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1 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/05(金) 23:40:48.62 ID:EVTyJ9Rx0
○注意事項
・魔法少女まどか☆マギカ元ネタのSSです
・時間軸は本編の次のループです
・キャラ崩壊、苦手な展開などあるかもしれませんがご容赦を。基本シリアス
・いつものごとくhtml化なら自分でしますのでご心配なく
・不定期更新、最低でも一週間に一度は……
・ほむらちゃほむほむ
1.5 :
荒巻@管理人★
(お知らせ)
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ぶらじる @ 2024/04/19(金) 19:24:04.53 ID:SNmmhSOho
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旅にでんちう @ 2024/04/17(水) 20:27:26.83 ID:/EdK+WCRO
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木曜の夜には誰もダイブせず @ 2024/04/17(水) 20:05:45.21 ID:iuZC4QbfO
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いろは「先輩、カフェがありますよ」【俺ガイル】 @ 2024/04/16(火) 23:54:11.88 ID:aOh6YfjJ0
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【MHW】古代樹の森で人間を拾ったんだが【SS】 @ 2024/04/16(火) 23:28:13.15 ID:dNS54ToO0
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こんな恋愛がしたい 安部菜々編 @ 2024/04/15(月) 21:12:49.25 ID:HdnryJIo0
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【安価・コンマ】力と魔法の支配する世界で【ファンタジー】Part2 @ 2024/04/14(日) 19:38:35.87 ID:kch9tJed0
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アテム「実践レベルのデッキ?」 @ 2024/04/14(日) 19:11:43.81 ID:Ix0pR4FB0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713089503/
2 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/08/05(金) 23:41:56.27 ID:thlz84+ro
マミさんマミマミ
「改変後」じゃないのね 期待
3 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/05(金) 23:42:52.71 ID:EVTyJ9Rx0
chapter0 終焉と再演のコンタクト
4 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/05(金) 23:43:41.58 ID:EVTyJ9Rx0
「……あの、大丈夫ですか?」
心配そうな声。
聞き覚えのある声。
何度も消えてしまった、あの声。
まどかの、声。
ほむらが思考の海から引き戻されるには、十分な衝撃だった。
俯いた顔を上げ声の方を向くと、桃色のツインテールが見えた。
「えっと、調子が悪いなら―――」
「結構よ」
きっぱりと断ると、あぅ、と目の前の少女は肩を落とした。
我ながら冷たいな、と思ったが、仕方がない。
ほむらも混乱しているのだ。
どうしてここにまどかがいるのか。
まずは、ここまでの自分の行動を思い出す。
5 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/05(金) 23:44:53.70 ID:EVTyJ9Rx0
まず、自分は再び時間を遡った。
まどかの因果が増えようと、状況が悪化しようとも、
何か行動しなければ、自分の全てが崩れてしまいそうだったから。
目覚めてすぐ、病室を抜け出した。
とにかく、その状況から抜け出したかったから。
そういえば裸足のままだな、と思ったが、些細なこととして無視した。
しばらくふらふらと歩いたあと、手近な公園のベンチに腰掛けた。
そのまま物思いにふけって―――今に至る、ということか。
だが、それは朝の出来事だ。
今は空もだんだんと赤くなって、夜を迎え入れようとしている。
考えるだけでここまで時間を潰したことに、少し自嘲した。
悩んでいる時間は無いというのに。
そんなことでは、また同じ結果になるだけだというのに。
6 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/05(金) 23:45:54.27 ID:EVTyJ9Rx0
ふぅ、と小さく息を吐くと、まどかが慌てた。
「……別にあなたに呆れたり、怒っているわけじゃないわ」
「え、あ、そう……なんだ」
考えていることを見透かされたからか、さらに戸惑ってしまう。
さて、どうするべきだろうか。
転校初日まで会わない予定だったが、もう会ってしまった。
ならば逆に、この状況を利用するしかない。
「……暁美ほむら」
「え?」
「私の名前」
「あ、うん……わたしは鹿目まどか、です」
自信なさげな様子は、本当に昔の自分のようだった。
7 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/05(金) 23:47:05.90 ID:EVTyJ9Rx0
「あなたに、一つだけ忠告しておく」
「忠告……?」
「……近いうちに、あなたは非日常の世界に踏み入れることになる。それでも自分を失わないで。あなたはあなたのままでいて。」
「それって……?」
疑問の言葉に、返答はしなかった。
どうせ今話しても、理解されるはずがない。
理解できなくても無理はない。
突然見知らぬ他人から、魔法と言われても信じられるわけがないのだ。
くる、と背を向けた。
自分はまだ退院していないのだから、病院へと戻らなければならない。
一歩踏み出すと同時、まどかが声をかけてきた。
「お、送っていくよ!」
8 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/05(金) 23:48:18.37 ID:EVTyJ9Rx0
保険係としての使命とか、そういうものだろうか。
病人の服を着て裸足で歩く自分は、彼女には弱々しく見えたのだろうか。
もしかしたら、まだ直していない髪形と眼鏡のせいかもしれない。
ともかく、断っても退かなかった。
こういう時だけは押しが強い。
「え、っと……暁美、さん」
「ほむらでいいわ」
「あ、うん……ほむらちゃんってさ、なんていうか……こう、かっこいい名前だよね!」
「……昔、友達に同じことを言われたわ」
ある意味、未来の出来事ではあるのだが。
ほむらの主観では、昔というのが正しかった。
「えっと、ほむらちゃんってね」
「……何かしら」
「わたしと、どこかで会ったことがあるの?」
9 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/05(金) 23:50:31.27 ID:EVTyJ9Rx0
ぴく、と思わず反応してしまう。
『前回』もたしか、こんなことを言っていた気がする。
時間を何度も繰り返し、因果の糸がまどかに集中したのが原因なのだろうか。
魔法少女としての素質と共に、断片的な記憶も引き継いでいるのだろうか。
そうだとしても、このまどかは違う。
魔女の結界に迷い込んだ私を助けたことはない。
共に戦ったこともない。
そして、まだ死んではいない。
まだ、人間として生きている。
10 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/05(金) 23:53:02.12 ID:EVTyJ9Rx0
「……ないわ。だけど、未来なら知っている」
「未来……?」
また謎が深まって、うんうんとまどかが唸っている。
そんな様子に、くす、と小さく笑みが漏れた。
「ともかく、そのままの自分を大切にして……あなたを大切に思っている人の事を考えて、ね」
「……うん。あのね、ほむらちゃん」
「何?」
「わたしなんかで良かったら……いつでも助けになるからね」
一瞬、躊躇した。
ここで甘えてしまえば、また同じような結果になってしまいかねない。
それでも、
いつの間にか、ありがとう、と小さく呟いていた。
11 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/05(金) 23:54:27.95 ID:EVTyJ9Rx0
「……着いたわ。もういいわよ」
「……うん」
少しだけしか話せなかったからか、寂しそうな声だった。
そのまま病院に入ろうとして、振り返る。
「……ああ、そうそう」
三つ編みが揺れるのが、なんとなく懐かしい。
最近はずっとほどいていたからだろう。
「退院したら、あなたの学校に編入することになってるから」
「え、そう……なんだ」
す、と手を差し出す。
おずおず、とまどかがそれを握り返した。
「……これから、よろしく」
うん、と頷いたまどかの手の感触が何故だか嬉しくて、少しだけ涙が零れそうになった。
12 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/05(金) 23:57:54.64 ID:EVTyJ9Rx0
導入部なのでここまでです
しかし」の前に。は要らない、初っ端からミスェ……
次回からのチャプターごとの長さはもっと長くなるはず
そうでないと短すぎるんだぜ
それではまた
13 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/08/06(土) 00:01:12.03 ID:rf3wtWAb0
乙!期待して待ってます
14 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/06(土) 00:01:46.82 ID:Jnjtlatso
乙
結構好みの雰囲気だ。期待
15 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/08/06(土) 00:04:21.34 ID:Z8iTfUfno
乙乙ー!
本編1話みたいに謎の黒髪の少女がワルプルギスの夜にボコられるのと「夢の中で会って」るんだろうか このまどかちゃんは
16 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)
[sage]:2011/08/06(土) 00:15:37.89 ID:WbTPXOdao
まどかの因果がさらにやばいことに……
17 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/08/06(土) 00:16:48.92 ID:1YE0M2KW0
乙ー!
18 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/06(土) 06:04:53.59 ID:mT3liQPIO
濃厚まどほむ期待
19 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/06(土) 22:51:35.75 ID:0XqhaUOe0
chapter1 邂逅と共演のヒロイズム
20 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/06(土) 22:52:19.17 ID:0XqhaUOe0
「まどかと転校せ……ほむらが、ねぇ。何の巡り合わせなんだか」
ずずず、とジュースを飲み干しながらほむらとまどかを見比べるさやか。
結局、今までと特に変わることなく転校初日の学校は終わった。
特筆することと言えば、『前回』と違い、美樹さやかと志筑仁美との距離が近いことだろう。
「さあ? 偶然としか言えないわ……人の出会いって、そんなものじゃないかしら」
「まぁ……なんだかほむらさんって、ロマンチストなのですわね」
「ロマンチスト……かぁ?」
相変わらず仁美の思考はわからない、と思っているのだろうか。
そういう心理がわからないから、いつも上条恭介を取られているのかもしれない。
「うーん……ほむらちゃん、一つだけ気になったんだけど」
「……何かしら?」
「今日は三つ編みと眼鏡、してないんだね?」
21 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/06(土) 22:53:29.02 ID:0XqhaUOe0
「三つ編みと……」
「眼鏡……?」
ぽかん、と口を開けたままのさやかと仁美に、まじまじと顔を見られる。
「そんなに、意外かしら……?」
「いやいや意外っていうか! ほむらがそんな格好してるイメージが湧かないってーの!」
「まどかさん、その時のほむらさんはどんな感じでしたの?」
「うーん、なんていうかね……」
まどかがなんとなく嬉しそうなのは何故だろう。
他人の秘密を自分だけ知っているという優越感からだろうか。
「今のほむらちゃんはクールでかっこいい感じだけど、その時は……可愛くて、守ってあげたい小動物みたいな?」
「ま、守ってあげたいぃ!?」
さやかが素っ頓狂な声を出しているが、驚いているのはこちらもだ。
あの頃の自分は契約前のまどかから見ても弱々しいのか。
22 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/06(土) 22:54:55.37 ID:0XqhaUOe0
「はぁ……私、わかりましたわ」
「わかった、って……何が?」
「ええ、気付いていましたのよ。ほむらさんのまどかさんを見つめる優しい視線にも、まどかさんの熱い眼差しにも……」
仁美にそんな洞察眼があったのか、と思ったが、視界の端で呆れているさやかを見て違うな、と感じた。
「二人は、運命で結ばれていますのよ!」
「……いや、そういうのじゃないから」
はぁ、となんだか馬鹿らしくなって溜息が出た。
ちら、とさやかが目配せしてくる。
仁美はこういう奴なんだ、と言いたいのだろう。
とりあえず頷いておいた。
「わかっていませんわね、さやかさん……禁断の愛こそ至高! 素晴らしいものですのよ! そうでしょう、まどかさん?」
この暴走はどうやって止めるべきか、と思案する。
だが、それはすぐに打ち切られた。
「……うん、わたしもそう思うよ」
23 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/06(土) 22:56:00.09 ID:0XqhaUOe0
「ぶふぅっ!?」
思わず吹き出してしまった。
ストロー付きで残りが少なかったので、惨事を防げたのは幸いだ。
「ちょ、ちょっとほむら? キャラ崩れてきてるよ……ってーかまどか、それってマジ?」
「え、駄目……かな?」
「い、いや、別にそういうわけじゃないけど……」
きらきら、と潤んだ目で見つめられて、さやかが戦いを放棄する。
確かにそれは抗えないな、と納得した。
「ほむらちゃんは、嫌……?」
矛先がこちらに向いた。
ごく、と口内の水分を嚥下する。
潤んだ瞳。
赤く染まった頬。
柔らかそうな唇。
それに艶めかしさを感じて―――
24 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/06(土) 22:57:42.83 ID:0XqhaUOe0
強引に、顔を逸らした。
きっと今、自分は耳まで真っ赤だろう。
残念な様子の仁美に、多少の憎らしさを感じた。
「……ほむら、ちゃん?」
「まどか、いくらなんでも同性で、こんな……」
「そっか……ほむらちゃん、わたしのこと嫌いなんだ……」
しゅん、と犬耳が垂れるような幻覚さえ見えた。
がし、とその手を握って必死にフォローする。
「そ、そうじゃないわ! 別に、あなたとは仲良くしたいと思ってるし、その……」
「おおっ、ここでツンデレ! どこまで萌え要素を増やすつもりだー!?」
外野がうるさい。
というか、これはツンデレなんだろうか。
「……いくらなんでも、れ、恋愛関係というのは、発展しすぎではないかしら」
「え……? お友達、っていう意味だったんだけど」
「……えっ?」
25 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/06(土) 22:59:07.87 ID:0XqhaUOe0
顔を見合せたまま、固まった。
そう、まどかは良くも悪くも純粋だ。
こういう紛らわしいことも前からあっただろうに。
「そう、友達……友達なら、問題無いわ。私だって、そうありたいと思ってるし……」
「そっか、嬉しいな……でもね、ほむらちゃん」
至近距離までまどかが近付く。
ふわ、と甘い香りが広がって、眼前には上目づかいのまどか。
「わたし、ほむらちゃんとなら……いいよ?」
待て。
待て待て待て。
何が『いい』というのか。
「だって、ほむらちゃんってかっこいいし、それでいてかわいいし……」
「いいですわまどかさん! もう少しですのよ!」
仁美はもう黙っていてくれないだろうか。
というか彼女は一体何と戦っているんだろう。
26 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/06(土) 23:00:12.57 ID:0XqhaUOe0
「あ、あー! そういや仁美、そろそろ習い事じゃない?」
「あら……まったく、今いいところですのに」
ナイスアシスト、さやか。
これでなんとか巻き返せそうだ。
「それではひとまず失礼します、が……明日にも結果を教えてくださいね!」
随分と活き活きしている。
彼女こそこういうキャラだっただろうか。
ひとまず、まどかに向き直る。
「落ち着きなさい、まどか……言ったでしょう。あなたはあなたのままでいてほしいと」
「でも……」
「……何にせよ、会ってすぐにそういう関係はおかしい。とりあえず、お友達からでお願いするわ」
「うぅん……そう、だね」
27 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/06(土) 23:01:09.13 ID:0XqhaUOe0
ふぅ、と小さく息を吐く。
本当にまどかは流されやすい。
このまま誤魔化そう、とさやかに視線を送る。
あちらも了解したのか、小さく頷いた。
彼女は案外頼りになるものだ。
「ねぇ、二人とも……帰りにCDショップ寄っていい?」
「うん、いつものだね……ほむらちゃんも行こ?」
「えぇ、そうね」
ガタン、と椅子を引いて順々に立ち上がった。
テーブルの上に残ったごみを片付けてそこから退去する。
まどかの分も捨ててあげると、礼を言われた。
28 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/06(土) 23:02:37.47 ID:0XqhaUOe0
ウィイン、と自動ドアを越えれば、流行りの曲が流れている。
ずっとこの一カ月を繰り返している自分にとっては、もう聞き飽きたものなのだが。
すたすた、とさやかが同年代の寄りつかなさそうなコーナーに入っていく。
恐らく、ヴァイオリンの演奏を収録したCDばかりの場所だろう。
ヴァイオリニストの上条恭介に渡すのでなければ、さやかがそこにいるのは妙な光景だ。
さて、どうしたものか。
『前回』通りなら、この辺りで仕掛けてくるところだ。
けれど、今自分はここにいる。
インキュベーターを襲ってはいない。
助けを求める、という手は使えないはずだ。
だとしたら、偶然を装って出会うつもりだろうか。
否、そもそも才能があると言って声をかけても不自然ではない。
何にせよ、対策はしておかなければいけない。
「――――――ほむらちゃん?」
訝しげなまどかの顔が、眼前にあった。
ずっと自分を呼んでいたのだろうか。
29 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/06(土) 23:03:47.71 ID:0XqhaUOe0
「……ごめんなさい、考え事をしていて」
「あ、そうなんだ……この曲とってもいいと思うんだけど、どうかな?」
ぽん、とヘッドホンを渡された。
彼女の趣味からして、演歌だろうか。
それとも、流行りの新曲だろうか。
耳に当てると、聞き覚えのないメロディが流れてきた。
演歌でもなく、どうやら新曲でもあまり注目されていないもののようだった。
約束を忘れない。
未来の為に、走り続ける。
そういう歌詞が紡がれていた。
自分は約束を守れるのだろうか。
未来を勝ち取ることができるのだろうか。
不安な心中を隠すために、ヘッドホンを外し、ふぁさ、と髪を揺らした。
「……いい曲ね。なんだか元気をもらえそう」
「だよね! 買っちゃおうかなぁ……」
30 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/06(土) 23:04:43.87 ID:0XqhaUOe0
「よっすお待たせ! 二人は何か買うのー?」
すでにレジで会計を済ませたらしく、さやかが元気に声をかけてくる。
「んー、わたしはもういいよ」
「……さっきのは買わないの」
「あー、今ちょっと持ち合わせが無くて……」
あはは、と頭を掻いた。
まどかのことだから、貸してあげようと言っても断るだろう。
だから、そう、私もいいわ、と言って、出口に向かった。
ウィイン、と再び自動ドアを越え、外の世界に踏み出す。
陽は少し傾き始めて、茜色の空とは言わないまでも、夜は近付いていた。
31 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/06(土) 23:06:10.36 ID:0XqhaUOe0
「いやー今日は収穫だったよー、珍しいCDが並んでてね、今しかない! って思ってさ」
「ふふ、愛のなせる運の良さだね」
「な、ちょっ……まどかー!」
頬を赤く染めながら、唇を尖らせるさやか。
満更でもなさそうな辺り、恋愛について話すのは好きなのだろうか。
「……あ、ほむらちゃんは知らなかったね。さやかちゃんは上条くんって人にべた惚れなんだよ」
「んなっ……だからー、恭介はただの幼馴染だって!」
「……そんな顔で言われても、説得力が無いわよ」
「うぐぅ……」
心の中を見透かされ、何も言えなくなってしまう。
そんなさやかに少しだけ微笑みが漏れると同時、
空気が、空間が変質した。
32 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/06(土) 23:07:25.08 ID:0XqhaUOe0
「――――――ッ!!」
どうしてこの場所、このタイミングで。
まさか、まどかの資質に惹かれてやってきたとでもいうのだろうか。
考えているうち、景色が変わっていく。
コンクリートの地面が、禍々しい色使いに変わっていく。
「ひ、な、何、これ……?」
「あ、あわわ……」
妙なヒゲを生やした怪物が、津波のように押し寄せていた。
迷っている暇はない。
「―――二人とも、そこから動かないで!」
「で、でも……」
「問題ないわ……この程度、敵じゃない!」
ぱぁ、と指輪から光が生まれた。
紫色のそれがほむらを包み、形成する。
その装束を、その盾を。
「……行くわよ」
背後で、感嘆と驚愕の声が聞こえた。
33 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/06(土) 23:08:39.62 ID:0XqhaUOe0
まずは、ハンドグレネードを2つ、連続で放り投げる。
数秒遅れて、爆音と、爆風。
十数体は巻きこめただろうか。
だが、まだ残っている。
盾からミニミ軽機関銃を取り出し、安全装置を外す。
まどかとさやかを背にしながら、広範囲にばら撒く。
それでも、ある程度狙いは定めている。
打ち抜かれ、ずたずたになった沢山の使い魔の残骸が、瞬時に形成された。
残り一体、というところで、標的が飛びかかってきた。
接近戦に持ち込んでも問題ないが、必要性を感じない。
迎撃しようと照準を向けると同時、
ぱん、と乾いた音が響いた。
34 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/06(土) 23:09:31.92 ID:0XqhaUOe0
直後、最後の使い魔が撃ち抜かれ、吹き飛ぶ。
「……この、攻撃は」
くる、と銃声の方に顔を向けた。
使い魔が全滅して、景色が戻っていく。
「あらあら……」
銃声の主の手元にあったマスケット銃が、消え去る。
見る者に、黄色のイメージを持たせる容姿。
昔、幾度となく世話になった人。
「初めて見る顔ね……後ろの子の服装からして、見滝原の生徒かしら?」
「あ、あの、あなたは……?」
「……私は巴マミ、あなたたちと同じ魔法少女よ」
そして、と少しかがむと、小動物が手に乗った。
その姿に、ぎり、と歯ぎしりをした。
「この子……キュゥべえと契約した、魔法少女よ」
35 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/06(土) 23:10:13.12 ID:0XqhaUOe0
「そう、魔法少女……さっきの使い魔のような存在と戦う者のことさ」
「しゃ、喋ったぁ!?」
驚くのも、まあ無理はないだろう。
事前情報なしに見れば、ウサギや猫に近いものに見えなくもない。
ただ、よく見ると奇妙な姿なのだが。
「さて、そこの君はすでに契約してるようだし……鹿目まどか、美樹さやか。君たちにお願いしたい」
「お願い……?」
「って、何の?」
分かっている。
その先は、何度も聞いた。
「僕と契約して、魔法少女になってよ!」
36 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/06(土) 23:11:15.41 ID:0XqhaUOe0
「駄目よ」
「ばっさりと切るね……」
即答、というわけではない。
一度マミの家に場所を移し、魔法少女について説明した後だ。
その後、キュゥべえが勧誘を始めたところで第一声がコレである。
「願いが叶うと言っても、その代償は大きい。自分の魂を差し出す覚悟でも無いと、ね」
事実、魂を差し出すことになる。
その上、呪いを撒き散らす異形になりかねないのだ。
どんな理由があろうと、契約を勧めることはできない。
「……でも、ほむらちゃんは契約したんだよね?」
おずおず、とまどかが聞いてきた。
中々に痛いところとを突かれたが、その表情を見る限り、心配してくれたらしい。
「しなければ、私は今ここに居なかった……そういうことよ」
「……それって」
「きっと、あなたの想像通りよ」
37 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/06(土) 23:12:17.77 ID:0XqhaUOe0
そうなんだ、と答えるまどかの顔は沈んでいた。
彼女は他人の過去の悲劇も心から悲しめるほど、優しい。
それを絶対に守ろうと拳を握りしめながら、マミに向き直る。
「……そういうわけで、新人の受け入れは無しの方向でお願いするわ」
「別に構わないわ。そう簡単に決めていいものでもないし……」
ふふ、と不快な様子もなく、微笑んだ。
友好的な魔法少女と会えたことが嬉しいのかもしれない。
「それじゃ、明日の放課後からは合同で魔女退治をしましょうか」
「そうね……その方が、きっと効率も良くなるわ」
実際は、悪くなるのだろうが。
マミも自分も、ワルプルギスの夜以外なら単独で倒すことができる。
グリーフシードの分け前も減るはずで、非効率の典型といえた。
38 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/06(土) 23:14:19.47 ID:0XqhaUOe0
――――――――――――――――――――――――――
「―――ティロ・フィナーレ!」
だが、結局共闘することにした。
聞き慣れた掛け声が、嬉しそうな声色で響く。
暗闇に光が炸裂し、使い魔が弾け飛んだ。
最初のころは、自分も必殺技を考えたものだ。
まどかと一緒にノリノリで。
今となっては恥ずかしいものだが。
「いやー、やっぱ二人ともかっこいいなー」
「ほむらちゃん、マミさん、お疲れ様」
二人は付いてきた。
魔法少女体験コースを開くまでもなく、心配だと言って無理矢理に。
「もう、遊びじゃないのよ? 危ないことなんだから……」
「わかってますよー」
「……言っても無駄よ、巴さん」
39 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/06(土) 23:15:27.73 ID:0XqhaUOe0
敵対していない状況でフルネームはまずいだろう、と思って元の呼び方に戻した。
むしろ、この方が呼びやすい気がする。
「しっかし、グリーフシードっていうの落とさないねー。これじゃあ骨折り損じゃない?」
「使い魔ばかりだからね。しかし、人を襲うことに変わりはないから、放置はしておけないのさ」
そこで、かすかな違和を感じた。
何かがおかしい。
何か、些細なことかもしれないが、見落としている気がする。
パズルのピースがひとつ、抜け落ちたような。
「……ほむらちゃん?」
はっ、と顔を上げた。
「また、考え事?」
「ええ、ごめんなさい……」
「別にいいよ、わたしは無理矢理付いてきてるんだし」
40 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/06(土) 23:16:15.21 ID:0XqhaUOe0
「……もう遅いわね、皆帰らないと」
辺りは真っ暗だ。
まどかの親なら日をまたいでいないにしろ、心配するかもしれない。
「家まで送るわ、まどか」
「うん、ありがとね、ほむらちゃん」
「それじゃ、美樹さんは私が送っていくわね?」
「いえーす! 了解しましたっ!」
彼女の元気はどこから来ているのだろうか。
その元気が、いつまでも続くといいのだが。
はぁ、と溜息を吐いて、まどかの手を握った。
にっこり、と微笑んできたので、自分もできる限りの笑顔で応えた。
41 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/06(土) 23:19:26.59 ID:0XqhaUOe0
今回はここまでです
チャプターごとに投下するので、一回でこれくらいになります
頻度は多分落ちるけどね
しかし日常パート書くと無意識的に百合るのはなんでだろうね
溜まってるのかね
さてさて、次回の更新はいつになるのか
それではこの辺で、また次回
42 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/08/06(土) 23:31:55.14 ID:rf3wtWAb0
乙〜!
43 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(大阪府)
[sage]:2011/08/06(土) 23:58:34.35 ID:JmsX37hlo
もう結婚しちまえよまどほむ
乙
44 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/07(日) 02:35:55.92 ID:lTFrif/eo
乙乙
百合は無意識なのか、素晴らしい。
45 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/07(日) 05:07:04.66 ID:BNhzkKyno
乙
本編の絡みが非日常過ぎたからねえ
視聴者脳で吊り橋効果がガッツリ形成されてるのかもしれない
46 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/07(日) 09:12:06.67 ID:pwREZSN8o
おつおつ
もっと百合百合してもいいのよ……?
47 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(四国)
[sage]:2011/08/07(日) 09:32:32.75 ID:xtDP5L1AO
乙乙
あれ……なんか不穏な空気が……?
