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唯「ひめゆり」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/15(月) 07:47:33.47 ID:pH3mSkydo


――― 終戦記念日特集 ―――


これは、先の大戦末期において、ある女学生たちが過ごした日々を描いたアニメである。



※ なお、下記の資料に着想を得て構成した
ttp://www.himeyuri.or.jp/etc/bosyuu.pdf
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佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713966248/

全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713869982/

【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713861164/

トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713798788/

【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713788018/

ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713736565/

2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/15(月) 07:49:46.65 ID:pH3mSkydo

―――昭和二十年(1945年)初頭、沖縄県那覇市(当時、島尻郡安里村)



     ┏━┓     ┏━┓
     ┃沖┃     ┃沖┃
     ┃繩┃     ┃繩┃
     ┃縣┃     ┃師┃
     ┃立┃     ┃範┃
     ┃第┃     ┃學┃
     ┃一┃     ┃校┃
     ┃高┃     ┃女┃
     ┃等┃     ┃子┃
     ┃女┃     ┃部┃
     ┃學┃     ┗━┛
     ┃校┃
     ┗━┛



―――沖縄師範学校女子部・沖縄県立第一高等女学校は併置校で、

多くの教諭は併任、施設の多くを共用し、「ひめゆり」の愛称で親しまれていた。

赤い屋根の校舎が青空に映え、その校門前には緑豊かな相思樹の並木があった。

「軍国少女」として教育される中でも、夢見る年頃には、歌と笑いがあった―――
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/15(月) 07:52:51.71 ID:pH3mSkydo
ttp://www.youtube.com/watch?v=5QuAA-yX-sU


―――教室


校庭で宮城遙拝、万歳三唱、国歌斉唱、校歌斉唱などをして、朝礼が終わったあとのことです。


 「……う〜ん……」

 「…何うなってるのよ、唯」

 「あ、和ちゃん。学徒隊に入ろうかまだ迷ってて……」

 「え!? まだ決めてなかったの!?」

 「でもでも私頭よくないし学徒隊のこともよくわかんないし……」

 「唯、このままじゃ本当に非国民呼ばわりされちゃうよ…?」

 「学徒隊に加わらないとヒコクミン!?」



こんにちは。沖縄師範学校女子部2年生の平山唯です!

少し前まで平安山(へんざん)だったんですが、姓を変えるのが時勢らしいので平山に変えちゃいました。

ちなみに、県下随一の難関である師範学校に、妹はともかく私が入れた理由は自分でもわかりません!

ドイツに行った両親が何か手を回したみたいなのですが……。


昨年の夏、サイパン島が陥落し、十月には「十・十空襲」があって、那覇の町の大半が焼けたのです。

私たちはもちろん祖国日本の勝利を信じていましたが、いよいよ米軍が近付きつつあることは感じていました。

そうなると、さすがに学徒隊に参加する考えもまとまらず、今朝も和ちゃんに呆れられたばかりです。


 (はぁ〜……学徒隊かぁ……どうしよぉ……)
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/15(月) 07:54:37.47 ID:pH3mSkydo

―――放課後


  “ふわふわ時間 ふわふわ時間 ふわふわ時間……♪”


今日は珍しく、陣地構築作業も農作業奉仕もなかったので、

空き教室で、友達と一緒にテニスラケットをギター代わりに『ふわふわ時間(じかん)』を歌ったりしていました。


 「じゃあ次は『毛筆 〜硬筆〜』やってみよっか?」


などと話していると、そのときです。


 「コラぁッ!」


鋭い怒声とともに、教室のドアが開きます。


 「あなた達、放課後もダラダラしてないで、作業のない日は貴重なんだからちゃんと勉強してなさい!」
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/15(月) 07:56:25.64 ID:pH3mSkydo

さわちゃんこと担任の山城さわ子先生です。


 「あ、さわちゃ……さわ子先生」


かつては自由闊達な雰囲気だった学園も、戦争が深まるにつれて緊張感が日々充ち満ちてきていました。

さわ子先生はなおも叱責します。


 「それにいつ米軍が沖縄に来寇するとも知れないのに、この非常時に“ふわふわ”なんて軽佻浮薄も甚だしい!」


澪ちゃん、ムギちゃん、あずにゃんがなんとか言い逃れようとするのですが、


 「いえ、あの、“君”っていうのは、君が代の“君”と一緒で、その…」

 「えーと、何というか、陛下をお慕い申し上げているとどきどきするほど士気が高まるというか……」

 「そ、そうなんです!戦意昂揚のための戦時歌謡なんですよこれは!」


これがかえってさわ子先生の怒りに対し、火に油を注いでしまいます。


 「馬鹿者っ! 揃いも揃っていい加減なウソつかないの!不敬にもほどがあるわ!」

 「えぇ〜、でもさわちゃんも好きだったじゃん、こういう歌……」


りっちゃんが不平混じりに言い返すと、さわ子先生は一瞬気まずそうな顔をしましたが、

すぐさま眉間にしわを寄せて険しい表情に戻りました。


 「さわちゃんとは何ですか! と・に・か・く、あなた達は皇国女性としての自覚が足りないのよ!

    問答無用です!罰として運動場10周してきなさい!」

 「「「「「えぇ〜〜!?」」」」」
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/15(月) 07:57:54.63 ID:pH3mSkydo

―――寄宿舎


 “♪もう紐が何だかァ〜 通らないィ〜 ララまた明日ァ〜……”


仲の良い私たちは、寄宿舎でも同室でした。

罰を受けたあと、仕切り直しで『私の恋は綴り紐』を歌ったあと、


 「どうした唯、元気ないぞ。運動場10周のことなら気にしなくていいんだからな」


当山(とうやま)澪ちゃんが心配して話し掛けてきました。


 「なんか変なモノでも食べたか?ま、このご時世、何か食べれるモノあるなら教えてくれよ!」


仲村渠りっちゃんがからかいます。ちなみに名字は「なかんだかり」って読みます。


 「実は、学徒隊に入ろうかまだ迷ってるんだよね。やっぱりおっかないし……

   憂は『お姉ちゃんと一緒でいいよ』って言ってくれてるけど、みんな入るんでしょ…?」


私がおずおずと切り出すと、部屋の空気が心なしか重くなります。


 「うーん、遠く八重山から呼び戻された人たちもいるのに、学徒隊に入らないのも……ねぇ」


ムギちゃんこと古波蔵(こはぐら)紬ちゃんがつぶやきます。


 「『学徒隊に入らないと官費を返還させられる』って噂もありますし……」


同室の唯一の下級生、あずにゃんこと仲間(なかま)梓ちゃんも心苦しそうです。

師範学校は、官費と言って国から補助金が出ていて、授業料が無料でした。
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/15(月) 07:59:06.02 ID:pH3mSkydo

 「学徒隊に志願しないなんて、非国民もいいトコロでしょ!ウチの弟なんか鉄血勤皇隊だぜ」


非国民。今朝、和ちゃんにも言われた、りっちゃんのその一言に私はカチンと来ました。


 「むぅ〜。りっちゃんも人のこと言えないよ!ついこの前だって良い歳して“方言札”ぶら下げてたクセに!」

 「うるせー!ついうっかり喋っちゃったのを運悪く見つかっただけだし!」


方言札というのは、標準語でなく方言を話した罰に首から下げる札のことです。


 「ね、ねえ、みんな、お茶にしよう?」


ムギちゃんがとりなして、貴重なさんぴん茶を用意しますが、私とりっちゃんの口ゲンカは止まりません。


 「じゃありっちゃんもカチューシャ早く火薬用に献納しなよ!それセルロイド製でしょ?このヒコクミン!」

 「だったら唯もヘアピン後生大事につけてないで金属供出に出しちゃえばいいじゃん!」

 「せ、先輩方、ケンカはやめてください……」


あずにゃんがたしなめますが、熱くなった私とりっちゃんには聞こえません。
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/15(月) 08:00:25.14 ID:pH3mSkydo


 “……♪青い眼をしたお人形は アメリカ生まれのセルロイド”


澪ちゃんが、不意に歌い出します。


 「「あっ……」」


私とりっちゃんは、きまりが悪そうに顔を見合わせました。

フィリピン移民帰りで米国の血が入っているムギちゃんはその容姿もあいまって、

開戦以来、事あるごとに陰口を叩かれ、肩身の狭い思いをさせられています。


 『せめて寄宿舎では、そんなしがらみはできるだけ無くそう』


そう決めていたのに、無神経な言い争いをしていたことを反省しました。

そして、澪ちゃんに続いて、みんなで『青い眼の人形』の童謡を歌ったのです。


 “♪やさしい日本の嬢ちゃんよ 仲良く遊んでやっとくれ……”
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/15(月) 08:02:20.10 ID:pH3mSkydo

すると。


 「あなた達………。なんで先生の言うことを聞いてくれないの?」


部屋の扉がゆっくりと開いて、寄宿舎を見回りに来ていたさわ子先生が顔をのぞかせます。


 (あっ…)


私たちは縮み上がります。

さっきも「ふわふわなど、けーちょーふはくである!」と目の敵にされたのに、

こんな歌を歌っていることがバレたら、それこそ非国民扱いです。


しかし、大目玉を食うとばかり思っていたのに、さわ子先生は悲しげな表情で語りかけるのです。


 「そんな童謡を歌って……。私じゃなかったら職員会議で吊し上げられて、ヘタすれば退学よ?」


音楽科の先生であるさわ子先生は寄宿舎の舎監も務めていました。
 

 「す、すみません……」「ごっ、ごめんなさい!」


私たちは口ごもりながら謝ります。

教室で叱ったときとは違い、さわ子先生は私たちに柔らかく諭すように語りかけます。


 「アメリカに勝って、平和が戻ったら、いくらで歌えるようになるわ。……今は、我慢してちょうだい」
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/15(月) 08:04:06.34 ID:pH3mSkydo

あずにゃんと澪ちゃんが、素朴な、そして率直な質問を発します。


 「せ、先生!日本は、いつ戦争に勝ちますか?いつになったら遠慮無く歌えますか?」

 「先生も、授業がどんどん減らされて、つらくはないんですか?」


その質問に、さわ子先生は答えませんでした。

しかし、


 「………。だから、今やるなら“バレないように”ほどほどにやりなさい。

  オルガン室の鍵、貸してあげるわ。あそこなら狭いけど防音も効いてるから」


しばしの沈黙の後、そう言ってはにかむと、部屋の棚にオルガン室の鍵を置いてくれました。


 「「「「「……はい!」」」」」



……そして私は、オルガン室でみんなと歌いながら、決心したのです。


 “毛筆 ふっふぅ〜 震える ふっふぅ〜 初めて 君への挨拶状〜”


 (……うん、みんなと一緒なら、私だって頑張れる、よね?)
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/15(月) 08:07:26.62 ID:pH3mSkydo
―――数日後のある朝


教室で、私は開口一番、和ちゃんに宣言しました。



 「とりあえず第三外科ってところに入ってみました!」

 「へー。で、第三外科って何するところか知ってるの?」

 「さあ?でも第三っていうくらいだから、第一とか第二よりはカンタンだよ!たぶん」

 「大丈夫かしら……」

 「部屋のみんなも憂も居るから大丈夫だよ!これで私も白衣の天使のタマゴなのです!」



そう言って私は、フンス!とばかりに胸を張りました。

あきれ顔の和ちゃんに、私は勝手な想像を言いまくります。


 「赤十字の旗が立つ病院で、白衣の天使さまかぁ〜。きっとカッコいいよぉ〜!

   でも、注射どころか包帯の巻き方もわかんないし、たぶんゴミ捨てとか雑用ばっかりだよねぇ」

 「ふふ、食事の世話くらいはさせてもらえるんじゃない?」


そう言って、和ちゃんは苦笑いを浮かべました。

しかし私は、いえ、私だけでなく私たちはみんな、知らなかったのです。





戦場というものが、どのようなものであるかを。





その後、雲行きはどんどん怪しくなります。

一月下旬の空襲で、学園も被害を受けました。

三月の卒業式の予定もたびたび延期になったのです。

もちろん、毎年三月三日に行われていたひな祭りも、中止になってしまいました……
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/15(月) 08:12:40.71 ID:pH3mSkydo
外出により休止。
なお、史実では「第三外科」の呼称は病院動員後の四月、伝染病科が改称されたもの。
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/08/15(月) 08:25:55.80 ID:Kg1ZmzZAO
これなに死んだりするの?
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/08/15(月) 08:32:43.40 ID:I1CyOsRy0
乙です、
今年は沖縄戦が題材ですね、再開期待してます。
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/15(月) 12:52:11.25 ID:sHuwJr/SO
乙乙

俺このSS見なけりゃ今日終戦記念日だってこと忘れてたよ。
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/15(月) 13:05:17.89 ID:pZ0vWGRDO
八月や 六日 九日 十五日ってじいさんが言ってたなぁ

姫百合関連のものを見るとDIRの朔を思い出す

期待してます 頑張って
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/15(月) 15:53:54.29 ID:ApZMVwpeo
支援
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/15(月) 23:34:28.70 ID:pH3mSkydo
帰宅。遅くなり、日は跨がざるを得ない。
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/15(月) 23:42:28.01 ID:IpYJ6cKSO
待ってました。



けど、けいおんでやる必要があるのかなって疑問はあるが……微妙にキャラの名字も違うし

まぁ、がんばれ
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/15(月) 23:44:24.08 ID:pH3mSkydo

(日本ニュース『沖縄決戦』)
ttp://www.youtube.com/watch?v=ehTl14Oh22M 



―――そして、三月二十四日、夜。


前日に続いて、その日も激しい空襲がありました。南部の港川のほうで艦砲射撃も始まったそうです。

そしてついに、私たちは陸軍病院に動員されることとなりました。

みんなでわずかな身の回り品を持ち、モンペ姿で南風原に出発することとなったのですが、

先生たちが、ばたばたと走り回って私たちに準備を急かします。


 「急いで! 本当に必要なものだけ持って行くのよ!」


さわ子先生も、焦りをあらわにして生徒に呼び掛けています。

ところが……


 「えーと、コレと、アレと……」


私は荷物をぎゅうぎゅう詰めにまとめていました。

鏡、クシ、歯ブラシ、洗面器、制服などを持てるだけ持って行こうとしましたが、澪ちゃんにたしなめられます。


 「おい唯、そんなにいっぱい持って行けないぞ? 遠足じゃないんだからな!」


そう言う澪ちゃんのカバンを見ると、やはりパンパンにはち切れそうなほどです。


 「そう言う澪ちゃんも、本やノートや日記帳、持ちすぎじゃないかな……」

 「べっ、別にいいだろ! 空いた時間に歌の詞を書いたりするから!」


私が苦笑していうと、澪ちゃんはムキになって反論します。


 「はーいはい。遠足気分はどっちだよ!」


りっちゃんがあきれて言うと、ムギちゃんが小声で耳打ちしてきました。


 「……唯ちゃん、ウッチン茶って、要るかしら?」




女の子なので、鏡やクシは、ほぼ全員が持って行きました。

でも、結局は、お風呂どころか顔も洗えず、ほとんど使うことはできなかったのです。
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/15(月) 23:47:53.76 ID:pH3mSkydo

―――翌朝


 「これが病院?ここ小学校だよね。まあいいか」


一晩中歩いて、ようやく南風原陸軍病院にたどり着きました。

国民学校を接収した病院本部がありましたが、その裏山に、穴ボコがたくさん開いていました。


 「何だあの穴?」


りっちゃんが私の思っていたのと同じ問いを発します。


 「さあ?何だろね?」

 「陣地にしては、病院に近すぎるよな……」


澪ちゃんが、いぶかしげな顔をしています。

ムギちゃんが、ようやく状況を飲み込んで、口を開きます。


 「病院の病棟、らしいわ……」


付近には粗末な三角兵舎がいくつか建っていて、

赤土っぽい山の斜面にいくつも掘りかけの、坑木も天板も作りきっていない横穴。

……つまりは、壕がありました。そこが、病院の主要部分です。

その、幅一間(約1.82m)、高さ一間程度の息苦しい横穴の片側に、木製の二段の寝台が奥までずぅっと並んでいます。



“赤十字の旗のひるがえる病棟で白衣の天使”という幻想は、早くも打ち砕かれました。
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/15(月) 23:50:36.85 ID:pH3mSkydo

