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女「羊羮?」男「洋館ですよ、先輩」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆Oamxnad08k :2011/09/17(土) 01:08:29.64 ID:MIMZ2stAO
-とある田舎駅のホーム-

雪が薄く積もったホームに男女一組が立っている。
そして凍えかけていた。

男「……」

女「……」

老車掌「おや。あんたたちは観光客かい?」

男「……いえ。仕事です」

女「……」

老車掌「そうかい。まあこんな真冬はせいぜいスキー客ぐらいだなぁ、はっはっは」

男「ははは」

女「………」

老車掌「ところでお客さん達。何分そこで待っとるんだい?」

男「十五分ですね」

老車掌「そうかい。ここらは格別に寒いから大変だろう」

男「はい」

女「………」
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二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
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佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713966248/

全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
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笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
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トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
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【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
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2 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/17(土) 01:09:51.72 ID:MIMZ2stAO

老車掌「ところで、この山に囲まれた町と外の町を繋ぐトンネルがあるだろう?」

男「ありますね。確かそこしか外の町へ行く道がないとか」

老車掌「よく知っとる。そのトンネルがつい二十分前に急な雪崩で埋まってしまってね」

男「…車用兼電車用のトンネルが?」

女「………」

老車掌「そう。ずいぶんとまあすごい雪崩で、元通りになるにはあと三日かかるんだよ」

男「………………」

女「………………」

老車掌「だから、お客さんがたがいくら待っても電車は来ないよ」
3 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/17(土) 01:11:31.86 ID:MIMZ2stAO
女「……早めに、早めに言ってほしかったです」

男「先輩……。あれ、唇が紫になってません?」

老車掌「はっはっは、このままいくとお嬢さん冷凍してしまうかもね」

男「…はは、そうですね。はははは」

男(ちょっとだけ殺意が沸いた。ちょっとだけ)

女「うふふ…凍った私もよろしくね」

男「落ち着いてください」

老車掌「ちょうどストーブにかけたヤカンのお湯も沸騰してるだろうし、何か飲んでいくかい?」

男「…いいんですか?」

老車掌「元はといえば早めに言わなかったこちらの責任だしねぇ。
お客さんがたが改札を通ったときに言えばよかったね」
4 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/17(土) 01:14:32.48 ID:MIMZ2stAO
男「改札通ったときって、その時には連絡来ていたんですね…」

老車掌「ああ。なのに忘れてたよ、すっかりわしもボケてしまったなぁ」

男(くっ、鎮まれ、俺の右腕……!)

男「はぁ………。あの、俺はともかく彼女に何か温かいものをお願いします」

老車掌「いやいや、若いもんが遠慮しちゃいけない。おいで」

女「いちまいにまいさんまい…銀のエンゼルが集まらないよ……」

男「先輩!? 寝ないでください! 寝てはいけません!」

老車掌「金のエンゼル腐るほど当てたなぁ、はっはっは」

男「チョコボールでその口塞ぎますよ!?」
5 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/17(土) 01:16:59.42 ID:MIMZ2stAO
-車掌室-

女「生き返った……暖かい……」

男「まさか先輩がそこまで寒がりだとは思いませんでした」

女「女の子は寒さに弱いものなのよ」

男「はぁ」

老車掌「ところでお二人はなんのお仕事で?」

女「…依頼人に頼まれたため守秘義務があるのでお答えはできません」

老車掌「ほう。ずいぶんと厳しい依頼人がいるもんだ」

女「内容はとんでもなくくだらないのですが…お金を貰っている以上は」

老車掌「はっはっは、真面目だね」

男「あ、そうだ。ここら辺に宿泊施設ありませんか?」
6 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/17(土) 01:17:46.95 ID:MIMZ2stAO
老車掌「ん? お客さんがたが昨日泊まったところじゃダメなのかい?」

女「今日チェックアウトしてしまいましたし、それにずっと満員状態らしくて」

男「交通機関が麻痺したとなればしばらく皆そこに留まると思います」

老車掌「ふぅむ……あるにはあるんだが……」

女「?」

老車掌「ほら、そこに窓からギリギリ見える建物があるだろう?」

女「西洋風の、この町にはあまり合わない造りですね」

老車掌「いわゆる洋館というものだよ」

女「羊羮?」

男「洋館ですよ、先輩」
7 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/17(土) 01:20:06.97 ID:MIMZ2stAO
女「冗談で言ってみただけよ」

男「そうですか」

老車掌「あれも一応は宿泊施設なんだが……おすすめはしたくないなぁ」

女「何かあったんですか?」

老車掌「つい十年前の話だが」

女(ついってレベル…なのかしら)

男(俺がやっと物心ついたぐらいか…)

老車掌「あの洋館が建ってからというもの、女性が時おり行方不明になるようで」

女「行方不明…」

男「……」

老車掌「もしかしたら館主が何か関わってるのではないか――と噂がある」

女「へぇ……」

老車掌「ま、こんな小さな町だから偏見や尾ひれのついた噂が流れてるわけで」

男「…そうなんですか」
8 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/17(土) 01:21:54.28 ID:MIMZ2stAO
老車掌「まあ、もしあそこに行くなら気をつけろってことさぁ。老いぼれからの忠告だ」

女「分かりました。ありがとうございます」

男「さて、暗くなる前に宿探さないと」

女「そうね。お茶、ごちそうさまです」

男「ごちそうさまです」

老車掌「いやいや、外の人間と話せて楽しかったよ。また三日後かな?」

女「早めに復旧しているといいんですけどね。では、しばしのさよならです」

老車掌「見つかるように幸運を祈るよ」

カチャン

老車掌「――厄介なことに巻き込まれないといいんだが…」

老車掌「ん。天気が崩れてきたな……」
9 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/17(土) 01:24:55.23 ID:MIMZ2stAO
-町の大通り-

女「……今のところ全滅か、ホテル」

男「他の人たちも大変ですね、足止めを食らうなんて」

女「そうねぇ。子供連れの家族とか一番大変じゃない?」

男「ですね」

女「それにしても、この町の人は出不精なのかしら。全然人がいない」

男「寒いからなのか、それとも車掌さんの言っていた例のことからなのか…」

女「どうでしょうね。出来れば前者を望むわ」

男「!」

女「どうかした?」

男「……先輩、少し下がってください。車が来ます」

女「うん?」
10 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/17(土) 01:28:53.17 ID:MIMZ2stAO

キィッ

男(ワゴン車か――外側からは中が見えないつくりになっているな)

ガチャ

車から出てきた女「あら。あなた方、観光客ですの?」

男「…はい。そのようなものです」

女(わざわざそれを聞くために止まったらわけじゃなさそうね)

車から出てきた女「泊まるところは確保できましたかしら」

女「……そちらのご想像に任せます」

車から出てきた女「ふふ。あなた方は泊まるところを探しているみたいですね」

女「ええ、まあ。ところであなたは?」

車から出てきた女「まあ、挨拶が遅れましたわね。困ったものですわ」クスクス

車から出てきた女「わたくし、あの洋館のオーナーです」

女「あそこの、オーナーさん…?」
11 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/17(土) 01:31:36.70 ID:MIMZ2stAO
車から出てきた女「泊まるところがないなら、わたくしの所に泊まりますか?」

男(…それを言いに来たと考えて間違いなさそうだな)

ふいに、女が男の袖をくいくいと軽く引っ張った。
そして彼の耳元でほとんど口を動かさずに囁く。

女「仕方がないわ、泊まりましょう」

男「先輩?」

女「あれは『お願い』されてないわ。『強制』されているのよ」

男「……そうしましょう」

今この場では逆らわないほうが吉と判断する。
小声での会議が終わり、女はにこりとオーナーを名乗る女に笑いかけた。

女「お願いします」

12 : ◆Oamxnad08k [sage]:2011/09/17(土) 01:33:59.75 ID:MIMZ2stAO
こんばんは。
こんな感じで書いていこうと思います。

尚、各登場人物に名前がつきます。
苦手な方はご注意ください。
13 : ◆Oamxnad08k [sage]:2011/09/17(土) 01:39:13.21 ID:MIMZ2stAO
>>10 ミス

×女(わざわざそれを聞くために止まったらわけじゃなさそうね)

○女(わざわざそれを聞くために止まったわけじゃなさそうね)
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/09/17(土) 01:43:45.66 ID:zu6AIzPPo
お、立ったのか
こっちも期待だな
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2011/09/17(土) 08:05:34.77 ID:cGDFRVjd0
期待です
電車が来ないのに車掌が駅にいるのにはちょいと違和感
16 : ◆Oamxnad08k [sage]:2011/09/20(火) 00:32:28.84 ID:4z/2RHkAO
>>8 またミス…

×老車掌「つい十年前の話だが」

○老車掌「つい二十年前の話だが」
17 : ◆Oamxnad08k :2011/09/20(火) 00:33:39.09 ID:4z/2RHkAO
-車内-

ガタガタ

女「町から少し離れているんですね」

女(車で三十分走ってる時点で、少しどころじゃない気がするけど)

館主(車から出てきた女)「ええ。主人があの土地にどうしてもと洋館を建てたがったので」

女「主人? とすると、共に運営を?」

館主「もう五年かそのぐらいに亡くなりました。…不慮の事故で」

女「…すいません」

館主「いいえ、いいですの。お客さんが来てくださるお陰でわたくしは寂しくありませんから」

女「そうですか…」

18 : ◆Oamxnad08k :2011/09/20(火) 00:34:28.05 ID:4z/2RHkAO
館主「ところで、そちらの方は? 酔ってしまわれたのかしら」

男「はい……しゃべったらリバースしそうなので今は勘弁してください」

館主「あらあらうふふ」

女「電車とかで酔ってたっけ?」

男「揺れると駄目で――うぐ、後で話します」

女「ドンマイ……」

館主「ああ、もう着きますわ。揺れますよ」

ガタッガタタッ

女「え? わあっ」

男「とどめ!?」
19 : ◆Oamxnad08k :2011/09/20(火) 00:39:06.57 ID:4z/2RHkAO
-ロビー-

女「ほぇー…元からホテルというより、ホテルに改造した感じね」

女「フロントもないし…屋敷をそのままホテルにした感じ」

男「そうですね。ああやっと吐き気が収まった」

女「宿泊代は帰りに払うのがここ流みたい」

男「へえ」

女「あと大幅に値引きしてくれるとか。何故か」

男「上手い話すぎる気もしますが、好意は受け取っておきましょう」

女「そうね。…はあ、しかし外見に劣らず中身も豪華ね」

男「自分の家と比べたらキリがありませんよ」

女「あ、誰か来た」
20 : ◆Oamxnad08k :2011/09/20(火) 00:41:31.00 ID:4z/2RHkAO
青年使用人「お待たせしました。お部屋へご案内いたします」

頭を下げる青年。年齢は十代後半ぐらいか。

男「どうも」

青年使用人「お荷物はお持ちいたしますか?」

男「いえ、いいです。先輩は?」

女「キャリーケースだし軽いし、自分で持っていけます」

青年使用人「分かりました。では、ついてきてください」

階段を上る。
エレベーターのような便利なものはないらしい。

女「……答えたくなかったら答えなくてもいいんですが、」

青年使用人「僕に敬語や丁寧語は使わなくて構いませんよ」

女「そうですか? じゃあ普通に話すけれど…これらは全てあのオーナーさんの趣味、かしら」
21 : ◆Oamxnad08k :2011/09/20(火) 00:46:17.65 ID:4z/2RHkAO
女の視線の先は、斧、太い針や大きな鋏類。
暗い色で描かれた少し不気味な絵画。
などなど、廊下を照らす柔らかい光とは対象的なオブジェが並んでいた。

青年使用人「はい。奥さまの趣味です」

女「ふぅん。お花とか好きそうなイメージだったけど意外ね」

青年使用人「僕は、あまりいい趣味とは思えませんけどね」

女「……?」

男「……」

どことなく声のトーンを低くした彼に女は首を傾げる。
その後ろで男は何かを確かめるようにポケットを触った。
22 : ◆Oamxnad08k :2011/09/20(火) 00:47:56.81 ID:4z/2RHkAO
-二階、203号室-

青年使用人「こちらの部屋です。この鍵で開けてください」カチャリ

女「おおっ、綺麗な部屋」

青年使用人「何かご用があれば備え付けの電話で遠慮なくお申し付けください」

女「案内ありがとう」

青年使用人「夕食は宿泊客と奥さま全員で食べるしきたりになっておりますがよろしいですか?」

女「なるほど。ええ、そちらのしきたり通りに」

青年使用人「それでは、またお呼びいたしますのでそれまでごゆっくり」ペコ

パタン

女「ふぅ…なんだか丁重にされると疲れるわね」
23 : ◆Oamxnad08k :2011/09/20(火) 00:49:22.91 ID:4z/2RHkAO
男「先輩って料理店でも落としたナイフを自分で拾うタイプですよね」

女「えっ? 自分で拾うもんじゃないの?」

男「…いや、なんでもないです」

女「そう? ところでさ、これどう思う?」

男「すごく…大きいです…」

女「ね…。とても一人用のベッドじゃないよ…」

男「というかベッドが一つしかありませんね」

女「……もしかしたら何かの間違いで一人部屋になったのかしら」

男「でも備え付けの椅子は二個ありますよ」

女「……」

男「……というより、本来こういうベッドは二人用なんです」
24 : ◆Oamxnad08k :2011/09/20(火) 00:51:10.53 ID:4z/2RHkAO
女「そうなんだ……世間知らずね、私」

男「……ええと、嫌なら俺床で」

女「その必要はないわ。ちょっと混乱してるだけよ。うん、そうよ」

男(不思議な人だな…)

女「」チッチッチッポーン

男(なんだ今の音は)

女「あのさ…優しくしてね?」

男「何考えてたんですか。絶対にまだ混乱してますよね?」

女「してたわ。落ち着きなさい私…」スーハー

男「…まあ、二人で来たからそういう関係だと思われたんでしょう」

女「でしょうね。間違いではないけど」

男(あちらさんが思うほど進展してないっていうとかは言えないな)
25 : ◆Oamxnad08k :2011/09/20(火) 00:56:16.92 ID:4z/2RHkAO
女「さて問題のベッドは…おう、柔らかい。このベッド」ふかふか

男「体も冷えましたし、呼ばれるまでゆっくりしましょう」ぼふん

女「最近立ち仕事だったもんね。あー、このまま寝ちゃいそう」

男「今寝ると夜困りますよ。目が冴えて」

女「そっか。じゃあなんか適当にお喋りしよう」

男「はい」

女「…で、どう思う? あの置物たち。あと絵」

男「いきなりそれですか」

女「タイムリーかつ謎じゃない」
26 : ◆Oamxnad08k :2011/09/20(火) 00:57:32.98 ID:4z/2RHkAO
男「そうですけど。あれは彼の言う通りあまりいい趣味ではありません」

女「私もそう思うわ。なんだかおどろおどろしいし」

男「あれら全部、中世の拷問器具です」

女「うげ」

男「飾られてた絵画はもう一度よく見ないと分かりませんが、拷問風景でしょう」

女「怖っ!?」

男「集めるだけが趣味ならいいんですけどね」

男(様子見だな。警戒だけはしとくか)

女「うわぁーそんなの見ると寝れなくなっちゃうじゃないー」

男「部屋出るときは下か上みるしかないですね」

女「首が痛まないといいわね…」
27 : ◆Oamxnad08k :2011/09/20(火) 00:59:20.16 ID:4z/2RHkAO
男「そうだ、ここカーペット引いてありますよね」

女「ふわふわのやつね」

男「あの赤い色は一体なに?」

女「!? だ、だったら上を」

男「上をみたら血天井だったりとか」

女「ぎゃー!! なんてこと言うのよバカー!!」

男「冗談ですよ先輩。まさかそこまで愉快なちょギブギブギブすいませんすいません」

女「私、世にも奇妙な物語とか一人で見れないのよ!」

男「視界が! 視界がブラックアウトしちゃう!」

女「ぜぇはぁ…これに懲りたら変なこと言わないでね…」

男「了解です……」

こんこん

女「あれ? さっきの子かしら。はーい」ガチャ
28 : ◆Oamxnad08k :2011/09/20(火) 01:00:56.29 ID:4z/2RHkAO
ワンピース女「すいません、騒がしいのでもう少し…」

女「あう、ごめんなさい。ついつい騒いじゃって」 ←顔が赤い

男「……」 ←息も絶え絶え

ワンピース「失礼しました、お楽しみください」

女「ちょっと待ちましょう。あなたが思ったような出来事は起きてないわよ」

ワンピース「冬は寒いですからね、服を着ないとやってけんですよね」

女「話聞いてください」

ワンピース「でも夕方からはまだ早いんじゃないかと」

女「キン肉バスターかけますよ?」

男「先輩、旅先でそういうのはやめてください」
29 : ◆Oamxnad08k :2011/09/20(火) 01:09:06.03 ID:4z/2RHkAO
〜しばらくお待ちください〜

ワンピース「はあ、口論してたらつい手が」

女「そうですね。あと出来事だけ言うとどうもDVっぽいですね」

ワンピース「別に痴話喧嘩しようがなにしようがいいんですが。こっちにも聞こえてくるんで」

女「恥ずかしいです」

男「レオパ○ス並みに聞こえてましたか?」

ワンピース「くぐもって聞こえる感じですね。内容は分からないです」

女「壁は厚いのね。良かった」

ワンピース「まあそんなわけで、よろしくお願いします」

男「はい。大人しくします」

ワンピース「では、また後で」スッ

パタム

女「……他に宿泊客いたんだ」

男「そうみたいですね」
30 : ◆Oamxnad08k :2011/09/20(火) 01:09:55.08 ID:4z/2RHkAO
今日のぶん終了。
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/09/20(火) 01:11:11.70 ID:JGJQHUHAo
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/09/20(火) 01:37:11.13 ID:3uGCE9fko
青年ってつくとカルネ君にしか思えない…
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/20(火) 07:38:08.33 ID:HDsYzrmIO
シュヴァインとポワソンじゃないのか?
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/20(火) 09:22:03.28 ID:zH/45YaDO
とにかく作者乙。
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/09/21(水) 05:50:46.53 ID:QTOi6RhAO
タイトルでポケモンを思い出した
36 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/22(木) 18:47:51.92 ID:wY2WHArAO
〜数時間後〜

青年使用人「失礼いたします」コンコン

女「へいやっさー!」ガチャリ

青年使用人「!?」ビク

女「あ、しまった」

青年使用人「あ、あの、食事の用意が出来ましたのでお呼びしにきました」

女「ごめんなさい、つい家にいる時と同じことしていたわ…」

青年使用人「いえ、僕も驚いてしまって申し訳ありません」

女「いいのよ。驚かないのは大家さんぐらいだったから」

男「しょっちゅうそんなことしているんですか、あなたは」

女「えへへ」

男(先輩の家に行ったらこんな応対されてしまうのだろうか)

青年使用人「気を取り直して、ご案内いたします」ペコ
37 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/22(木) 18:49:42.33 ID:wY2WHArAO
-ダイニングルーム-

青年使用人「ここです」

女「わお。他の部屋と負けず劣らずゴージャスね」

男(さっきのワンピースの人と合わせて六人が既にいる…グループか?)

男「そうですね。…ん?」

青年使用人「どうなされました?」

男「ああ、あそこでオーナーと話してる人は誰かと思って」

青年使用人「僕たち使用人の頭で、奥さまの付き人です。執事さんですね」

女「へぇ。執事って忙しいのよね」

男「だからか分かりませんが、ずいぶんガタイがいい身体つきですね」

青年使用人「てきぱきしている方ですよ。それに体力もあります」

女「ケンカしたらひとたまりもなさそう」
38 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/22(木) 18:51:00.84 ID:wY2WHArAO
青年使用人「やめてくださいね」

女「ふふ、冗談よ」

館主「あら、来ましたのね。どうぞお掛けになって」

女「ありがとうございます」

青年使用人「どうぞ」スッ

女「お、おう、どうも」ドキマギ

男(確かにイス引かれるのはあんまないもんな)

女が座るのを見計らって、今度は男の席を引いた。
青年に礼を言って座る。
こっそり女が男に耳打ちする。

女「……ねえ、あのさ」

男「…どうしました?」

女「わたしこういうマナーとかさっぱりちょんなの」
39 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/22(木) 18:53:43.03 ID:wY2WHArAO
男「まずフォークを左にナイフを右に持つのはいいですか?」

女「うん」

男「で、主人がナプキンを取ったら俺らもとるんです」

女「それで、ナプキンはどこに置くの?」

男「膝の上にです」

女「ふむふむ」

緊張した面持ちでテーブルに向かい直る。
微笑ましく見守ることにした。

館主「さ、皆さん集まりましたね――親交の和を広げる為に自己紹介でもしていきましょうか」

男(親交の和を広げる理由ってなんなんだろうか)

女(修学旅行みたいなノリね)
40 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/22(木) 18:54:12.29 ID:wY2WHArAO
館主「わたくしはエリザートと申しますわ」

眼鏡「じゃ、次はオレだな。ドールだ」

ピアス「ぼくはウォンみたいな?」

兄「ポンド。こっちは妹のクローネ」

妹「も、もう! お兄ちゃん!」

ワンピース「相変わらずねー…フランです」

マフラー「…………ユロ」ぼそぼそ

ワンピース「ユロちゃん、もっと大きな声で話さなきゃ」

マフラー「………ごめん」ぼそぼそ

女「ポワソンです」

男「………。…シュヴァインです」

執事「ナーダでございます」
41 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/22(木) 18:57:27.76 ID:wY2WHArAO
青年と他の使用人は黙ったまま。
どうやらこちらから聞かない限りは名乗らないようだ。

館主「さあ、お腹も空きましたし、晩餐を始めましょう」

それを合図に、料理が運びこまれてくる。
この日はテット・ド・ヴォーのステーキを中心にした料理だった。

女「……日常に戻れるかしら、こんなの食べて」

男「食べても豚になりはしませんよ」

女「やばいわ…ファミレスのステーキで幸せ感じていた頃に戻れるかな」

男「……先輩って貧乏性なんですか?」

女「そうかもね……」
42 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/22(木) 18:59:40.57 ID:wY2WHArAO
-夕食後-

テーブルに残るのは男女二人。
後は部屋に戻ってしまった。どうやらグループらしい。

女「紅茶おいしい。ダージリンと何かをブレンドしてるみたいね」

男「へぇ。俺はあまり紅茶を飲まないので分かりません」

女「シュヴァイン君って普段はコーヒーしか飲まないもんね」

男「身体に悪いとは分かっているんですけどやめられないんです」

青年使用人「失礼します、食器をお下げいたします」

女「お疲れさま。――そういえば、あなた名前は?」

青年使用人「僕ですか? トレフルです」

女「トレフルくんね。覚えたわ」
43 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/22(木) 19:00:10.64 ID:wY2WHArAO
男「他より若く見えるけど、何かここの人と繋がりがあるのか?」

青年使用人「いいえ。とある事情で家にいれなくなったので…」

男「…そうか。悪かったな、そんなこと聞いて」

青年使用人「いいえ。お気になさらず」

女「ごちそうさま。美味しかったわ」

男「ごちそうさま」

館主「あら。食べ終わりました? もっとゆっくりでもよろしいのに」

女「片付けを延ばさせるのは心苦しいので…」

館主「そうですか。では部屋でもごゆっくり」ニコ
44 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/22(木) 19:01:02.22 ID:wY2WHArAO
女(絶対何か期待されてる)

男(絶対何か期待されてる)

エリザートとすれ違う。
その後、ふとシュヴァインが立ち止まった。

男「あれ…?」

女「どうかした?」

男「いや、今一瞬匂いがした気がして」

女「匂い? 私は特に感じなかったわね」

男「ならいいです。多分思い違いとかです」

女「自分の感覚もっと信じなさいよ。私が間違ってるかもしれないんだし」

男「むしろ間違いであって欲しい匂いなので…」

女「?」
45 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/22(木) 19:01:38.48 ID:wY2WHArAO
-203号室-

女「シュヴァイン君は相変わらず名前を言うのは苦手なのね」ぼふん

男「苦手というか、知らない人間に名乗るのが嫌なだけですよ」

女「知らない人間だからこそ名乗るんじゃないの?」

男「そうなんですけどね…。多分ひねくれてるんでしょうね俺」

女「ひねくれてるのは前から知ってたわよ」

男「知ってたんすか……」

女「しかし、結構いたわよね。宿泊客」

男「ですね」

女「てっきり私たちだけとか思っちゃった」

男「静かすぎましたからね。誰もいないとかいってませんでしたしそういえば」

46 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/22(木) 19:03:20.82 ID:wY2WHArAO
女「いつから客がいないと錯覚していた?」

男「なん……だと……!?」

女「カレーを入れて食べるのは?」

男「ナン……だと……!?」

女「っしゅん! うう、ごめん先にシャワー浴びてくる」

男「はい。そっか、部屋の中にシャワールームあるんでしたよね」

女「覗かないでね」

男「はは、そんなことしたら命が幾つあっても足りないですよ」

女「ふふ、そうね」

ガチャ パタン

男(…雪が降ってきたな。今夜はもっと冷えそうだ)

男「……」スンスン

男「俺の匂いじゃねえな…そもそも身に覚えないし」


男(あの時血の臭いがしたのは俺の気のせい、だよな…?)


47 : ◆Oamxnad08k :2011/09/22(木) 19:08:38.05 ID:wY2WHArAO
今日は終わりです。
ちょっと補足。

眼鏡「」→ドール「」
ピアス「」→ウォン 「」
兄「」→ポンド「」
妹「」→クローネ 「」
ワンピース「」→フラン 「」
マフラー「」→ユロ 「」

と、一見誰か分からなくなるので名前を先頭につけます。
ポワソンとかはそのまま女、男表記のままですが。
ぶっちゃけそのままでもいいのかな?
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/22(木) 19:15:34.37 ID:Fg3aXiWDO
乙!!
そのまんまでいいんじゃない?
支障は無いだろうし
49 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/23(金) 21:58:42.38 ID:A6jNvWjAO
プルルル…

同僚『お電話ありがとうございます。こちら――』

女「もしもし、ライスちゃん?」

同僚『なんだ、ポワソン? そっち電車動かないんだって?』

女「そう。だからしばらく帰れなさそう」

同僚『了解。仮に急を要する依頼が入ったら回しちゃうし』

女「うん、ごめんね」

同僚『いーよ。それよりシュヴァイン君とお熱い夜を、ね?』くすくす

女「な、何言ってるのよもうっ!」

同僚『あはは、ごめんごめん』

女「全く…」
50 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/23(金) 21:59:34.88 ID:A6jNvWjAO
同僚『あ、あとあなたの弟が禁断症状起こしていたんだけど…』

女「カルネ君が?」

同僚『「姉さんとあいつを一緒の部屋に寝かせてたまっかー!」とか騒いでた』

女「おおう……」

女(超能力者だったりするのかしら、私の弟)

同僚『で、うるさいから今さっき〆ちゃったんだけど平気かな』

女「カルネ君はちょっとしたことじゃ死なないから大丈夫よ」

同僚『ピクリとも動かないんですが…』

女「10分たったら再起動するわよ」

同僚『あんたの弟はパソコンの類いか』

女「駄目だったらカスタマーセンターに連絡してね」
51 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/23(金) 22:00:09.14 ID:A6jNvWjAO
同僚『どこだよカスタマーセンター!』

女「まあ、起き上がらなかったら適当に辛いものでも食べさせてあげて」

同僚『辛いもの好きなの?』

女「大嫌いよ」

同僚『鬼畜だ。このお姉ちゃん鬼畜すぎる』

女「今人気の川越シェフのキムチでも食べさせたら?」

同僚『なんでその人が出てくるんだ。まあ分かった、なんか食べさせてみる』

女「しかしこんな時間にそっちにカルネ君いるなんて珍しいわね」

同僚『クッキー作りすぎたからって差し入れに来てくれたの』

女「家庭的だなぁ……」
52 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/23(金) 22:01:24.11 ID:A6jNvWjAO
同僚『ほんと婿に欲しいわ』

女「あなたには許嫁いるでしょうよ」

同僚『まあね。ついでになにかカルネ君に連絡しておくことはない?』

女「んー、無茶なことはするなぐらいかな」

同僚『へいへい。あ、そうだ』

女「なんじゃらほい」

同僚『ちょっと調べてみたんだけど、そっち行方不明者が多いっぽいから気をつけてね』

女「ふーん……。それ聞くの二度目だなぁ」

同僚『そうなの?』

女「うん、駅員さんに電車がこないって話とセットで聞いたんだ」

同僚「…駅員? ともあれ気を付けなさいよ」

女「任せなさいって」
53 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/23(金) 22:02:37.21 ID:A6jNvWjAO
同僚『あんたがいうと不安があるなー』

女「えーひどい、なにそれ」

(後ろの声)『お姫さまを目覚めさせるのには突っ込むしかないよね!』

同僚『……後ろで所長が変なこと言ってるから〆てくるわ』

女「ファイトー。私の弟をよろしくねー」

同僚『あいさー。うわー!脱がすな脱がすな!やめなさい!』バタンバタン

ブチ プープープー

男「ライス先輩と電話してたんですか?」

女「お風呂あがったのね。うん、ついでにカルネ君の貞操もやばそう」

男「……はあ、またですか所長は」

女「懲りないわね」

男「本当に」
54 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/23(金) 22:05:35.28 ID:A6jNvWjAO
男「でも意外ですね」

女「なにが?」

男「普通、こういう所は電波が悪いとかあるじゃないですか」

女「気にしなかったけど言われればそうね。多少ノイズはあったけど」

男「小説じゃあるまいし現実に電話が繋がらないとかはないでしょうけどね」ハハハ

女「そうね」フフフ

コンコン

女「あれっ、誰かしら」ガチャ

妹「あ、こんばんは」

女「こんばんは。何か……?」

妹「皆で今、ゲームしていて、あなた達もどうかなって思いまして」
55 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/23(金) 22:07:40.54 ID:A6jNvWjAO
女「私たちが行ってもいいのかしら?」

妹「はい、ぜひ!」

男「…部屋にこもっていても暇ですしね」

女「じゃあそちらに行かせてもらうわ」

妹「分かりました。201号室ですよー、では」トタトタ

パタン

女「と、いうことらしいわ」

男「これは親交の和とかいうもののお陰なんでしょうか」

女「さあね。ま、呼ばれたからには行きましょうか」

男「はい」

女「しかしあの子ピチピチね。まだ二十歳ぐらいかしら」チッ

男「嫉妬しないでください」

56 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/23(金) 22:12:04.62 ID:A6jNvWjAO
-201号室-

女「お邪魔します」

男「…お邪魔します」

ワンピース「あ、来た来た」

マフラー「………どうも」

ピアス「やっぱよー、みんなで遊んだら楽しいみたいな?」

女「でも八人じゃ人生ゲームとか囲碁とか出来ないんじゃないですか?」

男「何故人生ゲーム」

兄「囲碁ってどう考えても三人以上で遊ぶゲームじゃないよな」

妹「お兄ちゃんとわたしならちょうどいいね!」ダキ

兄「おい引っ付くなよ」

女(お熱い仲で)

眼鏡「カードカード。ほら、ポピュラーなトランプだ」

マフラー「………ババ抜き」

女「確かにポピュラー」
57 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/23(金) 22:14:23.80 ID:A6jNvWjAO
妹「でもさ、ただやるだけじゃつまんなくない?」

眼鏡「じゃあどうよ、負けたら一枚ずつ脱いでくってのは」

兄「鬼畜だ!? 脱がし麻雀じゃないんだからよお…」

妹「お兄ちゃん今度麻雀しない?」

兄「えっ?」

女「うーん……私の裸体とか誰得なのよ……」

男「……」

ピアス「もちろんそっちの兄ちゃんも参加するみたいな?」

男「……いいですけど」

ワンピース「いやぁ、やめたほうがいいんじゃ…」

男「ただし条件を」

眼鏡「条件?」

男「女性の参加は無しってことで。男達で楽しみましょうよ」ニヤァ

女「おっ」

マフラー「………ふむ」
58 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/23(金) 22:17:26.09 ID:A6jNvWjAO
眼鏡「お……おう、望むところだ」

ワンピース「」ホッ

妹「」ホッ

ピアス「じゃあカードくばる的な」シュッシュッ

眼鏡(ったく…なんか苦手な奴だな)

眼鏡(いっそ丸裸にひんむいて泣き顔を見てやりてえぜ)クックッ

男(悪人顔だな)

ピアス「配り終わったみたいな」

ピアス(よっし、ババはないや)

兄(まあまあいい感じってとこか)

男(俺の所に来たか)

眼鏡「誰からだ?」

兄「じゃあお前、シュヴァインさん、俺、ウォンの順番でいいだろ」

眼鏡「そうだな。じゃ、取るぞ」

男「………」
59 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/23(金) 22:19:44.53 ID:A6jNvWjAO
眼鏡(……他二人は落ち着いている…だからババ持ちはこいつのはずだが…)

眼鏡(どれがジョーカーなんだ……?)

