけない」
(鹿目さんのことね…)マミが心で思った。
87 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/29(金) 21:08:45.59 ID:cfemzx9K0
美国織莉子は、魔法少女になってからこのかた、ワルプルギスの夜よりも、鹿目まどかが遥かに
危険だと主張し続け、今日にいたっては片時もまどかから目を離さず、監視を続けている。
それはそうと、前回の時間軸では敵対関係にあった織莉子と巴マミの二人が、テーブルを共にして紅茶を
楽しむという風景は、考えられないものだったかもしれない。
だが二人が協力関係にある今回の世界では、紅茶を好むという二人の趣向の一致もあって、平然と二人は
一緒にティータイムを過ごすという場面が、ちょくちょくあった。
とはいえ、今は優雅さに著しくかけるが。
二人が共にティーテーブルで紅茶を愉しみ、対話している場所は、見滝原の山の外れの、
自衛隊駐屯地の作戦会議室を借りた、辛気くさいところだった。
織莉子たち魔法少女たちが立て篭もる、この自衛隊基地は、百人近くにも及ぶ武装した兵隊が基地の護衛にあたっている。
あらぬ外敵から守るためだ。
特に今日は、暁美ほむらという名の外敵から。
ここが織莉子の選んだ見滝原で最も安全な場所であり、仮に暁美ほむらに場所を知られたとしても、
万の一つの負けの可能性も考えられない、絶対的に守られた場所であった。
自衛隊勢力の買収はあまりに容易だった───。
織莉子は、ふと過去を振り返る。
88 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/29(金) 21:12:01.30 ID:cfemzx9K0
ここ最近、表沙汰になってない事件で、自衛隊基地から大量の武器や火薬が盗まれるという事案があり、
管理責任者の自衛隊の将官が、頭を悩ませていた。
織莉子がその将官に、一本知らせをいれてやったのだ。
「その盗難の犯人」織莉子は将官に告げる。「わたくし、知っています」
相手はすぐに飛びついてきた。
やりたい放題に兵器が盗まれていたので、責任者としてクビもとぶ寸前だったに違いない。
その被害総額も考えれば無理もない反応だったろう。
基地から消えた兵器は価格にして十数億円を越すという、世間には到底公表できない破格の盗難だったからだ。
盗まれた兵器は数えるのも億劫だが、例えば88式地対艦誘導弾が消えたことをを考えただけでも12億円の被害になる。
当人はそれに飽き足らず、昨晩も”買い物”と言って軍放出品で好きなだけ取りたい放題やっていたのだから、
病的なまでの盗難癖だ。ついでいえば、車だって三台も盗んでいる。
その極悪的な犯人についての情報を提供する見返りに、織莉子は一日限りの見滝原の兵士の全面的協力を
裏の交渉から得た。
こうして成立した交渉で、見滝原の兵士たちは皆、織莉子の思いのままの駒となっている。
圧倒的武力を味方につけたことで、今回こそは暁美ほむらに負ける可能性は万に一つもなくなった訳だ。
暁美ほむらは自分の魔法に加えて現代兵器を使った戦闘スタイルだが、こちらにはその現代兵器を扱う
軍隊を味方につけたのだ。
しかしそれも、美国織莉子だからこその成せた業だろう。
他でもない有力国会議員の娘の連絡だからこそ、自衛隊将官も交渉に喜んで秘密裏に応じたのだった。
「ワルプルギスの夜を片付けた後の、暁美ほむらの始末は?」
回想を終えた織莉子が巴マミに訊いた。
「こちらには切り札があるじゃない。事が済んだら、あの子は鹿目さんを取り戻しにくる。そこを私が──
ティロ・フィナーレで仕留める。簡単なことよ」
この二人の余裕そうなやり取りからはまだ、暁美ほむらが彼女らを抹消するための全武力を既にそろえ、
自分達の立て篭る基地へと着々と足を近づけてきているという事実に、感づいている様子は見受けられない。
89 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/29(金) 21:14:31.54 ID:cfemzx9K0
22
魔法少女たちがティーカーブルを囲んで対談するそばの部屋に、まどかは、閉じ込められしまった。
織莉子らによって人質に取られ、自衛隊駐屯地まで連れられたまどかは、その基地の一室に監禁された。
出口は一つしかなく、その鉄の扉には鍵をかけられた。
ここも会議室か何かの部屋なのだろう。
けれども、夜明けという時間帯のせいか、コンクリートで囲まれた部屋の空気はひんやり冷たく、寂しい。
「……寒いよ……」
まどかは自分の身体を両手に抱きかかえて、温度を保とうとするが、身体は震えていた。
彼女には、今日一日なぜ自分がこんな目に───監禁される目に遭うのか──分からない。
自分が最悪の魔女になる資質を植えつけられていること、まして魔法少女が辿る行く末の事実も、
知らされていなかった。
「寂しい…な」グスっと、目に涙を溜めてうつむきかける。
部屋には何もない。
あるものといえば、窓だが、ベニヤの木の板で完全に塞がれてしまっている。光の一筋も入ってこない。
なすすべもない。
まどかは自分の体を両手に抱いたまま、冷たい一室の隅にしゃがみ込んで、顔を伏せてじっと
堪えていることかできなかった。
「誰か……助けて……」
誰もいない部屋で、まどかは小さな声を漏らすと、助けを求めた。
「ほむらちゃん……」
自然と、その女の子名前を呼んでいた。
90 :
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(チベット自治区)
[saga]:2011/07/29(金) 21:16:45.37 ID:cfemzx9K0
23
「小娘の喉を切るのは」
織莉子の相方ともいえる黒い魔法少女、呉キリカが腕の鉤爪を眺めながら、言った。
「温かいバターを切るようだぜ…」
「鉤爪をしまいなさい。呉キリカ」
マミが子を叱る親のように腰に手をあて、言いつけた。「その口も閉じていて」
織莉子とのティータイムを終えた巴マミは、基地の廊下を織莉子と一緒に歩いた。
魔法少女姿に変身し、戦闘体勢になったマミは、基地を防衛する兵士たちについて、言いたいことがあるようだ。
「口だけは達者なトーシロばかり、よくまぁ揃えたものねぇ。まったく、笑っちゃうわ」
呆れているような喋り方で、マミが告げた。見滝原の兵士たちをバカにして言ったのだろうが、
織莉子の表情がそれを聞いて曇る。
「暁美さんも見たら、あの子も笑うんじゃないかしら」
そうなのだ。
巴マミは、最初こそは兵隊にも守られた絶対の安全地、というふうにも思ったのだが、実際に基地に来てみると、
防衛する兵士たちを見るや失望に落胆した。
警官といい兵隊といい、見滝原町の公的組織はまったくもってずさんだ。
「巴マミ、私の兵士たちは皆、愛国者よ。この国を救うために命を捧げている」
だが、自らの国を愛し、自らの国を護ることに妄信的ですらある織莉子はそれを認めたがらない。
だからマミの指摘に対して、精神論的なものまで言い出して反論してくる。
するとマミは肩をすくめてため息をつくと、言った。
「ただのカカシじゃない。私なら瞬きする間に──」
パチンと、織莉子にむかって指を鳴らしてみせる。「皆殺しにできる。忘れないことね」
「巴マミ、あなたはこの私を、愕かすつもり?」織莉子が足を止めた。話し方から穏やかな口調が消える。
「事実を言ったまでよ」
巴マミも威勢を張った。腰に手をあて、織莉子を正面から見つめる。
「ワルプルギスの夜が終わったら暁美さんは、鹿目さんを取り戻しにくる。鹿目さんが生きてようといまいと関係ない。
あの子はあなたを追いかける。貴女を暁美さんから守ってあげられるのは」
トントンと、自分の胸元を指し示す。「私だけよ」
91 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/29(金) 21:21:18.49 ID:cfemzx9K0
「怖がっているのは、私ではなくて貴女のほうではなくて?巴マミ」
織莉子も言い返してきた。
探りを入れるかのような目つきで、マミを見据える。「貴女こそ暁美ほむらを、恐れているのよ」
「もちろんよ」
巴マミが胸を張って答えた。恐れてると認めることと相反する態度であった。
「私は魔法少女のベテランですもの。貴女のような、ここ三日三晩で魔法少女になったホヤホヤの
アナタとは、経験も思慮も深さが違うの」
不機嫌そうな顔の織莉子が、じっとマミの話をきいている。
「私はどんな戦況においてでも、冷静に判断できるし、平静を欠くことがない。そう──考えてみて。
私たちは切り札を持っている。そうでしょ?利口な戦い方とは、そういうものよ。わかる?」
「あなたの未来を、私の魔法で占ってあげましょうか?巴マミ」
えらそうに語るマミに対して、織莉子が話を変えて仕返しに出た。
マミの下にでることを、織莉子のプライドが許さなかったらしい。
「せいぜい穢れの抜きすぎに気をつけることね」
織莉子はきびしい声で言い放つと、マミを置いてその場を先に去っていった。
(穢れの抜きすぎですって?)
92 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/29(金) 21:26:26.09 ID:cfemzx9K0
24
見滝原に訪れる夜明け。
ほむらが買い物と称して荒らしまわった軍放出品ストアーの現場調査に、自衛隊の将官は足を運んでいた。
現場の周囲にはパトカーが何台もとまり、警灯サイレンを鳴らしている。
「例の犯人ですか?」部下の兵士が聞いた。
例の犯人とは、しょっちゅう基地から兵器を盗み取る謎の犯人のことだ。
「通信隊に連絡して、警察と沿岸警備隊の無線を残らず傍受させろ」将官が早歩きで部下の兵士に命じる。
「何がはじまるんです?」尋常でない命令内容に、驚いた様子の兵士が尋ねた。
将官は部下の兵士を正面から見据えると、言った。「第三次大戦だ」
93 :
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(チベット自治区)
[saga]:2011/07/29(金) 21:31:29.37 ID:cfemzx9K0
25
仁美とほむらの二人は、ついにまどかが拉致され、織莉子たちが立て篭もっているだろう自衛隊駐屯地の
見える場所にまで辿り着いた。
軍の駐屯基地であるから、見滝原町にあるといっても、町の真ん中にドンとあるわけでもない。
人里から少し離れた山の麓に、ぽつんとある。
もう誰にも頼らないと心に決め、最初に機関銃を取りに出かけたのも、あの基地だったのはもう遠い思い出のようにも
思える。
キャデラックの車を停車させる。
「夜が明けますわ…」仁美が赤くなる夜空を見上げながら、言った。「綺麗です…」
ほむらも空を見上げる。夜空に輝いていた星々は輝きを失い、赤色に染まり始めていた。
ひんやり冷たい空気が早朝に澄み渡る。
「時機にここも……」美しい景色を見ながら、ほむらの心境は複雑だった。
(ワルプルギスの夜が訪れ、全てを壊すでしょう)
夜が明けたということは、きたるワルプルギスの夜、その当日を迎えたことを意味する。
もう2時間ほどでその御姿を君臨させるだろう。
車を降りたほむらは、後部座席に詰め込まれた買い物した軍放出品を、一つ一つ丁寧に取り出すと、
地面に並べていく。
仁美もその作業を手伝った。ほむらに武器を手渡していく。
M500ショットガン、Uziサブマシンガン、ミニミM249短機関銃。デザートイーグル。バルメM78。
それにM18クレイモア地雷、M202"FLASH"焼夷ロケットランチャー、M67手榴弾…。
武力は申し分なく揃っている。
織莉子たちとの決着をつける時も近い。
前の世界とは違って、巴マミまで敵の側なのが心もとないが、全力で対決しにいこう。
94 :
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(チベット自治区)
[saga]:2011/07/29(金) 21:34:38.45 ID:cfemzx9K0
ふと思ったが、ひょんなことの巡り合わせで強引に連れ込んだ仁美に、今回の時間軸では
随分助けられている気がする。
いや、それどころか、仁美と関わったこと自体、実は初めてかもしれない。今までの時間の繰り返しを
思い返しても、そういえば話したこともない。
けれども、今日のおかげで、志筑仁美というクラスメートが、無茶なことにも付き合ってこれる強さと、
優しさをもった少女だと知ることができた。
時には、ロケットランチャーをぶっ放す大胆さも兼ね備えていることも…。
いや、それは考えなくていいか。
ほむらは思い出してフッと小さく笑うと、しかし、決戦に向けて気持ちを入れ替えた。
ここからは私一人の戦いだ。
なぜから、いよいよ他でもない魔法少女の戦いに突入するのだ。仁美を巻き込むのもここが限界だ。
その代わりわむらは、もしもの時のための緊急連絡を仁美に頼むことにした。
「メッセージは覚えた?」
仁美が暗唱する。
「魔法少女。キューベー。コードマギカ。契約ね。分かりましたわ」
「やつらが私を見つけるまでは、無線は使わないで」
仁美から渡された機関銃をほむらがまた受け取る。
「どうしてそれがわかりますの?」
仁美がきいた。
「見滝原がドンパチ、賑やかになったらよ」
ほむらは答え、機関銃ミニミM249を手に受け取ると、仁美に指示した。
「ここもいずれは戦火が及ぶ。あなたは安全なところに引き返して」
「無事を祈っていますわ、暁美さん……幸運を」心配そうに見つめる仁美の目が、ほむらにずっと向けられていた。
「ありがとう。仁美さん」
ほむらは微笑み、目で合図した。「さあ、いって」
95 :
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(チベット自治区)
[saga]:2011/07/29(金) 21:39:20.49 ID:cfemzx9K0
ほむらは一人取り残される。大量の武器に囲まれて。
最後まで助けてくれた仁美の、去っていくキャデラックの車を、ほむらは見えなくなるまで見送っていた。
そして完全に見えなくなると。
暁美ほむらは、完全に戦闘モードへ入った。
この時間軸も、ついに最終決戦だ。
決着をつけましょう。呉キリカ、美国織莉子、巴マミ。
ヤツらまどかに矢を向ける者どもに、片鱗の慈悲を見せるつもりも、ほむらにはなかった。
96 :
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(チベット自治区)
[saga]:2011/07/29(金) 21:41:10.98 ID:cfemzx9K0
26
呉キリカは断続的に放たれるマスケットの発砲の音をききつけた。
音を辿っていくと、魔法少女に変身した姿の巴マミが、基地内の射撃室で、人の形を象った的に
狙いを定めてマスケット銃を発砲している姿が見えた。
「準備運動でもしてるの?」キリカがきいた。
「もうすぐ来るからよ」巴マミが射撃の練習をしながら、背中で答えた。
「ワルプルギスの夜が?」キリカがきくと。
「バカ言わないで。ちがうわ」
マミのマスケット銃がまた発砲される。人型の的の脳天に、マスケットの弾が貫通した。
「脳みそまでコチコチのソウルジェムになった?」
