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一方通行「俺が一生オマエの面倒見てやる」番外個体「……うん」2 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/08/21(日) 18:31:40.04 ID:Zk4zZ5Rv0

番外個体「ってなワケで、今日からお世話になります!」一方通行「……はァ?」


前編
http://ex14.vip2ch.com/news4gep/kako/1284/12841/1284110670.html

後編
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1289/12899/1289901654.html


前スレ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1300528620/


上記の続編になります

『とある魔術の禁書目録』の二次創作です
キャラ崩壊注意
誤字、脱字も多く見受けられるかもしれません
更新ペースは呆れるほど遅い上にダラダラ進行です


番外通行が好きな方にとって少しでもお腹の足しになれば幸いです
但し結構物語重視の傾向にあるので、単純な番外通行のイチャイチャだけを求めてる方にはあまり
オススメできないかもしれません。予めご了承を
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佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
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全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
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君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
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笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
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トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713798788/

【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713788018/

ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713736565/

2 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/08/21(日) 18:32:31.54 ID:Zk4zZ5Rv0


前スレの>>3より追加


・浜面仕上……学園都市帰還後、旧アイテムメンバーと平穏な日々を送っていたが、その平和も新入生に襲撃されて
        崩壊する。学園都市の『危険因子』とされている彼に安息が訪れるのはまだ早すぎたようだ。

・滝壺理后……浜面仕上とは学園都市から帰還して恋人同士になり、同じく幸せに時を過ごしていた。
        新入生の襲撃により重傷を負い、現在も意識不明の昏睡状態に陥っている。        

・麦野沈利……ロシアで浜面たちと和解し、もう一度彼らとやり直す決意と以前自らで手にかけた仲間のフレンダに
        対する贖罪を胸に生きていたが、新入生に計画の協力を要請される。
        無論拒否したが、相手側の強引な方法と仲間を傷つけられた事に怒りを覚え、新入生とそのバック
        に控えている上層部内の反逆者を叩き潰すと心に秘める。

・絹旗最愛……新入生の頭役を担っている人物と深い因縁を持っている。
        故に、今回の件は自身の手でケリをつけなければならない問題だと、どこか背負い込み過ぎな信念
        を抱く。原因は襲撃前にその人物と会っていたにも関わらず、未然に防げなかった事もおそらく含
        まれているのだろう。

・結標淡希……新生『アイテム』と手を結び、いよいよ学園都市そのものを敵に回し始めている一方通行の力になる
        ことを決意する。別に一方通行に想い入れがあるわけではなく、ただそうでもしなければ彼女の気
        が済まないだけだ。

・黒夜海鳥……絹旗最愛同様、『暗闇の五月計画』被験者。現在は暗部勢力の新参にして最大の組織、『新入生』の
        指揮を任されている。学園都市の歴史をも変える計画を成功させるため、様々な方面に協力要請を
        したりと、行動力に抜かりがない。

・食蜂操折……常盤台中学に在籍するもう一人の超能力者。能力名は『心理掌握』。
        新入生からの勧誘に了承したものの、その真為は定かではない。御坂美琴とは交流を持たないが、
        彼女が自分を苦手としているのは充分に理解している。
3 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/08/21(日) 18:33:59.69 ID:Zk4zZ5Rv0


―――



病院をバックに走る浜面仕上。
滝壺の綺麗で安らかな寝顔を頭の中に残したまま、彼は仲間のスキルアウトが待機している地点を目指して疾走していた。

新たな情報、それもこれまでで一番の有力な情報を掴んだのだ。


『フレメア=セイヴェルンが脱走した』という情報を。


連絡を受けた時、耳を疑った。
詳しい話は合流時に聞く予定だが、何でも『新入生』と思しき謎のグループの人間同士が会話している所を仲間が偶然聞いて
しまったらしい。会話の内容は『フレメアという少女』、『今朝未明に見張りの隙をついて逃亡した』、『現在行方を捜索中』
とのことだ。

天の恵みのようなこの連絡に浜面は血相を変えた。
ついに、均衡を保っていた状況が転化する。否が応にもそう予感してしまう。
感情を昂ぶらせたまま、浜面は連絡をくれた仲間の乗っている車が路上に停車しているのを見つけ、勢い任せに飛び乗った。


事実を確認する。

フレメアはこの街のどこかを今も逃げ回っている。
4 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/08/21(日) 18:36:05.04 ID:Zk4zZ5Rv0


過失による逃亡のため、『新入生』側も全力で彼女を追っている。

付近の学区内にいる可能性が高い。


仕入れた情報はたったこれだけだが、浜面にとってはこれだけでも大収穫だった。


「こいつはチャンスだ……。俺達にもやっと運が向いて来やがった……。絶対に、ヤツらより先にフレメアを見つけて保護するぞ!」


闘志を漲らせる浜面に、郭や半蔵を中心としたスキルアウト時代の同胞たちの士気も上がる。
突然に訪れた正念場をものにできるか。全てはフレメアの動向に懸かっていた。



―――



風紀委員第百七十七支部所属の証である腕章を巻いた常盤台中学一年、白井黒子。
時間帯が夕刻間近ともあり、犯罪発生率は比較的高い。中でも特に危険指定区域に定められているコースを彼女のような敏腕風紀委員
が巡回することで、多くのトラブルは未然に防げるのだ。
そう、例えばカラオケボックス周辺やらゲームセンター入り口前やら、目を光らせるべき所はキリがないほどにある。

だがこの日、いつも回っているはずのゲームセンター入り口前で何故か彼女は立ち止まっていた。
その目線はセンター内でアーケードゲームに熱中している少年一点に集中している。
5 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/08/21(日) 18:37:09.75 ID:Zk4zZ5Rv0


少年が外から凝視している黒子に気づいて入り口前まで出てきてくれるまで、黒子はその場に佇んでいた。
彼はどうやら複数の学友と一緒らしく、何となく黒子の方から近づくのは躊躇われる状況だったのだ。

五分。いや、十分は経ったかもしれない。
とにかく少年が気づいてくれるまで見つめ続けていた。我ながら少々異常だったと、一応後で反省したらしい。


「よっ、白井! お前もゲーセンとか来るんだなぁ……」


何やら勘違いをしているようなので、腕章を誇示してから否定する。


「警邏中ですの。貴方がたのような学生がハメを外しすぎないよう、風紀委員も警戒運動を実施してますのよ」

「そーなのか、大変だな」

「ですから、くれぐれも問題は起こさないでくださいね。上条さん」


ありきたりな返事をする少年、上条当麻に警告をぶつける黒子。
この少年が事件に巻き込まれやすい体質なのは既に承知済みだ。だからこそ、念を押すような言い方にもなる。


「ははは、なるべくなら上条さんも平和に生きていきたいですよ……。なるべくならね」

「人生を諦めたように笑わないでくださいな。そんなことでは幸せが逃げる一方ですわよ?」
6 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/08/21(日) 18:39:38.55 ID:Zk4zZ5Rv0


「正論なだけに言葉の返しようがないな。ところで、警戒運動実施って言ってたけど何かあったのか?」

「あまり話したくはありませんが……、不審事件が最近この地域を基点に相次いでますの。詳細はわたくしも知らされていませんわ。
 ただ治安が芳しくないとしか……」

「漠然としてるな……。スキルアウト関連とか?」

「それだけなら伝達が入るはずですの……。まぁ、上層部からの指示で警戒を強化している以上、怠惰は許されませんわ。上条さんも
 充分に気をつけてくださいまし」

「あぁ、サンキューな。……っと、やべっ。悪い白井、俺そろそろ戻るわ」

「えぇ。こちらこそ、遊戯中お邪魔して申し訳ありませんの」

「ははっ、大丈夫さ。仕事はいいけど、お前もあんま無理はすんなよ。そんじゃまたな」


ふと上条の目線を辿ってみると、店内から様々な感情のこもった顔ぶれがこちらを凝視していた。おそらく上条の連れだろう。
気まずそうに仲間のもとへ帰っていく上条の姿を眺めて微笑し、黒子も警邏へ戻った。

その道中、上条の連れと思しき男女の中に見覚えのある顔が混じっていたことに気づく。


(やけにお姉様とそっくりな顔の女性がいたような……? それに、その女性の隣りにいた白髪で杖をついた男………)


以前、迷子の打ち止めを引き取っていった凶悪人相と一致した。
あの目立つ外見と強烈な威圧感は、忘れようと思っても中々忘れられるものではない。
7 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/08/21(日) 18:40:44.08 ID:Zk4zZ5Rv0


(…………見なかったことにしておきますか)


今もあの男については謎のままだが、何故だか知ってしまってはいけないような気がする。
顔つきは悪印象だが、風紀委員として看過できない事件でもやらかさない限りは近づくのを極力避けたい。
君子危うきに近寄らずという言葉を頭の中で唱えた黒子は支部までの帰路を辿り始めた。

特に何事もなく今日が終わりそうだ。そう信じつつあった黒子だが、真横のビルとビルの隙間で蠢いた“何か”を目撃して足を
止める。


(ん……?)


黒い布を被ったような、得体の知れないものが薄暗い路地裏へカサカサと移動している。
犬や猫が布を被っているにしては少々大きい。


(何ですの? あれは……)


好奇心に駆られ、その物体へと近づく。しかし不規則に蠢く“黒い布”は更に奥へと進行を開始した。
黒子も自然と後を追う。捕まえようかとも思ったが、あまりにも不気味だったために黙って尾行することにした。
一直線の道を一定の距離を保ったまま進んでいく両者。すでに表通りからの光は届かない。

そして、道は壁によって阻まれる。
8 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/08/21(日) 18:41:36.43 ID:Zk4zZ5Rv0


「もし、そこの貴方!」


意を決し、黒子は行き止まりで往生している“黒い布”に声を掛けた。


「わたくし、風紀委員ですの。失礼ですが職務質問させてもら……」


「――――――にゃあ」


台詞が途中で止まってしまったのは、布の中から遮るような声が聞こえてきたから。
一瞬猫かと思ったが、すぐに否定する。いくら何でも、人間の声による鳴き真似と本物の猫声ぐらいは聞き分けられる。


「……誤魔化してるつもりですの? まずはその布をとって、顔を見せなさい」


冷静に、強気に警告するが相手側からの反応はない。
何やらモゾモゾしている辺り、どうすればいいか判らずにうろたえているようだ。

やがて、痺れを切らせた黒子は自ら動くことにした。


「ああもう! 世話を焼かさないでくださいな! さっさと顔を――――――」
9 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/08/21(日) 18:42:06.00 ID:Zk4zZ5Rv0


布を掴み、一息で引っ張る。
簡単に布は地面を離れ、隠されていた中身が露となった。


「――――――って、あら………?」


その中身の意外さに、黒子はまたも素っ頓狂な声を上塗らせた。


「にゃあ」


布の中身、もとい透き通るような金髪が特徴の幼い少女はさっきと同じ声質の鳴き真似を発する。


「……?」


風紀委員活動に真面目な白井黒子と、小汚い布を纏って人目を避けるように蠢いていたフレメア=セイヴェルンは互いの顔を
見合わせたまま硬直し、もう一度フレメアが「にゃあ」と鳴くまでその沈黙は終わらなかった。


10 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/08/21(日) 18:42:39.88 ID:Zk4zZ5Rv0


・フレメア=セイヴェルン……旧アイテムメンバー、フレンダの実妹。
               浜面仕上が崇拝していたスキルアウトのリーダー、駒場利徳に可愛がられていた。
               浜面たちが襲撃を受けた同日、保護されていたスキルアウトの巣窟が新入生に襲撃
               され、自身は誘拐されてしまう。
               だが、隙をついてとうとう脱出に成功した日――――――。



「にゃあ」


「………にゃあ、ですの?」





――――――そこから、物語は大きく動き出す。
11 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/08/21(日) 18:45:06.74 ID:Zk4zZ5Rv0
今回は以上になります
一応このスレで完結します
次回はまた遅くなるかもしれませんが、気長に待っててくれると幸いです

ではまた
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/08/21(日) 23:21:24.07 ID:lbuUkJqWo
あわきんは「座標移動」だったよな?
13 : ◆jPpg5.obl6 [sage]:2011/08/22(月) 01:15:06.44 ID:3/EKXf2F0
>>12
え?と思って見直してみたら本当にそうなってた……
ごめんなさい凡ミスでした
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/22(月) 01:19:31.10 ID:fQ8p1PZSO
ドンマイそしてスレ建乙

ですのフレメアかww
これは予想外だった
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/22(月) 18:48:59.43 ID:OpPRHC9n0
   ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
   ┃    Q 初春飾利(ういはる かざり)とはーー     ┃
   ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
         t─v‐ァく {`ヾ⌒)く^☆´レ-ァ
      __ハrvくjムト' > O 、_}´/~Yヽjヘ
        」 [ 0 ] ☆| {_人_,ノ、}‐Oく::::::',  ←頭にお花という、時代の最先端を行くオシャレ
      ☆ヘムフ^::::|:レi::⌒ヽ人|☆ヘ.ソヽ:ハ
     /:::´::::::::|:::|:::|:| ||::::::|:l::::|:ヽ::::::::ヽ/::::iハ  ←『守護神』の名を持つに相応しい頭脳
      /:/::::::::::|」:::W|! |!:::::ハ厂|::::i:::::::::::i::::::|
      |/|::i:::::´Nァ=、  l!⌒ァ=ミx:|:::::::::::|::::〈  ←絶妙に外側にはねている髪の毛
      |人:::: |〃7ハ     7ハT::::::::::l::::ト\
        ヽ:lハ r':::}    r' :::::}:|::/::/:厂>一  ←つぶらな瞳
.          ∠::;代ソ   弋zソ 7イ{/::::!:i
           j八    、 ,    . イ:|:::::ノN  ←『飴玉を転がしたような甘ったるい声』
             /_>''´ ̄|-;<ヽト-<:ヘ{
            {_,. -─‐|7 /⌒ヾー一  ←華奢で小柄な体型
           ∧ /  r┴<ノ/   、}
              Y´ろ {ミ  }厶--、 〉  ←能力は保温。冷まさないし、温めない
            `ヽ \ ハ  Y /T′
.           / ̄八_,ノ.八___/ ト、  ←似合い過ぎてるセーラー服
      r─ 、ゝ⌒ヽ 厶イ⌒    〉
  r──┴一´: : : : : :\____/ヽ__  ←安産型のプリプリしたお尻
  |`ヽ: : : : : : : : : : : : : / : : : : { : : : :`ー 、: ヽ
.   \ハ: : : : : / : : : : / : : : : : 、 : : : : : : : : >一ァ  ←捲られても中は見せない、夢が詰まった鉄璧スカート
.       \: : / : : : / : : : : : : : ヽ : : : : : : : : :/

   ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
   ┃        A. 可愛すぎワロタ               .┃
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/23(火) 01:09:51.34 ID:TZmssRa/0
>>15
可愛すぎワロタwwww

ですのとフレメアの絡みとか新鮮だな
完結までついていくぞ
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/25(木) 03:11:48.08 ID:0+qVFOeg0
お、ニスレ目いつの間にか建ってた!

てか食蜂wwww
ボンバーランスが萎縮しちゃってるぞ
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/08/28(日) 01:55:17.75 ID:XYiYNVtAO
やっと追いついた! 2スレ目期待してます!
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/28(日) 23:02:48.54 ID:NDi7Y5tSO
続きが待ち遠しくて俺のボンバーランスが(ry
20 : ◆jPpg5.obl6 [saga]:2011/08/29(月) 20:39:03.01 ID:4kSFMwbZ0
お待たせ(?)してます
続き更新に参りました
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/08/29(月) 20:39:44.50 ID:j2fh+T0Jo
きたあああああああ!!!!!!!
22 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/08/29(月) 20:40:05.06 ID:4kSFMwbZ0


―――


できるだけ多くの仲間に声を掛け、フレメア=セイヴェルンの捜索に没頭する浜面仕上。
日も落ちて焦りも生まれていた。せめて警備員等が先に保護でもしていてくれればまだ幸いだが、治安の悪さに定評のある
学園都市内で幼い少女、それも現在進行形で追われている身では悠長に構えてなどいられない。

そして、手掛かりを掴むのにもはや手段を検討するほどの心の余裕もなかった。


(………やっぱり、また捕まっちまったのか……。………いや、まだわからねぇ。人の目の届かない場所に身を隠している
 だけかもしれねぇ。……だとしたら、闇雲に捜し回ってても簡単にはいかない、か……)


完全下校時刻も過ぎ、イルミネーションが点灯され始めた街路地で息を切らせる浜面。
後ろから彼同様に疲弊した様子の半蔵や郭が合流してきた。
隠密行動に優れた彼らでも、広範囲内で人間一人を目撃情報無しで捕捉するのは困難らしい。


「くそ……何処にいるんだ……。まさかとは思うが、やっぱりガセだったんじゃねえのか?」

「は、半蔵様!? それじゃ私達は無駄骨を折らされたってことですかぁー!?」


郭が愕然とする中、冷静に額の汗を拭った半蔵は浜面の意見も求める。
23 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/08/29(月) 20:41:39.36 ID:4kSFMwbZ0


「………俺は、もう少し捜す。たとえガセだったとしても、連れ戻されたんだとしても……こんな気分のままじゃ帰れねえよ。
  お前らはどうする?」

「……だと思ったぜ。んじゃ、もうちっとだけ頑張ってみるか」

「やれやれ。ココ最近の浜面氏は真っ直ぐと言いますか……情報収集はあまり得意じゃないんですが、そこまで魅せられたら
 こっちにも伝染しそうですね」


浜面らしい答えに二人は心を打たれ、浜面も二人の気持ちに純粋な感謝の意思を示した。


「……ありがとう」

「もちろん、今も嗅ぎ回ってくれてる奴等も同意見だってよ」

「…………」


心の中の鬼が消えた今になって思う。
自分が彼らにどれだけ甘えていたのかを。そして、そんな自分にすら気づけなかった事に対する愚かさを。
後悔しても、し足りない。半蔵たちにどう詫びたら良いのかも思い浮かばない。

だが、今自分は何をするべきなのかだけは何となく見えている。

賠償や苦言は後で好きなだけ償うなり漏らすなりすればいい。
今はただ、前も足下も見据えて自分が決めた事を実行するまでだ。
24 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/08/29(月) 20:45:59.76 ID:4kSFMwbZ0


そのためならどんな苦労でも厭わないし、誰に頭を下げても構わない。

憎むべき相手を、もう間違えたりはしない。


再び捜索に消えた半蔵と郭を見送った後、浜面はスッと携帯電話を取り出した。
できるなら掛けたくはなかった番号を、メモリの中から検索する。

一呼吸置き、その番号へ掛けた。


「………っ」


緊張のコール音が続く中、ついに求めていた音声が耳に届く。


『――――ちっ……。オイ、何の用だ?』


物凄く不機嫌そうな声色だったが、どうやら本人のようだ。
声の感じからするに、あまり良ろしくないタイミングに電話してしまったのだろうか。
やっぱり掛けるべきではなかったか。と浜面は僅かだけ後悔したが、もう遅い。


『どォした? 用があって掛けてきたンじゃねェのか? 返事しろ』


電話の相手が焦れた声で喋りかけてくるので、浜面は肝を据える。
そして用件を伝えた。
25 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/08/29(月) 20:47:04.14 ID:4kSFMwbZ0


「………一方通行か? 昨日話した子、フレメアが脱走した。今俺達で懸命に捜してるところだ。……急で悪いんだが、
 手を貸して欲しい」

『なンだと……!? そりゃ―――――ちょ!? オマ、やめ……っ!』

「……!? おい、どうした!?」

『はァァ!? 豪快な勘違いしてンじゃねェ!! 大体電話相手イコール女だなンて法則、聞いたことねェぞ!!』


何やら向こうで言い争いが起きているようだ。
『ミサカってモンがありながらまた他の女に連絡取ってるの!? あなたがそんなタラシだとは知らなかったよ!!』と
いう若い女の罵声が聞こえ、それに対し一方通行が『だから女じゃねェって言ってンだろォが!! 酔っ払いは大人しく
寝てろ!!』と負けずに言い返している。結構声量が大きく、浜面はその場にいないにも関わらず何だかその光景が想像
できてしまい、耳を塞いだ。自分の電話がきっかけで勃発した言い争いは激しさを増し、とても話ができる状況ではなく
なっていた。

どうやら非常に悪いタイミングで掛けてしまったらしい。
後で掛け直そう、と気を利かせた浜面は通話を切った。


「………………お?」


それから待つこと一分、今度は相手側の方から折り返しが来た。
こんな短時間で目処がついたのだろうか。疑問が残るまま着信に応じる。


『――――よォ、悪りィな。ちっばかしと取り込ンでた。で、続きだが……』
26 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/08/29(月) 20:51:17.99 ID:4kSFMwbZ0

「あぁ……ってか、良いのか? かなりヤバイっつーか、相当な修羅場迎えてたみたいだけど……」

『オマエが気にする必要はねェ。いいからさっさと概要を話せ』


あっさりした口調でそう切り捨てられた。どうやら、『さっきの事は忘れろ』。と暗に告げているらしい。
ここは一方通行の言う通り、気にするのはやめて現在までの経緯を簡単に説明することにした。
そして一通り話した後、


『そォか……、大体は呑み込めた。で、オマエは今どこにいる?』

「第二十二学区だ。五十五号線沿いで、第七学区との丁度境にいる」

『わかった。すぐに行く。オマエはそこで待ってろ。俺が着くまで絶対に動くンじゃねェぞ? わかったな』

「え……?」


問い返す前に通話は切られてしまった。
自分から掛けておいて何だが、やけにスムーズすぎる流れのせいで緊張の糸が切れてしまいそうだ。


「……………」


27 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/08/29(月) 20:52:06.21 ID:4kSFMwbZ0


とりあえず、言われた通りに待機するしかない。
こうしてじっと留まっている時間すらも正直惜しい所だが、これ以上ない強力な助っ人には代えられなかった。
大人しくガードレールに腰を下ろして寒気と星の蔓延した空を見上げても、今後の流れに不安を感じずにはいられない。
どう転ぶかは、もうすぐここに来るであろう少年に懸かっていると言っても過言ではない。

そして、何分かが経過した頃。

浜面の胸中に期待の色が表れ始めた時、待ち望んでいた人物は颯爽と姿を見せた。


「―――――よォ、待たせたな。ンじゃあ、とっととガキの捜索に移るとしよォか」


白髪と紅い瞳が街灯によって鮮明に照らされていた。
杖の音を定期的に響かせながら、一方通行は首の骨をゴキリと鳴らし、期待の眼差しに満ちた浜面と共に夜の都心へと
くり出す。まさかの超能力者、それも学園都市最強の登場に本格的な希望を抱く仲間が殆どだった。
28 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/08/29(月) 20:53:12.58 ID:4kSFMwbZ0


―――



浜面と合流するほんの少し前。
一方通行は土御門元春、海原光貴との間に出来た溝が思っていたよりも深くなかった事に戸惑いを隠せぬまま、酔っ払って
足下のおぼつかない同居人、番外個体を背負ったまま帰宅していた。
編入初日からこれでは、正直言って先が思いやられる……。一方通行は玄関先で重い溜め息を吐きながら、そんな事を考え
ていた。


「ハァ……。呑気に寝入りやがって……。良い御身分だな、クソったれがよォ」


グチグチ言いながらもソファーに優しく下ろして毛布をそっと掛けてやる辺り、迫力は微塵も感じられなかった。
憎まれ口を叩くだけならタダとは良く言ったものである。

その後、軽くシャワーを浴び、電極の充電も済ませておく。
今日はもうこのまま寝るだけなので、自然と心も落ち着いていた。

しかし、その過程で目を醒ますと踏んでいた番外個体はソファーで横になったまま気持ち良さそうな寝息を立てるばかりで、
いっこうに起きる気配がない。
もしかしたら、もう朝まで起きないのではないか? と彼女を眺めながら憂慮している最中、ある些細な事に気づく。


「待てよ……。制服着たままってのは拙いンじゃねェか……? 予備なンざ、まだもらってねェし……皺くちゃになった服で
 学校行くンじゃ、コイツの事だからきっとごねて煩ェンだろォし……。っつか、気ィ利かせてアイロンでもかけなきゃなン
 ねェのか? この俺が?」
29 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/08/29(月) 20:55:07.34 ID:4kSFMwbZ0


首を捻り、どうすべきか悩む一方通行。着替えさせるべきか、このまま放置しておくか……。
ただ、どっちを選んだとしても面倒な事態を迎える危険性は充分にあった。
どちらがよりリスクが少ないか。たかが服を着替えさせるか否かの問題で頭を必要以上に使っている不器用な超能力者がここ
にいた。

初めての事ばかりで色々と手探りな部分を考慮しても、その光景はやはりシュールとしか言えなかった。
仕事で才能を発揮し、高い地位に上り詰めた青年でも家事になるとからっきし駄目。ここではまさにそんな隠喩がピッタリだ。


「けどなァ……。流石に、勝手に脱がすのも……。下手に起こしてまだ酔いが残ってたら面倒極まりねェし……」


大人になっても、絶対に番外個体と酒の席は設けない。これはついさっき誓った家訓のようなものだ。
はっきり言って、手に負えない。これ(御坂美琴)系列のアルコール耐性は自分の最も苦手とする方向にしか傾かないのだ。
もとより、酒臭い女に好印象など覚えない。

体内に流れるアルコールを分泌、分解させて酔いを無くさせるという荒業もあったが、そんなくだらない場面で能力を使い
たくもない。


「さて……っつゥか、マジでどォすンだよ。これ……。このまンま放置して風邪でも引かれたら恨み節程度じゃ済みそォに
 ねェぞ……」


そろそろ本気で決断しなければならないようだ。番外個体は依然として目を醒まさないが、もしも脱がしている真っ最中に
起きられでもしたら……?


「……ッ」


考えるのも嫌なビジョンが浮かび上がった。
ある意味、不安定な吊り橋を援助一切無しで渡るに等しい。
30 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/08/29(月) 20:57:50.19 ID:4kSFMwbZ0


(おいおい、冗談じゃねェぞ。こンなアホらしい事でいつまでも立ち竦んでらンねェっつの。……大丈夫だ。ンな漫画みてェ
 に都合良く目覚めるなンて、そォそォあるわけがねェ……よな?)


まるで、そうであると信じたい。と必死に言い聞かせているようだ。
少しずつ、物音を極力立てず、一方通行は眠り姫へ接近した。


(起きンなよォ……。いいか絶対に起きるンじゃねェぞ! っつか、もし起きて騒がれでもしたら……、俺は犯罪者か?)


何故だか緊張感が走り、思考もおかしな方向へ進んでいた。
番外個体に限って有り得ないと判っていても、時として状況は“絶対大丈夫”という言葉の信憑性を根こそぎ奪う。
要するに、リスクが大きいせいで万一という不安感が膨大に募っていくという簡単な心理である。

そして、それらはまた時に“虫の知らせ”とも言う。現に接近中も一方通行は不吉な胸騒ぎを覚えていたのだから、これは
もう決定的だ。


「……………」


案の定だった。
やっとのことですぐ傍まで到達したが、いざとなったらやはり躊躇する間が生まれてしまう。
彼女へ伸ばすはずの手が途中で空を泳ぐ。

そして、手が彼女の身体に触れそうになった瞬間、それを見計らったかのようにゆっくりと瞼は開いてしまうのだった。


「ふぁ……?」
31 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/08/29(月) 21:07:54.31 ID:4kSFMwbZ0


寝ぼけ眼だが、しっかりと一方通行を直視していた。


(あァ、やっぱりなァ……。何となくそンな予感はしてたわ。別に驚きゃしねェよ……。それより重要なのはこの後だ。
 何て言葉を繋げれば、こいつとの一戦を避けられる? って、やっぱ無理だよなァ。そンな都合の良い展開用意して
 くれる神がいるンだとしたら、ここでこいつを起こしたりしねェよなァ……。詰ンだなこりゃ……。あーあ、もォどォ
 にでもなりやがれ。何もかも面倒臭ェよ畜生が)


遠くを見つめるような目は、ある種の現実逃避。

お約束なタイミングで目覚めてくれた番外個体の酒気は、まだ抜けていない。表情と顔色と声のトーンがそれを教えて
くれた。
一方通行にとっては最悪の結果である。


「なぁに………してんのよおおおおおおおっっ!!!」

「おぶわ!?」


寝起きとは思えないほどの機敏な動作で跳ね起き、餌に飛びつく獣の如く襲い掛かってきた眠り姫。
為す術もなく巻き込まれるしかない憐れな最強能力者。

刑事ドラマでよく見る“犯人を取り押さえる図”に近い状態が生まれた。勿論番外個体が圧し掛かっている側である。
単純な腕力だけなら一方通行に勝機なし。
本人も承知している事柄なため、下手に抵抗の意思は見せずに穏便な話し合いでの解決を試みる。
今の番外個体相手では無駄だと思うが、それでも希望は捨てられなかった。


「一応言っておくがなァ………、下心とかそォいうのは一切無ェからな? マジで信じろ」

「ミサカに欲情したんでしょお? だからさっきからオドオドと手ぇ踊らせてたんだ? 薄目でバッチリ見てたよーん☆」

「常識か非常識かの範囲内で悩ンでただけだ! そンな邪な感情なンざハナから持ち合わせてねェよ!」
32 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/08/29(月) 21:10:01.52 ID:4kSFMwbZ0


「どーして素直になれないかなあ? あなたってヤツはいつもそうやって体温低く装うよねえ」

「…………なァ。オマエ、まだ酔ってンだろ? 絶対そォだろ? 話の流れがおかしい方向に傾いてンじゃねェか!!」

「うーん、そうかも。なんか頭がフワフワする〜☆」

「着替えて寝ろ。そのままの格好で寝るのは、衛生的に良くねェぞ?」

「うっは、心配されちゃってるよ♪ やっさし〜い」

「ッオイ!? 馬鹿オマ、顔近づけてくンじゃねェ―――――ッ!?」


酔った女性の恐ろしさが発揮されそうになった所を救うように、床に落ちていた携帯電話が鳴り響いた。
不機嫌そうに顔を戻した番外個体は、その喧しい音源を断ち切ろうと携帯電話へ手を伸ばす。


「ちょ!? オマエ何してンだ!? 人のケータイ勝手に触るンじゃねェ!!」

「……はあ? おいおい、これぐらいでなにムキになってんの? ……怪しいなあ」


番外個体の手の中で、携帯電話は鳴り続けている。
誰からの着信かはまだ確定してないが、ディスプレイを開かれては流石の一方通行も取り乱せずにいられない。


「がァああ!! このアル中がァ!! いい加減にしろォ!! さっさと携帯よこしやがれェェ!!」
33 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/08/29(月) 21:12:28.71 ID:4kSFMwbZ0


「ひゃっ!?」


番外個体の手が空いていた隙を突き、上半身を勢い良く起こし、携帯電話を奪い返す。
引っくり返った番外個体だが、怪我も無さそうなので放置しておく。
頭を揺らしたせいで酔いが回ったのか唸り声を上げている番外個体と距離を空けた一方通行は、着信者を確認して首を傾げた。


「ハァ……ハァ……。ったく、手こずらせやがって……。マジでこいつに酒は厳禁だな。……ン? あいつか……。こンな時間
 に何なンだっつーの……」


のっそりと起き上がる番外個体が視界の隅に映った。
正直このままだと電話どころではないような流れだが、それでも用件が気になるので出ておく。
理想としては手短に終わって欲しいところだ。


「ちっ……。オイ、何の用だ?」


電話の後に番外個体との一悶着は避けられないと悟り、自然と無愛想な声が出てしまう。
また更に苛立ちを覚えたのは、相手からの返事が聞こえてこなかったからだ。


「どォした? 用があって掛けてきたンじゃねェのか? 返事しろ」


少し声を大きくして再度呼び掛けた。着信をよこしたのは向こうからなのに、無言とはどういう事か?
この面倒な時に、しょうもない用件だったら叩き潰してやろうかと一方通行が内心呟いた直後、唐突に相手から用件が告げられた。


『……一方通行か? 昨日話した子、フレメアが脱走した。今俺達で懸命に捜してるところだ。……手を貸して欲しい』
34 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/08/29(月) 21:17:33.50 ID:4kSFMwbZ0


「!」


電話先の浜面が昨日話していた内容を瞬時に思い出す。
昨日の今日でまさかの進展。これには一方通行も驚きが隠せない。既に後ろの番外個体に気を配ることなど忘れていた。


「なンだと……!? そりゃ―――――」


しかし、詳細を求めようとする彼に魔の手はいつの間にか寸前にまで迫っていた。
ゆらゆらとゾンビのような艶かしい動きで背後から接近した番外個体は、遠慮なく電話中の一方通行の首に噛み付く。


「カプッ♪」

「ちょ……ッ!?」


くすぐったさともどこか違う、背筋がぶるっと凍るような悪寒が走った。
不思議な感覚に苛まれた一方通行は全身の力を失い、手にしていた携帯電話を落とす。


「オマ……やめ……ッコラ! 何しやがンだ!? 離れろォ!!」

「なに堂々と浮気してんのさー? ミサカが寂しくってウズウズしてるっていうのに、他の女と電話? あはひゃは! 超
 良い度胸ー☆」

「ワケの分かンねェ事を口走ってンじゃねェ!!」
35 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/08/29(月) 21:24:42.12 ID:4kSFMwbZ0


「いくら心の広ーいミサカでもお………流石に許容はできないかなあ」

「話聞け!! そして早く退けェ!!」


番外個体の瞳が笑っていない。とてつもなく嫌な予感しかしない。
因みにさっきとは違い、今度はガッチリ体重を掛けられている。従って身動きはとれない。
言い様のない恐怖心を隠すべく、一方通行は吼えた。


「あなたは一途だって、ミサカ一筋だって信じてたのに……っ! 電話の女の住所教えて! ミサカが天誅下してやる!」

「はァ!? 豪快な勘違いしてンじゃねェ!! 大体、“電話相手イコール女”だなンて法則、聞いたことねェぞ!!」


声を必要以上に荒げたのは逆効果でしかなかった。
火に油をが注がれたように、一方通行の怒声に触発された番外個体も負けじと吼え返す。


「ミサカってモンがありながら、また他の女に連絡取ってるの!? あなたがそんなタラシだとは知らなかったよ!!」

「あァ!? 俺の発言全面的に無視かコラ!!だから女じゃねェって言ってンだろォが!! 酔っ払いは大人しく寝てろ!!
 コッチは今大事な話の最中なンだよ!! 勘違いも大概にしとかねェと、頭に水ブッ掛けンぞ!!」

「………もういいっ!! 勝手にやってろ!! この大馬鹿で脆弱の美白魔人っ!!!」

「――――な……! お、おい!?」


素早く飛び退き、喚きながら自室へ駆け去ってしまった番外個体。
完全に動揺した一方通行がすぐに後を追うものの、タッチの差で鍵を掛けられた。


「おい、開けろ!! だから俺の話を聞けって言ってンだろォが!! 誤解してンだよオマエはァ!!」
36 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/08/29(月) 21:28:34.47 ID:4kSFMwbZ0


ドアを叩きながら必死に説得するが、「史上最低人類の話なんて聞きたくない!!」というヒステリックな叫び声以外は返って
こなかった。
今は酔っている状態なせいか、いつも以上にこちらの意見は通ってくれないらしい。
流石にこうも一点張りでは、おそらく今は何を言っても無駄な努力にしかならないだろう。


「………どォしろってンだよ……。クソったれが」


こういう立場に回るのは慣れていない。つまり、正しい処理の仕方など知っているわけがなかった。
そして彼の性格上、この現状に面倒臭さや煩わしさ以外の概念が発生することは到底有り得ない。

強引に押してこじ開けるよりも向こうの気分が落ち着くまで放置するのが賢明だと判断し、リビングへ戻って落とした携帯電話
を拾い上げる。通話は既に切れていたので、仕方なく折り返した。

この時点で精神的にどっと疲れていたが、電話の内容次第では急遽出向かなければならない可能性もある。
番外個体には申し訳ないが、その辺りは了承してもらうしかない。
ただの痴話喧嘩で蔑ろにしていいような問題ではないのだから。



――――――――。



浜面との通話を終え、携帯電話を耳から遠ざける。
案の定、これからすぐに出掛ける事となった。電話より直接会って色々と話す必要がある。それほどの大事な用件だ。
充電は有る程度完了しているし、今は正直家に居づらいというのもある。彼女を置いて家を空けるのは若干気が引けるが、どうせ
何も取り合ってもらえない状態だ。お互いの熱を冷ますための期間としては、寧ろ丁度良いのかもしれない。
37 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/08/29(月) 21:30:51.50 ID:4kSFMwbZ0


(メールくらいは入れて行くか……)


声を掛けても返事が来ないのは学んでいる。
もう寝入ってしまったかもしれないが、一応言伝を残してから出掛ける辺り律儀である。
当然返信は無かったので、構わずに家を出た。後に回すには少々面倒な問題を残した気がするが、こっちの方を今は優先すべきだ。

能力使用制限時間はMAX状態の三十分。
その中の貴重な三十秒を、目的地までの移動手段に利用した。余計な時間を短縮させるにはそれが一番だからだ。

目当ての男を早々に視界に捉え、スイッチを通常に戻してから接触する。
これから長い夜になるのかどうかは今後の動き方と多少の運次第だ。


「―――――よォ、待たせたな。ンじゃあ、とっととガキの捜索に移るとしよォか」


38 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/08/29(月) 21:31:41.35 ID:4kSFMwbZ0


―――


「はぁぁ…………」


白井黒子は盛大に溜め息を吐いた。
お腹を空かせた迷子さんの買い食いに付き合っていたらもうこんな時間だ。しかも代金は自分の負担。
まあそれは別に構わないのだが、遅くなってしまったことで先輩にしぼられるのはほぼ確定的だ。それが溜め息の八割を占めて
いた。

夜の学園都市は学生にとってあまり教育に相応しくない。
俗に言う不良が最も活発的に悪事を働く時間帯だし、それなりに大人達も目を光らせている。
だがそれでも目の届く範囲は限られてしまうのが現実である。圧倒的に未熟な若人が多いこの街では、至る所で軽犯罪が多発し
ているのだ。
そういった些細な事件すら手に余らせている警備員を筆頭とした大人達では、底の深い裏社会活動を防止するなど到底夢物語だ。
あくまで表立った事件しか取り扱えない立場なのも不憫だが、彼等も所詮は“保護者”という枠に囲まれた巨大な組織の指令に
従って動く“駒”のようなものでしかない。
権力次第でどうとでもなってしまう彼等では、入り込める場所の範囲も自然と狭まれるのだ。

実際は夜遅くまで遊び歩く普通の学生も珍しくない。大人からすれば嘆かわしい事象なのだろうが、現実とはそんなものである。
風紀委員の活動時間は完全下校時刻と共に終わりを迎える。何故なら風紀委員も学生の一端だからに他ならない。
よって風紀委員の腕章があるからといっても、日が暮れてから一刻以上経過している現在、一介の女子中学生である白井黒子が
街中を行歩するのは隣りにいる少女、フレメアと奇跡的な確率で出会ってしまったからだ。

今後、この一風変わった少女をどうするかは支部に戻ってから考えれば良い。
見るからに迷子の幼い少女を黒子が放っておかないのは、彼女の性質を思えば自明の理である。

道端を極力目立たないように歩きながら、黒子はフレメアから他愛無い会話を建前とした事情聴取を行っていた。
相手が自分よりもずっと年下なだけに、扱い方にも気を配ることを忘れない。

が……。
39 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/08/29(月) 21:33:34.67 ID:4kSFMwbZ0


「………一ヶ月近く前に知らない人たちに攫われて、ようやく逃げ出すチャンスを見つけた。ところが追手は厳しく、見つから
 ないよう必死で隠れていたら、わたくしに見つかってしまった。………要点をまとめると、こんなところですの?」

「うん、そう。大体それで合ってる」

「うーん………」


無口、というよりは無感性と表現した方がいいのか。
この見た目小学校中学年の少女の言葉にはリアリティが全くと言っていいほど感じられなかった。
ただ淡々とこれまでの軌跡を語るフレメアに黒子はどう決断すべきか決めかねていた。

因みに言うと、最初に吐いた溜め息の意味の残る二割がこれだった。

だが無論、こんな子供を夜の街で放置して帰宅したのでは己の沽券に関わるし、それ以前に自身が所持する正義感が許さない。
その証が『風紀委員』という現在の自分の地位と直結しているのだから。


「それで、あなたはこの近辺に住んでいますの? 保護者の名前でも知っていれば伺いたいのですけれど……」


当然、これくらいの年頃で一人暮らしなど考えられない。
どこかの施設か。あるいは誰かの保護観察の元で生活していると断定するのが自然だ。
もしかしたら『置き去り(チャイルドエラー)』の可能性もあるので、発言には注意しなければならない。


「道も考えないで走り続けたから、そもそもここが何処だかわからない。景色に見覚えもないし……」

「そうですの……。それは失礼致しましたわ」
40 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/08/29(月) 21:34:58.54 ID:4kSFMwbZ0


「保護者って、面倒を見てもらいたい人の名前を言えってこと?」

「え……? うん……まぁそんなところですわね」


微妙に違うと黒子は思ったが、敢えて指摘するほどでもないと判断した。


「だったら、浜面って人が私の保護者になるのかな?」

「はまづら……。それが名前ですの?」

「にゃあ」


あっさり頷いたフレメア。
更に詳しく追求したい黒子は、相手の年齢に合わせたソフトな口調で尋ねる。


「その浜面という方は学生ですか?」

「学校行ってる所を見たことはない」

「………大人の方ですの?」

「ううん。どっちかと言えば子供の部類に属するかも」

「……その方とはどういった繋がりで?」
41 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/08/29(月) 21:37:10.03 ID:4kSFMwbZ0


「私を世話をしてくれてた人と良く一緒にいたのを見た」

「…………直接会ったことはありますわよね?」

「無いわけじゃないけど……、浜面は私の名前知ってるのかなあ?」

「……………」


聞けば聞くほど頭が痛くなる衝動を、正に黒子は味わっていた。


「それって、もう保護者とは呼べないんじゃないですか? っていうかその浜面って人……相当駄目な人間では? 話の限り
 ではスキルアウトに限りなく近いイメージですわね」

「あとは忍者の末裔とかが大体面倒見てくれてたけど……なんて名前かは忘れちゃった」

「はぁ……忍者、ですの……?」


もう尋問はこのくらいにして、後は支部へ送り届けてから先輩に任ればいいかと本気で思った直後、それまでずっと黒子と並行して
歩いていたフレメアの足がピタリと止まった。


「……あ」

「ん……? 何か落としましたか?」
42 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga ]:2011/08/29(月) 21:38:41.44 ID:4kSFMwbZ0


そう問い掛けながら後ろを振り向いた黒子は、何やら不穏な空気を察知した。
フレメアがここまで決して崩さなかった鉄壁の無表情が、異常なまでの戦慄に包まれていたからだ。


「あの人たちだ……! 私を無理矢理攫ったの………」

「!?」


表情を凍りつかせながら前方を指差したフレメア。咄嗟に正面を向き直した黒子の目に飛び込んできたのは、見るからに怪しげな
黒づくめの集団。中には駆動鎧の軽量型を装着している者もいた。
彼等はまだこちらに気づいていないらしい。
咄嗟に黒子はこの場からの迅速な離脱を図った。

フレメアの手を掴み、彼等の死角となる手頃な位置まで一瞬で移動する。フレメアの手は僅かながら震えている。
これで先ほどの話しに信憑性が増した。


(と、なると……あの連中は何者ですの? というか、そもそもこの子は一体何なんですの? 何故あんな物騒な輩に付け狙われ
 る必要が……?)


現時点では解らないことだらけだ。
とりあえず、この子を連れて自らの所属する風紀委員支部へ無事に戻るのが最優先である。
そのためにも、あの正体不明な集団に見つかる事態は回避したい。

遠くから様子を窺ってみる。
明らかに誰かを捜しているような挙動だった。
43 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/08/29(月) 21:44:08.99 ID:4kSFMwbZ0


(どうやら本当にこの子を捜しているようですわね……。本来なら職質確定ですが、ここは安全ルートで行った方が良さそうですの)


あの集団が目標としている少女を脇に抱えていては、迂闊な行動にも移れない。
彼女の実力ならついでの検挙も成功に終わってしまいそうだが、元々この時間は風紀委員の範囲外だ。下手すれば、上(警備員)から
の厳重注意にも発展しかねない。なのでここは大人しく煙に巻くのが無難である。
最後に、フレメアに最終確認を取る。


「あの輩に間違いございませんのね?」

「あいつらかはわからないけど、大体あんな格好だった……。多分私を連れ戻そうとしてるんだと思う……」


不安そうに話すフレメアを元気づけるため、黒子は断言する。


「大丈夫ですわ。詳しい事情はまだ把握できておりませんが、あなたの身の安全はわたくしが保障します」


フレメアの頭を優しく一撫でし、黒子は上を見た。
ビルの屋上を経由して一気に空から行くか。どの道追手が今目に映っているだけとは限らない。
いくら空間移動があるといっても、地上を移動していては見つかる危険性は変わらないだろう。
ならば、人目に付きにくい空中を移動した方がまだ安全といえる。


「さ、では参りますわよ。わたくしにしっかり掴まってなさいな」


震えのとれない小さな手を、そっと優しく包むように握る。
怯えたフレメアを見ている内に、黒子の中で妙な感情が芽生えていた。
とにかく、この少女だけは何があっても絶対に守り通してやりたい。今の彼女は何故だかそんな気分だった。
44 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/08/29(月) 21:46:58.20 ID:4kSFMwbZ0
今回はここまでです
久々に主役の二人出たと思ったらいきなり喧嘩です

シリアス中にこういうの入れたくなる書き手って自分だけかな……?

では次回の一部
45 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/08/29(月) 21:49:24.35 ID:4kSFMwbZ0


浜面「しょうがねえだろ! 他に心当たりなんてねえんだから……。けど逃亡者の心理を考えると、まず人が多い場所に行くのは避ける
    よなぁ。追手の数が多いと、それだけ見つかる危険も多いし」


一方通行「逆なンじゃねェのか? “木を隠すには森の中”だろ普通……」



――――――――




黒子「荒っぽくなって申し訳ないですの。怖かったでしょう?」


フレメア「大体平気。……意外と楽しかった」
46 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/08/29(月) 21:51:36.65 ID:4kSFMwbZ0
以上です
次回も書け次第来るので、気長に待ってやってください
ではまた
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/29(月) 23:21:52.29 ID:YM4TgnQSO
来てたか乙

久々にニヤついたww
御坂遺伝子はみんな酒癖悪いのかww
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/30(火) 02:22:21.12 ID:AzPDuDPc0
ここで黒子抜擢とか予想外

久々の番外通行ゴチでした
てか一方さん酔ったミサカ家に弱すぎwwww
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/08/31(水) 01:18:48.06 ID:/AZKSjVd0
このスレ見てるとssと小説の違いがわからなくなってくる
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [scpbd621]:2011/08/31(水) 16:14:23.75 ID:0j9xWbOp0
追いついたぜい(-。-)y-゜゜゜
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/01(木) 00:50:56.68 ID:E34jI2X30
ちょっと離れてる内に2スレ目入ってたー!
やべえ一方さんも番外さんも可愛くて正気失いそう


自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/01(木) 00:59:15.77 ID:ngc3qd/SO
内容が本格的すぎてついてけへん……
って思ってたらワーストと一通さんのやりとり見て顔がにやけてもうた
>>1GJやでぇ〜!
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [scpbd621]:2011/09/02(金) 14:07:42.22 ID:my9C21w90
早く更新してくれ―


自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/09/02(金) 14:39:20.90 ID:ZqhpMcRAO
まだっすか
自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/
55 : ◆jPpg5.obl6 [saga]:2011/09/04(日) 21:13:52.19 ID:TqQ7nnu/0
更新遅くてごめんなさい
しかも今回少ないです
いつも待たせている方には頭下げることくらいしかできん

五分後、投下

56 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/04(日) 21:26:00.59 ID:TqQ7nnu/0


―――



一方通行と浜面仕上。
この珍妙な顔ぶれが目指す先は第七学区の変電所だった。


「――――で、そこにガキがいるって根拠は?」

「確証はねえけど、身を隠すって意味じゃ一番適してるだろ? 近くに廃工場だってあるし……」

「そンだけかよ……」

「しょうがねえだろ! 他に心当たりなんてねえんだから……。けど逃亡者の心理を考えると、まず人が多い場所に行くのは避ける
 よなぁ。追手の数が多いと、それだけ見つかる危険も多いし」

「逆なンじゃねェのか? “木を隠すには森の中”だろ普通……」

「そりゃ少数に追われてる場合だと思うぜ? どこから追手が迫るかもわからないのに、余計な目眩ましは不要だろ。カモフラージュ
 は何も自分にだけ有効とは限らねえさ」

「どっちにしろプラマイゼロじゃねェか。返り討ちにできるだけの力があるンならまだ人目に振れねェ場所を選ぶンだろォが、ガキが
 好き好ンで物音一つしねェ心霊スポット紛いの建物を身の隠し場所に選ぶとは、普通なら考えつかねェな」

「………まぁ、それも一理あるよな」


どちらの論理が正しかろうが、所詮は予測の範疇でしかない。
57 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/04(日) 21:27:31.84 ID:TqQ7nnu/0


「―――――ところでよォ……」


一方通行が訝しげに声を漏らす。
視線の向こうに、あからさまな不信感を募らせながら続けて呟いた。


「あいつら、怪しくねェか? 人捜ししてるよォにしか見えねェンだが?」


黒いスーツ姿の男、数は六人ほど。
蜘蛛の子のように散らばり、近くの通行人に聞き込みを行っている彼等を不審な目で見遣る。


「まさか……」

「そのまさかの可能性も否定できねェな。ま、あンな地味な捜索方法とってる辺り、どォせ下っ端だろォが……。危険要素は草一本
 でも排除しとくに越したことはねェだろォぜ」


そう言いながら、一方通行はタイミング良く一箇所に集合してくれた彼等の方へ悠々と歩き出す。
十秒ほど経った辺りから、浜面はせめてあの下っ端たちが安らかに眠ってくれるよう、黙して合掌した。

58 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/04(日) 21:28:55.45 ID:TqQ7nnu/0


「運が悪かったんだな。あいつらは……」

「御神籤で言うなら間違いなく『大凶』ってトコか」


ボロ雑巾のように転がった複数の黒い塊を背に言葉を交わす浜面と一方通行。
この程度では安心とは到底言い難いが、少しでも障害となり得る要因は取り除いておくに限る。


「ン……?」


再び移動を開始してから僅か五分。一方通行がまた何かを発見したようだ。
今度は首ごと上を向いたまま、目を凝らしている。


「どうした? 上に何かあるのか?」


浜面も釣られて空を見上げるが、特に何も目に入らない。
だが、一方通行は一言ポツリと吐いた。


「一瞬で良く判らなかったが、確かに“誰か”がいた。しかも“小さい何か”を抱えてるよォに見えた。目の錯覚じゃねェと
 したら、探る価値は有りそォだ」
59 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/04(日) 21:31:04.62 ID:TqQ7nnu/0


「……どうする?」


自分の目で直接確認できていない浜面はそう訊くしかなかった。


「俺ひとりで事足りる。オマエは先に変電所周辺を調べてろ。後で連絡すりゃ、問題は残らねェだろ」


それだけ答え、一方通行は勢い良く地面を蹴った。
引力を無視した爆発的な跳躍により、一方通行の身体はあっという間に空高く舞い上がる。

怪しい影を捕捉した大体の高さにまで上昇し、遠くまで目を見張らせる。
そして――――。


「やっぱり勘違いじゃなかったか」


確信めいた言葉を呟く。
遠くで確かに人らしき物体が、一定の間隔で消えては現れを繰り返している。
脇には子供と思しき物を抱えているのも確認できた。

あの正体について考え得る可能性は一択。


「空間移動系能力者……。結標か?」


『座標移動』には欠陥がある事を知っている一方通行は、あれだけ定期的に自身を移動させている者の正体が結標である事
に違和感を覚えた。
ここからでは遠すぎて“誰か”までは特定できない。やはり追うしかなさそうだと決断し、一方通行は空気の壁を力任せに
蹴って水平に高速で滑走した。
60 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/04(日) 21:32:18.17 ID:TqQ7nnu/0


―――



「ッ……。そろそろ降りなければ……っ!」


万一にも追手側の目に映らないよう、安全に迂回してきたツケが頭痛という形で表れていた。
連続の空間移動とは少なからず脳に負担を与える諸刃の剣だ。その性能は優秀されど僅かな精神の乱れが取り返しのつかない
結果を生むこともある。

上空を飛び回るため、絶えず精密な演算を続けていた脳がそろそろ休息を訴えていた。


(けど流石にここまで離れれば……、とりあえずは安心ですわね)


この考えを甘いとは欠片も疑わず、白井黒子は地上へと降り立った。
両腕でしっかりフレメアを抱えたまま適当な道端へ足を着け、一息入れる。


「荒っぽくなって申し訳ないですの。怖かったでしょう?」


フレメアを丁寧に降ろし、言葉を掛ける。
だが不思議なことにフレメアの震えは完全に止まっており、その表情も出会った当初と同じような落ち着きが戻っていた。
61 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/04(日) 21:41:07.90 ID:TqQ7nnu/0


「大体平気。……意外と楽しかった」

「なら幸いですわ。あなたもなかなか肝が据わってますわね」

「怖い思いならもう大体慣れた」


どうやら難は無事に逃れたらしい。
ここからは徒歩で移動しても問題なさそうだ。
上空移動は細かい位置指定が遮蔽物の多い地上より幾分楽だが、そうなると今度は落下しないよう維持しながらの連続移動
技術が求められる。どちらにしろ、負担は軽くない。脳を休ませるためにも、なるべくなら歩いて移動するのが望ましい。


「………一応、この件については一報入れた方がよろしいですわね」


そう呟き、手持ちの緊急用無線を弄る。
この操作により、警備員への通報が簡易に済むのだ。声を出せない状態で助けを求めたい場合などに重宝される代物だが、
黒子は口頭での適当な説明方法が思い浮かばないため、これを使用した。
もう大丈夫だとは思うが、念のためだ。


「……さて、もう少し歩けますかしら? ええと、フレメアさん」

「にゃあ」
62 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/04(日) 21:44:07.92 ID:TqQ7nnu/0


通報を終えて胸を撫で下ろし、支部までの一本道を辿り始める黒子と、その後ろをちょこちょことついていくフレメア。
だが、黒子は自身の圧倒的な情報不足をこの時点で未だ認識していなかった。

この幼い女の子を奪還すべく、学園都市中に散らばっている暗部の新参達。
彼ら全体の力量を完全に見誤っていた。まさか、今の自分達に安全な場所はもう何処にもないなどと夢にも思っていなかった。
この意識が仇となるのは正にこの直後。



「――――ッ!?」



あっという間に何人もの厳ついガタイの男性が彼女らの進行ルートを防いだ。この突然の展開に頭がパニックを起こしかけたが、
彼女とて伊達に場数をこなしてはいない。少々の不測の事態で乱れる精神ではなかった。


「こっちですの!!」


フレメアの手を掴み、真逆方向への逃亡を計るが、後ろにも同系の服を着た軍団が配備されていた。
両側から迫る壁のように、じりじりと、黒子とフレメアは追い込まれていった。

総勢二十人余り。
こんな何の罪もなさそうな女の子を捕まえるにしては、いくら何でも大掛かりすぎる。
莫大な背景を感じずにはいられない黒子は、思うがままに叫んだ。

63 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/04(日) 21:46:51.18 ID:TqQ7nnu/0


「貴方がたは一体何なんですの!? わたくしを風紀委員と知っての狼ぜ…………と、とにかくっ!! こんな事をして、ただ
 で済むと思ってますの!?」


あまり好意を持っていない、寧ろその逆の人物と同じ台詞を吐きそうになった黒子だが、誰一人として言葉を返してこない。
まるで感情のこもっていない、冷徹な殺人マシーンのような眼差しを注がしてくるだけだった。
話は通じないみたいだ。ならば武力をもってこの危機を乗り越えるしかない。

黒子の瞳に覚悟の炎が宿る。


「………聞く耳持たず、ですか……。なら仕方ありませんわね! 全員、誘拐及び監禁の容疑で拘束させてもらいます!!
 両手を上に挙げて、大人しく地面に伏せなさい!! 抵抗は罪を重くするだけですわよ!!」


しかし、それでも投降の意思を見せる者はいない。
絞り出した糾弾も、どうやら無意味に終わったらしい。


「ちっ……!」


舌打ちした黒子は、太腿に隠し持っていた金属の矢へ手を伸ばした。
どう考えても矢の数は足りないが、牽制で何人か拘束できればそのまま流れを掴める。そう目論んでいた。


「――――!」


ところが、そのささやかな希望さえも呆気なく断ち切られてしまう。
次の瞬間、黒子は全ての挙動を停止せざるを得なくなった。
64 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/04(日) 21:48:07.28 ID:TqQ7nnu/0


フレメアへ向けられた、トカレフと思われる拳銃。
感情を捨てた瞳を持った追手。その内の一人が何の躊躇いもなく弱者側からの制圧に打って出たのだ。
こうなってしまっては、黒子の方が両手を挙げる立場に回るしかない。
彼らには何の情もない。それに気づくのが遅かった。黒子はただ悔しさを噛みしめるしかなかった。
やがて、自分にも同系統の銃が向けられた。

こんな時に限って人通りはない。向こうもそれを把握しているのだろう。
遠慮なしに重そうな銃機をこちらへ向けてくる。
空間移動という脱出に最適な能力を持ってしても、この状況ではフレメアを連れての打破は望めなかった。
一人で逃げるなんて選択は勿論却下だ。


「くっ、卑劣な……!!」


しかし、彼等に精神論をぶつけても何の効果も得られないだろう。一人一人の顔を見ればそれぐらい判別できる。
この者たちは所詮“使い捨ての駒”。正気の沙汰でこんな悪事に及んでいるわけではない。
暗部の世界なら、自制を捨てて上の命令にただ従うだけの人形と化す人間も少なくはなかった。
汚い水に浸かっていた彼等の良心は、とっくに崩壊されているか。あるいは外部からの人為的所業によって精神を断絶
されているか……。
黒子たちに向けて武器を構え、今にも発砲に移らんばかりの空気を醸している男達の表情はそのどちらかだろう。

短い均衡状態。その中で黒子は平静を保ちながらも必死に打開策を見出していた。


「…………!」


だが、途中で脳が妙な違和感を放った。
瞬間―――――。

65 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/04(日) 21:49:20.87 ID:TqQ7nnu/0


「ッッッ!!!?」


正面から豪快な破裂音が轟いた。何が起きたのかは男の集団に遮られ、目では確認できない。
そして、不審音の直後。


「―――――!!??」


前方を塞いでいた集団がボーリングのピンのように四方八方へ弾き飛んだ。
台風にでも飛ばされたみたいに背後から強烈な圧力を掛けられたのか、彼等は踏ん張る暇もなく空中を各々で泳ぎ、各々の
末路を辿った。

この立て続けに起きた出来事に、思考が追いつかない。
やがて、正体不明の圧力は重い衝撃波と化して黒子の視界さえも塞いだ。
背後にいた残りの一団はこれをまともに喰らったのか、遥か後方まで吹き飛んでいく。

瞬きをする間もなく、全ての敵が一掃された。

怪しい力はどうやら黒子とフレメアを避けてくれたらしい。衝撃は黒子達を飛ばす前に収まった。
状況が理解できないまま、黒子はおそるおそる両目を開ける。

目に映ったのは黒い集団の消えたいつもの知っている道路。
その道路の中央に、誰かが立っていた。


「……?」
66 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/04(日) 21:55:39.03 ID:TqQ7nnu/0


真っ白な長めの髪を街の灯りに照らした少年は、杖を片手にこちらへ近づいて来ていた。
その最中、黒子は少年の顔を直視してから愕然とした。どうやら、既に思い出すのが簡単な人物にまでランクアップ
していたようだ。


「ああああっ!!? あ、貴方は……!!」


「………あン? 何ヒトの顔見るや否や、ひょうきンな面ァ咲かせてンだ? っつか、誰だオマエ? てっきり結標
 の野郎がまた余計な真似してンのかと思って来てみりゃあ………。ンだァ? 今の明らか使いっパシリのゴミみてェ
 な連中は? 何がどォなってンのか、とりあえず説明が欲しいモンだ」


黒子の過剰とも言えるリアクションに、一方通行は怪訝な顔で対応した。


「………っつーか、待てよ。オマエ確か………」


彼女の制服姿を目に付け、一方通行も記憶を探り始めた。どこかに思い当たる節があったのだろう。
やがて、すぐに答えが明らかとなった。


「! ……おォ。そォだ、思い出した。オマエ、あン時クソガキと一緒にいた野郎か」

「……あ、はい。その節はどうも。ってそうじゃなくて!! 仮にも淑女に対して“野郎”とは、失礼にも程がありますの!!」


思わず怒鳴りつけてしまったが、一瞬で頭に血を昇らせた黒子はそんな事についてもはや気にしない。
67 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/04(日) 21:59:16.14 ID:TqQ7nnu/0


「淑女だァ? 淑女だっつーンなら、みっともなくギャアギャア喚いてンじゃねェよ。ただのうるせェ小蝿じゃねェか」

「んなっ……!?」


黒子の顔が青くなった、と思ったらみるみる内にトマトみたいに赤く染まって顔色とは不相応の好戦的な笑みを零した。


「わたくしを、よりにもよって蝿呼ばわり……!! ぐふっ、ぐふふ………。―――――良い度胸ですわねェェェ!!」


既に一方通行に抱いていた敬遠心は消え失せていた。それよりも受け入れ難い何かプライドのようなものが彼女にあって、
一方通行は運悪くその領域を侵したらしい。


「キエェェエエエエエリャアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!」


意味不明な奇声を撒き散らしながら跳躍した黒子は、そのまま一方通行目掛けて足から滑降する。
パンチラ上等のドロップキックだったが、そんなものに興味を一切感じない一方通行は正に鬱陶しい蝿でも払うかのように
平然と弾き返す。

そして簡単に弾き飛ばされ、地面に間抜けな格好で着陸した黒子への非情な言葉。


「悪いが遊ンでる暇はねェ。何でオマエがこンな時間にこンな場所でこのガキと一緒なのか、一言一句漏らさず説明しろ」

「ぐ……お、お、おのれぇぇぇ……ッ!! っていうか、何が起きましたの? 今……」
68 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/04(日) 22:03:25.05 ID:TqQ7nnu/0


立ち上がった黒子からはまだ反抗的な光が消えていないようだ。


「ちっ」


舌打ちした一方通行はその後一瞬で間を詰め、黒子の胸倉をムンズと掴み上げて凄まじい眼光を放つ。
そして苛立ちのこもった低い声で脅迫する。


「ひぎゅ!?」

「同じセリフ二度も言わせンなよ? あ? さっさと経緯を話すか、尾骨と鎖骨の位置交換するか、それとも体毛の成長速度
 促して、原人の仲間入りにされる方がイイか? オマエの道くらいはオマエに選ばせてやるよ」

「わ、わかりました! 話します! 話しますから下ろして。苦しい……ですの……ごふ」


番外個体と喧嘩中で、一方通行の機嫌がすこぶる最悪だとは知らなかった黒子。
恐怖のままに服従の道を選んだのは、誰の目から見ても賢明な判断だった。


「にゃあ」

「ン?」


経緯説明終了後、ずっと黙っていたフレメアが一方通行の袖を掴んで話しかけてきた。
69 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/04(日) 22:06:53.20 ID:TqQ7nnu/0


「あなたは私を助けてくれる、良い人なの?」


わかりやすい事この上ない、至極真っ当な質問に一方通行は素っ気無く答える。


「良い人、ねェ……。仮にそォだったら、こンな面倒な事にはなってねェだろォな……」

「でも、私を監禁していた人たちとは違う気がする……」

「そりゃ大した観察力だ。今後のオマエの人生のために、精々今の内から磨きをかけるンだな」

「……やっぱり正義の味方なんだ。大体当たってる?」

「オマエのヒーローは、少なくとも俺じゃねェよ」


この年頃の女はやりにくいと改めて実感した一方通行。
先ほどまで一方通行の剣幕に押され放題だった黒子だが、その光景を見ていると何だか頬を緩ませずにはいられなかった。
黒子としても一方通行に訊きたい事は半分も消化されていないので、とりあえず会話を試みる。


「………ところで、先ほどは貴方が助けてくれたんですのよね?」

「だったら何だ?」
70 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/04(日) 22:16:43.93 ID:TqQ7nnu/0


「一瞬だったので、何が起きたのかさっぱりでしたわ……。大気操作系の能力者ですの?」

「生憎だが、オマエにコッチの事情を教えるつもりはねェ。自由に想像してろ」

「えぇ!? いや、ちょっと……それはいくら何でも酷ではないですか!?  わたくしにも一応立場というものがござ
 いますのよ!?」

「吼えるな。オマエのために言ってやってンだ。もォいいから、オマエはこのまま真っ直ぐ家に帰れ。面倒に巻き込ンで
 悪かったな。そのガキのことなら後は俺に任せろ」


一方通行の表情は「っつか、まだいたのか? オマエ」とでも言いたげだった。
突き放すような姿勢を崩さない一方通行に対して抱いていた恐怖のイメージが再び急変し、熱を帯び始める。
“粗略な扱いによる怒り”と言う名の熱を。

どの道、黒子の立場としてもここで「ハイ、わかりました」と答えるわけにはいかなかった。


「………そんな要望が通るとでも?」

「通る通らないは俺の知った事じゃねェ。っつか、イチイチそこまで考えてられるか。オマエが俺の言う通りにしたくねェ
 ンなら、好きなよォに跋扈してりゃイイさ」

「ぐぬぬ……。そ、そんなんじゃ納得できませんの!!」


何もこの男の言う事に反抗したいわけではない。ただ、中傷するような言い方が純粋に気に入らないのだ。
まるで自分が常に上の立ち位置にいるのが当たり前だと言わんばかりの態度。こうして考えてみると実に遺憾だった。
もっとも、この男こそ自分自身が憧れている御坂美琴よりも記録上では格上の存在、一方通行だとはこの段階でまだ知らさ
れていないのだから無理もない話かもしれないが……。
そんなわけで、黒子は退くどころか更に突っ掛かる道を選んだ。
71 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/04(日) 22:18:59.51 ID:TqQ7nnu/0


「大体、貴方は何サマなんですの!? ちんまりしたお姉様とお知り合いだったり……。そう言えば、さっきあの殿方とも
 一緒でしたわよね?」

「あの殿方……? 誰のこと言ってンだ?」

「上条さんですわよ! ツンツン頭の高校生ですわ! ゲームセンターで一緒に居たのをわたくし、この目で見ましたの!」

「……オマエ、あいつとも面識あンのか?」

「ですから、それはコッチが訊きたい事ですの! 打ち止めさんとの関係、上条さんとの繋がり、そしてこの状況……。全て
 納得のいく説明をしていただかないと、帰るに帰れませんわ! そもそも、わたくしが貴方に服従しなければならない理由
 がありませんの!」


断固、譲歩できない事情が彼女にもあると感じた一方通行は、どう対処すべきか悩む。ある程度言葉を交わす内に免疫がついた
のか、少々の威圧では退いてくれないらしい。
そして手荒な手段がかえって逆効果なのは、彼女の上腕に付いている風紀委員の腕章が教えていた。


(………これはこれでまた面倒臭ェな……。さっさとこのガキを浜面の所まで引き渡しに行かなきゃならねェってのに……)


どうやって思い通りに動かすか思慮する一方通行に、黒子は凛とした顔で宣告する。


「いざとなったら風紀委員の権限を駆使し、貴方を支部まで連行させてもらいます」


この一言で、一方通行の涼しい顔が崩れた。
72 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/04(日) 22:21:00.17 ID:TqQ7nnu/0


「はァ!? オイちょっと待てコラ! 何の権限だそりゃあ!? ただの職権濫用じゃねェか!」

「事情聴取ですの。こうして現場に立ち会ってしまった以上、適当な誤魔化しは通用しませんわよ?」

「………っ」


いつの間にか冗談では済まない展開に転びつつある。何か手を打たなければ……。
このままこの女と支部へ同行、なんて結末だけは何としてでも回避したい。面倒だとか、そういった次元を超えてしまう。

公共機関だけは下手に扱うべきじゃない、という基本的な形式を今頃になって思い出した。
煙に巻こうと無駄に抵抗していると、警備員まで登場しかねない。本来、この時間帯に街の治安維持を担っているのは風紀委員
ではなく警備員なのだ。
そして不運かな、警備員には更なる面倒事に輪を掛けてくるであろう人物が一人いた。


「………わかった。とりあえず、この場は退いてくれ。今は時間が惜しいンだよ。詳しい話は後日に回すってことで、勘弁して
 もらえねェか?」

「……その言葉をどうやって信じろと?」

「連絡先を教える。それで文句ねェな?」


この交渉、後々の自分のためにも失敗は許されない。
自主的に携帯電話を取り出し、彼女に番号を伝える。
73 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/04(日) 22:25:05.17 ID:TqQ7nnu/0


黒子はその番号が偽りではないか確認するため、一回着信を入れる。
番号が本物だと確認でき、ようやく黒子の顔から剣呑な雰囲気が消えた。


「……わかりました。では後にこちらから連絡させてもらいますから、ご了承を。言っておきますが、今回は特例ですわよ?
 活動時間外とは言え、警備員に引き継ぎを要請することも可能だったのですから……、感謝して欲しいですわ」

「あー、ハイハイ。そりゃどォもありがとォよ」

「ム……、何か馬鹿にされてる気分ですの。やはり警備員にお願いした方がよろしいかしら?」

「………オマエ、良い性格じゃねェな?」

「ホホホ♪ 良く言われますわ」


機嫌が直ったのか小悪魔みたいに微笑む黒子だが、どうせ教えた携帯番号は“こんな時用”に所有していたダミーの番号である。
後はおめでたい黒子からフレメアを引き取り、浜面と合流すれば任務完了といったところか……。


「ハァ……。もォ気は済んだろ? ならさっさと帰れ」

「だから、何なんですの!? その上から目線は!? ………見ず知らずの淑女に対する扱いとしては最低ランクですわね」

「名前を知らないのはお互い様だろォがよ……」


早くこの小うるさい風紀委員から解放されたい一心なのに、黒子は一方通行の接し方が気に食わないのか、思惑通りに動かない。
74 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/04(日) 22:25:57.23 ID:TqQ7nnu/0


「あら、それは失礼致しましたの。わたくし、常盤台中学一年、白井黒子と申します。風紀委員第百七十七支部に勤めており
 ますの。………で、貴方は?」

「オマエに名乗ってやる義理はねェ」

「おいィィ!? ちょっと待てや!! その流れには流石に異議を唱えさせてもらいますの!! ここはお互い自己紹介して
 握手の一つでも交わす展開だろォォ!!?」

「うるせェな、耳元でピーピー喚くンじゃねェよ。唾飛ンでるっつの……」

「にゃあ……」


フレメアも引き身になる剣幕で一方通行に詰め寄る黒子。


「ずるいですの!! わたくしはちゃんと名乗ったんですから、貴方も殿方らしくすっぱりと身分を明かしたらどうですの!?」

「誰も名乗り合おォなンて言ってねェだろ? 先入観にとらわれたオマエが勝手にプロフィール明かしただけだ。俺が便乗する
 理由はねェな」

「ふざけんなあああ!! 何ですのその『してやったり』みたいな顔!? うわ、腹立つ!! ここ最近で一番腹立たしい気分
 ですわ!! やっぱり今すぐ拘束してやりますの!! 大人しくお縄につけおんどりゃああああ!!!!!」

(こいつ、奮起したら感情のままに暴走するタイプかよ……。品も何もあったモンじゃねェな。これだからお嬢様なンて肩書き
 は信用ならねェ……)


この年代の女に関わると本当に碌な事がない……。
一方通行が心の内でそう思っていた矢先、招かれざる客がどこからともなく忍び寄っていた。
75 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/04(日) 22:28:27.09 ID:TqQ7nnu/0
ここまでです
相変わらずの遅筆ですが、容赦してやってください
ここの>>1に速さを求めてはいけません

では次回の一部を最後に載せます
76 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/04(日) 22:33:02.09 ID:TqQ7nnu/0


打ち止め「………あの人とケンカでもした? ってミサカはミサカはズバリ推測してみたり」


番外個体「お願いだから、しばらくあの馬鹿ヤローの話題は謹んでもらえる?」



―――――――



黒子「えっと………あのぉ……」モジモジ


一方通行「急に人の顔色を窺い出すンじゃねェ!! 今まで通りに接しやがれ!!」プンスカ
77 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/04(日) 22:35:02.47 ID:TqQ7nnu/0
以上です
あ、先に言っておきますが、空間通行は期待しないでください 
この話は番外個体エンド一択です

ではまた
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/09/04(日) 23:00:32.03 ID:FuZw7iRAO
乙!

番外個体と喧嘩して機嫌悪い一方さんマジ旦那
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/04(日) 23:38:46.86 ID:KYxMNZYSO
乙!黒子かわいいよ黒子
屋さンの時も思ったが一方さんと黒子ってやっぱ絡ませやすいのかな?
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/05(月) 01:28:20.23 ID:h85dX9cN0
一方さん機嫌悪すぎワロタww
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/05(月) 01:33:23.07 ID:cnHBVQ0SO
急いで書いてクオリティ下げるくらいなら待ってる方がいい

ま、何が言いたいかって言うと>>1のペースでかまわないさってこと
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/05(月) 15:16:59.30 ID:XwosCU4Ao
乙!
黒子かわいいwwwwwwww
更新まだとか言うのは無視して問題ないと思う
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/05(月) 20:15:57.80 ID:BktCK/7D0
一方さんのプンスカにちょっと萌えた
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/06(火) 01:46:45.37 ID:TwZo0I+w0
ガチシリアスにコメディ要素加えるのはかなりの高等技術なのに……
さすがですの
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [scpbd621]:2011/09/06(火) 23:15:34.79 ID:AIuL4hkz0
更新期待。
ひょっとしてこれはあれか?
焦らしプレイなのか?
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/07(水) 00:48:27.74 ID:MxuG/vod0
>>85
確かに・・・
お世話になりますの時に比べたら更新速度えらい落ちたな

けどまぁ>>1の私生活に支障が出なければこのペースで全然OKなんだがな
糞内容を連日投下するようなスレに比べりゃ百倍マシさ
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/08(木) 10:35:39.95 ID:+2QeDaa/0
ですの!のモジモジより一方さんのプンスカに悶えてしまった俺は病気か……?
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2011/09/08(木) 21:23:58.09 ID:o6muorM00
>>87俺もだ問題ない
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/09(金) 23:58:28.14 ID:g9WDFE+t0
それでもやっぱり一方さん丸くなったよ。うん
90 : ◆jPpg5.obl6 [saga]:2011/09/10(土) 22:43:49.16 ID:dnbMocsZ0
遅筆についてはもはや何の言い訳もできん
それでも待っていてくれる方、本当にありがとうございます

今から投下に入ります
91 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/10(土) 22:44:57.38 ID:dnbMocsZ0


―――



ネオンのおかげで夜特有の暗闇とは一切無縁のとある路上。


「おおー、こうやって夜の街を散策してると何だか不良になったみたい♪ ってミサカはミサカはちょっとだけオトナの気分を
 味わってみたり」

「ひゃひゃ♪ 何事も初めてってのは浮かれ気味になるもんだよ。っていうかミサカが誘っといて何だけどさ、良く黄泉川が許可
 したね。意外とミサカって信用されてる?」

「……は? 黙って出てきたに決まってるじゃーん。ヨミカワの立場を考えてみてよ。OKが出る確率は間違いなくゼロだと思う。
 ってミサカはミサカは悪の一面を覗かせてみたり」

「…………え? それって、何気にヤバくね?」


一見、同じ系統の顔が綺麗に大と小の組み合わせ。大の方はともかく、小の方は初めての夜遊びで多少の叱咤は覚悟済みのようだ。
普段は厳しい家主のせいで最後の一歩がどうしても踏み出せなかったが、番外個体と一緒なら恐くない。
打ち止めのそんな思いとは裏腹に、番外個体は一人焦りだす。


「うげ、マジかよ……。あの野郎のせいで煮え切った心の憂さを晴らそうと思い切って遊び尽くすつもりだったのに、今頃黄泉川
 が最終信号を躍起になって捜してるって思うととてもそんな気分になれない……。ここ最近で磨かれたミサカの良心へのダメージ
 比率がマッハな速度で倍化されていくゥゥゥ………」
92 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/10(土) 22:45:55.38 ID:dnbMocsZ0


打ち止めに声を掛けた理由は単純。他に道連れとなる相手が見つからなかったから以外にない。
番外個体は打ち止めが個人で所持している携帯電話にではなく、黄泉川宅の電話に掛けるべきだったと後悔した。
当然、こんな問題を抱えたまま遊び呆けられるはずもないので、黄泉川に電話して簡単に事情を説明し、あまり遅くならない内に
帰す事を条件に了承してもらった。


「あれ? そう言えば番外個体、学校通い始めたんだよね? ……いいの? ってミサカはミサカは確認を取ってみる」

「ああ。いーのいーの☆ ちょっと寝たらスッキリしたし、何より今は無性に暴れ回りたい気分なんだ。っつーワケで、ミサカの
 ストレス発散に付き合ってちょーだいね」

「………あの人とケンカでもした? ってミサカはミサカはズバリ推測してみたり」

「お願いだから、しばらくあの馬鹿ヤローの話題は謹んでもらえる?」

(やっぱりそうなんだ……。ってミサカはミサカは図星だと確信する)

(いや、そりゃあミサカも酔ってて滅茶苦茶言ったかもしんないけどさ……。何もミサカを置いて出てっちゃう事ないじゃん……。
 どうせあいつもどっかに憂さ晴らしに行ったんだ! そうだ、そうに違いない! こうなったら、ミサカも勝手に楽しくやらせて
 もらうんだから!)

「番外個体……? 拳に凄い力篭もってるけど……。ってミサカはミサカはちょっと痛いって訴えてみる」

「ん? ああゴメンゴメン。んじゃ、夜遊びの続きといこうぜ。今夜だけはミサカが許すから、たまには上位個体サマも良い子の
 皮とっちゃえよ。っさー、遊ぶぞコンチクショー!!」


一人勝手な結論を導き出し、一人決起する番外個体に打ち止めは聖母のような温かい視線を送った。
決して二人の破局を望むなどと、疚しい願望を胸に秘めているわけではない。打ち止めの威信にかけてもそれだけは断言しておく。
93 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/10(土) 22:47:09.27 ID:dnbMocsZ0


―――



状況は一転。
一方通行が白井黒子と紆余曲折ありながらも何とか話をつけ、フレメアの後世話を引き受ける事でまとまった直後であった。
不気味な気配が新たに二人分追加されている事に気づいたのは……。


「おーおー、脱走したって聞いたからどこへ行ったのかと思えば……こんなトコで最終標的に出くわすとはねぇ」

「うっそぉ〜。逃げたネズミの足取り辿って来てみれば偶然第一位さまぁ? チョット出来すぎな展開じゃなぁい?」


若い女の声が二つ、闇の奥から聴こえた。
驚いた様子でそちらに目を向ける黒子、フレメア、そして一方通行。


「……!!」


二つのシルエットが街灯に照らされ、その実体を明らかにする。
一方通行、フレメアは小柄で黒服を着た方の少女に着目し、黒子はもう一人の自分と同じ常盤台の制服を着た少女に対して
驚愕の目を向けた。

黒夜海鳥、食蜂操折。この規格外な組み合わせが揃って現れたのは、果たして偶然か必然か。
94 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/10(土) 22:48:20.97 ID:dnbMocsZ0


「まさか第一位が先に発見しちまうとはなぁ……。まぁいいさ。ぶっちゃけ、そのガキは事実上用済みだからな。連れてく
 分には構わないが、“私ら”について知りすぎてる以上、生きたまま野放しってのは勘弁願いたいね」

「こんな小さな子を拉致監禁してたなんて事実が上層部に知れたら、こっちの立場が危うくなるってワケ。つまりは口封じ♪」


隠すことなく物騒な目的を明かす黒夜と食蜂に怯え、一方通行の足に縋りつくフレメア。
それを見た黒夜が茶化し始める。


「なんだよ、十代にも満たないガキに良く好かれてんじゃないか。それってイメージ的にどうよ?」

「………このガキを殺しに来たってンなら、運が悪かったな。俺がこの場に立ち会ってなきゃ楽に終わるミッションだった
 ンだろォが、現実は厳しいモンだ。更に、オマエらは無用心にもこの俺の前に姿を現しちまった。これがどォいう事に繋がる
 か、もォ分かってるンだろォな?」


安い挑発文句に乗らず、戦意を高めていく一方通行。禍々しい空気がその場一帯に張り詰め、呼吸すら満足に吸えないような
感覚を味わいながらも、黒子は黒夜たちの発言内で気になった単語をぼそっと呟いた。


「第……一位…………?」


空耳ではない。確かにあのカラスみたいな格好をした小柄の娘はさっきまで自分と論争していた男に対して『第一位』と言って
いた。
95 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/10(土) 22:49:50.35 ID:dnbMocsZ0

「まさか………いや、嘘……。そんなことが………」


一人頭を唸らせ、葛藤する黒子。
黒子の思念を読み取った食蜂は、面白がるような口振りで解答をくれた。


「あらぁ、一緒に居たクセして知らなかったのぉ? その人こそ学園都市最強の超能力者、『一方通行』御本人サマよぉ?」

「…………え、えええええええええええええええええええええええっっっ!!!???」


(ちっ……。結局こォなンのかよ。やっぱ力ずくでも早く帰しておくべきだった……。折角の気遣いもこれで全部水の泡か……)


白井黒子と超電磁砲に繋がりがあるのは『打ち止め』との掛け合いからも把握できる。
そんな人間に自分のことを知られるのは望ましくなかったし、部外者にこれ以上立ち入らせるのは阻止したかったが、こうなって
しまっては致し方ない。

一方通行と食蜂を交互に見ながら口をぱくつかせて仰天している黒子。この段階で、彼女も踏み込んではいけない領域へ足を踏み
入れてしまっている。そして、その原因は少なからず自分にある。ならば、彼女の今後の安全も自分が保障しなければならない。
これ以上無関係な他人を巻き込むのだけは避けたかった。


「えっと………あのぉ…………」


狼に遭遇した子羊みたいに萎縮した黒子。先ほどまでの威勢が嘘のようだった。
こういう反応には慣れている一方通行だが、ほんのニ〜三分前まで対等に言い返していた彼女の突然な変化は何故だか癪に障る。
気づけばそんな彼女に自然と声を荒げていた。
96 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/10(土) 22:51:34.53 ID:dnbMocsZ0


「急に人の顔色を窺い出すンじゃねェ!! 今まで通りに接しやがれ!!」

「っ……!?」


この一喝で我を取り戻したのか、ビクリと反応した後に目をパチクリさせて咳払いを一つ。


「……コホン。し、失礼しましたわ。あまりの衝撃でつい………。で、確認させてもらいますが………今のは事実ですの?」

「チッ……だったらどォした?」


曖昧にしておくのも後々厄介なので、あっさりと肯定しておく。
すると、何故か黒子のこちらを見つめる目が落胆の色に染まったのがわかった。


「……オイ、何だその幻滅したよォな眼差しは? 言いたいことでもあンのか?」

「いえ……、何て言いますの? 話に聞いていた印象とは似ても似つかない御方でしたので……。まさか、貴方がわたくしの
 崇拝する御坂美琴お姉様をも凌駕する二人の超能力者の内の一人だったとは………。ハァ……」

「なンでそこで溜め息吐いてやがる? っつーかよォ………。オマエは俺に一体どンなイメージ膨らませてたンだ?」

「だって………ねぇ?」

「マイナス下降なのは分かったから、もォいっそはっきり言え! 苛々させやがる……!」
97 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/10(土) 22:52:56.24 ID:dnbMocsZ0


「第一位、つまりこの学園都市が誇る“最強にして最悪の怪物”。……そのキャッチフレーズに貴方が適しているだなんて……。
 信じられないというよりは信じたくありませんわね」

「なら、身体に直接植え付けてやろォか? 俺への恐怖心が軽減されて、物足り無さでも感じてやがるンなら別に構わねェン
 だぜ? 今すぐイメージ通りの烙印押させてもよォ」

「………わたくし、これでも人を見る目は確かですの。貴方がそのような蛮行を実行できる人間だとは思えませんわ」

「あァ?」


心から慕っている御坂美琴よりも更に上の位に立つ存在は、もはや黒子にとって雲の位置にいる者と考えられる。
良い噂こそ聞かないが、純粋に能力開発に磨きをかけて大能力者に到達した黒子としては、そんな神のような存在に対して多少
ながらも憧れの気持ちは抱いていた。

ところが、いざ現実を目の当たりにすればこんなものである。
芸能人のファンが実際に本人と接する機会を得た後、その人間の本質に幻滅してファンを辞退してしまうのと同じような心理が
黒子に働いていた。

どんな怪物なのだろう……。一方通行を知らない一般人は各々の想像を自分勝手に膨らませている。
黒子もまた例外でなく、実際の一方通行を目の前にして自分が勝手に抱いた幻想、理想像が音を立てて崩壊したらしい。
ガッカリした眼差しの理由は大体そんなところである。

最初は確かに凄まじい威圧感に怖気づきはしたが、言葉を交える内に一方通行の本質が漠然とだが掴めてきたのだろう。
女性の勘は侮れないとは良く言ったもので、彼女は打ち止めとの出会いや番外個体との同棲生活の影響により、性格が緩和した
一方通行から残虐さや非道さは全く感じなかったのだ。

少なくとも、噂通りの極悪人だとは到底思えない。風紀委員として培われた観察力がそう判決を下していた。
98 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/10(土) 22:55:08.97 ID:dnbMocsZ0


(“こいつ”もかよ………クソ。打ち止めと出会ってから、おめでてェ馬鹿に出会う比率が増してンのは一体どォいう理屈だ?)


