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鹿目まどかと魔法少女 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/12(金) 00:46:01.62 ID:BFRrGUMm0
これは魔法少女まどか☆マギカの二次創作です

・原作設定と違うところがあります
・また、原作と異なる展開になります(主に九〜十二話)

そのあたりが不愉快に思われるかもしれません
原作者様、ファンの皆様、申し訳ございません

・投下スピードが遅いです
・雑談、誤字や誤用の指摘など歓迎です

上記をお読みになったうえで、
それでもかまわないと思われた方々、ありがとうございます

前置きが長くなりましたが、はじめます
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君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
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笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
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トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
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【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
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ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
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【安価】少女だらけのゾンビパニック @ 2024/04/20(土) 20:42:14.43 ID:wSnpVNpyo
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2 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/12(金) 00:48:22.75 ID:BFRrGUMm0




「ねえちゃ、どうしたの?」

「まだ寝てるみたいだね。そろそろ起こして来ようか?」

鹿目知久が、息子の鹿目タツヤの質問に穏やかな声で答える。
それを聞いて、鹿目詢子は夫の知久を制止すると、席を立った。

「……いや、時間もあるし、あたしが見てくるよ」

ほんの少しだけ、寂しい朝。いつもと違う鹿目家の食卓風景。
違いは一つ。普段なら、とっくに起きているはずの、まどかがいないこと。
たった、それだけ。そう、それだけのことに過ぎない。

けれども、まどかは朝寝坊なんて滅多にしない子だった。
最近はなかったのだが、親友と大喧嘩をして、精神的に疲れてしまったとき。
もしくは、体調を崩して、体を起こすのもつらいとき。
過去にあったのは、この二つの事例ぐらいだ。
だから、鹿目詢子は心配だった。嫌な予感がしていた。
大切なまどかが苦しんでいる予感が。
3 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/12(金) 00:49:30.25 ID:BFRrGUMm0
「まどか、だいじょうぶかい?」

詢子はまどかの部屋の前で足を止める。
不安な気持ちを隠して、声をかける……が、返事はない。

「入るよ?」

彼女はドアをノックし、一言断ってから、部屋に踏み込む。
光の届かない空間にまどかの姿をみつけて、やっぱりね……と、詢子は思った。
まどかはパジャマを着替えることもなく、ベッドの上でぬいぐるみを抱いていた。
力なく胸に抱いたまま、静かに泣いている。その様子は、親友と大喧嘩したときとまったく同じだ。

「さやかちゃんと喧嘩しちゃった?」

「……ううん、違うの。そうじゃないの」

「なら、どうしたんだい?」

「……夢を見たの」

「夢?」
4 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/12(金) 00:50:44.31 ID:BFRrGUMm0
涙で濡れた真っ赤な目からは、まどかが夜通し泣いていたことが推察される。
よほど怖い夢を見たのだろう。
詢子が涙をぬぐい、頭をなでてやると、まどかはやっと泣き止み、少しずつ話し始めた。

「うん。とっても、怖い夢。私のせいで大切な人たちが、みんな死んじゃうの」

言葉を発するたびに、まどかの顔は曇っていく。

「それでね、悲しくなった私は、自分勝手な考えで取り返しのつかないことをして、
 最後には、みんなに忘れられるの。……ママやパパ、タツヤからも」

言い終えると、まどかは再び泣き出してしまった。ぽたぽたと零れ落ちては、消えてゆく涙の粒。
まどかの、苦しみや悲しみを代わってやれないことが、詢子は悔しかった。

「そっか、あたしはあんたのこと忘れちゃってたか。寂しかったな。ごめんね、まどか」

「ママは悪くない。全部、私が悪いんだよ」

「気にし過ぎさ。夢のことなんて忘れちゃいな。ほら、これでもう怖くないだろ?」

詢子は、ぬいぐるみを離そうとしないまどかを、ふわりと包み込む。
まどかの表情に光が戻るまで、彼女は傍にいるつもりだった。
5 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/12(金) 00:52:27.15 ID:BFRrGUMm0
しばしの沈黙を経て、まどかが、ためらいがちに口を開く。

「……このまま」

「ん?」

「……もう少し、このままで」

こころなし元気になったまどかの声を聞いて、ほっとした詢子は、やさしくほほえむ。

「よしよし。たまには甘えてもいいんだよ」

「うん。ママ、ありがとう」

大好きな家族のぬくもりを感じて、気が緩んだのだろう。
泣き疲れたまどかは、ゆっくりと目を閉じ、幸せそうな表情で眠りについた。……
6 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/12(金) 00:54:08.28 ID:BFRrGUMm0

巨大なショッピングモール内の、ある喫茶店。
窓際の一席に、制服を着た三人の少女が座っている。
しとやかに振舞う、軽くウェーブがかかった髪の少女は志筑仁美。
元気な笑顔が可愛らしい、ショートカットの少女が美樹さやか。
小学生と見間違うくらい小柄な、髪の両端を白のリボンで結んだ少女、まどか。
彼女たちは楽しそうにおしゃべりしている。