48 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/07(日) 18:33:56.12 ID:RIID+NAho
乙です。
今のところ順調だが、ほむらの違和感が気になるな。
49 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/08(月) 19:53:28.00 ID:a1DidDzG0
「それでさー、ほむらったらあたしのこと見捨ててまどかだけ抱えて行っちゃったんですよ!」
さやかが何やら喚いている。
虎の構えでもして威嚇しているようだが、ねこパンチの準備段階にしか見えない。
「あなたは重い。まどかは軽い……二人も抱えて教室に駆け込むのは無理よ」
「なっ……人が気にしてることをぅ……っ!」
きーっ!と今度はハンカチを噛んでヒステリーを起こしている。
放っておいたら百面相でも見せてくれそうだ。
「でも、元はと言えば、寝坊したさやかちゃんが原因だと思うな……」
「うぐっ」
ぐさ、と見えない刃が突き刺さったかのようにのけ反った。
「駄目よ美樹さん。昨日は遅く帰ったからって、それで実生活に支障をきたしちゃ……」
「ぐはっ……」
どさ、と屋上の床に倒れ込み、びくんびくんと地上でのたうちまわる魚のように跳ねる。
将来はリアクション芸人を目指してはどうだろう。
50 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/08(月) 19:54:08.65 ID:a1DidDzG0
「仕方ないわね……はい、あーん」
「ん……あむっ」
差し出された卵焼きをむぐむぐと頬張って、ビシィ!と立ち上がる。
「やっほいマミさんの卵焼きサイコー! 口の中で甘みが広がってティロ・フィナーレしそうー」
「……表現がおかしいけれど、お褒めにあずかり光栄、ね」
でも、ティロフィナーレはあんまり弄らないでほしいかな、と小さく呟いていた。
戦い以外ではあまり使いたくないらしい。
「マミさんもだけど、ほむらちゃんも自分でお弁当作ってるんだよね、すごいなぁ……」
「……作ってくれる人がいないから、仕方なくよ」
瞬間、空気が一気に重くなった。
どうやら、地雷を踏んだと思わせてしまったらしい。
別に今更気にしていないのだが、と自分の卵焼きを見た。
51 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/08(月) 19:55:59.41 ID:a1DidDzG0
「……まどか」
「え、何?」
「あーん」
何故かいきなりガバァ!とさやかが驚愕のポーズをとり、マミが口に手を当ててあらあらまあまあと言っている。
まどかに至っては顔を赤く染め、視線をあらぬ方へ彷徨わせている。
「まどか?」
「あぅ……うん」
答えて、口を開ける。
一瞬、頬を染めて口の中への侵入を待つ姿に、妙な想像をしてしまった。
それを振り払い、す、と卵焼きを差し出した。
んむ、と食べる様子にリスのような印象を受ける。
52 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/08(月) 19:56:44.68 ID:a1DidDzG0
「ん……ほむらちゃん、これってだし巻き玉子?」
「ええ……嫌いだった?」
「ううん、とってもおいしいよ」
ふふ、と花の咲くような笑顔に、こちらも嬉しくなって微笑む。
「くっそー何この甘い空間! 付き合い始めのカップル? 新婚家庭の食卓?」
「……そういうものじゃなくて」
「ほむらちゃんが新妻なんだよね!」
「な……まどかっ!?」
それにしてもこのまどか、ノリノリである。
なんだか妙にテンションが高いが、友達が増えればこんなものか、と納得した。
友達、という響きが愛しくて、口の中で言葉を転がした。
53 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/08(月) 19:57:50.70 ID:a1DidDzG0
「いいもんあたしにはマミさんがいるし! というわけでマミさん、あたしに毎朝厚焼き玉子を食べさせてください!!」
「……ふふ、もう少し規則正しい生活ができるようになったら、ね?」
「いえっさぁ! マミさんを嫁にもらえるならそのくらいの苦労は朝飯前ですって!」
くすくす、とマミが可笑しそうに笑っている。
まどかやさやかから見れば、嫁入りすればきっちりと旦那を世話してくれるイメージだろう。
だが、自分から見れば隙を見ては甘えていそうなイメージだ。
孤独の反動で、幸せになった時には他人を強く求めるだろうから。
「でも、美樹さんも鹿目さんもきっと、このくらい作れるようになるわ」
「ええー? 無理ですよぉ」
「そうですよ……わたしも練習してるんですけど、中々上達しなくって」
54 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/08(月) 19:58:42.09 ID:a1DidDzG0
「それじゃ、今度の休みに料理教室を開こうかしら……ね?」
ぱち、とこちらに向けてマミがウインクを飛ばしてきた。
さすがにウインクは恥ずかしいので、微笑みで返す。
「そうね……ある程度は作れないと将来困るわけだし」
「決まり、ね。講師は私と暁美さん……おいしい料理を作りましょ」
「わっかりましたー! マミさんに近づけるよう、がんばっちゃいますからね!」
「はい……ほむらちゃん、よろしく、ね?」
「……ええ、きっとあなたなら大丈夫」
手に触れてきたので、握り返す。
柔らかな感触が心地良い。
55 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/08(月) 19:59:25.23 ID:a1DidDzG0
「ふっふ〜ん……ほむらさぁ、まどかの手料理が食べられると思ってテンション上がってない?」
「……否定はしないわ」
思えば、これまでそういうことがあっただろうか。
弁当のおかずを交換したことはあるが、あれはまどかが作ったとは限らない。
むしろ、父親が作ったという方があり得るだろう。
「茶化さないの……仲が良いのは、いいことよ」
感慨深げに、マミが微笑んだ。
彼女にとって、それがどんなに大切なことであるか。
わかっているからこそ、口にしない。
傍に居てくれる人がいる。
それだけで、幸せだろうと思うから。
56 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/08(月) 20:01:58.71 ID:a1DidDzG0
さてさて、途中まで投下したけどここで小休止だ
まだ今日の分は残ってるからしばらくしたら投下する
さて、何人気付いたかな?
57 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/08(月) 20:10:25.76 ID:Tt34TTIo0
一旦乙ですたー
58 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/08(月) 20:18:52.74 ID:oYVnX0yUo
新婚すぎワロタ
59 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/08(月) 21:01:08.60 ID:a1DidDzG0
「……あら?」
病院特有の、殺菌だか消毒だかの臭いに包まれながら座っていると、美樹さんが戻ってきた。
うー、と頭を不機嫌そうに掻いている。
「随分早いけど……会えなかったの?」
「都合が悪いってことらしくて……なんだか失礼しちゃうーっ」
むぅ、と頬を膨らませているのが微笑ましい。
くす、と自然に笑ってしまった。
「仕方ないわ……命にかかわる怪我でもないなら、また会えるから大丈夫よ」
「そうですけど……」
「ふふ……美樹さんってば、そんなにその子が好きなのね」
「なっ……だから、そういうのじゃないですってばー!」
60 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/08(月) 21:02:04.18 ID:a1DidDzG0
くす、とまた笑って、鞄を後ろ手に持ちながら立ち上がる。
「それじゃ、帰りましょう? また明日来ればいいわ」
「ん、そうですね……帰りますか!」
ウィイン、とドアが開いて外に出れば、病院特有の空気から解放される。
春の陽気は心地良い。
美樹さんのように、授業中に居眠りするのはいただけないが。
「そういや料理教室、何作りますー? 材料も用意しなきゃいけないし早めに決めといた方がいいと思うんですけど」
「うーん……とりあえず卵焼きは確定として……ああ、材料は私が揃えておくからいいのよ」
「えぇっ、そんな、悪いですよー! こういうのは皆で割り勘でしょ!」
別に構わないのだが。
そもそも、誰かと一緒に居たいからこんなことをしているんだ。
決して、彼女たちのためではないのだ。
61 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/08(月) 21:03:06.86 ID:a1DidDzG0
けれど割り勘、という仲間で協力し合うような響きに惹かれた。
「そうね……ありがとう。それじゃ、明日にも買う材料を決めておくわね」
「了解しましたっ!」
びしぃ、と敬礼する姿が可愛らしい。
こんな健気な後輩を持てて、幸せ者だ。
魔法少女になってから、ずっと一人だった。
けれど、共に戦ってくれる人と会えた。
本当に守りたいと思える『友達』を持つことができた。
破格の幸せだ。
一度死んだようなものなのに、ここまで恵まれているなんて―――
「あれ? 向こうで何か光って……」
62 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/08(月) 21:04:04.39 ID:a1DidDzG0
声につられ、美樹さんの指し示す方向を見る。
「……グリーフシードッ!?」
よりによってこんなところに。
結界は出来上がっているようだが、ソウルジェムの反応からして魔女は孵化していないようだ。
声を聞いて、美樹さんが慌てている。
この病院には彼女の想い人がいるのだから、当然だろう。
「マミさん、たしか病院に取りついたりしたらヤバいって―――」
「ええ、放ってはおけない……行くわよ!」
ぎゅう、と手を握って、結界に飛びこんだ。
そこに生まれた絆を、手放さぬように。
63 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/08(月) 21:05:05.87 ID:a1DidDzG0
「っは……ほむらちゃん、速いよ……」
「ごめんなさい……でも、急がないと!」
走る、走る。
まどかが息を切らしているが、さすがに今は構っていられない。
今日はあのお菓子の魔女が出現する日。
『前回』、否、幾度となくマミを殺した魔女。
さやかがマミと先に帰ったと聞いて、背筋に冷たいものが走った。
もしかしたら世界が、運命というレベルでその結末を望んでいるのか。
暗い想像を断ち切るため、ぶんぶんと首を横に振る。
そんなことを考えてどうする。
自分にできるのは、全力でそれに抗うことだけだ。
64 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/08(月) 21:06:06.71 ID:a1DidDzG0
「見えた……!」
病院がようやく視界に入る。
この分なら、数分とかからず到着できるだろう。
ふぅ、と小さく息を吐く。
だが、走る速度は緩めない。
まどかと繋いだ手を、強く握る。
そうして、また一歩踏み出して―――
かつん、と背後で軽い音がした。
65 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/08(月) 21:07:10.05 ID:a1DidDzG0
ぞわ、と嫌な予感がした。
振り返った。
振り返らねばならないと、大きな意思に強制されたように。
「どう、して……」
疑問と混乱。
先ほどまで存在していなかったソレ―――魔女の卵が、確かにそこにあった。
直後、世界が変わっていく。
覆われていく。
グリーフシードが結界に自分たちを閉じ込める。
「こ、これって……」
不安げなまどかの声。
思わず、彼女を引きよせた。
66 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/08(月) 21:08:07.39 ID:a1DidDzG0
「……まどか、私から絶対に離れないで」
「う、うん……」
ぎゅうぅ、と握り返してくる体温を感じながら、自分の力を解放した。
紫の光。
それが、盾と装束を形成する。
なんとなく、理解した。
あの時感じた違和の正体。
そう、あの時すでにグリーフシードを得ているはずなのだ。
廃ビルにて、薔薇園の魔女を倒していなければいけないのだ。
そうして、今形成されたこの結界。
間違いなく、薔薇園の魔女のもの。
こんなことができるのは、奴しかいない。
こんなことをしようとするのも、奴しかいない。
「インキュベーターっ……!」
67 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/08(月) 21:09:05.69 ID:a1DidDzG0
「……あの、マミさん」
背後の美樹さんが話しかけてきたので、ゆっくりと振り向いた。
「あたし、魔法少女になろうと思うんです」
「……いいの? 後悔するかもしれないわよ?」
その問いかけにも、ふるふる、と彼女は首を横に振ってみせた。
「いいんです……あたし、マミさんみたいに、皆を守りたいんです」
正直に言えば、嬉しい。
だが、現実的に考えて、甘い考えなら否定しなければならなかった。
「……私なんて、憧れるようなものじゃないわよ」
「マミ、さん……?」
68 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/08(月) 21:10:27.00 ID:a1DidDzG0
「ホントはね、戦うの恐いんだ……無理矢理格好つけて、先輩ぶってるだけで」
初めのころは、本当にひどかった。
結界を見て、戦いもせず逃げる始末。
戦うにしても、びくびくと震えながら、逃げて隠れてようやく倒すようなものだった。
「一人になれば、いつも泣いてばかりだし……」
誰にも話せず、誰にも知られない苦痛。
魔法少女として働くほど、深まっていく孤独。
悲しさが、寂しさが増えていき、暖かな感情などすぐにかき消されていく。
いつしか、だれも自分を見なくなった。
目では見ているが、心を向けてくれなくなった。
だから、必死に言い聞かせていた。
彼らは私が守っているのだと、誇っていいのだと。
そうすることで、心の均衡を保ってきた。
「……私なんて」
本当に、弱くて醜い。
69 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/08(月) 21:11:57.91 ID:a1DidDzG0
「―――そんなことないです!」
美樹さんが詰め寄ってくる。
「マミさんはもう、一人ぼっちなんかじゃないです……あたしも、まどかやほむらだって!」
ああ、そうだった。
もう、一人ぼっちじゃないんだ。
「……本当に、私なんかと一緒に居てくれるの?」
「もちろんです……あの二人も、マミさんを嫌うわけないですし!」
向日葵のような、その眩しい笑顔に清められた気分だった。
ぽろぽろ、と涙がこぼれて止まらない。
「……やっぱり私、ダメな子だ。後輩にこんな情けないところ見せちゃって」
「いいんですよ、ダメダメなマミさんをあたしが支えてあげますから、ね?」
「ふふっ……ありがとう、美樹さん」
70 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/08(月) 21:13:13.69 ID:a1DidDzG0
もう迷いはない。
戦いに赴くと言うのに、気分が高揚していた。
今までこういうことは無かったのに。
ぱぁ、と黄色の光が指輪から放たれる。
そのまま跳び、くるくる、と空中で回る。
光が全身を包み―――魔法少女の装束が現出した。
「さあ……今日という今日は、速攻で片付けてやるんだから!」
高台から飛び降りる。
それと同時に、マスケット銃を虚空から生み出した。
くるくる、とその一つを手に取り、構える。
眼前には多くの使い魔。
今の自分には、物足りない相手であった。
71 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/08(月) 21:13:36.01 ID:a5aFkNkKP
一級フラグ建築士…
72 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/08(月) 21:14:04.30 ID:a1DidDzG0
「っく、魔女はどこに……!」
ドパァ、とショットガンで使い魔を吹き飛ばしながら進む。
まどかは手を繋ぐだけでは危険なので、左手に抱えている。
わらわら、と光に集う蛾のように使い魔が集まってくる。
これまで経験したものより、確実に数が多かった。
「時間をおいて、培養したとでもいうの……!」
構っている暇はないというのに、一向に状況は好転しなかった。
脳内を最悪のイメージが駆け巡る。
転がる肉片。
飛び散った内臓。
砕かれた骨。
そんなことは、させない。
だが、このままでは埒が明かない。
かくなる上は。
「……強行突破!」
ハンドグレネードを目くらましと、かく乱に使う。
爆風と同時、盾の本来の機能を発動させた。
73 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/08(月) 21:15:07.14 ID:a1DidDzG0
かしゃん、という音と共に、世界が凍結する。
「え、こ、これって……?」
「時間を止めたの……一気に魔女の所に向かうわよ」
使い魔を無視し、結界の中を走る。
ソウルジェムの反応を頼りに、おおよその位置を特定する。
「……そこね!」
扉を越え、広場に出る。
「う、うぇえ……」
魔女の外見の不快さに、まどかが顔をしかめた。
確かに、グロテスクな外見ではある。
何にせよ、手早く済ませることに越したことはない。
74 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/08(月) 21:16:07.06 ID:a1DidDzG0
盾の中から、箱の形をしたものを取り出す。
あの魔女ならば、5つあれば十分だろうか。
「それは……?」
「TNT……まあ、いわゆる爆弾よ」
時間停止は魔力の消費が激しい。
急いで設置し、終わらせるのがいいだろう。
「ねえ、ほむらちゃん……」
「何?」
「わたしにできることがあれば、なんでも言ってね? 力になるから……」
「……ありがとう」
かしゃん、と盾が駆動し、世界が再び動き出す。
―――――瞬間、膨大な熱と衝撃波が異形を吹き飛ばした。
75 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/08(月) 21:17:05.22 ID:a1DidDzG0
「……体が軽い」
くる、と舞うようにトリガーを引く。
それだけで、使い魔の残骸の山が形成されていく。
たわいもない。
鎧袖一触とはこのことだろうか。
「こんな幸せな気持ちで戦うの、初めて……」
満たされている。
命のやり取りをしているのに、暖かさを感じる。
決して、戦いそのものを楽しんでいるわけではない。
帰る場所。
頼れる仲間。
それが存在するだけで、こんなにも満ち足りているのか。
「もう、何も恐くない……!」
76 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/08(月) 21:18:06.01 ID:a1DidDzG0
美樹さんの手を握り、奥地へと突き進んでいく。
もう、恐れるものはありはしない。
恐れる理由はありはしない。
越えていける。
もう、一人ぼっちじゃあないから。
「……来るわね」
空間が蠢き、魔女が生まれる。
握っていた手を離し、ここで待ってて、と目配せをした。
形成されたのは、愛らしいぬいぐるみ。
ぽとん、と足が妙に長い椅子の上に着地する。
77 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/08(月) 21:19:06.36 ID:a1DidDzG0
「……せっかくのトコ悪いけど」
ガァン、とその足を逆手に持った銃で、叩き折る。
落ちてきたその体を、野球のバッティングの要領で捉える。
「一気に決めさせて―――もらうわよっ!」
ドガァ!と壁へと叩きつけ、追撃として数発撃ちこむ。
ぐらり、とぬいぐるみが力無く落ちた。
さらに念を入れ、突き刺すようにしたマスケット銃を打ち込む。
その弾痕から、リボンが現出。
縛り上げ、空中に魔女の体を浮かせる。
「ぃやったぁ!!」
喜色に染まった美樹さんの声。
ふふ、と微笑みながらマスケット銃に魔力を吹き込んだ。
78 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/08(月) 21:19:49.37 ID:a1DidDzG0
形成するは、巨大な砲。
必殺の武器。
狙いは定まった。
魔力も充填した。
これで終わり。
随分と張り合いのない相手だった。
確信があった。
迷いなく、戦うことができた。
「―――ティロ・フィナーレっ!」
ドウン、と打ち出された弾丸が、魔女を打ち抜いた。
結果など確かめるまでもない。
さあ、帰ろう。
―――瞬間、
目の前に、鋭い牙が迫った。
79 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/08(月) 21:21:04.79 ID:a1DidDzG0
「え?」
目の前の現象が、スローモーションのように感じた。
否、遅くなっているのではない。
思考だけが、高速で反芻される。
動かない。
動けない。
動かそうとしているのに、動かない。
むしろ、力を抜けばその巨大な口に飛び込んでしまいそうだった。
圧倒的な死のイメージに、体が感化されているのか。
いや、違う。
死が自分を呼んでいるのだ。
死ぬべき時に死に損なった自分を、連れて行こうとしているのだ。
『……どうして、お前だけ助かったんだ』
80 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/08(月) 21:22:03.55 ID:a1DidDzG0
はっきりと、声が聞こえた。
外部からの物ではない。
自分の中の、奥底から語りかけてくる。
『どうして、あなただけ助かったの……』
そうだ、自分はあの時家族を助けなかったのだ。
自分ひとりだけ、契約して助かったのだ。
『お前が』 『あなたが』
声が重なる。
ああ、そうだ。
自分はこの罪を、ずっと忘れてきたのだ。
『『殺した』』
家族の生を望まなかった。
自分は生きることを望んだ。
本能的に、自分だけが生きることを選んだ。
殺すことと、何の変わりがあるだろう?
81 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/08(月) 21:23:05.89 ID:a1DidDzG0
『嫌よあんな子供、絶対に引き取りたくないわ』
今度は、聞き覚えのある言葉だった。
記憶の中。
事故の後の、親戚の会話だったろうか。
『きっと呪われてるのよ……いいえ、あの子が家族を呪い殺したのかしら』
『そうは言っても、遺産を手にできるチャンスだよ。子供には黙っておけばいいんだし』
一人だけ生き残った私は、疫病神のような扱いを受けた。
死んだ方が良かったのだろうか。
私は、生きていてはいけなかったのだろうか。
親戚中をたらい回しにされ、最後には頼むから出て行ってくれ、と言われる始末だ。
一人暮らしをして学校に通っても、親しい友達なんてできなかった。
死ねばよかったんだ。
あの時、生きようとしなければよかったんだ。
82 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/08(月) 21:24:05.18 ID:a1DidDzG0
きっと、美樹さんも鹿目さんも暁美さんも、自分の事を疎ましく思っているんだ。
表面上仲良くしているだけで、実際は嫌っているんだ。
なら、自分の居場所はどこにあるんだろう。
どこに行けばいいのだろう。
『……お姉ちゃん』
女の子の声。
誰だろう。
聞き覚えはない。
『居場所は、ここにあるよ』
わからない。
誰なのかは分からない。
『いいんだよ、私みたいに全部さらけ出しちゃおう?』
手を差し出されたような気がした。
けれど、自分を認めてくれる。
自分が自分あることができる。
そんな願望に突き動かされ、
その見えざる手を、握った。
ぐしゃり。
83 :
◆fJz13rtmKU
[!red_res]:2011/08/08(月) 21:26:08.93 ID:a1DidDzG0
chapter2 無常と無情のカタルシス
84 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/08(月) 21:27:05.84 ID:a1DidDzG0
「――――っ!!」
声すら出ない。
頭の理解が及ばない。
これは何だ。
アレは何だ。
今まで自分は、マミさんの魔女退治を後ろから見ていた。
それなら、アレはなんだろう。
魔女に噛み砕かれ、飛び散った―――アレはなんだろう。
ゴキィ、と何かの砕ける音の正体は何だろう。
ころころと転がった、白い球体は何だろう。
ぶよぶよとしたグロテスクな塊は、何だろう。
一体、マミさんはどこへ行ったのだろう?
85 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/08(月) 21:28:19.16 ID:a1DidDzG0
わかっている。
わかっているんだ。
ぴちゃ、と頬に何かが飛んできた。
赤かった。
鉄のような匂いだった。
思わず、口を押さえてその場に崩れ落ちた。
湧きおこるのは、嫌悪感。
それは目の前の情景に対するものではない。
先ほどまで楽しそうに笑っていた、嬉しさで涙を流していた彼女。
それと、あの物言わぬ人体の残骸を重ねてしまう自分への嫌悪。
どうしようもない現実を認めてしまった。
そんな自分が許せなかった。
86 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/08(月) 21:29:09.01 ID:a1DidDzG0
「……う、そ」
ほむらが着いた頃には、ソレはもう原形をとどめていなかった。
蹲っているさやかが、全てを物語っていた。
まどかは茫然として、ほむらはギリ、と歯噛みした。
この状況そのものと、防げなかった自分が憎らしかった。
彼女には未来があった。
約束までしていた。
それなのに前回と同じ、最悪の結果を導いてしまった。
お菓子の魔女は未だソレを咀嚼している。
ほむらにとって、その巴マミ『だった』ものをこれ以上見たくなかった。
仲間として戦った彼女が無残な姿になっているのを、見ていられなかった。
時間を止めて一気に倒してしまおう。
そう、考えた矢先だった。
ゴパァ、という音を立てて、魔女が内側から爆ぜた。
87 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/08(月) 21:30:10.74 ID:a1DidDzG0
「な、に―――」
景色が元の風景に戻っていく。
否、違う。
塗り替えられていく。
現実そっくりのそれに―――塗り替えられていく。
魔女の内部から現れた人型の何か。
両手に銃を持った、ソレが連想させるのは、
「マミ、さん?」
ぎょろ、とその顔がまどかの方を向く。
ひ、と射すくめられて固まった。
現実は、最悪を越えて生まれ出る。
ガシャン、と無数のマスケット銃が虚空から出現した。
88 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/08(月) 21:31:00.78 ID:a1DidDzG0
「マミは本当によく働いてくれた……働き過ぎと言えるほどにね」
「彼女は一人前の魔法少女だ……ああ、そういえば、この星では少女と言うのは未熟な女性のことなんだよね?」
「その考え方でいけば、一人前の魔法少女である彼女は―――」
「魔女、と呼ぶべきだ。そうだろう?」
89 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/08(月) 21:32:06.09 ID:a1DidDzG0
英雄の魔女、その性質は執着
自分の正義を信じ、孤独に戦い続けた少女のなれの果て。
夢見た仲間である使い魔とともに敵対するものを打ち倒す。
回復能力を持っているが、仲間にそれを使うことはできない。
不死身のように見えるが、弱点を叩けば簡単に倒せてしまうかもしれない。
英雄の魔女の手下、その役割は未熟
戦い慣れていないのか、魔女に比べ動きが悪い。
魔女のサポートを受けながら、懸命に敵と戦う。
ちなみに意思は殆ど無く、魔女の願望が作り出した人形にすぎない。
90 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/08(月) 21:33:10.36 ID:Tt34TTIo0
なん・・・だと!?
91 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東地方)
[sage]:2011/08/08(月) 21:34:55.61 ID:2ZL3mFW30
ソウルジェムは無傷だったか
いや、ソウルジェムが無事でも脳をやられたらその時点で死ぬけどね。
92 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/08(月) 21:35:16.43 ID:a1DidDzG0
はい、ここまでですー
ようやく本編突入という感じでしょうか
ちなみにマミさんの走馬燈で出てきたのは、両親→親戚→シャルロッテです
死が近づくと霊が見えるとかそんなん
魔女図鑑もノリで作ってみましたが、どうでしょうか
改善すればいい所など指摘していただければ幸いですー
それではまた
93 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/08/08(月) 21:35:17.54 ID:Fxd5jRGKo
中身で魔女化したのか
94 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/08(月) 21:37:55.59 ID:a5aFkNkKP
性質がロッテと被ってるけど別にいいか
95 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/08(月) 21:40:03.77 ID:oYVnX0yUo
この魔女は当然のように必殺技の名前叫ぶわけだなwwww
弱点はアレか
96 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/08/08(月) 21:40:24.19 ID:kr50r/y6o
役割は未熟
って日本語的におかしい
97 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東地方)
[sage]:2011/08/08(月) 21:48:55.18 ID:2ZL3mFW30
ゲルトルートの出現をずらしシャルロッテ出現の日にぶつけるなんて
これを分断目的で行ってるのならQBにメタ視点があるのかね。
マミがシャルロッテに弱いという
無限に湧いてくるQB相手に未来予測の武器が消えたら対処不能だぞ。
98 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(四国)
[sage]:2011/08/08(月) 21:50:08.41 ID:06z4oYjAO
役割なら公式でも夢とか軽薄無思慮とかあるしいいんでない
乙乙、マミさん……
99 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage]:2011/08/09(火) 01:34:32.61 ID:oZMYxNU7o
日常パート書ける人ってうらやましししあるぇ?
