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女「人間やめたったwwwww」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 20:40:19.40 ID:nbU0t01Go
「俺、未来から来たって言ったら、笑う?」は時をかける少女だったか。
見てないけど。
一瞬、黙りはするだろう。
直後、ご冗談を、と笑うと思う。
そこで初めて笑う。
ハハハ、こやつめ。

で、僕は今、笑われようとしている。
二学期の初日の朝。
教室は昨日の通り魔事件の話題で持ちきりだ。
そんな中、僕は夏休み最後の日に仕入れたネタを引っ提げて登校し、後ろの席の女友達に披露しようとしている。
体をねじって声をかけると、「はよーん」と
出来損ないの「おはよう」が返ってきた。
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小テスト @ 2024/03/28(木) 19:48:27.38 ID:ptMrOEVy0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/zikken/1711622906/

満身創痍 @ 2024/03/28(木) 18:15:37.00 ID:YDfjckg/o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aaorz/1711617334/

【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part8 @ 2024/03/28(木) 10:54:28.17 ID:l/9ZW4Ws0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1711590867/

旅にでんちう @ 2024/03/27(水) 09:07:07.22 ID:y4bABGEzO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1711498027/

にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:26:18.81 ID:AZ8P+2+I0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/gomi/1711459578/

にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:26:02.91 ID:AZ8P+2+I0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/gomi/1711459562/

にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:25:33.60 ID:AZ8P+2+I0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/gomi/1711459533/

にゃんにゃん @ 2024/03/26(火) 22:23:40.62 ID:AZ8P+2+I0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/gomi/1711459420/

2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 20:41:56.84 ID:nbU0t01Go
「俺、吸血鬼見たって言ったら、笑う?」

「ハハハ、こやつめ」

期待を裏切らない奴。
大口を開けて笑うものだから八重歯が丸見えだ。
ひとしきり笑った後、ちろっと唇を舐めるのが妙にコケティッシュでそそる。
僕は彼女のその仕草が気に入っているが、一瞬のことなので見逃すまいと見つめてしまう。
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 20:44:10.83 ID:nbU0t01Go

「えっ、なに。海苔ついてるとか?」

彼女は落ち着きなく口元を覆う。
手の平を包帯でぐるぐる巻きにしていることに、初めて気がついた。
大げさに心配してはいけない気がした。

「うん」

彼女はトイレに走り、すぐ帰ってきた。
鏡でも見てきたのか。

「ついてないじゃん。腹立つー」

「ハハハ、こやつめ」

「引っかかった引っかかった」とばかりに指さして笑ってやる。

(視姦バレ回避……)
ターゲットには気取られないように。
不快感を抱かせないのが、紳士の嗜み。
4 :1です。 [saga sage]:2011/09/12(月) 20:50:29.89 ID:nbU0t01Go
最後まで書き溜めたものを書き込んでいきます。
短編(だと思う)オリジナル。
短い間ですが、お付き合いください。

では、続きをどうぞ。
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 20:52:16.87 ID:nbU0t01Go
「ファック。まじファック」

「ははは。怒るな怒るな」

「怒るわ。償え。乙女心をもてあそんだ罪」

手を机の上に出している。
これで触れない方が、かえって不自然だろう。

「お前、その手どうしたんよ」

彼女は露骨に嫌そうな顔をした。

「あー、これね」

荒くため息をついて、「ちょっと」と僕の耳に口を寄せる。
息がくすぐったい。

(これはおいしいな)

僕は瞬時に、全神経を耳に集中させた。
日常のエロスは拾えるだけ拾う。
それが俺の流儀だ。

彼女が短く囁く。

「ぼうぎょそう」

(ぼうぎょ……そう?)

聞き慣れない言葉を頭で繰り返しているうちに、彼女は離れていた。
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/12(月) 20:53:11.39 ID:dSRGRmLSO
ふむ
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 20:53:35.86 ID:nbU0t01Go
「つっこんだ話は放課後にしよ。まだ頭が整理できてないんだ」

「お、おう……」

「さ、それはそれとしてさ」

「うんうん」

「償え。乙女心をもてあそんだ罪」

「まだ言ってんのかよ」

「当たり前だ。根に持ってやる」

彼女はいつもどおり笑えないことを笑って言う。
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 20:54:42.01 ID:nbU0t01Go
「実際、不便だしね」

と、お手上げをする。
そりゃそうだろう。

「だから、お世話して」

「お世話?」

「お世話」

「下の?」

「ファック」

「ノート取ったり?」

「うんうん」

「食べ物を口に運んだり?」

「うー……ん?」

「ははは。遠慮すんなよ。なんなら性欲処r」

「サノバビッチ!」
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 20:56:05.81 ID:nbU0t01Go
「お前、ここがスラム街なら今朝だけで3回は死んでるぞ……」

「ここは日本ですしおすし」

「お寿司……」

「カリフォルニアロール。エビフライ巻き巻きー」

「あれは認めんぞ。あれは寿司じゃなくてSUSHIだ」

「えー。頭かたい男はきらーい」

なんだかんだ言って会話だけは平常運転だ。
少しは安心していいのかもしれない。
おちょくるのはこのへんにして、放課後じっくり聞いてやろうじゃないか。
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 21:04:16.73 ID:nbU0t01Go
―――――放課後・中庭―――――

「昨日のさ、通り魔」

「いきなり核心をついてきたな」

「つっこんだ話するために放課後まで引っ張ったんでしょ」

「教室じゃ憚られるような話なんだな?」

「うん」

彼女は相槌を打つと、少しの間何かを思い出して不快そうにしていた。

「私ね、現場にいた」

「そうか」

見当はついていたけど、大勢には知られたくないだろう。
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 21:05:34.68 ID:nbU0t01Go
「普通に歩いてたら、なんか向こうで悲鳴があがってんの」

「うん」

「何が起こってるかもわからなくて、逃げた方がよさそうだなって思ったときには」

(聞きたくない。こいつが痛い話はいやだ)

「犯人……だったんだろうなぁ。このとおりだよ」

と、僕に手の平を向けた。
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 21:07:29.80 ID:nbU0t01Go

「防御創。抵抗したらできるんだってさ」

「だってさ?」

「それがよく覚えてないんだよね。気がついたらピーポーに運ばれてた」

「犯人、自殺したんだよな」

「らしいね。だから私の勝ちだ」

彼女はそう吐き捨てた。
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 21:09:38.68 ID:nbU0t01Go

「この手のうんこ野郎は、たくさん殺して死刑になりたがってるか、道連れにして死にたがってるんだ」

「でもお前は生きてると」

「うん。犯人ざまあwwww」

目が笑ってなかった。
何か言うべきだと思ったけど、言葉が出てこないので、彼女の手をとった。
包帯に血が滲み始めていた。

「あ、消毒行かなきゃ」

彼女は最寄りの病院がある方角に目を遣った。

「大丈夫か、一人で」

ハナから一人で行かせる気なんてない。

「うん」

「でも」

どこか違和感があった。
ヘヴィーな話の後で、僕が取り残されたくなかっただけかもしれない。
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 21:11:08.73 ID:nbU0t01Go

「迷惑だろうがついてくぞ。お世話するんだからな」

「うわ。頼まなきゃよかった」

「もう遅いわ。それに、その手」

「う」

鞄の取っ手にかけた指を解く。

「持っててやるよ。今は少しでも楽しとけ」

彼女は少し迷って、小さく礼を言うと歩きだした。
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 21:13:35.88 ID:nbU0t01Go

―――――病院・待合―――――

「早かったな」

「消毒だけだもーん」

「一日経っても血が出てるってことは、相当深いのか」

「わかんない。縫合されてるの、グロいから見たくないし」

「自分の怪我の程度も知らんのか……」

「傷口とか血とか、見た瞬間に痛くなるじゃん」

「しんどいときに、熱測って熱があったら余計しんどくなるようなもんか」

「それそれ」

「リハビリとかするの?」

「たぶん大丈夫。指は動くし。今動かすと皮がつっぱって痛いけどね」

「そうか」
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 21:15:51.21 ID:nbU0t01Go

彼女の名前が呼ばれ、立ち上がった。

「小銭出しにくい……」

「あー、貸してみ」

受付で支払いをして薬を受け取る。
痛み止めと抗生物質、解熱剤。
休んだ方が良かったんじゃないか?

「早く元気になるー」

病院を出たところで、彼女は伸びをする。

「うんうん。焦らないでいいんだよ」

(行動を共にする口実になるしな)

「あなたの優しさが神田川!」

「空元気出すなよ。熱出るぞ……っとと」

急に動いたせいか、彼女は足をもつれさせてよろけた。
転ばないように、とっさに支える。
体が熱かった。
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 21:17:28.58 ID:nbU0t01Go

「うーん……時すでにおすし……」

腕の中で言うなら、もうちょっとシリアスに願いたい。

「寿司から離れようぜ」

「ねむいお腹すいた痛いだるい」

「家までがんばれ」

「私……家帰ったら、出前取るんだ……」

「何のフラグだよ」

うなりながら彼女は体勢を直して歩きだした。
「行こ」とかそういう合図はないのだ。
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 21:18:56.35 ID:nbU0t01Go

―――――帰り道・公園―――――

「一緒にどうだい?」

公園に入ったところで、急に言われた。

「なにをだよ」

「なにってごはんだけど」

「ああ」

「手が使いにくいから、ちょっとずつじゃないと食べれなくてすぐお腹すくの」

「なるほど」
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 21:20:40.25 ID:nbU0t01Go

人の少ない公園。
ボール遊び禁止なのに、小学生がキャッチボールをしている。

彼女は数歩進んで振り返ると、固まった。
視線が僕をすり抜けている。
僕も後ろを見る。

「あの人……」

指さしたりしなくてもわかる。
視線の先には、公園のベンチには不釣り合いなド派手なおねーちゃんが座っていた。

真っ赤なスリップドレスに黒の羽織物。
たっぷりとした金の巻き毛。
サングラス。

ええと、どこウッドから来日されたので?
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 21:22:05.82 ID:nbU0t01Go

「知り合い?」

「見られてる」

「グラサン越しだぞ。気のせいだろ」

「そうかなぁ」

「そうですとも」

「そうかニャーン」

「ほら行くぞ。じろじろ見たら失礼だろ」

腕をゆるく掴んで引く。
彼女はまだ女の人を気にしている。
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 21:23:22.29 ID:nbU0t01Go

「ベガスにいそうな人だったね」

「エスコートサービスってやつか」

「欲望渦巻いてる系?」

「裏社会系?」

「仕事仲間の本名を聞くのは野暮系?」

「余計俺らとは関係ないと思うぞ……」

「そうかなぁ」

「そんなに気にするほどのことか?」

「うん。だってあれ、変装だよ」

「まあ不自然ではあるけどさ」

彼女はブツブツ言いながら歩き続ける。
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 21:24:41.92 ID:nbU0t01Go

さっきのキャッチボール少年のどちらかが叫んでいる。

「きゃっ!」

彼女がとっさに両手を出して顔をかばう。

破裂音。

ゴムの焦げるようなにおい。

「大丈夫か?」

「あ、あれ?……ボールは?」

彼女にぶつかったんじゃなかったのか?

「ごめんなさい!」

「おねーさん大丈夫?」

「え? ああ、そうみたい」

「ボールどこいったんだろ?」
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/12(月) 21:24:54.06 ID:uVgkGFlCo
期待
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 21:25:51.91 ID:nbU0t01Go


「――これ」と、もう一人の男子が何か拾った。

白い、分厚いゴム片だった。

「爆発しちゃったのか」

「古いボールだったしなー」

ひとしきり不思議そうにして、謝ると彼らはどこかに行ってしまった。

「今のは……」

「あ、あたし――」

「大丈夫か?怪我は?」

「あたし、あたし――」

彼女の視線がふらふらする。
熱か、動揺か。

「早く帰ろう。今日は美味いもん食べて寝ろ」

彼女は泣きそうな顔でうなずいた。
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 21:28:06.21 ID:nbU0t01Go
―――――女の家―――――

「あー、うー。出前とってー。電話してー」

具合は良くなさそうだが、気分は落ち着いたらしい。
少なくとも食欲はあるようだ。

「ほんとに出前取るんか。リッチだな」

「ごはん作ったら包帯ドロドロになるんだもーん」

「それはそうですけどー」

「さあ、お世話してくれい。たとえば代わりに出前をとるとか」

「もっとエロい方向で頼む」

「おまわりさんこの人です」
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 21:29:00.38 ID:nbU0t01Go


電話のそばにある、寿司屋のメニューを取る。

「おごり?」

「自費ですとも」

「俺、甲斐甲斐しいな」
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 21:30:19.18 ID:nbU0t01Go

―――寿司到着―――

「寿司キター」

「寿司キター」

「うめえwwwwwww」

「…………」

「どうした」

テーブルに向かいに座る彼女の、箸を持つ手がぎこちない。
力が入らないらしい。

「うーん、つまみにくい……」

その様を僕は黙って見つめる。
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 21:31:35.06 ID:nbU0t01Go

「……あ」

「目が合ったな」

「チッ」

「俺の出番がきたようじゃないか」

「認めたくねえー」

彼女は不服そうに寿司の入った容器と、醤油の小皿をスライドさせて、僕の隣に座った。
テーブルに額を付けて、しばらくうなだれていた。

「情けない……」

「元気出せよ」

彼女は長いため息をついた。
重そうに頭を上げて、僕に向き直る。
目元に力がない。
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 21:32:30.47 ID:nbU0t01Go

「みんなには内緒だよ」

「相当参ってるな」

「今のうちだけど?」

つーん、とあごを上げて言う。

「何が?」

「食べさせたがってたじゃん」

「求められたい」

「言わせるか」

「言われたい」
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 21:33:24.54 ID:nbU0t01Go

「……」

「さあ!レッツ!」

「…………じゃあ、食べさせて」

「よしきたああああああああ」

「ヘンタイだ。ヘンタイが喜んでる」

「さあ、おぢさんに口を開けてみなさい」

「おぢさんて。どんなシチュだよ」

「さて、君が食べたいのはこのお寿司かい?それとも俺の恵方まk」

「寿司にしてくれ」

「恵方m」

「寿司にしてくれ」

「最後まで言わせろよ」

「寿司にしてくれ」
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 21:35:06.17 ID:nbU0t01Go

「ちぇー。ほら、よく噛んで食え」

「ん」

彼女は目を伏せて口を開けた。
僕は彼女が口に入れる様を、息を止めて見ている。

「美味いか」

彼女は咀嚼しながらうなずく。

(何かに目覚めてしまいそうだ)

「ほら、次」

「ん」
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 21:37:30.36 ID:nbU0t01Go
―――完食―――

「ふー。お腹いっぱい」

しばらくおかずには困りません。
僕は満足していた。

「眠そうだな」

「そんなことはない」

処方された薬をシートから押し出して、渡してやる。

「昨日から寝てないんだろ」

彼女はそれを一気に飲む。
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 21:38:24.03 ID:nbU0t01Go

「……夢に」

「出るのか」

「もっとひどい夢。お腹を刺されて、深く切られる」

彼女は腹に手をやる。

「傷から、腸みたいなのが、ずるんって」

食後すぐにはきつい。

「あいつが他の人を襲いに走った隙に、這って建物の間に逃げて……。
死ぬのかなって絶望して、そこでおしまい」

「そりゃ寝れんわ……」
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 21:39:04.39 ID:nbU0t01Go

「……夢に」

「出るのか」

「もっとひどい夢。お腹を刺されて、深く切られる」

彼女は腹に手をやる。

「傷から、腸みたいなのが、ずるんって」

食後すぐにはきつい。

「あいつが他の人を襲いに走った隙に、這って建物の間に逃げて……。
死ぬのかなって絶望して、そこでおしまい」

「そりゃ寝れんわ……」
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 21:40:04.44 ID:nbU0t01Go

「……夢に」

「出るのか」

「もっとひどい夢。お腹を刺されて、深く切られる」

彼女は腹に手をやる。

「傷から、腸みたいなのが、ずるんって」

食後すぐにはきつい。

「あいつが他の人を襲いに走った隙に、這って建物の間に逃げて……。
死ぬのかなって絶望して、そこでおしまい」

「そりゃ寝れんわ……」
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 21:41:29.19 ID:nbU0t01Go

「私、大丈夫かな……」

今度こそ彼女は泣いていた。
ここは抱きしめるところだと思ったので、そうした。

「ごめん、お腹いっぱいになったら、なんか安心してつい……」

彼女は勝利宣言していたけど、まだカタはついていない。
まだ事件は終わってない。

「……もう、大丈夫。今日はありがと」

彼女は僕から離れ、片方の頬を引きつらせた。
笑おうとして、うまくできないでいるみたいだった。

「ほんとに一人で大丈夫か」

「うん。そろそろ誰か帰ってくるし」

もう七時前だった。

37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 21:42:21.79 ID:nbU0t01Go

―――――帰り道―――――

彼女の家から、僕の家はそう遠くない。
のんびり歩いても30〜40分くらいだ。
僕はもう一時間くらい歩いている。
尾行されている。

何度か会社帰りの人に紛れてみたり、
変則的なルートを取ってみたが、諦める気配がない。
交番のすぐ近くで、止まってみることにした。
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 21:43:41.91 ID:nbU0t01Go

「俺に、何の用ですか」

振り返るのは怖かった。
僕のすぐ後ろで、コッ、と軽やかなヒールの音がする。
追跡者は女。

「君、意外と警戒心が強いのね」

「昨日、あんなことがあったばかりですから」

女はゆっくりと僕を追い越して、止まる。
僕は顔を伏せた。
なぜか、公園にいたあの派手な女を想像していた。

「私を見てもいいのよ。敵意はないもの」
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 21:44:30.09 ID:nbU0t01Go

ゆっくりと目を上げる。
僕の前に立つのは、娼婦じゃなかった。
OL風の、違う。
ダークグレーのスーツに、地味な化粧。
就活中の女子大生。

「それも、変装ですか?」

女は答えない。

「俺、昨日あなたを見てる」

「そう」
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 21:45:19.46 ID:nbU0t01Go

「事件現場の近く」

口から下を血塗れにして、よろめきながら路地へ入っていく女。

「血の印象が強すぎて、顔ははっきり見てなかったけど」

僕が吸血鬼だと思った女は、被害者の一人だったのか。

「あなたも襲われたんですね」

「ご名答」

女は満足そうだった。
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 21:46:18.12 ID:nbU0t01Go

「あの子に声をかけようと思ったんだけど……」

「俺がついてたから」

「それに、私を覚えてないみたいだった」

「あんなこと……忘れられるなら忘れた方がいいですよ」

「本当にそうかしら」

僕は苛立っていた。

「そうに決まってますよ!……大体、あなたはあいつの何なんですか!」
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 21:47:26.09 ID:nbU0t01Go

言い過ぎたと思った。
この人も悲惨な目に遭ったのに――

「そうねえ……」

女は少し考えているようだった。

「血を分けた姉妹みたいなものね」

「えっと、昔の友達か何かですか?」

「さあねえ。それじゃ」

女は過剰に蠱惑的な笑みを作ると、去っていった。
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 21:48:19.10 ID:nbU0t01Go

―――――自宅―――――

長い道のりだった。
一時間緊張しながらの徒歩はきつい。

彼女から、一言「ありがとう」とメールが入っていた。
あんなに眠そうにしていたのに、
僕が彼女の家を出てから二時間も経っていない。
やっぱりまともに眠れてないじゃないか。

彼女に電話する。
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 21:49:26.38 ID:nbU0t01Go

「……もしもし」

「あのさ、俺。今大丈夫?」

「うん」

「お前、寝れてないだろ」

「あー……」

「明日、現場に行こう」

「…………」

「犯人は死んだけどさ、お前はそれを聞いただけで、実感してない」

「…………」

「お前にとっての脅威は、まだ去ってない」

「…………」

「お前の事件は、解決してない。決着がついてない」

「そう……かも」

「犯人の亡霊に、思い切り唾吐いて罵倒して怒り狂って泣き叫んで、
それから改めて勝利宣言してやれ」

「はは……すっきりしそうね、それ」

「だろ」

「うん」

「じゃあ、また明日」

「うん。また明日」

僕は、自分の胸板で彼女の胸がつぶれる感覚で、三回抜いて寝た。

45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 21:50:40.47 ID:nbU0t01Go

―――――翌日・事件現場―――――

現場は封鎖されていた。

「入れないね」

ほっとしているのか残念なのか、表情からは読みとれない。

「帰るか?」

「……あ、私、あそこ見ておきたい」

「襲われた通りか?」

「そこもだけど、路地のとこ」

「ああ、夢の」

「うん。はっきり見えるの」

「何かあるかも、と」

彼女はうなずく。
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 21:51:53.25 ID:nbU0t01Go

「でも封鎖されてるんだよね……」

「路地か。裏から回れるかも」

一本隣の通りに移動し、ビルの隙間をすり抜ける。
簡単なことだった。

「通りは立入禁止だから、今日はここだけにしような」

何気なく足元を見ると、黒いしみが広がっていた。
靴の裏を見る。赤褐色。
血痕だ。

「おい、これ――」
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 21:52:55.06 ID:nbU0t01Go

言い切らないうちに、腕に痛みが走った。
切りつけたような、細い傷。

逃げたいが、足がすくんで動かない。
膝が震える。

「逃げ――がぁッ!」

見えない手に頭を掴まれ、壁に打ちつけられる。
痛い。怖い。
あいつは――あいつは大丈夫か。
手足に切り傷が増えていく。
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 21:55:18.23 ID:nbU0t01Go

そうか。
犯人は、切り足りなくて刺し足りなくて殺し足りなくて、
死んでかまいたちになったのか。

彼女が僕の惨状に気付く。

「にげろ」

悲鳴を上げる彼女。
僕には相手が見えない。
僕が狂って派手に自傷しているように見えているのかもしれない。

「にげろよ」

声になっているかわからない。
それでも口を動かすことはやめられなかった。
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 21:56:44.07 ID:nbU0t01Go

「はなせ――」

彼女の口が、そう動いたように見えた。

「その人を放せッ!」

そう聞こえた。
彼女が僕に駆け寄り、一瞬、楽になる。
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 21:57:32.18 ID:nbU0t01Go

「離れろッ!」

壁を殴ったのか――?
違う。
ちょうど人の頭くらいの大きさの見えないボールが、彼女の手と壁の間にある。

「おまえかッ!」

彼女はそのまま、何度も見えないボールを壁に叩きつける。

「おまえが!私を!殺したのか!!」

何度も、何度も、何度も。
見えないのに、肉の潰れる音、骨の砕ける音がする。
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 21:58:36.80 ID:nbU0t01Go

「ゆるさない」

彼女は止まらない。

「もう、いいよ……」

声になっているのか、わからない。

「おまえはこの人に手を出した」

彼女は犯人を殺すつもりだ。

「もういいよ」
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 21:59:26.45 ID:nbU0t01Go

止めるべきか、最後までやらせてやるべきかわからない。
今は彼女が苦しんでいることしかわからない。

「ぜったいにゆるさない」

死人を、亡霊を殺すつもりだ。
彼女には見えているのだろう、亡霊を地面に引き倒し、
馬乗りになって何度も殴る。
彼女のリーチ外にあるゴミ袋やがらくたが散乱する。
犯人が抵抗している。
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 22:00:38.11 ID:nbU0t01Go


「この先――」

彼女は拳を振り下ろす。

「私にも!」

殴る。

「この人にも!」

殴る。

「誰であろうと!」

手近なブロックを拾う。

「殺す」

ブロックを叩きつける。
地面の少し手前でぶつかる音がする。
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 22:01:25.06 ID:nbU0t01Go


「手を出したら殺す!」

「話しかけても殺す!」

「近づいても殺す!」

「目があっても!」

「夢に出ても!」

「殺してやる」

「何度でも殺し直してやる」

抵抗する音は止まった。
彼女も止まった。
僕は彼女を眺めていた。
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 22:02:12.88 ID:nbU0t01Go

「犯人、死んだよ」

しばらくして、彼女が口を開いた。

「今度こそ死んだのか」

彼女が殺した。

「うん。だから私の勝ちだ」

「がんばったな」

ふらつきながら僕のそばにきてしゃがむ。
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 22:04:26.94 ID:nbU0t01Go

「俺は大丈夫だよ」

額を割られているが、出血の割にダメージは少ない。
僕が抵抗できなかったのは、ヘタレだからじゃない。
相手が見えなかったからだ。
そこんとこよろしく。

「あ、血……」

彼女の視線が僕の額で止まる。

「大したことないよ」

「血、出てる……」

「見た目ほどひどくないって」

「ちょうだい」

「は?」
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 22:05:24.60 ID:nbU0t01Go

「ねえ、欲しい」

ぞっとした。

「おねがい」

彼女は僕の手を取り、手の甲の傷に舌を這わせた。
頭の奥がしびれてくる。

「ねえ、吸わないから。出てる分だけでいいから」

よく考えられなかった。
「好きにしろよ」と言ったと思う。
彼女は僕のシャツをはぎとり、恍惚としながら僕のことを舐めている。
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 22:06:36.96 ID:nbU0t01Go


「美味いか」

「……ん」

「そりゃ良かったな」

彼女はごく自然に、僕の口内に舌を滑り込ませてきた。
口の中が、僕の血の味で満ちる。
自分のもののせいか、嫌な感じはしなかった。

「おいしいでしょ」

彼女はとろんとした目で笑った。
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 22:07:18.39 ID:nbU0t01Go

なんだこれ。
封鎖された事件現場のすぐそばで、傷だらけで女の子に舐められる状況。

なんだかよくわからないが、とにかく僕は勃起していた。
そしてそれをごまかすために膝を立てるくらいには、
僕は冷静さを取り戻していた。

「大分、顔色良くなったな」

「ん、おかげさまで……」
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 22:08:13.43 ID:nbU0t01Go

余裕が出てくると、このままじゃ終われない気がした。
――ので、乳揉んだら一モミ目で手をはたかれた。

「ばか」

「いや、許されるだろ。この状況は。許せよ」

「ばーかばーか」

彼女は僕の額の傷を舐めている。
仕上げとばかりに念入りに舐めとっている。

目の前に、襟元からのぞく谷間がある。
深い深い谷間がある。
僕の自制心は、ユルユルになっている。
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 22:09:21.69 ID:nbU0t01Go

「はー、ごちそうさまー」

彼女は幸せそうに口元をぬぐった。

「なんかお前、おっぱい増えてないか?」

「ははは。ご冗談を……ん、きつい?」

自分で胸に手を当て、確認している。

「……」

「だろ?」

「ぬわああああああおっぱい革命きたあああああああ」

「もう少しかわいく驚けよ」

「うあああああ乳腺のクーデターやああああああああ」

「意味わかんね」
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 22:10:13.56 ID:nbU0t01Go

「……はあ」

「バーサーカーからいきなり賢者になったな」

「いや、素に戻ると、その、とんでもないことをしたと思いましてね」

(一方僕は……なんていうか……その……下品なんですが……
フフ……勃起……してしまいましてね…………現在進行系で)
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 22:11:05.98 ID:nbU0t01Go

二人で現状に呆れる。
でも、彼女は自分でケリをつけた。
もう大丈夫だと思う。

「この格好で帰るのか……」

切り刻まれたシャツを拾う。
穴だらけだし血糊がべったりだ。

「最高にパンクだと思うwww」

「アナーキーだわ。穴空きだけに」

「そのへんでTシャツ買ってくるわ」

「渾身のダジャレをスルーするなよ」

「嫌がらせTシャツにする!」

「白いのにしなさい」

彼女は衣料品店に走っていった。
10〜20分もすれば帰ってくるだろう。
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 22:12:07.09 ID:nbU0t01Go

(しずまれ……ッ!俺の燃料棒……ッ!)

この時間を活かし、必死にエロとは無関係のことを考える。
良かった。
いろんなことが、普段通りに戻りつつある。



「それはどうかしら」



どこからか、昨日会った女の声が聞こえた気がした。


65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 22:13:13.97 ID:nbU0t01Go

―――――女の家・再び―――――

彼女はお礼とお詫びに、と、ケーキを買って家で振る舞ってくれると言った。
僕はこのまま帰宅して、簡単に日常に戻るのも何なので、
お言葉に甘えることにした。

「もう、食べさせなくていいのか?」

あれはあれで気に入った。

「大丈夫だよ」と彼女は包帯をとって手のひらを向ける。
白い手のひらに何本かの赤い線、糸。

「ふさがったみたい」

回復が早すぎる。
僕の頭で、非現実的な仮説が加速していた。
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 22:14:00.12 ID:nbU0t01Go

「そんな顔しないで」

僕はどんな顔をしたんだろう。

「私、かわいそうじゃないよ」

「大丈夫なのか」

「私ね、全部思い出した」
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 22:14:50.70 ID:nbU0t01Go

夢に見たことは全て現実だったこと。

「自分の内臓と走馬燈見ながらさ、願っちゃったんだ」

そこに、僕が吸血鬼と勘違いした女が逃げ込んだこと。
女も傷を負っていて、彼女に血を要求したこと。

「私ね、お姉さんにお願いしたの」
助かりたいって。
だって、これからじゃない。だから願っちゃった」

彼女は女吸血鬼に血を与えた後、血を分けてもらった。
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 22:15:46.20 ID:nbU0t01Go

「人間じゃなくなるかもって言われた」

言葉が出てこない。

「でもね、それでも生き延びたかった。
私、あんたと生きてたいんだ。
お喋りして、笑って、くだらないんだけどさ。
あんたといると、生きてるって感じがするの」

嬉しい、愛しいと思う反面、彼女に申し訳なく思う。

「それでさ。覚悟決めて、お姉さんに頼んで」

なんでもないことのように笑わないでほしい。

「人間やめたったwwwww」
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 22:16:49.18 ID:nbU0t01Go

僕は、ああ、とか、うう、とかなんだかよくわからないうめき声を出した。



「悲しまないで。進化は不確定よ」



あの女の声だった。
勝手に人んちあがって「進化は不確定よ(キリッ」はないと思う。
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 22:17:47.29 ID:nbU0t01Go


「あ、おねーさん」

「思い出してくれたみたいね」

「あのときはありがとう」

「ううん、いいのよ。それよりそんな風に成長したのね」

「なに和やかにほほえみ交わしてんだよ」

「言ったでしょ。血を分けた姉妹みたいなものだって。
私はこの子がかわいいの」

「だから気にしてたのか……」
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 22:19:09.78 ID:nbU0t01Go
女吸血鬼は語る。

「血は吸うにしても与えるにしても、そこから24時間が大事なのよね」

吸血鬼は、彼女を気にかける一方で、観測していた。

「君、この子に、事件発生から24時間以内に不純な念を、
特に性的なものを向けたんじゃない? それも強烈に」

心当たりバリバリ。

「進化は不確定よ。あの時点で、この子は半人半妖になった。
それからどう変化するかは――」

「24時間が勝負、ですか」
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 22:20:32.54 ID:nbU0t01Go

「そう。彼女は中途半端な状態で安定してしまった。
ヴァンパイアの属性を半分保持したまま、別の進化を選んだ。
ヴァンプ止まりだったのよ」

「ヴァンプwwwwwwエロスwww」

今の彼女は妖婦ってほどじゃないが、将来有望だ。

「残りの”アイヤ”はどこいったんだ……」

彼女がつぶやく。安心半分。残念さも半分。

「アイヤーwww中国かwwww
半端イヤwww半端イヤwwwwww」

「いやああああああああ」
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 22:21:31.65 ID:nbU0t01Go

そこでお姉さんからスナップの効いた平手が入る。

「すんませんでした」

「妹をヴァンプにした責任、とってもらうからね」

なんかよくわからんが、責められてはいないし、痛い目に遭うこともなさそうだ。

「あ、はい」

「いいの?」

彼女の顔がぱっと明るくなる。

「いいんだよ。お前のことは元々好きだったし」

(僕、今さらっとすごいこと言ったな)

「なんつーか、うまくフォローできるかわからんけど、
未来は不確定なんだろ」

「そうよ」

彼女は、感無量といった感じで、目を潤ませてうなずいている。
ちくしょー、かわいいな。
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 22:23:49.92 ID:nbU0t01Go

「おめでとう。姉として一言贈らせてちょうだい」

お姉さんは、妹を嫁に出すときみたいに改まっていた。

「あなた、私ほどには血を吸わなくても平気よ。
彼が怪我したときに舐めさせてもらいなさい。
栄養になるし。おいしいでしょ?」

「じゃあ、私、人を襲ったりしなくていいんですね!」

僕も嬉しかった。
彼女が物騒なマネをしたり、危険視されたりするのはいやだ。
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 22:27:23.66 ID:nbU0t01Go

「そのかわり定期的に精液を欲するようになるけどねwwwwww
やwっwぱwりwごw愁w傷w様www」

「うはwwww」

「いやああああああああ」

彼女は顔を真っ赤にして自室に逃げてしまった。
これがヴァンプの宿命か。
悲しい女よ。
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 22:28:00.29 ID:nbU0t01Go


「さ、私は帰るから。妹をよろしく」

「いいんですか。あいつともっと話さなくて」

「私はどこにでもいるし、あの子が会いたいと思えば、いつだって現れるわ」

「お姉さんマジかっけーっす」

お姉さんは消えた。
いろいろと怪しい人だったけど、いい人だった。
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 22:28:46.08 ID:nbU0t01Go

僕は彼女の部屋に行く。
戸を開けると、ベッドでうつぶせになり、足をバタバタさせる彼女がいた。

「落ち着けよ。お姉さん帰っちゃったぞ」

「うん」

「大丈夫だよ。俺も無理に変なことしないよ」

「さっきおっぱい揉んだじゃん」

「あれは数に入らん」
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 22:29:43.75 ID:nbU0t01Go

「あたしだって、まるっきり嫌じゃないもん」

「ほう」

「あんたが、その、それ――」

と、僕の股間を指さす。

「その、気付いてたし」

「やめて。恥ずかしくておムコに行けない」

「気付いたけど、別に、嫌じゃなかったし……」

「ほうほほう」

「それにね、恐ろしいことに、お姉さんの言うとおりなんだ」
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 22:32:19.49 ID:nbU0t01Go

ああ、こいつは――

「あの、ね……その……ほしい……んだ……」

彼女の言わんとすることはよくわかる。
だから僕は、燃料棒を露出する。

「うわ。こうなってるんだ」

「あんまり見つめないで」

息がかかる。臨界しそうです。

「あんまり焦らしてると顔に出すぞ」

「えっ、やだ、もったいない」

「じゃあほら、遊んでないで」

彼女は一通り照れた後、

「いただきます」

そう言って、僕の性器を口に含んだ。


女「人間やめたったwwwww」おわり
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/09/12(月) 22:35:08.97 ID:VB8Yg2jLo
え?
もう終わり?
お前ならアドリブでまだまだ書けるはずだ俺は信じているぞ!!!
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 22:42:53.25 ID:nbU0t01Go
>>80
結構淡々とハイスピードで書いてったのに、見ててくれた人がいて嬉しいです。

注意書きでエロ有って書いてなかったので、また別スレで書かせてもらおうかな、と思います。
これ以上は怒られそうなので。
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2011/09/12(月) 22:44:25.18 ID:hVKNrsuyo
ほうら
怒らないから書いてごらん
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/12(月) 22:48:24.19 ID:uVgkGFlCo
乙良かったよ
しかし注意書きないってだけで立て直すほうがどうかと思うぞ
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/09/12(月) 22:48:34.76 ID:uO6bJmrAO
大丈夫、誰も怒らないから
さぁ書いてごらん
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [saga]:2011/09/12(月) 22:52:01.74 ID:nbU0t01Go
>>82-84
ありがとう。やっぱり反応あるとうれしいね。

確かに本編で100行ってないのに別に立てるのはもったいない気もするけど…
【以下エロ有注意】くらいにして続けたら許されるんでしょうか。
その方が楽ではありますが。
86 :1です。 ◆ZUNa78GuQc [saga sage]:2011/09/12(月) 23:00:28.60 ID:nbU0t01Go
では、引き続きこのスレを利用させてもらおうと思います。

今日はここまで。
酉の付け方確認させてください。
87 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/09/12(月) 23:02:12.18 ID:nbU0t01Go
今後はこの酉使っていきますので、よろしくお願いします。

おやすみなさい。
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/12(月) 23:02:18.39 ID:uVgkGFlCo
そもそもエロについては明確な線引きされてないからな
スレタイからして分かるから注意書き無しでそのままやってるようなところもあれば途中から唐突にエロ始めるようなスレもある
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/09/12(月) 23:03:47.91 ID:SGSTHARjo
これは素晴らしい。続きがほしいぞ。カモーン
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/12(月) 23:05:20.83 ID:dSRGRmLSO
まさかエロに行くとは

いいぞもっとやれ
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/12(月) 23:35:18.43 ID:CPNuaMzao
乙です

ヤベェwktkが止まんねぇ
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2011/09/13(火) 00:16:50.71 ID:SzT38X/Jo
おつつお
とりあえず様子見で
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/13(火) 00:27:06.61 ID:91aHov3Ao
とりあえず乙リアルタイムで見てたぜ!
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/09/13(火) 01:30:38.35 ID:NnP0BkLUo
おつかれ
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/09/13(火) 02:12:05.71 ID:GrZO7tXpo
乙した
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/13(火) 06:52:44.23 ID:mve9FLgko
屋上さんの人かと思った
97 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/09/13(火) 19:08:29.62 ID:yAsOT9plo
みんなありがとー。
レス付くとうれしいもんですね。
自分は書き溜めてから投下していくタイプなので、更新は数日後になります。

「薫と友樹。たまにムック」のムックくらいの「たまに」加減でエロあり。
基本的には二人がバカをやります。
エロくなくても怒らないでください。

>>96
違いますよー。
SS書くのは初めてです。
何もかもが手探りですよ。
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/13(火) 19:19:20.30 ID:1ly6F3Q6o
期待して舞ってる
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/09/14(水) 14:40:09.11 ID:/0gYfksTo
ヴァンプちゃん可愛い!続いてくれて幸福
100 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/09/16(金) 20:52:36.80 ID:uiul4L25o
>>98-99
ありがとう、ありがとう。
更新遅いけど引き続き見てってもらえると嬉しいです。
101 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/16(金) 20:53:28.42 ID:uiul4L25o
1
女「お勉強したったwwwww」

いろいろあって女友達・志乃(シノ)が半端なヴァンパイアになり、
その女友達を死の縁に追いやった通り魔の亡霊に復讐を果たし、

その場でいろいろとちゅっちゅされて、
ヴァンパイアになったかと思えば実はそれも中途半端で、
吸血しなくていい代わりに定期的に精液を欲するようになると知らされ、

僕・春海(ハルミ)は今、そのヴァンプと化した女友達に男性器を晒しています。

「いただきます」

少しまぶたを伏せながら、彼女は僕の性器に口をつけた。
期待のあまり、僕は閉じたまぶたの中で一瞬白目をむいた。



かぷ



「〜〜〜〜〜〜ッッ!!」

――まではいいが、彼女はそういった知識が乏しかった。
皆無と言ってもよかった。

「どしたの。鞭打くらったバキみたいなリアクションして」

下半身丸出しで悶絶する僕を、不思議そうに心配する彼女。
わかってる。悪意がないのはわかってる。
でもね、無知は時として牙を剥くの。
102 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/16(金) 20:56:06.90 ID:uiul4L25o
2
口から細く息を吐き、なんとか気分を落ち着かせる。
大丈夫。もう痛くない。
だが萎えた。

「ね、ねえ、大丈夫?」

彼女はうろたえている。

「噛んじゃだめだろ……」

「ごめんちゃい」

悪いのは無知なんよ……。
きれいごとしか教えない保健体育……。
日本の性教育を、今こそ見直すべきなんよ……。

性欲がいきなりニュートラルになり、国の教育に想いを馳せてしまった。

「あ、縮んでる」

「そりゃ縮むわ!」

彼女はかたつむりの角でもつつくように、僕の股間の角をつつく。


103 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/16(金) 20:56:45.31 ID:uiul4L25o
3

「うーん、ナマコのようだ」

人の生殖器で遊ぶな。

「今日は諦めろ」

「えー、なんでよ」

彼女は不満そうに唇を尖らす。
いやね、その小さな口いっぱいにぶちまけてあげたいのはやまやまなのよ、俺も。
でも心折れたのよ。
ナイーブなのよ、男って。

「いいか、一度萎えると、再装填には時間がかかるんだ」

「射出してないのに?」

「誰のせいで出し損ねたと思ってるんだ」

「l^o^lわたしです」
104 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/16(金) 20:57:51.50 ID:uiul4L25o
4
床にぐったりと横たわる僕のそばで、彼女は体操座りして黙っている。

「何してんの?」

「待ってんの」

「あー、無駄だと思うぞ」

「えっ」

「仮に立ったとして、どうやって出させるんだ」

「あー……」

「今のお前には出来まい」

「ぬうぅ……!」

「今日は諦めろ。な」

彼女は困っていた。
105 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/16(金) 20:58:41.93 ID:uiul4L25o
5

服を着ようとしたそのときだった。

「困ってるわね、妹よ」

ついさっき姿を消したはずの、彼女の姉貴分が現れた。

「おねーさん!」

慌てて股間を隠す。

「なんなんですか!あなた帰ったはずでしょうが!」

「言ったでしょ。この子が私に会いたいと願えば、私は現れるって」

うわぁ。
今言われても、ちっともかっこよくない。

「お前もこの程度で助け求めてんじゃねええええ」

「あら、フルチンで怒られたって怖くないわよ」

「ねー」と、お姉さん。

「ねー」と、返す志乃。

昨日今日の短い付き合いなのに、息が合ってやがる。

「ああもう!とにかくお姉さんは帰ってください!」
106 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/16(金) 20:59:38.68 ID:uiul4L25o
6

「何よ、いきなり喧嘩?」

既に僕を詰る準備をしている。ように見える。

「噛んだら萎えて怒られた」

こんなに端的に言われると悲しくなる。
僕はもっと屈辱的な仕打ちを受けたはずだ。

「あら、それはあなたが悪いわ」

「それ見たことか」

「ちぇー」

「また今度にしなさい」

「それから君」とお姉さんは僕に向き直る。

「今度はちゃんとやり方教えてあげなさい」

と、僕の肩に手を置く。
上司に諭される部下の気分だ。

「教える前に噛まれたんですけど……」

と、僕が言い終わる前にお姉さんは消えてしまった。
ほんと言ったら言いっぱなしだな、あの人は。
107 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/16(金) 21:00:17.43 ID:uiul4L25o
7

もう、一気に力が抜けた。
僕は今度こそ服を着る。

「しまっちゃうの?」

「終了ー」

「再開ー」

と、彼女はベルトを掴んで軽く引っ張る。

「しません――っとと」

僕はベッドにうつ伏せに倒れこんでしまった。

「あ、こけた」

「うーん……お、起きられん……」

力が入らない。
寝返りすら打てない。

「……お前、何か吸った?たとえば精気とか」

「さあ?性器なら吸いそこねたけど」

彼女は拗ねて上を向くと、そのまま止まった。
108 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/16(金) 21:01:32.89 ID:uiul4L25o
8

「どうした」

「ん、なんかおねーさんから受信してる」

「――うん。
 ――うん。動けないんだって。
 ……あー、どおりで。
 ――えー、やだー。……もー」

彼女は僕に向き直る。

「おねーさんが吸ったんだってさ」

「あのときか」

肩に触られたことを思い出す。

「やっぱり若い男の子のはいいわwwwまたお願いねwwwwって言ってた」

「何しに来たんだ、あの人は……」

今頃ツヤツヤしてるんだろうな。
むかつくわ。
109 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/16(金) 21:02:10.27 ID:uiul4L25o
9

「ちょっと休んだら?」

「そーする」

彼女はベッドの側面にもたれて、床に座っている。

「眠い」

「寝んちゃーい」

そっけないもんだ。
さっきまでの意欲はどうした。

「いじけるなよ」

「いじけてなどいない」

こちらに背を向けているせいで、顔は見えない。

「志乃おいで」

「やだー」

110 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/16(金) 21:02:44.46 ID:uiul4L25o
10

「なんでよ」

「は、はずかしい……」

彼女は背中を丸めた。
肩が小刻みに震えている。

「あー、また素に戻って『あぁ〜』ってなってるんだ」

「えらいことをしてしまった」

「えらいことっつーか、エロいことだな」

「ファックファック」

うーん、やっぱり食欲で動いてたのか。

「まだ飲みたいか」

「……?あれ、そういえばどうでもいいや」
111 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/16(金) 21:03:25.33 ID:uiul4L25o
11

どうでもいいと言われるとさすがにへこむ。
が、僕は表に出さない。

「来い来い」

やっと持ち上がるようになった腕で手招きする。

「やーだー。変なことするんでしょ」

お前が言うな。

「しないしない」

「ほんとに?」

疑り深い眼差し。

「ほんとほんと。セクシー抱き枕として添い寝してくれればいいから」

「お巡りさんこっちです」
112 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/16(金) 21:03:55.44 ID:uiul4L25o
12

「お前が言うな」

「うー、ごめん」

彼女は僕のゆるく握った手に、指を差し入れた。
そのまま僕の手のひらを爪で軽くひっかく。くすぐったい。

「まだ怒ってる?」

「怒ってない怒ってない」

「変なことする?」

「されたいか?」

彼女はたっぷり考えて、「わかんない」と答えた。

「まだもじもじしてるな」

「恥の多い生涯を送ってきました」

「大丈夫、あのくらいでは引かない」

(僕の妄想に比べたら可愛いもんだ)


113 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/09/16(金) 21:05:40.83 ID:uiul4L25o
今日はここまで。
この連休中にこのエピソード終わらせたいところ。
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) :2011/09/16(金) 21:06:44.38 ID:a7vgAaAFo
乙です。いいねいいね。続きを激しく期待
115 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/09/16(金) 21:12:41.75 ID:uiul4L25o
>>114
今回はあんまりこれといった山場が思い付きませんががんばります。
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/17(土) 00:16:22.32 ID:5YK3PTi9o


ヤバイ女が可愛すぎてキュン死する
117 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/09/18(日) 00:51:39.44 ID:AXH7bZyho
>>116
ラブコメ(のようなもの)を書いてる身には、女の子誉めてもらえるのは最高級に嬉しいです。

やったーヽ(・∀・)ノ!
118 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/18(日) 00:53:31.04 ID:AXH7bZyho
13

「……ケーキ」

「ん?」

「出しっぱなしだから、冷蔵庫入れてくる」

「そういえば買ってたな」

エロいイベントに心奪われて、すっかり忘れていた。

「今食べたい?」

「いいよ。消化する元気がないし。
 後でお姉さん呼んで一緒に食べな」

彼女はうなずいて、階下に下りた。
視線だけ動かして自分の腕を見る。
額の傷も、痛くかった。

(傷がもう治りかけてる……)

彼女が戻ってきた。

自分の部屋なのにどこに座っていいかわからず、所在なさそうにしていた。

119 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/18(日) 00:54:03.18 ID:AXH7bZyho
14

「……あ」

「目が合ったな」

「チッ」

「ここに来たそうにしてるじゃないか」

「認めたくねえー」

彼女は不服そうにベッドのふちに腰かけた。
ため息をついて僕を一瞥すると、そのまま僕に背を向けて寝転んだ。

「そんな隅っこだと落ちるぞ」

「そっちが来ればー」

「俺、今動けない」

120 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/18(日) 00:54:39.57 ID:AXH7bZyho
15

どれだけ吸ったんだ、あの人は。僕に断りもなく。
回復までどれくらいかかるんだろう。
帰りのことを考えると憂鬱になった。

「しょーがないなぁ」

彼女は僕の体に背中をつけた。
髪の先が鼻をかすめて、くすぐったかった。

「ほら、今のうちだけど?」

「何が?」

「抱き枕にしたがってたじゃん」

例によって、僕に顔を向けずに言う。
多分、不服そうに唇を尖らせているのだろう。

121 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/18(日) 00:55:14.30 ID:AXH7bZyho
16

「求められたい」

「言わせるか」

「言われたい」

「……」

「さあ!勇気を出して!」

「…………じゃあ、して」

「ぃよっしゃああああああああああ」

(生きててよかったああああああああああ)

「ヘンタイだ。ヘンタイが喜んでる」

しかし、肉欲をエネルギーに変換することはできなかった・
これが人間の限界である。

122 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/18(日) 00:55:48.83 ID:AXH7bZyho
17

「あ、ほんとに何もしないんだ」

安心しているのか、つまらないのかわからない。

「いや、したいんだけどね、ほんとは。動けないのよ」

生殺しである。

「さすがに心配だね」

「今度お姉さんに会ったら、吸うときは遠慮してくれって言っといて」

「起きれるまでどれくらいかかるんだろ」

「ちょっとお姉さんに訊いてみてくれ」

「よし、やってみる!」

彼女は静かになった。
どこか力んでいるように見える。

「……」

「……」

「どう?」

「うー、だめぽー」

「ああ、受信専用なのね」

123 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/18(日) 00:56:28.20 ID:AXH7bZyho
18

「とりあえずひと眠りしてはどうだろう」

「あー、どっちにしろ動けないもんな」

「傷はもういいの?」

「それがもう治りかけてるんだよ。お前の唾液は薬効があるの?
 もしそうなら手厚く保護しなければなりません」

「唾液言うな」

「だから志乃を抱いてると回復するかもしれない。来い来い」

「もう、わかったよぅ」

彼女は、僕の下になっている方の腕に頭を乗せた。
体臭とは別の、むせそうになるほど甘い匂いがした。

もう片方の腕で彼女を抱く。
実際は力が入らないので、体に腕を置いているだけだ。

「志乃、何かつけてる?」

クラスの女子が使うような、シャンプーや制汗剤のものとも違った。

「な、なにも!」

声が裏返っている。

「えっ、な、何?もしかして汗臭い?」

「いや、なんだろう。植物系?花?」

「身に覚えがない……」

彼女の新しい体質なのかもしれない。
僕は順調にたらし込まれつつある。
彼女に悪意がなくてよかった。

124 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/18(日) 00:57:09.83 ID:AXH7bZyho
19

僕は彼女の髪に顔をうずめた。
匂いを覚えようと思った。
頭の奥から劣情と多幸感の混ざったものが滲んでくる。

「もう、寝るんじゃなかったの?」

恥ずかしさからか、少し語気が強い。

「……黙っててくれたら、もうすぐ」

うん。俺もね、気づいてないわけじゃないのよ。
俺本体より一足先に元気になったマイサンが、
君の尻に押しつけられてることくらい、わかってるのよ。

彼女は気まずそうに体を動かしているが、気づかないふりをする。
僕は性欲より睡眠欲をとる。
125 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/18(日) 00:57:53.88 ID:AXH7bZyho

20

どれくらいそうしていたかわからないが、僕の意識ははほとんど眠っていた。
彼女の言うことには「うん」と「ううん」だけで答え、あとは考えられなかった。

「ねえ」

「ん?」

「寝た?」

(修学旅行の晩にこういう奴居たな)

「ん」

まどろみに水を差されても、文句を言う気がしなかった。

「……ドキドキするんですけどー」

(うれしいこと言ってくれるじゃないの)

「うん」

しかし僕はあくまで眠いのだ。
いまなら淫靡な夢が見れそうである。
126 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/09/18(日) 00:59:13.00 ID:AXH7bZyho
今日はここまで。
明日はもっと書けるといいなぁ。
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/18(日) 01:21:32.40 ID:pouzv6+uo
乙です。
さすがに書き溜めが尽きたところで急に話のスピード感が落ちましたね。
序盤が急展開の連続だったのでさらにギャップが際立ってます。
加速するか、このままねっとりラブシーンを続けるかは書き手次第。
次も期待です。
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/18(日) 03:51:30.33 ID:SD2QNHWIO
気づいたらほのぼのエロになってた
続けてください
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/09/18(日) 10:26:24.00 ID:y/wlKMgTo
ニヤニヤがとまんねぇ
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/18(日) 11:06:57.71 ID:W6xSx9TRo


めちゃくちゃ和むわ
131 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/09/19(月) 03:27:42.56 ID:Gd3/D7axo
>>127
それは否めないですね。
今回はこれといった事件もなく、二人のやりとりを追う感じで書いてるので、
スピード感どころかもどかしさすらあるかもしれません。

一話完結方式でいくので、話ごとにテンポが全然違うことになりそう…。

今後も温かく見守ってください。
132 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/09/19(月) 03:33:55.35 ID:Gd3/D7axo
>>128-130
ありがとう。
「人を楽しませるのは素晴らしいことなんよ」を座右の銘に、
エロバカなラブコメのコンセプトで一話完結で続けていきます。

各話のタイトルは"女「○○したったwwwww」"で統一する方針です。

中身があったりなかったり。
1000まで完走したいなー。
133 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/19(月) 03:35:28.65 ID:Gd3/D7axo
21

「ねー」

無視無視。

「ねー、ヒマー」

腕の中で彼女はもぞもぞする。

「ほんとに寝た?」

声の出どころが近い。こっちを向いたらしい。
それでも無視を決め込む。
このままだと、いつまでも寝させてもらえそうにない。

「んー」

退屈そうだが、僕は心を鬼にしているのだ。

「つまんない」

許せ志乃。

「ねー」

134 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/19(月) 03:35:55.27 ID:Gd3/D7axo
22

「襲っちゃうぞ」

そう聞こえた気がした。
応戦したいが、僕は動けないのだ。

「よいしょ」と体を転がして仰向けにさせられる。
もういい。好きにして。

「どうすればいいんだろう」

(Don't think, feel! )

「……ちゅっちゅしちゃうぞ」

(キャー、してしてー)

にやけそうになるのを我慢する。

「ねー、ほんとに寝たのー?」

彼女が喋る度に、頬に息がかかる。
顔が近いらしい。
135 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/19(月) 03:36:21.48 ID:Gd3/D7axo
23

「もー」

彼女は口の中で何かつぶやいて、唇を合わせてきた。
そのまま僕の下唇をはむはむする。
さっきの血の味がするキスとは違って、可愛らしいと思った。

「ほんとに寝ちゃった……」

半分起きてるけど、意識はすでにトロトロになっている。
既に眠っていたのかもしれない。
彼女の退屈そうな独り言も、どんどん遠くなっていった。
136 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/19(月) 03:37:13.97 ID:Gd3/D7axo
24

――――――――――
こんな夢を見た。

僕は自室のベッドで、裸で眠っている。
家族に見つかったら何と言い訳したものか。
部屋には志乃とお姉さんがいる。
僕は眠っている。

お姉さんは何かプリントアウトしたものを持って、志乃に指示して消えた。
志乃はひどく恥じらうが、好奇心に負けたらしい。
僕の体を撫でたり、鳥がやるみたいについばんだりし始めた。

彼女の手と口は徐々に下りていき、僕の性器に届く。
彼女は床から、お姉さんの残したプリントを拾う。
それを見て、不器用ながら愛撫を加える。

僕は、自分で仕込みたかったのに、などと贅沢なことを思う。

しばらくして、僕は射精した。

137 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/19(月) 03:38:06.62 ID:Gd3/D7axo
25

―――――深夜―――――

えらくリアルな淫夢だったので、僕はパンツのことを考えて憂鬱になる。

(俺は急に生理がきた女子か……)

とりあえず確認してみるが、何ともなかった。
何に対してかわからないが、勝ったと思った。

そういえば今、何時だろう。

彼女の家族が帰っている頃だろうか。
何度か顔は合わせているから、別に後ろめたいことはない。
だけど、今はさすがに緊張する。
彼女はいない。

落ち着いて部屋を見渡すと、僕の部屋だった。
僕は彼女の部屋で寝たはずだ。
ちょうど、日付が変わろうとしているところだった。

138 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/19(月) 03:39:03.73 ID:Gd3/D7axo

26

夢オチかよ、と悪態をつきながら風呂場に向かう。
脱衣所の鏡に映った僕は、彼女の買ってきた、
ゆるい猫のイラストが入った嫌がらせTシャツを着ていた。

腕には、かなり治癒しているものの、通り魔の亡霊に付けられた傷が幾筋も残っていた。

夢じゃなかった。

喜ぶべきか憂えるべきかわからず、僕はそのまま風呂に入って寝た。

明日は彼女に何て言おうか。
今日はいろいろありすぎた。
考えるのはここまでにしよう。
139 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/19(月) 03:39:49.40 ID:Gd3/D7axo
27

―――――翌朝―――――

僕はいつもどおり登校する。

彼女は昨日と同じように、両手に包帯を巻いていた。
ただ、巻き方は簡単になっていた。
席について、声をかける。

「はよーん」

「お前、手は?」

「急に治ったら怪しまれるじゃーん」

「抜糸は?」

「気持ち悪いけどあと1週間の我慢だ」

「早く抜けるといいな」

「うん」

彼女は眠そうだったが、妙に髪や肌がつやつやしていた。
素直な毛の流れが引き立っている。
瞳がいい感じに潤んで庇護欲を刺激する。

「お前、今日やけにきれいだな」

こんなことを言うのは本来、僕のキャラじゃない。

「なっ――」

彼女は口を開けて固まった。
140 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/19(月) 03:40:34.87 ID:Gd3/D7axo
28

「俺、昨日お前ん家行ったよな?」

「来ましたけどー」

「起きたら俺ん家だったんだけど、どうやって帰ったか覚えてないんだ」

「いつまでも寝てるから、おねーさんに運ぶの手伝ってもらった」

「なに、お姉さん免許持ってるの?」

「らしいよ。たまにだけどお仕事してるみたい」

となると、あの就活女子大生スタイルはやはり変装か。

「ヴァンパイアも現代を生きるのは大変だな」

「ねー」

彼女は他人事のように言う。
お前も半分はヴァンパイア――ヴァンプだから4分の1か――だろうが。
平静を装い続けるなら崩してやる。
141 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/19(月) 03:41:20.26 ID:Gd3/D7axo
29

「いやー、志乃はかわいいなぁ」

「ぶっ――」

吹き出す志乃。

「うんうん。ほんとうにかわいいなぁ」

「何を急に――」

「どうして今日はそんなにキラキラしてるのかなぁ」

「…………」

「何か栄養のあるものでも摂ったのかなぁ」

「…………」

「何かいいサプリでもあるのかなぁ。俺にも教えてくれないか」

「…………すいませんでした」

「お、自白したな」

彼女のポーカーフェイスを崩すには誉め殺しに限る。

「……美味かったか」

「……はい」
142 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/19(月) 03:42:19.72 ID:Gd3/D7axo
30
まさかとは思ったが、やはり現実となると羞恥心に与えられるショックは大きい。

「汚された……あたしの心、汚されちゃったよう……」

僕は両手で顔を覆った。

「いや、その、ほんとすいません」

口では謝っているが、何を思い出したのか彼女の目が輝いている。

気のせいか、例の濃厚な花の香りまで漂い始めた。

条件反射のように、下半身が反応する。

「ねえ」

「なんだよ」

「始業まで、まだ時間あるよ」

口元に扇情的な笑みが浮かんでいる。

「何が言いたいんだよ」

「すぐ帰ってくればばれないよ」
143 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/19(月) 03:43:05.21 ID:Gd3/D7axo
31
彼女は僕の返事を待たず、勝手に席を立った。
僕がこうしてついていくことを知っていたみたいだ。

―――非常階段―――

「さ、座って座って」

彼女は僕の胸を押して、階段に座らせる。
困惑と期待があいまって、抵抗できない。

彼女は膝をついてベルトを外そうとするが、
僕が座っているので上手くいかないみたいだ。
仕方なく自分でゆるめてやる。

彼女はうれしそうに「ありがと」と言った。
顔に浮かべた笑みは淫らなものだったが、口振りは無邪気そのものだった。

彼女は不器用に僕の性器を引っ張り出す。
利き手の包帯をはずしながら、唇を一瞬、ちろっと舐める。
僕の好きな、あの仕草だった。
144 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/19(月) 03:43:45.77 ID:Gd3/D7axo
32
「いただきます」

変なところで礼儀正しい奴だ。
普通の食事と比べておかしいのは、箸じゃなく棒を握って言ってることか。

「噛むなよ」

彼女は握った手をゆっくり上下させながら

「噛まないもん」

と言った。やばい、この時点で気持ちいい。

これは僕が抜くときに妄想に使った場所でシチュじゃないか。
図らずも実現してしまったせいか、興奮してしまう。

息が荒くなった僕を志乃は満足そうに見つめる。
何度か根本からゆっくり舐めあげて、先をくわえられた。

顔が見たくて前髪を上げたら、口を離して

「見ちゃだめ」

と手を払われた。

145 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/19(月) 03:44:30.48 ID:Gd3/D7axo
33

そうしている間も、片手は動いている。
なんて恐ろしい子。

「あんまり時間ないんだから、邪魔しないで」

そういえば始業前だったか。
なるべく我慢して堪能したいが、そうはいかないらしい。

それに、この始業前の5分を切った時間帯は登校してくる生徒が多いんだ。
遠い玄関で、喧噪が聞こえる気がした。
何人分、何十人分だろう。
だけど、あの中の誰一人として、こんなところでこんなことが起こってるなんて思わないだろう。
そう思うと余計に興奮してしまう。

彼女は口の中で舌を動かしながら、強く吸い上げる。
いつどこでこんなこと覚えたんだ。

(昨晩、僕の家か……)

恐ろしい学習能力である。
146 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/19(月) 03:45:16.60 ID:Gd3/D7axo
34

「志乃っ……」

出そうとは言ってないが、彼女はくわえた頭を上下させながらうなずいたようだった。

(えーと、このまま出していいんだよな……?)

(だって、不味いっていうじゃない?)

(あと、ほっといたら臭いし)

僕は要らぬ葛藤の中、精を吐き出した。

(あああああ出てる間に吸っちゃらめえええええええ)

(もってかれるううううううううう)

一瞬、意識が白くなる。
彼女は飲んでしまって、口を離していた。

「ごちそうさまー」

なんとも満足そうである。

「美味かったか」

「……えへ」

「良かったな」
147 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/19(月) 03:46:00.57 ID:Gd3/D7axo
35

スカートのポケットからからミニタオルを出して、拭いてくれる。

「……汚いぞ」

「平気だよ。口に入れても大丈夫なんだから」

「ほっとくと臭くなるんだぞ」

「え」

ああ、こいつはあの恐ろしさを知らないな。

「悪いことは言わない。洗っておきなさい」

「わかった」

教室に戻る途中、廊下の水道で洗う。

「石鹸使うんだぞー」

「はーい」

彼女は液体石鹸の入った容器の頭をプッシュする。

「……ゴクリ」

「洗剤に興味を示すな」
148 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/19(月) 03:46:27.95 ID:Gd3/D7axo
36

「包帯濡れちゃった……」

彼女はわずらわしそうに包帯を取る。
癒えた傷が見えないよう、注意を払っている。

「替えの持ってる?」

「ん」と彼女は腰の側面を突き出す。

「ポケットに入ってる。取って」

「はいはい」

そういえば普通に生活していれば、女の子のスカートに触れることはない。
そう思うと、途端にやりづらくなった。

「変な目で見られないかな」

「大丈夫だよ。私がお世話されてるようにしか見えないよ」

ポケットから包帯を取り出して渡してやる。

彼女はその間、ポケットティッシュで手を拭いていた。
彼女は僕に洗ったミニタオルを持たせると、包帯を巻きながら教室に歩き始めた。
149 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/19(月) 03:47:34.74 ID:Gd3/D7axo
37

―――朝のHR後・教室―――

彼女の椅子の背もたれには、ミニタオルがかかっている。
こうなった経緯を知っている身としては、それが人の目に簡単に触れる場所にあるのは気まずい。

「ティッシュあるならそっち使えよ……」

「そこまで頭回らなかったんだもーん」

「だもーん」とか可愛らしく言われてもなぁ。

「増量したおっぱいはどうごまかすんだ」

「今はサラシでつぶしています」

「それだって毎日続かないだろ」

「段階的にゆるめるから大丈夫」

なにが大丈夫なんだか。

「普乳から巨乳への変化はすぐばれるぞ」

「う」

「お前は人のおっぱいに対する観察力をあなどっている」

「だ、大豆とかキャベツとか鶏肉ばっかり食べてあんたに揉まれてたって言えば大丈夫!」

「な訳あるか」
150 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/19(月) 03:48:46.06 ID:Gd3/D7axo
38

「ちぇー。完璧だと思ったのに」

「どこがだよ。せめて実際に揉ませろ」

これでは口実に使われ損である。

「私を守るためだと思ってさー」

「社会的な死と引き替えにか」

「死にゃしないって」

「俺はそんな形でヒーローになるつもりはないぞ」

「大丈夫だよ。だって――」

「なんだよ」

彼女は頬杖をついて僕から視線を反らす。

「あ、あたしは彼女ですしー」

そうか。僕はただの養分じゃなかったのか。

「キャーwww言っちゃった言っちゃったwwwww」

「元気だな」

平静を装ってはいるが、彼女の認識がわかって嬉しい。

「友達に自慢していい?」

「はいはい」

許可しようとすまいと、勝手に喋るものだ、女子ってやつは。
151 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/19(月) 03:49:29.79 ID:Gd3/D7axo
39

「そういえばあのプリントは何だったんだ」

「プリント?」

「夜の」

「あ、あれは、その――
 おねーさんにぐぐってもらって……」

「自分でやれよ……」

「そんな言葉入力できないぃ……」

「よく言うよ……」

「で、あんたのこと送ってったついでに、実践してみなさいって言われて――」

「あー」

「お勉強したったwwwww」

「だからって上達しすぎだろ」

「向上心のないやつはばかだ」

ここで引用されても、ちっとも賢そうに見えない。
152 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/19(月) 03:49:59.05 ID:Gd3/D7axo
40

「さっきより肌艶がよくなってるな」

「……ふへ」

彼女はだらしなく口元をゆるめた。

「その顔はやめなさい」

「は!いかんいかん」

「そうそう。キリッとね」

チャイムが鳴り、一限目の教科担当が入ってくる。
起立して礼をする。
座ろうとすると、彼女に肩を叩かれた。

「なに」

「言い忘れてた」

僕はあまり顔を向けず、視線で「聞いてるよ」と意思表示をする。

「引き続きよろしくね」

妖女とか小悪魔的なイメージとはほど遠い、あどけない笑顔だった。

「お、おう……」

気の利いた言葉が出ない。
僕の後ろからは、花の匂いがする。
さっきとは違って、嗅いでいて落ち着く。
今日の放課後は、花屋に寄って、彼女の匂いに似た花を探そうと思った。

女「お勉強したったwwwww」おわり
153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/19(月) 03:59:38.72 ID:aonBdMjDO
乙!!