「なんだとぉ?」キリカの顔がむっとした。元からこの女は、キリカが独り占めにしていた織莉子と
しょっちゅう話し込むから、嫌いだった。「じゃあ、何がくるのさ?」
「暁美ほむらよ」
マミが答え、またマスケットを撃った。着弾した的が煙をあげた。
「彼女がやってくる。もうすぐよ。私には分かるの」
「へぇ…」
キリカが目を細めると、つまんなそうに言った。「キミもアイツが、戻ってくると信じる口なわけ?」
97 :
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(チベット自治区)
[saga]:2011/07/29(金) 21:43:16.59 ID:cfemzx9K0
マミが射撃をやめた。
マスケットを床にたてる。マミがキリカに顔をむけると、語る。「私、初めて合ったときから…」
「?」キリカが首を傾げる。
「あの子とは決着をつけたい、と、そう思っていたの」
金色の瞳が思い出すように見上げ、そして唇をかみ締める。
「生意気なのよ。あの子。私ね、ホントはずっと魔法少女の仲間が欲しかった。そして同じ学校で
その素質のある子がいるってキュゥべえに聞いて……先輩ぶってはりきっていたの。…なのにあの子は、
邪魔ばかりしてきてイイトコどりして。シャルロッテの時もそう」
語るほどに、マミの喋りが刺々しく苛立ったものになっていく。
「それにあの子、私より魔法少女についてたくさん知っている。それでいて隠している。気に入らないわ。
極めつけは”私達に接触らないで”ですって……。何なのよ。いつか決着つけて…この手で葬り去ってみたいものよね」
「ふぅん…」
キリカが鼻を鳴らして頷いた。
仲間が欲しい。その気持ちは、キリカは分からないでもなかった。
「キミさ、まさかその暁美ほむらって魔法少女が憎たらしいから、そんな理由で織莉子と手を組んだりしたワケ?」
マミの目つきが険しくなった。
どうやら図星を言い当ててしまったらしい。
「まぁでも、仮にソイツがここまで戻ったとしても、ここまで辿りつけないさ。残念だね」
キリカは言った。
「…」巴マミは無言だ。
「期待したって来れっこないよ」キリカが付け加えた。「シュワルツネッガーじゃあるまいしさぁ」
アハハハと笑いながら、キリカが冗談を言った。
98 :
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(チベット自治区)
[saga]:2011/07/29(金) 21:44:55.93 ID:cfemzx9K0
27
世界最高の素質を持ちながら最悪の絶望も同時に孕んだ、中学生の少女。
鹿目まどかを巡るこの世界の命運も、佳境に登りつめようとしていたが、そのまどか自身が動き始めていた。
監禁された一室からの脱出を、密かに試みていたのだ。
脱出への糸口。
その可能性に気づいたのは、ついさっき前のことだった。
まどかは、窓のベニヤ板をはりつける釘の先端が、脱出のための道具に使えると考えのだ。
板をはりつけた釘をなんとか抜き出し、その釘の先端をつかって、ガリガリ板を削り取る。
「…逃げなくちゃ……!」
無力ながら、まどかは懸命だった。逃げなければ、殺されることも分かっていた。
今日の朝までは、同じ中学の先輩であり魔法少女としても憧れていた存在でもあった巴マミの死を、
あんなに悲しんだのに、今では巴マミはまどかにとって恐怖の対象になっていた。
そして今では…心から転校生のほむらを、望んでいた。
マミさんが魔女に喰われた時も、家族が襲われたときも、ほむらちゃんは助けてくれた。
さやかちゃんもマミさんも、敵対視してたけど、でも。あの子はきっと、悪い子じゃない。
ううん。きっと私の、大切な……友達。
そして、なぜだかは分からないが、自分の命のため、というより、そのほむらのために、生き延びなきゃと、
まどかは心で強く思いはじめていた。
99 :
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(チベット自治区)
[saga]:2011/07/29(金) 21:46:41.26 ID:cfemzx9K0
28
ほむらにとって最後の戦場ともいえる、見滝原の自衛隊基地付近の山の麓で。
一人残された少女・暁美ほむらは。
絶えることなき戦いの宿命を負った魔法少女は。
一日のはじまりを告げる、昇る日の陽光を受けながら、膝をついて目を閉じると、手を握り合わせ、黙祷していた。
やがてはじまる、戦いの一日に、希望を託して。
自らの手に収めるべき勝利のために、じっと無言に、祈りを捧げる。
かつてミッション系の学校にいた頃の信仰心を、ほむらは思い出していた。
どうしてそんな気持ちになったのだろう。
夜はすっかり明け、星々の姿は消え、空は静かに赤色に燃える。
人類の歴史を振り返って、赤い日が昇ることは、日本は希望の灯としたが、西洋ではいつも、絶望の凶兆とされてきた。
この先の戦いの行き着き先が希望であれ絶望であれ、多くの血が流される、血染めの一日になるであろう覚悟はついている。
そしてもし、この私こそが凶兆とし、世界の救世を求める織莉子に天が味方するというのであれば。
私は喜んでまどかのために悪魔にも魂を売ろう。
100 :
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(チベット自治区)
[saga]:2011/07/29(金) 21:48:53.96 ID:cfemzx9K0
ほむらは黙祷していた目を開いた。
立ち上がると同時に魔法少女の変身さえ解く。
生まれたままの姿も同然の状態になった彼女は、これからの戦いのためによりふさわしい衣装に自らの身を包んでく。
つまり、武装だ。
買い物して揃えたありったけの武器すべてを、順に身に着けていくのだ。
まずほむらは、兵士の着用する軍用靴の靴紐を足元でしっかり結ぶ。
次に軍服を肩から着こんでチャックを一気に締め上げる。
ホックを右と左でそれぞれ固定し、繋ぎとめる。
散弾銃の赤い弾薬を胸元の収納ペースに入れる。胸元に吊るす手榴弾の紐をきちんと締め上げる。
すると、ほむらは軍用ナイフを左胸のポーチに突っ込む。
デザートイーグルの底を手のひらで叩き、遊底を引くと、迷彩ズボンの腿ポケットに仕舞い入れる。
手にすぐ取りだせる位置だ。
顔や顎、腕に、カモフラージュの深緑の塗装をていねいに塗り、ほむらは敵に発見されずらい自分を創りあげる。
ミニミ短機関銃の弾倉の底をバシッと手の平で叩き、遊底を引く。
続いてM500ショットガンの遊底も力強く引き、弾薬を詰め込む。すると、全ての準備が整う。
そして最後にロケットランチャーを左手に持ち、右手に構えたミニミ機関銃を肩に担ぐと、
ほむらの武装が完了した。
そして交わした約束のために。まどかを救う。その約束を果たすために。
完全武装のほむらは、”私の戦場”へと、歩を進めた。
見滝原の地平線に昇る赤い日の暁が、戦士の姿に変身を遂げたほむらの姿を照らしていた。
101 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/29(金) 21:50:10.97 ID:cfemzx9K0
28.1
[今の状況図]
まどかを救う側 まどかを捕らえる側
暁美ほむら(武装完了) 美国織莉子(黒幕)
呉キリカ(織莉子の相方)
巴マミ(日ごろのほむらへの恨みで織莉子と手を組む)
102 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/29(金) 21:50:53.47 ID:cfemzx9K0
28.2
ナイフを突き立て…目障りな私を、圧倒的な力差を見せつけて華麗に打ちのめすのが望みなのでしょう。
そうでなくて?巴マミ…!
次回予告:第五話「もう何も怖かねぇ!」
103 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/07/29(金) 22:01:35.54 ID:kvaM3N7x0
支援
104 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/07/29(金) 22:23:11.58 ID:jJLlB+Cio
デエエエエエエエエエエエエエン
105 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/07/29(金) 22:55:04.92 ID:nPZQ23Soo
支援
106 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/07/30(土) 17:37:11.58 ID:GGDT2cDwo
何が始まるんです!?
107 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/07/30(土) 17:39:41.01 ID:GGDT2cDwo
何が始まるんです!?
108 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/30(土) 21:20:42.36 ID:x57ncpMG0
29
第五話「もう何も怖かねえ!」
美国織莉子は、珍しく苛立っていた。
いつも冷静沈着な彼女に似合わず、今は作戦会議室の部屋を行ったりきたりして、落ち着きがない。
「杏子たちからの連絡はまだなの……」
それが織莉子を苛立たせている要因だった。
暁美ほむらを監視し、連行させ、ワルプルギスの夜の討伐にむかった彼女ら魔法少女三人からの連絡が、
まったくこない。からっきし。
それが織莉子に、あってはならない事態への不安を駆り立てる。
それに、巴マミが変なことを言い出すからだ。
何もかも完璧な状況にも関わらず、またそれを築きあげた自分の成果もしらずに、
見滝原の兵士をカカシだとか言ったり、暁美ほむらは必ず追ってくると言い切ったり。
「どうしたんだい織莉子?」
様子を端から眺めていたキュゥべえが、きいてきた。
どのようにしてかは分からないが、インキュベーターは自分たちの居場所を突きとめ、いつの間にか
基地内にやってきていたらしい。
「顔色が悪いよ具合でも悪いのかい?」
織莉子は無視した。
同じ部屋ではキリカが、窓から見える夜明けの空模様を見て、子どもっぽく無邪気にはしゃいでいる。
「わあ。ねえ、織莉子、見てみてよ。キレイだよ!見事なぐらいに真っ赤だ。」
舌で唇を舐めずさる。「まるで、雲が地上に流れた血を全て吸いあげてるみたいだよ」
(血のように赤い夜明け……)
織莉子の魔法は、未来を予知することだ。
自らに迫る、危機感という不安は、本物だった。
なぜなら、暁美ほむらがまさに今、彼女ら魔法少女の陣営を全滅させるためにやって来ていたのだから。
109 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/30(土) 21:27:54.20 ID:x57ncpMG0
30
全身を武装して、ミニミ機関銃を片手に持ち、背中にロケットランチャーを担ぐという重装備で、
ほむらは山道の岩肌を登り、織莉子らの本拠地・自衛隊駐屯地への接近を試みていた。
軍用双眼鏡を手に取り出すと、覗き込み、基地の様子をそっと窺う。
そして織莉子らの陣取った基地が、何人もの武装した兵士によって護衛されている様子を確認した。
どのようにしてかは知らないが、織莉子は彼ら見滝原の兵士を買収し手駒にしている。
もしもの時は。
彼ら見滝原の兵士たちとの戦いにも突入するだろう。
魔法少女になってこのかた、人間との戦いに経験のないほむらは、その道を避けたい。
ほむらはミニミ機関銃とロケットランチャーとを持ち運び、なるべく目立たない林の山道を移動する。
樹木から樹木へ、物陰から物陰へ。
敵の兵士に発見されないように、慎重に基地との距離を徐々に狭めていく。
生い茂る草木に身を潜めるとほむらは、そっとまた双眼鏡を出すと基地の様子を眺め、草木の間から防衛する兵士の数、
位置などを確認していく。
双眼鏡のピントを合わせる。
かなり多くの兵士が基地を行き来しているようだ。装甲車が基地内の道路を走りゲートを通る。
監視塔の高台にマシンガンを構えた見張りの兵士もいる。
ほむらは重火器を抱え持ちながらまた静かに移動を始めた。
原っぱを体勢を低くして走る。カモフラージュを塗装した顔を草木の間から覗かせ、
基地の兵士の動向を窺いつつ、着実に基地との距離を縮めていく。
ほむらがまどかに近づいてきていたが、まどかも自力で生き延びようとしていた。
監禁部屋に閉じ込めらたまどかは、脱出への試み───釘の先端で削った窓のベニヤ板を、何枚か外すことに──
成功していた。
だが、まだ出られない。もっと板を外さなければ。まどか自身の体が通るくらいには。
急がなければならなかった。
マミに、他の魔法少女達に、気づかれる前に。
まどかは懸命に、釘で窓の板を削り続けた。
110 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/30(土) 21:31:15.71 ID:x57ncpMG0
31
すでに肉眼で確認できるほどに、自衛隊基地にほむらは近づいた。
武装した兵士たちが、基地内を行き来しているが、まだほむらに気づいた様子はない。
林の樹木に身を潜め、ほむらは(カモフラージュ塗装した)顔をわずかに覗かせ、潜入の機会を窺う。
見回りの兵士の死角を見計らって、素早く基地の敷地に足を踏み入れた。
停車している二台の軍用ジープの間に身を忍ばせる。
その基地の最深部──作戦会議室では、まだほむらの潜入に気づいていない──魔法少女・美国織莉子が、
待ちに待った連絡の電話が鳴る音をきき、受話器を手にしていた。
「はい」受話器を耳にあてる。「美国織莉子です」
同じ空間にいるマミとキリカが、織莉子の動向を見守る。
「…」
ところが、電話の内容を耳にしながら織莉子の顔が、みるみる内に怒りに変わっていくのをみるや、
二人はすでに悪い事態へコトが進んだことを理解していた。
織莉子に電話を入れたのは、彼女の館の召使いだった。
あまりにも杏子たちから連絡が来ないので、痺れを切らした織莉子は、召使いを遣わせて調査に行かせたのだ。
そして、カフェでゆまが気絶し倒れていたことや、打ち合わせ場所にしていた教会での杏子の死体などの知らせを
織莉子は電話ですっかり全て聞かされることになった。
「暁美ほむらはゆまとも杏子とも一緒でない」
氷のように冷たい女王の声で告げ、織莉子はカチャと受話器を置くと、巴マミに命じた。「鹿目まどかを殺しなさい」
指示を受けた巴マミは、持っているスケットの銃口をパシッと手の平で叩くと、 承知の意思表示をした。
「なんなりと」
クルっと体の向きを変えて巴マミは、作戦会議室の部屋を去ると、まどかの監禁部屋へ向かっていく。
殺す作業自体は、ものの10秒で済むだろう。
「…」
マミの部屋を歩き去っていくカツカツという足音を、無言で織莉子はただ聞いていた。
その様子は、彼女を慕ってやまないキリカでさえ、近づくのが憚れるほどに恐ろしい剣幕だったという。
(でも……じゃあ、暁美ほむらはどこにいるんだ?)
端から会話を聞いていたキリカがふとそう考えた途端───何かゾクっとくるような悪寒が、一瞬で背筋を駆けのぼった。
(まさか……ここに来てるのか……!?)