「暁美ほむらさんのことでお話したいことがありますの」

「暁美、ほむらさん?」

「転校生の方ですわ」

「ねえ、まどか。その子知り合い? すげー美人でさ、まどかのこと色々と聞かれたのよ」

「お二人はお友だちの間柄ですの?」
7 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/12(金) 00:55:06.03 ID:BFRrGUMm0
別の話題――まどかが遅れて登校したころには、すでに早退していた転校生の話を、仁美が切り出した。
さやかも興味津々な様子で返事を待っている。
まどかは転校生の名前に聞き覚えがあった。だが、それは忘れたい昨晩の悪夢で聞いた名前だった。
脳裏に惨劇が浮かび、少し怖くなった彼女は、同席している親友のことを考える。

まどかが遅刻した原因を話したとき、さやかと仁美は内容について深く追求しなかった。
真っ赤に泣き腫らした目を見て、どれほど怖い思いをしたのかを、二人は察してくれたのだろう。
まどかは親友のそんな心遣いがうれしかった。だから、彼女は小さな嘘をつく。

「う〜ん、会ってみないとわかんないよ」

「あら、それは残念です」

「ん? そっか。なら、ほかの話でもしよ」

今度は、素敵な恋愛のあり方について楽しく語り合う。
仁美がお茶の稽古で席をはずすまで、にぎやかな談笑は続いた。
8 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/12(金) 00:56:23.05 ID:BFRrGUMm0
現在、まどかとさやかはCD屋に向かっている。
歩きながら、他愛のない話を続けていたが、突然さやかが話題を変える。

「まどか、さっき、あたしと仁美に気をつかったでしょ?」

「え? えっと、何のコトかな」

さやかは妙に鋭いところがある。それに、彼女たち二人の付き合いは長い。
そのため、まどかの嘘は簡単にばれていた。

「とぼけてもムダよ。さやかちゃんにはすべてお見通しなのだー!」

「ふぇ? さやかちゃん、や、やめて。危ないよ」

悪戯っ子のさやかは、まどかの冷たい、華奢な体に抱きつきはじめた。
恥ずかしさと戸惑いが混在した表情でイヤイヤするまどかだが、本気で嫌がってはいない。

「ぎゅってしなきゃ、だいじょうぶなんでしょ?」

「そ、そうだけど……」

抵抗がほとんどないため、さやかは楽しそうにじゃれ続ける。
周囲にいる人たちの視線が集中し、ひそひそ声が大きくなるまで、彼女の行為は止まらなかった。
9 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/12(金) 00:57:09.45 ID:BFRrGUMm0
「いやー、ゴメンゴメン。やりすぎちゃったね」

「ひどいよぅ」

「冗談はさておき、まどか、悩みごとならいつでも相談にのるよ?」

「ありがとう、さやかちゃん」

結局、親友に心配をかけさせてしまったことを、まどかは後悔した。
だが、それと同時にうれしくもなった。
家族以外にも、自分をこんなにも思ってくれる大切な存在がいることを再確認できたからだ。
だからこそ、彼女に夢の内容を聞かせて嫌な思いをさせたくない、という気持ちが強くなる。
自分が無残な死に方をする不吉な話を好む人間はいないだろうから。

「あ、また余計なこと考えてるでしょ」

「ち、ちがうよぅ」

「ほーう? まどかはあたしに隠し事をすると。そんなけしからん子はー……こうだぁっ!」

「ダ、ダメだって」
10 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/12(金) 00:59:27.92 ID:BFRrGUMm0
そんなコントのようなことを繰り返しているうちに、二人はCD屋の前に来ていた。
早速、さやかはお目当ての曲を探す作業に取り掛かる。
まどかは適当な新譜を見つけて、試聴している。

――助けて。助けて、まどか。

音楽を試聴し始めて十数分後、まどかの頭の中で突然、声が響いた。
彼女は不思議に思いながらも、声のする方へふらふらと、ひとりで歩いていく。
立ち入り禁止の看板を無視して、助けを呼ぶ声に導かれるまま、暗い通路を進む。
進んだ先の開けた場所で、白くて、小さい生き物が傷を負って倒れていた。
彼女は、その猫のような、狐のような生き物の傍へ駆け寄るとすぐさま、やさしく抱えあげた。

「鹿目まどか、そいつから離れて」

「あなた……誰なの? どうして、私の名前を知ってるの」
 
「今のあなたがそれを知る必要はない。どきなさい」

「でも、この子、怪我してるよ。この子をどうするつもりなの?」

まどかの行動に少し遅れて、変わった服装をした、長い黒髪の少女が姿を現す。
現実では会ったことがないはずだが、まどかは目の前の少女に見覚えがある――あの夢で逢った子だ。
暗い部屋の中を、瞳から冷酷な光を放ちながら、悪夢を思い出させる少女が無言で近づいてくる。
懸命に白い生き物を守ろうとするも、恐怖に襲われて、まどかは足がすくむ。
11 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/12(金) 01:00:17.05 ID:BFRrGUMm0
「まどか、こっち!」

「くっ……」

「さやかちゃん!」

突如現れたさやかは、なぞの少女に向けて消火器を噴射すると、まどかを先導する。
彼女は、自分に何も告げずにどこかへ移動し始めたまどかが心配で、こっそりと後をつけていたのだ。

