【スラムオンライン】ＶＴへようこそ！【ＮＨＫにようこそ！】 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 ：VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage saga]：2011/08/19(金) 01:22:51.68 ID:ch6R+2lA0

Ａボタンをクリック。
俺は、佐藤達弘からサテンになる。


改行による空白が少なめで、見にくいと思います。
ご了承ください。

1.5 ：荒巻＠管理人★(お知らせ) [Twitter]： ID:???

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寝こさん若返る ＠ 2024/05/11(土) 00:00:20.70 ID:FqiNtMfxo
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第五十九回.知ったことのない回２６日１７時 ＠ 2024/05/10(金) 09:18:01.97 ID:r6QKpuBn0
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ポケモンSS　安価とコンマで目指せポケモンマスター　part13 ＠ 2024/05/09(木) 23:08:00.49 ID:0uP1dlMh0
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今際の際際で踊りましょう ＠ 2024/05/09(木) 22:47:24.61 ID:wmUrmXhL0
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誰かの体温と同じになりたかったんです ＠ 2024/05/09(木) 21:39:23.50 ID:3e68qZdU0
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A Day in the Life of Mika １ ＠ 2024/05/09(木) 00:00:13.38 ID:/ef1g8CWO
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真神煉獄刹 ＠ 2024/05/08(水) 10:15:05.75 ID:3H4k6c/jo
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愛が一層メロウ ＠ 2024/05/08(水) 03:54:20.22 ID:g+5icL7To
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2 ：VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage saga]：2011/08/19(金) 01:24:08.60 ID:ch6R+2lA0

六畳一間の狭いアパートで、俺はレバーを握り、ボタンの上に指を置く。ＡボタンとＢボタンを交互に連打。ロードを待つときの癖だ。
俺の目の前にはそう大きくないブラウン管テレビがあって、その中で一人の女の子が立っている。
胸にサラシを巻いていて学ランを羽織り、幅の太いパンツを履き、白いハチマキをした短髪の美少女。
これが、バーサス・タウンでの俺、つまりはサテンだ。

バーサス・タウンとはネットワーク上に存在する架空都市。
俺が、サテンがここにいる理由はたった一つ。
戦うこと。
だから今日も、ログインログアウトに戦績のセーブができる一丁目から、闘技場のある二丁目へと向かう。
現実世界の時刻は午後十一時。バーサス・タウンが盛り上がり始める時間だ。
ここはリアルな世界とは違う時間が流れている。
学校や仕事のある時間には閑散としていて、人々が眠るころに一番の盛り上がりを見せる。

Ａボタンでガード、Bボタンでパンチ、Ｃボタンでキック。レバーとボタンを同時に操作して多彩な技を繰り出す。
そうしてひたすら木偶を相手にコンボの練習をする。それが俺の日課だった。
二ヵ月後には第二回町内一武闘会がある。
バーサス・タウンで一番を決める大会。住人の誰もが出場し優勝することを夢見る大会。
俺ももちろん出場し、優勝をするつもりだ。サテンにはそれだけの実力があると信じている。

3 ：VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage saga]：2011/08/19(金) 01:26:52.68 ID:ch6R+2lA0

＞ＶＴ四天王のひとりがやられたって話

＞だれだ？

＞９６３

ふと他のプレイヤーのチャットが目に入る。それが気になった俺は、一旦手を止めてそれを見守ることにした。他のことに集中しながらでもコンボ練習はできるけれど。

＞蛇形拳使いなんだろ？　たしかＶＴ四天王のひとりにもいたよな。そいつじゃないか？

＞戦い方が違うってさ

＞んなもん一戦しただけでわかるかよ

＞そりゃそうだけど

ＶＴ四天王。
蛇形拳のパク、カポエラのキース、鷹爪飜子拳のタナカ、柔術の９６３。
誰もが強いという四人のキャラクター。勝手に呼ばれ始めて定着した名前だ。
蛇形拳のパクは特に強く、第一回の町内一武闘会をほとんどダメージを受けることなく優勝したらしい。
現在バーサス・タウンのプレイヤーの誰もが目標にしているキャラクターたち。

