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梓「君にしか聞こえない」 -
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1 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/09(金) 01:06:56.36 ID:iPhPIt55o
乙一の小説&映画「きみにしか聞こえない/Calling You」の唯梓パロです。
唯高校1年、梓中学3年
一部のキャラ設定が改変されてます
梓の制服はアニメ1期8話参照
※シリアス注意
1.5 :
荒巻@管理人★
(お知らせ)
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(安価&コンマ)コードギアス 薄明の者 @ 2025/07/23(水) 22:31:03.79 ID:7O97aVFy0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1753277463/
ご褒美にはチョコレート @ 2025/07/23(水) 21:57:52.36 ID:DdkKPHpQ0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1753275471/
ビーノどっさりパック @ 2025/07/23(水) 20:04:42.82 ID:dVhNYsSZ0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1753268681/
コナン「博士からメールが来たぞ」 @ 2025/07/23(水) 00:53:42.50 ID:QmEFnDwEO
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4日も埋まらないということは @ 2025/07/22(火) 00:48:35.91 ID:b9MtQNrio
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1753112915/
クリスタ「かわいいだけじゃだめですか?」 @ 2025/07/19(土) 08:45:13.17 ID:AK1WfFLxO
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1752882313/
八幡「新はまち劇場」【俺ガイル】Part1 @ 2025/07/19(土) 06:35:32.67 ID:BGCulupRO
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1752874532/
【安価・コンマ】力と魔法が支配した世界で【二次創作】 @ 2025/07/18(金) 23:44:57.84 ID:Xc8IdKRvO
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1752849897/
2 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/09(金) 01:07:28.35 ID:iPhPIt55o
――横浜市内、とある中学校
prrrr
教師「誰だ?授業中に携帯鳴らしてる奴は!」
prrrr
生徒「すいませーん」
教師「全く、授業中は携帯の電源は切っとけ。というか校内に携帯の持ち込みは禁止って言ってなかったか?ええ?」
私は多分、この学校で唯一携帯電話を持っていない生徒なのかもしれない。
そりゃあ本当はみんなみたいに携帯が欲しいし、こんなやり取りが正直羨ましい。
けど話す相手が殆どいない。
鳴らない携帯程、持ってて辛いものはないんだから。
教師「よし次!中野!」
教師「……中野、いないのか?」
梓「あ――」
教師「なんだ、いたのなら返事をしないか」
梓「すいません……」
教師「次、34ページから朗読してみろ」
梓「纏咳狙振弾、棍法術最強の流派として名高いチャク家流に伝わる最大奥義。この技の創始者、宋家二代、呉竜府(ご・りゅうふ)は正確無比の打球で敵をことごとく倒したという。この現代でいうゴルフスイングにも酷似した打撃法は、運動力学的観点からいっても弾の飛距離・威力・正確さを得るために最も効果的で――」
教師「中野、お前朗読の意味分かってるのか?そんな呟くような小声じゃ誰にも聞こえんぞ」
梓「……はい」
周りから失笑ともいえる笑い声が聞こえてくる。
けど今に始まったことじゃないし、何とも思わない。
3 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/09(金) 01:07:57.11 ID:iPhPIt55o
―― その日の帰り道、通学路の途中の公園
prrrr
梓(また携帯の音だよ。どこに行ってもこの音ばかり……)
ん?ちょっと待った。
この公園、私以外誰もいないような……
誰か置き忘れていったんじゃないのかと思い、辺りを見回すと砂場の砂の山から頭半分だけ出た白い携帯が音を出して光っていた。
手に取ろうとする直前に着信音は止まったけど、一応手にとって確かめてみる。
梓「この携帯可愛いデザインだなぁ。あれ?でもこれオモチャだ」
そのまま元に場所に戻そうかとも考えたけど、不思議と惹かれる何かを感じ、その携帯を持って帰ることにした。
これで今日から私も携帯持ち!おもちゃだけどどうせ本物持ってても使い道ないし却って好都合だもの。
4 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/09(金) 01:08:37.83 ID:iPhPIt55o
家に帰ってからその携帯を色々弄ってみた。
ボタンを押すと音が出たり光ったりするんだ……案外凝った作りなんだなぁ。
携帯持ちになったと思っている私はささやかな優越感を持って、自分の机の引き出しの中にそっとしまった。
―― 翌日・学校
prrrr
梓(また誰か授業中に携帯鳴らしてるよ……今度は誰なのよ)
prrrr
梓(あれ?周りのみんなも先生も何も言わない。聞こえてないの!?そんな筈あるわけない、こんな大きな音だもの)
まるで自分にしか聞こえていないかのように感じるその音はしばらくしたら止まった。
その間も周りは何も起きていなかったかのように淡々と授業が続けられていた。
幻聴がするなんて、やっぱり今日は体調悪いのかな。
―― 保健室
保健室の先生「うーん、熱は別にないみたいね。でもちょっと顔色悪そうだし、しばらく横になってよっか」
梓「はい」
ベッドで横になってどれくらい時間が過ぎたんだろう。
またあの音が私の耳に鳴り響く。
prrrr
梓「えっ!?」
5 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/09(金) 01:09:20.87 ID:iPhPIt55o
すぐに飛び起きて辺りを見回す。
カーテンの向こうでは保健室の先生が黙々と机に向かって仕事をしている。
先生の電話じゃない……やっぱりだ、やっぱり私にしか聞こえてないんだ。
そしてその音の出所は私のすぐ目の前、枕元にあった。
枕元で私の目が見た物、それは昨日拾った携帯が音を出して光を放っている光景だった。
梓(あれ?確かに昨日引き出しの中に入れたままで学校には持ってきてないのに、なんでここにあるのよ)
梓(誰かから電話がかかってきたりとかだったりして。まさかね……おもちゃなんだしそんなのありえないし)
梓(……でもやっぱり気になるなぁ)
そう心の中で自問自答した私は、携帯を手にとり恐る恐る通話ボタンを押してみた。
梓「もしもし?」
返事はない、そりゃあそうでしょ、だっておもちゃなんだもの。
ただ単に私が変なだけ、そう結論つけて携帯を片付けようとした時――
?『あっ、出た!』
梓「!!?」
?『もしもし?もしもし?もしもーし』
梓(何このおもちゃ!?本当に誰かから着信がきてる!)
梓「はい?」
?『おおっ!すごーい!繋がったよこの電話』
梓「え?」
?『え?って、もしかして私の声が聞こえるの?』
梓「ええ……まあ一応」
?『ちゃんと言葉になって聞こえてるの?』
梓「はい」
?『すっごーい!私の声が聞こえるなんて、すごいよこれ!』
梓「あの、これってどういう――」
6 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/09(金) 01:10:09.18 ID:iPhPIt55o
そこまで言おうとした時、机に向かっていた保健室の先生が立ち上がって歩き出した。
こんな場所で電話なんかしてるのバレたらまずいと咄嗟に考え、携帯を背後に隠す。
『もしもーし?もしもし、聞こえてるのー?』
その間も電話の相手の声は聞こえ続けている。
しばらくして先生が保健室から出て行くのを見届けた後、電話を再開しようとして背後を見ると、さっきまでそこにあったはずの携帯がなかった。
私は軽い混乱状態になり、辺りを見回す。
その間も相手の人のもしもしコールは頭の中に鳴り響いている。
え?頭の中に鳴り響く?
もしかしてこの通話、頭の中に直接語りかけてきてるんじゃ……
そう推理した私は、手で方耳を塞いでみた。
すると案の定、まるで頭の中にスピーカーでも付いたかのように鮮明に声が聞こえてくる。
梓『何で?何で聞こえるんですか?』
この時私は声に出さず、頭の中に出来た電話に向かって直接語りかけていた。
?『私にも分からないよぉ。ただ部室に壊れた携帯があったから適当に数字を押してみたら君に繋がったんだよ』
梓『どうして!?だって私、今声出してないんですよ?』
?『私もそうだよ。今は頭の中に直接話しかけてるんだ。一応言っとくけど、これいたずら電話じゃないからね』
梓(声の感じだと女の人、それも私とあまり歳が変わらない人なんだろうけど……この人一体何なの!?)
7 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/09(金) 01:10:44.65 ID:iPhPIt55o
ガチャリ
梓『あっ!先生がくる』
?『先生?君、もしかして学生さんなの?』
先生「中野さん、具合はどう?」
梓「はい、もう大丈夫です」
先生「そう、良かった。とりあえず今日は放課後まで休んでよっか」
梓「はい」
?『もしもし?聞こえてるのかな?』
梓『と、とにかく切りますね!』
?『あわわ……ま、待ってー!また掛けてもいいよね?』
梓『え?』
?『夕方5時、それくらいなら学校も終わってるし大丈夫かな?』
梓『ええと……そ、それは……』
?『そうだ、自己紹介まだだったよね。私は唯、平沢唯。君は?』
梓『えっと……梓です。中野梓』
唯『梓ちゃんかー。それじゃ、また後でねっ!』
つーつーつーつー
頭の中に電話が切れた時のあの音が小さく聞こえてくる。
どうやら通話が終わったようだ、もう相手の人の声は聞こえてこない。
梓「平沢唯さん、か……なんかすごい人だったなぁ」
8 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/09(金) 01:11:37.07 ID:iPhPIt55o
―― 中野家
家に帰ってすぐに自分の部屋の引き出しを開けるとそこには何事もなかったかのようにおもちゃの携帯が鎮座していた。
やっぱりさっきのは幻聴だったのかな……だとしたらあの唯って人はなんだったんだろう、私の想像の産物だったとでもいうのかな。
とにかく、電話が掛かってくる5時まで待ってみよう。
それで電話が鳴らなかったら全部私の思い過ごしってことになるし。
――――――
――――
――
もうすぐ5時になろうとしている。
私の視線が腕時計に向く回数が次第に増えていく。
ちなみに「本物の」携帯を持っていないから時間を確かめる手段は今腕にはめているこの腕時計しかない。
こんなものをして学校に通っている生徒も多分私だけだろう。
梓「もうすぐ5時、か。本当にかかってくるのかな」
短い針が5を示し、長い針が12を示し、「5時よ」と時報の声がする。
まだ鳴らない。
いつしか長い針は12を過ぎていく。
そう、結局かかってこなかったんだ。
梓「そうだよね、何私こんなのに本気になってたんだろ。バカみたい……」
と呟いたのと同時に、電話の音が鳴り響いた。
一瞬びっくりしたけど、これは脳内の電話じゃない、家にある普通の電話からだ。
9 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/09(金) 01:12:34.14 ID:iPhPIt55o
梓「もしもし、中野ですけど」
純『おっ、梓、ひっさしぶりー!元気してた?』
梓「純!?純なの!?」
電話の相手は私の幼い頃からの幼馴染、そして私にとっては只1人の親友でもある純。
でも1年前、中学2年の時に親の転勤で桜ヶ丘って街に引っ越しちゃって、今はこうやってたまに電話で話したり、時々会ったりしてる程度だ。
純『そうですよー、梓が寂しそうにしてるだろうし、たまにはこうやって電話してやらなきゃってね』
梓「べ、別に私は寂しくなんかっ!」
純『相変わらずの反応ですな梓も。そっちはどう?うまくやれてんの?』
梓「うん、全然平気だよ。何もかもうまく行き過ぎてて気持ち悪いくらい」
純『そっかー。なんかさ、私が横浜から引っ越す時、あんた色々と大変だったでしょ?だから気になってさ』
梓「あの時が一番酷かったんだって。今はもうすっかり片付いて平穏そのものだって」
私は嘘をついていた、喉から手が出る程欲しかった一番の相談相手からの電話だったのに……
純にはあっちでの生活もあるんだろうし、私の事で心配をかけさせたくなかったから出た強がりだったのかも。
梓「それよりも純、あんたそっちでの生活はどう?友達とか出来たの?」
純『まあね、1人よく出来た子がいてね。なんかいっつも自分のお姉ちゃんのことばかり話してるお姉ちゃんっ子でさ。今じゃすっかり仲良くなって、梓のこと話したら会ってみたいって言ってたよ』
梓「へぇー」
純『梓の方こそどうよ?なんか気になる子でもできた?』
梓「うん……まあ、一応、ね。ただちょっと」
純『なんなの?その子がどうかしたの?』
梓「笑わないで聞いてくれる?」
純『分かった!絶対に笑わないから聞かせてよその人のこと!』
梓「実はさ、まだその人とは電話で話してるだけなんだけど、正直その人が実際に実在してるのか分からないんだよね」
純『へ?何それ?いまいち理解出来ないんですけど』
10 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/09(金) 01:13:32.19 ID:iPhPIt55o
ここで私はおもちゃの携帯を拾った時の事、その後、唯という人からの頭の中の携帯着信の事、その唯という人が架空の人なのか現実に存在する人なのかどうか分からない疑問、全てを話した。
純『うーん、なるほどねぇ』
梓「やっぱり私の空耳だよね。こんなの非現実すぎるし」
純『かもしれないけどさ。でももしもだよ?またその人からまた電話があった時、確かめる手段、1つだけあるよ』
梓「どんな?」
純『えっと――』
ここで私は純から相手の人が現実の人間か確かめる方法を聞いた。
正直まわりくどい手段だとは思うけど、理にはかなってはいるとは私も思う。
純『今度その相手の人からかかってきたら試してみるといいよ。そうすればその人が実在の人か分かる筈だから』
梓「でも、かかってくるのかな?だってさっき約束した5時にかかってこなかったんだし」
純『どうなんだろうね。でもさ、もし電話きたらしっかりやりなよ?』
梓「うん……」
純『また困ったことがあったらいつでも相談しなさいな。この私がどーんと受け止めてあげますからっ!』
梓「はぁ……」
純『ほら、もっと元気だして!そんなんじゃいつまで経ってもいい人できないよ』
梓「そうだよね、わかった。もしもまたあの人から電話あったらさっき言われた方法試してみるね」
純『おっけー。それじゃまた電話するからさ、今度はもっとゆっくり話そっか』
梓「うん、今日はありがとね、純」
そういって私は受話器を置いた。
人付き合いを拒否している私にとって純は唯一気を許して話せる相手だ。
そんな相手と電話越しとはいえ話すことが出来たから少し気が楽になったような気分かも。
11 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/09(金) 01:15:04.63 ID:iPhPIt55o
我が家は両親が遅くまで仕事に出ていて家では私が1人でいる事が多い。
だから夕食も自分で用意しなきゃいけない。
いつも1人で食事をするけど、それが変だとも寂しいとも思わない。
だってもう慣れっこだし、それにこうして誰にも関わらないで1人でいるのが一番落ち着くから。
夕食の支度が終わり、ようやく落ち着けると安心して食卓に座る、と同時に「6時だよーん」と夕方6時を知らせる時報が室内に響き渡る。
その時報から3分くらいしてそれは起きた。
prrrr
そう、あの電話だ。
やっぱり幻聴なんかじゃなかった。私は恐る恐る脳内の通話ボタンを押す。
12 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/09(金) 01:15:45.70 ID:iPhPIt55o
梓『もし……もし?』
唯『おっ、繋がったー!梓ちゃんだよね?私だよ、さっき話をしてた唯だよっ!聞こえるよね?私の声』
梓『聞こえてますよ』
唯『良かったぁー。聞こえなかったらどうしようってヒヤヒヤしてたんだよ。ごめんね、少しだけ5時過ぎちゃって』
梓(少しだけ?1時間以上も過ぎてるのに少しって……いくら何でもこの人時間にルーズすぎでしょ)
私は腕時計を見ながら呆れた顔でため息をつく。
相手の唯という人が余りにいい加減な人っぽく見えたから。
唯『だけど良かった、また梓ちゃんと話せて』
梓『私にはよく分かりません。私はここにいて、あなたはどこにいるのかも分からない、もしかしたら現実の人じゃないのかもしれないって』
唯『うーん、そんなもんなのかなぁ』
梓『だから確かめてみませんか?唯さんが本当に今私と同じ世界に住んでいる人かどうかを』
――――――
――――
――
13 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/09(金) 01:16:12.31 ID:iPhPIt55o
10分後、私はコンビニの店内の雑誌売り場にいた。
着いた頃には辺りはすっかり暗くなっていた。
その間、頭の中の電話は繋がったままになっている。
私がコンビニに着いてから3分後、唯さんからコンビニに着いたという連絡が入る。
そう、ここで私達はさっき純から言われた事を今から試そうとしていた。
14 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/09(金) 01:16:51.80 ID:iPhPIt55o
梓『目の前の雑誌、何から何まで全部読んだことはありませんよね?』
唯『ないよー』
梓『つまり、私達2人はここの本の中身については一切知らない。だから、もし唯さんがここにある本の中身を知ってたら、あなたが想像の世界の人じゃなくて本当にいるって証明できるんです』
唯『なるほどー。梓ちゃんあったまいいねぇ』
梓『いえ……この方法考えたの私じゃないんですけどね』
唯『それじゃ、早速試してみよっか!どの本にしようかな……』
梓『お互いにまだ読んでない本でないといけませんからね』
唯『これにしよう!まんがタイムきららキャラットって雑誌、そっちにある?』
梓『ええと……ああ、ありましたよ。9月号でいいですか?これは読んだことありませんね』
唯『私もないよ。じゃあ適当にページ数言ってみてよ』
梓『はい。では51ページでいいですか』
唯『おっけー。ふむふむ』
唯『ツインテールの女の子がベッドで寝そべってるね。ドラムセットが来て部員の女の子が喜んでる様子が書かれてるかな』
梓『どれどれ……あっ、合ってる!けいおん!って漫画ですよね?すごい、全部言った通りの絵です』
唯『すごい!漫画の名前まで大正解だねっ!それじゃ今度は梓ちゃんの番だよ』
梓『わかりました。えっと……横浜ウォーカーって本でいいですか?』
唯『ほえ?ないよそんな本。というか、何でその横浜ウォーカーって本なの?』
梓『だって、この本が一番たくさん売り場に置かれてるから……』
唯『こっちには1冊もないよ?その代わり、桜ヶ丘ウォーカーならいっぱい置いてあるね』
梓『桜ヶ丘……!?』
唯『そっか……今私がいるとこは桜ヶ丘、梓ちゃんの家は横浜ってことなんだね』
梓(桜ヶ丘……純が住んでるとこと同じ場所だ……)
唯『どったの?』
梓『いえ……別に』
15 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/09(金) 01:17:43.33 ID:iPhPIt55o
コンビニを出た私は、横浜の夜景が見下ろせる公園に来ている。
もうすっかり真っ暗で、辺りには私以外誰もいない。
唯『これで君も私も実在する、ちゃんと証明できたよね』
梓『だけど、私まだ信じられません。こんな風に見ず知らずの人と話すなんて』
唯『まあ、私もなんだけどね。だって、私が誰かと話すなんて夢みたいな話なんだもの』
そう話しながら、目の前に広がる宝石箱の中身のように光り輝いている夜景を見渡すと、真っ黒な空に一際白い光を強く放っている満月が目に入った。