「何よ、あの転校生。体調崩して早退したと思ってたら、こんなところでコスプレして通り魔かよ!
 それに今の様子だと、まどかと知り合いってわけでもなさそうだしさ!」 

「……うん。知らない子だと思う」

「つーか何それ、ぬいぐるみじゃないよね? 生き物?」

「わかんない。わかんないけど、……この子を助けなきゃ」

「あれ? どこよここ……非常口は? あーもう、どうなってんのさ!」

「さやかちゃん、変だよ、ここ。絶対おかしいよ」

二人は暁美ほむらから逃げ続けていたが、ある異変に気づく。
当初は店内の通路を走っていたにもかかわらず、現在は見たことのない異様な空間に迷い込んでいた。
不安に駆られた二人は震え上がる。
周囲から聞こえる奇妙な声は少しずつ、少しずつ、大きくなっていく。
12 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/12(金) 01:01:21.61 ID:BFRrGUMm0
「や、やだ。何かいる」

「冗談だよね? ねえ、嘘って言ってよ。ねえ、まどか!」

ひげをはやした毛玉のような生き物が、わらわらと出てきて、二人を取り囲む。
恐怖はどんどん加速していく。それでも、さやかは反射的にまどかの前に立っていた。
正体不明の生き物は恐ろしい表情で距離をつめてくる。逃げ道などない。

「あら、その制服、あなたたちも見滝原の生徒みたいね。二年生? それとも一年生?」

「だ、誰よ、あんた」

「嘘……どうして?」

「驚かせてごめんね。でも自己紹介の前に、ちょっと一仕事、片付けちゃっていいかしら」

絶体絶命の窮地に、一人の少女が登場した。
転校生の例があったことから、知らない顔を見たさやかは、より警戒を強める。
一方、まどかは怯えていた。
まどかにとって、今日という日ほど不思議な日はなかった。
目の前にいる巻き髪の少女は、自分が夢の中で見殺しにした人なのだから。
そんな二人に、彼女はやさしく声をかけ――変身する。
13 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/12(金) 01:03:25.40 ID:BFRrGUMm0
華麗なステップを踏み、漫画やアニメのキャラクターのような衣装に身を包む。
呆気にとられる二人に説明することなく、今度は数多のマスケット銃を瞬時に召喚する。
彼女の掛け声でマスケット銃が一斉掃射されると、不気味な生き物の頭上には光の雨が降り注いでいた。
三人の少女だけがこの場に残ると、次第に異様な空間が元の風景に戻り始める。

「も、戻った!」

「……これも、夢なの?」

「危なかったわね。でも、もうだいじょうぶよ」

「まどか、だいじょうぶだって」

「え? えっと」

「ちょっと落ち着きなよ」

「う、うん」

軽い混乱状態だったまどかが冷静になるまで、少し時間がかかった。
その間、さやかは窮地を救ってくれた少女にお礼を言い、お互いに自己紹介をしていた。
急に、さやかと話をしていた少女が視線を別の方向にそらす。
彼女の視線は、通路奥に立つ転校生の暁美ほむらへと向けられていた。
14 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/12(金) 01:05:51.56 ID:BFRrGUMm0
「魔女は逃げてしまったわ。あなたに譲ってあげるから、すぐに追いかけなさい」

「どうして、あなたがここに……? 私はそこの二人に用があるのよ」

「飲み込みが悪いのね。見逃してあげるって意味よ。
 お互い、余計な争いで怪我をしたくないでしょう?」

「……っ」

少女の言葉に後悔と苛立ちを覚えつつも、この場を去るほむら。

「今度こそ一件落着かな」

「ふぅ」

さやかとまどかは緊迫した状況から解放されて、ほっと胸をなでおろす。
ほむらと対峙していた少女も安心したのか、まどかに歩み寄る。
15 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/12(金) 01:07:11.15 ID:BFRrGUMm0
「私は巴マミ。あなたがキュゥべえを助けてくれたのね、ありがとう。その子は私の大切な友達なの」

「私、まどか……鹿目まどかです。あの、私こそ、ありがとうございます。
 それと、ごめんなさい。助けてもらったのに、お礼まだ言ってなくて」

マミはほほえむと、まどかが抱えている白い生き物の手当てを始めた。
不思議なあたたかい力で、キュゥべえと呼ばれた生き物の傷はみるみる回復していく。
キュゥべえは目を覚ますと、驚くべきことに人語でしゃべりだした。

「ありがとう、マミ。助かったよ」

「お礼はこの子たちに。私は通りかかっただけだから」

「僕の名前はキュゥべえ。どうもありがとう、鹿目まどか、美樹さやか」

「何で、あたしたちの名前を?」

「君たちにお願いがあるんだ」

さやかは何のためにではなく、どのような方法で名前を知ったのかと、聞いたつもりだった。
しかし、キュゥべえはお構いなしに彼の話を続ける。
16 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/12(金) 01:07:57.58 ID:BFRrGUMm0
「僕と契約して、魔法少女になってよ!」

「魔法少女? 契約って?」

「そうね。ある程度の説明は必要だと思うから、二人とも私の家に来てもらえないかしら」

まどかとさやかは、巴マミの提案を素直に受け入れる。

「長い話になるよ」

と、キュゥべえが言うので、まどかは店の外に出ると、自宅に連絡を入れた。
帰りが遅くなるときは電話すること。それは彼女が、詢子と知久の二人と結んだ大事な約束。
日は沈み、夕焼け空が自然や建造物、町並みをオレンジ色に染め上げてゆく。
17 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/12(金) 01:09:32.67 ID:BFRrGUMm0
おしゃべりしながら歩き続けてしばらく、少女たちはマミの住むマンションにたどり着いた。