100 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/10(水) 21:08:26.98 ID:20Rf56bV0
ご指摘ありがとうございます
語彙量が少ないくせに調子乗ってこういうことするのはいかんね
今後の参考にさせていただきます
それでは投下
101 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/10(水) 21:10:06.77 ID:20Rf56bV0
ああ。
どうしてだろう。
どうしてこうなってしまったんだろう。
敵対せず、良好な関係を築いていれば助けられる。
そう、思っていたはずなのに。
仲間ができたことをあれほど喜んでいた人。
暖かな感情に満ちていた人。
次の休みには、料理教室を開こう―――そんな楽しげな予定だってあったのに。
どうして。
どうして。
どうして、彼女は銃をこちらに向けるのだろう。
102 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/10(水) 21:11:06.27 ID:20Rf56bV0
召喚されたマスケット銃が、扱われる時を待つように地面に突き刺さる。
そして、魔女の傍らに、人型の何かが現れた。
使い魔だ。
槍を携えた少女と、左手に盾、右手に銃を構える少女。
佐倉杏子と自分だろうか。
妙な組み合わせだったが、今の彼女は契約したまどかとさやかの姿を知らない。
魔女や使い魔の姿は生前の経験に影響されるようであるし、妥当ではある。
「……まどか、さやかを連れて下がっていて」
「う、うん……!」
不安そうな顔。
この状況への恐怖と、疑念が渦巻いているのだろう。
だが、話す暇も余裕もない。
現実を受け止めるのに苦心しているのは、こちらも同じなのだから。
103 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/10(水) 21:12:07.25 ID:20Rf56bV0
ヒュオ、と使い魔が突撃してくる。
単調で、容易に対処できる攻撃。
片方は銃を持っているのだから、役割分担くらいはするべきだろうに。
「……いえ、そうでもないかしら」
咄嗟にその場から退避する。
直後、タタタン!と音がして先ほどまで自分の居た地面に穴が開く。
「陽動……『仲間』をエサに使うなんて、あなたらしくもない」
何を当たり前なことを、と思った。
心が砕け、魔女になった巴マミ。
自我があるはずもないのに。
あったとしても、残滓だけだというのに。
魔法少女が魔女を救えないことは、『前回』すでにわかっていたというのに。
104 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/10(水) 21:13:04.64 ID:20Rf56bV0
盾からハンドグレネードを取り出した。
親玉を誘き出すためには、その手下から。
拙い動きの使い魔を仕留める。
使い魔が突撃してくる。
足を止めれば魔女の銃撃で蜂の巣だ。
動く。
使い魔に、正面から突っ込んでいく。
槍が、銃が、こちらを狙ってくる。
だが、
かしゃん、という音と共に、世界が静止する。
ハンドグレネードを使い魔の眼前に配置。
そのまま、通り過ぎる。
周りには自分が瞬間移動したように見えていることだろう。
能力の解除とともに、ドゴォン!と爆音と爆風が使い魔を飲み込んでいった。
105 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/10(水) 21:14:05.49 ID:20Rf56bV0
「―――さて、」
くる、と魔女の方を向いた。
「これで、一対一よ」
だらり、と魔女の腕が力無く垂れる。
『仲間』を殺されて悲しんでいるというのだろうか。
「好機、かしらね」
できればすぐに終わらせたい。
先輩として自分を導き、少し前まで笑顔で話していた人。
いつまでも戦っていたい相手ではない。
盾の中からミニミ軽機関銃を取り出そうとして、
がしゃん、と数十のマスケット銃が魔女の傍らに現出した。
106 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/10(水) 21:15:05.66 ID:20Rf56bV0
「―――ッ!!」
反射的に横へ跳ぶ。
ゆら、と手が向けられた方に、弾丸が一斉射された。
ガガガガガガッ!!と元居た場所が文字通り蜂の巣になる。
「まるでガトリング砲ね……けれど!」
ヒュオ、と背後から肉薄する。
ミニミ軽機関銃の安全装置を解除し、銃口をその背に。
ゼロ距離射撃。
連射された弾丸が、魔女の肉体を抉り、貫き、ボロ雑巾へと変えていく。
だが。
「なっ……!?」
リボンが文字通り、魔女の肉体から『生えた』。
ぎゅるぎゅる、と傷を覆う。
否、違う。
「リボンがそのまま、肉体と同化していく……?」
傷が全快していく。
驚愕に染まった顔に、銃口が突き付けられた。
背中から出現したマスケット銃。
107 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/10(水) 21:16:09.83 ID:20Rf56bV0
巴マミは魔法少女の時も、攻撃の為にトリガーを引く必要は無かった。
銃を虚空に出現させ、そのまま発射していた。
そして、それは背後だろうと同じ。
必死に身をよじらせ、頭部への着弾は避ける。
ソウルジェムさえ無事ならいいのだけれど。
タタン、と弾丸が放たれた。
「く、あっ……!」
左肩を弾丸が貫通していき、鮮血が跳ねる。
まどかの悲鳴が聞こえた気がした。
さらに追撃とでもいうのか、上空がマスケット銃で埋まる。
回避も、時間停止も間に合いそうになかった。
盾を頭上に掲げ、せめてもの気休めにする。
直後、雨のように弾丸が降り注いだ。
108 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/10(水) 21:17:05.98 ID:20Rf56bV0
「っ、くぅ……!」
右腕に2発、脇腹に一発、太腿にも一発。
ソウルジェムはどうにか守りきれた。
だが、それで終わらない。
床に開いた無数の穴から、リボンが飛び出した。
迎撃も、防御も不可能。
ならば、仕方ない。
ハンドグレネードをもう一つ。
「……荒技だけど、仕方ないわね」
安全ピンを抜き、眼前に放り投げる。
盾を構え、致命傷だけは避ける。
爆音と共に、高い熱量と衝撃波がほむらを襲った。
結果的にそれは―――ほむらの体を勢いよくふっ飛ばし、リボンの射程から逃れさせた。
109 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/10(水) 21:18:05.67 ID:20Rf56bV0
床を数回跳ね、ごろごろと転がる。
止まってからようやく、全身を鈍い痛みが襲った。
「か、はっ……」
渾身の力で、起き上がる。
こんな所で止まれない。
まどかを救うまで、止まってたまるものか。
「魔女は、どこに―――」
ぐる、と辺りを見回す。
そうして、固まった。
「……まどかっ!!」
蹲っているさやかをかばうように立つまどか。
その正面。
110 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/10(水) 21:19:12.72 ID:20Rf56bV0
「マミさん、どうしてこんなこと……」
返事は無い。
「もう、やめましょう? ほむらちゃんだって、今謝れば許してくれると思うし」
あるはずがない。
「マミさん……お願いだから、」
もう、心は砕けたのだから。
「今度の休み、お料理教室開くって言ったじゃないですか……」
もう、そこに『巴マミ』は居ないのだから。
「あんなに、嬉しそうだったじゃないですかっ……!」
ガシャン、とマスケット銃がその手に構えられた。
111 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/10(水) 21:20:05.75 ID:20Rf56bV0
瞬間、ぷつん、と頭の中で何かが切れた。
それは理性だろうか、良心だろうか。
ただ、悟るような感覚だった。
自分の目的はまどかを救うことだろう、と。
何を躊躇っていたのかと。
かしゃん、と盾が駆動し、時間が凍結する。
迷っていたのが馬鹿らしい。
そもそも、彼女だってこんなことは望んでいないのだ。
容赦など必要無い。
自分が心のどこかで記憶に囚われて、最良の選択肢を潰していたのだ。
よろ、と傷ついた体で歩み寄る。
変わり果てた巴マミの眼前で、白い塊―――C4爆弾を取り出す。
112 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/10(水) 21:21:06.19 ID:20Rf56bV0
十個程度あれば、問題無く吹き飛ばせるだろう。
まどかとさやかに触れ、時間を共有する。
「え……ほむら、ちゃん?」
「……離れるわよ。さやか、あなたも立って」
さやかの腕を自分の首に回し、肩を貸す格好になる。
まどかが手伝いを申し出たが、断った。
百メートルほど歩いただろうか。
そこで時間停止を解除。
振り替える間もなく。
白い塊が赤色光を放つ。
数秒とたたず、炸裂した。
ぶわ、と現実に限りなく近い結界が消えていく。
からん、と何か小さなものが地面を転がる音だけが響いた。
113 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/10(水) 21:21:59.16 ID:20Rf56bV0
chapter3 悔恨と許容のフェイト
114 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/10(水) 21:23:05.45 ID:20Rf56bV0
「……魔力を使いすぎたり、絶望してしまった時にソウルジェムはグリーフシードへと変わる。それが魔法少女の真実よ」
昼休みの屋上。
だというのに、その空気は重い。
全員が沈鬱な表情を浮かべている。
前日にあれほどショッキングなものを見てしまったのだから仕方ない。
「……ほむらは、」
さやかが顔を上げないまま呟く。
「ほむらは、こうなることをわかってたの?」
「……そうね。可能性としては十分に考えられた」
実際、自分がもっとうまく対処していればよかったのだ。
まどかだけでなく、さやかとマミも監視していれば。
今となっては、何もかも遅いのだが。
115 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/10(水) 21:24:06.03 ID:20Rf56bV0
「責めなさい、恨みなさい……彼女をああしたのは、私よ」
「…………っ」
ぐ、と何かを堪えるように唸った。
怒りを抑えているのだろうか。
当然だろう。
彼女は自分のような本心を隠し、現実を突き付けるタイプの人間は嫌いなはずだ。
嫌われるのは自業自得だ。
まどかだけを救うために、その他を見捨てるためにこうなったようなものなのだから―――
「責められるわけ、ないでしょ……っ!」
だが、その口から出たのは否定。
「……どうして、」
疑問だけが頭を支配する。
彼女と過ごしたのはたった数日間。
信頼を得るには、決して足りないはずなのに。
「気付いてないの……?」
116 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/10(水) 21:25:06.47 ID:20Rf56bV0
「あんた、声震えてるよ」
「――――ッ!」
思わず口を押さえた。
「自分も辛いくせに、人の悲しみまで背負おうとしてさ……ほんっと、バカじゃないの?」
違う。
そうじゃない。
そんな崇高な精神など持ち合わせてはいない。
「……ほむらちゃん、わたし言ったよね?」
まどかまで。
彼女まで、自分をそんな聖人君子か何かと誤解しているのか。
「力になるって、助けになるって……言ったはずだよ」
耐えられない。
その手を取ってしまいたい。
けれど、そんな資格は無い。
自分は彼女を何度も死なせているのに。
117 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/10(水) 21:26:14.34 ID:20Rf56bV0
「必要無いわ……戦力は私一人で十分。あなた達は―――」
「違う……違うよほむらちゃん」
気付けば、まどかが目と鼻の先に居た。
「戦いとか、そういうのじゃないの。 心の傷も、重荷もさらけ出していいんだよ。 本音も吐き出していいんだよ」
まどかが背伸びして、頭に手を回してくる。
ぎゅう、とそのまま腕の中に閉じ込められた。
「我慢しないで……無理しないで……わたし達も、一緒に抱えるから」
懐かしくて、愛しいぬくもり。
何度も失われたその温度。
いつも自分を支えてくれた、その暖かさ。
「……本当は」
涙など、流してはいけないのに。
甘えてはいけないのに。
自然と、瞳が濡れていた。
「本当は、助けたかった……!」
118 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/10(水) 21:27:08.84 ID:20Rf56bV0
言ってはいけない。
もう、離れなくてはいけない。
また同じ結果になってしまう。
それでも。
頭を撫でるまどかの手が優しくて。
そのことがどうしても嬉しくて。
本当は、耐えきれなくて。
諦めてしまいたくて。
けれど、諦められなくて。
それ以上、本音を出すことは無かった。
嗚咽も漏らすことはなかった。
けれど、ずっと泣いていた。
泣いて、泣いて、泣いた。
まどかの手は、ずっと優しかった。
119 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/10(水) 21:28:09.41 ID:20Rf56bV0
ようやく、泣きやんで。
「……ごめんなさい。迷惑、かけたわね」
ずっと泣いていたせいで、瞼が腫れてしまっている。
目も充血して、情けない姿をさらしているに違いない。
「そんなことないよ……わたし、ずっと誰かの役に立ちたかったんだし」
「そうそう、少しは友達を頼りにしなさいって」
友達、という言葉が心に染み渡る。
本当に彼女たちは強く、優しい。
だからこそ、救いたいと思うものだ。
「少し、一人にさせて。今後のことについて考えたいことがあるの」
「……でも、」
「大丈夫。抱えきれないことはちゃんと話すわ」
「……うん」
さやかとまどかが連れ立って屋上をあとにする。
それを見送って、
「さあ……話してもらうわよ、インキュベーター」
振り返る。
「……やれやれ、どうしてその名前を知っているのやら」
120 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/10(水) 21:29:05.93 ID:20Rf56bV0
とん、と小動物のようなソレが降り立つ。
「まあ、これで君の正体にも説明がつく。契約した覚えのない魔法少女、戦闘で見せた瞬間移動のようなもの、君は―――」
「それに答える義理は無いわ」
「……横暴だなぁ。僕の話も聞いてもらいたいんだが?」
誰が、と毒づきながら睨みつけると、仕方ない、といった風に首を振られた。
「お前の仕業よね?」
「何がだい? きちんと説明しないと相手には伝わらないよ?」
説明を省くお前が言うか、と思ったが抑える。
「……薔薇園の魔女」
「ああ、そうだね。どうかしたのかい?」
平然と返す。
その様子がどうしても気に食わない。
121 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/10(水) 21:30:11.36 ID:20Rf56bV0
「お前は分かっていたの? あの日、彼女があの魔女に敗北することを……」
「まあ、そうだね……だけど、これは君たちが引き起こした事態でもあるんだよ?」
「何、を……」
「水の入ったグラスをイメージしてくれるかな……さて、水でその中身をいっぱいにしてしまうと、どうなるかな」
「……御託はいらないわ」
口を挟むと、呆れたように息を吐かれた。
「聞いてきたのは君じゃないか……まあいい。正解は零れやすくなる、ということさ」
「それが、どうしたと……」
にたり、と。
変わらない表情が、歪んだ気がした。
「マミの孤独は埋められた――――心が満たされていた。それでわかるかい?」
122 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/10(水) 21:33:08.45 ID:20Rf56bV0
まさか。
「月は満ちれば欠ける。潮は引く……行き過ぎた幸福は、絶望に変わる」
巴マミを救うことは同時に、彼女を殺すことに繋がるのか。
「お手柄だよ、ほむら」
つまり、だとしたら、
「君たちが、マミを魔女にしてくれたんだ」
「………っ!」
ぎり、と奥歯を噛みしめる。
「そんな、こと」
「あるさ。満たされていなければ、マミは勝っていただろうしね……というか、そうなんだろう?」
123 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/10(水) 21:34:11.10 ID:20Rf56bV0
確信を持った言葉。
確実に気付かれている。
「無言は肯定と受け取るよ。まあ、僕は可能性が高かったからそうしたまでなんだが」
くる、と小動物が背を向ける。
「さて、僕は二人に契約の話でも―――」
ぱん、とその気に食わない頭部に弾丸を撃ち込み、吹き飛ばす。
どさり、と力無く倒れたその死体の傍らに、まったく同じソレが降り立った。
「まったく……無意味に殺さないでほしいな。勿体ないじゃないか?」
その反応すら癇に障る。
ぎろ、と睨みつけながら屋上をあとにする。
「……やれやれ」
くちゃくちゃ、と背後で生々しい音だけが響いた。
124 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/10(水) 21:35:05.30 ID:20Rf56bV0
夕日の病室。
「……さやかは、僕をいじめているのかい?」
冷たい言葉。
ナイフが胸に突き刺さったような感覚。
「え……」
「嫌がらせのつもりなのか……どうして今でもまだ音楽なんて聞かせるんだ?」
どうして。
それは、あなたのために。
「だってそれは、恭介が音楽好きだからっ……!」
「―――もう聞きたくないんだよっ! 自分で弾けもしない曲なんて!!」
ぱりん、とディスクが左手で砕かれる。
破片と、鮮血がシーツに飛び散った。
一瞬、その赤にたじろぐ。
昨日の、あの情景に重なった。
125 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/10(水) 21:36:04.24 ID:20Rf56bV0
「こんな腕っ……!」
「や、やめてっ!!」
再び振り上げる腕を、必死に止める。
「大丈夫だよ、諦めなければきっといつか―――」
「諦めろ、って言われたのさ」
え、と一瞬固まった。
「今の医学ではどうしようもないって、治らないんだよ、もう」
だらり、とその体から力が抜けた。
「奇跡や、魔法でもない限り……!」
126 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/10(水) 21:37:07.05 ID:20Rf56bV0
奇跡。
魔法。
自分はそれを知っている。
救う術を知っている。
だが、それでいいのか。
それは同時に、自分を殺すことになる。
あの血と肉と骨の残骸になる未来。
そして、その先には。
顔を上げれば、それを可能とする存在がいた。
アレは少女に過酷な運命を背負わせる者。
不信感より、嫌悪感が募る。
「……あるよ」
だが、それでも。
「奇跡も、魔法も―――あるんだよ」
どうしても、目の前の彼を見捨てられなかった。
127 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/10(水) 21:38:04.66 ID:20Rf56bV0
「……ねえ、ほむらちゃん」
「何かしら」
陽もすっかり落ちた。
街灯が街を照らしている。
「魔法少女は魔女になる……って言ってたけど、ほむらちゃんは大丈夫なの?」
「魔法を無駄に使わなければ、その心配は無いわ」
「そうじゃなくて……」
絶望しないか、という話。
まったく、彼女は他人に優しすぎる。
「あなたさえ居れば、そんなことにはならない」
「わた、し……?」
「そう……知ってる? 私、あなたを守るためにここに居るのよ?」
「それって、どういう……」
128 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/10(水) 21:38:56.70 ID:20Rf56bV0
くす、と笑って誤魔化した。
今の彼女には、言えない。
「……ごめんなさい、今日は先に帰っていて。用事ができたわ」
「え、でも……」
「いいの……また明日学校で、ね?」
にこ、とできるだけ優しい笑みを向ければ、不安そうにしながらも頷いてくれた。
手を振ってきたので、こちらも小さく返す。
「―――さて、と」
『そちら』に向く。
虚ろな眼をした人々。
その中に混じる緑色。
「どうして彼女は巻き込まれるのか……まあ、ただ習い事の帰りに偶然、なんでしょうけど」
志筑仁美。
その首には、妙な印が浮かんでいた。
129 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/10(水) 21:39:44.22 ID:20Rf56bV0
「今の時代、俺の居場所なんてあるわけねぇんだ……」
はぁ、と思わず溜息が出る。
工場が切り盛りできない程度で死を選ぶなんて愚かではないだろうか。
そう思うのは、どうしようもない死を何度も見てきたからだろうか。
それとも、自分がそういう大人の悩みを知らないからなのか。
どちらにせよ、やることは変わらない。
魔法少女の装束を纏い、時間を凍結させる。
「動きを止めて、手早く魔女を倒せばいいわね……」
催涙スプレーを数本。
空中に配置し、銃弾を撃ち込む。
これで時間を動かせば、ガスが噴き出し、中の人間を無力化できる。
別室に移動してドアを閉じ、時間停止を解除する。
金属音の後、ブバァ!という音がして、中の人間が咳き込んでいた。
「さて、後は……こいつね」
部屋が結界になっていたのか、上空に現れる箱と人形。
それに対応しようとした、矢先だった。
130 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/10(水) 21:40:30.89 ID:20Rf56bV0
「どぉりゃぁあああああああああああっ!」
ヴン、と蒼い閃光が駆け抜けた。
使い魔を一撃で両断し、さらに飛ぶ。
高速で駆ける閃光が、使い魔をただの残骸へ変えていく。
そうして、残ったのは箱の魔女。
「ふっ……!」
ドガァ、と剣の柄で殴りつけ、地面へと叩きつける。
身動きのとれぬ魔女へ、肉薄する。
渾身の一撃を―――叩きこむ。
「これで、とどめだぁぁああああああああああっ!!」
中身が飛び出し、四散する。
踏み入れた結界は、数十秒と持たずに崩壊していった。
131 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/10(水) 21:41:26.81 ID:20Rf56bV0
「どう、して」
理由はおおよそわかっていても、聞かざるをえなかった。
彼女には、すでにリスクを伝えてあるのに。
どうして、契約してしまったのかと。
「あー、いや、なんていうか……ほむら一人に戦わせるわけにもいかないでしょ?」
ああ。
そんなことを言うのか。
その言葉がどれほど私にとって苦痛か、わかっていないのか。
「そういう心配をするなら、契約しないでほしかったわ……」
「お、怒んないでよ! 初めてにしちゃーうまくやったでしょ、あたし!」
「……そういう問題でもないわ」
まだ、彼女の笑顔も快活さも奪われてはいない。
けれど、むしろそれが未来への不安を掻き立てた。
132 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/10(水) 21:42:24.75 ID:20Rf56bV0
「……ふん、あの二人がこの街の魔法少女ねぇ。仲良くやりやがって」
双眼鏡から目を離しながら、むぐ、とハンバーガーにかぶりつく。
冷えてしまって、美味くない。
昼に妙な気をきかせて、マミが死んだという場所にわざわざ食べ物を供えてやったせいだろうか。
「そいつの後輩とくりゃ、甘ちゃんだとは思ったけど……どうやら、予想通りらしいね」
ごくん、と冷えたハンバーガーを飲み下した。
「さぁて、と……片方はイレギュラーで、片方は新人だとかアイツが言ってたか」
アイツ、と言った時にあの小動物の顔が思い出されて腹が立った。
胡散臭くて、どうも気に食わない。
家族が死んだのは自業自得だが、アイツの口車に乗せられたせいもある。
だが、今は関係ない。
にぃ、と期待のこもった笑みを浮かべる。
「そんじゃ、ルーキーからぶっ潰すとするかね」
133 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/10(水) 21:45:47.79 ID:20Rf56bV0
はい、チャプター3はここまでです
戦闘描写は時間停止があると派手にしにくいね
あとスプレー缶破裂したら中身吹き出る……よな?
