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ほむら「あなたは何?」 ステイル「見滝原中学の二年生、ステイル=マグヌスだよ」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 02:57:10.80 ID:A3KqYXYqo
ほむら「……暁明ほむらです。よろしくお願いします」

早乙女「……えっと」

ほむら「……」 ペコリ

パチ……パチ……パチパチ……

さやか(すっげー美人!)

まどか(あの子、夢の中で会った、ような……それに気のせいかな? 見られてる?)

早乙女「え、えーと……はい!」

早乙女「そ、それじゃあもう一人お友達を紹介しまーす!」

早乙女「なんと! かの女王陛下が治める大英帝国ことイギリスからの交換留学生でーす!」

仁美(あら、それじゃあ外人さんなんでしょうか……)

さやか(うわー、英語とか喋れないよあたしー)

早乙女「さっ、入ってきて!」



早乙女「ステイル=マグヌス君!」







ステイル「……どうしてこうなった」
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佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
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全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
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笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
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トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
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【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
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ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 02:58:29.05 ID:A3KqYXYqo

遡ること一週間前――イギリス 聖ジョージ大聖堂



ステイル「……もうじき引退予定の最大主教、今なんと?」

ローラ「あら、聞こえていなくて? あなたの最終学歴を述べてみなさいな、と言いたりたのよ」

ステイル「……ずっと魔術の方を極めてきたので、小学校を中退したのが最後ですかね」

ローラ「ああっいけなし!」

ステイル「は?」

ローラ「これからの時代は魔学両道、これにつきたるのよ! それを小学校中退などと、ああんいけなしっ!」

ステイル「チッ……はて、魔学両道なる言葉に聞き覚えはございませんが。文武両道の間違いでは?」

ローラ「魔学両道!」 エッヘン

ステイル「……要は魔術と科学を両立しろとおっしゃりたいので?」

ローラ「ふふん、相も変わらず察しだけは良きことね」

ステイル(うぜぇ……)

ローラ「というわけで日本に飛んでもらいけるわ」

ステイル「はぁ!?」

ローラ「神裂! 神裂はどこにおはして!?」

神裂「はい、なんでしょうか(相変わらず酷い喋り方ですね……)」
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 02:59:37.22 ID:A3KqYXYqo

ローラ「天草式の面々を率いて、ステイルの転学準備を頼みとう思いたりてね」

ステイル「本気で転学させるつもりですか!?」

神裂「まさかイギリス清教も学歴主義になったのですか!? 実は私も学歴の方はちょっとその……」 モジモジ

ステイル「……そういえば君も幼くして渡英したんだったね。苦手だった機械の方はどうなんだい?」

神裂「3DS−Lite−やPSVitaといった最新ゲーム機器はマスターしたのですが、一般知識の方はどうも……」

ステイル「はぁ……そりゃ単なる駄目人間じゃないか」

神裂「ぴ、PSVitaは凄いんですよ! 携帯ゲーム機の異端児、神殺しの槍と呼ばれるに相応しいほどで!」

ステイル「僕からすればインベーダーゲームと大して変わらないね。何が面白いのやら……」

神裂「うっせーんだよド素人が!! あなたに何が分かるのです!? ソニーがッ! どれほど苦労してッ!」

ステイル「やかましいこのド玄人が!! 僕としてはそんなことはどうだっていいんだ!」

ローラ「ど、どりーむきゃすとは……いかようかなぁ、なんて……」

ステイル・神裂「へ?」

ローラ「あ、いや、その……おほん! それで転学の話に移りたく思いたるのだけれど」

神裂「あ、はい……と、ところで結局イギリス清教は学歴を重んじるようになってしまわれたのですか!?」

ローラ「ああそれ、方便よ。実は内密に調べて貰いたいことがありけるの」
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 03:00:31.05 ID:A3KqYXYqo

神裂「ほっ……良かった」

ステイル「いいや良くない! だったら最初からそう言えばいいでしょうが!」

ローラ「いやん、私ったらおばかさぁん☆ というアピールにつきしなのよ!」

ステイル「……はぁ……」

神裂「心中お察しします……それで、調べて貰いたいこととは?」

 神裂の言葉を受けて、ローラが口の端を歪めた。
 それだけで、周囲の気温が2,3度は下がったような錯覚をステイルと神裂は覚えた。

 すぐさま姿勢を正し、表情を消す2人。
 ステイルは咥えていたタバコの火を右手で押し潰し。
 それに倣うわけでもなく神裂も耳を澄まし、ローラの一挙一動に目を配らせた。

 そんな二人の様子に満足した様子のローラは目を細め、丁寧に束ねられた黄金の髪を揺らしながら口を開いた。

 さも楽しげに。

 さも嬉しげに。

ローラ「……魔術に依らず、科学にも依らない“魔女”が実在するとしたら、どう思いたりて?」

ローラ「ことと次第によっては、人類史を揺るがしかねない騒動に発展するやもしれなくてよ?」
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 03:01:08.93 ID:A3KqYXYqo





          ━〓━〓━〓━〓━〓─〓―=━=─=─=─=─=─
          
               ――魔術師と魔法少女が交差する時
          
                  止まっていた物語は再び動き出す――
          
          ―=―=─=─=─=━=━〓―〓━〓━〓━〓━〓━




.
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) [sage]:2011/07/27(水) 03:01:50.88 ID:LG39sFvoo
つまんね終わり
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 03:01:57.20 ID:A3KqYXYqo

ステイル「結局中学校に転入する必要性の有無は語られず仕舞い、か……女狐め」

 目も眩む日差しに当てられて、ステイルはうんざりした表情を浮かべながらルーンを刻んだカードで首元を扇いだ。
 四月半ばとはいえ、湿気だけのイギリスと違いそこに熱も加わる日本の気候はステイルからしてみれば拷問に近い。
 ましてや窓が一つしかない部屋ならば言わずもがな。

ステイル「よく日本人はこんな土地に住めるね……学園都市のエアコンが恋しくなってくるよ」

 言いながら、片手で懐から携帯電話を取り出し慣れた手つきで操作する。

ステイル「……もしもし? 天草式の連中は物件を見る目が無いね」

 電話が繋がるや否や、愚痴を一つ。
 通話相手……神裂は臆した様子を見せず(聞かせず)にそれに応対した。

神裂『経費削減、ですよ。ところで仕事の方はどうです?』

ステイル「……ドンピシャ、と言ったところかな。見慣れない形式だが、確かに魔力の残滓が見て取れた」

神裂『そうでしたか……いずれあの座を降りるというのに、最大主教は変わりませんね』

ステイル「ああ、貪欲だね。自分の利益になるなら極東の島国だろうとなんだろうと徹底的に調べ上げるところとか」

神裂『我々も見習うべきですかね……そういえば、転入先の中学校の名前は覚えましたか?』

ステイル「もちろんさ。見滝原中学校だろう? なんで書類を偽造して二年生として振る舞わなきゃいけないんだか……」

神裂『恐らくはなんらかの意図があるのでしょう。油断しないように』
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 03:03:18.49 ID:A3KqYXYqo

ステイル「君は僕をなんだと思ってるんだ……?」

神裂『“あの子”にフラれた傷が未だに癒えない15歳の少年でしょう?』

ステイル「……性格悪くなったね」 ハァ

神裂『気のせいでしょう、別に片手でNGP操ってゲーム操作してるから適当に返事しているだとかそういうわけじゃありま』 プツッ

ステイル「英国民の血税で彼女は何をしているのやら」 パタン

 肩を落としつつ、袖口から英国民の血税で購入したタバコを取り出し、ライターで火をつける。
 慣れ親しんだ煙が肺を満たし、細胞を蝕んでいく。
 しかしやめられない。ああやめられないったらやめられない。

 そう思ってから、なんとはなしに窓に視線を移した。

ステイル「……のどかで、静かで、良い街だよ。気候は気に食わないがね」

 そう呟いてから、明日の準備をするためにステイルは家を出た。

 まずシャーペンだ。それから消しゴム。マーカーや三色ボールペンも必要だろう。

 それにルーズリーフかノート……重量的に考えてルーズリーフの方が軽くて良い。ルーズリーフを買おう。



 なんだかんだ言いつつも、まだ見ぬ中学校生活を楽しみにしているステイルなのであった。
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 03:04:56.82 ID:A3KqYXYqo
――こうして物語は冒頭へと戻る。

さやか(で、でけぇー! ってか髪の色! 赤って! 赤ってどうなの!)ザワザワ

まどか(さ、さやかちゃん声大きいよ!)ヒソヒソ

仁美(毛色は元からなのでしょうか? それにあの服装はいったい……?)ソワソワ

ほむら(……)

早乙女「はい皆さんお静かに! ステイル君が緊張しちゃうじゃない!」

ステイル(うーん……参ったな、まさかここまで注目を浴びるとは)

ステイル(意識したことはなかったが、この格好はそんなに浮くのか……?)

早乙女「はい、それじゃあ自己紹介をお願いしまーす」

ステイル「……僕はステイル=マグヌス。生まれも育ちもイギリスでね、最近までは神父見習いをやっていたんだ」

ステイル「交換留学生として学園都市に滞在していた時期があるから日本語も滞りなく使える」


ステイル「あー……以後よろしく頼むよ」
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 03:05:48.04 ID:A3KqYXYqo

早乙女「……あの、ちょっと質問よろしくいかしら?」

ステイル「? ええ、どうぞ」

早乙女「あなた実年齢いくつです?」

ステイル「ぶっ!」

早乙女「?」

ステイル「(偽造がばれたか?)……じ、十四歳ですが、何か?」

早乙女「お、おほほほ! そうよね十四歳よね! 私ったら見かけで判断しちゃうからもう!」

ステイル「……いえ、大して気にしてませんので」

早乙女「皆さんもお気づきでしょうが、ステイル君はその……非常に発育がよろしく、背丈が大きいです」

さやか(そういうレベルじゃないと思うんだけどなぁ、ぶっちゃけ三十路半ばに食い込んでそうだし)ボソボソ

まどか(外見で決め付けるのは良くないよさやかちゃん、コンプレックスかもしれないし)ボソボソ

仁美(そうですわ、ご本人も気にして顔を引きつらせているではありませんか)ボソボソ

ステイル(それ以前に声が大きいんだよ君達は……!)ヒクヒク

早乙女「静かに! 見合う制服がないので神父服を着用してもらっていますが、からかわないように!」

早乙女「それから……彼にはプリント配布係をやってもらうことになっています。よろしくね、ステイル君?」

ステイル「え? あ、はい」

ステイル(本職の神父です、とか、ルーン専攻の魔術師です、とか……)

ステイル(口が裂けても言えないね、こりゃ)
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 03:08:39.14 ID:A3KqYXYqo

――休み時間

クラスメイトA「どうしたら(身長)そんなに大きくなるの? やっぱり毎日(身体)揉んだ方が良いのかな?」

クラスメイトB「(髪)赤くて……(神父服)黒くて……すごく(身長が)大きいです……」

ステイル「背はこれといって意識したことは無いんだがね……ちなみに髪は宗教上の理由で染めているだけだよ」

クラスメイトC「ねぇねぇ! もしかしてマグナス君って不良? タバコ吸ってたりする?」

ステイル「ぬぐっ……よ、よしてくれ。僕は見ての通りカトリックだ。タバコは吸わないさ」

クラスメイトD「だから言ったじゃない、タバコの臭いは気のせいだって」

ステイル「し、親戚に愛煙家がいてね。彼と一緒に居た時に移ったのかもしれないな。誰か香水持ってるかい?」

中沢「保健室にアルコールタイプの消臭スプレーがあったよ。あ、案内したげよっか?」

ステイル「うーん……いや、保健係りに案内してもらうよ。保健係はどこに――」

 言いかけて、何かに気付いたようにステイルがかぶりを振った。
 視線の先には、もう一人の転校生と少女が三人。

ほむら「保健係の鹿目まどかさん……保健室、連れて行ってもらえるかしら?」

まどか「え、えぇ?」

 ステイルの口元が、ぐにゃりと歪む。

ステイル「――どうやら、二重の意味で探す手間が省けたようだ」
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 03:09:45.46 ID:A3KqYXYqo
――廊下

ステイル(とまぁ、格好付けたはずなんだが……)

まどか「……」

ほむら「……」

ステイル(最近の子供はあまりコミュニケーションを取らないようだね)

まどか「……」 チラッ

ほむら「……」 シラー

ステイル(……僕としても馴れ合うのはごめんだけど) チラッ

ほむら「……」 キッ

ステイル(おお、怖い怖い) プイッ

ほむら「……」 シラー

ステイル(……) チラッ

ほむら「……」 キッ

ステイル(あ、この子単純だな)
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 03:11:53.81 ID:A3KqYXYqo

まどか「あ、あのー……まぐぬす、君?」

ステイル「ん? どうかしたかい、鹿目さん」

まどか「学園都市に居たことあるんだよね?」

ステイル「トータルで見て二ヶ月ほどね。それがなにか?」

まどか「やっぱり学園都市って進んでるのかなー、なんて……えへへ」

ステイル「……それなりにね。だがどうしてなかなか、ここも設備は充実してる方だと思うよ」

まどか「学園都市の技術が使われてるからだって仁美ちゃんが……あ、仁美ちゃんっていうのは友達なんだけどね?」

ステイル「ふぅん……宗教国家郡と和解して以降おおらかになったとはいえ……なぜ群馬なんだか」

まどか「学園都市の病院って、やっぱりすごいのかな?」

ステイル「脳だけの状態から後遺症無く空を飛べるまで回復するなんてのは日常茶飯事だよ」

まどか「もう、真面目な話してるのにー」

ステイル「徹頭徹尾、真面目な話をしていたつもりなんだが……」

ステイル「君はどう思う? 暁美ほむらさん」
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 03:12:20.01 ID:A3KqYXYqo

ほむら「……ごめんなさい。学園都市について、あまり詳しくないの」

まどか「あ、暁美さんも? 私もそういう難しいこと詳しくなくて!」

ほむら「……ほむらで良いわ。鹿目さん」

まどか「え、あ……ほ、ほむらちゃん?」

ほむら「なにかしら」

まどか「か、変わった名前だね……」

ほむら「……っ」

まどか「あ、あぁその、変な意味じゃなくてね、かっこいい名前だなぁなんて……」

 そんなたどたどしい会話を耳に入れつつ、ステイルは横目で暁美ほむらの様子を伺った。

 常に気を緩めず、異常事態に陥っても大丈夫なように心構えている軍人のような佇まい。
 そして――微かに漏れる、魔力の波動。
 こんな平和な街に不釣合いな物を二つも持ち合わせている。

ステイル(上手い具合に気配を断ってはいるようだが……相手が悪かったね?)キリッ

ステイル(だけどまだ魔女と決まったわけじゃない。ボロを出すまで慎重に行かないと)
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 03:12:57.10 ID:A3KqYXYqo

ほむら「……っ」

 黙って前を歩いていたほむらが、きっ! とターンを決め込んでまどかの正面に立ちはだかった。

ほむら「鹿目まどか。あなたは自分の人生が尊いと思う? 家族や友達を、大切にしてる?」

 ふと、ステイルは懐からタバコを取り出したい衝動に駆られた。

まどか「え……ええっと、私は……大切、だよ? 家族も、友達のみんなも。大好きで、大事な人たちだよ?」

ほむら「本当に?」

まどか「ほ、本当だよ?」

ほむら「そう……もしそれが本当なら、今とは違う自分になろうだなんて絶対に思わないことね」

ステイル(よくまぁこういかにも“怪しい”って雰囲気をプンプン出せるものだ。調べ甲斐がまるで無いね)

ほむら「さもなければ……全てを失うことになる」

ステイル(それにしてもこの学校はガラス使いすぎじゃないか? これじゃあ隠れて吸えないじゃないか)

まどか「えっ……?」

ステイル(持ち物検査でもされたら困るし、タバコは家でしか吸わないようにするかな……)

ほむら「……あなたは、鹿目まどかのままでいればいい。今までどおり、これからも……」

 どうでもいいことを考えている間に会話が終わったようで、ほむらは一人で廊下をずんずんと歩いていった。
 保健室の場所、分かるのかな? などと思案しつつ黙って見送る。
 それから困惑しているまどかをちらっと見て、ステイルは肩をすくめた。

ステイル「……はぁ。僕、影薄っ……」
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 03:13:46.07 ID:A3KqYXYqo

――教卓

先生「よーし、じゃあこの問題を……そうだな、転校生のー暁美ほむら! 書いてみろ」

ほむら「……」スラスラ

さやか「うひょー! 転校生すっげー!」

クラスメイトA「あんな完璧な答え初めて見たよ!」

クラスメイトB「頭良いー!」

先生「す、凄いな……よし、じゃあ今度はステイル! この問題を前に出て書いてみろ!」

ステイル「に、二次方程式だと……!?」

ステイル「なにがなんだかわからない……ええいこれだから数学は……!」

さやか「あっはっはっは! それ初歩の初歩じゃん! あたしでも分かるわこれ!」

クラスメイトA「意外に頭悪いんだねー」

クラスメイトB「やっべー親近感沸いてきたわ!」

ステイル「なんたる屈辱……!」
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 03:15:24.99 ID:A3KqYXYqo

――運動場

ほむら「……っ!」 バフッ!

教師「け、県内記録じゃないのこれ……?」

さやか「すげー!」

クラスメイトC「陸上部も負けてられないわねぇ」

クラスメイトD「いやいや無理だってあんなのー」

教師「はい、それじゃ男子100m走、よーい……ドン!」

ステイル「はっ……はっ……はっ、はっ、はっ……!」 タッタッタッ!

クラスメイトA「うおっしゃ一位ー!」

クラスメイトB「俺二着ー!」

中澤「14秒……まぁこんなもんかな。おーいマグヌスーお前はどうだっ……!?」

ステイル「」

中澤「せ、せんせー! マグヌス君が白目剥いてまーす!」
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 03:16:17.48 ID:A3KqYXYqo

――教室

ステイル「ちっ……両サイドでの騒動が鎮静化してから少し鈍ったかな」

ステイル(あるいは……いや、どちらにしても疲れた……)

さやか「いよっ、文武両道出来ず才色兼備でもなさそうな方の転校生! 学校には慣れた?」

ステイル「……慣れたところでまた谷底に突き落とされた気分だよ。君は?」

さやか「あー、自己紹介がまだだっけ? あたしはさやか、美樹さやか! 保健係のまどかはあたしの嫁なのだー!」

仁美「さやかさん、声が大きいですよ。私は志筑仁美と申します。どうぞよろしくお願いしますね」

ステイル「こちらこそよろしく頼むよ。下品でバカな美樹さやかと、上品な詩筑仁美」

さやか「む、バカって言ったなー!? 初歩の初歩くらいで躓いてる転校生には言われたくないなー」

ステイル「に、二次方程式なんて覚えなくとも人生困らないからいいんだよ」

さやか「ふふーん、これが負け犬さんの遠吠えってやつですか!」

ステイル「チッ、ええい忌々しい。英語の授業さえ回ってくれば……!」

まどか「何やってるの二人とも……」

仁美「あらまどかさん。お二方は……そうですね、どんぐりの背比べ、でしょうか?」
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 03:16:50.72 ID:A3KqYXYqo

さやか「ひーとーみー? だぁれがどんぐりだってぇ!?」

仁美「あら、なんのことでしょうか?」

ステイル「良い性格してるね、君……」 オリャオリャー、クスグリコウゲキジャー!

まどか「もう……あれ、中澤君?」 サ、サヤカサン、オチツキマショウ! ア、アハハハ!

中澤「相変わらず仲良いねお前ら……それよりマグヌス、これからゲーセン行かない?」

ステイル「……その申し出はありがたいけど、用事があるので辞退させてもらうよ。すまないね」

中澤「それじゃ仕方ねぇか。次は一緒に行こうぜー、じゃあなー!」 タッタッタッ…

ステイル「ああ、必ず行こう……と」 チラ

ほむら「……」 ジー

ステイル(視線が痛いな……今日は早めに帰るとしよう)

まどか「どうかしたの?」

ステイル「いや……何でもないよ。それじゃ僕はこれで。また明日会おう」

まどか「うん、また明日ー」 マ、マドカサン、タスケ、アハハハ! ウリャリャリャー!!
20 :あれ、中沢君って中澤君だっけ [saga]:2011/07/27(水) 03:17:50.61 ID:A3KqYXYqo

――見滝原のどこか

 市街の喧騒から少し離れた、小さく物静かなビルの屋上。
 ありふれた日常から微妙に離れた位置に、ステイルは腰を下ろしていた。

ステイル「ふむ……お膳立てはこの程度だったかな」

 魔力を行き渡らせて『仕掛け』の具合を再確認すると、今度は色とりどりの折り紙を懐から出した。
 前もってパステルで書いておいた円の周囲にそれを飛ばし、

     IITIAW    H A I I C T T P I O A
「――風を伝い、しかし空気ではなく場に意思を伝える」


 呟くように詠唱すると、円が光り出した。
 理派四陣――探し人の位置を特定する魔術――が発動したのである。
 間を置かず、鮮明な航空写真にも似た絵が描き出される。
 円の中心は歩いて10分ほどの場所にあるショッピングモールを映し出していた。

 つまり、そこにステイルの探し人……暁美ほむらがいる。

ステイル「案外近いな……逆探知される前に打ち切るか」

 タバコを放り捨てる。それはゆっくりと煙の尾を引き、円に触れると。
 直後に折り紙とタバコが燃え上がり、灰に変わった。

ステイル「さて……楽しい楽しい、魔女狩り(おしごと)の時間だ」

ステイル(決まった……!)
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 03:19:14.83 ID:A3KqYXYqo

――デパート、改装中のフロアの一つ

ステイル「良い感じに格好つけたのにね……」

ステイル「一体全体、なにがどうなっているのやら」

 ステイルが見滝原にやってきた目的は「魔女狩り」ないし「それに付随する物の調査」である。
 そして魔力を持つ暁美ほむらが魔女、あるいはそれに付随する物と当たりを付けてデパートにやってきた。

 のだが……

ステイル「彼女と同質の魔力を放っているのが一人」

ステイル「それに力の仕組みが妙なのが一つ」

ステイル「で、一番厄介なのが……」

 ステイルの目の前に広がっているのは、改装途中のために証明が落とされたフロアの一画。
 ではなく、二次元と三次元が入り交じったような摩訶不思議な空間だった。

ステイル「結界、かな? 魔力を持たぬ者には干渉できない、いわば身を守るための結界」

.             マジョ
ステイル「こっちが本命か。抜け出すのは簡単そうだが……ん?」
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 03:19:55.04 ID:A3KqYXYqo

 ステイルの視界の隅に、肩を寄せ合う二人の少女が映った。
 鹿目まどかと美樹さやかだ。まどかに至っては白い猫のようなものを抱いている。

 そんな彼女らを取り囲む、下半分が蝶で上半身が髭を生やした白い綿の塊。
 耳障りな音を発して、意気揚々に揺れては踊り、踊っては揺れてを繰り返すだけの存在。

ステイル「悪趣味なデザインだな。さしずめ魔女の使い魔と言ったところか」

ステイル「それにしても……」

 かぶりを振ってうなだれると、タバコを一本取り出した。

ステイル「出会って間もない女性を助けるなんて役割は、本来“彼”が担うものじゃなかったのかい」

 言いながら、タバコを咥える。

ステイル「いやホント、僕には荷が勝ちすぎてるよ」

ステイル「まぁ助けるんだけどね」 キリッ

 不敵な笑みを浮かべつつ、ステイルがルーンのカードを取り出し――
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 03:20:22.73 ID:A3KqYXYqo

――彼が行動するよりも早く。
 鎖を伴って発現した強力な“結界”に弾かれて、あまりにも呆気なく使い魔が消滅した。

ステイル「――はぁ?」

 閉じることを忘れたステイルの口元から、タバコが零れ落ちた。

??「危ないところだったわね――でももう大丈夫」

 二人の背後から声がかかる。
 そこには、ステイルが思わず我に返るほどの魔力を発している少女が居た。

ステイル「魔女……いや、暁美ほむらの同類か!?」

 そこから先は、その少女の独壇場だった。

 光を発したかと思いきや次の瞬間には派手な衣装を身に纏い。

 腕を振って数十丁ものライフルらしき銃を顕現させ、瞬く間に使い魔達を一掃して見せたのだ。
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 03:20:48.17 ID:A3KqYXYqo

ステイル(瞬時になんらかの霊装を身に纏った!? 転送魔術……いや、この場で作り出したのか!?)

ステイル(それにあれだけの銃を……一体どんな術式だ? さらにあの威力、並の魔術師じゃ相手にもならない!)

ステイル(まるで……そう、黄金練成! あれなら不可能じゃない!
       それこそ「我が身に黄金の霊装を!」とか
       あるいは「銃を宙に。弾丸は魔弾、用途は爆撃、数は二百で十二分!」とか!)

ステイル(クソッ……カッコいいじゃあないか畜生……!) ギリッ…!

 などとくだらない葛藤をしていると、辺りの景色が歪み始めた。
 揺らぎ、薄らぎ、やがて元の空間――改装途中で人気の居ないフロアの一画に戻っていく。

??「魔女なら逃げたわ。急いで追えば、追いつけるでしょうね」

 先の少女の言葉が耳に入り、ステイルは自然と視線を彼女達のほうに戻した。
 するとどういうわけか、二人+一人のところにさらにもう一人……暁美ほむらが加わっているではないか。

ほむら「……私が用があるのはその二人よ」

??「呑み込みが悪いのね。見逃してあげるって言ってるのよ」

??「お互い、余計なトラブルとは無縁でいたいと思わない?」
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 03:21:22.62 ID:A3KqYXYqo

 両者の睨み合いは二秒、三秒と続き……暁美ほむらが立ち去ることで、幕を閉じた。

ステイル(実力はともかく、彼女らが魔女でないことは確かみたいだ。そろそろ僕も退散しよ――)

??「隠れているあなたも出てらっしゃい」

ステイル「――ウッ!?」 ギクッ

まどか「え、ま、まだ誰か居るの!?」

さやか「えぇーい盗み見とは卑怯だぞ! さっさと姿を現せー!」

ステイル「……はぁ、不幸だ」

 どこぞの“受験生”の口癖を借りてみるが、だからといって事態は好転しないもので。
 逃げることが不可能だと悟り、両手を挙げるとたったか歩いて姿を見せた。
 ステイルを認めた二人が驚きの声を上げる。

まどか「あ、まぐぬす君!?」

さやか「えっちょっ……転校生二人とも訳ありな展開!? そこが萌えで燃えなのかぁー!?」

ステイル「日用品買いに来たついでに迷い込んでしまっただけなんだが……(嘘だけど)」

??「男性の方? 素質はあるみたいだけど、魔法少女にはなれないし……困ったわね……」

ステイル(……魔法少女?)
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 03:21:55.34 ID:A3KqYXYqo

ステイル「いやぁ、それにしてもさっきのは凄かったね。ジャパニーズ特撮ドラマの撮影だろ?」

ほむら「そ……そうなのかな、さやかちゃん」

さやか「いやいや出来すぎだって。演出さん頑張りすぎでしょ!」

??「うーん……まぁいいわ。それよりキュウべぇ……その白い子を貸して貰えるかしら?」

まどか「え? あ、はい」

 少女はまどかから白い子――キュウべぇなる生き物――を譲り受けると、地面に降ろして両の手をかざした。
 すると両の手が光り、傷だらけだったキュウべぇが見る見る内に回復していくではないか。

ステイル「へぇ、すごいね。手品かい?(高度な治療魔術……陣も道具も詠唱も無ければ偶像の理論すら用いないだと?)」

QB「んっ……ありがとうマミ、助かったよ!」

ステイル(……あ?)

ステイル「しゃ……喋った!? 喋るのかいこの生き物は!?」

 マミと呼ばれた少女が、呆けているステイルを見てくすりと笑った。
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 03:22:43.10 ID:A3KqYXYqo

マミ「驚かれましたか? まぁ無理もありませんよね」

ステイル(魔力を受けて進化した生物は見てきたが……人語を解するとはね……)

マミ「ふふっ。ところでキュウべぇ、お礼はあの子たちに、ね」

QB「ああ、僕の呼びかけに反応してくれてありがとう! 鹿目まどか、美樹さやか!」

まどか「あれ、どうして……」

さやか「あたし達の名前を!?」

QB「実は、僕は君達にお願いがあってきたんだ」

まどか「お願い?」

QB「僕と契約して、魔法少女になってよ!」



 三人と一匹のやり取りを見ながら、ステイルは静かに目を細めた。

ステイル(結界の内に隠れる魔女……それを狩る魔法少女……喋る化け猫……ね)

ステイル(やれやれ、まったくどうして。……なかなか、楽しませてくれるじゃないか?)
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 03:23:54.15 ID:A3KqYXYqo

――イギリス 聖ジョージ大聖堂

ステイル『――以上が、事の顛末です』

ローラ「実に興味深けりね」

ステイル『ただ、その……魔力は感知できるのですが、超能力と似た、異なる方式のそれに被って見えます』

ローラ「つまり力のフォーマットが違うと言いたりて?」

ステイル『そこまでは言いません。ただの未知の魔術かと。オチは結社同士のゴタゴタといった具合じゃないでしょうか』

ローラ「……して、ステイル。万が一に魔法少女と戦いたる際はいかようにして対峙したりて? 勝算は?」

ステイル『下準備さえあればまず負けません。無くても引き分け程度には持ち込めるかと』

ローラ「……そう。事情は把握したりけるわ。引き続き調査の方よろしく」

ステイル『はっ』 プツッ




ローラ「……ふふっ」

ローラ「並の魔法少女でステイルと同程度……では文明に影響を及ぼしたる魔法少女の実力は如何様に?」

ローラ「あわよくば取り込みたいところ。けれどもその心中が解せぬ内には協力も出来かねたるものよ」



ローラ「ねぇ、はよう会いたきものね? 孵卵器(インキュベーター)?」
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 03:28:26.94 ID:A3KqYXYqo
以上。ここまで

まどかサイドの人間がメイン。しかしおりこ・かずみの連中は出……ず?

とある魔術の禁書目録は原作終了後の世界を想定した物。
登場人物はは魔術サイドがメイン。というかイギリス清教、必要悪の協会の面々が結構出る予定です。
科学サイドの人間はほとんど出ませんが、ほんのちょっぴりそれとなく活躍します

本来であればVIPで投下する予定だった物なので色々と仕様が違ったりしていますが、修正していければ……
次の投下ですが明日(今日)の夜、11時辺りになる予定です。
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/27(水) 03:28:49.64 ID:7lD6MBBIO
こんな時間だが支援する
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/27(水) 03:29:34.09 ID:I2rM/+4c0
乙!
期待してる
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県) [sage]:2011/07/27(水) 03:34:42.62 ID:OTT1Byepo

次回の投下も期待してるぞ
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/27(水) 03:41:30.91 ID:QE2FC2TDO
乙。これはいい
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/07/27(水) 07:06:41.42 ID:p44Qtk2AO
期待
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga sage]:2011/07/27(水) 08:00:02.80 ID:1QHBmmhG0
魔術サイドのキャラを持ってきたところを高く評価してやろう!
しかもステイルという微妙な実力者が主人公な点も良い!
どこぞの第一位とかだと強すぎて困るからな!
ステイルが若干お調子者というかギャグっぽい面をみせてくれる部分も
読んでいて飽きさせないな!
これは期待だ! 支援させてもらおう!
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/07/27(水) 09:04:53.31 ID:K2vRhtTAO
俺の嫁のスマートヴェリーたんと腹黒ニコさんは出ますか?
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/27(水) 10:01:19.14 ID:60FRhCADO
>>35
ステイルさんdisってんの?
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/27(水) 10:36:56.85 ID:NPISDGAho
>>35
ステイルさんdisってんじゃねーよ!
若干14歳にして教皇クラスの実力を持った天才だぞ?原作なら魔導図書館相手に金星飾ってるし!

悉くかませにしかなってない神裂さんじゅうはっさいと一緒してんじゃ……
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 11:51:54.56 ID:A3KqYXYqo
神崎かおり(17)、もとい神裂火織(18)さんの悪口はやめろ
悪質な物は天草式十字凄教に通報する

それはさておき、30行規制が無くなったおかげでキーボードを叩く速度が格段と上昇しました
そのおかげで書き溜めに余裕が出てきたので予定を繰り上げて昼の12時〜12時半頃に投下したいと思います
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 12:30:08.54 ID:A3KqYXYqo

――翌朝、中学校前

仁美「禁断の恋の形ですのよー!」 タッタッタッ!

さやか「バッグ忘れてるよー」

まどか「今日の仁美ちゃん、なんだかさやかちゃんみたいだったね」

さやか「むーん、それはどういう意味だよー!」

ステイル「そのままの意味だろう」

さやか「ひぃ! 急に出てこないでよ、でかいから驚いちゃうじゃん!」

まどか「あ、おはよーステイル君」

ステイル「おはよう……しかし朝から騒々しいね、特にそこのバカは」

さやか「なぁんだってぇ〜!?」

QB「ところで学校の方は良いのかい?」

まどか「あ、そうだ。はやく行こっさやかちゃん!」タッタッタ

さやか「うぅ〜覚えてろよーステイルー!」タッタッタ

ステイル「……はぁ」
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 12:31:59.35 ID:A3KqYXYqo

――遡ること十五時間前、巴マミの部屋

マミ「お口に合うかしら?」

まどか「すっごくおいしいです!」

さやか「めちゃうまっすよこれ!」

ステイル「確かに美味だが、もう少し行儀出来ないのか君は」

マミ「うふふ……それじゃあさっそくだけど、本題に移らせてもらうわね」

 そう言って、マミはティーカップに視線を落とした。
 僅かな逡巡を見せた後に視線をまどか達に向け直すと、ゆっくりとこの世界の法則(システム)について語り始めた。
 それによって判明したことは、主に三つ。

一つ、キュウべぇは神様が起こす奇跡のように、どんな願い事でも叶えられるということ。

一つ、願いを叶えた者は代わりにソウルジェムを持たされ、魔法少女にされてしまうこと。

一つ、魔法少女になった者は、魔女と戦う運命を架せられるということ。

 つまり報酬を先に渡すから代わりに魔女を狩って欲しいということだ。
 どんな願いでも叶えるという言葉を聞いて、ステイルはアウレオルスのことを思い出した。
 思いのままに世界を歪められる能力を持ちながら、想像力の欠如と揺さぶりで自滅した哀れな錬金術師。
 彼の髪の色は緑だったか、黄緑だったか、まぁどうでもいいや。
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 12:32:52.20 ID:A3KqYXYqo

ステイル「ふぅん……魔女に魔法少女ね。いやいや、なかなか愉快だよ」

さやか「愉快っていうか……怖いよね、ちょっと」

まどか「マミさんは、そんな恐いものと戦ってるんですか?」

マミ「そう、命懸けよ。だからあなたたちも、慎重に選んだ方が良い」

ステイル「ところでこの場合、僕は魔法少女とやらになれるのかい?」

マミ「え、えーっと……あなたは、そうですね、どうなんでしょう。ねぇQB、どうなの?」

QB「……素質はあっても魔法少女にはなれない稀有なパターンだね」

ステイル「それは残念(どの道なるつもりは毛頭無いけどね)」

 結論から言って、ステイルはキュウべぇのことをほとんど信用してなどいなかった。
 魔力に似た力を操り人語を解す生き物というだけで胡散臭いというのに、
 その上どんな願いでも叶えられると来られては、疑うなという方が難しいのである。

ステイル(とはいえ情報が少なすぎる……今は慎重に行くべきだ、け、ど)

 そんな内心とは裏腹に、ステイルは既にこの魔女騒動の真相に目星をつけていた。

ステイル(大方、どこぞの知名度の低い魔術結社同士の抗争だろうね)

 先の戦争以降、少なからず表に出回ってしまった“魔道書”やそれに関する知識を下に暴れているのだ。

 魔女とキュウべぇは魔術の副産物か歪な下位天使。魔法少女は抗争の道具と言ったところだろう。

 胸糞悪い、とステイルは内心で吐き捨てた。
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 12:33:38.01 ID:A3KqYXYqo

ステイル(それにしたって不思議な体系の魔術だ。巴マミも不自然な素振りはちっとも見せやしないし)


マミ「そこで提案なんだけど、二人ともしばらく私の魔女退治に付き合ってみない?」


ステイル(前言撤回……こうも露骨な勧誘をされるとは。彼女はスカウト役の魔術師で、魔法少女じゃないみたいだね)

マミ(もしかしたら後輩が出来るかもしれないのよね……べ、べつに期待してるわけじゃないけど!)


マミ「魔女との戦いがどうか、その目で確かめてみればいいわ」


ステイル(いやらしい女だ……雑魚相手に圧勝して簡単だと思い込ませ、契約をさせやすくするつもりか)

マミ(下手に手間取ったら恐がらせちゃうかもしれないけど……その時は素直に諦めるしかないでしょうね)


マミ「その上で、危険を冒してまで叶えたい願いがあるかどうかじっくり考えてみるべきだと思うの」


ステイル(親切心溢れる台詞に見えるが、報酬を再確認させて釣り上げやすくしただけだろう)

マミ(私みたいに願いを考える間がないなんてこと、絶対にあっちゃいけないもの……)


ステイル「……腹黒女」ボソッ
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 12:34:39.43 ID:A3KqYXYqo

マミ「あら、マグヌスさん? なにか言いましたか?」

ステイル「いやなにも」

さやか「あぁそうだマミさん。こいつに敬語なんて使う必要ありませんよ」

マミ「え、えぇ? 年上の方には敬意を払うのが常識でしょう?」

ステイル「僕は見滝原中学の二年生、つまりあなたの後輩に当たるから年下なんだが……」

マミ「えっ」

ステイル「えっ」

マミ「ええぇっ!?」

ステイル「……なんて失礼な人だ」

まどか「こういうとき、失礼なのは驚いてるマミさんと、失礼な人呼ばわりするマグヌス君のどっちなのかな?」

ステイル「主観の相違だね。ところでそのマグヌス君って呼び方は好きじゃないな。ステイルでいいよ」

まどか「ホント? じゃあこれからはステイル君って呼ぶね!」

さやか「どっちも堅苦しくない? 山田太郎みたいな名前にすればいいのに」

マミ「二年生……あの身長で二年生……あの身長で……」 ブツブツ

ステイル「……はぁ、やれやれだね」
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 12:35:14.12 ID:A3KqYXYqo

――時は戻り、教室

まどか『それにしてもテレパシーって本当にあるんだねぇ』

さやか『はっ! コレを使えばテストで良い点を取るのも難しくないんじゃ!?』

QB『いやいやぁ、それはどうかと思うよ』

ステイル『同感だ(念話ね……今度からは考え事にも注意を払わないといけないな)』

 などと考えながら彼女らの会話に耳(意識)を傾けていると、さやかが突然苦い声を上げた。

さやか『うげっ、転校生のお出ましだよ』

ステイル『ん? 僕は最初からここに……ああ、そうか』

 苦虫を潰したような表情を浮かべるさやかの視線を追うと、そこには暁美ほむらがいた。
 詳しくは知らないが、彼女はどうやらQBを襲って魔法少女が増えるのを止めようとしている魔法少女らしい。
 魔術結社の内輪揉めか、対抗組織の刺客か。
 複雑な事情があるようだが、敵であることに変わりはない。

ステイル(同士討ちだけならありがたいんだけどね……)

さやか『気にすんなまどか! あいつがなんかちょっかい出してきたらあたしがぶっ飛ばしてやるから!』

ステイル『君はいつから鹿目さんのボディーガードになったんだい?』

まどか『さやかちゃんがボディーガードかぁ……チェンジで!』

さやか『まどかぁ!?』 アラアラウフフ ザマァナイネ ドンマイダヨ、サヤカ
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 12:36:09.40 ID:A3KqYXYqo

――昼休み

ステイル「んぐっ、はぐっ……んっ、ごちそうさま。美味しかったよ。このやきそばパン、良く分かってるね」

中澤「だから言っただろ? ほんのり漂うソースの香りと紅しょうががパンにマッチしてて美味いって」

ステイル「麺も柔らかすぎず、パン自体の味や食感も殺さず……キャベツがしゃきしゃきしてるのもポイントだよ」

中澤「キャベツに目をつけるとは……良く分かってるじゃないか!」

ステイル「ふふん、そう褒めないでくれ。だけど一番の魅力はやはりソースかな」

中澤「そう言えばさ、世間的にはソース味って男の子らしいね」

ステイル「……偉く狭い世間だね。君はどうなんだい?」

中澤「どっちでもいいんじゃないかな」

ステイル「僕も同感だよ……ところで鹿目さんがどこにいるか知っているかい」

中澤「鹿目たちなら屋上にいると思うぜ。用でもあんの?」

ステイル「ちょっとね(空いた時間で情報を集めるはずが昼食に時間を掛けすぎてしまったな)」

ステイル(いやでも、ホントに美味しかった。“あの子”にも食べて欲しいくらいだ)」
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 12:37:34.22 ID:A3KqYXYqo

――屋上

さやか「ねぇまどか、願い事決まったー?」

まどか「ううん、全然。さやかちゃんはどう?」

さやか「あたしもぜーんぜん。なんでだろーなー。いくらでも思いつくと思ったんだけどなぁ
.     欲しい物も、やりたい事もいっぱいあるけどさ。命懸けって所で……
.     やっぱ引っ掛かっちゃうよね。そうまでする程必要なもんじゃねーよなー……ってさ?」

 屋上へと通ずる入り口に立ち、会話を盗み聞きしながら、もしも自分がその立場に居たならどうするかを考える。
 存外、そういうときに限って願いとやらは思い浮かばない。今の彼が去年までの彼なら違っただろうが。

さやか「まあきっと、私達がバカなんだよ」

まどか「え、そうかな?」

さやか「そう、幸せバカ。珍しくないはずだよ、命と引き換えにしてでも叶えたい望みって
.     だから、それが見つからないあたしたちって、その程度の不幸しか知らないってことじゃん」

ステイル(幸せバカ、か……別に恥ずべきことじゃないんだけどね)

 生まれながらに不幸な青年の顔を思い浮かべ、彼ならその不幸を取り除くよう願うだろうかと考えてみた。
 しかしすぐにそのおかしさに気付き、鼻で笑って誤魔化した。タバコを咥え、ライターで火をつける。
 大きく吸い込み、肺が煙で満たされる。それからほうっ、と煙を吐き、ふたたび思考を巡らせた。

ステイル(……あの男が、不幸を取り除くように? いやいや、自分で考えててなんだけど、馬鹿馬鹿しいね)

 彼は確かに不幸だ。
 その不幸故に多くの人間――“あの子”のことも――を助けてきた。
 そして彼はそれを誇りに思っている。
 直情的で、バカで、無茶苦茶で無鉄砲でろくでなしで間抜けで独善的だが――彼は、そういう人間だった。

ステイル(日頃から不幸だなんだとと嘆いてるくせにそれを喜び、幸せだと言い張るなんてね……まぁそれはいいとして)

ステイル「……そろそろ出てきてらどうなんだい?」

 ややあって、すぐ近くにある階段の影から暁美ほむらが姿を現した。

ほむら「……」
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 12:38:20.36 ID:A3KqYXYqo

ほむら「……」

ステイル「……」

ほむら「あなたは、何?」

 長いようで短い沈黙を破ったのは、そんな短い言葉。
 たった六文字によって成り立っている疑問。しかも“誰”じゃなくて“何”ときたもんだ。
 しかしそれに込められた感情は、決して少なくない。最低でも敵意と困惑、恐怖の三つが含まれている。
 彼女は恐らくこちらの秘密に気付いている。ではどう答えるべきか。

                      ネ セ サ リ ウ ス
 イギリス清教第零聖堂区、必要悪の協会に所属する魔術師と答えるべきか。
 あるいは単に、お前たちの敵だ、と答えるべきか。

 いや――ああ、もっと良いのがあった。

 なかなか反応を示さないステイルに焦れたのか、彼女はふたたび口を開いた。
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 12:39:23.99 ID:A3KqYXYqo

ほむら「あなたは、何?」

ステイル「見滝原中学の二年生、ステイル=マグヌスだよ」

ほむら「……それが答え?」

ステイル「イエス。不満かい?」

 少女から流れ出る敵意が増大し、見えない刃となってステイルに襲い掛かる。
 “戦場”でさえこれほどの敵意を浴びたことはなかなか無いだろう。

 ある種の懐かしさを覚えつつ、タバコを手に取り煙を吐く。
 多分、気を抜けば、殺される。
 そんな確信めいた物をステイルは抱いていた。
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 12:39:59.63 ID:A3KqYXYqo

ステイル「で、なにか用かい?」

ほむら「あなたに用は無いわ」

ステイル「ふぅん、まぁ別に良いけど……彼女たちに用があるんだろう? 行くといいよ」

ほむら「そうさせてもらうわ」

 丁寧に灰を携帯灰皿に落とすステイルの横を、暁美ほむらが通り過ぎた。
 すでに彼女に敵意はなく、代わりにシャンプーか何かの、ほのかに甘い香りを漂わせている。
 ステイルを通り過ぎて4,5歩ほど歩いたところで、彼女は振り返りステイルの瞳をまっすぐに見つめた。

ほむら「忠告しておくけれど、まどかに何かしたらただじゃすまさない」

ステイル「……最初からそんなつもりは露ほどもないが、ありがたく肝に銘じておくよ」

ほむら「それからタバコはやめなさい。臭いが染み付くわ」

ステイル「良い消臭剤を持っているんだ」

ほむら「それでも。限りある命、尊い人生を長く生きたいのならやめるべきね」

 それだけ言って、ふたたび彼女は踵を返して歩いて行った。

ステイル「長く生きたいなら、ね。じゃあ君はどうなんだい?」

 ステイルの問いは、漂うタバコの煙に紛れて消えていった。
51 :ERROR - 593 25 sec たたないと書けません。(1回目、25 sec しかたってない) fuck [saga]:2011/07/27(水) 12:41:09.55 ID:A3KqYXYqo

――ファミレス

まどか「うぅ、金属バット持ってくるより現実的だと思ったんだけどなぁ」

さやか「いやいや、まずは形、衣装からって落書き持ってくるまどか先生の発想には負けますわぁ、あっはっは!」

ステイル「……ところで、一つ聞いても良いかい?」

マミ「あら、なにかしら?」

ステイル「魔法少女になれない僕が、これから行う魔法少女体験コースに随伴する意味あるのかい?」

さやか「ハーレム状態なんだから素直に喜べってーこのこのぉ!」

ステイル「ちんちくりんは黙ってくれるかな」

マミ「あなただって世界の裏側がどうなっているか知っておきたいでしょう?」 コンノショウワルシンプメ!

マミ「それに素質のある人は魔女に狙われやすいの。先日の魔女を倒すまでは我慢してね」 サヤカチャンウルサイヨ…

ステイル「……別に構わないけどね」

さやか「で、あんたはなにか持ってきた?」

ステイル「僕がそんなキャラに見えるかい?」バサッ

まどか「あれ、何か落としたよステイル君」
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 12:41:37.05 ID:A3KqYXYqo

ステイル「へ? あっ待て、それは――」

まどか「……カード? それにこれって」

さやか「五傍星、というか魔方陣の絵……」

ステイル「……う、占いが趣味なんだ」 プイッ

まどか「……エェー」ジトー

さやか「……ウワー」ジトー

マミ(格好良いなぁこのカード。一枚だけこっそり貰っちゃいましょっと)

ステイル「……そんな目で見ないでくれ」

まどか「いひひ……」ジトー

さやか「ぬふふ……」ジトー

マミ「うふふ……」ニヤニヤ

ステイル「……はぁ」

QB「……ねぇ、そろそろ話を進めないかい」38
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 12:42:11.39 ID:A3KqYXYqo

――市街地

 ソウルジェムを輝かせるマミの話を聞きつつ、黄昏時の町並みを歩く一行。
 基本的に魔女探しは足頼みらしく、魔女が残した魔力の痕跡を地道に辿るしかないそうだ。
 魔法少女歴云年のマミが言うのだから事実だろうが、それに対してステイルはある種の違和感を抱いていた。

ステイル(ソウルジェムと呼ばれる霊装と、魔力の波動を察知する探知魔術を掛け合わせた探査方法)

ステイル(魔力の源も兼ねるソウルジェムの万能さには驚かされるが……ならば、どうして僕の魔力は引っかからない?)

ステイル(確かに隠してはいるが、それでも……いや、魔女と同系統の宗派による霊装だとすれば……)

 ソウルジェムに目を配らせていたマミが顔をあげたのを見て、ステイルは思考を中断した。耳を傾ける。

マミ「病院とかに取り付かれたら最悪よ。弱っている人から生命力を絞り取って、目も当てられないことになるわ」

さやか「……気をつけないと」ボソッ

まどか「さやかちゃん?」

さやか「ううん、なんでもない……あれ、マミさんこれって!?」

 マミの手元を覗き込んでいたさやかが驚きの声を上げる。
 釣られて覗き見ると、ソウルジェムの輝きが先ほどよりも明らかに増していたのが見て取れた。
 唇をきゅっと結んだマミが、目を細めて呟く。

マミ「かなり大きな魔力の波動よ――魔女が、近いわ」
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 12:42:39.33 ID:A3KqYXYqo

――とある廃ビル

マミ「間違いない、ここよ」

ステイル「……学校の設備を整えるより先に、こういった廃墟を何とかした方が良いと思うのだが」

さやか「同感。ていうかいまさらだけどやっぱガラス張り教室はないわー……って、マミさんあれ!」

まどか「お、屋上に人が!」

 二人が悲鳴を上げるより早く、ビルの屋上から女性が飛び降りるより先に、巴マミが走り出した。
 それを見たステイルは、とっさに懐に入れた手を止めてマミの一挙一動を見張った。
 女性の落下地点に移動したマミが黄金に輝くリボンに包まれて変身した。ばっ、と左手を掲げる。
 すると中空にリボンが出現し、飛び降りた女性の体を包み込んで落下の衝撃を消し去り、無事に地に下ろした。

ステイル(良い反応だ。それにあのリボン、応用性が高く何でも出来るようだね)

ステイル(魔術結社の手先とは言え、人助けには余念がないのか。いやしかし……それに比べて、僕はどうだ?)

ステイル(人助けをしないだけならまだマシだ。あまつさえ勘違いして――)

ステイル(――女性を“攻撃”しようとするだなんて)

 自身の間抜けっぷりに自己嫌悪。だがそんなことはおくびにも出さず、まどかたちと同様マミに駆け寄っていく。

マミ「魔女の口付け……魔女がいることの証明ね」

まどか「そ、その人は大丈夫なんですか?」

マミ「今のところはね。さぁ、行くわよ」
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 12:43:30.78 ID:A3KqYXYqo

ステイル「(気になるな……)薄気味悪い空間だね。なによりセンスが無い」

さやか「んなこと言ってる場合!? あんたもバット持って戦いなさいよー!」

まどか「さやかちゃん、多分それ振る必要ないよ……」

QB「……思ったよりも余裕があるね、きみたち」

マミ「あら、肝が据わってるのはいいことよ。でも油断しないで……ねっ!」

 狩猟銃……マスケット銃というらしいが、それを手に出現させたマミが軽々と引き金を引く。
 それだけで辺りを飛び回る不気味な使い魔が吹き飛び、進行に邪魔な障害物を破壊していった。
 ステイルは漠然と、だが確かに再確認した。

 巴マミは強い、と。

 いくつもの扉を抜け、階段を駆け下り、通路を渡り、ついに使い魔が集合している扉の前に辿り着いた。

マミ「いよいよ魔女ね……ところでどう? 怖かったかしら?」

さやか「ん、んなわけねーって!」

ステイル「体は正直だね」

さやか「うわ、サイテー。キモイ変態死ね」

ステイル「おい待てこら! 僕はただ単に声が震えていると言いたいだけだ!」

まどか「ちょっと、怖かったかな……でも、それ以上にマミさんが格好良かったです!」 ヘーンータイ! ヘーンータイ! ヘーンータイ!

マミ「うふふっ、ありがとう。それじゃあ行くわよ!」 エエイ コレダカラ チュウガクセイ ハ!
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 12:43:58.51 ID:A3KqYXYqo

――そして、四人と一匹は結界の最深部に侵入を果たす。

 そこにいたのは、顔に当たる部位に薔薇を幾つか有し、かつ不定形で手足の無い体から蝶の羽を生やした化物。
 ナメクジと蝶の合成獣(キメラ)にヘドロをぶっかけたような外見の魔女だ。

さやか「うわ、グロテスク……」

ステイル「さっきから気になっていたけど、妙に薔薇が多いねここ」

まどか「うぇ〜……あんなのと戦うんですか?」

マミ「ええ。ここから離れないでね?」

 さやかからバットを受け取ると、マミは自然な動作でそれを地面に突き立てた。数瞬置いて、山吹色の結界が展開される。
 マミは一度だけ振り返って笑みを見せると、そのまま魔女の目前に飛び降りた。

 そこから先の展開も、いつぞやと同じくやはりマミの独壇場と言って良いだろう。
 蔦に変化した使い魔に捕らわれた時はさすがに焦ったが、彼女は予め打っておいた布石を用いて魔女を拘束し返し、

マミ「ティロ・フィナーレ!」

 4mは超えそうな大砲を作り出して魔女を焼き払って見せた。

ステイル(ティロ・フィナーレ……それが彼女の切り札か。センスはともかく、炎剣と同等の火力はありそうだな)

 炎剣。ステイルが好んで使用する強力な火系統の魔術だ。
 いつぞやと同じように空間が歪み、魔女の結界が解除される。
 どうやら廃ビルの上層の一画のようだ。ガラスの無い窓から、夕日が差している。
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 12:44:57.50 ID:A3KqYXYqo

さやか「凄い……カッコいい!」

まどか「うん、凄いよマミさん!」

マミ「あら、褒めても何も出ないわよ? ……それとほら。これがグリーフシード、魔女の卵よ」

ステイル「……黒い宝石かい? ソウルジェムに似ているね。上の飾りは蝶の羽を模しているようだが」

さやか「た、卵ってことは魔女が生まれるんですか? 危ないんですか?」

QB「大丈夫、その状態では安全だよ。むしろ役に立つこともある貴重な物なんだ」

マミ「たまにね、魔女が落とすの。ところであたしのソウルジェム、夕べよりちょっと濁ってない?」

 マミが左の手のひらでグリーフシードを転がした。確かに言われてみれば昨日よりも若干輝きが鈍っているような気がする。

まどか「言われてみればそうですね……」

さやか「うんうん」

マミ「でもほらこうすると……」

 左手に持ったグリーフシードをソウルジェムへと近づける。
 するとソウルジェムから黒い何かが浮かび上がり、グリーフシードに吸い込まれていった。
 ソウルジェムは夕べの輝きを取り戻し、魔力の波動を漂わせている。
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 12:45:35.79 ID:A3KqYXYqo

マミ「これで消耗した私の魔力も元通り。これが魔女退治の見返りなの……っと!」 ブンッ

 半身を引いたマミが、柱によって出来た暗がりの中へグリーフシードを放り投げた。

マミ「あと一度くらいは使えるはずよ。あなたにあげるわ」

 それは暗がりへと一直線に突き進み、ぱしっ、と軽い音を立てて、姿を現したほむらの手に収まる。

マミ「暁美ほむらさん」

さやか「て、転校生!?」

ステイル(いや、そんなことはどうでもいいんだ。重要じゃない。それより巴マミ、こいつは何がしたいんだ?)

 ステイルにとってしてみれば、暁美ほむらの存在などさして重要ではない。
 敵に対して、自身の生命線とも言えるグリーフシードを投げ渡す。
 この巴マミの行動が指し示す事実は、二つの内のどちらか。

ステイル(実は彼女達が裏で繋がっている可能性と――)

マミ「それとも、他人と分け合うのは不服かしら?」

ほむら「貴女の獲物よ。あなただけの物にすれば良い」 ヒュッ

マミ「……そう。それがあなたの答えね」 パシッ
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 12:46:01.61 ID:A3KqYXYqo

――廃ビル前

さやか「くぅーっ、やっぱり感じ悪い奴ぅー!」

まどか「仲良く出来ればいいのにね……」

 緊張から解放されたことで気が緩んだのか、暢気な声で話す二人。
 その声がきっかけかどうかはともかく、時を同じくして先ほど飛び降りた女性が目を覚ました。

女性「ここは、あれ? わ、わたしどうしてこんな……うぅっ!」

 ぼんやりとだが、記憶があるのだろう。
 彼女は取り乱してその目から涙をぼろぼろと零し、嗚咽を漏らした。
 それを支えるように、慈しみを持って背中に手を回し、巴マミは女性を抱きしめる。

マミ「もう大丈夫、大丈夫ですよ。ちょっと、悪い夢を見てただけですから」

 微笑を浮かべ、女性の泣き声に耳を貸し、背中を優しく撫でていく。
 その姿はまるで、迷える子羊を前にして、その所業の一切を許し受け止める修道女。
                インデックス
 記憶に残る、かつての禁書目録の姿にそっくりで――



ステイル(……彼女達が裏で繋がっている可能性、と)


ステイル(魔術だのなんだのは関係なく、結社の争いも何もなく)
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 12:46:39.25 ID:A3KqYXYqo





ステイル(――とても優しい心の持ち主である可能性、か。)




.
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 12:47:42.20 ID:A3KqYXYqo

――イギリス 聖ジョージ大聖堂

ステイル『……』

ローラ「ステイル? おーい、聞き取れてろうかしらー? もしもーし」

ステイル『あ、ああ、すいません。以上が今日の分の報告です』

ローラ「ふむん……つまり、魔法少女と魔女は魔術ではない別の“力”、超能力と同じ類だと?」

ステイル『はい……彼女たちの扱う魔法は、現存する魔術とは似て非なるものであり、魔法少女は……
       これといった野心や野望を持たず、ただ人のために戦い、人を守るための存在かと思われます』

ローラ「……ふふん、ようやく魔術と魔法の違いに気付きたりたのね、ステイル」

ステイル『なっ! まさか最初の言葉は文字通りそういう意味だったのですか!?』

ローラ「当然! けれども百聞は一見に如かずという言葉もありし。だから私の目となり赴いてもらいたりたのよ」

ステイル『……それで、目的は? あちら側の存在に気付いたきっかけは?』

ローラ「それを話すと長くなりけるわね。まずきっかけだけど、とある古代文明の遺跡に残されし文献の一説」


ローラ「≪思慮深き統治者、傍らに白き幻獣を従えし女子を置かん≫」


ローラ「……こんな内容だったかしら?」

ステイル『それが何か?』

ローラ「この文明はね、同時期に存在したいくつかの民族を遥かに抜きん出た知恵と文明を誇っていたりけるのよ」

ステイル『抜きん出た知恵と文明、白き幻獣、女子……まさか!?』
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 12:48:10.82 ID:A3KqYXYqo

ローラ「かような文明社会が彼女らの願いによって成り立っているとしたら、なぜ今になってこの文献が見つかったのか?」

ローラ「魔法少女と魔女の永きに渡る戦いの発端は? 白き幻獣の目的は?」

ローラ「それを調べ上げるのがあなたの使命なりけるわね」

ステイル『……』

ローラ「私達の動向にも関わる重要なことなれど……信頼したりけるあなたに託しとう思いてね」

ローラ「任せたるわよ、ステイル」

ステイル『……はっ』 プツッ

ローラ「……任せたるわよ、ステイル」






ローラ「なーんちゃって☆ てへっ☆」 ペロッ

ローラ「ふふふ、問題はそこじゃあなき、そこじゃあなきにあらずなのよなぁーステイル」 チッチッチッ

ローラ「もーんーだーいーはー……自分達に利益があるかないか……それに尽きしよー?」



ローラ「あなたもそう思わない? 孵卵器(インキュベーター)?」
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) :2011/07/27(水) 12:48:42.09 ID:A3KqYXYqo

 そう言って、ローラは暗闇の中に顔を向けた。
 しばらく間をおいた後、暗がりの向こうから“白き幻獣”ことキュウべぇ、あるいは孵卵器(インキュベーター)が、
 諦めたようにこうべを垂れ、長い耳を揺らしながら現れた。

QB「驚いたよ。これほどの素質を持ち、なおかつ完全に闇に紛れていた僕を容易く見つけ出すなんて」

ローラ「ふふ、もっと褒め称えても良いのよ?」

QB「君ほどの素質の持ち主と出会うのは初めてだ。君ならこの星の運命すら捻じ曲げられるかもしれない」

QB「どうやら僕らのことも知っているようだし、改めて説明する必要は無いよね?」

QB「僕と契約して、魔法少女になってよ!」

ローラ「うん、それ無理」

QB「え?」

ローラ「だって私、少女と呼べる年齢は遥か昔に過ぎたるもの。ああ、光陰矢が如し……およよよ」

QB「そんなバカな! 君はまだ発育の良過ぎる高校生で通じる程度の年齢じゃないのかい?」

ローラ「私の実年齢は[ピーーー]だけれど?」
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) :2011/07/27(水) 12:49:28.89 ID:A3KqYXYqo

QB「なっ……無茶苦茶だ、その外見で齢[ピーーー]歳だなんて!」

QB「それは因果律そのものに対する反逆だ! はっ……君は本当は神と同等の存在なのかい!?」

ローラ「それはちょーっと前の話につきよ。それに同等じゃなくてそれより上たりたかしら」

QB「え?」

ローラ「なにもなしに。さて、インキュベーター?」

QB「ローラ=スチュアート、で良かったかな。なんだい?」




ローラ「私と契約して、使い魔になろうという気はなきに?」



.
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 12:50:37.18 ID:A3KqYXYqo

QB「……まいったなぁ、契約を迫る使い魔の僕が、逆に契約を申し込まれるなんてね。内容によるかな」

ローラ「私が求めるは、如何様な形であれ利益になるもの。あなたたちが欲しいのは私達の情報、違って?」

QB「……なんでもお見通し、ということだね。その通り。僕がここに来た理由は、素質ある君達に関する情報さ」

QB「ここ一週間と少しの間に、地球上に大勢の素質ある人間が現れた。才能を開花させたと言っても良い」

QB「しかし何故今なのか? この事件を“僕ら”の利益に活かすことは可能か? それを調べるために動いていたんだ」

ローラ「それは都合が良きね。さて、そちらが差し出す代価はどうして?」

QB「君達が情報をくれるというのなら、僕らはその代価として……そうだね」




QB「途方もないエネルギーのいくらかを、君に譲渡しよう」



.
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 12:52:56.82 ID:A3KqYXYqo

ローラ「ふむん。その量にもよろうはね」

QB「この星の支配者になるくらいは簡単に出来るほどのエネルギーさ。もちろんどう使おうと君の自由だ」

ローラ「ほほーう、それは十分な魅力になりけるわね!」

ローラ「契約は成立よ。よろしく頼みたるわね? インキュベーター」

QB「こちらこそよろしく頼むよ、ローラ」

 膨大な量の金の髪を揺らし、静かに笑いながらローラが手を差し出した。
 それに応えるように、QBも耳毛を伸ばして彼女の手を握り締める。

 ソウルジェムが作られるわけでもなく、願いが叶うわけでもない単なる口約束。単なる言葉上の契約。
 いわば彼らの関係は、ビジネスパートナーのようなものだ。

QB(いやいや、彼女のような人間と出会うのはこれが初めてだよ。それとも、本来人間は皆がこうなのかな?)

QB(僕がこれまで相手してきたのは、二次性長途中の少女ばかりだったからね)

QB(彼女みたいな、利己心にまっすぐ生きてる人間の方が本当は多いのかもしれない)


QB(僕に感情はないけど、それにしたって――面白い生き物だね、人間って)
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/27(水) 12:56:15.23 ID:A3KqYXYqo
以上、ここまで。短時間の内に投下しすぎか
前半は視点がころころ変わってばんばん飛ばしてるからなぁ
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/27(水) 13:02:06.33 ID:I2rM/+4c0
>>1乙!
いいねいいねェ、最っ高だねェ!!
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/27(水) 13:04:38.33 ID:7lD6MBBIO
禁書の世界で時間操作系の能力って使えるやついたっけ?
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/27(水) 13:12:44.37 ID:dh8y9SLSO
>>1
やべぇ、おもしれぇ
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県) [sage]:2011/07/27(水) 13:55:00.80 ID:OTT1Byepo

次の投下も期待してるぞ
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/07/27(水) 14:37:20.56 ID:K2vRhtTAO

マミるのか、マミらないのか、それが問題だ
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/27(水) 15:59:03.54 ID:A3KqYXYqo
出る前に少し質問に答えておこう。はやく杏子ちゃん出したいよ…

>>69
ゲームはともかく、原作には登場してないね
一部の例外や化物を除けばほむほむが頂点

>>72
俺はマミさんが大好きなんだ
あとは察してくれ
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/27(水) 18:06:46.41 ID:60FRhCADO
ステイルさんの活躍はいつ頃かね?
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/27(水) 19:02:44.91 ID:KiLWUdqIO

76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/27(水) 19:08:13.02 ID:JI6iaABIO
乙マミ
面白い
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/07/27(水) 20:32:57.11 ID:yL4oz7mu0
ステイルに期待してるぜ
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/07/27(水) 20:39:22.41 ID:LtFcnc4Jo
ああ、今日もJaneのタブが増える
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/07/27(水) 22:28:48.68 ID:/kTEkd2Q0
ええい、7、11巻に出てきた綺麗な建宮さんはまだか!
本当にあの頃の建宮さんはよかった・・・・ほしい男を亡くしたものだ・・・・
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/07/27(水) 23:32:22.78 ID:CIJ2k+AT0
超期待させてもらう!
焼きそばパンを『食べさせたい』って思ったステイルが秀逸だった。
一番最初に食べたものだものね
乙!
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/27(水) 23:39:26.57 ID:dh8y9SLSO
この物語りは本編の一年後って設定?
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 00:35:25.76 ID:A1e8z63Fo
予定よりもだいぶ遅くなりましたが投下開始します

>>80
え?……あっああ、一巻ね!いやーうん、うん、偶然じゃないよ、ええもちろん

>>81
大体そのくらいを想定しています。
もっと新約がどれだけ伸びるかで時系列が少し狂いそうなので明言は避けておきますが
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 00:38:29.90 ID:A1e8z63Fo

――とあるコンビニ

ステイル(夕食は安上がりなペペロンチーノで済ませようと思ったが、たまには弁当も悪くないな)

ステイル(海苔弁……定番だが、おかずが少し質素かな? だったらこっちのから揚げ弁当の方が満足できそうだ)

ステイル(ただそうすると少し油っぽいな。味も濃すぎてしまう。どうせならおしんこも買うか……ん?)

ステイル(砂肝の炒め物か。砂肝、あれは良い。学園都市で食べた砂肝の味は今でも忘れられないね)

ステイル(よし、砂肝も買うか。こうなってくると汁物も欲しくなってくる。あさり出汁のミソスープ、これだ)

ステイル(……弁当の上に物を置きすぎたな。今度来る時はかごでも使うとしよう)

ステイル「すまないが、会計を頼む」

店員「かしこまりました、とミs……失礼しました」

ステイル「あとそれからをタバコ四箱頼む。12番だ」

店員「こちらですね。全部でお会計2960円でございます、とミs……おほん」

ステイル「3000円で頼む(高くついたな……それにしてもこの顔どこかで見たことがあるような……うーむ)」

ステイル(ん? これは……電子タバコ?)

 彼は電子タバコを手に取り眺め、しかし不必要と判断して元に戻す。
 お釣りを受け取り店を出ようとして、そこでステイルはある事実に気がついた。

ステイル「しまった、コピー用紙の購入を忘れていたよ。参ったな……」

 夕食に気をとられて当初の目的を度忘れしていたのである。

ステイル「とあるこれ以上手持ちは削りたくないし……おや?」
84 :最後の行は ステイル「とはいえこれ以上手持ちは削りたくないし……おや?」 で [saga]:2011/07/28(木) 00:40:10.27 ID:A1e8z63Fo

 何気なくコンビニの入り口に目をやると、そこにはいつものみょうちくりんな格好をした神裂火織の姿があった。

ステイル「神裂じゃないか」

神裂「おや、あなたがこのコンビニにいるとは……そういえばお久しぶりです」

ステイル「馬鹿を言わないでくれ、まだ一週間かそこらだよ。で、どうしたんだい? こんなところで」

神裂「仕事のついでです。と言ってもあなたの抱えている複雑な事情とは別件ですが」

ステイル「ふぅん……まぁいい、お金貸してくれるかい?」

神裂「へ?」

ステイル「お金。コピー用紙を買いたくてね。」

神裂「経費で落ちると思いますが」

ステイル「英国民の努力の結晶である血税をこんなことに使えるわけがないだろう……」 ガーッ

神裂「その血税からあなたのタバコ代も出ているわけで……というか、質の低いコピー用紙でいいのですか?」

ステイル「女狐(ローラ)からの指示なんだよ。ほら、さっさとお金」

神裂「……まぁいいでしょう、どうぞ」 イラッシャセイー、ト ミサkゲフンゲフン!!

ステイル「ありがとう。さてコピー用紙と……おや?」

さやか「おー、ステイルじゃーん!」

まどか「こんにちはー」

ステイル「……美樹さやかに鹿目まどか」
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 00:40:36.20 ID:A1e8z63Fo

さやか「ははっ、神父服とコンビニって似合わねー」

ステイル「余計なお世話だ……君らは?」

まどか「わたしはお散歩。さやかちゃんはお見舞いに行く途中で、たまたま会っちゃって」

さやか「そゆこと。ところでアンタさっき誰と喋ってたの?」

ステイル「知り合いだよ。神裂火織といって――って、あれ?」

 それとなくタバコを懐に隠しながら神裂の居る方を振り向くが、誰もいない。
 どうやらさやか達が来る前にもう一方の出入り口から出て行った後のようだ。

ステイル「どうやら行ってしまったようだね……(接触を恐れているのか? きな臭いな)」

まどか「そっか、足速いんだね」

ステイル「ところで君は誰を見舞うつもりだったんだい?」

さやか「え? あ、いやそれはあの!」

まどか「ふふ、さやかちゃんには上条君っていうバイオリンの得意な幼馴染がいるんだけど、その子が怪我しちゃってて」

ステイル「……上条だって!?」

 思わず我が耳を疑った。
 あの単位ギリギリ成績ギリギリ受験生の名をここで聞くことになるなど、露にも思っていなかったからである。
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 00:41:44.27 ID:A1e8z63Fo

まどか「うん、上条恭介君っていうの。知ってる?」

 恭介。下の名前は似ても似つかない。
 自身の勘違いを恥じながらステイルは首を横に振った。

ステイル「……いや、人違いだったようだ。怪我といったが、もしやこの前の質問の訳はそれかい?」

さやか「へ? 質問?」

まどか「ステイル君が転校してきた時にちょっと、ね」

さやか「ふーん」

ステイル「で、どうなんだい」

さやか「ん? ああ、事故で左手怪我しちゃってね。まだ治らないみたいでさ、一応CD持ってってあげてるんだけど……」

まどか「さやかちゃん……」

さやか「魔法とか使えたらさー、ちちんぷい! って感じなんだけどねー。あはは」

ステイル「……残念ながら、僕は無力だ。奇跡を起こすことも、魔法を使うことも出来ない……だが」

ステイル「天にます我らの父に、君の幼馴染がいち早く回復することを祈るくらいは出来る。祈らせてくれ」

さやか「……ぷっ」

さやか「あははっ、ホントに神父見習いさんって感じじゃんー! 心配してくれてんの?」

ステイル「……一応ね」

さやか「あたしはほら、宗教とか父とか主とか、良く分かんないけどさ。気持ちだけは受け取っとくよ。ありがとね!」

まどか「ふふっ」

店員(いつまで扉の前で青春やってんだよ腐れ中学生が……とミサカは内心で悪態を吐きます)
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 00:43:46.60 ID:A1e8z63Fo

――一方その頃、見滝原市のちょうど隣に位置する街に。
 夕方特有の空気には不釣合いな、緊張の糸を張り巡らせた集団がとあるビルの屋上に屯していた。
 イギリス清教の下部組織に値する形で活動している天草式十字凄教の面々だ。
 彼らは“とある少女”を観察すべく、そこに集結していた。

 元教皇代理である建宮斎字を中心にして、
 女性の五和と対馬、大男の牛深と小柄な少年の香焼がその脇を固めている……と言えば聞こえはいいが。
 柵から顔をちょこんと出した建宮以外は全員地面に伏せる形で横になっていた。

建宮「目標が結界の中に姿を暗ましてから十五分ねぇ。さすがの俺も焦ってきたのよな」

五和「あの、建宮さん、もしかして彼女はやられてしまったのでは……」

建宮「さて、な。実力だけなら俺達でも敵わないぐらいには逞しいはずだが……傷でも負われちゃ俺の立場が危ういのよな」

五和「そもそも、あの女の子が聖人並に強いなんて信じられませんよ」

 そう言って、策の上から身を乗り出して五和が遥か彼方に目を向ける。

五和「やっぱり助けに行ったほふぎゃひぃぃっ!?」

 直後、間の抜けた短い悲鳴が屋上に響き渡った。
 建宮に無理やり頭を押さえつけられた五和が舌を噛んだのだ。
 涙を目に浮かべながら反論しようと建宮を見上げて、五和は息を呑んだ
 何事かと釣られて建宮の顔を覗き見た香焼も、思わずぎょっとして呟いた。

香焼「きょ、教皇代理……?」

 建宮の表情が、いつぞやアックアに返り討ちに遭った時と同様、いや下手をすればその時よりも険しくなっていたからだ。
 眉間に深い皺を刻みながら、建宮は五和を睨みつけた。

五和「た、建宮……さん?」

建宮「相手は聖人クラス、死にたくなければ絶対に気を抜くな……さて、これは誰が言った言葉なのよ?」

五和「うぅっ……」

建宮「誰が言ったか忘れたなんて言わせねーのよな、五和」

五和「ぷ、女教皇様です……」

建宮「分かりゃあ良いのよ、分かりゃあな。さて……」
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 00:46:44.43 ID:A1e8z63Fo

 しょんぼりと肩を落とす五和を無視して、険しい表情のまま建宮は手に持った双眼鏡を覗き込んだ。
 先ほどと変わらず、依然として人気の無い路地裏が写るだけだ。

 そのまましばらく双眼鏡を構えたままでいると、不意に後ろから声がかかった。

神裂「彼女ならば心配は要りませんよ」

 建宮達の背後に、どうどうと神裂が立っていたのだ。
 その堂々たる佇まいからは想像できないほど、まったく気配が感じられない。決して地味とかそう言うわけではないはずだが。

五和「女教皇様! いつの間に?」

神裂「たった今です。巴マミという魔法少女もなかなか手強かったので、あちらの観察は一時中断です
.     それより私が不在の間、ありがとうございました。みんなは休んでください。特に建宮、あなたです」

建宮「休めと言われても、遠くから時々双眼鏡でちらちら覗いていただけだし特に疲れていませんのよ」

神裂「彼女相手に気付かれないよう監視を行うのは神経が要るでしょう? とにかく下がってください」

 そうまで言われては、建宮も引き下がるしかなかった。
 実際、下手に彼女に視線を送れば一瞬で感づき、魔術を使おうものならすぐさま飛び込んできかねないほどの相手だ。
 相手を見つつ、相手を見ない。そんな訳の分からない馬鹿げたレベルなのである。
 それこそ針の穴に通した糸で絵を描くよりも集中力と根気が要る作業だ。

 短時間とは言え建宮たちの体力は確かに監視行為によって奪われていた。神裂の推理は間違いではない。

 では建宮達にそうまでさせる相手が誰なのかと言うと――
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 00:47:16.95 ID:A1e8z63Fo

神裂「おや、出てきましたね」

 双眼鏡も何も持たない神裂が、700m先の路地裏から出てきた赤い髪の少女――佐倉杏子を見て呟いた。

神裂(……使い魔自体は見逃す、と。話に聞く巴マミに比べて現実主義者なのですね)

五和「女教皇様?」

神裂「立ち振る舞いを観察するに、私達を燻り出すために隠れていたのかもしれません」

建宮「んん? それは、つまりばればれだったと?」

神裂「いえ、そうとはまだ――」

五和「メイド服持ってきてどっちが良いかなんて選ばせるからこういうことになるんですよ!
.     騒ぎすぎて自分の株を下げかねないかも……って焦って急にシリアスぶって真面目な態度取ったって遅いんです!!」

建宮「いやいやいやいや! メイド服の時は五和も結構乗り気だったのよな!? そうだろ香焼!?」

香焼「言っときますけど今回は関係ないすからね。元教皇代理、素直に諦めた方が良いすよ」

対馬「ってか、そろそろ根性叩き直すべきよね……」

牛深「(何も言えん……)」

建宮「香焼ぃ! ぷ、女教皇様! 此度の失態は最新作の堕天使ゴスエロメイドでどうか手を!」

神裂「――おほん、安心してください、まだ気付かれてはいません……とはいえ。
.     とりあえずあなたは、そろそろ本格的に痛い目を見るべきだと思うのですがどうでしょう?」
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 00:48:00.62 ID:A1e8z63Fo

 腰に携えた2mの日本刀、七天七刀の鞘で建宮の頭をぶっ叩きながら、
 そうやっておちゃらけることが彼なりの仲間に対するフォローなのだと考え、神裂は頬を緩めた。
 自分がいなくても、彼らはやっていける。
 一年前、『後方のアックア』と対峙した時のように、再び一丸となって戦いに挑む日はもう来ないのかもしれない。

神裂(なるほど……これが巣立ちというものですか)

 微かに寂しさを感じつつも、しかし彼女は同時にそれを嬉しく思っていた。
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 00:48:50.29 ID:A1e8z63Fo

――700m離れたビルでそんなやり取りが行われているとは知らず、佐倉杏子は苛立たしげに土を蹴った。

杏子(魔女は出ねーし、ストーカーおびき出そうとしてわざわざ使い魔の結界の中に隠れても尻尾出さねーし)

杏子「だああぁッもう! ムカムカすんなぁー!」

 実際のところ、そのストーカー――つまり建宮たち――だが。
 神裂が来るのが遅ければ、緊張と疲労によって不自然さが出ていた建宮たちの監視を、
 経験豊富な杏子が視線を辿って位置を特定することは容易かったであろう。

 別に建宮達が弱いからとか、未熟だったりするからとかではない。
 前途の通り、杏子が強過ぎるのだ。

杏子(一般ピーポーにアタシに気付かれないように見張るなんて芸当が出来るはずがない)

杏子(だとしたら残るは魔女か魔法少女。魔女にんな知恵はねーから……)

杏子「やっぱ魔法少女か! 力がねーからってちんたらしやがって!」

杏子「見つけたらゼッテーにぶっ倒してやっかんな!」

 残念なことに、神裂火織――彼女はもはや、少女と呼べる若さではないのだが。

 それは神裂の顔はおろか声すら知らぬ杏子には到底知り得ないことだった。
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 00:49:19.20 ID:A1e8z63Fo

――夕方の病室

さやか(……よし、行くぞ!)

さやか「やっほー、恭介!」

恭介「ん……やぁ! また来てくれたのかい?」

さやか「う、うん。あ、それから……はいこれ」ササッ

恭介「これは……わぁ!」

さやか「ど、どうかな?」

恭介「いつも本当にありがとう。さやかはレアなCDを見つける天才だね」ニコッ

さやか「あ、あははっ、そんなぁ運が良いだけだよ、きっと」

 嬉々と話す上条恭介の顔を見て、しかしさやかの心は晴れないままでいた。
 幼い頃からいつも一緒にいたのだ。彼の笑顔が偽りでないことは百も承知している。
 しているが……
 だからこそ、包帯が巻かれた左手がさやかの目には痛々しく映ってしまう。

 恭介と肩を寄せ合ってCDを聴きながら、なんとはなしに恭介の顔を覗き見た。
 そして彼女は気付いた。彼の頬を流れる雫に。
 頭の中を、キュウべぇの言葉が過ぎる。

 魂を捧げるに足る願いが、それに至る祈りが、彼女の中に生まれつつあった。
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 00:50:30.59 ID:A1e8z63Fo

――舞台は猫の目のようにころころと移り、どこぞのアパートに。

ステイル「ご馳走様……いやはや、日本のコンビニは馬鹿に出来ないね……」

 窓から身を乗り出して夜風に当たっていたステイルは、懐からタバコとライターを取り出した。
 口に咥えて風から守るように片手で覆いこみ、火を点けようとライターを近づけて――



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ほむら『それからタバコはやめなさい。臭いが染み付くわ』

ほむら『それでも。限りある命、尊い人生を長く生きたいのならやめるべきね』

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 ふと頭の中に浮かんできた暁美ほむらの言葉のせいで、動きを止めた。

ステイル(……くだらない。ニコチンとタールの無い世界は、地獄に等しいというのにね)

ステイル「食後の余韻が台無しだよ、まったく。どう責任をとってもらおうかな……っと?」

 タバコに火を点し終える寸前、ステイルは面を上げて窓を見た。
 探知網……大量のコピー用紙にルーンを刻んだ物で構成された魔法陣に、魔力が引っかかったのを感じ取ったのだ。

ステイル「魔女か使い魔か。どちらにしても出番のようだね」

 プッ、とタバコを吐き捨てると、神父服の端をはためかせてステイルが窓から飛び降りた。
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 00:51:06.57 ID:A1e8z63Fo

――結論から言ってしまおう。ステイルの働きは徒労に終わってしまった。

 同じ時間帯に行われていた魔法少女体験コースの道中に、件の使い魔が駆除されたからだ。

マミ「嫌な予感がして、わざわざ? 確かに虫の知らせとはよく言うけど……素質が影響しているのかしら?」

QB「うーん、どうだろうね。そういった事例が無いってわけじゃないんだけど」

ステイル「昔から勘の良い子と呼ばれていたからね(大嘘)」

マミ「そういうこともあるのかしら……ところで二人とも、なにか願い事は決まった?」

まどか・さやか「うーん……」

マミ「まぁそういうものよねぇ。いざ考えろって言われたら」 フフッ

まどか「マミさんは、どんな願い事したんですか? あ、どうしても聞きたいってわけじゃなくて!」

マミ「……私の場合は――」
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 00:51:46.84 ID:A1e8z63Fo



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

――何かが焦げる臭い。
 鳴り止まない耳鳴り。
 微かに聞こえる呼吸音。
 激しい頭痛。

 こちらを見下ろすキュゥベェの姿。

 幼いマミが、搾り出すようにして紡いだのは。

『たすけて』

 たった四文字の言葉。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


              .
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 00:52:21.04 ID:A1e8z63Fo

マミ「――考える余裕さえ、無かっただけ。後悔してるわけじゃないのよ。あそこで死んじゃうよりは良かったと思ってる」

マミ「キュゥべぇと一緒にいられるし……ただ選択の余地がある子には、私と同じ思いをして欲しくないの」

 ステイルは、私に出来なかったことだから、と話す彼女の相貌を注意深く観察した。
 後悔の色は見えない。あるのは、ただ純粋に人を思いやることが出来る者特有の優しさだった。

ステイル(やれやれ……勝てないな、これは)

さやか「あの、マミさん。願い事って、自分以外の誰か……あたしよりも辛い目に遭ってる人に使っちゃ駄目なんですか?」

まどか(さやかちゃん……やっぱり、上条君のこと……)

QB「別に契約者自身に限るわけじゃないよ。前例もないことはないし」

マミ「でもあまり感心出来た話じゃないわ。他人の願いを叶えるなら、なおのこと望みを具体的にしておかないと」

マミ「その人を救いたいのか、その人を救った恩人になりたいのか……同じようでも全然違うし、それに」

 そこでマミは、さやかの表情が強張っていることに気がついたのか口を噤んだ。

さやか「その言い方は……ちょっと酷いと思う」

マミ「ごめんね。でも今の内に言っておきたくて。そこを履き違えたまま先へ進むと、あなたはきっと後悔するから」

さやか「……そーだね、あたしの考えが甘かった。ごめん」
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 00:53:15.88 ID:A1e8z63Fo

 その後、家の方向の違いからステイルはマミに同行する形でまどか達と別れた。
 先ほどから沈黙を保ったままのマミに、自分が贈れる言葉を模索してみるが思い浮かばない。
 そのまま1,2分ほど歩いていると、ふとマミは短いため息を吐いてから微笑を浮かべた。

マミ「ごめんなさい、なんだか空気重たくしちゃって」

ステイル「謝る事はないさ。むしろ僕としてはこれくらい静かな方が心安らぐよ、冗談抜きでね」

マミ「ふふっ」

 年相応とまではいかなくとも、それなりに無邪気な笑顔を浮かべる彼女を見て肩をすくめる。

マミ「……さっき美樹さんに言いかけたこと、代わりに聞いてもらえるかしら?」

ステイル「万が一魔女との戦いで死に瀕したとき、救った相手を恨まない自信はあるのか……かい?」

マミ「あら……乙女の言葉を先取りしちゃうだなんて、あんまり感心できないわよ?」 クスッ

ステイル「それは失礼。だが彼女だって最低限のことくらいは分かっているはずだよ
       誰かの幸せを祈ったからって、誰かを恨むほど落ちぶれちゃいないさ……付き合いは短いけどね」

マミ「そうかしら?」

ステイル「ああ、そこだけは保証するよ。女王陛下に誓ってもいいさ」

マミ「そう。それじゃあ信用せざるをえないわね」

 未来の後輩候補だもんね、と彼女は笑った。
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 00:56:05.82 ID:A1e8z63Fo

マミ「それにしても」

ステイル「なんだい?」

マミ「ふふっ、意外と優しいのね」

ステイル「……からかわないでもらえるかな」

マミ「あら、本当のことを言っただけなんだけどなー」 クスクス

ステイル「はぁ……まったく」

マミ「ふふっ、もうこの辺りで大丈夫よ。おやすみなさい、ステイル君」

ステイル「ああ、おやすみ。巴マミ」

 いずれにせよ――と、彼女に手を振りながらステイルは思う。

 彼女は自分とは正反対な人間だ。

 大事な人を想い、その結果自分が傷つくことを恐れ、
 その大事な人と敵対する選択肢を選んだおろかな自分とは。

 それは彼がその身を犠牲にする覚悟の上で求め、そして手にした能力とはかけ離れた代物だが。
 同時に、彼が何に代えてでも守り通そうとした代物でもあった。

 つまるところ、巴マミは他者に甘く、そしてそれ以上に他者に優しい。
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 00:56:31.61 ID:A1e8z63Fo










 その優しさが原因で、砕けてしまうとも知れずに――









          .
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 00:58:11.62 ID:A1e8z63Fo

 マミを部屋に送り届けたステイルは、一服すべく立ち寄った公園の街灯に背を預けた。
 止まることを知らない噴水を眺めながら、火の点いていないタバコを手元で弄っていると。

ほむら「……ステイル=マグヌス」

 それこそ錯覚かと勘違いしてしまうほど唐突に、視界に映る噴水の向こう側に暁美ほむらが現れた。
 水飛沫が街灯の光に反射して輝いているため、首から上が見える程度だが。

ステイル「これはこれは。僕はファンタジーには疎いんだけど、今のも魔法によるものなのかい?」

ほむら「答える義務は無いわ。それより」

ステイル「それより?」

ほむら「あなたがなんであれ、私には関係のないことだけれど……まどかには関わらないで」

ステイル「なぜだい?」

ほむら「……あなたがなんであるのか、私には分からないからよ」

ステイル「……君は人を疑いすぎだと思うけどね」

ステイル(その心は警戒と恐怖、それに僅かな勇気……未知との遭遇というやつか。まいったな、立場はほとんど同じじゃないか)

ステイル(魔法少女が全員巴マミのようであるとは限らない……キュゥべぇの狙いも分からない……ふむ)

ほむら「あなたと私は、同じ立場のはずよ」

 とどめとばかりにほむらの言葉がステイルの胸に突き刺さった。

ステイル「……確かに。疑われるのは嫌いだし、疑うのも好きじゃない。それじゃあ手の内を明かそうか」
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 00:59:51.62 ID:A1e8z63Fo

ステイル「僕は魔女狩りの王と契約した魔法使いなんだ」

ほむら「は?」

ステイル「ちなみに契約の際の願いは『最強にしてくれ』だよ」

ほむら「……」

ステイル「そのおかげで強くなったけど体力が減ってね、不便な体になってしまったものだよ」

ほむら「……」

ステイル「……」

ほむら「冗談はやめて」

ステイル「残念」

ステイル(願い云々以外は事実なんだけどね……しかしこうも動じてくれないと若干心が痛くなるな)

ほむら「……今日のは警告。とにかく、まどかに関わらないで」

ステイル「そこまで言われてしまうと僕も考えないわけにはいかなくなるな」

ほむら「本当に?」

ステイル「もちろん嘘だよ。まさか本気で信じたのかい? 失礼だが君はもう少し人を疑うことを覚えた方が良いと思うね」

ほむら「……」

ステイル「真面目な話、転校してから日が浅いし友達が少ないんだよ「。魔法とかには興味ないけど、彼女たちとは友人関係でいたいんだ」

ほむら「……好きにしなさい」

 現れた時と同じように、唐突に暁美ほむらの姿が消えた。足音はおろか風切り音すらしない。

ステイル(幻惑か空間転移か? 魔力を使用した形跡は見られるのに、どう作用したのか分からず仕舞いとはね)

ステイル「これはちょっと……いや、かなり手強いかな?」

 自嘲気味に笑って、ステイルはタバコを握りつぶした。
 姿勢を正して軽く伸びをすると、狭苦しいアパートに戻るためゆっくりと歩み出す。
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 01:06:01.41 ID:A1e8z63Fo
ごめん、明日は朝早いから今日はここまで
書き溜めはあるんだけど次で区切りも良いしね……
しっかしVIP用にキャラの解説も兼ねてころころ舞台移したせいで話が進まねぇ

次の投下はおそらく昼過ぎかと
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/28(木) 01:08:21.89 ID:o1rRRrqB0
いちおつ
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/07/28(木) 01:45:48.58 ID:5Yn1xpRAO
異様な持ち上げっぷり+地の文で砕ける前提とかおっぱいさんからものっそい死臭がするんだが
ともかく乙
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/07/28(木) 02:07:07.00 ID:FMVC0O1u0

最近ステイルが活躍するssが増えてきたようでなにより
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/07/28(木) 03:04:45.66 ID:DK34UY0ko
持ち上げられても死臭がヒドい!ゾンビかっての
あっゾンビでしたね
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/07/28(木) 05:19:15.29 ID:Oizr5NQAO
魔女狩りの王が魔女を狩る所が早くみたい。
……流石のステイル君もそこらの魔女に返り討ちにあったりしないよな?
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/28(木) 05:28:00.23 ID:w1wjGAHs0
それはどうかな
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/07/28(木) 07:53:10.20 ID:nV8erwnAO
ステイル君は曲がりなりにも魔神と渡り合ってるから大丈夫だろ。
早く厨二臭いセリフ言いながらマミさんを助けてくれ!
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/28(木) 08:10:57.04 ID:PqGTdYsIO
乙マミ
マミさんの死亡フラグが…
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県) [sage]:2011/07/28(木) 13:19:31.71 ID:ED2AnrVTo
そういえばこのステイルはほむらの経験した他の時間軸にもいたのか?
あとこの時間軸は何週目の時間軸なんだろう?
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/07/28(木) 17:10:04.88 ID:6zidUWyO0
>>1
建宮達なら杏子にも勝てると思うんだけど…

>>111
今回が初めてだろうね
イレギュラーだからほむらが警戒してるんだろ
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 18:13:02.31 ID:A1e8z63Fo
昼頃の予定がどうしてこうなった。準備が終わったら投下する

>>111
その辺りは次回の投下で大体判明するかな
次回は恐らく今日の深夜

>>112
16巻の聖人並の戦闘力は天草式フルメンバーだったので、実際はもっと低いと睨んでる
あとは戦力の平衡を保つためでどうか手打ちを。
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 18:15:20.73 ID:A1e8z63Fo

――次の日、見滝原市大病院

ステイル「――いやぁ、本当にすまないね。無駄話に付き合ってもらって」

恭介「いえ、お気になさらずに。僕もあなたの話が聞けて楽しかったですよ。思わず他の方の面会断っちゃいました」ハハッ

ステイル「古い友人を訪ねてみれば既に退院した後だったとはね(嘘) いやはや、これも主が僕に与えし試練なのかな?」

恭介「あはは、面白いこと言いますね神父さん。こんなに笑ったの久しぶりですよ」

ステイル「そうかい? 僕はただ、主のお導きのまま動いているに過ぎないんだけどね」

恭介「それでも、ですよ。本当にありがとうございました。おかげで気が晴れました」

ステイル「ユーアーウェルカム、キョースケ。僕も話相手になってくれた礼をしたいところだが……」 ゴソゴソ

ステイル「手品用のカードしかないんだな、コレが」 パラパラ

恭介「ははは、神父さんっていうより魔術師さんですね!」 エェー、アエナインデスカー?

ステイル「えっ、あ、ああ、いやーハハ……そうだ」 ヨウジガ アル ミタイナノ、マタキテクレル?

恭介「どうかなさいましたか?」 ウーン…ショーガナイナー マタキマース

ステイル「左手に触れてもいいかな? 気休めにもならないだろうが、せめて怪我が早く治ることを主に祈りたくてね」

恭介「えっ?」

恭介「……そうですね。あなたみたいな良い人が祈って下さったら、治りが早くなるかもしれません」

ステイル「嬉しいこと言ってくれるね」

恭介「あはは……はい、どうぞ」

ステイル「サンキュー……天に思し召す、我らが父よ……」ブツブツ

恭介(宗教家って危ない人ばかりだと思ってたけど、案外違うのかもしれないなぁ)
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 18:15:56.50 ID:A1e8z63Fo

ステイル「……君に神のご加護があらんことを……っと。こんなところかな? 何から何まで申し訳ないね、まったく」

恭介「とんでもない、助かってるのは僕の方ですよ! 今日は本当にありがとうございました」

ステイル「それじゃあ時間なので失礼するよ。また機会があったら話し相手になっておくれ、キョースケ」

恭介「僕でよろしければぜひ!」

ステイル「ふっ……」



ステイル「……」
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 18:17:18.45 ID:A1e8z63Fo

――病院の廊下

ステイル「……やってしまった」 ズーン

 上条恭介の“触診”を終えたステイルは、待合室のベンチに座って盛大にため息を吐いた。
 そもそもにして他人と馴れ合うことを良しとしない彼の性格上、愛想の良い神父を装うのはとても苦労がいるのだ。

                                        ネ セ サ リ ウ ス
ステイル(その動機が、“見ていられなかったから”だなんて……必要悪の教会の魔術師失格だな……)

ステイル(一人救った程度でどうなると言うんだ……いや、そもそも僕じゃ彼を救えないというのに……)

 ステイルには高度な回復魔術が使えない。
 使うためには知識を持った者か、相応の霊装がなければならないのだ。

 それを抜きにしても、上条恭介では魔術に対する“宗教防壁”が無さすぎた。
 魔術とは毒であり、それを扱うためにはそれ相応の知識や鍛錬を積まねばならない。
 行使するのがステイル側であったとしても、それを上条恭介が見聞きすれば多少なりとも悪影響を及ぼしてしまう。
 もし彼の腕を完治させるほどの魔術を使えば、彼を“こちら側”の世界に巻き込みかねないのだ

ステイル「やれやれ、だ――っ!?」

 自己嫌悪に苛まれる彼は、しかし我に返って周囲をうかがった。

 黒い波が病院全体を覆ったようなそんな錯覚を覚えたからだ。

ステイル(この嫌な感じは……)



ステイル(魔女か!)
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 18:18:01.78 ID:A1e8z63Fo

――一方その頃、結界内

まどか「……いきましたよ、マミさん」

 ちっちゃな使い魔がとことこ歩いていくのを見送ったわたしは、小声でマミさんに話しかけた。

マミ「みたいね。でも美樹さんとキュゥべぇがグリーフシードを見張ってるとはいえ、あまり時間は掛けられないし……」

まどか「わたしなら大丈夫です、体力は、あんまり無いけど……マミさんに合わせて走ります!」

 ホントはちょっと不安。
 だけどさやかちゃんやキュゥべぇのことを考えたらゆっくりしてられない。
 それにわたしは、二人にすぐにマミさんを連れてくるって約束しちゃったから。
 あと、さっきマミさんに縛られちゃったほむらちゃんもあのままじゃ可哀想だし。

 そんなわたしの様子を見て、マミさんはおかしいような悲しいような表情を浮かべてる。

マミ「うーん、そういうことじゃないんだけど……まぁいいわよね」

 そう言って、マミさんが可愛らしい笑顔を浮かべた。
 その笑顔を見て、わたしは胸に秘めていた思いを打ち明ける決心をした。

 とっても緊張するし、今だって怖いけど、それでもやっぱり。

 はやく打ち明けたいなって。

 マミさんの顔を見ると、そう思ってしまうのでした。

まどか「あの……マミさん」

マミ「なぁに?」

まどか「願い事、わたしなりに考えてみたんですけど――」
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 18:19:03.65 ID:A1e8z63Fo

 わたし、昔から得意なこととか、大好きなこととか、そういうのあんまりなくて。
 誰かのために、なにかをしてあげられたりするわけでもないし。
 やりたいことだって特にないし。

 ステイル君みたいに大きくないし、神様のことも良く分からない。

 さやかちゃんみたいに逞しくないし。仁美ちゃんみたいにお稽古励めないし。

 だからって、ママみたいに頑張ることが好き! だなんて気持ちもあんまりない。

 だけど。

 マミさんみたいに。

 誰かのために戦って。
 誰かのために優しく出来る人になれるのなら。

 もしもそんなふうになれるんだったら。

 魔法少女になることで、私の願いは叶っちゃうんです。

 怖くても、傷ついても、色んなことが出来なくなっても。
 わたしはマミさんに憧れてるから。マミさんみたいになりたいから。

 ひとりぼっち……? そんなことない。そんなの間違ってます。
 だってわたしは、マミさんと一緒にいるんだから。
 わたしが、一緒にいるんだから。

 マミさんは一人ぼっちなんかじゃない。

 そうですよね、マミさん!
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 18:19:35.83 ID:A1e8z63Fo

 まどかの告白を聞き終えて、自然と頬を伝う涙を拭いながら、マミは微笑を浮かべた。

マミ「ありがとう、鹿目さん。まいったなぁ、まだまだ先輩ぶってないといけないのになぁ」

まどか「マミさん……」

マミ「でもせっかくなんだし、願い事はちゃんと考えないと」

まどか「うぇ、やっぱ駄目ですか?」

マミ「もちろん! そうだ、じゃあキュゥべぇに大きなケーキとご馳走を出してもらいましょ!」

まどか「ケ、ケーキ? わたし、ケーキで魔法少女になっちゃうんですか!?」

マミ「嫌ならちゃんと考えること、ね?」フフ

――マミ!

 そんな和やかな雰囲気を切り裂くように、二人の頭の中にキュゥべぇの声が響き渡る。

QB『グリーフシードが動き始めた! 孵化が始まる、急いで!』

マミ「オッケー、分かったわ。今日という今日は速攻で片付けるわよ!」

まどか「えぇっ、そんな!?」

 言うや否やSGが光り輝き始め、彼女はあっという間に魔法少女の装束を身に纏った。
 魔力の臭いに反応した使い魔たちがその身を震わせて威嚇し始める。
 だがマミは気にも留めずにその真っ只中に飛び降りた。

マミ「もう挫けない……だって私……!」

 足元にマスケット銃を召喚させたマミが、その一本を引き抜き、トリガーを引き絞る。
 それが合図となり、使い魔とマミの戦いが始まった。
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 18:20:17.06 ID:A1e8z63Fo

 飛びかかろうとする使い魔を迎撃し、マスケット銃を懐に潜り込んだ使い魔めがけてフルスイングする。
 使い魔がばらばらになって消滅するのを見届けるより先に新たな銃を拾い上げ、別の使い魔を叩き潰す。

マミ(体が軽い……)

 反動を利用して体を反転、真後ろに潜む使い魔に照準。発砲。撃破。
 ステップを踏んで再び向きを変え、空の銃を群れに向かって勢いよく投げつけるのと同時に足元の銃を蹴り上げる。

マミ(こんな幸せな気持ちで戦うなんて初めて……)

 次の瞬間には蹴り上げた銃を使って真上の使い魔を迎撃。
 空いた左手に銃を握って右方の使い魔も吹き飛ばしつつ、三度方向転換。
 同じように銃を叩きつけ、使い魔を吹き飛ばして見せた。

マミ(もう何も怖くない……!)

