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「――――心に、じゃないのかな?」2<br> - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/20(火) 05:46:04.06 ID:xWIJga+F0




前々スレ
浜面「俺は、どんな事してもお前を助けるって誓ったんだよ。インデックス」<br>
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1294924727/l20



前スレ
「――――心に、じゃないのかな?」<br>
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1300428329/



※浜面仕上一巻再構成

※前スレの続きになります。読んでないと話が分かりません。

※全く分からないと言うわけでも無いですが読んでいた方が楽しめるし何より>>1が助かります。

※独自解釈、独自設定、原作と明確な矛盾が多々あります。

※新約1巻、漫画超電磁砲6巻以降の内容は反映しません。

※展開予想は控えめに

※まだまだ長いお付き合いになりますがよろしくお願いします。

ではでは




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諸君、狂いたまえ。 @ 2024/04/26(金) 22:00:04.52 ID:pApquyFx0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1714136403/

少し暑くて少し寒くて @ 2024/04/25(木) 23:19:25.34 ID:dTqYP2V2O
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渾沌ゴア「それでもボクはアイツを殺す」 @ 2024/04/25(木) 22:46:29.10 ID:7GVnel7qo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714052788/

二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714049241/

佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713966248/

全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713869982/

2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/20(火) 05:51:48.97 ID:o8I+fEi0o
スレ立て乙!
3 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/20(火) 05:57:42.31 ID:xWIJga+F0


これまでのあらすじ



ベランダに突如降ってきたインデックスを助ける為奔走する浜面。

襲い来るステイルを咄嗟の機転で倒し、神裂を瀕死の重症を負いながらも撃破。

その場で死にかけるが一方通行の手によって一命をとりとめる。

その後インデックスの首輪をどうにかする為に考えついた苦肉の策は、
能力開発によってインデックスを能力者にしてしまうという最悪の禁じ手だった。

結果ペンデックスを撃破するも同時に親友である駒場利徳が殺害された為、駒場の仕事を引き継ぐ事に。

しかし、駒場を殺した張本人である麦野に利用価値を見出だされ絹旗も人質に取られた事で暗部へ。

雑用として働くうちに駒場を殺害を依頼した張本人であるテレスティーナと邂逅。
窮地に追い込まれたアイテムを助けるか助けないかの選択を選びテレスティーナを撃破。

そして垣根の襲撃によりインデックスのピンチを知り病院へ駆け付けるも
そこには植物状態となったインデックスの姿があった。

絶望し見捨てる事も考えたが、そこに現れたのは上条当麻。
彼の言葉によってかつての意思を取り戻した浜面仕上は上条、初春と共に幻想御手の調査に乗り出す。

しかし核心には迫れず、浜面は麦野の命令により再び学園都市の闇へ舞い戻る。敵は超能力者序列第三位。御坂美琴。

4 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/20(火) 05:58:24.29 ID:xWIJga+F0




登場人物



5 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/20(火) 05:59:16.45 ID:xWIJga+F0

浜面仕上

主人公。無能力者。体晶に適応しているチート体質ながらもレベル0。
微弱な能力こそあるもののそれは曰くレベルが3あっても役に立たないらしい。
多分ここ一週間の星占いは最下位。
現在様々な荒波に揉まれ奮闘中



インデックス

ヒロイン。ピーチ姫ry
浜面によって学園都市の能力者になることを決意。
しかし日中聴きまくってた幻想御手のせいでその能力を披露する間もなく植物状態へ。
と思われていたが……?
能力不明。レベル不明。
現在浜面が彼女を救うため奮闘中



名前の無い猫。

主役。浜面の寮に住み着き、ミサカが世話をし、インデックスがかくまった一匹の猫。
名付け合戦が中途半端に終わってしまった為に正確な名前は決まっていない。
激戦を渡り抜く浜面に付き添い未だ傷一つないすごい猫。
名前がつく日はくるのだろうか。そしてこの猫の役割とは?



絹旗最愛

主役。なんか近くにいるとどぎまぎするけど浜面とはよきお友達。
常盤平に所属するも不登校。友達が少なry
暗闇の5月計画の被験者。



滝壺理后

主役。アイテム大好き。麦野超好き。
過去にとあるトラウマを持ち若干人間不信気味。
同じ体質のせいか浜面にはなついている。
その能力をフルに使えばレベル0をもレベル5に引き上げる事が出来るらしい、果たしてそれの意味するところは?
何らかの実験の被験者。


フレンダ

鯖。能力値は3
目的はあるもののそれなりにアイテムにはご執心。
プロデュースの被験者。


麦野沈利

主役。レベル5でありながらも勝ち越しはテレスティーナだけ。
戦う相手が格上過ぎてなかなか活躍出来ないもしかしたら上条さん以上に不運な人。
垣根帝督にボコボコにされたが御坂美琴相手には?




6 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/20(火) 06:03:48.70 ID:xWIJga+F0

御坂美琴

主役。全ての元凶。
学園都市に超々規模の雷を落とし機能停止を招いた。
その後も研究所の破壊を続ける彼女の真の狙いは?


ミサカ

主役。猫が大好き。
浜面を助ける為に一度は命を賭けた。
色々なものに触れながら成長していく自分の感情に戸惑い中。
製造番号は10031号


一方通行

主役。学園都市の第一位。
妹達を殺すことに迷いはなく人とは認識していない、
が浜面仕上を助けるよう10031号に脅され手を貸す。
結果、人を救える力があるかもしれない自分の今までの生き方に疑問を持つが……



垣根帝督。

主役。学園都市の第二位。
初日からこれから起こる事を全て予見した実は超すごい人。
しかし第二位という奢りからか、針の穴程の詰めの甘さが彼と心理定規の死を決定付けてしまった。
バッドエンド確定済みの一人。


心理定規。

主役。垣根のパートナー。
始めは垣根測利という名前で兄妹設定にするつもりだったが没。
多分嫁。垣根と共通の目標を目指し、隣で歩くのは危ないから背負ってもらってる多分嫁。
しかし垣根は彼女の能力の恐ろしさを真に理解していない。