そういえばゲームが出るんだってね
3月まで燃料持たせるためにノベライズ第2弾とかしてくれるといいんだが
それではまた
134 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/10(水) 21:54:35.32 ID:3knWa8+DO
おつ
135 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/10(水) 22:01:35.37 ID:S/IxnxdOo
乙です
136 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/08/10(水) 22:06:09.78 ID:+XGFnEB4o
乙
さやかあちゃん男前や……いつまでそれを貫けるか……
137 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/10(水) 22:32:27.18 ID:9fa+P6DIo
乙です。
さやかちゃんが既に真実知ってるからそこからどう行くかだなぁ。
結局さやかちゃん魔女化&杏子心中で何も変わらなかったら正直……。
138 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/11(木) 23:39:37.87 ID:eNgVoWsk0
『……やっぱり、まだ元通りとはいかないね』
『でも、恭介のヴァイオリンだよ。昔から聞いてるのと同じ……』
『さやかがそう言ってくれるのなら、自信を持っていいのかな』
『いいのいいの。あたしが何年恭介の演奏聞いてると思ってるのさ』
『……ありがとう』
『な、何よ……いきなり改まってさ』
『なんとなく、言いたかったんだ。他意は無いよ』
『ん……そっか』
その言葉だけで、十分だと思った。
彼が立ち直るだけで、心は満たされた。
……なのに、
139 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/11(木) 23:40:27.35 ID:eNgVoWsk0
chapter4 恋慕と正義のパラドックス
140 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/11(木) 23:41:21.11 ID:eNgVoWsk0
「ぶぅぅううううううん! ぶぅぅうううううううううううん!!」
「あーもう、うっさい!」
周囲に剣を生み出す。
それを、煩わしい使い魔へと投擲していく。
1本、2本、3本と壁に刺さり、4本目が命中しようとした時―――文字通り、横『槍』が入った。
甲高い音がして剣が弾かれる。
そして。
「ぷっぷー、ぶろろろろろろろろろー」
ふざけた音を漏らしながら、使い魔が走り去る。
「っく、逃がすか!」
「ちょっとちょっとー、何やってんのさ」
チャキ、と槍が眼前に構えられた。
「っ……!」
「使い魔狩ってどうすんの? 4、5人ぐらい喰えば、グリーフシードも孕むのにさぁ……」
141 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/11(木) 23:42:09.76 ID:eNgVoWsk0
「な……あんた、それでいいの!?」
「いいとか悪いとか……それ以前にあたしらにとっちゃあ死活問題だろ。そんなことも知らないで契約したのかねぇ?」
「……知ってるよ。あたしはマミさんの最期にも立ち会ったんだ」
マミさんの名前を出したところで、目の前の魔法少女がたじろいだ。
知り合い、なのだろうか。
「へぇ……あいつの、ねぇ。それであんたは何だい? その意思を継いで正義の魔法少女になりますーってか?」
「だとしたら、何よ」
「……分からないか?」
ギン、と眼光が鋭くなった。
「甘ったれんじゃねぇ、って話だよ」
142 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/11(木) 23:43:11.25 ID:eNgVoWsk0
槍が振るわれる。
剣で止めれば甲高い音の直後、じん、と衝撃が腕に伝わった。
「……っく」
「あいつは強かった。使い魔を狩るのに力を使ってたんじゃない……使い魔を狩ってもお釣りがくるほど、力が有り余ってたんだ」
ぎちぎち、と力が拮抗する。
だが、こちらが全力で持ちこたえているのに対してあちらは眉ひとつ動かさない。
「それに比べてあんたはどうだ? 契約してそう日も経ってないのに、余裕ぶって使い魔に手出しちゃってさぁ」
「そ、んな事……!」
ぐ、と強い力で押し退けられた。
否、体勢を崩されたのか。
「っあ……!」
「そういう考えが、甘いんだってーの」
槍が分かたれ、関節から鎖が露わになる。
ギャリ、という音を聞いた時には、もう遅い。
ガギィン、と剣で受けたにも関わらず、体は後方へと吹き飛ばされた。
143 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/11(木) 23:45:05.13 ID:eNgVoWsk0
「っぐ、くそ……!」
地面に打ち付けた体が痛む。
それに耐えて、顔を上げた、瞬間。
「……首一本、飛んだよ?」
カチャ、と首筋に槍が添えられた。
背筋に寒気が走る。
本気なら、そうなっている。
今頃、あの肉と骨と内臓のただの集まりになっていると。
そう考えると。
「……ぁ、ぅ」
「―――ん? どうしたのさ?」
血の気が引く。
カタカタと体が震えだす。
情けない。
死が恐くて戦えないなんて、二流や三流どころじゃない。
144 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/11(木) 23:45:55.73 ID:eNgVoWsk0
「っち……あーあーちくしょう。そんなビクビクしてんじゃねぇっての」
ぽん、と頭に手を置かれた。
その手すら、恐ろしかった。
「たく……冷めちまったよ。そんじゃあもう使い魔なんて手出すんじゃねーぞ、ここまでひよっ子なら尚更だ」
くる、と踵を返していった。
暖かな手の感触が、頭に残っている。
心配してくれたのだろうか。
だが、この場合は情けをかけられた、というのが正しいだろう。
赤い背中に比べ、自分がひどく小さく見えた。
情けなく感じた。
とてつもなく、惨めだった。
145 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/11(木) 23:47:28.49 ID:eNgVoWsk0
とん、とん、とステップを踏む。
矢印の書かれたパネルを踏む、簡単な作業。
だからこそ、雑念が入る。
この前の新人。
生意気だからと手を出したら、予想外に怯えられた。
さすがにあそこまで行くと興が乗らない。
もう少し噛みついてくると思ったのだが。
と、考えているうち、パネルを踏み違えた。
後半で挽回しようと考えた矢先、
「……ちょっと、いいかしら」
また踏み違えた。
これはどうにもならないか、といらいらしながら振り向く。
「―――ん? あんたは確かあの新人と廃工場に居た、」
「暁美ほむらよ……佐倉杏子、あなたに話がある」
「……どこかで、会ったか?」
「さぁ、どうかしら」
146 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/11(木) 23:48:37.57 ID:eNgVoWsk0
招かれた部屋に、先客が居た。
「あ……お邪魔してます」
「……いや、その台詞はフツーあっちに言うもんじゃねぇの?」
「あ、そうだね。ほむらちゃん、お邪魔してます」
「……それはもう聞いたわ」
「あれ、そうだっけ?」
「おいおい……」
会話に緊張感が無い。
もう帰っていいだろうか。
「ともかく、話というのはコレよ」
ばさ、とテーブルに書類が広げられた。
「ワルプルギスの、夜?」
「そう、他の魔女とは比較にならないほど強力な魔女。2週間後にソレがこの街に来る」
「……どうしてわかるのさ」
「統計よ」
147 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/11(木) 23:49:28.17 ID:eNgVoWsk0
統計、という言葉が妙だった。
だが、細かく情報がまとめられている資料を見る限り、ハッタリではないらしい。
「……で、どうしろって? コイツを倒すために協力しろってか?」
「ええ、その通りよ」
随分さらりと言ってくれる。
こちらはずっと一人でやってきたというのに。
「悪いがゴメンだね。第一、あのルーキーやそいつと組めばいいじゃないか」
弱気そうな桃色髪の少女に指を差すと、おろおろと怯えたような反応をされた。
あの新人といい、どうして自分はこうも怯えられるのか。
そんなに恐い顔でもしているんだろうか。
「さやかでは、おそらく足りないわ……この子、まどかはそもそも戦わせるわけにはいけない」
「……はぁ?」
美樹さやか、というのはあのルーキーの名前だろう。
それは分かったが、このまどかというのを戦わせてはいけないとはどういうことなのか。
148 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/11(木) 23:50:11.70 ID:eNgVoWsk0
「まどかの才能は大きすぎるのよ……契約してしまえば全てが終わる」
「え、それって……?」
「契約もしてないのかよ……ってーか、才能が大きいなら何の問題もねーじゃん」
才能はあるに越したことはない。
大きすぎる、というくらいだろうから自分よりも遥かに高いのだろうに。
「……そうね、説明がまだだったわ」
「何がだよ……」
ほむらが息を深く吸い、ごく、と喉を鳴らした。
見た目に似合わず、緊張でもしているのだろうか。
「ソウルジェムが濁りきれば、それはグリーフシードに変わる……それが、魔法少女の末路よ」
一瞬、何を言っているのかわからなかった。
理解した時、笑えない冗談だ、と思った。
見上げれば、真剣な顔があった。
その瞳に、偽りの色は無かった。
149 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/11(木) 23:50:56.20 ID:eNgVoWsk0
「はは……なるほど、親父は結構的を射てたわけか」
「杏子……?」
心配そうに、顔をのぞき込まれた。
こいつはどこまで自分の事を知っているのだろう。
「いいよ」
何が、と訊かれる前に続ける。
「一緒に戦ってやるさ……もう、堕ちるところまで堕ちてるみたいだしさ」
ぱぁ、とまどかの顔が明るくなる。
そこまで感謝されるいわれもないのに。
「ありがとう……それじゃあ、さやかのお守りもお願いするわ」
ん?
んん?
「………………………………は?」
随分と間抜けな反応だ、と自分でも思った。
150 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/11(木) 23:51:32.75 ID:eNgVoWsk0
「……おい」
「何かしら」
「どうしてそうなるのさ」
「適任だからよ」
「いやいやおかしいだろ! あいつとの初対面最悪だぞ!?」
どう考えても無理だろう。
警戒されるか、逃げられるかのどちらかだ。
「あら、じゃあ謝るついでに仲良くなればいいじゃない」
「なっ……つーか、なんであたしが悪事働いた前提になってるのさ!」
「どうせそうなんでしょう? さやかが生意気だから、ちょっとケンカふっかけてやろうとか思ったんでしょう?」
「ぐっ……」
図星にもほどがある。
こいつは読心術でも持っているのか。
151 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/11(木) 23:52:17.99 ID:eNgVoWsk0
「ともかく、あたしは何もしないからな! 仲良しごっこはそっちで勝手にやってろ!」
どたどたと部屋を出て、勢いよくドアを閉める。
その向こうから、小さく声が聞こえた。
「お、怒って出て行っちゃったよ……大丈夫なの?」
「心配はいらないわ……彼女、お人よしだもの」
「え、そう……なの?」
「そうよ。口は悪いけどね」
「そっかぁ、素直になれないだけなんだね」
「ええ。なんだかんだで結局さやかの所に行くのよ」
―――聞こえてるぞコンチクショウ。
152 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/11(木) 23:53:10.34 ID:eNgVoWsk0
上条という表札のある家のインターホン。
押しかけて、やめた。
「……退院祝い、呼んでくれなかったな」
やはり、迷惑だったのだろうか。
聴きたくもない曲を聞かされたことがそれほど苦痛だったのだろうか。
本当は、許してくれていないのだろうか。
じわ、と涙が出た。
けれど、そればかりにこだわってもいられない。
自分は魔法少女として、魔女を狩らなければならない。
そう思って、振り向いた。
「……よう」
「ひっ……!」
思わず、半歩引いた。
あの時の魔法少女。
変身はしていないが、それでも恐怖を感じるには十分だった。
体が、自然と震える。
153 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/11(木) 23:54:08.48 ID:eNgVoWsk0
「あー、なんてーか、さ?」
ぽりぽり、と居心地悪そうに頭を掻いている。
何を言われるのか、と不安で仕方がなかった。
「……この前は、悪かったよ」
「…………え?」
拍子抜けして、間抜けな返事が出た。
「な、何だよ! 二度は言わねーからな!」
前と随分イメージが違う。
こいつ、もしかして根は良い奴なんだろうかとふと思った。
「っち……ああもう、着いて来な!」
「わっ……」
ぐ、と手を強引に引かれた。
なんだか照れ隠しのように思える。
体の震えは、もう止まっていた。
154 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/11(木) 23:54:48.99 ID:eNgVoWsk0
「……もうすっかり暗いけど、電車で来た方が良かったんじゃない?」
「うっせぇ……金が無いんだよ」
「帰りは電車ね、あたしが出すから。終電にはまだ時間あるし」
「……貸し一つ、ってことかい?」
「あたしが早く帰りたいから……貸し借りとか、そういうんじゃない」
「ん……だったら、頼むよ」
言い終わらぬまま、少女が廃教会のドアを蹴破った。
「大丈夫なの?」
「いいのさ。もう、誰も住んでないからね」
ひょい、とリンゴが投げられた。
ぱし、と受け取って、こんな暗い中で落としたらどうするつもりだったのだろう、と思う。
「食うかい?」
「……いい。皮ごとはちょっと無理」
投げ返すと、少し不満そうな顔をしていた。
しゃく、とそのままかぶりついている辺り、皮も一緒に食べろということなんだろう。
155 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/11(木) 23:55:29.07 ID:eNgVoWsk0
「……この教会は、あたしの親父のだったんだ」
だった、という過去形に、暗い意味を感じる。
「正直過ぎて優しすぎる人だった……新聞を読むたびに涙浮かべて悩んだりしてさ」
「……いいお父さんじゃん」
「でも、それが仇になってね……教義にないことまで説教しちまって、信者の足はぱったり途絶え、本部からも破門された」
ルールを守ることは大事だ。
けれど、良心からの行動が、そうも否定されるのか。
「あたし達は毎日の食事にも事欠くありさまだった……親父は間違ってなんてないのに、誰も取り合おうとしなかった」
ぐ、と少女が拳を握りしめる。
それほどに、悔しかったのだろう。
「―――だから、キュゥべえに頼んだんだ」
「……まさかっ!」
「そう、親父の話を皆が真面目に聞いてくれますように、ってね」
156 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/11(木) 23:55:54.42 ID:eNgVoWsk0
父親想いで、意外だった。
「信者は怖いくらいの勢いで増えて、あたしは魔法少女に……バカみたいに意気込んでたよ、表と裏からこの世界を救うんだって」
「……あんたも、最初はそうだったんだ」
「そうだね……だけど、ある日、カラクリがバレた。親父はイカれちまって、最後は……どうなったと思う?」
もう、おおかたわかっている。
けれど、否定したくて首を横に振った。
「死んだよ。無理心中さ……一家全員、あたし一人を残して、ね」
ふ、と少女が虚空を見上げた。
「あたしの祈りが、家族を壊しちまったんだ」
「……そんな、」
「そういうもんだよ。希望を祈った分だけ絶望が撒き散らされる……そうやって差し引きゼロにして世界は成り立ってるのさ」
「どうして、あたしにそんな話を……」
「同じ、だからさ―――あんたも他人のために願いを使ったんだろ?」
157 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/11(木) 23:57:02.50 ID:eNgVoWsk0
「そうだけど……」
「なら、これからは自分のために生きな。そうしないとやってけないよ?」
ぐ、とそのまま自分は俯いた。
上等な慰めの言葉も、了承の言葉も自分は持っていないのだから。
「……名前」
「ん?」
「名前、聞いてない」
「ああ……佐倉、杏子だ」
「そっか……杏子、あたしは何を言えばいいのかわかんないし、どうすればいいのかもわかんない。だけど……」
これだけは、言える。
「……ありがと」
「な……何だよいきなり」
「何となく、言ってみたかったのよ……色々、吹っ切れた」
がさ、とポケットに手を入れれば、硬い感触。
取り出して見れば、ソーダ味の飴玉だった。
「杏子」
「ん?」
「……食うかい?」
照れくさそうに、杏子が受け取る。
その様子がいじらしくて、抱きついてやった。
空に浮かび始めた星が、寄り添う二人を見つめているような気がした。
158 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/12(金) 00:00:07.48 ID:vBRd62W80
―――それで、終わってしまえばよかったのに。
159 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/12(金) 00:01:01.64 ID:vBRd62W80
「私、上条恭介くんのことをお慕いしていましたの」
そんな素振りは無かった。
「さやかさん、あなたは彼と幼馴染でしたよね?」
そう、それだけだ。
「あなたは、本当の気持ちと向き合えますか?」
本当って、何?
恭介の腕は治った。
それだけで、良かった。
「私、明日の放課後に上条くんに告白します」
そう、良かったね。
仁美と恭介ならお似合いだよ。
「それまでに、後悔なさらぬよう決めてください」
どうして。
どうして。
もう割り切っているはずなのに。
救えただけで良かったのに。
どろり、とした嫌な感情は消えてくれなかった。
160 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/12(金) 00:04:10.44 ID:vBRd62W80
はい、ここまでです
実際あの年頃だと動物の死体もトラウマになりかねないよね
小学生時の自由研究でゴキブリの羽化調べるのとかもヤバいらしいね
まあそれだけなんだけど
あと、
乙←こ、これは乙じゃなくてスクワルタトーレの軌跡なんだからね!
これは流行る
それではまた
161 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/08/12(金) 00:07:18.72 ID:ejoDHl2go
乙
……すまん、正直まだ「頭がティロティロ」の方が流行るんじゃないかと
両方流行らせやしないけどさ
さやかチャーン……気を確かに持ってぇ……
マミさんの惨死(とそれよりひどい末路)を見届けたのが更に悪い方向に向かうとは
162 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/08/12(金) 01:43:51.80 ID:22U+zu7ho
ゴキブリの羽化の観察とかもう気が触れているレベル
163 :
sage
:2011/08/12(金) 23:27:47.83 ID:NfhEsYO70
>>122
>「あるさ。満たされていなければ、マミは勝っていただろうしね……というか、そうなんだろう?」
ハッタリなのかそれとも今までの周回を知っているのか
シャルロッテはバインドが効かないとはいえ、油断しなければ
あるいはまどかかほむらが手助けしていれば死ぬことはない。
それを見越して分断工作を行ったのなら意図的な故意犯だ。
>>131
「ほむらが信用ならない」でも
「ほむらが心配だから」でも両方で契約する可能性ありってことでしょ。
さやかが契約する周回が少ないからほむらも想定が難しいのだろうけどね。
164 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)
[sage]:2011/08/13(土) 00:47:16.89 ID:4ThvjFUWo
乙っちまどまど!
165 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/13(土) 22:03:59.09 ID:LqbRAo//0
「……あら」
かつん、と足音に振り向けば、ほむらが居た。
その後ろにおどおどと付き従っているまどか。
「あなたは、行かないのかしら?」
どこに、なんて愚問をするほど馬鹿じゃない。
目の前に魔女の結界がある。
そこ以外にどこがあろうか。
「今日は自分一人に任せてくれ、って言われたからな……ま、危なくなったら助太刀してやるさ」
「どうやら、打ち解けられたみたいね?」
「……どーだか」
今の顔を見られたくなくて、ぷい、とそっぽを向いた。
その拍子に、がり、と口の中の飴玉を噛んでしまう。
グレープ味のはずだが、砂糖を固めただけのように甘かった。
166 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/13(土) 22:04:56.64 ID:LqbRAo//0
ばちん、と結界の魔力が迸る。
「ちっ……いつまで手こずってんだか」
「気になるなら行けばいいんじゃないかしら……後で文句言われるだけでしょう?」
「他人事だと思って……言われなくとも、行くさ」
膨大な魔力を感じるわけでもない。
負けるような相手ではないだろうが、いかんせんさやかは新人だ。
と、心配している自分がなんだか妙だった。
助け合いなど、馬鹿らしいと思っていたのに。
結局自分は、誰かと繋がっていたかっただけなのかもしれない。
他人の体温は、言葉は、好意は、心地良かった。
だが、それよりも今はさやかだ。
放っておくとどうなるかわからない。
とん、と結界に踏み入れる。
瞬間、視界が白と黒に浸食されていった。
167 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/13(土) 22:05:44.50 ID:LqbRAo//0
「っはぁ、はぁ……」
肩で息をする。
休む間もなく、地面から使い魔が出現した。
黒が重なって、遠近感が掴みづらい。
ザン、ザン!とソレの頭部を両断する。
先ほどからずっと、その繰り返し。
埒が開かなかった。
ならば。
「ふっ……!」
魔女へと猛進。
しかし、その正面、左右、背後―――全方位の地面から、使い魔が襲いかかる。
唯一の逃げ場は、空中。
高く跳び上がり、そこで魔法陣を形成。
追い付かれる前に決着をつける。
たん、と全力でそれを蹴った。
168 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/13(土) 22:06:39.93 ID:LqbRAo//0
「はぁぁあああああああああっ!!」
無防備な背。
そこに、渾身の一撃を叩き込む。
だが。
強い力で押し返され、みし、と何かが軋む音がした。
植物のような髪が大木を形成し、急速に成長していく。
咄嗟に避けようとしても、もう遅かった。
逃げ場など存在していない。
大木の中に取り込まれる。
ぎちぎち、と全身を万力で押しつぶされるような感覚だった。
このまま、養分にでもされるのか。
それもいいかもしれない。
なんだか、どうでもよくなってしまった。
瞬間、金属音が鳴った。
それも数度。
直後、ぶわ、と大木が砕け散る。
誰の仕業か、なんて考えなくてもわかる。
169 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/13(土) 22:07:13.29 ID:LqbRAo//0
「っと……」
ぽす、と軽く受け止められた。
そのまま、地面にゆっくりと下ろされる。
動きの端々に、労りが感じられた。
そんなものいらないのに。
こんな、化け物と変わらないあたしに。
だが、思えば杏子も同じだ。
魔法少女だから構わないでいい、というのは通用しないかもしれない。
「たく……無茶しやがって。こいつは引き受けてやるからさー、後ろで休んどきな」
無視して、クラウチングスタートの姿勢をとった。
「お、おい……!?」
なんだかひどいことを言ってしまいそうで、言葉は交わさなかった。
優しさの秘められた言葉が煩わしかった。
あの教会で話した時も帰りの電車でふざけた時も、杏子の言葉は暖かくて、嬉しかったのに。
今は、聞きたくなかった。
170 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/13(土) 22:08:09.48 ID:LqbRAo//0
ビュン、と風を切る音と共に、走り抜ける。
使い魔が居ようが、魔女の反撃を食らおうが関係ない。
どうだっていい。
あたしなんて、どうでもいい。
ズバァ!と魔女を横薙ぎに両断する。
血が撒き散らされた。
そこで、ああ、この魔女も元は魔法少女だったんだな、と今更ながら思った。
直後、ズドン!と地面に叩きつけられる。触手だった。
みしみし、と骨の軋む音がする。
不思議と、痛くなかった。
肉体への執着が薄れているのか。
どうだっていい。
だが、今は好都合だ。
「く、くふ、ふふ……」
無意識に笑っていた。
歓喜からのものではない。
乾いた心から漏れ出る音。
さやか、と後ろで誰かに呼ばれた。
一瞬誰の事だかわからなかった。
最早、自分が美樹さやかである認識すら曖昧だ。
171 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/13(土) 22:09:08.51 ID:LqbRAo//0
ドパァ!とダムが決壊したかのように、触手の奔流が抜け殻の体を空中へと打ち上げた。
肉が削げ落ちる。
骨にひびが入る。
けれど感じない。
痛みなど、感じない。
何が可笑しいのかもわからずに笑っていた。
ぐしゃ、と触手を斬る、というより叩きつぶしていく。
非効率的で、無駄に力を消耗する。
だが、それがどうした。
結果的に倒せるなら、問題は無い。
ただ、この体に負荷がかかるだけだ。
そんなものはどうだっていい。
こんな、何にもなれず、何でもいられない肉体ならいらない。
ズドン!!と魔女の本体を叩きつぶす。
力任せの攻撃で、反動に耐えきれずにみしみしと腕が軋む。
「あ、は―――」
それでも、いいじゃないか。
倒せるならそれでいい。
後で治せば、否、直せばいい。
あたしの存在価値なんて、もうそこにしか無いんだから。
172 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/13(土) 22:10:05.93 ID:LqbRAo//0
ぐしゃ、ぐしゃ、と叩きつけるたび魔女の血が跳ねる。
「あははははっ!! なんだ、簡単じゃん……」
そのたび腕が悲鳴をあげたがどうでもいい。
剣を持てればそれだけでいい。
骨が折れていても、魔力を通せば動く。
形だけ存在すればいい。
いや、むしろ形がいびつでも、剣さえ使えればそれでいい。
千切れても、潰れても、また再生すればいい。
ぎち、と触手が体を握りつぶそうとする。
みしみし、と体全体が軋む。
それでも。
「感じないッ! 感じないよ、痛みなんてさぁ!!」
痛覚なんて、もう捨ててしまった。
壊れても、また直せばいい。
防御も回復も今は必要ない。
剣を振り上げる。
そこに居たのは、果たして魔女だったのか、自分なのか。
どちらでもいい。
あたしは『美樹さやか』でなくてもいい。
ただ、魔法少女であればいいんだから。
だからこそ。
剣を突き立て、それを殺した。
173 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/13(土) 22:10:50.81 ID:LqbRAo//0
結界がひび割れ、砕けていく。
ようやく魔力を回復に回して、その傷を塞いでいく。
「お、おい、さやか……」
心配したような声。
振り向きたくなかった。
どんな顔をしてるかなんて、わかっている。
けれど、自分にはそんなものを向けられる資格はない。
杏子が心配しているのは、『美樹さやか』だ。
恭介の幼馴染で、恭介の腕を治して、恭介が好きな美樹さやかだ。
そんなものはもう居ない。
たった今、殺した。
もう、自分には魔法少女しか残っていない。
ぐる、と踵を返す。
肩に手を置かれたが、跳ね除けた。
声をかけられたくなかった。
逃げるように、その場を走り去った。
174 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/13(土) 22:11:36.33 ID:LqbRAo//0
「っくそ……さやか、一体どうしたんだよ」
取り残されて、手近な壁を蹴りつける。
言いようのない鬱憤が溜まっていた。
「……追いかけるわよ」
「ん、でもさ―――」
「行くのよ!!」
ぎり、とほむらが歯ぎしりをした。
その顔には、焦りと必死さが滲んでいる。
「彼女は他人を呪っていない……だけど、自分を呪ってしまった」
「それって、まさか……」
「……そう」
悔しそうに、拳を握りしめる。
「彼女は、魔女になりつつある……!」
175 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/13(土) 22:12:31.81 ID:LqbRAo//0
呼吸を忘れた。
心臓の音がやけにうるさい。
彼女とは、誰だったか。
あいつ―――美樹さやかだ。
それが、魔女に?