「一人暮らしだから遠慮なくどうぞ」

「お邪魔しまーす」

「お邪魔します」

マミはかばんから自宅の鍵を取り出し、ドアを開ける。
彼女に案内された部屋を見て、まどかとさやかの二人は驚いた。

「うわぁ……」

「素敵なお部屋……」

二人が通された部屋はお洒落な、とくに女の子が好む小物や家具で彩られていた。
その少女らしくも大人っぽい雰囲気に、まどかとさやかは目を奪われる。
しかし、素敵な空間には違いないが、中学生の一人暮らしにしては物が多すぎる気もする。
まるで、一人暮らしの寂しさを紛らわすために、たくさんの物を置いているような印象があった。
18 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/12(金) 01:11:07.19 ID:BFRrGUMm0
部屋の寂しい印象をどこかへやるように、楽しそうな、明るい声でマミは言う。

「すぐに、おもてなしを用意するわね。
 だから準備ができるまで、くつろいで待っててもらえないかしら」

「いや、そんなに気をつかわなくてもいいですって。ねえ、まどか」

「うん。そうですよ、マミさん」

「マミはお茶会が好きなんだ。君たちこそ、気にしないほうがいいよ」

「そうそう、キュゥべえの言うとおり。私が好きでやってることだから、ね」

まどかとさやかは結局、マミの厚意に甘えることにした。
マミ特製の、ケーキと紅茶のもてなしは、客人二人を大いに喜ばす。
そんな二人の様子に、マミも幸せそうだ。

「でも私、晩御飯の前のお菓子は、お腹いっぱいになっちゃうからダメなんです。ごめんなさい」

まどかの悲痛な声を聞いたマミは、ケーキをおみやげに持たせてあげた。

楽しいお茶会が終わると、本題の魔法少女についての説明会が始まった。
ソファの上で尾を揺らすキュゥべえは、真剣な三人を見て、……まどかを見て、こっそりわらう。


19 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/12(金) 01:12:40.79 ID:BFRrGUMm0
01



すべてが書き換えられていく。

過去も、現在も、未来も、私を含む宇宙のすべてが。

確かに存在した世界から、いつか、どこかの私が願った世界へ。

宇宙再編の流れを止める人はいない。

この無限に広がった空間に、人は誰もいないから。

大好きな人たちも、知らない人たちも、私がみんな消してしまったのだから。

私という存在が概念として構成される中で、私――鹿目まどかの一人は、思います。

『きらきら光る星の海はとても素敵で、丸くて青い地球はとても綺麗。』

『……だけど、これでよかったのかな?』


20 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/12(金) 01:13:33.49 ID:BFRrGUMm0




多くの人々が学校や会社に向かい始める朝の時間帯。
幸せそうに、詢子とまどかが並木道を歩いている。
そしてちゃっかり、うしろにつづいたキュゥべえ。
魔法少女の素質がない鹿目詢子にキュゥべえは見えていない。
ともに笑顔の二人は楽しくおしゃべりしていた。

「まどか、今日はすごくいい顔してるね」

「てへへ、そうかな?」

「昨夜は帰りが遅かったようだけど、何かいいことでもあったか?」

「うん。私ね、素敵な先輩ができたんだ」

「おっ、よかったじゃない。どんな子か教えてよ」

「巴マミ先輩だよ。すっごくやさしくて、親切なの。今日も先輩と放課後に約束しちゃった」
21 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/12(金) 01:14:52.13 ID:BFRrGUMm0
出会って一日にもかかわらず、まどかはマミにすっかり懐いていた。
それは嫌な夢の印象も消えてしまうほどに。まるで昔からの知り合いだったように。
まどかは、今日の夕方に予定された魔法少女体験コースにも参加することにしている。

「楽しんで来なって、言いたいとこだけど、夢中になって帰りが遅くにならないようにね」

「うん、分かってる。それじゃママ、お仕事がんばってね」

「おぅ、まどかも学校がんばりなよ」

交差点で、詢子とまどかは、そっと手を触れあわせると、各々の目的地へと向かった。
まどかは途中、いつも待ち合わせをしているさやかと仁美の二人と合流する。

「さやかちゃん、仁美ちゃん、おはよう〜」

「おっはようー、まどか」

「おはようございます」

挨拶を交わし、今日も、仲良し三人組は始業前の心地よいひと時を共に過ごす。
また、詢子と同様に、仁美もキュゥべえを見ることができなかった。
22 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/12(金) 01:16:48.21 ID:BFRrGUMm0
学校に近づくと、まどかの心は少し乱れた。きっと、転校生の暁美ほむらは教室にいるだろうから。
仁美とクラシック音楽の話で盛り上がっていたさやかが、まどかの不安を察し、テレパシーを使う。
キュゥべえの力により、彼女たちはテレパシーで会話ができるようになっている。

――どうしたの?

――えっとね、暁美さんのことを思い出しちゃって。あの子、転校生なんだよね?