―――三月二十九日、夜十時


まだ未完成の壕も多かったので、看護当番でない人は、壕堀り作業などをしていました。

その日も、昼夜続けて、私たちは病院の壕掘りをしていたのです。


 「しゃらんら しゃらんら♪」


私は、ムギちゃんが澪ちゃんを従えてモッコを担いでいく様子を、横目で眺めていました。


 「お、おいムギ、ちょっと待ってくれ!」

 「ムギちゃんは、ほんとに力持ちだよねぇ…」


すると、本部壕に伝令に行ったりっちゃんが、和ちゃんとともに息を切らして走ってきました。


 「おい!今から卒業式やるらしいぞ!みんな早く来いって!」

 「え? 卒業式? こんな夜中に!?」


急遽、校長先生が首里城の司令部からいらっしゃって、卒業式を行うことになったのです。


 「あ、私、制服持ってきてたんだ!本部壕に取りに行かないと!」


そう言った私を、和ちゃんが制します。


 「唯!もう第一外科、第二外科は集まってるのよ!そのままの格好でいいから早く来なさい!」


作業の真っ最中だった私たちは、泥だらけのモンペ姿で出席することになったのです。

結局、大事な制服を着る機会はその後もなく、混乱の中で制服もなくなってしまいました。
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/15(月) 23:53:18.11 ID:pH3mSkydo

とある三角兵舎での簡単な卒業式でした。


例年どおりの卒業証書授与や教員免許状授与もなく、

来賓は、陸軍病院の偉い人たち、父兄代表もお一人だけでした。

あちこちから、すすり泣く声が聞こえます。



   “海行かば 水漬く屍

    山行かば 草生す屍

    大君の 辺にこそ死なめ

    かへりみはせじ……”



「海ゆかば」を歌っている最中にも、遠雷のように艦砲の砲声が響いてきます。

卒業式で歌う予定だった、先生方作詞作曲の「別れの曲」は、歌うことができませんでした。


二つだけともされたロウソクが、校長先生の顔を薄暗く照らし、砲撃でゆらめいて消えかかります。

来賓の祝辞も、校長先生の式辞もほとんど頭に入りませんでしたが、


 「この卒業式は、戦場で挙行する世界で前例を見ない卒業式である」


という校長先生の言葉の一節だけが、心に残りました。


わずか三十分の式が終わると、私たちは余韻を感じるひまもなく、あわただしく各自の持ち場に戻ったのです。

その、卒業式をした三角兵舎さえ、翌日には焼夷弾攻撃で灰となってしまいました。
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/15(月) 23:54:45.02 ID:pH3mSkydo

―――そして、四月一日。米軍はついに沖縄本島中部に上陸を開始。

すでに三月下旬、沖縄本島西方の慶良間諸島を米軍が上陸・占領していたが、

米軍の沖縄本島上陸時、日本軍守備隊は海岸線での抵抗を放棄していたため、ほぼ無血上陸であった。

「こんな楽に上陸できるなんてウソだろう。今日はエイプリルフールだから」と、冗談を言う米兵も居たという。

しかし、これは猖獗を極め、数ヶ月の長きにわたった沖縄本島地上戦の、嵐の前の静けさに過ぎなかった―――
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/15(月) 23:59:29.00 ID:pH3mSkydo

―――初めて、負傷兵が担ぎ込まれてきたときのことです。

運悪く、そのとき私たちは手術室当番でした。

軍医さんや衛生兵が、ばたばたと手術の準備をします。

負傷した兵は砲弾の破片を全身に受けて、血まみれのまま、うんうんと唸っていました。


 「……ひ………っ―――」


澪ちゃんは、その姿を見るやいなや、一言も発さずに失神しバタリと倒れてしまいました。

すると衛生兵が倒れた澪ちゃんの背中を蹴飛ばします。


 「貴様ッ!そんなことで看護が務まるか!立てぃ!」


その様子を見ていた私たちは、止めに入るどころか無言で顔を真っ青にしていました。


 (戦場って、こういうものなんだ……!)
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/16(火) 00:01:09.75 ID:xA3bNg18o

―――四月上旬、ついに沖縄本島においても地上戦が本格化。

嘉数高地などを中心として激戦が繰り広げられる。

一方、三月下旬には「天一号作戦」、四月六日には「菊水作戦」が発動、

以後、六月下旬まで、延べ二千機近い特攻機が沖縄方面に出撃。

四月七日には、水上特攻の任を帯びて沖縄に向かっていた日本海軍第二艦隊が

米軍機動部隊の猛攻を受け、戦艦「大和」以下数隻が撃沈されている―――
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/16(火) 00:04:29.70 ID:xA3bNg18o


―――そして、四月中旬、下旬と時が経ち、負傷兵が増えるにつれて、状況はどんどん悪くなります。



壕の中は換気が悪く、人いきれで蒸し風呂のような暑さで、時にはロウソクが消えるほどの酸欠状態。

むせ返るような血の臭い、膿の臭い、汗の臭い、糞尿の臭い、腐臭。


 「換気用意!」


さわ子先生がかけ声をかけると、みんな、上着、手ぬぐい、タオル、風呂敷などを手に取ります。


 「始めっ!」


そしてひたすら扇ぐのですが、5分も10分も続くので、自然と歌が出ます。

先生の歌う『ああ、特攻隊』の哀調を帯びた歌が心に残りました。
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/16(火) 00:05:55.45 ID:xA3bNg18o


………壕内のあちこちから響く、負傷兵のうめき声。

手のもげた人、足のちぎれた人、火炎放射で全身火傷の人もいます。

破傷風患者は、口から泡を吹いて背中を反らせ、食事はおろか水も飲めません。

破片でノドや背中を裂かれて、呼吸するたびスースー、ジブジブと息が漏れる人……



ある日、下あごが砕かれて食事の出来なくなった人が、何か書く真似をしていました。


 「澪ちゃん、ノートと鉛筆持ってたよね?1枚くれる?」

 「いいけど、ノートはもうないから、教科書ちぎって使って……」


その人が書いた文字は。


 “ゴム管栄養法を考えてください”


そんな事を言われても、ゴム管どころかミルクもありません。

こう言うしかありませんでした。


 「すみません、おかゆで我慢してください……」
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/16(火) 00:08:01.18 ID:xA3bNg18o

私たちは、そんな阿鼻叫喚の中で働いていたのです。


 『飯はまだか!早くしてくれ!腹が減ってんだ!』

 「あずにゃんたちがさっき“飯上げ”に行ったよ!ちょっと待って!」

 『女学生さん、痛てぇ、痛てぇよ!』

 「はいはい!もうすぐ治療班が来るよ!」


薬も包帯も器具も不足していましたが、呼ばれれば応えないわけにはいきません。

私がある兵隊さんに近寄ると、


 『傷がかゆい、包帯代えてくれ、ウジを取ってくれ!』

 「り、了解です!澪ちゃん、包帯ある?」

 「無い、な。また同じ包帯を使うしかない……」


血糊でくっついた包帯は固まって腐ってしまい、ほどくにほどけません。

澪ちゃんが、ハサミを借りてきたので、包帯を切り開きます。

……ドロリ。

ゼラチンか濃い鼻水みたいな大量の膿汁が、強烈な悪臭とともに溢れ出て、足もとに太ったウジが何匹も転がります。


 「おぇ……」

 「……ゴホっ」


私と澪ちゃんは、思わず一瞬吐き気を催して顔を背けると、ランプで照らされた薄暗い壕の奥で、

他のみんなが修羅場の中で苦闘している姿が見えました。
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/16(火) 00:10:23.72 ID:xA3bNg18o

 『水が欲しい!水くれぇ!』


りっちゃんが、発熱患者の頭を冷やすタオルのための泥水を運んでいると、

いきなり寝台から伸びてきた兵隊さんの手に、腕を捕まれています。


 「ダメだダメだ!これ泥水だし!それに水飲むと傷が悪くなるから!」

 『頼むから水を!水ぅ!』


りっちゃんがその手をふりほどくと、その兵隊さんはいきなり近くにあった空き缶をつかみ、

それを口に運んだのです。


 「あ!やめろ!飲むなって!それ尿器だから!」


中には渇きに耐えかねておしっこを飲んでしまう兵隊さんもいました。




 「うぅ……傷の奥に入り込んで……」


私は、暗い手元を見つめ眉間にしわを寄せ、ウジを取っています。


 『ぐぅう!痛いぃぃい!』

 「ひえぇ、ごめんなさい!」


無理に取ろうとすれば、兵隊さんが苦悶の表情で身をよじるのです。

ピンセットもなく、そのへんの葉っぱの茎でウジをかき出していました。

するとまた、別の場所から叫び声が上がります。


 『用が足したい、便器くれ、尿器くれ!』

 「おい澪!これ持ってってやって!」


りっちゃんが、尿器に口をつけていた兵隊さんから尿器をむしり取って、澪ちゃんに渡します。


 「え!? ちょっと、誰に持って行くんだよ!」

 「いま声がしたろ!自分で探してくれよ!」


澪ちゃんとりっちゃんが言い争うように問答していると、奥のほうから怒鳴り声が上がります。


 『ちくしょう、上のヤツがションベン漏らしやがった!ふざけやがって!』
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/16(火) 00:13:29.35 ID:xA3bNg18o

絶えず響く、負傷兵の呻吟、煩悶、怒号、罵声。

また、気の触れた脳症患者はうわごとを繰り返し、ケガの痛みも忘れてあちこち暴れ回ります。


 『突撃!突撃ぃ〜!』


時には周りの負傷兵に危害を加えるので、危険極まりありません。


 『おい!こいつうるせえからどこかに連れていけ!』

 「はい!どんとこいです!」


力自慢のムギちゃんが押さえつけますが、なかなか静まりません。


 「むぎゅううう!!!衛生兵さん!早く来てぇ!」


軍医さんどころか衛生兵さんも、ほとんど来てくれません。

耐えかねた軽症患者が、協力して寝台に脳症患者をしばり付けます。



そのとき、壕の外から、ガシャガシャと水筒がぶつかり合う音が聞こえてきました。

“飯上げ”に行ったあずにゃんたちが帰ってきたのでしょう。


そのとき、敵機が近付いてくる爆音も同時に響いてきました。

井戸に水をくみに行くのも、ご飯を炊事場にもらいに行く“飯上げ”も命がけだったのです。



 「早く!早く!敵機が来たよ!見つかるよ!撃たれるよぉ!」


私は壕から顔を出して、“飯上げ”から帰ってきたあずにゃん、憂、純ちゃんたち下級生に叫びます。


 「わかってます!唯先輩こそ危ないですよ!引っ込んでください!」


両肩にいくつも水筒を下げたあずにゃんが、壕に駆け込んできました。
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/16(火) 00:16:51.56 ID:xA3bNg18o

その少し後ろに、憂と純ちゃんの姿がありました。


 「梓ちゃん!どいてっっ!」

 「っっっしゃぁああ!」


憂と純ちゃんが、ご飯を詰めた醤油樽のてんびん棒を担いだまま、壕の中に転がり込みます。


パパパパン!


その瞬間、機関銃の乾いた着弾音が続き、壕の入口に土ぼこりが立ちました。


 「うぉ〜危なかったぁ〜!」
 
 「純が炊事場で炊夫さんに“もっとご飯”とかゴネるから……」

 「梓ちゃん、純ちゃん、とにかく早くオニギリ作ろうよ」


三人が安堵しながらグチを言い合っています。


陸軍病院壕の周囲にも、砲爆撃が降りしきるようになり、

“飯上げ”から帰ってくる間も、砲撃で吹き飛ばされた土塊がどんどん入ってきます。


 「うわぁ、ご飯が泥だらけ……ムギちゃん、どうしよう?」

 「水も少ないし……洗えないからこのまま握るしかないわね」


泥だけならまだしも、看護活動で血や膿や糞尿の世話をした手を洗う水もなく、手をモンペでぬぐってオニギリを握りました。

近寄ってきたりっちゃんが、ご飯の入った醤油樽をのぞいてため息をつきます。


 「この量じゃ、全員に行き渡らないだろ……」

 「もっと小さくするしかないよ……」


食糧も不足し、オニギリもはじめはテニスボールくらいだったのが、ついにはピンポン球くらいになったのです。



オニギリをにぎりながら、私は独り言のように、りっちゃんに話し掛けます。


 「あれ? この壕に治療班来たの、4日前だっけ?5日前?」

 「ゴメン、私も覚えてないや……」


人手も足りず、忙しかったり、砲爆撃が激しくて交代のために外に出られなかったり、

勤務時間も、十二時間交代のはずが、二十四時間、三十六時間連続勤務にもなりました。

薬箱に座って寝られればいいほうで、立ったまま坑木に寄りかかって寝ることも多かったのです。
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/16(火) 00:19:51.03 ID:xA3bNg18o

夜になっても病院壕の中では、負傷兵のうめき声と悪臭が耐えませんが、砲爆撃が途絶えるひとときがあります。

しかし、そうすると別の音が聞こえてくるのでした。


 “ジャグ……ジャグ……”


 「ん……何の音だろ?」


疲労でうとうとしていた私は、聞き慣れない音に目が覚め、耳を澄まします。


 「これ、もしかして……!」



ウジが、負傷兵たちの肉をかじり、骨をきしる音だったのです。



 “クチュ……クチュ……”

 “グッ……グッ……”


これが、うめき声に混じって、壕全体に静かに響きわたる様子は、本当に不気味でした……。
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/16(火) 00:21:46.88 ID:xA3bNg18o

―――そして五月



しかし、慣れとは恐ろしいものです。



すでに、南風原陸軍病院に動員されて一か月以上が経ちました。


 「今日、私たち四人は手術室当番なんだって。あずにゃんたち下級生は飯上げ当番だよ」


私がそう伝えると、以前は手術と聞くだけで震えていた澪ちゃんが、事も無げに言葉を返します。


 「手術なら、今回の照明係はムギ以外の3人でじゃんけんかな……」

 「え?私はじゃんけんしなくていいの?」


ムギちゃんは、私たちが気を遣ったものと思っていたようですが、りっちゃんが申し訳なさそうに言います。


 「……ほら、ムギは力仕事得意じゃん? 照明係より大変かもしれないけど、押さえる係で」
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/16(火) 00:24:30.78 ID:xA3bNg18o

もうだいぶ前に、三角兵舎の手術室は砲爆撃で破壊され、壕の通路で手術をしています。


今回の照明係はりっちゃんです。

手元を照らすランプの燃料がないので、ロウソクを素手で持って手術場を照らしていました。

すると、当然ですがロウが溶けて手にべったりとかかります。


 「うぉあぢぢぢぢぢぃ!!!!」


りっちゃんが思わず、ロウがたれないようにロウソクを立てました。

すると、メスを握った軍医さんが怒鳴ります。


 『おい!手元ちゃんと照らせ!見えんじゃないかッ!!』


麻酔不足は最も深刻でした。

周囲ではあちこちから重症患者がうめく声が夜通し聞こえますが、

手術台の上からは、それをかき消すほどの絶叫が発せられます。


 『軍医殿っ!お願いですッ!殺してください!!ごろじでぐだざいぃ!!!ああぁぁぁあ゛あ゛あ゛!!!』


左脚に重傷を負った兵隊さんが、肉を切られる激痛のあまり半狂乱になっています。無理もありません。


 「兵隊さん!動かないで!頑張って!」


ムギちゃんがその腕力で、暴れる兵隊さんの両脚を無理矢理押さえつけます。

私は左腕、澪ちゃんは右腕を押さえていました。
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/16(火) 00:26:40.07 ID:xA3bNg18o

 『我慢せい貴様ッッ!!それでも帝国軍人か!!動くんじゃない!!おい、鉗子よこせ!』

 「はい!鉗子っ!」


澪ちゃんが慣れた手つきで鉗子を軍医さんに手渡します。

あの怖がりやの澪ちゃんを知っている私たちにはウソのような光景です。


兵隊さんの脚には、止血のため血管を挟んだ鉗子が何本も連なり、血に濡れた銀色の花みたいです。

軍医さんが、額に玉のような汗を浮かべ、ノコギリで骨をゴリゴリと削っていきます。


 『いぃぎいぃぃぃ!!ぐぐぐぐぐぁぁぁぁ!!!!』


手術台の上の絶叫は、さらに大きくなります。軍医さんも声を荒げます。


 『うるさくてかなわん!仕方ない、モルヒネ足してやれ!』

 「ほいっ!モルヒネ打ちます!」


私は軍医さんの指示で、すかさず兵隊さんにモルヒネを注射します。

私たちは看護婦さんの見よう見まねで、カンフルもモルヒネもどんどん打ちました。


ズズン。 ドズン。


ときどき、砲弾が近くに落ちると、壕の天井の土が崩れます。

そして天板のすき間から、土砂がバサバサと容赦なく手術台に降り注ぐのです。


 『くそっ!こんなところで手術ができるか!!』


軍医さんが叫びます。やがて、ゴリッといやな音がして、骨が切断されます。


 (この兵隊さん、朝まで持つのかな……)


私たちは、そんなことを思いながら、左脚の切断面がてきぱきと縫合されていくのを眺めていました。

すると、軍医さんが私に命じます。


 『ご苦労だったな、お前ら。少し休め。……おいお前。これ外に捨ててこい』


そう言って、軍医さんがあごで示したところには、切断した左脚が転がっていました。


 「は、はいっ!」


私は、言われるままに切断された脚を抱きかかえると、まだ体温が残っていて生暖かく、ズシリと重くて不気味でした……。
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/16(火) 00:32:49.73 ID:xA3bNg18o