昨日は、笑っていたのに。
吹っ切れた、と言って礼まで言ってきたのに。
あんな清々しい顔をしていたはずなのに。
「どう、して……」
「私が知りたいくらいよ……ともかく、手分けして探すわよ」
こくん、と首を縦に振る。
断る理由なんてない。
「……まどかは先に帰っていて」
「え、でも……」
「もう、暗いでしょう? それに探さなくても、あなたなら携帯で連絡すれば返事をくれるかもしれない」
「うん……」
渋々と、だが了承したらしい。
確かに、こうも暗いと魔女ではなく悪漢に襲われそうだ。
まどかのような様子なら尚更。
176 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/13(土) 22:18:55.13 ID:LqbRAo//0
ゆらゆらと、行くあてもなく彷徨う。
ヴヴ、と携帯が震えた。
メールを受け取っている。
開くと、差出人はまどかだった。
ほむらも、杏子も心配している。
だから、せめて連絡してほしい、という文面だった。
それに返信もせず、携帯を閉じ、しまいこむ。
何をしようにも無気力だった。
いっそこのまま死んでしまおうか。
それも悪くない。
「―――さやか!!」
凛、とした声が背後から響いた。
ちら、とそちらを向けば、長い黒髪が揺れている。
再び、走った。
「待ちなさい!」
振り返らない。
逃げるように走る。
いや、逃げているのか。
どん、と何かにぶつかった。
177 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/13(土) 22:19:40.35 ID:LqbRAo//0
「っ……!」
「さやか……」
先ほどまで後ろに居たのに、気付けば目の前に居た。
逃げようとして、肩を掴まれた。
「このままだとあなた、死ぬわよ」
「……いーんじゃない? それにもう死んでるのと同じでしょ、ほっといて」
ぐ、とほむらが悲しそうな顔をした。
ああ、違うのに。
別に、あんたを泣かせたいわけじゃないのに。
「放っておけるわけがないでしょう、だってあなたは……」
友達、と言いたかったのだろうか。
どうしてか、躊躇っていた。
あたしのことを蔑んでいるのだろうか。
いいや、きっと違う。
また勝手に自分で抱え込んで、責任を感じているんだ。
そうさせているのは、あたしだ。
ああ。
本当に、醜い。
178 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/13(土) 22:20:17.96 ID:LqbRAo//0
「いいんだよ……あんたはさ、まどかだけ見てればいい」
ぴく、とほむらの体が揺れた。
気付いていないとでも思っていたのだろうか。
「あんたはいつもまどかを目で追ってる。無意識かもしれないけどさ……そういうのって、周りにはわかりやすいよ」
「でも……!」
それでも、あたしを助けようとしている。
まどかが一番大切なはずなのに。
「駄目だよ……ホントに大切なもの以外に気をやったら、途端にそれはすり抜けていくんだから」
「さやか、まさか……」
「……あたしがそうだった。大切なものから目をそらして、ただ流されるままに過ごしてたから、何が大切なのかもわからなくなった」
す、とほむらが肩を掴む力が緩む。
俯いていて表情が窺えなかったが、きっと自分を責めているんだろう。
別にほむらのせいじゃないのに。
ただ、あたしが分かってなかった。
それだけなのに。
179 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/13(土) 22:21:22.25 ID:LqbRAo//0
ほむらに背を向ける。
何か言いたげな気配だったが、振り向きはしない。
「……約束して。生きて、明日ちゃんと学校に来ること」
無理難題を言ってくれる。
むしろ、ここで殺してくれた方が楽なのに。
もう、あたしは『美樹さやか』にはなりたくないのに。
だから。
了承は、しない。
「……ごめん」
「さやかっ……」
腕を掴もうとしてきたので、避けた。
「杏子とまどかにも伝えといて……ありがとう、それと、ごめんって」
言い残して、ただ走った。
雨が降っていた。
心の穢れは洗い流してくれそうもなかった。
180 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/13(土) 22:22:08.60 ID:LqbRAo//0
「え……昨日から帰ってないんですか!?」
結局、返信は無かった。
夜が明けて、家を訪問しても居なかった。
「……わかりました、失礼します!」
早く探さないと、大変なことになる。
また、マミさんの時と同じことに。
「―――まどか、」
背後から、声。
「ほむら、ちゃん?」
「さやかは、帰っていないの?」
「うん……メールしたけど、返信も無くて」
「……そう」
答えると、表情を暗くした。
そのまま、ぎゅう、と手を握られる。
181 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/13(土) 22:22:53.95 ID:LqbRAo//0
「……昨日、あの後さやかを見つけたわ」
「ほんと!? 今どこに―――」
ふるふる、とほむらちゃんは首を横に振った。
「ごめんなさい……私では、彼女をどうすることもできなかった」
「……そっか」
深くは追求できない。
ほむらちゃんなら、また自分一人で抱え込んでしまいそうだったから。
「無理やりにでも止めるべきだった……でも、私はそうしなかった。私は彼女を、心から助けようとしてないのかも―――」
「ほむらちゃん」
その唇に人差し指を押し付け、首を横に振る。
続ければ、自分で自分を責めるだろうから。
「今はさやかちゃんだよ……行こう。一人で駄目でも、二人なら!」
「ええ……魔女になんて、させない」
182 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/13(土) 22:23:49.41 ID:LqbRAo//0
がたん、がたん、と電車の座席が揺れる。
一昨日は、ちょうどこの席に座って、隣の杏子と笑い合っていた。
マミさんがあんなことになってから、心から笑えなくなっていた。
けれど、あの時だけでも、気持ちが明るくなった。
あたしは、まどかやほむらの話をした。
最近はほむらにまどかを取られたようでちょっぴり寂しい、なんて言ったりもした。
杏子はマミさんの話を聞かせてくれた。
昔、魔法少女としての在り方でいがみ合ったこと。
なんだかんだで、協力した時もあったこと。
その時食べさせてもらったケーキは、おいしかったということ。
だから、死んだと聞いて、ちょっとだけ悲しかったってこと。
互いに心の内をさらして、なんだかすっきりした。
けれど、それは『美樹さやか』だ。
魔法少女という領域に踏み込んではいても、あたし自身が捨てた『美樹さやか』だ。
恭介に必要とされなくなった『美樹さやか』。
そんなものはもう、いらなかった。
だから、捨てた。
殺した。
魔法少女としての、ただの『あたし』が。
だけど。
183 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/13(土) 22:24:36.88 ID:LqbRAo//0
「稼いだ金はきっちり貢がせないと、女ってバカだからさぁ……」
これが、あたしの守ろうとした世界か。
「犬か何かと思って躾けないとダメっすよねー」
魔法少女は、こんなくだらないものを守っていたのか。
「油断するとすぐ籍入れたいとか言い出すからねぇ……」
『美樹さやか』を捨てて逃げ込んだ世界か。
「捨てる時がホントウザいっすよね」
汚い。
醜い。
嫌だ。
あたしはどうしてここに居るんだろう。
あたしはどうすればよかったんだろう。
杏子の、まどかの、ほむらの笑顔が浮かんだ。
帰りたかった。
でも、捨ててしまった。
ああ。
184 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/13(土) 22:25:17.66 ID:LqbRAo//0
「……ねぇ」
「ん……お嬢ちゃん、中学生か? こんな時間に出歩くのは危ないぞー?」
「あたしって、どうすればよかったのかな」
「人生相談かぁ? そういうのは親か先生とでもやっとけ」
「この世界って、守る価値あるの? あたし達が戦う意味って何?」
「な、何すかこの子供……」
「知るかよ……おいお嬢ちゃん、」
「教えてよ……今すぐあんた達が教えてよ。でないとあたし―――」
「どうにか、なっちゃうよ?」
185 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/13(土) 22:26:03.47 ID:LqbRAo//0
「見つけたっ……さやか!」
駅のホームの椅子。
そこに、俯いて座っていた。
「ホラ……帰るよ。あたしはあんたのお守りなんだ……あんたに何かあっちゃあ、あいつらに何言われるかわかんねー」
手を差し出しても、握り返してはくれなかった。
「杏子は、さ」
代わりに、言葉が返ってくる。
弱々しくて、今にも消えてしまいそうで。
「お守りだから、仕方なく探しに来たの?」
がん、と頭を鈍器で思い切り殴られたような気分だった。
「そんな―――そんなこと、ないよ。あたしは、あたしが心配だから探しに来たんだ」
照れくさくて、誤魔化すために隣に座って、そっぽを向く。
そんな場合じゃないのに、本心を隠したがる心が今は憎らしい。
「ん……ゴメン、杏子ならそう言ってくれるって、わかってた」
「……何だよ。わかってるならどうして聞いたのさ」
186 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/13(土) 22:26:36.77 ID:LqbRAo//0
「あたしね……わからなくなったんだ。何のために戦えばいいのか、あたしは何であればいいのか」
「……前からそうだろ? 今すぐどうこうできるもんじゃないんだし、それでいいのさ」
あの教会でも、さやかは明確な答えを出さなかった。
そもそも、そんな人生に大きく関わるような考え方を簡単に変えるのも良くない。
そういうものは、歩いて行くうちに身に付いていくものだ。
「違うよ……元居た場所で必要とされなくなって、それを捨てて、必要とされそうな場所に逃げたんだ」
「……さやか?」
話が、ではなくさやかがわからなくなって、思わずそちらを窺った。
傍に居るのに。
触れられる距離に居るのに、遠い気がして。
「逃げた場所も嫌になって、どうしようもなくなったんだ……本当は元居た場所では必要とされてたのに、ね」
「……そんなの、帰ればいいだけじゃねーか。必要とされてるんだろ?」
ふるふる、と首をゆっくり横に振った。
どうしてだか、先ほどから動悸が激しい。
ぐるぐると、言葉が単語として入ってきても文法として処理できなくなる。
187 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/13(土) 22:27:23.38 ID:LqbRAo//0
「考えるたび、自分が醜く感じるんだ……元居た場所を、あたしが汚してしまいそうで」
「そういうもんだろ、仲間って……汚れも痛みも重荷も、分け合うもんじゃねーのか」
くす、と笑われた。
仲間、と自分が言ったことが可笑しかったのか。
だが、この場にその反応はそぐわない。
そもそも、何がそぐうのだろう。
「あんたは、優しいね」
「あんたも十分、優しいだろ……ほら、早く帰るよ」
早くこの場を離れたかった。
何か、うまくは言えないが、嫌な感じがした。
早くさやかとここから離れたかった。
「ありがとう―――ごめんね」
手に黒いものが握られている。
アレは何だ。
グリーフシード。
違う。
真っ黒に濁りきった、ソウルジェム。
188 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/13(土) 22:28:12.02 ID:LqbRAo//0
「さや、か……」
「あの時、言ってたよね……希望と絶望は差し引きゼロだって。今ならそれ、よくわかるよ」
早く。
浄化しないと。
「誰かが希望を持った分、あたしが絶望を負った……それだけ、なのにね」
やめろ。
やめろ。
やめろ。
「捨てたくて、捨てられなくて。結局、どっちつかずの自分も、世界も嫌になって」
どうして。
こいつはこんなにも仲間を思っているのに。
こんなにも、優しいのに。
「あたしって―――」
幸せな夢ひとつ、見ることができないのか。
「ほんと、バカ」
―――ぴちゃん
189 :
◆fJz13rtmKU
[!red_res]:2011/08/13(土) 22:29:25.72 ID:LqbRAo//0
chapter5 罪悪と悲嘆のデストロイ
190 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/13(土) 22:30:14.93 ID:LqbRAo//0
衝撃が、体を吹き飛ばした。
「っぐ……!」
必死に手近なものにしがみつき、耐えしのぐ。
空間が歪んでいく。
世界が覆われていく。
「あ、あ……」
「間に合わ、なかった……」
ほむらとまどかの声。
絶望と、後悔の混じった声。
ようやく、元居た方向を見つめる。
完全に抜け殻になった、肉体。
そして、
「――――っさやかぁぁあああああああああああああ!!」
優しく、儚い少女のなれの果てが顕現した。
191 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/13(土) 22:31:34.13 ID:LqbRAo//0
「絶望しなければ、魔力を使い切らなければ魔女化しない……そう思っていたんだろうね」
「確かに、そうだ―――だけど、太古の昔から使われているシステムが、そんなことでうまくはたらかないなんて、困るよね」
「だから、ある程度対策はしてあるのさ。まあ、その最たる例があの舞台装置なんだけど」
「ソウルジェムがある程度濁れば、何かを憎まずにはいられなくなるのさ……つまり、」
「魔女化のリスクは一度何かに負の感情を抱いただけで、加速度的に増加するんだよ」
192 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/13(土) 22:32:20.69 ID:LqbRAo//0
人魚の魔女、その性質は滅私
在りし日の日常を夢見て、演奏者不在のコンサートホールに閉じこもる魔女。
想いを伝えられぬ人魚となりながら、使命を果たすために剣を振るう。
現世を捨て、自己を捨て、ただ大切なものだけを守り続ける。
それが自分の創り出した紛い物だと気付くことは無い。
人魚の魔女の手下、その役割は友人
観客席に座り、ただ談笑している少女たち。
魔女によって守られているが、彼女たちはそのことを知らない。
それは魔女が何よりも守りたかったただひとつのもの。
193 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/13(土) 22:33:58.97 ID:LqbRAo//0
ここまでです
性質は恋慕でも良かったんだけどね
話の流れからこうなった
さてさて、ようやくチャプター的には半分だ
レス数的には未定だけど
それではまた
194 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/08/13(土) 22:39:51.22 ID:yxclBaIko
守りたいモノをも傷つけるさやかあちゃん……仲間なら頼って良いだろうがよぉ……
乙彼
195 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)
[sage]:2011/08/14(日) 03:37:34.18 ID:x7jf86VKo
乙っちまどまど!
196 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/15(月) 22:10:27.29 ID:Mdr21XlL0
本当に、どうしようもないのか。
どうにもできないのか。
結局、結果は同じだった。
むしろ墓穴を掘っているのだろうか。
巴マミの孤独を埋めることで、救えると思った。
結果、彼女は絶望して魔女になった。
佐倉杏子を美樹さやかの心の支えにしようとした。
結果、中途半端な希望は絶望を助長させた。
私がそうした。
私がそうさせた。
私が、私が、私が―――
197 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/15(月) 22:11:09.05 ID:Mdr21XlL0
chapter6 無謀と虚勢のエンデバー
198 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/15(月) 22:12:06.90 ID:Mdr21XlL0
だらり、と力無く横たわるさやかの屍。
魂の抜けた空っぽの入れ物。
一人暮らしだから、とほむらが家に上げてくれた。
柔らかな椅子に横たえられたさやかは、安らかな顔をしていた。
笑っていた。
歓喜ではなく、全てを悟ったような笑み。
普通の女子中学生するはずもない、してはいけない笑顔。
まだまだ未来があるのに、そんな顔をする必要は無いのに。
「……さやかちゃん」
普通に話しかけるように、まどかがさやかの名前を呼ぶ。
まだ、受け入れられていない。
当然だ。
数分前までは、その身に命を宿して動いていた。
現象として認識してはいても、理解ができない。
まどかにとってのさやかは少し前まで屈託なく笑っていた、あのさやかなのだから。
199 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/15(月) 22:13:01.03 ID:Mdr21XlL0
コト、とテーブルにココアが置かれた。
「飲みなさい……何もせず考えていると、気が滅入るわよ」
「……悪いね」
「ほら、まどかも」
「ん……ありがと、ほむらちゃん」
ゆっくりと、それに口を付ける。
まだ熱かったが、少しだけ飲み込んだ。
甘い、となんとなく感じた気がするが、よくわからなかった。
隣のさやかが気になって、それどころではない。
まどかも同じようだった。
少し口を付けただけで、カップの中を見つめている。
自分のカップを覗くと、ひどい顔が見えた。
必死に平静を保ちつつも、動揺を隠しきれていない顔。
ほむらがその典型だろうか。
見れば、やはり冷静ぶっているが、明らかに表情が暗かった。
200 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/15(月) 22:14:02.66 ID:Mdr21XlL0
「………なぁ、」
重い空気をどうにかしようとして、口を開いた。
けれど、何を語れというのだろう。
さやかの話題は、さらに空気を重くするだけだ。
他の話題。
語ってどうする。
結局、さやかのことを話すしかないのだ。
「こいつを元に戻す方法は、有るのか?」
魔法少女の最期についても知っていたほむら。
ならば、この質問に対しての最適な答えを提示してくれるだろう。
契約をとり行う本人のキュゥべえの方が知っているだろうが、信用ならない。
「やはり、それを聞くのね……」
やはり、と行動が予測されているような言葉に眉をひそめる。
こいつは何者なんだろうか。
だが、さやかを助けるためには藁だろうがなんだろうがすがるつもりだ。
今はどうだっていい。
201 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/15(月) 22:15:00.74 ID:Mdr21XlL0
「……あなたたちと似た境遇の魔法少女を見たことがある。絶望し、魔女になった魔法少女を助けようとする魔法少女」
前例があるのか。
だが、どうもいい話ではなさそうだ。
「彼女は魔女になった魔法少女の友人を連れて結界に入り、説得を試みた」
「……結果は?」
「死んだわ」
あっさりと望みは断ち切られた。
冷酷な物言いだと感じたが、感情を抑えるためにそうしているのだろう。
「キュゥべえ―――インキュベーターは言ったわ。彼女では救える見込みは無かったと。むしろ、彼女を排除するのに丁度良かったと」
「……そうかい」
それほどに、無謀。
完全に不可能だと。
「それなら、わたしが契約すれば……」
202 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/15(月) 22:15:52.34 ID:Mdr21XlL0
そんなまどかの提案も、すぐにほむらに否定される。
「それでは本末転倒よ……それに、さやかはいわゆる自己嫌悪で絶望したのでしょう?」
ちら、とこちらの反応を窺っているようなので、頷く。
さやかは元居た場所を自分が汚してしまいそうだと言った。
あたしを、自分本位な行動をするあたしを優しいと言った。
「自分のせいでまどかが契約したと知れば、また同じ結果になりかねない……逆効果よ」
「そっか……そうだね」
目に見えてまどかが落ち込む。
ほむらがそれを見て苦しそうにしていたが、構う余裕は無かった。
さやかを放置するのは、そもそもあり得ない選択。
魔女として狩ってしまう、というのも放置よりは本人にとってはマシかもしれないが、そんなことはしたくなかった。
なら、最後に残る選択肢は。
203 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/15(月) 22:16:39.88 ID:Mdr21XlL0
テーブルに両手を突き、そのまま押し付けるように頭を下げる。
「……何のつもり?」
「あたしは、さやかを助けたい」
無謀だというのは承知している。
だが、それでも諦められはしない。
「無駄なことだってのは……あんたもわかってるはずだ。それでも、あたしは助けたい」
らしくない。
忘れてしまえばいいのに。
「だから、手を貸してくれ……っ!」
本当に、らしくない。
自分のために生き、自分のために死ぬ。
そうやって全部、自己完結すればいいと思っていたのに。
あたしは今、その真逆の事をやっている。
204 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/15(月) 22:17:49.12 ID:Mdr21XlL0
「……私は、もう何度も同じ過ちを繰り返したくはない」
「ほむらちゃんっ!」
まどかが悲しそうに叫ぶ。
だが、当然の反応だ。
ほむらは同じ場面で破滅していく魔法少女を見てきた。
あたしよりもずっと、さやかを救うのがどれだけ絶望的かわかっている。
それでいいんだ。
それが本来取るべき選択肢なんだ。
そんな間違った選択に、他人を巻き込む必要は無い。
間違うのはあたし一人で十分だ。
だから―――
「だから、私も協力させてもらうわ」
「………え?」
耳を、疑った。
205 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/15(月) 22:18:34.13 ID:Mdr21XlL0
顔を上げ、目を合わせる。
「巴マミを救えなかったこと、そして彼女たちを犬死にさせたこと……もう、そんなことにはさせない」
「け、けど……」
これでは、また同じ結果になってしまう。
自分から頼んでおいて妙な話だが、手放しで喜べない。
「……同じじゃないわ。三人よ」
「そりゃ、そうだけど……」
「可能性の問題じゃない」
その瞳から打算は消えていた。
宿るのは意思という名の焔。
「それ以上に―――譲れない理由がある」
そういえば、そうだった。
こいつとまどかは、あたしが会う前からさやかと友達だったんだ。
206 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/15(月) 22:19:15.74 ID:Mdr21XlL0
「それじゃ、頼むよ?」
「ええ、勿論」
ぎゅ、と握手を交わす。
自然と小さく笑みが出た。
「わ、わたしも!」
まどかも手を差し出してくるが、三つの手で握手するなんて無理な話だ。
さて、どうしたものか。
「……じゃあ、こうしましょう」
握っていた手を離し、三人の手を一か所で合わせる。
運動部辺りが試合の前にやりそうな、儀式のようなもの。
あたしの手の上にほむらの手、その上にまどかの手。
「……なんだか、チームって感じだね」
「まどかは魔法少女じゃないけどな」
「ええっ、ひどいよぉ……」
「ふふ……」
207 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/15(月) 22:20:28.88 ID:Mdr21XlL0
その夜。
「……こういうの、川の字っていうのか? なんてーか、懐かしいなぁ」
結局三人、否、四人で寝ることにした。
さやかも含めて、だ。
死体と寝る、と言ってしまうとネクロフィリアか何かと勘違いされそうだがそういうものではない。
そうやって、信じていたいんだ。
さやかが生きているような行動を取ることで、どうにか心を保っているんだ。
「わたしは弟がいるから……ちょっと前までやってたんだけどね」
えへへ、とまどかが恥ずかしそうに告げる。
まどかはまどかで大胆なことに、親の許可を無理矢理取ってほむらの家に泊まることにしたらしい。
その親も怒ることなく、たまには朝帰りもいいもんだぞー、と言ってくれたらしい。
まどか曰く、多分酔っているらしいが。
「私は初めてね……昔から病院通いだったし、親との交流も多くなかったし」
「えへへ、じゃあわたしと杏子ちゃん、さやかちゃんがほむらちゃんの初めてなんだね!」
「ちょっ……まどか! その言い方は誤解を……」
はて。
何が誤解なんだろうか。
首を傾げているとまどかは可笑しそうに笑い、ほむらは顔を真っ赤にしていた。
一体何なんだ。
208 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/15(月) 22:21:15.85 ID:Mdr21XlL0
「それじゃあ、並び順どうする?」
なんだかまどかがはしゃいでいるように見えた。
現実がこんなことになっているから、せめて雰囲気だけでも軽くしようとつとめているんだろうか。
「あたしは、さやかの横で」
「私はまどかの横がいいわ」
「えへへ、それじゃ、わたしがほむらちゃんとさやかちゃんの間だね!」
左からほむら、まどか、さやか、あたしの順に並んだ。
ふと触れたさやかの手は冷たくて、少し悲しかった。
「……しっかし」
少し、気になる。
「あたしらはほむらのパジャマでサイズが合ってるんだけど、さやかは……」
パジャマは全員ほむらのものを借りていた。
ちなみにほむらとさやかとあたしは地味な単色のものだが、まどかは違う。
タンスの奥にあった、可愛らしい猫柄のパジャマ。
ほむらにしては意外な趣味だ。
見つけた時は、まどかはほむらと猫の話で少し盛り上がっていた。
ただの嬉しそうにしているまどかと、恥ずかしがるほむらの図だったが。
209 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/15(月) 22:22:04.53 ID:Mdr21XlL0
話を戻そう。
つまりほむらのパジャマは、さやかとサイズが合わないのだ。
下の方は合っている。
上の方は、へそが見えていて風邪を引くんじゃないか、と心配になりそうな格好。
「……それは、」
「何か理由があるの?」
「胸、が」
ふむ。
むに、とさやかの胸を揉んでみる。
なるほど、デカイ。
男が胸にこだわるのもわからんでもない。
「ひゃっ……まど、か?」
「…………」
むにむに、とまどかはほむらの胸を揉んでいた。
数秒そうして、ちら、とさやかの方を見て、自分の胸に手を当てる。
うぅん、と微妙な顔をしていた。
あたしも自分の胸に触れてみる。
確かに、柔らかな感触はある。
だが、さやかに比べれば明らかに小さかった。
なんとなく負けた気分だ。
210 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/15(月) 22:22:47.29 ID:Mdr21XlL0
「と、とにかく」
こほん、とほむらが咳ばらいをした。
こういうタイプが委員長になるんだな、となんとなく思う。
まどかに弄られているあたり、どうかとは思うが。
「今日は早く寝ましょう……明日は忙しくなるから」
その言葉に、まどかもあたしも表情を引き締める。
そう、明日は忙しくなる。
さやかをどうにかして、助けるんだ。
そうして、助かったら―――復帰パーティとかやっちゃうんだ。
あいつが泣きながら礼を言ってくるのを、笑ってやるんだ。
「それじゃあ、おやすみなさい」
「おやすみ……」
「ああ、おやすみ」
おやすみ、さやか。
布団を被って隣同士で手を握り合う。
冷たい手は、あの日電車で握った手と同じで。
その優しい記憶で、あたしはまどろんでいった。
211 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/15(月) 22:23:25.90 ID:Mdr21XlL0
そして、翌日。
「……ここか」
何の建物かわからない、骨組だけの建てかけの場所。
「本当に、さやかちゃん……?」
「同じ魔力を感じる……本人、よ」
「……アレか」
妙な顔文字と、I'm sorry I'm foolishというメッセージ。
まったく、あいつらしい。
そして、バカらしい。
「行くぞ」
「……ええ」
「うん……!」
魔法少女の装束を纏い、結界の入り口を切り裂く。
ぐわん、と景色が歪んだ。
212 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/15(月) 22:24:08.23 ID:Mdr21XlL0
現れたのは、左右に狭く、前後に長い部屋。
廊下か何かか、と思う。
何にせよ、進むだけだ。
そう考えて、一歩踏み出す。
こつん、靴音がやけに響いた。
直後、景色が加速する。
まるで、列車の車両の中で自分達だけが止まっていて、車両が動いているような。
ぎゅ、とほむらがまどかの手をしっかり握るのを見た。
まどかの護衛とサポートは、あいつに任せておけばいいだろう。
あたしは、さやかと向き合えばいい。
本当に、救えるのだろうか。
今更になって、そんなことを考える。
だが、瞬時に思考がクリアになった。
雑念は捨てればいい。
できるできないの問題じゃあない。
ただ、助けたいだけ。
だから、全力でやるだけだ。
213 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/15(月) 22:24:43.30 ID:Mdr21XlL0
景色が静止した。
「これは……」
「コンサート、ホール?」
そして、笑い声。
使い魔なのだろうか、桃色と、黒と、赤と、黄色の頭の女。
それと、寄り添う緑の頭の女と茶色い頭の男が見える。
「……よう、さやか」
中央に鎮座する、巨大な人魚の騎士。
さやかの絶望の形。
使い魔を守ろうとしているのか、剣を構える。
「あんたにとっては迷惑かもしれないけど、言わせてもらうよ―――」
気障な台詞だ、と笑われてもいい。
後で笑い話になるんなら、それはそれで幸せだ。
「今、助けてやる」
魔法少女になってから、ずっと使ってきた槍。
それを両手で構え、空中へと―――跳び上がった。
214 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/15(月) 22:25:24.99 ID:Mdr21XlL0
チャプター6は短めでここまでです
アッルェーなんか当初のイメージと違うぜ
もっとこう……ハードでボイルな感じのやり取りをするつもりだったんだが
ほのぼのしつつなんか根本的な所が病んでる状態になってた
まあダークなシリアス展開の間に挟むとこうなるよ、ね……?
うん、でも死体の横でこんなやり取りするのは異常ですねハイ
というかまた百合った?
それではまた
215 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/08/15(月) 23:08:30.00 ID:IbfMhlXlo
乙カレー空間
希望がある分……あぁぁ……
216 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)
[sage]:2011/08/15(月) 23:43:35.54 ID:oEXHqLbZo
乙
217 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(四国)
[sage]:2011/08/16(火) 00:24:18.58 ID:kodiIAPAO
乙乙、ほのぼのすればいいのやら、絶望すればいいのやら……
218 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/16(火) 06:29:14.23 ID:4q5FF5Ka0
向き合うのはいいけどさ
引き際を弁えないとトンデモないことになってしまうんだよな。
賭け事をする時なんかは引き際を見極めないと泥沼にはまって負債がインフレ化していく。
ましてや賭けようとしているのは自分の命だ。
手遅れになる前に引くことができればいいんだけど。
さやかを助けられるか?ではなく
さやかの死を納得できるか、現実と折り合いをつけることができるか
なんだよなあ。
219 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(群馬県)
[sage]:2011/08/16(火) 13:17:50.41 ID:eSLmEnMlo
杏子が自爆しなければ良いけど…
220 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/16(火) 16:16:48.19 ID:vdrFf4rR0
二人を救えなかった事に悔恨があったとしても、それでもほむらは、甘い夢想家だらけの中で
唯一厳しい現実を突きつけ二次災害を防ごうとする役回りなのに
これじゃあ歯止めになるのか心配だ。
221 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)
[sage]:2011/08/17(水) 01:32:37.31 ID:xbN3dIIOo
乙っちまどまど!