ざわ……ざわ……

男「……」

ピアス「?」

兄「早くしろよ」

眼鏡(こいつポーカーフェイスすぎるだろ!?)

ざわ……ざわ……

男(顔色みてカードを取るタイプだな。……騙してみるか)

男「……」ムゥ

眼鏡(あっ、表情が崩れた。これが地雷か? じゃあこれを…)ピッ

【ジョーカー】

眼鏡「ええええええ!?」

男(ざまぁ)

女(なんと意地悪な笑み)
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/09/23(金) 22:20:57.13 ID:2ng2NJodo
表情読むとかwwwwww
かなりの手馴れでないと読み間違い、騙されるwwwwwwww
眼鏡乙wwwwwwwwww男頑張れ
61 : ◆Oamxnad08k [sage]:2011/09/23(金) 22:22:25.37 ID:A6jNvWjAO
ここまで
話が進まねええええ
カード大会は次回も続きます
誰の得にもならない男達の脱がせバトル

あと、そのまんまにしました
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/24(土) 00:17:48.76 ID:Osed4Moro
今更だけどここは日本じゃないのか?
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/24(土) 07:32:23.89 ID:GJzslayDO
乙!!
所長が居たら物凄いことになりそうだなwwwwww
64 : ◆Oamxnad08k [sage]:2011/09/24(土) 16:30:40.46 ID:1WVnyzAAO
>>62
日本をモデルにしたどっかの世界です
65 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/25(日) 23:59:26.43 ID:eNE9NYwAO
今回後半からしみったれた話です
始まるよ
66 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/26(月) 00:01:20.05 ID:MnAiWFrAO
男「……五回戦目なわけですが」

ピアス「言い方がエロいてきーら」

眼鏡「おっかしいだろ! なんでお前一枚も脱いでへっくし!」

男「なんでと言われても」

兄「いやー、ドールはパン一まであと何回だろうな」ハハハ

眼鏡「他人事だな! 人のこと言えないくせに!」

ピアス「ドールは行き過ぎというか」

兄「シュヴァインさん強いんだな。こいつあんまりカードゲームで負けたことないんだよ」

男「へえ…。そろそろネタばらしすると、俺の表情すべて嘘ですからね?」

眼鏡「やっぱりかよちくしょうめ!」
67 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/26(月) 00:04:15.22 ID:MnAiWFrAO
男「あと俺、頭脳戦ちょっと苦手で。何回かはドジってます」

眼鏡「嘘つくにも程があるだろ!」

ピアス「仲良いな」

眼鏡「良くない!」

男「まあ、運ですからね。カードは」

眼鏡「運以前に奇跡が動いているだろお前」

男「そうですかね。はいあがり」ピッ

眼鏡「むきぃぃぃぃ!!」

68 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/26(月) 00:05:26.74 ID:MnAiWFrAO
――――---

ピアス「もう一度やるみたいな?」ぬぎぬぎ

兄「よーし、じゃあドールがまっ裸になるまでやろうぜ!」

眼鏡「おいよせマジやめろ!」

男(所長いたら盛り上がっていただろうな。悪い意味で)

兄「遠慮するなよ」

眼鏡「誰だってするわ! アホか!」

ピアス「そういえば女性陣は?」

男「隣の女子用に使ってる部屋で女子会だとか」

男(先輩は馴染めているんだろうか)
69 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/26(月) 00:06:19.02 ID:MnAiWFrAO
-201号室-

女(誰だか知らないけど余計なお世話よ)

ワンピース「にじゅうごぉ!?」

女「ええ。あと大きな声で叫ばないでね? 〆るわよ」

ワンピース「てっきり二十二ぐらいかと…」

女「うふふふ」

妹「私は二十歳で、ユロさんとフランさんが二十二なんだよね」

ワンピース「で、ポンドとドールも二十二歳。ウォンだけが二十三歳」

マフラー「………そう」

女(シュヴァイン君とは近いのね。…最年長かよ私)チッ

女「今更だけどあなたたちはサークル仲間とかなの?」
70 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/26(月) 00:06:59.82 ID:MnAiWFrAO

マフラー「………大学の同人誌仲間」

女(ライスちゃんと話が合いそうね)

妹「そだ、ポワソンさんはあの人と付き合っているんですか?」

女「いきなりか」

ワンピース「この子、恋愛に敏感なお年頃だから…」

女「若いってうらやましいわ……」

マフラー「………真相は」

女「真相というか…付き合ってるけども」

妹「きゃー!」

ワンピース「ついてけない…」

妹「結婚とかは考えているんですか?」
71 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/26(月) 00:09:47.88 ID:MnAiWFrAO
女「んー……」チラ

女(シュヴァイン君が秋ぐらいにくれた指輪…)

女『これ、えっ、どういう意味でこれを?』

男『どんな意味でも。ちなみにペアリングです』

女「…どうなんだろう」

妹「えっ、指輪? 望みはありますよ! 」

マフラー「………ほう」

ワンピース「クローネちゃんは落ち着きなさい」

女「わ、私だけはズルいわよ。みんなそれぞれ話していきなさい」

ワンピース「修学旅行みたい」

マフラー「………二次元にしかいない」

妹「ではわたしからで」
72 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/26(月) 00:10:36.36 ID:MnAiWFrAO
女「あら、何かしら最年少」

ワンピース「最年少て」

妹「わたしお兄ちゃんが大好きなんです!」

女「……」

マフラー「……」

ワンピース「……」

女「……は、はあ」

妹「なんでお兄ちゃんと血が繋がってるんでしょうねだからあれやこれやできないのにでも困難があればあるほど燃え上がるというか愛が止まらないというか」

女(端から見ると私もこんななのかしら…)

マフラー「はぁ……気にしなくていい」
73 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/26(月) 00:11:37.54 ID:MnAiWFrAO
ワンピース「すいません、この子重度のブラコンで」

マフラー「……しばらくは一人舞台」

女「そうなんだ…」

ワンピース「……」

女「あなたはいないの? 好きな人」

ワンピース「えっあっ……」

女「何よー言っちゃいなよー」

マフラー「………ノリがおばさん」ボソッ

女「ん?」

マフラー「いいえ何も」

ワンピース「わたしもあの子と同じで……でも、彼女との関係も壊したくないし…」ボソボソ

マフラー「………引っ込み思案」

女(つまりこういうことね)

ワンピース→兄←妹

74 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/26(月) 00:13:01.65 ID:MnAiWFrAO
女(複雑な関係かつ、お兄ちゃんモテモテじゃない)

マフラー「………影でこっそりアピール」

ワンピース「無理無理!」

きゃいきゃい

女「………」

女(ここは、眩しすぎる)

ワンピース「…どうしました? 具合悪いとか」

女「あ、ううん。なんでもないの」

妹「くちゅん!」

ワンピース「わっ」

女「あら」

マフラー「………もうこんな時間」

ワンピース「ほんとうだ、話すのは時間が早いね」

女「じゃあ私はそろそろ戻るわね」スク

ワンピース「はい、また明日」

マフラー「………おやすみ」

妹「おやすみなさい!」

女「おやすみなさい」

カチャ… パタン
75 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/26(月) 00:13:36.20 ID:MnAiWFrAO
-廊下-

ばったり

女「あっ」

男「おっ」

女「終わったの?」

男「はい。パン一までさせて満足したので」

女「…シュヴァイン君ってSだよね?」

男「どうでしょう? あまり自覚したことはないのですが」

女「いいえ、絶対Sよ。私が保証する」

男「保証されても……」
76 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/26(月) 00:14:03.73 ID:MnAiWFrAO
-203号室-

男「22、23、」

女「腹筋? 腹筋スレでも見たの?」

男「違います、よ。26、日課です。27、」

女「体力維持って大変なのね」

男「そう、ですね。31、32、損はありませんし」

女「強いのにまだそれ以上強くなるつもりなの?」

男「上には上が、42、いるんです、43」

女「そういうもんかぁ」

男「はい」

女「…………」

男「52、53、54……」

女「…………」

男「60、ふう」

女「…………」

男「沈黙の冬ですね」

女「寒いわ、冬だけに」
77 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/26(月) 00:15:14.29 ID:MnAiWFrAO
男「ギャグは苦手で。何かあったんですか?」

女「人と触れ合いすぎて疲れたのよ」

男「先輩……」

女「こんなんじゃあカルネ君のこと笑えないわね…」

男「先輩……」

女「友情に疑いがないのよ、あの子たちは。私には眩しすぎた」

男「……?」

女「汚い人間関係見てきたから、尚更にね」

男「職業柄仕方ありませんよ。それは」

女「そうね。…ぶっちゃけあの子たちが羨ましくて」

男「でも、先輩」

女「『均等な物はいつか崩れる』。昔のあなたの口癖だったわね」
78 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/26(月) 00:16:22.24 ID:MnAiWFrAO
男「うわ懐かしい。口癖というほど口に出してはいませんが」

女「そうだっけ?」

男「言いたいことはその通りでしたが――完璧なものは脆いんですよ」

女「うん」

男「富も名誉も友情なんかも完璧すぎては駄目なんです」

男「何か増えたり欠けたらあっというまに崩れてしまう一番不安な形ですから」

女「そうね」

男「言いたくはないですが、彼らもイレギュラーが入れば崩れてしまうでしょう」

女「ええ…多分ね」

男「でもそこまで気にすることはないですよ。遠い未来のことでしょうし、」

女「なにより私たちには関係ない、か」
79 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/26(月) 00:16:51.02 ID:MnAiWFrAO
男「はい」

女「シュヴァイン君はさ、私たちの関係はいつか崩れるとか思う?」

男「分かりません。完璧でしょうか、俺らは」

女「どうなんだろう。不完全だって思いたいわね、話の流れ的に」

男「人間としては不完全ですよ。――俺もあなたも」

女「…だね」

男「あ、なんか偉そうに話してごめんなさい」

女「ううん、いいのよ。こっちもしみったれた話してごめんね」

男「それにしても意外です」

女「なにが?」

80 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/26(月) 00:19:36.38 ID:MnAiWFrAO
男「先輩も悩むんですね」

女「酷っ!?」

男「さて、もう休みませんか」

女「無視っ!?」

男「どうします、お互い隅っこで寝ますか?」

女「う、うん。そうしないと心臓破裂して死ぬわ」ドッドッドッ

男「ドキドキしすぎです」

女「ドキドキしちゃうのよ」

男「枕がふかふか過ぎる。…ではおやすみなさい」モフモフ

女「おやすみなさい」

パチン
81 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/26(月) 00:24:42.09 ID:MnAiWFrAO
-ダイニングルーム-

青年使用人「〜♪」フキフキ

ワンピース「こんな夜中にまでお仕事ですか?」

青年使用人「あ、こんばんは。えっと、これは僕の役割ですので」

ワンピース「偉いですね」

青年使用人「それで、どうなさいました?」

ワンピース「少し頭が痛いので頭痛薬があったら貰いたくて…」

青年使用人「ありますよ。薬のアレルギーとかは?」

ワンピース「ないです」

青年使用人「分かりました。お待ちください」トトッ
82 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/26(月) 00:25:08.30 ID:MnAiWFrAO
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
83 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/26(月) 00:30:21.30 ID:MnAiWFrAO
青年使用人「お待たせしました、これで――」

青年使用人(――あれ? さっきまでいたのに)

青年使用人「お薬持ってきましたよー」

シーン

青年使用人(もしかして帰ったのかな)

青年使用人(そこまで遅くはないと思ったんだけど)

青年使用人(とりあえずは部屋の前に置いとこう)

使用人A「おーい、食器片付け手伝ってくれ」

青年使用人「はい、分かりました」タッタッ
84 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/26(月) 00:35:10.78 ID:MnAiWFrAO
-朝、ダイニングルーム-

女「…冗談って言って欲しいわね」

男「………」

兄「なんでだよ…なんで…」

妹「一体誰がこんな……」

ピアス「っ……」

眼鏡「クソが……!」

館主「まあ……」

執事「奥さま、お気を確かに」

青年使用人「……どうして…」ギリッ

85 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/26(月) 00:40:35.18 ID:MnAiWFrAO
その光景を一目見てシュヴァインはめまいを覚えた。

慣れている。
慣れている。
彼にとっては、それは見飽きるほど慣れている。

男「……でも」

もう見たくなんてなかった。

すっとポワソンが彼女に近寄る。
首に指を押し当てた。
瞼を開けた。
口元に頬を寄せた。
ズタズタになった胸に耳をあてた。
何度も何度も確認する。

無駄なことだと分かっていても。

ポワソンは立ち上がった。
そして振り向いて、固唾を飲んで見守る彼らに宣告する。

女「死んでいるわ」


変わり果てたフラン・シクロペンの姿がそこにあった。
86 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/09/26(月) 00:43:14.47 ID:MnAiWFrAO


一話目 「殺人事件、始まりました」




    ――二話目へつづく。
87 : ◆Oamxnad08k [sage]:2011/09/26(月) 00:43:52.47 ID:MnAiWFrAO
投下終了。
展開早いねごめんね。
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/26(月) 07:23:44.45 ID:h9rkM26DO
乙!!

登場人物揃って翌日だから、展開的には普通な早さなんじゃないかと
89 : ◆Oamxnad08k [sage]:2011/09/27(火) 21:58:57.40 ID:N2yLKanAO
女「次回予告!」


起きてしまった殺人事件
雪により屋敷は孤立状態
そして彼らの間の均等も崩れていく――

味方が敵に、敵が味方のどんでん返しどんちゃん騒ぎ
勝つのは黒魔術か、白魔術か
人類の行く先はどっちだ

女「次回お楽しみに!」

男「半分嘘じゃないですか」
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2011/10/01(土) 00:39:42.15 ID:z2rzfzXWo
追いついた
91 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/07(金) 21:05:42.31 ID:MPLWkhaAO
22:00からスタート
ちょい重かもしれない
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/07(金) 21:59:36.10 ID:cjNtQ/6IO
はい
93 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/07(金) 22:03:18.23 ID:MPLWkhaAO
-ダイイングルーム-

無言。沈黙。
彼女の死体はひとまずはシーツで覆われている。

眼鏡「………」

妹「………」

ピアス「気まず……」

マフラー「………ただいま」

妹「おかえり、どう? 気分は…」

マフラー「………まあまあ」

兄「ちくしょう……! あいつがなんで死ななきゃいけないんだ!」

ダンッとテーブルを叩く。
近くに立っていた青年―トレフルがびくりと肩を震わす。

眼鏡「落ち着けよ。これ以上混乱させるつもりか?」

兄「っ」

眼鏡「……死因だ。せめて死因だけでもしりたい」
94 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/07(金) 22:05:59.03 ID:MPLWkhaAO
そう言って腕組みをして沈黙を保っているポワソンに視線を向ける。
彼女はそれに気づくと小さくため息をついて姿勢を正した。

女「悪いけど、私に医学知識はないないわよ」

眼鏡「フランに触れたのはお前だけだ。憶測でもいい、何かないか?」

女「…胸を無数に刺されていたことによる失血死、もしくはそれに伴うショック死ね」

妹「ショック死?」

女「体内の血液の三分の一以上が失われると身体がショックを起こして死ぬことよ」

眼鏡「随分詳しいな」

女「前に弟がショック死寸前だった時があるから、その時に説明されたのよ」

95 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/07(金) 22:07:55.13 ID:MPLWkhaAO
妹「弟さんに何が……」

マフラー「………」

女「話すと二スレぐらい必要になるわよ」

男「スレってなんですか…」

眼鏡「雑談終了。話を進めよう」

女「そうね」

眼鏡「死亡時刻は大雑把に深夜。それぞれ何してたか、言っていこうか」

ピアス「じゃ、一番。寝てたみたいな」

眼鏡「ウォンが先に寝てたな」

兄「そうだな…。で、そのあと俺らも寝たんだよな」

妹「えっと、わたし達はフランさんを待ってたんですが――」

マフラー「………待ちくたびれて寝てしまった」

96 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/07(金) 22:09:14.93 ID:MPLWkhaAO
女「私も寝ていたわね」

男「シャワー浴びて寝た」

館主「わたくしはナーダと共に部屋にいましたわ」

執事「はい。奥さまと共に話をしておりました」

青年使用人「あの、僕は――」

躊躇いながら、昨日あったことを話す。

青年使用人「――その頃には、既にいませんでした」

妹「だから部屋の前に薬のビンがあったんだ」

眼鏡「…最後にフランを見たのがお前ってことか。へぇ」

青年使用人「はい」

眼鏡「さっきの話、もちろん嘘偽りないんだろうな?」

青年使用人「え、え……?」

97 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/07(金) 22:10:16.36 ID:MPLWkhaAO
完全に疑っているといわんばかりの強い口調で聞かれ、思わず口ごもる。

女「……すぐに犯人と疑うのは良くないわよ。焦る気持ちは分かるけど」

先ほどからどうもだるそうにしているポワソンが助け船を出す。

女「平静な気持ちを失ったら犯人の思う壺じゃない」

眼鏡「じゃあ、そちらさんには何か事件の手かがりとかは掴めたのか?」

苛ついているのか、ポワソンに噛みつくように質問をする。

女「ないわ、情報が少なすぎるのよ。断片的には集まったけど」

男「例えば?」
98 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/07(金) 22:12:11.32 ID:MPLWkhaAO
女「ここではない所で殺害されたこと。鋭利なもので突き刺されたこと。この二つね」

マフラー「……ここで殺害されたのではない、という根拠は?」

妹「確かに気になるかも…」

女「血の量よ」

ピアス「血の量?」

女「あそこまで深く刺さされているのに、血は僅かにしか床に流れていない」

館主「そういえば、そうですわね」

男「別のところで手を下して、ここへ運んできたと?」

女「そうなるわね。…クローネさん大丈夫? 顔色悪いけど」

99 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/07(金) 22:13:24.26 ID:MPLWkhaAO
妹「大丈夫です…少し、ショックが大きくて」

マフラー「……顔が赤い」

ユロがクローネの額に手を当てている横で、ポンドが立ち上がった。

兄「皆、なんでそんな死んだ殺されたとか平然と言えるんだ…?」

男「………」

兄「なんで心臓が止まってる彼女に触れられるんだよ」

女「………」

兄「死んでる人の側で犯人探しの議論なんて…狂ってる」

眼鏡「……」

兄「先に部屋戻ってる!」

ピアス「待て! …行っちゃった」

100 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/07(金) 22:14:52.78 ID:MPLWkhaAO
女「悪いこと、したわね」

マフラー「……フランに好意を寄せていたみたいだから」

館主「ならなおさら辛いでしょうね…」

妹「そうだったんだ……そう…」

ピアス「ありゃあ部屋に籠るみたいな」

眼鏡「そっとしといたほうがいいかもしれないな」

妹「……でもちょっと心配なので、追いかけに行きます」

女「あ、……お兄さん思いね」

男「行きすぎた愛な感じもしますが……」

101 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/07(金) 22:15:54.42 ID:MPLWkhaAO
館主「……みなさん、朝食はどうします?」

エリザートが時計を指差した。
既に朝の八時となっている。

眼鏡「こんなときこそ食べるべきだろうな」

男「それは賛成だ」

眼鏡「まずは彼女を落ち着かせてやらないと」

ちらりとシーツを見やる。
ほんのりと赤い色が滲んでいた。

102 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/07(金) 22:16:21.17 ID:MPLWkhaAO
-203号室-

遺体を屋敷の地下に一旦寝かせ、その後軽く朝食をとって解散した。
犯人かもしれない人間と同じ空気を吸いたくないという気持ちなのだろう。

女「気持ち悪い」

頭に手をやりながらポワソンが呟いた。

男「大丈夫ですか?」

女「ん……」

男「薬とかは」

女「あれ飲むと眠くなる。けど多分今夜は飲まないとね」

男「……?」

どうやら彼女は自分用に薬を持ってきたようだ。
しかし今まで薬を飲んでいるところなど見たことがない。

少し疑問に思いながらもポワソンの横に座り背中をさすった。

103 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/07(金) 22:16:47.43 ID:MPLWkhaAO
女「…ありがと」

しばらくの沈黙のあと。

女「どうやって彼女は殺されたんだろう」

思い出したようにぽろりと言った。

男「でもさっき鋭利なものでって」

女「それだけの説明で終わったら、私なら納得できないわ」

男「まあ、そうですが……」

女「杭のようなもので刺されたみたいなのよ。でもそれは何か分からない」

男「杭?」

女「そう。細い杭が何本も刺さったって感じかしら」

男「何本も、ですか」

女「だから複数犯だと考えているわけなんだけどね。行き詰まったわ」

男「どうしてですか?」

104 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/07(金) 22:17:57.35 ID:MPLWkhaAO
女「殺害される理由がないのよ。昔から恨まれていたなら別だけど」

男「そういう恨まれている風には見えませんでしたよね」

男「……それも、何本も杭を打ち込まれるほどには」

女「というかどっからその杭が持ち出されてきたのか、とかも謎ね」

女「あー、もう訳が分からないわ。さっさと自首しなさいよ犯人。なんなのよ、本当」

男「落ち着いてください先輩」

妙に落ち着きがない。
思いの外、衝撃が大きかったのかもしれない。

男「…少し寝ますか? 昼には起こします」

女「よろしく……」

結局、薬を飲むことなく彼女は眠りについた。

105 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/07(金) 22:21:51.75 ID:MPLWkhaAO
男「……」

ほんの一時、彼女の顔を眺めた後に携帯を取り出した。

とっくに警察への通報は済んでいる。
だが、

男「この吹雪で警察もここまでこれないんだっけか…」

ぼやきながらアドレス帳を開いて電話をかける。
七回目のコールで相手は出た。

女弟『はいもしもし』

男「カルネか」

女弟『電話なんて珍しい。 姉さんは?』

男「俺の隣で寝ているよ」

女弟『あ?』

男「冗談…でもないな。具合が悪くて寝てるって感じだ」

女弟『風邪引いたの?』

男「いや。落ち着いてよく聞け、バカルネ」
106 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/07(金) 22:22:49.59 ID:MPLWkhaAO
女弟『誰がバカルネだアホ。なんだよ、改まって』

男「泊まってるとこで殺人事件が起きた」

女弟『………。コナンでもいたの?』

男「いねーよ。でだ、それから先輩の様子がおかしい」

女弟『どんな風に?』

男「気持ち悪そうで、夜は薬を飲まないととか言ってたな」

女弟『……』

男「この事件で終わるかもしれんが、これから何が起きるか分からない」

女弟『うん』

男「先輩と俺にいつ何があってもいいように少しでも問題を減らしたいんだ」

女弟『なるほどね。……姉さんは何を見たの?』
107 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/07(金) 22:26:16.72 ID:MPLWkhaAO
男「後悔するかもしれないぞ」

女弟『そんなの毎日してるよ』

男「精神傷ついても知らねぇぞ。責任はとらないからな」

女弟『今さらの話だよ』

男「まあ…刺殺された女性を見たんだよ」

女弟『そうか。血は?』

男「服全体を濡らしてたって感じか。床にも微量」

女弟『……』

男「どうした」

女弟『確かに姉さんには辛いかもね』

男「は?」

女弟『トラウマだよ』

男「トラウマ…血に?」
108 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/07(金) 22:30:31.81 ID:MPLWkhaAO
女弟『血じゃない。刺殺そのものにトラウマを抱えているんだ』

男「それってどういう――」

コンコン

男「っ! 悪い後で掛け直す」

女弟『ちょっおまっ』ブチ

男「……はい」

青年使用人「あ、こんにちは」

男「確か…トレフルだっけか?」

青年使用人「はい。先ほどはどうもありがとうございました」

男「お礼を言う相手は今は寝てるよ。後で直接言ってくれ」

青年使用人「具合悪いんですか?」

男「まあな」

青年使用人「じゃあ、暖かいお茶お持ちしますよ」
109 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/07(金) 22:40:46.84 ID:MPLWkhaAO
〜数分後〜

女「」スヤスヤ

男「起きないな。冷めちまう」

青年使用人「ならもう一度入れ直しますよ」

男「悪いな」

青年使用人「いいえ。無理矢理起こすのは可哀想ですし」

ガタガタ

男「……しかし、すごい吹雪だな。食料とか平気なのかよ」

青年使用人「屋敷で野菜や鶏を育ててるので、一週間ぐらいなら」

男「やっぱり山に建ってるから考えるんだな、そういうの」

青年使用人「そうですね」

男「それで。俺らに接触してきた理由は?」

青年使用人「………」

男「今なら怒らないが」

青年使用人「……どうも、あなたには敵いそうもありませんね」
110 : ◆Oamxnad08k [sage]:2011/10/07(金) 22:42:41.69 ID:MPLWkhaAO
そんなこんなで推理ごっこスタート回でした
本格ミステリなんてできなかったんや
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/10/07(金) 22:43:42.27 ID:nkTbOvXAO
乙!
続き楽しみに待ってるよ
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/07(金) 22:49:32.88 ID:cjNtQ/6IO
続きが凄く気になる
これはいい推理ものだな
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/07(金) 23:33:59.16 ID:stYQuInDO
乙!!
・・・次は誰かなぁ?
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/08(土) 09:40:30.48 ID:7rmWuo4IO
安易な名前つけるならワンピースとかだけでよかった気もするけど、
なにか意味があるのかな?

現実ではユロちゃんが息してない感じになってるよねw
115 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/12(水) 23:05:40.76 ID:btCSdQqAO
名前つけないほうが良かったんでしょうかね?
とりあえず、だらだらと進みます
116 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/12(水) 23:06:45.68 ID:btCSdQqAO
男「俺に勝とうなんざ十年早い、ってこれ敗北フラグだったか」

シュヴァインは自分のベッドの隅に腰掛ける。

それから傍に置かれていた椅子を指差した。

男「突っ立っているのもなんだし、そこ座っとけ」

青年使用人「いえ、僕は」

男「互いに落ち着いた状態で話を聞きたい」

青年使用人「…分かりました」

反論しても意味がないと悟ったのか、大人しく椅子に腰かけた。

男「――ああそうだ、元からこんな口調なんだ。気になるなら変えるが」

青年使用人「いえ、僕は気になりませんよ」

117 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/12(水) 23:08:02.22 ID:btCSdQqAO
男「そうか。じゃあこのままでいかせてもらう」

そうして、少し背筋を伸ばして。

男「それで、一体何の用だ?」

青年使用人「……僕と、情報交換をしませんか」

男「情報交換?」

青年使用人「はい。僕は、知る限りの奥さまや使用人の情報を」

男「そして俺たちは知る限りの宿泊客の情報を交換しあおう、と」

互いの足りない部分を補いあう形になる。
118 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/12(水) 23:10:43.58 ID:btCSdQqAO
青年使用人「そうです」

男「何故だ?」

青年使用人「笑わないでください」

男「……?」

青年使用人「僕は、探偵ごっこをするつもりです」

めまいがした。
朝とは違う類いのめまいだ。

全然笑えない。

同じように『探偵ごっこ』をして、大怪我を負った馬鹿を思い出した。
半分以上はその馬鹿の自業自得なのだが。
どうしてこう、十代後半の若者は探偵ごっこをしたがるのか。

男「……やめておけ、死にたくないならな」

119 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/12(水) 23:13:47.67 ID:btCSdQqAO
青年使用人「では犯人を野放しにしとけと?」

男「違う。お前は探偵ごっこをするなってことだ」

青年使用人「…あなたが、代わりに探偵ごっこをするのですか?」

男「そうだ。探偵ごっこより、推理ごっこのほうがしっくりくるがな」

そう言ってポワソンに目を向ける。
嫌な夢でも見ているのか時折呼吸が乱れている。
彼女を心配げに見たあと、再びトレフルに向き直った。

男「言うなればここは密室だ。それに外は吹雪で、出たら凍え死ぬだろうし」

青年使用人「はい」

120 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/12(水) 23:14:41.05 ID:btCSdQqAO
男「犯人は俺たちの中に確かに存在する。当然魔女はいない」

青年使用人「何の話ですか」

男「もし犯人が見つかったら下手すりゃそいつは制裁という理由で袋叩きにあうだろうな」

青年使用人「そうですね……」

男「だから犯人も見つかるまいと必死なわけだ」

男「だから、誰か一人にバレたらそいつを口止めに殺す可能性もある」

俺ならそうする、と物騒な付け足しをした。

男「お前、犯人に目を付けられて殺されかけたら撃退できるか?」

121 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/12(水) 23:16:19.29 ID:btCSdQqAO
青年使用人「………」

しばらく思考して、首を振った。

青年使用人「勝てないでしょうね。でも助けとかを呼べばなんとか、」

男「実際うまくいかないぜ。例えば――」

上着のポケットに手を突っ込んで、バタフライナイフを取り出した。
刃を出してそして青年に突きつける。

青年使用人「………っ!?」

男「――動けるか? そして、叫べるか?」

青年使用人「い、え」

男「だよな」

そう言ってパチンとバタフライナイフの刃を仕舞う。
122 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/12(水) 23:19:04.00 ID:btCSdQqAO
多少強引でも、危険なことには首を突っ込ませたくない。
若気の至りというものは恐ろしいのだ。

男「声を出すなとか脅されたりしたら尚更だ」

青年使用人「あ、えと…あ…」

かなりのショックを受けてしまったらしい。
自分で言っておきながら普通の人は普通に恐怖心を抱くということを忘れていた。

男「あー、その……悪かった。刺すつもりはないから」

青年使用人「な、なん、なんでナイフを……?」

男「……怖がりだから、一つは持たないと安心出来ないんだよ」

青年使用人「怖がり…」
123 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/12(水) 23:20:27.13 ID:btCSdQqAO
男「そっちが手の内を明かしてきたからこっちもと思ったが、驚かせたな、すまない」

青年使用人「あ、あの、一つだけ答えて下さい」

男「?」

青年使用人「フランさんのことを殺して、ませんよね?」

男「殺していない。つっても信じられないか」

青年使用人「……いいえ、信じます」

男「また酔狂なやつだな。俺は凶器を出して突きつけたんだぜ?」

信じてくれなかったらそれはそれで困るが。

青年使用人「信じます。僕は、あなた達を信じます」

124 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/12(水) 23:21:23.01 ID:btCSdQqAO
青年使用人「……だから、あなた達は僕を信じてくれますか?」

そうか、とシュヴァインは胸のなかで呟いた。
きっとこの青年は味方が欲しいのだろうと。

男「信じられたからには信じるしかねーよ」

この密室で。
一度は疑いをかけられて。
心細いのだろう。

男「……情報収集は無理しない範囲でな」

青年使用人「え? あ、はい」

男「無茶して事件に突っ込んでいったりするなよ」

青年使用人「しませんよ、そんな命を捨てるようなこと」
125 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/12(水) 23:25:52.73 ID:btCSdQqAO
きょとりとするトレフルに気にするなと手を振って思考する。

なんとなく引っ掛かっていたことがあるが、今はまだ聞くときではないだろう。

男(年齢や姿はカルネに近いが、やっぱり性格は違うな)

男(いや、根本的に違うか――)

男(本当に色んな事情抱えてここに来たみたいだな、こいつ)

女「うー……」

もぞりとポワソンが布団から這い出てきた。

男「先輩。どうですか、気分は」

女「いまいち…」

青年使用人「お薬はいりますか?」

女「あれ、トレフルくんだ。お薬はいいや、いらない」
126 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/12(水) 23:31:46.53 ID:btCSdQqAO
男「まだ具合悪いなら寝ていた方が…」

女「夜眠れなくなるから、今は控えなきゃ。…喉乾いた」

青年使用人「ぬるくなっていますが、紅茶飲みますか?」

女「わーい、飲む飲む」

男「じゃあ俺も」

青年使用人「どうぞ」

女「五臓六腑に染み渡るー」

男「まだ寝ぼけていますね先輩」

女「そういえばなんか二人話してたの? 声が聞こえた気がして」

男「二人それぞれで独り言喋っていたんですよ」

青年使用人「それホラーですね」
127 : ◆Oamxnad08k [sage]:2011/10/12(水) 23:34:35.27 ID:btCSdQqAO
今日は終わりです。
なんでこいつナイフ持ってんのとかは追々
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/12(水) 23:58:01.20 ID:3GAfKtUIO
乙です
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/13(木) 00:05:32.28 ID:ZnrS1+LOo
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/10/13(木) 01:58:00.54 ID:ruSJeL3To
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/19(水) 16:48:06.81 ID:R/t1uAYKo
待ってう
132 : ◆Oamxnad08k [sage]:2011/10/19(水) 23:38:50.18 ID:hBIfVaGAO
すまねぇ、土日まで待ってくれ
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/19(水) 23:55:56.97 ID:yTboRL6IO
余裕で待ってみせる
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2011/10/20(木) 01:19:20.51 ID:c70GsU//o
なんだすぐじゃないか
135 : ◆Oamxnad08k [sage]:2011/10/23(日) 02:20:46.74 ID:dlI0GQhAO
お待たせしました。
始まるよ、そして始まるよ
136 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/23(日) 02:22:01.05 ID:dlI0GQhAO
生ぬるいカップを両手で包み込み、しばらく紅茶を見つめていたポワソンが口を開いた。