――そうだけど、今日はマミさんがついてるんだし安心しなよ。
  それに何かちょっかい出してきても、まどかはあたしが守るからさ。

――うん。いつも、ありがとう、さやかちゃん。

――どういたしまして。

やさしくて、勇気がある親友の存在がとても頼もしい。
さやかに励まされて、まどかは心を落ち着かせることができた。
目と目をあわせて、ほほえみあう二人。
しかし、テレパシー能力がない者からすると、その様子は無言でみつめ合っているようなものだ。
だから、仁美が不思議そうな表情で、まどかとさやかに話しかけた。
23 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/12(金) 01:17:49.00 ID:BFRrGUMm0
「お二人とも、突然どうしたんです? 黙って、相手のことをじっと見ていますけど……」

「えっ? な、何でもないよ。ねぇ、さやかちゃん?」

「そう、何でもないからさ。気にしないで」

「まさか、お二人は禁断の恋におちてしまったんですの!?
 ずっと前からとても仲がよろしいとは思っていましたが、そこまでの間柄だなんて」

「……仁美ちゃん?」

「仁美、何か誤解してない?」

「でもいけませんわ。たとえ愛があっても、女の子同士のお付き合いは、いけないことですのよ〜!!」

まどかとさやかの言葉に耳を貸さず、仁美は走り出す。
空白となった位置には、彼女のバッグが置き去りにされている。
方や、残された二人は仁美の突飛な言動に、ぽかんとした顔で突っ立っていた。

「訳が分からないよ」

と、キュゥべえがつぶやくまで、この場は凍った世界のようだった。……
24 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/12(金) 01:19:03.69 ID:BFRrGUMm0

昼休み、学校の屋上で、まどかとさやかはお互いの心境を確認しあっていた。キュゥべえはいない。
今朝、教室に着いてすぐに釈明をした結果、仁美の誤解を解くことはできた。
二人の頭を悩ましているのは願い事とその代償だ。

「さやかちゃん、願い事みつかった?」

「あたしは全然。まどかは何かみつけた?」

「うん。私の叶えてほしい願い事はずっと昔から変わらないよ」

「あ、ごめん。……」

「ううん、私は平気だよ。気にしないで」

さやかは迂闊な発言を後悔し、うなだれていた。
重くなった空気を何とかしようと、まどかは話を続ける。
25 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/12(金) 01:19:41.10 ID:BFRrGUMm0
「それにね、まだ迷ってるの。今の私は幸せだから、魔女と戦う方が怖くて嫌だなって、思っちゃう。
 私、臆病だよね? 夢が叶うチャンスなのに」

「そんなことない。あたしもいろいろ考えたけどさ、やっぱそこで悩んじゃうわけだし。
 まどかは確かにちょっと怖がりだけど、やさしい子だよ」

「それ、あんまりフォローになってないよ。やっぱり私なんて……」

「ええ!? 参ったな。あたしが言いたかったのは、その、えーっと……あははは」

「えへへへ。意地悪してごめんね? さやかちゃんの気持ちは伝わってるよ、ありがとう」

「あ! からかってたのね。んー、そんないたずらする悪い子にはおしおきしちゃうぞー」

まどかの小さな祈りは、さやかに届き、少女たちにふさわしくない雰囲気を壊した。
青空に近い屋上を清風が通り抜ける。

笑い合う二人から離れた所、階段につながる扉が、ギィと音を立てて開いた。
暁美ほむらが無表情で歩いてくる。まどかとさやかは身を寄せあい、警戒を強めた。
26 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/12(金) 01:21:05.66 ID:BFRrGUMm0
――私が見張っているから安心して。

――ふぇ? マミさん?

――僕もいるよ。

――まどか、あっち!

突如、テレパシーで声をかけられたことに驚き、きょろきょろとあたりを見回すまどか。
たった一つの出入り口、屋上と校内をつなぐ扉の影に、マミとキュゥべえがこっそり隠れていた。
彼女たちが見守る中、さやかは話の口を切った。

「何の用、転校生」

「忠告よ。あなたたちに魔法少女は務まらない。決して、なろうだなんて思わないことね。
 さもなければ全てを失うことになる」

「どういう意味だよ」

「言葉通りよ」

対立するさやかとほむら。まさしく一触即発の状態だ。
慌てて、まどかが二人の間に割って入る。
27 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/12(金) 01:22:08.90 ID:BFRrGUMm0
「あの、その、暁美さん?」

「……ほむらって、呼んでもらえるかしら」

淡々と返事をしていたほむらが言いよどむ。
表情もどことなく、悲しそうに見える。

「ほ、ほむらちゃんはどうして私たちを契約させたくないの?」

「あなたたちが契約しないよう、祈ってる」

「あっ……」

まどかの問いかけには応答することなく、ほむらはきびすを返す。
彼女は、扉の前に立つマミとキュゥべえを一瞥すると、静かに階段を降りていった。……
28 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/12(金) 01:22:54.90 ID:BFRrGUMm0

昼休みに起きた衝突の後は、何もない平和な時間が過ぎゆくばかり。
そして、放課後。予定されていた魔法少女体験コースが始まる。
オレンジ色の町なか、マミはソウルジェムと呼ばれる宝石を頼りに、魔女の気配を探っていた。
彼女のうしろを、バットを手にしたさやかと、キュゥべえを抱えたまどかがつづいて歩く。