＞三丁目で歩いている強いキャラクターを辻斬りするらしい

＞ますます嘘っぽい

いつの間にかサテンはコンボ練習を再開していて、先ほどまでチャットをしていたキャラクターはもういなかった。
それから現実世界で昼になるまで闘技場で戦って、バーサス・タウンの一日を終える。
現実世界で寝る。起きる。バーサス・タウンにログインする。それが今の俺の生活だ。

4 ：VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage saga]：2011/08/19(金) 01:29:42.09 ID:ch6R+2lA0

昼、寝る。夜、起きる。バーチャルな世界へログイン。昼までプレイ。昼、寝る。以下繰り返し。
それが今の俺の生活で、ようするに俺はダメ人間だった。
大学を辞めて早四年目に突入。
ひきこもりで、ニートで、ゲーム廃人だった。
ひきこもり、ニート。そのどちらかの特性を持った人間は、今やこの日本に何百万人といる。
道を歩けばそこらにいるのだ。ひきこもりは道を歩いてはいないのだけれど。
外出は週に一度、コンビニに食料を買い出しに行くときだけ。
俺はここ最近、ほぼすべての時間をバーサス・タウンに費やしている。
時間とは有限のリソースだ。そのリソースをバーチャルな世界に費やせば費やすほど、リアルな世界では俺のような人間に近づくことができる。
すべてはあなた次第。ネットゲームを止めるも、人間を辞めるも、自由なのだ。

リアルな世界とバーチャルな世界というのは、実はそんなに違いがない。と俺は思っている。時間の差は確かにあるけれど。
特にバーサス・タウンなんかは、最新技術で本物の格闘家の動きをモーションキャプチャしたものを使っており、どの攻撃もリアルな世界でマネできるものになっている。もちろん、ある程度の身体能力がないとできない。
職業の代わりに門派がある。サテンはカラテ使いだ。
極端な話、現実世界でもそこら辺のサラリーマンとストリートファイトを繰り広げることだって可能だ。

以上のことを踏まえて、俺は現実世界とバーサス・タウンにたいした違いはないと決めつけた。
ではなぜ俺がバーチャルな世界に生きているかというと、目的があるからだ。
もともとひきこもりニートでコンビニ店員以外と話す機会のなかった俺には、リアルな世界での目的など存在しなかった。だから目的があり無駄な努力にも意味を見出せるほうを選んだ。それだけだ。

5 ：VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage saga]：2011/08/19(金) 01:31:55.62 ID:ch6R+2lA0

それでも、どうしても考えてしまうことがある。
どうしてこうなってしまったのだ、と。
今までそれなりに生きてきて、それなりに恋もして、そんな俺が立派なダメ人間になった。
どこでどう間違ってしまったのだろうか。
ある日突然周りの人間から意味のわからない嘲笑を受けた。誰かの声に怯えながら生きていた。怖くなって家にひきこもった。
世の何百万人のダメ人間に聞いてみたい。あなたたちはどうしてダメになってしまったんだ。

彼らの過去を想像しているうちに、ふと、ある集団の影を見た。
俺を笑った人間たち。俺たちに暴力を振るったり、悪口を言ったり、無視をする人間たち。
それらになんらかの影を、なんらかの何かを垣間見た。
やつらは似たような手口で俺たちをダメ人間へと追い込んでいく。あまりに手際が良い。
ひょっとしてやつらは、俺たちをダメ人間にするために派遣されたエリートなのではないか？
その考えは、俺を戦慄させた。
俺たちはひきこもりニートになってしまったのではない。なるべくしてなったのだ。やつらの手によって。

俺はさらに妄想を加速させる。

一人につき派遣されたエリートは一人じゃない。数人、あるいは十数人のときもある。
今現在ひきこもりニートは百万人といる。エリートはその何倍もの数になる。
それらをまとめあげる組織。悪の巨大組織。そうか！
俺は気づいてしまった。
これは陰謀だ。悪の組織の陰謀なのだ。
敵は多対一で攻めてくる。俺たちに勝てるはずもなく、ダメ人間は量産されていく。

6 ：VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage saga]：2011/08/19(金) 01:34:16.11 ID:ch6R+2lA0

俺はさらに妄想を加速させる。

一人につき派遣されたエリートは一人じゃない。数人、あるいは十数人のときもある。
今現在ひきこもりニートは百万人といる。エリートはその何倍もの数になる。
それらをまとめあげる組織。悪の巨大組織。そうか！
俺は気づいてしまった。
これは陰謀だ。悪の組織の陰謀なのだ。
敵は多対一で攻めてくる。俺たちに勝てるはずもなく、ダメ人間は量産されていく。