女「これって誰が淹れたの?」

青年使用人「僕です。不味かったでしょうか」

女「ううん。昨日の夜とか朝飲んだ味となんか違う気がして」

男「そうなんですか?」

女「そう。こう、なんか、違うのよ」

青年使用人「お客様に出す用は執事のナーダさんが淹れてます」

男「あの人か。見かけによらずだな」

女「へぇぇ。でもあなたも上手いと思うわよ」

青年使用人「ありがとうございます」

恥ずかしげにはにかむ。
137 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/23(日) 02:24:34.64 ID:dlI0GQhAO
女「誰かに習ったりしたの?」

青年使用人「姉が得意でしたので教えてもらいました」

女「いいお姉さん持ったわね」

青年使用人「はい」

トレフルはどこか悲しげに目を伏せる。
それが気にかかったが、触れないほうがいいだろうと開きかけた口に紅茶を流し込む。

女「ごちそうさま」

ポワソンがすっかりぬるくなった紅茶を飲み終える。

青年使用人「僕はこれから仕事が入りますので」

女「おう、頑張ってね」

青年使用人「ありがとうございます」

ティーセットを持って部屋から出ていった。
138 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/23(日) 02:25:01.95 ID:dlI0GQhAO
二人だけになり、シュヴァインはポワソンの寝ている間に青年と交わした会話を話す。

女「――ふぅん。私が寝ている間にそんな話がねぇ」

男「勝手に互いの情報交換を決めてしまいましたが、良かったですか?」

女「ええ。情報は必要よ」

男「ですね」

女「しかし探偵ごっこなんてね。まったく、何に影響されてしまったのかしら」

男「うーん…コナン、金田一、ネウロ、星くん…探偵や推理系って色々ありますね」

女「全部マンガじゃない。あと星くんって『ピカンと来たぜーー!』の?」

男「あ、知ってたんですか」
139 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/23(日) 02:25:30.06 ID:dlI0GQhAO
女「眼科行ったときに置かれてたのよそのマンガ。あとでんじゃらすじーさん」

男「コロコロ派なんですかね」

女「カルネ君は純粋にシャーロック・ホームズに憧れてたわね」

男「流石のホームズもあそこまでボコボコにはされないでしょうけどね」

女「刺されたり撃たれたり冷たいプールに落ちる主人公もいないと思うわ」

男「あいつもいちいち首突っ込まなきゃいいものを…」

女「若いって恐ろしいわ。えっと、なんの話だっけ」

男「情報交換が決定、その流れからどうして探偵ごっこなんかやりたがるのかという議論会に」

140 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/23(日) 02:28:01.13 ID:dlI0GQhAO
女「ああそうだったわね。まあ、あの子に危険な真似はさせたくないわ」

男「危険な真似をして危険な状態になった奴がいるからですか?」

女「それもあるけど、なによりあの子は――」

コンコン

青年使用人「昼食の準備ができました」

男「もうこんなに時間たっていましたか」

女「驚きだわ。さ、お昼を食べにいきましょう」
男「体調は?」

女「今なら空も飛べそうな気がする気分よ」

男「…それヤバいんじゃないですか?」
141 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/23(日) 02:29:32.97 ID:dlI0GQhAO
-ダイニングルーム-

妹「お兄ちゃんが引きこもりになりました…」

女「え?」

暗い顔で告げられ、どう反応すべきか分からなくなる。

マフラー「……布団にくるんだまま、応答なし」

妹「動く気配もないんですよ……」

マフラー「……よほど、ショックが大きかったらしい」

妹「ですよね…わたしも、あんまり現実感がなくて」

ピアス「まだ納得できないもんな…」

男「彼はここに来るのか?」

眼鏡「来ないようだ。だからあとで昼飯持って行く」

女「そのほうがいいかもね」

眼鏡「フォローしてやるのが仲間だろ」

142 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/23(日) 02:33:46.94 ID:dlI0GQhAO
男「仲間思いですネー」

眼鏡「まー仲間がいなさそうなお前には永遠に縁のない話だろうナー」

男「あ? 151人ぐらいいるから。マジ舐めんな」

眼鏡「初期のポケモンかよ。そいつら人かよ本当に」

男「うるせーよ。隣人部に勧誘されるレベルにはいる」

眼鏡「友達少ないんだな可哀想に。いや、いないのか」

男「よーし分かった、戦争だ」

女「はいはい、言い争いは止しなさい。…今はそんなことしてる場合でもないでしょう」
143 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/23(日) 02:34:33.75 ID:dlI0GQhAO
妹「そうですよ……」

マフラー「……この中に犯人がいるかもしれないのに」

ふ、と一気に空気が冷えた。
そう。いるかもしれないのだ。
犯人が。殺人者が。


余計なタイミングで言ってくれるとポワソンは心中で毒づいた。

この流れだと、どうしても自分達に容疑がかかる。
今はエリザート達はまだ現れておらず、昼食の準備などで使用人がいない。
彼らが仲間を疑うということは何があっても避けようとする。

だから。
今だけだとしても『もしかしたらこの二人…』と思われるのではないか。
144 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/23(日) 02:35:13.09 ID:dlI0GQhAO
疑われることは気持ちのいい話ではないし、何より動きにくい。
怪しい行動はとってないかなど見られていることだろう。特にユロに。

カチャリとドアを開けてエリザートが姿を表した。

館主「お待たせしました――皆様、どうなさいました? 体調が優れませんか?」

女「――大丈夫です」

マフラー「……問題ありません」

助かった。
彼女が入ってきたこと二より、六人の間で張り詰めていた空気がほぐれたような気がする。

145 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/23(日) 02:35:58.56 ID:dlI0GQhAO
昼食の乗る銀色のワゴンを押すのは今回は青年ではなかった。裏方だろうか。
昼は何種類かのサンドイッチ。

男(違い、やっぱりよく分からんな)

首を捻りながら出された温かい紅茶を飲む。


結局、ポンドは来ないまま昼食は終わった。


146 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/23(日) 02:36:44.69 ID:dlI0GQhAO
-203号室-

それから部屋に戻りダラダラと昼を過ごして、夜。
ポワソンが風呂に入っている内に再びシュヴァインは電話をかけた。

男「悪い。さっき人が来たから」

女弟『なら仕方ないね。で、どこからだっけ』

男「刺殺にトラウマ抱えてるってところだ」

女弟『了解。えっと、僕らの両親のことは知っているよね』

男「……ああ」

数年前に起こった連続通り魔事件。
一晩にして死者、怪我人含め二桁を越えるというは最悪な記録を残した。

女弟『色々あったんだけど、時間ないみたいだしまとめるね』

147 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/23(日) 02:39:15.35 ID:dlI0GQhAO
男「助かる」

女弟『ちょっと、シリアスだよ』

男「ん」

女弟『心の準備もないままに見てしまったんだ。刺殺された両親を』

男「……」

女弟『朝、家を出るまではちゃんと生きていたのにさ。帰ってきたら死んでいるんだ』

どこか他人事で、それが少し不気味に思えた。

男「…それがトラウマになったってことか」

女弟『そう。…たまに、夢に出てきちゃうみたいだよ』

母さんとかなり仲良かったし、と付け足した。
148 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/23(日) 02:40:49.60 ID:dlI0GQhAO
男「……」

シュヴァインは『お前はどうなんだ?』と聞きかけて、やめた。
他人の過去を詮索する趣味もないし時間もない。

男「分かった。ありがとな」

女弟『えっ、素直にお礼言われた。なんなの? もしかして死ぬの?』

男「女の子にしてやろうかテメェ」

愉快な会話をして電話を切る。
そのままベッドに仰向けに横たわって天井を見つめた。
微かに伝わってきていたシャワーの音が止まり、すこしごそごそと音がしたあと。

女「次どうぞー」

脱衣室から髪を拭きながらポワソンが出てくる。

男「分かりました」

立ち上がって、何事もなかったように風呂場へ向かった。
ポワソンはベッドの上に置かたものを発見して困ったように呟いた。

女「シュヴァイン君、パンツ忘れてる……」


149 : ◆Oamxnad08k :2011/10/23(日) 02:44:23.58 ID:dlI0GQhAO
今日は終わりです。

正直過去話入れようか迷ったんですけどね
これから作用させていければいいかな

150 : ◆Oamxnad08k [sage]:2011/10/23(日) 02:52:10.35 ID:dlI0GQhAO
>>144

×カチャリとドアを開けてエリザートが姿を表した。

○カチャリとドアを開けてエリザートが姿を現した。
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/23(日) 03:08:52.33 ID:XDKELXwDO
乙!!

さて・・・パンツをどう扱うのかなwwwwwwww
152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/23(日) 03:34:44.06 ID:RkGC3dQoo

勿論被ってクンクンペロペロだよな?
何とは言わないけどw
153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/27(木) 12:40:06.15 ID:rKysNjRIO
シャワー後にパンツ忘れに気付いて、バスタオルを腰にまいて取りに行ったら躓いて、全裸でポワソン押し倒すフラグですね、わかります。
154 :!ninja [sage]:2011/10/27(木) 13:10:27.63 ID:PAF7WxlBo
なんで女の名前が毒なの?
偽名なの?
名前が多国籍すぎて辛い
155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/28(金) 11:47:49.93 ID:NNgEDtGgP
   、ミ川川川彡                 ,ィr彡'";;;;;;;;;;;;;;;
  ミ       彡              ,.ィi彡',.=从i、;;;;;;;;;;;;
 三  ギ  そ  三            ,ィ/イ,r'" .i!li,il i、ミ',:;;;;
 三.  ャ  れ  三    ,. -‐==- 、, /!li/'/   l'' l', ',ヾ,ヽ;
 三  グ  は  三  ,,__-=ニ三三ニヾヽl!/,_ ,_i 、,,.ィ'=-、_ヾヾ
 三  で       三,. ‐ニ三=,==‐ ''' `‐゛j,ェツ''''ー=5r‐ォ、, ヽ
 三.   言  ひ  三  .,,__/      . ,' ン′    ̄
 三   っ  ょ  三   /           i l,
 三.  て   っ  三  ノ ..::.:... ,_  i    !  `´'      J
 三   る  と  三  iェァメ`'7rェ、,ー'    i }エ=、
  三   の   し  三 ノ "'    ̄     ! '';;;;;;;
  三   か  て  三. iヽ,_ン     J   l
  三  !?    三  !し=、 ヽ         i         ,.
   彡      ミ   ! "'' `'′      ヽ、,,__,,..,_ィ,..r,',",
    彡川川川ミ.   l        _, ,   | ` ー、≡=,ン _,,,
              ヽ、 _,,,,,ィニ三"'"  ,,.'ヘ rー‐ ''''''"
                `, i'''ニ'" ,. -‐'"   `/
               ヽ !  i´       /
               ノレ'ー'!      / O
156 : ◆Oamxnad08k [sage]:2011/10/28(金) 22:06:06.12 ID:PQHo5rZAO
>>154
たぶんそれはポイソン
ポワソンはフランス語で魚の意味です
157 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/28(金) 22:06:33.11 ID:PQHo5rZAO
男「……」

女「……」

男「あの、先輩」

女「な、なにかな」

男「俺の、その、パンツで何してるんですか?」

女「……………鯉のぼりごっこ」

男「……」

女「……」

158 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/28(金) 22:07:10.57 ID:PQHo5rZAO
-202号室-

女「パンツで遊んじゃいけないとか学校で教えてほしいものね」

マフラー「……いきなり入ってきて何を」

女「こちらの話よ。ええと、クローネさんは?」

マフラー「……隣の部屋。ポンドと寝るのかもしれない」

女「なんと。彼が布団から出てくる見込みは?」

マフラー「……不明」

女「まあ、当たり前か。それが当然の反応よね」

マフラー「……」

ユロは大した反応もなく、手にした文庫本を捲る。
ポワソンもその素っ気ない反応に気分を害した風もなく部屋を見回した。
159 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/28(金) 22:08:51.36 ID:PQHo5rZAO
女「あれ? 誰か風邪を引いたの?」

マフラー「……どれ?」

女「ほら、あの小机の上。錠剤があるから」

マフラー「……睡眠薬。フランは不眠症だったから」

女「ふぅん…。意外ね、何か悩みでもあったのかしら」

マフラー「さあ。……今となっては誰も分からない」

女「死人に口無しとはよくいったものだわ」

マフラー「……それ、少し意味が違う」

女「あ、そうなんだ」
160 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/28(金) 22:09:46.74 ID:PQHo5rZAO
マフラー「……しかし」

女「うん?」

マフラー「死体に触れるなんてどうかしてる」

女「死体とか響きが冷たいわね。そうね、私はどうかしてるわ」

マフラー「それも平然と、彫刻でも触るみたいに。狂っている」

女「あはは。ここまでズバズバ言われたのは初めてよ」

マフラー「…あなたは日常に適応できているの?」

女「日常には殺人事件なんてないわ。日常が日常であるかぎり、私は一般人よ」

マフラー「……日常が崩れた今は?」

女「じゃあ私はお望み通りに狂人となり、道化師となろうかしら?」
161 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/28(金) 22:11:20.47 ID:PQHo5rZAO
マフラー「……」

裏の感情を一切覗かせずにポワソンは笑う。
そして彼女は立ち上がりドアへ向かった。

女「ごめんなさいね。本読んでたのに邪魔して」

マフラー「別に……」

女「あ、そうそう。気をつけなさい」

マフラー「?」

女「あなた、自覚ないだろうけど口元緩んでるわよ」

それだけ言うと「お邪魔しました」と残して部屋を去った。

残されたユロはゆっくりと文庫本を閉じる。
162 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/28(金) 22:13:31.65 ID:PQHo5rZAO

マフラー「ふふ」

小さく、笑った。
163 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/28(金) 22:20:03.45 ID:PQHo5rZAO
-廊下-

女「はぁ、しかし趣味悪いわねこれ」

腕を束ねて壁に掛けられている絵を見やる。
場面から見るに魔女狩りの一シーンを描いているらしい。

女(未成年には見せらんないわ、こんなの)

顔をしかめてすぐ隣に飾られた斧に視線を移す。

女(流れからいくと首切り道具かな。レプリカだといいんだけど)

ふぅっとため息をついて自分の部屋を開けようとドアノブに手をかける。
だが、その動きは一瞬止まって、ポワソンの目が少しだけ大きく開かれた。

女(ここは細々としたやつしか置いてないけど…もし大きいものも収集していたら……?)

女「まさか、ねぇ」

164 : ◆Oamxnad08k :2011/10/28(金) 22:30:48.35 ID:PQHo5rZAO
少なすぎた。ちょっと書き溜めてくる
165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/28(金) 22:37:49.75 ID:8JeCDsSIO
いってらっしゃい
166 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/29(土) 14:39:15.68 ID:9YMwEv6AO
-203号室-

女「パンツで遊んだことは謝るわ」

男「いや、俺は別に怒っていませんよ…」

女「そうなの? でもさっきすごい無表情だったじゃない」

男「あれはどう反応すればいいのか分からなかっただけで」

女「笑えばいいと思うよ」

男「素直に笑ってもいいのだろうか…」

女「ちょっとした出来心だったのよ。若いって怖いわ」

男「先輩はそろそろ若いとか言えなくあだだだだだだ」

寝技をかけられた。

167 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/29(土) 14:41:17.49 ID:9YMwEv6AO
女「さ、明日も何が起こるか分からないし、もう寝ますか」

男「十一時半ですしね」

女「ええっと…薬はどこかな…」ごそごそ

男「……」

女「あったあった。良かったー、持ってきていて」

男「それどんな薬なんですか?」

女「ん? あー、睡眠薬みたいなものね」

男「へぇ……」

女「依存性がちょっと高いみたいだから気を付けないといけないの」

男「依存性あるんですか?」

女「まあ脳に作用するものだしね」

男「そうなんですか」
168 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/29(土) 14:42:06.32 ID:9YMwEv6AO
女「水水…んく。よしこれで勝てる!」

男「先輩は一体何と戦おうとしているんですか」

女「もちろん悪の機関よ!」

男「そんなのいませんから諦めてください」

女「子供に夢持たせるのは大切なことだと思わないの、シュヴァイン君!」

男「大人は現実を受け止めることが大切なんですよ、先輩」

女「ぐぬぬ…まず倒すべき敵はシュヴァイン君のようね」

男「それはやめて下さい。はいじゃあ寝ましょう」

169 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/29(土) 14:42:32.29 ID:9YMwEv6AO
女「はーい」

男「電気は明るめですか? 暗めでもいいですか?」

女「暗めでも平気よ。……ねえ、シュヴァイン君」

男「どうしました?」

女「私、これから寝るけどさ。側にいてくれないかな」

男「側に?」

女「寝付くまででいいから」

男「断る理由なんかありませんよ」

女「ありがと」

男「なんなら子守唄でも歌いましょうか」

女「あは、そこまでは流石にいいわよ」

170 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/29(土) 14:43:21.46 ID:9YMwEv6AO
男「提案しといてなんですが、俺子守唄を歌えません」

女「えー。じゃあもしお願いって言われたらどうしたのよ」

男「鬼束の月光でも」

女「重い! 寝る前にそれはちょっと重いわよ!」

男「カラオケで一番手でそれ歌ったらドン引きされた覚えがあります」

女「そりゃあ…ね…」

男「あれ。眠くなってきました?」

女「少し……」

男「目を瞑って下さい。早く眠れますよ」

女「いてくれる?」

男「いますよ」

女「…シュヴァイン君」

男「はい?」

女「私残して死なないでね」

171 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/29(土) 14:46:36.52 ID:9YMwEv6AO
男「俺は、死にませんよ」

女「えへ、よかった……」

声はすぅと寝息に変わった。
シュヴァインはそっと彼女の頭を撫でる。


男「おやすみなさい」


また明日も目覚められるように。
172 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/29(土) 15:13:31.36 ID:9YMwEv6AO
-キッチン-

トレフルは一人で食器を洗っていた。
冬の夜のために水はつめたく容赦なく手の温度を流していく。

洗い物が終わりきゅっと水道をしめると手を擦り合わせる。

青年使用人「さむ…」

新入りとして通らなければいけない道だとしても辛いものは辛い。

館主「あら、お疲れさま」

青年使用人「奥さま。寒くありませんか?」

館主「ええ。寒くありません」

青年使用人「それにしても、どうしてここに?」

館主「ただの暇つぶし。そうねぇ、聞きたいことあって」

青年使用人「聞きたいこと?」

173 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/29(土) 15:14:06.30 ID:9YMwEv6AO


館主「明日の朝も楽しくなりそうな気、しない?」


174 : ◆Oamxnad08k [sage]:2011/10/29(土) 15:14:59.90 ID:9YMwEv6AO
続く

さーて誰が犯人なのかな!
175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/29(土) 16:51:24.63 ID:wH3+J1i/0
ごめん実は俺なんだ
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/10/29(土) 19:43:53.08 ID:C6ai7XZAO
>>175
ナ、ナンダッテー
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/30(日) 05:45:33.03 ID:Oh2dS0dVo
>>175
お前だったのか
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/10/30(日) 14:36:42.64 ID:y/Ol0FGyo
>>175
ネタバレすんなよ!
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/31(月) 07:27:02.84 ID:RFK6GgOIO
乙かれさま
180 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/31(月) 22:58:58.78 ID:ivm6sawAO
>>175
ち、ちくしょう!
なんてネタバレをするんだ!

そろそろ、始まるよ
181 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/31(月) 23:10:03.59 ID:ivm6sawAO


「ほら、お弁当忘れているわよ。せっかくあの子が作ったんだから」

「ありがと母さん」

「あなたの仕事場までお弁当持っていくのはもう嫌だからね?」

「はいはい。でも事務所はそんな遠くないじゃん」

「全くこの子は…そうだ、今日は早く帰ってきなさいね」

「なんで?」

「お父さんが午後休みだっていうから、たまには家族揃って食べたいじゃない?」

「おっ、いいね。分かった、早く帰るよ」

「行ってらっしゃい」

「行ってきます」

182 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/31(月) 23:10:39.45 ID:ivm6sawAO
家の門を出て、ニ三メートル歩いたところで気づいた。

これは夢だと。
あの日の再現だと。

気づいた瞬間に身体が動かなくなる。
まるで誰かに乗っ取られたような。

いつのまにかあたりは夕暮れに染まっていた。
周りからざわめきが聞こえる。
救急車のサイレンが、怒声が、悲鳴が、響き渡る。

「…あ、ああ……」

ここから先は、駄目だ。

後ろを振り向いてはいけない。
後ろを振り向いてはいけない。
後ろを振り向いてはいけない!

だけども、場面は勝手に代わる。

183 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/31(月) 23:11:32.51 ID:ivm6sawAO
女「うわああああ!?」ガバァ

男「先輩っ!?」

女「あ、ああ…無事帰還したみたいね」

男「いや、どこに行っていたんですかあなたは」

女「ちょっとね…行っちゃ行けないようなところに」

男「すごいうなされてましたけど、大丈夫ですか?」

女「え、うなされてた?」

男「はい。思わず起こそうかと思ったぐらいです」

女「そんなに…」

男「筋肉バスターで」

184 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/31(月) 23:11:58.93 ID:ivm6sawAO
女「朝から激しすぎて身体に悪くないっ!?」

男「あれっ、駄目でしたか?」

女「駄目に決まってるじゃない! 少なくとも寝起きの人間にやる技じゃないわよ!」

男「ベッドでやるから平気かなと思ったんですがね……薬、効かなかったんですか?」

女「ん…なんというか、少なめにしちゃったから」

男「そうですか…」

女「でもほら私はこの通り元気よ! おはよう太陽!」

男「今日も今日とて曇り空ですけどね」

女「雪が降ってないだけいいじゃない。…いつ出れるのやら」
185 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/31(月) 23:16:59.46 ID:ivm6sawAO
男「本当に。雪かきしながら逃げますか」

女「その前に凍えて死ぬに一票ね。雪かきってかなりの重労働なのよ?」

男「そうなんですか」

女「小さい頃、雪に埋もれた弟を掘り出すのが大変だった記憶があるわ」

男「全くあいつは……」

女「…まさかあそこまで運動オンチだったなんて」

男「埋めたの先輩ですか!?」

女「違うわ。屋根に積もった雪を落とそうとして壁に蹴りを入れたの」

男「はい」

女「当然振動で落ちるわよね」

男「落ちますね」
186 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/31(月) 23:19:23.77 ID:ivm6sawAO
女「私は逃げ切れたんだけど、カルネ君は当時は足が遅かったの」

男「……で、埋まったと」

女「それ以来足だけは早くなろうと努力する弟の姿が見られたわ」

男「だからあいつ逃げ足早いんですね。納得です」

女「あ、私まだ身支度終わってないからシュヴァイン君先に行ってていいよ」

男「いえ、先輩と行きます。一人で行動するのは、いろいろと不味いことに」

女「何かあったの?」

男「はい。先輩が起きる数十分前に、散歩がてら外へ出たんです」

女「うん」

男「人が死んでました」
187 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/10/31(月) 23:19:57.89 ID:ivm6sawAO
-廊下-

女「………」

男「………」

ポワソンが屈んで大雑把に状況を観察する。

首に紐が巻き付いたようなアザ。

手の指は白く血の気を失い、半開きの瞳は朝の寒さでうっすら凍っていた。

女「シュヴァイン君」

男「はい」

女「あなたの言う通りね」

ポワソンは冷静な口調で判断を下した。

女「死んじゃってる」


ポンド・ヤードが冷たい躯と成り果てていた。
188 : ◆Oamxnad08k :2011/10/31(月) 23:22:50.08 ID:ivm6sawAO


ニ話目 「お客様の中に犯人と疫病神はいませんか?」



    ――三話目へつづく。
189 : ◆dEiY5GDOGmjP [saga]:2011/10/31(月) 23:26:15.25 ID:ivm6sawAO
>>182の後

彼女の真正面には横たわる二つの人影。

ぱっと付けられたライトで浮かび上がったのは、
「か、かあさん…とうさん……」

スーパー袋から飛び出た野菜が、血に沈んでいる。

死んじゃってる。

かさかさに渇ききった口の中で呟いた。

両親  が   動
 
骸。  死ん 、   ました?  。
 
  あれ?  みんな いっしょ    私


190 : ◆Oamxnad08k :2011/10/31(月) 23:28:08.82 ID:ivm6sawAO
本日は終わりです

いろいろミスってる…
上のは#の後に文字入れたせいでかわってますが分かるよね大丈夫大丈夫
191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/10/31(月) 23:39:25.95 ID:HgZdbt7co
おつおつー!
192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/31(月) 23:39:58.81 ID:glURoyEIO


トラウマって恐いな
193 : ◆Oamxnad08k [saga sage]:2011/11/02(水) 20:37:57.41 ID:7RsdYTCAO
次回予告という名の何か

女弟「第ニの殺人事件が起きた。犯人は一人か、複数か?」

男「果たして先輩と俺は生き残れるのか」

女弟「姉さんは何に気づいたのか?」

男「そしていつになったら変態探偵という称号に恥じないトークができるのか」

女弟「自重しろ、人生ごと」

男「死ねってことか。よし、戦争だ」

ワーワー

女「三話目お楽しみに!」
194 : ◆Oamxnad08k :2011/11/03(木) 10:02:00.25 ID:It4JoHbAO


あなたの為に花を供えましょう。

あなたの魂を慰めるために。

あなたの為に祈りを捧げましょう。

あなたの魂が迷わぬように。

例え弔う身体が無くても。

195 : ◆Oamxnad08k :2011/11/03(木) 10:09:35.66 ID:It4JoHbAO
-ダイイングルーム-

女「シュヴァイン君」

男「はい」

女「とりあえず、部屋に戻りましょう」

男「えっ?」

女「コナンでも金田一でも、第一発見者は疑われているでしょ?」

男「でもその理屈から考えると、蘭姉ちゃんとか美雪も疑われるんじゃ…」

女「こまけぇこたぁいいのよ! はい、退散!」

男「押さないで下さい、列に並んでゆっくりとー」

女「どこのコミケよ」

シュヴァインは死体にヒラリと手を降る。

男「じゃあな、また後で」
196 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/11/03(木) 10:29:15.74 ID:It4JoHbAO
-203号室-

男「先輩、具合は大丈夫ですか?」

女「うん。ショックは受けたけどその他は問題ないわ」

男(やっぱ昨日は血を見てしまったからか……)

一般には死体を見て平静に物事を考えるほうが異常だったりする。

女「明らかに絞殺ね、あれは。首にアザができていたもの」

男「太さは」

女「細かったわね。だから丈夫なものと考えていいいかも」

男「コード…とかですね。突発的な殺人でしょうか」

女「かなぁ? それより気になることがひとつ」
197 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/11/03(木) 10:38:40.95 ID:It4JoHbAO
男「気になること?」

女「二つの殺人事件は、果たして同一人物なのか?」

男「ああ…」

女「と、思ったのもね、フランさんの時は手間がかかっていたように感じるの」

男「…手間、ですか」

女「そう。そしてポンド君の時は逆にあっさりすぎる」

男「………」

女「同一人物による犯行だとしたらなぜこんなに違いがあるのか?ってね」

男「じゃあ――二人、犯人がいると考えているんですか?」

女「そうなるわ。黒幕がいるのか単独なのかは分からなけど…」
198 : ◆Oamxnad08k :2011/11/03(木) 18:54:37.20 ID:It4JoHbAO
男「黒幕ですか…」

女「黒幕って聞くと黒の組織とか高遠を思い出しちゃうわね」

男「マンガの読みすぎです。黒幕がいるとしたら、どのような理由で殺人を?ってなりますね」

女「そこなのよね。単独であってもさっぱり動機が分からない」

男「そこはもう、聞きに行くしかないですね」

女「だよねぇ。めんどくさいわ」

キャアアアアア!!

男「……さて、行きますか」

女「……ええ。あ、シュヴァイン君。あなたちょっと慌てなさいよ?」

男「何でですか?」
199 : ◆Oamxnad08k :2011/11/03(木) 19:42:09.16 ID:It4JoHbAO
女「なんでって。普通は死体をみたら驚くもんなのよ」

男「先輩だって驚いてないじゃないですか」

女「あら、私だってちょっと驚いたわよ?」

男「そうですか?」

女「そーよ。…死んだ人を前に普通に佇んでたら、変でしょ?」

                    ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
男「でも今さら死体を見ても…慣れていますし」

女「そういうことは言うもんじゃないわよ」

男「すみません」

女「まあ、何て言うかな…『モノ』じゃなく『ヒト』として見なさいよ」

男「…分かりました」

女「あなたはもう普通に暮らすただの一般人なんだから、ね」

男「……はい、先輩」
200 : ◆Oamxnad08k :2011/11/03(木) 21:47:43.05 ID:It4JoHbAO
女「なんでって。普通は死体をみたら驚くもんなのよ」

男「先輩だって驚いてないじゃないですか」

女「あら、私だってちょっと驚いたわよ?」

男「そうですか?」

女「そーよ。…死んだ人を前に普通に佇んでたら、変でしょ?」

                    ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
男「でも今さら死体を見ても…慣れていますし」

女「そういうことは言うもんじゃないわよ」

男「すみません」

女「まあ、何て言うかな…『モノ』じゃなく『ヒト』として見なさいよ」

男「…分かりました」

女「あなたはもう普通に暮らすただの一般人なんだから、ね」

男「……はい、先輩」
201 : ◆Oamxnad08k [sage]:2011/11/03(木) 21:48:30.03 ID:It4JoHbAO
え、なにこれ書き込めてたの?
202 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/11/03(木) 23:20:19.45 ID:It4JoHbAO
女「それに、ちょっとでも反応しないと疑われるわよ」

男「『あ、死体見ても反応しない!お前が犯人だ!』ってことですか?」

女「うん」

男「いやいや……そんなので犯人にされるなんて、今時三流作家でもしませんよ」

女「分からないわよ? なんせ、今すごいピリピリしてるもの」

男「あー、あの眼鏡野郎とかピリピリしてますもんね」

女「理由としては、犯人が誰なのか分からないからでしょうね」

男「自分以外の皆を疑い始めていると…」

女「そ。疑心暗鬼に陥る子がいないといいんだけど」
203 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/11/03(木) 23:27:05.08 ID:It4JoHbAO
男「強い疑心暗鬼に陥ったらどうなるんですかね」

女「んー。例えば下手な推理で誰かに冤罪を押し付けちゃったり」

男「それは勘弁ですね」

女「悪化すると殺られる前に殺っちゃえってなるかもしれないし」

男「それは勘弁ですね」

女「あなたを殺して私も死ぬ! とか、もう死ぬしかないじゃない! とか」

男「それはヤンデレとかそういう方面じゃないですか?」

女「あら、そう? ま、あんまり好ましい方向にはいかないでしょうね」

男「そうでしょうね。それじゃあ俺は怪しまれない努力しますよ」

女「よろしくね。…さて、行きましょうか」

ガチャリ
204 : ◆Oamxnad08k [sage]:2011/11/03(木) 23:30:04.82 ID:It4JoHbAO
続く

書き込みができないとか、死ぬしかないじゃない!あなたも私も!
205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/03(木) 23:51:21.05 ID:pmYYdG1IO
乙!

