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垣根「俺はヒーローにはなれねえんだ」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2011/09/09(金) 23:30:13.83 ID:pog7RaeAO

・垣根帝督が主人公です
・シリアス分多め
・アレイスターが失脚した後の世界です
・垣根が三主人公とよろず屋を営んでいます
・キャラ崩壊注意
・オリ設定がかなり含まれてきます

そんなんでもよろしければ、どうか読んでいってください

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少し暑くて少し寒くて @ 2024/04/25(木) 23:19:25.34 ID:dTqYP2V2O
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渾沌ゴア「それでもボクはアイツを殺す」 @ 2024/04/25(木) 22:46:29.10 ID:7GVnel7qo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714052788/

二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714049241/

佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
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全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
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君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
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笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2011/09/09(金) 23:36:47.36 ID:pog7RaeAO
携帯電話から流れ出す、メールが来たことを知らせる大音量の着信音で、垣根帝督は目を醒ました。

普段は心地よいギターやドラムの音が、今はこの上なく不快に思える。

安眠を妨害されたことに苛立ちながら、ベッドから這い出て携帯のある充電スタンドへにじりよる。

スタンドから携帯を取り出し、まだ眠気の残る脳を働かせてメールの内容を確認すると、それは携帯の販売元からの宣伝メールだった。

あまりにも下らない中身に腹を立てた垣根は、そのアドレスを着信拒否しようとする。
しかし、それに失敗。

何度目かで着信拒否できないことに気付き、更に苛立ちを強める。
携帯を乱暴にズボンのポケットに突っ込む。

もうすっかりと眠気は振り払われてしまい、残滓が頭蓋の裏側にこびりつくのみ。

「くそっ」

短く悪態をついて、洗面所で顔を洗う。

タオルで水滴を拭き取りながら時計を見ると、針は今の時刻が10時を少し過ぎていることを示していた。

仕事のある日でなければこんなに朝早く起きることはない。
その上、昨日は垣根だけで夜遅くまで依頼をこなしていて、ようやく眠りにつけたのは朝の6時だった。

3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2011/09/09(金) 23:40:06.97 ID:pog7RaeAO
眠たくはないが、身体のほうは未だ疲れが取れず、重く気怠い。

何か食べる気にもならず、事務所として使っているリビングへと向かい、二つあるソファの片方に倒れこむ様に身体を預ける。

昨日から一度も服を着替えず、風呂にも入っていないことに垣根は気付いていたが、それをどうにかしようとは思わなかった。

また携帯電話から着信音。今度こそ垣根の耳に心地よく響くオルタナティブなサウンド。

ズボンのポケットに手を差し入れ、携帯を引っ張り出す。

送信先は『上条当麻』、

タイトルは『今からさ』。

いかにも面倒くさそうな雰囲気を醸し出すそれを読むために、垣根は決定ボタンを押す。

予感は的中。
第七学区のとあるカラオケ屋に行かないか、という誘いのメールだった。

当然、行くつもりはない。
それに、上条とインデックスのいちゃつきをずっと見させられるのは、独り身の垣根にとってしてみれば苦痛でしかなかった。

4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/09(金) 23:41:51.30 ID:ysU8s/hAO
どっかで見たことのある組み合わせだな
期待
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2011/09/09(金) 23:42:27.73 ID:pog7RaeAO

ただ、『また今度な』とだけ打って送信。
携帯を閉じ、机の上に置く。

一分と経たないうちに返信が来た。
書かれていたのは、『御坂や五和もくるのに』の一文のみ。

おそらく――というより間違いなく――彼女達は上条を攻略せんとして彼とカラオケに行くのだろう。

相変わらず女に好かれ易い奴だよな、と垣根は思う。
だが、上条は相手に好意を抱かれているとは何があろうとも気付きはしない。
これまで夜道で誰かに襲われたことがないのが不思議にすら感じられる。

『刺されるなよ』と返信。
上条からクエスチョンマークが返ってくるが無視。
説明したところで理解するとも思えない。

携帯を放り投げ、ごろりとソファに寝転がる。
程よく反発してくるクッションが気持ち良い。
瞼を閉じて、ゆったりと体をくつろげる。

ただただ、時間だけが過ぎていく。
何事もない、平穏な時間。

6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/09/09(金) 23:47:56.79 ID:pog7RaeAO
短いですが、本日はこれにて終了です

