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「……俺はお前が欲しい」 「え?」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [sage]:2011/09/01(木) 18:40:25.86 ID:oNpUiqXa0


━━━━━━……ガタガタゴトゴトッ…………


私は時折来る揺れの度に体を震わせていた。

数日前までは平凡な日々を送っていたのに、どうして私は奴隷馬車に乗っているのだろうと再び思う。

この数時間、私はただただ過去を思い出していた。


(……寒い…)

もぞもぞと体を丸めてみるが、一向に温まる感覚はしない。

私もそうだが周りの女性達は薄い布一枚しか着せて貰っていなかった。
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木曜の夜には誰もダイブせず @ 2024/04/17(水) 20:05:45.21 ID:iuZC4QbfO
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いろは「先輩、カフェがありますよ」【俺ガイル】 @ 2024/04/16(火) 23:54:11.88 ID:aOh6YfjJ0
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こんな恋愛がしたい  安部菜々編 @ 2024/04/15(月) 21:12:49.25 ID:HdnryJIo0
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アテム「実践レベルのデッキ?」 @ 2024/04/14(日) 19:11:43.81 ID:Ix0pR4FB0
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2 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [sage saga]:2011/09/01(木) 18:42:14.71 ID:oNpUiqXa0


「………」

見渡す。


何人かの女性に生気が無い。

当たり前だ、皆大切な家族や夫、恋人を殺された上にこの馬車に乗っているのだから。


私は今時珍しいと言われる緑豊かな村で暮らしていた。

魚が住み着く綺麗な川が流れ、小さな動物が住む森があり、暖かい家族があった。

そこで何の悩みもなく、私は人生を過ごすと思っていた。


しかしあの日、私の人生は音を立てて崩れた。


突然現れた灰色の戦車達、そして恐ろしい力を持った男達。


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3 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [sage saga]:2011/09/01(木) 18:43:45.69 ID:oNpUiqXa0


私の村は二時間もしないうちに皆殺しにされた。


思い出す度に怖い。

思い出す度に憎い。

思い出す度に………


「…………悲しい」


━━━━━━ギギィッ


ガクンと衝撃が来た後、馬車が止まった。


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4 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [sage saga]:2011/09/01(木) 18:44:45.87 ID:oNpUiqXa0




やべ、このスレはR-20です  っと





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5 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [sage saga]:2011/09/01(木) 18:46:07.18 ID:oNpUiqXa0


「オラ、早く馬車から降りないと犯すぞォッ!!」

ダンッ!! と太った男が馬車の扉を叩き、女性を引きずり降ろして行く。

私も直ぐに馬車から降ろされた。


「……ここ…」

僅かに辺りを見る。

人は殆ど歩いていなく、近くに酒場と宿がある寂れた町だった。

「何してる、ぼーっとしてねぇで中に入れ!!」

「っ! ご、ごめんなさい……」


私は押された方の建物の中に入っていった。



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6 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [sage saga]:2011/09/01(木) 18:47:37.47 ID:oNpUiqXa0


(………薔薇? 蜜?)


中は意外にも綺麗な宿で、辺りからは花のような甘い匂いがしてきた。

でも逆に、私には不気味に感じられた。

それは私達より前からいると思える女の子が、宿の奥から顔を覗かせていたからだ。


とろん とした、快楽に浸った笑みを浮かべながら。


その時だ、私の横にいた男が突然押し倒して来た。

「やっ…!?」

男はそのまま手を私の秘所に滑らせると、指で擦り始めた。


「へへへ…寒い中で体を温めようともじもじしてたんだろ、濡れてるぜ」

「……っ!」

瞬間、その時あった恐怖心が消えるような快感が走った。



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7 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [sage saga]:2011/09/01(木) 18:50:21.03 ID:oNpUiqXa0


息が止まりそうになり、下腹部が熱く疼き出す。

「…ぁっ……ん…っ」


口が開いたままなのも忘れて私は男を見た。


「お? 感じてんのかよ、素質あるじゃねえか」

「………」

感じてるって、何を? と私が言おうとするが…


━━━━━ぐにぃっ…


「ひゃ……ぁっ…!」

男はいきなり私の秘所を広げて眺めていた。

しばらく指で ぐちゅ…にゅっ と出し入れすると、宿にいた別の男に

「コイツ、処女だ、それもこの容姿だから相当の価値があるぞ」



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8 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [sage saga]:2011/09/01(木) 18:51:46.07 ID:oNpUiqXa0


「やあ、君のお名前は?」

「……ふぃ、フィーア」

少し男は私の体を舐め回すように見た後、


「ようこそフィーア、君には3日後に来る『黒い死神』様の性奴隷になって貰うよ♪」


「━━━━━!?」

「それまでは一応アナルとマンコの処女以外の『サービス』だけはして貰うよ、その位出来ないと死神様に失礼だからね」

それだけ言うと、男は別の女の子の方へ行った。

私は動けなかった。


『黒い死神』、この名前は私の村にも噂が流れていた。



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9 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [sage saga]:2011/09/01(木) 18:56:29.77 ID:oNpUiqXa0


女子供老人にも容赦はせず、たった1人で1つの街や軍隊を壊滅させるという『ハンター』だ。

そして何より恐ろしいのは、その残虐性、女の死体は犯し、男の死体は粉々にするらしい。

私はそんな男の奴隷になるのだろうか?



━━━━━━しばらくして。


恐らくもう朝日は昇っているのだろう、部屋は明るかった。

私はその部屋にある精液にまみれたベッドに力無く横たわっていた。

私が来た最初の日は、男の性器を口や手、太股で慰めるという仕事が来た。


悪臭漂う部屋の中、私は思った。



(………もう、諦めよう……)



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10 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [sage saga]:2011/09/01(木) 19:06:50.19 ID:oNpUiqXa0



━━━━━その夜もまた、私は男の相手をしていた。


「ハッハッ……、もっと太股で強く挟んでっ、…ああっいいよフィーアちゃん!」

「ん…んっ、ぁ…///」


私のアソコを男の性器が擦りつけながら、男の手が私の胸を強く揉んで来る。

痛い。


「射精すよッ? 手で精液受け止めろよ?」

「…はい……」

直ぐにピストンが強くなると、私の股間から精液が出て来た。

私はあえてそれを受け止めない。

その方が客は喜んでくれるらしい、私には分からない。


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11 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [sage saga]:2011/09/01(木) 19:13:57.13 ID:oNpUiqXa0


「……悪い子だ、でもまだ初めてなんだし仕方ないか」

男はそう言い、ニヤニヤと見てくる。


「…でもお仕置きだ、口で綺麗にして貰うよ」

「……はい」


昨日私は別の客のこれを断ったせいで酷い目に遭ったので、今日は頷く。

ヌルヌルした性器を口に含み、舌で先を舐め回しながらくわえ込んでいく。

しかしその時、 ガシッ と、男は私の頭を掴んだ。


「フィーアちゃん、ちょっとお口マンコ使わせて貰うよ?」

「…!」


後は大体わかると思う、結局私はまた酷い事をされた。


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12 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [sage saga]:2011/09/01(木) 19:21:14.53 ID:oNpUiqXa0


「体は洗ったかい? じゃあ次のお客さんがそっちに行くからね」


やっと終わっても、私は休めそうになかった。

私がタオルで髪を拭きながら階段を上ろうとすると、

「ああそうそう、お金が結構貰ったから朝まで相手してね」

「…っ」


一瞬吐き気がした。


またこんな所に、こんな世界に男が来たと思うと一層吐き気がした。

もう頭がおかしくなりそうだった。


階段を上り、奥にある私の部屋の前まで行った所で、私は止まった。

(……扉が開いてる)


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13 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [sage saga]:2011/09/01(木) 19:29:19.65 ID:oNpUiqXa0


もしかしたら待ち切れなくなった客が先に入ったのかもしれない。

だとしたら少し怖い、いきなり何をしてくるか分からない。


━━━━━━カチャッ……ギッ


少し扉が軋む音を出しながら、私は開けた。

部屋にあった蝋燭が私と、客を照らす。


「……え?」

思わず私は声が出てしまった。

驚いたのだ、どんな男がいるのかと扉を開けたら目の前に私と同じ年位の青年がベッドに腰かけていたから。


「…………」


そして同時に、見たこと無い程綺麗な赤髪に私は見とれていた。


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14 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [sage saga]:2011/09/01(木) 19:35:52.39 ID:oNpUiqXa0


顔もよく整っていて、私の村にいたら人気者だったろうと思う。

でも考えてみれば、容姿は関係なく彼もこの宿に来るような下種なのだ。

そんな事を思いながら部屋の扉を閉めていると、いきなり後ろから抱きついて来た。


「………っ!!」

びくっ と反射的に震えてしまうが、少なくとも先程までのような男達よりマシな気がした。

このままどうなるのか様子を見る。


「………」

「………」


(…?)

無言、彼は何も言わず何もしてこない。



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15 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [sage saga]:2011/09/01(木) 19:36:23.91 ID:oNpUiqXa0
おちる
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16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/01(木) 21:00:36.56 ID:W59ER2ZDO
震えるぞハート!
燃え尽きるほどヒート!!おおおおおっ
刻むぞ血液のビート!!



山吹き色の波紋疾走!!



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17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/02(金) 06:08:42.20 ID:GCq0cMS4o
シェゾスレじゃない
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18 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U :2011/09/02(金) 13:45:05.40 ID:LZAzmzMR0
>>16
刻むぞ血液のビートの後に続く ! は1つだけだよスピードワゴン君
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19 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga sage]:2011/09/02(金) 14:27:02.79 ID:LZAzmzMR0


その体制のまま、何分か不気味な時間が過ぎた。

顔の横から静かな呼吸音が聴こえて来るだけで部屋は静まり返っている。

・・・もしかしたらこの人は知り合いなのかも知れない。

私はそう思い、ゆっくり背後にいる彼の顔を見た。


(………………………知らない)


見たことは無い。

小さな村だったから、知らない顔は無いつもりだ。

「……あの、あなたは…?」

だから私は聞く事にした、名前だけなら聞いた事があったかもしれないから。



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20 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga sage]:2011/09/02(金) 15:03:38.75 ID:LZAzmzMR0


「……何がだ?」

「え、ぁ……あなたの、お名前は…?」


少し驚く。

声だけは顔とは正反対に低く、冷たかったのだ。

彼は藍色の瞳を動かさずに言った。


「無い」

「……」


ナイ、という名前なのかとも思った。

だがその冷たい声と瞳からして、彼に名前が無いのは本当だと気づいた。

その時だった。



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21 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga sage]:2011/09/02(金) 15:23:30.95 ID:LZAzmzMR0


「……寝るんだろう?」

「はい?」


つい返事してしまったが、恐らく彼は急かしているのだ。

私は直ぐに服を脱ごうと…


━━━━ドサッ


「……あ…」

「ここはこうして抱きながら寝るらしいな」

訳が分からない。


(……この人、何がしたいんだろ…)


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22 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga sage]:2011/09/02(金) 15:33:49.74 ID:LZAzmzMR0


これは私に何かしろということなのか、それとも本当に何も知らないのに大金を出して泊まりに来たのか。


(……分からない……)


逆に不気味だった。

正直私はあまり人を信じられる状況ではないし、このまま終われるなら喜んで寝たかった。

でも怖い、信じられない、この数日間で私は外の世界の人間がどれだけ恐ろしくて醜いか知った。

命はあっても、人形のように弄ばれる未来を突きつけられて私は限界を越えていた。


(なのに…)

━━━━どうしてこのタイミングで?

(……あったかい…)

━━━━久しぶりの人の温もりが?



━━━━偽りの温もりかもしれないのに?




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23 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga sage]:2011/09/02(金) 15:40:07.46 ID:LZAzmzMR0


━━━翌朝。


「……ん」

もぞ、と私は何日かぶりの熟睡から目覚めた。

念の為体や衣服を確認してみるがどこも問題はない、あの男は何もしなかったのだ。


「………」

彼のいた横を見る。


彼の姿は既に無かったが、手を当てると僅かに温かった。

(…………)


少しだけ、彼が私の頭の中に残った。



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24 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga sage]:2011/09/02(金) 15:50:23.54 ID:LZAzmzMR0




━━━━━【 目標と接触 】━━━━━


━━━【 現在の逃走確率42% 】━━━



━━━━━【 至急次の段階に入る 】━━━━━





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25 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga sage]:2011/09/02(金) 16:07:35.49 ID:LZAzmzMR0



━━━━━━パンッパンッ…!


「あ、出すよフィーアちゃん!!」

「…っ、ぁあ……」


━━━━━━ビュルルッ、ビチャッ


(……終わった)

また男達の相手をしてから、私はベッドに倒れ込んだ。

もう既に今朝までの彼がいた温もりは無い、しかし私には彼という存在が救いに思えた。


でも明日、私は『黒い死神』に奴隷として売られる。


(……もう一度)


悪臭の中、ぽつりと言う。


「…もう一度、あなたに会いたい……」


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26 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga sage]:2011/09/02(金) 16:20:49.45 ID:LZAzmzMR0



━━━翌日。


「本日はよくお越し下さいました、死神様! こちらの娘が例の『カンパニー』が潰した村の女です」

宿の支配人はそう言って私を前に押した。

一刻も早く消えて貰いたいんだろう、私ではなく『黒い死神』に。


「なるほどな、確かに良い女だ……しかも処女なんだろ?」


野太い声に、熊のように大きく巨大な筋肉の男。

黒いマントに身を包んだ彼が、『黒い死神』らしかった。

(……くさい)


どれだけ体を清潔にしていないのか、ハエが飛んでないのが不思議な程の悪臭を放っていた。



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27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/03(土) 16:50:06.60 ID:HZ4+FoOY0
1日1スレ?
でも期待
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28 :ニュッSQVIPにかわりましてNIPPERがお送りしますぜぃツェペリ [sage]:2011/09/03(土) 18:34:11.72 ID:UGxaASvY0
>>27
一応2スレを意識してる
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29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/03(土) 20:15:11.00 ID:Yq74U+6xo
期待してるのが>>27だけだと思ったら間違いなんだよ・・・

頑張れ>>1
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30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/09/03(土) 20:27:27.34 ID:5vpe70rDo
一日2スレとか何者だよ…と一応ツッコミを入れておく
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31 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U :2011/09/05(月) 13:43:28.82 ID:fHVCVnmE0
>>30
半日で大長SSのストーリーを完結まで細かく考えられるけど1日で書ける量が12レス程度という基地外作者ですww
32 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga sage]:2011/09/05(月) 14:39:14.86 ID:fHVCVnmE0


男は私に近づく、死を思わせる酷い臭いを発しながら。

その異様な気配の圧力に耐えかねてか、隣にいた支配人が数歩後ろへ下がった。


「女、名前は何て言う?」

「……フィーアです」

吐き気がするのを堪えて答えた。


男は一度私の顔をしばらく見た後、スッ と懐に手を伸ばした。

マントの中から ジャラッ という金属がぶつかり合う音がする。

「いやぁ、仕入れるのに苦労しましたよ〜 何せあのカンパニーが直々に潰した村の女ですからね〜」

支配人がそれを見て急にゴマをスリ始める。


恐らく『私の代金』を少しでも釣り上げようとしているのだ、と思った。


33 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga sage]:2011/09/05(月) 14:54:34.23 ID:fHVCVnmE0


『だが』、次の瞬間━━━━━━



━━━━ドババァンッッ!!

空気を伝って私の耳を炸裂した音が叩いた。

男のマントに風穴が開いたと同時、支配人の体が後ろへ吹き飛んだ。


「きゃあ…っ!!?」

腰が一瞬で抜ける。


何が起きたのか全く分からなかった。


34 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga sage]:2011/09/05(月) 15:20:49.90 ID:fHVCVnmE0


「ひゃひゃひゃひゃ……本当チョロいな、それっぽい格好すりゃ『黒い死神』なんだからよォッ!!」

(……!?)


バサッと叩きつけるように悪臭を放つマントを脱ぎ捨てた中には、二丁の短機関銃が握られていた。

男は腰に刺さっていた長方形の箱を抜き取り、大声で言った。


「用済みだ、街の自警団寮にナパームを浴びせろ…残りのバイクは南にある売春宿に来い!!」


ガガッというノイズの後、『了解』という別の男の声が箱から返って来る。

男は箱を腰に再び差し込むと、銃を持ったまま近づいて来た。

「ひゃひゃ……フィーアちゃんはここで待ってようね?」

「ひ……っぁ…!」

恐くて、恐くて声が上手く出ない。


銃口が私の足に向けられた。


35 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga sage]:2011/09/05(月) 15:33:35.26 ID:fHVCVnmE0


━━━━━パンッ!!


「……あ"、」

全身に、脳にまで一瞬で激痛が走った。

視界が上手く認識出来ない、何も考えられない。


怖い、恐い、こわい・・・!!


「ああぁぁぁ!!! 助けて!! お願い!! だ、誰か……!?」

「……チッ、うるせえよ」


━━━━━パンッ!!


「ぎ……ッ!??」


36 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga sage]:2011/09/05(月) 15:39:55.36 ID:fHVCVnmE0


血が足から流れ出る。

痛い、それしかない。


(お父さん…! お母さん……!!)

もう会えない両親の笑顔や幼い頃の日々が目に映る。


その時、遠くから爆発音が響いて来た。

「お、やったみてぇだな…そろそろ着くか」

男はそう言った後、私を見下ろした。


「……遅いから先にヤッとくか?」

「…………」


これ以上どうするつもりなのだろう、私が何をしたんだろう。

37 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga sage]:2011/09/05(月) 15:53:13.23 ID:fHVCVnmE0


━━━━━そんな事を考えていた時私はついに『幻覚』を見た。

男の遥か後方に、距離が離れていてもはっきり分かる程『赤い』髪が見えた。


2日前会った、あの彼だ。


でも有り得ない。

これは夢の世界でも現実の世界でも無く、悪夢に等しい世界で起きた『普通』なのだ。

既に周りにいた男の客は最初の銃声だけで逃げている上、相手はあの『黒い死神』率いる集団。


(……わかってる)


男が私に跨り、銃口を胸に押し当てながら片手で服を脱がそうとする。

私は抵抗する事すら出来ず脱がされた。

38 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga sage]:2011/09/05(月) 16:00:37.17 ID:fHVCVnmE0


「ひゃひゃひゃァッ!! すげぇ良い胸してんじゃねえかよ! よく今まで処女だったもんだ!!」

「………」

固くなったモノを私の体に擦りつけながら男は笑う。

その時だった。



「……楽しそうな所悪いが、支配人はどうした」



「━━━━━━あン?」


男は振り返る。

邪魔だと、殺意を込めた死の眼を向けるその先には……


(………名前を名乗らない彼がいた)


39 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga sage]:2011/09/05(月) 16:13:12.73 ID:fHVCVnmE0


男の殺意が込められた眼に、赤髪は動じない。

もっと言ってしまえばその場で起きている全てに、全くの無関心だったのだ。

目の前で犯されようとしているフィーアにすらもだ。


赤髪は答えない男に再び問う。

「支配人はどうした、予約を入れた筈だ」

無機質な藍色の瞳が見る。


「あー、客か? だったら悪いがそこに転がってんのが支配人だぜ?」

「金はもう払った、もう一日その女と過ごせる筈だ」


支配人の死体には目も向けずに続けた。


「………それから、俺はお前に話しかけた覚えはないぞ」


40 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga sage]:2011/09/05(月) 16:18:54.28 ID:fHVCVnmE0


「ダメ!! 逃げてっ…!」


フィーアが叫んだが、既に遅かった。


━━━━━ドババババァァンッッ!!!!


男の短機関銃が火を噴いた。

片手だとブレるのか、当たったのは一発だけのようだが間違いなく人間なら死んだ。

赤髪の頭が パァン と破裂したような音を出し、その体は床へと倒れていった。


フィーアが叫ぶが動かない。


41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/05(月) 17:23:56.97 ID:uWV8Tn+bo
42 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga ]:2011/09/07(水) 16:21:28.38 ID:woX0+9WN0
リミットは三時間…目標は2つ合わせて30レスってとこか
43 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga sage]:2011/09/07(水) 16:32:25.35 ID:woX0+9WN0


「……っ!!」


赤髪の男が動く気配は無い。

フィーアの全身が凍りつく。


「チッ、萎えちまったぜ」

短機関銃の弾倉をチェックしながら男は忌々しそうに呟いた。


その時、宿の外からけたたましい音を出すバイクが6機近づいて来た。

それらはどれも7mm機関銃やグレネードが搭載され、多量の装甲タイルでゴツゴツしたモノになっていた。

『ソルジャー型・戦闘単車』。


44 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga sage]:2011/09/07(水) 16:42:49.00 ID:woX0+9WN0


通常の『ハンター』や、『ソルジャー』には中級レベルの代物と言える戦闘機だった。

男は6機のバイクに跨る手下達に近づき、手を振った。

「宿の中にいる女と金を回収しろ、抵抗したら殺さない程度に痛めつけて連れて来い」

「「 了解!!! 」」


命令を聞いた手下達は嬉々としてバイクから降り、拳銃を手にする。

フィーアはただ怯えながら痛む足を抑えているしか出来ない。


(へへへ、死神様に着いてきて良かったぜ…毎日新しい女と美味い飯が食えるんだからよ)


スキンヘッドにサングラスをした男はそう口の中で笑いながら宿に足を踏み入れる。

フィーアは彼のボスが所有しているのを知っている彼は、二階の上位の女を捕らえに行く。

そして階段に向かおうとした時だ。

45 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga sage]:2011/09/07(水) 16:50:15.02 ID:woX0+9WN0


ガチャッ、と何か硬い物を踏んだ音が彼の足元からした。

足元には赤髪の男が仰向けに倒れていた。


(何だ…?)


よく見ると薄い黒のロングコートの隙間から、鉄にも見える質の物体が出ていた。

彼は僅かに考えてから思い出す。

何ヶ月か前に、ボスの『黒い死神』がよく話していた『今は無くした銃』の特徴に似ていた。


(『ショットガンa』だっけか? すげぇ似てるなこのショットガン)


そう思いながら手を伸ばした。


46 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga sage]:2011/09/07(水) 17:04:50.93 ID:woX0+9WN0



「━━━━━━ん? オイお前、何やってんだ早くしろ」


短機関銃の弾倉にリロードをし終えた黒い死神は、フィーアの近くに横たわる赤髪の上に立っていた。

こちらに背を向ける形で赤髪を眺めている様子は少し気持ち悪い。

フィーアに手を出す気か? とも考えた黒い死神は短機関銃を横に振り回しながら追い払おうとすると。


━━━━━バチャッ━━━━━


フィーアとは逆方向に、立ち止まっていた男が倒れた。

しかしその倒れた瞬間、奇妙な音に気づいたのはフィーアだった。

(………………)

今度こそ彼女の全身が、彼女の心が停止した。


47 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga sage]:2011/09/07(水) 17:10:02.64 ID:woX0+9WN0


「オイ、何やってんだァ?」

そろそろ苛ついてきた彼は大声で言った。

彼の恐ろしさを知る他の手下達はその声を聞いて、それぞれ女を背負いながら集まった。


「…………」


フィーアだけ、この場で最も意味が分からなかった。

何故、今液体のような音がしたのか。


何故、『悪臭』がするのか。


何故、『天井にグチャグチャになった男の頭部がべっとりと張りついているのに気づかないのか』。



48 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga sage]:2011/09/07(水) 17:15:41.48 ID:woX0+9WN0


何も知らない者達は笑いながら近づいて来た。

まるで甘い匂いに誘われた虫のように、滑稽に。


「……は?」


その時だ。

手下達ではなく、黒い死神がある事に気づいた。

それも、倒れた手下ではない、別の事に。


「…『アイツ』の死体はどこだ」


手下達はその言葉と同時に固まる。

こちらは気づいたのだ、仲間の体に頭部が無い事に、床に広がる血溜まりを。

49 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga sage]:2011/09/07(水) 17:28:56.76 ID:woX0+9WN0


「………すまないが、いいか」


男達の背後から、冷たい声が響いた。

実際は離れた位置から仲間の襲撃による爆発音も聞こえてる筈だが、その場にいる者達は聞こえてなかった。

金縛り。

その中、黒い死神は首を回した。


「━━━━━ッッ!!!??」

「 ? ……どうかしたか」


立っていた。

赤髪の男が、自分の手で撃ち殺した筈の男が、生きていた。


しかしそれだけではない。


50 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga ]:2011/09/07(水) 18:07:36.13 ID:woX0+9WN0


「………こ、」


笑っていた。

静かに、声も漏らさず、鮮血を浴びた顔には冷たい微笑みがあった。

黒い死神を『名乗る』男は怒号を上げた。

この男を殺せと、血と死をもって自分に償いをさせろと。


「コイツを殺せぇッッ!!! テメぇらァッ!!!!!」


「………ふ」

笑う。


━━━━━ガァンッガガガァンッッ!!!!


5人の手下達の50口径ハンドガンが一斉に轟く。


51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/07(水) 22:47:17.02 ID:M+e6d113o
シェゾかと思って開いたら違ったでござる

先生…続きが読みたいです…
52 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/08(木) 14:33:55.59 ID:tjWvc5mJ0


━━━━━銃声が轟いている数秒間、この場にいたある男は思い出していた。


数年前、男は小さな村でチンピラをしていた。

チンピラとは言っても殺人や強姦強盗を繰り返すただの下種であったが。


男はある日に。

1人の旅人が男の仲間に絡まれているのを見た。

その様子に周りの村人は気の毒だと思いながら、無視していた。

そんな時だ、ある事故が起きた。


仲間が威嚇か脅迫のつもりで撃った銃弾が、たまたま1人の村娘を殺したのだ。


53 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/08(木) 14:41:24.36 ID:tjWvc5mJ0


男は笑っていた。

きっと今のを見て村の連中にも旅人にも良い見せしめになったはず、と思ったからだ。

直後に起きる事までは。


旅人は突然、死んだ村娘ではなく、娘の母親に近づいたから。

少なくとも3人の仲間に拳銃を向けられているのに、だ。


旅人は何かポツリと、母親に言った。

そして母親はその旅人にこう返したのだ。


『この娘を殺した人達なんて死ねば良いのよ』……と。


余りに悲痛な叫びに村全体が僅かに止まったが、男はそれ以上に不気味な声を聞いた。


『 ” 死 ” を与えれば満足か』


54 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/08(木) 14:48:12.11 ID:tjWvc5mJ0


そして一瞬の後、男は気絶する。

凄まじいスピードでその場にいた仲間や母親ごと、旅人は殺した。



━━━━━目が覚めた時には、男の体の上には蛆の沸いた死体が乗っていた。



辺りは火炎と血肉に囲まれ、死臭が溢れかえって。


この時、男は見たのだ。

火炎の中に佇む男を、『血肉を浴びて黒髪にも見える男』を。


赤髪の旅人。

村1つ皆殺しにされたこの日から、ある伝説が生まれた。

55 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/08(木) 14:59:22.17 ID:tjWvc5mJ0



━━━━━『黒い死神』。



「………ッ!!?」


ハッと我に帰った男は、銃声が止んだ事に気づいた。

しかし男は恐怖する。

目の前に立っていたのだ、かつてその超人的な力を見せつけ、男を半殺しにした男。


「……く、『黒い死神』…!!」


短機関銃を男は構えた。

目の前で悠然と立つ、大口径の自動拳銃を持った5人を瞬殺した男に。


56 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/08(木) 15:12:04.60 ID:tjWvc5mJ0


「………」

「…へへ、丁度良いぜ…昔のリベンジを……ッ!!」


男は脂汗を拭いもせず、足についているホルダーケースを開けた。


「…あの時の俺とは違うって事を……!!」

素早く小さな部品を組み立て、液体の入った小さな瓶を『それ』に差し込む。

注射器だ。


「見せてやるぜぇ━━━━ッッ!!!!」


ズンッ と男は注射器を首元に突き刺した。


57 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/08(木) 15:31:56.08 ID:tjWvc5mJ0


「………『ナース』、といった所か…ドラッグを精製するとはなかなかだ」


ミシッ、メキッと音を立てながら、男の体が形を変える。

身長、体重、骨格、脳の持つ力、全身のありとあらゆる全ての機能が上昇した。


(……なん…なの?…)


近くで放心して混乱していたフィーアが口の中で言った。

2mはある大男になった男は、その膨れ上がった筋肉で短機関銃を両脇に挟む。

「ひゃひゃひゃひゃひゃぁああああああああああああああ!!! 死ねぇぇえ!!!!」

「━━━━━━ッ」

両者が一瞬で動いた。


58 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/08(木) 15:42:47.44 ID:tjWvc5mJ0


━━━━ガガガガァッ!!!