初春飾利
主役。風紀委員。
佐天涙子が幻想御手によって昏睡したのをきっかけに
浜面、上条らと協力体制へ。
卓越した情報処理の力で親友を助ける為現在奮闘中。


木山春生

主役。

この街の全てを敵に回してもという彼女の言葉の真の意味はまだ誰も分かっていない。


7 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/20(火) 06:05:25.09 ID:xWIJga+F0


上条当麻

脇役。ほぼ役割を終えたヒーロー
この話では彼は主人公でも主役でもない。
現在吹寄を助ける為に学園都市を走り回ってる。


8 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/20(火) 06:05:50.70 ID:xWIJga+F0





大まかな時系列




9 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/20(火) 06:07:21.60 ID:xWIJga+F0




一日目

深夜
御坂、学園都市に雷を落とす。


御坂、再度実験へ介入。敗北。
浜面、インデックスと出会う。
浜面、ミサカと出会う。
垣根、学園都市に反逆。
アイテム、垣根追撃開始。
浜面、ステイル撃破。


浜面、木山と出会う。
浜面、猫を飼う事に。


ステイル、垣根に倒される。

二日目


インデックス、幻想御手を聴く。


木山と共に車探し。

夜。
浜面、神裂撃破。瀕死の重傷。
神裂、一方通行に倒される。
一方通行、浜面を治療。
ミサカ、浜面を寮まで運ぶ。

御坂、研究所破壊継続。




10 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/20(火) 06:09:07.03 ID:xWIJga+F0

三日目




神裂、一方通行にやられた為動けず。
ステイル。垣根にやられた為動けず。
浜面、インデックスの秘密に辿り着く。




浜面、テレスティーナに出会う。
インデックス、能力者になる事を決意。




浜面、偽造IDを作成。
テレスティーナ、アイテムに依頼。


四日目




上条、寝坊。
浜面、吹寄に幻想御手を渡す。
インデックス、脳開発へ




上条、補習に向かうも間に合わず。
佐天、上条に助けられる。
浜面、佐天と初春に出会う。




インデックス倒れる。


五日目




魔術師、復帰。






アイテム、スキルアウト襲撃
駒場、麦野の手によって死亡




魔術師、浜面宅へ
インデックス覚醒。
浜面、ぺンデックス撃破。
浜面、駒場死亡の知らせを聞く。

11 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/20(火) 06:10:13.32 ID:xWIJga+F0

六日目


深夜

浜面、駒場の意思を継ぐ。
アイテム、任務失敗。
浜面、絹旗を人質に取られ暗部へ。




上条、吹寄の元へ走る。その際初春にぶつかる。
吹寄、幻想御手によって倒れる。
御坂、行方をくらます。
佐天、幻想御手によって倒れる。
アイテム、ファミレスへ。




アイテム、体晶を奪うためテレスティーナ襲撃。
アイテム、返り討ちに、
浜面、アイテムを助け、テレス撃破。
御坂?、MARへ侵入。
アイテム、体晶手に入れる事できず。




一方通行、第10030次実験開始。
浜面、絹旗と外へ
浜面、初春、白井に出会う。
浜面、ミサカの秘密を知る。
浜面、布束の誘いを断る。


七日目




浜面、銃の練習。
アイテム、今後の方針を固める。
滝壺、体晶を使う。残り1回。
垣根、アイテムのアジトへ襲撃。
浜面、垣根がインデックスを狙っている事を知る。




浜面、初春と出会う
浜面、インデックスが昏睡状態に成っている事を知る。
浜面、木山と出会う。
浜面、上条と出会う。
上条、浜面を説教。
上条、土御門が入院していると知る。
浜面、初春、上条、協力体制へ。
ステイル、インデックスを神裂に任せ活動を開始。




初春、幻想御手の調査。
浜面、インデックスの書き込みに返信。
浜面、インデックスが幻想御手を聴いていない事を知る。
浜面、ミサカ10032号に遭遇、事実を知る。
麦野、浜面へ電話。
浜面、一旦戻り、樹形図の設計者防衛へ


夜←いまここ
12 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/20(火) 06:15:36.80 ID:xWIJga+F0
ここまで。

うんくそ読みにくい。
軽いまとめのようなものなのでよろしければという事で。
ではでは


13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/20(火) 09:13:03.12 ID:2l6JTlDIO
>>1

フレンダだけ鯖ww
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2011/09/20(火) 11:25:00.24 ID:bvSgLlhAO
フレンダのプロデュースって何?教えて
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/20(火) 12:02:27.03 ID:zsG+m0JAO
主役多いな
乙!
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/20(火) 12:42:15.32 ID:IiZ5KitLo
置き去りを使った実験の一つだったかなプロデュースは
脳切り分けられたりの奴
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/20(火) 13:19:40.14 ID:LnYXVtJuo
切り分けられたのは胴体じゃねえか
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/09/20(火) 15:30:18.52 ID:IxB9dJJAO
今はどんな伏線残ってんの?
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/20(火) 18:53:35.99 ID:8//CbZya0

あらすじがいい感じだなwww           
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/09/20(火) 20:20:45.22 ID:FrejTXXo0
上条さん以上の過密スケジュールをこなす浜面さん、アンタ超人だよ。
ってか主人公マジ多いな。
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [sage]:2011/09/20(火) 21:21:25.74 ID:nPlEK0pro
>>20
よく見ろ主人公はひとりだけだ
主役はたくさんいるけど
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福島県) [sage]:2011/09/20(火) 22:23:19.40 ID:Ti1x4HHOo
フレンダェ……
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/21(水) 08:08:51.99 ID:bgHMYAxx0
マジでおもしろい
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/21(水) 11:48:35.52 ID:Fx4Ny58v0
無能力者ものはアツイな
25 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/21(水) 22:35:35.20 ID:Hh9lgfA10
今日の12時投下
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/09/21(水) 22:36:08.14 ID:BXQbw8fAO
待ってる
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/21(水) 23:18:02.51 ID:k4fcCse2o
舞ってる
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/09/21(水) 23:24:33.08 ID:Dsw8SiTH0
早速脱いだ
+   +
  ∧_∧  +
 (0゚・∀・)   
 (0゚∪ ∪ +
 と__)__) +
29 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/22(木) 00:00:26.28 ID:+rdcYnFr0






・樹形図の設計者情報送受信センター防衛戦





30 :樹『系』図でした…oh ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/22(木) 00:01:50.06 ID:+rdcYnFr0