書き込みエラーは罠らしい、落ち着いて更新ボタン押すと書き込めてたりするぞ!
206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/04(金) 18:52:17.09 ID:BHUST/o+0
エラーが出るなんてエラーいこっちゃ
207 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/11/09(水) 23:49:38.71 ID:CDY5jXNAO
-ダイイングルーム-

妹「お……お兄ちゃん……」

マフラー「………」

二人が目にしたのは、愕然とした表情でへたりこむクローネと、顔をしかめて死体を見るユロだった。
どちらかといえばショックが小さいであろうユロに近寄ってポワソンは小言で聞く。

女「なにが…起きたわけ?」

マフラー「………分からない。ただ、来たときには既に……」

男「男子組は?」

マフラー「………まだ」

ポワソンの目に疑問の色が浮かんだ。

女「悲鳴聞いて起きないってわけ……?」
208 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/11/09(水) 23:59:24.45 ID:CDY5jXNAO
それはおかしい。
現に今、ばたばたと使用人達が悲鳴を聞き付けて近寄ってくる。

男「自分達の部屋と近いから、彼らにも聞こえたはずですよね?」

女「そうよね」

まさか未だに安眠を貪っているわけでも、悠長に服を着ているわけでもあるまい。
嫌な予感が脳裏を掠める。

男「ちょっと見てきます」

女「あ、ちょっと! シュヴァイン君!」

返事をせずに二階へ一段飛ばしをして駆け登り、201号室に急いだ。
少し躊躇した後にドアを強く叩く。

男「なにしてんだ! 非常事態だ!」
209 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/11/10(木) 00:05:04.63 ID:VtYlf8UAO
久しぶりに叫んだ気がする。

男「無視とかシカトとかしてる場合じゃねえぞ!」

反応が、かえってこない。
試しに強くドアに蹴りをいれてみた。鈍い音が廊下に反響する。
だが、反応はない。

男「まさか……」

じわりとこめかみに冷や汗が浮かぶ。

青年使用人「出てこないんですか?」

ポワソンに頼まれたのだろうか、トレフルが後を追ってきた。

男「ああ。ドア、壊してもいいよな?」

青年使用人「マスターキーがありますから落ち着いて下さい」
210 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/11/10(木) 00:18:29.68 ID:VtYlf8UAO
男「マスターキー…」

青年使用人「借りてきたんです」

言いつつかなり焦っているのか、鍵を回す動作にニ三回失敗してようやくドアが開いた。
雪崩れるようにして中に入る。

そこにあった光景は。

男「………」

深い寝息をたてている二人だった。
一番隅のベッドはぽっかりと空いている。

男「何、暢気に寝てんだよ…」

青年使用人「良かった…」

呆れながらざっと辺りを見回す。
丁寧にかけられた上着。
空になったコップが二つ、洗われないまま机に載っている。
一通り観察したが紐の様なものは無い。

男「……今はまず、起こすか」

つかつかとカーテンまで歩みより、シャッと開いた。
211 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/11/10(木) 00:24:37.18 ID:VtYlf8UAO
眼鏡「ん……」

男「おはようございますご主人様。さっさと覚醒しろ大事なんだよテメェ」

身動ぎをしたドールの耳元に呪いを吐くように言葉を流し込む。
快適な目覚めにはならなそうだ。

ピアス「おおごと……? いったいなにが…」

痛そうに頭を抑えながらウォンが身を起こした。

男「ポンド…さんが死んでいる」

ピアス「! それは本当みたいな?」

男「本当だ」

眼鏡「なに…? ポンドがどうした……」

やはりドールも頭を抑えながらゆっくり起き上がる。
焦点があっていない。
212 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/11/10(木) 00:31:47.45 ID:VtYlf8UAO
男「なんだ二人して。二日酔いか?」

そういってる暇もないのだが、つい聞いてしまった。

眼鏡「今は酒なんか飲めるか。なんだろうな…昨日、何したんだ…」

ピアス「お茶のんだぐらいだな」

男「お茶…てそれか。そんなのは後だ、すぐ来い」

二つのコップに目をやったあとに、やることはしたので部屋から出ていく。

男「トレフル」

青年使用人「はい」

男「しばらく、自分で作った飲み物以外は飲むな」

青年使用人「え?」

男「ただの保険だが――いいな?」

青年使用人「は、はあ」
213 : ◆Oamxnad08k :2011/11/10(木) 00:32:35.58 ID:VtYlf8UAO
続く
おやすみ
214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(千葉県) [sage]:2011/11/10(木) 01:18:49.55 ID:Lu5J1rmqo
おやすみ

続き待ってる
215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(兵庫県) [sage]:2011/11/10(木) 17:03:19.51 ID:fw4Wz/FPo
おつ

ダイイングルームじゃなくてダイニングルームだと思うの
216 : ◆Oamxnad08k [sage]:2011/11/10(木) 18:11:03.35 ID:VtYlf8UAO
>>215
えっ、なにこれ恥ずかしい

探さないで下さい。
217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/10(木) 18:32:59.84 ID:+1uGwbvIO
探さないから続き待ってるよ
218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/10(木) 19:17:24.82 ID:696hm8+DO
死体がある部屋=ダイイングルームで良いよ
219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/10(木) 20:32:53.81 ID:3K/XJRsu0
ダイニングメッセージ
220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(千葉県) [sage]:2011/11/10(木) 23:27:23.42 ID:Lu5J1rmqo
え?
最初に見たときから>>218と同じように思ってたんだけど・・・
221 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/11(金) 01:11:39.65 ID:dYy3D64Ro
お前らあんまり掘り返してやるなよw
222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/12(土) 12:42:37.21 ID:0HY76QRqo
>>206
223 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/12(土) 22:58:26.49 ID:tOrRa92IO
追いついた支援
224 : ◆epTFsgbbrNgq [sage]:2011/11/20(日) 00:39:13.76 ID:0xZumrvAO
-ダイイングルーム-

眼鏡「……は? なんで、死んでるんだ、こいつ」

ピアス「一緒に寝たはずなのに…みたいな…」

本当に驚いたように、友人の遺体を見る二人。

男「彼がいなくなったことには気づかなかったのか?」

ピアス「気づかなかった。てか、叩き起こされるまで意識なかったみたいな」

眼鏡「酒飲んだ覚えはないんだけどな…」

マフラー「……精神的に疲れていた、とか」

女「それもあるわね」

少し気遣うようにうずくまるクローネの背中をちらりと見た後、全員に向き直る。

女「でも、人一人を運び出したんだか連れ出したんだかは分からないけど――」

女「――それでもなお気づかずに寝ているなんて可能なのかしら?」
225 : ◆epTFsgbbrNgq [sage]:2011/11/20(日) 00:46:26.89 ID:0xZumrvAO
眼鏡「それは俺等を疑っているのか?」

女「違うわ。もしかしたらあなた達が起きられなかった理由が他にあるんじゃないかってね」

眼鏡「……他の理由?」

男「あそこまで深く眠れるか? それも、朝だぜ?」

ピアス「まあ、普段なら起きててもおかしくないような時間だし…」

眼鏡「なんだろうな…」

女「そういえば、クローネさんは201号室で寝てたんじゃなかったっけ」

思い出したようにポワソンは話を振った。
涙に濡れた声で、ぼそぼそとクローネが話す。

妹「はい……朝の五時ぐらいに起きて、まだお兄ちゃんは寝てて…」

マフラー「……うん、クローネはそのぐらいに部屋にきた」

女「部屋は開けっ放しだったってわけ? 危ないわよ…」

マフラー「……注意する」
226 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/20(日) 20:20:43.86 ID:Hw21JeSs0
結局ダイイングルームにしたのか
227 : ◆Oamxnad08k [sage]:2011/11/21(月) 14:35:30.74 ID:Iq0PicfAO
あ、ダイイングルームにしました
あと酉ミスったけど大丈夫だよな
228 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/11/24(木) 22:41:18.13 ID:VM/umC3AO
呆れたようにポワソンがため息をつく。
今この状態で鍵を開けっぱなしなんてどうぞ殺してくださいというようなものだ。

と。

男(……あれ?)

何かが気になる。
その何かとはなにか、考えてみたがはっきりとした答えは出なかった。
モヤモヤする。

館主「どうなさいました?」

早足で近づいてくるエリザート。
ポワソンは見えやすいように半歩どく。

女「第二の殺人事件です」

簡潔に、これ以上ないぐらいに短く纏めた。

館主「まあ」

彼女はまるで社交儀礼のように驚いた。

昨日の段階で卒倒や悲鳴はあげないとは知っていた。
だが、それでもポワソンはエリザートに薄気味悪いものを感じた。
229 : ◆Oamxnad08k :2011/11/24(木) 22:51:40.05 ID:VM/umC3AO
青年使用人「……」

ふと気がつくと、シュヴァインの横にトレフルが立っていた。
そういえばしばらく(と言っても数分)見なかった。

その手に持つのは真っ白なシーツ。

男「…どうした?」

青年使用人「え、あ、いいえ……なんでも、ないです…」

尻窄みに小さくなる声。
そこで納得した。

男(遺体に近寄るのが怖いか)

シーツをかけてようとしたのだろうが、歩み寄る勇気がないらしい。
生理的に、死体に恐怖心を感じてしまうのは仕方がない。
むしろ即座に鑑識を始める小学生とかいやだ。

230 : ◆Oamxnad08k :2011/11/24(木) 23:03:18.09 ID:VM/umC3AO
男「やるよ」

トレフルの手からシーツを持ち上げて、冷たくなった彼に近寄ろうとする。
突然、それまですすり泣きをしていたクローネが小さく呟いた。

妹「……を…」

男「……は?」

妹「あなたが……、あなたが、お兄ちゃんを殺したんじゃないの!?」

男「ちょっと待て」

女「待ちなさいよ」

ほぼ同時に声が重なった。
ポワソンはシュヴァインを押し退けてクローネの真ん前に立つ。

女「人を犯人扱いする責任って、重いのよ?」

231 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/11/24(木) 23:09:15.12 ID:VM/umC3AO
妹「でも、もう、そうとしか考えられないじゃないですか…!」

女「どうして? 私情の混じった消去法で選んでいたら殴るわよ」

男「先輩――」

女「あなたは黙っていて」

いや、当事者は自分なのだが。

妹「あの人も死んじゃって、お兄ちゃんも死んじゃって…」

女「……」

妹「だって、なんでグループの皆が二人を殺すんですか!」

女「そうね」

ポワソンが拳を握り締めたので慌ててトレフルは彼女の腕にしがみつく。
興奮しすぎて言葉の繋がりがめちゃくちゃだ。
232 : ◆Oamxnad08k :2011/11/24(木) 23:25:42.76 ID:VM/umC3AO
男(先輩めったに怒らないからな…止め方が分からん)

海より広いあたしの心もここらが我慢の限界よ、といったところか。

男(俺ごときにそこまで労力使わなくてもいいのにな)

誰の目から見ても二人が興奮状態にあることは明確だ。
出来れば殴りあいになる前に二人を引き離したい。

男(とはいえ、どうしたらいいものか…)

執事「お二人様、喧嘩をしている場合ではないでしょう」

いつの間にか来ていた執事のナーダがポワソンとクローネの間に立った。
233 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/11/24(木) 23:35:37.56 ID:VM/umC3AO
いきなり巨大な壁が現れて、ポワソンは我を返したらしい。

女「す、すいません…」

自分の靴を見つめながらか細く謝った。
声が弱々しいのは反省をしてるからだろうが、彼の威圧感が半端ないのもあるかもしれない。

男「喧嘩の仲裁、なれてるみたいだな」

小言で聞く。

青年使用人「使用人同士でもたまにありますから。あの人が出るとぴたりと止まります」

男「へえ…」

仲裁をしてくれたのは有り難いが、もう色々と手遅れかもしれない。

男(犯人みたいな顔してるのかね、俺は)

多分、これからクローネはシュヴァインを犯人だと信じて疑わないだろう。
他の三人はどうか分からないが――深い溝が出来てしまったのは、確かだった。
234 : ◆Oamxnad08k [sage]:2011/11/24(木) 23:39:59.82 ID:VM/umC3AO
続く
見直すと重複多いな…

ミステリでたまにある、疑われる→殺される→無実だったのか という流れは悲しいよね
235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/25(金) 02:11:46.37 ID:VLJFEogEo
なんの暗示だ、やめろ

…主人公は死なないよな
236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(鳥取県) [sage]:2011/11/25(金) 02:52:06.84 ID:i4qmUoK+o
今日初めて読んだけど面白いわ
犯人よりも肉魚コンビの素性が気になってしまう
237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(鳥取県) [sage]:2011/11/25(金) 02:54:26.62 ID:i4qmUoK+o
ミス。シュヴァインは肉じゃなくて豚か
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/25(金) 07:22:53.79 ID:OgkddulIO
さあ、盛り上がってまいりました
239 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/11/25(金) 22:54:22.13 ID:OyWe0KkAO
-203号室-

朝食を消化器官に詰め込んだ後。
ポワソンとシュヴァインは向かい合ってベッドに座っていた。

女「…ああもう。イライラしすぎて、思考がまとまらない」

男「まだイラついていたんですか」

女「しばらく収まりそうもないわ。よし、ちょっと世界滅亡させてくる」

男「やめてください」

女「ちょっとだけよ、ちょっとだけ」

男「世界滅亡にちょっともそっともありません」

女「ちぇー」

男「何かないんですか。自分の感情を鎮めるような方法」
240 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/11/25(金) 22:59:47.05 ID:OyWe0KkAO
女「カルネ君を抱き締める」

男「あいつ今ここにいないからそれは没ですね」

女「お菓子食べる」

男「菓子持ってきているんですか?」

女「あ、ないわね」

男「じゃあこれも没ですか。後は?」

女「恥ずかしい出来事思い出して枕に顔埋めてバタバタする」

男「なんか、感情鎮めるにしてはずいぶんダメージの大きいことしますね」

女「自分が昔想像していたこととか思い返すと恥ずかしくて地球滅亡させちゃいそう」

男「どうして地球滅亡に行き着くんですかあなたは…」

女「非力な私たちに出来ないことを妄想する――まさかそれが後に牙をむくなんてね」

男「先輩、まだ厨二病抜けきってないんじゃないですか?」
241 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/11/25(金) 23:14:39.20 ID:OyWe0KkAO
女「シュヴァイン君はないの? そういう恥ずかしいこと」

男「俺は特に。先輩はどんな妄想していたんですか?」

女「…聞きたい?」

男「ぜひ」

女「スラム街に住む少女フィミはある日、呪われている印である真っ黒な瞳と髪を持つ剣をたずさえた少女と出会った」

女「彼女は出会い頭に『まだ起きていないのね』とフィミに告げる。意味を問おうとしたその時、国家軍が漆黒の少女に襲いかかる――すると」

男「それだけでお腹一杯です」

女「止めどきを見失いかけていたわ。危ない危ない」

男「で、バタバタタイムに入ると」

女「ええ……これで一時期小説書こうとしていたのよ? 笑えるじゃない」

男「書いたそれを送っていたら暗黒期のはじまりでしたね」
242 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/11/25(金) 23:22:41.72 ID:OyWe0KkAO
女「ちなみにその後二人は転生します。学園生活送ります」

男「続編とか考えているあたりが…」

女「フィミは文美、元気一杯の馬鹿」

女「漆黒の少女ことリアは理亜。天才クールの美少女」

男「すがすがしいほどにテンプレですね」

女「そんな二人が仲良くテロリストと戦ったり殺人事件に立ち向かう話よ」

男「普通の学園生活かと思えばアクション系の学園生活だった」

女「ちなみにテロリストは町を破壊します。市役所も破壊します」

男「市役所とかリアルで生々しいですね」
243 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/11/26(土) 13:41:38.98 ID:0prqhiDAO
女「ちなみに市役所に恨みは持ってなかったわ」

男「さいですか」

女「かなり本題からずれたけど、そんな感じで気分鎮めるわね」


男「自分に自分で精神攻撃ですか。斬新ですね」

女「さてと…朝からあんなことになっちゃったわけだけど」

男「見事に犯人扱いされてしまいしたね、俺。あの眼鏡に疑われると思ったら妹さんでしたが」

女「仲間に犯人はいないって信じたいのは分かるけどね…」

男「案外本当にあのグループに犯人がいなかったりして」

女「ふむ。それも仮説として考えてみる価値があるわね」
244 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/11/26(土) 13:48:17.11 ID:0prqhiDAO
男「でもグループに犯人がいなかったら誰が犯人だと言うんです?」

女「ここの館主ことエリザートさんや、執事使用人諸々、登場人物はまだいるわよ」

男「…使用人、何人いましたっけ」

女「トレフルくん含めて五人よ。執事は一人みたいだけど」

男「客を殺すほど殺人衝動がある使用人っているもんですかね」

女「見た感じはいないわね。だったらまず私たちが殺されてるわよ」

男「どうしてですか?」

女「他の部屋は三人ずつだけど、こっちは二人だけよ? 数が少ないほうが殺りやすいわ」

男「あと薬仕込んで眠らせてから――という方法もありますしね」
245 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/11/26(土) 13:59:42.26 ID:0prqhiDAO
女「うん。金品が荒らされた様子もないし、使用人のセンは薄いと思う」

男「だとしたら…あとは館主か執事ですかね」

女「ええ。でも、あの二人は第一の事件で互いにアリバイを証明しあっている」

男「『部屋で二人で談笑していた』でしたっけ?」

女「そうよ。でも片方が犯人を庇ってそういっているとしたら…ちょっと面倒ね…」

男「昨日殺された彼女はとても一人で殺せるようには思えませんが」

女「もしかしてグルだったり?」

男「疑問が大量にわいてきて収拾がつかないですね、これ」

女「もういっそ本人達に聞いてみようか。犯人ですかって」

男「すごく危ないことになりそうですよ…」
246 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/11/26(土) 14:08:32.79 ID:0prqhiDAO
女「エリザートさんがあんまり驚いていなかったのも気になる」

男「感情が欠落しているとか」

女「そんな感じには見えなかったけどなぁ」

男「それか慣れているんじゃないですか。死体見ることに」

女「慣れって怖いよね…」

男「あんな大量の拷問具があるってことは、少なからず暴力や流血は好きなんじゃないかと」

女「ああ…あるかもね。掛けられてる絵も拷問中!みたいなのあるし」

男「子供の頃なら厨二だなぁって微笑ましく思えますが大人になると危ない人に思える不思議」

女「いえ、子供でも十分危ない人だと思う」
247 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/11/26(土) 19:05:14.68 ID:0prqhiDAO
男「しかし」

女「ん?」

男「これから俺は下手な動きがとれなくなりますね」

女「なぜに?」

男「彼女は俺を犯人と決めつけてます。だから動くだけでいちいち騒ぎ立てられると思うんです」

女「あー、ね。ちょっと考えたことがあるんだけど聞いてくれるかしら」

男「なんですか?」

コンコン

女「ほいほい」

ガチャリ

青年使用人「あ、どうも」

女「はい、こちらがスペシャルゲストのトレフルくんでーす」

青年使用人「スペシャルゲスト?」

男「一体何が起きるというんです」
248 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/11/26(土) 19:09:40.02 ID:0prqhiDAO
女「トレフルくん、確かここにはニワトリがいるんだよね」

青年使用人「あ、はい。生きてるやつが」

女「よしよし」

男「ニワトリをどうするんですか?」

女「まあまあ、落ち着いて。ポワソンちゃん頑張っちゃうんだから」

男「落ち着くのはどちらですか」

女「そろそろ、犯人にも一泡ふかせてやりましょうよ」

青年使用人「……?」

男「…?」

ポワソンはいたずらっ子のような、無邪気で凶悪な笑みを浮かべた。

女「いい作戦があるの」

249 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/11/26(土) 19:11:19.29 ID:0prqhiDAO
続く
250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/26(土) 19:44:06.35 ID:R6btWbyTo
乙!
引き続き支援
251 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/11/27(日) 00:41:16.09 ID:uwawhBTAO
…………

女「――どう?」

青年使用人「僕は大丈夫ですけど…」

男「その作戦、先輩に一番負担がかかるじゃないですか」

女「大丈夫よ。というか私が言い出しっぺなんだし」

男「ならいいんですが…」

青年使用人「はい……やれるかぎり、頑張ります」

女「よろしくね」

トレフルはぺこりと礼をすると、くるりと回って部屋から出ていった。
シュヴァインは改めてポワソンに確認をする。

男「本当の本当に、大丈夫なんでしょうね?」

女「心配しすぎよ。シュヴァイン君もあれで良いの?」

男「ええ、文句ないです」

女「ならあとは――やり遂げるだけよ」

にこりと、笑った。
252 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/11/27(日) 00:50:15.63 ID:uwawhBTAO
-キッチン-

ジャアアアア

青年使用人「よく思い付くなあ、あんなこと…」

スポンジに洗剤をつけたしながら呟いた。
今は皿洗いの最中だ。
小さい声ならば水に掻き消されてしまうために独り言バレる危険はない。

青年使用人「一体なにをしている人なんだろ…」

最後の一枚を洗い終えて、蛇口を捻り水を止める。
タオルで手を拭って一息つく。
あとでリネン室にも行かなくてはいけない。

青年使用人(僕もそろそろ行動をしなくちゃいけない)

青年使用人(もう、時間がないんだ)
253 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/11/27(日) 00:55:56.08 ID:uwawhBTAO
きゅっと胸元のものを布越しに掴む。
その端整な顔は険しいものとなる。

使用人A「あ、いたいた」

出入口から仕事の先輩が入ってきた。
慌てて表情を戻し、胸元から手を離した。

青年使用人「ど、どうしましたか?」

使用人A「いや、あ、あのさ……」

様子がおかしい。
まさかあの作戦が、いや、それ以前に『あのこと』がバレてしまったのか。
両方――特に後者のことを知られたら、大変なことになる。
意思とは関係なく心臓が勝手にばくばく跳ねていた。
254 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/11/27(日) 01:01:12.19 ID:uwawhBTAO
使用人A「あー、あのな? すげぇ言いにくいな…」
青年使用人「……」

脳をフル回転させて言い訳をいくつか考える。
どれもこれも、信じてくれるか疑わしいがないよりはマシかもしれない。

使用人A「あのさっ」

ようやく言う気になったのか、キッとトレフルを見据える。
彼のその異様なオーラに気圧されて言い訳が全て吹っ飛んだ。

ゆっくり、重々しく先輩は口を開いた。



使用人A「好きだ。オレと――付き合ってくれないか?」


それに対し、トレフルはあんぐりと口を開けた。


青年使用人「……は?」
255 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/11/27(日) 01:07:11.66 ID:uwawhBTAO
使用人A「勘違いしないでくれ。オレは手当たり次第の男が好きなんじゃない」

青年使用人「は、はぁ……」

使用人A「お前が好きなんだ!」

肩まで掴まれて、熱烈な告白を受けてしまった。

使用人A「…この館は今は危険だ。いつ死ぬか分からない」

使用人A「でも、この思いを伝えない限りオレは成仏できそうもないんだ」

語り出した。

使用人A「どうか…返事を聞かせてくれないか」


青年使用人「えっと、あ、あの……」

まだ言えない。
まだ、『あのこと』を言えないのだ。

青年使用人「か、考えさせて下さい!」

トレフルはリネン室に走った。
256 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/11/27(日) 01:23:10.24 ID:uwawhBTAO
-203号室-

昼。
やけに疲弊したトレフルが昼ごはんを持ってきた。
ばらばらの場所で昼をとったほうがいいだろうという配慮からだった。

女「人が二人も死んでるのに、食べれてしまう私はなんだろうね」

男「昨日はほとんど食べていませんでしたし、言うほど先輩は変じゃないですよ」

女「なら良かった」

食べ終わって、少し何かを考えるようにシュヴァインが黙った。
不思議に思いながらも彼が口を開くのを待つ。

男「……先輩は」

女「うん」

男「俺が死んだら、どうしますか?」
257 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/11/27(日) 01:34:35.86 ID:uwawhBTAO
女「………。そうねぇ」

椅子の背もたれに体重をかけて、天井を見上げる。

女「母さんと父さんの時は、泣いたけど。分からないや、今も泣けるのか」

彼女には、あの日から泣いた記憶がない。

男「…すいません、こんな質問。失礼でしたね」

女「ううん。こんなときにしか話せないじゃん」

逆に質問とポワソンは人差し指を立てる。

女「私が死んじゃったらどうする?」

男「死なせませんよ」

女「……あの、そういう問題じゃなくてね」
258 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/11/27(日) 01:41:29.89 ID:uwawhBTAO
男「分かってます。でも先輩には危険な目に合わせませんよ」

女「嬉しいけどなんか重いよ!」

男「男のヤンデレは好きですか?」

女「新ジャンルだねえ! シュヴァイン君がヤンデレだったら怖いよ!」

男「そこまで言われるほどですか……」

ヤンデレ云々は冗談ですよ、といいながらポットを手に立ち上がる。

男「紅茶貰ってきますよ」

女「うん。私は…ちょっと寝てようかな」

男「夜眠れませんよ?」

女「別腹ならぬ別睡眠なのです」

男「なんですかそれ。じゃあ、おやすみなさい先輩」

女「はいはーい」

ドアが閉まる。
ポワソンは見送るようにドアをしばらく見た後、ベッドに潜り込んだ。
259 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/11/27(日) 01:48:29.94 ID:uwawhBTAO
――時計の短針が3を過ぎた頃。

女「……もしかしたら寝過ぎたかもしれない」

ぱちりとポワソンは目を開けて身を起こす。
シュヴァインはいなかった。
ポットも置いていなかった。

女「………」

靴を履き、手櫛で軽く髪を整える。
窓の外はくもり。
明日には電車が動くのだろうか。
ならば荷物の整理もしとかなくてはいけない。

女「………」

ルームキーを手にとって身だしなみをチェックしたのちに部屋を出る。

振り返って鍵を閉めた。
260 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/11/27(日) 01:57:24.83 ID:uwawhBTAO
-通路-

通路の絵や物を端から歩きながらまじまじと見る。

女「本当に合わないなぁ、趣味」

独り言をいって昨日今日の殺人現場のダイニングルームへと向かう。
誰もいない。

今朝の所にポンドはいない。
昨日の所にフランはいない。
どこかの部屋で二人、横たえられているのだろうか。

女「……やめよう」

なんとなくこれ以上考えるのは失礼な気がして、頭を降り思考を一時中断した。

それからなんとなく食事をとる大きなテーブルに近寄る。
そして、足元のものに気がついて

女「ああ」

ポワソンは小さく声を洩らした。
261 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/11/27(日) 02:08:00.65 ID:uwawhBTAO
踞って、膝に額をあてる。

女「ああ」

もう一度小さく漏らす。

静かだった。
彼女の呼吸音だけが部屋を満たしていた。

誰かに祈るように手を組む。
左薬指にはめた指輪が冷たく光った。

女「……」

女「……」

女「ねえ」

そこにいる人間に向かって声をかけた。
返事はない。

彼女が話しかけた相手はうつ伏せだった。
脇腹から赤い液体を流していた。
髪がかかり表情は分からない。


女「ごめんね、シュヴァイン君。私、やっぱ泣けないや」


横たわる彼に向かって彼女は謝罪した。
返事は、なかった。
262 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/11/27(日) 02:13:18.90 ID:uwawhBTAO
三話目 「第一発見者の憂鬱」


    ――四話目へつづく。
263 : ◆Oamxnad08k :2011/11/27(日) 02:15:04.08 ID:uwawhBTAO
続く
264 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方) [sage]:2011/11/27(日) 02:21:04.52 ID:5saJq6db0
ほほう……なるほど……
乙です
265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/27(日) 10:41:49.65 ID:XCkE4zVDP
ダイイングルームじゃなくなっとる
266 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/28(月) 19:48:54.19 ID:tivlYcVno
カルネ君じゃない人物が死ぬだと…
267 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 13:20:37.53 ID:RrrDGP2IO
追いついた

本当にSSというより小説だな
268 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/04(日) 02:29:03.83 ID:eseXVSvAO
-ダイイングルーム-

気配に気づいてポワソンは顔をあげた。
振り向いた先に館主のエリザートが立っていた。

館主「どうなさいました?」

女「彼が」

スッとシュヴァインを指差す。

館主「あら。死んでますの?」

女「どうやらそのようです」

二人の感想はあまりにもあっさりしたものだった。
悲鳴もあげず、腰も抜かさず、現実を真正面から受け止めてなお平静。

館主「わたくし、彼が殺されるとは思わなかったのですが」

女「私もです」

館主「大丈夫ですか? 顔色が悪いですよ」
269 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/04(日) 02:38:51.91 ID:eseXVSvAO
女「……ええ」

常識が飛んでいる。
同行者が死んでも元気でピンピンとしている人間はいないと思うのだが。

女(常識外れ……というより、あんまり人に関わったことがないとか)

疑問には思うものの、問題を抱えすぎてそこまで思考が回らない。
屈んで、ポワソンと目線の高さを同じにしてエリザートは無邪気に言う。

館主「気分が落ち着くようなお茶あるんですが、飲みません?」

この状態で。
人が血だらけになり倒れている、横で。
エリザートはポワソンをお茶に誘った。

――異常だった。

下手をすれば、ポワソンの弟よりはるかに。
両親が殺されても冷静であり続け、涙の一滴すら流さなかった彼よりも。
270 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/04(日) 02:42:03.88 ID:eseXVSvAO
女「……」

ポワソンは驚いた顔をして、少し顔を伏せた。
どうするべきか悩んでいるようだ。

しばらくたってから、エリザートを見て。

女「ここは、落ち着いた方がいいですもんね」

館主「そうですよ」

女「ご一緒させて頂きましょう」

弱々しく笑った。
271 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/04(日) 02:49:39.88 ID:eseXVSvAO
二人がそこから立ち去ったあと。

トレフルが入れ違いのように入ってきた。
そして、倒れているシュヴァインを発見した。

青年使用人「……」

そっとシュヴァインに近寄って、屈んだ。
髪がかかって見えない顔。

青年使用人「あなたがいなくては駄目でしょうに――」

ぽつりと誰にともなしに呟く。
返事は返ってこないことも承知で。
そもそも、期待していない。

青年使用人「見ているだけでも分かりますよ」

青年使用人「ポワソンさんもあなたも、互いに依存しあっている」

青年使用人「知りませんよ? あの人、『枷』をなくしたらとんでもないことをすると思います」

彼は答えない。
ただそこに静かに横たわるだけだった。
272 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/04(日) 02:50:07.36 ID:eseXVSvAO
短い。続け
273 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(千葉県) [sage]:2011/12/04(日) 09:54:47.44 ID:ykyCfwNQo
こ・・・ここで切るかぁぁぁぁぁ!!!!




続き待ってる
274 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/04(日) 13:39:30.60 ID:/rNyhABIO
えっ?

えっ?
275 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(千葉県) [sage]:2011/12/04(日) 22:10:46.50 ID:aMFT9ZvY0
あれ?鶏が一匹いない?
276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/12/05(月) 14:56:54.36 ID:Dn8/t0WEo
スレタイが俺が立てようと思ってたスレと似てて思わず開いてしまった
最初あたりだけ読んでもう一人の俺かと思ったがそんなことはなかった
続き待ってるぜ
277 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/19(月) 20:46:45.03 ID:SM7tu3KIO
ドキドキ
278 : ◆Oamxnad08k [sage]:2011/12/23(金) 00:19:51.62 ID:OTk+d8AAO
さっぱり更新してませんでしたすいません
明日…というより今日、予定、かも
279 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/23(金) 01:54:19.19 ID:PNdNCGxIO
まってるぜ
280 : ◆Oamxnad08k :2011/12/23(金) 21:46:51.85 ID:OTk+d8AAO
いままでのあらすじと予告

ワンピース「電車がとまり、怪しい館主に導かれ洋館に泊まることになったわたしたち」

兄「和気あいあい?としていたその次の日、事件発生」

ワンピース「さらにその次の日、やっぱり事件発生」

兄「疑いと恐怖が交わる中、犯人を見つけ出すことはできるのか!」

ワンピース「そして色々と収拾がつくのか!」

兄「あと今日中に投稿はできるのか…?」

兄・ワンピース「お楽しみにー」
281 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/23(金) 23:58:10.56 ID:OTk+d8AAO
-エリザートの自室-

館主「あなたはヒステリーなど起こさないのですね」

女「起こしても無駄ですから」

館主「良い判断です。お母様にも聞かせたい言葉だわ」

ポワソンは紅茶を淹れているエリザートの手をなんとなく見つめる。

女「お母様はヒステリー起こしてしまったんですか?」

館主「妹が亡くなった時に、ですね。大変だったわぁ」

過去を懐かしむように遠い目をする。

女(妹さんの死に全く感情ないのね…)

館主「『あなたが死ねば良かったのに』とか散々言われちゃって」

そう言って困ったように笑う。

女「……」

館主「お母様は妹と仲がよかったから仕方ありませんけどね」

女「…そうなんですか」
282 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/24(土) 00:04:10.61 ID:SzzXPXiAO
館主「それから少しずつ物忘れが進んだのには驚きました」

女「そんなに…」

館主「あれからどうなっているんでしょうね。しばらく実家に帰っていないもので」

女「え? ここが家なんじゃないんですか?」

館主「いいえ。実家の所有する言わば『別荘』ですけど」

女「べっ……」

想像を超えた金持ちだった。

館主「半ば強引に押し付けられて、ここに住めと言われたんです」

女「……? なんでそんなことをされたんですか?」

館主「少しやってはいけないことをしましてね」

ふふ、といたずらが成功した子供のように笑う。
やってはいけなかったということが本当に『少し』のレベルならいいのだが。

283 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/25(日) 00:34:06.06 ID:P1d08oaAO
館主「そうだ、一度は聞いてみたかったことなんですけど」

女「?」

館主「あなたは、殺人を許諾できますか?」

女「……昨日の今日でその質問ですか」

館主「昨日の今日だからですよ」

女「私は殺人を許しませんよ」

館主「どうして?」

女「他人の事情で死ぬなんてまっぴらごめんですから」

館主「でも、自分の死によって他人の役にたつならどうかしら?」

女「それでも嫌ですね。例えそれで他人を見殺すことになっても」

館主「意外ね。あなたはもう少し熱血なほうだと思いました」

女「残念でしたか?」

館主「いいえ」
284 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/25(日) 00:41:11.66 ID:P1d08oaAO
女「死ぬことは怖いですしね」

館主「不思議ですよね。どうしてみんな、死んだ後のことを誰も知らないのに怖がるのでしょう」

女「誰も知らないからです。たとえば」

姿勢を正してエリザートを真正面から見据える。

女「今起きている殺人事件。誰が犯人なのか知らないからこそ、怖がる」

館主「じゃあ誰なのか知っていたら怖くないってこと?」

女「それはそれで別の怖さが出てくるんでしょうけどね」

館主「なら、あなたは今怖いのかしら」

女「つまり?」

館主「誰が殺人犯なのか分からなくて、怖がっている状況?」
285 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/25(日) 00:48:37.36 ID:P1d08oaAO
女「怖くなんてありませんよ」

にこりとポワソンは笑った。
やつれてはいたが、綺麗な笑みで。

館主「というと?」

女「お察し下さいとしか今は言えません」

館主「意地悪ね」

女「良く言われます。昔から根性ねじ曲がっているもので」

館主「まあ」

女「後で言いますよ」

カップを持ち上げて口の辺りまで持って行く。
ふと出入口の反対側の壁に目を移らせた。

女「あの小さなドアは?」

館主「あれはクローゼットですよ。冬はたくさん着込むので服のスペースが必要なんです」

女「なるほど。確かにこんなところに住んでいたら防寒対策は必要ですものね」
286 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/25(日) 01:03:18.51 ID:P1d08oaAO
館主「雪も降りますからね」

女「今はやみましたけど、ずっと降っていてはさぞ大変でしょう」


女(雪はやんだ)

女(そう、もう、やるには今しかない―――)


館主「朝は寒いですし、食料調達も楽ではありませんけど楽しいですよ」

女「そうですか」

パタパタとドアの外で慌てる音がしたと思うとノックをされた。
エリザートが許可を出す。

青年使用人「大変です奥さま、……」

トレフルはポワソンを見て躊躇い口を閉じた。

館主「どうしたの?」

青年使用人「あの、えっと……」

女「だいたい予想はついてるわ。行きましょう」

青年使用人「……はい」

結局。
紅茶は一口も飲まなかった。
287 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/25(日) 01:14:33.22 ID:P1d08oaAO
-ダイイングルーム-

女「三人目ね」

シュヴァインを見下ろしながら、空気と同じぐらい冷たい声で彼女は言った。

女「結構人間離れした体力とかあって、めったに表情変わらなかったりしたけど」

女「やっぱり人間なのね、シュヴァイン君も」

人間だから。
生物だから。
だから、

妹「死んで――死んでいるんですか、彼?」

女「……」

震えながら質問するクローネに背中を向ける。
ポワソンの表情は誰にもわからなくなった。

眼鏡「しぶとく生き残るタイプだと思ったんだがな…」

ピアス「まさかな…こうなるとは」

マフラー「……死んだの?」

妹「そ、そんな……あと、あとどれくらい犯人がいるっていうんですか」
マフラー「……クローネ、しっかり」
288 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/25(日) 01:32:53.16 ID:P1d08oaAO
へたりこみそうなクローネを支える。

マフラー「……どうする」

女「さっき連絡したら、今日中には警察がくるそうよ」

眼鏡「…やっとか。遅すぎたな」

女「除雪しながらだから、かなり時間がかかるそうだけど」

屈んで、シュヴァインの手と自分の手を重ね合わせる。
どちらも冷えきっていた。

ピアス「じゃあ、やっと犯人も捕まるみたいな」

女「ええ。でもね、私はこのまま終わらせるつもりはないわ」

青年使用人「と、いうと?」

女「私、殺人は好きじゃないの。大嫌いなの」

館主「……」

女「だから嫌いなことをした人へ最後に一泡吹かせてやりたい」

立ち上がる。
彼女に視線が集う。

マフラー「……」

女「一時間後、またここに来てくれないかしら?」

眼鏡「…なにをするんだ?」
289 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/25(日) 01:35:29.65 ID:P1d08oaAO

女「ここまで来たら、あとはもう決まっているじゃない」


女「推理ごっこよ」


290 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/25(日) 01:35:55.53 ID:P1d08oaAO
続け!
291 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 01:55:06.52 ID:losTGYwko
乙!!