大口径の拳銃と同じ轟音が波のように押し寄せる。

その空気を切り裂き、叩き伏せる音色から赤髪の男は改造された特殊弾だと推測する。

膨れ上がった筋肉で抑えつけるからこそ出来る、『機銃』レベルの銃撃だった。

「………」

小さくステップ。


バギンッ!! と赤髪の手に着けられたグローブが激しく握り締められる。


━━━━━ゴキュィンッッ!!!━━━━━


赤髪の男はその握り締めた拳で裏拳気味に短機関銃の特殊弾を弾き返した。


59 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/08(木) 15:55:25.71 ID:tjWvc5mJ0


「馬鹿な…!! 『小型戦闘単車』ぐらいなら蜂の巣に出来る特殊弾だぞ!!?」

「……どうした」


続く特殊弾の雨を赤髪は凄まじいステップで回避する。

そして、赤髪の左手が初めてコートの中に伸びた。


ジャラッ、という金属のぶつかる音が特殊弾を撃つ轟音の波の中から聴こえる。

(まさか……!!!)

男は即座に短機関銃を捨て、15mある先にある仲間が止めたバイクへ走った。


ここまで、たったの数秒。


(クソックソッ…!!! 勝てねェ!! 『ドラッグ』の副作用で体が痛くなって来た状態で勝てる訳ねェッッ!!!)


余りにも強すぎる相手に、男はただ恐怖しながらバイクを掴んだ。


60 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/08(木) 16:06:56.90 ID:tjWvc5mJ0


━━━━━━チャカッ


漆黒に彩られた大型の二連ショットガンが赤髪のコートから現れた。

赤髪は静かに、しかし瞬時に爆発的速度で銃口を向ける。


「オオオオオオオォォォォッッッ!!!!!」


メギャンッ!! と装甲タイルすら貫き、男の手がバイクを握り締めた。

そして全身の筋肉が雄叫びを上げ、


━━━━━砲弾のような勢いでバイクを赤髪に向けて投げられた。


「………ふ」

それを見て笑いながら赤髪は問う。


61 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/08(木) 16:18:20.41 ID:tjWvc5mJ0


「 死ぬのは怖いだろう? ブランデ・デリファ 」


「━━━!?━━━」


刹那、これだけの距離があるにも拘わらずブランデと呼ばれた男には聴こえた。

まるで死を与える為だけに生まれた天使が囁いたように、冷たく寒い声が。


赤髪の指が、引き金を引いた。

しかしそのショットガンは凄まじい反動はあっても、『無音』で射出した。

空気の塊と共に撃ち出された特殊拡散弾は巨大なバイクを吹き飛ばし、更にブランデを捉える。



━━━━━━ドシャァアアアアッ━━━━━━



吹き飛ぶは罪人の首。

降らせるは『黒き赤』。


最後に残るは━━━━━━



━━━━━━『死神』。




62 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/08(木) 16:31:14.33 ID:tjWvc5mJ0


ゴシャァッ!! とバイクとブランデが倒れる音が鳴る。

「………」

古い友人の最後を見届けた赤髪はショットガンをコートの中にしまい込む。


離れた先からはまだ爆発音や黒い煙が上がっていた。

にも拘わらず驚く程静かな宿の床で、足を抑えて怯える少女が1人震えていた。


「……また会えたな」

「…っ」

肩に入る力が強まる。


ムリも無い話だ、彼女は常人なら発狂するような虐殺を見てしまったのだから。


「………」

赤髪は僅かに目を細めた。


63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/09/08(木) 23:01:36.47 ID:7eKFDmQGo
またお気に入りSSが増えてしまった・・・
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/10(土) 01:00:48.97 ID:2Kl61aTu0
>>63奇遇だな俺もだ
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/09/10(土) 11:54:40.49 ID:2aoY3duqo
>>63-64
なんだよお前らもか
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2011/09/10(土) 18:52:23.73 ID:SOpMlQLTo
>>1ーっ
早くきてくれーっ
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/10(土) 23:26:52.61 ID:azX1vsiIO
>>63-65
俺ガイル
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/09/11(日) 01:49:26.00 ID:Ub2m5Jgyo
>>63-65,67
俺もなんだな、これが
69 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [sage]:2011/09/11(日) 02:50:38.98 ID:6vO9JuHb0
呼吸によって体内の血液を操り、気分を落ち着かせる……これが『深呼吸』だ

次の投下は月曜日の午後だよ、諸君
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/11(日) 15:39:14.73 ID:6qo3DPRHo
忌々しき日が待ち望む日となるとは…
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/12(月) 00:10:16.41 ID:iGabmm3IO
>>70
俺ガイル
72 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/12(月) 17:01:49.77 ID:u4oFJqwd0


━━━━━ザリッ

赤髪が近づこうと一歩踏み出す。

先程まであった不気味な気配は無いが、その一歩にフィーアが体を震えさせた。


「嫌、来ないで……!! なんで私ばかり…!」

撃ち抜かれた痛みでまともに動かせない足を使って、全力で下がる。

そんな彼女から僅かに漏れる言葉はあまりにも悲痛だった。


「もうやだ、もうやだ……お父さんとお母さんの所に帰りたい、帰してよ……!!」

「…………」


目の前にいる赤髪の男に言ってはいない。

ただ、何かに祈るように声を漏らす。

73 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/12(月) 17:13:34.83 ID:u4oFJqwd0


「……お前の村は無い、帰す事は出来ない」

「っ…」

フィーアの呼吸が止まりそうになる。

赤髪の男はただ、単調にゆったりとしたペースでフィーアに言い聞かせた。

それでも彼女にとっては残酷過ぎる現実なのだ。


「 だが 」

「……」

フィーアが顔を上げる。


「お前をここから助け出す事は出来る…俺ならこの街から、その『現実』から逃がせる」


赤髪の男は更に近づき、その血に染まった手をフィーアに近づける。

そして言った。
74 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/12(月) 17:15:05.21 ID:u4oFJqwd0









「……俺はお前が欲しい」










75 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/12(月) 17:24:29.77 ID:u4oFJqwd0


「え?」


涙で濡れた瞳を、赤髪の顔に向ける。

その藍色の瞳には偽りは無い、無いと思いたい。


彼女は掠れた声で問いかける。

「……助けてくれるんですか…?」

「そうだ」

確認するように、すがりつくように。

「もう、怖い事されないで済むんですか…?」


それらの問いに赤髪の男は静かに応えていく。

彼女が望む答えのみを。


「そうだ…お前は何も心配しなくて良い、ただ俺と来るだけで良い」

76 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/12(月) 17:32:39.86 ID:u4oFJqwd0


「…………」


頭の中が混乱したままの彼女はそこで思い出す。

あの二日前に感じた静かな温かさを、あの時感じた男の感覚を。

もう迷う事は無い。

逃げ道が出来たのだから。


「……私を、一緒に連れて行って下さい」


彼女は進んだ、絶望と苦痛しかない小さな世界を抜け出し、血の温かさに包まれた逃げ道を歩み出した。

赤髪の男は何も言わない。

静かに、一瞬と言える速さで、彼女を抱きかかえて歩き出す。


77 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/12(月) 17:46:52.30 ID:u4oFJqwd0



━━━数日後、売春宿で有名なとある街に来た旅の傭兵『ソルジャー』は聞く。


数日前、『黒い死神』を名乗る『ハンター団』が街を襲撃した。

目的は不明だったが、女と金、そして武器を求めた狂気の殺戮に街の住人は恐怖に震えていた。


しかしその時だ、突如『少女を抱えた男』がその戦車隊の前に現れた。


簡易戦車団を持つ自警団を全滅させた熟練のハンターを相手に、男は一切物怖じせず歩いた。

それに怒りを覚えたハンター達は容赦なく機銃を掃射した。

だが、直後に爆音と共に二台の戦車は吹き飛び、周りにいたバイク乗りのハンター達の首が千切れ飛んだ。



街の人間は言う、『あれこそが本物の化け物』だと。



それだけ聞いた旅の傭兵は宿をとり、街を後にする。

『死神』は少女と共に荒野を今もさまよい歩いている筈だ。

78 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/12(月) 17:50:44.90 ID:u4oFJqwd0










━━━━━━Prologue……end━━━━━━









79 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/12(月) 17:57:35.19 ID:u4oFJqwd0


長々とお付き合いありがとうございました

プロローグ編『始まりの街』はこれで完結です。

当スレは私の他のSSで溜めた邪悪と憎悪を固められて出来た物語です、残虐な描写は多数ある可能性があります


世界観としては、『METALMAX3』×『機動戦士ガンダム』÷『牙の旅商人』−それら原作の世界=この物語
と思って下さい

一応R20くらいと警告しますが、あくまで一応なので大した事ないかも
80 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/12(月) 18:09:18.64 ID:u4oFJqwd0


━━━━━━暑い。


渇いた喉が ひゅー、ひゅー と鳴り、額から汗が零れ落ちる。

栗毛色の長髪の少女はその長い髪を頬に張り付かせながら言う。


「……クロさんは暑くないんですか…?」


実は彼女は歩いていない、太陽光に晒されないように抱きかかえられていた。

そんな彼女を抱いている藍色の瞳の男は、まるで疲労していない様子で

「余り喋るな、体内の水分の消費が早くなる」

一定のペースで歩き続けて 3日 。

彼は全く平気だった。


81 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/12(月) 18:19:59.24 ID:u4oFJqwd0


(……クロさん、汗すら出して無い……)


その様子を見て栗毛色の少女『フィーア』は安心する。

完全に彼女を抱いたまま止まらずに歩き続ける彼が、いつ倒れるか心配だったからだ。

フィーアは浅い呼吸のままで静かに言った。


「やっぱり、あの街でバイクにでも乗ってれば」

「今は必要ない、着いた」

フィーアの言葉を遮ったクロだったが、フィーアはその言葉に体を跳ね上がらせる。

数百m先に小さなキャンプテントがあった。


近くにバイクが数台ある事から、人間は間違いなくいるだろう。

「やった! あそこで休めるね?」

クロは深々と被ったフードの中で小さく「よかったな」とだけ言うと、再び歩き出した。


82 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/12(月) 18:29:52.31 ID:u4oFJqwd0


近くに寄ってみると、キャンプテントは意外に大きかった。

恐らく『サバイバルテント』をベースに、後から補強したり外から装甲タイルまで貼ったのだろうか。

頑丈そうな上に、大の大人が10人は入れそうだった。

フィーアはクロの腕から降ろされると、テントに近寄る。


「すいませんっ、誰かいますか?」

ぱさっ と入り口を開ける。


中には誰もいなかったが、かなり散らかっていた。

携帯食料の缶や、積まれていたらしき大きな箱が倒れていた。

「……誰もいないのかな…」


83 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/12(月) 18:36:35.19 ID:u4oFJqwd0


「……靴の跡か、俺の後ろにいろフィーア」

その時、突然フードを脱いだクロが彼女の横から出て来た。

深紅の髪をフワリと揺らしながら、テントの中を見ていく。


「…?」


フィーアはクロの言葉を聞いて、テントの中をよく見る。

綺麗な白地のテントの下が靴の渇いた砂で汚されていた。

彼女は首を傾げる。


(……せっかくのテントなのに、お靴脱がないのかな)


そう思いながらクロの後をついて行った時だ。


84 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/12(月) 18:40:15.68 ID:u4oFJqwd0



━━━━━パンッ!!


渇いた破裂音。

銃声が外で鳴ったのだ。

「今の、何……!」

フィーアがクロの背中に隠れる。


「………」

テント奥の入り口を開け、外に出る。


85 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/12(月) 18:54:21.57 ID:u4oFJqwd0


クロ達が入ってきた方向とは逆側には、何やら巨大な不透明のガラスが寝かせてあり、

そこからコードが箱に繋がれていた。

だがそこよりも、数十m前方をフィーアは見た。


「女の人が襲われてる…!!」


黒い短髪の女が、拳銃を振り回していた。

しかしその周りには4人の男達が妙な物で女を追い詰めている。

「クロさん、何とかしてよ…!」

フィーアは彼の袖を掴んで頼む。


「……関係ないな、無闇に戦う必要ないだろう」


だが久しぶりに静かな冷たい声がかえってきた。

「…!?」

86 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/12(月) 19:03:40.66 ID:u4oFJqwd0


「何で、このままだとあの人何されるか…!」

「あの男達は女を殺す気はない、あったら背中のボウガンを使う」

視線を襲われている女に向けたまま、クロは淡々と言う。


「それをしないのは奴らはあの女を犯したいからだ、『携帯バリア』で追い詰めているのもそれだろうな」

そう話している間にも、女は腕を掴まれ、殴られ、注射らしき物を打たれている。

フィーアは何度も叫ぶが、クロは動かない。

ただ冷たい、寒気がするような静かな瞳を向けているだけだ。


「……ッ…………あ」


フィーアはそこで思いついた。

87 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/12(月) 19:15:01.30 ID:u4oFJqwd0



「あった……!」


テントの近くにあったバイクに、信号弾が装備されていたのを思い出したのだ。

フィーアは直ぐに外すと、テントの逆側へ戻る。


クロはただその様子を見ているだけだが、どこか気づいているようでもあった。

フィーアは撃った衝撃で脱臼しないか、と心配しながら信号弾を構えた。

本来は上空に向けて撃つ物だが、フィーアはそんな事では『威嚇』出来ないと考えた。

狙いを男達に向ける。


━━━━━━バキュゥッ!!━━━━━━


僅かに火花を散らした後、赤い色の信号弾が蛇のように発射した。

88 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/12(月) 19:26:01.09 ID:u4oFJqwd0


数秒後、男達の近くで信号弾は着弾した。

凄まじい赤い粉塵が吹き荒れ、男達は混乱していた。


「成功、かな…」

「………後悔はするなよ」

フィーアがクロの背後に隠れるのを見て、彼は冷たい声で言った。


そう、フィーアが狙っていたのは『挑発』だった。

信号弾で注意を逸らした上で、襲って来るであろう男達をクロに撃退して貰おうと考えたのだろう。

だが、と赤い髪を揺らしながらクロは呟く。


手加減しろ、とまで言わなかったフィーアに非があったから。


89 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/12(月) 19:41:35.50 ID:u4oFJqwd0


フィーアの企み通り、男達は近づいて来た。

女を残して来たのは逃げられないという確信があるのだろう、注射を打たれてから動いていないようだ。


最も背が高く、ガタイの良い男が来た。


━━━━━━バシュッ


そして一言も話さず背中のボウガンをつかみ取り、クロの頭目掛けて引き金を引かれた。

強力な電動式ボウガンは音速程ではない速度で射出された。

「………」


ビシィッ!! と空気の入ったビニールを叩いたような音が鳴った。

クロは軽く顔を逸らしながら、合金製の矢を掴んでいた。


90 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/12(月) 19:52:50.10 ID:u4oFJqwd0


「なっ……」

男が狼狽える。


「………ッ」


だがクロは狼狽える暇も与えなかった。

ザザッ と数歩で距離を縮めたクロは瞬時にボウガンを持つ腕を一蹴し、続く回蹴りで叩き伏せた。

バッ! と隣にいた男がクロの額にリボルバー式拳銃の銃口を突き刺すように突きつける。


「遅い」

━━━━━━ガァンッ!!


45口径特有の炸裂音と同時にマグナム弾が撃たれるが、銃弾はクロの皮膚を貫くことなく地面に突き刺さる。

「〜〜ッ!??」

トンッ、と驚く男の両肩にブーツが乗る。


91 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/12(月) 20:05:26.31 ID:u4oFJqwd0


足で首を挟み、クロはそのまま

━━━━━━グヂャッ

首の骨ごと呼吸器官を粉砕した。


「ひ、ヒィアアあ"あ"あ"あ"あ"!!!」


━━━━━━バシュシュッバシュンッッ!!!

恐怖に駆られた小柄な金髪の男が悲鳴と共にボウガンを乱射する。

瞬間、クロは凄まじい勢いで首を足で挟んだ状態でバク転し、男の死体で矢を防いだ。

「………」


その時、男に刺さった矢を素早く抜いた。


92 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/12(月) 20:11:42.38 ID:u4oFJqwd0


━━━━━ビシャッ!

「ぅぐ…!?」


噴き出た血が男の左目に直撃する。

男は僅かに後ろへ下がったが、それを遥かに上回る速度でクロは接近する。


「……」

だが刹那、クロは身を低くする。


━━━━━━ガァンッガァンッ!!


「ァ………?」

後方の褐色肌の男が撃ったマグナムが金髪の男を撃ち抜く。


93 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/12(月) 20:21:41.32 ID:u4oFJqwd0


「……聞こうか」


手元の矢を瞬時に投郷。

ドンッ!! という骨と肉を貫く鈍い音が響き、男が悲鳴をあげる。

同時に、先程蹴り倒した男が拳銃を構えた所で 『瞬時に無音で頭を吹き飛ばす』 。


悲鳴をあげる男の口へクロの大型二連ショットガンが突き刺さる。

「んぐゥッ!? ん、んうぅぅうううううううう!!!???」

失禁しながら男が叫ぶ。


だが目の前の『死神』は引き金を引き絞る。


「死ぬのは怖いか……?」


94 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/12(月) 20:39:29.53 ID:u4oFJqwd0





「………っ」

数十分しても、フィーアはまだ吐き気に悩まされていた。

隣ではクロが ふ と小さく笑っていたが、フィーアにしてみれば笑い事ではない。

「…放っておけばあの男達も死なずに済んだろう」

冷たく、クロは言う。


そんなクロはフィーアに言われて女の容態を見ていた。

顔は酷く紅潮し、性器から多量の分泌液が出ている事から媚薬かと思ったが、違った。

全身にあった小さな切り傷らしき物が消えてる事からして、『エナジー注射』という劇薬を投与されたのだ。


「………半日か」

女の体をあちこち見てから、呟く。


半日はこのままだろうとクロは考えた。


95 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/12(月) 20:41:40.75 ID:u4oFJqwd0
今日はここで中断
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/12(月) 21:11:26.20 ID:n42nxhrso
乙乙

クロと聞いて鎌を連想した
97 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/13(火) 19:29:35.30 ID:62l3dY/O0


(……何だか、辛そうだなぁこの人)


フィーアはテントの中心で寝ている黒髪の女の額に手を当てる。

掌にじわりと熱い汗がついた。

ただでさえ、晴れの荒野のテントの中は暑くて蒸し風呂のようになっている。

そんな中で更に体を熱くするのは相当苦痛だろう。


フィーアはゆっくり手を離す。


「何か私に出来ないかな」

クロは今フィーアと女の為に外で調理している。

彼曰わく、「熱を通さないと安心して食べさせられない」らしい。

そこでフィーアはせめて女性の為に何か出来ないかと、テントの中を見歩く。


98 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/13(火) 19:40:00.60 ID:62l3dY/O0


……五分見渡したが、熱冷ましに使えそうな物は1つも無かった。


それだけではない、フィーアはとある物を見つけたのだ。

「……『機銃』?」


初め来た時に崩れていた箱の山。

その内の1つをフィーアは開けてみたのだが、中には鈍く黒光りする鉄で出来た銃があった。

戦車に装備されているような大型ではなかったが、それなりに大きい。


(なんでこんなのがあるのかな…)

他の箱を開けて見る。


すると別の箱からは ゴチャゴチャッ という音と共に何かの『部品』が入っていた。


99 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/13(火) 19:53:46.20 ID:62l3dY/O0


(………)

何が何だか分からない、といった顔をするフィーア。

すると肩をゴツゴツしたグローブを着けた手が叩いた。


「食事だ、水も飲むといい」

「う、うん」


缶詰めが材料だからか味気ない料理だったが、4日前までの食事に比べればひどく美味しいとフィーアは思う。

「……♪」

クロは水さえ取れば良いらしいので、食事はフィーア1人だけでする事になるが。

彼女は思う、隣に彼がいれば全て許せると。


100 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/13(火) 20:07:15.32 ID:62l3dY/O0




「……ぅ…えっ!?」


黒髪の女は軽く頭を振ってから起き上がった。

辺りは暗く、既に半日は寝ていたのが分かった。

彼女はテントの端の下に入れて置いた予備の拳銃を取り出す。


(……いる)


テントの入り口から焚き火らしき物の灯りがユラユラと入って来ていた。

マガジンを確認し、セーフティーを外す。

(よくも……ッ!!)

とある事情によって心当たりがある事から、彼女は昼間の男達に凄まじい殺意が湧いていた。

彼女は銃口をテントの外に向けたまま、勢いよく入り口を開けた。

101 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/13(火) 20:13:07.94 ID:62l3dY/O0


━━━━━━焚き火の横では、疲れ果てたように眠る女が寝ていた。


「……女の子…」

静かに銃を降ろす。


見渡すと確かに『奴ら』のバイクはある、しかし男達の影も気配も無い。

ならこの女は奴らの仲間では、とそこまで考えた所で気づく。

手の中にあった拳銃が消えた。


「……っ?」


裸の姿である彼女の体に拳銃を無意識のうちにしまえる場所は無い。

にも拘わらず、近くに落ちてもいないのはどういうことだろうと彼女は不気味に感じた。


102 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/13(火) 20:22:22.48 ID:62l3dY/O0


その時だった。

フワッと、瞬時に肩に毛布がかかると同時に焚き火に薪が静かに正確に投げ込まれた。

「ひっ…!!」

息が変な音を出して吐かれた。

バッ! と彼女は上を見る。


「……静かにしろ、フィーアが目を覚ます」


4mの高さがあるテントの上に、赤髪の男が座っていた。

焚き火の灯りによってゴールドに見える男の瞳は静かに黒髪の女を見る。

そして、赤髪の男の手が後ろへ伸ばされた。


「フィーアが用意した物だ…食べるといい」

「ぁ……はい」

妙な調子のせいか思わず女は敬語になりながら、目の前に出された紙皿を受け取った。

103 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/13(火) 20:38:58.05 ID:62l3dY/O0


「…アンタ達が私を助けてくれたの?」

数分後、フィーアの料理を食べ尽くした彼女は服を着ながら聞いた。

テントの上で周りを見渡している赤髪の男は小さく「不本意だがな」と呟いた。

女はシャツと下着になると一度テントから顔を出した。


「フィーア…ちゃんよね、あの娘は、ならアンタの名前は?」

「…………」


静かな荒野の夜風だけが吹く。


「…もしかして、名乗りたくないタイプ? ならアタシは『シルバ』、はいアンタは?」

多少無理やりに黒髪の女、シルバは聞いてくる。

面倒な人間だと赤髪の男は瞳で呟くが、少し間を開けてから口を開いた。


「……フィーアは俺を『クロ』と呼ぶな」

「くろ…?」


104 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/13(火) 20:39:39.49 ID:62l3dY/O0
中断
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/13(火) 22:30:46.09 ID:31ImDvZIO
wktk
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岐阜県) [sage]:2011/09/14(水) 04:23:23.55 ID:FnKf051Ro
これは期待
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岐阜県) [sage]:2011/09/14(水) 04:24:06.60 ID:FnKf051Ro
これは期待
108 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga ]:2011/09/14(水) 19:35:17.70 ID:bDvFFMFl0


シルバは一度首を傾げた後、背後で眠るフィーアに視線を向けた。

興味が湧いてきた、という様子で。


「……アンタ達って、やっぱ恋人同士なの?」

フィーアに視線を固定したままクロに言った。


テントの上で遠くを見るクロは考える。

考える必要は無い、とは彼自身思ってはいたがとある事情で彼はどう答えれば良いかわからない。

だが僅かに間を置いた後、彼は言った。

「違う」

少し冷たい声で。


それを聞いたシルバは、声のせいか夜風のせいか、一度体を震わせてからテントに着替えに戻った。


109 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga ]:2011/09/14(水) 19:44:32.20 ID:bDvFFMFl0


━━━━━━静かに炎が揺らめく。


数分すると、テントの中からシルバが出て来た。

その手には2つコップがある。

彼女は片方のコップを突き出しながらクロに言った。


「とりあえず助けてくれたお礼もしたいし、下りて来てよ」

「………」


初めてクロがまともに反応する。

その様子を見たシルバは

「悪いけどHは無理だからね、アタシ婚約者いるしさ」


クロが僅かに眉を潜める。


110 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga ]:2011/09/14(水) 19:54:33.15 ID:bDvFFMFl0


「…何を期待されたと思ったかは知らないが、お礼はして貰う」

そう言って、クロが片手でテントの上から飛び降りて来る。

すると彼は突然黒いロングコートを脱ぎだした。


中から微かに カチャッ という音が鳴っているのが聴こえる。


「これを全て補給して欲しい、2日以内にな」

コートをテントの中に広げると、大型のショットガンや銃口の溶けた武器や刃が欠けたナイフが姿を現した。

シルバはそれを見て驚く。


「……驚いたわ、アンタ『ハンター』なんだ…見たこと無い名称の武器ばっか…」

だが彼女が驚いたのはそこでは無かった。

それら武器の『状態』にだ。


「…どれだけの短時間で酷使したら数十年分のダメージを武器が受けるわけ?」


111 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga ]:2011/09/14(水) 20:06:52.60 ID:bDvFFMFl0


「……それだけ分かるなら、頼んで問題は無いな」

「ちょ、待って待って! こんな使い物になるかも分からないのを修理に出されても困るよ」


本当に困っている、という顔でクロを引き止める。

その様子に不思議そうな声で

「『メカニック』なんだろう、2日以内なら無理ではない筈だ」


シルバは肩を軽く上げながらそれに答える。

「それでもアタシは無料でやるんだし、少しは頼んでも…」

目が泳いでいた。

恐らく彼女はそちらの頼みを聞いて貰えるまで受け取る気は無いらしい。

クロは無機質な冷たさを交えながら「何を望みだ」と聞いた。


112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/09/14(水) 20:27:38.59 ID:fcHLr4EIo
期待期待期待期待期待期待期待期待期待期待期待期待期待期待期待ィィィィィ!!!
113 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga ]:2011/09/14(水) 20:28:41.63 ID:bDvFFMFl0