朝の学校、しかも非常階段か…

エロいねぇwwwwwwwwだがそれが(・∀・)イイ
154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/19(月) 04:51:53.92 ID:60NVyKqIO
完全に1000まで期待するレベル
155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/19(月) 05:34:08.72 ID:fMtGqK/Lo
すげーおもしろい
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/19(月) 10:16:12.94 ID:JTilWQ7SO
おっきした
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/19(月) 10:44:22.60 ID:oUaG0qzUo
乙でした。次も期待してます。
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/19(月) 11:33:14.20 ID:oWH1FSOLo

全裸待機余裕だな
159 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/09/20(火) 06:16:55.81 ID:+CbZ0grlo
>>153-158
ありがとうヽ(・∀・)ノありがとう!
もしかして見てくれてる人がちょっと増えたのかも、と勝手に思って勝手に元気出してます。

次のお話はは月末までに更新したいと思います。
また見に来てください。

あと、パンツははいててください。
160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/09/22(木) 14:01:56.89 ID:oqlKNIjxo
ワクテカ
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/22(木) 14:51:07.25 ID:phTDPNnEo
月末まで裸ネクタイか……
162 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/09/25(日) 23:10:14.33 ID:kE/gwPSmo
>>160-161
ありがとう。
読むときは着衣でお願いします。
163 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/25(日) 23:11:16.10 ID:kE/gwPSmo
女「言ったった言ったったwwwww」

1

―――――放課後―――――

僕は母の日以外に花屋に行ったことがない。
自意識過剰とわかっているが、男一人で行ける気がしない。
目的もなく一人で店に入るのは苦手だ。
となると、必要なのは彼女だ。

「志乃、暇なら付き合ってくれ」

「いーよー」

彼女は大きく伸びをしながら気持ちよさそうに答えた。

「どこ行く?体育倉庫は運動部に見つかっちゃうよ」

例の花の匂いが、むっと立ちこめた。頭がくらくらする。
なんで周りの生徒は平気なんだ。

「貴様、勘違いしているな」

彼女は、露骨に期待はずれといった顔をする。
164 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/25(日) 23:12:17.43 ID:kE/gwPSmo
2

「そんな顔してもダメー」

「ケチー」

「どうするんだよ。来るのか来ないのか」

「キャー、私をどこに連れて行く気?ラブホ?」

「そうしたいところだけど、お前は入り口で引き返したがるだろうな」

「そうかなぁ」

「そんな気がする」

(どうも僕をセクシャルな目で見てくれてる感じがしないんだよな……)

「じゃあ、どこ行くの?」

匂いが弱まった。志乃の気が散ったせいか。

165 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/25(日) 23:13:19.30 ID:kE/gwPSmo
3

「は……花屋」

彼女なら笑わないと思うけど、少し気後れする。

「園芸な趣味あったっけ?」

「ないけど。お前にと思って」

(お前に似た匂いの花が欲しいと思って、とは言えないな)

「ほんと?」

(お、意外と好感触)

予定になかったけど、嬉しそうにされるとその気になる。

「部屋に花くらい飾ってはどうだろう」

「わーい、飾るー」

「じゃ、行くか」

「ごーごー花屋さーん」

彼女は歌うように言って、席を立った。
166 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/25(日) 23:14:41.60 ID:kE/gwPSmo
4

―――――花屋―――――

僕は困っていた。
彼女に同行してもらうところまではよかった。
しかし、これでは花の香りを確認なんてできない。

(一人で来ても同じことか……)

「私これがいい」

彼女が持ってきたのは丸いサボテンだった。
トゲが包帯に引っかかりそうで危なっかしい。

「緑じゃん」

「緑ですとも」

「いいのか、花じゃなくて」

「花は好きだけど、枯れるのがねー」

「また買ってやるって」

彼女は少し納得いかない様子だった。

「長く置いとけるのがいいの」

「なるほどねー」

会計を済ませて歩きだした。

167 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/25(日) 23:15:42.98 ID:kE/gwPSmo
5

「帰ったらサボ子の育て方調べる」

「うんうん。育てておくれ」

「巨大にする!」

「それはちょっと……」

「ありがとねー」

彼女は機嫌よく礼を言った。
これで300円(税別)なら安いものだ。
雑貨屋の前を通ったとき、一瞬あの匂いがした。
今の彼女がエロスなことを考えているとも思えない。

(アロマなんとかの発想はなかったわ……)

「志乃、あそこ寄っていいか」

「いーよー」
168 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/25(日) 23:16:45.18 ID:kE/gwPSmo
6

―――――雑貨屋―――――

(参ったな、思ったより種類がいっぱいある)

「なに、アロマな趣味があったの?」

「ないけど、お前の匂いが気になってなー」

「うわー。ヘンタイだー」

彼女は小走りで店内のどこかに行ってしまった。
適当に冷やかしたら戻ってくるだろう。

僕は「彼女へのプレゼントです」といった体を装って物色する。
いくつか嗅いでみたところで、「これは」というのに当たった。

(イランイラン……)

その場で携帯を出して検索する。

「どう?見つかった?」

「ああ、これ」

サンプルのキャップを取って鼻に近づけてやる。

「……えへ」

「その顔はやめなさい」
169 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/25(日) 23:17:42.28 ID:kE/gwPSmo
7

「なにこれ、いい匂い」

「イランイランなる花の中の花らしい」

「へー」

彼女はまだ、すんすんと嗅いでうっとりしている。

「買うの?」

「いや、何の匂いか知りたかっただけだから」

(こいつの前で買うのもな……)

「効能なに?」

「リラックスと催淫効果だそうだ」

「そんなものを嗅がせてどうするつもりだ」

「いや、そういうつもりでは」

むしろそれはこっちの台詞だ。
170 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/25(日) 23:18:48.43 ID:kE/gwPSmo
8
――――――――――

「そういえば、南の通りに出たことある?」

「あっちはオフィス街だからなー。あんまりないな」

「おねーさんの事務所行ってみたい」

「あそこ地価高そうなのに……儲かってるんだな」

あの界隈は、大企業の支社やきれいなオフィスビルがたくさんある。
そこに事務所を構えるとは、お姉さんは立派に順応しているようだ。

「お姉さん、仕事何してるの?」

「確かセラピストだったかカウンセラーだったか……」

(うわぁ、あんまりお世話になりたくない)

「うーん、とにかく人の話を聞くらしいよ」
171 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/25(日) 23:19:49.79 ID:kE/gwPSmo
9
そうこう言ってるうちに、オフィス街に出てしまった。

「仕事の邪魔になるだろ」

「今日、午後は休みだってさ」

そう言いながら彼女はろくに知らない土地をどんどん歩いていく。
こうなると僕はついていくしかない。
薬局と喫茶店の間の雑居ビルに入っていく。
エレベーターに乗り、彼女は6階のボタンを押した。

〜ナオミの部屋〜

ネーミングに引いた。

「まさかエッチなお店じゃないよな」

「まじめなお店だよ」

「お姉さん、ナオミっていうのか」

「いや、お店の名前考えるときに、脳内でナオミ・キャンベルがしつこく歌ってたらしい」

「wanna make love, wanna make love song, hey baby」

裏声で問題のフレーズを歌ってみる。

「そうそのナオミ」

「お姉さんいい加減すぎだろ……」
172 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/25(日) 23:20:44.08 ID:kE/gwPSmo
10

―――――ナオミの部屋―――――

うわー、来ちゃったよ、ナオミの部屋。
すりガラスに「ベルサイユのばら」のタイトルみたいな金のフォントで書いてある。
どう見ても癒しを求めてノックするドアじゃない。

「これは入りにくいな……」

彼女は僕に構わず、インターホンを押していた。

「……はい」

お姉さんのかしこまった声がする。

「おねーさーん、志乃ですー」

「あら、妹。待ってなさい、すぐ開けるわ」

気のせいか声が弾んでいる。
彼女が志乃のことを可愛いと言うのは本心かもしれない。

「いらっしゃい。今日はもう休むから、上がっていきなさい」

お姉さんは白衣にタイトなワンピースを着て、パンストににピンヒールをはいていた。

「女教師ものの撮影でも?」

「ファックファック」

志乃のリバーブローが軽く2連続で入る。

「すいませんでした」

脇腹をさすりながら頭をさげた。
173 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/25(日) 23:21:37.54 ID:kE/gwPSmo
11

「中は意外と普通ですね」

クリーム色がかった白を基調としたインテリア。
白い百合の花が生けてある。
女性に受けそうだと思った。

「適当に座りなさい」

僕は遠慮がちに腰を下ろす。
志乃は僕の隣に深く腰掛けると、僕の肩に頭を乗せて脱力した。

「くつろぎすぎだろ」

「おなかすいた……」

「もう夕方だもんな」

「おなかすいた」

ここは肩でも抱くものだろうが、ここはお姉さんの職場なのでそうもいかない。
結局どうしていいかわからず、膝に手をついていた。
174 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/25(日) 23:22:31.47 ID:kE/gwPSmo
12

お姉さんがトレーにお茶を乗せて戻ってきた。

「あら、ラブいわね」

急に恥ずかしくなる。

「志乃が腹減ったそうです」

なるべく色気のないことを言ってごまかした。
お姉さんはテーブルにポットとカップを置く。
ガラスのポットの中で、茶葉が花のように開いている。

「きれいですね」

「ジャスミン茶。落ち着くわよ」

ああ、客(患者?)にくつろいでもらわないと話が聞けないのか。

「お姉さん、仕事は何を?」

「セラピスト兼カウンセラー兼探偵ってところね」

(わーお、超うさんくさーい)

「人間の職業で近いものを挙げただけよ」

僕の思考が顔に出ていたのだろう。彼女は補足した。
志乃が妙に静かだ。

「志乃、どうした」

「燃料……きれた……」
175 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/25(日) 23:23:33.81 ID:kE/gwPSmo
13

「定期的にとは聞いてますけど、こんな短いスパンで底をつくんですか?」

そうだとしたら燃費が悪すぎる。
さっきまで元気そうだったのに、今は顔面蒼白だ。

「さあ?この子一昨日死にかけたばかりだし、回復に必要なんじゃない?」

――自分の内臓と走馬燈見ながら、願っちゃったんだ。

ぞっとした。

「私だって首を切られたのよ。まだ本調子じゃないわ」

お姉さんはぼやきながら首をさすった。
頸動脈の走ってるところだ。

「志乃、しっかりしろ、志乃!」

人間なら大量に輸血する大手術を終えて、集中治療室で面会謝絶じゃないか。
僕はそんな状態の志乃を連れ回してたのか。

(何やってんだよ、バカか俺は!)

「君、この子の口に指を突っ込みなさい」
176 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/25(日) 23:24:31.89 ID:kE/gwPSmo
14

突然の命令に戸惑う。

「えっ、みぎひだりどっち」

「自慰はどっち派?」

この人にとって僕のプライバシーは濡れた半紙みたいなもんだ。

「みっ、右ですけど!」

間抜けなことに正直に答える。

「じゃあ右」

「はい!」

志乃の口に指を入れる。舌が冷たい。

「さあ、存分に吸いなさい妹よ」

「……う」

指を吸う力が弱々しい。保護された子猫か。

「ちょっと……いえ、かなり疲れるから覚悟しなさい」

お姉さんが僕をにらむ。これは脅しじゃないな。
了解を得る、じゃなくて宣告だ。
帰りは何とかなるだろう。
明日は土曜だ。どうとでもなれ。
177 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/25(日) 23:25:27.18 ID:kE/gwPSmo
15

志乃の様子を見ていたが、これでは精気を吸えているように見えない。

「お姉さん、カッター貸してください」

お姉さんは怪訝そうに眉を上げた。
僕の意図を汲んだらしく、刃をライターであぶって渡してくれた。
志乃の口から指を抜き、唾液で濡れた指にカッターをあてがった。
怖い。ほんのちょっと切るだけのつもりなのに怖い。
このまま、少し刃を引くだけ、それだけが怖い。

「あの、お姉さん、お願いがあります」

「何よ」

「俺、自分じゃ切れません。だから――」

「根性あるんだかないんだか……」

お姉さんは絨毯にひざまづくと、僕からカッターを取り上げた。

「チクッとするわよ」

彼女は低く言って、僕の皮膚に刃をひっかけて軽く引いた。
少しの痛みが短く走った。
指先に血液が丸く溜まっている。

「ほら、舐めろ」

僕は再度、志乃の口に指を入れた。
178 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/25(日) 23:26:20.66 ID:kE/gwPSmo
16

志乃は舌を動かして指の血をすくった。
安心したせいか、既に精気を吸われ始めているせいか、疲れが襲ってくる。

「志乃、大丈夫か」

彼女の少し頬に赤みが差してきた。傷口から力が抜けていく。

「今日はもう大丈夫そうね。しばらくそうしててやって」

お姉さんは白衣をジャケットに着替えると、玄関に向かった。

「お姉さん、どこへ?」

「食べるもの買ってくるわ」

「ここ、留守にしていいんですか」

「鍵かけていくから。電話は私に転送されるから無視して」

「妹をよろしく」と言い残すと、彼女は行ってしまった。
少し、心細いと思った。
179 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/25(日) 23:27:08.98 ID:kE/gwPSmo
17

志乃は少しずつだが、精気を吸えているらしい。
昨夜のお姉さんみたいな凶悪な吸い方じゃないせいか、ゆるやかに眠くなる。

(あの人はワンタッチでギューンってやりおったからな……)

体が重い。彼女を抱えたまま横になった。
志乃はずっと、指を吸ったり舐めたりしている。

「うーん、指がふやけそうだ」

今の今まで必死だったから気付かなかったけど、変な気分になる。
全身がだるい割に、下半身は元気だ。我ながら呆れる。
いつまでこうしていればいいんだろう。
志乃が目を開けた。

「気がついたか」

彼女は指をくわえたままうなずいた。
180 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/25(日) 23:28:12.93 ID:kE/gwPSmo
18

不思議そうに僕の股間を見る。

「なんで?」

と口を動かしたように見えた。
悪いことをしている気分になる。

「すまん、それ、気持ちいい」

彼女は何度か指を軽く噛んで、にやりと笑った。

「あー、君の考えてること、なぜかよくわかるなぁ」

一瞬止まる。お前は猫か。

「ダメとは言ってない」

「……ん」

「もうちょっと元気になってからにしなさい」

「ん」

その代わり、彼女が元気になる頃には僕は動けなくなっているのだ。

「ごめんね」

「気にするなよ」
181 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/25(日) 23:29:14.21 ID:kE/gwPSmo
19

彼女は涙目になっている。
話せるようになって第一声がそれだと寂しい。
半人半妖になったのは生きるためじゃないか。

「泣くと疲れるぞ」

「……」

「今、生きてるんだろ」

(まだ動けるな)

「それなら上等だ」

体を反転させて、彼女を下にする。

「な、なによぅ……」

やめて。濡れた瞳で見つめないで。

「今の俺は体力がないんだよ」

寝返りを打つくらいの動作でもスプリント直後みたいに息が上がる。
呼吸が整うのを待って、彼女に口付ける。

「む――っ!」

僕の下で脚をばたばたさせる。唇を離した。
182 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/25(日) 23:30:32.88 ID:kE/gwPSmo
20

「せっかく吸った力をリアクションで浪費するなよ……」

「び、びっくりした……」

「とんでもない雰囲気クラッシャーだな、君は」

「心の準備が……」

「そこは察しろよ」

この特技・フラグ破壊に対抗できる自分はタフだと思う。

「やり直すぞ」

「うぅ」

「はい、もじもじしない。無駄な体力を使わない」

いくら若いといっても僕の体力だって有限だ。

「……やりづらいから目を閉じなさい」

「うえぇ……」

彼女は情けない声を出す。
でも僕は気にしない。気にしたら負け。
再開だ。
183 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/25(日) 23:31:27.94 ID:kE/gwPSmo
21
何度か唇を合わせると、彼女は少し口を開いた。
その隙間を舌先でなぞる。
彼女が焦れたように僕の舌を舐める。

また、力が抜け始める。

「ふっ……やだ……」

彼女は僕の首に腕を回して、顔を背けながら言う。
それが頬を上気させて流し目くれながら言う台詞か。

「喜ぶか嫌がるか恥じらうかどれかにしろ」

「全部ー」

「忙しい奴だな。やめようか」

「だめ、もっと!」

元気が出てきたようだが、僕は全然元気じゃない。
もしかしてエネルギー授受の媒介に使う体液って融通利くんじゃないか?

そんなことを考えたけど、思考は長く続かない。
ついでにこの、彼女の顔の横に肘をついて体を支える姿勢も、もう続かない。
184 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/25(日) 23:32:24.72 ID:kE/gwPSmo
22

「重いー」

彼女はうなりながら僕の体の下から這い出る。

「志乃……俺はもうだめだ……」

「そんな……!何言ってるんですか!一緒に帰ろうって約束したじゃないですか!」

「家族に伝えてくれ……愛して……いた、と……」

演技じゃなく本当にがくりと腕を落とす。

「あ、死んだ」

「殺すな」

「何、今の茶番」

「お前が始めたんだろうが」

「すごいなぁ、ほんとに力をもらってるんだー」

「そうそう。だから俺、くたくた」

「でも、あと一回くらい出せるよね?」

彼女は妖しく微笑みながら衣服越しに僕の性器をさする。
いつの間に包帯をはずしたんだ。
185 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/25(日) 23:33:18.47 ID:kE/gwPSmo
23

「出せるけど出したら死んじゃう」

「私を愛してる?」

「う、うん」

「ハイ、二葉亭四迷風に」

「死んでもいいわ」

「よし、任せて!」

「謀ったな孔明!」

僕は抵抗することもできず、あっけなく脱がされる。

「キャー。春海さん、ガチガチじゃないですかぁー」

「うぅ……うれしそうに握らないで……」

ふと、時計が目に入った。

(お姉さんが出ていって、何分経った……?)

確か最寄りのスーパーはそう遠くないはずだ。

たっぷり時間をかけて見てまわっても――

「いただきまーす」

ろくに頭が回らない。快楽に集中した方が良さそうだ。
僕は目を閉じた。
186 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/25(日) 23:34:20.07 ID:kE/gwPSmo
24

(朝より上手くなってるし……)

(なんなんだよ、こいつの学習能力は)

(こいつはアサシンに違いない)

(俺をテクノブレイク死させる気だ)

(あああああああああああああやだもおおおおおおおお)

事前に長いこと性的に興奮したせいか、えらく長い射精だった。
精液を飲む志乃の喉が鳴るのが聞こえる気がした。
余力があればもう一回お願いしたいところだ。

「……」

志乃のものとは違う気配がする。

僕は目を開ける。
僕が横たわっているソファの向かいの椅子に、脚を組んで座るお姉さんがいた。
志乃はお姉さんに背を向け、僕の性器を収納している。

「ねえ、泣いていい?」

僕は誰にともなく尋ねていた。
ほんとうに泣きたいときに限って、涙って出てこないのね。
187 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/25(日) 23:35:21.01 ID:kE/gwPSmo
25
「あの、いつから帰っていらしたので?」

「――うぅ……うれしそうに握らないで……」

お姉さんは右上の見えない何かを眺めながら復唱した。

「ほぼ始めからじゃないですか!」

志乃は「あうぅ……」とうめいて給湯室に逃げた。

「なんなんですか!もう!止めてくださいよ!」

「私は気にしないわよ」

(サバサバしてるって次元じゃねえ……)

「俺が気にするんです!」

「あ、私も恥ずかしいです……」

志乃が壁から顔だけ出して弱々しく主張する。

「いいじゃない。そもそもここは私のテリトリーよ」

それを言われると、僕には全く分がない。

「で、妹は元気になったの?」

「なりましたよ。俺が身動きできないほどに」

結局、昨日と同じか。
188 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/25(日) 23:36:09.40 ID:kE/gwPSmo
26
「妹よ、いらっしゃい。お姉ちゃん怒ってないから」

「ほんと?」

「ほんとよぅ。食欲はある?今日はカレーにしましょう」

「わーい」

(あーあー、すっかり顔色良くなっちゃってー)

「さ、手伝ってちょうだい」

なんなんだろうな、出会って3日でこの仲の良さは。
格好悪いが、多少の嫉妬を禁じ得ない。

「君は寝てなさい」

「動こうにも動けませんって」

給湯室からはキャッキャと楽しそうな声がする。
僕は少しだけ眠った。
189 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/25(日) 23:37:12.37 ID:kE/gwPSmo
27

―――カレー完成―――

「出来たわよ。いらっしゃい」

お姉さんが僕を起こしにきた。

「いいんですか、こんな白いとこで食べるの怖いんですけど」

「大丈夫よ、他の部屋があるんだから」

そう言うと、お姉さんは僕を担いで事務所の奥に連れていった。
なんとも強引な人だ。

「ほら、ここが休憩室よ」

奥に敷いた布団の上に降ろされた。
片付いた和室。この人どれだけ稼いでるんだ。

「――といっても、半分住んでるようなものね」

志乃が給湯室から皿に盛ったカレーライスを運んでくる。

「食べよー」

「ありがたいけど、俺、動けないんだよね」

「なんと」

わざとらしく驚いてみせる。誰のせいだよ。
190 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/25(日) 23:38:22.50 ID:kE/gwPSmo
28
お姉さんが僕を座椅子に座らせる。

「だるいだろうけど、動かせないことはないはずよ」

うーん、スパルタですなぁ……。

「さあ、精神で肉体を凌駕してみなさい」

「動けー動かんかー」

だらりと座って口だけ動かす。

「ぬうぅ……!この子の彼氏だろ!私の義弟だろ!」

「誰がいつあなたの義理の弟になったんですか」

「あなたが!昨日よ!」

そんな指さして言わなくても……。

「冷めちゃうよ……」

志乃は呆れながらスプーンを口に運んでいる。

「春海君、私をお義姉さんと呼んでもいいのよ」

「既に呼んでるじゃないですか」

「義理のよ」

「ああ……」

なんだろうなぁ、この人、意外と寂しいのかな。
身内は大事にしてくれるみたいだし、まあいいか。
191 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/25(日) 23:39:39.97 ID:kE/gwPSmo
29
僕はいつもの倍以上の時間をかけて食事を終えた。
志乃は給湯室で食器を洗っている。

「やればできるじゃない」

お義姉さんは僕に向かって親指を立てた。

「おかげで体力ゲージがマイナスに伸びましたよ」

「そんなゲージ出てないけど」

僕の頭上を見ながら言う。

(ということは、この人は格ゲーの存在を知っているな)

「喩えの話ですよ」

僕は湯呑みに手を伸ばす。

「志乃は、回復までどれくらいかかるんですか」

「いつまでかはわからないけど……しばらく24時間以上は離れない方がいいわね」

「平日はともかく、この土日は……」

「会ったらいいじゃない」

「ご両親が家にいちゃいろいろとまずいでしょうが。俺ん家もそうですよ」

「そうねえ……」

彼女は「人間ってめんどくさー」とつぶやくと、考え込んでしまった。
192 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/25(日) 23:40:54.89 ID:kE/gwPSmo
30
「今、何時ですか」

時計を探すが、この部屋には見当たらない。

「心配要らないわ。お母様には泊まるって連絡してる」

彼女の手の中には、僕の携帯があった。

「えっ」

「君、私の店でバイトしてることになってるから」

と、携帯を僕の手に握らせる。

「はあああああ!?」

「私、上司。君、部下。妹、部下」

(俺が……ナオミの部屋の住人に……)

「なによ、この世の終わりみたいな顔して」

「そりゃ絶望的な気分にもなりますよ……」

働いている実態がないのだ。
僕の懐事情やバイト経験者のオーラの有無から、すぐばれるに決まってる。

「給料はちゃんと出るわよ」

「そんなおいしい話を俺が信じると思いますか」

「信じるもなにも、実際に働いてもらうんだから払うわよ」
193 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/25(日) 23:41:48.02 ID:kE/gwPSmo
31

志乃が和室に戻ってきた。

「ありがと、妹。あなたも聞いておきなさい」

志乃は僕の隣に腰を下ろした。
見たところ、身のこなしが軽い。安心した。

「志乃、俺たちはナオミの民になるそうだ……」

「なにそれ」

「あなた達には、私の仕事を手伝ってもらうわ」

――セラピスト兼カウンセラー兼探偵ってところね――

この3択の中から選べと言われても、どれもできそうにない。

「私の仕事には裏もあるの」

(あー、やっぱり)

「君、少しは驚きなさいよ。可愛くないわね」

「ええー、な、なんだってえー」

志乃が僕を軽く肘で突く。まじめに聞けということか。

「まあ、普段の仕事はこのためにやってるんだけどね」

お義姉さんは腕を組んで考えている。
どう説明したものか、悩んでいるんだろう。
194 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/25(日) 23:42:36.93 ID:kE/gwPSmo
32
「私は殺し屋よ」

吹き出しそうになったがこらえた。

「お義姉さん、それは――」

「ああ、呪い専門よ」

補足してくれたようだが、更に悪い。
志乃は別にショックを受けているわけでもなく、静かに聞いている。

「おねーさん、人を呪い殺すんじゃなくて、呪いを殺すんだよね」

「さすが妹ね。賢い。賢いわよ」

「いや、普通その発想はありませんって」

「ばかね、ここでは常識・非常識の境界はなくなるの」

(ああ、ここはナオミの部屋だったか)

そう思えば、大抵の不条理はそのまま許容されてしまうのだ。

「あなた達は戦わなくていい。調査を手伝ってほしいの」
195 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/25(日) 23:43:29.07 ID:kE/gwPSmo
33
「俺たちにできるようなことですか?」

「依頼人についた呪いを知らせるから、それの発信源を探すの」

「んなオカルトな」

余計、途方に暮れる。
呪いにGPSがついてるわけでもあるまい。

「ま、仕事がきたら知らせるわ。私も無理はさせない。
 それに、普通の犯罪と違って突発的に起こるものは少ない。
 必ず動機があるから、その分調べやすいはずよ」

「実践が一番」と、彼女は締めくくった。

「私は怖いです」

僕も。
物質的に危険じゃなくても、人の悪意に触れるのは恐ろしい気がする。

「人間不信になったりしない?」

きっと、知らなきゃよかったって思うようなことばかりなのだ、この仕事は。
だからお義姉さんは疑念を持たず守れるものが欲しいんだと思う。
196 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/25(日) 23:44:26.35 ID:kE/gwPSmo
34
「大丈夫よ。妹は彼を信じてるでしょ」

志乃は答えない。ちょっと照れたように体を動かす。

「人間は複雑。きれいなだけじゃないけど、汚いばかりでもないわ」

志乃は納得したのかしていないのか、僕の肩に頭を乗せて、一度だけ深呼吸をした。

「次の事件から手伝ってもらう。研修ついでに私も同行するから心配要らないわ」

この人は何でもさくさく決めてしまう。
彼女を人間らしくないと思うとき、その根拠は彼女が迷わないことだと思う。

「私は出かけるわ。今夜は帰らないからここで寝てちょうだい」

「おねーさんどこいくの?」

志乃が心配そうに尋ねる。
彼女の仕事を聞いた後なら、見送るのが不安にもなるだろう。

「週末だからね。私も回復するのに血が欲しいから。
 酔っぱらって眠りこけてるリーマンから、ちょっとずつ頂くの」

今後、泥酔したおっさんに小さな傷があれば、その中のいくつかはお義姉さんの仕業だと思うことにしよう。
197 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/25(日) 23:45:24.19 ID:kE/gwPSmo
35
お義姉さんは行ってしまった。
ここはオフィス街だ。
きっと何本か離れた通りの繁華街や駅前をうろつくのだ。
夜の街をさまようお義姉さんの姿を想像して、今度は、少しだけなら吸わせてあげてもいいと思った。

しかし、僕の最優先は志乃だ。

「寝よっか」

彼女は僕によりかかったまま、ぽつりと言った。

「そうだな。布団敷いてくれ。俺うごけない」

志乃は立ち上がり、押入を開いた。

「布団、一組しかないみたい」

と、既に敷いてあるものを指さす。

「お約束だな……」

「お約束だね……」

「俺は構わないけどな」

「あ、あたしも構いませんけど!」
198 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/25(日) 23:46:43.21 ID:kE/gwPSmo
36
僕は這って布団に入る。
志乃が電気を豆球だけ点灯させて入ってくる。

「へ、変なことするなよ!」

「したくてもできません」

僕はそっぽを向く。
わずかに開いたカーテンの隙間から、月が見えた。

「志乃、俺思うんだけどさ」

「なんじゃい」

「お前、言うほど嫌がってないだろ」

「うわー、野暮だなー」

彼女は布団を被ったまま、いやんいやんと身をよじる。

「こらこら、俺から布団取るなよ」

「ごめんごめん」

彼女は笑いながら僕に布団をかける。
その拍子に、肩に胸が触れたが固かった。

「お前、まだサラシ巻いてるのか」
199 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/25(日) 23:47:49.16 ID:kE/gwPSmo
37
「うん」

「そんなものずっと巻いてるから気分悪くなるんじゃないのか」

「違うよ。体調が戻るのにもっと精気が必要なだけだよ」

「いーや違うね。精気を吸う以前の問題だね」

彼女は不服そうに頬をふくらませる。

「はずしなさい」

「え、やだ」

「君の安眠のためだ」

「はずしたらノーブラになるじゃん」

「なに、お前、普段ブラしたまま寝てるの?」

「もう!そんなんどうでもいいじゃんバカバカ」

「今は周りの目もないだろ。取れって」

彼女は口の中でぶつぶつ文句を言いながらサラシを解いていく。
サラシの端っこがブラウスの裾から出ている。
200 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/25(日) 23:48:41.54 ID:kE/gwPSmo
38
「あれやってみたいな。こう、引っ張って娘を回すやつ」

「あーれー、ってやつ?」

「そうそれ」

「残念、全部ほどけましたー」

と、丸めたサラシを僕に放る。

「見るなよ!乳首浮いてるから見るなよ!」

「なに、乳頭とな」

「もうやだこの人」

そう言いながら、志乃は僕に抱きつく。
二の腕で志乃の胸がひしゃげる。
覆っているものがブラウスしかないので、感触がかなりダイレクトに伝わる。

「志乃、おっぱいとはすばらしいな」

感慨無量である。

「黙れへんたい」
201 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/25(日) 23:49:42.03 ID:kE/gwPSmo
39
志乃は戯れながら僕の唇を塞いで黙らせる。

「元気になったな」

「うん」

「よかったな」

「ありがと」

くっそ、かわいいなこのやろう。

「なに、もどかしそうな顔して」

「いやね、ぎゅっとしたいが動かないのよ、腕が」

「ハハハ、こやつめ」

志乃は抱きついたまま、僕に頬摺りする。
僕が動けないと積極的なんだな、こいつは。

「志乃、月」

僕は視線で窓の外を示す。
志乃は僕の視線を追う。

202 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/09/25(日) 23:51:38.26 ID:kE/gwPSmo
40
「ほんとだ」

「満月じゃないけどなー」

彼女は少し考えて、思い切ったように

「月がきれいですね」

と言った。

「うんうん。月がきれいですね」

「月がきれいですね!」

彼女は「わかってない」と言いたそうに繰り返した。

「いや、わかってるよ、漱石だろ」

「うふふ」

「こういうのは名月のときがいいんじゃないか?」

「あたしがきれいだって思ったからいいんだもーん」

「そうかもしれないな」

「ふふーん。言ったった言ったったwwwww」

やっと、彼女から花の香りが数時間ぶりに漂い始めた。
初めて、彼女が元気になったんだと思える。
「イランイランは現地の新婚夫婦の初夜の寝室にばら撒かれるそうだ」とは言わないでおいてやろう。
僕は、志乃の寝息を聞きながら、夢も見ないほど深く眠った。

女「言ったった言ったったwwwww」おわり
203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/26(月) 07:42:40.25 ID:h9rkM26DO
乙!!
電車内なのにニヤニヤが止まらないんだがwwwwwwww
204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/26(月) 12:45:40.64 ID:qrxSRbLio
乙!
甘過ぎてニヤニヤしっぱなしだwwwwww
ヤバイ周りの視線がwwwwwwwww
205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/26(月) 16:00:52.68 ID:cqE4TB0IO
くそっくそ!
206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/09/26(月) 20:12:15.35 ID:MLdFE0foo
くぅぅ!
おつ
207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/09/26(月) 21:06:28.96 ID:IGd40WaAO
追いついた
208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/26(月) 21:50:16.34 ID:aurvNO7+o
>>206
ごめんなさいわざわざageちゃった
209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/27(火) 02:17:45.77 ID:W8FBlnNVo
星も綺麗ですよと男が返して
キュンキュンする女も見たかった
210 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/01(土) 20:01:37.88 ID:cVg0D15Uo
>>203-209
ありがとうございまーすヽ(・∀・)ノ
ニヤニヤするか壁を殴るかは自由です。

「星もきれいですよ」の発想はなかったです。
東京には空がない(智恵子)ので。
いえ、東京のつもりで書いてはいないんですけど。
211 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/01(土) 20:02:07.20 ID:cVg0D15Uo
>>203-209
ありがとうございまーすヽ(・∀・)ノ
ニヤニヤするか壁を殴るかは自由です。

「星もきれいですよ」の発想はなかったです。
東京には空がない(智恵子)ので。
いえ、東京のつもりで書いてはいないんですけど。
212 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/10/01(土) 20:04:16.64 ID:cVg0D15Uo
sage忘れ&連投…。すみません。

次回は三連休中に書きます。
213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/02(日) 00:24:03.01 ID:804rwZJIO
楽しみだ
214 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/10/02(日) 01:50:50.55 ID:TrsiDjjXo
>>213
待っててくれる人がいるってありがたいですね。
すごい励みになります。

今は起承転結でいうところの起を書き終わったところです。
初回と前回で、一度に全てを書き込むと疲れるということがわかったので、
これからは負担の少なそうなやり方を考えようと思います。
今回は試しにキリのいいところでちょいちょい書き込んでみます。
ネットに繋がったPCがほしい…。

マイペース更新ですが宣言した〆切は守るよう頑張りますので、よろしくお願いします。
215 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/02(日) 14:05:56.38 ID:TrsiDjjXo
女「解禁したったwwwww」



―――――月曜・朝・非常階段―――――

志乃はすっかり元気になった。
心なしか髪まで伸びた気がする。

気のせいじゃない。
金曜は肩にぎりぎり届くくらいだったのが、5センチは伸びている。
その伸びた髪もいやにつやつやしていて、彼女が動く度に反射光を波打たせるのだ。

「志乃っ、出る……!」

どくどくと精液が出るのに合わせて、志乃の喉が鳴る。
僕は壁にもたれて荒くなった呼吸を整える。
志乃は僕のおとなしくなった性器をしまいながら、僕の口に舌を入れる。

(平日の朝から何やってんだ俺は……)

志乃と舌を絡ませながら、陶酔感と後ろめたさが頭に満ちる。
216 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/02(日) 14:08:23.77 ID:TrsiDjjXo


この土日、僕は徹底的に搾り取られていた。
彼女の気が向いたときには体液(主に精液)を介して精気を与えていた。
おかげで今の彼女は美容本で一儲けできそうなくらいきれいだ。

お義姉さんからも「もう大丈夫でしょ」と太鼓判を押された。
これで大丈夫じゃなかったら、僕は絶望する。

志乃は「ぷは」と口を離した。

「ごちそうさま」

うふふん、と甘えた声で笑いながら僕の鎖骨のあたりに額をすりつける。
彼女の髪を撫でると、しっとり吸いつきながら、しゃらんと僕の指から流れていった。

「なに?」

「不思議な感触だなと思って」

「今なら世界が嫉妬する」

「だろうな」と、僕は適当に流す。
217 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/02(日) 14:09:55.23 ID:TrsiDjjXo


「志乃、やっぱり髪伸びてる」

「え」

「今度こそばれるぞ」

「それは困る」

彼女は少し考えて、自分の鞄を探り始めた。

「よかった、まだあった」

と、ゴムとピンを出す。

「まとめればごまかせるはず。私って賢い!」

志乃は櫛を使って髪をまとめ始めた。

「ポニーテールにしようぜー」

「なんで男ってあれ好きなの?」

「ポニーテールにしようぜー」

「……」

「ポ」

「もー、わかったよぅ」

志乃は「うはww超まとまるwww」と自分の髪に感動しながら髪を結んだ。

(お前の髪がスーパーリッチなのは俺の汁のおかげなんだぞ)
218 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/02(日) 14:11:26.17 ID:TrsiDjjXo


「くくるの久しぶりだよー」

「ずっと下ろしてたもんな」

「なんか首がぐらぐらするよー」

「お前は乳児か」

「どう?ちゃんとできてる?」

「うん。可愛い可愛い」

素直に誉めた。

「いやんー」

彼女は頬に手を当ててうつむく。
恥じらうポイントがずれている。

僕達の下で、金属の扉がぎっと開いた。
二人でとっさに気配を殺す。

――みつかっても、今は別に平気じゃない?

彼女は携帯に文字を打ち込み、僕に見せる。
問題ないとわかっていても、まだ警戒してしまう。

少しすると、薄く煙草のにおいが上ってきた。
219 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/02(日) 14:13:17.94 ID:TrsiDjjXo


校舎は全棟禁煙だ。
ヘビースモーカーの教師は肩身が狭そうに、申し訳程度に置かれた喫煙コーナーで吸っている。
じゃあ、下で吸ってるのは生徒か。

――どうする?

――向こうは一人みたいだし、静かにどっか行こう。

僕も携帯に字を打って見せた。

――見つかったら?

――都合が悪いのはあっち。

僕は校舎の廊下に戻る扉を一気に開けて、志乃の手を引いた。

「なんだったんだろね」

「さあ?難しい年頃だし、悪いことしたいんだろ」

中学の頃、仲の良かった同級生がグレて疎遠になり、寂しい思いをしたのを思い出した。

「あ、そうだ。戻る前に渡しとく」

彼女は鞄から包みを出した。

「おべんと。作った」

「お、おう」

「食べて」

彼女ははにかみながら僕に弁当を持たせた。

「おお……サンクス」

にやけるのが我慢できなかった。
220 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/02(日) 14:14:45.39 ID:TrsiDjjXo


―――――教室―――――

教室に戻ると、志乃は女友達の輪に入っていった。
志乃のいる輪から、「えー!」とか「マジで?」といった声が上がる。
反射的に目を向けると、僕を指さす志乃と目が合った。

――友達に自慢していい?

どうしていいかわからず、口の端を上げてから視線を鞄に戻す。

「春海ー、聞こえたぞー」

友人・長野がゆらりと寄ってくる。

「あー、聞こえちゃいましたか」

「なんで話してくれなかったの!俺というものがありながら!」

「言ったらお前、壁殴るだろうが」

「なんだよもう!末永く爆発しろ!」

「あー、はいはい。ありがと」

「で、どっちから?」

と、長野は僕の隣の席のイスを引き寄せて座る。

「何がよ」

「告ったのに決まってるだろうが」

(ぺろぺろされてその流れでなんて言えない……)

少しくらい恥ずかしい思いもしてやるか。
221 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/02(日) 14:16:37.11 ID:TrsiDjjXo


「あー、お、俺から……」

「マジで?春海さんマジ勇者っすね」

「そうそう。前から狙ってたから」

(これはまあ、ほんとだけどな)

「志乃ちゃんに友達紹介してって頼んでー」

「お前が言えよ」

「ねえー、たのんでー」

「だからなんで俺がー」

「だってあの子警戒心強そうじゃん。野良猫系?俺、話しかけていいの?」

「さあ?いいんじゃない?」

(いい子だけど少し変わってるからな……)

僕も始めはどう接していいかわからなかった。

「大体いつの間に仲良くなってんのー?ねえなんでなんでー?」

「俺にもわかんねえ……」

お互いテンションのギャップにため息をつく。
222 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/02(日) 14:17:54.88 ID:TrsiDjjXo


「なんかさ、春海枯れてない?」

「失礼だな」

「いや、マジでマジで。
 今日のお前には思春期特有のイカ臭いオーラがない」

「それは……」

「白濁色の波紋疾走!」

と、僕に拳をぶつける。

「痛いって。なんだよ白濁って。汚いな」

「ほらー、枯れてるー。なんなの?抜きすぎたの?」

「いやぁ、そんなことはございませんけど」

(それだ!絶対それだ!)

ここでチャイムが鳴った。

「ま、考えといてよ。紹介の件」

そう言って長野は席に戻った。
223 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/02(日) 14:19:33.76 ID:TrsiDjjXo


―――――昼休み―――――

志乃は女友達の島で質問攻めに遭っている。

(なんだあのテンションは……通過儀礼なのか)

長野と向き合うように机を寄せ、鞄から弁当を出す。

「珍しいな、弁当?」

「うん、まあ」

「志乃ちゃん作?」

僕は何も言わなかったが、にやけていたのだろう。

「乙女なんだなー」

長野は意外そうに感心していた。

(志乃、可愛いけど喋ると残念だからな……慣れたけど)

わくわくしながら蓋を開ける。
口では素っ気なく受け取ってしまったけど、実はめちゃくちゃ嬉しかったんだぜ。

「へー、いいもん入れてくれてるじゃん」

「あ……ああ……」

(ひじきの混ぜごはんに山芋とれんこんの天ぷら……
 かぼちゃの煮物にほうれん草の入った卵焼き……
 あと肉と玉葱を合わせて炒めたやつか……)

なんだこの精のつきそうなラインナップは。
224 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/02(日) 14:21:01.69 ID:TrsiDjjXo
10

(やっぱりあいつはアサシンだ)

(これ以上搾り取ってどうする気だ……)

(もう十分回復しただろ)

(え?じゃあ何?俺、おやつ感覚?)

(何が悔しいって美味いのが……)

(ああ……ごはんがごはんがススム君……)

複雑な気分だった。
精力に特化していなければ素直に喜べたはずだ。

(ヤバい。もうヤバいなんてもんじゃない。まじヤバい。
 志乃の弁当ヤバい。志乃の弁当で俺の精巣がヤバい)

「なんだよ、もっとのろけると思ったのに」

「いや、幸せすぎてなんだか怖いわ」

そうだ。僕は間違いなく幸せだ。

(なのに、何だ。この喪失感は)

「やー、ほんとうらやましいわ。
 性欲をもてあますこともなくなったわけだし」

「それだ」

僕は気づいてしまった。

「え?」

「――あ、いや何でもない」
225 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/02(日) 14:22:43.35 ID:TrsiDjjXo
11

僕は気づいてしまったのだ。



(そーいやオナニーしてねえわ)



ズボンのポケットで、携帯が震えた。

「悪い、なんか着た」

「なに、好きって?」

「ないない」

携帯を開く。お義姉さんからのメールだった。

――帰りに、事務所に寄ってちょうだい。

どうやら仕事が来たらしい。

「メルマガだった」

僕の口は、つるりと嘘をついていた。

「つまんね」

これで良かったのだと思う。
バイト先からとはいえ、簡単に説明できる業務内容じゃないのだ。
226 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/10/02(日) 14:25:43.40 ID:TrsiDjjXo
今日はここまでです。

目安にしてあと4分の3。
がんばります。
227 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/02(日) 14:31:45.04 ID:sNJBZAdZo
乙です。
テンポが回復しているね。これは続きが楽しみ
228 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/02(日) 17:01:02.07 ID:VhDU3XFSO
229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/02(日) 17:28:14.55 ID:fqQNN0wHo
乙ですた
230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/02(日) 21:32:40.98 ID:804rwZJIO
童貞は取り戻せないぞ……
231 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/03(月) 06:46:33.14 ID:Tx4W0oTZo
12

―――――放課後・ナオミの部屋―――――

今日のお義姉さんはざっくりした網目のサマーセーターに細身のジーパンをはいていた。
大ぶりなペンダントトップが胸の前で揺れている。

「今日のテーマはさばけたいい女ですか」

この人にはファッションの好みなどないのかもしれない。
何を着ていても舞台衣装にしか見えないのだ。

「あら、わかる?」

ふふふ、と艶めかしく笑いながら、僕らにお茶を出してくれた。

志乃は僕の隣で、緊張した面もちで身を固くして座っていた。

「あなた達を呼んだのは、わかってるわね?」

「呪われた人、来たの?」

「そう。仕事よ」
232 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/03(月) 06:47:55.40 ID:Tx4W0oTZo
13

お義姉さんは男の写真をテーブルに並べる。

「――20歳男性。県内の大学に通う学生で、家族構成は両親と高校生の妹が一人――」

造作はいいのだろうが、どうにも締まりのない顔だ。
会ったこともないのに不愉快だと直感した。

「チャラそうっすね」

自分の中で、仕事を勝手に深刻にしたくなくて茶々を入れる。

「そのとおりだったわ」

「この人、なんで呪われてるんだろ」

「あなた達にはその解明を手伝ってもらうの」

「俺達に、できるんでしょうか」

「大丈夫よ。私がついてる。それに――
 人の心に関してはあなた達の方が得意なはずよ」

お義姉さんは口元だけで笑った。
どこか自嘲気味に見えた。
233 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/03(月) 06:49:21.95 ID:Tx4W0oTZo
14

「買い被りすぎですよ」

「そんなことないわよ。妹の進化に介入したくせに」

「あっ、でも私、今の自分イヤじゃないよ!」

「前向きね、妹。なんて健気なの」

お義姉さんは勝手に感動している。

「それに比べてこの義弟ときたら、やる前からうじうじと――」

「そりゃ心配にもなりますって。手順はどうなってるんですか?」

僕は鞄からペンとメモを出した。
仕事を教わるときはメモを取れと、両親ともにしつこく言っていた。
僕もそうした方がいいと思ったのでそうする。

「まず対象に接触します」

「いきなりハードル高すぎますよ」

手からボールペンが落ちて転がり、志乃の膝に落ちた。

「そのための変装じゃない」

志乃が拾って僕に渡す。

「あなたの変装は目立ちすぎるんですよ」

公園のベンチに座る、ビッチな格好のお義姉さんを思い出した。
234 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/03(月) 06:50:47.86 ID:Tx4W0oTZo
15

「あら、今回は簡単よ。だって彼、あなた達の学校のOBだもの」

「ああ、進路の――」

「さらにタイミングのいいことに、週末はオープンキャンパスよ」

「この人をだますの?」

志乃は気が進まないみたいだった。

「そうよ。でも、そうすることでこの男と呪ってる人間の命を救うことはできる」

(命を救うなんて、大それたことを)

「呪いは、人を殺しますか」

「ええ、程度が強ければ。失敗すれば呪いは術者に返る。
 結末は……同じね。そうなる人間が違うだけよ」

「余計に危険じゃないですか」

「だから私がいるのよ」

お義姉さんの態度は、どこまでも不敵だった。
235 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/03(月) 06:52:03.75 ID:Tx4W0oTZo
16

「段取りは私がしておくから、あなた達は彼の妹に接触して」

「まさかその妹――」

「察しがいいわね。同じ学校に通ってる」

お義姉さんは機嫌良く、妹の写真を差し出した。
少し気の弱そうな、でも頭の良さそうな子だった。

「この写真、どこで――」

「そこは人外の能力を有効活用よ」

――私はどこにでもいるし、どこにだって現れるわ。

「ああ、不法侵入」

「失礼ね。超法規的措置じゃない」

「俺の部屋に入ったのはいいんですか」

「私の法は私よ」

「あんたって人は……」

でも僕は、この人が嫌いではなかった。
236 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/03(月) 06:53:53.95 ID:Tx4W0oTZo
17

―――――帰り道―――――

僕と志乃はナオミの部屋を後にした。

「お弁当箱かえして」

しばらく歩いたところで、志乃は僕に手を差し出した。

「すまん、忘れてた」

鞄から、軽くなった弁当箱を出して渡した。

「ありがとな。美味かった」

本心だった。

「ほんと?」

志乃は「やった」と軽くガッツポーズをした。

「何が好き?今度つくってみる」

「今度は精力に関係なさそうなのがいいなぁ」

僕は昼から決意していた。

「志乃、しばらく精子は禁止だ」

許せ志乃。愛してるぞ志乃。

「えっ……」

志乃の顔から表情がぬけ落ちた。
かわいそうだが、僕の決意は堅い。
237 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/03(月) 06:55:22.51 ID:Tx4W0oTZo
18

「恥ずかしながら、俺はお前に抜かれ続けてここ数日一人でできてません」

「……あたし、下手かな」

彼女は悲しそうな、寂しそうな顔になった。

「そんなことはない。めちゃくちゃ気持ちいいし、毎日だってお願いしたい」

「じゃあいいじゃん。win-winで良好じゃん」

彼女の顔に少し苛立ちが混じってきた。

「そうだな、win-winだな。だが俺のtin-tinはおやつじゃないんだ」

「う」

「それにお前、吸いすぎじゃないか。節制しなさい」

「もったいないよぅ……」

「無期限じゃないんだから、泣きそうな顔するなよ」
238 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/03(月) 06:56:34.23 ID:Tx4W0oTZo
19

志乃の歩調が重くなる。落ち込んでいるらしい。

「じゃあ、朝ちゅっちゅするのも禁止?」

彼女は上目遣いに僕を見た。

「いや、それはしよう」

「基準がわかんない」

この気持ちがわからないのは、志乃が女だからかヴァンプだからか……。
どっちだろうなぁ。

「志乃、俺は童貞だ」

志乃は吹き出した。顔が赤くなっている。

「いきなり何を――」

「だから正直、ここ数日の展開をラッキーと思ってる一方で戸惑っています。
 ここまではわかるな?」

「うん」

「俺も心を落ち着けたいんだ」

「その手段が、その……」

志乃は口ごもりながら下を向いた。
239 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/03(月) 06:58:11.00 ID:Tx4W0oTZo
20

彼女も何も知らない訳じゃない。
言葉は知ってるが口にはできないのだろう。

「そういう気分で抜くときはね、誰にも邪魔されず、
 自由で、なんというか救われてなきゃあダメなんだ。
 独りで静かで豊かで……」

「なに、哲学?」

彼女の好奇心のスイッチを押したようだ。

「終わったときは悟りが開けそうだな。落ち着きすぎて」

「そっか」

とりあえず、納得してくれたようだ。

「ずっとダメって訳じゃないんだから、落ち込むなよ」

「わかった」

「わかってくれたか」

「うん。……でも、おかずに使うのは私だけにしてほしいな」

今度は僕が面食らった。

「お、お前な……」

(そりゃもう、ここ数日の思い出を胸に、ガンガン使わせてもらう気でいましたけど)

「だって妬いちゃいそうなんだもん」

志乃はそう言いながら照れて笑った。

240 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/03(月) 07:03:12.64 ID:Tx4W0oTZo
>>227-230
乙ありがとうです。

今回は事件があるので割とさくさくいきそうです。

失った『童貞』は戻ってこない……。
僕たちはその『先』にいかなければ。
241 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/03(月) 07:17:34.65 ID:CqF3ccVDO
乙!!

失ってもそれを新たなる糧として進むしかないのだよ
我々は(キリッ
242 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/03(月) 14:32:39.67 ID:khrYJJpSO
俺のtin-tinはおやつじゃない

上手いこというじゃないか
243 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/10/03(月) 19:39:00.09 ID:0GWq4OVbo
tin-tinワロタ
244 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/04(火) 20:39:47.70 ID:uluUeSrco
[田島「チ○コ破裂するっ!」]に真面目すぎ
孤独グルメワロタ
245 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/05(水) 06:50:45.55 ID:yFBy1hN9o
21

―――――火曜日・朝・非常階段―――――

昨日、人とニアミスしたにも関わらず、僕らは相変わらずここで乳繰り合っていた。

(我ながら懲りないな)

志乃は僕の隣に座って、体を寄せている。
朝の風がひんやりして気持ちいい。
彼女がくっついている体の側面は温かい。

「あの子、どうやって近づけばいいんだろ」

「ああ、あの男の妹か」

「学年同じとは聞いたけど、フロアが違うからなー」

「ほんと、下の階と交流ないよね」

二人で長く息を吐いた。

「下に行く用事ある?」

「ないな」

「ですよねー」

志乃は僕の手を取って、手のひらを揉んでいる。
246 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/05(水) 06:52:23.30 ID:yFBy1hN9o
22

「何してんの」

「手持ち無沙汰ー」

「気分悪くなったりしてないか?」

「んー、平気」

何か考えているようだ。

「あのね、話すようになったきっかけ覚えてる?」

彼女の言わんとしていることがわかった。
僕は、ある日の暗い夕方、変質者につきまとわれる彼女を助けた。

――ねえ、私、つけられてる。助けて。
  しばらく話しながら一緒に歩いてくれるだけでいい。

怯えながらも毅然としていた。
このとき僕は、彼女を勇気があるとは思わなかったけど、腹の据わった女だと思った。

「あの日の再現か」

「気が進まないんだけどね、気を許してもらうには、助けてあげるのが近道かなって」

芝居とはいえ、相手を怖がらせてしまうことに変わりはない。
247 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/05(水) 06:54:25.86 ID:yFBy1hN9o
23

「尾行は誰が?」

「おねーさんでいいと思う。つけられる感覚って、相手がわからなくてもわかるから」

どうか比較的まともな格好でお願いしたい。

「それなら安全か……でも」

「なんか悪いよね……」

「そうだな」

僕は彼女の肩を抱いた。

「わ」

口でフォローしても、彼女の罪悪感は拭えないと思った。

「な、なに?」

「お前は悪くないよ」

彼女の後ろめたさが払拭されるのは、きっとこの事件が無事解決する瞬間だ。
それまではモヤモヤするんだろう。それは僕も同じだ。

「俺もそうしようって決めたんだから、お前だけが悪いって思わないでいいよ」

彼女からは、叱られたように力が抜けていた。
248 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/05(水) 06:56:08.85 ID:yFBy1hN9o
24

「共犯――んっ」

乱暴にキスをして黙らせる。
彼女が何度か僕の胸を叩いたけど、無視した。

「ぷはっ……だめだって――」

「だめじゃない」

「やめてよぅ……」

彼女は眉根を寄せて抗議する。僕はそれも無視する。

「お前がごちゃごちゃ悩んでるうちはやめない」

指で唇をこじ開けて舌を入れる。
肩を抱いたまま、もう一方の手で背中を撫でると、彼女は身を任せてくれた。
微かに喘ぎながら僕の舌を吸う。
彼女は僕のシャツの胸のあたりを掴んでいた。

「皺になるから放しなさい」

力が入らないらしく、目が半分も開いていない。
しどけなく開いた唇が濡れて光っている。

「どこ持ったらいいの」

「腕、回したら?」

「ん」

と、彼女が僕の首に腕を伸ばそうとした瞬間、下の方で扉が開いた。
二人で硬直する。

また、昨日と同じように煙草の煙がのぼってくる。
志乃は下の方を指さした。

(昨日の奴か……)

僕は校舎に戻る扉を開けた。
249 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/05(水) 06:58:55.34 ID:yFBy1hN9o
25

―――――放課後・依頼人の妹の通学路―――――

昼休憩に、お義姉さんにあの子をつけてほしいと頼んだ。

――相手に尾行されていると気付かれてほしいんです。

――あら、それは難しいわ。逆なら簡単なんだけど。

俺に勘付かれたでしょうが、という無慈悲なツッコミは胸にしまって、
僕は今、志乃と対象の待ち伏せポイントに来ています。

駅前のファーストフード店の、窓際の席を陣取って既に1時間。
そろそろ他の客に悪い気がしてくる。

「待ち伏せって、ここに来る訳じゃないよな」

「近くには来るんだろうけど――よくわかんない」

「追い込むったって、相手のパターンがわからないと難しいよなぁ」

「……」

彼女はやや上を向いて黙った。

「――あ、おねーさん。
 ――うん……うん。
 ――りょーかい。接触しまーす」

「受信したのか」

「うん。行ってくる。待ってて」

「大丈夫か、一人で」

「女同士の方がいいこともあるでしょ」

そう言う志乃の口調は、お義姉さんのものに似ていた。
250 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/05(水) 07:01:27.27 ID:yFBy1hN9o
26

単語帳を繰る振りをしながら志乃を目で追う。

――周りを省みず、飲食店で勉強してるバカップルの設定でいきましょう。

(大体待ち伏せに設定なんか要らんだろ……)

携帯でもいじってた方が、ずっと自然だと思う。

(まあ、そういう設定だしな)

彼女は待ち合わせスポットでもある、駅前の噴水のベンチに腰掛けている。
少しして、また上を見つめながら口を動かすと立ち上がった。

(お、来るか)

志乃が動いた。

人通りは少ない。
行き先の決まってなさそうな、少しずつ振り返りながら歩く同じ制服の女子。
251 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/05(水) 07:02:53.42 ID:yFBy1hN9o
27

(あれか)

志乃が手を挙げて親しげに話しかける。あの子は戸惑っている。
志乃を無視しようか、頼ろうか迷っているらしい。

何度か言葉を交わして、志乃は彼女を連れて戻ってきた。

僕は机に目を落とし、頬杖をついて問題がわからないポーズを取る。
外から窓が軽くノックされる。
志乃が小さく手招きをする。
気の毒な妹は、帰りたくて仕方ないように見える。
僕はテーブルを片付けて席を立った。

「春海ー、女の子拾ったったーwww」

志乃は極力バカっぽく楽しそうに言った。

「おまえなー」

「だって様子が普通じゃなかったんだもん。ねー?」

志乃はなれなれしく話を振る。

彼女は申し訳なさそうに「いえ、すみません」と下を向いた。

(詫びるのは僕らの方なんだけどな……)
252 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [sage]:2011/10/05(水) 08:39:31.14 ID:yFBy1hN9o
>>241-244

大丈夫、彼はできる子だとおもいます。

やったーヽ(・∀・)ノ
横文字が気軽に使えるのが横書きのいいところですよね。
孤独のグルメはたまに読み返してます。
おっさんが一人飯をするだけなのに面白いですよね。

ひたむきな人はかっこいいです。
253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/05(水) 11:12:07.37 ID:dw6ITfFDO
乙!!

乱暴なキスで黙らせる・・・
良いねぇ〜、好きなシチュエーションだ
254 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/06(木) 00:21:54.28 ID:grjbdbLEo

28

「ねー、お腹すいたー。どっか入ろー。お茶しよー」

志乃は加速する。
このまま煙に巻いて主導権を握るつもりらしい。

「って言ってるけど……一緒にどう?」

ささやかに援護する。

「でも――」

「じゃ、警察行く?」

「えっと、そこまでは――」

対処としては正しいが、相手がはっきりわからないのに助けを求めるのは気後れするのかもしれない。
彼女は口ごもった。

「いいじゃん、いいじゃーん。高校一緒でしょ?ご縁だと思ってさー」

「でも邪魔しちゃ悪いし……」

と、僕を見た。
ここは解放してやった方が、本人は気が楽になるのかもしれないが、そうはいかないのだ。
255 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/06(木) 00:22:55.68 ID:grjbdbLEo
29

「俺は気にしないよ。それに、もし本当にやばい奴で何かあってからじゃマズイし」

(やばくもないし、何も起こらないんだけどね)

唇を噛む彼女を見て、やっぱりすまない気持ちになった。

「さ、行こ行こ」

志乃は適当な店に目をつけ、「ほーら期間限定だよー」といいながら彼女の手を引いた。

兄に向けられた呪いのとばっちりを受けた妹は、もう遠慮も抵抗もしないように見えた。
256 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/06(木) 00:24:18.37 ID:grjbdbLEo
30

―――――喫茶店・店内―――――

(さて、対象に接触したはいいけど、ここからどうするよ)

志乃はさっさと、生クリームの乗った一番甘そうな飲み物を注文してしまった。
僕はとっさに、メニューの一番上にあったコーヒーを頼んだ。彼女もそうした。

「あ、あの」

彼女が切り出す。

「ありがとう。正直なところ、やっぱり怖かったから」

「うううん。いいんだよぅ。あたし志乃。これ春海」

「これ」はないよなぁ……。

「佐伯です」

「下の名前はー?」

志乃はどこまでも気安い。

「朋美」

「へー。トモちゃん」

(同性相手なら社交的になれるのか……。無理してないよな?)