梓『うわぁー、綺麗な満月……』
唯『ふぇ?満月って何言ってるの?まだ夕方だよ。満月なんて見えないよー』
梓『夕方って、今7時ですよ?』
唯『7時って、こっちは6時なんだけど』
梓『へ!?』
16 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/09(金) 01:19:24.14 ID:iPhPIt55o
ここで私達は互いに今の状況を出し合って整理してみることにする。
つまりこういうことだ。
私と唯さんの間には1時間の時差がある。
でも実際横浜と桜ヶ丘の間に外国みたいな時差があるわけじゃなくって、頭の中の電話のやりとりだけに時差があるようだ。
つまり今私が話している唯さんは、1時間前の唯さんということになる。
日付や年数は同じ、ただ時間だけ私が1時間先行している形ってことになるのかな。
そしてもう1つ、電話を通して聞こえる音声は私達2人の声だけ。
周りの人の声や物音は音の大小関わらず一切入ってこないようだ。
これでさっき電話が1時間遅れてかかって来た理由が理解できた。
唯さんに時間の感覚がなかったわけじゃない、本当はたったの3分遅れの5時3分にかけてきてたんだ。
私はちょっと安心して、少し前に唯さんに呆れていた自分を責めた。
17 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/09(金) 01:20:59.43 ID:iPhPIt55o
唯『ねぇねぇ、梓ちゃんって学生さんなんだよね?この前先生がどうこう言ってたの聞いたからさ』
梓『はい。今中学3年生です』
唯『それじゃ私の1つ下になるね。私は今ピチピチの高校1年生だもの!』
梓『ピチピチって……』
唯『これからはさ、唯って呼んでよ。さん付けって何か堅苦しくって嫌だな』
梓『でも年上の人を呼び捨てってのも嫌ですし……そうだ!それなら唯先輩って呼んでもいいですか?』
唯『先輩っ!?』
梓『どうかしましたか?もしもし……もしもーし』
唯『先輩……先輩……あぁ、先輩……』
梓『あのー、もしかして嫌でしたか?嫌なら――』
唯『嫌じゃないよ!私、先輩って1度呼ばれてみたかったんだぁ……だって私、中学まで部活なんて入ったことなかったし後輩なんていなかったから、もう嬉しくて嬉しくて!』
梓『そうだったんですか。ということは今は部活に?』
唯『うん!軽音部に入ってギター練習してるんだよ!とっても楽しいよー』
梓『ギター……ですか……』
唯『どったの?』
梓『あ、いや、別に何でもないです。ただちょっと昔を思い出しただけです』
唯『そっかー。ああ、話変わっちゃうけど何か梓ちゃんの声、なんか猫さんみたいで可愛いな』
梓『ね、猫!?そんなこと言われたの初めてです』
唯『決めた!今日から君はあずにゃんだ!』
梓『あ、あずにゃんって、何なんですかその変なあだ名!?』
唯『えー!可愛くていいじゃーん。それじゃあずにゃん、また連絡するからね』
梓『はあ……分かりました』
唯『またねー!おやすみあずにゃーん』
梓『おやすみなさい、唯さん……じゃなくって――』
梓『――唯先輩』
電話を切った後、不思議と笑みがこぼれる。
こんな感覚初めてだ……不思議な人だな。
18 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/09(金) 01:21:48.80 ID:iPhPIt55o
本日ここまで、寝ます。
また明日再開予定
19 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2011/09/09(金) 01:32:13.41 ID:n4nWfsxTo
おつ
20 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/09/09(金) 02:16:37.26 ID:MxPWKETHo
俺にも聞こえる
21 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/09(金) 07:45:11.95 ID:mLutRw92o
なんという俺得スレ
22 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2011/09/10(土) 00:10:57.52 ID:WE6B+YjAo
―― 桜ヶ丘・平沢家
憂「お姉ちゃん、おかえりー」
あずにゃんとの通話を終えた私は、家に戻って玄関のドアを開けると、いつものように妹の憂が笑顔で出迎えてくれる。
その笑顔を見て私も同じように笑顔を返して、ゆっくりと両手を動かす。
唯「……」
唯【ただいま、憂】
私の手の動きを見て、憂も同じように両手を動かして返事をするかのようにジェスチャーを送る。
憂「お姉ちゃん、遅かったね。誰かお友達と会ってたの?」
唯「……」
唯【新しいお友達が出来たんだよ。あずにゃんっていうとっても可愛い子なんだー。あ、でもまだ会話しただけで実際にはまだ顔を見てないんだけどね】
憂「あずにゃん?その子の名前?」
唯【私が付けたあだ名だよ。なんだか声が猫さんみたいで可愛いんだー】
憂「声?お姉ちゃん声が聞こえるの?まさか聞こえるようになったとか!?」
唯(あっ……)
23 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/10(土) 00:11:30.01 ID:WE6B+YjAo
そう、私はあずにゃんとの電話以外で声を聞くことができない。
それだけじゃない……喋ることもできなくて、こうして手話や筆談をして相手に伝えることしかできないんだ。
ちなみに耳と口が不自由になったのは5歳の時から。
でも有難いことに、私のまわりのみんなはそれを理解してくれて受け入れてくれた。
唯一自分の声を相手に伝えられて、相手の声を聞くことが出来る方法、それはあの頭の中の電話を使うことなんだ。
唯「……」アタフタ
唯【あ、ほら!そんな感じの声なんだってりっちゃんが教えてくれたんだよ】
憂「なんだ、そうだったんだ。お姉ちゃんの耳がよくなったんじゃないのかなって私びっくりしちゃった」
唯【でも、本当にいい子なんだよ!いつか直接会ってみたいなぁ】
憂「いいなー、私も会ってみたいなその子に。お姉ちゃん本当に楽しそうなんだもの、いい子に決まってるよ」
唯【えへへー】
憂「それじゃご飯にしよっか。もうすぐ出来上がるからね」
唯【うんっ!】
24 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/10(土) 00:12:47.65 ID:WE6B+YjAo
――翌日・中野家
学校を終えた私は、ただいまも言わずに家の玄関をまたぐ。
だって今は家に誰も居ないの分かりきってたからわざわざ言う必要なんてないし……。
梓「さて、さっさとご飯済ませちゃおっと」
そう呟いて居間に来た私の視界に、ある物が飛び込む。
部屋の片隅で埃をかぶって佇んでいる赤いギターだ。
フェンダー・ジャパン・ムスタング――私のギター。
訳あってここ数年間全く触っていない、お陰ですっかり埃まみれ。
多分、これからも私はこのギターに触れることはないかも。
過去にあった嫌な記憶を呼び戻すことになるし……
そんな過去を思い出したくなかったからかな、私はそのギターから拒絶するように目を背けた。
25 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/10(土) 00:13:36.85 ID:WE6B+YjAo
――学校・昼休み
梓『へぇー、今年の春にギター始めたばかりなんですか』
今は学校の昼休み、みんな思い思いのグループで固まり、持ってきたお弁当を見せ合ってそれぞれお昼ご飯を食べている。
そんな中私だけどこにもグループに属さないで只1人、静かにお弁当を机の上に広げていた。
いや、今日は1人じゃない。頭の向こうで話し相手になってくれている人が1人いたんだっけ。
唯『うん!高校生になってさ、何か新しいこと始めなきゃいけないかなーって思って悩んでたんだけどね。丁度たまたま知り合った軽音部の部長さんにね、うちに入らないか?って誘われたの』
梓『それでどうしてギターを選んだんですか?』
唯『たまたまギター弾ける人がいなかっただけなんだけど』
梓『部員の数少ないってことですよね。パートが足りないだなんて』
唯『私を入れて4人かな。でもみんないい人で毎日楽しいよー』
梓『へぇー……4人てそれはホントに少ないですね』
唯『毎日部室でお茶したりお菓子食べたりしてるんだ』
梓『軽音部なのに演奏しないでティータイムってどうかと思います』
唯『澪ちゃんにもそうやってよく怒られるんだよー』
梓『当たり前です!』
唯『ああそうそう、澪ちゃんっていうのはベースの子でね――』
この時間、私達はお互いの近況を色々と話して時間を過ごした。
唯先輩の高校での事、家族に私と同い年の家事万能の妹がいること、軽音部の3人の部員の人達の事。
そして唯先輩も携帯を持っていないという事……部室の物置で見つけた「あの」壊れた携帯以外。
26 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/10(土) 00:14:20.88 ID:WE6B+YjAo
唯『ねぇねぇ、あずにゃんも携帯持ってないんだよね?ならさ、時間はどうやって確認してるの?』
梓『へ?』
唯『みんな携帯の時計で時間見てるっぽいからさ、携帯ない子の場合どうしてるのかなーって……私は腕時計してるんだけどね』
梓『私もそうですよ。今時腕時計で時間計ってるなんで私ぐらいの物だと思ってたので、同じような人がいてなんだかちょっとうれしいです』
唯『あずにゃんはどんな時計してるの?』
梓『赤くて丸い時計です。小さい頃からずっと使ってる大事なものなんです』
唯『幸せ者だよねーその赤い腕時計も』
梓『え?』
唯『あずにゃんにずーっと大事に使っててもらえてるんだもの。きっと幸せだよ』
梓『そんなことないです。ただ貧乏性なだけですって』
梓『あっ、そろそろ昼休みが終わりそうです。次移動教室で忙しくなりそうなのでまた後でいいですか?』
唯『おっけー。それじゃまた後でね、あずにゃん』
27 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/10(土) 00:14:51.92 ID:WE6B+YjAo
――――――
――――
――
律「おーい、ゆいー」筆談
唯「……」
澪「その様子だとこの前言ってたあの子と電話で話してたみたいだな」
唯「……」コクン
律「あー、確か梓って子だったっけか」
唯「……」コクン
紬「それにしても、頭の中だけで繋がる電話ってすごいわねぇ……何で部室にそんな物があったのかしら」
律「私が触った時には只の壊れた携帯だったんだけどなー」
唯「……」カキカキ
唯【やっぱりとんでもない話すぎて信じられないよねぇ】
律「まー普通に考えりゃそうなんだけどさ」
澪「唯がすごく嬉しそうな顔してるから、嘘とは思えないんだよな」
唯「……」えへへー
紬「どんな子かしらねー、梓ちゃんって子。唯ちゃんが言うには猫さんみたいに可愛い子って言ってたけど」
唯【私も気になるよ。会いにいきたいなぁ、あずにゃんに……どんな子なんだろう】
澪「そうだ!そんな話してる場合じゃなかった!次テストだぞ、歴史のテスト!」
唯【あーーっ!すっかり忘れてたよぉー】
律「想定内のお返事どうも」
唯【どうしよぉ……私何にも勉強してないよー!】
澪「自業自得だ」
唯「……」ふぇぇー
28 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/10(土) 00:16:37.82 ID:WE6B+YjAo
補足:憂和は手話、律澪ムギは筆談で会話してる設定
29 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/10(土) 00:17:08.87 ID:WE6B+YjAo
―― 授業中
prrrr
梓(あれ?唯先輩からだ……どうしたんだろ)
梓『はい』
唯『あずにゃーーーん!!助けてえぇぇ!』
梓『い、いきなり何なんですか!』
唯『今日本史のテストやってるんだけど勉強やってくるの忘れてチンプンカンプンなんだよぉぉぉ!だからあずにゃんお願い!』
梓『お願いってまさか……』
唯『うん、そのまさかだよ』
梓『本気で言ってるんですか?それってズルじゃないですか。第一勉強してこなかったのは唯先輩が悪いだけでしょう』
唯『お願いあずにゃん!また追試だなんてコリゴリだもん』
梓『だからといって中学生にテストの答えを教わる高校生ってのもどうかと思いますけど』
唯『ぶーっ!あずにゃんの意地悪〜』
梓『意地悪で結構』
唯『いいもん、1人でやるから……』
唯『……』
唯『……』
梓『あの……大丈夫ですか唯先輩』
唯『ふーんだ』
梓『……』
唯『……』ぷしゅー
梓『……しょうがないですね、この人は全く』
唯『え?手伝ってくれるの!?』パアァー
梓『今回だけですからね?わかりましたか?』
唯『おおおっ!ありがとうあずにゃーん!!!』
梓『にゃああっ!そんな大きな声で言わなくても聞こえますって!』
梓(私もお人よしだな……でもなんかこの人の事、放っておけないや)
30 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/10(土) 00:17:39.07 ID:WE6B+YjAo
――夜
梓『もうすぐ東の空に流れ星が見えますよ』
唯『ほえ?流れ星?』
梓『こっちは1時間前に流れ星にお願いしました』
唯『何を?』
梓『内緒ですっ』
唯『あっ!』
梓『どうしました?』
唯『今流れ星見えたよ!ちゃんとお願いできたよー、えへへ』
梓『どんな願い事ですか?』
唯『ふっふふふ……内緒だよっ』
梓『もうっ!』
唯『あずにゃんが内緒にしてるからお返しだもん』
梓『気になるじゃないですか』
唯『へへーん』
31 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/10(土) 00:18:24.38 ID:WE6B+YjAo
――それからしばらくたったある日
私と唯先輩は毎日、場所も関係なくいつも話しているような仲になっていた。
周りに聞こえないし声に出す必要もないし長電話してもお金かからない、本物の携帯より便利だよね、これ。
そんな毎日を過ごすようになって分かったことがある。
それは、その日どんな嫌な出来事があってもあの人と会話をしてると、まるでそれが些細な事のように思えてくるということだ。
32 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/10(土) 00:18:58.20 ID:WE6B+YjAo
梓『学園祭ですか』
唯『うん!私達軽音部にとっては初めてのライブなんだー』
梓『すごいじゃないですか!』
唯『えへへー。でもなんだか緊張するなぁ』
梓『大丈夫ですよ。唯先輩達なら必ず成功しますから。きっと上手くいきますって』
唯『ありがとあずにゃん。それでね、話があるんだけど』
梓『なんです?』
唯『今度の学園祭が終わったらしばらく時間に余裕が出来そうだからさ、もしライブが成功したらね……』
唯『あずにゃんに会いにいこうって思ってるんだ』
梓『え――』
唯『私、あずにゃんに会いたいんだ。駄目かな?』
33 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/10(土) 00:19:34.09 ID:WE6B+YjAo
夕方・中野家
純『会いにいきたいって言われたんだ!よかったじゃん梓』
梓「まあ……ね」
あの日の電話以来、こうして純とは唯先輩とのやりとりというか近況を報告していた。
どんな相談にも乗ってくれて、その都度色々なアドバイスを貰っていた。
つまりここまで上手くいけてるのは純のお陰でもあるわけで……
純『それで、いつ会うことにしたのよ』
梓「それが……断っちゃったんだ」
純『ええっ!勿体ないって!どうして断っちゃったのさ』
梓「……」
純『もしかしてさ、もし会ってみて嫌われちゃったらどうしよう、とか思ってるんじゃない?』
梓「うっ……」
純『やっぱりそうだったか……怖いから悪い方にばかり考える……その方が楽だもんね。怯える事も傷つくこともないし』
梓「だってさ……」
純『梓、1つだけ聞いていい?』
梓「うん」
純『あんた、その唯って人に本当は会ってみたいの?会いたくないの?』
梓「そっ、それは!……それは」
純『それは?』
34 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/10(土) 00:20:41.68 ID:WE6B+YjAo
梓「……会いたいな」
純『なら答えは簡単だよ。会えばいいんだって』
梓「会いたいけど……今はまだ会う時期じゃないって思うんだよ」
純『そっか……なら無理することもないでしょ。でもさ、これだけは覚えておいて』
純『会いたい気持ちに時期なんて関係ないよ。会いたいと思った時が会う時なんだからさ』
梓「そういうものなのかな。あんまりよくわからないや……」
純『そういうもんなんだって。それにしても梓さ』
梓「何?」
純『その人について、かなりのご執心のようだね』
梓「なっ!」
純『大好きなんだよね?その人のことがさ』
梓「じゅ、純!いきなり何言ってるの!!やめてよ、そんなんじゃないから!」
純『ほんとあんたってわかりやすいよね』
梓「もうっ!純のくせにっ」
純『あははっ!でもよかった。梓ずーっと元気なかったからさ、私も気になってたんだ』
梓「純……」
純『やっぱりあんたさ、その人にあってから少しづつ変わってきてるよね。あんた自身は気が付いてないかもしれないけどさ』
梓「そんなもんなのかな」
純『そうなんだって。傍から見ればよく分かるからそういうの。とにかく、また何か進展したら教えてね』
梓「うん、そうするね。今日はありがとね純」
純『どういたしまして。それじゃまたね梓』
35 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/10(土) 00:21:58.02 ID:WE6B+YjAo
――それから数日後の日曜日の朝
梓母「それじゃ行ってくるから留守番頼むわね。夕方には帰ってこれると思うから」
梓「うん」
梓母「戸締りしっかりね」
梓「わかってる、いってらっしゃい」
梓母「いってきます」
バタン
梓「はぁ……今日は1日留守番か。暇だなー」
玄関から居間に戻った私の視界にまたあの赤いギターが入る。
前はすぐに目を逸らそうとしたけど、今は何故かギターが気になってしょうがない。
私は何かに吸い寄せられるかのようにゆっくりと近づいてネックを持たずに六弦を撫でる。
梓「何年ぶりかな……このギターに触るの……」
静かな室内に弦を弾く音が聞こえる。
梓「……私何やってんだろ、もうギターは弾かないって決めてたんじゃなかったの?」
梓「……変な私」
私は1人呟いて、ギターを手放して背中を向けた。
もしかして意識しちゃってるのかな……唯先輩がギターをやってるってことに。
36 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/10(土) 00:23:13.34 ID:WE6B+YjAo
――翌週・学校
教師「よし中野、次!教科書20ページから読んでみろ」
梓「はい」
梓「蒙昧にして臆病なる貴族共よ、鼠の尻尾の先程でも勇気があるなら要塞を出て堂々と決戦せよ。その勇気がないなら内実のない自尊心など捨てて降伏するがよい」
梓「生命を救ってやるばかりか無能なお前たちが食うに困らぬ程度の財産を持つのも許してやる」
教師「中野!もっと腹から声を出せ、腹から!毛虫の声じゃないんだぞ!」
プッ クスクス
まただ……この先生、私に嫌がらせでもしてるんだろうか。
いつも朗読で私を指名して笑い者の晒し上げにしたりなんかして何が楽しいのよ……
――帰り道
唯『どったの?なんか元気ないねぇ』
梓『今日、また笑われちゃったんです。クラスのみんなの前で毛虫みたいな声だなんて先生にいわれて……』
唯『そんなぁ……そんな事ないって!』
梓『今日だけじゃないんですよこんなの。私、何か話そうとするとすぐ緊張しちゃって、声が掠れて裏返って……それで結局笑われるんです』
梓『きっと、誰とも話したくない、関わりたくないと思ってずっと声出さないでいる内に退化しちゃったんじゃないかなって思うんです』
唯『そんなことないって。あずにゃんはちゃんと喋れるよ!ちゃんと声が出るんだよ!今だって私と普通に――』
梓『これは頭の中で口を使って喋らなくていいから……本当に声に出してなんかないじゃないですか』
唯『それは違うよあずにゃん。聞いて?私ね、実は――』
梓『唯先輩には分からないんですよ!!』
唯『!?』
梓『私なんて……私なんていなくなっちゃえばいいのよ!!』
唯『あずにゃん……』
梓『私がいなくなったって、何も変わらないんです。誰も気付いたりなんかしないんです!』
梓『だから……だから……』
唯『ねえあずにゃん』
唯『週末、私と一緒に遊びに行かない?』
梓『え?遊びに……ですか?』
唯『うんっ!』
37 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/10(土) 00:26:31.77 ID:WE6B+YjAo
今日はここまでです。
見てくれてる人ありがとう!