「アンタ、ハンターだから依頼は受けるよね? つまり報酬付きで頼みたいの」

「………」


懸賞金がついたハンターとは言えないのがわかったクロは頷くしかない。

それに今の彼は『跡を残さない』ように武器を修理する必要があった。

シルバの目が輝く。


「良かった、アンタに会えて良かったよ……頼みたい事なんだけどね」

広げられたコートの中にある一番損傷の無い、大型二連ショットガンを取り出す。

すると素人から見れば目にも止まらない速度で腰のバックパックから細かい工具を取り出し、手入れしていく。


かかったのは2秒、クリーナーと電動自動装填の弾倉の補強に対衝撃オイルを仕込んだ。

その速さは間違いなくプロと呼べる専門職の腕だった。

シルバはショットガンをクロに突き出しながら言った。


「ここから直ぐ近くにある村、『エクト』を一週間守って欲しいの」

「………」


クロは感じる。

この女にも『死』の気配がすると。


114 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga ]:2011/09/14(水) 20:38:14.02 ID:bDvFFMFl0


「…報酬は?」

ショットガンを受け取りながら聞く。

軽く彼はショットガンの周りを見たが、性能は間違いなく回復しているのが分かった。


「アンタ達、徒歩で来たんでしょ? それもかなりの距離をね」

シルバはテントの入り口から指を差しながら続ける。

「あの娘の髪に付着してる砂は東南地方の赤砂、ここより歩きの速度で丸々4日くらいした所かな」

「その砂と、アンタのブーツ……頑丈な素材みたいだけど異常に磨り減った跡がある」


彼女はクロの前に来ると、ポケットから チャラッ と小さな鍵を出した。


「報酬は好きなの1つと、アタシの『白兵戦専用単車』を一台でどう?」


115 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga ]:2011/09/14(水) 20:40:15.96 ID:bDvFFMFl0
今日はここで中断
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/14(水) 21:32:44.09 ID:9sGd6J0To
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/14(水) 22:40:54.87 ID:8sEbc/3No
さらに面白くなってきそうだ
118 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/15(木) 17:31:08.47 ID:QTHkR7RO0
これより即興の限界に駄目作者が挑む
119 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/15(木) 17:48:26.42 ID:QTHkR7RO0


━━━━━━正直少し怒っていた。


ようやく近くに町があるのが分かった上に、タダで泊めてくれる人も出来た。

にも拘わらず、彼女が朝起きた時には勝手にクロは黒髪の女性…シルバから依頼を受けていたのだ。


「………ムス…っ」


そう、栗毛色の髪をまた汗で額に張りつかせながらイライラしてる少女、フィーアは怒っていた。

元々の立場上フィーアはクロに文句は言えないが、だからといってバイクも使わずまた灼熱の中歩かされるのは我慢の限界だった。

だが本当に怒っているのがそこではないのも事実。


彼女が寝ている一夜の間にクロがシルバと関係を持っている事に腹を立てていたのだ。


120 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/15(木) 18:06:50.52 ID:QTHkR7RO0


「……行くぞフィーア」

そんな事を考えている時に、クロが戻って来る。


ここは最近多発している『襲撃事件』により、村の長達が迅速に村の防壁と門番システムを作り上げたらしい。

今クロが手続きを取っていたのも、村を出入りする期間などを教え、特殊なカードキーを作る為だ。

巨大な鉄と木で出来た門の端にある小さな扉にクロとフィーアは向かう。


「…中にお水あるかな……」

軽く呟く。

その嫌味とも取れる呟きが聞こえたのか、クロは立ち止まった。


「中に入ったら水を飲もう、今は我慢してくれ」

「……うん」


いつの間にかフィーアの手に水筒が握られていた。

121 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/15(木) 18:25:50.09 ID:QTHkR7RO0


━━━━━ゴゴォ・・・ン


カードキーを扉の前に翳した瞬間、扉が自動的に開いた。

(どうやって動いてるのかな…?)

開いた扉を軽く押してみたりするが反応は無い。

その時、フィーアは驚いた。


「……大きい建物が沢山ある」

「ここは『大破壊前』という旧時代の技術を色濃く残しているらしいからな」


クロがそう冷たい声でフィーアに言った。

さっさと中に入ってしまう彼を追いかけ、フィーアも扉をくぐり、村に入る。

(……?)


僅かな違和感を残して。


122 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/15(木) 19:18:54.37 ID:QTHkR7RO0


「……カードキーはお前が持っていろ」

「うん、クロだと落としそうだもんね」


水筒の水を美味しそうに飲みながら、フィーアは手の平に収まる位のカードキーを受け取った。

こんな板が鍵の役目をするなんて不思議だ、といった顔で。

そこで、彼女が気づく。

「ごめん、クロの分も残しとく!」

バッ と水筒をクロに突きつける。


「………」


だがクロは受け取らず、「飲んでいろ」と静かに言った。

「?」

彼女はクロの視線の先を辿る。


123 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/15(木) 19:32:31.19 ID:QTHkR7RO0


「いやぁー、よくぞここまで徒歩でいらっしゃいましたねぇハンター殿!」


太い、猫なで声が響いた。

そこには背の高い、白髪の中年の男がいた。

背後からはボディーガードらしき屈強な男が2人歩いてきている。

中年の男は更に近づく。


「ようこそ『技術の村、エクト』に、私は村長の『ホアキン』と申します♪」

手をクロに差し出す。

だがクロは握手を無視して、

「…ハンターオフィスと、ショップはどこにある? それから宿も取りたい」


「………えぇ、すみません…ハンターオフィスですね」

村長ホアキンはそう言った後、後ろの男達に指で合図して地図を持って来させる。


124 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/15(木) 19:44:34.30 ID:QTHkR7RO0


「……説明は必要ない、地図だけ渡して貰おう」

村長の持つ地図を クシャッ と奪い取る。


(………クロ?)

少しだけフィーアが心配そうに横から彼の顔を見た。

藍色の瞳が揺らめいていた。


そう、『揺らめいていた』のだ。


(……何かを、見てる…!?)

フィーアはなるべく周囲に分からないように、クロの背後にくっついた。

探そうとしたのだ、一体何をクロが見ているのかを。


125 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/15(木) 20:13:32.25 ID:QTHkR7RO0


「では、『ブラック・ランシーニ』様……どうぞお寛ぎを…♪」


ある程度話し、気が済んだのかホアキンはそのまま去ろうとする。

が、直前で「ああ…そうそう」とこちらをチラリと見た。

その一瞬の視線は、フィーアを捉えて。


「……最近は『女殺人鬼』が出るそうなので…お気をつけ下さい」


ザリッ と、そう言い残してホアキンはボディーガード達を連れて村の中央へと去って行った。


「……変な人だったね」

「………行くぞ、フィーアは自由にすればいい」


軽くフィーアの目の前で呟いてから、クロは彼女の手を優しく引く。

「そうだね……初めて『見回れる村』だもん!」


126 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/15(木) 20:26:09.53 ID:QTHkR7RO0


━━━━━彼女にとっては初めて見れる、初めての村。


フィーアのいた村は元々『機械魔』も『余所者』も来れないような辺境の地にあった。

暮らしは村の人間それぞれが協力し、頑張った分だけ楽になり、とても良い村だった。


だからこそ彼女にとっては、緑の無い『外』に驚いたし、当たり前のように血が流れてしまう『現実』が怖かった。


「クロ、これは何?」

フィーアが持ち上げると、チャラチャラと音色の良い音が鳴る。

それはシンプルな細かい銀の鎖に、ハートの形をした青い石が繋がれていた。


「…ネックレス、女が着飾る時によく着ける物だな」

「ネックレス? 飾り物なんだ…」


指先でチャラチャラと銀の鎖を鳴らす。

127 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/15(木) 20:37:00.39 ID:QTHkR7RO0


今の彼女は、『現実』の外にいる。

クロ……本名の無い、『黒い死神』が連れ出したからだ。

フィーアは彼が何を考え、何の為に自分を選んだのかは当然知らない。

だがフィーアは心のどこかで言っていた、「別に関係ない」と。


この『夢』が楽しければ、それでいいのだから。



「……買おう」

「え、買ってくれるの?」


フィーアの目が嬉しそうに丸くなる。

クロは静かに頷き、コートの中から何枚か金色のメダルを出してカウンターに置いた。

店主の顔が青くなった。


「?」

「…気にするな、釣りが無いんだろう」

彼はフィーアにネックレスを渡しながら そっ と店主に言う。


「釣りは必要ない、邪魔になるからな」


128 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/15(木) 21:04:26.44 ID:QTHkR7RO0





━━━━━━クロ達が歩く場所から83m。





とある命令で配置された内の1人の男は終始鳥肌が立ったままだった。


(……なんだ、……コイツは…!!)


彼を含めて他の配置された17人全員は既に死んでいた。

雑に投げ捨てられた無線機からは ピチャッ……ピチャッ…… という音が鳴っているだけ。

そして生き残った彼は、『命令された通り』狙撃していた。


129 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/15(木) 21:27:16.95 ID:QTHkR7RO0


彼が持つ自動狙撃ライフルは、エクトが開発した武器だった。

目標を捉え、『自動固定照準』システムを起動すれば『タンク級ユニット』の精密射撃が行える代物だ。

男は今までこのライフルで村の脅威に鳴り得る者達を葬って来た、男の仲間達もだ。


ガチッガチッ と引き金を何度も引き、 バキュッ と消音された銃声が何度も鳴る。

そして銃弾はあらゆる隙間を縫い、『栗毛色の髪の少女』へと突き刺さる。


筈なのに、間違いなく死ぬ筈なのに。

たとえ間に赤髪の男が入っても超威力のライフル弾が貫通する筈なのに。



━━━━━━赤髪の男は瞬時に少女の盾になり、ライフル弾を浴びているのに。

━━━━━━死なないのだ。



130 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/15(木) 21:40:42.15 ID:QTHkR7RO0


ライフルを握る手が、指先が震える。


「死ね…ッ、死ねッ……死ねぇぇッッッ!!!!」

引き金を絞る。


━━━━━━バキュッ━━━━━━



「……フィーア、あっちにあるのがハンターオフィスだ」

クロが指を差す。

「行って見ようよ、クロも用事あるんでしょ?」

その先にある酒場のような扉を見て、フィーアがクロの手を引っ張る。


だがその瞬間にクロはフィーアの手を離し、左肩をフィーアの後頭部に重ねた。



━━━━━━トンッ



誰も気づかないような『被弾』の音が小さく鳴り、クロの体が僅かに揺れた。


131 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/15(木) 21:56:05.06 ID:QTHkR7RO0



「………」

スコープ越しに、赤髪の男と目が合う。

どうしようもなく冷たい、静かで不気味な気配が狙撃手を襲う。


(何なんだ……何なんだよコイツはぁぁあ!!!??)


何度撃っても死なない化け物に、狙撃手はまだ撃ち続ける。

しかし彼の選択は既に間違っていた。



━━━スッ と赤髪の男がショットガンを取り出し、構える。

仲間達を全員恐怖に陥れその全員を死へと堕とした銃口が、スコープ越しにこちらを向いている。


132 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/15(木) 22:15:18.72 ID:QTHkR7RO0


(い、嫌だ……)


彼は尚も引き金を絞り、ライフル弾をクロに浴びせる。

(死にたくない、死にたくない……っ)

生きる為に、赤髪の化け物を殺さなければ、殺せば生き残れる。


『それこそが間違い』。


戦いを、銃口を、殺意を向けた時点で、彼等は死ぬ事が決定していた。


━━━クロの引き金が絞られ、閃光が走る。


空気の振動を散弾と共に射出する事で通常の数百倍の破壊力を持った一撃が狙撃手に突き刺さる。

脳漿と血肉が辺りに散り、ライフルも砕かれる。



死神を殺したくば、それ以上の『死』を運んでくるしかない。



133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山陰地方) [sage]:2011/09/15(木) 22:17:11.07 ID:3bnfulN8o
ヴィんセントを思い出すなあ
134 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/15(木) 22:18:13.82 ID:QTHkR7RO0
今日はこれで中断
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/09/16(金) 01:20:50.08 ID:KmKkqXGWo


>>133
俺も頭の中ではヴィンセントが浮かんでる
136 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/20(火) 10:14:28.35 ID:KVM6jhUv0


「? どうかしたクロ」

振り返る。


ほんの一瞬で起きた虐殺をフィーアは知らない。

クロは僅かに赤髪を揺らしながら、「……いや、五月蝿い虫を潰していただけだ」と応えた。

フィーアは首を傾げながらも、ハンターオフィスと呼ばれていた建物へと入っていく。


━━━━━━ガチャッ


「………」

視線。


フィーアの姿を、異形の生物でも見るような視線が固められた。

(あ、あれ…なんで……?)

その場違いな空気に思わずフィーアが下がる。


137 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/20(火) 10:33:11.92 ID:KVM6jhUv0


━━━━━━『ハンター』とは、全ての職業にも共通する『役割』だ。


あらゆる『機械』を学び、それを改造、改良改悪発明する『メカニック』。

あらゆる『白兵戦』を駆け、『機械魔』と呼ばれるモンスター達を蹂躙する『ソルジャー』。

あらゆる『医学』を武器に、強力なサポートと治療をする『ナース』。


そしていつの世にも存在した正体不明の『アーチスト』。

これら全てに共通し、そして全ての職業が背負う役目こそが『ハンター』だ。


しかし『ハンター』には凄まじいリスクがある。

彼等には『機械魔』を狩る仕事がある。


そしてその『機械魔』と戦う事は、常に死と隣り合わせなのだ。


138 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/20(火) 11:02:50.61 ID:KVM6jhUv0


さて、長くなってしまった。

つまり『ハンター』達にとって、今のフィーアは余りにも場違いな存在だったのだ。

命を賭けて戦い自分で何かを得る事も無く、美しい容姿に、首にかけたネックレス。

それらの放つ気配は、『ハンター』の持つ『現実』とは別次元の物なのだ。


「…お嬢さん、ここに何か用かい?」

酒場のようになっているカウンター席で座っていた女が声を挙げた。


「え、あのえーっと…」

「………っ?」


フィーアが困り顔で背後を見ているのに気づいた女ハンターはそれを目で追った。


139 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/20(火) 11:21:28.80 ID:KVM6jhUv0


「……コイツは俺の連れだ、用は無い」

「ッ…!!?」

空気が冷えた。


フィーアの背後から現れた赤髪に黒コートの男、その瞳を見た女ハンターは即座に目を逸らす。

そしてそれは彼女だけでなく、ハンターオフィス内にいるほぼ全員がフィーアに向けていた視線を逸らした。


弱肉強食。


弱き者は、弱いが故に強き者を察知する。

クロがハンターオフィス内に足を踏み入れた時点で、既に空気は漆黒に塗り潰されていたのだ。


「……こっちだ」

「う、うん」

クロはフィーアの手を引いて空いている奥のテーブル席へと歩いた。


140 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/20(火) 12:00:05.90 ID:KVM6jhUv0


ハンターオフィス内は酒場としての役目もあるのか、中はオレンジ色の蝋燭の炎が雰囲気を作り出していた。

フィーアはそういった場所だけは慣れているらしく、ハンター達の視線以外は特に気にしていなかった。


7つあるテーブル席のうちの1つにフィーアが座ると、クロは「待っていろ」と言った。

(ハンターオフィスって言うくらいだし、何か手続きが必要なのかな)

と、エクト村の門で見た事務的な光景を思い出しながらフィーアは店内を見回した。


「クゥーン」


「?」


突然、フィーアの耳に可愛らしい鳴き声が聞こえて来た。

後ろの席に座る老人の足元に、小さな犬が座っていた。


「…こんにちは」

「わんっ」


141 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/20(火) 12:30:14.75 ID:KVM6jhUv0


「…………」

見据える。


クロが見ているのは何十枚もの『賞金首』が貼られている壁だ。

ここで狩りたい賞金首を見つけ、ハンターオフィスの『受付人』に申請して対象の情報を得るのだ。


━━━━━赤髪が柔らかく揺れる。


クロの瞳が見つめるのは二枚の紙。



【賞金5000000G・『黒い死神』】


【賞金10000000G・『深紅の姉妹』】


「…………」

感情の無い瞳が突き刺すように冷気を帯びる。


142 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/20(火) 13:49:25.58 ID:KVM6jhUv0


「アンタ、ソイツを狙ってんのかい?」

「…何?」

不意にかけられた声に、振り返る。


「その【賞金8000G・白銀の虎】だよ、それを狩る気だろ?」


そう言いながらクロの見ていた紙の横に新しく貼られていた紙を指差す。

どうやらエクト村の村長、ホアキンが依頼した物らしくコメントが追記されている。

全身の至る所に拳銃を装備している、『ソルジャー』と思える男ハンターは続ける。


「ソイツはすげー速いらしくてな、俺達が明日の昼に狩る事になってんだ」

「……狩るのに順番は無い筈だがな」

つまらなさそうにクロは応える。


143 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/20(火) 14:00:33.37 ID:KVM6jhUv0


「おいおい、横取りはやめてくれよ? アンタを殺したくないぜ」

「…………」


ついクロは小さく笑ってしまう。

どうやらそれなりの実力はあるらしいが周りのハンター達が青ざめている事から、相当の馬鹿らしい。

しかし僅かにボードに貼られた紙を見る。


(機械魔……だが、この程度の相手が…?)


カウンターでコップを洗っている『受付人』へ視線を移す。

狩る対象を決めたなら、その情報を手に入れるのがハンターだ。


144 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/20(火) 15:01:23.94 ID:KVM6jhUv0


「『ポチ』って言うんですか、可愛い……」

「はは、ソイツは俺が若い時からの相棒でな…可愛いくはないぞ」


茶色の柴犬にも見える『軍用犬』、ポチを撫でるフィーアを見て老人は笑う。

老人は深々とカウボーイハットを被り、ボロボロのマントで身を包んでいた。

しかしその異様な容姿とは反対に、老人の周囲にある気配は優しい温かさに包まれている。


「…グルル……」

「あ、用は済んだの?」


ポチが唸ったのと同時、クロがフィーアの隣の席に座った。

その席は丁度ポチの飼い主である老人と向き合う形になった。


「………」

「………」


両者の瞳が互いを見る。


145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/09/20(火) 15:58:02.39 ID:W0DL2O3AO
乙……かな?
ド……ドラム缶……おつ……乙……
146 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/20(火) 16:22:59.60 ID:KVM6jhUv0
すまないな、宇多田寝していたようだ
147 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/20(火) 16:34:07.46 ID:KVM6jhUv0


「何か俺に用かい、坊主」

笑みを崩さずに老人はクロに悪戯気に聞いた。


(………え?)


再びフィーアが困り顔になる。

いつの間にか、店内が静まり返っていたのだ。

カランッ という誰かのコップの中にある氷が音を鳴らす以外は、まるで無音の世界だった。


「……アンタに頼みだ」

「断るよ、俺は現役引退したんだ」

即答。


「………」


148 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/20(火) 16:43:45.88 ID:KVM6jhUv0


━━━━━━ガッ・・・ゴンッッッ


直後、店内にいた人間全てが驚く。

凄まじい轟音。


それは岩石を強大な力で粉砕したような轟音だったのだ。


「━━━━━━!!」

フィーアの目が見開かれる。

彼女の眼前では、クロのショットガンと老人の巨大なリボルバー式拳銃が太刀打ちしていた。

両者の銃口は互いの頭部に向けられている。


「………」
「………」


沈黙。


149 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/20(火) 16:55:40.25 ID:KVM6jhUv0


ギチギチィッ という音が響き、両者の銃が僅かに擦れる度に火花が散る。

その光景だけでも充分恐ろしいが、もっと恐ろしいのは2人の戦闘力だった。


老人のマントの隙間から垣間見える腕は凄まじい筋肉が膨れ上がり、服が今にも破れそうな程だ。

対するクロも、老人程の筋肉は無いにも拘わらず怪力で圧倒していた。

老人は鼻で小さく笑った。


「良い腕だ、瞬時にショットガンの銃口を刺突するように突き出すとは面白い戦法だな」


ギギィッ と再び火花が散る。


「……明日の正午、俺の後ろにいる女を護衛して貰う」

「断ると言った筈だがな?」

「人間の老いを侮るのはやめた方が良い、アンタはあと3分以内に死ぬぞ」


両者の眼光は依然として揺るがない。


150 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/20(火) 17:08:56.07 ID:KVM6jhUv0


「…俺を舐めんのはオススメ出来ないねぇ、3分? 試しにどっちが死ぬか試すかい?」

「アンタの体の3割は壊死しているようだな、何故だ」


「………ッ!!」


━━━━━━ギ……チ…………

静かに両者の銃が降ろされる。

老人は巨大なリボルバー式拳銃を担ぎ上げながらクロを見る。


「……後五年若い時なら互角か、嫌な時代だ」

「報酬は1400G、足りないなら1800まで上げる」


そのクロの言葉に、老人は無言で首を横に振る。

「1400で充分だ、お嬢さんを守るだけならな」


151 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/20(火) 17:17:07.80 ID:KVM6jhUv0


「……明日の正午か、集合場所は?」

「村から東南に行くとテントがある、そこに来い」


老人はテーブルの上にある酒を飲み干す。

足元にいるポチに「帰るぞ」と言いながら、老人はフィーアの前で立ち止まる。

優しい雰囲気は消えていない。


「またなお嬢さん」

「あっ…はい!」


老人は「ふ…」と笑みを作りながらクロ達より先にハンターオフィスを出た。


ようやく店内の空気が元に戻った。


152 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/20(火) 17:34:13.49 ID:KVM6jhUv0



━━━━━━満天の星空の下で小さな炎が揺れる。



「『シルバータイガー』ね、丁度アタシのテントから西に3km行った先の荒野にいるわね」

パカッと、良い音を出しながらテントの裏手にある白い箱を開ける。

中からは程良い冷気が溢れ出ており、黒髪の女は冷えたペットボトルを取り出す。

ラベルには『冷え冷えビール』と書かれている。


「もう、しかもクロがいきなりお爺さんを苛めるからびっくりしました!」


ビリッ とフィーアはビニールを破って中から数枚の紙皿を取り出し、その上に調理した肉などを乗せていく。


「………」


黒髪の女メカニック、シルバとフィーアが夕食の支度をしている中、クロはテントの上で星空を眺めていた。


153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/20(火) 17:46:13.23 ID:n42I8LgDO
宇多田寝吹いた
154 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/20(火) 17:47:01.39 ID:KVM6jhUv0


「クロ、夕食だよ?」

下から見上げるフィーア。


「……水さえ飲めば問題は無い」


そのフィーアの声に、クロは無感情な声で応える。

彼はとある事情から水を5リットル飲めば一週間は活動出来る体なのだ。

故に食事は無意味だし、空腹を感じないから食事はかえって苦痛だ。


しかしそんなクロの言葉を掻き消すように、

「いーじゃん、村についてとか色々話したいからきなよ」

「………」


チラッと、下にいるフィーアを見る。

どうやら行った方が彼女の為になるらしい、と考えた彼は静かにテントを降りた。


155 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/20(火) 18:31:23.32 ID:KVM6jhUv0
眠いネル
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/09/20(火) 21:37:53.44 ID:Nsu0iJuOo

157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/20(火) 22:32:41.67 ID:niQ9/OeFo
乙!
158 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/22(木) 17:41:45.41 ID:QAzpny9T0


━━━━━パチッ…パキッ……


3人が囲む中、火は小さな枝を焼き弾く。


「ングッ……どうだった? 結構良い村だったでしょ」

グッ と酒の入ったペットボトルを揺らしながらシルバはフィーアにたずねた。

その表情は少し誇らしげでもある。


「うん! 村というより、街と言っても良いと思うかな?」

「そうかな、この世界にはもっと大きい街や村は沢山あるけどね〜」


2人は手に持った紙皿の上に乗る肉や果物を口に運びながら楽しそうに会話している。

と誰もが、フィーアも思っただろう。


159 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/22(木) 17:56:05.58 ID:QAzpny9T0


「………」

「ん? なによー」


クロには見えるのだ。

村の話をする時だけは、シルバの瞳に炎が映るのだが。

それは復讐の炎や憎悪の炎ではない、焚き火の炎である。


「……明日はシルバータイガーを狩る、『リスト』の物だけチューニングして貰おう」

「あ……そう」

クロの視線の意味に気づかず。


パサッ という音と共に、いつの間にかシルバの胸に折り畳まれた紙が投げつけられる。

シルバはそれを「あ、あぶな! 燃えるでしょうがっ」と言いながら慌てて掴み取る。


160 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/22(木) 18:11:39.08 ID:QAzpny9T0


「んっ…ふーん、銃系は要らないの?」

サラリとリストに目を通すと、酒を一口飲んでからシルバは聞く。


「必要は無い…賞金は8000程度の相手だ」


2リットルの水を一瞬で飲み干すと同時に応える。

その様子にフィーアもシルバも驚くが、あまりの自然さに驚く事がおかしい気すらしてしまう。

フィーアがクロの袖を引く。


「明日の『狩り』って、戦うんだよね…私はテントで待ってた方が良い?」

「………いや、近くで見ていれば良い」


161 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/22(木) 18:33:21.78 ID:QAzpny9T0


「フィーアちゃんに流れ弾当たったらマズいんじゃないの?」

食べ終えた紙皿をヒラヒラと揺らす。

だがクロは「心配は無い」と言う。


「ハンターオフィスでそれなりの実力を持つ男を見つけた…フィーアの盾には充分だ」

瞳の奥で、太刀打ちした瞬間の老人の眼を静かに思い出す。

クロが僅かな間で見込んだだけの『力』がそこにあった。


「あのお爺さんの事? ……大丈夫かな、私邪魔にならないかな…」


不安になるのもムリは無い。

実質彼女は初めてモンスターとの戦闘に加わるのだから。


162 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/22(木) 18:44:53.52 ID:QAzpny9T0


しかしそれに気づいたのか、クロがグローブを脱いでから手を優しくフィーアの頭に ぽすっ と乗せた。

「ふぁ…?」

一瞬シルバの目を気にしてから声が漏れる。

すぅ… と、髪の毛に沿って撫でながら。


「……これは『現実』じゃない、何も不安になる必要は無い」


それは相変わらず冷たい、重い声だったが、その瞳は優しくフィーアには見えた。

くすぐったそうに笑いながらフィーアが顔を逸らす。


「わ、わかったから…シルバさん見てるしやめてよ…」

炎の灯りが無ければ、彼女が赤面しているのにも気づいただろう。


163 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/22(木) 18:55:27.61 ID:QAzpny9T0