―――「……いっち、にーの、さん!」


明け方、澪ちゃんと一緒に艦砲の弾痕に死体を毛布にくるんで捨てに行きました。

今日は7体も捨てたのです。

初めはちゃんと墓穴を掘って埋めていたけれど、そんな余裕は今はとてもありません。


 「あの兵隊さん、やっぱり朝まで持たなかったね……」

 「そうだな……」

 「ガス壊疽になると、あっという間だね……」

 「うん……」


壕に引き上げようとすると、澪ちゃんが真っ暗な砲弾痕、つまり墓穴の底をじっとながめています。


 「外にいると危ないよ!早く壕に入ろうよ」


私が澪ちゃんの手を引くと、ゆらりと倒れかかってきました。


 「ど、どうしたの?大丈夫?お腹空いた?」

 「……怖いんだ」

 「そっか、そうだよね。澪ちゃん、怖がりなのに、こんなことしてるんだもん」


私はてっきり、そう思って慰めの言葉をかけたのですが、

澪ちゃんは体を震わせながら激しく反駁するのです。


 「違うっ!」

 「え、何が違うの……?」


私は、澪ちゃんの強い口調にあっけに取られ、間抜けな返事をしてしまいました。


 「こんなとこで、こんなことしてるのに……怖くないのが……怖いんだ……っ」


そう言って、澪ちゃんは私の胸にしがみつくと、さめざめと泣いたのです。


 「澪ちゃん……」


私は、「怖い」という感覚どころか、「怖くないのが怖い」なんていう、

当たり前の感覚さえ失われつつあるんだと気付かされ、

とても、とても、寂しくなりました。
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/16(火) 00:34:34.16 ID:xA3bNg18o

―――五月中旬までの間、日本軍司令部のある首里北方の戦線では激しい攻防が繰り広げられた。

場所によっては米軍も一日に100m前進するのがやっとという戦況であったが、

日本軍は補給が続かず、じりじりと追いつめられていくことになる。






―――五月十一日


その日も、敵の砲爆撃が激しい日でした。

しかし、水やご飯を欠かすわけにはいきません。


 「じゃあ、ちょっと行ってきますね」


そう言って“飯上げ”に出て行った純ちゃんたちを待っていましたが、なかなか戻りません。

みんな心配していると、さわ子先生が弾雨の合間を縫って本部から駆けてきました。


 「純ちゃんがやられたわ!誰か来て!」


ついに、この第三外科から犠牲者が出たのです。

手の空いている人などいないので、私だけが第三外科壕から飛び出しました。
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/16(火) 00:41:11.94 ID:xA3bNg18o

 「純ちゃん!?」


私が本部壕に駆けつけると、一緒に飯上げに行っていた憂とあずにゃんが振り返りました。


 「唯先輩……純が、純が……」

 「お姉ちゃん……純ちゃんがやられた……」


二人とも、何が起きたか分からない、といった感じで呆然としていました。


 「炊事場でねばってたのが、ダメでしたね……へへ」


そう言っておどける純ちゃんは、意識ははっきりしていましたが、ひどい状態でした。

背中からおしりに弾丸が抜けて、脊髄がぐちゃぐちゃ、腸も飛び出ています。


 「もう、注射とか、薬とか、いいですよ。もったいないですから」


お腹をやられて助かる患者がいないことを、看護活動を通して純ちゃんも知っていたのでしょう。


 「眠いから、ちょっと寝ます。すみません……」


そう言って、純ちゃんは、私たちの見守る中で息を引き取ったのです。

あずにゃんと憂が、取り乱して、純ちゃんのなきがらを揺さぶり、あるいは涙を落としました。


 「純?純!?ウソでしょ!?」

 「う……うっ……純ちゃん……」


さわ子先生が、アルコールで純ちゃんの顔を拭き清めてくれました。

憂は、持っていた制服を純ちゃんの死に装束として着せてあげ、山の上に埋葬しました。

後になって思えば、丁重に葬られた純ちゃんは、まだ、ましだったのかもしれません……

その後、憂とあずにゃんの二人は、南にある糸数分室に転属になったのです。
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/16(火) 00:52:49.43 ID:xA3bNg18o
本日ここ迄。明日で終わるか、外出時間が痛い。
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/08/16(火) 00:55:38.04 ID:PGrgzorBo
乙 
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/08/16(火) 01:03:29.07 ID:uqlM6wMQo
乙。
ひめゆり学徒隊って花の名前が由来かと思ってたが
広報誌の名前をくっつけたものだったのか
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/16(火) 23:49:18.34 ID:xA3bNg18o
ようやく帰宅
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/16(火) 23:59:10.86 ID:xA3bNg18o

―――そして、五月二十五日


にわかに、壕内の空気が浮き足立ちました。

本部に伝令に行っていたりっちゃんが、小声で耳打ちします。


 「……唯、荷物まとめろ!南部へ転進するんだって!」


転進、とは要は撤退のことですが、それを聞いて私はビックリしました。


 「へ? 患者さんたちは!? とてもじゃないけど全員連れて行けないよ!」

 「シッ!大きな声出すな!私だって驚いてんだ!よく分からないけど、歩ける人だけ連れてけって!」


りっちゃんが私をとがめますが、この不穏な雰囲気は、たちまち壕内に広がります。


 『女学生さん!自分はまだ歩けるんだ!』

 「あの、その……」

 『歩けるんです!どうか連れていってください!お願いします!』

 「で、でも……」


両脚を失った兵隊さんでさえ、寝台から転げ落ちてきて、必死に両腕で這い寄ってくるのです。

しかし、将校さんが壕に来て仁王立ちになり、軍刀を片手に叫びます。


 『歩けない兵隊を連れてくやつは叩っ斬るぞ!』


私たちにはどうすることもできず、脇目もふらず荷物をまとめたり、軽症の患者さんを手伝ったりしたのです。
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 00:01:13.82 ID:c+5+k8k3o

―――そして、五月二十五日


にわかに、壕内の空気が浮き足立ちました。

本部に伝令に行っていたりっちゃんが、小声で耳打ちします。


 「……唯、荷物まとめろ!南部へ転進するんだって!」


転進、とは要は撤退のことですが、それを聞いて私はビックリしました。


 「へ? 患者さんたちは!? とてもじゃないけど全員連れて行けないよ!」

 「シッ!大きな声出すな!私だって驚いてんだ!よく分からないけど、歩ける人だけ連れてけって!」


りっちゃんが私をとがめますが、この不穏な雰囲気は、たちまち壕内に広がります。


 『女学生さん!自分はまだ歩けるんだ!』

 「あの、その……」

 『歩けるんです!どうか連れていってください!お願いします!』

 「で、でも……」


両脚を失った兵隊さんでさえ、寝台から転げ落ちてきて、必死に両腕で這い寄ってくるのです。

しかし、将校さんが壕に来て仁王立ちになり、軍刀を片手に叫びます。


 『歩けない兵隊を連れてくやつは叩っ斬るぞ!』


私たちにはどうすることもできず、脇目もふらず荷物をまとめたり、軽症の患者さんを手伝ったりしたのです。
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 00:03:46.51 ID:c+5+k8k3o

しかし、私とムギちゃんは、壕の近くに米兵がいると聞いて、なかなか脱出できませんでした。


しばらくすると、数名の衛生兵さんたちが、ズカズカと壕に入ってきたのです。

衛生兵は、練乳を水で溶いたミルクを入れた飯盒をいくつか持っていました。

そして、ミルクを空き缶に注いで重傷兵さんたちの側に置いていきます。


 「あの……手伝いましょうか?」


ムギちゃんが、衛生兵さんの一人に声を掛けました。しかし、


 『何をモタモタしとるか貴様ら!敵が迫ってるんだ!早く行かんかっ!』

 「ひ、ひぃ!」「ひぇぇ…」


すごい剣幕で衛生兵さんに言われた私たちは、壕の入口のほうへ退きました。

すると、配られたミルクを飲んだ重傷兵さんの一人が、ウンウンうなって苦しんでいます。


 「え? ……もしかして、これ…?」


ムギちゃんの色白な顔から、さらに血の気が引き、蒼白になります。


 「え、衛生へ……モゴモゴ!」


私は、苦しんでいる患者さんを診てもらおうと、衛生兵さんを呼ぼうとしました。


 「黙って!」


しかし、ムギちゃんに口をふさがれます。
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 00:06:42.20 ID:c+5+k8k3o

 『飲むな!青酸カリだ!』

 『毒だ!飲むんじゃない!』


異常を感じた他の患者さんが騒ぎ出しました。


 「ゆ、唯ちゃん!行きましょう!」


ムギちゃんに急かされ、私も、ただならぬ雰囲気を感じ取りました。


 「早く出ようよ!私たちも危ないよぉ!」


私たちは、急いで身の回りのものをまとめると、壕の外に逃げ出したのです。


 『これが人間のやることか!お前らそれでも人間か!』


逃げる間際、叫び声に振り向くと、脚のない重傷兵さんを、衛生兵さんたちが暗い壕の奥に引きずっていきます。

その叫びが、耳にこびりついて離れませんでした。


 (ごめんなさい……ごめんなさい……!)


私たちは、心の中で詫びながら、走り続けたのです。




―――現在この地に建つ、南風原陸軍病院壕跡の碑には、「重傷患者二千余名自決之地」と刻まれている。

しかし、その数は定かでなく、さらに多いとも言われている―――
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 00:10:27.05 ID:c+5+k8k3o

そして、私たちは、ようやく南部へ撤退していく学徒隊の列に追いつくことができました。

雨が激しくなり、たちまち、脚もとは膝まで浸かるようなぬかるみと化します。

私たちを引率しているさわ子先生が、私を心配して声をかけてくれましたが、


 「どうしても重たければ、捨てていってもいいのよ?」

 「ううん、大事なものだから……」


薬や包帯がないために苦しんだ兵隊さんたちを思うと、捨てていくことはできませんでした。

しかし、豪雨の中を歩いていると、背負っている毛布や包帯や脱脂綿が水を吸って重くなり、肩に食い込むのです。

みんな、大事な医薬品や、食料や、書類を背負ったり、てんびん棒で担いだりしています。


 「しゃらんら…、しゃらんら……」


力持ちのムギちゃんは、米俵を背負ったうえに、傷ついた級友を担架で運んでいますが、

気丈に振る舞ってはいても、さすがに疲労の色は隠せませんでした。
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 00:12:36.69 ID:c+5+k8k3o

 「伏せっ!」


突如、和ちゃんの声が響き、みんな、ためらいもなく泥の中に顔を埋めて突っ伏します。

着弾音。

周囲に砲弾の破片がバチャバチャと落ち、泥の塊が降りしきりました。


 「……危ねえ」


りっちゃんが、ずれたカチューシャを直しながら起きあがります。


 「うぅ……」


つややかだった澪ちゃんの黒髪も、ぬかるみの泥と壕生活の垢とシラミにまみれて見る影もありません。


南部への撤退の最中も、十字路や橋などを中心に、砲爆撃が盛んにありました。

ぬかるんだ道ばたには、艦砲や機銃掃射に遭ったり、

あるいは力尽き行き倒れた、たくさんの死体が転がっていました。

どぶ川には避難民の死体が浮かび、手や足のなくなった重症患者の死体が、雨に打たれています。


 『助けてください!女学生さん!看護婦さん!』


負傷した避難民や兵隊が泣き叫んでいても、助ける余裕などありませんでした。

非情だと思われても、見捨てて進むしかなかったのです。
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 00:15:24.13 ID:c+5+k8k3o

さて、もうすぐ東風平だと思って歩いていると、前方から来た兵隊さんたちに呼び止められました。


 「どこへ行くのだ?」


和ちゃんがメガネに付いた雫をぬぐいながら答えます。


 「東風平です」

 「なんだ君らは、こっちは国場だ。反対方向だぞ」


兵隊さんがあきれます。

澪ちゃんは棒のようになった足をさすり、泣きそうになって恨みがましくつぶやきました。


 「和ぁ……」


国場、それは首里に通じる道です。私たちはあてどもなく歩いていたのです。


 「おかしいわね……」


和ちゃんは首をかしげてきびすを返しました。

私たちの中には島尻の地理に詳しい人もいなくて、ようやく引き返しました。
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 00:20:04.70 ID:c+5+k8k3o

―――五月二十九日

この日、星条旗が首里城跡にはためいたが、日本軍司令部はすでに南部に撤退した後であった。

壮麗優美な首里城は跡形もなく焼け落ち、石垣も大半が破壊された。

今も、その破壊の痕跡を、当時の石垣に見ることが出来る。

司令部の南部撤退は、徹底持久という作戦目的には適うものであったが、

これが避難民の被害を激増させる大きな原因となったのである―――



そして、ようやく南端近くにたどり着きました。

まだ南部のほうは、艦砲も爆撃も少なく、家々の屋根が残っていました。


 「静かだねぇ…」


途中、立ち寄った集落では子ヤギが草をはみ、庭先をニワトリがコッコッと歩いていました。

畑から失敬してきたキャベツを塩もみにして頬張ると、しょっぱさと共に、キャベツの甘みが口に広がります。


 「キャベツうめぇ!」


りっちゃんが、涙にむせびそうな勢いで、パリパリとキャベツを噛みます。

私たちも、思わず笑みをこぼします。野菜を食べるなんて久しぶりでした。



床板は引きはがされたりしてありませんでしたが、屋根の下で休めたので、私たちは泥のように眠りました。

しかし、そんな束の間の安らぎは、すぐに破られたのです。



患者さんを収容する壕はなく、患者さんは廃屋や、石垣の陰や茂みの中で野ざらしになっていました。

すぐに薬も資材もなくなり、病院としての機能はほとんど失われていたのです。

私たちにできることと言えば、砲火をくぐって水をあげたり様子を見に行くくらいでした。

その患者さんたちも、次第に激しくなる艦砲と銃爆撃にさらされ、どんどん亡くなっていきました……。



―――南部撤退後、沖縄陸軍病院が入った壕は、以下のとおりである。

病院本部は山城本部壕。第一外科は波平第一外科壕と大田壕。

第二外科は糸洲第二外科壕。第三外科は伊原第三外科壕。

津嘉山経理部は伊原第一外科壕。一日橋・識名分室は伊原第三外科壕。

糸数分室は伊原第一外科壕―――
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 00:28:46.80 ID:c+5+k8k3o

ttp://www.youtube.com/watch?v=fYfzsi2F8k0
(【凄惨につき視聴注意】六月以降の戦い)



―――六月十四日以降、八重瀬岳、与座岳といった防衛線は米軍に次々と突破され、

司令部のある摩文仁方面と、避難民が集まり病院壕も散在する山城方面に敵は迫った。


この前日の六月一三日、小禄の海軍根拠地隊が全滅し、司令官・大田実少将は自決。

これに先立つ六月六日、大田少将から海軍次官あてに打電した電報は、以下の有名な一節で結ばれている。


「沖縄県民斯ク戦ヘリ。県民ニ対シ後世特別ノ御高配ヲ賜ランコトヲ」




―――六月十七日

和ちゃんと一緒に、伊原第一外科壕への伝令に行く途中、空の壕で食糧を探していました。

斬り込みに行った部隊がいた壕には、食料、薬、そして、手榴弾などが残っていたからです。

そして、斬り込みに行った部隊が還ってくることは、ほとんどありませんでした。


 「手榴弾、か……」


缶詰をかばんに詰めたあと、私は、手榴弾を手に取ったり、また弾薬箱に戻したりしていました。

“いざというとき”の用意をしておこうか、迷ったのです。


和ちゃんにも、私の様子が見えていたはずですが、とがめるわけでもありませんでした。

和ちゃんもまた、密かに覚悟を固めていたのかもしれません。


 「……唯、もう行くわよ」

 「う、うん」


私は、手榴弾を、かばんに押し込みました。
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 00:30:53.31 ID:c+5+k8k3o

そしてサトウキビも探し、ようやく、焼け残った畑からサトウキビを探しだしてきました。

でも、「サトウキビはアリがわくから壕の外で食べろ」と先生方に言われてましたから、


 (えへへ、早く食べたいなぁ〜)


と思いながら第一外科壕の入口近くでサトウキビの皮をむいていました。 


 「唯、先に食べちゃいなさいよ。キビ皮は私が捨ててくるから」


もたもたしている私を見かねた和ちゃんが私に促します。


 「え? いいよぉ。自分で捨ててくるよ」


私が遠慮してると、和ちゃんは茶目っ気を含ませて、


 「ふふ……いいのよ。これも“生徒会の仕事”だから。でも、私の分も残しておいてね」


と、私からサトウキビの皮を奪い取るようにして外に出て行きます。

私は、サトウキビをかじりながら、


 「じゃあお言葉に甘えて!和ちゃんも気を付けてね〜」


と、壕の中に入りながら髪をいじっていましたが、そうしたらヘアピンを落としてしまいました。


 (ヘアピンヘアピン……、あ!あった!)