待つ!!
292 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 03:06:16.97 ID:tPJTl/iAO
乙!

待ってるぜ
293 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 11:21:18.34 ID:nliwAaIUo
魚さん怒ってるよね?超怒ってるよね?
294 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/27(火) 18:22:35.37 ID:+gRUU95AO
-203号室-

女「……」

コンコン、カチャリ

青年使用人「失礼、します」

女「ん、ああ…トレフルくん」

青年使用人「不用心ですよ。鍵をかけないなんて」

女「そうね…不用心だったわ」

青年使用人「大丈夫なんですか? 今のタイミングで、あんなこと」

女「時間がないのよ。警察が来る前に終わらせておきたいの」

青年使用人「? そうなんですか」

女「…シュヴァイン君は?」

青年使用人「…あの二人の所へ」

女「そう」

青年使用人「…えっと、怒られる覚悟であなたに言いますが」

青年使用人「彼がいなくなった今、あなた一人で推理明かしをすることは危険ではないでしょうか?」
295 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/27(火) 18:27:59.48 ID:+gRUU95AO
女「危険って?」

青年使用人「もしも犯人が暴走してあなたを襲ったりなんかしたら」

女「一応武術の心得はあるわ」

青年使用人「……」

女「ま、それでも一時しのぎでしょうね」

女「そうなってしまったら周りが止めてくれることを祈るわ」

青年使用人「…では、では、僕があなたを守りますよ」

女「その心遣いは嬉しいけど…あなたはあの部屋に入ってはダメよ」

青年使用人「えっ?」

女「扉の隙間と声で中を伺っていて。そして私に何かあったら真っ先に逃げなさい

女「あとはそうね、関係を聞かれても私と関わりなかったと言いなさい」

青年使用人「な、なんで……?」
296 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/27(火) 19:03:57.88 ID:+gRUU95AO
女「余計な厄介事は背負わせたくないのよ」

青年使用人「そんなことは……」

女「聞いて」

ポワソンはそっとトレフルの頬を両手で包む。

女「あなたを危険な目に合わせたくないの」

青年使用人「しかし、僕だって乗りかかった船です。最後まで、」

女「そして棺桶に足を突っ込んでいる状況よ」

なかなかシュールな光景だろう。

青年使用人「……頑として僕を危険から遠ざけたいんですね」

女「ええ。…あなた、弟に似ていてどうも危なかっしいし」

青年使用人「僕、弟さんに似ていますか…」

女「そうよ。でも、全く違うところもある」

青年使用人「違うところ?」
297 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/27(火) 19:05:16.43 ID:+gRUU95AO
女「弟は男の子だけど―――」

それから先は、トレフルの耳元で囁いた。

女「―――あなた、女の子でしょう?」
298 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/27(火) 19:13:59.07 ID:+gRUU95AO
青年使用人「なっ……」

女「あら、顔面蒼白」

青年使用人「ど、どうして…どうしてですか」

女「確証は無かったけど。勘ね」

青年使用人「勘…」

女「ちょっとした違和感はあったのよ。男の子にしては少し声高いし」

女「あとは弟と仕草が違うなーって思ってたりした」

青年使用人「仕草…」

女「髪をかき上げたり、物を持つときとかなんていうのかな、女の子らしい動作だったよ」

青年使用人「そ、そうなんですか……」

女「あとは全部男っぽかったから悩んだけどね」

女「だから聞いてみたわけ。どうかな、あってる?」
299 : ◆Oamxnad08k [sage]:2011/12/27(火) 19:22:13.92 ID:+gRUU95AO
そんなわけで一旦抜けます
スポーン!
300 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/27(火) 20:09:44.79 ID:C/aCY8NR0
おつ
トレフルくん・・・・もらってきますね・・・
301 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/27(火) 23:15:20.50 ID:+gRUU95AO
トレフルは困ったような顔で俯いたが、腹を決めたように顔をあげた。

青年使用人「はい――確かに、僕の性別は女です」

女「男装をしてまで…性別を捨ててまで、ここにいる理由は何かしら」

青年使用人「それは…」

非常に言いにくそうに口を閉ざした。
並々ならぬ事情があるのだろうとポワソンは予想した。

青年使用人「この館の噂、知っていますか?」

女「ああ、駅員さんに聞いたわ」

青年使用人「僕はこの屋敷の、その噂を確かめるためにここへ来たんです」

女「……待ちなさい。女性が失踪するところにわざわざ来たと言うの?」
302 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/27(火) 23:21:35.51 ID:+gRUU95AO
青年使用人「覚悟はしましたよ。初っぱなからバレたらどうしようかと思いました」

女「わけがわからない。親は反対しなかったの?」

青年使用人「家出してきました」

女「…ただの、噂の白黒を確かめるだけに来たわけじゃないのね?」

青年使用人「はい。…探していることが、あったんです」

女「探していること?」

青年使用人「これは後で話しましょう…」

青年使用人「最初から奥さまが怪しいと思っていたんです」

女「…まあ、思うわね」

青年使用人「……だけど、まるで証拠がつかめないんですよ」
303 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/27(火) 23:27:45.54 ID:+gRUU95AO
女「証拠というと」

青年使用人「被害者は気づいたらいなくなっていて、気づいたら死んでいるんです」

女「彼女のアリバイとかは?」

青年使用人「何度もあなたたちの時のように話し合いがされました」

青年使用人「しかし……奥さまのアリバイはいつもある」

青年使用人「果ては僕と話しているときに別の場所で死体が発見されたりとか」

女「見つからないように仕組んでいたとか」

青年使用人「いえ、通路にドドンと」

女「…わーお。悪趣味ね、その時の犯人」

304 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/27(火) 23:38:04.09 ID:+gRUU95AO
青年使用人「あ…あとたまに、発狂して人殺しを始めるひともいました」

女「なんてサバイバル…」

青年使用人「そのときも女性のし…死体は一旦消えた覚えがあります」

女「死体…が?」

青年使用人「はい」

その時のことを思い出したのか、酷く気持ち悪そうに顔をしかめた。

青年使用人「それと、あとなんだか、警察も深く調べようとしません」

女「ふーん…なるほどなるほど」

トレフルは無意識なのか胸に手をやる。
そして周辺をトントンと叩いたあと、さっと顔色を変えた。

青年使用人「あれ!? ない!」

女「へ?」
305 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/27(火) 23:44:38.90 ID:+gRUU95AO
青年使用人「や…やばい! え、本当にどうしよう!!」

その慌てようにポワソンはぽかんとする。

青年使用人「す、すいません! 探さなきゃいけないものができました!」

女「う? うん」

青年使用人「では僕は扉の外にいますくれぐれも気を付けてください失礼しました!」

一息で言い終えるなり、部屋を飛び出した。
短距離走の全国選手もびっくりの早さで。

女「え、ちょ、ちょっと、なんなの……?」

親切に答えてくれる人はここにはいない。
306 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/27(火) 23:56:27.48 ID:+gRUU95AO
-通路-

青年使用人(どうしよう! あれは、あれだけは…)

通路の隅から隅までくまなく探していく。
しかし目当てのものは見つからない。

青年使用人(あれがバレたら僕はかなり危ないことになるかもしれないのに!)

青年使用人(何よりも“形見”だっていうのにあっさり無くすなんて!)

自分を責めながら、泣きそうな表情でとにかく探す。
四つん這いで。

  「…何してんだお前」

青年使用人「! あ、いえ探し物を」

307 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/27(火) 23:59:41.20 ID:+gRUU95AO
ギクリとして振り替えると同じ使用人の制服を来た男が立っていた。
だるそうな顔でトレフルを見下ろしている。

使用人「…ふーん」

右手でネクタイを緩めながら左手でポケットを探る。
何が始まるのだろうとトレフルは見守る。

使用人「もしかしてこれか?」

取り出されたのは銀色のロケットペンダント。
チェーンが切れている。

青年使用人「あ……!」

使用人「そんな大事ならちゃんと管理しとけよ」

青年使用人「す、すいません……」

308 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/28(水) 00:12:42.45 ID:Ng3uE+eAO
中身を見られてないかビクビクしながら受け取る。

使用人「…その二人は誰だ?」

青年使用人「……」

やっぱり見られていたか。

青年使用人「あ、姉と妹です」

使用人「姉と妹な…まあいいや」

彼はリネン室へと歩いていく。
慌ててトレフルも後をついていった。

使用人「ゲストとは何を?」

青年使用人「過去の話みたいなものを…あと、シュヴァインさんのこととか」

使用人「へー」

まるで無関心だった。

青年使用人「今から三十分ぐらいあとに、事件の真相を話すそうです」

使用人「そうなのか」

青年使用人「聞きますか?」

使用人「忙しいからいい。後で聞かせてくれ」

青年使用人「…はい」

壁にかけられた拷問器具が鈍く輝いていた。
309 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/28(水) 00:14:31.01 ID:Ng3uE+eAO
続く
犯人は誰だ(棒)
310 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/28(水) 09:14:23.57 ID:ty72MpbDO
だれだー(棒)


いやいや、割とマジでそう思ってるんですけどね
311 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/28(水) 20:11:18.68 ID:Ng3uE+eAO
-ダイイングルーム-

眼鏡「………」

ピアス「………」

妹「………」

マフラー「………」

館主「………」

バタン

女「ごめんなさい、色々あって五分ほど遅れたわ」

眼鏡「…時間指定しといていいご身分だな」

ピアス「まあまあ」

女「じゃ、これ以上問題を延ばすのもなんだし、始めましょうか」

今までとはうってかわって、ハキハキとした声。
目は爛々と輝き、唇はつり上げて笑みの形をとっていた。

女「みんな気になる犯人の正体について、ね」
312 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/28(水) 20:35:46.99 ID:Ng3uE+eAO
マフラー「……」

女「何から言いましょうか。質問は随時募集中よ」

そこで顔をしかめる。
お香でも焚いているのか甘ったるい臭いが鼻をつく。

眼鏡「犯人の人数は?」

女「それぞれの事件で別々の犯人よ」

館主「では、犯人は三人?」

女「はい」

エリザートは「あらあら」と首を傾けた。
口にはハンカチを当てている。
違和感を感じるがとりあえず続ける。

女「あと、反論は後で聞くわ」

マフラー「……分かった」

女「じゃあ覚悟はいいわね? ――エリザートさんに、クローネさん」


313 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/28(水) 20:46:34.94 ID:Ng3uE+eAO
妹「っ……」

館主「うふふ」

ピアス「……マジか」

女「……一番頭が痛かったのはフランさんのこと」

女「人間一人で一気に刺すことができるか? 否、それはできない」

女「だから考えたわけだけども…」

女「エリザートさん、あなた拷問器具を集めているんですよね?」

館主「ええ、そうですわね」

女「私の知識を総動員させて分かるのは斧や刀、ヘッドクラッシャー、爪はぎだけど」

眼鏡「いや、なんで分かるんだよ」

女「自分が知りたいわよ」

女「で、飾ってあるのはどちらかというと小規模なものだけ」
314 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/28(水) 21:35:57.26 ID:Ng3uE+eAO
女「だから……思ったわけです」

女「『もしかしたら大きい拷問器具もあるではないのか?』って」

館主「それで、あなたの考えたことは?」

女「……“鉄の処女”」

女「無数の杭が刺さった人の形の鉄製の箱に、ひとを押し込めるもの」

眼鏡「…なんでそんなの知ってるんだよ」

女「昔ディスカバリーチャンネルでやっていたの思い出したの」

女「……ただ、それは処刑器具に近いものです。それに使われたことすら怪しいと」

女「外見だけで充分脅せるものですしね、あれは」
315 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/28(水) 23:14:09.16 ID:Ng3uE+eAO
マフラー「……それで?」

女「押し込める、閉める、で手軽で簡単に人を殺せるんじゃないかなって」

妹「……う」

マフラー「……」

館主「まあ。物騒なことを考えるのですね」

女「弟が物騒なことに巻き込まれてるもんですからね」

館主「それで?」

女「それで……なんですが」

女(この人には一切証拠が――ない)

女(鉄の処女だって、持っていても『持っていない』といえばそれまで)

女(ボロを出してもらうしかないんだけど、それもどうだか)
316 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/28(水) 23:39:15.28 ID:Ng3uE+eAO
女「あの夜。フランさんが薬を貰いに行き、トレフルくんが薬を探しに行ったあと」

女「彼女はその短時間、一人になりました」

女「偶然か、偶然を装ってかは分かりませんがあなたはフランさんと接触した」

女(さっきの私みたいに)

女(…もしかしたら同じような運命辿っていたのかしらね)

女「そして、少なくとも宿泊客は普段入らないようなところに呼んで」

女「―――殺した」

館主「うふふ」

女「物的証拠がないからいくらでも否定はできますが、どうなんです?」
317 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/28(水) 23:47:07.58 ID:Ng3uE+eAO
館主「真偽は後で良くありませんか?」

女「……」

館主「今はまだ他の事件が残っていますから」

諦めているのか。
自信があるのか。
気味が、悪い。

女「…分かりました」

やはり目の前の紅茶には口をつけない。
ただ手持ちぶさたでカップの持ち手に触れる。

何故だかひどく身体が重い。

女「次の事件、ポンドくんのこと」

妹「………」

女「あなた、これを前々から計画していたとかある?」

妹「……」

女「無理して言わなくてもいいんだけど…ちょっとなんていうかね」

318 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/28(水) 23:54:15.74 ID:scAkzVmIO
んでんで?
319 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/28(水) 23:57:53.45 ID:Ng3uE+eAO
女「首を絞めるというのは大変なことなんじゃないかな」

女「何よりもヒモが首に食い込む感触が手に残るだろうし、力いるだろうし」

女「ナイフと違ってそれなりの時間、首を絞めるという『殺す動作』をしなくては――」

妹「それ以上やめて下さい!」

女「ん…、分かったわ。ごめんね」

眠い。

女「彼は後ろからヒモで絞められていたのよ」

女「後ろ側は頸動脈もあるから、比較的簡単に脳への血液を止められる」

女「一番辛いのは前から…気管を絞めるってやつらしいけどね」
320 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/29(木) 00:08:45.63 ID:08mI0TeAO
私には分からないけど、とポワソンは言う。

女「ポンド君の後を追って部屋に入り、恐らくは横になっていた彼の首を電気コードか何かで絞めた」

女「…よく実の兄を殺せたなぁって思うわよ」

マフラー「……」

眼鏡「おい、つまり…明け方に殺されたんじゃなくて」

女「既に死んでいたでしょうね。あなたたちが部屋に来た頃は」

ピアス「そんな…」

女「だから『寝ている』っていうのも嘘だった」

女(永眠していたというオチ…不謹慎ね)

女「死んでいることがバレないように、ずっと傍にいたんじゃない?」
321 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/29(木) 00:16:27.72 ID:08mI0TeAO
妹「――……」

女「でもいつまでも『寝たまま』ではいずれバレてしまう」

女「しかも疑われかねない位置にクローネさん、あなたはいた」

女「だから『誰か』に殺されたと偽る必要があった」

女「そんなわけだからここに引きずってきたんじゃないかなって思うんだけど」

妹「……」

女「それで――シュヴァイン君を疑うふりをして、自分からみんなの目を逸らそうとしたのかしら」

女「でもあなた、ミスしていたわよ」

妹「ミス……?」
322 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/29(木) 00:25:42.55 ID:08mI0TeAO
女「どうして、201号室の鍵をしめてから202号室に行ったの?」

妹「――あっ」

女「その二人があなたが出ていった後無意識に鍵を閉めてくれた?」

女「叩き起こされるまで深く眠っていた二人が? ちょっとそれはあり得ないわ」

眼鏡「…」

女「密室にして自分にアリバイでも作るつもりだったの?」

妹「……お兄ちゃんが、部屋を出て鍵を閉めて、その後殺されたとかは?」

女「それもないわね。死後硬直って知ってる?」

女「あれ、差はあるけど半日ぐらいで固まり始めるのよ」

女「すでに固まりかけていた。明け方殺されたような固まり方じゃないわ」
323 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/29(木) 00:38:06.68 ID:08mI0TeAO
妹「……」

女「私の中ではほぼクローネさんが犯人じゃないかと思ってる」

妹「――そうですよ」

チャリ、と201号室の鍵を取り出す。

眼鏡(無くしたかと思っていたが)

マフラー「……」

妹「なんとかなるって思ったんですけどね。密室で撹乱できるかなとか」

女「どうして殺したの?」

眠い。

妹「お兄ちゃんはわたしだけの人なのに」

妹「わたしを見ないで他の女の死を嘆いてて。わたしはずっとお兄ちゃんのために頑張ったのに、結局お兄ちゃんはわたしを振り向いてくれないし」

妹「だから、わたしだけのお兄ちゃんじゃないなら――死ねばいい」
324 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/29(木) 00:44:40.49 ID:08mI0TeAO
女(い、行き過ぎたブラコン………)

女「あ、あとフランさんの睡眠薬をそこの二人に盛った?」

ピアス「えっ」

妹「起きられたら大変なので、お茶に」

眼鏡「だから、か……」
眠い。

女「……このくらいかしらね。質問は?」

眼鏡「待て。まだあいつの犯人は分かってないだろ」

女「ああ、シュヴァイン君か…」

眼鏡「『ああ』って…大事な人とかじゃないのかよ」

女「大事よ。そして大好き」

眼鏡「……で? 犯人は?」

眠い。
ねむい。

甘い。

325 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/29(木) 00:48:04.76 ID:08mI0TeAO

女「シュヴァインをあんなことにした犯人は―――」



女「私よ」



館主「あら」

マフラー「え」

妹「えっ」

眼鏡「は?」

ピアス「ん?」


326 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/29(木) 00:55:04.66 ID:08mI0TeAO
眼鏡「それってどういう――」

ドールが立ち上がろうとしたが力が入りきらず崩れ落ちる。
同様に他も突然に突っ伏したり倒れ込む。

ポワソンも例外ではなく。

エリザートは例外だった。

女「あなた……私たちに、なにを……?」

館主「睡眠効果のあるお香を炊いたんですよ。ふふ、効いて良かった」

だからハンカチを口元に当てていたのか。
吸い込まないように。

一方のポワソンは喋りっきり、つまり大量に空気を吸い込んでいた。

女(トレフルくんは――逃げたかしら…)
327 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/29(木) 01:01:03.14 ID:08mI0TeAO
館主「真相は目覚めたらお教えしましょう」

にこりと柔和な微笑み。

館主「あなたを見てからずっと我慢していたのですよ」

館主「一番の障害だった彼がいなくなった今、邪魔するものはいません」

眠い。

考えが纏まらない。

館主「まさか彼をあなたが殺してしまうとは思いませんでしたよ」

女(――言ってなさい)

館主「さぁ、眠いでしょう?」

女(どうせ、すぐ)

館主「おやすみなさい」

女(痛い目に合うんだから――)

そして彼女の意識が、堕ちた。
328 : ◆Oamxnad08k [saga]:2011/12/29(木) 01:01:29.48 ID:08mI0TeAO
続く。
めちゃくちゃやな
329 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/29(木) 02:36:47.31 ID:9ZFjdlxGo
乙、気になるやないかい!
330 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) :2012/01/02(月) 03:39:53.83 ID:q7KnoHqdo
面白い
331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/09(月) 15:06:28.26 ID:ZvaQAbod0
期待して待ってる
332 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/09(月) 15:17:34.88 ID:5AEgPPFAO

「ここどこだ」

「起き抜けに何言ってるんですか、先輩」

「私寝てたの?」

「はい。ちなみにここは事務所ですよ」

「ああ、そういわれてみれば」

「ほらもう仕事しないと。ライス先輩がぶちギレますよ」

「…それなら大丈夫よ」

「大丈夫?」

「彼女は怒らない。どころか、現れないわ」

「……つまり?」

「ここ、私の夢の中でしょう? 自分の夢ぐらい、自分の思い通りにさせてよ」
333 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/09(月) 15:18:01.44 ID:5AEgPPFAO
「……」

「でしょう?」

「はー…もうちょっと騙せるかなって思ったんですけど」

「甘いわ。あなたは私の作り出したシュヴァイン君ね」

「夢がないなぁ」

「夢なら見てるわよ?」

「というか、俺が出るということはよほど俺に会いたいんですね」

「ちょ、やめてよ。地味に照れるじゃない」

「そんなに会いたくて仕方ないんですか」

「ええ。会いたくて会いたくて震えちゃうわよ」

「「君を想うほど遠く感じて♪」」

334 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/09(月) 15:18:29.88 ID:5AEgPPFAO
「よくネタにされるけど良く聞くといい曲よね」

「そうですね。ところで、先輩」

「何かしら」

「この機会に、誰か会いたい人いないんですか?」

「……ここで会ってもねぇ…。独り言言ってるようなもんだし」

「もう会えない人と話してみたらいいんじゃないですか? 例えば、わたしとか」

「…お母さん」

「久しぶり、ポワソン。大きく…あんまり変わってないか」

「自分の夢ながら悪趣味だわ…」

「どうして?」

「血まみれの服のまま現れるとは思いもよらなかった…」

335 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/09(月) 15:18:56.06 ID:5AEgPPFAO
「強く印象に残っている服装がこれだもの。しゃーないわ」

「だからといってトラウマほじくらなくてもいいじゃん…」

「古傷を掘り起こすのは得意なほうでね。知ってるでしょ?」

「そんなところまで再現されてるの!? ああ、最悪だわ」

「やだわ、この娘は。もっと懐かしみなさいよ」

「吐き気しかせり上がってこないんですが」

「親の顔みて吐き気とか」

「違う、服装見て吐き気するだけよ」

「あなた、お化け屋敷入れないじゃない。ああいうところは血だらけじゃない?」

336 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/09(月) 15:20:16.98 ID:5AEgPPFAO
「胸にナイフ突き刺さってるのが気にくわないの!」

「なら他の服装にチェンジしてよ。ちょっとイメージすればいけるから」

「便利だね、この夢」

「あなたの夢だからね」

「……えい」

「まさかの白装束」

「安らかに眠っとけ」

「あらやだこの子は。ま、そろそろだしね」

「なんの?」

「あなたが眠っている時間が、そろそろ終わりなの」

「うわ…今どうなってるんだろ、頭痛い」

337 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/09(月) 15:21:11.35 ID:5AEgPPFAO
「頑張って切り抜けてね」

「ひでぇ、丸投げしやがった!」

「あなたならいけるって信じてるから、ポワソン」

「お母さ……」

「俺です」

「お前だったのか」

「また騙されたな」

「暇をもて余した」

「神々の」

「「遊び」」

「話がまるで進まないんだけど」

「これ以上広げるつもりですか先輩は」

「起きたくない」

「おや」

「やだなー、起きたら起きたでエリザッティ絶対になんかしてくるよ」

「アリエッティみたいに言わないで下さい」
338 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/09(月) 15:21:43.12 ID:5AEgPPFAO
「もう行くわ。周りが白くなってきた」

「頑張って下さいね。良かった俺じゃなくて」

「あんたも丸投げかい!」

「へけっ!」

「明日ももっといい日になるといいね、シュヴァ太郎!」

「明日が来たらですけどね」

「来させてみせるわよ」

「頼もしい。流石、先輩」

「褒めても何も出ないわ」

「残念無念」

「期待したシュヴァイン君(夢)が悪い」

「む、本格的に目覚め始めましたね。これでおさらばです」

「ええ。戦ってくるわ」

「幸運をお祈りします」


「「――じゃ、また現実で」」

339 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/09(月) 15:32:10.06 ID:5AEgPPFAO
-???-

女「……」

女(地下牢みたいなところね。ジメっぽい)

女(しかも天井からさがってる鎖で両手拘束されてんし…)

女(これなんてエロゲ)

館主「起きましたか。いい夢は見れました?」

女「……もう見たくはありませんが、それなりにはいい夢でしたよ」

館主「見たくないのにいい夢?」

女「はい。まあ、もう一回ぐらいは見てもいいかなレベルな」

館主「うーん…よく分からないけど」


女(…これからも夢を見るために、生き残らなきゃね)


340 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/09(月) 15:32:36.38 ID:5AEgPPFAO
続く。
夢話しかなかった
341 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/01/09(月) 16:02:37.52 ID:MRItMKipo
せつねーな…
342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/10(火) 07:24:02.28 ID:QgQEUY/IO
シュヴァ太郎で笑った
343 : ◆Oamxnad08k :2012/01/11(水) 02:44:58.92 ID:0hZUSACAO
女「…で、まあ、何ですかここは。説明を求めます」

館主「うーん、拷問部屋?」

首を傾げるエリザート。
全く笑い事じゃない。

館主「そういう野蛮ではなく、もっと他の名称を探しているのですが…」

女「へー、ブラッディ・メアリでも良くないですか」

館主「インパクトに欠けるわ」

女(むむ、なにかしらこの臭い……)

名称を考えあぐねているエリザートは放っておいて、鼻腔をつく臭いに顔をしかめる。

女(…血?)

女(ああだから夢にも血が出てきたわけね)

344 : ◆Oamxnad08k :2012/01/11(水) 02:50:06.81 ID:0hZUSACAO
女(………………いやいやいや、あやうく納得しかけたけど)

女(なんで血の臭いがす…拷問部屋なのかここ)

妙な夢をみたからかやけにテンションが高い。
とっとこ走るよシュヴァ太郎。

女「…?」

壁には風がないからか時折揺らめく程度のロウソクが数本。
わずかな光をたどり周りに視線を滑らせてみると、女子二人はいない。

――喰われたか?

いや、ならば悲鳴のひとつふたつぐらい聞こえてもいいはずだ。

女(なら他の部屋に入れられてるってことかしらね)

345 : ◆Oamxnad08k :2012/01/11(水) 02:55:46.88 ID:0hZUSACAO
女「…なにから聞きましょうか」

延々と思考するのも疲れた。
ついでにあげっぱなしの腕も辛い。

女「フランさんをどうして殺したんですか?」

館主「え? ああ、簡単なことよ。血が欲しかった」

女「………」

館主「あなた、聞いたことない? 若い娘の血は肌を若返らせるって」

女「聞いたことないですね。納豆ダイエットみたいなものですか?」

館主「ふふふ、違うわよ。そんなのよりはるかに上」

女(まあ納豆よりかは上ね)


館主「老いたくない。だから、血を浴びているの」


346 : ◆Oamxnad08k :2012/01/11(水) 03:00:26.81 ID:0hZUSACAO
女(……つまり、この人が元凶だったわけね)

女(町の女性は若さの生け贄になったってことか)

女(ヘドが出る)

女「妹さんもそのノリで殺したんですか?」

館主「あら、殺したなんて言ったかしら」

女「勘ですよ。家を追い出され、こんなところに追いやられるよほどのこと…」

女「ベタですが、妹殺しにより絶縁されたのかと」

館主「まあ、そうね。追い出されたわ」

館主「でもちょっと違うわね。妹を殺した理由は」

女「?」

館主「嫌いだったからよ」
347 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/11(水) 03:09:33.23 ID:0hZUSACAO
女「…は? 嫌い? それだけの理由で?」

館主「駄目なの?」

女「駄目よりもなによりも…殺すほどの、理由ですか?」

館主「ええ。なんか目障りでイライラしたのよね」

女「…ケンカとかは」

館主「したことないわね。あの子ずっと部屋に引きこもってたから」

殺した理由なんかない。
数年前、ポワソンの町で起こった連続通り魔殺人事件の犯人はそう言ったが。

どちらもたちが悪い。

女(かなり殺人に対する認識が歪んでいるわね…厄介だわ)
348 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/01/11(水) 07:24:33.81 ID:0hZUSACAO
いい忘れた、続く
349 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/11(水) 18:44:51.14 ID:LoJ6d9TDO
乙!!

了解、待つ
350 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/01/12(木) 00:56:31.71 ID:hfmJ6cvKo
つづきはよ!
351 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/13(金) 00:02:51.22 ID:JKLnwZ1AO
ここまで歪んでいたら説得はあきらかに無理だろう。

館主「妹の時驚きました」

館主「人間が一人死んだところで、世の中は、世界は、まるで変わらない」

館主「殺人事件なら新聞やテレビは一瞬賑やかになりますけど、それもやがては収まる」

館主「――まあ、私の家の中は様変わりしましたが」

それは幼い少女の独り言のようで。

館主「なのに、株などは数字が変わったぐらいで世界が変わる」

館主「何かを訴えたくて自殺をしても――結局は届かない」

館主「面白いですよね」
352 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/13(金) 00:03:25.21 ID:JKLnwZ1AO
館主「必要な生といらない生があるんですよ、世の中には」

館主「いらない生は、ただの邪魔でしかない」

館主「だから最後ぐらい、必要とされてから死なせてあげたいじゃないですか」

館主「ただ単に、血を啜っているわけではないんですよ?」

狂っていた。

女「…屁理屈ね」

館主「あら」

女「じゃあ、何かしら。私もいらないやつだったりするの?」

館主「いいえ。あなたには妙に引き付けられたんです」

女「…そりゃどうも」

嬉しくない。
353 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/13(金) 23:38:38.17 ID:JKLnwZ1AO
女「…引きつけられた、ね」

弟はやっかいな事件を引き付けるが。
どうやらその姉はやっかいな人間を引き付けてしまうらしい。

女(どっちがいいんだか…)

館主「ええと」

ふいにエリザートが自分のポケットを探り始めた。
何が起こるのだろうとそちらに視線を向ける。

館主「ああ――ありました」

取り出したのは、小刀。
ロウソクに照らされる刃とシンプルな柄。

女「―――!?」

危険を感じて咄嗟に身体を引かせたが、彼女の行動を鎖が邪魔をする。
354 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/13(金) 23:47:21.41 ID:JKLnwZ1AO
館主「これでは殺さないですから大丈夫ですよ?」

無邪気にそう言った。

女「…じゃあそれは?」

館主「ふふ」

静かに首筋に腕が伸びてきて、キリリとした痛みが走る。
――どこか、切られた。

館主「あじみっ」

お菓子に飛び付く子供のように、エリザートはポワソンに抱きついた。
そして出来たばかりの傷に舌を這わす。

女「なっ――――!?」

鳥肌が立った。

女(ち、血を―――舐めてる、でいいのよね)

必死で別のことに思考をまわそうとするが、知覚が邪魔をする。
生暖かい何かが皮膚を吸い、舐め、そして歯が軽く噛んだ。
355 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/13(金) 23:52:43.71 ID:JKLnwZ1AO
女(変態か吸血鬼かこの人――)

目をさ迷わせる。
エリザートの存在によって見えなかった場所が見えた。
隅のほうには、例の執事がいた。いつの間に。

女(邪魔をしないようにしているのかしらね――)

女(というか、部屋で談笑していたの部屋ってまさかここ?)