━━━━━━微かに残る炎の残骸が暗闇の中で小さく揺れる。


「……そんなに珍しいか、若い男女が抱き合って寝るのは」

テントの隙間から漏れる光と、共に見ている女の瞳の光にクロは気づく。


パサッ とテントの入り口が少し開かれる。

中からは紅潮した顔と僅かに汗で濡らしたシャツを着たシルバが出て来る。

額の汗を手で拭う。


「いや? アタシはちょっと羨ましいだけだよ」

「それはどちらにだ」


寝息を静かに立てるフィーアの頭をゆっくり寝袋の上に降ろす。

クロの分の寝袋は元々必要ないのだ。


164 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/22(木) 19:01:46.32 ID:QAzpny9T0


そこでシルバが不可解な表情になる。

「…どちらって?」

「俺にか、それともフィーアにかと聞いただけだ」


無音のまま、いつの間にかクロはシルバの隣に立つ。

鳥肌が立ちそうになりながらシルバは応える。


「別にアタシは境遇が羨ましい訳じゃないよ」


少し不機嫌そうな声だった。


「……チューニングは終わったのか?」

「まだかな、今日はもう寝て明日の早朝から作業すれば終わるよ」

「そうか」


クロは無感情な声で言った。


165 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/22(木) 19:09:18.96 ID:QAzpny9T0


「なら少し頼みたい」

「またチューニング? 明日聞くよ」


シルバは眠そうに欠伸をしながらテントに入る。

それに着いて行くようにクロも入った。

彼女の目が細くなる。


「………夜這い?」

「意味としては近いが違うな」


クロは後ろ手でテントの入り口をゆっくり閉じる。

その静かな動きに思わずシルバが警戒するが、クロはそんな事を無視してコートと特殊なスーツを脱いだ。


「……何よこれ………ッ!?」


その露わになったクロの体には、無数の銃弾が突き刺さっていた。


166 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/22(木) 19:10:50.57 ID:QAzpny9T0
落ちる
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/09/22(木) 20:06:40.69 ID:f0c3s2Q5o

168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/09/22(木) 20:39:45.82 ID:1RFgncwvo
169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/26(月) 02:12:48.20 ID:3cRvKHRf0
いいねぇ不死身人間、ワクワクするねぇ
170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) [sage]:2011/09/26(月) 14:22:11.24 ID:vr4T0CqJ0
舞ってる!
171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) [sage]:2011/09/26(月) 14:27:31.72 ID:vr4T0CqJ0
舞ってる!
172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) [sage]:2011/09/26(月) 15:05:14.32 ID:vr4T0CqJ0
舞ってる
173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/09/26(月) 18:23:27.19 ID:09roYr8Xo
♪ ∧,_∧
   (´・ω・`) ))    
 (( ( つ ヽ、  ♪
   〉 とノ )))
  (__ノ^(_)

    ∧,_∧ ♪  
  (( (    )     
♪   /    ) )) ♪
 (( (  (  〈
    (_)^ヽ__)
174 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U :2011/09/28(水) 16:50:27.62 ID:q0jymO6x0
どこから見ても1です

41度という凄まじい高熱により長らく放置してすみませんでした
今週からまた再開させて頂きます
175 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/28(水) 18:52:58.68 ID:q0jymO6x0


━━━━━━カチャンッ


ピンセットを器用に操り、シルバは次々とライフル弾をクロの体から取り除いていく。

痛みを感じさせぬよう、慎重に、迅速に。


「…これで116発、アンタ何者よ」

「答える必要は無い」

即答。


ライフル弾を引き抜く度にシルバは僅かに背筋に悪寒を覚える。

クロの冷たい声のように、傷口が青く冷たい色に変色した後、肌色の皮膚に戻るからだ。

それは『再生』ではなく、『生成』に近い気がした。


(……不気味、というより異質ね…)


176 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/28(水) 19:06:10.04 ID:q0jymO6x0


もう既に15分経った頃、ようやくシルバはクロの体からライフル弾を取り除き終えた。

彼女の傍らには鉛色の弾が積み上げられたコップがある。


「はい終わり、もう寝て良い?」

眠そうにシルバは手を口に当てながら言った。


クロは グッ とコップの水を飲み干すと、赤髪を揺らしながら立ち上がる。

近くに放っておいたコートとスーツを拾い上げ、テントの入り口を開けた。


「…明日も頼んだ」

「りょーかーい」


赤髪はテントの上へ消える。


177 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/28(水) 19:21:30.14 ID:q0jymO6x0



━━━━━━月が揺れている。



【未だに私は思い出せない、私が生まれた場所と理由を・・・】


━━━━━━鈍く、汚く、濁りながら。


【父は何故私をこの地に縛りつけるのかは知らない】

【だが私は、ここにいるしかない】


━━━━━━されど鋭く、美しく、透き通りながら輝く。


【生きるのだ】

【全ての力を以てして、弱き獣を喰らうのだ】


━━━━━━月の白き光は淡く、揺れ動く。


【・・・時間の進みは速い、私よりも、風よりも】

【太陽は美しい、私よりも、月よりも】


━━━━━━遠くから響く轟音に、月の揺れが止まる。


【さあ、狩りの時間だ】


━━━━━━月は紅く染まる。


178 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/28(水) 19:32:03.61 ID:q0jymO6x0


「わんっ!」


乱れた栗毛色の髪をした少女、フィーアは可愛らしい鳴き声に起こされた。

ふわふわしたベージュの柔らかい尻尾を振り、小さな犬はフィーアの傍に座っていた。


「んむ……おはよー」

思わず顔を緩ませながらフィーアは挨拶する。


日は大分高く昇っており、寝袋が少し熱くなっている。

もぞもぞと彼女は寝袋から這い出ると、突然頭上に影がかかった。

「?」

見上げる


「朝食を食べたら出発だ、フィーア」


179 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/28(水) 19:42:13.77 ID:q0jymO6x0


「……まさか、アンタがフィーアちゃんの護衛ねー……」


テントの中には、幾つかのクロの武器を布に包んで持つシルバと、『赤髪』の老人がいた。

シルバは何度も老人を見る。


「………アンタも何者なのさ」

「急に何だよ」

僅かに顔を引き釣らせながら老人は応えた。


「アンタって最近あの村に何度も行ってたけど、なーんか怪しくて」

目を細め、シルバは老人の瞳を覗く。

が、特に怪しさは感じられない。


だからこそ彼女は老人が怪しいのだ。


180 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/28(水) 19:56:37.90 ID:q0jymO6x0


「やれやれ、最近の女性は魅力に気づかないもんだ」

「何よそれ」


老人は軽く笑うと、揺れる赤髪を隠すようにカウボーイハットを被る。

そして、瞳だけが彼の背後へ移る。


「……まあ、そのぐらいの方が楽だろう?」

「………」

静寂な気配を纏ったまま立つクロに老人は悪戯気に言った。

クロはそれを静寂で流す。


赤髪を揺らして、クロはシルバに確認するように言う。


「万全か」

「アタシに任せたんだから、完璧だよ!」


181 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/28(水) 20:15:35.01 ID:q0jymO6x0


「……シルバ」

「ん? アタシの腕に感激した?」

にっ と黒髪をくるくる弄りながらシルバは聞く。


その表情を見てクロは微かに感じ取る。

『恐れ』。

シルバの右手にある小さな切り傷。

彼女の腕なら手に傷を作る事はそう無いのだから、間違いなく彼女は初めての兵器に戸惑ったのだ。


「…お前はテントで待つか?」

「……そうするよ、アタシはメカニック専だから戦闘は苦手だし」


老人は帽子の奥からクロとシルバの2人を見る。

(……若い頃を思い出すな)

182 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/29(木) 20:26:00.91 ID:7Z+6tFHX0


━━━━━━ザッ・・ザザッ・・・・


小型の無線から仲間の声が響き、波紋のように頭の中へ伝っていく。

『ディノ、何があった!? 頼む応答してくれ!!』

不安に駆られ、声を荒げる。


だが声を出す訳にはいかない。

応答出来ない。

ディノと呼ばれた男、ハンターオフィスでクロと会った『ソルジャー』は他の仲間3人と並んでいた。




『芋虫のように、手足を切断され、地に這うようにして並ばされていたのだ』。




183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富士山) [sage]:2011/09/29(木) 20:31:08.12 ID:zKhYs4Fv0
まさかのリアルキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
前回の投稿から好きになった。完結ガンバ
184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富士山) [sage]:2011/09/29(木) 20:34:42.50 ID:zKhYs4Fv0
おちついて読んだら>>182の最後の文章で零崎の「殺して解して並べて揃えて晒してやんよ」を思い出した。
たぶん関係ないだろうけど
185 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/29(木) 20:35:21.01 ID:7Z+6tFHX0


(やめろ……来るな、来ちゃダメだ…!!)

切断された傷口は炭のように焦げているのか、出血も痛みも無い。


しかしディノ含む4人は、視覚が奪われていた。


彼等は予定通り、14人いる仲間の中から4人仲間を連れて生活費を稼ぐ為に『狩り』に来た。

そして彼等は見つける、情報通りの白銀に包まれた虎を。


『今から残りの仲間を連れて行く! 頑張ってくれ!!』

非情にも、仲間達は助けに行く為に準備をしようとしていた。


(よせ……ッ)


ディノは他の震えて死の恐怖に怯える仲間の代わりに、耳に付いている小型無線に叫ぼうとした。

瞬間。


186 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/29(木) 20:44:17.20 ID:7Z+6tFHX0


━━━━━━バキュッ、ミヂャッ!


「がっ…ぁああああああああああああああああああ!!!!」

激痛による絶叫ではなく、断末の叫びが轟く。

2つある肺に詰められた空気を全て搾り出すように、『足』がディノの背中を潰していく。

背骨の関節が、肋骨が、肉が粉砕され潰される。


小型無線から、更に仲間達が声を出す。


しかし無線の向こうにいる彼等は知らない。

『わざと派手な戦闘』も、仲間達の沈黙も、『あえて聞かせた叫び声』も。


━━━  全ては人間を少しでも呼ぶ為なのだという事を。  ━━━


187 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/29(木) 20:57:32.69 ID:7Z+6tFHX0


━━━━━━金色の太陽が頭上に昇る。


「……ここがシルバータイガーの出現地だ」

深々と黒いフードを被ったクロは、背後の老人とフィーアに告げる。


3人が2時間かけて来たのは、シルバのテントから数km離れた所にあるクレーター地帯だった。

クレーター、とは言うが実際は1つの深さ3m程度の小さなクレーターが無数に広がっているだけだ。

老人は軽く口笛を吹く。


「クロ、だったな? 嬢ちゃんは『どの程度』守ればいいんだ」

「………」

口笛と問いにクロは立ち止まる。

彼は一度辺りを眼だけで見た後振り返り、


「アンタと犬の出せる範囲の全力で、フィーアを守れ」


188 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/29(木) 21:03:46.69 ID:7Z+6tFHX0


「了解だ、だがあと1つ聞かせてくれ」

カウボーイハットをずらし、優しい瞳を覗かせながら老人は問いかけた。


「……何故連れて来た?」

「答える必要は無い」


冷たい声で彼は即答したが、直後に背後のフィーアを見る。

「いっぱいクレーターがある…」

初めて見る景色に彼女は、足元のポチの頭を撫でながら呟く。


「………ふ」

笑う。


189 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/29(木) 21:11:45.24 ID:7Z+6tFHX0


ボロボロの黒いコートを着た彼、クロはとある事情と成り行きからフィーアを『現実』から遠ざけていた。

彼は彼女を『幻想』の道から、ある物を学ばせなければいけないのだ。


故に、彼は初めて『悩む』。

(上手く戦えるか自信が無い状況になってきたな)


ザッ と、乾いた土を踏みながら3人はクレーター地帯を進む。

クロは静かな気配のまま トッ と一歩でクレーターを1つずつ飛んで行く。

背後では「待ってよー!」と言いながら老人に手を引かれてフィーアが追いかけて来る。


クロの瞳が乾いた空間を貫く。


(………静か過ぎる)


190 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/29(木) 21:21:44.09 ID:7Z+6tFHX0


静寂なオーラを常に纏っているクロが思うのも少し笑えるが、彼の中ではある意味想定外の事態だった。


まず、彼が太陽が真上に昇る正午に来た理由は3つあった。

1つは、敵の隠れ易い環境を無くす為。

2つは、『先に来ている筈のハンター達』の様子を見る為。

3つは、フィーアに見え易い為。


この中のうち、2つ目が既に取り除かれていたのだ。


瞳が辺りのクレーターへ走る。


(…『単車痕』、更に新しい人間の足跡……)

それが意味するのは先に来たハンター達の痕跡。


(そして、『血痕』や『戦闘の痕跡』を消した『『 匂い 』』)



それが意味するのは凶敵の存在。




191 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/29(木) 21:30:25.45 ID:7Z+6tFHX0


(…………)

瞳を、唯一気配があり得る方向へ走らせた。

そして彼は鋭い声を出した。


「止まれ、16m今来た道を戻って待っていろ」

眼光、気配、態勢が一瞬にして変わる。

老人はその声に頷きもせず、瞬時にフィーアを抱えて後ろへ下がった。

空気がジリジリと、焦げついた血のような雰囲気に締めつけられる。


「……なるほど、どうやら相当な歓迎を受けたらしいな俺は」


クロの脳裏にエクト村の長ホアキンとハンターオフィスの受付人の顔が浮かぶ。

彼が見たのは━━━━━━


192 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/29(木) 21:47:28.61 ID:7Z+6tFHX0



━━━━━━ミシッ・・ジュッ・・・



【今宵は大漁だった、という所か】

━━━━━━淡い紅を帯びた月はただ虚ろな光を輝かせる。


【・・・私は人間の命を糧に生きている】

【だが私は何故こうも無機質なのか、何故私に命が宿らないのか】


━━━━━━問いかけるように、紅い月は天を仰ぐ。


【・・・父よ、私はいつまでここにいれば良い?】



━━━━━━しかし月の問いは届かず、代わりに『闇』が訪れた。



【何者だ? 何故私に感知出来なかった?】

━━━━━━月はその紅く染まった光を、決して照らされる事の無い闇に向けた。


━━━━━━静寂に包まれた『闇』は『月』と対峙する。


━━━━━━その互いの瞳は、儚くも同じ類の物だった。


193 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/09/29(木) 21:47:56.65 ID:7Z+6tFHX0
今日はここまで、落ちる
194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/30(金) 03:22:29.17 ID:KXqLSCwu0
195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/09/30(金) 04:41:06.49 ID:7RRYVTy2o

196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2011/10/02(日) 09:18:38.18 ID:pErnHbHP0

やっと追い付いた・・・次も期待してるよ
197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/11(火) 01:19:00.03 ID:8JmhvyuIO
まだかー
198 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [sage]:2011/10/11(火) 19:36:32.28 ID:JvVCwEL10
明日投下します
199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/11(火) 22:28:51.30 ID:ww/BQqcGo
おぉ、舞ってる
200 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) [sage]:2011/10/12(水) 05:44:26.30 ID:rfQ/2TUg0
やっとか・・・
201 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/12(水) 17:28:17.61 ID:IEFMc7+c0


(………何故、止まる…?)


無機質で静寂な気配を辺りに振り撒く、藍色の瞳が不可解だと揺らした。

クロが立つ位置から約240m先にいる『白銀の虎』が動かずにただこちらを見ていたからだ。

まるで『思考』するように。


ザリッ、とクロは踏み出す。



━━━━━━直後、それを合図にシルバータイガーが動き出した。



「……戦略型のモンスターか」

平然と、彼は呟く。


202 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/12(水) 17:40:32.70 ID:IEFMc7+c0


動き出したシルバータイガーは、まさに『白銀の虎』と呼べる姿だった。

走り出す瞬間の靭かなフォーム、機械とは思えない程の『白』、そしてその爪と頭部に染みついた血。

何もかもが動物的な容姿であると同時に、無機質な気配を秘めていた。


『それ』が、恐るべき速度でクレーター間を跳躍しながら接近してきたのだ。


━━━━━━ガシャッッ

突如細いボディから飛び出すガトリング砲。


ギィィィンッ と回転をした刹那、20m弾が射撃された。

閃光の雨を前にして、クロの赤髪が揺れ動く。


203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/12(水) 17:43:46.16 ID:8z1+PScbo
来たかっ……!
204 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/12(水) 17:50:14.40 ID:IEFMc7+c0


ブワァッッ!! と、黒コートが煙のような残像を残して移動する。

クロの凄まじい神速ステップが大地をガトリング砲の射撃以上に叩き続ける。


20mバルカンの射撃は一撃たりともクロの体、髪の毛一本にすら当たらない。


━━━━━━【敵勢力、『ニンジャステップ』を習得していると推測】 

━━━━━━【戦術ルーチンを再構成、再演算】

━━━━━━【これより敵勢力を格闘サブルーチンにて再度分析する】


僅かな一瞬。

シルバータイガーの動きが更に柔らかい物へと変異した。


(……?)


205 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/12(水) 17:58:50.60 ID:IEFMc7+c0


━━━━━━  ボンッ  ━━━━━━


クレーターが広がる荒野に、大地が抉り削られ、踏み砕かれる音が鳴り響いた。

しかし音は連続せず、ただ青白い空へ散るだけ。



何故なら、音が鳴り響いた時点でシルバータイガーは120m近くあった距離を縮め、クロへ飛びかかっていた。



白銀の光沢を放つ爪が一閃を走らせようとする。

だがそれ以上の速度でクロはショットガンの銃口を頭部へ向ける。


━━━━━━ジャカッ!!


引き金が引かれた。


206 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/12(水) 18:09:58.46 ID:IEFMc7+c0


バゴォォオンッ!!! という爆音が辺りの空気を揺らした。


クロの瞳に再び不可解だといった揺れが立つ。

本来なら、クロが引き金を引いた時点で戦車にも大ダメージを与える強力な散弾がシルバータイガーを粉々にしている筈。

しかし彼が引き金を引いた瞬間、目の前の大地が粉塵を巻き上げ、『シルバータイガーが吹き飛んだ』。


つまり、まるで散弾が効いていないのだ。


「……成程、電磁フィールドによる絶対防御か」

しかし彼は冷徹に暴く。


そしてシルバータイガーもまた、クロと同じように『ダメージを受けた原因』を暴いていた。


207 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/12(水) 18:23:15.49 ID:IEFMc7+c0


━━━━━━【・・・電磁フィールド正常作動確認、現在受けた『打撃』は特殊な構造によるショットガンの風圧と判断】

━━━━━━【敵勢力、戦車クラスの兵器所持を確認】


月を想わせる白銀の虎は、ついに吠える。

遂に来たその本来の役目を前にして、武者震いをするかのように。



━━━━━━【戦術ルーチンを全て除去】


━━━━━━【敵勢力は人間の上位種と判断、これより『 ノアプログラム 』を起動し敵勢力を全能力で排除する】



「  【 ガオオオオォォォォォォォォッッッッ!!!! 】  」



「……ノアの軍勢、か」

クロの赤髪が、瞳が、鋭い刃のようにざわついた。


208 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/12(水) 18:37:21.76 ID:IEFMc7+c0



「す、凄い……あんなのクロ1人じゃ…!」

遥か後方のクレーターに隠れながら見ていたフィーアが絶句する。


彼女は間近でクロの力を目の当たりにした事がある為、それなりに彼の恐ろしさを知っている。

それ故に彼女は驚愕した。

クロの実力を知って尚も、その敵意を失う事無く更に敵意を増して彼に襲いかかるモンスターに。


その時、横でフィーアを見守る老人が言った。


「あれはかつて存在した『ノア』の軍勢の一角か…こんな所にまだ生き残りがいたとはな」

「ノア?」

と聞くフィーアに、老人はシルバータイガーを見ながら答える。


「遥か昔、『大破壊』を起こして世界を破滅へと追い詰めた電子頭脳…らしいがな」

「だが俺が生まれる前にノアは1人のハンターに破壊され、その後ノアを倒したハンターに軍勢は壊滅させられたんだがな」

「……ノアの軍勢の一角なら、俺でも想像出来ない実力の筈だ」


フィーアは粉塵が巻き上がっているクロの方へ視線を移す。

「………」


209 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/12(水) 18:56:35.97 ID:IEFMc7+c0


━━━━━━ガシャガシャギャギャギャンッッッッ


細いボディから次々と兵器が出現し、元の美しい虎の容姿が完全に消え去った。

それぞれの兵器が作動する。


「遅い……」

クロの体が弾丸のようにシルバータイガーの頭上に跳ぶ。


【『連続鳳凰』・『拡散ビーム』・『電磁フィールド』】

クロの動きに合わせてシルバータイガーの全身が爆炎を発する。

ゴシュッッ と脅威の連続破壊弾頭が射出され、クロを捉えた。


━━━━━━ドゴゴゴゴォオオッ!!!


しかしその弾頭を全てクロは瞬時に撃ち落とす。


210 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/12(水) 19:09:52.00 ID:IEFMc7+c0


「……ッ」


その瞬間、撃ち落とされた弾頭の爆発と同時に爆炎の中から閃光が走る。

ゾンッッ とクロの全身を無数のビーム光線が貫く。


【『バルカンラッシュ』・『S-Eラッシュ』・『電光石火』】

ガシュンッ!! という全身の幾つかの兵器が一斉に閉じ、シルバータイガーの体が唸る。


空中で、クロとシルバータイガーが激突する。


「…ッ…ッッ」

凄まじいバルカンや他の機関銃による一斉掃射を次々とショットガンの銃身や特殊グローブで弾き返す!!

その合間にはシルバータイガーの背中部分から再び連続鳳凰や、『マニアックシェフ』といった拡散爆弾頭が射出されていく。


211 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/12(水) 20:06:07.04 ID:IEFMc7+c0


およそ7発の爆弾頭。

それぞれは別の方向から弧を描いてクロを囲むように迫る。


【ビーム系有効、『ビームサイズ』×『電光石火』・・・!!】

その刹那にもシルバータイガーは膨大な演算を処理し、最も有効な戦術を次々と築き上げていく。


「……ふ」

眼前に数発の弾頭が迫る中でも笑う。

笑えるだけの余裕があった。


「子猫とじゃれあう趣味は無い」



━━━━━━  ピィンッ  ━━━━━━



212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/12(水) 20:26:05.87 ID:Ea3Bbme2o
強すぎる……修正が必要だ………
213 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/13(木) 19:09:50.47 ID:w43Vg+Gf0


クロを中心に『高周波』が波紋を作り、空気中を一瞬にして駆ける。

そしてシルバータイガーは自身の『目』となる振動感知センサー、嗅覚聴覚視覚のスコープやマイクが、感じとった。


既に『この戦術は』破られた、と。


1m程度の尾が空中落下を促す微細な動きをし、クロよりもより早くその場から離脱するシルバータイガー。

同時に電磁フィールドで『金属からの防御』に備えた。

直後。



━━━━━━ゴババババァンッッ!!!!



たった一瞬で、クロに触れることなく、彼を包囲していた筈の弾頭が全て『迎撃』された。


214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/13(木) 19:16:02.38 ID:RMgCdG+IO
今追いついた
C
215 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/13(木) 19:23:32.48 ID:w43Vg+Gf0


ついに、闇が月を飲み込もうとしていた。



バヂュゥンッ という破裂音が迎撃された弾頭の爆炎と衝撃波を引き裂く。

それに対しシルバータイガーはクレーターの地表に着地すると同時、


【金属を探知、電磁フィールドによる防御の後カウンターS-Eを・・・】


と膨大な計算を終え、Enterを実行しようとした刹那だった。

━━━━━━ジャリンッッ!!

背中部分から露出していた、特殊弾頭を射出する為のレールが綺麗に切断される。



ゴバァッッ!! と爆発が直にシルバータイガーのボディを吹き飛ばす。


216 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/13(木) 19:35:30.92 ID:w43Vg+Gf0


ドザァアア とシルバータイガーのボディが十数m転がり、途中で止まる。

シルバータイガーはAIの中で原因を探る。


【何が起きた、今のは感知不能だった】

【本機の攻撃察知範囲は光速まで、つまり今のは光速ということに・・・】


「……随分のんびりしているな……」

人間が聴いたら背筋が凍りつくような声が不気味に響く。


━━━━━━ ピィンッ ━━━━━━


瞬間、シルバータイガーは先程より距離が離れている為か、『やっと』クロの攻撃が明らかになった。


217 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/13(木) 19:57:08.29 ID:w43Vg+Gf0


黒コートから凄まじい速度で繰り出されたのは、『鞭』だった。

それも漆黒に彩られた、どんな技術を使っているのかすら想像出来ない、『電撃』を纏った特殊金属の鞭だ。

死神を連想させ、本当に死を予感させかねない漆黒の鞭が、

 バヂュゥンッ!! とシルバータイガーの胸部に34回叩きつけられる。

数百tある筈の、人間を『狩り続ける』為の兵器の塊であるシルバータイガーが再び吹き飛ばされた。


そう、これが5日前にフィーアを村から連れ出す際、戦車達を薙払った衝撃波の正体なのだ。


チューニングされたばかりでは三割と発揮出来ないだろうと考えていたクロも、驚く程の性能と言えた。

皮膚を介しての電気信号によって、鞭の電撃を消滅させてから黒コートに戻す。


直後に、止まっていた時間が動き出すようにシルバータイガーの白銀の装甲が辺りに舞い散る。


218 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/13(木) 20:10:36.27 ID:w43Vg+Gf0


【・・・全出力低下、各部位の兵器は内部大破、残った兵器はビームランサー、ビームクローのみ】


【解析完了、戦術ルーチンを削除、削除完了、新たな戦術ルーチンで敵勢力を『撃退』する】


バシュゥッッ!! という噴出音が鳴り、装甲を抉り削られた胸部からグシャグシャになった様々な兵器が落とされる。

その様子は、まるで体内から無駄な物質を排除しようとしている動物にも見える。

ただ、相手は『兵器』そのものだが。


ガシャンッッ と胸部を閉じたシルバータイガーは脚部の先から閃光を放つ爪を出した。

ゴジュゥゥ……というバーナーでプラスチックを溶かしているような音が鳴る。


互いに様子を伺う。

(様子を伺う……つまり、こちらの動きを探っているのか)


カキンッ、とクロは両足の踵を踏み鳴らす。


219 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/13(木) 20:20:20.46 ID:w43Vg+Gf0


クロは静かに、機械の、シルバータイガーの行っているであろう『戦術計算』を逆算する。

大昔の世界に存在した、『スーパーコンピューター』十台でさえ行えないような、予言に近い『計算』を。


そして彼は赤髪を揺らした。


「死ぬのは怖い、か…シルバータイガー」

根本的な『答え』を知った彼はその冷たく冷酷な瞳を向ける。


ギシッ、と臨戦態勢になるシルバータイガーの姿は、まるでその言葉に怯えたようだった。

と同時に、両者が動く。

当然誰も追いつけないような速度で。


220 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/13(木) 20:30:02.92 ID:w43Vg+Gf0



グルンッと尾を振り上げるようにしてシルバータイガーの腰から、細い針が飛び出す。

破壊力を剃る事で軽量化と初撃時間を大幅に削ったバージョンの『ビームランサー』と呼ばれていた光学兵器だ。

瞬間的に光を収束し、細い閃光の槍が放たれる。


━━━━━━  ブワァッッ!!