 体中からマスケット銃を召喚し、嵐の如き弾幕を展開して周囲にいる使い魔を一掃する。
 さらにマスケット銃を召喚。照準。発砲。
 打撃を混ぜ、フェイントを織り込み、リボンで拘束しては吹き飛ばす。

 瞬く間に使い魔を全滅させた彼女は、誇らしげに胸を張った。

マミ「私、ひとりぼっちじゃないもの!」
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 18:20:52.24 ID:A1e8z63Fo

――結界に飛び込んだステイルが目にしたものは、見るだけで胸焼けがしそうなほどのお菓子の山と。

ステイル「お菓子の結界とでもいうのか? まったく不思議な存在だよ、魔女は……で?」

ステイル「君は何をしているんだい、暁美ほむら」

 鎖の模様が付いたリボンに締め上げられているほむらの姿だった。

ほむら「……巴マミにやられたわ」

ステイル「……あれだけ大口を叩いておきながらあっさりと捕まるとは。ずいぶんと迂闊で残念だね」

ほむら「まさかまどかの目の前で拘束されるとは思わなかったのよ」

ステイル「彼女からすれば、君はキュゥべぇを傷つける悪者で敵対関係にある存在。命があるだけマシじゃないのかい?」

ほむら「それは……」

 言い淀み、なにかを忘れる――あるいは振り払うように、ほむらはかぶりを振った。

ほむら「とにかくこの拘束を解いて。
...    巴マミが自分の意思で解くか魔力が滞らない限り解けない仕組みのようだけど、
...    単身で結界に入って来れるあなたなら出来るはずよ」

ステイル「よしてくれ、僕は巻き込まれたんだよ。特別な能力なんて身に備えちゃいないさ」

ほむら「……」

 堂々と言ったにも関わらず、暁美ほむらの顔色はまったく変わらないままだ。
 その眼差しからは疑惑の色が色褪せることなくことなく残っている。

ステイル「疑いすぎだよ。失礼だが君はもう少し人を信じ」

ほむら「この前とは逆のこと言ってるじゃない!」

ステイル「なんだ、覚えていたのかい。つまらないな」

ほむら「この……!」
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 18:21:22.86 ID:A1e8z63Fo

 ステイルを殴ろうとしているのか、ほむらは必死に右手――というか右肩を彼に近づけようとした。
 しかし拘束は緩まるところを知らず、結局彼女は疲れ果てて脱出することを諦めてしまう。

ほむら「……本当に?」

ステイル「ん?」

ほむら「本当に、なんの力も持っていないの?」

 搾り出されるようにして、ほむらの口元から弱弱しい言葉が漏れた。
 完全にその身を拘束されてしまっている以上、彼女には言葉を紡ぐことくらいしか出来ないのだ。

 懐にあるルーンのカードの枚数を数えていたステイルは、顔を向けることなく返事をする。

ステイル「本当だよ。とりあえずお守りだけでも預けておくから、もう少し拘束されたままでいてくれるかい?」

ほむら「なっ……」

 そう言ってほむらの懐にルーンのカードを忍ばせると、ステイルは結界の奥を目指して歩き始めた。

ステイル「それに、言ったってどうせ信じやしないさ」

ほむら「なっ……待ちなさい、今の言葉はどういう……聞いているの!?」

 背後から聞こえるほむらの声を無視して、歩みを早める。
 巴マミほどの実力者ならば余計な手助けは無用だろうが、万が一が無いわけでもない。

ステイル(しかし――)

 嫌な予感がする。理由があるわけではないが、良くないことが起こる、そんな予感。
 この奇妙な感覚を、自分は過去に経験したことがある。

 いつだったか。“あの子”が頭痛を訴えた時だ。
 知らなかった。知らされていなかった。彼女の頭の都合なんて、まったく聞き及んでいなかった。
 それが最大主教の差し金であることすら、当時の彼は知らなかった。それほどまでに彼は無知で、無力だった。

 だから、と。拳を強く握って、彼は先を急いだ。

ステイル(あんな胸糞悪い事は、もう二度とごめんだからね――!)
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 18:21:48.66 ID:A1e8z63Fo

 一方その頃、マミとまどかは結界の最深部……キュゥべぇとさやか、そして魔女のいる空間までやって来ていた。

さやか「はぁ〜間に合った〜! おそいよーマミさん!」

マミ「あはは、ごめんなさい。それで魔女は?」

QB「気をつけて、出てくるよ!」

 辺りの空間が歪むや否や、黒い風呂敷を背負ったキャンディー頭の可愛らしい魔女が大きな椅子に降り立った。
 すぐさまマミが椅子の足をマスケット銃でへし折り、可愛らしい体が宙に投げ出される。

マミ「せっかくのとこ悪いけど……」

 再度マスケット銃をフルスイング。魔女の体が壁にぶち当たる。

マミ「一気に決めさせて……もらうわよ!」

 さらに追い討ちをかけるように中空にマスケット銃を召喚、一斉掃射。
 銃弾を体に食らった魔女が力なく地面に倒れ込んだ。
 魔力によって強化された脚力を活かして近づき、頭にマスケット銃を突きつけて発砲。
 貫通した弾丸がお菓子の地面に突き刺さり、リボンが伸びて魔女の体を空中で固定させる。

マミ「それじゃあ、あとは……」

 マミはこっそりとSGの明度を確認した。普段の状態と比べるとだいぶ濁ってきている。
 使い魔との戦闘を重ねた結果だ。近接戦闘を多めに行うことで魔力を節約してきたが、これ以上は持ちそうに無い。
 だがこの魔女を倒せば、あるいはGSが手に入るかもしれない。では今の自分に出来る最大限の攻撃方法は何か?

 思案してから、手に持ったマスケット銃を巨大な砲台に見立てて変化させた。

 可能な限り魔力を節約し、なおかつダメージを与えるために。
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 18:23:43.91 ID:A1e8z63Fo

マミ「ティロ・フィナーレ!」

 砲台から放たれた、魔力の塊によって形成される砲弾が魔女の体を貫いた。
 砲弾はそのまま爆破することなくリボン状に変化し、魔女の体を捕らえ、締め上げる。

 素のティロ・フィナーレに比べれば威力は落ちるが、それでも小柄な魔女を倒すだけならば難しくない。

まどか「やったぁ!」

さやか「さっすがマミさん!」

 マミが勝ったと思って、まどかたちが歓声を上げる。

 それに釣られるようにマミは笑顔を作ってそちらの方へと目を向けた。向けてしまった。

 魔女の口から這い出るようにして姿を現した怪物……魔女の本体が目前に迫っても。

 完全に気が緩み切ってしまっていたマミには、迎撃することはおろか反応することすら出来ない。

 その首から上を怪物の口に覆われる段階になって、ようやく自身の危機に気がつくが――

 抗えない。彼女にはもう、抗うだけの術が無い。

 ばくん、と魔女の口が閉じられる
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 18:24:14.49 ID:A1e8z63Fo






 寸前。






 巴マミの胸が、魔女を巻き込むように爆発した。





.
126 :くすねたのは>>52 [saga]:2011/07/28(木) 18:25:50.82 ID:A1e8z63Fo

まどか「まっ、マミさん!?」

さやか「それに……なんであんたがここにいんのよ!?」

 驚きを顕にする二人の視線の先には。
 胸元から黒煙を上げるマミと、口から黒煙を吐き出す魔女、そして――

 ポッキーを咥えたステイルの姿が、あった。

ステイル「いやぁ、まさか彼女がくすねたルーンのカードがこんなに役に立つとはね……僥倖ってやつかな?」

 彼女が盗んだカードに遠くから魔力を込めて、爆発させた。
 タネを明かしてしまうと驚くほど簡単なことだが、いかんせんまどか達には理解が及ばない。

さやか「だからっなんでここに」

ステイル「その話は後にしてくれないかい? 先約があってね」

 すまないね、と謝りながらカードを手にしたステイルは。

ステイル「さて、と」

 いとも容易く、手のひらに巨大な炎の塊――摂氏3000℃を超える灼熱の刃を作り出した。

 それこそはステイルがもっとも得意とする火の魔術。炎剣。

 しかるべき知識と知恵を振り絞ることで成り立つ能力(ちから)。
127 :くすねたのは>>52 [saga]:2011/07/28(木) 18:27:19.91 ID:A1e8z63Fo


ステイル「先に名乗らせてもらおう」


                   F   o   r   t   i   s   9   3   1
ステイル「僕の魔法名は『我が名が最強である理由をここに証明する』」


ステイル「だからくたばれ、魔女」

                                                   .
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 18:28:04.72 ID:A1e8z63Fo

        Kenaz   PuriSaz NaPiz Gebo
ステイル「炎よ――巨人に苦痛の贈り物を!」

 短い詠唱の後に右腕を振りかぶり、魔女に対して零距離から容赦なく炎剣を叩きつける。
 すると瞬く間に炎が表皮を焼き尽くし、次いで炎の中心に込められた魔力が爆発した。
 爆音が鳴り響き、魔女を中心とした衝撃波が結界内に響き渡っていく。

 3000℃の熱量に加えて爆発のエネルギーに晒された魔女が、声にならない奇声を上げた。

ステイル「! へぇ?」

 しかし、それでも。

 魔女は倒れない。

 魔女は蛇のように脱皮することで炎の海から逃れると、体をうねらせて上空に飛び立とうとした。

ステイル「利口だよ」

ステイル「だが……逃げるのは気に食わないね!」
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 18:28:31.65 ID:A1e8z63Fo

 あっさりと逃げに入った魔女を侮蔑するように鼻を鳴らし、ステイルは再度右手に炎剣を作り出す。
 先程と同じように右腕を振りかぶり――今度はそれを、投げつけた。

ステイル「これでッ!!」

 ステイルの手から離れた灼熱の炎の塊は、まるで意思を持つかのように蠢いて。
 ふたたび魔女に突き刺さる。それは一拍置いて爆破し、魔女を炎で包み込んだ。
 力を失った魔女が地面代わりのケーキの山に墜落する。
 墜落によって生じた衝撃波を全身に感じながら、ステイルは怪訝そうに首を傾げた。

ステイル(威力が低い。加減が分からなくなったか、あるいは……?)

 本来ならば最初の炎剣で全ての皮を貫通し、内部から爆破してもおかしくはないはずだ。
 そうならないということは、彼の腕が鈍ったこと、そして魔女が彼の予想よりも硬いことを示唆している。
 そんなステイルの考えをよそに、ケーキの山から魔女が這い出てきた。
 熱に苦しむ魔女は、今度は脱皮せずに炎を纏ったままステイルめがけて突進し始める。。

ステイル(相打ち覚悟で食らいつくつもりか。だが)

 反撃など、最初からさせるつもりは無い。

 カードを構え、ステイルが目の前に大きく踏み出す。
 その勢いを殺さないまま身を屈め、魔女の口内に炎剣を飲み込ませようと右腕を引いた、が。

ステイル「なっ――!?」

 砂糖菓子から“沸き出た”使い魔が足に絡み付いてきて、立ち止まってしまった。

ステイル(油断、いや違う、頭に血が昇り過ぎたか!? このままでは――)

 ステイルの視界いっぱいに目の前に魔女の口が広がる――
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 18:29:03.06 ID:A1e8z63Fo

――魔女の目前でステイルが立ち止まったのを認めたまどか達が悲鳴を上げた。

QB「二人とも、はやく僕と契約を! そうすれば彼を助けることも出来る!」

まどか「じゃ、じゃあわたし、契約を」



「その必要は無いわ」



まどか「え?」
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 18:29:28.59 ID:A1e8z63Fo

 動揺する二人の前に、ステイルの首根っこを掴んだ暁美ほむらが悠然と降り立った。

まどか「ほ、ほむらちゃん!?」

 まどかの声を聞いてステイルが事態に気付き、慌ててほむらを見上げる。

ステイル「はっ……な、なにが!?」

 ほむらは涼しい顔で彼を一瞥すると、そのまま乱暴に放り捨てた。
 腰を打って顔を顰めるステイルに背を向けて、彼女は言う。

ほむら「黙って見ていなさい」

ほむら「あいつは、私がやる」
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 18:29:54.81 ID:A1e8z63Fo

 ステイルを食い損ねた魔女がほむらに狙いを定めた。
 地面に転がっている菓子を蹴散らしながら魔女が迫る。
 魔女はほむらの目前まで来ると、その体を食すために大口を開けた。

ほむら「……」

 ばくん。口が堅く閉ざされる。

まどか「ああっ!」

 まどかの悲鳴など意に介さず、魔法少女の肉体が醸し出す味を想像したのか魔女は無邪気な笑みを浮かべている。
 しかしその表情はすぐに怪訝そうなそれへと変わった。

 なぜならば。

 魔女の口内にほむらの肉体はなく。
 噛み砕かれたはずの彼女が、傷一つ無い姿で魔女の目前に立っていたからだ。

ほむら「こっちよ」

 顔色一つ変えずにほむらが囁いた。
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 18:30:34.37 ID:A1e8z63Fo

 魔力を漂わせるほむらを諦めきれないのか、魔女は執拗にほむらを噛み砕こうとする。
 しかしほむらは無表情のまま、それらの攻撃を全て回避して見せた。
 それを何度か繰り返したところで――突如魔女が爆発を起こした。

まどか「え……?」

 突然の事態についていけないまどか達は、
 内側から破壊され尽くした魔女が爆散するのをただ黙って見届けることしか出来なかった。
 形容しがたき魔女の断末魔が結界内に響き渡る。

さやか「魔女が……倒れた……」

QB「結界が解けるよ!」

 空間が歪み始めた。
 結界から解放されたまどか達は、見滝原市大病院の駐輪場に力なく腰を下ろす。

まどか「あ……」

さやか「戻ってこれた……?」

まどか「マ、マミさんは!?」
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 18:31:06.38 ID:A1e8z63Fo

ほむら「巴マミならここにいるわ」

さやか「あぁっ!」

 驚きを顕にする二人の前に、胸元に火傷を負ったマミを両手に抱えたほむらが現れる。

まどか「ほ、ほむらちゃん! マミさんは大丈夫なの!?」

ほむら「……不味いわね。このままでは、助かる見込みは低いでしょう」

さやか「魔法少女なんだし、少しくらいは持たないの!? マミさんほら、回復魔法みたいなの使えるし!」

ほむら「手元にあるSGを見てみなさい」

まどか「わっ……真っ黒!」

 金色の輝きを誇っていたソウルジェムの面影はほとんどなかった。
 大量の穢れによって、黒く、暗く淀んでいる。

ほむら「彼女に残された魔力はごく僅かよ。治癒魔法を使えば、彼女は……」

 そこまで言って、彼女は俯いた。

まどか「ほむら、ちゃん……?」
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 18:32:26.07 ID:A1e8z63Fo

さやか「じゃ、じゃあ転校生の力は!? その治癒魔法ってので、マミさんを助けられるんでしょ!?」

ほむら「……残念だけど、私には治癒魔法を扱うことが出来ないわ」

まどか「そんな……!」

ほむら「彼女を助けたかったら、はやく医者を呼ぶことね。そしてもう二度と、魔女に関わらないと――」

ステイル「いや、その必要はないよ」

 ほむらの言葉を遮るように、先程まで様子を伺っていたステイルがマミの体に触れた。

ほむら「……なんのつもりかしら?」

ステイル「いや、彼女が負っている傷は僕が発動した魔術が原因の物だからね。綺麗さっぱり無くそうと思っただけさ」

さやか「あ、あんたねぇ! 乙女の肌になんてk」

ほむら「黙ってて。それで可能なの? それに魔術って?」

ステイル「君も黙って見ていたまえ」

 先ほどのお返しだと言わんばかりに言ってのけると、ステイルは巴マミの傍にひざまずいた。

ステイル(さて、用意するルーンは二つ。水を意味するLaguzと火を意味するkenaz。それにいくつかの法則を用い……)

 三人と一匹が見守る中、ステイルは黙々とマミの体の周囲にルーンのカードを配置し、
 さらに地面やカードに石とマジックで何かを書き連ねていく。
 一刻を争う事態だというのに、誰もがその行いに目を奪われていた。

 好奇心に溢れた目で、恐怖心に駆られた目で。あるいは彼自身を品定めするような目で。
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 18:32:51.92 ID:A1e8z63Fo

ステイル「終わったよ」

 そう言って、ステイルは石を巴マミの胸元に置いた。
 辺りのカードや文字、模様から淡い光が溢れ、彼女の傷を覆っていく。
 そうして瞬く間に回復していく彼女を見やりながら、一服するために懐を探った。
 しまった。持ってきていないんだった。ええいチクショウめ。手を止めて、ステイルは一人考え込む。

ステイル(助かる見込みが低いか、と問われればNOと答えるしかない。そもそも僕の遠隔魔術はそれほど強力じゃない)

ステイル(……怪我の功名というやつかな。さっきは下手を打ったが、これで大体の事情は把握できた)

ステイル(とすれば暁美ほむらの狙いはやはり……)

 口を噤んで沈黙を保っていたステイルは、やがて自身を見つめる四対の目に気づいた。

ステイル「さて、何から話して欲しい?」

まどか「えっ……あの……」

ほむら「あなたの正体について、洗いざらい話してもらえると嬉しいのだけど」

 ほむらは妙に得意気な顔を作って髪をかきあげた。支持者がいるので今は彼女に分があるのだ

ステイル「いいよ。だが、彼女を病院に運んでからだ」
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 18:34:05.67 ID:A1e8z63Fo

 一方その頃、隣町では。

杏子「あーあ、この店まーた食いモン粗末にしてやがる。そろそろ喝入れてやんねーとなー」

 ぼやきながら、佐倉杏子は笑みを浮かべてコンビニの裏に置かれたゴミ箱に手を突っ込んだ。
 ごそごそと手を忙しなく動かし、賞味期限が切れた弁当を二つ、おにぎりを三つほど抱え上げる。

杏子「へへっ、今日は大漁だなーっと……あ?」

 本日の夕食を両手に抱えてにやにやしながら歩く杏子の前に、一人の少女が立ちふさがった。
 その誰かは杏子と同じ赤い髪を何本かの三つ編み状にしている。服は修道服。靴はやたら底が高い下駄みたいな物。
 いわゆる修道女(シスター)さんだろう。年齢は杏子とさほど変わらないだろう。

杏子「……なんだよ、文句でもあんのかい?」

?????「いいえ、別段文句を言うつもりはねぇですよ。生き抜くためならゴミだって漁る、良いじゃないですか」

杏子「へぇ? バカみたいに神様信じてるシスターさんにしちゃあ理解力あるじゃん。アタシはてっきり
.     『はしたない真似はおよしなさい、そして主を信じ崇めるのです、さすればあなたも救われるでしょう!』とか言い出すのかとさぁ」

?????「信仰すりゃ腹が膨れるってわけじゃありません。それが現実ですからね
.        ただ、昔あなたみてぇな路上で生きる汚らしい女の子を見たことがあったんでね。気になりまして」

杏子「……バカにしてんの?」

?????「はっ、まさか。ただ、路上で生きる後輩にちょっとしたアドバイスをしようと思いましてね」

杏子「はぁ?」
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 18:35:28.85 ID:A1e8z63Fo

?????「その弁当、特に下のは結構傷んでますよ。味も悪そうですし、お腹壊したくなけりゃ食わないことを勧めます」

杏子「なっ、冗談だろ? そんなわけ……うっ」

 慌てて弁当の様子を見ると、確かにフライの辺りが妙な色合いになっているような気がする。
 いくら魔力を使って腹痛を消せるとはいえ、こんなことで無駄に魔力を消費したくはない。

?????「それからそのおにぎり、特にねぎとろ。袋が切れてますよ。扱いも悪いし、微妙に蝿がたかってますね」

杏子「そりゃあいくらなんでも……あ、ホントだ」

 ねぎとろおにぎりの様子を見てみると、確かに袋の端が破れ、蝿が二匹止まっていた。
 ナマモノ+酸化+劣化+虫……これを胃に入れた時の事は、あまり想像したくはない。

杏子「いやー危ないところだったよ、助かった。ありがと!」

杏子「……じゃない!」

杏子「なんでシスターさんにんなこと分かんだよ!」

?????「ですから、さっきも言ったじゃねぇですか。
.        路上で生きる後輩に、ちょっとしたアドバイスをしようと思ったって」

杏子「……あんた、名前は?」

?????「アタシですか? アタシはアニェーゼ」
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 18:35:56.62 ID:A1e8z63Fo





アニェーゼ「アニェーゼ=サンクティス。元路上生活者でローマ正教に命を救われた、イギリス清教のシスターですよ」




.
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 18:40:28.97 ID:A1e8z63Fo
以上、ここまで。やっぱ無駄なギャグは添削して正解だったな
そのせいで戦闘がぐちゃぐちゃで短いとか…

とりあえず劇中で何があったか簡単に説明しておくと、
マミさんがくすねたカード(いわば指向性爆薬)の起爆スイッチをステイル君が押した→シャルロッテの方向めがけて爆発
って流れです

助けるどころか怪我負わせてるよ…もう少ししたら活躍するのでそれまでお待ちを
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/28(木) 18:42:29.35 ID:6S/JTtDL0
そういえば、路上生活をしていたんだっけアニェーゼって
142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県) [sage]:2011/07/28(木) 18:43:25.81 ID:ED2AnrVTo
乙でした〜
143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/28(木) 18:48:10.87 ID:x4ZvccAW0
むふぬにむめへ
144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/07/28(木) 19:06:40.45 ID:Oizr5NQAO
ほむほむの脱出が間に合わなかったら危うくステイる所だったなw
マミさんをダメージ与えつつも助け、颯爽と魔女に対峙したかと思えばw

良く考えたら魔女って神出鬼没で結界に侵入するか取り込まれるかしないと遭遇出来ないし、下準備しての待ち伏せが基本っぽいイノケンさん使えなくね?
名前の割に魔女狩りに向かないイノケンさん……
145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/07/28(木) 19:31:15.62 ID:ngPFLGH8o
>>144
イノケンさん(小)なら使えるだろ
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/07/28(木) 20:06:34.61 ID:BSEi/2Y00
どこに現れるかわからないのなら、どこに現れても対応できるようにすればいい
という理屈によりルーンで埋め尽くされる街

地理的にルーン設置してあっても、そこで発生した結界内で使えるかどうかはまた別だろうけども
ステイルの体(素肌)にルーン張り付けまくってイノケンさんの基点にできたりしないだろうか
147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/07/28(木) 20:19:02.45 ID:nV8erwnAO
>>146
ボディペイント召喚陣とか、それ何てクラースww
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/07/28(木) 20:22:55.72 ID:6zidUWyO0
>>1
マミられるのは避けられたかよかった…それにしてもステイル少し弱くない?

>>144
結界に入る前に結界の周りにルーンのカードを置いとけば結界の中はルーンの刻印の範囲内の内に入るんじゃないの?
それならイノケンさんは結界内ならいつでも使えるだろう
イノケンさんはルーンの数により性能が変わるだけでイノケンさんが使えないわけじゃないだろ…たぶん
149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/07/28(木) 21:18:14.98 ID:hthwKToAO
神裂さんは活躍するのかな?
150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/28(木) 21:52:36.14 ID:A1e8z63Fo
投下しすぎて弾がカツカツになってきた。そろそろ焦ってきた
22:00辺りに投下する。

>>146
近いことを終盤でやるかもしれない

>>148
禁書勢の活躍の予定はもうすぐそこ
ステイルさんと王ちゃんの活躍はもうしばしお待ちを。インパクトのある形で用意しております
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/28(木) 22:03:13.80 ID:A1e8z63Fo

――ステイルと医者の努力の甲斐あって、巴マミの治療は無事終了した。
 明日にも目を覚まし、明後日にでも退院できるそうだ。

 それらを確認し終えたステイルは、既に人気の無くなった病院の待合室で事の真相を説明した。
 ステイルがイギリス清教の魔術師で、この街に来たのは魔女について調べるためだということ、などである。
 まどかとさやかは、予想に反して冷静で、かつすんなりと受け止めてくれた。

さやか「……イギリスの魔術師さんねぇ。まぁおかしいとは思ったのよ、ガタイ良すぎるし」

ステイル「一応言っておくけど僕はまだ十五歳だよ」

さやか「えぇ!?」

まどか「でも、その魔術? って、よく分かんないね……」

さやか「あれ、まどか知らないの? ほら、学園都市が外国に『魔術』って名前の超力開発してるぞーって言ってたじゃん」

さやか「ハロウィンの日に起こったイギリスの……なんだっけ、なんとか王女様のクーデターの時もなんかあったし
.     メイドさんが飛び跳ねて、会社員がビーム出したりしたお祭り騒ぎ。あんたもあれの関連なんでしょ?」

ステイル「……いや、参ったね。大した洞察力だ。その通りだよ。普通の人間ならまずは疑うんだが。
       魔法少女のことを知っているせいで、君達にも耐性が付いているのかな?」

さやか「そういうの面白いし、そのくらい子供でも知ってるよ? まぁあたしの嫁は知らなかったみたいだけどー」チラッ

まどか「え、えぇー? ほ、ほむらちゃんも知ってた?」

 居心地の悪くなったまどかがほむらに話題を振ると、彼女は傍目から見てても分かるほどに動揺して見せた。

ほむら「えっあ、ええ……イギリスの、魔術でしょう。そういう技とか、クーデターよね」

さやか「……」
152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 22:04:53.67 ID:A1e8z63Fo

さやか「あっやしいなー。本当に知ってんの? クーデターって言ったらブリテン・ザ・ハロウィンだよ?」

ほむら「し、知ってるわよ」

さやか「イギリスの女王様の名前は?」

ほむら「あなた、私を馬鹿にしているの?」 ムスッ

さやか「いいから言ってみって、ほら」

ほむら「『エリザベス女王陛下』でしょう」

まどか「えぇー……ほむらちゃん、それはないよ……」

さやか「あんたって意外に世間知らずなんだね……」

ほむら「ちょ、待ちなさい! 『エリザベス二世』でしょう!? 違うの!?」

ステイル「……エリザベスは1550年代の女王で、僕の尊敬する女性だが『二世』を名乗る者はいないし」

ステイル「そもそも今を生きる女王陛下のお名前は『エリザード』だよ」

 ステイルの言葉を聞いたほむらは、身体に電撃が走ったかのようにのけぞった。
 は、はうあー、とかわけの分からない奇声を上げたかと思えば、今度はわなわなと口を震えさせ始める。

ほむら「なっ……嘘でしょう、そんなはずは……」

ステイル「数学よりも世界史の勉強をすることをお勧めしておくよ」 フフン

ほむら「そんな……おかしい、ここは……今回は……」ブツブツ

さやか「……転校生って意外と天然よね」ボソッ
153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 22:05:25.42 ID:A1e8z63Fo

ほむら「うぅ……はっ、いえ、今はそんなことはどうでもいいわ。重要じゃない」

ほむら「……もしも、今日あの場所に、私やそこの魔術師……がいなければ。巴マミはどうなっていたと思う?」

 投げかけられた疑問。その答えは、考えるまでもない。
 しかし、まどかとさやかは答えることができない。
 答えてしまっては、彼女らが信じてきたなにもかもが崩壊してしまう。

ほむら「私達がいなければ、彼女はその肉体を魔女に食まれていたでしょう」

ほむら「結界の向こうで息絶えた魔法少女は、結界と共に消える運命にある……誰にも気付かれずに、ね」

 そしていずれは忘れ去られてゆく、と彼女は付け足した。
 まるで経験したことがあるかのような口ぶりに、ステイルは誰にも気付かれないほど微かに眉をひそめた。

ほむら「覚えておきなさい。魔法少女になるって、そういうことよ」

まどか「っ……私は、忘れないよ。みんなのこと、忘れないよ」

さやか「わ、私だって!」

ほむら「……」

 ふっ、と。ほむらは、それまでの彼女からは想像も出来ないような優しい笑顔を浮かべて。

ほむら「あなたたちは、優しすぎる。魔法少女に向いてないわ」

 しかし戒めるような口調は改めず、諭すように言った。
154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 22:06:27.54 ID:A1e8z63Fo

ほむら「……それから、巴マミに伝えておきなさい。今のまま戦えば、あなたは確実に後悔する、と」

まどか「え?」

さやか「……」

ほむら「絶対に伝えて。それじゃ」

 それだけ言って、ほむらは仄暗い廊下の向こうへと消えた。
 それからほんの少し間を置き、入れ替わるようにしてキュゥべぇが闇の中から姿を現した。

QB「ふぅ、どうやら行ったみたいだね。それでどうしたんだい、難しい顔をして」

ステイル(今のまま戦えば後悔する……それはつまり、SGが穢れたまま戦えば後悔するということか?)

まどか「どうして後悔しちゃうんだろ……」

さやか「……」

 首を捻って思案するまどかとは対照的に、さやかは静かに腕を組み、目を瞑ってただ黙々と何かを考えている。
 普段は人一倍騒がしいくせに、こういう時は人一倍真剣に考え込む。
 それが美樹さやかの美樹さやか足る所以だった。
 そして短い付き合いながらもそれを理解しているステイルは、彼女のそういうところを気に入っていた。
155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 22:07:19.28 ID:A1e8z63Fo

さやか「ねぇ、キュゥべぇ」

 暗い待合室に、さやかの言葉が静かに響く。

さやか「SGが真っ黒になったら、どうなるの?」

 さやかが熟考した末の結論は、知る者に聞くことだった。
 そもそも魔法少女の仕組みを考えたであろう人物(?)がそこにいるのだ、聞くのは当たり前だろう。
 苦笑しながらも、妙なプライドや恥を感じる心を捨てた彼女を、ステイルは内心で褒め称えた。

QB「SGが穢れきってしまうと、大変なことになるよ。今まで通りのようにはいられなくなってしまうね」

さやか「大変なことって、どんなこと? 今まで通りじゃいられなくなるって、どういうこと?」

 その声は、普段の暖かさに満ち溢れたそれとは比べ物にならないほど冷たい。
 彼女の心境の変化を感じ取ったのだろうか、まどかがそわそわした様子でキュゥべぇとさやかを見比べた。

QB「少なくとも、彼女は魔法を扱うことが出来なくなるだろうね」

まどか「じゃあ、マミさん魔法少女じゃなくなっちゃうんですか!?」

QB「そうとも言えるね」



――ううん、違う。



 逸るまどかの肩に手を置いて、さやかは俯きながらそう言った。
 どこかで何かを諦めている、そんな声色だった。
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 22:07:59.02 ID:A1e8z63Fo

さやか「SGが穢れきったら、魔法少女じゃなくなる――それだけじゃないでしょ、キュゥべぇ」

 初めて。
 初めてキュゥべぇが、沈黙した。

さやか「魔法が使えなくなる、魔法少女じゃなくなる……でも、それだけじゃない」

QB「……」

さやか「もしかしたらマミさんは……死んじゃうかも、ううん、死ぬんだよね?」

 さやかの口から飛び出した発言を聞いて、まどかが肩をびくっ、と震わせた。
 ほとんど反射的に椅子から立ち上がり、冷静なままでいるさやかを見下ろす。

まどか「えっ!?」

ステイル「……」

QB「……そういう捉え方も出来るね」

さやか「そっか。でもやっぱ、キュゥべぇが自分から話してくれるって展開はないんだね、意地悪」

QB「……いや、意地悪をしたつもりはないよ。ただ軽々しく説明していいものか迷ってね」

まどか「ちょっと待って! ねぇさやかちゃん、どうして? どうしてマミさんが死んじゃうの!?」
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 22:08:27.00 ID:A1e8z63Fo

 そんなまどかの問いに、しかし冷静なままでいるさやかは無表情のまま淡々と述べ始める。

さやか「魔法少女の力の源泉はソウルジェムでしょ? で、ソウルジェムは魔法少女になった時に作られる」

さやか「こっから先は推測だけど、多分だけど……ソウルジェムは、魔法少女の願いとか祈りから出来てるんだよ」

さやか「そのソウルジェムが穢れで染まっちゃえば……願いは取り消される。多分、再契約とかも出来ないんだと思う」

まどか「そんな! でもそれだけじゃ、マミさんが死ぬ理由には……」

さやか「ねぇまどか。思い出して。マミさんが何を願ったのかを」

まどか「――!」

 巴マミの願いは、『たすけて』というたった四文字の言葉からなる。
 そしてそれは離れ行く生命を自身に結びつけることで形となった。
 その願いが取り消されれば、祈りの力によってに結びつけた生命はいとも容易く彼女の下から離れてしまう。
 さやかは瞳に涙を浮かべて、しかしそれが零れ落ちないように上を見上げて。

さやか「何かを願った分だけ、その願いのために命を懸けなきゃいけない……魔法少女って、そういう仕組みなんだよ」

まどか「そんな……そんなのって……」

ステイル「……」
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 22:09:04.69 ID:A1e8z63Fo

――一方その頃、イギリス 聖ジョージ大聖堂

ローラ「ふんふーん、ふふんふーん♪」

QB「やけに上機嫌だね、ローラ。何か良いことでもあったのかい?」

ローラ「うふふ、いかにも、なのよQB。ただしそこはもちろん乙女の秘密、先へ行くは不可能の一方通行たりけるの!」

QB「ふぅん、まぁ良いけどね。それにしてもステイル=マグヌスが君の部下だとは思わなかったなぁ」

ローラ「あら、察しが悪きね。おおよその見当はつきしものと思いたりたのだけれど?」

QB「彼がなんらかの力を身に秘めていることは分かっていたけど、そこまで素質も無いし偽装もされていたからね」

QB「魔術が才能の無い人間が編み出した技術だという情報をもっと早くに知れていたら、あるいは違ったかもしれないけど」

ローラ「その点が魔法との違いたるところね。さてさて、それでは良い具合に夜も更けてきたことだし」

 ランプが照らすローラの瞳が怪しく光った、そんな錯覚をQBは覚えた。
 だが現実には光ってなどいないし、必要以上に反射もしていない。
 グラスに注がれた水を口に含み、飲み下す。それからローラはにやにやと笑い、口を開いた。



ローラ「――ビジネス、始めても良くて?」



QB「……そうだね、いいよ」
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 22:09:34.64 ID:A1e8z63Fo

ローラ「さてと……いくつばかりか伺いたいことがあるのだけど」

QB「いいよ。こっちもいくつか欲しい情報があるからね」

                       システム
ローラ「魔法少女、こちら側の法則で再現することは可能?」

QB「どうだろう、君達の魔術は確かに凄いけど、所詮は人間に行えるレベルの範囲だからね
.   僕達の技術力が君達のそれに比べて発達しすぎていることもあるし、難しいんじゃないかな」

ローラ「推察は聞いてなきよ。あるがままの事実を伝えなさい」

QB「魂をSG化させることが最大の難点だろうね。そこを魔力や生命力に置き換えれば、だいぶ出力は下がるけど
.   魔法少女に近しいものは出来上がるんじゃないかな。感情の爆発によって発生するエネルギーの運用も難しいかもね」

ローラ「ふむ……」

 手中にあるグラスを弄りながら黙り込むローラを、QBは感情の篭っていない瞳で見つめる。
 彼女の考えがなんであるのかは分からないが、おそらく自身の利益に繋がるかどうかを推し量っているのだろう。
 グラスを弄っていた手を止めて、ローラはQBに目をやった。

ローラ「じゃあ、そこから先へは? 魔法少女の上……つまり」

.       マジョウ
ローラ「≪魔上≫の域の話になりけるのだけれど」

QB「……まいったね」

 ≪魔上≫が何を指し示しているのかを悟ったキュゥべぇが、困ったように尻尾をふりふりさせた。
 つまり、彼女はおぼろげながらも魔法少女の仕組みを理解しているのかもしれない。
 だからこそあのような当て付けをしたのだろう。

 交渉に用いるカードが一つ消えたことを再確認しながら、QBは首を縦に振った。
160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 22:10:39.69 ID:A1e8z63Fo

QB「魔法少女を再現出来れば、その先へ到達することも出来るだろうね
.   ただしその場合もオリジナルと比べてしまうといささか非効率的な形になってしまうが」

ローラ「ああ、“副産物”は重要じゃなきに。それで結局、魔法少女の上の段階へは行けたるのね?」

QB「そうだね。と言っても、僕らはまだ君達の実力を把握し切れていない、だから断言は出来ないけど」

ローラ「そう……」



ローラ(魔法少女をこちら側の技術で再現する……それはすなわち魔法少女を作り出すに等しきこと)

ローラ(そしてそこから魔上の域へと達することが出来れば、その経路も導き出すことが可能たりえるということになる)

ローラ(あわよくば……ふ、ふふ)



ローラ「ふふふ、ふふ……くふふ」

QB「……喋っても良いかな?」

ローラ「ええ、もちろんよ」

QB「僕が欲しいのは君達に関する情報だよ。君達がいつ素質に目覚め、いつ事態を把握したのかだね
.   僕に分かるのは、二週間前に君達みたいな力を持った人間が突然、それも大勢現れたことだけだからね」

ローラ「ふーむ、説明と推測が入り乱れたるけど、その辺りは良して?」

QB「うん、いいよ」
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 22:11:17.75 ID:A1e8z63Fo

ローラ「本っ当に原始的な魔術の始まりは、それこそ遥か昔になりにけり
..    天から降りし雷を、神の裁きだの怒りだのと呼称し始めた辺りまで遡るわね」

QB「そんなバカな。僕達は有史以前から君達に干渉しているけど、そんな情報は一切無いよ」

ローラ「ついでに言うと、私達はつい最近才能を開花させたわけではなし」

QB「ありえないね。じゃあ僕たちはどうしてこれまで君たちの存在に気がつかなかったんだい?」

ローラ「そこよ」

 手の動きをピタリと止めて、ローラはグラスをテーブルの脇に置いた。
 肘をつき、両手を顔の前に持ってきてほっそりとした指を組む。
 そこに顎を置きながら、さも楽しいといわんばかりに笑顔を作って彼女は続けた。

ローラ「なぜ私達が“突然力に目覚め、当たり前のように受け入れた”という扱いになりしか、
..    なぜあなたたちが干渉した文明が“突然発見され、当たり前のように解読された”のか」

QB「わけが分からないよ」

ローラ「あらん? 察しが悪きことね。1+1=限りなく2に近い1、これだけのことよ?」

QB「……なるほど、それなら確かにこの不自然さも納得がいくね。つまりは――」

 キュゥべぇの返事を聞いて、ローラは合格だと言わんばかりににんまりとしながら頷いた。

ローラ「いぇーす☆」

QB「確かにそう考えれば、この矛盾した状況のほとんどが解決されるね。いやしかし……誰が、何の目的で?」

ローラ「さぁ? 少なくともこちら側の技術では不可能である、とだけ言っておきたるわね」

ローラ(……例外もあるけれど、ね)
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 22:12:07.02 ID:A1e8z63Fo

ローラ(現出できなくなったとは言え、rtlhwgkhia……いえ、etvk聖onpw……ああもう、思考の方まで足らずとは面倒ね)

ローラ(……エイワスのような、時代の違う天使が力を振るえば?)

ローラ(可能。もっとも、今のあやつはそれだけの力を持たざりにけるのだけれど……あとは)

ローラ(……アレイスター=クロウリー……いえ、こちらの方も考えるのは後にしておきたるか)

ローラ(それ以外で残された可能性は一つ。……けれど、“彼女”がどのような影響を及ぼすかは様子見と……)

ローラ(いずれにしても、私たちの利益に繋がるよう行動はしたるが……)

 あくまで笑顔を保ちつつ、ローラは首を捻ってばかりいるQBの目をじっと見つめた。

ローラ(こやつをどうにかせんと、どうにも成り立たざるというのがいと難しきことね……)

 どこまで行っても無感情で、どこから見ても無機質なつぶらな瞳。
 見ようによっては可愛いが、見ようによってはまがまがしい一対の目。
 薄気味悪くもあるが、とローラは考え。しかし、と口を歪める。

ローラ(もっとも、不可能ではなし。こちらはステイルたちに任せたりているしね)

QB「まぁこれは置いておこうか。それじゃあ次の取引の話でもするかい?」

ローラ「それは良きことね! うふ、うふふふ」



 怪しく笑うローラと、それに応えるQB。
 そんな二人のやりとりは、暇潰しにジャージ姿でうろついていた『エリザード女王』の目に止まるまで続いた。
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 22:12:47.04 ID:A1e8z63Fo

――翌日、巴マミの病室にて

マミ「……はぁ」

 真っ白で清潔感溢れるシーツにその身を埋めて、マミは深い溜息をついた。

 既に事の顛末はキュゥべぇからテレパシーを通じて聞き及んでいる。
 自分が油断したところをステイルとほむらが助けてくれたことも。
 まどかとさやかを必要以上に心配させてしまったことも。

 後悔しないように歩んできた彼女だったが、今回の件は相当堪えた。

マミ「駄目だなぁ、私」

 後悔と自責の念に圧されてそう呟いた直後、ドアをノックする音が響いた。
 慌てて服装をチェックし、普段と違ってまっすぐに下ろしてある髪を手櫛で整えてからどうぞ、と答える。
 僅かに間を置いてから、静かにドアが右にスライドする。

まどか「おはようございます、マミさん」

ステイル「怪我の具合はどうだい?」

 2mを超える同級生と、彼のお腹くらいの身長の小柄で可愛らしい後輩が入ってくる。
 まずまずね、と答えてから、立たれたまま会話するのも気不味いので放置したままの椅子に座るよう促す。

ステイル「む、小さいな」 ギシッ

まどか「いや、ステイル君が大きすぎるんだよ」

ステイル「……そうかい」

マミ「ふふっ」
164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 22:14:02.74 ID:A1e8z63Fo

ステイル「見舞いの品をどうしようか悩んだが、君は紅茶を好んでいただろう? というわけで……」

 そう言って、彼は右手にぶら下げていた紙袋から魔法瓶と紙コップ、ビニール袋で覆われたスコーンを取り出した。
 スコーンとはいわゆる紅茶のお供に定番の茶菓子であり、ジャムやバター、蜂蜜などをかけて食されることもある。

マミ「あら、もしかして私のためにわざわざ作ってくれたの? ずいぶん物知りね」

ステイル「……その昔、食べ物に目がない子と一緒にいた時に学んでね。口に合うかどうかは分からないが」

まどか「私は結局りんごで……すいません、お決まりな感じで済ませちゃって」

マミ「あら、気にしなくていいのよ。二人とも、どうもありがとうね」

 微笑を浮かべながら紅茶が注がれた紙コップを受け取る。
 紅茶の香りが鼻腔をくすぐる感触を楽しみつつ、少量を口に含む。

マミ「うん、おいしい! ちょうど良い渋みね!」

ステイル「本当は淹れたてをご馳走したかったんだが、ポットのお湯では温くて渋みが出ないからね
       今日のところはそれで我慢してくれ。まどかはミルクティーだったね。MIF派かい? それともMIA派?」

まどか「え、ええ? モビルスーツ・イン・アクション?」

マミ「ミルクは先(First)入れか後(After)入れかって意味ね。あんまり中学生は知らないわよ、こういうこと」

            ネ セ サ リ ウ ス
ステイル「ふむ、必要悪の協会じゃ子供でも知っていたが……やはりイギリスと日本とでは勝手が違うみたいだ」

まどか「うう、また子ども以下の扱い……あ、ミルクは後からでね」ガックシ
165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 22:14:34.70 ID:A1e8z63Fo

 一通り紅茶を味わってから、マミは表情を改めた。
 それを見たステイルが、誰にも気付かれないように姿勢を正す。

マミ「さてと……それじゃあ、改めてお礼を言わないといけないわね?」

ステイル「……礼を言われる筋合いは無いさ。僕は君達のことを騙していたし、助けたといってもこのザマじゃね」

ステイル「それに僕が助けなくても生き残っていたかもしれないし、暁美ほむらが代わりに片付けていたかもしれない」

マミ「でも、助けてくれたことに変わりはないわ。ありがとう、マグヌス君」

ステイル「……」

まどか「てぃひひ、ステイル君ったら照れちゃってもー」 グイグイ

ステイル「よ、止してくれ! まったく……」

マミ「それから鹿目さん、あなたには謝らないといけないわね」

まどか「え?」

マミ「怖い思い、させちゃったみたいだし……マグヌス君や暁美さんが来なければ、貴方達が傷ついていたかもしれないわ」

マミ「本当にごめんなさい」

 紅茶の入ったカップを丁寧にベッドの脇に置くと、マミは深々と頭を下げた。
 それを見たまどかは慌てて両手を振って口を開いた。

まどか「と、とんでもないです! その、わたしが望んだことですから」

マミ「……」
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 22:15:19.77 ID:A1e8z63Fo

マミ「魔法少女の件だけど」

まどか「っ……」

 びくっ、と肩を震わせてまどかは足元を見つめた。
 あれだけ大口を叩いておきながら、いまさら決心が鈍ったなどと言えるわけがない。
 言えば巴マミは傷つくだろう。自分に対して弱みを見せてくれたのに、それを裏切るなんて出来ない。
 だが、体は動かない。そんなところだろう、とステイルは内心でまどかの心情を察した。

マミ「忘れてちょうだい」

 巴マミの言葉を聞いて、まどかは反射的に顔を上げた。
 まどかの予想に反して巴マミの表情に落胆の色はなく。絶望したそぶりも、悲しんでいる様子も無く。

 ただただ、巴マミは太陽のようにとても晴れ晴れとした、慈悲溢れる笑顔を浮かべていた。

まどか「そん……なっ、どうし、て」

マミ「あなた、自分のことを逞しくないとか、頑張れないとか、得意なことないとか」

マミ「良い所なんか一つもないって……そう言っていたでしょう?」

まどか「……はい」

マミ「だから、魔法少女になって誰かのために戦いたい、誰かのために優しく出来る人になりたい……」

マミ「でも、そう思えることがあなたの魅力なんじゃないかしら?」

まどか「え?」
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 22:15:55.74 ID:A1e8z63Fo

マミ「あなたの良いところは、誰かのためを思ってあげることの出来る、そういう優しさよ」

マミ「多分それは戦うことよりも遥かに難しいことだと思うわ」

まどか「そんなっ、こと」

マミ「私は、魔法少女にならなくてもあなたは十分立派だと思うわ。
   出来れば魔法少女になることなく、あなたの力だけでその生き方を貫き通して欲しいの」

マミ「魔法少女になったら、そのせいであなたはずっと『魔法少女だから優しい』って形になっちゃうのよ?
   なんだかそういうの、悔しいじゃない。そんなことであなたの良いところ、台無しにしちゃ駄目よ」

まどか「で、でも、わたし、マミさんと約束、して、ずるい、です、ひとりぼっち、じゃないって」

 涙をぽろぽろと零しながら、嗚咽交じりにまどかが言った。
 悲しいのか、嬉しいのか、情けないのか。ステイルには分からない。
 ただ、この子もまた、巴マミと同じく。とても優しい心の持ち主なんだろうなと、一人思う。

ステイル「……なにも、魔法少女になって共に戦うことだけが孤独を取り除くわけじゃないさ」

ステイル「例えば……友達として、お互いに支え合うことでも取り除けるんじゃないかな」

まどか「友達として、支え合う……」

マミ「へぇ、良いこと言うじゃない? 見直しちゃった」

ステイル「冷やかさないでおくれ(まったく、本来こういう立ち回りはあの男や神裂のすることだというのに……)」

まどか「あの……マミさん、こんなわたしでいいなら……その、友達に!」

マミ「あら、もうとっくのとうに友達だと思ってたのは私だけだったのかしら? 悲しいわ」 オヨヨ

まどか「ふぇえ!? も、もう、意地悪ですよマミさん!」
168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 22:16:36.94 ID:A1e8z63Fo



 その後は、三人で談笑をして、ゆったりと流れる時間に身を任せることにした。


.
169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 22:17:12.01 ID:A1e8z63Fo

 三杯目の紅茶を飲み干したところで、ステイルはふと時計を見た。

ステイル「おや、もうこんな時間か」

まどか「わっ、本当だ! 早いね……」

マミ「今日は本当にありがとね、二人とも。このお礼はいつか必ずさせてもらうわ」

ステイル「……それは宿敵なんかに言う台詞だと思うけどね」

まどか「あっそうだ、マミさんに伝えておかなきゃいけないことがあったんだった」

マミ「あら、なにかしら?」

まどか「えっと……うーんと……(ありのまま伝えるのは駄目だよね。じゃあ)」

まどか「と、当分はほむらちゃんが魔女を退治するそうだから、戦わなくても良いって言ってました!」

ステイル(まぁニュアンス的には間違ってないとはいえ……)

まどか「だから魔法使っちゃ駄目ですよ、マミさん! 絶対です!」

マミ「……そう、分かったわ」

ステイル「僕は“仕事”関連のことで彼女に用事があるから、気にしないでくれ」

まどか「そっか、じゃあ先帰るね。マミさん、ステイル君、また明日!」
170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 22:18:03.33 ID:A1e8z63Fo

――ドアが閉まったのを見計らってから、ステイルは先程から逡巡している様子のマミに鋭い眼差しを向けた。

ステイル「彼女は気を利かせて言わなかったが、僕はそこまでお人好しでもなければ無責任でもない。
       しかし言えば君は傷つくだろう。無論、君がそれを望まなければ僕は何も言わない。
       だが僕個人は、現実と戦うべきだと考えている。それでも良ければ、彼女の言葉を補足しても良いかい?」

マミ「ソウルジェムが黒く染まったら、私が死ぬこととか?」

 何の躊躇いもなく言ってのけるマミの顔を、ステイルは注意深く観察した。
 そこに恐れはない。現実をあるがままに受け入れ、戦い、打ち勝った物の表情だ。

ステイル「気付いて、いたのかい」

マミ「こう見えても魔法少女歴ウン年のベテランなのよ? それくらいは気付くわ
   ……なんてね。気付いたのは、今朝になってからよ。二度死に掛けて、やっと気がつけたの。笑えちゃうよね?」

ステイル「……そうか」

マミ「言っておくけど、後悔はしてないわ。だって私には、鹿目さんや美樹さん、ステイル君
   それにちょっと意地悪でデリカシーの欠けた私の大事な友達……キュゥべぇがいるんだもの」

ステイル「強いね」

マミ「そうかしら? これでも結構怖いのよ」
   ソウルジェムは、なにもしなくても穢れが溜まっていくから」

ステイル「なんだって!?」

 驚愕もあらわに声を張り上げ、相手が怪我人だということを思い出してばつが悪そうな表情を浮かべる。
 そんなステイルを見て、微笑みながらもマミは己の口に指を当てた。しーっ、である。
 それからソウルジェムを手に取り、玩びながら口を開く。
171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 22:18:27.29 ID:A1e8z63Fo

マミ「多分だけど、願いを持続させるために魔力が消費されてるんじゃないかしら。
   あとはSGの構成自体にもね。食べ物が願いの子の場合はどうなるのか分からないけど……」

ステイル「……それで、君はどうするつもりだい? 逃れようの無い死の運命を、ただ享受するのかい?」

マミ「もちろん抗うわ。でも例えそれが原因で死んじゃっても、やっぱり私は後悔しないと思う」

ステイル「……ふぅ、やれやれ」

 軽く微笑んでから、ステイルは赤い髪を揺らしてドアの方に振り返った。

ステイル「グリーフシードは、僕が必ず見つけ出す。それまで持つかい?」

 今度はマミが驚愕する番だった。

マミ「そんな、だってあなたの目的は私達の調査でしょう? どうしてそこまで……」

ステイル「驚くことかい? イギリスの歴史は、常に魔女狩りと共にある。だから僕が魔女を狩ったって別に不思議じゃないさ」

ステイル「それに」

マミ「?」

 そこから先の言葉を言うのは、何時だったか“あの子”に間近で見つめられた時ほどに緊張した。

ステイル「友達、だろう? 僕らは」
172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 22:19:09.82 ID:A1e8z63Fo

 柄にもない言葉を言ってみてから、堅物の塊みたいな自分がその台詞を吐くことの不自然さに彼は愕然とした。
 なんてこった、死ぬほど恥ずかしいぞ。穴があったら入りたいとはこのことか。

マミ「……ぷっ」

ステイル「ん?」

マミ「ふっ、ふふっ、あははっ! あははは!」

ステイル「なっ!? わ、笑うことはないだろう! ええい、後悔先に立たずかちくしょうめ!」

マミ「ひっ、あははっ、ご、ごめんなさい!」

ステイル「……」 ムスッ

マミ「他意はないのよ、本当よ?」

マミ(以前からずっと恥ずかしい台詞言ってたのに、今更照れる辺りがかわいいだなんて言えないわね)

ステイル「……はぁ、とにかくそういうわけだから、僕は帰るよ。報告することもあるしね」

マミ「ええ、じゃあまた明日……昨日今日と、本当にありが――」

ステイル「礼ならいらないよ。僕らは友達なんだからね」 フン

 そう開き直ってみせると、ふたたび聞こえてきた巴マミの笑い声を無視してステイルは病室を立ち去った。
 結局、開き直っても恥ずかしいことに変わりはない。思うに、こういった台詞を堂々と叫べるあの男は意外に……
 というかやはり相当の変人か変態だったのではないだろうか。
173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 22:19:49.71 ID:A1e8z63Fo

 病室のロビーに出ると、さやかを見つけた。変態じゃない方の上条の見舞い帰りらしい。

ステイル「やぁ、どうしたんだい二人とも」

まどか「ステイル君待ってたんだよぉ、お話長かったね」

ステイル「ん、まぁね……」

さやか「どうせならあたしもお見舞い行きたかったなぁ、てか一声かけてくれればよかったのにさー!」

まどか「ほら、さやかちゃんうるs……上条君がいるし、お邪魔しちゃ悪いでしょ?」

さやか「むむー……まっ、いいけどさ」

 あっけからんに笑うと、さやかは両手で大きく伸びをしながら歩き出した。
 その動作の中に微妙な違和感を掬い取ったのか、まどかが怪訝そうな表情を浮かべている。
 まだ付き合いの短いステイルは、その違和感がなんであるのかを把握することが出来ない。
 だが、その理由程度ならば察しは着いた。

ステイル「――彼の怪我を治すことは、僕には出来ない」

 はっ、と息を呑む音。
 さやかはぐるりと振り返り、眉間にシワを寄せたまま口を尖らせた

さやか「まだなんも言ってないんだけど?」

 非難めいた物言いだが、別にステイルの言葉に不満があるわけではないのだろう。
 ただ自身の心中を見透かされて、不貞腐れているような声色だった。
174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 22:20:42.71 ID:A1e8z63Fo

ステイル「彼には魔術的な才能も無ければ見識もない。彼に魔術を施せば、彼の精神は蝕まれるだろう
       それを除いたって、僕には彼の左手のような複雑な怪我を治すような知識や霊装……道具もない」

さやか「だぁかぁら! なんも言ってないってーの!」

まどか「さ、さやかちゃん……」

さやか「ちゃんと分かってるよ。あんたたちみたいな日陰者は、あんま日向の人には干渉しちゃいけないんでしょ?」

ステイル「……それも、ないわけじゃないが」

さやか「だから大丈夫、あたしは我侭言わないよ。恭介だって、そんなこと望まないだろうし」

 あっけからんに言うと、さやかは無理やり笑顔を作って笑って見せた。

ステイル「話を続けるが、僕の知り合いの医者なら彼の左手を完璧に治すことは可能だよ」

さやか「うんうん、そういう事情なら仕方ないよね――ってえぇっ!?」

まどか「ほ、本当なのステイル君!?」

 面白いくらいに動揺する二人の横を通り過ぎ、玄関の方を顎でくいっと指し示す。

ステイル「ここで詳細を説明することも出来はするが……」

 と、周りを見渡す。看護師や待合人であろう人々が、騒がしいものを見るような――いや、見る目で見ていた。
 この調子では説明し終える前に看護士から注意を食らいそうだった。
175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 22:21:33.86 ID:A1e8z63Fo

――病院を出てからすぐの場所にある公園まで辿りつくと、ステイルは順を追って説明し始めた。

.             ヘブンキャンセラー
 学園都市にいる、冥土帰しと呼ばれる医師の存在について。彼がこれまでに成し遂げてきた偉業の数々について。

 その中には

 『人間を縛る寿命という制約の克服』

 なんていう馬鹿げた物や、

 『千切れた腕を傷跡どころか手術跡すら残さず完璧にくっつける』
 『怪しげな薬品で細胞の再生を活性化させる』
 『失われた言語機能や演算能力を外部ネットワークで補う』
 『バラバラになった脳みその復元』『その体の再生』

 などなど、死者の蘇生を除けば大概のことはやってのけてしまうということも。
 しかしそれまで、手術跡を残さず手術することは不可能、程度のことが常識だった少女らが、
 そんなブラックジャックも顔負けの話をはいそーですかと呑み込めるわけもなく。

さやか「わけもなく」

ステイル「実在するのだから仕方がないものは仕方がないさ」

さやか「現代(いま)の医学にんなこと出来るわけないでしょーが!」

ステイル「たかが現代(いま)の医学と
       世間の二十……いや、下手したら三、四十年は現代(さき)を行く学園都市の医学を同一視してもらっちゃ困るな」

さやか「そんな……そんなのって……」

まどか「でもそれが本当なら、治療費とか凄くかかるんじゃないかな……?」

ステイル「ああ、それについては心配ご無用さ」

 彼にしては珍しく――本当に珍しく。
 にっこりと笑って、

ステイル「――あの医者が患者に金を要求することは、もう二度とないだろうからね」
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 22:22:24.34 ID:A1e8z63Fo

 ばつの悪そうな顔をしている神裂に茶を出しながら、野菜スティックを口にくわえたステイルが手を振った。
 それだけでルーンのカードが部屋中を飛び交い、壁に貼り付き、漏れた音を人に知覚させない結界を構築する。

ステイル「……それで、監視の理由は?」

神裂「その前にまず誤解を解かねばなりません。私たちが監視をしていたのはあなたではありません。
.     それに、私たちの本来の目的は監視ではなく観察なのです……とある一人の少女を除いて、ですが」

ステイル「なんだって?」

 ステイルを監視していたのではないとすれば。
 残る対象はほとんど限られてしまう。それに妙な言い回しも引っかかった。

神裂「私たちが観察していたのは、巴マミです。彼女の戦闘能力や、SGのあれこれを観察していました」

神裂「理由ですが、これは説明するまでもなく上司からの命令です
.     私たちの任務の目的は、可能な限り魔法少女の能力について調べ上げること」

ステイル「それなら僕で十分だろう」

神裂「魔法少女の数はあなたが想像するよりも多いのですよ。現在私たちが確認しているだけで10人以上います」

神裂「あなたのお友達である巴マミや暁美ほむら、それにあなたは知らないでしょうが佐倉杏子」
         ~~~~~~~
神裂「それから“あすなろ市”の“プレイアデス聖団”にキリカと……」

 そこで神裂は言葉を切った。口をもごもごと動かし、言うべきか否かを悩んでいるように見える。
 野菜スティックを咀嚼しつつ、ステイルは頭をぽりぽりと掻いた。このままでは話が進まない。

ステイル「確定情報でないなら言わなくていいさ、それに今重要なのはそこじゃない」
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 22:23:02.72 ID:A1e8z63Fo

神裂「……そうですね。では、私たちが監視していた人物の話をするとしましょう」

神裂「その人物は、ただの一般人です。優れた洞察力があるわけでもなければ、突出した技能も持っていない少女です」

ステイル「……心当たりが二つある。もったいぶらずに言ってくれないか?」

神裂「鹿目まどかです」

 まぁそんなとこだろう、とステイルは内心でため息をついた。
 読唇術が使える彼女が本気で監視をした上で、洞察力も技能も無いと言ったのだ。
 それは半ば真実を言っているに等しい。

ステイル「理由はなんだい?」

神裂「分からないんです」

ステイル「はぁ?」

神裂「分からないんですよ、理由。彼女はただ、『自身の目で見て判断しろ』としか言わないのです」

ステイル「……判断しろ? 一体何を?」

神裂「その件で天草式の皆と話し合い、一応の推論は出来ました、が」

ステイル「ん?」
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 22:23:55.55 ID:A1e8z63Fo

神裂「やはり不自然すぎます。いくら彼女が陰謀屋だとはいえ……」

神裂「鹿目まどかが『私たちに猛威を振るう存在であるかどうか判断し、処分するかしないか決めろ』などと……」

ステイル「……あまり考えたくはないね」

 しかし。
 考えられなくはない。
 たとえ“あの男”に、自身の根幹たる幻想をぶち壊されようと、彼女は揺らがない。

 イギリス清教の利益にならない場合は、狩れ。あの女狐らしい考え方だ。
 だが確かに不自然でもある。単なる一般人の鹿目まどかが、なぜ猛威を振るう存在に当たるのか。
 少なくともステイルには、彼女が万民に害を齎すようには見えない。

神裂「とりあえずそちらはあなたに任せることにします。彼女の真意を探るのは容易なことではありませんしね」

ステイル「ん、そうだね……他には誰が来ているんだい?」

神裂「天草式の皆と、アニェーゼ傘下のシスターが30人です。アニェーゼは……独断で魔法少女と接触しています」

ステイル「はぁ?」

神裂「こちらの方は私が何とかしますのでお気になさらず
.     えー後……魔女文字の解読のためにシェリーやオルソラも合流する予定になっています」

ステイル「……清教派の人員がずいぶんと割かれているが平気なのかい?」

神裂「今のところ“魔道書回収”は“あの子”と“あの少年”が奮闘していますし、当面の間は敵らしい敵もいませんので」

ステイル「……今こうしてここで寛いでいる僕が言えた義理ではないけどね
       彼らに頼りすぎるなよ。彼らは、本来ならば光のある世界で生きるべきなんだから」

 言われるまでもありません、とだけ言うと、神裂はわざわざ窓から身を投げ出して去っていった。
 冷めた目で見送りながら懐を探って、タバコを切らしていたことを思い出し舌打ちする。
 それからはぁーっとため息をつき、さっさと寝ることにした。
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 22:24:38.33 ID:A1e8z63Fo

――夕暮れの病室

恭介「――さやかは、僕を苛めているのかい?」

さやか「……え?」

 それは突然だった。
 恭介が塞ぎこむことはこれまでにも何度かあったけど、もう慣れたし、あたしも恭介も乗り越えてきた。
 だけど。
 こんな風に言われたのは、多分、初めてだと思う。

恭介「何で今でもまだ、僕に音楽を聞かせるんだ。嫌がらせのつもりなのか?」

 どすの効いた、恭介の低い声。
 怖かった。魔女に襲われた時よりも、ずっとずっと怖かった。

さやか「だって恭介、音楽好きだから――」

恭介「もう聴きたくなんかないんだよ! 自分で弾けもしない曲、ただ聴いてるだけなんて!」

 そんなことない。
 これから弾けるようになるよ。
 今日はそれを伝えるために来たんだよ。

さやか「うぁ……あ……」

 そう言いたいのに、口が動かない。
 舌が回らない。だめ、だめだよこんなの。

恭介「僕の手はもう動かない……! 奇跡か、魔法でもない限りは……!」

恭介「僕は、僕はッ……!」

さやか「あっ!?」

 恭介は左手を高く振り上げて、思い切りCDプレーヤーに叩きつけた。
 反射的に身を乗り出して恭介の体を抑える。でも頭の中は真っ白。どうしよう、どうしよう。
180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 22:25:21.62 ID:A1e8z63Fo

恭介「動かないんだ……もう、痛みさえ感じない……!」

恭介「こんな、手なんてっ……!」

 どうしよう。伝えなきゃ。

 何を?

 何を伝えるの?

さやか「大丈夫だよ! きっと、なんとかなるよっ、諦めなければ、きっといつか!」

上条「諦めろって言われたんだ……もう演奏は諦めろってさ……先生から直々に言われたよ……」

.    イマ
上条「現代の医学じゃ無理だって……」

.. イマ             イマ
 現代の医学。たかが現代の医学。

 真っ白だった頭の中に、色が生まれた。
 それは憎たらしいことに、あの神父の髪の色と同じ赤だった。
 熱くなった頬が冷めて、でもまた熱くなる。その頬を、生暖かい液体が伝っていく。

上条「僕の手はもう動かない……奇跡か、魔法でもない限り……治らない……!」
181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 22:26:15.11 ID:A1e8z63Fo





さやか「……いらないよ」




上条「……えっ?」




.
182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 22:27:14.02 ID:A1e8z63Fo

 そう告げるあたしは

 確かめる方法は無いけど

 多分、とびきりの笑顔を浮かべていたと思う

 涙ぼろぼろこぼして

 でも目はぱっちり開いてて

 恭介がきょとんとしちゃうような



 そんなとびきりの笑顔!
183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 22:27:51.69 ID:A1e8z63Fo



さやか「奇跡も、魔法も、いらないんだよ!」



 そう言って、あたしは恭介に抱きついた。


.
184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/28(木) 22:30:28.63 ID:A1e8z63Fo
VIPじゃないからってつい贅沢に空白入れすぎてもうた
でもやりたかったことの一つが出来たので満足

次の投下は明日を予定しております
185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県) [sage]:2011/07/28(木) 22:31:07.62 ID:ED2AnrVTo
186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/28(木) 22:31:26.19 ID:o1rRRrqB0
乙!
文字通り禁書世界とまどマギ世界がクロスしてるわけか
187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/07/28(木) 22:31:50.62 ID:nV8erwnAO
乙。マミのフラグは折れてもさやかは葬式なのかと危惧していたがそんな事はないのか。
188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/28(木) 22:32:16.45 ID:X+7kM0j5o
お疲れ様でした。
189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/28(木) 22:32:18.88 ID:mdk1CV7so
乙です
本当に上手くクロスしてるなぁと思う
190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/07/28(木) 22:33:26.69 ID:eWRwH0qAO
流石冥土帰しさんやでぇ

さやかの邪魔者フラグへし折りおったで
191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北陸地方) [sage]:2011/07/28(木) 22:43:32.74 ID:S37voUDAO
マミさんは生きてるし、ほむほむは和解したっぽいし、上条の腕は奇跡無しで治る。
今のところかなり順調だな
192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/07/28(木) 23:07:41.74 ID:6zidUWyO0

クロスうまいな>>1は!

それにしてもなぜ恭介の表示が途中で上条になった?何か意味でもあるのか?
193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/28(木) 23:34:30.76 ID:ci2wasBH0
乙!!

お疲れ様です〜〜〜〜〜〜〜〜wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga sage]:2011/07/28(木) 23:47:19.19 ID:5v11qU140
さやか「奇跡も、魔法も、いらないんだよ!」

結構いいセリフだと思った。

さやかちゃんカッコイイ!

実際は友人の知り合いの医者に頼るだけだけど。
195 :null [sage]:2011/07/28(木) 23:55:27.79 ID:vhoUp7O50
まどマギと禁書のクロスは俺も考えたが、妹達の一人が見滝原中に転入するくらいしか
思いつかなかったからちょ→感心しながら読ませてもらってるよ!
ステイルを始め、少しづつ上条勢力魔術サイド組が集まって来て胸が熱くなるね!

ループ一ヶ月間以外の勉学は苦手なほむらが可愛いんだがー
196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/07/28(木) 23:55:57.08 ID:5Yn1xpRAO
奇跡も、魔法も、いらないんだよ!
※ただし凄腕医者とのコネはいる
確かにカッコいいけど要はこういうことだもんなwwww
このまま助けまくってもいいけど、ちと鬱要素も欲しいぜよ
197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山形県) [sage]:2011/07/29(金) 00:00:33.16 ID:AuP0iAMZo
冥土帰しなら上條の腕を治してお釣りが来るレベルだろ。
198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/07/29(金) 00:09:13.00 ID:GZvWFdUf0
そういえばこのSSだと、コンビニバイトに妹達の一人が居るんだよな…
魔女にも通常兵器は通用するから完全武装妹達の参戦も期待できるのかなん?
199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/29(金) 00:15:20.04 ID:Za0ssgK90
個人的には、中二病同士のていとくんとマミさんの触れ合いがみたいんだが無理かな?
第二位なら他人の魔翌力干渉とか可能だろう。
200 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/29(金) 00:42:25.21 ID:dSAMDAYMo
>>1ですが、明日(今日)は出る予定も何もないので昼に一度投下し、それから夜中にもう一度投下する形にしたいと思っています、が

実際のところ、一日に二度の投下と言うのはどうでしょう?読んでる方としては辛いですかね?

>>192
単なる推敲忘れのミスですのでお気になさらず

>>194,196
実は先ほど書いたとおり、やりたかったことの一つがその台詞です
「ないんだよ!」はネタレスで見たことあるけど「いらないんだよ!」ってのはまだ無いよなぁってにやにやしてました
201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/07/29(金) 00:53:43.91 ID:cMuRN7lAO
>>200
二回投下?望む所だぜ
202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/29(金) 00:57:17.00 ID:5qP81et6o
2回投下は時間帯次第かと。
203 :名無しNIPPER [sage]:2011/07/29(金) 01:01:50.92 ID:ag6vUL0AO
昼と夜よりも夕方と夜の方が良いんじゃね
俺は出勤日じゃないけど仕事あるやつはあるだろうし
204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/29(金) 01:17:30.43 ID:/URDBUNPo
別に読者は気にしないで投下したい時にしてくれればいいよ
205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/29(金) 01:59:59.77 ID:yBSs84DDO
いきなり今回のループ地点からのクロス世界か
うむドキドキしてきた

二回投下はいいと思うよー
そのとき読めなくてもあとで読むし
206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/29(金) 05:35:37.35 ID:Uo2QKRF9o
>>161の話が時間朔行して途中からこの世界に入って来たほむらが女王の名前を間違えた事に繋がるんですね
207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/29(金) 09:16:02.18 ID:66kjehYSO
帰宅してから歴史の教科書や新聞、ニュースを見直して愕然とするほむほむかわいい
208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/07/29(金) 11:18:40.95 ID:2pJyHV3AO
個人的に二度と投下の方がいい。
209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 12:25:11.40 ID:dSAMDAYMo
しばらく考えましたが、当初の予定通りに投下いたします
210 :ちょっとだけ前後します [saga]:2011/07/29(金) 12:25:44.46 ID:dSAMDAYMo



さやか「奇跡も、魔法も、いらないんだよ!」



 そう言って、あたしは恭介に抱きついた。


.
211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 12:27:08.72 ID:dSAMDAYMo

――同時進行で行われていた、とある電話でのやり取り。

冥土帰し『ああ、カルテは見させてもらったよ。確かに外の医学じゃ、完治させるのは難しいかもしれないね?』

ステイル「……その、いまさら聞くのもおかしな話ですが……治せますよね?」

冥土帰し『神経系が完全に麻痺してしまっているからね。学園都市の医学でも、完治はちょっと難しいかな』

ステイル「なっ! それじゃあ結局、彼は治せないんですか!?」

冥土帰し『――僕を誰だと思っている?』

ステイル「あなたの誇らしげな顔は容易に想像出来るが、それを言うためにいちいち勿体振るのはやめろ腹立たしい!」

冥土帰し『君、案外ノリが悪いんだね?』

ステイル「チッ……それで、結局彼の傷は治るのかい!?」

冥土帰し『ああ、治るよ。後遺症無く、完璧に。僕は患者の必要とするものなら何でも用意するからね?』

ステイル「……ありがとう、ございます」

冥土帰し『君から礼を言われるのは、“彼”の時と、“彼女”の時、これで三度目だったね?』

ステイル「そう……でした、ね」

冥土帰し『……友達は大事にすることだよ。それじゃあ詳しい話は折って連絡するが、それで良いね?』

ステイル「はい……本当に、ありがとうございます」

――やりとり終わり。
212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 12:28:13.00 ID:dSAMDAYMo

 恭介と一緒になって大泣きしたあたしは。
 涙のせいで真っ赤になった目が元に戻るまでの間、一人屋上で、時間の流れるままに身を委ねていた。
 マミさんのところに行こうとも思ったけど、恭介の病室に行く前に先に顔を出してたのでなんか行き辛くって。

 それに恥ずかしい。

 あたしはもっとこう、気丈でタフで逞しくないと駄目な気がする。多分。

さやか「でも……ホント良かったぁ……」

 全部丸く収まって、めでたしめでたし。
 ハッピーエンド。

 この頃のあたしは、世界はそうなるように出来ていると勝手に思い込んでた。



 そう――――



 突然、何の前触れもなく目の前が真っ暗になって。

 ほのかに甘い、お菓子の匂いが鼻腔に届いて。

さやか「……え?」
213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 12:29:29.16 ID:dSAMDAYMo

 目の前を、丸っこい物体……ステイルの足に絡みつくことで生き延びた魔女の使い魔が過ぎって。
                     ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
さやか「ウソでしょ、そんな、どうして!?」


「キャァァァァァァッ!!」


 魔女の使い魔が跳んでいった方角から、女の子の悲鳴が上がって。

 あたしは慌ててそっちの方を見て、すぐに息を呑んで。



 まだ5,6歳くらいの女の子が。

 魔女の使い魔に。



 その左手を噛み千切られている姿を見る――――その時まで。


.
214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 12:29:55.33 ID:dSAMDAYMo

さやか「あぁっ……あああぁぁぁあぁぁ!!?」

 頭の中がぐちゃぐちゃになって、何とかしなきゃと思うのに。
 でも体は動かない。
 女の子の悲鳴が耳に残る。いや、今でも響いているのか。それすらも分からない。
 使い魔がごっくん、と音を立てて、左手の成れの果て、血が滴る異様な肉塊を飲み込んだ。

さやか「ああぁぁ……!」

 左手を失くした女の子が、全身をびくんびくんと痙攣させている。
 痛みで気絶したのか、ショック死したのか。分からない。分からないけど。

さやか「きょ……すけ……!」

 恭介と女の子が、ダブって見えた。

さやか「うわぁぁぁぁああぁあぁ!!」

 気がついたら駆け出していた。
 痙攣する女の子を啄ばもうとする使い魔を後ろから体当たりして突き飛ばす。

さやか「うっ、うぅっううぅぅぅうぅぅ!!」

 恐怖と怒りとがごちゃ混ぜになり、頭の中でせめぎ合う。続けざまに使い魔を何度も踏みつける。

さやか「はっ……は……はぁっ……!」

 使い魔がお菓子の中に沈み込んだのを見届けてから女の子の方を振り返り、
215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 12:30:21.62 ID:dSAMDAYMo

さやか「かはっ……!」

 わき腹の辺りに何かが当たった――ような、気がする。
 そう認識した直後に、まず頭が揺さぶられ、次に肺から空気が漏れて、なにかがミシミシいって……

 起き上がった使い魔の体当たりをもらったのだと把握したのは、ケーキみたいな何かに半身をうずめてからだった。

さやか「あぅ……あぁ……!」

 わき腹が熱かった。
 痛かった。
 悲鳴を上げようとしても、出ない。
 それ以前に呼吸すらままならなかった。

 痛い。怖い。嫌だ。
 それでもあたしはむりやり頭を起こして、ぼんやりとした視界の中に使い魔と女の子、それから白い何かを入れた。
 使い魔が女の子を食べようとしてる。止めなきゃ。でもどうやって?

さやか(てれぱしー……)

 駄目だ。結界の中からじゃ届かない。
 仮に届いても、受け取ることが出来るのはせいぜいマミさんくらいだ。
 マミさんは戦えない。ステイルも転校生もどこにいるか分からない。
 それ以前にキュゥべぇがいないからテレパシーできないじゃん――いない?

 いや、いる。いた。

さやか「痛……ぅ……」

 筋肉が悲鳴を上げるってこんな感じかな、などと思いながらなんとか首を動かす。
 視界の端に映る白い何か。それはつまり。
216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 12:31:22.02 ID:dSAMDAYMo

さやか「キュゥ……べぇ……」

QB「大丈夫かいさやか!? 様子を見に来たはいいけど、まさかこんなことになってるだなんてね」

さやか「だれ……か……」

QB「運が良ければマミが助けに来てくれるはずだ。それまで持つかい?」

さやか「だ……め、だよ……」

QB「なぜだい? 彼女なら、あの程度の使い魔は一撃で倒せるよ?」

さやか「マミさん……死んじゃう……」

QB「……仕方がない、それじゃあ君だけでも隠れられる場所まで運ぼう。あの女の子には囮になってもらう形になるけど」

さやか「そん……ぁ……!?」

QB「無理に喋らない方がいいよ、多分肋骨が折れてるからね」

QB「それに、あの女の子はいずれにしたってもう助からない」

さやか「なん、と……ならない……?」

QB「無理だね。“今の君”では、なにも出来ない」

QB「奇跡か、魔法でもない限りはどうにもならないよ」

さやか「くぅ……!」

QB「……君が魔法少女になれば、彼女は救えるかもしれないね」
217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 12:32:36.72 ID:dSAMDAYMo



QB「でも、君は奇跡も魔法もいらないって言ったじゃないか」



QB「つまり君は魔法少女になるつもりはないのだろう?」



QB「じゃああの女の子は諦めてもらわないとね」


.
218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/07/29(金) 12:32:52.90 ID:cMuRN7lAO
どうあがいても絶望……
219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 12:33:10.53 ID:dSAMDAYMo



さやか「……」



 迷ったのは、ほんの2,3秒。躊躇ったのは、1秒にも満たなかった、と思う。


.
220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 12:34:05.19 ID:dSAMDAYMo

さやか「……なる、よ……魔法、しょ……じょ……」

QB「……後悔しないね?」

さやか「……う、ん」

QB「それじゃあ願いを言ってくれるかな」

さやか「……あたし、の……ねが……いは……」



さやか「――――――――――――――――――――――――」


.
221 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 12:34:31.19 ID:dSAMDAYMo

QB「君の願いは、エントロピーを凌駕した」

QB「さぁ、受け取るといい」

QB「それが君の」





QB「運命だ」




.
222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 12:35:04.17 ID:dSAMDAYMo

 ほぼ同時刻。
 9割5分が黒く染まったSGを手元で転がしていたマミは、突如として言いようのない不安に襲われた。

マミ「虫の知らせ……ってやつかしらね」

 魔法少女としての経験と、元からある直感が『これから良くないことが起こる』と告げているような、そんな漠然とした何か。

 そして彼女は。

 ほんの少しも迷わず、“刹那の時間すらも躊躇わず、SGを握り締める。

 その動作に呼応するかのごとく、SGが一度だけ大きく脈動するように輝きを放った。
 それが示唆するのは、使い魔の存在。

マミ「使い魔……! 大変、早く行かなきゃ……!」

 患者用のパジャマを着たまま、大急ぎで病室を飛び出す。
 さきほどまでマミの傍らにいたはずのQBがいなくなったのも、魔女が原因だろう。
 頭の中で目星をつけながら、一度だけテレパシーを試みるが応答は無い。
 既に結界の中か、あるいは……

マミ(位置的に屋上、で合ってるわよね……?)

 可能な限り魔力を節約しつつ、全速力で使い魔がいるであろう場所に向かう。
 運が良ければ、SGが黒く染まりきる前にマスケット銃で使い魔を撃退することくらいは可能だろう。
 引き金を絞った後の事は考えない。

マミ(私に出来るのは、みんなを守ることだけだから!)
223 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 12:35:35.37 ID:dSAMDAYMo



――彼女はまだ知らない。それどころか、永遠に知ることはない。

――その優しさが、結果として“みんな”の心に深い傷を負わせてしまうことになるのを。


.
224 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 12:36:08.60 ID:dSAMDAYMo

 さらにほぼ同時刻。
 “散歩”途中に使い魔の結界に気付いたステイルと、
 たまたま彼の近くにいたまどかもまた、マミと同じように屋上を目指して走っていた。

 ただし――“とある事情”で体力の乏しいステイルは、まどかにすら置いてけぼりにされて階段を這うような形で目指していたが。

ステイル「クソッ……はぁ、はっ……ええい!」

ステイル(こんなことなら神裂達のサポートを受けるべきだった……!)

 そう。
 先日までマミを観察していた神裂一派は、すでに他の地区の魔法少女の観察に移っている。
 つまり、彼女達の援軍はまったく期待できないということだ。

 もしかしたら、使い魔が病人を襲うかもしれない。
 もしかしたら、それを止めようとマミが戦い命を落とすかもしれない。

 あくまで過程の話とはいえ――
 それらはステイルが神裂たちに接触していなければ回避できたかもしれない事態。
 無論、だからといってステイルに非はない。

 だが。

ステイル(いつもそうだ、僕はこうやって、後悔してばかりだ。)

 ステイルは悔やむ。

ステイル(あの子と痛みを分かち合うことも、地獄の底から引きずり上げることも出来ない頃となんら変わっていない!)

 這いずりながら、過去に思いをはせる。
225 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 12:36:59.29 ID:dSAMDAYMo

『嫌だよ……私、忘れたくないよ……!』

 例えばそれは、白い修道服を着た、幼い少女の涙。

『テメエのその手で、たった一人の女の子を助けてみせるって誓ったんじゃねえのかよ!』

 例えばそれは、ツンツン頭が特徴の、真っ直ぐな少年の叫び。

ステイル(くそったれ……!!)

 汗でびっしょりと濡れた神父服を引きずりながら、倒れこむようにして屋上に通じる扉を開け放ち。

 彼は言葉を失った。

 ステイルの目の前に広がっていた光景は――
226 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 12:37:42.93 ID:dSAMDAYMo

 呆然と立ち尽くす、鹿目まどかと。

 SGを握り締めたまま、同じように立ち尽くす巴マミと。

 唇をぎゅっと噛み締めている、暁美ほむらと。

 いつも通りのキュゥべぇと。



――血だらけの、しかし傷一つ無い女の子を抱きかかえた、青い騎士のような格好をした美樹さやか。


.
227 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 12:39:14.01 ID:dSAMDAYMo

さやか「えへへっ……」

 彼女は照れくさそうにはにかんで、喋り始めた。

さやか「全部丸く収まって、めでたしめでたし。ハッピーエンド!」

さやか「やっぱ物語ってのは、こうじゃないとね」

さやか「ごめんねマミさん、結局願い事、その場の勢いで決めちゃった。でもあたし、後悔してないよ」

 そう言って、腕の中ですやすやと寝息を立てている女の子に目を向ける。

さやか「だってあたし……最高に幸せだから!」

 喜びから来る涙を浮かべて、彼女は微笑んだ。

 そんな美樹さやかの行動を称えるかのように。
 あるいは新たな魔法少女の誕生を祝福するかのように。

 彼女の足元から、花びらが舞い上がった。
228 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 12:39:40.06 ID:dSAMDAYMo

マミ「そう……契約してしまったのね」

さやか「うん。ごめんなさい、マミさん」

まどか「さやかちゃん……」

さやか「あはは、そう暗い顔しないでよ。ね?」

ほむら「……大丈夫?」

さやか「うん、へーきへーき。あんたにまで心配されるとは思わなかったなぁ、へへっ」

ステイル「なんてことを……」

さやか「ちょ、ちょっとぉ、そこは冷静に突っ込みいれるところじゃないのー?」

ステイル「……バカが」

さやか「むっ、やっぱ前言撤回。汗だくだくの神父にバカとは言われたくないなー」

さやか「……ごめん」

マミ「ひとまずその女の子を運びましょう。何があったか知らないけど、手放しで喜べる状況じゃないみたいだし」

ほむら「私は使い魔が他にいないか調べてくるわ」

マミ「ありがとう、頼んだわね」

ステイル「……はぁ」

まどか「さやかちゃん……」
229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 12:40:50.41 ID:dSAMDAYMo

 さやかが事情を説明すると、ステイルは血やらお菓子の跡やらをルーン魔術で綺麗さっぱり洗い流した後で、
 寝息を立てる女の子を病院の人間に引き渡した。

 お菓子に対する精神的外傷、つまりトラウマが芽生えるかもしれないが、あくまで軽い物というのがステイルの見立てだ。
 つまり、悪い夢を見ていた程度のことにしか思わない、ということ。
 それを聞いたさやかは安堵の表情を浮かべて、それから照れくさそうにそっぽを向いて。

 ありがとう、と小声で言った。

マミ「あの女の子を救う……それを叶える代わりに魔法少女に……ね」

まどか「本当に、良かったの? さやかちゃんならその、上条君の腕だって……」

さやか「んー、実はちょっとだけ悩んだ」

さやか「でもほら、恭介は治るって分かってるしさ」

まどか「さやかちゃん……」

さやか「それに比べて、あの子は治るどころか……あそこで終わっちゃいそうだったから」

 だから、と。笑顔を浮かべて、さやかは続ける。

さやか「あたしは、後悔してないよ」

ステイル「……そうかい」

さやか「あーでも、これであたしは文字通り、一人分の命背負うことになったんだよね。じゃあ気をつけないとなー」

まどか「え? あ、そっか、願い事……」

マミ「そうね、SGが穢れ切れば願いは取り消されてしまうもの」

まどか「マ、マミさん知ってたんですか!?」

さやか「……敵わないなぁ、この人には」
230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 12:41:27.56 ID:dSAMDAYMo

マミ「そうよ美樹さん。彼の方が戦い慣れてるみたいだし、ここは素直に甘えておきましょ?」

さやか「で、でも……」

マミ「そもそも魔女は簡単には出てこないの。というかそんなにぽんぽん出てこられても困るし……」

マミ「友達なんだから、ね?」

 マミにウインクをされたステイルが顔を赤らめる。
 その様子を怪訝そうな顔で見やりながら、まどかはおずおずと手を挙げた。

まどか「あっあの、わたし、わたしはなにをすれば?」

 そんなまどかの言葉を受けた四者のリアクションは。

ステイル「え?」

さやか「あー……」

マミ「えっと……」

QB「なんなら僕と契約して、魔法少女になってよ!」

まどか「(無視)も、もしかしてわたし、また何もすることないの……?」

さやか「……いやぁー、あったわ。まどか、ちょっと目ぇ瞑ってて」

まどか「え? う、うんいいけど」

 言われた通りに目を瞑るまどか。
 さやかは下卑た笑みを浮かべながら、指をわきわきさせてその背後ににじり寄る。
 ため息をつき、それらを一切無視してステイルはキュゥべぇに視線を向けた。
231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 12:42:32.70 ID:dSAMDAYMo

ステイル「そういうわけだから、美樹さやかとマミを戦わせないように注意してくれるかい?」 オリャァー! ヒィィー!

QB「それはお安いご用だけど、今日みたいな状況になったら僕でも止められないよ。マミもね」 カワイイヤツメ クノクノー!

ステイル「……やはり戦おうとしたのか」 チョッ、ヤメ…アッ…

マミ「ええ、ごめんなさいね」 オウオウココカ、ココガエエンカー?

ステイル「いや、謝ることはないよ。とにかく君は病室から出ないようにしてくれ、体力の消費でSGが穢れるかもしれない」

マミ「えっと……実はね、明日の午前中にも退院する予定なの」

ステイル「……分かった、明日の夜までにはGSを調達しておこう。ところで」

 ちら、と視線を元に戻すと。



まどか「……」

さやか「いや本当なんか調子に乗っちゃって……浮かれてて、あの……」

さやか「すいませんでした……申し訳ありませんでした……」

 そこには何故か土下座しているさやかと、感情の篭っていない目で見下ろしているまどかの姿が。
 呆れるやら馬鹿馬鹿しくなるやらで、笑っているような怒っているような表情をステイルは浮かべた。

ステイル「なんというか……大したものだよ、君達」

マミ「確かに。一戦終わった後にこれだもの。良い神経してるわね……」

QB「その台詞はどうかと思うよ」
232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 12:43:51.41 ID:dSAMDAYMo

 病室に戻ってベッドに潜り込むと、マミは笑ってドアの方を向いた。

マミ「そんなに気を遣って護ってくれなくてもいいのよ? 暁美ほむらさん」

 ややあって、ドアが開かれる。
 そこには見滝原中学の制服を着た暁美ほむらの姿があった。

ほむら「……気を、煩わせてしまったかしら」

マミ「まさか。あなたの好意は嬉しいけど、まだちゃんと助けてもらったお礼をしていなかったでしょう?」

 そう言って、マミは頭を下げる。

ほむら「……礼を言われる筋合いは無いわ」

マミ「もう……本当はね、まだあなたのこと完全に信頼したわけじゃないの」

ほむら「でしょうね。それが正しい判断よ」

マミ「話は最後まで聞くこと。あなたがキュゥべぇにしたことは、正直まだ許せない」

マミ「今だって怒りたい気持ちでいっぱいよ?」

ほむら「……」

マミ「だけどあなたが、鹿目さんや美樹さんを心から心配していることが分かったから……それでおあいこね」

ほむら「……心配しているからって、何も変わったわけじゃ」

マミ「いーえ変わります。少なくとも私の中ではあなたは良い子に分類されました!」

 呆気に取られるほむらに向かってウインクすると、マミは笑った。
 その言葉に、笑顔に、嘘偽りなどは一切見当たらない。
233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 12:44:48.41 ID:dSAMDAYMo

ほむら「……好きにしなさい」

マミ「はーい、好きにしまーす」

ほむら「ああもう……あなたは何がしたいの?」

マミ「仲良くなりたいのよ。まずは自己紹介から。私は巴マミ。あなたのお名前は?」

ほむら「なにをいまさら……」

マミ「こういうのは形が大事なのよ。ほら、あなたのお名前は?」

ほむら「……暁美ほむらよ」

マミ「暁美ほむらさんね。そうそう、鹿目さんに聞いた時から思ってたけど……」

ほむら「なにかしら?」

マミ「格好良いわね、その名前。燃え上がる情熱の炎って感じで」

 瞬間。
 思わずマミが手を伸ばしてしまうほど、分かりやすいくらいにほむらの姿が揺れた。
 身を案じたマミがナースコールに手を伸ばすが、彼女は揺れたまま首を横に振ってそれを制止する。

マミ「大丈夫?」

ほむら「え、ええ。ちょっと動揺しただけよ……名前の件だけど」

 動揺から立ち直ると、しかし手先は震えたまま話を元に戻そうとする。

マミ「あ、うん」

 その迫力に気圧されたマミは反射的に首を縦に振った。
234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 12:45:42.29 ID:dSAMDAYMo

ほむら「情熱の炎、ね……でも変よ」

マミ「変じゃないわ、立派な名前よ?」

ほむら「っ……それに、その……名前負け、してるわ」

 俯き、消え入る声で呟くほむらの姿は、マミにはとても心細そうに見えた。
 その言葉に、どれだけの思いが込められているのか。マミには分からない。
 しかし同時に彼女の抱える物の大きさを感じ取り、悲しく思う。

ほむら「……」

マミ「……私は」

マミ「私は、名前負けなんてしてないと思うわ。今の暁美さん、その名前に相応しいぐらい格好良いと思う」

ほむら「――!」

 ばっ、と目を見開いたほむらが顔を上げる。
 その拍子に、きらきらと輝く何かが宙を舞った。
 それはふわりと風に乗り、しかしすぐに床に落ちて弾けてしまう。
 涙だった。

ほむら「……巴、さん」

マミ「えっ?」

ほむら「なっ、なんでもないわ! GSは私が探すから、安静にしていなさい!」

 ごしごしと袖で目元を拭って足早に立ち去ろうとする彼女の背中は。
 初めて会った時よりも小さく見えて。
 なぜか切なくなったマミは、その小さな背中に向かって声を投げかける。

マミ「また会いましょうね、暁美さん」

 ほむらはびくっと肩を震わして、それから何も言わずにドアを閉めて立ち去った。
 マミは彼女が居た場所から目が離せなかった。
 目を離してはいけない、そんな思いに駆られていた。
235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 12:46:09.34 ID:dSAMDAYMo

――その日の夜。
 皆と別れ、一人で帰宅しようとしていたまどかは詩筑仁美と顔を合わせた。
 先程のこともあってかいつもより元気なまどかは笑顔を浮かべて手を振り、

まどか「――え?」

 彼女の首筋にある妙な痣――魔女の口付けと呼ばれている――に気がついた。

まどか「ひ、仁美ちゃん!? お稽古ごとは、あのそれよりも……仁美ちゃん?」

仁美「……あぁらぁ、鹿目さん。ごきげんよう」

 目の焦点が合っていない。声も若干上ずっていて、それがよりいっそうまどかを不安に駆り立てる。

まどか「仁美ちゃん、どこ行こうとしてるた!?」

仁美「どこってそれは、ここよりもずっといいぃ、一段高い界ですわぁ。そぉだ、鹿目さんもご一緒にどうですかあ?」

まどか(か、界? 良く分からないけど、みんなを呼んだほうが良いのかな?)

 慌てて携帯電話を取り出し、ついさっき番号を交換したばかりのステイルに電話をかける。
 そうしている間にも、仁美はどこからか現れた同年代と思しき短髪の少女(時々頭の辺りが青く発光する)と共に、
 意気揚々とどこかへ突き進んでいく。
 仕方なく二人の後に続いていると、数回のコール音の後に電話が繋がった。

まどか「もっもしもし、ステイル君! わたし、まどかです!」

 電話に耳を傾けると、ノイズ混じりのステイルの声が聴こえてきた。

ステイル『ああ、どうし――い? なに――もあっ――』

 否、ステイルの声混じりのノイズだ。ノイズの音が大きすぎて、まどかは少しだけ顔を顰めた。
236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 12:46:37.38 ID:dSAMDAYMo

まどか「あ、あのね? 魔女が出たの、ああでも使い魔かも……とにかく、その」

ステイル『なん――て? すまな――ちど言って――あ、ノイズが――』

まどか(そんな、どうしてこんなっ……)

 プツッ、と通話が途絶えると同時に、どこかの工場らしき場所に辿り着いた。
 そこには似たような痣を首筋に持った二十人近い人が集まっていた。
 中心にいる夫婦らしき者の手には――げに恐ろしきは科学洗剤。特定の種類を混ぜることで死をもたらすものだ。
 そしてその二人は――いかにも、といった具合にバケツに洗剤を注いでいた。

まどか「だ、だめ、それはだめ! あれ危ないんだよ! みんな死んじゃうよ!」

仁美「そーう、あの神聖な儀式によって、これからみんなで素晴らしい界へ旅に出ますの!
.     そのために不要な肉体(からだ)を捨てるのです。それがどんなに素晴らしいか分かりませんか?」

 声高らかに宣言する仁美を称えるように、周囲の人間が拍手をした。
 中には小声で、

『ミサ……ワークとのせつ……あたらしい……トール……』

 ……などと怪しい呪文を口にする者までいる。
 駄目だ、このままじゃ駄目だ。

まどか「ごめん、仁美ちゃん!」

 仁美を振り切り、無我夢中でバケツを抱え上げる。
 そのまま手近の窓に思い切りぶつけて、工場の外に投げ出した。
 ばしゃっ、とバケツの中身が零れた音がした。近づかなければ大丈夫だろうと判断して振り返ると。

まどか「ひいぃ!」

 すぐ目の前に、大勢の人が迫っていた。
237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 12:47:06.13 ID:dSAMDAYMo

まどか「やっ、やだよ、助けて……!」

 まどかの声は届かない。
 大柄の男が、その手をまどかの首に伸ばし――



「やっと対洗脳時用思考プログラムをMNWから取得することが出来ました、とミサカは無い胸を張って堂々と報告します」



 ――短髪の少女が放った“電撃”に打たれて、激しく仰け反った。

まどか「な、なにが!? それ、なんなの!?」

 そんな彼女の声に応えるように、短髪の少女は己の頭を親指でさした。

??「それはここに、この中に」
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 12:48:07.66 ID:dSAMDAYMo

 それは二つの事情を知っている者からすればなかなか笑えるギャグだったが……
 残念ながらまどかはそれを知らなかった。

 短髪の少女は、痙攣する男を前にしてやれやれと首を振る。

??「能力の発生元とそれはの歌をパロった絶妙なギャグだったのですが……残念です、とミサカは自虐的にため息をつきます」

??「さて、本来なら外部での能力使用は厳禁なのですが、とミサカは前置きをしつつ――」

??「――これは正当防衛扱いで済みますよね。ぴっぴかちゅう(笑)ってか」

 ビリビリビリビリィィー!! である。

 短髪の少女を中心にして、工場が発電所へと丸変わりした。
 鉄パイプを持った男性が痙攣し、少女の首に手をかけようとする女性を気絶させ、暴れる人達を瞬く間に鎮圧していく。

 この場に留まるのは危険だと判断したまどかが、這いずる様な形で隣の部屋に逃げ込む。
239 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 12:48:51.32 ID:dSAMDAYMo

まどか「で、電気って……いったいなにが、どうなっ……!?」

 逃げ込んだ先で、まどかは淡く光って蠢く緑色のもやを目にした。
 人間とは明らかに違う、怪しい物体――魔女か、使い魔か。

 とうとう逃げることも忘れて、まどかは背後に設置してある多数のモニターに背を預けた。

まどか「もうやだよぉ……へっ?」

 するとモニターが怪しく光り出し。
 画面から不気味なシルエットをした天使のような人形の使い魔が複数這い出て来た。

まどか「ひぃっ!」

 使い魔はまどかの身体を掴み、有無を言わせず画面の中に引きずり込もうとする。
 必死にもがき、なんとかしようとするが使い魔は離れない。
 さらに緑のもやが、まどかの体を呑み込んで行く。

まどか(いやだ……こんなの……!)

 今度こそ駄目かと、まどかが諦めたその瞬間。



「あまり良い造形してないわね……とりあえずブッ潰れろ、スライムモドキが!」



 女性の声が響き渡り、突然現れた“巨大なグー”が緑のもやを押し潰した。

まどか「こっ、今度はなんなのぉ!?」

 使い魔の拘束から解放されたまどかは、転がるようにその場を離れようとして。

????「下手に動くと危ないわよ? 挽肉になりたくなかったらじっとしてろクソガキ」

 ボロボロの黒衣――というかゴシックな感じの服を着た、褐色金髪の女性に首根っこを掴まれた。

まどか「あ、あの……!?」

 疑問を口にする前に、まどかの目の前の地面がぼこっと盛り上がった。
 それは辺りにある資材や部屋を覆うフェンス、挙句の果てにはパイプ管まで取り込んでいき――
240 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 12:50:00.05 ID:dSAMDAYMo

まどか「ゴー……レム?」

 人――正確には天使――を模した巨大なゴーレムが完成する。

????「あんまり好きじゃないわね、結界に篭って好き勝手するなんて」

????「そぉいうのはなぁ……引きこもりの根暗野郎がすることだろぉがよぉおおおおおッ!!」

 ゴーレムがいとも容易く使い魔をなぎ払った。
 結界の外では形が保てない性質なのか、モニターから離れた使い魔はぐにゃりと捻じ曲がり消滅する。
 黒衣の女はにやぁ、とサディスティックな笑みを浮かべて、

????「へーえ、水が無けりゃ生きられない魚ってわけね……だったらよぉッ!」

 空気を切り裂き、コンクリートやらなんやらで構成されたゴーレムの太い腕が“掻き消えた”。
 否、正確にはひび割れた複数のモニター、その少し手前に現れた空間の歪みに呑み込まれているのだ。

まどか「な、なにを……」

????「なにって……引きずり出すだけよ、引きこもりの根暗野郎をなあぁあああッ!」

 ぶんっ、とゴーレムの腕が歪みから抜け出る。
 その手の中には、ぴくぴくと身を震わせる赤黒い物体があった。恐らく、魔女だろう。
 結界から無理やり引きずり出された魔女は、怯えるようにガクガクと身を震わせて、それからぐにゃりと歪んで消滅した。
 ゴーレムの手のひらからグリーフシードが零れ落ちる。

まどか「あなた……誰?」

 パニックで思考がぐちゃぐちゃになったまどかは、ゴーレムと黒衣の女を比べるように見てから疑問を口にした。
241 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 12:50:45.23 ID:dSAMDAYMo



????「あぁ……自己紹介がまだだったわね。私はシェリー」



シェリー「イギリス清教所属の魔術師、シェリー=クロムウェルだ」


.
242 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 12:52:38.77 ID:dSAMDAYMo

――いつものボロアパート。

ステイル「つまり偶然魔力を探知した君が駆けつけたときには、その場にいた人間は口から泡を吹いていたと。
       そういうことだな、シェリー=クロムウェル」

 スティッガムを咥えたステイルを前にして、彼女は気だるげに頭を掻き、面倒くさそうに首を縦に振った。

                シスターズ
シェリー「そうよ。その場に妹達の一人がいて、そいつが暴れたってしょぼくれた顔しながら言ってた」

ステイル「魔女の口付けを受けてなお行動できる……ミサカネットワークの補助のおかげか」

 妹達とはまどかを助けた短髪の少女のことだ。
 同時に、彼女は“電気”を扱うことが出来る能力者でもある。
 わけあって一万人近い姉妹を持ち、なおかつ電気を利用したミサカネットワークと呼ばれる独自の思考網を持つことで、
 その一万人近い彼女らと思考や記憶を共有することが出来る。

 魔女の口付け、つまり洗脳を受けても、他の妹達が代理演算や思考の手助けをしたのだろう。

ステイル(電話が通じなかったのは、能力の暴走とネットワークの集中によってジャミングされてしまったせいか……)

シェリー「だがまぁやりすぎたからな。とりあえず適当にぶん殴って、彼女もろとも病院送りにしておいたわ」

 そう言って、膝に頭を乗せてすやすやと寝息を立てているまどかの頭を優しく撫でる。

ステイル(へぇ?)

 色気や優しさとはかけ離れた彼女が、誰かの頭を撫でるというのは結構珍しい。
 相手の気に障らないように小さく笑って、しかし声のトーンは変えずにステイルは言う。

ステイル「で、どうして鹿目まどかを連れて来たんだい?」

シェリー「あぁん? 私の役割は魔女文字の解読だろうが。この子の管理はあなたの役目でしょう?」

ステイル「いや、そんなことは……ないとは言い切れないね。分かった、彼女は僕が家に送り届けよう」

 15分後、彼はまどかを背負ったまま白目を剥いて倒れている姿を暁美ほむらに発見されることになるのだが。

 それは割愛しておこう。
243 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 12:55:24.36 ID:dSAMDAYMo
一旦ここまで。
正直結界から引きずり出すのはやりすぎたかな……
エリーの過去を話に組み込みたかっただけなんで、こんなことはもう二度とないはず

続きは夜に投下します。
244 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/29(金) 13:01:55.91 ID:wuaiUtYSO
乙なんだよ!
245 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/29(金) 13:02:32.96 ID:VBrep2vJo
まさかのシェリーw
乙です!マジ俺得すぎる
246 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/29(金) 13:03:55.42 ID:t0xrhcTIO
乙マミ
更新頻度が高いのは嬉しいね
247 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/07/29(金) 13:33:30.60 ID:cMuRN7lAO
いちいち登場シーンが厨二心をくすぐるなあ
248 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/29(金) 18:19:00.21 ID:rH8hw8DSO
なんかまたマミさんに嫌なフラグが…
うわああああああああああ!
249 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/07/29(金) 19:17:32.86 ID:ag6vUL0AO
マミるフラグの代わりにマ○るフラグが立ってるなwwww
でもマミさんが大好きな>>1なら大丈夫だろう(チラッ
250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/29(金) 19:54:00.31 ID:xK4ROIhv0
さや化しちゃうのか…
251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 23:09:39.20 ID:dSAMDAYMo
遅くなりましたが、投下します
252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 23:12:53.61 ID:dSAMDAYMo

看護士「いやぁよかったわねぇ。原因不明の火傷、軽くて」

マミ「はい、その節はご迷惑をおかけしました」

看護士「でも本当に良かったの? 親戚のおばさん、呼んだら迎えに来てもらえたでしょうに」

マミ「はい、私はこの通りぴんぴんしてますから。あまり迷惑はかけられませんので」

看護士「そう……」

看護士(偉いわね……まだ15歳なのに)

マミ「では、お世話になりました。さようなら」

看護士「ええ、さようなら! また会いましょ!」

マミ「それってまた入院して欲しいって意味ですか?」 クスッ

看護士「あ、そっか。じゃあ次に会うときは健康診断か検査入院のときね」 フフッ

マミ「はーい、それじゃあまたいつか!」

 看護師に見送られながら、マミはカバン片手に病院を後にした。
253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 23:14:28.90 ID:dSAMDAYMo

 そして。
 帰り道に魔女と遭遇することも。
 車にはねられたり雨が降ったり魔法少女にソウルジェムを抉り出されるとかいうこともなく。

 無事に、マミは自分の住む部屋に帰宅した。
 この数年間、キュゥべぇと共に築き上げてきた、短いながらも歴史のある部屋に。

マミ「ふぅ……ほんの三日振りだっていうのに、なんだか懐かしくなってきちゃうわね」

マミ(色々あったものね、仕方ないわ)

 この三日以内にあったことと言えば、まず後輩に弱みを見せた。
 それと死にかけた。次に胸元が爆発した。熱かったというか、痛かった。
 あと入院した。魔術なる能力のことを知った。お友達が三人、いや四人増えた。
 いやぁ出るわ出るわ、下手したら半年間分のイベント先取りしてるんじゃ? と首を傾げるほどだ。

 だが不思議と悪い気はしない。

マミ「ふふっ」

 マミは微笑んで、湯を沸かすためにキッチンへと向かう。
254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 23:15:40.82 ID:dSAMDAYMo

マミ(それにしても美樹さんがねぇ。他人を助けるために魔法少女に、かぁ。憧れちゃうわね、そういうの)

マミ(でも、美樹さんが選んだのは辛く険しい道のり。私の場合は自分だけで済むけど……
   彼女はあの女の子の運命も背負っていることになる。彼女だって十分辛いでしょうに……)

マミ(ソウルジェムが黒く染まれば、願いは無効になる……私は、あとどれくらい持つのかしら)

 茶葉を取り出しつつ、空いた右手にソウルジェムを具現化させる。
 染まり具合はジャスト9割6分といったところか。昨日とさほど変わっていない。
 その様子に満足したマミは再びソウルジェムを指輪状に変化させようとして。

マミ(……あまり変わっていない?)