「校章同じ色だから同級生か」

志乃にばかり喋らせていても良くないかと、当たり障りのないことを言った。
257 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/06(木) 00:25:28.47 ID:grjbdbLEo
31

「あ、ほんとだ」

「会ったことないよね。違う階?」

佐伯さんは、やっと自分から話してくれた。
ここで、飲み物が来る。
これで間がもつと思うとほっとした。
黙っているのも気まずいが、僕が出しゃばっても変だ。

(おおぅ、よく喋るな……)

「あたし達2組」

「私は7組」

「あー、どーりで会わないわけだ」

「うんうん」

僕は二人の会話を注意深く聞きながら、適当に相槌を打つ。
聞き込みで得られる情報なんて雑多なもので、まともなものは1割あれば上等だ。
……と、お義姉さんが言っていた。
258 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/06(木) 00:26:48.58 ID:grjbdbLEo
32

「へー、二人はつきあってるんだ」

(……まあ、初対面の子が無難にのっかれそうな話はこれくらいだよなぁ)

二人揃ってるときに言われると気恥ずかしい。
少し顔がゆるんでしまったかもしれない。
志乃は「うふーん」とニヤニヤしている。

「彼氏さんいい人そうだよね。いいなー」

「春海は私のおててがこんなだから、お世話してくれてるんだ」

と、包帯でぐるぐる巻きの両手を佐伯さんに見せつける。

(ほんとは完治してるんだけどな)

「そうそう。健気でしょ、俺」

いい加減に調子を合わせつつ、コーヒーに砂糖とミルクを入れるて混ぜる。

(俺の笑い方、不自然じゃなきゃいいけど)

「トモちゃんは彼氏いないのー?」

「いないいない。なんか男に夢が持てなくてさ」

と、佐伯さんは顔の前で手を振った。
ここからだ、と思った。
259 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/06(木) 00:28:15.68 ID:grjbdbLEo
33

「なんでー?美人なのに。もったいないよー」

「美人とかwwないからwww」

「そうかなー」


「そうだよ」

と、志乃はスプーンで生クリームをずぶずぶと液体に沈める。

「まあ、日常的にダメ男見てるからね」

「ん?知り合い?兄弟とか?」

「そうそう。兄貴がね。もう反吐が出るわ」

(一気に核心に近づいたな。油断ならん)

僕は聞くことに専念する。
佐伯さんはブラックのままのコーヒーにスプーンを入れて回している。

「お兄さんそんなひどいの?」

「もー、あんなのが兄貴だなんて思いたくない。
 彼女がコロコロ変わるだけならまだしも、浮気しまくりだよ。ひどくない?」

「それはひどい」

僕はカップを口に運びながら、無言で二度うなずいた。
260 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/06(木) 00:30:23.16 ID:grjbdbLEo
34

「一人暮らしのはずなのに、しょっちゅう女の人と揉めて家に逃げ帰ってくるしさ。
 じゃあ、そもそも揉めるなっつうの」

「うわー。とばっちり受けそう……」

「受けそう、じゃなくて受けたことあるんだよね。
 なんか家の前で待ってた元カノに叩かれたし」

彼女は湯気の立たなくなったコーヒーを一息に飲み下し、不味そうな顔をした。

「うわぁ……」

ここまで軽妙なトークを繰り広げていた志乃も、さすがに沈黙した。

(男でごめんなさい)

僕は全く関係ないし、ちっとも悪くないのに、そう思った。

(呪われる原因は女性問題か……)

そりゃ恨まれるだろうよ。
動機はわかったが、呪ってる人物を絞るとなると骨が折れそうだ。
261 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/06(木) 00:31:55.19 ID:grjbdbLEo
35

事情は志乃が一通り聞き出してくれたが、聞けば聞くほどひどかった。
佐伯さんは喋ってすっきりしたようで、強引に引き留めたにも関わらず礼まで言われた。

「そろそろお母さんが仕事終わるから、適当に合流して帰るよ。
 今日は助けてくれてありがと」

彼女はすっきりした顔で

「学校同じだし、また会うかも。そんときはよろしく」

と言って改札をくぐった。

僕たちは彼女を見送って、取り残されたような気分になった。

「これで動機はわかったな」

「うん……」

志乃は浮かない顔をしていた。

「まあ、恨み買って当然だよな」

志乃は僕の隣にきて、手を繋いだ。

「死ねばいいのにって思っちゃった」

「お、自己嫌悪しているな」

「そりゃするよ……」

彼女はため息をつきながらうなだれた。
262 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/06(木) 00:33:12.18 ID:grjbdbLEo
36

「人を助けるって言っても、その人が善人とは限らないよ」

「わかってはいたんだけど、そんな奴のために動いてるのかと思うとね」

「佐伯さんにも要らぬ火の粉がかかってるしな」

「うん……あの子、何も悪いことしてないのに」

志乃は手を繋いだまま、僕の指の関節をぐりぐりする。

「あんな奴ほっときたいよ。どうせ同じこと繰り返すんだよ」

「だろうな」

志乃はまだ何か言いたそうにしていたけど、改札の時計を見てやめたみたいだった。

「帰りたくない」

僕だって、今の志乃を一人で帰すのは心配だ。

「つらかったら電話しろよ」

「何話していいかわかんない」

「何でもいいんだよ。佐伯さんだって、きちっと順序立てて話してなかっただろ」

「うん……」

「吐き出すっていう行為そのものが、すっきりできるんじゃないか」

彼女は納得したようなしてないような素振りで、「ふうん」と声を漏らした。
263 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/10/06(木) 00:36:22.39 ID:grjbdbLEo
>>253
乙ありがとうですヽ(・∀・)ノ
書いてて多少の気恥ずかしさは禁じ得ませんでした。

今日はここまで。
今回は分量多くなりそうです。
連休中に仕上げるぞー。
おー。
264 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/06(木) 00:46:27.82 ID:UOnZ+AODO
乙!!
サブタイの意味も含めて楽しみに待ってるよぉ〜
265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/06(木) 00:48:27.92 ID:daeS2l+Bo
乙乙
主人公がイケメンすぎて生きるのが辛い
リア充爆発しろ!!!!!!1111
266 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/06(木) 05:55:19.40 ID:b3s4uEMyo
志乃がかわいすぎてヤバい
267 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/06(木) 18:26:21.09 ID:izuwberKo
乙!
しかし志乃が可愛いなぁ
268 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/07(金) 01:05:35.31 ID:+lvtiZHxo
37

「帰ろ」

「大丈夫か」

僕が彼女を心配しているようで、たぶん僕だってこのまま帰るのは嫌なんだと思う。
このまま煮えきらない気分を持ち帰りたくはない。

「……うん。そのかわり、明日はいっぱいいちゃいちゃする」

(いっぱいか……)

下半身がぴくりと反応した。
僕はまだ元気だと思った。
269 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/07(金) 01:07:37.74 ID:+lvtiZHxo
38

―――――水曜日・朝・非常階段―――――

二日連続で人とニアミスしておいて、学習しないのか、僕らはまた非常階段でちゅっちゅしていた。
三日目ともなると、半分は意地である。

志乃が僕の腿に触る。
僕はそのままにしておくが、その手が上がってきたところで邪魔をする。

「うぅ、まだだめ?」

「まだ二日目だろ」

「口寂しい」

「ガム感覚で言うなよ」

(そろそろかな……)

テンションが上がった(性的な意味で)ところで、ふと思い出す。

「志乃、ちょっと待った」

「なに?」

「来る」

ちょうど、下の方で扉が開いた。
靴底が金属の板でできた踊り場を叩く音がする。
息を潜める。

(人の逢瀬を邪魔するなんて無粋だ)

鞄を探る音。
ライターのスイッチを何度か押して――着火。

(エッチなのはいけないが、俺がエッチなのを邪魔するのはもっといけない)

そして、わずかに匂う煙。
270 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/07(金) 01:09:56.34 ID:+lvtiZHxo
39

(ぬうぅ……!)

僕は怒っていた。

(至福のときを邪魔しおって……!)

(大体未成年が煙草なんていけません!)

「――注意してくる」

「え、ちょっと」

志乃が僕を止めようとしたが、僕は怒っているのだ。
僕は彼女の耳に口を寄せた。

「ハーネスによって速くなる馬もいる。今、俺を走らせるのは……エロスだ」

彼女は口を開けて固まった。
僕は足音を殺して階段を降りる。

(SWATの気分だな。「クリア!」みたいな)

相手が僕に気づきそうになったが、僕が手を出す方が速かった。

「いった……!はなせよ!」

「だっ、ダメじゃないかー!喫煙はダメじゃないかー!」

かっこよく決めるつもりだったが、現実は甘くない。
271 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/07(金) 01:11:03.32 ID:+lvtiZHxo
40

「吸ってないし!燃やしただけだって!よく見てよ!」

ここで初めて、僕は相手が佐伯さんだと認識した。

「あ……」

「もう。嫌なとこ見られちゃったなぁ」

彼女はここで、手を掴んだのが僕だとわかったらしい。
ばつが悪そうに頭をかいている。

「……あ、その、すいませんでした」

怒りも劣情も海綿体も萎えてしまって、僕は謝っていた。

「あ!トモちゃん!煙草はいかんよ、煙草は!」

志乃が階段を降りてくる。
さっきの僕と同じ調子だ。

(人の話聞いてないな……)

「未成年でしょ!ポイしなさい。黙っててあげるから!」

志乃が佐伯さんに食ってかかる。

「志乃、佐伯さん吸ってない。吸ってないから」

「なに、じゃあ何でこんなもん持ってるの?」

志乃は忌々しげに、足下で潰れた煙草の箱を見る。

佐伯さんも同じように、視線を落とした。

「嫌がらせでね……」
272 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/07(金) 01:12:01.61 ID:+lvtiZHxo
41

佐伯さんは手の中でライターを弄びながら話し始めた。

「あいつ、いつも金ないって言ってるくせに、煙草だけはしっかり買ってんの」

(壁紙がヤニで染まってそうだな)

「帰ってきたとき、家の中でも吸うもんだから、なんか常に煙たいような気がして」

「吸わない人にはきついな……」

「顔見るだけでも嫌なのに、あいつがいないときでも匂いが残ってるの」

(復讐とまではいかなくても、何らかの形で憂さは晴らしたくなるだろうな)

「こんなことしても、何にもならないことくらいわかってる。
 ただ、あいつが嫌な目に遭えば少しはすっきりするかなって」

「だってさ。志乃、わかったか?」

志乃の顔には、ほんの少し険が残っている。

「ねえ、トモちゃん。お兄さんを殺したいって思ったことある?」

「お前、なにを急に――」
273 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/07(金) 01:12:55.58 ID:+lvtiZHxo
42

デリカシーもなにもあったもんじゃない。
単刀直入にもほどがある。

「お兄さんを呪ってますか?」ってことだろ。
「犯人はあなたですか?」って聞いて、そう自白する奴なんていない。

「昔は、何度か思ったけど……。
 でも今は、嫌いなだけ。死んでほしいとも思わない」

「ただ、関わりたくない」と彼女は締めた。

関わりたくないと言う割に、嫌がらせするのは矛盾してるけど、この程度なら不自然じゃない。

「トモちゃん、ここで燃やすのはやめようよ。
 見つかったら言い訳できないし、何より火事がこわい」

「そうかな」

「そうだよ。そんなチマチマしたせこいのなんてやめてさ、
 家の庭に煙草と灰皿放り出して、盛大に燃やしちゃえばいいんだよ。
 もうちょっとしたら秋だし、落ち葉でよく燃えるよ」
274 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/07(金) 01:13:35.03 ID:+lvtiZHxo
43

「あなた、変わってる」

佐伯さんが何を考えているか、表情からは読みとれない。

「ふふふん。よく言われます。
 でも、そんな屈折した嫌がらせ思いつくトモちゃんも変わってるよ」

佐伯さんは、くっと笑った。

「まだ時間あるね……。捨ててくるわ」

彼女は鞄を持って、去っていった。
275 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/07(金) 01:14:35.50 ID:+lvtiZHxo
44

佐伯さんが見えなくなると、僕達は一気に息を吐いた。

「きっ……緊張した……」

「あんたがいきなり降りてくから、どうしようかと思った」

「佐伯さん、不良じゃなくてよかったな」

「でも、単純に悪ぶってるより深刻じゃないかな」

「あれだって、一応攻撃性の発露だしなぁ……」

「うん……あんなことしようって考えて、実行しようって判断して、
 実際にやっちゃう精神状態ってことでしょ。やっぱり心配だよ」

「普通、兄貴がああだったら嫌がらせの前に口か手が出るだろうしな」

「特別気が弱いわけでもなさそうだしね……。
 そうなる環境だか何だかがあるんだよね、きっと」

「そうかもな。でも、そうじゃないかもしれない」

僕は半分、彼女が何らかの抑圧を受けてストレートに怒りをぶつけられないんだと確信していた。
276 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/07(金) 01:15:31.55 ID:+lvtiZHxo
45

志乃は頭を僕の肩に擦り寄せた。
例の花の匂いはしない。

「続きしたいけど、気が抜けちゃった」

「俺はその、続きしたいの一言でがんばれる気がするが」

「うわー、ヘンタイだー」

志乃は階段を駆け上がった。

「そうだ。今日のおべんと。食べて」

元いた場所に起きっぱなしの鞄から、包みを出して僕に渡す。

「よく起きて作れるな。サンキュー」

志乃は、僕が鞄に弁当をしまうのを見ながらそわそわしていた。

「なんだよ」

「べーつにー」

「何か悪いことを考えてるな」

「そんなことはない。帰り、覚えといてよ」

――そのかわり、明日はいっぱいいちゃいちゃする。

「覚えてるよ!覚えてるとも!予告ニャンニャン!」

(ああ……ニャンニャンは我ながらキモいわ……)

言ったそばから一人で反省する。
志乃はうなだれる僕の隙をついて一瞬だけ唇を合わせると

「うわー、ヘンタイだー」

とはやし立てるように言って教室に走っていった。
277 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [sage]:2011/10/07(金) 01:23:25.21 ID:+lvtiZHxo
今日はここまで。

>>264-267
ありがとうヽ(・∀・)ノありがとう

ここで承がおわったくらいかと思います。
後半がんばります。

主人公はイケメン設定ではありませんが心はちょっと駄目なイケメンだと思います。
ちなみに爆発はしません。
[田島「チ○コ破裂するっ!」]はしますが。

これはひたすら志乃とちゅっちゅしてたまに事件を解決するラブコメになったので、
ヒロインをほめてもらえるのは凄く嬉しいですね。

引き続き、よろしくお願いします。
278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/07(金) 07:15:09.12 ID:stYQuInDO
乙!!
ここまででまだ起承転結の承だと?


このあとどんだけイチャコラするのかたのしみじゃないか( ̄ー ̄)
279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/07(金) 07:52:05.42 ID:Rf4JoUaSO
280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/07(金) 21:51:30.20 ID:7J56LUKIo
乙!
二人にイチャコラされるとこっちも元気になるな!(勿論股間が)
281 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/09(日) 23:30:47.66 ID:cagUJSlHo
46

―――――放課後・志乃の部屋―――――

彼女は鞄を机の上に置いて、ベッドにうつぶせに倒れ込んだ。
僕はどうしていいかわからないので、机の上を見る。
彼女のノートパソコンのすぐ横に、数日前に買った丸いサボテンがあった。

(結構いいとこに陣取ってるな)

鉢には不透性のマーカーで「サボ子」と書いてある。
ネーミングセンスはともかく、気に入ってくれてるらしい。

志乃が頭を動かして、部屋の真ん中で突っ立っている僕を見た。
寝返りを打ってベッドの真ん中から壁際へ寄る。
そして半分開いたスペースを、ぽんぽんと叩いた。

ぽんぽん。

(来いってか)
282 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/09(日) 23:32:09.78 ID:cagUJSlHo
47

「来て」

僕はおとなしく彼女の横に寝そべった。

「今日は妙に素直じゃないか」

志乃はまた寝返りを打って、僕と向き合うように体の向きを変えた。

(あれ、無視か)



「抱いて」



絶句した。
その一言が僕の理性を蹂躙する。
自制心だか思考回路だか、そんなものは一瞬で振り切れた。

僕はあまり自慢じゃない瞬発力をフルに発揮して、
彼女が声を上げる間もなく、その体を抱きすくめて口を吸っていた。

驚いたのか、志乃は僕の下でもがくけど僕はお構いなしに彼女の口内を犯す。

283 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/09(日) 23:33:26.92 ID:cagUJSlHo
48

しばらくそうしたところで、僕の理性が申し訳なさそうに帰ってくる。

(おかしいな、暴れないなんて)

さすがにまずかったかと、一旦体を離してみる。
志乃は惚けた顔で荒く呼吸をしていた。
それに合わせて胸や腹が上下するのが制服越しにわかる。

(解禁したい……!でもまだ三日目……!)

僕はくだらない意地と戦っていた。

「志乃、お前、大丈夫か」

こんな状況でも、ここ数日彼女から花の香りがしない。
あれは、わずかな僕の経験則では「食欲」の合図みたいなものだった。

「腹減ってないか?」

勿論、この場合の彼女の養分は精液だ。

「……まだ……平気……」

あの香りを発することもできないくらい消耗しているのかもしれない。
もしそうなら、僕はまた馬鹿をやったことになる。

「大丈夫……疲れてるだけ」

彼女は半分だけ目を開いた。
「気持ちが、つかれてるだけ」と言い直して、また目を閉じた。
284 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/09(日) 23:34:33.94 ID:cagUJSlHo
49

よく見れば、確かに髪や肌はまだまだ異常に艶がある。

(ガソリン切れじゃないのは本当か……)

「びっくりした……」

「すまん、テンションが上がりすぎて」

「ばかばかー」

「俺はただ、エロいことがしたかったんだ」

「どストレートだなぁ」

「昨日から期待で胸(と股間)が膨らんでな」

(とりあえず「抱いて」の一言はおかずランキング殿堂入りだな)

「眠いからだっこしてっていうつもりだったのに」

「省略しすぎだろ、それは」

この場合、過失相殺が適用されるはずだ。
彼女は勝手に僕の腕を枕にすると、寝る準備に入ってしまった。

「志乃ー寝るなー」

「やだねむい」

285 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/09(日) 23:35:36.12 ID:cagUJSlHo
50

普段ならここらで引き下がるところだが、今日の僕はしつこかった。

「じゃあ寝てていいからいろいろと触らせてください」

「うわキモ」

志乃が目を開けた。蔑みが浮かんでいる。

(そのまま罵りながらしごいてくれないかな)

(いや、だめだ。俺から禁止を言い渡したのに早すぎる!却下!)

「そんなにしたい?」

僕が葛藤しているのを察したらしい。

「服や下着には手を入れないんで触らせてくださいお願いします」

我ながら必死だった。

「うっ……」

彼女は明らかに引いていた。

「嫌なら無理にとは言わない。お前が嫌ならしない」

「い、嫌じゃないけど……」
286 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/09(日) 23:36:40.43 ID:cagUJSlHo
51

彼女は下を向いた。
少しの間、何か考えてベッドから出ると、照明のひもを引っ張って電気を消した。
そのまま部屋の真ん中でごそごそする。
床に何か落ちる音がした。

「見られるの恥ずかしいから」

と言いながら戻ってくる。

「脱がさないのにー」

この部屋のカーテンはいくらか遮光する生地らしいが、これくらいなら目が慣れそうだ。

「気分の問題」

「えっ、いいの?ほんとにいいの?」

思わず声が弾んでしまう。
彼女が僕の手を探って、自分に触れさせる。

(この丸み、柔らかさ、弾力……!)

「ふへへ。解禁したったwwwww」

「俺、死んでもいいわ」

「感激しすぎだからww」

「……いや、やっぱ死ねない。
 俺はおっぱいの神様に恥じないように精一杯生きなければならない」
287 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/09(日) 23:37:51.07 ID:cagUJSlHo
52

「それじゃ私は寝るから」

「ああ、眠いんだったな」

指に少し力を込めると、志乃の肩がぴくっと震えた。

「ね、寝るんだからね!もう!ほんとだよ!」

「うんうん。おやすみ」

彼女は僕の顔を触って唇を探り当てるとキスをした。

「おやすみのちゅーしたし、もう寝るからね!寝たよ!」

(絶対起きてるな……)

(これ、触っていいってことだよな)

(だって解禁だもんな!解禁!)

寝たふりをしている相手にいろいろするのは張り合いがなさそうだけど気にしない。

やってきたチャンスは漏れなく掴む。
それが俺の流儀だ。

(張り切ったものの、どうしたらいいのかな)

僕は考えながら、しっかり手は動かす。

(うーん、片手じゃ収まらんじゃないか。志乃、立派に育って……)

お義姉さんに給料をもらったら、小さく見えるブラでも買ってやろう。
このおっぱいが型くずれするのはいけない。
それを見過ごすなんておっぱいへの冒涜だ。
288 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/09(日) 23:39:14.96 ID:cagUJSlHo
53

片腕が枕にされているので、使えるのはもう片方だけだ。

(俺はベストを尽くすぞ)

(こうなった以上、お言葉に甘えて全力で堪能する)

僕は女体の神様に宣誓した。

童貞らしく、どうしていいかわからない。
しかし、志乃には童貞宣言しているので、下手だとか初々しいとかそんなのは臆することもない。
ただ、丁寧に撫で回そうと思った。

とりあえず手のひらを這わせてみる。
志乃がびくっとなったようだけど、寝たと言うのだから寝相だろう。
そういうことにしといてやろう。

手が尻のあたりにきたところで、僕は気づく。

(志乃さん、ケツ出てますがな)

(いや、正確にはスカートがめくれてるだけなんだけど)

(これは一旦スカートを戻してやるべきだろうか)

(それともこのまま尻を包むパンツの生地の感触を楽しむべきだろうか)

(後者だろうな。誰だってそーする。俺もそーする)
289 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/09(日) 23:40:12.71 ID:cagUJSlHo
54

ついでに手を伸ばして太腿まで触っておく。
肉質は引き締まっているせいか少し硬いが、筋肉の弾力は健康的でいいと思った。
何よりその皮膚がすべすべで柔らかい。

半端な女より美脚な男はざらにいるが、こればかりは敵わないんじゃないかな。
そうであってほしい。

もう一度、尻に戻ってくる。
冷房がきいているとはいえ、布団をかぶっているせいか汗ばんできている。

(でも布団剥いだらおなか冷えるからな……)

僕は的外れかもしれない気遣いをしながら尻を撫で回す。

(うーん、案外いいものだなぁ)

(やっぱり丸いものは和むようにできてるんだな)

(うさぎとかハムスターとか丸いもん)

そんな造形に対する敬意が沸き上がってくる。
290 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/09(日) 23:42:25.14 ID:cagUJSlHo
55

こうしている間も、志乃は何度か体をよじろうとしたり、
声が出そうになっているけど、なんとか寝た振りをとおしている。

(変なところで意地っぱりだからなぁ)

このあたりになると、僕も開き直ったもので彼女を仰向けに転がして好き勝手に触りまくっていた。
枕にされている腕は、僕が動きやすいように二の腕に乗った志乃の頭を前腕に持ってきた。

電気を消した後で、志乃が床に落としたのはサラシだったのだろう。
そのへんに気遣いを感じた。
で、僕はその心遣いに感謝しながら乳首をつまんだり転がしたりして弄んでいた。

(うーん、服の上からこの感触はエロい……)

僕のファルスは始めから怒張しっぱなしで、もう痛いくらいだ。

291 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/09(日) 23:43:22.09 ID:cagUJSlHo
56

下着の、先端の当たっている部分が湿っている。

(もう帰ったら抜きまくる。明日も平日だけど手淫三昧ですよ)

ここで僕は、ふと思いつく。

(志乃はどうなってるんだろう)

僕の意識は彼女のプライベートな箇所でいっぱいである。
秘密の花園である。

(布の上からだからセーフだよな)

どこまで彼女が僕を野放しにするか、さながらチキンレースである。
僕は意を決して、彼女の下腹部に手をやった。

殴られてもいい。罵倒されてもいい。
それを目の前にして撤退するのは臆病者だ。

(その昔、えらい人は言いました。
 お金を失えば小さなものを失う。
 信頼を失えば大きなものを失う。
 勇気を失えばすべてをうしなう)

僕は開拓者精神に突き動かされていた。
292 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/09(日) 23:44:22.63 ID:cagUJSlHo
57

指の腹が彼女の秘所に当たる。
押しつけてみると、湿った音と一緒に湿った感触があった。
そのまま生地がぬるりと滑る。
僕は彼女が濡らしていることに感動した。

(なっ、なにこれ!なんかすごいんだけど!)

淫靡な感触に、思わず息を飲む。
そのまま動かそうとすると、彼女の手が僕の手を押さえた。

「……お、おはよう。よく眠れたかい?」

「……調子こきすぎ」

顔はよく見えないが、涙声だった。
彼女の負けず嫌いな性質につけこんで、いじめすぎたかもしれない。

「すいませんでした」

「もう。ばか」

「だけどとてもよいものでした」

「……」

「ぼくは、もっとしたいなぁとおもいました」

「お前もう帰れよ」

彼女はわざと粗野な口調で言った。
僕は満足しきっていたので、そんなところも可愛いなあ、と余裕丸だしで思いました。
293 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/09(日) 23:49:30.01 ID:cagUJSlHo
>>278-280
乙ありがとうです。

春海で「バカスwwwww」と笑って、
志乃で「エロカワユスwwwww」と萌えてもらえたら幸いです。

今回はここまで。
転の前半といったところでしょうか。
引き続きがんばります。
294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/10/09(日) 23:52:41.20 ID:Ek1GJXgio
乙!!

転の前半でこれほどの事をする・・・だと?
だとしたら、結末を迎える頃には・・・
295 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 02:18:22.15 ID:jy0tKgpqo
58

「志乃、まだ落ち込んでる?」

「わかんない」

本当はお手洗いを拝借して、一旦すっきりしたいところだけど我慢する。


(帰るまでは生殺しでいよう……)

「一緒に寝るか」

「……」

「警戒してるな」

「しない方がおかしい」

「俺は今、満ち足りています」

「ほう」

「だから志乃にも幸せを分けてやりたい」

「ほうほほう」

「ほら、今日はもう変なことしないからおいで」

「ほんと?」

「不安だったり納得いかないことがあるんだろ」

言うまでもなく、この事件の関係だ。

「少しの間くらい、誰にも気遣わずに眠った方がいい」

「……うん」

彼女は近くに置いていた携帯を拾って、何か操作している。

「なにしてんの」

「マナー解除とアラームセットしてるの。
 ファミリーと出くわしたらたいへんだ」

「おおう。そりゃたいへんだ」
296 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 02:19:58.66 ID:jy0tKgpqo
59

――――――――――

僕は目が冴えて仕方なかったが、志乃はよく眠れたようだった。
彼女が寝返りを打つものだから、途中から腕枕の意味はなくなったけど、
たぶん志乃には僕が一緒に布団に入っているのが大事なんだろうと思ったので、
元に戻したりせずに放っておいた。

「……ん」

「まだ寝てていいよ」

「うん……」

志乃は布団を頭までかぶってもぞもぞしたが、また顔を出した。

「ねえ、何か話そ」

「何の話?」

「どうでもいい話」

「そうだな。事件のことで頭いっぱいだったもんな」

「うん。たのしいこと考えたいんだけど、なんか悪い気がして」
297 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 02:21:02.98 ID:jy0tKgpqo
60

「佐伯さんに悪いって思ってるんだろ」

志乃は黙ったままうなずいた。

「あんな兄貴がいて、そのせいで苦労してる境遇は気の毒だと思うけど、
 彼女はまるっきり不幸じゃないと思うよ」

ちゃんと社交性があって、自分を持っていた。

「佐伯さんにも、ちゃんと楽しいことはあるよ」

「そうだよね」

「勝手に不幸だって決めつけたら、こっちまで幸せになっちゃいけないって思いこむ元になるぞ」

「それは、優しいのとは違うね」

「うん。だから志乃はいつもと同じでいいよ」

志乃はしばらく黙っていた。
何か考えているなら、そのままにしておこうと思った。

何か振り切るように僕に抱きつくと、

「ありがと」

と笑いながら言った。

――――――――――
298 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 02:22:40.71 ID:jy0tKgpqo
61

―――――土曜日・オープンキャンパス―――――

木曜・金曜にお義姉さんと段取りを打ち合わせした。
志乃はやっと抜糸して、包帯が取れて嬉しそうだ。

見学者の付き添いを装った僕と志乃で、大学を散策する。

制服を着ていれば親切にしてもらえるだろうから、
なるべく多くの関係者に接触せよ、とのことだった。
あの人はなんでも簡単に言う。

「大学って広いね。いっぱい建物がある」

志乃はきょろきょろしている。

「離れるなよ」

さすがに、ここではあまりくっつかない方がよさそうだ。

「ちゃんとついてきてー」

「お前が自由すぎるんだろ」

関係者に接触といっても、こんな広大な敷地から、こんな沢山の人から見つかるわけがない。
他校の生徒はもちろん、おそろいのTシャツは学生部だと判別できるとして、ほかの学生は私服だからわからない。

「どうしよ。もう誰が誰だか」

「確かにこんだけ人がいれば、出会い放題かもしれないな」

志乃が僕をにらむ。
299 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 02:24:24.19 ID:jy0tKgpqo
62

「ああ、そういうんじゃなくて、ほら、あいつは取っ替え引っ替えだから」

「ああ」

「そうするにも、そもそも替える相手が要るだろ。
 もちろんここだけじゃなくて、他大学と交流したり
 バイトとか合コンだってあるだろうしなぁ……
 出会おうと思えば出会えないこともないんだろ」

「うわぁ、めんどくさ」

志乃は露骨に嫌悪感を示した。
そうまでして不特定多数の女に手を出したいか、ということらしい。
まあ、僕だってごめんだ。

「困ったな。どうせ学内に元カノ多すぎ引いたwwwww
 とか言って笑い飛ばせると思ってたんだけど、その元カノすら特定できそうにないぞ」

「困りましたなぁ」

300 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 02:25:21.60 ID:jy0tKgpqo
63

志乃はいつの間にか、学生部が配布しているかき氷をもらっていた。

「そのへん座ってさ、作戦練ろうよ」

と、広場のベンチを指す。

「作戦……作戦ねぇ」

ハナからそんなものはないけど、志乃はやる気だ。
僕も具体的な策はないし、従うことにした。

「チャラい奴が集まるとこってどこだろ」

「どこだろうな」

(体育館裏……いや、それは一昔前の不良だ)

「そもそも今日は来てなかったりして」

彼女はさらりと恐ろしいことを言う。

「そうかなあ。大量の女子高生が来るとわかってるのに」

「となると、クラブ紹介やってるサークルとか……
 あー、それだと多すぎるしなぁ――あうっ」

かき氷がしみたのか、頭を押さえた。

301 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 02:26:24.65 ID:jy0tKgpqo
64

彼女を眺めながら、僕は先端が匙になったストローを口に運ぶ。
9月とはいえ、日中はまだまだ暑い。
冷たいものはありがたかった。

「いっぱい人がいるね」

「そうだな」

「私、やっぱり何も知らないんだね」

どうしていいか全然見当がつかず、彼女は勝手に自信をなくしたようだった。
僕だって、同年代の中じゃ結構頭いい方だって自負してたけど、その自信が揺らいでいる。

「志乃はえらいよ」

「そうかなぁ」

「ちゃんと逃げずに考えてるからえらいよ」

彼女は不思議そうな顔で、溶けた氷を吸っている。

「俺はそういうとこ好きd」スパーン
誰かが後ろから僕の頭をはたいた。

302 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 02:27:57.69 ID:jy0tKgpqo
65

振り向くと、パンフレットを丸めて腕を組んだお義姉さんが立っていた。

「おねーさん!」

志乃の目がきらきらしている。
いい加減な人だけど、やっぱり年長者だし、いれば心強いらしい。

「仲睦まじいのは結構だけど、今は働きなさい。義弟」

「いや、その、作戦会議中でした。
 ……週末の夜を楽しめたようですね」

それは彼女にとって「今日は一段ときれいですね」を意味する。

「うふふ。口が上手いのね。それに、さっき思わず調達できちゃってね。
 説明してあげるから、先にそれ食べちゃいなさい」

僕は志乃が食べ終わるのを待って、空になった器を捨ててきた。
お義姉さんが志乃の隣に座る。

「さっき、手首切った子がいてね、吸ったついでに救急車呼んだの」

「離れちゃまずいでしょ」

「離れなきゃまずいのよ」

お義姉さんが言うには、この近くのアパートから血の匂いがするから行ってみたところ、
そこの住人の女子大生が睡眠薬を飲んで手首切っていたらしい。
無関係の人間が通報したとあっては、なぜそこにいたのか聞かれると都合が悪い。


303 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 02:28:39.65 ID:jy0tKgpqo
66
「あの程度じゃ死なないから、ちょっぴりいただいちゃった」

とお義姉さんは笑う。

「通報にはあの子の携帯を使ったから、足はつかないわ」

ついでに、お義姉さんは有力な情報までちゃっかりいただいてきたらしい。

「それでね、さっきの女の子、どうやら依頼人にちょっかい出されてたみたい」

メールを盗み見したようだ。

「あなたには個人情報とかプライバシーとか――」

言いかけてやめた。

(あなたにそういった概念はないんでしたね)

「遊び人がそんなめんどくさそうな人と付き合うかな?」

確かに、普通の女の人なら遊ばれたところで自殺未遂はしない……と思う。
元々、危ういところがある人だった可能性はある。
304 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/10/10(月) 02:30:16.82 ID:jy0tKgpqo
>>294
そのへんはなりゆきまかせに、自然にまかせようと思います。


今回はここまで。
305 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/10(月) 02:55:34.82 ID:aF2roHVpo
あいかわらず面白い乙
306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/10(月) 08:13:57.96 ID:ToPGmsdSO
電車で見ておっきしたどうしてくれる
307 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 15:52:52.38 ID:GsEPXkjjo
67

志乃は立ち上がって、僕の手を引く。

「学食いこ。おなかすいた」

「今かき氷食べたろ」

「あれは甘い水。おなか膨れないよ」

と、いちごのシロップで赤く染まった舌を出す。

(うーん、ぺろぺろしたい)

「じゃあ、行くか。お義姉さんもどうです?」

お義姉さんは考えていた。

(この人が即決しないなんて珍しいな)

「行ってみようかしら。学食って珍しいし」

「いこいこ。大学って初めてー。ふふんふーん」

志乃は適当な建物に向かって歩いていく。

「おーい、そっちじゃないぞ」

「え、違うの?」

僕は構内見取り図の載ったリーフレットを開いて見せる。

「食堂……本部棟……?ほんとだ」

「お前、自信満々で迷うよな」

「おどおどしたって仕方ないじゃない」

「いや、ここで言われてもかっこよくない」

308 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 15:54:11.78 ID:GsEPXkjjo
68

本部棟に向かう途中、掲示板があった。
さっき僕らがいた広場はいわゆる「外向き」の告知が多かった。

「……お、晒しage」

こういう「内向き」のは、学生の行動範囲にあるようだ。
どうやら試験やレポートをすっぽかして、その期の単位を全て棒に振った学生がいるらしい。

「あらら。もったいない」

「……ねえ、私、この名前見たことある」

お義姉さんが目を大きく開いた。

(この人でも驚くことあるんだな)

「どこでですか?」

「どこだったかしらねぇ……」

「しっかりしてくださいよ」

「ん、でも見たのは本当よ。どこで見たか、ちょっとド忘れしただけよ」

「もー。食べながら考えようよ。のんびりしてると混んできちゃうよ」

志乃は僕とお義姉さんの背中を押した。

309 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 15:55:24.21 ID:GsEPXkjjo
69

―――――本部棟・食堂―――――

テーブルを囲む。

「なんか私たち、すごいカレー好きな人みたいだね」

確かに、三人ともカレー買ってくるとは思わなかった。

「先週もごちそうになったしな。ナオミの部屋で」

(そして俺はナオミの民……)

慣れてきたが、勤務先名称を思い出す度、げんなりする。

「まあ、あまりハズレがないものねぇ」

「お義姉さん、どんだけ福神漬け欲張ってるんですか」

「だって赤いんですもの」

「それのどこが血に似てるんですか」

「色よ。……いいじゃない。プラシーボよ」

(それは自分を騙し切れてないだろ……)

「おねーさん、思い出した?」

「だめねぇ……。どこだったかしら」

僕は二人を交互に眺めながら食べ進める。

310 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 15:56:21.82 ID:GsEPXkjjo
70

「考えるのもいいけど、食べないと冷めますよ」

「ああ、そうだったわね。……ほんとどこだったかしらねぇ」

お義姉さんは上の空。
志乃は難しい顔でスプーンを口に運ぶ。

僕は気分を変えたくて、サーバーに水を汲みにいく。
トレーにコップを3つ取って、学生の列に並ぶ。

(おお、お茶も出るのか……。聞いてくればよかったな)

僕は真顔を保ちながら、カルチャーショックを受ける。

僕のすぐ後ろに、少し派手な人たちが並んだ。
誰かの噂をしているらしい。

「あの人、見ないと思ったら単位ゼロだって?」

「えー、なにそれ。真面目そうなのに」

「何考えてるかわかんなくてちょっと怖かったけどさー、
 悪い人じゃないよね。ノートコピらせてもらったし」

「あんたは自力で勉強しなよw」

さっきの掲示板に貼られていた人のことらしい。
僕は進学するつもりなので、真面目に通おうと思った。

311 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 15:57:48.31 ID:GsEPXkjjo
71

「あの人、あれ?ヒッキー体質ってやつ?」

「さあー?でも地味な子でよく集まってたよ。
 ……なに?気にしてんの?仲よかったっけ?w」

「そんなんじゃないしwww
 ただ、やっぱり助けてもらったからお礼くらい言っときたいじゃん?」

「あー、それはあるねー」

「あのテスト必修だからさー。やばかったんだよね。
 来年後輩と一緒とかまじ勘弁wwww」

「あはははははははは」

(うーん、聞いてると頭がわるくなりそうだ……)

「そういえばあいつ見なくね?佐伯」

「あっ」とか「え?」とか声をあげそうになったが、なんとか飲み込んだ。

「あー、テスト期間の途中から見てないわ」

「どうしたんだろうねー」

「あれじゃね?今頃どっかでヒモしてたりして」

「うひゃひゃひゃひゃwwwありうるwwwwww」

「そういえばあの子が佐伯といるの、見たことあるわ」

「えー?まじで見境ないね、佐伯ー。
 あの子処女っぽいじゃん。めんどくさそーw」

後ろの二人の会話に聞き耳を立てているうちに、僕に順番が回ってきた。

(しかし、なんだなぁ。人の話は聞いてみるもんだな)

僕は3人分の冷水を持って、テーブルに戻った。

312 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 15:58:35.62 ID:GsEPXkjjo
72

「あ、春海おかえりー」

「ただいま――お義姉さん、たぶん掲示板に貼られてた人、
 依頼人の関係者ですよ。関係があったんじゃないかと。その、あっちの意味で」

「あら、どこで聞いたの?」

「そこのサーバーに並んでるときに、後ろに並んだギャル二人が噂してました。
 依頼人と、その、掲示板の人が一緒にいるのを見たそうです」

「君、やるじゃない。この福神漬けを分けてあげましょう」

「要りませんって」

313 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 15:59:45.86 ID:GsEPXkjjo
73

「思い出したわ。さっき私が見つけた、手首切った子。
 あの子の携帯の履歴に、その名前が」

「彼女、印象はどんな感じでしたか」

「そうねえ……意識がなかったから話せてないんだけど。
 取り立てて特徴もなく……」

「地味、ってことですか」

「そうなるかしらねぇ」

「じゃあさ、友達同士の女の人が二人いて、両方に手出したってこと?」

「ありうる……」

自分で持ち帰った情報に、もっともな仮説がついて辟易する。

「うえぇ」

志乃が情けない声を上げる。僕だってそうしたい。

「さ、行くわよ」

お義姉さんが席を立った。

「どこにですか」

「さっきの子のアパートよ。今なら留守でしょ」

「家捜しじゃないですか!」

「このままだと彼女か依頼人、最悪どちらかが死ぬわよ」

お義姉さんは僕らを省みず、さっさと食堂を出てしまう。
僕は仕方なくついていった。
314 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/10/10(月) 16:04:47.66 ID:GsEPXkjjo
>>305-306
ありがとうございます……。

今日中に書き上げられるか危うくなってきましたが、現在スパートかけてます。

うーん、ペース配分を誤った気がしないでもないですが、がんばります。
315 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 18:31:51.01 ID:GsEPXkjjo
74

―――――車内―――――

お義姉さんの車は、白い、ころんとした形の軽自動車だった。

「意外と普通の車に乗ってるんですね」

「どこにでもいそうな女って思われた方が都合がいいのよ」

どうやって免許を取ったのかは聞かないでおこう。
あんなものやこんなものを操作したり取引しているんだろう。

お義姉さんは少し車を走らせると、駐車場に停めた。
助手席に座っていた志乃が、後部座席に座る僕の隣に来た。

「すぐ戻るから、あなた達はここで待ってなさい」

「大丈夫なんですか?」

「見つかることはないけど――
 なにか、調べた方がいいものはないかしら」

「パソコンの中身とか、あと手紙。携帯は本人と病院に行ってるでしょうから……」

「手帳は?」

志乃がつけたした。

「ああ、それなら予定や簡単な日記になるな。
 お義姉さん、特にテスト期間――7月から8月半ばに注意してください」

「おっけー。行ってくるわ。いい子にしてるのよ」

お義姉さんはそう言うと、車から降りて行ってしまった。


316 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 18:32:53.09 ID:GsEPXkjjo
75

志乃はそわそわしている。

「どうした」

「べつにー」

いつもなら、二人きりになったところで股間に志乃まっしぐらなのに。

「おとなしいな」

「だって禁止されてますし」

彼女は下を向いて膝をすり合わせるようにもじもじしていた。

「もしかしてトイレ?たしか角にコンビニあったから行ってくれば?」

「ちがうもん」

「そうか」

「そうですとも」

僕は志乃の手を取って、手のひらを上に向けた。
傷は完全にふさがっているが、赤く何本も筋が残っている。
その両脇に、ぷつぷつと糸の跡が小さく残っている。

「よかったな、包帯取れて」

「うん。手が涼しい」

317 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 18:33:54.28 ID:GsEPXkjjo
76

(こういう心配ごとがあるときは、志乃から手をつないでくるんだけどな)

「志乃、何か言いにくいことあるだろ」

「ないあるよ」

「どっちだよ」

「ない。ないよ」

あまり追及しないでおく。

「解決するの、怖いか」

志乃が顔を上げた。

「いや、なんとなくだけどね」

「トモちゃん、どうなるんだろう」

「どうなるんだろうな」

「女の人、死のうとしちゃった」

「お義姉さんが助けただろ」

「呪いが終わっても繰り返すのかな」

「そうじゃなきゃいいな」

「……うん」

志乃はうなずくと、小さくため息をついた。

318 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 18:35:24.71 ID:GsEPXkjjo
77

しばらくすると、お義姉さんが戻ってきた。
さすがに今日みたいな人通りの多い行事のある大学の近くじゃ、簡単に姿を消したり現したりできないんだろう。

「ただいま。あなた達の言ったとおりだったわ。
 移動しながら話すから、シートベルトしてちょうだい」

お義姉さんはまた、行き先も言わずに発車した。

「パソコンにはパスワードがかかってた。
 あまり長居はしたくなかったから、中身は見てないわ。そのかわり、これ」

と、デジカメを僕に渡す。
撮影したもののプレビューを確認する。

「手紙、あったんですね」

「これ、来たものじゃないよ。出す前の手紙だ」

よく見ると、宛名が掲示板に貼られていたものと同じだった。

「手帳には、妹の言ったとおり、日記みたいなものが書いてあった」

お義姉さんがかいつまんで説明する。

319 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 18:37:00.59 ID:GsEPXkjjo
78

――友人の好きな人を好きになってしまった。

――あの人は私を選んで、抱いてくれた。とても幸せ。

――でもすぐに後悔した。

――相手の男は遊びのつもりだった。私は怒った。

――友人に謝ろうと思った。でも彼女は許してくれない。

――謝りたいけど、連絡がとれない。電話もメールも拒否。

――会いに行ったけど、居留守を使われているようで会ってもらえない。

――手紙を書いてみる。開封してもらえるか保証はない。

――どうか届いてほしい。でも、怖い。

――彼女は学校にも来なくなってしまった。数日後にはあの人も。

――ごめんなさい。

――どうして私だけ。

――ごめんなさい。

――やっぱり、死んじゃったほうがいいのかも。

320 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 18:38:50.02 ID:GsEPXkjjo
79

同情すると同時に、「身勝手だ」と思った。

志乃は唇を噛んで、難しそうな顔をしていた。

怒っているのかもしれないし、気の毒に思っているのかもしれなかった。

交差点の赤信号で停まった。
お義姉さんが前を見据えたままで言う。

「右に行けば依頼人の家。
 左に行けばもう一人の女の家……どうする?」

「トモちゃんのお兄さんのとこ!」

志乃が弾かれたように即答した。

「お前……」

「もし……もしもの話だけどね。
 おねーさんの助けた人が、呪われて自分を切っちゃったなら……
 もしそうなら、次はお兄さんが危ない」

――死ねばいいのにって思っちゃった。

嫌悪感丸だしで呟いた、志乃の横顔を思い出す。

――ただ、関わりたくないだけ。

灰で指を汚した、佐伯さんの顔を思い出す。

「お義姉さん、俺もそう思う。依頼人の家に行きましょう」

信号が青になる。
女吸血鬼の駆る、白の軽は右折した。

321 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 18:39:39.97 ID:GsEPXkjjo
80

―――――佐伯・兄のアパート―――――

玄関の前で、お義姉さんが番号を控えていた依頼人の携帯に電話する。
部屋の中から着信音が聞こえる。
いやな予感がした。

「佐伯さん!佐伯さん、開けてください!」

自分でも驚くほど大きな声が出ていた。
ドアをたたく。何度もインターホンを押す。

「春海……」

志乃の顔がゆがむ。そんな、手遅れだったみたいな顔はしないでくれ。

「どきなさい、義弟。ちょっと入って、中から開けてくるわ。人が来ないか見ててちょうだい」

お義姉さんは言い終わらないうちにドアをすり抜けてしまった。
内側から、鍵の回る音がする。
僕は乱暴にドアを開けた。

「来ないで!」

踏み入ろうとした瞬間、お義姉さんに制止された。

322 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 18:40:27.72 ID:GsEPXkjjo
81

立ちふさがるお義姉さんの向こうに、倒れた依頼人の男の姿があった。
黒い、虫のような、影のような黒いものが男にまとわりつきながら部屋中をうごめいている。

「なんだよ、これ――」

「救急車を呼んでちょうだい。妹を連れて走って!」

僕は志乃の手を掴んで走り出していた。

数十メートル走ったところで、公園に来た。
親子連れが何組かいる。少し安心した。
公衆電話から119番に電話した。

「あの部屋、そんなに危なかったの?」

志乃がへたりこむ。

「わからない。お義姉さんが、お前を連れて逃げろって」

「おねーさん、大丈夫かな」

「大丈夫だよ。お前が会いたいって思えば、来てくれるだろ」

「うん……」

323 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 18:41:09.19 ID:GsEPXkjjo
82

志乃とベンチに座り、手を握って無言の時間が過ぎる。
どれくらい経ったかわからないが、救急車のサイレンが聞こえた。

「あの人、助かるかな」

「助かるといいな」

「うん……。私、助けようとしたけど、でもまだわからないよ」

「そりゃ、嫌な奴だからな」

「そろそろ、救急車ついたかな」

「そう遠くないからな」

少し間をおいて、サイレンが戻ってきた。

「ほら、運ばれてるみたいだぞ」

「うん」

今度はお義姉さんのことが気がかりなようだった。

「お義姉さんのこと呼んでみれば」

志乃は目を瞑って、握った手に、祈るように力を込めた。
324 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/10(月) 21:09:06.26 ID:M6BW9E6yo
しばらく前に完結したと思ってたら再開してたのか!
いちゃラブイイ!
325 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 22:05:33.11 ID:GsEPXkjjo
83

僕がお義姉さんを呼べるわけではないが、一緒にそうした。

「呼んだ?」

目を開けるとお義姉さんが立っていた。

「無事だったんですか?」

「あれくらいならなんともないわ。
 ただ、彼――踏み込むのがあと2〜3日遅かったら危なかったわね」

「普通の医療で治せるものですか?」

「彼の場合、根本を叩かないとだめね。
 入院すれば、持ち直しはしないけど現状維持はできる」

「行くわよ」と、お義姉さんは僕達を立たせた。

「どこへ?」

志乃は聞くが、彼女はたぶん、答えを知っている。

「彼は保護した。標的は手の内にある。次は術者を叩くわ」

お義姉さんは歩きながら、振り向かずに言った。

326 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 22:07:02.61 ID:GsEPXkjjo
84

―――――術者の女のアパート・駐車場―――――

車の中で、お義姉さんは僕らに言い聞かせる。

「あなた達は終わるまでここで待ってるのよ」

「もう、俺達がすることはないんですか」

「手伝ってもらうのは術者や動機の特定まで」

お義姉さんはそう言うと、ドアを締めて目的の部屋の前まで歩いていった。
僕と志乃は、身をかがめてその様子を見守る。

「ねえ、私考えたんだけど……」

「なに?」

「この呪いを殺したらどうなるのかな」

「うーん、お義姉さんが言うには、人が死なずに済む……んだよな」

――呪いは最悪、人を殺すわ。
  跳ね返されれば、術者が死ぬ。
  昔から言うでしょ?人を呪わば、って。

327 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 22:09:31.43 ID:GsEPXkjjo
85

「うん。私が気になるのは、その先の話」

「ああ、言ってたな。繰り返すのかって」

「お兄さん、元からあんなだったのかな」

「どうだろうな」

「あの人が今、してることは悪いことだよ。
 でさ、今回は助かったとして、また女の人を傷つけて、
 相手が悪かったら呪われて――いたちごっこじゃない?」

「うん。俺もそう思う」

「おねーさんはそれでも始末し続けるんだろうけどさ。
 根本の解決ってなると、また違うと思うんだ」

「やっぱり志乃はちゃんと考えててえらいな」

志乃は少し舌を出して笑った。

328 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 22:10:32.52 ID:GsEPXkjjo
86

「おねーさん、手こずってるみたいだね」

「人通りないんだから、さっきみたいに壁スルーして突入すればいいのにな」

「できないんじゃない?」

お義姉さんの生態はよくわからないが、考えられる。
僕はお義姉さんに電話をした。
すぐ近くにいるのだから、直接声をかければいいように思ったけど、それは怖い気がした。

「――どうしたの?」

「お義姉さん、入れないんですか?」

「うるさいわね。ちょっとドアに触ったらバチバチって跳ね返されるだけよ」

「それ、諦めたほうがよくないですか」

「ねえ、代わって」

志乃が僕の肩をつついて小声で言う。
電話を彼女に持たせた。

329 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 22:11:39.36 ID:GsEPXkjjo
87

「おねーさん、志乃です。入れないの?
 ――うん。……うん。……うーん。
 あのね、中の人に開けさせられないかな?
 ――うん……難しいよね……うん。
 とにかく、一度戻ってきてほしいな」

志乃は勝手に通話を終了して、僕に携帯を返した。
お義姉さんはまだ、ドアの前で何か考えている。

しばらくすると、車に戻ってきた。
彼女は運転席に座ると、ハンドルに突っ伏した。

「人間にとってちょっとくらいの不可能なら、私にはないのよ」

(こりゃ負け惜しみだな……)

「ええ、でも、現実に入れなかったじゃないですか」

「あの子、オカルトにでもかぶれてるのかしら。
 呪術って見よう見まねでも、うっかり発動しちゃうのよね。結界とか」

「最近は盛り塩セットとかパワーストーンとかスポットとかありますからね」

「けったいなモノ流行らせてくれるわね……」

お義姉さんは憎々しげにドアをにらんだ。

330 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 22:13:18.82 ID:GsEPXkjjo
88

「自分から開けさせられないかな?」

志乃が遠慮がちに口を開いた。

「それなら接触できるけど、どうやって開けさせるの?」

「そうっすねぇ……居留守使ってたりするんですよね」

「それにずっと見かけないって。ひきこもり……?」

「なら、なおさら難しいわね」

三人で同時に深く長くため息をついた。

「あなた達を突入させるわけにもいかないし、鍵もかかってるだろうしね……」

僕なら、相手が誰ならドアを開けるだろう。

「宅配はどうですかね。ピザなんて頼んだかな作戦」

「もう、まじめにやって」

志乃が軽く僕を叩く。

「その発想は間違ってないと思うのよ……」

お義姉さんは前髪をかきあげた。

「……エサ」

志乃が低く呟いた。
少し震えている。
自分で言ったことの意味がわかっているのだろう。
331 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 22:14:38.19 ID:GsEPXkjjo
89

僕が志乃の言葉を繋ぐ。

「おびきよせることはできませんか。エサを使うんです」

「人間の考えることって、えげつないわね」

(あんたこそ相当ですよ)

「で?エサには何を?」

「依頼人は?」

「昏睡してるわ。もう一人の女の子もだめ」

「おねーさん、変身できない?」

志乃が真顔で言う。
少しおかしかったので、笑いそうになったけど堪えた。

「できないこともないけど、魂の形まではごまかせないのよね……」

「たましい」

僕はなんとなく繰り返していた。

「そうよ。あの部屋はきっと結界になってる。
 そうなると、姿形だけじゃごまかせないわ」

332 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 22:15:35.99 ID:GsEPXkjjo
90

「魂の形って、そんなにはっきり見分けられるの?」

「目の良さの度合いにもよるけど、赤の他人だってことくらいはわかるわ」

「じゃあ、その形が似てる人っていうのは?」

「家族や、血縁者……肉親でなくても、同じ施設でずっと一緒に育ってきた人物……
 抽象的な言葉は苦手だけど、絆っていうの?そういった結びつきのある人ね」

(志乃、お前まさか――)

志乃が口を開く前に、僕が言ったほうがいい。

「依頼人には、妹がいますよね」

志乃がはっとして僕を見る。

「彼女に囮を頼めないでしょうか」

「あなた、自分が何を言ってるか――」

「わかってます。彼女の安全を守るのは前提として、の話です」

333 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 22:16:12.53 ID:GsEPXkjjo
91

「春海、だめ。だめだよ」

志乃が僕の袖を掴んで首を振る。
やっぱり、彼女に言わせなくてよかった。

「彼女に危険が及ぶのであれば、却下します」

「……わかった。彼女を呼び出せる?
 操ることもできるけど、戦う前に疲れることはしたくないの。
 何より、本人の意志を無視するのは気が進まないわ」

「連絡先は知っています。俺よりはお義姉さんが連絡する方がいいでしょう。
 お兄さんのかかりつけのカウンセラーだとか言って」

そのために、彼女は肩書きを使っているはずだ。

「そうね。あなた達はただの同級生……。
 いいわ。彼女の連絡先を教えてちょうだい」

僕は佐伯さん(妹)の携帯の番号を教えた。
この間、志乃が交換していたのだ。
334 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 22:18:16.66 ID:GsEPXkjjo
>>324
一話完結で1000まで完走を目標に続けることになりました。
エロバカなラブコメ、たまに探偵(のようなこと)みたいな。

またお付き合いいただけると幸いです。
335 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/10(月) 22:26:23.17 ID:5S/CM3kQo
乙乙
336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/10(月) 22:38:36.28 ID:ToPGmsdSO
337 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 23:28:20.67 ID:GsEPXkjjo
92

―――――大学の最寄り駅・喫茶店―――――

お義姉さんは佐伯さんに会う約束を取り付けると、また移動してここまで来た。
ここで佐伯さんと合流するらしい。

「彼女、怪しんでたわ。了解してくれたけど」

「やっぱり、そうですよね」

「どうする?ここで待っててもいいけど」

「いえ、ついていきます。言い出したのは俺だし――
 巻き込んだ責任を感じるっていうか……」

「そう。任せるわ。好きにしなさい。
 ――そろそろ来るわね。ついてくるなら先に車乗ってて」

と、お義姉さんは僕にキーを持たせた。

「志乃はどうする?」

「私も行く」

志乃は席を立った。

338 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 23:29:26.33 ID:GsEPXkjjo
93

―――――車内―――――

僕は助手席に、志乃は運転席の後ろに座った。

「ほんとのこと話したら、トモちゃん怒るよね……」

「だろうなー。俺から話そうか?」

「ううん。私が話すよ。春海、さっき私の代わりに言ってくれたんでしょ」

(さすがに察したか)

「あまり気にするなよ。
 俺だって同じこと考えたんだ――ほら、来たぞ」

お義姉さんが佐伯さんを連れて近づいてくる。
佐伯さんが助手席の僕に気づいたらしく、一瞬険しい顔をした。
お義姉さんが乗り込んだ後、後部座席のドアが開く。

「あんた達――」

「ごめん、トモちゃん」

志乃が言い終わらないうちに、佐伯さんは志乃の頬を打っていた。

339 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 23:30:20.66 ID:GsEPXkjjo
94

「……ごめん」

志乃は頬をさすることもせず、下を向いて詫びた。
僕は何も言えなかった。

「言い訳は後で聞かせて」

佐伯さんはそれだけ言うと、黙りこんでしまった。

(うーん、予想はしてたけど気まずい……)

この場合、それぞれに事情があってこうなったわけで、佐伯さんの怒りもごもっともなのだ。

(でもいきなり平手はないよなぁ。きれいに振り抜いてたし)

(しかしお義姉さんは、どうやって佐伯さんを女のアパートに同行する気にさせたんだ)

(そこに転がり込んでる可能性があるから、とかそんな感じかな)

今は下手に考えを巡らせても、何にもならないように思えた。
ここからはお義姉さんの本職の領域だ。

340 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 23:31:09.37 ID:GsEPXkjjo
95

―――――術者の女のアパート・再び―――――

「さ、降りるわよ。妹さんも」

「はい」

佐伯さんは淡々としていた。
さっさと車を降りて、どの部屋に愚兄がいるのかと建物を睨んでいる。

「ほら、あなたも」

「俺もですか?」

「そうよ。術者がドアを開けたら、彼女には失神してもらう。
 倒れたときに頭でも打っちゃまずいでしょ」

「私は?」

「妹はそこにいなさい」

志乃は、やっぱり叩かれたことがショックみたいで、力なくうなずいた。

341 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 23:31:54.65 ID:GsEPXkjjo
96

玄関前で、お義姉さんは佐伯さんに適当な説明をする。

「前、訪ねてみたんだけど、私じゃだめだったわ。
 ちょっと呼びかけてみてもらえないかしら。
 ここに住んでる彼女に話が聞きたいの。
 だからお兄さんじゃなくて、彼女を呼んでみて」

佐伯さんは訝しげにしていた。
わざわざそんな注意を丁寧にされちゃ、かえって怪しい。

「……わかりました」

佐伯さんは、部屋に向かって女の名前を呼んだ。
何度か呼びかけたところで、中で人の動く気配がした。

「春海君、来るわ」

ドアが重たげに開く。
同時に、佐伯さんは卒倒していた。

342 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 23:32:46.00 ID:GsEPXkjjo
97

慌てて佐伯さんを支える。
玄関には、依頼人の部屋で見た影のようなぼんやりとした輪郭の、黒い虫のような粘菌のような固まりがいた。

(これが呪いの元……?)