「ねえ、マミさん。それ、全然光らないけど、魔女が居そうな場所に心当たりはないの?」

「自殺に向いたひとけのない場所や、弱った人が大勢いる病院は要注意ね」

「病院!」

「あとは、傷害事件が起こりうる路地裏や歓楽街。
 それから、交通量の多い大きな道路よ。……魔女の呪いが原因の交通事故もあるから」

まどかは黙って、マミとさやかのやり取りを聞いていた。
ところが、交通事故、という言葉をマミが口にした瞬間のことだ。まどかは耳を疑い、目を疑った。

『木枯らしのせいで、マミさんの声が暗くて、冷たいように聞こえちゃったの?
  それとも夕暮れ時だから、横顔が寂しそうに、泣いているように見えるの?』
29 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/12(金) 01:24:13.45 ID:BFRrGUMm0
「……あの、マミさん」

「マミさん、あそこ!」

まどかの小さな声はさやかの叫び声にかき消された。
声を上げたさやかは、廃墟と化した建物を凝視している。
視線の先では、若い女性が飛び降り自殺を図ろうとしていた。
マミは女性を確認すると一気に駆け出し、落ちてきたところを魔法のリボンでやさしく受け止めた。
マミに少し遅れたさやかが、

「女の人は?」

「だいじょうぶ、気を失っているだけよ」

「よかったー」

「魔女の口づけ。ここで間違いないわ」

女性の首筋には奇妙な痣、悪魔の紋章が浮かび上がっていた。
その紋章は廃墟の内側、崩れた壁にも大きく刻まれている。
30 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/12(金) 01:24:57.46 ID:BFRrGUMm0
「これで身を守る程度はできるけど、二人とも絶対に私の傍を離れないでね」

「はい、わかりました」

「さやかちゃんも頑張っちゃいますよー」

マミは魔法でバットを強化すると、異空間につながる壁の中へ突入した。
さやかとまどかも覚悟を決め、すぐに後を追う。
魔女の結界内は、妖美な薔薇とグロテスクな使い魔たちがはびこる、幻想的な世界だった。
マミがマスケット銃を巧みに操り、突破口を開いて行く。
その間、さやかは魔法のバットを勇猛果敢に振り回し、自身とまどかの身を守っていた。

「二人とも、怖い?」

「こ、怖くなんか!」

「私は、少し怖いです」

「そう。それと、ここから先は私ひとりで行くわ。
 この扉の向こうにいる魔女を退治したら、今日はおしまい。だから、ちょっと待っててね」
31 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/12(金) 01:25:54.68 ID:BFRrGUMm0
結界の最深部につながる扉が開き、三人の少女は細い通路を奥へと進んだ。
少女たちがたどり着いたのは、色とりどりの薔薇が咲き誇る庭園。
侵入者に気づいた結界の主――薔薇園の魔女が、そして、使い魔たちが一斉に警戒態勢をとる。
マミは魔力をこめた障壁を展開すると、さやかとまどかから離れた場所へ移動した。
二人に危害が及ばない距離をとり、マミは魔女にマスケット銃の照準を合わせ、その引き金を引いた。

しかし、魔女は巨体にもかかわらず、俊敏な動きでマミの射撃を回避した。
空中に逃げる魔女を狙い撃つマミ。一方、彼女の足元には、気配を隠した使い魔たちが集まっていた。
マミは使い魔に捕縛されてから、自身がミスをしたことに気づく。
直後、彼女は投げ飛ばされ、そのやわらかい体を壁にたたきつけられた。

「さやかちゃん、マミさんが!?」

「マミさん!!」

「だいじょうぶ。可愛い後輩に、あんまり恰好悪いところは見せたくないものね」

庭園に刻まれた弾痕から、光り輝く無数のリボンが伸び、先ほどまで飛び回っていた魔女を絡めとる。
マミは高く跳躍し、大砲のような銃を魔法で形成すると、凛とした声で、

「ティロ・フィナーレ!」

発射された弾丸は、薔薇園の魔女を貫いた。
マミは華麗に着地すると、どこからともなく取り出したティーカップの紅茶を味わう。
魔女の結界は音を立てて崩壊し、砕けた断片は、蝶が飛び立つように消えてゆく。
32 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/12(金) 01:27:10.55 ID:BFRrGUMm0
「マミさん、すっごく恰好よかったです」

「うんうん、まどかの言うとおりですよ」

「ふふ、おだてても何もでないわよ?」

マミは、戦いの跡に残された、黒い宝石を回収すると、

「これがグリーフシード。昨日話した魔女退治の見返りよ。魔女の卵なんだけどソウルジェムに使えば
 ……ね、綺麗になったでしょ? こうやって魔力が尽きないようにするの」

少女たちの目の前で、黒く濁っていたソウルジェムが、ひまわり色の輝きを取り戻す。
さやかは不思議そうに眺めていたが、

「ねえ、キュゥべえ。魔女の卵って危なくないの?」

「グリーフシードにある程度の穢れを吸わせたら、僕が食べるから問題ないよ」

「あんた、こんなの食べれるんだ」

「最高のご馳走だよ。……僕にとってはね」
33 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/12(金) 01:37:24.73 ID:BFRrGUMm0
書き溜めていた分が尽きました、ごめんなさい
次の投下は一週間以内にできるよう、努力します
読んで下さった方々、ありがとうございます