111 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/30(土) 21:34:19.66 ID:x57ncpMG0
32
暁美ほむらは敵地ともいうべき基地の建物のすぐ下にいた。
彼女が魔法少女姿ではなく、軍服の武装した姿で敵地に乗り込んだのは、
もちろん目立たないためであったが、他にも理由はあった。
魔法少女に変身し、魔力を開放した姿では、敵の織莉子たちにソウルジェムの反応で気づかれてしまう
という懸念もあった。
ともかく。ほむらは織莉子らの敵地についに一人で侵入した。
敵地の建物に行き着くや、ほむらは持ち運んでいる兵器からクレイモア対人地雷を取り出すと、
壁際の下の土にサクっと刺して設置し、起動スイッチを入れる。
ところが、次の瞬間、ついに敵兵士と直面してしまう事態に陥ってしまう。
地雷をセットした基地の建物から、扉を開けて一人の兵士が外に歩き出てきたのだ。
ほむらは音もなくその兵士に背後からそっと接近し、後ろから首を掴んで引き寄せると、抵抗する間も与えず
軍用ナイフをその左脇腹に一突きグサリと突きたてた。
息の切れたような兵士の声が漏れたが、悲鳴や叫び声にならない殺し方をしたので大事にならずに済んだ。
ほむらは次の建物へと、武器を運んで移動する。
建物に辿り着くと、壁に沿うように静かに動き、見張りの兵士の背中に張り付くと、声を漏らせぬよう口を後ろから
手で塞ぎ、抵抗しようするところを喉を静かに軍用ナイフで掻き切る。
絶命した兵士の身体を抱き寄せるようにして引きずり、死体を物陰まで運んで隠す。
するとほむらは、二基目のクレイモア地雷をまた建物の下に設置し、起動スイッチをONにする。
この要領で、ほむらは三基目、四基目と、順調に地雷を設置していった。
そこまでやり遂げると、ほむらは息をつき、額に溜まった汗をナイフを握った腕でぬぐった。
うまい具合に進んでいるが、時間は残されていない。
まどかの命に危機が迫っている。
ほむらが地雷を着々と設置させていた時、監禁部屋では、まどかが、窓の三枚目の板を取り外すことに
成功していた。
だが、そうもしている間にも、巴マミの足音は、秒読み刻みで近づいてきている。
112 :
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(チベット自治区)
[saga]:2011/07/30(土) 21:36:35.80 ID:x57ncpMG0
ほむらは六基目のクレイモア地雷を基地に設置した。
起動ボタンを入れ、地雷をONにする。
だが、はっとほむらが後ろに気が付くと、二人の兵士が銃を肩にぶら下げて見回りにくる最中だった。
とっさに、ほむらは迷彩ズボンのポケットから両手にナイフを、一本ずつ手に取る。
ほむらの存在に二人の兵士が気づく。「誰だ!」
兵士達が攻撃するより前に、ほむらは両手に握ったポケットのナイフを同時に投げ飛ばした。
ナイフはダーツのように二人の兵士の胸にズドっと突き刺さり、二人はバタリと倒れ死んだ。
ほむらはさらに基地内を奥へ進む。
建物の角から顔を出し、兵士の無防備な背中に声をかける。「どこを見ているの?」
慌てて振り向いた兵士にむけてボウガンを放ち、矢は胸元にグッサリ刺さり、兵士の身体が衝撃に
仰け反ったあとで倒れた。
まどかに迫る危機を感じ取ったほむらは、強行突破に出る腹を決めた。
ミニミ機関銃とロケットランチャーを両手に持ち運び、基地内の敷地を一気に駆け走る。
その姿は当然監視塔の兵士に見つかった。
「止まれ!」兵士は叫び、監視塔の高台から機関銃をほむらに向けて発射する。
ほむらも応戦し、ミニミ機関銃を高台の兵士へ向けて発砲すると、ほむらの放った銃弾の雨を浴びた
兵士の手から銃がこぼれ落ち、恐怖のあまりパニックに陥った兵士は自ら高台から身を投げ落とした。「うああああ!」
しかし、ともあれほむらの潜入は発見されてしまい、基地内じゅうに警報が鳴り渡った。
基地という基地の建物から兵士達が次々に武装してほむらの前に現れてくる。
ビー、ビー、という警報が鳴り続ける。
列なして走ってくる兵士たちが相次いでほむらめがけて機関銃を発射する。
ほむらはミニミ機関銃を撃ち放って、現れた兵士たちをなぎ倒していったが、しかし多勢に無勢とはこのことで、
一人が戦いきるにはあまりに敵の兵士が多かった。
113 :
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(チベット自治区)
[saga]:2011/07/30(土) 21:39:47.78 ID:x57ncpMG0
そこでほむらは、基地に仕込んだ仕掛けを発動することに決めた。
手からロケットランチャーを投げ捨て、ほむらは追っ手の兵士たちに両手に持ったミニミ機関銃で
徹底的に掃射して銃弾を浴びせると、またロケットランチャーを拾いあげて走り出す。
走りながら、胸ポケットからクレイモア地雷の起動ボタンを手に取り出し、スイッチを押した。
それが仕掛けの発動スイッチだった。
次の瞬間、基地じゅうに設置されたクレイモア地雷が同時に爆発を起こし、建物という建物の全てが爆破されて
バラバラに吹き飛んでいった。
見渡す限りの基地の建物が炎を噴き上げて木っ端微塵に破裂していき、断片を打ち上げていく。
燃え上がる地雷の業火は、とどまることをしらない。
この爆発に巻き込まれた基地の兵士たちが相次いで吹き飛んでいく。また、炎に包まれて火だるまになる。
熱を帯びた強烈な爆風が押し寄せ、兵士たちのバランスを奪い転ばせ、戦闘不能にさせる。
「あーりえん!」兵士が叫び声あげながら、建物の爆発に巻き込まれて吹っ飛ばされる。
基地のほとんどがこの爆破によって無残にも灰となり、黒い煙が爆破の焼け跡に立ちこめた。
爆発は尚も続き、建物が倒壊する。基地内の装甲車は爆発で燃え上がり、監視塔の高台は
炎に包まれて脆くも崩壊する。まだ起こる爆発は、炎と一緒にドラム缶を空高くまで打ちあげた。
そして、バラバラに吹き飛ばされた建物の断片の雨が空から降り注いだ。
その焦げ臭さ漂う黒煙の立ちこめる戦場を後にし、ほむらはまどかを救出すべくつぎの戦場へと急いだ。
114 :
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(チベット自治区)
[saga]:2011/07/30(土) 21:48:19.80 ID:x57ncpMG0
33
ほむらの起動したクレイモアの派手な爆破は、その爆音を基地じゅうに轟かせた。
その音はもちろん魔法少女たちの耳にも───織莉子にも、キリカにも、巴マミの耳にも──もちろん入った。
稲光が頭上に落ちるような、想像だにしない凄烈な音だったので、廊下で音を耳にした巴マミは思わずビクリと
身を縮めて怯えた。
そしてその爆発音と、立て続いて響き渡る激しい銃弾飛び交う銃撃戦の音が、マミにある事実を教えた。
こんなことをやってのける人物といえば彼女しかいない。
「やっぱりやって来たのね!」
と、マミは外を見上げながら嬉しそうに声をだし、感嘆の息を吐いた。「さすが…といったところね、暁美さん」
それは敵ながら天晴れという、マミのほむらへの賛辞の気持ちだった。
そしてこの展開こそ、自分の望んだものだったのだと、急激に腫れ上がる期待と共に自認していた。
(でも惜しかったわね。貴女は一歩遅かった)
ゲームオーバーだ。
まどかは死ぬことになる。マミはまどかの監禁部屋に辿り着いた。
最悪の魔女はその資質を開花させることなく摘まれ、あっけなく消えるだろう。
それはマミにとって待ちに待った瞬間ともいえた。ほむらにとって、まどかの死が一番効く。
まどかの死を突きつける。そしたらどんな顔をほむらはしてみせるだろう。考えるにぞくぞくする。
監禁部屋の扉の鍵を開け、マミは中に入る。速攻で片をつけるつもりで、マスケット銃を部屋の中に向けたが。
まどかの姿は見当たらなかった。部屋のどこにも。
代わりに見つかったものといえば、窓の板が破られて空いた穴だ。
「あの子ったら!逃げたのね!」
怒り心頭にマミが喚く。破られた板に駆け寄り、屈んで穴から外を覗きこむと、丁度ピンク髪のツインテールの少女が
女の子走りで基地の敷地内を脱走し、地下へと逃げ込んでいく後ろ姿が目に入った。
「んもう!」
声をだして唸り、マミは怒りに身を任せて板張りの窓に体当たりした。「ぶるぅれい!」
体が板を破って突き抜ける。が、勢いがすぎて、向こう側の地面に突っ伏してころんだ。顎を泥に打ちつける。
「痛ったぁ!」
一人で文句言いながら、マミは全身に木の板が纏わりつく不快感を覚えながら立ち上がると、痛む体を無理に歩かせ、
まどかのあとを追った。
そのマミのまわりを、ほむらという侵入者を撃退すべく兵士たちがせわしくなく走っていた。
115 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/30(土) 21:50:59.95 ID:x57ncpMG0
34
こうして、魔法少女たちの最終決戦の火蓋は切って落とされた。
派手な爆破から始まったその舞台は、嵐のように銃弾飛び交う、戦場と呼ぶにふさわしいクライマックスだ。
織莉子と呉キリカの二人は。
暁美ほむらの銃火器ぶっ放す戦いぶりを、基地の屋上から見下ろしていた。
二人とも魔法少女姿に変身済みだ。
爆破の焼け跡に吹き付ける風が、二人の魔法少女の衣装をゆらしている。
「ねーえ、織莉子」
と、呆れたような顔の呉キリカが口を開いた。「アレが暁美ほむらっていう、”魔法少女”?」
”魔法少女”の語尾に、あからさまな疑問符をつけて尋ねる。
兵士という兵士を次々に機関銃を発射させて倒していくほむらの姿を見下ろしながら、悪態つく。
「あの魔法少女ときたら、人を虐殺してるじゃないか。変身さえしてないよ?」
「確かに彼女のようなタイプは珍しいのでしょうね」
織莉子が言った。「でも、侮らないこと」風にふかれて、彼女の白い髪がゆらゆら靡く。
「私がやっつけてやるさ!」
キリカが鉤爪を手に召喚すると、歯を見せて笑う。
「”コイツ”でこれまでだって何人も、魔法少女を殺ってきたからね」
「そうね…しっかり殺しなさいね」
頼もしい相方の言葉に織莉子は口元で小さく笑うと、自らも武器を手に持った。
「それが私の願いであり、なさなければいけない使命なのだから」
「…あれ?織莉子?」
キリカは織莉子の取り出した武器を見て、不思議がった。わざとっぽく、声をあげて訊く。「”それ”、なに?」
すると織莉子は、ニコっと微笑んだ。 、
AUGアサルトライフルのスライドをガチャっと引き、弾薬を詰めると、答える。「魔法よ」
「ああ!その魔法知ってる!」
キリカが指差して、皮肉を言った。「物理魔法!引き金をひくだけで人を殺せてしまう、怖い魔法だ」
そうとも。チマチマ魔力を消費する宝石なんぞ飛ばすより、より正確に、より早く、魔力の消費もせず飛ばせる弾が
あるではないか。皮肉ながらそれは、前回の時間軸でほむらから学んだことだった。
「弾も無限に有限よ」
織莉子は言い、最大の敵・暁美ほむらを殺すべく自らも戦場へ進み出た。「行きましょう」
「はーい!」キリカは織莉子になつくように、甘えた声で答え、織莉子の背中についていった。
そうして二人は、暁美ほむらの言う”ドンパチ賑やか”な戦場へ、参戦していく。
116 :
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[sage]:2011/07/30(土) 23:36:10.11 ID:QOIbW+bUo
マジカル☆大戦争
117 :
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[saga]:2011/07/31(日) 20:35:10.27 ID:gETuFYK90
35
夜明けの暁にはじまった、爆破に次ぐ爆破の音が、山奥から轟き渡り、地鳴りとなって見滝原を揺らす。
絶え間ない銃撃戦の戦火の音が、血染めの明け方に響き渡る。
それが紛れもない、彼女の言った、”見滝原がドンパチ賑やかになったら”という
予言どおりの展開であるに違いないと、仁美は思った。
戦場になった自衛隊駐屯地から避難していた仁美は、ほむらの指示を受けていたとおり、
緊急連絡のメッセージを無線で入れる。
「キューベー」
仁美は無線にむけて、声を入れる。
「繰り返しますわ、キューベー!緊急のメッセージがあります」
「呼んだかい?」見たこともない白い獣が言葉を喋って語りかけてきた。
赤い目の、不思議な獣だ。「ボクを呼んだのはキミかい?」
「私の友達が、助けを必要としているんです!」仁美が白い獣に頼み込んだ。
普通だったら、まず人の言語を話す獣に驚くところだが、今日一日散々、ほむらのせいで不思議な目に
遭ってきたその感覚が麻痺していた。
「お願いです。助けてあげてください!」
「へぇ……」
白い獣が赤い目でじっと、少女を見据える。
「キミにはボクが見えるのかい。どうも不思議だね。キミには素質はなかったはずなのに。
何か、強いイレギュラーの因果に巻き込まれでもしたのかな。そうであるなら聞いてみよう。
そのキミの友達というのは、どんな子だい?」
118 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/31(日) 20:36:50.87 ID:gETuFYK90
「えっと……」
仁美は、昨晩からの出来事をぜんぶ振り返ってみる。
「人の車を盗んだり…シーツを引っぺがしたり電話ボックス持ち上げたり…デパートでターザンみたいに暴れたり…
ブルドーザーで店に押し入って強盗したりする…とにかく変な女の子なの」
「そんな魔法少女聞いたこともないよ」
白い獣が言った。「とはいえ……まあ……そんな子がいるとすれば……一人しか思い当たらないけれど。
ボクの死体を増やすのが趣味の女の子だ。いつも可愛がってもらっているよ」
「あの子を助けてあげて!」
「その子より、キミは自分の心配をするべきじゃないかな」
しかし白い獣は、無情な声で告げた。
「この町に、もうすぐワルプルギスの夜がやってくる。そうなったら全て手遅れだ。その友達もキミ自身も
本当はいま危機に直面しているんだ。命が惜しいなら、キミはすぐにこの町から離れるべきだ」
仁美は怒りを爆発させ、顔を赤くして叫んだ。
「暁美さんに連絡しろと言われたのに、なんですの、この役に立たない獣は!」
しかし、一見意味のないようなこのやり取りにも、意味はあった。
ほむらが、戦いがはじまったら仁美にキュゥべえを呼ぶように頼んだ理由は。戦いのさなか、キュゥべえの目を
戦場から逸らすのが狙いだった。どさくさに紛れて契約取り付けるのも、コイツの得意技だから。
119 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/31(日) 20:40:22.42 ID:gETuFYK90
36
自衛隊駐屯基地の周囲を、ほむらは完全に制圧した。
だが、中心部が残っている。まどかの居場所も、基地の中心部に違いない。
ほむらは中心部へ進入するべく、静かに壁ぞいを移動していた。
壁から顔をだして覗き込むと、その先には、中心部に繋がるゲートがあった。
しかしそのゲートの門は閉じられ、二人の兵士が見張りについている。
ここの突破なしには中心部には近づけない。
ほむらは壁から乗り出すや、勝負にでた。ゲートの兵士めがけて一気にミニミ機関銃を撃ち放つ。
ドドドドドと低い連射音が鳴って火を噴く。その雨のような銃弾をモロに受け、兵士の体が弾を喰らうごとに
跳ねた。
もう一人の兵士にも銃弾を食らわせ、ほむらは二人とも撃ち倒す。
見張りの兵士を倒したほむらは、ロケットランチャーを持ち運び、ゲートへ一気に接近しようと試みる。
武装したほむらが走るたび、胸元に吊るした手榴弾がカチャカチャと揺れる。
基地の外野では、暁美ほむらという侵入者を撃退するために、兵士たちが互いに掛け声あげあいながら
軍用ジープの戦闘車両に乗り込んでいた。
「急げ!」
武装した兵士達が機関銃を手に持ち、それぞれ軍用ジープの座席に乗り込む。
「女のガキ一人で基地に乗り込みやがって!」声を荒げながら見滝原の兵士たちは軍用ジープを発進させた。
ゲートの前に立ったほむらは、ロケットランチャーを肩に担ぎ、構えると、ゲートを破壊しようとした。
が、その矢先。
兵士たちが乗り込んだ軍用ジープが後方から襲い掛かってきた。「いたぞー!」「撃てー!」
ジープはエンジン音を鳴らせながら兵士たちを乗せて走り、接近してくる。ジープに乗り込んだ兵士たちの機関銃が
発砲される。
ほむらはクルリと身を翻すとロケットランチャーをぶっ放した。
ロケットが煙をあげて飛び、ジープに当たって爆発した。ジープが爆破され吹っ飛び、兵士たちはみなジープから
投げ出されて転げ落ち、致命傷を負った。
ほむらはまた身を翻し向き直ると、今度こそゲートめがけてロケットランチャーを発射する。
音をたててロケット弾頭が飛んでいく。ゲートは真っ赤に燃えて倒壊し、砕けた。無数の断片が周囲に飛び散った。
それが済むとほむらはロケットランチャーをポイと投げ捨てた。ミニミ機関銃を両手に構え持ち、
破壊したゲートを潜り抜けて奥へ潜入する。
まだ追っ手の兵士たちがほむらを狙い、発砲してきたが、ほむらは素早くまだ炎の残るゲートを通ると、
追っ手から逃げた。
多勢に無勢。
この圧倒的不利の戦いを、ほむらは一人戦い抜いていく。
120 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/31(日) 20:42:51.57 ID:gETuFYK90
37
そしてほむらは、いよいよ基地の中心部に近づいた。
が、ますます敵の数は増える一方だった。
中心部と思われる基地周辺は、見渡す限りの兵士達が、ほむらを目掛けて容赦なく発砲してくる。
兵士たちが防衛しているあの中心部の建物のどこかに、まどかが拉致されているに違いない。
そして織莉子も。キリカも。あのどこかにいる。
中心部に進み出たほむらは、その敷地が、意外にも緑に囲まれた場所であることに気づいた。
山の麓を削るように建てられた基地だからなのかは分からないが、地面には草木が生え、
ところどころに整備された木々が立ち並んでおり、まるで庭園のように花壇や噴水まで綺麗に並んでいる。
ほむらにとって今の状況でプラスになる情報は、そこの木々の物陰に避難できそうということの一点につきた。
基地の段差を飛び越えるとほむらは、木々の間へと忍び入る。ジャンプがてら振り向いて追っ手へむけて機関銃で射撃する。
何人もの追っ手の兵士がその掃射をモロに受けて倒れた。木々の間を走る兵士たちに被弾し、胸を押さえながら倒れこむ兵士もいた。
追っ手を払ったほむらは、木々の間の影から、中心部を護る兵士たちを狙って徹底的に機関銃を撃ち放つ。
身を屈めた体勢で、機関銃の銃口を順に兵士たちへ向けていく。
兵士達も応戦し、反撃してくるが、ほむらの攻撃が次々に兵士たちに命中し、一人また一人とバタバタ倒れていく。
右から左へ機関銃で掃射してゆき、ほむらは群れる兵士たちを着実に撃ち落としていく。
一人の兵士がほむらに接近してきた。狙いを定めて銃を放つ。
ほむらも、すかさずその兵士の胸を狙い、発砲する。兵士はほむらの銃弾を受けて血飛沫をあげて倒れた。