それを『発射されるタイミング』に合わせてクロは体を振って避ける。

直後に、追撃される閃光の槍を鞭で弾き飛ばしながら、彼は大きく前転する。



大きく、足を鎌のように振り回しながら。



221 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/13(木) 20:40:07.34 ID:w43Vg+Gf0


そのクロが行う動作をシルバータイガーは警戒し、先制攻撃に出る。

ガシュッッ!! と機械のバネによってクロに向かって飛ぶ。


━━━━━━ビュバババババババ!!!!

クロの全身を余す事無く、戦車をも切り裂くビームクローが恐るべき速度で舞う。


だがそれをもクロはかわし、ブーツの底でシルバータイガーの胸部を蹴り上げ、一閃の軌道を逸らす。

瞬時、刹那、直後、クロの両手がコートから二丁の拳銃らしき物を取り出した。



━━━━━━ズドドドドドドドドッッッ!!!!



連射……ではなく、『それぞれの銃が発砲した』。


222 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/13(木) 20:40:57.75 ID:w43Vg+Gf0
落ちる

223 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/13(木) 21:05:21.61 ID:EE9ayC+ao
乙したァ!!
224 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/13(木) 21:32:04.06 ID:Q+l53fGzo
乙乙乙乙乙乙乙乙乙ぅ!!
225 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/18(火) 19:05:56.47 ID:TMgyTHcU0


たった二発の銃弾がシルバータイガーのボディを何度も貫いた。

その圧倒的な威力とダメージに、AIは痛みにすら似た数値的打撃を一瞬で叩きつけられた。


【・・・!!】

右半分の機体に襲い掛かったダメージに耐えられず、 ズガガッ と数回横へ転がる。


感知センサーも、内部のエネルギーパックも粉々に粉砕されたシルバータイガーの頭部だけがクロに向かう。

薄汚れた月の瞳が、見下ろしてくる男を見た。


「……自らの機体を自爆させるつもりで戦えば、俺を抹殺できた筈だがな」

【・・・】


応えられない。

答えはある、しかし『彼』には応えられない。

226 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/18(火) 19:17:21.68 ID:TMgyTHcU0



━━━━━━ガシャガシャッ と、シルバータイガーの頭部から機械的な音が響く。




【・・・ワタシ、は…生きるのだ……】

「…!」




『人間味』、と呼べる声にクロは目を潜める。

そして彼は気づく、AIではなかったのだ。


「…バイオユニット、生命機械か……」

【そうだ】


僅かにシルバータイガーは機体を動かし、更に頭部から ガシャガシャッ と鳴らす。


227 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/18(火) 19:26:18.63 ID:TMgyTHcU0


【私は、痛みを感じ、太陽の暖かさも感じる】


【・・・機械、とは違う、私は、『番犬』だ】

ギィッ、と軋んだ音を出しつつもシルバータイガーは空を仰いだ。

僅かに濁った空を見たまま、


【教えてくれ…お前は、何故私より強い?】

「………さぁな、役割が違うからだろう」


【役割、私にも教えてくれ、お前の役割を】

「………」


冷たい瞳を閉じ、吸う必要の無い空気を吸う。



「『死』を運ぶ、それが俺の役割だからだ」


228 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/18(火) 19:33:25.86 ID:TMgyTHcU0


【…理解が出来ない、私には理解が出来ない……】


ギシッ、と鳴らす。


【あの少女は、お前の『恋人』でないなら、何なのか?】

「!!」


ガバッと振り向く。

その先にはフィーアがこちらに走って来る姿がある。

クロの全身から、不気味な気配が噴き出した。


【守ってみるといい、『同士』よ…】


━━━━━━ピピッ━━━━━━


電子音が鳴った。

229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/18(火) 20:17:14.40 ID:cY92ioJOo
おっ、来てる!!
230 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/19(水) 13:37:14.63 ID:4q8VoSok0



━━━━━━彼等から、東南に12Km。


そこに築かれた、数々の戦車や単車、ありとあらゆる『クルマ』の要塞が1つの信号を受信する。

一瞬にして、特殊なケーブルや回線によって数十mに及ぶ要塞が起動された。

鉛色の輝きから、『滅』を意味する赤い輝きに変わる。



ガコンッッ、という作動音。



白銀の虎が永きに渡り狩って来た獲物達が、一斉に牙と化した。


━━━━━━ それぞれのCユニットが照準を合わせる。


直後、『少女』に向けて合計86発の特殊弾頭やミサイルが射出された。


231 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/19(水) 13:49:21.06 ID:4q8VoSok0



遠方の爆音に気づいたのか、フィーアの足元にいたポチが彼女の前に立つ。


「ガゥゥ……!!」

「ど、どうしたの? もうクロがやっつけたよ?」

少し驚きながらも、フィーアはポチの頭を撫でながら言った。


「嬢ちゃん、俺達の後ろにいな…ヤバいのが来る」

瞬間。



━━━━━━━━━ゴバババアァァァァァァァァァ!!!!



フィーア達の周囲に最も速く射出された弾頭が炸裂し、爆風が吹き荒れた。

「ひゃあぁっ!?」

「クソ、迎撃出来るか……!!」


232 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/19(水) 14:01:05.95 ID:4q8VoSok0


バサァッ!! と老人の着ていたコートが粉塵を引き裂く。

同時に、巨大なリボルバー拳銃の引き金を迷わず引き絞った。


━━━━━━ガガガガンッッ


ほぼ一撃で四発の大口径の銃弾が飛び、数Km先の上空で幾つか爆発する。

隣にいたポチも、速度の高い弾頭から背中に装備した光線で狙撃していた。

どちらも素人から見れば、怪物並みの光景と言えた。


次々と向かって来るミサイル達を迎撃している2人の背後で、フィーアは別の方向を見ていた。

これまで以上に、驚愕の表情で。



(なに、してるのクロ……!?)


233 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/19(水) 14:34:36.16 ID:4q8VoSok0



━━━━━━ 一筋の赤い一閃が、遥か上空へ跳躍する。


━━━━━━ 「……【迎撃パトリオット】……」



━━━━━━ 迫るミサイルの雨を眼前にした瞬間、彼の全身から凄まじい爆音が鳴り響く。



━━━━━━ その正体は瞬時…というより『同時』に行われる銃撃の音が重なったからだ。

━━━━━━ 次々と、続々と、僅かな間で数十の弾頭が撃墜され、爆発していく。


━━━━━━ 数m離れた地上を大きく吹き飛ばすような爆風の中、彼は悠然として引き金を引き絞り続ける。


━━━━━━ そして笑うのだ、「化け物だな」と。


234 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/19(水) 15:00:25.30 ID:4q8VoSok0



━━━━━━【・・・これが、役割の差か】


ヨロヨロと、薄汚れ、濁り切った虎は迎撃するクロを見ていた。

諦めたように。

外の世界を知らなかったが故に、今回の戦闘で『彼』は思い知った。


━━━━━━【恐らく父も・・生きてはいない】

━━━━━━【『仲間』と呼べる同胞さえ、私に与えられた役割も意味を成していなかった】


なら、どうすればいいのか?

自爆する……等という安い展開は無い、既に『彼』には自爆出来るだけのエネルギーすら無いのだから。

答えは無い。


━━━━━━【・・・私は、生きたい・・・】


故に『彼』は最後の願いを呟くしかなかった。


235 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/19(水) 15:16:31.10 ID:4q8VoSok0


━━━━━━ ザッ


(……思ったより大きかったんだ、こいつ)

黒髪が風に揺らされ、それを拭う。

ほんの僅かに日焼けした細い手が『それ』に伸びる。


「お疲れ様、シルバー……」


爆音が止まってから数分、つまりまだシルバータイガーは動いている可能性はあった。

しかし既に停止寸前でフィーア達を狙って爆撃したのか、シルバータイガーは『死』を迎えていた。

薄汚れ、そしてボロボロのガラクタにされて。


「………ありがとう、アンタのおかげでアタシはまた強くなれたよ」


236 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/19(水) 15:27:16.39 ID:4q8VoSok0


「………」

返事の無い虎を、ただ眺める。


幼い頃、彼女が見た『彼』はとても美しかった。

白銀の装甲、動物的な動き、そして鳥肌を立たせるような凶悪な強さと残虐性。

彼女は一種の信者だった。

不敗を誇りそして常に優雅で威厳のある『彼』が、彼女にとっては師でもあった。


そして彼女は、ある日を境に名乗り出したのだ。




シルバ、と。



237 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/19(水) 15:35:05.07 ID:4q8VoSok0



━━━━━━ 老人は巨大なリボルバー拳銃をコートにしまう。


ガシャッと背中のホルスターに突き刺すと、彼は額の汗を拭い取る。

数年ぶりの戦闘だったのだろうか、鋭い気配と動きとは反対にとても疲れて見えた。


「大丈夫お爺ちゃん?」

フィーアが不安げに見る。


「なに、この程度で疲れる程老いては無いさ」

「わん!」


「良かった、凄い動きだったから心配したもん……」



238 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/19(水) 15:46:05.43 ID:4q8VoSok0


━━━━━━ズザザッ!!

軽く粉塵を巻き上げながら、クロはフィーアの横に着地する。

あれだけの爆風に巻き込まれていたのに、その身には傷1つ無い。

恐らくコートも無傷だろう。


「…無事だな、フィーア」

「ぶ、無事!?」

思い切りフィーアが吹き出す。


「クロこそ大丈夫なの!!? あんなことして……死んだりしたら!!」


怒りの声を挙げながらフィーアはクロにしがみつく。


「………」


239 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/19(水) 16:15:35.03 ID:4q8VoSok0


「……さて、俺はそろそろ帰る…金は明後日の午後にハンターオフィスで貰うぞ」

やれやれ、といった様子で老人は去ろうとする。


しかしクロは振り向かずに「待て」と言う。

老人の足が止まり、瞳だけ向けた。


「……なんだ?」

「名を聞いていなかった、『そのうち』困るから聞いておきたい」

コートで鼻水を拭こうとするフィーアを避けながら、クロは問う。


老人は暖かい笑みを見せながら振り返る。



「『ドラムカン・スミス』だ、覚えておけよ少年」



240 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/19(水) 16:18:53.09 ID:4q8VoSok0
そろそろ落ちとく
241 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/19(水) 16:20:44.72 ID:Yip1oILJo
乙っ!
242 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/20(木) 18:12:59.36 ID:DNfpLkZQ0




━━━━━━ 闇夜に紛れ、『闇』を演じようとする『影』が取り囲む。



彼等の囲む中には、大型サバイバルテントに消えかかった焚き火が揺らいでいる。

そして特殊な意味を含んだ赤や緑のライトで合図を出す。

闇の中灯る火を消そうと、影達が ガチャガチャ とその手にある自動小銃を構えた。


暗闇の中1つの命令。



「  殺せ  」



一斉に自動小銃のセーフティーを解除し、引き金に指を乗せ、引き絞る。


243 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/20(木) 18:21:43.97 ID:DNfpLkZQ0



直後に、大量の閃光と共に銃弾がテントを蹂躙する。

……………………筈だった。




━━━━━━━━━━━ ビシャァアッッ!! という水飛沫のような音に、全員が止まった。




(…何だ……?)

隊長格の男が待ての合図で他の者達を止めた。

男がしたのはテント東側、そちらには4人部下がいた筈だ。


ライトで返答を促すサインを出してみるが反応は無い。


男は闇の奥をじっと見た。


244 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/20(木) 18:43:09.16 ID:DNfpLkZQ0



━━━━━━ 「死ぬのは怖いか?」 ━━━━━━


闇夜の中、冷たく残虐な声が響いた。



「ッ!!?」

声は南側、それも男のいる位置から遠くなかった。

既に自分達の動きを察知した者がいたのかと思考する彼の目の前で、突如火花が散った。


その僅かな一瞬で彼は垣間見た、文字通りの一瞬の隙間だったが。

恐ろしい速度で発砲された銃弾を避け、更に自動小銃を一本の『ナイフ』で叩き斬り、部下達の上半身を吹き飛ばした男の姿。


脳裏に焼きつけるには充分な光景だ。


245 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/20(木) 19:02:20.50 ID:DNfpLkZQ0


━━━━━━ 発砲の音に気づいた者達が集まって来る。


(き、来ては駄目だ!! 退却を……)

腰にあるライトに手を伸ばす。


━━━━━━ スパッ


「━━━━っっッッッ!!!??!!????」


一瞬遅れてから、焼かれたような痛みが全身に駆け巡った。

右腕を肘の関節ごと斬られたのだ。


「っっ…ぁ、あ………」

激痛と、『腕だけが無い』という状況にパニックになり、声が出なくなる。

溢れ出る血の臭いは正常な意識さえ奪った。


「…………」


無言の空気で、 ヒュンッ とナイフが振られた。

隊長格を筆頭に、後に残された部隊も全て同じように静かな虐殺を繰り広げる。


246 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/20(木) 19:26:05.48 ID:DNfpLkZQ0




「……また、また全滅だと……!!」



ドガッ!! と中年の男、ホアキン・ジェラルドが机に拳を叩きつけた。

その憤怒に彩られた声音に報告書の束を持った青年が後退りした。


「……『あの男』がシルバの手先なのは分かっていた、だが、だが…!!」

額から汗を滲ませると同時に、青い筋が浮かび上がる。


「何なんだあの化け物は……!!? 私が『五年』かけて作り上げたエクト村が誇る狙撃部隊、奇襲部隊を全滅だと!!」


2日前に村の入り口で会った赤髪の男に、栗毛色の髪の少女2人をホアキンは思い出した。

あの時からホアキンは感じていたのだ、『シルバ殺害』に向かわせた部下が死んだ報告の直後に現れた2人。

その『どちらかの異常な圧力』を感じていたのだ。

ホアキンは報告書の束を持つ青年に怒鳴る。


「ここまで順調に来れば後は想像がつく!! あの女は『チップ』を狙う筈だ、直ぐに部下を配置しろ!!」


247 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/20(木) 20:28:42.28 ID:DNfpLkZQ0



━━━━━━ テントの外から差し込む太陽光が彼女達を眠りから起こす。



「……ふぁぁ…おはよフィーアちゃん…」

「んぅ…もうちょっとだけ……」

眠そうに寝袋に潜り、シルバの服の端を掴んだ。


シルバは(この娘は朝弱いなー)と少し呆れて笑う。

そんな事をしていると、急にテントから差し込んでいた光が消えた。

「?」

入り口を見る。


「……フィーアが寝ている間に話したい」


赤髪を揺らしながらクロは言った。


248 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/20(木) 20:37:58.84 ID:1kyeCNWAo
最近更新が早くて嬉しい
がんばれ
249 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/20(木) 20:55:27.30 ID:DNfpLkZQ0


「どうかした?」

「昨夜エクト村の人間がここを襲撃した」


平然と、何も問題無いと言わんばかりに彼はシルバに報告する。

彼女は着ていたシャツをバイクに脱ぎ捨てながら、僅かに笑う。


「で、周囲に痕跡も無いって事は全滅させたんだ? つくづくアンタ凄いね」

新しい黒のシャツをテントの横に干されていた中から取り、それを着ようとする。

しかしクロの言葉がそれを止めた。



「復讐如きに付き合う気は無い、今日中に俺達は移動する」



250 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/20(木) 21:21:52.18 ID:DNfpLkZQ0


「……なんで復讐と思う訳?」

シャツを着ていない為、背を向けていた彼女がクロの方を向いた。

その目には明らかな怒りが滲んでいる。


「そう聞いて来た時点で核心か、易いな」

「………………」


今度こそシルバはシャツを着ると、バイクに腰かける。

「…村を守るには、アンタの力が必要なんだよ」

滲み出るように続ける。


「あの村は…あんな武器なんか作る所じゃなかった」

「でも、アタシの父さんと母さんが殺された時から……もうアタシの知ってる村じゃなくなった」


その言葉に含まれた足りない言葉と意味に、一体どれほどの押し殺された感情があるのか。

どれほどの過去があるのか。

251 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/20(木) 21:36:00.49 ID:DNfpLkZQ0


「『その通りだな、恐らくあの村はお前の知る村じゃない、なら何故無意味なヒーローの真似事をする?』」


突き刺さるような冷気を含んだ声に、シルバは拳を握り締める。

瞳の中にある感情が少しずつ変わって行く。


「それでも、アタシにはあの村を守る権利がある!! みすみすあの村を死なせたくない!!」

「修理が終わって無い武器はまだ沢山ある! アタシの依頼を断るなら、修理はしない!!」


「………」

叫ぶシルバを見て、クロは静かに目を閉じた。


(……この女が、このまま進めば……)

(…フィーアには『保護者』が必要だ、なら……)


そして、彼は目を開ける。



「今日は、どうすればいい?」



252 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/20(木) 21:36:38.36 ID:DNfpLkZQ0
落ちる
253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/21(金) 00:27:03.83 ID:JZstWFbdo

いつも楽しみにしてる
254 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/22(土) 14:07:01.05 ID:PEFePS2/0



……しばらくして、フィーアはクロに尋ねた。


「ここってどこなの? 何だか真っ白な所だけど…」

彼女は数十m続く白い通路を見て感想を述べた。

実に殺風景だと言いたいらしい。


「ここはエクト村の『門』の中よ、軍事研究所とも呼べるわね」

「…??」

シルバの言葉にフィーアはただ ? を浮かべるしかなかった。


すると、シルバは珍しくコートを脱いで特殊なスーツを着たクロに向かって言った。


「……巡回してる警備兵は多分武装してるけど、アンタなら『殺さず』に無力化できるでしょ?」

「ああ」


255 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/22(土) 14:26:15.68 ID:PEFePS2/0
さ、さっき投下した筈のものが消えている…というか投下出来てなかったのか
256 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/22(土) 14:42:56.93 ID:PEFePS2/0


━━━━━━ フィーア達は、エクト村の検問所から赤外線センサーを潜り抜けて門の内部に侵入していた。
(ここの部分が本来>>254になるはずだった冒頭内容)


その内部はエクト村を囲む門の形どおり、円形になっていた。

つまり一本しか無い通路なら、嫌でも巡回している警備兵と遭遇する危険があるのだ。


(……多分今戻ったとしても、監視カメラに映ったアタシに気づいて次回からは忍び込めない)

慎重に進みながらシルバの表情が険しくなる。


と、そんなシルバを余所にフィーアとクロは何やら緊張感の無い会話をしていた。




「……今気づいたけど、私が寝てる間に服を着替えさせたでしょ」

「ぐっすり寝ていたようだから起こさずに着替えさせたが?」


平淡として言うクロにフィーアはとりあえず「もう…」とだけ呻いた。

その様子を見て背後にいるシルバは溜め息を吐いてしまった。


257 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/22(土) 14:59:00.35 ID:PEFePS2/0


━━━━━━ とある部屋にいた青年はモニターを眺めていた。


青年は白衣を着ているが、外見だけなら爽やかで、比較的自分を主張しようとする気強い性格に見えた。

青年は少しツンツンした薄茶色の髪をワシャワシャと掻き毟ると、モニターに向かって言った。



「『ミーシャ』…!!」



青年が見ている巨大なモニターには23箇所の通路に設置された監視カメラ映像が映されていた。

その中央より左斜め下、第8通路の映像には赤髪黒コートの男に、栗毛色の少女、そして……


(この黒髪、瞳、輪郭……走り方の癖まで…!!)

青年の肩が震える。


(……ついに戻って来たのか、この村に復讐する為に…)


258 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/22(土) 15:08:04.72 ID:PEFePS2/0


━━━━━━ ウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥッッ!!!!


通路全体の電灯が落ち、耳を圧迫するような太いサイレンが鳴り響いた。

通路のどこかでは、 バシュゥッ と何かが開く音が聴こえて来た。


「しまった……どこかに監視カメラが!?」

「だとしたら大した技術だ、俺にも発見出来ないようなカメラだからな」

クロ達の足が止まる。


そこで、フィーアが2人に叫ぶ。

「後ろの方から足音がするよ!!」

指を差した方向から、 ガチャガチャザッザッ と音が響いている。


259 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/22(土) 15:17:03.68 ID:PEFePS2/0


「……シルバ、目的の場所はどこだ」

クロが暗闇の中、冷たい声で言った。


「あと少し先の地下通路に繋がる扉まで行ければ…警備兵もいないはず」

殆ど何も見えない通路の中彼女はフィーアの腕を掴みながら答える。


するとクロは幾つかの装備品を外して、コートを脱いだ。

彼は平然とシルバに近寄り、コートをフィーアと一緒に被せた。


「…暗視スコープぐらいなら誤魔化せる、警備兵と遭遇したらコートの右側にある携帯バリアを使え」

「あ、アンタは?」


クロは今まで来た通路の方へ歩きながら、

「少し行って来る」


260 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/22(土) 15:26:05.39 ID:PEFePS2/0




「な、なんだ…何故一発も当たらな……ぁぐ!?」



「………」

通路を逆走しながら、次々とクロは警備兵達を叩き伏せ、吹き飛ばし、関節を粉砕する。

殺さず、致命傷を負わせず、彼は警備兵達を再起不能にしていく。


狭い通路なら有利な数の暴力も、機関銃も意味を為さない。



「……ほう」

と、そこで彼は立ち止まった。

その暗闇を見る彼の藍色の瞳には、1人の人物が映る。


エクト村、現村長ホアキン・ジェラルド。



261 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/22(土) 15:39:38.58 ID:PEFePS2/0


「……全員速やかに退去、『問題は解決した』………?」

『そうだ、警備兵は速やかに【庭園】へ行け』


暗闇の中、数名の警備兵が一斉にオペレーターに指示をされる。

彼らは予想外といった声で内容を把握したと応答し、無線機をホルダーに差し込む。

直後に彼らは別の通路へと戻って行った。


「…どうやらクロが何かしたみたいね」

暗闇の中、突如声がする。


バサァッ と黒いコートを脱ぎ、その下からシルバとフィーアが出て来る。


262 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/22(土) 15:49:55.01 ID:PEFePS2/0


「クロは大丈夫かな…?」

フィーアが心配そうに呟く。

しかし内心ではそこまで危機感は感じていなかった、何故だろうか。


「まあ大丈夫でしょうね、他の街のハンターオフィスなら200000Gは出す筈の『白銀の虎』を仕留めた奴だしさ」

「さ、そこのハッチにパスワードキーを打ち込めば……」


少し暗闇の通路を歩くと、シルバはしゃがみ込んだ。

よく見ると紫の光が四角く漏れている箇所があった。

彼女はそこに手慣れた様子で数字とアルファベットのキーを打ち込み、ENTERを押す。


━━━━━━ ピー・・・ガシュンッ


263 :ツェぺリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/24(月) 18:37:46.08 ID:/8Vs6SYn0


ロックを開けたシルバはハッチの中へ即座に飛びこむ。


フィーアも少しだけ目を瞑って中へと体を投げ込む、どうやら少し高さがあるようだった。

彼女達は淡い紫を放つ地下へと落ちて行く…。




(……、え…凄く落ちてる時間が長いよ…?)




フィーアはそう額に汗を浮かべながら、小さく笑う。


正直笑うしかなかった。


264 :ツェぺリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/24(月) 18:51:25.78 ID:/8Vs6SYn0


━━━━━━ 【庭園】と呼ばれる、エクト村の村長ホアキンが作った地下の広大な『シェルターハウス』でクロは対峙していた。



そう、自ら姿を現したホアキンと。


20mある巨大なテーブルを挟み、彼らは一つのグラスに入ったワインを飲んでいる。

一見まるで優雅にワインを楽しんでいるようにも見えるが、実際はまるで異質な空間になっていた。


何故なら、総勢50名の傭兵に囲まれていたからだ。



ホアキンは小さくワインを味わうと、純白のテーブルにグラスを置いた。

親しみを覚えやすい笑みを浮かべ、彼は言う。


「どうです? 中々良いワインでしょう、貴方の為に用意させたのですよ」


しかし、その眼光にはまるで油断が無い。

265 :ツェぺリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/24(月) 18:59:44.77 ID:/8Vs6SYn0

「…用が無いなら俺はここを出るが……」

「いえいえ、どうやら遠回し過ぎたようですね申し訳ない」


ホアキンは更にワインを小さく飲み、再び置く。


「私達、エクト村の為に雇われてくれませんかね?」

笑顔。


刻まれた皺が引き延ばされる程、彼は笑顔を作り上げる。

クロの瞳は手に持つワインに時折広がる波紋を映す。


彼は静かに言う。

「雇われる気は無い、ここに留まる気も無いからだ」

「…もし、何か勘違いしているなら言った方が良いだろうな?」


その一言にホアキンは眉を潜めた。


266 :ツェぺリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/24(月) 19:07:05.40 ID:/8Vs6SYn0


「勘違い、とは?」

笑顔は消さず、ただ尋ねた。


と、そこでクロは手に持っていたワインを飲みほした。

コンッ というグラスがテーブルに置かれる音が静かな広間に響き渡る。





「俺はあのシルバの味方をしている訳じゃない、そういうことだ」





━━━━ ズンッッ!! と、一瞬にして広間の空気が変わる。


室内の電灯は白なのに、まるで薄暗い灰色に変わったような、そんな『色』が変わったのだ。

周りを囲む傭兵達の全身から不気味な汗が噴き出す。


267 :ツェぺリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/24(月) 19:07:34.42 ID:/8Vs6SYn0


「勘違い、とは?」

笑顔は消さず、ただ尋ねた。


と、そこでクロは手に持っていたワインを飲みほした。

コンッ というグラスがテーブルに置かれる音が静かな広間に響き渡る。





「俺はあのシルバの味方をしている訳じゃない、そういうことだ」





━━━━ ズンッッ!! と、一瞬にして広間の空気が変わる。


室内の電灯は白なのに、まるで薄暗い灰色に変わったような、そんな『色』が変わったのだ。

周りを囲む傭兵達の全身から不気味な汗が噴き出す。


268 :ツェぺリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/24(月) 19:16:50.42 ID:/8Vs6SYn0


(…なんだ、あの男は……!!?)


28名が機関銃、22名が白兵戦、またグレネードランチャーを装備しているにも拘らず。

誰1人として、自身の身が安全だとは思えなかった。

何を装備していようと裸同然だった。


「…なら、貴方は一体何者なんです? 私達の味方なのですか?」

ホアキンは、震えそうになる手を押し殺して引き攣った笑顔を繕う。


すると、クロの赤髪が揺れた。

カタンッ、と彼は席を立ったのだ。

周りにいた傭兵達が一瞬銃を構えそうになる。


「……ふ」

笑う。


そして彼はホアキンに背を向けたまま言ったのだ。


269 :ツェぺリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/24(月) 19:18:11.17 ID:/8Vs6SYn0












━━━━━━ 「  それを決めるのは、お前達次第だ  」 ━━━━━━











270 :ツェぺリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/24(月) 19:28:10.47 ID:/8Vs6SYn0



・・・・・・・・・。



彼が部屋を出たその瞬間まで、全員が動けなかった。

蛇に睨まれた、などという易い物ではなく、『死』そのものが全身に絡みついている感覚だったのだ。


そして、傭兵の1人がホアキンに尋ねた。


「…捕えなくて良いのですか」

その言葉にホアキンは首を振りながら、


「……あのワインには、大抵のモンスターは殺せる猛毒が入れてあったんだ…」

手が痙攣したかのように震える中、彼は言う。



「あんな、あんな化け物を敵に回すぐらいなら…私は自分で自分の眉間に銃弾をぶち込むさ」



271 :ツェぺリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/24(月) 19:28:43.04 ID:/8Vs6SYn0



・・・・・・・・・。



彼が部屋を出たその瞬間まで、全員が動けなかった。

蛇に睨まれた、などという易い物ではなく、『死』そのものが全身に絡みついている感覚だったのだ。


そして、傭兵の1人がホアキンに尋ねた。


「…捕えなくて良いのですか」

その言葉にホアキンは首を振りながら、


「……あのワインには、大抵のモンスターは殺せる猛毒が入れてあったんだ…」

手が痙攣したかのように震える中、彼は言う。



「あんな、あんな化け物を敵に回すぐらいなら…私は自分で自分の眉間に銃弾をぶち込むさ」



272 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/24(月) 19:29:13.24 ID:lG08TgYeo
惚れた
273 :ツェぺリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/24(月) 19:29:20.04 ID:/8Vs6SYn0
おちる
274 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2011/10/24(月) 20:18:54.98 ID:icQUQ2eMo
うわつまんね
275 :ツェぺリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/25(火) 17:33:52.56 ID:0jKYdXi10
福岡が、福岡がやっと俺のスレに…リアルに来たー!!