次回は学校の追試が終わったら来ます

わざわざ読んでくださって、本当にありがとうございました
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/09(金) 23:59:45.93 ID:lBaIetVSO
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/09/10(土) 02:19:46.30 ID:aMbu420Io
設定は期待
地の文がクドイ
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/10(土) 09:30:21.48 ID:EQfHn46AO
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2011/09/11(日) 02:09:37.25 ID:yMZr7j3C0
期待
11 : ◆3wvSQQhdpM [sage]:2011/09/20(火) 21:24:39.68 ID:5f28XPhAO
1です
追試が無事終了したので、数日後には投下します

それと、酉、始めました
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/23(金) 19:13:01.69 ID:HgDojlGSO
待ってるよ
13 : ◆3wvSQQhdpM :2011/09/28(水) 21:24:00.06 ID:K5J4EB6AO

え〜、数日後とか言った癖に一週間も空けてしまいました
本当にすみません

投下、開始します
14 : ◆3wvSQQhdpM :2011/09/28(水) 21:24:27.77 ID:K5J4EB6AO

え〜、数日後とか言った癖に一週間も空けてしまいました
本当にすみません

投下、開始します
15 :ダブってしまった…… ◆3wvSQQhdpM [saga]:2011/09/28(水) 21:57:36.50 ID:K5J4EB6AO

眠気はなかったはずなのに、いつの間にか意識はうつらうつらとしながら微睡みへと入り込んでいき、垣根がふと気付いた時には既に正午を過ぎようか、という時刻だった。

疲れも消えて無くなり、身体が軽く感じられる。
上体を起こし、髪の毛を掻き毟る。

唐突に、垣根は空腹を感じて、何か食べようと、キッチンへ行き、冷蔵庫を開ける。

だが、中には飲み欠けの、いつ開けたかも忘れた緑茶のペットボトルしかなかった。

雑菌が繁殖しているかもしれないと考え、ペットボトルの中身を流しに捨てて、容器をゴミ箱に投げ込む。

未元物質を緑茶に対して使えば、消毒も簡単に出来るが、垣根は、自分の能力で生み出した物質が混じった物を飲みたくはなかった。

他に食べ物はないか、垣根はキッチン中の戸棚を漁ってみた。
しかし、見つかったのは小麦粉やカレーのルーくらいで、今すぐ口にできそうな物は見当たらない。

「コンビニにでも行くとするかね」

そう呟いて、垣根は事務所兼自宅を後にした。

16 : ◆3wvSQQhdpM [saga]:2011/09/28(水) 22:07:30.48 ID:K5J4EB6AO


7月も半ばとなり、街はジリジリとした日光に照らされていて、道路は夏休みを満喫する学生達で溢れ返っていた。

人々の間をすり抜け、垣根は黙々とコンビニを目指して熱く熱されたアスファルトの上を歩く。
影になっている場所を選んで歩いているにもかかわらず、身体はひどく火照り、脳味噌はまるで鉛のよう。

「7月のくせに暑すぎだろうが……」

早くクーラーの効いた場所に行こう。
そう思い、垣根は歩調を早めた。

しばらく歩いたところで、暑さで意識がぼんやりしていたからか、十字路を曲がろうとしたときに、垣根はうっかりと右側からやって来た高校生くらいの男にぶつかってしまう。

おっと、悪いなと垣根が謝る。

だが、男は垣根の詫びも聞かず、そのまま走り去っていった。

そして、あっという間に人混みに紛れ、姿を消してしまう。

「なんだアイツ……」
垣根はきょとんとしながら、男の消えた方向を見つめていた。

ふと、足元に視線を落とせば、そこに落ちていたのは一枚の写真。

垣根はそれを拾い上げ、まじまじと眺める。

17 : ◆3wvSQQhdpM [saga]:2011/09/28(水) 22:11:15.96 ID:K5J4EB6AO
写っているのは、さっきの男と、大学生かそれ以上らしき女。
それと女に抱き抱えられた生後間もないとおぼしき赤子。
背景からして、撮影場所は病室。