女(だとしたら恐ろしいわ)

ひくひくと頬をひきつらせながらどう切り出したものか困る。
さっさと離れてほしい。

館主「ぷはぁ」

思った矢先、離れた。
非常に満足げな顔をしている。

女「………美味しかったかしら」

館主「ええ、とても」
356 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/13(金) 23:59:28.73 ID:JKLnwZ1AO
館主「とても美味でした」

女「へ、へぇぇ…そりゃびっくりだわー」

今ので完全に平静さを失った。

女(これ以外はすべて『範囲内』だったのに…)

女「…それで、どう血を取るのかしら?」

館主「あのアイアンメイデン(鉄の処女)でですね」

てらてらと輝いていらっしゃる鉄製の大きな箱。

女「…鉄の処女は実在しなかったときいたんだけど」

館主「だからなんです? 実在しないなら、実在させればいいんです」

女「……」

女(どんな意欲よ)
357 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/14(土) 00:05:14.75 ID:cIqNNHxAO
館主「最初のうちは改良に改良を重ねましたよ。できるだけ多くとれるように」

それだけで、何人死んだのか。
そこまでたどり着くのによく折れなかったなとポワソンは心の中で毒づく。

女「そう…つまり、今後のご予定は?」

館主「あなたをあの中に入れて、」

女「やっぱいいわ」

それだけの説明で自分の末路が分かった。

館主「…あ、そういえば気になっていたんですけど」

女「なにか」

館主「あなたはどうしてシュヴァインさんを殺したのですか?」

女「……」
358 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/14(土) 11:07:02.96 ID:qIwNJdcoo
エリザベート・パートリーか
359 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/15(日) 00:01:02.09 ID:CQLXPNoAO
女「…そうね……」

館主「やはり、不満点とか」

女「特別不満なところなんてなかったわ」

館主「なら、何故?」

女「……言わなかったっけ。私、根性ねじ曲がっているの」

館主「?」

女「いつまでも引っ張り続けるのもアレだから、もうネタ明かししましょうか」
360 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/15(日) 00:03:14.56 ID:BFCwG1/IO
来るか
361 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/15(日) 00:08:11.41 ID:CQLXPNoAO
館主「……ネタ明かし?」

女「ええ、ネタ明かし。でもその前に」

女「私の本名を普段は省略してるけど特別に教えてあげるわ」

館主「……?」

女「ポワソン・ダブリル・ペンサーレ」

女「どっかの国によれば“四月魚”だとかそんな意味合いみたいね」

そして、四月魚の意味は。

女「四月魚はエイプリルフールのことよ。エイプリルフールといえば?」

館主「嘘をつける日…」

女「まあ、そんなわけ。名前に恥じず嘘を――それも大嘘をついたのよ」

館主「大嘘って…まさか」
362 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/15(日) 00:08:39.13 ID:CQLXPNoAO


女「いつからシュヴァイン君が死んでいると錯覚していた?」


363 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/15(日) 00:14:38.92 ID:CQLXPNoAO
館主「死んで……いない?」

女「私は今まで彼が死んだ殺されたいったこと、なかったはずよ」

生死をあいまいに隠していた。
完璧に騙すためには死んでいると明言したほうがいいのかもしれないが。
自分が参りそうな気がして、ポワソンは敢えていわなかった。

女「あー…でも、「死んでいるのか?」という問いとかには頷いてるのかな」

館主「でも、あんなに血を流していませんでしたか?」

女「大量に流していたわね。――そういえばあなた、男の血はどうなの?」

館主「あんまり興味ないです――いえ、そんなこと話してるんじゃなくて…」
364 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/15(日) 00:19:44.54 ID:CQLXPNoAO
しばらくエリザートは眉をひそめてうんうんと悩んでいたが、

館主「……あなた、とうとう気が……」

女「可哀想な目でみるのはやめてくれないかしら…」

気が触れたとしても、大方はエリザートのせいだとおもう。

女「論より証拠。百聞は一見にしかず」

女「…本人に聞いてみたらどう? 『あなた生きているんですか?』って」

言い終えないうちに地下牢の扉が騒がしく叩かれ始めた。
開かないとみるや、鍵穴がガチャガチャと金属の音を鳴らす。

執事「……こじ開けている?」
365 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/15(日) 00:23:54.82 ID:CQLXPNoAO
無茶苦茶だ、と言うように扉を見つめる。
数十秒したのちに、ガチャンと鍵が解錠された音が響く。

執事「開いた…のか?」

館主「……」

女「………」

鍵を解除した主は行儀悪く足で蹴り開ける。
使用人の服をきていた。
が――顔には見覚えがない。

館主「あなたは……」

使用人「可愛い女の子だと思った?」

彼はネクタイを取り去り、目元を隠している髪をかきあげた。
その顔は、数時間前に死んだはずの。



男「残念、シュヴァイン君でした」



口端を歪め、シニカルに嘲笑った。
366 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/15(日) 00:27:16.90 ID:CQLXPNoAO
男「大丈夫ですか、先輩」

女「まあまあ大丈夫かしら」

男「遅かったですかね」

女「いいえ、ベストタイミングよ」

男「なら良かった」

女「ところであなたの先輩がこうして拘束されているこの現状、どう思う?」

男「ちょっと興奮します」

女「あらそう」

シュヴァインの後ろから緊張と呆れが半々のトレフルが出てきた。

青年使用人「もうちょっと感動的な会話はできないんですか、あなたたち…」
367 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/15(日) 00:32:24.01 ID:CQLXPNoAO
四話目 「死なない豚はただの豚」


    ――五話目へつづく。
368 : ◆Oamxnad08k :2012/01/15(日) 00:36:57.52 ID:CQLXPNoAO
次はシュヴァインとトレフルの愉快な回想です

>>358
その通りです
369 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/15(日) 00:42:41.97 ID:BFCwG1/IO

シュヴァインのジョークが好きだ
370 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/15(日) 12:08:57.88 ID:92+ZqjaIO
まぁベタだけど、そりゃ生きてるよね
371 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2012/01/15(日) 23:52:01.38 ID:AZ33eCzp0
そこは可愛い女の子でよかった
372 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/01/19(木) 03:02:26.10 ID:tm4lxxIvo
面白い
373 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/21(土) 00:18:02.16 ID:h4gZMD/AO
-203号室-

時間を、数時間遡る。

女「いい作戦があるの」
男「いい作戦とは?」

女「聞いて驚かないでね……シュヴァイン君、あなたちょっと死んで」

男「……」

青年使用人「……」

女「あれっ驚かない!?」

男「いやぁ……驚くも何も、理解が追い付きません」

青年使用人(驚いて欲しかったんだな……)

女「ほら、今あなた犯人に疑われているじゃない」

男「ですね」

女「だったら、犯人じゃないと目を逸らせるには? 答えは簡単」

男「殺されればいい、と」

女「その通り」
374 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/21(土) 00:23:41.37 ID:h4gZMD/AO
青年使用人「ま、まさか本当に殺るんですか!?」

女「あなたは私をなんだと思っているのかしら、トレフルくん……」

男「話を戻しますが、つまり死んだフリをしろと」

女「そうなるわね。でも、ただ単に死んだフリをしてもらうだけじゃないわ」

男「というと?」

女「…死体を調べてほしいのよ」

男「死体を?」

女「死後硬直と、傷の度合いを見てほしいの。あそこにはむやみに近寄れないから」

青年使用人「そうですね。僕は鍵を持っていませんし…」

男「内部から侵入ってことですか」
375 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/21(土) 00:28:14.69 ID:h4gZMD/AO
女「そういうこと。でも、無理ならいいわ。他の手もあるし」

男「いいえ、やりますよ。今更死体なんて怖がってもね」

青年使用人(今更って、どういう……)

女「ありがとう。でね、トレフルくんにも頼みごとがあるわけ」

青年使用人「はい」

女「鶏の血を入手してくれないかしら」

青年「鶏の?」

女「シュヴァイン君を“刺殺された”と見せかけたいから、小道具を用意しないと」

男「……刺殺って、先輩は大丈夫なんですか?」

女「…うん。一番、偽装もてっとり早いものだから…」
376 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/21(土) 01:29:59.46 ID:PpQ+DYpo0
まってた!
377 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/01/21(土) 03:06:38.17 ID:HUDaHwOfo
あいかわらずの安定感
378 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/22(日) 23:02:08.29 ID:0e86j7bAO
男「先輩が良ければいいんですが…」

女「それより私よかはるかにシュヴァイン君のほうが大変じゃないの」

男「なんでですか?」

青年使用人「長時間同じ姿勢で身動ぎすらできないかもしれないから、ですか?」

女「そういうわけ。私はただおろおろしとけばいいだけだから」

女「あとトレフルくんも。神経使わせちゃうかもね」

青年使用人「僕は別に大丈夫です」

男「俺もです。生きていることがバレたら即座に殺されるとかないでしょう?」

女「う、うん」

青年使用人(この人、本当に何があったんだ…)
379 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/22(日) 23:06:12.97 ID:0e86j7bAO
女「よし、そんなわけで一旦解散よ」

男「カイさん?」

青年使用人「誰ですかその人」

女「トレフルくんが血を入手できたら作戦開始。いい?」

青年使用人「はい!」

男「じゃあ後で落ち合おう」

女「無理はしないように」

青年使用人「では」ペコリ

ガチャ
380 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/22(日) 23:11:05.84 ID:0e86j7bAO
男「本当の本当に、大丈夫なんでしょうね?」

女「心配しすぎよ。シュヴァイン君もあれで良いの?」

男「ええ、文句ないです」

女「ならあとは――やり遂げるだけよ」

男「心配だなぁ…」

女「心配症すぎるわよ」

男「でも」

女「本当に大丈夫だから」

男「本当に?」

女「本当に」

男「本当の本当に?」

女「本当の本当の本当よ」

男「ほんとにほんとにほんとにほんとに」

女「ら、い、おーんがー…なに言わせているのよ!」

男「あいたたたた! 死んじゃう! 死んじゃいますって!」
381 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/22(日) 23:16:27.97 ID:0e86j7bAO
-昼-

コンコン、ガチャ

青年使用人「お昼れす…」

男「どうした、エイリアンとプレデターの戦いに巻き込まれた人みたいだぞ」

女「どんな例えよ」

青年使用人「なんでもありません…悩みが増えただけです」

男「なんでもありありじゃねーか」

女「悩みって…あのこと?」

青年使用人「違います…もう、僕の存在を底辺からひっくり返すレベルの…」

男「なんだろう、それちょい大げさじゃないのか…」

女「…まあ、何かしらあったのね」

青年使用人「あ、そうそう。――用意、しました」

男「……。さんきゅ」

女「…始めるわよ」
382 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/22(日) 23:23:54.18 ID:0e86j7bAO
――作戦開始。

男「じゃあ、おやすみなさい先輩」

女「はいはーい」

ドアを閉める。

男「……お?」

眼鏡「……なにしてんだ、お前」

男「無実を証明しにコナンばりのことをしようかと」

眼鏡「ほう? じゃあ誰が小五郎役なんだ?」

男「あんたでいいじゃん。あ、どちらかといえば園子ポジションか」

眼鏡「麻酔銃にあいにく撃たれる趣味はないものでね」

男「ああそうかい。じゃ、先輩による結果を楽しみにしろよ」

シュヴァインはそのままキッチンへと向かう。
ドールはそこに立ったまま、小さく呟いた。

眼鏡「……先輩?」
383 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/23(月) 00:05:52.00 ID:cMTDWAD80
おかえりなさいませ
384 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/23(月) 22:28:37.83 ID:nPIheOCAO
眼鏡「なんであいつが自分で言わないんだ?」

眼鏡「うーん……口下手、には見えないし」

眼鏡「先輩っていうとあの女性か。…どういう関係だ?」

カチャ

マフラー「……ドールくん。何をぶつぶついってるの?」

眼鏡「あ、いいや、少し気になることがあって」

マフラー「……気になること」

眼鏡「あの二人、どういう関係なんだろうと思って」

マフラー「……見た感じ、バカップルだけど」

眼鏡「……」

マフラー「……」

眼鏡「…じゃあ、先輩とか言っているのは?」

マフラー「……プレイ」

眼鏡「……」

マフラー「……」
385 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/23(月) 22:36:12.18 ID:nPIheOCAO
-ダイイングルーム-

男「なんかすっげぇ失礼なこと考えられていた気がした」

青年使用人「気のせいじゃないですか?」

男「だといいんだが」

青年使用人「えっと、そんなわけで、鶏の血です」タプン

男「おお…。酸化が始まってるからかなかなか黒くてグロい」

青年使用人「正直これ生臭いです…」

男「だろうな。しかしよくここまで溜められたな」

青年使用人「丁度血抜きをするとかだったので、こっそりと」

男「あー、なるほどな。ともあれお疲れ」ワシワシ

青年使用人「あ…ありがとうございます」
386 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/23(月) 22:42:23.90 ID:nPIheOCAO
男「よし、それじゃあ」

ナイフを取り出し、脇腹あたりの布を切り裂いた。
トレフルは驚いて目を見開く。

青年使用人「な――なにを?」

男「小道具だよ。ちょっとはそれらしくなるだろう」

それからバタフライナイフの刃をしまってトレフルに渡した。

男「貸す。しばらく俺には必要なさそうだから」

青年使用人「え、でも」

男「なんかあってもなくても、お守り程度にはなるだろ?」

青年使用人「…分かりました。全て終わったら返します」

男「ああ」
387 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/23(月) 22:49:39.77 ID:nPIheOCAO
トレフルがナイフをしまってから血の入った瓶を渡す。

男「ずいぶん固くしめてあるんだな」キュポン

青年使用人「僕、握力だけは昔からあるんですよ」

男「へぇ。えいっと」ボタボタ

青年使用人「うわぁ…なんともいえない…」

男「こんな感じか。それらしくね?」

青年使用人「確かにそれらしいですが、シャツとズボンがお陀仏に…」

男「ボロいしそろそろ捨てよう思っていたから問題ナッシング」

青年使用人「そうですか」

男「じゃ、俺はここで“死ぬ”から後はよろしくな」

青年使用人「…はい」
388 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/23(月) 22:59:35.17 ID:nPIheOCAO
男「分かっているかもだが、ここから喋らないから」ゴロン

青年使用人「もしポワソンさんが誰もいないとき話しかけてきたら?」

男「…だんまりだろうな。誰かに見られていたら困る」

青年使用人「でも、あの人…僕たちがいないところで無茶しそうな気が」

男「……それは彼女を信じるしかない」

青年使用人「…できるだけポワソンさんのサポートはします」

男「頼んだ」

青年使用人「頼まれました」

男「じゃあ死ぬから」

青年使用人「はい、死んでください」
389 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/23(月) 23:04:14.13 ID:nPIheOCAO
青年使用人「リネン室いかないと」スタスタ

男「………」

男「………」

男「………」

男「………」

男(ちょっと寂しい)

男「………」
390 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2012/01/24(火) 02:22:01.77 ID:RWOqmtv7o
乙です
391 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/24(火) 07:24:31.49 ID:MSo1ZjiIO
頑張れシュヴァイン!
392 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/26(木) 00:24:56.79 ID:tP5O9+kAO
-リネン室-

青年使用人「誰もいませんねっと…」キョロキョロ

青年使用人「とりあえず奥さまの服洗おう」

青年使用人(また血生臭い…本当になにやってるんだろう)

青年使用人(まさか鶏の血で遊んでるとか…ないよな、あはは)

ピッピッ ゴウンゴウン

青年使用人「これでよし。…そうだ」

青年使用人(えっと…どう開けるんだっけこのナイフ…)

青年使用人(左右に開いて、ストッパー引っ掛けて…こうか)パチン

青年使用人(小さい傷がいくつかあるな…と、あれ?)
393 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/26(木) 00:28:49.63 ID:tP5O9+kAO
青年使用人(柄に何か彫ってある? 粗っぽい彫り方だけど)

青年使用人「A…」

青年使用人(頭文字だとしたらシュヴァインさんのじゃないよなぁ)

青年使用人(お守りとか言ってたっけ。あれ、比喩とかじゃなくてこのことを言っていたとか)

青年使用人「……」ウーン

青年使用人「考えれば考えるほどミステリアスだな…」
394 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/26(木) 00:40:13.73 ID:tP5O9+kAO
使用人B「おーい、トレフルいるん?」

青年使用人「は、はははは、はいっ!」バッ

使用人B「なにやってん…これちょい洗濯してもらいたいんや」

青年使用人「はい、いいですよ」

使用人B「ところでさっき『フラれた…』とか言いながら壁に頭をぶつけてるやつがいたんやけど…」

青年使用人「はぁ……」

使用人B「フラれたってなんのことやと思う?」


青年使用人「『フラダンスしていたら腰が痛められた…』の略じゃないですか?」

使用人B「フラダンスって…それより少ぅし言葉に不安覚えるな…」

青年使用人「先輩のエセカンサイベンよりマシです」

使用人B「エセ言わんでー!」ガーン
395 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/26(木) 00:43:22.93 ID:tP5O9+kAO
青年使用人「……行ったか」

青年使用人(危ない危ない、ナイフをそのままポッケにいれちゃってた)パチン

青年使用人(万が一足に刺さったらヤバかったよ…)

青年使用人「ともあれ、これも洗うか」

青年使用人「……」スン

青年使用人「ん?」

青年使用人「……」スンスンスン

青年使用人(変態みたいだな……)

青年使用人「それにしても…」

青年使用人(なんでこの人の服も血生臭いんだろう?)
396 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/26(木) 00:51:06.74 ID:tP5O9+kAO
-通路-

青年使用人(思いの外洗濯に手間取ったな…いきなり洗濯機ストップするんだもの)

女「…」フラフラ

青年使用人(あ、ポワソンさんだ)

青年使用人(シュヴァインさんはまだ見つかってない…何するんだろ)

女「…」

男「…」

青年使用人(……本当にだんまりするのか)

女「―――」

青年使用人(何言っているんだろう。ここからじゃ聞こえない)

青年使用人(…あの様子だと、苦しいのかな…)

397 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/26(木) 00:57:18.91 ID:tP5O9+kAO
青年使用人(大丈夫かな。側まで―――っと)

青年使用人(奥さま…ポワソンさんのこと、影から見てる)

青年使用人(や、僕も似たり寄ったりなんだけどね?)

青年使用人(こっちには気づいてないみたいだ)ホッ

青年使用人(なんか奥さま様子がおかしいな。昔飼ってたポチに肉をあげた時の目に似てる)

青年使用人(にしても、なんで――なんでシュヴァインさんが“死ん”でいるのに)

青年使用人(喜んでいるようにさえ見れてしまうのは気のせいか?)
398 : ◆Oamxnad08k [sage]:2012/01/26(木) 00:58:23.49 ID:tP5O9+kAO
続け
最近寝落ちばかりですいません
399 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/26(木) 07:29:00.03 ID:HFH4chQIO
続いてくれればええんよ
支援
400 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/26(木) 23:53:19.92 ID:I1OSPG9DO
続きが気になる
401 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/27(金) 23:42:28.42 ID:lAUGtjRAO
館主「……」スッ

青年使用人(あ)

館主「――?」

エリザートがポワソンに寄り、話しかけた。
二人が何事かを言い合っているところを影で見ながらトレフルは思考する。

青年使用人(ポワソンさんに目をつけた…と考えていいのか?)

青年使用人(…奥さまは、やはり―――)

そこまで来て頭を振った。

青年使用人(根拠のない犯人当ては危険だ)

青年使用人(だから白か黒か確かめるために来たんだろ、僕は)

生活を捨ててまで。
性別を偽ってまで。
人生を投げてまで。

何もかも犠牲にしてここへ来たのだ。

青年使用人(収穫無しに帰れるものか)
402 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/27(金) 23:49:06.14 ID:lAUGtjRAO
青年使用人(……って、あれっ?)

女「――」

エリザートと話した後、ポワソンは彼女の後ろについていく。

青年使用人(ポワソンさん、付いていってしまうんですか!?)

付いていってしまった。

青年使用人(なんて無茶を……もしも奥さまが犯人だったらどうするんだ…)

なってしまったものは仕方がない。
もしかしたらこれが彼女の作戦である可能性もある。

青年使用人(……少し時間を見計らって奥さまの部屋に行くか)

周りに人がいないことを確認し、シュヴァインの側へ行く。
403 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/28(土) 00:14:26.92 ID:J8H67IrAO
はぁ、と深い息を吐いているのが微かに聞こえた。
それにはどのような意味が含まれているのか。

男「………」

表情は髪に隠され伺えない。

青年使用人「あなたがいなくては駄目でしょうに――」

そして、彼も彼女がいなくてはいけないのだろう。

青年使用人「見ているだけでも分かりますよ」

青年使用人「ポワソンさんもあなたも、互いに依存しあっている」

予想とちょっとした嫌味を混ぜた。
少しぐらい声をかけても良かったのにという抗議。

青年使用人「知りませんよ?」

青年使用人「あの人、『枷』をなくしたらとんでもないことをすると思います」
404 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/28(土) 00:21:30.67 ID:J8H67IrAO
きっと『枷』がなくなったら躊躇いなく死んでしまうんだろうな、となんとなしに思う。
再び足元から息を吐く音。今度は五月蝿がるような。

青年使用人「……」

まあ彼なりにも彼女なりにも考えがあっての行動なのだろう。
わざわざ自分を傷つけてまでする理由は、トレフルには分からないが。

青年使用人(まだ僕には難しいことなのかな…)

大人になったら理解できるのだろうか。

青年使用人「じゃあ、僕はここを離れますね」


一応言ってからその場を足早に立ち去る。
405 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/28(土) 00:29:07.82 ID:J8H67IrAO
一人になった。何度目かのため息をつく。
血に濡れた脇腹が冷たい。

男(あいつ言いたいこといいやがって。…テストで百点とーれちゃうーかもねっ)

何故かハムスターアニメのエンディングを思い出した。

男(つーかあれケージの管理が甘いんだよ。ちゃんとしとけロコちゃん)

その時点で物語が終了しそうだが。
しかし、と先ほどの愛する先輩の行動を脳裏に描く。

男(なんか掴もうとしてるっぽかったな)

男(にしてもホイホイついていくなんて不用心だろ…)

男(食われたらどうするんだ、本当の意味で)
406 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/28(土) 23:26:36.83 ID:J8H67IrAO
シュヴァインとしては彼女の無事が成功基準なためにあまり無理をしてほしくない。

男(――先輩は命知らずなところがあるからな)

と、パタパタと足音がして彼は息を潜めた。

眼鏡「……あれ、おかしいな」

男(なんでアイツが)

眼鏡「さっき話し声がした気がしたんだが」

男(それは気のせいじゃない)

眼鏡「……? テーブルのそばに何か……」

そして、発見する。

眼鏡「し、死んでる……」

男(死んでます)
407 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/28(土) 23:37:36.46 ID:J8H67IrAO
眼鏡「お前…死ぬのかよ…」

男(どいつもこいつも俺をなんだと思ってるんだよ…)

青年使用人「どうしました?」

ひょっこりとトレフルが現れる。

眼鏡「どうもこうも…まただ……」

青年使用人「え?」

そしてシュヴァインを見て、

青年使用人「――こ、この人、死んでるんですか!?」

驚いた。
中学校の演劇地区大会で銀ぐらいなら狙いそうな演技で。

眼鏡「最後、こいつにあったときから考えると…一時間以内か?」

男(そのぐらいたっていたのか)
408 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/28(土) 23:48:18.58 ID:J8H67IrAO
青年使用人「と、とりあえず…生死を確かめましょう」

眼鏡「……」

血の色、と言ったのが聞こえた。
たしかに酸化した血液が赤黒く変色しており、古い血であることを示している。
が。
それはシュヴァインの血液ではない。

男(可哀想なぐらい騙されてくれちゃって)

ちょっと悪い気がした。

トレフルはガラス細工でも扱うように手首を持ち上げて脈をとるフリをする。
寒いところにいたため彼の手の温度は酷く低い。

青年使用人「…死んで、います」
409 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/28(土) 23:58:06.54 ID:J8H67IrAO
眼鏡「……そっか」

青年使用人「……」

眼鏡「……」

青年使用人「……僕、奥さまを呼んできます」

眼鏡「ああ」

触られたらどうしようか不安だったが杞憂だった。
立ち尽くしてこちらを見ている。

男(気まずい)

眼鏡「…なんというか、まあ、びっくりだよなぁ」

男(びっくりか)

眼鏡「彼女を残して死ぬのはどうかと思うが」

男(……)

男(守って死んだとしても結局は、彼女を残してしまうのか)

男(先輩は残されたらどうするんだろう。今みたな無茶をするのかな)

男(それは、やだな)
410 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/29(日) 00:03:17.40 ID:advNMJLAO
ポワソン、エリザート、トレフルが戻る頃には他のメンバーも揃っていた。
呼んだわけではなく自然と。
一人がそこからいなくなると不安で他が追い掛けてくるという構図だ。

ポワソンが一歩、シュヴァインの方へ足を踏み出す。

女「三人目ね」

冷たい声。
その裏にある真意は彼には分からない。

女「結構人間離れした体力とかあって、めったに表情変わらなかったりしたけど」

男(―――)

女「やっぱり人間なのね、シュヴァイン君も」

男(……その言い方だとまるで俺がゴキブリだったみたいじゃないですか、先輩)

411 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/29(日) 00:13:50.97 ID:advNMJLAO
ばさりとシーツをかけられて担架で運ばれる。
運ぶのは使用人二人だが、万が一のフォローのためにトレフルも付いていく。

使用人B「……」

使用人C「……」

青年使用人「……」

男(なんだこの気まずさ2乗の空間は)

使用人B「あそこ、もはや霊安室になったな」

使用人C「そうだな」

男(前からここで人が死んでいたってことか?)

青年使用人「……」

だいぶ気温下がったような、そんな気がする。
地下かどこかだろう。

使用人B「扉、開けてくれ」

青年使用人「はい」キィ
412 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/29(日) 00:18:32.35 ID:advNMJLAO
使用人C「せーのっ」

使用人B「よいせ」

ドサッ

“先客”と距離をあけて『遺体』をおろす。

青年使用人「……」

使用人B「行くか」

使用人C「ああ」

青年使用人「はい」キィ

鍵はかけない。
かける必要もないし、今は――かけられない。

一度扉を見たのちに怪しまれないように使用人達の背を追った。

青年使用人(大変でしょうが、お願いしますしますよ――)
413 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/29(日) 00:19:56.32 ID:advNMJLAO
-霊安室代わり?-

足音が聞こえなくなって、たっぷり五分。

男「さっみぃ!!」

がばりと先ほどまで死んでいたシュヴァインは跳ね起きた。
死んでいた、と言っても死んだふりをしていただけだが。

男「やっべぇ、マジ寒い。指の感覚消えかけてるんだけども」

文句をいいつつ隣に並べられている遺体をみやる。

嘘偽りなく、死んでいる彼らを。

シュヴァインは小さく白い息を吐いて、言った。

男「さて、検死タイムといきますか――」

414 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/01/29(日) 00:20:22.65 ID:advNMJLAO
続いてください。
415 : ◆Oamxnad08k [sage]:2012/01/29(日) 00:29:03.95 ID:advNMJLAO
うわさっそく使用人Bの口調が崩れたよ!
ごめんね!寒いから風邪をひかないでね!
416 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/29(日) 00:31:08.68 ID:EkNK47CDO
乙乙
417 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/29(日) 01:29:36.85 ID:wt9yfL1IO
乙!
418 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/01/29(日) 13:55:16.80 ID:6KB4AAwno
419 : ◆Oamxnad08k [saga sage]:2012/01/31(火) 00:08:13.13 ID:B1Iewf8AO
まず目を閉じ手を合わせる。
軽い黙祷が終わった後にポケットから白手袋を取り出した。

男「ぱかぱぱっぱぱーん、仕事七つ道具のひとつー……虚しいな」

それを手に嵌め、まずはフランの上体の衣服をゆっくりと捲る。
血で濡れた部分は凍りついているため苦労した。
胸のすぐ下まで捲りあげたところで、彼は手を止めた。

男「…ひどいな」

白い皮膚には無数の小さい穴。
穴穴穴穴穴穴穴。
そこの中身には血管が、内臓が、わずかに骨が覗いている。

420 : ◆Oamxnad08k [saga sage]:2012/01/31(火) 00:17:03.76 ID:B1Iewf8AO
穴の深さは均等のようだ。

男「腹…脇腹…みぞおちの少し下…あと肩っぽいな」

傷の位置を確認している途中、ふと遺体の下に手を差し入れ持ち上げた。
背中が見える。

男「背中まで貫通しているのか……まてよ?」

刺されているところが微妙に違う。
となると、

男「前と後ろからそれぞれ刺された。それも全て同じ力加減で…個人じゃとてもできそうにない」

つまり、犯人はなんらかの器具を使った。

男「……安直に考えると拷問器具だな」
421 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/02/03(金) 01:08:07.26 ID:9FDe6CkAO
となると該当人物がいっきに減るわけだが、

男「そこらの判断は先輩に任せよう。俺、頭悪いし」

衣服を元に戻して、こんどはポンドの側による。

男「……固い」

こちらもすでに固まっていて関節が曲がらない。
死後硬直の他、寒さのせいもあるだろうが、それでも固まるのが早い気がする。

男「…もっと前に死んでいたってことか?」

だとすると彼の妹、クローネの証言は嘘となる。
そうすると彼女が犯人候補にあがってくる。

男「…全く、どーしたもんかね」

意味も語る相手も自身ですら不明瞭なまま小さく呟いた。
422 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/02/03(金) 01:14:33.38 ID:9FDe6CkAO
コンコン

青年使用人『僕です』

男「おかえり。入って大丈夫だ」

青年使用人『すいません……出来れば外で話しませんか?』

何故、と聞きかけて気付いた。
まだ成人を迎えていないだろうトレフルにはキツい光景だ。
成人迎えてもキツいが。

青年使用人『ここ誰も来ませんし』

男「分かった」

扉をあまり開かないように配慮しながら通路に出た。
まだこちらのほうが暖かい。

青年使用人「この水筒に温かいお茶が入っています」

男「今優しさで死ぬかと思った」

青年使用人「だ、ダメですよ!?」
423 : ◆Oamxnad08k [saga]:2012/02/03(金) 01:20:27.29 ID:9FDe6CkAO
男「あー、身体冷えてたんだな」ゴクゴク

青年使用人「正直、凍死してたらどうしようと思ってました…」

男「体調悪いときにここに放り込まれたら可能性はあるかもな」

青年使用人「体調良いときは?」

男「精神力でカバーする」

青年使用人「まさかの精神論ですか!? 体力とかではなく!」

男「我慢すれば寒くない」

青年使用人「すごいむちゃくちゃだ!」

男「それに、マッチを擦るとストーブと暖かい部屋が見えるんだよ」

青年使用人「マッチ売りの少女の幻想ですよそれ! 話繋げてください!」
424 : ◆Oamxnad08k [sage]:2012/02/03(金) 01:31:48.03 ID:9FDe6CkAO
面白く書けない病を発症しました
しばらく空けると思います
ごめんなさい
425 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/02/03(金) 01:32:40.98 ID:KpKOPaOBo
待ってる
426 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/03(金) 07:38:03.98 ID:iyNUXlEDO
知ってた?
その病気書けば治るんだぜ
427 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/03(金) 18:18:31.68 ID:6bIEsJXa0
まっちょる!
428 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/02/09(木) 03:22:13.17 ID:8rpUnj1Qo
頑張れ作者
429 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/10(金) 00:11:17.25 ID:r/r377rIO
羊羹?
430 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/10(金) 04:41:19.31 ID:U21slGfbo
洋館ですよ、>>429
431 : ◆Oamxnad08k :2012/02/21(火) 01:26:33.88 ID:6g7QZlMAO
青年使用人「……あ、あの」

男「?」

青年使用人「このナイフなんですが――」

男「それはまだ貸すよ。終わるものが終わってないし」

青年使用人「いえ…少し疑問に思ったことがありまして」

男「疑問…?」

青年使用人「これ、元々は誰のものですか?」
432 : ◆Oamxnad08k :2012/02/21(火) 01:32:47.74 ID:6g7QZlMAO
男「…………どういうことだ?」

青年使用人「ここの柄にAって…」

わずかな光により、彫ってあるたった一文字が浮かび上がった。

青年使用人「あなた達お二人のどちらもAのイニシャルを持っていません、だから誰のかと…」

男「……」

青年使用人「す、すいません。無理矢理聞いているわけではなく」

男「いやー…まさか分かるとは思わなかったんだけどな」

降参と言うようにシュヴァインが小さく両手をあげた。
意外だったらしい。

男「これだから勘の良い子供は嫌いなんだよ」

青年使用人「…それ、褒めてますか?」

男「一応褒めたつもり」

青年使用人「はぁ……」
433 : ◆Oamxnad08k :2012/02/21(火) 01:46:03.25 ID:6g7QZlMAO
男「大したことねーよ。とある人物の形見だ」

青年使用人「形見って…」

男「友…というより命の恩人だったんだがな、そいつ」

男「ああ、命の恩人に関しちゃ先輩と良い勝負だ」

青年使用人「ポワソンさんにも助けられたことが?」

男「当時居た組織にボコられていたら乱入して来た」

青年使用人「…びっくりです、色んな意味で」
434 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/21(火) 15:07:05.46 ID:ev3UywBDO
435 : ◆Oamxnad08k [sage]:2012/02/22(水) 01:07:47.07 ID:vcBlUFhAO
男「あれは流石にびっくりした」

青年使用人「僕だって驚きます」

男「あたり水浸しにしてからスタンガンを水に触れさせて感電させてたし」

青年使用人「とんでもない人だ…!」

男「若かったしな」

青年使用人「若いはあまり関係ありませんよねそれ」

青年使用人「それで、友人さんのほうは?」

男「…きっとあいつは生きてないんだろうな。銃弾二発食らってたし」

青年使用人「……」
436 : ◆Oamxnad08k :2012/02/22(水) 01:15:07.69 ID:vcBlUFhAO
男「湿っぽい話はここまでにしよう。はい解散」

青年使用人「最後に一つだけ」

男「右京さんみたいな奴だな」

青年使用人「もしかして、ポワソンさんは命の恩人だから一緒にいるのですか?」

男「…どういうことだ?」

青年使用人「えっと、命を助けられたことに恩を感じて…彼女から離れられないのかなと」

男「最初はな。借りだけ返したら去ろうと思ってた」
437 : ◆Oamxnad08k :2012/02/22(水) 01:19:36.07 ID:vcBlUFhAO
しかし命の危機に相応するレベルのことなど早々来るはずもなく。
当初は利害を清算させようと彼女についていただけだったのに。

気づいたら、惚れていた。
気づいたら、命の恩人から恋人へとランクアップしていた。

彼女から離れる理由はなくなっていた。

男「……本当にダメ人間すぎてどうしようもない話だよな」

青年使用人「は?」

男「いや、こっちの話。もうそろそろ先輩に報告しないと」

青年「あ。本当ですね、もうこんな時間」
438 : ◆Oamxnad08k :2012/02/22(水) 01:26:03.52 ID:vcBlUFhAO
男「頼んだ」

青年使用人「任せて下さい。そうそう、忘れるところだった」

水筒を取り出した紙袋から洋服を取り出す。
使用人の制服だった。

青年使用人「着替えが必要かと思いまして」

男「おー、サンキュ。これ、顔さえ見られなければ使用人だって誤魔化せるかな」

青年使用人「どうでしょうね。顔が見えるとこまで接触しない限り大丈夫かもしれません」

男「気をつける」

青年使用人「では、また後で」

男「状況見ながらこっそりリネン室行くから」

青年使用人「はい」
439 : ◆Oamxnad08k :2012/02/22(水) 01:30:27.08 ID:vcBlUFhAO
一礼して慌ただしく地下から上がるトレフル。
若いっていいねぇと思いながら床になにか転がっているものを発見した。
銀色。

男「…ロケット、というんだったか」

写真を入れておくペンダント。

男「……」

手にとりその冷たさをしばし感じる。
趣味が悪いと思いつつもロケットの窪みに爪を立てて、開けた。

男「少女が二人か」

古めの写真だった。
髪の短い大人っぽい少女と、髪の長い妹らしき少女。
満面の笑みで笑いかけている。
440 : ◆Oamxnad08k :2012/02/22(水) 01:31:18.71 ID:vcBlUFhAO
お久しぶりです
なんとか復活、そして終盤へ向かいます
441 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/02/22(水) 01:34:11.33 ID:VJi2Tl1no
乙!!