私がしゃがみながらヘアピンを探し当てて髪に挿していると、



入口からすさまじい炸裂音。
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 00:35:08.88 ID:c+5+k8k3o

「!!!! ひゃぁぁぁぁ!」


熱い液体がぬるりと顔にかかり、爆風で私は壕の奥のほうまで転がり落ちます。

恐ろしい絶叫が轟いて、壕の中は騒然とします。たくさんけが人が出ています。

壕の入口付近に、艦砲が直撃したのです。



「明かりを点けろ!」と大声がして明かりが灯されると、入口付近は大惨事。


 「あ、ああぁ……」


足の踏み場もなく散る、兵士やら生徒やら看護婦やら教師やら、誰が誰ともわからない手足や臓物、

それどころか、壕の壁のいたるところにへばり付く、何が何ともわからない肉塊や血しぶき。

たまたましゃがんでいなかったら、私もこうなっていたでしょう。 


 (の、和ちゃんは!?)


私は、血みどろの中を手探りで恐る恐る和ちゃんを探しましたが、

ようやく、ひしゃげた血まみれのメガネのつるが片方、見つかっただけでした。

さっき、私が頬に受けた血は、和ちゃんのものだったのでしょうか……
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 00:40:08.26 ID:c+5+k8k3o

―――そして、六月一八日


私は、飛び交う銃砲におびえながらも、その夜に伊原の第三外科壕に戻りました。

澪ちゃんとりっちゃんは、入れ違いで伝令に出かけたようです。

しばらくして、さわ子先生が、学徒隊のみんなを集めました。


 “何だろう……”

 “女学生も斬り込みに行くの?”

 “まさか…”

 “きっと、新兵器ができて日本が勝ったのよ……”


みんな口々に、ひそひそとうわさ話をしていましたが、


 「……みなさんに、大事な話があります。時間がないから、静かによく聞いてね」


先生は、険しい表情で一人ひとりの顔を見据えるように、伝えます。


 「軍の命令で、学徒隊は、ただいまをもって解散することになりました……」

 「え、解散……って、どういう、こと?」


ポカンとしている私たちの頭に、さわ子先生の言葉が静かに響きます。


 「今後は、重傷で動けない人以外は、壕から出て各自行動することになります。

   大人数は危ないから、4、5人で班を作って、国頭まで逃げてちょうだい。

   途中で負傷した人は、置いていって。お互い、その覚悟で逃げるのよ。

   どうか一人でも生き延びて、私たち学徒隊の働きを伝えて……」
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 00:42:04.90 ID:c+5+k8k3o

非情な命令を伝えなければいけないさわ子先生の苦衷は察するに余りますが、

私たちの受けた“死の命令”に等しい衝撃は、それ以上に大きかったのです。

私は、壕の岩肌にへなへなと座り込みました。


 (絶対に、日本が勝つって信じて、頑張ってきたのに、今さら解散なんて……)

 (私たちなりに、皇国女性として、勤めを果たしたのに……)


それは無駄な努力だったのでしょうか。

今になって鬼畜米英の砲煙弾雨の中に放り出されるなんて、見捨てられたようで、涙があふれてきます。


 「うう、ぐすっ……ひっく……」


周りからも、すすり泣く声、「お母さん、お父さん」と呼ぶ声がします。


 「……うーさーぎー、追ーいし、かーのー山……」


ふと、歌声が聞こえて見上げると、ムギちゃんが声をつまらせながら「ふるさと」を歌っています。


 「小ーぶーな、うっ、釣ーり、…ぐす、かの、川……」


私も故郷を思い出し、「ふるさと」を歌い出すと、

周りのみんなも、それに合わせて歌い出すのです。


 “夢は 今も 巡りて”

 “忘れがたき ふるさと……”


私たちが思い描いた美しい故郷、懐かしい学舎も、今は焦土と化しているのでしょう……
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 00:43:28.39 ID:c+5+k8k3o

その後、女学生は、数人ずつ組になって、解散していきました。

ある人たちは、東回りや西回りで海岸沿いに逃げ、

ある人たちは、北部の国頭への突破を図り、

動けない人たちは、壕に残りました。


 「……先生、さよなら」

 「……はい、さようなら」


いつも授業後に交わしていたような別れのあいさつ。

それが、永遠の別れとなった人たちもまた、多く居たのです。



―――敵前での解散命令によって、学徒たちは壕から出ることを余儀なくされた。

このため、米軍の猛攻にさらされ、命を落とす者が続出したのである。
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/17(水) 00:58:14.08 ID:c+5+k8k3o
本日ここ迄。明日こそは何とか
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/17(水) 01:04:05.84 ID:4nE+XGiDO
描写が細かい、その分キツイ
だが次も待ってる
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/08/17(水) 04:34:19.43 ID:GeTc8oRAO
名字が違うのに意味はあるのかな?
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 19:18:27.12 ID:c+5+k8k3o

―――六月十九日、未明


 「……ムギちゃん、どうやったら国頭まで行けるのかな?」


唯ちゃんが、荷物をまとめながら、不安そうに私に問いかけました。


 「ごめんなさい。私も那覇より北の道はよく知らないの……」 

 「誰か国頭出身の人、いたっけ……」


そうこうして、壕から脱出する機会をうかがっていると、


 『敵襲っ!』


突然、兵隊さんの殺気立った甲高い声が響きます。

兵隊さんたちは入口付近に弾避けの米俵を積み、小銃を構え、機関銃を据え付けました。

壕内には百人近くもの人がいるのに、みんな、極度に緊張して息を潜めています。

敵兵の声が聞こえてきました。


 “コノゴウニジュウミンハイマセンカ。ムダナテイコウハヤメテ、デテキナサイ。

   デテコナイトバクダンヲナゲコミマス”


そんな呼びかけがあっても、誰も動きません。いえ、動くことができません。
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 19:21:56.75 ID:c+5+k8k3o

すると突如、凄まじい爆発音とともに、もうもうと煙が立ちこめたのです。



 『ガス弾だ!』

 『タオルを水で濡らして口と鼻をふさげ!』

 『なるべく姿勢を低くせい!』


兵隊さんや先生方の怒声が聞こえます。

あっというまに濃い煙が壕内に充満し、何も見えません。

そもそも、目が痛くて開けられません。


私はとっさに、カバンからハンカチを取り出すと、水筒の水で濡らして口をふさぎました。

しかし、気休め程度にしかなりませんでした。


 “あぁ!怖い!怖いよぉ!”

 “助けてぇ!お父さぁん!お母さぁん!”

 “さわ子せんせぇ!苦しい!くるしぃ!”


級友たちの悲痛な絶叫が聞こえます。

さわ子先生が励ます声が、悲鳴の中からわずかに聞こえました。


 「みんな頑張って!頑張るのよ!あきらめないで!ほら、このタオルを!」


すぐ隣から、唯ちゃんの、のどをつぶしたような声の叫びが聞こえます。


 「ぁぁ、ぐるじいよぉ!水もタオルもないよぉ!うぁぁぁ!」


しかし、私にはどうすることもできません。

唯ちゃんの肩を抱いて、頭を地面にこすりつけるように下げました。


息を止めれば苦しく、しかし、呼吸をすればさらに苦しくなります。

先生か兵士の誰かが叫びました。


 『小便でタオルを濡らして口をふさげ!』
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 19:24:16.35 ID:c+5+k8k3o

それを聞いた私は、とっさに叫びます。


 「……唯ちゃん、これ!」

 「え!?」


私は、自分の使っていたハンカチを唯ちゃんの口にあてがいました。

とまどった唯ちゃんは、ガスで真っ赤に腫らした目で、一瞬ためらっていましたが、

私が小さくうなずくと、唯ちゃんは顔に押しつけるように、必死でハンカチを口にあてがいました。



私は、被っていた防空ずきんをモンペの上からあてがって、おしっこで濡らしました。

それで口と鼻をふさぎますが、息は苦しくなるばかりです。

吐き気がするほど気分は悪くなり、次第に、意識は薄れてきました。


涙が、ボロボロ、ボロボロと溢れます。

もちろんガス弾のせいもあるでしょう。

しかし、それだけではありませんでした。


 (こんな日も当たらない穴蔵の底で、虫けらみたいに死ぬなんて!そんなのイヤ!)


そう思うと、悲しくて、悔しくて、寂しくて、涙が際限なく流れるのです。

そして、私は、必死で祈りました。祈り続けたのです。


 (戦争が終わったら、もし、戦争が終わったら)

 (またみんなで学校に行って、歌を歌って、お茶を飲むのが夢だったのに!)

 (またお腹いっぱい、みんなでおいしいお菓子を食べて笑うのが夢だったのに!)

 (こんなところで、死んでたまるか!)

 (死んでたまるか!……!……  ……  …




―――このときの米軍の攻撃で、ひめゆり学徒隊の教師四名、生徒三十八名をはじめ、壕内の八十余名が死亡した。

この地が、現在「ひめゆりの塔」が建立されている伊原第三外科壕跡である―――
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 19:26:18.14 ID:c+5+k8k3o

―――どのくらい時間が経ったのか、けたたましい虫の羽音で、私は目を覚ましました。

まだ意識はもうろうとしてました。


 (……あぅ……)


私は、上に覆いかぶさっているムギちゃんにどいてもらおうとしましたが、

ガス弾でのどをやられたのか、声が出ません。


 (ムギ…ちゃん……重いよ、どいてよぉ……)


熟睡しているのでしょうか、ムギちゃんは全くどいてくれる気配がありません。

しかたなく押しのけると、勢いがつきすぎたのか、やや強めに岩肌に転がしてしまいました。


 (ごめん!痛かった!?)


声は出ませんでしたが、そう思いながらムギちゃんに近付くと、様子が変です。

熟睡しているにしても無防備すぎるし、岩肌に転がされたら痛くて起きるはずです。


 (………)


ムギちゃんは、手足をだらりと投げ出し、薄目を開けて、口を半開きにしています。

しばらく眺めていると、ムギちゃんの瞳のふちや、涙のあと、唇の周りに、黒い点々がまとわりつき始めました。

ハエです。

ようやく私は気付きました。


 (……死んでる)
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 19:28:11.21 ID:c+5+k8k3o

周囲を見渡すと、たくさんの友だち、先生方、兵隊、避難民が折り重なっています。


頭はぼおっとしていましたし、もはや死体を見るのにも慣れていましたが、

私はそれでも、すでに死臭を放ちはじめたムギちゃんやさわちゃん、多くの級友たちのなきがらが、

ウジにむしばまれ、腐っていく様子を見たくありませんでした。


 (ムギちゃん……ごめんね……)


私は、ムギちゃんの顔に、ムギちゃんが貸してくれたハンカチを掛けると、

はしご段を一段ずつよじ登って、壕の外に出ました。


壕の外は昨日にも増して砲声が響き、激しく銃弾が飛び交っていました。
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 19:33:37.95 ID:c+5+k8k3o

―――六月二十日


とにかくのどが乾いていたので、私は独りで水を探してさまよいました。

そしてようやく、道ばたに泥水の水たまりを見つけたのです。


顔を近づけると、血や肉が腐ったような臭いがしましたが、背に腹は代えられません。

鼻をつまんで顔をつけてガブガブ飲みました。


こんな汚い水でも、飲めば安心するものです。

ふと、あたりを見回すと、茂みの中に長い黒髪の女学生が倒れています。


 (澪ちゃん!?)
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 19:37:28.67 ID:c+5+k8k3o

 「澪ちゃん!ねえ、澪ちゃんしっかりして!」


私は駆け寄ってその女学生を抱え起こし、顔の泥をはらって確かめようとしました。


 「……違う」


長い黒髪の持ち主は、澪ちゃんではなく、級友の風子ちゃんのなきがらでした。

まだ亡くなって間もないのでしょう。砲弾片が首筋をかき切っている以外は、眠っているような死に顔です。


土をかぶせてあげようと思いましたが道具もなく、近くの砲弾痕まで引きずって、

落ちていたボロ布一枚をかけるのがやっとでした。


すると、茂みの上のほうから聞き慣れた声がします。


 「唯っ!その声は唯だな!?どこだ!」

 「あ、澪ちゃん!?」


澪ちゃんの声がするほうに駆け寄ると、私たちは再会を喜びました。


 「ホントに澪ちゃんだよぉ!りっちゃんは無事なの?」

 「あたしもいるよん!ほら、サトウキビ取ってきたぞ!」

 「ありがとぉ!あヒハホォ!」


お礼を言うより早く、りっちゃんがくれたサトウキビを頬ばると、甘い汁が喉に落ちます。
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 19:43:01.02 ID:c+5+k8k3o

夢中になってサトウキビをかじっていると、


 「私たちも、伝令に行った先でいきなり解散命令を受けてさ……ひどい話だよ。

  ところで、ムギは?他のみんなは?唯ははぐれちゃったのか?」


りっちゃんが、私の顔を覗き込むようにながめます。

ガリガリとかじっていた私の口が、固く閉じました。そして、


 「………解散命令のあと、米軍が来て、壕が攻撃されて、ガス弾が投げ込まれて、みんな、みんな……」


その続きを、どうしても言うことが出来ず、私は黙ってうなだれました。

澪ちゃんが眉間にしわをよせて、噛みしめるように確かめます。


 「死んだ、のか……?」


こくり、と、私は小さくうなずいたのです。

沈黙の中で、激しい砲声がとどろいていました。



 「とにかく、北に向かって国頭に突破しよう。このままじゃ私たちも……」


りっちゃんの言葉で、私たちは、山城の丘を越えることにしました。

ドトン。ドズン。

艦砲や爆弾がこれでもかというほど降ってきて爆発し、破片と土砂が雨あられのように飛び散ります。


 「伏せろっ!」


澪ちゃんの言葉に、急いで茂みに伏せると、強烈な腐臭とともに、グシャリと柔らかい感触がしました。

腐乱した死体の上に伏せてしまったのです。


 (うぅぅぅっっ!)


しかし、気持ちが悪くても、命には替えられないのでじっとしていました。

ひゅるひゅると矢のような音を立てて飛んできて、手を伸ばせば届きそうな距離にドスンと落ちる破片。

走っている時間より、伏せたり茂みに隠れている時間のほうがずっと長かった気がします。
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 19:48:00.31 ID:c+5+k8k3o

その日の昼過ぎ。


……急に炸裂音がして、目の前に火花が散ったかと思うと、私たちは地面になぎ倒されていました。

至近弾が落ちたのです。

私は自分の無事を知らせるのも兼ねて、二人に声を掛けます。


 「あうぅ……澪ちゃん、りっちゃん、大丈夫?」



澪ちゃんから震える声で返事が聞こえます。


 「うん、私は、平気。でも、律が、律が……」


しかし、そのりっちゃんから返事がありません。

土ぼこりが収まるころ、ようやくりっちゃんのか細い声がきこえました。


 「ぁぁ、とうとう、やっちゃった……」

 「りっちゃん!?」


ひとまず、澪ちゃんと一緒にりっちゃんをそばのサトウキビ畑まで担ぎこみましたが、

りっちゃんは、左手の甲が手首近くまでぱっくりと二つに裂けて骨が見え、

脇腹は肩からさげていた水筒もろとも切り裂かれ、腸がせり出していました。


この三ヶ月間、ずっと負傷兵たちの手当をしていた私たちには分かっています。


おなかをやられたら、まず助かりません。
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 19:53:21.95 ID:c+5+k8k3o

――――澪と唯が、私のことを、覆いかぶさるように見下ろしている。


 「律ぅ……」

 「りっちゃん……」


逆光で表情はよくわからなかったけれど、その瞳には焦りとあきらめの色が宿っていた。


 (ああ、私たちが手当てしてた人たちも、最期はこんなふうに見つめられて、こんな気持ちだったんだな)


そう思うと、急に寂しく、泣きたくなってきた。

それを悟られたくなかったから、私は二人に無理なお願いをした。


 「水、飲みたい…。最期くらい、ワガママ、言っても、いいだろ?」

 「私、持ってないよ……澪ちゃんも?」

 「わ、わかった!水はいくらでも汲んでくる!汲んでくるから!最期とか言わないでくれっ!」


そう言い終わる前に、澪は走り出していた。あの怖がり澪が強くなったもんだ。


 「あ、澪ちゃん、私も! でも、りっちゃんが……」

 「……唯も手伝ってあげてよ。ついでに、これ、澪に」


私はカチューシャを外して、オロオロしている唯に握らせた。


 「え、りっちゃん、そんな……」

 「いいから……」


顔をゆがませながら作り笑いをしたけれど、ちゃんと笑えていたかどうか。


 「………うん」


唯は細いサトウキビをもいで、歯で剥いて私に渡してくれた。

そして何度も振り向きつつも、茂みから遠ざかっていった。
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 19:56:52.20 ID:c+5+k8k3o