さてほむらちゃんはどう動くのかね
222 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/17(水) 21:00:58.32 ID:ndMY3da90
空中に舞う杏子。
それを迎撃せんと、十数の巨大な車輪が現出する。
人魚の魔女が左手の剣を杏子に向ければ、それに従い飛んでいく。
まともに受けるのは危険。
ならば、受け流す。
車輪を弾こうと槍を構えた、直後。
バゴォ!!と車輪が粉砕されていく。
衝突した弾丸が轟音を立てながら砕いていく。
「支援は任せて……あなたは、さやかだけに集中すればいい」
頼もしい言葉。
実際距離が遠くて聞こえなかったのだが、聞かなくてもわかる。
杏子は魔女へと向き直る。
「……随分荒っぽい歓迎だね、あたし達のこと忘れちゃったのかよ?」
返答など無い。
けれど、問いはやめない。
223 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/17(水) 21:02:54.17 ID:ndMY3da90
杏子や自分たちに向けられた車輪を、機械的に処理していくほむら。
その手に構えているのは、バレットM82A1。
いわゆる対物狙撃銃で、例外はあるにしても二脚などで支えて扱うのがベターだ。
だが、今はそういう状況ではない。
迎撃対象は多く、こちらにも向かってくる。
結局、魔法少女の強靭な肉体で無理矢理反動を制御して、アサルトライフルのように使っていた。
もっとも、威力が高く、車輪もほぼ1発で粉砕できるあたり効果的ではある。
「さやかちゃん……わたしだよ、まどかだよ!」
まどかの説得にも返答は無い。
代わりに響くのは、唸り声。
どう考えても少女のものとはかけ離れている、化け物のような声。
「気付いてっ! わたしたちの声に……!」
気付くのは、さやかではない。
魔女。
ただ、車輪がまどかとほむらに向かってくる頻度が高まっただけ。
ぐるぐる、とコンサートホールを横にスライドするように周る魔女。
杏子から逃げているのか、と思うが違った。
224 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/17(水) 21:04:17.30 ID:ndMY3da90
止まった場所の背後。
無防備な使い魔を背にするように静止した。
「守って、るの……?」
「そうだとしたら、まさか―――」
ただ観客席に座っているだけの使い魔。
桃と黒と赤と黄と緑と茶の使い魔。
杏子にはそのモデルとなった全員との面識が無かったので、確信は持てなかった。
だが、まどかとほむらにはすぐに理解できた。
使い魔の元となったのは、仲間の魔法少女、そして志筑仁美と上条恭介。
さやかが愛し、逃げ出した世界。
守りたかった世界。
その願望が形を為し、ただ魔女の思うままに動くだけの人形。
不可能だからこそ可能を望む。
絶望の中にいるからこそ希望を望む。
故にそれは―――ただの妄想である。
225 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/17(水) 21:06:10.53 ID:ndMY3da90
だとしたら、助けられるのも自分たちだけ。
さやかの心に色濃く残っている存在であるなら、その心にも響くはず。
そのことを、三人はは突破口が見えた、と考えた。
そう考えてしまった。
ただ納得している人物は居なかった。
『自分たちなら救える』のではなく、『少なくとも、自分たち以外では救えない』と受け取るべきだったのだ。
「―――さやかっ! 私たちはあなたが必要よ! あなたが居なければ、未来に進めない……!」
「そうだよ! 昔から一緒に居てくれたさやかちゃんが、居なくなるなんて嫌だよっ!」
『前回』には居なかったイレギュラーのほむらと、まどかの一歩踏み込んだ言葉。
が、それでも届かない。
人魚はただ幻想を守り続ける。
「……あんたさ、あの時吹っ切れたって言ってたよね」
噛みしめるように、杏子は呟く。
叫ぶ必要は無い。
届かない言葉は届かない、届く言葉は届く。
なら、声の大きさは関係ない。
「あたしもそうさ……あんたのおかげで、仲間とか友達とか、そういうのがどう大事かを思い出せたんだ」
226 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/17(水) 21:08:10.95 ID:ndMY3da90
仲間なんていらないと思っていた。
また失うのご怖かったから。
絶対に他人のために戦わないと誓った。
それで誰かを不幸にしたくなかったから。
けれども、そんな決意よりも大きかった。
人の温かみは、そんな心をも包み込んでくれた。
さやかが居なければそれには気付かなかった。
さやかが居たからこそそれに気付けた。
だから、
「あたしはあんたが必要だっ! 戻ってこい、さやか……っ!」
自分から逃げ出した場所に、戻りたいと言っていたさやか。
自分が醜く感じて、戻れないと言っていたさやか。
だからこそ、こちらから手を差し伸べる。
必要だと。
戻ってきてほしいと。
そう言ってやる。
227 :
>>226に誤字、リトライ
[saga]:2011/08/17(水) 21:09:33.79 ID:ndMY3da90
仲間なんていらないと思っていた。
また失うのが怖かったから。
絶対に他人のために戦わないと誓った。
それで誰かを不幸にしたくなかったから。
けれども、そんな決意よりも大きかった。
人の温かみは、そんな心をも包み込んでくれた。
さやかが居なければそれには気付かなかった。
さやかが居たからこそそれに気付けた。
だから、
「あたしはあんたが必要だっ! 戻ってこい、さやか……っ!」
自分から逃げ出した場所に、戻りたいと言っていたさやか。
自分が醜く感じて、戻れないと言っていたさやか。
だからこそ、こちらから手を差し伸べる。
必要だと。
戻ってきてほしいと。
そう言ってやる。
228 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/17(水) 21:11:10.42 ID:ndMY3da90
そんな言葉も届かない。
がしゃん、と魔女がその巨大な剣を振り上げた。
狙いは。
「―――ほむら、まどかっ!」
ズン、と振り下ろされ、地面が崩壊する。
がらがらと地面が崩落し、世界が反転する。
青い、水に満たされたような世界。
使い魔もまた、その座席に座っていた。
「くそっ……」
「……こっちは無事よ、問題無いわ」
まどかを抱き上げたほむらが視界に入る。
どんな手品か知らないが、先ほどの位置から随分移動していた。
少し、息を吐く。
けれど言葉が届かない以上、さやかを救う手立てがない。
ならば、一か八か。
ヒュオ、と魔女へと杏子が肉薄した。
229 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/17(水) 21:13:16.04 ID:ndMY3da90
迎撃せんと、魔女が剣を振るう。
だが、得物が大きすぎる。
する、と攻撃が避けられる。
そうして、杏子は魔女へと突撃し―――通り過ぎた。
そう。
そもそも、杏子に魔女を攻撃するつもりはないのだ。
杏子にとって魔女はさやかであり、つまりは仲間だ。
ならば、その刃の向かう先は。
「……今、あんたを夢から引きずり出してやるっ!」
使い魔。
魔女が守るべき対象と信じている対象。
それを無くしてしまえば、現実に目を向けてくれる。
そう、信じて、
「―――杏子っ!」
「え?」
230 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/17(水) 21:15:12.08 ID:ndMY3da90
何が起きているのかわからなかった。
縫いつけられたように、体が空中で静止した。
視界に、白銀の『何か』が見えた。
それは、視界の下の方から出ていた。
ゆっくりと、下を向く杏子。
巨大な、剣だった。
刺し貫いていた。
自分の腹の、3分の2を。
刺し貫く、というより切り裂かれているというのが正しい表現だっただろうか。
杏子は、自分でも驚くほど冷静にそれを受け止めた。
ずる、と剣が引き抜かれる。
受け身を取る間もなく、地面へと落ちていく。
べしゃり、と落下の衝撃で傷口から中身が噴き出した。
からん、と槍が転がり、消えていく。
そちらに魔力を回す余裕も無かった。
「杏子ちゃん―――っ!」
まどかの声。
見れば、魔女が剣を振り上げていた。
そこで、ようやく理解する。
231 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/17(水) 21:17:10.79 ID:ndMY3da90
この世界は、さやかにとって理想だったんだと。
仲間を頼らず、報酬なしに使い魔を守り続ける。
助けられない方が、むしろ楽だったんだと。
よくよく考えれば、結界を見ればわかることじゃないか。
おそらくこの場所は、さやかにとって思い出の場所だ。
今居る場所の青も、さやかにとって都合のいい場所という証拠。
きっと、ここだけがさやかの天国なんだ。
心の中で作った夢の国なんだ。
「そっか……さやか、あんたは夢が見たかっただけ、なんだな」
幸せな夢。
杏子が望んでいたもの。
願いだけじゃなく、こんなところまで似ているのか―――少し、苦笑した。
「……いいよ、さやか」
手を広げる。
受け入れる。
「一緒に居てやるよ……夢を見てても、一人ぼっちは寂しいもんな?」
ズドン、と剣が振り下ろされた。
232 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/17(水) 21:30:08.57 ID:ndMY3da90
「ごめんなさい、杏子……」
気付けば、ほむらに抱えられていた。
その傍らには、まどか。
妙な感じがすると思ったら、下半身が無かった。
残骸が飛び散っている。
さやかの剣に砕かれた残骸が。
こうして生きているのも変な気分だったが、魔法少女なら仕方ない。
「さやかは、諦める」
「……そうかい」
それ以上に、何も言えなかった。
まどかも同じ。
どちらにしろ、救えはしないんだ。
かしゃん、と軽い音が響いた。
それだけ。
瞬きの後に杏子の目に映ったのは、大量の爆弾に囲まれた魔女。
ゴバァ、と空間ごと魔女が爆ぜ、燃え尽きる。
ただ、それだけだった。
233 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/17(水) 21:33:50.28 ID:ndMY3da90
「……なぁ、ほむら」
「喋らないで……せめて、傷を塞がないと」
「さやかは、幸せだったと思うか?」
労る言葉を無視して出た問いは、残酷なものだった。
きっと、自分が殺したと思っているだろうに。
「わからない……でも、絶望の末にたどり着いた場所なんて、幸せとは言えないと思う」
「……そっか」
それでいい。
ほむらはそれでいい。
きっとこいつの心は、まどかにあるから。
生きているまどかにあるからそれでいい、と思う。
けれど。
「あたしは……こうも思うんだ。絶望したからこそ、本当の幸せを見つけられるって」
「………杏子ちゃん?」
234 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/17(水) 21:36:11.19 ID:ndMY3da90
まどかの不安そうな声。
ほむらの戸惑うような視線。
「大切なもんってさ、失ってからその大事さに気付くもんなんだよ……だから、さ」
「杏子、まさか……」
ほむらの顔が青ざめていく。
少し罪悪感を覚えたが、もう止まらない。
一度考えてしまえば、止まれない。
「どんなに仲間が暖かい存在でも……いつかそれを失う時が来る。それがいつかはわからないけど」
どろ、と自分の中で何かが溢れるのを感じた。
それが形を持って。
膨らんで。
「だから、本当の幸せは心の中にしか無いんだよ―――」
「杏子、今グリーフシードを……!」
「いいよ。もう、無理だ」
235 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/17(水) 21:40:05.34 ID:ndMY3da90
「そんな、杏子ちゃんまでっ! 嫌だよそんなの!!」
「―――まどか」
とん、と最後に残った力で、すがりついてくるまどかを跳ね除けた。
「ほむら、まどかを守ってやりなよ―――?」
残酷なことを言っているのは承知している。
分かりきっている。
それは、彼女にとって重荷に違いないのに。
「……さやか、あんたもこんな気持ちだったのかな」
視界が浸食されていく。
感覚が失われていく。
自分がどういうものだったか、忘れていく。
「なんだか、一人だったころより寂しいや」
ぱきん、と。
その音が、『佐倉杏子』が知覚できた最後の音だった。
236 :
◆fJz13rtmKU
[!red_res]:2011/08/17(水) 21:42:55.71 ID:ndMY3da90
chapter7 相対と連鎖のアポトーシス
237 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/17(水) 21:46:16.85 ID:ndMY3da90
ああ。
まただ。
また、こんなことになってしまった。
救おうとするのが間違いなのか。
まどかを救おうとして、状況を悪化させていったのと同じ。
もがく度に、沈んでいく。
もはや自分は魔女と変わらないのだろうか。
魔法少女を絶望させ、呪いを振り撒く存在なのか。
どうにもならない。
触れられる距離にあった世界はどんどん遠ざかっていって。
まどか一人さえ、救えない。
彼女は確かにここにいるのに―――
238 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/17(水) 21:49:09.34 ID:ndMY3da90
「魔女になることは決して悪いことではないさ」
「心をさらけ出せる、欲望のままに行動できる……邪魔な考えを捨てて」
「彼女たちにはむしろ感謝してほしいくらいだ。そうなるようにサポートしてあげているんだから」
「その上、この宇宙を救うことにも繋がるんだよ? 素晴らしく有意義だ」
「嫌悪し、逃れようとするなんて理解できないね……感情というのは本当に難解だ」
「まあ、それを活用させてもらっている僕たちが言うことでもないんだが」
239 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/17(水) 21:53:15.00 ID:ndMY3da90
祈りの魔女、その性質は幻惑
幸せな夢を、使い魔と共に見続ける魔女。
侵入者に対して幻覚を見せ、現実に戻れないようにしてしまう。
見せる夢に抗い、使い魔を傷つければその怒りを買うだろう。
この魔女を倒したくば、夢を否定し、現実を突き付けることだ。
祈りの魔女の手下、その役割は狂信者
ただ素直に魔女の話を聞き入れ、幸せな夢に浸り続ける存在。
魔女に心酔しており、結界に侵入したあらゆる存在を捕らえ、夢へと引きずり込む。
それが侵入者にとって悪夢でも。
240 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/17(水) 21:55:39.75 ID:ndMY3da90
現実と折り合いをつける、なるほどいい言葉だ
だが無意味だ
ほむら自身、あくまでまどかを自分が助けるという考えの甘い夢想家であって
現実主義者ではなくただ現実に打ちのめされた回数が多いだけだ
一カ月をどれだけ引き延ばそうと、あくまでほむらは女子中学生でしかない
と、意味不明なことを言っている俺だがキャラは多分みんな好きだよ
QBはサンドバックにしたいけど
ほむらの戦闘ではなんでわざわざ武器名まで書いちゃうんだろうか
別に武器に詳しくも無いのに
しかしなんだろう、この板がとんでもなく重くなってるんだろうか、それとも俺だけなのか
更新されてるスレが軒並み上がっていないぜ、まあいいか
さぁ次回に続くー
それではまた
241 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(四国)
:2011/08/17(水) 23:13:10.46 ID:yKINxh7AO
乙乙、おぉう……
これはあげとくか
242 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/17(水) 23:34:38.15 ID:Y5EKDSrmo
乙。
どんどん状況が悪くなっていくなぁ……正直これでスレタイに繋がってもって思ってしまう。
243 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/08/17(水) 23:38:05.09 ID:e6VJBDDeo
乙おー……下げて下げて、ここぞと言う所でぐぅぅぅんと上がるのを期待……したいなぁ
本編並かそれ以上に欝欝しいから
244 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(愛媛県)
[saga]:2011/08/18(木) 00:04:46.46 ID:zXxysQOD0
一覧でのスレの位置も展開も下がってきてるんだぜ……
245 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)
[sage]:2011/08/18(木) 01:18:07.01 ID:U7EeifA6o
乙っちまどまど!
本編が本編やからしゃーない
246 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東地方)
[sage]:2011/08/18(木) 11:40:08.10 ID:q+rFemj80
>>240
ほむらはまどか以外のことなら冷静なんだよ
豆腐メンタル言われてるマミも、心の琴線に触れることでなければ
鋭い分析ができるんだよ。
んでさやかと杏子だが・・・
このSSでは死んでもいいという態度が露骨すぎる。
生き延びようとしない人はほむらだろうと誰であろうと助けることはできない。
247 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/18(木) 12:32:32.70 ID:x8nDiRcf0
声をかけるのではなく時間停止で助けなさいって
アニメ本編と違うのは時間停止できるほむらがいることなんだから
前回の事例で死ぬことを警告されていたのに、杏子は注意力散漫だ
248 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/19(金) 22:07:25.58 ID:8W9zARco0
堕ちていく。
世界が、視界が闇に堕ちていく。
砕け散った杏子のソウルジェムを中心に、周囲が変貌していく。
呑み込まれていく。
結界、とはまた違うような気がした。
これは、魔女が生み出しているんじゃない。
魔女によって、自分から引き出されているものだ。
暗闇が晴れていく。
クリアになる視界。
まどかが隣に居た。
ひとまず、無事に安堵する。
そうして、向き直った眼前には、
『あ、あの、暁美ほむら、です。よ、よろしくお願いします……』
無力で、無垢だったころの自分がいた。
249 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/19(金) 22:08:12.55 ID:8W9zARco0
chapter8 追想と達観のヘイト
250 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/19(金) 22:09:12.31 ID:8W9zARco0
「……これ、は」
自身の記憶。
心に秘めた思い出。
これが、魔女になった杏子の能力だろうか。
「え……ほむら、ちゃんだよね?」
まどかが自分とその『暁美ほむら』を見て、困惑している。
当然ではある。
この時間軸で最初に出会った時と同じで三つ編みもしているし、眼鏡をかけている。
それでも身に纏う雰囲気、というのが違うのだろう。
「……ええ、そうよ。これは私が最初に転校してきた時の様子ね」
「え、でも、」
「疑問は続きを見れば解決するわ……」
『ちょっとごめんねみんな―――暁美さん、休み時間は保健室行かないといけないの』
「こ、これって……わたし!?」
多少強引に過去の私を連れていくあのまどかは、このまどかには衝撃だったのだろう。
自分の顔をぺちぺちと叩いて、その度過去の自分を見直している。
251 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/19(金) 22:10:14.89 ID:8W9zARco0
しかし、この空間はどうやって脱出すればいいのだろう。
思案していると、場面は夕暮れに、そして、
『な、なに? これ……』
魔女の結界へと迷い込む。
使い魔が過去の私へと襲いかかろうとする。
そこで、ズドン、という音と共に、光の矢と弾丸が飛来した。
『間一髪、って所ね』
『あなた達は……?』
『彼女たちは魔法少女、魔女を狩る者たちさ』
『ふふ……いきなり秘密がバレちゃったね、ほむらちゃん!』
ぱちん、と過去のまどかのウインクに、過去の私は引きこまれた。
思えば、この時からまどかは私の中で絶対的な存在になっていたのかもしれない。
『クラスのみんなには……ナイショだよっ!』
『ティロ―――フィナーレッ!!』
252 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/19(金) 22:11:19.19 ID:8W9zARco0
「わたしが魔法少女で、マミさんと一緒に戦ってて……うぅん、なんだか変」
「もうすぐどういうことかわかる……この映像が、私の心の中の重要な部分を抜き出したものなら」
そう、重要な部分だけ。
平和な日常は確かに好きだったが、きっとそんなものは省かれている。
まどかを救うために、そういうものを捨ててきたのだから。
『……じゃあ、行ってくるね』
廃墟と化した街。
そこに浮かぶ、巨大な歯車。
「あれが、ワルプルギスの夜……?」
『そんな……巴さん、死んじゃったのに』
『だからだよ。ワルプルギスの夜を止められるのは、わたしだけしか居ないから』
悲壮な決意。
今見ても、まどかの背はあまりにも小さくて。
『……逃げようよ』
253 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/19(金) 22:12:43.57 ID:8W9zARco0
『仕方ないよ、誰も鹿目さんを恨んだりしないよ! だから―――』
『ほむらちゃん』
この時ちゃんと止められていれば、こうはならなかったのだろうか。
否、きっと無理だ。
まどかを止めるなんて、できるはずがないんだ。
『わたしね、あの時あなたを救えたこと……今でもそれが、自慢なの』
『鹿目、さん……』
その優しさが悲しくて。
どうしようもなく暖かくて。
結局、何もできないんだ。
『さよなら、ほむらちゃん……元気でねっ!』
『か、な、鹿目さぁああああああああんっ!!』
254 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/19(金) 22:13:25.67 ID:8W9zARco0
『……どうして』
瓦礫の荒野で座り込んだ過去の私。
その傍らには、抜け殻となったまどかが。
『死んじゃうって、わかってたのに……私よりも、あなたに生きていて欲しかったのに』
きっと、まどかも同じだったんだろう。
自分より、他人を優先していたんだろう。
『暁美ほむら……君は、その祈りに魂を捧げられるのかな?』
『私、は……』
インキュベーターとの契約。
この時、まどかを生き返らせるよう願っていれば良かったのだろうか。
今となっては、どうしようもないことだが。
『私は、鹿目さんとの出会いをやり直したい……彼女に守られる私じゃなく、彼女を守る私になりたい』
『………契約は成立だ。さぁ、解き放ってごらん? その新しい力を』
がしゃん、と軽い音がした。
砂時計が引っ繰り返る。
時計の針が逆に回る。
世界が、通常とは逆の方向へと進んだ。
255 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/19(金) 22:14:19.04 ID:8W9zARco0
『―――あれ? わたし、まだ退院、』
「そっか……ほむらちゃんは、わたしを助けるために時間を遡って……」
「そういうことよ……そして、それは一回や二回じゃなかった」
妙に饒舌な自分が居た。
まどかに助けを求めてはいけないのに。
頼ってはならないのに。
すがろうとする自分が居る。
『……グリーフ、シードは?』
『ううん……』
『そっか……わたし達も、もうおしまいだね』
ああ。
そうして、ここに繋がるのか。
マミとさやかと杏子の死も、繰り返したせいで心に残らなくなっているのか。
自分は、最初から諦めていたのか。
救いたくなかったのか。
いや、きっと救おうとはしていた。
まどかの時と同じ。
救おうとすればするほど、結果が逆になっているだけ。
256 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/19(金) 22:15:38.62 ID:8W9zARco0
『このまま二人で怪物になって、何もかも滅茶苦茶にしちゃおっか……嫌なことも全部、無かったことにできるくらい……』
いつだって諦めそうだった。
諦めてしまいたかった。
けれど、そうしなかったのは。
『それはそれで良いと思わ―――』
言葉を遮って、まどかがくすっと笑った。
かち、と小さな音と共に、あの時の私の魂が浄化されていく。
『嘘……一個だけ、取っておいたんだ』
『そんな……なんで、私になんかっ!』
『ほむらちゃん、言ってたよね……こんな終わり方にならないよう、歴史を変えられるって……』
この約束が。
これだけが、私を突き動かす原動力。
『キュゥべえに騙される前の、バカなわたしを助けてあげてくれないかな……』
257 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/19(金) 22:16:16.98 ID:8W9zARco0
『―――約束する、絶対にあなたを救ってみせる! 何度繰り返すことになっても、必ずあなたを守ってみせる!!』
『良か、った……それと、もう一つ、頼んでいい?』
頷くことしかできなかった。
まどかの望み。
唯一の、かけがえのない友達の望み。
『わたし、魔女にはなりたくない……悲しいことも、苦しいこともあったけど、守りたいものも沢山、この世界にはあるから……』
『まどかっ……!』
『ほむらちゃん、やっと名前で呼んでくれたね』
失われていく体温。
蝕まれていく自我。
ならばせめて、最期の望みだけは。
『うれしい……な』
『う――――うぅううううううううううううううううっ!!』
いっそ、私の手で。
258 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/19(金) 22:17:10.05 ID:8W9zARco0
「……ごめんね、ほむらちゃん」
まどかに抱き締められる。
私より背が小さいのに、抱きつく、というより抱き締める。
母親や、姉のような暖かさ。
「ごめんね……痛かったよね、苦しかったよね? わたしの、わがままで……」
「……いいえ、これは私が望んだこと。まどかは私を励ましてくれた……それだけよ」
そう、まどかは何も悪くない。
悪いのは、私だ。
何度繰り返しても、誰を犠牲にしても救えない私だ。
「でも……ほむらちゃんは何も感じなかったの? いくつもの絶望を見てきて、心は傷つかなかったの?」
「……もう、心は私の中には無い。願いだけが、この体を動かしているのよ」
心はもう、捨ててしまった。
まどかを救えるなら、それで良かった。
その結果、出口の無い迷路へと迷い込んでしまった。
259 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/19(金) 22:18:15.22 ID:8W9zARco0
『っく……どうして、』
前の時間軸での私。
結局、何も変えられなかった私。
今も変えられていない。
それどころか、さらなる苦痛を彼女たちに与えてしまった。
救おうとすることが間違いだと言わんばかりに。
願いそのものが、間違いだと言うように。
だけど、きっとそうなんだ。
願いは簡単に叶ってはいけないんだ。
契約によって簡単に叶った願いは、容易く絶望に変わる。
普通に努力していれば挫折して、もう一度立ち上がって、妥協して、正しい答えへとたどり着ける。
叶わない願いならそれを力に変えて、前に進むことができる。
けれど、魔法少女は。
願いを叶えてしまったからこそ、全てを望んでしまう。
ありもしない希望にすがる。
未来を信じず、ただ一瞬の『今』の幸福を望んだばかりに。
『ごめんなさい、まどか―――私はまた、』
繰り返す。
ただ、願いと約束のためだけに。
目の前に横たわる絶望を、必死に視界から排除して。
260 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/19(金) 22:19:01.25 ID:8W9zARco0
視界が変わる。
先ほどのような、曖昧な空間ではない。
魔女によって、固定された空間。
教会。
「―――杏子、」
返答が無いのはわかっていた。
さやかの時も、きちんと現実を見て対処すれば良かったんだ。
マミの時と同だって、わかっていたのに。
中途半端に希望を抱いたことで、彼女をこんな姿に変えてしまった。
「ごめんなさい、私のせいで」
『……いいんだよ』
「え……?」
声。
それと共に、何かが形成されていく。
まさか、まさかこれは―――
『そんなことよりさ……食うかい?』
261 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/19(金) 22:19:50.91 ID:8W9zARco0
佐倉杏子。
魔女になってしまったはずの彼女。
けれど、ここには魔女も居た。
幻覚。
けれど、その姿は完全に。
『ちょっとちょっとほむらー、何暗い顔してんのさ! こういう時は相談するのが友達でしょ?』
「……さやか」
『あらあら、もっと頼りにしてくれていいのよ? なんてったって先輩なんだから』
「巴、さん」
死んだはずの彼女たちが居た。
生前と何ら変わらぬ様子で。
屈託のない笑顔で。
絶望なんて、存在しないと言わんばかりに。
『みんないるよ……ほむらが望むんなら、誰とでも、ずっと一緒に居られる』
262 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/19(金) 22:20:38.74 ID:8W9zARco0
誰とでも、ずっと一緒に。
望む世界で。
魅力的で、素晴らしい提案に思えた。
こんなに簡単に、望む全てを永遠にできる。
幻覚、というのはわかっている。
けれど、心に幸福があれば。
心が満たされていれば―――幻覚でも現実でも、変わりないんじゃないか。
『……ほむらちゃん』
まどかが居た。
満面の笑みで笑っているまどか。
守りたかった表情。
守れなかった表情。
『もう、いいんだよ―――』
手を差し出してくる。
この手を掴めば、希望にあふれた世界が待っている。
拒めば、絶望に満ちた現実に戻ることになる。
どちらが本当に幸せか。
私は、その手を―――
「ごめんね、ほむらちゃん」
263 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/19(金) 22:21:26.65 ID:8W9zARco0
取ろうとして、まどかに止められた。
「ごめん……ごめんね。わたしのわがままを、聞いてほしいんだ」
ああ。
自分は何をしようとした?