「義弟よ、今から口を開くんじゃないわよ」

お義姉さんが僕に命じる。
ついでに、佐伯さんの口を手で塞いだ。

「あら、女だろうが男だろうが、誰だって嫉妬は醜いわよ」

お義姉さんは黒い固まりに語りかける。
固まりはうごめきながら、お義姉さんに影を伸ばす。

「あんたはお呼びじゃないわ!」

彼女が手で払うと、影の先端は霧のように薄くなって消えた。

(お義姉さんつええ……)

お義姉さんはさらに言葉を続ける。

343 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 23:33:37.81 ID:GsEPXkjjo
98

「あなた、男を見る目がなかったのよ。
 今なら立ち直れるわ。友達ともやり直せる」

呪いはまた、彼女に伸びていく。
彼女はまた、それを払う。

「そんなものと同化したって、あなた幸せになれないわ」



「何もかももう遅いの!みんな死ねばいいのよ!」



中から、そう聞こえた。
術者と言われる、女の声だった。

「馬っ鹿ねぇ。その程度で人生詰んだなんてめそめそするんじゃないわよ!」



「うるさい!なによあんた!あんたも殺してやる!」



「聞いたわね?」

お義姉さんは、これを待っていたとばかりに、にやりと笑った。

344 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 23:35:03.49 ID:GsEPXkjjo
99

呪いが、初めて僕らの方へ進んでくる。
ゆっくりとしていたが、足がすくんで佐伯さんを連れて逃げるなんてことはできそうになかった。

「義弟よ、逃げる必要はないわ」

お義姉さんは自分の口に、手を突っ込んだ。

(何をする気だよ、この人は――)

手とともに、何か柄のようなものがずるずると抜かれる。

(これは……剣だ……)

お義姉さんの口から、剣が抜かれていく。
その長さは、どう見ても彼女の胴体に収まるようなものではなかった。
お義姉さんは剣を携え、構えるでもなくだらりと立つ。

「ほら、来なさいよ。私を殺すんでしょう?」

空いた手をくいくいと動かして挑発する。

「お、おまえ……おまえは――ッ!」

呪いが女の人から、完全に分離した。



「地獄の門番が、門前払いに来てあげたのよ」



彼女はそう言うと、固まりを頭から縦に両断した。
345 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/10(月) 23:37:37.09 ID:GsEPXkjjo
>>335-336
乙ありがとうございます……。

これで今回のエピソード、やっと結びに入っていけます。
あと25分で今日が終わってしまう……。
346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/10(月) 23:41:52.62 ID:RIRCSQKpo
頑張れ乙
347 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/10/10(月) 23:55:34.94 ID:GsEPXkjjo
お詫び。

すみません、今日を今回の〆切にしていましたが、当初予定していた分量の3倍になってしまって、今日中には終われません。

明日・明後日くらいで仕上げたいと思います。
348 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/10/10(月) 23:58:13.34 ID:GsEPXkjjo
>>346
うう……ありがとう……。

しかし今日の1は終了しました。
明日からまた本気出します。
349 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/11(火) 00:29:27.61 ID:KA9cYwlIO
乙 いいペースだけど無理はするなよ
350 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/11(火) 00:30:54.73 ID:H5zdIwvzo
キスショットかよ
351 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [sage]:2011/10/11(火) 00:59:11.14 ID:WRqExtBHo
乙。毎日見てるぞ。
352 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/11(火) 09:35:53.85 ID:NpmbGv+Do

あわま無理すんなよ
353 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/11(火) 10:04:45.67 ID:WAqUwbxSO
354 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/11(火) 20:17:14.81 ID:fpdeHCfeo
乙乙!面白い。
でも佐伯さんが志乃をなんでぶったのかがよく分からん
355 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/12(水) 00:16:29.07 ID:4DAd+aoPo
100

お義姉さんは剣を飲み込んで、

「さ、帰るわよ」

と、何事もなかったように言った。

「……」

「もう口を開いてもいいわ」

「……彼女は放っておいていいんですか」

「大丈夫。運ばれた二人も、じき良くなるわ」

お義姉さんは佐伯さんを担ぐと、アパートの扉を閉めて車に歩きだした。
僕は慌ててついていった。

356 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/12(水) 00:17:24.00 ID:4DAd+aoPo
101

車の傍まで戻ると、志乃が車から降りて僕に飛びついてきた。
何も言えないらしく、やっと「うー」とか「んー」と言った非言語な声を出しながら額を擦りつけてくる。

「ハハハ、こやつめ」

「もう、ふざけないで」

お義姉さんが呆れながら、僕らを車に押し込む。

「この子には感謝してるけど、置いて帰りたいわね」

と、ぼやきながら佐伯さんをぞんざいに後部座席に積み込んだ。

「お義姉さん、それ笑えないですよ」

「なんでよ。この子、妹を叩いたのよ」

「そりゃ騙してたんだから、怒るのも無理ないですよ。
 俺が後ろに座ってたら、叩かれてたのは俺だったと思いますよ」

「そのおかげで命拾いしたのに?
 呪いが兄を食ってたら、次に危ないのはこの子だったのよ」

「たとえそうとわかっていても、割り切れないんですよ」

お義姉さんは納得いかない、といった風に鼻から息を出すと、運転席に乗り込んだ。

357 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/12(水) 00:18:17.66 ID:4DAd+aoPo
102

「今度はどこ行くの?」

「彼のアパートに戻るわ」

「病院はいいんですか?」

「親族でもないのに、いち早く駆けつけちゃおかしいでしょ」

「それは、そうですけど」

確かに、真っ先に連絡が入るのは実家だろう。
今頃、ご両親に知らせがいっているのだろうか。
走り始めてすぐに、佐伯さんは目を覚ました。

「あら、起きたみたいね。トリガーハッピー」

(随分な言いようだな……)

「移動……ですね。どこへ?」

今の佐伯さんは仏頂面で、何を考えてるかわからない。

「あそこにお兄さんはいなかったわ。
 もう一度自宅を訪ねてみるの」

佐伯さんは、うんざりする、といった感じのあてつけがましいため息をついた。

358 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/12(水) 00:19:32.84 ID:4DAd+aoPo
103

「あの、トモちゃん――」

志乃がおずおずと口を開く。

「なによ」

志乃のおどおどした態度が気に入らないのか、佐伯さんの不機嫌に拍車がかかっているようだ。

「ごめん、騙してた」

「そんなの、あんた達がこの車に乗ってるの見た瞬間に察しがついたよ」

(ああ、志乃に手を上げたときが、怒りの頂点だったか)

「私をつけてたのは、きっとその人ね」

と、お義姉さんを指す。

「確信は持てなかったけど、鏡やショーウインドーに、この人は常に映ってた。
 でもまさか、女が女をつけるなんて思わないでしょ」

(確かに)

「だけど私の場合は別よ。
 はじめは、また兄貴のとばっちりだと思った。
 でも、ずっと手を出してくる気配がなかったから、どう出ていいかわからなかった」

「そこに私が」

「そう」

359 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/12(水) 00:20:30.05 ID:4DAd+aoPo
104

「そのときは単純に、助かったと思った。
 だけど今は――私、はめられたんだね」

「ばかみたい」と彼女は吐き捨てた。
その瞬間、乾いた高い音が響いた。
思わず振り向く。

「あんた――」

佐伯さんが頬を押さえている。
志乃は半分泣き出していた。

「……悪いって思ってた……思ってたよ……。
 でもああするしかなかったんだよ。
 危ないんだよぅ……ほんとに死んじゃうんだよ……」

ちゃんとした説明なんてしたら、今度は頭がおかしいと思われるのがオチだ。

(お兄さんを呪いから救うためにがんばってました、なんて言えるわけないよなぁ)

志乃は言葉に詰まって嗚咽していた。
佐伯さんも、頭で処理しきれないのか、叩かれて混乱したせいか、静かに泣いていた。
僕だってきっと何も言えなくなるに違いない。

360 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/12(水) 00:21:12.98 ID:4DAd+aoPo
105

「何よ、湿っぽいわね。喧嘩してくれてた方がましだわ」

お義姉さんが隣で困っている。

(でも喧嘩したら、うるさいって怒るんだろうな……)

僕は勝手に想像して、勝手に理不尽だと思った。

「いいんですよ、あれで」

うーん、平手で語り合う女か。こわい。
だけど僕は、ルームミラーごしに二人を眺めながらどこか安心していた。
この方が恨みつらみは残らないと思う。というのは僕の思いこみか。
でも、その読みは合っていてほしい。

361 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/12(水) 00:22:08.62 ID:4DAd+aoPo
106

―――――佐伯(兄)のアパート・再び―――――

「あなた達も降りなさい」

お義姉さんは一言だけ言って車を降りると、部屋の前まで行き、そのまま勝手に入ってしまった。
物は少ないのに、荒れていると感じさせる部屋だった。

「いないじゃない――」

「お兄さんは――」お義姉さんが佐伯さんに語りかける。

「お兄さんは、精神的に危ない状態だったの。
 あなたは怒りっぽい割に賢そうだから察しがつくと思うけど、女の人にずっとつけ狙われてたのよ」

「当然の報いじゃないですか」

佐伯さんは吐き捨てた。

「まあ、そう言わないでおいてあげなさい。
 彼、私のところに相談に来たときには、かなり消耗してた。
 精神的疲労からくる不眠――それに起因する過労、食欲不振、栄養失調――
 私は通院を勧めたんだけど、どうしてもそういった科にかかることに抵抗があったみたいね。
 家族に心配かけたくないって言い張ってたわ」

「あいつが、家に気を遣うなんてありえない」

佐伯さんは一歩下がった。
肘がぶつかり、棚を揺らした。
棚に置いてあった灰皿が落ちて、そのままになっていた灰がフローリングの床に撒かれた。

362 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/12(水) 00:22:58.44 ID:4DAd+aoPo
107

彼女が動揺しているのは明らかだった。
視線がせわしなく揺れている。

「この子達は、私が助手として雇ってるの。
 彼からは話を聞くけど、誰だって自分に都合の悪いことは話したがらないわ。
 だから、情報を補完する必要があった。
 それでこの子達に、あなたに接触してもらったのよ。
 あなたには悪いと思うけど――あまりこの子達を責めないであげて」

「そんな――うそだ。あいつはクズだ!」

佐伯さんが叫ぶ。響きは悲鳴に似ていた。

「そうよ。彼のしてきたことは外道そのもの。
 私だって聞いてて虫酸が走ったし、いつ刺されたっておかしくなかったわ」

お義姉さんは、テレビ台の上で倒れていた、フォトフレームを起こした。
僕と同じ年頃の依頼人と、10歳かそこらの佐伯さんが、カメラに向かって笑っている写真だった。

363 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/12(水) 00:23:33.33 ID:4DAd+aoPo
108

「なんで、こんなもの……」

佐伯さんが怯えた目で、写真を見つめながら首を振る。

「この頃の思い出があるから、あなたは直接彼に怒りをぶつけられなかった」

攻撃性がないわけでもなく、陰湿そうでもない、そんな彼女の報復する手段は、あまりにくだらなかった。

「お兄さん、目的と手段が逆転してしまったのね」

「う――くぅっ……」

落ちた、と思った。
364 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/12(水) 00:35:28.36 ID:4DAd+aoPo
>>349-354
乙ありがとうございます。

なんとか明日で終われそうです。
たぶん。

ぐぐってみたら化物語が出てきました。
既存キャラと要素が被るのは避けたかったですね。
要素そのものはよくあるものですが。
あまり本を読まないので不勉強が祟りました……。反省。
今後の進み方で、別物として個性が備わればいいのですが。

読んでもらいたくてここに来たので、毎日覗いてもらえてるのはとても嬉しいです。ありがとう。

志乃が叩かれたの、唐突に思われましたか。
場面というか、もう少し言葉を使えばよかったかも。
365 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/10/12(水) 03:07:44.90 ID:EZaAg4m5o
乙です
もうキャラとか設定が被るのは仕方ないと思います
数え切れないほど本やらアニメやら映画やらがあるわけですし
おそらく完全なオリジナルって作れないんじゃないですかね
366 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/10/12(水) 10:28:12.71 ID:I6PS2dn20
乙乙。
志乃が叩かれたところは、佐伯さんの喧嘩っ早くて気が強い描写が少なかったから唐突に思えたんだよね。
読み返してみると確かにそういう風に書いてあった。気が弱そうだとも書いてあったけど。

あとね、タバコは最初は吸わないと火が付かないよ。
367 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/12(水) 22:41:28.15 ID:Sm1Fw7EFo
最初だけふかしたって可能性もなきにしもあらず
368 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/10/12(水) 23:08:39.08 ID:qZnfPDB/o
おっつ!!
叩かれたシーンは特に気にはならんかったよ〜


>>366
可燃物と一緒に燃やしたんじゃね?
369 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/13(木) 00:37:28.36 ID:FH0cS7Uco
109

佐伯さんはぼんやりと、ランドセルを背負ったフレームの中の自分を見つめている。

「この頃は、まだよかったな……」

懐かしんでいるのか悔いているのか、僕にはわからない。
お義姉さんが佐伯さんに歩み寄り、僕らに見せた写真を渡す。

「勝手に拝借してたの。返すわ」

佐伯さんはそれを、力の抜けた手で受け取った。

「ああ、これ……人生で一番嫌だった時期の私だ」

思春期が「人生」なんて言葉を使うのは、大仰に思えたけど、これまでが短かろうと人生は人生だった。

「まあ、適当に察して。難しい時期で、中学にあがって他の小学校から来た子達と初めて一緒になって――
 社交辞令にどう返していいかわからず、合わせることもできず、それでいて半分、周りを馬鹿にしてた。
 そんな群からはぐれた人間を未熟な社会がどうするか、想像つくでしょ」

370 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/13(木) 00:38:21.94 ID:FH0cS7Uco
110

彼女は片方の唇の端を歪めて笑った。
始めにお義姉さんに見せられた兄の写真と、よく似ていた。
彼女は美人なのに、それはそれは嫌な笑顔だった。

「佐伯さん、はじめは男子に人気あったんじゃない?」

たぶんそうだろう。
そうだからこそ、反感を買う。
彼女は立っていることに疲れたのか、壁に寄りかかると、そのままへたり込むように床に座った。

「それも、はじめだけ。結局同じクラスで私を助けようとする男はいなかった」

くだらないと思った。
これだけが原因ではないだろうが、火に油を注ぐことになったのは違いない。

「お兄さんは自分が容姿に恵まれてることを自覚してたわね」

「むかつくけど、そうですね」

その上、皮肉なことに彼女と兄はよく似ていた。

371 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/13(木) 00:39:02.73 ID:FH0cS7Uco
112

「兄は身なりや話題とか、振る舞いに気をつかうようになって――
 登下校のときや、行事なんか――よくついててくれるようになりました。
 すぐに女子が目の色変えてすり寄ってきたの、ほんとばかみたいだったな……」

(女をたぶらかすのが、妹を守る手段だったわけだ)

(まさに、ただしイケメンに限る防衛手段……)

(うん、やっぱりむかつく)

「胸くそ悪かったけど、表面的には平和になった。
 しばらくは兄もまともで、その頃はまだ、仲良かったし、今じゃ考えられないけど自慢のお兄ちゃんだった」

彼女は床を見つめながら述懐する。

372 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/13(木) 00:39:48.91 ID:FH0cS7Uco
113

「いつからかお兄さんの中には、女性嫌悪が芽生えた。
 妹を苦しめておいて、自分が出てきた途端尻尾を振ってくる愚かしさに。
 さんざんひどい扱いをしておいて、妹をつてにして自分と繋がりを持とうとしてきた浅ましさに」

「それは図々しい」

思わず声にしてしまっていた。
だけど、お義姉さんは僕をたしなめたりしなかった。

「そこに集約されてるかもしれないわね。
 はじめは、敵がはっきりしていたからよかった。
 自分は妹を守る。妹に類が及ばなければ御の字。
 だから、妹が攻撃されてる間、彼は揺らいだりしなかった。
 皮肉だけど、そのころの方が気持ちは安定してたはずよ」

「兄は、女が憎くなったところで、憎むべき敵を見失ったんですね」

373 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/13(木) 00:41:15.78 ID:FH0cS7Uco
114

「もちろん、彼も全くの馬鹿じゃなかった。
 理性ではふつうの女も、いい女もいるって理解してた。
 だけど、どうしても自分によってくる女性が嫌なものに見えて仕方なかったんでしょうね。
 あいつらが勝手に寄ってくるって話してたわ。もちろんそれは嘘。
 彼は知らず知らずのうちに思わせぶりな態度をとって、ときにはわざと気を持たせてはこっぴどく振っていた」

(うーん、俺が事情を聞いてたら殴ってそうだ)

志乃は同情すべきか怒るべきか迷っているようで、何か噛みつぶすような顔をしていた。
佐伯さんの表情筋はゆるみきっている。

「さっきも言ったけど、彼の中では手段と目的が逆転していた」

「佐伯さんを守るために、女をたぶらかす、だったのが――
 女をたぶらかさなければ、敵がいなければ、戦っていなければ安心できない。そういうことですか」

「そうよ、春海君」
374 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/13(木) 00:41:51.20 ID:FH0cS7Uco
115

「彼は私のところに来て、こう訴えた」



――妹も女だ。母も女だ。家族まで憎くなってしまう。
  俺、何なんだ。何のためにこうなったんだ!



あの写真に映った、にやけた顔を思い出す。
あの男が半狂乱で助けを求めているのを想像するのは難しかった。
それが呪いのせいか、徐々に狂っていった自分のせいかわからないが、恐ろしい感覚だろうと思う。

「私から説明できるのはここまで。
 あとは兄妹、話し合うなり拳で語り合うなりして解決してちょうだい」

375 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/13(木) 00:42:31.18 ID:FH0cS7Uco
116

お義姉さんは、本当にすべてを話してしまったようで、沈黙した。
僕も志乃も、何も言えそうになかった。
佐伯さんも、凝り固まったわだかまりに楔を打ち込まれ、どうしたものか戸惑っているようだ。

(現状が嫌でも、それを打破するのってエネルギー要るんだよな)

だけど、この先どうするかは彼女が決めなければならない。
依頼人も、してきたことを覚えてる人はいるし、恨みに思う人もいる。そこから進まなければならない。

(これはこれで、残酷かもしれないな)

僕はそんな風に、ひねくれたことを考えていた。

部屋のどこかで、携帯が鳴った。

376 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/13(木) 00:43:20.22 ID:FH0cS7Uco
117

志乃がきょろきょろする。僕と目があったので、首を横に振って「俺じゃないよ」と伝える。

「――ああ、私のだ。ごめん、親から」

佐伯さんが我に戻って、電話にでる。

「――あ、お母さん。仕事は?
 ――入院?兄貴が?――で、大丈夫なの?
 ――うん、うん。……わかった。そうする」

佐伯さんは電話を切って、髪をぐしゃぐしゃにかきむしった。

「お兄さん、入院したのね?」

お義姉さんが気遣うそぶりを見せる。

(自分で通報しろって言ったくせに……。女優だな)

佐伯さんは鞄をひっつかんで立ち上がった。

「あの、すみません。お願いなんですけど――」

「言ってみなさい」

「私を、兄のいる病院まで送ってほしいんです」

唇をきゅっと結んでいる。彼女の目に、力が戻っていた。

377 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/13(木) 00:44:32.49 ID:FH0cS7Uco
118

―――――帰路・佐伯朋美と別れた後―――――

日が暮れようとしている。
今日は出来事を詰め込めるだけ詰め込んで、その上でさらに乗せてきたような一日だった。
つまり、僕は疲れていた。
お義姉さんの車の後部座席で、志乃は僕の肩に頭を乗せている。

「寝てていいよ」

「眠くない」

お義姉さんとルームミラー越しに目が合った。

「私のことなら気にしなくていいわ。妹がお腹すかせてるなら飲ませてあげて」

「ちがいます!」

こういうくだらないことで、少しずつ日常が戻ってきていると思う。

「トモちゃん、どうなるのかな。お兄さんも、女の人たちも」

簡単に「大丈夫だろ」とは言えない気がした。

「妹、私たちの仕事は終わったの。ここからは彼らの責任よ」

「わかってるけど、気がかりで――」

「みんな、これからじゃない。
 ちょっと道を外れたからって自棄になられちゃたまったもんじゃないわ」

「なにもかもが不確定ですか」

良くも悪くも、お先真っ暗。
視界は自分で拓けということか。

「あら、わかってるじゃない、義弟。
 あなたたちは、彼らがやり直すチャンスを掴んだことを祝福すればいいの。
 こっちが心配したって、破滅するのも成功するのも彼らの勝手よ」

言い方は冷たいが、僕には優しい言葉として受け入れることができた。

378 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/13(木) 00:46:07.89 ID:FH0cS7Uco
119

「事務所に帰ったら祝杯にしましょう。
 ……あ、祝杯っていっても、酒はだめよ。未成年ズ」

お義姉さんは上機嫌でハンドルを切る。

「すすめられても飲みませんって」

「あたしお寿司がいい」

「おまえなー」

「いいわよ、一番いいやつ頼んじゃう」

「だっておめでたいじゃん。ことぶきだよ。お寿司」

「あー、もー、わかったよ」

志乃に屈託のない笑顔が戻った。
こんな事件は、お義姉さんの下で働く限り続くんだろう。
僕はお義姉さんのように強くはなれない。
志乃のように爆発的な力を出すこともできない。

(となると、やっぱり勉強かな……)

僕は僕なりに、強くなろうと思った。

女「解禁したったwwwww」おわり
379 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/13(木) 00:51:55.37 ID:EcED/0RIO
380 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/10/13(木) 00:54:36.81 ID:FH0cS7Uco
>>365-368
乙ありがとうございます……。
やっと終われました。

そうですね、ストーリーの中でキャラが立ってくれればと思います。
がんばろ。

はじめはいつもどおり40レスくらいで終わるつもりだったんですが、途中からテンションが上がって
ノリノリで書き進めていくうちに予定の三倍という恐ろしいことになってしまいました。

>最初は吸わないと火がつかない
知らなかったので「うわああああ」って言ってるダディのAAみたいになってしまった……
無知とはときとして自分に牙を剥きますね。
ここは>>367>>368あたりの説を採用して補完してもらえたらと思います。

世の中には知らないことがいっぱいあるなぁ……。
381 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/10/13(木) 00:57:05.11 ID:FH0cS7Uco
>>379
ありがとう。
長くなったのにここまで読んでくれて感謝です。
382 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/10/13(木) 01:08:37.99 ID:9eSXc1q9o
>>381
乙ですたー。
383 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/13(木) 01:33:47.27 ID:Q+l53fGzo

間違いは誰にでもあるさ
384 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [sage]:2011/10/13(木) 04:08:51.39 ID:BTqTs2jLo
乙ー。楽しみに次待ってるのだ。
385 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/13(木) 07:15:47.71 ID:tkzco3BSO
続きはあるのだろうな?
386 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/10/14(金) 05:39:01.73 ID:4uTxy/x8o
>>383-385
ありがとう。
目標が1000までなので続きます。
次は土曜の夜に書きます。
387 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/10/14(金) 19:26:12.28 ID:0dh7Fohro
>>386
今日はないのか………残念。
388 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/14(金) 21:06:10.22 ID:xcLwNvkbo
明日の夜が楽しみで寝られないぞどうしてくれる
389 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) [sage]:2011/10/15(土) 14:47:13.36 ID:w8FvY/M4o
今日の夜か………wktk
390 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/10/15(土) 20:53:14.32 ID:iY457VKAo
>>387-389
ありがとう。

書き込むのは23時くらいからかなと思います。

気分転換に志乃の一人称で書いてみようかな、と「どうしようかな」状態。
まだ書きためしてないので家に着くまでのあと一時間で決めなければなりません。
391 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/15(土) 22:59:50.12 ID:WeQoEs1Ro
男「解禁したったwwwww」



―――――土曜の夜・ナオミの部屋・休憩室―――――

春海は私と入れ違いに、シャワーを浴びに浴室に行った。
ここのお風呂は使わせてもらったことあるけど、ユニットバスは苦手だ。

おねーさんは「サタデーナイトよ」なんて言い残して、繁華街に行ってしまった。
金曜・土曜は飲み会が多くて酔いつぶれる人が多いから、ちょっとずつ吸わせてもらうのにちょうどいいらしい。

(私は知らない人から吸うのはやだな)

「ひまー」

髪を乾かしながら無人の空間に訴える。
テレビはあるけど、積極的に見たい番組もない。

(おねーさんにプレーヤー置いてもらおう……。で、何か借りて見よう)

春海と話すのは好き。
どうでもいいことを喋るのが好き。
でも、最近の私は隙あらば春海の精液を狙っていた。

(禁止されてもしょーがないかなぁ……)

392 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/15(土) 23:01:21.16 ID:WeQoEs1Ro


(でも、おいしいんだよねぇ。元気でるし。なんか友達にほめられちゃったし)

体が持ち直すまでは、春海のことを考えるとお腹がすいた。
頭の芯が崩れて、違うものに置き換わって、すごく欲しくなった。

私の意思で私がやっていることだと理解してるけど、理性とか自制心が、
精液を接種するということに対してはゼロになった。

だけど、元気になった今では、そう切羽詰まった欲しさではなくなった。
必要かそうでないかといえば、たぶん今は不必要。
でも私にとって嗜好性があるから、吸わせてもらえるなら喜んで、といった感じ。

それくらい、私の容態は回復したし、精液にも飢えてなかった。

393 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/15(土) 23:01:10.64 ID:WeQoEs1Ro


(でも、おいしいんだよねぇ。元気でるし。なんか友達にほめられちゃったし)

体が持ち直すまでは、春海のことを考えるとお腹がすいた。
頭の芯が崩れて、違うものに置き換わって、すごく欲しくなった。

私の意思で私がやっていることだと理解してるけど、理性とか自制心が、
精液を接種するということに対してはゼロになった。

だけど、元気になった今では、そう切羽詰まった欲しさではなくなった。
必要かそうでないかといえば、たぶん今は不必要。
でも私にとって嗜好性があるから、吸わせてもらえるなら喜んで、といった感じ。

それくらい、私の容態は回復したし、精液にも飢えてなかった。

394 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/15(土) 23:03:47.96 ID:WeQoEs1Ro

春海の体つきを思い出す。
触られたときの感じとか、抱きついたときに、頬を乗せる肩の高さとか。
どんどん遠慮がなくなっていく彼の振るまい。

(あれ、春海の汁が割とどうでもいい……?)

自分で驚いた。

(あれだけ狙ってたのに、どうでもいい……だと……?)

春海に私を触ることを解禁してから、私はおかしい。

(私の体がおかしい)

あの日、彼が帰った後、なんだか体の奥が不完全燃焼みたいなモヤモヤが残っていて、自分で触ってみた。
そしたら意外と気持ちよかった。

問題は、彼とまともに目が合わせられなくなったことで、正直、車で「言いたいことないか」と聞かれたときは参った。

(触ってほしいなんて言えないもんなぁ)

そんなこと言ったらあいつは喜ぶだろうけど、なんか癪だ。

(なにより私、そこまでエロくないし!)

(そうだ。エロくない!エロくないぞ!)

(むしろ清純派!ピュアだもんね!)

(恥じらいが残ってるもん!だから私は淫乱じゃないぞ!)

(だって春海以外に触られたら、たぶん相手の指を折るもんね!私マジ貞淑!エロくない!)

そこまで考えて、納得した(つもりになった)。

395 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/15(土) 23:05:01.86 ID:WeQoEs1Ro


そうやって納得したところで、やっぱり触られた感触を思い出す。
どうやって触れられたのか、なるべく細かく思い出す。
その記憶の反芻で、お腹の下の方が少し痙攣するような感じがしてぞくぞくする。

(春海、早くお風呂からあがらないかな)

目を閉じて、彼の手の通ったところはどこだったか、自分の手でたどってみる。

(やっぱり触ってもらうのがいいなぁ)

そう思うけど、手が止まらない。

(春海、こっちも触ったんだよね……)

まだ下の方を自分で触るのは抵抗がある。
でも好奇心と快感には弱くて、そっちに手を伸ばして指を使ってみた。
396 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/16(日) 00:00:39.33 ID:bXCx5Dfho


(私、なんでこんなことしてるんだろ)

湿ってはいるけど、彼に触られたときほどじゃない。

(ぜんぶ人間でも、他の子もするのかな)

(それとも私が半分妖怪だからかな)

このぬるぬるは、肉だか皮膚だかのひだの奥から出てるらしい。
好奇心に負けて指を押し込んでみると、案外すんなり入った。

(うわああああなんだこれ!なにこの感触!こんなとこにあんなもん入るの!?)

(いやいやいや、ムリムリ!絶対ムリ!)

(神様ってバカなの?設計ミスなの?)

いろんな考えが頭をマッハで何周もぐるぐるした。

(これはいかん。なんだか戻ってこれないような気がする……)

惜しいような気もしたけど、指を抜いた。


397 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/16(日) 00:01:35.84 ID:bXCx5Dfho


浴室の方で物音がする。

(あっぶね。春海に見つかったらえらいこっちゃ)

髪も乾いていたので、そそくさと布団に潜る。
なんだか隠れてしまいたかった。

(今日はどうするのかな。いちゃいちゃするのかな)

期待してしまう自分が悔しい。

(前みたいなことするのかな)

また、自分で触ってしまう。

(もっとすごいのだったらどうしよ)

息は荒くなるけど、声は意外と出ない。
自分で感覚を予測できるからかもしれない。

休憩室の戸が開く。

「志乃、あがったぞー」

398 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/16(日) 00:02:32.46 ID:bXCx5Dfho


春海が戻ってきた。
そして私の指は、パンツの中から戻ってきていない。

(どうしよう……。こんなとこもぞもぞしてたら怪しまれる)

とりあえず下手に動くのは得策じゃないと判断して、そのまま会話を続ける。

「うー」

「お疲れのようだな」

「つかれた」

春海はタオルで頭をがしがし拭いている。

(うーん、風呂上がりは三割り増しに見えるなぁ)

少し、指を動かしてしまう。

(ギャー!だめだめ!ストップ!)

人の目の前で何やってるんだろう。

「そっちこそお疲れ」

素っ気ない言い方になってしまったかもしれない。

「俺はお義姉さんについてただけで、なにもしてないんだけどなー」

彼はドライヤーを使いながら、力の抜けた声で笑った。

「春海はがんばってたよ」

ずっと、聴きとった話を整理したり、私のフォローをしてくれていた。

になるまで口の中を舌で探られる。
399 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/16(日) 00:03:52.86 ID:bXCx5Dfho


「これから、みんな立ち直るといいな」

「だね」

(春海はまじめに関係者のことを案じてるのに、私ときたら……)

ちょっとした自己嫌悪に陥る。

(私をねぎらってくれるのはうれしいけどあっち向いてよぅ……)

「お前、まだ心配なことあるのか」

真剣な顔。たまに見せる難しそうな表情が、ちょっとかっこいいなと思う。
でも今はあっち向いて欲しい。

「ないよ。トモちゃんもふっきれたみたいだし」

春海は髪が乾いたのか、電気を消して布団に入ろうとする。
暗くなったので、やっと手が自由になった。

「寝るの?」

「寝るよ」

物足りない。でも春海は本当に眠いのかもしれない。
じゃあ、あんまりべたべたできない。

「つまんない」

つい、口をついて言葉が出ていた。

「ほう」

何かスイッチ押したかも。

400 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/16(日) 00:05:16.69 ID:bXCx5Dfho


「い、いちゃいちゃしないか」

春海は私が恥ずかしいことを言っても、馬鹿にしたりしない。

「えらく男前な誘い方だな」

「嫌ならいい。いいもん」

でもこうやってからかってくるのはいただけない。

「いやいや。いたしましょう。さー来い」

春海は体を向けて、私の体に腕をまわす。
体温と重みに安心する。
春海の匂いが、さっき私が使った石鹸と同じ匂いでうれしい。

そのまま唇を合わせたり離したりする。

頭の奥が、何かに置き換わったりはしない。
私は私として、気持ちいいと思って息を荒げている。

そういう反応を、春海は喜ぶ。
それで、私の意識がトロトロになるまで口の中を舌で探られる。
401 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/16(日) 00:31:50.32 ID:bXCx5Dfho
10

(うーん、なんか悶えてるのが私だけだと悔しいな)

体が勝手にくねってしまうのを抑える。

「我慢しなくていいのに」

「してないもん」

実際はしてますけどー。

(春海もなんか反応すればいいのに)

「なに、あんた全然なんともないの?」

「そんなことはない。気持ちいい」

「なぜ動じない。ファックファック」

「やっぱり直接的な刺激のほうが――っうああ」

言い終わらないうちに、性器の先のあたりの生地を爪で軽くひっかいてやった。
春海の腰が引ける。ちょっとおかしかった。

「わらうなよ」

そう言われながら手を掴まれた。

402 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/16(日) 00:32:37.03 ID:bXCx5Dfho
11

「さわるぞ」

「う」

一段低い声にぞくぞくする。

「今日は寝た振りナシだぞー」

(なんでこんなに楽しそうなんだろう)

意思に反して体が逃げるのを、抱きかかえておさえつけられる。
遠慮しているのか、前と同じように服の下には手を入れてこない。

(変なところで紳士だからなぁ……)

(直接触られたらどんなんだろう)

「――はっ、あぅっ」

想像したら、声が漏れた。

「お、声でたな」

それを指摘されると、やっぱり恥ずかしくて首を横に振った。

403 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/10/16(日) 00:36:20.31 ID:bXCx5Dfho
眠さでミスタイプが目立ち始めたので今日はここまでです。

では、良い日曜日を。
404 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/10/16(日) 00:37:35.83 ID:lT4VWNV7o
乙!!

てかここで切るのかよ・・・ orz
405 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/16(日) 02:29:44.36 ID:NH+9DwG8o

寸止めかよ!明日まで我慢するか

………ふう
406 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/16(日) 02:50:08.40 ID:hT1zl75DO
>>1

>>405
我慢出来てねぇwwwwww


407 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/10/17(月) 00:12:04.69 ID:GZwi5M7ro
>>398の最後の行はコピペミスです。

408 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/10/17(月) 00:13:49.31 ID:GZwi5M7ro
>>398の最後の行はコピペミスです。

409 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga ]:2011/10/17(月) 00:16:21.10 ID:GZwi5M7ro
12

春海の手が止まると、力が抜けた。

「お、ぐったり」

「言うなー」

「敏感だなー」

「だまれー」

頬をつねってやった。
少しの間、沈黙が下りてきた。
このとき私は、何も考えてなかった。

「してもらうと違うねー」

「えっ」

春海が驚いたのか戸惑ったのか、間の抜けた声を出した。

「えっ」

その反応の意味がわからず、私も同じ声を出す。

「……してもらうって、俺に?」

「え、ああ、うん。あんたに」

まずいと思った。

「あ、もしかして自分でしてみたり?」

声が半分笑っている。

(ああああああん結局ばれてるしもうやだああああああ)

誰か、穴掘ってくれ。
入るから。

410 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga ]:2011/10/17(月) 00:16:54.77 ID:GZwi5M7ro
12

春海の手が止まると、力が抜けた。

「お、ぐったり」

「言うなー」

「敏感だなー」

「だまれー」

頬をつねってやった。
少しの間、沈黙が下りてきた。
このとき私は、何も考えてなかった。

「してもらうと違うねー」

「えっ」

春海が驚いたのか戸惑ったのか、間の抜けた声を出した。

「えっ」

その反応の意味がわからず、私も同じ声を出す。

「……してもらうって、俺に?」

「え、ああ、うん。あんたに」

まずいと思った。

「あ、もしかして自分でしてみたり?」

声が半分笑っている。

(ああああああん結局ばれてるしもうやだああああああ)

誰か、穴掘ってくれ。
入るから。

411 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/10/17(月) 00:27:13.23 ID:GZwi5M7ro
重すぎて書き込み再試行すると二重・三重投稿になってしまいますね。
明日出直します。

これもちゃんと書き込めるかわからないけど。
412 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/17(月) 01:03:42.09 ID:5+EoA2Cdo
エラーでもたいてい書き込めているらしい
413 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/17(月) 02:56:37.54 ID:5XtlQYuPo
なんという焦らしプレイ
414 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/10/17(月) 22:39:59.90 ID:isSIqnv3o
>>412-413
そうみたいですね。
あまりの重さに諦めてました。
朝早いのであまり粘れないんですよ。
415 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/17(月) 22:43:26.18 ID:isSIqnv3o
13

「もうやだ恥死する」

「大丈夫、俺もやってる!」

「男と一緒にするなああああ……ああ…………はぁ」

反抗する気力も出てこない。
ただただ恥ずかしい。

「……引いてない?」

「引かない引かない」

「幻滅してない?」

「むしろボーナス」

「…………」

「どんどんしたらいいと思う」

「いや、推奨されても」

また、体を触られはじめる。

「で、どうやってるの?」

「んっ、ぅ……えと、真似して……」

「あれ、良かった?」

「うん……」


416 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/17(月) 22:47:01.57 ID:isSIqnv3o
14

一番恥ずかしいネタを握られてしまった。

「で、中とかいじってみた?」

「ちょっと……入れてみただけ」

「俺はまだそこまでしてないのに」

「いやぁ、好奇心でつい……」

春海の手が下に伸びる。
たぶん、そこは既にぐちゃぐちゃになってる。

(せっかくはきかえたのに汚れるのはなぁ……)

「あっ、だめ、待って」

「どうした」

「えっと、汚れるから、その……」

「自分で脱ぐ?」

「うぅ……動けない……」

なんで恥ずかしいと固まるのかな。
そのうち慣れるのかな。

(慣れるってことは、慣れるだけするってことで……)

そう考えると、頭が陶酔感でいっぱいになった。

「ぬがしてくれる?」

(私はなんてことを……)

「わかった」

春海は笑ったりせずに一言だけ言った。

417 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/17(月) 22:50:17.82 ID:isSIqnv3o
15

彼の手が下着にかかる。
私は彼の服を掴んで、ひたすら硬直している。

「怖い?」

「ううん」

なんだかやりにくそうだ。

「あたしは大丈夫」

「そうか。じゃ、ちょっと腰浮かして」

「あっ、ごめん」

少し体をずらすと、一気に脱げた。
下半身が心許ない。
性器を晒すとはこういうことか、と思うと少し心細い気がした。

(春海はよく、何度も吸わせてくれたな……)

ここ数日口にできていない、精の味を思い出す。
お腹はすかないけど、もっと触ってほしいような気持ちになった。
418 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/18(火) 00:41:50.36 ID:YmYwlTPSo
16

「ちょっと脚開いて」

「ん」

手で優しく膝を割られる。
それだけで、期待からかうっとりしてしまって息が漏れる。
彼の指の腹が、割れた肉を撫で上げると、つま先がぴりぴりして腰が跳ねた。

「うわ、すごいことになってる」

「言うなばかっ……」

言葉とは裏腹に、感覚の波に任せて体がうねる。
ある一点からくる刺激がすごく強い。

「うぅ、そこ、だめ」

自分の手を重ねて、ストップをかける。

「え、もっとしろって?」

面白がって手を固定したままいじられると、自分でもびっくりするほどあられもない声が出た。
しがみついて自分の口をふさいだ。

419 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/18(火) 00:42:32.81 ID:YmYwlTPSo
17

無意識的に、春海の性器に手を伸ばしていた。
欲しかったのかもしれない。

「まだだめだって」

春海は私の手をよけた。

「ひどい。そんなにしてるのに」

「だめ」

「――いっ、あっ」

不満の一つでも言ってやろうとすると、指が入ってきた。
自分のより深いところに届く。

「悪い、痛かった?」

「痛くない、痛くないからっ」

「動かして」とは言えない。
でも、悟ってくれたのか黙って、他のところを触りながら、中をこねたり抜き差ししてくれる。

私ももう逆らわない。
恥ずかしいのは一旦脇に置いておいて、快感をむさぼるように、気持ちいいように動いた。

そのうち、一際大きな波がきて痙攣した。
私は短く叫んで、力つきた。
420 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/18(火) 01:08:42.49 ID:YmYwlTPSo
18

数秒だったか数分か、ほんの少し眠りと覚醒の間でぼーっとしていた。

「……んん」

向きを変えようと体を動かすと、名残でもあるのか、お腹がうずいた。

「お、生き返った」

かなり目が慣れて、春海の表情がわかる。
穏やかで、いやらしいこと考えてなさそうなのに、どきっとした。

「くそぅ、童貞のくせに」

「張り切っていろいろ調べたったwwwww」

気持ちよかったので、あまり文句が言えない。
春海が私の手を、硬く張ったところに導く。
思わず喉が鳴った。

「志乃、口でして」

「いいの?」

声がはずんでしまう。

(わーい、禁止命令解除ー!)

でも、お腹はすいてない。
食欲はなくても、それを撫でていると愛しいもののような気がしてきた。

「ほんとにしていいの?」

「うんうん。解禁したったwwwww」

「やたー」

「いただきます」って言いそうになったけどやめた。
お腹はすいてない。
食事のためじゃなくて、気持ちよくなってほしいからするんだし。

だけど、習慣というのはなかなか裏切れないので、
私は心の中で手を合わせてから、春海の性器に口をつけた。


男「解禁したったwwwww」おわり
421 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/18(火) 01:38:38.54 ID:BTilpTEwo

ふう…やっとだ
422 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/18(火) 07:42:08.72 ID:HZ9hy9fSO
壁殴ってくる
423 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [sage]:2011/10/18(火) 08:20:59.16 ID:vfl7uZZso
ここで終わりかwwwくそう
424 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/10/19(水) 22:40:31.66 ID:hkENWotPo
>>421-423
レスありがとうございます。
先は長いのですよ。

今、次のお話を考えてるところなので、更新は土曜から再開します。
それではまたヽ(・∀・)
425 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/10/22(土) 18:26:22.13 ID:VViRNxVAO
まさかこんな良スレを見逃していたとは

今日の更新も期待させていただこうか




……ふぅ
426 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/22(土) 23:10:49.56 ID:Q6kJeENUo
女「もらったったwwwww」



暗さに目が慣れてきた。

(そういえば、頼んでしてもらうのって初めてだな)

それに快く応じて、喜々としてくわえてくれる志乃。

(うんうん。僕は幸せ者だなぁ)

そこがぬるりと温かく包まれる。

(今日は堪能したいな)

「志乃」

「ふ?」

彼女はくわえたまま上目遣いに僕を見る。

(電気消してるから油断してるな)

「顔見えてるよ」とは言わないでおこう。

「ゆっくりして」

「んむ?」

少し不思議そうだ。

「すぐ出したくない」

「ん」

納得したようだった。

427 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/22(土) 23:14:33.48 ID:Q6kJeENUo


志乃は口を離して、舐め上げるところからやり直すことにしたらしい。
空いた手で太股をさすられるのがくすぐったい。
志乃が側面に舌を這わせると、先っぽが彼女の頬に触れて汚した。

薄暗い視界の中で、カーテンの隙間から入った灯りでそこだけなめくじが這ったようにぬらりと光った。
彼女はそれに構わないようだ。
ぞくぞくした。

(うーん、なんて恐ろしい子)

やがて、志乃から例の花の香りが漂い始めた。

(この匂い、久しぶりだな)

先を浅く唇で挟まれる。

(さすがに数日断ったら腹も減るよな)

そのまま舌先でなぶられる。
声が出そうになったけど、奥歯を噛んで堪えた。
僕が大きく息を吐くと、志乃はそのままにやりと笑った。

428 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/22(土) 23:19:29.97 ID:Q6kJeENUo


(こいつ、ツボを心得てやがる……ッ!)

彼女は深く口に含むと、手も使い始めた。

(完全に出させにかかってるな)

一気に容赦しなくなった。

(もうちょっと堪能させてよばかあああああああ)

僕はあっけなく射精に至らされた。
志乃は相変わらず美味そうに喉を鳴らして飲んでいる。

(だから出てる間に吸っちゃらめえええええええ)

指で輪を作って、根本からゆっくり絞り出している。
彼女が口を離すと、ぽっ、と湿った音がした。

「ゆっくりしてって言ったのにぃ……」

僕は布団をかぶって、わざとそっぽを向く。

「あー、うー……お腹すいたん……」

志乃に向き直る。
少しばつが悪そうに、もじもじしていた。
ちょっとおもしろかった。

「美味かったか」

「ごちそうさまでした」

彼女は頬の横で手を合わせた。
429 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/22(土) 23:59:08.44 ID:Q6kJeENUo


志乃が布団に潜り込んでくる。
下の方でごそごそしている。
下着をはき直しているらしかった。

「春海はさ」

「ん?」

「……その、したいって思う?」

「志乃は?」

「質問を質問で返すなー」

彼女は掛け布団を巻き取りながらごろごろと畳の上に転がり出ていった。

「戻ってこーい」

「やだー」

「かえってきてー」

「私が恥を忍んで聞いたんだぞ。答えてもらうまでは帰らないぞ」

彼女は簀巻き状態で抗議する。
これは新しいスタイルのストだな。

「したーい。超したーい」

「だめー、心がこもってなーい」

「真面目にしたいと思ってるから戻ってきてくれー」

「しょーがないニャーン」

ごろごろごろ。

430 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/23(日) 00:02:56.18 ID:yr2KH1iFo


「で、そういうお前はどうなんよ」

布団を直しながら聞く。

「あ、あたし?あたしは……」

志乃は布団をかぶる。

「……したい、ですけど――」

布団の中からくぐもって聞こえる。
志乃が顔だけ出す。

「でも、やっぱりちょと怖い」

「わからんでもない」

彼女が達する直前、指一本でもぎゅうぎゅう締め付けてきたのを思い出す。
自分のモノの直径はどれくらいだったか。

「考えてみてほしい。自分の尻に棒が入ったらどうだろう、と」

「ケツを比較対象に引っ張るなよ」

「穴は穴ですし」

「穴だけど伸縮性とか用途が違うだろ」

「でもそっちに使う人もいるんでしょ」

(お前は何を調べたんだ……)

エロいことに興味を持ってくれるのはいいが、そっちの世界に興味はないんだ。

431 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/23(日) 00:06:14.01 ID:yr2KH1iFo


(いかんなー、ムードがどんどん破壊されていくなー)

彼女の関心をケツから反らさないといけない。
僕に同性愛を嫌悪する気持ちはないが、そっちのケはない。
ましてや開発される気もない。
僕は志乃の胸を掴んだ。

「うわあぁあ」

「もちょっと可愛く驚けよ」

「いやあぁあん」

「リテイクはいいから」

少しあきれる。

「もっと慣れたらしような」

「じゃあ貴様、もっとエロいことをするつもりだな!えっち!」

「しなきゃ慣れないだろうが」

(少なくともそんな反応のうちはできそうにないな……)

「う」

「いやなら一人でしたまえ」

彼女はまた、よくわからないうめき声を出して布団にもぐってしまった。
先は長そうだ。
432 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/23(日) 00:50:32.24 ID:yr2KH1iFo


「恥ずかしいのはお互い様なんだから、いちいち逃げてたらできないよ」

「ごめんちゃい」

「俺は志乃がエロくてもがっかりしたり馬鹿にしたりしないだろ」

「うん」

「もっと信用していただきたい」

「うん」

志乃は急にしおらしくなって、僕に口づけると

「ごめんね」

と詫びた。

僕が志乃の頭を撫でると、彼女は身を寄せてきた。
そのまま体をまさぐってみると、小さく声を上げた。
僕は眠くなるまでそうしていた。

433 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/23(日) 00:52:13.27 ID:yr2KH1iFo


―――――日曜の朝・ナオミの部屋―――――

お義姉さんはいつの間にか帰ってきていたらしい。

「おはよう。よく眠れたようね」

「おはようございます。おかえりなさい」

どっちを言ったらいいのかわからなかったので、両方言った。
志乃はまだ眠っている。
昨日の疲れのせいかもしれない。
僕だって自室で寝てたら昼まで寝ていそうだ。

「妹は寝てるのね。ちょうどいいわ」

彼女は僕を事務所に呼んだ。
僕を来客用のソファに座らせると、お義姉さんは神妙な顔で切り出した。

「あの子が起きてこないうちに話を済ませましょう」

僕は半分寝ている頭をたたき起こそうと息を止めた。

「あなた、あのとき見えてたでしょ」

「あのときって――」

「始めに依頼人の部屋に行ったとき、それから、術者の女の部屋に行ったとき」

「ああ、なんか黒いのがわさわさうごうご……」

「あのときはあなた達の安全を確保するのに気をとられてたから聞かなかったんだけど」

「はぁ」

「それに、気のせいだと思ってた」

「…………」

「君、何者なの?」

「は?」

434 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/23(日) 00:53:02.18 ID:yr2KH1iFo


「いや、ちょっと話の筋がわかりません」

「私があの子を車に残したのは、呪いを見せたくなかったからよ」

「それは、そうでしょうね」

不快な虫の形をした影を、ゲル状の黒いナメクジのようなものを思い出す。

「君、依頼人の部屋を見て、こう言ったのよ」



――なんだよ、これ――



「言った……ような気がします」

あのときは混乱していたからはっきりとは思い出せない。
でも、それくらい言っててもおかしくない。

「どうして見えるの?」

「どうしてって、俺にもわかりませんよ」

むしろ、見えるものだと思っていた。

「君、実は妖怪?」

「えー、俺は人間ですよ」

435 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/23(日) 00:53:54.96 ID:yr2KH1iFo
10

「おかしいわね……」

「俺だってわけがわかりません。こういうもんだと思ってましたから」

「昔からってわけじゃないのね」

「ええ。呪いを見たのは昨日が初めてです」

「何なのかしらねぇ……」

お義姉さんは考えこんでしまった。
僕だってわけがわからない。

「あの、見えると何かまずいんですか?」

「まずいっていうか、心を病みやすくはなるわね。
 ほら、俗にいうみえる人って、不健康そうじゃない?」

「俺、このままだとどうなるんですか」

「どうもしないわよ。見えるだけだもの。相手をしなければいいわ」

「うーん……」

それは「ごもっとも」だけど、見えることが普通でないと言われると、恐ろしくなってしまった。

「ま、何か考えておくわ。今日は帰っていいわよ。私は寝るから」

お義姉さんはそう言うと、休憩室に行ってしまった。
436 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/10/23(日) 00:55:54.76 ID:yr2KH1iFo
>>425
ありがとうございます。
マイペース更新ですが、今後もちょいちょい見に来てくれると嬉しいです。

今日はここまで。
437 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/10/23(日) 00:58:16.28 ID:iolJVu7Ro
乙!!

重い時間があったから今日は途中終了だと思ってた
ゆえにここまで読めて嬉しい

えっと・・・
( ゚∀゚)o彡゜おっぱい!おっぱい!
438 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/23(日) 12:20:10.79 ID:A/R7e6hSO
春海くんに何かあるのか

439 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/23(日) 23:38:44.48 ID:l7KMRo52o
11

―――――春海の家―――――

「ただいま……」

「おかえり。ごはんは?」

一晩帰らなかっただけなのに、久しぶりに母に会った気がした。

(俺、呪いが見えるんだけど、ウチの家系ってこうなの?)

そんなこと聞けるわけがない。

「いい。眠い……」

もう眠くなかった。
何か調べられないものかとパソコンを起動させてみた。
それらしいワードで検索しても、オカルトにかぶれたうさんくさいサイトばかりヒットして参った。

「俺じゃどうにもならんか……」

パソコンの電源を落として、ベッドに寝ころんだ。
お義姉さんが何か考えてくれるらしいが、一人になるとどうにも不安だ。
(独りじゃないのが救いか)

お義姉さんが言うには、志乃にも見えるらしい。

(あの人、何なんだろうな)



――地獄の門番が、門前払いに来てあげたのよ――



いやいや、地獄って。

440 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/23(日) 23:39:41.87 ID:l7KMRo52o
12

疲れは残っているが、疲れきっているわけでもない。
本来ならここで適当に抜いて、そのまま寝るところだけど、そういう気にもなれなかった。
僕は宙ぶらりんな気分で、特に空いてもいない腹に朝食を詰めることにした。

「あれ、やっぱり食べるの?」

「うん」

「疲れとるねぇ。大丈夫?」

「うーん。……父さんは?」

「釣りよ」

「あ、そう」

(父さん、釣りなんかやってたかな)

調味料の入った引き出しを開ける。

「母さん、鰹節きれてる」

僕は納豆に鰹節を1パック全部入れて食べるのが好きだ。

「あらら。買い物行ったら買ってくるわ」

「うん」

やっぱり、どうでもいい内容の会話をすると、思考が普段どおりに引っ張られるせいか落ち着く。

441 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/23(日) 23:40:52.70 ID:l7KMRo52o
13

「母さん、うちのご先祖様って何してた人か知ってる?」

茄子は好きだけど、味噌汁に入ってるのはいただけない。

「なに?急に」

「いや、お彼岸近いじゃん。9月だし」

僕は沢庵を噛む。

「お父さんとこは農家で、お母さんとこは、ご先祖様はお侍だったみたい」

「フッ」

なぜか笑ってしまった。
どうしても日本史のビッグネームしか頭に浮かばない。

「まあ、武士もピンキリだからね。うちはキリの方」

「ああ、うん」

(なんだ、イタコや陰陽師じゃないのか)

農家と武士。どちらも現実的に生きてそうだ。
「血筋説」はなくなった。

食事を終えて部屋に戻ると、いよいよすることがなくなった。
学校から簡単な課題は出てるけど、今する気にはなれない。

(志乃、まだ寝てるかな)

志乃にメールでもしようかと思ったけど、やめた。

442 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/23(日) 23:42:05.05 ID:l7KMRo52o
14

―――――春海の家・昼前―――――

「義弟、起きなさい」

「うー、んー」

結局、何もできず悩むだけ悩んで眠っていたらしかった。

「起きなさい」

お義姉さんの声がする。
薄く目を開けると、彼女が部屋に立っていた。

「また事件ですか……」

僕は布団をかぶって背中を向けた。
あのときは神経が昂っていた。怖くなかった。

「違うわ。あなたの為に来たんだから反抗期な振る舞いはやめなさい」

「俺は、怖いですよ」

「妹だって怖がるわよ」

「そこで志乃を引き合いに出さないでくださいよ」

彼女の名前を出されると、僕は動かざるをえない。
亡霊を殺した志乃の暴走を思い出す。

(いや、あれは理性の上で殺してた)

あんなことはさせたくない。

「志乃を戦わせるのは嫌です」

「私もそう思うわ」

443 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/23(日) 23:42:57.27 ID:l7KMRo52o
15

僕とお義姉さんでは、志乃が可愛い、極力危険な目に遭わせたくないという点で一致している。
それなら、わかってもらえる。
体を彼女に向けた。

「だけど対抗する術は持っていたほうがいい」

お義姉さんが目を大きく開いた。
驚いたらしかった。

「怖いんじゃなかったの?」

「怖いですよ。だからこそ逃げることもできなくなったときのことを考えると、もっと怖い」

窮鼠猫を噛むというが、今の僕には猫を噛む前歯もない。

「いざとなったら志乃が戦えない、こともないのはわかってますけど――
 でもやっぱり、あいつにあんなことはさせたくないです」

「過保護ね」

「お義姉さんだって同じことを考えると思いますよ」

444 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/23(日) 23:43:58.03 ID:l7KMRo52o
16

お義姉さんは椅子を引いて座った。

「それで、義弟はどうしたいの」

彼女も半分はわかっていると思う。

「俺に盾をください」

「盾」

「盾っていうのは喩えですけど――ただの人間にも、結界は張れるのはわかりましたから」

「ああ、昨日の」

「そういったものが、瞬間的に出せるようになればいいんですけど」

「妹の――盾になるつもり?」

「そんな大それたもんじゃないです。俺たちが安心できる材料を少しでも増やしたいだけです」

「やけに謙遜するわね」

「長いこと人間やってるとこうなるんですよ。
 ――それで、できそうですか?」

「できるけど、練習が超地味よ。ほんと嫌になるくらい」

「平気です。もう十分面倒は被ってますから」

445 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/23(日) 23:44:53.56 ID:l7KMRo52o
16

お義姉さんはポケットを探ると、指輪を出した。
見たところ、フラットなデザインの銀でできたもののようだ。

「これをはめて。右手の中指ね」

僕は受け取って、つまんで観察する。
輪の内側には何か石が埋めてあった。

「それ自体があなたを守ってくれるわけじゃない。
 力を増幅させたり調整してくれる、補助的なものね」

言われたように、はめてみる。
確かになんともなかった。

「それで、どうすればいいんですか」

「地味よ。もんのすごい地味よ。覚悟なさい」

「えらく引っ張るなぁ……何なんですか」

お義姉さんは立ち上がって頭を掻いた。

「地味すぎて命じる方もちょっと嫌なのよねぇ」

(命令に地味も派手もあるんだろうか。この人にはあるのか)

彼女は少し間をおいて、

「きれいな円を、フリーハンドで描けるようになりなさい」

と言った。

446 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/23(日) 23:46:13.86 ID:l7KMRo52o
18

「……はぁ」

意味はあるのだろうが、確かに地味で少しの間呆然とした。

「なによ、リアクション薄いわね」

「ああ、ほんとに地味だったので」

「これだから言いたくなかったのよ」

「俺、漫画描きたいわけじゃないですよ」

(手塚治虫はできるんだったっけな)

「いいからやりなさい。ほんとに役に立つんだから」

少しむきになってきたようだ。

「わかりました。やります。やりますって」

やるべきことができて、少し気分に張りがでてきた。

「それじゃ、がんばってね」

そう言って、お義姉さんは消えた。
447 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/23(日) 23:48:29.59 ID:l7KMRo52o
>>437-438
乙ありがとうです。
ちょっと粘ってみました。
待っててもらえて嬉しいです。

春海ががんばりますおっぱい。
448 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/10/24(月) 00:20:02.88 ID:atbu4FWYo
乙ん

期待して待っとるよ
449 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/24(月) 01:02:44.90 ID:rsnRZYlKo
乙ぱい
450 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [sage]:2011/10/24(月) 04:13:33.79 ID:EFofUAono
フリーハンドで円は地味だなwww
451 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/24(月) 09:51:05.34 ID:kdT8JvLNo

フリーハンドで円が書ける人は心がけ綺麗らしい
452 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/24(月) 10:24:18.38 ID:STOZXR6SO
地味に辛いな
453 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/24(月) 20:27:47.23 ID:kHoYQ2EYo
多分俺絶対無理。フリーハンドで円。
454 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/25(火) 00:11:26.96 ID:5a9u01gIo
19

他にしたいこともないので、父の書斎からコピー用紙を適当に束でもらってきた。

(円ねぇ……)

久々にコンパスを出して、いくつか大きさを変えて描いてみた。

(まあ、これなぞってれば癖が付くんじゃないかな)

まずは模倣から。
コンパスで描いた円を何度もなぞってみるが、30分もしないうちに飽きた。

(いやいや、飽きるまでやったってことは、案外描けるようになってるかも)

白紙を出して描いてみる。

(だめだ。タテに長い……)

やり直し。

(だめだ。ヨコに長い……)

(だめだ。ココでっぱってる……)

(だめだ。ココひっこんでる……)

(これは……地味だけど、いや、地味であるが故にキツイぞ……)

455 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/25(火) 00:12:25.50 ID:5a9u01gIo
20

「フリーハンド、円、コツ……っと」

困ったらグーグルに相談だ。

「教えてグーグル先生ー」

(ああ……漫画の神様とか紙を回せばいいとか、Shift押しながらドラッグばっかりだ)

(これは詰んだな)

(地道にやれということか)

急激にやる気がなくなっていく。
ベッドに入ろうとしたところで、インターホンが鳴った。
階下からやりとりが聞こえる。

――ママさんこんにちはー。

――あらぁ、志乃ちゃん。どうしたの?

――春海君がバイト先に携帯忘れたから届けにきますた。

(そういえば、まだ帰ってから携帯使ってなかったな)

足音が階段を上ってくる。
僕は机とベッドの間で、どっちつかずの中途半端な姿勢で志乃を迎えた。

456 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/25(火) 00:13:58.32 ID:5a9u01gIo
21

「春海ー、はよーん」

と、志乃は手を挙げる。

「おはよーの時間じゃないだろ。昼。今アフタヌーン」

「さっき起きたんだもーん」

「はい、携帯」と、僕に手渡す。

「ありがとな」

開いてみると、志乃からの着信が残っていた。

「悪い。何か用だった?」

「用は特にない。お話したかった」

「そうか」

かわいい奴め。
志乃の目が机の上で留まった。

「あ、丸がいっぱい」

「ああ、それは――」

説明しようと体を向けた瞬間、志乃が飛び込んできた。

「おおぅ……どうした志乃……」

「春海ががんばるっておねーさんから聞いた」

「あの人と喋ると筒抜けだな」

「ちょっと感動した」

(ちょっとか……やっぱり修行が地味なせいか……)

457 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/25(火) 00:15:02.20 ID:5a9u01gIo
22

志乃は僕の首に腕を回して、唇を合わせてきた。

(いつもより長いな)

息苦しくなったところで離す。

「――ぷは。じゃ、私は帰るね」

「お、おう……」

「がんばってね」

部屋を出るとき、彼女は振り返って微笑んだ。
僕は鼻の下を伸ばしながら見送った。

(ぃよっしゃあああああがんばる!もうね、俺超がんばっちゃう!)

(シモ・ヘイヘだって秘訣は練習だって言ってるしな!)

あー、俺って単純。

お義姉さんだって言い出すのを嫌がってたし、地味ーで成果がわからないけど、意味はあるのだろう。
そうでなければ、あの人がやれと言うはずがない。

志乃の容態がまだ安定しなかったとき、志乃の口に指を突っ込めと言われたときは面食らった。
だけど、それもちゃんと意味があった。

やる気が失せないうちに、僕はまた机に向かった。

458 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/25(火) 00:16:09.08 ID:5a9u01gIo
23

―――――月曜・学校―――――

僕は授業中も丸を描いていた。
ノートの余白がランダムな水玉模様になって、草間弥生リスペクトみたいになった。

「春海、ノートがキモいぞ」

長野に見つかった。
没頭していて隠す間もなかった。
動揺を悟られたくない。

「ああ……きれいな円を描こうとがんばってたらこんなことに……」

「なんでまた」

「最近、絵が上手くなりたくてなー。
 直線とか丸描いて線の描き方練習したらいいって聞かない?」

「そうなん?」

「いや、よくわからんけど」

「なんだよー、もー」

「俺もちょっと調べただけだもんよー」

459 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/25(火) 00:17:15.20 ID:5a9u01gIo
24

「あー、でも俺、むきになるのちょっとわかるわ」

長野が僕のノートに目を落としながら言う。

「おお、わかってくれるか」

シャーペンを置いて手首を回す。
仮に腱鞘炎になったとして、原因が「マルの描きすぎ」なんて恥ずかしい。

「貸して貸して。俺、結構得意なんだよねー」

「ん」

シャーペンを渡す。
長野は適当な余白を見つけると、迷いなく、シャッとペン先を走らせた。

「どうよ、これ」

粗を探せないこともないけど、ぱっと見た感じ、円だった。

「なん……だと……」

僕の昨日からの丸一日の苦労はなんだったんだ。

「お前、なんか練習した?」

「まあ、たまに描いてたけど、そんな必死にはやってないかな」

「はあぁあああ?なんだよこの美しさは。一朝一夕で身に付くもんじゃねーぞ!」

「そんな必死にならなくても……」

そうだ。たかがマルだ。
だけど今回ばかりは身を守りうるマルなのだ。

460 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/25(火) 00:18:13.73 ID:5a9u01gIo
25

「で、コツあるの?」

「コツっていうか……まあ、コツか。
 紙の上に線が見えるくらい、円をイメージして、線が見えた瞬間に迷わずなぞる」

思いがけず、有用そうな答えだった。

「イメージか」

「そう。俺のイメージ力はアスリート並!」

妙な喩えだ。

「イメージねぇ……」

「そう!俺は今まで一度もインターネットやエロ本を頼らなかった男!すべては想像!」

「お前、かっこいいようでやっぱりかっこ悪いわ」

「そこは誉めたたえて!」

こいつ、図に乗るとしばらくテンション高いからな……。

(素直ないい奴ではあるんだけどな……)

「うーん、ああ、でも助かったわ。サンキュー」

「え、助かったの?なんかよくわかんないけど俺ってえらいわー」

「うんうん」

闇雲に手を動かしてきたけど、ちょっと気が楽になった。

461 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/25(火) 00:19:29.74 ID:5a9u01gIo
26

―――――放課後・志乃の部屋―――――

「――というわけで、きれいな円を描くにはイマジネーションが大事らしい」

「ほう」

「だから俺は、まるいものをイメージするところから始めようと思う」

「ほうほほう」

「そこで印象に残りやすい丸いものを頭に叩き込みます」

「いやな予感しかしない」

「志乃、おっぱい見せてく――ぶっ」

枕が顔に飛んできた。
志乃はベッドに飛び移って避難している。

「ヘンタイだー!」

布団をかぶって、胸の前でかき合わせている。

「なんだよ、解禁してくれただろうが」

「まだ見られるの恥ずかしいんだもんバカバカー!」

「羞恥心と命どっちが大切なんだ」

「どっちも!ていうか丸いのなら他のがあるじゃん!ボールとか!」

「あれは直接的すぎて俺を円という枠にはめにかかるんだ!」

「じゃあそれでいいじゃん!なに自称・大器晩成型のダメ人間みたいなこと言ってんの!」

「俺はダメ人間じゃない!ちょっとばかりエロで釣ってくれた方がやる気が出るだけだ!」

「あんた十分ダメだよ!」


462 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/25(火) 00:20:59.37 ID:5a9u01gIo
27

煩悩と羞恥心の応酬の後、二人で大きく息を吐いた。

「おっぱいは円じゃない」

「知ってる」

「じゃあ見せろとか言うなよぅ……」

志乃は布団をかぶったままいやんいやんと身をよじる。
布団の固まりが揺れている。

「だけど乳輪は円かもしれない」

「いやいやいやいや」

「俺はその可能性に賭けてみたい」

「あんたって人はー!もう!もう何?なんなの?」

身構えたが、投げるものがないせいか何も飛んでこなかった。

「もー!私真剣に聞いたのに!ファック!まじファック!」

「志乃、俺たちの為だ」

「おっぱいで救える命などあるものか」

「あるよ。少なくとも二つは」

「真顔で言うなもうやだああああああああ」

志乃は布団をかぶったままうつぶせになって、足をばたばたさせる。

(志乃、ケツ出てるぞ)

ああ、尻も丸いな、そういえば。
僕は存分に注視する。

463 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/10/25(火) 00:26:25.04 ID:5a9u01gIo
>>448-453
乙&レスありがとうございます。
やっぱり円って難しいですよね。
自分には出来そうにないものを選びました。

読み手さんに絵を描く人もいるんでしょうか。
自分は書くのも描くのも好きですが、描く方は不得手なので描ける人は素敵だな、と思います。
464 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/25(火) 20:57:58.43 ID:/VYe/ySSO
465 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/26(水) 00:11:16.94 ID:XAIwNI1no
28

身の置き場に困ったので、ベッドに腰掛けた。

「頭隠して尻丸出しだぞ。今日はピンクか」

志乃は止まった。
一旦布団に全身を隠してもぞもぞすると、頭だけこっちに向けて出した。

(かたつむり……しのつむり……)

志乃から布団を奪ったら、携帯を忘れた現代っ子くらいオロオロしそうだ。
彼女にとって、布団は羞恥心を守ってくれる殻のようなものなんだろう。

「そんなに見たい?」

「見たいとも」

「なんでよ」

「おっぱいを求めるのに理由が要るかい?」

「…………」

志乃は頭が痛いときみたいに、眉間にしわを寄せて、ぎゅっと目をつぶった。

「おかしいと言われてもいい。
 俺はお前の裸をちゃんと見るまでは死ねない」

「どっかで聞いたフレーズだな……」

志乃は布団にくるまったまま傍にきて、頭を僕の膝にのせた。

466 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/26(水) 00:12:30.60 ID:XAIwNI1no
29

「まあ……あんたもココ、見せてくれてるしねぇ……」

手を出して、平常心な棒をつついてくる。

「おお、柔らかい」

「それが普通なの」

「おもしろい……」

「その気がないならツラいからやめて……」

僕はおっぱいを見せてほしいと頼みに来たのであって、生殺しにされに来たんじゃない。

「じゃあさ、イメージだとか練習がどうとか変な理屈こねないで素直に見たいって言って」

「さっきから言ってるよ」

「ちーがうー。最初に見たい理由がどうとか言ってた」

志乃は僕の膝をぺちぺち叩いて抗議する。

「こだわるなぁ……」

「そりゃこだわるよ。敬意を払いたまえ」

「俺みたいなこと言うなぁ」

「あんたが言ったんじゃん。もー」

(お前こそ見せたいのか見せたくないのかどっちなんだ)

(ああ、理屈抜きで単純に求められたいのね)

僕の頭の中のお義姉さんが「女ってめんどくさー」と、ぼやいた。

467 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/26(水) 00:13:21.79 ID:XAIwNI1no
30

「あー……見たいから見せてくれ」

「う」

「なんだよ、お前が言ったんだろ」

「わ、わかったよぅ……」

了解したくせに、志乃はまた布団にもぐってしまった。

「テ、テンションが素だと恥ずかしい……」

弱々しい声がくぐもって聞こえた。

(そっちの問題かよ)

志乃が布団から赤くなった顔を出す。

「恥ずかしいの、気にならないようにして」

「暗くすると見えないんだが」

「……そうじゃなくて、恥ずかしいの、考える余裕がないようにして」

「ほう」

「うう……やだ。もう言わない」

「よしよし、任せんしゃい」

僕はベッドに仰向けに寝ころんだ。

468 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/26(水) 00:14:28.06 ID:XAIwNI1no
31

「志乃、来い」

「えええ」

「俺をまたぐか、俺に座るかしたまえ」

「う、重くても知らないぞ」

「あー、平気平気」

志乃はもじもじしながら僕の体をまたぐと、遠慮がちに腰を下ろした。

「あああ、あのさ、この体勢って」

彼女は両手で顔を覆う。

「言わなくていいことは言わないでおけー」

「おk?」

困った顔で首をかしげる。

「うんうん」

志乃は硬直してしまっているので、ネクタイを緩く引っ張って顔を寄せた。
彼女は倒れ込みそうになると、僕の胸に手をついた。

「うう、何?」

「緊張しすぎ」

「そ、そんなことはない」

「そう?」

「そうだよ」

「そうか。じゃあいつも通りにして」

志乃は「あうぅ」とか「えうぅ」とかよくわからない声でうめくと、そろそろと顔を近づけて頬にキスした。

469 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/26(水) 00:16:53.68 ID:XAIwNI1no
>>464
乙ありがとうです。

少ないけど、今日はここまで。
470 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) [sage]:2011/10/26(水) 00:31:40.44 ID:JCBLtVrPo
いつもいいところで…乙
471 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/26(水) 00:53:17.18 ID:zOTBtNmSO
おっきしかけた息子をどうしてくれる
472 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/10/26(水) 00:53:35.38 ID:iN+TTN3go
ぬぉう・・・今回も生殺しかよぉ・・・

だが乙!!!
473 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/10/26(水) 01:02:15.38 ID:OOqztE7jo


真円描くコツは肩や肘も使うことな、指や手首だけじゃがたつく
恐れず勢い良く描き始めに戻ることに集中して描く、案外すんなり描けたりする

肩は大事だよ肩
474 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/27(木) 00:26:16.25 ID:BtaEddmyo
32

志乃が顔を離そうとするのを、両手でがっちり捕まえる。

「な、なによぅ……」

「まだ遠慮してるな。体重かけていいよ」

「どうすればいいんだ……」

「まずはその、突っ張ってる手をよけるんだ」

志乃が手をどかすと、僕の上に倒れ込むようになった。
僕の胸で、志乃の胸がつぶれる。

「ね、ねえ……これエロくない?」

(わざわざ申告してくるあたり照れてるな)

「なんなら動いてもいいぞー」

「そんなことしないもん」

肩が震えている。

「うんうん。ほら、固まってないでちゅーしよ」

「ぬううう……が、がんばる……」

志乃は軽く首を振って、僕の唇を軽く噛んだ。
僕は少しだけ舌を出して唇を舐めて、だんだん絡ませていく。
顔を捕まえている両手で、そのまま志乃の耳をふさいだ。

475 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/27(木) 00:27:02.75 ID:BtaEddmyo
33

しばらくすると、吐息に甘えた声が混じってきた。

「はっ……うぅ、ん……なんかっ、それだめ……だめっ」

「だめ」とは言うものの、「やめて」とは言わない。

(ああ、これがいいのね)

などと、冷静に分析しているつもりで僕の頭も結構トロトロになっている。
たぶんこのまま続けたら、溶けた脳が耳から流れる。

(それでもいいやぁーあはははは)

「あっ、う。やだあぁ頭ん中でぐちゃぐちゃいってるぅ」

(僕はすでに頭が液状化現象です)

志乃も、僕の耳をふさぐ。
口内で粘膜がぺちゃぺちゃ接する音が、頭骸に響く。

「う……確かにこれはやばいな」

「だからだめって……ん、言ったのにぃ……」

(あ、でもやめないのね)

476 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/27(木) 00:28:20.18 ID:BtaEddmyo
34

苦しくなったのか、志乃は顔を離した。
僕の上で、乱れた呼吸を整えている。

僕は片手で背中をさすりながら、もう片方の手で尻から脚を撫でる。
たまにびくっと体が跳ねるのがいい。

「いい?」

志乃は曲げた指の関節で唇を押さえながらうなずく。

(うーん、可愛い奴め)

肌の出ている部分が汗ばんできている。
シャツの裾から手を差し入れる。
怒られるかと思ったが、彼女はされるがままになっている。

そのまま手を肩甲骨のあたりまで滑らせる。
汗でシャツが張り付いて、服の中は思ったより自由がきかない。

(あれ、サラシじゃなくなってる)

ホックを外そうとがんばってみるが、片手じゃうまくいかない。

(誰だ、指パッチンの要領でいけるとか言った奴は)

「……ん、手こずってるな?」

志乃がとろんとした目のままでからかってくる。

「ちょっと黙ってなさい」

両手を使って、やっと外せた。
ゆるくなったワイヤーの下から指で下乳をつついてみる。
重力の影響を受けているせいか、仰向けになっているのを触るより量感があった。

477 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/27(木) 00:29:08.79 ID:BtaEddmyo
35

(脱がすって言ったほうがいいのか黙ってるほうがいいのか……)

僕はそんなことを考えながら、志乃のネクタイの結び目に指を差し込んでゆるめた。
元々、結び目をきつく作らないせいか、思ったより簡単にほどけた。

(黙ってネクタイ取って、文句言われないってことは、いいんだよな……?)