自問したところで答えは出ない。


「………貴方があの第一位だとは、正直まだ受け入れられませんが……まぁいいでしょう。それより、そこの貴女!」


黒子の瞳には食蜂の姿が映っていた。


そう。戸惑っている猶予など、残念ながら設けられていなかった。
すぐ目の前に敵がいる。この事実を忘れてはならない。
まずはフレメアを奪還しに現れた刺客二人を迎撃するのが先決である。


「何がどうなっているのか分かりませんが、貴女がここにいる理由を是非お聞かせ願いたいですわね! 食蜂操折!」


ビシッ! と決めた指の先には妖しく微笑む食蜂の顔。
黒夜もようやく自分達に矛先が向いたのを嬉々するように、退屈そうな表情を不気味に歪めた。


「学校外で会うのは初めてかしら。第三位の腰巾着さん? こんな遅くまで、お勤めご苦労さまぁー」

「…………質問に答えてくれませんかしら? 何故、貴女がこの場に居ますの? 完全下校時刻はとうに過ぎてますわよ?
 風紀委員でもない一般学生の貴女がこの時間に外を出歩くのは、見過ごすわけに行きませんわね」
99 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/10(土) 22:56:28.38 ID:dnbMocsZ0


「あらぁ、風紀委員って言っても所詮は暇な学生の集まりでしょう? アンタは良くて私はダメだなんて、差別じゃない?」

「………」


嘲笑うような態度で反論する食蜂。
黒子の眉間が一気に険しさを増した。しかし、食蜂は気にせず続ける。


「ねぇ。今からでも遅くないわよぉ? あんな子供趣味で統率力もない孤高女に付き添ってるより、私の派閥に加わんなさいよ。
 アンタの能力レベルなら利便性もそこそこ高いし、案外重宝するかもよぉ?」

「お断り致します!」

「………はっ、でしょうねぇ。わかってるわかってる、ちょっと言ってみただけよぉ。いざとなったらわざわざ口頭で勧誘する
 必要なんざ、無いんだしね」

「お姉様が貴女をいけ好かない理由、わたくしも良く知ってますわ……」


食蜂にとって、そもそもコミュニケーションを図る行為自体が無意味なのだ。
相手の心境や感情を瞬時に読み取れる以上、結果など分かりきっている。にも関わらず小馬鹿にした調子で無駄な誘い文句を
ベラベラと口に出す。予測の範疇を超えた的確な方法で相手の意思、思考を土足で覗き、必要あらば改竄にまで及ぶ。
この時点で、食蜂が対等に接するのかが如何に馬鹿馬鹿しいと考えているのかが判る。

黒子もまた、この常に上から物事を愉しむ性癖の食蜂には好感が持てなかった。
100 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/10(土) 23:00:35.39 ID:dnbMocsZ0


「理由? そいつは興味深いわぁ。良い機会だし、是非聞いておきたいなぁ」

「本当は自覚できている癖に、そうやってくだらない遊びに精を出す所ですの。馬鹿にされているようにしか思えませんわね……。
 ついでに明かしますが、わたくしが何故貴女よりもお姉様に信頼を寄せているのか……。それは貴女などと違い、お姉様は常に
 向上心を忘れず、一度決めたら絶対に曲げない、固い芯を持っていますの! 人の心を自分の思い通りに動かして生きるような
 曲がった生き方と違い、御坂美琴はいつも真っ直ぐに生きてますのよ! ……わたくしはそんなお姉様だからこそ、一緒に居て
 楽しいですし、どこまでもついて行こうと思えますの。……貴女の能力を持ってしても、こればかりは理解できないでしょうね……」

「アンタがあいつにどんな感情を抱いてるかなんてお見通しだけど、共感はできそうにないわねぇ。っつか、そんな熱く語られた
 って私の改竄力で思いのままなのは理解できてる?」

「………やはり、貴女には何も分からないようですわね。そんな人為的なもので、人の感情を百パーセント支配したとは限らない
 んですのよ? たとえ物理的に人を思いのままに操れても、心の奥までは干渉できませんの。決して……」

「ふぅん、この私に精神関連の教えを吹っかけてくるなんて良い度胸してんじゃないの。ちょーっとだけ見直したけど、やっぱり
 そういう根拠無しの精神論を語られても、専門家としては鼻で嗤い飛ばすしか無いのよねぇ」

「…………もう貴女に伝える事など、一つもございませんわ。――――――さて……」


平等では無い関係を築いて学校生活をエンジョイしている彼女には普段なら興味すら湧かないが、この場合は話が別だ。
秩序の乱れには敏感に対応しなければならない立場の風紀委員として、まして自分と同じ学校に通う生徒が如何わしい事件に
関与している可能性が少しでもあるのなら、目を逸らすわけにはいかない。


「これ以上の無駄話に付き合う気はありません。まだ何の説明も受けていないので、推測でしか語れませんが……貴女がたも
 フレメアさんの誘拐に関わっていたと捉えて問題なさそうですわね。経緯や動機、その他もろもろ……。全部詰め所で吐いて
 もらいますわ!」
101 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/10(土) 23:05:37.74 ID:dnbMocsZ0


「おーっと、腕章してるからまさかとは思ったが、やっぱりこいつ風紀委員かよ。こりゃ穏便には行きそうにねえなぁ……」


おどけて両手を挙げる黒夜。黒子でなくとも嘗められているのが理解できる。


「参ったわねぇ。今捕まったら色々と拙いしぃ、どぉすんの? 黒夜ぅ」

「そうだな……。ま、今日のところはコッチが引き下がってやるしかないみたいだね」

「逃がすと御思いで? 二人とも、両手を頭の上に乗せなさい。動いたら余計な怪我を負うハメになりますわよ?」


黒子の手には既に何本かの金属矢が握られていた。
あとは何秒もかからない内に捕縛可能だが、そんな状況にもまるで動じていない食蜂、そして黒夜。


「ひゃははは! アンタ如きが私を拘束できるとか、本気で思っちゃってるワケぇ? お笑い種だわホント。身の程くらいは
 弁えてるかと思ってたけど、なんかガッカリねぇ」

「……僅かでも能力を使う素振りを見せましたら、容赦なく拘束致しますわ。知ってますのよ? 貴女が“精神操作”の類を
 行う際は、その鞄にしまってある『リモコン』に手を伸ばす必要がある……。どっちが速いかは語らずとも分かりますわね?」

「おやおや、派閥に入ってないアンタがそんな事前情報入手してるってコトはぁ……もしかしなくても第三位の入れ知恵ぇ?
 まったくイヤになるわ。序列は自分の方が上な癖に、姑息ってか陰湿ってか……」

「お姉様も貴女には心底言われたくないでしょうね。それに、わたくしが知っていたのは……、貴女の理不尽な洗脳からわたくし
 を救うための助言ですの。お姉様の陰口を叩く者は、誰であろうと許すわけに参りません!」
102 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/10(土) 23:07:05.25 ID:dnbMocsZ0


「チッ……、面倒臭ぇなぁ。おい食蜂。この図に乗り始めてる偽善者野郎、そろそろ私が黙らせてやるが、何か問題あるか?」

「わざわざ私に許可を求めるのぉ? 意外と律儀ねぇ、黒夜ちゃん♪」

「一応お前の知人みたいだからな。私はなるべくクチを出したくなかったんだが……あー、ダメだ。限界だわ。生粋の『表住民』
 が振り撒く“奇麗事”が耳障りすぎてよぉ………さっきから吐き気が止まらないんだわ」

「あっはは、同感ー♪」

「……っ」


まるで緊張感を持たない二人に黒子の苛立ちが最高潮へと達しかけた時、成り行きに身を任せっ放しのフレメアを庇うように
じっと傍観していた一方通行が口を挟んできた。


「オイ、小娘」

「……?」


顔は黒子へ向けられている。怪訝な顔で振り返った黒子に、一方通行は残酷な命令を下した。


「そっから先は俺が引き受けた。オマエは今すぐ自分の居場所へ帰れ」

「――――!?」
103 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/10(土) 23:10:39.56 ID:dnbMocsZ0


この言い方では噛み付かれるのも承知。だが外野同士の間にどんな事情が絡んでいようと、メインターゲットが自分である事実
は変わらない。故に、始末をつける責任は己自身が請け負わなければいけないのだ。
常盤台の組織構図や『暗闇の五月計画』の因縁など、一方通行の知ったことではなかった。


「………貴方、空気も読めないんですの? わたくしをどこまで無下に扱えば気が済むんですの!? ………貴方に対し、悪印象
 は感じないと断言しましたが、撤回させてもらいますわ……!」

「好きに思え。オマエの勝手だ……。だが、ここから先への介入は俺が許さねェ。部外者にいつまでも目の前飛び回られンのは、
 邪魔以外の何物でもねェンだよ。オマエはとっとと自分の在るべき場所に帰れ。……ここは、オマエみてェな善人が出しゃ張って
 良いよォな場所じゃねェンだ。……それでも首を突っ込みたいンなら、今の自分を全部捨てる覚悟を決めろ」

「何を……勝手な暴論を……!」

「大げさに聞こえるかもしンねェが、実際は違う。オマエが思ってる以上にこの街は今、杜撰で腐りきってる……。一度深みまで
 踏み込ンじまったら、もォ元には戻れねェ……。こいつは冗談なンかじゃねェぞ? 今ならまだ、オマエが泥沼に堕ちる前に俺が
 救ってやれる段階だ。手遅れになっちまう前に引き返せっつってンだよ」

「………この女を見逃せ、と?」

「ヤツらの狙いは俺だ。オマエは偶然居合わせただけだろォが。たまたまそこのガキと出会って、成り行きだけで今この場に居る。
 それだけにすぎねェ」

「事情がさっぱり呑み込めません……。どういう事なんですの!? わたくしが納得できるように、説明してくださいませ!!」

「それよりも優先しなきゃならねェのは、オマエらが安全に今後の生活を送るための権利を確保することだ。オマエが馬鹿じゃ
 ねェなら、俺の言葉の意味する事が理解できるはずだ。……わかったら早く――――」

「ふざけないでくださいまし!!」
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [scpbd621]:2011/09/10(土) 23:10:44.35 ID:KeJspFWh0
乙ー!!
俺はこれを楽しみにして生きてんだ
105 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/10(土) 23:15:07.01 ID:dnbMocsZ0


退場の督促を今までに無い声量で遮った黒子。
怒りと悲愴の形相で一方通行を睨み、己の強い意識を剥き出しにする。


「わたくしは馬鹿ではありませんが、貴方の言葉を鵜呑みにするような機械染みた思考回路ではありませんのよ!! 犯罪の匂い
 を察知し、あまつさえ重要参考人を目の前にして敵前逃亡など、風紀委員の名折れもいいトコですわ!! 大体、さっきから言って
 ますが、貴方はいったい何様のつもりなんですの!? 仮に学園都市最強の能力者だろうと、常盤台屈指のエリートである第三位の
 超能力者だろうと、上層部公認の治安維持活動団体である『風紀委員』の務めを妨害する権限はございませんのよ!!」


背景に荒波でも迫っているかのような迫力で豪語する黒子に一方通行は、


「救いよォのねェ馬鹿か? オマエは……」

「貴方に救ってもらう必要などありません。自分の身ぐらい、自分でどうにか致しますわ。他人に媚びて生きるような人間とは
 違いますのよ」


もう好きにさせておこうか、と一瞬諦めかけた。
この女、どうやらあの頑固さに定評のある御坂美琴の信念そのものに強大な影響を受けているらしい。
現に、ここに居たのがもし美琴であったとしても、黒子と同じで言う事を聞かなかっただろう。
正義感の強い人間はこれだから扱いにくく、接しにくく、面倒で始末に負えない……。一方通行が盛大に呆れ返っている途中で
『新入生』二人が動きを見せた。


「いきり立ってるトコ悪いんだけどさぁ、今日はもうお開きにしない? ねぇ、黒夜。もともと今ここでドンパチする気は無い
 んでしょう?」

「あァ……?」
106 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/10(土) 23:16:55.14 ID:dnbMocsZ0


「あぁ。……できるならすぐにでもアンタ(一方通行)の首を切り落として土産袋にでも入れたいトコロなんだがな……。分が
 悪いのは残念ながらコッチの方だ。それに、“時間切れ”みたいだし……」


その言葉の後、ふと耳を澄ますと遠くからサイレンの音が近づいてくるのが分かった。
黒子が呼んだ警備員がこちらに向かっているらしい。
公共機関を相手にするのは避けたい。それは彼女等も同様みたいだが、一つ解せない事がある。一方通行がストレートに尋ねた。


「このガキは取り返さなくて良いのかよ? ……っつか、さっきと言ってることが矛盾してねェか? こいつを野放しにしてちゃ
 都合が悪いみてェな事ぬかしてたよなァ?」

「構わないよ。実を言うと、そのガキはもう用済みなんだ。捜索してたのは、単に動向の先が気になっただけさ。引き取るんな
 ら、好きにしな。さっきのは私流のジョークってヤツよ。これでもお茶目な年頃でね……」


あっさりフレメアを譲った黒夜に、少々意外そうな顔をする一方通行と黒子。
危険因子である浜面仕上と一方通行の間に“接点”を生ませる業務が完了となった今、フレメアを浜面の元へ返還できない理由
なんてどこにもない。
言ってしまえば、フレメアの脱走は寧ろ良い機会だった。血眼になって捜す理由も存在しなければ、わざわざ危険を負ってまで
奪還する意味もないのだ。

そして、警備員が余もなく到着するような状況で無理に戦闘へ移行したくないのは一方通行も同意。
ここは後日に仕切り直すのが妥当である。


「まぁ。“収穫ならそれなりにあった”しぃ、警備員に目ぇつけられるのは流石に御免だしねぇ。っつー事だから、ごきげんよぉ〜♪」


「―――――オイ、ちょっと待てよ。そこのオマエ……」
107 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/10(土) 23:18:30.72 ID:dnbMocsZ0


上機嫌で帰ろうとした食蜂の背中に声を掛ける。


「ん? 私に何か用?」

「あァ、まだ警備員がここに着くまで時間がある。少しオマエとも話がしてェ」

「ほぉ〜……。ま、いいよ。ちょっとだけなら付き合っても」

「………私は先に帰るぞ。“野暮用”があるからな」

「はいはい、どうぞご勝手にぃ。またね〜」


闇へと消えていく黒夜に軽く手を振ってから、改めて一方通行たちと向かい合う食蜂。
話も何もないまま別れようとしていた二人の超能力者が、ここに来てようやく互いの顔を見合わせた。
嫌な緊張感が周囲を包む。黒子はこの貴重な光景を改めて実感しているのか、固唾を呑んで事の成り行きを見守るしかなかった。
本来なら同じ常盤台生である自分が積極的に話を伺いたいのだが、『超能力者同士の対峙』に易々と介入できるかどうかの弁えぐらい
は持っている。フレメアと一緒に退き手に回らざるを得なかった。


「さっき、そこの小娘との会話で既にピンと来ていたが……オマエが噂の“常盤台が誇るもう一人”の超能力者で間違いねェンだな?
 序列は………確か、第五位だったか? 胡散臭ェ能力の最高峰だってのは聞いたことあるぜ」

「ふふっ……、そういや碌に挨拶もしてなかったね。こりゃ失敬☆ じゃ、改めてよろしく第一位サマ。私の名前は食蜂操折……。
 能力名(?)は『心理掌握』。以後お見知りおきを」

「うぜェキャラ作ってンじゃねェよ。胸糞悪りィ……。俺を欺きたいなら、もっと完成度を高めてからにしやがれ」
108 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/10(土) 23:20:06.00 ID:dnbMocsZ0


「最近、『お嬢様モード』にハマってんのよ♪ どぉ? お嬢様っぽかった? ねぇねぇ」

「…………根本的に『意見』ってのを聞き入れない性質か? オマエ」

「ちぇ、流石学園都市一の優秀な頭脳だけあって、遊びが通用しないのねぇ〜。あーあ、つまんない。お堅いオッサンよりずっと
 感じ悪いわぁ。ぶーぶー」

「………………」


この女とは一生相容れることは無いだろう……。一方通行は軽い眩暈を覚えつつもそう直感した。
素がこうなのか、それともまだ演技は続いているのか。どちらなのかを絞る気すらも起きなかった。
超能力者という者はつくづくまともな神経を持っていないようだ。自分を除いて。


「はい待った。異議アリ。……アンタ、なにさりげなく『自分はまともな部類だ』とかほざいちゃってるワケ? どう考えても
 アンタの方が異常者じゃん」

「………勝手にヒトの本心を覗くのは感心しねェな」

「ふふふ、………けど精神の入り口に“壁”が張られて無い様子を見ると、能力が弱体化したって噂はどうやら本当みたいねぇ。
 確か、最大で三十分だけだったっけ? 私の放つAIMを完全に阻害できるのって? いやぁ、お気の毒さまぁ♪ ねぇ、最強の
 椅子から転落した気分はどーお? 是非本人のクチから感想を聞きたいモンねぇ」

「不自由な条件ばっかでウンザリなのは認めるが、この環境にも大分慣れてきたところだ。確かに俺自身、失ったモンはデケェ。
 ……だがな、得たモノも決して少なくねェとだけは言っておく。俺の弱体化がオマエにとって有利になったって希望抱いてンなら、
 今すぐに考えを改めた方がイイぜ?」
109 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/10(土) 23:21:00.82 ID:dnbMocsZ0


「なぁんだ。別にそこまで失意に堕ちてるワケじゃないのね……。私だったら精神力保ってられるか不安だわ。目が醒めたら演算
 能力も言語能力も失ってて、挙句にゃ本来テメェに殺されてるはずだった実験動物たちの援助で最低限の生活保障………。げぇ、
 考えただけでおぞましくない? ってか、そんな恥もへったくれもない身分で良く堂々と生きてられるねアンタ。その神経こそ、
 私にゃ到底理解できそうにないわ」

「どォ思われよォと、俺の知った事じゃねェな……。それに俺から言わせれば、オマエがどォいう経緯で“小者側”についてンの
 かが考えつかねェよ。何だオマエ、俺の命に興味なンてあったのか? オマエも“トップの椅子”ってヤツに何時かは座れるよォ、
 虎視眈々と昇格を狙ってるクチか?」

「まさか。ただしつこく勧誘されたから、暇つぶしに参加してやっただけ♪ 良い退屈しのぎになりそうだし、人生色々経験した
 方が将来役立つってヤツよぉ。……ま、戦争もあっさり終結しちゃったし、これからまた暇すぎて堕落しそうな日々がエンドレス
 に続いていくのかって思うと、危ない橋も勢いで渡ってみたくなっちゃうモンよ。それに、アンタの『自分だけの現実』ってヤツ
 にチョットだけでも直面できれば、新たな応用力が身につくかもしんないしねぇ」


本心なのか、それとも小芝居なのか……。判断が難しい。流石に“人間の心理”に関しては専門なだけあって、易々と感情を読ま
せてはくれないようだ。一方通行ほどの洞察力を持ってしても、食蜂の“本気度”が計れなかった。
とりあえず、彼女が気まぐれで暗部の一員となったのだけは分かった。

ならば、彼女の中には少なからずも自分と共通する心理が存在するのではないか?
もしそうだとすれば、今からの“引き返し”も間に合うのではないか?

しかし、一方通行はそれを言葉に出せなかった。

仮に食蜂が『新入生』を裏切って“こちら側”についたとしても、信用に値する材料が何ひとつ存在しない。
麦野率いる『新生アイテム』も、信用して問題ないと判断したのは腹を割って話し合ったからだ。
こちらの内部事情を探らせて、新たな策略でも生み出された日には本末転倒である。そんな危険性充分の彼女に心を許すほど、
一方通行は甘くない。
110 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/10(土) 23:22:22.70 ID:dnbMocsZ0


「………そォか。つまり、オマエは俺を敵に回すことで、退屈な日常に終止符を打つ道を選ンだわけか……。ククッ、身の程
 ってモンが分かってねェらしいな。そして、オマエに目をつけたヤツら(新入生)も、大概アタマが弱ェぜ。第五位が加算
 された所で、それが何の足しになる? 結局、何の活路も見出せてねェことに気づいてすらいねェ……。……ハッ、おめでた
 すぎて、心から憐れンじまうわ」

「………」

「所詮オマエは格下、俺にとっちゃただの雑魚でしかねェ。そンなヤツを何匹引き入れた所で、結果は変わらねェさ。“オマエ
 達が俺に潰される”って結果はな……。『心理掌握』、第五位のオマエが第一位の俺相手に一体何ができるってンだ? 笑わせ
 やがるぜ……。今ここで断言してやる。あンな連中とツルンでも、オマエの将来に一切役立たないってな。そもそも、俺を相手
 にする時点で、折角の人生が棒に振るわれてる事実に気づかねェンなら、オマエもただの馬鹿って事になる。……わかるよなァ?
 こいつは足し算引き算以前の問題だって事が……。わからねェなら、もォ一度“数の数え方”から勉強し直してこいよ」

「べらべらと良く喋るじゃん。意外だねぇ……。パッと見、寡黙そうなイメージなのに………。けど残念。アンタは幾つか重要な
 勘違いをしてるみたい」

「あァ? 何だそりゃ?」


憐れむような目を向けたのは食蜂の方だった。これにより、一方通行の表情は疑念に包まれる。


「まず、アンタは私を“ただの一般人”だと認識してるみたいだけど……それは大きな間違い。これでも“色々”と経験済みよ。
 ……まぁ、流石にアンタや第四位ほど深く関わっていたワケじゃないけどね」

「そりゃ悪かったな。………勘違いってのは、まさかそれだけかよ? だったら――――」

「ううん、もちろん本命はこの後よ。アンタは『絶対』の領域に辿り着けなかった。つまり、“欠陥だらけ”ってコトよ。意味、
 わかる?」
111 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/10(土) 23:23:54.72 ID:dnbMocsZ0


「生憎だが、さっぱりだ。まるで俺が隙でもみせるって予言してるみたいだなァ。……で、何? そいつが俺を破る策にでも
 繋がるってのか? だとしたら、期待外れどころの騒ぎじゃねェな」

「私の総合力をデータでしか調べられないアンタじゃ楽勝すぎて面白味もなくなっちゃうから、特別に少しだけ教えてあげる。
 私が操るこの能力、何に一番優れていると思う?」

「……?」

「二つあるんだけど、その内の一つは『情報収集力』。……まぁ、私の能力を知ってれば予想できるわよねぇ。“隠された真実”
 だって、何の苦もなく暴け出せちゃうんだから」

「…………」

「もう一つは、『統率力』。これでも最大派閥を率いてますからぁ、人脈は半端なく広いのよぉ。しかも、私の意思で自由に操作
 できるってのがミソよねぇ♪ 人手が要りそうな状況も、難なく解決♪ もうぶっちゃけちゃうケドぉ、さっきアンタが蹴散ら
 した下っ端共も実は既に私の虜でしたぁ〜、ってね☆」

「そォかい……。っつーかよォ、さっきから何ひとつ的を射てねェぞ。結局オマエは何を俺に言いたいンだ?」


一方通行の方が明らかに焦れている。
相手の心理を探ることに優れている食蜂は、言葉巧みに相手の苛立ちや余裕を奪う仕事には長けていた。
会話の始まりは言い換えれば『心理戦』。つまり、彼女の土俵。

この時点で、一方通行は食蜂のペースに乗せられている。それは本人さえも気づかないほどに精妙で、些細な事象なのだ。
しかし、この微妙な主導権の傾きこそが手玉に取るための布石には欠かせない、重要な役割を果たしている。食蜂は既に一方通行
という人間を分析し始めていた。
牙城を崩すための下準備は、もう彼女の中で開始されている。
112 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/10(土) 23:25:31.19 ID:dnbMocsZ0


「………なぁに、大した事じゃない。『最強』よりも更に脆い地位に成り下がったアンタなら、危険を覚悟せずとも安泰、って
 具合かしらね」

「そりゃちょっと見縊りすぎじゃねェのか? オマエも超能力者なら、基礎知識は頭に入ってるはずだ。俺とオマエには―――」


「―――――『絶対に超えられない壁』……でしょ? ははっ、それくらい無能力者でも知ってる超一般常識じゃん。第一位、
        そして第ニ位……。学園都市に住む者なら必ずしも頭に植え付けられている、その圧倒的な存在。……確かに
        それが世間の一般論であり、実情。何者にも決して届かない領域に君臨する怪物……。まぁ、私に言わせれば
        手を出して欲しくないから垂れ流した“虚勢文句”みたいなモンだけどね」


「…………!」


「けどさぁ、“超えられない壁”って表現……何だか曖昧だと思わなぁい? 要するに、高くて乗り越えること叶わないって
 意味でしょう? でも、それって変よね? 何も壁自体が絶対不落って言い表してるワケじゃない。そもそも、“壁”は必ず
 しも超えなきゃならないとは限らないしねぇ」

「……どォいうことだ?」

「簡単よ。“超えられない”壁なら、いっそブッ壊しちゃえば良いのさ。それが出来ないんなら、穴でも空けてそっから潜れば
 良い。その危険性を恐れたから、アンタは『最強』よりも『無敵』の称号を欲しがった。違うかしらぁ?」

「何だと……。黙って聞いてりゃ、ずいぶンとくだらねェ憶測立ててくれるじゃねェか……」

「憶測……。ふふっ、どうかなぁ。けど無理にそういう概念を頭にこびりつかせるコトで、実験の内容に関する“不本意な感情
 を殺していた”って言う点では当たってるんじゃないのぉ?」

「………ッ」
113 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/10(土) 23:26:39.92 ID:dnbMocsZ0



「まぁ、どんな説を立てても所詮は過去の産物……。私の関心度をくすぐる程のモンじゃないんだけどねぇ。大事なのはアンタ
 の的外れな認識がどう崩れ去るか……。自分より劣る人間がどれだけ集まろうが、恐れるに値しないっていうその愚かな先入観。
 私に今すぐ攻撃を仕掛けないのは、アンタの中に慢心が有るから……。最強の自分が格下に遅れを取るわけがない。確かに道理
 だけどさぁ、いつまでも紳士気取ってると取り返しのつかない結末が不意に近づくコトだって、もしかしたら有り得るかもね」



114 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/10(土) 23:27:48.71 ID:dnbMocsZ0


「………」

「『最強』と『完璧』じゃ意味が違うのよ。どんなに力の差が開いていようと、それはあくまで正攻法での話。やり方次第じゃ
 いくらでも穴は見つけられるし、歴然なんて表現を無意味に変えることだって出来るの。近い内にソイツを証明してあげるから、
 精々今から首でも洗ってるのねぇ。うふふふ……」

「……………」

「じゃ、警備員の世話になるのはマジ勘弁だから今日はこの辺でぇ〜。また縁があったら会いましょ、最強さぁん☆」


それ以上、彼女の口から語られることはなかった。結局、最後まで飄々とした態度のまま食蜂は去っていく。
一方通行は彼女の言動から何か思うことでもあったのか、しばしの間、俯きがちだった。

気づけばサイレンの音もすぐ側まで迫っている。ここに長居するのは不要な面倒を招くだけだ。
気持ちを切り替え、食蜂の消えた方角から黒子とフレメアに目を戻し、告げる。


「……ひとまず移動するぞ。警備員に見つからねェよォに………あー……っつか、面倒だな。オラ、じたばたすンじゃねェぞ。
 一応言っておくが、もし大声を上げてみろ。コンクリートと全身でキスするハメになるぜ」

「え? ちょっ―――――!?」

「にゃああ―――――!?」

115 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/10(土) 23:29:34.79 ID:dnbMocsZ0


能力ONと同時に二人を両脇に抱えて、一方通行はどこぞの怪盗の如く鮮やかに飛び去った。
突然の空中散歩により生じるであろう黒子の悲鳴は見つかる要因になりかねないので、予め脅しておくことは忘れない。


しかし、一方通行は気づいていなかった。
飛び上がって空を舞う自分たちを見上げる二つの熱視線に。しかも、黒夜たちと鉢合わせた段階から存在していた事に。


そして最大のミスは、黒子の属する支部からあまり離れないように気を配ってしまった事。
実際には反対の大通りまで跳躍移動しただけにすぎなかったのだ。この不穏な影の正体は直に判明するので心配は要らない。
116 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/10(土) 23:31:16.69 ID:dnbMocsZ0
ここまでです
なんだかんだありましたが結構進んだ気が……しないかな?

では次回の一部をチラリズム
117 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/10(土) 23:36:47.19 ID:dnbMocsZ0


番外個体「ちょっと待てよ。この後は何処へ繰り出そうってんだ? え? このハーレム野郎が」


打ち止め「………見損なった。流石にこれはないよ……。ってミサカはミサカは軽蔑の目でアナタを睨んでみる」


一方通行「…………………………………………………………………」



―――――――



浜面「えっと……何がどうなってんのかサッパリ分からんが、とりあえず喜ぶべき?」


フレメア「ふにゃー」

118 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/10(土) 23:38:26.44 ID:dnbMocsZ0
以上です
一方通行が上条さんとダブって見えるのは自分だけ……?

次回もまた遅くなっちまいますが、逃げたりしねぇんでよろしく!
それではまた
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [scpbd621]:2011/09/10(土) 23:40:45.55 ID:KeJspFWh0
乙!!!!!!!
ゆっくり書いて構わないからな
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/10(土) 23:43:49.97 ID:6N+sTIJH0
乙! 第五位がいい感じに毒撒いてて面白かったです
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/10(土) 23:45:29.23 ID:onsUCM3SO
やべえここの食蜂超原作っぽい…
ていうか台詞回しすげえ…
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/11(日) 00:27:31.42 ID:F9Z6QHxb0
乙!

食蜂さんのキャラ安定してきたな
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/09/11(日) 08:16:18.02 ID:NeTaF6lAO
食蜂のキャラの完成度高いなぁ、現実にいたら絶対に敵対どころか、会合もしたくない人格と能力だな

まあ、最低限アルミホイル被って接触したくなるよね
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/12(月) 05:24:25.72 ID:wUVvHiXL0
                             /`ヽ_
           |                     /<    \
           |               /: : :.{     ヽ
        ________人__          / . : : : : !      l
        ̄ ̄`Y´    ̄        / : : : : :│      l
            |                / :.: : : : : :|       l
 ̄ ̄ `ヽ、    │           /: : : : : : :/|        l
 ヘ: : : : : : :\                  /: : : : : /   !: : : : : .     l
  ヽ: : : : : : :.\            /: : : : /     ヽ: : : : : . .   l
  : :}: : : : : : : : :\      __  _,l: : : :/      \: : : : : . .   !
   ヽ: : : : : : : : : :\ , '´     /´ |: : :/-、       \: : : : : . . l
    . :! ̄ `ヽ、: : : : :\ / 二二ニニ上-く   ヽ          \: : : : : .l
    . :|      >, 、: :.>/       `ヽ}   \         \: : : :l
    . :|     _//  {//         ヽ \  \ \         \__j
    . :!   ∠/ /    /     :|   }! l  ヽ   丶 ヽ=-
. : : : :/   / /  /   |    / |  ハ斗ヽ‐┼ ', |ヽヘ
: : :/    j イ   !   :l | __..⊥j  /  |/ _ヽム. | | | ∧    │
:/      |  | l  iイヽ :/j/|/    ィテ7ヾ}i|:.リ│}│   │
.        |/! l:ハ   | ィ≠テミ       V、:::j レ゙ |/V     i|
         ヽ! |ヽ!\|{ハイ:::::}   ,  `ー" / / | __ _∧___
         ヽl| 小 トヘ. ゞ'´        'イ /j/     ̄ ̄∨ ̄
              |  {ハヘ     ' ’  /j/∨         |!
             ヽ. W゙ヽ{`ト  ..__ ,.ィ1/'´         |
             \{  ` \rト、__/`l           |
                   /{  r{ }ュ }〉ー-  ..__
                _,. イヽ!___厂ヽ__j′ ̄   `ヽ
               , - '´  ̄ ̄ \/   ∨          ',
            /                        l
            l                 , -─- 、/     !

125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/12(月) 22:44:16.98 ID:RmwTOoDWo
食蜂さんの言うことももっともだな
美琴ですら厨設定の自動防御あるのに一方通行はチートすぎるからって下方修正されてるし
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/12(月) 23:50:49.89 ID:vztZ5hoT0
読心は知らんけどレベル5には精神操作が効かなかったような……
ってことは、通常モードの一方さんは危ないんじゃね?
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/13(火) 01:35:19.35 ID:aBeLE4tz0
一番の敵はまさかの食蜂か・・・

まあレベル的に言えば黒夜よりは厄介だな
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/09/13(火) 03:46:02.81 ID:sIas7y/5o
精神操作はなんだかんだで一方さんは勘が聞くから本人相手に操作をかけようとしてものらりくらりとかわせるかもしれないけど
打ち止めとか番外個体とかを操作されたら大変だろうな
操作じゃなくても不信感等をほんの少し煽るだけで思惑通りに転がりそうで怖い
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/09/13(火) 17:14:22.52 ID:FVOBxiSDo
>>128
MNWで常時モニター&バックアップしてたら、何とかなりそうな気がする。
130 : ◆jPpg5.obl6 [sage]:2011/09/15(木) 21:37:42.36 ID:T5YbN1U10
食蜂さんにつきましては未詳だらけなんで完全に手探りです
なので今後、あらゆる矛盾が生じるのは確定的に明らかです
その際は焼き土下座で御勘弁願います


では続き
131 : ◆jPpg5.obl6 [saga]:2011/09/15(木) 21:42:23.84 ID:T5YbN1U10


難なく路上に着地した一方通行は、両手に抱えた黒子とフレメアを降ろしてから一息入れる。


「―――――ふゥ……。ま、ここまで来りゃ充分だろ」

「い、いきなり乱暴しないでくださいな! 寿命が縮みましたの……!」

「ふにゃー……。しばらく空を飛ぶのは遠慮したいかな」

「ガタガタ文句言ってンじゃねェよ。あのまま警備員にしょっぴかれちまえってか? 冗談じゃねェ」

「だとしても、ですのよ!! ……まったく、なんて野蛮な殿方ですの……。流石は悪名高い第一位なだけありますわね……」

「周りが何て評価しよォが関心はねェがな、本人の前でクチにするのはどォかと思うぜ? なンならもォ一回、空中メリーゴーランド
 と洒落込ンで見るかァ? ただし今度は何かの誤作動で落下するかもしンねェけどよォ」

「お、脅さないでくださいまし! ……けど、警備員には事情さえ話せばそれほど面倒にはならなかったと思いますが?」

「馬鹿が、その事情が厄介なンだよ。下手に漏らしたところで、どっかで隠蔽工作が働くだけだ」

「………もしかして、機密事項が含まれていたりしますの?」

「そこまで分かってるンなら、俺の言いたいことも分かるな? もォこの件に関わろォとすンじゃねェ。今回は俺が居合わせたから何と
 かなったが、次もオマエが生きていられる保障はねェぞ?」

「ですが……食蜂操折が絡んでいるとしたら、やはり目を瞑るわけには参りませんの。確かにわたくし自身と面識は少ないですが、同じ
 常盤台の生徒として……」
132 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/15(木) 21:45:18.70 ID:T5YbN1U10


「あァ、そォいやオマエ風紀委員だったな。ったく……大した正義感だよ。あンだけ脅しても一切揺らがねェその信念……。少し前の俺
 なら嘲笑ってただろォな」

「………今は違いますの?」

「さァねェ。……ただ、“そォいうのも案外悪くねェかもしれねェ”ぐらいには昇格してるはずだ」


過去の感傷にでも浸っているような顔で言う一方通行に、黒子はキョトンとするしかなかった。
ひとまず、危機は去ったと言って良いのだろうか? この悪人面の最高位能力者によって命を救われたのだという実感が、僅かずつだが
湧いてきた。そして、黒子がその事について口を開くのを妨げるように一方通行は宣告した。

顔を一瞬の内にぐいっと近づけ、一言一句を彼女の心に余すことなく浴びせかけるように。


「とにかく、だ。オマエが今後、どォ行動しよォが俺に口出しする権利はねェ。……だが、“この件”の起因は俺の存在によるものだ。
 そこにオマエみたいな無関係者を立ち入らせるワケにはいかねェ。この次はこの前やさっきみてェな甘い警告じゃ済まないって事だけを
 よォく頭に叩き込ンでおけ」

「…………」


黒子は何も答えなかった。
ただ、己の信念に基づいてのみ行動していた彼女だったが、漠然とした巨大な背景を垣間見て腰が引け始めている。決定的となったのは、
彼が『学園都市第一位』だと知った時だ。彼が脳にダメージを受けて能力が弱体した事実を知らない黒子は、純粋な恐怖を感じていた。

“最強であるはずのこの男が危惧する程の敵”という存在に。
133 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/15(木) 21:46:40.38 ID:T5YbN1U10


当然、憧れの存在である御坂美琴ですら霞んでしまうほどの強大な陣営を想像しても何ら不思議ではない。
しかし、悪すぎる相手に喧嘩を売る経験ならこの前したばかりだ。

学園都市が『最重要機構』として扱う極秘組織の要塞へ乗り込み、ひとしきり暴れてやった。
様々な紆余曲折もあったが念願も無事に叶い、見事凱旋も果たしたのだ。

それだけではない。
これまでも多くの事件を取り扱い、同士達との協力で解決まで突き進んだのだ。その経験は決して無駄ではなく、確かに黒子の成長の糧
となっていた。

彼女の願いも、至極純粋なものだった。

『誰もが平和で、笑っていられる世界(主に美琴が)』。

その世界を護るためなら、どんな壁や障害でも臆することなく向かっていくし、いくら学園都市最強の異名を誇る者からの忠告を受けよう
とも、その信念を曲げるつもりはない。

しかし悔しいが、確かに今の自分の立ち位置は“巻き込まれた部外者”である。
事の詳細も何も知らない、文字通りのエキストラ……。それが現在の自分だ。
この男は、親切にも『これ以上関わりを持つな』と忠告してくれている。だったら彼の前で“知るための行動”に移ろうとしても、襟首を
掴まれて終了だ。

だから、黒子は『はい』とも『いいえ』とも言わなかった。
立て続けに起きた騒動で混乱した頭では、碌な結論も出てこない。今はとにかく整理するための時間が必要だったからだ。

やがて、一方通行は静かに近づけた顔を離した。
134 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/15(木) 21:47:55.68 ID:T5YbN1U10


「………まァ、後は勝手にしな。俺に出来るのは“俺のせいでオマエの人生が狂っちまわねェ様にする”トコまでだ。そっから先まで尻拭い
 してやるほど、俺はお人好しじゃねェンでな」


そう語った後、フレメアの方を向く。


「おい、行くぞ」

「……行く? どこへ?」

「オマエの本当のヒーローの元へ、だ……。オマエが本来在るべき場所まで、俺が責任を持って送ってやる」


「―――!! は、浜面のトコまで連れてってくれるの!?」


突如、フレメアの表情がライトアップされたように輝いた。


「………連れてくも何も、多分すぐそこら辺に―――――」


そう言いかけた一方通行だったが、前方を向いた瞬間に行動停止(フリーズ)した。
見知った顔が二つ、見間違いでも何でもなく確かにそこにあったからだ。
135 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/15(木) 21:48:56.47 ID:T5YbN1U10



「ちょっと待てよ。この後は何処へ繰り出そうってんだ? え? このハーレム野郎が」


「………見損なった。流石にこれはないよ……。ってミサカはミサカは軽蔑の目でアナタを睨んでみる」






………………………………?




136 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/15(木) 21:53:13.37 ID:T5YbN1U10


何が起きた? 今、自分の目の前には一体何が映っている?
そう、一方通行の受難はここからが本当の始まりだった。

そして、本人がようやくそれを自覚した時にはもう何もかもが手遅れとなっていた。



―――



またここで時間は少し遡る。

番外個体、打ち止め。
現在進行形で夜遊び中の悪ガキ共は、手始めに夜のゲームセンターを目指して悠然と進行していた。
途中、何人かの同業者(不良)に声を掛けられたりもしたが、そんな程度の障害は番外個体が軽く振り払ってやった。


「あー、クソッ! 噂通りっつか何つーか………ホント夜の都心部って治安がなってないんだね。ミサカだけならともかく最終信号
 までターゲットの範囲内とか、都民の教育制度を疑うわ」

「うーん……あの人が『夜の街は危険だらけだから迂闊に外へ出るな』って言ってたのも納得かも……。ってミサカはミサカは苦笑
 してみたり」

「まあ、この時間帯に遊び歩く時点で、どーせ落ちこぼれの集まりばっかだろうからミサカの敵じゃあないんだけどさ……」


自分達の現状は棚に上げて好き勝手な悪態をつく。彼女達に限らず、人間には誰しもそういった一面がある。
御坂美琴ほど若すぎず、御坂美鈴ほど成熟していない、美の全盛期としては最も近いポジションを陣取る番外個体を眼中に入れない
男こそ、寧ろ珍しい。だが、番外個体はそういう他者目線をあまり意識しない性格なため、『単に下衆な男が多い区域』程度にしか
思わなかった。
137 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/15(木) 21:55:17.45 ID:T5YbN1U10

「あっ! ねぇ番外個体、アレアレ!」

「ん……?」


指差された方を追ってみると、何やら近代都市にそぐわない下町通りで営業していそうな屋台が陸橋の奥に見えた。
赤い布の暖簾に書かれた『おでん』の文字が、古風を匂わせている。
ついでにここまで届いた煮物の香ばしい匂いが鼻腔をくすぐり、打ち止め以上の好奇心を露にした。


「うほおぉ……良いニオイ……。おでんかぁ……、そういや食ったことないな」

「ね、ね、寄っていこうよ! ってミサカはミサカは袖をグイグイ引っ張ってみたり! やっぱこの季節はおでん一択で決まりっしょ♪」

「だね! よっしゃ、そうと決まれば突撃あるのみ☆」


空腹とはまた別の誘惑に身を任すまま駆け出す二人。

屋台独特の雰囲気も彼女たちにとっては新鮮で、この場に一方通行がいない事実が少し残念にも思える。
番外個体も打ち止めも、『次はアイツ(あの人)と一緒に来たいなぁ』と内心呟いた。この時点で当初の目的は頭から離れてしまって
いる。


「――――ふ〜、食った食った☆ 『屋台』っつーの? ああいう感じの店も、案外良いモンだね」

「――――その意見には文句ナシで賛同致す。ってミサカはミサカは古人を気取ってみたり」


屋台から出てきた二人の顔はとても晴れやかだった。
138 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/15(木) 21:57:14.54 ID:T5YbN1U10


満足感からか、気分も七割り増し上々である。


「ぎゃひゃひゃ、どんな似非武士よ? それ」

「あのおでん屋さんの雰囲気に洗脳されたぞよ♪ ってミサカはミサカはお殿様気分♪」

「確かに、近未来感溢れる景色ばっかりの中でああいうボロ屋台って何だかシュールだよね。味は最高だったけどさ。ダシの作り方とか
 教わっとけば良かったかな?」

「あの人に作ってあげるの? ってミサカはミサカは訊いてみる」

「ふひひ、きっと涙流してミサカに感謝するよ。……って、流石にそれはないだろうけど」

「でも、あそこのおでんだったらあの人も絶対好きになると思う! ってミサカはミサカは一押ししてみる!」

「あれを不味いとか言ったら、もう舌が狂ってるとしか思えないよ。そのまま病院直行させてやるぜ」


上機嫌で会話しながら遊歩道を散歩している内に、また車通りの比較的多い大通りへ出たようだ。
あとは道を沿って進めば駅が見えてくる。お目当ての遊戯施設はその駅前に存在するのだが……。


「やっぱり、さっきみたいなガラの悪い人たちしかいないのかなあ? ってミサカはミサカはちょっとだけ不安になってみたり……」

「どうだろ? 少なくとも健全な学生さんはとっくにおウチで宿題に勤しんでるか夕飯食べてる時間だし、やっぱそうなんのかな」
139 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/15(木) 22:00:41.93 ID:T5YbN1U10


「もし事件に巻き込まれたりしたら、あの人に迷惑掛けちゃうかな……」

「そうだねえ……。あなたに何かあったらミサカの責任重くなっちゃうし、やっぱちょっとだけ覗いたら帰ろっか? ヤバそうな
 集団に近づかなけりゃ平気だと思うし」

「うん! ってミサカはミサカは賛同してみたり」


荒んでいた心も夜風にあたっている内に結構落ち着いていた。冷静になって考えると、やはりこんな小さい子供連れで低俗民の蠢く
街中を徘徊するのは少々無鉄砲だったかもしれない。劣悪な感情を自動収集できない番外個体に、次第と反省の概念が膨張していた。
思いとどまる気持ちが勝ち、打ち止めを自分の我が儘に付き合わせたことによる罪悪感を自覚した今、この後は安全に帰宅しようと
いう結案が為されたわけだが、少しだけ観覧予定だった場所を覗く程度なら問題はないだろう。折角ここまで遠出してきたのだから、
それぐらいなら……。

そんなちょっと味見するだけと似たような心理状態に駆られたまま大通りを移動していた途中――――。


「―――――!?」


反対側の路上にふと目を奪われる。正確には路地裏へと繋がる狭い小道の奥。
そこは丁度番外個体の位置からでなければ見通しの利かない、旧駐車場を匂わせる空地だった。そのスペース内に、何人かの人影が
会合している様子が窺えた。

打ち止めが足を急に止めた番外個体に不思議そうな目線を送っている間も、番外個体は遠くに微かだがはっきりと見える人影を凝視
していた。
普通なら、あんな場所でいくら怪しい他人同士のいざこざを目撃しようと大して興味心など湧かない。
だが、“全体的に白が特徴”の若者を瞳に映した時点でスルーしようという選択肢は削除された。
140 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/15(木) 22:02:55.88 ID:T5YbN1U10


目を凝らして、よーく注視してみよう。

ついさっき口論を起こし、互いに胸が焼ける想いを残したっきり会っていない。
その当事者の一人が、あんな所で一体何をしているのかを。


「ねえってば! どうしたの、さっきから変だよ? ってミサカはミサカは――――」

「………ッ!」


ここからでは何が行われているのか全く確認できない。反対側の歩道へ移動しよう。
そう決意した直後にダッシュする番外個体。未だ理解に遅れている打ち止めは流されるままに後を追うしかなかった。

やがて、人相がはっきりと確認できる地点までの接近に成功。完全死角の位置からこっそりと様子を探る二人。
どうやらあっちは全く気づいていないようだ。
可能ならば会話も聞き取れる距離にまで接近したいが、生憎これ以上先には身を隠せるほどの適当な雑壁はない。
何故こそこそと隠密に行動しなければならないのか。強いて言うなら、直感だ。

物陰の向こうにいる彼がこんな逢引にでも使われそうな場所で一体何をしているのかを見届けたいという願望が、反射的に
働いたのだろう。


「あ! あの人……何やってるんだろ? こんな不良が溜まってそうな私有地で……。ってミサカはミサカはとんでもない
 シーンを目撃してしまっているんじゃないかってワタワタしてみる……!」


打ち止めの焦りが尋常ではなくなっている。
141 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/15(木) 22:06:19.76 ID:T5YbN1U10


「やっぱ見間違いじゃない、か……。ってか、何なの? あの選り取りみどりな風景は? なんであのフニャチン野郎以外
 の面子は全員異性なワケさ? 何かの陰謀だよね絶対そうだよねイヤそうに違いねぇそうとしか考えられねぇ……」


勿論、見つからないように会話は小声ですることを忘れない。
打ち止めは前言通りにオロオロしっ放しだし、番外個体は良からぬ妄想が一瞬脳裏に過ぎってからコメカミを震わせている。
会話は聞こえないものの、人物像は街灯の位置と角度が良かったおかげで二人の距離からでも鮮明に映っていた。オリジナル
(御坂美琴)と同じ制服を着た小柄でツインテールの少女、奥の方で相対している二人は光が届いていないせいか顔まで特定
できないが、おそらく女性。しかも片方はツインテール少女に負けないくらいの小柄で、もう片方はツインテール少女と同じ
制服姿。

その三人のトライアングル中心部にヤツはいた。何食わぬ顔で、平然と佇んでいる。
おまけにそいつの足には金髪で何ひとつ穢れを知らなそうな打ち止めクラスの少女がへばりついていた。


「なに? あのハーレムな光景は……。いかにも修羅場ってる感じだけど、“自分以外は全員女の子です”だなんて……、
 やっぱりそういう内容? それとも奇跡的な偶然だとでも言うつもり……!?」


顔が引き攣ったままうわ言のように呟く番外個体。だが打ち止めはそんなことより何より、自称定位置を無断で占拠している
金髪少女へ怨念を飛ばすので精一杯だった。
更に気に入らないのは、足に縋りついている少女を振り払うどころか煩わしそうな素振りさえ見せていないことだった。
自分が擦り寄っても突進しても避けられてしまうのに、何故あの西洋人形みたいな少女は陣取りに成功している!?

打ち止めの脳内では既に緊急軍事会議が行われていた。

そして、あの金髪少女の存在こそが番外個体の解釈に多大な誤解を生む直接の原因となっていた。
142 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/15(木) 22:10:50.61 ID:T5YbN1U10


一方通行の身に危険が迫っている事は勿論承知しているし、今も襲撃を受けているのではないかと容易に想像できただろう。
しかし、フレメアの緊張感皆無な表情がその可能性を否定しているように見えたのだ。
当然それだけではなかった。実は他の面子を見比べている内に、ある『共通点』を見つけてしまった。


「しかも、全員年下……ガキばっかじゃねえか……! くっ、ミサカに対する当てつけのつもりかよ……ッ!!」

「ミサカの……ミサカの領土を良くも……っっ!! ブロンドヘアか!? 海外特有のオープンスタイルにミサカの牙城は
 崩されたというのかッッ!?!? ってミサカはミサカは国際的不利に直面し、何か打開策は無いのかと検討してみる!!!」


妄想が暴走に変わりつつあった。ここら辺はオリジナルの面影が強く表れている。
その後の展開次第では殴りこむ気満々だった二人のクローン個体だが、意外にも奥の顔までは判別できなかった少女二人が
あっさり闇へ退場し、どこからかサイレンの音が近づいて来るのがわかった。


「っと、ヤッベ! こっち来んじゃん!? このままじゃ補導されちまう……!! ええい、ちくしょう。隠れるよッ! 最終信号!」

「あわわ……!」


『警備員』に職務質問なんてされた日には様々な意味でアウトだ。
一方通行達から目を離すのは口惜しいが、止むを得ず物陰に身を潜めて息を押し殺す。
何故、自分等がこんな脱獄犯のような心境を体験しなければいけないのか甚だ遺憾である。全てあの白髪美白少年のせいだ……。
打ち止めと共に隠れながら愚痴を零す番外個体。もはや八つ当たりの段階だが、それを指摘する人間は誰もいなかった。
143 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/15(木) 22:12:44.28 ID:T5YbN1U10


やがて、警備員を象徴するステッカーが付着されたジープが何台か大通りから通り過ぎたのが確認できた。
警邏中にしてはやけに台数も多く、サイレンも鳴っているところを見ると、付近で誰かが通報でもしたのだろう。

ともあれ難は去った。胸を撫で下ろしながら再度一方通行達が往生しているはずの空地へ目を戻す。

が、そこにはもう人っ子一人存在しない寂れた景色だけが残っていた。


「あ、あれ……?」


消えた一方通行とその他の行方に全思考を奪われた番外個体に、打ち止めが右斜め上を見ながら小声で叫んだ。


「あそこあそこ! ってミサカはミサカは指さしてみたり」

「!?」


信じられないものを目に収めてしまった。
月をバックに夜空を舞う人型の何か。地上からの高度で計算すると、二十メートル程だろうか。
さほど離れてもいないせいか、あれが『人』であることも『両脇に少女二名を抱えたまま空を駆け巡る一方通行』であることも
肉眼で充分に断定できる。

何故、彼があのような行為に至ったか。考え得る可能性は一つ。

それは『警備員に発見されるのを恐れて逃避した』以外に見当たらなかった。
144 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/15(木) 22:15:00.22 ID:T5YbN1U10


つまり、何か疚しい密会を行っていたという自覚は確かにあるという結論が嫌でも見えてくる。

でなければわざわざ空中ルートを用いてまで移動する必要なんて無いはずだから。

番外個体が抱いていた妄想が、いよいよ現実味を帯び始めてきた。同時にかつてない動揺と不安感が身を包む。


「うそだろ……。信じないよ。ミサカは信じない。あなたがミサカを裏切るなんて、そんな悪夢みたいなことが……ははっ」

「番外個体………」


自嘲、というよりは現実を否定するような乾ききった笑顔と声。
嘘だ、嘘だと呟き続ける番外個体に打ち止めは掛ける言葉を失いかけた。

だが、それでも懸命に希望を唱える。


「だ、大丈夫だよ! あの人にもきっと……何かワケ有りなんだよ。番外個体が嫌いになったから他の女の子に乗り換えるだなんて、
 あの人に限って絶対有り得ないから! ってミサカはミサカは擁護してみる」

「……そう、だよね……。まさかね………そうだよ、有り得ないって」


一方通行の本質、人間性をもう一度良く見直してみる。
145 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/15(木) 22:18:27.94 ID:T5YbN1U10


確かに打ち止めの言う通り、彼はそんなチャラチャラした最低男の代名詞から最も疎遠なタイプだ。寧ろどちらかと言えば恋愛方面
には奥手で硬派なイメージである。

同じ屋根の下で生活する番外個体がその根底を今になって思い出したのは様々な相違が重なったからに他無いが、先日の結標淡希の
件からさして期間も空いていないのに再びこういった状況に遭遇してしまっている事も大きな要因の一つとなっている。

一概に言えば、何とも間が悪いというか……一方通行の運勢が下落気味というか……。

そんなわけで、一方通行を最後まで信じるという結論に至った番外個体及び打ち止めは真実を追及するため追跡へ移る。
幸い飛行時間や距離は非常に短く、表現的には“大ジャンプ”の方が適切だった。

風紀委員第百七十七支部地である学校を跳び越えた一方通行を、アサシンのような身のこなしで追いかける『W電撃使い』。

他など一切振れず、電流をバックに躍進した末―――――。

―――――最後の希望は、面白いほど残酷に崩壊の末路を迎えた。


「…………………………………………」


何も考えられなかったし、何の言葉も発せなかった。
番外個体だけでなく、打ち止めの顔にも顕然とした絶望の色が浮き出ていた。

負の感情とは無縁の暮らしを手に入れたはずの番外個体の瞳に、確実な憎悪が復活しつつある。

口から伝えられる根拠の無い理屈や言い訳よりも、基本的に己の目で見たものを率先して信じる性質の彼女達にとって、もはや
これ以上の説明は不要だった。
146 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/15(木) 22:21:08.91 ID:T5YbN1U10


この悲劇の最大理由はたった一つ。“目撃した時の角度”があまりにも悪すぎた。

まず、視界が捉えたのはいつもの見慣れた少年の背中。正確にはそれよる若干斜め。
続けて少年こと一方通行のすぐ正面に注目。
一方通行に抱えられていた常盤台制服姿のツインテールが、一方通行の突き出された顔と綺麗に重なっていた。

そう、番外個体と打ち止めにはそれが『キスシーン』にしか見えなかったのである。
“角度が悪すぎる”とは、その事を表していた。

もちろん完全な誤解だが、強烈なショックを受けて冷静な判断力を失っている二人のミサカに期待するのは難儀だった。

以上が事の顛末、及び悲劇の全貌である。
147 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/15(木) 22:24:35.10 ID:T5YbN1U10


さて、ここでようやく現在に追いついた訳だが……。


「―――――――で、オマエら………俺に何か言うことがあるンじゃねェのか?」


「ごめんなさい。ホントマジで、今なら土下座してやっても良いんじゃないかってぐらい反省してます。恥ずかしすぎて、穴が
 あったら入りたいです……」

「………ミサカも、アナタを疑ってしまった自分が憎くて憎くて仕方ないです。アナタが女の子取っ替え引っ替えするなんて事
 ありえ、アウッ!! 夢にも思ってしまったミサカを粛清したいです。だからお願いもうチョップしないで……いたい。って
 ミサカはミサカは猛省してます……」


クローン二名、正座中。一方通行は不機嫌な表情ぶら下げて仁王立ち。黒子とフレメアは唖然としている内に口を挟むタイミング
を逃してしまい、流れに身を任せるのみ。
何ともシュールで意外な展開だった。


「……………」

「あの〜、まだ怒ってます……? ここまで謝ったんだから、流石にもう許してくれても……」

「シッ、駄目だよ番外個体! この顔は絶対まだ怒ってるよ……。ってミサカはミサカは確信めいてみたり」

「げっ……マジ……? まだミサカ達を許してくれないの……。足が痺れてきたんだけど…………。ねえ、こんなに反省してるん
 だし、いい加減に気を鎮めて…………くれるわけないか。やっぱ……」


おそるおそる、人の顔色を窺うような謙虚姿勢で尋ねる番外個体。因みに彼女がここまで下手なのは過去を振り返っても稀中の稀。
しかし、当然だが一方通行の怒りは収まってなどいない。
148 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/15(木) 22:27:01.52 ID:T5YbN1U10


「当たり前だこの馬鹿共がァァ!!」

「うびッ!?」

「あぎゃ!?」


ビシ! ズビシ! とキレの良い音がほぼ同時に二つ、少女達の脳天で鈍く鳴った。


「うう……ミサカの頭が馬鹿になっちゃうよお……」

「ミサカはもう手遅れの段階入ってるかも……ってミサカはミサカは涙ぐんで同情を誘ってみたり。児童虐待だ」

「虐待じゃねェ! こいつは立派な教育だ!」


これで保護者の自覚がないと主張しても、おそらく誰も聞き入れてはくれないだろう。
どこからどう見ても悪い子を叱る親と化している一方通行。ただし迫力が一般とは段違いなせいもあり、逆らえない雰囲気も充分に
滲み出ている。非も自分にあると認めている番外個体が後手に回るのは当然の摂理だった。


「おいコラ悪ガキ。俺が前に言ったこと、まさか忘れちまったとか抜かさねェよな? 今何時だと思ってやがる? 黄泉川には何て
 誤魔化して出てきた?」

「えーと、あはは……」


この期に及んで笑って誤魔化そうとする打ち止めの頭頂部に粛清のチョップが決まる。
149 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/15(木) 22:30:09.19 ID:T5YbN1U10


「あはは、じゃねェンだよ」

「イテッ!? ……うぅぅ………。み、ミサカは番外個体の憂さ晴らしに付き合わされただけなのにぃぃ……。ってミサカはミサカは
 本気で泣きそう……」

「あっ、最終信号テメェ! 余計なこと言うんじゃ……!」

「ふーン……」

「ひっ……!」


蛇に睨まれた蛙の如く凍りつく番外個体。一方通行が本気で怒りを露にすれば大抵こうなるのだ。


「どンな事情があったにせよ、夜遊びは厳禁だ。特に今はな……。今回限りはここまでにしておいてやるが、次はねェと思え」

「「ラジャー!!」」

「ハァ………何か起きる前に発覚したのは幸いだったが、俺も気が緩みすぎてたのは事実か……。くだらねェ誤解をこいつらに
 抱かせたのも、そいつが原因の一つだと捉えて間違いねェな」


頭を掻き毟りながらぼやく一方通行の目が逸れているのを良いことに、二人は足を崩してリラックス体勢に入る。
そこに空気の緩和を感じたのか、蚊帳の外だった黒子が改めて番外個体の全身に刮目する。
150 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/15(木) 22:32:33.36 ID:T5YbN1U10


「お姉様……ですの? いや、正確には未来のお姉様……?」

「あっ、風紀委員のお姉さんもいたんだ。ってミサカはミサカは今更気づいてみる」

「反省タイムも終了したワケだし、今度はあなたがその子たちについて詳しく説明する番だよ」

「………こいつらはただ運悪く巻き込まれた不幸な一般人だって話しただろォがよ。っつか、オマエらまだ誤解してンのか?」

「だって! あなたがその子と………キスしてるように見えたんだもん……」

「どォ見えたかは知らねェが、全部オマエらの勘違いだ。有り得ねェ妄想に花ァ咲かせるのも大概にしろ」

「うぅ……」


この後、黄泉川とじっくり話し合う予定の一方通行はこのイレギュラーも早々に切り上げ、当初の目的遂行へ再始動を開始しようと
地面にだらしなく座っているクローン少女たちに起立を求めた。

連絡は一応済ませてあるので、間もなく向こうからやって来るだろう。ひとまずはそれを待つことにする。
その余暇を利用して、番外個体と初対面の黒子が大小ミサカの鑑定及び分析に移った。その光景はグラビアアイドルを撮影する時の
カメラマンみたいだったとか……。鬱陶しかったので、一方通行が仲介がてら適度にマトメておいた。


「んまぁ、御親類ですの? それは初耳でしたわ……」

「超電磁砲にはくれぐれも余計な詮索かけるンじゃねェぞ? オマエが本当に大切だと思ってる人間なら、踏み込ンじゃいけねェ
 領域の境も当然把握できるよな?」
151 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/15(木) 22:35:16.23 ID:T5YbN1U10


「当然ですわ! わたくし、こう見えても口の堅さには自信がございますし、お姉様から語られない史実はわたくしの知る権限の
 ない事情と受け取っておりますの。どのような経緯かは存じませんが、何時かお姉様の口から直接聞けることを願ってますわ……」


これを聞いた一方通行は黒子への印象を少しだけ見直した。どうやら思っていたよりも良く出来た後輩らしい。性癖はどうであれ……。
ともあれ、口封じ任務は無事完了。あとはフレメアの処遇を残すのみとなったが、遠くから近づいてくる駆け足の音が解決へ導いて
くれそうだ。


「ハァ……ハァ……お、おーーーーーーーい!!!」


息を切らせながら叫び声を上げたのは無能力者の浜面仕上。血相を変えてこちらに向かってくる。
彼のそんな様子を見た一方通行は「遅っせェンだよクソが……」とだけ呟いた。

浜面の姿が鮮明になった束の間、黒子の近くで黄昏れていたフレメアが浜面の接近に気づいて瞳を輝かせる。
そのまま身を翻し、走っている浜面の胸元へ勢い任せに飛び込んだ。


「――――ぶぉわ!?」


お互いに勢いが余ってしまったからか、飛び込んできたフレメアを受け止めたはいいが体勢を崩し、仰向けに地面へ転倒した浜面。
背中を強打して息が止まるも、気合一閃で身体を起こしてフレメアと向き合う。


「……ってぇぇ……。ハッ!? フ、フレメア……!? 本人か……?」

「浜面、会いたかった……。ずっと会いたかった……」
152 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/15(木) 22:37:37.12 ID:T5YbN1U10


ギリギリで無表情を保っているフレメアだが、あと少しでも揺さぶれば感情が爆発するのは誰の目から見ても明らかだった。
彼女も彼女でこれまでに耐え難い想いを味合わされていたのだろう。すぐにでも半蔵たちの元へ帰してやるのが最善だが、フレメアは
「浜面と一緒がいい」と言い張った。

仕方が無いので、まだ捜索に付き合ってくれているであろう半蔵や郭たちには『フレメアの保護完了』と『しばらく俺が面倒見るから
心配すんな』とだけメールで報告した。


「ところでさ……この状況は何? もしかして取り込み中?」

「……俺の落ち度が招いた結果だ。オマエが気を遣う必要はねェ」


頭数が増えた事柄についてようやく振れた浜面だが、やはり第一位は頑なに口を閉ざす。
顛末を一から説明するのは真っ平だった。


「えっと……何がどうなってんのかサッパリ分からんが、とりあえず喜ぶべき? この子、連れて帰っていいんだよな?」

「ふにゃー……」


小動物みたいに目を細めてされるがままのフレメアの頭をポンポン撫でながら確認を取る浜面。


「元々はオマエが持ち掛けた話だ。そのガキも懐いてるみてェだし、それで何の問題もねェよ。まァ殆ど運を味方につけたよォな
 モンだがな……」
153 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/15(木) 22:40:33.04 ID:T5YbN1U10


「……ありがとう。第一位」

「礼ならそこの常盤台の小娘に言え。このガキを最初に発見して保護したのはコイツだからよ」

「はじめまして常盤台のお嬢さん。わたくし浜面と申します。この子を助けていただいて何とお礼を言ったら良いか……」

「は、はぁ……? いえ、そんな仰々しくされなくても……大した事ではございませんので……」

「………何のお見合い風景だ? これ」


その後、結局フレメアは浜面が引き取る形で話はまとまった。


「……ねえ、ミサカ達は何で放置プレイ受けてんの?」

「悪いのは番外個体なのにぃ……ミサカは誑かされただけなのにぃぃ……ってミサカはミサカは世の不条理に肩を落としてみる。
 っていうか、なんでミサカまで悪者扱いなのかな?」

「う〜ん、まあ連帯責任ってヤツ?」

「納得いかねぇぇーーーーーーーーー!!」


打ち止めの盛大な叫びは夜空へと吸い込まれ、やがて反響した。
154 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/15(木) 22:43:49.36 ID:T5YbN1U10
今回はここまでです
やっとここまで終わった……長かった

では次回のワンシーン
155 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/15(木) 22:45:14.81 ID:T5YbN1U10



黒夜「―――――ははっ! やっぱ“仲間のため”かァ? 予定通りだぜ絹旗ちゃあン? 自分以外に情が移った時点で、オマエは死ンだ
       も同然なンだよォ! 今からソイツを身体で教えてやるから、全身全霊かけて足掻いてみるンだなァ!!」


絹旗「―――――よくまァ自信満々で語れますね。たかが掌から噴出させるしか芸を持たねェ失敗作風情が、私と本気で闘り合えるとでも
       思ってるンですか?」


156 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/15(木) 22:46:45.10 ID:T5YbN1U10
以上です
予告でわかると思いますが、次回は窒素姉妹が近所迷惑な喧嘩します
あまり期待しないでやって頂戴

ではまた
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/15(木) 22:47:14.36 ID:IRFliMPz0
おつ
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/15(木) 22:49:59.71 ID:guB3cHOSO
乙!

>>1にしては今回更新早かったな
無理して頻度上げなくていいんだぜ?
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [scpbd621]:2011/09/15(木) 23:15:30.56 ID:cHWWMcwt0
乙!!
反省するワーストかわいいwwww
160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/16(金) 00:24:32.37 ID:ooFnFjVA0
乙!!
ついに窒素姉妹激突か……
原作だと絹旗ちゃん完封されたけど、さてどうなるか……超期待だな
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/16(金) 14:27:16.84 ID:t9Y5gY150

打ち止めって夜出歩いて碌な目にあったことないな

あと妙な所で改行入ってるように見えるから1行40文字程度の方がいいかも?
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/16(金) 21:06:56.87 ID:emUOZCwSO
乙!
確かに一行の文字数はもうすこし少なくした方が見やすいと思う

あくまで意見だから>>1の好みでいいんだけどね
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/17(土) 20:26:58.00 ID:E3cZRmpC0
台詞回しにちょくちょくかまちー臭を感じる・・・
164 : ◆jPpg5.obl6 :2011/09/20(火) 20:42:09.77 ID:fTf12LCb0
>>161
>>162
ご意見どうもです
見やすくなってるかはわかりませんが、できる限り善処したいと思います

今から投下します
今回は窒素姉妹が激突するだけなので、量は少なめです

あと、もう一つお詫びさせて頂くことが……
食蜂さんの下の名前誤字ってました
操折じゃなくて操祈でした……大変失礼致しました本当ごめんなさい

165 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/20(火) 20:44:29.63 ID:fTf12LCb0


―――



某オフィスビルの屋上。
闇夜独特の静けさに包まれたこの不気味な空間に佇む少女。
全身黒い衣類で身を包んでいるからか、背景と異様にマッチしている。

手元には片時も離さず持ち歩いているイルカのビニール人形。

黒夜海鳥は音楽でも楽しんでいるかのようなリラックスムードでもうすぐここに来るはずの
人物を待ち呆けていた。


「―――――本当にいましたか……。ブラフだったのかと超疑いましたよ」


夜景を眺めるのを止め、声がした方へゆっくりと体を向ける。
待ち望んでいた人物は感情を胸の奥底にでも隠したような物腰でこちらへ歩いてきた。


「来たか……。それはコッチが言いたいね。馬鹿正直に釣られてくるとはさぁ……ククッ」

「私が来ないと思いますか? 私はずっとあなたの行方を追っていた……。知らなかった
 とは言わせませんよ?」
166 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/20(火) 20:46:25.26 ID:fTf12LCb0


「もう少し慎重に物事を考えるべきだぜ、絹旗ちゃん? この時期にアンタをわざわざ呼び
 出した理由くらい、どうせ見当はついてるんだろう?」


空調機器に凭れ掛けていた背中を離し、改めて正面から見据える。
険悪な雰囲気に相応しくないニヤつき顔のまま、黒夜は宣言した。


「付き纏われるのも、いい加減ウンザリしてんだよ。だから、今日はアンタとケリを付ける
 ために呼んだのさ。仲間に遺言は残して来たんだろうなぁ? あぁ? 恐怖に駆られてん
 なら心配は要らないよ。なるべく楽に逝ける様、尽力してやるからさぁ」


そう、これは処刑宣告。
簡明な敵意。しかし、絹旗にとっては願ってもない展開だった。
姿の見えない敵を追い続けるよりは、その方が遥かに有り難いからだ。


「ふん、馬鹿も休み休み言ってください。恐怖? 寧ろ逆です。この時をどれだけ待ったと
 思ってるんですか? 雲隠れなんて、味な真似してくれて………。この積もりに積もった
 フラストレーション……さて、こっからどう発散してやりましょうか……」


絹旗最愛の無表情が、徐々に歪を見せた。
これまで抑えていた憤りが、解放の道を辿り始めていた。
167 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/20(火) 20:48:26.71 ID:fTf12LCb0


こうして向かい合うのはあの日以来。そう、新たな生活に甚大な亀裂が生じた日。
あの時はまだ、降りかかる未来を軽く見積もっていた。


「今回の件は、完全に私の落ち度が生んだ災厄です。あなたを“あの時”放置してしまった
 私の超過失……」

「……」

「やっぱりあの時点であなたを行動不能にしておくべきだったんです……。はは、何やって
 んですかねぇ、私……。超甘かったです。何度悔やんでも悔やみきれませんよ。もし“あの
 時こうしていたら”とか、本当は考えるのも無駄だって超分かってるんですけどね……」


絹旗の言葉の一つ一つに、重い覚悟と自嘲が感じられる。


「分かってますよ。あなたをブチ殺してやったところで、滝壺さんの意識が戻ってくれる保障
 は何処にもありません。……けど、そんな奇麗事だけじゃ世の中は渡りきれないんだって事を、
 今猛烈に実感してます………」

「ふぅん……。けどそれって、結局はアンタらのとった選択がただ単に失敗だったってだけの
 事なんじゃねえの?」

「ええ、その通りです。……ちょっと道を間違えすぎたみたいです……。だから、今から少し
 ずつでも取り戻さなくちゃいけません。………でもそのためには、まずあなたをここで超抑
 える必要がある! 私にはその責任が超あります!」
168 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/20(火) 20:52:52.79 ID:fTf12LCb0


「………ひひっ、まぁ事情が何であれ、のこのこ誘いに二度も乗ってくれた件については感謝
 しなくちゃねぇ――――――」


「あなたは、私の警告を無視して“大切な人たち”を傷つけた……。相応の償いは受けてもら
 います。今から、ここで……。わざわざソッチから姿を見せてくれて、超感謝していますよ。
 この先、あなたが何を企んでいるかは知りませんが………それも全部、ここで超終わらせて
 やりますから――――――」



二人の間に流れる空気がゾワリ、と豹変した。
ざわめくビルの屋上で、少女達が『もう一つの姿』へと入れ替わる。



「―――――ははっ! やっぱ“仲間のため”かァ? 予定通りだぜ絹旗ちゃあン? 自分以外
 に情が移った時点で、オマエは死ンだも同然なンだよォ! 今からソイツを身体で教えてやるから、
 全身全霊かけて足掻いてみるンだなァ!!」


「―――――よくまァ自信満々で語れますね。たかが掌から噴出させるしか芸を持たねェ失敗作
 風情が、私と本気で闘り合えるとでも思ってるンですか?」
169 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/20(火) 20:54:48.01 ID:fTf12LCb0


ほぼ一緒のタイミングで、少女達は変貌を遂げた。
変化したのは何も口調だけではない。既に周囲の気体は人為的に法則を曲げられ、彼女達が発現
する物質が渦を巻きながら占領していた。

そして、『暗闇の五月計画』被験者同士は荒れ狂う空間の中で戦闘態勢へ移行する。


「ヒトの事を中傷できるほど優秀な性能じゃねェのはお互い様だろォ? アンタには『射程範囲』
 っつゥ概念すら存在しねェ。その鎧は遠距離相手じゃ十分の一も発揮できねェってことぐれェ、
 予備知識がなくても分かってンだぜ!?」

「何も分かってねェのはソッチです。……あなたは接近される事だけを警戒してるンでしょうが、
 生憎馬鹿の一つ覚えみてェな突撃だけが私の本領じゃないンですよォ!!」


咆哮と同時に地面へ拳を振り下ろす。
『窒素装甲』を纏った一撃でコンクリートはドリルでも突き立てられたかのように抉れ、付近一帯
を割れたコンクリートの破片が無造作に飛び散る。
その中でも一際鋭利に見える破片を素手で捕らえ、唖然としている黒夜に向けた。


「コッチも“飛び道具”を補った場合、軍配が上がるのは私とあなたのどっちでしょうねェ? 防衛
 にイチイチ気を回さなきゃならないあなたが、果たして有利だと言えるでしょうか?」

「ふふっ………さァて、どォかな」


絹旗の行動を読み取った黒夜に、余裕が戻る。
170 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/20(火) 20:56:37.27 ID:fTf12LCb0


「………その気に喰わねェ薄ら笑いを、今から苦痛に歪ませてやります」

「御託はイイからとっとと仕掛けて来いよ。“超”余裕であしらってやっからさァ」

「……ッ!!」


それから一秒後、コンクリートの破片は既に絹旗の手の中から飛び立っていた。
『窒素』というブーストを得て放たれた破片の行き着く先は、黒夜の喉元。


「―――――!?」


暗部組織の一員として戦火に身を置いていた頃ですらこれほどの殺気を放ったことはなかった。
今の絹旗は完全に心が鬼と化し、人懐っこかった面影を消している。
あの日、滝壺を昏睡状態に陥らせた時から自らに課していた責務。それを果たす機会がようやく訪れた。

僅かばかりの甘さもない、殺傷能力抜群の攻撃手段をためらわず実行するのも頷ける。

だが、黒夜はそんな絹旗の心情も全て見通している。
相手に情けなど不要なのは彼女とて同じ。全力で防ぎ、全力で叩き潰す。
そして、黒夜にとって最も有能な防御方法は――――――圧倒的な質量で攻め続けること。


「………!」

171 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/20(火) 20:58:47.92 ID:fTf12LCb0


たかがコンクリートの破片ごとき、砕けないわけがない。
喉に突き刺さる前に粉々にしてやれば良いだけだ。


「アンタの応用力ってその程度かよ? 絹旗ちゃーン? こンな色気もねェ固形物じゃ挨拶代わりにも
 なンねェぞ?」

「……ふン、吼えてりゃイイです。精々能書き垂れてる途中で息の根ェ止めらンねェよォ、注意を払うン
 ですね」


互いに体勢を整え、仕切り直す。
黒夜はその能力性から鑑みれば『攻め』に転じるのが定石だ。
しかし、絹旗も防護性に優れた『窒素装甲』を盾として纏い、侵攻する。


「でなきゃ、私の拳の方が先に届いちゃいますよォ? せめて、あなたの陳腐な攻撃が私にどこまで通用
 するか、全力で試してみたらいかがです?」


接近を許せば不利なのは黒夜が最も自覚している。
絹旗の言葉に誘われるまま、両手を水平に伸ばす。

その手先から―――――。


「陳腐かどォかは貫かれてから吐くンだな」
172 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/20(火) 21:01:50.80 ID:fTf12LCb0


――――液体窒素の爆発にも似た衝撃が発生する。

黒夜が『窒素爆槍』を展開させたのだ。
数メートル程に伸びた窒素の列。槍というよりは鞭に近い撓り具合で距離を詰めようとする絹旗を阻害する。

そして、『窒素爆槍』の先端が絹旗の胸部に刺さった。

これで勝者は決定したはずだ。但し、普通の相手だったなら。


「ふひっ、あは、あはははははははッッ!!!」


甲高い笑い声を響かせたのは、『窒素爆槍』を胸に刺したままの絹旗だった。
そして絹旗の目測では、この一撃で勝敗の行方は自分へと傾いた事になる。


「所詮、どちらの力が秀でてるかってだけの話でしたねェ? あなたの『攻撃性』と私の『防護性』。比べ方は
 至ってシンプル、あなたの攻撃に私が耐えるか、息絶えるか……。そして結果は早くも出てしまいましたよォ。
 私の心臓は止まることなく、それどころか見ての通り何のダメージもありませン。………これがどォいうコト
 だか理解できてますかァ? 超憐れな黒夜さァン?」

「……………」


何も答えが返ってこないのを良いことに、更なる罵声が絹旗の口から飛ばされる。
173 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/20(火) 21:04:06.60 ID:fTf12LCb0


「一度やって無駄なら、何度やっても無駄ってコトですよ。あなたの攻撃は私に一切届きませンが、私の攻撃は
 あなたに何れ必ず届く。これからあなたに出来るのは、私があなたを粉砕してやるまでの時間内に超見苦しく
 抵抗するコトだけです。せめてあなたの寿命がほンの少しでも延びるよォに、死に物狂いで悪足掻きするしか
 ないンですよ」

「ふン……」

「死ぬのがイヤなら、地面に両手両足、ついでに額も擦り付けて超必死に命乞いでもしたらどォですか? 当然
 無償で許すワケにゃ行きませンけど……ねェ!!」


直後、凄まじい殺気を漂わせたのも束の間に足を踏み出し、一直線に黒夜へ飛び掛かった。
給水タンクに飛び移った黒夜を逃がすまいと、自らも大きく跳躍し、頭上から自動車をもペシャンコにしてしまう
破壊拳を惜しみなく振るう。


「……ッ!!」


噴射した『窒素爆槍』を活用し、ジェットブーストの要領で自身の身体を退かせて着弾点からずらす。
絹旗の渾身の一発は給水タンクに深々と刺さり、爆発煙のように噴出した大量の水を浴びる結果となる。
しかし、絹旗の妖しく輝く瞳は一点しか捉えていない。


「あなたの利点である『攻撃』が無意味となった今、あなたはもォ私の敵でも何でもねェ。そろそろ震えだしても、
 誰も責めたりしませンよ? ……もっとも、それも超今更ですがね」
174 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/20(火) 21:09:07.62 ID:fTf12LCb0


破裂し、形状が大きく歪んでしまった給水タンクから飛び降りた絹旗が恐ろしいセリフを吐く。
敬語なのが不自然なほどに荒々しい口調だが、これも『暗闇の五月計画』時に受け継いだ“傷痕”のようなものだ。


「………くくっ、“震える”だァ?」


“既に勝ちを確信している間抜けな絹旗の目を、そろそろ醒まさせてやろうか”。
黒夜の目はそう語っているみたいに見えた。

一瞬で絹旗の顔が怪訝に染まる。


「………まだ強がる余裕が残ってたンですか? それとも、窮地に立たされて思考が狂いましたか?」

「……アンタはまだ“見落とし”に気づいていないンだねェ」

「はァ? いきなり何を……」

「“能力で勝れば結果も然り”とか、まァだそンな古臭い概念に囚われてるワケ? 甘いねェ、甘い。全ッ然甘いよ!
 ンじゃひとつ訊くが、『勝負の根源』ってそもそもなンだ? ………単純さ。ただ目の前に立ってる敵をブッ倒せば
 良い。その法則に際限なンざ無ェし、ましてや能力に優れた方が勝つなンて規則はねェンだぜ? たまたまアンタの
 防壁が『想定していたよりも堅かった』。私からすりゃその程度の誤差でしかねェのさ」

「意味の分かンねェ持論振り翳してないで、反撃の一つでも打ってみたらどォですか? 無駄だと分かってても、何も
 しないでスクラップにされるよりはまだ格好がつくかもしれませンよ?」


黒夜に逆転の手段が残されているとは思っていないためか、絹旗は自分の優勢を信じて疑わない。
しかし、黒夜はそんな絹旗に対し、もはや憐れみすら感じていた。
175 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/20(火) 21:11:18.26 ID:fTf12LCb0


「そォだな。こォいうのは実際に体感させてやらなきゃ分からねェよなァ……。なら望み通り種を明かしてやろォか?
 ――――――つまりは、こォいうコトよ!!」


突如、黒夜が手すりの近くに置いていたイルカの人形が、


「………!!」


けたたましい音を上げて爆裂した。
予想だにしなかった出来事に注意を削がれた絹旗を、黒夜は同情の目で見下ろす。


「アンタは無頓着すぎたンだよ、絹旗ちゃン。能力の向上だけが高みに上る手段だと決め付けてやがる……。けどな、
 それじゃあ駄目だ。そンなのはただ視野が狭いか、頭が硬いかのどっちかにすぎねェ。……私は違うンだよ。自分の
 抱える欠点を一概に補うだけじゃねェ。寧ろ問題点や弱点を方法次第でプラスに変えちまうのさ! 今からモノ凄く
 分かりやすい実例を見せてやる」


「へェ……、そりゃあ楽しみですね。なら勿体つけてないで、とっとと見せてくださいよォ。このまま終わンのも、
 なンっつーか……超呆気ねェし」


「――――っつゥか、もォ眼前まで迫ってるンだがな」
176 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/20(火) 21:14:29.85 ID:fTf12LCb0

「ッ!!?」


言われて周囲を見回す。
忍び寄るように背後で蠢いていた『物体』を視野に入れ、吐き気が催される。


「なン……ですか、これ………。気持ち悪い……。ずいぶン悪趣味なモノを持ってるンですね」


蠢く物の正体は、歪な形状をした人間の『腕』。
それも一本や二本ではない。良く観察すると、先ほど爆ぜたイルカの人形から煙のような糸が流出し、『腕』と直結
しているのが判る。

この『腕』は一体……?