276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/25(火) 21:18:01.36 ID:2DXespF9o
おめでとう!!
277 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/10/25(火) 23:09:02.28 ID:3KBeBRZdo
福岡が来てくれればもう安心だな
278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/26(水) 01:42:23.88 ID:YRT9i+Pfo
もっといい人間武器でもいいのに何故ショットガン?と思ってたがようやく気づいた
あの人へのオマージュか
最終的にはSMGグレネードだったけど
279 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/26(水) 19:18:51.09 ID:DQLislfR0
>>278
本スレでのクロが持つ『ショットガン』は、オリジナルの性能となっています
MM3での性能で例えるなら『マグナムガデス』の一撃の威力です

・・・一応、MM3とは関係無い物語ですけどね、多分(よくてMM3から70年後の世界ですかね)
280 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/26(水) 19:30:28.09 ID:DQLislfR0


━━━━━━ カツンッ、という妙に響く足音が惑ろみの意識から醒めさせる。


「……ん、━━━━!!?」

「しっ、静かにして」


と、彼女が欠伸をしようとした瞬間に突如背後から手が出てきた。

白い手は彼女の口を塞いでから小さく話しかけて来る。


「…さっき落ちた衝撃で、フィーアちゃんと私は気絶してたみたいなの、そしたら……」

と、黒髪を揺らしながらフィーアの横から顔を出す。

シルバだった。


「……最悪なことに、待ち構えてた警備兵に見つかったみたい」

「むうー?」


口を塞がれているせいで、上手く話せない。


281 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/26(水) 19:37:19.46 ID:DQLislfR0


「?」


ゆっくり、シルバはフィーアから手を離した。

すると彼女は少し怪我がないか体を見まわして、シルバの目を見た。


「警備兵…は、ここにはいないんじゃないの?」

そして嫌そうな顔をして言う。


確かに、シルバは地下には警備兵がいないと言っていた。

しかし彼女達は薄暗い清掃用具入れに隠れている時点で、どうやら違うらしい。

シルバは首を振る。


「読まれてた、としか言えないかな…ごめんねフィーアちゃん」

「・・・」


282 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/26(水) 19:47:45.02 ID:DQLislfR0


直後、フィーアの口から一言だけ聞こえた。


「…え?」



思わず口が開いた。

シルバの聞いた言葉は、それだけ『信じ難かった』。


「だから、多分適当に行けばクロが来てくれるよ」

そう言って、彼女は用具入れの扉を開けた。


近くに警備兵がいるかもしれないのに、だ。

その躊躇いの無い行動には彼女なりの芯があった。


「……」


シルバは静かに笑うと、腰から拳銃を引き抜く。

しかしセーフティは外さず、フィーアの後に続いた。


283 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/26(水) 20:02:18.29 ID:DQLislfR0


━━━━━━ 彼女達からたった30m離れた、別のフロア。


薄茶色の髪を掻き上げ、1人の青年が監視モニターに囲まれた部屋を出た。


「おい、何をしてる?」

部屋を出ると、左右横にいる2人の警備兵が気づく。

通常では部屋を出てはならない青年を、彼らは威圧する。




しかし、青年の瞳は灰色に染まっていた。






284 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/26(水) 20:10:40.13 ID:DQLislfR0


━━━━━━ カチャンッ


「あ?」

突如響いた物音、そして視界の端に映った物体に警備兵は視線を動かした。

そこにあったのは注射器。

針先からは青緑色の液体が僅かに漏れている。


「おい、何だあれは」

「……」

答えず。



直後、警備兵の体が股間から脳天にかけて何かが貫いた。



「・・・!!!????」

ヘルメットに飛び散った肉片に警備兵の目が見開かれる。




そして。



285 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/26(水) 20:21:08.85 ID:DQLislfR0


「…結局、誰にも遭遇しなかったね♪」

フィーアはそう言ってシルバの隣に立つ。


シルバは「そうね…?」と、如何にも不可解と言った感じで首を傾げる。

そんな彼女、今はある扉のロックを解除しようとしていた。

数種あるカードキーを何度も通し、パスワードキーを瞬時に打ち込む。


カタカタ、タンッ と彼女はキーを打つと、太股に着いているホルダーからUSBカードをモニターの横にある差し込み口に突き刺す。



_________ ピッ



赤になっていたランプが、蒼に切り替わる。


286 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/26(水) 20:30:24.78 ID:DQLislfR0


「さ、中に入って」

「うん…?」

フィーアは「一体どうやって動いてるのかな?」と思いながらも扉の中へと入った。


真っ白に塗りつぶされた空間の中には、凄まじい数の映像が映っている。

しかしそのどれもが、あまりにも古い映像だった。

まるで、『旧式』のテレビのような、色褪せたものだ。


だが、

シルバは部屋に入って数歩歩くと、 スッ と手でフィーアを制止した。


その視線の先には、1人の青年が立っていた。

まるで、待ち構えていたかのように。


「……どうして、アンタが…!」

「・・・」


287 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/26(水) 20:39:35.27 ID:DQLislfR0

「?…??」

フィーアは2人の顔を見比べる。


薄茶色の髪に、白衣を着た青年の顔は、何か特殊な感情がある。

そしてシルバにも、瞳を隠そうとする黒髪の中からはやはり不自然なものがあった。



「おかえり、ミ―シャ」

「……ひさしぶり…」


直後。




「本当に、本当に待っててくれてたんだ『セラ』…!!」




まるで別人のような声音を出したシルバが、セラと呼ばれた青年に飛びついた。

288 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/26(水) 20:40:11.27 ID:DQLislfR0
落ちる
289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/27(木) 01:15:43.31 ID:Wo37rtJNo
290 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/27(木) 08:10:51.42 ID:3cAY58fpo

思惑が入り乱れてて油断ならんな

>>279
なるほど了解
ドラムカンが爺さんだしな
291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/27(木) 08:11:39.28 ID:3cAY58fpo

思惑が入り乱れてて油断ならんな

>>279
なるほど了解
ドラムカンが爺さんだしな(同一人物とは限らんけど)
292 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/27(木) 17:38:09.08 ID:J7ZPP00U0


「……ふぇ? えっ?」


あまりの光景に、フィーアの方が戸惑う。

明らかに2人の姿はまるで、

(こ、恋人さん…!?)

と何故かフィーアが頬を赤くする。

その戸惑いながら頬を染めるフィーアに気付いたセラは、シルバの肩越しに言う。


「あぁ、ごめんよ…君はミ―シャのお友達なのかな」

「え、あ……みーしゃ?」


フィーアの首が傾く。


293 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/27(木) 17:54:59.85 ID:J7ZPP00U0


「…そのことで、アタシはアンタに話さないといけないの」

と、一度セラから離れるとシルバは瞳を合わせる。

先程の一瞬見せた甘い瞳ではなく、刃物のような眼光を走らせて。


「アタシは、ミ―シャじゃない…エクトの村を取り戻すまでは『silver』が、アタシの名前よ」


彼女は、初めてその目的と決意を、フィーアとセラに見せた。



一体彼女が何をしようとしているかはフィーアにはわからない。

その一方で、セラという青年は分かっていたようだった。


「……チップなら確保してある、まずは脱出しよう」


まるでそのシルバがしようとしていることが、最も望んでいなかった結果のようでもあった。


(…なんか、私には何も分からないや…)



しかし幻想で生きるフィーアには関係は無かった。


294 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/27(木) 18:04:52.37 ID:J7ZPP00U0


「これが…」


セラが手渡した小さな四角い板に、シルバはその表情を曇らせる。

掌に乗るそれは、とても小さかった。


「チップを使用できる機器はあるのかい?」

「無いわ、でもこれさえあればいいの」


ギュッ、と彼女はデータチップを握りしめる。




「2日で専用の機器は作って見せるから……!!」



295 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/27(木) 18:15:34.45 ID:J7ZPP00U0


「・・・」

しばらく、寂しそうにセラはそのシルバを見ていたが。


━━━━━━ ビィイイイイ!!! ビィイイイイ!!!!


耳を劈くような音が鳴った。

それが意味するのは、

「見つかった…!!」

セラの体が即座に動いた。


奥にある幾つかの機械に小さな機器をケーブルで繋ぐと、瞬時に特殊コードを打ち込む。


「・・・ダメだ、完全に外部からのハッキングが出来なくなってる」

「嘘でしょ…この地下からも出られないじゃない!?」


296 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/27(木) 18:27:40.44 ID:J7ZPP00U0

「……ね、誰か来てるよ」

フィーアが動揺する2人に告げる。


「追撃班だ、警備兵の装備とは訳が違う!!」

繋いでいたケーブルを外しながらセラが咆哮する。

その額に浮かぶ汗は、明らかに追い詰められている雰囲気を出していた。


だがそこで1つの声が響き渡った。




「大丈夫、私がなんとかできるよ♪」



その声は、酷く『明るく』、『無邪気』で、『無知』に聞こえた。

それ程にフィーアは場違いな声だったのだ。


しかし現在のシルバ達には打つ手は無い。

セラとシルバは顔を見合わせ、問う。


「…どうするつもり?」


フィーアは笑って答えた。

自慢話をするような子供のように、その大人びた少女のような見た目とは全くの逆で。



297 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/27(木) 18:42:12.14 ID:J7ZPP00U0


━━━━━━ 『敵は3名、1人は薬品によるドーピングが可能』

━━━━━━ 『また、最重要殲滅ターゲットは拳銃を所持している可能性が高い』

━━━━━━ 『赤外線金属探知センサーの演算結果では支給された防弾は無効されるとのこと、注意せよ』



……赤い警告ランプが狭い地下通路を満たす中、12名の追撃用に雇われた傭兵達がオペレーターの言葉を記憶していた。

一字一句、例え短い指示であっても、オペレーターの声音でどれだけの戦力かを思考する。

ハンターという職業とは違う、『対人』のプロだからこその準備だった。


「…ここからは先にターゲットを撃破した者勝ちだ、だが同士撃ちはするなよ」


先頭に立つ日本刀らしき刃物を背負った傭兵が言った。

それを静かに頷いた他の傭兵は続けて、

「なら急ぐぞ、敵は追い詰められている…時間を与えては反撃される可能性がある」


298 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/27(木) 18:53:52.08 ID:J7ZPP00U0

それぞれが経験から得た、『人間を殺す武器』を構える。

その姿は赤いランプのせいか、殺し屋のようにも見えた。

先頭に立つ男は静かに刀を抜く。





━━━━━━ 「……行くぞ、楽しい楽しい殺しの時間だ」




残虐極まりない笑みを浮かべ、男を筆頭に傭兵達は全力で走りだす。


最も先に『シルバ』というターゲットを殺害した者が賞金を手にするからとは思えない程だ。

人間を殺す事に長けた者達が迫る中、通路の先にある『保管室』からは何の抵抗もなかった。



299 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/27(木) 19:01:56.71 ID:J7ZPP00U0


━━━━━━ ゴバアアアアアッッ!!!!


爆音と同時、衝撃波が分厚い鉄の扉を破った。

更にその爆炎を掻き消すように続々と傭兵達は中へと入っていく。

そして、一斉に武器を構えた男達は止まった。


「………」


部屋の中にいたのは衣服を淫らに切り裂かれた少女が1人、震えていたからだ。

立ち尽くす少女の体は、わなわなと震え、そして両手は後ろに縛られている。


(……なに?)


僅かに、傭兵の1人が眉を潜めた。

これは明らかに部外者なのではないか、人質なのではないか、という考えが過ぎる。


300 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/27(木) 19:07:53.60 ID:J7ZPP00U0


「……い、嫌…」

「!」


そこで、傭兵達は冷静さを取り戻した。

もしかしたらこの栗毛色の少女は敵の3名のうちの仲間で、仲間割れで利用された可能性があった。

1人の傭兵がオペレーターの指示を仰ぐ中、彼らは周囲を見渡す。


(コイツを囮に、逃げたか?)


幾つかの電子掲示板の裏をそれぞれが確認して行く。


残り2つの掲示板を確認しようと刀を持った傭兵は近づく。

そこで、ある異変が起きた。


301 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/27(木) 19:15:26.55 ID:J7ZPP00U0


「ぐ、ぬうううううううう!!??」


ドシャッ、という音が他の傭兵に響く。

赤い警告ランプで分かり難いが、その傭兵が抑える肩からは少なくない量の血が流れている。

それが意味するのは、


「「「 『( 狙撃!? )』 」」」


バッ、とそれぞれが周囲を見る。

敵は近くに居る筈なのだ。


だが。

━━━━━━ ギィンッ!!



「ごぅァ…!?」


302 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/27(木) 19:27:36.50 ID:J7ZPP00U0


弾かれたように火花が天井で散った直後、傭兵が1人回転しながら倒れた。


やはり撃たれたのは右肩の関節、それもかなりの正確さがある狙いで。

傭兵達の背筋が初めて寒くなる。


(天…じょう? 馬鹿な、何が起きて……)

刀を一度振り、背中の鞘へ納めようとする。


瞬間、


━━━━━━ バギュンッッ!!


振った直後の刀の柄に火花が散り、手の中から刀が吹っ飛んだ。



「__________……!!!!!」



303 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/27(木) 19:38:02.97 ID:J7ZPP00U0


刀が吹っ飛んだ傭兵は見た。


衣服をボロボロにされ、両手を後ろに縛られ、体を震わせている少女。

その『後ろに縛られた手』の中に、大型のハンドガンが握られているのを。


「その女を殺せぇぇえええええええええええ!!!!」


予備の小さな拳銃を足首から引き抜いた傭兵が叫ぶ。

その声は決して広くない部屋に轟いた。

それぞれの視線が部屋の中央に立つ少女に向けられた。



━━━━━━ 『スキル:天賦の才』 ━━━━━━ 



少女は瞬時に縛られた手の中にあるハンドガンの銃口を、『僅かに向きを調節して壁に向けた』。


━━━━━━    『跳弾』    ━━━━━━ 



消音用に改造されたハンドガンが、沈黙の火を連続して噴く。


304 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/10/27(木) 19:55:59.88 ID:J7ZPP00U0
落ちる
305 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/27(木) 20:05:03.79 ID:Wo37rtJNo
306 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/11/01(火) 18:42:43.16 ID:GjEIZ2zN0


同時、射撃された銃弾と同じ数の傭兵7人が一斉に吹き飛ばされた。


彼等に共通するのは右肩。

フィーアの『跳弾』によって正確に貫かれたのだ。

何より、彼女に『銃』の類を向けていたからこそ狙われたのだろう。


そして12人いた傭兵達の中で唯一、『左利き』だった傭兵は電子掲示板の陰に飛び込んでいた。


(ズゥッ!!……なんだ、あの女は…『ハンター』なのか!?)

撃ち抜かれた右肩から出る血を抑えながら、彼は部屋の中央に立つ少女を見た。


━━━━━━ 切り裂かれた衣服の隙間から見える肢体。

━━━━━━ 長い間監禁されていたのではと思う程に白い柔肌。

━━━━━━ サラサラした美しい長髪。





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307 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/11/01(火) 18:55:41.34 ID:GjEIZ2zN0



(………………)


とても人間の力では勝てない『モンスター』達と戦うハンターには見えない。

見える筈が無い。


(だが、間違いなく拳銃の反動に耐えて…超精密な射撃をしている……)


だが、傭兵は分かっている。

『跳弾』などというただでさえ高度な技に加え、特殊合金の防弾シールを貫く大型拳銃だ。

反動もそうだが、まずそれだけの高威力で『跳弾』は不可能なのだ。

ましてや『一点集中』で射撃。


(…射撃が始まったのは、俺が奥の掲示板の陰を調べようとした時だ)


他の傭兵達が次々と右肩以外に足などを撃たれている間に、左利きの傭兵は吹き飛ばされた刀を取る。

片腕あれば、狙撃手は両断出来る。


(……甘かったな、ここで幕引きだ!!)




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308 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/11/01(火) 19:19:55.13 ID:GjEIZ2zN0


彼は即座にフィーアの死角となる位置を移動し、最奥の掲示板の近くへと隠れた。

同時に、相手が高度な技を持った狙撃手なのを懸念して掲示板の陰からも死角となる位置を選ぶ。

その間、僅か15秒だ。

多量の出血に意識が薄れる中、傭兵は左手にある刀を握り締める。


(殺れる)

経験上から導き出した答え。


(…狙撃手の射撃速度からして、俺に致命傷となる位置へ銃口を向けて引き金を引くよりも、俺の両断の方が速い)

(それは絶対だ…間違いない)


傭兵の口端に勝利を悟った笑みが浮かぶ。




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309 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/11/01(火) 19:29:59.21 ID:GjEIZ2zN0


━━━━━━ ギャギュッッ!!


傭兵は瞬時にその身を回転させ、最後の掲示板の奥へと踏み込んだ。

そして同時に、彼は回転による推進力で刀を振るった。

ブーツが白い鉄板の床に擦れる。


(最重要ターゲットの女に男、ビンゴッ━━━━!!!)

身を投じた瞬間に左右にある掲示板の陰に隠れる男女を傭兵は見つける。


狙うは首筋。

瞬殺でターゲットを確実に葬る。


「シャ━━━━━━ッッ!!!!」

━━━━━━ ヒュィンッッという風切り音。




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310 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/11/01(火) 19:38:00.59 ID:GjEIZ2zN0


肩が バギンッ と奇妙な音を出す程の勢いで彼は刃を一閃させた。

手応えを感じる事さえ無い程にだ。



そう、手応えを感じる事すら無かった。



━━━━━━ ズゴンッ


「………かっ?」

突如、傭兵の体が宙に浮いた。

原因は背後からの射撃。


背骨を掠ったのか、表現しようのない激痛と痙攣が襲う。



「……少し驚いたけど、残念だったわね」





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311 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/11/01(火) 19:47:57.47 ID:GjEIZ2zN0


「〜〜〜〜ッ、ッっぅあ”がぁッッ!!?」

「大方、『あの娘』の方が囮で狙撃手はアタシだと思ったんでしょ?」


ガクガクと床に顔を擦りつけながら震える傭兵に、淡々とした女の声が聴こえて来る。

手にあった刀は、シルバを葬ってなどいなかったのか。

意識が途絶えそうになる傭兵は知らない。


掲示板へと踏み込んだ時に鳴ったブーツの音。

その瞬間にフィーアの『跳弾』が刀身を柄の根元で折っていたのだ。



「……アンタ達傭兵には同情なんかしない、アタシは村を救う為ならアンタ達を殺せる」

「〜〜〜〜ッ・・・」



傭兵の意識は途絶える。

特に悪でも善でも無い彼はその人生を一発の銃弾で壊された。




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312 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/11/01(火) 19:51:14.77 ID:GjEIZ2zN0
落ちる

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313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/01(火) 20:09:38.45 ID:3UazklGZo
ぅ乙!

サーバを移転しました@荒巻 旧サーバ:http://vs302.vip2ch.com/
314 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/11/04(金) 18:58:32.10 ID:b/I28a1U0


━━━━━━ 「…凄いな」


シルバと共に隠れていたセラという青年は、床に転がる機関銃や拳銃などを部屋の端に蹴りながら言った。

それも絞り出すように、純粋に不思議といった感覚で。

彼はプロの戦闘員では無い。

しかしそんな彼でさえ分かるのだ、フィーアがどれだけの『異常』な存在なのかが。


(……なかなか面白い友達を連れて来たね、ミーシャ)

チラリと、彼は部屋の出入り口を見張る黒髪の女を見る。



(新しい追撃班が来ない…となると、諦めたか替えが無いか……『別の場所』に割いているか、かしらね)


大型拳銃を両手で静かに構えたまま、彼女は少しでも冷静に思考する。

フィーアの戦闘術に『欠陥』があった以上、もう敵に追い詰められる状況にはなれないからだ。


315 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/11/04(金) 19:13:02.52 ID:b/I28a1U0


恐らく12人の傭兵達の中では、最も実力があったと思える『刀の傭兵』。

シルバとフィーアの戦術によって彼は見事に攻める相手を間違えた訳だが、あるダメージを与えたのだ。


そう、彼にトドメを刺したフィーアにだ。


そのフィーアは、現在は襲い来る吐き気と凄まじい震えによってシルバの足元で座り込んでいた。

彼女は元々、傭兵達を殺す気は一切無かった。

戦闘不能……つまり『右肩や手足』を撃って、誰も死なない状況にしたかったのだ。

しかし彼女は最後の最後で突如シルバに襲い掛かった『刀の傭兵』を殺してしまった。


(……どう…しよう……)

グラグラ揺れる意識の中、フィーアはポツリと呟いた。


「……辛そうだから、アタシがおぶってあげるよ…時間が無い、急いで逃げないといけないんだ」


どんな過去があるかは知らないが、シルバは急ぐ。

この状態でいても状況は悪化すると彼女は考えたのだ。

316 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/11/04(金) 19:26:21.39 ID:b/I28a1U0


━━━━━━ 警報のランプが消え、再び紫の蛍光灯が照らす通路の中を走る。


「この先にある警備兵用のエレベーターで村の東側に出られる! そこまで逃げ切れば大丈夫だ!」

フィーアを背負って走るシルバと併走しながらセラは言う。


大分息が上がって来ているのか、シルバはただ首を振って頷いた。


(結構鍛えてたのにな…フィーアちゃんが重い訳じゃないけど…!)


「……っ、あの角を曲がった所がエレベーターだ!!」

「っ…ッ! 了、解……」


それでもやはり、基礎的な体力以上に消耗していたのだろう。

シルバの額にはダラダラと汗が流れていた。


走った距離は500m程度だったが。


317 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/11/04(金) 19:35:38.36 ID:b/I28a1U0



━━━━━━ ガゴォン・・・ゴォ・・・


僅かに揺れた後、足元から頭にかけて奇妙な感覚がシルバ達はした。

エレベーターが上に上がっているからだ。


「…とりあえず、逃げ切れそうだ」

セラが ホッ と、狭いエレベーター内の壁に背を預ける。

隣でフィーアを背負うシルバも同じように座り込んだ。


「後少しで、クロと合流出来るからねフィーアちゃん」

背中で吐き気を堪えるフィーアに、シルバは適当に安心させようと言った。


しかし意外にもその言葉で。


「……うん、頑張る」


見た目よりも幼い返事が返って来た。


(なんじゃそりゃ……)

318 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/11/04(金) 19:46:36.41 ID:b/I28a1U0




「……『標的』、報告通りエクト村東側エレベーターから出て来たのを確認した」

『ガガッ……ら、通常通り…ッ…標的を狙撃せよ』


エクト村の東側……というより、エクト村を囲む巨大な『門』の上で、数十人の傭兵で構成された狙撃班が構える。

電波が悪いのか、ノイズが混じる無線機の指示よりも早く、彼等は引き金に指を乗せた。

スコープの先には2人の男女と、背負われる少女がいる。


(監視班によれば、脅威となる『赤髪のハンター』は村の外へ出た筈)

(ならば、『silver』を狙撃するのは容易い)




319 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/11/04(金) 19:50:15.88 ID:b/I28a1U0
…短いが、落ちる

夜中にも2レスくらい書くが、満足できんかもしれん
そんなあなたにオススメ、火曜日の7時
320 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/06(日) 23:02:06.88 ID:rRt1dNIpo
火曜待ちだな
321 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/10(木) 00:13:00.94 ID:k5YORqNX0
こないじゃないか……
322 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/10(木) 00:15:32.25 ID:omjBMymPo
来週の火曜かも知れんじゃないか
323 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/16(水) 22:07:00.78 ID:zE1SBtzk0
こないじゃないか……
324 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/17(木) 01:11:25.53 ID:ZAP66I5Jo
お、おかしいな・・・

次だ、次の火曜じゃないか!?
325 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [sage]:2011/11/17(木) 21:19:23.92 ID:td2+ERjg0
まことに申し訳ありませんでしたあああああ

とある事じょうでいそがしかったため、放置してました!!

明日の午後に投下します!!!!

すみませんでしたァッ!!
326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/17(木) 23:44:31.99 ID:ZAP66I5Jo
無事ならいいんだ!

そして書いてくれるならいいんだ!
327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長崎県) [sage]:2011/11/17(木) 23:44:59.62 ID:Tveevc3Jo
来た来た、待ってるぜ!
328 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/11/18(金) 18:13:43.35 ID:o75MPTE90


(………?)

引き金に指を乗せ照準を合わせている中、1人の傭兵が疑問符を浮かべた。


(……何をしている…)


彼が覗くスコープの先。

そこには狙撃班達に背を向けるように立つ白衣を着た青年がいる。

少女を背負うターゲット達を先に行かせ、青年だけは立ち止まっていたのだ。


「a-7、こちらの対象が不審な行動をしているが狙撃しても構わないか?」

暗号と共に、彼は他の傭兵達に確認を取ろうとする。


329 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/11/18(金) 18:23:05.73 ID:o75MPTE90


本来ならその問いには全員が適当に返事をする。

何故なら最初から狙撃は行っても構わないからだ。

つまり、この傭兵はとても心配性の部類なのだろう、エクト村に派遣された時から彼はそうだったのだから。


━━━━━━ しかし他の傭兵達からの応答を彼が聞く事は無い。


「……なっ、なんだあ ゲェァッ」


『どうした、何かあっ ガガッ のか?』

━━━━━━ ゴチュッ

『おい、今の音はなんだガガッ』


突如無線を伝って響く音に、傭兵達が不審に思う。

そして彼等はそのスコープの先を『肉眼で』見て、即座に冷静さは消え失せる。

330 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/11/18(金) 18:37:39.98 ID:o75MPTE90


━━━━━━ 白衣の青年の腕から伸びるグロテスクな触手。


━━━━━━ 一目で即死と分かる、無惨な姿で『門』から落ちていく傭兵。


「全員撃てぇええええ!!」

勇敢な性分なのか、雄叫びのように傭兵が1人無線機に向かって言った。


一斉に傭兵達の銃口が火を噴いた。




━━━━━━ ゴスッ!! バシュッ!! バスバスバスッッ!!




(ぐぁ…ッ、づッ!! 『MR細胞』で傷は瞬速で塞がるけど…まるで動けない!!)