世界さえ飲み込む夜の闇が学園都市を覆った。

ここからは、惨劇と悲劇が飛び交う暗部の世界。

血と死が溢れ、光の届かない深淵。そんな場所に、

  「〜〜♪」

少女はいた。

人気の無い操車場。

コンテナが大量に積み重ねられたその場所で、ラフな格好をした少女は一人佇んでいた。
手に握っているのは、ぐちゃぐちゃに潰れたただの鉄くず。

そこには何も無い。何も聞こえない。風の音すら、しない。

  「〜〜♪」

唯一聞こえてくるのは、少女が奏でる鼻歌。
どこか歪に聞こえる、ソプラノメロディ。

  「〜〜♪」

  「――――」

しかし、それは唐突に止まった。
今度こそ、世界から音が消え去る。


31 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/22(木) 00:02:48.13 ID:+rdcYnFr0



  「――――」

数秒、数十秒、もしかしたら数時間。

  「――アハッ」

そんな声が、世界に溢れた。
愉快に、可憐に、可愛く聞こえるそんな笑い声は、
しかし、その本人を見たらそんな言葉は紡げないだろう。

  「アハハハハハハハハハ」

歪に唇が裂かれ、焦点の合わない目でそう笑う少女はどこまでも壊れていた。

  「さって、と」

砂利のこすれる音が響く。
一歩、少女が踏み出した音だった。

御坂「行こっかな」

少女は歩む、一歩、また一歩、進んでは行けない道を突き進む。
その目はどこか濁っていた。その表情はどこか可笑しかった。

御坂「アハハ」

既にその少女は、誰もが知る超能力者ではなかった。


32 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/22(木) 00:03:37.00 ID:+rdcYnFr0



――――――――――――





浜面「…………」

バタバタと慌ただしく研究員達が目の前を駆けて行く。
資材搬入に手こずっている様で、というか集団行動が苦手なのだろう。
全員が個々のことばかりしているせいで統率がとれていない。

絹旗「浜面、ここじゃ超邪魔になります。移動しましょう」

浜面「……ああ」

結果的に、あの後浜面は麦野の言葉に従い再び学園都市の闇へと舞い戻った。
第二位の襲撃によってアジトはほぼ全壊だったが、アイテムの面々はとりあえず無事だったらしい。
絹旗にも、フレンダにも、麦野にも、大きな怪我は無かった。

麦野による制裁を少しは覚悟していたが、滝壺が上手く言ってくれていたようで、
特に何も無く、今浜面は生きている。

浜面「…………」

インデックスの事も、ミサカの事も、幻想御手の事も置き去りにしたまま。

浜面「…………」

だからと言って、目の前を歩く少女を切り捨てる事なんて出来ない。
今はとにかく、自分に降り掛かるものから対処して行こう。


33 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/22(木) 00:04:11.36 ID:+rdcYnFr0



絹旗「浜面、銃……使ったんですか?」

浜面「えっ?」

絹旗「ああ、いえ……今は持っていないようなので」

銃。あのレディース用の拳銃は、今は持っていなかった。
懐に忍ばせている武器は、改造済みであろうスタンガン。

絹旗「撃てましたか?」

浜面「……いんや、ハズしちまった」

絹旗「やっぱり、浜面は超浜面ですね」

浜面「うっせ」

微かな笑みを浮かべながら、二人は歩む。
相変わらず後ろの方では研究員達が慌ただしく走り回っていて、

浜面「ていうかよ、なんで分担なんだ?」

ふと感じていた疑問を口に出す。
今現在、この研究施設内にいるのは絹旗と浜面の二人だけ。
そもそもここは麦野の言っていた樹形図の設計図情報送受信センターではなかった。

絹旗「超保険じゃないですかね」


34 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/22(木) 00:04:52.91 ID:+rdcYnFr0


浜面「保険?」

絹旗「ええ、もしかするとあちらの施設襲撃は超囮。
   陽動で本命はこの施設かもしれません」

浜面「……待てよ、なんでここが本命かもしれないって分かる」

学園都市に研究機関なんて腐る程あるはずだ。
借りに情報送受信センターが囮だとしても、なぜこの施設に絞れたのか。

絹旗「ああ」

そんなの超簡単ですよ。と絹旗は言う。

絹旗「学園都市の闇が超及んでる研究機関なんて、もうここしか残ってないんです」

浜面「……つまり、どういう事だ?」

絹旗「それだけ御坂さんが研究施設を潰して回ったという事でしょう。
   今の学園都市に超表立って非人道的な実験をしている施設なんてもう残っていません」

浜面「…………」

学園都市に研究機関なんて腐る程あるはずだ。
その中でいくつの研究機関が汚れ、どれだけの人間が犠牲になってるかなんて浜面は知らない。
しかし、その数が腐る程の中に尋常じゃないぐらいあるのは、少し闇の中で過ごせば分かる。

それが、ほとんど潰された?

35 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/22(木) 00:05:29.25 ID:+rdcYnFr0


浜面「正直、実感わかねぇんだけど」

絹旗「わたしもです」

浜面「……それ、本当に御坂美琴一人がやったのか?」

その言葉に、絹旗が腕を組み思考する。
どうやら、違和感は感じるているらしい。

絹旗「……どうでしょうね。御坂さん並かそれ以上の能力者でないと
   やったとしても逆に超始末されて終わりでしょう」

絹旗「ここまで被害が大きくなるまで動かなかったのは、襲撃していたのが御坂さんだったから、
   という事に他成りません。彼女は学園都市の広告塔ですし……大体、学園都市に喧嘩を売っ――」

絹旗「!!」

浜面「!!」

そこまで言って、気付く。
絹旗が自分の口に出した事に驚き、目を見開いた。

浜面「……まさか」

絹旗「そう言えば……いましたね。麦野曰く学園都市に喧嘩を売った超バカが、一人」

その瞬間だった。

ドゴォォォォォン!!