ラストどうしようか……
38 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/10(土) 00:34:23.25 ID:RhMhpViDO
乙!!
二人が幸せになる方向ならどんな幕引きでも良いんじゃないかな?
まぁ、俺は元ネタ知らんのだがなwwwwwwwww
39 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)
[sage]:2011/09/10(土) 00:59:40.48 ID:jiW97k9Zo
乙!楽しみに待ってる
40 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
:2011/09/10(土) 12:55:11.98 ID:pnjfeJ9AO
最後原作通りはやめてね
41 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関東・甲信越)
:2011/09/10(土) 12:55:45.51 ID:pnjfeJ9AO
最後原作通りはやめてね
42 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/09/11(日) 18:56:42.13 ID:JLg6k+zEo
――土曜日・鎌倉
この日は唯先輩に誘われて鎌倉に足を運んだ。
横浜からはそう遠くない場所だけど、私にとっては初めての土地で何もかもが新鮮に映った。
唯『さ、いこっかあずにゃん。私の言う通りに進んでね』
梓『はい』
唯先輩と一緒にとは言ったけど、実際に一緒にいるわけじゃなくって電話越しにってことなんだけどね。
きっとこの人は落ち込んでる私に気分転換をさせてあげようと誘ったんだろう。
正直私自身も気が滅入ってたし、先輩を心配させたくなかったので受けることにした。
唯『じゃあ早速、最初の指示です!駅を出たら真っ直ぐ進んで橋を渡ってね』
梓『橋ですね。分かりました』
梓『――それにしても、なんだか不思議な感じですね、これ』
唯『だよねー。これってあれかな?遠距離デートみたいだよね、えへへ』
梓『デ、デートって……!何でそんな恥ずかしい台詞が出てくるんですかっ!』
唯『えーいいじゃーん』
梓『よくありません!』
――――――
――――
――
梓『唯先輩は鎌倉に来た事あるんですか?』
唯『ちっさい頃に少しの間だけ住んでたんだ』
梓『そうだったんですか。だから道が分かってるんですね』
唯『あずにゃん、1つ訊きたいことがあるんだけどいいかな?』
43 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 18:57:35.09 ID:JLg6k+zEo
梓『訊きたいこと?何です?』
唯『あずにゃんが他人と話すのを苦手になっちゃった訳』
梓『……でも』
唯『大丈夫!心配しないでどーんと話してみなさいな!』
梓『そうですね……』
梓『小学6年の時だったかな……ギターのコンクールがあったんです』
唯『ギター!?あずにゃんギターやってたの!?』
梓『小学4年の時から、昔の話ですけどね』
唯『そんなー。何で言ってくれなかったのさぁ……知ってたのならあずにゃんに楽譜の読み方教えてもらおうと思ったのにー』
梓『今はもうやってませんから言う必要もないんじゃないかなって思ったので……というか唯先輩楽譜も読めないで今迄どうやってギターやってきてたんですか!』
唯『えーっと……何となくかなぁ』
梓『ありえない……無茶苦茶だこの人』
梓『ま、まぁ……話戻しますね。この日、私は初めてお人形さんのような可愛い服を着て、おめかしして、すごく嬉しい気持ちで舞台に立ったんです』
梓『その服可愛いね、ギター上手いねってクラスのみんなも褒めてくれました。私もう嬉しくて嬉しくて幸せな気分でした』
梓『……でも』
唯『でも?』
梓『……嘘だったんです、その言葉が』
唯『嘘?』
44 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 18:58:13.82 ID:JLg6k+zEo
梓『梓ちゃん、あんまり上手くないですね。あの服変だったよね。何か髪が日本人形みたいで怖いよねって……本番の後、廊下で同級生の子達がこっそりそう茶化しながら笑ってたんです』
梓『それからかな……人とどう話せばいいのか分からなくなったのは……』
梓『勿論ギターは辞めました。髪も日本人形と笑われるのが嫌でツインテールにしました』
梓『唯一理解してくれている幼馴染が1人だけいました。でもその子は私が中学2年の時に唯先輩が住んでいる場所と同じ桜ヶ丘に引っ越してしまって……1人ぼっちになっちゃって……それからは前以上に人と関わりあいになるのを避けるようになりました』
梓『そんな私から出る空気に周りも気付いてたのか、まるで腫れ物に触るかのような扱いをされてきて、そういう人達の視線まで気にするようになったというか』
梓『今でもそうです。昼休みはみんなそれぞれ集まってお弁当食べるけど私はいつも1人、体育の授業も私はいつも1人外れて見学……溶け込めないんですよ』
唯『なるほどねぇ……』
梓『ただの臆病かもしれません。でも私鈍感だから……冗談とかお世辞なんかも全く分からなくて、何でも真に受けちゃう性質なんです。』
梓『だから怖いです……私みたいな欠陥だらけな人間はそれなりに自己防衛しなきゃって……』
45 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 18:58:47.98 ID:JLg6k+zEo
唯『わかるよ。すごく分かる。人に笑われるのってすごく辛いよね。でもさあずにゃん』
梓『はい?』
唯『あずにゃんは1つだけ間違ってるよ』
梓『え?』
唯『あずにゃんに欠陥なんかないんだよ。いつも真剣に他の人の言葉と向き合ってるっていう意味なんだよそれは』
唯『人の言葉に対して1つづつ意味のある答えをしようとしてるだけなんだと思うな。だから多すぎる嘘に傷ついてくんだ。でも大丈夫!証拠もあるよ』
梓『証拠?どんなのですか?』
唯『あずにゃんは今さ、私とちゃんと話せてるじゃん。それで十分なんだよ』
梓『唯先輩……』
唯『私はすっごく好きだよ?あずにゃんの声、あずにゃんの言葉』
唯『えへへ。何だか偉そうなこといっちゃったね。ごめんごめん』
梓『いえ、そんな事ないです。私、唯先輩に話してみて良かったと思ってますから』
唯『そっかー。力になれてよかったよ』
唯『あっ!そうだそうだいけない!そこからさ、真鍋マリンサービスってお店の看板見えない?』
梓『うーん……あっ!ありましたよ』
唯『それじゃあね、そこに行って荷物を受け取ってきて欲しいんだ。私からあずにゃんへの荷物だよ?ちなみにここからはあずにゃんに1人で行ってもらいますっ!』
梓『ええっ!?1人……ですか?』
唯『ほいじゃ、健闘を祈るっ!なんちゃって♪』
梓『ちょっ!唯先輩っ!』
つーつーつーつー
46 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 18:59:24.36 ID:JLg6k+zEo
梓「切れちゃった……はぁ、1人で行けだなんて無茶言ってくれるよあの人は……」
梓「まあ、とにかく行ってみよう」
――――――
――――
――
梓(サーフボードがいっぱい置いてある……マリンスポーツ関係のお店なのかな)
梓(入り口開けっ放しだ。中に入っていいんだよね?)
梓「あのぉーすいませーん……」
店内に入った私は小さな声で呼びかける、が返事はない。
どうみても聞こえるような大きさの声じゃない、覚悟を決めて大声で呼んでみよう。
梓「すみませーん!!」
「はーい」
今度は声が聞こえたのか、女の人の返事が返ってきて、奥から1人の女の人が出てくる。
赤い眼鏡をした人で、私とそんなに歳が離れていないようないでたちだ。
梓「突然すいません。私、中野という者ですけど平沢唯さんから私宛に荷物が届いているかと」
和「へぇー、あなたが唯の言ってた梓ちゃんね。ちょっと待っててね」
そう言うと、その眼鏡の人は店の棚から1つの小包を持ってきて手渡してきた。
和「ふふっ、全く唯もなかなか隅に置けない子ねぇ……はい、どうぞ」
梓「ありがとうございます」
和「唯によろしく言っておいてね」
梓「はい」
それだけ言うと、眼鏡の人は店の奥へ戻っていこうとした。
ここで私も帰ればいいのに、何故か呼び止めてしまう。
それは、どうしても訊いておきたいことがあったから。
47 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 19:00:33.81 ID:JLg6k+zEo
――――――
――――
――
梓「そうだったんですか。唯先輩とは幼馴染だったんですね」
和「ええそうよ。あの子は昔っから本当に変わった子でね……はい、お茶」
梓「ありがとうございます」
和「いきなり私の家にやってきて浴槽を捕ってきたザリガニで一杯にしたりとか、家庭科の授業で班でタコ焼き作る実習の時にもタコ担当の唯がタコ忘れてきててタコ無しタコ焼き食べるハメになったりとか……」
梓「色々とすさまじい人だったんですね」
和「そうよ。まだまだ一杯あるけど聞いてみる?」
梓「いえ……もう十分です」
和「そう、でもね……確かにあの子と一緒にいると色々あるけど、何があっても1度として嫌な気になったことはなかったわね」
和「不思議と許せちゃうんですもの、あの笑顔を見ると、ね」
梓「そうですね、私も今まであの人といて同じような感覚になりましたね。悪気がないせいで怒る気にもならないっていうか何というか」
和「唯は中学まで何もやってこなかったわ。まあそれにも理由があるんだけど。でも本人は高校生になったら何か新しいことをしたいって言ってたの」
梓「そういえば前にそう話してくれた事がありました。何ていうか、部活の話をしてる時の唯先輩、すごく楽しそうな雰囲気でした」
和「そうね……軽音部に入って本当に変わったと思うの。自分を受け入れてくれる友達とギー太ができたって喜んでたもの」
梓「ギー太?」
和「ああ、唯のギターね。あの子、物に名前付ける癖があるのよ」
梓「唯先輩のセンスが分からない……」
48 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 19:01:24.11 ID:JLg6k+zEo
和「唯が段々と私に頼りっきりにならなくなってなんだか巣立ちされたような気分で寂しくなったとはちょっとは思うけど、それでも私は唯が軽音部に入って、梓ちゃんと出会って本当に良かったって思えるの」
梓「私に?」
和「ええ、唯ったらいつも嬉しそうにあなたの話ばかりするんですもの。毎日何度も細かく何を話したとか、ね」
梓「唯先輩が私を……あ!でも和さん今こちらにいるってことは今は唯先輩と離れ離れなんですか?」
和「違うわ。このお店は叔父の店でね、たまたま叔父に用事があって週末を利用して来てるだけなの。だから実家は桜ヶ丘だし明日になれば帰るわ」
梓「よかった、唯先輩と離れ離れってことじゃなくてよかったです。私が幼馴染と離れ離れで暮らしてて尚更そう思うので」
和「今日ここに行くっていう話は唯も知っててね、じゃあついでにこの荷物を預かってくれって。そして梓ちゃんが訪ねてくるからそれを渡してくれって頼まれたんだけどね」
梓「なるほど……そういうわけだったんですね」
和「梓ちゃん」
梓「はい」
和「唯の事よろしくね。あの子にはあなたが必要なんだから、ね」
梓(私が……頼りにされてる?他人に?)
49 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 19:02:47.37 ID:JLg6k+zEo
荷物を受け取った私は、和さんと別れた後唯先輩に報告をすることにした。
梓『唯先輩、荷物受け取りましたよ』
唯『ほい、了解だよっ』
梓『先輩の幼馴染の人のとこだったんですね』
唯『そだよー』
梓『それで、次はどこに?』
唯『私が大好きだった場所だよ』
梓『どんな場所なんです?』
唯『へへー、着いてからのお楽しみー』
50 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 19:03:21.32 ID:JLg6k+zEo
目的の場所へ向かう途中、色々なお店に寄り道した。
全部土地勘のある唯先輩お勧めのお店だ。
アクセサリショップ、服屋さん、わらび餅屋さん、喫茶店、本当に数え切れない程まわった。
1人でいるはずなのに、何故か本当に隣に唯先輩がいてデートしているような……そんな気になる。
51 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 19:04:09.86 ID:JLg6k+zEo
梓『あの、先輩は今どちらに?』
唯『今はねぇ……街を見下ろせる丘の上の原っぱにいるんだ。私のお気に入りの場所なの』
梓『2人揃って先輩のお気に入りの場所ですねっ』
唯『だよねぇ。いつかここにもあずにゃんと一緒に来たいな』
梓『波の音が聞こえてきましたよ。先輩の言ってたお気に入りの場所って海だったんですね』
52 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 19:04:39.06 ID:JLg6k+zEo
水平線を見えたと同時に私の足は自然と小走りになる。
誰も人がいない静かな砂浜で、都会暮らしの私にとってはとても新鮮な光景だ。
そこで私は砂浜に座って小包を開けてみる。
そこには「あずにゃんへ」と書かれた一通の便箋と古いラジカセが入っていた。
ちなみに頭の中の唯先輩との通話はここに到着したと同時に切れている。
53 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 19:07:50.41 ID:JLg6k+zEo
―――――――――――――――――――
あずにゃんへ
この小包を渡したのは、箱の中のラジカセをあずにゃんに受け取って欲しいからなんだ。
ただ1つだけ、私のお願いを聞いてくれるかな?
一緒に入れてあるテープを使って、あずにゃんの声を録音して私に送って欲しいんだ。
あずにゃんの声で……なんでも好きな言葉を、大きな声で
それじゃあ、よろしくね
―――――――――――――――――――
54 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 19:08:29.83 ID:JLg6k+zEo
テープは既にラジカセにセットされていた。
あとは録音ボタンを押せば自動的に録音が始まり私の周囲の音を広い始める。
梓(これを押して喋ればいいんだよね……えいっ)
録音ボタンを押すと中のカセットテープが回り出す。
何か口を動かさなきゃいけないと分かっていても何も出来ない。
おもわず停止ボタンを押してテープをとめ、ため息をつく。
梓(駄目だ、こんなんじゃ……この程度のことが出来ないでどうするの私!)