傍らに落ちている注射器が傭兵達の銃弾で粉砕される程の嵐の中、青年は激痛に追い詰められていく。

彼が意識を失うのにそう時間はかからなかった。


331 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/11/18(金) 18:57:11.39 ID:o75MPTE90


「っ…!! セラ大丈夫かな?」

シルバは息を切らしながら、少しずつ体調が良くなって来たフィーアに洩らした。

ほんの数分前セラは突然彼女達に、追撃してくる人間を引きつけるからと、後に残ったのだが。


(…アイツ、そんな事出来る程の度胸無い癖に……!)


昼時にも拘わらず人の気配が全く無い裏路地を走り抜ける。

フィーアを背負っているからか、既に鈍い痛みを訴える足首を無理矢理動かし、地に叩きつける。


少しでも安全な所へ行き脱出しなければならない。


(━━━━━━ !!)

そこで、彼女はようやく足を止めた。


332 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga sage]:2011/11/19(土) 18:06:48.30 ID:By/9K0zV0


「遅かったな」

サラサラしてるのに、柔らかそうなのに堅い質感の印象を与えて来る赤髪が揺れる。


裏路地の先にあった小さな広さの空間では、無数の傭兵達が気絶させられている。

そんな彼等の傍でクロはシルバとフィーアを待っていた。

静かな気配が風を伝ってシルバの汗で濡れた額にかかる。


「……そのままそこにいろ、フィーアを背負ったままな」

彼は僅かに瞳を疲労したフィーアに向けた後、その視線を横へ向ける。


その先にあるのは高く聳える『門』の壁なのだが。


333 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/11/21(月) 18:00:31.64 ID:iXpWSE4N0



━━━━━━ 直後、クロの姿がブレるのと同時に熱風と鈍い衝撃波が周囲に噴き出した。



(なに…これ!?)

フィーアを背負ったまま、思わず後ろに倒れそうになるシルバ。


周囲に吐き出された熱風からは焦げた臭い、衝撃波は砂塵を凄まじい風圧で吹き飛ばす。

鼻に鈍い刺激臭を与えてくる熱風が発生した先にいる、クロを彼女は見た。

ガチャンッ とクロの右手が握る黒い金属で造られた鞭が、黒い火花を散らしながら崩れ落ちた。

どうやらジョイントの要となっていた部品が幾つか砕け散ったらしい。


そう推測しながらも、シルバはクロに近づきながら

「『それ』、一応1200℃までなら耐える素材なんだけど…何したの?」


彼は煙を出す鞭をコートの中にしまいながら言う。


「……1200℃を軽く越える使い方をしただけだ、行くぞ」


そう言っている彼の背後にある高さ70m、『外』までの厚さ50mあった『門』の壁が爆音と共に崩れ落ちていく。

334 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/11/21(月) 18:12:19.15 ID:iXpWSE4N0



━━━━━━ 凄まじい揺れに、宿の灯火が消える。



特殊なゴーグルの調整をしていた、僅かに艶の無い赤髪の老人が窓の外を見る。

「…やるな、俺でもあそこまで分厚い壁は壊した事が無い」

「クゥン…」


足元で小さく鳴いたベージュ色の犬に、老人は手を優しく頭に置く。

口調だけは若い青年のような老人は犬の目を見ないで告げた。


「大丈夫さ、『アイツ』もフィーアに怪我させる事はしないだろう」


そして、少し撫でながら


(………いずれ、『アイツ』から話してくれるのを俺は待つしかないな)

静かな灯火のように優しい瞳をした老人は思考する。

彼の物語は既に終わっている故に、どうする事も出来ないのが分かっている。


335 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/11/21(月) 18:30:32.71 ID:iXpWSE4N0



━━━━━━ 赤く染まった空とは関係無く、ただただ光を拒絶する地下庭園。



「……随分厄介な事をしてくれたな、セラ研究員」

静寂…といっても、『どこかのハンター』とは違う、『他の人間の吐息しか聴こえない』静けさに包まれた中、エクト村の長は言う。

一語一語の1つずつに心底憎しみを持って。


「今回の作戦であの女さえ殺していれば…面倒な事態にはならなかった」

「貴様が、わざわざ『サンプル』を持ち出してまで妨害したせいで更に悪化を極めたがなッ!!」


ゴン! と鈍い衝撃が拘束されている薄茶色の髪をした青年、セラを襲った。


「づぁ……!!」


336 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/11/21(月) 18:41:48.83 ID:iXpWSE4N0


「このッ!! 屑の役立たずがぁっ!!」


傭兵にも支給されているような戦闘ブーツを履いた彼の蹴りが、何度もセラの脇腹を抉り、腕の関節を痛めつける。

ズボッ!! バスッ!! という服の上からの鈍い激痛が青年を行動不能にさせる。

村長ホアキンは暫く蹴り続けた後、セラの首を掴んで大型のテーブルに叩きつける。


「ぐ…がぁ!!」

「よく聞け……貴様が何を勘違いしてやったかは知らないがな…」

セラの額に自らの額を叩きつけ、零距離で睨みつけながら彼は言う。


「…あの女がやろうとしている事の意味を、教えてやる!!」


(……意味、だって…?)


337 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/11/21(月) 19:01:41.49 ID:iXpWSE4N0



━━━━━━ 赤く染まった空の下、更に紅く染まる髪が風に揺らされる。



「…調子はどうだ」

大型のテントの上で、並んで座っている栗毛色の少女に彼は問い掛ける。

ただし彼の声音は珍しく優しい。


「良くないよ、クロが迎えに来るのが遅いから…」

「少しは良くなったようで安心した」


軽く流すクロに僅かにフィーアがむっとする。

だが彼女は別に怒って無い、寧ろ彼女はそんな態度も取れるクロとの会話をただ楽しんでいた。

フィーアは少しクロに近づきながら、笑う。


「…『気持ち悪くなった』けど、今日は今日で楽しかったなー」


338 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/11/21(月) 19:14:00.67 ID:iXpWSE4N0


「………」


その言葉に、クロは静かに瞳を動かした。

恐らく『現実』を生きる人間からすれば、充分に異常と判断できる言葉。

人の死に対する価値観がズレて来ている。


「……シルバから聞いたが、俺の『跳弾』を真似たらしいな」

そこまで考えた彼は、そうフィーアに言った。

不思議と問い詰めたような感覚をさせずに。


「うん、クロみたいに『虎さんの体を一発の銃弾で何度も撃ち抜く』事は出来なかったけどね…」


まるで自分の性癖を話すかのように、僅かに頬を赤くしながらフィーアは答える。

可愛らしい恥ずかしさとは逆に、自分の言っている異常さに気づかず。


339 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/11/21(月) 19:33:29.81 ID:iXpWSE4N0


「……フィーア、お前はもう二度と俺が許した時以外は『真似』をするな」

「なんで?」



━━━━━━ ギュッ……



瞬間、いつの間にかフィーアの体はクロの腕の中にいた。

一瞬にして彼女を程良い深い眠りを誘う暖かさが包み込む。


「……く…ろ?」

たった一瞬で瞼に重さが乗せられ、フィーアの唇の動きすら重くなる。


「二度とするな、それだけ守れば……フィーアはこの暖かい世界にいられる」

「…………………………うん」


半ば気絶するようにフィーアはクロに抱かれたまま眠った。


340 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [sage]:2011/11/21(月) 19:48:07.08 ID:iXpWSE4N0
落ちる
341 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/22(火) 19:37:29.91 ID:P9GV49GDo
おつ
342 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 22:18:58.74 ID:UvJ7yXe70
ま、まだなのかぁ・・・
343 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [sagasage]:2011/12/11(日) 16:36:38.07 ID:NeGxIIDt0
長い間忙しく、放置してすみませんでした。

明日から再び再開します。
344 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/11(日) 17:38:35.56 ID:lf3hGLmqo
おっしゃ!!待ってる!
345 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/12/13(火) 16:23:13.74 ID:g4QaDIhv0


「……あのさ、もしかしてアンタって超能力でもあるの?」

背後からそっとした声がクロの肩を叩いた。


テントの入り口には片手に水の入ったペットボトルを持ったシルバがいる。

彼女は再びペットボトルの水を一口飲み、 チャプッ とした音を出しながら更に問いかける。


「それにアンタは今、嘘ついたでしょ?」

「……嘘か?」

「そう、嘘」


シルバがゆっくりフィーアを抱いたままのクロに近づきながら、

「『アタシはアンタに今日あった事を話していない』から」

と、僅かに悪戯な笑みを浮かべてクロの前で言った。


少し顔を動かせば鼻先が当たる程の距離で、だ。


346 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/12/13(火) 16:33:24.91 ID:g4QaDIhv0


「何が言いたいかさっぱりだな」

冷たい藍色の瞳をフィーアに動かし、シルバから視線を逸らした。

これを見たシルバはその変化に気づき。


「取引よ、アタシの友達を助ける為に手伝って貰う為にね」

「何故取引をする必要が?」

「間違いなく、確実に友達を助けるにはアンタを縛る何かが必要でしょ」

そう言って彼女はテントの入り口へ戻り、中にいるクロへ振り返らず言う。


「来て、聞かれたら困る話もあるだろしね」


「…………」

彼は思う。


少々面倒だ、と。


347 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/12/13(火) 16:54:17.43 ID:g4QaDIhv0



―――――― 夕闇が世界を包み込む中、二人は語る。



「アンタを少しでも揺さぶりたいけどさ、アタシにはどうしようも出来ない訳よ」

「何でかわかる?」

ほのかに赤みを帯びた黒髪を揺らし、彼女は真っ直ぐにクロを見る。

クロは静かに笑ってからそれに応えた。


「何も知らないからだろう」

「そう、何も知らないし分からない……だからアタシは推測…要は『勧』ね、それに頼ってみたの」


少し歩き、鉄らしい質感を持ったバイクに腰かける。


348 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/12/13(火) 17:04:08.29 ID:g4QaDIhv0


「仮説その1……アンタは最初からこの村を潰すつもりだった」

「……いきなり面白い妄想話が出て来たな」


更にシルバは指を二本立てながら続ける。


「仮説その2、フィーアの素性が周囲に知られたら大変な事になる」

「仮説その3、フィーアには知られてはいけない一面がアンタにはある」

「仮説その4……アンタは実はどこかの組織の1人、もしくは幹部とか」


「…………」

そこまで聞き、クロは静かにシルバに歩み寄る。

瞳は夕闇のせいか、読めない。


「全て外れ、全てお前の妄想でしかない」

「うわ、掠りもしないんだ」


349 :ツェペリ ◆G2/Yj5eh5U [saga]:2011/12/13(火) 17:16:48.58 ID:g4QaDIhv0


「……で、お前の言う仮説はダメだったがどうするんだ?」

「別に、ただアタシもまだ甘いから」


腰かけていたバイクのハンドルを彼女は握り締め、 カチッ という音を出す。

するとハンドルが少しだけスライドした。

中には黒光りするコインのような物があり、シルバはそれを二枚取り出した。


「仮説その4を示す『証拠』……ならどう? 嘘つき君」

チャラッとコインを手の中で鳴らした。


夕闇で通常なら見えないような状況でも、クロにはそのコインに描かれた紋章が見えた。


「……武器のどこかに着いていたか」

「そうね、この『カンパニー』を示すマークは色んな所に着いてたわ」


350 :ツェペリ ◆WslPJpzlnU [sagasage]:2011/12/26(月) 23:31:18.84 ID:NpjBzkgT0

シルバは続けた。

クロの表情や気配には全く動揺や反応は無い、だが彼女は逆に『それこそ』が彼の異変だと思った。

隠し通そうとしている、そして隠し通したから。


「アンタはフィーアだけじゃない、アタシや『アンタ自身』にも隠そうとしている」

「教えて貰いたいわね…アンタ程の人間が、一体何に怯えているのかを」


不敵に笑いかける。

その表情はクロに言っている。


「選択肢を奪ったつもりか……?」

故に、彼は笑った。


「なら約束、もしくは契約か? それを誓ってやろう」

「お前の友人とやらを助け出せなければ、フィーアを殺しても構わない」


シルバの背筋が凍った。

ほんの一瞬だけ彼女の脳裏に刃物のような、気持ちの悪い冷たさが這ったからだ。

351 :ツェペリ ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/01/01(日) 09:34:24.97 ID:c3qzXMGf0
明けましておめでとうございます。

このスレも早4ヶ月、それも皆様の応援のお陰です。

更新が遅かったり、急に途切れたりもしましょう、しかし安心して下さい。
私は必ず完結させるつもりなので、失踪エンドは無い筈です。

どうかこれからも宜しくお願いしまス。

352 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2012/01/01(日) 15:54:48.53 ID:LHQndWroo
あっちもこっちも応援してるぜ。今年はやる気らしいし
353 :以下、あけまして [sage]:2012/01/03(火) 18:28:18.94 ID:iYkYeLzDO
おめ
完結さえしてくれりゃそれでいい
楽しみに待ってる
354 :ツェペリ ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/01/05(木) 08:55:23.79 ID:siF+yv0C0


恐らくほぼ直感…のようなものだろう。

生物なら持ち合わせている『危機感』たる物が今、彼女の一手を止めた。

それが意味するのは警告だ。


「…ふふ、そこまで言うんだから間違いなくアタシの言う事は全部実行してくれるのよね?」


しかし彼女は下がることはしない。

元より、クロは初めから拒んだことなど無い、シルバが警戒すればする程彼は『不審』を気取っている感覚がするのだ。

ならば、今更遠回しに言う事は無い……ただ素直に言ってしまえば良いと思った。


その彼女の言葉に、クロは小さく頷き。



―――――― ポン、とクロはシルバの肩に手を置いた。


「・・・」


僅かにシルバの呼吸が止まる。

目の前にいたはずなのに、今はシルバを抱きしめられる程近くまで接近していた。


355 :ツェペリ ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/01/05(木) 09:07:42.02 ID:siF+yv0C0


「……『それ』を実行する前に、聞きたいな」

まるでクロの表情を隠すように陽の光が消えていく中、彼は優しく尋ねてきた。


それは何故か、甘い声に聞こえたかもしれないし、酷く冷たい声にも聞こえたかもしれない。

だがこの場にいるのはシルバとクロの二人だけ。


「何が…聞きたいの・・・?」


僅かに、少しずつ、確実に。

シルバの意識は水面の上を歩くかのような易しい、世界がゆったりと動いている感覚に塗りつぶされていく。

そんな彼女の黒髪をクロは撫でた……いや、もしかしたら舐めたのかもしれない、シルバはそう感じた。


「お前は、そうまでして救いたいのか? 本当にセラを助けたいのか?」

「そんなの・・・」

「違う筈だ、分かっているはずだ」


そんなことは無い。

そうシルバは叫ぼうとした、だが声は出ない。

まるで悪夢に囚われたように彼女の体は凄まじい疼きを覚えていく。


356 :ツェペリ ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/01/05(木) 09:18:56.14 ID:siF+yv0C0


(・・・この、かん…かく……は)


夜の闇が包み込んだ空間の中で、シルバの瞳も同じく闇の色に塗りつぶされる。

彼女は、その感覚で一瞬愛する青年の顔を思い出した。



直後。

目の前にその青年が立っていた。



「……♪」

手を伸ばす。


もう我慢することは無い、子供の時から彼女は青年に伝えたいことがあった。

言いたいことがあった。


「大好き…」


涙が、溢れているのに、拭えない…瞳を瞼で覆ったが最後彼は消えてしまう気がした。

彼女は手にあったコインを投げ捨てる。

あのコインが何だったのかすら思い出せない今、彼女はどうでもいいと思ったのだ。

シルバは青年の体を抱きしめ、愛撫し、自らの肉体を使って全ての『愛』を伝える。


本当に人間が住む世界なのかと疑う程の闇夜の中、異形の存在は少女と交わる。


357 :ツェペリ ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/01/05(木) 09:26:24.31 ID:siF+yv0C0



―――――― テントの入り口から洩れる赤き光に、フィーアは目を覚ます。



「うぅん、おはよー」

バサッ と、サバイバルテントの堅い布を捲る。


「あ、おはようフィーア」

「シルバさん、クロは?」


起きてすぐアイツの事か、と笑いながらもシルバは指を差す。

テントの上にいるよ、と言われたフィーアは即座にテントの上へ昇る。

丁度テントの中心の位置でクロは闇夜を眺めていた。


「気分はどうだ」


クロの問いかけに、フィーアは笑顔で応える。

そのやりとりはまるでいつもと変わっていなかった。

そう、何も変わらない。


358 :ツェペリ ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/01/05(木) 09:35:34.63 ID:siF+yv0C0




―――――― 【衛星からの映像報告より、bP0以上の者に緊急指令】 ――――――



―――――― 【先日、大規模な戦闘が『エクト』付近にて展開されたことが判明】 ――――――



―――――― 【映像中、『lost axらしき者の姿が確認された】 ――――――



―――――― 【『エクト』に最も近い者は迅速にその実態を確認し、武力による抹殺を実行せよ】 ――――――



359 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/06(金) 10:15:03.89 ID:BprcQGODO
360 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/18(水) 18:43:17.42 ID:rQLsOvsDO
まだかな
361 :ツェペリ ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/01/25(水) 18:20:40.16 ID:gCzR00cr0



―――――― 既に凄まじい1日の夜は明け、陽が昇り始めた頃。

赤髪を風に乗せるように揺らしながら、クロはエクト村内を歩いている。

門は先日、彼が一部に風穴を開けているのでセキュリティを通る必要は無い。

故に彼はこの数日の中では最も自由だった。



クロが向かっているのはある場所だ。


2日前に、彼が念の為に雇ったドラムカン・スミスという老人のハンターに報酬金を渡す。

そしてそこでクロは何かしらの事が起きると予測はしていた。

例えば・・・


「……ハンターズオフィスで、ハンター達が襲って来るとか……な」



362 :ツェペリ ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/01/25(水) 18:30:30.12 ID:gCzR00cr0


そう呟きながら、クロはハンターズオフィスの扉に手を伸ばした。

だが彼は手を止める。

珍しくも彼の表情は曇っていた。


「……?」


不測は『絶対に』無いと思っていた彼は、『有り得る』要素全てに対応する為にフィーアを置いて来た。

どんな時でも間違いなく……『理由はなくとも』近くに置いておく彼が、だ。

なのに、まさに不測の事態が起きていた。



いや、起きた後だった。



―――――― ・・・ギィ・・


先日は滑らかに開いた扉が、異様な音を出した。

363 :ツェペリ ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/01/25(水) 18:43:38.12 ID:gCzR00cr0



―――――― 惨状。



(・・・あの時いた人数より多いな、村にいたハンター全員集まったのか)

扉近くに溜まる粘着した水溜まりを踏み、クロは中へ入った。


扉、壁、天井、テーブル、床。


それなりに広い部屋全体が血生臭い気配に塗り潰され、赤黒く変色している。

しかし決定的な物が欠けている。


「死体は無い、だが服は残されているな?」

「……その様子だと事情は知らないのか」


唯一血が付着していない椅子に座った、暗闇の老人が言った。


364 :ツェペリ ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/01/25(水) 19:19:15.40 ID:gCzR00cr0


「お互い、運と実力は良いらしい」

「ドラムカン、アンタに渡す金が無くなった」

「分かってるさ、ハンター達どころか『受付人』も殺されているしな」


2人は……まるで隠す必要もないだろうといった様子で、瞬時にハンターズオフィスを出た。

残像の代わりに残った会話が虚空に消える中も、クロとドラムカンはたった一度の跳躍で数百m移動する。

・・・他者が目撃したら、人間の形状で可能なのか疑いたくなる光景である。

ドラムカンは片手で民家の屋根を無音で半壊させながら飛び、クロは移動法すら不明な速度で村を直進した。


ドラムカンが移動中に尋ねた。

「フィーアは連れていないのか」

「……若い思考は結構だが、欲情したら殺す」

「勘違いか? 冗談か?」

「それを決めるのはアンタだ」


クロにしては不機嫌そうな問答だ。


365 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/26(木) 13:34:00.25 ID:H6nJNojDO
366 :ツェペリ ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/02/06(月) 17:32:53.25 ID:+E56tj6N0


クロとドラムカン。

2人はそう言い合っている内にも、既にエクト村の端にまで移動していた。

3分も経たない間に数キロ移動したのだ。


「……さてと、ここいらで俺がお前を連れてきた理由を離すとするかい?」


立ち止り、クロの方へ向き直りながらドラムカンは呟いた。

だがクロにとっては充分な音量に聞こえた。

ここでクロは改めて感じる。

『 フィーアを置いて来て正解だった 』と。



―――――― ゴシャァアアンッッ!!



刹那に巻きあがる土砂。

その凄まじい振動と巻きあがった土塊は音速に匹敵する破壊力を持った速度で押し寄せる。


367 :ツェペリ ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/02/06(月) 17:47:15.13 ID:+E56tj6N0


「ッッ・・・」

クロの足元が、ブレる。


ズッッ……と、一瞬彼の爪先が地面に食い込んだ。

そしてそれを――――――


「パリィのつもりか、あまり舐めない事だなクロ……ッ!!」


―――――― 蹴り上げた、『その時同時に』、クロの顔面にドラムカンの巨大リボルバーの銃口が向けられた。

いや、正確にはクロの顔面に突き刺されていたのだ。

……当然、そのリボルバーの真なる用途は『銃撃』、ならばドラムカンは必然的にその巨大な引き金を引く。

直後、


ドドドォッッ!! というリボルバーの連射音に重なってクロの両足が円舞の如くドラムカンの体を吹き飛ばす。


「ゴァ……ッ!!?」


深ヶと被っていたカウボーイハットは空に舞った。


368 :ツェペリ ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/02/06(月) 18:01:50.05 ID:+E56tj6N0


―――――― ゴバァアアッッ!!


ドラムカンが吹き飛ばされたのに重なり、数瞬前にクロが蹴り上げた土砂の津波とドラムカンの津波が衝突する。

大小入り混じった土石は間違いなくショットガンのそれと言える。

そこへ、赤髪の老人は頭から突っ込む。


「…………」


クロが目を細めた直後に眼前で津波は爆音と共に爆散する。

・・・ドラムカンを巻き込んで、だ。

通常ならばこれで大概の決闘は決着となるかもしれない。

しかし彼等は既に常識を逸しているのだ。

『死なない』。


「……やるな、これだけの男ならあのオフィスのハンターは雑魚に感じただろ」

「雑魚の方がまだ手応えはありそうだ、だがドラムカン、少しはこちらの話も聞いて貰おうか」


369 :ツェペリ ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/02/06(月) 18:14:01.24 ID:+E56tj6N0


クロの言葉にドラムカンは眉を潜めた。


「……もしかして違うとか?」

「もしお前があの連中を殺したのが俺だと思ってるならな」



「・・・・・・・・・・・・」



驚愕。

驚愕以外の何物でもない程にドラムカンの表情は驚愕の色に染まっていた。


「すまないが……一撃だけ撃っていいか?」


370 :ツェペリ ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/02/06(月) 19:17:26.98 ID:+E56tj6N0


「いやぁ、てっきり俺はお前が殺したとばかり……」

「わざわざ死体を隠すようなら痕跡すら消すがな、何にせよ俺達以外の者が殺したんだろう」


ドラムカンはいつの間にか拾っていたカウボーイハットを被り直し、クロの瞳を覗く。


「・・・じゃあ聞くが誰だと思ってる?」

「さあな」

藍色の瞳は揺れる事無く老人の瞳を貫き見た。


彼は既に見当がついていた。


「そろそろエクト村の傭兵達が集まってくる、村を出るぞ」

「おう、そうだな」

「それからこっちもアンタに話がある」


「うん?」


若々しい声で、老人は頷いた。


371 :ツェペリ ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/02/06(月) 19:27:11.42 ID:+E56tj6N0


―――――― シルバは、黒い短髪の女はザラつく地に膝をつく。



彼女の足元には数十発分の大口径の弾丸の薬莢が転がっている。

つい数分前に彼女は数人の傭兵達に襲撃されていたのだった。

彼女は震えたままの体を無理矢理動かし、倒れている傭兵の1人に近づいて行く。

その傭兵の無線機から、聞き慣れた声が漏れているのだ。


―――― 「やあ、聞こえるかい? 『ガラドール家のお嬢様』」


雑音に混じり、男の声がシルバの耳を突き刺す。

忘れもしない声。


「ええ、聞こえてるわよホアキン……!!」

『いやあ良かった、そのまま死なれても困るからね? 君に話があるんだ』



『君が持つ、【私の危ない映像】と……【愛しの王子様】を交換しないか?』



372 :ツェペリ ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/02/06(月) 19:33:37.10 ID:+E56tj6N0


「・・・アンタ」


ギギッ、とシルバの奥歯が嫌な音を出す。

現実には大した握力は無いのに、無線機を握りつぶしてしまいそうになる。

それ程に彼女は一瞬で激昂した。


「セラに何かしてみなさいよ!! もし彼に何かしたら……アタシは絶対にアンタを殺す!! 殺してやる!!」

『落ち着きたまえよ、それでもエクト村の村長の娘かね?』

「黙りなさい!! アンタが……アンタさえいなければ、私の村は、両親は!!」


『・・・』


暫く続くシルバの罵倒に、ホアキンの声が聞こえなくなる。

それに気づかないシルバは続けて次々と彼を罵倒する言葉を出していく。


373 :ツェペリ ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/02/06(月) 19:39:11.40 ID:+E56tj6N0


そこで、無線機の向こうから『いいかな?』と声が鳴った。

シルバはそれにほんの一瞬耳を傾けると



『 なあ、肩にでも風穴を開けないとその戯言はまだ続くのかい? 』



(……っ)

瞬間、彼女の背筋を冷りとした汗が流れたのを感じた。

考え得る限りの中では、彼女は今最も死が迫っているのを察知したのだ。


そして、そう思った刹那に、彼女の肩に大口径のライフル弾が触れた。



―――――― バスンッッッ



374 :ツェペリ ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/02/06(月) 19:45:33.00 ID:+E56tj6N0


「……これに懲りたなら、少しは俺を信用するんだな」


暗闇の中で、シルバは冷たい声を聞いた。

違う、暗闇ではない。


クロの腕に、抱かれていた。


「く、クロ……」

「動くな、寸前で避けたがライフル弾は僅かに肉を抉った」


言われて気づく、確かにシルバの肩からは鮮血が流れ落ちている。

彼女は笑う。


「……音速で動いたら普通Gで死ぬわよね?」

「死なないようにするのは簡単だ」


375 :ツェペリ ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/02/06(月) 19:53:24.18 ID:+E56tj6N0


『……全く、実に厄介な人だ』


無線機から呆れた様な、忌々しいような声音でホアキンが呻いた。

そして、クロはそれを拾い上げた。




「取引だ、明日の明朝にデータとセラを交換…場所はエクト村にある中央広場だ」




『……ッ』

無線機から息を飲む音が漏れる。

シルバでさえその言葉には息を飲む他無かった。


「ちょ、ちょっと待ってよ…‥そんな簡単に……!」

「簡単、違うだろう? これは『お前が即決すべき決断』の筈だ」

「・・・・」


376 :ツェペリ ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/02/06(月) 19:59:46.93 ID:+E56tj6N0