 (………)


サトウキビをかじると、かすかに甘い汁が喉に落ちていった。


 (私たちなんて、このサトウキビみたいに無造作になぎ倒されていくんだ……)

 (痛い…苦しい…どーせ助からないのなら、楽に死にたかったなぁ……)


葉陰から空を眺めると、戦争など関係ないかのように、青い空がのぞいている。

艦砲が遠のき、少し静かになると、サトウキビが風にざわめく音が耳に残る。


 (やっぱり、寂しい……)

 (水くれなんて、言わなきゃよかったなぁ)

 (お父さん、お母さん……聡はどうなったんだろ……)


水を飲みたいのは本当だったけど、やっぱり独りはイヤだった。

涙がぽろぽろ、ぽろぽろと溢れ、目尻から流れていく。



薄れてきた意識の中で、しばらくすると、キャタピラの音と、炎に木々が爆ぜる音が近付いてきた……
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 19:58:37.03 ID:c+5+k8k3o

――――私たちは、泉を探し出して水をくむと、急いでりっちゃんのいた茂み近くに戻りました。

しかし、すでにサトウキビの茂みは、米軍の火炎放射で焼き尽くされていたのです。


 「あ、あぁ……」


その光景と、悲嘆にくれて膝から力無く崩れ落ちる澪ちゃんを、私は呆然と眺めていました。


 「……」


澪ちゃんが取り落とした水筒から、乾いた赤土に、こんこんと、水が溢れました。



73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 20:02:27.50 ID:c+5+k8k3o

―――六月二十一日


敵の正面から山城の丘を越えるのは難しいと考えた私たちは、南端の荒崎海岸に向かいました。

そこには、住民も兵士も混じって、ものすごい人が集まっていたのです。

するとその中に、生き残りの女学生や先生方の集団がありました。


 「ああ!お姉ちゃん!?」


不意に、解散命令以来聞いていなかった、懐かしい声がします。

憂が私に走り寄り、抱きついてきます。


 「憂!?あずにゃんも!よかったぁ〜……」 

 「唯先輩!澪先輩!ご無事だったんですね!」


その背後に、あずにゃんの姿もありました。

私たちをしげしげと眺めていたあずにゃんの表情が、次第にこわばります。


 「あの……ムギ先輩や、律先輩は……」

 「ムギと律は、もういない。いないんだ」


澪ちゃんが、きっぱりと言い切り、口を固く結びました。握った拳がブルブル震えています。


 「……そう、ですか」


あずにゃんは、納得したというよりは、あきらめたような口調で応えました。

憂は、二人の最期を聞いて、私に抱きつく腕の力を強めます。私まで失いたくないのでしょう。


 「澪ちゃん。二人にも、ちゃんと話しておこうよ。誰かがムギちゃんとりっちゃんのこと、伝えてくれないと…」

 「……うん。そう……だな」


私と澪ちゃんは、途中、何度も言葉に詰まりながらも、内容を補いあって、

ムギちゃんとりっちゃんのことを、そして、さわ子先生や他の人のことも、出来るだけ語りました。


学徒隊の働きを後世に伝える、なんて立派な理由から話したのではありません。

このまま、みんな永久に忘れ去られてしまうなんて、あまりに寂しいからです。
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 20:06:56.60 ID:c+5+k8k3o

そして、私たちは海岸沿いに移動を始めたのです。


海岸には、腐ってドラム缶みたいにふくれあがった死体が散乱していました。

その中を、たくさんの避難民や兵隊が右往左往しています。


私たちは、潮が満ちれば、カニか磯虫のように岩にへばりつき、

潮が引けば、見つからないよう海に入り、溺れないよう手をつないで逃げました。




その夜。




照明弾が真昼のように照らす中を、潜ったり顔だけ出したりしながら摩文仁に向かっていました。

ブシュブシュと、米軍の機関銃の弾が水切りのように海面を連続してうがち、あちこちで悲鳴が上がります。

ときおり、迫撃砲が大きな水柱を立てて兵隊と避難民、そして水死体をはね飛ばします。
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 20:10:25.45 ID:c+5+k8k3o




突然。




 「うあ゛あ゛ぁっっ!」




澪ちゃんが悲痛な叫び声をあげ、つないでいた手が弾かれるように離れます。

おそらく、肩か腕を打ち抜かれたのでしょう。


 「澪ちゃん!?」


驚いた私が声を上げ、澪ちゃんに振り返ります。

そのときすでに、澪ちゃんの顔はかろうじて海面に出ている程度でした。




その瞬間、私は見たのです。


澪ちゃんの、海水のためか涙のためか、真っ赤に腫らした目。


その顔に浮かぶ、悔しさとも、悲しさとも、苦しさとも、寂しさともつかない表情。


 「ゆ……っ……」


私の名を呼ぼうとした澪ちゃんの顔が、ゴボリと波間に沈みます。


そして長い黒髪が、海面からわずかに伸びた左手にからみながら、照明弾の白い光に照らされ、波間に数瞬ゆらめきました。

するとまた大きな波が来て、それを私が何とかしのいだ後には、澪ちゃんは完全に見えなくなっていたのです。



……あっという間の出来事でした。
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 20:18:33.54 ID:c+5+k8k3o


漆黒の海中で、ふと脳裏に、総天然色の夢幻が湧き出た。


 (……この美しい島、そして美しい海)


丘には、紺碧の青空と対比を為す深い緑が茂り、色とりどりの花が咲き誇る。

蝶が悠々と舞い、鳥が翔んで競うように歌を奏でる。

コバルト色に澄みきった海が、日差しの下でさわやかな白波を立てて、珊瑚でできた乳白色の浜に打ち寄せる。

竜宮城から舞い出たような極彩色の魚たちが、磯に群れて遊ぶ。


 (でも、それは失われた)

 (今は、死の島、死の海だ)

 (こうして、私の流す血も涙も、そして私自身も)

 (この死の海に飲み込まれていく)


陸には草むす屍、海には水漬く屍。

それが、幾十、幾百、幾千、幾万、幾十万、累々と折り重なる。

私もその一部となろうとしている。


 (そうだ、ここは地獄の果てだ)

 (死の島と死の海に挟まれたこの海岸は、地獄の果てだ)


そのとき、無音となった海の中、

照明弾の明かりが水面からほのかに海底ににじんだのか、ぼんやり明るくなった。


 (たった三か月前まで、学校にいたのに)

 (なんで、こんなことになったんだっけ……)

 (なんで……)


こぽこぽ、こぽこぽ……
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 20:21:10.61 ID:c+5+k8k3o


 「澪ちゃ……ゴホッ!……澪ちゃぁぁぁん!」

 「……ゲホッ!澪先輩っ!」



私とあずにゃんは澪ちゃんの居たあたりに向かおうとしますが、

どんどん潮が満ちてきて、強い引き波に足を取られそうになり、進めません。


 「お姉ちゃ……危ないよっ!」


ようやく死体だらけの海岸にたどり着いた私たちは、放心状態になって、岩陰に倒れ込みました。
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 20:24:23.65 ID:c+5+k8k3o

―――六月二十二日、深夜


その日も、砲火に追われ、敵兵の目から隠れながら、海岸をあてどもなく逃げ回った。


岩陰に隠れて眠っていると、夜中にふと目が覚める。岩に当たる背中やおしりが痛む。

私のすぐそばには、唯先輩と憂が、姉妹仲良く寝息を立てていた。


 「そうか、私たち以外、みんな、死んじゃったんだ……」


外から差し込む月の光に、痩せこけた二人の顔が映る。


 「唯先輩、憂、ごめんなさい。……今まで、ありがとうございます」


泥のように眠りこけている二人を尻目に、

唯先輩のかばんから、手榴弾を抜き取る。


 「私、きっと足手まといになっちゃいますよね。体、小さいし……」


憂のかばんからも抜き取ろうと思ったけれど……

気付かれそうだし、“いざというとき”のために二人で一つは残してあげようと思った。

代わりに、残していた乾パンと粉味噌を置いておいた。



どうせ死ぬのなら、先輩方や友達の命を奪った米兵を、一人でも道連れにしてやる。

石灰岩の岩肌に爪を立てて、私は海岸から丘の上にはい上がった。


 「殺ってやる……殺ってやるです……」
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 20:26:15.74 ID:c+5+k8k3o

山城の丘にさしかかろうとする辺りで、兵隊たち十数名の集団が、斬り込みをかけると息巻いている。

私には、ためらいはなかった。


 「……私も、加わっていいですか?」




照明弾がしきりに落ちてきて、あちこちに散らばる腐乱死体が青白く不気味に照らされる。

ほんの数百メートルの距離を、数時間もかけて匍匐前進した。


しかし、そこは米軍陣地のまっただ中。

たちまち米軍の攻撃に遭って数人が吹き飛ばされ、集団は散り散りになる。

私がアダンの茂みに身を潜めると、数名の米兵があちこちを歩きながら警戒している。



ガサッ。


 (しまった!)


不用意に物音を立ててしまい、冷や汗をかく。

不審に思ったのか、一人の米兵が私の居る茂みに近付いて、じろじろと眺めている。


 「に……にゃ〜〜……」


こんな所でネコの鳴きまねが役に立つとは思わなかったけど、米兵はきびすを返して来た道を戻っていく。


 (今だ!)


私は素早く手榴弾の栓を抜くと、その米兵に投げつけた。

爆発音。


 (やった!?)


しかし、そう思うのもつかの間。

小銃弾の乱射、続いて機関銃までもが火を噴き、私は地面に突っ伏す。


 「!!  うぁ……っ……」
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 20:29:13.58 ID:c+5+k8k3o

……気が付くと、赤鬼のような憤怒の形相をした一人の米兵が、小銃を私の額に突きつけている。

米兵はいきり立ちながらも、相手が年端もいかない女だったことに少し驚いているようだった。

だがこのままでは、私は鬼畜米英の毒牙にかかり純潔を汚され、慰み者にされてしまうのだ。



私は荒れた呼吸をようやく整えると、叫んだ。


 「……私は皇国女性だッ!早く殺さないか!殺せッ!殺すですッッ!!」


しかし米兵は、言葉が分からないのか、動かない。


 (このまま、辱められるくらいなら……!!)


私が、ふところに忍ばせていた小刀で斬りかかろうと、右手を伸ばした、その瞬間。









ぱん。
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 20:32:14.09 ID:c+5+k8k3o

―――六月二十三日、早朝


私は、遠くから聞こえた銃声で目が覚めました。

空が白み始め、あちこちから聞こえる小銃の音が激しくなります。


 「……あれ、あずにゃんは? 水でも探しに行ったの?」


寝ぼけまなこで辺りを見回しますが、あずにゃんの姿が見えません。


 「え!? 私も知らないよ? 梓ちゃん? 梓ちゃーん!?」


呼び起こされた憂が、驚いてあずにゃんの名を呼びます。

しかし、返事が返ってくることは、ありませんでした。



あまり声を張り上げると、米兵に見つかってしまいます。

この岩壁も危ないので、仕方なく、逃げるために荷物をまとめていると、


 「あ、私の手榴弾が無い!」


はっと気付いた私は、憂と顔を見合わせました。

近くに、あずにゃんが残したらしい食料も、少し置いてありました。


 「きっと、梓ちゃんが……」

 「あずにゃん、なんで、一人だけ……」
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 20:37:30.42 ID:c+5+k8k3o

空しくなって、視界が涙でにじみました。


今さら、私たち一人一人の生き死にが戦争の勝ち負けに何の関係があるのでしょう。

いっそ、こんな苦しくつらい思いをするなら、あずにゃんのように潔く死にたい。


 (生きるのはつらい……でも、死ぬのは怖い)


しかし、生きて、生き残って、お父さん、お母さんに一目でも会いたい。

でも米軍に捕まれば、辱められ、八つ裂きにされたり、戦車でひき殺されるとさえ言われていました。


 (死にたい……でも、死にたくない……)


生への執着と生へのあきらめ、死へのあこがれと死への恐怖が、

眼下に広がる海の荒波のように、ぐるぐると渦巻き、激しく寄せては返します。

思わず、その荒波に、吸い込まれそうになりましたが、


 「……お姉ちゃん!」


憂の声で、私はようやく我に返って気を取り直したのです。


 「ぁ、憂……ごめん……」


憂がいてくれる限りは、私もまた、生き続けなければなりません。
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 20:40:51.85 ID:c+5+k8k3o


その後、死体につまづきながら、ひたすら海岸をさまよい続けました。


もう、どちらへ行けばよいのか、見当もつきません。岩穴や岩陰は、どこも追いつめられた人たちでいっぱいです。


相変わらず、丘の上から戦車砲、迫撃砲の砲声が響き、小銃が海岸を動くものを狙い撃ちます。

小さな魚雷艇みたいな船が、しきりに海岸に近寄ってきて、“コウサンセヨ”と呼びかけます。




そして、ついに。




 「あぐうぅぅっっ!」

 「お姉ちゃん!!!?」


脚に流れ弾が当たったのです。

倒れた私を憂が抱き起こし肩を貸してくれて、片脚を引きずりながら岩陰のくぼみに隠れました。


 「いま、診てあげるからね!」


憂が、私の左脚のモンペのすそを切り裂きました

ふくらはぎが熟れたザクロのようにはじけ、砕けた骨が露出しています。


 「ぁぁ……」


憂の顔からは、絶望の色がありありと見て取れました。
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 20:44:25.73 ID:c+5+k8k3o

 「……ありがとぉ、憂。もういいよ、私は置いていきなよ」


私は、憂の表情を見ていたたまれなくなり、言ったのです。

すると、青い顔をしていた憂が、顔を真っ赤にして反駁します。


 「!? お姉ちゃん、何言ってるの!?」

 「憂まで死んじゃったら、お父さんとお母さんに私の最期を知らせてくれる人がいなくなっちゃうよ!?」

 「……でも……っ……私は……」


私が両親のことを口にしてもなお、憂は逃げようとしてくれませんでした。


 「私のことだけじゃないよ!

    りっちゃん、澪ちゃん、ムギちゃん、あずにゃん、和ちゃんも、純ちゃんだって……

    みんなのことを覚えててくれる人が、誰もいなくなっちゃうんだよ!?そんなのイヤだよぉっ!」


米兵が近くに居るともしれないのに、私は妹を引きはがすようにその肩をつかんで、声を張り上げました。


 「……それでも、私には、お姉ちゃんを置いてなんて行けないよ!私もここで死ぬ!」


しかし、憂もまた、私に負けぬ勢いで声を張り上げるのでした。


 「憂ぃ……お願い……お願いだから、逃げてよぉ……」

 「ごめん……、それだけは、絶対に嫌なの。わがままな妹で、ごめんね………」


私は涙ながらに、憂を何とか説き伏せようとしましたが、憂もまた、ぽろぽろと涙をこぼして拒むのです。
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 20:46:56.11 ID:c+5+k8k3o


 “デテコーイ、デテコーイ!”


押し問答を続けていた私たちの耳に、米兵の声が、かすかに聞こえてきます。


 「べ、米兵!?」


憂が私をかばうように抱きついてきますが、その顔色は岩陰の薄明かりでもわかるほど蒼白でした。


 「ぁぁ、鬼畜米英だよ!おしまいだよぉ!」


絶望を強めながら、しばし声を殺していると、すぐ近くの岩陰から、小銃が乱射される音、悲鳴。


 “アカネっ!”

 “エリっ!”

 “……えーい!”


続いて、手榴弾の爆発音が聞こえました。

おそらく女学生の一団が追いつめられ自決したのでしょう。

憂が震える声で、切々と問いかけます。


 「もう、逃げられないよ。 お姉ちゃん、一緒に……」

 「……“いきてりょしゅーのはずかしめをうけず”だもんね」


こうして、私たちは、覚悟を決めたのです。
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 20:49:15.62 ID:c+5+k8k3o

 「…ん、っしょ……っと……」


私は、自分のヘアピンを外して、岩陰に文字を掘りました。


 “ユイ”

 “ウイ”


私たちが死んだ後も、いつか、誰かが、その最期の証を見つけてくれればと願って。


 「……これを、あげよう」


そして、私はそのヘアピンを、憂の髪にさしました。


 「じゃあ、交換だね……」


憂もまた、リボンを外して、私の髪をくくってくれました。


憂の顔をこの目に焼き付けておこうと思いましたが、あとからあとから涙が溢れて見えません。

涙をぬぐうと、憂も私と同じように、泥と垢と血と涙で顔をくしゃくしゃにしていました。


 「えへへ、これでいつまでも一緒だよ……」

 「うん……」


私は、憂をしっかりと抱き寄せます。憂も私を固く抱きしめ返してくれます。
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 20:55:12.56 ID:c+5+k8k3o

とはいえ、もう、時間は残っていません。


 「憂、もう、いいかな……」

 「……うん!」


憂が、かばんから取り出した手榴弾を手渡します。


 「……よし……っっ!」



敵の手にかかるくらいなら!