36 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/22(木) 00:06:07.85 ID:+rdcYnFr0



絹旗「ッ!?」

爆発。伝わる衝撃が建物が微かに揺らす。

浜面「な、ッ」

まさか、来たのか。

御坂美琴が、もしくは正体不明のイレギュラーが。

絹旗「っ!!」

絹旗が駆け出す。遠くで、また大きな爆発音が響いた。


37 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/22(木) 00:06:36.27 ID:+rdcYnFr0


――――――――――――

狭い通気ダクトの中ぐったりと寝そべっていると、ウサギのぬいぐるみが話しかけてきた。

フレンダ『ねー、ねー、ふれんだ。肩の怪我は大丈夫?』

フレンダ「いや、どっちかつーとあのメルヘンホストにやられた
     傷のが痛いって訳よ」

フレンダ『ふれんだも大変だねー? でも無事でよかったよ!』

フレンダ「いやー、んな事言ってくれんのアンタだけだわ。
     結局、みんな私の扱いが雑って訳よ!」

フレンダ『そうだそうだーふれんださいこー!ちょーかわいいー!きゃー!』

フレンダ「ふん!褒めても何もでないって訳よ!」

フレンダ『…………』

フレンダ「……やめた。つまんね」

茶番終了。抱きかかえていたウサギのぬいぐるみを放り投げる。
爆弾仕込みだがこの程度で爆発はしないだろう。


38 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/22(木) 00:08:13.35 ID:+rdcYnFr0





フレンダ「はぁーあ、結局、このまま来ないでくれるとうれしいんだけど」

ねー? とフレンダは周りに沢山散らばっているぬいぐるみの中の一つを手に取り、
うなずかせる。一人遊びも嫌だが、こんなモチベーションで仕事をするのも嫌だった。

フレンダ「……っ」

体に鈍い痛みが走る。スクール、テレスティーナ、垣根帝督、連戦続きのその体は傷だらけだ。

フレンダ「そのうえ今度は御坂美琴かぁ……対策はしたけど、」

胸が沈む。心臓の辺りに鎖でも巻かれた気分だ。
第三位。超能力者。レベル3である自分がどこまで張り合えるかどうか。
正直、麦野でなければどうしようもできないだろう。

フレンダ「は〜。どうか今日が無事に終わります様に」

そう言ったのと、真下からコツコツという足音が聞こえてきたのは同時だった。



39 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/22(木) 00:09:02.45 ID:+rdcYnFr0


フレンダ「だう〜」

いつものようにキタキタキター!とは喜べない。
のそのそと立ち上がり、いくつかのぬいぐるみを抱えてダクトから這い出る。
狭い足場に立ち、外から見たそのダクトにはMARでも使ったテープ状の起爆剤が張られてあって、

フレンダ(……そういやあそこの爆弾回収し忘れたんだっけ? 
     あー! この仕事終わったら私お仕置きされるんだった!!)

きゃう〜と身もだえるも、足跡が迫ってきている中あまりふざけてはいられない。
見下ろすと、そこには人影。……ラフな格好をしているが写真と顔も一致、間違いない、御坂美琴だ。

フレンダ「……結局、やるっきゃないって訳よ」

ベレー帽をしっかりと被り、誰に言うでも無く、自身に言い聞かせる様に呟いた。



しかし、フレンダは気付かない。



フレンダ「……え?」



いや、気付くのが遅かった。



フレンダ「――――っ」

40 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/22(木) 00:09:36.99 ID:+rdcYnFr0





御坂美琴が大きく見開いた瞳でこちらを見上げた時点で、フレンダ=セイヴェルンはその場から逃げるべきだった。




41 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/22(木) 00:10:47.50 ID:+rdcYnFr0


フレンダ「―――あ、」


電流でも流されたかの様に、フレンダの体が小さく跳ねた。

被ったはずのベレー帽が落ちる。

体も、落ちる。


フレンダ「――――」


前のめりに倒れた体はダクトから落ちた。
鋼鉄の床に叩き付けられ、金糸のような髪が散らばる。

痛みは感じなかった。

最後に見えたのは、醜く裂けた誰かの笑み。

最後に聴いたのは、どこか歪に聞こえる、ソプラノメロディ。

コツコツと、そのまま、足音が遠くへ響いて行く。

フレンダ「…………」

ビクンッ、とフレンダの体が跳ねた。


それだけだった。


42 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/22(木) 00:11:41.17 ID:+rdcYnFr0

――――――――――――




樹形図の設計者情報送受信センター深部

学園都市最高の頭脳と交信を可能にする心臓。交信室へと繋がる広い空間は酷く静かだった。

滝壺理后、麦野沈利。そこにいた二人の少女は、会話も無くただ黙ってその場で待ち構える。

第三位、御坂美琴。

麦野にとって本来なら、一対一で勝負をしかけたい相手でもあるが、
流石に今のコンディションでは分が悪かった。

戦える三人が全員が手負い。核である滝壺の起爆剤となる体晶ももうない。

微かに漂う緊張感は、麦野沈利の神経を研ぎすませる。

麦野「…………」

滝壺「……むぎの」

滝壺が、ぽつりと呟く。それだけで、意図は伝わった。

麦野「……ちっ、フレンダはミスったか」

足音。それは静かに聞こえてきた。
向こうに見える暗闇の奥から、コツコツと。

現れたのは予定通りの人物。どうやら保険は無駄に終わったらしい。

御坂「…………」

麦野「よう、超電磁砲。遅いご到着だな」

43 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/22(木) 00:12:13.73 ID:+rdcYnFr0



御坂「…………」

反応は無し。心の中で舌を打つ。
表情は影になってよく見えないが超電磁砲本人で間違いは無い。

麦野「早速で悪いんだけどさ。体晶、渡してくれない?」

滝壺「!」

麦野の言葉に、後ろにいた滝壺が微かに反応を示す。
同時に、もはや戦力には数えられない自分をここまで連れてきた理由を知った。

滝壺「…………」

ここまでついてきたのは、滝壺の意思でもあるが。

麦野「テメェが昨日MARにいたって事は分かってるんだ。さっさと――」

御坂「――ねぇ」


44 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/22(木) 00:15:47.28 ID:+rdcYnFr0


麦野「あぁ?」

御坂美琴が、言葉を遮った。コツコツと、歩みを進める。

まだ、その表情は伺えない。

御坂「そこ、どいてくれない?」

麦野「……っ」

麦野の中に苛立の炎が灯った。
よくよく考えてみてもご丁寧にコミュニケーションをとる必要性は皆無だ、
だから殺してからでもいいか。そんな思考で溢れ返る。

御坂「私さ、やらなきゃいけないことがあるのよね」

そう言って、また御坂美琴は一歩を進み、

麦野「……! あぁ、なるほどね。こっちの声は聞こえて無い訳だ」

麦野「やっぱり殺す」

――だから、そこで、麦野沈利は原子崩しを放つべきだった。

麦野「舐めてんじゃねぇぞ第三ッ――――」


45 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/22(木) 00:16:29.68 ID:+rdcYnFr0