せっかくとろけていた脳が、要らん方向で思考力を取り戻してきた。

(やりにくいな……女は服の合わせが逆だったか)

苦戦しながらボタンを外していく。
志乃はどうしていいかわからないらしく、きつく目を閉じて僕の服をつかんでいた。

(ボタン全部外せたけど、スカートだけ残すのも間抜けだしなぁ……)

僕はまた要らぬことに気を遣いながら、志乃の肩を露わにしていく。
蛍光灯の明かりの下だと、肌が妙に生々しい。
シャツの生地が、肘のあたりで下着と一緒に下りなくなってしまった。

478 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/27(木) 00:30:38.85 ID:BtaEddmyo
36

「志乃、腕抜いて」

「……あっ、ご、ごめっ」

彼女は何も考えていなかったようで、素直にそうしてくれた。
ブラジャーのカップの上辺が、胸の先にひっかかっている。
なんとも頼りない最後の砦である。
指をかけて少し引っ張ると、志乃は完全に上半身裸になった。

盛り上がった白い肉のてっぺんに、ピンクがかったベージュの乳輪と上を向いた乳首がついている。
さんざんつついたせいか、硬くとがっている。
ただでさえ生意気おっぱいなのに、ローアングルからの眺めは絶景で、僕は息を飲んだ。

「……うぅ……な、なんか言って」

絶句していたらしく、志乃が気まずそうに口を開く。

「いや、その、感動していた」

「うー、ばかばかエッチー……」

志乃は顔を覆ってうつむく。
その腕で乳房が両側から圧迫されて、ぎゅっと寄せられた。

(あー、俺はその右おっぱいと左おっぱいの間に挟まりたい)

もう円とかイメージとかどうでもよかった。
僕の頭はおっぱい一色だった。
脳の皺一本一本が「おっぱい」の単語でパテ埋めされてツルンツルンになるくらいおっぱいだった。
479 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/27(木) 00:38:12.38 ID:BtaEddmyo
>>470-473
レスありがとうございます。
いいところで、すみません。
しかし青春とは生殺しの連続だと思います。
あのもどかしい不完全燃焼な感が。

試しにやってみたら普通に筆記する要領でやるよりもきれいに書けました。
これはいいことを教えてもらったなぁ。
ありがとう、473さん。
480 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/27(木) 00:42:29.55 ID:8bdFFY+SO
乙!!

毎日これが楽しみで生きてるよwwwwwwww

481 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/10/27(木) 02:59:34.11 ID:cDIoI9fLo
乙です。
この2人は微笑ましくていいです。

>>479
>しかし青春とは生殺しの連続だと思います。
思わずレスしてしまう名言でした。
482 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/28(金) 00:52:55.79 ID:UbqrMevYo
37

志乃の体を無理矢理抱き寄せて、胸の先に口を付けた。
口の中にこりこりしたものがある。
どうしていいか迷う余裕もなくて、ひたすら吸った。
志乃が小さく悲鳴をあげて、僕の頭をかき抱く。

「春海っ、痛い、ちょっと痛い」

我に返って口を離した。
志乃のおっぱいが僕の唾液で塗れている。
僕はそれを見て、妙に満足感を覚えた。

「ああ、すまん」

「もー、赤ちゃんじゃないんだから」

「そのおっぱいで育ちたかった」

「その願いは来世に持ち越しだな」

志乃は僕のシャツをつんつん引っ張る。

「なんだよ」

「あんたも」

「何?」

「……あたしにも触らせろよぅ」

あの、彼女の「空腹時」特有の花の香りはしない。

「はい、喜んでー」

「居酒屋か」と、つっこみながら、彼女は僕のボタンに手をかけた。

「やりにくい……」

もどかしそうにしているので、結局僕が自分で脱いだ。

483 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/28(金) 00:53:42.32 ID:UbqrMevYo
38

志乃はどうしていいかわからない様子だったけど、僕の真似をすることにしたらしい。
志乃が僕の体に唇を当てるたびに、既に限界近くまで膨張している箇所が自己主張するように脈打つ。
僕が呼吸を荒くすると、志乃は「ふふん」と笑って頬ずりしてきた。

「気持ちいい?」

「多幸感がすげえ」

「タコ缶……?」

(あー、絶対勘違いしてる)

「脳汁がドバドバ出る」

「しる…………」

志乃が僕の股間に目をやる。
そこに座ってるから見えはしないんだけど。

「要る?」

「要るー」

即答である。
これに限ってはあんまり恥じらわないのね。

484 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/28(金) 00:54:28.45 ID:UbqrMevYo
39

「その前に志乃をいじり倒さないとなー」

「うぅ……あたしはいいよぅ……」

「ほぉーら、恥ずかしいと思う余裕もなくなるぞー」

志乃の首をつかんで、首から耳へ舐めあげる。
しょっぱかった。

「ひゃ、あああぁ、っはぁ…………もう!」

涙目でにらまれても怖くないです。
手をスカートの中に滑らせる。

「パンツ脱がなくていいの?」

「うぅ……いい。もう悲惨なことになってそうだし」

一通りお尻の丸みを楽しんでから、肝心な所へ移る。
そこから分泌された液は、すっかり生地に染みこんでいる。
確かにもう手遅れだった。

「うーん、時すでに遅し……」

「だから言うなぁ……っ」

クロッチの部分をずらして、指を侵入させる。

485 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/28(金) 00:55:41.64 ID:UbqrMevYo
40

志乃が喘ぐと、指を包む粘膜が奥へ引っ張ろうとしたり外へ押し出そうとしたりする。
中身をこね回したり側面に指の腹をこすりつける。

「ふ……春海、もっと」

「大丈夫か」

「うんん……たぶん」

かと言って、あまり激しくして傷をつけてもよくない。
迷った挙げ句、もう一本指を入れてみることにした。
一旦中指を抜いて、薬指と重ねてねじ込むようにゆっくり挿入する。

「痛くない?」

「ん、ちょときついけど、痛くない」

(これに慣れたら、俺の入れても大丈夫かな)

志乃は恥ずかしさの上限を振り切ったようで、自分から腰をくねらせて勝手に気持ちよくなっている。
僕はその様を眺める。

「ああああぁ、ん、は……っ。み、見るなぁっ」

「見ないほうがムリだわ」

「やだあぁ」

上の口では「いやいや」と言うが、下の口がなんとかかんとか。

「大丈夫、可愛い可愛い」

本心である。

「ううう、もう、ばかばかぁっ。気休めには騙されないんだからなっ」

それがまともに口も閉じれない人間の言うことか。

(これはある種の才能だな……)

(どこがいいかわかりやすくて助かるけど)

486 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/28(金) 00:56:59.86 ID:UbqrMevYo
41

途中から志乃の声は言葉じゃなくなった。
やがて、短く叫ぶと体を反らせていってしまった。
脱力しきって、僕の上に倒れている。
指を抜くと、彼女は短く痙攣して、少し声をあげた。

「うう……またいかされた……」

「うんうん。いいことだ」

志乃は体を起こそうとするが、だめだったようだ。

「……んっ。ごめん、力が入らない」

「いいよ。そうしとけって」

「あー、うー……後でがんばる」

「期待してるー」

「ねえ」

「ん?」

「その、入れたいって思う?こっち」

と言いながら、すまなそうに僕の性器を服ごしに撫でる。

「そりゃもう」

「そか」

「焦ってはないから、気にするなよ」

「うん。……いや、そうじゃなくて、してみたいなって」

「早まるなー!」

「そんなんじゃないよぅ。案外痛くなさそうなんだもん」

「うーん、それなら歓迎するけど、俺にはコンドーム的なものがない」

「あたしにもない」

「薬局に行く度胸もない」

「あたしにもない」

「先は長いな」

「ああ」

(そう悪くない気もするけどねー)

志乃の髪に顔をうずめる。
熱気と湿気が、僕の鼻をくすぐった。
妙に有機的な感覚で、志乃がとても生き物らしく思えて、ほんの少し切なくなった。
487 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/10/28(金) 01:04:25.97 ID:UbqrMevYo
>>480-481
乙ありがとうです。

そんなに言ってもらえるなんて幸せだなぁ。

ひたすらちゅっちゅしますからね。
もう事あるごとにちゅっちゅちゅっちゅ。
事がなくてもちゅっちゅちゅっちゅ。

今日はここまでです。

訳あって、次の更新は日曜日です。
それではまたヽ(・∀・)


488 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/10/28(金) 01:09:17.03 ID:Wym1odEJo
乙!!

ぬあぁぁあああぁあぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!
なんて純情な二人なんだよぉぉぉおおおぉおぉぉぉぉぉぉ−−−−−−!!!!
てゆーかゴムなんて必要無いだろぉぉぉぉおおおぉぉぉーーーーー!!!!


だがそれが男のいいところなのかっ・・・!!!!
489 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [sage]:2011/10/28(金) 04:48:32.09 ID:e9LWCaRTo
乙!

・・・ふぅ
490 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/28(金) 07:52:52.72 ID:pZtfDNnSO
この>>1……まさか非童貞か
491 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) [sage]:2011/10/30(日) 23:11:59.42 ID:LHh6lsq4o
日曜日が終わる〜
492 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/30(日) 23:29:30.99 ID:CmeA+eYXo
42

―――――志乃の家からの帰り道・夕方過ぎ―――――

僕はあの後、志乃に口で二発抜かれて恍惚とした感じを引きずりながら歩いていた。

(今日は電車使っちゃうぞー)

志乃の家と僕の家は、電車で一駅。
歩けない距離ではないので、僕はあまり電車を使わない。

日中はまだ暑いのに、日が落ちるのだけは早い。
文化祭前で、駅で見かける同じ学校の生徒も多い。

(そういえばうちのクラス、何するんだったかな)

まだ出し物は決まってなかったはずだ。
何かしら、クラブに入ってる奴は準備で忙しそうにしてるけど、僕は帰宅部なので関係ない。
駅前のバス停に、いつもは見かけない顔がいた。

(あ、あれは文芸部の……)

どこにでも、男女問わずアウトローな、いや、アウトサイダーな人物はいる。

メガネをかけた、いつも不機嫌そうな女子。
志乃とは中学が同じだったらしく、たまに話しているのを見かけるけど僕は彼女が苦手だ。
どう接していいかわからない。

成績は常に上位だけど、誰も彼女に教えてもらったりノートを借りようとしたりしない。
一目置かれながら、ついでに距離も置かれている人物だ。


493 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/30(日) 23:30:43.85 ID:CmeA+eYXo
43

(うわ、目があっちゃったよ)

無視するわけにもいかず、会釈した。
向こうもそうする。

(うう……なんだよ、この牽制しあってる感じ……)

お互い悪意はないが、積極的に関わりたいとも思っていないという点は一致しているだろう。

通り過ぎる瞬間、すごく嫌な感じがした。
背中に毛虫が入ったような、悪口の書いてある紙を貼られているような――
とにかく不愉快だった。

「えっと、私に何か?」

僕は彼女を見ていたらしい。
しかも、顔を露骨に歪めて。

「いや、ごめん。背中痛くて」

「そんな顔しないでくれる。私何かしたみたい」

彼女も同様に顔を歪める。
そのひきつらせた頬に、虫が這っているように見えた。

「あっ」

「え?」

「虫が――」

「は?」

彼女は、ますます不可解そうに、機嫌悪そうになる。

「いや、虫かと思ったら葉っぱだった」

「……はぁ」

ちょうど、バスが来た。
彼女は納得したようなしていないような顔で乗り込んだ。

(助かった……)

494 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/30(日) 23:31:29.88 ID:CmeA+eYXo
44

―――――火曜・学校―――――

志乃は頭の後ろで、丸く髪をまとめていた。

「なに、メイド長?」

「これで髪が伸びても、しばらくは大丈夫」

「賢いな」

「ふふふん」

彼女は得意そうに鼻を鳴らした。
ふと、先週から空いている席に目を移す。

「どうした」

「いや、今日も来てないなって」

「あー」

昨日の彼女と、唯一親しそうにしている女子だ。

(志乃に、虫っぽいの見えたって言わないほうがいいのかな)

(でも、あれが呪いだったら?)

(彼女は呪われてるのか、呪ってるのかもわからない)

彼女の席も空いている。

(彼女は、どっちだ?)

事情を聞ければいいのだろうが、僕から話しかけるのは不自然だ。
かといって志乃に接触させるのも嫌だ。

(呪ったり呪われたりなんて、やっぱり嫌だな)

そんなことを考えながら、僕は手を動かしていた。
495 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/30(日) 23:48:56.84 ID:CmeA+eYXo
45

「おーう、春海、いい感じじゃーん」

長野が様子を見に来た。

「おう、お前のおかげだ。恩に着るぞ」

「しかしそこまで必死にやる必要があるもんかねぇ」

(あるからやってるんだよ)

「何かにハマるのに理由が要るかい?」

矛先をずらしたくて、なるべくおどけた。
手首を回す。さすがに疲れた。

(昨日は志乃をいじり倒したしなー。うへへへへ)

志乃は「昨日は別にエロいイベントなどありませんでしたが?」
といった感じで小テストの予習をしている。
僕は、この単元は得意なので何もしない。
ひたすらマルを書く。
長野はいつも何もしない。

手首を回して休ませる。

496 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/30(日) 23:49:47.16 ID:CmeA+eYXo
46

「あ、そうそう。手で書くんじゃなくて、肩や肘を使うといいよ」

「早く言えよー」

「普通そこまで本気だと思わないじゃーん」

「肩を使えとか、お前はカントクか」

「何のだよ」

「ま、やってみてよ。やってるうちにわかるから」

「あー、カントクが言うならやってみようかな」

「うんうん。早くきれいに書けるようになって、春海は俺が育てたって言わせてね」

僕は適当に相づちを打ちながら、早速手首を紙から浮かせて、肩から動かすように鉛筆を走らせる。

(思ったよりやりやすいな)

「そうそう。それで、頭としっぽをつなげることを意識して、なるべく迷わないように」

(お、これは結構いい感じなんじゃないか?)

「お前、教えるのうまいな」

「ま、がんばって〜」

そこで、チャイムが鳴った。
497 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/31(月) 00:13:10.07 ID:UVA9D1qxo
47

―――――火曜・昼休み―――――

「今日も志乃ちゃん作?」

「ああ、うん」

志乃は精力に関係なさそうなものも作れるようになって、弁当の詰め方も慣れてきたようだ。

「よく続くなー。えらいと思うわ」

毎日とまではいかないが、元気のあるときは作ってくれる。

「そうだな」

言及されると、ついにやけてしまう。

「うっわ。なんだよもう」

「ああ、いや……フフッ。すまん」

「キモッ!なに!なんなのもう!結婚しろ結婚!」

ふと、避妊のことが頭をよぎった。

(やっぱり愛と責任ある性交をせねばなりません)

僕は心の中で拳を握る。

「……この年じゃ出来ん」

「なにもう!煽りにマジレス!?」

「いや、ネットじゃねえんだからさ」

498 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/31(月) 00:13:46.60 ID:UVA9D1qxo
48

空になった弁当箱を包んで席を立つと、彼女の席に汚れが見えた。
気のせいだと思いたくて、目をこすった。

「あの人、居づらそうだよね」

「あー、教室にいるのあまり見ないな」

「仲良し二人組で、友達休んでるとねー……」

「心配なら話しかけてみれば?」とは言わなかった。
彼女は同情されるのを嫌がりそうだ。
特に、「あなたを気にかけていますよ」と言いながら、特に何かをしてくれる訳でもない同情は。

(なんかこう、跳ねつけられそうなんだよな)

(ATフィールドというか、リフレクかかってるというか)

「マホカンタ……」

僕はどうしていいかわからず、頭をかきながら呟いていた。

499 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage ]:2011/10/31(月) 00:19:39.44 ID:UVA9D1qxo
>>488-499
乙&レスありがとうございます。

逆に考えるんだ……
そのへんしっかりしてるから、彼女も心と体を開いてくれるのだと……
そう考えるんだ。

自分が何なのかは置いといて、待っててくれる人がいるのはありがたいことです。

このスレも折り返し地点です。
どう着地するか見えてませんががんばります。
今日はここまで。
500 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage ]:2011/10/31(月) 00:22:12.50 ID:UVA9D1qxo
アンカー間違えた…。

誤:>>488-499
正:>>488-491
501 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/10/31(月) 00:37:46.38 ID:OW5DGhNH0
我らのちゅっちゅに栄光あれ

502 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2011/10/31(月) 02:40:43.67 ID:BFkJOTqOo
乙です
春海君ネタにマジレスかっこいい

次の展開も気になるとこだけど
ATフィールドとリフレクまでいって
口から出たのがマホカンタってクスッときた
503 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/31(月) 23:40:20.75 ID:z12brnhdo
49

―――――火曜・放課後・ナオミの部屋―――――

「――と、いうわけなんです」

「あ、そう」

お義姉さんは興味なさそうに頬杖をついている。

(あんたの仕事でしょうが……)

「いつ気づいたの?」

「ああ、昨日帰る途中でなー。俺ん家の近くの駅前で」

「珍しいね。文芸部って半分帰宅部みたいなもんだと思ってた」

志乃が唇をとがらせる。

「俺もそう思ってたから、あそこで神田さん見たときはびびった」

バス停に佇む、彼女の姿を思い出す。

「でさ、こう、目が合っちゃったから頭下げてったんだよ。無視するのも変だし。
そしたら、神田さんの顔に黒いものが――」

「義弟よ、それは呪いだったの?」

「うーん……だと思いますけどねぇ。だってほっぺたを虫がうぞうぞ這ってたら気づくでしょ」

「見間違い説浮上!」

志乃が横やりを入れる。
自分の身近なところで、こんなジメジメした事件は嫌なんだろう。
僕だって嫌だ。

504 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/31(月) 23:41:50.53 ID:z12brnhdo
50

「志乃、お前見てないのか」

志乃は神田さんの友人・上木さんの席に目を留めていた。

「え、呪いって虫なの?」

そういえば、前回は呪いを見ずに済んだな。

「虫っつーかゲルっぽいっつーか……とにかく黒くて気持ち悪いな」

「……あー、じゃああれ、呪いかもしんない」

「これじゃ、どっちがどうなのかわからないな」

「二人ともしっかりしてよ」

お義姉さんが呆れて、大きく息を吐いた。
気を取り直すためか、テーブルの茶菓子に手を伸ばす。
志乃もそうした。

「……で、どう見えてるの?」

「俺が確認できたのは、神田さんの頬をムカデみたいなのが這ってるのを――」

「私は、上木さんの机に、カビみたいなのがびっしりついえるの」

(どっちを見てても、気分のいいもんじゃないな)

「少なくとも、その二人に呪いが見えた、と」

志乃が事務所の隅からホワイトボードをカラカラと転がしてきた。

「それ、要るか?」

「ミーティングを演出しようと思って」

志乃はマーカーのキャップを外した。

505 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/31(月) 23:43:16.79 ID:z12brnhdo
51

「さ、義弟。現状で何が想定できる?」

「えっと、じゃあ現時点で考えられるのは……
 神田さんが上木さんに呪われてるケース、
 上木さんが神田さんに呪われてるケース、
 二人そろって第三者に呪われてるケース、
 お互いが呪いあってるケース……ってことですか」

僕が言ったことを、志乃がホワイトボードに書いていく。

(おお、確かに作戦会議っぽいな)

不謹慎にもわくわくしてしまう。

「で、その二人は誰かに恨まれるようなことしてる?」

「俺の知る限りでは、何も」

「特に嫌われてはないけど、いつも二人でいるし、あんまり愛想ないから近寄りがたいかも」

マイペースに見えて、志乃の方が人間関係を把握している。
僕はもう少し、周りに目を向けたほうがいいのもしれない。

「確かに、これと言って嫌われることはしないんですけど、どことなく浮いてはいますね」

「なるほどねぇ……」

「私は二人と中学一緒だったから、ちょっとは話すけど……
 でも、長くは続かないなぁ。会話」

志乃は少し後ろめたそうに言った。

506 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/10/31(月) 23:44:01.14 ID:z12brnhdo
52

「それで、その上木さんっていう子は先週の半ばから来てない、と」

「そう……ですね」

「となると、接触しやすいのはそのメガネの――」

「神田さんです」

「じゃ、その神田って子にコンタクトを取ってみましょ」

(うーん、毎度のことながら簡単に言ってくれるなぁ)

どうしたらあのATフィールドを中和できるんだ。

「彼女に言うことを聞かせやすい立場の教師はいるかしら」

「関わることが多い先生ってこと?」

「そんなとこね」

「それじゃ、文芸部の顧問の先生かなぁ。
 今、文化祭の準備で盛り上がってるみたいだし」

(文芸部にも盛り上がることあるんだ)

(そもそも文芸部って何してんの?読書?)

ここにきて、やっぱり僕は何も知らないんだな、と自信が揺らいだ。
507 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/01(火) 00:00:48.29 ID:j/jfGtUIo
53

「わかったわ。私が手を回しておくから安心しなさい」

(嫌な予感しかしない)

安心どころか不安である。

「あの、手を回すっていうのはどうやって……」

「ああ、その顧問の先生っていうの?
ちょっと操ってあなた達があの子と話しやすい状況をつくるだけよ」

それなら失敗しなさそうだけど、後ろめたさが残る。

「志乃は、他に神田さんのこと知ってる?上木さんのことでもいいけど」

志乃はマーカーを指揮するように振る。

「うーん、めっちゃ頭いいー」

「それは俺も知ってるよ」

「あ、でも上木さんはフツー」

志乃の言う「フツー」がどの程度か知らないが、それはちょっと無礼じゃないか。

(接点ゼロだった佐伯さんの件よりマシか……)

僕はお義姉さんの根回しにビビりながら、ナオミの部屋を後にした。

別れ際、志乃が人目を忍んで一瞬だけキスしてくれたので、ちょっとがんばろうという気になった。
508 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/01(火) 00:05:33.64 ID:j/jfGtUIo
>>501-502
乙ありがとうございます。

このスレもついに後半ですよ。
前途を祝してもらえるなんて嬉しいなぁ。

今後も「人を楽しい気分にさせるのは素晴らしいことなんよ」をモットーにがんばります。

今日はここまで。
509 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/01(火) 14:00:27.29 ID:U6+vmFuSO
後半分

折り返しを呪……祝ってやる

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510 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/01(火) 23:48:23.71 ID:ecqjiXaWo
54

―――――水曜・学校―――――

国語の授業の後、僕たちの担任でもある教科担当から呼び出された。

「志乃、これは……」

「おねーさんだね……」

「え。担任、文芸部持ってたっけ?」

「うーん……わからん」

「影薄いもんなぁ……で、どう思うよ」

「どうって……行かねばなるまい」

「あれ、どうなんよ。操られてるように見える?」

「私にはどうとも……」

「だよな」

二人で顔を見合わせて、「あー」と嘆いた。
志乃は露骨に嫌そうな顔をしている。
きっと僕も嫌そうな顔になっている。


55

―――――水曜・学校・国語準備室―――――

「二人とも、ごめんなさいね。忙しいところ」

「ああ、いえ……」

今のところ、いつもの先生だ。

「私は文芸部の顧問をしてるんですけど、準備を手伝ってほしくてね」

「はぁ。準備、といいますと」

「文化祭で部誌を発行するんだけど、その準備が追いつかなくて……
 印刷会社にデータを渡すんだけど、一人、原稿を手書きにしてる部員がいるのね。
 それで、二人で手分けしてデータになおしてほしいの」

「ああ、そういうことなら」

「うん」

志乃も、安心したように首を縦に振った。

「パソコンは文芸部の部室にあるから、放課後、手の取れるときに顔を出してください」

「あ、はい。わかりました」

「ありがとう。助かるわぁ。神田さんもがんばってるんだけど、彼女は自分のことで手一杯だから」

(部誌ってなんだ……がんばるって、何をがんばるんだろう)

(……ん、原稿?原稿って何だ?)

どうにもすっきりしない気分で、僕は志乃と準備室を出た。



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511 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/01(火) 23:50:28.52 ID:ecqjiXaWo
56

―――――水曜・放課後・文芸部の部室―――――

「と、いうわけ」

志乃は神田さんにざっと経緯を説明した。

「ああ、私だけじゃ手に負えなかったから……助かる」

「ありがとう」と、彼女はうなずいた。
頭を下げているつもりらしかった。

「パソコンは適当に使って。原稿はこれ」

と、神田さんは僕らに二分した原稿を渡す。

「他の部員もいるんだけど、私以外は三年だから……
 受験もあるし、クラスの出し物優先みたいだから、あまり手伝ってって言えなくて」

彼女は困っているようだったが、教室で見るよりもずっと、表情に張りがあった。

(ここから聞き出せってことだな)

僕はパソコンの電源を入れた。

「えっと、Wordでいいの?」

「.txtでよろしく」

「どういうこと?」

「保存するときはテキストファイルにしてねってこと」

「?」

「まあいいや。保存するときに言ってくれ。簡単だから」

「へーい」

「何かわからないことがあったら、私に聞いて」

神田さんはさっさと自分の作業に没入していった。
志乃はぺちぺちと軽快にタイピングしていく。
キーボードの上で躍る指を眺めていると、志乃が賢くなったように見える。

僕もひたすら入力していく。
文章は決まっているので、量はあるけど気分的には楽だ。

「神田さんって文章書く人だったんだね」

志乃が話しかける。
探りを入れている風ではなく、素直に感心しているようだった。

「ああ、元々は違ったんだけど、むりやり引きずり込まれてね。
 まあ、今こうして書いてるってことは、性に合ってたんだろうけど」

「むりやり?」

思わず聞いていた。

「うん。まあ、なんのまぐれか知らないけど、入学してすぐの模試、国語がすごい良かったのね。
 で、担任が籍だけでも置いてくれって」

「すげーな、それ」

「問題に恵まれただけだって」

「籍だけでいいって、先生切羽詰まってたみたいだね」

「今の先輩達が卒業したら、部員は私だけになっちゃうからね。廃部よりはマシだよね」

そう言う神田さんの目には力があった。
この人はただのアウトサイダーじゃない。
ちゃんと自分の身の置き場所を見つけて、そこで力を尽くそうとしている。
少し、かっこいいなと思った。


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512 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/11/01(火) 23:52:40.81 ID:ecqjiXaWo
>>509
レスありがとうございます。
何やら不吉な字が見えた気がしないでもないですが、気にしない。

なんか謎の告知が出てるので、今回は一つのレスを長めにしました。

今日はここまで。

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513 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(長野県) [sage]:2011/11/01(火) 23:53:30.38 ID:E+8hqF1To


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514 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/02(水) 01:04:48.82 ID:v6RooQCM0


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515 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(不明なsoftbank) [sage]:2011/11/02(水) 10:11:14.37 ID:Xlhz+ekWo
こいつは文章が活き活きしてて面白いぜ
516 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(鹿児島県) [sage]:2011/11/02(水) 22:49:41.57 ID:7oZ9VnGG0
追いついたー

これはいいスレ股間が熱い
517 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/03(木) 21:49:09.73 ID:kCQ/gxjKo
56

「神田さんは何してんの」

意外とまともに話せることに安心して、声をかけた。

「推敲」

「ああ、誤字脱字チェックか」

「それもだけど、言い回しとかね、話の整合性とか」

「へー」

「締切前とはいえ、まだ時間はあるからね。仕上げはギリギリまで粘るよ」

彼女は顔を上げて、にっと笑った。

(教室でもその顔すれば、もう少し居やすそうなんだけどな……)

志乃は鞄からペットボトルのお茶を出した。
口をつけて、「ぬるい」とまずそうに舌を出した。

「ああ、熱いのでよければポットあるけど。沸かす?お菓子あるし」

「え、いいの?」

「だってこの時間、おなかすくでしょ。特に頭使うんだから糖分は常備よ」

まるでアスリートのような口振りだ。

(エトピリカ聴きたいな)

葉加瀬太郎を思い出して、少しだけ鼻歌が出た。

518 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/03(木) 21:50:02.44 ID:kCQ/gxjKo
57

「ああ、イマージュもあるよ。聴く?」

神田さんは手近な引き出しをあけて、緑のジャケットのCDを出して机に置いた。

「なんでそんなもんあるのwww」

思わず気安くつっこんでしまう。

「さあ?何代か前の先輩が置いてったらしい。
 結構変なアイテム残ってておもしろいよ、この部室」

「文化系って深いね……」

志乃が感慨深そうに呟いた。

(まさか入部するとか言い出さないよな)

「ねえ、そういえば上木さんどうしたの?」

「私は何も聞いてないけど。……なんで私に聞くの?」

「んー、仲良さそうだから、知ってるかなって」

「それがねー、最初は風邪だと思ってそっとしといたんだけど、さすがに心配になってメールしたら無視されてさ」

そんなこと親友にされたら傷つくだろうに、彼女はいたって飄々としていた。
友人はいない。
クラスでは、なんとなく一人で浮き続ける。
平気でいられるものかな、と思う。

(僕だったらしんどいな)
519 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/03(木) 22:36:11.91 ID:kCQ/gxjKo
58

「せっかくあるんだし、聴こうか」

気分を変えたくて、CDを再生する。

(エトピリカ……エトピリカ……)

「ふーんふーふふーん。ふふふーんふふーん」

緊張がゆるんで、脳内BGMが鼻から垂れ流しになる。

「えー、オープニングの方じゃないの?」

志乃が物言いをつける。

「しょーがねーなー」

(トラック16……と)

語り出すかのようなイントロから、刻むように入っていく。

(あー、俺これ聴くと、何かで一流になった人みたいな気分になるんだよなぁ)

志乃は素直に縦ノリしている。
そんなノリ方、僕は照れくさくてできない。うらやましい。
神田さんは黙々と赤ペン片手に、プリントアウトした原稿に向かっている。

「これ聴くと万能感におそわれるから細かいことする時に聴くのやばいわ」

曲が終わると、彼女はそうコメントした。
ああ、あれはノリにノッていたのか。

520 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/03(木) 22:36:59.89 ID:kCQ/gxjKo
59

「志乃、満足したか」

「うんうん。てってーてーれってーてってーてーてれっててー」

僕は彼女の、大体いつも楽しそうなところが好きだ。
だけどここでいちゃつく訳にはいかないので、このときめきはそっと胸にしまっておく。
しまっていこうぜ、俺。

(えーと、エトピリカ……)

(あー……俺、これ聴くと何かを成し遂げたような、一日やりきったような気分になるんだよなぁ……)

右手の指輪が、一瞬光ったような気がした。
あの、ひたすら円をかく練習はどう役に立つんだろう。

(そういえば、僕は神田さんを探るためにここにいるんだ)

彼女と上木さんの関係性、遠くから見ていると、勝手にわかったような気になっていた。
だけど、こうして本人と話すとよくわからなくなってきた。
思ったより淡々としている。

上木さんとのことをポンポン聞くのはまずい気がした。
神田さんは頭がいい。
普段関わりのない人物のことを聞かれたら不審がるはずだ。
521 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/03(木) 23:08:09.49 ID:kCQ/gxjKo
60

どうアプローチしたものか、意外と難しい。

(なんか恨まれる覚えある?なんて思惑オープンリーチな質問できないしな)

対面の神田さんを眺める。
これだけ熱中できるなら、寂しさや居づらさを感じる暇は、あまりないかもしれない。
僕は、お茶を入れようと席を立った志乃の透けたブラに視線を飛ばす。

(うーん、最近、二人きりだとエロいことしかしてない気がするな)

志乃のおっぱいが思い出されてにやけそうになる。

(他の娯楽も模索してみるか……)

(そういえば、前回は男絡みだったな)

神田さんと上木さんが、一人の男を取り合っていがみあう図は想像できない。

(うーん、却下)

522 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/03(木) 23:09:30.75 ID:kCQ/gxjKo
61

「神田さんは何で文芸部に目覚めたの?」

志乃がお茶を配りながら聞く。
神田さんは棚から茶菓子の入った盆を出して、机の真ん中に置いた。

「正直、夏休みまではどうでもよくてさ。ほんとに幽霊部員でいるつもりだった」

好きなことについては、気分良く話してくれる。
そのへんは普通の人だ。

「あたし、全国見ちゃった」

「まじすか」

いきなりのインターハイ級発言と、文芸部にそれに相当するような大会があることに驚いた。
黙々と書いて発表してるだけじゃないのね。

「何もしなくて行けるもんなの?」

「先輩の七光り。去年の実績のおかげでさ。
 で、勉強して来いって放り出された。あ、引率で先生付きだったけどね」

この人はこんな目ができるのか。

「で、全国はどうでしたか」

「すげかった」

と、彼女は拳を握る。

「幽霊でいるの、もったいなくなってさ。今度は絶対自力で来ようって思った」

神田さんの見ているものは、僕たちとは違うのか。
彼女の愛想の無さは、周りへの敵愾心ではなく、ただの無関心だった。
その証拠に、こちらからのアクションにはきちんとリアクションを返してくる。

(俺はこの人を誤解してたんだな)

僕は心の中で一言だけ詫びた。
523 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/03(木) 23:15:31.90 ID:kCQ/gxjKo
>>513-516
乙&レスありがとうございます。

自分でも文体の作り方はよくわからないのですが、文章を誉められると嬉しいですね。
精進します。

>>516
ここまで読んでもらえて嬉しいです。
引き続きよろしくです。

今日はここまで。
524 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/04(金) 01:14:35.03 ID:cxYMLpBSO
525 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(茨城県) [sage]:2011/11/04(金) 01:39:48.66 ID:nV1KG6nmo
乙です

神田さん熱いとこあるじゃん…
春海君はどーするかね
526 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(鹿児島県) [sage]:2011/11/04(金) 20:17:04.85 ID:VbXENsMV0
更新するのなかなか早いっすね

いいわー

できればもっとエロのほうをゴニョゴニョ……
527 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/06(日) 10:53:58.39 ID:FZ3Mlmipo
62

―――――水曜・春海の部屋―――――

机に向かって課題を片づける僕の後ろで、お義姉さんはベッドに腰掛けている。

「で、彼女と話して何かわかった?」

「いえ、これといって動機につながるようなことは――」

あの神田さんに、誰かを恨んでる暇はない。

「彼女が自分から周りに溶け込もうとしなかったのは、人見知りでも攻撃性からでもないです。
 俺には――単に興味がないからそうしなかっただけ、と取れました」

「義弟が言うなら、そうなんでしょうね」

「いいんですか。俺の言うことなんかそのまま真に受けてしまって」

「現時点ではいいのよ。最終的に判断するのは私」

そう言ってお義姉さんは脚を組んだ。

「これ以上、神田さんから聞き出せることはあるんでしょうか」

「どうかしらねぇ……」

お義姉さんは後ろに手をついて、上を向いた。
喉が、異様に白く見えた。切られたという傷は残っていない。

528 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/06(日) 10:55:29.44 ID:FZ3Mlmipo
63

「上木さんのことがわかればいいんですけど……」

「私がちょっと行って手帳や携帯を拝借してくれば話は早いわ」

「それは極力したくないんですよねぇ……。同じクラスの人間ですよ。
 前回は全くの他人だったけど、今回はさすがに気まずいです」

「何よ、正攻法で聞き出せるの?」

「それを言われるとお手上げですよ」

僕は椅子を回して、お義姉さんに向き直った。

「志乃の考えも聞きたいですね。あいつ、あれで結構周りのこと見てるんですよ」

「妹を誉めても何も出ないわよ」

(まんざらでもない癖に)


529 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/06(日) 10:57:55.76 ID:FZ3Mlmipo
64

僕はあまり外向的ではない。
誰とでも会話はできるけど、クラスで特に親しいと言えるのは志乃と長野だけだ。
僕に比べて長野は軽いところがあるが、人なつっこくて割と誰にでも好かれる。
僕が苦もなく周りと接点を持てるのは、長野があいだにいるからかもしれない。

(少し条件が違えば、僕もアウトサイダーになっていたかもしれないってことか)

僕は彼女たちに悪意を持ったことはない。
だけど、どう接していいかわからず困ったことはある。
そして、もし自分が彼女たちのポジションに置かれることを考えると、やっぱりどこかしら恐いと思う。

(どこかで、見下してたのかな)

頭が痛いと思った。

530 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/06(日) 16:25:43.84 ID:FZ3Mlmipo

65

「それで、円は書けるようになったのかしら」

「ああ、だいぶ近づいてきたと思います」

手近な紙に書いて、お義姉さんに見せる。

「完璧とは言えないけど、次に移ってもいいかもしれないわね」

僕は机の下でガッツポーズを作った。

「もう書かなくていいんですか?」

「いえ、まだまだ書くのよ。指輪を貸してちょうだい」

指輪を外して、お義姉さんに渡す。
一瞬手が触れたけど、びっくりするほど冷たかった。
お義姉さんは、指輪をつまんで蛍光灯にかざしている。
何か見えるのだろうか。

「ああ、これなら……。少し厳しいけど、できないこともないわ……」

「あの、次は何を――」

「同じよ。今度は指で空間に書くってだけで」

「うわぁ……」


531 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/06(日) 16:26:23.80 ID:FZ3Mlmipo

66

「何よ。身を守る手段がほしいって言ったのは義弟でしょ。やるのやらないのどっちなの」

「やりますよ。やりゃいいんでしょ」

「かわいくないわねぇ……」

お義姉さんは指輪を僕に放ると、消えてしまった。
指輪をはめ直しながら、一人でぼやく。

「うーん……空間って言われてもなぁ……」

試しに、顔の前で指を立てて丸く動かしてみる。

(これは……目に見えない分紙に書くより地味だな……)

先が思いやられる。
僕の盾、使い物になるのはいつだろう。

532 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/06(日) 16:27:34.13 ID:FZ3Mlmipo
67

―――――木曜・放課後・文芸部の部室―――――

神田さんは掃除当番で、僕は志乃と先に部室で作業をしていた。

「上木さん、結局まる一週間休んじゃったね」

「そうだな」

「春海、やっぱり呪い見えてる?」

「うん……そうだな。たまにちらちら見える」

「じゃあ、気のせいじゃないんだ」

志乃が机に突っ伏したので、僕は背中を撫でた。

「んー、だいじょうぶ」

彼女は頭を振って体を起こした。

「あ、ニャーンだ。ニャーンがいる」

志乃が廊下を指さす。

「あ、猫」

そのへんを歩いてそうな、普通のキジトラの猫だった。

「ニャーン。おいでおいでおいでー」

志乃は床にしゃがんで、胸ポケットに挿していたペンを低い位置で振る。

(なんで猫好きって、猫見るとテンションおかしくなるんだろう)

533 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/06(日) 16:28:38.80 ID:FZ3Mlmipo
68

猫は警戒する様子もなく、トコトコ歩いてくると僕の足下で腹を出して転んだ。

「ぬうぅ……私が呼んだのに」

「おお、志乃がジェラシーに燃えている」

「なぜだ。春海、どっかで餌付けしたな」

「しないよ――おー、よしよし」

せっかく来てくれたのだから、僕も腹を撫でる。
一通り撫でて、パソコンに向かうが、猫は帰らない。

「あーあ。相手するからー」

「志乃が呼んだんだろー……ちょっと出してくる」

僕はすねに体をすり付けながらぐるぐる回る猫を抱いて廊下に出た。

「ニャーン」

「だーめ。おまえ、きれいだから飼われてるんだろ。おうち帰りなさい」

「ニャーン」

猫は丸い目で何か訴える。

「だめー。おうちの人が心配するぞ。じゃあな」

僕は心を鬼にして、猫に背を向けて部室に戻ろうとした。

「つまんないにょー」

なんだその語尾は。

「はぁ!?」

振り向いたときには、猫はしっぽを上げて、住宅地のある方へトコトコ……
534 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/06(日) 18:18:09.66 ID:cY/n3EYIO
なにそれ
535 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(鹿児島県) [sage]:2011/11/06(日) 19:45:13.58 ID:q7ILLTkH0
もちろん猫たんは♀で擬人化するんだよな?
536 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/06(日) 19:50:51.83 ID:Pecuthz6P
にゃおみだろ
537 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/06(日) 20:55:46.39 ID:FZ3Mlmipo
69

「志乃、さっきふざけた語尾で喋った?」

「具体的には?」

「そんなん言えないにょー」

「フッ」

「鼻で笑うなよ」

「気のせいじゃない?」

「うーん、確かに聞こえたんだけどなぁ」

「どしたの?」

「いやな、猫が喋ったんだ。おうちに帰れって言ったら、つまんないにょーって」

「いーなー。私もニャーンの言うことわかりたい」

「たぶん、あんまりいいことないぞ。絶対音感の人だって全部音階で聞こえて疲れるそうじゃないか」

「それが動物でも同じことだと」

「たぶんな。俺だってさっき初めて聞こえたんだ。気のせいならいいんだけど」

「うーん、どうだろねー」

538 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/06(日) 20:56:55.60 ID:FZ3Mlmipo
70

そろそろ掃除も終わりそうだ。
神田さんが来る前に聞いておこう。

「志乃、俺に呪い、見えるか?」

「うんにゃ」

即答で否定された。

「なんで急に?」

「現象自体は可愛らしいけど、異変は異変だからな。
 正直なところ、ちょっとびびってんだ」

「そう言われてみれば……」

志乃は上を向いて、少し考えていた。

「あ、おねーさんの可能性は?変身できるし」

「あの人ならやりかねないな」

「先生を操るって言ってたけど、それだって潜入しなきゃできないし。
 猫のふりして近づくことは十分ありうると思う」

僕が突然、動物の言葉がわかるようになるよりは現実的だった。

「よし、当面はその説を採ろう」

とりあえずの結論を出したところで、神田さんが来た。
どこか落ち込んで見えた。
539 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/06(日) 21:52:54.83 ID:FZ3Mlmipo
71

昨日と同じように、対面に座った彼女の目は赤かった。

(あー、上木さんと何かあったな)

「大丈夫?」

自然と口にできていた。
志乃が少し驚いた顔を僕に向ける。
前回は、こういったことは志乃がやってくれていたのだ。
志乃はディスプレイの影で親指を立てて、唇の端をきゅっと上げた。

(誉められた……)

照れくささが一拍遅れてやってくる。

「あー……私、ひどかったみたいだわ」

神田さんは碇ゲンドウみたいなポーズで嘆いた。
こんなに簡単に話し出すなんて、相当参っているらしい。
頭の中でマヤさんが「対象のATフィールドが中和されています!」とか言ってる。

(いやいや、人を使徒扱いしてはいけません)

「聞きましょうか」

志乃は立ち上がり、ポットに向かった。

540 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/06(日) 21:54:09.63 ID:FZ3Mlmipo
72

「上木さんと、連絡取れたの?」

志乃は湯呑みを口に近づけて、熱気を飛ばすように息を吹いた。

「上木、私のこと恨んでる。私がこっちにかまけてばっかりで、一人ぼっちになったみたいだって」

(そういえば、上木さんは帰宅部だったな)

「私は部の手伝いするから教室にいなくていいけど、一人であそこにいるのが嫌だって――
 私、そこまで考えてなかった。そこまで見えてなかったんだ」

上木さんの欠席は、体調不良じゃなくて登校拒否だったってことか。
先週の終わりくらいから、クラスでは文化祭について話し合っていた。
上木さんが憂鬱になるのもわかる気がする。

541 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/06(日) 21:54:43.63 ID:FZ3Mlmipo
73

「うーん、悪いか悪くないかって言ったら、悪いことしてないよね」

志乃が適当な言葉を挟んで促す。
僕はとりあえず、聞き役になる。

「自分でもそう思う。だけどこれって気持ちの問題じゃん」

「まあねぇ……」

志乃は頬杖をついて、「ふぅん」と鼻から息を漏らした。

「上木には悪いって思うんだけど、一方で私は悪くないって思ってて……
 謝ったほうがいいんだろうけど、テキトーな理由で謝りたくないのよ」

「納得したい、と」

一言添えてみた。

「そう……かもしれない。たぶんそう」
542 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/06(日) 23:31:38.45 ID:FZ3Mlmipo
74

「上木さん、端から見てると、ちょっと神田さんにべったりなとこあったからねぇ」

志乃は難しそうな顔で言うと、ぬるくなった茶を一気に飲み干した。

「お前、それは失礼だろ」

さすがに言い過ぎだと思った。

「いいんだよ。……やっぱり、周りにもそう見えてたってことか」

神田さんは茶菓子の盆から煎餅を一つ取ると、小袋に入ったままのそれを二つに割った。

「上木、私を前と同じでいさせようとしてた」

「前とっていうと、幽霊部員でいようとしてた頃?」

「そうそう。前はそんなことなかったのに、メール返さないと不安定になるし、正直持て余してたんだわ」

彼女は自嘲気味に笑った。

「ひどいって思うなら、非難してくれて構わないよ。
 でも、私だってやっと目標見つかったんだ。そこは譲れない」

「でもでも、上木さんにすまないと思う気持ちはある、と」

わざと話を振り出しに戻した。

「それ言われると、私も参るわ」

543 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/06(日) 23:32:16.48 ID:FZ3Mlmipo
75

「もうさ、謝っちゃえば?」

イライラしてきたのか、志乃が投げやりに言った。

「神田さんは納得したいの」

「だからさ、直接神田さんがしたことについて謝る必要はないんだよ。
 結果的に、上木さんが寂しいと思ってしまった、とそのことについて謝ればいいんだって」

屁理屈なような気がするけど、自分の中で折り合いをつけるなら、その結論を選ぶ。

「――と、志乃が申しておりますが?」

「まあ、それなら不服ではないかな。
 よし、一応はそれで納得する、ことにするわ」

えらく回りくどいが、それでいいと思うことにしたらしかった。

544 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/06(日) 23:33:21.13 ID:FZ3Mlmipo
76

―――――木曜・帰宅中・公園―――――

頼まれた原稿の入力も終わりが見えてきたので、キリがいいいところで引き上げた。
ベンチで缶コーヒーを開けた。

「志乃、どう思う?」

「あの二人のこと?」

「うん」

「私は……もう、上木さんが犯人だと思う」

「それが自然だよなぁ」

「でも、上木さんの机についてる呪いのカスみたいなのが気になるよ」

「確かにそこは引っかかるけどさ――」

後ろに気配を感じた。

「あ、春海。ニャーンがいる」

体をねじって振り向くと、首輪のないロシアンブルーがいた。
野良にしては毛並みがよすぎる。
夕日の赤みを帯びた光が、おでこや背中で反射している。

「おお、ほんとだ。かわいいな。おいでおいで」

「ニャーン」

猫はベンチに飛び乗り、志乃の膝で丸くなった。

「あなた達、何かつかんだようね」

お義姉さんの声だった。
周りを見渡しても、彼女の姿はない。

「私はここよ」

ロシアンブルーの猫パンチが僕の腿に入る。
志乃は「おねーさんだ」と面白がりながら、猫を撫でている。

545 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/06(日) 23:34:50.66 ID:FZ3Mlmipo
77

「俺、今日はもう、猫はいいわ……」

なんだか疲れてしまった。

「何よ、高校生カップルと成人女性の三人組じゃ怪しまれるでしょ。私の粋な気遣いよ」

(あー、この気を遣えてない気遣いはお義姉さんだ)

「たぶん、神田さんを呪ってるのは上木さんです」

「あ、そう」

「淡泊な反応ですね」

「まあ、今回は狭い世間の話だしねぇ……」

「それは、そうですけど」

「ま、よくやってくれたわ。続きはまた考えましょ」

どうも釈然としない。

「お義姉さん、それはいいんですけど、学校にまで出てくるってどうなんですか」

「そうそう。ちょっとびっくりしたよ」

志乃は驚くというよりはしゃいでいた。

「私、行ってないわよ」

「でも、猫来ましたよ」

「どんな?」

「普通のキジトラでしたけど」

「ああ、なおさら私じゃないわ」

寒気がした。
546 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/11/06(日) 23:41:45.64 ID:FZ3Mlmipo
>>524-526
>>534-536

乙&レスありがとうございます。

彼は……がんばります。

ちょっとしたエロはありますが、エロそのものではないのでアーン☆なのはたまにです。

今日はここまで。
547 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/07(月) 01:34:08.20 ID:mw1BuP1SO
548 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(埼玉県) [sage]:2011/11/07(月) 10:13:23.29 ID:f1UvvHPSo
オカルト分いちゃラブ分それぞれいい感じで面白い乙
549 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/07(月) 23:56:22.38 ID:tVdt9tZQo
78

「お義姉さん、俺――」

話すべきか迷った。
志乃が僕の肩に手を置いた。

「俺、猫が言ったことわかったんです」

お義姉さんは、猫の姿でNHKの猫の歌を歌った。

(この人も、受信料払ってたりするのかな……)

「まじめに聞いてください」

「え。そういうことじゃないの?」

「いえ、そういうボディーランゲージ的なものでわかるんじゃなくて、声で聞こえたんです」

「ああ、それが怖いと」

「正直、びびってますね。俺はただの人間ですよ。
 ただでさえうっかり呪いが見えちゃって戸惑ってるんですから」

仕事の上では便利だけど、やっぱり一人でいるときに見えたらと思うと、怖い。

「あれは比率で言えばマイノリティなだけで、絶対数で言えばそう珍しいことじゃないのよ」

「うーん……」

どうもすっきりしなかった。

550 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/07(月) 23:57:10.99 ID:tVdt9tZQo
79

「俺、呪われてたりします?」

「もー、私が大丈夫って言ったじゃん」

「――と、志乃は言うんですけどね。あれです。セカンドオピニオンってやつで」

お義姉さんは僕の膝に移ると、体を伸ばして僕の肩に前足を置いた。
そのまま緑の瞳が、僕の目を見つめる。
しばらくそうしていたけど、お義姉さんは「うやぁん」と鳴いて志乃の膝に戻った。

「安心して。呪いは見えなかったわ。私の目は君や妹より確かよ」

「じゃあ、俺の異変は――」

「推移を見守りたい」

「都合のいいときは日本人なんですね」

551 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/07(月) 23:57:51.79 ID:tVdt9tZQo
80

「どうしても不安になったら私を呼びなさい。
 私には昼も夜もないもの。私が起きたときが朝。寝るときが夜よ」

お義姉さんはそう言うと、植え込みに飛び込んでそのまま消えてしまった。

「春海、私もいるよ。役に立つかわからないけど」

志乃が僕の手を握る。
志乃の方が、自分の体が変わっていく感覚を知っているはずだ。

(こいつに気を遣わせてどうするんだよ……)

「ああ、すまん」

僕は立ち上がり、志乃の手を引いた。


552 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/07(月) 23:58:48.63 ID:tVdt9tZQo
81

「思い悩むのは、もっと奇ッ怪なことが起こるまで中断な」

「うんうん。帰ろ」

珍しく、手をつないで歩いた。
志乃はニヤニヤしている。

「どうした」

「んふふー。なかなかいいものですな!」

「じゃあ、毎日こうやって帰るか」

「うへへ。みんながいないときね!」

志乃はつないでいる手を前後にぶんぶん振った。

(知られてても、ラブいとこ見られるのは恥ずかしいんだな)

そのへんのさじ加減がよくわからん。

「じゃ、私は髪切って帰るから」

「結べる長さは残してもらえよ。おろしてると伸びたときにごまかしにくいからな」

「わかってるよう。じゃねー」

志乃を見送りながら、やっぱり心細かった。
夕方なのにまだまだ明るい。
9月はまだ夏だと思った。

553 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/08(火) 00:00:29.94 ID:M++4tar5o
>>547-548
乙ありがとうございます。

どっちもそれぞれ楽しんで書いてるので、そう言ってもらえるとうれしいです。

今日はここまで。
554 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/08(火) 00:38:09.39 ID:T63FLPu10
引き続き話の流れを注視したい
555 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/08(火) 00:56:47.43 ID:86oFUqXSO
556 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/09(水) 22:59:47.66 ID:EJ3fER27o
82

―――――金曜・朝・学校―――――

教室に誰もいないのをいいことに、僕は宙で指を回す。

「なにしてんの?」

「お義姉さんが、今度は空中で円をかけって」

志乃は不思議そうに僕の動きを見ている。
僕だってこれで効果があるのか、半分は疑っている。
何もしないよりは不安じゃないから、そうしている。

切りっぱなしの志乃の髪が、肩口で揺れる。

「おお、切ったな」

「代わり映えしないけどねー」

彼女は毛先を指に巻き付けて言った。
気に入ってるんだか気に入らないんだからわからない。

「今日はおねーさんが見張ってくれるって。ニャーンの姿で」

「あの人、大丈夫かな」

「うーん……一応出て来ちゃいけない空気は読めるはず……と、思いたい」

校内でうっかり人間の姿に戻られたら面倒だ。


557 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/09(水) 23:00:49.08 ID:EJ3fER27o
83

そろそろ誰か来る時間だ。
他のクラスの生徒が、廊下を通りすぎるのが見えた。

「志乃」

「んー?」

彼女が顔を上げたところで、短くキスをした。

「な、なんだよぅ」

「ここ数日してないような気がしてなー」

「うへへへへ」

「なんだよ、その笑いは」

「いやぁ、私もそう思ってたから」

「そうか」

にやけそうになるのを我慢して、口が歪んだ。

「そろそろ原稿出来上がっちゃうね」

文芸部の部室がある方角を眺めている。

「あー。俺らあんまり関係ないのに、そう思うと達成感あるな」

自分で入力した文書が冊子の形になると思うと感慨深い。
神田さんは、自分で作った話がそうなるんだから尚更だろう。

「この準備の手伝い終わったら志乃を撫で回したいな」

「犬猫扱いかよ」

「ああ、いや、性的な意味で」

「ヘンタイだー」

「へっへっへ。だから、まあ、がんばろうな」

「うん」

彼女は窓の外を眺めて、目を細めた。
558 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/09(水) 23:29:46.67 ID:EJ3fER27o
84

―――――金曜・放課後・文芸部の部室―――――

三人で机を囲んで、それぞれ作業をする。
神田さんは相変わらず校正。
僕と志乃は、入力した原稿をプリントアウトして誤字脱字をチェックする。

「……はー」

「神田さんあんまり元気ないね」

上木さんの不登校記録が丸一週間をクリアして、二週間目に突入してしまった。

「さすがに滅入るよ」

何かを払うように頭を振る彼女の首に、蛇が巻き付いているのが見えた。
まだら模様が毒々しかった。
目を細めて見つめる僕を、志乃がつついて気を逸らそうとする。

――あやしまれちゃうよ。

――すまん。

アイコンタクトで、多分そんなことを伝えた気がする。

559 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/09(水) 23:30:35.50 ID:EJ3fER27o
85

僕に見えたということは、志乃も見ているはずだ。
彼女の横顔の線が、かすかに震えているように見える。
被害者と思われる人物がすぐ目の前。
だけど、何の手出しもできない。
恐ろしく、また、もどかしい。

「ニャーン」

廊下にロシアンブルーが見えた。
情けないことに、それだけで力が抜けるほど安堵した。

「あ、猫」

神田さんは持っていた赤ペンをチッチッと振る。
この人も猫好きか。
お義姉さんは構わず廊下を行ったり来たりしている。

「あー、来てくれない……」

「どんまーい」

志乃は余裕の表情である。

(あれ、お義姉さんだしな)

廊下に人影が見えた。
体格はお義姉さんじゃなかった。

560 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/09(水) 23:31:35.45 ID:EJ3fER27o
86

神田さんの手からペンが落ちる。

「上木――」

廊下に顔を向けているせいで、表情はわからない。

志乃が身構える。
廊下には、身を低くした猫がいる。
僕は――僕は、どうすればいい。

上木さんは、焦点の定まらない目で、顔だけ神田さんに向けていた。

「神田……なんであたしを一人にするの」

ひどく、恨めしい声だった。

「してない」

「嘘。避けてた」

ゆらりと扉をくぐり、部室に入ってくる。
とっくに見つかっているのに、追い詰められたと思った。

「なんで。なんでよ――」

「話せばわかる」なんて幻想だと思う。
話が通じる相手ではなくなっている。そう思った。

「あんたが邪魔するからでしょ!」

神田さんは明らかに苛立っていた。

「あたしは――あたしはあの時助けてあげたのに!」

上木さんは半分泣き叫んでいた。
半狂乱といってもいい状態だったけど、彼女が嘘をついているようには見えない。
561 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/09(水) 23:48:12.60 ID:EJ3fER27o
87

どっちを信じたらいいのかわからなくなって、嫌な汗が吹き出てきた。
神田さんが苦しそうに体を折る。
彼女を覆う黒いものが、よりはっきり見える。
志乃は、それを泣きそうな顔で見ている。



――春海君、妹を連れて走って!



お義姉さんの声が頭に響いた。
相当大きな声だったのに、神田さんと上木さんは、その声に気づいていない。

志乃の手を引いてドアに向かって走った。
数メートルもないのに、遠く感じた。

志乃がつまづいて転ぶ。
志乃の足首に、ぬめぬめしたツタのようなものが巻き付いている。

「いって」と志乃の口が動いた。

562 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/09(水) 23:49:14.05 ID:EJ3fER27o
88

頭の芯が沸騰する。
目の前が白くなって、総毛立つような感じがした。



「志乃に手ェ出すなああああああっ!」



そう叫んだような気がする。
夢中で手を振り回したような、覚えがある。
目の前で、ツタやアメーバが、黒カビが、虫やら何やらが弾かれたのを見た気がした。

猫が――お義姉さんが――僕らの前に躍り出て――――

僕はもう、目の前が真っ赤になって、嘔吐して倒れた。
563 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/09(水) 23:51:57.30 ID:EJ3fER27o
>>554-555
乙ありがとうございます。

日本人の怒りのレベル一覧のコピペ、好きなんです。

今日はここまで。
564 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/10(木) 00:48:31.00 ID:tL9RHP6SO
とりあえず

日本人の怒りのレベル。
------ (仏のニッポン) ------
Lv1 推移を見守りたい
Lv2 対応を見守りたい
Lv3 反応を見守りたい
------ (意思表示するニッポンの壁) ------
Lv4 懸念を表明する
Lv5 強い懸念を表明する
------ (怒りを示すニッポンの壁)------
Lv6 遺憾の意を示す
Lv7 強い遺憾の意を示す
------(キレ気味のニッポンの壁)------
Lv8 真に遺憾である
------(キレちまったよ・・・)------
Lv9 甚だ遺憾である
------(大日本帝國)------
Lv10 朕茲ニ戦ヲ宣ス

565 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(茨城県) [sage]:2011/11/10(木) 00:57:21.58 ID:pHvgkPGeo
乙です

怒りレベル既読だけど笑ってしまった
イチャイチャからの急展開にビビりました
盾は発動したのかな?
次回も楽しみです
566 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(中部地方) [sage]:2011/11/12(土) 00:11:23.22 ID:LfSpXHU8o
楽しみでずっと寝れてない
567 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(熊本県) [sage]:2011/11/13(日) 00:50:22.88 ID:VSjEdO+fo
これは次スレも次々スレも必要なレヴェル

なぜこんなスレを開いてしまったんだ…寝れなくなっちまう
568 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/13(日) 10:39:28.11 ID:BUm8rkhVo
熱い展開!
569 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/13(日) 22:34:33.38 ID:JPKLaxsXo
89

**********

波の音がする。
あまり海に行ったことはない。

(小学生のうちは、家族で毎年行ってたっけ)

海水が足元に寄せては返す。

(冷たいな。今、満潮か?干潮か?)