私は手榴弾の栓を口で引き抜き、信管を岩に叩き付けると、抱き合う私たちの胸元に押し込みました。


 「憂…憂ぃ……」

 「お姉…ちゃ……お姉ちゃぁん……」


私たちは震えながら、ひたすら抱きしめ合いました。




しかし、十数秒ほど経ったでしょうか。


 「あ、あれ? 爆発しない……」


波をかぶって火薬がしけてしまったのでしょう。戸惑った私は、手榴弾を右手に握って眺めました。


 「お姉ちゃん、石で叩いてみようよ!」


そう言って、憂が足もとにあった石ころに手を伸ばしたそのときです。










………ボン。












―――同日、日本軍沖縄守備軍 第三十二軍司令官・牛島満中将が摩文仁において自決。

これにより組織的戦闘は終わったものの、以下の軍司令官命令が発せられ、停戦交渉も行われなかった。

「爾後各部隊ハ各局地ニオケル生存者ノ上級者コレヲ指揮シ最後マデ敢闘シ悠久ノ大義ニ生クベシ」

このため、各地で散発的な抵抗と米軍の執拗な掃討作戦が長く続いたのである。

最終的に、日本軍沖縄守備軍が降伏調印したのは、

ポツダム宣言受諾の八月十五日、戦艦「ミズーリ」艦上における降伏調印の九月二日よりも遅く、

実に、九月七日のことであった―――
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 21:07:49.96 ID:c+5+k8k3o

―――どのくらい時間が経ったのでしょうか。


私は全身の傷口にハエがたかり、ウジが体中をついばむ感覚で、ぼんやり意識を取り戻しました。


 「……ぅ……ぃ」


憂の名を叫ぼうとしても、激痛とともに血がのどにゴボゴボと絡まるだけ。

手榴弾の破片にやられたのでしょう。目も見えず、言葉も発することができません。


感覚のなくなった右手を、左手で触ると、手首から先がなくなっていました。


 (……憂……どこ……?)


しばし、岩陰を転がってまさぐりましたが、憂らしきものには触れられませんでした。


 (ああ、きっと、米兵にさらわれちゃったんだ……)


私は負傷がひどく気絶して仮死状態で、死体と間違えられたのでしょう。


 (こんな、こんなことって……)


妹と最期を共にすることさえできないなんて。

光を失った私の両眼から流れる、血の涙。


 (憂、ごめんね……最期まで情けないお姉ちゃんで、ごめんね……)


きっと、憂も米兵の獣欲の毒牙にかかった挙げ句、殺されるのでしょう。

もはや私には、助けに行くこともできません。


 (……だったら、せめて、せめてこんな暗い穴蔵じゃなくて、太陽の下で、死にたい……)



そして私は、片ひじと片ひざで、波の音を頼りに、ズルズルと、外にはい出したのです。





ざざあ……




ざざあ…………




―――――――――

――――――

―――
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 21:09:23.57 ID:c+5+k8k3o



―――「ひめゆり学徒隊」に動員された生徒二百二十二名、教師十八名。


うち戦死者、生徒百二十三名、教師十三名。学徒隊以外の戦死者、生徒八十七名、教師三名。





そして、男子学徒隊の各校「鉄血勤皇隊」や、他校の女子学徒隊である、



「白梅学徒隊」「瑞泉学徒隊」「梯梧学徒隊」「積徳学徒隊」「なごらん学徒隊」など、



沖縄全県下の学徒・教師のうち二千六名が戦場で亡くなっている―――


90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 21:12:09.99 ID:c+5+k8k3o

―――


――――――


―――――――――



  ……?…イ? 大丈夫? 唯!?」


誰かが、すぐ近くで叫んでいます。


 「……う……」


まぶたをこじ開けると、そこは薄暗い深緑のテントの中。

寝台の上に寝かされているようです。私の顔や体のあちこちに包帯が巻かれています。


私は、まだ目の焦点も定まらず、うわごとのように問いました。


 「ここは……?」


しきりに叫んでいたのは、少し大人びた女学生っぽい人でした。

その人が、少し表情を和らげて私に話し掛けます。


 「ここは、宜野座の米軍の収容所にある病院。私も、至近弾を浴びて気絶している間に捕まって、ね」


意識がもうろうとしている私には、そう言われても状況が飲み込めません。


 「べいぐんの、しゅうようじょ…?」


米軍、と聞いて、これから酷い目に遭うのか、とも思いましたが、捕まった以上は心配してもどうにもなりません。




 「そう、収容所。でもよかった。唯が、目を覚ましそうだと聞いて、病院まで来たんだけど……」

91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 21:14:28.63 ID:c+5+k8k3o





 「ぁ、私、唯じゃなくて、妹の、憂です……」






私は、覚めかけの頭を回転させて、その女学生さんの勘違いを正しました。


 「……ごめん。私、唯の同級生の知花姫子。

   あなたが唯そっくりだから、付けてたヘアピンを見て、てっきり唯だと思って」


そう言って姫子さんは、はにかみながら、私が付けていたお姉ちゃんのヘアピンを見せてくれました。


 「そのヘアピンは、海岸で手榴弾自決しようとしたときに、お姉ちゃんがくれたんです……」

 「……えっ?」


私がそう言いかけると、姫子さんの表情が険しく曇りました。


 「「じゃあ……」」


その言わんとするところを察した私は、姫子さんと同時に問いを発したのです。







 「唯は!?」「お姉ちゃんは!?」




92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/17(水) 21:19:03.98 ID:c+5+k8k3o
もう少し続きます
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 21:47:17.83 ID:c+5+k8k3o

ttp://www.youtube.com/watch?v=LSD9sOMkfOo



 “……然レトモ朕ハ 時運ノ趨ク所 堪ヘ難キヲ堪ヘ 忍ヒ難キヲ忍ヒ 以テ萬世ノ為ニ 大平ヲ開カムト欲ス……”
                                               (上記音声資料においては、3:21前後)



―――八月一五日


まだ昼だというのに、米兵たちがさかんに酒を飲み、花火や銃を空に撃ったりして騒いでいます。


米兵が銃を乱射する音を聞いて、「友軍が総攻撃をかけて助けに来た」と叫ぶ人もいましたが、

噂では、日本は戦争に負けたらしいです。



収容所に入ってからというもの、米兵の強姦事件が幾度もあったり、

食糧事情や衛生事情も悪く、せっかく助かっても命を落とす人が多くいました。


私は、ケガもだいぶ癒えたのですが、収容所内の病院の手伝いにかり出される以外は、

抜け殻のように、無気力にぼんやりとしていたのです。





私は、バラックの寝台の上に座り、汗で額に張り付いた前髪を払います。

すると、髪に留めたお姉ちゃんのヘアピンが指に触れました。


 「……“生きて虜囚の辱めを受けず”、か」


そのヘアピンを指先でいじりながら、ふと、独り言を漏らしました。


 「……“死して罪禍の汚名を残すことなかれ”」


私のつぶやきに応じて、背後から声がしました。私はわずかに振り向いて声の主を確かめます。
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 21:50:16.14 ID:c+5+k8k3o


 「『戦陣訓』も私たちみたいな“艦砲の喰い残し”には、もう何の意味もないわね」

 「姫子さん……」


私たちのいるバラックの前を疾走してゆくジープの上で、酒と日焼けで赤ら顔になった米兵たちが歓声を上げていました。



姫子さんが寝台に腰を下ろし、外の景色を見遣りながらつぶやきます。


 「やはり、日本は負けたんですって。米兵のバカ騒ぎは、その祝勝会」


私は、その姫子さんの言葉を聞いて、ヘアピンをいじる指を止めました。


 「……そう、ですか」











視界の中では、昨日と同じように、収容所のバラックとテントの群れが、炎暑の下でかげろうに揺れています。



95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 21:51:50.82 ID:c+5+k8k3o


長い、長い、沈黙がありました。






そして、


 「生き残りの女学生は、小学校の臨時教師をやるように、って言われてるけど、よかったら、どう?」


姫子さんはそう言って、ガリ版刷りの教科書をかたわらに置いてくれました。

収容所でもすでに、青空教室が産声を上げていたのです。


 「………」


私は返事をしないまま、ほこりっぽい赤茶けた外の景色を眺めつづけていました。


 「……オルガン、弾けるんでしょ?」


そう言い残し、姫子さんは静かに立ち去ったのです。


私は、やはり返事をしませんでした。


 「………」





やがて、日が西に傾きます。
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 21:56:42.58 ID:c+5+k8k3o

そして私は、ふと、手元に置かれた教科書に目を向けました。



 「………」


その小学一年生向けの教科書を初めて手にとって、何気なく表紙をめくります。

すると、その1ページ目には、こう書いてありました。






 『 アヲイ ソラ   ヒロイ ウミ 』






 「あ………」


私は、思わず声を漏らしました。



ポタ、ポタ、と、我知らず、教科書のページに雫が落ちます。私の涙でした。


「国破れて山河なし」と言われるほどに緑を焼き尽くし、山野の形すらも変え、

のちに「鉄の暴風」とまで形容された砲火が吹き荒れたこの島に残されたのは、

『青い空 広い海』、それだけでした。



親しい友人たちも、優しい先輩たちも、そして、最愛の姉も、もはや居ないのです。



 (……いないんだ。もう、みんな、いないんだ)



ふと、そんな感覚が、猛烈な実感を持って押し寄せてきます。

私は思わず、髪に留めていたお姉ちゃんのヘアピンを手に取ると、

手のひらに突き刺さるほど、強く、強く握りしめました。


そして、私は、慟哭したのです。 




 「…う……うぅ、っ、お、おねぇぢゃぁぁぁ……ぁん……っ」









―――ひめゆり学園と言われた、この沖縄師範学校女子部・沖縄第一高等女学校は、

他の多くの師範学校が、戦後の学制改革によって新制大学の教育学部として再出発する中で、

学び舎は灰燼に帰し、教師も生徒も多くが死亡し、米軍軍政下で再建もままならず、廃校となった。

かつて県営鉄道の鉄道橋であり、現在は国道330号線の一部である「姫百合橋」に、その名を留めるのみである―――
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 22:02:32.59 ID:c+5+k8k3o


―――その後、多くの歳月が流れました。



あの荒崎海岸にも何度か行きましたが、姉のなきがらは見つかりませんでした。


ドイツに行った両親も、ソ連によってシベリアに抑留されたまま、還ってきませんでした。

そして、生きるために多くの苦労をし、人一倍働き、無我夢中で生きてきました。

一方で、私ひとりが生き残ったことに、罪の意識すら持ちつづけたのです。



しかし、やはりそれでも私は、あきらめ切れませんでした。


日々の暮らしを続ける中でも、次の瞬間、この柱の影から。その路地の裏から。あの丘の向こうから。





 『あ、憂〜! ひさしぶり〜!』





にわかに姉の声が聞こえ、ひょっこりと姿を現すのではないか。

そんな想いが、私の頭をよぎり続けました。


私の戦後は、何年、何十年経っても、生涯、終わることはなかったのです。


私の戦後は、いつまでも、いつまでも、戦後でした――――――



―――――――――――――――

――――――――――――

―――――――――

――――――

―――


















―――摩文仁の丘の沖縄平和祈念公園にある「平和の礎」には、



沖縄県民十五万を始め、沖縄戦等で死亡した国内外の人々の名が刻まれている。



その数、二十四万一千百三十二名―――
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 22:09:48.56 ID:c+5+k8k3o

―――


――――――


―――――――――


――――――――――――


―――――――――――――――










――――――平成四十某年(203×年)夏、関東地方某所










         「今日から修学旅行です!  …お姉ちゃんの」













99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 22:17:54.47 ID:c+5+k8k3o

ttp://www.youtube.com/watch?v=XsFji1i69Rk





こんにちは、平沢唯です! 桜が丘女子高等学校3年生です!




今日から待ちに待った修学旅行!行き先は例年京都だったのですが、今年はひと味違います!


 「すっげぇー!海青すぎだろ!CGみたいだな!」


すぐそばでりっちゃんが大はしゃぎしています。


 「おい律!もうすぐ着陸するぞ!座ってベルトしろ!」


澪ちゃんがカチカチに緊張してベルトを締め直しています。

私も飛行機は初めてなので、面白いけどハートDOKI☆DOKIです!

でも、澪ちゃんの場合、飛行機よりもっと怖い体験が現地で待っているわけですが……

ところでムギちゃん、機内食出なかったね?


 「ふふ、国内線は出ないわよ?」


そうなんだ。ガッカリ……


でも、着いてからいっぱいおいしいモノ食べて、たくさん楽しいコトすればいいよね♪
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 22:20:56.14 ID:c+5+k8k3o


     ┏━┓
     ┃桜┃
     ┃が┃
     ┃丘┃
     ┃女┃
     ┃子┃
     ┃高┃
     ┃等┃
     ┃学┃
     ┃校┃
     ┗━┛


―――その数ヶ月前、軽音部室


 紬「ねぇねぇ、今年の修学旅行は沖縄なんですって!初めてだから楽しみ〜!」キラキラ

 律「だから今日のお菓子はちんすこうなのか」モシャモシャ

 唯「このお茶、泡が立ってるけど何なの?ほら、ヒゲ!」ブクブク

 紬「ぶくぶく茶よ〜」

 澪「唯、食べ物で遊ぶな!ところで、みんな沖縄は初めてだろうけど、ムギも初めてなんて意外だな」

 梓「毎年京都みたいでしたけど変わったんですね。先輩方も楽しんできてください!」

 律「おぅ!言われなくても南国でバケーションを満喫してくるぜぃ!」

 唯「青い空!広い海!天国だよ! あずにゃん、おみやげ何がいい?ハブ?」

 梓「とりあえずハブはちょっと遠慮します……」ゲンナリ

 唯「えぇ〜? 『ハブ対あずにゃん』見てみたかったのにぃ」ショボーン

 梓「何考えてるんですか!やめてください!殺す気ですか!」プンスカ

 紬「唯ちゃん、生きてるハブ持ち帰る気だったの?他にもいろいろあるじゃない。泡盛とか」

 律「いやムギ、それもおかしいだろ。未成年だし」
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 22:23:01.77 ID:c+5+k8k3o

 澪「私も、沖縄楽しみだな。良い詞が書けそうだ。でも修学旅行だから戦跡とかも巡るのか……」ハァ…

 律「あら澪ちゅわ〜ん。戦跡怖いのかしらん?」ニヤニヤ

 澪「べっ、別にそういうわけじゃなくて!」ムッ

 紬「じゃあ、澪ちゃんも戦跡に行って勉強しないと〜」ウフフ

 澪「いや、それは、まあ、わざわざ行かなくても本とか読めばいいんじゃないか!?」アセアセ

 梓(澪先輩、やっぱり相当怖がってるなー)

 律「そんなムキになるなって!でも戦跡巡り面倒くさいよなー。せっかく南の島のパラダイスなのにさ」

 唯「でも旅行から帰ったあとレポートあるし、少しは勉強っぽいことしないとねぇ」

 律「ま、そのへんは澪とムギのレポート写せば大丈夫っしょ!」

 澪「こらっ!自分でやれ!」

 紬「フフ……みんなで班行動の計画立てなくっちゃね!」
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 22:26:25.03 ID:c+5+k8k3o

―――再び修学旅行当日。初日、那覇空港(旧海軍小禄飛行場)


ワイワイ…キャッキャ…


 律「ひゃっほー!沖縄だー!」

 唯「あ、ポケモンジェット!見たの初めてだよ!」

 澪「プロペラの小さめな飛行機もたくさんあるな」

 紬「離島航路の小型機じゃない?」

 和「それもあるけど、自衛隊機もあるのよ。基地が隣接してるから。ほら、日の丸付いてるでしょ?」

 律「お、ホントだ。さすが和は物知りだな〜」

 唯「じゃあ帰ったら和ちゃんのレポート写せばいいね!」

 和「ダメよ。そもそも班が違うからムリね」


 さわ子「ちょっと!みんな早くモノレールに乗るわよ!」




―――ゆいレール車内、県庁前駅付近


 澪「飛行機で疲れたし、ホテルに荷物置いたら夕食まで一息つきたいなぁ……」

 律「何言ってんだよ!せっかく沖縄なんだから外に出て遊ぼうぜ!」

 唯「国際通りってところにいろいろあるみたいだよ!」

 紬「遊びたいでーす♪」

 澪(やっぱりこうなるか……) 

 


―――国際通り


 紬「あっ、ブルーシールアイスよ!食べましょう!」

 唯「おぉ〜!変わった味のがいろいろあるね! おいひぃ〜!」

 律「うぉぉ…頭痛てぇ……」

 澪「アイス食べ過ぎだろ………あ、この琉球ガラスの置物カワイイな」

 律「ところでさぁ、ハブ対マングースってどこで見れんの?」

 紬「唯ちゃん、この三線(サンシン)試し弾きできるんですって!やってみない?」

 唯「了解です! …“♪キミを見てるとォ〜 いつもハ〜トDOKI☆DOKIィ〜〜”」ベンベン

 律「お、すげぇ! なんか沖縄っぽい!」

 唯「よし!キミはサンシン太と名付けよう!」

 澪「ふふ、唯、ギー太がいるのに浮気しちゃっていいのか?」

 唯「えへへ……南国のちょっとした“あばんちゅ〜る”ってことで」
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 22:32:16.02 ID:c+5+k8k3o

―――第一牧志公設市場


 唯「あぁ〜、目がぐるぐるする〜」フラフラ

 澪「そりゃ海ブドウが回ってる水槽ずっと見てるからだろ……」

 律「あ、生のハリセンボン初めて見た!すっげー!お、この青い魚は何?食べれる?」

 紬「それ、イラブチャーって言うのよ。淡泊で美味しいわ」

 唯「わぁ〜、ブタのお面だよ澪ちゃん!見て見て!」

 澪「や、やめろよ!見たくない!」







―――ゆいレール奥武山公園駅付近


 律「澪!澪!この写真、ちょっと見てみ」

 澪「ん、何撮ったんだ?……ま……っ!!///」


ゴチン!