ほむらの向ける銃口の先で、二人も三人も兵士達が撃ちぬかれて、地面に倒れていく。
そして死体がどんどん増える。
121 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/31(日) 20:48:20.40 ID:gETuFYK90
と、噴水の物陰でほむらを横から狙い撃ってくる兵士もいたので、ほむらはすぐに向きを変えて狙撃すると
兵士に命中した。銃弾を浴びた彼は噴水の水溜りにバシャンと身を落とした。噴水の水溜りは、赤色になった。
ほむらは木々の物陰から移動をはじめた。
くずくずはしていられない。こうもしている間にも、まどかの身に危険は迫っている。
物陰から姿を現したほむらを狙って兵士たちの機関銃が発砲される。ほむらも応戦して機関銃を撃つ。
そうして銃弾という銃弾が雨のように飛び交い、魔法少女・暁美ほむらの戦いは熾烈を極めていく。
応射して放ったほむらの銃弾が兵士の胸に当たった。叫び声をあげて兵士はぶっ倒れた。
二人並んで兵士が急接近してくる。ほむらは、胸元に吊るした手榴弾を一つ手に取り、そいつらにむけて投げつけた。
爆発した手榴弾が兵士らの足を吹き飛ばし、二人の体は宙を飛んだ。
だが兵士達もひるまない。
基地の階段を駆け下り、応戦を繰り出しながら、着実にほむらへ迫っていく。
何十人もの部隊の集中砲火のなかを走り抜けながらほむらは、噴水の柱などの障害物を盾にしながら、
懸命に機関銃を発射して反撃する。
雨あられと降り注ぐ銃弾がほむらの周囲を乱れ飛び、あたりの壁や物に当たり、無数の穴と亀裂をつくるが、
怖気づかずに戦い抜く。
戦場はすでに何千発もの銃弾があちらこちらに着弾したせいで煙だらけになっていたが、ほむらはその煙に紛れる
兵士たち一人一人に確実に銃弾を浴びせていく。
ほむらの放った銃弾を受けた兵士がまた次々になぎ倒される。
肩に銃弾が当たり、兵士はクルリと身を翻しながら転げ、死ぬ。別の兵士は、接近の途中で被弾して力尽きて倒れる。
噴水の柱からほむらの投げた二発目の手榴弾が、兵士たちの体を再び打ち上げる。
つづけて噴水の柱から銃身を出し、その物陰から機関銃を放った。射撃を受けた一番近い兵士がぶっ倒れた。
122 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/31(日) 20:51:21.40 ID:gETuFYK90
ほむらは噴水から移動し、機関銃をひたすら放ちながら基地の中心部の建物へと向かった。
が、あまりに敵の放つ機関銃の弾幕が激しいので、途中で花壇に身を伏せて隠れた。
隠れた花壇からまた手榴弾を投げつける。手榴弾の爆発と同時に兵士の体が吹き飛び、宙返りした。
兵士達も伏せた態勢で応戦してくる。機関銃を手に匍匐全身で進む兵士もいる。
ほむらは花壇を片足ずつ跨り、乗り越えると、再び移動を開始した。
ミニミ短機関銃が弾切れになってしまったので、ほむらは”買い物”で買い揃えたUzi機関銃に武器を持ち換えると、
片手でそれをあちこち発砲して兵士をなぎ倒しながら、敷地を徐々に移動する。
花壇の列に走ってきた兵士たち二人がそのUzi機関銃の餌食となり、二人とも倒れこんだ。
ほむらの攻撃が誰かの兵士に当たるたび、鈍い着弾音とうめき声が漏れる。
また別の兵士が銃弾を浴びて身をグラグラ揺らし、血飛沫をあげながら後方へくずれ落ちる。
ほむらはお気に入り武器であるデザートイーグルを軍服のポケットから取り出した。
両手に構えると体勢を低くして狙いを定める。
そして引き金を引き、兵士達を着実に撃ち殺していった。
被弾した兵士が派手にすっ転ぶ。
デザートイーグルの銃声が轟くたびに、兵士の体が崩れ落ちていく。
手にかかる反動をものともせず、ほむらは次々に引き金をひいて射撃する。
兵士も機関銃で狙撃してくる。ほむらはM500ショットガンに武器を持ち替えると発砲し、その兵士を吹き飛ばした。
凄まじい銃声を轟かせ放たれた弾をモロに受けた兵士の身体が吹っ飛び、体中が血まみれになって倒れる。
ほむらは容赦なく何発も何発もショットガンをガンガン発砲した。
強力な散弾銃の攻撃は、一撃だけで兵士の何人もがふっ飛んでいく。
応戦する兵士の機関銃もほむらを狙いたてるが、ほむらは頭を低くしながら花壇の列を素早く移動すると、
ショットガンを次々に発砲していく。
火を噴く彼女の散弾銃が花壇の花を散らせる。
ほむらを狙いたてる兵士側の銃弾も激しく降り注ぎ、花壇の花を散り散りにしていったが、ほむらは急いで逃げると、
ショットガンをまた発砲して兵士を撃ち殺した。
相対する兵士へむけて横走りしながら狙いを定め、ショットガンの引き金を引いて発砲したほむらだったが、
初めてその攻撃が標的を外し、撃ち損じた。
123 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/31(日) 20:53:44.65 ID:gETuFYK90
それが敵にチャンスを与えてしまった。
この一瞬の間において、兵士がほむらめがけて手榴弾を投げつけたのだ。
「…くっ!」
ほむらの足元に手榴弾がポロっと落っこちる。すぐに離れようとしたほむらだったが、間に合わず敵の手榴弾の爆発を
もろに喰らってしまい、爆風を受けて体は宙へ舞い上がった。「…ふぐうっ!」
痛みに思わず声があがる。しかも、吹き飛ばされたときの衝撃で武器を手放してしまった。
ゴロンと地面に転げながら着地する。
無防備なったほむらを容赦なく兵士達の銃弾が炸裂して追い立てる。
負傷した足を引きずりながらほむらは、襲い掛かる銃弾の雨から逃げ、敵に背をむけながらそばにあった木の小屋の中に
入ると扉を閉め、身を隠した。
だが、その場しのぎにすぎなかった。
まさに、袋の中の鼠といっていいような四面楚歌の窮地にほむらは追い詰められた。
「う…うう……」
薄暗い小屋のなかに逃げ込んだほむらは、軍服を肩から脱ぎ降ろす。
傷口を確認してみると、さっきの手榴弾の攻撃で、足だけでなく右のわき腹も負傷していた。
ほむらはその腹の出血部分を手に押さえ、苦しそうな顔をすると、何とかこの窮地を打開する方法を探る。
小屋はどうやら農具を収めるための倉庫のようだ。クワやホーク、斧などの農具が壁に飾られている。
山の麓にある基地だから、近くに畑でもあるのだろう。
124 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/31(日) 20:55:50.29 ID:gETuFYK90
そのとき外では。
ほむらの逃げ込んだ小屋をすっかり包囲した兵士たちが、みな機関銃を構えていた。
「よし撃て!」
兵士の一人が指示し、兵士たちの機関銃が一斉に火を噴く。みるみるうちにほむらの隠れた小屋は
スバズバと穴だらけになってゆく。
その集中砲火が何秒間かずっと続いた。
「撃ち方やめ!」
小屋がボロボロの蜂の巣にされると、やめの合図が入った。
通常、これだけの銃弾を浴びて小屋の中の人間が生存していることなど到底考えられないが、
それでも確認は必要だった。
「見て来いカルロ」
兵士の一人が指示する。名指しされた兵士がコクリと頷くと、銃を構えたまま、ゆっくりと小屋へ進んでいった。
さっきまでの激しい戦火の音が嘘のように静まり返り、遠くで鳥のさえずる声さえ聞こえるほどだった。
兵士は穴だらけの小屋の扉をそっと開ける。
中は静かで、少女の姿らしきものも見たあらない。
が、そう思えた瞬間、天井の梁に隠れていたほむらの伸ばした農具のフォークが兵士の胸を一突きにし、
兵士は脆くもその場に倒れた。
ほむらが天井の梁を支えにして、ブランコのように降り立ってきた。
農具の道具に取り付ける円形の刃物をまるでフリスビーのように投げ飛ばし、窓から顔を覗かせた兵士に投げつける。
一つは兵士の頭に当たり、ほむらは、もう一枚さらに刃物をなげつける。
回転しながら飛んだ刃物が別の兵士の首元に突き刺ささる。血だらけになった兵士は苦しみもがいた。
さらにほむらは、小屋からクワと鎌、斧などを手に取り出す。怒れる巨人の如く小屋から外へ出向く。
迫り来る兵士の足にクワを突き立て、さらに銃を持った兵士の腕を掴まえ、斧を振るうと兵士の腕をバッサリ切断する。
腕を切られた兵士が絶叫をあげ、激痛に顔をゆがめて倒れこんだ。
ほむらは小屋を脱出し、死体になった兵士の手から機関銃M60E3を拾い上げると、周囲の兵士達にむけて一挙に掃射する。
銃弾を浴びて兵士たちはバタバタ崩れ落ちていく。
暁美ほむらという、一人の少女の暴走を食い止めるため、基地内では、さらなる部隊が要請を受けて出動していた。
兵士達の部隊が列をなして基地を駆け走り、増援へむかう。
「二手に分かれろ!」先頭にたった兵士が部隊に指示する。「油断するな!」
その指示を受けて、部隊は右と左の二方向に分かれて、階段を駆け降り、ほむらとの戦いに出向いていく。
125 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/31(日) 20:58:54.13 ID:gETuFYK90
38
巴マミは、駐屯基地の地下への階段をくだりながら、地上で轟き渡る苛烈な銃撃戦の音を天井から聞いていた。
どんなに激しい戦闘か、地下の壁まで時折伝わってくる微々たる振動だけでも、十分に分かる。
それがマミをワクワクさせる。思わず、独り言を呟いてしまうほどだった。
「暁美さんったら、いつになく派手ねえ…」
決着をつけたい気持ちに駆られるが、しかしやるべき仕事が先だ。
まどかが逃げ込んだこの地下空間は、熱と蒸気をつくるためのボイラー施設が広がっている。
本来関係者しか足を踏み入れないこの領域は、電灯も少なく、暗い。
通路に吊るされた古めかしいランプだけが灯かりだ。
なるほど鹿目まどかは身を隠すにはもってこいの場所を選び、逃げ込んだわけだ。
マミはソウルジェムを翳すと、闇の地下空間を照らした。黄色に煌いた魂の光がポッと灯る。
その光を頼りにしながら、マミはボイラー施設の階段をくだった。
暗がりに灯ったその明かりを。
恐怖の目で見つめていた少女が、パイプの影で息を殺していた。
126 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/07/31(日) 21:00:58.27 ID:gETuFYK90
39
「まいったぁ、またったァ!魔法少女狩りの私も呆れる魔法少女ぶりだ!」
顔をしかめて、基地の屋上から見下ろしながら、呉キリカが毒づいた。「新記録だ、うん!」
「あの役ただずらめ…」織莉子が相変わらずの剣幕で兵士達を見下ろしていた。
「ホント、ただのカカシだね。いいえて妙だよ」
「…」
暁美ほむらの、機関銃を撃ちまくる姿は、織莉子に前回の世界の敗北を思い起こさせる。
脳裏に焼きついた、忘れられない悔しさ。
全世界の因果をまどかに束ねていったほむらに全力でぶつかりにいった織莉子は、
次の世界ではその因果律に巻き込まれ、以前より強力な予知能力を得た。
そしてその予知能力の派生で……織莉子は自分自身の異なる時間軸の未来と結末さえ、知った。
今の世界が、……最後の意地で殺してみせたまどかに次ぐほむらの巻き返した時間の世界であることを、
知っていた。
織莉子は、前回の時間軸での敗北の復讐に。
暁美ほむらは、前回の時間軸でのまどかが殺されてしまったそのやり直しに。
互いに納得のいく終わり方にならなかった二人が、この時間軸で再戦を果たそうとしている。
「いくわよキリカ」織莉子が告げ、氷のごとく冷たい瞳に復讐心を燃やしながら、再び移動をはじめた。
もうキリカに一切の傷をつけさせるつもりも、なかった。
127 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/07/31(日) 21:44:20.97 ID:+SDvp7c9o
C
128 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/02(火) 01:39:20.94 ID:ZPHqSHvRo
ほむぅ?
129 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/08/02(火) 21:53:56.99 ID:QNB9CMRr0
もうじきラスト。
投下はじめます
130 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/08/02(火) 21:55:52.69 ID:QNB9CMRr0
40
出動した部隊が掛け声をあげながら基地内を駆け走る。
何十人という兵士達が戦いに参加し、階段をくだって、ほむらの撃退に向かっていく。
小屋での死闘を戦い抜いたほむらは、さらに基地の中心部に近づいた。
しかし兵士の抵抗も必死で、銃弾が雨あられと降り注ぐ。
その多量の銃弾をほむらは掻い潜って、身を投げ出して地面に伏せた。その頭上を銃弾が何発かかすめる。
兵士が次から次へと現れ、ほむらを包囲していく。
身を突っ伏し、花壇の下に隠れたほむらは、体を起こすと、M60E3機関銃の弾倉のベルトリンクを肩に掛け、
一気に反撃にでる。
ベルト装填タイプの機関銃が火を噴き、最初の標的にされた兵士が、猛烈な銃弾を浴びて、花壇へもたれかかった。
その隣の兵士が銃弾の巻き添えをくらってひっくり返る。
ほむらを包囲するように兵士達は、懸命に機関銃を撃ち放って交戦していたが、ほむらの反撃があまりに強烈だった。
弾倉ベルトを手に持って機関銃を掃射していくほむらは、銃口をあらゆる方向へまんべんなく発砲し、
銃弾を浴びせかけてゆく。そして兵士たちは仰け反り、ひっくり返り、跳ね飛び、血まみれになって倒れる。
ほむらは顔色一つ変えずに機関銃を掃射し続ける。その姿は銃火器と一体化した鬼神だ。
手元で振動する機関銃が、空になった弾倉を無数に吐き出す。
ほむらの攻撃はとどまることを知らない。
花壇に沿って横移動しながら機関銃を撃ち続け、順に兵士たちを倒していく。
被弾した兵士がクルリと身を回しながらパタンと倒れた。
131 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/08/02(火) 21:58:05.47 ID:QNB9CMRr0
花壇の花ごと吹き飛ばしながら、相対する兵士たちを一人また一人と撃ち殺してしまう。
恐るべき命中率だ。
基地の屋上から自分を狙ってくる兵士もいたので、ほむらは銃口を上にむけてその兵士も残らず仕留めた。
被弾した兵士が悲鳴をあげ、バランスを失いつつ屋根から転落する。「あぁぁう!」
だが、多勢に無勢なこの戦況、敵は多い。
まだまだ増援に駆けつけて来る多量の兵士たちが階段を降りてくるので、ほむらはその階段めがけて徹底的に
機関銃を発射する。
バタバタと兵士たちは銃弾を浴びて階段を降りる途中で倒れていく。
その叫び声が何人もの兵士達たちからあがる。「うぁぁあ!」
いまや兵士たちにとって、ほむらに銃口をむけられることは即ち死を意味していた。
勇敢に挑んでいった兵士たちも、さすがに怖気づきはじめ、動きに鈍さが見受けられだした。
それでもほむらは容赦しない。
機関銃をぶっ放しながら横走り、自分の体の移動で銃口を兵士たちに合わせていった。
ほむらの正面に居合わせた兵士たちが、その銃弾に当たって死んでいく。
倒れこんだ兵士が体を噴水の水溜りに落とした。
包囲する兵士たちを一人残らず撃ち落とし、ようやく部隊の防衛線を突破したほむらは、さらに基地の
中心部へと接近し、部隊がくだってきた階段を逆に登りつめ、進入を試みた。
それを防ごうと基地の上からほむらめがけて発砲してくる兵士もいたので、
ほむらはすかさず機関銃で撃ち殺した。
階段を駆け上がり、ほむらは、基地の二階へと到達する。
まだまだ自分を追い立てる敵の銃声と銃弾の飛ぶ音がやまないが、ほむらは基地に押し入る選択肢を優先した。
基地を防衛する兵士たちはかなり倒したが、肝心の敵・織莉子やキリカ、巴マミの姿は見当たらない。
急がなければ、まどかの命が危ない。
132 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/08/02(火) 22:04:50.83 ID:QNB9CMRr0
41
ほむらは基地の三階まで昇りつめた。
「いたぞー!」「追えー!」「逃がすなー!」
追撃し、階段をのぼってくる兵士もいたので、ほむらは振り返って機関銃を発射させると、兵士を射殺する。
兵士は銃弾を浴びて、階段を転げまわりながら下まで落ちた。「うぉぉお!」
三階の窓から、ほむらはいよいよ基地の内部に進入することに成功する。
手に機関銃を構えつつ、廊下を歩く。
「まどか!聞こえる?私よ!」
彼女の名前を呼びながら、ほむらは基地内の廊下を進んだ。
「まどか!いたら答えて?」
誰の返事もない。ほむらは機関銃を構えつつ歩き、廊下のドアを足で蹴ってこじ開けると、部屋の中を探す。
「まどか?いる?」
誰もいないことを確認すると、次に隣の部屋のドアを足で蹴って中を探す。「まどか?」
何度呼びかけても返事がなかったから、ほむらの声は誰にも届いていないと思った。
しかし実は、ほむらの声を聞きながら、そばでじっと気配を殺して隠れていた人物がいた。
それが魔法少女狩りの魔法少女・呉キリカだ。
廊下の曲がり角の先の壁に体を密着させ待ち伏せしている。
「まどか!」
キリカが待ち伏せる角の、一つ手前の扉をほむらが蹴ってあける。部屋の中に入るが、ここにも誰もいない。
「まどか?いないの?」
(さあ……パーティーでもはじめようか!うん!)
鉤爪をのばし、息を潜めてキリカが構えを取る。五秒もしない内に勝負はつくだろう。
(殺してやる…!)
さすがに心臓が早鐘を打ちはじめる。
それを知らずにほむらがとうとう角を曲がってきた。
133 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/08/02(火) 22:07:43.62 ID:QNB9CMRr0
「残念!まどかだと思ったか!?」キリカの鉤爪が振り上げられる。「私だよ!」
ほむらの機関銃がすぐに切り返し、銃口が火を噴いて無数の弾丸を放った。
「うわあああ!」
モロに喰らい、か細い少女の体は炸裂する銃弾を受けていとも容易く吹っ飛んだ。
吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。それでもほむらは容赦なく前進しながら機関銃を連射し続けた。
放たれた銃弾がキリカを貫くたび、血痕が壁にこびれつく。
「うう…」
その衝撃がやんだと時には、その魔法少女はすでに絶命していた。壁には、無数の血の跡が残った。
「この続きはまた次の時間軸でね」
ほむらは死体にそういい残し、その廊下を後にした。
残る敵対する魔法少女は、これであと二人だ。
134 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/08/02(火) 22:11:45.36 ID:QNB9CMRr0
42
その階下のフロアでは、相方キリカの悲鳴を聞いた織莉子が、目に怒りを滾られて機関銃を手に構え、
基地内を移動していた。
(キリカはやられてしまったの…?)