この赤子は彼等の子供なのだろう。二人共嬉しそうに笑っている。

(面倒くせえもん拾っちまったな……)

さすがに、どこかへ放り投げるのも気が引け、垣根は写真を財布の中に仕舞い込む。

(後で交番にでも届けるか)

そして、垣根は再びコンビニへの道を歩き始めた。

18 : ◆3wvSQQhdpM [saga]:2011/09/28(水) 22:18:56.88 ID:K5J4EB6AO

コンビニでメロンパンとコーラ、それに切らしていたインスタントコーヒーを買い、垣根が自宅近くにまで戻ると、玄関前に女が一人佇んでいた。

Tシャツにジーンズというラフな格好をしていて、年は23,4あたり。
憔悴しきった顔で、目は虚ろになっている。
明らかに、何か厄介な問題を抱えているらしい様子。

それを見た垣根は、ハァ、とため息をついた。

事務所にこういう雰囲気の依頼人が持ち込んでくる仕事は、大抵ろくなものではない。

誰其を殺して欲しいだとか、今すぐある物品を取り返してきて欲しいだとか、その手の面倒なものばかり。

かといって、依頼する方は困り果てて藁をも掴むような思いで依頼するのだから、無下に断る訳にもいかない。

なので、普段の垣根はこの手の客は、話を聞いて適当なアドバイスをするだけに留めている。

だが、彼女に限ってはそう上手くいきそうに無いと、垣根は予感した。

19 : ◆3wvSQQhdpM [saga]:2011/09/28(水) 22:20:24.52 ID:K5J4EB6AO


理由は単純。


さっき拾った写真に写っていた女だからだ。


20 : ◆3wvSQQhdpM [saga]:2011/09/28(水) 22:26:14.06 ID:K5J4EB6AO

垣根はポケットから財布を引っ張り出し、拾った写真を取り出す。
そして、写真の女と、玄関前にいる彼女とを見比べる。

窶れた顔立ちになり、幾らか痩せてはいるが、どう見ても同一人物だった。

(こいつは間違いねえよな)

垣根は内心頭を抱えた。

垣根としては、彼女達の問題には関わりたくはない。

だが、こうしてわずかとはいえ、彼女達とつながりを持ってしまった以上、垣根には見捨てることなど出来なくなっていた。

らしくない、と自虐の笑みを浮かべる垣根。
上条達と過ごす間に、彼等の――特に上条の――性格が、伝染ってしまったらしい。

暗部にいた頃の冷徹さは、垣根からはもうなくなっていた。

「しゃあねえか。まったく、休日だってのに面倒な話だよ」

21 : ◆3wvSQQhdpM [saga]:2011/09/28(水) 22:32:31.56 ID:K5J4EB6AO

手に負えなさそうな、どうしようもなくヤバイ仕事だったらお引き取り願おう。
そう決めて、垣根は玄関前にまで近づき、彼女に話しかけた。

「ウチに何かご用でも……」

垣根の声を聞いた女は、肩をピクリと震わせ、ゆっくりと振り向いた。
メイクで隠し切れていない目の隈と、手入れされずに荒れたままの肌。

垣根は、本当に深刻そうだなと思いつつも、そんなことはおくびにも出さずに話を続ける。

「今日は休業日なんですけど、相談くらいになら乗りますよ」

そう言うと、女はコクリ、と微かに首を縦に振った。
了承したらしい。

その様子を見た垣根は、女に向かって微笑みかけた。
それから、おもむろに鍵を取り出し、鍵穴に差し込む。

鍵を回すと、ガチャリ、と錠の外れる音がした。

22 : ◆3wvSQQhdpM :2011/09/28(水) 22:35:51.53 ID:K5J4EB6AO

短いですが、今回の投下はこれにて終了です。

今度はできるだけ早く来ます……

わざわざ読んでくださって、本当にありがとうございました
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/28(水) 22:46:06.44 ID:hORN6STSO