意を決してもう1度録音ボタンを押し、ラジカセを地面に置いて立ち上がる。
梓「えっと……ちゃんと声……はいってるかな?」
小さな声でそう言って、ラジカセの中を覗き込むと、テープが音を立てずに静かに廻っていた。
――ちゃんと声、拾えてるんだ……
それを確認すると、水平線の彼方に沈む夕日を見つめる。
いつの間にか私の顔から自然と笑みが漏れていた。
その笑みの正体が、夕日によるものなのか、それとも他の何かなのかは分からないけど。
ただ間違いなく言えるのは、以前の私ではありえない表情であるということ、それだけかな。
55 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 19:09:18.06 ID:JLg6k+zEo
梓「中野梓です。私は今、鎌倉の海岸に来ています。唯先輩が録音しろって言ったので録音しています」
梓「……少し照れくさいですけど、ね」
照れた顔でそう呟くと、大きく深呼吸する。
そしてこの空のどこかの下にいる唯先輩に直接語りかけるように大きな声で呼びかけた。
梓「唯せんぱーい、聞こえますかー?私の声、ちゃんと届いてますか?秋も深まってきてもうすぐ冬ですね!!!春になったらあなたに会いたいです!!!」
私の心には何かをやり遂げた後のような充実感があった。
私の声、本当に唯先輩に届けばいいな。
56 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 19:12:36.86 ID:JLg6k+zEo
――それから数週間後
教師「よし、じゃあ次は教科書311ページから!中野、読んでみろ」
梓「はい」
梓「あんた一体何なのよ!車は盗む、シートは引っぺがす、私はさらう、娘を探すのを手伝えなんて突然メチャクチャは言い出す!」
梓「かと思ったら人を撃ち合いに巻き込んで大勢死人は出す、挙句は電話BOXを持ち上げる!あんた人間なの!?お次はターザンときたわ。警官があんたを撃とうとしたんで助けたわ。そうしたら私まで追われる身よ!一体何があったのか教えて頂戴!!」
教師「はいそこまでだ。中野、座っていいぞ」
ワイワイガヤガヤ
モブ生徒「おいおい何だよ、中野の奴どうしちゃったんだよ」
教師「おいそこ!静かにしろよ!!」
教師「中野」
梓「はい」
教師「今の朗読、すごくよかったぞ」
教師「じゃあ次!――」
梓(……えへへ)
57 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 19:13:42.83 ID:JLg6k+zEo
ちょっとメシ&風呂休憩。
今日はもうちょい続けます
58 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 19:48:10.81 ID:Fv5d4CARo
支援
59 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 20:37:04.21 ID:JLg6k+zEo
さいかい!
60 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 20:38:12.80 ID:JLg6k+zEo
――平沢家
唯【ただいまーういー】
憂「お姉ちゃんおかえりー」
憂「そうだ、お姉ちゃん宛に荷物が届いてるよ」
唯【荷物?】
憂「はいこれ。私まだ中みてないから、どうぞ」
唯【あっ!これあずにゃんからだっ!】
憂「梓ちゃんから?」
唯【私が頼んでたテープが入ってるよ!本当に送ってくれたんだねぇ】
憂「へぇー、何か頼んでたの?」
唯【うんっ!後で憂にも見せてあげるね!】
憂(お姉ちゃんすごく幸せそうな顔してる……一体どんな子なんだろう、梓ちゃんて)
61 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 20:39:06.06 ID:JLg6k+zEo
――――――
――――
――
prrrr
梓『もしもし』
唯『もしもしあずにゃん?今何やってるのー?』
梓『今は体育の授業中です。体育館でバスケやってますよ』
唯『それじゃ今お話するのは気が散っちゃうからあんまよくないかな?』
梓『いえ、大丈夫ですよ。私、体育はいつも隅で見学してるだけなので』
唯『そっかー。あのね、今日は報告しておきたいことがあるんだ』
梓『報告?』
唯『テープ届いたよ。あずにゃんありがとね』
梓『え!?本当に?もう……聞いちゃいました、か?』
唯『……うん』
梓『うわああっっ!は、恥ずかしい……っ』
唯『そんな事ないって。すごく素敵で可愛い声だったよ』
62 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 20:39:38.14 ID:JLg6k+zEo
梓『そんな……おだてても何もでませんよ』
唯『私は嘘とお世辞は言わない子だよ?』
梓『ふふっ、ありがとうございます先輩。ああっ!』
唯『どったのあずにゃん』
梓『いえ、ボールが私の方に飛んできただけですから、大丈夫です』
モブ生徒「梓ちゃんごめーん。ボールとってー!」
梓「うん!いくよー?」
モブ「ありがとーっ!」
モブ「梓ちゃん、よければ私達のチームに来ない?」
梓「……」
梓「うん!」
63 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 20:40:32.08 ID:JLg6k+zEo
―― 中野家
梓「ただいまー!……って、誰もいないか」
梓「……私のギター、埃で真っ白だ。触ってない間にこんなに汚れてたんだ……」
梓「たまにはお手入れしてあげなきゃなぁ」
――――――
――――
――
梓「よし……できたっと!」
梓「折角だしちょっとだけ弾いてみようかな……」
ジャラララーン
梓母「ただいま梓……ってこの音、あの子もしかして」コソコソ
梓母(何年ぶりかしら、あの子のギターを聴くなんて)
梓母(あれだけ嫌がってたのに……本当に変わったわね、何かあの子にいい事でもあったのかしら)
ジャジャジャーン
梓(ふぅ……久々だからまだ指がついていけてないや)
64 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 20:41:11.22 ID:JLg6k+zEo
もう2度と触らないと決めていたギターに触るとか、体育の授業で人に誘われるとか、授業で先生に褒められるなんてちょっと前の私には絶対にありえないことだった。
永久に溶けない氷が時間をかけてゆっくりと溶けていくような感覚……多分、というか間違いなく原因はあの人だ。
唯先輩といると、この世に不可能なことなんてないような何でも出来るような……そんな気持ちになる。
65 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 20:42:43.87 ID:JLg6k+zEo
――ある休日の午後
唯『ねぇねぇあずにゃーん』
梓『どうかしましたか?』
唯『あずにゃんってさー、ギター以外に趣味とかあるの?』
梓『そうですね……私最近通販に凝ってるんです』
唯『通販?ネットでお買い物してるの?』
梓『ええ。結構いい掘り出し物とかあるんですよ?』
唯『ほほぅ、どんなの買ってるのかね?』
梓『最近ギター用乾燥剤とか寝てる間にリズム感が養えるCDとか壁にくっつくギター用ハンガーとか買いましたね。ハンガーなんて肉球の形してて可愛いから思わず買っちゃったんです』
唯『あずにゃんや……それ本当に役に立ってるの?』
梓『うっ……ま、まあ……それなりには』
66 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 20:43:25.39 ID:JLg6k+zEo
梓『ああ!最近可愛いの買ったんですよ!キュゥべえってキャラのラバーストラップで気に入っててバッグに付けてるんです』
唯『それって最近やってたアニメのキャラだよね?』
梓『ええ、そうですよ』
唯『へぇー、意外だなぁ……あずにゃんアニメとかも見るんだ』
梓『あんま見てませんけどね。ただなんか一目見て気に入っちゃっただけです』
唯『衝動買いはダメだよー。お小遣いは大切に、だよ!』
梓『いつも無駄遣いしてお金に困ってる唯先輩に言われたくないです』
唯『うぅ……あずにゃん先輩厳しいっす』
梓『はいはい』
唯『でもなんか楽しいなぁ』
梓『何がですか?』
唯『だってこうやって話してるとあずにゃんの色んな物が分かってくるんだよ!私もっともっとあずにゃんの事知りたいよ』
梓『私のこと知ってもあまり役には立ちませんよ?それに教えるにしても唯先輩に対価をちゃんと払ってもらいますからね』
唯『たいか?』
梓『私も唯先輩のこと、もっといーっぱい知りたいんですから!いいですよね?』
唯『もっちろんだよ!ああ、それと話は変わるけど』
梓『はい?』
67 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 20:44:00.50 ID:JLg6k+zEo
唯『前にあずにゃんにラジカセあげたよね?あれまだ持ってる?古いラジカセだからちょっと気になっちゃったんだー』
梓『当然じゃないですか!私あのラジカセ飾っていつも眺めてるんです』
唯『大事にしてくれてるんだね、ありがとねあずにゃん』
唯『あのラジカセね、私の4歳の誕生日に両親から貰ったものなんだ』
梓『そんなに大事な物だったんですか……いいのかな、私なんかが貰っちゃって』
唯『だからこそ、あずにゃんにプレゼントしたかったんだよ?』
唯『それにね、私はこう思うんだー。そのラジカセは多分私のことを――』
唯梓『ずっと覚えてる』
唯『え……なんであずにゃんそれを……』
梓『ふふっ、私唯先輩の心が読めるんですよ?』
唯『ええっ!あずにゃん何時の間にそんなすごい子になったの!?』
梓『冗談ですよ冗談』
唯『もうっ!ひどいよあずにゃんったら私のこと騙すなんてさー』ブーブー
梓『えへへ、ごめんなさいっ。実はこの前鎌倉に行った時に和さんから聞いたんです。唯先輩が物に名前をつけてまるで意思のある友達のように大事にしているって話を』
唯『和ちゃんったらもう、変なとこまで喋らないでよぉー』
梓『そういえば唯先輩、もうすぐ学園祭なんですよね?』
唯『うん。そうなんだけどさぁ……』
梓『何か悩みでも?』
唯『実は――』
68 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 20:44:43.91 ID:JLg6k+zEo
――コンビニのFAX機
唯『それじゃ送るねー』
梓『はーい』
お金を入れてFAXのボタンを操作すると、中から数枚の紙が吐き出されてくる。
それらには楽譜が書かれていた。
梓『こちらはOKですよ、受け取りました』
――――――
――――
――
近所の河原、私はベンチに腰を下ろすとさっき受け取った楽譜を広げ、背中に背負っていたギターケースを下ろし中からギターを出す。
69 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 20:45:23.21 ID:JLg6k+zEo
唯『ごめんねあずにゃん、こんなお願いしちゃって』
梓『いいんです、気にしないでください。私も唯先輩とギターの練習したかったので。それに……その……そんな気にさせてくれたのは先輩のお陰でもあるんですから』
唯『私の?』
梓『あ、いえ……と、とにかく始めましょうか』
――――――
――――
――
梓『私の恋はホッチキス、ですか。コピーバンドじゃなくてオリジナルをやるんですね』
唯『うん。でも楽譜を読んでも分からない場所がいくつもあるんだよ』
梓『どれどれ……随分変……じゃなくて特徴的な歌詞ですね』
唯『その歌詞考えたのは澪ちゃんだよ』
梓(どんな人なんだろ……こんな詞を書くなんてある意味すごいセンスだ)
唯『どしたの?』
梓『あっ、いえ別に……少し読ませてもらっていいですか?』
唯『どうぞー』
70 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 20:46:24.56 ID:JLg6k+zEo
梓『では……』
唯『……』
梓『……』
梓『〜〜♪』
知らず知らずの内に曲のフレーズを口ずさんでいた私。
なんか唯先輩達と同じバンドにいるような……そんな錯覚がする。
唯『……!!?』
梓『先輩?どうしました?』
唯『あ、いやぁー、何でもないよ?』
梓『すいません、久しぶりに楽譜なんて見たからつい心躍っちゃって……』
唯『あずにゃん、もう少しだけ歌ってみてくれないかなぁ?』
梓『私の鼻歌なんて聴いてもあんまり参考になりませんよ。私歌苦手ですし』
唯『いいんだよ。私にとってはそれが一番参考になるんだから』
梓『……分かりました』
――――――
――――
――
唯『ふぅ、あずにゃん教え方上手いね。これなら本番までに出来るようになりそうだよ』
梓『それ程でもありませんって。それよりも本当によかったんですか?直接音あわせしてませんけど』
唯『しょうがないよ。だってこの電話、私達の声しか送れないんだもん』
梓『こういう時ちょっと不便ですね』
唯『そろそろ時間も遅いし、帰ろっか』
梓『そうしましょうか。週末のライブ頑張ってくださいね』
唯『まっかせなさい!』
71 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 20:48:16.47 ID:JLg6k+zEo
――それから数日後・桜高音楽室
律「今日は私達にとって初めての学園祭ライブ、絶対成功させような!」
唯「……」コクコク
紬「おー」
澪「な、なあ……やっぱり私がボーカル……なのか?」
律「なーに言ってんだ。澪以外に誰がいるんだよ」
澪「そ、そんなぁー……代わって!お願い!お願い律!」
律「何だ何だー?私にドラム叩きながら歌えってか。それに今更代えるなんて出来るわけないだろ」
澪「ならドラムは私がやるから!」
律「ベースは誰がやるんだよー」
澪「それも私がやる!」
律「おぅおぅ!やってもらおうじゃないの。逆に見てみたいわ!」
唯「……」
唯【大丈夫だよ。澪ちゃんなら絶対出来るよ!私達、澪ちゃんがこっそり見えないとこで歌の練習してたの知ってるんだよ?ここまで頑張ってきたことは絶対に無駄にはならないから……だから頑張ろう?】
72 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 20:48:59.69 ID:JLg6k+zEo
澪「唯……」
紬「そうね。今日までやれるだけのことはしてきたんだもの。唯ちゃんもこう言ってるんだし、ね」
唯「……」ニコニコ
澪「……分かったよ。私達この日のために練習してきたんだもんな。ありがとう唯、私やってみるよ」
唯「……」コクン
ガチャッ
和「みんないる?もうすぐ出番よ。そろそろ講堂の方に移動お願いね」
律「よっし!いくぞー!」
唯【終わったらティータイムしようね!】
紬「そうしましょー」
律「だなー」
唯「……」ハッ
唯【そうだ和ちゃん、みんな、ちょっとお願いがあるんだ】
律「なんだー唯」
唯【えっとね……今度のライブなんだけど――】
73 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 20:50:58.27 ID:JLg6k+zEo
――学園祭から数日後・中野家
梓母「梓、お友達から荷物が届いてるわよー」
梓「荷物?誰からなんだろ」
梓母「平沢さんって方からよ」
梓「えっ!?」
梓(唯先輩、何を送ってきたんだろ……ん?CD?手紙も同封されてる……)
74 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 20:51:40.25 ID:JLg6k+zEo
――――――――――――――――――――――――――――
あずにゃんへ
学園祭での私達のライブ、みんなにお願いしてCDに録音してもらったんだ
私達の練習の成果、あずにゃんにも聴いて欲しかったからね
ここまで来れたのもあずにゃんと軽音部のみんなが色々と手伝って助けてくれたからだから
こんな形でしかお礼できないけど、よかったら聴いてみてね 唯より】
――――――――――――――――――――――――――――
75 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 20:52:38.15 ID:JLg6k+zEo
梓(そっか……あの人私の為にライブ録音してわざわざ送ってきてくれたんだ)
――――――
――――
――
梓『先輩、CD聴きましたよ。大成功じゃないですか』
唯『へっへー。あずにゃんにそう言ってもらえて何だか私も自信ついたよー』
梓『唯先輩、本当に今年の春にギター始めたばっかなんですか?』
唯『そうだよー』
梓『すごい……始めて半年でこんな演奏ができるなんて本当にすごいですよ!』
唯『いやー照れますなぁ』
76 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 20:55:36.17 ID:JLg6k+zEo
梓『なんか少し前まで、もうギターなんか触りたくもないって思いつめてた自分が恥ずかしいです』
梓『私自身怖がりすぎて逃げてたんですね。周りから何か言われるのが嫌で、それにただ流されて逃げてたって……いくら不器用でも私は私の道を行くべきなんですよね』
梓『自分のやりたい事を正直にやるべきなんだって、先輩を見てて分かったんです』
唯『そうだね、色々悩んでてもさ、そんなんじゃ人生楽しくないもん。周りの人が何て言っても、最後に判断するのは自分だからね』
梓『もしも私が、唯先輩やこの人達と一緒にバンド組んでたら今とは違った人生になってたのかなぁ……』
唯『だったら一緒にやろうよ!一緒にバンドしようよ!』
梓『無茶いわないでくださいよ。横浜と桜ヶ丘じゃ遠すぎますって』
唯『うーん、残念だー』
77 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 20:56:51.70 ID:JLg6k+zEo
それから数ヶ月後――
私と唯先輩の仲は益々深まっていった。
それだけじゃない、今では学校のクラスのみんなとも仲良くなって、1人でお弁当を食べることも無くなっていた。
みんなが私の名前を呼ぶ時も気付かぬ内に「中野さん」じゃなくって「梓ちゃん」になってるし。
何年経っても変わらなかった私自身と私の周辺が、唯先輩と出会ってからのたった半年で大きく変化していた。
だけどそんな楽しい日々はいつまでも続かない……そう、私は中学3年生、もうすぐ卒業しなきゃいけない。
現に今も高校の受験勉強に追われる毎日だ。
そんなある日の夜、私は親にある用事で呼び出された。
78 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 20:57:41.47 ID:JLg6k+zEo
梓「え!?転勤!?」
梓母「そう、来年の春からお父さん転勤することになったのよ。本当はなるべく早くに行くつもりだったけど梓が中学を卒業するまで待とうって相談して、春ってことになったの」
梓「で、でもお父さんもお母さんもジャズバンドやってるんでしょ?サラリーマンでもないのに転勤だなんて……」
梓母「そうなんだけどね。新しく活動するバンドの拠点が変わっちゃったのよ。ここからじゃ遠すぎるから引っ越すしかないの」
梓「そっか、じゃあ私達も引っ越すってことなんだよね。それでどこに引っ越すの?」
梓母「桜ヶ丘よ」
梓「ええっ!?」
梓母「よかったわねー、また純ちゃんと一緒の学校に行けるかもしれないじゃない」
梓(桜ヶ丘……唯先輩と純の住んでる街だ……)
79 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 21:04:15.16 ID:JLg6k+zEo
親から告げられた思いがけない桜ヶ丘への引越し。
住み慣れたこの街から去るのは少し寂しい気もしたけど、それ以上に気持ちが心躍っていた。
それは勿論、純との再会が果たせるのもあるけど――