おやすみなさい
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/12(金) 01:38:58.58 ID:ejoDHl2go
本編アフター……なのかな?
パラレルワールド的な……


続きが気になる、乙彼
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/12(金) 01:40:52.01 ID:h3HCS5HE0
乙ですたー
神にとっての七日間が人間のソレと同じ時間とは限らない
神はその中で試行錯誤を重ねて世界を創造した・・・的な??
36 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/19(金) 00:46:41.74 ID:RybBVDuN0
遅くなりました
前回分にレスがもらえて、うれしいです
今回か次回で、話のおおまかな設定が見えてくると思います
37 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/19(金) 00:48:18.01 ID:RybBVDuN0
説明が終わると、マミは暗がりに向けて、薔薇園の魔女が落としたグリーフシードをほうった。
グリーフシードはきれいな放物線を描き、闇に潜伏していた暁美ほむらの手の中に落ちる。

「それ、あなたにあげるわ。あと一度くらいは使えるはずよ」

「必要ないわ。魔女を仕留めたのはあなた。これは、あなただけの物にすればいい」

ほむらは、愛想のない言葉とグリーフシードをマミに投げ返す。
昨日の出来事――キュゥべえが襲われた一件から、ほむらを危険視していたマミは、

「人と分け合うのは不服……そう受け取ればいいのかしら?」

けれども、ほむらは答えることなく、少女たちの前から去っていった。
そんな言動をとる暁美ほむらを、感じ悪いやつ……と、さやかは思った。

廃墟の入り口に戻ると、気を失っていたはずの女性が目を覚ましおり、おろおろしていた。

「お姉さん、だいじょうぶですよ。今日は疲れて、ちょっと悪い夢を見ていただけです」

マミはやさしく声をかけた。
しばらくして、女性が落ち着いてから、少女たちは廃墟を後にした。
38 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/19(金) 00:49:07.92 ID:RybBVDuN0
「キュゥべえは、どんな願い事でも叶えてくれるの?」

来た道を帰る途中、まどかが足を止め、キュゥべえに質問をした。

「一例を挙げると、死んだ人を生き返らせることは不可能だよ。
 特殊なケースを除いて、宇宙の法則には逆らえない」

「特殊なケース?」

「極めて稀に存在する、途方もないレベルの潜在能力を秘めた子のことさ。
 さっきの話だと、大抵の子の場合、怪我や病気を治してほしいのなら、重体からの回復、
 死んだ人に会いたいのなら、よく似た別の人物に会わせてあげられるのが、せいぜい限界だ」
 
「そうなの」

「説明の仕方が悪かったね。誤解させて済まなかった。
 でも僕は、可能な範囲でなら、君たちの願い事を叶えてあげられるよ」

「ありがとう、キュゥべえ」

その受け答えにつづいて、さやかが、入院中の幼馴染――上条恭介のことを想い、尋ねる。

「じゃあ、例えばの話なんだけどさ。あたしなんかより、本当に奇跡が欲しいと思っている人がいて、
 その人のために願い事をするのはダメかな?」
39 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/19(金) 00:49:57.29 ID:RybBVDuN0
「それ、上条君のこと?」

「な、何言ってんのよ、まどか。例えば、例えばの話よ」

「別に、願い事の対象を契約者自身にする必要性はないよ。前例も有る」

「ほんと!」

望み通りの返答に、さやかの気持ちは浮ついた。
ところが反対に、マミが顔を伏せたまま、厳しい声で、

「美樹さんは彼に夢を叶えてほしいの? それとも、彼の夢を叶えた恩人になりたいの?
 そこがはっきりしないうちは、他人の願いを叶えることにはあんまり賛成できないわ」

「そんな言い方しなくても……」

「ごめんね。でも、魔法少女になったら、好戦的な魔女に命を狙われやすくなって、危険だから。
 それに、他人の願いを叶えて後悔した子を知っているから、どうしても言っておきたかったの」
40 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/19(金) 00:50:48.95 ID:RybBVDuN0
「そうなんだ。あたしの考えが甘かったよ、ごめん」

さやかが申し訳なさそうに言うので、マミは、やさしくほほえみかけて、

「私の場合は考える余裕さえなかったから、二人にはキチンと考えたうえで決めてほしいの」

マミとさやかは再び歩き出した。
ふと見上げた空が赤く染まっていて、まどかの胸は騒ぐ。
まどかとマミたちの間の距離が少しだけ開く。

「鹿目さん?」

「あ、ごめんなさい。えっと……」

「今日も遊びに来てくれないかなって。
 この前、お菓子を買いすぎてしまったから、困っているの。もちろん、お持ち帰りもできるわよ?」

「いいんですか? でも……」

「はい、これを使って。ご両親との約束でしょ?」

そう言って、マミはまどかに携帯電話を渡した。……
41 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/19(金) 00:52:00.23 ID:RybBVDuN0
 