「私の『窒素爆槍』は、少々多段に欠ける特徴があってなァ……。アンタがさっき言った通り、私には掌から質量調整
 を施した『窒素』を噴出させるしか芸が無い。現に絹旗ちゃンも、“私にはそれしかできない”と踏ンでいるから、
 今もそォやって強腰でいられるワケだが―――――それこそが最も大きな“見落とし”よ」

「なン……」

「人間の“掌”は常識で考えれば二つしかねェ。つまり、噴射口もたったの二つ……。確かにこンだけじゃ、大して
 脅威を感じねェのも納得だわな。………だが、もし“腕を増やせる”としたらどォよ? 今までの根底が一気に覆る
 と思わねェか?」

「………ッ!!?」
177 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/20(火) 21:19:26.08 ID:fTf12LCb0


絹旗の全身を嫌な予感が襲った。


「そォ、この“ザワザワ這いずってるモノ全部”が私の『腕』の代わりを担う。で、この後は粗方予想できるよなァ?
 “私の腕”ってコトは、当然『窒素爆槍』も使える。理解して早々で悪いが、もォ消えてもらう時間だよ。絹旗ちゃン」

「―――――!!!」


直後、地面を艶かしく這っていた十本近くの『腕』が、黒夜の意思と共鳴しているかのように収束される。
黒夜本人に付いている右腕を中心に集まった歪な『腕』は、磁石みたいに黒夜の体に付着し、結合していく。
接続を終えた全ての『腕』が、一斉のタイミングで掌を絹旗へ向けた。

そして、

開かれた五指から発生した複数の『窒素爆槍』が混合し、巨大な竜巻となって絹旗の周りを覆う。


「………何……な、ンですかァ……ッ? その、超意味不明な複製品はァァ……ッ!!?」


認識の限度を超えた衝撃波、荒れ狂う窒素の暴風雨。
自動防御設定が無ければ、この時点で絹旗の体は夜空へ投げ出されていただろう。
とは言え、足が地から離れないよう懸命に堪えるのに全神経を注いでいるため、迂闊に動く事すら儘ならない。

そんな絹旗の様子を涼しい顔で眺めながら、黒夜が言った。
178 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/20(火) 21:20:40.29 ID:fTf12LCb0


「複製品、か……。あながち間違っちゃいねェが、ちょっと違うンだよなァ。ポピュラーな呼称で表現するなら、
 『改造強化人間《サイボーグ》』ってトコか? 第一位と形ばかりの同盟組ンでンなら、片鱗ぐらいは耳に入れ
 てるはずなンだがな。知らねェか? 一定の水準を越えさえすりゃ、駆動鎧にわざわざ乗る必要のない優れモン
 さ。どの程度かは、今正にアンタが体感してる通りよ。だが驚くにはまだ早ェ。これほどの偉業でさえ、早くも
 “旧世代”に降ろされてンだぜェ? 目覚ましい進歩に乗り遅れたアンタじゃ、“この先”を見せるまでもねェ」

「う、ッ……。あ、あなたが何を言っているのか……見当もつきませンが………まずはその気色悪りィ造形物から
 除去する必要がありそうですね!!」


荒波に抗う勇敢な姿勢と評すべし前進も、


「だから、無駄なンだよ。アンタはそれ以上私には近づけない。膾切りにでもされたいンなら、どォぞご自由に」


黒夜のサジ加減ひとつで自在に翻弄できてしまう。

突然、無数の『腕』が放つ透明な窒素の集合体が、その『質』を激変させた。


「うっ……ぐ……!!」


いや、正確には“ようやくまともな攻撃そ仕掛けられた”と言った方が正しい。
規格外の量で生み出された『窒素爆槍』は、絹旗自身を蹂躙していない。絹旗が足を石のように固めていたのは、
その余波で発生した竜巻に飛ばされないためだ。
179 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/20(火) 21:22:10.07 ID:fTf12LCb0


そう、たかが『窒素爆槍』が通過する事で生ずる“余波”でさえ、踏み留まるのがやっとなのだ。
『直撃』という言葉の恐ろしさを、服の袖に切れ目が入った直後に知らされた。


(み、身動きが……!! ………ッッ!!?)


気づかぬ内に、絹旗は非常口のドアと繋がっているレンガ状の壁に背中を密着させていた。
そして、脱出しようともがく絹旗の手、足、腹、胸、各部位を精巧な動きで打ち抜いていく。

『窒素装甲』の防護機能が追いつかない。いや、正確には働かない程に洗練された『質と威力』、そして『速度』。
張り付きに近い形で拘束され、自由の利かなくなった肉体。
そこに鋭利な刃物を彷彿とさせる斬激が幾度も走り、絹旗の『窒素装甲』も意に介さずに貫通していった。






「うああああああァァァ!! あああ……ァァァアアアアアアアアアアア……ッッッ!!!!」






闇夜に少女の痛々しい悲鳴が木霊する。
絹旗の肢体に、次々と無惨な裂傷が追加されていく。
180 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/20(火) 21:24:12.48 ID:fTf12LCb0


この段階でもう勝敗は決したが、黒夜は決して慢心しない。


「なァ、苦痛に悶えてるトコ悪いンだけどよォ、アンタは第一位からどこまでの情報を仕入れた?」


突然、噴出量を低減させて尋問に移る黒夜。
既に両手、両足を血で真っ赤に染めた絹旗は、呻き声を零しながらもその問い掛けに反応した。


「ぎィぃ……うぅ……ッ………ハァ……ンッッ………情……報……ッ……? ………何を……言って」

「『木原数多』に関する情報だよ。少しぐらいは何か聞かされてるはずだ。あの一匹狼がアンタらに肩入れ
 してるからには、当然お互いにそれなりの対価を払い合ってンだろォ?」

「何故……あなたが第一位と、私達の……事情を……」


知っているのか? と問い返す前に黒夜が答えを述べる。


「『有能な新人』が加わったのさ。私がアンタや第一位の身辺を把握してるのも、そいつの功績による賜物よ。
 ………って、そンな事ァ今はどォでもいい。アンタ、やけに“この現象”に驚嘆してたが、本当に何も知らさ
 れてねェのか? ……だとしたら、可愛そォすぎるぜ。『無知は罪』って言うが、それを踏まえたとしてもな……」

181 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/20(火) 21:25:20.72 ID:fTf12LCb0


「何の……話…を……」


体中の節々から激痛を感じ、意識が朦朧としている絹旗から聞き出せることはもう無い。
冷酷にそう判断した黒夜は、珊瑚礁のように漂う『腕達』を切り離し、服の間から取り出した『萎んだイルカ
のビニール人形』を一秒程度で膨らませてから元通り歪となった『腕達』を仕舞った。

無風に近い状態に戻ったオフィスビルの屋上。元通りの静寂が辺りを覆うと同時に絹旗はズルズルと壁伝いに
崩れる。
乱れた呼吸音だけが、生存の証だった。

黒夜は、そんな戦闘不能状態の絹旗へ一歩、また一歩と近づく。
そして、話の続きへと移る。


「ついこの前までは、“これ”が限界点だと見切りつけてたんだが……さっきチラッと仄めかした通り、まだ
 まだ『底』が隠れてるんだよ。アンタ相手には流石にそこまで曝す必要は無かったみたいだがな。もっとも、
 そいつは『対一方通行』用の切り札みたいなモンさ……。アンタ如きにゃ、これで充分ってなぁ!」

「うァ……あああああああ……ッッ!!」


ヒールの尖った靴底を太腿の傷口へ思い切り刺し込み、グリグリと抉るようにこねくり回す。
噴出す血と柔らかい肉の潰れる音、そして声にならない悲鳴と呻き。これらが黒夜の笑みに拍車を掛けた。


「はん、もう睨み返す気力も残ってねえか? そりゃ結構だ。さっき『アンタには消えてもらう』って思わず
 言っちまったがよぉ、まだアンタには最後の仕事がある。命拾いできて、良かったなぁ? 絹旗ちゃーん?」

182 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/20(火) 21:26:52.22 ID:fTf12LCb0


「ッぐ……しごと……? 言っておきますが、……ッア、あなたみたいなクソ野郎どもに協力するくらいなら
 ………今すぐに舌ぁ噛み切って、死んだ方が……超マシです」


痛みを痩せ我慢しているのが丸分かりで吹き出しそうになる黒夜だったが、粗暴さを感じさせない冷静な口調
で言葉を返す。


「協力とか、そんな類じゃねえから安心しろよ。……なあに、ただの“伝達係”さ。アンタは第一位に、これ
 から話す内容のありのままを伝えてくれればいい。無様に生き残るのがイヤなら、役目を終えた後でもう一度
 楯突けばいいさ。その時こそ、キッチリ始末をつけてやるよ。アンタにまだ“覚悟”があれば、な……」

「……………ッッ………」


この苛つきを誘うニヤリ笑顔を、ぐしゃぐしゃに歪ませてやりたい。しかし失血の影響からか、脳が発する命令
に身体が従ってくれない。悔しさと歯痒さが絹旗の心中を埋め尽くしていた。


「―――――じゃあな。あのガキ同様、もうアンタはウチらの眼中にねぇ。第一位には正確に伝えといてくれよ?
       でないとアンタらに残された僅かばかりの希望さえ、フイになっちまうからね」


言伝を残した黒夜が目の前から去った後も虚脱感は一向に拭えず、早急な治療が必要なはずの身体は動いてくれ
なかった。ただ壁に凭れかかったまま憔悴し、己の無力さに絶望するしかなかった。

嗚咽だけがしばらくその場に流れ続ける。それはまるで、少女の肉声が奏でる悲痛な旋律のように聞こえた。
183 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/20(火) 21:30:41.37 ID:fTf12LCb0
ここまでです
次回はまたメイン以外の風景になります
その後で『最終決戦日』突入予定です

では次回の一部
184 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/20(火) 21:36:20.53 ID:fTf12LCb0


黒子「はて? ……通常よりも学生同士やスキルアウト内でのいざこざに敏感な程度で、別段忙しいという訳では
    ございませんが? ……それがどうかなさいましたの?」

美琴「どうしたのかはコッチが聞きたいわ! ……アンタ、鏡でちょっと自分の顔見てきなさいよ。やつれ具合が
    尋常じゃないわよ?」



―――――――



禁書目録「………とうま。その調子だと将来は一升瓶片手に「ウ〜イ♪ 今帰ったぞ〜♪」とか典型的ダメオヤジ
      口調で帰宅するサマが板につきそうかも。飲んで、呑んで、呑んだくれて潰れるとうまのビジョンが
      鮮明に見えるんだよ」


上条「だから俺は飲んでないんだって! 信じてくれよ! しかもそれ、完全に人生失敗してんじゃねえか!?」



―――――――



エツァリ「通すも何も、既に自分がいた組織は形成を失っています。……少々早すぎる時代の流れ、とでも言えば
      良いのでしょうか……。今後はキチンと時間通りに、しかもこれまで以上に長い時間、貴女たちと一緒
      の時間を過ごせそうです」


トチトリ「ふーん……だそうだ、ショチトル。良かったなぁ。愛しのお兄ちゃんとの時間が増えるなんて、思わぬ
      朗報だ。待ちぼうけていた甲斐があったというものだ」


ショチトル「黙れ、お前は黙っていろ! 私が良いと言うまでは口を開くな!」
185 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/20(火) 21:38:06.30 ID:fTf12LCb0
以上です
次回も一週間以内に来る予定です
ではまた
186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/20(火) 22:07:22.07 ID:hReGDCFSO


やっぱ絹旗ちゃン負けたか……そらそうだわな
んじゃ、ちょっくら今から介護しに行ってくるか
187 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/20(火) 23:18:24.37 ID:fTf12LCb0
読み返したらさり気ない誤字見つけたので訂正
>>178の最後ら辺
×いや、正確には“ようやくまともな攻撃そ仕掛けられた”と言った方が正しい。
○いや、正確には“ようやくまともな攻撃を仕掛けられた”と言った方が正しい。

些細ですが、なるべく見つけたら訂正します
188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/21(水) 00:21:11.52 ID:ZZrSn2Wm0
ショチトルにトチトリ・・・・だと・・・?
189 : ◆jPpg5.obl6 [saga]:2011/09/22(木) 19:11:14.55 ID:XXV3OZmI0
行間的なの投下します
190 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/22(木) 19:13:15.96 ID:XXV3OZmI0


―――



常盤台中学在籍者が居住する女子寮。
疲弊しきった面持ちで自室へ帰宅した白井黒子を、ルームメイトの御坂美琴が出迎えた。


「ただいまー……ですの」

「おかえりー、黒子。……って、うわっ……。治安維持強化運動週間だっけ? そんなに大変な行事なの?」


黒子の顔を見るなり仰天する美琴。この時、黒子にはまだその理由の見当がついていない。


「はい? ……通常よりも学生同士やスキルアウト内でのいざこざに敏感な程度で、別段忙しいという訳では
 ございませんが? ……それがどうかなさいましたの?」

「どうしたのかはコッチが聞きたいわ! ……アンタ、鏡でちょっと自分の顔見てきなさいよ。やつれ具合が
 尋常じゃないわよ?」

「ッ!? ……か、顔を洗って出直してきますの!」


あらぬ所を指摘され、バタバタと洗面所へ駆け込む黒子に美琴は「言葉の使いどころも変ね……何かあったの
かな……」と、先輩らしいコメントを呟く。
191 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/22(木) 19:15:04.78 ID:XXV3OZmI0


美琴の前では滅多にこういった露骨なマイナス感情を曝さない黒子。やはり先程までの騒動で心身共に参って
いたのだろう。何と言っても学園都市の頂点との関連を持ってしまったのだから、当然と言えば当然かもしれ
ない。下手に勘ぐられない様、念入りに顔を整えておく。

洗顔中である黒子の脳内に、白髪の“頂点”が囁きかける。


『余計な詮索はするンじゃねェぞ。命が要らないってンなら、話は別だがな……ククク』


「ひっ……」


脳に棲み付いた悪魔の言葉が微妙にズレた方向へ膨らんでいた。
ブンブンと頭を振り払い、虚像を無理矢理に消去した黒子。その足が向かう先は愛すべきお姉様の元。

恐怖体験の後に求めるものは、安らぎと温もり。

そして、彼女にその両方を与えられる人物がもしこの場に居るとしたら、それは一人しかいない。


「おっ姉ええ様ああああああああああん!!!」


「え? うわっ!? ちょ――――!!」

192 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/22(木) 19:21:24.85 ID:XXV3OZmI0


寛いでいた美琴は完全に不意を突かれ、防衛本能の従うままに放電してしまう。
美琴の身体に着陸予定だった黒子の全身は骨まで焦がされ、反対側のベッドまで押し戻された。


「ハッ……! し、しまった……!」


つい力の調整を誤ってしまった。美琴が思わず漏らした言葉はこれを意味している。


「ご、ごめん黒子。生きてる……? 咄嗟だったから、つい……」

「ぐみゅー……」

「ほっ……」


どうやら息はあるようだ。
美琴はホッと胸を撫でるが、割りと早く復活した黒子がこんな事を言った。


「んんん、いつもより強烈でしたわ♪ お、ね、え、さ、まん☆ わたくし、新たな開拓地を発見した気分です
 のよん♪」


「………………」


やっぱり大丈夫じゃなかった、と美琴は確信した。
193 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/22(木) 19:25:16.55 ID:XXV3OZmI0


まるで徹夜明けのようなハイテンションぶりで☆マークを飛ばす黒子に、純粋な嫌悪感を覚える。
このネジが吹き飛んだ後輩をどう処置すべきか思考を働かせるが……。


「ささ、もっと刺激的な夜はこれからですの♪ わたくしに全身を委ねるつもりで、安心していいですのよ」

「うわこらやめ……っ! あ、アンタそこまで深みに嵌ったら、もう私の手に負えなくなっちゃうじゃないの!!
 アンタの制限解除(リミットオフ)モードは底なしか!? ってか、その手つきとかリードの仕方とか……、
 明らかに手馴れすぎてて、何かもう何処までがアンタの理性なのか分かんなくなってるんですけど!?」

「研究の成果が問われますのね……。ですが、いざ実戦となると……流石のわたくしも些か興奮――――」

「――――しなくていい!! あと、研究って何よ!? アンタ私の目の届かない範囲内で一体どれだけの修練
 積んでたってのよ!?」

「ですからぁ、今すぐに披露すると申しているではないですかぁーん♪」

「おい馬鹿やめろ! 当然のように次のステップへ移るな!! だからアンタとはそういう関係を望んでないん
 だって、何百何千何万回伝えれば良いのよ!? っつーか、今のアンタは夢と現実の区別がつかなくなってる
 だけなんだから、本気で私とそうなる形を願うんだったらまずは正気に戻れえええええ!!」


「それ以上はダメよ!! 戻ってこい黒子!!」と、懸命に後輩へ声を投げる美琴の健闘も虚しく、黒子はただ
ひたすら温もりを求め続けた。そこに彼女の明確な意思は存在していたのか。全ては本人だけにしか分からない
事だ。

どちらにせよ、このままでは本格的に貞操の危機だ。いつものように鮮やかな大技(プロレス系統)でも炸裂さ
せれば良いのだが、理性の無い、それも本能に従うままの野獣同然の相手では如何せん躊躇してしまう。
194 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/22(木) 19:28:54.82 ID:XXV3OZmI0


もう一度同じ出力の電撃浴びせたら正気に戻るかな……。などと恐ろしい案も一瞬浮かんだが、実行に移す勇気
は流石に起きなかった。

どうすれば互いの被害を最小限にまとめられるか考えている間も、狂った後輩の行動はどんどんとエスカレート
していく。


「おおい! いい加減に離れろっ!! 駄目! 無理! そっから先は本当マジで無理むりムリィィいいい!!」

「あらん、わたくしはいつでもお姉様に従事しております故、ご心配には及びませ――――」

「だああ、とりあえずタコみたいに手足絡ませるの止めえええい!!」


思考回路がリアルな意味でショートした黒子との媾い。
言動も所々おかしく、目の焦点も定まっていない後輩に感じるのは恐怖だけだった。

だが、今の美琴にとって救いの女神(?)となる人物の登場は目前まで迫っていた。

乱れ、絡まり合いながらギャーギャー騒いでいる208号室前で佇み、戦闘準備を始めている寮の主の存在に二人は
気づいていなかった。

因みに黒子が翌日の朝に目を醒ました時、この情事の記憶は恙無く消去されていたらしい。
その時には前日の疲労感もすっかり回復していたようなので、美琴はとりあえず安心することにした。
危うく一線を越えてしまいそうになった事実は、美琴の心の中だけに仕舞われた。
195 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/22(木) 19:32:16.97 ID:XXV3OZmI0


―――



「とうま! 帰りが遅いから心配していたっていうのに、どういうつもりなの!? っていうか、とうま………
 何かお酒臭いかも!!」


クラスの仲間と別れ、帰宅した上条を待ち構えていたのは同居人のシスター、禁書目録。
玄関とリビングを繋ぐ廊下に仁王立ちした彼女は真っ先に詰問した。一方、上条は気まずそうに苦笑いしつつも
簡単な釈明を開始する。


「いや、これは違うんだよインデックス。確かに酒の席に立ち会っていたのは認めよう。けど、上条さんは潔白
 を主張する! 一滴も飲んでないし、法に反するような事は何も犯していません! 神に、誓って、断言します!」

「………とうま。その調子だと将来は一升瓶片手に「ウ〜イ♪ 今帰ったぞ〜♪」とか典型的ダメオヤジ口調で
 帰宅するサマが板につきそうかも。飲んで、呑んで、呑んだくれて潰れるとうまのビジョンが鮮明に見えるんだよ」

「だから俺は飲んでないって! 信じてくれよ! しかもそれ、完全に人生失敗してんじゃねえか!?」

「私、そんなとうまだけは見たくないかも……」

「いやいや。なっても見せねえし、そもそもそんな未来は迎えないから安心しろ」

「……ふーん。で、誰と一緒だったのかな? 一番肝心なのはそこかも」
196 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/22(木) 19:35:17.18 ID:XXV3OZmI0


禁書目録の追及はまだ終わっていないらしい。
突き刺すような彼女の視線が少しだけ痛かった。


「……クラスの友達、だけど……?」

「私、仲間外れにされたんだね……」


ボソッと寂しげに言われ、上条は慌てた様子でフォローに回る。


「ち、違うぞインデックス! 決してお前だけ除け者にしようとかそんなつもりじゃなくてだな……その、何て
 言うか………」

「………私は一人寂しくとうまの帰りをずっと待ってたのに、とうまは宴会に出席して美味しいモノをたらふく
 食べて、お酒の匂いが体から消えないぐらい楽しい思いをしてたんだね……」

「う……だ、だから……」


ズキン、と心が痛んだ。そして、非常にマズイ展開だった。この流れの行き着く先を上条は知っている。それ
こそ頭が割れるほどに。
どうにかしてこの不穏な流れを変えられないか上条が懸命に模索する中、禁書目録は顔を俯かせたまま嘆く。


「私、お腹空かせて待ってたのに……。とうまが『夜は危ないから一人で出掛けちゃ駄目』って言ったから、私
 はその言いつけ通りに、とうまを捜しに行くのも我慢して……」

「い、インデックス……さん?」
197 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/22(木) 19:36:06.99 ID:XXV3OZmI0


「また事件に巻き込まれたんじゃないかって、心配して……それでもとうまとの約束を守って、不安だけど我慢
 して………ずっと待ってたのに……っっ!!」

「――――!!?」


198 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/22(木) 19:38:54.21 ID:XXV3OZmI0


俯いていた顔をやっと上げた禁書目録。彼女の目には涙が溜まっていた。
上条の顔面が一気に蒼白する。加えてとてつもない罪悪感が、上条の胸中を渦巻いた。


「……ごめんな……。けど偉いぞ、インデックス。俺との約束、ちゃんと守ってくれたんだな……」

「……………」


また目線を下へ向けた禁書目録は、何も答えない。


「今回は全面的に俺が悪かったよ。心配させて、本当にごめん。…………けどな、ひとつ言わせてくれ」

「なに、かな……?」

「冷蔵庫に昨日の残り物が大量にあったはずなんだが……。俺、『腹減ったらそれ食ってていい』って、確か
 朝に言ったよね?」

「あれだけじゃ、お昼ごはんで全部無くなっちゃうんだよ?」

「嘘だ! どう見ても軽く四食分はあっただろうが! ってか、お前少しは『分けて食う』って事を覚えろよ!
 何故一食で大量消費する!? それはまだ良いとしても、なんでその後も普通以上に食える!?」

「とうま……。質問が今更すぎて答える気がしないかも。……もしかして、『私にも罪がある』って暗に諭して、
 自分への罰を少しでも軽減させようって魂胆かな?」

「―――ギクッ」
199 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/22(木) 19:42:13.64 ID:XXV3OZmI0


的確すぎる指摘がモロに炸裂し、上条の歯切れは更に悪くなる一方。


「そ、そんな事ねえよ! っつか、待て。この流れ、おかしくねえか? なんでまた軌道修正されてんの?
 俺ちゃんと謝ったよね?」

「それとこれとは別なんだよ。どっちにしろ、私がひもじい思いしてたのに自分だけ美味しいモノ食べに
 行ったとうまを許す気なんて、最初からないかも」

「なぬィ……!?」


この恐ろしい宣告後、上条の全身を冷たい汗が滴る。
更に駄目押しとばかりに禁書目録の攻勢は続く。目尻の涙が乾いた代わりに、瞳孔が何故か不気味に開か
れているのが判った。


「大体、とうま。遅くなるなら遅くなるで、どうして私に連絡の一つもくれなかったのかな? 一言残し
 てくれれば、私だって鬼じゃないんだよ?」

「い、いや。だってお前ケータイ持ってねえし………」

「ふうん、じゃあ部屋に置いてあるあの電話は飾りなの!? まさか私が「もしもし、上条です」も言え
 ないようなダメダメシスターだとでも思ったのかな!? ねぇ、どうなの!? とうま!!」

「…………………」
200 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/22(木) 19:44:30.28 ID:XXV3OZmI0


反論しようにも、言葉の残弾は既にこの時点でゼロ。
いよいよ言い逃れの聞かない状況に、上条は諦めたような口調で呟いた。


「………そうか、家に掛ければ良かったんだ。そいつぁー盲点だったなー、アハハ」

「馬鹿なのかな!? 馬鹿なんだね!? ようし、わかった!! その空っぽの頭を私が今から緊急治療
 してやるんだよ!!」

「―――うォ!? あっ、危ねぇ……!!」


どこぞの潜口竜も真っ青の大口を曝し、上条の小さめな頭部を呑み込む勢いで迫る禁書目録。
しかし、辛うじてこれを躱すのに成功した上条。その後も本能が送る危険信号に従うままに回避体勢を維持
する。


「ムッ!? 避けるなんてズルイんだよとうま!!」

「ふざけんな!! 何だその桁外れな速度は!? もはや“噛み殺す”なんて次元じゃねえだろ!? 海で
 サメにでも襲われた方がまだ生存確率高いぞ!!」

「ごちゃごちゃうるさいんだよ!! 潔く制裁を受けるのが、贖罪の正しき姿勢かも!!」

「“制裁”と“殺害”じゃ意味がちが……どあぁ!!?」
201 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/22(木) 19:48:33.93 ID:XXV3OZmI0


問答無用の二発目も何とか紙一重で逃れた。確かに通常よりも気持ち速めだし、威力自体も『咀嚼』が更に
もう一段階進化したような風に感じた。


(じ、冗談じゃねぇ……。こんなの喰らったら確実に死ぬ。死因が『女の子に噛まれたから』なんて絶対に
 成仏できねえパターンだろ!!)


いつになく必死に逃げる上条。思えば、禁書目録に対してここまで抗ったのは初めてでなないだろうか?
獲物を捕捉した獰猛な獣の目をした禁書目録が往生際の悪い上条に告げる。


「観念したらどうかな? 私をこれ以上怒らせると、取り返しのつかない事故が起きちゃうかもしれない
 んだよ?」

「オーケー! 一旦落ち着こう。な? インデックス。ここは物理的な解決より、言葉によるコミュニケ
 ーションで手を打とうぜ? 話し合えばほら、きっと分かり合え――――」


精一杯の笑顔で平和的解決を求める上条に痺れを切らしたのか、あるいは更に発破をかけてしまったのか、
禁書目録が突如、頭脳勝負に打って出た。
と言っても、概要は至って単純。
まず、上条の足下に適当な雑貨(コンパス)を放る。
一瞬だが、それだけで上条の目はそちらを向く。あとはその隙をついて突撃するのみ。

今までは単細胞な肉食獣のように喰らい掛かるのみだった禁書目録が、初めて知恵を使った戦法を見せ
た瞬間だった。
202 :>>201は無しでお願いします ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/22(木) 19:50:44.97 ID:XXV3OZmI0


問答無用の二発目も何とか紙一重で逃れた。確かに通常よりも気持ち速めだし、威力自体も『咀嚼』が更に
もう一段階進化したような風に感じた。


(じ、冗談じゃねぇ……。こんなの喰らったら確実に死ぬ。死因が『女の子に噛まれたから』なんて絶対に
 成仏できねえパターンだろ!!)


いつになく必死に逃げる上条。思えば、禁書目録に対してここまで抗ったのは初めてではないだろうか?
獲物を捕捉した獰猛な獣の目をした禁書目録が往生際の悪い上条に告げる。


「観念したらどうかな? 私をこれ以上怒らせると、取り返しのつかない事故が起きちゃうかもしれない
 んだよ?」

「オーケー! 一旦落ち着こう。な? インデックス。ここは物理的な解決より、言葉によるコミュニケ
 ーションで手を打とうぜ? 話し合えばほら、きっと分かり合え――――」


精一杯の笑顔で平和的解決を求める上条に苛立ちを感じたのか、禁書目録が突如、頭脳勝負に打って出た。
と言っても、概要は至って単純。
まず、上条の足下に適当な雑貨(今回の場合はコンパス)を放る。
一瞬だが、それだけで上条の目はそちらを向く。あとはその隙をついて突撃するのみ。

今までは単細胞な肉食獣のように喰らい掛かるのみだった禁書目録が、初めて知恵を使った戦法を見せ
た瞬間だった。
203 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/22(木) 19:53:02.87 ID:XXV3OZmI0


当然、上条がこれを予想できるはずもなく、禁書目録の狙い通りにまんまと注意を削がれてしまう。

キラリ、と目を光らせた禁書目録(肉食)が上条(草食)に襲い掛かる。

禁書目録の広大な口内を視中に収めた上条が「し、しまった!!」と叫んだ時には全て手遅れだった。


無駄な抵抗は余計な怪我を齎す。
それを証明するような悲劇がこのすぐ後に起きた。

禁書目録に頭を食されて転倒した上条の尻にどういう原理か、先ほど禁書目録が放ったコンパスの針
がブスリと突き刺さった。これにより、上条は二重の地獄をほぼ同時に堪能するという貴重な結末を
迎える。

禁書目録の“狩り方法”は、こうして日夜進化を遂げている。
204 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/22(木) 19:54:17.73 ID:XXV3OZmI0


―――



海原光貴という人間の姿をしたアステカの魔術師、エツァリ。
彼は現在、様々な訳アリにより祖国へ帰還できない立場である。
その“様々”な理由の一つは、今まさに彼の目の前にいる少女の存在だった。


「面会時間ギリギリですが、何とか間に合ったようですね……。ショチトル? どこか気分が優れないの
 ですか? 表情が外並に暗いですが……」

「遅い……。今日はもう来ないのかと思ったぞ」


不貞腐れた顔でこちらを睨んでくる少女の名はショチトルと言う。
彼女もまたアステカの魔術結社に属しており、海原の姿に扮したエツァリの正体を知る人間の一人である。
入院中の身ではあるが、着用しているのがオカルトチックな装束なのは、単に繊維上の問題らしい。化学
繊維が体に合わないだとか、そういった理由だ。

ショチトルは二つあるベッドの一つに上半身を起こした状態のまま拗ねた目を向けていたが、次第に自分
の言動に幼稚さを感じたのか、首をプイッと反らしながら素っ気無い態度を取り始める。


「まぁ、別に来なければ来ないで大いに結構なんだがな。ただこうも高い頻度で顔を見せられると、今日
 も来るだろうという期待感が生まれるのは自然なことであって、来て欲しいとかいう願望を秘めている
 わけではない。……時に訊くが、何故今日は来るのが遅かった?」
205 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/22(木) 19:55:43.54 ID:XXV3OZmI0


「申し訳ないですね。待ちくたびれさせてしまって……」

「む……お前、私の言ったことを理解してないな? 誰も“待っていた”などとは……」


否定しようと喋っている途中で、もう一つのベッドを占領していた少女が悪戯っぽい口振りで割ってくる。


「突き放すような言動で気を惹かせるなんて古いぞ? ショチトル。今の男は、やはり素直な感情を吐露
 してもらった方が効果テキメンってヤツだ。なーあ、エツァリ?」


この第三者的立ち位置を心から楽しんでいる少女はトチトリと言い、ショチトルの同僚であり良き理解者
である。大部屋とは違うタイプの個室空間に二人一緒なのは、そういった配慮もあってのことだ。

トチトリはショチトルの味方であると同時にエツァリの味方でもある、中立な立場をキープしたがる。
故に、ショチトルが困った反応をした後はエツァリに標的を移す。


「で? 遅くなった理由は? 時間に正確なタイプのお前にしては珍しいな。『裏の仕事』が長引きでも
 したのか?」

「………そっち方面の理由で遅刻するといった事は、おそらく今後無いでしょう」

「え? それってどういう……」


ショチトルが詳しい説明を求めた。
206 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/22(木) 19:59:40.64 ID:XXV3OZmI0


「これからは、『表』の世界で共に生きていきましょう。貴女たちさえ、良ければですが……。もし面会
 時間に間に合わなかったとしても、それだけは伝えたかった。……今すぐ応えろとは言いません。ただ
 その前提で……、視野にでも入れておいてください」

「暗部……やめるのか? っていうか、それ大丈夫なのか? ちゃんと組織の一員としての筋は通したん
 だろうな!?」

「通すも何も、既に自分がいた組織は形成を失っています。……少々早すぎる時代の流れ、とでも言えば
 良いのでしょうか……。今後はキチンと時間通りに、しかもこれまで以上に長い時間、貴女たちと一緒
 の時を過ごせそうです」

「―――!!」


これを聞いた途端、ショチトルの表情が人生最大の輝きと喜びに包まれた。
その僅かな一瞬を見逃さなかったトチトリの心に、またささやかな加虐心が芽生えてしまう。


「ですが、“後始末”がまだ終わっていませんので、暫くは先の話になるでしょうけど……」

「ふーん……だそうだ、ショチトル。良かったなぁ。愛しのお兄ちゃんとの時間が増えるなんて、思わぬ
 朗報だ。待ちぼうけていた甲斐があったというものだな」

「黙れ、お前は黙っていろ! 私が良いと言うまでは口を開くな!」


褐色な肌が赤みを帯び、声のボリュームも無意識に上がっていた。
そんな微笑ましいショチトルの心境に気を良くしたのか、エツァリも顔を綻ばせている。
207 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/22(木) 20:01:24.99 ID:XXV3OZmI0


しばらくはこの仲の良い二人の姉妹みたいな掛け合いが続くのだろう。そんな海原ことエツァリの想定を
あっさり裏切るような凄まじい視線が彼を射抜いた。


「…………おい、何をニヤニヤしている? エツァリ」

「は? いえ、別に……」

「そ、そうだ! トチトリ! お前の見解には誤りがある! エツァリは“貴女たち”と言ってただろう?
 つまり、それにはお前も含まれているという事だ! 私一人の感情を弄ぶのはおかしいんじゃないか?」


急に閃き、エツァリを睨んでいた顔が再びトチトリへと移る。


「っ! だ……だとしたら、関係図は一体どうなるんだ?」


「……はい?」


何だか良くない方向へと話が進みそうな気がしてやまないエツァリ。
そしてその予感はすぐに的中する。
208 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/22(木) 20:03:48.15 ID:XXV3OZmI0


「か、関係って……何を言っているんだお前は?」

「いや、現時点で最も重要視されるべき問題だ。なぁ? エツァリ」

「そ、そこで自分に振られても……。これまで通りで差し支えないのでは?」

「そうはいかないだろう!? 私たちだって、何時までもここに居るわけじゃないんだからな……」


トチトリは速攻でエツァリの意見を却下し、少し考え込む素振りを見せてからポンと手を打つ。


「ショチトルが妹役に名乗りを上げる以上……やはり正妻は私しかいないことになるか。ふぅむ……」

「せ、正妻……??? お、オイ待て! 聞き捨てならない単語が耳に入ったぞ今!」

「ん? 何か変なことでも言ったか? 日本語の使い方に間違いは無かったはずだが……」

「間違ってるのは日本語ではないっ!! お前の頭が構成しているシミュレーションの方だ!!」

「……? どこがおかしいんだ? だってお前はエツァリを『お兄ちゃん』として見ているんだろう?
 なら、正妻ポジションは必然的に私が譲り受ける形になるのではないか」

「その理屈がそもそもおかしいっ!! 大体お前、エツァリにそんな気があったのか!? 私は聞いて
 ないぞ!?」
209 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/22(木) 20:05:33.12 ID:XXV3OZmI0


「いや、他に適当な役振りが無かっただけなんだけど………何だ? お前もしかして、妬いてるのか?」

「なッ―――!?」


ガンッ! と、一際大きな音がした。
動揺して仰け反ったショチトルが、ベッドの手摺りに肘を強打したのだ。
その後二分、痛みに悶えながら肘を押さえるショチトルを心配しつつ茶化すのを止めないトチトリに対し、
エツァリは微妙な居心地の悪さを覚えた。
もちろん顔は愛想笑いを貫き、表には出さない様に努めることを忘れない。

やがて、痛みを乗り越えたショチトルがほぼ八つ当たりに近い雰囲気を撒き散らしながらエツァリへ標的
を移し、またまた言及を始めた。


「………ところでエツァリ。お前だったらどう思う? この女を嫁に迎える架空設定を最大限にイメージ
 して、その上での率直な感想を述べてみろ」

「ええと………」


普通に困惑するしかなかった。
シチュエーション的にも彼の苦手分野である事は明白だが、火の点いた少女たちにはそういう建前がまず
通用しない。


「イヤか、イヤなんだなそうかイヤか。残念だったな、トチトリ。縁談は不成立だ。本人の承諾無しでは
 お前のこれまでの発言全てが戯言でしかなくなる。まぁそんなに気を落とすな。こればかりはエツァリの
 気持ちの問題だから、仕方の無い話だ。うん、うん」
210 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/22(木) 20:07:58.99 ID:XXV3OZmI0


「……………」


ショチトルが勝ち誇ったように笑い、トチトリは何故か寂しそうにエツァリを見つめる。彼女の瞳からは
捨てられた小動物みたいな悲愴感が滲んでいた。

エツァリの良心はこれだけで揺らぎ、勝者の余韻に浸るショチトルに同調できなくなった。
萎れた花みたいになっているトチトリに優しい笑顔を向けて、言う。


「じ、自分は別段イヤと言うわけではありません……。むしろ光栄にすら思いますよ」

「え……?」

「なんだと!? お前っ!! それは一体どういう事だ!? 私とトチトリ、どっちかを嫁にするとしたら、
 お前はトチトリを選ぶって意味か!? どうなんだエツァリ!! 返答次第じゃお前、一生ここで生活を
 送るハメになるぞ!」


ギリリ、と奥歯を強く噛むショチトル。天国から一瞬で地獄に落とされたような変わりぶりだった。
その代価とでもいうように調子が戻ったトチトリ。


「おいおいショチトル。ここで死体増やすようなマネだけは遠慮しておけよ? 仮にも病院で……」

「死体処理なら私の専門分野だ。何の問題がある?」

「……自分が死体になる前提で話を進められるのも、何だか妙な気分ですね……」
211 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/22(木) 20:08:48.10 ID:XXV3OZmI0


「なら先の質問にハッキリとした解答を述べろ。私とトチトリ、嫁にするならどっちがいい? お前の中
 での私は何だ? 妹か? それ以上か? 丁度良い、この機会に是非聞いておこうじゃないか」

「…………」


二つの期待溢れる視線。既に心に決めた人物がいるエツァリにとって、この立場はかなりの苦痛と言わざる
を得なかった。
やがて、彼はさり気なく腕の時計に目を移し、


「おやおや大変です。もう面会終了の時間が来たみたいですので自分はこれで失礼しま――――グフッ!?」

「逃げるなっ!! この優柔不断の偽善仮面野郎っっ!!」


憤慨したショチトルの投げた目覚まし時計が、退散を計ったエツァリの後頭部にクリーンヒットした。
212 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/22(木) 20:12:01.07 ID:XXV3OZmI0
ってな具合でここまで
前夜ということで脇に視点当ててみた結果がこれでした
次回からまた本編戻ります
次回の公開は今回無しです。ごめんなさい
ではまた
213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/22(木) 21:21:27.06 ID:N2oBl/15o
更新乙!
どうでもいいがコンパスが最初方位磁針の方を連想して
すぐ気付いたけどコンパスがゲシュタルト崩壊しかけた
214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/23(金) 01:32:49.89 ID:4bvJEiGs0
いくら禁書目録でもハプルボッカには敵わないだろう

ってゆうかあらやだショチトル可愛い
215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/23(金) 01:55:08.68 ID:yP+tBgASO
コンパスって円描く方かww
俺も指針かとおもた
216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/24(土) 00:32:04.94 ID:YIxdtZr30
テクパトル「解せぬ…」
217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/24(土) 21:24:11.96 ID:fxVwC8lSO
上条さんハプルには容赦しないだろうな……
218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/25(日) 01:48:47.08 ID:4lbiN22B0
日常編も見納めで、次回からついに最後の戦が始まるのか・・・
なのに妙にワクワクしてしまうの何でなんだぜ?
木原戦の時みたいな熱い展開を期待していいのかぜ?
219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/25(日) 01:50:04.74 ID:4lbiN22B0
うわ
間違って上げてしまったんだぜ
申し訳ないんだぜ
220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/09/25(日) 09:04:38.59 ID:AanyUA7V0
作者来たかとちょっと期待したのに貴様と言う奴はっ…
221 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [scpbd621]:2011/09/25(日) 13:35:02.88 ID:7iqrIU5B0
ガンバ大阪
222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空) [sage]:2011/09/26(月) 21:00:09.62 ID:kQtRyNep0
日常のインなんたらは、相変わらずクズだな…
223 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/26(月) 22:00:37.51 ID:nENVhBYH0
追いついてしまった
224 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/26(月) 23:49:07.57 ID:LeQf9I570
何故バードウェイいないのかと思ったら……そっか、ここの上条さんは自力で帰ってきてるからか
決戦……食蜂と対峙するのが誰なのかがすごく気になる
225 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/27(火) 21:12:46.40 ID:DqUfdoVSO
食蜂VS一通
食蜂VS麦のん

どっちも超見たい!
ただし上条、テメーはダメだ
食蜂さんの顔面にパンチしてみろ
俺の一生を賭けてでも[ピーーー]
226 : ◆jPpg5.obl6 :2011/09/28(水) 20:08:31.83 ID:tKAWnnq00
>>213>>215
円描く方でした。説明不足サーセン
>>218
過度な期待は(ry
>>225
あわきンみたいに顔面ぐにゃりか……考えておこう

見てくれてる方に今日も感謝しつつ、投下します
227 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/28(水) 20:09:51.14 ID:tKAWnnq00


◆ ◆ ◆



学校帰りに飲酒した番外個体と一悶着起こしたり逃亡中の小さな金髪少女とツインテール風紀委員に遭遇
したり第五位と会ったり、そんなバタバタしっ放しだった日から一夜明けた朝。

一方通行は番外個体を送り届けてすぐに病院へと向かっていた。

病院入り口付近、タクシーから降りた一方通行を出迎える形で待っていたのは浜面仕上。
横にはフレメアも付き添っていた。というより、浜面に憑り付いた子供の霊みたいにベッタリくっついて
おり、他者から見れば随分と滑稽な光景だった。さながら『平均以上に仲の良い兄妹』と言ったところか。

しかし、今はそれについて指摘している場合ではない。


「よう、第一位。昨日は……」

「そンな挨拶はどォでもいい。さっさと病室まで案内しろ」

「お、おう」


無駄な会話をする余地もなく病院の入り口を通過し、足早に目的の病室を目指す一方通行と浜面。
長い渡り廊下を移動中、簡潔な事情説明を浜面に求めた。
228 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/28(水) 20:11:12.31 ID:tKAWnnq00


「一体何があった? 昨日別れてから何も聞いてねェのか?」

「……俺もさっき駆けつけたばかりなんだ。詳しい話はまだ聞けてない……」

「意識は?」

「俺が来るちょっと前に戻ったらしい……。けど、様子が少し変だった。目が覚めて、自分が病院にいる
 って知った直後、『第一位を今すぐここに呼んでください!』って、俺と麦野に言ったんだよ……」

「俺を……? 何故だ?」

「俺もワケ分かんなくて訊いたんだけど、『第一位が来てからまとめて話します。だから超急いで連れて
 来てください!』だそうだ……」

予感が働かず、顔を顰める一方通行。この様子だと、一方通行に思い当たる節は無さそうだ。
浜面は内心でそう思った。

「怪我の具合はどォだ? 意識がハッキリしてるンなら、もォ心配は要らないって事で良いンだな?」

「いや……。搬送されてすぐに直行した麦野曰く、相当の重傷だったみたいだぜ。まぁ、それも全部あの
 “医者”のおかげで助かったんだけどな。本来なら絶対安静なのを、無理に許可させたらしい……」

「そこまでして、俺に何を伝えよォとしてンだ……あの小娘は……」

「俺たちも立ち会うから、一緒に聞こう」

一般病棟と隔離された個室エリア。その一角に到着した。
229 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/28(水) 20:13:46.74 ID:tKAWnnq00


扉を開けた浜面に続き、一方通行も入室する。

まず視界に映ったのは、患者用ベッドで腕全体と他幾つかの箇所に包帯やガーゼを付けた絹旗最愛の
痛々しい姿。その横で剥いたリンゴを絹旗に食べさせている麦野沈利の、まるで母親みたいな優しい
表情は、浜面は勿論一方通行の心にも強烈な印象を与えた。

「麦野……。またお前の新たな一面を見ちまった気がする。なんていうか、今のお前……白衣の天使
 姿でも受け入れられそう……」

「あぁ? 野郎二人してジロジロ見てくんじゃねえよ! 私が看病染みた真似するのがそんなにおか
 しいかコラ!」

「うわ。クチ開いた瞬間全てが台無し……」

「なんだと浜面テメェ!!」

「どうどう、麦野。とりあえず超落ち着きましょう」

頬を紅潮させて威嚇を放つ麦野を子供でもあやすように宥めたのは、怪我人の絹旗最愛。
一方通行がそんな絹旗へ声を掛けた。

「……よォ。思ってたより元気そォで、とりあえずは安心したぜ」

「………ピンピンしてます、とは言えませんけどね……。運ばれた病院が違ってたら、まだ意識は
 超闇の中だったでしょうよ」

複雑そうに笑う絹旗に、早速本題を振る。
230 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/28(水) 20:16:39.39 ID:tKAWnnq00


「……一体何があった? 俺を呼ンだってことは、『新入生』絡みの話なンだろォけどよ……まず
 聞きてェのは、“誰がオマエをやった”かだ」

「あらぁ第一位。まずは絹旗の報復が最優先? いつから御株上げなんて企むキャラになったのさ?
 まぁ、それなら勿論私も参戦するけど」

「茶化すンじゃねェ第四位。俺とオマエらの関係は何だ? 馴れ合いに興味があるワケじゃねェが、
 『新入生』は俺達の接触を知ってやがった……。つまり、こいつを狙ったのは必然的に『新入生』
 の誰かって事になる」

「……ほう、向こうもただの馬鹿集団じゃないってわけね」

麦野が軽く舌なめずりをしつつ高揚感を募らせる中、絹旗が切り出す。

「第一位! 今から私が話す内容を超しっかり聞いてください! ……私と昨日、相対したクソ女
 からの伝言を……預かっています……」


「『番外個体・最終信号……。両個体を救いたければ、所定した場所まで出頭しろ』………と」



「――――――!!!???」



浜面、麦野、そして一方通行の目が大きく見開いた。
231 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/28(水) 20:18:32.96 ID:tKAWnnq00


「誰だ!? 昨日オマエと闘ったのはどこのクソ野郎だァ!?」
そう叫び散らしながら絹旗に掴み掛かりたい衝動に駆られるが、拳を堅く握り締めることで何とか
堪える。
だが、背中に張り付いたざわざわとしたドス黒い感情は、確実に平常心を乱しに掛かっていた。

重く、低い声を腹の底から絞り出す。


「…………で、そいつが所定したのは何処だ?」


恐ろしい程に冷静な声だったが、その場にいた全員が噴火寸前な彼の心境を悟っている。
絹旗は淡々とした口調で明確な場所を告げた。

「『第七学区と第五学区の境に位置する三十七号線沿い、旧柊工場』です」

「……わかった。伝言ご苦労ォ」

黒夜からのメッセージを漏らさず伝聴した一方通行は、絹旗にそれだけ言い残して背を向けた。
何処に行けば良いのかは把握した。ご親切にも敵側からの指定である。
ならば、これから為すべき事は一つ。


「――――ちょっと待てよ第一位。まさか正面からのこのこと出向く気じゃあないでしょうね?」


「……!」

232 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/28(水) 20:28:09.90 ID:tKAWnnq00


足を踏み出そうとする一方通行の背中に、麦野がストップを掛けた。
何処から見ても怪しい話だが、一方通行は何も考えてないような素振りで出向こうとしている。
彼女でなくとも思わず制止したくなるだろう。

「……当たり前の事をわざわざ確認するとは、どォいう気まぐれだ? 第四位」

「アンタ、頭が正常に動いてないらしいから教えてあげるけど……これ、どう考えても罠よ?」

「……俺もそう思う。でなけりゃわざわざ場所を指定する意味がねえよ」

浜面と麦野は客観的に見た率直な意見をストレートにぶつけた。確かに、どんな馬鹿でもそう
決め付けるのが普通だが、一方通行は……

「ンな事ァ言われるまでもねェ。けど、だから何だって言うンだ?」

「危険な上に間抜けだっつってんだよ。アンタがいくら正々堂々と真っ向から臨んだって、敵
 に有利な条件を与える結果になるだけ。そんなことが分からないアンタじゃねえだろ?」

「もォ一度言わなきゃ駄目か? “だから、何なンだよ”? ヤツらがどンな策略練ってるか
 なンて知らねェし、知ったこっちゃねェ。俺がやらなきゃならねェ事は最初から決まってン
 だよ。番外個体と打ち止めを迎えに行く。それ以外の事は後で考えりゃイイ」

「それが浅はかなんだよ! アンタの精神を乱して、基本的な思考能力を低下させるのもヤツ
 らの作戦だっつってんの! アンタがそいつに乗っかってどうすんだよ!?」

麦野の語気が荒々しさを増すのも無理はなかった。
冷静に振舞っているつもりらしいが、一方通行の心中は凄まじい怒りに満ちている。
麦野だけでなく、浜面や絹旗にも感じ取れるほどに……。
233 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/28(水) 20:30:33.99 ID:tKAWnnq00

「………俺は冷静だ。見て分からねェのか?」

「悪いが、とてもそうは見えねえなぁ。『爆発寸前です』って、顔に書いてあんだよ。そんな
 眼力入った状態じゃ、説得力がねぇ」

気が急いている一方通行の心情を理解した上で、それでも敢えて麦野は粘り強く制止の言葉を
投げ続ける。一方通行も心の底では彼女の言う事が正論なのは分かっている。
浜面も麦野の意見に賛同しているらしいが、番外個体たちが危険に曝されている中でこの沸騰
した頭を冷やすのも、やはり簡単にはいかないのだろうか。


「第一位……。やっぱ、馬鹿正直に行くのは無謀だって。大体、そこにお前の“大事な人達”
 が本当に捕まってるって確証も、まだ掴めてないんだろ?」


「……!!」


この浜面の言葉に、一方通行はふと我に返った。
何事も、まずは確認から入る。基本中の基本だった。しかも、一方通行が任務等に移る際には
徹底していたはずの掟。それすらもブッ飛んでしまうほど、心はざわついていた。

浜面に救われた形になる点については遺憾だが、確かに彼の言う通り、まずは現状をキチンと
頭に叩き入れておくべきだ。

「……そォだな、とりあえず確認を取るのが先だ」

少しだけ、熱が冷えたようだ。
234 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/28(水) 20:32:03.85 ID:tKAWnnq00


ここでは携帯電話が使用できないため、どの道病室を出なければ何も進まない。
ふらりと出入り口の方へ歩き出す一方通行。
その際、絹旗が俯きがちに注目を集める発言をした。

「あの、私……皆さんに、超謝らなければいけない事が……」

モゾモゾと身じろぎしながら濁すように喋っている様は、普段の絹旗と大きくかけ離れたイメージ
を感じた。ずっと自分の中だけに隠していた真実を、これから暴露でもするかのような……。
そんな雰囲気を察したのか、一方通行が遮るように語り出す。

「止めとけ、今は懺悔の時じゃねェだろ。……仮にオマエがここで全部吐き尽くしたトコで、何が
 どォなるってワケでもねェ。そォいうのは終わった後にでもオマエらだけでやってるンだな……。
 俺には関係のねェ話だ」

「え? ……で、でも」

「だから言ってンだろォがよ。俺が動く理由は、“あいつらを無事に救出する”事だけなンだっつの。
 オマエら内輪での事情や経緯、ましてや誰と誰の間にどンな因縁があるかなンて、興味の範疇外だ」

「………あなたに関係ある話でも……ですか?」

「当然だ。オマエ、まさか俺が何も気づいてねェとか思ってねェよな?」

「……ッッ!?」

驚愕の表情を浮かべた絹旗に、一方通行はいつも通りの仏頂面で説く。
235 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/28(水) 20:34:04.26 ID:tKAWnnq00


「個人同士の私怨争いに首を突っ込む気はねェが……こいつはヤツらからの、最っ高に分かりやすい
 『宣戦布告』だ。どォあっても避けれねェ以上、受けるしかねェンだよ。オマエが仲間の前で自供
 を始めよォが、俺はのンびり聞いてやるつもりはねェ。……っつーか、オマエだけだと思ってンじゃ
 ねェぞ? 俺は勿論、そこの無能力者は第四位だって言えることだが、誰にでも他人には知って欲し
 くねェ秘密の一つや二つ、抱えてるモンだろォがよ」

「…………」

「オマエが本当に全てブチ撒けてすっきりしたいってンなら、何もかもが片付いた時でも別に遅くは
 ねェはずだ。そォだろ?」

「……はい」

黒夜海鳥との因果関係。これまで彼女を追って単独行動していた日々。事件発生直前に彼女と会合し、
放逐したばっかりにあんな事態を引き起こしてしまったこと。
昨日、全てを終わらせるつもりで臨んだ勝負も、結局自身の底が浅かったせいで惨敗という始末。

今、それを仲間の前で語ったとして、一体その後に何を望むというのだろう。
断罪? それとも赦免? 

絹旗の中で明確になっていない答えを、一方通行は導いてくれた。
彼らしく、ぶっきらぼうなやり方でだが……。
236 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/28(水) 20:36:56.31 ID:tKAWnnq00


だから、絹旗は一方通行がそのまま病室を去る際にこう言ってやった。

「後を、お願いします……」と。

最強はこれに対し、


「俺が後を引き継いだ以上、もォ何の心配もねェ。オマエは枕でも高くしながら安心して休ンでろ」


背中から届いた彼の言葉。
不思議と絹旗の顔に自然な笑みが零れた。
華奢で、お世辞にも強靭とは呼べないはずの背中なのに、何故か絹旗の目には誰よりも頼もしく見えた。

「浜面……麦野……」

ゆっくりと、目線をずっと静観していた二人へ向ける。

「そういうわけです。一件落着したら、話しますね……。ずっと言えなかった事を……」

「いや、別に無理して喋る必要なんかないのよ? まあ、アンタが聞いて欲しいんなら聞いてやるけど……」

と、ここで空気に呑まれたのか、浜面も便乗するように胸の内を吐く。
237 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/28(水) 20:44:26.02 ID:tKAWnnq00


「っていうか、実は俺もお前らに隠してた事……あったりして」

「はぁ!? 何だそりゃあ!? 浜面ぁ! テメェ私らに隠し事だぁ!? いつからそんな器用に生きる術
 身につけたんだコラァ!! 後で全部吐いてもらうぞぉ!!」

「えぇ!? ちょ、俺だけ扱い酷いのは仕様ですかぁ!? まぁ覚悟はしてたけどさ!」

「超当たり前です! 浜面の分際で私たちに隠し事なんて……生意気すぎて超吐き気がします!」

「ナースコール押すぞ! しまいにゃ白衣の天使に助けを求めるぞ俺はぁ!! 不遇な扱いで悄然とした心
 を全力で癒してもらっちゃうぞ!?」

「うっわ、超・超・超キモイです!!」

「っつか、んなくだらねえ言い合いしてる場合じゃねえだろうが! 第一位、呆れて先に行っちゃったわよ!」

浜面が目を戻すと、そこに居たはずの一方通行は既に消えていた。廊下の方から杖の遠ざかる音だけが聞こ
える。

「……何か釈然としないけど、ぐずぐずしてられねえな……。フレメア」

「にゃあ?」

浜面の脚部で、ずっと装身具みたいにくっ付いていた少女、フレメア=セイヴェルンを優しく引き剥がし、
絹旗に預ける。

「お前は、ここで絹旗お姉さんと留守番だ。絹旗、フレメアを頼んでいいよな?」

「……そう言えば、ずっと気になってたんですが……その子は誰なんですか?」
238 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/28(水) 20:46:30.72 ID:tKAWnnq00


「私も、訊こうと思ってタイミング逃しちゃってたわ。……あれ? ってかこの子、どこかで……」

「……さっき言った、俺の“隠し事”に関連してるんだ。後で、片がついたら話すよ。お前らにもいずれ話す
 つもりだったしな……」

「………ま、色々と気になるけど、今は優先事項を間違えてる場合じゃないわ。―――浜面、行くよ!」

「ああ! ……フレメア、そんな心配そうに見つめてくるなって。大丈夫、すぐに帰ってくるよ。だから絹旗
 お姉さんに迷惑掛けるような事するなよ? わかったな?」

「うん、大体わかった……」

「浜面、親父みたいで超キモイ……」

「うるっさいのよお前は!! ……って、麦野もういねえし!? 置いてかれちまったじゃねえかクソ!」

「超タラタラしてるからですよ。早く行ってください。シッシッ」

「うぅ……じゃあ行ってきますよトホホ……」

「――――浜面」

「ん……?」

「第一位を……麦野を、お願いします」
239 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/28(水) 20:48:54.21 ID:tKAWnnq00


「……超能力者を無能力者に託すって、何かおかしくない?」

「それもそうですね……。やっぱり今のナシです。超忘れてください。……あと、死ぬのも超許しませんよ?
 滝壺さんが超悲しみますからね!」

「お、おう! それぐらいなら何とか守ってみせるさ! ――――じゃあな!」

慌しく出て行った浜面を見送った後の病室は、一転して静寂な空間と化した。

「ふにゃー……大体朝早かったから、眠い。寝る。おやすみ」

「痛っ!? ちょ、痛いですっ!! 急に圧し掛かってこないでくだ―――!! あァァああああ!!! 傷が!
 傷口が超開いたァァああああああ!!!!!」

ガチャリ。

「………隔離病棟とは言え、もう少し静かにして欲しいね?」


―――


病院から外へ出た直後、すぐに浜面と麦野が追いついてきた。
どうやら同行するつもりらしいが、それについて振れる前にまずは確認を済ませるのが先だ。

携帯電話を取り出し、昨日交換したばかりの番号へ着信を送る。
授業中で出ないかと思われたが、意外と待たされることなく連絡先へ繋がった。
240 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/28(水) 20:51:20.77 ID:tKAWnnq00


『――――もしもし!? 一方通行か!? 良かった……。俺も今丁度お前に電話しようと……』


通話口から届いた上条当麻の声は、どこか切迫している様に感じられた。
この時点で、受け入れたくない疑惑が確証に変わりつつある。

「………今、どこにいンだ? 学校は?」

『その学校から今抜け出してきたんだ! ……後が恐いけど、それどころじゃねえ! 番外個体が来てない
 んだよ!』

(……やっぱりか)

『最初、お前が休ませたのかなって思ったけど……友達が昇降口で番外個体を見たって……』

「そりゃそォだ。学校前まで俺が送ったからな。……教室へ着く前に『新入生』が連れ去った……。チッ、
 どォやら確定らしいな……」

『なっ……! そ、それ本当か!? 『新入生』の連中、学校内にまで……』

「俺の責任だ。俺が甘すぎた……ヤツらの底を見誤ってたンだよ。……オマエ、もォ学校から離れてンのか?」

『いや……まだ近くにいるかもしれねえと思って、周囲を散策してる。お前は何か知ってるのか? ってか、
 お前さっきからやけに落ち着いてねえか?』

「説明は後でする。オマエが学校を抜け出してまでアイツの事を気に掛けてくれた件については、すまねェ
 としか言えねェ……」
241 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/28(水) 20:54:06.57 ID:tKAWnnq00


『んなの気にしてる場合かよ! ………で、俺はこれからどうすればいい? どうせ今日はもう学校に戻れ
 ねえし、こんな時に授業受ける気分でもねえし……』


何故この男の声を聴くと、こんなにも頼もしい気分になれるのか……一方通行は未だに不思議だった。
以前、美琴が行方不明になった事件でもそうだった。
自身の環境が悪化してしまおうと、他人との義理を尊重するのが彼だ。

……いや、義理とは全く異なる原動力が、上条をただ動かしているのかもしれない。
予想以上の行動をとった上条の意思を、無駄にはしたくないと一方通行は思う。
助長に対する抵抗や意地など、もう拘ってはいられない状況だ。

「『新入生』は決着を所望してる。俺は当然乗ってやるつもりだ。ヤツらを完膚なきまでに叩きのめして、
 番外個体も救い出す。……必ずな」

『一方通行………』

「手ェ……貸してくれるか?」

『当たり前だろ!!』

「よし……俺は今、病院から出たところだ。オマエの現在地を教えろ。すぐに迎えに行く」

どうやら合流する気の一方通行。
242 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/28(水) 20:57:17.41 ID:tKAWnnq00


上条の現在地を聞き出し、頭にインプットさせてすぐに会話を切り終える。
と、そこでようやく後ろの二人に意識を向かせた。

「……どォした? まだ何か用事があるンなら手短に済ませろ。見ての通り、急いでるンでなァ」

「何言ってんの? 非常事態にアタマでもやられたのかにゃーん? 第一位さん」

「“お前の大切なモノ”を取り戻しに行くんだろ? 俺らも付き合うぜ」

「………来たところで、オマエ達にメリットがあるとは思えねェ。……それでもか?」

「馬鹿野郎が。損得の話をここで持ち出すとか、どんだけ空気読めてないのよ、アンタは……」

「?」

「アンタと“私ら”は同盟関係。つまり、仲間みたいなモンでしょうが。手伝う理由が他に要ると思う?」

「……仲間意識、ねェ……。どォも慣れねェ響きだな」

「そうでなくても、アンタには“ロシアで浜面達が世話になった件”での借りがあんのよ。戦力が増えて何か
 不都合でも?」

「……ねェ。正直、助かる」

昨日に食蜂が言っていたことを鵜呑みにするわけではないが、事実欠陥が多い今の自分一人では、危ういのも
確かだ。
味方が一人でも多いに越したことはないし、自分と同じ超能力者が協力してくれるのは損どころか寧ろ大きな
活力になる。
243 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/28(水) 20:59:18.53 ID:tKAWnnq00


そして、浜面も……。

「今度は俺がアンタに手を貸す番だな。……まぁ、麦野と違ってただの無能力者にできることは知れてっけど、
 このまま指咥えて見てるわけにもいかねえよ。……それに――――」

「――――このまんまヤツらをのさばらせてたんじゃ、滝壺が安心して目ぇ醒ませないでしょ? 忘れて欲し
 くないけど、『新入生』はアンタだけの獲物じゃない。……絹旗にも関連してるとしたら、尚更……ね」

「……好きにしろ」

二人の真っ直ぐな眼を観察し、一方通行は同行を許した。
最優先は番外個体及び打ち止めの救出だが、もう一つチェックすべき事項が残っている。

「………芳川か? 俺だ」

再び電話を掛けた先は、打ち止めの居住兼教育を任せている黄泉川愛穂の自宅だった。
当然家主は学校に勤めているため不在だが、代わりに同居人の元研究者、芳川桔梗が対応している。

『君から掛けてくるなんて珍しいわね。何かあったの? もうすぐ朝ドラ始まっちゃうから、用件は手短にね』

「相変わらずのダメ人間っぷりだな。……まァいい。打ち止めは居るか?」

『あぁ、最終信号ならさっき、お友達と遊びに行っちゃったわよ』

「……その、“友達”ってのは……?」

嫌な予感に手の震えが止まらない。
244 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/28(水) 21:00:50.70 ID:tKAWnnq00


『あら? 君も知らないの? ……おかしいわねぇ。最終信号が、“一方通行とミサカの友達”って、自分で
 言ってたのに……』

「打ち止めが……? ―――ッ! オイ、そいつの特徴は? 姿とかは見てねェのか?」

『エントランスのモニターでしか見なかったけど、確か“常盤台中学の制服”を着てたわね。だから“超電磁砲
 《オリジナル》”繋がりで知り合ったものだと……違ったかしら?』


「………もォいい」(クソッ……!)


乱暴に通話を切る。
やはり敵のメッセージはこけ脅しなどではなかった。現にこうやって実行段階に突入している辺り、本気で決着
をつけるつもりなのが窺える。

そして、この所業をこうも完璧にこなせる人物に一人だけ心当たりがあった。


(……テメェの無能っぷりに反吐が出そォだ。昨日忠告を受けたばっかりじゃねェかよ……。なのに、何だァ
 このザマはァ……。まンまとあいつらの手中に収めさせちまうとは……ッッ!!)


ギリギリ……と歯を軋ませ、眉間に皺を寄せる。
露骨すぎるほどの焦燥に、麦野と浜面の憂色も濃くなっていく。
245 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/28(水) 21:07:12.98 ID:tKAWnnq00


確かに、一方通行の心には少なからずの慢心があった。
それが過信へと繋がり、この結果を生んだのかもしれない。

だが、『してやられた』と下を見ながら悔やむより、前をしっかり見据えて気を引き締める方が重要だ。
一方通行は決して暗愚ではない。
しかし、それでも今回は『彼の心の隙間』を的確に突いた『新入生』が一枚上手だったのだ。

「……上等じゃねェか。あいつら、いよいよこの俺相手に挑戦状叩きつけて来やがった……。最高だよ。
 最高に面白れェ連中だよ……やってくれるぜ……」

「お、おい。第一位……大丈夫か?」

「あァ、心配すンな。……ちっとばかしヤツらの“料理法”を考えてただけさ。ンじゃあ、行くとすっかァ。
 まずは“とある三下”を迎えに、なァ。ククク……」

浜面や麦野でなくても判る。今、一方通行は相当に“キテる”と言う事が。引き攣った笑顔が魔物のように
おぞましく、狂気を帯びていた。
向こうに一体どんな作戦があるのかは知らないが、こうなると敵の方を軽く同情してしまいそうだ。

この最強最悪の悪魔を、とうとう本格的に怒らせてしまったのだから――――。
246 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/28(水) 21:09:43.23 ID:tKAWnnq00
とりあえずここまでで終了です
では、次回の一部を最後に載せます
247 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/28(水) 21:13:59.24 ID:tKAWnnq00


黒夜「おそらく、向こうも『勢力』を惜しみなく使ってくるだろう。……そうなると、超能力者を二人も
    敵に回す事になるが……」


食蜂「第四位ねぇ……。まぁ、どうって事ぁないでしょ。序列なんて、あくまで『能力値』考慮でついた
    順位だもん。そこに『状況』と『戦術性』は含まれてない。『樹形者の設計図《ツリーダイアグラム》』
    の演算結果も、良く見ると案外欠陥だらけなのよねぇ……。科学の限界って言っちゃえばそれまでだけど」


―――――――


浜面「ちょ、俺“穴”かよ!? 確かにキミ達と比べたら目が霞んじまうほどチッポケだよ俺は! けど、
    ゴミにはゴミなりの戦法やら足掻き方があるんだぜ!? 麦野も何度か目撃してるだろ!?」


麦野「目撃者としてコメントするけど、今もアンタがこうして生きてるのって、奇跡以外に無いわよね?」


―――――――


一方通行「わざわざアッチから出向いてくれたンだ。せめて全力で歓迎してやらなきゃなァ」
248 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/09/28(水) 21:16:12.57 ID:tKAWnnq00
以上です
また一週間後くらいに続き投下します

それではまた
249 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/09/28(水) 21:19:08.53 ID:XzFpG5n80


いよいよ決戦か…
三人のヒーロー達に期待
250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/28(水) 21:34:06.22 ID:y/XRvYMSO
打ち止めや番外さらったのも食蜂の仕業か……食蜂チートだな
マジでどうなるのか期待
251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/28(水) 22:30:02.43 ID:PNm880Qk0
食蜂の能力は最強だろうな、周りを武器に出来るし本人も賢いから
天敵っていったら唯我独尊の垣根っちくらいじゃね?話術で堕とされそうだが
252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/29(木) 00:17:17.92 ID:TAz2jer60
【心理掌握】ってぐらいだからな…
>>1もそうだが、書く人によっては最高に面白く変化するキャラだと思う

ただし上条、テメーはだめだ
253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/29(木) 00:41:16.36 ID:WseALS2Ao
乙ー
まぁ、みさきちに上条さんの説教(笑)はきかないだろう
254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [scpbd621]:2011/09/29(木) 01:08:08.79 ID:iz79Zwil0
乙ゥ
255 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/29(木) 01:50:51.11 ID:8dAUssGko

食蜂さんは説教はともかく男女平等パンチが映えそうなキャラではある
256 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/29(木) 02:12:06.87 ID:fMG0VP9SO
乙!

原作じゃ道違えてた麦野の参戦は胸熱すぎる
>>1GJ
257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/30(金) 01:38:23.94 ID:MTigzXDU0
改行法変えた?更に読みやすくなった
>>256
新約二巻か
ストーリー以外の箇所でちょくちょくネタ入ってるよね
258 :VIPにかわりまして統括理事会がお送りします [sage]:2011/10/03(月) 12:22:02.44 ID:YTMyS+aR0
とある魔術の禁書目録劇場版公開決定!!!!!
更に新約とある魔術の禁書目録3巻は12月10日に発売決定!!!
劇場版の詳細は10月11日発売の電撃文庫マガジンで!
259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/03(月) 22:52:44.09 ID:by14TA5g0
>>258
なん……だと……?

こりゃまた荒れそうだなwwww
260 : ◆jPpg5.obl6 [saga]:2011/10/04(火) 20:25:36.38 ID:yDOYgkoS0
劇場版楽しみですが、一方さんは出るか否か……そこ重要

お待たせしております
続き投下しに来ました
261 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/04(火) 20:27:52.07 ID:yDOYgkoS0


―――


第七学区と第五学区のほぼ境に位置する工場跡は、無人の倉庫が幾つにも組み分けられていた。
廃場してからは、スキルアウトの根城として主に利用されていたこの跡地。現在は『新入生』の隠れ所と
して機能している。
一部のスペースは兵器用の駆動鎧格納庫や密輸武器の管理場として活用され、全兵力が武装と搭乗を終え
たところだ。

雑兵の顔色は緊張に包まれ、どこか強張っているようにも見受けられる。それもそのはず。
これから『学園都市最強』の超能力者と一戦交えるのだ。相手の脅威度も認知しているからこそ、彼等
にもある種の覚悟が備わっていた。

いくら“勝算”ありの戦いとは言ってもだ。

新たな“マリオネット”を引き連れた食蜂操祈は、相変わらず軽薄に微笑んでいるばかりで緊張の面影
は一切見られない。ただの“楽観的”と表現できなくもないが、そこは『常盤台の第五位』として相応
の貫禄があると言っておこう。

そして、『新入生』を束ねる黒夜海鳥もまた待ち遠しそうに最奥の座椅子で寛いでいる。

「機は熟したな……。あとはヤツが出向くのを待つだけか。第一部隊はそろそろ挨拶を仕掛ける準備に
 取り掛かれ。派手にやっちまって結構だ。平和ボケしきってる愚民どもに恐怖を植え付けてやるのも
 ウチらの存在意義の一環だからな」

武装し、待機中の小隊に指令を下す。
262 : ◆jPpg5.obl6 [saga]:2011/10/04(火) 20:31:46.61 ID:yDOYgkoS0


重い足音を響かせた駆動鎧が次々と外へ繰り出していく。
歓迎の態勢は万全、と言った具合か。

「ご苦労だったな、流石『心理掌握』。アンタが手際良く且つ迅速に働いてくれたおかげで、予想より
 もずっと面白いショーが見れそうだよ」

「まぁーね♪ けどこんな見え透いた罠に、あの第一位さまが本当に乗ってくるのかしらぁ? 仮にも
 この町のトップよぉ? アタマの回転力なら人間離れしてるハズだしぃ、昨日親切に忠告してやった
 ばっかりだしぃ……」

得意げな様子の食蜂に、黒夜は素直な称賛の言葉を送った。
そんな褒め言葉に鼻を高くしつつも、食蜂は至極もっともな意見を軽口で叩く。

「アンタはまだ半信半疑だろうけどな、あの男の“ソイツら”に対する執着心は尋常じゃねぇ。たとえ
 罠だと知ってても、十中八九ここにやって来るさ。絶対にな」

座椅子の隣りにある柱に寄り掛かる食蜂が従えている“マリオネット”を見つめながら囁く黒夜。
その口振りからは妙な自信が溢れていた。

「……だが」

黒夜の意気軒昂な表情が変化する。
大戦を控えているせいなのか、普段よりも少々神経質な面が見られる。

「おそらく、向こうも『勢力』を惜しみなく使ってくるだろう。……そうなると、超能力者を二人も敵
に回す事になるが……」
263 : ◆jPpg5.obl6 [saga]:2011/10/04(火) 20:32:58.47 ID:yDOYgkoS0


「第四位ねぇ……。まぁ、どうって事ぁないでしょ。序列なんて、あくまで『能力値』考慮でついた
 順位だもん。そこに『状況』と『戦術性』は含まれてない。『樹形図の設計者《ツリーダイアグラム》』
 の演算結果も、良く見ると案外欠陥だらけなのよねぇ……。科学の限界って言っちゃえばそれまでだけど」

書庫上のデータはあくまで参考の一部にすぎない。
確かに敵は『学園都市最強の能力者』に違いないが、食蜂は特に脅威を感じていなかった。
結局のところ、彼女にとって優位に立つ基準はそこではないのだ。
事前の情報をどこまで有効活用でき、尚且つ正確に相手の弱点を突けるか。
その点さえ怠慢しなければ、敵が同じ人間である以上いくらでも活路が見出せる。
たとえ、そこに『絶対的な壁』が聳え立っていたとしてもだ。

「“対策”にも抜かりはねえからな。本来の標的はあくまでも第一位だが、この際まとめて椅子から
 叩き落とすのも一興だねぇ。いよいよ現実味を帯びてきたってワケだ……」

「対策って、あの“リサイクル男”のこと? っつか、大丈夫なのアイツ……。確か第四位にこっぴ
 どくやられて、廃人みたいになってんでしょ? あんな人間放棄したヤツなんか、さっさと焼却処分
 にでもしてやれば良かったのに……。その方がまだ慈愛に満ちてるんじゃない?」

「ステージを再提供してやったのは、私の情けみたいなモンさ。それに、“あれ”を乗りこなすには、
 下手な感情が寧ろ邪魔にさえなり得る。精神疾患者には正に“うってつけ”なんだよ」

「へーぇ……。まぁ、第一位以外ならそいつだけで何とかなりそうだしねぇ。ただの無能力者じゃ、
 どう足掻いても標準の駆動鎧一体にさえ劣るだろうし……」

「で、肝心の第一位はもうじき四面楚歌に陥る……か。いいねぇ、完璧じゃないか。ヤツの反応が今
 から楽しみで仕方ねえよ。間近で見たら、腹ぁ抱えて笑っちまうかもなぁ」
264 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/04(火) 20:34:43.63 ID:yDOYgkoS0


子供らしい無邪気なものとは程遠い人相で期待に胸を膨らませる黒夜。
そして重い腰をゆっくりと椅子から離し、身体中の関節をポキポキと鳴らして“改造部位”の点検を
済ませた。

(もし『心理掌握』が不首尾に終わったとしても、“例のデータ”の搾取は完了済みだ。今の私なら
 第一位を確実に仕留められる。ヤツらがどう足掻こうと、勝負の帰趨は決定したも同然よ。クク……)

準備は整っている。あとは、結成当初から立ち上げられていた計画(プラン)を成功に導くのみ。
泣こうが喚こうが、もう後戻りなどできない。

「……さて、んじゃあ私らもボチボチ動くか。あっちがどう出るか、まずはそいつをじっくりと拝見
 したいからね」

「了ぉー解っ♪ 楽しい祭りになるといいわねぇ。こういうイベントって、あまり中心にいた経験が
 ないから、何だかドキドキしちゃう」

「……おい、遊びじゃねえんだからな。一応言っとくが」

「はぁ〜いはいはい、わかってるってばぁ」

ハメを外しすぎないよう、釘を刺しておく。が、彼女に口上での注意を聞かせたところで実際に効果
はあるのだろうか。超能力者はどいつもこいつも非常に我が強いのだ。果たしてどこまで思い通りに
動いてくれるか……。そこの部分が唯一の不安要素だった。


「しっかし……“同じ顔”があんだけ揃ってるのを実際目の当たりにすると……私が言うのも変だが、
 妙にカオスだな……。話に聞くのと目で見るのとでは違う、ってか?」


食蜂の後にゾロゾロと続く『僕(しもべ)』を眺めながら、黒夜は一人呟いた。
265 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/04(火) 20:37:17.18 ID:yDOYgkoS0


―――


麦野沈利、浜面仕上が協力を申し出てくれたのは、結果的に救いだった。
移動手段が楽に入手できる上に、客観的な意見も最適な動き方の参考になる。
何より、暴走気味だった自身のブレーキ役として早速活躍してくれている。

焦りは最悪の事態を引き起こしかねない。頭では理解できていても感情は誤魔化しが利かないのだ。
そんな時に誰かが傍にいてくれるのは、非常に心強かった。

公道を走る車内の後部で、一方通行は昂ぶる想いを落ち着かせながら運転席と助手席に座る二人に
ひっそりと感謝の意を示していた。

「で、アンタの知人をまずは拾えばいいんだったな。どの辺りにいるんだ?」

「このまま第七学区の中央部を抜けろ。『木の葉通り』の路傍に一旦待機させてる。学生服姿だろォ
 から、多分すぐ目に付くハズだ……」

「……何者なんだよ? そいつ」

『怪物』と称されている一方通行が一目置くほどの人物に、浜面は純粋な好奇心を抱く。
麦野も興味があるらしく、さりげなく話題に耳を傾かせていた。


「ちっとばっかし特殊な部類に入っちゃいるが、それ以外はどこにでも転がってそォな“ただの不幸
 な高校生”だ」

266 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/04(火) 20:38:40.92 ID:yDOYgkoS0


「……いまいちピンと来ないわね。無駄に頭数を増やすだけなら、ハッキリ言って不要だと思うわよ?
 ただでさえ浜面っていう“穴”抱えてんだからコッチは」

「ちょ、俺“穴”かよ!? 確かにキミ達と比べたら目が霞んじまうほどチッポケだよ俺は! けど、
 ゴミにはゴミなりの戦法やら足掻き方があるんだぜ!? 麦野も何度か目撃してるだろ!?」

「目撃者としてコメントするけど、今もアンタがこうして生きてるのって、奇跡以外に無いわよね?」

「奇跡だろうが悪運だろうが何だって味方に付けるのが無能力者にとって『生きるための秘訣』なん
 だよ! 確かに俺が今も空気吸えてんのは奇跡だって認めるけど、それも全部引っくるめて『実力』
 って事にしてくれ。でないとお前らみたいなチカラを持たない俺の“生き残った理由”が成立しねぇ」

運転しながら過去を振り返る浜面。
確かに、一般から飛び抜けた能力を何も持たない彼にしてはあまりに壮絶な道程である。
にも関わらず彼がまだ現世に留まり続けていられるのは麦野の考察通り、やはり神の所業なのだろうか?

明確な答えは明かされないまま、刺客の手が背後から忍び寄っていた。
悪辣な気配には人一倍敏感な一方通行が逸早く危険が迫っている現状を感知し、運転席で緊迫感を欠如
させている浜面へ声を掛けた。


「………オイ、無能力者」


不穏な空気を漂わせる一方通行の低音な声に呼ばれた浜面は、一瞬肩を萎縮させてから反応を示した。

「……何だ? 第一位」
267 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/04(火) 20:40:52.97 ID:yDOYgkoS0


「俺が途中下車しても、オマエは構わずに走り続けろ。この方角で『木の葉通り』を走行してりゃあ、
 その内“学生服を着たツンツン頭の黒髪”に出くわす。そいつを拾ったら、先にヤツらのアジトまで
 “なるべく停車せずに真っ直ぐ”向かえ。俺も必ず追いつく……」

「お前……急に何言って…………っ!!?」

後ろをチラ見した浜面も、どうやらやっと気づいたようだ。
麦野は背後に顧慮せずに一方通行へ軽い調子で申告した。

「あんだけ馬鹿デカい『軍用車』を差し向けたからには、相当“具沢山”なんだろうね……。アンタ
 だけじゃ最悪の場合、時間切れも有り得るんじゃない?」

「数が多い分、自滅も誘いやすい。それに挨拶如きでぶつける兵力なンて、精々たかが知れてるって
 モンだろ」

「だとしても、ここで“貴重な時間”を費やすのは得策じゃないでしょお? 温存できるなら、それ
 に越したことはない。……違う?」

「……さっきから何が言いてェ?」

「暴れるつもりなら私も混ぜろ、ってコトよ♪ アンタ一人じゃ五分掛かる作業でも、私が加算され
 れば最低でも倍近くは縮められると思うケドぉ?」

麦野の妖艶な顔がこちらを向いた。
その瞳に隠された『戦闘狂』としての素顔に、一方通行はニヤリと口端を歪ませる。

「なら、最初っからそォ言いやがれ。別にケチるつもりはねェぜ? 俺にとっても悪い話じゃねェし、
 オマエがひと暴れしてェンなら俺がそれを止めてやる義理もねェしな」
268 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/04(火) 20:44:10.73 ID:yDOYgkoS0


「話が早いわね。……うふっ♪」

「俺に付き合ったのも、結局はオマエらの勝手な判断だ。なら、自己責任ぐれェは承知しててもらわ
 なきゃ困る」

「バーカ。“足枷”になるって分かってたんなら、最初から協力なんか申し出るワケねえっつーの」

「それもそォだな……。もっともな言い分だ。無駄口叩いちまったな」

『超能力者』同士の意見が一致した瞬間だった。
二人は一瞬の内にアイコンタクトを取り、揃って悪戯心満載の笑顔を作る。
不穏な空気を感知した浜面の心拍数上昇など知ったことか、とばかりに一方通行が開戦の合図を出す。


「わざわざアッチから出向いてくれたンだ。せめて全力で歓迎してやらなきゃなァ」


「……今更だけど気づいたわ。アンタとは、どうやらかなり気が合うみたいね」


「へっ? あのー、お二方……? 俺達追われてる立場だよね? なのにその高揚感溢れる雰囲気は
 一体何を意味しているのでしょう? 俺頭悪りいからお前らの考えてる事がサッパリなんだけど!?
 いや、何となく想像はつくんだけどできればそれは待って欲しいっていうか早まるなっていうか……」


先が読めてきたのか、肌をサーッと青ざめながら露骨に動揺する浜面。そんな彼の主張など、二人の
耳に届きはしない。
269 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/04(火) 20:45:56.27 ID:yDOYgkoS0


そして直後、浜面の反対も虚しく助手席と後部座席右のドアが同時に開かれた。
減速していない状態のために開けられたドアが風圧で捻られ、ミシミシと軋み音を上げる中―――、


「浜面ぁ!! 私らが追いつくまでに、せめて入り口前の雑魚掃除ぐらいは終わらせとけよ!!」


「……うおおおお!!? やっぱり!? ってか待て、待って、待てってば!! 何も二人して行っ
 ちゃう事なくない!? 俺運転中だし、もし仮に運転してなかったとしてもそんな芸当なんて俺には
 到底できっこねえのを知った上で置き去りかぁオイ!!?」


―――浜面が喋り終わる前に一方通行と麦野は、ほぼ一緒のタイミングで車外へ飛び出した。

一方通行はいつからか能力使用モードに切り替えており、伸縮自在の杖を収納してアスファルト
のすぐ低空を鮮やかに飛翔する。
麦野も紫と青と白の入り混じった発光体を両手から夥しく放射し、並行して生じた衝撃を緻密な
計算の元で上手く活用しながら地に降り立つ。

この事態に一人で滑稽な雄叫びを上げた浜面は、ハンドルを握って生身のまま投下された二人の
超人をチラチラと窺いつつ、この後己が取るべき行動について模索する。

(どうすんだよこれ……!? 俺も停まって加勢しに行った方がいいのか!?)

しかし、一方通行は『止まらずに進め』と言っていた。麦野も便乗するような脅迫を残して飛び
立ってしまった。
270 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/04(火) 20:46:51.45 ID:yDOYgkoS0


(……いや。あの“最悪コンビ”に混ざったんじゃ、却って足引っ張るのがオチだろうな……。
 それだけならまだラッキーだが、最悪“敵もろとも”撃破されても何らおかしくねぇぞ……。
 特に麦野の攻撃被弾確率が圧倒的に高い気がする。……よし、ここは言われた通り“強者”に
 任そう! そうと決まればとっとと離脱だ離脱ッ!! 早く離れねえと『ダイハード』みてえ
 なシーンがすぐ真後ろで再現されちまう!)