あの人……唯先輩にもしかしたら会えるかもしれないから
80 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 21:05:07.20 ID:JLg6k+zEo
梓「もしもし純?」
純『どうしたの梓』
梓「ちょっと報告しておきたい話があるんだ。実はね、私来年の春から桜ヶ丘に引っ越すことになったんだ」
純『ええっ!本当なのそれ!?』
梓「うん、お父さんの転勤なんだって。だから高校はもしかしたら純と一緒のとこに通うかもしれないね」
純『そっかー。あんた、かなり嬉しそうだよね』
梓「えへへ、まあねー」
純『一番嬉しい理由は、愛しの唯先輩とやっと会えるからなんだもんね?』
梓「なっ、何いってんのよっ!!」
純『全く、少しは素直になりなって。隠しても顔に出てるよ?』
梓「電話越しでそんなの分かる訳ないでしょっ!もうっ、純のバカッ!」
純『やっぱりからかい甲斐がありますなぁ梓は』
純『でも、あんたの言ってたその唯先輩、なんか私の友達のお姉ちゃんと特徴がすごくかぶってるんだよね……』
梓「うそ!?てことはまさかそんな身近に唯先輩が!?」
81 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 21:06:26.15 ID:JLg6k+zEo
純『あー、でも違うと思うよ。その人じゃない気がする。その人はそんなこと出来ないだろうし』
梓「なーんだ、残念だなぁ」
純『まあいいじゃん。どうせこの報告、唯先輩にもするんでしょ?』
梓「うん」
純『じゃあそん時に訊いてみればいいじゃん』
梓「そうだね」
82 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 21:15:41.92 ID:JLg6k+zEo
――その夜
唯『そっかー。学校のみんなとうまくやれるようになったんだね』
梓『はい、それもこれも唯先輩のお陰ですよ』
唯『私は何にもしてないよー。全部あずにゃんが自分でやったことなんだから』
梓『そんなことないです。私1人じゃどうする事も出来ませんでしたよ』
梓『きっと先輩は魔法が使えるんだと思います』
唯『魔法?』
梓『どんな時にも人を勇気付けて悩みも辛さも全部打ち消してくれる魔法です』
唯『もうあずにゃんったらー、人をおだてても何にも出ないよ?』
梓『ふふっ、ああそうだ、話は変わりますけど今日は先輩に報告があるんです』
唯『報告?どんなのなのかなー』
梓『私、来年から桜ヶ丘に行くことになったんです』
唯『ふーん、桜ヶ丘ねぇ……って、ええええええっ!!』
梓『ちょっ……声が大きいですって』
唯『だって桜ヶ丘だよ!?私のいる街だよ!?驚かずにはいられないよ!!』
梓『それで、高校は桜ヶ丘高校に進学しようって、そう決めたんです』
唯『本当に?本当に桜高にきてくれるのあずにゃん!?』
梓『はい。私、唯先輩のいる軽音部でバンドがしてみたいんです。あの学園祭のCDを聴いてみて思ったんです。みなさんすごく楽しそうに演奏してるなーって。だから私も一緒にあのステージに立ってみたいなって』
唯『これは大ニュースだよっ!早くりっちゃん達にも教えないと!』
梓『頼みますからあんまり大事にしないでくださいよ?』
梓『それにまずは受験に合格しなきゃいけませんからね』
83 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 21:16:33.77 ID:JLg6k+zEo
唯『あずにゃんなら出来るって!あずにゃん私よりしっかりした子なんだもん』
梓『ふふっ、頑張りますね。あと、また話変わりますけど先輩に尋ねたいことがあるんです』
唯『ほえ?尋ねたいこと?』
梓『先輩、前に妹さんがいるって教えてくれましたよね』
唯『うん、憂のことだね。憂がどうかしたの?』
梓『その妹さん……憂さんの友達に純って子いませんでした?』
唯『うーん、聞いたっけかなぁ……純ちゃんかぁ。もしかしてその子、前にあずにゃんの幼馴染って教えてくれた子?』
梓『はい、もしかしたら唯先輩も知ってるんじゃないかなーって』
唯『ちょっと思い出せないなぁー。でももしそうだったら私達意外と近い距離にいるって話になるよね』
梓『ええ、だから確かめたかったんです』
唯『それじゃあさ、今度憂に訊いてみるよ』
梓『はい、よろしく頼みますねっ!それじゃ今日はこの辺で』
唯『うん、おやすみあずにゃん』
梓『はい、おやすみなさい唯先輩』
84 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 21:21:38.62 ID:JLg6k+zEo
――翌日・桜高音楽室
唯【みんなおまたせー】
律「おっ、なんだ唯、今日はやけに上機嫌じゃないか?」
紬「何かいいことでもあったの?」
唯【へっへー。今日はみんなにビッグニュースを持ってきました!】
澪「なんだ。妙に勿体ぶってるな」
唯【何と!何とですねー。あずにゃんがお父さんの都合でこの街に引っ越してくることになったのです!】
紬「本当に!?良かったじゃない唯ちゃん」
澪「これでやっとその子と直接顔合わせが出来るかもしれないな」
唯【それでね、あずにゃん来年の春からこの学校に通って軽音部に入部したいって言ってくれたんだー】
律「おおっ!それは大手柄だぞ唯!ついに我が軽音部にも5人目の新入部員がっ!」
澪「まあ落ち着けよ律、まだ受験があるだろ。それにまだ12月だ」
唯【あずにゃんなら大丈夫だよ。もう受験勉強しててすっごく真面目な子なんだから】
澪「いや……この時期受験勉強してるのは受験生なら当然なんだけど……」
律「でもさ、もし本当に来てくれるなら歓迎パーティしてあげないとな!」
唯【いいねぇ、やろうよやろうよ!】
唯(あずにゃんと演奏したりティータイム……今からワクワクするよぉー)
85 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 21:22:33.90 ID:JLg6k+zEo
桜高に入るために私は受験勉強への取り組みにますます熱をいれた。
そうしてる内に年は変わり、願書の提出も済んで、受験の日取りも決まった。
そして2月に入ったある日のこと――
86 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 21:23:56.19 ID:JLg6k+zEo
唯『いよいよ今週受験だね。金曜日だっけ?』
梓『はい。なんだか緊張してきました』
唯『何時からだっけ?受験』
梓『ええと……10時からですね。駅から遠いですか?』
唯『そんなに遠くはないけど、慣れないと迷うかもしれないね。あっ、そうだ!』
梓『どうかしましたか?』
唯『1つ提案があるんだけどね』
梓『提案?』
唯『もしよかったら私と途中で会えないかなーって』
梓『ええっ!』
唯『あずにゃん桜ヶ丘に来るの初めてで道も分からないでしょ?迷ったりなんかしたら大変だし、私が案内しようかなーって。学校も試験で休みだし』
87 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 21:24:35.19 ID:JLg6k+zEo
梓『で、でもそれって……』
唯『うん、だから今度こそあずにゃんに会えないかなって……会ってもらえるかな?』
梓『……』
唯『おーい、あずにゃーん。聞いてるー?』
梓『あっ!は、はい!』
唯『どうかな?会ってもらえないかな?会いたいんだあずにゃんに』
とうとうこの時が来た、私はそう直感した。
「会いたいと思った時が会う時」という純の言葉を思い出す、そう、まさにこれが「その時」なんだ。
もう断る理由なんてない、会えばいいんだ、唯先輩に。
梓『……はい、会います。私、唯先輩に会います!』
88 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 21:25:51.55 ID:JLg6k+zEo
――受験当日
この日の朝、出発前に純に電話をかけることにした。
純も同じ高校を受験するし、現地で待ち合わせすることになってるから最終確認だけはちゃんとしておこうって思ったから。
純『そっか、もうそっちを出るんだ。やっぱ遠いと大変だねぇ』
梓「まあしょうがないよ。それより待ち合わせ場所分かってる?」
純『任せなさいって!校門前でしょ?私が忘れるなんてありえないっしょ』
梓「いまいち信用できないんだもん」
純『何をー!私は約束は守る女なんだからね、これでも!』
梓「ふふっ、分かった分かった」
純『それで、何時の電車に乗るの?』
梓「6時50分の新幹線かな……ああ、そうだ純」
純『どうかしたの?』
梓「私ね、唯先輩と今日会うことにしたんだ」
純『マジで!本当に!?』
梓「うん……私ね、あの人に会いたくて会いたくてさ、今その気持ちで一杯なんだよ」
梓「純が相談に乗ってくれたお陰で会う勇気が出来たからさ、ありがとね純」
純『くっそー!いいな梓は……羨ましいっ!』
梓「えへへ♪」
89 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 21:26:39.83 ID:JLg6k+zEo
純『それで、いつ会うの?』
梓「駅の近くまで迎えに来てくれるんだって」
純『なるほどね……まっ、今のあんたならもう心配ないっしょ。お幸せにねー』
梓「お幸せにって……私達別に結婚するわけじゃ……っ」
梓母「梓ー、そろそろ時間よ。早くしないと電車乗り遅れるわよー」
梓「あっ!もうこんな時間、ごめん純、私そろそろ行くね」
純『うん、じゃあまた後で』
90 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 21:30:23.44 ID:JLg6k+zEo
――新幹線車内
梓『もしもし?』
唯『おっ!あずにゃーん、おはよぉー』
梓『おはようございます先輩。今新幹線に乗ってそちらに向かってます』
唯『どれ位でこっちに着くの?』
梓『予定では8時丁度に着く予定になってますね』
唯『試験10時からでしょ?随分早くない?』
梓『少し余裕を持って出ておこうかなって』
唯『えーっ、私ならもう少し寝てるのになぁ』
梓『時間ギリギリはよくありませんよ。まして大事な試験の日ですし、唯先輩にも会うんですから』
唯『そんなものなのかなぁ……ま、いいや。それじゃ私は約束通り8時10分に駅の北口のパルコの前で待ってるね』
唯『で、そっちの時間だと……あー何か緊張してきたよぉ』
梓『私もなんですけどね』
91 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 21:31:47.79 ID:JLg6k+zEo
車内放送「現在三島〜新富士間にて大雪の為徐行運転を行っております。お急ぎの方にはご迷惑をおかけしますが――」
梓『あー、すいません、もしかしたら時間に間に合わないかも』
唯『ほえ?どして?』
梓『大雪で電車が遅れそうなんです。本当にすいません……あんなこと言ったそばから』
唯『いいよー、それじゃ待ち合わせ場所かえよっか。南口出てすぐのとこにコンビニの7-11があるからさ、そこなら近いしそこにしようか』
梓『わかりました』
唯『でー、あずにゃんはさ……』
梓『どうかしたんですか?』
唯『ああいや、あずにゃんは今日どんな服装でくるのかなーって』
梓『ぶっ、別に普通の学生服ですって』
唯『教えてくれないの?』
梓『わざわざ言う程のことじゃないですから』
唯『そっかなぁー』
92 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 21:32:48.65 ID:JLg6k+zEo
梓『あの、今の内に唯先輩と1つだけ約束して貰いたいことがあるんです』
唯『どんな約束なの?』
梓『会ってみて全然思ったのと違っても、私を嫌いになったりしないって』
唯『あずにゃんも変なこと言うよね。嫌いになるわけなんてないよ?それに、それはこっちの台詞』
梓『え?』
唯『実は黙ってたけどね……今まで何度も言おうとしたけど、でも今日あずにゃんに会ったらちゃんと説明しなくちゃいけないなって思ってさ……』
93 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 21:33:31.78 ID:JLg6k+zEo
と、ここで私を呼ぶ声が通路の方からした。
見ると私と同じ髪型で背丈も同じくらいな学校の制服を着た女の子がいた。
違うところを見ると、私の制服は紺で、その人の制服は白ということぐらいか。
94 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 21:34:23.51 ID:JLg6k+zEo
女の子「すいません、隣いいですか?」
梓「いいですよ、はい、どうぞ」
女の子は会釈をすると荷物を上の荷物置き場に置いて、私の隣に座った。
それを確認すると、私はまた唯先輩との通話を再開する。
唯『何かあったの?』
梓『すいません。隣の席に他の人が来てたので……』
ここで腕時計を見てみると、どうみても約束に間に合わない時間になっていた。
梓『うーん、やっぱり間に合いそうにないですね』
唯『雪じゃしょうがないよ。むしろ私としては駅から出てくるあずにゃんを見つけるのがすっごく楽しみなんだよぉ』
95 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 21:35:37.94 ID:JLg6k+zEo
――結局、駅に着いたのは8時20分、やっぱり遅れてしまっていた。
電車が停車するのを確認して、私は隣に座っていた女の子の後に続くようにホームへと出た。
梓『今着きました。8時20分、10分遅刻ですね』
唯『8時20分ね、おっけー。今こっちだと7時20分だよ。それじゃそろそろ私も家を出てそっちに向かうね。ああ、それとあずにゃん』
梓『はい?』
唯『この電話、もう必要ないよね?』
梓『え?』
唯『私達もう会えるんだよ?だからずれた時間も距離も1つになるんだからさ。1時間先の私によろしくね?あずにゃん』
梓『はい、分かりました』
96 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 21:38:16.43 ID:JLg6k+zEo
今日はここまでです。
やっと終着点が見えてきた…
でわ、見てくれてる人ありがとう!
97 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/11(日) 21:40:03.49 ID:S2ViWy36o
乙
98 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/12(月) 08:21:39.71 ID:du54yJTDO
乙!!
続きが非常に気になる…
99 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/09/13(火) 17:27:47.56 ID:DxpWShSbo
通話を終えた私は改札を出て駅から外に出る。
この街では雪こそ降っていなかったけど、それでも身体に突き刺さるような寒さで思わず身体が震える。
これなら大雪で電車は遅れるのも頷けるかも。
そういえば純と憂さんのこと、先輩に訊くの忘れてたっけ……ま、いいか、どうせ遅かれ早かれ分かるんだし。
私は駅舎から外に出てしばらく歩き、赤信号につきあたる。
すぐ目の前の横断歩道のすぐ向こうには待ち合わせ場所のコンビニがある。
ここで私は信号待ちの間に受験票を忘れてないか確かめる為、後ろ手に持ってたバッグを前に出し確認する。
梓(よし、受験票もちゃんとあるし、準備OKだね!あとは先輩と合流するだけ、か)
100 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/13(火) 17:28:22.18 ID:DxpWShSbo
はやる気持ちを抑えながら信号が青に切り替わるのを待って、白いゼブラゾーンに足を踏み出す。
もう少しで横断歩道を渡りきる所で遅刻しているのを焦っていた私は無意識に腕にはめていた腕時計でもう一度時間を確認する。
今の時間は8時30分……20分遅刻になっちゃったな……
101 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/13(火) 17:29:14.71 ID:DxpWShSbo
時計の針を見たのと同時に私の耳に悲鳴のような轟音が聞こえてきた。
音のあった方向を振り返ると、そこには目の前に迫った車のバンパーがあった。
音の正体は悲鳴なんかじゃなくって車のブレーキのスキール音だったんだ。
かなりの猛スピードで迫っているその車をかわす時間はもう残ってなんかいない……初めて襲い掛かる身の危険のせいか、私にはそれがまるでスローモーションのように映った。
不意に、誰かに横から突き飛ばされ歩道へと倒され、粉々になったフロントガラスの破片が降り注ぐ。
背後で車が大破した音が聞こえる。
何が起こったのか理解できない……私は混乱して事態が飲み込めない状態だ。
一般人「君、大丈夫か?」
突き飛ばされた衝撃の痛みを我慢して起き上がる私に、通行人の人が声をかけてきた。
102 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/13(火) 17:30:01.64 ID:DxpWShSbo
梓「あ、あの……一体何が……」
一般人「君を突き飛ばしてあの子が代わりに……」
通行人が指さした方向を見ると、学校のブレザーを着た女の人が仰向けで倒れていて、血だまりが路面に広がっているのが見えた。
青いタイをして、セミロングの茶髪で前髪をヘアピンで留めたその人は、私を見つめている。
私はおぼつかない足取りでその人の元へと向かう。
その顔を見ていて、ある人の名前が頭の隅によぎった。
梓「唯……先輩……?」
恐る恐るその名前を口にすると、その人は私を見ながらにっこりと微笑んだ。
梓「うそ……まさか本当に唯先輩!?」
まさかとは思ってたけど、嫌な予感が的中しちゃった私。
しゃがみこんで唯先輩の左手を握る。
梓「先輩!先輩っ!どうしてこんなことをっ!!」
涙声で呼びかける私の問いに、声を出すのも辛いからなのかは分からないけど無言だった。
ただ、唯先輩はその代わりに右手の人差し指を震えながら私に向け、何かジェスチャーのような仕草をしている。
その一連の動作を終えた唯先輩は、まるで安心したかのような表情を浮かべゆっくりと目を閉じた。
梓「唯先輩……嘘ですよね?先輩!ねぇ!そんな……そんな……」
梓「いやああああっ!!!」
103 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/13(火) 17:30:33.62 ID:DxpWShSbo
――病院
あれからすぐに救急車が駆けつけ、唯先輩は病院へ担ぎ込まれ私もそれに付き添った。
途中救急隊員の人が事故の概要とか先輩との関係なんかを色々聞いてきたけど、憔悴しきってた私はそれに答える事もなく、ただ俯いて声を出さず泣いているだけだった。
ちなみに私の怪我は擦り傷とちょっとした打撲だけで何も問題はないそうだ。
だけど、その代わりに唯先輩が……。
結局、病院に到着したのとほぼ同時に唯先輩は息を引き取った。
私はただ病院のベッドの上に横たえられてる唯先輩の傍で立ち尽くしている事しか出来なかった。
梓「先輩……どうして……折角会えたのに、こんなのって……こんなのってないですよ……」
梓「うぅっ……ぐすっ……」
やっと会えることになって、ようやく会えるその日がまさか唯先輩の命日になってしまっただなんて、私には到底受け入れられない。
大切な人が目の前でいなくなったせいで、私の心は絶望感で満たされていた。
だがここでふと壁にかけられてる時計に目が行く。
ここで私はあることに気付いた。
梓「今9時22分……てことは電話の先の唯先輩の時間はまだ8時22分……」
梓「私が事故に会うまで、まだあと8分残ってる!今なら……今ならまだ間に合う!!