見捨てようとしたのだ。
他でもない、現実に確かに存在するまどかを。
「ここは確かにほむらちゃんにとって幸せな場所かもしれない……だけど、わたしはそれじゃダメだと思う」
「……いいの? ここはあなたにとっても、理想の場所になるかもしれない」
そう思っているのは、私だけなのに。
まどかを救いたいんじゃなく、自分が救われたいくせに。
今まさに、見捨てようとしたくせに。
そんなにも、現実が嫌なのか。
「それでも……あそこにはまだ、守りたいものが沢山あるから。それを捨てて、わたしは逃げたくない」
変わらない。
契約していようがしていまいが、まどかの心は変わらない。
変わっているのは、自分だけだ。
264 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/19(金) 22:22:23.87 ID:8W9zARco0
「ごめんね……私、逃げようとした。まどかを捨てて逃げようとした。そのために沢山のものを犠牲にしてきたのに」
「……いいんだよ。だから、心の痛みも重荷も、一人で抱え込まないで?」
こんな私を。
卑しく幸福を渇望する私も許してくれる。
「ありがとう……」
いっそ責めてほしかった。
そうすれば、全て自分のせいにできるから。
だけど、それもまた逃避だ。
向き合わなければならない。
現実と―――絶望と。
かしゃん、と盾を駆動させる。
時間が止まり、幻覚も固まる。
こうやって時間を止めていれば、三人を死なせることは無かったのだろうか。
けれど、もう遅い。
どうにもならない。
爆弾を仕掛け、その場を離れる。
そうして、起爆させた。
こんなに、あっさりと壊せてしまうのに。
どうして守ることはできないんだろう。
爆音と、閃光。
ただ、それだけだった。
265 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/19(金) 22:23:15.16 ID:8W9zARco0
現実へと、回帰する。
残酷な現実に。
マミが、さやかが、杏子が死んだ世界。
結果として、前回と全く同じ。
過程としてはさらに悪い。
「……ごめんね、ほむらちゃん」
「……いいの。もう、あなたさえ居れば」
まどかは魔法少女について十分にわかっている。
契約もせず、生きている。
けれど、どこか空虚だった。
ワルプルギスの夜を倒せていないからじゃない。
すぐそこにある未来じゃない。
今ここにある現実が、私の心を蹂躙していった。
希望なんて、見えない。
266 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/19(金) 22:25:45.97 ID:8W9zARco0
チャプター8、ここまでですー
さてさていよいよ……
しかしこの調子だと400レス行くかどうか
まあそんなもんか
それではまた
少し忙しくなってきたこととかで地味に次回は遅いかも
267 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/19(金) 23:04:06.19 ID:8W9zARco0
まことに見苦しいだろうが、ageさせていただきます
さすがに前回共々更新時にこうなるとは思ってなかったんだぜ……
鯖が重いのかな
268 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/20(土) 00:49:58.56 ID:s+QOq/UIo
おつっちまどまど!
269 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/20(土) 00:59:44.03 ID:pxr2OH3IO
乙っちまどまど!
安定のまどっち
270 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(四国)
[sage]:2011/08/20(土) 07:02:13.54 ID:P/Gn2qkAO
乙乙、災難だったね
しかしいよいよとは一体……?
271 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/20(土) 17:03:30.54 ID:rARxPXkc0
>>240
>ほむら自身、あくまでまどかを自分が助けるという考えの甘い夢想家であって
>現実主義者ではなくただ現実に打ちのめされた回数が多いだけだ
全員が生きていられる未来を目指しまたループするしかないのか。
>ほむらがまどかを覚えていた奇跡についての虚淵発言
>「起こってもおかしくない出来事がたまたまその瞬間に起きたということにすぎないんですね。
>確率的に言えば、宇宙を何百回か繰り返せば物質が物質をすり抜けるようなことが起こってもおかしくないでしょう。」
>確率的に言って、物質が物質をすり抜けるような不可思議なことよりも、
>あるいは、マミも杏子も家族も忘れてしまった概念さんを、ほむらが覚えている奇跡よりも、
>さやかが皆の助けと自分自身の成長で、魔女化や世界改変後に消滅を回避する
>「起こってもおかしくない出来事」のほうが頻繁に発生しているのが普通ですよね
最終回でほむらにそんな無茶苦茶な低確率な展開を起こすより
全員無事でワルプルギスの夜を倒す展開の方が現実的な可能性だろうに。
アニメ展開はほむらへの嫌がらせじゃないのか?
272 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/21(日) 01:24:35.95 ID:Xkh0XAago
>>271
三行で
273 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/22(月) 21:40:46.49 ID:zknOc5c/0
戻ってきた。
さやかを助けようと出た家に。
その本人の抜け殻の転がっている家に。
一人欠けた状態で。
さやかの魂も、杏子の魂も歪んだものに変わってしまった。
そうして、殺した。
私が殺した。
魔女になるか殺されるか、どちらがいいか、とかそういう問題じゃない。
どちらにしろ、私が殺したんだ。
最後の結果は同じでも、いくつもの過程を見てきたくせに。
時間停止なんて、十分に使える能力を持っているくせに。
結局、まどか一人救えない。
無力だ。
いや、力はある。
ただ、私が救いようのないほどに馬鹿なんだ。
274 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/22(月) 21:41:38.80 ID:zknOc5c/0
どさ、と椅子に座り込む。
隣にまどかが、ゆっくりと座った。
寄り添うように。
求めた暖かさはここにあるのに。
すぐ、触れられる場所にあるのに。
まどかは、ここにいるのに。
もう、どうしようもないのか。
諦めろというのか。
私では、彼女を救えない。
「……ほむらちゃん」
呼びかけに、応えたくなかった。
応える資格なんて無かった。
ただ、手を握った。
暖かい。
柔らかい。
今だけのもの。
未来には、存在しないもの。
あの『夜』を越えられないもの。
275 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/22(月) 21:42:20.37 ID:zknOc5c/0
テーブルを挟んだ向かい側の椅子に、さやかの体が横たえられていた。
もう、その体の主は存在しない。
制服を着ていた。
パジャマを着せたままだと、後で文句言われそうだから。
そんなことを言って、杏子が着換えさせた。
バラしちゃおっかなー、なんてまどかが言うと焦っていた。
あなたが脱がせたのは事実でしょう、と私がからかうとしどろもどろになっていた。
だけど、もう居ない。
朝までは、ここで焦って、戸惑って、笑っていて。
それは、もう存在しないもの。
過去になってしまったもの。
現在に辿り着くために、捨ててしまったもの。
もう、戻らない。
276 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/22(月) 21:43:20.85 ID:zknOc5c/0
「……なにひとつ、救えない」
心の奥の、弱音が漏れる。
抑えきれない衝動で、口がひとりでに動く。
「まどかを、あなたを救う……それだけが私の願いだったはずなのに、救えない」
決壊する。
止まらない。
止めようとしても、きっとどうにもならない。
「救うどころか、あなたの因果を増幅させて……最悪の魔女にしてしまった」
「因、果……?」
ああ。
そういえば、話していなかった。
「魔法少女の資質は因果で決まる……インキュベーターが言っていたわ。一国の王女なんかは、資質が高いと」
「でも、わたしは……」
平凡な一人の少女。
それなのに、高い資質を持ってしまった。
「あなたを救うためにこの一カ月を繰り返した結果、その分の因果があなたに集中してしまった……」
私の、罪。
277 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/22(月) 21:43:59.18 ID:zknOc5c/0
「……わたしの資質は、ほむらちゃんが繰り返したから高まったっていうこと?」
「そう、よ……」
繰り返さない方がマシだったのかもしれない。
もし魔女になっても、誰かが倒してくれるから。
だけど、もう無理だ。
前々回で既に、地球の生命を全滅させてしまえる存在だった。
もう、誰もまどかを止められない。
「ねえ、まどか……私、どうすればよかったの?」
無意味な問い。
縋ってはいけない相手に縋る愚行。
「あなたを見捨てていれば良かったのかな……最初から、諦めていれば」
こんなに苦しむことも無かった。
乗り越えて生きて行けたかもしれない。
悲しみは無限でなく、過ぎ去ればそれで終わりなんだから。
「……だとしたら、きっと」
今まで繰り返したこと。
戦い続けた時間。
もう戻らない暖かな時間。
それも、全部。
「私のやってきたことは―――」
278 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/22(月) 21:44:35.42 ID:zknOc5c/0
「……無駄なんかじゃないよ」
279 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/22(月) 21:45:19.08 ID:zknOc5c/0
「まど、か……?」
暖かな感触。
抱きしめられていた。
「ありがとう……ほむらちゃんのおかげで、わたしのやるべきことが見つかった」
何を、言っているんだろう。
「でも、もうどうすることも……」
「できるよ」
強い意思。
それは、記憶の奥底に残っている、あのまどかと同じで。
「ほむらちゃんが時間を遡ってわたしを救おうとしてくれたからこそ、皆を救えるわたしがいる」
「まどか、まさか……!」
「―――いくつもの因果を背負った、わたしがいる」
答は私にとって非情だった。
けれど、その表情に悲壮な感じは無くて。
むしろ、嬉しそうにも見えて。
280 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/22(月) 21:46:08.47 ID:zknOc5c/0
「……キュゥべえ」
「おや……この流れだと、どうやら宇宙のために死んでくれる、ということかな?」
唐突に現れ、ふざけた調子で人の心を抉る。
いつもなら攻撃か口撃で対処しているが、そんな余裕は無い。
「うん―――決めたよ。わたしには、叶えたい願いがある」
「……まどかっ!」
止めなければならない。
ワルプルギスの夜を倒せても、まどかは魔女になる。
結果は決まっているのだから。
「大丈夫だよ、ほむらちゃん」
「何が……っ」
「ほむらちゃんがわたしをわたしだと思ってくれるなら―――形が変わっても、それはわたしだよ」
えへへ、とまどかが笑う。
その様子は、花が咲き乱れるようで。
「ほむらちゃんはここにいる……わたしもずっと、傍にいる。離したりなんか、しないから」
281 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/22(月) 21:46:55.71 ID:zknOc5c/0
ああ。
止められない。
だけど。
「だから大丈夫―――信じて、ね?」
大丈夫なんじゃないかと。
まどかなら、間違いは無いんじゃないかと。
そう、思ってしまうんだ。
「…………うん」
気付けば、涙が零れていた。
まどかがそれを拭ってくれる。
いつの間にか、あの頃の弱い私と強いまどかに戻ってしまっていた。
いや、そうじゃない。
最初から、そうだったんだ。
私の冷静を装った姿がただの仮面で、鎧で、その中は脆弱なのと同じ。
契約なんてしなくても、まどかは強かったんだ。
なんだか、嬉しかった。
求めていたものに近づけたような、そんな気がしたのだろうか。
282 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/22(月) 21:47:48.36 ID:zknOc5c/0
インキュベーターに向き直る。
相変わらず、感情が全く読めない。
否、存在しない。
そういう風にできている。
「さあ、鹿目まどか……その魂を対価に、君は何を願う?」
「わたしは……」
すぅう、と大きく息を吸った。
ゆっくりとそれを吐き出す。
後に残った表情は、決意。
「私は、皆で笑って明日を迎えたい……誰一人欠けずに、笑っていられる明日が欲しい」
皆。
巴マミ、美樹さやか、佐倉杏子。
そして、私たちが笑っていられる世界。
「さあ、叶えてよ―――インキュベーター!」
「……いいだろう」
迷いも、歓喜も、困惑も、憤怒もインキュベーターは浮かべなかった。
「さあ……これが、君の願いの結果だ」
そうして、光が満ちて、
283 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/22(月) 21:48:38.05 ID:zknOc5c/0
chapter9 再生と希望のコネクト
284 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/22(月) 21:49:21.45 ID:zknOc5c/0
「っ……」
目も開けられぬ眩い光。
桃色の、まどかの魂の輝き。
「これ、は……」
困惑の声。
まどかでも、他の魔法少女でもない。
インキュベーターが困惑する声。
そうして、濃密な魔力の波が引いていく。
光がおさまっていく。
「うっ、く……」
懐かしい声。
救えなかった命。
黄が、青が、赤が―――確かに、存在している。
ふ、と満足そうにまどかが微笑む。
インキュベーターは、いつの間にか姿を消していた。
285 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/22(月) 21:50:07.58 ID:zknOc5c/0
「ここは……私、どうして?」
ぼんやりとした表情で、眠たげに目を擦るマミ。
すぐさま、まどかと傍に駆け寄った。
「お久しぶりです、マミさん」
「鹿目さん? 久しぶり、なのかしら……」
よくわからない、と辺りを見回す。
それと同時。
「ん……あれ? ここってどこ……?」
「う……ん?」
残りの二人の意識も覚醒する。
ぱちぱち、と数回瞬きをして、杏子がさやかの姿をしっかりと認める。
そして、
「―――さやかぁああああああああああああああああああっ!!」
「どわぁっ!? ちょっ……いきなり何してんのよ!?」
跳びつき、そのまま押し倒した。
ぎゅう、と杏子が思い切りさやかを抱きしめている。
もう離したりしない、と言わんばかりに。
286 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/22(月) 21:50:45.79 ID:zknOc5c/0
くす、と思わず笑みが漏れた。
「……さやかちゃんは、杏子ちゃんがどうにかしてくれそうだね」
「そうね……彼女、素直になると一途なんだから」
気付けば、心の雨はいつの間にか止んでいた。
不思議と、春の曙のような暖かさが広がっていく。
きっと、まどかと一緒だから。
まどかが手を引いてくれているから。
敵も壁も絶望も、みんな吹き飛ばせるような気がして。
「え、えっと……美樹さんと佐倉さんがああなってこうなって……?」
と、物思いにふけっているとマミが混乱していた。
脳内が煮詰まっているようで、そろそろ湯気でも出るんじゃないか、とも思う。
「落ち着いて……とにかく、警戒するような状況ではないわ」
「そ、そう……」
287 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/22(月) 21:51:13.78 ID:zknOc5c/0
ぎゅう、とまどかがマミの手を強く握る。
「……マミさん」
困惑し、こちらに目を向けるマミ。
横に首を振ると、さらに困惑しておろおろとした様子になる。
「マミさんはもう死なせません……わたしが、わたしたちが、させません」
まどかの手に、さらに力がこもる。
その上に、そっと私の手を重ねた。
「勝手に死ぬことも、もう許さない。あなたの命は、あなただけのものじゃないんだから」
まどかが契約によって生き返らせたから、ではない。
命は、一人のものとして完結せず、多くの人を繋ぐ。
生まれれば嬉しいし、失えば悲しい。
だから、許さない。
周りの悲しみも考えず、死に向かうなんて許さない。
288 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/22(月) 21:51:54.70 ID:zknOc5c/0
また困惑する、と思ったが違った。
マミの目から、零れるのは涙。
「……いい、の?」
みっともなく涙を流しながら。
それを拭いながら。
「私、ここに居ても……いいの?」
答えは、いらない。
ただ、まどかと一緒に抱きしめた。
そうすると、涙は止まらなくなって。
子供のように、泣きじゃくって。
それを、子供をあやすように抱きしめた。
昔とは立場が逆だな、と思うとなんだか可笑しかった。
289 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/22(月) 21:52:47.01 ID:zknOc5c/0
「良かった……さやか、さやかっ……!」
「……ったく」
何がどうなっているのか、さっぱりわからない。
気付けば杏子に抱きつかれていた。
そもそも、ここはどこなんだ、という疑問が湧く。
死後の世界にしては、あまりにリアルだ。
というか、杏子にまどか、ほむらがいる時点でその可能性は捨てた。
確信ではなく、願望で。
「ここに……居るんだよな? もう、居なくなったりしないよな?」
不安げな声。
そう、よく考えればそうなんだ。
「……居る。もう、どこにも行ったりしない」
勝手に絶望して。
勝手に自分を呪って。
そっちの方が、ずっと迷惑なんだ。
290 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/22(月) 21:53:41.60 ID:zknOc5c/0
「……杏子」
「ん、なにさ……?」
言っておくことがある。
魔女になる、少し前の出来事。
「あたしさ……皆から逃げてた時、電車に乗ってたんだ」
「そりゃ……な。駅のホームに居たんだし」
「そこでさ、すごい嫌なヤツに会ってさ……根元から腐ってて、こんなやつ助ける価値あるのか、って思ったんだ」
「……さやか?」
戸惑うような視線。
それを感じて、苦笑した。
「別に心配するようなことはしてないって……あんたが居なかったら、ヤバかったけどさ」
「あた、し……?」
どういうことだろうか、と疑問がその表情に浮かぶ。
291 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/22(月) 21:54:25.38 ID:zknOc5c/0
す、と杏子の鼻先に人差し指を突き付ける。
「あんたの、皆の顔がよぎって、さ……あんな奴らでも、皆と同じ世界の一つなんだって思えたから」
「……そっか」
安心して、杏子が微笑む。
だけど、
「あー……もちろん一発はブン殴ったけどね? ホスト臭い顔してたし、しばらく仕事できないんじゃない?」
「あんたらしいや……ってか、顔殴ったのかよ」
「文句ある?」
「いんや―――けど、女らしくはないと思ってね」
ふふ、と思わず笑みが漏れた。
「しばらく男は勘弁……だから、女らしさなんてどうでもいいや」
ぎゅ、と杏子を抱きしめ返す。
「あんたが、傍に居てくれるんでしょ?」
「…………おう」
292 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/22(月) 21:55:19.74 ID:zknOc5c/0
「さやかちゃん、杏子ちゃん!」
まどかが呼んでいる。
その横にはほむらと、マミさんの姿。
「それじゃ、行こっか?」
「ん……」
手を繋いだまま、三人の方に向かっていく。
杏子の手の感触は、なんだか優しく、もどかしいような感じで。
嬉しくても、ぎこちない感じで。
なんだか、付き合い始めの恋人みたいだった。
くす、と笑みが漏れる。
恭介はどうせ、仁美と付き合うんだろう。
いっそのことあたしは、杏子でいいかもしれない。
我に返ったのか、赤くなっている杏子を可愛いな、と感じた。
293 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/22(月) 21:57:51.07 ID:zknOc5c/0
今日の分はこれまで
ようやくここまで、さてさてどうなることやら
しかしあれだよな、ほむらと杏子って受け受けしいよね
うん、それだけなんだが
それではまた
294 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/22(月) 22:26:13.56 ID:QFbRmFBIo
すさまじく乙
295 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)
[sage]:2011/08/22(月) 22:34:06.49 ID:WiCGue8qo
乙っちまどまど!
二人とも根は良い子で
二人とも仮面をかぶってるしね
296 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/25(木) 04:34:23.97 ID:lRKwIZSt0
>>293
このSSのほむらはやたら自虐的だしねえ。
銀英伝のヤンが指揮下の部下に責任を感じるのとは訳が違うのにさ。
3人が自由意志で行動した結果死去したのに、私が殺したなどと考えるのなら
3人の意思と選択を軽んじるものではないか。
297 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(四国)
[sage]:2011/08/25(木) 06:54:11.21 ID:4HHVxCNAO
長文で毎回妙なレスしてる人見ると、まだ夏だなぁって思う
298 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東地方)
[sage]:2011/08/26(金) 19:48:55.41 ID:v5yCfCi00
あれれ?
こんなので解決したの?
さやかの死にたい病は治ったの?
202は何だったのと思ったが、さやかが良いならどうでもいいか。
299 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/26(金) 23:04:28.64 ID:9xlM08Vn0
「準備はいい?」
「ん……いつでも行けるよ」
「あたしも大丈夫ですよ……っと」
「言うまでもないわ……まどかは?」
「うん、行けるよ」
「それじゃあ―――オペレーション・フォルトゥナ、開始ね」
「…………」
「……おい」
「フォルトゥナ……うん、よくわかんないけどいい響き!」
「わぁ……マミさんらしくて格好いいですね!」
「ふふっ、でしょう? そっちの二人、ノリ悪いわよ?」
「……はぁ、確かにやる気があるのはいいんだけど」
「つーかまだ治ってなかったのかよ、そのいちいち名前つける癖……」
―――――5
300 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/26(金) 23:05:24.44 ID:9xlM08Vn0
「あらあら、そういうこと言うの? 二人の技にも名前付けちゃうぞー」
「いや、もうアレだけで勘弁だって……さすがにもう叫びたくないよ」
「というか、私は現代兵器ばかり使ってるからいらない気がするのだけど」
「……時間停止があるじゃない」
「もうあなたが名付けたわよ……結局、無駄な隙が出来るからやめたわ」
「へえ……それで、名前は?」
「……秘密。だけどまあ、後でなら教えてあげるわ」
「この戦いが終わった後、ってこと?」
「それって死亡フラグってやつじゃ……」
「おいおい、さやかは負けるつもりで戦うのかよ?」
「むっ……そんなんじゃないって! ……また、ほむらに背負わせるわけにもいかないでしょ」
「そりゃそーだね……ま、大丈夫だろ」
――――4
301 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/26(金) 23:06:20.59 ID:9xlM08Vn0
「楽観的ね……」
「あら、こういうのはまず気持ちで勝つものよ」
「そうだよ、だから……ね?」
「そうね……ごめんなさい。今度こそ、未来を勝ち取ってみせる」
「……それじゃあ、気を付けてね」
「マミさんも、気を付けて」
「ヘマすんじゃねーぞー? さすがに今回は助けに行けねーからな?」
「それはこっちのセリフよ……まだまだ危なっかしいんだから」
「ちぇっ……あの頃みたいに無理はしないって。一人で戦うわけじゃないし、な?」
「ふふっ……それじゃ、また後で」
「おー」
「はい、後で祝勝会しましょうねー!」
「……どうか、無事で」
「マミさん、頑張ってくださいね!」
―――3
302 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/26(金) 23:07:16.70 ID:9xlM08Vn0
「……ふぅ」
「わお、デカイ溜息……マミさんと一緒に戦いたかった?」
「まあ……そうかもな。最近ずっと顔合わせてなかったし」
「仕方ないよ……マミさんが自分から言い出したんだから」
「大丈夫。マミさんならきっと」
「ん、そうだな……もう、一人じゃないんだし」
「ええ、私たちは一人じゃない」
「さって……そろそろお出ましか?」
「統計上だと、もうすぐね」
「あぁ……なんだか武者震いが」
「ビビってんじゃなくて?」
「そんなこと……ちょっとあるかも」
――2
303 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/26(金) 23:08:10.86 ID:9xlM08Vn0
「ん……」
「え、な、何?」
「手。握っててやる」
「……ありがと」
「ほむらちゃん……」
「……まどか?」
「ほむらちゃんの手、暖かいね」
「まどかの手も、ね」
―1
がしゃん。
304 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/26(金) 23:08:55.92 ID:9xlM08Vn0
chapter10 収束と終幕のアンサラー
305 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/26(金) 23:10:01.17 ID:9xlM08Vn0
「……おや、君は行かないのかい?」
いつも通りの声に仕草。
けれど、その裏には私の知らない思惑が隠れている。
彼が変わったのではない。
私が知っただけだ。
騙されていただけだ。
そのことについて責める気はない。
「そうね、他にやるべきことがあるから」
「ふぅん、見捨てられたわけではないんだね?」
いとも軽々と毒を吐く。
これが数年間共に過ごしてきた彼の本性か、と思うと寂しくはあった。
だが、それ以上に。
「……何の真似だい?」
理由がある。
本当に守るべき場所がある。
守りたい仲間が居る。
306 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/26(金) 23:11:25.69 ID:9xlM08Vn0
向けられた銃口に、キュゥべえ―――否、インキュベーターはひどく冷静だった。
なんというか、とぼけたような様子。
「やれやれ……暁美ほむらから聞いていないのかい? 僕の肉体はほぼ無限に―――」
「……ワルプルギスの夜の使い魔」
ぴくん、とインキュベーターの体が少し跳ねた気がした。
動揺でなく、興味を持ったような感覚。
「魔法少女の姿をしていたらしいわね……それも、何種類ものバリエーションがあったとか」
「そうかい、それで?」
神経を逆撫でするような相槌。
彼の常套手段。
どれだけ真実に近付いているかを、面白おかしく見ているんだろうか。
「穢れを浄化しきれなかったグリーフシードは、あなたが回収していたわね」
「ああ、アレも僕の役目だからね」
「そして、それは元々魔法少女だった」
307 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/26(金) 23:12:35.25 ID:9xlM08Vn0
「……へぇ?」
「ここで一つの仮説が成り立つ。あなたとあの魔女に、何らかの関係があるんじゃないか、っていうね」
「なるほど、たとえば僕はワルプルギスの夜をサポートする立場にある……そういうことかい?」
肯定はしない。
あくまで仮説。
「当たっているなら私はあなたと戦うことになるし、そうでなければあちらに合流するだけよ」
「ふむ、なるほどいい手だ。だけど、」
どろり、と。
空間に何かが溶け出した。
「君は一つミスを冒した……それも重大なミスを」
それが固定されていく。
集約していく。
人の形。
魔法少女。
「それは、一人で僕の所に来てしまったことさ」
308 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/26(金) 23:13:36.88 ID:9xlM08Vn0
「……舐められたものね」
くるり、とその場で優雅に舞う。
その挙動と共に、数本のマスケット銃が地面に突き刺さる。
「いくら私の戦い方を知っているからといって、ただで負けると思っているの?」
「ああ。君の対応できるレベルを越えればいいだけだろう? 限界と言うのは、誰にしも存在するものなんだから」
「あら……限界っていうのは、越えるためにあるものよ?」
くるくる、と銃を手で弄ぶ。
もう手に馴染んでしまった。
彼とともに過ごしながら編み出した、戦うための力。
「まったく、わけがわからないよ……越えられるものなら、それは限界じゃないだろうに」
「絶対的なもの、と捉えるならそうね。だけど、相対的なものと捉えれば違うでしょう?」
「……限界が限界でなくなるほど、君が変わった、ということかい?」
「さあ―――どうかしらね」
自分は、変わったのだろうか。
否。
きっと、これから変わるんだ。
「それじゃあ、ダンス・パーティを始めましょう……あなたと私が主役の、ね」
手始めに過去との決別でもしてみよう。
全てはそれからだ。
309 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/26(金) 23:14:43.17 ID:9xlM08Vn0
ドウン、と上空に出現した巨大な歯車に次々と対戦車砲の弾が直撃していく。
その数、数十。
しかしその程度では足りない、などということは全員が知っていた。
だからこそ。
爆発が収まった瞬間から、全員が次の行動に移る。
「……行くよ!」
ヴン、と光の矢が飛翔する。
桃色の、まどかの魔力の集合体。
バチィ、と障壁でもあるのか弾かれる。
どうしてか、まどかの戦闘能力はワルプルギスの夜を圧倒するほどではなかった。
能力は願いの内容と関係するから、治癒能力にその力の大部分が割かれているのかもしれない。
だが、十分だ。
人数的にも不足はない。
まどかに続けて、自分も攻撃する。
M2重機関銃。
そもそも設置して使うのが普通なのだが、今さらそうする必要はない。
タンクローリーやミサイルを扱っている時点で普通からは外れている。
310 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/26(金) 23:15:37.85 ID:9xlM08Vn0
ガガガガガガッ!!と轟音と共に撃ち出される。