「よく気がついたな、サトー」

ブラウン管の中の美少女が、サテンが俺に告げる。

「そうだ。悪いのは全部やつらだ」

「サトーさん、サトーさんは悪くないよ」

「やつら妨害工作員が、サトーさんの外出を妨害していたんだよ」

レバーが、ボタンが俺に向かって話す。

「やはりそうだったか」

すべては陰謀だったのだ。
俺は現実世界でひたすら木偶を相手に殴りかかっていたのだ。勝てるはずがない。木偶は絶対に倒せない。

7 ：VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage saga]：2011/08/19(金) 01:36:54.74 ID:ch6R+2lA0

テレビ画面が切り替わった。ニュースの時間だ。
敵は、巨大組織の名前はなんなのだ。

「ＮＨＫは皆様の受信料によって運営されております」

画面が再びバーサス・タウンへ切り替わる。

「ＮＨＫ、それがやつらの、お前が戦うべき相手だ。サトー」

サテンはそう言った。
Ｎ・Ｈ・Ｋ。彼女が言う組織が日本放送教会でないことは明らかだ。
ではこの三つの単語は何を意味しているのか。
Ｎは日本、Ｈは……。そうか。
わかったぞ！
Ｎは日本、Ｈはひきこもり、つまり。

「ＮＨＫとは、日本ひきこもり教会の略なのか！」

そうして俺の現実世界での戦いが始まった。
勝てるかどうかはわからない。けれど絶対に戦って戦って戦い抜いてやる。
死ねば負けだ。だから俺は死なない。ＮＨＫに勝つまでは。
どうしても死にたくなるときはあるけれど。

本日の戦績。三十六勝〇敗。

8 ：VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage saga]：2011/08/19(金) 01:39:48.10 ID:ch6R+2lA0

その日も俺は、バーサス・タウンに入り浸っていた。
隣室からはアニメソングが聞こえる。
「もしも明日この世界が終わるとしても」なんて、とんでもない出だしから始まった。
すでに朝。普通の学生ならば学校が、社会人ならば仕事が始まる時間帯だ。
そんなんじゃ遅刻しますよと言ってやりたい。近所迷惑だ。
もっとも、最後に話したのが先週でしかもコンビニの店員、その前が先々週でコンビニ店員、以下略である俺にそんなことができるはずがない。
ＢＧＭとして聞き流しておこう。

「あのう、すみません」

カップラーメンを食べようとしていたとき、オバサンのような声が聞こえた。
そこで初めて、呼び鈴が鳴っていたことに気づく。

「ああ電気、電気ね。払いますよ。えぇ今すぐに――」

そこからのことを、俺はあまり語りたくない。


Ａボタンをクリック。
俺はサテンになる。バーチャルな世界のサテンには、リアルな世界の佐藤の影響はない。俺がどれだけ落ち込んでいようが、サテンのコンボは華麗に決まるし、その表情はいつもと変わらない。
今日は闘技場がにぎやかだ。ＶＴ四天王のタナカが来ているらしい。タナカと戦うための順番待ちが発生している。

9 ：VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage saga]：2011/08/19(金) 01:42:19.60 ID:ch6R+2lA0

俺も戦いたいとは思ったけれど、何十人もの列に入るのはごめんだ。
だから少し、今日の、リアルな世界で佐藤に起きたできごとを思い返すことにした。


オバサンの声だから電気料の徴収ではないかもしれない、と思った。
玄関のドアを開けてみると、いかにもなオバサンと日傘を差した若い女の人がいた。宗教の勧誘だった。

「お忙しいところ申し訳ありません。わたしども、このような冊子をお配りしているのですが――」

目を覚ませよ！
どるあーがの塔

という冊子を渡された。表紙は、

若者を襲うひきこもり。あなたは大丈夫ですか？

それから俺は。ああ、ああ。
必死に必死に、自分がひきこもりであることを否定した。そのときの俺は、誰がどう見てもひきこもりのニートだった。
あまりの必死さに恐れをなしたオバサンは俺が喋りつくす前に退散した。一緒にいた女の人が、最後にこちらを見た。
サテンによく似た娘の笑顔だった。可愛かった。俺を嘲笑していた。