『・・・良いでしょう、明日の明朝ですね?』

無線機からホアキンが応える。

いつの間にか立場が逆転したのも忘れ、彼は尋ねる。

その問いにクロは適当に応えていくが、シルバは何も言えない。


当然だ、それらはどれも彼女が思考の果てに辿り着くであろう結果だからだ。


そしてそれを理解出来るのは彼女だけ、故に彼女は何も言えない。

自分で納得してしまう。

納得したくないのに、納得してしまう、矛盾だらけの状況。



「……これでいいな?」


グシャァッ、と無線機を粉々に粉砕する。

クロはシルバの瞳を見つめたまま返事を待った。


だが返事が聞けたのは数分後だった。


377 :ツェペリ ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/02/06(月) 20:07:41.83 ID:+E56tj6N0
落ちます!
378 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/06(月) 20:24:07.41 ID:xpL/R5fSO
乙!!
379 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川) [sage]:2012/02/10(金) 20:32:32.87 ID:lO5DKTs30
380 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2012/03/01(木) 23:57:52.78 ID:q21yns6m0
お、おそくねぇ?
381 :ツェペリ ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/03/08(木) 14:08:43.56 ID:/MaBFnDd0
た、たとえ我が身をインフルに犯されようと……ッ


SSは書き続けてやる!!
382 :ツェペリ ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/03/08(木) 15:01:07.24 ID:/MaBFnDd0


―――――― 篝火よりも明るく、黒よりも鮮明に、黒よりも色濃く。


暗闇の中。

赤髪を強く揺らした青年の姿が、淡く映し出されていた。

彼の手には『白銀の虎』と呼ばれていた機械のモンスターがぶら下がっている。


ノアに指定されていた行動、範囲、地域などの習性を『エクト村』に利用され何百人ものハンターを葬った。

いわゆる、化け物である。


しかし、その機械魔はクロに破壊されている。

故に『白銀の虎』はもう二度と動かない、戦えない。



「………悪いがそれでも戦って貰う」



383 :ツェペリ ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/03/08(木) 15:19:05.42 ID:/MaBFnDd0


ドクン、と脈打つ。


『彼』の中で血液にも似た何かが流れ、心臓を動かす。

果たしてそれが機械の作動プログラムに入っているのかは謎だが、間違いなく鼓動する。

機械でも人間でも変わらない、『生きる』という概念は『生まれた』時から存在する。


高らかに、天空を貫くように。

虎は吼えた。



―――――― 【 会えて嬉しい、父 】



「……ふ」

笑った。

自分が父と呼ばれる事があまりにも滑稽だったから。


384 :ツェペリ ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/03/08(木) 15:34:48.55 ID:/MaBFnDd0



「……で、こっちがアンタのせいで緊張してんのに何処行ってたの?」


「答える必要はあるのかそれは」

ムシャムシャと缶詰めの食事を口にしながら睨んで来るシルバをクロは一蹴する。


「べーつーに? アンタのせいでこっちはいい迷惑よ」


そう言い、僅かに顔を赤くさせる。

どうやら羞恥から来た赤面ではなく、怒りから来ているらしいのはクロにもわかった。

もっと言えば、彼女は自身がクロに色々と我が儘を言っている現実を再確認したから赤面した。

そんなことまでクロにはわかっていた。


と、そんな事を考えているとテントの方をクロは気にした。

「………………」


「行って来たら? お姫様のとこ」


シルバは更にムシャムシャと食べた。

385 :ツェペリ ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/03/08(木) 16:05:26.36 ID:/MaBFnDd0

「いや、今日はここで構わない」

「ふぅん、まあいいけどね」


そこで、 すっ とクロが手袋を脱いだ。

同時に、薄い特集合金のグローブも。

それを見たシルバが呻く、というより……大分イライラした声で呟いた。


「……そのグローブ、治さないかんね」

「なら明日の事が終わればいいのか?」

「そういう問題じゃないから、アタシの機嫌が悪いからだから」

「つまり明日の事が終われば機嫌も良くなるだろう」


「人の言いたい事わかってんの!?」


ついにシルバがキレたらしい。

クロは冷たい瞳を彼女ではなく焚き火にだけ向けたまま笑った。


386 :ツェペリ ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/03/08(木) 18:26:02.27 ID:/MaBFnDd0


「アンタのせいで! セラや村の人達を助けられる『データ』が消える、アイツに奪われる!!」

「そしたらフィーアやアンタに危険な事をして貰った意味もなくなるのよ!?」


短髪の黒髪を振り乱し、シルバはクロの胸元を掴む。

そして片手で何度も彼の胸を叩きながら、

「アンタのせいでッ またセラに会えなくなるかもしれないッ」

何度も叩き、涙をこらえる。


「…………アン……タのせ……い…………で」


シルバの声が途切れ始めた頃に、クロの手が彼女の目を覆った。

「……怒るのは構わない、だが泣くな……」

「っ……誰の、せいなのよ……」



クロはしばらく答えなかった。

そして、彼は彼女の目を覆っていた手をどける。


「さっき飲んでいたヤケ酒、あれの量を考えればお前の情緒不安定になった理由もわかる……つまり酒のせいだ」


とても早口で彼は珍しくユーモアのある言葉で一蹴した。

しかし直後にシルバが泣き崩れたのは言うまでもない。

387 :ツェペリ ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/03/08(木) 18:40:04.22 ID:/MaBFnDd0





―――――― 「……暗い森の中にいる……」




―――――― 「例えるなら、湿った薄い布を全身に貼り付けた感覚」

―――――― 「この『森』に降る雨はそんな嫌悪感を覚えさせた」


―――――― 「おかしい」


―――――― 「凄くお腹が空いてしまう、どれだけ食べても足りない」

―――――― 「肉、魚、野菜・・・駄目だこれではない」

―――――― 「僕が求めてるのは、違う」


―――――― 「人が、食べたい」

―――――― 「僕の糸で巻いて、絞め殺して、鬱血した部分を噛み千切りたい」


388 :ツェペリ ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/03/08(木) 18:53:01.64 ID:/MaBFnDd0


―――――― 「・・・糸は僕の目だ」


―――――― 「この暗い森の中でどれだけ逃げても意味は無い」

―――――― 「必ず捕まえて、必ず殺して、必ず頭から食べよう」


―――――― 「きっと脳髄は黒い赤で満たされてて、体の筋肉は綺麗な色に違いない」


―――――― 「食べよう」

―――――― 「・・・・・・」



―――――― 【 シルバを守ると言っていたのは、俺の聞き間違いか? 】 ――――――



―――――― 「・・・誰だ、お前は」


―――――― 「何故だろう、僕の頭からアイツの声が離れない・・・!!」


389 :ツェペリ ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/03/08(木) 18:59:31.13 ID:/MaBFnDd0



―――――― 「アイツの、髪の色・・・!!」


―――――― 「アイツの冷たい瞳・・・!!」



―――――― 「何もかもを見透かしたようなアイツの、存在全てが僕を否定する!!」



―――――― 「殺して、食べたい・・・」

―――――― 「違う、まずは僕が成長しなくちゃ」


―――――― 「僕が成長すればアイツに勝てる・・・!!」


―――――― 「だから、もっと糸を伸ばそう・・・もっと食べよう・・・もっと殺そう」




390 :ツェペリ ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/03/08(木) 19:25:24.24 ID:/MaBFnDd0



―――――― ドバンッッ!!



「村長ッ!! 『サンプル型』が、暴走を……ひぃ!?」

突如、部屋に入って来た研究員は悲鳴を挙げた。

凄まじい光景が目に飛び込んで来てしまったからだ。


―――――― グズッ……ポキンッベキッッ


そこに、『エクト村』の村長であるホアキンが全身を『糸』に巻かれ、喰われていた。

巨大な繭によって。


「ひぃぃ……誰か!! 警備兵ぇぇぇええええええ!!!!」


391 :ツェペリ ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/03/08(木) 19:37:26.45 ID:/MaBFnDd0


絶叫した研究員と同時、その巨大な繭は瞬時に糸を触手のように突き出した。

……音速に匹敵する速度で射出された糸を、突き出した等という表現で良いならば。


―――――― シャッッ という空気を切り裂く鋭い音。


ザクンッ、と研究員は大きく体を揺さぶられる。

そして直後に




「ぁ、ぎ……ぎぃ…………ごぇッ」




グシャァアッ!!

研究員の全身の血液が破裂した水風船の如く撒き散らされ、彼が入って来た入り口から廊下に降り注いだ。

更に運の悪い者達が居る事を知る由も無かった。


「…………は、」

警備兵として雇われた傭兵の男達。


392 :ツェペリ ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/03/08(木) 19:43:07.61 ID:/MaBFnDd0
し、死ぬ……インフルやべぇ…

おやすみなさいませ…
393 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/08(木) 20:32:08.69 ID:SEni1sQmo
乙!!

っていうか無理すんな!! きちんと養生しないとマジ死ぬぞ! おやすみ!!
394 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/08(木) 21:40:51.92 ID:S0+/P6a80

お大事にー
395 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/08(木) 21:47:54.48 ID:Ut6u0r2ao
基本的にこの人の言い訳は信じない方がいいよ
396 :ツェペリ ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/03/09(金) 09:45:12.46 ID:0DDu6D3N0
>>395
いくらジョジョを名乗っててもインフルは本当さ……

「すまないがあれは嘘だ」ゴゴゴゴ

という展開が無い本気のインフルだ
397 :ツェペリ ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/03/09(金) 09:47:47.91 ID:0DDu6D3N0


「ふ、ぅああああああああ!? 撃て、撃てぇっ!!」

「こちらBブロック、誰か来てくれ!!」

「グレネードまだかぁ!?」


狭い通路に響き渡り続ける銃声と傭兵達の叫び。

彼等の目の前に迫っているのは数百の触手だ、とても機関銃だけでは逃げ切れない。

しかし彼等とて、冷静さを欠いていたとしても……直ぐに気づく。


―――――― パンッッ


機関銃の高い連射音から外れ、乾いた単発の銃声が鳴った。

傭兵の一人が、先頭にいた者を撃ち抜いたのだ。


「お前……ッ」

「少しは時間稼ぎになるってんだ!! 逃げるぞ!!」


398 :ツェペリ ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/03/09(金) 11:02:41.15 ID:0DDu6D3N0


―――――― 傭兵、ジャンル=ニコライは決して勇敢な兵士ではない。


彼は特別な力も技術も無く、正義感の無い癖に悪人を殺した金で女を買う、性根の腐った男である。

しかし彼は人間らしさがあった。

特別な力が無い代わりに戦術をレシピのようにメモし、技術は全て道具で補う。

賞金首の悪人を殺す時でもトドメは目を閉じてから刺し、買った女は望めば売春宿から連れて逃がした。


・・・この微妙な臆病さと慎重さはとても人間らしかった。


そして、今。

彼はその『人間らしい』とも『生物らしい』とも取れる行動で命運を勝ち取る。


―――――― パンッッパンッッ


(悪く思うなよ……ッ、俺にも大切な女とかそういう泣かせるモンがあるんだ!)

ホルダーに9mm口径のハンドガンを差し込みながら、彼は走り抜ける。


仲間の傭兵達を撃ち殺してから、だ。


399 :ツェペリ ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/03/09(金) 11:09:22.53 ID:0DDu6D3N0


ジャンルが取った非道極まりないように見える行動。

それは最も正解に等しい選択だった。

背後から迫り来る純白の触手は死体を見つけると、まずはそれを一斉に捕まえる。

それにより、ジャンルがその場から逃走する時間がかなり稼げたのだ。


―――――― ギュルッ・・ズパァンッッ!!


「……ッ、今のぁ何だってんだよぉぉ?!」

背後から轟く鞭が弾けるような音に、ジャンルは振り返る。


直後、彼は後悔した。


400 :ツェペリ ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/03/09(金) 11:32:07.81 ID:0DDu6D3N0


そこには、彼の背後には、触手が通路ごと人間を両断する光景があった。


(―――――― っ、ぇ)

防刃耐熱マスクの下で、ジャンルの表情は戦慄した。


冗談ではない。

ただでさえ触手は糸のように無限に増えつつあるのに、それらの威力は水流カッター並み?

冗談ではない、太刀打ちのしようがない。


(畜生、出口があるブロックは通り過ぎた! 次の出口まで数キロあんぞ!?)


キンッ、と彼は丸い小さな鉄球からピンを弾き飛ばす。

そして振り向かずに彼は背後に投げ捨て、全力で走り逃げる。


401 :ツェペリ ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/03/09(金) 13:21:32.41 ID:0DDu6D3N0


―――――― ゴッッ!!


狭い通路を爆風が薙払い、ジャンルの全身を前方へ吹き飛ばした。

背中をビリビリとした痺れた痛みが侵食する。

だが、止まる訳にも行かない、後方では他の者達の断末魔が上がっている。

直に彼の元へも到達するのは目に見えていた。


「畜生ッ!! 死んでたまるかァァアアアッ!!」


自身の顔を守っていたマスクを剥ぐと、それを床に叩きつけ走る。

そしてここで彼の生存本能は頂点に達した。


402 :ツェペリ ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/03/09(金) 13:39:20.34 ID:0DDu6D3N0


(今の爆発で多少は時間が稼げた筈、ならその間に奴に見つからない所に逃げ込めば……)

(扉なんつー分かり易い所は駄目だ!! だがエレベーターはシステムダウンしてる間は使えねえ!)


思考を止めず、前へ進む。


(なら、入り口が分かり難いような……地下に続く場所は……!?)

ジャンルの手が素早く動き、アーミーナイフを抜く。

瞬時の判断が遅れたらそこで死ぬ、そう彼は頭で叫んだ。


そして、


―――――― ガッギン!!


彼のナイフは足下にあったハッチをこじ開けた。

そのハッチの中には淡い紫の光が灯っている。


(……感謝するよ、神様)

それだけ呟いてハッチの中に飛び込んだ。

蓋も、キチンと閉めてだ・・・。


403 :ツェペリ ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/03/09(金) 13:56:16.29 ID:0DDu6D3N0



―――――― 翌朝、凶兆はシルバの無線機から始まった。



『こちら……あー、ジャンルだ! 誰かこの声聴こえてるか!?』

「な、なによ……?」


突如として入った雑音混じりの声に、彼女は戸惑う。

相手の男の声音からして只事では無いのだろうが、一体なんなのか。

そう思いながらも彼女は無線機を手に取った。


「誰なの? ホアキン関係ではないみたいだけど」

『助かった、聞いてくれてた奴がいたのか! ん?……ホアキンって村長の事か?』

「何者なの?」


『俺は傭兵だ……とかは関係ないな、助けてくれ! このままじゃエクト村もヤバいんだ』


改めて、シルバは詳しい話を聞くことにした。

404 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/18(日) 15:29:31.04 ID:8oZkhAAw0
忙しいのでしょうか?

待ってますから
405 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/03/22(木) 02:10:32.64 ID:1EDbr+m7o
やっと追いついた。
待ってるぞ
406 : ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/04/05(木) 10:58:55.70 ID:nP/WKbko0


―――――― 老人は呆れ顔で笑い、ハットを改めて被り直す。


「この数日、目まぐるしく忙しいなお前達」

「……そうかもしれないな」


赤髪が静かな風に揺れ、朝日に照らされる。

一目で美しいと感じてしまうような赤髪、それを振り向き様に更に揺らす。

クロは特殊な金属と機構で出来たグローブを右手に填めながら、ドラムカンに言った。


「フィーアをよく見ていろ、エクトの街に近づけるな」

「はいよ、お前さんとお嬢さんは行くんだな?」

「ああ」


クロはチラリと、瞳を後方へ向ける。

407 : ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/04/05(木) 11:20:36.35 ID:nP/WKbko0


「…………」


―――――― ガシャンッ

黒髪の短髪、そして普段はシャツ一枚しか着ていないような男勝りな彼女。

シルバは、数年前まではエクト村の村長の娘として暮らしていたのだ。


(相手はどんな化け物かも分からない、念の為簡易ランチャーを……)

―――――― ガチッ


エクト村は随分昔に、放浪していた一流のハンターが移住して来てから飛躍的に技術が進歩した。

そのハンターは女メカニックだったそうだ。


(……ヒートサーベルは要らない、かな)


そして……彼女達メカニック一族の歴史は1人の使者によって砕かれた。


(…………)


408 : ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/04/05(木) 11:31:21.43 ID:nP/WKbko0


(……もうアタシの敵は、ホアキンなんかじゃない、アイツは死んだ……)


―――――― 【な、何者だ!? セキュリティーはどうなって……】

―――――― 【 落ち着いてくれ、俺は危害を加えるつもりはない 】

―――――― 【何者なんだ!!】

―――――― 【 ……『大破壊』から、世界初の軍事会社…『COMPANY』だ 】



(………新しい村の敵はモンスターと、それから……ッ)



―――――― 【 こちらの要求は1つだけ、この村を我が社が保護したいのさ 】

―――――― 【保護、だと……聞いているぞ! お前達カンパニーは幾つもの村や街を消したそうだな!?】

―――――― 【 ……その通り、4つは俺が潰した 】

―――――― 【なっ…………………】


409 : ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/04/05(木) 11:45:06.79 ID:nP/WKbko0


―――――― バン!!


―――――― 【ガラドールさん!! エクト村を守る為にも、奴らと戦いましょう!?】

―――――― 【ダメだ! 従うべきなんだ、素直に従った村や街は保護されているんだぞ!?】

―――――― 【……ガラドール、そこまでにしろ】

―――――― 【ホアキン!?】


―――――― 【保護? この村を保護しても奴らにメリットはない、そして安全だという保証もない】

―――――― 【ガラドール、村長はお前なんだ……決断をしろ】



―――――― 【家族の為にも、村の為にも、私は戦わない!】



410 : ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/04/05(木) 14:20:25.81 ID:nP/WKbko0


―――――― ガッシャァアアアアアン!!


―――――― 【あなた!!】

―――――― 【に、逃げろエターシャ……ミーシャを、娘を連れて逃げろォッ!!】

―――――― 【どこに逃げる気かなぁ奥さん?】


―――――― 【やめろ……妻と娘だけは助けてくれ……】


―――――― 【黙れ裏切り者】

―――――― ズダァンッ


―――――― 【………奥さんとミーシャちゃんはどこかなぁ?】


411 : ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/05/01(火) 17:41:39.25 ID:C9A2echc0


―――――― 【お母さん!!】


―――――― 【逃げなさい、ミーシャ! そのチップを村の人達に見せれば……】

―――――― ズダァンッッ

―――――― 【ぃぐう…!?】


―――――― 【ミーシャちゃん、それを渡すんだ】

―――――― カチャリ

―――――― 【さもないと……】


―――――― 【やめて!! お母さんを傷つけないでぇ!!】


―――――― 【良い子だ……】


412 : ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/05/01(火) 17:48:24.58 ID:C9A2echc0


―――――― ぐ ち ゃ っ


―――――― 【え……】

―――――― 【なっ……貴方は……】


―――――― 【……面白い事になっているな、『村長』】


―――――― 【お母さん……おかあ……さ…………】

―――――― 【この子供は俺が預かろう、『村長』はこの殺しは全て俺のせいにしろ】

―――――― 【いいな?】


―――――― 【・・・勿論ですとも、『ナイト』様】


―――――― 【……お父さん、お母さん……】


413 : ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/05/01(火) 17:58:05.62 ID:C9A2echc0


「シルバ」


フッ、と。

シルバの意識が現実に戻された。

すると鋭いようで、焼かれたような痛みを覚えて彼女は手元を見る。

どうやら彼女は無意識のうちにナイフの刃を握り締めていたらしく、大量に出血していた。


「……ッ、悪いけどクロ……そこのキットを取って?」

「……」


無音の仕草でクロはシルバの手を取る。

そして暫く見つめるようにしてから、赤髪をふわりと揺らして・・・


414 : ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/05/01(火) 18:09:45.65 ID:C9A2echc0


―――――― ぴちゃっ……と、シルバの手の傷を舐めたのだ。


「〜〜〜〜っ!」

ぞわっ、と彼女の背筋を何かが駆け降りた。


クロはそんなシルバを見もせずに、彼女の傷を舐め、血を吸い、甘噛みすらした。

彼の瞳は揺らぐ事なく彼女の手を見つめたままだ。


少しの間何も出来ないでいたシルバだったが、直ぐに我を取り戻した。


「ちょ、ちょっと何してんのよ!」


バッと彼女は手を引き、舐められていた傷口を見た。

そこで改めて、悪寒が走った。

「え?」

彼女の手にあった筈の傷が無い。

415 : ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/05/01(火) 18:23:40.01 ID:C9A2echc0


「そろそろ出発するぞ、シルバ……あまり時間をかけるのはお前にとって最悪だぞ?」

「アンタ、これ……っ」


シルバが何かを聞こうとするが、クロの元へフィーアが駆け寄って来たせいで思わず止まってしまう。

しかし、彼女は自身の手を見た。

何度見ても、何度思い出してもクロの舐めた箇所は完全に治癒している。


(…………)


―――――― ガチャッ


彼女は無言のまま、装備を手にして歩き出した。

自分には誰よりも頼もしい仲間がいる事に実感しながら。


416 : ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/05/01(火) 18:45:51.27 ID:C9A2echc0


―――――― 異様な静けさに包まれた『エクト』の街に、クロとシルバは辿り着く。


しかし、街の中にはクロでさえ異質な何かを感じた。

シルバが僅かに踏み出し、しゃがみ込む。


「……クロ、あちこちに薬莢が落ちてる」


1つ、彼女は摘んでクロに見せた。

彼女の人差し指程度の薬莢は、彼にも見覚えがあるからだ。

そう、エクトで精製された重火器専用の弾丸などだ。


417 : ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/05/01(火) 19:31:59.42 ID:C9A2echc0


「……銃一丁の所有者が撃ったにしては多いな、合計11254発はある」


クロは瞳を一瞬動かし、そう告げた。

それに合わせて二人は自身の武器を取り出す。

シルバは小機関銃を両手で構えながら、「行くわよ」と先に進んで行く。


クロの髪が風に揺らされる。


「……」

(…………既に『囲まれた』ようだな)



418 : ◆WslPJpzlnU [saga]:2012/05/01(火) 19:51:32.56 ID:C9A2echc0


―――――― ッ ――――――


空気を切り裂く様に、音すら出さない連撃が一閃された。

クロの全身は予備動作すら無く空中を舞う。


「……」

トン、と彼は何事もなかったように着地する。


彼を襲った『鞭打』は音速の数倍で猛威を振るっていたのは確かだ。

しかしクロはそのソニックブームすら避け、無傷で君臨したのだ。

彼は周囲を見渡した。


(今のは俺の様子見か、随分警戒しているな)


ふ、と……彼は小さく笑った。


419 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2012/06/27(水) 00:00:10.65 ID:YzDtR9Kb0
もう一カ月たつぞ
420 : ◆WslPJpzlnU [sage]:2012/07/10(火) 14:18:38.51 ID:WDjesyPi0
他スレに全力出してましたすいません
421 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/10(火) 20:09:55.94 ID:J7sJzwB0o
お前もかwwwwww
422 : ◆WslPJpzlnU [saga sage]:2012/07/24(火) 09:08:14.42 ID:zk9TXL4s0


・・・ドラムカンは老いた自分に溜め息混じりの愚痴を零していた。


かつては自身の名を知らない者はいない程の名声を受け、世界中のモンスターを狩って来た彼。

かつては自身に大切な何かがあり、それを守る為に世界を救った彼。

……そして、その結末は誰も知らぬ場所で記憶喪失になって全てを失った。


(あれから何十年も経ったな)


傍らで愛犬と戯れる少女を見つめながら、老人は呟いた。

その瞳には、名前すら思い出せない黒髪の……とても美しい可憐な女性が映る。

『大破壊』前から既に研究されていた脳内における『記憶』。

彼は様々な研究機関、『ナース』のもとへ訪ね、そして分かったのは自分の脳は人間とは違う構造になっていた事。


今まで『聞いた』『聴こえた』物のみが喪失していたのだ。


423 : ◆WslPJpzlnU [saga sage]:2012/07/24(火) 09:59:07.58 ID:zk9TXL4s0


無音の記憶の中、ドラムカンは確かに誰かの為に戦っていた。

その少女の為に、彼は巨大な組織と渡り合い、結果として勝利した。

一体どれだけの死人が出たのかもどれだけ自分が殺したのかもわからない。


ただ分かるのは、もう少女はこの世にいないのとその少女が見つからなかった事実。


ポチと戯れる少女、フィーアを見ながらドラムカンは僅かに壊死した左手を見る。

(……出来る事なら、『お前』とこの村を救いたかったが)


「ここまで老いた俺じゃ、お前にすら勝てないみたいだな? 『カンパニーの狐』さんよ」


かつて最強の『ハンター』再来とまで謳われた老人は、死臭漂うエクト村をただ見ているしかなかった。


424 : ◆WslPJpzlnU [saga sage]:2012/07/24(火) 10:21:39.01 ID:zk9TXL4s0


「……しまったな」


クロは珍しく、どこかのんびりとした口調になっていた。

だがそれに反して、現在の彼は良いとは言えない状況に陥っていた。

シルバとはぐれたのだ。


(随分手が込んでいるな、光の屈折を捻曲げる霧か……)

視界が完全に白濁した霧に包まれていながらも、クロは平然と歩いていた。


しかし普通の人間にとって、現在のクロの目に映る光景はいわば『万華鏡』を見ながら歩いているに等しい。

つまりはぐれたシルバにとってこの霧は最悪の筈だ。


425 : ◆WslPJpzlnU [saga sage]:2012/07/24(火) 11:23:32.60 ID:zk9TXL4s0


余談だが、決してクロはこの霧に左右されずにいる訳ではない。

『光を乱雑に屈折させる』特性を持った霧が相手ではクロでもどうしようもない。


しかし空気の振動ばかりは捻曲げる事は出来ないのだ。


更に言えば霧が漂っている事で、通常よりも敏感にクロは『音』を聴く事が出来る。

つまり今ならエクト村全体の音を聴く事が可能なのだ。

例えば、シルバの鼓動や吐息……汗の雫が落下する音すら聴ける。

……それでもクロにはシルバの居場所が分からず。


ならばそれがどういう事なのか、シルバの『音』が『 紛 れ て し ま っ て い る 』のが何を意味するのか。


426 : ◆WslPJpzlnU [sage]:2012/09/20(木) 16:58:33.22 ID:cABi99mc0
あぶねえ…近日再開
427 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(西日本) [sage]:2012/09/20(木) 22:42:45.70 ID:knDxQHpmo
見てる人居るんだからね
428 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/21(金) 17:12:21.33 ID:9nKMsI4Vo
待ってるんだから
429 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [age]:2012/10/14(日) 21:33:47.72 ID:97MOQ+mp0
まだだろうか?
430 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/06(木) 21:03:54.62 ID:fv9NbiTv0
そろそろやばいぞ
431 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/12/17(月) 06:34:00.11 ID:+4xAjejM0
今日で2カ月
432 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/18(火) 20:05:45.32 ID:koRHH3G50
正直ここじゃなくてハーメルンか理想郷あたりに移転したほうがいいと思う
遅い更新で消える心配もないし
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