 律「痛だぁぁぁ!」

 澪「お前は小学生かバカ律!!」


ttp://s.cyrill.lilect.net/uploader/files/201108172229300000.jpg


 律「いやー、聡に頼まれててさぁ。ネタ的に面白いかなー、と……」

 紬「漫湖は湿地帯でラムサール条約で保護されてるんですって。でも最近は水質が悪化してるらしいわ」

 唯「へー、漫湖ってすごいんだね!でも汚い漫湖って臭そうだよ」

 紬「そうね。キレイな漫湖を後世に伝えないとね」

 澪「二人ともわざと言ってないか……///」


アハハ… ウフフ…
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 22:38:30.61 ID:c+5+k8k3o

―――二日目。道の駅かでな、嘉手納基地付近


ワイワイ…ガヤガヤ…


 澪「ホントは美ら海水族館に行きたかったなぁ」

 紬「さすがに遠いから難しいわ」

 唯「りっちゃん、この双眼鏡面白いよ!すごくよく見える!」

 律「おぉやべえ。米軍マジ米軍。勝てる気がしねぇ」

 唯「ホントに基地の中に街がある感じだね〜」

 紬「私、米兵にケンカ売るのが夢だったの〜♪ F**K YOU!」

 澪「おいムギ!それはまずいだろ!しかも無駄に発音良いし!」

 紬「どんとこいです!」

 律「おぉ、ムギもなかなかロックだな!負けてられん!」ビッ!

 澪「中指立てるなぁ!」

 律「ハイハイ。どーせわかりゃしないって」





―――那覇市首里

 唯「おぉ〜、首里城だよりっちゃん!かわいいね!」

 律「唯は何でも“かわいい”だなあ。でも確かにカラフルでかわいいかも」


ttp://s.cyrill.lilect.net/uploader/files/201108172234020000.jpg
(石垣)


 唯「ねーねー、このへんだけ石垣がすごく古いよ。なんでボロボロなんだろう?」

 律「さあなぁ。なんでだろ。どーせなら全部新しくすればよかったのに」





 澪「ムギ、これ何だろう?鉄格子がはまってるけど、なんだか首里城には似合わないな」

ttp://s.cyrill.lilect.net/uploader/files/201108172234020001.jpg
(首里城トーチカ)

 紬「そうね…ちょっと違和感があるかも。琉球王朝時代のものではなさそうだけど」






ttp://s.cyrill.lilect.net/uploader/files/201108172234020002.jpg
(板)

 紬「待って澪ちゃん!板きれに何か書いてある……『旧第三十二軍合同無線通信所跡』って」

 澪「ひぃっ!戦跡怖い!見えない聞こえない見えない聞こえない……」
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 22:46:37.21 ID:c+5+k8k3o

―――三日目、島尻郡南風原町、南風原陸軍病院壕跡



 澪「うぅ、いよいよ本格的に戦跡……」

 紬「ガイドさんもいるから大丈夫!」

 ガイド「どうも。ガイドの琉大生です」



 ガイド「これがこのあたりで掘り出された砲弾の破片なんですよ。持ってみます?」

 唯「あ、すっごい重い……」ズシッ

 紬「こんな鉄アレイみたいなの当たったらひとたまりもないわね……」


 ガイド「じゃあ壕に入ってみましょう」

 律「澪!危ないからあんまひっつくなよ!ただでさえ足もと滑るのに!」

 澪「だって……暗いし怖いし……」ガクガクブルブル



 ガイド「この十字路が手術場でした」

 唯「手術場って、ここただの通路だよ……」

 ガイド「医薬品不足の中でも麻酔の不足は特に深刻で、麻酔無しの手術も……」

 澪「ひぃっ!聞きたくない聞きたくない!」

 ガイド「南部への撤退時には、多くの重症患者が青酸カリで……」

 澪「うわぁぁぁぁぁ!」

 紬「澪ちゃん、ちゃんと解説聞かないと失礼よ!ほら、修学旅行のレポートもあるし……」

 澪「そんなの書かなくていいっ!!怖いよぉ!もう出たいぃ!」

 律「それじゃ私も困るんだよ!レポート写せないじゃん!」

 澪「もうやだ!やだぁ!」ビエーン

 律「……スミマセン、コイツこうなると聞かないので……」

 ガイド「じゃあちょうど中間地点あたりなので反対側まで出ちゃいましょうか……」
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 22:48:54.12 ID:c+5+k8k3o

―――南城市(旧島尻郡玉城村)、陸軍病院糸数分室跡(アブチラガマ)


 律「……受付でいきなりヘルメットと懐中電灯渡されたんだけど」

 紬「これは予想外ね……予約してないからガイドさんもいないし……」

 澪「もう壕には絶っっっっっっ対に入らないからな!」

 唯「えぇ〜 澪ちゃんのいけずぅ〜」

 澪「何とでも言えっ!私ここで待ってるから!」





 律(壕に入ったけど…澪は連れてこないで正解だ…マジ怖えぇ……)ドキドキ

 紬(本当に、真っ暗……大丈夫かしら……)ビクビク

 唯(懐中電灯だけじゃ全然見えないよぉ……あ、何かある。順路の看板?)オドオド


ボヤー……

  ┏━━━━━┓  ┏━━━━┓
  ┃破傷風患者┃  ┃脳症患者┃ 
  ┗━━━━━┛  ┗━━━━┛


 唯「うわぁああああ!!!!!」

 律「っっギャァアアアアアア!!何だよこの看板怖すぎ!!」

 紬「早く出ましょう…でも足もとが危ないから気を付けて……」 




―――同じく南城市、おきなわワールド、玉泉洞


 澪「鍾乳洞キレイだなぁ……」

 紬「そ、そうね(洞窟はどうもさっきの壕を思い出しちゃうな……)」

 律「ハブも早く見に行こうぜ!ハブ!(万一にも明かりが消えたらイヤだし……)」

 澪「どうしたんだよ、みんな微妙に口数少ないし早足だし」

 唯「そ、そっかなあ?(だってちょっと怖いんだもん)」
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 22:56:49.70 ID:c+5+k8k3o

―――四日目、糸満市字伊原


 唯「ここが有名な『ひめゆりの塔』だね」

 律「近くにおみやげ屋さんとかいっぱいあるし、ふつーに観光地っぽいんだな」

 紬(さっき一瞬『コミック百合姫』を連想しちゃった……)

 澪「あ、あそこにいるの和の班じゃないか?」



 和「あら?あなたたちの班も来たのね。てっきり遊び倒してるのかと思ったけど」

 唯「ヒドいよ和ちゃん!」






ttp://s.cyrill.lilect.net/uploader/files/201108172253080000.jpg


 唯「むぅ〜……」

 澪「どうしたんだ唯? 難しい顔して」

 唯「私、何だか前にもここに来たことあるような気がする……」

 紬「実は私も、ここというか沖縄に来たことあるような、そんな気がして……」

 律「ないない!みんなで“沖縄初めてだから楽しみ!”って言ってたじゃん。おかしーし!」

 澪「デジャヴだな。二人とも初の沖縄だからってはしゃぎすぎて疲れてるんじゃないか?」

 唯「そっか、そうだよね!私なんか飛行機も初めてなのに。えへへ」

 紬「そうね……私もあちこち行ってるから記憶違いかも」

 律(……っつーことは、自分で言いながら私も結構疲れてるのか……少しはしゃぎすぎたなー)

 澪(とは言ったけど、私も何か違和感が……沖縄とムギの別荘の海の記憶とかと混ざってるのかなぁ)
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/17(水) 23:01:15.94 ID:4nE+XGiDO
>>1は沖縄の人?
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 23:02:38.82 ID:c+5+k8k3o

―――資料館館内、展示室


 唯「時代は違うけど、私たちと同じようなフツーの女の子たちだったんだね……」

 律「なんだかホントに私たちみたいだな。うわ……でも解説がキツい……」


ttp://s.cyrill.lilect.net/uploader/files/201108172258330001.jpg
 <1944(昭和一九)年撮影の集合写真。担任の山城さわ子先生をはじめ21名が沖縄戦で死亡した。>


ttp://s.cyrill.lilect.net/uploader/files/201108172258330000.jpg
 <放課後に談笑する仲良し5人組。のち、沖縄戦で3名が死亡し、2名が消息不明となった。>


 紬「戦争中とは言っても、当時は当時なりに、ささやかな喜びのある日常があったのよね……」

 澪「そう考えると、怖いっていうより悲しいな……」







 唯「うわぁ……説明書きが……」


 “……米軍上陸後、運び込まれる重症患者は日に日に増加し、夜を徹しての手術が行われました。

    手足をもぎ取られた人、銃弾が貫通して血まみれになった人、火炎放射器の炎を浴び皮膚がただれている人など、

    見るも無惨な患者が壕外にあふれ、「早く診てくれ」と叫んでいました。

    重傷を負った手足は切断するしかありませんでした。

    鋸で切り落とされた手足はずっしりと重く不気味でした……”



 澪「…うっ……私、トイレ……っ」ダッ

 律「あ、おい!ゴメン、澪の様子見てくるから!」

 紬「私も、この描写は、つらいわ……」
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 23:09:31.74 ID:c+5+k8k3o

―――第四展示室


 唯「写真がいっぱい……これ、みんな亡くなった人なの……?」

 律「そう、みたいだな…100人、いや、200人はいるか……」

 澪「写真すらない人もいるなんて、ひどい…」

 紬「一家全滅……。何て言ったらいいのか…」



<仲村渠律 沖縄師範学校女子部本科二年(当時十八歳) 宜野湾村出身
 昭和二十年六月二十日 山城丘陵で消息不明


 学徒隊への動員後も、配属された第三外科で、気落ちしがちな友人らを持ち前の明るさで場を盛り上げていた。

 解散命令後、山城丘陵を越える際に砲弾片で重傷を負い、サトウキビ畑の茂みに隠れた。

 水を探しに行った級友らが戻ったときには、すでに茂みは焼き払われていたという。

 両親及び鉄血勤皇隊に動員された弟も死亡したため、一家全滅である。>



<当山澪 沖縄師範学校女子部本科二年(当時十八歳) 宜野湾村出身
 昭和二十年六月二十一日 荒崎海岸で死亡


 澄んだ伸びやかな歌声と長い黒髪が評判の美人で、学園ではあこがれの的であった。

 ただ、本人はたいそう恥ずかしがり屋で、歌の詞を書くのが趣味であった。

 解散命令後、荒崎海岸付近を友人らと逃避行している最中、大波に飲まれ溺死。

 展示室にあるカチューシャは彼女の遺体がかけていた鞄に入っていた、友人の仲村渠律のもの。>



<古波蔵紬 沖縄師範学校女子部本科二年(当時十八歳) 西原村出身
 昭和二十年六月十九日 伊原第三外科壕で死亡


 実家はフィリピンでプランテーションを営む富豪。父は沖縄出身の移民、母は米国系であったが、

 日本式の教育を受けさせたい親の希望で、幼い頃から沖縄の遠縁の斎藤氏に預けられていた。

 富豪を鼻に掛けず気だてが優しく、寄宿舎ではよくお茶やお菓子を友人にふるまっていたという。

 第三外科壕でガス弾攻撃を受け多くの学友、教師らとともに死亡。両親もフィリピン戦線で死亡し、一家全滅。>
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 23:14:12.03 ID:c+5+k8k3o

 澪「……ウッ…グスッ……ウグッ……」

 紬「澪ちゃん……本当に、大丈夫? さっきのこともあるし無理しない方が……」

 澪「ごめん……、ただ、本当に怖かったり、悲しすぎて……わけ、分かんなく、なっちゃいそうで……」

 律「少し、あっちで休もうか……。唯は?」

 唯「んー……、ゴメン。もう少し見てる……」

 律「わかった……あんま、ムリするなよ」

 唯「うん…」


<下地純 沖縄師範学校女子部本科一年(当時十七歳) 那覇市出身 
 昭和二十年五月十一日 南風原陸軍病院で死亡


 にぎやかで朗らかな性格で、学校でも動員後も冗談を言って周囲を笑わせていた。

 陸軍病院動員後は髪が手入れできず、くせ毛がぼさぼさするのを気にしていたという。  

 飯上げ作業中、艦砲弾の破片を受け、その後死亡。

 第三外科の最初の犠牲者となった彼女は、友人の制服を着せられて丁重に葬られた。>
 


 唯「……」


<仲間梓 沖縄師範学校女子部本科一年(当時十七歳) 嘉手納村出身
 昭和二十年六月二十二日 山城丘陵で死亡


 小柄ながらも頑張り屋で、学業も、陸軍病院動員後の看護活動にも率先して取り組んでいた。

 五月、第三外科から糸数分室に配置換えになり、その後、南部に撤退。

 解散命令後は、先輩らと行動を共にしていたが、別れて斬り込みに加わる。

 斬り込みが失敗した後「私は皇国女性だ!殺せ!」と叫び抵抗したため、米兵により射殺。>



 唯「………」


<山城さわ子 沖縄県立第一高等女学校教諭兼師範女子部嘱託 首里市出身 音楽担当
 昭和二十年六月十九日 伊原第三外科壕で死亡


 一高女から東京女子高等師範学校(現御茶の水女子大学)に進学、母校の教師となった。

 歌が好きで、時には生徒の要望に応え、暗い壕の中でも歌って生徒たちを励ましていた。 

 南部撤退の時には、負傷した生徒を介護しながら、伊原まで移動した。

 解散命令直後、第三外科壕でガス弾攻撃を受け、多くの生徒、教師らとともに死亡。>



 唯「…………」


<真壁和 沖縄師範学校女子部本科二年(当時十八歳) 那覇市出身
 昭和二十年六月十七日 山城第一外科壕で死亡


 学園では生徒会長として人望厚かったが、とぼけたところにも好感があった。

 陸軍病院への動員後も、南部撤退から解散命令直前まで、よく学友らの世話を見ていた。 

 伝令からの帰途、山城第一外科壕の入口付近で直撃弾を浴び、即死。

 展示室にある、山城第一外科壕で収集されたメガネのつるの片割れは、彼女のものである。>
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 23:19:10.48 ID:c+5+k8k3o


 唯「生き残った人たちは……どうなったんだろ……」



 和「……以前は、学徒隊の生き残り方が証言員をしていらっしゃったそうよ。

   でも、もうご健在の方もわずかで、しかも百歳前後になってしまわれて、ね」

 唯「あ、和ちゃん。そっか…、そうだよね。すごく昔のことだもんね。

     でも、おばあちゃんたちに、ちゃんとお話を聞きたかったなぁ、って」


 和「そうね……。殉国美談だの、反戦プロパガンダだの、人によっていろいろな言い方もするけど、

     まず自分で知ろうとすることが大切なんじゃないかしら?」

 唯「えーと、プ、プロパンガス?何それ?」

 和「ふふ、唯なりに少しずつ考えていけばいいじゃない。

     じゃあ、私たちの班はこれから摩文仁の平和祈念公園に行くね……」

 唯「うん……」




 唯「…」


<高嶺風子 沖縄師範学校女子部本科二年(当時一八歳) 北谷村出身
 昭和二十年六月二十日 糸満市米須で死亡


 長い黒髪が印象的で、大人しいが芯があり、怒ると意外に怖く、頑固な面もあった。

 本部壕で生徒会長の真壁和らと行動を共にしていたが、

 解散命令後は級友とはぐれ、米須付近を逃げていたところ、砲弾片に当たり死亡。>


 唯「……」


<比嘉エリ 沖縄師範学校女子部本科二年(当時一八歳) 今帰仁村出身
 昭和二十年九月二日 米軍病院で死亡


 学園ではバレーボール部に所属しており、明るくさばさばとしていた。

 六月下旬、荒崎海岸で級友らとともに手榴弾自決を図って重傷を負い、捕虜となる。

 病院に収容後、米兵がくれたコーラを気に入っていたが、治療の甲斐無く傷が悪化し衰弱死。>
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/17(水) 23:24:32.61 ID:c+5+k8k3o



 唯「………この人、本当に私みたいだなぁ……」





<平山唯 沖縄師範学校女子部本科二年(当時一八歳) 那覇市出身
 昭和二十年六月下旬以降 荒崎海岸で消息不明


 柔らかく暖かい人柄と歌声で、彼女自身もその周りにも笑いが絶えなかった。

 持ち前の屈託のない雰囲気で、学園でも動員先でも多くの友人らをなごませていた。 

 解散命令後、荒崎海岸付近を逃避行中、妹の憂とともに手榴弾自決を図る。

 その後、負傷した妹は米軍の捕虜とされたが、彼女の遺体は戦後も発見されず。>






 唯「……目に親し 相思樹並木……」


ふと、展示室に流れている歌を小さく口ずさみます。


 唯(私、なんでこの歌知ってるんだろう…?)