カチャ!っと、織莉子はAUGアサルトライフルの遊底を引き、弾薬を詰め込む。
排除しなければ。あの女を。
ほむらは再び廊下から外にでた。
三階のベランダから敷地を見下ろすと、兵士たち二人が下で話し合っているのが見える。
「おい、見つけたか?」
一人の兵士が言う。
「いや、影も形もない」
もう一人の兵士が答える。
「あのアマ、どこにいきやがった」
ほむらはベランダの手すりを乗り越えると、三階から兵士たちめがけて一気に飛び降りた。
落下しつつ、下の兵士達二人に上から覆いかぶさるようにして襲い掛かる。
突然降ってきた少女の衝撃で兵士たち二人がバランスを崩して倒れこんだ。一人はなんとか立ち上がると
抵抗を試みたが、ほむらは銃身を振るうと兵士の頬を殴りつけ、気絶させた。
こうして僅かに残った兵士の生き残りも片付けたほむらだったが。
そのほむらを狙った織莉子のAUGアサルトライフルが突如発砲された。廊下の窓から狙った攻撃だった。
ほむらは反射的に身を伏せると降り注ぐ銃弾を掻い潜る。
地面に伏せたまま、目を細めて片手で機関銃を振り上げると発砲し、織莉子に反撃する。
ほむらの飛ばす銃弾がガラス窓というガラス窓をバラバラに撃ち崩していく。
とっさに窓から身を退けた織莉子は、弾け飛ぶガラス破片を見ながら、銃弾の破壊力の恐怖を味わった。
因縁の宿敵同士がついに時空を越えて再び相対し、ぶつかったのだ。
135 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/08/02(火) 22:16:21.23 ID:QNB9CMRr0
織莉子はまた窓から身を出すと、ほむらを殺すべく機関銃を乱射する。ほむらも反応して
M60E3機関銃をぶっ放し、反撃してくる。
こうして二人の魔法少女は激しい銃撃戦へと突入していく。
ほむらは身を起こすと、耳元をかすめる銃弾の雨をくぐりながら、M603EとM500散弾銃を両手に持ち合わせ、
一気に移動し織莉子との距離をつめていく。
撃ち合いながら、身を低くして移動すると建物の壁際に置かれた石像の物陰に隠れた。
石像から顔をだし、機関銃を撃つと織莉子との銃撃戦をまじえる。
そして徐々に、織莉子へつめ寄っていく。
接近された織莉子は不利を判断したのか、機を見計らって一気にほむらに背をむけて一目散に廊下を逃げ去った。
ほむらの機関銃がそれをすかさず追撃する。ズドドドドと連射音が轟き、すると、織莉子が走る廊下のガラス窓が
水平線を描くが如くの勢いで次から次へとバラバラに割れていった。おびただしい数のガラス破片が周囲に飛び散った。
「逃がさないわ」
ほむらは言い、弾切れになったM60E3機関銃をポイと投げ捨てると、両手にM500散弾銃を構えて、走り出す。
「ふぅお!」
体当たりでガラスをかち割ると廊下の中へ飛び込む。着地と同時にクルリと前転し、素早く物陰に身を忍びいれる。
廊下に飛び込んできた彼女を織莉子の機関銃が狙いたてたが、捉え損ねた。
カモフラージュを塗った、汗だくになったほむらの顔が物陰から覗かせるや、肩に構え持った12ケージの
散弾銃が凄まじい轟音をたてて発砲される。
織莉子も負けじと機関銃を乱射する。
ほむらの散弾銃が怒涛の勢いで射撃を繰り出してくる。続けざまに轟音が何度も廊下に響き渡り、
織莉子の隠れる壁がどんどん砕け散っていくのにたまらず恐怖を感じた織莉子は、さらに逃げ惑った。
136 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/08/02(火) 22:22:02.03 ID:QNB9CMRr0
そのあとをほむらが追いかける。二人の駆ける足音だけがする。
織莉子は廊下から広場にでた。二階へ階段をのぼると、有利な立ち居地を確保する。すると織莉子は、
二階の柱に身を隠しつつ機関銃を撃ち放ってほむらを斥けようと排撃する。
ほむらが広場に追いついた。織莉子の機関銃の銃声がし、銃弾が壁を打った。ほむらは一端奥に退いた。
その銃声がやむと、ほむらは壁から身を乗り出して散弾銃を打ち鳴らす。織莉子が撃ち返してきた。
ほむらは壁に身をまた潜める。床に銃弾が突き刺さる。
この繰り返しで、織莉子とほむらの撃ち合いの応酬がしばらく続いた。
ほむらが壁から身を出して、散弾銃を発砲する。織莉子が柱の物陰に隠れる。織莉子が二階の柱から身を出して、
機関銃を発射する。ほむらが壁に身を隠す。
そんなやり取りが続いた。
「もう何度繰り返してくるの?」
散弾銃をぶっ放しながら、ほむらが言った。
「もう何度繰り返すつもり?」
機関銃を撃ちながら織莉子が言い返してきた。
この撃ち合いがしばらく続くかに思うかに思われたが、ほむらは勝負にでた。
広場へ一気に飛びだす。すかさず織莉子のAUG機関銃が弾を放ち、ほむらを狙いたてるが、
床を転がって素早く回避するほむらを撃ち損なう。
それが命取りになった。
一回転ころがりながら身を起こしたほむらの散弾銃が正確に織莉子の胸元を捉えた。銃声が轟き渡る。
散弾銃をまともに喰らった織莉子の体が衝撃に仰け反り、白い魔法少女の衣装に赤い華が乱れ咲いた。
「うう…」
苦痛の呻き声が漏れ、ダメージを受けた織莉子の手から機関銃がこぼれ落ちる。
その織莉子むけて、ほむらは二度三度、引き金をひいて追撃を加えていった。
12ケージ散弾銃が火を噴くたび、凄まじい閃光が迸る。何度も発砲されるたび、織莉子の血の斑点が増す。
織莉子は打撃のあまりに両手を振りあげてよろけた。
するとほむらはトドメの一撃を刺すべく、散弾銃の引き金をさらにもう一度引いた。
「うああああ!!」
最後の散弾銃の砲撃を喰らって織莉子は、吹き飛ばされてガラス窓をつき破り、ガラス破片と一緒に外へ落下していった。
それがこの時間軸での、魔法少女・美国織莉子の最期の散り様だった。
暁美ほむらを除く、全ての魔法少女を味方につけ、軍隊までも掌握した彼女の二度目の敗北の姿だった。
「自分の生きる意味、来世がくるまでじっくり考え直してなさい」
ほむらはカモフラージュを塗った顔で織莉子の転落を眺めていたが、そうもしてる場合じゃない現実に戻った。
137 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/08/02(火) 22:24:16.91 ID:QNB9CMRr0
「…ほむらちゃん!」
自分を呼ぶまどかの声が聞こえたからだ。地下からだった。
「まどか!?」
とっさにほむらは、声の聞こえた地下へと急ぎ、螺旋状の階段をくだった。
(まどかは生きている!)
ショットガンを握り締めたまま階段を駆け下りる。
ほむらの心に安堵が押し寄せたが、まだ油断はできない状況であることは忘れなかった。
黒幕は倒したものの、まだ、巴マミが残っている。
最後に一人。
138 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/08/02(火) 22:25:14.56 ID:QNB9CMRr0
「…ほむらちゃん!」
自分を呼ぶまどかの声が聞こえたからだ。地下からだった。
「まどか!?」
とっさにほむらは、声の聞こえた地下へと急ぎ、螺旋状の階段をくだった。
(まどかは生きている!)
ショットガンを握り締めたまま階段を駆け下りる。
ほむらの心に安堵が押し寄せたが、まだ油断はできない状況であることは忘れなかった。
黒幕は倒したものの、まだ、巴マミが残っている。
最後に一人。
139 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/08/02(火) 22:31:50.71 ID:QNB9CMRr0
43
圧倒的な逆境、苦難、無理難題を乗り越えて、ほむらはついにここまで行き着いた。
たった半日での出来事だったが、思えば今までの時間軸で一番ハードだった気がする。
だが、そのゴールも近い。
(今度こそこの旅は終わるの…?)
武装姿のほむらが、ふと心で考える。諦めにもちかかった、ほのかな期待が心に沸き立ってくる。
「ほむらちゃん…!」
まどかの声を聞きつけて、ほむらは基地の地下空間──ボイラー施設に踏み込む。
まどかの声が、ほむらにとっての希望になる。
「まどか!私よ!」
地下通路を進みながら、ほむらはまどかを探す。「どこなの?」
急に返事がなくなった。
ほむらはゆっくり声のした方向へ進み、まどかを呼び返す。「まどか?」
ボイラー施設の地下空間は暗く、互いの姿を確認しずらい。
それでいてパイプとボンベ、多量の廃棄物などが置かれた狭苦しい、息のつまるような地下だった。
「まどか?」
またも返事がない。まどかの声が、全く聞こえなくなってしまった。
にわかに不安が沸き起こる。
だが、それもそのはず、まどかは今、返事のできない状況に、今おいつめられていた。
したくても、声を発することが出来なかった。
ほむらの名前を呼んだ直後、マミが声をききつけてやってきたからだ。
物置部屋の廃棄物の裏に隠れたまどかは、両手で口を塞いで息を殺してしゃがみ込み、震えていた。
マミが物置部屋をキョロキョロあたりを見回し、あちこちに目を走らして自分を探している。
まどかは、ただマミがどこかへ去って欲しいと、心から祈った。
そして、祈りが通じたのか──。
マミは、ここにいないと判断したのか、物置部屋からいなくなり、どこかへ消えた。
一気に救われた気持ちになる。まどかが胸を撫で下ろした。
すると、さらに希望は大きくなった。
マミの代わりに、今度は物置部屋にほむらがやって来たのだ。
140 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/08/02(火) 22:34:41.20 ID:QNB9CMRr0
軍服に身を包み、カモフラージュを塗った顔で、汗だくになって、散弾銃を構えながら登場するという
戦士のようなほむらの姿に、まどかは驚いたが、自分のために、どれだけの戦火を乗り越えてきたのかと
思うと胸がいっぱいになった。
「ほ───!」むらちゃん!
ほむらを呼ぼうとしたまどかの声は、ほとんど声にならなかった。
突然、後ろから誰かに手で口を塞がれた。
「ん…!!んん…!」
恐怖に血走ったまどかの目が後を見返すと、巴マミと目が合った。
「ごめんなさいね。暁美さんでなくて…」
なだめるような猫なで声で、マミがまどかの耳元に小さく囁いた。「こっちに来なさい」
マミは物置を去るフリをして、密かにまどかの後ろに回り込んだのだった。
マスケットの銃口をつきつけられ、抵抗もできないまどかは、マミに連れられるまま地下室の廊下を歩かされ、
ボイラー施設の奥まで進まされた。
「まどか?」
一方ほむらはまどかを呼びながら、左右を見回しながら廊下を進む。
先回りしたマミは、近づいてくるほむらの足音に耳を澄ませ、マスケットの銃口を通路に向けてタイミングを計っていた。
「まどか!」
ほむらの足音がすぐそこまでくる。
「ほむらちゃん!あぶない!」
やっとマミの手を振りはらってまどかが叫んだ。
が、手遅れだった。
はっとこちらに気づいたほむらの右肩を、巴マミのマスケットから放たれた魔弾が貫いたのだ。
「ううっ…!」
撃たれた右肩を手に押さえ、ほむらは倒れ込むようにして壁の向こうへ身を隠した。
「きゃああっ!」まどかの悲痛な叫びがあがる。
それとは反対に巴マミは、ニヤっと嬉しそうな笑みをみせた。
141 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/08/02(火) 22:37:05.54 ID:QNB9CMRr0
44
一転、窮地に追いやられるほむら。
マスケットの弾に貫かれた右肩を押さえながらほむらは、自分の体をずらすようにして
壁の向こうへ隠れた。
右手をやられ、銃を扱えなくなった上、まどかを捕らえているマミに、対抗する手立てもない。
「暁美さん?腕の調子は?」
楽しそうなマミの声がした。
「こっちに来て確かめたら!」
出血する肩を押さえながらほむらが壁から言い返す。
「いいえ、結構よ。遠慮させていただくわ」
だが、マミは動こうとはしない。マスケットの銃口をほむらの隠れた壁へむけたまま、語りかける。
「暁美さん?顔出してみなさいよ」
勝ち誇ったマミの声がほむらに呼びかける。
「一発で、ソウルジェムぶち抜いてあげる。古い付き合いじゃない?苦しませたくはないわ」
マミの腕に捕われたまどかが、目に涙を浮かべていた。
「巴マミ!まどかは関係ないでょう!はなしてあげなさい!」
壁の向こうからほむらが叫んだ。「目的は私でしょう!」
すると、ウフフフ!というマミの高笑いが聞こえた。
「右手をやられたわ!アナタでも勝てる!」ほむらが言う。
するとその瞬間、マミの顔から勝ち誇った得意げな笑みが消え、真顔になった。
(私でも勝てるですって…?)