                  じゅっ




46 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/22(木) 00:17:57.95 ID:+rdcYnFr0




そんな音が、頭の中まで響いた。



麦野「……あ?」



激痛。  

 
激痛。


焦げた臭い。


焼けた臭い。



後ろにいる滝壺が、自分の名を叫んでいる。


自分の声がうるさい。


なんだ、なにが、どうなって。


麦野「         あ   ぁ  あ ぁ   あ 」


鋼鉄の床。そこに、小さな赤い血溜まりが出来ていた。

何だ。どこをやられた。今自分はどこを押さえている。

前を、眼前の御坂美琴を見据えた。見据えて、見据えたのに、


――視界が半分黒に塗りつぶされていた。


理解する。


目。目だ。目玉。そう、右目。右目――



47 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/22(木) 00:18:33.65 ID:+rdcYnFr0






右目を焼かれた。





48 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/22(木) 00:19:26.03 ID:+rdcYnFr0


麦野「が、ああぁぁああぁぁああぁっっぁあぁぁぁああぁっぁああぁぁぁッ!!!」


滝壺「むぎのっ!!」


顔の半分を手で覆い、叫ぶ。まるで獣のような低い咆哮

見据えた御坂美琴は、笑っていた。


御坂「どいてくれないなら――殺すけど」

麦野「上等だクソガキィィぃぃぃぃぃッ!!!!」


麦野の怒号と共に白よりまばゆい閃光が広い空間を満たしていく。

そして、轟音。


麦野「そんなにお望みなら殺してやるよおおォぉ!!!!」


超電磁砲と原子崩し。


高位能力者同士の戦争とも呼べるような戦いが始まろうとしていた。
49 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/22(木) 00:20:02.08 ID:+rdcYnFr0




しかし、それは始まらず、故に終わりすら迎えない。



もはやそれは戦いとは呼べなかったから、



御坂「――あは♪」



今から始まるのは、御坂美琴による圧倒的な虐殺だった。



50 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/22(木) 00:20:42.83 ID:+rdcYnFr0




                            【次回予告】


         「……どうして、こんな時に限ってあの子猫や少年の顔が浮かんでくるのでしょう。
          と、ミサカは誰にも聞こえないよう呟きます」

                   欠陥電気・ミサカ10031号


         「その話を踏まえて、何で超能力者であるアンタがそんなボロボロなのか……ねぇ、分かる?」

                   超電磁砲・御坂美琴


         
         「……フレンダ?」
                   アイテム・絹旗最愛


51 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/22(木) 00:23:22.84 ID:+rdcYnFr0
むぎのん噛ませ臭やべぇどうしてこうなった。
予告ずれたー。樹系図は所々樹形図になってるかもすいません。という訳でここまで。
続きは近いうちに。ではでは
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/09/22(木) 00:24:14.72 ID:AJquB6CYo
むぎのん…
乙乙
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/09/22(木) 00:29:08.84 ID:y22y8hVAO

フレンダまたフレ/ンダになってしまうん?
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/09/22(木) 00:53:50.55 ID:0hyHAPKAO
大丈夫、たぶんフレンダ(姿焼き)くらいだと思う。
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/22(木) 08:59:10.17 ID:zUjl5KbSO
病みサカ最強説
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/09/22(木) 10:49:28.99 ID:4AdDGRIf0

ここでも右目を失ったか、むぎのん。
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/09/22(木) 10:55:45.87 ID:XGokpBpAO
どの世界線でも事象は収束する云々。このままじゃ腕もヤバい。

つか、え、フレンダ退場?
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/22(木) 12:51:35.23 ID:y+L5dJ410
みさかさんこえー!
乙!
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/09/22(木) 13:35:09.52 ID:/+7jBnAh0
フレンダーっ!!!!?
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県) [sage]:2011/09/22(木) 17:00:19.93 ID:12VTZjsSo
乙!
御坂が強すぎだろ!
本気だせばこんなもんなのか?
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/09/22(木) 19:26:28.65 ID:XNL0PSFAO
電気の速さに人間の反応が間に合うはずないしな
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/22(木) 19:59:36.01 ID:6RbNO1j80
体晶か……
みこっちゃんの体調が心配なところだ
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/09/22(木) 20:06:12.45 ID:UCFtgSh7o

麦野も美琴も詰んだな
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/22(木) 22:49:44.93 ID:r8EXHZG90

フレンダは大丈夫だ、俺が味噌ダレ塗っといた
65 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/23(金) 23:01:36.18 ID:oQoP3ZMT0
明日22時に投下ー。

これからは前日か、その日の数時間前に予告して行こうと思います。ではでは
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/23(金) 23:23:18.01 ID:vBGAxEmFo
うおっしゃー!
舞ってる
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/23(金) 23:44:54.57 ID:g04+STBy0
御坂は殺れば出来る子だからな…相手が死なないように手加減して損することが多いし
てか怖ェー
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/09/24(土) 00:55:22.04 ID:UI+GUNRj0
早速脱いだ
+   +
  ∧_∧  +
 (0゚・∀・)   
 (0゚∪ ∪ +
 と__)__) +
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/24(土) 02:13:42.18 ID:emj9DZYwo
この美琴さん相手が上条さんでも全く躊躇せずに殺しにかかりそう
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/24(土) 12:35:16.54 ID:5xziPoJa0
>>67
麦恋でもあそこまでひどくなかった・・・・
まあ、三位の名は伊達じゃない。
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) :2011/09/24(土) 21:41:20.10 ID:zHyCeF2AO
わくわく
72 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/24(土) 21:59:38.71 ID:yI0jjD9/0