日曜日、暖かかった気温が冷たくなり始めた夕方。
鹿目家の庭に面した一室では、家族全員が、取り込んだ洗濯物をたたんでいた。
まどかが手を動かしながら、

「ママ、パパ。二人とも願い事ってないかな?」

「急に言われても、僕は思いつかないな。ママはどうだい」

「そうねぇ、役員を二人ばかりよそに飛ばしてほしいかなぁ」

「えっと、ママは出世したいの?」

「ん? あはは、冗談だよ」

話している間にも、たたまれた洗濯物が綺麗に小分けされ、小さな山が作られていく。
まどかも、次々に洗濯物をたたみながら、

「どんな願い事でもいいんだけどなぁ」

「ママは仕事を頑張るのが好きなんだよ。
 嫌なこと、つらいことを乗り越えた時の満足感が、ママにとっての宝物なのさ」

「そういうこと。だから、あたしも思いつかないわ」
42 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/19(金) 00:53:14.09 ID:RybBVDuN0
四人でかかった仕事は、すぐに終わった。
小さな体で、一生懸命に手伝っていたタツヤが、まどかの傍に来て、

「たたんだー。ねえちゃ、あそぼー」

「えへへ。タツヤ、ちゃんとたためたね。お利口さんだね。じゃあ、お姉ちゃんとお絵かきしようか」

「ねえちゃとおえかきー」

楽しそうに笑い、絵を描く準備をするまどかとタツヤ。
その姿がほほえましくて、つい笑ってしまいながら、

「願い事は、まどかとタツヤが幸せになることかな」

と、詢子と知久は口をそろえて言った。
 
 
 
43 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/19(金) 00:54:10.53 ID:RybBVDuN0
02



『私のお話も聞いてくれる?』

次の私――あなたは、平行世界の赤ちゃんの私だね。うん、だいじょうぶだよ。

『やっとママとパパに会えたのに、私はお家に帰れないの?』

……さびしいけど、我慢してくれないかな?

『嫌だよ、こんなの。』

ごめんね。でも私は、すべての宇宙の、すべての時間の魔法少女に最期まで笑顔でいてほしい。

みんなの祈りを絶望で終わらせたくはない。これが私の願い。

この願いを叶えるために、すべての私に協力してもらう必要があるの。
44 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/19(金) 00:54:52.93 ID:RybBVDuN0
『お願い事が叶ったら、お家に帰れるの?』

…………。

『ママとパパ、私を待ってくれてるよ。』

……願いが叶ったら、私たちはここに取り残されて、一つの概念にかわる。

みんなから忘れられて、お別れだよ。

『ママとパパのこと、嫌いになっちゃったの?』

…………。

『私を初めて見たとき、あんなに喜んでくれたのに。』

…………。

『そんなの寂しいよ。』

…………。

『…………。』
45 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/19(金) 00:55:31.03 ID:RybBVDuN0
……ちょっと、いい?

『……なぁに。』

さっきね、あなたは大切な人たちを裏切るんだねって、別の私に言われたの。

『大切なひと?』

ママとパパ、弟のタツヤに、友達のみんなだよ。

あなたの話も聞いて、私、今やっていることが、よかったのかどうか、わかんなくなっちゃった。

だから、お願いしてもいいかな?

『お願い?』
46 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/19(金) 00:56:05.87 ID:RybBVDuN0
うん。

改変前の世界を見てきてほしい。

『ママとパパのところに帰っていいの?』

猶予は、私が人として過ごした時間の分しかなくて。

私と一つになりつつある、不安定なあなたが、周りのみんなと同じ生活を送ることはできなくて。

あなたを悲しませ、苦しませるかもしれないけど。

それでも、お願いしてもいいかな?

私、みんなの気持ちを考えるから。

どうしたらいいのか、考え直してみるから。

約束の日が来たら、もう一度ここで、あなたの気持ち――あなたの答えを、私に教えてくれないかな?

このままだと、答えはみつかりそうにないの。
47 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/19(金) 00:56:45.49 ID:RybBVDuN0
『うん、わかったよ。』

ありがとう。

ここから先は、あなたがいた世界。

……あとは、これくらいしかできないけど。

『可愛いお花が咲いているね。』

その杖はお守りだよ。

きっと、役に立つと思うから。

『えへへ、ありがとう。』

それじゃ、またね。

『またね。』

…………。

ごめんね。
 
 
 
48 : ◆BMkVgrQB5qSZ [sage saga]:2011/08/19(金) 01:01:26.87 ID:RybBVDuN0
遅いうえに投下量も少なくて、ごめんなさい

それから、34、35さんの連携にはおどろきました

次も一週間ほどお時間をいただきます

今回も読んで下さった方々、ありがとうございます

お体にお気をつけください
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/19(金) 17:19:06.03 ID:klT1ZrhNo
おつー
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/19(金) 18:38:27.92 ID:GWTVryPIO
乙・フィナーレ!
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/21(日) 01:03:58.15 ID:tXXTccLM0
乙ですたー
あらゆる世界の”まどか”の集合体が円環の理神である以上、他の世界の”まどか”達が『願い』を納得するか否かは確かに問題だわな
頑張れ、”まどか”達とまど神様!!
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/08/26(金) 10:38:02.94 ID:UtoEBpqSo
乙っちまどまど!
いいね、次も楽しみ
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/13(火) 21:15:04.05 ID:1MZckWYS0
なんか後ろにいるからage
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