ブレーキを踏みかけた足に歯止めを掛け、ドアが開いたままの車は更に加速しだす。

あの二人が塞き止めを買った以上、自分にできるのはとにかく急ぐ事。
まずは上条当麻という男子高校生と合流しなければならない。

それに、懸念もあった。
第二の追手にもし襲撃を受けた場合、戦況は一気に暗転してしまう。
超能力者二人が一緒だった時に感じていた心強さなど、もうとっくに消し飛んでしまっている。

喩えるなら、頑丈で安心だと信じていた鎧があっさり破壊されて丸裸になったようなものだ。


「瞬く間に独走タイム突入かよクッソ……急展開すぎんだろ! あの二人は心配ねえだろうけど……
 俺が知る限りであれ以上悪夢を連想させる組み合わせは存在しねえだろうし………って、良く考え
 なくても一番危ねえのは俺じゃねえのかオイオイオイィィ!? しかも、もしかしなくてもまた俺
 の行動が鍵になるとかって流れかよこの状況はぁあ!?」


アクセル最大限、ハンドルを目一杯切り、急カーブを鮮やかに曲がりつつ思い切り驚嘆する浜面。
既に遥か後方から、凄まじい爆発音が立て続けに耳を貫いている。
とりあえず最優先すべきは、巻き添えによって自身が没さない様、少しでも速く“射程圏外”へと
逃れることだ。冷たい汗の滲んだ手でハンドルを捌きながら、浜面は正面だけを見据えてただひた
すら前進した。
271 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/04(火) 20:51:10.23 ID:yDOYgkoS0



――― 12月17日 AM9:34  
     一方通行勢 『一方通行』・『原子崩し』、新入生軍勢『駆動鎧特攻部隊』、戦闘開始 ―――


272 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/04(火) 20:52:24.50 ID:yDOYgkoS0


―――


第一位と第四位。
『一方通行』と『原子崩し』。
単体でも軍事組織の一つぐらいなら簡単に壊滅できてしまうであろう。そんな化物が公道の中央で肩を並べ、
立ち尽くしている。

二人の正体を知る者なら腰を抜かし、地面を無様に這ってでも逃げ延びようと躍起になるであろう。

そう、二人とも世間一般では『化け物』の地位に属する人間だ。

思わず恐怖に駆られ、先走った攻撃を繰り出してしまう者がいたとしても何ら不思議な現象ではない。

出撃命令の有無さえ頭から除外させた何体かの駆動鎧は、怪物たちが地に降りるのも待たずに先攻を取った。
トラックの後部に取り付けられた長いコンテナから飛び出した特攻隊が、不充分な照準のまま砲撃に移る。
便乗した他の戦闘員も、孵化した幼虫のように続々と湧き、躍り、彼等のターンなど回してなるものか!
とばかりに猛攻撃を浴びせ尽くす。

一瞬、本当にたったの一瞬で平和な街が崩壊の序章を迎えた。

悲鳴を上げ、逃げ惑う一般人。
凄惨の一言に尽きる弾幕の嵐。

付近の住民及び通行人には緊急避難勧告が下されるが、天災同様に突然すぎたため、殆どがパニック状態に
陥っている。
273 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/04(火) 20:53:33.31 ID:yDOYgkoS0


終戦後で平和一色ムードの生活を送っていた住民たちにとっては、“前触れ無しに訪れた突然の悪夢”以外
の何物でもなかっただろう。

しかし、周囲の人間が避難してくれたのは“彼ら”にとっても都合が良かった。

“人”に対して放つにはあまりに過剰な攻撃。
銃口は何度も火を噴き、煙を散らせ、光とけたたましい爆音を轟かせている。
この地獄のような光景が、大凡一分程続いた頃――――。


―――― 付近一帯は、襲撃前の面影すら消えていた。
     空襲でも受けた後のように、抉れ、崩れ、壊れ、焼け焦げた公道跡。

道路沿いの近くにあった建物も襲撃に巻き込まれ、見るも無惨な形状に成り果てていた。
第七学区で起きたこのテロを彷彿とさせる事件は、後に語られることもなく葬り去られていくのだろうか。

これだけの惨状にも拘わらず、“犠牲者がゼロ”という奇跡の事件として――――。

誰の所業によって起きた奇跡かは、敢えて問うまでもない。

現時点でその実状を把握しているのは、粉塵の中心に立つ“二人の怪物”だけなのだから。


「ほォ……」


“怪物”の一人が視界不良の中で口を開く。
274 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/04(火) 20:55:21.73 ID:yDOYgkoS0


「――――『先手必勝』……。まァ、無難な出方だが……所詮、捨て駒じゃそこまでが限度ってかァ?」


「――――埃まみれにしてくれやがってよぉ……大した洗礼じゃないか。その勇気だけは認めてやるよ」


………ッ!?


未だ晴れない土煙の奥から確かに聞こえた声明。
次いで薄っすらと浮かぶ二つの人影。
普通なら肉片すら残らないほど粉々に砕け散っている筈の猛攻。しかし―――――、

「ンじゃ、もォいいか? 余計な時間を費やしてる暇はねェ。……二分で終わらせてやる!」

「甘めぇよ第一位。時間はもっと有効に使わないとね……、一分で片付けるわよ!」

彼らは、学園都市が生み出した『怪物』そのものである。
僅かな可能性を信じて身を震わせていたのは、実は攻撃している側だったのだ。
そして結果は案の定、『無駄』。

あとは精神を薬物投与により増強させ、一切の『恐怖概念』を取り除かせた上での――――、


『――――――!!!!!』


文字通りの、“特攻手段”しか道は残されていない。

そう、所詮捨て石には捨て石なりの末路しか用意されていないのだ。

『挨拶の代用』という、残酷な役目しか――――。
275 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/04(火) 20:56:15.28 ID:yDOYgkoS0


「――――ゴミ掃除だ。覚悟はイイな? クソ野郎共」


「――――んじゃあ、まずは派手な挨拶のお礼から始めてやろうか」


生きる核爆弾に等しい二人が始動する。

全身を発光させ、魅惑と殺戮を混濁させたような形相の『原子崩し』こと麦野沈利。

狂気を目に光らせたシタリ顔で、毅然と立ちはだかる『一方通行』。

この者たちが先に動けば、何の抵抗すら敵わないままに蹂躙されるだけの運命。
これは、この場に留まる全ての雑兵が満場一致で出した結論だった。
背に腹は代えられない。
たとえこの後の一方的な展開が予測できたとしても、“逃亡”など許されない。

ならばせめて、身体の中で暴れてどうしようもない“恐怖”という感情をいっそのこと消して
しまおう。

これも、駆動鎧部隊全員がほぼ一丸となって行き着いた決断だった。

『向精神剤』。いや、“効き目が異常なまでに高い興奮剤”と敬称すべきか。

目は充血し、飢えた獣の如く怪物に挑む彼らにとって、もはや相手の強度やレベルなどは頭の
中から消し飛んでいた。
276 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/04(火) 20:57:35.76 ID:yDOYgkoS0


『―――― 殺られる前に殺る。殺らなければ殺られるだけだ ――――』


頭にエンドレスでリピートされる文章は、たったこれだけ。
至極単純明快で、思考能力の欠如した雑兵達にも呑み込める“魔法”の言葉。言わば御呪い。

再び実行に移された駆動鎧部隊による無慈悲の一斉攻撃。
だが、それでも桁違いの強さを誇る一方通行及び麦野の顔色を変えるまでには到らない。

第七学区のとある区画で発生したこの大規模な抗争。
だが、これでもまだ事変の起こる前兆程度に過ぎなかった。

277 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/04(火) 21:00:15.13 ID:yDOYgkoS0
ここまでです
最後に次回投下予定の一部を抜粋して締めさせて頂きます
278 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/04(火) 21:04:43.90 ID:yDOYgkoS0


黒子「たとえ暗部同士の抗争だとしても、限度というものがありますの! 速攻で制圧に取り組むべき
    ですわ!」


固法「私たちだけで勝手に決断できないの! ……子供みたいに喚かないで」


初春「……白井さん、ちょっとおかしいですよ……」


―――――――


一方通行「主犯が“ある程度の権力”を握ってるって考えるのが妥当だろォが。おそらく『新入生』を
      裏から動かしている人間が、上層部を通して圧力を掛けてンのかもしれねェ……」

麦野「『新入生』に……? でもそれって変じゃない? そんな強力なバックアップが付いてんなら、
    今の今までアンタや私らを泳がせておいた事に何の意味があるってのよ?」
279 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/04(火) 21:06:19.85 ID:yDOYgkoS0
今回は以上で失礼致します
いつも見てくださってる方も、最近見て追いついた方も、ありがとうございます

では
280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/04(火) 21:17:07.52 ID:VhlMXTqSO
きたああああ!!!

待ってました乙!
281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/10/04(火) 23:11:23.00 ID:1djp55mAO
乙!
やっぱり新入生のクオリティ高いなぁ
特に食蜂がいいキャラしてる
282 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/05(水) 00:49:43.30 ID:ArKCIkhI0

ワーストを学校に編入させたのは上条さんを動かすための伏線だったのか・・・
今頃気づいた
283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/05(水) 01:47:39.04 ID:seDHvLoSO
おつー
番外さんが上条高に入ったのってただの尺稼ぎか蛇足だとばっかり思ってたんだが……ちゃんとした意味があったんだな
284 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/10/05(水) 23:12:29.01 ID:kI4RyJlZ0
/: : : : : /: : : : : : :./: : /: : : /:;イ: : : : : : : : : : : :.!
  |: : : : :/: : : : : : :./: /: : :_:彡 '"/: :/: : : : : : :.|: : : !
  |: : : : :| : : : : : :/,斗-‐ "\  /: :.! : : : : : : :|: : : |
  |: : l: : |: : : : : : /,,ィ==ミ、  \ i!:/:|: |: : |: :.| : |: : : !
  |: : |i! :| : : : /:/.{ ハ;;;ヒ. ヾヽ  `|:|: |!: !: :.!: :i: :/ : : i
  |: /.|!: | : : : :/ \;ソ 〃   |'|:.|.{: i :.i: :.!:/: : :j
  |/: :|!: |: :/:./             |:| ヽ乂: :.!': : : :/     
 ,从/:i| :|: |:/           ,ィ;r‐ォ .〉:|: :|: : : /
ヽ .// |:/|: !:!          ,イツ,/ィ:乂从: :./
::::.}  |' .|:.|:!            〉 ` /: : : : :/:./
:::::|  / .|;|:| ヽ  r "~>     ∧: : : ://::/
:::::|   /ハi:::::|ヽ、__  _  イ: : : :/,/ "  超>>1乙です
:::::|ヽ  -‐/::::::|  ヽ  |: /: : /: :./
::l::|ミ、__ ,ノ:::::::/ |  ! |/: : /"´
::l::ト  -‐!:::::/ /,  | | レ'
::l::|   i!:::/ 〃   |        r.、     /)
::l::|   /:://-   |         | .|     //./)
::l:i  /::::|!     ノ|         / '、,,_/.///
::li /:::::i |― ‐ ' ~ イ      /   !  `'_ィ'____
:::レ'::::::::::! ゝ―‐ ~  |      |    ハ.   ,.―― '゛
r‐'::::::::::i!  |     |     人  /  { _`ニニニァ
:/::::::::::/   |     |    /   、     /
::::::::/     |     |.  /    /  ̄
:::::/     |     |/    /
285 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/06(木) 00:18:39.55 ID:qGSZpGYT0
レベル5二人と一緒だから心強かった浜面ワロタwwww

ジンベエとクロコダイルが一緒で強気だった頃のバギー船長ですねわかります
286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/08(土) 01:08:26.48 ID:3hx4e8XG0
番外だけじゃなく打ち止めまで・・・
木原アジトの再現どころじゃなくなるぞ
287 : ◆jPpg5.obl6 :2011/10/09(日) 18:33:39.78 ID:srCGggoo0
いつもありがとうございます
続き投下に参りました

※今回は最後に全く関係ないオマケが入ります
 ええ、たまに別物が書きたくなうという“例のアレ”です
288 : ◆jPpg5.obl6 [saga]:2011/10/09(日) 18:34:41.39 ID:srCGggoo0


―――


第七学区近辺に点在する『風紀委員』の各支部では今朝、同区内で突如発生した駆動鎧の
集団によるテロ騒動の件で緊急招集が下されていた。

とは言え、風紀委員も学生の身分である
この召集中に置ける際、本来受けるべく授業自体は統括理事会の計らいで一切免除となる。
つまりは忌引き扱いと似たようなものだ。
もっとも、過去にこういった前例がない。それこそ街そのものを脅かすような天災が起き
たのだとすれば、また話は変わってくるが……。

理事会の真為など知る由もなく、召集された風紀委員たちは授業中の急な呼び出しに付け
加え、各支部での待機命令を課せられて不満げな様子だ。

老獪な上層部の意図的な算段だとは夢にも思わず―――。


「―――ふざけないでくださいな!!」


第百七十七支部で伝令書をくしゃくしゃにしながら憤慨しているのは白井黒子。
激しい怒りを全面に表しながら、黒子はモニター画面に向かって啖呵を切った。

「何が“待機”ですの!? 上層部の考えてる事が、もはや理解できません!! 事件は
 現在進行形で発生してますのよ!? すぐにでも総動員で出動し、鎮圧に努めるべきでは
 ないのですか!?!?」

正当な主張が同僚たちの耳を劈く。
289 : ◆jPpg5.obl6 [saga]:2011/10/09(日) 18:35:42.39 ID:srCGggoo0


この支部の仕切り任を承っているムサシノ牛乳好きの女子高生、固法美偉は神経を逆撫で
しない程度の語気で定型文句を口にする。

「白井さん。気持ちは分かるわ……。けど、仕方が無いのよ。『上』が決めた規則外では
 風紀委員の活動が認められないの、貴女だって知ってるでしょ?」

「こんな事態に何を悠長な……! 衛星中継が見えませんの!? 正に今、助けを求めて
 いる何の罪も無い住民たちを見放す気ですの!? なのに……救助活動の許可も下りない
 とは一体どういうことですか!?」

「貴女だけじゃないのよ! 風紀委員全員、気持ちは貴女と一緒……」

「たとえ暗部同士の抗争だとしても、限度というものがありますの! 速攻で制圧に取り
 組むべきですわ!」

「私たちだけで勝手に決断できないの! ……子供みたいに喚かないで」

「……ッ! 初春!」

「はっ、はい!?」

先輩にここまで噛み付く友人の姿を初めて見たせいか、呆気にとられている初春に意見を
仰いだ。

「わたくし、何か間違った事を仰いまして?」

「……白井さん、ちょっとおかしいですよ……」
290 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/09(日) 18:36:37.89 ID:srCGggoo0


「なん……ですと……?」

予想外の返答に耳を疑った。

「いつもはこういう時ほど冷静なはずの白井さんらしくないと思います。……何か、理由
 があるんじゃないですか?」

「!?」

友人の考察は的確だった。
もっとも、改めて自覚できたのは今の言葉を聞いた瞬間なのだが……。
そう。昨日の一件からずっと、黒子は不吉な予兆を感じていた。遂にそれが形となって街
を混乱に陥れている今、常日頃から持ち得ている一般良識や自制心はどこかへ吹き飛んで
しまっていた。

昨日の一件と今も終息しない謎の抗争が無関係だとは、到底考えられなかった。
そして、中心人物として“あの男”が絡んでいるのだとしたら、見逃した自分にも責任が
ある。そう思い込む内に、居ても立ってもいられなくなったのだ。

他の者が大人しく指令通りに従うのは自由だが、彼女はすぐにでも現場へ急行するつもり
だった。
しかし、それを固法や初春が賛同する筈もない。寧ろ逆に、暴走寸前の黒子を止めようと
する側に立つだろう。


(そうですわ……。確かに今のわたくしは私情に駆られてますの。でなければ、ここまで
 取り乱す必要もない……。では、わたくしは結局どうしたいんですの? 風紀委員を仮に
 現地へ赴かせたところで、できる事と言えば避難民の安全確保及び救助。駆動鎧が中心と
 なっている集団の鎮圧は、警備員の管轄……。こんなこと、考えなくても『知識』として
 頭に入っているはず………。では、何故わたくしはこんなにも必死に食い下がっているん
 でしょう……。一体、“何のため”に……)
291 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/09(日) 18:37:37.78 ID:srCGggoo0




――― 首を突っ込みたいンなら、今の自分を全部捨てる覚悟を決めろ ―――




292 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/09(日) 18:38:58.51 ID:srCGggoo0


(……わたくしには、その“覚悟”が果たして本当にあるんですの……?)


思考を巡らせる中、答えを導いてくれるかのような『最強』の言葉がリプレイされる。


――― オマエが思ってる以上にこの街は今、杜撰で腐りきってる…… ―――


(ええ、全くその通りですの……。ですが、今のわたくしに何ができますの? 何の権力
 も無い、ただの学生でしかないわたくしに、何が………)


――― 一度深みまで踏み込ンじまったら、もォ元には戻れねェ…… ―――


(日常を失ってまで拘るか……大人しく見て見ぬ振りをし、『上』の言うがままに流され
 るか………) 


――― 救いよォのねェ馬鹿か? オマエは ―――


「ふふっ。……えぇ、確かにそうかもしれませんわね……」

「……?」

「白井さん……?」
293 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/09(日) 18:48:01.23 ID:srCGggoo0


深刻な面持ちで考え耽っていたかと思えば急に嘆息し、自らを嘲るように呟く黒子。
初春と固法はそんな彼女を奇怪な目で見つめている。

(どこかの誰かさんに、すっかり影響されてしまいましたか……。ふふ、開き直ってみれば
 案外単純な話でしたわね。『自己を削ってでも譲りたくない信念』……。本当、馬鹿げた空論
 ですの。……けれど、自覚してしまえばどうって事はない。寧ろ、それこそが人間の本来在る
 べき衝動……なのかもしれませんわ)

思い悩む事さえ、馬鹿馬鹿しく感じられる。
打算も見返りもない、ただ直感に従うがままに行動する。
そんな“彼”の姿に知らず知らずの内に惹かれ、いつしか自分もそう在りたいという願望を
抱いていたのだ。

もし、“彼”が今の自分と同じ立場だったとしたら――――どうする?


(そんなの、決まってる……。あの方なら、きっと――――)


答えは簡単に導き出せた。
己の願望を実行に移すのに、他人からの諮詢など不要である。

「固法先輩……」

低く、はっきりした声で新人時代から世話になりっぱなしの先輩を呼ぶ。
失敗の尻拭いを何度させられたか数え切れず、恩義が尽きない。
今から自分の取る行為は、それら全てを裏切ってしまう事になるだろう。

「申し訳……ありませんの」
294 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/09(日) 18:49:55.83 ID:srCGggoo0


しかし、たとえそうなっても一度固定した決意は揺らがない。
後のことは後で考える。そう決めた黒子は今、自分のしたい通りに突っ走る覚悟で謝罪した。

「白井さん……貴女、まさかっ!?」

黒子の心境を読み取った固法が血相を変える。
……が、一歩遅かった。

「わたくしの処分についてですが……本部には、こう言っておいてくださいまし――――」


「――――“好きにしやがれ”と……」


この言葉だけを残し、黒子は空間移動で自らを転移させた。
固法が止めに入る隙すらも与えないまま……。


「……馬鹿……ッ! 今度こそ、本当に私なんかじゃ庇いきれなくなるじゃないの………。
 白井さんの……馬鹿っ……」


やりきれない気持ちを抑えようともせず、全身をわなわなと震わせる固法。

「白井さん……」

初春もまさか本当に命令を無視して行ってしまうとは思っていなかったが、正直言ってあまり
意外な気はしなかった。

(何だか、最近で一番白井さんらしい瞬間を垣間見た感じです……)

それどころか、妙に心がすっきりと晴れるような感覚を受けた。
295 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/09(日) 18:55:08.85 ID:srCGggoo0


初春の知っている『白井黒子』は、義務や形式よりも先に正義感の方が優先される。
彼女のそういう部分には尊敬していたし、昔から憧れていた。自分には無い、自分では実行
できない強さをそこに感じていたから。

消える直前の黒子は、まさにそんな“眼”をしていた。
何となく昔に戻ったような錯覚を感じ、初春は未だ止められなかった自分を責め続けている
固法の横で、好きな音楽でも聴いている最中のように頬を緩ませていた。

とは言え、このまま放っておくわけにはいかないのも事実。

「早く何とかしないと……このままじゃ白井さんが危険すぎるわ! と、とりあえず警備員
 に連絡……!」

固法の懸念は決して間違っていない。中継で見た限りでしか分からないが、あんな激戦区へ
飛び込むのはどう考えても自殺行為でしかないからだ。
初春は慌てふためいて手際の悪い固法に強めの口調で言った。

「……っ! 私が連絡します!」

「……お願いするわ。初春さん……。もう、一体どうしたら……」

すぐにでも黒子を追いたい心境が、熱烈に浮き出ている。しかし、固法美偉は大人の女性に
近い理性を兼ね揃えていた。衝動のままに突き進むようなタイプではないのである。まるで
壁に直面したキャリアウーマンのように頭を抱えるしかなかった。
かく言う初春もそれに近いが、彼女にはアテがあった。
警備員よりも頼りにできる人物を、初春は知っている。
もし黒子を安心して任せるのなら、ここはやはり“彼女”以外に思い浮かばない。

携帯電話を耳に当て、通信が繋がったと同時に初春は叫んだ。


「―――――もしもし! 御坂さんですか!? 大変です! 白井さんが……!」
296 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/09(日) 18:56:14.79 ID:srCGggoo0


初春の知っている『白井黒子』は、義務や形式よりも先に正義感の方が優先される。
彼女のそういう部分には尊敬していたし、昔から憧れていた。自分には無い、自分では実行
できない強さをそこに感じていたから。

消える直前の黒子は、まさにそんな“眼”をしていた。
何となく昔に戻ったような錯覚を感じ、初春は未だ止められなかった自分を責め続けている
固法の横で、好きな音楽でも聴いている最中のように頬を緩ませていた。

とは言え、このまま放っておくわけにはいかないのも事実。

「早く何とかしないと……このままじゃ白井さんが危険すぎるわ! と、とりあえず警備員
 に連絡……!」

固法の懸念は決して間違っていない。中継で見た限りでしか分からないが、あんな激戦区へ
飛び込むのはどう考えても自殺行為でしかないからだ。
初春は慌てふためいて手際の悪い固法に強めの口調で言った。

「……っ! 私が連絡します!」

「……お願いするわ。初春さん……。もう、一体どうしたら……」

すぐにでも黒子を追いたい心境が、熱烈に浮き出ている。しかし、固法美偉は大人の女性に
近い理性を兼ね揃えていた。衝動のままに突き進むようなタイプではないのである。まるで
壁に直面したキャリアウーマンのように頭を抱えるしかなかった。
かく言う初春もそれに近いが、彼女にはアテがあった。
警備員よりも頼りにできる人物を、初春は知っている。
もし黒子を安心して任せるのなら、ここはやはり“彼女”以外に思い浮かばない。

携帯電話を耳に当て、通信が繋がったと同時に初春は叫んだ。


「―――――もしもし! 御坂さんですか!? 大変です! 白井さんが……!」
297 :二重投降サーセン ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/09(日) 18:58:47.05 ID:srCGggoo0


―――


戦前の面影が綺麗さっぱり無くなり、廃墟と化した第七学区のとある一角。
電子機器はバチバチと音を鳴らして漏電し、所々陥没したアスファルトからは地下水が湧き水
のように噴出していた。

周りにはただの鉄の塊同然に転がっている駆動鎧部隊の無惨な姿だけで、付近を通行していた
無関係な人々はとうに避難済みである。
そんな静けさに包まれたこの地に立っているのは、一人の華奢な少年と一人の魅惑が漂う少女
のみだった。
景色の一部に変わってしまった駆動鎧の残骸などには目もくれない。


「………うーん、『二分半』か。思ったより時間喰ったわねぇー……。けどま、撃墜数はほぼ
 同等だっただけ良しとしましょうか」


その口振りからは、まるでゲームでもクリアした後のように諧謔な心中が浮き出ていた。
乱れた髪を手櫛で整えながら嘆息する『原子崩し』、麦野沈利。
発光したままの粒子を分解し、元の空気中へ散らせるだけで彼女を覆っていた禍々しい殺気は
失せる。
通常の女性に戻った麦野だが、まだまだ物足りなさそうに付近を眺めつつも隣りの少年、一方
通行に首を向けて話を振った。

「そう言や、アンタの本格的な戦闘って初めて拝見したんだけどさ……何よ、アレ。アクロバ
 ットな回転蹴りからカマイタチみたいな真空波まで披露してたわよね? アンタ、どんだけ技
 のレパートリー豊富なんだよ? もはや固定された能力の限度も超越して何でも有りってヤツ?」
298 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/09(日) 19:00:16.40 ID:srCGggoo0


「俺の“能力”が何なのかは知ってンだろ? ……白々しい感想をぶつけて来ンじゃねェよ」

麦野が全身の至る箇所から『原子崩し《メルトダウナー》』を放出し、駆動鎧を容易く打ち抜
いて無力化させている最中、一方通行は麦野の供述通りに幅広い攻撃法を用いて駆動鎧を撃破
していった。が、この過程に麦野は少々不満らしい。
本心を推察すると、『自分と同等以上の強者と肩を並べての戦闘』は初体験だったのが関係し
てそうだが、真相は麦野本人にしか分からない。

少なくとも、一方通行が麦野の気持ちを汲み取る確率は極端に少ないだろう。そういう事象に
疎い彼なら、納得せざるを得ないのが悔しいところだが……。

だが次に麦野が口を開いた時には、もう不満そうな態度は欠片も表れていなかった。
こういった切り替えの速さは称賛に値する。

「しっかし酷い有り様ねぇ。ま、超能力者が二人揃って思い切り暴れてやったんだから無理も
 ないわ。どうせ五日ほどで復旧するだろうし……」

「……おい、オマエは妙だと思わねェのか?」

圧倒的な戦力を見せつけて敵部隊を殲滅したのに拘わらず、一方通行の顔には何故だか疑惑の
念が浮き出ている。

「……っ! そう言えば、こんだけ派手にカマした割には随分静かね……。警備員の影も形も
 見えないってのは、どういうワケかしらーん?」

「俺も気にはなっていたが……もし理由があるとしたら、一個だけ見当が付く」

「……職務怠惰?」

「イヤ、気分で見逃していいレベルを軽く超えてンだろ。どォ見ても……」
299 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/09(日) 19:01:11.65 ID:srCGggoo0


「冗談通じない野郎ね。そんなんじゃ純潔を捧げる日は一体いつになることやら」

くだらない雑談に興じるつもりはない一方通行が、無視して結論を述べる。

「主犯が“ある程度の権力”を握ってるって考えるのが妥当だろォが。おそらく『新入生』を
 裏から動かしている人間が、上層部を通して圧力を掛けてンのかもしれねェ……」

「『新入生』に……? でも変じゃない? そんな強力なバックアップが付いてんなら、今の
 今までアンタや私らを泳がせておいた事に何の意味があるってのよ?」

「……俺の推測でしかねェが、ヤツらがそいつらからの支援を受けれるよォになったのはつい
 最近なンじゃねェかと思う。でなけりゃオマエの疑問通り、色々と辻褄も合わなくなってくる
 からな」

「……どういう事よ?」

「学園都市の統括理事会が、何を方針としてるか……考えてみりゃ分かンだろ? 俺やオマエ
 は、あいつらにとっての何だ?」

「………有能な駒、もしくは実験動物?」

「そォだ。言わば『模範生』ってトコだろォが、ンじゃあ『新入生』を仕向けた『反政派閥』の
 目的は何だったか、覚えてるか?」

「―――!! あー……なるほどね、そういう按配か……」

疑問点が解消され、眉を顰めて薄ら笑う麦野。
一方通行より劣るとは言え、彼女もまた自他共に認める優秀な脳を保持しているのだ。
十まで説明する手間など不必要であった。
300 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/09(日) 19:02:40.74 ID:srCGggoo0


「……ん? ちょっと待って、それじゃつまり………統括理事会そのものが『反政派閥』に吸収
 されたって事?」

「そこまでは分からねェ……分からねェが、理事会が俺への抹殺行為を容認したのだけは確かだ」

「なんでよ……。仮にもこの街で一番の研究成果だろアンタは!? 上層部のクソ野郎共、一体
 どういうつもりで……」

「計画(プラン)通りに従わねェ俺を、これ以上看過できねェと踏ンだンだろォよ……多分な」

忌々しそうに話す一方通行だが、少し捏造が含まれている。
危険因子として認定されている一方通行だが、もう一人の功績者である浜面仕上までもがその枠
に収められている事実を未だ知らずにいたのだ。
そして一方通行と違い、ただの落ちこぼれ枠に留まっている浜面が今日まで無事に過ごせている
理由は、ロシアで入手して以来ずっと所持し続けている『素養格付(パラメータリスト)』の存在
が大きく関わっていた。

最悪の場合、それを交渉材料として利用するという手が残されていたのだが、『新入生』を援護
する側に上層部が絡んでいるのだとしたら――――既に交渉の材料して使用できなくなっている
可能性が高い。

(まァ、どっちにしろ俺のやる事に変更はねェ………。たとえ統括理事会を丸々敵に回そォが、
 あのガキと番外個体は必ず救い出す。そして、今度という今度は草の根一本たりとも残さねェ
 様、確実に危険要因を削除してやる……!)

決意を改めて顔を上げた一方通行。その紅い瞳には、どういう訳か哀愁にも似たような覚悟が
宿っていた。まるで、自らの死を予期し、受け入れて、それでも後ろを振り向かずに戦火へと
赴く兵士のような……。



(……それで、あいつらの生活が二度と脅かされなくなるのなら………俺は―――――)


301 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/09(日) 19:03:52.89 ID:srCGggoo0


――――と、その時、突然横から麦野が現実的な指摘を入れてきた。

「ねぇ、とりあえず浜面に追いつかない事には始まんなくない?」

「ン……? あァ、そォだな。暢気に駄弁ってる場合じゃねェ……。行くぞ、『原子崩し』」

「だからさぁ……“どうやって”行くつもりなワケ? “アシ”がねえんじゃ追いかけようが
 ないでしょーが」

「…………」

タクシーでも拾って行く予定だった一方通行はそこでようやく周囲の惨状を見渡した。
道路だった場所は、道路としての役割を失っている。タクシーどころか人影の一つも確認でき
ない。近くの至る所で小規模な火災も発生しており、正に“戦争跡地”だった。

「……何、気の抜けたツラぁぶら下げてんだよ? 大丈夫か、アンタ……。とにかく、歩いた
 ままじゃ到着する前に日が暮れちまうし、適当な“アシ”が確保できるトコまでアンタの能力
 で移動するっきゃないわね……。それ以外に良い方法でもあるんなら、一応聞いておくけど?」

麦野がじーっとこちらを猜疑の目で見つめてくる。
良い方法も何も、麦野の提案以外にあるとしたら一方通行の方が知りたいぐらいだ。
その線で行動に移る他に選択肢はなかった。

「…………チッ」

どうやら、もう数分ばかり貴重な時間を費やさなければならないらしい。
OFFにした電極のスイッチを再びONにしつつ、一方通行は小さく舌打ちした。

302 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/09(日) 19:05:12.63 ID:srCGggoo0


―――


電気を纏った少女が猛スピードで駆け抜けていく姿は、通りすがる人々の注目を集めた。

耳に付けたイヤホンから流れてくる“友人”のナビゲートに従い、電撃少女こと御坂美琴は
爆走を続けながら大切な後輩の身を案じて唇を噛んだ。

授業開始前に鳴り出した携帯電話。幸いにも担当の教師がまだ教室に来ていなかったため、
美琴は平然と表示を確認する。着信者の名前は『初春飾利』。

第七学区近辺の風紀委員は緊急招集に呼ばれ、その際の授業時間は免除となっている。
何でも“テロ”が発生したとかクラスの女子が話していたのを思い出す美琴。

そんな最中に自分へ電話? 当然、美琴は不思議に思った。
同時に悪い予感が胸中を渦巻き始める。

このまま無視するわけにもいかないので、通話ボタンを押して耳に近づける。
だが、美琴が声を発するより先に初春が焦眉の様子で救いを求めてきた。


『暴走した白井黒子が通達を無視して事件現場へ急行してしまった。風紀委員は待機命令が
 解除されないために動きが取れない上に、警備員に報告した処で間に合わない可能性が高い。
 自分達の代わりに彼女を迎えに行って欲しい』


初春の要求を簡単に纏めるとこうだ。
美琴の頭に『拒否』の文字は無かった。
流石にこっそりと学校を抜け出す訳にもいかず、担当の教諭に体調不良を訴えて早退の許可
をもらった。
勝手に学校を抜けられなかったのは、以前木原数多に拉致・監禁された時みたいにまた心配
を掛けてしまうのを避けたかったからだ。
早退届けなどを書いて提出したりと少々のタイムロスは否めないが、学校側が大騒ぎになる
事態を防げるのならまだ安いものである。
303 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/09(日) 19:06:25.53 ID:srCGggoo0


しかし、時間に余裕がなくなったのもまた事実。全力疾走を維持し続けているのはそういう
わけだ。
女子中学生の平均を大きく上回る速度で黒子の足跡を追いながら、美琴は歯痒い思いを表情
に浮かべる。

何故、昨日の時点で気づいてやれなかった?
帰宅した時の様子からして、何かが起きていたのは明白だった。にも拘わらず何も聞き出せ
なかった。

自らを叱咤。そして悔やみきれない胸中が周囲の空気中に電流となって、留まる事なく放逐
される。
もし話が聞けていたら、黒子が暴走する事もなかったのか。と、問われたところで正解は闇
の中だ。
黒子が昨日、どんな体験をしたのかは今も不明のままである。
だが、何らかの関係があるのは直感ですぐに判った。

詳細は掴めていないが、彼女が現在危険に曝されている。
動く理由はこれだけで充分だった。

『大通りに出たら、そこを右に曲がってください! そうしたら二つ目の信号を左に―――』

カエルのストラップ付き携帯電話に繋がれたイヤホンのスピーカーから初春の指示が飛ぶ。
案内に二つ返事で従いつつ、美琴は黒子との距離を確実に縮めていた。
空間移動の連続使用で現場へ向かっている黒子に追いつくには、普通に走っていても無駄だ。

黒子の座標地を電気信号でキャッチするまで、初春の口頭による道標だけが頼りである。
そして、更に追跡を継続させること、二分――――。
304 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/09(日) 19:08:25.73 ID:srCGggoo0


「……捉えた……!!」


神経を集中させながら探索した甲斐あり。遂にレーダーが黒子と思しき波長をキャッチした。
あとはこの電気信号を見失わない様に追跡するのみ。
美琴はここまで誘導してくれた初春に心から礼を言い、通信を切って黒子がいる方角を鋭く
見張る。
距離は、凡そ八百メートル。
一秒に約八十メートルの感覚で転移している後輩の後姿を視中に収めるのに、大した時間は
要さなかった。


「――――黒子ォォおおおおおおおおおおおっっっ!!!」


腹の底から喉を伝う渾身の叫び。
その声が耳に届いたのか、黒子は立て続けに繰り返していた転移を突如中断させ、ゆっくり
と振り返った。
瞬間、黒子の顔は驚きの一点に染まる。


「………お……お姉……様……???」


何故ここにいる? 目がそう尋ねているように見えた。
まるで幻でも見ているかのような呆けた黒子の傍まで、美琴は一気に肉薄する。
やがて、やっとお互いの表情が鮮明に窺える地点まで到達した。

「…………」

「黒子……アンタ……ッ!!」
305 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/09(日) 19:09:21.63 ID:srCGggoo0


気まずい雰囲気を醸して俯く黒子。まるで悪戯がバレた子供のような仕草にホッとしたのも
束の間、悶々とした気持ちが美琴の胸を浸していく。程なくしてその感情は“怒り”へと形
を変えた。
まず、美琴は一人暴走した黒子に譴責の言葉をぶつける。

「アンタ……何やってんのよッ!! 皆がどれだけアンタを心配したのか、分かってんの!?
 どうしてこんな………私に何も言わないで、一体どういうつもりなのよ!! 黒子ッ!!」

「……ッ!」

激しい怒りのこもった叱責に黒子はビクリと身体を怯ませ、次いで悲しそうな顔で美琴を見る。
だが、美琴の表情はその何倍も悲痛に歪んでいた。一番彼女のことを心配していたのは、他の
誰でもない美琴自身なのだから。

「お姉様………」

美琴の気持ちが理解できない黒子ではなかった。
二ヶ月前の忌わしい事件が、脳内でフラッシュバックする。
あの時、美琴も今の自分と同じ心境だったのだろうか。こんな風に周囲の人間を不安に陥らせ、
悲しい想いを抱えていたのだろうか……。

そう考えると、美琴の悲痛な叫びに自分は何て言葉を返せば良いのか……。ただ、申し訳なさ
そうに目を伏せることしかできなかった。

気まずい沈黙が場を支配する中、美琴が追及を続ける。

「緊急招集なんて今までで初めてじゃない……。だから、私も『黒子は大丈夫かな……』って
 もう気が気じゃなかった……。偶然会った湾内さんたちも、アンタのこと気にかけてたのよ?
 『第七学区でテロ事件が発生した』って聞いただけで、はっきりした詳細も不明なままだし……、
 アンタは呼び出し受けて行っちゃうし……こんなバタバタした状態で授業なんて頭に入るのかな
 って考えてた時、初春さんから電話が来たわ」
306 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/09(日) 19:11:26.17 ID:srCGggoo0


「初春が……。お姉様、それで学校を抜け出して来たんですの?」

「流石にそんなことできないわよ……。私が勝手にいなくなったりしたらどうなるのかは、嫌
 ってほど思い知ったからね。『体調不良』ってコトで早退してきた」

「よく許可が下りましたわね……。都内部の組織間で起こった抗争か、外部関連のテロリスト
 集団による暴動かも判明していませんのに……」

「そこは私の演技が光ったのよ。……まぁ、おかげでだいぶ時間とらされたけどね」

「わたくしを……連れ戻しに来たんですの?」

黒子が伏せていた顔を上げ、美琴と向き合った。
その瞳からは依然として強固な意志が秘められている。この時の黒子は自分の信念に基づいた
上で行動を起こし、あらゆる危険をも厭わないことは美琴も良く知っている。

「そうだって言ったら……?」

「……申し訳ありませんが、今回ばかりはお姉様の御言葉でも従えませんわ。既に風紀委員と
 しての規約に違背した身……。組織の一員として、わたくしは犯してはならない過ちを犯して
 しまいましたの。もう今更、後には退けません」

「………っ」

案の定だ。
予想通りの回答に、美琴の目が遠くを見る時のように細められる。
何故、彼女がここまでの覚悟を背負う羽目になったのか。考えたところで解るわけもないが、
一度こうなった後輩はいくら言い聞かせても無駄だということは承知していた。
307 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/09(日) 19:13:12.26 ID:srCGggoo0


“力ずく”……。そんな言葉が頭を過ぎった。そんな選択を取ったとしたら、目の前の少女は
どう対応してくるだろう?

答えなど聞かなくても明らかだ。
きっと、黒子は相手が自分であろうと全力で抗戦してくる。確信をもって断言できる。
たとえ『親愛なるお姉様』を敵に回そうとも、彼女の信念は揺らがないだろう。

「…………」

だから、美琴は“安心”した。
それでこそ、自分が大好きな『白井黒子』という一つの生命体。
小さく頼りない外面からは想像もつかないような強い“芯”を持ち、他人に左右される事なく
生きる少女。自分にとってかけがえのない『最高のパートナー』。


「そっか……。わかったわ」


「……?」


剣呑な雰囲気を消した美琴を訝しげに見つめる黒子。
やがて美琴は表情を一転、明るくさせてからこう告げた。

「初春さんには『引き摺ってでも連れ戻せ』って言われてたんだけどねぇ……しょーがない!
 アンタの決意がそこまで固いなら、もう引き止めはしないわよ」

「お、お姉様……!」


「その代わり―――――私もアンタに付き合わさせてもらうから!」
308 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/09(日) 19:14:38.34 ID:srCGggoo0


「!?」


意外、というほどでもない展開に黒子の視界が白く染まった。
てっきり愛想を尽かされた、もしくは見放されたとばかり思っていた少女の顔が、ほんの僅か
だが希望に華やぐ。

けれども……。

「いえ……しかし、これはわたくしが独断で決意した上での行動ですの。お姉様を巻き込んで
 しまうわけには……」

曇らせた顔で遠慮気味に話す黒子。美琴はこの当たり前の意見を一蹴する。

「今更水臭いセリフ吐いてんじゃないわよ。私がこのままアンタ一人を危険地帯に行かせると
 思う?」

「お姉様……でも……」

「アンタ、“自分の意思で動いてる”って言ったわよね? ……なら、私だって同じ。先の事
 は自分で決めさせてもらうわ。“私はアンタを引き止めない”けど、最後までアンタの面倒を
 見る……。止めたって無駄よ? もう決めたんだから」

「…………」

「いつも私に『一般人の私が事件に飛び込むな』って諫言してるけど、今のアンタじゃ説得力
 無いわ。残念ながら、ね……」

美琴らしい選択に、言葉が出てこなかった。
黒子と美琴が互いに認識し合っている最大の共通点は、『一度こうと決めたら絶対に曲げない』
という固き思想。
309 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/09(日) 19:16:39.39 ID:srCGggoo0


こうなると、黒子がいくら食い下がろうと拮抗した状態が永続するだけで進展は望めなくなる。
美琴の眼は、『何を言っても無駄』と語っていた。

「…………」

「アンタがどんな事情を抱えているのか、今は追究しない……。もしいつか話せる時が来たら、
 ゆっくりお茶でも飲みながら聞かせてね」

そこにいるのは、いつもの優しいお姉様。理想の先輩としての彼女の姿。
先ほどまでの厳然とした雰囲気は露の空にでも消えてしまったかのように。

「アンタだけを危ない目になんて、絶対に遭わせたくない。だから、私もチカラにならせてよ。
 ……それぐらいは良いでしょ? 黒子」

「………はい、ですの……っ」

震える声で、そう頷くしかなかった。

「あー、もう泣かないでってば。……アンタの中じゃ、私ってその程度の存在だったワケ?」

「違います……断じて違いますのぉぉ……。ぐすっ、ぐすっ、……お、お、お―――――」

「……はっ!?」

瞬時に不吉な予感を覚えた美琴だったが、ワンテンポ遅れた。



「―――――お姉様ぁぁああああああああ!!!」


310 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/09(日) 19:18:55.84 ID:srCGggoo0


感情を全身で表しながらトチ狂った黒子が今、ここに復活を遂げる。
どんなに心身が鍛えられていたとしても、所詮は十二〜三歳の乙女。
信頼者の前でいつまでも虚勢を張れるわけがなかったのだ。が、しかし。


「うおお!? ちょ……調子に乗るなッッ!!」


某怪盗も真っ青の直滑降を驚くほど冷静に見切った美琴。
唇をみっともなく突き出してアタックする黒子の腕を簡単にロック。そして、


「ぐべェ……ッ!!??」


お手本のように見事で完璧なアルゼンチン・バックブリーカーが決まり、辺り一面にカエル
でも潰れた風な野太い悲鳴が木霊する。

こうして御坂美琴は白井黒子を連れ戻すのを諦め、その代わりに同行を決意したのだった。


―――


レーシングゲームさながらの運転技術で大通りを突き進む浜面仕上。
そろそろ一方通行が言っていた目的地周辺に差し掛かる頃合だ。
若干走行速度を落とし、本格的に探索へと移る。

「そろそろ見つけても良いトコまで来たな……。今のところ追手はまだ見えねえが、まだ
 気は抜けねぇ。早い内に例の“助っ人”とやらを回収しねえと……」
311 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/09(日) 19:20:30.88 ID:srCGggoo0


いつ、どこから『新入生』の手先が強襲してくるかわからないこの現状。
緊張の糸を解くのがまだ早計なのは、無能力者の浜面も重々承知している。

……だが、

見逃したりしない様、前方確認を疎かにしない範囲で辺りに気を配っていたその時――――、


「――――うォおおお!?!?」


すぐ正面の道路に飛び出す形で現れた人影に驚く浜面。
絶叫しながらハンドルを回し、全力で緊急回避に集中する。
四つのタイヤが急旋回による摩擦の影響で、キキーッ!! と高音を鳴らす。

「あ、危ねぇぇ……!!」

激しい動悸に胸を手で押さえながら深い息を一つ吐く。何とか撥ねずに避けきれたようだ。
危うく人身事故を起こしそうになり、心臓がバクバクと速いリズムを刻んでいる。

とりあえず高鳴った気持ちを落ち着け、呼吸も整えてから後方をミラーで確認する。
そこには、道路中央で立ち竦んだままになっている二人の女学生が映っていた。

(あれって……常盤台のお嬢様学校の制服だよな、確か……。何でこんな時間にあんな場所を
 うろついてんだ? エリート校の生徒がサボリ……? それともただの遅刻か?)

既に距離が随分と遠くなっていたが、特徴的な制服だけは離れた位置からでも特定できた。
浜面が疑問を抱えたまま再び正面に目を戻した矢先、
312 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/09(日) 19:21:53.36 ID:srCGggoo0


「……っ! あ、あれか!?」


捜していた見ず知らずの少年らしき人物が道路脇で挙動不審に周辺を目配せしていた。
良く見ると、あの少年も誰かを待っている様に思える。どうやら間違いはなさそうだ。


すぐ横に停車してとっとと乗せてしまおうと、浜面の運転する乗用車はツンツンと逆立った髪型
の少年に急接近していく。

少年の方もこちらの接近に気づいたらしく、車へと一直線に走り寄ってきた。

そして―――――過去に対立した経緯を持つ二人の『無能力者』が遂に再会を果たす。


『無能力者』でありながらこれまでに幾多の死線を潜った者同士が今、合流した。


「あ……?」


「っ!? お、お前は……え? うそ? 何で……???」


ドアを開けた浜面仕上と、車に乗り込もうとした上条当麻が互いの顔をはっきり見合わせた瞬間
の出来事だった。
二人とも思考が停止し、長く車を停めているのは危険だということを思い出した浜面が一足早く
我に返り、上条を助手席に乗せて車を走らせた。話は走りながらでも充分できる。

ちなみに麦野と一方通行が開けたまま放置したドアはとっくに閉扉済みである。
313 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/09(日) 19:23:56.62 ID:srCGggoo0
ここまでです
無能力者(ヒーロー)コンビのご活躍に期待しないでください
では次回の一部分流します
314 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/09(日) 19:27:48.03 ID:srCGggoo0


上条「……勝算は?」


浜面「んなモンは無ぇよ! 連中に、無能力者を甘く見たら火傷じゃ済まねえってことを教えてやる!」


―――――――


美琴「黒子はアイツの『事件(の)渦中(に身を置く)率』を甘く見てるのよ! それともこんな非日常
    の最中に、偶然アイツの元へ別件が転がって来たとでも思うわけ!?」

黒子「………うーん、そう言われると少し自信が無くなってきましたわ。それならまだ関連性を疑った方
    が賢明な気がしますの……」

315 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/09(日) 19:29:39.62 ID:srCGggoo0
以上でした


……さて、ではここから2、3レス程小ネタ入れます
本編との関係は一切ありません
316 :イカ娘「そこの白いの、待つでゲソ!」一方通行「あァ?」 ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/09(日) 19:31:23.79 ID:srCGggoo0


一方通行(ンだァ? この奇抜な格好したガキは……)

イカ娘「お主を呼び止めたのは他でもない。お主が手に持ってるソレ……一体何
     でゲソ?」

一方通行「………」(経験上、この手に関わると碌な事が無さそォだ。無視無視、
           っと……)カツ カツ

イカ娘「ム! ……な、なんて無礼な人間でゲソぉ……。ってコラ! 何まるで
     何も無かったかのように歩き出すんでゲソ!? 質問に答えなイカ!」プンスカ

一方通行「…………」カツ カツ

イカ娘「あ……あくまで無視する気でゲソか……?」テクテク

一方通行「…………」カツ カツ

イカ娘「待てって言ってるのが聞こえなイのカ!? いい加減にしないと、怒る
     でゲソよ!!」ムキー


一方通行「……」ピタ


イカ娘「おっ」(止まったでゲソ……。ふっ、ようやく私の威厳に気づいたよう
         でゲソね♪)

一方通行「」クルリ

イカ娘(こっち向いた……。ふふ、人間の分際でこの私を眼中に入れないなんて
     笑止千万も良いトコでゲソ。さぁ、無様に地面へ両手をつけて、私を
     敬いながら謝罪の言葉を並べるがイイ)ワクワク
317 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/09(日) 19:32:27.71 ID:srCGggoo0


一方通行「オイ」

イカ娘「私の恐ろしさが分かったようでゲソね。お主、思ったより見込みあるん
     じゃなイカ? その賢さに免じて下僕一号にしてやるでゲソ! 有り
     難く思うでゲソ! ……ところでその手にm」


一方通行「さっきからギャアギャアうるっせェンだよ、ガキ。俺に一体何の用が
      あるっつンだ? っつーか、何さりげなく後尾けてンだよ? あァ?」ギロリ


イカ娘「ひっ……!」(こ、恐いでゲソ……)ブルッ


一方通行「……お飯事してェンなら家帰ってやれ」クルッ カツン カツン  


イカ娘「………」(ちょっと漏らしそうになったでゲソ……やっぱり人間って恐い
          でゲソよ……)ポツーン

一方通行(チッ……ガキ相手に凄ンじまうたァ、どォかしてやがる……。どォして
      俺の周囲にはあァいう人畜無害ばかり寄ってきやがるンだか……)カツン カツン ポリポリ


この出会いはどこにでもあるただの偶然で、二度と交差する事もないありふれた
情景のほんの些細な部分にすぎない。
少なくとも少年の方はそう信じていたし、この小さな出会いをすぐに忘れるつも
りだった。

まさか、こんなくだらない日常のワンシーンがこの後に『発展』していくなどと
は夢にも思っていなかった。


イカ娘(けど、あの“格好いい棒”はやっぱり諦めきれないでゲソ!! 追いか
     けて、一体何処で入手できるのか教えてもらうでゲソぉぉ!!)タタタタ…


『とある最強(笑)と侵略者(笑)』一部より抜粋―――
318 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/09(日) 19:34:44.19 ID:srCGggoo0

……的なの誰か書いて建ててくれたら、その人は私にとって神です
以上、ただの気分転換でした

番外通行最高とか抜かしといて浮気してしまい大変申し訳ない
罰として、ちょっとイカ娘の触手で嬲られに行ってきます

それではまた
319 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空) [sage]:2011/10/09(日) 21:35:17.98 ID:agFC/kbM0
おつ
320 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/09(日) 23:10:04.23 ID:qmwxA/DK0
乙 役者が板に出揃ったって感じですね 次も楽しみに待ってます!
321 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/09(日) 23:24:42.79 ID:cWBAevZSO
イカ娘×一通ww
>>1が二期に夢中なのは良くわかった
322 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/10(月) 00:23:33.10 ID:hC1itPQd0
ほんと質高いな…
美琴と黒子の信頼度がすごい良く描けてる
けどやっぱり黒子は変態…

あと気になったんだが
>>300の一方さんのセリフ、まさか死亡フラグじゃないよね?
323 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/10(月) 02:09:01.00 ID:lEcVkQQSO
乙です

ついに上条さんも来ましたか……
次回が早くも待ち遠しい
324 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/10/10(月) 04:46:56.60 ID:dEs7Z+yGo
乙でゲソ
次回も楽しみじゃなイカなんだよ!
325 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/10(月) 05:43:39.22 ID:GG7ILa0B0
素晴らしいクオリティで次回が待ち遠しい!
326 :1 [sage]:2011/10/10(月) 23:28:55.66 ID:zLSeAmWE0
イカちゃんってこんなにゲソゲソ言ってたか?
327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) [sage]:2011/10/10(月) 23:30:21.82 ID:zLSeAmWE0
スマン名前に1入れたままだった。
328 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage saga]:2011/10/10(月) 23:53:39.93 ID:A5LZl0Dx0
乙!
たださ、>>1はsageないでくれよ。
329 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/11(火) 20:12:28.56 ID:bTTi1LSC0
>>326
禁書仕様なら違和感ないな
絹旗もやたら『超』連呼してるし

イカ娘と禁書のクロスとか俺得すぎるわ!!
てか>>1が本気で書いたらすげえことになりそう・・・
330 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/11(火) 23:05:58.11 ID:BFZox/+SO
前作から一気読みしてきた……あれやな、残酷歌劇とはまた違った意味で秀逸やな
331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/12(水) 02:00:05.34 ID:m8MDgNPa0
そいやアニメで侵略云々のヤツあったっけ
インさんがゲソゲソ叫んでて可愛かった
332 : ◆jPpg5.obl6 [saga]:2011/10/13(木) 22:29:07.32 ID:9ZkBhKGK0
続き投下します
333 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/13(木) 22:30:32.31 ID:9ZkBhKGK0


上条当麻と浜面仕上。

こうして対面するのは実質二度目だった。
しかも一度目に会った時の立場は全くの逆位置。見事なまでに対立し合っていた記憶がある。

綺麗に言えば、互いに譲れないものを抱えていたために拳を交えた間柄。
汚く言えば、『無能力者』同士による相違した意地の張り合い。

どちらにせよ、発進した最初だけは上条と浜面の間に幾分かの不和が生じていた。

しかし、過去の因縁にさほど囚われない性格の上条が重苦しい雰囲気を嫌ったのか、気軽な印象で
浜面に話し掛けた。


「よう、なんつーか……久しぶり」

「あ、ああ……そうだな。っつか、まさかアンタが第一位の差し金だったとはな……世間ってのは
 本当に狭いモンだ」


過去の一件以来な二人の会話は無難な挨拶から始まりを告げる。
とは言っても意外な再会に驚いただけで、両者の間に蟠りや柵はさほど感じられない。
今は敵対する理由など何処にも存在しないし、そんな場合でもないからだ。

「浜面仕上だ。水に流すって言い方は変かもしれねえが、争う気も蒸し返す気もねぇ。とりあえず
 よろしく」

「あぁ、俺は上条当麻。前にも言ったけど……お前と同じで、ただの無能力者だよ。まさかこんな
 場面でまた会うなんてな。はは」
334 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/13(木) 22:32:32.48 ID:9ZkBhKGK0


改めて自己紹介し合い、本題に話を移す。

「……で、アンタは第一位の内情をどこまで知ってるんだ?」

「細かい所までは……。けど、予断が許されない状況なのは何となく判る。お前は一方通行を狙っ
 てる組織について詳しかったりするのか?」

「まぁ多少は……話すと長いけどな」

「『番外個体』のことも知ってるのか?」

「……?」

番外個体と面識がない浜面はそこで怪訝な顔を浮かべた。
その様子から推察した上条は、簡単に彼女の詳細及びこれまでの一方通行と自分に共通した経緯を
ざっと説明する。



「―――そうか。つまり、そのミサカワーストとラストオーダーって子が第一位にとっての泣き所
 ……。連中はそこを利用しやがったってワケかよ……」

大体の謎が解け、敵の卑劣なやり口に顔を顰める浜面。
第一位の心境が、今なら良く理解できる。もし滝壺やフレメアが自分を抹殺するための材料として
利用されでもしたら……想像するだけで怒りが湧き上がってくる。

「訳あって、俺は番外個体に危険が及ばない様、一方通行に頼まれてたんだ……。つい昨日のこと
 だったんだぜ? それなのに……!」

上条が無念そうに語るのを聞いて、浜面は昨日の出来事を思い出す。
お互いの知らない所で物語が展開されていた事実を漸く知ったのだった。
335 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/13(木) 22:34:02.55 ID:9ZkBhKGK0


「一方通行の話じゃ、番外個体は確かに学校まで来てたんだ。そっから先の役目は俺が受けていた
 ってのに……。まさか敵がそこまでしてくるなんて夢にも思ってなかったよ」

「アンタに責任はねえだろ? 普通、学校内部に侵入するなんてリスクが甚大すぎる。予知なんて
 できるはずがねえさ……。それより、ここから俺達がどう動くかだ。今はそっち優先で頭を働かせ
 るべきなんじゃねえのか?」

「……同感だ。過ぎた事をクヨクヨしてても始まらねぇな……。んで、今俺らは何処に向かってる
 んだ?」


「『ヤツら』のアジトさ」


「……! 所在地が判明してるのか!?」


あっさりと答えた浜面の横で、上条は驚きの眼差しを向けている。

「向こうから指定してきやがったんだ……。その『番外個体』だの『最終信号』ってのは、第一位
 を誘き出す専用の大事な餌……。汚いマネしてくれるぜ……」

「そんな……打ち止めまで……!」

上条の表情が歪む。
許し難い現状に視界がグラついたが、それ以上に危惧している事柄があった。
336 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/13(木) 22:35:37.30 ID:9ZkBhKGK0


「一方通行は……大丈夫かな?」

様々な意味が含まれたような質問だが、隋一なのは一方通行の精神面での問題だ。
打ち止め、そして番外個体。
上条も『あの一件』に大きく関わった人物の一人だ。
その際、一方通行という人間の奥底を垣間見た憶えもある。
ロシアで奇跡的に遭遇した時も、グッタリと動かない打ち止めを抱えて咆哮し、そのやりきれない
想いのたけを見たことも無い力に変換させて攻撃してきた。

一方通行にとって、“あの少女たちが”何よりも代え難い存在なのは上条も充分に知っている。
だからこそ、その“存在”を逆手に取られてしまっている現状で、一方通行は自我を保っていられ
るのだろうか……。そこが最大の懸念要素だった。

「発覚した直後は危ない感じだったが……一応大丈夫だと思うぞ? 寧ろ、冷静すぎるのが却って
 不気味だった。多分、そんな次元も超越しちまってんだろうな……」

「一方通行は、先にその指定された場所へ向かったのか?」

「……いや。アンタを迎えに行ってる道中で襲撃を受けたんだよ。第一位がそいつらを相手にして
 くれたから、ここまで来れたってワケさ」

「そういうことか……。大丈夫かな、アイツ……」

「仮にも『頂点』だぜ? 俺らみてえな無能力者に心配されるタマじゃねえよ」

「だと良いけどな……。あとで合流する手筈になってるんだろ?」

「おう、俺たちは一足先に本拠地へ殴りこみだ。どうせ付近一帯は駆動鎧部隊が編成されて待ち構
 えてやがるだろうから、せめて“アイツら”が到着した時スムーズに進める様、入り口周辺の門番
 だけでも除斥しとかねえとな!」
337 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/13(木) 22:36:17.88 ID:9ZkBhKGK0


何やら浜面のテンションがおかしな方向へ進んでいる気がした上条。
あまり振れたくはないが、それでも確認しておかなければ不安な気持ちの方が勝ってしまい、結局
低腰な口調で伺う形となった。

「……一応訊いても?」

「何だ?」

「……勝算は?」

「んなモンは無ぇよ! 連中に、無能力者を甘く見たら火傷じゃ済まねえってことを教えてやる!」


「………………」


心なしか、車が更に加速したような錯覚を上条は味わった。
338 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/13(木) 22:41:37.29 ID:9ZkBhKGK0

―――


「加速した……!? ちょっ、ヤバッ……置いてかれちゃうわよ黒子!」


「ふっ、ご心配には及びませんわ! わたくしにお任せあれですの!」


テロ騒動の影響で『学び舎の園』近辺が生徒の安全保護を旨とし、一時的に教員を主軸とした厳戒態勢
が張られている中、

「それにしても、あの車……上条さんを連れて何処へ向かってるんでしょう?」

「そんなの、後を追ってれば分かるでしょ! もしかしたら『外』で駆動鎧集団を中心に勃発した事件
 と何か関連があるかもしれない……! 今は現場へ行くより、こっちの方が優先事項よ!」

「上条さんは一切無関係であると……断言しきれないのが惜しまれますわね」

「そういう事っ! 黒子も大分アイツの本質ってヤツが解ってきたみたいね」

地を単純に走るのではなく、滑空するような移動術で前方の乗用車を追跡する二人の女子中学生がいた。
気づかれない様、一定の距離を保つ。
遠すぎず、近すぎず、常にレーダーで捕捉しつつも引き離されすぎないように空間移動を駆使して調節
を繰り返す。
そんじょそこらの探偵や刑事など比にもならない尾行技術である。

互いの能力の長所を駆使し合い、少女たちは想いを寄せる少年の動向を追い続ける。
339 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/13(木) 22:43:52.14 ID:9ZkBhKGK0


白井黒子を背負う形で演算式を組み上げ続ける作業に没頭する御坂美琴。
その眼は真っ直ぐに向けられ、今回の件に何らかの関わりがあると推測される人物から遠のいてしまわ
ないように全意識を注いでいた。


ほんの数分前の事。


常盤台でも高位に属する少女たちが揃って事件発生現場へと足を急がせていた途中、
緊迫した空気を醸しながらツンツン頭の見慣れた姿が彼女たちの視界を横切った。


「――――!?」


美琴と黒子は殆ど似たような反応を見せ、学生服を着た少年の消えた方向へ目を奪われてしまう。
神経が、別の方へと逸れていくのも道理。

「……今のって……」

「か、上条さん!?」

「……よね。間違いなく……」

二人揃って見間違いなど、稀でも滅多に起こらない現象だ。

顔を見合わせ、一瞬で意思疎通を終えた二人は何の迷いもなく進路を変更する。
通過する予定だった曲がり角の向こうに、ほぼ全速力で走っている少年の後ろ姿が見えた。
そして、大通りの方を何やらチラチラと気に掛ける素振りを見せた後に立ち止まり、バスの到着でも
待っているかのような身振りで路肩に佇んでいる。
340 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/13(木) 22:44:54.57 ID:9ZkBhKGK0


そのあまりにも不審な光景に、美琴も黒子も“見過ごす”という選択肢は浮かばなかった。

「アイツ……あんな所で何やって……! 行くわよ、黒子!」

「は、はいですの!」

が、駆け出した二人に思わぬ障害が後方から突然襲い掛かった。


「――――黒子っ、危ない!!」


「――――ッ!?」


咄嗟に庇われる形で道路の隅へ飛ばされる。
美琴に横から飛び付かれて密着した状態で宙を水平移動したまま、黒子はほんの一瞬前まで自分達が
立っていた地点を猛スピードで通過していく小型乗用車の全影を視界に収めた。

運転手の方も動転していたのか、車のタイヤをギュルギュルと鳴らしながら左右に揺れ動いている。
おそらく美琴と黒子を轢いてしまわない様、回避に挑んだのだろう。
だが、無傷で済んだのは実質的に危険を俊敏に察知した美琴の功績と言える。

素早い動作で立ち上がった双方は、停車して謝罪に来ることもせずに走り去って行こうとする不躾な
車を路傍から睨むように眺めた。

「なによアイツ……。詫びのひとつも入れずにトンズラ? 信じらんない……」
341 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/13(木) 22:46:03.99 ID:9ZkBhKGK0


「同感ですが、車道に堂々と立っていたわたくし達にも非がありますわ。お姉様」

「そうだけど……せめて車停めて『大丈夫ですかー? 怪我は無かったですかー?』ぐらいは言って
 くれたって良いんじゃないの? あれじゃ殆ど轢き逃げよ」

「まぁ、確かに礼儀としては最低………!? お、お姉様!! あれ……」

「ん……? えっ? あんな遠くで停車……ってチョット!? あの馬鹿、車に乗り込んだわよ!?」

「……あの車、上条さんの御迎え用でしたの???」

「んなどこぞの御曹司みたいなオプションがアイツに設定されてるワケないでしょーが!! 何かの
 トラブルに巻き込まれてるって考えるのが自然よ! ……もしかすると、例の『テロ騒ぎ』が絡んで
 んのかも……!」

「っ! お姉様……。流石にそれは短絡的すぎでは……」

「黒子はアイツの『事件(の)渦中(に身を置く)率』を甘く見てるのよ! それともこんな非日常
 の最中に、偶然アイツの元へ別件が転がって来たとでも思うわけ!?」

「………うーん、そう言われると少し自信が無くなってきましたわ。それならまだ関連性を疑った方
 が賢明な気がしますの……」

「でしょう? ―――――あっ! 動き出したわ……!」

そうこう話している間に、ツンツン頭の少年を乗せた車は何の躊躇いもなく走行し始める。
テロが発生したと報告されている現場を目指していた少女達の心が迷う。

「………どうするの? 黒子」
342 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/13(木) 22:47:34.18 ID:9ZkBhKGK0


あくまで美琴は『黒子の付き添い』という名目で同行を買ったのだ。行く先は当然黒子の意思に委ね
られる。
が、黒子の決断は清々しい程に早かった。

「どうするって……決まってますわ。―――――上条さんを追いますの!」

「ふふっ、……よね。……そう言うと思ってたわ!」

美琴の顔にも、強い同調の思想が表れていた。
既にあの車体に搭載された発電機から流出している『磁場』は観測済みである。
後は単純に速度の問題だが……。


「気づかれない様、着座地点にも細心の注意を払いますの! お姉様、参りますわよ!」


「オッケー!!」


育ちの良いお嬢様学生二名による追尾行動はここから始まった。
343 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/13(木) 22:48:41.66 ID:9ZkBhKGK0


―――


「ほいほい、アドレス交換終了ーっと」

「……交換に応じといて何だけど、運転中にケータイ出してると警備員とかに見つかった時面倒だぞ?」

「そう言や、警備員の姿がどこにもねえな……。一方通行たちが渦中にいる以上、コッチとしては来ねぇ
 方が都合良いんだけど……」

「まさか、駅前の『巨大スクリーン』で報道されてた『テロ事件』って……」

「『テロ』程度ならまだ生易しいモンだ、とコメントしておく」

「…………」

上条当麻は助手席に座りながら暴れ回る学園都市第一位の姿を想像し、微かに身震いした。
運転席に座る浜面仕上はそれよりももっと恐ろしい光景を頭に思い浮かべてから蒼白した。

両者の理念は同一していた。
敵(駆動鎧集団)の方を悼み、手を合わせて拝む行為を同時にやったのが良い証拠である。

「……一方通行の方はひとまず置いておくとして、俺たちはこのまま正面からぶつかるのか? 相手の
 戦力がどれぐらいの規模かは詳しく知らないけど、上条さん的に些か無謀すぎるのではと思うわけなん
 ですが……?」

「内部にまで侵攻できれば上出来だが、当然それ相応の危険も折り重なってくんだろうな……。『能力』
 に一切頼れねえ俺たちが揃って飛び込んだところで、すぐ殺されちまうのが関の山だ」
344 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/13(木) 22:50:00.58 ID:9ZkBhKGK0


「ならどうするんだ? ……まさか、何の策もなしに特攻かける気じゃねえよな?」

上条が不安そうに尋ねる。
すると、浜面の神妙な顔つきが百八十度転化した。

「ふっふっふ……。そんなのはただの自殺行為だってことぐれぇ、俺でも判るさ……。もちろん“秘策”
 有りだ」

「秘策……?」

「ああ、秘策って言うよりは『隠し種』に近いけどな」

意味ありげな発言に上条の眉がピクリと動いた。

「マジで!? そういう事は早く言えって! 本気で特攻かける気なのかって一瞬肝冷やしただろうが!
 ……で? その策だか隠しネタってのは一体何なんだ? 勿体ぶらないで教えてくれよ」

「まぁ逸るなって。もうすぐ目的地の『旧柊工場』が見えてくる……。外側の(見張り)構成を確認した
 ら一旦死角場所で停めるから、その際にでも―――――ッ!?」

浜面の口が途中で止まる。
その目は真っ直ぐに向いたままで、行動停止でもしたかのようだった。
異変を感じた上条も浜面の目線をすかさず辿り始める。


「……っ!?」


345 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/13(木) 22:50:57.45 ID:9ZkBhKGK0


前方に、“何か”いた。
対向車線を跨ぐ形で佇む“それ”は、明らかに異質で平和な日常ではまず拝む機会のない代物だ。
それもそのはず。どこからどう見ても、あれは破壊を目的とした『兵器』以外に表現のしようがなかった。

目立つ外装に仕上げられた『謎の兵器』。
その丸太のように重量感溢れる銃口らしき部位は、明らかにこちらを狙い済ませていた。


(駆動鎧―――――!?)


浜面と上条が懐疑の目を正体不明の物体へ束ねた、

その瞬間――――。



「――――ち……畜生ォォおおお!!!」



「――――ッッ!!?」



砲口最深部が黄金色に輝いたと思った途端、身の毛のよだつような感覚が浜面と上条の内面を支配した。
この震慴感に逆らわず、本能に従った行動を双方とも採択する。

威嚇も警告も踏み飛ばした『粒子砲』らしき熱線が、すぐ眼前にまで迫っていた。
346 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/13(木) 22:52:04.90 ID:9ZkBhKGK0


急停止した車から、命の危機に泡を食って転がり出る浜面と上条。

ボンネットを貫通し、爆発炎上を起こす車からの退避に辛くも成功。


「………クッソ! いきなり撃ってきやがった……! っつーか……何なんだよ!? あれは……」


爆風に煽がれ、肢体を地面に張り付かせながら砲撃者に遺憾を向ける上条。
炎上中の車体反対側へ避難していた浜面が憤った上条へ叫ぶ。

「もう一発来るか……!? や、やべぇ!! おい、止まるのはマズイ!! 的にされるぞ!!」

「ち……っくしょおおおおおっ!!」

勢いをつけて立ち上がり、走り出した浜面の後に続く。
直線ではなく曲線上に動き、照準を撹乱させる。
この甲斐あってか、追撃の放射による共倒れの未来は逃れられた。


「―――――ッ!!」


あの兵器は破壊力こそ抜群に優れているものの、命中精度はそこまで正確ではないらしい。
撹乱している最中でそこに気づいた両者は、一旦充分な距離を確保した上で死角に身を隠し、今後に
ついて議論に移った。ついでに荒々しい呼吸もこの間に何とか落ち着けたいところだ。
347 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/13(木) 22:53:12.29 ID:9ZkBhKGK0


「ハァ……ハァ……ふー……まさかあんなのが待ち構えてるとはな。あれも駆動鎧の一種かよ……」

「あんなデケェの、見たことねえぞ……ハァ……ハァ……」

冷えた汗を拭いつつ、先の怪物兵器をどう対処するか思索する両名。
あれをまずどうにかしないとこの先へ進むことは愚か、その前に命をあっさり奪われて終了だ。

「駆動鎧だとしたら、やっぱ人間が中で操作してんのか……それとも『無人タイプ』か……。どっち
 にしろ、性質が悪いことに変わりはねぇな……。あんなのが配備されてんじゃ、アジトへ近づく事も
 できねえぞ……」

「うーん……けど、待てよ……。あのレーザーっぽいの、どーっかで見覚えが……」

何か思い当たる節でもあるように首を捻る上条。
浜面も気に留まったのか、彼に視線を預けながらじっと言葉を待つ。


「―――!! そうだ! 『超電磁砲』だ! あいつのレーザー、『超電磁砲』とソックリなんだよ!」


「『超電磁砲』……? それって、確か第三位の能力者が持つ“通り名”だっけか?」

「ああ。実は俺、その第三位と知り合いっつーか……。まぁとにかく、“本家の超電磁砲”は幾度となく
 受け……いや、見てきたんだ。流石に“本家”程の威力は無いみたいだが、原理まで同じ設計で撃たれて
 るのか……? そいつさえ白黒つけられれば……」

「ってことは……あれはその『超電磁砲』を機械的に上手く再現した『超能力兵器』か!?」

「いや……超能力者クラスにまで届くような兵器が生み出せるんなら、能力開発(カリキュラム)の意義
 が成り立たなくなっちまうだろ? 『劣化版』が妥当な見解だと思うぜ?」
348 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/13(木) 22:54:07.47 ID:9ZkBhKGK0


(あれも御坂のDNAマップが元だとしたら、『妹達』を生む研究とは別の意味で最悪の捏造品じゃねえか……。
 いや、けどまだそうと決まったわけじゃねぇ。あの正体が何なのか、まずはこの目ではっきり突き止め
 ねえ事には―――ッ!!)


「……おい、何さっきから難しい顔してんだ? 気になってる事があるんなら話してみろよ」

(ただの科学的な兵器か、それとも異能系統の副産物か……。判明してない段階で『右手』に頼るのは
 危険すぎるな……)

「……どうしたんだよ? アンタ……」

ひとり表情の険しい上条を奇怪に見つめる浜面。
だが、小休止の時間もそこまでだった。

「あ……!!」

不意に空を仰いだ浜面の目が、驚愕の色に染まる。


「――――お、おい!! 上だ!!」


「――――んな……!?」


肉眼では目視できない速度で昆虫の羽根みたいな部位を激しく連動しながら、先の駆動鎧がこちらを
まるで嘲るように見下ろしていた。
背中に取り付けられている巨大なタンクの重量など関係ないとばかりに空中を浮遊するその無骨な姿
に、男二人は唖然とした直後に焦る。
349 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/13(木) 22:55:23.51 ID:9ZkBhKGK0


「に……逃げろおおおおお!!!」


掛け声と同時にその場を離れる上条、浜面。
未知の武装兵器が上部の銃身を回転させ、雑な射撃行動を開始した。

再度、轟音と共に周囲の風景が大規模に歪んでいく。

“雑”な狙いによるものか。或いは判断が早かったのが幸いか、ここでも浜面と上条は生命の死守に
紙一重ながらも成功した。あとは衝撃で派生した余波を追い風に利用しつつ、逃げる。ただひたすら、
振り返らずに無我夢中で走り続ける。
だが、際の逃走中に浜面が慌て口調で上条に詰め寄った。

「おい! あれのどこが『劣化版』なんだよ!? あの火力で本家に劣るって言ったかアンタ!!?
 冗談にしても笑えなさすぎるだろぉぉ!!!」

「うぎぃー! 嘘ですやっぱさっきの全部取り消し!!上条さんの勘違いでしたぁゴメンナサイ!!
 さっきのはただの威嚇射撃で、こっからが所謂“本領”ってヤツなんですね!? ええ、もう良ーく
 身に染みて実感ましたぁぁーっ!!………ってか、おいマジかよ……。単純な威力だけを考慮すると
 ………もしかして御坂よりも上……ッ!?」

背筋を冷たい汗が流れる。
同時に寒気が走り、上条はそれ以上考え耽るのを拒んだ。

『本家』の『超電磁砲』を上回る兵器――――。
350 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/13(木) 22:59:10.54 ID:9ZkBhKGK0


「…………ッッ」


そんなものが、既に存在しているという現実――――。

嫌な汗が止まらなかった。
 
着弾した跡地に目を傾ける。

地面に直接放たれた『擬似超電磁砲』の凄まじさに改めて直面し、頭がまともに働いてくれない。

直径約一メートルはあろうかと推定される巨大な穴がそこにあった。
温泉の水源地みたいに噴流する硝煙に、砕けたアスファルト。
まともに受ければ骨さえ残るかも怪しかった。

生唾を呑む上条、浜面の眼前にズシン! と重々しく着地する殺人機械。

近くでその風貌を目の当たりにした両名は、言葉も視線も交わさずに圧倒的な存在感を放ち続ける
『脅威』を凝視していた。
あまりの迫力、そして存分に披露された破壊力の凄まじさに身体が戦慄を覚えているのが窺えた。

そんな彼らの慄く様を、まるで嘲笑うかの如く、
三つだけ備わっている回転式の銃身が、再び装填される。
生々しい鉄音から推測するに、背中の巨大なタンクが弾倉庫の役割を担っているようだ。

何となく仕組みが理解できてきたものの、対策手段はまだ無い。
ただの『兵器』に『幻想殺し』は通用しない以上、無闇に“打ち消し”を狙うわけにもいかない。
アテが外れれば、その時点でアウトだからだ。
そして不幸体質の自分に用意された“表か裏か”の結果など、コインをトスする前の段階で決ま
っている。
351 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/13(木) 23:01:08.48 ID:9ZkBhKGK0


浜面は装填部の一点だけを先ほどから着目していた。
そこに製造メーカー名のような薄い文字が書かれていたのが気になったのだ。

掠れる声で、その短文を読み上げた。


「ガトリング・レールガン………」


更に、羽部分を収納するための腹部側面に目線を辿っていく。
そこには、アルファベットの刻印でこう記載されていた。



『FIVE_Over.』(ファイブ・オーバー)



『Modelcase_“RAILGUN”』(モデルケース・“レールガン”)




これから自分たちを地獄へ埋葬するやもしれぬ“怪物”の正式名称である。
352 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/13(木) 23:02:15.41 ID:9ZkBhKGK0
ここまでです
では例のごとく次回投下予定の一部を晒して締めます
353 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/13(木) 23:07:56.26 ID:9ZkBhKGK0


土御門「よう、早かったな。もっとゆっくりでも良かったんだぜい? そんなに俺たちに逢いたか
     ったのかにゃー?」


結標「貴方たちの顔なんて、二度と見たくないに決まってるでしょ? ……さっさと終わらせて、
    早いトコ永遠にお別れしましょう」


海原「直接会うのは久方ぶりだというのに、開口一番から手厳しいですね。ははは」


―――――――――


一方通行「駄目なンだよ……。頭で解っちゃいるが、いくら脳に命じても言う事を聞きゃしねェ。
      理屈じゃもはやどォにもならねェンだ……。どォしても抑えらンねェンだよォォ」


麦野「………少し前の私なら、今のアンタの考えを欠片も理解できなかったでしょうね……」
354 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/13(木) 23:09:13.07 ID:9ZkBhKGK0
以上です
御読み頂きありがとうございました
355 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/14(金) 00:02:55.58 ID:7YgCscjSO
グループきたあああああ

これで勝つる
356 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/14(金) 00:13:30.51 ID:dPkCdVwR0


毎度ながら、ここのクオリティの高さには感服するしかないぜ…
ファイブオーバー相手じゃ上条さん詰んだな
357 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/15(土) 01:15:35.75 ID:e2lw6+6F0
一方さん早くうううううう!!!