これから満潮になるなら、ここから動かなければ僕は溺死してしまう。

肘を使って、岸から離れようと這ってみる。
全身が痛い。

どれほど進んだかわからない。
なんとか体を転がして、仰向けになる。
目が開かない。
太陽が出ているのか、まぶたの中の僕の視界は真っ赤だ。

(ああ、さっき倒れたときみたいだな)

腹が減ったと思った。
夕方に吐いて、それっきりなのだ。

(今、何時だろう)

なぜ海にいるのかわからない。
時計を見たいけど、目が開かない。

570 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/13(日) 22:35:22.72 ID:JPKLaxsXo
90

――ニャーン。

また猫か。
波の音しかしない中で、心細くなっていた。
少し救われたような気になった。

――ニャーン。

声が近い。
耳元でふんふんと鼻息の音がする。
その音が離れると、猫は僕のわき腹を前足でこねはじめた。

(フミフミしても乳は出ないぞー)

今なら目を開けられそうな気がした。
まぶたを上げる。

(あー、この世の終わりみたいだ)

空が真っ赤だった。
太陽も月も星も雲もない。
なぜ「この世の終わり」だと思ったのかはわからない。

海と、赤い空間。
胎内のイメージかもしれない。

571 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/13(日) 22:36:20.38 ID:JPKLaxsXo
91

(それなら、この世の始まりのその前じゃないか)

ここはどこだろう。と、改めて思う。
指を動かして手元にあるものを握る。

(砂だ……)

猫は僕の顔の近くに来て、またふんふんと匂いを嗅ぐ。

(僕は何も持ってないよ)

撫でてやろうと顔を向ける。
まだ幼い三毛猫だった。
急に切なくなって、僕は奥歯を噛みながら泣いた。


572 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/13(日) 22:36:58.06 ID:JPKLaxsXo
92

どれくらい経ったのかわからない。
傾く日も、伸びる影もない。
繰り返すだけの波の音が秒針みたいに、時間が流れていることだけを示している。

三毛猫はずっと僕のそばで丸くなっていた。
一通り泣いて、気分が落ち着くと体を起こすことができた。
あぐらをかく僕の周りを、何か言いたそうに三毛猫はぐるぐる回る。

「ありがとな」

と、撫でようとすると猫はするりと避けてしまった。

(まあ、猫にはよくあることだよな)

僕はあまり気にせず、トライ・アンド・エラーを繰り返す。

そうしているうち、女の声が聞こえてきた。
とても親しんだ声だ。
これは誰の声だったか。


573 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/13(日) 22:38:12.20 ID:JPKLaxsXo
93

――はるみ。

なんだそれは。

――はるみ。おきて。

それは、名前か。

――春海。ねえ。

それは、誰のことだったか。
僕は、上を向いて考える。

(僕のことかもしれない)

「しの」

志乃。
あいつは無事か。
自分がどういう状況に置かれていたか思い出した。
猫が前足を僕の脚にのせる。

「心配してくれるのか」

さっきからずっと一緒にいてくれたのだ。
犬猫は人間が思うより共感する能力があるのだと思う。
もう一度声をかけようと口を開くと――



――七代祟ル



そう言って猫は、僕の腹に飛び込んで、そのまま消えてしまった。

**********
574 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(静岡県) :2011/11/13(日) 22:44:17.49 ID:VzORcIPJ0
ちょっと面白いじゃないか
\(*⌒0⌒)♪

575 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/13(日) 22:58:07.87 ID:BUm8rkhVo
ねこちゃん・・・
576 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/13(日) 23:35:07.33 ID:JPKLaxsXo
94

恐ろしくなって、悲鳴をあげそうになったところで、赤い空は見覚えのある天井になった。
急に体を起こしていたらしく、頭がぐらりとした。

「春海!」

志乃が僕に抱きつく。
僕は頭を押さえながら、もう片方の手で志乃を抱く。

「ちょっと揺らさんでくれ。頭痛い……」

「あっ、ごめん」

志乃が僕からそっと離れる。
動くとズキズキする。

「大丈夫か」

「うん。守ってもらったからね」

彼女はそう言いながら、宙で指を回す。
自分の右手を見る。
指輪がなかった。
その代わり、小さな傷がいくつか残っていた。

「志乃、ここは」

「事務所の休憩室だよ」

(ナオミの部屋とは言わないんだな)

まあ、あまり口にはしたくない勤務先名だよな。


577 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/13(日) 23:36:07.11 ID:JPKLaxsXo
95

「呪いなら大丈夫。おねーさんが始末したよ」

「あの二人、どうなった?」

「無事かどうかで言えば無事だけど――」

「関係がどうなるかは微妙ってことか」

「うん」

志乃は視線を落とした。
ふすまが開く。

「義弟、大丈夫?」

「ええ、なんとか」

(怖い夢見たって言った方がいいのかな)

お義姉さんは僕の側に腰を下ろした。

「あ、でもすげー頭痛いです」

「ごめんなさい。声を出すより、直接頭に語りかけるほうが早くて――」

「人間相手だと、やっぱり無理がくるのね」と、お義姉さんはため息をついた。

「いいんですよ。俺たち無事ですし」

急に静かになってしまった。

578 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/13(日) 23:36:52.41 ID:JPKLaxsXo
96

「すみません、指輪壊してしまったみたいで」

この間が気まずいような気がして、指輪のことを詫びた。

「いえ、いいのよ。まさか完成してたなんて思わなかった」

「完成っていうか――俺にもよくわからなくて。とにかく必死だったんで」

「春海がんばったんだよ。こう、丸い線の光が出て、レンズみたいに膨らんでさ」

志乃が身振り手振りを交えて説明してくれるが、よくわからない。

「まあ、無事でよかったよ」

志乃は僕に抱きつこうとしたけど、遠慮したのか手を握って頬に寄せた。

「お義姉さん、なんで円だったんですか?」

お義姉さんの手前、照れくさいので真面目っぽい話題を振った。


579 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/13(日) 23:37:48.63 ID:JPKLaxsXo
97

「円って、シンプルすぎて嘗められがちだけど、実はありがたい形なのよ」

その意味するところは、命の源である太陽、卵といったものも含まれるらしい。

「でも、私は意味を教えてないわよ。自力でその理解に至ってくれたのならすごいけど」

「いえ、俺は今知りましたよ」

「なにそれ。春海すごい」

「ああ、己の才能がこわい」

「義弟、あの瞬間何を考えたの?」

「えっと……」

あまり思い出したくない光景だ。
あのとき、凝縮された一瞬の間に思ったのは何だったか。

(一発やらずに死ねるか)

なぜか同時に志乃のおっぱいが思い出された。

580 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/13(日) 23:38:48.75 ID:JPKLaxsXo
98

「おっぱい……」

「はぁ?」

志乃がアヒルのような形で口を開けている。
多分あきれて閉まらないのだろう。

「あ、いや」

言い訳がましく手を振るけど、もうごまかせない。

「君はそれだけで生存本能の最も深いところにアクセスしたっていうの?」

「そんなすごいことなんですかね。あ、でも火事場の馬鹿力ならそんなんかもしれないです」

「性と生は切っても切れないから……」

お義姉さんは、無理矢理自分を納得させようとしているようだ。

「でも、性的欲求だけでそこに至れるかしら……」

「あの、とりあえず無事に帰れたことですし、そこ悩むの置いときません?」

「なんだか屈辱だわ……」

そうぼやきながら、お義姉さんは僕に新しい指輪をくれた。

581 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/11/13(日) 23:44:44.52 ID:JPKLaxsXo
乙&レスありがとうございます。

>>564-568
>>574-575

ああ、それです。最後が「ニイタカヤマノボレ」になってるのもありますよね。

そこまで言ってもらえると光栄ですね。ほんとに。
1がんばっちゃう。

今日はここまで。
582 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/13(日) 23:46:17.90 ID:BUm8rkhVo
乙乙
春海はエロエロだな!
583 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(茨城県) [sage]:2011/11/14(月) 01:18:39.45 ID:HppIZyVso
乙です

おっぱいは正義か…
三毛猫がこわいお
584 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/20(日) 22:16:53.21 ID:D2bP0nYPo
99

――――――

夜になると、お義姉さんは繁華街に出かけてしまった。
頭痛は軽減したものの、まだ動くと吐きそうだ。

「志乃、帰っていいよ。俺泊まるわ」

生きて家にたどり着ける自信がない。

「ぬー、あたしもお泊まりんぐー」

志乃が畳の上を転がりながら寄ってきた。

「俺、元気ないから今夜は何もできないぞ」

「いいじゃん。何もしなくて。私が帰ったらあんた寂しいでしょ」

「断言されると否定したくなるな」

「じゃ、私は帰るよ。一人でも平気でしょ」

「そう言われると悲しくなるな」

「はじめからそう言えばいいのに」

「うるせー。たまには天の邪鬼したくなるんだよ」

「男のツンデレはかわいくないぞ。烈さんくらいじゃないと」

「俺がいつツンデレになったよ」

頭は痛いし気分も悪いけど、横になってどうでもいいことを喋っていると気が楽だ。

「――やっぱり、居てもらったほうがよさそうだな」

「あ、デレた」

志乃は、にっと笑った。

585 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/20(日) 22:17:35.08 ID:D2bP0nYPo
100

「春海、ひどい夢見てたんじゃない」

志乃が布団に入ってくる。

「なんで」

「うなされてたから」

体調の悪い僕に遠慮しているのか、抱きついてこない。

「……」

「嘘はつけないぞ。ちょっとくらいの異変なら私にも見抜ける」

僕には、彼女を心配させまいと気を遣って悪夢を隠すことも許されていないようだ。

「いや、猫がな」

速攻で観念した。

586 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/20(日) 22:18:58.83 ID:D2bP0nYPo
101

「またニャーン?」

「海と、朝焼けだか夕焼けだか――
 空には何もないんだけどな、赤いところで、すごい寂しいところで倒れてた」

残念なことに、不吉なイメージを僕ははっきり覚えていた。

「それで、三毛の子猫が慰めてくれるんだけど」

「子ニャーン?」

並んで寝ころんだ志乃が、猫の手を作って空中に伸ばし、空気をかきまぜる。

「目が覚める直前に『七代祟る』っつって俺に飛び込んで消えた」

「うええ、こわー」

「な。怖いよな」

「ほらー、やっぱり私がここに残ってよかったじゃーん」

「そうだな」とは言えなかった。
言えない代わりに、痛みを振り切るように体を動かして志乃を抱いた。

「な、なに!いきなり!」

相変わらず突発的に触られると固まるようだ。

「あんまり大声出すなよ。頭に響く」

「すまぬ」

「志乃、居てほしい。居てくれ」

「さっきから居るって言ってるのにー」

「ちゃんと頼みたくなったんだよ」

「ほう」

「デレてるんだから喜べよ」

「わぁい」

「心こもってねえなー」

587 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/20(日) 22:20:42.03 ID:D2bP0nYPo
102

彼女と話して、少しずつ平常心に戻ってきた。
怯えを一旦心の隅に置くことができるくらいには、僕は落ち着いていた。

「俺、明日お義姉さんに相談してみるわ」

「うん」

志乃がうなずく。喜んでいるようだった。

「そうでなきゃ、お前泣きながらお義姉さんに依頼しろって言ってくるだろうしな」

「依頼しろとは言うだろうけど、泣きはしない」

(いーや、泣くね)

あえて言うまい。

「俺は薬局に行くぞ、志乃」

「痛止め要る?この時間は閉まってるよ」

志乃は僕から離れて、鞄を探る。

「運が良かったな。私のが余ってた」

少しくたびれたパッケージを僕の側に置く。

「お水くんでくるー」

立ち上がろうとする志乃の手首を掴んで止める。

「いいよ。痛みのピーク過ぎて飲んでも効きにくいし」

「そうか」

588 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/20(日) 22:21:33.62 ID:D2bP0nYPo
103

「まあ、その、コンビニでもいいというか」

「?」

「俺はこないだ長野と話していて思いました」

「ああ、円の書き方教えてもらってたよね」

「それもだけどな。やっぱり愛と責任ある性交をせねばなりません」

志乃が吹き出す。

「笑うなよ」

「わ、笑ってなどいない。うろたえたんだ」

彼女はきまり悪そうに体を動かす。

「真面目に聞けよ。真面目に考えたんだから」

「あ、あー。そのことなんだけどさ」

もじもじそわそわ。

「どうした」

「しばらくは困らなくていいよ」

「え?」

589 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/20(日) 22:22:56.67 ID:D2bP0nYPo
104

志乃はタンスを開けて、何やら箱を取り出した。

「ででーん」

と、僕に差し出す。



――業務用――



「ナニコレ」

「もらったったwwwww」

「いやいやいやいや。業務用て」

こんなものにも業務用があるのか。

「おねーさんに相談したらくれた」

「何考えてんだよあの人は!」

別の意味で頭が痛くなってきた。

「呼んだ?」

口の横に血糊をつけたお義姉さんが、部屋の真ん中に立っていた。
食事中だったようだ。

「呼んでません!なんなんですかあなた!もう!」

「私は妹を助けただけよ」

彼女は腕を組んであごを上げ、僕を見下す。

「だからって業務用はないでしょう!」

「いいじゃない。これでしばらくは持つわよ」

「しばらくって何ですか!」

「しばらくはしばらくよ。ペースにもよるわね」

「もう!ペースとか!もう!もう!」

いろいろとブッ飛んでてツッコミが間に合わない。

「特に用もないみたいだし、私は食事に戻るわ」

お義姉さんは踵を返す。

「……がんば!」

と、お義姉さんは親指を立てて消えた。


590 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/20(日) 22:24:10.23 ID:D2bP0nYPo
105

休憩室に残った僕と志乃。
あと、業務用コンドーム。

「……気まずぅー」

志乃が舌を出す。
お気持ちは嬉しいんですが……こういうんじゃないんだよなー……。

「こういうんじゃないんだよなー……」

思ったことが口から漏れていた。

「確かに……ちょっと違うよね」

志乃がうなだれ、扱いに困った。という風に箱に目を遣る。

「どうするよ、これ」

「どうするって……ああー……」

部屋の真ん中に鎮座する、殺傷力のない爆発物。

「使うしかないんじゃないかなぁ」

志乃が棒読みで答えた。

「何だね、その他人事のような口振りは」

「快く受け取っちゃった手前、気まずいんだもん」

「一旦片づけようか、それ。気になって仕方ない」

「ああ、うん」

僕の目の前から、しばしの別れだ。業務用。

591 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/20(日) 22:25:28.59 ID:D2bP0nYPo
106

志乃が布団に戻る。

「寝よ寝よ!」

「寝れん!」

テンションをニュートラルに戻してほしい。

「えー。さっきまで寝そうな感じだったじゃん」

「そんなもん露と消えたわ」

「もー。どうしろと言うんだ。エロいのはナシだぞ」

「エロいことを要求する気力も体力もない」

「あー……」

「だから今日は、おとなしくポツポツ喋ってようぜ。眠くなるまで」

「それいいかも。話題が尽きてしりとりしたりしてさ」

「で、『る』でハメられてムキになるんだよな」

「それは反則だ」

志乃が僕に布団を掛け直す。

「修学旅行の夜みたいだね」

「やっぱり女子って好きな人告白大会とかやってたの?」

「やったやった。そのときは好きな人いなくて困った」

ああ、この会話の取るに足らない感じがちょうどいい。

「いないって言うと、ありえないって言われるんだよね。
 しょーがないから、かっこいいと思う人を挙げるってことで許してもらった」

「めんどくせぇなー、女子って」

「あれ、なんなんだろね」

「なんだろなー……」


最後に話した話のタネも朧気になったところで、僕は眠ったらしい。
夢と自覚できる夢の中。

――ニャーン。

声だけで、あの子猫だと判別できる。
お義姉さんの、次の依頼人は僕だ。
そう確信しながら、僕はさらに深く眠った。

女「もらったったwwwww」おわり
592 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/20(日) 22:33:44.36 ID:TIV7Zj+SO
あえて言わせてもらおう

頼むから爆ぜてくれ
593 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/20(日) 22:34:00.59 ID:lvPpMVcso

子ニャーン・・・
594 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/20(日) 22:34:08.36 ID:D2bP0nYPo
>>582-583
乙ありがとうございます。

最近、物を書く頭が使えなかったんですが、復活してきました。
滞ってすみませんでした。
595 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関東・甲信越) [sage]:2011/11/20(日) 22:39:48.59 ID:0xZumrvAO
おねーさんに血を吸われたい
596 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(神奈川県) [sage]:2011/11/20(日) 22:43:27.57 ID:Ln7FLxRO0
応援してる



肉塊になれ
597 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(茨城県) [sage]:2011/11/21(月) 01:59:57.84 ID:cz5LpOq5o
乙でしたっと

おっさんには眩しいくらい青春してるな…
598 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/21(月) 02:16:02.50 ID:VWaORS2ko


なにこれ甘酸っぱ過ぎて血の涙流しそう
599 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(鹿児島県) [sage]:2011/11/21(月) 18:13:47.96 ID:17gTPcCG0
>>1
春海君、ほら、ここにプラスチック爆弾があります。
600 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/11/21(月) 20:34:07.82 ID:Lae38Qrco
乙でし。
次はなんか事件が起こる、のかな?
601 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/11/27(日) 22:08:33.02 ID:mnkK7s6xo
ご無沙汰してます。
明日から再開します。
602 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/27(日) 23:01:30.28 ID:ACK4oBPSO
おお!待ってた
もう書かないのかと思い始めてたよ
603 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/11/27(日) 23:12:45.58 ID:mnkK7s6xo
>>602
待っててくれる人がいるって嬉しいですね。
あらすじを作るのに時間がかかってしまいました。

スレ完走までは書きたいし、そうします。
仕事が忙しくなってきたのでペースは落ちてますが、絶対投げません。
604 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/27(日) 23:32:23.65 ID:ACK4oBPSO
無理せずがんばってくれ。続く限りずっと応援するぞ!
605 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/28(月) 23:05:27.55 ID:HdZtXDtMo
女「有効利用したったwwwww」



少し寒いような気がして、眠りから覚めた。

(一応、秋か)

まだ眠っていたい。
僕は閉じたまぶたに力を入れる。
脚が寒い。
股間は暖かい。
ていうか……気持ちいい……だと……?

気付いて上半身を起こしたときにはもう遅く、僕は射精していた。

(あああああやっちまったああああああああ)

いくらお義姉さんがエロ関連に寛大だとはいえ、汚すのは申し訳ない。
自責の念に駆られそうになったが、そんな考えはすぐ消えた。

606 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/28(月) 23:06:27.52 ID:HdZtXDtMo


僕の下半身にかかった布団が不自然に盛り上がっている。
呆れながらはぎ取ると、案の定志乃がうずくまっていた。

「んむ……おあおー」

「おはよう」と言いたいらしかった。
志乃は最後の一滴までしっかり吸い取ると、満足そうに口元をぬぐった。

「寝込みを襲うなよ……」

なんだかもったいない気分でいっぱいだ。

「いっぱいでたよ!」

力強く親指を立てて、いい笑顔で言ってくれる。

「言ってくれればいいのによー」

「お腹すいたん……。寝てたし、起こしちゃ悪いかなって」

久々に嗅ぐ、イランイランの香りだった。
たった今、放出してすっきりしたはずなのに、陰茎に硬度が蘇ってくる。
志乃はそれを見て、目を輝かせながら指の腹で撫でている。

607 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/28(月) 23:07:35.83 ID:HdZtXDtMo


下腹のあたりがぞわぞわする。

「こら。志乃、くすぐったいって」

「ふっふっふー。上の口ではなんとかかんとか。下の口では――」

「俺に下の口はないぞ」

「あ、そうか」

彼女は唇をとがらせる。
うまいこと言い損ねたのが不満なんだろう。

「まだ吸い足りないか」

「うーん、まだいけるー」

と、棒を握りながら口を開けて近付ける。
僕は志乃のおでこを押さえてそれを制する。

「ぬうう……よいではないかよいではないか……!」

「だからくすぐったいんだよ。いじらせろ。俺にエロいことをさせろ」

「やだー!」

腕を掴んで引き、志乃を抱え込んで倒れる。

「ははは。上の口ではなんたらかんたら。下の口では――」

戯れながら指を下着に滑り込ませる。
昨晩はきかえたばかりなのを汚さない為の、僕の粋な計らいである。

(……これは……笑い事じゃないな)

「まだ何もしてないんだけどなー」

志乃は顔を伏せている。耳が赤い。

608 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/28(月) 23:08:38.61 ID:HdZtXDtMo


その様がかわいいと思ったので、耳を舐めた。

「ひっ、ぅああう」

情けない声を上げて体をよじる。

「どうした、リアクションが面白いぞ」

「だ、だめ。それだめ」

彼女は僕の肩を押して離そうとする。

「うんうん。これは開発の余地ありだな」

「ないない! ないって!」

「フロンティア精神だ。向上心のないやつは馬鹿だ」

「股間を硬くしながら言ってもかっこよくないぞー!」

「はっはっは。照れるな照れるな」

僕は志乃の体の線をたっぷり撫でて堪能する。

「んんっ……何で朝から元気っ、なんだ……」

「いやぁ、お義姉さんに相談すると決めたら少し吹っ切れてな」

「だからって吹っ切れすぎっ……もう!」

耳にいきなりぬらりとしたものが入ってきた。
水っぽい音がぺちゃぺちゃと響く。
なぜか腰のあたりがくすぐったいようなうずきに襲われた。

「うぁああそれらめえええええ」

「ほらー、だめじゃん」

(なぜ勝ち誇る……)

609 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/28(月) 23:09:32.62 ID:HdZtXDtMo


「妙に明るいな。健康的すぎて萎えるぞ」

萎えはしないけど、この調子じゃいつまでもじゃれあってるだけだ。

「えー。やだそれ屈辱」

「これはこれで楽しいけどなー」

ひとしきり笑った後、志乃が黙っていることに気付いた。

「どうした、志乃」

「べ、べーつにー」

「なんですか。明るいエロスではなく淫猥でぐちょぐちょしたのをお求めですか」

「いや、そこまでは」

「べっつにィー。平気ですしー」

「平気じゃないんだろー。不完全燃焼なんだろー」

「んー……言わなきゃだめ?」

「求められたい」

「うぅ……」

「さあ! レッツ!」

「そ、そりゃあイキたいかって言われたらイキたいですけどー?」

「もう一声!」

「う……ゆ、指入れて……」

(ハイ、おかずいただきましたー)

志乃は消え入りそうな声で言うと、僕の腕の下に隠れようとした。
ぺたりと触れた頬が熱かった。

610 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/28(月) 23:10:39.09 ID:HdZtXDtMo


「うんうん。えらいぞ志乃」

僕は幸せである。
たとえ寂しい不気味な夢を見ようと、猫に祟るとおどされようと、僕は幸せである。
再び、志乃の中に指を侵入させる。

「自分が口でしただけなのに濡れてるの、恥ずかしかったんだ?」

志乃は涙目でこくこくと繰り返しうなずく。
心なしか、指を包む粘膜がきゅっとなった気がした。

「大丈夫だ。口の中も性感帯だ」

「今まではふつうだったのにぃ……」

「そりゃ開発されたんだろ。あとは気分とか?」

指を抜き差しすると、液がとろとろ流れてくる。
もう一本入れると、志乃の体が跳ねた。

「あ、大丈夫か?」

「ふっ、うん……平気」

首を抱えて顔を寄せ、唇を重ねた。
僕が舌先で唇をなぞると、彼女も遠慮がちに舌を出して応じる。

(腰が動いてるのは言わないでおこう)

言ったら、恥ずかしがって振り出しに戻りそうだ。
こうして会話しながら淫靡な行為に耽るのも乙なものだと思う。
せっかく恥じらいを一旦隅に置いてくれたのだから、思い出させることもないだろう。

611 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/28(月) 23:11:08.36 ID:HdZtXDtMo


志乃はたっぷり時間をかけて楽しんだ後、果てて僕の横に倒れると、そのまま少しの間眠った。

「志乃、志乃ーおきろー」

「んん……ふぅ」

(満足そうな顔してやがる……)

フルボッキで待機している僕をそのままに、眠った。

(これは……後でねっとりやってもらおう)

志乃が復活するまでの時間が残酷な焦らしプレイであった。
あと、ずっと下半身丸だしでいたことに気付いて、少しへこんだ。
何よりパンツを穿き直すべきか迷って、その逡巡のくだらなさに気付いて、またへこんだ。
612 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/11/28(月) 23:23:58.85 ID:Vo2Qfpqoo
>>592-600
レスありがとうございます。

甘酸っぱすぎて飲まなきゃやってられません。
読んで元気が出るものを書きたいと思ってるので、爆発しろの想いで明日も戦ってください。

>>604
ありがとうございます。

書くことは好きでやってるので無理はしてません。
さすがにペースは落ちますが…
今後もがんばりますので、完走までお付き合いください。
613 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/11/28(月) 23:25:37.46 ID:Vo2Qfpqoo
あ、言い忘れた。
今日はここまで。
614 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/11/28(月) 23:49:50.95 ID:4+khzPTHo
向上心のない奴は~のくだりは夏目漱石だったか

おつんつん
615 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/29(火) 01:13:41.75 ID:HMm1LiRSO
616 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(茨城県) [sage]:2011/11/29(火) 21:26:11.86 ID:SuOH4ftKo
乙ですよ

2人の関係とちょっとずつ進んでるのがよいですな
イチャイチャしやがって…
617 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/30(水) 00:17:30.66 ID:7BD3zoC2o


――――――

せっかくの土曜日なのに、仕事だ。
その仕事を依頼するのは僕だ。
憂鬱だけど、面倒なことはさっさと済ませた方がいい。

(志乃も言ってたしなー)

――春海一人の体じゃないんだよ!

(……握りながら言われると他意を感じるが、心配はしてくれてるんだろうしなー)

事務所に入ると、お義姉さんは帰ってきていた。

「あら、どうしたの、この世の終わりみたいな顔して」

「まだそこまで落ち込んじゃいませんよ」

「それは落ち込む可能性があるってことね」

「まあ、そんなところです」

お義姉さんは今日もきれいだった。
ただ、その場にいないと顔を思い出すことができない。

618 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/30(水) 00:18:24.30 ID:7BD3zoC2o


「……深刻そうじゃない」

「わかりますか」

「わかるわよ。空気が読めないわけじゃないわ。普段は読まないだけよ」

(わざとやってたのかよ……)

「まあいいわ。ちゃちゃっと本題に入ってちょうだい」

お義姉さんはコーヒーカップに口をつけながら、立てた指をくるくる回す。
「巻きでよろしく」ということか。

「あの、俺、呪われてるっぽいんですけど」

立ち向かってやろうとは思ったものの、実際相談するとなると、その事実を受け入れなければいけない。
口にするのは抵抗があった。

「ふーん……」

お義姉さんの目がまっすぐ僕を見つめる。
虹彩はロシアンブルーの緑じゃなかった。

呼吸ができない。
お義姉さんはしばらく僕の目の奥から何かを読みとろうとしていたけど、やめたらしい。

619 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/30(水) 00:19:32.03 ID:7BD3zoC2o
10

彼女は長く息をつくと、まだ湯気の立っているコーヒーを一気に飲み干した。

「やっぱり呪われてなんかないわよ。何をそんなに心配してるのかしら」

被害妄想だとか気にし過ぎだとか言い捨てないあたり、気にはかけてくれているらしい。

僕は夢の話をした。
覚えている限り、全て話した。

「それが本当なら、私の手には負えないわ」

すっと寒くなった。

自分が何も考えていなかったことが、行動を起こして5分で露呈した。
戦ってやると肚をくくったつもりが、結局はお義姉さんに依頼すれば何とかなるとタカをくくっていた。

(志乃に合わせる顔がありません……)

(やっぱ俺ってヘタレなんかなー)

視界の端に入った指輪の輝きも、ずーん、と鈍かった。

620 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/30(水) 00:20:35.16 ID:7BD3zoC2o
11

「その猫は祟るって言ったのよね。それなら私の専門外よ。
 呪いと祟りは違うの。そこはわかるわよね」

「ニュアンスの違いくらいは……。
 人が誰かに害を与えようとしてこう、怪しげなことしたりするのが呪いで、
 霊とか神様とか――動物霊もあるかな――そういったのが人間の行いに報いる形で出るのが祟り、ですかね」

「あら、大筋ではわかってるのね。それなら話が早いわ。
 私は呪い専門。私は、祟りのことは門外漢。私はね」

――私は殺し屋よ。呪い専門の。

(待て待て。じゃあ祟り専門の殺し屋なんてのもいるのか?)

頭が痛くなりそうだ。

「お義姉さんではない、他の誰かなら対処できるかもしれないと」

「そう思ってくれて構わないわ。
 ――妹、聞いてるんでしょ。入ってきていいのよ」

621 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/11/30(水) 00:21:52.07 ID:7BD3zoC2o
12

志乃が半開きのドアをすり抜けて事務所に入ってきた。

「春海、大丈夫だよね」

「さーねえ。ちょっとあの世に口利いて調べてもらうわ」

「あの世って?」

「あの世はあの世よ」

お義姉さんの頭上から、スポットライトのような光が射す。

「なんすかそのエフェクトは」

「ここ、あの世に直結してるのよねー。ちょっと行ってくるからテキトーに過ごしててちょうだい」

お義姉さんは天に召されるように、上に上に吸い込まれて、天井に頭が当たりそうになったところで消えた。

「志乃、お義姉さんのあんな退場見たことある?」

「いや、あのバージョンは初めて。いつもすいーっと出てきて、すいーっといなくなっちゃうもん」

そもそもこんなオフィス街の一角にあの世直通の霊道チックなものがあるなんて知らないぞ。
いや、知らなくて当たり前なんだけど。

(せめて場所選べよ……。オカルトなことが起こっても受け入れられそうなところにさー)

僕は判決待ちの被告のような気分で取り残されてしまった。
志乃がいつの間にかコーヒーを淹れていた。

「いつの間に」

「さっき。飲む?」

飲む? と聞いてはいるものの、カップは2つある。
はじめから僕の分も淹れておいてくれたのだろう。

「うん」

僕は素直に受け取る。
そして、二人で長く長くため息をついて、途方に暮れながら同時にカップを口へ運んだ。
622 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/11/30(水) 00:24:12.62 ID:9m4EN3Gxo
>>614-616
レスありがとうございます。

こころは凹みましたね。
仲良きことは美しきかなー。

今日はここまで。
623 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(鹿児島県) [sage]:2011/11/30(水) 00:28:35.88 ID:9brW5135o
624 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/30(水) 00:53:42.77 ID:N+xtRXPIO
スポットライト笑った
新しいな
625 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/30(水) 01:03:11.75 ID:Nzh7+AMAO
626 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/30(水) 08:06:02.61 ID:oVTXGnASO
時オカのコタケ・コウメの退場思い出した

627 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/12/01(木) 00:58:04.28 ID:Jtad6Kino

13
「志乃はさ」
熱い液体が舌に触れる。
やっぱり熱々のうちはまだ飲めない。
「んー?」
「やっぱり見えてるの、呪い」
「割と」
志乃はカップをテーブルに置いて、手指をばらばらに動かした。
王虫の触手のイメージだろう。
「前は見えてなかったんだよなー」
お義姉さんは「みえる人」みたいなものだから気にする必要はないと言っていた。
だけど、こうなったのはつい最近のことだ。
★付箋文★
14
「やっぱヴァンプになっちゃったからじゃない? 前までは何ともなかったし」
「俺、人間だよな……」
「そーなんじゃない? 実際人間やめてみると、よくわかんなくなった」
「区別がつかんと」
「私が半分妖怪になったのはここ2〜3週間のことだし、
 かと言って人間とはそう変わらないし……となるとさ、
 もっと私みたいなのいるんじゃないかなって思っちゃうよね」
「そう言われるとなー。案外みんな巧く化けてるのかもな」
まだ飲めそうにないので、僕もテーブルにコーヒーを置いて、ソファに座る。
「うーん、でも春海はなんか違うって思うことはあったかな」
志乃は難しい顔で、僕の隣に腰を下ろした。
★付箋文★
15
「変人のつもりはないぞ」
「変っていうか、違うって思ったんだよね」
「そのニュアンスの違いを詳しく」
志乃はおろした髪の毛先を指に巻き付けては離している。
「そうだなぁ。あの、やっぱり私が変質者に尾行されたときの話に戻るんだけどさー」
あの事件がなければ、僕は志乃と話すようにはなっていなかっただろう。
いつどこで縁ができるかわからない。
「実は、周りには他にも顔見知りの人いたんだ。
 私に気付いてなかったり、向こうがグループで動いてたから行きにくかっただけで」
「選択肢はいくらかあって、結果俺を選んだってことか」
「選んだっていうか、そのときは怖かったから直感だよね。
 この人についててもらえば大丈夫だって思った」
「なに、運命感じてたの?」
「それはない」
「切り捨てるなぁ」
「だって当時は名前と顔がやっと一致したくらいだよ。
 惚れた腫れたなんて言い出すには早すぎるよ」
「なるほどねー」
★付箋文★
16
「まあ、その、そのとき春海を選んだ判断が働いたのは、何かが違うっていうところに反応したんだと思う」
「何かねえ」
「何か……気配とか匂いとか、そんな単純なものでもない気がするけど、抽象的すぎてよくわかんない」
「お前にわかんなきゃ、俺にもわからないよな」
「だからさ、人間かどうかなんて結構曖昧でいい加減なんじゃないかなって思うわけよ」
「だから、って話が繋がってないような気がするんだけどな」
「しょーがないじゃん。印象の話だもん。私は馬鹿じゃないけど、春海ほどきれいに喋れないしー」
「そう言い切られると、俺はそれを丸ごと飲み込むしかないんだなぁ」
「あたし、あんたのそーゆーとこ好きだけどね」
志乃は「ふふふんっ」と一人で楽しそうに笑うと、一気にコーヒーを飲み干した。
カップに触れると、しっかり持つことができるくらいにはぬるくなっていた。
口に近付けて、少し吹いてから飲んだ。
★付箋文★
17
「朝ごはん買ってくるー。角にカフェあったじゃん。朝カフェとかビジネスパーソン(笑)ぽくない?」
きっと彼女の頭の中では、読めもしないニューヨークタイムズが広げられているのだ。
「うんうん。ぽいぽい。俺、ツナサンドね」
ズボンのポケットを探ると、500円玉が入っていた。
それを志乃に渡す。
「うああ、ぬるい。硬貨が人肌だよう」
「懐であたためておきました」
「じゃ、ちょっと行ってくるー」
彼女は休憩室に財布を取りに戻り、出ていった。
出ていこうとしたところで振り返り、
「ねえ、こうやってお財布だけ持ってビルから出るのってOLっぽくない?」
と言った。なんでそんなに楽しそうなんだ。
「うんうん。それっぽい」
志乃が元気だと安心する。
見送って一人になると、やっぱり事務所は静かで広くて、心細かった。
この際あの子猫でいいから、そばに居てほしいと思った。
628 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/12/01(木) 00:59:16.49 ID:Jtad6Kino
13

「志乃はさ」

熱い液体が舌に触れる。
やっぱり熱々のうちはまだ飲めない。

「んー?」

「やっぱり見えてるの、呪い」

「割と」

志乃はカップをテーブルに置いて、手指をばらばらに動かした。
王虫の触手のイメージだろう。

「前は見えてなかったんだよなー」

お義姉さんは「みえる人」みたいなものだから気にする必要はないと言っていた。
だけど、こうなったのはつい最近のことだ。

629 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/12/01(木) 00:59:59.69 ID:Jtad6Kino
14

「やっぱヴァンプになっちゃったからじゃない? 前までは何ともなかったし」

「俺、人間だよな……」

「そーなんじゃない? 実際人間やめてみると、よくわかんなくなった」

「区別がつかんと」

「私が半分妖怪になったのはここ2〜3週間のことだし、
 かと言って人間とはそう変わらないし……となるとさ、
 もっと私みたいなのいるんじゃないかなって思っちゃうよね」

「そう言われるとなー。案外みんな巧く化けてるのかもな」

まだ飲めそうにないので、僕もテーブルにコーヒーを置いて、ソファに座る。

「うーん、でも春海はなんか違うって思うことはあったかな」

志乃は難しい顔で、僕の隣に腰を下ろした。

630 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/12/01(木) 01:00:45.40 ID:Jtad6Kino
15

「変人のつもりはないぞ」

「変っていうか、違うって思ったんだよね」

「そのニュアンスの違いを詳しく」

志乃はおろした髪の毛先を指に巻き付けては離している。

「そうだなぁ。あの、やっぱり私が変質者に尾行されたときの話に戻るんだけどさー」

あの事件がなければ、僕は志乃と話すようにはなっていなかっただろう。
いつどこで縁ができるかわからない。

「実は、周りには他にも顔見知りの人いたんだ。
 私に気付いてなかったり、向こうがグループで動いてたから行きにくかっただけで」

「選択肢はいくらかあって、結果俺を選んだってことか」

「選んだっていうか、そのときは怖かったから直感だよね。
 この人についててもらえば大丈夫だって思った」

「なに、運命感じてたの?」

「それはない」

「切り捨てるなぁ」

「だって当時は名前と顔がやっと一致したくらいだよ。
 惚れた腫れたなんて言い出すには早すぎるよ」

「なるほどねー」


631 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/12/01(木) 01:01:24.21 ID:Jtad6Kino
16

「まあ、その、そのとき春海を選んだ判断が働いたのは、何かが違うっていうところに反応したんだと思う」

「何かねえ」

「何か……気配とか匂いとか、そんな単純なものでもない気がするけど、抽象的すぎてよくわかんない」

「お前にわかんなきゃ、俺にもわからないよな」

「だからさ、人間かどうかなんて結構曖昧でいい加減なんじゃないかなって思うわけよ」

「だから、って話が繋がってないような気がするんだけどな」

「しょーがないじゃん。印象の話だもん。私は馬鹿じゃないけど、春海ほどきれいに喋れないしー」

「そう言い切られると、俺はそれを丸ごと飲み込むしかないんだなぁ」

「あたし、あんたのそーゆーとこ好きだけどね」

志乃は「ふふふんっ」と一人で楽しそうに笑うと、一気にコーヒーを飲み干した。
カップに触れると、しっかり持つことができるくらいにはぬるくなっていた。
口に近付けて、少し吹いてから飲んだ。


632 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/12/01(木) 01:02:12.76 ID:Jtad6Kino
17

「朝ごはん買ってくるー。角にカフェあったじゃん。朝カフェとかビジネスパーソン(笑)ぽくない?」

きっと彼女の頭の中では、読めもしないニューヨークタイムズが広げられているのだ。

「うんうん。ぽいぽい。俺、ツナサンドね」

ズボンのポケットを探ると、500円玉が入っていた。
それを志乃に渡す。

「うああ、ぬるい。硬貨が人肌だよう」

「懐であたためておきました」

「じゃ、ちょっと行ってくるー」

彼女は休憩室に財布を取りに戻り、出ていった。
出ていこうとしたところで振り返り、

「ねえ、こうやってお財布だけ持ってビルから出るのってOLっぽくない?」

と言った。なんでそんなに楽しそうなんだ。

「うんうん。それっぽい」

志乃が元気だと安心する。

見送って一人になると、やっぱり事務所は静かで広くて、心細かった。
この際あの子猫でいいから、そばに居てほしいと思った。

633 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/12/01(木) 01:05:31.98 ID:Jtad6Kino
>>623-626
レスありがとうございます。

たまには退場の仕方にも遊び心がほしいですよね。
ゼルダはスーファミのを途中までやったきりですね。
ニワトリに蹂躙された思い出。

>>627は投稿ミスです。かなしい。
見なかったことにしてください。

今日はここまで。

634 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/01(木) 02:00:23.60 ID:5kd8VO+/o
乙カレーだぜ
635 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/01(木) 07:53:57.72 ID:JvsVzGwSO
ニワトリに一度は殺されるのはゼル伝の醍醐味の一つだろ

あれは一つのロマンだ芸術だ
636 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/12/01(木) 20:33:36.47 ID:m3ayeOn6o
乙乙。

いいなあこの二人。ちょっとぶっ殺したくなってきたのは内緒の話。
637 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(鹿児島県) [sage]:2011/12/03(土) 16:55:46.77 ID:XGtz77t20
脳内の彼女が鮮明すぎて

リア充を同じ目線で見てしまう

実際には誰よりも悲しい
638 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 17:29:56.71 ID:UyRze4cTo
>>637
っていう自逆風自慢はやめてください
639 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(鹿児島県) [sage]:2011/12/04(日) 18:06:18.19 ID:72iA0cL70
どこら辺が自慢かkwsk
640 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/12/05(月) 00:38:38.56 ID:QY8HrJ60o
18

しばらくして、志乃が帰ってきた。

「ただいまー」

「おう、おかえり」

「ほい、ツナサンド。と、おつり」

と、紙袋とポケットを探って僕に手渡す。
僕は礼を言って受け取った。
志乃は僕の隣に座って、袋からクッキーを出した。

「それじゃ足りないだろ」

「私はもう朝ごはん済んでるもーん」

「あー……」

(そういえば今朝は2回分精液を補給したな)

「お腹は空いてないんだけどさ、人間の食べ物は口にしていたいんだよね」

「食べ物が変わるって、怖いよな」

それはつまり、体質の変化だ。
それイコール正体の変化だ。
今までの自分とは違う、別の自分になった証左だ。

641 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/12/05(月) 00:39:29.82 ID:QY8HrJ60o
19

「おねーさんには感謝してるけど、やっぱりなるべく人間でいたいと思うよ」

だから志乃は戦わない。
呪いに対しても常識の範疇で解決したがる。
あくまで人間の能力の範囲内で、お義姉さんに協力したがっている。

「そうか」

気の利いたことが言えない。
なるべく多く具が入るようにツナサンドをちぎって、志乃の口に押し込んだ。

「んぅ……」

彼女は腑に落ちないといった表情で、何か言いたそうにしながら咀嚼している。

「美味いか」

うなずく。

「よかったな」

「……うん」


642 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/12/05(月) 00:40:06.43 ID:QY8HrJ60o
20

志乃が小袋からクッキーを一枚、僕の口に押し込んだ。

「おいしー?」

「うぅ……」

僕は今、変な顔になっていると思う。
具体的には、しょっぱいものと甘いものを口の中で同時に処理してまずいのをこらえているような顔だ。
あまりよく噛めないうちに飲み込んだ。

「まずい……」

「ちぇー」

「俺の口が空いてるときにしてくれ……」

「すまん」

そういう志乃の顔は、ちっともすまなそうじゃなかった。
それどころか嬉しそうですらあった。


643 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/12/05(月) 00:40:54.85 ID:QY8HrJ60o
21

ふと、事務所の所長席の近くに光がまっすぐ射した。

(この演出は要るんだろうか)

僕は黙ってお義姉さんの降臨を待つ。

(吸血鬼って、ほんとはもっと凶々しくなきゃいけないんじゃないか?)

「ただいま。あなた達、いつ見てもラブいわね」

「いやんー」

志乃が僕の袖をつまんで下を向く。
お義姉さんはその様を、目を細めて眺めていた。


――私はあの子が可愛いの。


心が暖まる一方で、志乃が人間であろうとしている事実をお義姉さんがどう取るかと思うと、少し寂しくなった。


644 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/12/05(月) 00:41:38.40 ID:QY8HrJ60o
22

「それで、あの、どうでしたか。調べてみて」

「……結論から言った方がいいのよね?」

「それを言うってことは、俺にとっていい答えじゃなさそうですね」

お義姉さんは唇を真一文字に結んで、膝の上で組んだ指を動かしていた。

「言ってくれて大丈夫ですよ。あなたを待ってる間、主文後回しを言い渡された被告の気分だったんです」

自分でも、妙な喩えを持ち出して饒舌になっているとわかる。
ちっとも大丈夫なんかじゃない。
ほんとは答えなんか知らないで、志乃と昼まで寝ながらいちゃいちゃしていたい。
猫や神田さんと上木さんのこと、呪いや祟りのことなんか忘れていたかった。

645 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/12/05(月) 00:42:33.51 ID:QY8HrJ60o
23

「わかった。言うわ」

志乃が僕の指を握る。
柔らかい力だった。

「義弟は祟られてる」

これで、今度こそ本当に絶望できる。
胃の底が持ち上がるように、吐き気が起こった。

「詳細はまだ調査中だけど、君のご先祖様が猫を殺してるわ」

「そう、ですか……」

それだけ、絞るように言えた。
自分が超自然的な脅威に晒されていることへの怯えがあった。

現代と倫理観や死生観が違うとはわかっていても、遠い昔の身内が、
かわいらしい動物を手に掛けていたことへの嫌悪感があった。

646 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/12/05(月) 00:43:25.75 ID:QY8HrJ60o
24

「ただ、気になるのは、その祟ってる子猫が口ばっかりってことね」

「口だけ?」

志乃が聞き返す。

「そう。小さな子供が、意味もわからないで、なんとなく覚えた言葉を繰り返すような――そんな感じ」

「エントロピーとかゲシュタルト崩壊みたいなもんですか?」

「それじゃ男子じゃん」

「男子だけどさ」

「人間の子供はカタカナが好きなの?」

「いえ、いいんです。先に進めてください」

「言ったとおりよ。その子猫、口では祟る祟ると言いながら、義弟に危害を加える気が全く見受けられないの」

「それはそれで――」

「不気味でしょう?」

僕は、肺の空気をはっきりしないうめき声と共に排出して、少しえづいた。
647 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/12/05(月) 00:47:23.90 ID:QY8HrJ60o
>>634-637
レスありがとうございます。

物騒なことを言ってる人がいる気がしないでもないけど気のせいでしょう。

今日はここまで。
648 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(神奈川県) [sage]:2011/12/05(月) 01:32:07.78 ID:QknoUmnLo
乙 次も期待してるわ
649 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/05(月) 09:34:06.08 ID:wEpHMSsSO
650 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(鹿児島県) [sage]:2011/12/06(火) 16:02:28.59 ID:9t3wnYBT0
いつもいちゃいちゃしてるんだから
このくらい甘んじて受け入れろ春海君
651 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/12/12(月) 00:39:02.78 ID:qJ/miyaRo
25

「私も、もっと早くに気づくべきだった」

お義姉さんは少し、うなだれたように見えた。

「仕事中に起こることなら、私がついてれば大丈夫だと思ってた。
 だけど、君の場合は生まれる前から仕掛けられたものだった。
 それでも、違和感には気づくべきだったわ」

「あの、俺、そんなにピンチなんですか」

「わからない。言ったでしょ。調査中だって」

「じゃあ、悲観的にならなくても……。俺がショック受けて立ち直れないならわかりますけど」

「耳が生えてるのよ」

「耳?」

「あとしっぽ」

「は?」

「義弟の魂に、猫耳と猫しっぽが生えてるのよ」

そう言ってお義姉さんは頭を抱えた。
志乃が唇を噛む。
さすがに猫好きでも、喜べない状況だと感じているらしい。

652 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/12/12(月) 00:40:00.97 ID:qJ/miyaRo
26

「おそらく、君で七代目」

声がくぐもって聞こえる。
耳がざわざわする。

「あの、先天的なものだったなら、なんで今頃になって現象として出てきたんでしょうか」

生まれつきの体質みたいなものなら、もっと昔から特異なことは起こっていたはずだ。

「妹は、ゆくゆくは義弟の子供が欲しいでしょ」

志乃が短くうめいて、顔の前で手を振る。

「ああああたしお茶、い、淹れてくる!」

思い切りどもりながら言うと、給湯室に逃げてしまった。

「お義姉さん、唐突すぎますよ。からかってるんですか」

「私は真面目よ。妹もまんざらじゃないはず。
 今になって猫が自己主張してきたのは、君がつがいとなる雌を手に入れたと判断されたからよ」

「つがいとか雌とか言わないでくださいよ……」

もうちょっとロマンのある言い方でお願いしたい。

「おそらく、その猫は生まれ直そうとしてる。
 よくある話でしょ? 生まれた子供に化け物の特徴があって、それと対面した親が発狂――」

「天狗じゃ、天狗の祟りじゃー」

「ま、そんなとこね」

この年で親になりたいとは思わないが、そのうち子供が欲しいとは思うだろう。

653 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/12/12(月) 00:41:09.62 ID:qJ/miyaRo
27

志乃が茶器をカチャカチャさせながら戻ってきた。

「うー、きまずいー」

「さすがにな」

志乃が人間をやめているにも関わらず、僕の中の猫が志乃を「つがい」と判断したということは、
僕は志乃と子供を作れるということなんだろう。
僕にはまだ早いが、それでも安心した。


振動音が聞こえる。


「誰か、携帯鳴ってる」

志乃もお義姉さんも気付いていない。

「私じゃないよ」

志乃がポケットを押さえて言う。

「あら、じゃあ私?」

お義姉さんが木製のデスクから、鞄を引っ張る。

「ああ、あの世からだわ。普通に話しかけてくれればいいのに――はい、ナオミの部屋です」

(あの世から着信アリって怖いな……)

「ああ、すみません。お疲れさまでーす。
 で、お願いしてる少年の調査の件なんですけど、ああ、そうですか。
 あー……それは……うーん……ああ、本人に話してみます。
 あ、はい。また何かわかったらお願いします。
 すみません、お手数かけますが。はい。失礼します」

(お義姉さんがまともな社会人に見える! スゲエ!)

お義姉さんのまともな振る舞いに、自分の危機そっちのけで衝撃を受けていた。

654 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/12/12(月) 00:41:46.58 ID:qJ/miyaRo
28

お姉さんが二つ折り携帯を畳んで、僕に向き直る。

「よかったわね、義弟のご先祖様は、わざと猫を殺すような人じゃなかったわ」

「それじゃ――」

「悲しいわね。事故というか、誤解というか……。
 そのへんで人さらいに連れていかれそうになった娘を助けようとして、娘の猫が人さらいに飛び込んだ。
 そのタイミングで――」

「人さらいと一緒に斬ってしまったと」

「そんなところね」

確かに事故だ。飼い主である娘に危害を加えようとしたのは人さらい。
だけど、猫が死んだのは、斬ったのはご先祖様。

「過失致死ですね……」

だけど、殺してしまったのは事実だ。
猫も事情を汲んではくれないだろう。
志乃は沈痛な面もちで聞いている。
動物や女子供が痛い目に遭う話は嫌なんだろう。
僕だって嫌だ。
655 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2011/12/12(月) 00:46:51.09 ID:qJ/miyaRo
>>648-650
レスありがとうございます。

忙しさに拍車がかかってきました。
しばらくは日曜か月曜の晩の週1更新になりそうです。
未完で放置はしませんがペースは落ちるので、そこは申し訳ないなぁ、と思ってます。

今日はここまで。
656 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/12(月) 00:57:55.61 ID:GN0B+8l9o

放置しないで書いてくれるなら
俺は嬉しいぜ
657 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/12(月) 07:48:09.21 ID:pgytg+uAO
658 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/12(月) 14:47:18.79 ID:vC1qD9vSO
659 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/16(金) 17:13:27.60 ID:GrKVvHqH0
放置しないなら全然おk
660 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/12/18(日) 23:03:02.60 ID:vozNIbmvo
今回の分のメモはできたので、明日更新します。
おやすみなさい。
661 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/18(日) 23:09:01.88 ID:6oxpPedWo
まってるぞ!
662 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga ]:2011/12/20(火) 00:06:37.02 ID:QVy98VUmo
29

「春海は、どうなるの?」

志乃がぽつりと聞いた。

「その猫ちゃんと話してみなきゃわからないわね」

肝心の子猫は、僕の魂と融合してしまっている、らしい。

「でも夢にしか出てこないし、ロクに話せませんよ」

あの赤い空と海の空間でも、猫はか弱く、可愛らしく鳴くだけだった。
話した言葉は、祟ると告げた一言だけだ。

「死人に口を作るとかー」

お義姉さんが視線をやや上に飛ばしながら呟いた。

(嫌な予感しかしない……)

「やーねぇ。喩えに決まってるじゃない」

「シャレになってないんですよ、お義姉さんの言うことは」

この人と関わり始めてから、多少の非常識は常識のブレの範囲内に納まるように思えていた。
ただ、今まで認識してこなかっただけだ。
猫に喋らせるのだって、術者がいるのかは知らないが、降霊術でもやりだすんじゃないかと思っていたところだ。

663 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga ]:2011/12/20(火) 00:07:30.76 ID:QVy98VUmo
30

「夢で会ってらっしゃい」

彼女は僕に立てた指を突きつけながら命じる。

「さっきまで寝てたのに……」

「俺、眠くないですよ」

自分が完全には自分じゃないと告げられて、混乱している。
今はまだ飲み込めないでいるが、そのうち自我が揺らいで不安でたまらなくなるのかもしれない。

僕はまだ、そういった「仮定」や「予測」に対して恐れている。
祟られている当事者の自覚はできたけど、そのへんの危機感は薄い。

「寝なさい」

「仮に会えたとしても、あの猫、触らせてくれないんですよ」

「じゃあ、これを持っていくといいわ」

「持っていくったって――」

僕が言うのを無視して、彼女は上を向き、自分の手を口に突っ込んだ。

664 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga ]:2011/12/20(火) 00:08:20.44 ID:QVy98VUmo
31

「うえぇ……」

志乃がもらいゲロしそうな顔で僕にすがる。

(こいつはお義姉さんが口から物を出すの、初めて見るんだったな)

まさか僕に、佐伯さんの事件のときに使った剣を持たせるつもりじゃあるまいな。

(あれはキツかったなぁ……ぶったぎられた黒い触手が、床でビチビチと跳ね回りながら消えてくの……)

思い出してぞっとする。
やっぱり、あんなもの志乃に見せなくてよかった。
僕も、志乃と一緒に目を反らした。

「ん、これ」

お義姉さんが僕に何か差し出す。
嫌々視線を戻すと、お義姉さんの手には猫じゃらしがあった。

(この人の口は……どこに繋がってるんだ……)

「なんつーか、ベタっすね……」

猫じゃらしを受け取る。
特に変わったところはなく、そのへんに生えていそうなものだ。

665 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga ]:2011/12/20(火) 00:09:05.08 ID:QVy98VUmo
32

「王道と言ってほしいわね」

彼女はため息をついて、腕を組んだ。
志乃は不思議そうに、お義姉さんの口元と猫じゃらしを見比べていた。

「さ、義弟よ。準備はいいわね」

「よくないですよ。俺、眠くないですよ」

「うっさいわね。夜まで待てっていうの?」

「せめて昼まで……」

言い終わらないうちに、お義姉さんの手が僕の眼前にあった。
丸めた中指が伸びる力を、親指の腹で溜めている。
額に衝撃が走り、意識はブラックアウトした。

666 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga ]:2011/12/20(火) 00:09:51.57 ID:QVy98VUmo
33

**********

僕はまた、海辺に倒れていた。
波が膝まで濡らして、引いていく。

(またここか……)

一度の挑戦で、狙った場所に来れるなんて、運がいいのかもしれない。
目を開けると、やっぱり空は赤くて、太陽も月も、雲も星もなかった。
手にはお義姉さんに持たされた猫じゃらしがあった。

(まさかこれが守ってくれるわけないよな……)

体を起こして、あぐらをかいた。
きっと待つしかない。

相変わらず寂しいところだ。
初めてここを見たときは胎内のイメージだと思ったけど、ここには胎教だと言って語りかけてくれる母の声はない。

そして、性懲りもなく僕は、祟られていても構わないから、あの子猫が恋しいと思った。

667 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga ]:2011/12/20(火) 00:10:39.29 ID:QVy98VUmo
34

――ニャーン。

どれくらいそうしていたかわからないが、丸めた背中の後ろで猫の声がした。
背筋が伸びる。
振り向くと、例の小さな三毛猫がいた。

「おいでおいでー」

ちっちっ、と口を鳴らしながら猫じゃらしを振る。

(祟るような猫が、こんなオーソドックスな手に乗るかな……)

半信半疑で猫を挑発する。

(まさかなー)

子猫は猫じゃらしの先端を凝視している。
とりあえず、リズミカルに、時に変則的に動かしてみる。

子猫はテンションが上がってきたのか、両手で挟み込もうとしたり、たたき落とそうとしたり、くわえようとしたりしている。

668 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga ]:2011/12/20(火) 00:11:29.10 ID:QVy98VUmo
35

(オカルトのくせに可愛いな)

ひとしきり遊ぶと、猫は砂浜に背中を擦りつけるように仰向けになり、くねくねと動いた。
触っていいのか、話しかけていいのかわからず、僕は黙ってみている。

「ニャーン」

「撫でていいのか」

相変わらず、時折前足を伸ばしてくねくねしている。
そっと腹を撫でてみる。
柔らかい毛が気持ちいい。

「いい子いい子」

猫は長くなっている。

(癪だけど、お義姉さんは正しかったな)

どう話したものだろう。
「七代祟る」と言葉を発したからには、人の言葉で意志疎通を図ることはできるのかもしれない。
でも、何から聞いたらいいんだろう。

腹を撫でる手が止まる。
手のひらがあたたかい。

(僕のご先祖様は、こいつを殺してしまってるのに)

急に後ろめたくなって、申し訳なくなって、僕は奥歯を噛んだ。

669 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2011/12/20(火) 00:13:28.62 ID:QVy98VUmo
>>656-659,>>661
ありがとう。
気長に付き合ってくれると嬉しいです。

今日はここまで。
670 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/20(火) 00:17:10.89 ID:7K7hyXBSO
671 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/20(火) 00:21:31.56 ID:stYsHxZPo
672 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/20(火) 00:27:24.21 ID:emNkHkpao
まってたぞ!
673 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/20(火) 12:22:24.62 ID:HsCUgcrDO
乙!!

ぬこかわいいよぬこ
674 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga ]:2011/12/27(火) 00:18:06.36 ID:c4mWqjElo

36

「ごめんな」

猫を抱き上げる。
すっかり気を許してくれているらしく、僕の腕の中でおとなしくしている。

前足で二の腕をフミフミする動作がたまらなく可愛い。
猫は丸い目で僕を見つめ、「なーん」と甘えた声を出す。

「こんなに小さいのに。まだ生きてたかったよな」

指先で、掻くようにしておでこを撫でてやる。
動物は意外と賢い。話しかけてみれば通じるかもしれない。

「母上死んじゃった。ぼく、まだ生まれてないのに」

男とも女ともつかぬ、幼児の声だった。
猫の口が動いている。
声は頭の中に響いて、そのまま加速しながら頭蓋の内部を何度か反射する。

675 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga ]:2011/12/27(火) 00:19:57.63 ID:c4mWqjElo

37

「ぐぅ……っ!」

いきなり偏頭痛の最高潮がきたみたいだ。
油断しきっていたところに吐き気が込み上げたが、なんとかこらえた。

「七代祟るって言ってたよ。おなかのなかで聞こえたにょー」

(お腹の中――?)

「母上、死んじゃった」

(生まれてないってことは、死んだとき、こいつは胎児だったのか?)