104 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/13(火) 17:32:06.89 ID:DxpWShSbo
居ても立ってもいられず、すぐに頭の中の電話回線を開く。
もうなりふりなんて構っていられない、少しでも可能性が残っているならそれに賭けるしかない!
梓(お願い!電話に出て……唯先輩……出て)
呼び出し音が続き中々電話が繋がらない。
藁にもすがる思いでひたすらコールを続ける。
唯『もしもしあずにゃん?』
梓『先輩っ!』
電話の向こうの唯先輩は、もうすぐ自分が死んでしまうのも知らずに、いつものように抜けたような声で電話に出た。
その声を聞いて少しほっとする私。
唯『どうして電話を?もう1時間後の私には会えたんだよね?』
梓『それは……』
唯『あーっ!そうかぁ、もしかして苦情の電話?想像してた人と違いました!とかだったりしてー』
笑いながらそうジョークを飛ばしてくる先輩。
今私の目の前で冷たくなって眠っている先輩とは全く真逆だ。
その顔を見ながら私はある覚悟を決める……こうする以外にあの人を助ける手段がない。
105 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/13(火) 17:33:11.78 ID:DxpWShSbo
梓『そうですよ……会わなきゃよかった。あなたになんて……』
電話の向こうの唯先輩の声が止まった。
そりゃあそうだろう、誰だってこんなこと言われればこうなるもの。
でも止めるわけにはいかない。
心の中で唯先輩への謝罪の言葉を何度も繰り返しながら感情を殺してさらに続ける。
梓『……だから、このまま帰ってください!お願いします!』
唯『理由はやっぱり私が……?』
梓『すいません……とにかくお願いします、会いたくないんです!』
唯『どうして?いきなりそんなこと言われてもさ……もうすぐ着いちゃうし』
梓『これだけ言ってもまだ分からないんですか!?平沢先輩なんて大嫌い!!その顔も!髪も!指も――』
梓『――あなたの声も!』
涙声になりそうなのを誤魔化しながらとにかく思いついたままの暴言をひたすら並べ、つき慣れてない嘘を吐き続ける私。
もう嫌われてもいい、そうする事で唯先輩が死なずに済むんならこんなの安いもんだもの。
だけど……唯先輩の反応は私の想定を裏切るものだった。
106 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/13(火) 17:34:29.51 ID:DxpWShSbo
唯『声!?嘘だよ!あずにゃんは嘘をついてるよ!あずにゃんに私の声が聞こえる筈ないもん!』
梓『嘘なんかついてません!!最低でした……幻滅しました!こんな筈じゃなかった!!』
唯『嘘だよ!だって私は……私は……話せないんだから!』
梓『……え?』
余りの衝撃発言に私の頭の中は真っ白になる。
いきなりすぎて理解できない……唯先輩が喋れない!?どういうこと!?
唯『私は5歳の頃から耳が聞こえないんだ。話すことも出来なくてね。だから、あずにゃんが私の声を聞けるはずがないんだよ』
梓『そんな……』
不用意な発言であっさりと嘘を見抜かれ、その場にへたりこむ。
やっぱりつき慣れてない嘘なんてつくもんじゃないんだ。見ての通りすぐボロが出るし。
107 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/13(火) 17:35:42.54 ID:DxpWShSbo
唯『あずにゃん、どうして嘘なんかついたの?ワケを聞かせて?』
梓『それは……それは……っ!ぐすっ……ひっく……うぅ』
唯『あずにゃん、何があったの?どうして私を帰らせようとするの?』
梓『お願いします!とにかくすぐに帰ってください!』
唯『あずにゃんが私と会って何が起きたのかは知らないけど……でも……でも必ずあずにゃんに会いに行くから!』
電話の向こうの唯先輩の発音が変わった。
多分走り出してその状態で会話してるからかも。
止めなきゃ……何とかしなきゃ……もう時間がない!
梓『どうして分からないんですかっ!!来たら……死ぬんですよ!?』
唯『え――』
真相を聞かされた唯先輩が唖然とした声で呟く。
いきなり死亡宣告をされれば誰だって同じ反応をするだろう。
全力疾走状態だった先輩の足は今は完全に止まっているようだった。
このまま怖くなって逃げてほしいと心の中で願う。
108 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/13(火) 17:37:00.41 ID:DxpWShSbo
唯『死ぬ?私が?――もうっ!冗談にしちゃ悪ふざけがすぎるよ?』
梓『冗談なんか言ってません!先輩は私と会うと死ぬんです。私を助けて……だからお願い!このまま帰ってください!』
唯『だめだよ。あずにゃんが言ってることが正しければ、私が行かないとあずにゃんが……』
それは私も十分分かっている。
唯先輩があの場にいなかったら今頃死んでいるのは私の方だ。
でも私はそれでいい。
唯先輩がただ生きていてくれるだけで私にとっては何よりの幸せなんだから。
梓『私ならきっと助かります。だから――』
唯『私は行くよ!』
私の懇願を遮るように唯先輩の言葉が割り込んでくる。
どうやらまた走り出したみたいだ。
逃げ出して欲しいという私のささやかな希望は断たれてしまった。
109 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/13(火) 17:38:37.16 ID:DxpWShSbo
梓『ダメです!来ないで!来ないでってば……うぅっ……ぐすっ……ずずっ……』
唯『泣かないであずにゃん、私なら大丈夫だから……大好きなあずにゃんを残して死んだりなんか絶対しないから』
梓『……』
唯『ねえ、前に私にギター教えてくれた時のこと覚えてる?あずにゃんは鼻歌を歌ってくれたよね』
唯『10年ぶりだった。音楽の音色ってどんな物なのか忘れかけてた私の記憶をあずにゃんは蘇らせてくれたんだよ?』
唯『あずにゃんと初めて電話が繋がった時も驚いたな。誰かと手話や筆談なんかじゃなくって声で直接お話したいな……そう思ってたらあずにゃんの声が聞こえてきて……すっごく楽しかった』
唯『自分の気持ちを相手に伝えられる。そして聞いてくれる人がいる。それがこんなにも素晴らしいことなんだなーって……』
唯『だから……だからもう2度とあんなこと言わないで!!』
梓『え……?あんなこと……って?』
唯『自分のこと、居なくなっちゃえばいいなんて……そんな……そんな悲しいこと言っちゃダメだよ!!』
梓『分かりました!もうそんなこと言いませんから!だから本当にやめて……お願いだから……』
唯『うん、分かった。でもね、私は行くよ?必ずあずにゃんを助けるから。何度だって同じ選択をするよ!1時間先の私がしたように!』
唯『今コンビニの前に着いたよ!あずにゃん!あずにゃんはどこなの!?』
梓(このままじゃ唯先輩が……どうしよう……あっ、そうだ!)
110 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/13(火) 17:39:25.10 ID:DxpWShSbo
唯先輩は私の顔を見た事ないし服装もただ制服と言っただけでどんな格好なのか知らない。
ここでさっき電車の中で隣に座っていたツインテールの制服姿の女の子がいたことを思い出した。
私はここで最後の嘘をついた。
梓『白い制服!白い制服でツインテールの女の子が私です』
唯『白い制服ね、分かった。大丈夫、大船に乗ったつもりで見てなさい!』
これで白い制服の子が私だと唯先輩が思い込んでくれるならそれで大成功だ。
祈るような気持ちで私は目の前の唯先輩の亡骸の冷たくなった手を両手で強く握る。
そうだ、あっちの時間で私が轢かれたら、今ここにいる私はどうなるんだろ。
このまま消滅しちゃうのかな、どうなのか分からないけど、1つだけはっきりと分かることがある。
それが今度こそ本当の、唯先輩とのお別れになるということだ。
唯『あっ!横断歩道の向こうに白い制服の子が見えた!ちゃんとツインテールだし、あずにゃんみっけたよ!』
唯『それじゃ、1時間後にまた会おうね、今度こそ』
梓『はい、また1時間後にきっと……』
梓(最後の最後まで騙すようなことしてすいませんでした……先輩)
梓(でも、こうするしかないんです……今までありがとうございました唯先輩。本当は直接言いたかったですけど……大好きです……どうかお元気で、さようなら――)
私は心の中で唯先輩に最後の感謝の気持ちと別れを告げる。
と同時にこの半年間の唯先輩との思い出が走馬灯のように駆け巡った。
111 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/13(火) 17:40:12.13 ID:DxpWShSbo
初めて電話が繋がって保健室で会話した時、電話を切ろうとした私をあなたは慌てて止めて半ば強引に話を進めましたよね……
でもあれがなかったら、今の私は無かったんじゃないかなって、今になってそう考えるんです。
その夜、公園でお話した時のこと覚えてますか?
私にあずにゃんなんて変な名前を付けてきて正直呆れましたよ。
でも初めてあの人を「唯先輩」と呼んだんですよね、私。
テストの答えを教えてって泣きついてきた事もありましたね。
結局成り行きでズルに加担しちゃったんですけど、放っておけないいんです……
カンニングよりずるいですよ、あなたのその声――
時間差で流れ星にお願いしたあの日の夜、覚えてますか?
……きっと私達、同じ願いをしてたんだろうな、今になってそう思えるんです。
そう、「会えたらいいな」って――
落ち込んでる私を励まそうと遊びに誘ってくれたこともありましたね。
鎌倉で電話越しだけど一緒に遊んで、海岸で見た夕日、私はずっと忘れません。
河原で音も合わせられないのに暗くなるまでギターを練習もしましたね。
とても嬉しそうにしてくれて、お陰で私は音楽の楽しさを再認識することが出来ました。
なんだか全てが昨日の事のようですね……
もうすぐ死ぬかもしれませんけど不思議と怖さはないです。
目を閉じてじっとその時を待つ私。
――しかし
112 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/13(火) 17:40:55.59 ID:DxpWShSbo
唯『――違う』
梓『え!?』
唯『あれはあずにゃんじゃない!』
唯先輩が何を言っているのか理解出来なかった。
違うって……もしかして私の嘘がバレたっていうの!?
次の瞬間、目には見えない筈なのに唯先輩がまた走り出す姿が鮮明に映ったような、そんな気がした。
唯『白い制服の子、目の前で携帯を取り出したんだ。本物のあずにゃんだったら携帯持ってない筈だからこの子は違う、あずにゃんじゃない』
この時程携帯を持っていなかったのを心底後悔したことはない。
でも、これだけの人がいる中で私を探し出すのは難しい筈だ。
朝なんだし制服姿の女の子なんていっぱいいるんだから。
唯先輩が私を発見するのは、私が車に轢かれて大騒ぎになった時……そう思った、が。
唯『車が来てる……すっごいスピードで』
113 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/13(火) 17:41:29.04 ID:DxpWShSbo
1時間前の私に避けられないスピードで車が突っ込む。
もうどうすることもできない。
でも直前になってあの人が私を横から突き飛ばす。
聞こえないはずなのに、またあの車が大破して金属が歪む音とフロントガラスが飛散する音が聞こえたような、そんな感覚に襲われる。
梓『唯先輩っ!!』
私は助けてくれた恩人の名前を叫ぶ。
今回だけじゃない、去年初めて会った時からずっと、この人には助けられっぱなしだったのを改めて知った。
時計を見ると、針は丁度私が事故を起こした1時間後を示していた。
114 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/13(火) 17:42:17.81 ID:DxpWShSbo
梓『先輩っ!唯先輩!!返事してくださいっ!!』
唯『えへへ……聞こえてるよあずにゃん……』
梓『先輩……どうして……どうして私だって分かったんですか』
唯『私見ちゃったんだ……横断歩道で赤い腕時計見ながら歩いてる子を……確かあずにゃん前にそう言ってたからさ』
梓『そ、そんな……』
唯『あ……あずにゃん今立ち上がって私の方を見てる……強く押しちゃったけど……怪我……なかった?』
梓『平気です。それより私なんかより唯先輩の方が……っ』
唯『そっか……良かった……あずにゃんに……何も……なくて……』
梓『せんぱぁい……嫌だ……嫌だよ……死んじゃ嫌だ……』
唯『へへ、ありがと……そう言ってもらえて……嬉しいよ……ああ、あずにゃんてこんな……顔をしてたんだ……ね……とっても……可愛いな、一度抱きついて……みたかった……よ……』
梓『いくらでも抱きついてくれて構いません!だから……だから……っ!』
唯『だから……さ……もっと自分に……自信を持ちな……よ、ね?』
唯『あ、名前だ……私の名前を呼んでる……唯先輩って……よかった、ちゃんと聞こえた……きっと、きっといい声で』
梓『ううっ……どうして!?どうしてこんなにしてまで私を助けようと……』
唯『何言ってるの……助けてくれたのはさ……あずにゃんの方……なんだよ。ありがとね……あずにゃん、大好きだよ』
梓『唯先輩っ!』
唯『ねえ……あずにゃん……私はさ……あずにゃんと会えたお陰で……私達は……もう……』
何かを言おうとしてたけど、最後迄伝えきる事なく力尽きたかのように唯先輩の声はここで途絶えた。
つーつーつー……
そして電話は途切れ空しい音だけが鳴り響く。
梓『先輩……唯先輩……うわああぁぁあっ!!』
115 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/13(火) 17:44:53.54 ID:DxpWShSbo
――その後
頭の中の電話がもう誰にも繋がらなくなってから1ヶ月半が過ぎた。
事故を起こした車の運転手は飲酒運転をしていて即死だったそうだ。
そして私に待っていたのは警察の事情徴収や親への説明等での慌しい日々だった。
高校入試の方は学校側が事故の件を考慮してくれて後日再試験という形で受けさせてもらうことができた。
もっとも、自分達の学校の生徒がその事故の被害者で亡くなっているというのもあって、大変だったらしい。
そして私は入学試験に合格を果たし、この春から桜高の制服を着ることになった。
でも……この晴れ姿を一番最初に見せてあげたかったあの人はもういない。
引越しも済ませ入学式まであと数日と迫ったある日、私はある場所を訪れた。
――――――
――――
――
こんこん
憂「いらっしゃい梓ちゃん。さ、あがってあがって」
梓「はい……お邪魔します……」
そう、私はこの日平沢家に来ていた。
玄関に現れたのは唯先輩の妹の憂さんだ。
もっとも、私達2人はこれが初対面じゃない。
あの事故の日、病院で会ったのが初対面だった。
私の事故が原因で実の姉を亡くして辛い筈なのに、それでも笑顔で私に応対してくれている。
116 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/13(火) 17:45:26.76 ID:DxpWShSbo
平沢家の玄関をまたいだ私は仏間へ通された。
そこには真新しい仏壇が置かれていて、私は線香をあげて手を合わせる。
憂「神様ってせっかち過ぎだよね。こんなに早くお姉ちゃんを連れて行っちゃうなんて」
梓「憂さん、あの――」
憂「さん付けはやめて?敬語で話さなくてもいいよ。私達同い年なんだし」
梓「あ、うん……」
憂「そうだ、お姉ちゃんのお部屋まだ見たことなかったよね?よかったら見ていってくれないかな?」
――――――
――――
――
梓「ここが、唯先輩の……」
憂「うん、あの日からそのままにしてあるんだ」
そこはよくある普通の女の子の部屋だった。
ここで部屋の隅に置かれているギターが目に入る。
梓「あのギターは……」
憂「ああ、ギー太だね。お姉ちゃんがいつも自分の友達みたいに扱って大事にしてたギターだよ」
憂「それにしても、純ちゃんがよく話してくれてたお友達が梓ちゃんの事だったなんてね……私ちょっとびっくりしちゃった」
梓「うん、私も純からよく話は聞いてて、もしかしたらその子が唯先輩の妹じゃないのかなって推測してたけど、まさか本当だったなんて」
117 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/13(火) 17:46:06.22 ID:DxpWShSbo
憂「やっぱりね。あの事故の前の晩、お姉ちゃん私に訊いてきたんだ。「憂のお友達に純ちゃんって子いる?」って」
梓「私と唯先輩の電話のことは知ってたの?」
憂「知ってたよ。前にお姉ちゃんが話してくれたから。大好きな子が出来たんだって嬉しそうにね」
梓「唯先輩が……私のことをそんな風に……」
憂「ねえ梓ちゃん」
梓「ん?」
憂「この部屋さ、不思議だよね。ここにいるとお姉ちゃんに見守られてるっていうのかな、そんな安心した気分になれるんだ」
梓「私も今迄唯先輩と頭の中の電話で繋がっていた時そう感じたな……いつも傍にいてくれてるような雰囲気がして、それだけですごく心が安らぐんだよね」
憂「ただ近くにいてくれるだけでとても幸せな気分になっちゃう……やっぱりすごいよ、私のお姉ちゃんは」
梓「きっと唯先輩は魔法が使えるんだよ」
憂「魔法?」
梓「どんな人にも元気や勇気を分けてくれて明るくしてくれる魔法かな」
憂「そうだね、魔法かー。確かにあるのかもね。でもね、梓ちゃんも魔法を持ってるんだよ?」
梓「え?私が?」
ここで憂は部屋の机の引き出しの中から1本のテープを持ち出してきて私に見せる。
それは前に鎌倉の海岸で私が自分の声を録音して唯先輩に贈ったテープだ。
118 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/13(火) 17:46:51.17 ID:DxpWShSbo
憂「このテープ、お姉ちゃんは何度も聞いてたんだ」