待ってたよー
442 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/02/22(水) 01:42:24.06 ID:SIi+QI6wo
がんばってー
443 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/22(水) 02:39:38.05 ID:8l5Mcc1DO
待ってたよー
444 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/23(木) 08:27:00.00 ID:G73GtfVIO
445 : ◆Oamxnad08k :2012/02/24(金) 03:14:17.57 ID:gPqKIT+AO
ふと、これの持ち主であろうトレフルの言葉を思い出す。

青年使用人『姉が得意でしたので』

姉。

男(この、年上っぽい少女が姉だと仮定しよう)

男(……従姉妹とか親戚とかのセンもあり得るが、血の繋がった姉だとしてだ)

男(ではこの妹らしき少女は誰だ?)

自身に問いかけてみたが、本当のところ答えはほぼ分かってはいた。
446 : ◆Oamxnad08k :2012/02/24(金) 03:28:35.82 ID:gPqKIT+AO
男(……あいつは……)

なんとなく引っ掛かっていたこと。
今はまだ聞くときではないだろうと保留したこと。

男(年齢や姿はカルネに近い)

男(だからこそ――違和感を感じたんだよ)

仕草、癖、言葉。
その端々に『少女』が見えかくれしていた。

ただ、今まで確信は持てなかったわけだが。

男(ならばこの妹のほうは、トレフル…か?)


丁度同じ頃、同じような質問を彼の敬愛する先輩がしていたのだが知るよしもない。
若干彼の方がリードしていたが。
447 : ◆Oamxnad08k :2012/02/24(金) 03:34:03.98 ID:gPqKIT+AO
男「行くか」

ロケットをしまい、ネクタイを締めて立ち上がった。

男(先輩になにかあったらすぐ動けるようにしないと)

男「じゃあな」

臨時霊安室の扉に別れを言うと、迷うそぶりも見せずに再び事件の渦中へと向かう。

男(先輩が逃げないっていうなら――俺も逃げるわけにはいかない)

448 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/24(金) 09:01:51.90 ID:5yEZX1fIO
今回の更新はここまでかな?

449 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県) :2012/03/07(水) 20:56:00.86 ID:YUOjFp9Eo
まだかな?
450 : ◆Oamxnad08k [sage]:2012/03/09(金) 23:26:31.54 ID:3oZejlyAO
その後、何事もなくトレフルと合流を果たした。

-リネン室-

男「……ほんとに先輩一人で大丈夫だろうか」

青年使用人「見に行けばいいじゃないですか」

男「いやなんか、アレだよ。子供を初めて学校に送り出す保護者の気持ち」

青年使用人「?」

男「気になるけど甘やかしちゃいけないなーって心理だ」

青年使用人(…相当ポワソンさんに対して過保護なんですね)
451 : ◆Oamxnad08k [sage]:2012/03/09(金) 23:37:22.82 ID:3oZejlyAO
シーツの影に隠れてシュヴァインは腰を下ろす。

男「……なぁ」

青年使用人「はい?」

男「お前、本当は殺人事件なんかどうでもいいんじゃないのか?」

青年使用人「酷いこと言いますね…どうでもよくないですよ」

男「言い方を間違えたか」

男「お前の真の目的は殺人事件の解決なんかじゃない。違うか?」

青年使用人「……」

452 : ◆Oamxnad08k [sage]:2012/03/09(金) 23:41:25.03 ID:3oZejlyAO
男「何かあるのか、この屋敷には」

青年使用人「…どうしてそう思うのですか」

男「夢もへったくれもないが、勘だよ」

男「さっき、先輩と館主が二人きりになったときどことなく不安げだったし」

男「『訳有りで家出』なことも、そのロケットのこともある」

男「トレフル、お前は…この館に何しに来た?」
453 : ◆Oamxnad08k [sage]:2012/03/09(金) 23:43:16.94 ID:3oZejlyAO
青年使用人「僕は」

鎖の切れたロケットを握りしめる。

青年使用人「ぼく、は…」

小さく唇が震えた。

青年使用人「捜しに来たんです、姉を…」
454 : ◆Oamxnad08k :2012/03/09(金) 23:50:40.37 ID:3oZejlyAO
男「……ここにいるのか?」

青年使用人「恐らくは」

男「生きて?」

青年使用人「いいえ。死んでいるでしょうね」

男「死んで、いる」

青年使用人「だけど、確かに姉はここに足を踏み入れたはずです」

青年使用人「もしここで消えたのなら、なんらかの所持品があるかもしれない」

男「だからそれを見つけるためここで働いていたってことか?」

青年使用人「そうなります」
455 : ◆Oamxnad08k :2012/03/09(金) 23:54:41.02 ID:3oZejlyAO
男「馬鹿かあんた」

青年使用人「単刀直入に言ってきましたね」

男「じゃあなんだ、親には言ったのか?このこと」

青年使用人「まさか。言えるわけありませんよ」

男「無言で家出か…」

青年使用人「置き手紙はしましたが…親不孝者ですよね」

男「まったくだ、人のこと言えないけど」
456 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/10(土) 00:47:56.69 ID:VSUFGvSDO

457 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/10(土) 13:47:39.35 ID:cK51mxgIO
ん、今日はここまでか。
458 : ◆Oamxnad08k [sage]:2012/03/14(水) 00:01:09.94 ID:PBUpzp1AO
青年使用人「じゃあ、僕は様子見てきますね」スクッ

男「気を付けてな」

青年使用人「はい」スタスタ

男「……」

己の貴重な時期を無駄にして。
正体がバレないように細心の注意を払い続けて。
それを二年間もだ。

男「あいつは強いんだな…」



青年使用人「大変です!すっごい大変なことがーー!!」バタバタバタ


男「…やっぱ今のなしで」

青年使用人「えっ?」
459 : ◆Oamxnad08k [sage]:2012/03/14(水) 00:04:26.93 ID:PBUpzp1AO
男「で、何があった」

青年使用人「かくかくしかじかうまうま」

男「わかんねーよ」

青年使用人「わかってくださいよ!」

男「無茶言うな」

青年使用人「奥さまが睡眠効果のあるお香を焚いて、みんなを眠らせてしまいました!」

男「なに!?」

青年使用人「音だけでしか様子が分かりませんでしたが、おそらくポワソンさんはどこかに…」

男「連れ去られた、ってやつか」

青年使用人「はい」
460 : ◆Oamxnad08k [sage]:2012/03/14(水) 00:08:15.96 ID:PBUpzp1AO
男(まさか別行動にしたのはこういうことがあると先輩が予想していたからか?)

男「今慌てて行動してもそのお香を吸っちゃあ元も子もないな…」

青年使用人「換気ですかね…」

男「ハンカチか何かで口押さえながら扉を開けるか…」

トコトコ

青年使用人「! 誰か通路歩いています、ドアは閉めてますが一応隠れて下さい」

男「おう」
461 : ◆Oamxnad08k [sage]:2012/03/14(水) 00:13:27.65 ID:PBUpzp1AO
トレフルはドアにぴったりと張り付き耳をそばたてる。

使用人A『なんか騒ぎでもあったのか?』トコトコ

青年使用人(……あの人は無関係なのかな)

彼の声を漏らすまいと神経を尖らせた。

使用人A『失礼します…ってなんだこりゃ』

何があったのだろう。

使用人A『甘いにおい…?このお香は始めてだな』

青年使用人(………)

使用人A『なんか眠く…』バタ

人が倒れる音。

青年使用人(えええええ!?早くない!?)
462 : ◆Oamxnad08k [sage]:2012/03/14(水) 00:14:02.53 ID:PBUpzp1AO
短いですがここまで
使用人Aはちょいやく
463 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/14(水) 01:35:46.62 ID:2DP+JBVDO
464 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/31(土) 04:37:55.86 ID:z2Ppx2UWP
wktk
465 : ◆Oamxnad08k :2012/04/10(火) 20:35:17.93 ID:+PNmW57AO
男「どうした?」

青年使用人「かませって初めて見ました」

男「は?」

青年使用人「じゃなくて、ええっと、ちょっとお香が薄まったかもしれません」

男「マジか」

青年使用人「多分大広間だけですから、そこ抜ければなんとか」
466 : ◆Oamxnad08k :2012/04/10(火) 20:40:20.70 ID:+PNmW57AO
男「…善は急げっていうしな。行こう」

青年使用人「はい」

ガチャ

パタパタパタ

男「……なんか倒れているんだけど」

使用人A「」

青年使用人「見なかったことにしましょう…」

使用人A「」
467 : ◆Oamxnad08k :2012/04/10(火) 20:43:26.81 ID:+PNmW57AO
-ダイイングルーム-

男「ちっ…、先輩達がそっくりいなくなってる」

青年使用人「男性方なら伸びてますが…」

男「動けないようにしてあるな。おーい起きろ」ユサユサ

眼鏡「」

ピアス「」

男「ぐっすり眠ってるみたいだな…」

青年使用人「長居は危険です。早く行きましょう」

男「分かった。またあとでな」ヒラヒラ

眼鏡「」
468 : ◆Oamxnad08k :2012/04/10(火) 20:48:26.50 ID:+PNmW57AO
-館主の部屋の前-

男「ここか」

普通にドアを開けようとするシュヴァインにひやひやする。
もうちょっと警戒心とかないのだろうか。

男「おっと」

立派な調度品が並ぶ部屋のなか、ぽっかりと暗い穴が異様に目立っていた。扉が開いたままだからだ。
ここまで堂々とした隠し扉は初めてだなぁと思いつつ目前に立つ二人の人間を見る。

使用人B「……おっかしいなぁ?死んだと思ったんやけど」

男「なるほど。お前らはエリザートとグルだったわけか」
469 : ◆Oamxnad08k :2012/04/10(火) 20:51:39.24 ID:+PNmW57AO
使用人C「トレフルと今ここにいない奴は万が一のために何にも知らせなかったけどな」

信用ないな、とトレフルは思った。

男「あっそ。とりあえず今は……そういうことかよ」

一段と低い声になり。

男「…下がってろ。いいか、前に出るなよ」

青年使用人「は、はい」

470 : ◆Oamxnad08k :2012/04/10(火) 20:53:41.80 ID:+PNmW57AO
男「なるべく表に出ないようにしていたのは、そういうわけか」

使用人B「おっ、その様子だとこっちの正体分かったみたいやな?」

男「強盗殺人犯に児童殺人犯だな?テレビの時と容姿が多少変わってはいるから気づかなかったが」

青年使用人「え」

男「むしろトレフル、なんで気づかなかった」

青年使用人「まったく興味持ってなくて…」

男「おい…」
471 : ◆Oamxnad08k :2012/04/10(火) 21:02:10.69 ID:+PNmW57AO
使用人C「なんでトレフルがそっちにいるのかは後にして、まずあんたを何とかせにゃな」

男「死人に鞭打つのか。やだねー」

殺人犯二人を前に、シュヴァインはぼやいた。
あなた生きてますやんとはトレフルは言わなかった。

男「こいよ糞餓鬼。…餓鬼じゃないけど」

使用人B「しっかり死んでもらうで――!」

大振りのナイフ片手に突っ込んでくる強盗殺人犯。
シュヴァインはとっさに横に避け、己を刺すべく伸ばされた腕を抱き締めるように掴んだ。

使用人B「あれ」

男「ばーか」

そのまま肘の関節を本来曲がらない方に無理矢理曲げさせた。
472 : ◆Oamxnad08k :2012/04/10(火) 21:08:55.63 ID:+PNmW57AO
青年使用人「えげつねえ……」

足元で激痛に転がる同僚を見やり顔をしかめた。

男「次。なんだっけお前、ロリコンだっけ」

使用人C「ロリコンじゃない。好きになった相手がみんな子供だっただけだ」

男「はーん、そうか。死んで詫びてこい馬鹿」

シュヴァインは目潰しするべく真っ直ぐに眼球へ向けられた二本の指をやはり逆に折る。
怯んだすきに足払いをかけて転ばした。
それから脇腹の下に足を差し込み、うつ伏せにして腕をまとめあげる。

男「紐ないか」

青年使用人「…ありました」
473 : ◆Oamxnad08k :2012/04/10(火) 21:15:25.37 ID:+PNmW57AO
なんでこんなものがあるのか、新品の縄が部屋のすみに鎮座していた。
恐らく被害者を縛ったりする目的のために置いていたのだろう。
興味はないので彼にとってはどうでも良かったが。

男「よし」

足もきっちり縛り、満足そうに立ち上がる。

青年使用人「シュヴァインさん…ここだけみるとあなためちゃくちゃ悪役でしたよ…」

男「過剰防衛だったか」

青年使用人「一応殺されかけたのでいいとは思いますが…」

落ちた大振りのナイフには何やら液体が塗ってあったし。
それに、目潰しの次に殴ろうとしていたのかトゲつきのナックルダスターがポケットが見つかった。

青年使用人(敵にまわさなくて良かった…)
474 : ◆Oamxnad08k [sage]:2012/04/10(火) 21:16:33.64 ID:+PNmW57AO
そんな無双回
大丈夫、ここからピンチに陥ります
475 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/10(火) 21:19:26.95 ID:mfB5b+tEo
乙です
476 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/04/11(水) 06:08:59.80 ID:eqsR9ySDo
おつおつ
477 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/12(木) 14:43:24.45 ID:ke87nYtIO
おつおつ
478 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/04/14(土) 20:18:52.72 ID:0S0BGx4Wo
乙乙!
479 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2012/04/29(日) 06:41:29.61 ID:m2RK/f3co
wwktk
480 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/04/29(日) 14:41:59.42 ID:LtCFBKO+o
ここで終わってる・・・だと・・・

LOOP THE LOOPの話に似てるな
481 : ◆Oamxnad08k :2012/04/29(日) 21:05:45.54 ID:xgC512PAO
隠し扉(隠しているといっていいものか)に入ると下へと続く階段が現れる。
地下へ続くようだ。

男「……行くぞ」

青年使用人「はい…」

シュヴァインを先頭に降りていく。

男(壊れたトロッコとか溶岩とか出てきたらどうしよう)

青年使用人(変な虫とか出てきたらどうしよう)
482 : ◆Oamxnad08k :2012/04/29(日) 21:15:12.80 ID:xgC512PAO
様々な思いを抱えながら最後の段へと行き着いた。

広がるのは、赤い絨毯がひかれた短い通路。
右側にはランプを模したライト。
左側には重そうな鉄でできた扉が五つ、均等に並んでいる。

石の壁だからかどこかひんやりとした印象をあたえた。

男「どっかからか風が入っているみたいだな」

青年使用人「確かにそうですね。窒息してしまうからでしょうか」

男「換気もあるだろうな。ま、何やってんだか知らないが」

まずは手前の扉に手をかけた。
483 : ◆Oamxnad08k :2012/04/29(日) 21:17:00.19 ID:xgC512PAO
男「これは……」

薄く開いた扉の間を凝視して声を洩らす。

青年使用人「な、なんだったんですか?」

男「外れ。物置だった」

青年使用人「…………」

青年使用人(蹴っ飛ばしたい…)
484 : ◆Oamxnad08k :2012/04/29(日) 21:21:50.56 ID:xgC512PAO
気を取り直し、次。
鍵がかかっていたのでこじ開けた。

暗い部屋に通路のライトの光が入り込む。

男「……」

青年使用人「……」

棚が、壁一面にあった。
そこに置かれているものは。

男「今までの被害者か、こりゃ」

黄ばんだものや真新しそうな色の、骸骨。
恐らくは生前身につけていたのだろう、ピアスやネックレスが傍に添えられていた。

青年使用人「ああ…」

男「大丈夫か」

青年使用人「大丈夫、大丈夫です……すみません、少しだけ見させてください」

男「…少しだけな」
485 : ◆Oamxnad08k :2012/04/29(日) 21:27:11.12 ID:xgC512PAO
周りを警戒しつつ、もっと光が入るように扉を大きく開ける。

男(30…いや、40か?)

全員エリザートの手にかかった被害者だろう。
何故“保存”をしているかは不明だが――コレクションのようなものか、とシュヴァインは思う。

ひとつひとつの骸骨をトレフルは念入りに見ていく。
その背中は狂気すら感じた。

男(…狂ってはいるか。男装してまでここに来たのだから)

静かにそれを見守る。
486 : ◆Oamxnad08k :2012/04/29(日) 21:31:59.04 ID:xgC512PAO
そして。

青年使用人「ああ」

小さく声をあげた。
手に取ったのは、金色のロケット。
トレフルの持つロケットと全く同じ形。

震える手でロケットを開く。

青年使用人「あ、…ああ……うあああ……」

色褪せた写真には姉妹が幸せそうに笑っていた。

男「…トレフル」

青年使用人「やっと…やっと会えたね……探したんだよ?」

男「……」

青年使用人「…すぐ戻ってくるとかいって……わたしにこんなに探させて……」

涙が止まらない。

青年使用人「……お姉ちゃん…」
487 : ◆Oamxnad08k :2012/04/29(日) 21:36:56.54 ID:xgC512PAO
青年使用人「そうだよ……お姉ちゃんは八重歯大きかったもんね?」

骨を腕の中で抱き締めた。

青年使用人「本当にもう…困ったお姉ちゃん…」

屈んで、小さく丸まって嗚咽をもらした。

男(ようやく終わったんだな――)

男(姉を探す苦しみが)
488 : ◆Oamxnad08k :2012/04/29(日) 21:53:31.47 ID:xgC512PAO
青年使用人「すいません、こんなことしてる場合じゃないのに」

男「いや。いいのか、もう」

青年使用人「あとで迎えにいきます。それでいっしょに帰るんです」

男「だな」

青年使用人「…なんで頭撫でているんですか」

男「なんとなく」

青年使用人「ポワソンさん嫉妬したらどうするんですか」

男「先輩も撫でれば問題ない」

青年使用人「手懐けてますね…」

男「お互いにな」
489 : ◆Oamxnad08k [sage]:2012/04/29(日) 21:54:29.13 ID:xgC512PAO
お待たせしました
微妙にトレフルちゃんの頭が飛んだ気もする
残りの扉:三つ
490 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/29(日) 22:40:00.08 ID:NZZCObJDO

待ってた
491 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/04/30(月) 09:34:16.62 ID:qUfRRtvpo
待ってました!乙!
492 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/04/30(月) 11:48:08.42 ID:49wpQ/6So
超舞ってた!!
乙乙!
493 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/01(火) 07:30:56.54 ID:SuLUF9pIO
乙乙乙!
494 : ◆Oamxnad08k :2012/05/02(水) 22:46:42.89 ID:b05o3P8AO
三つ目の扉。
やはり鍵がついていたのでこじ開ける。

青年使用人「あの、ピッキング、得意なんですか?」

犯罪行為を始めるシュヴァインに向かって話しかける。
彼は手を止めず答えた。

男「あー、どうなんだろ。気がついたら身に付いていた」

青年使用人「気がついたら身に付いているものなんですか…」

男「こまけぇこたぁいいんだよ。ほら、開いた」
495 : ◆Oamxnad08k :2012/05/02(水) 22:48:27.02 ID:b05o3P8AO
―――

眩しくて、目を薄く開いた。

?「生きてるみたいで何より」

誰かが言った。

妹(ここは、何処だろう)

妹(この人は、誰なんだろう)

目の前には人の影。
だが、もうろうとしている視界では誰なのかは認識できなかった。

妹「……お兄ちゃん?」

纏まらない思考のなか、自分の手で殺した最愛の人の名を呼んだ。
死んだ人が生き返るなんて、そんなことあり得るはずないのに。

でも、彼女は今そこまで考えられなかった。

496 : ◆Oamxnad08k :2012/05/02(水) 22:50:07.07 ID:b05o3P8AO
?「…まだ起きてないのか」

影はがさつに言い捨てると、自分の手首に手を伸ばし硬い金属音をたて始めた。

?「ナイフで外せるんですか?」

少しだけ湿った若い声。
さっきまで泣いていたのか。

?「こんな古い鍵のタイプなら余裕だ」

?「うーん…それはあなたならば余裕なんでしょうけど……」

文句が遠くから聞こえる。
手首が軽くなる。
今まで何が手首に巻き付いていたのだろうと今更ながらに考える。

男「ここで死んだほうがよかった、と思うかもな。そんときは恨むなよ」

ようやく覚醒へ向かう意識。
そこでまず思ったことは。

妹(なんでこの人、生きてるんだろ)
497 : ◆Oamxnad08k :2012/05/02(水) 22:57:55.89 ID:b05o3P8AO
――

男「…一手間かかったな」

青年使用人「ドールさんたちを起こして連れていって貰わなくてはいけませんでしたからね」

男「ああ。で、この待機室っぽいとこに先輩はいなかった…ということは」

嫌な予感がする。

男「まさかもう色々終わってねーよな…」

青年使用人「そんなマイナス思考でどうするんですか!」

青年使用人「ポワソンさんなら大丈夫です!」

男「……だよな」

口元に小さく笑みを作る。

男「流石に弟ほど運悪くないだろうしな」

青年使用人「弟さんって一体…」
498 : ◆Oamxnad08k :2012/05/02(水) 23:02:21.28 ID:b05o3P8AO
四つ目の扉。
開けようとして、止まった。

男「ダミーだ」

青年使用人「ダミー?」

男「というほどのものでもないがな。鍵穴に埃がつもってる」

青年使用人「本当だ…」

男「最後の扉は…ああ、なんかもうそれっぽいな」

他よりも頑丈そうな扉だ。

男「隣の部屋までぶち抜いているのか? まあいいか」

そして、ナイフを鍵穴に当てる。
丈夫なナイフだなぁとトレフルは場違いに思った。

男「覚悟はいいか」

青年使用人「……はい」


鍵を、開けた。


499 : ◆Oamxnad08k :2012/05/02(水) 23:14:05.06 ID:b05o3P8AO
まどろっこしそうに足で蹴り開ける。


ぽかんとエリザートがシュヴァインを見た。

館主「あなたは……」

シュヴァインはネクタイを引きちぎるように取り払い、前髪を掻き上げた。

男「可愛い女の子だと思った?」

ポワソンが彼を見て微笑んだ。
首もとからは微量、血が垂れている。


男「残念、シュヴァイン君でした」


トレフルからはその顔は見えなかったが、笑ったことだけは分かった。
500 : ◆Oamxnad08k :2012/05/02(水) 23:17:05.10 ID:b05o3P8AO
男「大丈夫ですか、先輩」

女「まあまあ大丈夫かしら」

男「遅かったですかね」

女「いいえ、ベストタイミングよ」

男「なら良かった」

まるで予定調和のような会話。
それから日常的ともいえる会話にはいり、緊張しながらも

青年使用人「もうちょっと感動的な会話はできないんですか、あなたたち…」

とツッコむ。
なんとなくだったが、トレフルはこの二人が揃えば安心なように思えた。
501 : ◆Oamxnad08k :2012/05/02(水) 23:20:31.29 ID:b05o3P8AO
男女「さあ」

呆然とする館主と執事を見やり、二人は不敵に笑った。

ポワソンはまだ拘束されている。
シュヴァインは疲労が少し溜まっている。
トレフルは姉の骨を見つけたショックがまだ残っている。

まだまだ問題は山積みだが、これだけは言わなくてはいけない。



女「ここからは私たちのターンね」
男「ここからは俺たちのターンだ」


502 : ◆Oamxnad08k :2012/05/02(水) 23:33:01.14 ID:b05o3P8AO
五話目 「さぁ、お前の罪と車種年式走行距離を数えろ」

――六話目へ続く
503 : ◆Oamxnad08k [sage]:2012/05/02(水) 23:33:28.31 ID:b05o3P8AO
やっとポワソンさん参入
続きます
504 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/02(水) 23:36:10.33 ID:yWxlyOPYo
505 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/03(木) 05:07:24.03 ID:VHhX4+xDO

506 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/20(日) 18:41:28.99 ID:ZlFoNIY6P
きたい
507 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2012/05/26(土) 18:46:51.15 ID:gwdYAxuQo
C
508 : ◆Oamxnad08k [sage]:2012/05/27(日) 22:48:52.46 ID:WnT4ebTAO
館主「あらまあ…とうとうツケが回ってきたのかしら?」

さして困っている様子もなく、彼女は頬に手を当てる。

男「今まで隠し通せると思っていたのか」

館主「ええ」

女「……」

青年使用人「……」

館主「というより貴方言葉づかい荒いんですね。育ちが良さそうに見えたのですが」

男「……育ちは良かったけど途中グレたからな」

シュヴァインはそんな話をしに来た訳じゃないと吐き捨てた。
509 : ◆Oamxnad08k [sage]:2012/05/27(日) 22:51:15.00 ID:WnT4ebTAO
女「いずれかはこうなると予想できたんじゃないかしら」

館主「予想はしていましたよ。それに、以前にも貴方達みたいな方はいました」

女「いた……?」

館主「そうです。でも、」

にこりと笑った。



館主「残らず死んでもらいましたけどね?」




510 : ◆Oamxnad08k [sage]:2012/05/27(日) 22:57:06.59 ID:WnT4ebTAO
ポワソンが目を見開き、トレフルが口に手を当てる。

それと同時に、シュヴァインが吹っ飛んだ。

男「ぐがはぁっ!?」

女「シュヴァイン君!?」

とっさに受け身をとり、ダメージを減らしたものの強く横っ腹を蹴られた。

ポワソンのすぐ目の前で片膝をつきながらシュヴァインは相手を睨む。

男「て、てめぇ…気配消すとか忍者かよ……」

執事「格闘技はあらかた心得ておりますので。喧嘩事も、それなりには」

男「いや今の蹴りはおかしい。俺はボールか」
511 : ◆Oamxnad08k [sage]:2012/05/27(日) 23:01:30.05 ID:WnT4ebTAO
さながらサッカーボールの気分だ。

執事「主人を守るのは執事の仕事――ですからね」

女「守る?……じゃあ、主人が間違えていると言うことも執事さんの仕事じゃないかしら」

一人だけその場に取り残されたトレフルが慌ててシュヴァインにかけよる。

それを何をするでもなく見ながら忠実な執事は答えた。

執事「何が間違えているのでしょう――?」

512 : ◆Oamxnad08k [sage]:2012/05/27(日) 23:08:42.30 ID:WnT4ebTAO
女「……」

男「……」

青年使用人「ナーダさん……」

女「ああ、そういうことだったのね…」

手遅れなほどに狂っていた。
手遅れなまでに溺愛していた。

エリザートが。
彼女に仕えるナーダが。

513 : ◆Oamxnad08k :2012/05/27(日) 23:13:59.88 ID:WnT4ebTAO
男「お前らの中では許されるんだろうな。お前らの中ではな」

片腹を押さえながらゆっくりと立ち上がる。
ちりん、と空いている片手から金属がぶつかり合う音がした。

束になった鍵だ。

執事「……!いつのまに……」

男「見えてたんだよ。お前さんのポケットに鍵があることが」

青年使用人「え?僕は見えませんでしたよ」

男「ポケットが膨らんでたんだよ。何が入ってるかだいたい分かる」

青年使用人「それは多分あなただけかと思います」
514 : ◆Oamxnad08k :2012/05/27(日) 23:18:44.70 ID:WnT4ebTAO
男「いつ盗ろうかなーって考えていたらそっちから近寄ってきてくれたからな」

執事「にしては、あっさり攻撃受けましたね」

男「ギリギリで避ける暇がなかったんだよ…」

男「だから代わりに一か八かで鍵のあるポケットに手を突っ込んだ」

執事「…なかなかに無茶苦茶ですね」

男「褒めてくれるな。運が最高に良かったとしかいえない」

鍵をトレフルに渡す。

男「先輩の錠を外してくれ」

青年使用人「あ、はい」

女「シュヴァイン君、何を……」
515 : ◆Oamxnad08k :2012/05/27(日) 23:26:16.30 ID:WnT4ebTAO
男「いやぁ――どうやらこのお二方、俺らをここから帰してくれなさそうなので」

館主「ふふ」

執事「……」

男「ちょっと拳で説得します。特にそっちの執事に」

執事「おや。わたくしに敵うと?」

男「あ?やってみなきゃ分からねぇだろうが」

女(でもさっき蹴り飛ばされたからダメージがあるはず…)