 その矛盾に気がついた。
 探知魔法と身体強化による全力疾走。この二つを行えば、穢れが1%程度増加してもおかしくはない。
 だが、それだけだった。

マミ(私の願いは、自身の治療……いいえ、延命と言っても良い)

 本来ならばとうの昔に死者であるこの身を願いの力で生者へと変化させているのだ。
 もう少しソウルジェムが黒く染まっていてもおかしくはない。それが道理のはずだ。

マミ(魔法を使った分を差し引けば、ほとんど変化なし。ということは)

 ……願いの持続に、魔力は費やされない?
 そう言えば、ソウルジェムの穢れの溜まり具合には、微かな誤差はあっても一定の規則などなかった気がする。
 あれはむしろ落ち込んだりしてしまった時に黒く染まっていたような……。

マミ(待って、それよりも考えるべきことがあるわ)

 そう。願いの持続に魔力が費やされないのならば、願いは消えないはずだ。
 ではソウルジェムが黒く染まった時、一体何が起こるというのだろう?
255 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 23:17:12.76 ID:dSAMDAYMo

マミ(そういえばキュゥべぇ、昨日妙なことを言ってたわよね。あれはなんだったのかしら)

 思考しながら、慣れた手つきで沸騰直後のお湯をポットに注いで空気と湯とを絡み合わせる。
 そして、昨日キュゥべぇが言おうとしていた言葉を思い出そうと彼女は過去へ意識を飛ばした。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

QB『……いちが……にそうと……言えな……どね』

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 いちが、いちがつ、いや……いちがい、一概。

 とすればその次は、にそうと……一概に、そうとは。

 言えな、これは分かる。言えない、とか言えなかった、とかだろう。

 じゃあ最後も簡単だ。けどね、とかだろう。これらを繋ぎ合わせると……

マミ(『一概にそうとは言えないけどね』……? 何のことかしら?)

マミ(確かその前に、美樹さんと願いの話をしていたから……)

マミ「ソウルジェムが黒く染まっても、願いが取り消されるとは言えない……?」

マミ「いえ、違うわ。例外はあるということ。あるいは……結果的に取り消された形になってしまう……?」

 呟きながら、紅茶が注がれたカップと切り分けておいたケーキを居間のテーブルへと運ぶ。
 一度キッチンに戻って軽く後片付けをしながら、マミはさらに思考を巡らせる。
256 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 23:19:19.43 ID:dSAMDAYMo

マミ(私の願いは取り消されるけど、美樹さんの願いは取り消されない……?)

マミ(素質の問題、それはあるかもしれない。でも鹿目さんならともかく、私と美樹さんにそれほどの差があるようには思えない)

マミ(とすると……願いの対象? 自身か、他者か? それはなぜ?)

マミ(……私の願いは延命。そしてソウルジェムが黒く染まると、私は死んでしまう、はず。
   それは願いが取り消されるからではなく……ソウルジェムが黒く染まることで死んでしまうからだとしたら……!?)

マミ(でも待って、どうしてそれだけで死んでしまうの? おかしいわ、そもそもソウルジェムって――)

 そこでふと、マミはステイルの言っていた言葉を思い出した。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ステイル「……黒い宝石かい? ソウルジェムに似ているね。上の飾りは蝶の羽を模しているようだが」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 なんの知識も持たない彼がグリーフシードを見たときに発した、純粋な感想。
 グリーフシードはソウルジェムの穢れを取り除く便利な物なので、確かに関連性はあるのだが。

 もしもそれが。
 関連性などという薄っぺらい言葉で済むものじゃはなかったとしたら。

マミ(まさか――!)
257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 23:22:05.43 ID:dSAMDAYMo

 ソウルジェムとグリーフシード、この二つが限りなく近い物であるとしたら。
                      ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨

 魔法少女と魔女、この二つが限りなく近い者であるとしたら。
                ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨

 その推測に至った時、最初にマミが抱いた感情は、思いは、言葉は。

 後悔。

 それは自身が魔法少女のさらに先へ……ローラの察するところの『魔上(まじょう)』に達することを想像し、抱いたわけではない。
 それだけなら、まだ自己を保てた。冷静にもなれた。
 だが彼女は甘く、優しい人物である。自身の危機よりも先に、他人の心配をすることが出来る人物である。
 なによりも彼女が後悔したのは――

マミ(私は、美樹さんになんてことを……!!)

 美樹さやかを魔法少女に導いてしまった事実。
 魔法少女になる理由を、きっかけを、作ってしまったこと。

 巴マミのソウルジェムが、思い出したかのように脈動し始める。
 それは暗く、重たい、黒い脈動。
 同時に始まる穢れの噴出。

 だがマミはそれに気がつかない。

 胸の辺りが苦しくなるのを感じながらも、大事な親友であり、かけがえのないパートナーであるキュゥべぇに。
 自分の考えが出鱈目であることを証明してもらおうと、彼女は目一杯まで魔力をひりだし、テレパシーを送ろうとした。
258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 23:23:07.23 ID:dSAMDAYMo


マミ『キュゥべぇ……キュゥべぇ、お願いだから……』


マミ『お願いだから返事をして、キュゥべぇ――!』





マミ『キュゥべぇ――!!』




.
259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 23:23:48.80 ID:dSAMDAYMo

――その少し前、学校

仁美「ふわぁ〜あ。ああ、とても眠いですわ」

ステイル「はしたない……」

仁美「あはは、ごめんあそばせ」

さやか「どったの仁美、寝不足? とうとう仁美も夜更かしするような年齢になったのー?」

まどか「さやかちゃん、その台詞親父臭いよ……」

仁美「夕べは病院やら警察やらで夜遅くまで」

さやか「へぇ! 何かあったの?」

仁美「どうも私、夢遊病らしくて。大勢の人と一緒にとある工場で倒れていましたの」

まどか「……そう、なんだ」

仁美「お医者様が言うには集団幻覚だとか。それに工場の機材が故障していたようで、電気を浴びてしまったらしいんですの」

ステイル「(あのバカ……)そ、それは災難だったね! 病院に行かなくても平気なのかい?」

仁美「実はそのせいで放課後も精密検査で……はぁ、メンドクサいわぁ」

さやか「大変だねぇ、あははは!」

まどか(仁美ちゃん……)
260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 23:24:45.61 ID:dSAMDAYMo

 仁美と別れた三人と一匹は、帰り支度をしながら彼女のことについて話を交わしていた。

さやか「仁美の症状って、やっぱり魔女のせいなんだよね」

ステイル「うっ……ま、まぁ良いじゃないか。魔女は倒したし、彼女も元通りだ。何も問題は無いだろう?」

まどか(電気はステイル君のお友達がやったことなんだけどね……)

さやか「まーそれもそっか。んじゃ、マミさん家行こっか?」

QB「グリーフシードも早く届けたいしね」

ステイル「そうしよう……と、その前に」

 ステイルはちらりと最前列の席を伺った。
 妙にそわそわしたほむらが、その視線に気がついてさっと姿勢を正す。
 その態度に苦笑しながら、ステイルは改めて向き直って声をかけた。

ステイル「君もどうだい、暁美ほむら」

ほむら「うっ……わ、私は別に、その」

さやか「(わっかりやすいツンデレー、この子好きだわ私) あんたも心配なんでしょ? じゃあ一緒に行こーよ」

まどか「そうだよ、ほむらちゃんも行こ? ね?」

ほむら「……し、仕方が無いわね」

ステイル「……ふっ」
261 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 23:26:34.20 ID:dSAMDAYMo

 隣に並んで歩くほむらの肩を見ながら、ステイルはなんとはなしに口を開いた。

ステイル「昨日は助かったよ、わざわざすまなかったね」

ほむら「気にする必要は無いわ。私はただ自分のために行動しただけ……ところで、あれは結局なんだったの?」

ステイル「ああ、まどかが魔女に襲われてね。いろいろあって気絶してしまったらしいので、家まで背負っていこうと思ったんだが……」

ほむら「まどかが襲われた!? それは本当なの!?」

 突然声を荒げたほむらに問い詰められて、ステイルは若干動揺しながら肯定する。
 それを見た彼女は苦虫を潰したような表情を浮かべて俯き、開いていた手を力いっぱい握り締めた。

まどか「そうそう、昨日の女の人格好良かったなぁ。あの人もステイル君のお仕事仲間なの?」

ステイル「まぁね。まさか魔女を結界の外に引きずり出して倒してしまうとは思わなかったが……」

ほむら「ひ、引きずり出す? そんなことが出来るの?」

まどか「うん、凄かったよー。なんかね、岩で出来たおっきなゴーレムが出てきてね?
.     轟ッ!! という音と共にドバッ!! と巨大な腕が結界の中に突っ込み、ドガァァァn」

さやか「はいはいそういうのいいから、でもゴーレム召喚とかカックイー! いいなーあたしも見たかったなぁー」

ほむら「魔女を……そんな方法で……」

ステイル「彼女は強引な性格だからね……今回はたまたま相性が良かったらしくて楽勝だったみたいけど」

ほむら「楽勝? その人って、あなたの所属する組織では強い方なの?」

ステイル「どうだろうね。魔術師の戦いは、術式の構築や下準備が重要になるので一概に強弱の順列は作れないんだ」
262 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 23:29:25.52 ID:dSAMDAYMo

ステイル「だが総合的に見た場合、彼女はそうだな……中の上、かな」

ほむら「なっ……」

まどか「えぇー、あんなに格好良いのに?」

ステイル「イギリス清教は粒揃いの組織だからね。それに彼女は戦闘員であると同時に暗号解読の専門家でもある
       だから純粋に力のみを極めることが可能である僕みたいな魔術師の方が強さで行ったら上になるだろうね」

ほむら「……あなたはどれくらいなの?」

ステイル「せいぜい上の下、さ。それも上の中や上の上からしてみたら巨象の前の蟻に等しいけどね」

まどか「す、凄いね……」

ほむら「……出来る」

 言葉を失ったままでいたほむらが、搾り出すように言った。
 俯いているためにその表情は伺えないが、肩がぷるぷると震えている。
 前を行く2人に気付かれないように肩を寄せ、顔を近づけると小声で話しかける。

ステイル「……どうかしたかい?」

ほむら「……なんでもないわ。じゃあグリーフシードは持っているのね?」

ステイル「ん、ああ……すまないね、君もいくつか用意したというのに」

ほむら「え? べ、別にそんなつもりじゃ……」

ステイル「僕は君を誤解していたようだ。君は世間一般で言う『良い奴』みたいだし。それに……案外僕ら、気が合うかものかもしれないね」
263 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 23:30:02.24 ID:dSAMDAYMo

 ふっと手を挙げて先を行く2人に混じるステイルの後姿を見ながら、ほむらは思う。

ほむら(“今回”の世界は、何かがおかしい)

ほむら(今までの世界に“学園都市”なんて無かったし、“魔術師”や“能力者”なんてのもいなかった
...    そもそも英国女王の名前は“エリザード”じゃないし、“第三次世界大戦”も“ブリテン・ザ・ハロウィン”も無かった)

ほむら(それが原因で無駄に警戒したし、いつもより余計なことに時間を割いたけど……)

 紆余曲折を経て、巴マミは生存した。
 美樹さやかは魔法少女になってしまったが、そのきっかけは上条恭介ではない。
 このまま上手くサポートできれば、“変貌”しないかもしれない。
 警戒が緩んだ隙を突かれて鹿目まどかを魔女と接触させてしまったが、彼女は傷つかずに済んだ。

ほむら(そして――ステイル=マグヌス。)

ほむら(彼の言葉が本当であるとすれば、その戦力をいくらかでも割いてもらえれば……!)

ほむら(“倒せる”かもしれない!)

ほむら(“巴さん”とだって仲良くなれた。“美樹さん”やまどかとも良好な関係を保っている)

 乗り越えられる。この世界なら、みんなと一緒なら!

ほむら(“ワルプルギスの夜”を、乗り越えることが出来る――!)

 その時、目の前を歩くステイルの体が大きく前のめりになった。
 怪訝に思い、ほむらは歩くスピードを速めてステイルに近づいた。

 笑顔を浮かべて。希望を、胸に秘めて。
264 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/29(金) 23:32:04.21 ID:dSAMDAYMo



『キュゥべぇ――!!』



 巴マミの悲鳴にも似た呼び声を聞いて動揺したステイルは石ころにつまずいた。

ステイル(……今のは?)

 その声色はあまりにも悲痛で、今にも壊れてしまいそうだった。
 だが名前を呼ばれた当の本人(?)はどこ吹く風といった感じで、まどかの肩に捕まって惰眠を貪りまくっている。

ステイル(他に聞いた者は……)

 まどかはもちろんさやかにも異変は無く、ほむらにもこれといって動揺した素振りは見られない。
 否。妙に嬉しそうな顔をしながら、石ころにつまずいたステイルの顔を覗き込んできた。

ほむら「どうかした?」

 片手を挙げてなんでもないと答えながら、彼は極々自然に懐に手を伸ばした。
 目当ての物はすぐに見つかった。ほんの少しのルーンと陣が書き込まれた、カード状の通信用霊装である。

ステイル(確かにこいつなら巴マミがくすねたカードと互換性が利くが……微量の魔力を込めない限り扱えないはず)

ステイル(そもそも巴マミは霊装の扱い方を知らない。魔法と魔術、本質は似ているが互換は無理だろう
       これが作動するきっかけがあるとすれば……あちら側の魔力を無理やりにでもぶつければ、あるいは――)

ステイル(――魔力を、ぶつける?)

ステイル「巴マミが危ない……!」

ほむら「え?」
265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/29(金) 23:33:19.38 ID:Za0ssgK90
ちなみにシェリーは禁書強さ議論スレでは下位の方だけどな
266 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [!red_res]:2011/07/29(金) 23:33:21.88 ID:dSAMDAYMo



 その日、見滝原市のとある高層マンションに住む少女が死んだ。。



 その日、見滝原市のとある高層マンションに魔女が生まれた。



 その魔女は、まるで自身から離れ行く何かを必死で繋ぎ止める、そんな思いが詰まっていそうな――



――リボンの姿をしていた。


.
267 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [!red_res]:2011/07/29(金) 23:35:09.00 ID:dSAMDAYMo
やっちまったよ…最後のレス、一行目の句点が一個多いけど無視で

とういうわけで以上。投下ここまで
268 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/07/29(金) 23:36:34.63 ID:9uQk0Pw2o
本気でビビった……
269 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/07/29(金) 23:39:08.89 ID:cMuRN7lAO
岡部「跳べよおぉぉぉぉぉ!」
270 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/29(金) 23:40:07.65 ID:JzgEezhYo
え・・・
271 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/29(金) 23:40:23.86 ID:dSAMDAYMo
いつまで赤やってんだチクショウ……

>>265
駒場さん以下とか納得いかねぇがそれはさておき。
イギリス清教全体として見た場合、まず下段に修道女連中が来て、中段に騎士連中とモブ魔術師連中が来ると思うんですよね
俺はステイルSSや神裂SSを持ってないので外伝連中抜きにして考えると、まぁ大体それくらいかなと

次回でいよいよステイルさん大活躍。もちろん相方、もといステイルの代名詞の魔術もです
272 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/29(金) 23:42:07.39 ID:g7/4kTnC0
マミ、さん……?
273 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/07/29(金) 23:45:13.28 ID:E9cQyFWX0
そんな……
274 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga sage]:2011/07/29(金) 23:47:08.84 ID:/KsN2o5p0
赤レスを活用してるSSは初めて見たからビビったわ
275 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/29(金) 23:49:44.09 ID:rH8hw8DSO
あんぎゃあああああああああああ!
276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/07/29(金) 23:54:51.77 ID:Zs/3LryU0
うっうワァァァァァァァァァぁあああああああ
277 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/30(土) 00:40:45.94 ID:X4KM4KxYo
マミさぁぁぁぁぁん!?
>>1乙〜
地の文上手いし良い具合に2つを絡めて
て感動した
278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/07/30(土) 03:38:04.98 ID:9BdnDTBAO
うわあぁえげつねぇーこれステイルさん殺っちゃうフラグびんびんじゃん・・・
ほむほむも持ち上げられてから突き落とされて半端なく絶望しそうだし・・・
ってことは上条さんの出番だな!そうなんだろ?なあ・・・頼むからそうだと言ってくれ・・・
279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/30(土) 07:16:14.14 ID:2AX/S3BSO
こんなの絶対おかしいよ…(´;ω;`)
280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/07/30(土) 08:42:55.30 ID:mMglaE0AO
マミるより酷いことに……
281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/30(土) 10:34:53.28 ID:X4KM4KxYo
インさんが10万3000冊で何とかしそうと朝起きた時に妄想した
282 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/07/30(土) 18:18:23.35 ID:L5Dj7qWAO
おい、マミさん好きなんじゃなかったのか……
283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/07/30(土) 23:34:52.47 ID:ACfxWtCq0
マァァァミさァァァァァァァァん!?

嘘だ嘘だ嘘だ俺は認めないぞ
そうだこれは夢なんだ
目が覚めた時まだマミさんのソウルジェムは無事で
頼りがいがある方の上条さんがどこからともなく現れてそげぶで穢れを消して
マミさんを助けてくれるんだ
きっとそうに違いない…
284 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/31(日) 01:35:20.27 ID:ADDk8zfIo
奇跡(右手)も、魔法(魔導図書館)も、あるんだよ! あったら良いよね!

先に注意しておきますが、今回の投下分はなんか妙に臭いです
では投下します
285 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/31(日) 01:36:06.74 ID:ADDk8zfIo

 事情が呑み込めないでいる三人を急かし立てて、ステイルは巴マミの部屋まで走った。
 辿り着いた時にはすでに全身びっしょりで、息も絶え絶えだったが、それ以上に酷い寒気をステイルは感じていた。
 取り返しの付かないことが起きてしまった……そんな寒気だった。

ほむら「あ……あぁっ……!」

 突然ほむらがくずおれた。
 地面に膝を着き全身をわなわなと震えさせて、唇を噛み締めている。
 その目元には、わずかに涙が浮かんでいた。

まどか「ほ、ほむらちゃん? 急にどうしたの?」

さやか「ねぇちょっとステイル、一体全体何がどうなってんのよ!?」

 さやかの問いに、ステイルは答えられない。

さやか「ああもう、なにがどうなってんのよ! あんたら、これからマミさんに会うってのにそんな顔、で」

さやか「……まさか」

 はっと口に手を当てて、さやかが息を呑んだ。
 ステイルとほむらの様子から、何が起こったのかを察したのだろう。

まどか「さやかちゃん?」

さやか「……うそ、ねぇ、そんな……ステイル!?」

ステイル「……残念だが確証は持てない。しかし……」

さやか「ッ! もういい、あたしが試す!」

 焦れたさやかがソウルジェムを取り出して魔力を込める。
 さやかの思いに呼応するように、ソウルジェムは眩い光を放って輝いた。
 それが意味するところは――

まどか「魔女が……いるの……!?」
286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/31(日) 01:36:32.89 ID:ADDk8zfIo

. T O F F   T  M  I  L  . D D A G G W A T S T D A S J T M
「原初の炎 その意味は光 優しき温もりを守り厳しき罰を与える剣を」

 詠唱と共に、ステイルの右手、正確には右手に握られたカードに炎の剣が生まれた。
 彼は躊躇うことなくそれを目の前の扉に向かって叩きつける。
 それによって生じた爆発が扉を突き破り、その衝撃波が彼と彼の近くにいる者を容赦なく吹き飛ばし――

 違った。

 炎剣は扉に吸い込まれる寸前、見えない壁を切り裂き、薄いプレートのような何かを吹き飛ばしていた。
 魔女の結界に通じる入り口を強引に作り出したのだ。

ステイル「行くよ」

 感情を殺した声で、ステイルが言った。
 さやかはまどかと顔を見合わると、手を繋いで入り口に駆け込んでいく。
 だがしかし、キュゥべぇとほむらは違った。
287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/31(日) 01:36:59.62 ID:ADDk8zfIo

 ほむらはがっくりとうなだれたまま黙り込み、
 キュゥべぇはいつもの調子で、しかしじっとステイルを見つめている。

ステイル「どうしたんだい、そんなに取り乱して」

ほむら「……やだ……よぅ……」

ステイル「何が嫌なんだい」

ほむら「もうやだよぉ……わたしが……希望を抱いたから……こんな……」

ステイル「何を言っているんだ、君は」

ほむら「こんな……こんなの……」

ステイル「話が進まないな。じゃあそこで体育座りでもしていると良い。魔女は僕が殺しておくよ」

ほむら「駄目……でも……うううぅ……」

ステイル「で、キュゥべぇはどうして僕を凝視しているんだい?」

QB「……いや、僕も珍しく動揺していてね。理由がなんなのかは分からないのがこれまた厄介なんだけど」

ステイル「わけがわからないね。とにかく中へ入ろう。美樹さやかが魔法少女とはいえ、一人でどうにか出来る筈もないしね」

ほむら「うぅ……」

 嗚咽をあげるほむらを無視して、一人と一匹は結界の仲へと飛び込んだ。
 ほむらはそんな彼らの様子を見て、しばらくしてからよろよろ立ち上がり、倣うように中へ飛び込んでいく。
288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/31(日) 01:37:25.27 ID:ADDk8zfIo

 結界の中は、これまで見てきたような物と違って無意味な区画や道は広がっていなかった。
 一言で表すならば、カラフルなリボンで装飾された広い空間だ。
 ほのかに紅茶の香りが漂っているのが特徴といえば特徴かもしれない。
 さやかとまどかはおっかなびっくり歩き進み、あっさりと結界の中心に辿りついた。

 そして、見つけた。

さやか「リボンの……化物? あれが魔女?」

 空間の中心に、読解不能な文字の刻まれた巨大なリボンが一つ、うねうねと蠢いていた。

 そしてそれを守るように、あるいはいっしょに遊ぶようにひっそりと寄り添う五つの鎖。

さやか「うわっ……気持ちわる……」

 その異様な光景に目を奪われてさやかが絶句していると、彼女の隣にいたまどかが顔に手を当ててしゃがみ込み、

まどか「あっ、ああああぁぁぁぁぁぁ! いやああぁぁぁぁぁぁっ!!」

 もう長い付き合いになるさやかですら聞いたことのないような、甲高い悲鳴を上げた。
 慌ててまどかの視線を追った彼女は、今度こそ本当に絶句した。

 リボンの魔女の真下、五つの鎖の、その先端。

 そこに。
289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/31(日) 01:38:17.34 ID:ADDk8zfIo





 かつて、巴マミと呼ばれた肉の塊があった。




.
290 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/31(日) 01:38:42.87 ID:ADDk8zfIo

さやか「あっ、ああ……そんなっ……こんなっ……!」

 ぎゅーん、と鎖が伸びた。

 それだけで、面白いように巴マミであった物が“絡まった”。

 どこが腕で、どこが足なのか。
 それすら分からない。

 制服だったであろう衣服は、
 滴る血のせいで真っ赤に染まってしまっている。

 彼女だった物から流れ落ちる血肉と血液が、魔女の身体に染み込んでいく。
 黄色かったリボンの魔女が、だんだんと赤く変色していく。
 魔女が赤くなっていくにつれて、鎖の動きはどんどんと激しさを増し――、

 ぼとっ、と何かが落ちる音がした。
 さやかは巴マミだった物から目を離したい一心で、それを目で追いかけてしまう。

 追いかけてから後悔した。

さやか「いやあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/31(日) 01:39:08.30 ID:ADDk8zfIo



 音の発生源は。

 胴体だった物から、切り離された。

 巴マミの頭だった。



さやか「なんで……丸く、収まって……めでたしめでたし……ハッピーエンド……」


さやか「それが、どうしてこんなことになっちゃうのっ……こんな、こんなことになっちゃうのよぉ……!」


まどか「いや、いやだよ! こんなのってないよ! こんなの……ひどすぎるよぉ……!」


.
292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/31(日) 01:40:17.55 ID:ADDk8zfIo

「ああ、まったくもって酷いね。救いもクソも、あったもんじゃない」

 声が響き渡ると同時、彼女らの背後から異常なほどの熱風が吹き荒れた。

「だがこれが現実だ。ああそれが人生だ。認めなくちゃならない。受け止めなくちゃいけない」

 その声に、悲しみの色は見られなかった。

「さぁ、道を開けてくれ」

 怯えも、恐れの色も見られない。あるとすれば――

「奴は魔女で、僕は魔女を狩る者。倒す理由なんて、それだけで良かった。それだけで、十分だったのにね」

 右手に炎剣を携え、タバコを口に咥えたステイルがゆっくりと二人の横を通り過ぎる。
 見慣れたはずの赤い髪が、2人には燃え盛る炎のように見えた。

「仇討ちなんて……好きじゃないんだが」

 そこにあるのは、ただ純粋な怒り。

 燃え盛るような、憤怒の炎。

 何もかもを焼き尽くす、情熱の赤。
293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/31(日) 01:40:49.33 ID:ADDk8zfIo



ステイル「それでも」



ステイル「貴様だけは、絶対に許さない」


.
294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/31(日) 01:41:23.36 ID:ADDk8zfIo

        Kenaz   PuriSaz NaPiz Gebo
ステイル「炎よ――巨人に苦痛の贈り物を!」

 右手から炎の塊が解き放たれる。
 それは一直線に突き進んで魔女の体を焼き払おうとする、が。
 魔女を守るように前に出てきた紫の鎖が、身代わりとなって爆発した。

ステイル「泣けるね、主のために己の身を投げ出すその献身さ。まぁそう悲観しないでおくれ。すぐに君の仲間も、君の主も」

ステイル「同じ場所に、連れて行ってやるさ」

 それをきっかけに、赤と青、ピンクの鎖がステイルを捕らえようとその身を伸ばして迫り来る。

ステイル「遅いんだよ、バカが」

 微塵も慌てることなく、既に“仕掛け”を終えたステイルがタバコを口に咥えたまま、吐き捨てるように言った。
 その言葉が合図となり、鎖の行く手を阻むように炎の壁がステイルの目の前に膨れ上がった。
 その炎は、いつの間にか周囲に貼り付けられていた膨大な量のルーンのカードから発せられている。

 炎が吹き荒れることで生じる熱風をものともせず、ステイルは詠うように呟く。
 魔女を狩る、そのためだけに存在する化物を呼び出すために。
295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/31(日) 01:42:31.07 ID:ADDk8zfIo



 M  T  W  O  T  F  F  T  O  I I G O I I O F
「世界を構築する五大元素の一つ。偉大なる始まりの炎よ

    I    I    B    O    L    A   I   I   A   O   E
  それは生命を育む恵みの光にして。邪悪を罰する裁きの光なり

       I    I    M    H        A   I   I   B   O   D
    それは穏やかな幸福を満たすと同時。冷たき闇を滅する凍える不幸なり」



 ステイルを拘束しようと青の鎖が地面を這いずり回る、が。
 しかし彼の身体に到達することなく地面に叩き落されてしまう。

さやか「あああぁぁぁぁっ!!」

 魔法少女の姿に変身したさやかが、怒りを隠すことなく剣で斬りつけたのだ。

さやか「ちくしょうっ! ちくしょうっ! ちくしょうっ! よくも、よくもマミさんをッ!」

 さやかは興奮冷めやらぬといった様子で、鎖を何度も叩き斬り、何度も滅多刺しにする。
 既に鎖は動いていない。だがさやかは止まらない。
 怒りの矛先を、どこに向ければいいのか分からないからだ。
 彼女は知っていた。今のままでは、自分は魔女に敵わないという事を。
296 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/31(日) 01:43:05.90 ID:ADDk8zfIo

.  I I N F   I I M S
「その名は炎、その役は剣

   I C R    M  M  B  G  P
  顕現せよ、我が身を喰らいて力と為せ――」

 さやかがそうしている間に、ステイルの詠唱が完成した。
 ぶわっ、と。ステイルの目の前の空間が音を立てて爆発する。



.         イ ノ ケ ン テ ィ ウ ス
ステイル「 ≪魔女狩りの王≫ ……その意味は、必ず殺す」



 炎が渦を巻き、小さな爆発と共に結界内の酸素を恐るべき勢いで燃焼させて。
 人の形をした、摂氏3000℃かつ3m強の体躯を誇る馬鹿げた炎の塊……

 魔女の天敵にして、炎の化身。イノケンティウスが顕現した。
297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/31(日) 01:43:38.28 ID:ADDk8zfIo

 赤と青の鎖が己の身体を地面に突き刺した。その場で勢い良く身体を振って、遠心力を蓄える。
 その回転が一定の速度に達したところで、鎖が地面に突き刺さった方の身体を切り離した。

さやか「はやっ……!」

 鎖は凄まじい速度を保ったままイノケンティウスの腹に突き刺さり、灼熱の身体が上下に引き裂かれる。
 傷口から、まるで巨人の贓物と血液が流れ出すかのごとく炎が吹き荒れた。

 だが、それだけだった。

ステイル「イノケンティウスに攻撃は無意味だ。なぜなら何度でも蘇るから」

 身体を引き裂かれ、炎を垂れ流したはずの炎の巨人は。
 しかしカードから絶え間なく送り込まれる炎を身体に補填して、瞬く間に再生する。
 それどころか、炎で出来た巨人の身体に深々と刺さった鎖が、その熱に耐え切れず溶け出した。

 巨人は2本の鎖を掴み取り、胸の前まで持ってくると両手でぐんっと引っ張った。

ステイル「イノケンティウスに硬度は無意味だ。なぜなら全てを焼き尽くすから」

 それだけであっさりと、さやかの初撃に耐えた鎖が崩れ、燃え上がり、消えうせた。
 文字通り、灰すら残さずに。

ステイル「思い知れ」

 魔女狩りの王を右隣に据えて、ステイルが言った。

ステイル「これが、巴マミの受けた痛みだ」
298 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/31(日) 01:44:29.94 ID:ADDk8zfIo

 白い鎖を庇うように襲い掛かってきたリボンの魔女を、イノケンティウスが憤怒の抱擁にて迎え撃つ。

 結果など見るまでもない。

 鉄すら溶かす容赦ない灼熱によって、魔女がぼろぼろと崩れていった。

 形容し難き断末魔を上げて。

 白い鎖を庇うように。

 何かを確かめるように。

 白い鎖に、自身の身体から分かれたリボンを伸ばして。

 そして、魔女は消滅した。
299 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/31(日) 01:45:20.05 ID:ADDk8zfIo

 魔女の残骸を背にして、ステイルは感情の篭っていない目で白い鎖を覗き見た。

ステイル「仕える主人に先立たれるだなんて、君もずいぶんと不幸だね」

 だからと言って、手心を加えるわけでもなかった。
 その手に炎を宿してステイルは静かに歩み寄る。
 そこでステイルは気がついた。

ステイル「……?」

 白い鎖を凝視する。
 正確には、白い鎖に刻まれた文字に。
 鎖の端に取り付けられた、まるで目を意味するような二つの赤い宝石に。

ステイル(僕は、これによく似た物を見たことがある)
300 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/31(日) 01:46:01.87 ID:ADDk8zfIo

ステイル「……二つの赤い目……白い身体……それにこのわずかなピンクの模様は……」

 記憶という膨大なデータの山から、目の前の鎖に似ているシルエットを検索し照合する。
 その作業は驚くほどあっという間に終わってしまった。

ステイル「……君は、キュゥ――」

 ステイルが言い終わる前に、鎖が無数の銃弾によってバラバラになった。

ステイル「なっ……」

 鎖は一度だけ身を痙攣させると、難を逃れた先端部分が、魔女が元居た場所によろよろ這いずっていくが。
 トドメと言わんばかりに放たれた散弾が、完膚なきまでに使い魔を粉々にして見せた。

ほむら「獲物の前で舌なめずり。三流のすることね」

 鎖の亡骸を踏み潰すように、イタリア製の散弾銃を構えたほむらが降り立った。
 その顔には、先ほどまでの怯えや困惑などは一切見られない。
 その目にあるのは、なにもかもを諦めた者特有の、濁った色。

ステイル「……ご忠告ありがとう」

ステイル(また、突然現れた。彼女の力は、それこそ性質だけならイギリス清教の上の上に匹敵するほどなのか?)

ほむら「……巴マミは、それね」

 ステイルの足元にある肉の塊を見て、ほむらが言った。
 先程まで取り乱していたとは思えないほどに冷たく、静かな声だとステイルは思った。

さやか「どっ、どうにか……ならないの……?」

 巴マミであった物から目を離して、さやかがステイルの身体にしがみついた。
 そんな彼女の期待に応えてやれそうな言葉を、彼は持ち合わせていなかった。

ステイル「……すまない」
301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/31(日) 01:46:31.87 ID:ADDk8zfIo

 結界が歪み、空間が元に戻る。そこは巴マミの住む部屋の居間だった。

 テーブルに置かれたカップに、グリーフシードが一つ。

 少し埃がかった絨毯の上に、巴マミの遺体が一つ。

 もう二度と動かない。
 もう二度と喋らない。
 あの優しい温もりに溢れた笑みを浮かべることも、もう二度と、ないのだ。
 当然だ。彼女は死んだのだから。

 びしゃっ、と液体状の何かが零れた音が聞こえた。
 まどかが胃の中の物を戻した音だった。

ステイル「君達は出ていた方が良い。なに、心配は要らないよ。こういった後処理は慣れているからね」

さやか「な、慣れてるって……あんたまさか燃やすつもり!?」

ステイル「当然だよ。まさかとは思うが、こんな状態の巴マミを警察に見せるつもりかい? 何も話せないのに?」

さやか「うっ……そりゃ……でも、ひどいよ……」

ステイル「……すまない。とにかく、出て行ってくれ」

ほむら「……私も手伝うわ。“彼女のグリーフシード”は、美樹さやか。あなたが持っていなさい」

ステイル(ん……?)

さやか「転校生……ごめん……」

 テキパキと遺体を集め、痕跡を消していく2人を見て、まどかが消え入りそうな声で呟いた。

まどか「おかしいよ……2人とも……こんなのおかしいよ……人が、マミさんが、死んだのに……」

まどか「そんな、平然としてられるの……? どうして……?」

まどか「こわい……こわいよぉ……やだよぉ……」

ステイル・ほむら「……」
302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/31(日) 01:47:00.85 ID:ADDk8zfIo

 結界が歪み、空間が元に戻る。そこは巴マミの住む部屋の居間だった。

 テーブルに置かれたカップに、グリーフシードが一つ。

 少し埃がかった絨毯の上に、巴マミの遺体が一つ。

 もう二度と動かない。
 もう二度と喋らない。
 あの優しい温もりに溢れた笑みを浮かべることも、もう二度と、ないのだ。
 当然だ。彼女は死んだのだから。

 びしゃっ、と液体状の何かが零れた音が聞こえた。
 まどかが胃の中の物を戻した音だった。

ステイル「君達は出ていた方が良い。なに、心配は要らないよ。こういった後処理は慣れているからね」

さやか「な、慣れてるって……あんたまさか燃やすつもり!?」

ステイル「当然だよ。まさかとは思うが、こんな状態の巴マミを警察に見せるつもりかい? 何も話せないのに?」

さやか「うっ……そりゃ……でも、ひどいよ……」

ステイル「……すまない。とにかく、出て行ってくれ」

ほむら「……私も手伝うわ。“彼女のグリーフシード”は、美樹さやか。あなたが持っていなさい」

ステイル(ん……?)

さやか「転校生……ごめん……」

 テキパキと遺体を集め、痕跡を消していく2人を見て、まどかが消え入りそうな声で呟いた。

まどか「おかしいよ……2人とも……こんなのおかしいよ……人が、マミさんが、死んだのに……」

まどか「そんな、平然としてられるの……? どうして……?」

まどか「こわい……こわいよぉ……やだよぉ……」

ステイル・ほむら「……」
303 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/31(日) 01:47:26.35 ID:ADDk8zfIo

――飛び散ってしまっている巴マミの遺体は、ルーンのカードで構築された魔法陣の中心に集められた。
 ステイルは無表情でそれを眺め、右手を胸の前に持ってきて十の字を切る。

ステイル「……こわい、か。確かにまともな神経の持ち主だったら、こんな風に冷静には振舞えないかもしれないね」

ほむら「……取り乱していた私が言えた義理じゃないけど、平気なの?」

ステイル「なにがだい?」

ほむら「あなたは、巴マミのことを気に入っていたように見えたけど」

ステイル「これまでだって親しい同僚が戦場で亡くなることはあった。だが戦場で悲しんでいる暇はない。
       ありきたりだが動揺は油断に繋がり、油断は死に直結する。君達が腰を下ろす世界となんら変わらないさ」

ステイル「違うのは、相手が血の通った人間であるかそうでないか。それくらいかな
       ……両手の指じゃ足りないほどの数の人間を殺めていれば、嫌でも耐性は付くというものだよ」

ほむら「……そう」

ステイル「そうだ。平気だ……平気なんだ」

 最後の方は、まるで自分に言い聞かせるような、そんな響きを帯びていたかもしれない。
304 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/31(日) 01:47:57.44 ID:ADDk8zfIo

――そして。

ステイル「……十字教徒としては、火葬は好みじゃないんだが」

ステイル「状況が状況だし、彼女は日本人だからね」

ステイル「まぁ、紅茶やらケーキやらが好きだったみたいだけど。日本なら珍しくないかな」

ステイル「そういえば、彼女の魔法。ティロ・フィナーレ。あれはどうしてイタリア語なんだろうね。今でも不思議でならないね」

ステイル「聞いて、おけば良かった、かな」

ステイル「“あの子”のために学んだ、菓子作りの技術。紅茶の淹れ方」

ステイル「せっかく、披露する相手が、出来たってのにね」

 ステイルの口から紡がれる言葉を、ほむらは黙って聞いていた。
 それくらいしか、彼女には出来なかった。
 彼の顔を覗き見ることも。
 彼に声をかけてやることも。
 彼女には出来なかった。
305 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/31(日) 01:48:26.26 ID:ADDk8zfIo

ステイル「……せめて、安らかに。で、合ってるのかな?」

 ステイルが魔法陣に魔力を込めた。それは電子回路に電気を通すのに似ていた。
 ボッ、と火が点り、彼女の遺体を容赦なく焼いていく。
 間もなく人が焼ける臭いが生まれる。だが、炎はその臭いすら焼いていった。

 瞬く間に、部屋の中心に、ちょうど人間を半分に分けたくらいの、白い灰が出来上がる。
 魔女に血肉を食まれたがために、彼女の灰はそれくらいしか残らなかったのだ。

ステイル「……ふぅ」

ステイル「灰はどうしようか。出来れば彼女の遺志を尊重したいところだけど……キュゥべぇは知ってるかい?」

QB「……いや、残念だがマミからそういった話は聞いてないね。最後を看取ってくれとは言われたけど」

ステイル「そうか……じゃあ君に預かっていてもらおうかな。彼女が今際の際に残した言葉は、君の名前だったしね」

QB「本当かい?」

ステイル「ああ。通信用の霊装が声を拾ってね。それでどうする?」

QB「……そうだね、じゃあ受け取っておこうかな」
306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/31(日) 01:48:59.16 ID:ADDk8zfIo

――イギリス 聖ジョージ大聖堂

ローラ「そう……巴マミが、逝きたりたか」

ステイル『はい……彼女の亡骸は、僕が処理しておきました。一応、捜索願いは明日にでも提出するつもりです』

ローラ「……ごめんなさい」

ステイル『――!』

ステイル『……今回の件は僕に非があります。あなたの人員配置は適当です、気にする必要はありません』

ローラ「それでも、ごめんなさい」

ステイル『……いまさらあなたに謝られても、困るんだ。では、通信を切ります』

ローラ「……」

 それきり、カードから声が聞こえてくることはなかった。
 ため息をつき、それから彼女にしては珍しくがっくりと項垂れた。
 重力に従い垂れ下がる金髪の隙間から、テーブルの上に寝転がって尻尾をふりふりさせるキュゥべぇをちらりと覗き見る。

ローラ「巴マミが、魔女に殺害されたりたそうね」

QB「魔女に殺害されたという表現は正しくないね。正確には、君の言う『魔上』へと到達した後、ステイル=マグヌスの手で――」

ローラ「言わずてよし。私は計算が狂うてしまいたりたことを嘆きているのだから」

QB「――分かったよ。それで、今日もするのかい? 商談」



 キュゥべぇの言葉に、ローラは満面の笑みで応える。


.
307 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/31(日) 01:49:35.12 ID:ADDk8zfIo

ローラ「こちらが欲したるは“穢れ”と“ソウルジェム”の関連性につき」

QB「ふむ、相変わらず君は目の付け所が違うね。穢れというのは、そうだね、いわばソウルジェムの疲労だよ」

QB「魔法を使えば穢れは生まれる。それはソウルジェムが疲労し、無自覚の内に“絶望”を抱いてしまっているからなんだ」

ローラ「ふむふむ、つまり物理疲労ということになりけるわね。それじゃもう一つのパターンはいかようにして?」

QB「ソウルジェムが穢れるもう一つのパターン、つまり直接的に“絶望”を抱く場合だね。
   魔法の使用による穢れを物理的疲労とするなら、こちらは精神的疲労さ。相応の希望を持てば止まるけど、
   もちろん回復はグリーフシードに頼らざるをえない。物理的疲労に比べればまだ対策しやすい、はずなんだけど……」

ローラ「……絶望は、歯止めが利かない。一度抱けば、止まらない。その速度は尋常じゃなき、というわけね」

QB「そういうことだね。魔法少女が『魔上』に到達するパターンで一番多いのがこれなんだ。巴マミもそうだよ」

ローラ「仮に、絶望を上回る希望を、“外科的手法”で注がれし場合はどうなりて?」

QB「分からない。僕達も感情エネルギーのコントロールには四苦八苦しているからね。
   でもそれが希望であるなら質は関係ないと思うよ。もっとも、君達にそれが可能かどうかはともかくね」

ローラ「ふーむ、今日は不作なりけるわね。さぁ、そちらの要求は?」

QB「“魔導書”について」

ローラ「魔導書は小型の意思を持つ魔法陣生成器、以上」

QB「それはちょっと不公平なんじゃないかな」
308 :キュゥべぇの言葉に、ローラは満面の笑みで応え“た”。 で。 [saga]:2011/07/31(日) 01:50:50.92 ID:ADDk8zfIo

ローラ「えー、だってあれの話おもしろくないんだもーん。資料は寄越したるから勝手に読んどきたりてー」

QB「……わざわざ紙媒体にして、400枚超の資料を用意されてもね。嬉しいけど、これじゃあやっぱり不公平じゃないか」

ローラ「超過分の恩はこれから返してもらいけるから安心しなさい」

QB「というと、まだなにか欲しい情報があるのかい?」

ローラ「巴マミの死。なにか思うことはなきに?」

QB「ないよ」

 即答だった。
 ローラの顔が苦虫を潰したようなそれに変わる。

QB「強いて言えば、彼女のおかげで大量のグリーフシードを集めることが出来たからその点については感謝しているよ
   確かに僕達は魔法少女が“魔上”の域に達する際に生じる“副産物”を目的として動いているけど、
   穢れを含んだグリーフシードも立派なエネルギーだからね。それに彼女自身からも十分な量のエネルギーは回収出来た」

ローラ「それ、だけ?」

QB「そうだね、それが“僕達”の総意だよ」

ローラ「……インキュベーター。その個体数は数えるのが億劫になりけるほどにして、かつ思考と記憶は共有せし存在」

QB「そうだよ。いわば僕らは壮大なネットワークで繋がっているに等しい。思考と記憶が共有出来るから、個性は要らない
   こうしている今も僕は魔法少女と共にいるし、魔法少女を探してもいる。魔法少女が“魔上”に達する様子を見届けても居るんだよ」

ローラ「ふむぅ」
309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/31(日) 01:52:16.96 ID:ADDk8zfIo

QB「やっと母星の衛星に手が届いた程度の文明の持ち主でしかない君達には、ちょっと理解しがたいかもしれないね」

ローラ「そういう人間はさほど珍しくなきよ? この前公園で太極拳やってたし。
..    私も真似してたら子供もおじいちゃんもおばあちゃんも集まりて、ちょっとした太極拳大会になりたりたわね
..    恐るべしは科学の力、望まれずして生まれながら、生きることを望まれた異例の一万近い蛭子なり!」

QB「……はぁ、やれやれ。君はさらっととんでもない嘘をつくから怖いね」

ローラ(事実なんだけど……まぁいい、思考と記憶の共有程度はさして問題じゃなし。問題があるとすれば……)

QB「そういえば、巴マミと行動を共にしていた個体が妙なことを言っていたね」

ローラ「! 妙なこと?」

QB「うん。理由は分からないけど、落ち着かないとかね。まぁこういった異常は、
   それこそ数百年に一度のペースで発見されてはいたけど、一体何が理由なのかな
   やっぱり2週間前に新たに確認された微かな揺らぎが原因なのかもしれないね」

ローラ「存在の揺らぎ? 何か起きたりたの?」

QB「“世界が交わった”、と仮定しているあの時間にね。これまで確認されなかった情報が見つかったんだよ
   因果改変とでも言うべきかな? 過去が改竄されたみたいだ。微かな揺らぎでしかないから気には留めてないけどね」



ローラ(……ふっ)

 表情を崩さぬまま、しかし内心でローラはほくそ笑む。

ローラ(ふふっ! とうとう見つけたりた。揺らぎという名の歪み)

ローラ(そしてステイルが接触したりける個体の異常も、やはりあの“仮説”を実証したるに等しい)

ローラ(となれば……イギリス清教が利益を全て掠め取りたることも可能なりける!)
310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/31(日) 01:53:18.08 ID:ADDk8zfIo

 その夜。
 ローラはイギリス市街を探索すると言って出かけたQBを見送った後、こっそりと簡易結界を聖堂内に張った。
 ただでさえ警備が厳重な聖堂が、最大主教直々の結界と合わさって鉄壁に等しいほどの守りを構築する。

 そしてわざわざ結界を張ったローラはというと――

ローラ「陣容としてはまずまずな面構えなれど、さて運びはどうしてくれようか……」

 小さな子供くらいは覆い隠せるんじゃないかというほど膨大な書類の前で、一人首をひねっていた。
 鉄壁に等しい守りを、しかし誰にも気付かれることなくすり抜けた『英国女王エリザード』は、とろんとした目でローラを見る。

エリザード「なにブツブツ独り言言ってんだい、退任間近の最大主教」

ローラ「ヒイイィッ!? おばっ、おば、ババァのお化けが出たりけるぅううう!?」

エリザード「ちょっとカーテナ=セカンド(次元を切断できる程度の剣)を全力で振りたくなってきたな」

ローラ「じょ、冗談よ冗談! して、かような趣でこちらに来たりたの? というかお婿さんの身体の具合はいかにして?」

エリザード「ウィリアムならもう傷も癒えてヴィリアンとよろしくやってるよ。で、最初の質問だが……」

エリザード「今度はなにを犠牲にして、どんな悪巧みをしようってんだい?」

ローラ「悪巧みだなんて人聞きの悪い、私は常に善き事と思いて行動に移してきたるのよ?」

エリザード「その善き事ってのは相も変わらず≪イギリス清教の利益≫に繋がるものなんだろう?」

ローラ「ふふ、もちろん」

エリザード「……かつて抱いていた幻想を跡形もなく壊されたってのに。お前は変わらないんだね」
311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/31(日) 01:55:22.24 ID:ADDk8zfIo

ローラ「ええ。必要とあらば泥だって被る。敵意だって甘んじて受ける。それがイギリス清教のためなりけるのならば、ね」

エリザード「……ったく。んで、この膨大な紙は一体なんだってんだい? どれどれ――」

 エリザードは膨大な書類の中から一枚手に取り、何気ない仕草で目を通した。
 そして絶句した。

エリザード「お……お前は正気か!?」

ローラ「ええ、もちろん」

 ほんの少しも躊躇わずにローラは言った。

エリザード「お前はこんなことが本気で出来ると思っているのか!?」

ローラ「思わねば、わざわざ膳立てはするまじよ。私は正気だし、本気でこれらを実行に移したる気でいるわ」

エリザード「馬鹿げている! そうまでして利益が欲しいのか!?」

 世界でも十指に入る魔術師を兼ねた英国女王エリザードが間近で声を荒げても、
 イギリス清教トップ、最大主教たるローラ=スチュアートは顔色一つ変えなかった。

ローラ「ええ。利益のためなら、何でもしたりけるわ」

エリザード「日本と共同体にある学園都市とイギリスで、第四次世界大戦が起こるぞ……!?」

ローラ「起こらなきよ。その前に収拾がつきたりけるわ」

エリザード「イギリス清教の皆が黙っていると思うのか!?」

ローラ「駒にそこまで考えたる脳はなし。所詮、駒は駒ざりしというもの。我が手元を巣立つことが出来なし雛たる駒は哀れよね?」

エリザード「ッ――だが、これはいくらなんでも……!」

 紙を握るエリザードの手が、わなわなと震える。その紙にはローラの直筆で、こう書かれてあった。
312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/31(日) 01:57:18.73 ID:ADDk8zfIo

『.    日本国関東北西部に位置する群馬県

     特に見滝原市の“殲滅”に必要な

     イギリス清教の3分の1に戦力、およびそれに伴う費用の捻出に関する

     関係各位への

     ほ・う・こ・く・しょ☆                                        』
313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県) [sage]:2011/07/31(日) 01:59:34.96 ID:7CYJZDIdo
支援
314 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/07/31(日) 02:01:06.27 ID:0SwCEc+70
それでも上条さんなら・・・
上条さんなら全部持っていってくれるっ!!





ああでもそうなるとステイルSSじゃなくなってしまう・・・どうしよう
315 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/31(日) 02:02:30.52 ID:ADDk8zfIo
以上。ここまで

うーん、臭い
やはりまともな文章すら作れない奴がグロだのなんだのを書くこと自体が……いや気にせず書くけどね

勘違いしてしまう方がいないように解説しておきますが、ステイル君は泣いてません。
“あの子”が色々あった際に味わったあれそれに比べたら、惜しい友人を亡くした程度です。多分。

それから、ステイル君やまどか達は真相に気付いていません。運悪く魔女に襲われた、程度の認識です。
マミさんになにがあったかは……わざわざ解説しなくていいよな?

次の投下は未定です。近い内(明日とか明後日とか)に投下できればと思ってはいます
316 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県) [sage]:2011/07/31(日) 02:04:37.32 ID:7CYJZDIdo

ほむらはマミが魔女化したことに気づいてるんだよな?
317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鳥取県) [sage]:2011/07/31(日) 02:04:41.67 ID:qDkqr9TJo


ミサカネットワークならぬQBネットワーク、QBNWか

あと
>>312
>     ほ・う・こ・く・しょ☆
ばばあ無理すんな
318 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/07/31(日) 02:07:36.95 ID:ADDk8zfIo
>>317

>ステイル「話が進まないな。じゃあそこで体育座りでもしていると良い。魔女は僕が殺しておくよ」
>ほむら「駄目……でも……うううぅ……」

というわけです。

ちなみにこれはクソどうでもいい独り言ですが
ステイルさんの大活躍なシーンは赤繋がりでフィアンマさんを意識しました。パクりました。以上
319 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [sage]:2011/07/31(日) 02:08:17.60 ID:cB8HtaMAO
リボンって
紫 ほむほむ
青 さやか
ピンク まどか
赤 ステイル
白 QB
だよな……

320 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/07/31(日) 02:20:38.28 ID:IvB6WRQAO
奇跡も魔法もあるんだよって、あんた言ってたじゃないですかー!
これステイルが真実知ったら発狂しそうだな・・・

しかしババァの目的がわかんねー。やっぱ良い奴なの?それともゲスなの?
321 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/07/31(日) 03:20:45.36 ID:N/fNEoJG0
>>320
ステイルと神崎を騙して禁書目録の記憶消去をさせた程度のゲス
322 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/07/31(日) 09:08:29.32 ID:t31Y1NDpo
この殲滅の時期がワルプルギス襲来と被ったらどうすんだよ
323 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/07/31(日) 09:56:01.10 ID:yX4kNLrAO
希望があるとしたら上条さん介入しか無いじゃないか……
324 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/31(日) 11:03:59.38 ID:LHAiJziSO
登場すらしていない上条に希望を寄せる人はたくさんいるのに
そこそこ活躍しているステイルに希望を寄せる人がいない件について
325 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/31(日) 11:05:48.06 ID:9bO5TMHSO
なんでもかんでも上条さん頼りだと萎えるんだが
326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/31(日) 12:27:19.95 ID:KlHY3jS/0
最強の魔女であるクリームヒルトの発生を前倒しにする程度の作戦か…
QBを出し抜けるかもと思っているのは若作り婆ちゃんだけで、実際は菩薩(QB)の掌の中で飛び回る孫悟空に過ぎない。上条さんが盤をひっくり返さない限り、QBの一人将棋、囲碁の状況は打倒出来そうにないな。
327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/07/31(日) 13:09:56.50 ID:IvB6WRQAO
>>321
やっぱゲスかwwwwローマ教皇の台詞だけなら良いやつっぽいのにwwww
328 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/07/31(日) 13:35:14.92 ID:yX4kNLrAO
>>327
ゲスかつ良い人そしてロリババアという最強の萌えキャラ。
329 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/31(日) 14:34:38.06 ID:KlHY3jS/0
ステイルはググれば分かる程度の嘘に引っ掛かる純真君だし、この場を返せるとしたらそげぶさんを除けば百合子、根性、木原、妹達とか科学側の人間になりそう。
330 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/07/31(日) 19:57:20.55 ID:aEpXplBwP
学園都市の前にGUNMAと戦争が起こるだろ
331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/07/31(日) 21:00:05.13 ID:IFNubJRY0
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ
マミさんがマミった…嘘だ
か、上条さーんっ!早く来てくれーっ!

あとステイルに期待を寄せる人はいないとはいうが、
ステイルはほらあれだよ、現状を悪化させないようには出来るだろうけど、
劇的に状況を変化させられそうにはないじゃないか
やっぱり状況を将棋盤の如くひっくり返すのは上条さんとか一方さんじゃん
332 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/07/31(日) 22:00:09.16 ID:HcAOVvk60
群馬全域にルーンを貼れば、あるいは
333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2011/07/31(日) 22:01:24.48 ID:7f0d6MRy0
発送の転換

見滝原市をイギリス清教が攻撃し、見滝原が崩壊する直前にワルプルさんがやってくる



つまり、ロリクソBBAの思惑をぶち壊すのはワルプルさん?
334 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/07/31(日) 22:06:12.00 ID:0SwCEc+70
ageんな道民
335 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県) [sage]:2011/07/31(日) 22:06:52.61 ID:7CYJZDIdo
群馬と聞いて来ますた
ワルプルとイギリス清教ってどっちか強いんだろう?
336 :道民 :2011/07/31(日) 22:12:52.54 ID:7f0d6MRy0
>>334
ゴメン、本当にゴメン
337 :道民 [sage]:2011/07/31(日) 22:16:11.57 ID:7f0d6MRy0
あれ?sageたはずなのに・・・・・・
338 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/07/31(日) 22:32:42.36 ID:KlHY3jS/0
>>335
筆者の設定次第じゃないのか。
某SSだとワルプルはまどか以外の攻撃を完全に無効化できるチートさんだし、他だと結界を持たないだけの強力な普通の魔女に過ぎない設定が多い。
339 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) :2011/08/01(月) 01:38:41.15 ID:xcYpvieg0
皆がもう駄目だって思ったときに全聖人の力でワルプルに向かってぶん投げられた上条さんが
「その幻想をぶち壊す!!」とか言ってワルプル倒すんじゃね
340 :名無しNIPPER [sage]:2011/08/01(月) 03:24:31.57 ID:mIy8o5cAO
ばばあの取引の目的も分からんけどイギリスの戦力使ってまでグンマを襲う理由が分からんー
クリームヒルト倒すため?ってかむしろワルプル倒すため?そしてグンマの原住民はどうなるの?
んで最大の疑問がなぜにシェリーや天草式が出て土御門君が出ないのか。土御門君が出ないのか!
>>1マイナーキャラ好きすぎぜよ・・・
341 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/01(月) 05:28:46.00 ID:k5hLVuFDO
なんか話が壮大になってきたなぁ。
ステイルが渦中の人で輝ける展開とか胸熱
342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/01(月) 09:42:09.77 ID:c7uRY43SO
てかさ予想止めろよ…。当たってたら作者が書きづらくなるだろうが…。
343 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/01(月) 13:47:02.59 ID:LZnhEvI0o
思っていたよりも上条さんと科学側の出番に期待されている方が多くて少しびっくりしています
どこぞの負け犬上等な方や逆さドッキリ人間の出番は考えていますが、科学側の本格参戦はちと難しいかな……
それといくつかレス返を

>>319
それで合っています

>>330
かの地は閉ざされた環境ゆえにそれはもう恐ろしい異界の魔術を行使する輩がいるとか!
しかも所持する武装の大半が学園都市から流出した物らしいとか!



遅くなりましたが、投下します。もう一回投下したら本格的にストックが切れるかな……
344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/01(月) 13:48:11.99 ID:LZnhEvI0o

 遡ること幾日か。
 見滝原市にある巨大な吊橋の、その真下での出来事。

アニェーゼ「ああもう、だからあのフライドチキンは捨てちまってくださいと言ったじゃねえですか!」

杏子「だからあれはまだ食えるって言ってんだろーが! 食い物を粗末にすんな!」

アニェーゼ「そんで腹を壊してたらわけねえでしょーがこのバカ……!」

杏子「アタシはその……本気になれば腹くらい治せるから良いんだよ!」

アニェーゼ「そういうのを屁理屈ってんですよ、ったく」

杏子「うぅ……あ、また腹がぁ……」

アニェーゼ「馬鹿馬鹿しいったらねえですね……」

杏子「うぐぅ〜……さすってくれよぉ……」

アニェーゼ「ああもう、仕方のねえ人ですね……ハァ……」 サスサス

杏子「うぅ〜」

アニェーゼ「……ハァハァ」

杏子「うぅ〜……ん?」

アニェーゼ「ホントどうしようもない……どうしてくれましょうかね……ハァハァ……」

杏子「お、おい? どうかしたか?」

アニェーゼ「ハァハァ……ハァハァ……」
345 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/01(月) 13:48:59.51 ID:LZnhEvI0o

∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽

アニェーゼ『まったく、どうしようもねぇやつですね。食べれそうだったらゴミでも食うんですか? えぇ?』

杏子『べ、別にそんなことは……』 オドオド

アニェーゼ『あぁ? 誰が人間の言葉使って良いなんて言いました? ご褒美、あげませんよ?』

杏子『うっ……わ、わん!』

アニェーゼ『うふふ、ゴミを漁って食いしのぎ、ご主人様に餌をねだって吠えるだなんてホントに犬みたいじゃねえですか』

杏子『わ、わ……うぅ』

アニェーゼ『ほら、私が丹精込めて作ってやったおむすびですよ。食いたいですか?』

杏子『わん!』

アニェーゼ『よーく出来ました、ほら。とっとと食えってんです』 ポイッ

杏子『わん! わん!』 ガツガツ

アニェーゼ『うわぁ……ホントに食ってんですか?
          実はそれ、賞味期限が一週間も前に切れてるおにぎりをぐっちゃぐちゃにして固めたやつなんですけどね』

杏子『なっ! なんてモン食わせ』

アニェーゼ『わん、でしょーが。文句言うならもうあげませんよ?』

杏子『うっ……』

アニェーゼ『食べ物は粗末にしちゃあいけないってのはどこの犬の台詞でしたっけぇ? えぇ?』

杏子『わ……わん……』 ガツガツ

アニェーゼ『うふふ、ふふ、良い子ですね……そーら、撫でてあげますよ。これが良いんでしょう? ええ、どうなんです?』

杏子『くっ……んんっ……』 ビクッ

アニェーゼ『い、意外に可愛い声で鳴くじゃねえですか、ま、まるでレモンちゃんですね!』

杏子『れ、レモンちゃんってなんだよ……あっ……』 ビクッ

アニェーゼ『肌がすべすべで、レ、レモンちゃんですね! ほうら、ここなんかどうしようもないくらい完璧にレモンちゃんですよ!』

杏子『あぁっ……れ、レモンちゃんなのか……アタシ、レモンちゃんなのか?』

アニェーゼ『そそそうですよ、とっと、とりあえずレモンちゃん、恥ずかしいって言ってごらんなさいな』

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346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/01(月) 13:49:51.25 ID:LZnhEvI0o

杏子「おい!」

アニェーゼ「はっ! れ、レモンちゃん!?」

杏子「……はぁ?」

アニェーゼ「……白昼夢(ゆめ)、か……」

杏子「おーい?」

アニェーゼ「いえ、なんでもねえです。どうやら心配かけちまったみたいですね、すいません」

杏子「べ、別に心配してないし。気にする必要なんかないって」

杏子「ただ、ほら……アンタにゃ先輩として、色々教えてもらいたいこともあるからさ。勝手にどうにかなられちまっても困るんだよ」

杏子「そ、それだけだかんな!」

アニェーゼ(あぁ……) ゾクゾク

アニェーゼ(なんて子です……人のポイントをそこまで的確に……!) ゾクゾク

杏子「……ホントに大丈夫か?」

アニェーゼ「ええ、もちろんですよレモンちゃん。それより腹の調子はどうです?」

杏子「だからレモンちゃんってなんだよ……腹はもう治ったさ」

アニェーゼ「それはよかった」

アニェーゼ(いけないいけない……この子はまだ熟れ始めたばかりのつぼみ、まだ採っちゃ駄目です……)

アニェーゼ(ああでも……なんってエイジメたくなる子なんですかね……!!) ゾクゾクッ
347 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/01(月) 13:50:51.92 ID:LZnhEvI0o

――そんな二人の様子を、影から覗いていた二人組の修道女、長身のルチアと小柄なアンジェレネはそろってため息をついた。

アンジェレネ「今トリップしてましたよね。間違いなくトリップしてましたよね!?」

ルチア「……よりにもよってそこですか?」

アンジェレネ「えぇ!? だっだって普通そこでしょう!? 今絶対シスターアニェーゼは頭の中で良からぬ想像してましたよ!」

ルチア「ですから、その前に観察対象と仲良くなってることをおかしいとか思う思考回路はないのですかあなたは……!?」

アンジェレネ「えー、だってその方が対象の警戒も緩んで観察しやすくていいじゃないですかー」

ルチア「同じように隠れている天草式の方々の『おい、どうすんだこれ』『とっとと連れ戻せ』
...    的なオーラと視線があなたには分からないようですねシスターアンジェレネ……!」

アンジェレネ「いやーお腹空いちゃってもう考えるのさえ億劫で仕方がないんですよー」

ルチア「……はぁ」

 ふかーいため息を吐くと、隣でぐぅぐぅぎゅるるぐるるるると腹から異音を発するアンジェレネを無視して杏子たちに視線を移した。

 アニェーゼの気持ちはよく分かるが、仕事は仕事である。
 ゴソゴソと通信用の霊装を取り出すと、アニェーゼの持つそれへと回線を繋げた。

 遊びはもう終わりだ。自分達に任せられた仕事を、しっかりと行わなければ。
348 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県) [sage]:2011/08/01(月) 13:51:49.84 ID:cQWYQHBWo
なんかローラがQBを操ってるように見せかけて実はQBの手のひらで踊ってそうだな
349 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/01(月) 13:52:18.85 ID:LZnhEvI0o

――次の日 見滝原市のとある路地裏
 ビルの間から差し込む夕陽に照らされて、長大な槍を手に持った赤い髪の少女――佐倉杏子が顔を歪めた。

杏子「だぁからさー、困るんだよねぇ。遊び半分で首突っ込まれんの……さっ!」

 少女が軽く槍を振ると、それらは部分部分をばらし、延長し、多節槍となって魔法少女姿のさやかに襲い掛かる。

さやか「くぅーっ!」

 辛うじて初撃を剣で受けきるが、相手の猛攻は終わらない。
 弾き、受け流し、叩き落し、潜り込む。
 そうしてさやかに生まれた僅かな隙を突いて、槍がさやかの身体に絡まった。
 杏子は力任せに振りかぶり、さやかを壁に叩きつける。

さやか「あぁっ……!」

杏子「ったく、マミのどあほーがくたばったって聞いたからやって来てみりゃ、なにこれ。ちょーうぜぇ」

杏子「いちいち使い魔に手を出す偽善者とかちょーだりぃ。ウザい奴にはウザい弟子がつくってかぁ?」

さやか「っ! マミさんをばかにするなぁぁ!」

 そんな2人のやり取りを、張り巡らされた赤い鎖によって近づくことが出来ないまどかが震える声で呟いた。

まどか「どうして……? さやかちゃんはただ、マミさんの代わりに頑張ってただけだったのに……どうして?」

QB「どうしようもないよ。お互いに譲れない思いがあるんだからね」

QB「使い魔が魔女になり、グリーフシードを孕むまで泳がした方が効率は良い。
   むしろマミのように使い魔も倒すのはむしろ珍しいんだ。誰もがマミのように優しくはないからね。
   ベテランの魔法少女である杏子が、まだ新人のさやかのことを気に食わないと思うのも仕方がないよ」

まどか「でも……こんなのって……」

 俯くまどかの肩に手が置かれる。
 驚いて後ろを振り返ると、汗を流したステイルの姿がそこにあった。
350 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/01(月) 13:53:18.55 ID:LZnhEvI0o

ステイル「はぁ……はぁ……君達は、僕を……過労死させるつもりか……!?」

まどか「す、ステイル君!?」

 まどかがびくりとのけぞり、ステイルから反射的に身を離した。
 無理もない、とは思う。彼女にしてみれば、彼は異常者同然なのだから。
 若干寂しそうな面持ちで見やり、それからかぶりを振ってさやか達を見つめ直す。

ステイル「人が“散歩”してる時に魔法少女同士の争いか……ちっ、厄介なことをしてくれたものだね」

ステイル(おそらくあれは神裂が監視し、アニェーゼが独断で接触した佐倉杏子か。なんて力だ……)

まどか「ステイル君、2人のこと止めてあげて!」

ステイル「厳しい。せめてもう少し頭を冷やしてくれないと僕の方が返り討ちに遭う。参ったな……」

まどか「そんな……!」

 その時、2人の戦いに動きが見られた。
 杏子が長い槍を構え、矛先に魔力を込める。それを見たさやかも剣の切っ先に魔力を込める。
 おそらくは次で決まる。ステイルは険しい表情を浮かべて、懐からルーンのカードを取り出した。

ステイル「相手を傷つけずに勝つのは難しい。僕が死なない可能性も。だがやるしかないか」

 そう言ってカードに魔力を込め――

「その必要はありません」

――ステイルの真横を、“何か”が通り過ぎた。
351 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/01(月) 13:53:54.04 ID:LZnhEvI0o

さやか「なっ……なによこれ!?」

 吹きぬける突風に当てられてしばらく呆然としていたステイルたちは、さやかの声を聞いて我に返った。
 そして彼女達に目線を移し――まどかは困惑し、ステイルは納得する。

まどか「え、あっ、あの……だれ?」

さやか「あ……あんた、何者よ!?」

杏子「気にいらねぇな……そーいうの!」

 さやかと杏子の得物の間に、一人の女性が割り込んでいた。
 腰まで届く黒い髪を束ね、白のTシャツとジャケットを着こなし、左足側だけが根元の辺りから切断されたジーンズを履いている。
 その女性は2mはあろう刀の鞘だけでさやかの剣を受け止め、空いた左手で杏子の矛先を掴んでいた。

さやか(あたしの剣を片手で、それもただの鞘で受け止めてる!?)

杏子(ちっ……空いた手で掴まれてるだけだってのに、槍がびくともしないだって?)

 本来ならばコンクリートで出来た地面に小さなクレーターを作りかねないほどの力を一身に受けながら、
 しかしその女性――世界に20人といない聖人である神裂火織は、涼しい表情を浮かべている。

神裂「私はあなた方と争うつもりはありません。ひとまず武器を収めてください」

さやか「ちょっ、あんたねぇ! いきなり出てきておいて!」

杏子「つーかさ、そういうことはまずアタシの武器を放してから言えよ。これじゃあ収める矛も収められないってもんじゃん?」

 杏子の言葉に同調した神裂が、あっさりと槍を手放す。
 その直後。神裂とさやかが立っていた空間を、容赦なく杏子の槍が切り裂いた。
352 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/01(月) 13:54:35.45 ID:LZnhEvI0o

杏子「なっ!?」

 さやかを脇に抱えた神裂が杏子から5mきっかり離れた位置に立って、やれやれといった様子で肩をすくめた。
 その仕草が気に障ったのか、杏子は魔力を解放して槍を構え、跳躍するために前屈みになり。

神裂「『七閃』」

 まったく予期せぬ方角から放たれた、目に見えぬ斬撃を受けて杏子の槍が宙を舞った。

さやか「いつの間に……!? ってか離しなさいよ!」

杏子「なんだよ今の……斬撃ってレベルじゃねぇ……ワイヤーか!? 空いた手でんなことも出来んのかよ!」

 杏子の指摘通り、それは刀――七天七刀と呼ばれる――による斬撃ではなかった。
 神裂火織が、空いた左手でワイヤーを複雑に操作したのだ。
 その気になればコンクリートすら両断するほどの攻撃である。
 あっさりと手の内を見透かされた神裂が、苦悶の表情を浮かべた。

神裂(まさか初太刀で見破られるとは……! 子供ながら、恐ろしい資質の持ち主ですね
.     それに先程見た身のこなし……私があの域に達することが出来たのは16歳頃のはずですが)

杏子「チッ! んにゃろうがぁぁぁ!」

 落ちてきた槍を片手で拾い上げ、さやかを脇に抱えた神裂に襲い掛かる。
 神裂は暴れるさやかを無視して左手に七天七刀を握り、鞘を付けたままその攻撃をいなす。
 だが杏子は諦めない。縦に、横に、斜めに、時には捻じ曲げて切りかかり、後ろに回りこんでは突き、
 蹴りを交え肘鉄を繰り出し、蹴りを叩き込み、槍を地面に叩きつけて石礫まで用いる。

 しかし神裂の表情は変わらない。斬撃には鞘とワイヤーを、肘鉄には足を、蹴りには膝を、
 そして石礫の全てを見切り、紙一重で回避する。これが聖人、神裂火織の本気である。
 複雑な回避機動のせいでさやかが目を回していることに気付かないのはご愛嬌、と言ったところか。

まどか「さやかちゃん! ねぇステイル君、どうにかできないの!?」

ステイル「僕じゃ佐倉杏子、あの魔法少女に勝てるかどうかすら危ういんだよ?
       まして神裂……あの露出狂は桁外れの化物、戦略兵器に等しいんだ。今近づけばどうなることか」

まどか「でも、このままじゃ! このままじゃさやかちゃん死んじゃうよ!」

QB「……神裂火織は確かに強大だ。だけどまどか、君が魔法少女になれば、この争いを止めることだって出来る」
353 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/01(月) 13:55:20.91 ID:LZnhEvI0o

まどか「っ……」

 声を詰まらせるまどか。目に涙を溜め、肩をぶるぶると震わせている。
 おそらくはマミの姿を思い出しているのだろう。現実と割り切ることで冷徹になりきれるステイルと違って、彼女はまだ幼い。
 しかし。鹿目まどかは目を見開いて、決断した。慌ててステイルがルーンのカードを構えるが、もう遅い。

まどか「私、魔法少女に」

――それには及ばないわ

 ステイルの耳にほむらの声が届いた。
 次の瞬間、目の前で信じがたい事が起こった。

さやか「うえっ……あれ?」

杏子「……あん?」

神裂「おや?」

 さやかを脇に抱えたはずの神裂が地に這い蹲り、抱えられていたはずのさやかがまどか達のそばに倒れ、
 槍を振るっていたはずの杏子が2人から離れた場所で呆然と立ち尽くしているのだ。
 その三人の、ちょうど中心の辺りに――魔法少女、暁美ほむらの姿があった

杏子「へぇ……あんたがキュゥべぇの言ってたイレギュラーって奴か。みょーな技を使いやがる……」

さやか「うぅっ……ま、待ちなさいよこのあかぐぇっ――」

 ふっと。突然さやかの背後に現れたほむらが、左手の盾でさやかの首筋を叩いた。
 糸の切れた操り人形のようにさやかが倒れる。

まどか「さやかちゃん!」
354 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/08/01(月) 13:55:33.87 ID:wYTWLnZw0
あんこちゃん逃げてぇぇぇぇぇぇ
相手は時速150kmを出す超人だよーーーーー
355 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/01(月) 13:56:17.93 ID:LZnhEvI0o

神裂「ご安心を。私の耳が正しければ、呼吸に若干の乱れはありますが生きています。見事な当身です
.     しかし素早いですね。だが移動した痕跡が見当たらない。それだけの速度で移動すれば場が乱れるはずですが」

ほむら「……」

神裂「瞬間移動の類ではありませんね。あなたの行っていることはもっと力技に近い……」

神裂(……まさか時間の操作? そんなことは“神上”ですら不可能です……しかし……)

杏子「なんなんだよアンタ。一体誰の味方だ?」

ほむら「私は冷静な人の味方で、無駄な争いをするバカの敵。あなたはどっ」

神裂「それじゃあ私の味方ですね!」 エッヘン

ほむら「ち……え?」

神裂「はい?」

 先程までの激戦ムードが打って変わって冷ややかな物に変わった。

杏子「……あー、なんだ、まぁ今日のとこはカンベンしてやらぁ。んじゃな!」

ほむら「あっちょ、待っ……」

 気まずくなった杏子が跳躍していくのを、手を伸ばしで引き止めようとするほむら。
 しかし彼女の願いは叶わず、杏子の姿は黄昏時の空に消えていった。

神裂「面白い子達ですね。特に佐倉杏子、彼女の戦闘センスは素晴らしい。あと数年もすれば私も危ういですね」

ステイル「……勝手に雰囲気ぶち壊しにして、勝手に満足しないでくれるかな」
356 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/01(月) 13:57:53.83 ID:LZnhEvI0o

ほむら「……で、この方は誰なの? 以前あなたが言っていた、組織の上の上?」

神裂「何の話です?」

ステイル「いや、僕を上の下とするなら彼女は上の中だよ。せいぜい音と同じくらいの速さで移動できる程度だしね」

神裂「あの」

ほむら「音……? え?」

ステイル「ん?」

ほむら「……まぁいいわ、それより鹿目まどか。あなたはどこまで愚かなの?」

まどか「えっ、あ……」

神裂「あの……」

ほむら「あなたは関わるべきじゃない。日向側の存在が、日陰側の世界に立ち入ってはならないのよ」

ステイル「それは君も、あの佐倉杏子も同じことじゃないのかい? その若さで……」

神裂「年齢的な意味ではあなたも」

ステイル「黙っていろ露出狂」

ほむら「……ともかく、あなたがそういうつもりなら、私も愚か者には手段を選ばないわ」

 それだけ言うと、ほむらは路地の奥へと消えていった。
 気絶したさやかと、地面にのの字を書いている神裂、落ち込んだまどかと走り損のステイル、黙ったままのQBが残った。
357 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/01(月) 13:59:15.52 ID:LZnhEvI0o

――例によって、ボロアパート。

ステイル「それで、観察に徹していた君がどうして介入したんだ? 確かに助かりはしたが、あれは不味いだろう」

ステイル「そもそもだ。最初から君が本気を出していれば、二人ともすぐに気絶させるくらい簡単だったと思うんだけどね」

 タバコを咥えたまま、ステイルが投げやりに言った。
 そんなステイルを横目で見て、呆れたように神裂がため息を吐く。
 他人に不味いと言える立場か、と怒鳴りたい気持ちを抑えて、神裂は努めて冷静に切り返した。

神裂「巴マミが亡くなって以降、ろくに集中も出来ないあなたに非難される云われはありません」

 ステイルの口元から、タバコが零れ落ちる。
 たったそれだけで、神裂は部屋の温度が2,3度は下がったような錯覚すら覚えた。
 だが神裂は追い討ちをかけるように、さらに続ける。

神裂「まさか自覚していなかったのですか? 呆れて物も言えませんね」

ステイル「……喧嘩を売っているのかい?」

神裂「心配しているのです。同僚として、今の状態のあなたが戦いに参加して倒れるのを見過ごすことなど出来ません」

ステイル「バカを、言うな」

 ステイルの声に怒気が篭ったのを彼女は敏感に嗅ぎ取った。
 しかし彼が暴れたところで、神裂に傷一つ負わせることは出来ないだろう。
 仮にこの部屋に仕掛けられた膨大なルーンのカードを用いたとしても――せいぜい髪の毛の一部が焦げる程度だろう。
358 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/01(月) 14:00:34.13 ID:LZnhEvI0o

神裂「あなたは魔女と魔法少女を過小評価しています」

神裂「先程、使い魔を追撃した対馬が負傷したと連絡がありました」

ステイル「それは本隊と別行動を取っていたからだろう」

神裂「確かに対馬一人では騎士に対抗するのも難しいかもしれません・それでも彼女は覚悟を持った戦士です」

ステイル「それがなんだい? 僕はこれまでに魔術結社をいくつも塵埃に帰してきた魔術師なんだけどね」

神裂「平常時ならばともかく、今の“ひ弱”で“体力の無い”“腑抜けた”あなたでは死ぬでしょうね。断言出来ます」

ステイル「体力は“仕方がない”だろうが」

 あからさまに顔を顰めてステイルが言った。しかし神裂はそれを無視して話を続ける。

神裂「イギリス清教は既に魔女を警戒対象に指定し、単独での戦闘は控えるようにとの通達まで出ています
.     “清教派”と“騎士派”と“王室派”の三つが共に全力を挙げて対処するほどの事態にまで発展しているのです」

神裂「魔女と戦っているのは、あなただけではないのです」

 神裂の言葉に、嘘偽りなどは一切なかった。
 既にイギリス清教は、英国やその他の地域で何度も魔女と交戦し、結界や魔女の情報を集めている。
 そこから魔女が何であるのかを調べ上げ、魔女に対して有効な戦力になりうる物を導き出そうとしているのだ。
359 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/01(月) 14:02:12.67 ID:LZnhEvI0o

 そう。
 なにも魔女と戦っているのは、ステイルだけではないのだ。



 英国にいる『本物の魔女』ことスマートヴェリー。

                                    ナイトリーダー
 『騎士派』と呼ばれる騎士によって出来た派閥のトップ、騎士団長。


 イギリス清教に吸収される形となった魔術結社予備軍『新たなる光』に所属するレッサー他三名。

                                               ルートディスターブ
 その他にも英国の海域を担当する魔術師や、再びイギリス清教に雇われた『追跡封じ』の異名で知られる色欲まみれの魔術師。
360 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/01(月) 14:03:11.02 ID:LZnhEvI0o

 ざっと挙げるだけで100名を超す魔術師や騎士達が、魔女と戦っている。
 無論、その途中で魔法少女と接触することだってある。

神裂「あなただけが、護れなかったわけではないのです」

 怪我をした魔法少女だっている。
 帰らぬ者となった魔法少女だっている。

 神裂の言うとおり、ステイルだけが護れなかったわけではないのだ。

ステイル「……」

 だからと言って、ステイルの気が晴れるわけでもないだろうが。
 ステイルの心中を察して、神裂は静かに心を痛めた。

神裂「……巴マミを護れなかったのは、私の責任でも有ります。あなたに掛かる負担を鑑みれば、もっとフォローを」

ステイル「いいや、この配置はベストだよ。僕らの任務を考えれば……何も不自然な点はない。僕が、油断しすぎたんだ」

神裂「ですが!」

ステイル「もう終わったことだ」
361 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/01(月) 14:04:02.64 ID:LZnhEvI0o

 ステイルは煙を吐き出して、当たり前のことのように言った。

 そんな彼の言葉を、彼女は過去に耳にしたことがある。

 何もかも諦めた目を、過去に目の当たりにしたことがある。

 もう何年前になるだろう。

 “あの子”の記憶を消した後、黙って立ち尽くすステイルに声をかけた時だ。

 あの時も、何もかも諦めた目をしながら、彼は当たり前のことのように言ったのだ。

『もう終わったことだ』

 と。
362 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/01(月) 14:05:21.66 ID:LZnhEvI0o

ステイル「それより……今の話をしよう。さやかと佐倉杏子についてだ」

 それ以上何も言えず、神裂は黙って頷いた。

神裂「……」

ステイル「彼女たちの対立は、浅いようで深いよ」

ステイル「自身が勝ち残るために他者の生き血を啜り、地べたを這いずり回るのと

ステイル「誰かを助けるために自身が傷つくことを恐れず、自分の正義を貫くこと」

ステイル「どちらが正しくて、どちらが誤っているかなんて僕には判断のしようがない。
       どうやら魔法少女としては後者のパターンは珍しいらしいが……さて、どうしたものかな」

神裂「あなたの場合は、その中間でしたね……私としては彼女達に争って欲しくないのですが」

ステイル「どちらも主張は曲げない、だから厄介なんだ……
       そもそも魔女とはなんだ? そこが分からないから話が先に進まないんだが」

神裂「その辺りはイギリス清教が総出で調べていますが……未だ手掛かりすらつかめません。
.     シェリーとオルソラの二人も既に合流して、これまでに集めた情報を整理しているようですが。
.     魔女の結界内に現れる文字の解読と、遺跡から見つかった文字とを照らし合わせ、過去の魔法少女の――」
363 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県) [sage]:2011/08/01(月) 14:05:31.05 ID:cQWYQHBWo
インさん…
切ないな…
364 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/01(月) 14:06:19.48 ID:LZnhEvI0o

ステイル「つまりは調査中、だろう?」

 ステイルににべもなく切り捨てられて、神裂はムッとした表情を浮かべる。
 腰のベルトの隙間に突っ込んであった四枚のレポート用紙を抜き取ると、ステイルに無造作に突きつけた。

神裂「アニェーゼが帰還しました。佐倉杏子の言動と経歴を照合して作った資料があります。読みますか?」

 神裂から差し出された4枚のレポートを手に取り、ステイルはタバコを咥え直しながら目を通していく。
 室内がだんだんと煙たくなってきたのでわざとらしく咳払いするが、彼は当然の事のように無視。

ステイル「……ん?」

 ムッを超えてムスッのレベルまで表情を変化させていると、ステイルは資料から目を離さずに眉をひそめた。
 彼が呼んでいる項目に心当たりがある神裂は、無理もないと思った。
 佐倉杏子の経歴が、彼には信じられなかったのだろう。

ステイル「これが事実なら、アニェーゼが彼女に惹かれた理由も分かるが……美樹さやかと対立する理由も納得出来てしまうね」

神裂「アニェーゼも、幼い頃に神父である父を亡くし、路上で生活することを余儀なくされていますからね……
.     それにこの事件が本当なら……佐倉杏子の美樹さやかに対する行動は、アドバイスに似ているのかもしれません」

ステイル「他人の幸福を願ったものが辿った末路か……ちっ、胸糞悪い」

 ステイルがぺっ、とタバコを吐き捨てた。
 タバコの火がじりじりと部屋の床に跡を残していく。
 誰がこの部屋を提供してやったと思っているんだこのクソガキは。
 こめかみをひくつかせながら、神裂は黙ってタバコを手に取り――ほんの数秒逡巡してから、台所へと放り投げた。
365 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/01(月) 14:07:55.90 ID:LZnhEvI0o



神裂(……禁煙のつもりなのか)


神裂(最近はポッキーやら野菜スティック、ガムを咥えていたと記憶していましたが)


神裂(再び、吸い出したのですね)


神裂(……かける言葉が、見つからない)


.
366 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/01(月) 14:09:10.20 ID:LZnhEvI0o

――とあるマンション。

シェリー「オルソラ、この前の遺跡に関する情報をもう一度確認したいんだが」

オルソラ「はい、このファウストのお話はとても奥が深いのでございますよ」

シェリー「ええそうねうどんね香川ね水不足ね。で、遺跡の情報なんだがこりゃ正しい物か?」

オルソラ「? はい、現地の方がわざわざ運搬用の霊装でお運びになった物ですので、間違いないと思うのでございますが」

シェリー「そうか……だったら魔女文字の解読、出来たぞ。これは暗号でもなければ記号でも、特殊な絵でもないわ」

オルソラ「と、言うと……一体何なのでございましょうか?」

シェリー「これはな、文字通り文字なんだよ」

オルソラ「まぁ、シェリーさんたら。そんな大口で頬張らなくてもサンドウィッチは逃げないのでございますよ」

シェリー「戻って来いバカ。これはアルファベットを主に三つのパターンに歪めた物よ。ルーン文字より解読が楽だったぞ」

シェリー「文字の配列を見極めちまえばな。数字もある。こっちは一通りしか見つかってないけどね」

オルソラ「それでは、昨日ロンドンから送り届けられた結界内の文字の解読もお済みになられたのでございますか?」

シェリー「大体な。送られてきた文章は解読済みだ。解せねぇのは、やたらとファウストの記述があることくらいか
..     それにね、魔女がアルファベットを規則正しく使えるってのも解せないわ。そもそも、魔女には必要ないのにね」

オルソラ「なにゆえでございますか?」

シェリー「こいつらはコミュニケーション取らねぇだろ。だから喋らない。なのになぜか文字だけは扱えるのよ。
..     それも、まるで……人として生きてきたみたいに、きちんとよ。一つ一つにエピソードまでありやがる」
367 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/01(月) 14:10:47.35 ID:LZnhEvI0o

オルソラ「食らってきた方々の記憶などが文字という形になって、結界に影響しているのではないのでございましょうか?」

シェリー「各結界ごとにエピソードはいくらでもあるが、文体や内容は結界毎で違うんだよ
..     それに……いやまてよ? 魔女がなんであるのかはともあれ、その元が……ッ!?」

 雷に打たれたかのようにシェリーが揺れ動いた。
 そして言葉を忘れてしまったかのごとく口をパクパクとさせ、目を揺り動かす。
 そんなシェリーの様子を不審がったオルソラが声をかけようとするが、それよりも早くシェリーが動いた。
 テーブルの上に散らばっているとある遺跡の資料に片っ端から目を通し、次いで魔女文字によって構成された文章と見比べる。

シェリー「これも……これもだ! どいつもこいつも、急速に発達したはずの文明はすぐに衰えて滅んでやがる!
..     共通して出てくるのが不自然な争いや騒乱、暗殺、神隠し……! そして現地に残された魔女文字……!」

オルソラ「魔女と戦い、魔法少女が破れた結果だと仰っていたではございませんか」

シェリー「それもある! あるかもしれないが……それだけじゃないとしたら?」

オルソラ「どういうことでございましょうか?」

シェリー「ジャンヌダルクが魔法少女だったと仮定した場合の情報を引きずりすぎたのよ、私達は!
..     ダルクは背信者として処刑され、灰になって流された。だから魔法少女は死ぬ、その考えが誤りだとしたら?」

オルソラ「ジャンヌダルクが魔法少女であったというのは『特別な声』から推測されたものでございますが……
       仮にそれが誤りであるとしたら、ジャンヌダルクは本当は死んでなどいないということでございましょうか?」

シェリー「逆よ。ダルクは死の間際、神なる者に全てを委ねた。“絶望”しなかった。“希望”を抱いていた。だから“死んだ”」

シェリー「死んでもソウルジェムが“穢れなかった”んだ。それが珍しい事例なのよ。本来なら違う形になるはずだったの」

シェリー「これまでの点と点とを結び合わせてみやがれ。それだけでこのクソッタレた話の全体像がはっきりとしてくるぞ」
368 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/01(月) 14:11:38.74 ID:LZnhEvI0o

 人を疑うということを知らないオルソラは、言われたとおりに今ある情報を点と点で結び合わせてみることにした。

 まず魔女文字。
 これは変則的なアルファベットであり、一つの結界ごとに内容と文体が異なっている。
 本来であれば魔女には必要の無いもので、その扱い方はまるで人として生きてきたかのようなきちんとした物らしい。

 次に古代文明。
 急速な発達と共に訪れる、急速な衰えと滅亡。
 原因は魔女によるものだろう。ただし、魔法少女が魔女に敗れたから、というのはどうやら正しくないようだ。

 そしてジャンヌダルク。
 ジャンヌダルクがあっさりと処刑されて死んだことは、本来ならば有り得ないことらしい。
 神なる者に全てを委ねたがゆえに“絶望しなかった”。“希望”を抱いていた”からこそ、死んだ。
 それはとても珍しい事例らしい。

 最後にソウルジェム。
 これまでの話の内容から察するに、恐らく穢れることでなんらかの事象を引き起こすとされているらしい。
 イギリス清教内部では『願いの持続に魔力を費やしているため、穢れ切れば願いが取り消される』とされているが……
369 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/01(月) 14:13:24.92 ID:LZnhEvI0o

オルソラ「……魔女の結界は、一人の人間の記憶によって構成されているのでございますか?」

シェリー「あとその場所も微妙に関わってるけど、文章の内容は概ねそうね」

オルソラ「……遺跡が滅んだきっかけは、魔女の出現で正しいのでございますよね?」

シェリー「滅んだのが発展を遂げてから三十年内で、さっき挙げた現象があるなら、そうだろうな」

オルソラ「……三十年というのは、魔法少女が……
       ソウルジェムが、何らかの要因で砕けてしまうまでの期間、という意味でございましょうか」

シェリー「そこに着目してんだったら、もう答えは分かっちまってるようなもんだろうが」

オルソラ「にわかには、信じがたいのでございますよ。
       いえ、むしろ私は、信じたくなどないのでございましょうか……こんな……」

 大きすぎる胸の前に手を合わせ、悲痛な面持ちでオルソラは唇を動かした。



オルソラ「                                           」



 消え入るような彼女の声を聞き届けたシェリーは、黙って彼女の頭に手を置いた。
 それから空いた手で携帯電話を取り出すと、イギリスにあるロンドン――聖ジョージ大聖堂に居座る最大主教の部下に繋いだ。

シェリー「シェリー=クロムウェルよ。例の魔女文字から得られた情報を下に、ある推測を組み立てたんだが」

シェリー「……そっちも同じ考えだったのね。そうよ。ええ、仮にもし――――が――になるというのなら、全ての辻褄は合っちまうわけだ」

シェリー「……分かってる、確証が得られるまで内密にしておくさ。だけどな」
370 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/01(月) 14:14:22.35 ID:LZnhEvI0o





シェリー「……一人でも多くの魔法少女が、取り返しのつかないことになる前に。対応してあげてちょうだい」




.
371 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/01(月) 14:18:28.38 ID:LZnhEvI0o
以上、ここまで
シェリーとオルソラの会話はばーっと流し読みで構いません。ノリが伝われば十分なんです

シェリー「魔法少×はいずれ×女になる運命だ!」
オルソラ「ナ、ナンダッテー!」

みたいなノリです
次の投下は夜か……明日の夜かな?
372 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/01(月) 15:50:46.59 ID:7B+yXdCTo
1から読み始めたばかりだけど、面白い。
原作はまどマギ好きなんだが、何故かSSは禁書系の方が遥かに楽しめるんだよなぁ。
373 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/01(月) 19:15:34.80 ID:7B+yXdCTo
>>300
このほむらはフルメタでも見たのかww

神裂の前だと決め台詞も形無しだな
374 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/08/01(月) 20:02:04.88 ID:MRbIRs5ho
禁書はギャグ、シリアスでさらに細かく恋愛、ファンタジーと使い勝手いいキャラ多いからね。
375 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/08/01(月) 20:03:03.79 ID:MRbIRs5ho
禁書はギャグ、シリアスでさらに細かく恋愛、ファンタジーと使い勝手いいキャラ多いからね。
376 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/08/01(月) 20:04:03.29 ID:MRbIRs5ho
禁書はギャグ、シリアスでさらに細かく恋愛、ファンタジーと使い勝手いいキャラ多いからね。
377 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/08/01(月) 21:42:16.15 ID:z9xK3LgE0
>>374-376
もちつけwwwwww
378 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/01(月) 23:29:51.92 ID:EjeY7DJKo
ここ何気に眼鏡っ子時代のテンションに戻ってるんだな。
ほむらちゃんカワイソス
大体、この展開でいくら「ワルプル越せる」って喜んでても、そのワルプルが中ボスでしかなさそうだしなw
379 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/01(月) 23:31:43.18 ID:EjeY7DJKo
アンカー付け忘れた
>>263宛てね
380 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/08/02(火) 05:27:01.91 ID:EiH9G8xAO
>>335ワルプルさんが攻撃特化じゃ無い限り一瞬で文明ひっくり返すのにふさわしい防御力は持ってるんじゃない
381 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/02(火) 06:50:15.56 ID:tbYaUzpAO
上条さんはなにやってんねん!
382 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/02(火) 10:05:21.20 ID:FX5GbUOx0
魔術側でも魔法少女=魔女まで達したか。
問題は魔女になる前に魔法少女を[ピーーー]か、出現する魔女を虱潰しに殺っていく以上の対策が取れそうにないところ。魔法少女の素質がある娘を片っ端から殺していく魔女狩りの再現になるかもしれない。追い詰められ、殺されない事を希望に契約を結ぶ娘が増えるからQBにとっては歓迎できる事態になる。逃げ切れない、居場所が無いと絶望すれば多くが魔女に堕ちる…魔術側だとQBの一人将棋にしかならない。
383 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/02(火) 12:23:24.86 ID:gQUPZu9SO
ローラさんはそこまで馬鹿じゃないだろ
魔術サイド舐めすぎ
384 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/02(火) 12:42:59.82 ID:OPG4PsL4o
学園都市とは戦争出来るけど、QB星人とは戦争出来ないだろう。
する意味も無いし。

手のひらの上から、使えるものを使おうとしてるんだと思われ。
アレとか。

しかし、殲滅って事は、あくまで魔女化を促したいのであって
願い事の利用は考えてないのかな
385 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/03(水) 00:39:30.09 ID:vDl43xXl0
駒が先走る事も十分考えられる。
インデックスの件ですんなり騙されていた事を考えると、駒の質はおのずと計れる。この場合は指示待ち、指示通りに動ける連中を選んで送るだろうけど、滝見沢攻撃に叛旗を翻しそうなステイルや天草とかはどうするのだろう。上条に感化された連中が叛旗を翻す事や一部が暴走する事も計算の内だとしたら、ローラの目的は何処にあるのか。ローラの目的はQBに土産(回収ノルマの達成)を持たせて地球から引払わせようとしているようにしか見えない。
386 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/03(水) 01:28:28.41 ID:XOpILpYxo
なにやら複雑な考察がされてて恐縮ですが、過度の期待はしない方が良ろしいかと
>>1はバカですので

では投下します
387 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/03(水) 01:29:17.16 ID:XOpILpYxo

――日はまた昇り、そして学校に。

さやか「昨日探してた使い魔、もうどっか行っちゃったかな……」

まどか「さやかちゃん……キュゥべぇ、分かる?」

QB「あれから軽く調べたけど、痕跡は既になかったよ。当然と言えば当然かな、既に使い魔は討たれたからね」

さやか「えぇ!? なんで!?」

ステイル「君がまどかに支えられている間に同僚が片付けたんだよ。一名が油断して軽傷を負ったしまったらしいが」

さやか「あっ……ごめん……」

ステイル「謝る必要は無いさ。君らと違って、こっちは魔術を使っても疲れる程度だからね」

さやか「うー、そういう辺りは不公平だー! って、そういえば……あの子にお礼言っとかないとね」

 図体の大きいステイルをドーンと押しのけて、彼女はほむらの席の前まで進み出た。
 いつも通り、やたらクールな雰囲気をかもし出すほむらの前で軽く咳払いすると、

さやか「あー、昨日は助かったよ。あたしちょっと熱くなってた。ありがと」

ほむら「気にする必要はないわ」

さやか「へへっ……あ、そうだ!」

さやか「ねぇ、あたしもまどかみたいにあんたのことほむらって呼んで良い?」

ほむら「……構わないけど」

さやか「へへっ、そんじゃ次からはあたしのこともさやかって呼んでね!」

ほむら「……善処するわ」
388 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/03(水) 01:30:08.33 ID:XOpILpYxo

 そんな二人の様子を眺めていたステイルは、まどかの耳元に顔を寄せてそっと囁くように話しかける。

ステイル「……いやに素直じゃないか、なにかあったのかい?」

まどか「ううん、なにもないよ。ほら、さやかちゃんって根は良い子だからさ」

ステイル「……そうかい」

まどか「……ごめん、それ嘘。多分、さやかちゃん優しいから……マミさんの分までいっぱい頑張ろうとしてるんだよ」

ステイル「……」

中沢「おーいステイル! さっさと着替えに行こー!」

ステイル「ああ、分かった! ……やれやれ、魔術師と中学生、二つの顔を持つのは案外疲れるね」

まどか「はは……」

ステイル(……そのまえに、手を打っておくか)

ステイル『暁美ほむら』

ほむら「え? あっ……」

さやか「ん? どったの?」

ステイル『以前君に渡したカードを使って声を届けている。テレパシーの要領で回線を繋げられるはずだよ』

ほむら『……それで、何の用?』

ステイル『話がある。放課後、あの公園でまた会おう』

ほむら『……分かったわ』

ステイル(……やれやれ)
389 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/03(水) 01:30:36.25 ID:XOpILpYxo

――公園

ほむら「それで、わざわざ呼び出した理由は?」

ステイル「佐倉杏子と接触していた件について伺おうと思ってね」

ほむら「! 見張っていたの?」

ステイル「同僚にね、周囲の景色に溶け込むのが上手な連中が居るんだ。それで気になった点が一つあってね」

ほむら「……なにかしら? 見滝原市を佐倉杏子に任せることは理に適っているはずよ」

ステイル「んー、そこじゃなくてね。彼女がこれまで歩んできた経歴を、君は知っているかい?」

ほむら「答える義務はないわ……と言いたいところだけど、ええ。大まかなことは知っているわ」

ステイル「なるほど。ならそこはいい……本命はワルプルギスの夜とやらについてだ」

 空気が張り詰める。
 ワルプルギスの夜とは、北欧や中欧で行われる魔女の祭りのことである。
 今では数の少なくなった人間の魔女が、その日に集まって大規模な術式を展開させ、地域に応じた魔術を行使する。
 一般にも名前くらいは知られているあまり害の無い魔術的行事なのだが……

 今回は訳が違う。

 ほむらを観察していた天草式の言葉が正しければ、それは強大な化物の方の魔女の到来を意味するようだった。

ほむら「……魔法の世界のお祭りよ。あなたたちには関係ないわ」

ステイル「……君達ですら手こずる、厄介な魔女。だが僕らが協力すれば乗り越えられるんじゃ……ん?」

 黙っていたほむらが突然明後日の方向を向いたのに気付いて、ステイルが眉をひそめる。
 彼女は手元にソウルジェムを出現させると、横目でステイルを見やり、

ほむら「この話は後にしましょう。佐倉杏子が先走って、美樹……さやかと接触したわ」

ステイル「ああもう……どうして誰も彼も勝手に問題事を起こしたがるんだ? まったく……」

 走り出したほむらを目で追いながら、ステイルは神父服をはためかせて懐からタバコを取り出した。
 いつものように咥えると、ライターでせっせか火を点け、彼女に倣って走り出す。
390 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/03(水) 01:31:21.09 ID:XOpILpYxo

――見滝原市を通る、巨大な高速道路。その上方に位置する歩道に杏子とさやかは居た。

杏子「で、見ず知らずのガキ救ってわぁめでたしめでたしってか?」

杏子「くっだらねぇ」

 杏子が吐き捨てるように言った。

杏子「ふざけんじゃねぇよ、いいか? 魔法ってのはな、徹頭徹尾自分のために使うモンなんだよ」

杏子「巴マミはそんなことも……ってまぁ、あいつは他人のために魔法使うような奴か。それをするだけの素質もあったしな」

 さやかの目に、笑いながら何かを懐かしむように目を細める杏子の姿が、少し寂しそうに映って見えた。
 だが杏子はすぐに表情を改め、手に持った槍を構え直して挑発的な笑みを浮かべる。

杏子「でもアンタにはねぇだろ」

杏子「しかも聞くところによると、元はくっだらねぇボウヤの手ぇ直そうとか考えてたらしいじゃん?
.     そーゆーの、鳥肌立ちそうになるからやめてくんない? なんなら両手両足潰してさぁ、あんたの物にしちゃいなよ♪」

さやか「……お前だけは、絶対に許さない!」

 青く輝くソウルジェムを手のひらに乗せて、さやかが魔力を込めようとする。
391 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/03(水) 01:32:10.07 ID:XOpILpYxo

 しかしその行為は、途中で現れたまどかの投げかけた声によって中断された。

まどか「さやかちゃん!」

さやか「まどかっ、あんたなんでこんな……それにほむらに……えーと……」

 気がつけば、杏子の後ろにほむらの姿があった。
 その足元にいる、なんかやたらと上下に、しかも小刻みに震える大きな物体はステイルだろうか。

ほむら「み……さやかには手を出さないでと言ったはずよ」

杏子「あんたのやり方じゃ手ぬるすぎるんだよ! 火と油、いつかはこうなr≪プルルルル――プルルルル――≫……あぁ?」

ほむら「……私じゃないわよ」

ステイル「はぁっ……はぁっ……ぼ、僕だ……ちょっと……ひぃ……電話に……出させてもらうよ……」

杏子「……あー、おっほん! 仕切り直しといこうじゃねぇか!」
392 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/03(水) 01:33:03.50 ID:XOpILpYxo

ステイル「……もしもし」

シェリー『私よ。なんか息遣いが酷いけど、もしかして下の処理でもしてたか?』

ステイル「……いいから、用件を話しておくれ」

シェリー『まだ不確定だから全部は話せないし、これも独断行為なんだがな……近くに魔法少女はいるかしら?』

ステイル「……いるよ」

シェリー『なら忠告しとけ、ソウルジェムは絶対に手放さないでって』

 携帯電話から聞こえる声に耳を傾けながら、横目でなにやら言い争っているまどか達のほうを覗き見た。
 まどかが2人の間に割って入り、さやかのソウルジェムを強奪して握り締めている。

ステイル「……どうしてだい?」

シェリー『これまでに集めた情報が正しけりゃ、ソウルジェムは上手い具合に物質化された、巨大なエネルギー集合体だ』

 まどかが、ソウルジェムを握り締めたまま歩道の端に走り寄っていく。そのすぐ真下は、高速道路だ。

シェリー『もっと正確に言えば、魔法少女の“魂”を、魔法を扱えるように変換・再構築させた物よ』

 歩道の端まで行き着くと、彼女はソウルジェムを握り締めた両手を高く振り上げた。



シェリー『それが壊れりゃ、魔法少女は“死ぬ”』



ステイル「やめっ――」

 携帯を投げ捨て、ステイルはあらんかぎりの力を振り絞って叫ぼうとする。しかし間に合わない。
 ソウルジェムはまどかの手から逃れ、夜の高速道路を走るトラックの荷台に載って乗って走り去っていく。
 そして――さやかの身体が、まどかに被さるようにして倒れた。178
393 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/03(水) 01:34:00.81 ID:XOpILpYxo

ほむら「なんてことを!」

 事の重大さを知ったのか、それとも予期していたことが現実になったのを悔いているのか。
 やけにあっさりと事態を把握したほむらが、魔力を込めて例の“妙な瞬間移動”をしようとして、


ステイル「神裂ィイイイイィィィィィィィッッ!!!」


 下を走る車の走行音が羽音に聞こてしまうほどバカでかい声で叫んだステイルに気を取られ、一瞬躊躇ってしまった。
 そしてその間に、やたらと露出度の高い服装をした女――神裂火織が月夜の空に姿を現し、瞬く間に高速道路へと飛び降りる。

杏子「お、おい!」

 ふわりと、重力やら慣性やらを無視してしているのではないかと勘繰ってしまうほど静かにアスファルトの上に着地する神裂。
 神裂は目の前を走る自動車と自動車の間、ビー玉ほどに小さく、常に左右に揺れ動くほんの僅かな隙間を通して。
 400m先を走るトラック、その荷台に乗ったさやかのソウルジェムを見据えた。
 あまりにも洗練されているせいで優雅にすら見える動きでもって、前かがみになる。跳躍するつもりだ。

ほむら「無理よ、追いつけるはずが――」

 そんなほむらの言葉をねじ伏せるように、神裂が力任せに地面を蹴った。
 次の瞬間、神裂の姿が音もなく消えた。違う。音よりも速く跳んだのだ。
 数瞬遅れて、何かが風を突っ切る音が彼らの居る位置まで届いてきた。
394 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/03(水) 01:34:45.17 ID:XOpILpYxo



 そして。

神裂「ふぅ……持ってきました。これでよろしかったのですか?」

 姿を現してからきっかり10秒でソウルジェムを取り戻し、神裂はステイル達のいる場所まで帰還した。

ほむら「……馬鹿げてるわ、こんなの」

ステイル「……呼んどいてなんだが同感だ。やっぱり君とは気が合いそうだね」
395 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/03(水) 01:35:24.43 ID:XOpILpYxo

杏子「……で、なんでこいつは今まで死んでたんだよ。答えろキュゥべぇ!」

 杏子の怒鳴り声を涼しく聞き流しながら、キュゥべぇは尻尾をしならせて手すりに飛び乗った。
 そしてその場に居る面々の顔をしっかりと眺め直し、それからゆっくりとテレパシーによる説明をし始めた。

QB「君達魔法少女が肉体をコントロールできるのは、せいぜい100m圏内が限度だからね
    それ以上離れれば、魔力による補助を失った肉体は元の肉塊に戻る。糸の切れた操り人形同然さ」

まどか「何言ってるのキュゥべぇ……!? だってさやかちゃん、ちゃんとここにいたよ!? いたけど、急に……」

QB「正確には、この場に戻ってきたというべきだね。さっき君に捨てられたさやかを、
    そこにいる神裂火織がわざわざ取り戻して肉体に魔力が届くようにしてくれたんだから」

杏子「なん……だと? それじゃあ、アタシたちは……!?