この雰囲気好きだ
24 : ◆3wvSQQhdpM [sage]:2011/10/03(月) 19:02:18.95 ID:jxPHZm5AO

禁書映画化するそうですね

地雷としか思えないのは俺の心が汚れているから

そう思いたい

22時頃に投下します

25 : ◆3wvSQQhdpM [saga]:2011/10/03(月) 22:32:15.16 ID:jxPHZm5AO

投下、開始します
26 : ◆3wvSQQhdpM [saga]:2011/10/03(月) 22:38:23.40 ID:jxPHZm5AO

女を事務所に入れた垣根は、

「どうぞ、そこのソファに座ってください」

と言って、彼女を座らせた。
そして、自分は反対側のソファに腰掛け、彼女とテーブルを挟んで向き合った。

冷房の電源を入れ、蒸し暑くなっていた室内を冷やす。

コンビニで買ってきた物はテーブルの端に置いておく。

垣根は女に話しかけた。

「コーヒーでも飲みますか。残念ながらインスタントしかありませんが」

「いえ、結構です……」

疲れが滲む顔。
弱々しく響く声。
小刻みに震える唇。

それらが、彼女の置かれていた状況の辛さを如実に物語っていた。

垣根は、女へと質問を始めた。

「それで、俺達にどのような依頼をしに来たのですか」

女はたっぷりと間をとってから、一言、

「娘を、探して欲しいんです」

彼女に聞き返す垣根。

「娘さんを……ですか」

「はい」

「何があったんですか」

27 : ◆3wvSQQhdpM [saga]:2011/10/03(月) 22:43:35.16 ID:jxPHZm5AO

女は、躊躇うように視線を泳がせる。
そして、ぽつりぽつりと話し始めた。

「四日前、私と夫、それに娘は、一緒に車に乗って病院に行きました」

「その数日前から娘が風邪気味で、それで掛かり付けの先生に診てもらおうと思っていたんです」

「病院での診察が終わって、帰る途中で、突然車の調子がおかしくなりました」

「夫が車から降りて、エンジンを調べようとしたとき、私は急に眠気に襲われて、寝てしまって……それで、起きたら、もう……」

女は言い淀み、口を閉ざす。

垣根は彼女の言葉を引き取り、続ける。

「居なくなっていた、と」

「はい……」

なるほど、とうなずく垣根。

「娘さんは、今お幾つですか」

「まだ、生後四ヶ月です」

「いなくなったとき、チャイルドシートかなにかに娘さんを乗せていましたか」

「はい。しっかりとベルトも着けさせていました」

「フム……」

28 : ◆3wvSQQhdpM [saga]:2011/10/03(月) 22:50:00.77 ID:jxPHZm5AO

生後四ヶ月の、生まれて間もない子供が勝手に動き回れるはずがない。
となると、何者かが連れ去ったのだろう。

だが、それよりも垣根が引っ掛かるのは女の様子だ。

彼女は、事務所に来てから一度も自分の名を口にしていない。

普通なら、最初に名乗っているはずだ。
何か後ろ暗いところがあるのだろうか、と垣根は推測した。

疑惑を胸に、垣根は、更に問いを重ねていく。

「不躾な質問ではありますが、あなたか、御主人のどちらか、あるいはお二人共が誰かに恨まれているようなことはありますか」

「多分、無いと思います」

「では、どこか危険な組織と関わったことはありますか」

「どういうこと…ですか」
            ・・・
「そうですね……例えば、元暗部の人間、とか」

「い、いえ…そのようなことは……」

垣根の鎌かけに反応し、急に吃り、答えに詰まる女。
まるで変化の無かった表情が揺らぐ。
焦りと罪悪感の入り交じった感情がわずかに覗く。

29 : ◆3wvSQQhdpM [saga]:2011/10/03(月) 22:58:06.38 ID:jxPHZm5AO

隠し事の下手な人だと垣根は評した。
少し揺さぶってやれば一発でなにもかも吐くだろう。
生来嘘のつけない性格であるに違いない。
それでも、絶対に隠しておきたいこと――それも暗部絡みの――があるのだろう。