358 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/16(日) 02:53:44.08 ID:rzZwlFuj0
繋げ方上手いなぁ…

シルクロ兄さん廃人確定ワロス
359 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/16(日) 16:18:55.42 ID:7mPKstPSO
御坂たちは…?
360 : ◆jPpg5.obl6 [saga]:2011/10/17(月) 21:37:58.56 ID:DfwoBD+y0
お待たせ(?)してます
では更新
361 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/17(月) 21:41:11.99 ID:DfwoBD+y0


―――


第七学区では一部地域がパニックに陥っている中、隣接する各学区では何やら怪しい動きが
起きていた。
暗部組織の著しい減少による摂理か、現在で使われていない廃屋や廃ビルは学園都市全体に
有り余っている。
ゴロツキの集まりにすぎないスキルアウトからしてみれば、正に『棚から牡丹餅』だった。

そんな元暗部組織がかつて使用していた隠れ家やアジト等も今では『無人区域』として制定
され、一般学生の立ち入りは禁止になっている。

だが、新たに導入された衛星中継の映像が送ってきた情報によると、


「―――― 七箇所の『無人区域』で集会を確認……。いずれも『暗部推進派』に加入した
       組織の“元たまり場”か。……狙いは差し詰め“増援”って所だろうな」


手に持った端末機のような物体を眺めながら、土御門元春は鬱陶しそうに吐いた。

「思った通り、『反政派閥』は息をかけていたみたいですね。『新入生』はあくまで最前線
 に起用し、残りは“陽動”か“混乱”……そして『第一位勢力』の削減要因に割り当てられ
 そうです」

「つまり、俺らの“敵”だと確定してるってワケだ」
362 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/17(月) 21:43:47.95 ID:DfwoBD+y0


『新入生』を主戦力とし、上下左右を暗部改変に反発の意思を持つ『暗部推進派』で固めて
包囲網を形成し、一方通行や一方通行に加担する勢力を徹底的に毟り取るというのが上層部
(反省派閥)の抱く具体的な構成らしい。サイドに布陣する組織の一角をこれから強襲する
予定なのだが、生憎まだ全員揃っていなかった。

「……『暗部の復活』を切望している、というのはフェイクでしょう。騒乱に乗じて“彼”
 の首を狙い、多大な報酬を掴み、やがて復活を遂げた『暗部』の高峰に君臨……といった
 ところでしょうか……。薄汚い野望ですね」

「ああ、要するに“漁夫の利”ってヤツだ。最高に潰し甲斐のある連中さ」

海原光貴の容姿に身を包んだ元同僚の肩をポンと一叩きしたすぐ後、待ち合わせていた人間
がゲンナリした足取りで歩み寄ってきた。

「よう、早かったな。もっとゆっくりでも良かったんだぜい? そんなに俺たちに逢いたか
 ったのかにゃー?」


「貴方たちの顔なんて、二度と見たくないに決まってるでしょ? ……さっさと終わらせて、
 早いトコ永遠にお別れしましょう」


「直接会うのは久方ぶりだというのに、開口一番から手厳しいですね。ははは」

さして傷ついたわけでもない調子の男二人を呆れた目で見る結標淡希。不本意なのが態度に
表れている。それも恐ろしく露骨な程に。
363 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/17(月) 21:45:27.24 ID:DfwoBD+y0


「……で? 一体何のつもりで呼び出したワケ? 私は貴方たちになんか、何の未練も無い
 のよ? 情の移るような出来事も、悪いけどさっぱり思い当たらないし」

「おいおい、そりゃちょっと薄情すぎるんじゃねーかい? 俺たちの英雄が命の危機に瀕し
 てるってのに、その言い種はあんまりぜよ」

「おどけてんじゃないわよこのピエロ。その洋画みたいなオーバーアクションの所為で余計
 なストレス溜まるのよコッチは。……しかも、要点を見事なまでに穿き違えてるみたいね」

呆れた目から汚い物でも見るような目に変わる。
あからさまに不機嫌な口調だが予想でもしていたのか、土御門はニヤケたままだ。
それが余分に苛々を募らせる。

海原の方も普段と何一つ変わらない“触らぬ神に祟りなし”状態で、苛立ちをぶつける気に
もなれなかった。

「要点? どういう事か、説明が欲しいにゃー」

「私は私で義理を果たすつもりよ。薄情だなんて言われる覚えは無いわ。大体、『グループ』
 の解散と同時に貴方たちとの縁は切れてるのよ。そっちもそのつもりだと思ってたけど?」

「その割りには、ちゃんとここまで来てるじゃん。本音はやっぱり俺たちとの再会に胸躍らs」

「口を閉じなさいよアンポンタン。貴方が私のプライベート番号を知ってる件について、まず
 はじっくりと追及させてもらうわ。ていうか、呼び出しに応じた理由の殆どが“その件”よ」

「悪いな。『グループ』が無くても俺には様々な“ルート”が健在してるんだ。闇に生きる分
 としては特に困る事もねーしな」
364 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/17(月) 21:47:03.11 ID:DfwoBD+y0


「ふざけんじゃないわよ何勝手に人のマジ番調べてくれてんのよ! 貸しなさい! ケータイ
 ブチ壊してあげるから!」

「ダミーで良ければどうぞ。ちなみに、お前に掛けた俺の番号も当然ダミーですたい」

「どこまでも不公平な野郎ね……。だから会いたくなかったのよ。あー、不愉快だわ……」

腕を組んでソッポを向く結標。どうやら完全に機嫌を損ねたようだ。
再会のじゃれ合いも程々にしておくか……と土御門は内心で呟き、口調と雰囲気を“仕事用”
に切り替えた。

「よし。約一名“欠席”だが、場合が場合なだけに止むを得ないか……。んじゃ早速作戦に
 移るぞ」

「……概要ぐらいキチンと話してくれないかしら?」

「なあに、“これまで”と何ら変わらないさ。俺らは俺らのやり方で助力するまでだ。その
 ためにまず、『金魚の糞』の掃除から済ませるのさ」

「第一標的に直接危害が及ぶ前に排除、ですか……。まさに影の功労ですね」

「内容自体に文句は無いけど、私が貴方たちと共に行動しなきゃならない理由は皆無よね?」

「結標、そんな寂しい事言うモンじゃねーぜ? 確かに『グループ』が破綻した今、俺たち
 を結ぶ接点は何も無い。……だが、利害は一致してるハズだ」
365 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/17(月) 21:52:08.32 ID:DfwoBD+y0


「……“馴れ合い”は規約違反じゃなかったの?」

「んなモン、解散と一緒に白紙化だ。……最後の最後くらいは自己意思で共同作業するのも、
 悪くないんじゃないか?」

「…………」

少し考え込む。
どの道、この非常事態を看過するつもりはなかったのもあるが、最後にもう一度だけ『この
面子』に付き合ってやるのも悪くない、……のかもしれない。

「……にしても、連中がここまで早期決着に精を出すとは思わなかったな。昨日の今日では
 流石に無い、と踏んでいたコチラが甘かったらしい……」

「考えてみれば、アチラには長引かせる理由が存在しませんからね……。自分は一応ですが、
 ある程度予感していましたよ」

「『番外個体』、『最終信号』、『妹達』……。もしこれらがヤツらの手によって落とされ
 た場合、第四位だけに任せておけなくなるぞ。数だけで言えば、一方通行サイドの不利はどう
 しても否めんからな……」

「……まさか、また“彼”を?」

「幸いなことに、“アイツ”は俺が頼む必要もなく動いてくれるだろう。一方通行の状況が
 優か劣かは不明だが、これ以上の兵力増加を抑えるに越したことはない……。っと、そろ
 そろ答えは出たか? 結標」
366 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/17(月) 21:53:56.45 ID:DfwoBD+y0


「………えぇ――――」

海原と土御門の会話も耳に入れずに葛藤する結標だったが、どうやら決断したようだ。

「――――わかったわよ。『今日限りの復活』ってことで割り切ってあげる」

「ん、良い答えが聞けて良かったぜ。そうと決まれば早速制圧に取り組むとしよう」

そう言って複数の人物と通信機でコンタクトを取り始める土御門。
まさかとは思ったが、現在は堅気の暮らしを送っている元『グループ』関係者が総勢で今回
の作戦に協力しているらしい。
その大半が土御門たちと同じ思想だったのも案外驚きだが、もっと驚きのニュースが実は隠
されていた。

「元『ブロック』や元『メンバー』、その他の組織からも全員じゃないが加担してくれてる。
 “裏方兵力”なら向こうとの比率は大差無いだろうな」

一体どういう風の吹き回しなんだか……と、結標は軽く溜め息を吐く。
暗部解体によって自由となり、発端となった第一位に恩義でも感じているというのか。
それは彼等にしか分からない事である。

「……もういいわ。けど、これだけは言っておく」

結標がターゲット先の『無人区域』を睨む。
沢山の人が集まっているらしき気配が外にいても判る程だった。内部にいるのが『敵』である
事は既に断定されている。
ならば、遠慮はいらない。
367 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/17(月) 21:54:44.27 ID:DfwoBD+y0


「私は、一方通行に恩義なんて感じちゃいない。ただ―――――」


懐中電灯にしては長めの棒を一振りした結標。すると、


「―――――“借り”を作ったままなのが癪なだけよ!!」


『無人区域』上空に出現した何台かの乗用車が斜め下方向へ重力に従い、霰のように落下して
いった。
突然の事態に混乱したまま飛び出してくる“暗部推進派集団”。
その様子を眺めながら静かに交戦準備に掛かる元“グループ構成員”。



「少し時期は早いが、『同窓会』の時間だ。一般人の被害は出さない様、くれぐれも注意しろ」



土御門による通信機越しの最終伝達に、各自が頷く。
他の暗躍活動部隊も、これを合図に各地で開戦、恐慌状態となった。
368 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/17(月) 21:56:51.95 ID:DfwoBD+y0

―――


大規模な抗争へと発展していく中、元凶とされている第一位は第四位と共に『本陣』へと駒を
進めていた。

閑散としてしまった交戦跡地から能力で移動すること約三分。
第五学区方面へ向かう四tトラックの荷台に侵入した二人の超能力者は、今後の流れについて
軽く討論した。

第七学区の境まで到達すれば、目的地は目と鼻の先である。こうして身を潜めるように移動し
ていれば余分な襲撃も回避できる確率が跳ね上がるし、得はあっても損はない。
とにかく今は、『新入生』指定の場所に着くまで温存しておきたい。この先に何が待ち受けて
いるか……。一方通行の予想が正しければ、おそらく最大の修羅場となる可能性も高い。

気を引き締めるために、気を休める時間も時には必要だった。
移動中の狭い荷台に揺られながら、一方通行は本心を誤魔化すように雑言を漏らす。

「あの無能力者、まだ生きてンのかねェ……。俺らが抜けた直後に敵襲受けたとして、アイツ
 に打開策はあンのか? ……その辺考慮すっと、軽率な真似しちまったかもしンねェな……」

「大丈夫よ。……多分ね」

「自信無さげに聞こえたのは気のせいか?」
369 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/17(月) 21:59:00.94 ID:DfwoBD+y0


「……そういうワケじゃないんだけどねぇ。アイツにはロシアでデケェ借り作っちまったからさ。
 んな簡単に撃沈されちゃ、色々と困んのよ。主に私の立場的に」

「オマエらの内部事情は未だに良く把握できちゃいねェが……そンなに心配ならアイツの所まで
 もォひとっ飛びして送ってやろォか?」

「……!? し、心配とかじゃないわよ! ……ええ、あの馬鹿ならきっと大丈夫。悪運強いし、
 マグレとは云えこの私に白星挙げてんだし……心配する要素皆無よ、皆無。どこまで役立つかは
 分からないけど、“エモノ”なら持たせてあるし……あとはアイツで何とかするでしょ。うん」

「……今、クチから心臓飛び出かけてたぞ? まァ、必要ねェンなら良いが……」

「アンタの能力使用時間を削ってまで頼もうと思わないっつーの。……あとどれくらい保ちそう?」

「……まだ二十分以上はいけそォだな」

「何もかもケジメつけるには、ちょーっと心許ない気がするわね……」

「どォせフルでも三十分が限度だ。そォ大差ねェよ」


いざという時に備えて能力使用を控えるのは、何も今に始まった境遇ではない。
その故か的確に状況を把握し、あらゆる要所で頭を素早く回転させる技術力が目覚ましく向上した。
これらの経験は、こういった『団体戦』と非常に相性が良い。
370 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/17(月) 22:00:59.62 ID:DfwoBD+y0


知識の応用。
臨機応変。
創意工夫。

そんな言葉に頼る必要さえ無かった『以前』とは違う。
そう考えれば、暗部の世界で培ったものが決して無駄では無かったと自覚できる。

しかし幾ら己磨きのために場数を踏んだとしても、必ず全てのパラメータが上昇するとは限らない。
例えば『心』が強くなったという喩えは、同時に“弱点”とも言える。
鉄のように何の感慨も持たない心だったとしたら、まだ救いがあるのかもしれない。

だが、一方通行は紛れも無い人間である。

経験と並行して洗練された精神力や適応力。
そういった材料をどれだけ並べても、『無情』の境地へ立つことは不可能だった。

『愛すべき存在』を楯に取られている今、こうして平静を装うのが実は精一杯だったりする。


「……………」


沈黙は物事を一層深く考えさせる魔力を併せ持っている。
だから無言の空間を極力作りたくはなかった。のだが、延々と口を開き続けるというのもまた酷な
話である。当然、麦野も別段口数が多い性質ではない。
371 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/17(月) 22:02:28.27 ID:DfwoBD+y0


知識の応用。
臨機応変。
創意工夫。

そんな言葉に頼る必要さえ無かった『以前』とは違う。
そう考えれば、暗部の世界で培ったものが決して無駄では無かったと自覚できる。

しかし幾ら己磨きのために場数を踏んだとしても、必ず全てのパラメータが上昇するとは限らない。
例えば『心』が強くなったという喩えは、同時に“弱点”とも言える。
鉄のように何の感慨も持たない心だったとしたら、まだ救いがあるのかもしれない。

だが、一方通行は紛れも無い人間である。

経験と並行して洗練された精神力や適応力。
そういった材料をどれだけ並べても、『無情』の境地へ立つことは不可能だった。

現に『愛すべき存在』を楯に取られている今も、こうして平静を装うのが実は精一杯だったりする。


「……………」


沈黙は物事を一層深く考えさせる魔力を併せ持っている。
だから無言の空間を極力作りたくはなかった。のだが、延々と口を開き続けるというのもまた酷な
話である。当然、麦野も別段口数が多い性質ではない。
372 :>>370は無しで(ry ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/17(月) 22:03:55.24 ID:DfwoBD+y0


閑寂は自らの“黒い”心情を顕著にさせる効果を持つ。
この法則には抗えず、一方通行は会話の尽きた荷台の隅で感情の抑制に努めた。
麦野は、眉間の皺を寄せて内心を表に漏らさない様に装う一方通行に的確な言葉を見出せず、ふと
視線を床へと移す。
やがて、昔話でも聞かせるような声色で優しく語り出した。

「……心配なのね、第三位のクローンたちが……。アンタってさ、やっぱ噂に聞いてた『一方通行』
 とは別人だわ」

「………急に何を言い出すンだ?」

「まあ聞けよ。……なんつーかさぁー、イメージ通りの『一方通行』って外道は、自分以外の誰か
 に興味も情も持たない。冷徹で非道で、私以上にネジが飛んだ化け物だったのよ。……まぁ、最初
 会った時にそんな上辺だけのイメージなんて崩壊してたんだけどね」

「回りくどい言い方は好きじゃねェぞ?」

「私もどう表現して良いか、決めかねてんだよ。……頭ん中ぁ好き勝手に弄られて、能力の発現を
 口実にテメェの利益欲しさでフザけた計画を発案するイカれた科学者共……。私の周囲にはそんな
 大人しかいなかった。アンタも似たような境遇だって聞いてるけど?」

「…………」

麦野沈利は第四位で自分は第一位。
一見すると“たった三つ程度”の誤差と感銘するかもしれないが、実際は大きく違う。
確かに境遇自体は似たようなものである。が、しかし、彼は抱えている『力』そのものが強すぎた。
373 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/17(月) 22:06:31.15 ID:DfwoBD+y0


数多の研究者が『一方通行』の驚異的な能力値に震え、匙を投げ、辞職していった。
木原数多のような人間ですらも怯えを感じさせるほどに……。
研究施設も彼の所有する爆弾を抱えきれず、次々に盥回しされる日々。
いつしか、そんな毎日を当たり前のように感じてしまっていた。

目の前にいる大人びた色香を漂わせる少女も、そんな神経の狂いそうな日常を経て育ってきたのか……。
そう考えてしまうと、普段通りの言動で否定する気分にはなれなかった。
他者が易々と踏み入って良い領域ではないと、即座に直感したからだ。
どう返すべきかぼんやり耽っている内に、麦野が乾いた笑顔混じりに吐く。

「……まぁ、そういう幼少時代な上に、そろそろ自我も確立できる年迎えたと思った時には『アイテム』
 が設立されてた。そっから先は、つい最近までと何一つ変わらねぇ生活よ……。時には血を浴び、流し、
 命懸けの任務にすら、いつしか何にも感じなくなってた……。自分以外の他人に全幅の信頼なんて心底
 有り得なかったし、“仲間意識”なんて概念も必要ないと思ってた……」

「…………」

「けど私は、今じゃそんな自分を“ただのクソ野郎”だって思ってる……。それもこれも、取り返しの
 つかない過ちを犯したのに気づくのが遅すぎたから……」

「…………」

「わかってたんだ。全部、私が弱かったから招いただけなんだってことも……。けどさ、弱いままなん
 てのは、私の性に合わないんだよ。――――だから私は、“今生きてるアイテムの仲間”を守りたい。
 ………勝手にこんな話して、何のことやらって思うかもしんないけど………今のアンタに何も共通して
 ないとは思えなくってさ……」

「……オマエは後悔してねェのか?」

何故だか、そんな事を訊き返していた。
374 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/17(月) 22:08:51.40 ID:DfwoBD+y0


「ふふ、どうだろうねぇ……。“後悔していても始まらない”って奇麗事があるけど、人の心ってのは
 そんな単純に作られてないからねぇ。寧ろ成長のために“後悔する時間”ってのは必要なんじゃないか
 って、私は捉えてるのよ」

仮に麦野が『後悔してる』とはっきり答えていたら……、ふとそんな事を考えてしまう一方通行。
わかっている。いくら自己投影した所で、自分と重ねた所で所詮は他人の見方でしかないことも。
その程度で自分の『答え』が明確になるのなら、どんなに楽だろう。
尋ねた後で愚問だったと悟る一方通行に、今度は麦野が質問した。

「アンタはどう? 今でも一万人以上の“人間”を虐殺したことを後悔してたり、する?」

「……オマエの答えとほぼ同じだよ。“これから”についてなら幾らでも決められる。自分勝手だろォと
  何だろォと、俺は俺の思想に沿って進ンでいくし、過去に今後の生き方を縛られたくもねェ……。
 ―――――だがな……」

「……?」

「その“過去”が一番の問題かもしれねェ……。結局俺は昔の自分と、どォ向き合えば良いのかが……
 まだ掴めてねェンだろォな」

「割り切るには残酷すぎる、ってヤツ?」

「そンな泣き言を漏らすつもりはねェよ。オマエの科白を引用するみたいで悪いが、全部“俺の弱さ”が
 招いたンだ……。俺にもっと反発の意識があったら……。もっと早くテメェの間違いに気づけたら……。
 ハッ、今更ンな事言い出したらキリがねェけどな」
375 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/17(月) 22:11:00.12 ID:DfwoBD+y0


「……結局そう。この街に来た時点で、この街に生まれた時点で……私ら子供の未来は確定されてんのよ。
 無知で何の抵抗力も満足に持てない内に『罪』を背負わされ、『罪の意識』に気づいた時は既に手遅れ……。
 自業自得なのかもしれないけどさ、始めっから大人が子供の自然な成長を歪曲させてる実態について、いざ
 客観視してみると……やっぱり納得できないっつーか……」


「あァ、理不尽な話かもなァ。“何が悪いか”も正しく認識できねェ世代で“道具の使用方法”を仕込ま
 され、手に入れた時にはどれだけ恐ろしいモノを脳に植え付けられちまったかも理解できてる。……そこ
 で引き返しが利くンなら、まだ救いは在ったかもしンねェ……。その段階で“引き返せなかった”事こそ
 が、俺の“弱さ”だったンだよ。強い能力に味を占めて、血の味を覚え、人体の素敵な神秘に甘美してた
 時点で、俺らはもォとっくに狂っちまってたンだ……」


――― それが幾ら脅威のチカラだったとしても、誰かを傷つけて良いとは限らねェ ―――
 

僅かな抵抗の表れと称していたこの朧げな信念が消えてしまったのは、いつからだろう?
大人に反抗するつもりで掲げていた当時の安い意地やプライドは、いつから淡く儚い夢物語へと昇華され
てしまったのだろう?


(あの頃は、チッポケながらも『正義感』ってヤツに縋ってた……。一体、いつから俺はこンな風に変わ
 っちまったンだか……。ふン、そりゃ憶えてるワケねェか……)


「……なーに笑ってんのよ? 不気味ね……。はっ!? ま、まさかテメェ! ふ、不埒なこと考えてた
 んじゃないでしょーね!?!?」

「……なワケねェだろ馬鹿か?」
376 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/17(月) 22:14:01.88 ID:DfwoBD+y0


「………あー、やっぱ聞かなかったことにしといて……」

冷めた目で見返され、何故か居た堪れなくなった麦野は口走った科白の無効を要求した。

「けど……今の話聞いて思ったわ。……能力に差はあれど、やっぱり境遇自体に大きな違いは無いのね。
 浜面みたいな無能力者が、実際のところ一番優遇されてんのかも……。見なくていいものを見てない。
 知らなくていいことを知らない、って意味で量ったら……ね」

「………一概にそォとも言い切れねェさ。“人間性”次第でヒトってのは際限なく変われる。そこじゃ
 『超能力者』だ『無能力者』だっつー隔ては、ただの装飾品に過ぎねェよ。『境遇』だって同じよォな
 モンだ。“人格の形成”こそ補助しよォが、そいつ本来が生まれ持った“性質”までは歪曲のしよォが
 ねェだろ? ……結局はテメェの芯がどれだけ頑丈か。原点に返るみてェな物論だが、意外に的を射て
 ると思わねェか?」

「第一位の持論、か……。覆してやろうとも思わないわね。……けど、一個共感できるとしたら―――」


――― 『超能力者』も『無能力者』も、人間性に優劣は付けられない ―――


「………ふん」

「オイ、一人でボソボソと何喋ってやがる?」

「くだらない独り言も吐きたくなるわよ。こんなクソ狭いトラックの荷台で野郎と二人きりなんてさ……。
 どんなシチュエーションよ? 古い映画の駆け落ちシーンみたい……」
377 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/17(月) 22:18:18.93 ID:DfwoBD+y0


「贅沢ぬかしてンじゃねェよ。スペース的には特に問題ねェだろ?」

「構図的には異議を唱えたいわね。タクシーか普通の車でも捕まえた方が良かったんじゃない?」

「それだと、連中の車にすぐ見つかる恐れがあンだろォが。ここなら身を隠すには申し分ねェ」

「……見つかったらさっきみたいに戦乱起こしゃ良いのに」

「ドライバーを含めた余計な被害は、極力出さねェ方針なンだよ」

「それもアンタの自分勝手な信条?」

「そンな大層なモンじゃねェ。ただ、そォなるのが胸糞悪いだけだ」

「ふふっ、冗談よ。……私も今は無差別な破壊とかに気が咎められるクチだしね」

「そォかい……」

正義だの悪だの、そんな形ばかりの拘りはいつしか捨てていた。
悪人だから正義を振り翳せないとか、正しい事は必ずしも悪事に繋がらないとか、世の中にはそう云った
齟齬など幾らでも実在している。

そんな世でどちらかに傾いたとして、すぐ矛盾に苛まれて嫌気がさすのは目に見えているからだ。
学園都市の恐ろしさを初めて実感し、心に恐怖が芽生え、悟ったのだ。
救いたい人を救うには、時として己の築いた信条が邪魔になってしまう場合もあるのだと。

だから彼は、一方通行は自分が『悪人』か、『善人』かのどちらかに拘ろうとしない。


「………実を言うとさ」
378 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/17(月) 22:21:46.27 ID:DfwoBD+y0


再び訪れかけた沈黙を嫌うように、麦野が言葉を紡いだ。

「嫌なんだよ……。『アイテム』のリーダーとして皆を引っ張ってた頃の自分に、どうしようもないくらい
 嫌気が差してるんだ……」

「……やっぱ、後悔してンじゃねェか」

「ああ、してる……んだね、やっぱ……。取り返しなんてつくはずないのに……過ぎた時間が巻き戻るわけ
 じゃないのに……割り切ったつもりでも、無理なんだよ……」

「…………」

「“仲間を殺した”時の話、覚えてる?」

「あァ……。やっちまったモンは仕方ねェ、で済む話じゃねェだろォな」

「………どんなに更生したつもりでも、過ちが記憶から消去される事はない。一生胸に刻み付けて、生きる
 しかない……。残酷だって自分を慰めるのも筋違い。……アンタの『絶対能力進化計画』とは状況も立場も
 違うけど、不思議と似てる気がしない?」

「互いに後ろめたい過去を背負ってる……って言いてェのか?」

「………少し前の私なら、今のアンタの考えを欠片も理解できなかったでしょうね……。何せ、『罪の意識』
 すらまともに感じちゃいなかったんだから……」

「……同情でも求めてンのかよ?」

「違うわよ。……無理に平静を装うのは無意味だっつってんの。ちょっと遠まわし過ぎたことは詫びるわ」

「…………」
379 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/17(月) 22:22:55.68 ID:DfwoBD+y0


「そんなんじゃ、“あの子”たちと向き合った瞬間………アンタの精神(こころ)は間違いなく崩壊するわ。
 懸けてもいい」

「……なンで、そンな風に言い切れる?」

「言ったでしょ? ……わかるのよ。アンタの表情や仕草、言動、どれを取っても……。アンタ自身、本当は
 気付いてるってことも、ね……」

「……………」

「………そりゃそうよ。アンタも私も、ほんの少し前までは“自己犠牲”を生温い奇麗事としか思わず、自分
 以外は全て下にしか見ていなかったんだから」

「まるで、俺とオマエが同類っつってるよォに聞こえるンだが……?」

「違うんなら否定すればいいわ」

「……っ」

否定できなかった。
悔しいが、この女は何もかもを見透かしている。薄い外膜で感情を隠す行為を、無益と評するような瞳。
一方通行は、他の超能力者について考えた事などこれまでで一度たりとも無かった。

所詮は自分より下の人間。どんな環境を経て育っていようと、自分以上の壮絶な生き方は見込めないだろうと
決め付けていたのかもしれない。

しかし、その観測は間違っていた。
他人の環境や立場を何度明細に聞かされたところで、それがどれほど非道で残酷かを本人以上に知る事はでき
ないのだ。共感はできても、決して主観的な感覚を味わうには到らない。
380 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/17(月) 22:26:11.31 ID:DfwoBD+y0


その点なら麦野にとっても同じ条件な筈だが、そこの所は流石女性特有の観察力とでもいうのだろうか?
確証はないのに確信めいた発言を耳に入れても、一方通行は否定する気が起きなかった。

「………オマエ、何でそこまで的確に人の心を突ける? ンで、何故今俺にそンな話をした? 意図が全然見
 えて来ねェ……」

「アンタの経緯と私の経緯を重ね合わせてみただけよ。アンタにも私にも、“命を危険に曝してでも失いたく
 ない存在”がいる。……この共通点に気づくだけで、今のアンタが考えることは簡単に見通せるってわけ」

「…………」

「意図は、アンタも薄々予感してる筈……。このまま心を処置ぜず、自分の中だけで溜め込んだ状態で臨んだ
 としたら………アンタは自分を見失わずにいられるって断言できるかしら?」

「……オマエは精神治療師《カウンセラー》でも目指してンのかよ?」

「ふん、まさか……。自分でもガラじゃないってわかってんのよ。けど、私はアンタの敵じゃない。それどこ
 ろか、同じ数少ない超能力者としての理解役を買ってやらなきゃならない立場よ。迷いを持ったまま“第五位”
 の手駒に堕ちた存在と向き合えるの? ……私じゃ残念だけど、アンタの不安を取り除いてやるまでの役目は
 こなせない。けれど、和らげるくらいならできるわ。……それだけでも大分違う筈」

「俺を何から何まで手助けしようってか? ……何で」

「死なせたくないからに決まってんでしょ? ……上層部の欲望に塗れた笑顔なんて、想像しただけで吐き気
 がするし」

「…………」
381 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/17(月) 22:31:33.70 ID:DfwoBD+y0


麦野がそれ以降、口を閉ざしてしまったので一方通行の胸中は一層複雑に鬩ぎ合う。
結論を言うと、『心理掌握』の策略で番外個体と打ち止めの命運を敵に握られてしまった事実に、言い様のない
憤りを感じていた。
最悪の場合を想定するだけで、脳が強い拒絶信号を送ってくる。

しかし、現実はそんな淡い願望を何の情もなく残酷に破壊してしまう。
麦野の言う通り、こんな不安定な精神を携えたままでは相手の思惑に沿って動くようなものだ。
その未来が容易に想定できてしまったから、麦野は一方通行の心を覗くような言動をとったのだろう。


「………駄目、なンだよなァ……」


捗らない作業に隔靴掻痒する仕草で額に手を当て、溜めていたモヤモヤを口から吐き出す。
麦野は黙りこくったままで、耳だけを傾けた。

「こンな感情が非効率にしかなンねェのは、百も承知なンだけどな……駄目なンだよ」

「…………」

「頭で解っちゃいるが、いくら脳に命じても言う事を聞きゃしねェ。 理屈じゃもはやどォにもならねェンだ……。
 どォしても抑えらンねェンだよォォ……。あいつ等が敵の手に掛かっちまったのは俺のミスからだ。完全に自業
 自得だよクソったれが……。“アイツら”に手を出した『新入生』も、裏で糸を引いてる上層部の『反政側』も、
 何度叩き潰したって足りねェ程に昂ぶっちまってる……。冷静にならなきゃ駄目なのが判っていても、歯止めが
 利きそォにねェ……。だが、それ以前に何より、腑抜けていた俺自身を今すぐこの場でブチ殺してやりてェよ……」

最後に「畜生……」と漏らした。それは醜い心を曝した事による自身への侮蔑か、或いは今の状況に対する憤りか……。
麦野には判定できなかった。
382 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/17(月) 22:35:38.73 ID:DfwoBD+y0


「なんだ……、ちゃんと本音が言えるんじゃん。それでいいのよ。厄介で邪魔な鬱憤はそうやってクチから吐いて、
 体内の淀んだ空気をしっかり換気しとけば対処するための余裕も持てるし、機転だって利き易い。……なんなら、
 もっと吐き出したって構わないのよ? ちゃんと聞いててやるからさ」

「いや……もォ充分だ。かなり落ち着いたわ……」

深い呼吸を繰り返し、麦野を真っ直ぐ見つめて感謝の意を告げる。

「……悪かったな。変に気ィ遣わせちまってよ……」

「暴走でもされたら流石に私でも止められる気がしないからね。自身への保険も兼ねて、よ」


「……そォか。――――――!?」


「おでましね……。安息の場所なんて、もはや何処にもないか……」


「初めから覚悟の上だがな……」


場の空気が一変し、二人の眼に緊迫感が戻る。
束の間の小休止が終了を告げた瞬間だった。


「―――――囲まれてるわね。どうする? 第一位」


「―――――蹴散らしてやるまでだ」

383 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/17(月) 22:40:35.22 ID:DfwoBD+y0


顔を出して外を確認するまでもない。
車外から一定の間隔で並走しているらしき複数の音だけで状況は簡単に把握できる。
こちらの動きを待つ戦法か、或いは監視役として泳がせているだけか……。
いずれにしろ、素通りさせてくれる気はなさそうだ。

となれば選択肢は一つ。
障害として阻んでくるものは排除の一択。

しかし、闘争心露にチョーカーのスイッチへ手を伸ばした一方通行を何故か麦野は制止した。


「待ちな。無駄に制限時間を削らせるのが向こうの狙いだってことぐらい、アンタも気づいて
 んだろ?」

「……だったらどォした? 生憎だが、大人しく捕虜されるつもりはねェぞ?」

「おいおい。テメェの目の前にいるのが一体誰だか、分かった上でモノ言ってんの?」

「あァ?」


「私一人で充分だっつってんのよ。アンタが立つべき舞台は、ここじゃないでしょうが」


「オマエ、急に何言って……!」
384 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/17(月) 22:44:56.49 ID:DfwoBD+y0


「アンタの能力使用時間が限られてる以上、無駄な浪費は避けるに越したことないでしょ?
 あいつ等は私が引きつけるから………アンタはその隙に行きなさい」


真剣な瞳を真っ直ぐに向けて言い放つ麦野。
その言葉は確かに正論だが、一方通行がすんなり納得できるはずもない。

「正気で言ってンのか……? 包囲してるヤツらが、さっきと同じよォな雑魚部隊だって
 確証は何もねェンだぞ!?」

「アンタこそ、私が何処の誰なのか忘れてんじゃないでしょうね? 私は学園都市第四位
 の超能力者よ? 駆動鎧が何百体集結しようが、恐れるに値しねえんだよ」

「そォいう問題じゃねェだろ!! オマエはヤツらの恐ろしさを何もわかっちゃいねェ!!
 ……木原の遺志を継いでるってのがどォいう意味か……わかってねェンだよ」

「……それでも、私はアンタを逃がす。……勘違いすんなよ? 別にアンタを守ってあげ
 たいだとか、そんな乙女チックな感情で動くわけじゃねえんだからな?」

「何で、だよ……」
385 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/17(月) 22:48:45.89 ID:DfwoBD+y0


「――――自分のためよ。私はいつでもそうやって生きてきた。これからも、その生き方
      を変えるつもりはない」


――――それが、大切だった“あの子たち”に向き合うべき、本当の私――――


――――そして、もう二度と還らない“あいつ”に対する……私なりのケジメ――――


「…………」


一方通行はそれ以上声を発せなかった。
何故なら、世から“怪物”のレッテルを貼られているはずの麦野が――――、


「……ねぇ、第一位……ううん、一方通行(アクセラレータ)」

「もし、こんな私でも変われるチャンスが有るんだとしたら……」

「今だけは……掴ませて欲しいの」


――――ほんの一瞬だけ、聖母のような優しい顔を覗かせたから。

    この純真な印象さえ受ける微笑みこそ彼女本来の素顔、本当の姿。

    麦野沈利と言う名を持つ、能力という殻を破り捨てた少女の姿。

    醜悪も邪心も一切無い、ごく普通の女の子としての―――――姿。
386 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/17(月) 22:53:19.33 ID:DfwoBD+y0


たった一瞬で充分だった。
一方通行は、麦野の本来在るべき姿を瞳に映してしまった。

他人に対し、『美しい』という感性を本気で抱いたのは生まれて初めてだった。
    
この少女は、『怪物』なんかではない。

ただ強い力を持ってしまっただけの、ただそれだけの人間だったのだ。


「………そろそろ、区の境に差し掛かる頃よ」

「勝負は一瞬……。飛び出してすぐ、先制で全放出するから、タイミングを絶対に逃さないで。
 振り返ったり迷ったり、手ぇ出してきたら……その時点でアンタも敵と看做す」

「……わかったわね? 一方通行」



「…………あァ、わかった」



低い声だったが、鮮明で力強く響いた返事に麦野は満足気な笑みを零す。
387 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/17(月) 22:57:29.40 ID:DfwoBD+y0


「最後に、約束して?」

「……何だ?」

「アンタの“大切なもの”、絶対に取り戻しなさい。失ったとかほざいたら、ブチ殺し確定だからね」

「ああ、約束する」

「ふふっ♪」


会話はそこで終わる。
最後にもう一度だけ、優しい微笑みを浮かべた麦野は一方通行に背中を向けた。
そして、全身に薄い微光を纏い―――――、


――――――上部の鋼板を破壊し、そこから凄まじい勢いをつけて飛び出していった。



一方通行は、鮮烈な光に包まれたまま飛び立っていく麦野の燦爛たる姿を最後までその目に焼き付けた。
こじ開けられた大きな穴から外界を仰ぎ、静かに時を待つ。直に空が眩い光で覆われるであろう、その時を……。
また一つ生まれた、新たな覚悟と共に。
388 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage saga]:2011/10/17(月) 23:00:56.35 ID:gHn8Oxlc0
当麻と馬鹿面がすげぇ心配だわ……
389 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/17(月) 23:01:47.52 ID:DfwoBD+y0

ここまでです
長くなってサーセン
では次回投下予定の一部(ry
390 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/17(月) 23:12:59.22 ID:DfwoBD+y0


上条「でええい!! 上条さんに頭脳戦を期待するのがそもそも間違いなんだよ!!」


浜面「テメェ……か………?」


―――――――


一方通行「………………クソったれが」


―――――――






食蜂「良い感じに荒ぶってるわねぇ。そんな精神状態で、この子たちの相手が務まるのかしらぁ?」
391 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/17(月) 23:16:32.84 ID:DfwoBD+y0


上条「でええい! 上条さんに頭脳戦を期待するのがそもそも間違いなんだよ!!」


浜面「テメェ………か………?」


―――――――


一方通行「…………………クソったれが」


―――――――





食蜂「良い感じに荒ぶってるわねぇ。そんな精神状態で、“この子”たちの相手が務まるのかしらぁ?」
392 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/17(月) 23:19:48.12 ID:DfwoBD+y0
なんか重いな……しかも二重しちゃったし

今回は以上になります
次回もまた一週間くらい先ですが、ご容赦を
ではまた
393 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/17(月) 23:55:01.37 ID:nZRi49WSO

麦のん……(:∋;)
394 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/18(火) 02:51:44.07 ID:vDY0f/+B0
乙だぜい…

今回は麦野回だったな
あわきんドンマイ
395 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/10/18(火) 08:57:01.40 ID:QbAE/zJAO

麦野…
396 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/18(火) 10:27:56.52 ID:NWEqKaAwo
乙ー
なんか今回だいぶ読みづらかった
397 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/18(火) 11:12:50.30 ID:jA8ew0ASO
予想外……でもなかったりした
麦のん死亡フラグ立てすぎやww
398 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/19(水) 01:44:07.37 ID:/2nVphRA0
一方さんと麦のんって確かに経緯は違えど共通してる面が多いかも
一番近いはずのていとくんには拠り所みたいなものがないからなぁ
399 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/20(木) 00:40:52.93 ID:RK2UOYsSO
>>398
一方通行→番外、打ち止め
麦野→新生アイテム面々
たしかにこうして見ると境遇近い希ガス
400 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/20(木) 12:08:37.35 ID:IXdAM23fo
無能力者に2回負けて諭されてるところとか
殺したことを後悔してるところとかそっくりだと思うんだよなぁ
だからそれをきっかけに原子通行が進行するのをいつも妄想して文章にしようとしてたんだけど
あまりにも>>1の二人が綺麗にまとめてたからすげー満足した。
401 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/21(金) 00:21:56.11 ID:bCt8Mp4a0
一人で足止め役を買った麦野も心配だが無能力者コンビはもっと心配だ…
はまづらの秘策ってのが気になる
402 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/22(土) 01:57:54.25 ID:mxr/dp3f0
>>401
そういや麦野も浜面に何か渡したっつってたな…
フレンダなら爆弾だろうけど麦野が浜面に渡すようなものって何ぞ…?

403 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/24(月) 23:30:54.71 ID:HomTLFgD0
みさきちと一方さんの絡みが楽しみすぎて辛い
404 : ◆jPpg5.obl6 [saga]:2011/10/25(火) 21:58:47.05 ID:uZsYV5yn0
お待たせしてすみませんです
続き投下します
405 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/25(火) 21:59:41.04 ID:uZsYV5yn0


―――


浜面仕上の様子に上条が異変を感じたのは、眼前に立ちはだかる『ガトリング・レールガン』
から呻くような肉声を聴き取って寸分先のことだった。


『ォォオオ……ウオオオオ……!!』


まるで獣のような機械のノイズ混じりの音だが、良く耳を澄ませてみれば確かに男性の声だ。
上条はあの駆動鎧が『無人型』ではないのを確信したと同時に隣りにいた浜面へ視線を配る。

そこで異変が起きているのが判った。


「………ッ……ッ」


目を大きく開き、指を震わせながら絶句している浜面の姿を異常に思わないのが無理だった。

「……お、おい……? どうしたんだよ?」

敵から注意を逸らさないまま浜面に声を掛ける上条。
しかし、浜面はその言葉に反応を見せず、正面を睨んだまま硬直していた。
406 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/25(火) 22:01:27.49 ID:uZsYV5yn0


「………………………」


が、やがてその表情がみるみる内に険しさを増していく。
時折呻く『鉄の塊』に呼応するかのように。

「その……声…………」

「?」

ポツリと呟いた浜面を怪訝な目で見る上条。

「その声は………まさか…………」

「な、なぁ……だからどうしたんだって……」



「テメェ………か……?」



途端、浜面の表情が鬼の形相にシフトチェンジした。
突如、激しい憎しみに支配された浜面の豹変に上条は取り残される。





「―――――テメエかァァああああああああああああ!!!!!」
407 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/25(火) 22:02:36.45 ID:uZsYV5yn0


その形相のまま大音量で叫び声を上げ、怯んだ上条を置いて突進した。
何が何やらさっぱりだが、浜面の行動が無謀を通り越していることだけは判断できる。

「ば、馬鹿野郎……ッ!!」

完全に出遅れてしまったが、浜面の速度は緩むどころか加速していく。
咆哮を撒き散らし、我を忘れて襲い掛かる浜面に向けて、三段式の銃口が装填される。



「―――――テメエが滝壺をォォおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」



腹の底から吐き出す怒号と共に肉薄する浜面。
まるで何かに憑りつかれたような彼に、死の迎撃が放たれようとする。

が……。


「ォおおおお――――!!!?」


危険を予兆した上条が激昂のあまり真正面しか見ていなかった浜面にタックルする。
真横から体ごと飛び込んだ上条と重なり、地面に右半身から転倒した。

“迎撃”が実行されたのは、正にその直後だった。
ほんのニ〜三秒の誤差で、浜面は直撃を免れたのだ。
上条の身を挺した行動によって。
408 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/25(火) 22:03:49.59 ID:uZsYV5yn0


「………ッッッ!!」


上半身だけ起こした状態の二人。そのすぐ傍を通過していく『“擬似”超電磁砲』。
あのまま突っ込んでいたらどうなっていたか……。冷却された頭で想像し、体を震わせる。

しかし、あの“金属装甲”の中身は浜面の推察通りなら、一瞬とはいえ冷静さを失うほど
激情してしまうのも無理はなかった。

一言で述べるなら、全ての“張本人”―――――。


「……す、すまねぇ。助かった……」

「いや、それは別にいい……。……って! そんなやりとりしてる暇ねえぞっ!!」

「――――!!」


すぐさま立ち上がり、分散する上条と浜面。
追撃体勢に移っている異型の武装甲から距離をとる。

安全地帯、と呼べる場所は少ないが、無法地帯なだけあって他人を巻き込む心配が要らない。
まずは先と同様に撹乱し、無駄撃ちを誘う。

足を止めた時がデッドラインだ。

しかし―――、

409 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/25(火) 22:05:10.05 ID:uZsYV5yn0


「……ッ!」

「うぉ!?」


金属砲弾の貫通力は大抵の遮蔽物を無効化させ、周囲に瓦礫が散漫する以外の進展がなく、
十代後半男子より平均的にやや高い程度のスタミナが磨り減っていくばかりである。

埒が明かない以前に、現状を保っているのが奇跡だった。

連射機能は無いらしいが、代わりに三つの銃身それぞれが違う方向に狙いを定め、同時に
発弾してくるため、爆風や余波に生身の肉体は翻弄され尽くす。
ついには風に乗って飛ばされて塀に全身を強打し、浜面と上条は一太刀浴びせる事叶わぬ
まま窮地に追い遣られた。

「クソォ………近づくどころか逃げることさえ満足に行かねえってか……。こんなの反則
 だろうがよぉ……」

ヒビだらけで何時倒壊しても不思議ではない塀にに背を預けながら愚痴る浜面。
しかし上条は無言で立ち上がり、浜面に言い放つ。

「お前はこんな所で死にてえのか? ……俺はゴメンだ」

「……俺も願い下げだよ。クソったれ」

「なら、絶対生き延びてやろうぜ? “無能力者を軽く見てるアイツ”に、一泡吹かして
 やらねえとな……」

「…………どうやって?」
410 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/25(火) 22:06:06.72 ID:uZsYV5yn0


「それを今から考えるんだ!」


浜面の腕を掴み、強引に立たせた上条は塀沿いに走る。
すぐ後ろで射出された電磁の塊が塀を直撃、貫通し、再度轟音が響き渡った。


「格好いい科白吐いといて、結局打開策は何も無えんじゃねえか!!」

「仕方ねえだろ!? あんなのと生身の人間が相対する時点で、ハンデとか言うレベルの
 話じゃねえだろうが!! まともにぶつかったら消し炭にされて終わりだよ畜生!!」

「コッチには『思考』が残ってんだろ!? そいつを有効に使うしかねぇ! 実力じゃあ
 話にならねえのは一目で判るさ! だったら“知恵”で何とかするっきゃねえのも判る!
 けど残念、俺はまともに教育すら受けてねえ馬鹿組だ! ここはアンタの振り絞った知恵
 で逆転を狙う以外にねえぞ!?」

「んなスマートに事が運べたら必死に全力疾走する必要もねえんだよォォ!! っつーか、
 あからさまな他力本願は止めて、お前も少しは知能を振り絞りやがれ!!」

「だから俺は考えんの得意じゃねえっつってんだろうがァァ!! うおおお!!? やべえ
 死ぬ!!」

「でええい!! 条件は一緒だろ!? 俺だって知識レベルは能力レベルと一緒でゼロなん
 だよ!! 上条さんに頭脳戦とか期待するのがそもそも間違いなんだよォォおおおおお!!!
 ぬォお!! あ……熱ィィいいいいいい!!!?」


逃げ回りながら大声で口論する二人だが、この時点でまだ一発も直撃を喰らってはいない。
数メートル後ろは地獄絵図と化しているが、背中が火傷しそうなくらい熱いだけでまだ済んで
いた。
411 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/25(火) 22:07:39.15 ID:uZsYV5yn0


だが、当然ながら安心できる状況ではないのもまた事実。

爆風で視界が不安定にも拘わらず、射出の方角に“ブレ”が見られない。
蛇行することにより電磁砲撃自体は空を走らせているが、直線上に逃げていたとしたらとっく
に全身爆ぜているだろう。
最低限の対人捕捉能力も備わっているのが窺える。

辺り一面が焼け野原になるのも時間の問題だった。
そろそろ体力的にも限界が近い。
大通りへ続く小道の狭間で逃走中の二人は立ち止まった。


「ゼェ……ゼェ……」

「ヒィ……ヒィ……」


一心不乱に走り回ったのと生か死かの瀬戸際に立たされた事による緊張感で、心身共に疲弊
しきっている。
このまま逃走を続けても、終着駅が近いという命運は避けられそうにない。

苦虫を噛み潰すような表情を作った浜面は、息絶え絶えに呟く。


「くっそ……。できりゃあ使いたくなかったんだがな、もうそんな悠長なこと言ってる場合
 じゃねえ……か」
412 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/25(火) 22:11:04.06 ID:uZsYV5yn0


この言葉に上条の眉がピクリと動いた。

「おい、何だよその意味深な発言は……? そ、そう言えばお前……! 『隠し種』がある
 とか言ってたよな確か!?」

「ああ、まあな……」

しかし、浜面は気が進まないといった調子で頭を掻いた。
何かリスクでも付属されているのか? と上条が気にかけた所、浜面は重々しく告げた。

「いや……気にならねえと思えばならねえんだけどよ。ちょっとなぁ…………っと、やっぱ
 気にしてる余裕はねえ……っ! 死ぬよりはマシ、ってなぁ!!」

追いつかれた事に心を切迫され、躊躇いや迷いが消える。
決心を固めた浜面は、ジーンズのベルトに着用されたホルダーに手を伸ばす。
素早い動作で取り出された物体に上条も目を奪われる。

が、


「………は? ちょっ……いやいや、流石にそんなモンが効くとは……」


相当の期待感を抱いていただけに落胆する。
上条が肩を落とすのも当然、浜面が手に持っているのはそこいらの黒服でも所有してい
そうな一丁の拳銃だった。
モデルガンにも見え、特別不思議に感じる要素はどこにもなく、上条は失笑気味に指摘
する。
413 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/25(火) 22:12:30.49 ID:uZsYV5yn0


ところが、浜面はフフンと鼻を鳴らし、


「まあ、見てろって」


と、自信満々に告げた。
そして次の瞬間、


「―――ッッ!!?」


上条の苦笑混じりな目が最大にまで開かれた。
良くガンアクション映画などで聴くような発砲音も響かない。

射出されたのは鉛弾ではなく、“火”。

小さな銃口から規模を拡大させた炎は、膨大な火力を帯びて最新兵装(ファイブ・オーバー)
を瞬く間に包み込んだ。正面の視界は炎渦に埋まっていく。

良くあるデザインの“拳銃型ライター”では象と蟻の差だった。一般的に最も良く知られて
いるサイズの変哲無き銃。一体どこにこれほどの火力が備わっているのか、是非とも解明を
求めたい上条。

「………す、すげぇ……!!」

ゴオオオ! と、勢いの収まらない“拳銃型火炎放射器”の威力に呆然とする上条だったが、
銃撃手の浜面はどういう現象か苦悶の表情を浮かべている。
414 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/25(火) 22:14:59.28 ID:uZsYV5yn0


使用することで何らかの副作用が働く仕組みにでもなっているのか。

まるで頭痛を堪えているかのような印象を上条が受けたとほぼ同時、銃口から噴く炎がガス
の切れた状態みたいに鎮火された。
充分だと判断した浜面が引き金から指を放したからだ。

「や……やったか……!?」

上条が思わず期待に満ちた声を出す。

だがしかし、

炎上網は消え、煙も晴れた直後にこの期待は裏切られた。
大火に呑み込まれる前と何ら変わらない状態のまま、再び最新兵装がその巨体駆を露にする。
目立つ焦げ跡が殆ど見つからず、浜面は苦痛に歪んだ顔のまま舌打ちした。

「全くの無傷……? う、嘘だろ…!? あれだけの火力ならどんな鋼鉄だって溶けるだろ
 普通……!」

「耐火コーティングもバッチリ施されてやがんのか……!」

ようやく訪れた反撃の時間もこれで終わりか。
そう思った上条だったが、浜面の瞳からは何故か光が消えていない。

まるで『絶望に瀕するには早い』とでも言いたげに――――。


「――――けど、残念だったな。悪いがそいつも予想通りだ!!」
415 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/25(火) 22:16:01.36 ID:uZsYV5yn0


威勢良く言い放ち、“拳銃型火炎放射器”をホルダーにしまう。
そのまま流れる動きで反対側のホルダーに手を掛け、またもや“拳銃”の形をした物体を引き
抜き構えた。




「よう化物、『蒸発熱』って知ってるか?」




ニヤリと口元を歪め、照準を定めたまま引き金を弾く。
すると今度は銃口から玩具の水鉄砲など比較にならない圧力の“水”が噴出した。

“消防用ホース型拳銃”から放出される水圧をまともに受けた装甲は、再度の一時停止を余儀
なくされる。
浜面の表情がまた苦痛に染まるが、上条は成り行きを見守る以外の行動をとれない。
浜面に何かの策があるなら、余計な手出しは慎むべきと踏んだからだ。

そして、その判断が正解とでも告げるような変化はすぐに現れた。

途切れなく放出され続ける水流と装甲を中心に、霧状のモヤが発生する。
熱の冷めない空気中に水素が結合し、水蒸気化したのだ。
やがて霧は範囲をどんどん広げ、上条達の位置にまで及ぶ。

「………視界を奪ったって、アッチに探索機能があるんじゃ意味ねえんじゃねえのか?」

そう指摘した上条に背を向けたまま、浜面は強気に返答した。

「目眩ましだけが目的じゃねえよ。……もちろん、ブッ倒すためさ」
416 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/25(火) 22:18:05.45 ID:uZsYV5yn0


「え……?」

「屋外じゃ成功率は低いらしいけど、これだけの質量なら多分上手く行くはず……ってか頼む、
 上手く行ってくれ……ッ!」

祈るようなその口調に上条の疑問は深みを増す。
既に正面は濃い霧で覆われ、コチラからは敵の様子を確認できない。

しかし、そんな状況下でも確実に次の行動を捕捉できるパターンが一つ残っていた。


「に、してもスゲェ霧だな……、何も見えねぇ……。これじゃあコッチからも手の出しようが
 ないんじゃ……?」

「いや、そうでもねえさ。……気づいてるか? あいつが砲撃する寸前は、射出口が光り出す。
 幾ら霧がかった視界でも、その光は肉眼で捉えられるはずだ……」

「それが攻撃の合図みたいなモンか……?」


「ああ……そして――――その一瞬こそが明暗を分ける」


右手に火、左手に水。
二丁の拳銃を前方に向け、浜面は地を踏む両足にグッ、と体重を乗せた。

「……その武器、何かリスクでもあるのか? 使用した時、随分辛そうに見えたけど……」

「…………ひと仕事片付いたら、まとめて説明してやるよ」
417 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/25(火) 22:19:10.33 ID:uZsYV5yn0


(さあ……来るなら来やがれ!!)


生唾を呑み、緊張の一瞬を待つ。

そして――――、


(――――今だ!!)


霧の向こうに一瞬浮かんだ微かな蒼い光を浜面は見逃さなかった。


「おい!! 俺から離れてろ!!!」


そう叫びかけ、左右の人差し指に力を込め――――両方の引き金を同時に弾いた。
浜面の持つ二丁拳銃から噴出する容量を無視した四大元素の内の二つ。
片方は“火力”、もう片方“水力”。
それぞれ異なる自然の驚異が浜面の手で一点に掌握され、蒼白い光へ向けて交じり合うよう
に放たれる。

向こうも砲撃体勢に移行しているのは承知。
だからこそ、浜面は敵の射出に合わせて“火”と“水”を同時にぶつけたのだ。

これらが導き出す結果は……、

418 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/25(火) 22:19:59.54 ID:uZsYV5yn0



「―――――ッッ!!!?」




「ッ……ふ、伏せろォォおおおおおおっっっ!!!!!」




突然、前方で起きた謎の大爆発と轟音が解明してくれた。

419 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/25(火) 22:21:29.60 ID:uZsYV5yn0


―――


第五学区の外れ。
学園都市内でも開拓を放逐している土地が極めて多いのは第十九学区だが、この周辺も人が
住むにはあまり適さない環境といえる。

そして、そういった土地は不適合者の集まりや裏世界の住人たちにとって恰好の場所だ。

統括理事会の方針、思想に反感を持つ権力者一派を総称して『反対政策派閥(反対派・反政派)』
と呼ぶ。現在、確たる敵として道を憚らんとする新星組織、『新入生』を裏で動かし、一方通行
の発現させた『自分だけの現実』を独欲しようと目論む背徳者たちである。
つまり、最終的に叩き潰さねばならない『中心核』だ。

遥か後方の大通りで、時折凄まじい爆音が微かに耳を振るわせる。
自分を行かせるために多大な兵力を請け負ってくれた唯一の理解者、麦野沈利が今も孤軍奮闘し
ているのだろう。

彼女の痛烈な気持ちに応えるためにも、今自分のすべき事を見失うわけにはいかない。

『番外個体』――――。

『打ち止め』――――。

そして、『妹達』――――。
420 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/25(火) 22:23:03.40 ID:uZsYV5yn0


実験が凍結され、新たな道を歩み始めた生命。
それらを脅かす存在を、野放しにはしておけない。

打ち止めと出会い、自分自身の生き方を見つめ直すことができた。

番外個体と出会い、温もりや愛情に触れることができた。

今の自分を形成する上で、身体も心もかけがえのない存在と化した彼女たちを標的にした彼等
だけは―――――絶対に許せない。

『無人区域』に足を踏み入れた一方通行。
今の彼には何の迷いもなかった。


(ここか)


絹旗最愛から聞かされていた『旧柊工場』。
元々は何かの研究施設として稼動していたらしいが、今はただの廃屋である。
付近に幾つかの倉庫みたいな建造物が見えるが、やはりそちらも現在は空き土地のようだ。

(やけに静かだな……。隙でも窺ってンのか? 狡い真似しやがる……)

正面に聳える一際大きく目立つ建造物の中へ、侵入する。

(ここも倉庫か……? っつか、盛大に歓迎されるのを想定してただけに、コイツァ……)

不気味だった。
421 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/25(火) 22:27:19.47 ID:uZsYV5yn0


警戒心を露にし、注意を張り巡らせる。
いつ襲撃を受けても対処できるように、チョーカーへ指を当てておくのを忘れない。

ここは敵地の中心地。
油断は即、命取りに繋がるのだ。

広く薄暗い倉庫内部を一通り見回す。

と、その時だった。



「あらあらぁー? もう御到着ですかぁ? 第一位さまぁ☆」



このヤル気を根こそぎ奪ってくれそうな声には聞き覚えがある。それもつい最近に。


「………『心理掌握』、食蜂操祈」


「ふふん、憶えててくれたみたいで嬉しいわぁ。つっても昨日の事だし、流石に痴呆症
 でも忘れないわよねぇ?」


首を四十五度ほど上に向ける。
視線の先には、二階足場の手摺りに腰を乗せた食蜂操祈が陽気な笑顔を提げて一方通行
を見下ろしていた。長めの金色髪(ブロンドヘア)が窓から射し込む日光に映えており、
甘え口調に不相応な気品と優雅さが演出されている。

「思ったより早い再会だったわねぇ。意外と縁があるのかも、ウチら」

「そォなる様に仕向けた癖して、良く言いやがる……」

422 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/25(火) 22:28:48.85 ID:uZsYV5yn0


魅惑を誘うような少女の視線が癪に障る。
眉間に皺が寄り、苛立ちにも似た不快感が心を占拠する。
友好的とは決して呼び難い眼差しを食蜂へ浴びせつつ、そういった心理を一切隠さない
調子で単刀直入に尋ねた。


「番外個体と打ち止めはどこだ?」


ここへ来た最大の理由である。
たとえ罠だと理解していても、“慎重に賢く動く”という理論的な手段より感情が優先
する要素として、これ以上の材料は無い。

これよりも死に物狂いになる理由が在るのだとしたら、寧ろ食蜂が知りたい程だ。
様子を見るからに、思惑通りの状況が出来上がったといったところか……。

一方通行の冗談、誤魔化しを欠片も許さない低声。
しかし、食蜂の顔は強張るどころか更に不敵な笑みを深まらせた。
一方通行は気持ちが急く感覚を自認しながらも、もう一度同じ事を訊ねようと唇を微動
させる。

が、それよりも先に食蜂が透き通った声をぶつけてきた。


「あははっ、良い感じに荒ぶってるわねぇ。所詮、アンタも自然の定理に基づいて誕生
 した人間(ヒューマン)に過ぎないってコトかしらぁ? まぁ、もっとも全ての感情
 を無にコントロールする術なんて、『絶対能力』の域に達しても身に付くかは怪しい
 だろうから、別に恥じる必要なんかないのよぉ?」
423 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/25(火) 22:31:41.14 ID:uZsYV5yn0


「……俺の質問に答える気は無ェ、か」

「答えたとして、その後どうしようっての? 自から身を差し出して、潔く散るつもり?
 第一位さまにマゾっ気があったとは知らなかったわぁ」

「何があったとしても、俺はアイツらから逃げたりしねェ。そォ誓ったし、約束もした。
 オマエに理解されよォとも思わねェ」

「真っ直ぐで馬鹿正直な志し立派ー、って褒めてやりたいトコだけどさぁ……どんなに
 覚悟を改めたって、現実はそれに応えてくれるほど易しくない。そして、アンタはこれ
 からすぐにソイツを強く実感する。……その強固な姿勢をどれだけ保ってられるかしら?」

「………」

「ううん、訂正。いつまでその虚勢を維持できるか、って言うべきね。“あの子たち”に
 弱い姿を見られたくないから? ……それとも、格下に主導権を握られたくないっていう
 第一位としての意地?」

「…………」


「もしかして、第四位の生き様に絆された……とか? ハハッ、流石にそれはないかぁ」


この言葉が出た瞬間、一方通行を包む空気がそれまで以上に禍々しく変異する。
424 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/25(火) 22:33:19.46 ID:uZsYV5yn0


「…………………クソったれが、いちいち騒がしいガキだ……」


第四位の単語が耳朶を揺らし、一方通行の眉が不快そうに吊る。

「……無駄な時間をオマエと共有する気は無ェ。俺がここに来た目的は、オマエもご存知
 の通りだ」

チョーカーに指を当て、食蜂の口車に掻き乱されないように己の意志を反芻させる。
強く思念することにより、自意識をしっかり保つ。
自分を見失いやすい、最悪の場合暴走してしまう恐れも起こり得る状況の中、一方通行は
“飛んで”しまいそうな感覚を懸命に抑えているのだ。

まして、すぐ目と鼻の先には“実行犯”がいる。
昂ぶる気持ちが溢れそうにもなる。
しかし、理性を失わせて付け入るという敵の打算に敢えて乗るつもりはない。

「あら、やあねぇ。仕組んだのはコッチなんだから当然じゃなぁい? ……で? どうす
 るのぉ? まさか、私を拷問に掛けてでも居場所を聞き出そうって物騒なコト考えてたり
 するぅ?」


「―――――あァ、その“まさか”だよ」


スイッチが入り、障害者は能力者にシフトする。
それも右に並ぶ者が現時点で一切存在しない、最強の能力者へと。
425 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/25(火) 22:34:47.72 ID:uZsYV5yn0


伸縮した杖が仕舞われたと同時、一方通行は“跳んだ”。
いや、正確には“地面から打ち上げられた”という表現に近いか。
大気中を流れる気体の“流れ”を捉え、最短で食蜂との距離が縮まる。

瞬きをする間もなく肉薄されたにも拘わらず、食蜂の笑顔は崩れない。
これも筋書き通りだと語っているようなその楽観的な瞳に、一方通行は憤懣した顔つきで
乱暴に手を伸ばし、足を組んだまま手摺りに腰を掛けた食蜂の身体を引き寄せる。

胸元を片手で掴まれ、食蜂の体重が一方通行の腕一本に支えられる。
しかし食蜂に苦悶の表情は見られない。
一方通行の計らいで幸い窒息には到っていないらしいが、こめかみに拳銃を突きつけられ
ているに等しかった。

あっさり、本当にあっさりと食蜂操祈の命を握れたことに肩透かしのような気分を味わう
一方通行。
今は空気のベクトルで自らと食蜂を浮遊させているが、気分次第では何時でも食蜂を始末
できる。たとえば食蜂の胸元を掴んでいる手をフッと放すだけで、死にはしなくても意識
を断ち切らせる程度なら欠伸をするよりも容易いだろう。


「いやぁーん、乱暴ねぇ♪ ちょっとぉ、制服に皺寄っちゃうじゃないのよぉー」


こんな状況に一転させられても、まだ食蜂は余裕綽々としていた。
危機感を持たない馬鹿にしか見えなかったが、これでも“七人の怪物”の一角。
裏があるのは一方通行も感じている。
426 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/25(火) 22:37:20.75 ID:uZsYV5yn0


「オマエがこれから生きるか死ぬのか、俺の匙加減ひとつでどォにでもなるのは分かって
 るハズだ。その上でもォ一度だけ訊いてやる」

「………」

「番外個体《ミサカワースト》と打ち止め《ラストオーダー》はどこだ? 直接攫ったの
 がオマエだって事ぐらいは知ってンだよ。手遅れになる前に吐いちまえ」

「……私を殺す気ぃ? こぉーんな花も恥らう乙女を? 今のアンタにそんな度胸がある
 のか、正直疑問なんですケドぉ?」

「悪いな、コッチはとっくに腹ァ括ってンだ。あのガキ共に危害を及ぼすヤツには容赦し
 ねェし、区別もしねェ」

「恐いわねぇ。敵意を通り越した殺意なんて久しぶりに向けられたわ。今夜、夢にでも出
 てきそう……うふふ」

「死にたくねェなら素直になれよ。別の場所にいるンなら正確な位置を教えろ。もし近く
 で待機させてるンなら今すぐここに呼べ。オマエに拒否権はねェし、与えてやるつもりも
 ねェぞ?」

「ッ……」

掴んだ手に力を込める。食蜂の顔が微かな痛覚に歪んだ。

この時点では“まだ”脅しだ。
実際に彼女を殺す必要はないし、今殺してしまっては肝心の情報源が損失するだけに終わる。
427 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/25(火) 22:38:29.85 ID:uZsYV5yn0


それに、

『心理掌握』の能力が番外個体たちの自律心を制御しているのだとしたら、単純に意識を
奪うだけで事足りるはずだ。
食蜂が番外個体たちの居所を吐くか、この場に“呼んで”しまえば一方通行の勝ちである。

だが、この後の応対次第ではこの予定を変更させる必要もある。
できればそうなる前に番外個体たちの無事を確認したいところだ。

明らかとなった直後に食蜂の意識を刈り取る寸法の一方通行をまるで嘲るように眺め、制
服のポケットから小型の機械部品を取り出したことでその工程を覆した。

「ふふふっ……」

ここまで全て食蜂の工程内だった。
何の保険も掛けずに『格上』と相対するほど、彼女も馬鹿ではない。

「そんな“複製品”を死ぬほど助けたい第一位さまに問題でぇす。これは一体何でしょう?」

一方通行の眼前に提示された謎の小型部品。
まるでテレビのリモコンを一段階縮めたような形状のそれに、自然と注意が傾く。

「……?」

「ハイ、時間切れぇ。正解は―――――」


「――――― バ  ク  ダ  ン  ☆」

428 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/25(火) 22:40:20.47 ID:uZsYV5yn0


「――――ッッ!!!??」


「…………の、起爆スイッチ♪」


悪戯心溢れる口調で喋る食蜂。
“爆弾”という単語に一方通行の眉が大きく吊り上がる。
同時に心中がざわめき、言い様の無い不安感に駆られてしまう。
食蜂を拘束する右手が、わなわなと震えだす。


まさか……


まさか……ッ!!


「“あの子たち”のお腹の中にある爆弾。その起爆スイッチがこれよぉ。……じゃ、改めて
 訊くケド、今の心境はどうかしらぁーん?」

「………っっ!!」

「私が憎い? 殺してやりたい? ……ケド残念ねぇ、殺されるのはアンタの方。アンタが
 私の“シナリオ”通りに動き出した時点で、この結末は約束されてるの。折角の忠告も無駄
 に終わっちゃったみたいで、少し拍子抜けだわぁ。せめてもっとチャンスを与えてやるべき
 だったかしらぁ? ふふふっ」

「っ……こ……」

「“乱れ”が隠せてないわよぉ? ここまで顕著だと、能力が効かない分も充分補えるくらい
 に、ねぇ。そんな精神状態で“あの子たち”の相手が務まるのかしらぁ?」

食蜂の上品な笑みが、小悪魔の放つ雰囲気を匂わせている。
一見して不利な立場の食蜂が、事実上優位に立っていた。
429 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/25(火) 22:42:40.23 ID:uZsYV5yn0
今回は以上です
正念場とかいうヤツです
食蜂さんはドSに見えて実はMな気がします

では次回予定の一部分
430 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/25(火) 22:50:27.26 ID:uZsYV5yn0


食蜂「……もはや呆れを通り越して滑稽ねぇ。敵に献身してでも救い出したいなんて……。
    プライドとか無いワケぇ?」


一方通行「拘りや意地じゃ、実際誰も救えやしねェ。そンな事は嫌って程に学ンでる」


―――――――


美琴「何が起こったってのよぉ………あー、痛ったいわねぇ。もう……」


黒子「この惨状は……か、上条さんはっ!? 上条さんは何処ですのっっ!!??」


―――――――


浜面「……できれば、もうアンタとは敵対したくねぇんだ……。そこを退いてくれ」


上条「……そうはいかねえって言ってるだろうが」



431 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/10/25(火) 22:52:41.54 ID:uZsYV5yn0
次回も読んでくれると嬉しいです
ありがとうございました
432 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/25(火) 23:03:52.86 ID:gf+62DBXo
Mな食蜂さんが見たいです乙
433 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/25(火) 23:07:53.30 ID:Hm6otmUSO
ちょ、おま、ここで区切るとか……
鬼畜ですの乙!
434 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2011/10/26(水) 00:10:50.90 ID:yzc9ILhAO
ホントにここのSSの一通はアホで弱っちぃよね
435 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/26(水) 01:23:39.92 ID:slOvEECa0
だがそこがいい
436 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/26(水) 01:44:57.21 ID:BGl7jdOSO
「蒸発熱って知ってるか?」→じはし
浜面さん語呂が超悪いです
437 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/10/26(水) 19:11:36.02 ID:HJBA1gHAO
乙です
次も期待してます!
438 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/27(木) 00:19:31.76 ID:jAFB6kKE0
科学の街らしい展開に胸熱でした
あ、浜上の方ね


どmなみさきちを書けいや書いてください
439 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/28(金) 10:36:01.74 ID:SFoi+tCk0
前スレで一方さんに向けた拳銃か
どっちにしろ反射で焼き面じゃん
結局、馬面は超馬面ってわけよ
440 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/02(水) 20:58:32.48 ID:GEqKFP8b0
そろそろかな?
441 : ◆jPpg5.obl6 [saga]:2011/11/03(木) 20:26:30.80 ID:51IQKJzu0
遅くなりました
では続き
442 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/03(木) 20:30:02.45 ID:51IQKJzu0


食蜂操祈の追い討ちは続く。
揺れた心の隙間に付け入るように、“言葉”という矛を用いて一方通行の精神面をじわじわと
侵蝕していく。

「可哀相だからもう一つ良い事を教えてあげる。『番外個体』『最終信号』の体内に仕掛けた
爆弾は時限式☆ そうねぇ……大体あと二時間くらいでグロテスクな人間花火が完成するわぁ」

「私の意識を断ち切って安全牌を取るのもイイけどぉ、起爆解除は私にしか出来ない。特殊な
 設計を用いて作られてるヤツだから、アンタの能力でも探知できない構造になってんのよねぇ。
 つまり、私を眠らせたら自動的に“あの子たち”は爆ぜ死ぬ運命」

「さぁ、困ったわねーぇ。どうするのぉ? 第一位さまぁ。因みにこの“遠隔操作装置”で起爆
 解除は出来るケドぉ、結構並びが複雑なのよねぇ。すぐ隣りは“起爆ボタン”だしぃ……。違う
 ボタン押して、ドカーン☆ ってなっても怒らないなら渡してあげなくもないわぁ」

「もちろん、どれが解除ボタンかまでは教えないけどねぇ♪ 流石にそこまで親切にする義理は
 ないわよぉ。ふふっ」


「事前情報は以上ぉ。今後の動きの参考程度にはなったかしらぁ? あとはアンタの自由。私を
 殺すも良し、意識を奪うも良し、無様に尻尾振って私の機嫌取りに努めるも良し。本当に彼女等
 を救いたいなら、どうすべきなのかも見えてくるわよねぇ?」


「…………っ!!」


こめかみの辺りにチクリと針で突かれたような刺激が走った。
443 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/03(木) 20:32:48.24 ID:51IQKJzu0


殴り飛ばしたい衝動に駆られて腕を振り翳すが、残った理性がブレーキを掛ける。
行き場を失った手が虚空を泳ぐ。食蜂の言葉が事実なら、ここで叩きのめしても番外個体たちの
危機に拍車を掛けるだけである。

潰すべき相手がすぐ目の前にいるのに、既に手も届いているのに、あと一歩が踏めない。
手が、出せない。

全て、この女の計算通りに展開していた。
番外個体と打ち止めを楯に利用するかと予測していたが、甘かった。

残酷で、想像もしたくない結末。
そう、“彼女達の死”という最悪の結末に、より現実味を与える食蜂の打算。
後ろ盾にされるよりも性質が悪く、難易度も一層跳ね上がっていた。

しかし、


「……ッ…」


一方通行にとっては、“究極の選択”とまでに到らない。
食蜂に手を出すことで番外個体たちの身が危うくなるのなら、考えるまでもなかった。

食蜂と共に埃だらけの床へ着地し、歯痒い感情を剥き出しにしたまま、


「……………クソが」


彼女の胸元から静かに手を放した。
444 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/03(木) 20:38:38.22 ID:51IQKJzu0


「……何が望みだ?」


自由の身となった食蜂へ問う。
可能な限り、要望は呑む。一方通行の苦渋に満ちた瞳がそう述べているようだった。
態度をガラリと変えて大人しくなった一方通行に、食蜂は高笑いしたくなる衝動に駆
られる。
だが、あくまで冷笑のまま言い放つ。

「あらあらぁ、随分と素直になっちゃって……そんなに“あの子たち”が大切ぅ?
 格上の威厳を捨ててでも守りたいワケぇ? そぉいうトコ、やっぱ私には理解でき
 そうにないわぁ」

「オマエに分かってもらおうとは思わねェよ……。俺をどォしよォと構わねェがな、
 アイツらは関係ねェだろ? 最終的に俺の頭さえ手に入れりゃ、オマエらの目的も
 達成になるンじゃねェのかよ? ……だったら、せめてアイツらは解放すると約束
 しやがれ。……ソイツさえ保障できりゃあ、後は何処だろォが付き合ってやるさ」

「ふーん……。泣かせる話だけど、信憑性はゼロね。口先だけなら幾らでも人は強く
 なれるし、在り得ない浪漫世界だって好きなだけ創造できるわ。“言葉”で私を誘導
 しようとか目論んでるなら、相手が悪かったとだけ言っておくわぁ。上面だけで人を
 信用しない性質なのよ、私ぃ」

「………っ」

舌打ちしそうになるのをグッと堪える一方通行。
搦め手からという人生で初めて行った試みも、残念ながら不発に終わったようだ。
この女は他人に媚を売っていそうな印象の反面、実に用心深くて隙がない。

実力的に差が開いているとは云え、腐っても自分と同じ『超能力者』。
人間の心を扱うジャンルなら、自分以上に頭がキレると考えて間違いはないだろう。
445 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/03(木) 20:47:01.64 ID:51IQKJzu0


更に、他人の言葉になど最初から耳を貸さないまでに彼女自身の心の防壁は徹底されて
いる。
その上で人間の深層心理を知り尽くし、自身の思い描いた絵の通りに他者を動かせる女。

『心理掌握』の通り名は、伊達ではなかった。

そんな、言わば『心理学のプロ』を相手に巧みな言葉選びで好転を狙うなど、流石の
一方通行と云えど厳しい面がある。

「……どォすればガキどもを解放する? その爆弾とやらを解除させるために、俺は
 手始めに何をすりゃ良い? 犬みてェに跪いて、オマエの靴底でも舐めりゃあ良いのか?」

「………できるの?」

「それでアイツらを助けて貰えるンなら、安いモンだ」

「……もはや呆れを通り越して滑稽ねぇ。敵に献身してでも救い出したいなんて……。
 プライドとか無いワケぇ?」

「拘りや意地じゃ、実際誰も救えやしねェ。そンな事は嫌って程に学ンでる。ほらァ、
 遠慮しねェで好きなよォに命令してみろよ。こンな機会は滅多にねェぜ? 言った
 よなァ? 覚悟なンざとっくに決まってるってよォ」

「………ふふっ、いいわぁ。その正直な姿勢に免じて、まずはアンタの要望に応えて
 あげる☆」

一定の距離を開き、唐突に手に持っていた遠隔操作器のような物体を弄る食蜂。
静寂な空間に響いた機械音を合図に複数の人影が浮かび上がり、食蜂と一方通行の
立ち位置に次々と集結していく。


「……!」
446 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/03(木) 20:50:02.80 ID:51IQKJzu0


人影の正体が明らかになった途端、一方通行は言葉を失ったまま直立不動と化す。
予想以上に最悪の結末が手を招き、彼を歓迎しているようだった。

十人近い同系統の姿と顔立ちをした少女たちが、食蜂を崇める形で取り囲む。
同時に一方通行へ収束される強い敵意。
無感情から発せられる氷のような冷たい視線が、一方通行を容赦なく貫いていた。


「オマエ…………学園都市近辺の『妹達』まで手駒に………!」


スーッ……と、全身の血が抜かれていくかのような錯覚を味わいながら、掠れる声を
零す。食蜂はそんな一方通行を査定でもしているみたいに眺めてから、軽やかに口を
転がした。

「ここまでは想定できなかったみたいねぇ……。まぁコッチとしては予想通りの反応
 で、今ひとつ面白味に欠けるケドぉ」

「………最高の嫌がらせじゃねェか……。ハッ、確かにこンな光景は悪夢以外に表現
 のしようがねェよ、クソが………。ンで、“コイツら”を俺の前に集合させて、どォ
 しようってンだ? くだらねェ悪巧みの予感しかしねェぞ?」

「安心しなさいよぉ。その子たちは私の護衛を兼ねた背景みたいなモノだから。アンタ
 に裁きを下す役目なら、もっと相応しい適任者がいるじゃなぁい。そこだけは、アンタ
 の期待通りに進捗させてもらおうかしらねぇ」

「……?」


――――その直後。
447 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/03(木) 20:56:24.19 ID:51IQKJzu0

「ッ……!?」


右斜め上の天井付近が蒼白く発光した。
次いで轟く雷鳴に、一方通行は思わず身構える。

が、すぐに敵対心は露の彼方へ消し飛ばされる事となった。


「番外個体………!!」


見上げた先に映った少女。
それは、彼が現時点で最愛の想いを抱いている『番外個体』に間違いなかった。

そして、一直線に一方通行と『妹達』、食蜂の近くへ降り立った番外個体の肩に腰を乗せ
ている未熟個体。


「打ち…………止め……………」


枯れそうな声しか出せなかった。
精神が激しく掻き乱されているのが自身でも分かる。
いくら平静を装っていても、簡単に見破れる食蜂相手では意味を為さない。
448 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/03(木) 20:58:39.74 ID:51IQKJzu0


打ち止めの自分へ向けられた表情を見た瞬間、一方通行は心臓が停止してしまいそうな程
の衝撃を受けた。
天真爛漫で無垢だった打ち止めは、もうそこにいなかった。

タネは理解できている。“あれ”は『心理掌握』が創り出した一種の“幻想”みたいな物
だということは。

しかし、まるで己の意思とは一切無関係のアレルギーでも発動したかのように、頭の中が
真っ白に染まっていくのを抑制できない。

更に、番外個体の親の仇でも睨むような憎悪に満ちた瞳も精神崩壊への片棒を担ぐ。
“あの時”、木原数多の施設で見た時と全くと言っていい程に同一。
二度とあんな悪夢のような体験はしたくない、と切に願っていたのに……。
『妹達』とは違う制服姿の番外個体を見つめながら、一方通行は悲しげな表情で奥歯を強く
噛み締めた。

一方通行の生存に欠かせない人間が今、確実な“敵”として立ち塞がっている。

『妹達』の蔑んだ眼。それはまるで、“実験”に従って自身が虐殺した少女たちの怨念の
ようにも見受けられる。

打ち止めの自身へ注がれる顕著な嫌悪感。
番外個体の明確に突き刺すような殺意。
449 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/03(木) 21:00:14.19 ID:51IQKJzu0


嘘。

幻影。

作為。

そう、全て“まやかし”だと解っているのに……。
理性や意識とは別の“本能”が一方通行から判断力を奪い、思考回路を狂わせていく。


「その子たちの存在こそが今のアンタの存在意義。……だったらさぁ」


食蜂は『妹達』のバリケードに身を引いて残酷に告げるだけ。


「そいつらの手で葬られる事こそが、アンタにとっては最も相応しい最期なんじゃない
 かしらぁ?」


「…………………………ッ」


既に言い返すほどの余裕も失った一方通行は、口を堅く噤ませたまま同じ顔から発せら
れる敵視の的となっていた。

そして、時は無情にも一方通行に猶予を与えてくれなかった。

450 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/03(木) 21:02:03.62 ID:51IQKJzu0


―――


路上の中央で折り重なるように横たわっていた異端の女子中学生二名。
グッタリと脱力しているツインテール少女の下敷きになっていた短髪短パン少女が薄っ
すらと重い瞼を開く。

「………ぅん……?」

耳鳴りが酷く、意識も半分寝惚け状態な短髪短パン少女こと御坂美琴。
が、ぼんやりとしたまま記憶を遡るに連れて脳が徐々に覚醒してきた。

「っっ……!!」

確か、上条の乗っている車を追跡していた最中の出来事だった。
突然動きが止まったと思った矢先、遥か前方にカマキリみたいな形状の武装兵機を捉えた。
嘗て幾度か直面した駆動鎧とは全く異なる姿形。
だが、あれが味方でないのは一目で判断できた。

そして、正体不明の武装機が問答無用の砲撃に移った時、不運にも自分たちは車体のほぼ
真後ろに転移してしまっていた。

車のボンネットを軽々貫通し、数え切れない量の金属弾が唖然としている少女たちに襲い
掛かる。まさしく“流れ弾”というやつだ。

美琴の咄嗟に張った『自動防御』が無ければ、おそらく肉片と化していたに違いない。
多角方位からの慈悲なき衝撃に、純粋な身体強度なら平均の女子中学生程度の二人は周囲
の爆風に翻弄される。その辺りで何処かに頭でも打ったのか、美琴は呆気なく意識を手放
してしまった。
451 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/03(木) 21:03:21.24 ID:51IQKJzu0


「う……何が起こったってのよぉ………あー、痛ったいわねぇ。もう……」

一体あれは何だったのだろう……。
目覚めた美琴が真っ先に思慮する項目に不自然はないが、まずは今もまだ意識不明に陥っ
ている後輩の安否確認が最優先だ。

「……黒子……!? 黒子っ!!」

呼びかけに対し、返事がない。
がっしりと乗せられた体重。基本的に軽いとは云え、脱力しきった白井黒子からは圧迫さ
れるような重みが感じられる。それが不吉な予感を連想させ、美琴の語尾に緊張感が走る。

「ねえ……ちょっと! しっかりしてってば! 黒子…………っ!?」

「………………ん〜ぅ」

微かに黒子の首が動いた。
次いで呻くような声が耳に届き、美琴の顔色が安堵に包まれる。

「ホッ………良かったぁぁ……。大丈夫? 起きれる?」

「う〜……お……姉さま……?」

まだ夢の中から戻ってないのか、美琴を見つめる黒子の目はやや虚ろ気味である。

「ほら、しっかりして。……どこか怪我してない?」

「う〜ん……どうやら駄目、みたいですの……」
452 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/03(木) 21:05:56.05 ID:51IQKJzu0


「!? そ、そんな……っ! 気をしっかり持って! 嫌よ、こんなの………。ねえ、黒子ぉ
 ……黒子ってばぁああ!!」

「お姉様……最期にお願いがありますの………聞いてくださいますかしら……」

「嫌……やめてよ! 縁起でもないこと………言わないでよぉぉ……っ!」


「死ぬ前に一度で良いですから『愛してる』と耳元で囁いてくださいですの。それから頬を
 スリスリしてその豊満なバディで窒息死させるほどにわたくしの全てを包み込み、お姉様の
 温もりを隅から隅まで植え付け、あとできれば顔じゅうをベトベトになるまで舐め回し、全身
 を愛撫、いや介護して頂けたら安らかに天国へ昇れそうな気がしますの。何でしたらわたくし
 もお姉様のお身体を最後のチカラを振り絞って奉仕し―――」


「一瞬でも本気で心配したのが間違いだったわ」


一気に熱が冷めていく感覚を味わった美琴。
危うく涙まで出そうになった自分を心底戒めてやりたい。

何はともあれ、大した怪我も負っていないようなので取り敢えずは安心だ。
453 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/03(木) 21:08:01.39 ID:51IQKJzu0


「な、何ですの? この惨状は……か、上条さんはっ!? 上条さんは何処ですのっっ!!??」


起き上がった第一声がこれである。
思っていたよりも元気な後輩の様子に改めてホッとするが、確かにそちらの方もどうなっているの
かが知りたかった。

「落ち着いて、黒子。……あの馬鹿だったら多分大丈夫よ。車が爆発する前に運転手と脱出したの
 を見たわ……。ってか、アンタは見なかったの?」

「お恥ずかしながら………。突然の事でしたので確認する余裕もございませんでしたの」

「………まぁ、いきなりあんな洗礼が来るなんて思わなかったもんね……。にしても、酷い有り様
 だわ。辺り一面焼け野原じゃないの……。空襲後の市街地って正にこんな風景よね……」

「……これもあのヘンテコな駆動鎧の仕業ですのね……。なんて非道いことを……」

「とりあえず、ここに居ても仕方なさそうね……。歩ける? 黒子」

「ええ、問題ありませんの。……それにしても、お姉様のおかげで助かりましたわ。お姉様が能力
 で『自動防御』を展開していなかったらと思うと、……ゾッとしますの」

「咄嗟の事だったから完全には防げなかったけどね……あはは」

「いやいや、あれほどの衝撃波の中心で五体満足なだけ充分凄いことですわ。流石お姉様ですの」

「や、やめてってば……。それより、さっさとあの馬鹿を捜さないと……」

「えぇ、そうですわね……。無事でいてくれると良いのですが……」
454 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/03(木) 21:10:01.29 ID:51IQKJzu0


「…………」

上条の無事を切実に願う黒子の姿を見ていると、何故だか心中複雑になってくる美琴。
だが、今は言及している暇すら惜しい。

亀裂の入ったアスファルトで燻る火種を跨ぎ、少女たちは密かな想いを寄せる少年の行方を探索
し始めた。


―――


化学反応を活用した戦略で、浜面仕上と上条当麻は最新型駆動鎧の無力化に辛くも成功する。

晴れた爆煙の奥で機動回路のショート音をコンスタントに鳴らしながら動かなくなった『ファイブ
オーバー』の主兵装、『超電磁砲』の模造品。
能力開発部門最下層に位置する彼等にしては偉業すぎる功績に見えるが、実質この二人は“特殊”
な位置づけにランクされている。つまり、“この勝利は過去と比較すると霞む程度”ということだ。

「じゃあ、そいつは“能力補助道具”みたいな認識で良いのか?」

「厳密に言うと少し違うらしい。……つっても、俺も口頭で聞かされただけだから専門家みたいに
 詳しい解説はできねえんだが……」

会話の内容は、浜面が使用した火や水を有り得ない威力で放出する“ビックリ拳銃”についてだった。
こんな代物が普通に出回っている筈がない事ぐらい、銃機の知識に乏しい上条でも解る。

「“持ち手”の脳神経を伝ってAIM拡散力場を“無機物”に生み出させる……ってことか」

「お? そうそう、それだよ。何だ知ってるんじゃん。……ってか、何で知ってるワケ? 超極秘
 の研究レポートだって聞いたんだけど……?」
455 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/03(木) 21:14:32.11 ID:51IQKJzu0


「いや、前に似たようなヤツを見た事があるんだよ。……確か、“能力物”とか言ってたっけな。
 元々は無能力者や低能力者の能力向上を補う目的で発案されたらしい。俺が見たのは“試作品”
 だったけど、完成したら軍事兵器として利用されるって話を聞いたんだ……。正直言って、良い
 イメージじゃないな……」


―――― 無能力者が『発火能力者《パイロキネシスト》』でもないのに火を使う方法は何だ?
      ライターを使えばいい。そういった単純な話よ。――――


(………なるほどな。“コイツ”もその一環で製造された試供品か)

監禁された御坂美琴を救出するため、木原数多の研究施設へに乗り込んだ際に交戦した科学者の
言葉が脳裏に過ぎる。
情報の断片がパズルのように組み合わさり、不明点が解消された気分に浸る上条の隣りで浜面は
顔を顰めた。

「……そうか……。確かに、もっと開発が進んで……こんなチンケな拳銃じゃなく、戦争に使わ
 れるような兵器にこの性能が加わったと考えると……あんま笑える話じゃねえかもな」

両手の“試作段階”を眺め、未来に戦慄を覚える浜面。
もしかしたら、今自分の持っている武器がこの先に途轍もない数の犠牲者を生む結果に繋がるの
ではないか……。そう思うと、それに助けられただけに複雑な気分だった。

「こんなことなら、麦野にもっと詳しく聞いておくんだったぜ……。いや、でも麦野も『知人から
 の横流し物だ』っつってたし……もしかしたら訊いても無駄かもな」

浜面の独り言に首を傾げつつ、上条が不意に尋ねた。
456 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/03(木) 21:21:20.58 ID:51IQKJzu0


「なあ……。それ、一体どこで入手したんだ?」

「……聞いてどうすんだよ? 手回ししたヤツに喧嘩でも吹っ掛ける気か? だったら悪いこと
 は言わねえから止めとけ。……相手が悪すぎる」

「誰なんだよ……? 別に喧嘩売りに行ったりしねえって。……ただ、気になるんだよ。あんま
 出回ってねえような事を、確か聞いたような気がするし……」

「………“リーダー”だよ。これ以上は言えない……悪いけどな」

「……わかった。無理に聞くつもりはねえんだ。すまなかったな……」

「気にすんな……。にしても、能力者のAIMが原料だったのか……。道理で使うと頭痛がヒデェ
 わけだ」

「知らなかったのか?」

「原理とかまでは聞かされてねえもんよぉ……。覚せい剤とかドーピングとか、そういう非合法
 な部類の物だったとはな……。機密事項に引っ掛かってる謎が解けたわ」

「無理矢理に脳を活性化させてるようなモンか……。無能力者の俺たちじゃ、きっと相当負担が
 デカいんだろうな」(多分、“右手”のせいで磁場が派生しない俺じゃ扱えないだろうけど……)