結果は同じ。
それでも問題は無い。
す、と銃口を別方向に向ける。
同時、
「だぁぁああああああああああああっ!!」
青い閃光が、その位置へと突き刺さる。
「はぁああああっ!」
遅れて、赤も到達した。
ぎちぎち、と魔女と二人の力が拮抗し、火花のようなものが散る。
このまま二人が押し勝つのを待つ、というわけにはいかない。
まどかも同じようで、既に弓を構えていた。
銃をさらにもう一丁。
魔法少女、というよりどこかのサイボーグ等がやりそうな武装だ。
311 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/26(金) 23:16:31.03 ID:9xlM08Vn0
がしゃん、と金属のぶつかる音を聞きながら狙いを定める。
杏子とさやかに当てないよう、まどかとも狙いが被らないように。
誤射などそもそももってのほか。
加えて、まどかの弓は現代兵器と比べれば異常な破壊力を持っている。
同じところを狙えば、弾丸が消し飛んで与えられるダメージが減るだけだ。
幸い、矢は連射するものではなく魔力を溜めて撃つもの。
どこを狙っているかの目星ははつけやすい。
そんな思考を頭の中でぐるぐると走らせながら、トリガーを引く。
「っく……!」
金属音と共に、反動。
やはり、的が大きいとはいえ片手で扱うものではない。
それでも構いはしない。
ぎり、と奥歯を噛みしめながらその場に踏みとどまった。
魔力を体に循環させる。
若干のブレがありつつも、弾丸は命中していた。
ガギィィン!!と金属が勢いよくぶつかるような音が聞こえる。
業を煮やした二人が、一度引いてからまた追撃を放っていた。
312 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/26(金) 23:17:30.35 ID:9xlM08Vn0
ヴォン!と矢が再び魔女へと向かう。
直撃。
バヂヂヂヂィ!!と魔力がせめぎ合い、弾きあう。
「破れない……でもっ!」
「ええ、効いてる……さらに続ければ!」
だが。
何事も、全て上手くはいかない。
「なっ……くそっ!?」
「ちょ、やばっ……!?」
魔力が収束していく。
生み出されるのは紫の光。
攻撃か、と慌てて二人が退避する。
光の筋が、魔法少女目がけて放たれる。
同時、衝撃波が発生―――街並みごと、5人を吹き飛ばした。
313 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/26(金) 23:18:32.56 ID:9xlM08Vn0
「う、わぁぁあああああああっ!」
思わずさやかが叫んでいる。
空中に投げだされた恐怖からではない。
光の奔流が、彼女を呑み込もうとしていた。
「っく、さやかっ!!」
じゃら、と杏子が鎖の音を響かせ、その槍をさやかに巻きつける。
そのまま、力の限りに引き寄せる。
すんでのところで、紫の光の攻撃は空を切った。
「っ痛ぅ……もうちょっと優しく助けられない?」
「悪い……でもさ、もう二度と置いてかれるのはこりごりだから、つい」
「ん、それなら許す」
一度抱きかかえられた後、ゆっくりと地面を踏むさやか。
心なしか、戦闘中だと言うのに頬が緩んでいる。
私もまどかと共に、その隣に降り立った。
314 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/26(金) 23:19:32.77 ID:9xlM08Vn0
「んで、どーすんのさ? 相手は堅いし高火力、こっちはそう何発も喰らえないみたいだけど?」
「……目標が見えただけでも収穫よ。ともかく、アイツの障壁を破ればいい」
「どうやって……さっきみたいに反撃されてお陀仏、なんてのはイヤだよ?」
「反撃されなければいいのよ」
え、と呆気にとられた反応があった。
それはさやかだったか、杏子だったか。
もしかしたら、まどかかもしれない。
「一度に放てる最大の攻撃を叩き込んで、一気に倒す……わかりやすくて、いいでしょう?」
「くくっ……確かに」
「ふふん、それじゃあいっちょ、本気で行きますか!」
ドパン、と地面が爆ぜて、青と赤が跳ぶ。
「……まどか、手を」
「うん、わかった!」
315 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/26(金) 23:20:17.87 ID:9xlM08Vn0
再度接近したワルプルギスの夜は、空中要塞のようだった。
いや、もしかしたらそれで正しいのかもしれない。
紫の光が様々な方向に放たれ、街を蹂躙する。
突風が吹きすさび、窓が砕け、街路樹が根元から折れていく。
建物を盾として使いながら、近付いていく。
ビルすらも自身の武器とする奴にとっては、あまり意味のない戦法かもしれない。
というか、ビルが飛んでこないのはマミのおかげかもしれない。
彼女が戻ってきていないということは、少なくともインキュベーターは何らかの戦闘能力を有しているということ。
もしかすると、彼女の働きによってワルプルギスの夜を弱体化できているのかもしれない。
「……進むわよ」
「うん……!」
まどかの手には、魔力が収束していた。
できるだけ強い攻撃を叩き込めるように、移動の時から溜めている。
ワルプルギスの夜にとっては脅威である光。
けれど、私にはそれが暖かで優しいものに感じられた。
316 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/26(金) 23:20:58.41 ID:9xlM08Vn0
進んでいく。
魔法少女の脚力で、走る、というより飛び跳ねながら進んでいく。
その視界に。
「なっ―――!?」
「あ、あれって……!」
青と赤が、空中で静止していた。
突風に煽られたのか、どういうつもりなのかはわからない。
とにかく、格好の的。
その証拠に、紫の光が得物を狙う蛇のごとく近付いていた。
「こうなったら、時間停止で―――!」
『……おいおい、あんた達まで騙されてどうすんのさ?』
「……え?」
紫の奔流が、二人を飲み込む。
だが、その二人のようなものは―――妙にあっさりと、赤い光を放って弾けた。
317 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/26(金) 23:22:12.06 ID:9xlM08Vn0
「これは……」
『あたしの魔法だよ。昔みたく自在に動かすのは無理そうだけどね……』
まったく、心臓に悪い。
本気で心配させておいて、こういうオチか。
「……こっちが攻撃を始めたら奴に突っ込んで。もうすぐ定位置に着くわ」
『りょーかい……んじゃ、少し陽動代わりをばら撒いとくよ』
言葉通りに、また人型が出現する。
本当に、彼女はいろいろと頼りになる。
そう考えているうち、ワルプルギスの夜の目前へと辿り着いた。
3階程度の建物の屋根からだと、巨大な頭部がほぼ同じ高さにあった。
気付いたのか、ぐるり、と振り返ろうとする。
その前に。
盾を稼働させ、時間を止めた。
318 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/26(金) 23:23:13.52 ID:9xlM08Vn0
「まどか、いける?」
「うん……これなら全力で撃ち込めそう」
桃色の光が弓を形成し、形を為す。
光の矢をつがえたところで、まどかが目配せをした。
応じて、手を離す。
「……さて」
自分の視線の先には、ワルプルギスの夜を挟んでビル群がある。
威力よりも、貫通力を求めるならば前回も使ったあの兵器がある。
対艦ミサイル。
それを、前面に配置する。
まどかの攻撃と合わせて叩き込めば、ワルプルギスの夜はビルに突っ込むことになる。
非難は済んでいるので、被害は気にすることはない。
街を破壊してしまっても、あの魔女に好き勝手されるよりましだろう。
かしゃん、という音と共に、世界が動き出した。
319 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/26(金) 23:24:11.50 ID:9xlM08Vn0
光の矢と、ミサイルが至近距離で直撃する。
その衝撃のまま、巨大な体がビルへと突っ込んだ。
建物の骨組みを、内装を砕きながら吹き飛ばされていく。
反対方向からの衝撃により、速度は少し落ちていく。
そこに、ズドン!!と追い打ちが叩き込まれた。
さやかと杏子。
4種の衝撃が加えられ、ワルプルギスの夜のけたたましい笑い声も切れ切れになる。
みしみし、と何かが軋む音がする。
まぎれもなく、ワルプルギスの夜にダメージが蓄積されている証拠だった。
ぶつかったビルの数が15になった、その時。
ガラスの砕けるような、しかし確実に全く違う音が響いた。
320 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/26(金) 23:24:57.49 ID:9xlM08Vn0
「―――捕縛≪アレスト≫」
ぎゅる、とリボンが大蛇のごとく人型の使い魔に巻きつき、ギリリ、と締め上げる。
それも、数十体同時に。
「まったく、単調な動きね……深く考える必要も無いわ」
頭上の一点に使い魔を集める。
意図を察したのか、必死に逃れようとする。
だが、もう遅い。
「包囲≪コンプレンデ≫」
取り囲むように、マスケット銃を配置する。
ふ、と思わず笑みを漏らしながら、右腕を掲げる。
「一斉射撃≪サルヴァ・ディ・フォーコ≫!!」
優雅に、素早くその腕を振り下ろした。
直後、爆音と衝撃が発生。
使い魔は、跡形も無く消し去られていた。
321 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/26(金) 23:25:41.01 ID:9xlM08Vn0
「あなたらしくないわね、キュゥべえ」
「……そうかい? 戦いは物量。基本に忠実だと思うけどなあ」
ジャコ、と銃口を向けても首を傾げるだけ。
こういう所は、らしいといえばらしいのだが。
「いいえ……あなたならもう少し狡猾な手段を使ってくるはず。これはあまりに非効率的よ」
「なるほど、そういう見方もあるか……」
心底納得したような声色。
けれど、不敵だった。
感情があるのなら、くつくつと笑い声でも上げていたのだろうか。
「そうだね、認めよう……君はもう、僕の知っているマミではないらしい」
「あら、褒めているのかしら、けなしているのかしら……」
「もちろん前者さ、称賛に値するよ」
322 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/26(金) 23:26:19.89 ID:9xlM08Vn0
その言葉も、やはり不気味だった。
ぐ、とトリガーにかけた指に力がこもる。
「光栄ね……それじゃあ、終わりにしましょうか」
「ああ、終わりにしよう」
ただし、と言葉が付け加えられた。
「君たちの絶望をもって、ね?」
「え……?」
困惑と、疑念が脳内を駆けまわる。
思えば、うまくいきすぎていたかもしれない。
越えるべき壁は、まだその全貌を明らかにしていなかったのかもしれない。
「―――反転、『正位置』」
323 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/08/26(金) 23:33:43.79 ID:9xlM08Vn0
ここまで、なんだかんだで次で最後かー
ほむらの自虐性については、前周でまどかが最悪の魔女になったのは自分のせいだと言われたのと、
まどかと同じで助けようとしたら真逆の結果になってしまい、さらにまたキュゥべえに君のおかげと言われたせいという感じで
あっさり解決した、という点については、ぶっちゃけると多分深く考えてな(ry
さやかを生き返らせる=さやかのための願いによって、まどかが魔法少女になった
みんなと一緒に居たい=まどかが皆という存在を欲したのであって、他人の為じゃない
というかそんな感じというかこういうのは本来SS内で説明しきっておくべきですね
つまり
>>1
の頭が足りてないということだ
なんにせよ、次回で最後です
この土日には……どうだろう
それではまた
324 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)
[sage]:2011/08/27(土) 00:01:07.18 ID:hBULcp+wo
乙!!
『正位置』って・・・ついにワルちゃんが正しいジオングになるのか
325 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)
[sage]:2011/08/27(土) 00:06:51.17 ID:mtNtmxCdo
乙っちまどまど!
326 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(四国)
[sage]:2011/08/27(土) 00:14:15.86 ID:8/bJsXoAO
乙乙、SSだしそこまで気にしなくていいのよ
しかしこのマミさんノリノリである
327 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)
[sage]:2011/08/27(土) 01:09:37.96 ID:fKphBcGho
乙だ
みんなかっこいいぜ
328 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)
[sage]:2011/08/27(土) 12:10:04.03 ID:iLZ5dC2W0
おつ
329 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/08/27(土) 15:57:25.46 ID:0F8242/SO
3があった…だと!?
330 :
◆fJz13rtmKU
[sage]:2011/08/31(水) 16:19:58.85 ID:RSeVEleU0
報告、一週間以内は厳しそう
早くて土曜、遅くて月曜以降になりそうです
もっと早く色々と済ませておけば投下できたのですが
というわけで、少し遅くなるかもしれませんがよろしくお願いします
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
331 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/09/05(月) 14:12:50.70 ID:PsjS2ase0
待ってるよー
332 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(中部地方)
[sage]:2011/09/05(月) 19:16:17.41 ID:bh+wIbBTo
報告乙!
待ってる
333 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/09/18(日) 21:59:38.67 ID:wxG087Z20
空か、と思ったものは焦土と化した街並みだった。
地面か、と思ったものは雲だった。
陸からはあらゆるものが奪われていた。
雲からビルが生えていた。
あらゆるものが宙に浮いていた。
世界が、裏返った。
まるでそれが正しい在り方だ、と言っているように。
ワルプルギスの夜が裏返るのと同時に、世界が引っくり返された。
逆さまの歯車が正位置へと。
果たして、どちらが逆なのだろう。
世界か、ワルプルギスの夜か。
答えは出ない。
その答えは、誰が見たものかによって変わるものだ。
334 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/09/18(日) 22:00:31.96 ID:wxG087Z20
「これはっ……!」
視界が一気に開けた。
目に映るのは、荒れ地になった見滝原。
否、これは見滝原だけで済んでいるのだろうか?
「ああ―――心配はいらないよ、この周辺だけだ。避難所にも『まだ』達していない」
「まだ、っていうことはつまり……」
「そういうことだ。でもまあ、無駄に被害を広げて資質がある少女を殺すのは僕としても好ましくないんだけどね?」
だからさっさと消えてくれ、とでも言いたいのだろうか。
首を小さく傾げている。
「……あなたの思い通りにはならないわよ」
「おや、それはどうして?」
「決まってるわ」
力強い言葉が出て、自分でも驚く。
その源は、信頼でも、友情でも、絆でもない。
確かにそれもある。
「あの子たちが、負けるはずないもの」
ただ、絶対的な確信―――それが私の心を満たしていた。
335 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/09/18(日) 22:01:51.85 ID:wxG087Z20
ふぅ、とインキュベーターから溜息が漏れた。
その顔にある口は、動いていないけれど。
「ありもしない希望に縋るのはかまわない……だが、僕としては早く諦めてもらえると助かるんだけどね?」
「希望とか、祈りとか、願いじゃない……事実よ」
ふふん、と自分が不敵に笑っていた。
それを感じて、すぐに表情を整える。
調子に乗るのが危険であること。
それを、身を持って体験しているから。
「……何にせよ、君が容易に絶望してくれないのは事実だ。ならば」
ずる、と何かどろどろとしたものが蠢いた感覚があった。
使い魔―――では、ない。
「これは、魔女……っ!?」
焦る自分を、インキュベーターが嘲笑している。
表情が変わらずとも、それだけはわかる。
336 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/09/18(日) 22:02:50.25 ID:wxG087Z20
「薔薇園、お菓子、影……経験豊富とはいえ、複数の魔女を相手にしたことはなかったよね?」
自分が敗北した相手に加え、さらに二体。
状況としては、圧倒的に不利。
だが、
「所詮は紛い物、本物に比べれば―――」
「一体一体は弱い、とでも? 悪いけど、そんな都合のいい話は無いよ」
つまり、個々が元のものと同じかそれ以上の能力を持っているということ。
ぐ、と力強くマスケット銃を握る。
「レディーに対して乱暴ね……そういう子は嫌われるわよ?」
「君にとっては手加減をするのが失礼というものさ……これが僕にできる精一杯のエスコートだよ」
彼にとっては珍しく、皮肉がまともに返ってきた。
それを少し嬉しいと思う辺り、自分はまだ過去に囚われているらしい。
とん、と地を蹴り宙を舞う。
前座は終わりだ。
そして始まるのは―――悲劇か、喜劇か。
どうなるかはわからない。
けれど、向かう方向は決まっている。
337 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/09/18(日) 22:03:52.23 ID:wxG087Z20
「……っは、」
動くたびに、身体が悲鳴を上げる。
だが、止まれない。
「まど、かっ……!」
血が滲み、力もあまりこもらない手を伸ばす。
「っく、ほむら、ちゃん……」
その手が握り返される。
軋む身体に鞭打ちながら、まどかと共に立ち上がる。
見上げた空には、ワルプルギスの夜が浮かんでいる。
先程までとは逆の状態で。
否、むしろ今までが逆だったのではないだろうか。
だが、そんなことはどうだっていい。
目の前にある、紛れもない事実。
あの魔女は―――自分たちが考えていたよりずっと強大だったということ。
338 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/09/18(日) 22:04:51.87 ID:wxG087Z20
ガシャ、と背後で音が鳴った。
「ちく、しょ……化け物かっての……」
「見ようによっちゃ、元々化け物でしょ……」
傷だらけの身体で、杏子とさやかが立っていた。
その瞳から、戦意は消えていない。
だが、満身創痍。
とても満足に戦える様子とは言えない。
無傷の魔女と瀕死の自分たち。
自分はそれを打破する手段を持っている。
時間の遡行。
一ヶ月の逆行。
代償はあれど、今をどうにかする最良手。
その力を秘めた盾に、手を伸ばす。
あとは、少し回してしまえば楽になれる。
339 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/09/18(日) 22:05:33.31 ID:wxG087Z20
けれど、それでいいのだろうか。
確かに時間の巻き戻しは少女たちを救うのに有効な手段だ。
けれど、重要なのはそこではない。
この時間軸のまどかは、さやかは、マミは杏子は―――どうなる?
今までなら、もう一度やり直して救おうと考えられた。
けれど今は。
執着してしまった。
救いたいと思ってしまった。
目の前の存在を救うための最良手が―――目の前の存在への想いによって、選択できない。
盾にかけた手が震える。
そのままそれを回してしまえ、という声が心の奥から聞こえる。
回しては駄目、という声も共に聞こえる。
矛盾する感情。
相反する感情。
震える心に、暖かい手が差し伸べられた。
340 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/09/18(日) 22:06:24.53 ID:wxG087Z20
「……大丈夫だよ」
まどかの手。
「もう、ほむらちゃんを一人で戦わせたりしない」
求め続けている暖かさ。
「超えよう、一緒に―――明けない夜なんて、無いんだから!」
強い意志のこもった言葉。
思えば、私は彼女のそういうところに惹かれたのだ。
どの時間軸でも、それは変わらなかった。
全て同じ、まどかだった。
理解したとき、時間を戻すという選択肢は消え失せていた。
その選択は同時に、まどかを殺すことにもなるから。
341 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/09/18(日) 22:07:08.06 ID:wxG087Z20
「……行こう」
「ええ……!」
手を強く、強く握る。
もう、再会は求めない。
今ここにある温もりを、失ったりしない。
ただ、ここに存在するまどかを守り抜く。
それは、自身の願いの否定。
同時に、肯定でもある。
だからこそ。
「っ!?」
力は変化し―――形を変えて、具現する。
まどかと出会い続けるための砂時計は放棄される。
そして生まれるものは、今ここに居るまどかを守るための武器。
黒の、聖弓。
342 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/09/18(日) 22:09:53.81 ID:wxG087Z20
「く……」
「まったく、理解できないね」
剥がれた地面とビルの壁面で作られた玉座に佇む、インキュベーター。
不敵な笑顔さえたたえず、ただ眼前の事象を観測し、事実を告げるだけの獣。
「君は一度経験しているはずだ―――絶望に身を任せることが、どれほど楽なことか」
黒の触手と、蝶か蛾のような飛行体が迫りくるのを、弾幕を張って防ぐ。
爆音と共に、それが吹き飛ばされる。
が、そこで生まれた煙幕から、お菓子の魔女が顔を出す。
「っ……!」
咄嗟にリボンを生み出し、バリケードのように扱う。
だが、所詮その場しのぎ。
むしゃ、とまとめて咀嚼された。
横に跳び、その猛追をかわす。
「希望を持つのがっ……無意味だとでも言いたいの?」
「最終的に残るものが絶望だけだから、ね。希望の先に更なる希望があるなら別だが」
343 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/09/18(日) 22:11:05.78 ID:wxG087Z20
「……それなら、問題は無いわね」
「なんだって……?」
胸に手を当て、宣言する。
「希望は自ら生み出すもの、未来は自ら切り開くもの……希望はもう、私の心が持っている」
「……詭弁だね。だとしたら、どうして君は絶望したんだい?」
現に私も絶望した。
絶望し、異形となった。
けれど、今とは違う。
「一人だったからよ……物理的にではなく、心がね」
「どうかな? あの時の君は後輩と戦友という心の拠り所を得ていたはずだが」
「拠り所じゃ、駄目なのよ」
寄り添うだけでは、傍に居るだけでは。
真の絆というのは、もっと深いもの。
344 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/09/18(日) 22:12:17.94 ID:wxG087Z20
「私の心の中に鹿目さんが、暁美さんが、美樹さんが、佐倉さんが……みんなが居る」
胸に当てた手を、握り締める。
「そして、皆の心の中にも私が居る―――私たちは、全員で一つなのよ」
びしぃ、と力強くインキュベーターを指差す。
それでも表情は変わらない。
どんな言葉を並べても、彼の平静は崩せない。
「……そうかい」
呆れたような、飽きたような言葉がその口から漏れた。
「なら、その分大きな絶望を与えるだけさ」
言い終わると同時、背後で蠢く気配がして、咄嗟に回避する。
ゴシャア!と薔薇園の魔女の頭部が叩きつけられ、地面がえぐれる。
345 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/09/18(日) 22:13:20.23 ID:wxG087Z20
すぐに起き上がり、こちらへ向かってくる。
回避していても埒が明かない。
そして、通常の射撃では威力が足りない。
ならば。
魔力を右手に収束させ、形成する巨大な砲。
必殺の一撃。
子供のころ夢見たヒーローが使っていたような、絶対に敵を倒せる必殺技。
「ティロ―――」
掛け声も、忘れない。
ヒーローとは、魔法少女とはそういうものだ。
夢と希望にあふれていて、人々のために戦う存在。
だからこそ。
「フィナーレッ!!」
引き金を引くのに、躊躇いは無い。
346 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/09/18(日) 22:14:23.03 ID:wxG087Z20
ズドン、と膨大な魔力が叩き込まれ、魔女が霧散する。
そうして、現れた。
残骸の後ろから迫るお菓子の魔女の顔面が、視界を支配した。
時間が止まったような、妙に思考がクリアになった感覚。
前回と同じ。
鋸のように並んだ歯が、頭部を噛み砕こうとしているのを感じる。
絶対的で、圧倒的な死のイメージ。
全てが同じ。
「……残念だったわね」
ただ、私自身を除いて。
347 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/09/18(日) 22:15:12.25 ID:wxG087Z20
魔力を、左手に収束。
「なっ……!」
魔女の眼前に突きつける、必殺の武器。
追撃の、再撃のその力。
「―――ティロフィナーレ・ドゥエ」
再び、魔力の奔流が放たれる。
魔女の顔面に、零距離で叩き込まれる。
「いつまでも変わらないまま、黙ってやられるほど間抜けじゃあないわ」
もう、彼と共に過ごしていたころの私ではない。
否―――私、という表現も妙なものだろうか。
「私たちは皆で一つの魔法少女―――そうよね?」
問いかけに答えは無い。
ただ、身体に満ちる力がそれを証明していた。
348 :
◆fJz13rtmKU
[saga]:2011/09/18(日) 22:22:14.48 ID:wxG087Z20
(^U^)<申し訳ありません、このような文章で
前後編に分けさせていただきました
その理由はここまで遅くなった理由とも重なるんだが、
台風のときにインターネット回線がぶち切られた上に、書き溜めが消え失せたわけなんだ
どうしてSS書いてるときに限ってネット回りのトラブルに巻き込まれるのかねー
それ以外にもウンメイノーとかザヨゴオオオオオオオオとかてつをとかセイヤーッ!とかに現を抜かしすぎましたどうもすみません
次回はできるだけ早く投下しますのでお許しを……
それではまた、こんな速度でも読んでくださっている方が居ましたら
349 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)
[sage]:2011/09/18(日) 22:24:25.28 ID:dnj00amZo
(^U^)<乙してあげましょう、大樹
350 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/18(日) 23:39:57.89 ID:CQdUhkgMo
素晴らしい、感動的だな。
だが
351 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/19(月) 00:09:18.40 ID:vy+VLrazo
だが、有意義だ
マミさんvsQBが燃えすぎてヤバイ
前からマミQ好きだったけど、こういう構図もありだったかと目からウロコだわ
352 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/19(月) 03:01:54.13 ID:aonBdMjDO
乙!!
アーチャーほむほむキタ━(・∀・)━!!!!
353 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/19(月) 09:58:57.87 ID:fpWU+PfKo
マジキチスマイルやめろ!!
354 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/24(土) 03:39:02.59 ID:LeHYpdpko
乙っちまどまど!
355 :
◆fJz13rtmKU
[sage saga]:2011/10/10(月) 07:55:05.80 ID:4DbPb/AS0
申し訳ありませんが、続けられなくなりました
忙しいだとか現実での問題もありますが、最大の原因は続きが思いつかないこと、思いついても陳腐なものだというものです
それをこのままグダグダと続けていくのは難しいと考え、HTML化させていただきます
このような稚拙な作品に長い間お付き合い頂いた方には心からの感謝と謝罪を
では失礼します
356 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
:2011/10/10(月) 21:44:26.38 ID:bXKzYNiy0
えっ
えっ
357 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/10/10(月) 22:38:10.07 ID:Uy9udEO/0
>>355
わー、ありえん。このSS好きだったんだ
けどなー。続き結構楽しみにしてたのに。でも
>>1
がこれ以上続けられないって言うならしょうがないかね
わたし個人としてはどれだけ時間かかっても良い
から続き書いてほしかった。だってあとはもう
らストシーンだけだったのにこんなんで終わるのは残念だ。
なー今からでも考え直さない?あとちょっとなのに勿体な
いって。陳腐でも良いから完結はしてほしかった
よ。今までおつかれさま。次回作期待してる。
358 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(宮城県)
[sage]:2011/10/11(火) 00:31:50.72 ID:XSVdGdTno
え、ちょちょちょ待て待て待て待て。
山場も山場でマミさんとか決め場をしっかりキメて盛り上がりも最高潮になってる時にとか待て待て待て待て待て待て
普通なら乙というところだろうけど、「待て」としか言えん
359 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)
[sage]:2011/10/11(火) 00:48:32.57 ID:+u3bwsHMo
おつか……えっ
えっ!?
ここでかよ!
待つけど!
いつまでも復活待つけど!!
ここでかよ!
360 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(愛知県)
[sage]:2011/10/11(火) 07:47:39.43 ID:XL/kfOBno
乙っちまどまど
次回作きたいしてるよ
361 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/10/12(水) 22:38:24.72 ID:A7Vfr23+o
うーん
全ては作者次第ってのは当然なんだが
んなことは百も承知してたつもりだったが
流石にこれは納得いかんなぁ
期待が大きかっただけに
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