「母上かわいそう。冷たくなりながら、ずっと心配してくれた。ぼく、さむかった」

斬られて死んだ猫は、こいつじゃなく、こいつを身ごもった母猫だったのか。

「母上、なにも言わなくなった。かわいそう」

ということは、母猫が息絶えた後、少しの間、子猫は胎内で生存していたことになる。

「ひとり……ひとりはいやだ……」

僕の口から言葉が出ていた。
僕の意思じゃない。僕の体を、僕の声を借りて喋っている


――ニィ、ニィ。

上げられることのなかった産声が、頭の中で主張する。


676 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga ]:2011/12/27(火) 00:22:22.78 ID:c4mWqjElo

38

僕は今度こそ吐いた。
さっき、志乃が買ってきてくれたツナサンドを食べたばかりなのに、吐いたのは胃液だけだった。

(ああ、このへんはちゃっかり夢の中なんだな)

こういった、大したことないポイントでも観察してないと、冷静でいられない。
子猫は、まだ僕の口でぽつぽつ話し続けている。

「母上、さいごに七代祟るって言った」

それは遺言なんかじゃない。

(おまえの母さんは、今わの際の向こうまで、死んでも主人の為に立ち向かおうとしたんだよ)

「たたるって何だろう」

(やめとけよ。七代は長いよ)

「たたったらどうなるんだろう」

(ろくなことにはならないよ、きっと)

このときには、猫の気持ちは理解できていた。
生まれたときから、生まれる前からずっと一緒だったのだ。
この体と魂を使い続けてきたのが、僕一人ではなく、いたいけな化け猫だったというだけのことだ。

677 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga ]:2011/12/27(火) 00:23:39.48 ID:c4mWqjElo

39

子猫は七代の間、母の最後の言葉を反芻してきた。
自分を慈しんでくれた母。
最後に一言、七代祟ると言い残した。

母の発した言葉なら、良いことに違いない。
命を振り絞った言葉なら、すてきなことに違いない。
子猫はそう信じて、その言葉の意味を知らず、僕の家系に憑いてきた。

恐ろしいような、気の毒なような気分になったが、それでもやっぱりこいつにある種の情が湧いていた。

見えない手が、僕の肩をつかんで揺する。

「そろそろいかなきゃ」

これは僕の思考だ。

「またくる? またあえる?」

「うん。たぶん」

子猫は名残惜しそうに口を開いた。
小さいが、歯はりりしく尖っている。
僕はそれを見て、少し嬉しくなった。

赤い空が白み始める。
夢が終わる。

**********


678 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga ]:2011/12/27(火) 00:24:48.39 ID:c4mWqjElo

40

目を開けると、向かいにはお義姉さんが脚を組んで座っていた。
志乃が僕の手を握っている。
頬がすうすうする。
ティッシュが差し出される。

(あー……泣いたのか……)

気まずい。

「春海、うなされてたよ」

「うーん、いろいろと複雑でな――ちょっと顔洗ってくる」

洗面台に行って、顔を洗って戻る。
冷水に触れると、少し気分がすっきりした。

猫には猫の事情があるのだ。
事情がややこしいのは人間様だけじゃない。

「それで、何がわかった?」

お義姉さんがあごを引き、上目遣いに僕をにらむ。

「俺に憑いてるのは、ご先祖様が殺した猫が妊娠してた赤ん坊みたいです」

三毛猫で、自分のことを「ぼく」と言っていた。

(もし男の子ならすげーレアだな)

「夢の中では、ちゃんと生まれてきて、ちょっと成長したらこうだっただろうな、って姿で出てきてました」

手が勝手に動いて、「これくらい」と猫の大きさをジェスチャーする。


679 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga ]:2011/12/27(火) 00:25:52.90 ID:c4mWqjElo

41

「それから、七代祟るって言ったのは母猫だそうで、子猫はそれを良い言葉と思いこんで過ごしてきたみたいです」

僕から話せるのはこんなもんだ。
志乃が隣で悲しそうな顔になっているので、背中を軽く叩いた。

「じゃあ、勘違いだったっていうの……」

お義姉さんが頭を抱える。

「まあ、誤解ですよね」

「誤解で片付くほど簡単じゃないわ。君は言葉の力をナメてる」

頭を抱えた腕の間から、お義姉さんの眼光が僕を射る。

「キャンセルはきかないんですか」

弱気な発言をはばからない僕。
今は、少しだけ子猫と共生してもいい気分だったのだ。

「七代の間重ねてきたものに、理論で対抗できると思う?」

「猫は可愛かったけど、祟りそのものは強力そうですね。もし実現するなら、の話ですけど」

「実現する恐れがあるから面倒なのよ。もうすぐあの世から連絡がくるわ。今日は帰れないわよ」

覚悟なさい、とお義姉さんが僕に指をつきつける。


680 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga ]:2011/12/27(火) 00:27:31.19 ID:c4mWqjElo

42

「俺、えらいことになるんですか」

「それはわからないけど……こうなった以上、ありきたりだけど、供養してあげなさい」

「どうやって――」

「その場所を今、調べてるところなのよ」

「あたしも戦う」

志乃が拳を握る。

「志乃、たぶん今回はそういうのじゃないんだよ」

「でも、なんとかしないと春海が――」

「実力行使の前に、ちゃんと弔ってやるべきだろ」

「うぅ……」

「志乃、相手は、元々は親子の猫だよ。呪ったり呪われたりするような人間よりは可愛いもんだろ」

「話が通じるとは思えないよ……」

「通じないかもしれないけど、俺の中の子猫はいい子だったよ。母ちゃんには会わせてやりたいだろ」

「うん……」

志乃はひどく逡巡しているようだった。
僕の手からくたびれた猫じゃらしを取ると、その茎をぽきぽきと折り曲げてため息をついた。


681 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga ]:2011/12/27(火) 00:29:29.44 ID:c4mWqjElo
>>670-673
乙ありがとうございます。
動物は好きですね。
猫はたまにしか見かけないので、がんばって仕草を思い出しながら欠いてます。

今日はここまで。
682 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/27(火) 01:14:41.44 ID:vKeGtAZSO
683 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/27(火) 16:55:17.59 ID:hwm7nUeJ0
猫飼ってるおれにはたまらない

二の腕ふみふみの良さを知ってるとは

この>>1なかなかやりおるわ
684 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/28(水) 09:23:00.02 ID:ty72MpbDO
この猫が救われることを切に願う
685 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/28(水) 12:26:55.86 ID:QsCjEIFAO
686 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2012/01/02(月) 02:01:41.38 ID:Dc169EElo
こにゃーんはやっぱりかわいいな
687 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2012/01/02(月) 22:23:23.08 ID:Y61Bz3Jho
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
みなさんにとって良い年になりまさように。

まさかこのスレが年をまたぐとは思いませんでした。
早く忙しくなくなりたーい。がんばろー。

更新は明日になります。
今日は寝込んでいたので、すみません。
688 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/01/03(火) 23:11:13.22 ID:BE+L0ksLo

43

また、携帯が震えた。
お義姉さんは着信を待っていたようで、1コール目で出た。

「――はい。ああ、どうも……」

彼女は相槌をうちながらデスクに向かい、手近な紙にメモを取る。

「わかりました。本人を向かわせます。――早急に」

(本人って、僕のことだよなぁ……)

「ありがとう。失礼します」

人間のようなやりとりを終え、彼女は僕に向き直る。

「場所がわかった。行けるわね。今すぐ」

僕に拒否権はない。
心の準備はできつつあるけど、覚悟は決まっていないようだ。
「はい」とは口に出して言えず、首を縦に振った。

689 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/01/03(火) 23:12:11.78 ID:BE+L0ksLo

44

―――――土曜日・昼・車内―――――

僕は一旦帰宅して、一泊分の荷物を準備した。
家族には泊まりになると告げた。
お義姉さんには、山に入るのだから上着を持ってこいと言われた。
まだ九月でピンとこなかったけど、従った。

それで僕は今、後部座席で志乃と揺られている。

「義弟のお母様のルーツは、そう遠くなかったわ」

鞄を探り、畳んだ地図を僕に渡す。
見ろ、ということらしい。
隣県との県境にある山に、印があった。

「山じゃないですか。もっとこう、城下町みたいなんじゃないんですか」

なるべくなら、人里から離れたくない。
生活から遠のくほど、不条理で超自然的で、僕の理解を離れた場所に入ってしまう気がした。


690 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/01/03(火) 23:13:06.74 ID:BE+L0ksLo

45

「それに、リアルな話、熊とかイノシシとか出たらどうするんですか」

「盾があるし、私を呼べばいいじゃない」

「そんなぁ……」

盾は不完全だし、なぜあのとき成功したのかわからない。

「私も行く!」

「妹はだめよ」

志乃はルームミラー越しにお義姉さんをにらんだ。

「不満そうね」

「当たり前じゃん。おねーさんは春海が心配じゃないの」

「これは義弟の血の問題よ。部外者が手を出さないほうがいいこともあるの」

志乃はうつむき、歯噛みした。

「部外者じゃないもん」

微かだけど、そう聞こえた。


691 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/01/03(火) 23:14:01.03 ID:BE+L0ksLo

46

―――――土曜日・日の入前―――――

道中休憩を挟みながら、お通夜ムードな車内で約3時間を過ごし、とある温泉宿に到着した。

「まさかまったり裸のつきあいで猫と和解できるなんてことはありませんよね」

「ないわね」

「よく当日で予約取れましたね」

「なぜか急にキャンセルが出たらしいのよねぇ。なぜか」

(あの世から何かの力が働いたに違いない……)

あまり追求しないでおこう。

部屋に案内され、くつろぎたいところだけどそんな気分じゃない。

「さ、入ってらっしゃい」

「あの、こんなときに風呂なんて――」

「身を清めておきなさいって言ってるのよ。猫ちゃんのお母様に会いに行くんでしょ。
 山の神の機嫌を損ねたらどうするの」

迷信を信じるおばちゃんみたいな言葉だけど、お義姉さんがそう言うからには、山の神もいるんだろう。
僕は言われるままに浴場に向かった。


692 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/01/03(火) 23:14:50.37 ID:BE+L0ksLo

47

体を洗って、熱い湯に体を沈めた。
縁のぬめった石に頭をのせる。

(どこからどこまでがオカルトなんだか……)

僕には呪いが見える。
でも、山の神は見えない。
僕には猫の言葉がわかる。
それはたぶん、先祖代々脈々と継がれてきた猫の祟りによるものだろう。

湯けむりの向こうには、山がある。
僕が行かねばならない山がある。

(こいつの母ちゃんに会えたところで、俺、どうしたらいいのかな)

僕は、僕の中の子猫に対して何の恨みもない。
怖いとは思うけど、それはこれから起こるかもしれない祟りに対してであって、子猫は悪くない。

(できれば、親子一緒に成仏するのが一番いいんだろうけどな)

お義姉さんは、猫耳と猫しっぽの生えた僕の魂を見てショックを受けていた。

(ってことは、簡単には分離できないんだろうなぁ)

七代という時間を考えて、僕はめまいがした。
のぼせてしまったのかもしれない。
693 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2012/01/03(火) 23:17:46.87 ID:BE+L0ksLo
>>682-686
ありがとうございます。
フミフミはいいものです。

来週は山に入ります。
今日はここまで。
694 :以下、あけまして [sage]:2012/01/04(水) 23:15:33.77 ID:X7bNfYTbo
695 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2012/01/09(月) 00:41:53.17 ID:NXiWbgYAO
おつゅ
696 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/01/10(火) 00:38:17.56 ID:JVYMT+F4o

48

体を拭いて、部屋に戻った。
二人が神妙な顔で正座している。
もっとくつろいでくれていいのに。

「ああ、戻ったわね。座って」

言われるままに、志乃の隣に腰を下ろす。
卓の上には二人分の茶が出ていたが、手がつけられていないようだった。

淹れてみたところで、飲んで一息つく気にはなれなかったのだろう。
まだ十分髪を拭けてなかったようで、雫が首を伝ってひやりとした。

「もう少しで日が落ちる。昔の人が、この世があの世の支配下にあると考えた時間よ」

「まあ、真っ暗だとそう考えたくなる気持ちもわからなくはないですけど……今、そんなに暗いですかね」

「今の君、相当夜目が利いてるはずよ。
 すぐに夜になる。イヤでも認めるしかなくなるわ」

子猫の影響か。

697 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/01/10(火) 00:39:06.25 ID:JVYMT+F4o

49

「それで、春海はどうするの?」

汚れてもよさそうな服に、玄関にはしっかりしたスニーカー。
志乃はほんとうについてくる気だったらしい。

「日の入りと同時に山に入って、母猫に会うのよ。
 義弟の中の猫ちゃんが連れてってくれるはずよ」

「一人でも出来るの?」

「たとえば――妹、墓参りは一人でできる?」

「できるよ。墓地には一人で行きたくないけど……」

「そういうことよ。一番大事なのは想ってあげること」

「そうだよね。やっつけに行くんじゃないもんね」

志乃が湯呑みに視線を落とした。
少しは安心できただろうか。


698 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/01/10(火) 00:40:24.88 ID:JVYMT+F4o

50

「私は外で待ってるから、着替えたら出てきて」

そう言うとお義姉さんは立って、部屋を出ていった。

「着替えたらって、手ぶらでいいのかな」

「さー?」

志乃がテーブルに突っ伏す。

「心配すんなよ。こいつの母ちゃんにバッチリ謝罪キメてくる」

「そのノリが出てくるあたり心配だ」

信用できない、といった視線をよこしてくれる。

「お前は祈っててくれたらいいからさ。お義姉さんと一緒に温泉でも浸かりながら」

「そんな気になれないよ」

「でも、今回動けるのは俺だけだよ。そりゃ、理不尽だとは思ってるよ。俺は悪くないからな」

「うん。春海悪くない」

「でも、知っちゃったからな。なんとかしてやりたいだろ。それが俺の為でもあるし」

「…………」

志乃も馬鹿じゃない。
理解はできてるけど、納得いかないだけだ。
今回は憎むべき敵も反吐が出そうな考え方の関係者もいない。
ただ、気の毒な猫の親子がいるだけだ。

699 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/01/10(火) 00:41:23.12 ID:JVYMT+F4o

51

重い腰を上げて山歩き用に詰め込んできた服に着替える。
父から黙って借りたリュックサックには、気休め程度にチョコレートと懐中電灯、ホイッスルなんかが入っている。

「志乃、そろそろ行くよ」

彼女はうつむいて返事をしない。
割り切れと言うほうが無理だろう。
逆の立場だったら、僕だってギリギリまでついていこうと粘っただろう。
靴を履いて、戸に手をかけたときだった。

「まって」

彼女は大きな歩幅で一気に距離を詰めて、ぴったりと僕に体をつけた。
僕はドアと志乃に挟まれている。身動きできない。

戸惑っていると、志乃が強く唇を合わせてきた。
妙に積極的で、珍しく自分から舌を突っ込んで僕のに絡ませてくる。
僕の手が彼女の体をまさぐろうとしたところで、唇が離れた。

今のは、彼女なりにがんばったんだろう。
志乃は僕の肩に頭をつけて、もじもじしていた。


700 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/01/10(火) 00:42:42.35 ID:JVYMT+F4o

52

(何を言ったものかねぇ……)

かっこよくキメたものか、コミカルに余裕をアピールするか。

「――お」

「ん?」

「大人のキスよ。か……帰ってきたら、つっ、続きをしましょう……」

照れ隠しに引用に走るあたり、平常運転か。
待つだけなのはつらいけど、がんばれ志乃。
がんばれ僕。

「それ、お前が死ぬフラグだぞ」

「まじすか」

「あの後、絶対ミサトさん死んでるだろ」

「あちゃー」

彼女は壁にもたれて情けない声を出す。
使いどころを間違えたことがショックなのか。

「ま、行くしかないんだな。俺は」

「うん……」

今度こそ靴を履いて、戸をあける。

「春海!」

「なに」

「あのっ、帰ってきたらあんなことやこんなことしちゃうぞ! だから無事に帰ってこい!」

「はいはい。何してもらうか考えとくよ」

「それじゃ、いってらっしゃい」

「うん。いってくる」

僕は部屋を後にした。


701 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/01/10(火) 00:43:43.41 ID:JVYMT+F4o

53

玄関の前に、お義姉さんが車を回してきていた。
彼女が車に乗るよう促したので、僕はそうした。

「遅かったわね。これからのこと考えたら仕方ないけど」

「やっぱり怖いですけど、このままじゃ俺、もっと悪いことになるんですよね……。
 それなら、今なんとかしようって決心つきました。怖いけど」

「ヘタレなんだか勇敢なんだか……」

お義姉さんはつぶやくと、そのまま数分車を走らせた。
車は山道に少し入ったところで止まった。

「その荷物は置いていきなさい」

車を降りようとした僕を、お義姉さんがリュックをつかんで制止した。

「遭難とか熊とかどうするんですか」

「あの世の入り口に、そんなんあると思う?」

「それは知りませんけど」

「今回は特殊なの。山歩きとは違うのよ」

「あまりごちゃごちゃ持ち込まないほうが、早く会えるってことですか」

「早いかどうかはわからないけど、いらないものが多いといつまでも会わせてもらえないわね」

僕は荷物を背中からおろして、助手席に置いた。


702 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/01/10(火) 00:44:28.47 ID:JVYMT+F4o

54

「私はついていくことはできないけど、危なくなったらいつでも呼びなさい」

「それじゃ――」

「確かに私が介入した時点で失敗。別の手段を講じることになる。それでも、一番大事なのは今の君よ。
 未来の君は大切。七代の時間を過ごしてきた猫の救済も大切。
 でも、それも今の君が無事でなきゃ叶わないわ」

「わかりました」

「山に入ったら道なりにまっすぐ行きなさい。暗いけど、自分の目を信じて。
 君は一人だけど、ひとりじゃない」

「子猫といっしょ、ですか」

「離れてるけど、私たちもついてる」

「そうですね」

お義姉さんは、まだ何か言いたそうにしている。
日が沈もうとしている。

「それじゃ、無事で」

「ええ、いってきます」

703 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/01/10(火) 00:44:58.03 ID:JVYMT+F4o

55

僕は手ぶらで歩き始める。
夜の防寒対策はしているものの、これで遭難して、救助されたらバッシングされそうだ。

夜になったと判別できるが、道は見える。
左右には林が広がっている。
もうすこし道をそれたら沢があるんだろう。

(確かに、僕の目は今までとは違うんだな)

人間離れしていく自分に寒気を覚えながら、僕は視線を落として、自分の歩く道以外のものをみないように足を運び続けた。
704 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/01/10(火) 00:46:18.09 ID:JVYMT+F4o
>>694-695
乙ありがとうです。
山を甘く見てはいけません。

今日はここまで。
705 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/10(火) 00:54:03.32 ID:2c93cP0Jo
おつおつ
706 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/10(火) 01:21:24.04 ID:mf+rfzJSO
707 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2012/01/10(火) 08:49:36.85 ID:8j0WjOwAO
おつ。
708 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/10(火) 18:41:20.91 ID:99los2/Co

夜の山は本当に怖いんだよなぁ…
一度裏山で迷って死ぬかと思った
709 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2012/01/11(水) 02:23:18.85 ID:Y/2XnjkGo
夜の山は暗すぎる
710 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) [sage]:2012/01/15(日) 00:54:57.76 ID:PTrykW6p0
夜の山はなにもいなくてもがさがさっておとするよな
あれって曲がった状態の枝が元に戻るときの反動で草を鳴らしてるだけだからな
でもなんか変な目線感じるよな
711 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2012/01/16(月) 22:36:29.35 ID:TS3XnXpQo
訳あって今週の更新は明日にします。
712 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/16(月) 22:40:46.83 ID:K/omvsDFo
まってるぞ!
こにゃーん楽しみだ
713 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/17(火) 00:00:17.80 ID:WfeyZZ0IO
明日になりましたな
714 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(西日本) [sage]:2012/01/17(火) 00:08:50.49 ID:4U8FntRxo
今日の夜ってことじゃねーの?
715 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/18(水) 01:19:23.72 ID:45pRVW/IO
明後日になっちゃった…
716 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/18(水) 03:37:27.50 ID:ZthQvw6SO
気長に待つお
( ・`ー・´)+キリッ
717 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/01/18(水) 04:59:48.67 ID:ldshKT/po

56

最初のカーブを曲がると、急に心細くなった。
入り口に止まったお義姉さんの車も、申し訳程度についていた街灯も見えない。
道は舗装されているが、生活のにおいはしなくなった。

(もうどこを見ても暗いばっかりだな)

背筋が寒くなる。
だけど、急いだところでこの先に帰る家はないし、母猫に会えるとも限らない。

(ここは体力を温存したほうがいいよな……)

下手に走らないほうがいいだろう。
時計もライトもない。
時間的にも距離的にも、どれくらい歩いたかわからない。
僕は少しでも気休めになるものが欲しくて、指で宙に円を描く練習をしながら歩いた。


718 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/01/18(水) 05:00:55.24 ID:Skn/Sm+ro

57

足の裏が痛み始めたが、僕は歩き続ける。
足元にうっすら影のみえるところがあった。

月が出ていた。
近く、明るく見えた。
月の周りの星が少しかすんでいる。
それでも、星座がよくわかりそうな空だった。

(月でも影はできるんだな)

ナオミの部屋のあるオフィス街や通学路じゃ、こんな星空は見えない。
ちょっとした感動を覚えつつ、ここに志乃がいないことが寂しいと思った。

また、木で月が見えなくなる。
闇に慣れた視界が、月光で少しリセットされたらしい。
僕にまとわりつく湿気を含んだ闇が、いっそう重く不気味に思えた。


719 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/01/18(水) 05:02:28.18 ID:Ir14cV89o

58
僕はさらに歩き続ける。
額に汗が浮いて、Tシャツが体に張り付いていた。

足の裏が痛くて、途中で何度か道に座り込み、靴を脱いでマッサージした。
何かにひきずり込まれそうな気がして、道ばたに座る気にはなれなかった。

近くを流れる川の音と、種類のわからない鳥の声がする。
ふと目を上げると、川の上流に来ているらしく岩の影が見えた。
それがちょうど、しゃがみこんだ人間の大きさに見えて、鳥肌が立った。

何年か前、田舎の山で薬物を使用してラリった不審者が捕まった記事を思い出してしまった。
地方欄に小さく載った事件で、場所も関係ない。

だけど、関係ないとわかっていながら一度思い出してしまうともうだめで、
某国の拉致犯とか潜伏する殺人犯とか死体を埋めに来た奴とか、そんなものが頭をちらつきはじめた。

僕の後ろで、がさ、と音がした。


720 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/01/18(水) 05:02:38.17 ID:Zy0P2sHko

58
僕はさらに歩き続ける。
額に汗が浮いて、Tシャツが体に張り付いていた。

足の裏が痛くて、途中で何度か道に座り込み、靴を脱いでマッサージした。
何かにひきずり込まれそうな気がして、道ばたに座る気にはなれなかった。

近くを流れる川の音と、種類のわからない鳥の声がする。
ふと目を上げると、川の上流に来ているらしく岩の影が見えた。
それがちょうど、しゃがみこんだ人間の大きさに見えて、鳥肌が立った。

何年か前、田舎の山で薬物を使用してラリった不審者が捕まった記事を思い出してしまった。
地方欄に小さく載った事件で、場所も関係ない。

だけど、関係ないとわかっていながら一度思い出してしまうともうだめで、
某国の拉致犯とか潜伏する殺人犯とか死体を埋めに来た奴とか、そんなものが頭をちらつきはじめた。

僕の後ろで、がさ、と音がした。


721 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/01/18(水) 05:03:45.08 ID:grQfwZsuo

59

「うわあああああああっ!」

出したことのない声をあげて、飛び上がって走った。

(何なんだよ! 何なんだよ!)

勾配の具合が違ったらしく、僕は何もないのに転んだ。

息が乱れる。
吸うのも吐くのも苦しくて、肺がつぶれそうだ。
体温は上がっているが、気温は下がっているのだろう。
気温差のせいか耳の下が痛かった。

目から流れるものを拭う。
疲労による汗か、恐怖による涙かわからなかった。

「痛っ……」

よろけて、何かを踏んだ。
ただの石だ。
僕は靴下のまま、走ったらしかった。
722 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2012/01/18(水) 05:07:40.84 ID:V2idm1dZo
>>705-710
>>712-716
ありがとうございます。
山を甘く見てはいけません。

ちょっと仮眠→寝過ごしのお約束をやってしまいました。
待っててくれた人、ごめんなさい。

今日はここまで。
723 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/18(水) 07:09:48.17 ID:dkL1ywWSO
724 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2012/01/20(金) 20:22:37.70 ID:SYcY9hAAO
ぉっ
725 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2012/01/21(土) 08:01:34.67 ID:ubZdiyWAO
おつ
次も楽しみにしてる
726 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/01/23(月) 23:52:50.50 ID:Qd1bhCzI0

60

振り返っても、水気をたっぷり含んだ夜気と闇で、靴はどこにも見当たらなかった。
いくら今の僕が夜目が利くといっても、遠くまでは認識できない。
あそこから何秒全力疾走したか、自分でもわからなかった。

引き返すか、進むか。
どちらも恐ろしく、どちらも嫌だった。

舗装されているとはいえ、粗いアスファルトを踏む足の裏はごつごつと痛い。
足裏で地面の凹凸を感じるだけで、ふくらはぎ、すね、膝まで疲労が襲ってくる。

僕は大きくくしゃみをした。
寒いと思った。
昼はまだ暑いが、夜になればしっかり秋だ。
夜の、秋の山。
動いていなければ寒さで余計に気力がなくなりそうだ。

727 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/01/23(月) 23:54:07.28 ID:Qd1bhCzI0

61

僕は膝に手をついて、何度か大きく呼吸をした。

(いい加減肚をくくれってことか)

ここで、僕は気づく。
今になって「肚をくくる」とか「覚悟を決める」とかそんな言葉が頭をよぎるのは、今の今までそう出来ていなかったってことだ。
子猫の為と割り切ったつもりが、全然割り切れていなかった。
志乃には、子猫がかわいそうだと、母親に会わせてやりたいと言っておきながら、何もせずに済むなら何もしないでいたかったと思い始めている。
七代の間、僕の血筋にくっついてきて何もなかったなら、今後も大丈夫なんじゃないかと思う。

今更、そう思う。
そう思いたい。
そう思いたいだけ。
希望でも楽観でもなくて、僕は逃げを打ちたがっている。
728 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/01/23(月) 23:54:59.75 ID:Qd1bhCzI0

62

(そういえば、今何キロ歩いた? 何分、いや、何時間歩いた?)

お義姉さんは、いざとなったら自分を呼べと、引き返せと言っていた。
今回失敗したら、別の策を講じると。

(でも、これを一からやり直せるのか……?)

山道の入り口で、車から降りたときの気分を思い出す。
あの放り出されるような感覚に、もう一度耐えられるだろうか。
こんな疲労や恐怖、痛みや寒さが待っていると知って、またあのスタート地点に立てるだろうか。

(無理無理! ぜったい無理!)

僕は至極後ろ向きな理由で、前進することに決めた。
後退したい気持ちに後ろ向きな理由を掛けると、結局は進まざるをえないのだ。

「おお、マイナス同士の掛け算ってこういうことか」

遅ればせながら冷静ぶって、誰もいない空間に向かって軽口を叩いた。
729 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/01/23(月) 23:55:40.97 ID:Qd1bhCzI0

63

靴を失ってから、僕は更に歩いた。
進んではいるが、ペースは落ちていた。

(ゴムの靴底ってエライな……)

いつもと同じように地面を蹴っていると、今までの疲労も相まってすぐに親指の付け根が痛くなった。
衝撃を吸収するクッションがないせいか、足首までが痛む。
やがて脚全体の疲労は漠然とした痛みに変わった。
冷や汗をかき、気分まで悪くなっていた。

(そろそろ休んだ方がいいかな……)

でも、このとっぷりとした闇の中でうずくまって止まるなんて気が進まない。
動いている方がこわいものから逃げられているような気がしていた。
730 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/01/23(月) 23:56:29.62 ID:Qd1bhCzI0

64

ふと、足場がなくなった。

「あ」

と、声に出ていたかどうかわからない。
のどが鳴っただけだったかもしれない。

次の瞬間、がさがさパキパキと枝の折れる音や葉の潰れる音にまみれながら体が転がっていた。
この下は沢だろう。
だけど、どれくらい下にあるかわからない。

(高低差はどれくらいだ)

転げ落ちながら閃き、僕は夢中で叫びながら何か掴もうと手を振り回していた。
結局何かにつかまることはできず、傾斜の最後まで落ちたらしい。

全身が痛い。
痛いなら生きてるだろう。
指は動く。
脚も曲がる。
まぶたは開く。
拳を作ってみると、ちゃんと力が入った。

(あ、やっぱり生きてる……)

頬の内側を歯で切ったらしく、口内が血の味で満ちていた。
731 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/01/23(月) 23:57:12.33 ID:Qd1bhCzI0

65

立とうと踏ん張ると、足元がひやりとした。
浅い水の中に足首まで浸かっている。

(川だ……)

お義姉さんの車の中から見えた民家には、井戸のある家がいくつかあった。

(じゃあ、ここの水は飲めるか)

おなか下るかもよー、と、頭の中の志乃が言う。
いっそ下れ、と、水を掬って口を付けた。

冷たい。
口の中の傷にしみる。そのままゆすいで吐き捨てた。
さっぱりした。
喉をうるおして、顔を洗った。
少し元気が出た。

元のルートに戻れる算段はあるか。
傾斜に手をついて見上げてみる。
僕の視界では、もとの道は見えなかった。
732 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/01/23(月) 23:57:54.24 ID:Qd1bhCzI0

66

(この高さなら、無理して登らないほうがいいか……)

この川に沿って上流を目指そうとしたが、川べりだけあって足場が悪い。
石は大きいし、靴もない。
冷えはそのまま体力を奪っていく。
時計も地図も灯りもない。

眠いと思った。
空腹は気分が悪くて、あまり気にならない。
ただ眠い。

僕は多少見通しの良いところにある、ひときわ大きな岩に辿りつくと、その上で横になった。
目を閉じると、岩肌がいやなものを吸いとっていくようで楽な気がした。

(ねるなー、ねたらしぬぞー)

(でも、きもちいいな、ここ)

(いま、ねてるのかな、おきてるのかな)

(どーでもいいや……いまは……めをつぶって、すこしやすもう)
733 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/01/23(月) 23:58:41.33 ID:Qd1bhCzI0

67

――――――――――

何かが顔をはたいている。
痛くない。が、勢いは感じる。
目が開かない。顔にヒットした瞬間に捕まえる。

(毛が生えてる……)

小さな獣の手だった。

(おお、肉球……)

このサイズは知っている。
とりあえず小熊に嬲られているわけじゃなさそうだ。
安堵とともに目を開けた。

「ニャーン」

小さな三毛猫が、僕の顔の横に行儀よく座り、顔を傾けながら僕の顔をはたいていた。
こいつに会うときは、いつだって夢の中で、赤い空と何もない海辺なのだ。

(夢を見てるってことは、とりあえず死んじゃいないな)

「あれ……」
734 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/01/23(月) 23:59:26.51 ID:Qd1bhCzI0

68

空が赤くなかった。
さっきまで僕をさんざん恐怖に追い立ててきた、黒い空だ。
満天の星空だったが、今は曇っている。

「現実か」

「げんじつニャーン」

思いきり大きく開かれた小さな口には、小さな牙が生えそろっている。
ああ、あいつだ。と思った。

「ここどこー。おそらあかくないにょー」

「山だよ」

「やま?」

「お前が生まれてくるはずだったところだよ」

「さむいニャーン」

「俺だって寒いよ」

「ここどこー」

「お前の母ちゃんに会いに来たんだよ」

「母上?」

闇の中で広がっていた猫の瞳孔が、さらに大きくなる。
735 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/01/24(火) 00:00:13.57 ID:jaInzl6i0

69

「お前の母ちゃんを、俺のじいちゃんのじいちゃんの……ずっと昔のじいちゃんがな、間違って殺しちまったんだよ。
 だから謝りに来たんだ。お前も返してやりたいし、俺も助かりたい」

「母上おこってる?」

「俺のことは怒ってるだろうけど……お前のことはずっと心配してるよ」

子猫は愛されていたに違いない。
だから、七代も良い子にしていられたのだろう。

「にいちゃん、なんでねてるにょー」

「俺、ボロボロだろ。疲れたんだよ。休ませてくれ」

「へたれー」

子猫のうしろで、ゆっくりとしっぽがしなるように揺れている。

「こんじょうなしー」

「どこで覚えたんだよ、そんな言葉」

「おそとでねえちゃんがいってたニャーン」

(志乃か……)

「それはわるいことばだから忘れなさい」

「ねえちゃん、にいちゃんのことすき。わるいことばじゃないにょ」

「それとこれとは別なの」

「べつニャーン」

「そう、別」

736 :1です。 ◆zRT/mQbnn6 [saga sage]:2012/01/24(火) 00:02:13.95 ID:H4KE2L5Ko
>>723-725
ありがとうございます。
初めてネットに繋がったPCから更新しました。
文明開化です。

今日はここまで。
737 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/24(火) 00:12:35.48 ID:tDhQ3G5Co
文明開化がなぜかつぼったwwww
738 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/24(火) 11:30:48.85 ID:57fsYaYIO
猫がかわいくて救われるな
739 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/24(火) 12:04:29.16 ID:TYWY56XSO
乙にゃーん
740 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2012/01/27(金) 06:20:11.47 ID:gIoAt5Ixo
ニャーン
741 :1です。 ◆zRT/mQbnn6 [saga sage]:2012/01/30(月) 22:51:20.71 ID:DogR2Vufo
今週はキリのいいとこまで書けてないので次回まとめて更新します。
風邪引いて力尽きました……。
だめぽー。
みなさんも気をつけてください。
742 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) [sage]:2012/01/30(月) 22:55:39.78 ID:XxmB+FETo
(´・ω・`)お大事に
つθと
743 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/01/31(火) 01:22:07.70 ID:gSXG5khgo
>>742
そのバイブをどうする気だ!?
744 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/11(土) 20:06:38.41 ID:Sl7ZDTrSO
(゚д゚≡ ゚Д゚)今このスレには俺様しかいない
更新はまだか…
745 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/11(土) 20:18:23.16 ID:HwGdH3tSO
⊂二二二( ^ω^)二⊃ ブーン
と華麗に俺参上

まだかね
746 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/02/12(日) 23:40:11.27 ID:adFOyhlS0
70

「にいちゃん行こー」

「疲れたんだよ。休ませてくれ」

「いやにょー。母上に会うっていったのにー。のにー」

そういえば、言葉がわかる、話が通じるとはいえこいつは赤ん坊だったか。

(それも生まれる前の……)

(幼児のしつこさは半端ないからな――)


「お前の母ちゃんってどんなんだろうな」

「おなかが大きいにょー。ぽんぽーん」

「そりゃ妊婦だからな」

柄とか大きさとかいった特徴がわかればいいと思ったが、こいつは母親と面する前に命が絶たれていた。
言葉の端々から、胎児だったこいつに突きつけられた現実のひどさが見えてくる。
こんなに可愛いのだ。
ちゃんと生まれてきていたら、母親からだけじゃなく、もっと多くの愛情を向けられたに違いない。

(その未来を断ったのが、僕の血か)

「よし、行こうか」

「行くにょー」

やることも、気持ちも決まっている。
水分で重くなった足を持ち上げ、僕は岩の上に立った。

747 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/02/12(日) 23:40:56.46 ID:adFOyhlS0

71

岩の下は足場が悪い。
みっともないけど、そろそろと降りた。

(志乃、どうしてるかな)

僕だって、憎まれてるだけじゃない。
家族がいる。お義姉さんだっている。
母猫の怒りはもっともだが、僕は帰らなければならない。
子猫の歩きかたがどうにも危なっかしいので、抱いて移動することにした。
転がり落ちた斜面を登るには視界が悪い。
このまま川を遡上していくことにした。

「にいちゃん、ぼく歩けるのにー。のにー」

「いいんだよ。一緒に母ちゃんのとこ行くんだろ」

「行くにょー」

「じゃあ、いい子にしててくれよ」

「ぼくっていい子ちゃーん」

「そうそう。お前はいい子だよ」

もう心細くなかった。
やわらかな毛の生えた額を撫でると、目を細めてあごを上げた。
絶対に、無事に届けてやるんだと思った。

748 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/02/12(日) 23:41:31.90 ID:adFOyhlS0

72

僕は子猫を抱えて、しばらく歩いた。
距離も時間も、既に感覚は狂っていた。
足が痛まないように、体が軋まないように歩くのが精一杯だった。
ときどき子猫に声をかける。
猫は腕の中でもぞもぞしたり、返事をしたり、たまに眠ったりしていた。

少し、開けたところに出たらしい。
月光だ。
目を上げると、自分の身長より少し高いところに橋がかかっていた。

(よかった、遭難は免れたな)

「ほら、先に上がってな」

子猫を橋の上に上げる。
僕も飛びあがって、橋にぶらさがる。
枝や太いつるなんかに足をかけて、よじ登った。
足を橋に乗せて、体を反転させて全身を橋に乗せた。

「うわっ!」

狭く、古い橋だった。
人が歩けるだけの幅があるだけだ。
もっと勢いをつけていたら、もう一回転してまた川に落ちていたかもしれない。

749 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/02/12(日) 23:42:10.03 ID:adFOyhlS0

73

止まりそうになった息を整え、体を起こす。

「あれっ」

子猫がいなかった。
さっと視線を走らせ、月影に消えそうな小さな影を認めた。
走って追いつき、脇に手を差し入れて抱き上げた。

「こら、勝手に行っちゃだめだろ」

子猫は僕の手からぶら下がって長くなっている。

「母上、もうすぐにょー」

早く行かせろとばかりに、不満そうな表情が浮かんでいる。
しっぽが僕の体にぺしぺしと当たる。

「こっちでいいんだな」

「よんでるー」

伸びきったボディーの下にある尻を支えて、僕は再び子猫を懐に戻した。

(こんな丸々コロコロの体型でも、猫は猫だな……)

750 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/02/12(日) 23:42:37.68 ID:adFOyhlS0

74

頂上が近いのだろう。
さっきより光の届くところを多く通っている気がする。

「お前の母ちゃんってどんなんだろうなー」

「きっとかっこいいにょー」

僕はもう、前を見て歩いていなかった。
落ちているものを踏む方が怖かった。

「どれくらい?」

「あれくらいにょー」

子猫は前方に体を乗り出した。
つられて前を見る。

白く光る、着物を着た女が立っていた。

751 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/02/12(日) 23:43:22.75 ID:adFOyhlS0

75

足が止まった。
まさか人間の形で出てくるとは思わなかった。

「なんだよ……これじゃ……」

(これじゃまるで)

「幽霊みたいじゃないか、とでも言うのか」

金色に輝く瞳が僕をとらえる。
初めて聞くのに、その女の声だとわかった。

「お前は……ふん。あのときの。今更何しに来た」

僕は硬直していた。

「あ……」

考えるより、声が先に出ていた。

「あなたに、こいつを会わせに来ました」

「死ぬのが恐ろしゅうて命乞いに来たか」

女の鼻に皺が寄る。
上唇がめくれ、とがった糸切り歯が露出している。

(歯はお義姉さんと似てるな)

僕を蔑んでいるのがわかったが、無理やり身近な人を連想することで、なんとか取り乱さずにいられた。

「あの、そのことなんですけど」

「なんじゃ。祟られておるのだぞ。潔く死ねい」

「いや、その祟りのことなんですけど」

女の肩がぴくりと動く。

「助けてほしいのもあるんですけど、その前にお礼を言わないと」
752 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/02/12(日) 23:44:09.34 ID:adFOyhlS0

76

「礼? ふざけたことを」

「俺、多分昨日あなたの子に命助けられたんで」

「にゃんだと」

女の頭部から、猫の耳が飛び出た。
動揺のせいか、人の形を保つのに隙ができたのだろう。

「俺、訳あって『呪い殺し』の手伝いをやってるんです」

「それで、昨日、ある呪いに襲われました」

「好きな女が、巻き添えになりかけたんです」

「危ない仕事だから、世話をしてくれてる人に盾のようなものの出し方は教わってました」

「だけど、短期間で会得できるものとは思ってません」

「それでも、あの瞬間、完璧な盾があいつを守ったんです」

「俺だけの力じゃ、とてもできなかった」

「こいつが俺に、力を貸してくれたんです」

子猫を女に向ける。

「はっ! 誰がお前を守るものか」

「こいつを通して、あなたが守ってくれたんです。ありがとう」

女の手が、獣のそれに戻っている。

753 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/02/12(日) 23:44:45.59 ID:adFOyhlS0

77

「俺の魂は、こいつのと同化してて離すことができないそうです」

「ふざけたことをぬかすな」

気圧されそうになるが、ここで引いちゃだめだ。

「こいつはいい子です。皮肉だけど、あなたの言葉を全ていいものだと信じ込んでしまった」

子猫を地面に下ろしてやる。

「にいちゃん、母上怒ってるにょ」

「お前には怒ってないから大丈夫だよ。いっておいで」

子猫は振り向きながら、母の元へ歩を進める。
女は爪を納めて子猫を抱き上げた。

「ああ……私の赤ちゃん……」

子猫の額に頬を擦りつけ、女は目を閉じた。

「あなたの『七代祟ル』という言葉を、こいつは良い言葉だと信じてしまった」

子猫は女の胸を前足で押している。

「あなたが悪い言葉を使うはずがないと、自分が聞く言葉は良いものだと信頼していたんです」

女は着物の胸元をはだけ、子猫の口元に近付けてやった。
子猫はすごい勢いで吸いついている。

「だから、あのときこいつが守ってくれた」

女は、子猫を満足そうに見ていた。
僕なんか、始めからいなかったようだ。
なんだか切なくなった。
754 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/02/12(日) 23:45:26.35 ID:adFOyhlS0

78

「母上、にいちゃんのこときらい?」

「あ……ああ……」

「ぼく、にいちゃんすき。あそんでくれる」

女は子猫を抱えて、うずくまってしまった。

「俺、生きていたいです。周りの人も、不幸にしたくない。

 ほんとはこいつの魂もあなたのところに返してやりたいけど……それはできない」

「私の、私の赤ちゃん――」

「俺、こいつと一緒に生きます。幸せにもなる。
 ちゃんと死ぬまで生きて、あなたのところに送り届ける」

女は泣き出してしまった。
猫が化けているとわかっていても、泣かれるとなんだか気まずい。

「先に逝って、待っててください」

「待たずとも……お前を殺せば、今片付く話じゃ」

濡れた瞳が、僕をにらみつける。
縦長の瞳孔が開ききっている。

「いいや、あなたは俺を殺さない。あなたがわが子を手に掛けるわけがない」

「この子はどうなる」

「俺の中に戻るでしょう。ほんとは今日、返してやりたかった。
 あなたたち親子が離れ離れになったのは、ご先祖様の――俺の血の責任だ。
 本当に、ごめんなさい」

僕は、深く長く頭を下げた。

755 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/02/12(日) 23:46:07.34 ID:adFOyhlS0

79

「もう、よい」

下げた頭の視界に、女の履き物の鼻緒が入る。
顔を上げて、体を伸ばした。
女は泣きはらしているが、その顔に恨みがましさはなかった。

「いいんですか」

「気の変わらぬうちに行け」

女の背後から、光の道が空に向かって伸びていく。

「母上、いっちゃいやにょー」

女は振り切るように、子猫を僕の胸に押しつけた。

「元気でね」

子猫は僕の腕の中でもがく。
二度目のお別れだとわかっているのだ。

「あんなことを言ったばかりに、お前を長い間現世に縛りつけてしまった。母さんをゆるして」

「母上! 母上! いかないで!」

子猫が泣き叫ぶが、僕はそれを離してはいけないと、本能で悟っている。
僕も耐えきれず、叫んでいた。

「だめなんだよ! お前はまだ、あっちにいけないんだよ! わかってくれよ!」

「大丈夫。今度は、お前もこっちに来れるからね。幸せになりなさい」

女は背を向けて、歩き始めた。

756 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/02/12(日) 23:46:51.86 ID:adFOyhlS0
80

「うにゃあ」と子猫は悲痛な声を上げた。

「ああああああああああああああああ!」

彼女の消える様から、目を逸らしてはいけない。
僕は袖で涙をぬぐいながら、彼女を見送る。

「男だろ! お前の母ちゃんはもう苦しまなくていいんだ! 何も恨まなくていいんだよ! 辛くても見送ってやれよ!」

もう、自分に言っているのか子猫に言っているのかわからなかった。
女が振り向く。

「もうすぐ夜が開ける。お前をふもとに下ろしてやろう」

礼を言いたかったが、嗚咽で言葉にならなかった。
僕の体も光に包まれる。
お互いの姿が、見えなくなっていく。
意識が遠のいていく。

「娘を、よろしく」

(娘!?)

最後の最後に衝撃の事実を知らされながら、僕は気を失った。

757 :1です。 ◆zRT/mQbnn6 [saga sage]:2012/02/12(日) 23:50:15.97 ID:e6f/dZR/o
>>737-740
>>742-745

乙ありがとうございます。
待っててくれた人も、ありがとう。ご無沙汰になってしまって、ごめんなさい。

先週だけで有休3.5日消化してしまいました。
おかげさまで大分良くなりました。

今日はここまで。
758 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/12(日) 23:53:44.53 ID:vpZm694SO

にゃーんはおにゃのこか


今夜のおかずはネコミミ娘に決まりだな
759 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/13(月) 00:15:05.91 ID:H/pByZL9o
乙!
こにゃーんあいもかわらずかわいい!しかも女の子だ
次は日常なのかしら
760 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/13(月) 20:11:51.75 ID:kTNAUj4IO
ええ話や
761 :1です。 ◆zRT/mQbnn6 [saga]:2012/02/21(火) 00:11:19.00 ID:8V3yA1KCo
81

―――――夜明け前―――――

気がつくと、僕は倒れていた。
お義姉さんに下ろされた、スタート地点だ。

(月がまだよく見えるな……)

時計や携帯電話といった道具は、山に入るときに全て没収された。
僕が最後の頼みにできたのは右手の指輪だけだ。

(今、何時だろ)

子猫を話し相手にしたかったが、姿が見あたらなかった。
いじけて引っ込んでいるのかもしれない。

体の節々が痛んで動けなかった。
土地勘もないし、このまま歩いて帰れるはずもない。
潔く地面に転がったまま、お義姉さんの迎えを待った。

762 :1です。 ◆zRT/mQbnn6 [saga]:2012/02/21(火) 00:12:35.00 ID:8V3yA1KCo
82

迎えはすぐに来た。

聞き覚えのあるエンジン音が近づいてきた。
お義姉さんは僕の頭の数十センチ横に車をつけると、転がるように下りてきた。

「春海君……!」

のどに詰まった声だった。
お義姉さんは僕を起こすと、ほんの少しの間だけ、ぎゅっと抱き締めてくれた。
温かくも冷たくもなく、やわらかな常温のマネキンのようだったけど、僕は十分嬉しかった。

「お義姉さん、痛いですって」

「あ、ああ……ごめんなさい。もう、心配したんだから」

お義姉さんは目元を拭って、一度鼻をすすった。

「帰るわよ。妹が待ってる」

僕は搬入されるようにして、車に乗り込んだ。

763 :1です。 ◆zRT/mQbnn6 [saga]:2012/02/21(火) 00:13:37.09 ID:8V3yA1KCo

83

車の中で、山であったことを話した。
志乃にも同じことを話すだろうけど、一旦整理しておきたかった。
でも、やっぱり猫の親子が離れなければならなかったことを思い出して、僕は泣いた。

「すみません……やっぱり俺、まだ混乱してます」

自分が(おそらく)許された安堵感と、別れに立ち会った悲しさで頭の中がぐちゃぐちゃだ。
さっきから涙が止まらず、情けないことに泣きすぎて頭が痛くなっていた。

「泣くなとは言わないけど、ほどほどにしとかないと耳を傷めるわよ」

お義姉さんはダッシュボードを開けて、僕に箱ティッシュを持たせた。

「……なんか、間抜けっすね。この図」

「帰ったらすぐお風呂に浸かりなさい。その汚れようじゃ部屋にあげられないわ」

「うん……そうします」

旅館の外観が見えてきた。

志乃に会える。
そう思うと、なぜか感極まって僕はまた嗚咽した。
お義姉さんは呆れるだけだった。

764 :1です。 ◆zRT/mQbnn6 [saga sage]:2012/02/21(火) 00:15:19.27 ID:8V3yA1KCo
>>758-760
ありがとうございます。

成仏してね…。

今日はここまで。
765 :1です。 ◆zRT/mQbnn6 [saga sage]:2012/02/21(火) 00:19:25.31 ID:8V3yA1KCo
あれー、トリップ変えてないのにPCとスマホでなぜか違うのが表示されるだとー。
おかしいなー。
とりあえずトリップ違うけど本物です。
明日PCから試してみよう。
766 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2012/02/21(火) 00:29:06.10 ID:nr25M0qs0
てすと。
これでどうだろう。
確認で消費してもアレなので、まあいいや。
◆zRT/mQbnn6は自分です。うーん、間違えてないんだけどなぁ。

あ、明日また更新します。
767 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/21(火) 00:29:07.04 ID:pjK1KN84o
半角と全角間違えてないか?
768 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2012/02/21(火) 18:13:29.99 ID:ES5FtAkAO
そろそろイチャイチャか
769 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/02/23(木) 00:16:25.80 ID:wHlXwu0a0
84

―――――浴場―――――

桶に湯をためて何度かかぶり、泥を落とした。
あちこち擦り剥いたり切ったりしていたらしく、ひりひりした。
それでも湯船の誘惑には勝てず、僕は体を湯に沈めた。

「ぬおお……いてえええ……」

誰もいないのをいいことに、存分にうめく。
潜ったり泳いだりして一時の貸し切りを楽しんだ。

(いいないいなー。広い風呂っていいなー)

だらりと仰向けに浮かんで、まだ暗い天のてっぺんを眺めていた。

770 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/02/23(木) 00:17:06.15 ID:wHlXwu0a0
85

戸がカラカラと音を立てて開いた。
(早起きな客もいるんだな)
せっかくの温泉だ。気持ちはわかる。
僕は広い浴槽の隅っこに座り、へりにもたれかかった。

後ろで人が動いている。
湯を浴びる音。
ぺたぺたと濡れた足音がする。
振り向いて見るのも失礼だと思ったので、知らん振りを続行することにした。

「とう!」

聞き覚えのある声と共に、僕のすぐ横で水しぶきが上がった。

771 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/02/23(木) 00:17:43.87 ID:wHlXwu0a0
86

「志乃!?」

「ふふーん。来ちゃったー。来ましたぞー」

志乃はタオルで体の前面を隠したまま湯の中で体操座りをして、僕に体を寄せた。

「おおおおまえなああああああ」

「混浴ですしー問題ないおすし」

「テンションおかしいぞ」

「ウォンチュ!」

と、親指を立てて肩をぶつけてくる。

「また懐かしいものを……」

(さっきまでの感傷はなんだったんだろうな)

志乃は「ふふんふーん」と謎の鼻歌をうたいながら僕の肩に頭を乗せる。
濡れた髪が冷たかった。


772 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/02/23(木) 00:33:24.84 ID:wHlXwu0a0

87

一通りはしゃいだのか、気が済んだのかもしれない。
志乃は僕の肩に頬擦りして、長く息を吐いた。

「……大体はおねーさんから聞いた」

「そうか」

「ニャーンのことはかわいそうだけど、これで前に進めるんだよね」

「たぶんな」

「長かっただろうなー」

「うん。だろうな」

「心配したんだぞ」

「知ってる」

油断したのか、タオルが体から離れている。

「……おっぱい出てるぞ」

「知って――うわああぁ」
773 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/02/23(木) 00:34:21.32 ID:wHlXwu0a0
88

志乃は慌てて、腕で体を隠すと、僕の後ろに回り込んでしまった。

「狭い」

「それは壁と俺との間に君が入り込んだからです」

「壁と俺との間には」

「今日も冷たい雨が降る」

「同情するなら」

「金をくれ」

(あー、平常運転だ)

僕は背中で柔らかいものが潰れる感触に興奮しながら、安心感を覚えた。
774 :1です。 ◆zRT/mQbnn6 [saga sage]:2012/02/23(木) 00:38:40.05 ID:VJjkLosho
>>767-768

半角、全角まで区別するんですね。
今日は直ってるかな、どうかな。

仲良きことは美しきことです。

遅くなりましたが、今日はここまで。
775 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/02/23(木) 00:52:35.83 ID:zfkyZ4yHo
なおってねえな
776 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2012/02/23(木) 00:56:14.28 ID:AyQcOTjAO
777 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/23(木) 00:58:17.85 ID:aEyJrcNUo
合ってたのに最後にまた変わってんじゃねーかwwww
おつおつ
778 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2012/02/23(木) 04:33:51.71 ID:7NXn96WS0
>>777
志村ーIDID

779 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/23(木) 16:31:34.57 ID:aEyJrcNUo
>>778 PCとスマホで酉が変わるって言ってたんだからID違うのは当然だろ
780 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2012/02/25(土) 08:05:35.15 ID:3qsm1ohAO
おつ!
781 :1です。 ◆zRT/mQbnn6 [saga sage]:2012/03/05(月) 22:31:43.08 ID:D/lICU9ao
生存報告と次回更新のお知らせにきました。
年度末ってなんでこう、死にそうなんですかね。
だから春先は殺気立った人が多いんですよ。

今度の土日で更新します。
782 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/05(月) 22:42:23.10 ID:PiY2rh46o
まってるよー
こにゃーんもからむのかしら
783 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/03/12(月) 00:32:17.29 ID:o4PTdmRH0
89

「シノサン、オッパイアタッテマス」

「アテテンノヨ」

手を伸ばして、湯船に浮かんだタオルを取って志乃に渡してやる。

「かたじけない」

「うんうん」

志乃は僕と浴槽の間に挟まったままだ。

「あれ、出てこないんだ」

志乃は「ふぅん」と鼻から息を抜いて、僕におぶさるように腕を回した。

「春海、けがしてる」

「転んだりしたからなー」

斜面を滑落したり川に落ちたりしたとは言わないでおこう。
体にできた無数の小さく薄い傷に、再び湯がしみる気がした。
志乃が僕の肩に口をつけて傷をなめた。

「もう血は止まってるからおいしくないと思うよ」

「うーん……」

志乃は何か考えながら、僕の体を撫でていた。


784 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/03/12(月) 00:33:16.64 ID:o4PTdmRH0
90

「そういうんじゃないんだよなー」

「どんなんだよ」

「お腹すいてないもん」

「ほう」

「ましてやエロいことがしたいわけでもないぞ」

「残念だ」

「……心配したんだぞ」

「知ってる。それ二度目だぞ」

「知ってる。ニャーンは? どうなったの?」

「知らん。お母さんは成仏できたっぽいんだけど、いじけてるのか全然出てこない」

「そっか」

「あいつな、メスだった」

「えー! って見たことないけど」

「あいつと話すときはいつも『ぼく』って言ってたからなー。俺の中にいたから学習したんだろうな」


785 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/03/12(月) 00:33:53.59 ID:o4PTdmRH0
91

「ニャーン……どうなるのかな」

「俺が引き離しといて言うのもなんだけどさ、なんとか乗り越えてほしいと思う」

「幸せになってほしいよね」

「俺の中でだけどなー」

「幸せってなんだろね」

志乃が僕に覆いかぶさったまま、僕の肩に頬をつける。
冷たかった。

「なんだろうな」

今の僕には、触れる柔らかさが幸せの感触だった。
786 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/03/12(月) 00:34:47.88 ID:o4PTdmRH0
92

「春海はもう大丈夫?」

「うん、まあ」

「あんまり大丈夫そうに見えない」

「気のせい」

「だって泣いたでしょ」

「……」

「立ち直るの、時間かかりそうだよ」

「仕方ないことだとは思う」

「うん……。私、いいこと言えないと思うけど吐き出してほしい。
 何言っていいかわからなかったら、甘えてほしい」

志乃が体を伸ばして、僕の頭を抱いて後頭部を胸にうずめた。

(うーん……乳枕……)

「女が柔らかいようにできてるのは、たぶんそのためなんだ」

「いいように作ってくれたわけね。インテリジェントデザイン」

体を反転させて、志乃を抱いた。
確かに肌や肉が柔らかく、体の線が出たり引っ込んだりしてるのは僕のためのように思えた。
そうするのが当たり前みたいに唇を吸った。
半日ぶりだったけど、えらく長い間離れていた気がした。
やっと、ちゃんと会えた気がした。

787 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2012/03/12(月) 00:37:45.09 ID:/8HdWTREo
キリがいいので今日はここまで。
遅くなってごめんなさい。
書き足してまた明日更新します。
788 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2012/03/12(月) 00:38:50.77 ID:/8HdWTREo
!?トリップが直った!!
やったー!やりました!!
スッキリしたー!!
789 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/12(月) 00:43:37.60 ID:n/15W+eno
かわいいな>>1がwwww
酉は半角全角間違えてたとかじゃないか?
790 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2012/03/12(月) 19:15:18.62 ID:9b4R9EENo
くっそ
オナ禁してるときにこんなスレを・
791 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/03/14(水) 00:41:19.01 ID:yfgoPlfh0
93

「なにそれぇ」

と、志乃が目をとろんとさせて聞く。

「後でなー」

湯を掬って、志乃の肩にかけてやると、半開きの目で微笑んだ。

「ぬくいー」

両手で顔をはさんで、唇から覗いた歯に舌先で触れると、つるりとしていた。
志乃はくすぐったがる。

「やだ。ちゃんとして」

志乃が僕の舌を吸う。
気持ちはまだまだ凹んでいたが、下半身はすっかり元気になっていた。

「そろそろ出ないとのぼせるよう」

と、僕の腕の中で体をよじる。

「いや、今はちょっと」

「隠したってばれてるぞ」

「うわあああ握るなあああああ」

彼女は、腰が引ける僕を捕まえて腕を引く。

792 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/03/14(水) 00:42:06.56 ID:yfgoPlfh0
94

「ほらー、座って座って」

僕を浴槽の縁に座らせる。目が笑っている。
大体やろうとしていることはわかった。

「朝飯にはまだ早いだろ」

山の向こうの空が白んでいる。朝が近い。

「いいからいいからー」

「ここじゃまずいって――ぅああ」

志乃は何の遠慮もなく、僕の性器を一気に根元まで飲み込んだ。
直後、吐き出してせき込んだ。

「もー、がっつくから」

頭に触れると、髪は随分冷えていた。

「がっついてなどいない」

口元を押さえながら僕を睨む。
じれったそうに先っぽを指でこねている。

「あれ、もういいの?」

「見ーるーなー」

「はいはい」

いい加減に返事をして、目を閉じて上を向いた。
793 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/03/14(水) 00:42:44.06 ID:yfgoPlfh0
95

「よいしょ」

と、志乃は僕の膝の間に体を割り込ませた。
滑らかな肌が内腿に触れる。
すると、そこが口内の粘膜や手とは違うものに包まれた。

(何を……)

薄目を開けて見ると、僕のが志乃のおっぱいに埋もれていた。
声を出してはいけないような気がして、唾と一緒に飲み込んだ。
両手で寄せた胸の間から先が覗いているのはいい眺めだった。
正直、口でしてもらうほどじゃないけどこれはこれでいいものだ。

「うーん……むずかしい……」

志乃はぼやきながら、揉み込んだり上下に動かしてみたりしている。

「――あ」

「あ」

目が合った。

「やだもう! 見るなって言ったのにー!」

志乃が体を離して、腕で乳を隠す。
794 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/03/14(水) 00:43:29.06 ID:yfgoPlfh0
96

「わ、悪かったよ……」

「もう! ファック。まじファック」

「すまん……」

うらめしげに棒を握り、やや強すぎる力加減でしごかれる。

「いや、ほんとゴメン」

「せっかく人がヴァンプ化したことにより巨乳化したおっぱいを有効利用してやろうと思ったのに」

「あ、ハイ。ほんと、いいものをお持ちで」

訳のわからない弁解をしつつ、萎えることはなかった。

「――で、出したいの? 出したくないの?」

「う。……だ、出したい」

「どーやって?」

「そこまで言わせるんか」

「言わせるとも。わかれ。恥ずかしい現場を押さえられた乙女心」
795 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/03/14(水) 00:44:04.53 ID:yfgoPlfh0
97

「あー、じゃあ、さっきみたいな……」

「さっき?」

「あの、おっぱいで……」

「しょおーがないなあー」

満面の笑みである。
機嫌を直してくれたらしい。

「でもうまくいかないんだ……」

「俺が思うにぬめりが足りない」

志乃は少し考えて

「じゃあ、こっち来て」

と、洗い場に僕を引っ張っていった。

796 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/03/14(水) 00:44:46.18 ID:yfgoPlfh0
98

志乃は膝立ちになり、ボディソープを手に取ると自分の胸に塗りたくった。

「ん。好きにするがいい」

と、泡だらけになった胸を寄せて言い放った。

「え、俺が動くの」

「がんばってー」

「イヤン、恥ずかしい」

「私だって同じくらい恥ずかしいよ」

「うーん、しょうがないなぁ……」

志乃の胸の間に差入れる。

「ぐっ――」

「どう? マシになった?」

僕は答える余裕もなくうなずいて、腰を振った。
志乃は満足そうに眺めていた。
どれくらいそうしたかわからない。
気持ちよさで羞恥心をどっかに放り投げたところで、波が来た。

「志乃っ、出る――」

「ん。いいよ。そのまま出して」

いつも僕が射精するときは、志乃は喋らない。
口が塞がっているからだ。

(毎回、こう思ってくれてるのかな)

僕は満足感を覚えつつ、そのまま出した。

797 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/03/14(水) 00:45:29.17 ID:yfgoPlfh0
99

志乃の顔や首に散ったものが、重たく垂れてデコルテを汚していく。

「へへー。いっぱい出たね」

唇についた精液を舐めながら、嬉しそうに言う。
僕は呼吸をするのに精いっぱいだった。
ただ、その様子をしっかり目に焼き付けて後のおかずにする意志はしっかりしていた。

「どう? まだ悲しい?」

「頭じゃ悲しいけど、今は疲れて……それどころじゃないよ……」

子猫のこと、母猫のこと。
僕のこれからのこと。
気がかりだけど、身体感覚の方が強かった。
快感や疲労の方が、今この瞬間の僕にはリアルだった。

「そっか。ちょっとでも気が楽になったら、私は嬉しい」

「ああ。ありがとな」

志乃はもったいなさそうにシャワーで流すと、

「ふふーん。有効利用したったwwwww」

と勝利宣言をして脱衣所に消えていった。

798 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2012/03/14(水) 00:53:03.62 ID:yfgoPlfho
>>789,790
宜野湾は寝落ちしてしまいました。
何だったのか自分でもよくわかりません。
ですが解決した今となっては爽快です。

ようこそ…男の世界もとい「事件を解決しつつ、人間をやめた女の子とひたすらちゅっちゅするスレ」へ…
現在、>>1が多忙なためマイペース更新ですが、よかったらちょくちょく覗いてください。

今日はここまで。
799 :VIPにかわりましてGEPPERがお送りします [sage]:2012/03/14(水) 01:02:57.80 ID:DN8T7j56o
乙!
800 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/14(水) 01:30:12.78 ID:KDhG+TJSO
……ふう
801 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/14(水) 02:25:37.11 ID:jVqUz0Gxo
「事件を解決しつつ、人間をやめた女の子とひたすらちゅっちゅするスレ」…か漆黒の殺意が芽生えるな
802 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/14(水) 03:15:38.08 ID:k9+Gc/RIO
ボディソープはあかん
リンスじゃないと
1は女なのか
803 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(広島県) [sage]:2012/03/17(土) 10:17:54.03 ID:w1UwI7rMo
だって見るからにノリが少女漫画じゃないか
804 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/03/19(月) 02:28:26.65 ID:sTtXT8oqo
乙乙!
805 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県) :2012/03/25(日) 08:12:13.97 ID:ggHOsnwoo
>>802
え?リンスじゃないと駄目?kwsk
806 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(西日本) [sage]:2012/03/25(日) 13:05:23.88 ID:wPsEj/Iwo
>>805
ggr
807 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2012/04/02(月) 19:39:27.49 ID:CyrMu22Wo
生存報告にきました。
今週いっぱい更新できそうにありません。しぬる…。
今度の土日でこのエピソード終わらせます。
808 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/02(月) 19:59:56.38 ID:8ZSbcAclo
終わらないのが終わり
809 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2012/04/08(日) 22:53:41.67 ID:YEofTGQuo
仕事が終わりません!
処理する資料があと5キロくらいあります!燃やしたい!
もう何日かはSS更新できません!(青島)

>>808
不吉なことを仰らないで…。
1000まで行くと決めたんだからやりますよ。
ただ泣くほど忙しいんですよ、今。
こんなのは社会人なって初めてですよ。4年目の悲劇。
あと2〜3週間で楽になれると信じてる。
810 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/08(日) 23:11:03.30 ID:Fud9D8DXo
>>809
いやなんつーか
このスレは終わるけど
物語は終わらないよ的な意味で言ったんだ
決して仕事が終わらないって意味じゃないよ(チラッチラッ
811 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/04/08(日) 23:11:53.38 ID:sisQkZa9o
どのように楽になれるか見物だな
812 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/08(日) 23:20:51.08 ID:QLSsFUw/o
2〜3週間で楽になってしまう程の仕事・・・
恐ろしい労働だ・・・
813 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/09(月) 00:12:30.56 ID:+MjcPYkTo
ああ…楽になるってそういう…
814 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/09(月) 00:45:59.70 ID:jdbblnBDO
無理すんなよwwwwwwwwww
815 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/04/10(火) 20:08:50.52 ID:8RnblmcPo
>>1「人生やめたった」
816 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/04/10(火) 21:04:40.15 ID:NVWM1ShFo
フハハハハハハ!
追いついたぞ!
追いついてしまった……
817 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(広島県) [sage]:2012/04/29(日) 21:20:58.70 ID:Hwj90EGpo
>>1は書けなくてもいいから適度に書き込んでくれ、落ちる
818 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/30(月) 09:40:08.06 ID:uGSLmWzIO
>>1
「更新やめたったwww」
819 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/04/30(月) 11:42:08.03 ID:c0WcDUFg0
100

―――――月曜・朝・学校―――――

軋む体をどうにか動かして、僕は無理やり登校していた。
足の裏なんか、冷静になって見返してみると小さい擦り傷だらけで歩くのが億劫だった。
それでもなんとか遅刻せず、席についたときは達成感すら覚えた。

「あー、俺がんばった。超がんばった。帰っていい?」

「だめー」

「何やりきった感出してんの」と志乃は笑う。

僕の指には、お義姉さんから返された指輪がはまっている。

「あの二人、大丈夫かな」

志乃が上木さんの席のあたりを見やって言う。

「まだ来てないな」

廊下側の後ろの席。まだ空いていた。
少し離れたところに座る神田さんは、いつもどおり本を読んでいた。
あんなことがあっても、傷ついても悲しんでもいないようだった。

820 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/04/30(月) 11:42:56.78 ID:c0WcDUFg0
101

少し経って、上木さんが教室に入ってきた。
心なしか挙動が怪しい。
あの様子だと、何があったか完全に忘れてはいないんだろう。
神田さんがすっと立ち上がり、上木さんに近づいていく。

「春海、どうする?」

志乃が低く囁く。

「一応警戒しとこう」

二人で席を立って、廊下に出る。
ドア越しに彼女たちの様子を窺う。

821 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/04/30(月) 11:43:41.87 ID:c0WcDUFg0
102

「上木」

神田さんが、上木さんの席の前に立つ。
声が硬い。
上木さんは顔を伏せている。

「神田、私――」

「言わなくていい」

神田さんは手に持っていた本に挟んでいた紙を開いて、机に置いた。
志乃は身を固くしている。

「でも私」

「私も、思うことがないわけじゃない。私の足を引っ張るのは許せない」

「それは悪いと思ったよ! でも――」

「だから、言わなくていい。あんたは私の友達」

上木さんが顔を上げた。ここからじゃ表情は見えない。

「だから連れていく。入部して」

神田さんは、胸ポケットからボールペンを出して机に置く。

「私は何もあきらめない。あんたのことも見捨てない」

「……うっ」

上木さんは泣き出していたけど、多分悪いことじゃなかった。
周りが野次馬根性丸出しな視線を投げかけても、神田さんは背筋を伸ばしていたし、上木さんも納得しているようだった。
志乃と二人で、荒く息を吐いた。

822 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/04/30(月) 11:44:33.38 ID:c0WcDUFg0

103

「決着、ついたんだろうね」

「そうだな。……女の友情はよくわからん」

「私にもわからん」

一気に安堵したせいか、気分がよくなっていた。

「いやぁ、よかった。気分がいいから、どろりとした白濁液ことのむヨーグルトをおごってあげよう」

ポケットから100円硬貨を出す。ぬるい。

「そこで下ネタをからめてくるのやめてください!><;」

「なんだね、その『こうですか? わかりません!』みたいな顔は」

「清純アピールです」

彼女の足は、既に自販機に向いている。

「そうですか」

「まあいいや。ありがと。買ってくるけど、あんたも何か要る?」

「コーヒー牛乳!」

「おけー」

823 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/04/30(月) 11:45:06.76 ID:c0WcDUFg0
104

志乃はスリッパでぺたぺたと走っていく。
一歩ごとに跳ねる髪とスカートの裾を眺めながら、若いっていいなあ、などと思う。

(は! 僕も若かった!)

いろいろあるけど、まあそこはそれ、それなりに何とかなっていくんだろう。



――だってぼく、生きてるしニャーン――



(うんうん。生きてるってそういうことだよな)

(……あれ、今、僕の思考にノイズが……)

細かいことはいいとして、僕は足をひきずりながら席に戻った。



女「有効利用したったwwwww」おわり
824 :1です。 ◆zRT/mQbnn6 [saga sage]:2012/04/30(月) 11:52:07.69 ID:c0WcDUFgo
復活しました。
繁忙期は乗りきったはず。
もう真っ白です。

ここはスレが長持ちするので油断してました。すみません。
保守がてら書きこんでくれてた人、ありがとう。

GW中に次の話を考えていこうかなと。
私も真っ白ですが、予定も真っ白ですから。
825 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/04/30(月) 12:19:26.58 ID:nNaAEsxh0
極!限!全!力!で乙
826 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/30(月) 12:31:23.00 ID:JtLVkQ2SO


油断大敵
827 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(広島県) [sage]:2012/04/30(月) 18:43:05.95 ID:kXKCbwJYo
多分保守は意味がない
>>1が一ヶ月くらい書き込まなかったら削除の対象になる
だから>>1以外の書き込みは無意味、だった気がする
828 :1です。 ◆zRT/mQbnn6 [saga sage]:2012/04/30(月) 20:38:52.37 ID:c0WcDUFgo
>>825,826
乙ありがとうございます。
やっと物を書けると思うと嬉しいです。

>>827
そういう意味でしたか。納得いきました。
今後は半月に一度くらいは生存報告にきます。
その前に停滞しないといいなぁ。
829 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/30(月) 21:06:14.88 ID:JtLVkQ2SO
あれ?
一ヶ月書き込みがない
または
二ヶ月>>1の書き込みがない

じゃなかったか?
830 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/05/01(火) 05:22:46.68 ID:HVaqQy4Vo
SS速報VIPトップページより

>1ヶ月間書き込みのないスレッドは自動的にHTML化されます。
>また作者の書き込みが2ヶ月以上ないスレッドもHTML化の対象となります。再び必要になったら立て直しましょう。

なので>>829が正解
831 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/01(火) 12:24:17.99 ID:IJIgAvyQo
何度か変更になってるから古いスレだと前のルール適用だった気がしないでもない
832 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(広島県) [sage]:2012/05/01(火) 23:16:45.04 ID:H2JDmc52o
その辺記憶が曖昧だったから「一ヶ月くらい」って言ったんだ
まぁとにかくそういうことだから>>1はたまにでいいから生存報告頼む
833 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/03(木) 09:53:57.27 ID:VHhX4+xDO
ところで業務用のコンちゃんって
どれくらい入ってるんだろ
834 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(広島県) [sage]:2012/05/04(金) 01:33:00.97 ID:hqZjTPYqo
通販サイトで100個入りなんての見たことあるけどこれが一般的かは知らん
835 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/05/04(金) 19:34:26.63 ID:M9usVlSto
密林では144個が売られてるみたいだね
12ダースか
836 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/05/08(火) 16:06:45.76 ID:s8SVukiao
>>1は書き溜め中かな
837 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/05/11(金) 22:26:08.49 ID:/rF1iYoGo
みてるぞー
838 :1です。 ◆zRT/mQbnn6 [saga sage]:2012/05/12(土) 23:55:37.52 ID:emcTiWoLo
こんばんは。

明日か明後日から更新します。
839 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/13(日) 00:11:48.10 ID:c9wcVfWlo
ヒャッハーーー!!