「実際気をしっかり持たないと意識失いかねないから、あんま人には勧めらんねえな……。開発
 が進んで問題が改善でもされりゃ別なんだろうけど……」

「ソイツも含めて“試作品”か……。あともう一つ気になってる事があるんだけどさ。そっちが
 発火能力者《パイロキネシスト》モデルなのは分かるが、もう片方はどうなってんだ? 水系統
 だと水流操作《ハイドロハンド》ぐらいしか思いつかないぞ?」

「ああ、元々火薬の代わりに水を詰めてるだけだから……多分そいつで正解なんじゃないの?」
457 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/03(木) 21:24:11.18 ID:51IQKJzu0


「に、しては水の量が異常だったような……」

苦笑いの上条に、浜面も今ひとつ原理が掴めていない口調で解釈する。

「そうだな……。もしかしたら、単に『能力補助』以上の機能が備わってたのかもしれねえが……
 詳しい事は開発者本人じゃなきゃ何とも……。能力開発分野に関しちゃ落第点だからなぁ……。
 知識も頭に入ってねえ段階じゃ、考えてもピンと来ねえや」

「水の流れを変化させる上に増量って……。つくづくデタラメな性能じゃねえか」

「威力自体は両方とも強能力者(レベル3)クラスらしいけど、他にもオプションが隠されてた
 って別に不思議じゃねえし……。――――ん?」

と、そこへ鉄の擦り合うような音が二人の耳に入った。
同じタイミングで音がした方に首を向ける。


「あ……!?」


機能停止かと思われた武装兵器が錆びた鉄独特の軋み音を漏らし、身じろぎしている様子が目に
止まる。
これにより、議論は一時中断せざるを得なかった。

「あの野郎! まだ生きてやがったか……!!」

『ファイブオーバー』は元々『シルバークロース=アルファ』という男の所有物である。
正確には“コレクション”の一部に過ぎないのだが、搭乗者が所有者本人なのは浜面にとって
最も忘れてはならない確定事項だ。
458 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/03(木) 21:25:31.87 ID:51IQKJzu0


生き延びている現実と勝利の余韻を噛みしめていた浜面の眼に、再び憎しみの色が表れる。

大切な恋人に直接手を下した人間を前にして、穏やかでいられないのは決して異常ではない。
むしろ、それが当たり前。そう主張するかのように、乱暴な足取りでスクラップ寸前の鉄塊に
近づいていく。上条も慌てて後に続いた。

「しぶてえ野郎だな……。どのツラ下げて生きてんだよ? あ?」

チンピラに相応しい啖呵の切り方だが、肩がぶつかったとか足を踏まれたからだとか、そんな
小事ではない。正式な男女関係に成り立てで、クズな自分に光を灯してくれた少女をこの男は
撃ったのだ。
既に取り返しなど、つくはずもなかった。

『ゴ……オオオ……ゴ……グゴ…』

「……憐れだな。テメェがやらかした罪と向き合うことさえできねえ程に壊れちまってる……。
 もういいからそのままでいろよ。今……楽にしてやるから」

憎悪に駆られるままに、浜面は先の拳銃を“ガラクタに埋もれた”シルバークロースに向ける。
直接裁ける機会が訪れたことに心底感謝しながら、銃身を固定させた。

だが……。


「!?」


それを阻む者が、たった一人だけ存在した。
459 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/03(木) 21:28:59.84 ID:51IQKJzu0


それは、先程まで肩を並べて共闘した少年に他ならない。


「……何、やってんだよ?」


引導を渡してやる寸での所で割り込んできた上条。
制止に立った上条は両手を開き、浜面の問いに問い返した。


「お前こそ、何しようってんだよ……。まさか殺すつもりか?」

「このまま放置しとくよりは、いっそ楽にしてやった方がまだタメになるだろ」

「それを俺やお前の一存で決めるのはおかしいだろ」

シルバークロースと浜面の間に立ち、食い下がってくる上条に苛立ちを覚える浜面。

「……退け。俺はそいつを殺す。どうしてもやらなきゃいけねぇんだよ……。頼む
 から邪魔しねえでくんねえか?」

「駄目だ」

即答で却下され、こめかみ辺りに力がこもる。

「どんな事情があるかは知らないけど、目の前で人が殺されるのを黙認するわけに
 はいかねぇ……」

正論だ。だがその正論が、今の浜面には酷く煩わしかった。
460 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/03(木) 21:30:34.73 ID:51IQKJzu0


「アンタ、馬鹿かよ? そいつだって俺たちを殺そうとしてきただろうが。これは
 立派な正当防衛なんだよ」

「そんな理屈で誤魔化すな。……殺す必要なんて、もう何処にもないだろ?」

「……何も知らねぇ癖に、んなこと勝手に決めてんじゃねえよ!!」

「もうコイツが俺たちに何もできねえのは、お前だって判るだろ!? これ以上は
 何の意味も為さねえって、本当はお前自身も思ってんじゃねえのか!!?」

「…………アンタに解ってもらおうなんて思わねえよ……。あぁあ、そうだよ!!
 コイツをぶっ殺してやりてえのは完全に俺の我が儘だよ!! そうでもしなきゃ
 俺の気が済まねえんだよ!! じゃあ訊くが、アンタは大事な“居場所”を奪った
 張本人を前にして、俺と同じ感情を抱かないって断言できるか!?」

「……っ!?」

「世間や神が許したとしても、俺は絶対に許さねぇ……許しちゃいけねぇ……っ。
 なんで……なんでこんなクズのために、滝壺が……滝壺がぁ……ッッ!!」

「お前………」

醜く、黒い。
偏にそう表現せざるを得なかった。
一体何が彼をここまで駆り立てているのか、上条には知る術もない。

「……っ…」

だが、何となく分かる。
おそらく彼にも身を危険に曝してまで守りたかったものがあり、それが叶わなかった
元凶が自分の真後ろで死に瀕していることが。
461 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/03(木) 21:32:24.99 ID:51IQKJzu0


確証はないが、確信は持てた。
同じ“失いたくない者がいる”人間として、浜面の葛藤は共感できるし理解もできる。

だからこそ賛同や肩担ぎなど絶対にできはしないし、そういった明確で重大な理由が
あるのなら、全力で止めてやらなければならない。
そう、上条が今している事は、間違った道へ進みかけた親友を正しき方向へ導いてや
る行為そのものだった。

しかし、そんな上条の心情など今の浜面にとって気にするような概要でもなく、頑な
な姿勢を崩さずに通告する。昂ぶりかけた感情は無理矢理に抑えたらしいが、する事
自体に変更の意思はないようだ。

「……できれば、もうアンタとは敵対したくねえんだ。そこを退いてくれ……。我が
 儘なのは承知してんだよ。けど、そんな御託で罷り通るような問題じゃねえんだ……。
 頼むから、退いてくれよォォ」

「……そうはいかねえ、って言ってるだろうが。どんな言葉や持論を並べた所でお前
 が譲りたくないのと同様に、人の命を奪って良い理屈だって存在しねえんだ。なんで
 そいつが分からないんだよ……! 傷つけられた人間が、お前に仇を討ってくれって
 頼んだのか? 俺の後ろで今にも死にそうなヤツをその人が見たら、息の根を止めさ
 せるのか? お前にとって大切な人間は、そんな薄情なヤツなのかよ?」

「黙れ!! テメェが滝壺の何を知ってんだよ!? 分かった風な事ばっか言ってん
 じゃねえっ!! 俺たちに何があったかなんて知りもしねえテメェが、全部分かって
 るみてえに語ってんじゃねえよ!!!」

「……その人の事は知らないけど、傷つけたヤツを真剣に憎むぐらいの存在なんだろ?
 そこまで想われてるヤツが薄情な人間だなんて、俺には思えない。……違うか?」

「………ッ!」
462 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/03(木) 21:34:12.05 ID:51IQKJzu0


「もしこの場にいたら、きっとお前を止めようとするんじゃねえのか? お前が手を
 染めちまうのを、決して望んだりはしないんじゃねえか!? もしそうなら……それ
 でもお前はコイツを殺すのか!? そいつが制止する手を振り払ってでも、引き金を
 弾いちまうのかよ!!?」


「………ちく……しょう……っ!!」


「だとしたら、俺が止めてやる。お前の大事にしていたモノの代わりに、俺がお前の
 目を覚まさせてやるよ」



「―――――ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!!!」



精一杯の絶叫と共に、手に握られていた凶器が火を噴いた。
先と同等、もしくはそれ以上の豪炎が上条の全身を包もうと畝る。が……。



「―――――ッッ……!!??」



グチャグチャに引ん曲がった浜面の形相が、驚愕の様に変わる。
『避けろ』という僅かな理性の元で放った爆炎が、掃除機にでも吸い込まれるように
消失していく。
463 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/03(木) 21:35:45.01 ID:51IQKJzu0


「は……………!!??」


浜面の耳に届いたのは、どこか神秘的な“掻き消し音”。
そして目に映ったのは、火傷一つ負わずに勢い良くコチラへ猛進してくる上条の姿。


「こいつは“引き止め賃”代わりだ。釣りまで取っとけ、馬鹿野郎が!!」


「グブォバッッ!!?」


思考が完全にストップしたまま上条の振り下ろした右拳を鼻面に受けた浜面は、物理
の法則に従う形で地面を転がった。



464 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/03(木) 21:37:12.15 ID:51IQKJzu0
ここまでです
では次回投下予定部分を(ry
465 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/03(木) 21:42:19.06 ID:51IQKJzu0


打ち止め「憎い。アナタが憎くて憎くて仕方ないの。…………だから、いい加減にミサカ達
      の世界から消えてくれないかなぁ? ってミサカはミサカはお願いしてみる」


番外個体「死ぬ前にさあ、せめてミサカたちの前で土下座でもしたらどう? ま、そんな
      んで水に流せるはずもないんだけどね」


ミサカ10032号「全く以って遺憾です。どうしてミサカ達の命を笑いながら奪った人間を、
        ミサカ達が支えなければならないのでしょう? 
        と、ミサカ10032号は不快感を露にしつつ嘆きます」


ミサカ13577号「『守る』だなんてどのクチが言うのでしょうか? あなたのような大量
        殺人鬼にそんなセリフを吐く資格が、一体どこにあるのでしょうか? 
        と、ミサカ13577号は当然の疑問を投げ掛けます」


ミサカ10039号「確かに救ったのはあなたに違いありませんが、だからといって当然の様
        に末妹や上位個体と馴れ親しむなど、同じクローンとして我慢なりません。
        と、ミサカ10039号は拒絶反応により吐き気を催します」


ミサカ19090号「……ミサカの先任、いわば『姉』……更に言うなら家族同然……。それ
        を何のためらいもなく虐殺したあなたを、ミサカ達は絶対に許さない……。
        と。ミサカ19090号は……あなたを呪い殺してやりたい気持ちでいっぱいです……」




一方通行「………う…………ァ………」



466 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/03(木) 21:43:53.86 ID:51IQKJzu0
以上です
ここまで見てくれた方、ありがとうございました
次回もよしなに
では失礼します
467 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/03(木) 21:54:33.44 ID:i0WBronFo
うわぁ…一方通行精神崩壊起こしそう…

今回も乙です!
468 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) :2011/11/03(木) 22:51:27.05 ID:U4epUhcSO
うわぁ……これきっつ
一方さん死んじゃうww
469 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(神奈川県) [sage saga]:2011/11/03(木) 23:49:32.25 ID:KGOBNQiR0
ひでぇww
ロシアの時の6倍のトラウマwww
470 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(愛知県) [sage]:2011/11/03(木) 23:55:40.00 ID:IY8givSto
残念だが当然
471 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/04(金) 00:04:51.81 ID:q0vXpqQTo
うわぁ…上条マジうぜぇ…
472 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/04(金) 00:14:42.20 ID:fNHSuYXT0
ここの>>1ドSやwwww
二人で一緒に逃げよう書いてた人も相当Sだったけどwwww




で、次回はまだですか?
473 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/04(金) 00:28:08.49 ID:vJK3SX/SO
洗脳されてるってわかっててもこれは超キツイww
…超お可哀相ォな第一位のアフターケアは私に超任せてください
474 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/05(土) 01:39:17.61 ID:ZV6PpKDf0
ていうかさ…
本来ならこれが当然ってか妹達の正しい対応なはずなのに精神崩壊とかおかしくね?
全部一方通行自身が蒔いた種じゃん
虐殺した後に遺族の罵倒で精神崩壊って、完全に自業自得じゃん
なのにトラウマとか……
475 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/05(土) 02:45:48.12 ID:Lnsm57hbo
自業自得でもなんでもトラウマはトラウマであると思うがな
黒歴史思い出してうわあああってあるだろ?アレの強化版みたいなもんじゃね?
理性で自業自得と納得しても感情?として精神崩壊したりするのは別におかしくない、
それに確かに出会いはそうで被害者側から見れば一方通行が罵られるのは当然のことなのかもしれないけどそれと罵られる一方通行の視点とはまた別だろう?
途中経過で彼女らは守りたかった存在として君臨していたわけだし、この身がどうなってもいいから助けようとしたりした相手に、今までなついてくれていた相手にいきなり罵られたらそれは苦しいだろうよ?
そりゃ打ち止めや妹達に出会った直後にこう罵られるなら仕方ないと納得できるだろうが割り切るには少し時間が経ちすぎたし、感情も愛情も育ちすぎた。そんななかで急な手のひら返しを見て冷静でいられるわけがないと思うんだがな。
またこれ以外の反応はなんか違うと思う。例えば妹達に罵られてどこ吹く風の飄々とした反応だったら?こいつ散々殺しておいてなんだって思うんじゃないだろうか。
喜べばいいのか?自虐的すぎて何悲劇のヒーロー気取ってんだってなって結局おなじ結論に至るとおもう。でもこれはこれでありえるな。と言うかこういう局面に達した時大体一方通行は笑い出すかビビりだすかの二択だよな。
笑い出すほうがベターでそれ以外認めないっていうならなかなかストイックだなお前。多少の性格改変くらいしかたないだろうに、作者の解釈と自分の解釈の違いってのもあるわけだしさ
それでもし泣いて謝り出したら、それこそ自業自得じゃねーかって話になる。怒り出したら逆切れしてんじゃねーよって話だし、
ここに来て急に冷静に分析を始めたらここまで来るのにカッカしてたのは何だったんだって話になって整合性がとれなくなるだろ。
結局反省してるってことをわかりやすく描写するならトラウマ扱いにしてビビらせるのがなかなか効果的だと思うがな
476 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/11/05(土) 02:57:43.64 ID:NaIDcFql0
>>1

上条のうざさが出てよかったぜ。
けどインデックスを殺されたら、上条って絶対ダークサイドに落ちるよな。
あと、変な所で改行されてて見にくいのと…や―は2個1セットだじぇ。


絶対能力進化実験って色々な意見があるけど。
戦闘力に差があったから虐殺っぽく見えるだけで、単なる双方同意の殺し合いなんだよな。
反射が使えない状況を仮定した実験もあったから、低確率とは言え一方通行も死ぬ危険があったし。
477 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/05(土) 11:44:19.39 ID:pj317UmTo
>>475
>黒歴史思い出してうわあああまで読んだ


きついものがあるよな
478 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(愛知県) [sage]:2011/11/05(土) 12:09:48.82 ID:f0hJzCLFo
>>476
そうだね一方通行は悪くないね聖者だね
479 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(沖縄県) [sage]:2011/11/05(土) 13:53:42.83 ID:7pDDhgWBo
>>478
精神病院行こうかww





480 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/11/05(土) 14:31:32.85 ID:dxPF8Ji+o
実験について少しでも妹達側を悪く言うと必ず沸くなこいつ
どうせ一方アンチなんだろうけど
481 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/05(土) 15:05:05.83 ID:/oWmSW0DO
すぐ一方さんは悪くない誰々の方が悪いとか言い出す一方厨もうぜえよ
482 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(関西地方) [sage]:2011/11/05(土) 15:46:25.92 ID:Ex/ZSNBRo
極悪人って言い切るのも単細胞だし、全く悪くないっていう信者もキモい
打ち止めみたいな考えだってあるし、美琴みたいな考えもある
片方に決めつけるほど馬鹿なことは無い
483 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(兵庫県) [sage]:2011/11/05(土) 18:05:46.83 ID:oanUIRPio
両極端に流れるのはどっちも馬鹿ってことだ。
484 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/05(土) 19:20:44.97 ID:21iilj2Uo
誰が悪い誰が悪くないとか誰のが罪が重い誰のは軽いとか
そんな簡単に割り切れるような事じゃないって話だよな
語れるのは当事者本人のみで、その本人だって語れるのは自分自身の事情以外を語ると途端に陳腐になる
485 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/05(土) 19:21:31.17 ID:21iilj2Uo
×自分自身の事情以外を語ると途端に陳腐になる
○自分自身の事情のみ。それ以外を語ると途端に陳腐になる
486 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/05(土) 20:46:43.97 ID:AknPPnNt0
美琴は自分で自身に科した罪を絶対に許さない
一方通行は己の犯した罪を絶対に赦さない

この二行に尽きると思う
まず自分の罪が在って、その先に相手がいるんじゃね
487 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(新潟・東北) [sage]:2011/11/05(土) 22:22:12.29 ID:hklesLvAO
一方通行

これがあなたの更生の第一歩だとは思いませんか?

なぁ〜んてね
488 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/06(日) 02:59:13.68 ID:ctZXZI3DO
ゲームの発言とかただのクズじゃん
489 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/11/06(日) 13:14:13.73 ID:lK6L3uEmo
クズのキチガイだったのが、いろいろ足掻き始めたから面白いんじゃない。
わかってねーな
490 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/06(日) 17:13:15.63 ID:ez2jouV50
妹達だって最初は自分のことを模造品だとか言ってたし
一方に向けて銃撃ったりしてたわけだよな

それが今更「実は怨んでます」なんて言われてものぅ…
一方が無罪だってことじゃ絶対無いけど。

まぁ、つまりあれだ。絹旗ちゃん可愛いよペロペロ
491 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/06(日) 20:05:44.77 ID:NuhpwJwEo
いや、だから妹達が言った事が陳腐なのは俺らが傍から見てるからなだけでその事はこの状況には全く関係ないでしょw
一方さんとしてそう言われる事が悪夢的である事に意味があるんだし
492 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/06(日) 21:54:43.32 ID:i5ePrSSS0
>>490
言ってるんじゃなくて言わされてるんだろ
一方通行にとっちゃ妹達の本音だろうが外部の作為だろうが当然の現実が突き出されてる事には変わりないんだろうけど
493 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(関東) [sage]:2011/11/06(日) 21:59:01.43 ID:dn88YgXAO
ま〜た自重出来ないお餓鬼様が俺様理論発表会してんの?
494 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/06(日) 22:22:59.82 ID:+05Nu8LSO
世界に散らばってる妹達がMNWで電気信号送って正気に戻してやればいいのでは……?
495 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(香川県) [sage]:2011/11/06(日) 22:25:22.46 ID:NvPKlKmzo
>>494
MNW通じて世界に散らばってる妹達を操ってたら・・・?
496 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/06(日) 22:28:22.92 ID:+05Nu8LSO
>>494
そうか、司令塔も手駒にされてるの忘れてたわ
すまん
497 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/06(日) 22:29:33.37 ID:+05Nu8LSO
安価ミスった
>>495
498 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/07(月) 01:10:24.51 ID:Gzn2zUID0
妹達を率いる食蜂か・・・
やっぱここの>>1は発想がすごいな
499 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(新潟・東北) [sage]:2011/11/07(月) 07:23:18.22 ID:7X1vOc5AO
ここの食蜂さん、非道な人間なのに輝いてるwww

聡明なお嬢様というよりは狡猾な捕食者であることが食蜂の本質だな、きっと
500 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 21:28:09.01 ID:4p6Qj0xB0
500get
続きが気になりすぎる
501 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/10(木) 03:18:50.13 ID:OHCLHVI00
成長した打ち止めが一方さんに毒を吐く未来系SSなら結構読んだけど…
これはこれで新鮮だな
502 : ◆jPpg5.obl6 [saga]:2011/11/11(金) 22:19:33.72 ID:HdMl5Hxn0
食蜂さんが完全にただの悪役っぽくなった件について
当初はあわきんみたいなイメージにしたかったんですが、どうにも上手くいきませんでした
本当に申し訳ない

投下します

503 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/11(金) 22:21:16.36 ID:HdMl5Hxn0


―――


四面楚歌。
総勢十人余りの妹達が食蜂操祈を護衛する。
奥で凛と佇む食蜂の姿は、まさに女王様と呼ぶに相応しかった。おそらく他人を楯と
して扱うことに手慣れているのだろう。
同顔の少女たち。その隙間から覗かせる厭らしい笑みは一方通行の癇に触れるに充分
な役割を果たしていた。

悪状況に輪をかけて前線に立つ、『妹達』の中でも異端の二名。
肉体の成長が特逸している『番外個体』と、それとは逆に幼い体つきの『打ち止め』。
両方とも一方通行にとっては己の命以上の存在である。
そういう意味では、最も敵に回したくない人物とも云えるのだ。

今、まさにその悪夢が現実のものとなっている。
逃げ出したい気持ちが全く無いかと問われれば、嘘になる。
彼女たちに敵視されることが、これほどまでに辛いとは予想していなかったのだから。


(どォする………?)


必死に思考を働かせる。
自分の意思とは無関係に踊らされている彼女たちに危害を加えるなど、以ての外だ。
とすれば、“原因”となっている彼女本体を直接叩く以外に選択肢はない。
504 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/11(金) 22:24:19.22 ID:HdMl5Hxn0


そう。『心理掌握』という超能力を解かせるためには、奥に引っ込んで見物と洒落込
んでいる食蜂自身に接触する必要がある。

しかし、無論そんなことは食蜂も分かっていた。
その対策として、『妹達』をバリケード役に起用したのだ。
一方通行が『妹達』の壁を壊すという強行に及ばない事実を想定して……。

(確かに“対俺用”として、あれ以上に完璧な手はねェ。多分どっから攻めよォとも、
 躊躇無くクローンを身代わりにできる様計算されているハズだ……)

(その上、番外個体と打ち止めを惜しげなく活用して俺の精神力を奪うやり口………。
 あァ、正解だわ。完璧すぎて白旗振りたくなるぐれェだ)

(……『心理掌握』だけを的確に狙うのは、幾ら俺でも至難の業すぎる……。やはり
 あのSPみてェにほぼ全部の軌道を塞いでやがる妹達をどォにかしねェと……)

どうやら電気信号に干渉してミサカ妹達を集めたわけではなさそうだ。
あくまでも近辺の研究施設にいた彼女達の精神に作為を加えて引っ張り出した。ただ
それだけの事らしい。
もっとも世界に散らばる他の妹達を呼び寄せる様、打ち止めに指令を送信させた所で
時間的な問題がある。
現状でこれ以上の増加が無い分、まだ救いが残っているようにも思える。

たとえば“十人”ではなく“二十人”だったら、僅かな希望すら潰えていただろう。
約十人が一人の護衛に付いている。一見すると手の出しようがない布陣に思えるが、
妹達一人一人の間には狭いとはいえ“隙間”がある。
能力使用時に音速を超えられる一方通行(自分)なら、その小さな狭間を縫って食蜂
本体に肉薄する技も可能である。
505 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/11(金) 22:27:10.22 ID:HdMl5Hxn0


(同じ手口がアイツに通用するとは思えねェ。……つまりチャンスは一度きり)

“通路”を目視で念入りに計る一方通行。
弾丸に勝る速度で通過する以上、派生した余波等で傍のクローン個体を傷つけてしま
う危険性も否めない。
角度、距離、速度、そしてタイミング。ありとあらゆる方向から計算し、遂に一箇所
だけだが突破口を見つけ出した。


(誰も反応できねェ内に『心理掌握』を人質にとる……。番外個体と打ち止めの爆弾
 を除去させるのが最優先だ。今度は安い脅しなンかじゃあ済ませねェ。俺が本気だと
 さえ判れば、命の危険を感じてまで反発するよォなヤツにも見えねェ。あァいう野郎
 はテメェの命を何よりも一番に扱うタイプだ)


予定はとりあえず決まった。
ともすれば、あとは実行に移すだけなのだが……。

食蜂がそれに対して先手を打つかのように動き出す。

『打開策なんてあると思ってるの? 仮にあったとして、そっちの好条件にコチラが
 合わせるとでも?』

食蜂の高飛車な目線は、そう述べていた。
そして、一方通行が狙い澄ませていた斜線上に影が二つ割り込む。
まるで何もかもが仕組まれ、見通されていたかのようなこの対応に動きかけた脚が停止
を余儀なくされた。
506 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/11(金) 22:33:54.44 ID:HdMl5Hxn0


逡巡する一方通行に、唐突で過酷な試練が音も無く馳せ参じる。

「よっと」

番外個体の腕の中から軽やかに降りた未成熟体。それが始まりの号令となる。
打ち止めは軽快な足取りで一方通行にゆっくりと歩み寄った。
そして、言葉を投げた。


「アナタ、まだ生きてたんだ? ってミサカはミサカは残念そうに呟いてみたり」


「ッッッ……!!」


鈍器で頭を殴られた。それに近い衝撃が一方通行を襲う。
少女の容姿、少女の声、惑わされてはいけないと思っても能動的に疼いてしまう。
こんな事で揺さぶられている自分を情けないと意識しつつも、少女へ向ける眼は悲哀
に満ちていた。
打ち止めの後ろで笑いを堪えている食蜂の姿など、もう目に入っていない。

「打ち止め……!」

「馴れ馴れしくミサカを呼ばないで! ってミサカはミサカは嫌悪感のあまり身震い
 してみたり……! 何なのアナタ? 何でまだ生きてんの? あれだけの事しといて、
 何ミサカ達の守護神ぶってんの? ヒーローにでもなったつもり?」

「……!」
507 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/11(金) 22:36:15.44 ID:HdMl5Hxn0


「ミサカ達がアナタなんかに心を許すとか、本気で思っちゃってるワケ? あははっ、
 なんだか可哀相に見えてきたかも。ってミサカはミサカは嘲笑うようにアナタを見下
 してみる」

「……………ッッ!」

耳を貸すな。
これは幻聴のようなものでしかない。
打ち止めの本心とは一切関係ない。

自らにそう言い聞かせる一方通行だったが、悲痛な色は何故か顔に表れたまま消えて
くれなかった。

あのガキの姿だから? あのガキの声だから?

精神力が激しく磨り減らされているのが判った。
ボディブローみたくじわじわと、抉り取るように。内部から身体を破壊されているか
のように。


「アナタに現実を教えてあげる。ってミサカはミサカは微笑みを浮かべてみる」


やめろ……。


「アナタはその手で一万人以上のミサカ達を―――――」


やめてくれ……。
オマエのクチから、その言葉だけは―――――
508 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/11(金) 22:37:18.46 ID:HdMl5Hxn0





          「殺した」







509 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/11(金) 22:40:48.86 ID:HdMl5Hxn0


――――――。




「憎い。アナタが憎くて憎くて仕方ないの。…………だから、いい加減にミサカ達
 の世界から消えてくれないかなぁ? ってミサカはミサカはお願いしてみる」



「…………………」


小さくて愛らしい容姿に似合わない冷酷な眼。吐き出される言葉。
胃の辺りがキリキリと痛み、胸を手で押さえたくなる。
空虚へと意識が飛ばされそうになる。


しかし、それでも打ちのめされるわけにはいかなかった。

こんなセリフを喋らせている人物が明らかとなっている以上、ここは堪えきらな
ければならない。
だが、それ以前に、

(その通りじゃねェか。打ち止めは何も間違った事を言ってねェ。……全て事実
 なンだよ……。受け入れるならまだしも、心に傷を作るなンざァお門違いも良い
 トコだ……)

正面を向いたまま、洗脳状態の打ち止めと番外個体を見つめる。
表情を変えない一方通行に、チッと舌打ちした打ち止め。
やがて、交代するように番外個体がザッ、と前に躍り出た。
510 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/11(金) 22:43:36.56 ID:HdMl5Hxn0


「やっほう。第一位」


どこか明るい感じだが、目は笑っていなかった。
そして、気を落ち着ける間も与えないとばかりに罵倒が始まる。


「死ぬ前にさあ、せめてミサカたちの前で土下座でもしたらどう? ま、そんな
 んで水に流せるはずもないんだけどね」

「そうだよ。許されるなんて到底有り得ない話だけど、クズでも人間なりの誠意
 ってヤツ? 最期にそれくらい見せて欲しいな。ってミサカはミサカは賛同して
 みたり」


二人の冷笑が痛い。
が、何も言い返せない。言い返す資格など、あるはずもない。
紛れも無い事実なのだから。

そして、外野の妹達も食蜂の傍から少しずつ離れだし、一方通行に非情な言葉を
投げつけ始める。


「全く以って遺憾です。どうしてミサカ達の命を笑いながら奪った人間をミサカ
 達が支えなければならないのでしょう? 
 と、ミサカ10032号は不快感を露にしつつ嘆きます」


「『守る』だなんてどのクチが言うのでしょうか? あなたのような大量殺人鬼
 にそんなセリフを吐く資格が、一体どこにあるのでしょうか? 
 と、ミサカ13577号は当然の疑問を投げ掛けます」
511 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/11(金) 22:46:59.99 ID:HdMl5Hxn0


「確かに救ったのはあなたに違いありませんが、だからといって当然の様に末妹
 や上位個体と親しむなど……同じクローンとして我慢なりません。
 と、ミサカ10039号は拒絶反応により吐き気を催します」


「……ミサカの先任、いわば『姉』……更に言うなら家族同然……。それを何の
 ためらいもなく虐殺したあなたを、ミサカ達は絶対に許さない……。
 と。ミサカ19090号は……あなたを呪い殺してやりたい気持ちでいっぱいです……」


報告業務みたいな罵声が、精神のゲージを刻々と削っていく。
その後も止まる所を知らない詰りと非難に、とうとう一方通行は頭を両手で押さ
えた。


「………う…………ァ………」


そして苦しみ、呻き、喘ぎだす。


「…うゥ……ァ…あ……ァ………ッッッ」


夢で何度か体験した地獄の映像が、現実の光景として現出している。
誰にも見せたくない“弱さ”が、表へ出んと押し寄せてくる。
どうしようもない。抵抗の術もない。
512 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/11(金) 22:49:53.32 ID:HdMl5Hxn0


“本能”にまでは能力の応用も適わない。
これは教科書を読む以前の基本的で根本的な定義である。
第一位である前に能力者、能力者である前に人間であり、未成熟な少年。
どれだけ頭脳明晰だろうと、強大な力を所持していようとも、人間である以上は
生態学の基づきに逆らえないのだ。
世界はその秩序を乱すことを許さず、逸した者の誕生を特殊な例外でもない限り
は認めようとしない。

経緯、過去の塗り替え、記憶の改竄が利かない一方通行を蝕むように、罪という
名のロープが巻きついた体を締め上げていく。

許されない過去の悪行を贖罪するために彼女達の未来を守るわけではない。
しかし、心のどこかで無意識にそんな決意を抱いていたのではないか? と問わ
れれば、否定のしようもない。

罪悪感や罪滅ぼしの意思も、少なからず持っていたのだ。
こうして苦渋に満ちた顔で唸っているのが、その証拠に繋がる。


そして、“トドメ”の一言が番外個体の口から発せられる。
一方通行のこれまで全てを否定する言葉と同様に希望すらも刈り取り、正気を
保つことすら無意味に思えてしまう、決定的な一言を。


一方通行がこれまで歩んできた人生全てが否定されるに等しい言葉を――――。

513 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/11(金) 22:54:09.92 ID:HdMl5Hxn0





「ミサカはあなたが大嫌い。ううん、好き嫌い以前に、そういう対象としても
 見たくない。わかる? 顔も見たくないんだよ。こうして同じ空間内にいる事
 さえ苦痛なんだよ? ………だから………お願いだから、もう死んで? 消え
 て無くなっちゃってよ。そのためなら、ミサカは何でもする。アナタがいない
 世界で暮らせるなら、それ以上の幸せはないんだから」




514 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/11(金) 22:57:37.59 ID:HdMl5Hxn0


「ァ……ッ―――――――」



それがスイッチとなった。
一方通行を支える二本の脚は自立性を失くし、糸の切れた人形のようにクシャリ
と折れ曲がる。

生きる意味、それさえも捨ててしまった第一位は埃舞う床に伏したまま、死んだ
ように動かなくなってしまった。

痙攣みたいな身体の震えも、いつの間にか停止していた。


「精神破壊完了(メンタル・デストラクション・コンプリリート)ね……。案外
 呆気なかったわ。せめてこういう事態を想定して、耳栓くらい持参してくるかと
 思ったケドぉ……考えすぎだったみたいねぇ」


悠長に傍観し、苦悩する第一位の姿を存分に堪能した食蜂操祈は満足そうに笑う。
ここまで工程通りに事が運ぶとは想定してなかったのか、少しだけ意外そうな顔
を窺わせる。

何はともあれ、もう目の前の男は心を奈落の底まで落とした廃人も同然だ。
学園都市の頂点という大層な肩書きも霞み、同情すらしたくなる程に憐れな様と
化した一方通行に、靴音を鳴らして近寄る食蜂。
515 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/11(金) 22:58:52.60 ID:HdMl5Hxn0


「だから言ったでしょう? 能力順位なんて、所詮は能力強度の値しか重視され
 ちゃいないんだからさぁ。純粋な能力の強さで敵わないんなら、他で補っちゃえ
 ば良いだけの話よぉ。今回は応用力と情報力が鍵を握ったって所かしらねぇ?」


食蜂の声が聴こえていないのは、無反応な様子から楽に推測できる。
もう誰の言葉も届かない状態、と言った具合か。
ここまで壊せばもう何の脅威も感じる必要はない。人間の精神状態に詳しい食蜂
はそう判断した。
だから不用意に一方通行へ接近しても問題はないのだが、念のため二人の妹達を
すぐ楯に回せる様に護衛させておく。

食蜂が一方通行へ近づいたのは、彼が唯一起こしている動作が気になったならだ。
うわ言のように何かをブツブツと呟いている。精神疾患者には良くある症状だが、
意味不明に聴こえても大半は自身の強い願望を囁いていたりするものである。

精神異常を起こした一方通行が何を口走っているのか、女子中学生特有の好奇心
が疼いて仕方が無かった。

「なぁに? ブッ壊れた頭で何を伝えようとしてるのか、是非聞かせて欲しいなぁ」

手を伸ばしても届かない程度にまで頭を垂らし、耳を傾ける。
すると、食蜂にとってはある意味で予想通りだった言葉が耳朶を揺らした。


「――――ォ……ろ……く、れ……」

「――――こ…ろ……て…くれ………」

「――――ころして……くれ……」
516 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/11(金) 22:59:52.54 ID:HdMl5Hxn0


「殺して、くれ………」



「……あはっ」


懇願に近い声に、表情筋が崩れそうになる。
緩めてしまえば大爆笑なのは必至だった。


「殺して……くれ…………せめて………あいつ…らの………手で………」


単語をただ漠然と読み上げているだけに聴こえた。
イントネーションも何もなく、夢遊病患者のように生気の抜けた声を垂れ流し続ける。
何度も同じ言葉を鬱らに語り、妹達の手で直接裁かれる道を望む一方通行。

いや、もはや“食蜂に頼んでいる”と表現するのも疑わしかった。
それほどまでに瞳は虚空のみを照らし、声も人に向けて発しているとは思えなかった
からだ。


「ふふふっ、いいわよぉ。最期くらいアンタの要望を通してあげる。ていうか、初め
 からそのつもりだったしね。私が直接葬ることに拘る理由もないし、この年から血の
 味なんて憶えたくないしぃ」


そう言って数歩下がり、リモコンを操作する。
まるでラジコンのような規則正しい動作で、下がった食蜂と入れ替え式に一方通行へと
進行する妹達、そして打ち止めと番外個体。
517 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/11(金) 23:01:05.80 ID:HdMl5Hxn0


卑下の意味を籠めた目線が、一斉に下へ向く。
当然、それは同情さえ誘う姿に成り果てた一方通行に対して向けられたものだった。

10032号、19090号が一方通行の腕をゴミでも拾うように掴み上げる。
顔は伏せられていて表情は窺えないが、されるがままに脱力しきった状態を見れば充分
だった。

畏怖と侮蔑、両方が混じった目で一方通行を睨みながら番外個体の背後へ隠れる打ち止め。
彼女のそんな挙動も、一方通行にとっては内臓が抉られる程に辛い。
元々見返りなどは求めていなかったというのに、何故拒絶されるとこんなにも胸に激痛が
走り、死にたい衝動に駆られるのだろうか……。一方通行自身もその心理については良く
理解できていない。

ただ、明らかな可能性を理論的に挙げられないわけではなかった。

そう、たとえば。
彼女達と過ごした緩く、温く、そして優しい時間に身体が慣れてしまったのだ。
だから無意識の内に確信していたのかもしれない。

“こいつらが自分を敵視するのは、絶対に有り得ない。そんな日は訪れない”と。

別に一方通行がそう望んでいたわけではない。
邪気の感じられない彼女達と接している内に生まれていた一つの結論。
そして、自身の臆病な側面が自己防衛のためにいつからか創り出していた慢心。

嘗て自分の犯した行為を棚に上げた“逃げ論”と指摘されれば、それまでだ。
しかし、過去がどうやっても塗り替えられない以上、そうやって精神を安定させなけれ
ば生きる気力を損なう時の対処法が塞がれる。
518 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/11(金) 23:02:33.79 ID:HdMl5Hxn0


こうして『ミサカ妹達』から直接の罵倒を受けることで、精神安定の役割を担っていた
ロープは全て切れてしまったのだ。
表面に出さずに抑えていた“本来の年相応の少年が持つ弱い内面”が、充満するように
身体を蝕んでいったのだ。

思考も運動も、今の一方通行には一切期待できない。
罪の重さと堕落に沈んだ“ただの心なき器”。そんな人形同然の男を相手に警戒心など、
抱く自体で馬鹿馬鹿しい話だ。

食蜂が番外個体に命ずる。


“彼の命を奪う適任者、それは貴女だ”―――――と。


放心状態にも見える、俯いた顔。
番外個体はそんな一方通行の下顎に指を掛け、クイッと上げて強制的に正面を向かせた。

予想通り、その眼は酷く濁っていた。
何もかもを否定するような、腐敗しきった瞳。
だらしなく半開きのままで固定された唇。

自分の存在さえも認めようとしない表情の一方通行と向き合い、番外個体は一瞬だけ眉
をピクリと動かした。
食蜂が気づかない角度を保ったまま意味深に顔を顰めたが、すぐに唇の端を歪め戻して
宣告する。


「じゃあ、もういいかな? あなたには姉さま方の強い要望で、少なくとも“一万人に
 比例した苦痛の時間を味合わせる”手筈になってるの。一瞬で楽になりたそうなトコ、
 申し訳ないけどねえ……」
519 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/11(金) 23:03:29.36 ID:HdMl5Hxn0


一方通行の項垂れた頭に手を置き、お別れを惜しむように一撫でする番外個体。
そして出力を言葉通りに少しずつ、少しずつ高めていく。
肉眼でも直接確認できる程の電子が番外個体に現れると同時、茫然自失状態の一方通行
の身体がビクンと震動した。


「ッ! ……がァ……っっ!!」


番外個体の手は頭に乗せられたまま。
そこを通じて流れた電流が、一方通行に裁きを与え始める。


「っぐ……ご、ァァァあああああああああああああああああああ!!!!!」


体内の許容量を大幅に超える電気を頭から全身に浴び、喉の奥からはち切れんばかりの
叫び声が溢れる。
番外個体が調整しているせいか、一方通行の叫びは途切れる所を知らなかった。本当に
じわじわと、長い時間を掛けて生命を削り取るつもりらしい。
飴玉を一気に噛み砕かず、溶けるまで舐め回すように。

打ち止めもその様子に御満悦そうな笑みを零した。まるで「いい気味だ」とでも言って
いるようにも見える。


「あぁァ………ぐ……ォオオおおおおァァァ!!!!!」


あまりの激痛に全身が麻痺して跳ね上がるも、いつの間にか食蜂の配下となった『妹達』
が一方通行の肢体を総勢で押さえつけているせいで、実刑を下している番外個体の妨害
には到らない。
520 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/11(金) 23:06:31.57 ID:HdMl5Hxn0


身体は床に寝かされ、馬乗りになった番外個体が醜悪な顔のまま裁きの放電を流し続け、
意思とは関係なくジタバタと暴れてしまう手足を各個体が強く押さえている。
打ち止めは食蜂と共に上位個体らしく見物し、時折「フフフ……」と子供らしくない声
を発していた。

正に、集団リンチという名の『公開処刑』だった。

それも刑は、これ以上に無い適任者が行っている。
全くの部外者でもない食蜂にとって、このイベントこそがある意味最大の見所だった。
ゴミを捨てるも同然に殺していた実験道具に、最終的には殺される。
普段の日常ではまず見られない光景な上に、『学園都市最強』が堕ちる決定的な瞬間に
こうして立ち会えているのだ。
歴史上の事件に遭遇するほど貴重な体験と言ってもおかしくはない。これで感極まらず
にいろと命じる方が酷である。


「あははははははは!! なによそれぇ? 本気ぃぃ? 本気で命捨てようってのぉ!?
 その“玩具”に過ぎない子たちになら、それも構わないってワケぇぇえ!?」

「わかんないなぁぁ……ワケわかんねぇぇ!! どうやったらそんな新境地が切り開か
 れるってのよぉ!? 甘んじて罪を償います、ってかぁ!? んな武士みたいな潔さは
 ナニよ??? 人の手で勝手に生み出されて、社会的な地位すらも満足に与えられない
 ただの“玩具”に、一体どうやったらそこまで執着できんのよぉぉぉ!!??」

「誰だって自分の命が一番大切でしょ? アンタだって例外じゃないはずよぉ? あの
 『実験』の時だってそう、アンタが他人を想いやるような人種じゃないってコトぐらい、
 とっくに知ってるのよコッチはぁぁ!! あっはぁははははははははははは!!!」
521 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/11(金) 23:09:52.48 ID:HdMl5Hxn0


「……ふふっ……まぁ、もう聴こえちゃいないだろうけどさ……。やっぱり驚きよねぇ。
 まさか本当に無抵抗を貫きやがるなんてさぁぁ……“学園都市最強の馬鹿”って称号の
 方がしっくりくるわね」


ギリギリまで粘っておいて、いざ自分の命が失われようとする時の人間がどんな行動に
出るのかを食蜂は知っている。知っているからこそ、一方通行の曲がり無き信念が本物
であった事に驚愕したし、戸惑いもした。

何より、理解ができなかった。
今までにここまで真っ直ぐな意思を持った人間が周りに居たかと問われれば、首を縦に
振れない。人間などはどれもこれも醜い欲望の塊で、自分に危険が及べば平気で他人を
見限ってしまうもの。なかには例外もいるが、そういった人間は逆に自分の強い願望を
表に出せずに四苦八苦し、結局周りに流されるままでしか生き残れないのだ。

一度決めた事を貫き通す。この難しさを食蜂は良く知っていた。
何しろ、これまで出会ってきた中で実行できそうな人間などは片手で収まる程度でしか
存在しなかったのだから。


「カッコつけてるだけの自己愛主義……。それが今じゃこのザマですかぁ? はははっ、
 笑えないジョークもいいトコだわねぇ。誰も寄せ付けない、寄せ付けたくない立位置を
 目指して落馬し、堕ちる所にまで堕ちた後に成長していく……。そして最後には全盛期
 以上の強さを取り戻す。……ふぁ〜あ、つくづく欠伸が出る人生よねぇ。アンタって……」


見下すような否定論も、感電に悶え続ける一方通行には届いていない。食蜂もそれを承知
で喋っていた。
よく映画などを一人で視聴している際に意味も無く口走ってしまう独り言などと一緒だ。
522 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/11(金) 23:10:48.04 ID:HdMl5Hxn0


調節された電磁量は一方通行だけを的確に痛め、各助手(妹達)に損害はみられない。
もっとも、彼女らも劣化版の模造品といえど『電気使い』の資質を持っている。
電気融合の要領で彼女たち自身も電磁波を発する事で避雷を可能としている節も生まれて
くるが、一方通行の絶望的な状況が好転する要素とは全く無関係だった。

このまま、意識を保ち続けたまま、身体じゅうを襲う痺れに苛まれたまま、最期を迎えて
しまうのか。

心のどこかで『それも悪くない。寧ろそれこそが本望であり本懐。そして今の自分に最も
適した断罪の手段ではないか』と、考えていたかもしれない。

意識外の願望だったが、今になって真実味が迫る。
これも『死』が目の前に近づいている予兆なのだろうか。
走馬灯みたいに、深層心理に宿る『本音』しか脳に浮かばない現象。
一方通行は正に今、その現象を体感しているのだろうか。
死ぬ間際の言葉で普段は絶対に言ってくれないようなセリフが多い理由とやらも、今なら
何となく分かる気がした。

523 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/11(金) 23:13:39.08 ID:HdMl5Hxn0


今回は、ここまでです
524 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/11(金) 23:15:16.36 ID:HdMl5Hxn0




食蜂「あーあー、駄目じゃないのぉ。意識は残しておきなさいってばぁ。第一位の断末魔よ?
   わかってる? そこいらのゴロツキなんかと違って、一生に一度聴けるか聴けないかの
   旋律(ハーモニー)なんだからさぁ……。もうちょっとぐらい堪能させなさいよぉ」




525 : ◆jPpg5.obl6 [saga]:2011/11/11(金) 23:18:08.66 ID:HdMl5Hxn0
書いてる自分が言うのも何ですが、惨い……
一応次回には決着つく予定です
お付き合い頂いた方、ありがとうございました
ではまた次回
526 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/11(金) 23:24:58.63 ID:vihqDp0Vo
乙!

一方通行にとっては正念場だな

それでもなお守ると誓うか否か…
527 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長崎県) [sage]:2011/11/11(金) 23:29:48.97 ID:8IE650UP0
おつ!!

正念場だなぁ
しっかし一方さんって上条に負けないぐらい酷い目に会うなww
出来れば一方さん自身の手で解決してほしいけど上条さんとかに介入されちゃうのかなぁ
528 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/11(金) 23:42:53.26 ID:LWFSHRySO
うわあ……ミサカクローンの集団リンチ……
ギャグ以外で見たの初めてだ……


あ、>>1乙です
次回も楽しみです
529 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/12(土) 02:07:58.54 ID:56jWntyn0
乙乙
もう原作でみさきち見なくても充分な気がしてきた
ってか一方さん弱すぎwwww
530 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(兵庫県) [sage]:2011/11/12(土) 02:34:53.15 ID:elvXpHG5o
一方さんが着々と逆転布石を打っているような気がするのは穿ちすぎか?
531 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/12(土) 22:15:30.72 ID:WuBbRttSO
これがロシアで大天使を相手にした一方通行かよ…
格下、それも女子中学生の術中に嵌まるなんて違和感もいいとこだ
532 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/12(土) 22:36:10.09 ID:oJG6dyOXo
精神操作系の敵キャラって「セコイ」感が強すぎるから大物ぶられても滑稽なんだよなあ
533 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(佐賀県) [sage]:2011/11/12(土) 23:58:48.26 ID:9SeWu4jAo
俺だったらとっくに暴走して黒翼で皆殺しにしてるなw
534 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/13(日) 00:48:03.61 ID:BCEokh5f0
そういう意味じゃ二次SSの一方さんって基本は優しいんだよな
完璧から程遠いってか人間心に塗れてるってか・・・

まぁだから面白いんですけどね
むしろそれこそが二次需要ってやつだと俺は思うわけよ
中には原作以上に鬼畜で残虐なのもあるし、そっちもそっちで二次需要が適合するんだが、
俺はここみたいな甘くて隙の多い一方さんの方が好きだわ
崩壊しすぎない範囲でキャラ設定変えてくれた方が読み心を擽る

535 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/13(日) 00:54:26.33 ID:QPlNwCM40
御坂妹の「何故支えなければ」のところで
打ち止めに演算補助切らせちゃえば一発アウトじゃねとか思ったが
別にそんなことはなかったぜ。
536 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/14(月) 11:22:29.64 ID:+t99AQwI0
このみさきちなら殴っても問題ないな
537 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関東) [sage]:2011/11/14(月) 14:16:41.61 ID:ajvH2b3AO
>>531
このSSの一方通行は誰が相手でもことごとく出し抜かれてフルボッコされるのがウリだから
538 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/14(月) 15:41:59.65 ID:FV55P4gGo
>>536
殴られたあとのみさきちを慰める役目はオレが承った
539 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/17(木) 12:50:33.81 ID:3rkQau/IO
あんまり追い詰めると覚醒するぞ一方さん
つーか黒翼時は異界の法則すら制御出来る訳だからみさきちが行ってる脳波干渉とか平然とカット出来るだろうし、黒翼あるいは白翼が出たらそれだけでゲームエンド、やっぱりチートスペックだわ一方さん……
540 : ◆jPpg5.obl6 [saga]:2011/11/17(木) 20:56:23.41 ID:AIUzUsmE0
新約三巻表紙公開!!
やべえ上条美琴ktkr!!
しかも一方さんと番外さんも同行……だと?

テンション上がりすぎて怒りが有頂天ですが、投下します
食蜂さんの回収班を志望されている方々はスタンバイよろしくです
541 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/17(木) 20:58:50.51 ID:AIUzUsmE0


「……ッ……」


自ら死を敵に切願し、承諾されてから一体どれ程の時間が経ったか。

聴いていて耳を塞ぎたくなるほどの絶叫が突如収まり、とうとう一方通行の全身から防衛
反応が消えた。

脱力し、首をカクンと落とし、声も漏らさずに痙攣しながら電気を浴び続ける一方通行に
食蜂は興が殺がれたような顔を作る。

「あーあー、駄目じゃないのぉ。意識は残しておきなさいってばぁ。第一位の断末魔よ?
 わかってる? そこいらのゴロツキなんかと違って、一生に一度聴けるか聴けないかの
 旋律(ハーモニー)なんだからさぁ……。もうちょっとぐらい堪能させなさいよぉ」

“実行役”のメインを張る番外個体に不満を漏らし、無防備に電撃地帯へ足を伸ばす食蜂。
だが心配は無用だった。

「ハイハーイ、“私には間違っても当てないようにねぇ”。感電とか、静電気レベルでも
 願い下げよぉ」

バチバチと飛び交う紫電が、まるで意思を持っているかのように食蜂を避ける。
されども“中断命令”は下されていない。
尚も番外個体を中心とした“復讐クローンたち”の人誅は尚もまだ継続されていた。

だが、対象が気絶してしまったのでは面白くない。
そこで自らが出張ったのだ。
542 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/17(木) 20:59:48.08 ID:AIUzUsmE0


能力で洗脳している“生人形”共に命令してもいいのだが、放電量の調整と兼用して操作
するよりはそっちの方が負担も少なくて済む。
複数を操るより各々に異なる“声”を伝える『同時命令』は勿論可能だが、これもこれで
結構面倒だったりするのだ。

「ほらぁ、起きなさいよぉ。もう御臨終ぅ? そんなあっさり逝かれちゃあ色々と困るん
 ですケドぉ〜? 主に私の気分的に」

コツリ、と爪先で頭を小突く。

「うふふっ、格下だからって軽く見た結果がこれよ。よぉく分かったでしょう? アンタ
 は様々な困難を乗り越えて強くなったつもりらしいケド、私みたいな第三者からすれば
 “弱点が増えて難易度が下がった”ようなもの。自分以外に感情移入しちゃった時点で、
 アンタは私の敵にすらならないのよぉ。……って、聞いてるぅ? それとも、もう天に
 召されてたりぃ? あはははっ」

横を向いたままダラリと下がっている上、前髪に隠れているせいで目元は窺えない。
意識が落ちているのは見れば判る。だからこうして目を醒まさせに出向いた。
“気絶”という名の逃亡を阻止するために――――。

「やれやれ、参ったわぁ。こんな簡単に終わりを迎えるなんてねぇ……あー、つまんない。
 このまま起きなかったら達成感通り越して興醒め…………?」

と、丁度その時。

「……んん……?」

ふと、妙な違和感のようなものを探知した。
何か、自分の構成したストーリーに異変が起きている。
余裕そうな微笑みを崩して疑問点を模索する食蜂だったが、すぐにその正体を知った。
543 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/17(木) 21:01:34.26 ID:AIUzUsmE0


「――ッ……!?」


半開きだった一方通行の口角が、斜めに吊り上がっている。
この状況で、匙加減で何時でも死をプレゼントできる状況で、



この男は、笑っている???



目と鼻の先にある奇異を直視した瞬間、食蜂は殆ど反射的にそこから飛び退いた。
再び距離をとり、不気味な物でも発見したような目線を一方通行に遣る。


(……なによぉ、ビックリさせちゃってぇ……。ひょっとして、アレ? 人って死ぬ前に
 至福の笑みを浮かべるとかって良く聞くケド……、そういうヤツ?)


まだ動悸の収まらない胸を押さえながらも自身を安心させようとする。
だがそんな縋る気持ちで用意した仮定も、あっさりと裏切られてしまう。
その事実に気づいたのは早かった。
544 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/17(木) 21:03:40.31 ID:AIUzUsmE0


(な……!? え、ちょっ……なによコレ!? どういう……っ!?)


信じられない現実に直面した。
何かの間違いに決まっている、そう思いたい一心で電撃少女たちを凝視する。


『妹達』、そして番外個体を纏う紫電は収まっていない。
尚も夥しい電圧が仰向けで押さえられた一方通行を情け容赦なく虐げている、様にしか
見えなかった。


彼女達には現在、侮蔑と憎悪の感情を埋め込ませて一方通行を見下ろしている筈だ。


「はぁ……!? ちょっと…………」



その氷のような冷たい眼差しが、“何故自分に対して向けられている”???



伝達の変更は行っていないし、演算に支障はなく、『心理掌握』の代表的な能力である
『精神操作(マインドコントロール)』も間違いなく発動している筈だ。
たまらず手に持つ“リモコン”を眼前に翳し、修正を試みる。
手つきが自然と乱暴になり、心に忙しさが生まれ始めていた。
545 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/17(木) 21:07:04.03 ID:AIUzUsmE0


「何やってんのよアンタたち……? その眼を向ける相手が違うでしょお!? まるで
 私がアンタたちの敵みたいな…………ちょっとぉぉ、やめなさいよぉぉ……。そんな眼で
 私を見てんじゃないわよぉぉおおおおおおおおお!!!!!」


誰も首を動かさず、食蜂をじっと睨んだまま一方通行に電気を送り続けている。
そんな不可解で不気味な光景に泰然自若が売りの自我は酷く混乱していた。
憤りが膨れ上がり、遂には“手駒”に向かって怒鳴り散らす始末である。


「何なのよコレぇ………一体全体、何がどうなってんのよぉぉぉ……何で私の意思に従わない
 ワケぇぇ!???」


一人呻くように呟く食蜂。その疑問符に答えを贈呈するように、為すがままだった“標的”が
斜め下に俯かせていた顔をグルリと上げた。


「っっ!?」


首を正面に戻し、今まで前髪に隠れていた一方通行の目元が露となる。
その瞳は全ての“負”を薙ぎ払うように紅く輝いていた。
先ほどまでの“心が抜け落ちた状態”が嘘みたいに――――。


――――嘘……?

546 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/17(木) 21:08:56.26 ID:AIUzUsmE0


「まさか……そんな……」


食蜂の戦慄に満ちた声の直後、一方通行は静かな動作で首だけを起こした。
そのまま約数メートル前方で固まっている食蜂を見つめ、口端を僅かに上へ歪ませてから
告げた。



「オイ、もォいい。……いや、この場合はメガホンでも取って“カーット”っつった方が
 良いのか?」



「!!!??」



幽霊でも見たかのような表情を浮かべている食蜂を他所に、事態は緩み無しに進行する。
夥しく流れていた稲妻は消え、一方通行を拘束していた『妹達』がゆっくりと彼から手を
放す。

唖然、呆然としたまま直立不動の食蜂に真横から駄目押しの無邪気な声が飛ぶ。


「何だか状況が今ひとつ掴めてないんだけど、あなたの陰謀もこれまでなのだ!! って
 ミサカはミサカは悪役と思しきお姉さんにビシッと宣言してみたり!!」


「……は???」
547 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/17(木) 21:10:38.56 ID:AIUzUsmE0


未だに何が起きているのか理解できず、目をパチクリさせるしかない。
そんな食蜂に同情するような視線が注がれた。主に一方通行から。


「……オイ、大事な場面をちゃっかり横取りしてンじゃねェよ。このクソガキが」

「えへへー♪ ってミサカはミサカはペロッと舌を出して可愛らしく装ってみたり」

「チッ……ハイハイ、そォだな。オマエにはやっぱそっちの方が似合ってンよ……」



「………………わけがわからないわ」



素でそう漏らすしかなかった。
このまま時間を掛けて一方通行を蹂躙し、最終的には殺す。
その結末しか頭になかったから。自身の能力を心の底から信用しきっていたから。

彼女が唯一信頼を寄せている『心理掌握』。

失敗などは在り得ないと確信していた。慢心でも驕りでもなく、これまでの過程で築き
上げてきた実績。『超能力者』という限られた人間しか立てない領域に到達した意地。
『自分だけの現実』に、一体何の弊害が生じたというのか?
食蜂はただ答えを求めた。
頭で考えても解らないし、この逆転した状況を素直に受け止められるわけもない。
548 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/17(木) 21:12:00.43 ID:AIUzUsmE0


そんな食蜂を見て、一方通行は少しだけ逡巡した。
憐れむような表情で起き上がり、まずは身体に付いた汚れを弾き飛ばす。
すぐに敵対していた筈の『妹達』が一方通行を取り巻き、あたかも味方のように食蜂を
睨んでいる。

一番近くにいた番外個体が一方通行の袖を握って、不安げに寄り添う。その様子からも
判る通り、食蜂の『洗脳』は完全に解除されているようだ。

「アクセラレータ……」

「後でな」

説明を求めるよう目で訴える番外個体の肩にポンと手を乗せた。まるで、彼女が今抱え
ている不安を一抹も残さず取り除くように優しく。
それだけで、番外個体には充分伝わったらしい。一方通行の横顔に向けた微笑みがそれ
を立証していた。

「……不思議現象過ぎて何が何やら……。アンタたち、これは一体どういうつもりぃ?」


「どういうつもりも何も、ミサカ一同は“上位個体命令”に従ったまでです。
 とミサカ10032号は返答します。……っていうか、あんた誰?」

「ミサカの行動、思考、ネットワークの権限は上位個体、通称『最終信号』が握ってい
 ます。なので上位個体が反旗を翻せば、ミサカもそれに従事せざるを得ません。
 とミサカ10039号は懇切丁寧に解説します。……で、あなたはどこのどなた?」
549 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/17(木) 21:13:40.10 ID:AIUzUsmE0


「あの……最終信号からの強制通信指令で、ミサカたちの意識も記憶も正直曖昧で……
 何がどうなっているのか上手く説明が……。
 とミサカ19090号は……うぅ」


「……チッ!」


要領が全く得られず、焦燥感だけが募った。
口々に喋り続ける妹達を尻目に、一方通行がうんざりした調子で口を開く。

「なァ、あンまりにも憐れだからよォ……せめて何処に穴があったかぐらいは教えて
 やろォか?」

「“アナ”、ですってぇぇ……?」

「あァ……小難しい話一切抜きの、な」

「……???」

「俺を虐げるのにオマエが番外個体を使ってくる事ぐらい、ハナから読めてンだよ」

「――!? な、なん……」

「番外個体を“俺に触らせた”のが一番の敗因だったなァ? 俺には『精神操作』なン
 ていうくだらねェ小細工は使用できねェが、他人の電気信号や血管、更には脳の働き
 まで触れただけで弄れるンだぜ? オマエの『洗脳』が俺には通じない理由の一つが
 それだ。“自分より強度の高い外部干渉”を阻害するってのは、流石に無理だったか?」
550 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/17(木) 21:14:37.25 ID:AIUzUsmE0


「……ってコトは…………番外個体がアンタに触れた時点で!?」


「ま、そういうこと。気づいたら“あなた”が今にも自殺しそうな顔でミサカを見てた
 から、一瞬『悪い夢でも見てるのかな?』って思ったよ」


“操り人形”という呪縛から解放された番外個体は飄々と語る。
しかし、食蜂の中で不明点はまだ尽きない。


「嘘よ……確かにアンタが体内の異常信号をどうにかした所で、コッチには『最終信号』
 がいるのよぉ!? この子がミサカシリーズの指揮権を握ってる存在だってコトは調査
 済み……! 常に『上位命令』ってヤツを発信させていた……ッ!! なのにどうして
 番外個体の記憶回路は改竄されないのよ!? アンタから手を放した時点で『上位命令』
 が上書きされるはずでしょうがァァあああ!!」


ヒステリックな喚き声に鬱陶しさを感じたのか、耳を穿る一方通行。


「やれやれ、肝心な情報を入手できていなかったらしいなァ……。そンなオマエに正解
 をくれてやるよ。番外個体は“ある事情”の所為で電気信号を他のクローンと共有でき
 ない状態なンだよ。ネットワークの接続や情報のリークも一切不可能になっちまってる
 ってワケだ。つまり、クソガキからの『上位命令』なンて拾集できるはずがねェンだよ」


「な……なによそれぇ……。それじゃあ番外個体は“ミサカシリーズの孤立個体”って
 事!? でも、それっておかしいわよねぇ!? だったら最終信号や他の妹達の洗脳が
 解除されてるのはどういう理屈よぉぉ!! ええ!?」
551 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/17(木) 21:16:35.49 ID:AIUzUsmE0


「番外個体が自我を取り戻してくれりゃあ、後は『電撃使い』としての連鎖反応を利用
 するだけでイイ。『欠陥電気《レディオノイズ》』の中でも、コイツは出力が他に比べて
 高いからなァ。態々ミサカネットワークなンざ介さなくても、自律神経に少し刺激を加え
 てやるだけで脳を正常にできる。隔離されたとはいえ、基本的な構造は同一されてるはず
 だからな……。ンで、その原理を用いてクソガキを正常に戻したらもォ説明は不要だろ?」


「……聞いてないわよぉぉ……。番外個体に、そんな特質があったなんてぇぇぇ……ッッ」


「まァ、調べる術があるとすりゃあオマエ自身がネットワーク内に介入するぐれェしか
 ねェわけだからァ? ンな落ち込むよォな事じゃねェよ。『神の目』でも持ってるわけ
 じゃあるめェし、完璧な情報収集なンて新参者のオマエにゃ荷が重すぎたンだ」


「ぐ……うぅ……全部……全部演技だったっていうのぉ……!? あの苦悶も、希望を捨
 てた眼も……何もかも……?」


「クソガキの信号が届いたのは執行の最中だったが、生憎俺の能力(ベクトル操作)は
 “触れてさえいれば”都合が付くンだよ。俺の身体に直接電流を流し込む処刑方を選ンだ
 のは失敗だったなァ。演技とすら呼べねェよォな三文芝居でも、オマエを欺くには充分だ
 ったみたいで安心したぜ。オマエ、内面を能力で探ることに慣れ過ぎた所為かは知らねェ
 が、外面から真意を見抜くことに関しては平均以下だな。あンなモンですンなり騙される
 とは思ってなかったからよォ、内心は相当ヒヤヒヤしてたンだぜェ?」


「ぎ……ぃ……!!」


唇を噛み、怒りの感情を包み隠そうともせずに眼光を放つ食蜂。
化けの皮などとっくに剥がれ、少女とはかけ離れた本性をむき出しのままに喚く。


「ふ……ふ……ッ――――」

552 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/17(木) 21:17:40.71 ID:AIUzUsmE0





  「――――ふざけんじゃねえよゴミ共がァァあああああああああああ!!!!!」




553 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/17(木) 21:19:33.69 ID:AIUzUsmE0


打算に長けた微笑みも、余裕に満ちた気品も何もない。
残っていたのは醜い本性だけだった。


「アンタら如きに私の書いた“シナリオ”が崩される、だぁぁ!? そんなの納得で
 きるかぁぁぁ!!」

「“如き”たァ大きく出るじゃねェか。オマエの目の前にいる俺は、本来オマエ程度
 じゃどォ足掻いたトコで遠く及ばねェ存在なンだぜ? 寧ろ善戦した方だと俺は思う
 けどなァ?」

「んな肩書き知ったこったないのよぉぉ!! たとえアンタが学園都市最強の能力者
 だろうと、優れた知性を兼ね揃えてようと、私の応用力にアンタの適応力が追いつか
 れるなんて事ぉ……あっちゃならねぇんだよおおおおお!!!」

プライドがズタズタにされた上に、予定通りの結末が訪れない。
こんな経験を今までに味わったことがない彼女の自制心は、既に崩壊の末路を歩み出し
ていた。
そして、先とはまるで逆の立場から一方通行は駄目押しを打つ。


「“爆弾をコイツらの体内に仕掛けた”とか抜かしてやがったが、ブラフだったンだな。
 そンなモンがあったら体外放電と同時に作動してるだろォし、身体に触れた時に異物は
 探知しなかった……。大方、オマエ自身に手を出させねェための予防線だったンだろォが――」


「――そォと判れば俺が躊躇する理由も、もォ見つからねェよなァ?」


ニヤリ、と白い悪魔が笑う。
攻撃的で獰猛で、視界に入れたものを全部食い尽くしてしまいそうな形相。
554 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/17(木) 21:21:03.70 ID:AIUzUsmE0

「ひぃ……ッ!!」

その笑みに食蜂の顔が強張り、引き攣り、そして怯える。
自分の犯した行為がどれだけ愚鈍で無謀で自殺に等しい度合いだったか、気づかないほど
食蜂も馬鹿ではなかった。

すぐ前方に佇んでいるのは、紛れも無く“最強”。
“能力開発”を受けている学生、数は軽く見積もって二百万人以上。
その中で最上位に登録されている『化物』。

「うそ……い、いやよこんなのぉ…………いやぁぁ」

渾身の策が不発に終わった今、“たかが第五位”の食蜂操祈は途轍もない恐怖に足を竦ま
せることしかできない。

しかし、まだ……。

そんな絶対絶命といえる状況の中で、生き残れるための“希望”がまだ転がっていた。
逡巡している余裕もなく、食蜂はその“希望の藁”に手を伸ばし掴む。

それは彼女にとって、あまりに酷く惨めで、最低の手段であった。




「――――こ、来ないで!!」

555 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/17(木) 21:24:19.82 ID:AIUzUsmE0


「ッ!?」


すぐ隣りに、本当にすぐ隣りに打ち止めがいたのは幸いだった。
食蜂は心底そう実感しながら、護身用に所持していた果物ナイフを鞄から素早く取り出し、
切っ先を幼い少女へ突きつけた。

「あう……、ってミサカはミサカは……」

「動くんじゃないわよぉ!? そんな小せぇ姿形(ナリ)の内から大流血体験したいのぉ?
 下手すりゃ急所に刺さって即死も有り得るのよぉ? ……ふふふ、ふふふふふふ」

「チッ……」

「こうなったらもう過程なんか拘ってらんないわね! 要はアンタがこいつら“人工生命”
 を救えるか救えないかで勝敗が決まるんでしょう? だったら最終的にこのガキだけでも
 始末すれば……アンタの負けってコトになるんじゃなぁぁい?」

狂った笑顔で一方通行を眺めながら、打ち止めの首元に刃を当てる。
まるで蛇に睨まれたように硬直した打ち止めの表情は、一瞬で恐怖に染まっていた。
しかし、そんな畏怖に包まれた顔すら今の食蜂にとっては生死を分ける“最後の希望”で
ある。

「第一位ぃぃ……。こんな未完成以前のガキでも、アンタにとっちゃ生命線なのよねぇ?
 さっさと私から引き離しとけば良かったものを……詰めを誤ったのはどぉやらアンタの方
 だったみたいねぇ!? ひゃはははははぁぁ!!」

「…………」

「こんな屈辱まで味合わせてくれてさぁ……簡単には死なせてやらないから、今から凍え
 た小動物みたいにガクガク震えて、私の機嫌を少しでも取り繕えるように精々最強の頭脳
 忙しく働かせるのねぇ!」
556 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/17(木) 21:26:08.99 ID:AIUzUsmE0


「…………」

「……ふん、まさかの形勢逆転に状況が認識できないってトコかしら? あは、やっぱり
 アンタは“そいつら”と関係を持った段階で脆くなってたのよぉ! 嘗ては自分さえ守れ
 てりゃ敵なんて何処にもいなかった。自分以外に気を配る必要が無かった頃のアンタなら、
 “最強”の称号を保持できていたのにねぇ……」

「…………」

「それに比べて今のアンタときたら……無様な甘ちゃんに成り下がったモンよ。ガキ一匹
 人質に取っちまえば簡単に身動きを封じられる。……容易いなんてレベルじゃないわねぇ。
 ある意味じゃ良い方向へ成長したんだろうケド、そいつは“表の世界”でしか通用しない。
 こういう場面じゃ足枷にしかならないの。“情”だの“責任感”だの、んな面倒臭い事象
 は他人からすりゃ“優位に傾かせるための材料”でしかないのよぉ!!」

「…………はァ」

「ふふ、平然を装ってるつもり? 悪いケドそんな演技はお見通しよぉ。アンタの心拍数
 が尋常じゃないコトぐらい、わかってるんだからぁ。……現に、打開策を見出すのに必死
 で声も出せないくせに……ふふふ……。私の改竄力と頭の回転力ならどうとでも軌道修正
 できるんだから、いっそのこともう抵抗なんて止めて潔く死を受け入れちゃいなさいよぉ☆」



「…………イヤ、ここまで惨めだとよォ……流石に何て言葉ァ掛けてやりゃ良いのかすら
 も、分かンねェわ」



「な……ど、どういうコトよッッ!!?」


557 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/17(木) 21:29:02.91 ID:AIUzUsmE0


「そのまンまの意味として受け取ってくれて、問題ねェよ」


「ッ……!!」


どこまでも、どこまでもこの男は自分の希望に沿ってくれない。
食蜂の眉間や鼻筋に更なる歪が生じる。
それは、思い通りに物事が進まなくて憤慨する人間の顔と非常に酷似していた。


「……私? 私が、惨め……だぁぁ!?!?」


「あァ、心から同情したくなっちまう。そンな強盗犯や誘拐犯が追い詰められた時にやる
 よォな……如何にも小者臭せェ道しか残されてねェオマエに、俺は何て言ってやれば良い?
 ドラマみたいに熱い説得で更生を訴える刑事さンでも演じてやりゃ良いのか?」


「アンタ……マジで状況が分かってないのかしらぁぁ? それともただの脅しだとでもぉ?
 私をそこいらの無能力者共(ゴミ)と同等に扱ってんじゃないわよぉコラ。……今すぐこの
 ガキの首、バッサリ切り落としてやろうかぁ? ん? ほらほらぁ!」


つんつん、と切っ先で打ち止めの首を突付くが、一方通行の憐れむような視線は消えない。
そのことが遂に食蜂の逆鱗に触れた。


「…………チッ、だからぁ…………んな眼でぇぇぇ――――」


「――――私を見てんじゃないってのよォォおおおおおおお!!! 馬鹿にしてるワケぇ!?
    アンタら私をナメすぎてんじゃないのぉ!? そりゃ表舞台じゃ第三位を目立たせて
    るケドねぇ! 実質、常盤台の裏を仕切ってんのは他でもないこの私なのよぉ!!」
558 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/17(木) 21:31:21.28 ID:AIUzUsmE0


「丸くなった元最強や、ましてやアンタたち人形風情が楯突いて良い人間じゃないのよぉ!!
 私を誰だと思――――ッ!?」


激昂が途中で寸断された。
目をギュッと瞑った打ち止めへ振り下ろされた刃物は、右手ごとプラズマのような物質に撃ち
抜かれ、衝動でナイフを落とした食蜂はそのまま右手を押さえて悶絶し絶叫した。

「あ、あァァああああああああぁぁぁああああああああッッッ!!!!?」

ごろごろと地べたを這うように転がり、被雷した右手を大切な宝物を庇うように覆い、息荒く
激痛にもがく。その姿に哀憫だけでは足らず、庇護欲すらも抱いてしまいそうだった。

「電気の流れよりも速くクソガキを刺す……。可能か不可能かの区別もできねェ程、頭が回ら
 なくなっちまったらしいな。基本的な物理法則すらブッ飛ンでるなら、もォこれ以上は時間の
 無駄でしかねェ」

「ぐぅぅ……ぉ……あぁぁ!! 痛い……痛いぃぃぃ!!」

ひとしきりのた打ち回った後、よろよろと右手を左手で摩りながら立ち上がる食蜂。
高電圧を受けた右手を伝って全神経が麻痺しているのか、足下はおぼつかない。

「こ、のぉぉ……人為的に生み出された第三位の模造品がぁぁ!! 端金程度の価値しかない
 分際でぇ……この私に刃向かってんじゃないわよぉぉ!!!」

電撃を放った番外個体に凄まじい殺気を送る。
が、一方通行と番外個体はそんな食蜂を眼中に入れずに言葉を交わした。
559 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/17(木) 21:32:41.53 ID:AIUzUsmE0
蜂を眼中に入れずに言葉を交わした。

「悪りィな、手間掛けさせてよォ」

「ミサカが出来る子だって、ようやく分かったでしょ?」

「あァ、見くびってたわ……。まるで俺の考えが全部読めてるみてェに動いてくれたおかげで、
 思ったより呆気ない幕切れになった」

「ふふーん、伊達にあなたのパートナー務めてないよ。ミサカの知能はそこまで高くないけど、
 こういう時、あなたならミサカにどうして欲しいかぐらいは察知できるし」

「……助かった。今回ばかりはな」

「一か八かの賭けだったの? おいおい、ちっとはミサカを信用しなって。あなたを苦しめる
 ヤツはミサカの敵でもあるんだから、下手を打つワケないじゃん。……ま、そういう事だから
 最終信号! いつまでもアタフタしてないでコッチに来いっての! また人質に取られたいの?」

「う、あわわわ! ってミサカはミサカは迅速にエスケープしつつアナタに駆け寄ってみたり!」

怒りで視野が狭くなった食蜂の横を掻い潜り、そのまま一方通行の胸へ飛び込む打ち止め。

「うわああん! 恐かったよー! ってミサカはミサカはアナタとまた無事に会えて嬉し泣き
 してみる! ぐすっ……」

「あァ……オマエまで巻き込ンじまって本当にすまなかった。だが、もォ大丈夫だ」

「うぅぅ……ひぐっ」

腕の中で泣きじゃくる打ち止めを一方通行は優しく撫で、番外個体に預けた。

「ガキを頼ンだ」

「あいよ」
560 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/17(木) 21:33:44.25 ID:AIUzUsmE0


「ぐすっ……番外個体ぉぉ」

「あーもう、ほらほら、涙と鼻水拭いて。後はミサカたちのヒーローがやってくれるから、
 あなたは何も心配しなくていいの」


「……さァて、『心理掌握』」


母親のような番外個体と、事の成り行きを黙して見守る『妹達』を背にし、第一位と第五位は
対峙する。


「オマエの一人遊びもこれまでだ。……オマエは、手を出しちゃいけねェモンに手を出しちま
 った。いくら俺が前より優しくなったっつっても、許してやるわけにはいかねェ……」


「……ッ」


「あながち、オマエが言ってた事も間違いじゃねェな。確かに俺には両手で掬っても掬いきれ
 ねェ程の命を勝手に背負ってる……。そいつはオマエらからすりゃあ立派な弱点にしか見えねェ
 だろォよ。……だがな」


「……?」


「同時に、オマエらの命を奪いかねない“一番危険な爆弾”でもあるンだよ。つまり、相応の
 リスクは覚悟してから臨め、ってなァ!!」

561 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/17(木) 21:34:48.13 ID:AIUzUsmE0


風を切るような轟音が倉庫内に響き渡り、身の危険を直感した食蜂は再び打ち止めを洗脳しよ
うと“演算補助機能付きリモコン”を手に持つ。
先程までとは違い、冷静な思考力を戻していた食蜂の行動は速い。

確かに速いのだが……。


「きゃ……ッ!!?」


相手はケタ外れの演算力と超能力を持つ一方通行だ。
当然、この機転も一方通行はあっさりと予測し、食蜂の左手を華奢な指で掴む。

左手の感覚が無くなった。
何を持っているのかも識別できない左手から、命綱とも呼べる器具が滑り落ちる。

カラン、と地面から乾いた金属音がした瞬間、すぐ目の前に一方通行の白い頭があった。
次に見えたのは、肉食動物が獲物を仕留める時に放つものと似た凶暴な眼差し。
紅く光った瞳が食蜂の背筋を凍りつかせ、戦慄を覚えさせる。


「少ォォし、悪戯が度を超えちまったなァ? 第五位」


「ひぃ……ぃ、や……いやァァああああああああああ!!!」


これが第一位の恐怖。これが学園都市最強と謳われる所以。
自分も同ランクに属する超能力者だというのに、それでもこの男とは圧倒的で理不尽な力の差が
設けられている。
562 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/17(木) 21:37:49.32 ID:AIUzUsmE0


押せば自分も死ぬ。それを知っていながら面白半分でスイッチを押してしまった。
至近距離で一方通行を見据えながら抱いた感情は、『恐怖』と『後悔』だった。

だがしかし、気づく頃には全てが遅かった。何もかもが手遅れの段階だった。
引き返しも取り返しも不可。この先を辿る道は文字通りの『一方通行』。

これから食蜂操祈を待ち受ける運命は、『絶対の死』。
一方通行という怪物に無謀な挑戦を仕掛けてしまった。その愚行の代償である。

顔中からの至る箇所から液体を漏らす憐れな少女に、鉄槌が迫る。



「っつーワケで、悪戯好きなお嬢様に今から御仕置きだ。コッチもちっとばかし度を越えさせて
 もらうが、お互い様って事で我慢しやがれェェ!!」


563 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/17(木) 21:40:54.61 ID:AIUzUsmE0



「グポ……ァ――ッッ!!!?」



グッと堅く握られた右の拳が視界一杯になった途端、グニャリと世界が歪んだ。
一息の間に高速で鼻から下の顔面に拳を打ち込まれた食蜂は、もの凄い勢いで水平に吹っ飛ばされ、
倉庫の隅で山積みになっていた木箱に背中から激突した。

ガラガラ!! と音を立てて崩れていく木箱の山。


「……ぐふっ……ぁ……ぁ……ッ」


その上で横たわったまま顔を鼻血と口内出血で真っ赤に染めた食蜂は痛みに呻き、ニ〜三回痙攣し
た後ガクッと失神した。


「……まァ、やり方次第で番狂わせも可能っつう点については否定しねェけどよォ」


振り切った拳を納めて木片に沈んだ第五位を一瞥し、一方通行は後味の悪そうな表情で囁く。


「オマエの場合は最も洒落にならねェンだよ。これに懲りたら、無闇に人の内情を弄ぶ真似は今後
 控えやがれ。……このアバズレが」


そう残して背を向ける。
彼が歩く先には何よりも替え難い少女達が待っていた。

564 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/17(木) 21:42:28.17 ID:AIUzUsmE0
ここまでです
正直やっちまった……

では次回予定箇所晒し又の名を次回予告
565 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/17(木) 21:48:04.25 ID:AIUzUsmE0


上条「俺以外にはいないみたいだけどな。……そっか、お前とは前に素手で殴り合っただけで右手の事
    まで教えてなかったんだっけ」


浜面「信じられねぇ……って言いたいけど、現に火を手で消した瞬間はこの目で見ちまってるしな……。
    ったく、何なんだよ。その格ゲーに出てくる反則キャラみたいなチート設定」



―――――――




美琴「こんな所で何してんのよ? アンタ……」


黒子「お姉様? お知り合いの方ですの?」


麦野「ん……? あぁ、第三位かよ。相変わらず乳臭さそうなガキで安心したわ」


麦野「」
566 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/17(木) 21:49:42.47 ID:AIUzUsmE0

最後の行の“麦野「」”はミスですごめんなさい
ではまた次回
亀進行すぎて本当申し訳ないです
567 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/11/17(木) 22:02:58.86 ID:4wbHpeSSO


一方さんによる男女平等パンチの犠牲者がまた増えたな
568 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(愛知県) [sage]:2011/11/17(木) 22:50:50.36 ID:ZjbqjHiro


みさきちの顔芸…だと…






ふぅ
569 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(兵庫県) [sage]:2011/11/17(木) 22:58:32.58 ID:PtzLG7jTo
乙、それにしても……

>>顔中からの至る箇所から液体を漏らす憐れな少女

センセー、顔だけじゃないと思います!
570 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/18(金) 00:49:22.15 ID:0xj5O3m60


ようし
みさきちの回収は任せろぐへへうわおい何をするやめedjlmnxmmcnnznnbiokl;.::n〜〜〜〜〜
571 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/18(金) 10:12:56.11 ID:+D+54+FDO
乙!


食蜂さんには悪いけどすっきりした。
一方さん弱ぇぇぇとか思っててサーセンっした!ドゲザー
572 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(岡山県) [sage]:2011/11/18(金) 10:38:56.76 ID:VtMlDSKT0
気絶したみさきちをぺろぺろするのは俺が請け負った
573 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/18(金) 11:21:42.44 ID:RMO9MjfSO
話さなくても意思疎通できるとかもうお前ら結婚しろよ
って思ったけど考えたらここ番外通行SSだった

>>「ガキを頼ンだ」
>>「あいよ」
このやりとりが個人的に好き
やっぱ一方さんの相棒は番外だな
574 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/18(金) 15:44:05.56 ID:+/ec2x7ro
食蜂弱すぎわろたwwwwwwwwwwwwww
575 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/18(金) 20:59:36.43 ID:V2B0IgXDO
>>574
ちげぇよ、一方通行が強すぎるんだよ


あと「あいよ」はスクライド思い出した
576 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/18(金) 23:58:03.50 ID:+/ec2x7ro
>>575
いやいや食蜂弱すぎwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
577 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/19(土) 00:13:57.52 ID:t3dVdMvT0
一方通行にとっては総合的に雑魚だろ食蜂は
絶対能力進化実験編で序列二つ上の御坂ですら簡単に戦意喪失させられてるし能力的にも実戦向きじゃないし・・・
能力抜いたら超能力者なんて普通の人間と大差ない
578 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/19(土) 00:38:00.18 ID:APD7leG3o
食蜂さんは直接戦闘じゃこんなもんだけど使い方ハマればヤバいなんてもんじゃないしな
美琴さん辺りも戦闘だけなら互角以上が何人かいるだろうけど
戦闘以外の万能性考えると足元にも及ばないのばかりになるって意味で間違いなく第三位と言えるのと一緒かと
579 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/19(土) 00:52:17.75 ID:3b3XGp9SO
そういう意味じゃ一番期待通りってか…模範的な結末だな
強いて言うなら一方通行が欺き目的の芝居をした所がちょっと変かな
580 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(栃木県) [sage]:2011/11/19(土) 08:48:05.80 ID:/pH9S4bEo
それでも番外と直接触れられなかったらヤバかっただろう
爆弾がブラフだから黒翼発動でどうにかなるとしても
シスターズに負傷者でそうだし
581 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(北海道) [sage]:2011/11/19(土) 14:03:31.49 ID:zlbmliwQ0
食蜂の能力って、「電磁波系で防げる」「リモコンなければ操れない」と意外と穴大きいからな
一方と美琴以外にも、多分麦野にも通じないだろう。垣根は…常に能力出してるのか、アイツ?
妹達くらいの電磁波では防げないだろうけど、いざとなれば打ち止めには逆らえないだろうし
582 : ◆jPpg5.obl6 [saga]:2011/11/23(水) 22:00:58.82 ID:atPzIbfi0

少し投下します
583 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/23(水) 22:02:08.98 ID:atPzIbfi0

―――


「……『幻想殺し』ぁ? 聞いたことねえよそんな能力……」

「俺以外にはいないみたいだけどな。……そっか、お前とは前に素手で殴り合っただけで右手の事
 まで教えてなかったんだっけ」

「信じられねぇ……って言いたいけど、現に火を手で消した瞬間はこの目で見ちまってるしな……。
 ったく、何なんだよ。その格ゲーに出てくる反則キャラみたいなチート設定」

「つっても消せるのは“異能”が絡んだ場合のみだから、お前が普通の拳銃使ってたら上条さんは
 今頃ゴートゥーヘブンですよ?」

「……能力補強効果が仇になったってか? んなの予想できるかよちくしょう……。まさか、また
 アンタから響く一発を喰らわされるとはな……」

「コッチは下手すりゃ丸焼けだったんだぞ!? 鼻血の滝よりよっぽど悲惨だっつーの!」


一悶着あって、上条当麻と浜面仕上は歩行者専用道路上で小休止を取りつつ会話を弾ませていた。
浜面の鼻からは未だ止まることなく流れ出てくる血が目立っており、ティッシュも無いので腕の袖
で時折拭うくらいにしか対処できていない。
584 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/23(水) 22:03:37.64 ID:atPzIbfi0


とはいえ、浜面の激しい憎悪も上条の制裁で綺麗とまではいかないが吹っ飛んでいた。
外れかけた理性も顔面血だらけという代償のみで元通り収まり、再び沈黙したファイブオーバーの
いる地点には救急車を手配しておいた。
ひとまずの難はこれで完全に去ったといえる。

「……で、問題はここからだな。だいぶ距離が遠のいちまった」

浜面が難しそうな顔で悪態を吐き、上条も同感な雰囲気を醸しながら眉を顰める。

「あんなのがこの先も待ち構えてるんだとしたら……一方通行やお前の仲間(?)ってのを待った
 方が良いかもな」

「一理あるな。実際、今こうして生きてられるのが幸運って気分だし」

「第三位……御坂の能力をあそこまで再現するどころか、火力だけなら桁違いだったし……。幾ら
 何でもあんなのに右手構えて特攻する勇気はねえぞ」

「あれが第三位か……」(ロシアで襲撃してきたのは確か、第二位の模造品だったな……。――)

(――ってことは、一方通行も……トンデモ兵器を製造するための素材として利用されちまうのか。
 一方通行の“脳”が必須なのも、より完璧な機械を作り上げるため……。分からねえのはそいつを
 一体何の目的があって生産するのか……。大規模な戦いに備えて兵力を増加させるとか、そういう
 具体的な狙いでもあんのかな?)