しかし、事実を言ってもらわないと仕事の仕様が無い。
この人には悪いが、本当のことを全て話してもらおう――

垣根は、一切躊躇せずに踏み込んでいく。

「では、他に娘さんが狙われる理由は」

「さ、さあ……」

「いくらなんでも、生後四ヶ月の赤子をバラすようなことは無いでしょうから、原因はあなた方にあると、俺は思いますよ」

「本当に心当たりが無いんです。それに、バラす、ってどういう意味ですか。娘が何かされるってことですか……」

その言葉を聞いた垣根は、自らの勘が外れたことを悟った。

30 : ◆3wvSQQhdpM [saga]:2011/10/03(月) 23:06:47.84 ID:jxPHZm5AO

元暗部の人間ならば、『バラす』の意味くらい知っていて当然だ。
なのに、彼女は知らなかった。
彼女の表情や声色からも、嘘をついている様には見えなかった。

そうなれば、暗部にいたことがあるのは女ではなく別の誰か。
それも、自分の娘と同じくらい大切な。

元暗部の人間だったのは、旦那だなと垣根は判断した。

アレイスター失脚後、学園都市は大幅にその権力を失った。
独立国の如く振る舞うことは不可能になり、日本の一都市という扱いに戻された。

統括理事会は解散し、治安維持組織を除く全ての部隊は漏れ無く武装解除させられた。
その改革の影響を最も強く受けたのは、学園都市の闇にいた者達だった。

統括理事会解散時、隠蔽工作が行われていたにも関わらず、どこからか暗部に関する情報が漏れ出した。
一度でも情報が明るみに出てしまえば、その流れを食い止めることはできない。

31 : ◆3wvSQQhdpM [saga]:2011/10/03(月) 23:14:28.12 ID:jxPHZm5AO

学園都市の闇の存在は瞬く間に知れ渡った。非人道的な実験、少年兵、暗殺、粛清…etc.

『妹達』やサイボーグ技術等のあまりにも倫理的、社会的に問題のあるもの以外は、否応なしに日の光の元に連れ出され、排除された。

一方通行の暗部解体以降も残り続けた者達は勿論、足を洗った者ですら容赦無く魔女狩りの対象になった。

非合法な実験をした科学者は皆刑務所に送られ、留置所から出なかった者も大勢いた。
発見されたその場で殺されることもザラにあった。
暗部の実行部隊の人間も同じ運命を辿った。

アメリカ、イギリス、日本の合同で行われた暗部狩りは、財力や権力、ましてや能力の強度などに一切頓着せず、粛々と進められた。
誰も彼もが平等に裁かれ、罰せられた。
ごくわずかな例外を除き、そこには何者の意図も入り込む余地は無かった。

世界は、正義の名のもとに闇を光で照らしていった。

彼女の夫は、その追求の手から辛くも逃れられたのだろう。
幸運に恵まれた連中は名を変え、顔を変え、生き延びている。
また、単なる雑用係で、犯罪も大して犯さなかった人々は、身を隠してさえいれば捕まることはまず無かった。

だが、少しでも目立ってしまえばたちまち四方からサーチライトを浴び、衆目の前に引きずり出され、晒される。

彼女は、それを恐れているのだ。

32 : ◆3wvSQQhdpM :2011/10/03(月) 23:22:59.41 ID:jxPHZm5AO

短いですが、今回の投下はこれにて終了です。

投下の間隔が毎回不安定だ…
投下量は安定して少ないんですけどorz

わざわざ読んでくださって、本当にありがとうございました
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北陸地方) :2011/10/03(月) 23:33:48.50 ID:I6gwMKxAO
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/03(月) 23:38:35.04 ID:HU1unIlQo
またお気に入りが増えたって訳よ

乙!!
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/04(火) 20:30:40.91 ID:JqWPc8yDO
久方ぶりに面白そうなSSを見つけてしまった
36 : ◆3wvSQQhdpM [sage]:2011/10/07(金) 20:21:20.31 ID:CcOP7WBAO