QB「ただの人間の身体で戦ってくれだなんて、そんな酷いことお願いできるわけないじゃないか
    たんなる外付けのハードウェアから本体である魂を取り出して、より魔力が使いやすいコンパクトな形にしてあげたんだ」

QB「魔法少女との契約を取り結ぶ、僕の役目はね。君達の魂を抜き出して、ソウルジェムに変えることなのさ」

杏子「ふっ……ざけんな! それじゃアタシたち、ゾンビにされちまったようなもんじゃねぇか!?」

QB「むしろ便利だろう? 心臓が破れても、ありったけの血を抜かれても、魔力で修理すればすぐまた動くようになる。
    ソウルジェムさえ砕かれない限り、君達は無敵だよ? 弱点だらけの人体よりは、よほど戦いでは有利じゃないか」

まどか「ひどい……ひどすぎるよそんなの!!」

QB「……君達はいつもそうだね。事実をありのままに伝えると、決まって同じ反応をする」
396 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/03(水) 01:36:33.73 ID:XOpILpYxo

QB「 わ け が わ か ら な い よ 」

ステイル「……チッ」

神裂「なんとおぞましい……人の価値観が通用しないのですか……!」

QB「どうして、人間はそんなに魂の在り処にこだわるんだい?」

QB(そう考えると、“彼女”やSG狩りをする“プレイアデス”はやっぱり珍しい方なのかもしれないね)

 それまで黙っていたさやかが、ゆっくりと地面にへたり込んだ。
 ステイルの位置からでは彼女の顔色を窺い知れないが、あまり良いものではないだろうということは想像に難くなかった。

さやか「……騙してたのね」

QB「僕は魔法少女になってくれって、きちんとお願いしたはずだよ? その姿がどういうものか、説明を省略したけれど」

さやか「っ……なんで教えてくれなかったのよ!」

QB「聞かれなかったからさ。知らなければ知らないままで、何の不都合もないからね」

QB「事実、あの……マミでさえも、最期まで気付かなかった」

さやか「っ〜〜〜〜!」

 声にならない悲鳴を漏らすさやかを見ながら、ステイルは冷静に思考を走らせる。
 確かにキュゥべぇの言葉は正論かもしれない。だがそれは、あくまでキュゥべぇの目線に立った場合の話だ。
 年端も行かぬ少女が、受け止めきれる現実を遥かにオーバーしている。

 しかし彼には、それよりも納得の行かないことがいくつかあった。

ステイル(なぜこいつらは、わざわざそんな回りくどいやり方で遥か太古から人類に干渉し続けてきた?)

ステイル(いや、魔女を駆逐するだけならば僕らに協力を仰げば……そもそもなぜ、僕らはこいつらに気付けなかった?)

ステイル(そしてなにより……最大主教、貴様は何を考えている……?)
397 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/03(水) 01:37:46.39 ID:XOpILpYxo

――隣町にある教会

杏子「ちっ……やりきれねぇぜ……」

 置いてある椅子にどかっと腰を下ろして、杏子が投げやりに言った。
 同じく椅子に腰を下ろして主への祈りを口にしていたアニェーゼは、横目でちらりと彼女を覗き見る。
 アニェーゼの見た限りでは、真実――アニェーゼもつい先程知った――を知っても、そこまで絶望してはいないようだった。

アニェーゼ「クソでも詰まったみてぇな顔してますけど、どうかしたんですか?」

杏子「どーもこーも……ってかアンタはいつまでここにいんだよ、教会からの指示で帰ったんじゃなかったのかい?」

 彼女の言う通り、独断で魔法少女と接触したアニェーゼは上層部からお叱りを受けてしまい、
 罰として後方支援担当に回され、天草式の面々が控える最寄のアジトで待機するよう命じられていたのだが……

アニェーゼ「ソウルジェムの真実に触れたあなたがどうするか気になりましてね、抜け出して来ちゃいました」

 杏子の表情が強張る。当然だ。彼女はアニェーゼが修道女であること以外何も知らないのだから。

杏子「……解せないねぇ。なんでアンタがソウルジェムだなんて単語知ってんのさ?」

 杏子の体から放たれる目に見えない殺気を、しかしアニェーゼの嗅覚は敏感に嗅ぎ取った。
 だがアニェーゼの態度は変わらない。いつも通り、不敵な笑みを浮かべたままでいる。

アニェーゼ「あなたの身近に露出狂と赤毛の神父がいるでしょう。あれは私と同じ、イギリス清教の魔術師です」

杏子「魔術師、ねぇ……つまり、アタシのことを騙してたってわけ? へぇ」

 杏子が握り拳を作った。
 あれで頭を殴られたらまぁ軽く即死でさらにお釣りも出るかなと思いつつ、それでもやはりアニェーゼの態度は変わらない。

 こんなことで、態度を変えちゃいけないとアニェーゼは思っていた。
 そうすることがこれまで自分のことを信じてくれていた杏子に対する最大限の礼儀であり、贖罪になると信じていた。
398 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/03(水) 01:38:58.86 ID:XOpILpYxo

アニェーゼ「否定するつもりはありませんよ。そもそもあたしらの目的は、あなたたちの観察ですからね」

杏子「だからアタシに近づいたのか」

アニェーゼ「冗談は止してください。観察対象との接触だなんて、一介の修道女にやらせるわけがないでしょう
          あたしがここに居るのは、あたしの独断ですよ。本当なら今もアジトで後方支援やらされてるところです」

杏子「じゃあなんでいんだよ」

アニェーゼ「心配だったからです」

 それはアニェーゼの本心だった。
 だからだろうか、殺気を漂わせ、指先一つ動かさなかった杏子の肩がぴくりと動いた。

アニェーゼ「あたしの父親は神父でしてね。そりゃあ良い人でしたよ。
          事切れちまうその間際まで、あたしのことを心配してくれてました」

杏子「……」

アニェーゼ「両親を殺された私は、泥にまみれた路上で生きるしかなかった。
          どうして私にばかりこんな試練を与えるんだって、主を恨みましたよ」

 アニェーゼはそこで言葉を切った。杏子が目で続けろと促したのを見て、再び口を開く。

アニェーゼ「食事だって満足に出来ませんし、油断したら誰かしらにひん剥かれてお陀仏ってなもんでロクに寝られもしません」

アニェーゼ「んで、あたしはローマ正教に拾われました。親しい友人や部下も得て、精一杯頑張りました。
          その結果が、正しき教えを広める者の処刑とか、自身の命を賭して巨大な兵器を作動させるとかいうモンでしたけどね」

アニェーゼ「これでもローマ正教には感謝しているんですよ。だって、きちんと救ってくれたんですからね
          『汝、隣人を愛せよ』を地で行くイギリス清教の方が性には合ってますけど、教え的にはローマ正教寄りですし」
399 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/03(水) 01:41:20.24 ID:XOpILpYxo

 そこまで言って、アニェーゼは頬をぽりぽりと掻いた。
 何が言いたいのか分からなくなってしまったのだ。
 うあーと視線を宙に漂わせていると、杏子が椅子から腰を上げてアニェーゼを真っ直ぐに見据えた。

杏子「何が言いたいんだかよく分かんねーけどさ」

アニェーゼ「うぅ……」

杏子「……要は、路上を生きる“先輩”としては、“後輩”を見捨てることが出来なかったんだろ?」

 アニェーゼは杏子の顔を見た。
 彼女は少しだけ顔を紅くしながら、笑顔を浮かべていた。

杏子「アンタの気持ちはありがたいよ、うれしい」

アニェーゼ「じ、じゃあ」

杏子「でも」

 次の瞬間。
 いつの間にか杏子の手に握られた槍の切っ先が、アニェーゼの首に突き立てられていた。
 動きが良いとは聞き及んでいたが、これほどとは。
 なにが騎士と同レベルだ、聖人クラスじゃないか。

杏子「アタシは誰も信用しない。魔法を自分のために使うことも改めない。だけど“先輩”には恩がある」

杏子「だから、アタシの気が変わらないうちにさっさと出て行ってくれ」

アニェーゼ「っ……私は」

 ぐいっ、と。刃がアニェーゼの首に刺さった。
 あくまで薄皮一枚を貫通した程度だが、それでもすぅっと血が滴り落ちていく。

杏子「二度は言わねぇぞ、“アニェーゼ=サンクティス”」

 彼女が本気だと悟ったアニェーゼは悲しそうに目を伏せ、とぼとぼと教会を出て行った。
 杏子はその後姿に目もくれず、懐からポッキーの箱を取り出した。
 それが彼女の下した答えだった。
400 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/03(水) 01:43:16.47 ID:XOpILpYxo

――イギリス 聖ジョージ大聖堂

ローラ「はぁーい☆ こちらはーイギリスはロンドン、聖ジョージ大聖堂の最大主教なりけるのですけどー」

ステイル『あなたはどこまで知っている』

 電話口の向こうの声は、よく聞かずとも分かるほどに怒気が込められていた。

ローラ「……開口一番がそれとは、あなたを手塩にかけて育てた上司としては悲しきものね。短気は損気よステイル」

ステイル『はぐらかすな! あなたは……貴様は最初から、全て知っていたんじゃないのか!?』

ローラ「仮に私が知っていたとして、仮に私が教えたとして」

ローラ「あなたはそれを信用したりた? 違うでしょうステイル。確証得られぬ情報は、単なるまやかしと同義なりけるのだから」

ステイル『っ……だが! それとこれとは話が違う!』

ローラ「違わなきよ。そして、おそらく真実を知りたる者はあなたの傍にもいるでしょう」

ステイル『なに?』

ローラ「でもその者は切り出さない。信じてもらえないから。裏切られたから。諦めているのよ」

ステイル『それは、どういう』

ローラ「自分の頭で考えなさい」

ローラ「それともあなたは、私から答えを貰わねば問題すら解けぬ愚鈍な駒に過ぎぬと言いけるの?」

ステイル『……』

ローラ「これまでに得た情報の再整理を始めなさい。それから動くと良きことね
..    仮にあなたが間に合わずとも、シェリーの考察の確証が取れたれば追って連絡したりけるわ」

ステイル『……チッ』

ローラ「……」
401 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/03(水) 01:44:14.99 ID:XOpILpYxo





ローラ「ふぃー、疲れたりたぁー」 ニカッ




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402 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/03(水) 01:44:43.65 ID:XOpILpYxo

QB「いやぁ見事に煙に巻いたね。僕らは嘘を吐かないけど、君みたいにもっと言葉巧みに契約を迫った方がいいのかな」

ローラ「あらん、私も嘘は吐いてなきよ? 正確には、過去に嘘は吐かないと誓いたから、が正しきところだけど」

QB「そうかい? それにしたって、どうして君は自分の持つ情報を部下に与えないんだい? 非効率じゃないか」

ローラ「私が得たる情報は確証無きものがほとんどよ。魔法少女が『魔上』に至るというのも確証がなし」

QB「僕の言葉を信用してくれないのかい?」

ローラ「信用はしたりけるけれど、私が行動しては意味がなし。駒は駒で頑張りたれば良いのよ」

QB「その割には、シェリー=クロムウェルだっけ? 彼女が真実に辿り着いても行動に移させないようにしているじゃないか」

ローラ「あれは信念をその身に宿しすぎるのよ。しっかりとした信念を持ちさえすれば、何が正しきかは分かるはずだけれど」

QB「わけがわからないよ。やはり君は利益を求めている割にいささか非効率過ぎる。無意味な行動も多すぎる」

ローラ「乙女の秘密に踏み入るなんて、あまり感心出来かねたるわよ?」

QB「ふむ……君の狙いは分からないが、まぁいいさ。それで今日も商談はするのかい?」

ローラ「もちろん☆」

 にっこりと、身の毛がよだつような笑顔を作って、ローラはグラスをその手に握った。
 中にある透き通った水に目を落としながら、話を続ける。

ローラ「私が欲したる情報は、すなわちソウルジェムと願い、そして祈りの関係よ」

QB「具体的には何が聞きたいんだい?」

ローラ「少女を魔法少女にさせたる際に魂をSG化するわよね? わざわざ願いを叶えたるのはなぜ?」

QB「ふむ、少し話が長くなるけど良いかい?」

ローラ「ええ」
403 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/03(水) 01:45:23.43 ID:XOpILpYxo

QB「ソウルジェムとは魂であり、魂とはエネルギーなんだ。これは知ってるよね?」

ローラ「おおまかにはね」

QB「魂は豊潤なエネルギーの塊だけど、さらに感情の相転移によって莫大なエネルギーを生み出すことが可能となるんだ」

ローラ「それは知りたるわ。その結果、あなたたちの“目的”に近づきけることもね。問題はその前よ」

QB「だけどそれだけじゃエネルギーの無駄が多くてね。エントロピーって知ってるかい?」

ローラ「えっ、ええ! エントロピーね! あの……えーっと」 アタフタ

QB「……」

ローラ「落ち着け……落ち着き足るのよ最大主教……汝の欲する所を為せ、それが汝の法とならん……つまり!」

QB「つまり?」

ローラ「エントランスかつロビー的な空間なりけるわよね!?」 ドギャーン

QB「全然違うね」

ローラ「むぐぐぐぐ……」

QB「まぁそんなことはどうでもいい、重要じゃない。だから置いておくとして、
   とにかくそういうわけで僕らの“目的”のためには不都合が多くてね。それに単なる魂じゃ魔力も使いこなせない」

ローラ「ふむふむ」 ナルホドー

QB「しかし魂をあるプログラムに則り最適化することで魂のエネルギーの効率化を行えば、
   より純度の高いエネルギーの結晶へと昇華することが可能だと判明したんだ……何万年前かは分からないけどね」

ローラ「時世はどうでもよきことよ。それより……エネルギーの効率化?」

QB「そう。それが契約であり、魂をソウルジェムへと変化させることによって僕らの“目的”に近づくことが出来るんだ」

ローラ「効率化が契約、と。しからば、プログラムというのは――」
404 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/03(水) 01:46:17.98 ID:XOpILpYxo

QB「まぁまぁ、話は最後まで聞くものだよ。僕は君と違って意地悪しないからね」

ローラ「むー」

QB「さて、魂を最適化するにあたり必要となるプログラムとは何か、だけどね」

QB「君の推測通り、それこそが希望によって構成された『魔法少女の祈り』なんだ」

ローラ「魔法少女が持つ、各々の個性や特徴はそれが由来となりけるのね」

QB「そう。プログラムの通りに魂を組み替えるから、個々の違いが出るのさ
   例えば他者の身体の回復を願った美樹さやかは治癒魔法が得意だったりね」

QB「願いとは魂を最適化する際に生まれた莫大な余剰エネルギーを再利用した簡単な因果改変でね
   僕たち契約の使い魔であるインキュベーターは、あくまでその手助けをしただけなんだよ。分かったかい?」

ローラ「難しき話ね。ところでその最適化とやらは何度も行えたり出来なくて?」

QB「それが出来ないんだよ。最適化の際に魂が僕らの干渉を「異常」と感知しちゃうらしく、防壁を作り出しちゃうんだ」

ローラ「自己防衛本能ね。なるほど……」

QB「さてと。それじゃあ次はこっちの番だね」

ローラ「ええ、バーンと! 来たりなさいな」

QB「魔道書について、少し伺いたくてね」

ローラ「また? 説明できしことは紙に纏めたりたはずだけど」

QB「そうだね。ただ、あれには記載されてないことがいくつかあるよね?」

ローラ「ふむ?」
405 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/03(水) 01:46:45.65 ID:XOpILpYxo

QB「今現在、世界中で“暴走”を引き起こしている魔道書についてさ」

ローラ「ああ……あれは科学側との争乱の際に漏れたりたものよ。それがどうかしたりけるの?」

QB「あれが齎すエネルギーは、一体全体何がどうなって引き起こされているんだい? わけが分からないよ」

ローラ「起動に用いたるは大概が魔術師、じゃなき。魔導師の力なりしね。あとは――」

QB「あれには人が生命力を変換してひり出す魔力以外の、なんらかの力が加わっているはずだよ」

                                                  テ レ ス ゙マ
ローラ「“話は最後まで聞きしもの”、よ。その他に、世界の力、地脈……もとい天使の力が主動力なりけるわ」

QB「……なんだい、それは」

ローラ「世界に満ちる力のことよ。名前を知らないだけで、その存在を把握していないなどという薄っぺらな偽りはいらなきよ」

QB「なるほど……そうか、あの力がテレズマと呼ばれるものなのか。なるほど、納得がいったよ」

ローラ「ん?」

QB「どうやら力の本質は似たり寄ったり、ということさ。しかし解せないね。なぜそれがあんな力の塊になるんだい?」

ローラ「……魔術とは、異世界の法則をこちら側で適用させて力を引き出したるものよ
..    それを引き出したる魔法陣をその内に持ちたる魔導書が暴走すれば莫大な力を撒き散らすのは当然なりしね」

QB「ふむ……」

ローラ「……魔道書は、半永久的に活動したりける代物。天使の力(テレズマ)を莫大な力に変換せしめる物」

QB「興味深いね」

ローラ「そうね」
406 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/03(水) 01:47:11.23 ID:XOpILpYxo

 ああそれから、とキュゥべぇはローラから離れて、尻尾を揺り動かしながら話を続ける。

QB「影でコソコソするのは結構だけど、君の動きは僕に筒抜けだということを忘れないようにね」

 ローラの顔が、静かに強張る。
 そして右手に握ったグラスをゆらゆらと弄りつつ、彼女は首を傾げて見せた。

ローラ「さて、なんのことかしら?」

QB「君自身は上手く隠れてやっているみたいだけど、残念ながら君の部下……いや、駒までそうとは限らないからね」

 グラスを持つ手に力が込められた。
 ローラの体から放たれる、目に見えない重圧が部屋全体に圧し掛かる。
 もしもこの場に他の誰かが立ち入れば、緊張の余り倒れかねないほどのそれを、
 しかしキュゥべぇは涼しい顔で受け流した。そんなことでいちいち動揺するような感情を、彼は持ち合わせてなどいない。

QB「僕らには常に予備の個体が数体付き添っていてね。それがこの星に数千、数万を超える規模で居ることを想像してごらん?」

QB「たとえ君がどれほどの超人であろうと、その下が凡夫では意味がない。いやぁ、人間という生き物はつくづく不便だよね」

QB「君ほどの人間が、あと四人いればもう少し違っただろうに」

 そう言いながら、キュゥべぇはその無機質な瞳でローラの動きをくまなく観察する。
 キュゥべぇの動きに、イギリス清教を束ねる最大主教、ローラ=スチュアートがどう出るのかを伺うために。
 そのためにわざわざ『挑発』という行為を取ったのである。

ローラ「……」

 ローラの様子に変化は見られない。
 いつもと同じで、何を考えているのか分からない顔で――
407 :これ魔翌上になるかな…… :2011/08/03(水) 01:48:33.15 ID:XOpILpYxo

 いや、違った。
 ローラの口元には、と、歪な笑みが浮かんでいた。

ローラ「そちらが勘違いしたるのは自由なりけるけど、私は事を円滑に運びたるためにせっせと苦労したりけるのよ?」

QB「へぇ、それは初耳だね。それじゃあ具体的にはどうするつもりなんだい?」

ローラ「そちら側の目的は、『宇宙の死』を回避すること。こちら側の目的は『利益を得ること』」

ローラ「事が上手く運ばずとも、そちらには絶対的な余裕があるのに対しこちらにはそれがなき……だ・か・ら!」

 おもむろに椅子から立ち上がると、くるっと一回転。
 修道服の端を華麗にはためかせて、計算され尽くしたタイミングで両手を膝に置き、前かがみになる。

 それはもう『くねっ☆』と。

 『くねくねっ☆』とである。

 それは見る者が見たら『うおぉ……』とか言って『ゴクリ……』なんて具合に生唾を飲んだかもしれないが。

キュゥべぇ「だから?」

 生憎なことにキュウべぇにその魅力は伝わらないし、伝わってもその、なんだ。
 [ピーーー]歳の婆さんあんま無理すんなよとしか言えないだろう。ローラはある意味救われたのである。
 まったくリアクションを示さないキュゥべぇに向かってわざとらしく頬を膨らませながら、

ローラ「だーかーらー。目的を達成するためにせっせと頑張りているの!」

QB「それがどうして戦力を動かすことに繋がるんだい?」

ローラ「希望を絶望へと変えしはね、インキュベーター。『裏切り』という手法が最も効果ありけるのよ」

ローラ「信頼したる者たちに裏切られし際に得られたる絶望は、それは大きいでしょう?」

 ローラは笑って言った。

ローラ「鹿目まどかが『魔上』へと至らなければ、こちらは損をしてしまうじゃない? だから確実に至ってもらうための」

ローラ「 お ・ ぜ ・ ん ・ だ ・ て ☆ 」
408 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/03(水) 01:49:54.85 ID:XOpILpYxo

QB「彼女はまだ、魔法少女にすらなっていないのにかい?」

ローラ「その時はその時。どこぞの妖怪逆さま試験管男じゃなしに、プランは一つじゃあらず。例えばー」

ローラ「『ワルプルギスの夜』とやらを倒したるために魔法少女になるかもしれないし」

ローラ「それが叶わず、万一『ワルプルギスの夜』が撃退されし場合でも」

 ローラは笑う。

ローラ「信頼したる者達がその街を徹底的に破壊し尽くせば……嫌でも救済を望みしものでしょう、ねぇ?」

 利益のためならば、万単位で人を滅ぼす選択をすることも躊躇わない悪魔――ローラ=スチュアートは、笑う。

QB「その願いによって、君たちが滅ぼされる可能性だってあるんだけどね」

ローラ「あっ……それは計算外につき。でもそれならこちらの思惑通りに願いを誘導したる選択肢もありけるわね!」

 ポン、と手を叩き、その手もあったかと感心した素振りを見せるローラに対して、
 キュゥべぇはやれやれと首を振って見せた。

QB「まぁ、なんだっていいけどね」

 そう。

 なんだっていいのだ。

 キュゥべぇからすれば、『宇宙の死』を回避出来さえすればこの星がどうなったって構いやしない。
 人間がどれだけ死のうと、それは彼らの問題でしかない。
409 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/03(水) 01:50:46.28 ID:XOpILpYxo



QB(それでも、君には“楽しませて”もらっているけどね。ローラ)


410 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/03(水) 01:52:09.14 ID:XOpILpYxo

 キュゥべぇとの商談を終えたローラは、ごくごく自然に窓の外へと目を向けた。
 目線の先には金髪碧眼の、まだ少女と呼べる年齢の修道女が居た。
 ローラから直に話があるという名目で――というか実際に話があるのだが――部下に呼び出させたのだ。

 最大主教と言えば、それはもう修道女からしたら神様に等しい存在である。いや、であった。
 今では修道女どころか組織全体で
『バカっぽい日本語を扱う俗っぽいようで腹黒い女狐のような退任間近の老いぼれ』
 という扱いである。上下関係など微塵もありゃしない、必要なら修道女だろうが神父だろうが彼女を蹴飛ばす。
 酷いものだ。

 それでも直に呼び出された者からしたら、一体全体どんな無理難題を吹っかけられるのか気が気でないのだろう。
 彼女はそわそわと辺りを見回し、必要以上に身だしなみに目を配らせていた。

 その修道女の名を、レイチェルという。

 可愛い物に目がなく、イギリス清教内では間違いなく五指に入るほど“魔導図書館”と仲が良かった。
 その行動理念は十字教のそれに基づいており、いわゆる善人と呼ぶに相応しい人物だ。
 そんな彼女だが、一応イギリス清教かつ清教派内では『戦闘職』に就く武闘派のシスターでもある。
 体力もあり、“魔導図書館”と行動していた際には“記憶を失った”彼女を健気に支えてあげたりもしていた。

 そこが、ローラの“目に留まった”のである。
411 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/03(水) 01:53:05.90 ID:XOpILpYxo


 騎士のような難敵に取り囲まれても怯えを見せず、果敢に立ち向かい生き延びる身体能力。


 仲間のために戦う選択を取り、絶望を前にしてもへこたれず、立ち向かう気丈な心と精神。


 まだ少女と呼べるほどの年齢。


 それらが重なった結果。

.
412 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/03(水) 01:53:50.38 ID:XOpILpYxo

 彼女は、魔術側の法則を以て魔法少女を再現するための“実験台”に選ばれたのだ。

 既にそのための儀式場は構築されている。

 後は必要な情報と霊装、そして“実験台”である彼女の合流を待つのみ。

 誰にも気付かれないように、ローラは目を細め、怪しい笑みを作った。

 その表情の意味するところを知る者は、いない。
413 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/03(水) 01:56:15.55 ID:XOpILpYxo
以上、ここまで。

ああもう、ローラはあくまでスパイスのくせに出すぎだろ、次回以降出番減らします
というか地の文による描写を増やします。あと軽くレス返を


>>384
今回の投下でも若干触れてますが、普通は願いを利用しようと考えますよね
ローラってばお茶目さん!で済めばいいのですが……

>>385
ローラの目的は主に二つですね。過程はいくつも想定しているようですが
一つは彼女にしては珍しく先行き不安。もう一つは現在進行形です
414 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/03(水) 02:02:22.10 ID:XOpILpYxo
いまさらですが、今回ソウルジェムに関してかなり自己解釈の酷い設定があります

ついでに似非魔女図鑑を。使い魔が二体いるのはゲルトたんに倣って
正直一番下の手下の姿は鎖じゃなくて猫とかウサギ系でも良かったかな……

 リボンの魔女。
 その性質は後悔。
 後悔することをひどく恐れている魔女。
 失うことで後悔しないようにと、身近にあるものすべてをリボンや手下で結びつけてしまう。
 魔女は気付かない。それが、さらなる後悔を生み出してしまうことに。魔女は気付かない。もう、何もかもが手遅れだということに。

 リボンの魔女の手下。その役割は拘束。
 魔女の手足となって周囲の物を捕らえ、縛り付けて魔女の傍まで手繰り寄せる鎖。
 ピンク、赤、青、紫の四体がおり、普段は魔女にぴったりと寄り添っている。

 リボンの魔女の手下。その役割は友達。
 魔女の慈悲を受けるだけの白い鎖。この手下のためならば、魔女は自分の身すら喜んで差し出すだろう。
 魔女を倒す前にこの手下を傷つけてはならない。手下を傷つけられて怒り狂った魔女が、全てを結びつけて壊してしまうから。

以上、次の投下は未定。早ければ明日か明後日で
415 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/08/03(水) 02:48:49.22 ID:DUuseuPJ0
やぁめぇてえくぅうれえええええ!
マミさん魔女化で泣いて魔女マミさん討伐で二度泣いて
魔女図鑑で三度目の号泣だよちっくしょおおおおお!

そして役割友達の方の使い魔は地獄に堕ちろぉおおおおおおおおお!
416 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/03(水) 09:37:10.28 ID:vDl43xXl0
この若作り、まどかの性格も把握している。一部の上条に感化した能力が微妙な連中が裏切り滝見原やまどか達の為に絶望的な戦いに身を投げれば、まどかは確実に契約を結び魔法少女(魔女)になる。裏切り者を出す事で英国清教全体への敵視を回避、最悪自身が死ぬことで作戦を完結させる気だ。作戦で得た成果を引継がせる準備もあるな。

魔女マミの撃退方法は魔女の過去を認め、行いが無駄では無かったと諭す事かな。
417 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/08/03(水) 09:52:03.01 ID:KB6C6wsAO

>>416
穿ちすぎじゃね?
裏切りってステイルたちにまどかを裏切らせることかと思ってたけど
418 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2011/08/03(水) 10:41:03.86 ID:pCntnyfK0
考察通り越して先読みウタってるだけの酔っ払いだろ
無視だ無視
419 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/08/03(水) 12:15:11.48 ID:GpShD+360
なんかこのスレに霧がでてるんだが
420 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/08/03(水) 22:53:30.98 ID:c7crG7wAO
ババァvsキュウべえのやりとり好きだから出番減少は残念だ
421 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/08/04(木) 01:12:17.97 ID:aw9Yv3Gbo
奇跡も魔法もいらないってところで泣いた。
422 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/04(木) 02:59:21.72 ID:VbLv+hVIo
スレ内を 「上条」 で抽出したり 「当麻」 で抽出してたらこんな時間になってしまった。

思ったよりも書き溜めのペースが遅いので、次の投下は明日(今日)の夜7時辺りを予定しております
申し訳ない
423 :名無しNIPPER [sage]:2011/08/04(木) 04:40:56.05 ID:aJsIKTXAO
わたしまつわ
424 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/08/04(木) 16:46:19.57 ID:SzSpqP3AO
今更だけと上條は途中から上条に“公式”で変更されていたから多分どっちでもOKですよ。
425 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/04(木) 18:51:48.57 ID:VbLv+hVIo
>>424
わざわざありがとう、でも禁書の小ネタやろうと思っただけなので大丈夫です

では投下します
426 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/04(木) 18:53:44.10 ID:VbLv+hVIo

――極寒の地、南極。
 その中でも一際氷が張った大地に、インキュベーターはいた。

(おかしいなぁ、なにもないや)

 その無機質な赤い瞳に映るのは、辺り一面を白い雪に覆われた巨大な氷、氷、氷。

(確かこの辺りに、異常な因果を束ねた人間がいたと思ったんだけど)

 ひたひたと足音を弾ませながら、インキュベーターは何度も何度も首を振る。

(調査しに来た別個体との連絡も途絶えてるし、なにかあるはずなんだけどなぁ)

 視界は変わらない。白い雪に覆われた氷が映るばかりである。
 そこでインキュベーターは、視覚機能と触角機能との間にに情報の齟齬が発生していることに気がついた。
 雪が積もっているにしては、それほど気温が低くないのだ。

(妙だね)

 いや、それどころかつい最近雪が降ったという形跡も見られない。
 だとしたら、目の前に広がる銀景色は一体何だ?

(白い雪? いや、むしろあれは)



 ぐちゃっと。

 内側から弾ける音がして。

 その“個体”の思考は、永久に途絶えた。
427 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/04(木) 18:54:17.83 ID:VbLv+hVIo


「あーあーあー、ゴキブリじゃねェンだからよ、ダース単位でわらわら沸いてくンじゃねェよ」


「ったく、誰が掃除すると思ってンだ? 俺はやらねェけどな」


 辺り一面を覆う白い雪に見えた物は、実のところ雪ではなかった。


 内側から“破裂”した、インキュベーター達の亡骸だ。


 そしてそれを行った、白いジャケットとズボンでその身を覆った人間――

.
428 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/04(木) 18:55:11.88 ID:VbLv+hVIo

                 アクセラレータ
――最強の人間   一方通行   は、肩までかかる白い髪を煩わしそうにかきあげた。

「俺はオマエの身辺警護するために来たわけでもなけりゃボランティア精神輝かして害虫駆除しに来たわけでもねェぞ」

 目の前の空間を、白い前髪の隙間から赤い瞳で睨みつけながら、彼は吐き捨てるように言う。
 数秒待って、しかし何も変化が訪れないことに腹を立てた彼は、畳み掛けるようにして呼びかける。

「俺がわざわざ来てやってンだ。とっとと出て来い」

「アレイスター=クロウリー」

 その時だった。彼の声が、空間が、蜃気楼のようにほんの一瞬だけ“ブレ”た。
 次の瞬間。一方通行の目前に緑の手術衣を着た“存在”が現れた。
 妙なことに、それは現れていた、でもあり、現れている、でもあり、これから現れる、でもあった。

「……おやおや、私は君を呼んだつもりはなかったのだがね」

 最初からここに居た、今来た、来ている存在は、予想外と言わんばかりの表情を浮かべて言った。

                        アンダーライン
「俺が完膚なきまでにぶち壊した『滞空回線』を再起動させられるヤツなんざ、魔術側の頂点か科学側の頂点ぐらいだろォが」

 しかめっ面をしながら一方通行が言うと、さも愉快そうに宙に浮かんでいる存在が笑った。

「科学側の頂点は君と雲川芹亜に譲ったさ。今の私はただのアレイスター=クロウリーという存在に過ぎないよ」

「言ってろ。どの道アレの再起動に気付けるヤツなんざ俺くらいのモンだ。だったらあれは俺宛のメッセージ以外有り得ねェだろ」

「ふむ。確かに私もそのつもりでアレを動かしたが……それにしたって、まさか君が直接来るとは思わなかったのでね」

「学園都市の警備の方はどうしている? 最近は物騒だから、とち狂った魔導書を引っ提げた魔導師や白い獣がよく出るそうだが」

「学園都市は……“俺の街”は第二位と第六位に任せてる。ジャージ女は表の世界でのんびりやってるから働かせてねェ」

 何もかもが曖昧なその存在は、さらに愉快そうに口端を歪めて言う。

「まさか君がそこまで他人を思いやれるとは……手塩にかけて育てた甲斐があったというものだよ」

「くだらねェ」
429 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/04(木) 18:55:44.75 ID:VbLv+hVIo

「で、何の用だ? まさか計画を再開するつもりか?」

 眉をひそめて一方通行が問いかけると、ゆらゆらと揺れるその存在はおかしそうに腹に手を当てた。
 それから何かを懐かしむように、喋り始める。

「まさか。私は結局、『幻想殺し』とuhugj条hghu麻huhcの内に潜むvkmデgeusトzxu……おや、これは妙だな」

 氷の上を漂う存在の声に、ノイズが混じった。

「ckmw上lwqxi当alkf」

 何かに照らし出されている存在は、まるで何かを確かめるように言葉を紡いだ。
 なぜ自分の言葉にノイズが混じるのか、それを真剣に推測しているようだ。

                       ラストオーダー
「……ふむ。御坂美琴。一方通行。打ち止め……となると……」

「……ああそうか、今の彼はその扱いで、私はこの世界に居るのだったか。ふむ……そうだな、では“あの少年”とするか」

「私はあの少年を、侮っていた……いまさらくだらない陰謀を張り巡らせるつもりはないさ」

「何勝手に納得してンだオマエは……計画が関係無いことは分かった。じゃあ何でも良いから呼ンだ理由をとっとと話せ」

「君の杖のスペアだがね」

「あ?」

「あの医者に改造させて、外部の人間の手に渡らせた。それを伝えたかっただけだ」

「……どォりで見つからねェわけだ。ンで、まさかそんなくっだらねェこと伝えるにここまで呼ンだわけじゃねェだろ?」

「いや、それだけだが」

「……」

「どうかしたかね?」

「……」
430 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/04(木) 18:56:12.69 ID:VbLv+hVIo

 一方通行は黙り込むと、すぅっと息を吐いてから赤い瞳をギラギラと輝かせた。
 その頭上には光り輝く輪が現れ、その背には白く輝く翼が噴出する。

「vhfu殺ahuhすjmlpi」

 その日、南極にあった氷の十五分の一が跡形もなく“消滅”した。
431 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/04(木) 18:57:00.76 ID:VbLv+hVIo

――聖堂にも似た荘厳な雰囲気を醸し出す学校の屋上に、まどかほむらは居た。

まどか「……ほむらちゃんは、ソウルジェムのこと……知ってたの?」

 まどかの問いに、ほむらは首を縦に振った。
 それを見たまどかは俯き、自身の足元を見つめながら話を続ける。

まどか「どうして、教えてくれなかったの?」

ほむら「前もって伝えても、信じてくれた人は一人も居なかった」

まどか「そっか……でも、キュゥべぇも酷いよ……こんなこと、するなんて……」

ほむら「奇跡の対等な対価としかあいつは思っていないわ。人間の価値観が通用しない生き物だもの」

まどか「全然釣りあってないよ! あんな身体にされて……
.     さやかちゃんはただ、あの女の子を助けようとしただけで……それだけで……」

ほむら「奇跡であることに違いはないわ。さやかは、死ぬはずだった子供の運命を歪めた。それが奇跡でないとすれば、なに?」

まどか「でも……」

ほむら「そこでこそこそと隠れているステイル=マグヌスも、私と同意見のはずよ。そうでしょう?」

 ほむらに指摘されて、屋上入り口の扉に隠れていたステイルはしぶしぶと姿を現した。

ステイル「……そうだね。自分の身体がゾンビになる程度で済むというのなら、むしろ安い方じゃないかい?」

まどか「そんな!」
432 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/04(木) 18:58:15.73 ID:VbLv+hVIo

ステイル「僕には昔、いや今でも、自身の身に代えてでも護りたい大切な人がいる」

 脳裏に浮かぶのは、白い修道服姿の“あの子”。

ステイル「“あの子”のためなら、自分や周りの人間を犠牲にしたって構わない」

ステイル「この想いは今でも変わらない。もしあの子が命の危険に晒されれば、僕は喜んで自分の身を投げ出すだろう」

まどか「そんな……」

 ただし、と付け足し。
 ステイルはタバコを咥えて、悲しげに目を伏せた。

ステイル「美樹さやかの場合はそんな覚悟を抱く間もなかった。後悔しても、今更遅いとは思うけどね……」

ほむら「……」

 ステイルは、黙ってほむらの目を見た。
 そこにあるのは、やはり諦めの色。
 なにが彼女をそうまでさせたのか、彼には分からない。彼女の抱える物がなんなのか、その欠片すら掴めない。

ほむら「いずれにしても、さやかのことは……さやかの、ことは……」

ステイル「諦めろ、とでも言うつもりかい? 確かに現実的ではあるがね」

ほむら「……そうよ。あなたたちには、彼女を救う手立てなんてない」

まどか「……ほむらちゃんも、ステイル君も……どうしていつも冷たいの?」

ほむら「そうね。きっともう人間じゃないから、かもね」

 その時。ステイルの脳裏にふとローラの言葉が蘇った。
 彼女が言っていた言葉と、ほむらの立場。言動。それらを照らし合わせる。

ステイル(……信じて、もらえないから? 裏切られた、から?)

ステイル(暁美ほむら……君は一体……)
433 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/04(木) 18:58:42.69 ID:VbLv+hVIo

 太陽が身を沈め、あたり一面が赤く染まる夕暮れ時。
 学校をサボったさやかは杏子と共に、隣町にある古ぼけた教会の前にいた。

杏子「さて、と。着いたよ」

さやか「ここは……?」

 中に入り込んだ杏子は、アニェーゼがいなくなった今誰も座ることの無くなった椅子を蹴飛ばすと、
 抱えていた紙袋の中から綺麗な赤をしたりんごを取り出してさやかに向かって投げ渡した。

杏子「長い話になるからね。食うかい?」

 さやかは返答する代わりに、受け取ったりんごを放り捨てる。
 それを見た杏子の顔が赤く染まり、さやかが後ずさるほどの殺気を包み隠さず発した。
 しかしすぐに考えを改め、黙って落ちたりんごを拾うと、服で拭いてから紙袋の中に押し込む。

杏子「食いモンを粗末にすんな……ったく、“先輩”から貰った恩がなけりゃ殺してたとこだよ? 感謝しときな?」

さやか「先輩?」

杏子「なんでもねぇよ。さてと……どっから話すかな」

 そして、杏子は淡々と語り始めた。
434 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/04(木) 18:59:08.80 ID:VbLv+hVIo

 この教会が、かつて自分の父親の教会であったこと。

 その父親が、とても正直で優しい、良い人であったこと。

 教義にないことを語ったがために信者から見放され、所属する教会に破門されたこと。

 その結果世間から鼻摘み物にされ、誰も話しを聞こうとしなかったこと。

 彼女の家族は食べるものにも事欠き、苦しい生活が続いたこと。

 そしてなにより、父親の話を聞いてくれない世界を恨んだこと。

 だから、キュゥべぇと契約した。『父親の話を聞いてくれ』、という――他人のための願いを、叶えて貰うために。

 やがて父親にからくりが気付かれ、何もかもが滅茶苦茶になり……

 自分以外の家族を道連れにして、あの世に旅立ったこと。
435 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/04(木) 18:59:34.80 ID:VbLv+hVIo

杏子「あたしの祈りが、家族を壊しちまったんだ」

 杏子は言った。

杏子「他人の都合を知りもせず、勝手な願い事をしたせいで、結局、誰もが不幸になった」

杏子「その時心に誓ったんだよ。もう二度と他人のために魔法を使ったりしない」

杏子「……この力は、全て自分のためだけに使い切るって」

 そう言って振り返った杏子の顔は、さやかが想像していたような悲哀を含んだものではなかった。
 むしろ晴れやかで、憑き物が落ちたような表情だ。
 己の過去を口にしたことなど、これまでなかったのかもしれない。
 彼女がこれまで過ごして来たであろう半生は、それは壮絶なものだったのだろう。さやかは不憫に思った。

――奇跡は、無料ではない。希望を祈れば、それと同じ分だけの絶望が撒き散らされる。

――そうして差し引き0にして、世の中の平衡は成り立っている。

 彼女はそう続けた。
 さやかは、杏子が言いたいことがなんであるかを理解した。
 理解したからこそ、不可解でならない。なぜ、彼女はそれを自分に言うのだろう?
 怪訝な表情を浮かべていると疑問を口にすると、杏子は少し躊躇ったように言葉を詰まらせてから話を続けた。

杏子「アンタも開き直って好き勝手やれば良い。神様に運命付けられた、自業自得の人生をさ!」

 いや――

さやか「それって、変じゃない? あんたは自分のことだけ考えてるはずなのに、あたしの心配なんかしてくれるわけ?」

 ――ああ、そうか。彼女は。

杏子「アンタもアタシと同じ間違いから始まった。これ以上後悔するような生き方を続けるべきじゃない」

 彼女は、きっと。
436 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/04(木) 19:00:00.75 ID:VbLv+hVIo

――あたしを、自分と、重ねているのだ。
 間違いを犯す前に、深く傷つく前に。
 地獄の底に沈んでしまう前に、助け出したいと、思ってくれているんだ。

 そんな彼女の思いやりを、さやかは純粋に嬉しく思った。
 だからこそ、さやかは彼女の指し示す導きに反抗する。

さやか「あんたのこと、色々と誤解してた。そのことはごめん。謝るよ」

杏子「じ、じゃあ」

さやか「でもね」

 杏子の顔が、歪んだ。
 この時のさやかには知りようもないことだが、佐倉杏子はまったく同じような場面に遭遇したことがあったのだ。

さやか「あたしは、人のために祈ったことを後悔してない。その気持ちを嘘にしないためにも、後悔だけはしないって決めたの」

さやか「これからも、ずっと」

杏子「なんであんたは! あんたはもう、高すぎる対価を払ってるってのに!」

 確かに杏子の言葉は正しいかもしれない。
 魔法少女なら、大抵の者は彼女と同じ選択をするのかもしれない。
 でも。

さやか「あたしはね、高すぎる物を払っただなんて思ってない」

さやか「この力は、使い方次第でいくらでも素晴らしい物にできるはずだから」

 それに、と彼女は言って。杏子の顔を真正面からしっかりと見据える。

さやか「人のために祈りをしたことを後悔してるあんたに、見せてあげたいんだ」
437 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/04(木) 19:00:26.96 ID:VbLv+hVIo

 そう。彼女が人のために祈り、それを後悔したのならば。

 さやかは見せてやらなければならない。

 魔法少女が、なんの代償も無しに誰かを幸せにする姿を。

 そのためにも。

 魔法少女が自業自得の人生を歩むよう運命付けられてるだなんて幻想は、ぶち壊してあげなきゃいけない。

さやか「他人のために魔法を使い、他人のことを幸せにして、自分も一緒に幸せになることが出来る姿を」

さやか「魔法少女は、みんなと一緒に幸せになれる。その姿を見せてあげたいんだ」

杏子「ッ――!! アタシたちは魔法少女なんだぞ!? 他に同類なんていないんだぞ!?」

 杏子の投げかけた言葉は、どこか悲痛だった。
 目の前にいるさやかではなく、彼女を通して、彼女の後ろにいる誰か――自分自身に対して叫んでいるのかもしれない。

さやか「それでもあたしには、『友達』がいるから」

さやか「だからあたしはあたしのやり方で戦い続ける。それがあんたの邪魔になるなら、前みたいに殺しに来ればいい」

さやか「あたしは負けないし、もう……恨んだりもしないよ」

 さやかは、一度も杏子の方を振り返ることなく教会を後にした。
 二人の距離が、遠ざかる。物理的にも、精神的にも――どうにもならないほどに、遠ざかる。
438 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/04(木) 19:00:53.64 ID:VbLv+hVIo

 二人の会話を黙って屋根の上で聞いていた神裂は、ギリッ、と音が出るほど奥歯を噛んだ。
 なぜこうなってしまうのか。
 彼女達はただ、願っただけだというのに。
 生まれつき人の身に余る才能と幸運とをその身に宿した聖人は、しかし無力だった。

 彼女らにかけてやる言葉すら見つけられないほどに。

 神裂は憮然とした表情で、深い青色に染まりつつある空を見上げた。

神裂「神様」

 そして、かつての誓いを、再び口にする。

神裂「あなたが、選ばれた人々だけを救うというならば」

神裂「残りの選ばれなかった人々は、一人も余さず私が救う」

神裂「絶対に、必ず、です」

 そう天に誓って見せると、神裂は音もなく地面に着地した。
 後ろを振り向き、凛とした表情で“少女”と向かい合う。

神裂「やっと、決心がつきました。話を聞かせていただきましょう」

神裂「美国織莉子」

 神裂の言葉に、少女――“未来を見通す”魔法を行使する魔法少女こと美国織莉子は、薄い笑みを浮かべて頷いた。
439 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/04(木) 19:01:25.63 ID:VbLv+hVIo

――早朝 通学路

「この辺りにも貼っておくか……」

 朝っぱらから人目も惜しまず中腰で歩き回っているのは、
 明らかに周囲から浮いている赤毛かつ身長2mの神父、もといステイル。
 見ているだけで暑苦しくなる神父服を涼しい顔で着こなしながら、彼がせっせと“作業”に精を出していると。

まどか「おはよー、ステイルくーん」

 赤のリボンで髪を結った、鹿目まどかが声をかけてきた。

ステイル「ん、おはよう。良く眠れたかい?」

まどか「えへへ、ちょっとママとお話してて……あ、昨日はごめんね? 冷たいなんて言っちゃって……」

ステイル「気にする必要は無いさ。僕は慣れているからね。ああでも、彼女にはちゃんと謝った方がいいかな」

まどか「うん、分かってる。ほむらちゃんだって、さやかちゃんのこと嫌いなわけじゃないんだもんね……」

 さやかとの約束通り、ほむらが彼女のことをちゃんと名前で呼んでいることを言っているのだろう。
 確かに、そういう意味ではあまり敵意は抱いていないのかもしれない。いや、それどころか心配している素振りすらある。
 事実、巴マミが魔女に襲われた際は――恐怖か、悲しみか、いずれかの理由で大いに取り乱していた。

ステイル(もっとも、あれは例外中の例外だろうが……彼女ともしっかり話をしておきたいね)
440 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/04(木) 19:02:21.79 ID:VbLv+hVIo

 などと思考を働かせていると、視界に二人の少女が入ってきた。美樹さやかと志筑仁美だ。

まどか「さやかちゃんも仁美ちゃんもおはよー!」

仁美「あら、まどかさんにマグヌス君。おはようございます」

さやか「ん、おはよー」

ステイル「……昨日はどうしたんだい?」

 妙に浮かない顔をしたさやかは、愛想笑いを浮かべて風邪を引いたんだ、と答えた。
 もちろん神裂からの報告を受けているステイルはそれが嘘だと知っていたが、
 わざわざ指摘するほど彼は間抜けではない。

まどか「さやかちゃん……」

ステイル「オッホン……体調管理は万全にしておいたほうが身のためだよ、何があるかわからないからね」

 彼女の名誉のためになにも知らない振りをすると、心配する様を装う。
 さやかはふたたび笑いながら手を振り、だよねーと同調した。

さやか『ごめん、気を遣わせちゃって』

 頭の中に声が響く。さやかからのテレパシーだ。
 魔法少女としての力なのか、まどかには聞こえていないようだった。

ステイル『気を遣ったつもりはないよ。もう大丈夫なんだろう?』

さやか『……うん。あたしには、まどかや仁美に、あんたやほむらみたいな友達がいるからだいじょーぶ!』

 肩をすくめて彼女のテレパシーに応えると、それから何気なく川を隔てた反対側の通学路を覗き見た。
 そしてステイルは眉をひそめた。

ステイル「おや?」
441 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/04(木) 19:02:48.50 ID:VbLv+hVIo

 ステイルの視線の先には、上条恭介の姿があった。

まどか「あ、上条君だ」

さやか「え? あっ……え!?」

 さやかが驚くのも無理はない。彼はまだ学園都市に移動していないので、左手の治療はまだ済んでいない。
 本来ならば病院で生気を養い、リハビリに励み、病院を移動するための準備をしなければならないのだ。
 それがあろうことか、妙に厳つい『盾』と『トンファー』を合体させたような杖をついて歩いていれば、驚くのも当然だろう。

仁美「あら、上条君退院なさったんですの?」

 仁美が三人の気持ちを代弁した。

 一方で、ステイルはその特徴のある杖に見覚えがあったために別の意味でも困惑していた。

                                  レベルファイブ .     アクセラレータ
 記憶が正しければ、あれは恐らく学園都市最強の超能力者である『一方通行』が所有していた物だった。
 第三次世界大戦の後、色々と……それはもう『色々』とあって、ステイルと彼は共同戦線を張ったこともある。
 だが、それがなぜ?

 そこでステイルは、さやかが晴れない表情をしていることに気付いた。
 まどかもそれに気付いたらしく、心配した様子でさやかの顔を覗き見ている。

ステイル(……面倒なことになってきたかな)
442 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/04(木) 19:03:19.17 ID:VbLv+hVIo

――教室

中沢「上条、まだ腕治ってないんだろ? 良いのかよ出てきて」

恭介「治療するために学園都市に行くことになったのは良いけど、そこの先生に今の内に学校に通っておけって言われてさ」

クラスメイトA「へぇー、でも歩くのしんどくないの? あとその杖邪魔じゃない?」

恭介「それがさ……見てよこの杖」

 そう言って、恭介は杖のグリップを握って動かした。
 するとガシャッ! という甲高い、しかし静かな金属音と共に杖が瞬く間に縮み、『盾』の部分に収納された。

中沢・その他「おぉ〜!」

 周りのクラスメイトから歓声が沸きあがる。なぜか得意気な顔をする恭介。
 彼はふたたびグリップを操作して杖を伸ばすと、今度は杖で床を叩く。
 すると杖の先から四本の小さな脚が出てきて、的確に床を掴み取った。

恭介「なんでも重量を感知するセンサーがついてるらしくてね、あと角度調整用に特別にジャイロも積み込んだんだってさ」

クラスメイトB「すげー! なんかスパイみたいだな!」

恭介「いや本当、学園都市って凄いね」
443 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/04(木) 19:03:45.70 ID:VbLv+hVIo

クラスメイトA「この腰についてるデジタル時計は?」

 腰に取り付けてある、小さなポケベルのような機械を指差してクラスメイトが言った。
 今度はなぜか困った表情を浮かべて、恭介も首をかしげながら、

恭介「なんでも筋……なんとかフィーっていう病気の人の補助をするための機械らしいんだけど……」

恭介「ちょっと電極がくすぐったくてね。確かに前より足は動かしやすくなったけど、早い内にこれ無しで歩きたいんだ」

クラスメイトA「へぇー、なんかサイボーグ009みたいだねー」

クラスメイトB「ばっかスパイだろスパイ! スパイ大作戦!」

クラスメイトA「そうかなー、中沢はどっちだと思う?」

中沢「えぇ!? ど、どっちでもいいんじゃないかな」

恭介「はははっ!」

――なお、これはステイルでさえ知らないことだが。
                                                レ ー ル カ ゙ン
 その筋なんとかフィー患者のための機械は、学園都市の超能力者である『超電磁砲』と呼ばれる少女に関係する物だった。

 学園都市側が合意の下で彼女の協力を得て開発し、つい最近完成した試作品であるためその額は数百万は下らない。
 杖とセットにしたら、技術的な意味でも費用的な意味でも恭介の顔が真っ青になることは目に見えていたが――
 カエル顔の医者は機転を利かせてそのことを説明せずに渡したために、彼が冷や汗をかくことは回避された。
444 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/04(木) 19:04:12.28 ID:VbLv+hVIo

ステイル「あの医者め……」

 悪態をつきながらも、ステイルは微かに笑みを浮かべた。
 昔のような一人の医者という立場と違って、今の彼は学園都市の医療関係、その最前線かつトップを兼ねている。
 あの杖やわけの分からない機械を学園都市の外に運ぶだけの余裕などないだろうに。

まどか「良かったね、上条君。さやかちゃんも行ってきなよ、まだ声かけてないんでしょ?」

さやか「あ、あたしは……」

 そこで、先ほどまで男子と共に居たはずの恭介が杖を動かし、手を振りながら近づいてきた。
 思いのほか普通に歩いている。恐るべし、杖と電極。

恭介「やぁさやか! それに鹿目さんに志筑さんに……え? し、神父さん!?」

 ああ、面倒臭いことになった。

まどか「あれ、ステイル君やっぱり知り合いだったの?」

ステイル「いや、話すと長くなるんだ……久しぶりだね、キョースケ」

恭介「あ、はい……えっと、僕が入院してる間に宗教の学科でも増えたのかな?」

仁美「あらあら、マグヌス君は転校生ですのよ?」

恭介「ああ、うん……え? え!?」

さやか「……ほら、この前知り合いに学園都市のお医者さんと仲が良い人が居るって言ったじゃん? それがこいつ」

恭介「え……えぇ!?」

ステイル「やたら驚くね、君……」
445 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/04(木) 19:04:38.92 ID:VbLv+hVIo

 恭介は初めかなり驚いていた様子だったが、事態を把握すると机にもたれかかり、
 杖を収納させて右手をステイルに差し出してきた。

恭介「じゃああなた……いや、君のおかげなんだね。ありがとう、本当にありがとう!」

ステイル「礼なら美樹さやかに言うといい。僕はあくまで医者と彼女との間を中継したに過ぎないよ」

 そう言ってさやかの方を手で指し示すと、恭介も頷いてさやかへと手を向けた。

恭介「そうだね……さやか、あの時はごめん。ついカッとなって、あんなことしちゃって……」

さやか「い、良いって! べつに!」

恭介「それじゃあ、改めてお礼を言わせてくれるかな? 僕は、君のおかげで――」

さやか「だから良いって! ってか、あ、あたし先生にプリント運ぶよう言われてたんだった! ごめん、じゃあね!」

恭介「あっ……」

 早口で捲くし立てると、さやかは四人を置いて教室の外へと飛び出していった。
 理由が分からずに呆然とする仁美と恭介とは対照的に、ステイルとまどかの顔は暗くなる。

まどか(さやかちゃん、やっぱり体のこと……)

ステイル(こういう厄介事の対処は“あの男”の仕事じゃないのか……?)

 咄嗟にステイルは、受験を控えて勉強しつつ世界を回っている“少年”の顔を思い浮かべた。
 彼を想像することさえ癪に障るのだが、燃やして爆発させるくらいしか能がない自分よりはよほど適任者に思える。
 だがないものねだりしたって始まらない。なんとかしてやらなければ。

 そんなことを考えていたからだろうか。
 ステイルは、呆然とした仁美の目に、確固たる意思の光が芽生えていることに気付かなかった。
 もっとも、気付けたとして何が変わるでもなかったが。
446 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/04(木) 19:05:05.06 ID:VbLv+hVIo

――ホームルームが終わると、あたしは足早に学校を立ち去ろうとした。
 恭介のことは気になったけど、正直、今のままじゃ何話したら良いのかも分かんないから。
 気を利かしてくれたのか、恭介と中沢の2人と話し込んでいるステイルに内心感謝。

まどか「あれ、もう帰っちゃうの?」

さやか「うん、ごめん、用事があってさ」

 ごめんよ我が親友。
 まどかに手を合わせつつ、鞄を手に取り校門を跨いで――

仁美「さやかさん」

 友達の仁美に、声をかけられた。
 その表情はいつになく硬く、普段から真面目な仁美がより一層真面目に見えた。
 首をかしげて仁美の言葉を待っていると、彼女は二度ほど深呼吸した後、

仁美「お話が、ありますの」

 そう言った。
 なんでだろう、いつもなら笑って二つ返事で了承するのに。
 その時だけはなぜか固まって、すぐに口から言葉が出なかった。
 胸騒ぎが、する。
 良くないことが、起こる気がする。

さやか「……えーっと、うん。じゃあすぐそこの喫茶店行こっか」

仁美「はい」
447 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/04(木) 19:05:32.60 ID:VbLv+hVIo

――学校帰りの学生でごった返してるかなーと期待していたが、喫茶店は思ったよりもがらんとしていた。
 カエルの刺繍が入った帽子を目深に被る、私服姿の短髪女子がいるぐらいか。
 確かに見滝原中学の学生は基本真面目な人が多いけど、なにも今日真面目に下校しなくても……

仁美「……」

さやか「……」

 さきほどから一言も言葉を発することなくあたしを見つめる仁美と、仁美に見つめられるがままのあたし。
 ホットドッグを注文したは良いが、この雰囲気じゃとてもじゃないけど喉を通らないなぁ。
 結構後悔しつつ、あたしはこの暗い空気を払拭すべく口を開いた。

さやか「それで、話ってなに?」

仁美「恋の相談ですわ」

 仁美が? 恋?
 仁美とはもう結構な付き合いになるけど、基本的に真面目でお淑やかな彼女の口から、
 そんな浮ついた……いや、おめでたい話が出てくるとは思っても見なかった。

仁美「私ね、前からさやかさんやまどかさんに秘密にしてきたことがあるんです」

さやか「え? ああ、うん」

 秘密という言葉に、思わず敏感に反応してしまう。
 あたしだって、そうだよ。仁美に話せない秘密、いっぱい抱えてるよ。
 そう言ってあげたかったが、真剣な彼女の顔を見てると気が退けてしまう。

仁美「ずっと前から、私……」

 耳を傾ける。傾けてしまう。傾けてしまった。


仁美「上条恭介君のこと、お慕いしてましたの」
448 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/04(木) 19:06:23.95 ID:VbLv+hVIo



――え?



 思わず耳を疑い、次に冗談か何かかと仁美を疑う。
 でも、彼女は揺るがない。動じない。真っ直ぐにあたしを見据えて、あたしの反応を伺っている。

さやか「そ――そうなんだ!」

 仁美は揺るがない。

さやか「ははっ……まさか仁美がねー!」

 動じない。

さやか「な、なーんだ! 恭介のやつ隅に置けないなぁー!」

仁美「さやかさんは、上条君とは幼馴染でしたわね」

 あたしの軽口をクスリとも笑わずに、彼女は切り出してきた。
 仁美の目を見るのが怖くなって、思わずあたしはあらぬ方へと目を向けて逃げてしまう。

さやか「まぁそのー、腐れ縁て言うかなんて言うか……」

仁美「本当にそれだけ?」

さやか「うっ……」

仁美「私、決めたんですの。もう自分に嘘は吐かないって。あなたはどうですか?」

仁美「あなた自身の、本当の気持ちと向き合えますか?」
449 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/04(木) 19:06:55.96 ID:VbLv+hVIo

 言葉が見つからなかった。
 なにもこんなタイミングじゃなくてもいいのに。
 向き合えるわけなんて、ない。
 自分の身体とすら、まだ完璧に向き合えていないのに。
 気持ちと向き合う余裕なんて、あるわけない。

 その後仁美は、あたしは大切な友達だから抜け駆けも横取りもしたくないとか言っていた気がする。
 あたしには先を越す権利があるとか。
 明日告白するとか。
 一日あげるから後悔しないようにとか。
 気持ちを伝えるべきか伝えないべきか考えてとか。

 多分、そんな内容だったと思う。

 気がついたら仁美はいなくて、あたしは冷めたホットドッグを食べる気にもなれず。
 長い間、本当に長い間、ただひたすらその場でじっと座っていた。

「……修羅場ね」

 帽子を被った女の子が、ボソッと呟いた。
 その通りだった。
450 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/04(木) 19:07:27.59 ID:Ubl2DLx30
上条さんが仁美にフラグを建てればおっけー
451 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/04(木) 19:07:45.79 ID:VbLv+hVIo
以上、ここまで
筋ジストロフィーの件は想像ですので、もしかしたら現実じゃ不可能かもしれません
次の投下は未定
452 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/04(木) 20:27:10.46 ID:waG82qtK0
英国清教の方々はこの辺の恋の悩みの対応はお手の物だろう。
まどマギではさやかには相談できるキャラが居なかったけど、今回は相談役に困らない。痛みが無い状態でエルザ=マリア戦を…杏子、ステイル、ほむらを始めとして痛みを知っているキャラが多いから戦力に困らないから心配は要らないな。
杏子との会話からこのさやか、説教(男女平等)パンチを習得しそう。
453 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/04(木) 20:41:36.37 ID:Y7Hqo9kSO
カエル帽子ってまどかのキャラにいたっけ?
スピンオフ作品のキャラ?
454 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/08/04(木) 20:51:18.00 ID:uLhBXivAO
短髪でカエルと言えばアレだろ
455 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/08/04(木) 21:19:24.09 ID:+TInqaufo
>>453
このスルー力は上条さん的な何か
456 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/08/04(木) 21:28:45.99 ID:58xXOC6D0
それであの幻想殺しの出番はいつかな?楽しみでしょうがないんだが
457 :名無しNIPPER :2011/08/04(木) 22:30:31.03 ID:aJsIKTXAO
上条さんどうしてヘッダ足りなくなってしまったん・・・?
458 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2011/08/05(金) 07:38:31.67 ID:WucIgvyU0
原作は大抵そげぶするだけの簡単なお仕事です位にまで情報纏めてから話持って行くから上条の出番まだ先じゃね
今出てこられても綺麗事言うだけの噛み付き役にしかなれんだろ
459 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/05(金) 08:36:27.42 ID:iGPt5lzIO
上条さん期待されてるな
主人公補正がないとあんまり活躍する見込みはないと思うんだが
460 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/05(金) 09:15:01.83 ID:fxniXslIO
上条さんのファイルは欠損してしまったんや、、、
461 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage saga]:2011/08/05(金) 11:21:50.21 ID:vdEosiKAO
上条さんこれエイワスと同じ域に足突っ込んでね?
邪神を倒すために旧神になったデモベと同じでチート能力身に付けてそう
462 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sagesaga]:2011/08/05(金) 11:42:02.56 ID:foT0KBf10
第2位と第6位ってのは垣根が死んで順位が上がった美琴と軍覇なのだろうか
463 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/05(金) 13:38:36.73 ID:tLy7PcsIO
これは良作
464 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/05(金) 16:54:38.52 ID:wgQKF3GG0
シズル、エルザ・マリア、シャルロットなどの強豪や、明かりの無い状態のズライカとか魔女の能力がフルに出せる状態でぶつかった為に戦死した魔術陣は居ないのだろうか。
群馬県ではなくグンマーだったら現地人との交戦で戦力は魔女以上に消耗しそう。海鮮の缶詰、腕時計を配るかして事前に根回しを済ませないとワルプルギスを越える前に住民に磨り潰される。
465 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/08/05(金) 20:34:12.22 ID:rr6a0blw0
とにかく幻想殺しを出してほしいなってミサカはミサカ頼んでみる!
466 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/08/05(金) 20:54:47.34 ID:+UnGacjw0
消すことしかできない幻想殺しが出たところで状況は好転せんけどなぁ
なんか強化でもされてるなら話は別だが
467 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/05(金) 21:33:41.82 ID:nwSOxiwSO
ステイルにも期待してやれよ…
てかがんばれ、マジがんばれ
468 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/08/05(金) 22:31:21.06 ID:3+C07K74o
ステイルにも、そしてねーちんにも頑張ってほしいって思ってるよ
でもローラ側の動きが不気味なせいで嫌な予感しかしないのも事実
469 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/05(金) 22:37:07.72 ID:PAP9aMw0o
そげぶさんは美味しい所を攫っちまうからなあ。
せいぜいグラビトンの相手でもしてもらうのが一番だ
470 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/08/05(金) 22:40:46.19 ID:TgyH2pWpo
なんか上条さん嫌われてんな(笑)
471 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/08/05(金) 23:18:31.83 ID:+UnGacjw0
戦力が増加したところで、根本的な解決にならないのがまどマギの面倒くさいところ
472 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/06(土) 01:18:26.49 ID:aumcrggIO
>>471
いいとこ突くな。確かに単純な戦力の増強は根本的解決にならない。

個人的には数少ないステイルと魔術サイドメインの良作だと思うから、別に科学サイドを無理して出す必要はないと思うが。>>1が出したい人は別として。
473 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/06(土) 01:34:47.43 ID:BiOO6rsAO
実質的には
ローラ「私と契約して使い魔になってよ(腹黒)」キュウベエ「いいよ(腹黒)」
だけどなwwww

上やんが出ない限りハッピーエンドかバッドエンドかはこいつ次第になりそう
474 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県) [sage]:2011/08/06(土) 03:23:00.36 ID:OzBBdoj5o
でも上やんが出ると何のかも都合良くハッピーエンドになっちゃって話が薄っぺらくなるって言うか面白くないって言うか…
時にはシリアスも必要だし犠牲や苦しみが無きゃ話が濃くならないっていうか…
兎に角主人公みたいな強キャラが真向から事件を解決するんじゃなくて弱いっていうかあまり強くないキャラが頑張って犠牲を出しながらも事件を解決していくのに意味があると思う
475 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/06(土) 07:58:37.49 ID:tIPjnErDO
18万円のあの子達なら説得出来るかも
476 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/08/06(土) 17:47:44.87 ID:vdP/c5lj0
上条出ればワルプルは楽になるけどな
477 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/06(土) 18:04:10.38 ID:t3Tc4nN80
使い魔と暴風を携え現れるワルプルには百合子か黒子と組まないと近寄るができない。
ビルの残骸とか物理攻撃を中心に攻められたら上条さんは詰む。
478 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/06(土) 18:09:27.55 ID:Jnjtlatso
ほむほむと手を繋げば解決……と思ったが、それも無効化されるのか?
479 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/06(土) 18:14:41.32 ID:RkWp48PAo
上条は攻撃を食らいボロボロになりながらも近づいて
ワンパン食らわすほうが似あっている
480 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/06(土) 18:55:58.61 ID:t3Tc4nN80
ワルプルの攻撃は魔法少女じゃなければ下手しなくても潰れたトマトになる。当麻を出す場合、支援役の魔法少女か聖人、超能力者、魔術師がどうしても必要。
481 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/06(土) 19:25:13.06 ID:Jnjtlatso
ビーム的な奴は右手で消せるかもしれんが、ビルが飛んでくるからなぁww
482 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/08/06(土) 20:30:53.30 ID:vdP/c5lj0
まあ上条なら何とかなる←これで片付く
483 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/06(土) 21:54:27.70 ID:wbEcMneDO
ゴルゴにだってねぼしで勝てるとか言い出しかねんな
キモ
484 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/06(土) 22:30:52.22 ID:3uZnYWfIO
そもそも魔女に幻想殺しが発動するかもわからんだろ。SGに触れた場合は契約が消えて魂が解放されて死ぬかもしれんけど、魔女が一つの生物扱いなら消せないぞ。
485 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/08/06(土) 22:36:57.68 ID:IH9/6nUa0
みんな忘れてるかもしれないが
魔法少女のシステム自体は科学だ(QBの)
あとはわかるな?
486 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/08/06(土) 22:38:06.90 ID:0XRVNoARo
超能力だって科学だけど幻想殺しで消えるじゃん
487 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/06(土) 22:47:49.36 ID:kDywZS1AO
超能力は魔術を再現した物だけどな
>>485
このスレじゃ力の質は似てるらしいから消えるんじゃない?
488 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/08/06(土) 22:50:21.18 ID:IH9/6nUa0
>>486
発現させるための手段が科学じゃないの?

まあ少なくとも感情をエネルギーに変えるシステムは完全に科学だし
QBたちの科学技術がすごいだけ
489 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/06(土) 23:39:03.29 ID:t3Tc4nN80
幻想殺しでも命その物は消せない。これは解釈次第だが、結界は”そげぶ”出来ても魔女を消すとしたら魔女を縛り付けている呪いの中枢に触れないと”そげぶ”は無理だと思う。
上条がSGに触れた場合。
解釈次第だけど
肉体無し=魂を縛り付けている願い(呪い)が無くなり成仏
肉体有り=魂が本来の位置(体)に戻る
心肺停止のまま:早めに蘇生処置をしないとあの世行き
魂が戻るので蘇生:普通にハッピーエンド
490 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/07(日) 00:30:32.54 ID:BNhzkKyno
ジェムそげぶしたらあっさり砕けて終わりそう
491 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/08/07(日) 00:34:16.96 ID:HUphSZqj0
魂が肉体に都合良く戻る保障は何もないけどなー
492 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/08/07(日) 01:19:18.99 ID:NFVtD1hAO
くだらない考察はそろそろやめとこうぜ
493 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/07(日) 01:38:10.93 ID:4bj7PFf6o
上条さん人気だなぁ……とりあえずいくつかレス返した後に投下します

>>453
454,5氏の言葉の通りですが、彼女はほとんど活躍しないのでお気になさら


>>462
第三位は旅行中の彼女、第二位は脳を結合して復活した垣根さんのまま
第六位は……誰だろうな

>>464
対馬のように負傷者は出ている、という設定です。
イギリス清教は魔女を結構警戒しているので見敵即殺というよりまず情報を集めて次に包囲して確実に殲滅って感じです

>>466
打ち消しなのか、吸収なのか、中の人が食らっているのか、竜が宿っているのか、結構議論が分かれるところですが
>>1は16巻と一方通行とミカエルと中の人と法の書の記述と各種考察スレにあったレスを参考に勝手に妄想してます

新約二巻で新情報が出て予想と違ったりしたら寝込むかもしれない

>>492
投下のタイミングを読んだ……だと……
494 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/07(日) 01:39:41.92 ID:4bj7PFf6o

 満月の放つ神秘的な光と、街灯のもたらす現実的な灯りを頼りにせっせと“作業”に精を出すのはやはりステイルだ。
 中腰の姿勢を保ちすぎたのか、みしみしと痛む腰に手を当てて彼はゆっくりと立ち上がる。

ステイル「この辺りはこれぐらいにしておくかな……」

ステイル(いやはや、ノルマの十分の一も終わってないのにこれとはね……“散歩”の頻度をもっと増やそうかな)

 自虐的な笑みを浮かべて、彼は近くのマンション、その入り口に目を向けた。
 ちょうどさやかが出てきて、彼女を待っていたまどかが声をかけるところだった。
 すっかり彼女らのボディガードに成り下がってしまったなと思いながら、彼は気配を殺してゆっくりと歩み寄り。

――あたしにはそんな価値なんてないのに

 そんな言葉を、聞いた。

ステイル(なにかあったな……)

 そんなことを考えつつ、傍に近寄って聞き耳を立てる。
 どこの変質者だ、おい。内心で自分に突っ込みを入れながら、彼は彼女らの会話に耳を傾けた。

――後悔しそうになっちゃった

――あの女の子のために契約なんてするんじゃなかったって、ほんの一瞬だけ思っちゃった

――正義の味方失格だよ、マミさんに顔向けできない

 咄嗟にステイルの脳裏を過ぎったのは、巴マミとの会話だった。
 確かあれは、彼女をマンションまで送る時に交わしたものだったか。
495 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/07(日) 01:40:41.73 ID:4bj7PFf6o

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ステイル「万が一魔女との戦いで死に瀕したとき、救った相手を恨まない自信はあるのか……かい?」

マミ「あら……乙女の言葉を先取りしちゃうだなんて、あんまり感心できないわよ?」

ステイル「それは失礼。だが彼女だって最低限のことくらいは分かっているはずだよ
       誰かの幸せを祈ったからって、誰かを恨むほど落ちぶれちゃいないさ……付き合いは短いけどね」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 あの時想定したものとは微妙に異なるシチュエーションだが、なるほど。
 やはり自分は愚か者のようだ。
 ただの少女に、高望みし過ぎた。

さやか「仁美に恭介を奪られちゃうよぉ……!」

 まどかの肩にしがみつきながら、さやかが何もかもを吐き出すように言った。

さやか「でもあたしなにも出来ない! だってあたし、もう死んでるんだもん……! ゾンビだもんっ……!」

さやか「人間じゃないから……! こんな体で抱きしめてなんて言えない……キスしてなんて言えないよぉ……!」

 ぼろぼろと涙を零しながら、さやかはどうにもならない現実に傷付き慟哭する。
 その様子を見ながら、ステイルは頭の中で『人間』と『魔法少女』の差異について考え込んでいた。
496 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/07(日) 01:41:10.14 ID:4bj7PFf6o

ステイル(皮膚は人間の物で、臓器も人間の物、髪も骨格も歯も舌も、何もかも人間の物だ)

ステイル(人間と違う点があるとすれば、ただ一つ)

ステイル(不可視の物であるはずの魂が具現化し、生命機能の維持をそれに頼っていて、それ無しでは生きられない……)

ステイル(それから送り込まれる魔力がなければ、ただの亡骸に変わってしまう点、たったこれだけだ)

ステイル(逆に言えば、ソウルジェムさえあれば魔法少女は人間と変わらない……)

ステイル(いや待てよ?)



ステイル(……そもそも、人間(ヒト)でなきゃいけない理由はなんだ……?)
497 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/07(日) 01:42:43.88 ID:4bj7PFf6o

 彼の知る“少年”は“友達”が単なる『物理現象』だと知って多少動揺したものの、
 恩師の言葉を受けてその身を奮い立たせ、友達のためにシェリー=クロムウェルに立ち向かったという。

 例え物理現象の結晶だとしても、その友達に意思があるのであれば。
 その友達を助け出したいと思うことが、出来るのであれば。
 それで十分なのではないか?

ステイル(いや……そんな簡単な問題じゃない、か)

 “彼”のような例を挙げて、彼女を励ますことは容易だった。
 彼女が受け止める側ならば、ステイルの言葉を受けて彼女は我に返り、全てを受け入れるだろう。

 だが、出来ない。正確に言えば。励ますことは出来ても彼女の想いは変わらない。

 なにせ現実を受け止めるのは彼女ではない。上条恭介なのだ。
 そしてさやかは、そんな非情な現実を彼に押し付けることが出来るほど無責任でもなければバカでもない。
 それに――

ステイル(相手が事実を知ったときの反応が怖い、か。僕にも似たような経験があるから気持ちは分かるがね……)

 現実とはそう上手くいかないものだ。
 いくら“彼”と同じ苗字とはいえ、上条恭介に同じメンタルを要求するのは酷だろう。
 自分には手出し出来ない問題、という結論に至り、ステイルは眉をひそめて呟く。

ステイル「単なる恋愛相談なら楽、でもないが……いやはや、思ったよりも事情は複雑だね」
498 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/07(日) 01:43:10.05 ID:4bj7PFf6o

 そして。

 今日も。

 美樹さやかは戦う。

 魔女を倒すために。
499 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/07(日) 01:43:41.53 ID:4bj7PFf6o


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

『あの竜の形の触手は厄介だが、僕の魔術があれば安心して近づける。とりあえず君は守りを――』

『あんたは黙って見てなさい』

『――そうかい』

『そうよ。魔女を狩るのは、あたしの役目なんだから』

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

『まったく、見てらんねぇっつーの。いいからもうすっこんでなよ、先輩こと杏子さんが手本を見せてやるからさ』

『邪魔しないで……』

『お、おい!』

『一人でやれるわ……』

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

.
500 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/07(日) 01:44:35.00 ID:4bj7PFf6o

――圧倒的なまでの自己治癒能力と痛覚を遮断した“強襲戦術”によって、さやかは魔女を圧倒。
 ステイルの手を借りず、杏子の助けも跳ね除け、力押しによる一方的な蹂躙をもってして魔女を討伐した。

まどか「さ、さやかちゃん……!?」

 変身を解いたさやかが、ふらっとまどかに寄りかかった。

まどか「さやかちゃん!?」

さやか「ああごめん……ちょっと疲れちゃった……とにかく、帰ろ?」

 まどかに捕まりながら帰ろうとするさやか。
 しかしステイルはそれを遮るように彼女の肩を掴んだ。

ステイル「とてもじゃないが見てられないね。君はしばらくじっとしていた方が良い」

さやか「……うっさいわね、帰れるって……」

 強情なさやかを見て、ステイルは呆れたようにため息を吐くと懐からルーンのカードの束を取り出した。

ステイル「悪いがそんな状態で帰ってもらうと心配で心配で胃がムカムカしてしまうだろうが。だからとりあえず君は――」

ステイル「――僕の都合で捕縛されててくれないかな?」

さやか「え?」

 ステイルの手元からカードが飛び立ち、瞬く間にさやかの身体を拘束した。

さやか「なっ……!?」

 “魔導図書館”を相手にした時はそれほど長く持たなかったが、今度の相手は疲弊した少女。なら話は別だ。

杏子「おいお前!」

まどか「ステイル君!? なにしてるの!?」

ステイル「なにって……」

 タバコを取り出して火をつけながら、彼は首をかしげて答えた。

ステイル「治療だよ。精神(こころ)の方の、ね」
501 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/07(日) 01:46:04.01 ID:4bj7PFf6o

 さやかの身体に巻きついたカードから、炎が溢れ出た。

さやか「ひぃ!?」

 それは瞬く間にさやかの顔の周りに燃え広がると、容赦なく彼女の周りにある酸素を燃焼させていく。
 その結果。

さやか「うあっ……」

 驚くほどあっさりと、さやかは酸欠状態に陥って失神した。
 奇跡的なことに、火傷の後は一切見られない。
 灰の方も、恐らくは無事だろう。

杏子「てんめえええぇぇぇぇッ!!」

 怒りを露に、杏子が槍を構えて突っ込んでくる。
 だがその矛先はステイルの身体に突き刺さる寸前、横合いから飛び出した長大な剣――フランベルジェによって遮られた。
 剣をその手に握るのは、天草式十字凄教の元教皇代理、建宮斎字である。
 ここはビルの屋上だというのに、どうやって隠れていたのやら。

建宮「多少手荒とはいえ、真面目に治療するつもりなのよな。分かったら槍を収めてくれると嬉しいんだが」

杏子「……どけ。でないと殺すぞ」
502 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/07(日) 01:47:04.31 ID:4bj7PFf6o

 ぎりぎりと火花を散らす二人を尻目に、ステイルは困惑しているまどかに近づいてそっと問いかける。

ステイル「美樹さやかのソウルジェム、どれだけ穢れていたか覚えているかい?」

まどか「え? あっ、えっと確か……二割くらい、かな?」

ステイル「上等だ。天草式、彼女に治癒魔術を」

 ガキン! と鈍い音を立てて杏子が後ずさった。

 それは決して怯えから来る物ではなく、いつの間にか周囲に現れた大勢の人間を警戒してのことだった。
 各々の獲物を構えて、二十人近い老若男女が杏子を取り囲むように陣を形成している。
 構図だけなら完全に悪の下っ端だ。

建宮「精神力の回復を重点的に……五和、やれるか?」

五和「任せてください」

 建宮の問いに、大衆から離れてさやかの身体に近寄る五和が頷いてみせる。彼女を守るようにステイルが前に出た。
 それを確認すると、建宮は薄ら笑いを浮かべながら目の前の少女の方を向く。

建宮「うっし……さてと、そんじゃお嬢ちゃん? 俺と一曲いかがよな?」

杏子「お前じゃ役不足だ。すっこんでろバカ」

建宮「自分で使う言葉の意味くらい、きちんと辞書で調べた方が賢くなるのよなぁお嬢ちゃん!」

 二十人からなる天草式十字凄教の面々と、たった一人からなる魔法少女が真正面からぶつかり合う。
503 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/07(日) 01:48:07.61 ID:4bj7PFf6o

――時を同じくして、その様子を建設途中のビルから眺めていたほむらはうんざりした顔で舌打ちをした。

ほむら「無駄なことを……どうせさやかは……」

 苛立ちを隠さず、目の前で繰り広げられる壮絶な争いに対して吐き捨てるように彼女は言った。
 諦めてしまえばいいのに、と言ってからほむらはその場を立ち去ろうとするが、
 それを阻むように、息を荒くした黒衣の女――シェリー=クロムウェルが彼女の前に立ちふさがった。

シェリー「ふぅ……よぉやく見つけたぜクソガキ……」

ほむら「……あなたは“何”かしら?」

 ほむらの短い問いに、シェリーは鼻を鳴らして口を開いた。

シェリー「美術講師兼魔術師よ。手短に言いましょうか、知ってることを洗いざらい話しやがれ」

ほむら「二面作戦にしては下手ね。それにあなたたちに話すことなんて何もないわ」

シェリー「これは私の独断よ、クソッタレが。組織の意思は確証待ち……だから確証が欲しくてやって来たの」

シェリー「そういう訳だから話してくれないかしら? ソウルジェムと、魔法少女と、魔女の関係を」

ほむら「話したって、何も変わらない。だから話す気はないわ」

シェリー「そうかよ……だったら身体に聞くまでだああぁッ!!」

 シェリーが建材に何かを描いた。
 するとほむらの立っていた地面が突然隆起し、巨大な手の形となり彼女の身体を掴み取る。

ほむら「なっ……!」

シェリー「種は分からねぇが、どんな嫌がらせが効くのかは調べが上がってるのよ。捕縛されたら能力は使えねぇんだろ?」

シェリー「話せ」
504 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/07(日) 01:49:23.09 ID:4bj7PFf6o

 シェリーの言葉を頭の中で吟味しながら、彼女は拘束が若干緩いことに気がついた。
 甘いのか、優しいのか。いずれにせよ、これを見逃すほどほむらは愚かではない。

ほむら「手榴弾って知ってるかしら?」

シェリー「なに――」

 シェリーがアクションを起こす前に盾から手榴弾を放り、次に盾からずり落とした大口径の拳銃をその手に握り締めた。
 手榴弾が地面に着地したと同時に無造作に引き金を絞る。銃弾が手榴弾の外装を突き抜けた。
 すぐさま小規模の爆発と共に、多数の破片が飛び散る。
 衝撃のエネルギーと飛び散った破片をモロに受け、地面から伸びた巨大な手が根元から崩れ落ちた。

 その隙を突いて、拘束から逃れたほむらが“魔法”を発動させる。

シェリー「爆発!? いつのまっ……ぐぇ!?」

 “魔法”を使ってシェリーの懐に潜り込んだほむらが、彼女の鳩尾に拳をめり込ませた。

シェリー「ッ〜〜〜〜!? あっ、はっ、かはっ……!?」

ほむら「私なら全身の骨を砕いてでも口を割らせていたわ。あなたの負けよ」

 地面に這い蹲るシェリーに背を向けて、再び立ち去ろうとする。

シェリー「まっ……だだクソッタレがあああぁぁぁああ!!」

ほむら「!?」
505 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/07(日) 01:51:02.52 ID:4bj7PFf6o

 その背中目掛けて、魔術もなにもかもをかなぐり捨てたシェリーが右の拳を繰り出した。
 だがほむらは紙一重でそれを回避すると、続けざまに繰り出された肘鉄をあっさりと右手で受け止める。
 そのまま軽く捻って、押しては戻し、足払いをかけて再び地面に這い蹲らせた。

シェリー「ッ……!?」

ほむら「愚かね」

 ギリギリとシェリーの身体を押さえ込みつつ、その首筋に狙いを狙いを定める。

シェリー「……頷くだけで良いんだ」

ほむら「……何のこと?」

シェリー「キュゥべぇじゃなく、事情を知ってる魔法少女の言葉なら……あの性悪女……最大主教だって納得するのよ」

シェリー「たったそれだけで、イギリス清教……いいや、イギリスという国一つが動くんだよ! 貴方達を救うために!!」

 左手に握った拳銃を、頚椎のある辺りに突きつける。
 引き金を絞れば、すぐに息絶えるだろう。ショックで気を失うだろうから、苦しむこともない。
 しかし――

ほむら「魔法少女(わたしたち)は、あなたたちに救ってもらわなきゃいけないほど弱くない――!」

 ほとんど反射的に、ほむらはシェリーの言葉に反論していた。

シェリー「なっ……」

 言葉を失ったシェリーの首筋に盾を叩き込んで昏倒させる。
 たとえあの“魔法”を用いずとも、魔法少女と人間とでは地力が違いすぎるのだ。

ほむら「……」

 動かなくなったシェリーの身体から離れると、ほむらは少し迷ってから口を開いた。

ほむら「これは独り言だけど……」

ほむら「魔法少女が絶望すれば、ソウルジェムは呪いを産み、穢れてゆく。そしてソウルジェムが黒く染まる時」
506 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/07(日) 01:51:28.85 ID:4bj7PFf6o

ほむら「魔法少女は、魔女になる」

 はっと息を呑む音がする。
 建材の影に身を潜めている修道女――オルソラ=アクィナスから漏れたものだ。
 彼女はゆったりとした動作で影から出てくると、ほむらの背中に視線を送った。

ほむら「……」

オルソラ「その方は、今は亡き友のために全てを賭ける、といった信念をお持ちなのでございます」

ほむら「……」

オルソラ「同時に、最大主教様の命に従い、イギリスのために動くという信念もその身に備えておいでなのでございます」

オルソラ「その方の行動は、無数の信念を持つが故にいつもどこか矛盾していますが……」

オルソラ「その方が……シェリーさんが無数ある信念のすべてを振り切ってまで貫き通した想い……」

オルソラ「多少なりとも受け取って頂けたのでしたら、私は感謝で言葉も出ないのでございますよ」

 言葉も出ないと言いながらよく喋るシスターだ。
 ふん、と鼻を鳴らすと、その声に応えることなく、ほむらは再び“戦場”へと目を向けた。
 なにやらあちらでも壮絶な展開になっているようだったが、ほむらには関係ない。

 どうせ今回の“独り言”だって、単なる気まぐれに過ぎない。

ほむら「まどかさえ傷付かなければ、私には関係ない」

 まるで自分に言い聞かせるように呟くと、彼女は地面を蹴って闇夜に姿を消した。
507 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/07(日) 01:52:14.33 ID:4bj7PFf6o

――おかしい。こいつらは妙だ。

 レイピアや日本刀、メイス、ハルバード、ロングソードに短剣などなどレパートリーに富んだ天草式の得物を槍で弾きながら、
 杏子は彼らの動きの中に盛り込まれた違和感を嗅ぎ取っていた。

建宮「はっ!」

 建宮を名乗る長身のクワガタみたいな髪形をした男が、杏子の死角を突いて迫り来る。
 しかし彼女は槍の節々を鎖状に引き伸ばしてそれを迎撃。だが建宮は止まらない。
 杏子の反射神経を上回る速度を以てフランベルジェを巧みに操り、槍を絡め取って見せた。
 無論それも想定済みだ。杏子は一度力を抜き、緩急をつけて槍を振り回すことで彼を揺さぶる。

建宮「ぬぁっ!?」

 建宮がみっともなくよろめいて、地に膝を着いた。
 その隙だらけの背中に蹴りを叩き込もうとする、が。

牛深「ぬんっ!」

 横合いから飛び出してきた、牛深と呼ばれる大男が二人の間に立ち入りそれを阻んだ。

杏子「チッ」

 短く舌打ちすると慣れた仕草でバックステップ、一度槍を消滅させて手元に再生させる。
 だが牛深は止まらない。先ほどまでとは違って機敏な動きで杏子に近づき、手に持ったハルバードを大振りする。
 それによって生じた衝撃波を身に受けて、彼女はわずかに後ずさりした。

杏子(まただ)

 そう。また、だ。また“強くなった”。

 牛深が再びハルバードを振り上げた。即座に姿勢を立て直し、ハルバードを槍で弾く。
 さらにその反動を利用して槍を一思いに薙ぎ払い、敵に間合いを取らせた。
 一定の距離を置いた状態で、杏子は槍を肩に当てて値踏みするような目で彼らをじろじろと見た。

杏子「なーんか変なんだよなー。あんたら、なんか変な手品でも使ってるワケ?」

 杏子の問いに、天草式の面々の身体が一瞬だけ強張った。
508 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/07(日) 01:53:29.21 ID:4bj7PFf6o

杏子「一人を中心にみんなでカバーしてると思ったら、今度は別のヤツが中心になって捻じ込んできて」

杏子「その隙を突いて別のヤツがまた中心になって突っ込む……なになに、もしかして補助魔法の掛け合いとか?」

建宮「さて、どうでしょうってとこなのよな」

杏子「やめてくんない? そういうの。興が殺がれるってヤツ?」

 チャキ、と。
 杏子が槍を手にする。
 対する天草式の代表格、建宮は余裕の表情を崩さずに口を開いた。

建宮「それ以上戦って平気なのかね、お嬢ちゃん。ソウルジェム、だーいぶ穢れてる頃合のはずなのよな」

 こちらの消耗具合は調査済みというわけだ。
 舌打ちすると、たっぷりと余裕のある動作で首もとのソウルジェムを左手に移す。

杏子「おお、ホントじゃーん。こりゃあアタシもちょっとはやばいかなー?」

建宮「ふぅ……だったら落ち着いて話をしようじゃないのよ」

建宮「俺たちも、あの神父も、別にお前らに危害を加えるつもりじゃ――」

 建宮の言葉は、それ以上続かなかった。
 杏子が、グリーフシード……
 先ほどさやかから受け取ったばかりのそれを使って、ソウルジェムの穢れを取り除いたからだ。

杏子「あのさぁ、いまさらはいそーですかってなると思うわけ? えぇ?」

 杏子の目には、建宮達が焦っているように映った。
 恐らく先の補助魔法はそこまで便利な物ではないのだろう。だからこそ最初から全力で畳み掛けて来たのだ。
 こちらが満足に戦えなくなるのを狙って。だがその目論見はあっさりと破れた。

 獲物は選り取り見取り。
 獰猛な獣と化した杏子が、舌なめずりをした。

杏子「第二ラウンド……始めちゃうよ?」
509 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/07(日) 01:54:13.88 ID:4bj7PFf6o

――建宮斎字は焦っていた。
 どうしようもないほどに焦っていた。

杏子「アハッ!」

 杏子が繰り出す突きを剣で捌こうとするが、身体が追いつかない。槍の切っ先が頬を掠め、血飛沫が舞う。

建宮「くっ……!」

 無理もない、と建宮は苦しみを隠そうともせずに顔を顰めた。
 『後方のアックア』と呼ばれる聖人に多少なりとも噛み付くことが出来たのは下ごしらえがあったからだ。
 予め学園都市のどこに『脈』と呼ばれる力が溢れるポイントがあるかどうかを調べ上げ、運良く彼がそこに居たというのもある。
 だが今回は違う。敵は運悪く『脈』のポイントに居らず、こちらも戦闘する気がなかったがために軽装だった。

建宮(にしたって回復されるとは思わなかったのよな……)

 先ほどまでの的確な動作から打って変わって、杏子がでたらめに槍を大振りした。
 それによって生じる決定的な隙を突こうと、杏子と同程度の年齢である補助役の香焼が突っ込む。
 罠だ。手を伸ばす。遅すぎる。間に合わない。

杏子「甘ぇんだよっガキンチョが!」

香焼「げふっ――!?」

 反対側に回るようにして伸ばされた槍の柄が、成長途中の幼い身体を捉えた。
 彼はそのまま数メートルほど転がっていき、柵にぶつかって止まった。身を投げ出されなかっただけマシだろう。
 香焼の回復のため、対馬を中心に三名が戦線を離脱する。すぐさまその穴を埋めるために陣形を再構成。
 しかし相手は待ってなどくれない。槍を巧みに操って、さらに二名を吹き飛ばす。

建宮「やり過ぎなのよなぁ!!」

 咄嗟に叫ぶが、杏子ははんっと笑い飛ばして槍を構えた。

杏子「戦場にやり過ぎなんて言葉はねーんだよ、トーシロが!」

建宮(こんのクソガキ……ッ!)
510 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/07(日) 01:55:37.62 ID:4bj7PFf6o

 叫ぼうにも、彼女が繰り出す斬撃を捌くのに精一杯で声に出す余裕すらない。

建宮(子供相手にこれはあんま使いたくなかったが……仕方がないのよな!)

 得物であるロングソードを砕かれた若い男、野母崎が建宮の背中をさすった。身体強化の魔術である。
 それによって体調を取り戻し、一時的に身体機能を増強させた建宮がフランベルジェを薙ぎ払って間合いを確保する。
 すると動ける天草式の人間全員が、建宮に倣って杏子との距離を置いた。

杏子「あん?」

 建宮がおもむろに、左手をすぅっと動かした。
 他の者もみな、それぞれ時間差で空いた手を動かす。
 次の瞬間。十四人の指から放たれた極細のワイヤーがキラリと輝き、目にも止まらぬ速さで地を走った。

杏子「なっ――!?」

 それは七教七刃と呼ばれる、ワイヤーを駆使した斬撃。
 本来は人体をズタズタに切断する、必殺の類の攻撃である。それを十四人全員が一斉に放ったのだ。
 多少加減はしているし、魔力で身体を強化しているとはいえ流石の彼女も無事では済まないだろう。

建宮「治癒魔術で治してやるから許しておくれよな?」

 勝者特有の、勝ち誇った笑みを浮かべて、建宮が言った。

 そしてあっという間にワイヤーが杏子の足元まで辿り着き――
511 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/07(日) 01:56:14.24 ID:4bj7PFf6o



杏子「悪いんだけどさぁ」

杏子「その技、もう見切ってんだよね」


 勝者特有の、勝ち誇った笑みを浮かべて、杏子が言った。
 ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨


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512 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/07(日) 01:56:49.61 ID:4bj7PFf6o

建宮(あり得ない……!!)

 加減したとは言え、建宮たちが放ったワイヤーは確かに杏子の身体を捉えていた。
 鍛錬に鍛錬を重ねた彼らが放つそれは、屈強な騎士ですら逃げ切れず、抗う間もなく倒れるほどの代物である。
 だが、彼女は。

杏子「神裂って言ったっけ? あのオバサンのやつに比べたら微妙に遅いし甘いんだよねぇ」

 一人7本、十四人で98本のワイヤーの網にある、ほんの僅かな隙間を。
 それこそ“縫うように”潜り抜けて、回避した。

 あるいは、加減しなければ結果は違っていたのかもしれない。
 あるいは、彼らがフルメンバーだったなら結果は違っていたのかもしれない。
 あるいは、『後方のアックア』と戦った時のように『脈』の恩恵を受けていれば結果は違っていたのかもしれない。

 しかし結果は変わらない。
 現に彼女は“必殺の十四撃”をかわし、牛深を薙ぎ払い、野母崎を蹴り飛ばしている。

建宮(いやいや、これはさすがに……)

 殺す気で行かねば、殺られる。
 そこで建宮は、かぶりを振って考えを改めた。

建宮(それじゃ本末転倒も良いとこよな! 第一、それじゃあ女教皇様に会わせる顔が無い!)