142 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/08/02(火) 22:40:55.14 ID:QNB9CMRr0
「巴マミ」
ほむらが壁から出てきた。負傷した右肩から血を滴らせながら、ほむらは丸腰の状態でゆっくりと、
マミの前に姿を見せ、立ち上がる。
「そんな銃なんか捨てて、かかってきないよ」
痛む肩を左手で押さえ、身体を震わせながら、ほむらは前に出る。
マスケットの銃口がまっくず自分にむけられるが、怖気づかないで、けしかける。黒髪がゆれた。
「楽に私を殺してもつまらないでしょう」
マミも真顔そのものの表情でほむらを見返す。
「ナイフを突き立て…」
ほむらは手に軍用ナイフを取り出す。ギラっと、翳したナイフが光を反射する。
「目障りな私を、圧倒的な力差を見せつけて華麗に打ちのめすのが望みなのでしょう」
まっすぐ巴マミの目を見つめ、言葉で煽る。「そうでなくて?巴マミ…!」
「……アナタを殺してあげるわ……」
マスケット銃を握り締めながらマミが静かに告げたが、鼻息は荒くなっていた。
「さあ、まどかを離して!一対一よ!楽しみをフイにしたくはないでしょう」
ほむらはさらに言葉で畳み掛ける。
「さあ勝負よ巴マミ。舞踏会、始めましょう?」
最後にはバカにしたように口で小さく笑う。「ひょっとして、…怖いの?」
「……殺してあげるわ……」
鼻息を荒くしたマミが、目の色を変えながら言った。
「鹿目さんなんて必要ない…ンッフフフフ…!鹿目さんにもう用はないわ!」
そう啖呵を切り、まどかを放り捨てる。
「いやぁ!」まどかが悲鳴をあげて床にすっ転ぶ。
「…」その様子を、ほむらはただじっと紫の瞳で見届けている。
「ンッフフフフ!」
マミが高らかな笑い声をあげる。
興奮した目つきで汗を流しながら、喋った。
「もう魔法だって必要ないわ……ンフフフ!……誰がアンタなんか……!アンタなんか誰か怖いものですか!」
そう言うとマミは、勢いよくマスケットをどこかへ放り投げた。
「もう何も怖かねぇ!」
目を限界までひん剥いた形相をして、発狂したように泣き叫びながらマミが両手にナイフを取り出すと、
一気にほむらに襲い掛かっていった。
「アンタなんかぶっ殺しゃあああああああ!!!!」
143 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/08/02(火) 22:43:35.39 ID:QNB9CMRr0
次回、ラスト投下になる予定
144 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/08/02(火) 22:44:16.25 ID:sYaZlGyEo
乙
やはりマミさんは豆腐メンタルか…
145 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/08/02(火) 22:44:35.76 ID:m+6GOtaao
お、乙……
魔法って何だったんだろう
146 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(静岡県)
[sage]:2011/08/02(火) 22:53:18.41 ID:77c+ASKbo
これがほんとのホマンドー
147 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/02(火) 23:05:59.67 ID:Jw8/auw2o
乙
重要人物もあっけなく死ぬさ、ホマンドーだもの
148 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/08/03(水) 00:32:48.53 ID:nbiGia4do
http://i.imgur.com/HEv6V.jpg
149 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/08/04(木) 22:08:47.73 ID:4dlCoGwV0
45
暁美ほむら対巴マミ。
それがこの時間軸の大団円。最終対決だ。
ほむらにとって初めての巴マミとの出会いは、魔女に襲われたときに、命を救われたのが、その最初だった。
そしてほむらも魔法少女になり、先輩ともいえた巴マミに戦い方を教わりながら、経験を積んで、
ほむらは、今に及んでいる。
それが今こうして対決することになるとは、何たる悲運の先にある、師弟対決か。
雄たけびをあげながら一気に迫ってきたマミは、ナイフを振りかざし、切りかかってくる。
ナイフが振られるたび、空を裂く音を鳴らす。ほむらは身を退けながら、それを紙一重でかわしていく。
二人の魔法少女のナイフ対決を、まどかが壁際に身を寄せて不安そうに見つめている。
歯を食いしばって力を込めたほむらのナイフが、マミの顔めがけて一気に振られた。
とっさに頭を低くしてかわしたマミが、ほむらの喉元めがけてナイフを突き立てる。
ほむらが身を退かせてかろうじでよける。が、一瞬だけ体勢がよろける。
そこをマミのナイフが追いたて、さらにナイフで切りかかるが、ほむらは素早く身を引くと、それもどうにかかわした。
その動きに合わせて長い髪が靡いた。
二人の戦いは互角だ。
互いに距離を取り合いながら、攻撃の機をうかがっている。
150 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/08/04(木) 22:12:18.69 ID:4dlCoGwV0
ほむらは真剣そのものの顔つきでマミと対峙していたが、マミはそれとは反対で余裕そうに舌をだして唇をなめずさり、
挑発するように空いた手の指をリズミカルに動かしている。
マミが先に仕掛けた。ほむらの顔に切ってかかる。
ほむらは横に身を逸らせてかわし、反撃にでる。ナイフを水平に振り切ったが、その下を掻い潜った
マミのナイフがほむらのわき腹を切り刻んだ。
肉を裂く鋭い音が鳴り響く。
「ほむらちゃん!」まどかが悲痛の声をあげた。
「ぐっ…」苦痛にほむらが顔をしかめる。裂かれた腹からの出血を手で押さえる。
そのほむらの苦しげな表情を見ながら、楽しそうにマミが笑った。
「ンッフフフフ!どうしたの暁美さん?腕なまったんじゃない?」
上気した口調で話しかけ、体勢を低くしてまたナイフを構える。
「貴女なんて所詮、ベテランの私からしてみれば甘ちゃんなのよ。私に勝てるとでも思った?」
ほむらは無言でマミを睨みつける。
「気にいらないわね!」マミはいい、再びナイフで襲い掛かった。「いぇぇあ!」
ほむらはナイフをよけ、自分のナイフを水平に振り切る。
マミが屈んでそれをかわす。さっきと同じ要領でわき腹を狙ったマミだったが、予知されていたかのように
その手をほむらのナイフが先に切り裂いた。
プシャァっと、マミの手首から血が噴出する。
「ふううっ!」
たまらずマミが身を引いて距離をとる。うめき声をあげながら右手の出血部分を押さえる。
「ぐううう……!」獣の唸るような声をだしながら、痛みを味わう。
退くマミを、ほむらは一歩一歩追い詰つめていくようににじり寄る。
それを追い払うように、マミが排撃にでた。「うああ!」雄たけびをあげてナイフを振りかざす。
ほむらの喉元をかすめる。顎をひいてほむらはギリギリでかわす。
151 :
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[saga]:2011/08/04(木) 22:16:05.09 ID:4dlCoGwV0
マミかがさらにナイフを振りあげ、攻めかかってきたので、ほむらはそのマミの腕を掴んでとめた。
が、その拍子に空いてるほうの手でマミに首を絞められた。
首を掴まれたままほむらは壁に押しやられ、呼吸のままならぬままの応戦を強いられた。
マミのナイフがほむらの顔面に迫ってくる。
ほむらは懸命にマミのナイフを押し返そうとする。
が、徐々に力負けして、ほむらの顔面にナイフの刃先が近づいてきた。
刃先がほむらの鼻先にくる。
「ぬ゛ヴヴ!」
あと一押しだ。マミは顔を真っ赤にして力を出し尽くし、押し切ろうとする。力むマミの目が見開く。
「ぐぅぅぅ…!」
ついにナイフの刃先がほむらの顔を切ったと思われた瞬間、ほむらは一気に腕の力を全面に
押し出してマミを弾き返した。
「びぃふ!」
勢いあまって奥の扉を突き抜け、二人はボイラー施設の階下まで落下する。
太いパイプに身体をぶつけ、そして鉄網の床に転落した二人は互いの体を絡ませあい、上位の位置を競った。
まどかが慌てて追いかける。上の階の手すりから二人の戦いを見守る。
マミがほむらに覆いかぶさったが、ほむらに振り払われた。横に転げながらマミは、
金網の床に落ちていた鉄パイプを拾い上げると、ほむらに襲い掛かる。
ほむらにむかって、マミが力いっぱいパイプを横に振り切る。ほむらが屈んでそれをよける。
頭をあげたほむらがマミの顔を殴りつける。「へぃっ!」
「ぐっ!」
マミの首の向きがねじれ、向こう側に身体がよれた。が、すぐ態勢を立て直す。
ほむらは身構えてマミと睨みあった。マミが先手をかけてきた。
「うごぅ!」マミの足がほむらの顔面を蹴り上げる。ほむらの顎がうわ向き、一瞬ふらつく。
殴りあい蹴りあいの肉弾戦へ突入した二人の魔法少女が、しのぎを削る死闘を繰り広げる。
152 :
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[saga]:2011/08/04(木) 22:20:43.71 ID:4dlCoGwV0
ほむらは軍服の姿だが、マミは魔法少女の姿で、ほむらとの戦闘を展開する。
マミがほむらに殴りかかってきた。
ほむらが反応してその腕をおさえ、掴みかかるとグルリと回し、マミはぐるんと引っ張られて床に転倒した。
が、マミは転げながらも、横にあった焼却炉の鉄の蓋をこじ開け、その蓋をほむらの顔面に直撃させる。
「うぶ!」分厚い鉄蓋に激突したほむらも派手にすっ転ぶ。
するとマミは焼却炉の鉄蓋を取り外し、両手に持ちあげた。倒れたほむらめがけて思い切り叩き落とす。
ほむらが横に身を回してかわす。落ちた鉄蓋が床を打ち、ガシャンと甲高い音が鳴り渡った。
蓋の外された焼却炉は、今も中で炎を赤く燃やしていた。そのごうごうと燃える炎の音がするなかで、
二人の魔法少女は闘いつづける。
マミはまた鉄パイプを拾いあげた。それを握って、床に転がるほむらの体へ打ち落とす。
鉄パイプがほむらの背中を打ちつける。打撃にほむらの喘ぎ声が漏れる。「うっ!」口に血がにじみ出る。「ぐう…!」
「ほ……ほむらちゃん……!」
上から見守っていたまどかは、痛めつけられるほむらの姿を見るほどに、心の張り裂けそうな気持ちになった。
容赦なくマミは鉄パイプを何度も振り落とす。その度にほむらから声が漏れる。
「うう!」本能的に身を護ろうと背中が丸くなってしまう。それが余計にマミに隙を与える。
「うぐぁぅ…!」鉄パイプを背中にもろに受けたほむらがまた血を吐く。
起き上がろうにも起き上がれない。
ほむらはマミの落とした鉄蓋を拾い上げると盾代わりに使い、なんとか猛威を振るう攻撃から身を守ろうとする。
鉄パイプが鉄蓋をうち、防御に成功するときもあった。が、多くの場合功をなさず、
ほむらは鉄パイプの攻撃をまた体に受けた。
繰り返し繰り返しマミの鉄パイプが振り落とされ続ける。が、ほむらもついに反撃にでる。
マミの足元を強くけりつける。バランスをくずしてよろけたマミが壁のパイプに横顔を打ちつける。
パイプがへこんだ。
153 :
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[saga]:2011/08/04(木) 22:24:05.87 ID:4dlCoGwV0
劣勢から脱したほむらは、立ち上がるとマミの腕に組みかかり、関節技で締め上げる。
ギシっと肩の関節が音を上げて、マミの顔が苦痛に歪んだ。「ぁあぅぅ!」
悲鳴をあげたマミをほむらは無理やり燃え盛る焼却炉の炎へ連れ込み、マミを投入口の炎へ晒した。
マミは炎に焼かれそうになったが、しかしマミは抵抗し、力ずくで二人の位置をクルリと逆転させる。
するとほむらが炎に晒される番になった。
マミに顎をつままれる。そのまま焼却炉の投入口の炎に顔を押し込まれそうになる。
奥で燃え盛る炎が、ほむらの顔を赤く照らし出す。ごうごうと燃える炎が迫る。
マミは腕に全霊の力を注ぎ、歯をギシギシ食いしばりながら、ほむらを焼却炉の炎へ押し込もうとする。
ほむらも懸命に抵抗し続ける。顎をつままれ、変顔状態のほむらが目を見開いて力む。
力と力の押し合いは、一進一退の展開を極めた。
ほむらの頬が炎に接触しかけた。
が、そのすんでのところで切り替えしたほむらとマミの位置がまた入れ替わる。
今度はマミが炎の前に立たされる。しかしすぐに脱出された。
こうして焼却炉の炎の前で互いの顔を掴み合い、いがみ合う二人だったが、ほむらがマミの顔に正面から
頭突きを喰らわせた。
「う!」
怯んだマミの顔をさらに拳で殴り飛ばす。「ぐっ!」口元を垂れる血が魔法少女の黄色の衣装を赤く染めていく。
と、殴られて、後ろへよろけていったマミの背中が、フェンスの電線に触れた。
次の瞬間、凄まじい電流がマミの身体を襲った。
「ああああああ!!」
目も眩むばかりの火花が電線から無数に飛び散り、感電するマミから断末魔の叫び声があがる。
バチバチと電流は流れ続け、マミの体に火をつけ、焦がした。「ああああああっっ!!!」
煙をあげて真っ白に燃えていくマミ。
その世にも恐ろしい光景を、まどかは上の階から恐怖の目で見下ろしていた。
154 :
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[saga]:2011/08/04(木) 22:28:45.06 ID:4dlCoGwV0
終わってしまうように見えたが、自力で電線から脱出したマミがほむらに殴りかかった。
油断したほむらはそれを腹にまともに喰らう。「うっ!」
全身が感電して深手を負ったように見えたマミだったが、それどころか、電流を受けてまるで力を取り戻したかのように
ほむらを追い詰めていく。
腹部を殴られ、動けなくなるほむらの顔を殴りつけ、さらに胸を打ち、今度は顔面に蹴りを入れる。
マミの近世風衣装のブーツが蹴りあげ、ほむらに打撃を与えていく。
今度はほむらの体を両手に掴み、鉄の壁に思い切りたたきつける。
「んあっ!」ほむらは顔から鉄の壁にぶつかり、血を流した。
「気分いいわ!」
そういいながら、マミは殴りたい放題にほむらのわき腹を後ろから殴った。
「うっ!」その度にほむらの苦悶の声が漏れる。歯の奥から血が滲み出る。
「こんな幸せな気持ちはじめて!」
マミの顔も血だらけだったが、愉快そうな顔つきだった。アドレナリンがですぎて痛感など
忘れているに違いない。
「昔の時間軸を思い出すわ!知らないけどね!」
ほむらはぎゅっと目を瞑り、歯を食い締めて、痛みに耐え続ける。
マミはそのほむらの肩に腕を振り落とし、ほむらを床に打ち落としてしまう。
「あぅ…」ほむらが床に手をついて苦しみ喘いだ。
それを見下ろすとマミが言った。
「弱虫でいじめられ子の暁美さん?これから死ぬ気分はどう?貴女はもうおしまいよ!」
そのマミの台詞が、ほむらの最後の怒りの導火線に火を点けた。
「ふざけるのも…!」血だらけのほむらの顔が、マミをギロっと見返し、睨みつける。「大概にしなさいよ!」
体を起こすと、怒りに任せてマミの顔を殴りつけ、腹部を殴り、アゴをなぐり、横顔を殴る。
「はぁ!」「ほぉ!」「るう!」マジギレ状態のほむらが雄たけびをあげながら、マミを次々に叩きのめしていく。
顔を殴り、平手うちし、手の甲で叩き、またアゴを殴り上げる。「てぇ!」「ふぇい!」「ふぉぅ!」
そのほむらの怒れる姿に、まどかはぎょっとして目を凝らしていた。
155 :
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[saga]:2011/08/04(木) 22:33:06.23 ID:4dlCoGwV0
あまりに激しい攻撃を受けたマミがボロボロになって、よろよろと床に崩れ落ちた。
意識も半ばで、気を失ってしまいそうだ。
深手を負いすぎたマミは、パニックに陥り、さっき自分が捨てたはずのマスケット銃をまた手に取り出した。
「んもおおおおおう!」マミが喚き立てる。「誰がソウルジェムなんて撃ってやるもんですか……!」
目に涙と、鼻血だらけの、半ば狂乱した顔で、マスケット銃を構え、泣き叫ぶ。「股間に弾を詰め込んであげる……!」
それを見るやほむらは、壁のパイプをもぎ取ると、手に持った。
パイプをまっすぐ、マミの銃が火を噴くよりも先に、投げつける。
パイプはマミの体にきれいに突き刺さり、貫通した。
「あうううう!」
鈍い悲鳴があがり、マミの口から血が湧き出た。
体をパイプに貫かれた彼女は、激痛に痛苦の表情を浮かべ、ずっと悶える声を漏らし続けていた。
「う…ううう………」
みると、マミの体を貫いたパイプは奥のボイラーに繋がり、マミに突きささったパイプからは、
蒸気が煙突のように噴出していた。
蒸気はパイプを通してマミの体から抜け出る。そして、マミの血の色を帯びた赤色の霧を振りまいた。
その蒸気の煙が抜け出る音だけが、決着のついた魔法少女の決戦の場に響き続けていた。
「それで魂に溜まった穢れも抜けるでしょう」
ほむらは言い、かつての先輩、巴マミに訣別の言葉を告げた。
「ほむらちゃん…!」
上の階から自分を呼ぶまどかの声を聞いて、ほむらがまどかを見上げた。
ほむらとの再会を、心から喜ぶような、まどかの笑顔が、ほむらを見つめていた。
156 :
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[saga]:2011/08/04(木) 22:35:52.92 ID:4dlCoGwV0
46
幾多もの苦難と、果てしない戦いの末、そして永遠なる迷路の旅の果てに。
ほむらはまどかを絶望の道から救いだした。
まどかを護る私になりたい─────。
そう祈った日のことが、もうずっと昔のことに思える。
「ほむらちゃん!」
まどかが駆けつけて来る。
「まどか!」
ほむらもまどかの少女のもとへ、駆けつける。
互いが互いに、抱きしめあう。「よかった……まどか…」
「ほむらちゃん…」
まどかも幸せそうにして微笑むと、ほむらの抱擁を受け入れ、抱き返した。
「ほむらちゃん…大丈夫?」
まどかは制服スカートのポケットからハンカチを取り出し、ほむらの顔の血を拭いてあげた。
「傷、私がみてあげるね。」
157 :
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[saga]:2011/08/04(木) 22:37:45.78 ID:4dlCoGwV0
無事に再開を果たした二人。
そして時の魔法少女・暁美ほむらは。
繰り返されたいつかの世界で、まどかと交わした約束を、ついに果たしたことと。
閉じ込められた迷路から解き放たれた自分を、今更ながら自覚していた。
それを思うと、とめどめなく目から涙が溢れてくる。
「ああ……うう…。まどか……。」
ただただ胸に溢れてくる、はちきれそうな想いを、ほむらはうまく言葉にできない。
「……まどか……」
だから、まるで母親に甘える子のように、ただまどかを抱きしめ、この喜びを顕す代わりにほむらは彼女の名前を
呼び続けた。
「まどか……まどかぁ……!」
魂を差し出してまで願った、私の希望、願いは、永遠にも思える時間の旅の末、終わった。
私は、もう迷わなくていい。迷路なんて、もう怖がる必要もない。
「まどかあ……!」
名前を呼び続け、涙を絶え間なく流してまどかを抱きしめ続ける。
まどかもまた、子をあやすように、ほむらの頭を撫でてあげた。
「ありがとう。ほむらちゃん……」
まどかは言った。
「私、ほむらちゃんのおかげで、助かったよ。本当にありがとう。ほむらちゃん。
ごめんね。私のために…こんなに傷だらけになって…」
「ううん。いいの」目に涙いっぱいのほむらが、答えた。「だって……あなたがいるんですもの……まどか」
158 :
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[saga]:2011/08/04(木) 22:38:59.98 ID:4dlCoGwV0
まどかの顔が、少しだけ赤らんだ。「ほむら、ちゃん……?」
でも、ほむらはそのことに、気づいていない。
ただただ胸にこみ上げ、あふれ出す想いをまどかにぶつけるだけだ。
「まどか…私はあなたさえいればいいの……あなたが好き……大好き……」