わざわざ乙してくださって、本当にありがとうございます

明日か明後日には投下する予定なので、また読んでいただければ幸いです

あと、>>1に書き忘れていたのですが、この話では、グレムリンやらイギリス清教やらその他大勢がなんやかんややったお陰で、魔術の存在は世界中にバレています

なので、暗部狩りの構成も

アメリカ:USSOCOM

イギリス:必要悪の教会

日本:警備員&魔術師

といった科学サイドと魔術サイドがごっちゃの組み合わせ

ちなみに、設定では、
タカ派「トマホークなりサーモバリック爆弾なり法王級魔術なりで学園都市更地にしちまおうぜ!!」

と言ってくるのを宥めすかして、サーチ&デストロイで納得させた経緯があったりなかったり

この手の設定が結構あるんですけど、活用する日はくるのか……
37 : ◆3wvSQQhdpM [saga]:2011/10/09(日) 22:38:40.42 ID:Vh6HeQgAO

投下、開始します
38 : ◆3wvSQQhdpM [saga]:2011/10/09(日) 23:05:45.00 ID:Vh6HeQgAO

「垣根さん? どうかしましたか……」

女が心配そうに呼びかける声で、垣根ははっと我に返った。
うっかりと思考の底に沈んでしまっていたのに気付く。
気を取り直し、会話を続ける。

「ああ、すみません。ちょっとぼんやりしていました」

「そうですか……」

「えっと、それで娘さんが拐われる理由は、やはりわからないのですか」

「はい、どうしても……」

垣根は、そこでため息をつき、顔をしかめてうんざりとした体を装う。

「それでは仕方ありませんね。俺達では手の出しようがありません」

「そ、そんな……」

女はそれを聞いて呆然とした。

ショックを受けた顔をして、肩を落とす。

垣根は、追い討ちをかけるように、

「犯人の目的がわからなければ、目星も何もつかない。俺達は警察でもなんでもない、ただのよろず屋ですから、手掛かりがなければ娘さんは探せませんよ」

当然、これはデタラメ。
彼女の口を割るための嘘。
垣根達の能力と人脈を使えば、人探しくらい雑作もない。

39 : ◆3wvSQQhdpM [saga]:2011/10/09(日) 23:28:13.96 ID:Vh6HeQgAO

そうとも知らず、女は必死になって垣根を引き留めようとする。

「お願いします。あなた方しか頼れる人がいないんです」

「何故ですか。警備員に通報すればすぐに動いてくれると思いますよ」

「それが、通報したのですけど相手にされなくて……」

女は目線を明後日の方向に逸らす。
バレバレの誤魔化し方だ。

「そんなことは無いはずですよ。最近の警備員は誘拐や殺人などの重犯罪に敏感ですから、その手の事件の可能性がある通報を蔑ろにするような真似はしませんよ」

「そ、それは、そ、その……」

垣根の言葉に動揺し、吃る彼女を見て、垣根はチクリと罪悪感を覚えた。

仕事のためだと心の中で言い訳して、相手が隠しておきたいことを脅して無理矢理喋らせようとするなんてな――自分のしている行動の下劣さに、自己嫌悪に陥りそうになる。
それでも、垣根は尋問を行おうとする。

唐突に、どこかで読んだ小説の一節が垣根の脳裏に浮かんだ。

曰く、すべての仕事は、人間の良心を麻痺させるために存在する。

40 : ◆3wvSQQhdpM [saga]:2011/10/09(日) 23:43:08.18 ID:Vh6HeQgAO

「それとも、警備員を頼れない理由があるのですか」

「あ、あの……その……」

ここで垣根は、ふっと息を吐き、表情を和らげる。

「まぁ、いいです。依頼は受けますよ」
女はうつむいていた顔を上げた。
目に光が戻り、心持ち頬に赤みがさす。

「本当ですか」

「ええ、できるだけやってみましょう」

と垣根。

垣根の返事を聞いた彼女は、一転して嬉しそうに顔を綻ばせた。
ありがとうございます、ありがとうございますと礼を述べ続ける。

垣根は、彼女の言葉を遮り、

「ただ、一つだけ条件があります」

「条件、ですか……」

ええ、と垣根はうなずく。

「娘さんを探すのに支障を来すといけないので、警備員に通報できない理由を教えてください」

「そ、それは……」

再びしどろもどろになる女。

「大丈夫です。俺達には守秘義務がありますから、聞いたことは墓まで持っていきますよ」

「ですけど……」

それでも渋る彼女に、垣根はもう一言言う。

41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/10(月) 16:47:30.43 ID:7JrYeesbo
どうした?寝ちゃった?
42 :風邪引いてた……orz ◆3wvSQQhdpM [saga]:2011/10/11(火) 23:09:20.94 ID:0vAHkBtAO