 唯(私には難しいことはよくわかんないけど…)


私はその写真に吸い込まれるように、つう、と指を触れました。


 唯(もし、私たちがあの時代に生まれてたらどうなってたのかな………?)


そんなことを想いながら、目をつぶってみると、

不意に、まぶたの裏に“もう一つの私たち”の姿が、流れ込むように浮かんでくるのでした―――



 “……う〜ん……”

 “…何うなってるのよ、唯”

 “あ、和ちゃん。学徒隊に入ろうかまだ迷ってて……………







                                    ┼ヽ  -|r‐、. レ |
                                     d⌒) ./| _ノ  __ノ


ttp://www.youtube.com/watch?v=Wsn6KmgAP0w
「別れの曲」
作詞:太田博
作曲:東風平恵位
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/08/17(水) 23:43:14.26 ID:miZkZuXAO
超乙です
支援絵でも描きたいぐらいだよ

修学旅行の沖縄でひめゆり資料館行った時のこと思い出した
日本人はもっと過去に目を向けるべきだよな……
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/17(水) 23:45:09.56 ID:c+5+k8k3o

主要参考資料等

1,「ひめゆり平和祈念資料館 ガイドブック」(ひめゆり平和祈念資料館発行)

2,「墓碑銘」(ひめゆり平和祈念資料館発行)

3,長編ドキュメンタリー映画「ひめゆり」パンフレット(資料集)及び同映画(プロダクション・エイシア)

4,「ひめゆりの塔をめぐる人々の手記」(角川文庫)

5,「死者たちの戦後誌 沖縄戦跡をめぐる人々の記憶」(御茶の水書房)

6,「沖縄県の百年」(山川出版社)

7,「21世紀のひめゆり」(毎日新聞社)

8,「ひめゆりの塔 学徒隊長の手記」(雄山閣出版)

9,「ドキュメント沖縄 1945」(藤原書店)

10,「沖縄の島守―内務官僚かく戦えり」(中公文庫)

11,「母と子でみるひめゆりの乙女たち」(朝日新聞出版社)

12,「ひめゆりの沖縄戦―少女は嵐のなかを生きた」(岩波ジュニア新書)

13,歴史群像シリーズ「沖縄決戦」(学研)

14,けいおん!各巻(芳文社)及びけいおん!・けいおん!!DVD各巻(ポニーキャニオン)
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/08/17(水) 23:46:03.27 ID:UT1Ku98AO
>>1
>>106昔ここ行ったことあるけどほんとに真っ暗なんだよな…
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/17(水) 23:47:33.68 ID:CL5cgl7SO
前みた、ジョニーが凱旋とかってのに似てるな
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/17(水) 23:55:03.50 ID:c+5+k8k3o

途中レス下さった方ありがとうございます。なんとか完走できました。

ひめゆり学徒隊というと、非常に有名ではありますが、その一端でも知ろうとするきっかけになればと思います。
和ちゃんに言わしめたように「殉国美談」「反戦プロパガンダ」といろいろ評されることもありますが、
現地に行ったり、参考文献等を読む動機付けになれば幸いです。

特に、生き残りの証言員の方々は、あと5〜10年もすると活動困難になるでしょうから、
資料館を訪問する機会があればお話を伺っておくと良いかと・・・
(実際、そのような危機感が「ひめゆりアニメ・プロジェクト」の製作の契機になっているわけでもあるし)
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/08/18(木) 00:00:19.71 ID:RobIQ2leo

婆ちゃんと沖縄に行ったとき、
ぽつりと『私は空襲だけで良かった』と言ったのが今でも記憶に残ってるわ
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/18(木) 04:02:54.64 ID:fK9x5e0SO
すごく乙でした
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/18(木) 05:34:01.67 ID:CPdYLP8DO
乙!!

とても読み応えがあったよ


…実際にこんな感じのストーリーで映像化したら
戦争の悲惨さを伝えるのに最適なんだろうな
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/18(木) 07:03:57.95 ID:P39igYKZo
>>1です。
ふと読み返したら抜けてる箇所があったので、念のため増補します


>>108
ちなみに>>1は沖縄県民ではないです
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/18(木) 07:07:04.86 ID:P39igYKZo
以下、>>75>>76の間に挿入
--------------------------











―――………ごぼごぼ、ごぼごぼ


夜の海の中は真っ暗だ。

南海の激流が私の体をもてあそぶ。

もう、上下左右の感覚もない。


 (ああ、苦しい、苦しい)

 (律も苦しかっただろうなあ。ごめんな、律)

 (カチューシャも、ちゃんと、返さないと……)


ぼしゅぅぅぅ……ん

迫撃砲弾だろうか。体全体に染みるような重い振動が響く。


 (そういえば、今年は毎年恒例のひな祭りもできなかったな)

 (卒業式もちゃんと挙げてないし、卒業証書ももらってないし)

 (みんなにちゃんとお別れしたかった……)


今の迫撃砲弾で、鼓膜が破れたのだろうか。

急に、海の中が静寂に包まれた。


124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/08/18(木) 07:12:20.43 ID:P39igYKZo
最後になりましたが、感想をくれた方、ありがとうございました。
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/08/18(木) 07:52:21.76 ID:wk4zXxzAO
これは…
乙でした
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/18(木) 08:25:05.73 ID:tRpc1EXIO
面白かった
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府) [sage]:2011/08/18(木) 09:51:25.47 ID:XeqzId2u0
乙でした
俺は右翼だが、右とか左に関係なく、あの戦争がこういう悲惨な結果を産んだこと(それに関わった日本が善か悪かどうかではなく)は伝えていかなければいかんよなあ。
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/18(木) 17:39:26.61 ID:pAqXpY3do
おつおつ!
全部読み終えたけど
これはログ保存しとこう
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/18(木) 18:47:54.31 ID:De4+bqzA0
とてもよかったよ
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/18(木) 22:43:02.51 ID:P39igYKZo


【参考資料をめぐる>>1の雑記】

結局のところ、遺憾ながらSSは創作であり脚色なので、まだ夏休みもあるでしょうし、参考文献も是非どうぞ。


1,「ひめゆり平和祈念資料館 ガイドブック」(ひめゆり平和祈念資料館発行)
  女師・一高女及びひめゆり学徒隊の概略を知ることが出来る。他校学徒隊に関する記述もあり。
  証言が充実しているが、実体験は極めて凄惨である(このSSでは到底比較にならない)。
  市販されていないが、資料館に直接問い合わせると、有償頒布してくれる。

2,「墓碑銘」(ひめゆり平和祈念資料館発行)
  沖縄戦で亡くなった女師・一高女の教師・生徒の一人ひとりの足跡、そしてその最期を紹介したもの。
  「「テンプルちゃん」の愛称で親しまれ」「ブルーマーのよく似合うスポーツマンで」などという表現を見ると
  本当にごく普通の女子校生が戦場にかり出されたのだと痛感させられ、非常に沈鬱な気分になる。
  1,同様、市販されていないが、資料館に直接問い合わせると、有償頒布してくれる。

3,長編ドキュメンタリー映画「ひめゆり」パンフレット(資料集)及び同映画(プロダクション・エイシア)
  元学徒隊員の証言を記録したドキュメンタリー。DVD化はされておらず、自主上映のみであるが全国各地で上映されている。
  観られる機会は少ないので、近場で自主上映していたら、観にいくとよい。
  なお、パンフレット(有償頒布)は映画の内容を文字に起こしたものが掲載されており、単体で読んでも勉強になる。

4,「ひめゆりの塔をめぐる人々の手記」(角川文庫)
  ひめゆり学園の元教諭の仲宗根政善氏の編著による。ひめゆり学徒隊関連の書籍としては最も入手しやすいと思われる。
  書名のとおり、著者及び元学徒隊員たちの、沖縄戦における手記を編集したもの。
  なお、初版は「沖縄の悲劇」という題名であったが、改題した。そのあたりの事情・心情の考察は5,にも詳しい。

5,「死者たちの戦後誌 沖縄戦跡をめぐる人々の記憶」(御茶の水書房)
  沖縄戦の記録そのものというよりも、戦後において“その戦死者を悼む”ということが、
  どのような社会的・文化的・政治的文脈の中に置かれ、どのように生き残った人々が行動したか、を研究したもの。
  元は著者の博士論文を増補したものらしいので、非常に重厚であるが、極めて示唆に富む。
  当初SSでは沖縄戦そのものについても紙幅を割いて扱う予定であったが、これを読んだために、到底無理と悟り、
  ひめゆり学徒隊のあらましを中心にすることにした(けいおん!との関連性をも考えると、それでよかったと思う)。

6,「沖縄県の百年」(山川出版社)
  県民100年史シリーズのひとつ。琉球王朝末期から現代までの近現代沖縄史をまとめたもの。
  教科書然としているがコンパクトにまとまっていて、沖縄及び沖縄戦にまつわる前提知識を得る上では適書。

7,「21世紀のひめゆり」(毎日新聞社)
  元学徒隊員の戦後の活動記録を中心にまとめられた本。様々な苦労が戦後も続いたことが察せられる。
  無論、基地問題等、政治活動に関する記述も多く、読者によっては、政治的な立場の違いから若干げんなりするかもしれないが、
  このような悲惨な戦場体験を経た以上は、平和運動に邁進することは当然の帰結であろう。  

8,「ひめゆりの塔 学徒隊長の手記」(雄山閣出版)
  ひめゆり学徒隊引率者西平英夫氏の手記。構成は4,に似ているが、基本的には西平氏本人による記録が中心。
  この手記は戦後まとめられたものであるが、戦中において記録された「状況報告書」が戦没学徒隊の援護事業に活かされた。

9,「ドキュメント沖縄 1945」(藤原書店)
  見開き2ページで1日分の推移を雑記した、日めくり形式のドキュメント。
  あえて雑然とした構成をしているが、往時の新聞を日々追っているような気分でサクッと読める。

10,「沖縄の島守―内務官僚かく戦えり」(中公文庫)
  戦前最後の沖縄県知事、島田知事と、警察部荒井部長の姿を追ったもの。
  沖縄戦下においても最後まで戦場行政を担った人々の記録。

11,「母と子でみるひめゆりの乙女たち」(朝日新聞出版社)
  1980年の全国巡回写真・資料展をまとめたダイジェスト。

12,「ひめゆりの沖縄戦―少女は嵐のなかを生きた」(岩波ジュニア新書)
  ある学徒隊員の沖縄戦時の回想録。ジュニア新書なので読みやすい。

13,歴史群像シリーズ「沖縄決戦」(学研)
  沖縄戦の戦況の推移に関しては主にこれを参考とし、ウィキペディアも参考とした。

14,けいおん!各巻(芳文社)及びけいおん!・けいおん!!DVD各巻(ポニーキャニオン)
  不要かと思うが、一応言及すると、軽音部員の女子校生のまったりした日常の徒然草。
  そもそも、去年沖縄に行って戦跡を巡ったあと、帰宅して深夜に『けいおん』を観ていたところ、
  ふと、「『ひめゆり』も同じ平仮名四文字の女子校生の記録だというのに、時代と場所が違うだけでこうも違うものか…
  きっと、りっちゃんとかも“夢はでっかく武道館!”とは言っても、そこに程近い靖国や千鳥ヶ淵なんか“何それ?”だろうな…」
  と、やるせなくなり、そして「そう言ってもこうして安閑としている自分も似たようなもんだ…」と非常に憂鬱になったのを覚えている。
  今回、このSSを編んだのも、それが遠因かと思う。
  


以上>>1の駄文でした。そろそろhtml化依頼してきます。

朝も最後と言って蛇足とは思いますが、読んでくれた方、レスしてくれた方、重ねてありがとうございました。
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/08/18(木) 23:07:50.95 ID:P39igYKZo
なお、最後の修学旅行の場面ですが、散華した学友たちが再び集い、
お伽話の中とはいえ、“散じて忘れぬ学窓と 誓いし友垣が集う校庭”が再現され、
平和な時代に時と場所を移して邂逅し、改めて青春を謳歌することができれば、と願った次第です。
もしかしたら、ただの他人のそら似なのかもしれませんが……。

そのあたりの解釈は読み人の個々人にお任せします。
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/19(金) 01:10:43.44 ID:e/rIcw8IO
今ある平和の日々は、かつてあった凄惨な悲劇の上に成り立っているんだな…
けいおんキャラとの対比で、すげえこころに響いた
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/08/19(金) 19:59:34.49 ID:034hAJQbo
>>127
勝てない相手に喧嘩売るもんじゃないってのが正直なとこかと>あの戦争の教訓
地政学上、日本みたいな国は外交駆使して戦わずして勝たないとキツイわ
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州・沖縄) [sage]:2011/08/21(日) 01:21:24.51 ID:kCfHb54AO
沖縄県民としてお礼を言いたい。本当にありがとうございます。PCとか、色々ブログとか見てみるけど「一部の」本土の人が沖縄戦の事を集団自決の事を隠そうとしているのが本当に悲しい。何年か前には教科書問題とかあったしね。出来れば、もう一度沖縄に訪れてみて欲しい。おじぃやおばぁに話を聞いて欲しい。出来るなら案内したい。一度ガマにも入ってみて欲しい。でも一番はどうか沖縄戦のことを亡きものにしないで欲しい。よろしくお願いします。
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/08/21(日) 07:47:54.47 ID:WXlhr+Heo
>>134
「生きて虜囚の辱めを受けず」っていう戦中の皇国教育が引き起こした悲劇だね>集団自決
ただ、当時の感覚では武器渡した方、貰った方どっちも悪意がなかったor米兵の無法もかなりあったってのを理解してないと不毛な議論になりがち。
136 :1 [sage]:2011/08/21(日) 23:56:43.30 ID:qvAhKkcpo

まだ落ちてなかったのか…せっかくなのでまた蛇足

沖縄戦と音楽というと、以下の歌も有名ですね

さとうきび畑
http://www.youtube.com/watch?v=tyB9z2C98tM
島唄
http://www.youtube.com/watch?v=DKB41krUnVU


何事も、是非を論じ、善悪を案じるにしても、人ごとに立場の違いがあるのは致し方ありませんが、
そもそも、歴史を知らないことには考えようもないですし、忘れてしまうというのは、とても寂しいことです。


何も四六時中、眉間にシワ寄せて考えることはないとは思いますが、
時には、歴史の来し方行く末を考える機会があっても良いのではないでしょうか。
過去があって現在があり、現在があって未来があるわけですし・・・

すでにあっちこっちで正体割れているみたいなので白状しますが、去年「ジョニーが凱旋するとき」を題材にしたときは、
正直そこまで深くは考えていませんでしたけれども、あれも歌と小説と別個に史実に題材がありますし。
(戦史ではありませんが野麦峠も歴史という文脈では同じ位置付けといえましょう)

ところで、しばしば「けいおんでやる意味なくね?」と言われるのには反論の余地もないのですが、
"日常系アニメ”のもう一つの姿、ということでご容赦ください。
(さすがに軽音部員らを不要に傷めつけているというのは心外だけど)

しかし、いわゆる"日常系アニメ”なる文脈で、「日常≒ゆるゆるまったり」という図式が成り立つのも、
現代の天下泰平の世の中だからこそで、少し時代が違えば日常なんて決してゆるゆるまったりしてなかった、と。
現代の「日常」を我々も享受してるのを忘れちゃいけないなー、とか思うわけです。
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/08/23(火) 22:59:00.29 ID:XgEtqgyPo
ここは依頼出さないと一ヶ月くらいは落ちないよ
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