「ほ…ほむらちゃん…!?」
予想もしなかった言葉を聞いて、まどかの顔がさらに赤くなる。
恥ずかしいけれど、ほむらにがっしり抱きつかれて逃げることも叶わない。
「そんな…おおげさだよ…」
ほむらの腕に抱きとめられて、しかしまどかはどうしたらいいのか分からない。
「ううん……あなたが好きよ!」
ほむらはまどかを離し、両肩を優しくつかむと、正面からほむらは告げた。「貴女が好きなの…」
まどかの目が行き場に困っている。それでも、ほむらはまっすぐまどかを見つめ続ける。
「だから今日もずっと戦えた……貴女は私にとっての、全てだったから……」
「ええ…えっと……」まどかの顔は、もう沸騰しそうに赤い。「その…」何か言うたびに言葉につっかえる。
「まどか」思考回路がショートしかけているまどかを、ほむらは呼びとめる。「きいて」
「はっ…はいっ!」
なぜか礼儀正しく居直ると、硬直してほむらの言葉を待つまどか。まるで起立して命令を待つ兵隊みたいだ。
159 :
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[saga]:2011/08/04(木) 22:39:51.74 ID:4dlCoGwV0
「ずっと今までいえなかった……」
ほむらのきれいな紫の瞳が、まっすぐ正面からまどかの瞳を見つめる。
「何度も繰り返して何度も貴女と出会ってきたのに……一度も言えなかった…でも今なら」
不思議と、まどかも今ならほむらの目をまっすぐ見ていることができた。
「今なら言えるの。だから聞いてほしい。まどか……好き。貴女が」
「ありがとう…ほむらちゃん」
まどかは。ほむらに好きと告げられて、沸き立つような、幸せな気持ちに満たされていた。
そして、素直な自分の気持ちにきづいた。
「私も……ほむらちゃんこと、大好きだよ」
160 :
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(チベット自治区)
[saga]:2011/08/04(木) 22:42:30.90 ID:4dlCoGwV0
47
想いを伝え合った二人は、ボイラー施設の地下をでた。
外に戻ると、最後の戦場になった自衛隊駐屯地の戦跡は、凄惨そのものだったとか。
多量の地雷が爆発し、原型も留めていない基地の焼け跡。
その見渡す限りの一面に、見滝原の兵士の死体の山がバタバタと転がる。
倒壊した基地の建物の残骸は、まだ火が燃えている。くすぶる黒煙。
暁美ほむらの暴れまわった痕跡だったが、少女たちの頭からそのことは消えていた。
そんなメチャクチャな景色でさえ、二人の幸せな気持ちを邪魔するに値しない。
身を寄せ合いながら二人は、駐屯基地をあとにし、町へ戻ろうとした。
帰ろう。一緒に帰ろう。
そうまどかが告げ、ほむらも応じた。
ところが。
一人の男が、彼女ら二人の前に立ちはだかった。
みると、軍用ヘリが何台もプロペラを羽ばたかせながら降り立ってくる。ほむらたちの行く手を阻む
ように並んで着陸する。それぞれのヘリから武装した兵士が出てくる。「降りろ!」掛け声があがる。
ヘリのプロペラの巻き起こす風が、ほむらとまどか二人の髪を吹きつける。
「よーし、付近を調べろ」
再び掛け声がし、指示を受けて兵士たちが戦跡の調査にむかった。
二人の前に立ちはだかった男は、ほむらの武器庫の盗難で頭を悩ませていた、自衛隊将官の男だった。
ほむらと将官の目が合う。
沈黙の緊張が、二人の間に流れる。
161 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/08/04(木) 22:44:25.31 ID:4dlCoGwV0
不安そうに、まどかがほむらの背中に寄り添ってきた。
自衛隊将官の男は、ようやく突き止めた兵器泥棒の犯人の姿を、じっと無言で視察していたが、
しばらくすると、口を開いてきいた。「生き残った者は?」
ほむらは答えた。「いないわ」
「君を私の部下に迎えたい」将官はそう告げ、いきさつを話した。
はじめは盗難の犯人として、ほむらを恨んだ彼だったが、駐屯地に乗り込んでからの戦いぶりにほれ込み、
軍隊に迎えたいのだと。
そして軍隊に入ってくれるなら、今度からはお墨付きで武器をなんでも提供しよう、というのである。
「君さえ入ってくれれば」将官は言う。「世界を見返せるぞ」
しかし誘いを受けることは、ほむらがこれからも戦いに出向きつづける、ということを意味している。
それに気づいたまどかが、心細そうにほむらの腕を掴んで引き寄せる。
「生憎ですが…」
そのまどかの気持ちを汲み取ったのか、ほむらは告げた。「私が魔法少女なのも、今日が最後です」
嬉しそうにまどかが微笑んだ。
そうとも。
ほむらはもう、魔法少女になる必要もない。戦う必要もない。迷路から、解き放たれたのだから。
今日こそが、ほむらにとっての、魔法少女としての最後の日だ。
まどかを連れて、ほむらは将官の横を通り過ぎていく。
将官はどういうわけか笑顔で、その二人の背中をいつまでも見送っていた。
幸せな少女二人を、祝福しているのだろうか。
162 :
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(チベット自治区)
[saga]:2011/08/04(木) 22:47:21.63 ID:4dlCoGwV0
山の麓をあとにし、見滝原の町に戻ってくる。
すると二人の前に、こんどはキュゥべえが現れた。道端のベンチの席にちょこんと腰掛けている。
「次の時間軸で」キュゥべえは告げる。「また会おうじゃないか。暁美ほむら」
キッと、まどかが警戒の目でキュゥべえを睨みつける。ところが、ほむらの表情は優しくで、ほんわかとしていた。
「もう会うこともないでしょうね」
一言だけそう告げ、黒髪を風に靡かせてキュゥべえからも去っていく。
「ボクが一番驚嘆しているのはね、暁美ほむら」
キュゥべえが口を減らさずに、去り行く二人に語り続ける。
「織莉子がまどかが連れ去ってからこの方、キミがまるで魔力を使っていないことだ」
「ふふ…」
するとほむらが笑みをこぼした。クールな彼女に珍しい、おちゃめな笑い声であった。
「もう、キュゥべえ、あなたったら古いのね」やわらかな微笑みをみせる。
「?」
キュゥべえが不思議そうに顔を傾けると。
ほむらは答えた。
「魔法なら使ったわ。今日、たくさんね」
まどかを優しそうな目で見つめる。「まどかへの愛よ。それが私の魔法」
「えへへ…」
ほむらの腕の中で、まどかが照れくさそうに笑う。またその顔が赤く火照る。
「この子への愛があったから……今日、私は闘えたのよ」
「……そうか。分かったよ。暁美ほむら」
キュゥべえが言う。
「ワケがわからないよ…と、言いたいところだけど、現にキミはそれで、この町の魔法少女すべてに、
人間の軍隊までみなやっつけてしまったんだ。そのキミが言うんだからそうなのかもしれないね。」
やれやれ…といったような素振りで首を振ったキュゥべえは。
「全く人間というのはわからないよ」と呟き。
「たとえ…私の希望との対価に、この魂を奪ったとしても」
ほむらから、いわれてしまった。「私のまどかへの愛だけは……私だけのもの」
163 :
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(チベット自治区)
[saga]:2011/08/04(木) 22:48:36.39 ID:4dlCoGwV0
これからの未来には、希望が満ち溢れている。
明日からはまどかと二人で、ひっそりと見滝原のどこかで生きていこう。
町に戻る二人を、キャデラックの車に乗った仁美が出迎える。
まどかの生還を仁美は、ほむらと、そしてまどかと一緒に、その喜びを共に分かち合う。
静かで、穏やかな、そんな暮らしを。
まどかと二人で築いていく。
そんな未来のどこに、絶望なんてあろうか。
「いきましょう。まどか」
ほむらはそう言い、まどかと一緒に、仁美のキャデラックの車に乗り込む。その未来へと。
希望の未来へと、むかっていく。
164 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/08/04(木) 22:50:01.83 ID:4dlCoGwV0
「まどか!」
すると、最後に一度だけ。
インキュベーターが、別れを惜しむように鹿目まどかを呼び止めた。
「キミがその気になったら、契約の準備はできるているからね。待ってるよ」
契約を諦めきれない、いつまでもしつこい、インキュベーターに対し。
まどかは、ニッコリ笑って、きっぱり言い切ったのだとか。
「ノー・チャンスだよ♪」
....................................................おわり
I will proetct you , nothing can hurt you , no storm cluds gathering terrify
"私が護る──,傷一つつけさせはしない──,(ワルプルギスのような)嵐さえ跳ね除けて"
I am a mountain , surrounded by your love , you are a mountain that dreams are made of ,
"私は百人力──あなたの愛にさえ包まれていれば──,あなたは私の,夢と希望を詰みあげた山"
We fight for love , we fight for love , fight for love
"愛がために戦うんだ──,愛がために戦うんだ──,私は闘いつづける"
somewhere , somehow , someone , somewhere , somehow , someone ,
"何処で──,どのように──,誰が──," "何処で──,どのように──,誰が──,"
I fight with fire , As I watch them conspire , To blow my world apart ...
"愛に光を灯し、私は闘う──,ヤツラを皆,共謀者に見立てて──,世界をバラバラの時間に裂いてでも..."
165 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/08/04(木) 22:52:03.89 ID:4dlCoGwV0
48
PUELLA MAGI COMMANDO
─BE AN EXTENSION OF ORIKO MAGICA─
bet ween the light , and endless night
"昼の間も,終わらない夜の間も"
MUSIC
THE POWER STATION ─ WE FIGHT FOR LOVE
you will always be in my heart
"いつだって私の胸にあなたは在る"
166 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/08/04(木) 22:52:58.29 ID:4dlCoGwV0
48.1
WRITTEN BY
RAZE LETTERING
we fight for love , we fight for love , fight for love , we fight for love
"愛がために戦うんだ,愛がために戦うんだ,私は闘いつづける"
somewhere , somehow , someone , somewhere , somehow , someone ,
"何処で──,どのように──,誰が──," "何処で──,どのように──,誰が──,"
167 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/08/04(木) 22:53:39.98 ID:4dlCoGwV0
48.2
CAST
HOMURA AKEMI.......................................AS MATRIX
MADOKA KANAME......................................AS JENNY
MAMI TOMOE.........................................AS BENNETT
HITOMI SHIZUKI.....................................AS CINDY
KYOUKO SAKURA......................................AS COOKE
SAYAKA MIKI........................................AS SULLY
ORIKO MIKUNI.......................................AS ARIUS
KIRIKA KURE........................................AS SOLDIER
YUMA CHITOSE.......................................AS HENLIQUES
TOMOHISA KANAME....................................AS LAWSON
JUNKO KANAME.......................................AS FORRESTAL
KYOUSUKE KAMIJOU...................................AS POLICE MAN
SHOUSAN............................................AS POLICE MAN
INCUBATOR..........................................AS KIRBY , DIAZ , AND HIMSELF
INCUBATOR(JYUUBEY).................................AS SOLDIER AND HIMSELF
WARPLUGIS NIGHT....................................NO CHANCE;)
somewhere , somehow , someone , somewhere , somehow , someone ,
"何処で──,どのように──,誰が──," "何処で──,どのように──,誰が──,"
168 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/08/04(木) 22:55:09.40 ID:4dlCoGwV0
48.3
SPECIAL THANKS
THESAURUS
ttp://thesaurus.weblio.jp/
#MADOKA irc.rizon.net
COMMANDO PHRASES
ttp://www.nicovideo.jp/
HOMMANDO NICONICO PEDIA
ttp://dic.nicovideo.jp/a/%E3%83%9B%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%BC
...AND YOUR READING
somewhere , somehow , someone , somewhere , somehow , someone ,
"何処で──,どのように──,誰が──," "何処で──,どのように──,誰が──,"
puella magi commando 〜be an extension of oriko magica〜
end 2011
169 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/08/04(木) 22:58:23.08 ID:4dlCoGwV0
49
ほむら「みなさん、お疲れさま!最後まで見てくれた方には、心より感謝します」ペコリ
ほむら「以上で、まどか☆マギカ二次創作”マミ「もう何も怖かねぇ!」”は終わりです。
楽しめていただけたでしょうか」
まどか「すごいよほむらちゃん!すごいカッコよかったよ!!!」
さやか「アタシの退場がはやかったけど、全体としてはいい出来だったんじゃないかな。楽しめたよ。転校生」
ほむら「ありがとう。美樹さやか」ニコッ
ほむら「前半で退場させてしまってごめんなさいね。撮影の時も話したけど、そういう立ち位置のキャラを
演じてもらったから」
さやか「チェ〜」(舌打ち
杏子「つーかさー。主人公補正ききすぎなんだよね。あの銃撃戦なんなのさ?なんでまったく敵の弾が
当たらないんだっつーの」
ほむら「私が演じたメイトリクス大佐という人は、そういうキャラなのよ。むしろ、俳優がそういうキャラなのよ」
杏子「アーノルド・シュワレツネッガーだっけ?」
ほむら「今話題のね。ターミネーターでも有名な人よ」
マミ「暁美さん、私もこの作品、とても楽しめたわ。完成された作品を見るのもそうだけど、演じるのも楽しかったわ」
ほむら「巴マミ。あなたはベネット役を、熱演してくれたわ。配役をあなたにした私の目に狂いはなかった」
マミ「アハハ……ちょっと張り切りすぎちゃったわ」
ほむら「いいえ。特に”もう何も怖かねぇ!”って叫んだときの顔。迫真そのものだった。
つい作品のタイトルにしてしまったほどに」(昔の時間軸で発狂し殺されかけた時みたいな)
まどか「マミさん…確かに、あの時の顔はすごかったよぉ…」
マミ「暁美さんから、一緒に映画を撮らない?というお誘いを受けて、それで、元の映画を見せてもらって、
鏡の前で練習したのよ」
ほむら「十分に成果がでていたわ。あの顔あってこそのベネット役なのよ」
織莉子「楽しい作品だったわ。映画の撮影なんて、初めてだったけれど…」
ほむら「織莉子。あなた、アリアス大統領の台詞言わせてもあんま違和感がなかったわね…」
織莉子「AUGぶっ放しながら走る撮影はきつかったわ。私の魔法少女衣装丈が広いし…」
ほむら「貴女がいなければ、この作品も成立しなかったでしょうね。本当に協力してくれてありがとう」
ほむら「まあ、撮影中、廊下を突っ走るシーンで、あなたが自分の衣装のスカート丈を踏んで何度もこけてNG
なったのは………まあ、いい思い出ね」
170 :
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(チベット自治区)
[saga]:2011/08/04(木) 23:00:24.64 ID:4dlCoGwV0
織莉子「私が死ぬシーン、今の試写会で、鹿目まどかが”やったああああ”って叫んだのが癪なのだけれど」
ほむら「まどかもつい夢中になったのよ。見逃してあげて」
キリカ「私の出番少なすぎる…」
ほむら「キリカ、ごめんなさいね。ところで、あなたの台詞、”バターを切る”のとこ、元の映画と
一語一句変えないまま脚本に入ったのにはちょっと笑ってしまったわ」
キリカ「てか、私の扱い、ただのカカシどもと同じじゃないか」
ほむら「元映画のキャラに既に配役がついちゃって。もうポストがなかったの。あえて考えたのは、
カルロって兵士のポジションだったけど、それもなんかかわいそうだし」
さやか「ねえ転校生。私もさ、アンタの映画撮影の話に誘われて、サリー役演じたんだけどさ、見せてもらった
元の映画…その、『コマンドー』だっけ?の台詞と、結構違う台詞もあったよね」
ほむら「そのまま台詞をもってくると私たちの世界観と矛盾をきたす台詞もあったのよ。」
さやか「そうなんだ…」
ほむら「たとえば仁美との会話シーン。元の映画だと、”一口では言えん。とにかく俺を信じろ”
って主人公の台詞に、”無理よ私たちまだ出会って五分とたってないのよ”と言い返すシーンだけど。
シンディ役を演じてもらった仁美にこの台詞をそのまま言わせても、」
さやか「まあ、仁美と転校生は、会ってからさすがに五分はたってるね」
ほむら「ワルプルギスの前日という設定だから、少なくとも同じクラスになって一ヶ月近くはたってるわ」
さやか「一ヶ月たっても信用しないのも、確かにあれだね」
ほむら「そこで、その部分だけ台詞を原作の字幕版から引用してみて、ちょっと私なりに改変してみた。
その結果が、”今朝、ゾンビに命を狙われたの”という私の台詞に対する、”私だって狙いたいですわ”
という仁美の台詞。そんな感じよ」
まどか「私の最後の台詞、”ノー・チャンスだよ”は?」
ほむら「あれは、シュワルツネッガーの本来の英語の台詞ね」
杏子「あ!ほむら、ワルプルギスの夜で思い出した。結局あの作品、ワルプルギスの夜どうなったんだよ!?