 だが、どうやってこの状況を打開する。
 杏子の槍、その矛先が目前に迫る。瞬きする余裕さえ与えられない猛攻。建宮は次に襲い来るであろう痛みを覚悟した。

 が。

ステイル「やりすぎだよ――どちらがとは言わないけどね」

 ステイルが地面に仕掛けたルーンのカードが、彼らの間に炎の壁を作った。
513 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/07(日) 01:57:28.49 ID:4bj7PFf6o

ステイル「さてと。佐倉杏子、それ以上彼らを苛めないでやってくれるかな?」

杏子「あぁ? 元はといやぁテメェのせいだろうが!」

 タバコを咥えたステイルを睨みながら杏子が吼える。
 彼は涼しい顔でそれを受け流すと、黙って倒れているさやかを指差した。

ステイル「事情を説明するのが遅れたが、彼女ならもう大丈夫だよ。元通り、さ」

杏子「……あん?」

 警戒を解かずに杏子がさやかの傍に歩み寄った。
 すやすやと寝息を立てるさやかの顔は、杏子の助けを断った時よりもずいぶんと安らかに見える。
 汗をだらだらと流した五和が、優しい目をして杏子を見る。僅かに微笑んで、口を開いた。

五和「あなたたちの身体は、ソウルジェムから供給される魔力で動いてます……でもそれって、ごく僅かの魔力なんです」

五和「その……だから、精神の回復に回すだけの力がないんですよ。だから立ち直れなくなっちゃう……と言いますか」

五和「先ほど彼女があなたたちに対して辛く当たったのは、それが原因です。文字通り、余裕が無かったんですよ」
514 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/07(日) 01:59:00.31 ID:4bj7PFf6o

五和「ですので私の生命力を魔力に変えて彼女に注ぎ込むことで精神を安定させまして……
.     ええと、それから精神(こころ)の回復を促進させました……その分、私が疲れちゃいましたけどね」

五和「あ、でも後悔はしてませんよ? こんなの寝れば元通りですから!」

 笑いながら足を伸ばし、五和はどこからか取り出したおしぼりで汗を拭った。
 視界の端で建宮がガッツポーズしているが、ステイルはこれを無視。

 黙ってさやかを見下ろしている杏子の肩に手を置いて、静かに語りかける。

ステイル「僕たちは、君たちの、味方だ」

 ぎゅっ、と。
 今までさやかを見守っていたまどかが、杏子の手を握った。
 先ほどまで熱戦を繰り広げていた建宮たちが、真っ直ぐな目で杏子を見つめた。
 その視線に、悪意はない。敵意もない。
515 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/07(日) 02:00:09.14 ID:4bj7PFf6o

「正義の味方を気取るつもりは、毛頭ないのよな」

 へへっと笑って、建宮が言った。

「上から目線で救ってやる、なーんてのたまうつもりもないすよ」

 痛む脇腹に手を当てて、香焼が言った。

「どう受け取ってくれても、構わないんです。そんなこと、どうだっていいんです」

 対馬の手を借りてよろよろと立ち上がりながら、五和が言った。



「それでも、君たちを助けたい」

 皆を代表するように、ステイルが言った。
516 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/07(日) 02:00:49.10 ID:4bj7PFf6o

「……チッ。あーくっせぇ! くせぇくっせぇ!」

「……こんな良いヤツラがいるなんて、聞いてねーぞ。不公平じゃねーか、おい」

「つーかさぁ」

「みんなと一緒に幸せになれる姿を見せてやる! とか言ってたやつがぐーすか寝てるって、どうなのよ?」

「割とマジメに心配してたアタシが馬鹿みたいじゃん?」

 笑って、杏子が変身を解いた。

 それが彼女なりの、彼らに対する精一杯の“ありがとう”だった。
517 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/07(日) 02:01:23.37 ID:4bj7PFf6o

――イギリス 聖ジョージ大聖堂

ローラ「魔法少女が魔女になりける、という言質は得た。見滝原の魔法少女との和解も、大概上手く行った」

ローラ「されど」

 そこでローラは言葉を切って目の前に居座るキュゥべぇに視線を向けた。
 頬を膨らませて、口を尖らせる。

ローラ「大勢は動かず……ね」

QB「不満そうだね。せっかくあの杏子を味方に出来たんだから、もっと喜ぶかと思ってたけど」

ローラ「肝心の暁美ほむらがこちらの手中に収まらなければ、まるで意味はなし……シェリーの“成長”は褒めたるけれどね」

QB「確かに彼女の力は異質で強大だけど、そこまで欲しがるほどのものかな」

ローラ「色々とありけるのよ、色々と、ね」

 手元のグラスに目を落として、ローラは悩ましげな声で言った。

QB「ふぅん」

 そのまま時間の流れに身を任せていると、卓上の携帯電話がプルプルと震え出した。

ローラ「おっと、携帯デンワーが着信音を鳴らしたりているわね。さてさてどうしたりければ良かったかしら☆」

QB「……えぇー、何度も使っておいていまさら機械音痴アピールは無理があるとおも」

ローラ「ぽちっとな。もしもーし、こちらはイギリスはロンドン、聖ジョージ大聖堂の最大主教なりけるのですけどー」

神裂『……あの、いい加減そのバカみたいな電話の出方止めてもらえませんか?』

ローラ「ひ、ひどい! これほどまでに自身の立場を明確に出来たる答え方はなきにけるでしょうに!」

神裂『いや、携帯電話なんですから相手の立場くらい分かってますって』
518 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/07(日) 02:01:50.41 ID:4bj7PFf6o

神裂『ともあれ……これであなたも動かざるを得なくなりましたね』

ローラ「……なんのことかしら」

神裂『確証無しには動かないその癖、どうにかならないのですか?』

神裂『“あの少年”は、確証があろうとなかろうと自分の意思のままに突き進んでいたと思いますが』

ローラ「それはそれ、これはこれよ。まぁ、善処はしたりけるわ。これで良い?」

神裂『……そのお言葉、どうか忘れないように』

ローラ「そちらも善処するわ」

 プツッ、と通話が途絶える。

QB「部下にも言われてるね」

ローラ「まったく、人の気も知らずに言いたる者は楽で良きね……いや、待てよ?」

ローラ「“アレ”は確証無しでは代償が大きすぎたる……しかし……ふむ」

 そう言って、彼女は顎に手を当ててなにやら黙々と思考に没頭し始める。
 キュゥべぇがやれやれ、と首を振ると、ローラがいきなり顔を上げて立ち上がった。

ローラ「そう、確証が無ければ実証してしまえば良きにけるのよ! ふふ、こんなにも簡単だとは思わまじね!」

QB「何の話だい?」

ローラ「色々、よ。ところでキュゥべぇ、裏切り行為がどれだけの絶望を産むかテストしてみたいとは思わなきに?」

QB「出来るならね。でもまどかは契約してないし、そもそも一度裏切ったら二度目は無いということを忘れたのかい?」
519 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/07(日) 02:03:12.08 ID:4bj7PFf6o

 ちっちっと指を振って、ローラは楽しげな笑顔を浮かべた。

ローラ「絶望するのは、鹿目まどかではなし」


ローラ「美樹さやかよ」


 当たり前のことのように、ローラは平然と言ってのけた。
 よほど嬉しいのか、あるいは楽しいのか、その場でひらりと一回転。

QB「興味深いね。どうやって絶望を与えるんだい?」

QB「精神が安定している今の彼女は、君の部下を大層信頼しているはずだよ」

ローラ「ふふん。だから見せたれば良いのよ。失望せざるを得ないような姿を、ね」

 すると彼女は机の上に置かれた紙の束の中から一枚を抜き取り、キュゥべぇの目前に投げた。

ローラ「厄介な魔導書――の、悪質なコピーを手にした魔導師が、見滝原市に潜伏したりている情報が明らかになりてね」

QB「それで?」

ローラ「その魔導師は、己の欲のために数十人という罪無き人間を毒牙にかけ、その者たちの人生を台無しにしたりている」

ローラ「だから」

ローラ「誇り高きイギリス清教の魔術師は、次の被害者を出す前にその者を殺す」

 笑っている。

ローラ「さてさて。その一部始終を、事情を知らなし美樹さやかが見ればそれは単なる集団私刑」

 清教派の頂点は、笑っている。

ローラ「彼女の目には、ただの人殺しとしか映らない」

 イギリス清教の三派閥全てを牛耳る最大主教は、笑っている。

ローラ「さぞ失望し、疑心暗鬼に陥って挙句の果てには盛大に絶望したりけるでしょうね?」

 ローラ=スチュアートは、笑っている。
520 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/07(日) 02:03:42.06 ID:4bj7PFf6o



ローラ「――美樹さやかには魔女になってもらいたるわ」

 女狐は、笑っている。


.
521 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/07(日) 02:08:49.13 ID:4bj7PFf6o
以上、ここまで。
どういうことだおい……こいつ(ステイル)話をこんがらがしてるだけじゃねーか!
ということで、今回のくだりは臭かったので頑張って消臭したつもりがこれまた臭くなってしまった

一応上条さんの出番もあるにはあるのですが、そんなに活躍しないというか、むしろ手助け程度というか……
書き溜めが完全に0の状態なのでどうなるか不安(推敲時間を削っているので)
次回の投下は二日後か三日後で
522 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/07(日) 04:08:59.93 ID:BNhzkKyno
乙。ジェム浄化しても全然安心できないさやか流石だな
523 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/08/07(日) 05:14:04.64 ID:KY/Kc7kEo
乙!
そういえばもうすぐ新訳2巻とステイルss発売だな
524 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/07(日) 09:08:59.58 ID:4bj7PFf6o
あっと誤解を生みそうなので説明しておきますが、あくまで五和は精神の疲労を取り除いただけでジェムは浄化してません
失礼いたしました
525 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/07(日) 09:28:57.43 ID:Oloa7caSO
>>1乙!
上条の出番はそれくらいで良いと思うよ!
526 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/07(日) 09:52:46.82 ID:2xAyqRWSO
同意

無理に出しても質の悪いデウスエクスマキナにしかならない
527 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/07(日) 09:54:12.63 ID:2xAyqRWSO
同意

無理に出しても質の悪いデウスエクスマキナにしかならない
てか誰かさやかを救ってくれ、上条(バイオリン)は何やってんだ
528 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/07(日) 09:54:52.06 ID:2xAyqRWSO
書き込めてた……だと……
529 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/07(日) 10:24:24.82 ID:SQxaAT1s0
どうなっても安定のさやか・・・
恭介と仁美をいちゃつかせる。助けた子が親の虐待で死亡とか、別に他所から魔術師を連れてこなくてもさやかを絶望させる手段は溢れている。エルザ・マリア戦では黒い痛み(絶望?)をすでに知っているから、誰かに仁美の悩みを聞かせて恭介との仲を取り持たせる程度でも充分だと思う。
QBは「今のさやかなら集団リンチを見せ付けなくても充分落せるのではないかな。発想が暴力的だよ」とか考えていそう。
530 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山形県) [sage]:2011/08/07(日) 12:16:08.44 ID:dFigKDRKo
どうあがいても絶望か
安定さやかすぎるだろ
531 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/07(日) 12:47:45.23 ID:I1d5/tNFo
>>527
ごく普通に生活してるんじゃね?
恭介はさやかのキーパーソンだけどすんげー蚊帳の外なのよな
532 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/08/07(日) 14:32:07.62 ID:/QeG+KY20
上条は自分の意見を押し付けているだけだからな
極論だけど
説教を仮にしたとしてもまどマギキャラが大きく揺れるかは微妙
QBの場合だとそもそも説教が効くわけないw
533 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/08/07(日) 14:55:23.91 ID:/QeG+KY20
>>532追記
ここでのまどマギキャラはこのスレで今現在生存しているキャラ
534 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/07(日) 14:58:15.32 ID:BNhzkKyno
他のSS見た感じ、対さやかに関しては絶好の好相性だぞ。

あらゆる助言に耳を貸さないリア中さやかvs押し付け独善厨房上条
より厨房な方が勝つ。よって上条有利。
男女問わずとりあえず殴っとけみたいなノリも相性が良い。

まぁ今回はチョイ役程度のようだが、誰かが代行でそげぶする展開もアリだ
535 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/08/07(日) 19:55:54.19 ID:478fb+0p0
超能力は魔術を再現した物、QBの科学は魔法を再現した物じゃないのか?
536 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/07(日) 21:14:24.04 ID:b8i5Ru2SO
さやか「絶望した!一切自重しない変態に絶望した!」

・まどかちゃんの腸液飲みたいよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
・直腸は僕に任せてください!!
・俺の股間の飴玉も幸せの味がするよ
・いや、俺一般人だし
・俺の親はこのアニメを見せるために俺を生んだんじゃねーのか
・まどマギOVAまで倒れるわけには逝かねえ
・あんなのはヘタレじゃない 本当のヘタレってのを教えてやりたいっすね
・職質3回だけは前科持ちじゃねえよ!!
・女物の服が家にあって何が悪い!
・こんなアニメ見てるの知ったら親が泣くな
・乳首はもう見飽きてるんだよ!!!!
・パンチラ程度は規制対象外だ!!!!!!
537 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/07(日) 23:00:30.40 ID:SQxaAT1s0
影の魔女、趣の魔女は逃げられるような甘い相手ではない。入って来た者に執着するタイプの魔女の場合、逃げに徹しても逃げ切れるかどうか。
薔薇園、委員長、芸術、玩具、ハコ、お菓子、銀、人魚、鳥かご、犬、落書き…。薔薇園と委員長、人魚は侵入者には無関心っぽいし、お菓子の魔女はチーズかチーズ味の何か。チーズっぽい色の髪をしていなければ積極的に動くタイプじゃなさそう。
鎧の魔女や猫の魔女、キリカのような積極的な武闘派の魔女や影、趣のような強豪に運悪くぶつからない限り情報収集で欲を掻いた為に退き時を誤って負傷で済みそう。
538 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/08/08(月) 00:10:21.40 ID:SWbvpJ2AO
細かいかなって思ったけど気になったのが、建宮がクワガタみたいな髪形ってなってるけど、クワガタ並みに色が真っ黒ってことで決して面白い髪形をしてるわけじゃないよな?
変な想像しちゃったよw
539 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府) [sage]:2011/08/08(月) 02:52:55.61 ID:5FRfkvk8o
神崎さん携帯使えたのか
540 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/08(月) 03:26:52.31 ID:OShuD0jAO
ババアが良いやつに見えてきたと思ったらこれかよ!マミさんといい作者は持ち上げて落とすのが好きなのか



にしても禁書クロスだと毎回まどかは空気だね(´・ω・` )
541 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) :2011/08/08(月) 10:26:52.93 ID:zDs9YTyB0
まどかを活躍させないようにほむらが頑張ってる訳だから現時点じゃほむらの目的はある程度達成出来てる
542 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/08/08(月) 16:45:04.71 ID:/20qyxIa0
>>535
逆だ
魔術は超能力を再現した物だ
QBは知らん
少なくとも魔法の再現ではないと思う
543 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/08/08(月) 17:26:58.13 ID:8SIuCNTho
才能のないものが才能ある者、つまり超能力者(魔術の歴史が学園都市が存在するより前からあるはずだから、多分原石のこと?)に追いつくための技術が禁書での魔術、だったはず。
544 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/08(月) 22:30:16.77 ID:OShuD0jAO
でも魔術師に比べて原石が少なすぎるんだよな
才能のある者=聖人や神の子や魔術の素質がある奴の方が納得出来る
545 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/09(火) 00:47:33.23 ID:/qmotPDIO
>>544
多分「才能」は他では代用出来ない力なんだろうな。吸血殺し、幻想殺し、すごパは代用が出来ない。
魔術の力は科学で大体カバーできる。破壊するなら兵器で良いし、治すなら医療で良い。
546 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/08/09(火) 01:26:19.96 ID:abqeIBito

なんか最近ステイルさんが空気だな

>>544
禁書本編が原石編に突入すればちゃんと説明されるんだろうけど
547 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/09(火) 21:41:57.00 ID:z1w/Zjngo
続きはラノベ板で!
548 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/10(水) 00:16:10.50 ID:NTjPkDQHo
新訳3巻が出る前に絶対にスレ完結させよう、ということで投下の前に少しばかり返レス

>>529
鋭い……ですが助けた子は別のパターンでやんわりと再登場します
ローラは一手で三手分の行動をしています
そもそもなぜ都合よく見滝原に魔導師がいるのか、という辺りに注目すると……ああでもぶっちゃけ今回の投下で分かってしまうかな

>>538
ご指摘感謝です。
「Wikiにあるクワガタって手元にない七巻の描写かな……グーグル先生もやたらクワガタって言うし禁書未読の方のためにも描写しとくか」
なんて具合に妥協しちゃいけない、ごめんね建宮さん!

とか思ってたらまさか16巻の記述とか……正直16巻の序盤はローラさんマジ笑顔の印象しか残ってないんだ。真面目に

>>539
最近の彼女のマイブームは携帯ゲーに移行しました

>>546
彼がきちんと活躍したのは、それこそリボンの魔女を倒した時。はい、お察しください

では投下いたします
549 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/10(水) 00:16:41.28 ID:NTjPkDQHo

四月七日 木曜日

さやか「――と、いうわけでさやかちゃんふっかぁ〜つ! あったーらしーいあーさがきたっ!」

まどか「朝からうるさいよさやかちゃん……」

さやか「褒め言葉として受け取っておこーう! いやーなんか良い感じの気分でさー」

ステイル「騒々しいな……」

杏子「ったく、チョーシが良すぎるんだよこいつは」

五和「まぁまぁ、元気なのはいいことじゃないですか」

香焼「子供の仕事は騒ぐことすからね!」

さやか「良く分かってるねー君! お姉さんがハグハグしてあげよう!」 ムギュー

香焼「いやいやいや自分男すよ!?」

さやか「またまたー照れちゃってかわいいやつめ! ほーれほーれ!」 ムギュギュー

香焼「ちょっ……あ、やっぱ五和に比べるとやっぱ小さいすね」

五和「ぶふぉっ!? こ、こうっげふんっ! 何言ってるんです!?」

さやか「ハグハグされながらも隠れ巨乳系お姉さんと比べる余裕があるなんて……けしからんやつめい!」

杏子「マセてるだけだろ。ほーらお姉さんがナデナデしてやんぞー」 ナデナデ

香焼「体型同じくらいでお姉さんはないっす! というか離して! 恥ずかしいすから!」

まどか「あははっ、照れちゃってかっわいいー」

香焼「あんたもすか!?」

さやか「もーちっと背があったら彼氏にしてあげるんだけどねぇ……」

香焼「ちっきしょー! 余計なお世話すよぉ!」
550 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/10(水) 00:17:11.12 ID:NTjPkDQHo

ステイル(何故だろう……彼らと一緒に居ると自分の年齢に疑問を抱いてしまう……)

 なぜか登校景色に絶妙に混じっている杏子と五和と香焼の三人を見ながら、ステイルはため息をつく。
 いくら精神状態が良いとはいえ、さやかがまだまだ予断を許されない状況にあることに変わりはない。
 なにせ彼女は経験が浅いのだ。無闇な戦闘は辞めさせなければならないし、フォローも積極的にしなくては。
 だがそれよりも、彼には気がかりなことがあった。

五和「あっ……す、ステイルさんは体調どうですか?」

ステイル「君よりかはマシだと思うけど、どうかしたかい?」

五和「あっいえ、その、なんでもない、です……」

香焼「い、五和!」

五和「うぅっ……だっ、だって……」

 天草式の面子が、妙によそよそしいのである。
 彼らとはもう一年近い付き合いになるがこんなことは一度もなかった、と思う。
 まるでステイルに気を遣っているような素振りをするのだ。
 シェリーが掴んだという情報――ステイルは任務に差し支えるという理由で聞いていない――を彼らが聞いた時からか。

ステイル(また最大主教の入れ知恵か……?)

 もしもそうならば、いますぐにでも彼らを問い質さなければならない。
 あの年齢詐欺の老婆は、ひたすらに陰謀好きな油断ならない人物だ。何をされるか分かった物ではない。
 だが、彼らには昨日の借りがある。

ステイル(……ここは彼らを信じて待つべきかな?)
551 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/10(水) 00:17:37.27 ID:NTjPkDQHo

 ステイルは気付かない。
 五和と香焼のよそよそしい態度に、悲哀と憐憫のそれが混じっていることに。

 ステイルは知らない。
 魔法少女と魔女の、複雑な関係を。
552 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/10(水) 00:18:03.70 ID:NTjPkDQHo

 さすがに目立つので三人とは途中で別れ、くだらない雑談を交わしながら通学路を歩いていると。

まどか「あっ……仁美ちゃんだ」

 まず最初に、まどかがポツリと呟いた。
 それからさやかがギクッと身を強張らせて、恐る恐るまどかの視線の先を追う。
 そこには、堂々とした佇まいで三人を待つ仁美の姿があった。

仁美「おはようございます、みなさん」

ステイル「おはよう……ん?」

 真っ先に挨拶を返したステイルは、他の二人が固まったままでいることに気付いて眉をひそめる。
 そういえばこちらの問題もあったな……と少し後悔。厄介事だらけだ。

仁美「一日、お待ちしましたわ」

さやか「……そう、だね」

 彼女たちの周囲だけ、少し気温が低くなったような錯覚をステイルは覚えた。
 ああ、これがジャパニーズドラマに良くある修羅場というヤツか。

仁美「さやかさん、自分の本当の気持ちと向き合えましたか?」

さやか「……」
553 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/10(水) 00:18:30.38 ID:NTjPkDQHo

 ほんの少しだけ俯いてから、彼女は仁美の目を真っ直ぐに見据えた。

さやか「あたしには、無理だったよ……ごめん」

まどか「さやかちゃん……」

仁美「それがあなたの選択でしたら、私はもうなにも言いませんわ」

 それだけ言うと、仁美は踵を返して一人で学校へと向かおうとした。
 だがステイルは神父服を重たそうにはためかせて、彼女の前に立ちふさがる。

ステイル「いろいろワケありみたいみたいだけど、ここまで来たんだ。一緒に行こうじゃないか」

 空気読めよ、と顔で言外に語っているまどかから顔を背けて、彼は肩をすくめた。
 ステイルからそんな言葉が出るとは思ってもいなかったのだろう、仁美は戸惑った表情を浮かべている。

ステイル「君たちは友達なんだろう?」

 短い沈黙。

 少しの間考え込む素振りをした後、仁美はしぶしぶ頷いた。
 同じようにさやかの方を見ると、彼女も苦笑を浮かべながら頷いて見せた。
 ひとまずは大丈夫だろう。次はどうすべきか。

ステイル(どうしてこういうときに限って天草式の連中は居ないんだ……?)

 肝心な時に役に立たない集団の顔を思い出して歯噛みする。
 だが気に病んでも仕方がない。とりあえずの優先目標は、登校することだ。
554 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/10(水) 00:19:10.55 ID:NTjPkDQHo

―― 一方その頃。見滝原市にあるとあるビルの屋上に、神裂と建宮、五和など天草式の面々が集まっていた。
 中でも、五和と香焼は汗を滝のように流している。皆と別れてからすぐにこの場に駆けつけたのだ。
 彼らの輪の中には、涼しげな表情の杏子も混ざっていた。

神裂「早速ですが、本題に入らせていただきます」

 そう言って、神裂はいくつかの資料を建宮らに手渡した。

建宮「げっ、魔導書関連なのよ……」

 資料に目を通した建宮が、うめくような声を上げた。
 その資料に書き出されているのは戯曲、という体の魔導書である『ファウスト』に関する情報だ。

五和「ゲーテって魔術師だったんですか?」

 ゲーテとは、十八世紀頃にドイツで活躍した作家であり学者でもある男性のことだ。
 そしてファウストとは彼が書き上げた作品である。
 悪魔と契約したファウストが紆余曲折を経て――この紆余曲折が壮大なのだが――最終的に息絶え、
 彼がかつて愛したマルガレーテ……グ レ ー ト ヒ ェ ンの愛称で親しまれる女性に救われ天へと昇る、というお話だ。
                           ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨

神裂「正確には魔導師ですがね。世に知られるファウストは、魔導書であることを隠すために記された別物ですよ」

 魔導書と魔術師の差異についての講釈はまた今度にしましょう、と神裂が言った。

建宮「だったら“禁書目録”に協力を願い出た方がより確実な気がしますが」

 魔導図書館、あるいは禁書目録と呼ばれる少女がいる。
 彼女は完全記憶能力と強靭な宗教防壁を身に備え、十万三千冊という馬鹿げた量の魔導書を記憶していた。
 これから何をするのかは分からないが、彼女の協力があった方が安全かつ確実に達成出来るはずだった。
555 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/10(水) 00:20:31.29 ID:NTjPkDQHo

                                                        オリジン
神裂「私もそう考えました。ですが肝心要の彼女の記憶の中にファウスト、正確にはその『原典』に関する内容はないのです」

五和「え? でも、彼女は全ての魔導書を読み通したのでは?」

神裂「全てではありません。何事にも例外はつきものですし、原典はゲーテ本人が墓まで持っていったとされています」

 そこへ初老の男性、諫早が手を挙げた。

諫早「誰も原典を目にしていないのならば、この件の魔導師が持つのは世に広まっている害の無いファウストなんじゃ?」

神裂「ええ。恐らくはただのファウストから、想像だけで原典を再現したたんなるまやかしに等しい物だと思われます」

神裂「禁書目録の……“あの子”の知識を用いるまでもないでしょう」

 神裂がそう結論付けた。

建宮「でもファウストって言ったら確か化物と魔女の宴……ワルプルギスの夜に関する記述が有ったはずなのよな」

五和「それがどうかしたんですか?」

建宮「近いうちに襲来する予定の魔女もワルプルギスの夜って呼ばれていたのを思い出してな」

対馬「偶然なんじゃない? だって魔女は……いえその、とにかく無関係でしょう?」

 口々に議論し出す天草式の面々を尻目に、神裂は先ほどからポッキーを齧っている杏子を横目で覗き見る。
 あまり話には興味がないのか、とろんとした目で空を見上げていた。
 コホン、と咳払いを一つ。皆の視線が集まったところで、神裂はふたたび口を開く。

神裂「いずれにせよ、不安要素は取り除いておくに越したことはありません。当面はその魔導師の探索に尽力してください」

 全員が頷いた。
 すると建宮が、首下にぶら下げた小さな扇風機(4つ)を揺らしながら一歩前に出る。
 事情の読めない神裂が怪訝な表情を浮かべるが、周囲の皆は黙ったまま建宮を見つめていた。
556 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/10(水) 00:21:17.32 ID:NTjPkDQHo

建宮「必要ないとは思うが、一応言っておこう」

建宮「全員、必ず生きてここへ戻って来るぞ!」

 ふたたび、天草式の面々が頷いた。
 建宮はフランベルジェを地面に突き立てる。
 堂々たる佇まいのまま胸を張って、

         プリエステス
建宮「我らが女教皇様から得た教えは!」


――救われぬものに救いの手を!!


 声高らかに宣言すると、彼らは一斉に散らばって瞬く間に屋上から姿を消した。



 ついに寝息を立てはじめた杏子と共に残された神裂はというと……

神裂(私のいる前で宣言されてもその、嬉しいというかリアクションに困るのですが……むしろ恥ずかしくないですかこれ!?)

 彼らの自立心を喜ぶべきか恥ずべきかで、真剣に悩んでいた。
557 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/10(水) 00:21:44.05 ID:NTjPkDQHo

――教室で次の授業(憎き数学)の準備をしていたステイルは、恭介がすぐ横に立ち止まったのに気付いて顔を上げた。
 妙にそわそわした様子で周囲の気配を窺っているように見える。

ステイル「やぁ、どうかしたかい?」

恭介「あの……うん、話があるんだ。ちょっとトイレに行かないかな?」

ステイル「ふむ、別にいいが」

 ちらり、とこちらの様子を伺っているさやかの方を向く。
 彼女はそれに気付いて慌ててまどかに抱きつくと、ヤケクソ気味にその胸を揉みしだきまくった。
 ステイルに釣られてさやか達の方を見た恭介が固まり、顔が真っ赤になる。

ステイル(若いな……)

 さやかが涙目になりながらヒートアップ。まどかも涙を浮かべる。さらに仁美が不満げな顔をして目を細めた。
 そろそろ止めるべきかと思案している内にほむらが駆けつけ、さやかに飛び蹴りを決め込んだ。
 さやかの体がくの字に折れ曲がったのを見届けると、ステイルは満足した表情で席を立つ。

ステイル「じゃあ行こうか」 ホ、ホムラァー!

恭介「あ、うん……え?」 ダマレセクハラマジン!

ステイル「どこぞの無限に有限な愛と違って休み時間は有限あるのみなんだ。さっさと歩いたらどうだい?」

恭介「うん……まぁいっか」

 釈然としない様子の恭介を急かして、ステイルはトイレへと向かった。
558 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/10(水) 00:22:13.68 ID:NTjPkDQHo

――それは、トイレというにはあまりに広すぎた。

ステイル「ここのトイレを利用するのは初めてだが……いくらなんでも広すぎじゃないか?」

恭介「最近整備されたばかりだからね」

ステイル「それにしたって予算の無駄遣いというものだよ。たしかに水洗所の清潔度合いや利便性で民族性が測れるとは――」

恭介「最近整備されたばかりだからね」

ステイル「……で、わざわざ呼んだ理由はなんだい?」

 ステイルが切り出すが、恭介は洗面台に右手を着いたまま黙り込んでしまう。
 しばらく蛇口を見つめ、今度はおもむろに右手を洗いながら口を開いた。

恭介「告白されたんだ、志筑さんに。待っててもらってるけど、たぶん付き合うことになると思う」

ステイル「……」

恭介「……」

ステイル「それで、僕はどんなリアクションをすればいいんだい?」

恭介「え?」

 カンッ、と短い金属の接触音が響き渡る。
 呆気に取られた恭介が、洗面台に右肘――正確には右手に装着された杖をぶつけたのだ。

ステイル「腹を抱えて笑うべきか、それとも涙浮かべて君のカマでも掘るべきか……」

恭介「えええぇ!?」

ステイル「いやなに、冗談だよ。それで、君はそれを話してどうしたいんだ?」

 言葉に詰まった恭介が、眉間にしわを寄せて視線をあちらこちらに飛ばす。
 それから口をもごもごと動かし、今度は一定のリズムに乗せて右手の人差し指で洗面台を叩き始めた。
 そんな彼の様子を注意深く観察していたステイルは、ふぅっとため息を吐いて頭を掻いた。
559 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/10(水) 00:22:47.67 ID:NTjPkDQHo

ステイル「美樹さやかのことかい?」

恭介「え?」

 言われて初めてその名前を思い出したような表情の恭介を見て、ステイルは若干引きつった笑みを浮かべた。
 眼中に無いわけだ。おめでとうさやか。君の初恋は、過程は違うが僕の初恋と同じ末路を辿ることになりそうだよ。

ステイル「違うなら良いんだ。じゃあ一体なんなんだ? まさか鹿目まどかが好きだったとか?」

恭介「はは、それはないよ。ただ……なんていうか、その」

 右手に備え付けてある杖を適当に弄りつつ曖昧な喋り方をする恭介に、ステイルはだんだん腹が立ってきた。
 だが同時に彼の心境が分からないでもないために、辛く当たることも出来ない。

ステイル「……ああ、じゃああれだ。無意識の内に美樹さやかに負い目でも感じてるんじゃないのかい?」

恭介「負い目? 僕が?」

ステイル「彼女を傷つけておいて、彼女に助けられておいて、志筑仁美と付き合ってしまってもいいのかとかね」

 包帯をされたままの左手を口に当ててなにやら考える素振りをする恭介。
 彼は小声で、言われてみればそうかもしれない、と呟く。そして不可解だと言わんばかりに首をひねった。

恭介「それとこれとで関係があるのかな……」

ステイル「君はどうなんだ。志筑仁美と美樹さやか、どちらを取る? もっとも後者が君のことを好きかどうかは知らないけど」

恭介「あはは。さやかが僕のことを好きなわけないだろう? 彼女はあくまでただの親友だし」

 ステイルは猛烈な既視感を覚えた。
 誰だっけ、この手の周囲の女から好意を持たれながらもそれに気付かない鈍感で面倒臭い独善的で鬱陶しい男。
 ああ考えるまでもなかった。苛立たしい腹立たしい!

ステイル(偶像崇拝の理論かなにかで“あの男”の性格がこっちの上条にも影響してるのか……?)
560 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/10(水) 00:23:43.25 ID:NTjPkDQHo

ステイル「ただの親友が医者との間を仲介した、それだけのことを負い目に感じる君が駄目なんだろう」

恭介「いや、そもそもそれが原因だって決まったわけじゃ」

ステイル「それくらいしかないと思うけどね、志筑仁美の想いにイエスと答えられない理由は。違うのかい?」

恭介「うう……んー……」

ステイル「君がさやかを特別視してるのは医者を紹介してもらったからだろう?
       恐らくだが、鹿目まどかが紹介してもこうなっただろうね。だいたいその程度のことでいちいち――」

恭介「それは違う!」

 初めて恭介が声を大にして言い放った。
 その気迫に思わずステイルが後じさる。
 さっさと話を切り上げたくて適当に答えていたはずが、なにやら彼の心を刺激してしまったようだった。
 恭介は右手を洗面台に置きながらも、はっきりした声で続ける。

恭介「確かにあの件では感謝してるけど、それ以前にも彼女には世話をしてもらってるし、励まされてる」

恭介「彼女に支えてもらったから、その、なんていうか……これまでやってこれたんだ」

恭介「たとえ医者を紹介してもらわなくたってさやかは……さやかなんだ。それだけは譲れないし変わらないよ」

 ……あれ? 良い方向に向かってないか?

ステイル「あーその、なんだい。その件については謝っておくよ。すまないね」

恭介「あ、いや僕の方こそ……まいったな、相談持ちかけてる側なのに」

ステイル「……だが、つまりはそういうことだろう?」

恭介「え?」
561 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/10(水) 00:24:15.67 ID:NTjPkDQHo

ステイル「美樹さやかは美樹さやか。それ以上の何があるというんだい?
       認識論について語るのは好きじゃないし、君にカントの認識力、特に感性と悟性の二通りの――」

 恭介の目が泳いだのを見て、ステイルは小さく息をつく。

ステイル「――それは置いておくとして、例え彼女が君の親友だろうが、彼女だろうが……ゾンビだろうが、変わらないだろう」

ステイル「君が志筑仁美と付き合ったって、そのことは変わらないだろうさ」

恭介「え? いや、そういう話題だったっけ?」

ステイル「君も面倒臭い男だね……」

恭介「あはは……いや、さすがにゾンビとなると話が別だよってことを言いたかったんだ。突っ込んでごめんね」

 苦笑しつつ、恭介が言った。
 気付かれないように目を細めながら、ステイルは内心で無理もない、と思った。
 冗談交じりの言葉には、絶対に揺るがない本音が見え隠れすることが稀にある。今回のもそれに当てはまる。

ステイル「それはそれ、これはこれとして……修行中の神父に恋愛相談持ちかけて、君の抱えたもやもやは晴れたかい?」

 途端に、恭介は笑顔を作って頷いた。
 ステイルも口の端をつりあげて、小さく笑みを浮かべる。
 だが次に表情を改めて、真剣な顔つきで恭介に問いかける。

ステイル「それで……志筑仁美はどうするんだい」

恭介「もちろん付き合うよ。断る理由も無いしね」

ステイル(即答かいッ!)

 引きつった笑みを浮かべながら、ステイルは携帯電話を取り出す。
 既に休み時間は残り一分を切っており、教師が来るまでの時間を計算に入れても、そろそろ引き上げなければならない。

ステイル「僕はもう戻るが、君はどうする?」

恭介「手が痺れちゃったからちょっと休んでいくよ。幸いここは人通りが少ないから怪しまれないだろうし」

ステイル「分かった、じゃあまた後で会おう」
562 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/10(水) 00:25:30.14 ID:NTjPkDQHo

 ステイルが立ち去った後、特に何をするでもなく杖を弄っていた恭介はふと顔を上げた。
 鏡には、当然ながら鏡と向き合うように立っている恭介の顔が映し出されている。
 だが彼は、その鏡の向こうに彼にしか見えない何かを見出した。
 そっと、神経の麻痺した左手を伸ばす。

恭介「あっ」

 伸ばして、鏡に阻まれる。

恭介「なにやってんだか……」

 それから恭介はぽつりと、無意識の内に言葉を漏らした。

恭介「なんでだろう」

恭介「なんで気になるんだろう」

恭介「おかしいな……」
563 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/10(水) 00:26:10.40 ID:NTjPkDQHo

――放課後。

まどか「それじゃあ帰ろっか、さやかちゃん」

さやか「うん、そーしよ」

 まどかに返事をしながら、あたしは教室をぐるりと見渡す。
 教室の中に、仁美と恭介はいない。
 トイレから戻ってきたステイルの様子からも分かってたけど、やっぱりちょっと堪えるなぁ……

ステイル「すまないが、僕は用事があるので先に失礼するよ」

さやか「なになに、まーた魔術関係のお仕事? そんじゃあ魔法少女さやかちゃんが協力してあげますか!」

まどか「わたしにもお手伝い出来ることあるかな?」

ステイル「いやいや、幸い人では十分足りていてね。猫の手を借りるほどじゃないさ」

まどか「もうっ! 猫の手よりは役に立つよ?」

さやか「むくれるまどかも可愛いなぁ! くのくのー!」

 手をわきわきさせると、頬を膨らませるまどかに抱きついてみせる。
 だがまどかは思いのほか冷静に、無表情のまま静かにあたしに、

まどか「……変態」

 そんな冷徹な罵声を浴びせかけてきた。休み時間のアレの怒りが溜まってるみたいだ。
 なーんてふざけている間にステイルも帰ってしまった。ほむらもいない。
 しょうがなくあたしとまどかも鞄を手に学校を出た。今日はどこで道草食おっかなー?
564 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/10(水) 00:26:37.48 ID:NTjPkDQHo

 まどかと相談した結果、近くの喫茶店に行くことになった。

さやか「ねねっ、今度はスタバに行ってアレ頼もうよ!」

まどか「アレ?」

さやか「えっと……ベンティアドショット……なんとかってやつ!」

まどか「ああ、ベンティアドショットヘーゼルナッツバニラアーモンドキャラメルエキストラホイップ
.     キャラメルソースモカソースランバチップチョコレートクリームフラペチーノのこと?」

さやか「え?」

まどか「だからベンティアドショットヘーゼルナッツバニラアーモンドキャラメルエキストラホイップ
.     キャラメルソースモカソースランバチップチョコレートクリームフラペチーノのことでしょ?」

さやか「あ、うん」

まどか「あれってまだやってるのかな? 流行ったのってだいぶ昔だし」

さやか「はい」

まどか「むしろ今のスタバならもう一捻りくらい出来そうだよ。やっぱりベンティアドショットヘーゼルナッツバニr」

さやか「わかった、わかったからもう良いって! そろそろ酸欠で倒れるよまどか!」

まどか「そう? なら良いんだけどね」

さやか(ベンティアドショットヘーゼルナッツバニラアーモンドキャラメルエキストラ……うがー! 覚えられん!)

 意外な肺活量と暗記力を見せる親友を尊敬しつつ、
 それを勉強や体育に活かせばいいのに……と思わずにはいられないあたしなのであった。
565 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/10(水) 00:27:20.77 ID:NTjPkDQHo

まどか「でも本当に良かった。昨日のさやかちゃん、なんだか別人みたいだったから」

さやか「……そうかな」

 まどかの言葉を聞きながら、あたしは昨日のことを思い出そうと必死に首を捻った。
 覚えてはいるけど、どこか記憶があやふやなのだ。五和さんの回復魔術で悪い夢として処理されたのかもしれない。

まどか「うん、そうだよ。それに……あんな戦い方ってないよ。痛くないなんて……嘘だよ」

 あんな戦い方……昨日の魔女との戦いのことだろう。
 たしかあたしは、痛覚を魔法でシャットダウンしてむりやり突っ込んだんだ。だから痛みは、無かったと思う。

さやか「いやーほら、ああでもしないと勝てないのよ。あたしって才能ないし? あははー凡人は辛いね!」

まどか「でも! あんなやり方で戦ってたら、勝てたとしてもさやかちゃんのためにならないよ!」

さやか「……あたしのためって、なんなのかな?」

 言いながら、ソウルジェムを手のひらの上で転がす。

さやか「こんなんにされちゃった後でいまさらあたしのためって言われてもさ……もう死んでるわけだし?」

 感情を殺した声で、あたしは投げやりに言った。

まどか「そんなっ!」

さやか「あたしはただ魔女を“狩る”だけの“物”なんだよ。そんなあたしのために誰が何をしてくれるって言うの?」

まどか「でもわたしは……さやかちゃんのために、どうすれば幸せになれるのかを……」

 まどかが目に涙を溜めている。
 それをあたしは無表情で見つめ、淡々と――
566 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/10(水) 00:28:07.65 ID:NTjPkDQHo



 いや、やっぱ無理だわ。


.
567 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/10(水) 00:28:56.09 ID:NTjPkDQHo

さやか「あっはははは! ごめんごめん、冗談だって! だから泣かないでよ、ね?」

まどか「え?」

 まどかが涙をこぼしながら目を真ん丸くした。可愛いやつめ。
 本当ならもう一芝居くらい打ちたかったけど、こんなまどかの顔を見てたら罪悪感で心が押し潰されるって。

さやか「だから、冗談。もうあんな戦い方しないし、心配かけたりしないって」

まどか「ぐすっ……本当に?」

さやか「もっちろん! だってさ、ほら」

 鞄の中から携帯を取り出すと、まどかに待ち受け画面を見せた。
 まどかが不思議そうな表情でそれを見つめている。
 待ち受け画面に映っているのは、あたしとまどか、それから仁美と先生がグラウンドでピースしてる姿だ。
 去年の秋、体育祭の時に撮影されたものをデータにしてもらった物だった。

さやか「あたしには、あたしのためを思ってくれるまどかや……恭介は奪られちゃったけど、仁美みたいな友達がいるんだよ?」

さやか「それを考えたら、いやいや……あたしのために誰が何をしてくれる? なんて言えないでしょ?」

まどか「さやかちゃん……!」

さやか「そーれーにー……ってちょいストップ!」

 いまにも抱きついてきそうなまどかを抑えつつ、あたしは何度か携帯をパカパカと開閉させた。
 待ち受け画面が切り替わったのを見てから、ふたたびまどかに見せる。
 今度は驚いた顔で、まどかが待ち受けとあたしをじろじろと見比べた。

まどか「これって……」

さやか「ふふっ、驚いた?」
568 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/10(水) 00:30:22.02 ID:NTjPkDQHo

 待ち受け画面に映っているのは、しゃがんだ香焼を後ろから抱きしめるあたしと、
 画面の左側に立って香焼の頭に手を乗せる杏子。それから右側に立って撮影も兼ねてくれた五和さんの四人の姿だ。
 ちょっとピントがぼけてたけど、まぁ仕方ない。

さやか「いやー実はあんたたちが来る前に写真撮ってたんだよね。杏子ったら写真慣れてないのか緊張しててさー」

まどか「杏子……って、あの子の名前だよね?」

さやか「ん、そう。考えてみたらあたし、あいつのこと名前で呼んだことなかったからさ。今朝聞いたのよ」

まどか「そっか……でも、仲良さそうだね」

さやか「うん。昨日の話聞いてさ、こう……天草式のみんなの行動にじーんと来ちゃったんだよね。あたしは寝てたけど……なんていうかな」

 ない知恵を必死に振り絞って、このじーんって気持ちを言葉にしようとする。
 十秒くらい考えて、まどかが苦笑を浮かべ始めた頃になってようやく思いつく。忘れないうちに口を開いて、

さやか「損得抜きで、真剣にあたしたちのことを考えてくれる優しい人っているんだなぁって」

まどか「さやかちゃん……」

さやか「あんな人たちがいるんだから、自棄になんてなれないでしょ? 多少のことは我慢するよ」

さやか「マミさんには、したくても出来なかったことだもん……」

 声のトーンを落としながら、あたしはマミさんの顔を思い浮かべる。
 あの善人のお手本みたいな、善人の鑑みたいな人の、優しい笑顔を。

さやか「だから、代わりにあたしたちがやってあげるんだ」

 俯くまどかの肩に手を置きながら、あたしはそう言った。
569 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/10(水) 00:31:40.07 ID:NTjPkDQHo

まどか「あ、喫茶店見えてきたよ。入ろ?」

さやか「うんうん、さっさと――あれ?」

 その時、誰かの悲鳴が耳に届いた。
 ような気がしたあたしは、慌てて周囲を振り返る。
 だけど悲鳴をあげたような人は見当たらないし、あたしと同じように悲鳴を聴いた人は一人もいないようだった。

まどか「どうかしたの?」

 心配そうなにあたしの顔を覗き込むまどかに愛想笑いを浮かべながら、あたしはソウルジェムを取り出した。
 魔力を込めて――これが結構難しいのだが――頑張って身体能力を強化する。
 すると聴覚が強化されて先ほど聞いた悲鳴……それも、大人の男の人のそれが耳に届いた。

さやか「誰かが襲われてるみたい、多分場所は……」

 駆け足で路地の裏に回り込み、人気の少ないビルの前まで辿り着く。
 そこは変な場所だった。確かにそこに建物があって微かに悲鳴も聞こえるのに、近づく必要がないというか。

まどか「さやかちゃん、戻ろうよ」

 何故だかビルに近づかずに、まどかが言った。
 まるでビルなど見えてなくて、悲鳴も聞こえていないような素振りにあたしは眉をひそめる。

さやか「……ごめんまどか、あたし、正義の味方気取りたくてさ。ちょっと男の人、助けに行ってくるよ」

まどか「さやかちゃん!?」

 まどかが一歩踏み込む。しかしすぐに足を引っ込めて、感情の篭っていない目をして頷いた。

まどか「行ってらっしゃい」

さやか「……魔女の魔法かな。ソウルジェム節約しないといけないし……変身しないで入ってみようかな」

 決断すると、即座に行動に移す。
 電気が通っていないのか、開かれたままの自動ドアの隙間からビルの中に潜入した。

さやか「さあさあ、魔法少女さやかちゃんが助けにきましたよぉ……!」
570 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/10(水) 00:32:55.79 ID:NTjPkDQHo



 しばらくの間立ち尽くしていたまどかは、ふと我に返って目の前にあるビルに目を向けた。

まどか「さやかちゃっ……あれ?」

 さやかが単身ビルに乗り込む姿を、彼女は見ていた。
 見ていたが、特に感慨も抱かずにそれを見送った。
 その矛盾に気付き、まどかは困惑する。

まどか「なんだろう、この建物」

まどか「ここにあるのに無いみたいで」

まどか「でも確かにあって……」

 目の前にあるビル――正確には人払いの魔術によって、一般人がその存在を意識しなくなる結界を前に、
 まどかは悔しそうに歯噛みした。

まどか「さやかちゃん……」

まどか「大丈夫かな……」

 何も出来ない。何もしてあげられない。
 その事実が彼女の心に圧し掛かる。

 重たくどんよりとした空気の中、それでも無力なまどかは。
 ただひたすらにさやかの帰還を待ち続けることしか出来なかった。
571 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/10(水) 00:39:26.20 ID:NTjPkDQHo
以上、ここまで。

進まねぇ!書き溜めがなくなるとカルピスを薄くするかのごとくどんどん長くなってく!
このファウストの魔導師編が終わったら加速させます
あと香焼の身長はだいたい145〜8のまどかぐらいを意識して描いています
他には……特にないか。次の投下もやはり未定。今度はもっと早く投下できれば……時間はないが
572 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/10(水) 00:54:26.55 ID:oGpSUEc2o
乙。待ってたよ。
上条恭介は地獄の火に焼かれて氏ぬべきである
573 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/10(水) 01:09:46.02 ID:bGOmRrDGo
>>1
でもいきなりゾンビって言われたら腐っててあ゛ーあ゛ー言ってるの連想するんじゃね?
流石に俺も無理だ
574 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/10(水) 01:23:55.61 ID:1dY0jxeAO
おつ
トイレに連れ込んでいきなり告白されたんだ(チラッ とか下手したらとかアッー!だろwwwwww
>>573
つまり青髪ピアスさんの出番か
575 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/10(水) 01:56:18.23 ID:W5RiBgnIO
ゾンビつったら、まぁ腐乱屍体を想像するわな。
でもこの分だと普通の状態でも恭介とさやかのルートはなさげだけどな。

偶像の理論ワロタ
上条さんの鈍感力とフラグ力が宿るんだな
576 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage saga]:2011/08/10(水) 02:08:35.03 ID:rGZWu+Sa0
乙!
偶像崇拝の理論wwwwww
577 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/10(水) 13:38:19.48 ID:4PTkBMLfo
とんでもないミスに気付いた
とりあえず445と85と25レスの“受験生”はなかったことにしといてくれ
578 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/08/10(水) 13:40:24.89 ID:4PTkBMLfo
ん、なぜかID変わっているが>>1です
んでもってageるとか……申し訳ない
579 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/10(水) 16:12:29.82 ID:1dY0jxeAO
原作の上条さんは高一だからここだと高二か?
あんま気にすんな
580 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/10(水) 17:24:51.89 ID:m/desCa40
幼なじみに黙って告白を受ける事に後ろめたさを感じているだけだな。
さやかは恭介にとって身近に居過ぎて居て当たり前の異性として認識されないパターンだ。

さやかがヘルシン○を読んでいたらヘルシング機関やイスカリオテ13課を連想しそう。そうでなくても魔女狩り、異端者審問を連想するだろう。何をやってもおかしくない宗教勢力が側に居ればコイツ等から滝見原(恭介)を守ると使命感に燃え真の意味で絶望しそうに無い。
581 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/10(水) 22:23:45.62 ID:m/desCa40
1755年にリスボン大地震が起きている。ゲーテの年上の親戚のお姉さん(グレートヒェン)が魔法少女でワルプルギスと交戦しその事をゲーテに語っていたら、ゲーテの書に姉の無念を晴らすとかの執念が篭りそう。
ワルプルギスが現れる場所のみ現れ、ワルプルギスが去ると同時に姿を消す特殊な魔術書とかの設定を付ければ魔術師が現れた理由に無理が消えるかもしれない。
582 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/10(水) 23:16:20.32 ID:ptKuHUdAO
悪いことは言わんから荒れない内に別スレ立ててそこで物語作っとけ
583 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/11(木) 11:53:25.91 ID:KMs62kFc0
>>573
これゾンの歩を想像したのは俺だけでいい。
あれはゾンビより不死身に近いからな・・・・・
584 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/08/11(木) 19:35:17.07 ID:wppVbNS/0
原作では何も知らなかったが故に平然と仁美と付き合いやがったが
この作中では下手にこういう話をしたが故に罪悪感に襲われそうだな、恭介
…ざまあとしか言いようがない
585 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/08/11(木) 20:26:29.64 ID:icxRo/WPo
>>573
そもそも相談相手が間違っていた、というオチ
事情を知らない中沢君だったらさやかとの仲を取り持ってくれたかもしれない

>>581
現代ならばともかく、過去の人間であり“魔導書”を生み出したゲーテが“魔法少女”のことを知りえるのは無理なのです
劇中のローラとQBのやりとりからお察しください

>>584
それだけなら良いのですが、仁美は良い子でして……その辺りは次回以降で

では投下します。これは関係ない話ですが、一度投下すると他スレに感想を書けないのが痛いですね……
586 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/11(木) 20:27:46.41 ID:icxRo/WPo

 さやかはソウルジェムを右手に握り締めて、ビルの一階、その廊下を注意深く見渡しながら歩き進んだ。
 やはり電気が通っていないようで、真新しい照明は光を灯してない。
 ただでさえ入り組んだ路地にあり、さらに夕方時であるということもあってビルの内部ははとても暗い。

さやか「うー、おばけとか出ないかな……」

 無意識の内に独り言を呟いてから、さやかは何かが動く気配を察知した。
 慌てて置きっぱなしのダンボールの陰に隠れる。目の前を、人のようなシルエットが通り過ぎていった。

さやか(ここの人かな……?)

 注意深く目を凝らすと、それが人――体つきからして男性――であることが分かった。
 どうやら奥にある階段から降りてきたばかりのようで、息を荒くしてすぐ手前にある扉を開けた。
 だがすぐに手を引っ込め、扉から後じさる。

さやか(どうかしたのかな?)

 その動作に釣られて扉の向こうを見ると、細いワイヤーが張り巡らせてあった。

さやか(わっ、凄い……危ないなぁ)

 男はポケットからなにやら携帯式の刃物のような物を取り出し、ワイヤーを切り裂こうとしている。
 とりあえず事情を聞こう……さやかがそう考えて身を乗り出した、
 その時。
587 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/11(木) 20:29:15.91 ID:icxRo/WPo


『――殺したな』


『――ワタシをコロしたな』


 ゾクッ、と底冷えするような声が、廊下に響き渡った。

 そして。

 男が切り裂いたワイヤー、その切断面から赤い霧のような物が噴き出した。

さやか「なにあれ――!?」

 それは瞬く間に増殖すると、すぐ近くにいた男をまるまると呑み込んでいき。
 ぼごっ、と水泡が破裂した際に出る音に良く似た音がして、霧が内側から破裂した。
588 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/11(木) 20:29:50.72 ID:icxRo/WPo

さやか「――え?」

 赤い霧が晴れた時、そこには誰も居なかった。

 正確には、かつて人の形を成していたであろう赤く濡れた何かの欠片以外には、何も無かった。
       ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨

さやか「……うそ、でしょ?」

 さやかの疑問に応える者はいない。

さやか「ねぇ……ちょっと!」

 さやかの呼びかけに応える者はいない。

さやか「……あ、ああ……」

 さやかの脳裏を過ぎるのは、かつて巴マミの身体を貪り、蹂躙し尽くしたリボンの魔女の姿。
 そして今回の、凄惨な光景。
 さやかの頭に、確信めいた光が生まれる。

さやか「魔女だ……! きっとここも、結界の一部なんだ!」

 そうすれば辻褄が合う。
 電気が通っていないのも、ワイヤーが喋るのも、それによって人が死ぬのも。
 なにもかも、魔女のせいだ。

さやか「ゆるさない……そんなの、あたしが許さない!」

 ソウルジェムを握る手に力を込める。魔力を流し込み、姿形を――

「あーあ、まーたハズレっすね」

――変容し終える直前、あどけなさの残る少年の声が耳に届いた。

さやか「……え?」
589 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/11(木) 20:30:23.57 ID:icxRo/WPo

 その声を発した少年は暗がりから姿を現すと、かつて人の形を成していた物を踏みつけた。
 手に持った短剣をくるくると弄びながら、空いた左手を耳に当てる。

??「こっちもハズレっす。いつまで隠れ続けるつもりなんすかね」

 その微妙に敬語に慣れていない、あどけなさの残る声をさやかは聞いたことがある。
 それどころか、その声の持ち主と写真まで撮った。友達だと思ったし、良いやつだとも思った。
 だが、どうだ。

さやか(そん……なっ)

 声の持ち主である少年――天草式十字凄教に所属する香焼は、人の形を成していた物を踏みにじりながら笑う。

香焼「これから上層まで行って包囲すね。了解」

 そう言って、彼は元居た場所に戻ると駆け足で階段を上がっていった。
 こちらの存在が気付かれなかったのは、さやかが驚きの余り声を発しなかったからか。
 それとも香焼が油断していたからか。分からない。だが、少なくともこれだけは言える。

さやか(人殺し……ッ!)

 声が漏れなかったのはさやかの自己防衛本能の賜物だろう。

さやか(どうしてこんな、酷いことを)

 ソウルジェムを握り締めながら、さやかは極力音を立てずに進む。
 このビルで、何が行われているのかを知るために。
590 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/11(木) 20:30:57.65 ID:icxRo/WPo

――階段を這うようにして上がった彼女が見たものは、男の人のような人影を三人がかりで滅多刺しにする光景だった。

さやか「なっ……!?」

 思わず声が漏れる。
 反射的に身を伏せ、足音と人の気配が消え去るのを待った。

さやか(今の……って)

 さやかが見た三人の内、二人はさやかが見知った顔だった。
 一人は対馬と呼ばれる、煌びやかな金髪と美しい脚線美が特徴的の女性。
 そしてもう一人は――

さやか(五和……さんまで!)

 彼女もまた、香焼の時と同じように笑っていた。
 理由は分からない。分かりたくもない。あんな風にだけは、なりたくない。
 足音がすぐ近くまで近づくが、それらは上の方へと遠ざかっていき、やがて気配が途絶えた。
 それからきっちり十秒待って、彼女は恐る恐る身を乗り出した。

さやか「あぁ……!」

 やはり、彼女らが滅多刺しにした人影は崩れ落ち、原型すら分からないほどにぐちゃぐちゃになっていた。
 わき腹が痛む。胃液が逆流し、食道を駆け抜ける。胃液の放つ酸味と異臭に耐え切れず、さやかは吐き出した。
 びちゃっ、と胃液が地面に零れる。それだけではない。何かが地面に水溜りを作っていた。

さやか「うぅっ……ううう……!」

 涙だった。
 彼女は泣きながら、階段を這って行く。
591 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/11(木) 20:31:41.07 ID:icxRo/WPo

 階段を這いで上ると、今度は先ほどと違って見える範囲には誰も居なかった。
 その代わり、奥にある部屋で何かが暴れる音が響いている。猛獣か何かが動物園から抜け出したのかと思うような音だ。

さやか「……」

 息を潜め、極限まで気配を殺して近づく。
 近づき、あえて部屋を通り越す。あえて? いや違う。怖いのだ。

さやか(意気地なし……)

 やがて、何かが暴れる音がぱったりと途絶えた。
 乱暴に扉が開け放たれる。そこから出て来た者は――

??「やっぱ魔女と比べると物足りねーなー。どうせなら大物寄越せっての」

さやか「うそ……」

 燃えるような、赤く長い髪の毛。
 2mはありそうな、長大な槍。
 その唇から覗かせる、魅力的な八重歯。

さやか(杏子……!?)

 魔法少女姿の、佐倉杏子の姿。

杏子「こーんなドロくせぇヒト狩りなんざ、あたしの管轄外でしょ?」

 やはり彼女もまた、薄い笑みを浮かべていた。
 美樹さやかを支える物が、音を立てて軋み始める。
 それが瓦解する時は、もうすぐそこまで迫っていた。

 杏子の後を追うようにして、さやかもまた上の階――屋上へと向かう。
592 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/11(木) 20:32:49.17 ID:icxRo/WPo

――時はほんの少し遡る。
 件のビルの屋上で退屈そうにチーズかまぼこをくわえていたステイルは、ついにため息を吐いた。

ステイル「鬼ごっこって、あまり良い思い出ないんだよね……」

神裂「学園都市でのことですか? あれはたしか運び屋専門の魔術師、オリアナ=トムスンを追っていたのでしたっけ」

ステイル「そうそう、何度炎に身を焼かれたことか」

ステイル「しかもただでさえ体力が無いのに走らされるわ転ぶわで散々だったよ」

神裂「今回はあなたが走る必要はありませんから安心してください。敵の“土人形”は我々が追いかけていますので」

 “土人形”。
 正式名称は分からないが、彼らを手こずらせる……というよりは、手を煩わせている術式のことだ。

ステイル「それで天草式の聖人神裂先生、それはどんな仕組みで動いているんだい?」

神裂「あなたも使用している北欧神話、その創世の際の“ユミルの肉より大地が生まれた”という伝承がベースのようです」

神裂「北欧神話において始まりの生物であり全ての巨人の父でもあるユミルは、神々によって滅ぼされています」

神裂「その後肉体を大地として用いているのですが、どうやらこの辺りを曲解し、あえて伝承を捻じ曲げた術式ですね」

ステイル「つまり、どういうことだい?」

神裂「ユミルの肉から大地が出来たのではなく、土にユミルの肉を与えて大地を形成し、巨人が生まれたという具合です」

神裂「自分の遺伝子情報、唾や髪、皮膚を土に埋め込み、土くれからなる自身のコピー、土人形を作り出したのです」

神裂「さらにそれらの内の一体に自分の認識をずらす魔術、“神隠し”のキーになる何かを持たせることで撹乱を狙ったのかと」

ステイル「どうせなら落書き帳みたいな魔導書を使えばいいものを……」

神裂「そうですね。その辺りが解せません……」

593 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/11(木) 20:33:20.93 ID:icxRo/WPo

――ふと真顔になったステイルが、神裂の顔を真正面から見据えた。

 彼の視線に気がついた神裂は気まずそうに顔を背ける。
 それが面白くないのか、ステイルは鼻を鳴らすとふたたびチーかまをあむあむし出した。

神裂(……言えるわけが、ない)

 心の中で吐き出しながら、神裂は昨日の深夜に行ったシェリーとのやり取りを思い出していた。
594 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/11(木) 20:34:14.19 ID:icxRo/WPo

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

神裂「魔法少女が……魔女になる!? それは本当なのですか!?」

シェリー『本当よ。暁美ほむらの言質も取れた、つーかお前は知らずに最大主教を挑発したのかよ?』

神裂『うっ……ちょ、挑発じゃないですよ。多分……ですがそれが事実なら』

シェリー『救いようがないわね……だが事実だ』

神裂『まさか、ステイルの報告したリボンの魔女も……』

シェリー『確証はねぇが、巴マミが魔女と化した存在でしょうね』

 神裂は愕然とした。
 ステイルに、なんと言ってやればよいのだ。魔女になった彼女に、あなたがトドメを刺したなどと言えるわけがない

神裂『ま、まだ確証はありません! たとえ魔法少女が魔女になろうと、あれが巴マミだったという証拠は無いはずです!』

シェリー『魔女の結界は、生前の魔法少女の記憶と思考や心理が関係しているわ。報告は読んだがな……』

シェリー『使い魔や結界の状況、その形状……そういった点が、リボンの魔女の正体が巴マミであると裏付けしてるのよ』

神裂『ですがまだ確証がありません!』

 通信用霊装の向こうから、呆れたようなため息の音が聞こえてきた。

シェリー『……ああ、最大主教が言ってたのはこれが理由か』

神裂『なんです?』

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595 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/11(木) 20:35:00.00 ID:icxRo/WPo

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シェリー『伝言だよ、くっだらねぇ。読み上げんぞ……≪確証無しに動けないのはどちらたるかしらね?≫……だとよ』

 息が詰まる。最大主教は、全てを見越していたのだ。全てを見越した上で、黙っていたのだ。
 それに比べて、自分はなんと短絡的で愚かなのだろう。

神裂『……』

シェリー『落ち込む暇があったら仕事しなさい。私達だって働いているのよ』

 霊装の向こう側で、何かをめくる音がした。

神裂『なにをなさっているのです?』

シェリー『あのクソ外道と交わした契約を、毒や呪いと見立てて中和する術式を構築するための伝承探しだよ』

 魔術とは学問でありながら、酷く曖昧なものだ。
 神裂の属する宗派、天草式十字凄教はそれを利用している集団でもある。
 異常な演算によって脳に掛かる負荷を毒に見立て、それを取り除いたケースが第三次世界大戦中にもあった。
 それと同じように、ソウルジェムを魂に戻す方法を画策しているのだ。まだ絶望するには早い……!

シェリー『まぁ十中八九無理だけどな』

 神裂の抱いた淡い希望は、シェリーが続けた言葉によってあっさりと砕け散る。

神裂『そんな!』

シェリー『呪いに見立てて、伝承を探して、術式を構築するまでは良いさ。ルールを無視する術式も悪くはない』

シェリー『だけど試せないのよ』

神裂『試せない?』

シェリー『失敗したら残るは死しかないのよ!? 『後続の者の為に死んでくれ』なんて言えるわきゃねーだろうが!!』

 シェリーが声を荒げた。
 その声には怒気が含まれていて、同時にどうしようもない悔しさが滲み出ていた。

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596 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/11(木) 20:35:55.76 ID:icxRo/WPo

――突然、顔を背けていた神裂が何かを振り払うようにかぶりを振った。
 それを怪訝そうな目で見るが、追及は後にしておくとしよう。なぜなら。

ステイル「……お客さんみたいだね」

 ステイルと神裂、二人の目の前に、汗を滝のように流した男が突然現れたからだ。
 男は屋上の端でうずくまり、怯えるように全身をがたがたと震わせて涙や鼻水やらなにやらをだらだらと流していた。

神裂「どうやら、抗戦する気はまったく残っていないようですね」

ステイル「みたいだね。ほら、何か喋ったらだい?」

 ステイルの問いにも応えず、男は宙に視線を漂わせている。いや、それどころか焦点すら合っていない。
 ガサッ、と後ろの方で物音がした。
 ステイルは肩越しにそれらに視線を投げかける。

香焼「うわっ、ひでぇ怯えてるすね!」

五和「ぷ、女教皇様? あまりそういう酷いことはしないほうが良いのでは……」

対馬「“土人形”だから傷つけるのを躊躇わなくて済む、とか言って笑ってたあんたらが言えた義理じゃないでしょう」

建宮「いずれにしても拷問をする女教皇様は応援できないのよな……いやいやドS属性が付加したと思えば!?」

杏子「はらへったー」

 隣からなにかがブチブチィッと音を立てて切れる音がしたが無視。
 ステイルは男と向き直ると、投げやりに言った。

ステイル「同じ北欧式だから分かるんだよね。蒸し焼きにされたくなかったら出てきたまえ」

 返答はない。
597 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/11(木) 20:36:28.52 ID:icxRo/WPo

 ステイルはチーかまを飲み込むと、懐からルーンが刻まれたカードを取り出した。
 そして魔力を込める。

神裂「なっ――!?」

 それだけで、面白いように男の身体が炎に飲み込まれた。

五和「や、やりすぎですよ!」

ステイル「黙って見ていろ」

 炎に飲み込まれた男の皮膚がぼろぼろと崩れていく。
 やがてその内側まで炎が届き――
 違った。崩れていったのは皮膚ではなく、身体を覆うように引き伸ばされた土くれだった。
 炎は土くれを剥ぎ取り終えると、役目を終えたかのようにすんなり消えてしまう。

ステイル「虚偽を見破る術式、とでも仮称しておこうかな。さて……魔導師君?」

 土くれを剥がされた男は、体中からありとあらゆる体液を垂れ流してはいたがその瞳には確かに生気がある。
 男は観念したかのようにがっくりとうなだれ、呪うような声で呟いた。

魔導師「ワタシがなにをしたと言うのだ……ちくしょう……」

ステイル(ドイツ語か)

 神裂と顔を見合わせて、使用する言語をドイツ語に切り替える。

神裂「それで、あなたの所有する魔導書はどこに?」

魔導師「……い」

ステイル「なんだい?」

魔導師「所有なんてしてない! あいつは俺を利用してたんだよ!!」

ステイル「ふむ」
598 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/11(木) 20:37:22.63 ID:icxRo/WPo

杏子「何言ってんの? こいつ」

 ステイルたちが所有するグリーフシードを提供するという名目で。男を捕らえるのに協力していた杏子が言った。
 実際はただでは受け取ってくれなさそうなので、見返りとして提供するということ自体が目的なのだが。

五和「魔導書は自身の知識を衆目に晒す、というか広めることを目的に動いてます。だから利用というのもあながち……」

建宮「いや、それよりも妙なのよな」

 彼らの目の前で、男は何かから身を隠すようにうずくまった。

魔導師「あいつは棺から出てきたんだ……! あの悪魔が、あく、あくまっああぁ!?」

 そう言って半狂乱になると、男は右手に握った万年筆で地に何かを描こうとした。
 すかさず神裂がその手首をへし折る。だが男は痛みなど無いかのように左手で右手を支えた。

魔導師「あああぁぁぁ!? あっ……ああぁぁ!? 悪魔がくる……!?」

 はっ、と五和が何かに気付いたのか表情を改めた。

五和「棺って……もしかしてゲーテの棺では? つまり魔導書は原典とか」

神裂「そんなバカな。おそらくゲーテは死ぬ前に魔導書を硬く封印したはずですし、
.     墓まで持って行ったとはいえそれが文字通り棺にあるなんてことはまず考えられません」

ステイル「だがそう考えれば辻褄が合う。この男が見たものは、恐らく『脈』の力を借りて動き出した魔導書の記述の一部……」

 ファウストには、とある悪魔が登場する。契約を取り結ぶ悪魔……メフィストフェレスだ。
 実際、契約するに至った経緯が恐れ多くもあの主との賭けだとかいう話があるがそれはさておき。
 それが男に契約、つまり知識を広めるよう契約を迫ったとすれば不思議ではない。

ステイル「君を利用していたのはファウストの原典か?」

魔導師「あうあぁ……うぅ……」

 泣きながら男が頷いた。
599 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/11(木) 20:38:47.44 ID:icxRo/WPo

ステイル「それじゃあその原典はどこにある?」

魔導師「……奪われた」

神裂「誰にですか?」

魔導師「ばっ、ばけ……へんな結界に、へんな化物、へんな、へん、へんな……ひぃぃ……」

 変な結界と、変な化物。
 まさか。

ステイル「魔女か……!」

魔導師「あくまが、ここに、ここ、こいって、術式を、組んだんだ……」

神裂「魔導書が誘導した……? なぜ魔女と引き合わせたのでしょう?」

ステイル「術式とは?」

魔導師「つ、土くれに目を……それから、色んな化物……情報を、あつめっ……うぅぅ」

 神裂とステイルの目が細まった。
 まだ理解できていないでいる建宮達を放置して、二人は小声で話し合う。

ステイル「魔導書の目的は知識を広めること。魔女の目的は己の繁殖や増殖、呪いを撒き散らす途中で人を取り込む」

神裂「互いが互いに惹かれあった可能性がありますね。見滝原市は魔女の目撃数が桁違いですし……」

ステイル「結界にあったとされるファウストの記述も、彼の魔術が生み出したと思えば納得がいく」

神裂「そして近いうちに訪れるワルプルギスの夜……これはもしかすると……」
600 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/11(木) 20:39:31.49 ID:icxRo/WPo

ステイル「未曾有の大災害が訪れるかもしれないね……やれやれ、まいったものだよ」

 ただでさえ恐ろしい魔導書の原典。
 ただでさえ厄介極まりない魔女。
 この二つが組み合わされば、何が起こるかわかったものではない。

ステイル「ひとまず彼をイギリスに、それから魔導書を所有する魔女の探索と――ん?」

 そこでステイルは、柵の向こう……地上を走る、青い髪の少女に目を留めた。

ステイル「神裂、あれは」

神裂「……美樹さやか、ですね」

ステイル「……やけに必死に走っているね」

神裂「います、ね」

ステイル「……見られたな。それどころか、勘違いまでされたんじゃないかい?」

 神裂がばつの悪そうな顔をした。

神裂「まぁ、そこまで急ぐことでもないでしょう。誤解を解くのは後日でも遅くありません」

 その判断が誤りだったと神裂が気付くのは、少し先の話になる。



――そして、気付いた時にはもう何もかもが手遅れだった。
601 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/11(木) 20:41:11.60 ID:icxRo/WPo

 あの場に居るのが怖くなって、あたし――美樹さやかは走っていた。

 ステイルが男の人を燃やした。
 涙を浮かべる男の人を、何のためらいもなく殺した。

さやか「騙されてた……! あたし、騙されてた……!」

 確かに危ないやつだとは思ってた。でも良いやつだった。
 あんな、無抵抗な人を殺すなんて。

さやか「信じてたのに、裏切られた……!」

 視界の端にまどかが映る。

まどか「さ、さやかちゃん!? どうしたの!?」

さやか「はっ、はぁっ……ステイルも、五和さんも杏子も……みんな騙してたんだよ!」

まどか「え?」

さやか「楽しそうに人を殺してた! あんなやつら、信用したあたしがバカだったんだよ!!」

 まどかは困ったような表情を浮かべて、あたしの肩に手を置いた。
 それから泣き喚く子供を宥めつかせるような声色で、

まどか「お、落ち着こうよ、ね? きっとなにかの見間違いじゃないかな?」

 そう言った。

さやか「信じてよ! 本当に、ほん、とうに……」
602 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/11(木) 20:41:38.20 ID:icxRo/WPo

 まどかの表情は変わらない。
 目の前が暗くなるのを感じて、あたしはまどかの手を振り払った。

まどか「さやかちゃん?」

 ふたたび走り出そうとするあたしにまどかが声をかけた。
 肩越しにまどかの目を睨みつける。まどかがびくっと震えて、肩をすくめた。

さやか「ついてこないで」

まどか「え? さ、さやかちゃんどうしたの? ちょっと落ち着いた方が」

さやか「いいから黙ってよ……」

 そう言うと、まどかは黙って俯いた。
 だがなにかを決心したように、再び口を開く。

まどか「さ、さっきと言ってることがまるで違うよ……? さやかちゃん、ねぇ」

さやか「黙って!!」

 まどかが目に涙を浮かべてその場に膝をついた。
 あたしはまどかを置いて、その場を立ち去った。
603 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/11(木) 20:42:07.01 ID:icxRo/WPo


さやか(誰を頼ればいい?)


さやか(香焼もだめ)


さやか(五和さんもだめ)


さやか(杏子もだめ)


さやか(ステイルもだめ)


さやか(まどかも信じてくれない)


さやか(両親? そんなのだめ、だめに決まってる)


さやか(誰も頼れない、誰も信用できない)


さやか(仁美……恭介……)

.
604 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/11(木) 20:43:41.52 ID:icxRo/WPo

 走った末に、あたしは学校の近くにある喫茶店の中に立ち入った。一人でいるのが、怖かった。
 だけど店内はがらんとしていて、以前仁美と来た時と同じくあまり人の気配はない気がする。

 実際、それほど人影も無かった。
 強いて言えば、携帯電話にカエルのストラップをじゃらじゃら付けた、似たような顔の少女が二人でお茶しているくらいか。

 いや――

さやか「あっ……」

 いた。よりにもよって、目が合った。

仁美「あら?」

恭介「ん?」

            ヒトミ           キョウスケ
 座席に着席した親友が、対面に座る親友の手を握り締めている。

仁美「ちょうどよかった、あの――」

 そこから先の言葉は、聞きたくなかった。どうにもならない。どうしようもない。

仁美「さやかさん!?」

 後ろからあたしを呼ぶ声がするけど、無視する。無視するしかない。
 これは完全にわがままで、八つ当たりだ。そんなこと、分かってた。
 でも、仕方がない。
 もうどうにもならないから。
605 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/11(木) 20:44:18.44 ID:icxRo/WPo



―――美樹さやかを支えていた物が、崩れ落ちる。


.
606 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/11(木) 20:47:40.43 ID:icxRo/WPo
投下量に比べて密度が無い……ような。この山さえ越えれば!
土人形の術式は完全にでっちあげです

次の投下は未定。遅くとも四日以内で
607 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/08/11(木) 20:54:08.65 ID:kwPzmmQuo
赤オクタヴィアとクラリッサの組み合わせになるのは
仁美に手ひどい裏切りを受け
仲が致命的にこじれた場合になるらしいと人伝に聞いたが赤と青どちらになるかが気になるな。
608 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/11(木) 20:57:10.08 ID:+QtNhu6y0
どうやっても安定のさやか…
人魚の魔女の性質は恋慕だったけど、今回は確実に原作と性質が変わる。
609 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県) [sage]:2011/08/11(木) 21:06:35.60 ID:1lcGYzCho
魔女の性質が裏切りになりそうだな
610 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/11(木) 21:07:56.60 ID:8VTuVplSO
>>585
そこで携帯から感想書き込みですよ
もしくは串挟んで

VIPサービスがどんくらい串規制してるかに依るかな
611 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/11(木) 21:15:27.12 ID:WKW+2dVuo
トドメは恋慕じゃないか?
裏切りなら人魚にすらならなさそうだな
612 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/11(木) 21:24:34.17 ID:+QtNhu6y0
不信(薔薇園と被る)、拒絶、孤独の線もありじゃないのかな。
下半身が魚から戦車(チャリオット)に変わるとか形状の変化があっても良いのではないか。
613 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/08/11(木) 21:37:56.67 ID:9EwDQzQAO

お前ら魔女化前提に話してるけどまだ魔女になってないだろこれww
614 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/11(木) 21:41:26.86 ID:oH9N21M9o
>>585
気にせず他スレにも書けばいいじゃない。
IDでバレたとしても、俺だったら超喜ぶぞ。

というか投下したIDのまま平気で下ネタ安価取ったりしてるけど
別にバレない。大丈夫大丈夫。
615 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/11(木) 23:50:10.07 ID:KLBJi1lIO
さやかは悪い子ではないのになぁ。魔法少女は大概多かれ少なかれ直情的なのに何故さやかだけこうなるのか。安定のさやか。

>>1おつ
616 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/08/12(金) 01:23:20.32 ID:x4nXmstT0
思い込みが激しく、さらに会話して事実確認をしようとしないからだろう
さやかだけが悪いってわけでもないとは思うが

投下乙です
617 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/08/12(金) 18:28:53.80 ID:k08Gpm6AO
さやかちゃんはウザかわいい

けどやっぱりウザいので安定させられさやかちゃん
618 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/12(金) 20:25:07.38 ID:KIHuGpTz0
さやかは運命の輪(車輪)から逃れられないか。
オクタヴィアは積極的に侵入者に関わる型の魔女ではないから情報収集がしやすく、やり易い方の魔女。清教の皆さんはやり難いだろうけど、仕事柄、何度か似た状況を経験していると思われるので、もはや救いは[ピーーー]以外に無いと判断し他の魔女と同じ対応で魔女と化したさやかを倒すだろう。
619 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/08/13(土) 23:07:04.51 ID:+Q+EGHZN0
どうして…こうなった…
何故俺のお気に入りキャラばかりが死んでいく運命にあるんだ…
俺はこの思いを何に向ければ良いんだ…
620 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/13(土) 23:12:22.41 ID:qxCCvfw3o
だから魔女化前提で話すなとw
お気に入りじゃないんかい
621 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/14(日) 17:52:25.90 ID:fa+RkugAO
ここで上条さんの偶像の理論発動!
上条くんが颯爽と追いかけ、「魔女になるっていう幻想をぶち[ピーーー]!」というですね・・・
622 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/17(水) 01:22:12.18 ID:ae63cLlCo
オクタちゃんの中身はうっすら予想してたけどそんな……構成練り直す必要がないだけ良いけど。
SP届いたけどステイル君カッコ良すぎワロタ。でも今回も出番ないよ!どうすんだこれ……どうすんだこれ

>>610
携帯は盲点だった

>>615
ありがとう、あまり気にしないようにするよ

>>616
本編もそうだけどここでもタイミングが悪いだけで彼女はそんな悪くないよね。
今回のもぶっちゃけステイルがさやかちゃんを巻き込んで(=信頼して)いれば避けられた



というわけで深夜遅くながら投下。仁美を悪役にすることは出来なかった……
623 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/17(水) 01:22:59.63 ID:ae63cLlCo

――イギリス 聖ジョージ大聖堂

 いつになく陽気なローラは、結界を用いることで周囲から人はおろか世界に満ちる力すら弾き出し、
 周囲から完全に隔絶された空間を確保すると、さぞ愉快そうに鼻歌交じりに右手を振って見せる。
 その手の中には、単語帳ほどの大きさの通信用霊装が二枚。

ローラ「あー、あー。コホン」

 軽く咳払いすると、彼女は一枚を耳に挟み、もう一枚を口元まで持っていった。

ローラ「もしもーし、こちらはイギリス清教最大主教、ローラ=スチュアートなりけるのですけどー」

 耳に挟んだ霊装から、衣がこすれる音と共に誰かが慌てふためく声が漏れる。
 ややあって、その霊装の向こう側――ローマ正教に所属するシスターであるリドヴィア=ロレンツェッティが返事をした。

リドヴィア『……イギリス清教のトップが、盗聴かつ通信用の霊装をなぜローマ正教の教会に仕掛けておいでなので?』

ローラ「盗聴用とは聞き捨て難しねー。一度でも起動させたれば所在が知られたるゆえ、今日までそっとしておいたのよ?」

リドヴィア『そうですか、では壊してよろしいのですね』

ローラ「あらあら、せっかくロンドン塔からその身を解放してあげようたというのにその反応は悲しきものよ」

リドヴィア『……用件は?』

ローラ「魔法少女と魔女について」

 霊装の向こう側で、リドヴィアが息を呑んだ。
 その様を想像しながら、ローラは有無を言わさずに続ける。

ローラ「そ・の・ま・え・に」

 と、わざとらしくもったいぶって告げる。

ローラ「舞台の膳立てを頼みたるわ。特に盗聴などは一切無し。内容が漏れれば全て台無しというオチに行き着きてよ?」
624 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/17(水) 01:23:43.28 ID:ae63cLlCo

 しばらくの間、霊装から声が途絶える。
 代わりになにかががさごそと行き交い、複数の人間が何かを仕掛ける音だけが響き渡っている。
 やがて耳鳴りにも似た不快な音がほんの一瞬だけ鳴り響き、リドヴィアの息遣いが聞こえてきた。

リドヴィア『……教会自体に三重の結界を張り巡らし、この部屋自体に人払いと認識錯誤の術式を用いましたので』

ローラ「ふふん、手際が良きことね」

 言いながら、手元の霊装を指で弾く。

リドヴィア『それほどでもありません。ところで何故こんな回りくどいやり方で私に連絡を?』

ローラ「えー、だって新しい教皇は今頃大忙しなりけるでしょー?」

リドヴィア『それはそうですが』

ローラ「だったら魔法少女と魔女という無理難題に燃えに燃えるリドヴィアお嬢ちゃんの方が扱いやすしと思いたりてねー」

リドヴィア『……否定はしませんので。では本題に移りましょうか』

ローラ「そうね。魔法少女に関して、どこまで知識を得たりて?」

リドヴィア『正直に話すとお思いで?』

ローラ「自慢じゃないけど、こちらは人工的な魔法少女を製造する手段を設けていたりけるわ」

リドヴィア『お止めなさい! 魔法少女は魔女になる運命を科せられた存在で……はっ!』

 ローラの誘導に引っかかったことに気付きリドヴィアが口を噤んだ。

ローラ「ああ、そこまで知識が及びたるのね。おーけー♪ 無駄に交渉する必要が省けたるわー♪」

 ローラが笑いながら言った。
625 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/17(水) 01:24:19.09 ID:ae63cLlCo

 元より彼女は、ローマ教皇ですら腹の内を探れぬと評した人物である。
 齢三十そこらの小娘ごときがまともに交渉しようなどと考えること自体が無謀なのだ。
 実際、彼女に苦渋を舐めさせた存在は『たった一人の高校生』と『人間を止めた存在』と『異星からの使者』だけである。

リドヴィア『……その高い鼻を、いつの日か思う存分踏み潰して差し上げますので』

ローラ「十字教徒として色々と危うき発言なりけるわよ、それ」

リドヴィア『あなたにだけは言われたくありませんので』

ローラ「まぁそれはそれでよし……えーと、こちらが要求したるはぁ」

 甘ったるい声を出しながら、目前に散らばる資料にざーっと目を通す。
 それだけで、彼女は資料に刻まれたおよそ二万文字の中から気になる記述を瞬時に読み取った

ローラ「ローマ正教の秘蔵っ子、グレゴリオの聖歌隊に関するものよ」

 ローラを警戒しているのか、リドヴィアからの返事はすぐには来なかった。
 グレゴリオの聖歌隊とはローマはバチカンが誇る聖歌隊のことである。その気になれば地球の裏側に砲撃も出来る。

リドヴィア『……かの聖歌隊でしたら“裏切り者の錬金術師”によって壊滅しましたので、差し上げる物などありません』

ローラ「死んではなしに……とにかく、術式とかそれの応用のための知識を欲したりているの」

リドヴィア『……禁書目録の知識でも十分でしょう』

ローラ「あれの歌はあくまで構成を解くものよ。こちらが欲したるは祈りと歌により構築された“術式”と力なりけるわ」

リドヴィア『……目的は?』
626 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/17(水) 01:24:51.92 ID:ae63cLlCo

 さて、どう答えたものか。
 ローラは神妙な面持ちを浮かべて、誰にも聞かれないような小声で呟いた。
 うーんと首を捻り、

ローラ「限りなく無謀に近い人助け、とか?」

 などと答えると、霊装の向こう側からぱったりと音が途絶えた。
 やっべさすがにやりすぎたか!? みたいな顔をしたローラが慌てて霊装を握り締めるが、その前に反応があった。

リドヴィア『……しい』

ローラ「しい……げんご? C言語?」

リドヴィア『すんっばらしぃい!!』

ローラ「えっ」

リドヴィア『限りなく無謀! 無謀に近い! 人、ひとひと人助け! うふっ、うふふ!! 主はなんとすばらしい試練を!』

ローラ「あの」

リドヴィア『ではまずグレゴリオの聖歌隊の基本中の基本、バチカンに眠りし聖歌に関する資料が必要となります!
        無謀極まりないとはいえあの厳重な警備の中から持ち出さねばなりませんので! して欲する応用は!?
        お望みとあらばグレゴリオの聖歌隊に属する人間の一人や二人でも拉致して差し上げることも可能ですので!』

ローラ「え、えーとね?」

 若干どころかかなりドン引きした様子で、ローラが言った。

ローラ「例えばの話になりけるのだけど」

リドヴィア『はい!!!』

 そこで一呼吸。ローラは口の端をいやらしく歪めながら、



ローラ「例えば、暗く淀んだ器(グリーフシード)に」

ローラ「眩いばかりの光(きぼう)を注ぎし、とかはどうかしらね?」
627 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/17(水) 01:26:44.69 ID:ae63cLlCo

 聖ジョージ大聖堂から僅かに離れた街灯の上で、キュゥべぇは尻尾を可愛らしく振りながら首を振って、

QB「これは誰に向けるでもないんだけどね」

 と前置きした。
 その耳は、ロンドンの街に流れる喧騒を捉えながらも。
 同時に遥か遠くの地にあるローマ正教の教会。そこからわずかに漏れる音を捉えていた。

QB「ソウルジェムとはすなわち魂だけど、なにも魂だけで構成されているわけじゃないんだ」

QB「魂を魂たらしめる、別のエネルギーが必要でね。それが感情の塊であり、希望なんだけど」

QB「それが一度でも尽きてしまえば、その魂は死んでしまうんだ」

QB「死体は魔力を流せば動くけど、魂はそうはいかない」

QB「本当にわずかな時間でも、その器から動力の源が消えた時点で魂は死ぬんだ。元には戻らない」

QB「覆水盆に返らず、というわけさ」

QB「だから、仮に暗く淀んだ器(グリーフシード)に希望を宿らすことが出来ても魔法少女が復活するわけじゃない」

QB「ましてや、魔女にその法則を用いたところでそれを上回る絶望がそれを阻む」

 キュゥべぇは冷たい目で聖ジョージ大聖堂を見た。

QB「タイムラグなしで絶望と希望を置き換えでもしない限り、無意味なんだよ」

QB「そして、それが君たち程度に出来て、僕らに出来ないはずがない……逆に言ってしまえば」

QB「僕らに出来ないことが、君たち人間に出来るわけないじゃないか」

QB「ローラ=スチュアート。君の真意が善か悪かはさておいて、所詮その程度の存在だったということなのかな?」
628 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/17(水) 01:27:24.53 ID:ae63cLlCo

――時は、ほんの少し遡る。
 仁美に対する『返事』を出すために、恭介は彼女と共にとある喫茶店に来ていた。
 店内はがらんとしていて、カエルの人形をいじくっている無表情な短髪の女の子以外に人影は無かった。

恭介「この店ってこんなに人気なかったかな……?」

仁美「さぁ、以前こちらにいらした時もそれほどお客さんは居ませんでしたけど……」

 そんな会話をしながら適当に席に着くと、二人はコーヒーを二つ注文した。

恭介(人気がない分、“こういう”話はしやすいんだけどね……)

 などと思いつつ、恭介は仁美の方に向き直る。
 仁美が緊張した面持ちでこくりと頷く。

恭介「えっと」

仁美「は、はい」

恭介「今朝の話、なんだけどさ」

仁美「……」

恭介「んー……」

 さやかに感じていたという負い目も、解決した。と、思う。
 だったら続ける言葉は決まっている。恭介は決心したように頷いた。

恭介「もともと、断る理由もなかったし」

恭介「左手もまだ治ってないし、足も若干不自由だけど」

恭介「こんな僕でよければ、ぜひ」
629 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/17(水) 01:28:21.46 ID:ae63cLlCo

仁美「……」

恭介(……あれ?)

 沈黙が、喫茶店を支配する。

「……リアルラブコメネ」ゴクリ

「……ネットワークニセツゾク、ト」

 いつの間にか二人に増えた短髪の子が目を輝かせながら覗き見してくる。
 まぁそれはいいだろう。こういう場所で返事をした自分も悪いのだ。
 だが……と、恭介は沈黙を決め込む仁美を見て首をかしげた。

恭介(どうしたんだろう……?)

仁美「ぜひ、と言いましたが」

 突然仁美が切り出してきたのに驚き、思わず全身を強張らせる恭介。
 彼は恐る恐る口を開いた。

恭介「えっと……うん、言ったね」

仁美「その割には、あまり私に関心がないようですね」

恭介「……ん?」

仁美「あなたは、ご自分のお気持ちと向き合えましたか?」
630 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/17(水) 01:28:48.61 ID:ae63cLlCo

 言われて、恭介は自分の気持ちを確かめるように目を瞑って考える。
 仁美と付き合ってどうこうするわけでもないが、付き合えるのであらばそれを断る理由は無いように思えた。
 別にそれで大した弊害が出るわけでも……ああいや、さやかに伝えておくべきだったか。彼女のことだし、

さやか『どうして“親友”のあたしに伝えておかないのさー!』

 とか言い出してすねかねない。
 その様子を思い浮かべ、ほんの少し苦笑する。後でちゃんと謝っておこう。

恭介「うん。向き合ったよ」

仁美「それで?」

恭介「僕でよければ、ぜひ。っていうのが僕なりの返事だけど」

 それを聞いた仁美は、それはそれは深いため息を吐いた。

仁美「自分から告白しておいて申し訳ありませんが、この話は無かったことにしてくださいますか?」

恭介「え? あーいや、どうかしたの?」

仁美「……いま、あなたの目には誰が見えていますか?」

 へ? と間抜け顔の恭介。
 自分の目の前にいるのは、志筑仁美のはずだが。
 そのどことなく妙な素振りからおもわずさやかの姿を連想しながら、恭介は頷いた。

恭介「志筑さんだよ?」

 目の前の仁美が、雷に打たれたかのように激しく仰け反った。
631 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/17(水) 01:29:31.64 ID:ae63cLlCo

――志筑仁美は、どこにでもいる平凡な少女である。

 確かに家柄は恵まれている方だが、そもそも目まぐるしい発展を遂げる見滝原市は基本的に富裕層の住む街だ。

 平均的な水準から見て、それほど突出しているわけでもなければ劣っているわけでもない。

 仁美本人も家柄を誇って驕るようなことはなく、積極的に習い事や稽古事に励んで自身を磨き上げてきた。

 両親も必要以上に娘を甘やかしたりせず、その自立性を我が身のように喜び、しかし陰ながら支えていった。

 そのせい――というのはあまりにも不憫な話だが。

 幼い頃から努力を惜しまない彼女は、幼稚園・小学校ともにいわゆる『お嬢さま』ポジションに収まってしまう。

 それだけならばまだ良かった。だが実際はどうだ。

『あ……志筑さんだ……』

『よーふく汚したら怒られるぞー!』

『しっ、声大きいよ!』

 その高貴な雰囲気と家柄に圧され、親からも何か言われたのであろう。
 彼女と積極的に仲良くなろうとする者は、決して多くはなかった。

 そして幼いながらもその事実に気付いた彼女は、『仕方のないこと』と割り切ってしまう癖を身につけてしまった。
 いわば“諦め癖”だ。何かを欲しがる前に、さっさと諦めることで痛みを減らそうとしたのだ。
 それが幼い彼女なりの処世術であった。
632 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/17(水) 01:30:36.68 ID:ae63cLlCo

 そんな彼女に転機が訪れたのは、今から一年近く前のことになる。
 彼女は今でもその日のことを覚えているし、目を瞑ればその時の情景が鮮明に蘇ることだろう。
 意識を集中させればその時にあった会話はもちろん、周囲の人の声すら思い出せる。

 それは、見滝原中学に入学した日のことだった。

 形式ばった堅苦しい入学式を終えて、上級生の指示に従い教室に入って行く。
 それから指定された席に着き、鞄を置いてほっと一息つき。

 中学校で過ごすことになる三年間に不安を抱えて少し弱気になっていた仁美は、
 特に意識するでもなく隣で繰り広げられる会話に耳を傾けていた。

『いっやー校長の話長かったわー。あたし生まれて初めて貧血で倒れるかと思ったもん』

『てぃひひ、さやかちゃんったらもう。小学校の頃から同じこと言ってるでしょ?』

 ぼんやりとした頭で、彼女らが幼馴染であろうということを察する。

『いやー小学校はまだ良かったんだけどねぇ。ところでガラス張り教室ってセンスやばくない? まどかはどう思う?』

『うーんそうかなー。こういうの格好良いと思うけど……』

『うぇっ、やっぱまどかの感性は分からんなー……あっそうだ!』

 自分はどうだろう。どちらかといえば微妙かな……などと仁美が思考をめぐらせていると。
633 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/17(水) 01:31:19.00 ID:ae63cLlCo

『ねぇ、あんた……じゃないや、あなたはどう思う? この学校のセンスとか色々さ』

 いきなり二人の内の一人、青い髪の、活発そうな少女――美樹さやかに声をかけられた。

『えっ? あ、えっと……そうですわね、私もちょっとどうかと思います』

『ほらーそれ見たことか! ふふん、これで2対1だぞー?』

 得意気なさやかを見て苦笑しながら、大人しめな少女――鹿目まどかが、肩をすくめて仁美に目を向けた。

 そんな何気ない会話が、仁美に訪れた転機の正体である。
 彼女はその日、美樹さやかと鹿目まどかに出会った。

『初対面さえ最悪じゃなければ誰とでも仲良くできる自信がある!』

 と胸を張るさやかは、その言葉通り仁美ともすぐに打ち解けてみせた。

『こんな子だけど、根は真面目な子なの。よろしくね?』

 さやかと仲良くなる=まどかとも仲良くなるという方程式でもあるのか、気付けば三人はいつも一緒にいた。

 授業はもちろん、昼休み、放課後、遊びに出かけるときも。
 宿泊体験も、体育祭の時だってそうだ。

 ありがちな表現だが――

 共に笑い、喜びを分かち合い。
 共に泣き、悲しみを負担しあう。
 そんな関係だった。
634 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/17(水) 01:32:08.54 ID:ae63cLlCo

 そんなある日、さやかは人懐っこい笑みを浮かべてこう言うのだ。

『ねねっ! あたしの幼馴染がヴァイオリンの演奏会やるんだけどさ、仁美も聴きに行かない?』

 ……さやかは、仁美にとってかけがえのない親友だ。それだけは自信を持って言えるだろう。

 だからこそ、この誘いを受け入れたことを彼女は今でも後悔する時がある。

『やっぱ恭介は才能あるよ! 弾く度に上手になってるもん!』

『はは、分かったから肩に手を回さないでくれるかな。ちょっと苦しいから……あれ、その子は?』

『ん? あそっか、恭介は違うクラスだもんね。ほら、前に言ってたあたしの大親友! 志筑仁美っていってね……仁美?』

『えぇ……え、えっ?』

『ああ、君がさやかの言ってた可愛い子か。よろしくね? 志筑さん』

『えっ、あっ、は、はい!?』

 その日、志筑仁美は恋をした。いわゆる、一目惚れというヤツであった。

 理由はよく分かっていない。
 上条恭介のルックスに惹かれたのか、それとも彼のヴァイオリンの腕に惚れたのか。
 あるいはさやかと仲良くしている姿に心打たれたのか。
 それとも平然と右手を差し出してくれたことに心奪われたのか。

 だが、分かることが一つだけある。
 この想いを打ち明ける日は、絶対来ないだろうという確信めいた何かだ。

 それは彼女の処世術であり悪癖でもある“諦め癖”だった。
635 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/17(水) 01:33:03.37 ID:ae63cLlCo

 本心を隠したまま、悶々と日々を送る内に恭介が事故に遭った。
 彼を献身的に支えるさやかの姿を見た。自分の立ち入る余地など一片もないと彼女は改めて気付いた。

 その彼女が己の意見を180度変えて、自身の思いを打ち明ける決心をしたのはほんの数日前のことだ。

 集団幻覚――魔女の口付けによる洗脳――に遭い、体に残った痺れ――妹達が鎮圧した際の負傷――に伴う、記憶の欠如。
 それらは彼女に恐怖を与え、同時に心の奥深くに後悔の念を刻み込んだ。何も伝えぬまま終わってしまう、恐怖と後悔。

 何もしないままで終わることと、何かをした上で終わること。彼女は後者を選択した。
 本来であれば、それは喜ぶべきことなのかもしれない。どんな理由であるにせよ、彼女は自らに付き纏う悪癖に打ち勝ったのだから。
 ……恭介から逃れるように立ち去ったさやかの姿と、彼女に異姓に対するそれを抱いていない恭介の姿に。
 多少なりとも打算めいた物を抱いたのも、事実ではあったが。
 いずれにせよ、彼女は行動に移した。大事な親友を捨て去ってでも、想い人を勝ち取るために。

『上条恭介君のこと、お慕いしてましたの』

 そんな告白をさやかにしたとき、仁美は『もう二度と彼女と肩を並べる日は来ないだろう』と覚悟していた。
 だから、転校生ことステイル=マグヌスの空気を読まない提案に、心のどこかで安堵していなかったと言えば嘘になる。

 気まずいことに、かわりはなかったが。
636 :佐天「いま あなたの目には 何が 見えてますか?」 [saga]:2011/08/17(水) 01:34:30.91 ID:ae63cLlCo

 そして、今日。
 さやかよりも恭介を選んだ仁美は、恭介からイエスという返事を受け取った。
 彼女は喜んだ。嬉しかった。今にも踊りそうなほどに、晴れやかな気持ちだった。

 だが、違うのだ。

 仁美が欲しかったイエスは、“断る理由がないから”などというイエスではない。

 仁美が欲しかった彼の笑みは、心の中で“仁美ではない誰か”を想像して浮かべる笑みではない。

仁美(なんて欲深い……)

仁美(嫌な……女ですわね)

仁美(どうせなら、彼の全てが欲しい……とまでは言いませんが、それでも……)

仁美(やはり、彼の中にはさやかさんがいるのです)

仁美(これでは道化ではありませんか……)

 仁美の推測は、ある意味では完全な勘違いであり誤りなのだが――事情を知り、それを指摘することが出来る人間、
 身長2mの神父ことステイルは、残念ながらこの場には居なかった。

仁美「……いま、あなたの目には誰が見えていますか?」

 その問いを、恭介がどう受け取ったのか。それは分からない。分からないが――
 彼はさやかを見る時に浮かべるような、困ったような笑顔のまま頷いて言う。

恭介「志筑さんだよ?」

仁美(にっ……鈍ちん!?)

 思わず仰け反ってしまう仁美。
 彼女は恭介の手をぎゅっと握り締めると――どうせ最後のわがままだ――彼の目を真正面から見据えた。
637 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/17(水) 01:35:14.39 ID:ae63cLlCo

仁美「文字通り道化ですね……」

恭介「へ?」

仁美「こほん……あなたがお気付きでないようなら言わせていただきますがよろしいですか?」

恭介「えっと、うん。どう……ぞ?」

 告白したのは自分で、覚悟をしたのも自分で、気持ちと向き合ったのも自分で。返事すら貰ったのに。
 なんでさやかのためになるようなことをしているんだろう。
 恭介の手の温もりを味わいながら彼女は無性に泣けてきた。
 いや、本当に涙を流すわけでもない。正確には泣きたい気持ちに駆られた、か。
 そんなことを考えながら、自棄になった仁美が言葉を紡ぐ。

仁美「あなたが本当に好きな方は……」

恭介「あ」

仁美「え?」

 恭介の視線が横に逸れたのを見て、仁美も倣うように視線を逸らす。
 その先に、肩を上下させて呼吸をするさやかの姿があった。

さやか「……」

 この機会だ。無理やり二人きりにしてさっさと話を付けてもらおう。
 察しの良いさやかのことだから、すぐさま全てを理解してくれるはずだ。そう考えた仁美が口を開く。

仁美「ちょうどよかった、あの――」

 仁美がその旨を告げようとする前に、さやかは踵を返して駆け出した。

仁美「さやかさん!?」

恭介「さやか?」
638 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/17(水) 01:36:54.09 ID:ae63cLlCo

 彼女らの制止の声を振り切って、さやかは喫茶店を抜け出してしまう。
 仁美がさやかを追いかけようと立ち上がるが、

仁美(いいえ、私が声をおかけしたところでさやかさんの耳には……なら!)

仁美「上条君!」

恭介「はっはい!」

仁美「追いかけて!」

恭介「ぼ、僕が?」

仁美「はやく!」

恭介「え、えーと……うん、分かった」

 仁美の剣幕に呑まれたのか、恭介は怪訝そうな顔のまま腰の辺りにある何かの機材に触れると、
 杖を収納したままさやかを追いかけるために走り出した。

 それを見送った仁美は肩の荷が下りたような気分になり、再び椅子にどかっと座り込んだ。
 深々とため息をつき、愚かな自分を呪いながら、
 とっくに冷め切ってしまったコーヒーに口をつけるかどうか悩んでいると。

ウェイトレス「えーと……紅茶です。どうぞ」

 妙に気まずそうな顔をした女性のウェイトレスが、お盆に乗った温かい紅茶をそっとテーブルに置いた。
 注文をした覚えがない。咄嗟に彼女の顔を見返すと、彼女は困ったような顔になって明後日の方を向いた。
 気になった仁美がその視線を辿ると、

仁美「あら……?」
639 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/17(水) 01:38:08.55 ID:ae63cLlCo

仁美「あら……?」

 なぜか顔を真っ赤にした短髪少女二人が、そーっと、というかじーっと、こちらを凝視していた。

??「……ちょっと、なんか気まずいことになってんじゃないのよ」

??「『マスター、彼女にリラックスのできる飲み物を。
      それからこれを、なに、気にすることはない。ほんのお礼(チップ)さ』
.     ってな具合に決め込めばめでたしめでたしなはずでしたのに、とミサカは予想が外れたことに首を傾げます」

??「あんたたちってどうしてみんなそう俗っぽいのかなぁ……」

仁美(なんでしょう、あの方々……そっくりな外見ですし、姉妹か何かでしょうか?)

 どこかずれたことを考えている内に、その短髪少女二人は椅子を持ってきて勝手に仁美のそばに座り込んだ。

??「あー、あんま気にしない方がいいわよ。乙女ってそういうもんだから」

仁美「はい?」

    オリジナル
??「お姉様は遠回しに励ましているつもりのようです、とミサカは面倒くさそうにフォローして見せます」

??「でもさぁ、ああも露骨に他の女の顔想像されながら会話されちゃたまんないわよねー」

??「それでいてその事実に気付かない鈍感というところが手に負えませんね、とミサカはどこぞの少年を思い浮かべながら言います」

 ……よく分からないが、気を遣ってくれているのだろうか?
640 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/17(水) 01:39:37.28 ID:ae63cLlCo

仁美「でも……自分から告白しておいてこれですもの。私、駄目ですわ」

??「気にするこたぁないわよ。失恋……っていうか、身を退くことができる女はね、将来良い女になるから!」

仁美「はぁ……なれるでしょうか」

                        オリジナル
??「自慢じゃありませんが私も隣のお姉様も過去に失恋した身ですよ、とミサカは暗に私たちが良い女であることをほのめかします」

??「……良い性格してるわね、あんた」

 二人の会話を聞きながら、改めて仁美は彼女達の姿を見つめた。
 年齢は、同じ程度のはずだ。生命力溢れる身のこなしと、良い意味で二十代にも見える、意思の宿ったきりりとした瞳。
 特に表情が豊かな方の少女は、あらゆる動作に自信のようなものが見え隠れして見える。なのに、悪い印象には映らない。
 例えるならば、大人の女性になる、一歩手前の美少女。
 あと数年も経てばテレビに出てくるモデルなんて比較にならないほどの美女になることだろう。
 勝手な評価を下してから、仁美は自然と頷いて口を開いていた。

仁美「そうですね。とてもお美しく見えますわ」

??「ちょっともう、あなたまで……まっ悪い気はしないけど」

                             オリジナル
??「いやいや今のはミサカに対してであってお姉様に対してじゃねーから(笑)」

??「……まぁこのバカはさておき、さっきの男の子だけどさ」

仁美「はい?」

??「あの腰につけてあった機材、そんなに長持ちしないし追いつけるのかしらね。痛みもあるでしょうに」

仁美「まぁ……あの複雑な機械について知識をお持ちでして?」

 仁美の問いに「まーねー」と答えて、少女は頬をぽりぽりと掻いた。
641 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/17(水) 01:40:38.04 ID:ae63cLlCo

??「あれは私の夢だったし、ね……」

仁美「夢? 失礼ですが、もしかして学園都市の学生さんでいらっしゃいますか?」

??「そうよ。あたしは御坂美琴。よろしくね」

仁美「御坂さんですわね……あら、ということはそちらの方はやはり?」

美琴「そう、妹達(いもうと)ね。今は関係機関に出張って扱いで、妹達(コイツラ)に会いにきてるのよ」

妹達「一万人近くいますけどね、とミサカは小声でぶっちゃけます」

仁美「? それにしても……上条くん、大丈夫でしょうか? さやかさんに追いつけるかどうか……」

美琴「……上条、ね」

 なぜか遠い目をして、美琴は声のトーンを若干落とした。
 同姓の知り合いでもいるのだろうか?

美琴「まぁ大丈夫でしょ、これがラブコメマンガだったらあの子は主人公でヒロインがさっきの彼女だし」

妹達「いい加減現実と妄想の区別位してくれよ、とミサカは本音を包み隠さず暴露します」

美琴「あんたねぇ〜!!」

 目の前で繰り広げられる姉妹喧嘩を見て笑みを浮かべつつ、仁美は喫茶店の入り口へと視線を移した。
 いまさら彼らの姿が見えるわけでもないが……それでも彼女は、入り口から目を離せなかった。

仁美(……)

 確かに、この世界がラブコメマンガの世界なら上条恭介はヒロインこと美樹さやかを追いかけるヒーローなのかもしれない。

 だが、果たしてそう上手いくのだろうか……?

 自分が告白したことなど頭の中から綺麗さっぱり消し去りながらも、しかし仁美は不安を感じずにはいられなかった。
642 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/17(水) 01:41:26.05 ID:ae63cLlCo

――果たして、その不安は的中することになる。

 さやかを追いかけていた恭介は、
 腰の辺りから聞こえる小さなアラームとびりびり響く微弱な振動に気付いて顔を顰めた。
 彼が使用する機材はとても貴重かつ短時間しか使用できないもので、今のは充電が尽きかけている証だ。
 そしてこの機材は家に帰らねば充電できない。

恭介「まいったな……」

 口に出しながらも、彼は右手の杖を伸ばしてそれに体重を乗せた。
 病み上がりどころか病み途中で無理をしたのが祟ったのだ。先ほどから足は震えるし息も上がっている。
 だが精神面はどうだろう。仁美に告白の返事をしたらなかったことにされたのだ。ショックかと問われれば――

 実際、そうでもない。

恭介(それにしても、どうしてさやかのことを追いかけろなんて言ったんだろう)

 仁美の取った不可解な行動の意味を考えながら、恭介は深呼吸して酸素を体中に行き渡らせる。

恭介(さやかもさやかだよな。どうして走って行ったんだろう?)