10 ：VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage saga]：2011/08/19(金) 01:45:57.71 ID:ch6R+2lA0

何もかもが嫌になって死にたくなったけれど、夜になったのでとりあえずバーサス・タウンにログインした。
そして今に到る。
一旦手を止めて個室から出る。
そこでは、鷹爪飜子拳のタナカと謎の蛇形拳使いの戦いが繰り広げられていた。

＞おいあいつなんだ？

＞すげえタナカとまともに戦えてる

実際、蛇形拳使いは相当強かった。
何より投げ抜けの精度が素晴らしい。タナカがしかけた何回かの投げ技を一回しかくらわなかった。
投げ抜けとはその名の通り投げ技に対するものだが、これがまたタイミングが難しい。
パンチやキックでフェイントを入れながら、ときにはノータイムで入力される投げ技を、百パーセントの成功率で投げ抜けするのは無理だ。
それをこの蛇形拳使いは、九十パーセント以上の確立で成功している。ＶＴ四天王を相手に、だ。
投げ技が使えないというのは、結構つらい。ジャンケンでいえばグーとパーしか出せないようなものだ。
タナカは追い詰められていく。そして、負けた。

＞うお、タナカに勝ちやがった

一気に闘技場がふきだしであふれる。

11 ：VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage saga]：2011/08/19(金) 01:48:19.12 ID:ch6R+2lA0

タナカに勝った。マジで？　相手は？　知らん。蛇形拳使いだ。何者？　パクじゃない。投げ抜けＹＡＢＥＥＥ。タナカだって負けることくらいあるだろ。もしかしてあれか、噂の辻斬り。新参者が勝ったんだぞ？　お前らふきだし自重しろ。なになにー、何があったの？

辻斬り。三丁目に現れる辻斬り。最近噂になっている、上級者にストリートファイトを挑み、今のところ負けなしの蛇形拳使い。
確かにその可能性はあった。

それはタナカだって、一日に何十回としていれば一回くらいは負けることがあるだろう。だというのにこれだけ盛り上がるのは、第二回町内一武闘会が近いからだ。
新参者にやれるなら自分でも、と誰もが考える。もちろん俺も。

＞もう一度手合わせ願えるかな

＞ごめん。もう眠いから落ちる

タナカの再戦の申し出を、蛇形拳使いは断る。言葉どおりすぐにログアウトした。
時刻は午後十一時十分。
バーサス・タウンがようやく活気付く時間帯だ。そんな時間にログアウトするなんて。
あの蛇形拳使いは、もしかしたら小中学生だったのかもしれない。
そう思いながら、俺は闘技場でいろいろなキャラクターと戦った。
結局、タナカが負けたのはその一度きりだった。

本日の戦績。八十九勝一敗。

12 ：VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage saga]：2011/08/19(金) 01:56:38.66 ID:ch6R+2lA0

ここで一旦終了。ある程度書き溜めができたら続きを投稿していきます。

当ＳＳの元ネタとなる作品を知らない方向けに、簡単に説明します。

『ＮＨＫにようこそ！』は、佐藤達弘二十二歳無職男ひきこもりが、エロゲーを作り、カウンセリングを受け、ＮＨＫ（日本ひきこもり教会）と戦いながらひきこもりを脱出しようと試みる作品です。
『スラムオンライン』は、ネトゲ廃人半歩前の坂上悦郎が、バーチャル世界のバーサス・タウンで最強を目指しながら、リアル世界やバーチャル世界とかヒロインとの関係とかを考えていく作品です。


ひきこもりとネトゲ廃人ってぴったりじゃないか！　というのがクロス作品を書こうと思い立った理由です。
が、実は、ひきこもりネタは『エキストラ・ラウンド』（スラムオンラインの後日談）ですでに使われていたネタでした。
やっぱり誰もが考え付きますよね。

ここまでのところ、完全に原作をなぞっているだけになっています。
今後もそうなってしまうかもしれません。そこはなんとか頑張って考えたいのですが、無理そうだったら書くのをやめます。
原作読んで妄想すれば早いですからね！

そういうわけで、続きは二週間後あたりになると思います。三週間経ってもどうしようもなければ、そのままＨＴＭＬ化依頼してきます。