「……おい、ボーッとしてるけど大丈夫か? 強く殴りすぎたんなら、今更で良ければ謝るぞ?」

「ん? ……あぁ。そうじゃねえよ。ちょっと不謹慎な妄想してただけだ」
585 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/23(水) 22:04:50.59 ID:atPzIbfi0


「そう? ……で、何の話してたっけ?」

漫才でもしているかのような掛け合いはこの後もうしばらく続くのだが、この二人に安息の地は
無く、次の受難もすぐ側まで迫っていた。
それもそのはず。今立っている付近一帯が敵地の中心核であり、第七学区や第五学区の住人や学生は
殆どが学園都市の技術を最大限に活用し作られた防空壕、『地下シェルター』へ避難済みである。

よって、普段は人で賑わっている地域も冷たい風と科学の街特有の機械音しか流れていない。
もし警備員が警邏に出ていたなら、上条や浜面は今頃とっくに保護されていることだろう。

もっとも最高権力者には全て筒抜けである以上、敢えて黙認しているという住民としては嘆かわしく
もあり腹立たしい真実が発覚するはずなのだが、彼等の知能ではそこまで考えが及ばなかった。


―――


そんな浜面や上条よりは幾分、というか段違いで知性豊かな“野に咲く二輪の花”。
御坂美琴と白井黒子は何時ぞやの地下街テロ事件の時みたいに肩を並べて走っていた。
目的は言わずもがな、上条当麻の捜索である。

ファイブオーバーからの不意打ちで不覚にも意識を一時手放し、上条の足取りが完全に絶たれてしま
った今、こうして闇雲に足で捜し回る以外に方法はないのだ。
その際に二人とも携帯電話の機能を一時的な使用不可状態にしてしまい、初春飾利に連絡して上条を
見つけさせるという手も使えなかった。

ちなみに彼女達は避難警報をしかと耳に入れていたので、人気の無くなった商店街を見ても不思議に
は思わない。
586 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/23(水) 22:06:23.89 ID:atPzIbfi0


今はそれよりも、遠くで響いていた如何にも交戦中みたいな爆音が、走る度徐々に近くなってきてい
る事の方が気になっている。
この商店街を抜けた先は、多分大きな国道と繋がっていたはずだ。

つまり、

「路上で戦争おっ始めてるみたいね……! 音が近いわ」

「……もしや、上条さんでしょうか!?」

「いやぁ、それは無いでしょ。どう考えても銃機同士、それも片っぽは“荷電粒子砲”みたいな武器
 使って戦ってるみたいだし……アイツはそんな“人を殺す専用道具”になんか手ぇ掛けないわよ」

「あ、確かにそうですわね。全くその通りですの。杞憂だったみたいでひと安心……」

「………」

上条の善良ぶりをあっさり納得した黒子。上条に好意的な彼女の姿は美琴にとってまだ何処か物珍し
くて見慣れない上に、自分も好意を秘めている立場からするとあまり愉快な話ではない。
いずれ、その辺についても決着を付けなければならない時がやってくる。
そう考えると正直ナーバスになりそうだった。


(アイツも心配だけど……、これ以上この街を戦場にされるのは住民として勘弁願いたいし、まずは
 手近な騒乱から鎮圧させてもらおうかしら!)


決意改め、美琴と黒子は速度を落とさないまま商店街を駆け抜けた。
587 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/23(水) 22:07:38.89 ID:atPzIbfi0


広い国道沿いの路傍。
エリート校、常盤台に在籍する少女二名が目にした光景は一言で表すなら『地獄絵図』。

車両通行止めは必至なレベルにまで抉られているアスファルト。
そこら辺で無造作に転がっている鉄の塊。その形状は多彩で、高出力の粒子を斬撃状に受けて頭部を
断絶されたものや、高出力の粒子を浴びて半分以上は熔融しているものもある。
そんな所々でスクラップと化した金属物からは今も硝煙や小火が発生しており、酷い有り様だった。

「ちょっと……。何よ、これ……」

「うっ……」

おそらく、どれもこうなる前の姿は強硬な装甲に包まれた駆動鎧だったに違いない。
そして凄惨な姿から推察するに、“戦いの果てに相討ちした”という線は低い。“正体不明の強者が
圧倒的な猛威を振るって彼等を躯に変えた”。そっちの方がまだ納得し易かった。鉄の屍達を見渡し
てみれば良く解る。それぞれ損傷部位や深度は相違しているものの、痕跡自体は明らかに同一犯だ。
とすると、“これだけの戦闘マシーンを相手にここまでの所業をこなす化物”が存在しているという
結果に結びつく。
それも手口から窺える通りだと犯人はかなり残忍で凶暴、更に自分と同じ超能力者クラスの実力者で
ある可能性が高い。

転がっている“駆動鎧だったガラクタ”は十体や二十体ではない。軍事施設の一小隊規模はある数だ。

予想以上の惨状を目の当たりにし、ショックが強すぎたのか口元を手で覆ったまま声も出せない黒子。
対する美琴は嫌悪感を露骨に表しながらも“この惨状を創り出した犯人”について思考を働かせる。

(溶け具合に見覚えがある……。電子熱線の跡かしら? でもそれにしては……。大体、電子操作
 系統の能力者でここまで出来るヤツが私以外にも……?)
588 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/23(水) 22:08:39.25 ID:atPzIbfi0


最も近場にあった一体の屍を観察し、首を唸らす。

(ん……? ちょーっと待てよ。心当たりがあるような、無いような…………いや、まさかねぇ)


「――――まったく、一丁前に数ばっか揃えて来やがってさぁ……磯辺の岩場に湧くフナムシじゃ
      ないんだから、そろそろ大概にして欲しいわねぇ……。演算し過ぎて頭痛てぇし……」


「!?」


突然聞こえてきた若い女性の声に、美琴と黒子の首が九十度横へ動く。


「あ……!!」


「……ん?」


プスプスと焼け焦げた駆動鎧。その正面に茶系の巻き髪を背中まで伸ばした女性が悠々と佇んで
いた。女性の方も丁度同じタイミングで美琴たちの声に気づき、目が合う。

美琴はその女性と面識があった。


「アンタは……!」
589 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/23(水) 22:10:06.03 ID:atPzIbfi0


「……あぁ、第三位かよ。一瞬誰かと思ったわ」


女性は美琴を見て意外そうな表情を見せるも、すぐに普段の調子で軽口を叩く。
過去の因縁など、まるで最初から無かったかのように。


「っつーかアンタ、こんな戦場のド真ん中に何の用事があって来たわけ? ……つっても、粗方
 片付いたからもう跡地だけどさ」

「それはコッチのセリフよ! ……こんな所で何してんのよ? アンタ……」

「見りゃわかんでしょ? ゴミ掃除よ」

「やっぱり、“これ”はアンタが……」

「だったら何よ? 文句でも付けようっての?」

「そういう訳じゃないけど……。何でアンタがこんなことを?」

以前、研究所の破壊活動を行っていた際に一戦交えた女。
今でも鮮明に憶えている。この女は、

「お姉様? お知り合いの方ですの?」

「第四位、『原子崩し』よ……」

「んな……ッ!!? こ、この御方が……お姉様の真下に格付けされている第四位……!!」
590 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/23(水) 22:11:12.75 ID:atPzIbfi0


素直に驚嘆する黒子に、麦野沈利は慣れた動作で軽く手を振った。
こういうリアクションは過去に何度も受けているが、よくよく考えれば黒子の隣りには自分より
表面では格上の第三位がいる。
なのに麦野を見る目がどこか熱烈な気がするのは、一体どういう事情だろうか?

(お姉様のパートナーとして私が最も着きたい椅子に座っている方と御会いできるとは……!
 どうにかしてわたくしに地位をお譲りして頂けないか、全力で交渉したいですのおおおお!!)

などという腹積もりがあるなど、麦野は夢にも思わないだろう。
ただ、有名なアイドルと街中で遭遇した時のファンみたいに目をキラキラさせている黒子を見て
純粋に気味が悪いとは思ったらしい。

「……第三位。話を急に変えるけど、コイツは大丈夫なのかしら?」

「…………無視していいわ。んで、話の続きだけど……、アンタが何でここにいるのよ? 何か
 戦わなきゃいけない理由でもあるわけ?」

「理由……ねぇ。ま、無いっつったら嘘かにゃーん。私にも色々事情があんのよ。邪魔でもした
 いなら、“あの時”の延長線おっ始めても良いけど?」

「やめとくわ……。今はアンタと争う理由が私には無いし」

「賢い判断ね。んじゃあコッチの番。どうしてアンタみたいなガキんちょがこんな危険地帯まで
 足を踏み入れたのかにゃーん? いくら超能力者でも、アンタは表の人間でしょ? もしかして
 正義感が疼いて仕方がなかったとか言うつもりじゃないでしょーね?」

「……アンタと同じで、コッチも訳ありだとしか言えないわね」
591 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/23(水) 22:12:39.88 ID:atPzIbfi0


「ふーん……、まぁアンタの性格考えたら理解できなくもないわ。周りに流されて地下シェルター
 へ避難している姿が正直想像つかないから」

「なによそれ? 貶してるの? 人を食み出し者みたいに言ってんじゃないわよ」

「ふん……、“あれ”から結構時間も経って、ちっとはおしとやかになったかと思ったら……」

「な……!」

「相変わらず乳臭そうなガキで安心したわ。元気でやれてんなら、それが一番良い」

「……アンタ、何か変わった?」

「さあね……」

黒子の前で“あの時”の話をされるのは非常に不味い。
そんな美琴の心情を悟ったのか、麦野はそれ以上話題を広げようとはしなかった。
そして、麦野の気遣いを直で感じ取った美琴もまた、『麦野沈利』という少女について良く分から
なくなっていた。

以前に衝突した時の野蛮ぶりは風景を見るからに健在のようだが、それでも何か前とは違う印象を
不明瞭ながらも美琴は感じていた。

「……今度さ」

唐突に麦野が話しかける。

「機会ができたら、ゆっくり話でもしましょ。紅茶でも飲みながらマッタリとね」
592 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/23(水) 22:18:09.01 ID:atPzIbfi0


「……えっ?」

「折角こうやってまた出会ったんだしさ……もう敵対する必要もないんなら、少しぐらい仲良く
 したって損はないんじゃない? もちろん、アンタが嫌じゃなければ……だけど」

「…………別に、いいけど……」

「そんな警戒しなくて良いって。取って食うわけじゃないんだから」

「ゴメン……正直、アンタのクチから吐き出される言葉の全てが意外すぎて……まだ頭が追いつ
 いてないんだけど……。少なくとも私の記憶に残ってるアンタはゴキブリも笑って殺してそうな
 印象で……結びつかないっつーか」

「あぁ? テメェ、人が親切に誘ってやってるってのに……あんま調子こくんじゃねえぞ?」

「うん、やっぱりそっちのイメージの方が強いわね。っていうか、何かしっくりくるわ」

「……ははっ」

「ふふっ……」

第三位と第四位は顔を向き合わせたまま微笑した。
もはや美琴の側も、過去の蟠りはこの女に不必要だと判断したのだろう。
麦野からの誘いを快諾しない理由が思い浮かばなかった。

「――さてと、んじゃ私はもう行くわ」

「……そう」
593 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/23(水) 22:20:21.15 ID:atPzIbfi0


驚くほど自然な流れで携帯番号とアドレスを交換し、麦野が席を立つ。
そして、優しい口調で注意を促した。

「駆動鎧部隊や裏の組織構成員が多分ここら一帯に蔓延ってるだろーから、アンタも充分気を
 つけなさいよ? 何の目的で動いてんのかは知らないけどさ……」

「私、こう見えてもアンタよりは序列が上なんだけど?」

「能力レベル云々の話じゃねえよ。……年上からの忠告として素直に受け取っておきなさい」

「面倒見が良いのね。……一応、ありがとう……って言っとくわ」

「ったく、反抗期真っ盛りなだけあって可愛気ないわねー。……コッチは果敢に歩み寄ってる
 ってのに」

「悪かったわね! ど、どうせまだ子供よ! ……っていうか、アンタと私じゃそもそも比較
 になるワケないじゃない……。反則凶器二つも胸にぶら下げやがってさ」

「あははっ、コンプレックスなら私にだって普通にあるわよ。そういう話も今度またじっくり、
 ね♪」

「……えぇ、悪くないかも……しんないわね」


「……楽しみにしてるわ……。じゃあ、またね。“御坂”」


「……!」


踵を返し、ヒラヒラと手を左右に振りながら麦野は遠ざかっていく。
最後に本来の名で別れの挨拶を締められた美琴は麦野の背中を唖然と見送り、姿が見えなくな
ってからポツリと吐いた。


「“麦野”……ううん、年上なんだからやっぱり“さん”付けで呼んだ方が良いのかしら……?」


「……わたくし、もしや存在を忘れられてたりしませんわよね……?」


寂しげな黒子の呟きを聞いた美琴はそこでハッとなり、とりあえず後輩に謝罪する事にした。

594 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/23(水) 22:21:58.66 ID:atPzIbfi0


―――


「あー、なンか肩の力がどっと抜けた気分だなァ。超能力者っつっても衣を剥いじまえばただの
 小娘じゃねェか……。そンなのを俺と相対させるほど切羽詰った集団かよ? 『新入生』ってのは」


番外個体・打ち止め・今回の一件に巻き込まれた妹達と一旦別れた一方通行は、悲観的に嘆く。
先ほど彼女達を無事に救出し、これで一先ずは安心できるはずだった。
その時に敵対した第五位を倒したはいいが、どうも過程が不味かったようだ。

気づけば全員が「女の顔にグーはないだろ……」と非難するような鋭い眼差しを向けていた。
確かに今なら『やりすぎだったのか?』と思えなくも無いが、やってしまったものはどうしようも
ない。

ミサカ系統全般が今や致命的弱点の一方通行は回らない頭でしどろもどろの弁解をする気も起きず、
先延ばしにする道を選んだというわけだ。

『……まだやる事が山ほど残ってンだ。苦情や文句諸々は全て終わったら耳が爛れ落ちるまで聞い
 てやるから、オマエ達は先に帰ってろ。番外個体、悪いがクソガキを引き続き頼む』

目を少女達から逸らしたまま言うだけ言って、あとは返答も聞かずに裏地まで逃げてきたのだ。
『心理掌握』は没させたのでもう心配は不要だと思うが、念のために小型のGPS端末機を番外個体に
持たせた。これで今度何かが彼女達の身に起きてもすぐに駆けつけてやれる。ちなみに端末機は食蜂
が所持していたのを勝手に拝借したヤツだ。校則の厳しい常盤台の学生ならきっと持っているだろう
と踏んだが、見事に当たりだった。
595 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/23(水) 22:22:52.63 ID:atPzIbfi0


で、折角こうして無事に助け出せた番外個体たちから離れた本当の理由だが……。


「なァ。『新入生』を率いてる立場のオマエなら、この素朴な疑問にどォ回答してくれンだ?
 ――――黒夜海鳥」


「……あっれぇ? 私、アンタに名乗った憶え無いんだけど」


鉄柵の向こうに建つプレハブ小屋。その小屋の屋根の上に彼女はいた。
一方通行は軽い身のこなしで廃工場の裏地を仕切る鉄柵を跳び越え、不敵に微笑む黒い少女に近づく。


「“『新入生』のメンバー”、“『暗闇の五月計画』の被験者”。これだけヒントがありゃ充分調べ
 が利くンだよ。俺を軽く見積もり過ぎてンじゃねェのか? って、普通なら訊ねるトコだがなァ……。
 あの計画に関わってたンなら、まずそいつは有り得ねェ。“俺”の詳細はオマエ自身の思考を通じて
 伝達されているハズだからな」


「確かにアンタの“脅威度”ってのが実際どれほどのモンなのかは、“あの日以降”正確に植え付け
 られてるよ。ただ、誤解しないで欲しいね……。アンタが八月三十一日以前より大幅に劣化したのは
 コッチからしてみりゃ嬉しいニュースだった。けど、だからといって緊張の糸を切らせたりはしない。
 どんなに深手を負っていたとしても、アンタの“最優秀な頭脳”が健在な限りは私も気ぃ抜かないよ。
 それが私なりの“悪党としての流儀”ってヤツさ……」


「ハッ……そンな程度の流儀じゃ、せいぜい小悪党止まりだな」
596 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/23(水) 22:23:32.56 ID:atPzIbfi0


鼻で笑い飛ばす一方通行を不快そうに睨む黒夜。
すでに火花が互いの間を交錯しているような空気が漂っていた。


「そうかい……。だが悪の道を貫き通せず、“平穏”という名の微温湯に浸かりすぎたアンタが言えた
 事かにゃーん? あろうことか、アンタにとっちゃ本来敵役にすら立てない筈の『第五位』に“接触”
 を許したのが良い証拠だろう?」


余も無く、空気が不穏な色へと形を変えていく。
地中から呻き声でも聴こえてきそうな黒色へ。


「まァ、それについては反論できねェなァ。俺に“過信”や“慢心”があったのも事実だしよォ、オマエ
 らの底を計り誤ったってのも間違いはねェよ。……ホント、良い教訓になったわ」


一方通行もこの雰囲気に順応する不敵な笑みで返す。


「遠慮なく今後に生かさせてもらう。もうオマエ達を格下の雑魚共とは思わねェ……。全力を以って叩き
 潰すまでだ。――――そンな訳で、覚悟はイイな?」


返事も待たずに電極のスイッチを入れ替える。
ここまでの計算に狂いが無ければ、能力の使用制限時間は約半分。つまり十五分余りだ。
しかし、一方通行は遊ぶ気などない。敵の土俵にも上がらないし、手の内を曝させるつもりもない。

――――文字通りの瞬殺で終わらせる。

背中から突如発生した四本の竜巻がそう叫んでいた。
597 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/23(水) 22:25:56.00 ID:atPzIbfi0

半端ですいませんが、ここまでです
麦野さんと美琴っちゃん、原作で親友とかになんねぇかなぁ……

とと、
次回次回
598 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/23(水) 22:28:23.31 ID:atPzIbfi0


黒夜「余裕ぶっこき過ぎるってのも間抜けだが、逆に余裕が無いってのも問題なンだぜェ?」


一方通行「……気味の悪りィペット飼ってンじゃねェよ」





599 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/23(水) 22:29:33.96 ID:atPzIbfi0
以上です
ではまた来週に来ます
600 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/23(水) 22:44:24.38 ID:79dL4LEOo
うおお乙

>>超能力者っつっても衣を剥いじまえばただの小娘じゃねェ

のところで不埒な妄想をした俺を許して!
601 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方) [sage]:2011/11/24(木) 00:07:08.17 ID:exSxjS7ko
乙です
一方さんはとりあえず竜巻の翼使いたがるな
もっと効率いい戦いかた有りそうなもんだけどな
いや、かまちーに効率を期待しちゃいかんか
602 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/24(木) 01:35:46.90 ID:9SexHcnv0
一方さん食蜂さんぶっ倒して調子づいてきたなwwww
ってか黒夜逃げた方が…
603 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/24(木) 01:59:30.39 ID:qCl/wDoSO
まさかの上条さん登場フラグ……?
604 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/11/25(金) 02:00:30.09 ID:zJg7J5+c0
最初から全部読んできた…長かった…
やっとここまで追いついたぜい
支援
605 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/25(金) 02:23:14.67 ID:GSE397mSO
>>604
よくもageたな
ママに言いつけてやる
606 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(空) [sage]:2011/11/27(日) 22:13:42.31 ID:iXDKsRqD0
ぶっちゃけると、自分には、男の顔面は殴っても文句は少ないのに、女の顔面なぐったら非難ごうごうなのが意味わからん
607 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/27(日) 23:03:14.42 ID:KLeuqfNdo
顔面を股ぐらに替えて考えてみるんだ。

男女の一緒にしちゃいかんと言うことが非常によくわかるから。
608 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/28(月) 00:48:42.13 ID:kTfv4F5Y0
いいじゃまいか
人道に反する云々なら原作でも嫌ってほど出てるし
609 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(空) [sage]:2011/11/28(月) 21:00:50.98 ID:1hcyoE5E0
>>607
男にペニスはあるけど、女にはないだろ
しかし、男も女も顔はあるではないか
610 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方) [sage]:2011/11/28(月) 21:23:39.92 ID:igv88G5no
>>609
男は顔が悪くても生きていける
女は顔が悪けりゃ生きていけない
611 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/28(月) 21:28:55.53 ID:pc9BQC1xo
いつまで気味悪い話してるんだ!
612 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/28(月) 23:44:59.38 ID:3XgyZjCSO
結局女は顔が猪木って訳よ
613 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/29(火) 00:15:31.58 ID:oWZQEVQno
>>612
元気ですかーっ!?
614 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(空) [sage]:2011/11/29(火) 06:36:15.46 ID:YzyLsYeA0
顔が悪くて苦労するのは、男女おなじ
615 : ◆jPpg5.obl6 [saga]:2011/11/29(火) 21:55:59.74 ID:y99xCPVg0
>>612
不覚にもw
そういや禁書にアゴしゃくれキャラいないですね

一気に投下します
616 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/29(火) 22:02:28.38 ID:y99xCPVg0


『一方通行抹殺任務』の主力を担う組織、『新入生』。
この組織に属する一人の少女と“最終標的”が今、真っ向から激突しようとしていた。
奇しくも、彼等には『暗闇の五月計画』という因果関係がある。
場所は『新入生』が拠点を張っている『無法区域』の更地。無論彼等以外の人気は皆無だった。


(アイツの能力が俺の演算パターンを参考に『攻撃重視』で組み込まれてンだとしたら、防衛線は薄い。
 このままゼロ距離まで詰めて踏ン捕まえちまえば、チェックメイトだ!)


四方に散らばる竜巻を一気に噴射、暴風を巻き起こし、轟音と共に華奢な身体が空へと弾け飛ぶ。
その行く先には、お世辞にも強靭とは呼べない小柄な外見をした少女、黒夜海鳥がいた。

距離が瞬く間に縮まり、到達時間を計測し終えた一方通行が片手を伸ばす。
この手が彼女の身体に触れれば、勝負は終わる。

が、しかし……。


「――――余裕ぶっこき過ぎるってのも間抜けだが、逆に余裕が無いってのも問題なンだぜェ?」


「――――!?」

617 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/29(火) 22:05:15.20 ID:y99xCPVg0


伸ばした手が、黒夜の嘲笑うような声と同時に後方へ引き寄せられた?
いや、一方通行を支点とした竜巻の風圧に対抗するような衝撃が前方からぶつかってきたのだ。
黒夜が一方通行へ向けて五指を開いた直後の出来事だった。
気を抜いていれば押し戻されてしまいそうな程に強烈な暴風が、黒夜方面から返される。


「……! そいつが『窒素爆槍《ボンバーランス》』か。掌に圧縮させて、長い棒状に固めた窒素
 を噴出させてンのか……。射程範囲が狭い上に攻撃性に主軸が掛かってるだけあって、真正面から
 受けるのは賢明じゃねェな」

「デフォ設定の『反射』はどォしたよ? まさかたァ思うが……この期に及ンで出し惜しみしてン
 じゃねェだろォな?」

「ケッ……幾らオマエの手から途切れなく伸びて来るエモノを跳ね返したところで、新たに噴出さ
 れた『窒素爆槍』に相殺されンのは解ってンだよ。あンまし見縊ってンじゃねェぞ」

「それでもアンタにダメージが通らねェことに変わりはねェ。試しもしないとは随分慎重だなァ?
 いや、この場合は臆病って言うべきか?」

「埒が明かねェンじゃ試すだけ無駄だろォがよ。それに薄汚ねェオマエのことだ。またくだらねェ
 策略でも練ってンだろォが、馬鹿親切に応じてやる気は毛頭ねェよ」

「…………ふ、どォやら本当に私らを『敵』だと認めたらしいねェ。光栄って思うべきなンだろォ
 けど、そンなミーハーな概念は持ってねェンだ」

「あっそォ、……だが安心しろ。『反射』に頼らなくても、戦法なンざァ思いつくだけでも百通り
 以上はあるから、なァ!!」


地面を踏み砕き、亀裂を作る。
618 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/29(火) 22:06:10.22 ID:y99xCPVg0


ドミノ式に広がった亀裂は黒夜が佇むプレハブ小屋にまで侵食し、激しい地割れと共に小屋は倒壊
の末路を辿った。


「!? ちィ……っ!!」


黒夜の足場をまずは奪い、“移動を已む無くさせる”。
移動しなければならないという事は、少なからずそこに意識が傾いて、集中の削減を助長する結果
に繋がるのだ。

そしてもう一つ。

何も“正面から仕掛ける”必要はない。
小屋を壊して足場を奪ったのは、注意を自分から外させる目眩ましの意味も含まれている。

掌からジェット機みたいに窒素を噴射させたまま滞空する黒夜に毒手が迫っていた。


「ひゃは、ぎゃはっ」


狂った笑い声を発したのは、何故か黒夜。


「っ……!!?」


そして、度肝を抜かしたのは一方通行の方だった。
619 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/29(火) 22:07:46.88 ID:y99xCPVg0


懐に潜るまでは手筈通りに運べた。
だが、そこから事態が思わぬ方向へ傾く。
一方通行の突き出した腕を縫うように避けた黒夜が、表情を不気味に歪めた所から――。


「知ってるぜェ? 何でアンタが反射を使わないか」


「っ……クソが!!」


至近距離で囁かれた言葉に動揺したのか、突き放すように手を振るう。
が、これも心理を熟知したような動作で軽くいなされた。

そして、ある程度の距離まで遠ざかった黒夜が続きを語る。


「私の持ち味が『窒素爆槍』だけじゃないって事、もォ分かってるンだろォ? ンで、
 肝心な中身も既に理解してるンだよなァ? まァ隠すほどの内容じゃねェし、機密度
 も高く設定されてねェから、アンタが本気で調べりゃ楽に入手できるデータだよ」


「…………」




「“木原数多”」




「……!!」
620 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/29(火) 22:09:07.87 ID:y99xCPVg0


この名前を聞いた途端に心の奥が一層ざわつきを増す。
概要に偽りなしだとすれば、この少女は文字通り――。


「今は亡き、一方通行に唯一“生身”で対抗できる狂人科学者。……そいつの“データ”
 を私が引き継いでいるのさ。『プログラム・チップ』を脳に取り付けた時点で、アンタの
 “天敵”である『木原数多』の人格、思想、そしてアンタを攻略するための知識と技術も
 取得済みよ」

「……そのチップとやらに、あのクソ野郎の遺志が組み込まれてンのか……」

「っつか、ぶっちゃけクローン技術を併用して生き返らせた理由の殆どが“それ”なンだ
 よねェ。より精妙なデータ収集には形も伴った“再現”も要求されるンだよ。……まァ、
 “本人”にゃ流石に教えられちゃいなかったらしいがな」

「……つまり、オマエは今も……」

「そォ、“被験者”だ。『暗闇の五月計画』の時はアンタを対象(モデル)とした概要だ
 ったが……、今回はアンタとの因縁が最も強い研究者に白羽の矢が立った訳だ。皮肉な話
 だよなァ? 研究する側の人間が研究対象に抜擢されちまうなンてよォ……。最初に説明
 聞かされた時は笑いが止まらなかったぜ」

「そォか、だからか……」

「あン?」

「オマエから反吐が出そォなぐれェにムカつくニオイが漂ってたのは、やっぱり気のせい
 なンかじゃなかったってワケだ……。くくっ……、こりゃあさぞかし研究チームも荒れた
 だろォなァ。俺(研究対象)をシメるために木原(研究者)まで具の材料に混ぜちまうと
 はな……。他人事なら盛大に笑ってるところだろォぜ」
621 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/29(火) 22:10:55.26 ID:y99xCPVg0


「……、脱線したな。じゃあ続きだ」


一旦地へと降りた両者。
そのまま臨戦態勢を取り、出方を探る一方通行に黒夜が伝える。


「『反射の壁』はアンタに攻撃が届く寸前に引き戻してやればいい……。クチじゃ簡単に
 解説できるが、水の上を走るのと同レベルの理屈だ。木原数多の偉大な所業は後世に残す
 べきだが、ヤツは能力者ではなく研究者だった……。故に体術を行使するしかなかった訳
 だが、それじゃあ攻撃性能が心許ない……。――――だが、私なら」

「……!」


ゾゾゾゾ、と地の底を這うような不審音が耳に入った。
音の発生地を目で追ってみると、そこには先程倒壊したプレハブ小屋の跡しかない。

だが、よく見てみると……。


「アレは……?」


瓦礫に埋もれたビニール製のイルカ人形が微かに確認できる。確か黒夜が常備していた
事を思い出し、この不協和音の元凶だと判断した。

が、一方通行の脚は動かなかった。
正確には“突如爆ぜ散った人形から姿を現した謎の物体”を視中に収めてしまい、警戒
心が働くあまりに動かせなかった。
622 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/29(火) 22:12:27.30 ID:y99xCPVg0


「……気味の悪りィペット飼ってンじゃねェよ」


「『窒素爆槍』の発動原理を知ってるンなら、そンな悠長な感想吐いてる場合じゃねェ
 って気づかねェのか?」


人形から生まれた“歪な手”が黒夜を中心に収束され、不躾な動作で一方通行を手招き
している。


「…………どォいう造りになってンのかは知らねェが、なるほどなァ……。“掌”から
 じゃなきゃ放出できねェ欠点を、“手を増やすこと”で改善しやがったのか」

「流石だねェ。正解だよ」

「だがよォ、そいつが俺に有効かっつったら微妙な線だよなァ。本物とダミーの区別も
 できねェとか思ってンなら、ただの浅知恵で片付くぜ?」

「……? っ! あァー、そォかそォか。……アンタ、盛大に勘違いしてるよ」

「あァ……?」


「この“腕”は全部、私の神経と直結してンだ。『無線』でね」


「……なンだと!? そンなわけが……」
623 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/29(火) 22:14:09.32 ID:y99xCPVg0


「技術の成長と進化は、私やアンタが想像しているよりウンと早い。ワイヤレス接続
 だって現代じゃ当たり前のよォに普及してるだろォ? 神経を脳から各パーツに送信
 すれば、こんな紛い物でも私の能力に適用される。……当然、『木原プログラム』も
 込みで、なァ」


「ってことは……!」


「“全ての『窒素爆槍』”に『対反射膜用システム』が働く仕組みってわけさ。そして、
 どこに逃げよォとも絶対に逃げ切れねェ様にあらゆる角度、方位からブチ込む……。ふふ、
 詰ンだな? 第一位。既に王手が掛かってるぜェ?」


「ぐ……」


「これだけの“腕”から一斉に噴出させたらどォなるか……わかるよなァ? 最後には
 肉片も残らねェかもしンねェが、そこは安心しな。“頭”だけは綺麗なままにしといて
 やっからさァ」


黒夜が中心に立つ形で上下左右に広がっていく“腕人形”。
まるで孔雀が羽を開いたような絵図が完成し、各腕がその掌を翳す。

ロックオン先は言うまでもなく一方通行。

624 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/29(火) 22:16:40.05 ID:y99xCPVg0

「………」


さっきとはうって変わって大人しい一方通行を、黒夜は挑発する。


「どォしたァ? 蛇に睨まれた蛙みてェに固まっちゃって……。突っ立ってても“反射膜”
 は普段通りに助けてくれねェンだぞ?」

「余計な気遣いは要らねェよ。とっとと仕掛けりゃ良い……」

「……潔いじゃねェか。――そンじゃ、遠慮なく殺させてもらうわ」


――次の瞬間、何十本あるかも判らない“腕”と黒夜自身の両手が轟音を響かせた。


人の体など簡単に吹き飛んでしまう程の風速と風圧が生まれ、窒素の槍同士が絡まり乱れ、
膨大な嵐と化して一方通行を呑み込もうと畝る。


「――ッ!!」



周辺の砂利や草木、建築物までもが凄まじい暴風に巻き込まれて宙を回りだす。
激しい砂嵐が連鎖的に発生し、一方通行を起点とした更地を覆い尽くしてしまった。

『窒素爆槍』の渦に翻弄される一方通行を直接目で確認できなくなった事態に、黒夜は残念
そうな表情を浮かべる。


(チッ……、思ってた以上に風向きが良かったな……。まァ、逃れる術はないだろォし……
 さして気に病む必要もねェか。視界が良くなる頃には逝ってるはずだから、余波が収まるのを
 一旦待つか……)

625 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/29(火) 22:18:43.79 ID:y99xCPVg0


一度暴発した災害はそうすぐには鎮まらない。
充分と判断して噴出を止め、二分程経ったか。ようやく視界が良好となり、屍となった第一位を
最初に拝んでやろうと黒夜はしたり顔で眺める。


「…………?」


しかし、一方通行のいた位置に人の気配はなかった。
少しの風でも簡単に吹き飛んでしまいそうなほど華奢な体だ。目の届かない場所まで消し飛んで
いったのだろうか? 


「……だとしたら、探すのが面倒だな。どこまで飛んじまったのか分からねえぞ……」


やはりやり過ぎだったか……。と普段の口調で呟く黒夜。

と、その時。




「――――いィや、わざわざ探す必要はねェ」




「――――!!?」
626 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/29(火) 22:22:34.53 ID:y99xCPVg0


少女の小さな背筋が凍った。
急に襲われた得体の知れない悪寒。その正体は背後からの囁き声と共に明らかとされた。


「死体確認も済ンでねェ段階で殺ったと決め付けンのは、ちっと早計なンじゃねェか?」


確実に仕留めたと思われる標的本人の声が、黒夜の目を剥かせる。


「テメェ……どォして……!?」

「とりあえず落ち着けよ。まずはその鬱陶しい“作り物”から処分しなきゃ、なァ?」


背中に言い様の無い圧迫感を覚え、振り返るどころか金縛りにでもあったかのように硬直
しきっている黒夜。
瞬間、“歪な腕”は見えない圧力によって黒夜の身体から巣立つように分散されていった。
黒夜本体には影響を与えずに大気の流れを器用に操るという豪技。こんな非常識な真似が
可能な人物を黒夜は一人しか知らない。


「っく……!」

「ハイ、掃除完了ォ」


楽しげで余裕のある声。
そして、
627 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/29(火) 22:26:50.65 ID:y99xCPVg0


「あとは、オマエの両肩に付いてる“それ”を取り除くだけだ。ピンチを感じる間もなく
 終わらせてやっから、感謝しろよ?」

「……っざ、けんなっ!!」


切迫した感情が遂に臨界点を超えた。
自力で硬直状態から立ち直った黒夜は、昂ぶった感情のまま勢いをつけて身を反転させる。
同時に構えた右腕から手加減なしの『窒素爆槍』を見舞おうとするも、当然すぐ背後にいた
一方通行はこれを先読みした。


「が……ぐァァあああああああ!!!!?」


窒素の槍が噴出される前に右腕を掴まれ、そのまま制御不能に陥った。
ゼロ距離で黒夜を捕えた一方通行は、ニヤリと妖しく微笑みながら、


「ハァイ、“一本目”ェ! ぎゃはハハははァァ!!」


自身の手を黒夜の右腕を掴んだまま大きく横へ薙いだ。
バキッ!! と金属同士の接合が外れるような鈍い音が響く。


「ぎゃァァあああああッッ!?!?」
628 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/29(火) 22:27:56.03 ID:y99xCPVg0


激痛に襲われ、たまらず大声を上げてのた打ち回る黒夜。
肩から文字通りに外れた“右腕”を地面に放り捨て、尚も苦痛にもがく無惨な少女を
冷ややかに見下ろす。


「サイボーグ、ねェ……。能力じゃ到底俺に及ぶはずねェのに、何故か自信に満ちた
 オマエの態度がやたら気にはなってたが……ハッ、そォいうカラクリかよ」

「…う……ぎ、ぐううう……!!!」

「“生身”じゃなくて良かったじゃねェか。そいつが義手じゃなかったら、毛細血管
 ごと弾けてもっと悲惨な光景になってたぜェ? っつか、本物の腕じゃねェにしても
 神経自体は繋がってンのか……。詳しい訳じゃねェから、そこン所の原理が今ひとつ
 ピンと来ねェな」

「…て…テメェェ………ッッ!!!!」


狂気に憑りつかれた瞳で一方通行を睨み、残された左手を向ける。

だが、


「おっと、そっちも取り外し式か? ――――なら、もうオマエにゃ不要だよなァ!?」


超人的な素早さで左手さえも抑えられ、黒夜の顔が青ざめる。
自分の手を掴んでいる一方通行の華奢な手が魔手にしか見えなかった。


「いや……ちょっ、な、なにす……ま、待っ――――!!?」
629 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/29(火) 22:28:57.31 ID:y99xCPVg0




 「ハァァイ、“二本目”も没収ゥゥゥゥ!!」




630 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/29(火) 22:33:03.45 ID:y99xCPVg0


ボキッ!


「――――ぃぎゃアァァアアアアァああああああああァァあああ!!!!!!!!!」


二度目の地獄を迎えた齢十二歳の少女。
掴んだ時、つまりは“触れている”ので、生身か義手かの識別どころか仕組みや設計
まで最速で収集できる。それが第一位の能力である。

右腕同様に金属反応を感知したので、一方通行は容赦なく左腕も力ずくで引き外した。
まさに取り外し手順などクソ喰らえと言わんばかりの強引手段。
ちなみに手順通り以外だと痛覚神経に途轍もない刺激が伴ってしまう事を一方通行は
知らない。正確には知ったことではない。


「おいおい……、まるで本当に腕が取れたみてェなリアクションだな。……そンなに
 痛ェのか? スプラッタ映画みたく血だまりにならねェだけで、実は本物の腕と同じ
 神経でも通わせてンのかよ?」


「あァァああ……ッ……あ……は……ァ……ッッ……ッ」


涙で濡れながらも虚ろな目の黒夜を見て、流石に背徳感を抱く一方通行。
勝敗など誰が見ても明白だが、これでは話ができない。
元々黒夜は喋る体力を残す程度で済ます予定だっただけに、今度は一方通行が「やりす
ぎちまったか……」と頭を掻く。ここまでの効果は正直期待していなかった。
せいぜい相手の攻撃手段を封じることで無力化するくらいの工程しか立てていなかった。
631 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/29(火) 22:35:51.78 ID:y99xCPVg0


そんな両肩から先を失った黒夜は、痛みを緩和する手段も得られず無様に地べたを這う
しかない。両腕が無いために、未だ激痛が伴う接合部の断面を押さえる事は愚か起き上
がる事さえできず、加えて武器(能力)も使用不可に陥り、“まな板の鯉”状態である。

もはや戦闘不能なのは一目瞭然だった。


「ち、くしょ……う……っ」


苦しみと屈辱に悶える少女に、一方通行は勝者として悠然と見下しながら話しかける。


「おーおー、不憫な姿に成り下がっちまって……。すぐにでも病院に緊急搬送してやり
 たい所だがなァ、その前にもォしばらく俺との会話に付き合えよ」

「……ど、どうして……あの渦に囲まれて……逃げ場なんて、なかったはず……」

「あァ、それなら単純だ。“全部読ンだ”。風向きから速度、質、風量、値を弾き出す
 のに十秒も掛からねェよ。あれくらいじゃあなァ……」

「ッ……!?」

「オマエ、“反射”ァ破ったぐらいで俺を攻略できたとか……本気で思ってたのか?
 木原みてェにもっと徹底されてるって考えてた俺が馬鹿みてェじゃねェか。……まァ、
 オマエらは言い換えりゃ“新人”だから、らしいっちゃらしいかもしンねェけどよォ」

「な、に……?」
632 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/29(火) 22:38:39.87 ID:y99xCPVg0


「まだ理解できねェか? ならもっと丁寧に説明してやンよ。“オマエ”が仕向けた
 『窒素爆槍』は一つ一つ綿密に解析され、大気のベクトルをオマエの攻撃方法と同じ
 要領で操作してぶつけ、相殺してオシマイってなァ」

「――!! ば……」

「で、砂埃で視界が悪いのを利用して、間抜けに勝ち誇ってるオマエの後ろまで移動
 したって訳だ。特に驚くよォな真相でもねェだろォがよ?」

「…………っ」


返す言葉が思い浮かばないとはこの事である。


「……馬鹿言ってんじゃねえよ……。あんな短時間で、あれだけの射出口から放った
 『窒素爆槍』を解析し終えたってのか?」

「所詮オマエが植え付けられたのは俺の“一部”に過ぎなかったよォだな……。俺の
 “際限”をそもそも把握しきってねェ。だから『軽く見すぎてる』っつーンだよ」

「馬鹿、な……! コッチには、『木原数多』との戦歴データだって……」

「確かにアイツにゃ何度か後れは取った。そン時のデータを参考に戦略を立てたンだ
 としたら、オマエに自信や希望が芽生えるのも頷けなくはねェ……。だが、そいつは
 あくまでも“シミュレーション”の範疇でしかねェンだよ。俺を完全に攻略しきった
 とは言えねェよな」
633 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/29(火) 22:41:04.74 ID:y99xCPVg0


「なん、だと……!」

「オマエは“あの計画”で俺の片鱗くれェは知り得た。実際、一部の演算パターンや
 思考能力は参照程度に身に付いてる筈だ。俺自身の能力についても大凡の知識がその
 チンケな脳に組み込まれてる……」

「……だから、何だよ?」

「オマエは『暗闇の五月計画』や『木原数多』から取得した情報で俺を知り尽くした
 気になっていた。それが敗因に繋がったンだよ」

「……!」


「頭で理解すンのと直接体感するのとじゃ、意味が全く違うだろォが。そこに気づけ
 なかった時点で、ハナからオマエに勝機は無かった」


「――!!」


突きつけられた残酷な現実を何とか振り払おうと懸命に頭を振る。
地面に額を打ちつけて悪夢から逃れようと呻く。

しかし、どう足掻いたところで受け止めざるを得なかった。

“敗北”という、この世で彼女が最も嫌う運命を――。
634 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/29(火) 22:42:17.64 ID:y99xCPVg0

「なん、だと……!」

「オマエは“あの計画”で俺の片鱗くれェは知り得た。実際、一部の演算パターンや
 思考能力は参照程度に身に付いてる筈だ。俺自身の能力についても大凡の知識がその
 チンケな脳に組み込まれてる……」

「……だから、何だよ?」

「オマエは『暗闇の五月計画』や『木原数多』から取得した情報で俺を知り尽くした
 気になっていた。それが敗因に繋がったンだよ」

「……!」


「頭で理解すンのと直接体感するのとじゃ、意味が全く違うだろォが。そこに気づけ
 ない時点で、ハナからオマエに勝機なンてモンは無かったンだ」


「――!!」


突きつけられた現実を振り払おうと頭を振る。
地面に額を打ちつけて悪夢から逃れようと呻く。

しかし、どう足掻いたところで受け止めざるを得なかった。

“敗北”という、この世で彼女が最も嫌う運命を――。
635 :>>633は無しで ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/29(火) 22:45:00.54 ID:y99xCPVg0



「く、そ……。ち…く…しょう……ッッ!!」


“認めたくない”。そんな一途な想いが強く表れている。
だが、音を立てて崩れ去った自信やプライドに縋ることも適わず、黒夜は屈辱感に
堪えながら奥歯を力一杯に噛み締めた。


「オマエ達から仕向けた戦争だ。同情の余地がねェのは判るな? この末路を受け
 る覚悟も、勿論あった筈だ。……まァ、愚鈍に気づいた時ってのは大体が手遅れの
 ケースだろォから、オマエだけを嘲笑ったりはしねェさ」

「…………もういい、殺せよ」

「……良い覚悟だ。と言いたいトコだが、生死の境に立つにはまだ若すぎンだろォ。
 もォ一度、人生をやり直そうって気分にはなれねェのか?」

「今更……生きる場所なんかない……。私は暗い世界に浸ってるのが似合いなんだ。
 表で堂々と生きていける訳、ねえよ……」

「そンなの分かンねェだろ。オマエが出来ると思ったら、案外何とかなるかもしれ
 ねェじゃねェか。居場所くらい、腐りきった裏社会に比べりゃすぐに見つかる……。
 ンで、そォいうのは意外と近くに転がってたりするモンだ」

「……なに、どこぞの奇麗ごと教師みたいに振舞ってんだよ……。私を殺さないの?
 放っておいたら、またアンタを狙うかもよ? 今度は確実に息の根を止められるかも
 しれないぜ?」

「根本的な勘違いを指摘してやるが、俺は『オマエを殺す』っつった覚えはねェぞ?
 『叩き潰す』とは言ったかもしンねェがなァ」
636 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/29(火) 22:48:01.49 ID:y99xCPVg0



「……、詭弁かよ……」

「どォ受け取ろォと構わねェよ。……それに、また俺にリベンジする度胸が果たして
 オマエにあンのかねェ……。ま、仮にあったとしても問題ねェがな。そォいうヤツら
 を相手すンのは嫌気がさすほど慣れてっからよ。オマエ一人増えた所で大して気には
 ならねェなァ」

「ケッ……、余裕こいてられるのも今だけだ、クソ野郎。その内ケツから泡吹かせて、
 私が今日受けた屈辱の十倍は苦しませてやるからな……!」

(そォなったらそォなったで、番外個体がまた面倒臭せェ事になりそォだ……)

「……今日の所は、私の……負けだ。『新入生』も解散する。……つっても、アンタ
 や第四位に大半は削られたんだけどな」

「あァ……」(第四位……無事なンだろォな?)


黒夜の瞳から闘争心が消え、因縁のぶつかり合いもこれで一応は一幕下りた。
そして、一方通行は――――。


「じゃあ、ここからは俺の質問に答えろ。今回の、一連の実権を握っている黒幕共の
 巣窟は何処にある?」

637 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/29(火) 22:50:07.66 ID:y99xCPVg0

今回はここまでです
義手だからグロにはならない……よね?

では次回告知
638 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/29(火) 22:59:09.11 ID:y99xCPVg0


浜面「“多勢に無勢”にも限度ってモンがあんだろーーー!!」


麦野「テメェ……、首より下ぁレンコン模様にされてぇのか?」



―――――――



上条「……あれ? お前ら、地下シェルターに避難してなかったのかよ?」


美琴「目の前で死にかけたばっかりの癖に、気なんて遣ってんじゃないわよ馬鹿!」


黒子「まったく……、貴方のせいでもう心臓一つでは満足に生きられませんの……」

639 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2011/11/29(火) 23:00:32.96 ID:y99xCPVg0

以上です
次の更新はちょっと遅くなるかも…
あんまり延びるようなら生存報告だけでもしますので気長に頼んます

ではまた
640 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(愛知県) [sage]:2011/11/29(火) 23:07:52.65 ID:8fiKiCJE0

一方さんはドS
641 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(神奈川県) [sage saga]:2011/11/29(火) 23:17:42.12 ID:ueu3IZun0
神経ごと持って行ったのかwwww
まじキッツイなwww
642 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/29(火) 23:58:36.02 ID:C0feI4MUo
前回もやってしまったが今回もまたやってしまったな・・・・・・
643 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/30(水) 00:23:52.58 ID:xeGHWh9T0
このssの一方さんは甘くて優しい


……そう思ってた時期が私にもありました
644 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/30(水) 00:32:03.26 ID:/g68MG+SO
本当予想の斜め上いかされるよなww

ここの一方通行>>643の言う通り甘いからてっきりもっと紳士的に済ませるかと思ってたのに……けど不思議と惹き込まれるんだよな…
なんでだろ?
645 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(岡山県) [sage]:2011/11/30(水) 07:47:00.67 ID:RE5G9HBv0
一方さんが黒夜をお持ち帰りフラグかこれ
646 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/30(水) 13:00:13.23 ID:+yC/1bY/o
乙!
647 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/01(木) 01:50:15.88 ID:qwXUpkP80
おつー

黒ダルマwwww
648 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/02(金) 23:13:15.54 ID:c2mqIKzO0
女でも顔面グーで殴るわサイボーグ化してるとはいえためらいなく両腕捥ぎ取るわ・・・
まさに本来の一方通行さんではないかもっとやれ
649 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/12/04(日) 23:56:45.58 ID:fYwgswW80
黒夜に苦戦するパターンかなー、と思ってたら原作通り余裕でやっつけた(浜面無しで)wwwwwwさて、ナイトロジェンで可愛い黒夜でも見るか……
650 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/05(月) 05:55:52.73 ID:4bGDCUyt0
流石にそこまで日和ってなかった。ってことか
まぁ少女に苦戦する一方さんなんて見るに堪えんからよかったけど
651 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/08(木) 23:38:41.53 ID:WNV6Wh9uo
652 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/14(水) 00:10:48.21 ID:1Lt9ScY20
まだかーーーーーーーーー
653 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/16(金) 23:41:37.15 ID:It4rO6zl0
生存報告に来ました

すいません
続きの投下にはもうしばらく時間掛かりそうです…
待っててくれてる方、本当に申し訳ないです

年明けまでにあと一回は更新したい…


654 : ◆jPpg5.obl6 :2011/12/16(金) 23:43:35.18 ID:It4rO6zl0
おっと
酉忘れてた
655 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/16(金) 23:54:06.30 ID:AUFsMrSE0
舞ってる
656 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/17(土) 01:42:49.11 ID:OSLHkrOSO
無理せず自分のペースで構わんよ
打ち切りさえしなければ問題ない
657 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/17(土) 01:48:30.24 ID:ncUICxlM0
生存報告きたか……
いつまでも待ってるぞ
658 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/17(土) 23:49:34.05 ID:fFsjX3H50
投稿まで無眠無休で舞ってる
659 :以下、あけまして、おめでとうございます [sage]:2012/01/03(火) 00:05:35.97 ID:mCdYuxHU0
楽しみに待ってます!
660 :以下、あけまして [sage]:2012/01/04(水) 22:30:55.59 ID:BmcdGESC0
年末年始休業ですね
再開心待ちにしてます
661 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/01/21(土) 14:39:27.30 ID:t1zA8Onx0
待ってるぞ
662 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/01/29(日) 13:18:37.20 ID:SGSebIBAO
待ってる
663 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/02/06(月) 12:38:04.30 ID:UI+/hx6o0
そろそろ生存報告を……
664 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/16(木) 04:58:33.77 ID:EjTcyWREo
早く来い……
665 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2012/02/18(土) 23:12:32.04 ID:iGb3TKlG0
つつきはまだですかぁ〜?
666 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2012/02/19(日) 00:53:40.65 ID:Ydy+1/VAO
あげんな。おとなしく待て
667 : ◆jPpg5.obl6 :2012/02/24(金) 01:22:57.86 ID:LZIt7T/Q0
えー…
長い間放置してて本当に申し訳ありません
待っててくれてる人がいるとは正直思ってませんが、ようやく来れましたので久しぶりに更新します
668 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/02/24(金) 01:23:57.25 ID:LZIt7T/Q0


―――


第五学区、『新入生』本拠地から数キロ離れた『無法区域』内。
全力疾走中の浜面仕上を追うのは、種類豊富の駆動鎧。総勢十数体以上。
帝国軍のイチ中小隊に相当する布陣がターゲットとしているのは、どこにでも
転がっていそうなチンピラ約一名。

いくら内情有りとはいえ、流石に不条理且つシュールな絵図だ。

そんな喜劇の台本にでもありそうな状況だが、当人たちは至って大真面目である。
特に、直撃すれば即死必至の銃火器から放たれる砲撃が先程から横を通過しまく
っている浜面の方は顔も動きも必死さが表れすぎていて、茶化す気分にもなれな
いであろう。

実際、生きるか死ぬかの絶賛修羅場中だから無理もないのだが……。


「ぃひぃい!? う、うそだろぉオイ!! 弾の無駄、ってか……兵力の無駄な
 浪費って言葉知んねえのかテメエらぁ!!? こっちは凡人どころか、地位的に
 は落ちこぼれの部類に入ってんだぞ!!? いくら何でも勢ぞろいし過ぎっ!!
 “多勢に無勢”にも限度ってモンがあんだろーーー!!?」


涙まじりの訴えにも武装集団は耳を傾けてくれない。
ウサギを狩るにも一切気は抜かずに全力を尽くす獅子。まさにそんな構図だった。
的を絞らせないために直線を走るのは基本だが、ジグザグに走るのも楽ではない。
既に莫大なスタミナが浜面の体内から消費している。
早い話、そろそろ限界が近づいていた。
669 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/02/24(金) 01:25:01.20 ID:LZIt7T/Q0


「はぁ……っはぁ……! ちっ…きしょお!!」


腿が張ってきている。故に段々と足を動かすのが辛くなり、追手との距離も徐々に
狭まっていた。
唯一の対抗手段だった『能力物』もとっくに素が尽きており、使い物にはならない。


(やべぇ……逃げ切れる気がしねぇ! あんな数のセンサーじゃ、きっと何処に隠
 れたって見つかる……! かと言って、このまま追いかけっこしてたんじゃ間違い
 なく召される!!)


小道を見つけ、すかさず駆け込む。無駄な足掻きでしかないかもしれないが、広い
道を逃げるよりは何倍もマシなはずだ。幸いなのは追手全員が搭乗型駆動鎧である
事だった。人が乗る構造上、ある程度は巨体躯なのがお決まりだ。狭い場所へ誘導
すれば、僅かながらも足軽の方が有利なのは否めない。


「……撒くのは無理でも、インターバルの時間くらいは稼げるか……?」


ひとまず壁と壁の狭間に身を潜め、息を殺す。
乱れた心拍を落ち着けてから消耗したスタミナの回復に努めようと計画を練る。

が、やはりそう都合良く運ばせてくれるほど敵も甘くはなかった。
670 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/02/24(金) 01:26:10.77 ID:LZIt7T/Q0


「――うぎぃ!?」


背面の壁がガラガラと破壊され、浜面の身体が後ろへ転倒しかける。
素っ頓狂な声を発しながら、傾く身体のバランスを立て直して顔を上げた浜面の目
に映った光景は、


「……あはは、やっぱねー。逃がす気なんてサラサラありません、ってか? ハッ、
 まるで凶悪指名手配犯並の扱いだな」


おどけたコメントに返事をくれる者などいなかった。
転びそうな体勢で壁から出てきた浜面を「待ってました」とでも言いたげに各武器
を構えているのは十数体近い駆動鎧集団。

ここから逃げようと指の一本でも動かした瞬間、蜂の巣にされる運命なのは浜面で
すら理解できる。
逃走劇の終幕は案外呆気なかった。


(お手上げ、か……)


強運もどうやらここまでらしい。浜面がそう悟った時だった。


『――――ぐぎッ!?』

『――――ッッ!!?』
671 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/02/24(金) 01:27:40.97 ID:LZIt7T/Q0


悲鳴は弱者の方ではなく、武装した敵の方から上がった。
急展開に浜面が唖然とする中、次々と駆動鎧の腹部から“光の線”が生える。
そして、派手な轟音と一緒に怪光線が貫通した駆動鎧は爆発し、その場で無力化
したまま動かなくなった。


「んな……、えっ!? な、何だよ……どうしたってんだ……???」


浜面があたふたしている間に作業的な駆逐は完遂され、目の前の敵部隊は十秒も
経たない内に全滅の末路を辿った。

こうして、またも奇跡的に生き残った規格外無能力者の浜面。
そんな彼の耳に聞き馴染んだ声が届く。


「やーっと見つけたと思ったら……、何また勝手に絶体絶命ゴッコしてんのよ?
 つくづくアンタって追い詰められる様が定着してるわねぇ。ここまで来ると属性
 ついてんじゃないかって疑うくらいだわ」

「はぁ……助かったよ、ありがとう……って素直に感謝したい所だがなぁ麦野!
 ヤラレ属性だけは流石に寛容できねーぞ!? ってぇか、好きで死の淵に立つ様
 な異常快楽者がいるんだとしたら、そいつは精神病棟行き決定だ!!」


プスプスと煙を噴かす駆動鎧の残骸を踏みならして浜面に歩み寄って来たのは、
頼れる姐御肌な雰囲気を醸した麦野沈利だった。

とりあえず、浜面は売り言葉に買い言葉で反論する。
その幼稚ぶりに呆れる麦野だったが、それ以上の口論には応じずに近況報告を
要求した。
672 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/02/24(金) 01:29:01.19 ID:LZIt7T/Q0


「はいはい、アンタが望むなら後で精神病棟にでも何処にでも送ってやるから、
 さっさと“あの後”の経緯を話しなさい。場所も場所だし、あんま無駄話して
 ても仕方ないでしょ?」

「あっ……! そうだ思い出した!! お前さっきはよくも俺を敵地内で一人
 ぼっちにしやがったな!? 第一位にしろお前にしろ……自由ってか自分勝手
 過ぎるんだよ! さらっと“あの後”とか言っちゃってるけどねぇ麦野さん?
 俺がどれほど死ぬ思いしたか……! “一歩踏み違えるだけでサヨナラ現世”
 レベルだったんですよ!?」

「あー……、まぁアンタなら死にゃしないだろーって思ってたし……実際今も
 そうやって五体満足で生きてんだから、問題ないでしょ?」

「…………何故そこで俺を“うわー、コイツ面倒臭え”的な目で見る?」

「過ぎたことをグチグチ言うヤツは面倒臭い。異論ある?」

「いやいや、命に関わってんですけど!? “過ぎたこと”で済ませて良い
 問題じゃ……」

「あぁもう、うっせえなぁ。文句あるってのかよ? あぁん? 大体、この
 私や第一位が雑魚の囮役をわざわざ買ってやったのよ? 普通そういうのは
 下っ端の役目だってのが無条件で確定してるのを、捻じ曲げてまで引き受け
 たっていうのに、感謝されるならまだしも不満漏らされるってのはどういう
 事だよ? なぁ、浜面ぁ? それでもまだつべこべ言う気かコラ」

「…………すみませんでした。不満なんてとんでもない。寧ろ大感謝ですよ
 わっはっは」

673 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/02/24(金) 01:30:58.45 ID:LZIt7T/Q0


雲行きが怪しくなる前に危険を感知し、退く。
これまでの死線で磨きに磨いたチキンスキルは今回も絶好調のようだ。


「っていうか麦野、第一位と一緒じゃなかったのか?」

「途中からは別行動よ。一通り片付けた後に新手が合流しちゃってねぇ……。
 能力の使用時間が限られてる第一位をたかが遣い回しにぶつけるのは得策じゃ
 ない……。そんな訳で先に行かせたから、てっきりアンタと合流してんのかと
 思ってたわ」

「う……」

「で、浜面。アンタは今までなーに道草食ってたわけ? 目的地周辺の制圧
 は無理でもさ、スムーズに乗り込めるようにせめて入り口付近は掃除しとけ
 っつったわよね? 少なくともそこに留まってれば第一位と合流できた筈よ?
 ……さて問題。ここは一体何処? 目的の場所から何キロ離れてる?」

「いやー、そのデスネ? これには色々と複雑な事情があって……って麦野
 の方こそ何でここに!?」

「適当に暴れ回ってたら流れ着いてたのよ。んで、敵も殲滅し終えたから私
 もその工場跡だっけ? とにかくそこを目指してたら偶々四面楚歌のアンタ
 を発見したってワケ」

「……それについてはホントウに助かりマシタ。感謝のコトバもございません」

「はぐらかそうとしてんじゃないわよ。……んで? 結局アンタは何の成果
 も上げられなかったってか? それでも私の正規部下かよ? あー、こりゃ
 元通りの下っ端に降格すべきかしらねぇ」
674 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/02/24(金) 01:32:24.71 ID:LZIt7T/Q0


「へ!? いや、ちょっと麦野さぁぁん!!?」

「パシリ人生に逆戻り、おめでとう♪」

「っつか、肩書きだけで実質何も変わってねえだろうが!!」


浜面の“キレ”が最高潮に達しかける中、麦野が話を戻す。


「もういいから、早く第一位と連絡取りなさいよ。もしかしたらアッチも
 終わってるかもしんないし」

「……クソッ、弄るだけ弄ってシメやがって。その自由奔放ぶりはマジで
 どうにかなんねえのかよ……」


ボソッと低く呟いたが、こういう時の対象は決まって地獄耳だ。


「聞こえてんだよ。テメェ、首から下ぁレンコン模様にされてぇのかぁ?
 腹に幾つ風穴開けられてぇんだ? ああ? ゴルァ!!」

「ひいぃゴメンナサイ発光しないで下さい光った手ぇコッチに向けないで
 下さい折角生きて帰れそうな俺の希望を圧し折らないで下さいぃぃ!!!
 ちょ、ま、待て落ち着け麦野!! 謝る! 全力で謝るから次の駆除標的
 を俺に指定するなウギャアアアあああああああ!!」
675 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/02/24(金) 01:33:01.47 ID:LZIt7T/Q0


―――


「ハァ……ハァ……っクソ、しつけーんだよっ……!」


五分前の浜面仕上とほぼ同じ状況の人物がここにもいた。

追われる立場には割りと慣れている彼だったが、そこいらのチンピラから
逃げるのとは緊迫感も危険度も違う。捕まると同時に死を迎えても不思議
はない。
走り続ける上条当麻の数十メートル背後で群れを成して迫ってくる武装集団
(駆動鎧付き)からは、“穏やかな話し合いで済ませよう”という平和的な
思想が感じられなかった。

その証拠に、上条の肩や腰、脚等の僅か隣を何度も即死クラスの飛び道具が
通過している。直撃しないのは向こうが威嚇程度に撃っているからか、追い
ながらの発砲では上手く照準が定まらないのか、或いは上条がごく稀に発揮
する“不幸中の幸い”(悪運)か。

どの要素が当てはまろうが駆け足は止められないし、追手も諦める気配ゼロ
のようだ。
そして、この状況が延々と続けば右手の力以外は平均的な上条の体力が保た
ない。というか既に相当キツそうだ。浜面と別れてから休む暇なく逃げ続け
ている男子高校生の活力源は今や気力と根性が大半を占めていた。


「ヤバイ……ま、マジで……ヤベェ……!!」
676 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) :2012/02/24(金) 01:33:23.99 ID:BkPlSicE0
待ってた!
677 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/02/24(金) 01:34:00.33 ID:LZIt7T/Q0


本気でこの世の終わりを意識し始めた頃には、脚の感覚も麻痺していた。
急激な疾走の影響で痛む肺を手で押さえ、それでも捕まるものかと足掻いて
はみるものの、嗅覚に優れている上に機動力や数も普段相手にしている不良
とは格が違う。


(これまでかよ……ちくしょう!)


遂に限界が訪れてしまった。
力の入らない脚は上半身を支える事すら敵わず、地面に崩れる。逃走不能と
なった上条に、もう為す術などないと判断した集団が威嚇射撃を止めて歩み
寄ってくる。


(ははっ……俺、この後どうなるんだろうな……。やっぱ、消されちまうの
 かな……。あいつの方は大丈夫かな? ちゃんと逃げ切れたのか……?)


こんな絶体絶命の状況でも他人(浜面)を気にかける面が上条らしかった。
倒れた上条を取り囲む駆動鎧集団。その中の一体が力尽きた上条の身体へと
アームを伸ばす。上条は虚ろな目で自身へ近づいてくる手を見つめるだけで、
微動だにしない。正確には体力が底を尽いているために動けない。


「くそった……れ」


ボツリと最後にそう呟き、意識を手放しかけた時だった。
678 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/02/24(金) 01:37:06.77 ID:LZIt7T/Q0


「――――?」


あと寸での所で自分を捕える筈だった機械手が、“蒼白く光って焼けた”。


「……っ!?」


その光景を間近で捉えた上条の瞼がカッと開かれる。
半ば諦めと自棄に染まりかけていた心が仰天に変わった。

アームを貫通した“稲妻のような光”は駆動鎧の全身をくまなく走り、間も
なく機能停止にまで追いやった。
この雷鳴のような轟音、そして雷撃のような輝き。どれも記憶にあった。


「――――捜したわよ、この馬鹿。苦労させやがってさ……。しかも、何気
      に生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされてんじゃないわよ」


この声も、上条の記憶に真新しかった。
上条は信じられないといった口調で何故だか怒り心頭で語気を荒げている声
の主の名を呼んだ。


「私の見てない所で、勝手に正念場迎えてんじゃないっつってんのよ!!」

「御……坂……?」

679 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/02/24(金) 01:40:09.61 ID:LZIt7T/Q0


「――――わたくしもおりますのよ」


「は!?」


前髪に電流をバチバチ走らせながら仁王立ちする御坂美琴の後ろからヒョイ
と姿を見せた白井黒子。彼女もまた上条に呆れたような視線を送っていたが、
どこか安堵している風にも感じられた。


「ずいぶん心配掛けやがりましたわね? 上条さん。その上、やっと見つけ
たかと思いきや、この状況……。心臓に悪すぎもいいとこですわ」

「御坂……って白井も!? お前ら、何でここに……!?」


ようやく思考が通常通りに働いてきた。
何故この場に彼女たちが居るのか? 皆目見当もつかない上条は素直に伺う
が、彼を取り囲んでいた駆動鎧集団が常盤台少女二名の前に立ちはだかる。

仲間の一体を撃破したのが彼女らなのは明確な上、相手が能力者である事も
分かっている。だとしたら、たかが女子中学生だと高を括ってはいけない。
プロの彼等に油断は無かった。無駄の無い流れで各々の銃機が美琴と黒子に
向けられる。
それを見て、上条が全力で叫んだ。


「お、おい馬鹿! やめろぉ! そいつらは……ッ!!」


一見、か弱くいたいけな女学生が危険に曝されているようなシーンに思える
だろう。
680 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/02/24(金) 01:41:44.23 ID:LZIt7T/Q0


「ええい、邪魔ですのよっ!!」

「ってか、何だってのよアンタらはああああっ!!」


夥しい雷撃の雨と無数の金属矢の究極コンボで駆動鎧部隊は何の抵抗もでき
ずに撃沈した。
すぐ傍にいた上条は青ざめた顔で、


「……あーあ、だから“やめろ”って言ったのに……」


『大能力者』と『超能力者』相手に敵意を向けるのは愚行である。
そう伝えようとしたのだが、どうやら間に合わなかったようだ。
ガラクタと成り果てた雑兵にはもう目もくれず、美琴たちは上条に詰め寄る。


「――で? 今度はどんな事情が隠されてる訳?」

「何つったらいいのか……。ってか、俺も全容を知ってる訳じゃねえし……」

「貴方、事の重大さが分かってますの? 既に学区内全域を巻き込んでいます
 のよ? 適当に誤魔化そうとするのだけは止めて頂けませんこと?」

「そうよ。ここまで来たら、私らには無関係だなんて言わせないからね?」

「……うーん、つってもなぁ……」
681 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/02/24(金) 01:42:32.34 ID:LZIt7T/Q0


騒乱の元凶として一方通行の名を出すのは流石にためらってしまう。
とはいえ、他の上手い言い逃れ方がすぐ思いつくはずもない。
どう説明すべきか悩んだ末、


「……今言った通りだよ。本当にただ巻き込まれただけなんだって。裏に真実
 が隠されてるなら、俺の方が知りたいぐらいさ」


こう答えるしかなかった。

白井黒子は『絶対能力者進化実験』の内容、及び今回の中心核である一方通行
と御坂美琴の間にある深い因縁について何も知らされていない。
そんな彼女の前で“一方通行”の名を出してしまっては、美琴の心中としては
さぞかし複雑な筈である。最悪、話を聞いた際に美琴が表情を激変させ、それ
に気づいた黒子が追求してしまう可能性もある。そうなっては美琴をより苦し
める展開にもなりかねないのだ。

上条にしては偉く頭の回転が速いこの決断に、少女達は……、


「……じゃあ、テロの詳細とかも知らないのね……。何ていうか、残念な反面
 安心したわ。またアンタが深く関わってるんじゃないかって……、けど今回は
 違ったのね」

「ホッ……。では、貴方が狙われている訳ではないんですのね……。杞憂なら
 それに越したことはありませんわ」

(ふぅ……、とりあえずは納得してくれたみたいだな……)

682 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/02/24(金) 01:44:43.58 ID:LZIt7T/Q0


嘘は気が引けるが、これも彼女達を想っての行為だと自己正当化させる。
さて、問題はここからの流れだが……。


「じゃ、俺はもう行くから、お前らも気をつk」

「なにサラッとお別れ発言してくれちゃってんのよ! こんな危険地帯で単独
 行動とか、アンタ正気!?」

「いや……何がどうしてこうなったのか、俺も調べたいし……」

「それなら尚更私達も一緒の方が良いに決まってんでしょ!!」

「お姉様に同じですの! というか、ここで別々になる意味が分かりませんわ!」

(しまった……! そうだよな、コイツらなら絶対そう言うよなぁ……。うわ、
 どうしよ……。このまま一方通行と合流でもしてみろ。折角の機転も全部無駄
 に終わっちまうぞ!)


冴えているようで、実際は穴だらけ。後先を考えずとは正にこの事である。
美琴たちが一緒だと、一方通行がいるであろう敵地の中心へ赴くのは非常に拙い。
下手に嘘を吐いてしまったおかげで余計に拙い。


「俺なら大丈夫だって! ほら、こういう状況慣れてるし、お前らまで危険な目
 に遭う必要なんかねえよ! 俺もしばらくしたら大人しく避難するからさ、お前
 らは先に……」

「はい却下! たった今さっき目の前で死にかけたばっかりの癖に、気なんて遣
 ってんじゃないわよ馬鹿!! 大体、避難しようにも地下シェルターへの入り口
 なんてとっくに塞がれてるっつーの!!」

「……あれ? お前ら、地下シェルターに避難してなかったのかよ? 確か警報
 (アナウンス)流れてたよな?」

「避難してたら今ここにいませんの! ……こんな時にじっとしてられないのは
 この街に住む学生として当然の心理ですのよ」

「だからって避難警報ガン無視とか……、お前らも大概無茶するよなぁ……」


「「アンタ(貴方)が言うな!!!」」

683 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/02/24(金) 01:50:08.94 ID:LZIt7T/Q0
区切ります

>>676
待たせてしまって本当にごめんなさい
684 :次回予定 ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/02/24(金) 01:52:51.90 ID:LZIt7T/Q0


一方通行『――――最後にオマエに会えて、良かった……』


番外個体「――――!!?」

685 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/24(金) 01:53:35.62 ID:lX0hmbmh0
乙  続きが読めて嬉しい 
686 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/02/24(金) 01:55:06.67 ID:LZIt7T/Q0
もうちびっと続きます
次回はまた一週間くらい後の予定です
それでは

687 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/24(金) 02:09:45.64 ID:veU1kicIO
超待ってました!
次回も楽しみにしてます
688 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2012/02/24(金) 03:33:26.51 ID:etFjd9OAO
待っていたとも!
689 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/24(金) 12:12:15.65 ID:u/E0rQGro
馬鹿野郎!お前の事を待ってる奴なんていないだって?
まずはそのふざk(ry 乙
690 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/24(金) 14:05:07.61 ID:C7iAdJ180
乙 

待ってた
691 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/25(土) 00:45:23.64 ID:ga/Y9/iu0
必ず来ると信じてた
そして次回の予告が完全に番外通行です本当に(ry
692 : ◆jPpg5.obl6 [saga]:2012/03/04(日) 23:31:26.50 ID:EhEcTyxP0
遅くなりました
待ってる人いてくれて良かったです
投下します
693 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/04(日) 23:32:23.26 ID:EhEcTyxP0


―――


「さァて……、ンじゃ行くとすっか」


華奢な肉体をユラリと動かし、普段みたく億劫そうに歩き出す一方通行。
次の目的地は決まった。黒夜は意外にも素直に応じてくれた。

迷う時間も休む暇も破棄し、一方通行はそのまま更地を後にしようとする。


「!」


「――――なーんだ、結局一人で片付けちゃったか……。ミサカの出る幕
      もなかったね」


そんな彼の正面に、一人の少女が待ち構えるように佇んでいた。
自然と一方通行は歩みを止め、その少女を見遣る。


「……オマエ、まだここに居たのか? ガキ共を頼むっつっただろォがよ」
694 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/04(日) 23:33:05.31 ID:EhEcTyxP0


あからさまに不機嫌な声で話しかけるも、彼女の真剣な眼差しは揺らがない。
何か大切な事でも確認したそうな……そんな雰囲気を放っていた。

少女、番外個体は腕を組んだまま目を細め、会話の流れを無視して訊ねる。


「何処へ行くの?」

「……野暮用だ」

「誤魔化せると思ってる?」

「嘘は言ってねェ……」


番外個体は一方通行の正面から動こうとしない。
まるで一方通行の道を阻むように、行かせまいと必死で食い下がっている
ようにも見える。
現に、一方通行の一挙一動を注意深く見つめている。
一瞬も目を離さないのは、一方通行をこのまま行かせないという強い意思
表示なのだろうか。

真意は彼女の本心だけが知っている。

そして、一方通行も番外個体の本音に感づいていた。
その所為なのか、接し方にどこかぎこちなさが表れている。
695 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/04(日) 23:33:53.99 ID:EhEcTyxP0


「もう終わったんでしょ? ……なら、早く帰ろう? ミサカ達の家へ……
 一緒に帰ろうよ」

「……まだ、駄目だ」

「……どうして?」

「一番重要な仕事が片付いてねェンだよ。……俺は、まだ帰れねェ」

「…………」


気まずい沈黙。
重苦しい空気。

一方通行も番外個体も、強固な意志の元で動いている。
譲歩など、最初から期待する方が間違いだった。

このまま平行線を辿っていても意味がない。
ならば……と、番外個体は提案する。


「……ミサカも、一緒に行く」

「!」

「あなたと一緒に……それなら、この場はミサカが折れてもいいよ」

「オマエ……全部聞いてたンだろ? 俺がこれから何処へ行こォとしてン
 のか……」

696 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/04(日) 23:36:48.94 ID:EhEcTyxP0


「もちろん、わかって……るよ」

「……なら、尚更オマエを連れてく訳にはいかねェな。来ても邪魔にしか
 ならねェ」

「…………」


「――――念のために、もう一度忠告してやるがな……」


そこで第三者の声が割り込んできた。
一方通行の後ろで“両腕の無い”少女、黒夜海鳥は地面に寝そべったまま
先程一方通行に告げた内容をもう一度語る。番外個体の耳にもしっかりと
入るように。


「“あそこ”は能力開発部門のトップチームや、統括理事会メンバー……
 そういったVIP共が蔓延る地区だ。そんな場所に堂々と城を構えられる
 ようなヤツらに直接殴り込みを掛けるなんて、馬鹿げすぎてて欠伸が出る
 話だ。……アンタがどうしても行くってんなら止めてやる義理なんざねぇ
 が、生き永らえたいんなら行くべきじゃねぇ。たかが“最優秀賞の実験鼠”
 如きが粋がれる領域じゃないんだよ。……てか、アンタだってそれくらい
 は常識として頭に入ってんだろ?」


「…………まァな」


「はっきり言ってやるよ。とても正気の沙汰とは思えない。まさか生きて
 帰れるなんて淡く儚い希望抱いてんじゃないよねぇ? どう見ても自殺し
 に行くようなモンじゃん。折角延びた寿命を自ら縮めるなんて……マジで
 頭のネジでも外れてんじゃないの?」
697 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/04(日) 23:37:37.30 ID:EhEcTyxP0


「もォいい、黙ってろ……。それ以上喋れなくされてェか?」


鋭い目つきで振り向き、背後の黒夜を睨みつけた。


「……私としてはアンタが死に腐ってくれりゃ万々歳だから、好きにすりゃ
 いいけどな」


面白くなさそうにソッポを向いてしまった黒夜を視中から外し、再び正面に
首を戻した一方通行に番外個体は震える声で確認した。


「あなた……その子の言う通り、死にに行くつもり……なの?」

「そォじゃねェ。“元を絶ちに”行くだけだ」

「……どうしても?」

「またこンな大事に巻き込まれてェのか? 裏で糸を操った連中を野放しに
 してる限り、同じ事の繰り返しになっちまう……。それじゃ駄目だろォが」

「相手が悪い、って分かってても?」

「オマエ達……オマエのためなら、最高権力者相手だろォが生かしちゃおか
 ねェよ。人を玩具として扱うほど偉いヤツなンてのは、神でもねェ限り存在
 しねェ。もっとも、たとえそいつがマジモンの神だったとしても許しはしねェ
 がなァ」

698 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/04(日) 23:38:47.83 ID:EhEcTyxP0


正面きっての反逆は、一方通行にとって最終手段だった。
そして、今がその時なのだと一方通行は決意していた。

以前、統括理事会のトップ相手に全能力をぶつけた経験がある。
だが、通称“窓の無いビル”は結局倒壊どころか、ヒビのひとつも入れられ
なかった。

一国の軍とも渡り合える能力を保持していながら、一方通行はその時に改め
て思い知らされたのだ。

“所詮、自分は高い権力を持つ大人にとってただのモルモットでしかない”
と……。

ゲームの中のキャラクターがどんなに強くても、操作主(プレイヤー)の
意思次第で簡単に消せるのと同様に……。


「ヤツらが俺を消したがってるンなら、どっち道ケリをつける必要がある。
 逃れられねェのも充分に分かってる。……だからこそ、今叩いておかなきゃ
 駄目なンだ……。俺の全てを懸けてでも、これ以上ヤツらに甘い汁を吸わせ
 る訳にはいかねェンだよ」

「…………ミサカが、知りたいのは……あなたがちゃんと帰って来てくれ
 るのか、ってこと……」

「……俺が信用できねェか?」

「信じてない訳じゃない……けど」

「“けど”、何だよ?」
699 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/04(日) 23:39:55.70 ID:EhEcTyxP0


「…………恐い」

「………」

「ミサカは、恐いよ……。何ていうか……上手く言えないけど、あなたが
 どっか遠くに行っちゃって……二度と帰ってこないような気がして……」

「はっ……。なァに言い出すかと思ったら……、ンな心配してたンかよ?
 俺がもォ帰って来ねェだァ?」

「もちろん、気のせいだって信じてるよ? ……なのに、なんでかなあ……。
 胸騒ぎってか……胸の辺りがチクチクするの。まるで何か悪い事が起きる
 予兆みたいな……。もし、ミサカの予感が当たってるんだとしたら……」

「………?」


「……あなたをここで止めるしか、なくなる……」


『最悪、戦闘に移行してでも』。番外個体の真っ直ぐな瞳(め)はそう
告げており、彼女のちょっとやそっとで動かない頑固な意志は一方通行
にも充分すぎる程に伝わっていた。

一方通行はそれまで保っていた無表情を崩し、困ったように薄く笑う。


「そォ来たか……。はっ、そりゃ参ったねェ。オマエが本気で俺を止め
 よォと体張ってきたンじゃあ、コッチは大人しく両手を上げるしかねェ
 よなァ。……だが、今回ばっかりはそこで曲げる訳にゃいかねェンだよ。
 理解しろとは言わねェ。許してくれとも言わねェ。……こいつは、完全
 な俺の我が儘……みてェなモンだ」
700 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/04(日) 23:41:53.12 ID:EhEcTyxP0


「…………いや、だ」


「ゴメンな……番外個体」


「やめてよ……。なんで……そんな、『元気でな』みたいな顔するの……?」


「――――オマエの面ァ見たら……、よォやく吹っ切れたわ」


「――――ッッ!!?」


次の瞬間、番外個体は目を見開いた。
一方通行が心残りの無い笑みを浮かべた直後、彼の背中から神秘的な輝き
が発現する。
輝きは巨大な扇状の形へと具現化され、徐々に白く展開されていく。

やがて、背中から生えた白い光は“翼”へと形を変えた。
汚れ一つ無い純白の翼を生やした一方通行の頭上には、いつの間にか薄い
“輪っか”が浮き上がっている。

その姿は、まさに更地へ舞い降りた“天使”―――。

又、彼の表情は今の姿に相応しいほどの清々しさと優しさに満ちており、
嘗ての狂気など微塵も感じられなかった。
おそらく、これこそ一方通行が時折垣間見せた本来の素顔であり―――、
701 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/04(日) 23:43:18.78 ID:EhEcTyxP0





―――ずっと心の奥底に封印してきた純粋な一面なのだろう。


702 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/04(日) 23:44:37.67 ID:EhEcTyxP0


番外個体は一方通行の目を見た。
そこにはためらいも迷いも邪心も無い、ただ大切なものを守りたい強き
心と、自身の運命を甘受する穏やかな意思が残されていた。


『番外個体……』


言葉が出ない番外個体に、天使姿の一方通行が囁きかける。
まるで別人なくらいに優しい声で―――。


『――――最後にオマエに会えて、良かった……』


「――――!!」


聞き取るのが困難なほどに小さな声だったが、番外個体の耳には確かに
届いた。


『……ごめンな』


本当の最後の呟きが、“それ”だった。
番外個体が何か言おうとする前に、突風が視界を妨げる。
腕で目を覆いながらも、必死で正面に向かって叫ぶ。
703 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/04(日) 23:45:23.79 ID:EhEcTyxP0


「って……待って…………待ってよ!! どういうこと!? “最後”
 って何だよ!!? わかんないよ!! あなたが何を言ってるのか……、
 ミサカには全然わかんないっ!!!」


すでに、一方通行の両脚は地を離れていた。
自分の声が届いているのか、番外個体には確認できない。
ただそれでも、彼女は風圧に逆らい、視界が不安定な中で懸命に手を伸ばした。

そこにはもういないと分かっていても、届かないと分かっていても。


「アクセラ――!!」


ようやく目を開けた時には、何もかもが手遅れだった。
背中から生えた純白で巨大な翼が、すでに小さくなっていた。


「……っ!!」


見送る事しかできない番外個体は静かに地面へ崩れ落ち、堅いアスファルトを
思い切り殴りつける。


「ばか……やろう……」


誰も聞き取れない声量で彼女は震えながら呟いた。
おそらく濡れているであろう両目は、長い前髪に隠れて見えなかった。

704 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/04(日) 23:46:59.88 ID:EhEcTyxP0


―――


街の上空を鳥のように飛翔する一方通行。
彼の顔には一切の迷いも感じられなかった。
前だけを見据え、終息に向かって翼をはためかせる。


「…………」


黒夜から仕入れた情報が正しければ、今目に映している遥か前方の一際目立つ
高層ビルが終着駅だ。
あそこに全ての根源が集結している筈だ。

学生という身分では近づくことさえまず叶わない、謂わば皇居のような聖域。

しかし、一方通行は躊躇しない。
どんなに巨大で強大な壁が立ち阻もうとも、街や国そのものを敵に回そうとも、
彼は止まらない。

その理由は極めて単純。

『自分の大切なモノ(存在)に危険が迫ったから』。

そして、その危険性を完全に消滅させるための条件が今、一箇所に集まっている。
こんな好機を見逃す手はなかった。

705 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/04(日) 23:47:50.86 ID:EhEcTyxP0


行政学区(第一学区)の末端に聳える幾つかの高層ビルを中心とした“そこ”は
第三学区に隣接しており、各国の権力者や政治家、都市機能の中枢を握る有力者
が来訪し、集う場所として有名だった。

一般人には踏み込めない“そこ”は、俗に『聖域』と呼ばれている。
実は一方通行も目を付けていた場所だったが、確証の材料が何も無いままに踏み
込むのはただの自滅に繋がる事ぐらい弁えていた。

だが、今は違う。

少なくとも、『新入生』を仕向けた張本人達が“あそこ”にいるのは間違いない。
黒夜の情報が嘘ではないと、何故だか知らないが自信を持って言えた。


 終わりにしよう これですべてを 

 あいつらと一緒に生きられなくてもいい 

 ただ これからもあいつらが平和に生きていってくれるなら……

 


 ――― 俺はそこにいなくてもいい ――― 




706 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/04(日) 23:48:44.13 ID:EhEcTyxP0


ひとつの想いが固まり、そして爆発したかのように。

両翼は突如火がついたように激しく起動する。
急加速した一方通行の身体は、何十階はあろうかという高層ビルの最上階一点
に向かって移動する。

まるで、テロリストが放ったミサイルが国家重要機関に直撃する映画のシーン
を再現しているかのようだった。

勢いは止まらず、自身の体を最大限に加速させた状態でビルの一角に到達した。


その直後だった。


凄まじい轟音。

爆風。

砕け散り、飛び散り、豪雨のように周囲へ降り注がれる窓ガラス。

炎上する高層ビルに、まるで貴族でも住んでいそうな皇居地域は一瞬で大混乱
に陥る。

思わず耳を塞ぎたくなるような悲鳴の嵐。

鼓膜が破れてしまいそうな破壊と破滅の音。
707 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/04(日) 23:49:56.12 ID:EhEcTyxP0


それらが導いた結末は、気品の漂う『聖域』を見る影も無くさせるほどの―――



――――大惨事。




後に、この出来事は今回起きたテロ事件の『集大成』として語られる事となる。

真実を知る者はごく少数。大戦後に起きた『学園都市の内乱』は、最後に天使
姿の少年が投下した“空爆”により締め括りを迎えた。

『一方通行』という、能力開発部門最高傑作の犠牲と共に――――。
708 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/04(日) 23:53:01.78 ID:EhEcTyxP0
ここまでです
多分あと二〜三回ぐらいで完結します
ここまでお付き合い頂き本当にありがとうございました

次回予告はなしです

では
709 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/05(月) 01:07:29.98 ID:ENw8qbXDO
言葉にならないよ、乙!
710 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/05(月) 01:45:28.84 ID:11tJrREJ0
え?