恭介(……考えたって始まらないか。でもこれ以上無理をして探しても……)

 ぐるりと周りを見渡す。さやからしき人影はおろか、物音一つしない。
 携帯を開いてみると、もう既に時刻は八時を回っていた。我ながらよく夢中になって探した物だと思う。

恭介(……)

恭介「細かい事情は、明日学校で聞こうかな」



 この世界はラブコメマンガの世界でもなければ、上条恭介はヒーローでもなく、美樹さやかはヒロインでもないのだ。
 彼の選択も、また仕方のないことだった。
643 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/17(水) 01:42:03.70 ID:ae63cLlCo

――そして、翌日。さやかは学校を休んだ。
 偶然かどうかは分からないが、暁美ほむらの姿もない。

恭介「ねぇステイル、さやかのこと知ってるかい?」

ステイル「いや……君はどうだい?」

恭介「いや、昨日会ったんだけどさ。すぐに暗い顔して飛び出しちゃって……ステイル?」

ステイル「……そうか。いや、僕は何も知らないよ」

 そう言って、無理やり恭介との話を終えると、ステイルはまどかの下に歩いていく。
 ステイルの姿を認めたまどかが、不安そうな表情のまま小さな声で囁きかけた。

まどか「さやかちゃん、昨日変なこと言って……ステイル君たちが笑いながら人を殺してるって……信じられないって……」

ステイル「ん? 昨日は人殺しなんて……いや、そういうことか」

まどか「さやかちゃん、お家にも帰ってないの……どうしちゃったんだろ……」

 事情を察したステイルは、懐からカード状の通信霊装を取り出した。
 それを胸も辺りまで持ってくると、魔力を通して近くで“別の仕事”をしている神裂に繋げる。

ステイル『神裂』

神裂『……はい、なんでしょう?』

ステイル『美樹さやかが昨日の仕事を盗み見たのは知っていると思うが、事態は思ったよりも深刻そうだよ』

神裂『と言いますと?』

ステイル『戦闘中に笑ったバカのせいで勘違いされたみたいだね』

神裂『……香焼と五和ですね。気持ちは分からないでもないのですが』
644 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/17(水) 01:44:05.30 ID:ae63cLlCo

ステイル『ともかく、彼女は行方不明だ。今すぐ探索チームを作ってくれ』

神裂『分かりました。天草式の一部を5チーム、アニェーゼ配下の修道女の一部を10チームに分けて探させます』

 己のミスを悔やむより先に対策を考える。そこが魔法少女と魔術師の違いだった。
 神裂は手際よく仲間に指示を下し、己も“仕事”を中断してさやかの探索に当たることにしたようだ。

ステイル『僕も探そう』

神裂『申し訳ありません』

ステイル『気にすることはないさ。“仕掛け”がある分この街の探索は僕の方が向いているが、長くは持たない』

 見滝原市はとても広く、さら脈があるせいなのか発展しているがために活気があるからなのかは分からないが、
 魔女はもちろん使い魔が非情に流れ込んできやすい。下手に時間を空ければ彼女の足取りを掴むのは一層難しくなるだろう。
 授業は中止だ。

ステイル「すまないが用事が出来た。あとは頼んだよ」

まどか「えっえぇ!?」

 慌てふためくまどかを尻目にステイルは教室を出ようとする。
 しかし仁美と恭介がその行く手を阻むように立ちふさがった。

仁美「さやかさんについて、なにかお知りなのですか?」

ステイル「なにも知らないさ。僕は家の用事で早退するだけだよ」

恭介「……昨日僕がきちんと追いかけていれば……」

ステイル「君の気にするようなことじゃない。とにかくそこを退いてくれるかな?」

 ステイルに促されて、二人はしぶしぶ道を空けた。

仁美「……あなた方が、なにか隠し事をしているのは既に察しております」

ステイル「……」

仁美「……さやかさんを、よろしくお願いします」

 言われなくても、と心中で答え、しかし口には出さずにステイルは教室を出て行った。
645 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/17(水) 01:44:36.65 ID:ae63cLlCo

――一方、その頃。

さやか「……悪いね」

さやか「世話、かけちゃってさ」

 日が暮れるまで走り続けた彼女は、どっと押し寄せた疲れと不安によって気を失い、

ほむら「……気にする必要はないわ」

 たまたま通りがかったほむらによって家まで運ばれ、彼女の手で介抱されていた。

さやか「……ねぇ、ほむら」

ほむら「なにかしら」

さやか「あたし、あんたとは仲直り出来たと思ってるけどさ……一つだけ不思議なことがあったんだよね」

ほむら「……」

さやか「マミさんが死んじゃった後の、あんたの目」

さやか「なにもかも、ぜーんぶ諦めちゃったみたいなそんな目がさぁ。どうやったらこんな気持ちになれんのかなーってさ」

ほむら「……」

さやか「でも……今なら分かるよ、あんたの気持ち……」



さやか「あたしも、何もかも諦めたくなっちゃってる」
646 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/17(水) 01:49:54.66 ID:ae63cLlCo
以上、ここまで。
なんか物語のためにキャラが動いてるみたいでアレかな……
今回のやり取りだけ見るとローラが良い人のように思えますが、彼女はそこまで善人じゃありません
次回の投下は……三日以内、に出来ればいいかなぁ……
647 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/17(水) 02:03:28.86 ID:/SpxEH0IO
乙です
648 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/17(水) 03:29:52.69 ID:l/9d7IPZo

まぁご都合主義働かなきゃ病み上がりの体で追いつけるわけも見つかるわけもないよねー
649 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県) [sage]:2011/08/17(水) 03:49:01.63 ID:nXLR2pfRo

同じ上条でも上条さんとは違ってヒーロー属性も主人公補正も無いからな…
マミさんの次はさやかも魔女になりそうだな…
650 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/17(水) 06:33:28.28 ID:auj8AxHxo
追いついた
さやかに救いがあるのかどうか。そこが問題だ
651 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/08/17(水) 08:17:32.46 ID:iy05QEPI0
乙ー
懐かしの超長距離砲撃かww相手がチートでなければ……
652 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/17(水) 08:59:46.34 ID:FbH8NdAIO
やはり名前が同じ程度では偶像の理論で力は宿らないのか。
さやかがほむらの所にいるのは関係の変化があって少し嬉しいな
653 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/08/17(水) 15:35:55.34 ID:nuyMdMJM0
上条さんのほうは出てくるのだろうか・・・
ワルプル一撃必殺とか最高にかっけぇとおもうが
654 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/17(水) 19:24:50.14 ID:Bxt70J3so
小説版読んだ後だと仁美が綺麗すぎるw
655 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/17(水) 20:58:43.20 ID:5Jr8gLSQo
小説未読だけど、仁美が黒いってのが未だに信じられんなー。
背中押したつもりが裏目、って流れの方が面白いと思うんだけどな。

そして1は相変わらず上手いな。
恭介と手繋ぐシーンはハノカゲ版にもあったけど、
あの決定的なNTRをここまでポジティブ変換できるとはw
656 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/17(水) 23:45:42.31 ID:2kaM1xj60
恭介はどうやってもさやかの恋人になれない気がする。
若作りは魔法少女の復活ではなく、人格を維持した魔女としての再生、誕生を狙っているっぽい。生前の人格を保持して魔女としての再生はQB達が既に実験していそう(感情の無い自分達では魔女に希望を維持させる事が難しいので、魔女の絶望を阻止し支える誰かを用意)。
657 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/17(水) 23:49:49.83 ID:vEEiJ1D50
小説版踏まえると恭介は相当出来た男だと言うのに
658 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/17(水) 23:58:01.13 ID:2kaM1xj60
絶望、希望以外の感情のエネルギー発生実験
人格を維持した魔女の実験(なんとなく、実験で白面(うしおととら)が発生しそう)
契約者に与える情報量の変化と魔女化の関係
など、若作りが考えそうな実験は一通りやっていそうな気がする。今回も魔術、超能力が魔法少女システム改良、魔法少女システム以外のエネルギー発生の手段に値するかどうかを見極める為の情報共有と見た。魔術側をやる気にさせるため、感情の無い自分達に出来ない思い付きが出来るかもしれないので、あえて挑発的な事を言ったとか。
659 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2011/08/18(木) 00:40:43.44 ID:3MLQJVWd0
>>653
上条さんが登場してワルプルギスを一撃で倒したりしたら最高に萎えるだろ……
660 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/18(木) 04:28:44.16 ID:LpBZlfJAO
上条さんが救うスレは既にあるしそういうのも良いと思うがこのスレはあくまで魔術メインなんだろ
スレ主?作者?が言うには手助けで登場するらしいし期待しようじゃないか
661 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/18(木) 04:29:22.60 ID:LpBZlfJAO
すまね、ageてもうた
662 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/08/18(木) 06:50:03.73 ID:l/VzY4O70
反省するふりするくらいなら二度も書き込むなよ
そしてsageうんこ
663 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/08/18(木) 10:08:35.91 ID:CqSYsvGj0
よ…よかった…さやかちゃん魔女化してなかった…マジでよかった…軽く泣けてきたぜ…

ところで上条てめえ何諦めてんだよ女の子一人救えない奴に自分の目標を成し遂げられるとでも思ってんのか
てめえそれでも男かこん畜生偶像理論でもなんでもいいからちょっと上条さん見習ってきやがれ
664 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/18(木) 11:20:19.49 ID:cvrLsy7DO
主人公補正でなんでも上手く行く奴と比較するな
665 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/18(木) 15:06:12.35 ID:yra4yWvk0
さやかの魔女化の属性がほむらへの「依存」「執着」になる可能性も出てきた。ステイル達が何を話そうともう言葉は届きそうにないし、恭介はさやかを異性として見れるか微妙、魔女化は時間の問題の気がする。
魔女化した後に外から希望を注入して人格を取り戻したとしても与えられる希望では満足できなくなる。いずれ、世界全てを憎む理性と知性を持った最悪の魔女が誕生しそう。
666 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/18(木) 15:09:06.34 ID:y2Mb6tvho
お前いい加減妄想垂れ流しも程ほどにして改行しろ
667 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県) [sage]:2011/08/18(木) 15:11:21.17 ID:RjWImf2Po
さやかの魔女の性質が疑いや裏切りとかになりそうだな
668 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/18(木) 21:09:29.44 ID:NfnG6V37o
>>663
学校帰りに喫茶店でいちゃいちゃするような時間帯から
8時過ぎまで追いかけてれば大分頑張ったんじゃないだろうか、病んだ身で
669 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/18(木) 22:15:04.01 ID:LpBZlfJAO
さやかがいるし5時半くらい?だから2時間半走り通しは頑張った方だな
相手が魔法少女じゃなくて主人公補正があったら追い付いてたにちがいない
670 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/19(金) 06:57:49.84 ID:h9PHUQ8+o
そげぶさんに至っては、生身でも補正だけで魔法少女に追い付きそう
671 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/08/19(金) 15:10:15.99 ID:2LekPy8H0
無駄に補正があると少しイラつくけどな
672 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/19(金) 18:39:51.64 ID:GWTVryPIO
クロスでやるとただのクロス先レイプ
673 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/20(土) 00:55:31.66 ID:XvasY7+uo
それだけに、書ける人は尊敬する。本気で
言ってしまえば、このスレは……その辺りを語るのは完結し終えてからになりますが、ううむ
投下の前に少しレス返を

>>654
新訳2巻の影響で話を作り直してる最中にまどか小説食らってエターなる覚悟でしたが、結局強行させていただきました
綺麗に描いた分だけ、不幸にせずにはいられない……そんな法則は……

>>668
計算したらバッテリー持ちすぎという。その辺りは根性で

では投下します
674 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/20(土) 00:56:30.76 ID:XvasY7+uo

――時刻は、夜の7時を回っている。

さやか「……」

ほむら「……」 トントントントン

さやか「……」

ほむら「……」 サッサッ

さやか「……」

ほむら「……」 グツグツ

さやか「……」

ほむら「……」 ズズーッ

さやか「……」

ほむら「……」 ジャーッ

さやか「……」

ほむら「……」 カチャカチャ

さやか「……」

ほむら「……出来たわ。食事にしましょうか」

さやか「……ん、そだね」
675 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/20(土) 00:57:58.63 ID:XvasY7+uo

ほむら「……ちょっと濃すぎたかしら」

さやか「……」 ズズーッ

ほむら「……少し焦げてるわね」

さやか「……」 パクッ

ほむら「……薄いかしら」

さやか「……」 カリカリ

ほむら「……」



ほむら(き、気まずい……!)

ほむら(というか問題はまだまだ山積してるとのに……)

ほむら(なんで味噌汁と焼き鮭ときゅうりの浅漬けなどなど和風チックに揃えた晩御飯を提供してるのかしら……)

ほむら(あ、焦げ目と塩っ気が良い具合に――)

ほむら(――じゃない! マジメになるのよ……)

ほむら(今のさやかは不安定すぎる……“これまで”に類を見ない落ち込みよう……)

ほむら(まさか真実に気付いた?)

ほむら(そりゃあ魔術師に教えたのは私ですけど……でも“美樹さん”だって、その……)

ほむら(こういう展開になるのはちょっと……ずるいです……)

さやか「ねぇ」

ほむら「はっ、はい!」
676 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/20(土) 00:58:53.01 ID:XvasY7+uo

さやか「ステイルとか、魔術師の連中さ……良いヤツだって思っちゃったんだよね」

ほむら「……そうです、ああいや……そうね。確かにお人好しだと思うけど」

 バン! と音を立てて、新米が盛られたお椀がテーブルに叩きつけられる。
 さやかが俯きながら唇をぎゅっと噛んだ。意図は分からないが……恐らく、ほむらの言葉に反発したのであろう。

ほむら(……彼らと何かあった?)

 そんな彼女の内心を見透かしたのかは分からないが、さやかが自嘲気味に笑った。

さやか「いいよ、教えてあげる」

 食事を中断したさやかは、背を椅子に預けて淡々と語り始めた。

 香焼や五和が、笑みを浮かべながら人を殺したこと。
 ステイルが、顔色一つ変えずに人を燃やして見せたこと。
 同じ魔法少女の杏子すら、何の躊躇いも覚えずに人を殺せること。

 さやかの告白を黙って聞いていたほむらは、妙な違和感を覚えて眉をひそめた。
 ステイルが人を生死に慣れているのは知っている。彼自身、沢山の人を殺めてきたということも。
 彼自身から聞かされたのだ。誇張でもしていない限りは、事実だろう。
 違和感を覚えたのは、そこではない。

ほむら(……佐倉杏子が、躊躇いなく人を殺せる?)

 これまでの“経験”からして、それはありえないことだった。
 確かに彼女は法を破り、いくらか人々に迷惑をかけたかもしれない。
 使い魔を泳がすことで、本来ならば防げた――あるいは起こるべくして起きた――人の死を見逃している。
 だが。いかなる理由があろうと、彼女が自ら人に手を下すだろうか?

 ……グリーフシードを餌にすれば、あるいは?
677 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/20(土) 01:00:04.39 ID:XvasY7+uo

ほむら(だからこそ解せない)

 それが事実ならば、魔術師はグリーフシードを使って杏子を利用したことになる。
 彼らほどの実力者が、わざわざ魔法少女の力を借りる? 笑みを浮かべるほど余裕なのに?
 五和たちを立てれば杏子が立たず、杏子を立てれば彼女らが立たない。
 まず前提が成り立たないのだ。

ほむら「……佐倉杏子が協力する理由が見当たらないわ」

さやか「でも! 現にアイツはやってたんだよ!? 見てないけど、確かにアイツはッ」

ほむら「そもそも」

さやか「なによ!」

ほむら「本当に“人間”を殺していたの?」

 ぴたりと、時が止まったかのようにさやかが固まる。
 だがその顔にはほむらのことを蔑むような色が見られた。
 言葉にするなら、『あんた本気で言ってんの?』といったところか。

ほむら「まず一階で起きた、謎の爆発。これがそういう魔術だとして、男がばらばらになったとしましょう」

ほむら「そのばらばら死体から、血肉の臭いはしたの?」

さやか「あたしにんな余裕があったと思ってるわけ?」

さやか「そもそもあたしは、そういうグロテスクな死体の臭いなんか……」

ほむら「知らないわけ、ないわよね?」

 再びさやかの身体が固まる。しかしその顔に見えるのは、蔑む時のそれではなく苦悩の色だ。
 彼女は、ばらばらになった遺体を、この目で見たことがある。その臭気を、嗅いだことがある。
 ほんの数日前――巴マミの部屋で。
678 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/20(土) 01:00:48.89 ID:XvasY7+uo

 あまり思い出したくない記憶の海から、それでも有益な情報を引きずり出そうとしているのだろう。
 彼女はこめかみに手を当てて、ひたすらにその時の状況を思い出そうとしていた。

ほむら「……あの時の記憶がトラウマになっているなら、思い出すのは難しそうね」

さやか「……」

ほむら「次。二階で男が、三人がかりで串刺しだか滅多刺しにされたそうね」

さやか「……」

ほむら「おかしいわね。どうして滅多刺しにされた男が、崩れてぐちゃぐちゃになっているのかしら」

さやか「それは、だから魔術で……」

ほむら「一階で聴こえたような爆発音を、二階でも?」

さやか「……でも、確かに死体が……」

ほむら「ビルは暗かったそうね。人の顔は見えたようだけど、人肉の色……」

ほむら「深い赤、あるいは暗いピンクと、それ以外の黒や暗い茶系統の色を見間違えても不思議ではないんじゃないかしら」

さやか「……」

 さやかの瞳が揺れる。頬の筋肉をぷるぷると震わせ、歯ががちがちと音を立てている。
 泣くのを堪えているようには見えなかった。むしろ、笑いそうになるのを必死で堪えているような……
 その時、風船から空気が漏れるような音が室内に響いた。
 さやかが笑った音だ。
679 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/20(土) 01:01:25.51 ID:XvasY7+uo

さやか「はっ……はは」

さやか「で、なに、それ、だから?」

 支離滅裂だ、ほむらは眉をひそめながら、彼女の挙動に目を配る。

さやか「関係ない、関係ないよ」

さやか「まどかだってそう、ああでもあたし、まどかのこと……だめだ、違うのに、そんな……」

 わけがわからないよ、思わずそう言いそうになったが、ほむらはかぶりを振って考え直した。
 今のさやかは危ない。

さやか「仁美もそう、恭介も……あんたも、関係ないくせに、そんなの……違う!」

 さやかから溢れ出る魔力に当てられて、新米が盛られたお椀――お気に入りだった――に一筋の亀裂が生まれる。

ほむら「とりあえず落ち着きなさいさやか」

さやか「……くせに」

ほむら「?」

さやか「本当はどうでもいいくせに。あたしのことなんか興味ないくせに」

 さやかに言われて、ほむらは押し黙った。
 彼女がどうなろうと、どうでもいい。本質的には、そうかもしれない。
 “これまでの世界”では見たことのない流れだが、彼女はドツボに嵌りやすい性格をしている。
 さやかが魔女になる確率は高い。それを踏まえれば、いまさら彼女に気をかけたところで無駄だ。
 確かに、どうでもいいのかもしれない。
680 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/20(土) 01:01:55.60 ID:XvasY7+uo

 だが。

ほむら「……それでも、あなたが傷付けばまどかが悲しむ」

 “目的”に直接的に関わることはないが、避けられる事態は避けておきたい。
 それはほむらの本音だった。

さやか「……あんたの考え方、ようやく分かったわ」

 気だるげに首を曲げて、椅子から立ち上がりながらさやかが言った。

さやか「結局、まどかが大事なんだよ。そうだ、最初からそう、あの子のために動いてるんだ」

さやか「……空っぽの言葉も、諦めた目も、全部まどかのため。違う?」

ほむら「……」

さやか「ほら、図星なんだ」

 やはり鋭い。だけど、ズルい。
 自分だって、自分だって本当は、本当は……

さやか「マミさんのことも、諦めてたんでしょ。最初から、あんなふうになるって知ってた」

さやか「内心で笑ってたんだ! マミさんのことバカにして、取り乱した振りして笑ってたんだ! バカなヤツって――」


――パァンッ
681 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/20(土) 01:02:44.81 ID:XvasY7+uo

 何が起こったのかを理解するのに、ほむらは少し時間を要した。
 ゆっくりと、わずかながらに痺れの残る自分の手のひらをまじまじと見つめる。
 そのあとで、ほむらは少し赤くなったさやかの頬に目を向けた。
 そしてふたたび、手のひらに視線を戻す。

ほむら(……)

 叩いたのだ。
 自分が。
 さやかのことを。

ほむら(……何をしてるのかしら)

 自分の取った行動に戸惑いつつ、自分と同じように驚き、不思議めいた表情をしているさやかに向き直った。

ほむら「その、ごめんなさい」

さやか「……もういいよ。世話になったし、出てく」

ほむら「まだ話は」

さやか「終わったよ」

 有無を言わせぬその迫力に、ほむらが立ち止まる。

さやか「ああ、それともあれか。見返りが欲しいんだ?」

ほむら「え?」

さやか「ほら、あげるよ」

 そう言って、さやかは右手を振った。
 彼女の手中にあった何かが空気を切り裂き、ほむらの手元にあった湯のみの中に飛び込む。
 それはグリーフシードだった。リボンの魔女の……“巴マミ”の遺した物だ。

ほむら「待ちなさい。グリーフシードを使わなければどうなるか分かってるでしょう?」

さやか「……願い事が、消えちゃうんだったね」
682 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/20(土) 01:03:13.84 ID:XvasY7+uo

ほむら「何を寝惚けたことを……」

さやか「え?」

 しまった、と思った時にはもう既に遅かった。
 彼女は知らなかったのだ。魔法少女と魔女の関係を。

さやか「……へぇ、なんか事情があるんだ。知らなかったよ」

ほむら「いえ、今のは……とにかくグリーフシードは持っていなさい」

さやか「嫌だよ。あたしの道は、あたしで決める」

 そう言い放つと、彼女はほむらに背を向けて歩き始めた。
 なにもかもが悪循環していく状況。自分は彼女にどう接してあげればいい?
 分からない。分からない。
 そんなことを考えている内に、彼女はほむらの家を出て行ってしまう。

ほむら(……今のは私のミスね)

 さやかを追いかけるか、否か。
 彼女は後者を選択した。今の自分が追いかけたところで、何が変わるわけでもないだろう。
 代わりに彼女は携帯電話を手に取って、電話帳の中からこの厄介ごとの元凶を選んで電話をかける。

ほむら「もしもし」

『……驚いた、まさか君から連絡があるとはね』

 その声の主、身長2mの神父ことステイルは、意外そうな声で応えた。
683 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/20(土) 01:03:41.45 ID:XvasY7+uo

ほむら「私としても、あなたに電話をかけるごめんだったのだけど」

ステイル『だったらかけてこなければ、いや……』

ステイル『美樹さやかのことか? 一緒に居る、いや居たのか』

 勘の良い男だ。しかしこちらから言い出す手間が省けたので良しとしよう。

ほむら『もう既に私の家を出たわ。痕跡を辿りたいなら、今から言う場所に来なさい。まず――――』

 ほむらの家の住所を告げると、彼は近くにいるのであろう誰かに向かって叫んだ。
 というか、プライバシーに関わることを多人数で聞こうとするのはどうなんだろう。
 配慮に欠けるステイルの行動に眉を寄せつつ、ほむらは再度口を開く。

ほむら『それから渡したいものがあるわ。あなたもこちらに来なさい』

ステイル『プレゼントかい? 巨人(ぼく)に苦痛の贈り物とか、そういうのはゴメンなんだが』

ほむら「は?」

ステイル『……やれやれ、これだから魔術に疎い者は困る。分かったよすぐに駆けつける』

 ちなみに今のは、ステイルの得意とする炎剣で攻撃する際の詠唱である、

  PuriSaz NaPi  Gebo
 『巨人に“苦痛の贈り物”を』、と掛けた冗談だったりする。

 ……青春を投げ打ってまで魔術の道を極めようとしたステイルに、笑いのセンスはない。
684 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/20(土) 01:05:09.38 ID:XvasY7+uo

 電話の後、すぐさまどたどた駆けつけてきた天草式から遅れること十数分。
 汗を吸って二倍くらい重たくなっていそうな神父服を引きずるように腰を落としながら、ステイルはほむらの目の前に現れた。

ほむら「……たまには運動したら?」

ステイル「ひぃ……はぁ……お、気遣い……ありがとう……」

ステイル「だがこれは……はぁ……ちゃんとした理由が……」

ほむら「呼吸をするか喋るかはっきりしなさい……ほら、これを」

 なにやら小刻みに震えだしたステイルに向かって、少し緑茶の茶葉が付着したままのグリーフシードを投げつける。
 彼は震えたままそれを受け取ると、やおら神妙そうな顔になって、

ステイル「……あの反吐の出る魔女の遺産か」

 と呟いた。

ほむら「彼女の遺した物よ。私には必要のない物だから、あなたがさやかに渡しなさい」

ステイル「いくら魔女と呼ぶからって、あれが性別的に女性に当てはまるとはとても……」

 そこでステイルは言葉を区切った。
 彼の話を聞いていたほむらが、怪訝そうな表情でいることに気がついたからだろう。
 一方ステイルに怪しまれていたほむらは、一人納得した様子で髪をかきあげた。
 巴マミの成れの果てであるリボンの魔女を殺したステイルに、彼の同僚が真実を告げるかどうかなど考えるまでもない。

ほむら(危うくまた地雷を踏むところだったわね……)

 しかし彼女は、ステイルが続けた言葉を聞いてすぐに考え直す羽目になる。



ステイル「……魔女が女性だと決め付ける、判断するに足る証拠があるとすれば話は違うわけだ」
685 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/20(土) 01:06:20.25 ID:XvasY7+uo

――時刻は、夜中の10時を回っている。

 目の前で揺れ動く人型の使い魔を真っ二つにしながら、美樹さやかは目だけを動かして次の標的を探した。
 残り三体。力の限り剣を振って、叩くように斬り捨てる。
 残り二体。がむしゃらに剣を振り下ろして、ぐちゃぐちゃになるまで斬りつける。
 残り一体。使い魔がさやかの身体にしがみついてくる。動けない。身体が言うことを聞かない。

さやか「……」

 首が締まっていく。呼吸が出来ない。息が吸えない。死ぬ。このまま、死んでしまう。

さやか「ははっ」

 本来ならば絶望して涙を流すところを、彼女は笑っていた。
 力ずくで身体を捻って右肩の間接を外すと、緩くなった拘束から抜け出て彼女は左手を一閃させた。
 使い魔が真っ二つになって、崩れ落ちる。極彩色の空間が歪み、駅のホームへと様変わりした。
 力ずくで肩の関節を嵌め直すと、彼女は壁に背を預けた。

さやか「あははっ。これで十四体」

さやか「もっと倒さないと。あいつらとは違うんだから」

さやか「あたしはマミさんみたいな正義の味方なんだから」

 なにが彼女をそうさせるのか。なにが彼女をここまで追い込ませてしまったのか。

 答えはおそらく、とても単純だ。彼女を取り巻く環境と、彼女が不幸と遭遇するタイミングが悪過ぎた。

 ほんの少しでも歯車の回転速度が違っていれば、こうならなかっただろう。

 しばらくぼんやりと立ち尽くしていた彼女は、視界の端に現れた人影に気付いて首をもたげた。
686 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/20(土) 01:06:46.99 ID:XvasY7+uo

五和「……やっと、見つけました」

 人影の正体は五和だった。
 額を伝う汗を、肩に下げたショルダーバックから取り出したおしぼりで拭っている。
 彼女と写真を撮ったのが、もうずいぶんと昔のように思えた。
 実際は昨日の朝のことだというのに。

 そもそも彼女と会話したのは、ほんの一時間程度というわずかな時間だったが。
 あえてさやかはそのことを頭の隅へと追いやった。

さやか「……」

五和「お願いです、誤解を解かせてください」

さやか「はぁ?」

五和「私たちは、誰かを殺めるようなことは決して」

さやか「黙ってよ、人殺し」

五和「ッ……分かりました」

 そう言うと、五和はショルダーバッグを放り捨てた。
 その手には、彼女の背丈を超える海軍用船上槍――フリウリスピアが握り締められている。
687 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/20(土) 01:07:31.41 ID:XvasY7+uo

五和「今のあなたには、精神的余裕が無いんです」

 自分に言い聞かせるような声で、五和が言った。

五和「だから回復魔術を受けて……いいえ、無理やりにでも受けさせます」

五和「言っておきますが、私を単なる小娘と、この槍を単なる携帯できる槍と思わないことです」

五和「私はこれでも天草式十字凄教内で上位に位置する魔術師です」

五和「さらにこの槍の接合部には、科学サイドとの条約が緩和されたことで新機軸の技術が多少ですが用いられています」

五和「刃は学園都市の技術と専門職の方々が代々継いできた技術の粋を合わせて出来た代物です」

五和「もしかしたらあなたに必要以上の深手を負わせてしまうかもしれません」

五和「傷つけたく、ないんです。お願いだから、回復魔術を……」

 早口にまくし立てる五和に向かって、さやかはにっこりと微笑んだ。

五和「えっ――?」

 さやかから漏れる異様な気配に五和が立ち竦む。その隙をさやかは見逃さなかった。

五和「なっ!?」

 魔力を最大限に注ぎ込んで、脚力を限界まで強化。
 筋肉の繊維のいくつかが悲鳴を上げて軋むが、さやかはそれを無視して五和の懐に潜り込んだ。
 そしてそのまま、力任せに突き飛ばす。
 五和の身体が何度か地面を跳ねて、転がって行った。
688 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/20(土) 01:08:13.89 ID:XvasY7+uo

さやか「遅い遅い、そんなんじゃ遅すぎるよ」

 あえて追撃せずにいると、五和が悔しそうな表情を浮かべて立ち上がった。
 ダンッ! と地面を蹴立てて五和が走り出す。

五和「はああぁぁぁ!!」

 気合の表れか、声を荒げて五和が槍を突き出した。
 常人ならば確実に反応が出来ない速度で迫り来る五和の矛先を、しかしさやかは余裕の表情でかわす。

さやか「遅い……!」

五和「そんな……!」

 例え彼女がどれだけの力を振り絞ろうと、天草式という枠組みの中でなければ真価を発揮することは出来ない。
 対してさやかは、単独でも力の全てを出し切ることが出来る魔法少女である。
 視神経の限界を無視して魔力を注ぎ込み、五和の行動……
 指のわずかな動きや、髪の靡き方、瞳の揺れ具合、体重のかけ方すらも手に取るように把握できる。
 戦いにすらならない。

さやか「……笑いなさいよ、この前みたいに笑ってみなさいよ!」

 さやかが五和の首根っこを掴み上げ、ホームにある椅子に無理やり押し付けた。

さやか「この人殺し! やっぱあんたたちは人殺しなんだ!」

五和「ちがっ……います!」

さやか「違わない! なんの罪もない人を殺しておきながら、あんたは!!」

五和「殺してなんていませっ……あれはただ、危険な魔導師を捕まえようとしただけで……」

さやか「黙れ!」
689 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/20(土) 01:08:57.78 ID:XvasY7+uo

五和「黙ったら……黙ったら、回復魔術を受けてくれますか……?」

さやか「……」

五和「私は、ただ……あなたたちを、助けるために……つぅっ!」

 五和が苦しそうに悲鳴を漏らす。さやかが首を掴む手に力を込めたのだ。

さやか「うるさい……うるさい!」

五和「私は……あなたのために……」

 五和が、涙を浮かべて言った。
 これが嘘を吐く人間の顔なのだろうか。とてもそうには見えない。
 さやかは空いている手を振り回し、次いで頭を抑えてその場にうずくまった。

さやか「うっ……うぅ、うううぅ……!」

 とうとう五和の首を手放し、嗚咽を漏らす。頭の中が爆発しそうだった。
 何をすればいいのか分からない。誰を信じていいのか分からない。

さやか「信じられない、信じない、信じたくない、そんなの……そんなのっ」

 もし本当に、自分が勘違いしてるだけだとしたら。
 まどかに酷い言葉を投げかけて、ほむらに迷惑かけて、彼らの手を振り払い、これだけのことをして。
 いまさら彼らの輪に戻るなんて、出来ない。
 ぷしゅーっと、気の抜けた音が響き渡る。電車が到着したのだ。

さやか「……」

五和「……あの」

さやか「ごめん」

 五和の首筋に、さやかの手刀が叩き込まれる。
 気を失った五和を放置して、さやかはその場から逃げるようにして電車の中へ姿を消した。
690 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/20(土) 01:10:01.76 ID:XvasY7+uo

――時刻は、夜中の11時を回っている。

 大抵の中学生ならば寝巻きに着替えてベッドに潜り込み、明日に備えて就眠すべきところを。
 上条恭介は動きやすい服装に着替えて自宅の玄関からそっと抜け出していた。

恭介「杖は良し、電極も良し……バッテリーも十分。足は……うん」

 痛みは若干残っているが、無視することにした。どうせ近い内にまた入院する羽目になるのだ。どうってことない。

恭介「よし、行こうかな」

 それらを確認し終えると、電極の出力を弱に切り替えて彼は歩き始めた。
 別に深い事情があるわけじゃない。明確な目的地があるわけでもない。
 ただ、一向に連絡がつかない親友を探しに行くだけだ。

恭介「ほんと、世話が焼けるなぁ」

 そう呟く。のほほんとした台詞に比べて、その顔つきは険しい。
 さやかが家に戻らなくなって、二日目。理由は分からないが……酷い。酷すぎる。

恭介「……さやかのやつ」

 恭介は怒っていた。怒り狂っていた。
 何も話さずに行方を暗ましたさやかに対して、憤慨していた。
 親友だと思っていたのは自分だけなのかと、絶望すら覚えた。

 だが彼は何よりも、自分に怒っていた。

恭介(あと少し探していたら、いやそれよりももっと早くにさやかの異変に気付いてあげていたら……)

恭介(……親友失格じゃないか)

 行く当てなど無いが、それでも恭介は歩く。
 今の彼に出来ることといったら、それくらいしかなかった。
691 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/20(土) 01:10:33.08 ID:XvasY7+uo

 ……とはいえ、ただ闇雲に探してどうにかなるわけでもなく。
 何度か警察官に見つかりかけ、街を行きかう人々に年齢を尋ねられることもしばしば。

恭介(無理ないよなぁ)

 彼はまだ中学二年生、十四歳の、ただの子供だ。
 ステイルのような大人顔負けの体躯も無ければ、
 さやかのように大人を振り切るだけの特殊な力もない。
 足にかかる負担に顔をしかめながら、彼は目立たないようにひっそりと歩き続ける。

恭介(……なにやってんだろ)

 馬鹿馬鹿しい、という考えが彼の脳内をよぎった。
 さやかを探すという行為に対してのものではない。
 行方の分からないさやかを探すために、目立たないようひっそりと歩くことに矛盾を感じたのだ。
 彼女の、大事な“幼馴染”であり“親友”であるさやかのことを考えれば今すぐにでも走り出すべきなのに。

恭介「……くそっ」

 苛立たしげに力強く杖で地面を叩く。
 だが最強の超能力者が使用することを前提に改造された杖はびくともしない。
 そんな折、彼の目の前でとても不思議な現象が起こった。

恭介「……?」

 さきほどまで何も無かった目の前の広場に、黒髪の少女が忽然として舞い降りたのだ。
 腰まで届く長い髪をたなびかせて、少女は冷たい目で恭介を見た。
 彼は彼女を知っている。自分が入院している間にクラスにやってきた転校生だ。
 確か、名前は――
692 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/20(土) 01:11:10.98 ID:XvasY7+uo

恭介「暁美……ほむら、さん?」

ほむら「……」

 おかしい。反応が無い。もしや違っていたのだろうか。
 この情報は中沢経由の確かな物のはずだが……
 彼が困惑した面持ちでいると、黒髪の少女ことほむらは静かに口を開いた。

ほむら「さやかの居場所を、知りたい?」

恭介「え?」

ほむら「知りたい?」

恭介「えっと……うん」

ほむら「知って、どうするつもり?」

恭介「会いに行くよ」

ほむら「会って、どうするつもり?」

 その問いに、恭介はすぐに答えることができなかった。
 どうするつもりだ? 彼女の事情も知らず、彼女に追いつけなかった自分が会って、どうなるというのだ?
 君の抱えている事情に気付けなくてごめんと、謝罪するのか?
 それともこれまで彼女が取ってきた行動を、非難するべきか?

恭介「……分からない」

ほむら「……」
693 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/20(土) 01:11:37.74 ID:XvasY7+uo

恭介「分からないけど、とにかく会う。それから考えるよ」

ほむら「……そう」

 そっけない返事。ほむらはおもむろに携帯電話を取り出した。
 何かを確認し終えると、独り言を言うかのように呟き始める。

ほむら「現在時刻は、11時48分と30秒」

ほむら「そしてここから走って10分のところに、駅があるわ」

恭介「確かにあるけど……走って10分も掛かったっけ?」

ほむら「これから6分後。その駅にさやかが5分間だけ立ち寄る」

恭介「ほ、本当かい? どうして君がそれを?」

ほむら「統計よ」

恭介「統計……?」

ほむら「のんびりしてていいのかしら。現在時刻は11時48分と55秒よ」

恭介「……! ありがとう!」

 確証は持てなかったが、彼女が嘘を言っているようには思えなかった。
 礼を言うと、恭介は電極の出力を強にしてすぐさま杖を収納させる。
 足の筋肉の動きが、電極から送られる信号によって増強される。
 それを確認した恭介は、ほむらに背を向けて走り出した。
694 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/20(土) 01:12:18.61 ID:XvasY7+uo

ほむら(……正確には)

ほむら(5分間だけ立ち寄るのではなく)

ほむら(立ち寄ってから5分後に“魔女”になる、だけど)

ほむら(……統計はあくまで統計。前倒しになることはもちろん、多少遅れることもありうるわ)

ほむら(今回はそれほど戦闘をこなしてないから、遅れるかもしれないわね)

ほむら(運が良ければ、魔女になることだってないかもしれない)

ほむら(……まどかを連れてくれば、その確率はさらに増す)

ほむら(仮にさやかが魔女になっても、まどかが現実を知れば魔法少女になろうだなんて気は完全に無くなる)

ほむら(もし駄目でも。それでも私は……)

 そこまで考えて、ほむらは目を閉じた。
 何かを思い出すように、何かを確かめるように過去に思いを馳せる。

ほむら「……ええ、その時は分かってるわ」

 そして目を開く。
 その瞳には、確かな意思が込められていた。
695 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/20(土) 01:12:46.13 ID:XvasY7+uo



ほむら「たとえあなたが全て忘れてしまうとしても」



ほむら「私は何一つ忘れずに、あなたのために何度だって繰り返す」


.
696 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/20(土) 01:15:38.88 ID:XvasY7+uo
以上、ここまで。長かったさやか編もそろそろ終わりが見えてきた
次回はステイル君vs鳥かごの魔女と、QBとの対話と、それからいろいろ。
PNを持っていないので鳥かごの魔女の戦闘方法は全て妄想で補います

次回の投下は、二日以内……かな?
697 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/20(土) 01:32:47.18 ID:1DyhUi7Lo

運命の5分間だな・・・
698 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/08/20(土) 01:36:39.73 ID:0x1fDnMCo
つーか人が人を殺したんなら警察に通報しようよさやかちゃん
なんで中学生が変に首突っ込んでんのよ
699 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/08/20(土) 01:37:28.78 ID:JVxiQtc40
とてもとても乙でした!

うおっしゃあああああ!恭介よくやったあああ!
俺このスレで初めてお前のこと良い奴だと思ったわ!何か見直したわ!

五和さんも頑張ってくれたしここで恭介がもうひと頑張りしてくれれば
さやか魔女化回避の目も出てくるか…?
700 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/20(土) 03:23:29.00 ID:nznEub6so


たのしみにしてます!
そして恭介に期待!!
701 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/20(土) 11:05:54.75 ID:3N/u90Jg0
>>698
マドマギのシステムは感情的で浅はかな子供を弄び堕とすって代物だよ。
さやかがそこで冷静沈着かつ大人の常識に従って行動するような娘だったら
(原作込みで)あんなことにはならなかったんじゃないかね。
そもそも魔法少女の素質が見受けられず、かやの外のモブ扱いになるとか
そういうレベルで。
702 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/20(土) 13:13:22.43 ID:UKp+gKPfP

この展開になる度にさやかの役回りなんとかしてやれよと思うな
703 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/20(土) 15:33:42.03 ID:aZH1adTDO
乙!
704 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/20(土) 16:20:46.06 ID:shpkQNx9o


>>702
激しく同意ww
705 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/08/20(土) 21:56:44.53 ID:RWOnJ2+AO
追い付いた。乙

ステイルはライターなんぞ使わないぜ
706 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/20(土) 23:09:58.54 ID:XvasY7+uo
>>705
初期は魔女(魔法少女)を刺激しないよう(ばれないよう)可能な限り魔力を使わないようにする、
という設定をマジで乗っけ忘れました。神裂組と合流した後はいつもの手でばっと点けるあれ。い、いやほんと!ひひ!

ほむほむに注意されるまでライターで火を、注意されてからは(仮)禁煙、マミさんが亡くなって以降は喫煙再開(ここから魔力)
さやかちゃんでした!がひと段落した(と思い込んでる)のでチーカマあむあむしてもっかい禁煙、という流れで

……ここまでドヤ顔で文字を打ち込んでから気付いたけどどのみち389でミスってらぁ、失礼いたしました
707 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/20(土) 23:11:37.03 ID:0ie6z/HU0
乙!
このタイミングなら変に隠したりしないで、魔女になるとハッキリ言った方が良いのに…、どのタイミングで魔女化を話すかの統計は無いのか。

QBの営業は
戦争、飢餓、貧困などで奇跡の需要が高い地域=魔女化も含めた全てを話した上で契約を持ちかける。営業方針は厚利少売(大志を持った英傑型が多くなりそう)になる。
平和で奇跡の需要が低い地域=都合の悪い部分は極力省くが、聞かれれば嘘偽り無く答える。基本的に思慮が足りない感情的で浅はかな相手を選び営業をかける。マミのような英雄願望が強い魔法少女を使う事もある。営業方針は薄利多売(まどか(一週目)、さやかの様なその辺の厨二病気味の思春期前の相手が多くなりそう)。
と使い分けている気がする。因果量は、さやかやまどかより仁美の方が多そうに見える。
708 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/20(土) 23:18:35.34 ID:y/+xx/FPo
>>707
あんまり長文で自分の考え書いてると叩かれるぞ?さすがに度が過ぎてる

まどかが好きなのか知らんが、ネタ潰しになる可能性もあるから少し自重した方が良い

スレ汚しスマン
709 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/20(土) 23:58:48.26 ID:q23bTv72o
おつおつ
魔女化直前の五分間でさやかの凝り固まったさやかの心を
解きほぐす冴えたやり方を俺は思いつかないが彼を信じよう
710 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/21(日) 00:02:02.11 ID:0uXiUHJ80
>>707 みたいな奴は自分が連載の邪魔してる自覚なんてないよ。
それどころかネタを提供したつもりになってる。
で、うっかりそのネタに掠りでもしたら、あたかもその作品が自分のものであるかのように振る舞い出すんだ。
ウザいったらありゃしない。
711 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/21(日) 00:12:42.80 ID:JXdGxL+p0
712 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/21(日) 16:24:35.69 ID:3Q/lnTQK0
>695
なぜステイルなのかと思っていたが、ほむらとステイルは
立場が似ているのか。ステイルも記憶喪失のインデックスの
ために戦っていたし、報われないし。
713 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/22(月) 01:44:55.41 ID:eMOuDAa6o
さやかちゃん可愛すぎてとうとう投下分の内容捻じ曲げちまった! さやかちゃん本当可愛い
急ごしらえなのでミスや誤字はご愛嬌って事で

では投下します
714 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/22(月) 01:46:07.61 ID:eMOuDAa6o

――ほむらと別れたステイルは、グリーフシードをその手に握り締めながらさやかの捜索を再開した。
 さやかが辿ったであろうルートからわずかに残る魔力の残滓を探り、その行く先を追いつつ歩き始める。
 歩きながら、先ほどほむらが見せた意外そうな表情について考える。

ステイル(……彼女の表情は、まるで僕が“足し算の仕組みが分からない”とでも言ったかのようなそれ……)

ステイル(知っているはずのことを知らないと言ったので驚いたって具合か)

 考えながら、グリーフシードを握り締める。

ステイル(天草式の連中の妙な気遣い……このグリーフシード……魔女……)

 思考がまとまらないのを自覚したステイルが、ばつの悪そうな顔をした。
 こういうときは無意識の内に真実に気付き、それを避けようとしている時が多いのだと彼は知っている。
 学園都市で“あの子”が魔術を用いた時、すぐさまそれが意味するところを理解できなかったように。

ステイル(こういうのは時が解決してくれる)

ステイル(なんて甘い考えは抱かない方が良いと分かっちゃいるんだ……が)

 ザッと音を立てて立ち止まると、ステイルは大げさに肩を落としてため息をついた。
 その動作に連動するかのように、目の前に広がる住宅街がゆっくりと歪み、暗い宇宙のような景色へと様変わりする。
 魔女の結界だ。天草式の魔力に当てられて動き出したのかもしれない。

ステイル「時間が無いんだけどね」

 懐からルーンが刻まれたカードを取り出すと、彼はさっと腕を振りかぶった。大量のカードが周囲の空間に散らばる。
 それを見届けたステイルは、目の前……正確にはその少し上方に存在する不気味な物体に目を向けた。
715 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/22(月) 01:47:38.96 ID:eMOuDAa6o

 最初見たときはなにかの器に見えたが、目が慣れるにつれて、
 それが巨大な鳥かごであり、中に女性のシルエットらしき物が納まっていると分かった。
 その周囲をゆっくりと飛び交う、気持ちの悪い鳥人。
 さしずめ鳥かごの魔女とその手下達、と言ったところか。

ステイル「60秒でケリをつけてやる」

 右手にカードを握ると、瞬く間に炎剣を生成。
 そのまま呟くように詠唱、右手を全力で振りかぶる。
 炎の塊が魔女の周囲を飛び交っている使い魔にぶつかり、爆発した。
 衝撃波に襲われた使い魔たちがなすすべもなく吹き飛ばされていく。

ステイル(役立たずなしもべだな……)

 再度炎剣を生成、そのまま右手を高く振り上げるも、殺気を嗅ぎ取りバックステップ。

 身を翻して飛び込んできた使い魔の攻撃を容易くかわすと、そのまま炎剣でその使い魔を吹き飛ばす。
 後続を気にしてやや体重を前にかけるが、それ以上攻撃しようとする使い魔はいないようだ。
 他のものはみな狂ったように魔女の足元を飛び交い、時折魔女の身体にぶつかって玉砕している。
 つまり悠々自適に炎剣を作っては投げるだけでことが足りるというわけだ。

      PuriSaz NaPi Gebo
ステイル「巨人に苦痛の贈り物をッ!」

 投擲。命中。爆発。再度生成。投擲。命中。爆発――
 それらを何度か繰り返している間に使い魔が全滅し、残すは魔女のみとなった。

ステイル(耐火性が低いのか、勝手に炎が燃え移ってくれるのはありがたかったが……)

 魔女に動きが見られた。小刻みに揺れて、中の人影が動き始めた。
 ステイルは油断なく魔女に近づく。
716 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/22(月) 01:48:17.63 ID:eMOuDAa6o

 魔女が巨大な二本足で地団駄を踏んだ。
 そう認識した時には、既にステイルの身体は宙を待っていた。

ステイル「くぁっ――!?」

 凄まじい衝撃波がステイルの身体を殴りつけたのだ。
 そのまま彼は暗い地面に背中を強打し、肺に残る空気を吐き出しながら転がっていく。

ステイル「っはっ、くっ……ちぃ!」

 頭を打たなかっただけ良かった方だと言えるかもしれないが、いずれにせよ軽い脳震盪を起こしかけている。
 目線が定まらない。
 ショックで呼吸がまともに出来ない。
 カードはどこだ、ルーンは――

 ぼやけた視界の中で、魔女が再び足を踏み鳴らした。

ステイル「ぐぅっ――!!」

 再度生じた衝撃が身体を殴りつける。
 先程よりかは幾分マシだったが、それでも彼の身体は軽々と吹き飛ばされた。

ステイル「ぐっ……ええい!」

 咄嗟に受身を取ったが、左肩が妙に痺れていた。
 それに口の中が鉄臭い。血の味もする。
 ぺっ、と口の中に広がる血を吐き捨てると、よろよろと立ち上がる。
 右に左に揺れながら、彼は目の前を浮かんでいる魔女を睨みつけた。
717 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/22(月) 01:49:17.37 ID:eMOuDAa6o

ステイル「……大体掴めたぞ、要は足を踏み鳴らして衝撃を与えているんだろう?」

 当たり前の話だが、ステイルの言葉に魔女は応えない。
 ステイルはその事実を無視してさらに続けた。

ステイル「だがその割には指向性がある」

ステイル「つまり衝撃波を誘導できるわけだ」

ステイル「とある修道女のように空間を隔てて攻撃しているわけじゃないし、魔神になり損ねた男の原理の不明な攻撃とも違う」

ステイル「だから離れれば離れるほどに、空気の壁を伝わる衝撃波は弱体化する……タネが分かれば後は簡単だ」

 唇を伝う血を拭いながら、ステイルは腰を後ろに引いた。

ステイル「その攻撃は、あと一回しか食らってやらない」

 そして全力で後ろに走り出す。
718 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/22(月) 01:50:24.15 ID:eMOuDAa6o

 鳥かごの魔女が、怒り狂って足を踏み鳴らしながら巨大な図体を先に進めた。
 溢れ出る衝撃波がステイルの身体を掠めるが、彼は気にせず走り続ける。
 さらに衝撃波が二度、三度と彼の身体を掠めるが、気にも留めない。
 そして四度目。
 魔女の放った衝撃波がステイルの身体の中心を捉え、彼の身体に直撃して、

ステイル「蜃気楼だよ、バカが」

 霧のように歪んで、消え去った。
 温度差を利用した蜃気楼による幻影である。

ステイル「ルーンってのは便利な物でね。仕掛けさえすれば、こんなことも出来るんだ」

ステイル「もっとも、教えたところで考える知能すら持たないだろうがね」

 ステイルが、魔女の足元に潜り込みながら状態でそう言った。
 正確に言えば、身を隠していたステイルの真上まで魔女が飛んできたのだが。

ステイル「時間は稼がせてもらったよ。小規模だが……まぁ、貴様程度なら十分だろう?」

 わざわざ幻影を狙わせたのは、相手を自分の得意な戦場へ誘導するためだ。
 ステイルの周囲に仕掛けられた大量のルーンのカードから炎が吹き出る。
 それはゆっくりと人の形を成していき、咆哮にも似た爆音を轟かせて魔女に向かって飛び出した。

                   イノケンティウス
ステイル「――焼き殺せ、魔女狩りの王!」

 魔女が足を踏み鳴らすのと、炎の巨人が魔女を抱擁したのはほとんど同時だった。

 赤と青、それからなにやら不可思議な色が入り混じった閃光がステイルの目を覆い尽くす。
 さらに膨大な熱量と強大な衝撃波が組み合わさって、ステイルの身体を殴り飛ばした。
 ほぼ同時に、魔女の結界が崩れた。
719 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/22(月) 01:51:18.74 ID:eMOuDAa6o

 元通りになった住宅街のど真ん中に寝転びながら、ステイルは思考をめぐらせた。

ステイル(魔女には、個性がある……使い魔も、同じように……)

ステイル(結界の、構成は……?)

ステイル(文字は、魔女の姿、は……)

ステイル(それに……)

 からんと音を立てて何かが、転がってきた。
 グリーフシードだ。

ステイル(グリーフシード……魔女の落とす物……魔女は女性……)

ステイル(天草式の気遣い、それに……それに……)

 身体全身を襲う焼けるような痛みに耐えながら、ステイルはよろよろと立ち上がった。
 とっさに爆破を中和する防御術式を構築していなければ、いまごろは上半身がぼろぼろに崩れていただろう。
 力を込めるだけで両足がガクガクと震えるが、彼は強靭な精神力でそれを無視した。

ステイル(……魔法少女と、魔女)

 小さな灯りは、やがて大きな光へと変わるように。
 ステイルの中に、一つの確信めいた考えが生まれようとしていた。
 口の中に溜まった血を吐き捨てて、彼は幽鬼のようにのそのそと歩き始める。
 そんな彼に、すぐ間近から声――正しくは、脳内に直接呼びかけるテレパシーが届いた。

「やぁ、ぼろぼろだね」

 テレパシーの発信された方角に目を向けると、そこには尻尾をふりふりさせるキュゥべぇの姿があった。
720 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/22(月) 01:51:50.91 ID:eMOuDAa6o

QB「それにしても不思議だ」

QB「魔法少女は物理法則に魔力を作用させて魔法や奇跡の真似事を起こしているけど」

QB「君たちは最初から異世界の法則を用いて物事に干渉している。似ているようで、まったく違うね」

QB「異世界の法則、というのはたんなる比喩だと思っていたけど、これが正真正銘異世界の法則だとすると……」

QB「そして天使の力(テレズマ)。あれは正確に言えば世界の力とは別物だね。この世界に存在するが、存在していないし」

QB「困った物だ……また交渉をしなきゃいけなくなっちゃったじゃないか」

 なにをぶつくさといっているんだ、コイツは。
 ごくりと唾を飲み込んでから、ステイルは掠れた声でキュゥべぇに問いかけた。

ステイル「……何を言っている」

QB「独り言さ。手を貸そうかい?」

ステイル「……いらない」

QB「そうかい……一つ、聞いていいかな?」

ステイル「……なんだい」

QB「なんで君が、グリーフシードを持っているのかな?」

ステイル「……なんだっていいだろう」

QB「まぁ、そりゃそうだけどね。マミの形見なんだし、大事に扱っておくれよ」

 呼吸が止まった。
 次に全身の筋肉が固まり、目も、瞼も、指も足も肩もなにもかもが動かなくなる。
 いま、コイツはなんと言った……?

 なにが、誰の、形見だと言ったんだ……?
721 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/22(月) 01:52:24.71 ID:eMOuDAa6o

――時刻は、真夜中の11時56分を回っている。

さやか「……」

 時間の流れるがままにぼーっとしていたさやかは、おもむろにソウルジェムを取り出した。
 本来ならば青い輝きを放っているはずのその宝石は、穢れが蓄積されたことで濁ってしまい、暗い。
 時折宝石の中で青い炎のような物がゆらっと輝いては穢れに飲まれて消えていく。

さやか「ソウルジェムは、あたしの魂……」

 正確には魔法が扱える形に最適化された魂だが。
 いずれにしろ、消えかかった蝋燭の火のようだ。
 今の彼女の心境に似ていて、さやかは自虐的な笑みを浮かべた。

さやか「ソウルジェムが濁りきったら、どうなるんだろーね」

 そんなことを口にする。しかし実際のところ、それほど関心もなければ興味もない。
 ソウルジェムが濁りきってしまったところで、契約した際の願いが解消されるわけではない。
 ほむらの言葉と、ソウルジェムが魂であるという事実を踏まえた上での考察が正しければこれは間違いないだろう。
 では、濁りきったソウルジェムの末路はなにか。

さやか(……砕けて、死んじゃうのかな)

 マミの部屋に、あるべきはずのソウルジェムが無かったことを思い出して、さやかは陰鬱な気分になる。
 だからと言って、自分の命が惜しいわけではない。マミの最期を不憫に思ったのだ。
 もっとも、すぐに考え直したが。
 それもいいじゃないか。魔女に苦しめられることなく逝ったのならば、彼女もまだ幸せだろう。
722 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/22(月) 01:53:07.57 ID:eMOuDAa6o

――時刻は、真夜中の11時57分を回っている。

さやか「……」

 ソウルジェムの濁りの噴出速度は、着々と勢いを増しつつある。
 それに比例するように、青い炎のきらめきも薄れていく。

さやか「……なんだっけ」

 ぼんやりとした意識の中、彼女はとあるおとぎ話を思い出していた。
 そのおとぎ話の主人公、灰かぶりの少女はいじわるな姉たちに扱き使われて、それは酷い暮らしを送っていたとか。
 そんな少女の下に現れた魔法使いだか魔女だかが魔法を使って、彼女の格好を綺麗なお姫様にしてしまうとか。
 彼女はその晩、お城で開かれる舞踏会に出席して王子様と踊り、楽しんだとか。

さやか「……えーと」

 でもさぁ大変、魔法は夜の12時で効き目を失ってしまうことを思い出した少女は慌ててお城から立ち去ります。
 王子様はそんな少女を追いかけますが、ああ残念。追いつくことは叶いませんでした。
 悲しみに打ちひしがれていた王子様が、ふと足元を見ると。なんとそこには少女が履いていたガラスの靴がありました。
 王子様はすぐに使いを出し、この靴と足が合う者を見つけようとしたのだった。

さやか「……なーんでぴったり合う人が居なかったんだろ」

 夢も希望もない台詞を吐きながら、おとぎ話の続きを思い出そうとする。
 たしか王子様は無事に少女を見つけ出し、少女は王子様と結ばれて末永く幸せに暮らしましたとさ。
 めでたしめでだし、そんなところだろうか。

さやか「……この子って苦労してるけど、そのわりに棚からぼた餅で形式で幸せになってるよね」
723 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/22(月) 01:53:43.32 ID:eMOuDAa6o

――時刻は、11時58分を回っている。

さやか「まっ、要するにチャンスはきちんと活かしなさいってことなのかな」

 ソウルジェムは、時折思い出したかのように輝くほんのわずかな光を残してとうとう濁り切ってしまっている。
 すでにその表面にはいくつもの亀裂が生じ、“なにか”が泡を吹いて蠢きだそうとしていた。

さやか「……どうしようもないよ」

さやか「……どうしようもない」

 最初は、恭介のためだった。

 その後で彼を治すために奇跡も魔法も要らないと分かって、喜んで。

 でもやっぱり、奇跡と魔法が無ければどうにもならない現実が待っていて。

 幼い女の子のために魔法少女になって、マミさんの遺志を継いで戦って。

 ソウルジェムと魔法少女の真実を知らされて、それでもめげないで。

 佐倉杏子という少女に希望と幸せに満ちた世界を見せるつもりだったのに。

 親友と想い人と、自分の身体。その三つの狭間で色々あって、いっぱいいっぱいになって。

 それからたくさんの人のおかげで救われて、立ち直って。

 その人たちを疑い、まどかという親友すら傷つけ、自分からその希望と幸せを遠ざけて。

 最後が、これだ。

さやか「わけわかんないよ……」

 ソウルジェムの濁りが、仄暗い輝きを帯び始める。
 何かが脈動するように、不規則に震え始める。

さやか「……」

 なにもかも、どうでもよくなった。
 さやかは眠るように瞼を閉じた。疲れた。楽になってしまおう。
 そんな時だ。
724 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/22(月) 01:54:55.88 ID:eMOuDAa6o

杏子「やーっと見つけた。寝てんの?」

 杏子の声が、耳に届いたのは。

さやか「……色々、あってね」

杏子「あっそ」

杏子「ところでさぁ、あんたいつまで強情張るわけ? 連中、泣きながらアンタのこと探してたよ?」

さやか「そっか。悪いね、手間かけさせちゃって」

杏子「まっ……良いってことさ。んじゃあ帰ろうぜ?」

さやか「ごめんね」

杏子「なに言って……っ!?」

 訝しがる杏子に、さやかは自分のソウルジェムを見せた。
 そのソウルジェムに、青い輝きは見られない。
 いくつもの亀裂が生じ、濁りそのものが完全に蠢き、亀裂の隙間から抜け出そうともがいている。

さやか「希望と絶望のバランスは、差し引き0だって。いつだったか、あんた言ってたわよね」

さやか「今ならそれ、良く分かるよ」

杏子「さやか……!?」

さやか「誰かを救った分だけ、恨みや妬みが溜まって、大切な友達まで傷つけて……」

さやか「終わった方が、みんなのためだよ……救いようがないよ……!」

さやか「……最期に……」

 恭介に会いたかった。

 その言葉は、形になることなく。

 さやかの目から涙が零れ落ちる。

 そして、ソウルジェムにひときわ大きな亀裂が入る。
725 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/22(月) 01:55:57.00 ID:eMOuDAa6o

――時刻は、11時から12時へと変わる。

 奇しくも、灰かぶり少女にかけられた魔法が効き目を失い、夢のような時間が終わりを告げる時。

杏子「……」

 さやかの様子を黙って静観していた杏子は、大きなため息をついた。
 そして、ニィッと口の端を釣り上げて笑った。
 いやはや、出来すぎだ。
 この世界には神様なんて居ないと思っていたが、実際のところはいるのかもしれない。
 いなきゃおかしい。つーかいるだろ。絶対いるだろ。ありがとう神様。

 このタイミングは、まさしく神様が創った奇跡としか言いようがない。
 ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨ ¨

杏子「あははっ! いやホント、こーいうのをマジの奇跡って言うんじゃないの?」

 とうとう声に出して笑いながら、杏子は懐に手を突っ込んだ。

杏子「ガラスの靴とか、そーいう過程すっ飛ばしていきなり追いついちまってんじゃん」

 さやかのソウルジェムの中を穢れが蠢いているにもかかわらず、杏子は余裕そうな態度で胸を張って言い放つ。

杏子「――王子様がさ」

 そんな杏子の言葉に呼応するかのように、
726 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/22(月) 01:57:16.11 ID:eMOuDAa6o

「――――さやかああああぁぁぁッ!!」

 服を汗で湿らせながら、王子様――上条恭介が、力の限り叫んだ。

 面白いくらいにさやかの身体が跳ねて、さらに彼女は声が漏れないように自分の両手で口を覆った。

 さやかのソウルジェムの中を蠢いていた穢れが動きを止める。
 仄暗い輝きも、少しずつ収まっていく。
 彼女の心から噴き出る絶望が、彼女の心に芽生えた希望によって塞き止められたのだ。

杏子「へへっ」

 それを笑顔で見ながら、杏子は懐から取り出したグリーフシードを彼女のソウルジェムに押し当てた。
 ソウルジェムの中に残っていた穢れが急速にグリーフシードへと移っていく。
 だが元々のグリーフシードが使い古しだったためか、さやかのソウルジェムはまだ八割近くが濁っていた。
 ひとまずは十分だろう。杏子は笑って、さやかの肩を叩いてやる。

さやか「杏子……あんた……」

杏子「アタシに見せてくれるんだろ? みんなと一緒に幸せになれる魔法少女の姿ってヤツをさ」

杏子「とりあえずはあのボーヤとだ。アタシは天草式が持ってるグリーフシード受け取ってくるからさ」

杏子「仲良くやりなよ」

 そう言って、さやかに背を向ける。
 人の恋路を邪魔するヤツぁ馬に蹴られて養豚場のミキサー行きだ。
 笑いながら、杏子はホームの階段を下りていく。
727 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/22(月) 01:58:19.73 ID:eMOuDAa6o



 そして彼女は、後悔することになる。


.
728 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/22(月) 01:59:19.88 ID:eMOuDAa6o

――立ち去る杏子の背を見ながら、さやかはぼーっとした頭を覚醒させて何が起こったかを再確認し始める。

 耳に届いたのは、思い焦がれる少年が自分の名を呼ぶ声。
 そんなはずはない。この場に彼がいるはずない。そんなことは分かりきっている。
 ならばなぜ自分は再び瞼を開いて、声のした方へ首を向けているのだろう。
 ならばなぜ何かに縋るように必死で瞳を動かし、彼を探しているのだろう。

さやか「きょう、すけ」

 そして彼女は、視界の中に上条恭介の姿を認めた。

恭介「はぁっ、はぁっ……」

さやか「どうしてここに……?」

恭介「……色々あってね。志筑さんと暁美さんのおかげだよ」

さやか「仁美と、ほむらの……?」

恭介「それにしても疲れた。隣、座ってもいいかな?」

さやか「えっあ、うん」

恭介「ありがとう」

さやか「えっと……」

さやか「どういたしまして?」

恭介「ははっ」
729 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/22(月) 01:59:46.61 ID:eMOuDAa6o

 恭介と肩を並べながら、さやかは何か喋ろうと頭の中で必死に言葉を探す。
 しかしさやかが言葉を見つけるよりも先に、恭介が口を開いた。

恭介「あー、さっきの子は?」

さやか「えっと……友達?」

恭介「そっか。友達か」

さやか「うん……良い子だよ」

恭介「さやかが言うんなら間違いないね」 クスッ

さやか「へへっ、そりゃそうだよ」 フフッ

 会話が途切れる。
 沈黙が場を支配するが、それは不快なものではない。むしろ心地良いくらいだ。

恭介「……なんて言おうか、迷ったんだけどさ」

 先ほどと同じく、沈黙を破ったのは恭介だった。

さやか「え?」

恭介「謝るべきか、怒るべきかってね」

さやか「謝るなんて……そんな……」

恭介「気にすることないよ。これは僕の問題だから」

さやか「……」
730 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/22(月) 02:00:19.02 ID:eMOuDAa6o

恭介「でもさ。そういうのじゃないって僕は思うんだ」

恭介「僕が君に掛ける言葉は、もっとこう……うん」

さやか「……どんなの?」

恭介「あー、その」

さやか「ん?」

恭介「だから、その、うん」

 さやかから視線を外すと、恭介はしどろもどろになって何故か身体のあちこちを触り始めた。
 こんなに落ち着いていない彼の姿を見るのは初めてだった。
 高鳴る胸の鼓動を抑えて、彼女は彼の言葉に耳を傾ける。

恭介「あー……」

恭介「僕にとって君は大事な友達、というか親友で、大事な人だから」

恭介「いまさら謝るとか怒るとか、そういうレベルじゃない。つまり……」

 そわそわしながら、照れくさそうに彼は鼻をこすった。
731 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/22(月) 02:00:56.87 ID:eMOuDAa6o

恭介「……みんなのところに帰ろう、さやか」

 とてもシンプルな言葉だった。
 さやかが期待していた言葉とは違っていたが、それでも彼女は嬉しかった。幸せだった。
 手の甲になにかが触れた。
 いつの間にか頬を伝っていた涙が、零れ落ちたのだ。

恭介「さやか?」

さやか「ううん、なんでもない……」

 目を服の袖で拭いながら、彼女はソウルジェムを握り締めた。
 もう片方の手には、携帯電話。みんなにちゃんと謝って、ほむらにグリーフシードを返してもらおう。

さやか「あははっ」 ゴシゴシ

恭介「大丈夫かい?」

さやか「もっちろん! さやかちゃんをいつまでも子供か少女と勘違いしてたら大間違いなんだぞー?」

恭介「君はまだ子供だろう?」 クスッ

さやか「大人の階段のーぼる! ってやつ。気持ちだけなら立派な大人なの!」 フフン

恭介「それじゃあ今度からは大人の女ってわけだね」

さやか「そうそう、それこそ美少女から美女になるみたいに……」

さやか「……なる?」
732 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/22(月) 02:01:56.98 ID:eMOuDAa6o

 カチッ、と音を立てて。
 頭の中にあった歪んだジグソーパズルに、最後のピースが嵌った。

恭介「さやか?」

さやか「……まさか」

 魔法少女と魔女。
 ソウルジェムとグリーフシード。
 祈りと呪い。
 希望と絶望。
 救いと災厄。

 様々な単語が、セットになって彼女の頭の中を巡りまわる。

さやか「……そんな」



 そして彼女の脳裏を、杏子の言っていた言葉が過ぎる。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
――奇跡は、無料ではない。希望を祈れば、それと同じ分だけの絶望が撒き散らされる。

――そうして差し引き0にして、世の中の平衡は成り立っている。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 マミの部屋にあらわれた魔女の姿が、心に浮かび上がる。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 空間の中心に、読解不能な文字の刻まれた巨大なリボンが一つ、うねうねと蠢いていた。

 そしてそれを守るように、あるいはいっしょに遊ぶようにひっそりと寄り添う五つの鎖。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
733 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/22(月) 02:02:45.59 ID:eMOuDAa6o

 リボンの魔女の特徴と、その使い魔の姿。

 なぜ運悪く、マミの住む部屋に魔女が現れたのか。

 本当にマミのソウルジェムは濁って砕けたのか。

 もしかしたら。

さやか「そんな、そんなのって……!」

恭介「さやか?」

 恭介が差し出した手を、さやかは払いのけた。
 驚く恭介を置いて、彼女はふらふらと立ち上がり歩き始める。
 彼女を追いかけようと恭介が杖を使って身体を起こし、ふたたび手を近づけた。
 しかしさやかは、先ほどと同じようにそれを払いのける。

恭介「さやかっ、うわぁ!?」

 身体のバランスを崩した恭介が杖にもたれかかり、とうとう右肩を地面にぶつけるようにして倒れた。
 必死にもがくが、起き上がれない。恐らく足を酷使させすぎたせいで力が入らないのだろう。

恭介「さやかっ……痛っ……くぅ!」

 本当なら彼に手を貸して、助け起こさなきゃいけないはずなのに。でもダメだ。もう、ダメだ。
 彼に触れる資格なんて、持っていない。
734 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/22(月) 02:04:01.57 ID:eMOuDAa6o

 その時、目の前にある階段から杏子が姿を覗かせた。

杏子「天草式はいなかったけど、すぐそこにあいつらに関係する修道女がいてさ……って

杏子「なんだこりゃ、なにがあった?」

 ポテトチップスを口に咥えながら、目を真ん丸くしてさやかを見た。
 杏子の問いに答えず、さやかはその場にへたり込む。
 その動きに連動して、彼女の手からソウルジェムが零れ落ちる。

 ソウルジェムは、完全に黒く染まりきっていた。

杏子「なっ……おい、マジでなにがあった!?」

さやか「あたしには、みんなと一緒に幸せになる資格なんてない……」

杏子「その話は終わったろ! なにがどーなってやがる!?」

さやか「こんな簡単なことにすら気付けずに、みんなに迷惑かけて、ぬか喜びして……」

杏子「なにを……!」



さやか「あたしって、ほんとバカ」



 さやかのソウルジェム、その宝石部分が砕け散る。
 宝石を覆っていた金属質のフレームが黒く染まり、がばっと展開されて閉じ込められていた濁りが溢れ出す。

杏子「うわぁ!?」

恭介「なにっ、がぁ!?」

 それは強大な衝撃波を発生させると、近くにいた杏子と恭介の身体を軽々と吹き飛ばした。
 ソウルジェムがあった場所に、真新しいグリーフシードが生まれる。
 グリーフシードは想像を絶するエネルギーと絶望、そして呪いを撒き散らして空間そのものを歪ませ始めた。

 さやかの身体がゆっくりと傾き、地面に倒れこむ。

杏子「さやかッ……!」

恭介「さやかああぁぁぁッ!!」

 二人の呼び声が、衝撃波によってかき消される。
735 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/22(月) 02:04:38.62 ID:eMOuDAa6o



 そして、魔女が生まれた。


.
736 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/22(月) 02:05:20.40 ID:eMOuDAa6o

――そのほんの少し前。

 キュゥべぇに誘われてとあるビルの屋上にやってきたステイルは、険しい表情のままキュゥべぇを睨みつけた。

ステイル「話してもらおうか、魔法少女と魔女の関係を」

QB「いいよ。この情報にはもうそれほど価値が無いし、話してあげよう」

 そして、キュゥべぇは淡々と、無感動な声で語った。
 この宇宙が、少しずつ死へ向かっていること。
 その寿命を延ばすために、エントロピー……熱力学の法則を覆すようなエネルギーを探していたこと。
 感情をエネルギーに変換する技術を用い、宇宙の延命を計っていること
 とりわけ効率がいいのが、第二次性徴期の少女の、希望と絶望の相転移であるということ。
 ソウルジェムが濁りきった時、それはグリーフシードへと変わり、魔法少女の魂は魔女に変化するということ。
 そして――これが一番重要だが。
 かつてステイルが殺したリボンの魔女が、かつての巴マミであったということ。

ステイル「そんなバカな!」

QB「本気でそう思っているかい? もしかしたら君は気付いていたんじゃないかな?」

 否定できない。
 彼はやりようのない怒りを感じてぎゅっと拳を作った。そうだ、心のどこかで気付いていたはずなんだ。
 リボンと、あの白い鎖。ソウルジェムとグリーフシード、天草式の妙な素振り。
 それなのに、自分は――

QB「……グッドタイミングだね。今日も、魔女が生まれるみたいだ」

ステイル「なんだって!?」

QB「ところで君が所属する十字教には方角や向き、属性、色に対応する天使がいるそうだね」

ステイル「それがどうしたというんだ、それより今の言葉――」

QB「前方にして東、風の天使である『神の薬』ことラファエルは黄色」

 ステイルの声を遮って、キュゥべぇが続けた。

QB「左方にして北、土の天使である『神の火』ことウリエルは緑色」

QB「右方にして南、火の天使である『神の如き者』ことミカエルは赤色」

QB「後方にして西、水の天使である『神の力』ことガブリエルは青色」

QB「……奇遇なことに、僕達の立ち位置と、これから生まれるとある魔女もこれの一つに対応していてね」
737 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/22(月) 02:08:05.39 ID:eMOuDAa6o

ステイル「……なに?」

 嫌な予感がする。
 鼓動が早くなるのを感じて、ステイルはごくりと唾を飲み込んだ。

QB「僕達の後方、西の方角で生まれとしている魔女の、生前のソウルジェムの色は『神の力』の象徴する色と同じ」

 まさか。

QB「彼女の髪の色も、瞳の色も同じ」

 まさか……!

QB「……“青色”だったかな」

 何かに弾かれるようにステイルが後ろを振り返った。
 視線の先にある駅のホームが、見る見るうちに歪んでいく。
 そして、途方もないエネルギーが解き放たれた。

 “青い”目の、“青い”髪をした、“青い”ソウルジェムを持った魔法少女。
 美樹さやかが魔女になったのだ。

ステイル「クソ……!」

 身体に防御術式をかけると、ステイルは躊躇することなくビルの屋上から飛び降りた。
 すぐ隣にある背の低いビルの屋上に着地すると、彼は同じ事を繰り返してさらにビルに飛び乗る。
 魔女の下へ駆けつけるために。
 そんなステイルの姿を見ながら、キュゥべぇはやれやれと言わんばかりに首を振った。

QB「今更急いだところで、どうにもならないよ」

QB「……マミの時と同じさ」

QB「やれやれ」

 キュゥべぇの呟きは、誰にも聞かれることなく夜空へと溶け込んでいった。
738 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/22(月) 02:10:40.63 ID:eMOuDAa6o
書いてて思ったけど魔女になるくだりをわざわざ二回も描写するってくどいかな、くどいわ
あとこのスレのさやかちゃんのブレっぷりは酷い。折れ線グラフにしたらとんでもないことになりそうです
次の投下は未定、出来るだけ早めに
739 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/22(月) 02:12:52.31 ID:mDxjwfeNo
乙!
さやか情緒不安定やなぁww
740 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/22(月) 03:04:31.24 ID:yiaOquoSO


せっかく恭介が間に合ったと思ったのに…
こんなのってないよ……
741 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/22(月) 03:17:38.43 ID:Exnz1nqAO

そろそろ禁書キャラにまどかキャラを救わせてやって欲しいです
742 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/08/22(月) 11:13:55.89 ID:/g7AVNHo0
乙…でした…

にぎゃああああああああああああああっ!!!???
嘘だ嘘だ俺は信じないぞうわあああああああああああ
さやかちゃん落ち着けー! そこには恭介もいるんだぞー!
こんなのってないよ! あんまりだよぉ!
743 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/08/22(月) 13:14:30.55 ID:+PoM69p1o


助かるのかと思ったのに…
ひどいよ、こんなのあんまりだよ…
744 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/08/22(月) 13:59:30.38 ID:19H2sXvAO
>>1はさあァ…
>>1は僕らをいじめてるのかい?
745 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/22(月) 15:36:48.49 ID:rKyB9iXIO

逆に俺はさやかが魔女になってホッとしたけどな。そんなあっさり希望にみちた話にされてもな、と思ってたから。
746 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/22(月) 18:56:15.07 ID:18AWtDvF0
あの状態から復帰させるのは酸いも甘いも噛み続けた若作り婆並みの年の功か、そげぶ並みの愚さがないと無理。冥土返しなら絶望した魔法少女や魔女を救えそうな気がする。やつは魔女も魔女化寸前の魔法少女も鬱病と診断して治療できそう。
747 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/08/22(月) 21:33:43.02 ID:3W/ZOlAio
オクタヴィアちゃんはどんな感じになってるだろう
今回の絶望の原因は上条くんでも仁美でもないし
些細な違いがありそうだ
748 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/22(月) 22:00:27.53 ID:XIs37O4a0
魔女化事情に気づいてしまったが原因だから
年の功や愚かさの問題じゃねぇだろ
749 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/23(火) 21:57:21.30 ID:sDPzUVgDO
この場合の対処法は、さやかがいらんこと考え出した瞬間に意識刈り取るぐらいだな…
状況も飲み込めないまま飛び出したのに恭介はよくやってるよ
750 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/23(火) 23:17:17.91 ID:hjeVn6zLo
つまり鬱期に入ったら上条さんが右手で頭を撫でて魔力を遮ってしまえば良いという
では投下します。あまり話は動かないかな……
751 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/23(火) 23:18:42.04 ID:hjeVn6zLo
杏子「なんだこりゃあ……」

 異形と呼ぶに相応しい空間の中で、杏子は目の前に佇む巨大な魔女を睨みつけた。
 魔女の上半身は西洋の物語に出てきそうな騎士のそれで、その下半身はおとぎ話に出てくる人魚の尾で構成されている。
 羽織ったマントをなびかせ、首下に結ばれた可愛らしいピンク色のリボンがふりふりと揺らしながら。

 しかしその背にはまるで過ちを戒めるかのごとく巨大な十字架を背負い、両手も打ち付けられている。
 十字架ごと身体を右に左に揺り動かしながら、辛うじて動く剣を持った右手首を楽しげに振りかざす。
 魔女が形容し難き声で叫んだ。その目の前を、ぐったりとしたさやかの身体が重力に従って落ちていく。

杏子「チッ!」

 音もなく変身し、どこからか現れては高速で迫り来る車輪を紙一重で避けきり彼女を抱きとめる。
 その姿勢のまま杏子は車輪の一つを蹴り飛ばして反転。華麗に着地を決め込むと、槍を片手に魔女と対峙。

杏子「なんなんだよテメェ、さやかに何しやがった!?」

 荒ぶる杏子の死角から車輪が迫る。
 だがその車輪は杏子にぶつかる前に、どこからともなく飛び込んできた別の車輪とぶつかって弾け飛んだ。

杏子「ああ? 同士討ち……いやこれは!」

 杏子の視界の隅に、二人の修道女がいた。先ほど会った天草式の仲間を名乗る連中だ。
 その修道女の一人、ルチアは倒れている恭介の下へ駆けつけながらもう一人の小柄な修道女、アンジェレネを見た。

ルチア「シスターアンジェレネは防御を! 私はあの少年を拾います!」

アンジェレネ「は、はい! きたれ、十二使徒のひとつ!」

 アンジェレネの手元にあった硬貨袋が翼を生やして空を飛び交い、迫る車輪を次々に粉砕していく。
 その間にルチアは恭介を担ぎ上げ、皆と合流を果たした。

杏子「へぇー、やるじゃん」

アンジェレネ「あ、どうも……じゃなくて! そ、その方のソウルジェムはどこですか!?」

杏子「いや、それがさ」

ルチア「話は後です! ひとまず脱出を!」

 そう言われても……と杏子は魔女を見た。離れていてもよく分かる。あの魔女は、こちらをどうにかしたくてたまらないようだ。
 全身から漏れる気迫に圧されて、アンジェレネが後じさる。
 十字架に縛られた魔女が、剣を持つ右手首に力を込めた、その時。
752 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/23(火) 23:20:06.39 ID:hjeVn6zLo

――さがって

 杏子たちの周辺に降り注がれようとしていた車輪が突然粉砕した。
 その事実に戸惑いながらも、声のした方へ振り向く。大型拳銃を手にした暁美ほむらが立っていた。

ほむら「足手まといが二人、見慣れない人間が二人。厄介ね」

杏子「いや、それよりどうしてここに……」

ほむら「その話は後よ。私の手を握って。あなたたちも手を繋ぎあいなさい」

 言われた通りに杏子がほむらの手を握るが、ルチアは首を横に振ってそれを拒否する。

ルチア「申し訳ありませんが、大人数で行動してはあなたの“魔法”が解ける恐れがあります。先に行ってください」

ほむら「……私の能力を知っているの?」

アンジェレネ「えっと、あくまで推測なんですけど、あなたのまほふみゃあ!?」 ゴンッ

ルチア「無駄話をする暇は有りませんよ。さぁ、早く行ってください!」

ほむら「……そうね」

 話が飲み込めないでいる杏子は、ほむらの手を握ったまま首をかしげた。
 次の瞬間。何かが『カチッ』と何かが組み合わさる音が響き――
 杏子とほむら以外の、全ての物体が動きを止めた。

杏子「お、おいなんだよこれ!」

ほむら「私の能力よ。それから手を離さないで、あなたの時間も止まってしまう」

杏子「……あの手品はこういう仕掛けだったのかよ」

 ほむらの手を握り締めたまま、二人――動かないでいるさやかを含めれば三人――は魔女の結界の中をひた走る。
 その途中で、あの時何が起こったのかを杏子はほむらから聞いた。
 事情を把握した杏子は、悲痛な面持ちで肩に担いださやかを見つめる。

 やっぱり神様なんて、いやしない。
 奇跡なんて、ありゃしない。
753 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/23(火) 23:20:57.61 ID:hjeVn6zLo

――結界から抜け出た二人は、そこでほむらに待っているよう言われたまどかと出会った。
 事情を説明すると彼女は大粒の涙を目に浮かべてさやかの身体――正真正銘の死体に縋りつき、嗚咽を漏らしている。

ほむら「あの子は誰かを救った分だけ、これからは誰かを祟りながら生きていく」

杏子「……テメェは何様のつもりだ。事情通ですって自慢したいのか?」

杏子「なんでそう得意気に喋ってられるんだ。コイツはさやかの……さやかの親友なんだぞっ……!」

 杏子に襟元を掴まれながらも無表情を保ち続けるほむらは、むせび泣くまどかを横目で見た。
 こんなはずじゃなかった、とは言えない。こうなることも、彼女は想定していた。
 しかし、さやかを見捨てでも成し遂げたい願いがほむらにはあった。

ほむら「持ってきてしまった以上、死体の扱いには注意を払うことね。見つかったら後々厄介なことになるわよ」

杏子「テメェそれでも人間か!」

ほむら「もちろん違うわ」

 杏子の手を振り払うと、ほむらは髪をかきあげながら言った。

ほむら「あなたもね」

 そうして黙り込んでいると、今度は別の方角から別の声がした。

五和「そ、そんな……さやかさん?」

建宮「……間に合わなかったか」

 天草式の集団だ。五和や建宮の他に、香焼や対馬、牛深の姿も見られる。
 先ほど会った修道女と同じ格好の、会ったことのない修道女も何人か混じっていた。

対馬「……元教皇代理、どうしますか?」

建宮「どうするって、そりゃあ……どうするべきよ?」

香焼「こんなことになるんならマジメに行動しとくべきだったんすよ……ちくしょう!」

牛深「シェリーに連絡してみるのはどうだ? もしかしたら解決策があるかも――」
754 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/23(火) 23:21:26.24 ID:hjeVn6zLo

 二人の会話を聞きながら、ほむらは踵を返すとその場を立ち去ろうとする。
 だがその途中で汗をびっしょり流したステイルと顔を会わせ、仕方なく彼女は立ち止まった。

ほむら「遅かったわね」

ステイル「……美樹さやかは」

ほむら「魔女になったわ」

ステイル「……天草式や、他の連中はなんと?」

ほむら「救うつもりらしいわ。無駄なのにね」

ステイル「……どうにもならないと?」

ほむら「後はキュゥべぇに聞くことね」

 ステイルの右斜め後方にいるキュゥべぇを指差して、ほむらが言った。

ステイル「追いかけてきたのか……ちょうどいい、魔女が魔法少女に戻る方法は?」

QB「さぁ、なにしろ前例が無いからね」

ステイル「希望が絶望に変わった結果が魔女なのだろう?」

ステイル「ならば希望に変われば戻るんじゃないか? だったら……」

QB「ステイル=マグヌス。魔女と魔法少女の違いが何か分かるかい?」

 感情のこもっていない赤い目を揺らして、キュゥべぇはステイルとほむらの間に割って入った。
 意味もなく尻尾をふりふりさせて、嫌味ったらしい口調――嫌味を言う感情など無いはずだが――で彼は続けた。

QB「魔女はプログラムに近い。魔法少女時代の記憶と感情、魔力と絶望という入力された数値に則って動くだけのプログラムさ」

QB「魔法少女が希望や絶望を持つのは感情があるからだ」

QB「でも魔女にはそれが無い。そのための機能がないからね。GSとなった魂の残滓だけでは、希望なんて生み出さない」

QB「魔女は予め持っている絶望と、後になって人間達から集める呪いや絶望しか持つことが出来ない」
755 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/23(火) 23:22:00.34 ID:hjeVn6zLo

QB「分かるかい? 呼びかけようと、涙を流そうと、血反吐を吐こうと、魔女は魔法少女には戻らないのさ」

ステイル「だが! もし何らかの方法で希望を満たすことが出来れば!」

QB「それは無理な相談だよ」

 ステイルの顔が歪む。

QB「希望のエネルギーなんていう抽象的概念によって成り立っているエネルギーはまず操作できないからね」

 もっとも、彼女ならば可能かもしれないけど。とキュゥべぇは含みを持たせて言った。

QB「仮に出来ても、膨大な量の穢れである絶望をどうするつもりだい? ソウルジェムを再構成させる方法は?」

QB「設計図はおろか、ろくな情報すら持たない君たちがどうするというんだい?」

QB「脈づいた絶望が消える時、魂の残滓も消える……魔女は魔法少女には戻らない」

ステイル「……」

QB「分かってくれたかな? 魔術師君」

QB「奇跡は起こらない。あるのは必然と、君たちにはどうにも出来ない現実だけさ」

QB「可能だとすれば……素質のある子が契約して、願いを――っと、このままだと潰されてしまいそうだから退散するかな」

 大型拳銃を構えたほむらとステイルを見比べて、キュゥべぇやれやれと言いたげに首を振った。
 そしてそろそろと足を動かし、闇に紛れる。

ステイル「……」

ほむら「……信じたくないでしょうが、そいつの言っていることは本当よ」

 がっくりと肩を落としているステイルに慰めの言葉を掛ける。
 それで彼が喜ぶとは思えなかったが、しないよりはマシだろう。
 しばらく黙り込んでいたステイルは、頼りない足つきでまどかの下へ歩いていった。

ほむら(……多少は強い精神を持っていると思ったけど、所詮はこんなものかしら)

 無理もない、とは思う。巴マミを殺したのが自分で、しかも身内のミスでさやかを魔女にさせてしまったのだ。
 圧倒的な絶望の前では、いかにステイルといえど年齢相応の無力な少年でしかないということだろう。

 彼に同情と失望を覚えつつ、ほむらは来たるべき“ワルプルギスの夜”に備えるため再び闇に姿を消した。
756 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/23(火) 23:24:19.51 ID:hjeVn6zLo

……一方的に同情どころか失望までされたステイルはというと。
 物言わぬさやかの死体を前にして、無表情のまま立ち尽くしていた。
 傍目から見れば、自身の無力さを嘆き、呪っているように見えたかもしれない。

 だが実際のところは違った。

ステイル(裏でコソコソと動く最大主教、そしてキュゥべぇの意味深な発言。裏で取引が行われているのは間違いないと見ていい
       とするとこの状況はあの女狐が想定した上で仕組んだ可能性が高い。ならば目的があるはずだ。なんだ、それは。
       考えろ、ヤツがキュゥべぇと手を組む理由を。イギリス清教の利益になりうる物がなんなのかを。それを見つけ出せば……)

 頭の中では現状を把握し、打破するための手段を模索していたのだ。
 無論、同時に彼は自分の愚かさを嘆いているし、呪ってもいる。後悔だってしていた。
 だがそれでは意味が無いことを彼は知っている。

ステイル(いずれにせよ、あの女狐に揺さぶりをかける必要はある……揺さぶれる自信は無いが)

 さやかの身体に縋っているまどかを見て、それからステイルは悔しそうに座り込んでいた香焼に声をかけた。

ステイル「もうイギリスに報告はしたのか?」

香焼「いや……えっと、これからシスタールチアが行うところっすよ」

ステイル「その役目は僕が負おう。それから鹿目まどかを家まで送り届けてやってくれ」

香焼「構わないすけど……指示、仰がなくて良いんすか?」

ステイル「風邪をひかれたらたまらないし、彼女に出来ることは何もない。さぁ早く」

 出来ることは何もないという言葉を聞いて、まどかの身体がびくっと動いた。しかしステイルは気付かない。
 香焼はまどかに手を借して立ち上がらせると、ふらふらとした足取りで一緒に歩いていった。
 それを見送ったステイルは、懐からカード状の通信用霊装を取り出す。
 魔力を込めつつ胸の前まで持ってくると、彼は諦めるように目を閉じた。
 さぁ、覚悟を決めよう。
757 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/23(火) 23:25:16.99 ID:hjeVn6zLo

――イギリス 聖ジョージ大聖堂

?????「はい、こちらは聖ジョージ大聖堂ですが」

ステイル『……僕は最大主教に繋いだはずだが?』

?????「申し訳ありませんが、ただいま最大主教は多忙のため通信に出ることが出来ません……って、ステイル?」

ステイル『誰だと思ってたんだ君は……その声はレイチェルか?』

レイチェル「おっひさー。マトモに話すのなんてずいぶん久しぶりね。昔はよく“あの子”のことを一緒に愛でたっけ?」

ステイル『昔話をするのは後だ。最大主教を出せ』

レイチェル「無理。用件だけ伝えて」

ステイル『ふざけるな。さっさとあの女狐を出さないといますぐその霊装ごと燃やし尽くすぞ』

レイチェル「ごめんなさい。それでもダメ」

ステイル『ッ……美樹さやかが魔女になった!』

レイチェル「その話は大体聞いてるわ。あなたのお友達でしょ?」

ステイル『黙れ。せっかくあの女狐に啖呵を切ろうと思っていたのに……』

レイチェル「最大主教は、イギリス清教徒として、魔術師としてやるべきことをやれって」

ステイル『彼女を殺せということか?』

レイチェル「多分ね」

ステイル『ああそうか分かった。それじゃあ―――――――――と伝えてくれ。
       現場の人間……天草式やアニェーゼ部隊全員の総意だと思ってくれて構わない、ともね』

レイチェル「レディーに向かってそんな伝言頼むなんて……まぁいいわ、分かった」

ステイル『切るぞ。まったく、覚悟した意味がまるでな――』

 ブツッ、と音を立てて通信が途切れる。
 それを確認したレイチェルは、ため息を吐くと霊装をテーブルに置いて、対面に座る女性――

 欠伸をしている最大主教、ローラ=スチュアートを見た。
758 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/23(火) 23:26:12.14 ID:hjeVn6zLo

レイチェル「ミィキ……っほん。美樹さやかが魔女になったそうです」

ローラ「……そう」

 日本名に慣れていないため、躊躇いがちにさやかの名前を述べたレイチェルに目もくれずローラは頷いた。
 そしてそっぽを向くと、手に持ったいくつかの資料を読み始めて背を丸めた。
 ……気のせいだろうか。
 あの冷血魔女と呼称するに相応しい悪女の後姿が、妙に――

レイチェル(って、んなわけないない。さっさと報告しよう)

レイチェル「えーっと、あなたの指示通りの言葉を伝えました。そこまでは分かりますよね?」

ローラ「ええ」

レイチェル「それで、その返答代わりの伝言を頼まれました。少々下品な言葉ですがよろしいでしょうか?」

ローラ「ええ」

 ローラが振り返る。

レイチェル「そうですか。それでは失礼して……」



レイチェル「 ク ソ を 固 め た ク ソ 女 め ! ク ソ 食 ら い や が れ ク ソ 野 郎 ! 」



レイチェル「……これが、見滝原にいるイギリス清教の人間の総意だ、と。伝言は以上です」

 珍しいことに、非常に珍しいことに、あのローラが呆気に取られてぽかーんと大口を開けていた。
 実際、伝言の内容はここまで汚くなかったが、彼女は彼女で“深い事情”があってローラに恨みを抱いている。
 だがまぁ、多少表現を誇張しただけだ。決して悪意があるわけではない。いやあるかも。やっぱありまくりだ。

ローラ「……」

 なんとか口を閉じたローラは、“年齢相応”の動きでよろよろと背を向けると。
759 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/23(火) 23:26:44.21 ID:hjeVn6zLo

ローラ「……ぷっ」

ローラ「くっ、くくくく……ふふふ!」

ローラ「あははは! あっはっはっはっは!」

 噴出したかと思ったら、腹を抱えて大笑いし始めた。
 まさか伝言の内容を盛ったのが気付かれたのだろうか?
 さすがに『クソ食らえクソ野郎』を『クソを固めたクソ女め、クソ食らいやがれクソ野郎』に変えたのはやりすぎだったか?
 内心で動揺していたレイチェルは、ひーっと声にならない悲鳴を上げているローラに恐る恐る声をかけようとする。
 だがそれよりも早く立ち直ったローラが、目の端に涙を浮かべてグッ、と親指を立てた。

レイチェル「は?」

ローラ「くくくっ……それでこそ私の部下よ、と思いたりただけのことよ。ふふっ」

ローラ「多少のアレンジは、インパクトの大きさに免じたりて許しけるわ」

 やっぱバレてた。レイチェルは慌てて頭を下げる。

レイチェル「もっ、申し訳ありませんでした!」

 そこでローラはふと真顔になって、テーブルの上を睨みつけた。
 レイチェルも釣られて視線を向けるが、そこにあるのはただの霊装のみ。一体どうしたのだろうか。

ローラ「空気の読めなき男児は嫌われたるという常識を知らぬのかしら」

レイチェル「えーと……はい?」

ローラ「こちらの話につき、気にせずとも良し。もう下がりて良いわ、ありがとうね」

 あの最大主教が素直に礼を言ったことに驚きを覚えつつも、レイチェルは言われたとおりに下がることにした。
 というか、ここで傲慢に居座り続けることの出来る修道女なんているか? いたら見てみたいものだ。
 ああでも、“あの子”ならお菓子さえあればいくらでも居座るかな……
 微笑を浮かべながら、レイチェルはその場を後にした。
760 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/23(火) 23:27:55.06 ID:hjeVn6zLo

――舞台は見滝原市に移る。
 真夜中の線路は、イギリス清教に所属する修道女や魔術師が行き交いにわかにごった返している。
 せっかくいらぬ覚悟をしてまで啖呵を切ろうと思ったのに空振りに終わってしまったステイルは、
 やや肩を落として気絶している恭介のすぐ近くまでやってきていた。

対馬「負担をかけた足と強打した背中にずいぶんと負荷がかかってたけど、ある程度は取り除いたわ」

 と、これまで彼の治療に当たっていた対馬が、額を伝う汗を拭いながら言った。
 礼を言ってから、ステイルは恭介の額に手を伸ばす。
 そして考える。彼の記憶を、どうすべきかを。

杏子「……なに考えてんだ?」

ステイル「彼は一般人だ。もし魔女を見たり、美樹さやかに起こったことを見てしまっていたら……」

杏子「記憶を消すつもり? そんなこと出来んのかよ?」

ステイル「……出来るさ。一年単位で記憶を消すとなると、星の巡りやきちんとした霊装、結界も必要になるけどね」

杏子「やけに手馴れてるじゃん。こーいうの(記憶の消去)は慣れっこですってか?」

ステイル「……」

 その言葉を聞いて、ステイルの動きがピタリと止まった。
 それをどう受け止めたのかは分からないが、杏子はばつの悪そうな顔になって、

杏子「……悪かったね、別に非難してるわけじゃないんだけどさ」

ステイル「……いや、君が気にすることじゃない」

 そう言うと、ステイルはふたたび手を動かし始めた。
 恭介がどれだけの事実を知っているかは分からないが、精神は不安定のように見える。
 ならば早い内に記憶を消してしまうべきか? 幸いこれだけの人数が揃えば、今日の分の記憶を曖昧にすることで、
 悪い夢を見ていた、程度のことに思わせることは可能だ。
761 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/23(火) 23:28:42.82 ID:hjeVn6zLo

杏子「……アタシはさ」

 ポツリと、杏子が言葉を漏らした。

杏子「アタシは、そこのボーヤと深い関わりがあるわけでなし、会話した事だってないけどさ」

杏子「こんな夜更けにさやかの事が心配で駆けつけて来たんだろ?」

杏子「ボロボロの足と、ろくに回復してない体力で」

ステイル「……それとこれとで関係があるのか?」

杏子「大有りだよ。アタシがコイツなら、知らなかったことにされたくないって思うはずさ」

杏子「何も知らないまま終わりたくないって。いや、むしろもっと巻き込んでくれってさ」

 ……気持ちは分かる。
 事情を知らないまま状況に流されてしまうことの恐ろしさは、ステイルも身に染みている。
 親しい者が深い事情を抱えていたら、確かに巻き込んで欲しいと思うだろう
 そして巻き込まなかった結果が、さやかの魔女化だ。

ステイル(どちらにしても、事情を知っていてもらったほうが安全か)

ステイル(変に記憶に干渉して、妙な動きをとられても困るのはこちら。だったら……)

ステイル「……やれやれ」

 呟いてから、袖に隠し持っていた十字架の霊装を手に取る。
 それを宙に放ると、右手を一閃。
 目の前に現れた火の玉に呑まれて、瞬く間に十字架が灰になった。

ステイル「僕も甘くなったものだね」

杏子「……なんだよ、アンタ結構イイヤツじゃん」

ステイル「君ほどじゃないさ」

 おい、霊装代ちゃんと払えよな! などという外野の突っ込みを無視してステイルは立ち上がった。
 正直上手く説明できる自信はないが、後悔するよりはマシだ。常識なんてクソ食らえ。
762 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/23(火) 23:29:17.47 ID:hjeVn6zLo

――などとステイルが独断行動している頃、イギリスでは。
 レイチェルがいなくなったことを確認したローラが、テーブルの上――正確にはそこに座り込んだキュゥべぇを指で突いた。

ローラ「せっかくの和気藹々たる雰囲気が台無しになりけるわよ、まったくもう。それで用件は?」

QB「ひどいなぁ、僕と君の間柄じゃないか。そんなに邪険に扱わないでくれてもいいだろう?」

ローラ「いーから用件を述べなさいな」

QB「やれやれ。じゃあ言うけど、君の目論みは成功しないよ」

 ローラが黙り込む。その様子を観察しながら、キュゥべぇは言葉を続けた。

QB「仮にただの歌に希望を込めたとして、それがグリーフシードに干渉するとしよう」

QB「込められるエネルギーはどうせわずかだろうし、量が足りなくて絶望に弾かれるのがオチだね」

QB「数千人単位でやれば話は別だけど、それでもあらかじめある絶望を払いのけないとどうにも出来ないだろう」

QB「確かに、君が集めた情報を駆使すれば希望を宿すことでグリーフシードをソウルジェムに変換できるかもしれない」

QB「しかし残念ながら、君たちには手札が少なすぎる。クイーンだけじゃチェスは勝てないのと同じさ」

ローラ「……リドヴィアお嬢ちゃんたら、あれほど盗聴は避けたるように言いしたというのに」

 面白くなさそうに言うローラ。
 意味ありげに手元にある資料に目を通しているが、あれは何の意味も無いただの報告書だ。
 あれを見たって何も得られやしない。恐らくだが動揺を悟られまいとして、仕方なくああやって集中しているのだろう。

QB「……分からないのは、なぜ君が魔女を魔法少女に戻そうとしているかだ。実は善人でしたなんてオチじゃないだろうしね」

 そこでローラはため息を吐き、ばっと資料をテーブルにばら撒いた。
 そして降参と言いたげに両手を上げ、口を開く。

ローラ「話したるわよ、全て……まったく」
763 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/23(火) 23:30:09.92 ID:hjeVn6zLo

 ニィッ、と笑みを浮かべて、ローラは語る。

ローラ「私が望みしことは、単純明快……魔法少女のリサイクルよ」

QB「……魔法少女の、リサイクル? 戦力が欲しいのかい? 魔法少女は確かに強いけど、君らだって十分強いはずだよ?」

ローラ「あらあら、魔法少女システムを作りし存在のくせに魔法少女の存在意義を忘れたりて?」

 魔法少女の存在意義。
 それは緩やかに死へと向かう宇宙を救うために魔女へと昇華させ、
 その際に生じる希望と絶望の相転移によって生まれる膨大な量のエネルギーを産ませること。
 まさか、ローラの言うリサイクルとは……

QB「……一度魔女になった魔法少女を、もう一度魔女にするつもりかい?」

ローラ「ええ、もちろん」

QB「僕らとしてはありがたいけどね。だって発生するエネルギーは僕らにしか回収できないんだから」

ローラ「全ての『カナメ』たる鹿目まどかが魔女になりてノルマが達成されし際はいくらかを譲渡するという契約なりけるわよ?」

QB「……確かに、その時には三割程度で良ければ君たちに譲渡するし、回収方法も教えるけど……」

QB「まさか君は、彼女を二度も絶望の淵に叩き落すつもりなのかい?」

ローラ「いえーす☆」

 馬鹿げている。
 感情を持たないキュゥべぇだが、流石にこのときばかりは呆れるという言葉の意味が心底理解できた。

QB「彼女が魔女になれば、どれだけの災厄が齎されるか想像できるかい?」

ローラ「その様子だと、ある程度は察したるようね」
764 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/23(火) 23:30:39.22 ID:hjeVn6zLo

QB「もちろんさ。彼女が魔女になった暁には、その日の内にこの星を丸ごと飲み込んでしまうだろうね」

QB「エネルギー回収が済んだ僕らにしてみればどうでもいいことだけど、君らはそれじゃ困るんじゃないかな?」

ローラ「だからそのためにエネルギーを使いけるのよ」

QB「まどかが魔女になった際に得られたエネルギーを使うにしても、それだけでどうにか出来るはずがない」

ローラ「そこは魔術の力の見せ所、というわけね」

 ……仮に、彼女の言うような魔法少女のリサイクルが可能だとしよう。
 いや、理論上は可能だ。しかしその余波で、少なくとも見滝原市……いや、群馬県、あるいは日本が消滅するかもしれない。
 それらの犠牲を見据えた上で、この発言だ。
 一瞬でも彼女が善人である可能性を疑った『自分』が馬鹿馬鹿しく思えてきた。今なら感情さえ持てそうだ。

QB「それで、魔女を戻す戻見通しは立ったのかい?」

ローラ「……」

QB「無理なんだろう。やれやれ、君はもう少し理想と現実を分けて考えることが出来る人物だと思っていたんだけどね」

 俯くローラに『失望を覚え』つつ、キュゥべぇは尻尾を振りながら床に降り立った。

 そしてローラに背を向けて、その場を立ち去った。
765 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/23(火) 23:31:51.97 ID:hjeVn6zLo

――しばらくの間俯いていたローラは思い出したかのように顔を上げて背後を振り返った。

ローラ「もう良いわよ、出てきたりても」

 すると突然目の前にある空間が歪み、一人の人間が現れた。
 180cm超えの、大柄の男だ。なぜかアロハシャツを着て、どぎついサングラスまでかけている。
 聖堂にはまったく不釣合いな格好をした男――土御門元春は、大きな欠伸をしながら肩をすくめた。

土御門「まったく、危うく忘れられたのかと思っちまったぜよ。おかげで足がぷるぷるだにゃー」

ローラ「素で忘れてたわ」

土御門「……あ゛?」

ローラ「メンゴメンゴ」

土御門「……もう一度その背中に刃を突き刺してやろうかこのクソアマ」

 かつて、大きな争いがあった。

 組織の利益を重んじて全てを利用しようとした女と。
 自分の目的のためだけに全てを利用しようとした男の争いだ。

 その闘争はだんだんと激化していき、とうとう魔術と科学の全面戦争に発展する間際まで状況が悪化した時。

 自分の義妹とその周りの世界を守るためだけに。

 土御門は自分が仕えていたはずの女、イギリス清教の最大主教、ローラ=スチュアートを背中から刺した。



 ……もっともその時の刃は、彼女の肉体に突き刺さるどころか髪に傷一つ負わせずに砕けてしまったのだが。
766 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/23(火) 23:33:16.44 ID:hjeVn6zLo

ローラ「おおこわいこわい。あれのせいで人に背を向けたることがトラウマになりてよ? ローラ悲しい! およよ〜」

土御門「さっきまで俺に背中向けておきながら……チッ。やはりお前の考えは理解出来ん」

ローラ「フフン、褒め言葉として受け取りたりておくわ」

土御門「それで、わざわざ俺を呼んだ理由はなんだ? 俺は正式に学園都市の人間になったんだがな」

ローラ「安心しなさいな。今回用があるのは、正確に言えば土御門の友人なりけるのだから」

土御門「友人? いやまて、まさか……“あいつら”は利用しないと誓ったんじゃないのか?」

 ローラ言葉から真意を察した土御門が、訝しがるような視線を彼女に向けた。
 だが彼女は気にすることなく続ける。

ローラ「利用ではなく、手助けのお願いたるわよ」

土御門「“あいつら”は人に牙を向く『死霊秘法』の魔導書を“ぶち壊して”やっと学園都市に戻ったところだぞ?」

ローラ「だからほんのちょーっとだけにつきよ。本来であれば、力を借りるつもりは無かったのだけれども」

ローラ「全てが手遅れになりける前に、確証を欲しただけのこと」

土御門「で、力を借りるのか? 毎度毎度“あいつ”に依存しているようじゃ、イギリス清教もお先真っ暗だな!」

 自然と声に力が入る。当然だ、コイツの目的が先ほど述べた通りのものならば絶対に止めねばならない。
 その気になればいつでもポケットに忍ばせたナイフを取り出せるように身構えた。
 この女相手に通用するわけない、とは言い切れない。なにせこの女は“彼ら”と戦った際に力を根こそぎ奪われたのだ。
 “あの時”は出来なかった。だが今ならば、殺せる。
 だがローラはそんな思惑を知ってかしらずか、楽しそうに人差し指を立てた。
767 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/23(火) 23:35:33.35 ID:hjeVn6zLo

ローラ「一回」

土御門「は?」

ローラ「一回で十分よ。実証さえしたれば、あとは再現するのみになりけるのだから」

 ……つまり、あくまで“彼ら”任せにするつもりはないということか。

ローラ「そのナイフで私を殺したるなら四回程度は突き刺す必要がありけるけど、まず刺さるかどうかが怪しきものね」

土御門「チッ、お見通しってわけか」

土御門「……分かった。ちょっと待ってろ」

 しぶしぶポケットから携帯電話を取り出すと、土御門は慣れた手つきで“とある少年”に電話を繋いだ。
 通話相手に簡単に事情を説明してから、ローラに携帯電話を手渡す。
 ローラはそれを受け取ると、背筋にナイフを突き立てられたかと錯覚してしまうほどに禍々しい笑みを浮かべた。



ローラ「……こんばんわ。そちらではもう丑三つ時に差し掛かろうとしていたるのに悪きことね」

ローラ「……ええ、そうね。それじゃあ久しぶりね、と言いうておくべきかしら?」


――そしてローラは、その者の名を口にした。
768 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/23(火) 23:41:50.46 ID:hjeVn6zLo
以上、ここまで。
オクタヴィアちゃんはいつものお姿に十字架という、シンプルな物で、
手下は後で描写しますが、ホルガーの性質+影の魔女にして絡ませると面白いよね!
ここからは増えすぎた禁書成分をそろそろ削ぎ落としに掛かります

次回の投下は未定。遅くとも五日以内で
769 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/08/23(火) 23:47:44.87 ID:Kw4EMn7Po
乙!
上条さん登場なのか!?
770 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/08/23(火) 23:49:38.26 ID:H1r9clbAo
乙です
なんであの少年がいるのか期待ものだな
ローラさんはワルプルくること頭にいれてんのか?
771 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/24(水) 00:07:31.46 ID:BmUD+nIbo
乙乙
さやかたん…
772 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/24(水) 00:29:01.38 ID:COZ3vQaAO
乙ー
上条さんをどう使うのかね。パンチで全部解決とかはないだろうけど
それにローラが気になるなー。リサイクルとか黒いけど良い奴っぽそうだし
773 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/24(水) 03:17:19.22 ID:E9ZVmk2IO
更新乙

電話の相手はあいつ☆かな?
774 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/24(水) 15:52:19.92 ID:Keiwfc120
電話の相手は上条当麻かな?
775 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/24(水) 17:57:06.12 ID:p+2iHsVc0
あくまでローラの動機は1にも2にも清教の為であり、白も黒も無いって。
まどかの魔女化のエネルギーは三割でも人類の手に余る大きさ…そんな物を貰ってどうする気なのだろう。
776 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) :2011/08/26(金) 06:14:00.39 ID:AWkwzfxAO
しかしステイルの空気っぷりが半端ないな
777 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2011/08/26(金) 08:15:17.28 ID:92n9ns0n0
さて、寝るかー
778 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/26(金) 16:48:31.89 ID:6p+M78KAO
シリアス一辺倒もいいけどたまにはほのぼの日常が読みたいです
779 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/08/26(金) 18:11:52.78 ID:GaGJ9ydAO
>>778
最初にやったろ
780 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/27(土) 03:58:27.25 ID:MvUQlNx5o
ニコさんェ…本当かずみマギカ面白いわ

>>770
頭に入れてはいますが…?