――――――――――――




浜面「…………」

爆発は囮かもしれない。

二度目の爆発音が聞こえた直後、一瞬の思考によりその可能性も想定した絹旗によって、
二人は別行動をとっていた。

絹旗は万が一、本当に襲撃されていた場合に備えて爆発の現場へ。
浜面は、内部の犯行の可能性も考慮して立ち入りの禁止された区画へ。

自分たちの実力、出来る事を正しく認識し二人は別れ、そして

浜面「……マジかよ」

絹旗のはじき出したその可能性は正しかった。

起こされた爆発は護衛として雇われた自分たちを引きつける為の陽動。
つまりこの犯行は侵入者ではなく、内部からの犯行だ。

立ち入りが禁止されている区画に人がいるという事は、つまりそう言う事だろう。

御坂美琴でもなければ、正体不明のイレギュラーでもない。

それならば、無能力者の自分でも取り押さえる事は出来る。

浜面「…………」

息を潜ませ、音を殺す。



73 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/24(土) 22:00:26.13 ID:yI0jjD9/0


浜面「……ふう」

暗がりの中物陰に隠れ、白衣を纏ったその人物に気取られないよう呼吸を落ち着かせる。

近づいてくる足音と共に、心臓の鼓動も跳ね上がた。

コツコツ、コツコツ、

そして、後ろを通り過ぎようとしたその足跡に向かって、浜面は――

浜面「――っ!!」

素早くその人物に飛びかかり、組み伏せる。
暴れるソイツの腕を掴み、浜面は一瞬の抵抗も許さない。
白衣を着ているという事はこの施設の研究者。危険性は低いが、
それでもなんらかの自衛手段はあるかもしれない。

だから浜面はすかさずスタンガンを取り出し、

浜面「――な」

その華奢で細い体に押し付ける事はしなかった。

組伏した相手、その少女に見覚えがあったから。

浜面「お前……」

ぎょろりと、大きな目玉が浜面を射抜く。

  「a blunder そう、あなた……暗部の人間だったのね。迂闊だったわ」

浜面「布束……砥信」



74 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/24(土) 22:01:35.63 ID:yI0jjD9/0



絹旗「浜面っ!」

現場に着き、やはりそれは陽動だったと即座に判断したのだろう、
その場から直ぐさま切り返してきたのか、絹旗が急ぎ駆けてきた。

布束「the worst 私もこれまで……か」

陽動は失敗。
それを理解し、少女は床に頭を押さえつけられながら唇を噛み締める。

浜面「……なんで、お前がここにいる」

布束「……あなたには、もう関係のない事よ」

疑問符が浮かび上がり、口に出したそれに返ってきたのは冷たい視線と拒絶だった。

浜面「……まさか、妹達か?」

布束「ッ」

ぴくりと、布束の体が跳ねた。
触れていなければ分からないほどのその動揺を、浜面は感じ取る。


75 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/24(土) 22:03:08.28 ID:yI0jjD9/0



絹旗「……浜面、知り合いですか? それとも御坂さんの関係者ですか?」

事態を飲み込めていない絹旗が戸惑いながら訪ねてくる。
一から事情を説明したかったが、そんな余裕はなかった。

布束「御坂……そう、やはり暗部は彼女を始末するために動いたの。
   なら、本当にあの子は樹系図の設計者情報送受信センターを襲撃したのね」

浜面「ッ……」

布束「foolish 例え施設を壊しても、
   本体が残っている以上無駄なのは彼女も分かっているはずなのに」

恐らく、御坂美琴の施設襲撃は成功したとしても、それでも彼女の思惑は達成できない。
その後彼女が命を捨てて実験にズレが生み出しても、第二第三の交信センターがつくられ全くの無駄となる。

布束「本当に、何もかも全部一人で背負い込んで……」

押さえつけた腕に、力がこもる。
組み伏せられた少女の抵抗は、しかし大の男の前ではなんの意味もない。

76 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/24(土) 22:03:44.36 ID:yI0jjD9/0



浜面「待てよッ!まだ質問に……っ」

布束「離して……ッ、学園都市は正式に御坂美琴を敵と認めた。
   ならば、私は彼女が一方通行に辿り着く前にあの子達をなんとかしなければならないの!」

絹旗「……ッ!? いま、なにを」

布束「一方通行に辿り着けば今度こそ彼女は殺される。
   辿り着けなくても想像すらしたくない程の悪意が彼女を壊す!」

布束「それだけは……だめ」

布束は知っている。

この学園都市の裏の顔。
一端でしかない闇に触れたからこそ、少女は知っている。

この街は容赦しない。

この街は手段を選ばない。

この街の悪意には底がない。

だから、

布束「それだけは、絶対に阻止しなければならないのッ」


77 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/24(土) 22:04:18.72 ID:yI0jjD9/0



悲痛な叫びが狭い区画内で反響した。
それは徐々に、小さく、虚しく、掻き消えた。

浜面「…………」

掴んでいた少女の腕を、そっと離す。

布束「……どういうつもり?」

浜面「……どうもこうもねぇよ」

布束「…………」

浜面「教えてくれ。アンタが知っている事を。実験の詳細を。
   俺は、もうアイツらがただのクローンだなんて思えない」

そして、少女の口から語られるのは最悪の筋書き。


78 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/24(土) 22:04:53.65 ID:yI0jjD9/0



浜面「二万体の妹達を殺害する事で……絶対能力者へと進、化」

布束「ええ、それが絶対能力進化計画。あの子達が生み出された理由。」

浜面「……ッ」

馬鹿げている。そうとしか思えなかった。
想像はしていた。何せ国際法で禁止されているはずのクローン生体を用いて、
しかも使い捨ての様に殺して行く実験だ。それは、悪魔でさえ竦むような実験だと、

想像はしていた。しかし、想像以上だった。

浜面「…………」



79 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/24(土) 22:05:40.40 ID:yI0jjD9/0


絹旗「……一方通行」

ぽつりと、泡のような声が浮かんだ。

浜面「……絹旗?」

絹旗「あくせら、れー……た」

声の主は、先ほどから何故か一言も喋らずに二人の話を聞いていた絹旗。
その表情どこか青ざめて、次の瞬間自虐するかの様に笑った。

絹旗「……どうして、こんなところでまで超関わってしまうんでしょうね」

一方通行。その名が目の前の飛び出した時、思わず耳を疑った。
心の奥深くに刻み付けられた、忘れようのない名前。

絹旗「……はは」

俯き、どこか寂しそうな顔で絹旗は拳を握る。

絹旗「結局、最強じゃ超飽き足らなかったんでしょうね……レベル6なんて、
   とっかかりも見つかってないのに」

布束「でも、実験は行われている」

浜面「…………」

布束「もう、実験は10000回以上行われているのだから」

浜面「…………」

浜面「……は?」

吐息が、思考が、時間が、

心臓が、凍った気がした。

浜面「……待てよ」

10000回を超えている?