梓「でも、唯先輩は耳が……」
憂「聞こえないけど何度も何度も。実はお姉ちゃんね、このテープを聴いてってせがんでたんだよ。何を言ってるのかどんな声なのか教えてって言って」
梓「それじゃこのテープ、憂が?」
憂「うん、私が可愛い声だよって言ったらとっても嬉しそうにしてたのはっきり覚えてるな。特に最後の部分なんて何度も聞いててね……」
梓「最後?私、何て言ったんだっけ……」
憂「あなたに会いたいですって何度も何度も。あんな嬉しそうな笑顔、本当に久しぶりで私まで嬉しくなっちゃったよ」
憂「お姉ちゃんね、5歳で耳と口が不自由になってからしばらく塞ぎ込んでてね……自分と同じ目線に立ってくれて受け入れてくれる和さんや軽音部の皆さんと出会ってようやく自分と向き合えるようになったんだ」
憂「でも……一番大きかったのは唯一直接自分の声でお話が出来て、声を聞くことが出来る梓ちゃんの存在だったんじゃないかな。お姉ちゃん、よく梓ちゃんの事話してくれててその度にすごく幸せそうな顔してたから」
憂「ここまでお姉ちゃんがずっと楽しそうにいられたのも梓ちゃんの魔法のお陰かもね。本当は自分の方が辛いのに、それでも相手の人のことばかり考えちゃって……こうやって――」
ここで憂は右手の人差し指を私に向けて、自分に向ける手話を始める。
この一連の動作を見てハッとなった。
この手話はあの日、唯先輩が亡くなる直前にしたものと同じだからだ。
梓「憂!それってどういう意味なの!?」
憂「これ?これはね……」
憂「――きみは、1人じゃない」
梓「きみは1人じゃない……か」
119 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/13(火) 17:48:15.25 ID:DxpWShSbo
あれから桜高に入学をした私の周りでは色々なことがあった。
純と憂も一緒に入学しクラスメートになって今じゃ3人共親友と呼べる仲だ。
今になって思うことがある。
純は私の電話の相手は唯先輩本人なのを薄々感ずいてたんじゃなかったのかな、って。
最初にお互いの存在を確かめた時、家の電話番号を聞きだしてかけるだけで解決できたんじゃないのかなって……
単純で確実な手段だけどあの時はそれが考え付かなかった。
あえてそれを教えず回りくどい方法を薦めたのは、純は唯先輩が喋れないのを知っていたからなんじゃないだろうか。
でも今となってはわざわざ聞き出す気もしないし、する意味もない。
その後私は軽音部に入部し、そこで律先輩、澪先輩、ムギ先輩と出会った。
入学と同時に本物の携帯電話も買った。
軽音部ののんびりムードには最初こそびっくりしたものの、今じゃなんだかんだで溶け込んでしまっている。
120 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/13(火) 17:49:37.72 ID:DxpWShSbo
――それから半年が過ぎた秋
この日は学園祭。
私達軽音部は講堂の舞台袖に来て本番を今か今かと待っている最中だ。
紬「梓ちゃん、本当にいいの?いきなりボーカルだなんて」
律「だよな、お前歌あんまり得意じゃないって前いってたもんな」
梓「いいんです。私どうしてもこのステージでボーカルを1度やってみたいんです。その為に特訓だってしました」
澪「さわ子先生のとこに通ってたのはその為だったんだな……」
梓「そうですよ」
澪「もしかしてさ、私に気を使ってるとかじゃないよな?」
梓「違いますよ。ただ……私にはまだこのステージで確かめたいことがある、それだけなんです」
紬「確かめたいこと?それって唯ちゃんの……」
梓「はい、私一度唯先輩と同じステージに立ってみたいんです。あの人がここで何をしてきたのか、何を見てたのか知りたいんです。そうする事であの人がより身近に感じられるような……そんな気がするんです」
律「分かった。それならお前は思いっきりやれ。後は私等がフォローするからさ。みんなもいいか?それで」
澪「ああ!」
紬「ええ」
ここで場内放送の音声が流れて意識がそっちに向く。
「次は軽音楽部によるライブ演奏です」
律「よーし!みんな今日は派手にいくぞー!」
澪「梓、頼んだぞ!」
梓「はいです!私、精一杯頑張ります!」
私達の目の前に垂れ下がっていた緞帳がブザーと共にゆっくりと上がっていく。
その先には満席になった客席が広がっている。
唯先輩、私の声聞こえますか?私は今学園祭のステージに立っています。
あの時先輩がくれたライブCDを聞いて、あなたのギターに感動して、とうとうここまでやってこれました。
色々ありましたけど、私はちゃんと元気に生きてます。だって――
――私はもう、1人じゃないから
梓「こんにちは!放課後ティータイムです!!」
Fin
121 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/13(火) 17:51:07.78 ID:DxpWShSbo
スローペースだったけどようやくここで完結です。
一応HAPPY ENDオチも書いてるけれど蛇足臭がするので今のところ考え中です。
「無理矢理でもHAPPY ENDがいい」
「唯トラENDなんて納得いかねー」
て声があるならそこまで長くもないし続きをやろうと思います。
ではここまで読んでくれてありがとうございました!
122 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/13(火) 17:59:19.39 ID:VEL1FGeDO
乙!!
元ネタもこんな終わりかたなのかな?
[壁]ω・) ハッピーエンドも読んでみたいなぁ
123 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/13(火) 18:13:25.13 ID:hIPHXn8DO
わざわざクロスさせてまで唯を殺したかったのか
124 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(兵庫県)
[sage]:2011/09/13(火) 18:27:18.69 ID:u9ygF2fF0
1乙!
できればハッピーエンドも読みたいな
125 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/09/13(火) 18:48:16.56 ID:DxpWShSbo
唯が死んだままなのもシャクだし原作シカトしてもいいよね
てことでHAPPY ENDルートいきます
とにかくめでたしめでたしを強引に狙いにいくので矛盾あるかもしれないけどご愛嬌
126 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/13(火) 18:49:30.01 ID:DxpWShSbo
>>102
の続きから
〜〜 Take2 別EDルート
梓「唯先輩!唯先輩っ!しっかりしてくださいっ!!」
病院へと向かう救急車の中、私は目の前で横たわる唯先輩にひたすら呼びかけていた。
救急隊の人達が専門用語を飛ばしあいながら慌しく処置を施している中、私はただ先輩の手を握って呼びかけ続ける位しか出来なかった。
時間が経つ毎に心電図に表示された数値が下がっていき、救急隊の人達の掛け合いも怒声染みたものになっていく。
医療に全く詳しくない私でもこの状況がどれだけ危険なのか大体察しがつく。
梓(なんで……なんで先輩があそこに……)
梓(このままじゃ唯先輩が……)
もう頭の中は真っ白だ。
救急隊員の一人が私に何か色々尋ねてきているようだったけど答えられない……というより耳に入ってこない。
――――――
――――
――
病院に到着し、これから唯先輩を外に運び出そうという時、短い周期で鳴っていた心電図の電子音が途切れることのない無機質な音へと変わった。
救急隊員「――8時39分……ご臨終です」
梓「……え」
私は絶句した。
今目の前で大切な人が死んでしまったんだから。
思わず泣き出しそうになった時だった、私はある事に気がつき心を落ち着かせようとした。
梓(8時……39分……?)
救急隊員の人が言った時間、これを聞いて私の頭は閃いた。
梓(確か頭の中の電話、1時間時差があったよね……ということは今電話の向こうの唯先輩の時間はまだ7時39分……)
梓(まだ事故が起きてそんなに時間が経ってない!上手くいけば事故を回避することができるかも!)
居てもたってもいられず、1人取り残された病院の駐車場ですぐに頭の中の電話回線を開く。
prrrr
127 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/13(火) 18:50:12.80 ID:DxpWShSbo
梓(出て、お願い……唯先輩……早く!)
prrrr……がちゃっ
唯『あれれ?あずにゃんどったのー?私に会えたんじゃなかったの?』
梓『すいません……どうしても先輩に伝えたいことがあったので』
唯『伝えたいこと?なになにー?』
梓(ここで唯先輩を待ち合わせ場所に来させず帰らせれば先輩は助かる……でもどうやって)
梓(急用が出来た?それともやっぱり元の待ち合わせ場所にしてもらう?いや、なんか不自然だ)
梓(そうだ!先輩を怒らせてわざと嫌われるように仕向ければきっと帰ってくれるはず!)
唯『どうしたのあずにゃん。さっきから黙っちゃっててさ』
唯『あーっ!そうかぁ、もしかして苦情の電話?想像してた人と違いました!とかだったりしてー』
ここで会ってみてガッカリしたから帰って欲しいって言えば不自然さは残らず帰らせることが出来る!
そう閃いた私は「そうですよ」と言おうとしたが……
梓(待った!ここでうまく行けば先輩は死なずに済むけど、今度は私が死んじゃうかもしれない……先輩は私を助けて巻き込まれるんだから、そうなると私が助かる道がなくなる)
梓(それにあの人は勘がいいから私の言動に異変を感じてかえって逆効果になるかもしれない。だったら……どうしよう……)
梓(考えろ!考えるんだ私!唯先輩があの場にいなくて済んで私が事故にあわない方法を……!)
唯『あのーあずにゃん?さっきからどしたの?なんか変だよ』
いくら考えても答えが出ない、唯先輩を8時30分頃にあの場から遠ざける方法が。
しばらく考えてみて今度はある発想を思いつく。
梓『すいません唯先輩、1つ聞きたいんですけど』
唯『なになにー?』
梓『今先輩どんな手段でこっちに向かってるんですか?』
唯『ふぇ?なんでそんなの聞くの?』
梓『いいからとにかく答えてください!時間がないんです!』
128 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/13(火) 18:50:48.95 ID:DxpWShSbo
唯『うっ!い、今は歩きだよー。別にそんなに遠くないし』
梓『歩きですか……なら今すぐそこでバスに乗ってこれますか?』
唯『うーん、この道バス通ってないんだよね』
梓『ならバスでなくてもいいです。タクシー拾って来てください。大至急です!』
唯『えー、タクシーだなんて私今月のお小遣い少ないんだよぉー。それにそんなに急がせてどうするの?』
梓『お金なら私が立替ます!ワケも後で話します!とにかく私を信じてください!』
唯『う、うん……分かった』
――――――
――――
――
それから数分後
唯『あずにゃん、タクシー乗ったよ。もう訳を聞かせてくれてもいいよね?』
梓『そうですね、なら説明しますね。実は――』
ここで私は全てを話した。
私が車に轢かれそうになって、それを唯先輩が庇って死んでしまうことを。
唯『……冗談だよね?私が死んじゃうだなんてさ』
梓『冗談でこんな話するわけありませんよ。8時30分頃に事故は起きるんです』
梓『最初は唯先輩をあの場から遠ざけようと思ったんですが、勘のいい先輩のことだし嘘付いても逆効果になると思ったんです。それに事実を言って帰らせようとしても意地でも来ますよね?』
唯『うん、私なら多分そうするな。あずにゃんに何かあったら大変だもん』
梓『だったら逆に事故の起きる時間より早く来てもらって私と合流すれば誰も巻き込まれないで済むんじゃないかなって……まぁ推測ですけどね』
唯『なるほどねぇー。さっすがあずにゃん、頭いいねぇ』
梓『でも問題は私があの横断歩道に来る前に先輩が私を見つけ出せるかどうかなんです。私が横断歩道に入ってしまったらそこでおしまいですから』
唯『なら特徴教えてよ、あずにゃんのさ。私絶対見つけ出してみせるから!』
梓『分かりました。私は紺の制服で青いバッグを持ってます。ツインテールで背が低いのが私です』
唯『ふむふむ……おっけー!じゃあ駅に着いたらとにかく探してみるよ。ああ、あとね、あずにゃん』
梓『他に何か?』
唯『ありがとね。あずにゃんが私をこんなに心配してくれるなんてさ……私、すっごく嬉しいよ』
129 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/13(火) 18:52:01.48 ID:DxpWShSbo
梓『い、いえ……ただ私のせいで唯先輩が大変な目に会うなんて嫌なんです。だって……先輩は私の人生を変えてくれた大切な人なんですから!』
梓『唯先輩には生きていて欲しいんです!ずっと……ずっと!』
唯『ありがとうあずにゃん。私嬉しいよ、あずにゃんが私のことそんな風に見ていてくれたなんてさ。でもね、それは私も同じなんだよ?』
梓『え?』
唯『これから話すこと、驚かずに聞いてくれるかな?』
梓『は、はい……』
唯『今まで言おう言おう思ってて結局言い出せなかったんだけど……私ね……喋れないんだ』
梓『え……それってどういう……』
唯『それだけじゃないんだ。私ね、耳も聞こえないの。どっちも5歳の時から、ね』
梓『そんな……』
唯『隠しててごめんね?でもあずにゃんがこれを知ったらもしかして嫌いになっちゃうんじゃないかなって想像して怖かった、だから今まで言えなかったの』
梓『……バカですよ先輩は……』
130 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/13(火) 18:52:32.12 ID:DxpWShSbo
唯『あずにゃん……?』
梓『そんなんで嫌いになる訳ないじゃないですか!例え耳が聞こえなくても喋れなくても……唯先輩は唯先輩です!私の中で唯先輩が大好きな気持ちは変わりません!』
唯『そっかー、私の考えすぎだったんだね……ほんとバカな先輩だったよ私。私も大好きだよ、あずにゃんのことが』
梓『先輩……』
唯『ねえあずにゃん、1つ聞いて?』
梓『はい……』
唯『私ね、あずにゃんと初めて電話が繋がった時すっごく嬉しかった。私の声が直接届いて聞いてくれて、あずにゃんの声まで聞くことが出来た……すっごく楽しかったよ、この1年間』
唯『音が聞こえなくてもギターは弾けるけどさ……だけど音楽をみんなに聞かせることは出来ても私自身が聞くことが出来ないのが嫌で正直辛かったんだ』
唯『正直音楽の音色がどんな物か10年間忘れかけてたんだ……あずにゃんに会う迄は』
梓『私何かしましたっけ……』
唯『前にギター教えて貰った時に鼻歌歌ってくれたよね?』
梓『ああ……そういえば確かにあの時……だから先輩はもっと聞かせてって頼んでたんですね』
唯『そうだよ?私、あずにゃんに出会えて本当に良かったって思ってるよ。だからさ、居なくなっちゃえばいいだなんてもう言わないでね?』
梓『唯先輩……はい、わかりました』
唯『わかればよろしい!』
梓『でも……なんか変な気持ちです。私でも人の役に立てるんですね、ちょっとびっくりしちゃいました』
唯『それはお互い様ってね!あっ、もうすぐ駅につくよ。それじゃああずにゃん』
梓『はい、さよならは言いませんよ。絶対にまたお互い生きて会いましょうね……』
唯『うん!必ずまた会おうね!それじゃ行ってきます!』
131 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/13(火) 18:53:09.56 ID:DxpWShSbo
――――――
――――
――
唯『ふえぇ〜駅から来る人が多すぎてあずにゃんがどこにいるのか分からないよぉー』
梓『丁度通勤時間帯ですからね……流石に見つかりにくいですよね』
唯『どうしよう……今もう27分になっちゃってるよ!なんとかしなきゃ……』
梓『先輩……怖くないんですか?もしかしたらもうすぐ自分が死んじゃうかもしれないのに』
唯『怖くないわけないよ。でもね、私あずにゃんともっとお喋りしたいし一緒にバンドしたいから……だから絶対にこんなとこで終わりたくないの』
梓『すいません……最後の最後まで私、先輩に頼りっきりで……ほんと情けないです。私、先輩に借りばかり作ってしまって』
唯『へへー、ならあずにゃんには後でちゃんとお返しはしてもらうからねっ!』
梓『ええ、分かってますよ。まあ、とりあえず横断歩道のとこから探しなおしてみましょうか。もしかしたら見落としてるかもだし』
唯『そうしよっか』
――――――
――――
――
唯『うーん、横断歩道の向こう側で信号待ちしてる制服姿の子探してるけど、紺色だらけだよー』
梓『そうですよね……紺色の制服なんて至るとこで見ますし……ならツインテールの子を探してみてください。珍しい髪型だから見つかるはずです!』
唯『それがね……同じ髪型の子がいっぱいいるんだよぉ。もう何がなんだか……ふぇぇ〜』
梓『なんて酷い偶然……』
132 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/13(火) 18:53:59.23 ID:DxpWShSbo
梓(とうとう30分になっちゃった……どうしよう……ここまで来れたのにこのままじゃ唯先輩が……)
無機質に時を刻む腕時計の針が、今の私には絶望へのカウントダウンに見えていた。
何か手はないか頭をフル回転させる、けどパニック状態になりかかっている今の私にはどうすることも出来ない。
梓『唯先輩!今すぐ逃げてください!もういいですからせめて先輩だけでも』
とにかく唯先輩だけでも助かって欲しい、万策尽きたと悟った私はそう叫ぶ。
逃げてと呼びかけても逃げる人じゃないのは分かってる……けど藁をも掴むというのはこういう事なんだろう、それ位必死だった。
唯『そんなの出来ないよ。私が逃げたらあずにゃんが……』