>>778,779
今進めているのが終わったら短いながらも日常パートを挟み込むつもりです。ゆるーくまったり水面下でごそごそなノリで
早くそちらに取り掛かりたいのでシェリーと五和とアニェーゼの活躍を大幅に削って推敲も微妙なままです
プロット通りとはいえちょっとアレな展開でうーん……

あと前々回くらいの投下で天使云々で訂正箇所が二箇所ありましたが、本筋に関わらない設定なんでスルーしておきます
では投下します
781 :いかん、重すぎ笑えない [saga]:2011/08/27(土) 04:00:10.49 ID:MvUQlNx5o

――学園都市の、とある寮でのお話

「おいインデックス、いい加減に準備済んだか? 時間に遅れちまうぞ?」

「もうちょっと待って欲しいんだよ。あと角度を少し傾ければこの服がスーツケースの中に……むー!」

「あのなぁ……どうせ修道服着たままなんだからそんなに服持ってく必要ねーだろ。というかいい加減脱げよそれ」

「むむっ!? とうまはこの形だけの歩く教会が指し示す物がなんなのかを理解してないかも!
. この修道服は今でこそ魔術的価値は無いに等しいけど、未来の最大主教の象徴の一つでもあるんだよ!」

「インデックスが未来の最大主教ねぇ。イギリスもよっぽど人手不足なんだろうな……ってかなんでその布切れが象徴なんだよ」

「あえて魔術的防御機能を持たないことで、イギリス清教の懐の深さと隣人愛に対する……とうま、聞いてるの!?」

「はいはい聞いてますから急いでくださいねインデックスさん。俺たちだって遊びで行くわけじゃねーんだから」

「そういえばこれから行く場所ってどこなの? まだ聞いてなかったかも」

「あのオバサンが言うには……えーっと、そうそう」



「群馬県の、見滝原市だってさ」
782 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/27(土) 04:00:37.46 ID:MvUQlNx5o

――美樹さやかが魔女になったのを見届けたまどかは、一人で力なく登校していた。

まどか(さやかちゃん……魔女になっちゃったなんて。わたし、どうしたら……)

「やぁ鹿目さん、おはよう」

 突然真後ろから声をかけられて驚いたまどかが振り返ると、そこには頭を包帯でぐるぐると巻いた恭介の姿があった。

まどか「えっと……うん、そうだね。怪我、大丈夫?」

恭介「この杖が守ってくれたんだ。凄い頑丈だよね。何で出来てるんだろ?」

 恭介は傷一つない杖――この世に存在しない物質で作られた物――を包帯のされた左手で撫で回した。

恭介「それから、話も聞いたよ」

まどか「じゃあもしかして……」

恭介「うん。魔法少女とか魔女とか、色々教えてもらったんだ。さやかが抱えていた事情も、ジレンマも」

 思わず恭介の顔をまじまじと見つめてしまう。
 その表情に後ろめたさや疎外感を覚えたが故の嫌悪感、失望等の感情は見られない。
 むしろどこかすっきりしていて見えた。

まどか「……上条君は、これからどうするの?」

恭介「どうしようかな?」

 陽気に笑いながら恭介が言った。無神経な恭介の態度にまどかは内心で腹を立てる。
 それを悟られないように顔をそらして、まどかは再び歩き始めた。

まどか「どうしようかなって、さやかちゃん、魔女になっちゃったんだよ? そんな悠長な……」

恭介「うん、そうだよね。だからちょっと忘れ物を取りに行ってこようと思ってさ」

まどか「え?」

恭介「それじゃ先生によろしく!」

 まどかが立ち止まって恭介の方に顔を向けた。すでに恭介の姿は何メートルも向こうにある。
 呼び止めようとするが、それよりも早く彼は杖を収納して走り始めていた。
783 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/27(土) 04:01:37.36 ID:MvUQlNx5o

――友を思う彼の行動を非難できる者が、どこにいようか。しかし不幸なことに、不運は連鎖する。
 さやかであった魔女の監視をしていた五和は、自分の情けなさに自己嫌悪していた。

五和(だめです、私。ここに来てからケチがつきっぱなしで……)

五和「本当、だめだなぁ……」

『だったらいっそ、死んだほうがいいよね』

五和「死んだ方が……って、十字教の人間として自害をする考えは……へ?」

建宮「何か言ったか?」

 違和感に気付き、五和は咄嗟に地面と空に目を凝らした。
 空間が歪み、さらに目の前にはどこかで見たことのあるデザインの巨大な門が構築されている。

建宮「っお、こりゃあどう見たって魔女なのよな……気配を断ってたのか?」

五和「結界はあくまで内側にしか作用してませんから、多分死角を突かれたんじゃないでしょうか?」

建宮「なるほど、いずれにしたって女教皇様がいない状態でコレは不味いのよ」

 門の内側から人の形をした使い魔が繰り出される。
 その動きは酷く緩慢としているが、その大きさに見合わぬ力が込められているのを五和は見抜いた。

五和「もしかしてこれ、人間の魂を」

建宮「考えるなよ。いずれにしたって、倒さなきゃならんのだからな」

 リラックスした動きでそれぞれの得物を握ると、二人は魔女のその手下と対峙した。
 高位魔術師ならばともかく、彼らだけでは分が悪いことは一目瞭然。
 しかし別件で動いている神裂に力を借りることは出来ない。とすれば異常を察知した仲間が来るまで持たせるしかない。
 二人は武器を構えると、前かがみになった。戦いが始まる。
784 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/27(土) 04:02:33.59 ID:MvUQlNx5o

――臨時的な司令塔と化したステイルの部屋には、アニェーゼとステイル、そして佐倉杏子がいた。
 魔術師代表と修道女代表、そして魔法少女代表として、即席の議場を展開している。

ステイル「ジェムに蓄積される穢れ、あるいは濁りが絶望であるならばそれを消したらどうなんだ?」

アニェーゼ「それじゃどうにもならないってのがキュゥべぇの言葉でしょう。論外ですね」

ステイル「だから希望を注ぎ込めばいいのだろう。魔術で精神を……ちっ、感情が無ければ出来ないか」

杏子「そもそも希望を抱いたってソウルジェムは綺麗になんないっての。なるんなら魔女狩りなんてやらないし」

ステイル「絶望と希望は等価値じゃないのかまったく……そういえば、魔力を使ってもジェムは濁るな」

杏子「そりゃそーでしょ」

ステイル「……おかしいんじゃないかい? どうして魔法を使うと濁る?」

アニェーゼ「無意識の内に疲労して絶望でも溜め込んでんじゃねーですか?」

ステイル「そこだ。無意識の内に溜め込んだとして、それがいつまでも残っているというのは妙な話だろう」

杏子「そお?」

アニェーゼ「言われてみれば確かに。その日その日でムカムカすることはあってもそんな引きずったりはしませんね」

ステイル「そうだ、僕達人間は絶望を溜め込んで自爆したりはしない。気付かないうちに解消されているはずだ」

アニェーゼ「難しい話ですね……ちょっと茶にしませんか?」

ステイル「……紅茶を淹れよう。あと棚にお菓子があったはずだ」

杏子「お、マジで? サンキュー!」

アニェーゼ「はしゃがないはしゃがない」
785 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/27(土) 04:03:07.21 ID:MvUQlNx5o

杏子「この紅茶うめー!」

ステイル「それはどうも……さて、話を戻すが。ジェムが穢れていると魔法少女は不安定になったりするのかい?」

杏子「んーズズズッ……っとね。不安に思う奴はいても情緒不安定になるやつはいねーんじゃない?」

ステイル「そうか。確かに、巴マミは安定していたけどね……」

 彼女の姿を思い浮かべて、ステイルは感慨深げに目を細めた。
 無意識の内に彼女の形見であるグリーフシードを指でなぞっていると、

杏子「アイツはイイヤツだったしな。才能もあったし、覚悟はあれだけど。あと寂しがり屋でさ」

ステイル「……知り合いだったのかい?」

杏子「昔ちょっとな。魔女に殺されたって聞いて驚いたけどさ、最初に思ったことがこれまたおかしくてさ」

杏子「最期まであいつは、誰かのために行動してたんだろうな。あの善人め……って感じでね。へへっ」

ステイル「……確かに、そうだろうね」

 珍しく神妙そうに言う杏子の横顔を見ながら、ステイルは物思いに耽る。
 巴マミが最期に何を思い、何をしていたのかはステイルには分からない。
 もしかしたらジェムが限界を超えて魔女に至ったのかもしれないし、何か嫌なことがあって絶望したのかもしれない。
 いずれにせよ、杏子には彼女が魔女へと至ったことは伏せておこう。

アニェーゼ「……絶望が溜まってるんじゃないとしたら?」

 ぽつりと、アニェーゼが呟いた。

アニェーゼ「絶望することによって、何かが『溜まる』仕組みだとしたら、どうなんです?」

ステイル「……キュゥべぇはいけ好かないが、基本的に嘘は吐かないと思うよ。なによりメリットが無い」

アニェーゼ「だからですよ。キュゥべぇ達ですら理解しきれない物があるとしたら、話は変わるんじゃねーですか?」
786 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/27(土) 04:03:44.44 ID:MvUQlNx5o

――一方その頃、バチカンでは。
 結局現ローマ法王であるペテロに許可を取ってバチカンに腰を下ろしたリドヴィアは、通信霊装片手に顔を顰めた。

リドヴィア「……歌に込めるのは希望ではない、と? それはどういうことなので?」

ローラ『そのままの意味よ。希望なんて曖昧かつてきとーなものは込めずとも上手く行きたるわ』

リドヴィア「ですがあなたが希望を注いで見てはどうか、と。結果的に希望を込めることは出来ませんでしたが」

ローラ『そもそも考えてもみたりなさいな。人間が絶望を抱いたからって、溜まり続ける一方ではなしよ?』

リドヴィア「……結論から述べてくださいませんか?」

ローラ『穢れは絶望ではない』

リドヴィア「ではあなたの得た情報と食い違う点が出るのでは?」

ローラ『奴らとて魂の何たるかを理解したりてはいないのが現状。でなければ感情の操作だって自由なりけるはずよ』

リドヴィア「……では、穢れとは一体?」

ローラ『魂が人の身から離れたが故に生じる『バグ』、あるいは垢よ。純正の魂にある浄化機能がソウルジェムにはなし
      だから定期的に別の器に移し替えたるのね。そして穢れは負の感情や力。絶望や呪いに依りて生まれけるわけね』

リドヴィア「魔女になるのは絶望によってジェムが穢れ切るからでは? 魔法の使用もありますので」

ローラ『発生時期が絶望と同時期ならば大体同じたるわよ。後者の場合も回復がされずということになりけるわね』

リドヴィア「……何時頃お気づきになられたので?」

ローラ『インキュベーターと取引したる情報を整理していた際に。正確に言えば三時間前になりけるわね』

リドヴィア「ふむ、それで歌には何を込めればよろしいので? あと出来る事と言ったら、攻撃か――」

リドヴィア「……申し訳ありませんが、バグの件をもう一度、詳しくお願いしますので!」
787 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/27(土) 04:04:28.58 ID:MvUQlNx5o

――見滝原市のボロアパート

アニェーゼ「魂が生身の身体から離れた結果ってーことはですよ。本来ある何かが足りてないわけなんですよ」

ステイル「つまり?」

アニェーゼ「自浄作用ですね。『バグ』によって蓄積される穢れは本来ならそれによって浄化されるもんだったって推測です」

杏子「よく分かんねーけど、ばい菌殺す免疫機能みたいなの?」

アニェーゼ「その答えは、イエスですね。要は勝手に弄られて魂がおかしなことになっちまってるわけです」

杏子「ふーん」

ステイル「……じゃあ希望と絶望は? あのエネルギー云々はどうなる?」

アニェーゼ「言ったばっかじゃねーですか。キュゥべぇが魂を理解出来てないから推測で物を言ってるって」

ステイル「だとして、なぜバグによって生まれた穢れが消えれば魔女は死ぬんだ」

杏子「それも立派なエネルギーだからじゃねーの? 呪いも似たようなもんだし」

ステイル「なおさら手詰まりというわけか……」

 今の議論で得られた収穫といえば、無理やり希望を注いでも元に戻らないということだけだ。
 いっそのこと生命力を魔力に練成し直して注ぎ込む方法も考えてはみたが、既にさやかで試している。
 ソウルジェムは変わらなかった……あの時はあくまで精神に作用させたのだが、精神=魂だと考えればおかしくはない。

杏子「……言っとくが、アタシは諦めねーぞ」

 そう言って、杏子は布団に横たわるさやかの頭を撫でた。
 アニェーゼ部隊の修道女が一定間隔で生命力を魔力に練って、送り込む途中で生命力に練り直すことで鮮度を保っている。
 とはいえさすがにそれでも不味いので、結界の類も張り巡らせてはいるのだが。

ステイル「……魔女の様子が気になるな。一旦天草式と連絡を」

 ステイルの言葉を遮るように、ピンポーン、と間の抜けた機械音が部屋に響き渡った。
 連絡をアニェーゼに任せて玄関の扉を開けると、そこにはまどかと……なぜか中沢の姿が。
 妙な組み合わせに首を傾げつつ、ステイルは二人を玄関の中に招き入れた。
788 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/27(土) 04:05:24.37 ID:MvUQlNx5o

ステイル「どうしたんだい、二人して」

中沢「見舞い。でも元気そうじゃん、風邪治ったのか?」

ステイル「……まぁね」

まどか「ごめん、ちょっと長い話になるけど良いかな? すぐに終わるから」

中沢「あー、良いって良いって。じゃあ俺外で待ってるよ」

 そう言って、何故か中沢は玄関を出るとその脇に座り込んだ。
 どうやら本気で待つつもりらしい。落ち込んでいるまどかを励ますように、冗談の一つでも言ってあげるべきか。

ステイル「ずいぶん健気じゃないか。君に気でもあるのかい、彼」

まどか「一人で下校するの、ダメなんだ。だからついてきてくれてるの」

ステイル「……なんだって?」

 中学生にもなって単独下校禁止というのは、なかなかお目にかかれない事態のはずだ。
 それこそ身近な場所で事件でも起こったとか、変質者が現れたとか、生徒の身になにかあったか……

まどか「上条君の行方が分からないの。駅で姿を見かけたって話が最後で……さやかちゃんの件もあるから……」

 血の気が引くのを感じたステイルが踵を返すより先に、アニェーゼが血相を変えて部屋から飛び出してきた。

アニェーゼ「魔女を逃しちまったみてーです! 駅から離れて、結界に隠れながら闇雲に――」

 ほとんど同時に、ステイルの持っていた携帯電話が弱弱しい振動を起こす。手に取り回線を繋げると、

ローラ『ハロー♪』

ステイル「……何の用だ、女狐が」
789 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/27(土) 04:06:14.92 ID:MvUQlNx5o

ローラ『美樹さやかの魔女、取り逃がしたそうね』

ステイル「ッ! なぜ貴様がそれを……天草式の報告か」

ローラ『そろそろ決断したる時よ』

ステイル「なに?」

 ローラの声色が変わる。
 電話越しに伝わってきた気迫に、大人しくしていたまどかとアニェーゼが姿勢を正した。

ローラ『諦めて魔女を殺し楽になりけるか』

ローラ『美樹さやかを地獄の底から引きずり上げたるか。どうしたる、ステイル?』

ステイル「……手があると?」


ローラ『チャンスをやりけるから何とかしろ。できなければ、私が何とかしたるわ』


 遡ること半年近く。去年の十月三十日。
 彼はまったく同じ言葉を、ローラ=スチュアートの口から聞いたことがある。


ステイル「……言われなくても、それは僕がずっと夢見てきた希望だ!!」


 そうだ。“誰か”を救えるような人間になる。それはステイル=マグヌスが諦め、しかし心のどこかで夢見てきた物だ。
 チャンスがあるならばやるしかない。勝算などクソ食らえ。魔術師たる者の振る舞いなど知ったことか。

ローラ『巴マミには感謝しておきたりた方が良いかしらね。良き方向へ成長したりけるようで、私は嬉しいわよ』

ローラ『“新たなる光”を使いとしてそちらに送りたわ。到着次第説明を受けたりなさい』

ステイル「……分かった」

ローラ『期限はそちらの時間で十八時まで。無理なら『実力行使』で排除したるわ。良き報告を期待したりけるわよ?』
790 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/27(土) 04:07:47.00 ID:MvUQlNx5o

――物語は加速する。
 遅れてやってきたシェリーと共に門の姿をした魔女を撃退した五和らは、すぐさまさやかであった魔女を追いかけて包囲した。
 ステイルたちとも合流して確認してみたが、幸い一般人に被害は出なかった。いずれにしても油断は出来ない。

建宮「それで、策ってのは? 美樹さやかを救う手立ては確保出来たのよな?」

ステイル「……出来たらよかったんだけどね」

 と言って、ステイルは隣で可愛らしく『尻尾』をふりふりさせているレッサーの頭をポンポン叩く

レッサー「いやーそんなこと言われましても。私はあくまで『十字架』を運べとしか言われてませんし」

 首に提げた十字架をぷらぷらさせる。
 あまりにも能天気な反応に、杏子とまどかがため息を吐いた。

杏子「役に立たねーやつ」

レッサー「むむっ、それは心外ですね。よろしい、こうなったら私の悩殺お色気シーンをふひゃあいっ!?」 ガンッ

ステイル「黙ってろ。この十字架はローマ正教の技術が込められた物らしいが、これをどう扱えばいいのやらでね」

アニェーゼ「一応これには道標とか目印とかってー魔術的要素があるんですが、さすがに使い道までは……」

杏子「なんだそりゃ。アンタらの上司に連絡つかないの?」

ステイル「ついたら困ってないさ。僕らだけで解決させたいようだね」

アニェーゼ「去年の夏に、これと同じ仕掛けで裏切り者を攻撃して失敗しちまったみたいな話がありましたね」

ステイル「そんなもの記憶には……いや、あったな。十三騎士団を介したグレゴリオの聖歌隊による超長距離砲撃が」

五和「あれって大陸間弾道ミサイルや学園都市の衛星レーザー砲みたいな物ですよ!?」

アニェーゼ「いえ、攻撃性に変質させた魔術だから砲撃になっちまうだけです。その気になれば応用も利くはずですが」

ステイル「……最大主教は、バチカンにまで手を回しているのか? ともかくもう少し策を練ろう」
791 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/27(土) 04:08:47.95 ID:MvUQlNx5o

――物語は加速する。
 既に時刻は十七時三十分を回っている。
 陽は沈みかけ、辺りは真っ赤に染まっていた。

アニェーゼ「あれだけ議論して、結局親友に呼びかけさせつつ十字架を配置するだけってんだから笑っちまいますね」

建宮「感情が無いなら呼び声に応えることもないと思うのよな」

まどか「お願いします。わたし、ただ見てるだけなんて嫌なんです!」

ステイル「……魂はまだそこにあるんだ。だったら可能性に賭けてみようじゃないか」

杏子「で、結界に突入するメンバーはどーすんのさ?」

ステイル「天草式とアニェーゼ部隊はバックアップ兼上条恭介達の捜索。入るのは僕と君、鹿目まどかと――」

 そこでステイルは後ろを振り向き、すぐそばに植えられた木に目を向けた。
 視線に気付いたのだろう、木の陰からばつの悪そうな顔をしながらほむらが姿を見せた。

ステイル「暁美ほむら。君も来るかい?」

まどか「ほむらちゃん、来てくれるの?」

 なぜか大きなショルダーバッグを提げたまどかが、喜色をあらわにほむらに声をかけた。

ほむら「……今回の件は私にも責任があるわ」

杏子「なんだよ、良いトコあるじゃねーか」

ほむら「ふん」

 ほむらを交えた四人は、建設途中のビル、その外壁に辿りつく。建宮とレッサーの二人はここで待機だ。
 団子をくわえた杏子が槍を作り出して斜めに一閃させる。結界への入り口が切り開かれて、道が繋がった。
 杏子が先陣を切り、ステイルが殿を務めるような形で進入するその瞬間、

レッサー「あ、そー言えば中心核に十字架をブッ刺せとか言ってたような――」

 そんな声を聞いたステイルは、帰ったらあのなんちゃって尻尾小娘に炎剣を叩き込んでやろうと一人決意した。
792 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/27(土) 04:09:28.76 ID:MvUQlNx5o

――物語は加速する。
 事前の調査で判明している通り、結界は中心部まで一直線に通路で繋がっていた。
 魔女の下まであと半分というところまで差し掛かると、杏子は立ち止まって槍を肩に置きつつ後ろの三人に振り返った。

杏子「ここまで来てから言うのもなんなんだけどさぁ、アタシらって互いのことよく知らなくない?」

まどか「そういえば杏子ちゃんとはまだちゃんと挨拶してないね」

ステイル「暁美ほむらとも、きちんと腹を割って話をした覚えがないね」

ほむら「自己紹介ならしたでしょうに」

杏子「いいじゃん、改めて自己紹介しよーぜ! さやか救ってからよく知らない奴とハイタッチなんて嫌だし」

 さやかのことは救えることが前提なのか? と首を傾げるステイルだが、さすがに口に出しはしない。
 ああやって自分を励ますことは誰にだって良くあるものだ。だからステイルはそれに乗ってやることにした。

ステイル「それじゃあ改めて自己紹介をしようか。僕はステイル=マグヌス。イギリス清教所属の魔術師だ」

ステイル「年齢は十五、好きな物はタバコで、嫌いな物は禁煙席と禁煙スペースと自動喫煙法」

杏子「十五で愛煙家ってどうなんだよ……」

ステイル「美樹さやかを救えなかったら、僕はもうタバコを二度と吸わないと誓おう」

 おーっ! と杏子の口から歓声が上がる。まどかとほむらは苦笑するだけだ。

杏子「んじゃ次アタシな。アタシは佐倉杏子! 好きなことは食べること! 嫌いなことはいろいろ!」

杏子「なんだかんだで愛と勇気が勝つ王道みたいなのに憧れちゃっててさ。さやか救えたら神様信じるよ、ホント」

 照れくさそうに笑いながら、杏子はまどかを肘で突いて促した。
793 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/27(土) 04:10:14.43 ID:MvUQlNx5o

まどか「えっと……それじゃあ、わたしは鹿目まどかです。魔法少女じゃないし、特技とかもないけど……」

まどか「さやかちゃんのことを救ってみたいっていう気持ちは、本物だから。私に出来ることがあったら何でもやります!」

ほむら「ブフッ!?」

杏子「うわっ、汚ねー!」

 ほむらが噴出した唾を肩に浴びて、嫌そうな顔をしながら杏子が手で拭う。
 それから彼女は何度か咳払いすると無表情を取り繕って口を開いた。

ほむら「暁美ほむら。魔法少女よ」

杏子「……あ?」

ステイル「……まさかとは思うが、それだけかい?」

まどか「えぇー、それはないよほむらちゃん」

 皆から非難されて、ほむらは渋々何かを考えるように顎に手を当てた。

ほむら「……固有魔法は、私と私が触れている物以外の時間停止。好きなものは猫。嫌いなものはキュゥべぇよ」

 ゴソ! とまどかのショルダーバッグが蠢いたような……気のせいだろうか?

まどか「ほむらちゃんも猫好きなんだ! 実はわたしも猫好きなんだぁ」

杏子「アタシは犬派だけどなー」

 そんな会話を耳にしながら、ステイルは懐から何枚かの資料を取り出した。
 あの人魚の魔女はどこからともなく車輪を繰り出してぶつける以外はほとんど攻撃方法は無いはずだった。
 あの右手の剣は気になるが、拘束が解けない限り気にする必要はないだろう。となると、

ステイル(レッサーの言葉通りなら穢れ、つまり魔女の力を消すしかない……だが消せば魂も消え、ただの器になる)

ステイル(穢れを消すと同時にグリーフシードに魔力を流し込んで十字架を……難しいな)

ステイル(時間停止で魔力を、ああこれだとグレゴリオの聖歌隊の援護も出来なくなる。そもそもここまで届くのか?)

 和気藹々とした雰囲気をよそに、ステイルの不安は募る一方だった。
794 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/27(土) 04:11:56.30 ID:MvUQlNx5o

 その頃、ローマ正教の本拠地であるバチカン、無事に修復を果たした聖ピエトロ大聖堂では。

ペテロ「……絶景だな」

 ペテロの目の前に居並ぶ3333人の信徒。それらが一斉に右手を胸の前に持ってきて、十字を切った。
 信徒が口を開き、祈りながら聖歌を歌う。淡い光が聖堂を満たし、空気が暖かみを持ち始める。
 グレゴリオの聖歌隊と言えば強力無比な砲撃というのが魔術サイドでの一般的な見解だが、実態はそうではない。
 あくまで祈り、歌い上げることで想いを強くさせ、魔術を増幅させるものだ。
 その基本は祈り。汝、隣人を愛せよ。という『神の子』の教えに基づく、他者に対する愛から来るものでもある。

リドヴィア「無礼を承知の上で申し上げます、ローマ教皇」

 傍らに跪いたリドヴィアが声をひそめて言った。

リドヴィア「この状況下であまり権力を誇示する発言はどうかと思われますので」

ペテロ「そうではない。私はただ異国の、それも異教徒の少女を救うためにこれだけの信徒が集まったことに感動したのだ」

 それを聞いたリドヴィアは満足気に頷くと、信徒達の輪に加わった。これで3334人である。
 いや、3335人か。とある術式を構築しながらペテロは信徒達の輪の中心に歩み寄った。
 そして信徒達と同じように胸の前まで右手を持ってきては十字を切り、祈り、口ずさむ。

ペテロ(イギリス清教の頂点、最大主教。全て貴様の思惑通りなのか? 前教皇ならばどうしただろうか?)

 ふとそんな不安が頭をもたげる。彼は前教皇であるマタイ=リースと違ってローラを完全に信用していなかった。
 このグレゴリオの聖歌隊による支援だって、リドヴィアからの申し出でなければ拒否していたところだ。
 もっとも、既に魔術サイドの勢力バランスなど崩れて、実質的にイギリス清教が全てを握っているようなもの。
 そのイギリス清教ですらローラに頼らねばどうにもならない状況なのだ。いまさら利害がどうのと気にするだけ無駄だろう。

 それに、と彼は微笑んだ。マタイならば、自分と同じ考えを持ってくれるはずだ。

ペテロ(ならば私は、私に出来ることをしよう)

 そしてペテロは、魔術を行使した。
 3335人の祈りを受けて、瞬く間に魔術の威力が増幅される。
 大聖堂から光の柱が伸びる。それは雲を突き破ると、上空に留まってさらに輝きを増していった。
795 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/27(土) 04:12:37.40 ID:MvUQlNx5o

――イギリス 聖ジョージ大聖堂

 バチカンに第二の太陽が現れたとの報告を受けたローラは、キュゥべぇを前にほくそ笑んだ。

ローラ「あの老人の後継者、想像したりけるよりも案外やりよるものね」

QB「……話を再開しないかい?」

ローラ「ええ、ソウルジェムに溜まりける穢れ、もとい魂の垢の話ね」

QB「その仮説は頷ける部分もあるけど、なおさら魔女を元に戻すのが難しくなるんじゃないかな?」

ローラ「すとーっぷ。長い話はつまらないので簡単に疑問を挙げたりなさいな」

QB「祈りがグリーフシードを再生させる根拠は? 確証はあるのかい?」

ローラ「無いから作りたるのよ」

QB「無茶苦茶だよ。障害である穢れはどうするんだい? 魂が死に絶える危険性は?」

 キュゥべぇの問いに、ローラは笑って答えた。



ローラ「少々卑怯臭いのがいかんともしがたしたれど、切り札を用意したりけるわ」
796 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/27(土) 04:13:33.85 ID:MvUQlNx5o

――時を同じくして、上条恭介は結界の中に迷い込んでいた。
 ステイルたちが動く際に生じた天草式のわずかな隙を、不幸にも無自覚の内に突いてしまったのである。

恭介「うーん……」

 ヴァイオリンの音を頼りにひたすら通路を歩きながら、恭介は唸った。
 ここがステイルから聞いた『魔女の結界』であることはまず間違いないだろう。
 一方で足の痛みは留まることを知らず、そろそろ歩くのも辛くなってた。

恭介(ここが行き止まりみたいだね)

 やがて恭介は一つの扉の前で立ち止まった。壁に寄りかかりつつ杖で押すが、扉は微動だにしない。
 ならばと体重をかけて押すが、やはりびくともしない。
 どうやら『魔法』の力で鍵が掛かっているようだった。
 今度は倒れこむように肩を扉にぶつけるが、やはり扉に異変は見られない。

恭介「まいったな、どうしよう……」

 立ち往生していると、二人の背後からその場に不釣合いな明るい声が聞こえてきた。
 一つは男、あるいは少年の声だ。もう一つは同い年くらいの少女だろうか

「ここって最深部近くじゃねーの? 俺に任されたのって中心部の天井に穴空けることとステイルの手助けなんだけど」

「魔力の流れを見るに、多分この空間は一直線になってるかも。上に行きたい場合は一回一回壊してくしかないんだよ」

「だあああメンドくせー! いくら俺の右手がありとあらゆる異能の力を――って、誰かいるな」

 恭介が振り返る。そこには男女……いや、性格には少年少女がいた。
 一人は黒髪でツンツン頭の少年だ。背は自分と同じくらいかやや低めだが、ガタイは向こうのがずっと良かった。
 もう一人は白い修道服を着た修道女だ。白銀の髪が証明に照らされて幻想的な雰囲気さえ醸し出している。
 少年はこちらの姿を凝視した後でこう言った。

「何故だか知らないけど物凄いシンパシーが! もしかしてあなたは生き別れの兄貴とかなんでしょーか!?」

「残念だけどそこの少年はいわゆるイケメンに値する容姿だからそれだけは絶対に無いと思うんだよ」


恭介「……調子狂うなぁ」
797 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/27(土) 04:15:18.21 ID:MvUQlNx5o
以上、ここまで。
そろそろキュゥべぇやローラが何を言っているのか自分でも分からなくなってきた
続きは遅くても明日、早ければ今日の深夜に。
798 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/27(土) 04:29:36.69 ID:NxxaU3dSo
乙ー
799 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/27(土) 08:23:05.85 ID:nC2kuuAvo
乙!
800 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/27(土) 11:45:36.25 ID:URAL5okH0
乙!
変化していく感情を一つの希望に固めれば穢れ(ストレス)も出るだろうな。
801 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/27(土) 12:09:45.64 ID:kwCfUW+uP
 \    
 (/o^)  トウマ聞いてるの!?
 ( /
 / く
802 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/27(土) 12:11:04.31 ID:/sxOob1IO
乙です
803 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/08/27(土) 15:10:56.67 ID:VpUvbdW40


何気にインさんひでえwwwwww
っつか上条さん、上条くん(紛らわしいなこれ)は言うなら弟なんじゃなかろうか
804 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/27(土) 15:22:08.69 ID:5UZJwXdAO
えるしっているか
16歳の上条さんの身長は168cm前後
14歳の上条くんの身長は175cm前後
805 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/27(土) 15:44:45.13 ID:ehY007VIO
Oh……
806 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/27(土) 15:59:04.95 ID:Fa+9p0l80
キターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!
807 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/27(土) 17:44:11.77 ID:x1GNLEnIO
>>804
上条さんェ

良い感じで上条さんが出てきたな。インデックスもいて自然な感じで面白い。
808 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/08/27(土) 19:36:45.94 ID:8aDfDUHfo
乙です。

もう、さやかだけでも救われるのを祈るのみだ。
あと、ステイルがちっとでも報われますように。
809 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/08/27(土) 19:37:13.09 ID:8aDfDUHfo
乙です。

もう、さやかだけでも救われるのを祈るのみだ。
あと、ステイルがちっとでも報われますように。
810 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/08/27(土) 19:37:38.41 ID:8aDfDUHfo
乙です。

もう、さやかだけでも救われるのを祈るのみだ。
あと、ステイルがちっとでも報われますように。
811 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/08/27(土) 19:38:16.42 ID:8aDfDUHfo
うげぇ、連投してしまった、ごめんなさい。
812 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/27(土) 21:36:47.96 ID:50vGtqYIo


うーん、素直に復活してくれれば良いんだがな……ww
813 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/08/27(土) 21:55:53.93 ID:tICrhOV30
乙でしたってかキタ―――――――(゜∀゜)――――――――!

恭介お前やるじゃないか! 見直したぜ!
そして安定の鬱ブレイカ―上条さん来た!これで勝つる!
814 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/08/27(土) 22:15:21.60 ID:UiyYocf9o
禁書成分をそろそろ削ぎ落すってあるからそう簡単に全て丸く収まりはしないような気がする
自爆魔法で吹っ飛ぶ前に一時正気を取り戻す位の救いは在っていいと思うのだがどうなることやら
815 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/27(土) 22:20:25.99 ID:50vGtqYIo
オクタヴィアの中身画像用意して待機しときますね
816 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/27(土) 22:30:30.67 ID:5UZJwXdAO
単純に禁書キャラ減らすってことかと思ってた
ここまで引っ張って上条さん活躍しないオチとか悲しすぎる
817 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/28(日) 01:06:21.91 ID:Opl+aDL4o
>>803-804,807
年上の上条さんが年下の上条君を兄貴呼ばわりしてしまうネタ、ですね。
中二で170超えてるとかもうホントマジファックとしか言いようがないなぁ畜生

>>808
祈りは届く。人はそれで救われる。
私たち修道女うんぬんかんぬんかくかくしかじかってインデックスさんも言ってましたもんね

それでは投下します。今回は短め。
さやかちゃん編は次で終わりかな……くわばらくわばら
818 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/28(日) 01:08:01.98 ID:Opl+aDL4o

ステイル「まいったね、どうも」

ステイル「こんな予定じゃなかったんだが」

 そう言って、ステイルは口の中に溜まった血と奥歯の欠片を吐き捨てる。
 それから彼はルーンが刻まれたカードを手に取ると、魔力を込め直した。
 “倒れたまま微動だにしない”佐倉杏子とまどかの身体を守るように配置されたカードから、炎が溢れ結界が構築される。

ほむら「……まさかここまで使い魔の演奏が強いだなんて」

 体中にすり傷を負ったほむらが、苦しげに呟いた。結界に突入した彼らはまず始めに使い魔の演奏を耳にした。
 無論、事前の調査であの演奏に人間の心を揺さぶる効き目があるのは知っていた。きちんと対策もしてきた。
 だが使い魔の演奏はその対策を上回る速度で杏子の精神を凌辱し、ぐちゃぐちゃにし、乗っ取ったのだ。

ほむら「死ななかっただけマシかもしれないわね」

 杏子の攻撃でステイルが傷付き、隙を突かれたほむらが車輪による攻撃で傷付いた。
 二人は状況を把握するとすぐさま連携して杏子を気絶させた。させたはいいが、今度はまどかが心を乱された。
 仕方なくまどかも気絶させて、今に至るわけである。

ステイル「……彼女、佐倉杏子がこういった幻惑や幻想に弱いとはね。トラウマでもあるのかな?」

ほむら「いずれにせよ、今彼女が戦うことは無理でしょう」

ステイル「やれやれ。背負った十字架といい、結界内にいる人間を戒める力でもあるということかな。困ったものだ」

ほむら「無駄話はそのくらいにしておきなさい。来るわよ」

 魔女の背後から車輪が現れ、目にも止まらぬ速度で襲い掛かる。
 それらをほむらと協力して迎撃しながら、ステイルは声を大にして叫んだ。

ステイル「君の魔法は後どれくらい使える!?」

ほむら「グリーフシードに余裕があるから何度でも!」

ステイル「上等っ……だぁ!!」
819 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/28(日) 01:08:47.14 ID:Opl+aDL4o

 寸でのところで車輪をかわして、ステイルがカードをばら撒いた。
 そのままステイルは短く詠唱し、右手に炎の剣を作り出す。

ステイル「僕の手を掴んで魔法を!」

ほむら「分かったわ」

 ほむらがステイルの左手を握って魔法を発動する。周囲の物体が動くことを忘れたかのように止まった。
 そしてほとんど同時に、炎剣もばしゅっと音を立てて消えうせた。

ステイル「なっ、炎剣が……そうか、ルーンの効果が消えたのか!」

ほむら「役に立たないわね。どうするつもり?」

ステイル「だったら……僕の指示するとおりに運んでくれ」

 なかばステイルを引きずる形で、ほむらが結界内を跳躍して回る。
 特定の場所まで辿りつくとステイルがカードをばら撒き、さらに跳躍して別の場所にカードをばら撒く。
 それを何度か繰り返したところで、ステイルは感心するように唸った。

ステイル「これならいくらでもカードを配置することが出来るね。僕らって案外相性良いんじゃないかな?」

ほむら「私なら配置する前に引き金を絞るわ」

ステイル「……僕なら結界を張れるよ」

ほむら「私なら攻撃そのものを迎撃するわ」

ステイル「もしかして君ってつまらない子とか口下手とかよく言われないかい?」

ほむら「手を離すわよ」

ステイル「冗談だからやめてくれ」
820 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/28(日) 01:10:17.84 ID:Opl+aDL4o

ほむら「それで、次はどうするつもり?」

 さすがに魔法を長時間使いすぎたのだろう、ほむらの頬から汗が流れ落ちる。
 それに気付いたステイルがさりげなく頭を撫でると、彼女はくすぐったそうな顔をしてから上目遣いで睨んできた。

ほむら「……なんのつもりかしら」

ステイル「なんとなくだよ。とりあえず魔法を解いてくれ。それから彼女達の護衛を頼む」

 魔法が解除される。魔女が車輪を操って、倒れたままの杏子たちに攻撃を加えようとする。
 それよりも早くその進路に回りこんだほむらが大型拳銃を引き抜くと、正確な照準で次々に撃ち抜いていく。
 撃ちもらした分の車輪は炎の結界が阻み、見る見るうちに灰へと変えていく。これなら当分持ちそうだ。

ステイル(よし、やるか)

 M  T  W  O  T  F  F  T  O  I I G O I I O F
「世界を構築する五大元素の一つ。偉大なる始まりの炎よ
   I    I    B    O    L    A   I   I   A   O   E
 それは生命を育む恵みの光にして。邪悪を罰する裁きの光なり
     I    I    M    H        A   I   I   B   O   D
 それは穏やかな幸福を満たすと同時。冷たき闇を滅する凍える不幸なり」

 魔女を取り囲むように配置されたルーンのカード、その数ざっと500枚。
 配置もおざなりなら数もそれほど多くはないそれらに、ステイルの魔力が行き渡り始める。

.  I I N F   I I M S
「その名は炎、その役は剣

  I C R    M  M  B  G  P
 顕現せよ、我が身を喰らいて力と為せ――」

 詠唱が完了するのと同時に、死角から飛んできた車輪がほむらの背中を強打した。
 彼女は苦痛に顔を歪めながら、手榴弾を放ってステイルに襲い掛かろうとしている車輪を吹き飛ばす。
 これが終わったら彼女には改めて礼を言おう。
 目の前に出現した炎の巨人を見上げながら、ステイルは声高らかにその名を呼んだ。

.         イ ノ ケ ン テ ィ ウ ス
ステイル「 ≪魔女狩りの王≫ ! 蠢く車輪を灰燼に帰せ!」
821 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/28(日) 01:12:06.48 ID:Opl+aDL4o

 空気が爆ぜ、衝撃波が結界内の壁や床をビリビリと震わせる。
 4mを超す炎の巨人がほむらを庇うように前に出て、迫り来る車輪を全て焼き尽くした。

ほむら「ッ……熱いじゃないの」

ステイル「これでも威力は下げているんだ、勘弁してくれ」

 傷だらけのほむらの体にルーンのカードを貼り付ける。
 耐熱用の防護術式を掛けてほむらをフォローしながら、ステイルは魔女を睨んだ。

ステイル「まずはその鎧から剥ぎ取らせてもらおうか。やれ!」

 炎の巨人が、自分より一回り、二周りも大きな人魚の魔女にぶつかって弾けた。
 分散した高温の炎が魔女の身体を覆い尽くす。
 形容しがたい悲鳴が結界内にこだました。

ステイル「……火力が足りずにこびりつくかもしれないな。さやかの自我がないことを望みたいものだね」

ほむら「……そうね」

 ぼろぼろと、人魚の身体を守っていた鎧や鱗が焼け焦げ、その内側にあるであろう肉体にこびりついていく。
 不思議なことに『肉が焼ける』音や臭いはせず、ただ液体状の物がジュッ、と『蒸発』するような音だけが聞こえてきた。

ステイル「さて、ここからどうしたもの――!?」

 辛うじて残っていた魔女の右腕と十字架を繋ぎ合わせていた戒めが灰になって崩れた。
 魔女は自由になった右腕を力の限り振り下ろして、その手に持った剣で炎ごとステイルたちをなぎ払う。

ステイル「ぐぅっ、がああああぁぁぁ!」

ほむら「くぅう!」

 ルーンのカードが飛び散り、床が崩れる。そして魔女の右腕も同じように崩れていく。
 辛うじて空中で体勢を整えたほむらがいつの間にか両手にまどかと杏子を抱えて跳躍した。

ステイル(時間停止の魔法か、まったくうらやましい限りだね)

 そんなことを考えながら、ステイルも床――正確にはホール自体がぐるりと回転した結果、足元のある方へ移動した天井に着地した。
822 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/28(日) 01:15:22.09 ID:Opl+aDL4o

 何気なく上の方に目を向けると、やはり天井がある。だが奥の方が少し湾曲していた。
 床があった場所の下にあった部分だ。どうやらこのホールは丸みを帯びた作りになっているようだった。

ステイル「イノケンティウスは……無理か。となると残ったカードで攻めるしか……」

ほむら「それでダメなら、諦めるしかないわね」

 まどか達を横たわらせながら、息も絶え絶えにしてほむらが言った。
 もう彼女達を守る術はない。後が無いのだ。次の行動を失敗すれば……
 その時、背後で何かが動く気配がした。
 ステイルとほむらが同時に振り返り、そして驚愕する。

まどか「……だめだよ」

 意識を回復して起き上がったのであろうまどかが、ショルダーバッグの中から這い出てきた白い生き物――
 キュゥべぇを抱きかかえて言った。

QB「きゅっぷい……いやぁ、窮屈だったよ」

ほむら「まどか! どうしてそいつを連れてきたの!?」

まどか「……わたしが願えば、さやかちゃんを助けることが出来るって」

ほむら「そんなのでまかせよ、無理に決まってる!」

QB「可能だよ。彼女に秘められた素質は本物だからね。ありとあらゆる条理だって覆せるはずさ」

ほむら「お前は……!」

 動揺するほむらを尻目に、ステイルは魔女の様子を窺った。
 魔女は落下してバラバラになった使い魔たちが演奏しなくなったことで悲しんでいるのか、ぴたりと止まったままだ。
823 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/28(日) 01:16:58.98 ID:Opl+aDL4o

ステイル「……なるほど」

 ぼそっと、ステイルが呟く。
 最大主教の言っていたチャンスとは、つまりそういうことか。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ローラ『チャンスをやりけるから何とかしろ。できなければ、私が何とかしたるわ』

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 この場合のチャンスとは、ただ単にさやかを救うためだけの物ではない。
 まどかが魔法少女になるのを防げるならば防いで見せろと、そういう意味も持たせていたのだ。

ステイル(クソッ、あの陰謀屋め!)

 神裂に与えられた言葉、『私たちに猛威を振るう存在であるかどうか判断し、処分するかしないか決めろ』とも辻褄が合う。
 彼女が魔法少女になれば最強の魔法少女になる。そしてそれは最強の魔女を産むことに繋がる。
 そしてその際、ローラに利益が渡る仕組みなのだ。チャンスとはそれを妨害する意味でのチャンスでもあったのだ。

ステイル(どうする、彼女を気絶させるか? いやダメだ、この場を凌げてもさやかを救わない限り意味が無い)

まどか「もう見てるだけなんて嫌だよ、わたしも助けてあげたいよ!」

ほむら「くっ……」

 いまだグリーフシードは見えず、穢れを取り除く方法も無く、十字架を取り付けることすら難しい。
 完全な手詰まりだ。杏子さえ無事ならば、どうにかなったというのに!

まどか「わたしが魔法少女になればさやかちゃんが救えるんでしょ? だったら……」

まどか「わたし、魔法少女になる!」

 そしてまどかが、キュゥべぇに向かって願いを口にしようと――
824 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/28(日) 01:18:40.67 ID:Opl+aDL4o

――する前に、バキン! と、何かガラスのような物が砕ける音が鳴り響いた。
 その場にいた全員が、一斉に音がした方へと目を向ける。

恭介「これは……!」

 皆の視線を一身に受けながら、ホールに現れた上条恭介が唸り声を上げた。

まどか「上条くん!?」

ステイル「なぜ君がここにいる?」

恭介「ごめん、後できちんと謝るから……教えてくれ」

ステイル「何を……」

恭介「あそこにいるのが、さやかなのかい?」

 言葉に詰まったステイルが黙り込んだ。
 沈黙を肯定と受け取ったのだろう、恭介は杖をつきながらゆっくりと魔女に歩み寄っていく。
 それを阻むようにステイルが立ちふさがる。

ステイル「離れていろ。怪我人に出来ることはない」

恭介「そこをどいてくれ。僕はさやかに会いに来たんだ」

ステイル「ろくに体力も無いひ弱な一般人が、あまり調子に……?」

 ぐいっ、と。目の前にある戸を開けるように、簡単に。
 ろくに体力の残っていないはずの恭介が、30cm近く背の離れた大柄のステイルを“左手”で押しのけた。

ステイル「そんな力がどこに……?」

恭介「教えてくれ。さやかを救う方法は?」

 ステイルに背を向けて問いかける恭介の身体に、魔女の背後から放たれた車輪が襲い掛かる。
 それは普通の人間の動体視力の限界を超えた速度で彼の身に迫り――
 彼が杖を横薙ぎに振った。それだけであっさりと車輪が“砕け散った”。

ステイル「まさか……」
825 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/28(日) 01:19:19.10 ID:Opl+aDL4o

 杖を扱っている上条恭介は、正真正銘ただの人間だ。
 体力がやけにあるのは妙だったし、力の入らないはずの左手でステイルを押しのけたのも妙だったが。
 高速で迫り来る車輪を、いとも容易く迎撃するのはいくらなんでもおかしすぎる。

ステイル(……そういえば)

 なぜ彼は、至近距離でさやかが魔女に至った際の衝撃波を受けて、背中を強打しただけで済んだのか。
 それだけのエネルギーをどうやって防いだのか。

ステイル(……あの杖の使用者は、学園都市第一位)

――かつて、魔術と科学の境界を無視した混沌と呼ぶに相応しい争いがあった。
 その元凶である者に挑む際、第一位はいがみ合っていたはずの第二位に力を借りた、という話を聞いたことがある。
 第二位の能力を活かした杖を用いて、彼は最後には能力を使わずに相手に対して一矢報いたという話も。
 彼の使っている杖がまったく同じ物とは限らない。なにせ件の杖はその際に砕け散ったのだから。
 だが、少しでも製造過程が同じなら。

ステイル(『Equ.DarkMatter』……第二位が技術提供した、現実に無い物理法則を用いた素材を駆使した盾と同じなら)

 熱くなっていたステイルの頭が急速に冷えていき、凄まじい速度で回転し始める。
 仮にあの杖がその技術を使っているのなら、彼は十分な戦力になる。それどころか、出来るかもしれない。

ステイル「……鹿目まどか」

まどか「え?」

ステイル「魔法少女になるのは、この場にいる全員が諦めてからにしてくれるかな?」

 その問いに、まどかは黙って頷いた。
 それを確認したステイルが、怪訝そうな表情を浮かべたほむらに向き直る。

ステイル「提案がある」

ほむら「……いいわ、話してみなさい」

恭介「それ、僕も聞いた方が良いかな」

 恭介の言葉を聞いたステイルが珍しく笑って言った。

ステイル「というより、君がいなきゃ始まらないよ」
826 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/28(日) 01:20:06.93 ID:Opl+aDL4o

――イギリス 聖ジョージ大聖堂

QB「君のご自慢の魔術師君は、とうとうただの少年である上条恭介にまで力を借りるみたいだよ」

ローラ「あらあら、これは私の誤算たるわねぇ」

QB「本当に彼らだけで上手くいくのかい?」

ローラ「5%ね」

QB「なにが?」

ローラ「ステイルたちだけで上手く行きたる確立よ」

QB「……つまり君の采配ミスというわけだね」

ローラ「さーてそれはまだ分かるまじよ。上条恭介がどれほど“男”を見せたるかにもよりけるわ」

QB「そういえば、君かい? 彼に妙な魔術をかけたのは」

ローラ「妙な魔術?」

QB「彼のスタミナが一般的な中学生のそれと同程度まで回復してたし、身体能力に至っては若干強化されていた
   それにこれは僕でも驚いたけど、彼の左手の神経がわずかながらに回復していてね。もちろん全快には程遠いけど」

 するとローラが俯きがちに目を伏せる。
 何かを考え込むような素振りを見せて、それから小さく口をもごもごと動かした。

QB「心当たりがあるのかい?」

ローラ「さて、ね。安易に奇跡や魔術に頼りて迷える子羊に道を示したる行為は、
     正直言って私は好かねども……されどあの子の優しき心ばかりはどうにも出来たるのよ」

QB「自分にしか理解できない意味深な言葉を使うのはやめてもらえると嬉しいんだけど、そこのところどうかな」

ローラ「ふふっ、“組織”の陰謀になりけるわね……! ああっ第二の人格が蠢きたるわ……!」

QB(うざったいなこいつ……)
827 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/28(日) 01:20:36.07 ID:Opl+aDL4o

ステイル「時間までもう3分を切った。正真正銘、これが最後のチャンスだ」

恭介「緊張してきた……本当に上手く行くのかい?」

ほむら「行かなければさやかが死ぬだけよ」

 作戦はこうだ。
 まずほむらが時間を停止させ、ステイルと恭介を魔女の近くまで運ぶ。
 運び終えたら魔力を流して空間を圧縮、足場を形成。
 そして時間を動かし、グリーフシードがあるであろう魔女の腹部をステイルが攻撃。
 切り開かれた魔女の中心部に恭介が飛び降り、盾で穢れを弾きつつ右手で十字架を突き立てる。
 グレゴリオの聖歌隊により増幅されたなんらかの魔術が到着するまでに、噴出する穢れをステイルが可能な限り消す。
 穢れが減少したところで魔術が到達、最大主教を信用するならこれで美樹さやかが救われる、というものだ。

ほむら「それにしても、あなたの上司が嘘を吐いていたら前提からして崩れるわね」

ステイル「祈るしかないさ。『天上の神』にでもね」

 懐にあるありったけのカードをばらまきながら、ステイルは縋りつくような気持ちで言った。
 もしこの前提が崩れるならば、それがあの女狐の最後だ。地の果てまででも追いかけて、必ず殺してやる。
 それに――

ほむら「祈るしかない、ね……それが届かなかった結果がさやかよ?」

ステイル「祈りは届く」

 根拠など無い。にもかかわらず、ステイルは断言した。

ステイル「人はそれで救われる。僕らみたいな魔術師は、そうやって誰かを救ってきたんだからね」

ステイル「僕達の祈りで救ってみせるさ……美樹さやかを、地獄の底から引きずり上げてみせる」

 ステイルの言葉を受けて、ほむらは微笑んだ。
 盾を構えると、彼女は包帯のされた恭介の左手を優しく掴み、次にステイルの大きな手をしっかりと握り締める。

まどか「お願い、さやかちゃんを助けてあげて……!」

 杏子体を抱いたまま、まどかが震える声で三人に言う。
 それを聞いた三人はしっかりと頷いて見せた。そして決意を新たに、ほむらが口を開く。

ほむら「行くわよ……!」
828 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/28(日) 01:21:21.32 ID:Opl+aDL4o

――最初は私の仕事だ。さっそく時間停止の魔法を行使する。
 瞬く間に――否、瞬く間もなく、彼女達を除いた全ての物体、魔女やまどかも含めた全ての時間が止まる。
 すかさずほむらが前屈みになり、跳躍の予備動作に移る。
 さらに魔力をひり出し、身体能力、とくに脚力を強化。

ほむら「ふっ……!」

 可能な限り二人に負担を掛けず、しかし力強く跳躍。
 何度か足場を作って跳ね、魔女の頭上まで辿りつく。

ほむら「さらにここから……!」

 魔力をひり出し、三人が乗れるだけの足場を作り出す。
 あくまで魔法少女の能力を応用した物だが、長くは使えない。ほむらはステイルを見る。
 ここから先は彼の仕事だ、視線でそう促すと、彼は首を縦に振った。

ほむら(なら……!)

 時間停止の魔法を解く。魔女が動き出す。ほとんど同時に、足場からステイルが飛び降りた。


――ここからは僕の仕事だ。
 足場を蹴って飛び降りたステイルは、右手を掲げて手短に詠唱。

. T O F F    T M I L    D D A G G W A T S T D A S J T M
「原初の炎、その意味は光、優しき温もりを守り厳しき罰を与える剣を!」

 ステイルの手に炎の塊が召喚される。
 だがそれだけでは終わらない。彼は落下しながらさらに左手を掲げて、

  AshToASh   DustToDust SqueamishBloody Rood
「 灰は灰に   塵は塵に    吸血殺しの紅十字! 」

 間を置かずに詠唱。左右の手に赤と青白に輝く炎剣を作り出した。
 そのまま両手を力の限り振りかぶって、魔女の身体、その中心部である腹部に叩き込む。
 ちょうど十字を傾けた、いわゆるX字に炎が刻まれる。魔女の悲鳴が鼓膜を震わせるのを感じつつステイルは魔女を覗き見た。
 そして絶句する。

 炎剣は、確かに魔女の腹部に叩き込まれた。
 無論魔女はそれだけでは死ななかった。ちょうど身体が切り開かれる程度を狙って加減したのだから当然だ。
 絶句した理由は、そこではない。
829 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/28(日) 01:21:58.74 ID:Opl+aDL4o

 叩き込まれた炎剣は、エントロピーの法則にしたがってその熱量と衝撃波を周辺に撒き散らした。
 その結果、魔女の身体を覆っていた鎧の残りカスや鱗を根こそぎ吹き飛ばした。
 そして、魔女の真の姿が露になる。

ステイル(こんな……ものだとは……!)

 一瞬が数秒、数十秒、下手したら数分にも感じられるほどに引き伸ばされる。
 それだけ魔女の姿は衝撃的だった。

ステイル(惨い……!)

 纏っていた物を脱ぎ捨てた魔女は、そもそも肉体と呼べるような代物を持ち合わせていなかった。
 その身体は腐り果てた人の身のように半ば液状化しつつあり、身体の一部であったものがとめどなく流れ出ている。
 本来眼球が位置しているであろう場所に目はなく、こぽこぽと音を立てて眼球が生成されては零れ落ちて四散していた。
 一言で表すならば、腐った人魚。
 希望を夢見た魔法少女の末路にしては、余りに救われない。

ステイル(いや、それよりも問題は……!)

 X字が刻まれた、グリーフシードが位置している場所から溢れ出る恐ろしいほどの穢れ。
 それは離れた場所にいるはずのステイルですら精神を汚染され、酷い頭痛を覚えるほどの物だった。
 それこそ魔導書の原典を読むに等しいレベルの汚染だ。いかにあの杖と言えど、恭介の身体が持たない。

 そう考えたステイルは、しかし見てしまった。
 押し寄せる呪いをものともせず、見るもおぞましい魔女を恐れもせず。
 杖を盾のようにして、魔女の下へ飛び降りる少年の姿を。



恭介「さやかああああぁぁぁぁああぁぁッ!!!」



 あのゲル状の魔女を、躊躇うことなくさやかと呼べるとは。
 なんてこった、本物のバカか、いやヒーローか。
 小刻みに時間を停止して近づいたのだろう、自分を拾い上げようとするほむらを見上げながら、彼は微笑んだ。
 この分なら上手く行く。何も心配は要らない。そう口に出そうとして――
830 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/28(日) 01:22:46.45 ID:Opl+aDL4o





――上条恭介を守る杖が、砕け散った。




.
831 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2011/08/28(日) 01:26:10.68 ID:J5sWIwX4o
えっ
832 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県) [sage]:2011/08/28(日) 01:26:57.38 ID:EITQjNA6o
あれっ
833 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/28(日) 01:27:14.35 ID:Opl+aDL4o
Equなんちゃらってのはあれ、要するに凄い盾です。頑丈です、程度の認識で構いません。
あとこれはまったくどうでもいい独り言でスレの内容には何の関係もありませんが
漫画版エウレカドミニクの最期、あれはあれで良いと思うんですよね。内容には関係ありませんが
オクタヴィアちゃんの内面描写はとても疲れた。先駆者様がいたら表現を参考にしようとも思ったのですが見つからなかったのが残念

次の投下は明日……は難しいかな。とにかく二日以内です。
834 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/28(日) 01:28:26.99 ID:0fMVTHn9o
乙ー

‥‥どうしたんだ?
835 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/28(日) 01:32:04.13 ID:Uqka03oZ0
えっ
836 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/08/28(日) 01:32:34.02 ID:LT3zeXuro
そげぶさんは何してんだよ
837 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/28(日) 01:40:21.80 ID:Bk5Lphn+o

どういうことなの…
838 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/08/28(日) 01:44:55.83 ID:QQAvk5Bno
そげぶは何処行った
839 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/28(日) 02:02:06.80 ID:EI4+nXBAO
天井壊すって言ってたし扉壊してから迂回してるだけだろ
ヒーローは遅れてやって来るもンだからなァそォに違いねェ間違いねェそォじゃねェってンならまずはそのフザケた幻想をぶち[ピーーー]!
840 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/28(日) 02:34:05.32 ID:Bk5Lphn+o
>>839
アマイ壊す、って読んで混乱したじゃないか
sageてね
841 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/28(日) 03:42:21.29 ID:H+KJVRpfo


上条さんがなんとかしてくれるんだ!
時間停止も効かなそうだしね

その幻想をブチ殺す!!
842 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/08/28(日) 08:41:16.63 ID:ulHKyuI80
乙でした

なんだこの恭介…格好良いじゃないか…
つーかこれ恭介死ぬぞ!?
843 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/28(日) 09:44:32.01 ID:ZoFgVCSIO
えっ
844 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/28(日) 10:37:55.97 ID:k2SHwYsdo


えっ
845 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/28(日) 10:50:52.20 ID:vDzhDIpFo


http://up3.viploader.net/anime/src/vlanime057642.jpg
846 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/28(日) 12:08:28.01 ID:I8YAzLg30
乙!
やっぱり、ほむほむの因果はまどか以外にも作用する。
TV版では微妙だったオクタヴィアの力が強化されている。
そげぶだと、どうやっても魔女消滅。そげぶをどう活かすのか期待。
847 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県) :2011/08/28(日) 13:07:49.95 ID:lodHwUdz0
乙!

力の無い人間が大事な人を救うために戦うって展開は熱いね
848 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) [sage]:2011/08/28(日) 14:12:44.34 ID:IOafdKp20

3時間かかってようやく追いついたわ・・・
849 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/28(日) 18:24:24.37 ID:txUL35FUo

恭介生きろー
850 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/08/29(月) 05:43:28.14 ID:MLpThXBW0
それでも上条さんなら・・・
上条さんならやってくれる!
851 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/08/29(月) 12:48:34.57 ID:54WeehrAO
イケメンがいいヤツだったら…
キモメンは死ぬしかないじゃない…!
852 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/30(火) 01:56:13.48 ID:lyXJ21Kvo
しまった、例の二人に名前を呼ばせたのは失敗だったな……
というか投下を区切った場所が……まぁあまり気にせず投下します
853 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/30(火) 01:56:46.33 ID:lyXJ21Kvo

――杖が砕けたからといって、上条恭介はこれっぽっちも絶望してはいなかった。
 そもそも彼は杖の性能を当てにして魔女の下に飛び込んだのではない。
 自分の足の運びを補助する電極があったから街中を駆け回ったわけではない。
 もっと原始的な、体の内側来る言葉に出来ない衝動に身を委ねたに過ぎない。
 溢れ出る穢れと空気の壁を切り裂き、重力に身を任せる。

 魔女の下に届くまで、あと四メートル。

恭介(まだ……)

 瞬く間に精神を汚染する呪いを一身に浴びながら、それでも恭介はまだ自己と呼べる人格を保っていた。
 あるいはそれは、ここに来る途中で出会ったみょうちくりんな二人が施した『手助け』の影響なのかもしれない。
 もしかしたらそれは、彼の中に芽生え、息づいた希望がわずかながらに呪いを弾いたからのかもしれない。

 魔女の下に届くまで、あと三メートル。

恭介(まだ、動ける!)

 いずれにせよ、上条恭介はまだ生きていた。
 穢れの力を受けて下にしていた右腕はほとんど動かなかったが、辛うじて指を動かすことが出来た。
 最後の力を振り絞って身を捻ることが出来た。
 右手で“左手”を覆う包帯を解くことが出来た。
 右手の中にある十字架を左手に渡すことが出来た。それだけだ

 魔女の下に届くまで、あと二メートル。
854 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/30(火) 01:57:13.95 ID:lyXJ21Kvo

恭介(さやか……!)

 呪いが体を蝕んでいく。身体から急速に力が抜けていき、目蓋が重く感じられてくる。
 だが恭介はそれを無視した。そしてそれを無視して体を動かす自分に、彼は驚愕する。
 正直言って、自分がなぜこうまでさやかのためを思って行動しているのか恭介には分からなかった。
 依然として彼女には親友としての感情しか見出すことが出来なかったし、意識して異性として見るのも難しかった。
 ただ幼い頃から共にいる親友、それだけだろうに。

 なんでここまで?

 魔女の下に届くまで、あと一メートル。

恭介「さやか……!」

 もしかしたら心のどこかでこんな展開を待ち焦がれていたのかもしれない。
 ありきたりなヒーローや主人公が現れるまでの時間稼ぎなどではなく、他の誰でもなく。
 さやかが魔女に、化物になったと聞いたその時から。
 自分の手で彼女を救ってみせると、誓ったんだ。
 魔女の……いや、違う。
 さやかの下に届くまで、あと腕一本分の距離

――手を伸ばせば届く距離に、彼女がいる。

恭介「さやかあああぁぁぁッ!!!」

 恭介が、残された力を振り絞って“左手”に握り締めた十字架を突き立てた。

 そして、恭介は意識を手放した。
855 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/30(火) 01:58:45.64 ID:lyXJ21Kvo

 カチッ、と世界が止まる。そしてステイルはそれを知覚出来た。ということは……
 ステイルの手を掴んだほむらが時間停止の魔法を使ったのだ。

ほむら「上条恭介は、自分の仕事を果たしたようね」

ステイル「みたいだね……クソッ、一瞬絶望した僕がバカみたいじゃないか」

ほむら「それでどうするの? あの穢れに近づけば廃人決定よ」

ステイル「『上条恭介を助ける』『美樹さやかも救い出す』……両方やらなくちゃいけないのが魔術師の辛いところだね」

ステイル「覚悟は――」

ほむら「残念だけど私は出来てない」

ステイル「……ノリ悪いな。やっぱり君とは相性良くないかもしれないね」

 だが、ほむらの気持ちも分かる。
 彼女も触れずして感じたのだろう。さやかが背負った呪いの凄惨さを。
 あの災厄の渦の前では、魔法少女も魔術師も皆共に平等だ。無力な人間に過ぎない。

ステイル「だからって諦め切れるのかい?」

ほむら「必要なら諦めるわ。私は、まだ死ぬわけにはいかない」

 わけもなく言ったほむらの顔には、迷いや苦渋の色が多少なりとも見えていた。
 だがしかし、覚悟。あるいは芯のような物が確かにそこにはあった。単なる生への執着とは違う、まったく異なる何か。
 どう過ごせばこのような表情を浮かべられるようになるのだろうか?
 少なくとも14歳の少女が浮かべるような表情ではないはずだ。

ステイル「……分かった、それじゃあ上空まで運んでくれ」

ほむら「どうするつもり?」

ステイル「飛び降りるんだよ。可能な限り穢れを削りつつ、上条恭介も回収する」

ほむら「……上手く行く保障は?」

ステイル「まさしく『天上の神』のみぞ知る、さ」

 ステイルが笑って答える、ほむらは呆れたような表情を浮かべた後で跳躍した。
 魔女の上空、辛うじて穢れが彼女らの身体に触れない範囲ギリギリの場所まで来ると、ステイルは身を投げ出した。
 ステイルの主観では投げ出してすぐに時間が動き出したように思えたが、背後にあった気配がないので違うのだろう。
 そんなことを考えながら、ステイルはくの字に折れ曲がった魔女の下へ急ぐ。
856 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/30(火) 01:59:12.62 ID:lyXJ21Kvo

 一流の魔術師ですらすぐに息絶えかねないほどの呪いを受けながら、上条恭介は自分の仕事をしっかりとこなしたのだ。
 だったら一流の魔術師たる自分が仕事をこなさないなんてことがあってはならない。

ステイル「原初の炎、その意味は光、優しき温もりを守り厳しき罰を与える剣を!」

 気がつけばステイルは詠唱していた。ほとんど無意識の内に、反射的に。

ステイル「炎よ――巨人に苦痛の贈り物を!」

 右手に宿した炎の塊を、恭介を飲み込むように噴出する穢れにぶつける。
 ほんの一部が爆発して吹き飛んだが、それだけだ。穢れに飲み込まれるまであと数メートル。
 ステイルは歯を食いしばって、今度は両手を掲げた。

ステイル「灰は灰に! 塵は塵に! 吸血殺しの紅十字!」

 両手に宿した赤と青の炎を、十字に交差させて解き放つ。
 それはX字に穢れにぶつかり――やはり、一部だけを吹き飛ばすに留まった。

ステイル「ッ――もう一度ッ!」

 “今”使える魔力をありったけ振り絞って、再び炎剣を作り上げる。
 だがルーンのカードが少ないために、やはりその威力は心許ない。

ステイル「炎よ、巨人に苦痛の贈り物をぉぉ!!」

 炎の剣を穢れに叩き込む。
 今度は爆発するどころかじゅっと音を立てて消え失せてしまった。
 グレゴリオの聖歌隊によって増幅されたはずの魔法は、まだ来ない。
 このままでは穢れが噴出し終わり、魔女も恭介もステイルも、皆死ぬ。

ステイル「ここまでなのか」

ステイル「ここまで来て、救えないのか」

ステイル「ここまでやって、また諦めるのか!?」

 今度こそ、圧倒的な絶望にステイルの心が押し潰されそうになる。
857 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/30(火) 01:59:43.70 ID:lyXJ21Kvo



 だが。

 祈りは届いた。

 『天上の神』ならぬ、『天井の神浄』へと。
858 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県) [sage]:2011/08/30(火) 02:00:44.82 ID:S4yD2Oy5o
上条さん登場かな
859 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/30(火) 02:01:15.72 ID:lyXJ21Kvo

 バキン! と。
 何の前触れも無く、ステイルの背後――ホールの天井側から、何かが砕けるような音が響いた。

「ちっとぐらい長いプロローグで絶望してんじゃねえよ!」

 これまで、幾度と無く絶望的な状況に陥った時。
 その度に“右手”で絶望を打ち砕いてきた少年の声が、耳に届いた。

「手を伸ばせば届くんだ――さっさと始めようぜ、魔術師!」

 振り返る必要は無い。確かめる必要も無い。
 ステイルはただ、右手を後ろへと伸ばした。
 少年と共に現れた暖かい光――グレゴリオの聖歌隊によって増幅された魔術が、ステイルと穢れを飲み込む。

ステイル「遅いんだよ……」

ステイル「くそったれええぇぇぇ!!」

 ステイルの手が、ツンツン頭の少年の左手を掴んだ。
 筋肉の限界を無視した動きで身を捻り、穢れめがけて彼を投げつける。
 同時に暖かい光が穢れを飲み込み、その向こうにいる魔女の身体を優しく包み込む。

「いいぜ……この程度の絶望で、ステイルが守ろうとしたモノを何もかも台無しにしちまうってんなら!」

「まずは!」



「そのふざけた幻想をぶち壊す!」



 少年の右手が穢れに触れた。それだけで、あの恐ろしい規模の穢れが『消滅』した。
 さらに彼は恭介の体を蹴り上げるようにして抱え上げると、左手を掴んでいるステイルを見上げて頷いた。

「やれええぇぇぇ!!」

ステイル「炎よ、巨人に苦痛の贈り物を!」

 間髪いれずに、ステイルが左手に宿した炎の塊を“手元”で爆発させた。
 ステイルと少年、そして彼が抱えた恭介の身体が爆発に飲まれて光の柱から遠ざかる。
 そして――
860 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/30(火) 02:02:01.42 ID:lyXJ21Kvo

 結界が歪んで、世界が現実へと戻る。
 まどかが我に返ったとき、目の前には何も無かった。
 魔女の姿も、ステイルも、あの時現れた少年も、恭介の姿も。

まどか「そん、な」

ほむら「……」

QB「彼らは結界と共に消えたみたいだ。いやぁ、残念だったねまどか」

ほむら「お前は……!」

QB「おっと、ここには怪我人がいるんだ。暴れないでくれるかな」

 意識が回復しない杏子の体を抱きしめながら、まどかは必死に首を右に左に向ける。
 やはり、彼らの姿は見当たらない。

QB「こういう場合どんな願いをすれば彼らは戻ってくるのかな。死体だけ戻ってくるなんてオチもありうるからね」

まどか「そんな……」

QB「いずれにせよ、これで君が契約するしかなくなったね。さぁまどか、願い事を決めるんだ」

まどか「……私の、私の願いは……」

まどか「私の願いは……」

 言い終わる前に、ポンっと。
 まどかの頭に、誰かの暖かい手が置かれた。
 それはくすぐったくて、でも心地よくて……涙を浮かべながら、まどかは首を後ろに向けた。
 そして目を見開いた。

まどか「うそ……!」
861 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/30(火) 02:02:28.59 ID:lyXJ21Kvo

ステイル「まだ死んでもいないのに、勝手に蘇らせようとしないでくれるかな?」

 そこには、ぐったりとした恭介を背負うステイルの姿があった。

ほむら「……驚いた、まさか生きているなんて」

ステイル「おかげさまでね、どうやら神はまだまだ僕に試練を与えたいらしい……っと」

 仄暗い光を纏った恭介を地面に横たわらせながらステイルが言う。
 そのままてきぱきと恭介の身体を弄り回して、容態を確かめ始めた。

QB「……生きていたのは予想外だけど、結果は変わらないよ」

QB「穢れを一身に受けた結果、彼の身体に呪いが住み着いてしまったようだね。君の持つ手札ではどうにもならないよ」

ステイル「あーそうだね、うん、そうだ……おい、さっさとこっちに来い!」

 ステイルが声を大にして言うと、彼のすぐ背後、一メートルほど段差がある場所から一人の少年が姿を覗かせた。

「お? 無我夢中で抱え上げたんだけど、やっぱあん時会った人じゃん」

ステイル「知り合いか?」

「結界の途中で会ったんだよ。時間が無かったから道作ってあげて別れたけど……へぇ」

ステイル「……まったく、さっさと右手で触れろ」

 ステイルに促されて、ツンツン頭の少年が右手で恭介の額に触れた。
 たったそれだけだ。たったそれだけで、恭介の体を蝕んでいた仄暗い光が消えうせた。
 目蓋を薄っすらと開けて、恭介が瞳を右に左に揺り動かす。口をもごもごと動かしているが、よく聞き取れなかった。

QB「……何がどうなっているんだい?」

ステイル「見ての通りさ。この男の右手は、ありとあらゆる異能の力を打ち消す右手でね」

         イマジンブレイカー
「名付けて、『幻想殺し』ってな」

QB「……異能? 幻想殺し? こんな情報は……どこにもない、わけが分からないよ」

まどか「……さやかちゃんは?」

 まどかの口元から、疑問がこぼれる。
 対して、ステイルは右手を振るだけだ。
862 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/30(火) 02:03:02.54 ID:lyXJ21Kvo

QB「……なるほど、彼女の言っていた切り札と言うのは君のことか」

QB「でも、いかに穢れを打ち消そうと美樹さやかの魂を取り戻すことは不可能だったみたいだね」

QB「結果がこれだ。君の右手は、空から降り注ぐ魔術を打ち消し、そして美樹さやかの魂の残滓も消してしまった」

QB「無駄働きに終わったみたいだね」

ステイル「キュゥべぇ、君の目は節穴か?」

QB「……なんのことだい?」

 はぁっとため息を吐くと、ステイルはもう一度右手を振った。
 その手の中には――濃紺に輝く、青い宝石――美樹さやかのソウルジェムが、しっかりと握られていた。

まどか「さやかちゃんのソウルジェム!」

QB「……そんなばかな!」

 初めて、キュゥべぇの声に驚いたような響きが混じった。
 ステイルは笑みを浮かべると、種明かしをする際のマジシャンのような調子で説明し始める。

ステイル「その男の右手は便利な物でね。あまりに強大かつ性質がバラバラの力となると、一瞬で消すことが難しくなるんだ」

ステイル「グレゴリオの聖歌隊により増幅された魔術は、至ってシンプルな治癒魔術……しかしそこに込められた祈りの数は」

ステイル「ざっと3000を超える。右手で打ち消しきれない魔術の光が魔女を包み込んで……後は分かるだろう?」

ステイル「一人の呪いと、3000を超える祈り。どちらを先に右手が消すかなんて、考えるまでもない」

ステイル「光に飲まれた状態なら穢れを消しても安全……タイムラグなしで魂を存続させることが出来る」

 視界の隅で、少年が欠伸をしながら恭介に手を貸して起き上がらせた。
863 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/30(火) 02:04:55.25 ID:lyXJ21Kvo

ステイル「だがそのままだと魂の残滓まで消してしまいかねない、だから僕もろとも爆発で吹き飛んで、一旦距離をとったのさ」

ステイル「ここに来るのが遅れたのはソウルジェムを探していたから……納得出来たかい?」

QB「いかに力を注いだって、ソウルジェムの再構成は簡単には出来ないはずだよ」

ステイル「そうなのかい?」

QB「もちろんさ。それこそ、僕と取引をした彼女でも、その全容を把握し切れていないと言うのに……」

ステイル「だったら残念だったね。こちらには頼もしい仲間がもう一人いるんだ……そうだろう、上条当麻」

上条「ん……まぁな。おーい、もう出て来ていいぞー」

 少年に呼ばれて、柱の影からひょこっと白い修道服姿の少女が現れた。
 彼女はうっすらと輝く銀髪を揺らしながら、にこにこして笑っている。口を開いた。

「えへへ、ねーみたみた? 私も役に立ったんだよ? 少しは労って欲しいかも!」

「おう、偉いぞ! 今回ばっか、というか今回もは俺一人じゃダメだったからな。助かったよ」

QB「その少女が、なんだって言うんだい」

ステイル「……彼女は十万三千冊の魔導書の内容を記憶した魔術サイド最強の女の子さ」

 少年にフード越しに頭を撫でられて嬉しそうに目を細める少女を見ながら、ステイルは寂しげに言った。

「あなたたちの進みすぎた科学や魔法、ソウルジェムに関する知識は大体ろーらから受け取ってるんだよ」

「魔導書の知識を用いて構成を再現して、グレゴリオの聖歌隊に補助魔術を掛ければ出来上がりかも。枷のない私なら簡単なんだよ」

「それにしても杜撰だね。エネルギー回収にばかり目を奪われて、技術の暗号化を怠ったりした弊害だよ」

QB「……まだ、ソウルジェムがきちんと動くと決まったわけじゃない」
864 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/30(火) 02:05:23.02 ID:lyXJ21Kvo

ステイル「そりゃそうだね、ごもっともだよ。だから体の方も呼んでおいた」

 そう言って、ステイルはソウルジェムを放り投げた。
 青い宝石はゆっくりと弧を描き、それからパシッ、と音を立てて。物陰から出てきた少女の手のひらに収まった。
 青い髪、青い目、見滝原中学の制服を着た少女――美樹さやかは、照れくさそうに笑った。

まどか「さやかちゃん!」

さやか「わわっ、危ないってまどか!」

 走り出したまどかを抱きとめながら、さやかは微笑んだ。

まどか「さやかちゃん、良かった、本当に良かった……!」

 さやかは涙を流すまどかの頭を撫でながら、ステイルの方を見る。

さやか「気がついたら五和さんにおんぶされててさ……いったいなにがあったわけ?」

ステイル「……いろいろとね。ところで僕よりも先に話すべき相手がいるんじゃないかな?」

 間髪入れずに少年の体をどつく。
 ステイルのことをジト目で睨みつつ、彼は黙って道を開けた。
 すぐ傍らに置いてあった鉄パイプを杖代わりにして立つ恭介と、ソウルジェムを握り締めたさやかの視線が絡み合う。

恭介「さやか?」

さやか「恭介? どうしてここに……もしかして……」

恭介「もう知ってるよ、全部」

さやか「……そっか」

恭介「おかえり、さやか」

さやか「え?」

恭介「だから、おかえり」

さやか「あー……うん、ただいま」

恭介「……ふふっ」

さやか「えへへっ」
865 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/30(火) 02:05:52.55 ID:lyXJ21Kvo

 不器用なやりとりから目を逸らすと、ステイルは少年たちを見た。
 彼らはなぜか固唾を呑んで二人(正確には抱きついているまどかも含めて三人)のやりとりを凝視していた。
 ステイルの視線に気付いた彼らは顔を真っ赤にしながら両手を振ってあれやこれやと騒ぎ始める。

「あ、ああええとあれだその別にわたくしことかみ、じゃなくてというか中学生の恋愛に興奮してるわけじゃありませんのことよ!?」

「し、新鮮な知識を得て後学に活かそうとしているだけで別に深い事情は無きにしも非ずなんだよ!?」

ステイル「……野暮なことはよしてくれ、まったく」

「信用してないね? してないんだね!? 私は修行中の修道女だからそういう恋愛とかにうつつを抜かすことはないかもなんだよ!」

「わ、わはは! やだなーこの腹ペコシスターさんったらまったくもう。子供には刺激が強すぎるからはい右向け右!」

 ぴったり九十度右を向く二人。
 だがいまだに目線はさやか達に向けられている。
 大げさにため息を吐くと、ステイルは少年の尻を蹴飛ばした。

ステイル「佐倉杏子……そこにいる赤毛の女の子の回復は任せられるかい?」

「ん、ちょっと助けが欲しいかも。天草式のみんなはどこにいるのかな?」

ステイル「彼らならすぐ向こうに……」

 それ以上、言葉は続かなかった。
 さやかたちのラブコメ風味のやりとりを顔を真っ赤にして凝視する変態集団を見つけたからだ。

ステイル「炎よ、巨人に苦痛の贈り物を!」 ブンッ

「ぎゃああぁぁ!?」「だから盗み見はやめようって言ったんすよぉ!」「なんで私までとばっちりを……」

 炎剣を叩き付けると、彼らは蜘蛛の子散らすように慌ててわらわらと飛び降りていった。
 馬鹿馬鹿しい。恥を知れ。

ステイル「……僕が手伝おう。まずは何を」

「おおっ、空気を読んだリボンの女の子が離れてったぞ! よくやったリボンの女の子!」

「だんだん二人の距離が近づいていくんだよ! これはもしかしてあれなのかな!? あれしちゃうのかな!?」

「ふふーんまだまだだな。あいつらは中学生だぜ? ここはせいぜい抱きつく止まりであれしちゃうのは後日だと予想するね!」

 ……とりあえずため息を吐こう。

ステイル「……はああぁぁぁ……」

ほむら「……お疲れ様」

 まるで労うように、ほむらがステイルの背中――身長差のせいで腰の辺りだが――をさすった。
866 :この辺りからステイルの呼び方が変化。深い意味は無い [saga]:2011/08/30(火) 02:06:37.66 ID:lyXJ21Kvo

――見滝原市 いつものボロアパート

ステイル「……さやかと恭介の間で何があったのかは、本人達の名誉のために伏せておくとして」

ほむら「おくとして?」

ステイル「……なにをやっているんだ、君達は」

 あの後報告や後始末で街中を駆け回ったステイルは目前に広がるのは、死屍累々――ではなく、
 すーすーぐーすかと寝息を立てる少年少女たちを見てこめかみに手を当てながらため息を吐いた。

ほむら「一度ここまで移動したでしょう? それから色々と談笑していたらこうなったのよ」

 なぜか置いてあるこたつの上になぜか置いてあるみかんの皮を剥きつつほむらが言った。
 その隣ではタオルケットを肩に掛けたまどかが、こたつに足を突っ込んだままテーブルに突っ伏して寝ている
 杏子は食べかけのみかんを握り締めたままなぜか壁に“下半身”を預けて逆立ちのような姿勢で寝ているし、
 さやかと恭介に至ってはこたつに足を突っ込んだまま互いに手を握って寝ていた。

ステイル「……僕は家の人に心配をかけないようすぐに解散しろと言ったはずなんだが」

ほむら「色々あったのよ」

ステイル「……はぁ」

 ふたたびため息を吐くと、ステイルはほむらの頭をポン、と撫でた。
 上目がちに、しかし非難めいた視線を送ってくるほむらを無視してステイルは玄関へと向かう。

ほむら「待ちなさい」 ヒュッ

ステイル「ん? おっと」 パシッ

 ほむらが何かを投げてきたので反射的に受け取る。
 手を開いてみると、ご丁寧に皮が剥かれたみかんがあった。。

ほむら「餞別よ。持って行きなさい」

ステイル「外に人を待たしてるだけだしそもそもこのみかんは僕が買い置きした物だ! まったく……」

 くすくす笑うほむらに背を向けると、ステイルは玄関を出た。
867 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/30(火) 02:07:30.94 ID:lyXJ21Kvo

 玄関を出たステイルは、すぐそばで少女と共に佇んでいた少年を見た。
 彼は着ていた上着を少女に羽織らせて、シャツ一枚しか着ていなかった。
 今日の夜は珍しく冷えている。薄い修道服だけでは彼女には少し寒かったのかもしれない。

ステイル「待たせたね」

 ステイルの姿を認めると、少年は軽く伸びをしてから同じように右手を挙げた。

「ん、気にするほどじゃねーよ。さやかって子は大丈夫なのか?」

ステイル「ああ、心配要らないみたいだね……しかしまぁ余計なことを。最大主教の入れ知恵か?」

「そんなとこ。お前らを助けるために結界の天井から中枢に繋がる場所まで穴を開けてくれってさ」

ステイル「グレゴリオの聖歌隊の進入口作りか……」

 あの結界が穴を開けた程度で外界と繋がるのかは怪しいものだが、実際そうなったのだからそうなのだろう。
 無茶苦茶だが、彼にしか出来ない芸当ではある。
 苦笑を浮かべつつ、ステイルは隣に立つ少女に目を向けた。

ステイル「恭介に治癒魔術をかけたのは君かい? まさか彼の左手にまで干渉するとはね」

「完治させるにはもっと時間が必要かも。精神汚染の方もあるからこれ以上は危ないんだよ」

「ホントはもっと早く辿り着くつもりだったんだけどさ……悪かったな、ステイル」

ステイル「いや……ところで君たちはこれからどうするんだい?」

「んー、予定通りならこのまま帰るつもりだったんだけどな」

 ふと真顔になって、少年はステイルを見上げた。

「まだなんか問題があるんだろ? 俺たちに出来ることなら手伝うぞ」

ステイル(……最大主教は深い事情は説明していない、ということか)

 その意味を内心で吟味する。
 最大主教が彼らを危険なことに巻き込みたくない、などという善良的な考えを持つはずが無い。
 ということは、彼らがいたら困るのではないか? ここは彼らを頼るべきか?
868 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/30(火) 02:08:20.91 ID:lyXJ21Kvo

ステイル(……いや、確証が取れたことで行動の方針は決まったはずだ)

 しかし魔女を元に戻すことが可能という確証を得たイギリス清教はもう動き始めている。
 全力を挙げて魔法少女と魔女のシステムに干渉しうる方法を模索し、
 魔法少女に協力を申し出て解放する術を探している最中だとも聞いた。
 次期最大主教の彼女はともかく、彼の力を借りる必要は無いはずだ。

ステイル(……問題はワルプルギスの夜か)

 だがそのワルプルギスの夜も既に対策は講じてある。
 ここ数日まったく姿を現さない神裂火織の主な役目が、その対策を練ることだった。
 彼女は『未来を見通す』魔法少女に力を借りて、単身でワルプルギスの夜が出る場所を調査しているのだ。
 となれば、ここもクリア。

ステイル「……君の申し出はありがたいが、大丈夫だ。安心しておくれ」

「でも」

ステイル「いつだったか、僕らの違いは『成功したか否か』でしかないと言ったな」

 半年以上も前のことになる。
 少年と共にとある少女を助けに行った際の会話だ。
 その時の情景を思い出しているのだろう、彼は苦い顔をして俯いた。

ステイル「いまさらだが訂正しておこうと思ってね」

「え?」

ステイル「成功しようと、失敗しようと……君は今のように彼女の隣にいただろう」

「……ありがとな」

ステイル「礼を言う前に彼女をいたずらに巻き込まないことを心がけろ。それに……」

ステイル「今回世話になったのは僕の方だ。礼を言おう、ありがとう」

 珍しく礼を言ったステイルだが、言われた当人達はなぜか首を傾げている。

「んー、それはちょっと違うかも」

「ってか逆逆。お前らがいなかったらあの子を救えなかったんだよ」

ステイル「……どういうことだ?」
869 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/30(火) 02:11:47.23 ID:lyXJ21Kvo

「確かに俺達はあの結界に忍び込んだけど、時間を止める魔法が無かったら俺達は間に合わなかったんだぜ?」

ステイル「なんだって、いや……それ以前になぜ魔法のことを知っている?」

「私は止まっちゃったけど、幻想殺しの近くは魔法の効力が消されちゃってたんだよ」

「そこから逆算して、誰かが時間を止めてる! ってな。そのおかげで俺達は本来の時間分より多く行動できたわけで」

 つまりほむらが参戦していなければ彼らが間に合わなかった可能性もあるというわけだ。
 その場合の結末を考えて、ステイルは背筋を震わせた。

「それにステイル。お前がいなかったら、あの嫌味な魔法動物の言葉通りに俺はみんなまとめて打ち消しちまってただろ」

ステイル「それは、そうだが……」

「あの男の子の働きだって大きいんだよ? あれだけの呪いを受けて後遺症がないのは珍しいかも」

「左手だって本当ならもっと回復しなかったと思うし……本人の意思、もしくは希望があったからこそ成しえた結果なんだよ」

「それにあいつが十字架ぶっ刺さなかったらグレゴリオの聖歌隊だって届かなかったわけだしな」

 あっけからんに言うと、彼は肩をすくめた。
 あくまで自分達がしたのはほんの手助けに過ぎない、とでも言いたげに笑ってみせる。
 彼らの必要以上に謙遜する悪癖は知っていたので何も言わないでおくが……

ステイル「……そうだね」

 実際、彼の言う通りかもしれない。恭介の働きは、大きすぎた。
 確かに彼は損なわれた身体機能を補うために特別な機材を使った。少女の加護だって受けた。
 だからといって、あれだけの状況にいながらああも行動出来るのは異常だ。
 それこそ異能の力であればなんでも打ち消す、ただそれだけの右手で多くの人間を救ってきた目の前の彼のように。
 だからと言って、ステイルにはそれを奇跡と呼ぶのは少し気が退けた。
 そんな言葉で片付けられてしまうようなことじゃないはずだ。

ステイル(そうだ、あれは彼の想いがあったからこそ成立したことなんだ。断じて、奇跡や魔法のおかげなどではないんだ)

 もちろん、誰も彼もが目の前にいる少年のように振舞えるわけじゃない。
 だが誰にだって目の前にいる少年のように振舞える底力はあるはずなのだ。

ステイル(恭介にとって、さやかはその底力を発揮するだけの存在ということか……)
870 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/30(火) 02:12:37.46 ID:lyXJ21Kvo

「……にしても、お前といいあっちの上条といい……」

ステイル「ん?」

 なぜか少年は恨みがましい目つきでステイルを見上げて、ケッと悪態を吐いた。
 意図が分からず怪訝そうな顔を浮かべて少女を見やると、なぜか彼女は同情のこもってそうな視線で、
 あるいは痛い子を見たときのような生暖かい視線で上条を見つめている。

「決して平均を大きく下回ってるわけじゃない、わけじゃないけど物足りない。その気持ちは痛いほどに良ーく分かるんだよ……」

 そう言って、彼女は自身の胸を見やり、次に遠い目をして明後日の方を見た。
 よく分からないが、色々と事情があるのだろう。触れないでおくことしたステイルは、とりあえず肩をすくめた。

ステイル「ところで時間は大丈夫なのかい?」

「おー、学園都市最速、じゃなくて最強の超能力者様が運んでくれるからな」

「私達に掛かる負荷のベクトルを制御して音速で運んでくれるのはなかなか妙に新鮮で面白いかも!」

ステイル「タクシー代わりかよ……」

「じゃっ、俺らは帰るぜ! なにかあったら連絡しろよー!」

「じゃあねー!」

ステイル「ああ、またいつか」

 手を振って離れていく二人を、やはりステイルは寂しそうな表情で見送りながら。
 何気なく耳をすまして、彼らの会話に聞き耳を立ててみる。

『いやー良かっ……おかげだよ、インデックス……ってるって、晩飯はちゃんと作るよ』

『やった! さすがとうま……でも流石にもやし……飽きたと言わざる終えない心境なんだよ』

 ……平和な内容で何よりだ。
871 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/30(火) 02:14:20.10 ID:lyXJ21Kvo

ほむら「冷えるわよ?」

ステイル「うわぁ!?」

 いつの間にか背後に現れたほむらに大げさに驚くステイル。
 そんな様子を見て鼻で笑いながらほむらは離れ行く二人を見た。

ほむら「お似合いね」

ステイル「……そうだね」

ほむら「……どうかしたの?」

 声色からステイルが落ち込み気味でいることを察したのだろう。
 珍しく心配そうな顔をしてほむらがステイルの顔を覗き込むように見上げた。

ステイル「……いや、なんでもないよ」

ほむら「元カノ?」

ステイル「ぶふっ!?」

ほむら「汚いわよ」

ステイル「誰のせいだと思ってる……!」

 口元を拭いながらほむらを睨みつける。
 だが彼女は意に介さずに、ただそっと寂しそうな目をした。

ほむら「……覚えておいてもらえるだけ、まだマシよ」

ステイル「……なに?」

ほむら「相手に、自分のことを何もかも忘れられてしまうよりかはまだ良いじゃない」

ほむら「覚えておいてもらえれば。主人公は無理でも、相手の物語の端役ぐらいにはなれると想うけど」

ほむら「……そう。忘れられてしまうよりかは、ずっとマシなはずよ」

ステイル「……そうだね。僕は、思ったよりも幸せなのかもしれない」
872 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/30(火) 02:14:51.93 ID:lyXJ21Kvo

ステイル「それにしても……君に話したことあったかい?」

 ステイルの言葉にほむらは首を傾げてみせた。

ほむら「なにを?」

ステイル「いや……知らないならいいんだ」

 先ほどの彼女が言った言葉は、あの少女の抱えていた事情を知った上でのものだと。
 そう思っていたステイルはやや驚きながらも、なんでもないと言って手を振った。
 事情を知らないとすれば、先ほどの彼女の言葉の意味は……?
 そんなことに思いをめぐらせながら玄関へ戻り、そして名残惜しそうにもう一度二人がいた場所へ目を向けた。
 当然、彼らはもうそこにはいない。今頃天使の輪と羽生やした超能力者の手を借りて日本列島を横断しているだろう。

ほむら「まだなにかあるの?」

 ほむらの疑問に、ステイルは肩をすくめた。
 それから未練がましい口調で言う。



ステイル「ついぞ名前で呼ばれなかったな……と、思ってね」


.
873 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/30(火) 02:17:28.29 ID:lyXJ21Kvo
なんてこった、ラスト一レスがどっかふっとんだ
少々お待ちを
874 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/30(火) 02:32:13.96 ID:lyXJ21Kvo

――イギリス 聖ジョージ大聖堂

QB「……やられたよ、あの二人にはね」

ローラ「だから言いたりたでしょう? 少々卑怯臭い、と」

QB「それにしても意外なのは、彼らをあの場に残しておかなかった君の判断だよ」

QB「まだソウルジェムのに溜まった穢れを取り除く手法は確立されてないはずだけど」

ローラ「確証が得られたならば、あとは時間が解決してくれたりけるわよ。いずれにせよこれで障害は取り除かれたるわね」

QB「まだまどかが魔法少女になってないよ」

ローラ「あら? 気の早いことね。魔法少女に至らしめたるのはワルプルギスの夜当日でも十分になりけるわよ」

QB「ふむ……そういえば君の用意しようとしていた戦力はどうなったんだい?」

ローラ「清教派だけなら七割方は終わりけるわ。上の指示に従いたるしか能がない駒は扱いやすしね」

QB「それじゃあ目的の方は上手く行きそうなのかい?」

ローラ「ええ。既に鹿目まどかは、無意識の内に魔法少女の力を求めたるわ」

ローラ「あとは、夜が来たればそれで終わる……」

QB「楽しみにしているよ、ローラ=スチュアート」

ローラ「……よくもまぁ白々しい嘘を吐きたるわね。そんな感情など持ち合わしたらぬくせしおってからに」

QB「やれやれ、今のは一種の社交辞令だよ」



 ワルプルギスの夜襲来まで、あと七日。
875 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/30(火) 02:41:59.40 ID:lyXJ21Kvo
焦った、久しぶりに焦った。禁書成分削るっていったばっかでこれ、すいません
ソウルジェムとかの設定は当初予定してた設定がパーになったのであのそのええと……ね

奇跡で片付けるな、とステイルに言わせてはいますが実際あれは奇跡みたいなものですし、
言いくるめられてはいますが、今回のは幻想殺しの力を持った彼のおかげな所が大きいです。
そういうのひっくるめてまぁ上条くんすげーってことで。出番の無かった杏子たんには次回以降活躍してもらいます
ちなみに上条さんは今回ですっきり退場です。インデックスさんはどうかなぁ
あと次回から、以前言っていたほのぼのまったりすいすいとかの日常を挟みます

次の投下は8月の終わりに……出来れば良いかな
876 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/30(火) 02:44:12.50 ID:mAKaND/Lo
乙!
よかったよかった…本当によかったよ…
まだグランドフィナーレ迎えたわけじゃないけどめでたい
877 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県) [sage]:2011/08/30(火) 02:47:09.78 ID:S4yD2Oy5o
さやかは助かったけどマミさんは犠牲になったんだよな…
報われないな…
878 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/30(火) 02:50:52.80 ID:Xsr+ly88o
>>876がグランドティロフィナーレに見えたのは俺だけでいい


879 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/30(火) 02:58:38.92 ID:a0UWDrlIO
更新乙

読み返してて思ったんだけど
>>792
>ステイル「年齢は十五、好きな物はタバコで、嫌いな物は禁煙席と禁煙スペースと自動喫煙法」

>>1自動喫煙法なんてあったっけ?イギリスの法律?
880 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/30(火) 03:23:17.03 ID:RbSDfmUAO
マミさん生き返らんかね・・乙

>>879
イギリスにそんな法律はない。っつーわけで気になってぐぐってみたら
もしかして:受動喫煙法
って出たわ。たばこ吸わないんでくわしくは分からん
881 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/30(火) 03:32:16.42 ID:a0UWDrlIO
>>880
受動喫煙法もないから気になるんだよ
あるのは受動喫煙防止目的の健康増進法だし、児童喫煙法なんてのもないしな
882 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/30(火) 03:59:44.09 ID:jyPDpHU5o
>>881
思い当たる節があるのにわざわざ曲解するっていうのは、あまりいい趣味じゃないと思う
883 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/30(火) 06:05:23.64 ID:NJW/+scDO

要するに愛は強しだな
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http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
884 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/08/30(火) 13:18:25.92 ID:lRJFFEyG0
こうして見るとマジ上条さんジョーカー
本人視点だと、幻想殺しはいっそ不便な能力にすら感じるのに

ほむステのやり取りにニヤニヤするわー、ほむらの茶目っ気が見れるのはいいね
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885 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/08/30(火) 15:23:02.32 ID:lyXJ21Kvo
>>881
神奈川県には受動喫煙防止条例と呼ばれるものがあるのですが、
同僚の愚痴でちらっと聞いただけの学のない>>1がそれを「受動喫煙法」と勘違いしていただけです。いや本当に。
ご指摘ありがとうございました
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886 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/30(火) 18:55:52.39 ID:7e1jLVnR0
しかし、
恭介「筑紫さんと付き合う事にしたんだ」
になりそう。恭介のさやかに対する感情は恋愛とかそういったのとは別の所にありそう。例えるならゲストヒロインに対するそげぶの方の上条の状態に親愛を追加した感じ。
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887 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/30(火) 19:22:09.72 ID:SqxsMKzGo
このほむほむはコミュ障を脱却してるな。
行き詰まり感を打破出来たからだろうけど、
ほむらにとって知る由も無い暗雲が巨大すぎるw
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888 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage ]:2011/08/30(火) 19:46:39.55 ID:jaLoC9DH0
仁美はいち早く恭介の心情見抜いてさやかに完敗を認めた感じだし、
薄まるどころか更に深まった状態で戻って来られても絶対お断りじゃねーのww
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889 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/08/30(火) 21:02:01.99 ID:bJzf+IUJ0
乙でした!!