80 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/24(土) 22:06:25.99 ID:yI0jjD9/0


浜面「実験は……正確には何度目だ」

布束「……昨日、10030回目が終わったところよ」

その言葉が、刃物の様に尖って聞こえる。

浜面「…………」

アイツの番号は……なんだった?

「単に、妹達の一個体、あなたと最も会っている回数が多い『検体番号10031号』が
 脅しをかけただけですよ。とミサカはあの雨の日の夜を思い出します」

浜面「……次の、実験は……いつだ」

声が震える。
これは、恐怖だ。
知りたくないと言う恐怖。

布束はちらりと腕時計を確認し、どこか諦めた様に呟いた。



布束「もう始まってるわ」



浜面「――っ!!」


81 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/24(土) 22:07:07.70 ID:yI0jjD9/0


実験が、始まっている。それは、つまり、ミサカが――

猫に餌をやっていたあのミサカが、
必死に猫を探したあのミサカが、
猫を撫でて笑っていたあのミサカが、
どこか寂しそうな表情を見せたあのミサカが、

死ぬ。

絹旗「浜面ッ!!」

浜面「――っ」

鳴り響く、声。
自分を呼ぶ声。

その細い手は自分のゴツゴツとした手に伸びていて、
決して離さない様にと強く握られていた。

絹旗「まさかとは思いますが、行くつもりじゃないですよね」

浜面「は、……俺が、どこへ行くだって?」

絹旗「……その足は何ですか」

浜面「…………」

足が、一歩踏み出していた。


82 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/24(土) 22:08:16.61 ID:yI0jjD9/0


浜面「……離せよ絹旗」

絹旗「超離しません。もし、浜面がバカな事を言うつもりなら、
   一方通行と少しでも関わろうとするなら――」

浜面「つ、ぅ……ッ!!」

掴まれた手に圧力がかかる。それは、少女の力では到底無理な力。

絹旗「殺してでもこの場で止めます」

そこに、人肌の温もりは感じなかった。

絹旗「……ッ 絶対に――」

何かを躊躇う様に、絹旗が言葉を吐き出そうとして、


ピピピピピピピピ、ピピピピピピピピ


暗がりの中鳴り響いたのは、携帯端末のコール音。
それは、絹旗のポケットから漏れていた。

絹旗「…………」

端末を取り出す。

絹旗「……はい、誰ですか――」



フレンダ『絹旗ぁ……!! 助けて……このままじゃ、麦野が、滝壺がぁ!』



絹旗「……フレンダ?」

端末から鳴り響いてきたのは、聞いた事のないようなフレンダの悲痛な声だった。

83 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/24(土) 22:08:48.09 ID:yI0jjD9/0
―――――――――――




遠くから見える街の光と、夜の闇に浮かぶ星と月。
その明かりが操車場の唯一の光源だった。

コンテナが積み重ねられ、人の気配など一切しないその場所に、

ミサカ「…………」

少女はいた。

刻々と実験の開始時刻が迫り来るその中で、
少女は時間を持て余したかのようにぼんやりと立っていた。

そして、眼前に立つのは、

一方通行「……で、まだ始まンねェのか」

ミサカ「第10031次実験開始まであと30秒です。とミサカは伝令します」

一方通行「あァ、ハイハイ。相変わらず時間にうるせェ奴だな」

学園都市最強の能力者。


84 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/24(土) 22:09:17.11 ID:yI0jjD9/0


そう、あと30秒。

30秒で自分は死へと突き進む。

ミサカ「…………」

恐怖はない。かつて、10030人の自分が体験してきたことだ。
そして、それはこれからも行われる。

最後のミサカが死を迎えるその日まで。

ミサカ「…………」

これは何だろう。

もう実験が始まるというのに、ふと疑問が浮かんでくる。

ミサカ「……どうして、こんな時に限ってあの子猫や少年の顔が浮かんでくるのでしょう。
    と、ミサカは誰にも聞こえないよう呟きます」

胸の辺りで、何かが揺れた。

ミサカ「…………」

それは、猫のマスコット。

85 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/24(土) 22:10:51.86 ID:yI0jjD9/0


共有した記憶の中で、つい先ほどの光景が再現される。

『お前は、世界に一人しかいねぇじゃねぇか』

それは、今ここに存在するミサカにもはっきりと伝わったあの少年の言葉。

ミサカ「…………」

この胸の鼓動を、ミサカ10031号は知らない。

ミサカ「…………」

この靄のようなものをなんと表すのか、ミサカ10031号は知らない。

ミサカ「…………」

知る必要は、ない。


86 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/24(土) 22:11:20.47 ID:yI0jjD9/0



ミサカ「25秒経過しました。とミサカは報告します」

一方通行「そォか……じゃあ最後に――」

ミサカ「30秒経過。これより第10031次実験を開始します」

一方通行「……チッ」

紫電が弾けた。

それは、幕開けの合図。

長い、長い夜が始まった。





87 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/24(土) 22:11:50.97 ID:yI0jjD9/0

――――――――――――




弾けるような音と共に青い稲妻の奔流が空間を満たす。
それは、触れただけで身が焼かれる高圧電流。

白い極光が乱れ、突き進む。
それは全てを消失させる破壊の権化。

全ての能力者の頂点とも呼ぶべき二人の戦いは熾烈を極め、言うならばそれは――

麦野「が、あぁぁぁぁッ!!」

その戦いは一方的だった。

一方的な御坂美琴の暴力によって、この空間は支配されていた。

88 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/24(土) 22:12:21.44 ID:yI0jjD9/0


滝壺「むぎのっ!!」

麦野「出てくんな滝壺ぉッ!!」

一歩踏み出した滝壺の体がすくむ。
本能が警告する。足が、これ以上前に踏み出す事を良しとしない。

超高位能力者同士の戦場は、大能力者如きが割って
入れるような生易しいものではなかった。

また、轟音。

麦野「チッ……」

息をつく、それも一瞬。

麦野「ッ!!」

次の瞬間、頭のあった場所には一筋の雷光が走っていた。

すかさず原子崩しを放射、腕を振る拍子に潰れた右目から黒い血が跳ねる。

89 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/24(土) 22:13:25.87 ID:yI0jjD9/0