……え!?
711 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/05(月) 01:49:23.19 ID:7sk/UFkIO

一方さん死んだの?
712 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/03/05(月) 08:39:17.12 ID:eZFzbsnT0
“一方通行”じゃなくなったんじゃないかね
713 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/03/05(月) 13:44:05.43 ID:dEBrYyEAO
結末の予想は控えようぜ
714 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/05(月) 20:06:31.68 ID:b4IuAsWDO
乙!

更新再開したと思ったらもう終わってしまうなんて…
最後まで楽しみにしてます
715 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/06(火) 02:08:00.20 ID:dUkqdV3t0
乙!

まさに天使特攻隊ww
上層部ざまぁww
終わりは寂しいけど途中で打ち切られるよりはいいかな…
716 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/07(水) 22:19:50.98 ID:wL4YjP4mo
おつにゃんだよ!
717 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/08(木) 02:01:25.38 ID:JwdVajJG0
素直な番外もいいな
718 : ◆jPpg5.obl6 [saga]:2012/03/14(水) 22:10:46.11 ID:BMRQcH7P0
遅くなりました
では更新します
719 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/14(水) 22:12:23.80 ID:BMRQcH7P0


―― 二ヶ月後 ――


◆ ◆ ◆


「―――で? どっちと付き合うかはもう決まったのかい?」


第七学区のとある高校から、どこにでもいそうな学生三人組が
仲良さげに下校してきた。
青髪と金髪の少年が黒髪の少年を挟む形で歩いている。
ちなみに尋ねたのは金髪の方だ。


「いや、正直まだ実感ないし……どうすりゃいいのかサッパリ
 見えてこねえんだよ。っていうより未だに信じられねーってか
 素直に現実が受けきれないってか……」

「贅沢やなぁ。その贅沢な悩みは貴族も腰抜かすでカミやん!
 せめてどっちのコの方がタイプとか、でもコッチも捨て難いと
 か、それ以前で悩んでどーすんねん!? まさかとは思うけど、
 両方フるつもりやあらへんよね?」

「何度も言うが、相手はまだ中学生だぞ? 受け入れる前提で
 考えるのは色々とマズイだろやっぱ……」
720 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/14(水) 22:13:46.92 ID:BMRQcH7P0


「高校生と中学生のカップルなんて、今時珍しくもないぜい?」

「そーかもしんねえけど……できればもうちょっと考える時間
 が欲しいかな」

「カミやん……。ようやっと不幸な日常にピリオドを打つべく
 幸福の女神が微笑みかけてるんやで? 何でそれに気づかへん
 かなぁ? 折角応援したろ思てんのに、これじゃコッチの肩が
 下がるわぁ」

「………」


確かに、こういう状況なら鉄拳の嵐に見舞われそうなものだが、
クラスメートの反応は意外にも穏やかだった。
それどころか、青髪ピアスも土御門元春も上条当麻に訪れた突然
の春に祝福の言葉という、何とも友達らしい対応をしてくれた。

殴られるリスクなど顧みないほど気持ちに余裕が無くなっていた
上条は、唖然とした後に寒気を感じたらしい。


「御坂はともかく、白井まで……。俺、何かしたっけかなぁ……」


本気でそうぼやく上条。

721 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/14(水) 22:16:31.43 ID:BMRQcH7P0


自分を想い慕っていた二人のお嬢様。
この事実に直面し、頭の中で疑問は尽きなかった。

無能力者で、総合的に落ちこぼれの部類に入る自分なんかに。
何故彼女たちは……。

打算的に動けない人間には考えても解かるはずがなかった。


「……、………」


だが、このまま自然の流れに任せるわけにはいかない。
それだけは解かっている。
もう知ってしまったのだ。
彼女たちは、その胸に秘めていた思いの丈を自分に向かって
吐き出してくれた。
嘘偽りなき真っ直ぐな眼で。

答えを出さなければならない。
自分自身で考え抜いた答えを。


「…………」


土御門、青髪と別れて帰路に着く上条。

722 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/14(水) 22:17:21.66 ID:BMRQcH7P0


そんな彼を待ち侘びていたと言わんばかりに佇む二つの影。
栗色ショートヘアの少女とツインテールの小柄な少女。

今から自分が彼女たちの運命を選択しなければならないのだ。
そう思うと足がやや竦む。
しかし、上条は逃げずに向かい合った。
二人とも昨日の今日で緊張しているのか、どこか俯きがちだ。
普段の強気が嘘のようなしおらしさ。どこから見ても恋する
乙女そのものだった。

御坂美琴、白井黒子。

おそらく彼女らの間でもう話はついているのだろう。
でなければ同時に告白なんてしてこないはずだ。
あとは、上条の返事次第といったところか。

上条が選んだ道は―――?

723 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/14(水) 22:19:31.36 ID:BMRQcH7P0


◆ ◆ ◆


第七学区、病院。


「忘れ物はないか?」

「うん、大丈夫」


荷物を担ぎ、恋人に確認を取る。
様々な精密検査やリハビリを乗り越え、ついに今日退院する。
滝壺理后は世話になった病室のベッドを一瞥し、先に部屋を
出た浜面仕上に続いた。

外に出た二人を看護婦たちが見送り、入れ替わるように見慣
れた顔が出迎えてくれた。


「どうよ? 久々の娑婆は」


超能力者、“元”第四位。面倒見の良さそうなお姉さん系の
麦野沈利と、


724 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/14(水) 22:20:57.93 ID:BMRQcH7P0


「ちょっと麦野! それじゃまるで出所みたいじゃないですか!!
 滝壺さんの超退院です! 超前科持ちの浜面じゃないんです
 から……」

「ひでえ言いぐさだなオイ」


小柄で超ミニが売りの絹旗最愛である。
滝壺はいつもと変わらない二人に聖母のような笑みを送った。
そして訊いた。


「二人とも、私が寝てる間、浜面に手を出してないよね?」


「!!?」


凍りつく三人。
あまりに予想外の第一声な上、優しい笑顔の裏に隠れた恐ろ
しい念でも見えたのか。誰も言葉が紡げなかった。が、


「ふふふ、冗談だよ。心配かけて本当にごめんね」


普段ジョークをあまり口にしない人間がたまにジョークを
言うと、大抵は本気にされてしまう。
まさにそんな一面だった。

725 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/14(水) 22:21:50.01 ID:BMRQcH7P0


ははは……と苦笑交じりに新生アイテムは歩きだした。
久しぶりに全員が揃った形で。

いや、


「さて、んじゃ早いトコ“あいつ”にも報告しに行くわよ」

「ああ、久しぶりに全員で挨拶に行けるな……」

「はまづら。しばらく顔見せなかった私に、フレンダ怒って
 ないかな?」

「『超浜面のせい』って言っておきましたから、心配は要り
 ませんよ」


これから向かう場所に着いた時が本当の全員集合である。


「……にゃあ」

「お? フレメアに先越されてたみたいだな」

726 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/14(水) 22:22:34.30 ID:BMRQcH7P0


◆ ◆ ◆


滝壺が退院した二時間後、同病院にて。


「ったく……。もうメンテとか必要ねえってのに……」


あのお節介医者が! と愚痴を零しながら一人の少女が出入り
口用の自動ドアを潜った。
間接の位置を確認するように腕を鳴らし、どこかやさぐれ顔の
少女はぶつぶつ呟きながら病院を背に歩く。

そこへ、


「はぁ〜い、黒夜ぅ〜♪ “新しい腕”のメンテナンス、どう
 だったぁ?」

「げ……」


待ち伏せていた人物に露骨なまでの嫌悪感をぶつける。
不貞腐れ気味の顔が更に険しくなった。

727 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/14(水) 22:23:47.41 ID:BMRQcH7P0

「なんでアンタがいるんだよ……」

「あらぁ、随分な物言いじゃないのぉ? せぇ〜っかく放課後
 ティータイム相手に抜擢してあげたってのにぃ……。あんまり
 冷たくすると、お姉さん泣いちゃうゾ☆」

「泣け、タコ、ボケ、ぶりっ子。私に近づくな、死ね」

「……うぇ〜ん☆」


泣き真似をし出したイタイ女子中学生に罵声を浴びせるだけ浴び
せてから早足で去る。
だが、そこであっさりお別れできるほど容易い相手ではなかった。


「――ぎっ!?」


黒夜の足が止まる。いや、“強制的に止められた”。


「……おい、何のつもりだよテメェ」


静かに振り返って殺意込みの眼光を放つ。
放たれた当人は嘘泣きなどとっくに止めて小悪魔な笑みを浮かべ
ている。

728 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/14(水) 22:25:08.32 ID:BMRQcH7P0


そして質問にあっけらかんと応じた。


「暇ぁ」

「私は暇じゃねぇ。この“鬱陶しい信号”を今すぐ止めろ。頭ん
 中に念仏みたいなノイズが走っててすげえ不快なんだよ」

「やだ♪ だってそうしないと黒ちゃん逃げちゃうじゃな〜い。
 操作可能範囲に制限掛かってるせいで、全身服従は免れてんだ
 からぁ、金属混じりの身体に感謝してよねぇ。本当ならアンタ、
 今頃私のペットとして尻尾振ってなきゃいけないのよぉ?」

「だぁれが“黒ちゃん”だ! ってか逃げてねぇよ!! んだぁ?
 超能力者ってのはどいつもこいつも暇人か? えぇ食蜂よぉ?」

「んふふ♪」


悪戯を楽しむ子供の顔で黒夜に近づく食蜂操祈。


「大体、アンタと私との間にはもう何の接点もねえはずだろぉ!?
 何だって気安く私の前に姿現してんだよ!?」

「そぉねぇ。私もアナタも『裏社会』とはスッパリ手を切って、
 今じゃ平和で退屈な世の中の住人。“アッチ”で得た収穫って
 言えば、鼻面に今も残る疼きくらいかしらぁ?」


やや斜めに曲がっている鼻頭を優しく撫でながら、瞳を曇らせる。

729 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/14(水) 22:26:28.94 ID:BMRQcH7P0


「……鼻骨が折れた程度で済んで良かったじゃん。私なんか両腕
 もぎ取られて半達磨にされたんだぜ」

「生身じゃなかっただけマシでしょーぉ?」

「……で、私に何の用があんだよ? 今さら私に利用価値なんざ
 あるとは思えないけど?」

「失礼なコねぇ。別に腹黒い気持ち抱えて会いに来たんじゃない
 わよぉ」

「じゃあ何――!?」


黒夜が喋り終える前に食蜂の手が伸びた。
何かを持った素早い手は黒夜の小ぶりな頭部へ。
そして、持っていた物体をこれまた素早く装着完了。


「…………へ?」


ポカン、と固まる黒夜。


「……うふふ、くく、ぷくく……」


食蜂、堪えきれずに抱腹。

730 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/14(水) 22:27:42.33 ID:BMRQcH7P0


「あーはははははは! うひひひひ……! に、似合いすぎ……!
 予想以上すぎてツボったぁ♪」

「な……何しやが――ッ!!?」

「あー、取っちゃダメぇ」


頭に付着した物を取ろうとする黒夜を食蜂は阻止した。


「っざけんなぁ!! 私をおちょくってんのか!? 早く外せ!!」

「なんでぇ? 良く似合ってるわよぉ、 ネ コ ミ ミ ☆」

「良い度胸してンじゃねェか……。喧嘩売りに来たンなら最初から
 そォ言や良いだろォがよ!!」

「ハイハイ。行動停止、行動停止♪ 駄目だゾ〜☆ オイタしちゃ」

「ぐっ……テ、テメェ!」


怒りに震えながら窒素爆槍をくり出そうとするも、食蜂は涼しい顔
でリモコンを操作する。改造人間(サイボーグ)化が影響している
のか完全な洗脳には及ばないが、脳から伝達している神経を通じて
動きを制限させるくらいなら造作もないらしい。

無抵抗のまま現状の悔しさを噛み締める黒夜(ネコミミ付)。


731 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/14(水) 22:29:49.73 ID:BMRQcH7P0


「……こんなくだらねぇ事で私を待ってたんじゃねえだろうな?」

「まっさかぁ♪ いくら暇でもそんな理由じゃ私の行動力は活性化
 されないわよぉ」

「…………まぁ、そうだよな」


だが、ホッとしかけた黒夜の耳に悪夢到来の序章が告げられる。


「こんなのまだまだ序の口☆ 私の観察力が確かなら、黒ちゃんは
 コーデ次第で相当化けるとみたわぁ。ふふ、そっちも改造し甲斐が
 ありそうねぇ」

「は……???」


展開が読めずに呆然とする黒夜を気にぜず、想像を膨らませて治った
ばかりの鼻を膨らませる食蜂。


「さぁ、そうと決まったら早速『学び舎の園』へ行きましょうねぇ♪」

「おいこら待て! アンタが何考えてんのかがまるで理解できないん
 ですけど!?」

「うふふ♪ 安心して良いわよぉ。アンタもちゃ〜んと私の派閥に加
 えてあげるからねぇ♪」

732 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/14(水) 22:30:47.31 ID:BMRQcH7P0


「…………そういうことかよ。だったらお断りだクソが。お嬢様とか
 私のガラじゃねえんだよ。第一、私は常盤台生じゃない」

「常盤台生じゃなきゃいけないなんていうキマリはないわぁ。“私”
 の派閥なんだからぁ、ルールは私よぉ。大丈夫、黒ちゃんは私専属
 の『ペット要員』ってコトになってるからぁ♪」

「尚更イヤじゃこの付け鼻野郎!! 何がペットだ!! 大体何で
 私がテメェの派閥に入らなきゃなンねェンだよ!! 意図が分から
 ないにも程があンだろォが!!! あと黒ちゃン言うな!!」


確かにほんの二ヶ月前までは協力関係が成立していたが、今となっ
ては本当に赤の他人である。そんな自分に執拗な食蜂の心理が心底
理解できない黒夜は、『心理掌握』による拘束から何とか脱出せん
と足掻き喚く。

だが、そんな抵抗すら可愛く映っている食蜂は冷静な口調で言う。


「汚く醜い争いはこの街じゃもう見れそうにないし、面倒な上辺
 関係も私たちには必要ない。仲良くやりましょ☆ 黒夜ちゃん」

「……だから、なんで?」

「ただの興味本位よぉ。他にあったとしても全部くだらない理由
 だしぃ」

733 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/14(水) 22:33:26.89 ID:BMRQcH7P0


「……これだけは言っとくが、アンタの下に就く気はねえからな」

「……ま、今はそれでもいいわぁ」

「ふん……」


この自由奔放な超能力者は自分を解放してくれそうにない。
そう確信したのか、黒夜は罵詈雑言を浴びせるのを止めた。


「さぁて、まずはその奇抜な服を何とかしないとねぇ。さすがに
 それじゃ『学び舎の園』を歩けないでしょう?」

「っつか、入ったことねえよ……」

「良い店知ってるのよぉ♪ ばっちりコーディネートしてあげる
 から、期待しててねん☆」

「おいちょっと待て。私を着せ替え人形代わりにして遊ぶ気か?
 アンタの玩具になるつもりもねえぞ!? 派閥に加入するよりも
 そっちの方が断然イヤだ! ってかこのふざけた耳、いい加減に
 取らせろ!! こんなん付けたまま人前に出るなんて冗談じゃねえぞ!!」

「さ、レッツごぉ〜☆」

「おいっ!! 話聞いてんのかよこの……うわぁ!?」


抗議の途中で腕を引っ張られ、無理矢理連れて行かれる。

734 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/14(水) 22:35:27.51 ID:BMRQcH7P0


ここにきてようやく羞恥心が込み上げてきたのか、耳まで真っ赤に
なった黒夜は次第に年相応の駄々っ子ぶりを発揮し始めた。


「やだ!! いやだぁ!! そもそも可愛い服とか私に似合うわけ
 ねえだろぉ!! んなヒラヒラしたヤツなんて着れるか!!」

「そんなことはないと思うケドぉ? 私の着眼力は確実性に長けて
 るしぃ、構成力豊かな私のコーディネートなら大変身はほぼ間違い
 なしよぉ」

「そういう問題じゃねぇ!! 私が私じゃなくなっちゃうだろぉ!!」

「人ってのは変わらずに成長できない。これ、人生の先輩としての
 アドバイスねぇ☆ 私の寮に来る以上、どっちにしたってそれなり
 の服に着替えなきゃいけないんだからさぁ」

「り、寮!? 気品ぶりが病気みてえに溢れ返ったお嬢様の集団に
 私も混ざれってのか!? や……やっぱ止めだ止め!! 何か想像
 しただけで吐き気がしてきた!! 無し無し! さっきの全部取り
 消し!! 私やっぱ帰るっ!!」

「今さら遅いわよぉ〜♪」

「やっ……、放せっ! 放……っ!」


黒夜が半泣きになっても食蜂は掴んだ手を放してくれない。

735 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/14(水) 22:43:07.15 ID:BMRQcH7P0


「放してってば!! っていうか私、部外者だぞ!? 規則が厳しい
 って評判の常盤台の寮に、そもそも入れるわけが……」

「そんなの、私の改竄力でどうにでもなるからご心配なくぅ〜」


そうこう進んでいる内に人通りの多い道を猫耳装着状態で歩かされる
羽目になった。
頭の上に付けられた可愛らしい耳と、黒夜自身に若い男を中心とした
視線が突き刺さる。
恥ずかしさに縮こまりつつ何とか耐えていたが、


「あ、そうそう。折角良い耳付けてるんだしぃ、寮に着いたら尻尾も
 付けてあげるわねぇ。きっと似合うわよぉ〜♪」


この一言がトドメとなった。
ついに黒夜は恥も外聞も捨てて道のド真ん中で思い切り大号泣した。


「び……びえええええええん!!! なんで私がこんな目に合わなく
 ちゃいけないんだよおおおお!!! びえええええええええええん!!!」


その姿に、かつて暗部の一組織を仕切っていた時の面影は無かった。


「うふふ、思った通りの可愛さだわ。新しいオモチャ見つけちゃった☆
 これでしばらくは退屈しなさそうねぇ」


四歳児みたいな泣き様の黒夜を引き摺りつつほくそ笑む常盤台のお嬢様。
こうして、食蜂派閥に“黒猫”が一匹加わった。

736 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/14(水) 22:45:32.02 ID:BMRQcH7P0


ここまでです
次回も来週中に更新できるよう、努めます
それではまた
737 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [saga]:2012/03/15(木) 00:54:48.95 ID:GjssmW6d0
乙!

黒夜かわいいですなぁ
738 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/15(木) 01:01:34.89 ID:PZ+giD2B0



やべえ黒夜萌えるwwww
739 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/15(木) 10:51:42.72 ID:SLSATlFH0


黒夜かわいすぎる
740 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/15(木) 11:23:09.51 ID:kdACGfdIO
お、来てたか乙

なにこの黒夜持って帰りたい
上条は市ね
741 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/16(金) 00:30:23.62 ID:ZrELrr9p0
>>740
さんを付けろよデコ助野郎
742 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県) [sage]:2012/03/18(日) 21:36:33.98 ID:lGFZLki+o
>>741
黒夜さんお持ち帰りしたい
743 : ◆jPpg5.obl6 [saga]:2012/03/22(木) 20:53:36.68 ID:E44cQvl00
こんばんは
黒夜に俺のボンバーランスをぶち込みたい
では投下します
744 : ◆jPpg5.obl6 [saga]:2012/03/22(木) 20:54:57.32 ID:E44cQvl00


◆ ◆ ◆


「―――ふーん、とうとう初恋に勝負賭けたってわけか。
     臆病姉にしては快挙じゃん」


クラシックなBGMと間もなく訪れる春の心地よい暖気。
オープンテラスのカフェにも癒し空間が芽生えつつあった。
ブレンドコーヒーを一啜りした女子高校生は相席している
女子中学生の恋愛武勇伝に無難な感想を送る。


「ま、結局保留にされちゃったけどね……。でもフラれた
 わけじゃないし、何より気持ち的にはスッキリしてるわ」

「やっと言えたから?」

「もちろんそうなんだけど……ほら、私の後輩の黒子って
 覚えてる?」

「確かおねーたまラブの恋敵だったっけ? 恋愛の感覚が
 かな〜り歪んでる印象しかないね。悪いけど」


端から見ると“妹の恋愛相談を受けている姉”のようだが、
実際は逆である。

745 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/22(木) 20:56:18.25 ID:E44cQvl00


この女子高生、実は世に誕生してから一年も経っていない。
つまりこの場合はスタイルで劣っている女子中学生、御坂
美琴の方が姉となるわけだ。


「で? このミサカはそんな中途半端な結末を辿った自慢
 にすらならない話を聞かされるために呼ばれたってわけ?」

「まだ結果は出てないっての! 勝手に人の恋締めてんじゃ
 ないわよ!! ……くそう、自分は既に相手がいるからって
 余裕見せつけやがって……!!」

「外面的にはそっちが劣化版みたいなモンだしね。くひひ」

「おーし、そんなら照り焼きクラスの黒い御膚をプレゼント
 してやろうか? その気になりゃ私の首位独走も可能だって
 こと、理解させてやってもいいのよコラ」

「おー、こわいこわい。短気なおねーたまを持つと気苦労が
 絶えないわこりゃ」

「そのクレバーな反応をやめろ!! まるで私がガキっぽく
 見えるじゃない!」

「そこら辺の通行人、百人ぐらい捕まえてアンケート取って
 みる? 多分おねー様が絶望してこのミサカが高らかに笑う
 素敵な未来が待ってるよ」

「ぐがぎぎ……!」

746 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/22(木) 20:57:18.72 ID:E44cQvl00


彼女たちには複雑な事情がある。
そんな事情などを欠片も知らない他人に判定を委ねるなど、
禁則事項もいいところだ。
頭に血が上った美琴はそこを指摘できなかった。


「だいたいさぁ、ミサカの相手っつっても“あの人”だよ?
 それでも羨ましいの?」

「…………」


表情が僅かに曇った姉を見て呆れたような重い息を吐く。


「誰が相手とかそういうんじゃなくて……。……あーもう、
 確かにアンタの“相手”について色々思うことはあるわよ!
 けど、別に否定的な感情が全部じゃない。……アイツのして
 きた事がどれ程の罪とか誰が許す許さないとか……、そんな
 物事の図り方は間違ってる気がするのよ」

「……、ほ〜う」

「今のアイツにどう接するのが正しいかは、まだ検討中なん
 だけどね……」

「いっそのこと清々しく和解しちゃって友好度上げちゃえば?」

「そこまでは割り切れないわ。……これはまだ私がガキって
 事なのかな……」
747 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/22(木) 20:58:33.09 ID:E44cQvl00


「うんにゃ。少なくともついこの前よりは大人に近づいてる
 んじゃない?」

「アンタに励まされるのって、なーんか不気味……」


美琴がまた笑顔になれば、この少女もまた笑う。
かつて“負の感情”が心の全てを埋め尽くしていたのが信じ
られないほどの明るさ。

番外個体。

第三次製造計画(サードシーズン)で生み出された最新クロ
ーンで、その計画が存在したという唯一の証でもある。

あの計画に関わっていた者は、“誰一人この街にはいない”。

いや、正確には“学園都市に非人道的な闇を持ち込むような
輩”は存在しない。と言った方が正解だ。

今の学園都市はそう言い切っても文句の付けようがないほど
に平和な街である。
第三次世界大戦、そしてふた月前に起きた内戦を乗り越え、
一人一人の意識が良い方向に変わりつつあるのだろう。

最近はスキルアウトですら大人しく、都市全体の治安は少し
ずつだが良くなっている。


「いやいや、割と本気で言ってるから警戒は要らないよ」

748 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/22(木) 20:59:35.42 ID:E44cQvl00


「素直にありがとうって返したいけど、アンタがこれまで私
 にしてきた仕打ちの数々がストップ掛けてるわ」

「いつまでも根に持つなんてまだまだガキだね♪」

「タチ悪いガキが更にタチ悪くなったような嫌がらせばっか
 してきといてどのクチが言うのよ!? ホントに私のDNAが
 素になってんのか、アンタほど疑問な子はいないわよ!」

「これでもだいぶ改善されてるんだよ? 製造当初のミサカ
 を見たら絶句しちゃうねこりゃ」

「……今でも充分自分の“悪”バージョンと対面してる気分
 なのに……」


どこか不満げな顔でカプチーノを飲み干し、席を立つ美琴。


「ありゃ? もうお帰り?」

「うん。そろそろ補習終わる時間だし……」


時計を見ながらそう答えた。


「約束してんの?」

「別にしてないけど、だから会いに行っちゃいけないって
 ルールはないでしょ?」

749 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/22(木) 21:01:16.70 ID:E44cQvl00


「うーわ。それストーカーの典型的な初期思考じゃん……。
 おねーたまもとうとう犯罪に手を……」

「スト……ちょ、人聞きの悪いこと言わないでよ!」

「じー」

「も、もう行くから! それじゃあね!」


痛い視線から逃げるように去って行く美琴。
その後ろ姿が見えなくなった後で番外個体は断言した。


「……ありゃフラれた時が怖いね。うん」


“一途なお嬢様”。そんなカテゴリに含まれる姉の未来
を心配した。
そして、それから適当に時間を潰した後―――。


「―――さて、そろそろコッチも出向きますか。最強の
     “馬鹿”が心配だし……」

750 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/22(木) 21:03:24.19 ID:E44cQvl00


◆ ◆ ◆


「どーした月詠センセ。元気ないじゃんか?」


渡り廊下をトボトボ歩く小さな背中に立派な果実を二つ
実らせたジャージ教師が声を掛けた。


「……っ。また一人、雛が私の手から巣立っていったの
 ですー……」


とても寂しそうな返事が月詠小萌の口から漏れる。
ジャージ教師こと黄泉川愛穂は一瞬顔を顰め、


「ん? もう卒業式のことで頭が一杯じゃん? 卒業生
 に思い入れのある子でもいたん?」

「違います! ……いや、それもあるのですけどー……。
 同居していた子が二月付けで出て行ったのですよー」

「あぁ、そういや去年話してたっけ。忘れてたじゃん。
 何の挨拶もなしであっさりいなくなっちまったじゃんか?」

「……その逆ですよ。『お世話になった御礼よ』って、
 苦手だった筈の手料理を先生のために振舞ってくれたり、
 最後のお風呂(銭湯)で背中流してくれたり……。お別れ
 の時は涙を堪えるのに必死だったのですー」

751 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/22(木) 21:04:19.26 ID:E44cQvl00


(はは、ウチとは真逆だわ……)

「結標ちゃん……すごく良い顔になってました。あれ
 ならきっともう大丈夫なのですよー……。けど嬉しい
 反面、やっぱり寂しいのです」

「まぁ……、出会いと別れの繰り返しが人生っていう
 じゃん? もうすぐ今の三年生が卒業して、その次の
 次にはウチらの担当だった奴らの年代が卒業じゃんよ」

「そうですねー……。教師やってるとその言葉が一層
 身に響くのです。一度や二度じゃないのに、何度経験
 しても慣れないものですね」

「慣れちゃったら終わりな気もするけどな」


子供の成長を見届ける身分としては、この時期が最も
感慨深いのだろう。
やがて巣立っていく教え子たちに少しでも希望の光を
照らせる様、息巻く教員二名がここにいた。


「……ところで、上条は無事に卒業できるじゃんか?」

「……そこが一番の懸念要素なのですー」

752 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/22(木) 21:06:27.31 ID:E44cQvl00


◆ ◆ ◆


「夏におでんがアリなら冬のアイスも王道に近いんじゃ
 ないかな? ってミサカはミサカは意見を述べてみる」

「寒い時期に身体の中まで冷やして何の防寒効果がある
 のでしょう? とミサカは賛同しかねます」


待合室のロビーで定期調整のために通院中の打ち止めと
学園都市残留組ミサカ妹達の一人がくだらない話に夢中
になっていた。話の内容は先も言ったが実にくだらない。


「むむ……。種族が同列でも相容れないパターンという
 ものをまさに今、ミサカはミサカは実感してみる」


趣向の共感に失敗して不機嫌な打ち止めは椅子から乱雑
な動きで離れ、表情一つ変えない下位個体の足を踏んだ。

当然、お返しを受けて悲鳴を上げる羽目になった。


「うぅ……。サイズにこれほどのハンデがあるんだから
 少しは寛容になってほしい。ってミサカはミサカは大人
 げない10032号を涙目で見上げて抗議してみたり」

753 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/22(木) 21:07:34.77 ID:E44cQvl00


「一回は一回です。とミサカは冷徹に言い放ちます。
 それに、子供だから手加減するなどという感情をミサカ
 は持ち合わせていません。悔しかったら早く大人になる
 ことです」

「うぐぅ……」


キッと睨んで功に転じようとするが、お返しが怖いのか、
はたまた御坂妹の鋭く隙のない眼差しに尻込みしたのか、
握った拳を悔しそうに引っ込めた。


「賢明ですね。そうやって一つずつ学んで成長すれば良い
 のです。とミサカは母親の気分で上位個体の肩を押します」

「……ミサカの方が上司なのに……。ってミサカはミサカ
 は世の不条理に落胆の色を隠せなかったり」

「ところで、あの過保護な漂白剤の姿が見当たりませんが?
 とミサカは辺りを見回しながら尋ねます」

「…………あの人のこと?」


仮にも命の恩人に対して辛辣すぎる表現に流石の打ち止めも
不憫に思ったようだ。
しかし、それを咎めようとは決して思わない。
754 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/22(木) 21:08:26.25 ID:E44cQvl00


彼は命の恩人であると同時に、罪人でもあるのだ。

自分以外の個体がそんな彼にどう接するのか。それは各個体
が己の意思で選ぶのが正しいと出会った当初から決めていた。
今もその考えに変わりはない。


「“お友達に会いに行くから”って先に帰っちゃったよ。
 ヨシカワを迎えに遣すから心配ないって」


少し寂しそうな顔でそう答えた。



◆ ◆ ◆



時刻は下校ラッシュ真っ盛り。
何処も彼処も制服だらけで、人気店なんかは絶好の稼ぎ時を
逃すまいと迅速な対応と接客に勤しんでいる。

そんな最中、客入りが比較的平凡な喫茶店の窓際席に二名の
男が来店した。


「お、ここ落ち着いてんじゃん。こんな穴場があったなんて
 知らなかったな」
755 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/22(木) 21:09:16.70 ID:E44cQvl00


制服姿の少年、上条当麻が初来店らしい素振りで内装を見渡
し、茶髪で私服姿の少年、浜面仕上が外の“群れ”を冷静に
眺めながら考察する。


「大体みんな向こうの『Dii・Tor(ディ・トール)』に寄る
 からなぁ……。広い視野で見れば空いてて落ち着く所なんて
 いっぱいあるだろーに」

「『騒がしい風景が青春っぽくて良い』ってヤツも多分いる
 んだろうけどさ……。メニューどうする?」

「ん、揃ってからじゃなくていいのか?」

「飲み物ぐらい先に頼んじゃってもいいだろ。あ、ついでだ
 からアイツのも注文しとくか? どうせコーヒーだろ」

「冷めてると文句言わねーかな……?」

「あー、あとどんくらいで着くって?」

「『三十分後くらいに着く』ってメールが十分前に来てた」

「するってえと、あと二十分か……。先に俺らのだけ頼んじ
 まうか」


そんな調子で駄弁りながら時を過ごす二人の前に、白い影
が金属音を地面に打ちつけながら近づいてきた。

756 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/22(木) 21:10:18.04 ID:E44cQvl00


それが杖をつく音だとすぐに気づいた上条と浜面は、話を
切り上げて目を向ける。


「お、やっと来たか。相変わらずの時間通りですねぇ大将」

「変な呼び方してンじゃねェよ」


浜面が冷やかすような口調で挨拶するが、白い少年は虫で
も払うかのような態度で冷たく返した。

続けて上条も、


「よ、久しぶり。どうだ調子の方は?」

「そこの粗大ゴミが今言った通りだ。“相変わらず”さ」


薄い笑みを浮かべ、上条の隣に着席する少年。
一方の浜面は、


「粗大ゴミって……」


何故か憤っていた。
757 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/22(木) 21:12:00.62 ID:E44cQvl00


そんな浜面を尻目に上条が神妙な顔で伺う。


「ってことは……、やっぱり“戻って”ないのか?」

「まァな。こないだオマエらと会った時から何ら変化は
 ねェよ。多分一生“戻る”ことはねェと俺は踏ンでるが
 なァ……」

「そんな……。もう諦めてるのかよ?」

「諦めってのは少し違うな。……思えば俺が“能力”を
 有効に生かせてきたのはごく最近からだ。それまではクソ
 みてェな使い方しかしてこなかった……。反吐が出そォな
 実験や常軌を逸したクソ計画も、俺が“力”を持たなきゃ
 生まれることはなかったはずだ……」

「“一方通行”……」

「もォその名で呼ばれる資格も、本来ならねェンだが……。
 他に呼び名なンてのァねェし、本名も記憶から消去しち
 まった。昔の名残ってことで、そこだけは妥協するしか
 なさそォだな」


笑いながら語る少年。
しかし、本当にそれでいいのか? 上条と浜面はそう言い
たげだった。

この白い少年、一方通行は自身の象徴と呼んでもいい能力
を失ってしまったのだから――――。

758 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/22(木) 21:14:07.68 ID:E44cQvl00


そう。彼の能力『一方通行』はあの日に“死んだ”。

二ヶ月前の内部テロ騒動。その背景を知っている数少ない
人間からしてみれば、やりきれない気持ちがあるのも無理
はない。けれども一方通行は「後悔はない」と言い切った。
まるで長年こびり付いていた楔が解けたかのような、晴れ
晴れとした表情で―――。

演算式をいくら組み立てても、ベクトルを変えられない。
そんな状況に陥ったにも拘わらず、何故彼は笑っていられ
るのか。それもただ気丈に振舞っているようにも見受けら
れないのだから不思議である。

彼は今、『学園都市最強の超能力者』という肩書きを所持
していない。

ここにいる上条当麻や浜面仕上と何も変わらない、ただの
無能力者となったのだ。


「いいのかよ……。それじゃ今までお前が築き上げてきた
 ものが、全て無駄になっちまうんじゃねえのか?」

「頭ァ撃ち抜かれて脳に傷負って、中途半端に制限が掛か
 っちまってた時に比べりゃまだスッキリすンぜ。いちいち
 タイムリミットを気にする必要が無くなったわけだからなァ」


やはり虚勢や嘘は感じられなかった。

759 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/22(木) 21:15:03.32 ID:E44cQvl00


「それに、無駄になるとは思ってねェンだ……。オマエら
 に理解できる話かは分かンねェが、無くなったら無くなった
 で、却ってサッパリするモンなンだよ。この先、能力が必要
 になる時が来るとは思えねェ。そのために、危険因子を全て
 削除したンだからよ」

「けど、また同じようなヤツらが出てこないとも限らねえ
 だろ?」

「そン時は、この手であいつらを危険から守ってやるさ。
 今度こそ“自分の力”でな……。能力なンざ使えなくても、
 意志さえ捨てなきゃどンな強大な相手だろォが戦える……。
 そいつを俺に教えてくれたのは、他でもねェオマエだろォが」


真っ直ぐ、上条の目を見て一方通行は言った。
そのまま浜面へと視線をずらし、


「特別な力が無くても、“誰かを守りたい”。その想い
 があれば何も恐れるに値しねェ……。オマエからもそれを
 教わった」

「一方通行……」

「オマエらにできて、俺にできねェなンて事がある筈ねェ。
 言ってみりゃ、よォやくオマエ達と同じ土俵に上がれたン
 だよ。そォなったらもォ現実から目なンて背けるわけには
 いかねェだろ?」

760 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/22(木) 21:16:34.43 ID:E44cQvl00


一方通行の強い意志は死んでいない。二人はそう確信した。
“能力”という殺人兵器にもなるチカラを失い、彼はまた
強くなったようにも感じた。
これまで当たり前のように使用してきた能力が無くなり、
今後は前途多難な人生を送ることとなるだろう。
しかし、彼は常に前を見続ける事を止めない。

人並外れた力などなくても、意識次第で強くなれるし弱く
もなる。それが人間だ。“能力”なんてものは、それらを
補うための備品でしかない。
人間が本当の意味で強くなるのに、必ずしも必要とは限ら
ないのだ。

その境地に到ったからこそ、一方通行は今を前向きに生き
ている。
この先に待っている難関や試練から逃げる事は、おそらく
ないであろう。


「何処ぞのクソ野郎が打ち止めや番外個体、妹達を何らか
 の実験に利用しよォと企ンでも、そいつは俺が許さねェよ。
 ……もっとも、今の俺には利用価値なンざ欠片もねェから、
 平穏が崩れる可能性は低いンだがな。何も起きないに越した
 こたァねェが、気ィ抜くつもりはねェさ……。だから、ンな
 腫れ物にさわるよォな態度を取る必要はない」


同情はお門違いだ。一方通行の紅い瞳はそう訴えているよう
に見えた。
761 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/22(木) 21:18:25.30 ID:E44cQvl00


「…………これから大変だぞ? 能力が使えなくなったお前を、
 スキルアウトの連中が狙ってくるかもしれねぇ。いくら最近は
 目立たなくなったっつっても、以前にお前が叩いた奴らが報復
 に来ないとも限らねぇし……。俺の顔が通じるトコは心配いら
 ねえけどさぁ……」

「ハッ、面白れェじゃねェか。見かけたら『いつでも来やがれ』
 っつっとけ。『これで少しはオマエ達に軍配が上がる可能性も
 増えた』とでも知らせときゃ、ちったァ退屈しねェかもなァ」


浜面の忠告にも余裕の笑みで返す。


「なんでそんな強気なんだよ!? 今までみたいに『ハイハイ
 反射反射〜』ってわけにいかねえんだぞ!!」

「だからどォした? 生憎、そンな程度で臆するよォな死線は
 潜ってねェよ。それに、能力が無くても俺の“ここ”は健在だ。
 元々の頭の出来が違うンだってことを分からせてやるまでよ」


自分のこめかみにトン、トン、と指を当てて口端を歪める一方
通行に、浜面は軽く卒倒しそうになる。
「分かってねぇ……。分かってねぇよ」などとぶつぶつ呟きな
がら頭を抱える浜面と、まるで気にも留めずにコーヒーを啜る
一方通行の図に、上条は何故だか顔が綻んでしまった。


「ははは。……けど、そうかもしんねえな。結局一番頼れるの
 がここ(心)だってのは、上条さんも賛成ですよ」

762 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/22(木) 21:20:59.25 ID:E44cQvl00

「とうとうオマエの熱血バカが本格的にうつっちまったみてェ
 だな……」

「お前なら大丈夫だよ、きっと……。お前の本当の強さを知っ
 てる俺が保障する」

「……! ……ふン」


「オマエには負けねェ」と一瞬言いかけ、咄嗟に口を噤む一方
通行。
今、紛れもなく対等な立場にいる上条に対し、内にずっと秘め
ていたライバル心を露呈してしまいそうになったからだ。


(アホか。何をクチ走ろォとしてンだか……。ンな台詞でも吐
 いた日にゃあ完全に何処ぞの青臭せェスポ根ドラマじゃねェか。
 冗談じゃねェっつの……)


素直な熱血男にはまだまだ届いていないらしい。

と、一方通行が爽やかに笑う上条から露骨に視線を逸らした直後―――。


「―――こんなトコにいやがったかこんちきしょう!! 探した
     じゃないのよこの馬鹿!!」

763 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/22(木) 21:21:46.68 ID:E44cQvl00


「いぃ!?」

「はへ……?」

「あァ?」


突如響き渡った女声に三人は首を動かし、各々の反応を示した。
腕を組んで仁王立ちしている少女は前髪の辺りからバチバチと
小規模の稲妻を走らせている。

そんな光景に上条は動転し、浜面は記憶から掘り返すように首を
捻らせ、一方通行は呆然とした。

そんな反応を他所に御坂美琴は真っ先にテーブルの下へ隠れよう
とする上条の首根っこを踏ん捕まえた。


「いつもの帰り道を避けたのは私と顔を合わせたくない意思表示
 と受け取っていいのかしらぁ? ええぇゴルァ!!」


捕まえるや否や怒号を飛ばす電撃姫に上条はたじろぐしかない。
上条が対処に暗中模索している最中も美琴の青筋は深みを増した。


「コッチはアンタのことずーっと待ってたってのに……、優雅に
 ティータイムですか。貧しい苦学生主張してた割には随分華やか
 な放課後送ってんじゃないのよ。んん?」

「いや、ってか……待ち合わせなんてした憶え自体皆無なんです
 けど……」

「メール」

「ギク……」
764 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/22(木) 21:22:52.73 ID:E44cQvl00


「電話も(勇気だして)した。なのにアンタときたら何の返事も
 ない。……また何かのトラブルに巻き込まれてるんじゃないかって
 街中血相変えて疾走した私の気持ちがわかる?」

「う……」(やべ……そういやすっかり忘れてた……)


上条の目が右へ左へ斜めへと泳ぐ。
そのあからさまな動揺を勘の鋭い美琴は見逃さなかった。


「ア・ン・タ・はぁぁぁ〜〜〜〜!!!」

「ご、ごめんなさいわたくしが悪かったです何なりと致します
 からリアルレントゲンの刑は勘弁してくだしや!?!?」


上条の饒舌な口の動きは右フック一発で止まった。


「あててて……。あれ? いつもみたいにビリビリしないの?
 もしかして上条さん、救われた?」

「流石に店の中でそんな事しないわよ! ……ま、確かに約束
 してたわけじゃなかったからこれで大目に見てあげる」

「おぉ……」


彼女がまだ常識的な物理攻撃の制裁で済ませてくれた事に上条
は殴られた頬を摩りながら軽く感動した。
765 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/22(木) 21:23:55.75 ID:E44cQvl00


そして、美琴の中でこの話は始末がついたのか、目線は同席者
へと移る。


「久しぶりね……。一方通行。そっちの人は知らないけど」

「…………」


テロ事件の時に浜面は美琴を見かけているが、基本的に記憶力
のない浜面は無論覚えていない。
それでも彼女が常盤台のエースと呼ばれている第三位の超能力
者だということはご存知だった。

が、この場面で出現するのが想定外な上、上条とのやりとりを
ずっと傍観している内に圧巻されてしまったらしく、何となく
麦野に近い印象を抱いたようだ。

萎縮気味に会釈しただけなのは多分そのせいである。

そして一方通行の眉間には一気に皺が寄せられ、居心地の悪さ
が全面的に表れているのが一目で読み取れた。

美琴はそんな空気などお構いなしに話しかける。


「あの子に聞いたわよ。……アンタ、能力が使えなくなっちゃ
 ったんだってね?」
766 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/22(木) 21:24:47.85 ID:E44cQvl00


「……まァな」

「ふぅん。て事は、アンタはもう最強じゃなくなったワケか……」

「あァ。次の身体検査(システムスキャン)で序列から外れる
 だろォよ。……今の俺にはオマエの電撃を防げねェどころか、
 そこの熱血野郎に叩き込んだ拳撃すらも入るぜ」

「………へぇ」

「オマエが俺を殺したいほど憎ンでるのは重々分かってる……。
 絶好のチャンスじゃねェか。こそこそ逃げたり隠れたりする
 つもりはねェ。……好きなだけ恨みを晴らしゃ良い」

「……っ!」


場の空気が凍りつく。
上条や浜面だけでなく、固唾を呑んで傍観していた周囲の人間
までもが途轍もなく不穏な気配を感知していた。
美琴は真意が読めない表情を保ったまま一方通行を見つめ、


「場所、変えよォか。そりゃこンな公の場じゃ殺ろォにも殺れ
 ねェわな……。悪りィ悪りィ、気が利かなくてよ」


一方通行は察したようにそう付け加え、静かに椅子から立った。
そのまま伝票を手に、会計を済ませようと歩く。
美琴の横をすれ違い、首を軽く横へ捻った。「人気のない場所
まで行くからついてこい」という意味を込めたのだろう。
767 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/22(木) 21:26:22.80 ID:E44cQvl00


上条、浜面も席を立とうとするが、一方通行はそれを鋭い眼光
で制す。その目が「ついてくるな」と叫んでいるのは、誰から
見ても解かる。
そして美琴にだけついて来るよう促し、再び足を動かし出口へ
向かう一方通行。

しかし、美琴はそんな背中に声を投げる。


「そうやって過去を清算しようとして、悦に浸りたいトコ悪い
 んだけどさぁ……」


一方通行の杖先が宙で止まった。


「私はそういうのに付き合う気、一切ないからね」

「……オマエの“血縁者”を、俺は一万人以上もブチ殺した。
 オマエには俺を煮るなり焼くなり、好きにする権利がある……。
 無能力者にまで成り下がった俺を思う存分見下して、じわじわ
 と弄り殺しにだってできるンだぜ? みすみすその機会を逃そ
 うってのか?」


不思議そうな目で美琴を見る。彼の瞳には既に“どんな罰も
受け入れる覚悟”のようなものが秘められていたが、美琴は
そんな彼に呆れたかのように長い溜め息を吐く。

768 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/22(木) 21:27:04.73 ID:E44cQvl00


「……アンタってさぁ、つくづく救いようのない馬鹿ね……。
 私がアンタを裏路地でボコボコにして、10031回分謝罪でも
 させれば気が済むの? 私がそれで『あー、スッキリした』
 って言うとでも思うわけ?」

「……?」

「見縊ってんじゃないわよ馬鹿! ……こいつもアンタも、
 “私”っていう人間を小さく見やがって! 自分さえ気が
 晴れれば私の気も釣られて晴れるとか思ってんの!?」


一瞬睨まれた上条は、訳も解からない癖にバツの悪い表情を
作る。


「一方通行……。私が木原って研究者に捕まった時、アンタ
 の実験後の軌跡を知ったこと……言ったわよね?」

「あァ……憶えてる」

「その時からずっと考えてた……。狂ったように笑いながら
 あの子たちを殺し続けてきたアンタが、今ではあの子たちを
 守る側に立ってる……。受け入れる以前に、何がどうなって
 そうなったのかが受け止められなかった。……最初はね」

「…………」

「けど、今生きている“あの子たち”と接している内に……
 私なりの答えがようやく見つかった」

769 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/22(木) 21:28:34.05 ID:E44cQvl00


「……!」


「一応、私はあの子たちの『姉』ってことになってるの。
 ……そして、妹たち……打ち止めも番外個体も、あなたを
 必要としてる」


「だから、姉として言わせてもらうわ――――」



「―――――あの子たちの事……これからもよろしくね」



「………!!」


その瞬間、美琴にふっと笑顔が零れた。
まるで胸に痞えていたものが取れ、綺麗さっぱり無くなった
ような……そんな晴れやかな顔で一方通行と向かい合った。

770 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/22(木) 21:30:47.67 ID:E44cQvl00


対する一方通行は終始鳩が豆鉄砲でも喰らったみたいな顔で
美琴を凝視していたが……やがて言葉の意味が伝わったのか、


「…………あァ。言われるまでもねェことだ」 


はっきりとそう答えた。


殺伐とした空気は既に消え失せ、上条や事情が分からず置い
てきぼりだった浜面が過ぎ去った修羅場にホッと息を吐いた
直後―――。


「―――なーんだ。てっきり闘り合ってんのかと思って来て
     みたら……。平和的に済んじゃいましたってか?
     最近ミサカが望むような面白い展開がことごとく
     空を切ってる感じがするよ」

「……私とコイツが闘うのって、アンタからすればK-1の試合
を観戦するのと大差ないみたいね」

「ふふん。けどまあ流石にスタンドで野次飛ばしたりとかは
 しないけどね。あーあ、つまんねー。あなたがおねーたまに
 ボコられてる前提で急いだってのにぃ……。無駄に疲れちゃ
 ったから、とりあえず何か甘いもの奢れ」

「勝手に余計な心配してンじゃねェよ。クソったれが……」


やや退屈そうなテンションで現れた番外個体に、一方通行は
むず痒そうな口調で悪態を吐いた。

771 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/22(木) 21:33:40.38 ID:E44cQvl00


以上です
次回が最終回になります
では最終予告と共にではまた




一方通行「俺が一生オマエの面倒見てやる」


番外個体「……うんっ!」
772 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2012/03/22(木) 21:35:08.91 ID:yi5LcrLb0
リアルタイム遭遇きたあああああああ

おつです!最終回超楽しみです!
773 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/23(金) 00:09:24.95 ID:rjWWEh1U0
乙!

最終回・・・だと?
てゆうか次回予告がガチで最終回っぽくて涙出そう
お世話になります含めて一年半も続いてる長作なだけに
774 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage saga]:2012/03/23(金) 00:39:13.80 ID:w9AP5le+0
乙ゥ

番外編とかやってほしい
おそらく俺が見てきた中で最高のssなだけに悲しいよ
775 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/23(金) 01:42:49.89 ID:OtOySliWo
776 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/23(金) 12:14:19.46 ID:7QSZMszIO
おお来てた乙

続編の続編は一般人になった一方さんとミサワのラブコメですねわかります
777 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国四国) [sage]:2012/03/23(金) 16:49:44.26 ID:daWAc5o30
乙乙!
778 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/24(土) 01:50:32.48 ID:Gn4qQAEE0
能力なくなっても前向きな一方さんかっこいい
779 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/24(土) 11:35:42.49 ID:uBbvLmoQo
いやいや、浜面に関しては確かにその通りなんだけど、上条さんには(対能力・対魔翌力の)超切札があるじゃないですか。
でも言いたいことはわかる

780 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/25(日) 02:38:27.21 ID:VaYyQqKH0
こりゃ上条さんもイマジンブレイカー取るしかないな
で主人公三人が完全に同じ位置に立つってのも面白いかも
781 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/29(木) 17:58:54.31 ID:jzB24LFs0
スレタイこっちに変更したほうがいいんじゃないか?今のスレタイなんか悲愴感漂ってるし
782 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/29(木) 19:21:09.67 ID:iC5bEqfIO
あげんなし
来たかと思ったじゃねーか
783 : ◆jPpg5.obl6 [saga]:2012/03/29(木) 20:29:02.58 ID:+6rdzYeF0
実は来てたりして…

>>781
確かにスレタイの番外さん暗いな…

お待たせしました
では最終回の投下に移ります
784 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/29(木) 20:30:39.92 ID:+6rdzYeF0


◆ ◆ ◆


「―――良かったね。オリジナルと和解できて」


帰り道、隣を歩く番外個体が不意にそう囁いてきた。


「……和解したワケじゃねェよ。そォいう話じゃ……
 ねェンだ。ただ、超電磁砲はあのクソガキと同じ答え
 を見出しただけに過ぎねェ」


前を向いたまま、どこか遠くを見つめるような目で曖昧
に笑う少年。
そして、独り言みたいに呟く。


「さすが、あのクソガキの素体なだけの事はあるぜ……。
 一番俺に憎しみを抱いてる筈なのによ……。お人好し
 なンてモンじゃねェな」

「人間を許すのと罪を赦すのって、意味が違うんだよ?」
 
「……何だそりゃあ?」
785 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/29(木) 20:31:39.94 ID:+6rdzYeF0


「現在(いま)のあなたを許しても過去にした事は永遠
 に変わらない……。だから最終信号は“過去”と“現在”
 を結ばないであなたと接しようって、決めたんだと思う」

「…………」

「はは、良く分かんないかな? ていうかミサカもあん
 まり上手く説明できてないね……」

「いや。……あのクソガキも俺と初めて会った時、似た
 よォな事言ってやがった。そいつを思い出してたンだ」

「……ミサカはもうネットワークから剥離しちゃってる
 けど……負の感情で脳内を埋め尽くされてた時の記憶は
 まだ残ってる」

「打ち止めや妹達の俺に対する本音はそン時に取得した
 ってのか? 俺への負の感情だけが起動源だったンじゃ
 ねェのかよ?」

「優先的に集まるってだけで、他の感情がネットワーク
 から阻害されるワケじゃないよ。確かに印象には残るに
 はかなり薄いけど、それでも色んなミサカたちの声が頭
 に聞こえてきた……。特に、最終信号のあなたに対する
 想いは今のミサカにとっちゃ嫉妬以外の何物でもないね」

「まァ、あのガキのこったから大体想像つくけどよォ……」

「ありゃりゃ? もしかして良い方向に考えちゃってない?
 『どォせ俺が好きなンだろ』とか自惚レータ降臨しちゃって
 ますう?」
786 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/29(木) 20:33:35.82 ID:+6rdzYeF0


番外個体がニヤニヤしながら一方通行の顔を覗き込んでくる。


「そォは言ってねェ!! っつーか、オマエ今自分で『嫉妬』
 っつったじゃねェか!!」

「へ〜え。つまりあなたはこのミサカもあなたが好きで好きで
 仕方がないって設定しちゃってるワケかあ……くきき」

「ッ!?!?」


動揺のせいか珍しく言葉の選択をミスり、更なる墓穴を掘って
しまう一方通行。
こうなると番外個体の勢いと鬱陶しさは止まらない。
彼はそれを良く知っていたからこそ焦った。


「あなた、自意識過剰って言葉ぐらい知ってるよねえ?
 ミサカは『あなたが大好き。愛してる』なんて台詞を一度も
 クチにした憶えがないんだけど? ひひゃ♪ なのにミサカ
 はあなたが好き前提って、自分に酔ってなきゃ思わないよ」

「……わかったから少し黙ろォか。それとも物理的に黙らされ
 てェか?」

「ふふ、何ならミサカの煩いクチをあなたのクチで塞いでみる?」

787 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/29(木) 20:35:32.80 ID:+6rdzYeF0


「……っ」


卑怯だ。反則だ。
一方通行は心中でそう叫びながら目を明後日の方へ向けた。
日が落ちて周囲が暗く、表情の変化を見られなかったのは最大
の救いである。
もっとも、一方通行がどんな反応をしたのかぐらい彼女には分
かっているが……。


「……くだらねェ事言ってねェで、早く帰るぞ」

「お? 早歩きは照れ隠しの代表的な行動のひとつだってこと、
 ミサカも知ってるよ。いつになったらあなたは素直になるのやら」

「オマエの悪態こそ、いつになったら消えてくれるンだろォな」

「性格ってのは簡単に矯正できるモンじゃないからねえ」

「ならそいつは俺にも当て嵌まるってこったろォよ」


こんな風に他愛無く言葉を交わしながら並んで歩く。
番外個体はそれで充分嬉しかったし、一方通行も表に出さないだけ
で本当は……やめておこう。


今から二ヶ月前。
“学園都市側”が一方通行に対し、とうとう最後の武力行使を決行
した日。

788 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/29(木) 20:37:10.08 ID:+6rdzYeF0


彼は番外個体の制止の声をも振り切り、最後まで“反発の意”を貫
き通した。

真っ向から特攻し、背中に純白の翼と頭に輪っかを浮かせた彼の姿
は、まさしく“使者”として上層部の目に映っただろう。

誰かのために振るう『最後の力』として、徹底的に根源を葬る必要
があった。
該当する権力者には一人も余さず罪への導きを示し、その穢れた心
を浄化させた。
薄汚れた大人を象徴させる立派な建造物も、まるでそこまで行き着
いた過程を裁いてやるかの如く破壊してやった。

暴れた。

ただひたすら、彼は膨大な数と強大な力を持つ敵と戦い続けた。

自分の狂気を鎮めるためではない。

ただ奴らが気に入らないだけの理由ではない。

そう、全ては―――――。




いつもの見慣れた病室で目が覚めた時には驚いた。
てっきり、自分は死んだものと思っていたからだ。

789 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/29(木) 20:39:50.87 ID:+6rdzYeF0

事実、指の一本も動かせなくなるまで大天使クラスの力を放出して
いたのだ。隣接する学区に伸びる影響を抑えるためにも相当の体力
を消費していた。
最後の一人は惨めなブタ野郎で、浄化される寸前まで様々な交渉を
持ちかけて命乞いをしていた。それも実に見苦しく。

あんな連中が偉くなれる世の中にもっと早く疑問を抱くべきだった。

何故、こんな奴らが“彼女たち”をどうこうする権利がある?
自分と違って何の罪もない人間を、欲望のために犠牲にできる?


そこまで考えたところで“頭の中の何か”がブチンと切れた。


最後の一人(肥えたブタ野郎)だけは天使としてのチカラや能力を
しまい、顔の原型がなくなるまで己の手で殴った。殴り続けた。
そうすることで今までのことに清算などつかないのは分かっている。
負債を返したことにならないのも分かっている。

しかし、それでも振り下ろす手は止まらなかった。
拳の皮が摺り剥けて、真っ赤な血に染まって感覚が無くなろうとも。
子供たちの悲痛な声を大人向かってに訴えているかのように、彼は
何度も汚い大人の顔面を絶叫しながら殴り続けた。

意識はそこで途絶えている。

あんな燃え盛る皇居の中心にいたのだ。
脱出など頭の片隅にも描いていなかったし、むしろそこを死に場所
とさえ決めていた。

790 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/29(木) 20:40:55.74 ID:+6rdzYeF0


だが、あれだけの事をやらかした自分が何故だか生きている。
こんな自分に、まだ利用価値でもあると踏んでいるのか? この街
はどこまで腐ってやがんだ……。

目覚めて当初はそんなことばかり思っていたが、自分が生きている
のはどうやら“学園都市側”の仕業ではないらしい。
病室を訪ねてきた土御門元春がその全貌を語ってくれた。

“元暗部の少しばかり早い同窓会”。土御門はそう形容していたが、
まさかあの時に自分の知らないところで彼ら“元『グループ』”や
他のチームが“学園都市側”を相手に奮闘していたとは……。

流石に驚愕の色が隠せなかった。
まるで学校の近況報告みたいに軽く話している土御門は、『いつか
上を出し抜く』と確かに言っていた。……いや、土御門だけでなく、
上層部に巣食う汚い連中に一泡吹かせんと闇に身を置く人間も決し
て少なくはなかっただろう。

そんな大事な勝負の瞬間を、彼らは一方通行に委ねたのだ。


“聖域”中心部で倒れている一方通行を救出したのは、“元グループ”
の回収班である。御役御免となった彼らもまた、同窓会に参加した
馬鹿のクチだ。


そういう訳で一命は取り留めた一方通行だったが、体に異変を感じ
るのに時間は掛からなかった。


―――『能力』が、発動しない。
791 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/29(木) 20:46:34.85 ID:+6rdzYeF0


演算式を組み立てるための脳は、損傷を負った時のまま。
演算能力が欠如しているわけでもない。

なのに能力が使えなくなっていた。

しかし、一方通行は特に驚きを見せなかった。
ある意味、『自分のことは自分が良く知っている』だらだ。

『自分だけの現実』。考え得る原因はこれ以外にない。
ずっと抱えていた深層心理が、ようやく形となって表に現れた。
“能力”を持つ意味をこれ以上は見出せないと判断し、まるで
役目を終えたかのように深い眠りについた。一方通行自身の闇
と、決別するかのように……。

事実、『自分だけの現実』が崩れてしまえば超能力も消える。
そして取り戻すには多大な時間と労力を消費して『自分だけの
現実』を再構築する必要がある。

そこまで知っている時点で一方通行の決意は既に固まっていた。

退院する直前に発注してもらった新しいチョーカーのスイッチ
は、『入』と『切』の一段階しかなかった。
以前のような『能力使用モード』へ移るスイッチがなくなり、
思わず感慨耽ったのを覚えている。
長年連れ添った相棒のようなものだ。
いくらもう不要になったとは言え、それなりに思う事もある。

退院して最初の日ぐらいは感傷に浸ろう。

そう意識しても彼の周囲は騒がしい連中ばかりで、結局それ
どころではなかったのが現実だが……。

792 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/29(木) 20:48:31.01 ID:+6rdzYeF0


「―――どうしたの? ぼんやりしちゃって……」

「ンあ?」


番外個体は一方通行が能力を失おうがずっと変わらない。
時折減らず口を叩いて噛み付いたり、そうかと思えば猫撫で
声で誘惑してきたり、掴み所がなくて疲れない女だった。

彼女が何も言及してこないのは正直ありがたかった。

能力がなくなったと説明しても「あっ、そう」の一言で片が
ついてしまったし、同情的な態度でも取られるのは最も嫌だ
っただけに杞憂に終わって安堵した。


「今はミサカに守られてる能無し君なんだから、そんな風に
 隙だらけだと不安なんだけど。あなた目つき悪いからただで
 さえ絡まれやすい上に、ミサカっていう美少女まで連れてる
 んだもん。いつ背後から奇襲掛けられるか分かったモンじゃ
 ないよ」

「……そりゃ悪ゥござンしたねェ」


その代わりにネタとして弄られる事がしょっちゅうだが、同情
されるよりは遥かにマシだった。



番外個体には隠し事ができない。
一方通行の言動と態度の裏を見抜く技術と勘に関しては、多分
打ち止め以上に優れている。
そんな彼女が抱えている悩みに、一方通行は気づいていた。

793 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/29(木) 20:50:06.93 ID:+6rdzYeF0


“自分(妹達)の存在が原因で能力を失った”。


彼女にそう思わせないように、物事を前向きに捉えたと言って
も過言ではない。
本当は不安がないと言えば、嘘になる。

暗部の世界で身に付いた術は“能力に頼らずに人を殺す方法”
ぐらいだ。
今後、そういった経験すらも不要な時代になっていくだろう。
そのために払った代償が“最強の超能力”である。
皮肉めいた話だが、楽観的に受け入れられるものではない。

いざという時に発揮できる切り札がないのだ。

もしかしたら今の無能な自分を恨み、呪い、激しい自責の渦
に溺れる未来が待ち構えている可能性もある。
本音を言うとそれが一番恐かった。


『能力を失ったせいで守れなかったら……?』


表には全く出さず、胸の内で一時も漏らさず抱えている巨大
な不安感を番外個体は即座に見抜いていた。
だからこそ、彼女はいつもと何ら変わらない姿で一方通行に
接しているのだろう。

不安を取り除こうなんて考えは持っていない。
一方通行の選んだ道を否定する気もない。

ただ一つ。
彼の中の不安が、現実になってしまわないように願った。
そうならないためにも、“守られるだけの人間”には決して
ならないと誓った。

“彼と共に歩んでいく”というのは、そういう事だ。

794 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/29(木) 20:51:39.19 ID:+6rdzYeF0


“あの日”から二日後の夜、昏睡状態に陥り、病院のベッド
で安らかな寝息を立てている一方通行に番外個体はその旨を
伝えた。
泣き疲れて寝てしまった打ち止めをそっと隣のベッドに寝か
せ、子供に絵本でも読んであげているような優しい口調で。

『もう、ミサカ達のために頑張らなくていい。無理しなくて
 いい。ミサカ達は充分あなたに救われたから』

最後は消え入りそうな声で、震える肩を自らの両腕で押さえ
つけた。
彼に昔痛めつけられた右腕が、疼いた。

その翌日、彼は奇跡的に目を覚ましてくれた。
一方通行が『一方通行』から解放され、新しく生まれた瞬間
である。


「……なァ、番外個体」

「なあに? アクセラレータ」


夕食、入浴を終え、いつもの二人だけの時間。
言葉には出さないが、二人ともこの時が何よりも至福だった。


「そろそろ、呼び方変えねェか? 俺はもォ『一方通行』でも
 何でもねェンだしよ」

795 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/29(木) 20:53:03.29 ID:+6rdzYeF0


「へえ、あなたでもそんな事気にするんだ?」

「別に……そォいう訳じゃねェ。ただオマエはその……なンだ」

「んー?」


洗い物中の番外個体が振り返る。
そのまま歯切れが悪い彼に向けて怪訝と好奇の視線を注いだ。


「……オマエにぐらいは……名前で呼ばせても良いンじゃねェか
 なって思っただけだ。い、一応言っとくが深い意味はねェからな?」

「ぶっひゃ」

「笑うよォなことでもねェだろ!? 何つーか……一方通行でも
 ねェのに呼ばれンのは引っかかるってだけだ!」

「……。ヒーローさんや浜面サンたちには呼ばせてるじゃん。
 もしかして、『オマエだけは特別に俺の名前を呼ンで欲しい』
 とか、ドン引きのキザ男くんばりの台詞垂れ流すつもりじゃ
 ないよね? そしたらリアルに腹筋壊れるからやめ……?」

「…………」

「………え、ちょ、嘘、マジで?」

「ちっ……、もォいい何でもねェよさっさと忘れろクソが。
 ったく、ガラにもねェこと言うモンじゃなかったぜ……」

796 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/29(木) 20:59:35.67 ID:+6rdzYeF0


最後の言葉だけは何故か小声だったが、番外個体にはしっかり
聞こえていたらしい。
それもそのはず。いつの間にか一方通行のすぐ目の前まで近づ
いていたのだから。

それに気づいた一方通行は驚いた顔で離れようとする。


「な、なンだよ? 馬鹿笑いしてェンならすりゃイイだろォが!」

「……えて」

「あン……?」

「名前、教えて?」

「……なンでだよ?」


馬鹿笑いどころか真顔で尋ねてきたから不思議だ。
そう言いたそうな顔で数回瞬きし、一方通行は問い返した。


「あなたの名前を知ってる人、他にいないんでしょ? なら……
 このミサカだけに教えて欲しいな。……いい?」

「…………ちっ、ンだよ。調子狂わせてンじゃねェぞ」


普段はこっちが照れ隠しするとここぞとばかりに付け込む癖に、
規格外にも素直な意見を述べるとこれだ……。

女心というものは実に理解し難い。
同棲してずいぶん経つが、未だに課題が山積みの現実に直面した
一方通行は内心で舌打ちする。
797 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/29(木) 21:00:39.68 ID:+6rdzYeF0


「たまにはミサカだって欲望に忠実でいたいもん。あなたの名前、
 知りたい。……そんで、あなたとミサカしかいない時は名前で
 呼びたい。……わがまま、かな?」

「……そンなこと、ねェ……」


やがて、意を決したように息を吸った一方通行が最終確認を取る。


「一度しか言わねェからな?」

「やっぱり、本名忘れたってのは嘘だったんだね?」

「二度と……名乗ることはねェと思ってたからなァ……。ンじゃ、
 言うぞ?」

「……、うん」


『一方通行』という能力が開花し、その実用性を初めて“人”に
ぶつけたあの日から、名前を持つことをやめた。
こんな化け物に人間らしい名前なんざ必要ない。そう悟った上で
の決断だった。

だが、チカラを全て失ってただの人間に戻った今なら、
自分という人間を誰よりも知ってくれている彼女の前でなら、
もう一度だけ――――。



「――、―――」



人間らしく甘えたり、安らぎや温もりを貪欲に求めてみるのも
悪くないかもしれない。

少なくとも彼女や周囲の人間は、“学園都市最強の怪物”以外
の目で自分を見てくれているから。

798 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/29(木) 21:01:31.80 ID:+6rdzYeF0


◆ ◆ ◆



就寝前、御坂美琴との約束事を番外個体が話題に出してきた。

帰り際、一方通行の広くない背中に向かって彼女は大声を張り
上げた。
上条当麻と何やら揉め合っている隙を突いて抜けたつもりだっ
たから、一方通行は少し驚きを見せて振り返る。

彼女は、少しの迷いも雑念もない真っ直ぐな瞳をこちらにぶつ
けてこんな約束を押し付けてきた。


〜〜〜


『私は“姉”として妹達と向き合っていくって決めた!
 だからアンタも約束しなさい! 何があってもその子を……
 その子たちを守り抜くって! 加害者でもある私にはそんな
 こと頼む義理なんて確かにないわ……。だけど、“姉”とし
 て、妹達の“長女”として、改めてお願いしたいの!』

『……本気で、俺なンかを信用しちまう気かよ? オマエは
 俺を信じられねェ、信じちゃいけねェ最後の砦みてェなモン
 じゃねェか。……それでも、本当にオマエは……』

『残された妹達をアンタは救ってくれた。その間、平和ボケ
 しまくってた私が今のアンタを否定できると思う?
 妹達の意思より自分勝手な願望を尊重するような狭量じゃ、
 とてもこんな事言おうなんて思わない、でしょ?』

799 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/29(木) 21:02:58.28 ID:+6rdzYeF0


『…………やっぱオマエ、あいつらの素(もと)なだけあるわ。
 “筋金入りの物好き”ってのを初めて垣間見たぜ』

『……ええそうね。我ながら心境の変化ぶりに愕然としてるわ。
 よりにもよって、アンタにこんなお願いできる日が来るなんて
 ね……。―――けど』

『……?』

『アンタたちを見てたら、悪くないかもなぁって思えちゃった
 のよ。私じゃなくて妹達の意思を優先させただけのつもりだった
 けど……やっぱり私の意思もあるみたい。ちょっとだけ、ね』

『……ますます理解できねェ話だ。オマエの深層心理やら心境
 の変化は俺じゃとても共感できそォもねェ。……だがな―――』



『―――その“願い”だけは、確かに聞き入れたぜ。もォ片時も
     忘れてやらねェから、後で心変わりしましたっつわれて
     も手遅れだからな?』


『言ったわね? ……約束よ』



〜〜〜


800 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/29(木) 21:04:27.39 ID:+6rdzYeF0


この言葉に心から満足したような笑みを残したまま、美琴は踵を返
して上条の所へ戻っていった。去り際に背中を向けたままの彼女が
軽く手を振ったのが印象的だった。


「……ミサカが啖呵切るまでもなかったね。今思うと」

「俺以上に意思が固そォなオリジナルがあそこまで抜かしたンだ。
 おそらく、何日も何日も考えてよォやく出せた結論なンだろォよ」

「…………」


ひとつしかないベッドはお世辞にも広いとは言えない。
そんな空間に寄り添う形で、少年と少女は思い出話でもするように
語り合う。

一方通行に約束事を申し付ける少し前、番外個体が喫茶店にやって
来た直後の話だ。


〜〜〜


『―――ちょっと、番外個体!』

『なあに? おねーたまん☆』

『相変わらずおどけた態度取ってくれちゃってるけど、アンタは結局
 何しに来たわけ?』

『言った通りだよ。凡人以下になった今のこの人ならおねーたまでも
 容易く葬れるっしょ? ところがどっこいそうはいかのすけ、っヤツかな』

801 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/29(木) 21:05:45.78 ID:+6rdzYeF0


『……こいつを援護しに来た? この私を相手にそんなこと本気で言
 ってんの?』

『とーぜん』

『私より、アンタはこいつを取るわけだ? 私じゃなくて一方通行の
 味方につく、ねぇ……』

『……それって性悪女が良くクチにする言葉じゃない?』

『…………』


この時が真新しい記憶の中で最もピリピリした雰囲気を醸していた。
今にも喧嘩に勃発するのではないかとばかりの睨み合い。
火花の代わりに青白い稲妻が両者の間を飛んでいた。

上条は本能的に右手をいつでも振るえるように備え、
浜面はそんな便利な盾にさりげなく身を寄せ、
一方通行は毅然とした面持ちで成り行きを見守っていた。

“下手に女同士の争いに割って入ると碌な事にならない”。
既に三人とも痛いほど学んでいる共通事項だった。

と、ここで美琴が不意に眉のチカラを抜いた。


『ふふっ……、なんてね♪ ごめん。ちょっとからかい過ぎたわ』

『ミサカがビビんなくて残念だったねえ、おねーたまん☆』

802 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/29(木) 21:07:37.69 ID:+6rdzYeF0


『いや、っていうかちょっとは怯めよ。これでもアンタの五倍は
 放電できんのよ?』

『優しい優しいおねーたまが、可愛い妹に向かって感電死レベル
 の電流放つワケないじゃん。ミサカでもそんぐらい分かるっての』

『むぅ、何よホント可愛くねぇぇ……! 人の優しさ逆手に取る
 なんてとんでもない馬鹿妹め……!! アンタのその性格、マジ
 で矯正してやりたいわ』

『あり? もしかして忘れた? ミサカは元々悪意の塊みたいな
 存在なのだよ♪ 色々あってだいぶ緩和されたけど』

『緩くなってる分タチが悪いのよっ! 子供レベルの悪意って、
 下手に武力行使できないから余計苛々が募るわ……。いっそマジ
 切れさせて欲しいって度々思うし……!』


なんだかんだ言っても姉妹である。
その場にいた誰もがそう落ち着いて肩のチカラを抜いた。

その後もしばらく続いた会話がようやく終わった時、美琴が再び
真剣な目で妹(中身だけ)に問う。


『―――ねぇ……、最後に訊くけど』

『……なにかな? おねーたま』

803 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/29(木) 21:08:38.17 ID:+6rdzYeF0


『もし私と一方通行がここで戦争始めると仮定したら、やっぱり
 アンタは私と敵対するの? ……一方通行の能力が健在であると
 も仮定した上で、アンタの本音を聞かせて頂戴』

『……、んなこと聞いてどうしたいの?』

『ただの最終確認よ。真面目に答えて』

『…………』


しばし間が空き、番外個体は口角を上げた。


『そりゃ確かにおねーたまも大切なお姉さまだし、いざって時は
 顔を立ててやりたい気持ちもあるよ……』

『………』

『―――けどね』


からかうような笑みがそこで消え、射抜くような目で美琴を見る。


『この人を傷つけようとする人は、誰だろうと許さないよ。ミサカ
 の命に代えても守ってやるし、徹底的に立ち向かう。例えその相手
 がミサカ達の“お姉様”であっても……、ね』



『………………そう』



美琴の中で一つの蟠りが完全に消えた瞬間だった。
この言葉こそが、“残された妹達を一方通行と共に支えていこう”
という答えに行き着く決定打となったのかもしれない。

少なくとも、彼を心の底から信頼している妹の存在を否定しよう
とは思わなかった。

804 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/29(木) 21:09:55.32 ID:+6rdzYeF0


〜〜〜


「……ホント、都合の良い話にも程があンだろ。善行を幾ら繰り
 返したって過去の悪行はいつまでも消えやしねェ……。ましてや
 その悪行によって最も深い傷を受けちまったヤツのクチから……。
 ハッ、こりゃいよいよ逃げ場なンざねェってワケだ」


ま、逃げなンて選択肢はハナっからねェが……。と、付け加えて
笑う『元第一位』。


「意外と懐が深くて安心したよ。流石ミサカ達のオリジナルって
 だけあるね」


『元第一位』の腕を枕にし、身内同士の戦争を回避できた安堵感
に黄昏れる『ミサカ妹達』の末っ子。


静かな夜が、ゆっくりと更けていく。


「ねえ……。――、―――」

「あァ? ……つか、何でフルネームだよ? 上でも下でも好き
 に呼びゃイイだろォが」

「ぬふふ♪ 改めて呼んでみると、似合わない名前だね。まるで
 女の子みたい」

805 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/29(木) 21:10:44.29 ID:+6rdzYeF0


「ほっとけ……。本名ってのはどォ足掻こォが、テメェの意思で
 決められるモンじゃねェンだ。……そォいう意味じゃ、オマエら
 は俺たちに比べて幸せなンだよ。なンたって生まれてから好きな
 名前を作れるンだからなァ」

「それでも、ミサカは気に入ってるよ? なんたって“あなたの
 名前”だもん」

「……言ってて恥ずかしくならねェか? っつーか、今さらだが
 俺は少し後悔してきた。自らネタにされそォな弱み暴露しちまった
 みてェな気分だわ……」

「よかったねえ。ミサカネットワークに配信されなくて」

「しよォにもできねェだろォが。だから教えたンだよ……。つか、
 そもそも他の誰かに教える気があンのか?」

「ううん、ないよ。最終信号にだって絶対に教えてやんないもん☆
 このミサカだけの秘密♪」

「…………」

「……ねえ」

「……なンだ?」


「ありがとう、ね……」

806 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/29(木) 21:12:47.33 ID:+6rdzYeF0



「……は? オイ、今なンつった? 小声すぎて全然聞き取れ
 なかったぞ」

「んや、なんでもないよ」

「変なヤツだな……。もォ寝ろ」

「眠い?」

「オマエの体温のおかげで丁度適温だからなァ。眠気も進むって
 モンだ」

「ミサカもかな……。あなたの体、あったかい……」

「……そォかい」

「……能力ないと、これから色々不便だね」

「かもな」

「とりあえず体鍛えろよ」

「……あァ、考えとくわ――――」


「――――」


「――――」

807 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/29(木) 21:13:34.22 ID:+6rdzYeF0


「…………」


「…………」



やがて、静かになり、何も聞こえなくなる。

なのに不思議と、ベッドの中から寝息は聞こえてこない。

いつからか、二つの身体は一つに重なり、

小さな小さな囁き声だけが、

布団の中という狭い空間に響く。

それは、唯一、

全ての衣を脱ぎ捨てて互いを見つめられる“聖域”のようなもの。

憎まれ口も、罵詈雑言も、

何の穢れもない純粋な少年少女の憩いの場。

その中で、少女は何度も聞いた答えを今一度求める――――。


  ずっとミサカの傍にいてくれる?


808 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/29(木) 21:14:30.94 ID:+6rdzYeF0


少年は迷い無く、何度も、何度でも答える。


  当たり前だろォがよ


そして、彼女が最も喜んでくれる言葉を述べた。



  俺が一生、オマエの面倒見てやる



少女は満足そうに微笑み、



   …………うんっ!



少年の腕の中で、今日も安らかな眠りについた。



〜 Fin  〜

809 : ◆jPpg5.obl6 [sage saga]:2012/03/29(木) 21:15:20.69 ID:+6rdzYeF0



以上でこのssは終幕となります。
最後までお付き合い頂き、本当にありがとうございます。
書き始めたのが一昨年の十月頃だから約一年半でしょうか? 長かったですねぇ……。
途中放棄にならず、最後まで完走できたのは偏に心温かい皆様のおかげです。
様々なご感想やご意見、非常に励みとなりました。
二ヶ月近く更新できなかった件については深くお詫びします。

さて、このスレですが、しばらくしたらこちらの方で依頼します。
また何か書くとしたら新スレ建てます。
このお話はここで完結しましたので、次回作という事になりますね。
次回作……あるのかな?

まぁ、もし見かけたら『またテメェかよ懲りねぇなコンチクショウ……』
とでも言ってやってください

続きや番外編に期待してくれた方、本当にごめんなさい。

では最後にもう一回、


じっくり読んでくれた人もうっかり足を踏み入れちゃった人も皆ありがとう!!!
おまえら大好きだーーーーーーー!!!!!
番外通行さいこーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!



では、またどこかで。


ノシ
810 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2012/03/29(木) 21:20:20.19 ID:qwvfpicW0
>>1 乙
811 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/29(木) 21:21:13.84 ID:iC5bEqfIO
乙!
まさか来てたとは思わなかったぜ
最高のssをありがとう!!
812 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空) :2012/03/29(木) 21:22:28.91 ID:pHAqDdSo0
おつっ
813 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage saga]:2012/03/29(木) 21:23:59.82 ID:ag5hQB430
お疲れ様でした
更新期間に関してはリアルの都合とかもあるだろうし、気にしなくていいと思います。
番外通行はいいものだ




えんだあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
814 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/29(木) 21:26:50.44 ID:XJ43h4jeo


かっこいいぜ、一方通行

いい女だぜ、番外個体
815 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛媛県) [sage]:2012/03/29(木) 21:46:11.20 ID:Dh1CA4Eu0
おつおつ!!最高だった!!
816 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage saga]:2012/03/29(木) 22:02:17.81 ID:oj7Lmuj+0
乙!

肝心のベットシーンはどうした>>1
817 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/29(木) 22:50:02.97 ID:kd8hm4CF0
乙!
お疲れ様でした、番外通行最高!
818 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/29(木) 23:20:27.40 ID:bf2gr1udo
おつにゃんだよ!
819 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) [sage]:2012/03/29(木) 23:23:20.49 ID:LJQe5slM0
乙!
番外個体すげえ可愛かった
てか皆可愛かった
820 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/03/30(金) 00:04:53.89 ID:0xATKlpt0
乙!

あー、これで楽しみにしてたSSがまたひとつ減ってしまったか…
次回作に期待します!本当にお疲れ様!
821 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/30(金) 00:07:55.87 ID:SUFA3ORP0
こうしてまた良作が終わっていく……寂しいけど仕方ないのよな
次回作に期待しないはずがないぜ!

乙でした!
822 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/30(金) 00:13:29.93 ID:FUuJB/7IO
乙ううう!!
無事完結して嬉しいやら悲しいやら…
なんにせよお疲れ様でした!
次回作も期待してます!
823 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/30(金) 03:41:04.88 ID:G2pYnrLAO
乙!
最高の番外通行SSだったよ!
824 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国四国) [sage]:2012/03/30(金) 07:13:04.64 ID:PPspe9vb0
乙乙!!!!
825 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/30(金) 09:42:59.91 ID:wTVkY03Z0
826 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/03/31(土) 13:16:34.51 ID:sBqI6iOno
乙じゃん

そうか、終わっちまったんだな……
827 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/31(土) 17:08:41.94 ID:3X98SUBBo
遅れながら乙
次回作に期待してます
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