…良かった…さやか生き残って本当良かった…
マミさんに続いてさやかまで死んでたらもう俺も死ぬしかないところだった…
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890 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/31(水) 22:06:38.58 ID:5KicLsoIO
>>875
禁書成分っていってもステイルメインだし良いんじゃない?

ステイル〜上条のセリフは上条さんかっこ良くて良かったわ。
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891 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/01(木) 13:52:26.07 ID:KahVM0gIo
三時辺りに投下すればいいか。じゃあ二時間くらい仮眠しよう→お昼

やっちまった……これから投下します
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892 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/01(木) 13:53:04.43 ID:KahVM0gIo

にちよーび!

 イギリス清教に所属の魔術師、ステイル=マグヌスの朝は早い……わけでもない。

??「もう朝ですよ、起きてください」

ステイル「……あと五分」

??「子供ですか! って、そういえば子供でしたね……コホン」

??「もう朝なんだよ! 早く起きないと怒っちゃうかも!」

ステイル「……まったく似てないよ、神裂」

神裂「うぐっ……」

 まだ重たい目蓋を無理やり開いて、ステイルは温もりのある布団から這い出した。
 いつもの恥ずかしい格好にエプロンを装備した神裂はにっこりと微笑むと、そそくさと台所の方へ戻っていった。。
 何故彼女が部屋にいるのか、という疑問が浮かび上がる。しかし眠さに勝てず、彼はぽつりと言葉を漏らした。

ステイル「……眠い」

神裂「ゆうべはおたのしみでしたね」

ステイル「いやあ無性に腹が減った! 台所の辺りにいる痴女を丸焼きにでもしようかなあぁぁ!」

 などと適当に返事をしつつ、散らかった部屋をテキパキと片付け始める。
 あの後さやか達(杏子は天草式に任せた)を家まで送らねばならず、ボロボロの体に鞭打って街中を駆け回ったのだ。
 全ての厄介事を片付けて部屋に戻った彼は三日前から敷かれたままの布団にばたんきゅー。
 おかげで布団は煤だらけ、部屋は杏子たちが騒いだ後で汚いのなんの……

ステイル「こういうときはアレかな、ああそうだアレに違いない」

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893 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/01(木) 13:54:01.98 ID:KahVM0gIo

ステイル「不幸だ……」

神裂「“彼”の真似事ですか? 確かに良い具合に不幸そうな雰囲気が似ていますが……」

 「和風」な感じで統一された朝食の乗ったお盆をこたつの上に置くと、神裂は窓を開けた。
 そして右隣の部屋に向かって、

神裂「朝食の用意が出来ました! 玄関から上がってください!」

 などと声を大にして叫んだ。近所迷惑な女だ。
 それにしてもまだ誰か来るのだろうか?
 確かにお盆の上には三人分の食事があるのでさして不思議ではないのだが。
 というかなんで自分は当たり前のように朝食を用意されているのだろうか……?

ステイル「まだ誰かいるのかい?」

 そう尋ねると、神裂は黙って肩をすくめた。
 直後に、バン! と玄関の扉が開かれる。果たしてそこには――

杏子「やっほー!」

 なぜか割り箸を持参した杏子の姿があった。

ステイル「……はぁ」

 ステイルが投げやりに神裂の頭を叩いた。
 二十倍の力でぶん殴られた。

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894 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/01(木) 13:54:51.15 ID:KahVM0gIo

杏子「うめー! アンタ料理の才能あるよ!」 ガツガツ

神裂「それほどでもありません」 エッヘン

ステイル「……」 モグモグ

神裂「おや、箸が進んでませんよステイル。もしかして便秘ですか?」

杏子「卵焼きもーらいっ」 ヒョイパク

ステイル「……事情を説明してもらおうか」

神裂「何の話です?」

杏子「浅漬けもーらいっ」 ヒョイカリ

ステイル「……君がこの部屋にいる理由と、杏子が隣の部屋にいた理由だ」

神裂「前者は私がこの部屋に住むことになったから。後者は佐倉杏子が隣の部屋に住むことになったからです」

ステイル「だからその理由を僕は聞いているんだよ神裂くゥん!?」

杏子「焼き鮭もーらいっ」 ヒョイモガ

神裂「実はここ、天草式が所有していた物件でして。訪れる機会が少ないため放置していましたが経費削減のため利用を」

ステイル「だぁかぁらッ! 質問に答えてないだろうが!」

神裂「ですから、どうせなら佐倉杏子に部屋を預けた方がよろしいかと思いまして。彼女は特定の寝床を持っていませんし」

杏子「味噌汁もーらいっ」 ヒョイズズ

ステイル「ああそうかい……それじゃあ君が僕の部屋に住む理由は?」

神裂「あなたは気付いていないかもしれませんが、ここは管理人室です。そして今の私は管理人です」

ステイル「他の部屋に行け!」

杏子「ごっそーさん! トイレ借りるよー」

神裂「他の部屋には五和や建宮がいますのでどうか我慢を。幸い私は強いので、あなたに襲われても撃退できますから」

ステイル「だれが襲うか! まったく……あれ、僕の分のおかずは?」

神裂「何を言っているのですステイル、さっき自分で食べていたではありませんか」

ステイル「……あれ?」

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895 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/01(木) 13:56:25.31 ID:KahVM0gIo

――ふっふふん、ふっふふん、ふっふっふーん♪

 トイレの方から陽気な鼻歌が聞こえてきたのを確認したステイルは、神裂の傍まで顔を寄せた。
 トントン、とこたつを指で叩く。
 それだけで意図を察した神裂が、彼にしか聞こえないように小さな声で話した。

神裂「ワルプルギスの夜対策はなんとか五割ほど。街中の脈がある場所やビルに仕掛けを張る段取りまでは出来ました」

ステイル「魔女の正確なデータが欲しいな……その、おりこ? とかいう魔法少女は今何を?」

神裂「シェリー達と合流を。相当強力な魔女のようですし、奪われた『ファウスト』の魔導書も気になりますね……」

 魔導師ゲーテが作り上げた、厄介極まりない魔導書『ファウスト』。
 魔女に持ち去られて以降、彼らはその足取りは一向に掴めないままでいた。
 悔しげに目を細め、神裂が湯飲みを持つその手に力を込める。

神裂「いずれにしても、彼女達にはあまり心配を掛けないように」

ステイル「分かっているさ。だがいつまでも隠し通せる事案じゃない……っと」

 杏子が入ったトイレから水が流れる音がした。
 そそくさと神裂の傍から離れ、置いてあったシガーレットチョコを咥える。
 二人が交わしていた穏やかじゃない会話など知る由もない杏子は、すっきりとした顔のままどかっと床の上に座り込んだ。

杏子「ねぇねぇ、ちょっとすぐ隣にある風見野まで行ってきて良い?」

神裂「ええ、私達は束縛などしないので構いませんが……何か用事でもあるのですか?」

杏子「んー……用事っていうか、さ」

 神裂が尋ねると、杏子は照れ臭そうに鼻の下辺りを指で擦った。

杏子「友達が出来たよって、報告しときたいんだよね。親父とお袋とモモ……アタシの妹にさ」

神裂「……そうですね。でしたら美樹さやかや鹿目まどかも呼んでおきましょうか?」

杏子「うーん、でもそういうのって嫌がられないかな?」

ステイル「その程度で嫌がる連中なら、君もあそこまで入れ込んだりはしないと思うけどね。どうだい?」

 ステイルの問いかけに、杏子は満面の笑みを浮かべて頷いた。
 年齢相応の、優しい笑顔だった。

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896 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/01(木) 13:57:30.93 ID:KahVM0gIo

――隣町、もとい風見野

ステイル「はぁっ……はぁっ……!」

さやか「ほらほらー置いてくぞステイルー!」

 さやかに急かされて、両手に大きな紙袋を持ったステイルが早歩きになる。なって、すぐに減速してしまう。
 今日の気温はかなり高く、快晴ということもあって全身から汗を流している彼にまどかは同情の眼差しを向けた。

まどか「もう少し荷物持ってあげたらどうかな?」

ほむら「心配要らないわまどか。彼は私達の護衛でついて来ていたのだから」

まどか「いやでも、たくさんのお供え用の果物にみんなのお昼ご飯と水筒とお菓子は重たいと思うよ?」

さやか「へーきへーき! 恭介だって怪我してなかった頃はあれくらいちょちょいだったから!」

杏子「そーいやあのボウヤはついて来なかったんだな」

さやか「あー、なんか今のお医者さんに怒られちゃったんだって。休日中は外出厳禁だって」

ほむら「むしろ私としては、行方不明だったあなたにこうして遠出する許可が下りたのが不思議でならないのだけど……」

さやか「そこはほれ、さやかちゃんですから!」

まどか「答えになってないよさやかちゃん……」

杏子「やっぱコイツってバカだよな」

 そんな彼女らのやり取りを見ながら、ステイルは歯を食いしばって足を前に出す。

ステイル(やはりあの“術式”は解いてしまうか……? いやダメだ、あの“夜”にぶつけるまでとっておかなければ……)

ステイル「しかし……苦しい……ッ!」

 などと呻き声を漏らしていると、突然右手に掛かる負担がいくらか楽になった。
 治癒魔術や身体強化魔術を掛けたわけではないし、と荷物を落とした可能性を考えたステイルは首をめぐらして気付いた。
 ほむらの手元にあるバッグが、あからさまにぐいっと盛り上がっている。余計なことを……
 そう思ったが、今回ばかりは素直に甘えておこう。

 それからしばらく歩き続け、ようやく教会が見えてきた。

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897 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/01(木) 14:00:32.73 ID:KahVM0gIo

――教会の中は、話に聞いていたよりも荒れていた。
 いくつかの木材や、割れたガラスの破片があちこちに散らばり、どれも埃を被っている。

さやか「なんだか懐かしいなぁ……ここに来たのがつい最近だなんて思えないや」

まどか「ここに杏子ちゃんが住んでたんだね……」

ほむら「そうらしいわね」

 口々に感想を言う少女らから目を離して、ステイルは教会内をぐるりと見渡した。
 それから何かを確かめるように柱や床をぐいっと押したり叩いたりしてみた。
 建てられてからまだそう時間は経ってないな、などと考えながら神妙な顔のままでいる杏子に声を掛ける。

ステイル「果物はどの辺りに供えれば良い、というか供えても平気なのか?」

杏子「……親父はそーいうの気にしないよ。だから破門されたんだけどね。
.     果物とかお菓子とかはアタシが直接持ってくよ。みんなが……最期にいたところにさ」

ステイル「……分かった。やはり僕らはここで待つとしよう。三人にもそう伝えておく」

杏子「ん……ごめんね、連れてきてもらっときながらさ」

ステイル「気にすることはないよ」

杏子「サンキュ。じゃあ行ってくんね」

 果物――事前にほむらに礼を言って返してもらった――と花束を受け取ると、杏子は教会の奥へと姿を消した。
 ここが礼拝堂で、向こうが生活用の施設になっているのだろう。
 杏子の後を追おうとしたさやかを見て、ステイルは声を掛けた。

ステイル「一人にしてあげた方が良いんじゃないかな」

さやか「あ……うん、そうだよね」

 流石に無神経だったことに気がついたのだろう。
 さやかが俯きながら、段差になっている床に腰を下ろした。

さやか「……どんなこと話してる、ってのはおかしいよね。でももしかしたら、まだいるのかな……」

ステイル「さて、どうかな。死者との対話は僕らでも無理だからね」

ほむら「夢が無いわね」

ステイル「現実はそんな物だよ。死ねば会話なんて出来なくなる……もっとも」

ステイル「相手が心の中にいる場合、話は別だけどね」

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898 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/01(木) 14:03:20.83 ID:KahVM0gIo

――一年振りに立ち入った部屋は、かなり埃被っていた。
 もちろんこの場所に遺灰はない。家族が身に着けていた物なども全て回収されている。
 かつての惨状を思い出させるものは何一つ無い。
 無理心中があったなどと言われても、想像することは難しいだろう。
 それでも彼女は、あの時の光景を鮮明に記憶している。最期に家族がいた場所まで歩み寄ると、しゃがみ込んだ。

杏子「久しぶり、親父。お袋。それに……モモ」

 返事は無い。
 彼女は紙袋からいくつかの果物とお菓子や花束を取り出して床に置いた。

杏子「とりあえずこれでカンベンな。今日のメインは報告だしさ」

 そして彼女は、これまでにあった出来事を吐露した。
 昔コンビを組んでいた巴マミが亡くなったこと。彼女の弟子のような存在であるさやかとぶつかり合い、和解したこと。
 さやかが魔女になってしまった時、バカみたいに親切な友人や神父が命懸けで助けてくれたこと、などなど。
 大雑把に近況を報告した彼女は、膝に手を置き立ち上がる。

杏子「そんなとこかな」

 返事は無い。

杏子「アンタは今でもアタシのこと恨んでんのかな」

杏子「でもね、アタシだって昔はけっこー恨んでたんだよ。みんなを巻き添えにしなくてもいいじゃんか――ってね」

杏子「つっても、アタシが悪いのは変わらないけどさ。やっぱ事前に相談すべきだったかなー。隠し事とかダメだよねぇ」

杏子「もちろん今は違うよ。前よりもっと素直になれたと思う。仲間もいるし、帰る家もあるし」

 返事は無い。

杏子「……当たり前だよね」

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899 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/01(木) 14:04:07.17 ID:KahVM0gIo

杏子「……アタシは元気にやってるからさ。嫌かもしんないけど、向こうで見守っててよ」

 返事は――無い。
 無言のまま踵を返して後ろを振り向き、その場を立ち去ろうとする杏子。

杏子「……!」

 だが彼女は弾かれたようにもういちど振り向き、染みのついた壁、正確にはその手前の虚空に視線をやった。
 それから口の端をにぃっと吊り上げ、無邪気に笑ってみせる。

杏子「……ありがと! じゃあまた来るから! 今度はもっとでっかい花束持って、友達も会わせてあげるからさ!」

 返事は無い。
 それでも彼女は笑顔で頷くと、元来た道へ引き返していった。
 彼女が何を見て、何を聞いたのか。

 それは彼女にしか分からなかったが――少なくとも、彼女は幸せそうだった。

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900 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/01(木) 14:05:15.16 ID:KahVM0gIo

――礼拝堂

杏子「おっまたせー」

 先ほどまでと違い、明るい顔をして杏子は戻ってきた。
 死者との対話――あるいは自己との対話――は上手く行ったみたいだった。

さやか「ああ、うん……おかえり」

ほむら「まだ二十分くらいしか経ってないけど良いのかしら?」

杏子「おっけーおっけー。んじゃあどっかで飯にしよーぜ!」

まどか「あ、そのことなんだけどね。ステイル君が……えーと、えーとね?」

 どう説明すべきか悩んでいるのだろう、頭を抱えるまどかの肩に手を置いて、ステイルが前に出た。

ステイル「どうせならこの教会で食事しないかい?」

杏子「ここでぇ? 別にいいけどホコリっぽいよ?」

ステイル「だから、食事の前に片付けようと思ってね」

 杏子が目を真ん丸くして首を傾げた。

ステイル「僕の見立てでは、ここの柱や土台はまだ死んじゃいない。確かに割れたガラスや折れた柱もあるにはあるがね」

ステイル「そうだな……イギリス清教の力を借りれば二ヶ月以内には元通りになるだろうね」

杏子「いやでも、そんなことしたって……」

ステイル「ああ、十字教徒が異教徒の教会にこんなことをしていいのか、とかなら心配は要らないよ」

ステイル「頂点の最大主教や末端の信徒はともかく、イギリス清教は基本的に自由主義だからね。堅苦しくないのさ」

杏子「いやだからさ、誰がここを使うわけ? 所有権なんざとっくの昔にないけど、あんまり好き勝手して欲しくは」

ステイル「君だよ」

杏子「……は?」

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901 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/01(木) 14:06:31.07 ID:KahVM0gIo

ほむら「そこの神父は、この教会を直してあなたにプレゼントしたいそうよ」

ステイル「プレゼントって……まぁいい、大体そんなところだ」

杏子「……アタシ、親父の教えは大体覚えてるけどそーいうの無理だよ。向いてないし」

さやか「そんなことないよ」

 顔を逸らす杏子の前に、立ちふさがるように回り込んでさやかが言った。
 堂々と胸を張って、なぜか勝ち誇った笑みを浮かべて彼女は言う。

さやか「あんた、シスターさんに向いてるって。アタシが保障する」

杏子「あのなぁ、どーいう理屈でそう思ったんだよ。アンタにはアタシが静かにマジメに教えを説く柄に見えるの?」

さやか「あんた優しいじゃん。それに根は真面目だし。別に静かじゃなくても良いじゃん」

ステイル「ちなみに僕の知り合いの修道女は七つの罪や戒律を平気で破っているよ」

杏子「……って言われてもなぁ。アタシは魔法少女やってるし、やっぱ無理だろ」

まどか「でも見てみたいなぁ、杏子ちゃんのシスター姿」

さやか「おっ、さすがはあたしの嫁! 目の付け所が違いますなぁ」

まどか「さやかちゃんは上条君の嫁でしょ?」

さやか「ふぇっ!? いやあたしと恭介は別にそういう深い関係とかではないのであってあれはあくまでその……」

ほむら「当分これでからかえるわね」

さやか「ほむらさぁん!?」

まどか「声大きいよ上条君のお嫁さん」

さやか「まどかさァン!?」

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902 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/01(木) 14:07:25.76 ID:KahVM0gIo

 騒ぎ始める三人を無視して、ステイルは杏子と向き合った。

ステイル「無理にとは言わないよ。教会の権利はまだ街が持っているから、嫌ならこのままでもいいわけだしね」

杏子「……親父は、喜ぶかな?」

ステイル「君は既にその問いの答えを知っていると思うが」

杏子「……だよな」

 そう言うと、彼女は向日葵のような笑顔を浮かべた。
 それはステイルの知り合いである“少女”の笑顔に通ずる物を持っていた、巴マミの笑顔に良く似ていた。
 なるほど……案外さやかの言うように、彼女は修道女に向いているかもしれない。
 笑顔のまま手に持った梨を齧りつつ、杏子は続ける。

杏子「ふぇぎょふぁほーひょーびょ……ングッ。の方が優先だし、べんきょーしなくちゃいけないんだろ?」

ステイル「……時間は掛かるかもしれないが、魔法少女と魔女のしがらみは僕達が解決してみせるさ」

杏子「おっ、頼もしいこと言ってくれんじゃん」

ステイル「これでも伊達に魔術師やってないからね。大船に乗ったつもりでいたまえ」

杏子「実際アンタに乗ったらすぐに潰れちまいそーだけどね」

ステイル「……それはそれ、これはこれだろう」

杏子「そりゃそーか、あっはっは!」

 腹を抱えてげらげら笑う杏子。
 そんな彼女をとろんとした目で見やりながら、彼はさらにもう一言加えることにした。

ステイル「勉強の方も心配する必要は無いさ」

杏子「へ?」

ステイル「子供は学校に通うべき、ということさ」

 小学校を中退したステイルが、どこか自慢げに胸を張って言った。

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903 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/01(木) 14:07:57.19 ID:KahVM0gIo

――結論から言ってしまうと、当たり前のことだが一日で教会を丸ごとすっきり綺麗にすることはできなかった。
 辛うじて礼拝堂にあるゴミを片付け、埃を落とし床を磨いたところで掃除は断念。既に時刻は三時を回っていた。
 結局昼に食べる予定だった弁当をおやつ時に食べ、それから見滝原へ帰ることに。
 というわけで場所は変わって、風車の群れと大きな川を一望できる見滝原市の丘。
 草のなかにどーんと大の字で寝そべりながら、さやかは大きな声で叫んだ。

さやか「ふわぁー、やっぱ遠出は疲れるー!」

杏子「魔女になるよかマシだろー」

さやか「うぐっ、それは否定できないかも……」

まどか「否定できたら怖いよ!?」

ほむら「夏休みの宿題よりはマシ、とか言い出しかねないわね」

 わいわい騒いでいる彼女らを見張りながら、ステイルは遠くにある風車を見上げた。
 これだけの規模なら良い具合に『炎を飛ばせ』そうだが、さすがにここは中心部過ぎる。
 内心で苛立ちを募らせていたステイルはそこで、道路の向こうに杖をついて歩く人影を見つけた。

ステイル「おや、あれは恭介じゃないかい?」

さやか「またまたー、恭介なら今日は外出厳禁だって言ったでしょー?」

まどか「ホントだ、仁美ちゃんもいるね」

さやか「なっはっは! またまたまどかったらもー!」

ほむら「仲良さそうに手を繋いでいるわね」

さやか「ほむらまで……ったくあんたらねぇ」

杏子「ちゅーしたぞ」

さやか「恭介ぇ!?」

 ぎょっとしたさやかががばっと立ち上がって首を右に左に振り回す。犬か君は。

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904 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/01(木) 14:08:32.04 ID:KahVM0gIo

ステイル「確かに仁美と一緒だが、彼女はあくまで荷物を持ってあげているだけのようだね」

まどか「仁美ちゃーん! 上条くーん!」

 まどかが手を振って呼びかけると、まず仁美がにっこりと笑みを浮かべて手を振った。
 次に恭介が手を振ろうとして、右手に杖を握っていたことを忘れていたのだろう、バランスを崩して転んだ。

さやか「きょっ、きょーすけ!?」

 隣にいた仁美が反応するよりも先にさやかが走り出し、恭介の下に駆け寄った。
 恭介は苦笑を浮かべながらさやかに肩を借りて立ち上がると、ばつの悪そうな顔をする。

恭介「見つかっちゃったみたいだね……」

まどか「今日は外出厳禁じゃなかったの? 怪我は大丈夫?」

さやか「そーそー! それがどうして仁美と……はっ、まさかあんたたち……!?」

仁美「実は私、お付き合いしてましたの」

 皆の間に緊張が走った。
 杏子に至ってはすぐにさやかを気絶させることが出来るよう背後に回りこんでいる。

仁美「リハビリに、ですけど」

さやか「……へ?」

 後ろでベタな転び方をした杏子を無視して、さやかは驚いたような目で仁美と恭介を見比べた。

恭介「ほら、足を酷使させすぎちゃったからさ。しばらくあの機材は使用禁止。杖も普通の杖に戻っちゃったからね」

ステイル「天草式の治療を受けて左手を除けば君の体は大体回復したはずだが? そりゃ本調子には遠いだろうが……」

恭介「医者が『こんな奇跡みたいな現象は認められない』ってさ。機材取り合げられたら走ることも出来ないし、それでね」

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905 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/01(木) 14:10:26.78 ID:KahVM0gIo

さやか「なんで仁美なの?」

恭介「うっ……」

仁美「あの、さやかさん? 別にこれは深い事情があるわけでは……」

さやか「恭介に聞いてるの。ねぇ、なんであたしじゃなくて仁美に頼んだの?」

ステイル(修羅場だね) ゴクリ
ほむら(修羅場ね) ゴクリ
まどか(ふふっ、分かってないなー二人とも。よーく見てなよ)
ステほむ(?)

さやか「どうして仁美なの?」

恭介「えっと、だからこれはその……」

 すぅっと息を肺に溜める素振りを見せるさやか。
 これから繰り出されるであろう醜い嫉妬に塗れた罵詈雑言を想像して、思わずステイルとほむらは目を瞑り――

さやか「仁美は容姿端麗才色兼備のお淑やかお嬢様なのよ!? そんな仁美に荷物持ちはダメでしょ! ダメダメ!」

さやか「あたしの嫁候補でもある仁美にもしものことがあったら……例え仁美が許したってあたしが許さないからね!」

恭介「ごっ、ごめんよさやか!」

仁美「……はい?」

――何故か仁美をフォローして恭介を非難しているさやかの言動に、揃って首を捻った。
 なぜか胸を張ってニヤニヤしているまどかに視線を向けて言葉を促すと、彼女はこれまたニヤニヤしながら口を開いた。

まどか(さやかちゃんは根は真面目で良い子だから。上条君と同じくらい仁美ちゃんのことも大切なんだよ)
ほむら(……なるほど)
ステイル(つまりは善人ってことだね)
杏子(よくわかんねーけど良いヤツじゃん)

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906 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/01(木) 14:11:31.78 ID:KahVM0gIo

さやか「そーいう泥臭いことはあたしに任せてればいいのに……」

恭介「さやかならそう言うと思ったんだけどさ……その……」

仁美「よく分かりませんが、とりあえず器の違いというものが嫌でもはっきりさせられましたわね……」

さやか「で、どーして仁美に頼んだの?」

恭介「あーっと……ほら、さやかたちは不思議な力があるからさ。いろいろと……」

 不思議な力、の件で仁美が不可解そうに目を細めた。
 そういえば彼女は事情を知らないのだったか。

さやか「別にそんなの気にしないってのに……ごめんね仁美、くだらない理由で恭介の我侭につき合わせちゃって」

仁美「いえ……と言いますか、上条君が私を頼られたのはそんな曖昧かつ荒唐無稽な理由ではないのですけど」

恭介「あっ、ごめんそれだけは!」 アタフタ

仁美「(無視)さやかさんにリハビリを申し出るのが恥ずかしいとか、心配掛けたくないとかおっしゃっていまして」

さやか「へ? 恥ずかしい……って?」

恭介「……昨日の今日で色々あったのに、ろくに歩けないんじゃみっともないと思ってさ?」

さやか「あ、あたしはそんなの気にしないよ! むしろもっと迷惑掛けて欲しいというか、一緒にその……」

恭介「……本当に?」

さやか「もっ、もちろん!」

恭介「そっか……ありがとう、さやか」

ステイル(なんだ、円満解決か)
ほむら(つまらないわね)
まどか(良い神経してるね二人とも……)

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907 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/01(木) 14:12:19.84 ID:KahVM0gIo

仁美「と・こ・ろ・で……さやかさん?」

さやか「へ?」

仁美「なにか私に言うことがあるのではないですか?」

さやか「えーっと……げ、元気かなー……?」

ステイル(……今度こそ修羅場かい?)
ほむら(その裏をかいて……さらに裏をかいて修羅場ね)
まどか(てぃひひっ、甘いなぁ二人とも。よく見てるといいよ、)
ステほむ(ああ、これ善人パターンか)

仁美「私、さやかさんと会うのはこれで四日ぶりなんです」

さやか「……あっ」

仁美「そりゃあ確かにさやかさんとは色々とありました、あれは謝ります。でも三日間放置されていました、私」

さやか「……ごめん! こっちも手が離せない用事があってさ!」

仁美「……別に謝罪など要求していませんわ。ただ、今度からは悩み事がありましたら相談なさってくださいね?」

さやか「うん、気をつけるよ……ホント、ごめん」

仁美「いいですわ……それにしてもさやかさんは、やっと自分のお気持ちと向き合えたようですね」

さやか「あっ、それはまだというか伏せておいて!」 アタフタ

仁美「(無視)あら、私はてっきり付き合っているのかとばかり……もしかしてまだ告白していないんですの?」

さやか「あう……」 カァッ

恭介「え? さやかって好きな人いたのかい?」

さやか「……え?」

仁美「あらあら……これは大変そうですわね、さやかさん」

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908 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/01(木) 14:13:16.57 ID:KahVM0gIo

――辺りの草を適当に引っこ抜き、頭に被って地面に伏せていたステイルたちは眉をひそめて唸った。

ステイル「彼女は善人というか、その……いささか腹が黒くないかい?」

ほむら「真っ黒ね……」

まどか「仁美ちゃんは葉も茎も根も真面目で良い子なんだけど……ね?」

杏子「わけわかんねー」

ステイル「というかあれだ、恭介は素なのか? 素でやっているのか?」

まどか「素だと思うよ」

ほむら「見ててイライラしてくるわね……額に肉とでも書いてやりましょうか」

ステイル「やはり『上条』の姓を持つ者は“あの男”の影響を受けるのか……偶像の理論、侮り難し……」

杏子「おーい、戻ってこーい」

ほむら「というかいつまでこの姿勢でいればいいのかしら」

ステイル「……さぁ」

まどか「うー、太ももの辺りが草でちくちくするよ……」

ほむら「わ、私が掻いてあげ……いやでもこれはさすがに……」

杏子「なぁ、アンタってそんなキャラだったっけ?」

 杏子の言葉に答えるものはいない。

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909 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/01(木) 14:14:35.50 ID:KahVM0gIo

 そんなこんなでドタバタした一日も、物理法則には逆らえず。
 皆と別れた後、付近で“作業”をしていたステイルは七時を過ぎた辺りになってようやくアパートに帰宅した。
 軽く首を振って凝りを解しながら玄関の扉を開ける。
 そこにはなぜか神裂がいた。もちろんいつもの格好+エプロンで。

ステイル「……なにか?」

神裂「いえ、なにも」

ステイル「何やってんだか……というか、そこを退いてくれないと入れないんだけどね」

神裂「その前に言うことがあるでしょう」

 言うてみ言うてみ、と言わんばかりに神裂が手をくいくいっと動かした。関西地方に住んでいるバァさんか。

ステイル「……ただいま」

神裂「はい、お帰りなさい。既に夕食の用意は出来ていますよ」

ステイル「先に仕事の方を進めたいんだけどね」

神裂「腹が減っては戦は出来ません。佐倉杏子も呼んで食事にしましょう……と、言いたいのですが」

 そう前置きをした彼女は、先ほどとは違う洗練された手つきで手招きした。
 事情を察したステイルが近づき、神裂の口元に耳を寄せる。

神裂「最大主教がなにやら不穏な動きをしているとの連絡がありました。既に相当な規模の人員が割かれているようです」

 とうとう尻尾を見せたか、あの女狐め。

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910 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/01(木) 14:16:10.73 ID:KahVM0gIo

ステイル「具体的には?」

神裂「清教派の戦力を手元に集中させるつもりのようです。あと魔法少女関連の研究全てに最大主教命令でストップが」

ステイル「魔女を元に戻す確証は得られたのにストップ……? まだなにか欲しい情報でもあるというのかい?」

神裂「分かりません。既に騎士派が動き、彼女の陰謀を暴こうとしているようですが……」

 恐らく無駄だろう。口には出さないものの、神裂もそう思っているはずだ。
 現在のイギリス清教に、かつてのような三派閥は存在しない。するにしても、形骸化されてしまっているのだ。
 それどころか、清教派自体が彼女無しでは成り立たないとまで言われている。
 実質、彼女一人が魔術サイドの全てを握っているに等しい。

ステイル「……最大主教が相手では、こちらもやりにくくなるね」

神裂「彼女の意図が掴めないのが怖いですね。既にイギリス清教は三大宗派の頂点に立っているというのに」

ステイル「あの女狐の考えを探ろうなんて考えるだけ無駄だよ、それよりも対策を練ったほうが良い」

神裂「……そうですね。水面下ではまだソウルジェムや契約を解除するの研究は続けられていますし……」

 神裂の言葉に、ステイルは敏感に反応した。
 水面下での行動を、あの最大主教がみすみす見逃すことなどありえるのだろうか。
 むしろこれはわざと圧力を掛ける事で、あえて反抗的な行動を取らせているのではないだろうか。
 とすれば狙いは反乱分子の排除か。しかしただでさえ人手不足のこのご時勢にそれは妙だ。
 そこでステイルはかぶりを振った。
 自分でも言ったように、彼女の考えを探るのは不可能に近い。それよりもまずは――
 バン! と玄関の扉が開け放たれたせいで、思考はそこで途切れてしまった

杏子「腹減ったー、晩ゴハンまだー?」

神裂「この話はまた後で……はい、出来てますよー!」

ステイル「……やれやれ」

 ステイルはビーフジャーキーを齧りながら、右半身を影に覆われた月を窓越しに見上げた。



 ワルプルギスの夜襲来まで、あと六日。
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911 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/01(木) 14:18:49.67 ID:KahVM0gIo
以上、ここまで。
杏子関連は勝手に自己解釈して先に進めました。
次に投下するのは久しぶりの学校編かな……あと上条君関連で学園都市出張編も挟み込むかもしれません
次回の投下は未定です。仕上がり次第投下します
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912 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/09/01(木) 14:48:58.58 ID:HnDsmg7F0
おつおつ
やっと追いついたぜい
相変わらずの超ハイクォリテイですな

それにしても「ステほむ」っていいな
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913 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北陸地方) [sage]:2011/09/01(木) 15:33:43.03 ID:QhYzGU2AO


やっぱり平穏っていいなあ
そしてほむらとステイルはいいコンビだ
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914 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/09/01(木) 17:20:03.39 ID:x2uRh4tB0

草被って迷彩とか何やってんすかステほむさんww

あと、なんていうか、大人ぶろうとするステイル君を子供扱いして可愛がるかおりお姉ちゃん、という妄想が湧いてきた
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915 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/09/01(木) 20:01:47.90 ID:vWBD8UiAO
ステイル→赤髪
神裂→ポニテ
杏子→赤髪ポニテ

端から見れば親子だな
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916 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/01(木) 20:58:13.92 ID:iMwFILqno


>>915その発想はなかった

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917 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/01(木) 21:11:20.09 ID:vfOMwFa+0
>>901のさやかが一方通行化してる・・・
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918 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/01(木) 22:20:51.65 ID:65fqkq6Wo
>>915
貴様それに気づいてしまったか
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919 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/01(木) 22:34:29.89 ID:ewaI3chAO
母は銃刀法違反かつエロメイドの神裂さんじゅうはっさい
父はバーコード刺青かつヘビースモーカーのステイルさんじゅうよんさい
娘は窃盗上等の大飯食らいあんこちゃん

なんてDQN一家wwwwww
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920 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/09/02(金) 10:10:17.79 ID:P4MmKV+4o
予測というか願望なんだが、そういやマミさん灰は残ってたよね?
さやかも復活したしマミさんも復活しないかなぁ〜(ドンドラキュラみたいな感じでいいから)
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921 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/09/02(金) 13:22:19.93 ID:HlevzzlN0
>>920
そこまで上手くいくと若干引くわ
でも>>1の手腕ならできないこともなさそうだね
っつか俺的には、もうワルプル戦まっしぐらかなと思ってた
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922 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/09/03(土) 22:17:02.24 ID:9P1SgcyX0
>>920
そこまで酷いご都合主義は見たくない

ぶっちゃけワルプルはまどか以外の誰にも倒せない予感が(ほむらvsワルプルより)
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923 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/04(日) 04:09:10.99 ID:TlrnBPj2o
>>914
実際そんな風だったり。昔からの付き合いなので、いい姉貴分的な

>>915
!!

>>920-923
マミさんは……あとワルプル戦の結末はもう頭の中で決まってますね
一番最初に没になったのがねーちんが上条さんの体を放り投げてそげぶするパターンです。冗談抜きに。
本来ならあのまままっしぐらでも良かったのですが、まどかの心境や杏子、ほむほむ、マミさん関連を優先して延長しました。

では投下します。
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924 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/04(日) 04:09:38.30 ID:TlrnBPj2o

げつようび。

 イギリス清教所属の魔術師、ステイル=マグヌスの朝は早い……はずなのだが。

杏子「ねぇねぇ、ホントにこれ毎日着なきゃなんないの?」

神裂「もちろんです。それが規則ですからね」

杏子「うへぇ……魔法使って一瞬で服装戻したり出来たら良いんだけどなぁ」

神裂「そうやって憂鬱な気分に浸るのも子供の仕事です。私には出来なかったことですから」

 和気藹々とした雰囲気の下に発せられている少女(?)らの声を目覚まし代わりにして、ステイルは眠りから覚めた。
 目を閉じれば再び意識を手放してしまいそうな、ほどよい温もりから逃れるように布団から這い出る。

ステイル「……」

 そしてすぐ隣で立ったままの神裂を見て、次に同じく立ったままの杏子を見た。
 ここはステイルのアパートで、仕方なく神裂と部屋を共にしているのだから彼女がいてもおかしくはない。
 隣の部屋に住んでいる杏子が飯をたかりにこちらの部屋にやってきた、というのもまぁ想像はつく。
 しかし彼女の『格好』が、ステイルには理解できない。彼は寝ぼけていた。

ステイル「朝からコスプレかい?」

杏子「テメェが言ったことだろ、バーカ」

ステイル「……ああ、そういうことか」

 杏子の冷めた視線を浴びて、ようやく脳がまともに働き始める。
 それから何事も無かったかのように立ち上がり、顎に手を当てて上から下に杏子の姿をじろじろと眺めた。

神裂「目つきがやらしいですよステイル」

ステイル「黙れバカ。しかしなるほど」

杏子「な、なんだよ。そんなに変に見える?」

ステイル「いや、似合っていると思うよ。馬鹿にも衣装ってのはまさにこのこだぐふぉっ!?」 バキィッ!

杏子「それを言うなら孫にも衣装だこのバカ神父!」

神裂「……馬子にも衣装、ですよ」

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925 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/04(日) 04:10:20.89 ID:TlrnBPj2o

――見滝原中学

まどか「ステイル君、なんか今日すっごく疲れてるね」

ステイル「……朝から裏拳と肘鉄を食らえば誰だって疲れるさ」

 そう言って、ステイルは教室をざっと見渡した。
 さやかの姿が見えないことを尋ねると、まどかは苦笑いしながら肩をすくめて椅子に座った。

まどか「上条君のお手伝いしてるんだ。私と仁美ちゃんは邪魔しないように先に登校しちゃったの」

ステイル「朝っぱらから妬けるね……しかし一時期行方知らずだった二人がそれじゃ、皆からの質問攻めが酷そうだね」

まどか「どうだろ、オチは大体分かるんだけどね……」

 意味ありげに笑いながら、まどかは手を振った。
 彼女の視線を追うと、ガラスを隔てた廊下にさやかがいた。彼女は恭介の鞄を持ったままぱちっとウインクする。
 そして杖をつく恭介にぴったりと寄り添い、周囲から送られる奇異の視線をものともせずに教室へと踏み込んでくる。

クラスメイトC「お、おはよー美樹さん」

さやか「おっはよ! 色々あったけど無事さやかちゃんは復活しましたよー!」

クラスメイトA「上条と駆け落ちしたってメールはやっぱ嘘だったんだなー」

恭介「ぶふっ!? なんだよそれ、誰が回したのさ?」

クラスメイトD「で、実際駆け落ち? 愛の逃避行!?」

さやか「あ、愛の逃避行ってあんたらね……とにかく、そんなんじゃないってば」

クラスメイトB「だがここであえて俺は誘拐された美樹を上条が助けに行った説を提唱するぜ!」

さやか「あながち間違ってないのがなんとも……」

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926 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/04(日) 04:10:48.87 ID:TlrnBPj2o

ステイル(これ以上踏み込まれるのも厄介だな……助け舟を出すべきか)

 想像通り、二人はクラスメイトの皆からあれこれ質問されてあたふたするばかりだ。
 さやか達を信頼していないわけではないが、不用意に魔術や魔法少女のことを喋られれば仕事が増えてしまう。
 ただでさえワルプルギスの夜対策のために夜中あちこちを駆け回っている彼としては、それは非情によろしくない。

まどか「大変だね、さやかちゃん」

ステイル「……ずいぶんと余裕だね。あのほむらでさえ心配しているというのに」

 視界の隅でさやか達を『チラッ』『チラッ』と窺っているほむらを指差しながら言う。
 そんな少し間抜けなほむらの姿を驚いたのか、まどかが目を丸くした。

まどか「ほむらちゃん、かわいい……」

ステイル「そこかよッ!」

まどか「分かってるって。もうすぐ終わるから大丈夫だよ」

 その時だ、さやか達を囲んだクラスメイトに動きが見られた。

クラスメイトB「助けに行った白馬の王子様か、愛のために身分を捨てた王子様か……どっちだろうな!」

さやか「だからそんなんじゃないっつーの!」

クラスメイトA「で、中沢はどっちだと思う?」

中沢「えぇ!? ど、どっちでもいいんじゃないかな?」

 どっと笑い声が沸きあがり、それでこの話はおしまいと言わんばかりに皆自分の席に戻っていく。
 妙に統制の取れた、あるいは息の合った動きに思わず目を見張るステイル。

まどか「今日はちょっと遅かったね」

 今の現象についてまどかに質問しようとするが、それよりも早く担任である早乙女が教室に入って来た。
 ただ単に教師が訪れたから話を終わらせたのだろうか……?

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927 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/04(日) 04:11:26.83 ID:TlrnBPj2o

早乙女「オホンッ! 今日は皆さんに、大事なお話があります! 傾注して聞くように!」

さやか「いえっさー!」

ステイル(この場合はイエスマム、だよ) ボソボソ

早乙女「……チューペットを食べる時は、膝で割りますか? 手で割りますか? はい上条君ッ! 座ったまま答えて!」

恭介「あの、普通こういうのって中沢の仕事じゃ?」

中沢「なんだよそれ!」

早乙女「無断欠席した上条君がダメなら三日間学校をサボった美樹さんに答えてもらいます!」

さやか「えぇっ!? 恭介、お願いだからぱぱーっとやっちゃって!」

恭介「はぁ……えーっと、どっちでもいいんじゃないですかね?」

早乙女「その通り! どっちでもいいわけ……ありません! そもそもチューペットは正確にはジュースの類なんです!」

早乙女「つまり答えは端っこを切ってちゅーちゅーする! 先生昨日の夜ふと気になって昨日パソコンで調べました!」

 皆がげんなりした様子で肩を落とした。

恭介「第三の選択肢を選んだら第四の選択肢で返された……斜め上にも程があるよ……」

早乙女「あとついでに、今日は皆さんに転校生を紹介しまーす」

 ついでというレベルを遥かに超越したとんでも発言に、クラスがにわかにざわめきだつ。
 とはいえ、無理もない。ただでさえこのクラスには、二週間と少し前に転校生が二人も来ているのだ。

さやか「いくらなんでも転校生来すぎじゃない? いくら机に余りがあるからってこうもあれだと……」

まどか「でもどんな子が来るんだろうね」

ステイル「……君達の知っている子さ」

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928 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/04(日) 04:12:22.94 ID:TlrnBPj2o

早乙女「えー、それではどうぞ!」

 教師に誘われるようにして、その『転校生』が教室に入ってきた。

さやか「……なっ」

 身長は160cm前後でさやかと同じくらいか、やはり中学二年生にしては高い方と言えるだろう。
 静かに燃える炎のように赤い、腰まで届く長い髪は大きなリボンでポニーテールに結わえられている。
 目は髪色と同じ赤色で大きく吊り上がっていて、時折唇から姿を覗かせる八重歯と相まって活発そうな印象を受けた。

早乙女「はい、じゃあ自己紹介お願いしまーす」

 その言葉に頷くと、転校生――佐倉杏子は照れくさそうにはにかんで、口を開いた。

杏子「アタシは佐倉杏子! えーと、見滝原に来てからまだ日が浅いからさ。色々とよろしく!!」

クラスメイトB「おおー!」

中沢「明るくて良い子そうだね」

クラスメイトC「かわいー! でもあたしよりも背高い……」

クラスメイトD「嫉妬は醜いぞぉ、あはは」

 などという感想を漏らしながら、一部を除いたクラスの皆が大きく拍手して杏子を歓迎した

ほむら「……私達の時とは大違いね」

ステイル(……僕らの時はインパクトが大きすぎたから仕方ないさ)

 前回はいかにもな感じの美人クール無口キャラと身長2mの神父。
 今回は明るく元気な可愛い(?)系のポニーテール娘である。
 そりゃあ誰だって半分ファンタジーに足突っ込んだ前回よりかは、今回みたいな健康的な方が喜ぶに決まってるのだ。

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929 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/04(日) 04:13:26.54 ID:TlrnBPj2o

さやか「で、なんであの子がいるわけ?」

ステイル「イギリス清教からのお達しだよ。彼女をシスターとしてスカウトするか、それとも学校に編入させるかってね」

まどか「そんな簡単に編入手続きって出来るの?」

ステイル「僕の時は交換留学生扱いだったから上手く行ったけど、今回はどうかな……」

ほむら「それより、あの新しい物好きの連中はどうするの?」

 ステイルの椅子に堂々と腰を下ろして(無許可)ぶすっとした表情をしたまま、ほむらがちらっと杏子を覗き見た。
 その杏子はというと、座席に群がるクラスメイトの集団の対応に追われてこれまたあたふたしている。

クラスメイトA「ねぇねぇ、ここに来る前はどこに居た?」

杏子「隣の風見野だよ」

クラスメイトD「わぁー綺麗な髪! どんなシャンプー使ってるの?」

杏子「うぇ!? て、テキトーだからよく分かんないや」

クラスメイトB「どんな家に住んでるの? お母さん優しい?」

杏子「えっと……あー、アパートだよ。お袋は……」

 杏子が言葉を詰まらせて視線を宙に漂わせた。地雷を踏んだとはこのことか。
 彼女の変化に気付いたのだろう、察しの良いほむらと目を合わせると、ステイルは席を立ち上がった。
 そして杏子に声をかけようとして――踏みとどまる。

中沢「ねぇ、佐倉さんはチューペット、膝で割る派? 手で割る派?」

杏子「チューペット? アタシはどっちでもいけるけど、アレって直に飲むのが正しいらしいね」

クラスメイトC「おー! 佐倉さん物知りー!」

 はにかむ杏子と、笑顔のクラスメイト達。そしてほっと胸を撫で下ろしている中沢の姿。
 それらの姿から導き出される事実は――

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930 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/04(日) 04:14:00.62 ID:TlrnBPj2o

まどか「このクラスの人って、みんな優しいんだよ」

まどか「はしゃぎすぎちゃうとこもあるけど、誰かがそれに気付いたらさりげなくフォローしてくれるんだ」

さやか「……まっ、そうかもね。今の中沢みたいに、さらっと話題流してくれたり。でもそれを言うならまどかもでしょ?」

仁美「去年の自己紹介の時でしたかしら。緊張して上手く喋れない方を、
.     保健係を希望しているという無茶苦茶な理由で保健室へ連れて行ってさしあげたりしてましたわね」

ほむら「……初めて知ったわ」

ステイル「僕もだよ」

 ステイルの言葉に応えず、ほむらは眉をひそめて俯いた。
 まだこちらに来てから日が浅いのだから、別に知らなくてもおかしくない。そこまで驚くことでもないだろうに。
 ようやく質問責めから解放された杏子が自分の肩を手で揉みながら近づいてきた。

杏子「いやー疲れた。ガッコーってこんなにくたびれるもんなんだな」

さやか「そりゃそーよ、子供はみんな命懸けで頑張ってんの」

恭介「それは言いすぎじゃないかな……」

まどか「ねぇ杏子ちゃん。みんなと仲良くなれそう?」

杏子「ん……あったりまえさ。アタシにかかりゃあんな良いやつら、一ヶ月でちょちょいのちょいだぜ!」

さやか「素直に仲良くなれますーって言いなさいよ。あんた意外に照れ屋さん?」

杏子「そ、そんなんじゃねーし!」

ほむら「……一ヶ月後も学校があれば、の話だけど」

 そんなほむらの言葉を、ステイルは聞き逃さなかった。

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931 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/04(日) 04:14:27.11 ID:TlrnBPj2o

――昼休み
 チャイムが鳴ったと同時に教室を出たほむらの後を追って、ステイルは屋上に出た。
 ぐるりと辺りを見回し、一人立ち尽くしているほむらを見つける。

ほむら「……」

ステイル「彼女達が心配していたよ。教室には戻らないのかい?」

ほむら「……ワルプルギスの夜が来るわ。暢気に食事なんて……」

ステイル「知っているさ。こちらも別のルートで調べていてね、対策もしてある。気に病む必要は無いよ」

ほむら「アレはただの魔女とは違う、文字通り最強の魔女よ。どれだけ気に病んでも足りないわ」

ステイル「まるでこれまでにも見て来たたかのような口ぶりだね」

ほむら「……」

ステイル「……」

ほむら「あなたたちを信頼していないわけじゃない。魔女を魔法少女に戻したのには驚いたし、感謝もしてるわ」

ほむら「こうしてこの時間を穏やかに過ごせるのは奇跡に近い……でも、だからと言ってアレを倒せるとは思えない」

ステイル「……なるほどね」

ほむら「?」

 怪訝そうに首を傾げるほむらを無視して、ステイルは一人頷いた。

ステイル「以前から不思議だったのさ。君の行動、言動、知識、覚悟、感情……まぁそういったあれそれがね」

ステイル「だがようやく合点がいったよ……ところで僕は、君に僕の過去について話がことがあったかな」

ほむら「……守りたい子がいたとか、その程度なら」

ステイル「そうかい、じゃあついでに説明しておこうかな」

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932 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/04(日) 04:14:59.64 ID:TlrnBPj2o

 ステイルには、自身の想いを寄せた少女がいた。
 その想いは恋愛感情であると同時に妹に向けるような親愛感情でもあり、許しを請うそれにも似ていた。
 その少女は、一年間しか記憶を維持することが出来なかった。
 記憶を消さなければ彼女は死ぬ。そして彼女は記憶を消されることを拒み、彼は彼女の記憶を消した。
 やがて少女はとある少年に救われて幸せになりましたとさ、と付け加えると、ステイルはほむらの顔を真正面から見た。

ステイル「以前君は言っていたね。好きな相手に忘れられてしまうよりかはマシだ、と」

ステイル「そして巴マミが魔女になったとき、君はこうも言った……もう、嫌だと」

ステイル「以前にも似たような場面を目にしたことがあるかもしれないが、それでは辻褄が合わない。決め手は時間の魔法さ」

ほむら「……」

ステイル「ほむら。君はこの世界の人間じゃない。正確には、この時間の人間じゃない」

 ほむらは否定も肯定もしなかった。

ほむら「……そうだったとして、どうするつもり?」

ステイル「どうもしないよ。どうやら君と僕が会うのは今回の世界が初めてのようだしね」

ほむら「……」

ステイル「別に誘導尋問じゃないから安心するといい。転校初日の君が向けてきた警戒心から察しただけさ」

ほむら「……もう隠す必要はなさそうね」

ほむら「そうよ。私はこの時間の人間じゃないわ。手に負えなくなった世界を見限り、時間軸を越えて来たわ」

 予想していたこととはいえステイルは少なからず衝撃を受けた。
 時間を越えていた事実に、ではない。
 こんな少女が抱えていた負の塊の大きさに、である。

ほむら「私はもう後悔しない。たとえどれだけの犠牲を払おうとも、私は目的を果たすために何度でも繰り返す」

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933 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/04(日) 04:15:32.76 ID:TlrnBPj2o

ステイル「相性はともかくとして、境遇だけなら僕らは瓜二つなわけだ」

ほむら「話を聞いていたの? 私は目的のためにいくつもの世界を見限ってきたのだけど?」

ステイル「奇遇だね、僕も“彼女”を守るために何十人という人間を焼き殺してきたよ
       これは僕の扱うルーン魔術にも言えることだが、大事なのは量じゃなく質だ。似た者同士には変わりないさ」

ほむら「……慰めのつもり?」

ステイル「似た者同士なら似た者同士らしく、全面的に協力するのも悪くないんじゃないかって言いたいんだけどね」

 その言葉は本心から来るものだ。
 ステイルはほむらの抱える問題に衝撃を受けたが、だからと言って安易に同情などはしない。
 彼に出来るのは、燃やすことと爆破させること。並み居る障害の破壊だけだ。

ほむら「……修道女姿の佐倉杏子は、確かに見てみたいわね」

 ぶっきらぼうに言うと、ほむらはそっぽを向いた。
 その肩はわずかに震えていて、悩んだあげくステイルは黙ったままでいることにした。
 そして、屋上の扉からわらわらとこちらへやってくる集団に気付いて微笑を浮かべた。

ステイル「ひとまず、やらなきゃいけないことが出来たみたいだ」

ほむら「……なにが?」

ステイル「君のことを探してくれるお人好しの相手だよ」

 ステイルに言われてほむらが振り向き、驚きを露にする。
 その視線の先には、風呂敷でくるまれたお弁当を持つまどか達の姿があった。
 ああまったく、いてもたってもいられずに教室を飛び出したわけだ。それも五人で。

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934 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/04(日) 04:16:11.23 ID:TlrnBPj2o

仁美「ほら、やっぱりいましたでしょう?」

さやか「一人でどっか行っちゃうなんて水臭いわよほむらー。罰としておかず一個没収!」

恭介「はは、そんなんじゃ太るよさやか」

杏子「さっさと飯にしようぜー! アタシ腹ペコペコだよもー」

 急にやってきて口々に騒ぎ立てる皆を尻目に、まどかは心配そうな顔をしてほむらに歩み寄った。

まどか「急に黙ったと思ったらどこかに行っちゃったから、ほむらちゃんが心配で……余計なお世話だったかな?」

ほむら「……そんなこと、ないわ」

まどか「てぃひひ、それじゃあお昼ごはんにしよ? 実はほむらちゃんの分も鞄から勝手に持ってきちゃったんだ」

ほむら「……ありがとう、まどか」

まどか「どういたしまして、ほむらちゃん」

 微笑むと、まどかはすぐそこにある椅子に座って二つ分の弁当を取り出した。
 少し躊躇ってから彼女の隣に座り込んだほむらを見て、ステイルは一段楽したといわんばかりに肩をすくめる。

杏子「おつかれさん、ほら。アンタの分だよ」

ステイル「弁当……君が作ったのかい?」

杏子「まっさか、火織が作ったんだよ。あんたに渡しといてくれってさ」

ステイル「神裂か。余計なことを……貰える物は貰っておくけどね」

杏子「素直じゃないヤツー」

 それから彼らは雑談を交えつつ昼食をとった。
 あまり時間が残されていなかったため少々急いで食べたからか、あまり味は記憶に残っていなかったが。
 もしかしたらそれは、久々に食事を心から楽しめたからなのかもしれないなとステイルはふと思った。

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935 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/04(日) 04:17:09.11 ID:TlrnBPj2o

――帰宅したステイルは、今日起きた出来事を簡単に神裂に説明した。

神裂「そうですか、暁美ほむらがいわゆる時間遡行者でしたとは……それで得られた情報は?」

ステイル「とりあえず数千個のプラスチック爆薬や対地誘導弾、ハープーンミサイルに迫撃砲では歯が立たないそうだ」

神裂「ううっ、難解な言葉がたくさん……とにかくたくさん兵器を使っても傷一つないのでしょうか?」

ステイル「いや、どうやらタンクローリーを丸ごとぶつけたらわずかに傷を負わせられたらしいね」

神裂「ふむ……そうしますとそれほど手強い相手ではないのかもしれませんね」

 それは君の基準が狂っているからだ、と怒鳴りそうになるのを何とか堪えてステイルは床に座り込んだ。

ステイル「それだけじゃない。あの魔女の使い魔はどうやってか、何人かの魔法少女の姿を借りて戦うそうだ
       いや、正しくは露払いか。基本的にワルプルギスの夜はただひたすらに突き進むだけの存在らしいね」

神裂「人払いさえ済ませればどうにか出来そうですね」

ステイル「ところがまだある……普段ワルプルギスの夜は逆さまでいるらしい」

神裂「逆さま、つまり本来の性質が発揮されていないのですね。では本気を出す際に正常位に戻ると」

ステイル「そしてそこにファウストの魔導書だ。いくら君や僕でもこればかりは難しい」

神裂「イギリスからの支援が欲しいところですが、難しいでしょうし……ステイル? 何をしているのです?」

ステイル「電話だよ……チッ、繋がらない」

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936 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/04(日) 04:19:17.85 ID:TlrnBPj2o

神裂「……ところでどうです、学校の方は」

ステイル「今日得られた収穫は大きかったが、それでも学校に通うより先にやることがあると僕は思うがね」

 そう。なにもステイルは、馬鹿正直に中学に通っているわけではない。
 彼が欠席することで魔法少女に不安を与えないようにすること、そして最大主教の目を欺くためでもあるのだ。

神裂「最大主教の『日中は必ず学校に通え』という指令。やはりあなたの行動を束縛するための物でしょうか?」

ステイル「最大主教の邪魔をしないようにね。その点天草式というしがらみがある君は元から思う存分に動けない……」

神裂「と、勘違いしてくれているおかげで自由に動けていますが……」

 とはいえ本当に最大主教の裏をかけているとは思っていない。
 神裂の性格を考えれば、一番魔法少女のために行動しそうなのは彼女だと行き着くはずだからである。
 それを承知の上で動く。最大主教に反撃するための手段を見つけるために。

神裂「しかし私が聞きたいのはそこではありませんよ」

ステイル「ん?」

神裂「楽しかったかどうか、をお聞きしているのです」

ステイル「……」

神裂「どうでしたか?」

ステイル「……そこそこ楽しめたよ」

神裂「それは良かった」

 微笑むと、神裂は台所の方へ歩いていった。
 ステイルは窓に目をやると、それから付き合いきれないと言わんばかりにため息を吐いた。



 ワルプルギスの夜襲来まで、あと五日。

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937 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/04(日) 04:26:00.04 ID:TlrnBPj2o
ごめんさすがに一週間日常は長すぎた。ネタが枯渇した。というわけで次回は一気に木曜日まで飛ばします。
次回はローラの動きを少しとマミさんとまどか、その家族のお話を混ぜる感じで
そこで次スレへ移行、お決まりの決戦前夜から始まる流れですね。九月以内に完結できればいいかな……

次回の投下は過去の投下と原作を読み直したり観直すためにちょっと時間が掛かりますが、遅くとも今週中で
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938 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/04(日) 04:33:50.97 ID:2j/6sUO2o

神裂基準ワロチ
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939 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/09/04(日) 06:00:10.42 ID:XKFhz0Ra0
>>1
おつおつ
>>1の武器知識パネェwww
そして照れてる(?)ほむらの描写がいいな
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940 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/09/04(日) 07:39:55.96 ID:jkK6AC2Do

これはこれで、穏やかな日常の後ろで絶望が近づいてる絶妙な感じがいいと思うんだが
ネタ枯渇ならしょうがないな
各陣営が何を仕込んでくるのか期待
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941 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/04(日) 11:37:10.05 ID:WHobOw9HP

タンクローリーとかどこのDIOだよ
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942 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/04(日) 13:58:47.67 ID:1zI5KHiR0
映像で確認したけど、タンクローリー食らってもワルプルは無傷だった。
ほむら=ワルプルだと
・この魔女を倒したければ、魔女が望む唯一の希望(まどか)で打ち払うべし
とかになりそう。
正位置になる前に上条(そげぶ)ミサイルで狙撃し、右手を当てれば因果の重なりも絶望も何もかも払えそう。
正位置になっても
さやか「食らえーーー、そげぶミサイルゥゥゥ」
当麻「うわぁぁぁ」
と左手を掴みそげぶさんをワルプルに投げつけるさやか(色々吹っ切って取り繕うのを止めた)が浮かんだ。
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943 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/04(日) 14:04:44.61 ID:O6T5qHw5o
え、タンクローリーで僅かに損傷らしきもの写ってるでしょ?
らしきもの、以上でも以下でもないけど
唯一のダメージ表現として考察スレで取り上げられてたはず。

もしかして放送局毎に微修正されてる?
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944 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/09/04(日) 21:24:29.18 ID:XKFhz0Ra0
ワルプルの性質は「無力」
アレが逆さなのは、その性質を逆手に取っているのではなかろうか
つまり「無力」の逆で「無敵」になってるんじゃね

ということは、アレをひっくり返せば簡単に倒せるという理屈が・・・







そんなに簡単にいく訳ないじゃん☆って、自分で思ったわ
945 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/04(日) 23:24:12.20 ID:mCc5OknAo
>>944
ひっくり返して倒してるスレあったな
946 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/04(日) 23:25:19.62 ID:FRwh9+4Jo
正位置になると暴風のようななんちゃらで文明をひっくり返す、とか
そんな説明文じゃなかったっけ
947 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/05(月) 03:28:09.49 ID:yUaO5m6AO
ほむほむ以外の魔法少女が戦力外扱いになる悪寒
948 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/09/05(月) 12:16:37.00 ID:2AJvRGvAo
ほむほむは基本スペックは弱いけどオプションパーツのおかげで一人軍隊してるからな。
949 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/09/05(月) 21:07:28.75 ID:WrkjNPfB0
AT4&RPG7とか<タンクローリー
おい待て
950 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/09/06(火) 16:14:44.89 ID:1L1TW6l10
>>949
当てる場所の違いかもしれないだろ
951 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/06(火) 17:27:59.53 ID:k0SU+vOIO
>>948
ザ・ワールドじゃなくてバッドカンパニーだったのか
952 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/09/06(火) 23:59:00.30 ID:zYpdRIJe0
>>949
タンクローリーの中身が通常のものとは限らないからなんとも…
953 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/07(水) 14:51:29.69 ID:hALtYeogo
その発想はなかった
954 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/07(水) 16:27:15.62 ID:NcXFZ4ZF0
ぼくたちは、なかよく>>1乙してるよ 
                        ∧_∧
                   ===,=(´・ω・ ) >>1
                   ||___|_゚し-J゚||_
                ∧_∧/ //.___|^∧_∧
           >>1乙 (´・ω・ ) /||    |口|(´・ω・ ) >>1
                ./(^(^//|| ||    |口|⊂ _)      
  >>1乙      ∧_∧ /./  || ||    |口| ||    ∧_∧    
   ∧_∧     (´・ω・ ).>>1乙..|| ||    |口| ||  (´・ω・ ) >>1乙  
  (´・ω・ )  /(^(^/./     || ||    |口| ||    ゚し-J゚
 "" ゚し-J゚:::'' |/  |/ '' " :: ":::::⌒  :: ⌒⌒⌒ :: ""  `
 :: ,, ::::: ,, " ̄ ̄  "、 :::: " ,, , :::   " :: " ::::



955 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/08(木) 19:38:23.65 ID:pGfCAnXBo
上条さんを投げつける聖人とかどこのアックアさんですかwwwwww
956 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/09/09(金) 17:16:55.63 ID:8bMjqXBAO
>>952
タンクローリーの中身は夢一杯
957 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/13(火) 00:50:57.66 ID:OmW/nac8o
木曜日まで加速→イギリスと日本間の距離に身悶えして投下内容全消し、修正する羽目に
加速は取りやめ、さらに予定時刻を大幅に超過しました。申し訳ありません
最近睡眠不足のせいかキャラを把握しきれていないせいか脳内再生が難しくなってきた
勢いに乗せるべきか、煮詰め直すか……難しいところです

というわけで気にせず投下します
958 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/13(火) 00:51:20.41 ID:bm68b+dG0
するがいいさ
959 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/13(火) 00:51:36.62 ID:OmW/nac8o

 かよーび。
 見滝原中学に籍を置くステイル=マグヌスの朝は久々に……というか珍しく早い。

ステイル「……眠い……」

ステイル「……新聞でも取りに行くか」

 掛け布団を被りながらのそのそと玄関まで歩く怪人布団デカ男。
 面倒くさげに新聞を取ると、そのまま寝室まで逆戻り。敷かれた布団に倒れこむと、神妙な顔つきで新聞を読み始める。

ステイル「……ふむ」

ステイル「今日の四コマ漫画は微妙だな」

 年齢相応の言葉を口にすると、ステイルは満足気な表情を浮かべてさーっと着替える。
 いつもの神父服だ。軽く身嗜みを整えた彼は首をコキッと鳴らすと台所へ向か。

ステイル「水冷て……ガスつけて、お湯に……」 ジャーッ

ステイル「紅茶を用意して……」 サッサッ

ステイル「よし」

ステイル「……」 ズズー

 カップに注がれた紅茶を口にしながらルーンのカードをチェックしていると、隣の部屋から物音が聞こえてきた。
 たまには一緒に寝ようぜ! という無茶苦茶な理由で杏子と共に寝ていた神裂が起き出したのだろう。

ステイル「寝坊したのか。連日の作業や連絡で疲労しているから仕方ないかもしれないが……」

 いかんせん、聖人である神裂の働きはとても大きい。それゆえ頼りがちになってしまうのだ。
 やはり学校に通う時間を仕事に当てるべきか……そんなことを考えながら、彼は学生鞄を持って部屋を出た。
 眩い陽射しが視界の半分以上を占めて、反射的に目を細める。

ステイル「良い天気だ……だがロンドンのどんより空の方が僕には向いているね」
960 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/13(火) 00:53:11.64 ID:OmW/nac8o

 それからすぐそばにある階段を降りたところで、箒を手にした五和と出くわした。

五和「おはようございまーす」

ステイル「おはよう。いつも精が出るね。他にすることはないのかい」

五和「 (あ、寝起きで機嫌悪いなこの人) 女教皇様の負担を和らげるためですから」

ステイル「献身的だね」

五和「ところで今日はお一人で早起き出来たんですね! 偉い偉い!」

ステイル「焼き殺すぞ」 ボウッ!

五和「ひぃいい!? じょ、冗談ですよ!? 真顔で摂氏3000℃の炎の剣を向けないでくださいあっつうう!?」

ステイル「チッ、流石に人目につくか」 シュボッ

五和「お嫁に行く前にお墓立てられちゃうかと思いましたよ!!」

ステイル(それ以前に貰い手がいるのか……?)

五和「でもどうしてこんなに早くに? なにかやり残した作業でもありましたか?」

ステイル「片付けておきたい“難題”があってね」

 五和の頭に『くえすちょんまあく』が浮かんでいる姿が見えた……ような気がする。
 ともかく、怪訝そうにしている五和を放置してステイルはズンズン突き進む。
961 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/13(火) 00:53:56.08 ID:OmW/nac8o

ステイル(しかし……)

 途中で朝っぱらから尻尾をぶんぶん振り回すレッサーにデコピンをかましたり、
 “バケツみたいな帽子”を被った妙ななりの少女や、“眼帯で右目を覆った”少女とすれ違ったり、
 ボロボロなゴシック調の服装のままうろつくシェリーを生暖かい視線で眺めたりしたステイルは、ふと疑問を抱いた。

ステイル(この街は少し変わり者が多いな
       僕みたいにまともな英国紳士は少数派というわけかい? ああ嘆かわしい)

 身長2mの神父がどの口でほざきやがるんだ、とシェリーがジト目で睨むのも気にせず彼は歩き続ける。
 そうして歩き続けた結果、彼は見滝原中学の真正面にある校門にたどり着いた。
 それから門に背を預けて自分のことを待ってくれていたほむらに片手を挙げて話しかける。

ステイル「やあ、待ったかい?」

ほむら「気持ち悪い猫撫で声はやめなさい。冗談抜きで今来たところよ」

ステイル「朝の良い気分が君のせいで台無しだな……じゃあさっそくだが“範囲”を教えてもらえるかい?」

ほむら「時と場所も考えられないのかしらこの馬鹿神父は。教室へ行きましょう。あそこなら落ち着いて話せるわ」

ステイル「君にしてはまともな案だ。お手柔らかに頼むよ」

ほむら「それはあなたのオツムの出来次第よ」

――余談だがこの二人は徹夜で作業をしたり武器を盗み出したりしているために寝不足気味である。
 そして寝不足から来る苛立ちのせいか会話の節々にひどい暴言が混じっているのだが、
 やはり寝不足のために頭の回転が致命的に鈍っている二人はそれにはまったく気付かず教室へと向かうのであった。
962 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/13(火) 00:54:22.36 ID:OmW/nac8o

――昼、教室にて

杏子「ふっふふん、ふっふふん、ふっふっふー……ん?」

 神裂さんお手製の大きな弁当箱を抱えてまどか達の机までやって来た杏子は、
 複雑そうな表情でおろおろしているまどかとさやか、恭介を見て眉をひそめた。

杏子「クソでも詰まった顔してどーしたのさ?」

恭介「あははっ、上手い例えだねそれ!」

さやか「ちょっと、恥ずかしいから下ネタで笑わないでよ……そうじゃなくてほら。あれ見てみなよ」

 さやかが指差す方に目を向けて、杏子は納得したように首を縦に振る。
 その視線の先では、ほむらとステイルが険しい顔つきのままノートに何かを書き込み、議論を繰り広げていた。
 二人から醸し出される重厚な空気と気まずい雰囲気を浴びて、近くいたクラスメイトが顔を引きつらせながら退散していく。

杏子「……もしかしてワルプルギスの夜に関する話か?」

まどか「どうだろ、あんまり真面目だから聞くに聞けなくって……」

杏子「いっちょアタシがアドバイスして一旦止めてくるよ。こんな空気じゃ美味い飯も不味くなっちまうからさ」

さやか「それはそれで嬉しいけど、あんたももうちっと心配しなさいって」

 さやかの言葉を聞き流しながら、杏子はずかずかと大股で二人に歩み寄った。

ほむら「――だからそこは前提が異なると何度言わせるつもり?」

ステイル「条件が多くてややこしいんだよ。つまりこちらを応用してやれば良いわけだろう?」

ほむら「……残念だけどこちらも無理よ。初歩的なミスで台無しになってしまっているわ」

ステイル「なんだって? 僕の用意した前提条件ならば合うはずだが……そうか、この対象が反転されるのか!」
963 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/13(火) 00:54:58.73 ID:OmW/nac8o

杏子「ほらほら、辛気臭い話はそこまでにしとこーぜ!」

 勝手に納得した様子で頷くステイルからノートを取り上げると、杏子は無い胸を張って言った。

ステイル「食事なら後にしてくれ、それにもう少しでこの話は終わるからね」

ほむら「出来ればもうもう少し応用の利く方法を伝授したいところだけど……」

 伝授? と首を傾げそうになるが、言葉の端々から察するに対ワルプルギス戦の戦略を練っているようだ。
 心配性な彼ららしいと言えば彼ららしいが、気に病むことは放課後に後回しにすればいいのに。

杏子「二人であれこれ考え込みすぎなんだよ、アタシらがいることも忘れんじゃねーっての」

杏子「まっ、アタシはアンタたちのそーゆーところが――」

ステほむ『ところが?』

杏子「――なんでもないよ。とにかく! こーんな問題なんてみんなで協力すりゃちょちょいのちょいさ!」

 はにかみながら堂々と言うも、二人の顔は晴れない。
 それどころかなぜか疑いの色まで見せ始めていた。

ステイル「気持ちはありがたいが……君にどうにかできるのかい?」

杏子「おー、こんなの力ずくで叩き潰してやるよ!」

ほむら「実施は五時限目よ? あなたではどうにも出来ないでしょう。わけがわからないわ」

杏子「へ?」

ステイル「下手をすれば、ワルプルギスの夜が来る前に厄介なことになるかもしれないね」

杏子「はぁ?」
964 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/13(火) 00:55:41.28 ID:OmW/nac8o

 その言葉を聞いて初めて、杏子は自分が奪い取ったノートの中身を覗いた。
 真新しいページには二次方程式の問題とその解、
 そして丁寧な文字でその解説がびっしりと書き込まれている。
 つまり。

杏子「……テスト勉強かよッ! しかも数学の小テストかよッ!!」

ステほむ『今まで何だと思っていたんだい(の)?』

杏子「ああもう! 別にこれでどうこうなるわけじゃないんだし飯にしようぜ」

ほむら「……それもそうね。まどかも気になるし、成績には影響が出ない形式だもの」

杏子「そーそー、中間で頑張れば良いんだよ。はやく飯ー」

ステイル「……中間試験はだいぶ先だったね。だったら僕が頑張る必要はなさそうだ」

ほむら「それはどういう意味かしら」

ステイル「さてね。それより昼食にするんだろう? 隣の腹減り娘が暴れだす前にお弁当を取ってきたらどうだい」

杏子「誰のことだよ」 イラッ

ステイル「君のことだよ」 スラッ

杏子「うぜぇ、チョーうぜぇ」

ステイル「十年前の子ギャルじゃないんだから……もっと上品な言葉を使った方が良いんじゃないかな?」

杏子「上等だ、飯食ったら表に出な! 魔法少女の実力ってヤツを叩き込んでやるよ!」

ステイル「望むところだ。ルーンを活かした魔術の凄さをその頭に嫌というほどたっぷりと刻み込んであげよう」

ほむら「……お弁当取って来ましょうか」
965 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/13(火) 00:56:22.08 ID:OmW/nac8o

――昼食時

さやか「あああああ! どうしようまどか! あたし数学の勉強なんてぜんぜんしてないよぉおお!?」

まどか「そ、それを言ったらわたしだってお勉強してないよぉ!」

杏子「明日は英語の小テストもあるんだってな。そっちはどーなのさ?」

さやか「えい、ごも? あー終わった……終わったわこれ……」

まどか「英語もなんて……こんなのってないよ!」

ステイル「英語はともかく数学がマズイ、これは由々しき事態だ」

杏子「おまえら、いず、べりー、ふーりっしゅってヤツだな」

ほむら「……あなたは平気なの?」

杏子「へーきへーき、こんなの勘でどーにでもなるさ。あーメシうめー」 モグモグ

まどか「そう言って盛大にやらかしちゃう人、マンガの中で、見たような……」

さやか「勘でどうにかなったら奇跡も魔法もいらないんだよ!」

ステイル「……その割にはずいぶんとノリノリだね」

恭介「でも参ったな。僕も退院してから走り通しで勉強なんて全然してないよ」

仁美「あらまぁ、大変ですわね」

さやか「!」



            _ノ⌒丶、_ノ⌒丶、_ノ⌒丶、_ノ⌒丶、_ノ⌒丶、_ノ⌒丶、_ノヽ、
         γ´                                           Y
         (    恭介「あーだめだー誰か一緒に勉強してくれないかなー」       )
             )                                                (
         (    さやか「そんなのお安いご用だよ! あたしと一緒にがんばろ!」  )
             )                                                (
         (    恭介「本当かい! 持つべきものは可愛い幼馴染だね!」      )
          乂                                             ,'
            ヽ、_ノ⌒丶、_ノ⌒丶、_ノ⌒丶、  ノ⌒丶、_ノ⌒丶、_ノ⌒丶、_ノ
                                し'
                                  ○
                       さやか 。 O


966 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/13(火) 00:57:18.25 ID:OmW/nac8o

さやか「これ……とうとう来ちゃったかな、あたしの時代が」

恭介「志筑さん、もし良ければ勉強教えてくれないかな?」

さやか「」

まどか「さやかちゃんの時代、過ぎ去るの早いね……」

ステイル「五秒にも満たなかったね」

仁美「えーっと、私は構いませんがその、なんというか」 チラッ

さやか「」

恭介「え? ……ああ、そっか。ごめんねさやか」

さやか「! これ……とうとう再来しちゃったかな、あたしの時代が」

恭介「さやかも志筑さんに教えてもらいたかったんだよね? じゃあ僕は中沢に頼むことにするよ」

さやか「」

仁美「なんて不憫な……私見てられません、ちょっと席を外しますわ」 タタタッ

杏子「さやかって、ほんとバカ」

ほむら「それでこそさやかよ」

ステイル「さやかのさやかたる所以だね」

さやか「」



さやか「」
967 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/13(火) 00:58:10.01 ID:OmW/nac8o

まどか「さやかちゃんは置いといて……そういえばステイル君、みんなのことフルネームで呼ばなくなったね」

ステイル「ん? そういえばそうだね」

杏子「どーいう風の吹き回しだよ?」

ステイル「ふむ……さぁ、こればかりは僕にも分からないね」

まどか「ほむらちゃんもさやかちゃんに言われてから下の名前で呼ぶようになったよね?」

ほむら「……それはそれ、これはこれよ」

まどか「二人とも、わたしたちのことを友達として思ってくれてるってことなのかな。なんだか嬉しいな、そういうの」

杏子「たった今親友のこと無視して話進めたアンタがそれを言うのかよ……」

まどか「それ(さやか)はそれ(さやか)だよ、てぃひひ」

さやか「」

まどか「さやかちゃん、それもういいから」

ステイル(気のせいか、この子から仄暗いオーラが漂っているような……)

ほむら(これでこそまどかね……)

 そんな調子で雑談を交えつつ食事をしていると、不意にほむらがステイルの肩を肘で突っついてきた。
 彼女の様子に眉をひそめつつ、首をかしげて見せる。

ステイル「どうしたんだい?」

ほむら「さっきの話よ。中間試験は頑張る必要が無いというのはどういうことかしら」

 なんだ、そのことか。
 正直今更説明するほどのことでもないし、わざわざ改まって言うのも妙な気分だ。
 とはいえこのまま放置するのもどうだろう。変な誤解を招きかねないので、仕方なくステイルは口を開いた。
968 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/13(火) 00:58:38.88 ID:OmW/nac8o

ステイル「そのままの意味だよ。僕は中間試験は受けないからね」

まどか「えー……いくら数学が苦手だからってサボったらダメだよステイル君」

ステイル「そこまでみっともない真似はしないよ。そもそも学校にいないからね」

恭介「もしかして、その……例の魔術師の仕事かな?」

ステイル「こうしてこの場にいるのも仕事なんだけどね……」

 ステイルの弁当箱から玉子焼きを盗み食いしていた杏子が、目を細めて箸を持ち直した。
 ほんの少しだけ考えるような素振りをして、それから短く何かを呟き、得意気な顔をして喋る。

杏子「もしかしてアンタ、近い内に学校辞める気か?」

 お見事、と答える代わりに首を縦に振る。
 目を丸くしたまどかが何かを言おうとして舌を噛み、涙目になった。あれは痛そうだ。
 そんな彼女の頭をさりげなく撫でながら、立ち直ったさやかが不満そうに口を尖らせた。

さやか「なにそれ、どーいうことよ?」

ステイル「どういうこともなにも、そのままの意味だよ。ワルプルギスの夜を撃退したら僕はイギリスに戻って、
       いけ好かない上司に直談判を申し込む。魔法少女のしがらみやらなにやらを取り除くよう願い出るつもりさ」

まどか「それが終わったら、また戻ってくるの?」

ステイル「それはないだろうね。今抱えている問題が終わったら今度は新しい問題の解決に勤しむだけさ」

さやか「なーんかむかつく。じゃあそれが終わったら? 休みとか使って来れないわけ?」

 そう言われてもね、とステイルはただただ苦笑する。
 自分と彼女達とでは住む世界が違うのだ。わざわざ自分が会いに行く必要などないだろう。
 なぜか黙り込んでしまったほむらの様子を窺いながら、ステイルは肩をすくめてみせる。

ステイル「それが人生というものだよ」
969 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/13(火) 00:59:16.76 ID:OmW/nac8o

まどか「……ほむらちゃんは?」

ほむら「え?」

まどか「ほむらちゃんもどこかへ行っちゃうの?」

ほむら「それは……」

 言葉を濁すと、ほむらは視線を宙に漂わせた。
 ステイルは彼女が時間遡行者であることは知っていても、彼女の目的までは知らない。
 だから彼女がどのような理由で時間の壁を乗り越えてきたのかまでは分からないままだ。

さやか「そういやほむら、あんたって色々知ってるけど昔なんかあったわけ?」

ほむら「そんなところよ」

杏子「そういやアタシら、アンタのことよく知らないままなんだよねー」

ほむら「自己紹介ならしたでしょう」

さやか「いやいや、もっと深い根本的なところとか知りたいんだけど」

恭介「あまり無理に聞かないほうが良いと思うよ。彼女にも彼女なりの理由があるんだろうしさ」

 恭介のもっともな言葉に、さやかと杏子が二人して口を噤んだ。
 一般人である彼の目線は皆と違い、一歩離れた位置にあるだけあって冷静に物を捉えられるようだ。

ほむら「……ごめんなさい」

まどか「……」

ステイル「場の空気をシリアス風味にしてくれているところ申し訳ないんだけどね」

さやか「んー?」

ステイル「昼休み終了まであと4分、小テストで絶望的な結果しか残せそうにない僕はどうしたら良いんだい?」

杏子「……知るかよ、天に思し召す我らの父とやらにでも祈っとけ」
970 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/13(火) 00:59:58.19 ID:OmW/nac8o

――そんなわけで数学の授業は始まった。

教師「小テストだからって気を抜くなよー、二十点下回る者には宿題と追試出すからなー」

教師「じゃあ時間は二十分、はじめー」

 裏向きにして伏せられていた解答用紙を一斉にめくる生徒達。
 シャーペンの芯がカカッ、キャッと面白い音を奏でる中、ステイルは恨めしげに解答用紙を睨みつけた。

ステイル(最初の基本問題は大丈夫だ。これで10点は稼げるだろう)

ステイル(だがなんだ、この応用問題の難しさは……!?)

ステイル(それに後半の問題! どうして微分積分や二項定理などというわけの分からない内容が出てくる……!?)

ステイル(これを解ける中学生なんているはずが――はっ!?)

 クラス内に生まれたわずかなどよめきにステイルが顔を上げ、そして目を見開いた。
 ステイルの目に映っているのは、得意気な顔で解答用紙を伏せて頬杖をかくほむらの姿だ。

ステイル(ほむらは既に問題を知っている! なんてファッキン・チート!)

 などと内心で口汚く吐き捨てている内に、あっという間に時間がやって来た。

教師「おし、そんじゃ回収ー。この時間中に採点して返すからなー」

さやか「えー! 先生そんな頑張らなくても良いですよ、ますます禿げちゃいますよ!」

教師「美樹さかや、1点減点っと……」

さやか「わわっ、冗談です! すいませんでした!」

まどか(……結構余裕そうだね、さやかちゃん) ヒソヒソ

さやか(ふふーん、なんか調子良くてね。50点はいったかも! これ……ついに来ちゃったかな、あたしの時代が)
971 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/13(火) 01:01:09.39 ID:OmW/nac8o

教師「先生意地悪だからケツから三番目まで発表するぞー」

さやか「いよっ、待ってましたぁ! さーてビリッケツは誰かなぁー?」

教師「美樹、20点」

さやか「」

まどか「はは……でも今回は仕方ないよ。わたしも今回は40点いけば良い方かなって感じだし」

教師「鹿目、25点」

まどか「」

ステイル「……ご愁傷様」

教師「マグヌス、33点」

ステイル「まぁこんなとこだろうね」

教師「同率三位で中沢も33点……つまんないヤツだなお前」

中沢「えぇっ!?」

教師「それじゃトップスリーの発表行くぞー」

ステまど(あれ、そういえば杏子(ちゃん)は……)

教師「三位、佐倉。80点だぞ! 偉い、よく頑張ったな」

ステまど「」

さやか「ダウト! ありえない、それはありえないよ先生!」

杏子「悪質な引っ掛け問題除いたらこんなもんでしょ、あー疲れたー。腹減ったー」

さやか「お馬鹿キャラが良い点数取るこんな世の中じゃ……」

まどか「さやかちゃんちょっとうるさい」

さやか「はい……」
972 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/13(火) 01:02:06.32 ID:OmW/nac8o

 その後、二位の仁美が90点、一位のほむらが100点という形で授業は締めくくられた。

さやか「納得いかない! ほむらはまぁなんかどうせ魔法で時間でも止めたんだろうけど杏子がこれは納得できない!」

ほむら「別に魔法なんて」

まどか「大丈夫、わたしは良い成績取りたいがためにズルしちゃうほむらちゃんを応援してる」

ほむら「いえそんなことは」

杏子「アタシは卑怯者と違って真面目に取り組んだぜ?」

ほむら「私も自力で解いたわよ!?」

まどか「何でだろ……私、ほむらちゃんのこと信じたいのに。嘘つきだなんて思いたくないのに」

ほむら「えっ」

まどか「全然自力で解いたなんて信じられない。ほむらちゃんの言ってることが本当だって思えない」

ほむら「……」



ほむら「……」 グスッ

ステイル「……ドンマイ」 ポンッ
973 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/13(火) 01:03:09.24 ID:OmW/nac8o

――小テストを終えた息抜きついでに屋上に出ると、ステイルは懐からメントスを取り出して口に含んだ。
 口の中に広がる反吐が出るような甘みに耐えながら、足りない糖分を補給していると。

ほむら「ここにいたのね」

 同じように息抜きでもしに来たのか、風になびく髪を押さえながらほむらがステイルの隣に立った。
 そっとメントスを差し出すと、なぜか彼女は顔を引きつらせながら首を横に振る。

ほむら「言えない、杏子とキャラが被ってるなんて言えない……」

ステイル「もろ口に出してしまってるだろうが! 一応言っておくが僕は腹が空いてるわけじゃなく禁煙中なだけだ!」

ほむら「自覚があるなら慎みなさい」

ステイル「タバコを止めるように促したのは君の方だがね……」

 それから二人は何を話すでもなく、じっと立ち尽くした。
 流れる風を体で受け止めながら、ステイルはある決心をして切り出した。

ステイル「知らないままで終わるのは、何よりも不幸なことだと僕は思うよ」

ほむら「……」

 短く息を呑む音がする。それは考えるまでもなく彼女から発せられたものだ。
 彼女が抱える事情を知り、そして目的を知らないステイルは、それでも彼女が迷っている事に気付いていた。
 恐らく仲間に秘密を打ち明けるべきかどうか、そんなあれこれに関する物だろう。
 今の彼女は、逡巡している。

ステイル「ましてやそれが思いやりから来るものならなおさらだ」

ほむら「……」

ステイル「強制はしないけどね」
974 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/13(火) 01:04:32.34 ID:OmW/nac8o

 吹き荒れる風に、艶のある長い黒髪をなびかせながらほむらは空を仰いだ。

ほむら「言われなくても、いつか必ず話すわ。近い内にね」

ステイル「期待せずに待っているよ」

ほむら「ふん」

ステイル「ここは少し冷えるね。先に戻っていたらどうだい」

ほむら「別にあなたを探しに来たわけじゃ……」

ステイル「さぁ行った行った」

 何か言いたそうにしているほむらを強引に追いやると、ステイルは懐からカード状の通信用霊装を取り出した。

ステイル『そっちはどうだい、神裂』

神裂『今のところ何も支障ありません。ただイギリスの方が少し慌しいようですね』

ステイル『イギリスが? 例の戦力の件か?』

神裂『今のところは不明ですが、しかし今すぐに何かあるわけではないでしょう。安心していてください』

ステイル『ふむ……それもそうだね』

神裂『あ、そういえばテストの方はどうでしたか?』

ステイル『ああ霊装の調子が良くないようだ!!いやあまいった少し調整をしないとダメかもしれないねじゃあ切るよ!!!』

神裂『えっちょ――』

 無理やり通信を断ち切ると、ステイルは肩をすくめて校舎の中へ戻って行く。
975 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/13(火) 01:07:54.35 ID:OmW/nac8o

――今すぐに何かあるわけがない。
 そんな希望的観測に満ちた神裂の考えは、最悪の形で裏切られることになる。

────────────────────────────────────────────────────

 同時刻。まだ太陽の恩恵を受けられる朝時のイギリス。その領海内にて、突発的な波が発生した。
 海面を掻き分けるようにして、直径二百メートルの石で構成された円盤が姿を現したのだ。
 その円盤の名は、≪カブン=コンパス≫。
 イギリス清教の清教派が所有する、『人間の魔女』のための移動要塞である。
 上面に描かれたいくつものラインから太陽の力を借りて、魔女と魔術師の調整を受けて、本来想定された速度をぶっちぎり。
 それは海水を押し退けながら、ただひたすらに突き進む。

────────────────────────────────────────────────────

 同時刻。ドーバー海峡の海底を這うようにして蠢いていた何かが、突如気泡を大量に発生させて大きく震えた。
 操られてるかのように規則的に動く気泡と海流に乗って、潜水艦のような構造物が海を泳ぎ始める。
 その構造物の名は、≪セルキー=アクアリウム≫。
 イギリス清教の清教派が所有する、国の防衛を担う魔術師のための要塞だ。
 突然動き始めたセルキー1を見習うかのごとく、さらに何隻かのセルキー=アクアリウムが同じように転進した。
 それらは魔術師と海流と、要塞が持つ力を用いて本来の任務である国境の防衛を放棄して、海の中を走る。

────────────────────────────────────────────────────

 そういったいくつもの移動要塞に下された指令は、とても単純な物だ。
『平和を脅かす可能性のある少女と、その街を滅ぼせ』
 これだけである。

 自由が尊重されるイギリス清教、その清教派が、たかが可能性のために動いているのだ。
 無論、あの最大主教がそれだけのためにこうも戦力を動かすことに、少なからず疑念を抱いた者も確かにいた。
 いたが、疑念を抱く者は皆一線で活躍する上位の魔女や魔術師のみ。
 そしてそういった者達は、既に『化物の魔女』の恐ろしさをその肌身で実感している。
 ゆえに、信じざるをえない。従わざるをえない。
 最大主教、というよりは、ローラに依存している清教派の人間は表立って反発する術を一切持たなかった。
976 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/13(火) 01:08:56.75 ID:OmW/nac8o

(――ってところかしらねー。あの最大主教の描いたシナリオとしては)

 カブン=コンパス内部にその身を横たえながら、『人間の魔女』の一人であるスマートヴェリーは欠伸をした。

(イギリス本土の防衛線を緩めてまで動く必要なんてあるわけないし、そもそも日本なら学園都市に任せればいいし)

(ここ最近の頭ごなしな指示に強硬策、不自然な振る舞いに王室派や騎士派の無視……)

(これだけやっていまだに最大主教として居座れるのは、あの女が偉大だからかしらねー)

(でもそれだけじゃないかもしんない。イギリス清教自体が甘ったれた考え方になってるのが一番大きいかなー)

(意識改革できるとしたら、新世代を担う“魔道図書館”様か)

(あるいはその護衛を兼ねる、クソ度胸の据わったこれまた化物揃いの必要悪の教会の魔術師達か)

(……とはいえ、大勢がグンマーとやらを攻撃する感じなら動くまでもないか)

 さらに大きな欠伸をすると、とうとう彼女は目を閉じた。
 十秒と経たない内に、彼女の意識はまどろみ、そして深い闇の中へと落ちていく。



 ワルプルギスの夜襲来まで、あと四日。
977 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/13(火) 01:13:15.99 ID:OmW/nac8o
初めて寝落ちするところでした。
もっとスカッとする内容を書きたいけど、まだ先か……
次スレはレス数995を超えるか次回投下時に立てるつもりです。
次回は明日の深夜か、明後日の深夜にでも出来れば……

ぴーえす:まどかアンソロカバー裏の上条ハーレムネタワロタ
978 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/13(火) 01:14:07.66 ID:1zKDN37zo
>>1
リアタイ遭遇キター
このスレは珍しくステイルがかっこよくて可愛くて好き
979 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/13(火) 01:21:52.27 ID:8w/H5rgm0
些細な事で簡単にキレる血気盛んな若者、すているさんじゅうごさいワロタ
五和は怒って良いと思うヨ!
980 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/13(火) 23:29:27.63 ID:rsqDhyDto

杏子はカンニングかと思ってしまった
981 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/14(水) 05:45:38.87 ID:K1om5sVAO
投下きてたのか
おつー
982 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/09/14(水) 22:23:10.97 ID:ckbH8N5e0
>>972のまどかが滝壺化してる
983 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/09/14(水) 23:33:06.99 ID:Ifd3G8+n0

ステイルは真のヒーローだと思っている俺には大好きなssですよ

にわかだけどもともと力があるからいろんな人に慕われるのが上条だからな
984 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2011/09/17(土) 02:46:37.84 ID:Wi8XFkb1o
かまちーは新訳二巻のバードウェイ先生のヒーロー講義に「おまんま」さんをポイしてステイルを組み込むべきだった
いや俺は浜面さん好きだけどね

次スレです

ほむら「あなたは……」 ステイル「イギリス清教の魔術師、ステイル=マグヌスさ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1316193826/

このスレは後日(三日以内)にてきとうに埋め立てします。では
985 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/09/17(土) 04:34:08.11 ID:vaASaGtCo
グンマー言うなwww
986 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/09/18(日) 02:42:39.96 ID:iRlyyWRdo
ただ埋めるのもつまらないからsage進行でeditに眠ってた挿絵的AAをこっそり投下。



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                       ____________      .//        ━━━━━━━━━━━━━
                      /                      \   .//             魔術師・ステイル=マグヌス
           _,......::::::......._  ...|     あなたは何?     | .// . ` "  -  ..━━━━━━━━━━━━━
         /::,.. -‐''ニニ_ヽ:`::.....\                     / . //    /: :/: : : : : : : : : : : : : . 、_       }
         /::::l-::/´::::/l:::::::l::::`ヾ、:::.. . ̄レ' ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ .//    .!: : : : :/:/: : : ミ:ヽ: : : : : : : ! ̄ヽ、   /
      /:::::::::l:::/:::/:イ l ,:::::l ,:::l:::::::l:::::                   //    i!: :l: : /:/メ/: : ヽ!:ヽ: : : : : : | -‐ '  (
      ,::::::|:::::|:/-/- 、 l ,:リ ,-l-;l::::l:::::.                //    |: : |: : :/ミ/ミ: : : : !l:ヽ : : |: : :|"ヽ - 、二 _` ‐ - 、
      ! ::::|:::::| ィ≧t、  / ,..-ュ、l/l:::::l               //      .|: : |: : :|/""`ヾ'´"{~ヾ: : |、: :i!       メ
      ! ::::|:::::| 込チ     込チ /.l::::::l              //       |:.:r|: :-|、.__      {,,斗:.:|'イ、:i        ̄  ~" )
      l:::,-!::::l      `       !::::::|               //        i!: {'|: :.弋ヤヾ、  ''"艾フ:.:.|/: :.i!          _ , '
       ,::l,.|::::|       _       l,::::::l               //        i!: : l: : :.|;;;   !    `'ト; |: |: :ハ      ,  '"
      }::: |::::ト、            _,.イ!:::::,                //         ./:!: :.|: :.、|    l _    |: ヽ: :、ハ:\ 斗'"´ _  -‐' ´
      ,:::::|::::|:::≧ュ、._   _,.,<:::::l|:::::|             .//        /:/|:|:.:|: : :iヘ 、____ ,ィミ.イ|: : ヽ: 、:./, <-‐― 、
       l::::::!::::l::::::::::l__二_!_:::::::::|::::リ             //         /: :/: |:/|:|: :ト、 ヽ.   /:::`|ミュ. _彡/::::::::..   ::::::ヽ
      ,::::::::l::::|:::::::l´ ̄||´ ̄ ̄!::::::,::::/           //        ./: 彡' |:| |:!: :i \::::`´::::::l  |: :!: : |ヾ  ::::::     :::::::::|
     ,::::::::::ト,:::.///,ー,//////// イ:/ー- 、        .//    ._ /. :     /' |:|: :| , ヘ.、::::::/'"~|: :|、: ヽ  ::::::      :::::::|
     /:::::::,.- l、:.///{/!//////{  l/     ヽ       //   ./.::::       /  j'|: :i'´ | /-、"/l .j: :.| \`  .:::.     .::::|
    ,:::::::/  lヘ:l//ノ lヽ、////  /     `、   ..//   .'       ヽ    ヾ:| 、 \ミ_ | ィ'|   j:/ \:::..  :|      .:/
    /::::,/   ,ー//__/_!/l  ̄l; l,       ヽ  //  〈    .|::   \   / N ヽ:::ヽ-|‐"i   :::::::::/::::  /      /
   /::<   / //´ ̄ l//l ̄ ´ {       ノ  //  ..____________/|__________    .,'|
   /::::::ヽ   { l/!   l/     、_     _/   //  ./                                      \ /. |
     .━━━━━━━━━━━    {    //  .|   見滝原中学の二年生、ステイル=マグヌスだよ   |
      .魔法少女・暁美ほむら       ',   //    .\                                     /
     .━━━━━━━━━━━      l //          ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



AAチョイスと吹き出しと構図に難あり。やはり一から作れる職人様には頭が上がらない……
しかし息抜きにはちょうどいいのでまた何か作ろう
987 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/18(日) 10:56:14.04 ID:W6xSx9TRo
>>986
おおステイルかっこいい
988 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/09/26(月) 02:48:24.73 ID:2kYXaSMso
スレを残しとくのもアレなのでうめ
989 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/09/26(月) 02:48:57.02 ID:2kYXaSMso
うめ
990 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/09/26(月) 02:49:52.61 ID:2kYXaSMso
うめ

さや杏とさや恭、どちらも大好きです
991 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/09/26(月) 02:50:27.57 ID:2kYXaSMso
うめ
992 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/09/26(月) 02:51:13.88 ID:2kYXaSMso
アックア☆マギカは無理でもアックア×マギカなら……
993 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/09/26(月) 02:51:44.30 ID:2kYXaSMso
うめ
994 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/09/26(月) 02:52:48.35 ID:2kYXaSMso
やる夫スレやってた時代に公開できなかった異物うめ

                  _ _
                 /r-、 \
        ,/l\, ―-、 ./:::::,ニ'、__〉
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       ./::::::://<二二>〉 l::::::||。- } ,ニ、___
      ../:::::::/人 lSSSl/::/ ̄二ニニrn___ソ____n-、
     ./:::::::人;;;;;; `―´、/|(二二二) ├┼┼┤ 〔SSS-072〕_〕
    /!::::::ム ヾ;;;;;;ィ´ ̄二ニ=― 、___      _ ._     /
    !i::::::/三三ー=ニ__    冫-l´ ̄ ̄l_n| || |}っ__|
    >.〈三三 三三{    テヾ_!_ノ (└ ─‐' ー-=-,=-'
   / ̄ 〉 三三三三 `ソ、_/  `ー―'ニー-― '´ ̄
  ./ X /ニ7 「 ̄|=[ ̄]
 入X./ ―'l . |__!=|_|
995 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/09/26(月) 02:53:56.77 ID:2kYXaSMso
これはひどい出来。頭の輪郭と顔面ひどすぎる

                                        __|二|      γフ_
                   >‐- 、               /_,'二三二l   (    二=- -
                       |___,ニ、l                `ー,‐'´ヽノ、    ヾ( ̄
               O==<ゝ ゛〜',ヽ,ノv― 、              (  r-, .|
              / ̄ ̄ ̄ ̄ゝ<´r;;;;;;;=_ _ヽゞヽ               <^ン / |.^.|
          ヽ__,m、- <_ _`' /  )ソ冫 , '  ̄ ヽ       `ー´  |=ヽ
              `ー―lll[三三lllゞ/三|_/      |,ィ个.. 、         ̄
                       )彡三三| !__二ニ=フ |;;;>,   _> _
                      / [三三]/ `ーニー'´|// /l`Y////、
                       〉      l  .`,ー ≦//_ ! .∨////|
                        |-―-v_/  /l_|三|_ ィ ' /__l_∨///.!
                      _|_,ニ、l   l  ∨三`´l     ∧∨///!
        _ _ _ _ _   ◇二二|__| l三,―、.三三く__//;;∨//!
    0ニ二| [三 三 三 三] ̄ ̄ ̄ ̄)三)二〔   〕;;;;;;;;,  _/三三∨/!
      └─────π=―― tt‐-' ̄ ',    ;;;;;;;;;; _'三三三三l∨
                  ハ     ー――'‐==ニ三三三三三三r‐┬┐
               /  ∨              >―-―=ニ ̄|  | 0
                 /   ∨             /   | l二二l |_|__,!
                              /      ヽ.|    !  /
996 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/09/26(月) 02:56:14.86 ID:2kYXaSMso
作ったは良いがお粗末な出来のローべぇAA。ほんとうな首根っこ掴んでる風にしたかった
ぶっちゃけこれは貼り付けてエフェクトつけただけの手抜きという。やっぱ職人様はすげぇわ

                                                               /\
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              -―‐- 、 __  |    ……お前、少々太りたかしら?   | ト \-―-' 、l|   .┌─┐
         ィ/     ´    \'  ..\                          / . |/,ヽ     ヽ   .└─┘
        //            、\  .レ' ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄...//    (' )  fj
      |、{´    /      |   ハ                    〈^ヽ、_r⌒ヾ.--</ ゝ.     -ヘノ
      l、| / /       |   ! ハヽ                  (  ≧  ̄ |l___/   ノ   T ,へ\= 、
       _|l.∧ {   / /  l/ !__i l l.}'"                   (__>-‐ニフノ     /||     レ y-'.  \))
      /:::.(__;)./ /_/ / //// /}.!                     ` ̄__      / リ | |  |_ノ ゞ≧_ へ
      \:::i!  |/{'"从/,从/ィl豸.| !/i!                    /´ ̄   \ ./=''  l |  ト、 __  〉  ヽ
       ヾ|!、从 ''"~´   !   .从 ∧――‐                 /     ⌒ヽ. / ⌒ヽ._l | / V/ 〉 ししtノ
          |i\、` _   ´   /从 ∧    |              i          〉,|     //7)/ //./
          //" ̄ ´ミ},  凵@,.'| ヽ.从 ∧  .|              ゝ.、     (´ ゝ、 ./ /,,,〉ゝ〈_(/
         /´`ヽ/、__,,_>  ィ´-| 从ヽ 、 ∧  |                ヽ、   _`ヽ `(しノx-ヾ,´
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|: : : : : : : : : : : /'| |乂: : :_: : : : : : : : : :`ヽ、/ | |  | `'l 、: : : : : :_: : :/: : .\                                 /
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 ト、: : : :/: :!/: :./ | | |ゝ: : : : : : : : : : : : : : :.i!. | |  |   |
 {: :ヽ: : : :/: /,| | | | ! l: : : : : : : : : : : : : : : i. | |  |   | / ̄ ̄ヽ
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 ゝニニニ| /、__.川川 i .y': : : : : : : : : : : : : :.∧. \|、__>'__|ニニニ/
997 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/09/26(月) 02:57:05.46 ID:2kYXaSMso
うめ
998 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/09/26(月) 02:57:35.99 ID:2kYXaSMso
うめ
999 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2011/09/26(月) 02:58:02.13 ID:GL92tL+No
>>1000なら>>1が安眠出来る
1000 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/09/26(月) 02:58:02.21 ID:2kYXaSMso
レール☆マギガン

いやないな
1001 :1001 :Over 1000 Thread
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       イレ,、                                                      http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/
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見抜きいいっすか? @ 2011/09/26(月) 01:33:42.05 ID:1XkodvfTo
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A雑@VIPの異界†〜ワルプルギスの夜〜 @ 2011/09/26(月) 00:59:50.51 ID:uCfoewoy0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1316966390/

女がさっきいたところを通れば間接的にセクロスしたことになるとかいうけど @ 2011/09/26(月) 00:56:54.53 ID:jtLSrVMSO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1316966214/

テッラ「安価で女の子のスカートを捲りたいですね〜」上条「おい」 @ 2011/09/26(月) 00:54:41.76 ID:rfk5hMWc0
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長門「おいキョン」 @ 2011/09/26(月) 00:50:40.94 ID:ZVVMloSSO
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杜山しえみ「私、今日から聖騎士目指す!」奥村兄弟「ええっ!?」 @ 2011/09/26(月) 00:29:19.14 ID:BajC8NsR0
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ドン引きしたスレタイあげていこうぜ @ 2011/09/26(月) 00:24:11.47 ID:WPW2NNU0o
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∞(*‘ v‘*)η…鳩 五羽目 @ 2011/09/26(月) 00:18:19.32 ID:u1QoPNCDO
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