待ってるぞ!
840 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/05/14(月) 22:02:47.45 ID:DJ1jtdsuo

―――――ある夜・台風の夜―――――

雨が窓をばらばらと叩く。
雨音にまぎれるメール着信音。
日中から断続的に続く、志乃との短いメールの応酬。
嵐の夜はそわそわする。

――よし、T.M.Revolutionやってくる。
――気を付けて。
――そこは止めてー。

そんなどうでもいいことばかりやりとりしている。

(お義姉さんはどうしてるかな)

薄暗い、清潔な事務所。
白いインテリア。
少し香りのきつい蘭の花。
ここで、僕は初めて気づく。
彼女の顔が思い出せない。

841 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/05/14(月) 22:03:36.08 ID:DJ1jtdsuo


――お義姉さんって、顔どんなだっけ?
――びじーん\(^O^)/
――そうだった気はするんだけど……。

(なんでオワッテんだよ……)

使いどころを間違えている顔文字に、心の中でつっこみながら考える。

――あ、今ピーポーが通ってった。

志乃に言わせれば、緊急車両は全てピーポーらしい。

――誰か用水路の様子でも見に行ったんじゃないか。死亡フラグ。
――やだなー。危ないのに。やだなー。
――自分にはそんな災難振りかからないと信じてるんだろ。たぶん。

842 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/05/14(月) 22:04:13.89 ID:DJ1jtdsuo


他人事だった。
翌朝になれば新聞やテレビの中の、何かを隔てた別の世界の出来事になる。
そして公園でインタビューにつかまった主婦が答えるのだ。

――やっぱり小さい子供がいるんでー、心配ですねぇ、はい。

最後の「はい」は間延びしているのがお約束だ。

完璧に他人事だった。

843 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/05/14(月) 22:05:40.35 ID:DJ1jtdsuo


他人事と決めこむことは、良くないんだろう。
でも、当事者になるのはもうたくさんだ。

夏休みの終わりに起こった通り魔事件で、志乃は一度死んだ。
死んだというか、人間としての生を強制終了させられたというか。
瀕死のところを、同じく瀕死の重傷を負ったお義姉さん――吸血鬼に血を分けて、返してもらった。
後に志乃は「助けあい精神ですな」と語った。

それで終わっていれば「優しい鬼さんも居たもんですなぁ。HAHAHA」といい話でおしまい――
なのだが、現実はそう簡単には終わらせてくれなかった。

844 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/05/14(月) 22:07:10.23 ID:DJ1jtdsuo


志乃はヴァンパイアのなり損ない――半端なヴァンパイア――ヴァンプとして第二の人生をスタートする羽目になった。
僕は僕で、志乃が半端な生き物になってしまったのは僕のせいだと難癖をつけられ、「呪い殺し」の手伝いをしている。

人生、何があるかわかったもんじゃない。
僕だって先祖の因果で猫に祟られていたし、その猫に許しを乞うため、夜の山を歩いた。
何の装備もなく、軽装で。
今思えば自殺行為だ。

そんなでたらめを、僕はこの1カ月受け入れ続けてきた。

845 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2012/05/14(月) 22:11:32.13 ID:DJ1jtdsuo

更新再開です。

100レス程度で書ききるつもりでいます。
うまいことペース配分できればいいなと思います。

1000が見えてきたぞやっほー。
今日はここまで。
846 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/05/14(月) 22:13:19.10 ID:qySa6rjDo
乙です

何かありそうな雰囲気しかしなくて怖い
847 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/14(月) 23:25:42.40 ID:aMZzVroSO
なんだかんだここまで来たな
848 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/15(火) 00:28:55.32 ID:Qchefg0/o
乙乙!

続きも頑張ってな
849 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/05/16(水) 23:43:27.03 ID:GdTfpJv+o



何気なく指輪をいじる。
僕達が呪い殺しを手伝う上で、身を守る術がほしいと頼んで貰ったものだ。

友達の長野の助言も受けつつ、僕はひたすら円を描く練習をした。
この指輪は、精神力(のようなもの)を増幅して放出するアンプのようなものなんだろう。

仕組みはよくわからないが、実際に一度は守られた。
そのときのことはよく覚えていないが、気づいた時には指輪はなかった。
その代わり、はめていた指にはぐるりと傷がついていた。
壊れてしまったのかもしれない。

だから、今僕がつけているものは二代目だ。

850 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/05/16(水) 23:44:00.33 ID:GdTfpJv+o


呪いは嫌なものだ。

虫だったり、いびつな影だったり。
ヘドロ状だったり、何重にも絡むヒモ状のように見えたりもする。
そういう気持ち悪いと認識されるようなものとして、僕の目には見える。

お義姉さんは、僕が呪いを見ていることに驚いていた。
でも、彼女が見ているものと同じものを見ているのかは、僕にはわからない。
志乃は半人半妖の身だから、彼女に呪いが見えるのはわかる。
が、僕は祟られている以外は普通の人間だった
851 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/05/16(水) 23:44:51.47 ID:GdTfpJv+o


心細くなって、志乃にメールを打つ。

――あの猫。
――どの猫?
――俺に憑いてた。
――どうしたの? まだおかしい?
――いや、あの猫な、女の子らしい。
――女の子ちゃん?
――俺は男だと思ってたんだ。あいつ、俺の中で「ぼく」って言ってたから。
――たぶん、ずっと男子に住んでたからだよ。
――今度会ったら、「私」って言うように説教してやる。
――めんどくさー。

生まれる前に母と別れた子猫は、数日前、七代越しにきちんと別れを果たした。
852 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/05/16(水) 23:45:29.87 ID:GdTfpJv+o


これでよかったのか、と思う。
これでよかったのだ、と思わなければ、後ろめたさで胸が悪くなる。

僕は自分が助かるために、罪のない母猫を成仏させた。
いや、人に祟って仇を討とうとしたのは良くなかったかもしれない。
「彼女」の罪は、そんなところだ。

この世とあの世に、母娘を別れさせた。

僕に恨まれる要素はない。
もっと言えば、ご先祖様だってせいぜい今でいうところの「過失致死」罪だ。
それでも、どれだけ自分の心が楽になるような理屈を考えても、やっぱり取り返しのつかないことだった。

853 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/05/16(水) 23:46:03.50 ID:GdTfpJv+o
10

不思議なことはいくらでもある。
人に害をなす呪いだってあるし、それを退治する「呪い殺し」だっている。
自称・義理の姉は吸血鬼だし変身もする。
血液はそんなに必要としないものの、定期的に精液を欲するようになった志乃のために、
「食事」の仕方まで教えている。
非常識なことが、当たり前に起きていた。

それでも。
命だけは。
命の不可逆性だけは変わらなかった。

母猫が成仏してからは、僕に起こっていた異変は消えた。

854 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/05/16(水) 23:46:41.57 ID:GdTfpJv+o
11
猫の会話も、人語では聞こえなくなった。
やたら利いていた夜目も、人並みに戻った。

子猫は夢に出てこない。
まだ、いじけているのかもしれない。
猫の親子が会えなくなったのは僕のせいだ。

僕は、本当に親の仇になってしまった。

それをすまないと思っても、いくら悔いても、何も戻らない。
僕だって、そうしなければ遠からず重篤な害を受けていた。
安堵していたけど、気分は晴れない。

だったら、どうしていればよかったのだ。

わからない。

猫がいなくなっても、僕が死んでも、取り返しはつかない。

僕にできるのは、僕の中に残った子猫を想ってやることくらいだった。
855 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2012/05/16(水) 23:50:00.38 ID:/poU406Lo
>>846-848
ありがとうございます。
超がんばる。

思ったより長くかかりましたが、諦めないでよかったです。

今日はここまで。
856 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/16(水) 23:50:29.04 ID:odcgYU6Wo
乙乙!

頑張って!
857 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/16(水) 23:52:51.73 ID:Y7xTfS0Jo
状況を思い出せない…
858 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/17(木) 00:53:49.43 ID:CTy64wuSO


>>857
あるある
859 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2012/05/21(月) 22:29:29.11 ID:QyfrzMbbo
こんばんは。

明後日更新します。

>>856-858
ありがとうございます。
気が付けばこのスレも9ヶ月目です。
がんばるぞー。
860 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/22(火) 00:18:16.14 ID:h8v+XQLVo
おっし、楽しみに待ってるぞ
861 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/23(水) 20:20:35.24 ID:bylZ7G9uo
いよいよ今夜か・・・!
862 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/05/23(水) 22:04:27.84 ID:HFteIBFpo
12

どれだけ考えても、気分が楽になるような答えは出てこない。

「寝よ」

明日になれば台風も過ぎているだろう。
そしたら、週末は文化祭だ。

山から帰ってからの僕はといえば、どことなく腑抜けていた。
祟りから解放された弾みで志乃に手をだしてもよさそうなものだったが、そうもいかなかった。
温泉でのあれ以来、僕らの間にエロスなイベントは起こらなかった。

(志乃の腹具合は大丈夫かな)

僕の気分が乗らなかったのも、志乃が遠慮しているのもあるのだろう。
明日は少し積極的に出てもいいと思った。

863 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/05/23(水) 22:05:13.01 ID:HFteIBFpo
13

―――――翌日の放課後・ナオミの部屋―――――

「おねーさんいないね」

「仕事かな」

「なんか用だったの?」

「いや、特には」

今日はバイトの日じゃないが、僕は志乃をここに誘っていた。
邪魔されない場所が、自宅とここの他に思いつかなかったのもある。

「珍しいなー。春海が用もないのに来たがるの」

志乃は上機嫌でレンタル店の袋を探る。

「いや、その、スキンシップが足りないと思いましてね」

「いやんえっちー」

志乃は平坦な声で答えると、両膝をついてテレビに向かった。
こっちに尻を突き出している形になった。

(これは喜んでるな……)

そうでなければ、うつ伏せでなおかつスカートの裾をガードしているはずだ。

864 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/05/23(水) 22:05:53.30 ID:HFteIBFpo
14

志乃がお義姉さんに買ってもらったというゲーム機にDVDを入れて再生する。

「何借りたん」

「ふふふーん」

僕としては、そんなんどーだっていいから台風のせいにして温めあいたいのだ。
台風は過ぎたけど。
脳内で西川の兄貴が特長のマフラーをぶん回す。

「タランティーノ?」

「なんで?」

彼女は四つん這いのまま、顔だけで振り向く。
わずかにスカートの端が持ちあがるが、なぜかあと数ミリが重い。

「ああ、こっちの話」

股間に潜む魔弾の射手が引き金を引きたがっているわけですよ。
今日は憂鬱な日々から立ち直ろうと、あえてトリガーハッピーな気分で臨んでいるのだ。
865 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/05/23(水) 22:17:20.90 ID:HFteIBFpo

15



『イェエエエエエエアアアアアイ……!!』




いきなりのご機嫌なサウンドにびびる。
志乃はいつの間にか座っていて、ご機嫌で縦ノリしている。

画面では、サングラスをかけた赤毛のおっさんがモータボートの上でキメている。

「志乃、なにそれ」

「科捜研マイアミ」

ケースにはCSIと書かれている。
何の略だろう。

「マイ……アメリカ?」

「うん。お米」

「お前、海外ドラマ好きだったっけ」

「おねーさんのオススメだってさ。これを参考にして仕事をするらしい」

「なんだろう。絶対お手本間違ってる気がする」

「そんな。見もしないで言うのはやめたまえ」

「しょーがないなー。一話だけ付き合ってやるよ」

「見れー」

と、志乃は自分のとなりに座布団を引っ張って、ぽんぽん叩いた。
866 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2012/05/23(水) 22:19:17.08 ID:9WBow7EWo
>>860-861
待っててくれる人がいるのは嬉しいことです。

今日はこのへんで。
また明日更新します。
867 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/23(水) 22:24:00.70 ID:bylZ7G9uo
どっちも俺なわけだが、すげえ楽しみに待ってんだ。
868 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/23(水) 22:39:49.77 ID:8feWkH0L0
869 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/05/23(水) 23:04:10.96 ID:lQyiGx2Fo
乙!!

CSIは最高だよな
870 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/23(水) 23:54:38.98 ID:opyntjoDO
明日も楽しみだ
871 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/05/24(木) 22:28:54.86 ID:rm/B7sWlo
16

―――――1時間後―――――

「どうよ。面白いだろう」

「お前だって見るの初めてだろ」

「必要ない。現場が語ってくれる」

かけてもいないサングラスを外す仕草で言う。

「あーあー。影響されちゃって」

「つづきつづきー」と、メニュー画面を操作しようとする手を邪魔する。

「なによぅ」

「その西部警察マイアミが面白いのはわかったから、続きは今度な」

「ちぇー」

テレビから志乃の興味が途切れた隙に、リモコンで切った。
彼女の頭を支えながら畳の上に押し倒す。

872 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/05/24(木) 22:29:33.57 ID:rm/B7sWlo
17

志乃は目を閉じて顔をそむけている。

「嫌?」

「いやいやいや」

僕の胸板を押して首を振る。

「嫌か……」

「あああそうじゃなくて間が空いたから! 空いたから恥ずかしいの!」

「そうかー。じゃあこれからはもっと頻繁にエロいことをしようそうしよう」

「うわあああああ……」

目も開けられないらしい。
志乃の横に転がる。

「で、どうなんよ。実際」

「何がよ」

「察してよ」

「ムリポ」

「やらないか」

「はああああああああ!?」

志乃が逃げるように体を起こす。

873 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/05/24(木) 22:30:10.57 ID:rm/B7sWlo
18

僕を見下ろす顔が赤い。

「な、なんだね君は! あれか! いい男か!」

「おーおー。動転しているな」

「黙れ童貞」

「童貞ですけど」

「うわっ、なにその余裕。ファック。まじファック」

「はいはい」

一通り騒がせた方が早く静かになってくれそうだ。
少し黙ると、志乃は指で僕の体を気まずそうにつついた。

「あ、あのさー」

「うん?」

「……やぶさかでない」

「もっと可愛らしく承諾してくれ」

「い……いいよ。いいけど」

と、彼女はうつむく。

874 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/05/24(木) 22:30:43.21 ID:rm/B7sWlo

19

「いいけど、ちゃんと言ってくれないといやだ」

「言ったよ」

「ちがーう。そんなどっかから持ってきたようなんじゃなくて」

「ああ、自分の言葉でってことね」

「うんうん」

そう言われると弱いのが僕だ。
どう言ったものか。

「志乃」

「ん」

「お前は俺と生きていたいって願ったから、人間やめたんだよな」

「ん」

「生きててよかったって思えるようにがんばるからさ」

肝心なところ、どういったものか。
あんまりきれいな言い回しも、僕の性には合わない。

「抱かせてくれ。性的な意味で。俺も生きててよかったって思いたい」

志乃は半分泣きそうな顔で笑った。

「性的な意味で。は要らないよぅ」

その顔を見て、妙な満足感があった。
875 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2012/05/24(木) 22:36:36.68 ID:Ye17I7X/o
>>867-870
ありがとうございます。
マイアミの打ち切りが決まったそうで、名残惜しい気持ちを込めて書きました。

>>867
そこまで言ってもらえるとは、ありがたいことです。
期待を裏切らない仕上がりになるといいなぁ。
どうも、ノってくると脱線してしまうので。
876 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/24(木) 22:44:24.68 ID:bg8tpoOIo
脱線込みで楽しむから、どんどんノってくれたまえよ
877 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/25(金) 23:01:42.71 ID:k/9eNbgSO
878 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/26(土) 01:14:14.55 ID:GtDMgqkIO
糞っ糞っ!
879 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2012/05/29(火) 20:45:16.49 ID:A7ZzF5NFo
こんばんは。
明日更新します。
880 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/29(火) 21:24:11.90 ID:3PHX1K3io
おーし、全裸待機開始。
881 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/05/29(火) 21:46:01.47 ID:RBqFdYM0o
>>880
最近夜は冷えるからな、靴下を忘れるなよ
882 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/29(火) 21:59:23.19 ID:UOcUJcpDO
待ってた!!
883 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/29(火) 22:04:07.35 ID:3PHX1K3io
>>881
お前もな
884 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/05/29(火) 22:52:44.11 ID:OJqs9KXso
蝶ネクタイも忘れずに
885 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/05/30(水) 23:18:42.87 ID:zMID3ah1o
20

「そうと決まれば――」

さっと押入れのある方向に視線を走らせる。
あの中にはお義姉さんが要らぬ気を利かせて備え付けたお徳用なアレがあるのだ。

「あ! あのさ春海」

「なんだね」

志乃が申し訳なさそうな顔になる。

「やる気になってるとこ悪いんだけど、ここじゃやだ」

「なんですと」

僕のスカイツリーが解禁になろうとしているのに、なんですか。
このハレの日に、君の琵琶湖は凍結するんですか。

「最大なんだ……」

「なにが」

「いや、琵琶湖がな……」

彼女は体を引いて訝しむ。
886 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/05/30(水) 23:19:36.82 ID:zMID3ah1o
21

「あの、やっぱり初めては家がいいなって思っただけなんだけど」

「ほう」

「で、うち、今日は親遅いって言おうとしたんだけど」

「ほう!」

思わず顔全体で笑ってしまう。
琵琶湖訂正。カルデラ湖。世界最大。
君の阿蘇に急行。
今すぐにでも草千里を駆け抜けたい。はっしはっし。

「……君はキャッシュな男だなぁ」

「よっしゃ、行くぞ。九州新幹線。君のおっぱいは世界一」

立ちあがって志乃の手を引く。

「なにそれ意味わかんない」

志乃が唇をとがらせる。

「大丈夫だ。俺にもわからん」

その唇をふさいで、ついでに少し噛みついた。

887 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/05/30(水) 23:20:08.81 ID:zMID3ah1o
22

―――――夕方・志乃の家の近く―――――

小学校の前を過ぎた。
橋を渡ってしばらく歩くと志乃の家だ。

(またの名を、僕の童貞喪失記念館)

そんな、スカイツリーの報道くらいどうでもよくておめでたいテンションなことを考えていた。

志乃が僕をつついて我にかえった。

「ねえ、ピーポー近くない?」

「赤いの? 白いの? パンダ?」

「ドクターとポリスメン」

僕には聞こえなかった。

「――近づいてきてる。何かあったのかな」

888 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/05/30(水) 23:20:43.32 ID:zMID3ah1o
23

「なんだろうな」

「なんだろね」

川は過ぎた台風で増水している。
水面の流れはゆったりとして見える。
でも、その下の水流のエネルギーの大きさを考えると、股間がひゅっとなった。

川沿いに少し北へ行き、橋の近くに来ると、救急車が止まっているのが見えた。
仕事が終わった人が帰ってくるには少し早い時間。
救急車の横にはパトカー。
その近くに、黄色い帽子をかぶった子供が何人か並んでいた。

「ねえ、あれまさか――」

「考えたくないけど、いや、でも」

「事故かな」

「わからない」

889 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/05/30(水) 23:21:12.56 ID:zMID3ah1o
24

「ごめん。今日はそういう気分じゃなくなっちゃった」

最悪の場合を考えたのか、志乃の顔は白い。

「だろうな」

「断っといてなんだけどさ、親帰ってくるまでいてくれないかな」

僕は黙って何度かうなずいた。
人が死んだかもしれない現場に居合わせてしまった。
正直言って、今ひとりで帰るのは心細い。

(お義姉さん、どこにいるんだろ)

明後日の方向にぶっとんだ世話を焼いてくれる、志乃の姉貴分。
ろくに顔も思いだせない彼女に、会いたくなっていた。
890 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2012/05/30(水) 23:24:54.05 ID:PjztJe73o
今日はここまでです。
次回は土日に更新します。
891 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/30(水) 23:38:10.79 ID:lpOhUzAIO
おつおつ
892 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/30(水) 23:58:04.22 ID:eHEKcNK8o
乙ー
893 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2012/05/31(木) 17:11:53.85 ID:BDEKpDCAO
おっつおつ
894 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/01(金) 18:19:12.40 ID:2aP6y5XSO
895 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/06/03(日) 23:02:52.19 ID:I25W59XGo
25

―――――志乃の部屋―――――

志乃がコーヒーを淹れてくれるというので、僕は階段に放置してあった新聞をベッドに腰かけて読んでいる。

(そういえば、昨日の夜中もこの近所で――)

なんとなく気になって地域欄をめくる。
『小学生男児1人不明』のゴシック体に目がいく。

志乃のメールを思い出す。
あれは、心配した両親が通報したんじゃないか。

それなら、さっきの救急車は何だ。
川の水量からして、無事でいるには時間が経ち過ぎている。
残念だけど、この記事の子が見つかるとき、生きてはいないだろう。

(じゃあ、さっきのは別件か?)

だとしたら、同じ場所で、似た条件の被害者が出たことになる。
背中を冷たい汗が流れた。

896 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/06/03(日) 23:03:29.24 ID:I25W59XGo
26

不意にドアがノックされた。

「うわああ」

情けない声が出た。

「はーるみー。あーけーてー」

ドアを開ける。
両手にカップを一つずつ持った志乃が入ってきた。

「はい、薄めのブラック」

両手で受け取る。熱い。

「でー、私のは牛乳が激しいコーヒー牛乳―」

くるりと身を翻し、僕の隣に腰かける。
志乃はカップに口をつけながら、新聞に気づいたのかそれを手に取った。
一気に飲み下すと、カップを机に置いて記事を睨みつける。

「志乃、やっぱりそれ昨日の――」

「――だと思う」

志乃は新聞を床に放り出して寝ころんだ。

「気の毒だけどさ、他人事は他人事なんだよ」

彼女は掌で顔を覆って吐き捨てる。

897 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/06/03(日) 23:03:59.17 ID:I25W59XGo
27

「でも、あのサイレンは他人事じゃない。嫌でも思い出す」

「ああ……」

彼女も被害者だった。
別件で、通り魔だったけど。

「もう治ってるのに、まだ痛いような気がするんだ」

包帯をぐるぐる巻きにしていた彼女の両手を思い出した。

「あいつは私が殺したのに」

(そして僕はそいつに殺されかけた)

ぐす、と洟をすする音がした。
彼女は目元をこすって起き上がり、僕に抱きついてきた。

「志乃、あぶないって。俺コーヒー持ってる」

「そのへんに置いちゃってよ」

「うーん……」

濃厚な花の香りが、鼻腔に満ちていった。

898 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2012/06/03(日) 23:06:18.09 ID:ys0TT0I+o
>>891-894
乙ありがとうです。

今日は疲れました。
とりあえずここまで。
明後日更新します。
899 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/04(月) 00:33:51.82 ID:f7BlVwXDO


体大事に
900 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/04(月) 21:07:00.43 ID:KugOdxNao
乙乙。
901 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/06/05(火) 22:54:01.29 ID:o+9GK82So
28

志乃はそのまま僕を押し倒して、胸に耳を当ててぐりぐりする。

「痛い」

「うーん。ドキドキしてますなぁ」

「生きてる証拠―」

「あたしは? どう?」

僕の手を取って、自分の左胸に押しつける。
でも、心臓は左右の肺の真ん中に位置するものだし、強く鼓動を感じられる左の心筋は乳腺と脂肪の下だ。

(わかりませんとは言えないな)

「う、うん……」

志乃が空いた手で僕の口を開けて、舌をねじこませてくる。
口の中いっぱいに花を詰め込まれたように、甘い匂いが充満する。
薄く目を開けると、彼女は年には不相応な淫靡な微笑を浮かべていた。

902 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/06/05(火) 22:54:34.76 ID:o+9GK82So
29

「しの」

「うん?」

彼女は唇を離し、唾液で濡れた口元をぬぐった。

「今、どっちだ?」

「そんなの。どっちだっていいじゃない」

その手を僕の股間に伸ばして、ジッパーの上からブツをまさぐる。

「どうでもよくねえよ。お前大丈夫か」

勢いは大事だけど、勢いだけで後悔されたくない。
彼女の動きがぴたりと止まる。

「私の体がこうなのは、しょうがないよ。人間やめちゃったんだし」

「いや、だから大丈夫かって」

「正直なところ、不安定だよ。この状況だもん。でも自棄なんかじゃない」

一瞬だけ、いつもの顔に戻っていた。

903 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/06/05(火) 22:55:05.03 ID:o+9GK82So
30

「ちょっと動揺したくらいで、安心したいからって体を任せるような馬鹿じゃないよ」

いつの間にかベルトが抜き取られている。

「そうか」

「私ってかしこーい」

彼女の指が、僕のシャツのボタンにかかる。

「そりゃよかったな」

心残りはどこかに行った。
僕の性ホルモンはエンジェルフォールのごとく、だばだばと流れ出る。

(あれ、何か忘れてるような……)

髪をかき分けて首を舐めると、しょっぱかった。

(うん。志乃も生きてる)

「どしたの。真顔になっちゃって」

「いや、その」

「ああ、心配要らない。これ」

と、スカートのポケットから小さな平たい小袋をつまみ出す。
アルミっぽい、正方形の。


904 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/06/05(火) 22:55:30.70 ID:o+9GK82So
31

「お前、いつの間に」

「おねーさんが持っとけって。自分の身は自分で守れってさ」

「俺、そんなに信用ないかな」

「さあ?」

彼女は立ち上がり、電気を消した。
僕は裸が見たいのに、そこはきっちりしてるのか。

「やっぱり、痛いってほんとかな」

下着の裾から指をすり込ませると、志乃は体をびくつかせた。
中は既にぐちゃぐちゃだ。

「うーん、善処する」

彼女は喘ぎながら何度かうなずいた。

905 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2012/06/05(火) 22:58:18.02 ID:fiY1oYFNo
>>899-900
ありがとうございます。

今日はここまで。
金曜に更新します。
906 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/06/05(火) 22:59:27.44 ID:2eBdV88Uo
なんという生殺し
907 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/06/05(火) 23:28:36.42 ID:RybvwucEo
またスンドメだと…
908 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/06(水) 00:23:00.02 ID:RQ4IAmmDO
風邪ひいちまうじゃないか!!
909 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(西日本) [sage]:2012/06/06(水) 01:21:05.48 ID:Y8CEwW7Lo
全裸待機
910 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/06/06(水) 21:25:22.31 ID:MGTo+eYB0
ようやく追い付いたというのに...
911 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/06(水) 22:06:37.28 ID:6qsbXuGqo
なんという焦らしプレイ
912 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/06/08(金) 23:59:04.24 ID:BbwiwRqgo
32

(善処するとは言ったものの……)

指を動かすと、志乃の腰がくねる。
目の前で胸が重たげに弾むのを見て、たまらず乳首にしゃぶりつく。

「ふっ、う、ああぅ」

志乃が嬌声を上げながら、僕の頭をかき抱いてのけぞる。

(どれくらい濡らせばいいんですか。僕にはわかりません)

しばらく手探りで彼女をいじり倒していた。
ふと、志乃の手が僕の性器を遠慮がちに握った。

「う、うー……えっと」

「あ、平気かな」

「知らないよぅ」

「いいと思うけどさ」と消え入りそうな声で続ける。

913 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/06/08(金) 23:59:36.48 ID:BbwiwRqgo
33

太ももをさすると、内側に分泌液が垂れていた。

「すごいな」

「言うなばかあぁ」

彼女はうつむいて首を振る。
髪の先が肩のラインで踊る。

「じゃあ遠慮なく」

これ以上我慢しても、暴発しない自信がない。
用意の良さに半分呆れながら、戸惑いつつゴムをつける。

志乃を仰向けに転がし、脚の間に体を割り込ませた。
先端をあてがい、少し腰を沈めると

「いっ――」

志乃の全身がこわばった。

「――ったくない。痛くないし。全然痛くないし」

914 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/06/09(土) 00:00:13.84 ID:VF7UOPf7o
34

「無理するなー」

僕の肩を掴んでいる指がめり込んでいる。痛い。

「力抜いたら? リラックスリラックス」

「が、がんばる」

「がんばっちゃだめだろ、そこ」

彼女は、ふうっと長く息を吐いた。

「ん。きて」

抱えた脚は、くったりと力が抜けている。

(この無駄な集中力……)

入り口の抵抗に遭いながら、何度かわずかに腰を引きつつ挿入していく。
粘液にまみれた温かい肉が、全方位から握り込んでくる。
口の中とは違う。僕は感動していた。

「志乃、入ったよ」

「はっ――あっ、うんっ。こ、こんな感じなんだぁ」

(こんなときまで好奇心に満ちた物言いしなくても……)

苦笑する余裕はなかった。

それからは無我夢中で、射精まで早かったのか遅かったのかも覚えていない。

915 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/06/09(土) 00:01:01.98 ID:VF7UOPf7o
35

―――――志乃の部屋・夜―――――

着信音で飛び起きる。
すっかり眠っていた。
隣で志乃が話している。

「――うん。うん。わかった。気を付けてー」

暗いが、見えないこともない。
部屋に散乱した服を眺めて、僕は脳内で勝ち鬨を上げる。

(やった! 一発やらずに死ねるかって思ってたけど、やっぱ死なない! もっとやりまくる!)

「もうちょっとで帰ってくるってさ」

「ああ、やっぱり」

「はい服着てー。急いで急いでー」

僕を追い立てながら、彼女は椅子にかけていたワンピース状の部屋着を頭からすっぽりかぶる。
僕はせわしなく服を着る。

彼女は玄関まで僕についてきた。

「じゃあ、帰るわ」

「ん」

「生きててよかったわ」

志乃が両手でがっちり僕の顔を挟んで、熱っぽいキスをする。

「こっちの台詞」

顔を離してにやりと笑うが、すぐ恥ずかしくなったのか「もー帰って! また明日!」と僕を押し出した。

志乃の家を出て、僕は歩く。

例の橋が視界に入る。


世の中には悲惨なこともあるけど、それはそれとして、幸せになることはできるんだな、と思った。
916 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2012/06/09(土) 00:13:45.41 ID:0ZbynMkco
>>906-911
お元気ですか。
900近くあるのにここまで読んでくれたなんて感激です。

次は明後日更新します。
917 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/06/09(土) 00:25:02.76 ID:G/AZEfARo
壁殴おつ
918 :VIPPERにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/09(土) 00:31:17.17 ID:5prOq+J8o
oh…
なんかいいねこのスレと>>1
919 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/09(土) 01:11:48.04 ID:PyhtG9bSO
抜いたばかりだから息子が痛い
920 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/09(土) 01:13:27.96 ID:IKzHz5MDO
こうしてまた一人旅立っていくんだ…

俺もいつかはきっと……
921 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/09(土) 20:01:39.34 ID:Gwsv0cMjo
なんという乙!
922 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/06/10(日) 23:45:59.04 ID:B+akV2Nzo
36

―――――翌朝・教室―――――

席に着くと、長野が携帯片手に話しかけてきた。

「見た? ニュース。新聞でもいいけど」

珍しく難しそうな顔だ。

「いや、まだ」

「じゃあこれ見てよ」

「ん? ――不明の男児、遺体で――ああ、だめだったのか」

陰気な顔になるのもわかる。

「名前が出てるでしょ。この子、妹の同級生でさ。いや、他人といえば他人なんだけど、やっぱへこむじゃん」

「お兄ちゃんとしては心配なわけだ。トラウマになったりしないかと」

「まあ、そんなところ」

「大丈夫だろ。特別仲が良かったわけでもなさそうだし」

「うーん、ちょっと気がかりなことがあってさ」

「大丈夫じゃないのはお前か」

「いやぁ、俺は大丈夫だよ」

長野は顔の前で手を振る。
923 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/06/10(日) 23:46:34.98 ID:B+akV2Nzo
37

「で、気がかりなことって?」

「うーん、言っていいのかな」

もったいぶっているわけではなさそうだ。
単純に、簡単に話していいか迷っているんだろう。

「後ろめたいけど言いたいんだろ。言ってみろって」

妹を気遣っているのか。

「いや、あのね。亡くなった子、ちょっと、なんていうのかな」

「いじめられてた?」

「うーん……。判断に迷うな。ただ、仲良しグループの中じゃ、立場が弱かったらしい」

「ああ……」

察しはつく。
表面的には仲がいいように見える友人がいるが、何かと面倒を押しつけられるポジションの子。
924 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/06/10(日) 23:47:16.17 ID:B+akV2Nzo

38

「妹さ、その子のこと無視したかもって」

「かも?」

「ちょうど帰り道で出くわして、そのときは罰ゲームか何かでランドセル持たされてたらしいのね。いくつも」

「あー……あれは嫌なもんだ」

「で、その子と目が合って――構うなって感じの、迷惑そうな顔されたからそのままスルーして帰ったんだと」

長野は目を伏せて、また携帯をいじっている。

「小五かー。ならそんな状況で女子には構われたくないだろうな」

僕なら、見られるのも嫌だったと思う。
子供だってプライドはある。

「難しい年頃になりつつあるところだしね」

「早熟ならな」

(僕が小五の頃は――どうだったかな)

ノートに漫画っぽい絵を描いていたのを思い出して、頭を抱えた。
925 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/06/10(日) 23:47:59.45 ID:B+akV2Nzo
39

「ん、どしたの」

「いや、なんでもない」

「――でさ、これ見てよ」

と、また携帯の画面を見せる。

「台風一過……増水した川で……小五の男児……死亡?」

同じ記事かと思ったけど、名前が違う。
記事をよく見ると、事件があったのは、昨日志乃と通りかかった時間と一致する。

(ああ、やっぱり昨日のは――)

「その子、その前に亡くなった子と同じグループだったって、妹が」

「ああ、それで――」

「この年頃の女の子って、怖い話とか霊感がどうとか、そんな話好きじゃん」

「俺はその手の話を好む子は好みじゃなかったな」

僕は怖がりなのだ。
林間学校で怖い話をしたがる奴には辟易としたものだ。
夜中トイレに行けなくなったらどうしてくれる。
926 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/06/10(日) 23:48:44.28 ID:B+akV2Nzo
40

「まさか、その悪ノリした女子が――」

「さすが春海。察しがいいね」

長野は忌々しげにため息をついた。

「始めに死んだ子の呪いだって言ってる。復讐だって」

「それで、お前の妹ちゃんが気に病んでるんだな」

「うん。いじめの教育ってさ、難しいよね。傍観者も同罪だなんて一様に言っていいのかな」

「ましてやその子の場合はグレーゾーン、と」

「まあね。本人は認めなかっただろうけど、見る人が見れば、そう取ってても仕方ないよ」

「妹ちゃんは自分を傍観者だと思って、もしかしたら自分も危ないかもと思ってるわけだ」

「そういうこと。今は部屋でひきこもってるよ。ま、今日が不登校の一日目だけどね」

僕の携帯が鳴った。

「あー、サイレントにしとかないといけないんだー」

長野が茶化す。
少しでも気を紛らわせたいんだろう。
「うるせー」と悪態をついて、画面を見る。

(お義姉さんからだ)



――放課後、妹と事務所に来て頂戴。



僕の頭の中で、点と点がつながり、嫌な図が浮かび上がる音がした。

927 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2012/06/10(日) 23:54:17.74 ID:B+akV2Nzo
>>917-921
一仕事終えた気分です。
エロスなイベントは酒を飲み飲み書いています。

次回更新はある程度書きためたいので、木曜日あたりになると思います。
今日はここまで。
928 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2012/06/11(月) 00:32:19.29 ID:VTdPWBh1o
乙様です
大人の階段登ったところでまた事件とは
怪談やめろってトイレに〜のくだりがいいですね、クスッとしました
929 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2012/06/11(月) 07:53:24.93 ID:0BZCnEJAO
おっつおつ
930 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/11(月) 22:13:49.47 ID:qSuPA8BDo
大変よろしいと思う。
931 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2012/06/14(木) 21:00:17.25 ID:DQLfMbb2o
こんばんは。
暑い…。暑いです…。
俺…給料もらったら扇風機買うんだ…。

明日更新します。
932 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/14(木) 21:01:13.77 ID:M6vvO2coo
おっ、待ってるよー
933 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/06/15(金) 22:59:39.37 ID:BuSy30a4o
41

―――――放課後・ナオミの部屋―――――

ドアを開けると、お義姉さんは応接セットのソファに腰掛け、脚を組んで待っていた。

「仕事よ。座って」

彼女は短く言って、手元のファイルに目を落とす。
志乃の喉が微かに、くっ、と鳴った。
多分、志乃の頭の中にある画は僕のと同じだろう。

「相談者は、38歳女性――妹のご町内の人ね。家族構成は夫と息子が一人」

説明しながら一世帯分の家族写真をテーブルに並べていく。
相談者本人は、あいさつして一分で忘れてしまいそうな、普通の主婦だった。

頭の上半分の髪を後ろでひっつめ、服装はカジュアル。
子供がやんちゃ盛りで、自分の服は動きやすさ最優先だった頃から変わっていないような印象を受ける。
目は丸く大きく、あごも丸い。
丸顔で、年齢のわかりにくいタイプだ。
934 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/06/15(金) 23:00:13.56 ID:BuSy30a4o

42

「相談者の夫――こっちは43歳会社員――勤め先はこのあたりだったかしら」

旦那の方はなでつけた髪に眼鏡で神経質そうな細いあご。
良くも悪くもホワイトカラーって感じの風貌だ。
目は細いが、耳はややとがった立ち耳で、妙に可愛らしい。

「最後に息子――10歳。地元の公立小学校に通ってる。絵が得意みたいね」

息子はというと、父親譲りの細いあごに、自己主張の強い耳。
母親似の丸く大きな目をしていた。
ただ、すぼめたような小さな口が気になる。

(Xファイル……)

あごを引いて写っているせいか、やけに目がぎょろついて見える。
彼はどことなくグレイに似ていた。

「とりあえず、相談者とその家族構成はこんなところ」

(いや、それじゃ情報が足りない)

志乃は僕の隣で、険しい顔で携帯をいじっている。
935 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/06/15(金) 23:00:52.82 ID:BuSy30a4o
43

「ちょっと、聞いてる?」

珍しく、お義姉さんが志乃をとがめる。
志乃は聞こえていないみたいに、何やら操作している。

「……おねーさん。これ」

「ああ、台風の――」

お義姉さんは画面を一瞥すると、舌打ちをした。

「台風、苦手なんですか」

「苦手でなんか――。こいつのせいで出歩く人が少なかったから、その夜は空腹で困ったのよ。忌々しい」

「ちょっと吸わせてくれないかしら」と、唇を舐めながら僕に艶っぽい視線をよこす。

「うわああだめだめ!」

志乃が慌てて割って入った。

「で――相談の内容っていうのは?」

「それは……あ、でも妹が何か気付いたみたいだけど」

「ん、やっぱり先に聞く」

志乃は奥歯を噛んでゆっくりうなずいた。

「じゃあ……。相談者は息子が呪われてるって主張してるの」

僕が心配したよりは、単純な事件なのかもしれない。

「相談者はいわゆる見える人ってやつですか」

「彼女は違うわ。思い込みよ」

お義姉さんは顔の前で何か追い払うように手を振った。

「くだらない」とでも言いたそうだった。

936 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/06/15(金) 23:01:33.54 ID:BuSy30a4o

44

「まあ最後まで聞きなさい。
 相談者の息子が立て続けに二人亡くなった。同じ場所で、同じ死因で。
 息子は絵を描くことが好きで、たまたま相談者が彼の最新作を目にしたところ――」

脳裏に、佐伯(兄)の部屋の光景がフラッシュバックする。

「幽霊みたいな姿の、彼の友人が描かれていたそうよ。
 他には、地獄の釜みたいになってる用水路や水場の絵――」

「――あ、でもその年頃の男の子って、物騒なモチーフの落書き大好きですよ。髑髏とかドラゴンとか」

「でも、さすがに友達の幽霊はないよ……」

志乃が重たい口を開く。
どこか諦めているように見えた。

「春海、長野君と話してたじゃん。いじめられた子の復讐がどうこうって」

それは断片にすぎない。
そう言っていたのは長野の妹のクラスのオカルトかぶれの女子だ。

僕は、朝のやりとりを説明した。
「無関係ってわけじゃなさそうね」

お義姉さんが髪をかきあげ、そのまま頭を掻く。

(じっちゃん……)

「関係大ありでしょ」

志乃もそれを真似する。

(はじめちゃん……)



937 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/06/15(金) 23:02:13.35 ID:BuSy30a4o

45

「それでその、依頼人の用件って何なんですか? 子供の保護? セラピー?」

カウンセリングなら、こんな胡散臭い僕等よりもまともな専門資格のある人にかかった方がいいだろう。
お義姉さんは首をひねる。

「まさか、途中でめんどくさくなって用件聞いてないなんて言わないですよね」

「そ! そんなわけないじゃない! 聞いたわよ! 一言一句漏らさず!」

「ああ、聞いてないんですね」

「はい! ……あの、現場行かない?」

志乃が控えめに挙手する。

「そこがスタートだろうしなぁ……」

「わ、私も同意見よ。ていうか、今それを言おうとしてたのよ」

(この人、腹減ったらいい加減になるんだな)

気を付けよう。

「じゃ、行くか」

「行こー」

「行きましょ」

そういうことになった。

938 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2012/06/15(金) 23:06:51.56 ID:SdrbcQ+Fo
>>928-930,932
ありがとうございます。
怖いのはだめですよ。
リングだけは目隠ししつつ見ましたが。

次は日曜か月曜に更新します。
今日はここまで。
939 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/16(土) 00:17:14.08 ID:Hvz3j0EDO


和製ホラーはコワイよね
940 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/06/16(土) 01:15:31.49 ID:AHhCcywIO
りふ
941 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/06/18(月) 23:27:48.04 ID:XrBxEj7Mo
46

―――――現場―――――

「これは……思った以上に……」

「昨日はこんなんじゃなかったのに」

「ああ……これはエグいわね……」

僕達は、事件現場の橋の上にいる。
ちょうど、救急車とパトカーが停まっていたあたりだ。

川の水量は落ち着きつつあるものの、増水したままだし、ゆったりして見える水面は相変わらず不気味だった。
そして僕等には、その水面をびちびち跳ねるヘドロや裏返して内臓をむき出しにしたナマコみたいなものが見えている。
腐った海藻のからまった臓物みたいなのが、意思をもったようにうねうねと蠢きながら浮き沈みを繰り返し、下流へ流れていく。

「俺、もうモツ鍋は食えないわ……」

「うわぁ……キモ……まじキモ……」

志乃が隣で口の悪い女子高生みたいなことを言う。

942 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/06/18(月) 23:28:30.94 ID:XrBxEj7Mo
47

「あああ、今、指がいっぱいある手がもがいてた」

「やだ、気づきたくなかったのに」

ひとしきり、キモいキモいと騒ぐ。
お義姉さんは、こんなのと一人で向き合い続けてきたのか。

「あなた達、文句言ってないで手掛かりの一つでも見つけなさいよ」

「と言われましてもー」

志乃は欄干にもたれ、上を向いた。

「お義姉さん、ここに、最初に亡くなった子はいますか」

長野の話を思い出した。



――初めに死んだ子の呪いだって言ってる。復讐だって。



彼が呪っているなら、ここに留まっているはずだと思った。
彼女は川の中を凝視する。
僕はしたくない。

「ここには――いないわ。念のため、あの世に行ってないか照会かけてみる。亡くなった子たちの名前を教えて」

僕は控えていたメモを千切って渡した。
お義姉さんは「ありがと」と短く言って受け取ると、何やらメールを打っていた。

(あの世ってハイテクー)

地獄行きにさえならなければ、死後の世界はそれなりに快適そうに思えた。

943 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/06/18(月) 23:29:00.39 ID:XrBxEj7Mo

48

三人でしばらく、白日の下で煮込まれたハズレしかない闇鍋を眺めていた。
手掛かりになりそうなものは見えなかった。

数分後、お義姉さんの携帯にメールが返ってきた。

「あー……まだあっちには行ってないみたい。まずはその子を探してみましょう」

「となると――まずは自宅ですかね」

「気が進まないなぁ。お葬式で留守かも」

最初の事件発生から、二日しか経ってないのだ。

「その方が都合がいいわ」

お義姉さんは、彼の自宅も知らないのに歩き出していた。

(また超法規的措置という名の不法侵入に走るつもりだな)

「あのー、ほんとにこっちなんですかー?」

僕と志乃は、慌てて追いかける。

「さっき照会ついでに、自宅も教えてもらったの。こっちよ」

それなら、と、素直についていくことにした。


944 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2012/06/18(月) 23:30:55.20 ID:JJ8N/g2lo
>>936に訂正。
2行目の「相談者の息子が立て続けに〜」は
「相談者の息子の友人が立て続けに〜」の誤りでした。

今日はここまで。
週末には更新します。
945 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/19(火) 00:13:52.59 ID:G1A9wQBWo
乙!
しのかわかわ
946 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/19(火) 22:00:18.07 ID:YoBSHfYto
乙!
947 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/06/20(水) 01:24:35.11 ID:nVM/4SQwo
追いついた・・・だと・・・?
乙!
948 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/27(水) 21:30:54.75 ID:w4ZAjq47o
一週延期になったのか?
949 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2012/06/27(水) 21:46:48.61 ID:+1bJRaDAo
すみません、バテてました。
何も考えられない…。
もう二〜三日ダウンさせてください。
あれはクールビズじゃない。
誰かが熱中症になるまで空調ナシで耐えるチキンレースだ。

>>948
そうなりそうです。
かなしい。
950 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/27(水) 21:58:13.61 ID:w4ZAjq47o
いや、俺は楽しみに待つだけだから。

暑いから、体を厭えよ
951 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/06/27(水) 22:23:18.48 ID:LedFMKO/o
頑張れ頑張れ〜
952 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/01(日) 21:11:21.79 ID:jMbcIX26o
今日あたり来てくれるかな?
953 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/07/01(日) 23:06:02.32 ID:jWrTuuAfo
49

―――――最初に亡くなった児童の家―――――

死後、不吉な噂を立てられた不名誉な仕打ちを受けた子供の住んでいた家は、普通の家だった。
自転車が飛び散った泥をかぶったまま横倒しになっている。
車はない。

(今頃、葬儀場かな……)

何度かインターホンを鳴らす。
応答はない。

「留守ですね」

となると、お義姉さんが侵入するには都合がいい。
ドアに手を掛けると、抵抗なく開きそうだった。
なんとなく嫌な感じがして、そのまま開けることはできなかった。

「鍵、開いてるみたいですけど」

「私が開けるわ。あなた達は下がって」

門まで下がって、志乃の前に立った。
僕の頭の中は、空中に円をイメージすることでいっぱいだ。

「志乃、口開けるなよ」

「なんで?」

「前、お義姉さんから言われたんだよ」

「なんかよくわからんけどわかった」

お義姉さんはドアの前に立つと、僕らを振り返った。
僕は黙ってうなずく。
志乃は手で口を塞いで、何度かうなずいた。

「開けるわよ――」

僕も左手で口を塞ぎ、右手を構えていた。

954 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/07/01(日) 23:06:48.35 ID:jWrTuuAfo

50

静かにドアが開かれ――
お義姉さんが黒い渦にのまれたのを見たと認識した瞬間、吸盤のついた無数の足がこっちに向かって伸びてきた。
僕の反射神経も捨てたもんじゃなかったらしい。

(これはタコだ)

粘液にまみれたどす黒いタコ足が、僕らをとらえようと盾を乱打する。
突き出した右手に、衝撃が痛い。

「ぐぅっ!」

口を開けてはならない。左手を顔に押し付ける。
呼吸は浅く速く、苦しくなっていく。

(たのむよ! もってくれよ!)

右腕に静脈がぼこぼこと浮き出てくる。
志乃に逃げろと伝えたいが、声が出せない。
ついに上腕の皮膚が破れて、血が流れ始めた。

(嘘だろおおおお!?)

足の向こうに、なんとかお義姉さんが目視できた。
久しぶりに、あの剣を振るっている。
玄関のタイルに、切り落とされたタコ足がびちびちと跳ねている。
一瞬、直径一メートルはありそうな目玉が、足の中に垣間見えた
お義姉さんは両手で剣を構え、そいつの黒目に深々と突き刺すと――

(助かった……)

膝から崩れそうな僕と志乃の腕を掴んで走り出した。

955 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/07/01(日) 23:07:42.78 ID:jWrTuuAfo

51

どれくらい走ったかわからない。
足がもつれて、三度目に転びそうになったところで、彼女は止まった。
一番へばっているのは僕だった。
何か言いたいが、息があがって言葉が出ない。

「ああ、忘れてた。あなたは人間だったわね」

(もっと優しい言葉でお願い!)

志乃は少し疲れただけみたいだ。

「春海、腕が!」

「ああ、これは――」

大したことないと言いたいが、手首から肘に向かって何本か裂けたような傷が走っていた。

「――いってぇ! 今頃気づいたけど超いてぇ!」

「アドレナリン! もっかいアドレナリン出して!」

志乃は慌てているようだけど、食欲もわいているようだ。

(あー、こいつ血も好きだったな)

「要る?」

「あ、ああ、う……」

目は喜んでいるが、さっき守られた手前、気後れして「ほしい」と言えないのだろう。

「遠慮するなー」

少し気持ちが落ち着いてきた。
ここにはあの気色悪いクラーケンみたいなのはいない。

(クラーケンはイカだったっけ)

「じゃあ、私がもらうわ」

お義姉さんが、僕の右手をとる。

「え」

戸惑っている間もなく、彼女は唇を僕の裂けた皮膚に押し付けていた。
志乃の目が妬いている。
956 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2012/07/01(日) 23:15:36.30 ID:jWrTuuAfo
遅くなりましたがちょっと元気が出てきました。
お待たせしてすみません。
平常運転に戻れそうです。
いやー、どうしようかと思った。

あと50レスで終われる気がしません。
きれいに1スレで完結するつもりだったのに。
どうするかは終わりそうになってから考えましょう。

今日はここまで。
957 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/01(日) 23:17:32.23 ID:jMbcIX26o
乙!

平常運転超期待する。
無理して駆け足になってもアレだし、次スレ行ってもいいんじゃ?

ともあれ、妬いてる志乃きゃわわ
958 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/02(月) 03:19:53.03 ID:DJLfwl3SO
まあこうなるだろうとは思ってた

次スレもありよ?
959 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/07/02(月) 06:04:33.56 ID:OSGHfISVo
乙!!
無理せず次スレ行って良いと思われ
960 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/02(月) 20:46:25.54 ID:gEcJOU2oo
おつおつ
961 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2012/07/03(火) 01:09:50.88 ID:LwS4y/AAO
おつおつ

次スレおkですよ?
962 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/07/03(火) 20:13:03.82 ID:AxL50Cyno
乙乙
次スレも楽しみにしてるのよ?
963 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2012/07/05(木) 22:32:19.09 ID:0L6FvGhmo
>>957-962
ありがとうございます。
終われなかったら次スレ行きます。
今はもう少しここを使わせてもらいます。
次スレに持ち越す場合は、990あたりでお知らせします。

あ、明日更新します。
964 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/05(木) 22:54:17.44 ID:PUbpE5hmo
了解、待ってるぞ
965 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/07/07(土) 00:22:44.43 ID:3Qf5vXwlo

52

お義姉さんの舌が、僕の腕の表面で動く。
とがった牙が露出した肉に触れると痛みが走る。
僕は大人しく、棒立ちでこらえている。

「あの、これで立てなくなったりします?」

知り合ったばかりの頃、肩に手を置かれただけで精気を一気に吸われて足腰立たなくなったのを思い出した。

「手加減してあげてるのよ」

「ぬうぅ……」

志乃はうつむいて手をかたく握っている。

(いかん。志乃が殺意の波動に目覚めそうだ)

「お義姉さん、志乃の機嫌が悪いです」

「怒ることないじゃない。誰にでもしてることよ」

「わ、わかってる……」

「なんですって?」

志乃が弾かれたように顔を上げる。

「でもやっぱり春海はだめー!」

僕のもう一方の腕を掴んで、ひったくるように抱きよせる。

「少子化の世の中で、貴重な若い子なのに……」

「他! 他を当たって!」

「な、なによ。人間ってこうなの?」

「こういうもんです。特に男女は」

「はぁー、めんどくさいわね」

お義姉さんは名残惜しそうに僕の手を離した。

966 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/07/07(土) 00:23:25.55 ID:3Qf5vXwlo

53

何気なく傷ついた腕を見ると、裂けた皮膚の上にうっすら新しい皮ができはじめていた。

「ほら見なさい。私のおかげよ」

「あ、あたしにもできるもん!」

「半分のあなたより、私の方が早いわよ」

「そんなに言うなら、沢山産んで供給を増やしてちょうだい」

「ああああ赤ちゃんは関係ないでしょおおおおお!」

「志乃、もうわかったから!」

気恥ずかしさと女二人の板挟みにされたことに耐えられず、大声を出した。
お義姉さんが僕に向き直り、にらみつける。

「ちょっと! 私の妹に怒鳴らないでくれる?」

「え、えええ? 俺?」

「そうだよ! 春海がきっちりダメって言ってたらもめなかったんだから!」

「行きましょ、妹」

「うん。いこいこ!」

二人はさっさと歩きだした。
事務所に戻るつもりだろうか。

(あれ、やっぱり俺悪くないよな!?)

腑に落ちないと思いながら、二人を追いかけるように歩き出した。
967 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/07/07(土) 00:24:14.17 ID:3Qf5vXwlo

54

―――――事件現場の川―――――

緊急車両の停まっていた件の橋の上を歩く。
子供が二人命を落としたという、件の橋の上を歩く。
それだけで気分が沈む。
志乃は少し早足だ。

橋の向こうに、見覚えのある顔の子供が見えた。

(あれは依頼人の……?)

足にツタがからまり、動けないようだ。
それに、引っ張る力にふんばって抵抗しているように見える。

「あれは――」

いらいにんのむすこ、と口が動く前に、志乃が駆け出していた。

「やめろおおおおおっ!」

女とは思えない叫び、咆哮だった。

「だめっ! 待ちなさい!」

お義姉さんも完全に出遅れていた。
志乃はわき続けるツタや触手を手づかみでぶちぶちと引きちぎる。

(なんでいきなり……?)

「だめ! 妹! やめなさい!」

「志乃! 戻ってこい!」

僕らは叫んだけど、志乃は聞いていない。
聞こえていても知ったことかとばかりに子供を呪いから庇っている。

「ああもう!」

お義姉さんは口に手を深々と突っ込んだ。
968 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/07/07(土) 00:24:59.74 ID:3Qf5vXwlo
55

依頼人の子供(僕は心の中でグレイってあだ名をつけた。宇宙人ぽいから)はぐったりと倒れている。
その方がいい。呪いなんか見ない方がいい。
彼女の喉の奥から掴みだされたのは針の束だった。
思いきり振りかぶって、狙いなど定めず投擲する。

「志乃、よけろ!」

「え?」

呪いの一部をかかとで踏みつけにした志乃が、一瞬我にかえって振りむいた。
その志乃の全身を、お義姉さんの針が串刺しにし尽くした。
針山のようになった志乃は、何がなんだかわからないといった顔をして、その場に倒れた。

「なんてことするんですか!」

「説明は後! 私は妹を連れてく。君はその子を!」

訳のわからないままに、僕はグレイ君を抱きかかえる。

「飛ぶわ! 目を閉じて!」

お義姉さんが僕の首根っこを掴んだと思った次の瞬間、全ての音と光が消えた。

969 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/07/07(土) 00:25:38.76 ID:3Qf5vXwlo
56

**********

にいちゃん。
ねえちゃんしんじゃったの?

ぼく、にいちゃんすき。
にいちゃんあそんでくれた。
母上にもあわせてくれた。

にいちゃん泣いたらかなしい。
ねえちゃんどうしたの?
ぼく、母上いなくなってかなしかった。
にいちゃん、ねえちゃんすき。
ねえちゃんいなくなったら、ぼくもかなしい。

ぼく、たすけてあげる。
にいちゃんよわい。こんじょうあるけどへたれ。
でも、ぼくつよい。
ぼくってつよい子ちゃーん。

**********

970 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2012/07/07(土) 00:27:05.75 ID:gyRf9HO8o
遅くなりました。
今日はここまでです。

次は日曜か月曜に更新します。
971 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/07(土) 00:29:55.73 ID:q6/MJJ/no
こにゃーんええこや……
乙!
972 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/07/07(土) 00:47:08.49 ID:UlJV9Hiro
乙!!
こねこがかわいすぎてつらい
973 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/07(土) 01:18:14.06 ID:FHXpmjGSO
志乃どうした?
974 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/07/07(土) 02:33:20.58 ID:v94e5hkwo
嫉妬可愛すぎワロタ
975 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/07/07(土) 11:13:29.27 ID:MSdw/i1AO
こにゃーんにヘタレ言われとる…
976 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/07(土) 19:34:44.52 ID:1jx6I4wbo
こにゃーんかわいいなオイ

俺んトコ来るか
977 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/07/09(月) 23:11:34.74 ID:0NGliUKeo
57

―――――ナオミの部屋―――――

平衡感覚が戻ってくる。
僕は今、体を横たえているらしい。
頬にさらさらとした生地が当たる。
これはお義姉さんの事務所のソファのカバーだ。
目を開ける。

「うっ……」

偏頭痛が酷い。
光に反応しているのか、目を開けるとずきずきする。

「気がついたわね」

組まれた脚とスカートの間から、ストッキング越しに下着が覗いていた。

(なんだろう。美人のパンチラなのに嬉しくない……)

この僕がパンツを見て嬉しくならないなんて異常事態だ。
ましてや吸血鬼もパンツ穿くんだ、なんて考えている。
これは異常だ。
異常。

「そうだ! 志乃は――ぐぅっ!」

「だめよ! まだ負担が残ってるんだから」

お義姉さんの忠告は遅かった。
頭を抱えて悶える。
のた打つと、痛みが逃げるような気がする。

「そのままでいいから聞きなさい」

彼女は僕の返事を待たない。

978 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/07/09(月) 23:12:31.03 ID:0NGliUKeo
58

「あの子の時間は今、極端にゆっくり流れてるの。止まってるのと等しいくらいに」

「なんで、あんなこと――」

えづきながら訊いた。

「妹は、彼にかかっていた呪いに向かっていって、庇おうとしたわね」

「ああ、あんなの通り魔の亡霊以来ですよ」

鬼気迫る、といったやつだ。

「あの子が何を考えたのかは知らないけど、守りたかったのはわかる」

「志乃は口を開けたから――」

彼女は振り切るように叫んで突っ込んでいった。

(いや、たったあれだけの間に?)

「今回の呪いは強い。何を恨めば、あんなに強大なものが練れるのかしら」

「そりゃあ、わかりませんけど。憎くて仕方なかったんでしょう」

僕だって呪いを作った奴が憎い。
「話が逸れたわね」と、彼女は姿勢を正す。

「あの子、取り憑かれたかもしれない」

「かもしれないって――今までの被害者だって、命までは取られてませんでしたよ」

死人が出た今回の方が、イレギュラーだと思いたい。

「それは術者が真剣に殺したいと思ってなかったんでしょ。気合いの入りようが違うのよ」

「精神論は苦手です」

979 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/07/09(月) 23:13:00.83 ID:0NGliUKeo
59

「佐伯君は数日間で相当衰弱してたわね。あれは放っておいたら危なかった。
 でも、あなた達のクラスにいた女の子たちは?」

神田さんと上木さんのことを言っているらしい。

「あれは……。上木さんの自己嫌悪と、
 見捨てられるんじゃないかって不安が暴走した結果のような――」

「そんなところね。でも今回の殺意は尋常じゃないわ。
 あれよ。人間の言葉で、『ガチ』ってやつ」

「それは一部の人間ですよ」

「なによ。細かいわね」

980 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/07/09(月) 23:14:24.84 ID:0NGliUKeo
60

志乃は今も、あの痛々しい姿のままなんだろうか。

「あの針――」

「あれはね、命の流れを阻害するために刺したの」

「俺が納得できないのはそこですよ。何のためにそんなこと」

「癌っていう病気は、若い人ほど進行が速いらしいわね」

「まあ、そうですけど」

「強い呪いに侵された者は、訳もわからないうちに体中を蝕まれるの。
 その傾向は被害者が若いほど顕著になる」

「気付いたら末期」

「そうよ。だからああするのが最善だと判断した」

「疑わしきはとりあえず黒、と」

「ええ。でなきゃ死ぬわ」

彼女はテーブルの上のコップに手を伸ばすと、中身を一気に飲み下した。
そして、不味そうに顔をしかめた。
苛立っているらしかった。

「そろそろ動けるはずよ。シャワーを浴びてきなさい。
 あなた、まだ不吉な空気がべたべたまとわりついているもの」

お義姉さんはそう言うと、僕を追い払うように手を振った。


981 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2012/07/09(月) 23:18:44.42 ID:0NGliUKeo
>>971-976
猫再登場します。
志乃はお休み。

明後日あたり、更新します。
今日はここまで。
ねこだいすき(いぬも)
982 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/09(月) 23:26:05.53 ID:RXqjhgueo
そろそろ始めようぜ!こにゃーん!
乙ですのだ
983 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/10(火) 08:05:33.50 ID:Ib3qWZZSO
984 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/10(火) 20:02:19.22 ID:J7sJzwB0o
ぱんつ! ぱんつ!

乙。
985 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga sage]:2012/07/11(水) 22:47:03.73 ID:3GasLYOio
こんばんは。
もう980過ぎてますし、次スレに行こうと思います。
今日はもう眠いです。

明日、次スレを立ててそっちで更新しようと思います。
また引っ越しのお知らせをします。
うーん、感慨深い。

986 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/11(水) 23:42:55.00 ID:MkMyzHi1o
おう、了解
987 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/12(木) 20:07:44.54 ID:EGtLxY9DO
やべえこのスレ超おもしろいぞ
988 :1です。 ◆CIZA6sfEUc [saga]:2012/07/12(木) 22:53:34.42 ID:Wldddmhk0
次スレ立てました。
良かったら引き続きお付き合いください。

女「人間やめたったwwwww」2
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1342100712/

適当にhtml化依頼出すので、残りの12レスは好きに書き込んでいただいてOKです。

今日はここまで。
連休は家を開けるので、次の更新は水曜になると思います。
989 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/12(木) 22:59:51.18 ID:w/AUvWtIO
おつ
990 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/07/12(木) 23:07:50.43 ID:7AtnwQluo
乙梅
991 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/13(金) 01:01:46.60 ID:IbzrgkJAo
梅乙
992 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/13(金) 07:27:35.22 ID:px5Qbs+/o
乙梅
993 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/13(金) 07:50:28.44 ID:B9geSkMSO
わしの梅サワー
994 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2012/07/13(金) 07:52:56.43 ID:TDlrLtxAO
乙。
995 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2012/07/13(金) 10:20:12.63 ID:ftA45hdRo
おつです
ぬこの活躍に期待
996 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/07/13(金) 11:44:53.91 ID:0TwSRc/zo
>>1000なら禁煙する
997 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/13(金) 13:13:06.28 ID:vyJKjJoEo
○○やめますか?
それとも、人間やめますか?

女「人間やめたったwwwww」

みたいなスレかと思っていたオッサンです
998 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/13(金) 14:44:18.20 ID:Vx2unN8bo
>>998なら禁煙する
999 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/13(金) 14:51:55.57 ID:05qXdo14o
1000 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/07/13(金) 14:54:11.52 ID:+JqbkxjD0
1000!
1001 :1001 :Over 1000 Thread
☆.。 .:* ゜☆.  。.:*::::::::::::::::゜☆.。. :*☆:::::::::::::::::: 。.:*゜☆.。.:*
:::::::::::::=:。.: *  ・゜☆  =:☆.。 .:*・゜☆.  。
:::::::::::::::::::::::::.:*゜☆  =:. :*・゜☆.::::::::::::☆
。.: *・゜☆.。. :* ☆.。:::::::::::::::.:*゜☆  :。.:・゜☆.。
::::::::::::::::: *=@☆.。::::::::::::::::::::::::::::::.:*・゜☆    =磨K☆.。
:::::::::::::::::::.:*・゜☆  :. :*・゜☆.::::::::::::::::::::::::::゜☆.
:  =: :   *  ゜☆.。::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
☆.。 .:* ゜☆.  。.:*::::::::::::::::゜☆.。. :*☆:::::::::::::::::: 。.:*゜☆.。.:*
:::::::::::::=:。.: *  ・゜☆  =:☆.。 .:*・゜☆.  。
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   ::  !ヽ  :
   :     !ヽ、    ,!  ヽ
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   :   / ´`)'´    _      !、
            lヽ /   ノ    , `     `!:
       lヽ、  /  Y    ,! ヽ-‐‐/          l
.     =@>‐'´`   l   ノ   ヽ_/          ノ:
      ,ノ      ヽ =@           _,イ:
    '.o  r┐   *   ヽ、 ヽ、_     ,..-=ニ_
    =@   ノ       ノヽ、,  !..□ /     ヽ
     ヽ        .ィ'.  ,!    ハ/    、   `!、    七夕に…
      `ー-、_    く´ =@    /     ヽ  
         ,!     `!  l              ヽ、__ノ    このスレッドは1000を超えました。もう書き込みできません。
         l     `! `! !              l
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1002 :最近建ったスレッドのご案内★ :Powered By VIP Service
上条「腹減った」 @ 2012/07/13(金) 13:25:11.16 ID:P44t9AFIO
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P「星井美希は静かに暮らしたい」 @ 2012/07/13(金) 10:13:46.82 ID:uLB9R90/0
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彼女が拒食症で辛い @ 2012/07/13(金) 09:44:10.51 ID:i6hSmoeso
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男「幼馴染殺すか」 @ 2012/07/13(金) 09:31:20.74 ID:6tZxaNd/0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1342139480/

わたし万物百不思議 @ 2012/07/13(金) 06:55:22.13 ID:ifsteHAFo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1342130121/

干物型にぼしレーネ @ 2012/07/13(金) 03:18:07.23 ID:oUD4RAUko
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19歳女子大生に押し倒されたったwwwww @ 2012/07/13(金) 03:05:34.05 ID:eQCQj8Txo
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安価で絵を描く @ 2012/07/13(金) 01:47:51.94 ID:UN9T49zw0
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