青年使用人「」カチャカチャ

女「いたた…あ、開いた。ありがとう」

青年使用人「いえ」フゥ
516 : ◆Oamxnad08k :2012/05/27(日) 23:30:38.61 ID:WnT4ebTAO
エリザートが楽しげに口を開いた。

館主「勝ち負けでも決めますか」

女「勝ち負け?」

館主「どちらかが倒れて動けなくなったら負け、と」

男「ずいぶん寛容なルールだな。自信あるのか」

館主「それはそうですよ。わたしの執事ですから」

女「…それだけじゃないでしょう?負けた方は?」

館主「まあ、そちらが負けたらまずあなたからは血を」

女「……」

館主「トレフル、あなたは事情を聞いてから決めましょう」

青年使用人「え、あ…はい」
517 : ◆Oamxnad08k :2012/05/27(日) 23:33:52.74 ID:WnT4ebTAO
男「俺は?――男の血なんか飲む趣味あるのか?」

館主「ううん……そうですね」

唇を尖らせて何かを思案していたが、はたと手を打った。

館主「内臓、引きずり出してみましょうか」

女「うわぁ」

男「……生きたまま?」

館主「もちろんですが」

男「……………」

館主「ナーダが倒れたなら…諦めてあげましょう。いいですか?」

執事「はい」
518 : ◆Oamxnad08k :2012/05/27(日) 23:41:50.58 ID:WnT4ebTAO
男「………」

女「シュヴァイン君?大丈夫?」

男「大丈夫です、もう何も怖くない」

女「死亡フラグよ、それ」

男「ここから帰ったら実家に顔でも見せに行きますか」

女「死亡フラグよ、それ」

男「あとトレフル、お前を巻き込んで悪かったと思っているよ」

青年使用人「死亡フラグですよ、それ」

どうやらシュヴァインが内心とても緊張しているらしいと、ポワソンとトレフルは思った。
519 : ◆Oamxnad08k [sage]:2012/05/27(日) 23:42:23.59 ID:WnT4ebTAO
投下終了
こんなにタッチが軽いの初めて!
520 :VIPPERにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/28(月) 00:53:50.47 ID:PP752vf6o
乙!
521 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2012/05/28(月) 01:21:23.95 ID:PywQW7xho
522 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/28(月) 17:35:26.65 ID:wJEgg1dDO
523 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/05/29(火) 21:34:49.49 ID:wJzh4t2/o
おつー
524 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/01(金) 22:03:49.72 ID:TSO/m/yIO
おつー
525 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2012/06/25(月) 19:40:49.10 ID:+l16iVSAO
舞ってる
526 : ◆Oamxnad08k [sage]:2012/06/30(土) 20:35:57.67 ID:t5yYcacAO
(言えない…別スレしてたなんて…)

はじめます
527 : ◆Oamxnad08k [sage]:2012/06/30(土) 20:42:46.42 ID:t5yYcacAO
男「ひとつ聞きたい。飛び道具系は、ないよな?」

執事「いいえ。そのようなものは持っていません」

男「なら良かった」

つまりは素手と素手のぶつかりあい殴りあい。
技術と体力がダイレクトに勝敗をわける。

とん、と軽い跳躍と共にシュヴァインは距離を縮めナーダに掴みかかる。
右手で弾かれるやいなや、シュヴァインは屈んで相手の脛を蹴り飛ばした。

執事「ぐ……弾くことを予想して?」

男「三手ぐらい先は考えているもんだろ」

上から振る拳をギリギリで避けながら答えた。
528 : ◆Oamxnad08k [saga sage]:2012/06/30(土) 20:47:14.81 ID:t5yYcacAO
体制を即座に整え、立ち上がる。

男(顎を打てば―――)

考えつつ指を固めた。
が、

男「ぐぉ!?」

ナーダの高く上がった爪先が脇腹に入った。
二度目の横腹攻撃である。

女「シュヴァインくん!?」

男「いや、大丈夫だと思います」

実際にはあまり大丈夫ではないが。
多分アザができた。
529 : ◆Oamxnad08k [saga sage]:2012/06/30(土) 20:52:25.47 ID:t5yYcacAO
執事「ダメですね。動きが一瞬止まってましたよ」

男「…わりーな。だって最近こんなことなかったしよ」

かなり痛む。
痛むが、タンマをとらせてくれる相手でもない。
いったくねーいったくないわーと棒読みで痛みに対抗してみるがあまり意味がなかった。

執事「…なかなか強敵だ」

再度立ち上がるシュヴァインを面白そうに見た。

男「そりゃどうも」

対する彼はナーダをめんどくさげに見た。
脇腹は熱を帯びて重い。生死をかけた争いには致命的ともいえる。
530 : ◆Oamxnad08k [saga sage]:2012/06/30(土) 20:56:16.32 ID:t5yYcacAO
男「はあ――」

ちらりと横を見る。
心配げにこちらを見るポワソン。
泣きそうな顔をしたトレフル。

男「あれだ、なんか今俺すごい主人公モード」

館主「主人公、ですか?」

男「ほら女の子がこっちを応援してハラハラしてるから。なんかスポーツ系の主人公になった気分」

呆れたようにエリザートは首を傾ける。
フンフンディフェンス知らないんだろうな、と思いながら、腰を低くする。
531 : ◆Oamxnad08k [saga sage]:2012/06/30(土) 21:00:29.81 ID:t5yYcacAO
男「いつまでものばしてたら打ちきりになるからな――」

執事「ならさっさと終わらせませんとね」

男「だな。あんまり水増ししてると読者が飽きちまうから」

シュヴァインは走り出すべく足に力を籠める。
ナーダは全身を緊張させる。

そして

男「――ふっ!」

短く息を吐いて、短い距離を殆ど飛ぶように向かっていき、そして――

女「え」

青年使用人「あ」

館主「あら」



――前のめりに、コケた。



532 : ◆Oamxnad08k [saga sage]:2012/06/30(土) 21:00:57.00 ID:t5yYcacAO
続きます!
533 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/30(土) 22:35:55.24 ID:rCFPiynNo
おつおつ
534 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/01(日) 00:07:06.92 ID:tcG78UdDO
つっこみどころが多すぐるwww
535 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/07/01(日) 20:56:44.98 ID:/bF62WXio
乙乙!!
536 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2012/07/16(月) 10:27:01.11 ID:Ag7pL+SAO
まだかな
537 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/07/17(火) 18:02:17.34 ID:+InZFdfdo
追いついた!おつ
538 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2012/08/01(水) 13:17:07.44 ID:d62FHfx0o
まだかなぁ…
539 : ◆Oamxnad08k [sage]:2012/08/17(金) 00:07:14.20 ID:Nj/5hivAO
1です
すいません、もうすいませんしか言えないんですがもうちょっと待って下さい
540 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/17(金) 01:04:51.52 ID:96p+5X+DO
待ってる
541 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/17(金) 03:12:19.29 ID:Qy6B9pyAo
エターにならない限りいくらでもまつさ
542 : ◆Oamxnad08k :2012/08/19(日) 00:45:05.65 ID:og8I/D6AO



女弟『あのさぁシュヴァイン』

男『なんだよ』

女弟『もしも負けそうになったとするじゃないか』

男『ああ』

女弟『最後の力を振り絞ってでも勝ちたい、もしくは逃げたいときはどこを狙えばいい?』

男『あー…そうだな。人間に鍛えられないところ、どこか知ってるか?』

女弟『鍛えられないところ?』
543 : ◆Oamxnad08k :2012/08/19(日) 00:50:35.16 ID:og8I/D6AO
男『そうだ。どんなに頑張っても鍛えられそうにないところ』

男『あ、ちなみに素手で攻撃を前提にな』

女弟『うーん…眼球?』

男『そこもありだがな。身長差あったらだめだろ』

女弟『あ、そっか……じゃあ脛』

男『ぶっぶー、蹴りとかに慣れてる奴じゃ意味がない』

女弟『じゃあどこ?降参』

男『頭を使えよバカルネ。それとも現実から目を逸らしているのか?』

女弟『いつもだけど』

男『…そうだったな。ヒント。第二の自分』

女弟『……まさか――』
544 : ◆Oamxnad08k :2012/08/19(日) 00:55:53.50 ID:og8I/D6AO
一瞬焦ったが、即座に冷静になり倒れながら次の手段を思考する。

男「っ」

飛び込むように前転の体勢に入る。
前転。
マット運動でポピュラーなアレである。

シュヴァインは回るとき、大きく足を振り上げた。
狙う先は
545 : ◆Oamxnad08k :2012/08/19(日) 00:56:21.27 ID:og8I/D6AO




女弟『――股間?』

男『大正解』




546 : ◆Oamxnad08k [sage]:2012/08/19(日) 00:57:02.61 ID:og8I/D6AO
またちかいうちにすみませんすみません
547 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/19(日) 01:14:57.76 ID:e5ObyTczo
おつおつ
まつまつ
548 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2012/08/19(日) 05:33:31.71 ID:42/aevWHo
乙!
549 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/20(月) 00:05:19.09 ID:VyBL++FDO
乙!
550 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2012/09/05(水) 01:06:17.67 ID:Zh6Wgm3AO
まだかな
551 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/09/09(日) 21:38:24.32 ID:CAyOjFUgo
wktk
552 : ◆Oamxnad08k [sage]:2012/09/16(日) 00:30:18.74 ID:/i08EZMAO
執事「」

部屋が一瞬静まり返った。

青年使用人「あいたたたたた」

女「ヤバイわ…女なのに寒気がしたわ……」

館主「………」

男「俺も痛いです。心が」

悶える執事を見下ろしながらシュヴァインは額に滲んだ汗を拭った。

男「チェスに例えるなら相手の顔ぶん殴って勝利したような後ろめたさはあるけど」

青年使用人「チェス関係ありましたかそれ」

男「どうだよ、エリザート。勝ったぜ」

館主「……」

パチパチとエリザートは拍手をした。
553 : ◆Oamxnad08k [sage]:2012/09/16(日) 00:35:32.51 ID:/i08EZMAO
館主「美しい試合……とは思えませんでしたけどね」

男「はん。こんなことをやらかしてるてめぇらに美しい敗北はねぇよ」

館主「それもそうですね」

女「あなたはこれからどうするの?」

ポワソンは半ば睨み付けるようにしながら言った。

女「出頭する?それともここで死ぬ?」

男「先輩」

館主「あら、それは一体どういうこと?」

女「……選ばせてあげているのよ」

女「あなたのために殺された子たちにとっては不本意でしょうけど」
554 : ◆Oamxnad08k [sage]:2012/09/16(日) 00:40:58.25 ID:/i08EZMAO
男「……」

女「ごめんなさいねシュヴァイン君。助けてくれたのにでしゃばって」

男「いいんですよ先輩。ここはあなたにお任せします」

女「ありがとう」

髪をかきあげてエリザートを見据える。

女「…別に、雪山を逃げてもいいわよ」

館主「行くあてなどわたくしにはありませんわ」

柔和にエリザートは笑った。

館主「わたくしにはこの家と、ナータしかいませんから」

執事「……」スク

男(もう立ち直りやがった)
555 : ◆Oamxnad08k [sage]:2012/09/16(日) 00:46:40.71 ID:/i08EZMAO
女「どうするつもり?もうそろそろ、警察が来るかと思うけど」

館主「この家を他人に引っくり返されるのは嫌ですね」

ふ、と笑って。

館主「老いるのも、嫌ですわ」

青年使用人「奥さま――――」

館主「トレフル、暇を出すわ」

青年使用人「は…」

近くにあったランプの覆いをとる。
今時珍しいオイルランプだった。
電気ではないのは彼女のこだわりなのか。

女「なにを?」

館主「こうするのよ」

556 : ◆Oamxnad08k [sage]:2012/09/16(日) 00:51:29.63 ID:/i08EZMAO
ガチャンと床に強く叩きつけた。

ランプは割れ、オイルが辺りに広がる。
火がオイルに引火した。

エリザートは上着を脱いで火にかざす。
少し時間を置いて、上着に火が移った。

青年使用人「奥さま……!!」

女「駄目!」

近寄ろうとするトレフルを押し止めた。

館主「うふ、賢明ね。一緒に燃えようかと思ったのに」

男「…それがあんたの答えか」

館主「ええ」

木製のところへ火のついた上着を放り投げる。
カーペットにもじんわりと火が広がっていた。
557 : ◆Oamxnad08k [sage]:2012/09/16(日) 00:56:47.97 ID:/i08EZMAO
女「シュヴァイン君、彼女をお願い」

男「はい。逃げるぞ、丸焦げになる」

青年使用人「あっ……奥さまッ!ナータさん!」

シュヴァインがトレフルを抱えて外に出た。

館主「まだ何か?」

女「あなたの顔を覚えておこうと思って」

館主「あら、嫌み?」

女「たとえ年老いてもあなたは美しいかっただろうにね」

館主「それはありがとう。でもわたくしが欲しいのは若さなのよ」

女「……そう」
558 : ◆Oamxnad08k [sage]:2012/09/16(日) 01:04:10.99 ID:/i08EZMAO
館主「最後にいいかしら」

女「なに?道連れはいやだけど」

煙がこもってきた。
そろそろ逃げないと不味いだろう。

館主「あなたと話すの、なかなか楽しかったわよ」

女「それはありがとう」

ポワソンは背を向けて部屋から出た。

残されたのは殺人鬼たちだけ。
559 : ◆Oamxnad08k [sage]:2012/09/16(日) 01:06:43.55 ID:/i08EZMAO
館主「ナータは逃げないの?」

執事「主人を置いて逃げられません」

館主「じゃあ一緒に死んでくれる?」

執事「あなたがそう望むのなら」

館主「ずっといっしょにいてね」

執事「もちろんです、お嬢様。私はあなただけの執事ですから」

そして、二人は火に消えた。
560 : ◆Oamxnad08k :2012/09/16(日) 01:07:24.48 ID:/i08EZMAO




561 : ◆Oamxnad08k :2012/09/16(日) 01:11:22.76 ID:/i08EZMAO
少女「あれ……?」

どうやら気絶していたらしい。
誰かにおぶわれている。

男「起きたか、トレフル」

少女「シュヴァインさん……?」

男「見ろよ。地下からどうやって広まったか知らないが、洋館まるまる燃えちまった」

少女「あ…」

男「……悪いな。急いでて、お前の姉貴も回収できなかった」

少女「…時計だけでも回収できたから、よかったです」

男「降りるか」

少女「はい」

女「おっ、起きた?」パタパタ

少女「ポワソンさん」
562 : ◆Oamxnad08k :2012/09/16(日) 01:16:34.99 ID:/i08EZMAO
みんな外にいた。
ドールと話していたポワソンが二人に寄ってくる。

女「警察はあとちょっと。それまで寒いここで待機よ……」

男「冷凍ミイラになりそうですね」

女「全くだわ」

慌ててもってきた荷物が雪に埋もれると口を尖らせた。

少女「……なんか、ありがとうございました」

女「…綺麗には終わらなかったけどね」

燃える館を仰ぎ見る。
夢幻のように、炎の向こうで揺らいでいた。

少女「奥さまは…あれで良かったんだと思います」

女「そう、なのかしら」
563 : ◆Oamxnad08k :2012/09/16(日) 01:22:09.53 ID:/i08EZMAO
シュヴァインはそっとその場を離れて、少し遠くにいるマフラーを巻いた女性へ足を向けた。
彼女の足元にはシーツで覆われた二人の死体。

男「雪と同化するな」

マフラー「……うん」

男「あの男性陣は何だかんだで優しかったな。死体を見捨てずにさ」

マフラー「……あなたは見捨ててたの?」

男「多分」

マフラー「……酷い人」

男「酷い人、か」

ふんとシュヴァインは鼻で笑った。

男「そろそろ本性だせよ。今なら俺以外にはバレないぜ?」
564 : ◆Oamxnad08k [sage]:2012/09/16(日) 01:22:38.43 ID:/i08EZMAO
そろそろ最終回
565 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/16(日) 01:27:55.65 ID:Ks9g1XjRo
オツ
566 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/16(日) 01:32:29.96 ID:vWUjres2o
乙乙
567 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/16(日) 02:06:59.19 ID:NQNN6F5yo
一気読みしたらなんか涙出てきた
568 : ◆Oamxnad08k :2012/09/16(日) 20:35:19.00 ID:/i08EZMAO
マフラー「……何を言って」

男「曖昧な部分は許して欲しいが」

男「なぜお前はクローネにわざわざ『ポンドはフランが好き』と言ったんだ?」

マフラー「……それは」

男「俺や先輩も、彼女が兄妹の垣根を越えて恋していたことに気づくほどだ」

男「しかも殺人が起きた異常な状況下」

男「誰もが冷静さを欠いたあの時にあの発言だ」

マフラー「……」

男「無神経にも程がある。ただの空気が読めないやつとは思ったが――それも違った」

マフラー「………なに?」
569 : ◆Oamxnad08k :2012/09/16(日) 20:40:03.05 ID:/i08EZMAO
男「お前、感情をうまいことコントロールできるだろ」

マフラー「………」

男「そして、そのキャラはお前のキャラじゃない」

マフラー「………何故そんなことを?」

男「分かるんだよ。なんたって俺はそういう変化に気づかないと死ぬような場所に一時期いたからな」

マフラー「………暴いて、どうするつもり?」

男「別に。俺とお前の秘密になんじゃね?」

マフラー「………」

マフラー「ぷっ」

マフラー「あはは、おかしい人ですね」
570 : ◆Oamxnad08k :2012/09/16(日) 20:44:15.90 ID:/i08EZMAO
まだ記憶に残るクローネと同じ口調でユロは笑った。

マフラー「まさかバレるなんて。あはは、油断ならないですね」

男「なんだ?人真似が好きなのか?」

マフラー「というより、人真似をしすぎて自分を忘れてしまいました」

男「馬鹿だな」

マフラー「あははっ、なんとでも」

男「で、どうなんだ?あの時ポンドが殺されると思わなかったのか?」

マフラー「そもそもそうするように言ったんですよ」

マフラー「あの子が兄に恋して、しかも重度のブラザーコンプレックスなのは前々から知っていましたから」
571 : ◆Oamxnad08k :2012/09/16(日) 20:47:17.22 ID:/i08EZMAO
男「どうしてそんなことを?」

マフラー「だって、つまらないじゃないですかぁ」

屈託ない笑みで続ける。

マフラー「一人死んで終わり、なんてつまらないですよ」

男「……」

マフラー「いやでも犯人があの人なんていうのは驚きましたが」

男「お前にとっては仲間なんてどうでも良かったんだな」

マフラー「わたしを楽しませてくれるのなら誰だっていいんですよ?」

男「楽しかったか」

マフラー「ええ!あなたたちの存在がとくに素晴らしかった」

マフラー「死んだふりは酷いですけどね」
572 : ◆Oamxnad08k :2012/09/16(日) 20:51:42.12 ID:/i08EZMAO
男「…なるほどな。ろくな死に方しないぞ、お前」

マフラー「あなたたちだって、人のこと言えませんよ」

男「だな」

マフラー「そうだ、今度はポワソンさん真似てみようかな?」

マフラー「なんとなく裏がある女性って素敵だと思いません?」

男「……」

マフラー「ね?」

男「気を付けろよ」

マフラー「え?」

男「お前、今まで親しい人が殺されたことも、自分が殺されかけたこともないだろ」

マフラー「ま、まあ。今回を除けば」
573 : ◆Oamxnad08k :2012/09/16(日) 20:56:03.68 ID:/i08EZMAO
男「拘束ぐらいだからな。だからノーカンとして」

男「あの人の周りにはそういう奴等が集まるか、そういう目にあう奴等がいるんだよ」

マフラー「――は?」

男「何故だかそういうの引き寄せるんだろうな」

マフラー「…死神?」

男「だとしても、俺はあの人のことを好きで居続けるが」

マフラー「のろけはいいです。つまり何がいいたいんですか?」

男「だから」

男「先輩にかかわった以上、お前も充分被害者になりえるんだよ」

マフラー「………」
574 : ◆Oamxnad08k :2012/09/16(日) 20:59:19.44 ID:/i08EZMAO
男「そんでもって先輩の真似をしてみろ」

男「親あたりが普通以外の死に方するぞ」

マフラー「……」

くるりとシュヴァインは背を向けた。

男「脚本家気取りしてんじゃねえよ」

男「傍観者に火花がいかないとか楽観視するなよ」

最後に振り返って。

男「痛い目見るぞ」

そして彼は二度とユロを見なかった。
575 : ◆Oamxnad08k :2012/09/16(日) 21:02:54.24 ID:/i08EZMAO
―――

ピアス「終わったね?」

眼鏡「終わったんだな…」

女「……クローネちゃんは?」

眼鏡「一人にしてほしいって。ほらあそこに」

女「…そっか」

ピアス「……」

眼鏡「……」

女「これからどうするの?」

眼鏡「まだ分からない。これから決める」

ピアス「だね?」

女「そう」

眼鏡「いろいろと悪かったな」

女「私こそ。死んだフリーとか騙してたし」

眼鏡「それは…まあ仕方ないんじゃね」

女「そうかしら」
576 : ◆Oamxnad08k :2012/09/16(日) 21:06:03.23 ID:/i08EZMAO
ピアス「これから事情聴取かな?」

眼鏡「……はぁ」

女「いつ帰れるのかしらね」

眼鏡「なぁ、結局なんのために来たんだ?ここに」

女「………さ」ボソッ

ピアス「え?」

女「単なる……身辺調査よ……」

女「ここの探偵には知られたくないからって……」

眼鏡「なんかもう……お疲れ」

女「しかも依頼が…小学生の娘によりつく馬の骨がいないかってやつ」

眼鏡「うわぁ」
577 : ◆Oamxnad08k :2012/09/16(日) 21:09:10.91 ID:/i08EZMAO
女「それでこれだもの」

ピアス「泣けるね?」

少女「あ、みなさん!警察が来ましたよ!」パタパタ

男「お、本当だ」ザッ

眼鏡「よう死体」

男「あ?文句あんのかよ」

女「やめなさいよあなたたち……」

ピアス「よく考えれば、もう会わないかもね?」

女「そのほうがいいわよ」

眼鏡「ああ」

男「まったくだ」

少女「…そうですね」

女「じゃ、お別れを今のうちにしときましょ。せぇの」



「もう縁がないことを」


578 : ◆Oamxnad08k :2012/09/16(日) 21:09:37.25 ID:/i08EZMAO



――一日後―――



579 : ◆Oamxnad08k :2012/09/16(日) 21:13:01.49 ID:/i08EZMAO
-とある田舎駅のホーム-

女「寒いわね」

男「はい」

女「また事情聴取に来るらしいわ。ご苦労様ね」

男「全くです」

女「……ん?あれは……」

少女「待って下さい!!」タタタッ

女「トレフルく…ちゃん」

男「見送りにきてくれたのか?」

少女「はい!お世話に、なりましたから」

女「こちらこそ、まあいろいろといろいろ巻き込んでごめんなさいね」

少女「いえ…ぼく、…わたしこそ」

男「お前はどうするんだ?もう……ないわけだし」
580 : ◆Oamxnad08k :2012/09/16(日) 21:16:06.93 ID:/i08EZMAO
少女「高校の資格とります」

男「頑張れよ」

女「それがいいわね。あ、これ餞別に」スッ

少女「? 名刺……ですか」

女「困ったら探偵事務所にどうぞ。ま、遠いけどね?」

少女「会いに行きます!」

男「そういや、唯一まともだったあの使用人は?」

少女「あの人はまだ取り調べ中ですが……何もしていないので大丈夫みたいです」

女「良かったね」

少女「あ、あと……もうちょっと年齢いったら、結婚しようって」

女「」

男「」
581 : ◆Oamxnad08k :2012/09/16(日) 21:19:03.17 ID:/i08EZMAO
女「きゅ、急すぎない!?」

男「女だっていうのは言ったんだな」

少女「はい。……ま、まぁこれから考えていきます」

女「はぁー…なんだかすごいわね……」

少女「あ、電車が来ましたよ」

女「本当だわ」

少女「……ありがとうございました。お元気で」

男「そっちもな」

女「あなたもね、トレフルちゃん」

少女「あ――言いましたっけ?それ偽名なんです」

女「えっ」
582 : ◆Oamxnad08k :2012/09/16(日) 21:28:17.91 ID:/i08EZMAO
少女「オミナって名前なんです」

女「いい名前ね」

男「大事にしろよ」

少女「はい!」

電車が到着した。

車掌「電車にお乗りの方はお急ぎ下さい」

女「あ、もうか……じゃあね、オミナちゃん!」

少女「はい!本当の本当に、ありがとうございました!!」

扉のところで立ったまま二人は黙って手を振った。

女「……老いた車掌さんはいないわね」

男「そうですね。忠告してくれましたし、お礼いいたかったんですが――」

滑り出す電車。
オミナが遠くなる。
583 : ◆Oamxnad08k :2012/09/16(日) 21:30:45.88 ID:/i08EZMAO
車掌「あれ?前にもお客さんきたことあるんですか?」

男「はい?」

切符を受け取り確認しながら若い車掌は言う。

車掌「二、三年前に亡くなりましたよ、彼」

女「え?」

車掌「変に抜けてて面白い人だったんですけどねぇ」

そのままスタスタと行ってしまった。

男「……」

女「……」

男女「なにそれ怖い」
584 : ◆Oamxnad08k :2012/09/16(日) 21:35:12.11 ID:/i08EZMAO
ボックス席に座り、窓の外を眺める。
白い世界が広がり、あの惨劇などなかったようだ。

男「……気かがり、だったんでしょうか」

女「かもね……」

トンネルに入る寸前。

女「あ」

男「あ」

帽子を脱いで一礼したあの老車掌がいた。
その隣には、美しい二十歳ほどの女性が。

その姿は、誰かをそのまま大きくさせたようで。

女「あの人、まさかオミナちゃんの―――」

立ち上がってよく見ようとした時にトンネルに入った。
585 : ◆Oamxnad08k :2012/09/16(日) 21:40:58.06 ID:/i08EZMAO
男「……」

女「……」

無言。

女「夢みたいだったわ」

男「だったら良かったんですけどね」

女「ええ」

男「先輩」

女「なあに?」

男「もうこれから先、今回についてお互いに話さないと思います」

女「そう、ね」

男「だから、今のうちに聞いていいですか?」

女「いいわよ。何かしら」
586 : ◆Oamxnad08k :2012/09/16(日) 21:41:49.39 ID:/i08EZMAO
男「嫌なら、答えなくてもいいです。聞くだけ聞いてください」

女「ええ」

男「ああなると分かっていたんですか?」

女「…ああなるとは?」

男「彼女、エリザートが自ら死を選んだこと。俺には――」

数秒黙り。

男「『死ぬ』という選択肢しかないから死んだ、そういう風に感じられます」

ポワソンは目を伏せる。

女「つまり」

女「つまり、私が彼女を追い詰めたのではないかと」

男「……はい」

ふう、と彼女は息を吐く。
587 : ◆Oamxnad08k :2012/09/16(日) 21:50:09.79 ID:/i08EZMAO
女「どうする?私が彼女を追い込み炎を纏わせ殺したなんて言ったら」

男「訂正ですよ、先輩。エリザートは“自殺”です」

男「あなたは人を殺していない」

女「どうかしらね……あれ、わざとなのよ」

男「何がですか?」

女「自殺という選択肢を提示したこと」

男「でしょうね」

女「本当は、警察のほうを選ぶかと思ったんだけどね――」

女「――刑務所に行けばひとりになってしまうことぐらい、分かってたのね」

男「だからあえてあそこで死んだ、と」

女「自分で殺した子たちもいたからね……そして一緒に燃えた」
588 : ◆Oamxnad08k :2012/09/16(日) 21:55:05.44 ID:/i08EZMAO
男「……あの執事もどき二人はどうなるんですかね」

女「前科もちでしょ?…まあ、無期か死刑かしらね…」

男「やっぱそうですよね」

女「なによりあなたも捕まらなくて良かったわね。ボキボキ骨折ったから」

男「トレフ…オミナが証言してくれたんで、正当防衛ということで」

女「良かったわね」

男「全くです」

女「……」

男「……」

女「話、戻るけど」

男「はい」

女「間接的に、私はあの人を殺した」

男「……」

女「それでもあなたは私を好きでいてくれるかしら」

男「先輩が離れてくれといっても俺は離れませんよ。大好きですから」
589 : ◆Oamxnad08k :2012/09/16(日) 21:55:37.65 ID:/i08EZMAO
女「……ふふ」

男「はは」

女「私たちも、だいぶ歪んでるわね」

男「そうですね」
590 : ◆Oamxnad08k :2012/09/16(日) 22:01:04.35 ID:/i08EZMAO
-2ヶ月後、探偵事務所-

同僚「すごい。未だにあの事件は一時間で五スレ行く勢いだ」

所長「いや、仕事してね?お願いだから」

女「はぁ……やめてよもう。思い出したくないんだから」

同僚「あ、ごめんね…」

所長「君も漫画読まないでね?泣くよ?」

男「まあPTSDがない俺たちも俺たちでかなり異常ですけどね」

女「むしろ私は過去のPTSDがやばかったわ」

所長「君もエロゲしないでね?犯すよ?」

男「やめて下さい」

591 : ◆Oamxnad08k :2012/09/16(日) 22:04:36.08 ID:/i08EZMAO
同僚「そう言えばカルネ君は今日くるんだっけ?」

女「うん。なんかおばさんから和菓子もらったらしくて」

女「なんだっけ……洋館?」

男「羊羮ですよ、先輩」

所長「あともう一人お客さんが来るんだよね。あの時の子」

女「うん。来たいっていうから」

男「こんなとこ来ても面白くないだろうに…」

女「閑古鳥鳴いてるしね」

所長「ぼくも泣きそう」
592 : ◆Oamxnad08k :2012/09/16(日) 22:11:07.96 ID:/i08EZMAO
―――

少女が一人、キャリーケースを引きながらあたりを見回していた。
名刺を見ながら、一歩進んでは止まり、一歩進んでは止まる。

側を歩いていた青年は、それに気付いて声をかけた。

女弟「どうかしました?」

少女「あの、ここ行きたくて……」

女弟「あれ?姉さんの名刺だ」

少女「そうなんですか?」

女弟「うん。僕もそこ行くから、いっしょに行こうか」

少女「お願いします」

女弟「もしかして、トレフルとかオミナって子?」

少女「はい。オミナといいます」
593 : ◆Oamxnad08k :2012/09/16(日) 22:17:21.81 ID:/i08EZMAO
女弟「オミナちゃんか。僕はカルネ」

少女「ポワソンさんはお姉さんなんですか?」

女弟「そうだよ。迷惑かけなかった?」

少女「むしろ助けられました!だから、改めてお礼にいいにきまして」

女弟「いい人すぎて涙が」

金色のロケットが少女の胸元から覗いて日の光にきらりと輝いた。

それを見ながらカルネはふと思い出す。

女弟(オミナ…。確かオミナエシの花言葉は『忍耐』)

女弟(トレフルはええと…テレビで見たことあるんだよな)

女弟(あ、思い出した。クローバーだ。クローバーの花言葉は――)
594 : ◆Oamxnad08k :2012/09/16(日) 22:24:35.86 ID:/i08EZMAO

――例えば。

もしもポワソンやシュヴァインが来なかったなら。

彼女が孤独に戦うことになっていたのなら。

姉を手にかけたという確かな事実をもしもポワソン達に会う前に入手していたなら。

どうなっていたのか。


オミナは、ただ本当に姉を探しに来ただけなのか?


そう言われると彼女も恐らく口ごもるだろう。

オミナは、死ぬ覚悟のほかにもう一つの覚悟をしていた。

そしてそれを偽名に込めて、エリザートの前に立った。

その意味は
595 : ◆Oamxnad08k :2012/09/16(日) 22:25:01.57 ID:/i08EZMAO



『復讐』。



596 : ◆Oamxnad08k :2012/09/16(日) 22:25:39.76 ID:/i08EZMAO


女「羊羮?」男「洋館ですよ、先輩」



――了
597 : ◆Oamxnad08k :2012/09/16(日) 22:27:03.68 ID:/i08EZMAO
かなり放置をしましたし、最後駆け足で、肝心のロジックも無茶苦茶でしたけども

お付き合いありがとうございました。楽しかったです

598 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/16(日) 22:27:16.03 ID:vWUjres2o
おつおつ
599 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/16(日) 23:15:56.10 ID:+TPPcgGDO
おつ

いつかまたこの二人の話を読んでみたい
600 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/09/16(日) 23:21:58.13 ID:t1Oi9teuo
乙!!

次はこの前の続きを期待
601 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/16(日) 23:45:42.54 ID:5ccF8aCDO
乙!!
602 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/09/17(月) 01:07:11.19 ID:nSVF/Fj7o
今日見つけて一気読みしたわ
603 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/17(月) 01:25:01.23 ID:bQx6lPAAo
終わりか
よく見りゃ始まってからちょうど一年経ってるんだな
>>1
604 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/09/17(月) 10:26:27.14 ID:++JJ7ZCvo

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