梓『でも……でも!唯先輩が死んじゃったら私、この先どうすればいいか……お願い!お願いだから逃げて!』
唯『何を弱気になってるのさ!そんなあずにゃん、私は嫌いだよ!!』
梓『せ、先輩……』
唯『必ず生きてまた会おうねって約束したじゃん!そう言ったのはあずにゃん自身なんだよ!!』
いつもほんわかして喜怒哀楽の怒が欠けてるような唯先輩が初めて声を荒げた。
弱気になって投げやりになりかけてる私に対して本気で怒ってるのが見えない電話回線を通してひしひしと伝わってきている。
唯『怒鳴ってごめんね?でもね、私達はまだ生きてるんだから……可能性は0じゃないんだよ?だからもう少し頑張ってみようよ、ね?』
今度は一転して優しい声であやすように語り掛けてくる。
どうしてこの人はいつも自分のことより私のことばかり……そんな唯先輩の優しさで胸が痛み涙が零れ落ちてくる。
梓『どうして……どうしてなんですか!?いつもいつもあずにゃんあずにゃんって、自分の身を厭わず庇ってくれて……何で……っ』
唯『理由なんてないよ。あずにゃんは世界で一番好きな人なんだから』
唯『どんな苦難があっても、逃げ出したくなる位怖くても……私は絶対にあずにゃんを守るから!そして私も生きて戻るって約束するよ、だから安心して?』
梓『はい……約束ですからね!絶対の絶対ですよ!!』
唯『うん!私は嘘はつかない子なんだから、大丈夫!』
133 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/13(火) 18:54:51.20 ID:DxpWShSbo
己を見失いそうになっていた私だったけど、唯先輩の優しくて、そしてどこか心強い声を聞いている内に、段々と気分がほぐれてきていた。
直接リアルタイムで話していないし、お互いの顔も知らないのに、その声だけで暖かい気持ちになってくる。
同時に私の中である想いが湧き出てきてきた。
――ちゃんと生きて笑ってくれてる唯先輩に会いたい。
――唯先輩と同じバンドでツインギターで同じステージに立ちたい。
――今度は2人で鎌倉の海岸に遊びに行きたい。
――一緒に同じ高校で毎日楽しく過ごしたい。
私の願望は心の中でより強くイメージされ、祈るように病院の外に広がる青空を見上げる。
唯『あっ!』
突然素っ頓狂な声をあげる唯先輩。
もしかして……いや、そのまさかだった。
唯『見つけたよあずにゃん!今横断歩道の反対側で信号待ちしてる!』
梓『本当ですか!?でも、どうやって私の居場所を!?』
唯『あずにゃん、前にQBのストラップ気に入ってて鞄に付けてるって言ってたよね?』
そういえば少し前にそんな会話をしていたな……取るに足らない与太話で私はすっかり忘れてたけど、唯先輩はしっかりと覚えていたんだ。
時計を見ると長針は丁度真下を向いていた。
134 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/13(火) 18:55:51.49 ID:DxpWShSbo
唯『横断歩道の向こう側で青い鞄を前に出して中をガサゴソしてる子が見えたの。その子の鞄にQBが付いてた……間違いない!あれはあずにゃんだ!』
梓『先輩!もう30分です!時間がありません!』
唯『もうそんな時間!?あずにゃん、私行くよ!』
梓『で、でも赤信号じゃないですか。危ないです、待ってください!』
頭の中に唯先輩が今何をしているのか鮮明に映像に映し出される。
赤信号なのに、唯先輩は車が来るのも眼中にないかのように1時間前の私の元へ駆け寄るのが見えた。
反対側の信号が赤信号になり、もうすぐ目前の信号が青に切り替わろうとしてるようだ。
それと同時に、私の中では忌まわしい記憶として脳内に焼きついているあの車のボディが遠くから迫っているのが分かった。
1時間前の私がゆっくりと横断歩道に足を踏み出し、唯先輩がそこへ無我夢中で駆け寄る。
その全てが頭の中でスローモーションで展開されているようだった。
まだ電話は切れていない……私は必死に呼びかける。
梓『唯先輩!返事をしてくださいっ!!せんぱあぁぁいっ!!』
つーつーつーつー
時計の針は31分を差していた――
135 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/13(火) 18:56:34.19 ID:DxpWShSbo
――あれから半年後
この日私は鎌倉に足を伸ばした。
今は駅の前で1人で佇んでいる最中だ。
もう9月だというのにまだまだ残暑が厳しく、私は何度もタオルで額の汗を拭う。
どれ位たっただろう、ふと手提げ袋の中からピンクのSoftbankの携帯電話を取り出しモニターを覗き見る。
136 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/13(火) 18:57:03.69 ID:DxpWShSbo
梓「9時10分、か……はぁ」
携帯のモニターで時間を確認した私は小さくため息をついた。
梓「うん?メールが着てる……純と律先輩からだ」
梓「2人共同じようなメール送ってきて……全くもうっ!」
2人のメールを見た私はその内容に顔を紅潮させ恥ずかしがるように俯く。
と同時に、背後から柔らかい感触が私の全身を包んだ。
梓「にゃあっ!?」
思わず叫び声をあげ背後を振り向くと、もう見慣れたあの人が私に満面の笑みで抱きついていた。
唯「……」ニコッ
梓「もう!唯先輩10分遅刻ですよ!折角のデートなのに困ります」
私は少し怒ったような表情を見せながら手話でそう伝える。
1時間時差のある電話じゃリアルタイムでの会話は出来ない、だから私は手話を覚えようとして今勉強中だ。
学校等で直接会っている時は手話だけど、家にいる時とか離れている状態では相変わらず電話を使ってるんだけどね。
137 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/13(火) 18:57:58.73 ID:DxpWShSbo
ちょっと中断
ほとんど書き溜め終わってるので今日中に終わる予定
138 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/13(火) 19:25:16.17 ID:DxpWShSbo
再開
>>122
元ネタもあんな感じのオチでした
139 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/13(火) 19:26:00.95 ID:DxpWShSbo
唯【ごめんごめん、途中で可愛いお犬さんがいて遊んでたらつい遅れちゃった♪】
梓「待っている身にもなってください!それからいい加減離れてください、暑いですから」
唯【えー、今日最初のあずにゃん分補給なんだよぉー、もう少しこのままでー】
梓「はいはい、分かりましたから離れてください。ほら、みんな見てる前で恥ずかしいじゃないですか」
唯【えー】
梓「えーもだってもありません!さ、行きますよ」
――――――
――――
――
1年前に1度ここに来た道程を、今また同じように歩いている。
ただ去年と違うのは、隣に唯先輩がいてくれている。
唯【なんだか私、夢を見てるみたいだなぁー】
梓「夢、ですか?」
唯【うん、こうやってあずにゃんと出会って2人で遊びに行けるなんて、本当に夢みたいなんだよ】
梓「そうですね。でも夢じゃないんですよ?私と先輩が同じ高校に通って同じ部活で一緒にお茶や演奏をしたり……今もこうやって2人きりでお出かけしてるのも全部現実なんです」
唯【だよねー。だけど半年前のあの日、あずにゃんには偉そうなこと言ってたけどさ……今になって白状すると、「私もうすぐ死んじゃうのかな」って内心怖くてしょうがなかったんだ】
140 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/09/13(火) 19:27:30.90 ID:DxpWShSbo
あの事故のあった8時30分、私と唯先輩の通話が途切れた瞬間、先輩は横断歩道に踏み出そうとする私に無我夢中で飛びついたらしい。
1時間前の私はいきなり初対面の人に飛びつかれて動転してたそうな。
その直後に1時間前の私がいた場所を暴走した車が走り抜けて、交差点の向こうのビルの壁に勢いよく突き刺さっていったそうだ。
唯先輩の怪我は押し倒した時に少し顔と腕と足を擦り剥いただけで済んだ。
あの時通話が切断されたのは、飛びついた時に頭を打ってしまったショックからだった。
でももしあと1秒遅れてたらどうなっていたか……考えただけでも恐ろしい。
141 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/13(火) 19:29:28.79 ID:DxpWShSbo
梓「あの時いきなり電話切れちゃうんですもの。もしかしたら駄目だったのかな、って私本気で心配したんですから!」
唯【私は約束は守る子だって言った筈だよ?それにあずにゃんには貸した借りを返してもらう約束もしてたからねっ!】
梓「そういえばそんな事いいましたね……」
唯【それじゃ、今ここでその貸しを耳揃えて返してもらいますっ!】
梓「ええっ!?な、何を!?」
唯先輩は私に何を要求するんだろう……
個人的には一生かけても返せないような大きな物だと思っていたから想像もつかず怪訝な表情をする私。
唯先輩が人差し指である場所を指し示す。
そこにはワラビ餅屋さんがあった。
唯【ここで休んでいこうよー。私今月お小遣いあんまないからあずにゃん払いでっ!】
梓「へ!?」
唯【貸しは返して貰うよ?それに私、あずにゃんと一緒にここに来たかったんだー】
思わず拍子抜けする私。
でも見返りを求めず、損得勘定も無視していつも私の事を第一に想ってくれてるこんな人だからこそ私も惹かれる物があったんだろう。
改めてそう実感する。
梓「本当に食いしん坊ですね、唯先輩は」
唯「……」テレテレ
142 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/13(火) 19:30:27.39 ID:DxpWShSbo
――――――
――――
――
足を休めて一服を済ませた私達は茶店を後にして今度はあの海岸へと向かった。
海水浴シーズンの過ぎた海岸は1年前と同じように人影はなく、私達専用のプライベトビーチ状態だ。
梓「うーん、やっぱり海の側は風が涼しくて気持ちがいいです」
唯【だねー。ここってさ、前にあずにゃんが私に贈ってくれたテープの声を録音してくれた場所だよね?】
梓「ええ、そうですよ」
唯【やっぱりね。ま、立ち話も何だから座りんしゃい】
梓「は、はい」
唯【私さ、あずにゃんから貰ったテープね、毎日何度も何度も聞いてたんだよ?】
梓「でも唯先輩、耳が……どうやって聞いてたんですか?」
唯【憂に頼んで聞いてもらってたんだ。あずにゃんがどんな感じで何を言ってくれてたのか……それを憂から手話で教えてもらってたの】
梓「そうだったんですか、憂が……」
唯【あずにゃん、私ね……すっごく嬉しかったんだよ?テープの最後にあずにゃんが言ってくれた一言がさ】
梓「最後に?私何言ったんだっけ……」
143 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/09/13(火) 19:32:39.67 ID:DxpWShSbo
唯【思い出せないの?】
梓「ええ……正直自分でも何を考えてたか分からなくて。それで、私は何と?」
唯【「あなたに会いたいです」って……あずにゃんが私と同じ事想ってくれてて感激しちゃって……そこだけ何度も何度も聞きなおしてたの】
梓「何か……ちょっと恥ずかしいです、ね」
唯【前にあずにゃんさ、私が魔法を持ってるって言ってたけど、それはあずにゃんも同じなんだよ?】
梓「私も?」
唯【あずにゃんも魔法を持ってるんだよ。あずにゃんがいてくれたから、あずにゃんが私の声を聞いてくれたから……私は楽しくやってこれたの】
梓「先輩……」
今日はここに来る前から心に決めていたことがあった。
それは半年前……いや、それより前から私の中にあった「ある気持ち」に決着をつけるという事だ。
本当なら半年前に永遠に告げる機会が無くなっていたかもしれない私の気持ちをぶつける時が来たんだと、そう確信し話を切り出す。
144 :
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[sage]:2011/09/13(火) 19:33:20.76 ID:DxpWShSbo
梓「その……唯先輩、今日は大事な話があるんです、少しいいですか?」
唯「……」コクリ
私は唯先輩の目をじっと見つめる。
するとさっきまでほんわかしていた唯先輩の表情が何時の間にか真剣な表情になっていた。
その眼はじっと私の眼を見つけ続けている。
水平線に沈む夕陽に照らされ神秘的に映る唯先輩の顔を見て、私の心臓は大きく波打つ。
それは収まる事なく、まるで音が直接耳に聞こえてくるかのようだった。
こんな感情、今まで生きてきて初めての経験だ。
梓「半年前、タクシーの中で私が唯先輩に言った言葉覚えてますか?」
唯「……」
梓「あの時はゴタゴタしててハッキリと伝え切れなかったので……改めて唯先輩に聞いてもらいたいんです」
梓「その……」
145 :
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[sage]:2011/09/13(火) 19:33:56.87 ID:DxpWShSbo
こうやって落ち着いた場で改まって話そうとすると却って言葉に詰まってしまい口が動かない。
そんな私を見ている唯先輩は、何も態度には出さず、ただニコッと微笑んでくれる。
それはまるで、私を励ましてくれてるような……そんな表情を見て私はもう1度自分を奮い立たせた。
正直照れ臭い……けど、勇気を出してずっと胸の奥にしまってきた正直な想いを唯先輩に――
もう2度と離れたくない……ずっとずっと傍にいて欲しい……いつまでもあなたの笑顔を見ていたい――
――だから!
146 :
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[sage]:2011/09/13(火) 19:34:25.26 ID:DxpWShSbo
梓「唯先輩!私、先輩のことが大好きです!世界中の誰よりも……あなたのことが!」
梓「だから……これからもずーっと!ずーっと一緒にいてください!」
想いの全てを吐露した私、正直もう思い残す物はない。
しばらくの間、この場に重い沈黙が続く……聞こえてくるのは波の音だけ。
時間にして僅かだろうけど、私にとってはそれがまるで永遠に続くようにも感じられた。
――その沈黙を破ったのは唯先輩だった。
唯【私もあずにゃんの事が大好きだよ!他の誰よりも……私にとっては大切な人だから……こんな私でよければこれからもよろしくお願いします!】
梓「こちらこそ、不束者ですがよろしくお願いしますね、唯先輩♪」
唯【うんっ!】
私は唯先輩の胸元に飛び込んでぎゅっと強くその身体を抱きしめ、先輩はそんな私の背中に両腕を回りこませ更に強く抱きしめてきてくれた。。
私の全身を暖かい感触が包み込む――
147 :
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[sage]:2011/09/13(火) 19:35:17.23 ID:DxpWShSbo
唯【ねえ、あずにゃん】
梓「どうしました?先輩」
唯【今度の学園祭ライブ、私達5人で絶対成功させようね!】
梓「はい!私達なら絶対出来ますって!」
唯【それじゃもう遅い時間だし、そろそろ帰ろっか】
梓「そうしましょうか」
唯【また来ようね?あずにゃん】
梓「ええ、またいつか」
148 :
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[sage]:2011/09/13(火) 19:36:19.37 ID:DxpWShSbo
あの絶体絶命の危機を乗り越えた私達は結果的に前より強く結ばれた……今ならハッキリとそう断言できる。
これから先も色んな困難が待っているかもしれない……けど、唯先輩と一緒なら何が起きても怖くないし乗り越えていける確信がある。
いや……唯先輩だけじゃない――
律先輩、澪先輩、ムギ先輩、憂、純、和先輩、さわ子先生――
今の私にはこんなにたくさんの人が付いていてくれて見守ってくれてる……
――私はもう、1人じゃないんだ
梓「ほら唯先輩、早く行きますよ♪」
今度こそThe End
149 :
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[sage]:2011/09/13(火) 19:40:32.56 ID:DxpWShSbo
今度こそ本当に終わりです
原作ENDは
>>103
から
別ENDは
>>126
からどうぞ
では、ありがとうございました
150 :
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[sage]:2011/09/13(火) 20:03:11.36 ID:VEL1FGeDO
乙乙!!!!
やっぱハッピーエンドは良いねぇ〜
151 :
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[sage]:2011/09/13(火) 20:20:30.98 ID:1bi1O9XSO
原作エンドの方、もし梓が最後に嘘をつかなかったら間に合ってたかもしれないと思うと皮肉な話だなぁ
乙でした
152 :
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[sage]:2011/09/15(木) 00:16:34.74 ID:y64mxYY6o
途中まで読んでやめちゃったけど
やっぱりつまらないのは元ネタがつまらないからなんだろうね…
153 :
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[sage]:2011/09/15(木) 00:24:36.73 ID:cwdHi765o
元ネタ映画化もされた名作だぞ
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