あれだけ作中で言われてたのに、結局は忘れられたみたいに出なかったじゃないか。どういうコトだよおい!?」
ほむら「実は、撮影をはじめた最初からワルプルギスの夜なんてスルーして終わるつもりだったわ」
杏子「なん……だと…」
ほむら「その、杏子が言ってくれたような、”ワルプルギスの夜はどうしたんだよ!”みたいなつっこみを
受けながら、作品がエンディングを迎えるというのが狙いだった」
杏子「なんでわざわざそうするのさ…?」
ほむら「そこがなんというか、元映画の、『コマンドー』っぽいからよ」
杏子「はぁ…?」
ほむら「常に視聴者からツッコミという名の愛を受け続ける、それが『コマンドー』なの」
171 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/08/04(木) 23:02:51.47 ID:4dlCoGwV0
杏子「なんだぁそりゃあ…?」
ほむら「杏子、あなたのクック役、よかったわよ。キャデラックの車を奪い去るところとか」
杏子「ん…。あのシーンの撮影は楽しかったな。最初その元の映画見せてもらったときも、
あのシーンにはちょっと笑っちゃったし」
ほむら「”値段だよ”は大事な名台詞よね」
ほむら「仁美。あなたはどうだった?」
仁美「とても楽しい撮影でしたわ。暁美さん。撮影も普段とは違う自分を解放した感じで…」
ほむら「撮影してて思ったの。そもそも私と、仁美の組み合わせ自体が、珍しくて、面白いかもって。
原作でも会話ないし、二次創作でもあまり見かけないというか…。けれど、いざ撮影をはじめてみると、
私と仁美のシーンがものすごく多いのね。元の映画がシンディというヒロイン役だから考えてみれば
当然なのだけれど、ほむらx仁美という、珍しい分野に挑戦している気分にもなった」
さやか「確かに転校生と仁美の組み合わせは珍しいなぁー、とは思った。映画みてて、そのへん、面白かった」
仁美「活躍が増えて嬉しいですわ」
まどか「仁美ちゃん、普段はそんなことないけど、映画の中ではすごかったね…ロケットランチャー発射したりとか…
お次はターザンですわ、みたいに叫んだり」
ほむら「シンディ役を熱演してくれたわ。キャラにはまっていたわね」
さやか「このシンディの喚き散らす台詞をガシガシ言いながら、なおかつお嬢様言葉が染み付いてる仁美がすごいよ…」
マミ「あの目の見開き具合と、手の動作の慌て具合。まさにシンディのキャラに入りきってたわ。
名演技よ。仁美さん」
仁美「ウフ…。ありがとうございます…。シンディ役、楽しかったですわ」
ほむら「仁美、あなたがロケットランチャー肩に担いでるシーンは私のお気に入りよ」
仁美「まあ。それにしても……いろいろと、ドキドキすることもある撮影でしたわ(//」キャ
ほむら「…??」
さやか「また始まったよ、いつもの仁美の妄想癖が…」
ほむら「妄想ですって?」
さやか「いゃああ、いいのいいの。気にしなくて」
ゆま「いえ゛ぇぇぇアァ」
172 :
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[saga]:2011/08/04(木) 23:05:30.80 ID:4dlCoGwV0
まどか「ほむらちゃん。後半の銃撃戦のシーンだけど……。あれだけの兵士は、どうやって撮影に呼んだの?」
ほむら「まどか。いわゆるカカシの人々は、みんなスタントマンよ。よく見て頂戴。私が手榴弾なげて兵士を
吹き飛ばすシーン。爆発の瞬間、兵士の足元でジャンプ台が浮き上がってるでしょ?ホントに殺しまくったワケじゃ
なくて、タイミング合わせて彼らにそれぞれ吹き飛んでもらったり、派手に倒れこんでもらったりしたの」
まどか「あっ!ホントにジャンプ台がある!映画見てる時は気づかなかったなぁ〜…」
ほむら「案外、吹き飛ぶ兵士の哀れな姿や手榴弾の爆発に目がいって、気づかないのよね。他にも美樹さやかを崖に
落とすシーンではワイヤーが見えてたり」
さやか「あ、それ私気づいた。撮影のときアレに吊るされてたから知ってたってのもあるけど。
まさかそのまま映ってるとは思わなかったけど…」
杏子「おいおい、ほむら。なんだか聞いてると、随分穴の多い映画撮影みたいに聞こえるじゃんかよ」
ほむら「仕方ないじゃない。こっさちはね、撮影のトーシロなのよ。」
まどか「でも、いろいろ工夫されてるんだぁって、撮影の裏側も知ることもできて、それはとっても嬉しいなって」
ほむら「実を言うと……原作の『コマンドー』でも、手榴弾のシーンでジャンプ台が(ゲホンゲホン」
ゆま「今度余計なことを言うと口を縫い合わすぞ」
ほむら「ゆま。あなたさっきから…」
ゆま「私のエンリケス役、一瞬で終わったよぅ…」
杏子「しかも、台詞元の映画そのまんまだったな。」
ほむら「あのシーンは、ゆまにあの台詞をエンリケスの台詞そのまま言わせて見たら、
すごく面白い映像になったので、そのままいかせてもらったわ」
杏子「たしかに、すんごいシュールな場面だったな」
ゆま「キョーコまで!」
ほむら「本当のところをいうと、”これ”扱いされたあとに、”ゆま。これじゃなくて、ゆま”って
言い返すシーンも撮影していたけれど、エンリケスの台詞を重視してみた。ゆまがあまりにノリノリ演技を
してみせてくれたもので…」
ゆま「好きな台詞だったから…(ポッ」
173 :
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(チベット自治区)
[saga]:2011/08/04(木) 23:08:14.52 ID:4dlCoGwV0
QB「それで、ボクまでキミの映画撮影とやらに付き合わされたわけだけど」
ほむら「あなたは強制参加よ」
QB「そもそも暁美ほむら。どうしてキミが、マーク・L・レスター監督の『コマンドー』のリメイクを、
魔法少女モノにして撮りたいなんて、言い出したのか、ボクはとても興味がある」
さやか「あ、それアタシも知りたい。確かに元は面白い映画だったけどさ、私たちがリメイクして映じるような
映画じゃなかったでしょ。主人公筋肉モリモリだし。」
ほむら「ゴホン…そう思い至ったきっかけは結構前に遡って、地上波に原作の10話”もう、誰にも頼らない”が
放映された時よ」
さやか「ホントにかなり遡るんだね…」
杏子「その10話の放映のとき、なにがあったんだ?」
ほむら「私が10話で銃火器盗みにいったり、機関銃ぶっ放したり、手榴弾なげつけたりするシーンがあったでしょ?
あれ以来、pixivやニコニコ動画で”ホマンドー”って呼ばれ方をするようになっちゃって…」
マミ「ホマンドー?」
杏子「ほむらとコマンドー織り交ぜたんだろ」
ほむら「気づいたら、”ホマンドー”ってニコニコ百科までできちゃって。しかもやたらと詳しくて。
そしてきたる四月の11話の放送、ワルプルギス戦のシーンで、私の『コマンドー』ネタは確固たるものになり、
ほむらスレに”ほむらちゃんはコマンドーもびっくり可愛い”なんてスレさえ立つほどになったの」
杏子「んー、どれどれ…ぐぐってみるか…うわ、まじでニコニコ百科でてきた」
マミ「かなりネタキャラにされてしまったのね…」
さやか「マミさん…たぶんマミさんも負けず劣らずに…」
まどか「シっ!それは言わないお約束だよ、さやかちゃん」
ほむら「それを見ながら私は、『コマンドー』って何よ?と思いながら、元の映画見てみたの。そしたら…」
さやか「そしたら…?」
杏子「おい、まさか…」
ほむら「私はすっかりシュワちゃんのファンになってしまったのよ」
杏子「おい!」
ほむら「あの豪快なガンアクション、頭まで筋肉で出来てそうな無茶振り、買い物といいながら軍放出品を
荒らしまわるシーン…そして、あっさり捕まる主人公。何もかも私を魅了してしまったのよ。どうして私ったら、
くだらないこでで毎回失敗ばかりしているのかしらって、バカらしく思えるくらいの爽快さ。最高よ」
マミ「pixivでホマンドー検索してたら”もう何も怖かねぇ”の画像がでてきたわ…」
ほむら「そして私はいつしか、シュワちゃんみたいになりたいと…憧れを抱いてしまって。二次創作で私を
”ホマンドー”と呼ぶなら、もういっそ、私がメイトリクス役を演じた魔法少女版リメイク『コマンドー』を
つくりたくなっちゃって。みんなに撮影協力を呼びかけたの」
杏子「それ、アンタがシュワちゃんになりきって自己心酔したいだけだろ…」
さやか「アタシらそれに付き合わされたってワケか。あはは…」
マミ「確かに、武装するシーンで顔にカモフラージュ塗るシーンでの暁美さんの表情とか、もう身も心もシュワちゃんに
なりきってるわね」
まどか「あの武装シーン、すっごいかっこよかったよ!ほむらちゃん!」
さやか「なんか、BGMが\デェェェェェェン/って鳴ったよね…」
174 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/08/04(木) 23:11:43.18 ID:4dlCoGwV0
マミ「完全にシュワちゃんになりきった自分に酔いしれてる演技ね。目の向きとカメラワークまで一緒」
さやか「もうね、原作『コマンドー』との比較動画がほしいくらいだよ」
まどか「このシーン、ほむらちゃんがカッコよすぎて失神しかけたよぉ…」
杏子「もうこれ完全に魔法少女モノじゃなくなってたろ」
ほむら「正直、撮影で一番楽しかったシーンなのは事実よ」
さやか「ノリノリなのが見て分かるわぁ。で、転校生さ。このシーンの\デェェェン/ってなるBGM、原作と同じ?」
ほむら「公式サウンドトラックから音源に使ったのよ」
さやか「えっ!やっぱり…でもいいの、それ?」
ほむら「著作権のこと?まさか二次元にまで法律は届かないわ」
さやか「はぁ…」
織莉子「なりきっているといえば、あと、棒立ちで機関銃をぶっ放してるシーンも。完全にシュワになりきってるわね」
マミ「あの無言の表情で機関銃をひたすら掃射してる感じがそれっぽいわね」
ほむら「私ってメガほむやめてからは無口で無表情なキャラだし、いけると思った。精一杯なりきったわ☆」
杏子「楽しそうだな」
QB「ボクから感想を言わせて貰えば、魔法少女モノの映画なのに誰も魔法を使わないなんてワケがわからないよ」
ほむら「確かに。魔法少女のバトルアクション物なのに、誰も魔法使わないという、トンデモ映画ができあがった
ともいえる」
さやか「それもう、魔法少女モノじゃないんじゃ…」
ほむら「美樹さやか。何言ってるの。SSの最初で宣言したように……これは”魔法少女まどか☆マギカ”の二次創作
なのよ。魔法少女モノでないはずがないわ」
さやか「めちゃくちゃだなぁ…それ、屁理屈っていうんだよ」
ほむら「銃撃戦、肉弾戦、ナイフ対決、カーチェイス……魔法が一切ない魔法少女のバトルの連続。はっちゃけてる
感じが好きで、脚本の執筆に手が進むんだ。魔法少女モノとしても史上最多に劇中で多くの血が流されたとも思っているわ。
原作『コマンドー』では91人の死が銃撃戦のシーンで描写されていたけど、脚本の執筆でもほぼ同等の数の
死を描いた。記憶にある限りでも、85人ぶんの兵士の死を書いた」
まどか「ほむらちゃん、怖いよ…」
杏子「アタシは逆に、視聴者もあきれ返ってそうで心配だよ」
175 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/08/04(木) 23:13:42.69 ID:4dlCoGwV0
ほむら「まあちょっと、誤解しないでほしいのだけれど、何も私がシュワになりきりたいってだけで、
こんな企画をみんなに持ち出したのではないわ」
織莉子「きちんとした理由聞かせてくれるのでしょうね」
ほむら「pixivやニコニコでそれなりに数ある”ホマンドー”だけれど、SSではほとんど見かけたことがないの。
いいえ、私見の限りでは、見たことがない。(クレイモアネタはあったけれど)そこで…」
杏子「映画撮影の協力を名目にして、”ホマンドー”のSS書き上げようと思ったわけか?」
ほむら「そんなところね」
織莉子「魔ポン少女べねとベギカ……とんでもない動画をみつけてしまったわ」
まどか「ほええ…。ニコニコのホマンドー動画見たら、みんなタグがすごいことになってるよぉ…。」
ほむら「それはいわゆる組合員と呼ばれる人たちの仕業ね」
杏子「なんだそいつら?」
ほむら「ネット上に生きるシュワちゃんの使い魔みたいなものよ」
杏子「いつか魔女になるんだな」
ほむら「コホン…。とにかく、撮影も無事終わったし、試写会もみんなで見終えたし、SSの投下も無事最後まで
きたし、そろそろ、終わりにしましょうか。皆様、本当におつかれさん。私は次の時間軸にこの完成したDVDを
持ち込んで、心の励みにすることにするわ」
176 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/08/04(木) 23:14:15.51 ID:4dlCoGwV0
QB「せいぜいキミの望んだ未来のために頑張るといいよ」
まどか「あれ、ほむらちゃん、これで終わり?」
ほむら「えっ?」
まどか「何か忘れていかな?」
ほむら「そうだっかしら…」
まどか「SSの終わりに、☆☆☆素敵なプレゼントのお知らせがあります☆☆☆って、言ってたじゃん!」
ほむら「ああ……そういえば、そういったわね」
杏子「何だソレ!?メシか!?」(キラキラ
まどか「(ワクワク」
織莉子「プレゼントですって?」
ほむら「最後にプレゼントがあるといったな……」
ほむら「あれは嘘だ」
カシャア…(カーテンの閉じる音)
ほむら「もう会うことはないでしょう」
おしまい
177 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/08/04(木) 23:16:28.49 ID:4dlCoGwV0
50
最後まで読んでくれた人に感謝します。
では最後に、”ホマンドー”のニコニコ百科の紹介して終わりにしますね。
ttp://dic.nicovideo.jp/a/%E3%83%9B%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%BC
<記事から抜粋>
概要
ホマンドーとは、2011年に公開された暁美ほむら主演のバストA級魔法少女アクション映画である。
「魔法少女まどか☆マギカ」作中に登場する魔法少女と比べて、拳銃・手榴弾・アサルトライフルを乱射するその姿、それらの武器をヤクザの事務所や米軍基地から盗む買い物するその姿はまさしく映画「コマンドー」であり、ほむほむの新たな愛称「ホマンドー」が誕生した。
本編11話におけるワルプルギスの夜との戦闘はまさしく「ホマンドー」である。
178 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)
[sage]:2011/08/04(木) 23:35:19.94 ID:kdsi6bs5o
乙
ワルプルwwwwww
179 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/08/04(木) 23:39:08.16 ID:8M2E6DCXo
乙マミ
コマンドーがめちゃくちゃな映画だって言うのと原作への愛が溢れてるのは理解出来た
……観てから読むべきだったと激しく後悔
180 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/04(木) 23:59:39.92 ID:EJ8FuyoTo
乙
また会おう、
>>1
181 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/05(金) 01:58:47.20 ID:T7Wvzltgo
乙
もう会うことはないでしょう
182 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福井県)
[sage]:2011/08/05(金) 06:23:35.42 ID:idW2Mo/b0
>>1
乙
コマンドーパロのssはもっと増えてもいいはず
183 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/08/05(金) 13:46:34.44 ID:sZDpcss0o
またコマンドーSSを読みたい。
>>1
さえ戻ってくれれば
184 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)
[sage]:2011/08/05(金) 19:49:58.91 ID:pAJJLTV50
>>1
乙
どこで(SSの)書き方を習った?
185 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/08/05(金) 23:56:56.22 ID:ECt6PA4Jo
>>1
乙
そのMADお気に入りです
186 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[saga]:2011/08/07(日) 22:44:40.28 ID:eDOoA5Hx0
>>178
ワルプルだぁ?寝言いってんじゃねーよ
>>179
このSSでは、最後まで元ネタが『コマンドー』とは明かさないで書ききりました。
あくまで、まどマギの時間軸の一つの世界での話として、ホマンドーのストーリーを作ったつもり。
つまり別に原作など知らなくとも楽しめていただけるように書いたつもりです!
とはいえ是非原作にも興味を持っていただけたのなら、一度みてみてください。
コマンドー名言集なる名前の動画が、このSSノダイジェストになってるはず(笑
>>180
もう会うことはないでしょう
>>181
No Chance!
>>182
すでにあるんじゃないかなぁと思ってたら、SSではほとんどないよね。
>>183
今作が最後です
>>184
説明書を読んだのよ
>>185
実はあのMADが、コマンドーにはまるキッカケになりました
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