「もし、理由が暗部絡みなら問題ないですよ。元暗部の奴を匿っていたこともあるので、警備員にチクったら逆に俺達が手錠を掛けられます」

自らが暗部の人間だったとは言わず、それほど当たり障りのない話をしておく。

「そう、ですか……」

「それで、話してくれますか」

「……わかりました」

ようやく喋る気になったなと垣根はほっとした。
当然、そんな素振りは微塵も見せない。

そして、最初に語り始めた時と同じように、彼女は少しづつ話し始めた。

「私の夫は、昔、暗部に所属していました。どうして暗部に入ることになったのか、教えてもらってはいません」

「……それで」

「元々雑用係みたいな仕事を任されていただけで、大きな罪を犯してはいないそうです」

「だから、今日まで警備員やその類いの奴等から逃げ切れたと」

「はい。去年、暗部が一度解体された時、夫はそのまま汚れ仕事から足を洗いました、それ以来、偽のIDを使っていること以外は、犯罪は起こしていません」

「なるほど、ね」

女が話してくれた秘密は、ほぼ垣根の予想通りの内容だった。
わざわざ脅すような真似をしてまで聞く必要もなかった気がする。
だが、円滑に依頼をこなすには、重要な事であるとは、垣根も理解している。

「あの、これで依頼を受けていただけるんですよね……」

彼女は心配そうに垣根を見た。

垣根は彼女ににっこりと微笑んで、

「勿論です。絶対に娘さんを見つけ出しますよ」

彼女は、再び笑った。
43 : ◆3wvSQQhdpM [sage]:2011/10/11(火) 23:18:45.46 ID:0vAHkBtAO

短いですが、今回の投下はこれにて終了です。

先日は途中でほっぽってしまい、本当に申し訳ございません

友達の学校の文化祭ではしゃぎ過ぎたのが風邪の原因です

もっとTPO考えた服装にしときゃよかった……

とりあえず、最後力尽きた感がありますが、これで第一章は終了です

次からは第二章に入ります

わざわざ読んでくださって、本当にありがとうございました
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/12(水) 00:44:17.34 ID:ThZa3D6SO


続きが気になるな
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/12(水) 02:23:59.81 ID:4HfSTPfSo
さてこの嫁さんは誰なのか
46 : ◆3wvSQQhdpM :2011/10/18(火) 21:59:41.49 ID:HgnaSEnAO

すみません、書き溜めが全部吹っ飛んでしまったので、投下遅れます

本当にごめんなさい……
47 : ◆3wvSQQhdpM [sage]:2011/10/18(火) 22:01:04.66 ID:HgnaSEnAO

sage忘れてた……orz
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/18(火) 22:19:43.07 ID:Y0zK7D1SO
>>46
ずっと待ってるから安心してくれ
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/19(水) 00:56:28.52 ID:YW7hADTKo
いつまでも待ってる
50 : ◆3wvSQQhdpM [sage]:2011/10/26(水) 00:12:13.99 ID:fW8RsB/AO
どうも>>1です、ご無沙汰しております

またも長い間お待たせしたしまい、すみませんでした

ようやく投下の目処がたちましたので、明日頃に投下します
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/26(水) 17:03:21.99 ID:T0IGJbk/o
まってる
52 : ◆3wvSQQhdpM [sage]:2011/11/08(火) 22:26:28.05 ID:nhupJvhAO
すみません

この前から親が入院しておりまして、その為にSSを書く暇がありません

少なくとも1ヶ月、長引けば2,3ヶ月ほどはこっちは来れそうにありません

絶対に完結させますので、それまでお待ちいただければ幸いです

本当に、申し訳ございません
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/09(水) 21:41:21.11 ID:OKYR92uGo
おk

いつまでもまってる
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