麦野「……クッソがぁ!!」

突き進む破壊の閃光は、しかし眼前の御坂美琴には届かない。
放ったそれは、全て軌道を捻られ見当違いの方向へ奔って行った。

麦野「……ッ痛」

呼吸が乱れる。視界が潰れ、今にも叫びあげたいような激痛が脳を焼く。
額には大量の脂汗が浮き、思考も演算も正常に働かない。

御坂「…………」

対する御坂美琴は、ニタニタと笑みを浮かべながら一歩も動かずにそこに君臨していた。

麦野「…………」

頭の中を、翳める違和感。

なんだ。なにかがおかしい。どうなっている。


どうしてここまで第三位如きに圧倒されている。


第四位と第三位。そもそもこの序列は能力研究がもたらす利益による順位だ。そこに実力差は反映されない。
経験も、場数も、圧倒的に勝っているはずなのに、
なのにどうして自分はここまで追い込まれている。どうして御坂美琴には攻撃が擦りもしない。

麦野「あぐッ……」

90 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/24(土) 22:14:01.20 ID:yI0jjD9/0



気付けば、雷速の槍が体を翳めていた。服が裂かれ、脇腹から血が噴き出す。

麦野「……く、ぐ」

やはりおかしい。

違和感。こうして能力を重ねる毎にその違和感は強くなる。

なにが――

麦野「――、な」

それに気付いたのは、何度目かの鋭い痛み。
御坂美琴の雷撃が再び麦野を襲ったその瞬間。

そうだ。御坂美琴も麦野沈利も元を辿れば発電能力者。
汎用性に欠け工業的価値が低かろうが、根底は同じ括りの能力者なのだ。

なのに、どうして

御坂「どうして私の電撃に干渉できないのか、そんなに不思議?」

麦野「あぁッ!?」

心の中を読んだかのように、御坂美琴がそう呟いた。
苦し紛れに放った原子崩しは文字通り片手であしらう様に曲げられ、見当違いの場所に穴を開ける。
直角に曲がる、まるで不自然な干渉。


91 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/24(土) 22:15:05.76 ID:yI0jjD9/0


御坂「例えばさ、全く同系列の能力者が戦場で対峙した時の決定的な差って何か分かる?」

そう言って、御坂美琴は笑う。どこか見下したように、笑って言った。

御坂「まぁ分かるわよね。アンタ、超能力者みたいだし」 

麦野「…………」

今御坂美琴が言った条件での絶対的な差。それは分かりきった事だ。
自分だけの現実、演算能力、平たく言ってしまえば能力の強度こそが絶対的な優劣。

御坂「そうそ。大能力者が分子レベルで支配した水や炎に、
   自分だけの現実や演算能力が劣る異能力者は干渉できない」

そう言いきった御坂美琴は、緩慢な動きで何かを取り出した。
それはゲームセンターなどでよく使われる、コインメダル。

御坂「その話を踏まえて、何で超能力者であるアンタがそんなにボロボロなのか……ねぇ、分かる?」

ピィン、と、御坂美琴の親指がそのメダルを弾いた。
真直ぐに、銀色のそれがのぼって行く



92 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/24(土) 22:16:41.08 ID:yI0jjD9/0


麦野「…………」

麦野「……は、はは」

肩が震える。こんなぼろぼろの状況で、どこからか笑いが込み上げてきた。
つまり、これはあれだ。バカにされているのだろう。コケにされているのだ。

原子崩しが干渉されるのはお前の自分だけの現実が脆いからだ。と
超電磁砲に干渉出来ないのはお前の演算能力が劣っているからだ。と

先ほどからもそう、いきなり目を潰したかと思えば今度はチマチマと体力を削り取るような
攻撃ばかり……まるで遊ばれている。
この中学生のガキは自分を、この原子崩しを。

麦野「あー、そう。そういうこと。はは――ったくさぁ」

不思議な事に、今が一番冴えていた。何かが振り切ってしまったのかもしれない。
潰れた瞳に痛みは感じず、頭も回る。演算能率も今が一番ベストだろう。

今、全力を出せば、如何に敵が高位の電撃使いだろうが関係ない。瞬殺だ。
干渉すらさせず、この施設ごと目の前の前の少女を消し去れる。

麦野「ガキが」

眼前に立つ御坂美琴はニタニタと気味悪く笑っている。
その姿はどこまでも麦野沈利の勘に触った。

だから、伸ばした左腕に、麦野沈利は、ありったけを――



御坂「そもそも何で『原子崩し』が『超電磁砲』より序列が下なのか、教えてあげようか?」




93 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/24(土) 22:17:35.67 ID:yI0jjD9/0


麦野「調子に乗ってんじゃねぇぞ売女ぁっっぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁっぁあああああああっ!!!!!」

自身も消し去りかねない極大の閃光が、放たれた。
鋼鉄は抉れ触れた瞬間に蒸発し、その勢いは留まらず、御坂美琴へと伸びて行く。

伸びて、   伸びて、     伸びて、    

光が全てを飲み込もうとしたしたその瞬間、御坂美琴の唇が真横に裂けた。

それはとても、醜悪な笑みで。




御坂「その間に絶対的な壁があるからよ」



弾いたコインが落ちきって、橙色を纏った弾が放たれた。

原子崩しと超電磁砲が、再び激突し、かつて、一瞬のうちに終わったその勝負は――


94 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/24(土) 22:18:05.10 ID:yI0jjD9/0


















95 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/24(土) 22:19:09.60 ID:yI0jjD9/0



鮮血が舞った。

原子崩しは、掻き消えた。

超電磁砲は、その余波を携え音の速度を越えて飛来した。

肉片は、ほとんど残らなかった。



御坂「私を敵に相手に回した時点で、アンタに勝ち目なんてある訳ないじゃない」



そう、始めから麦野沈利に勝機などなかった。

例え、超電磁砲でさえ打ち負かす物理学上最強の能力を持っていたところで、
原子崩しが超電磁砲に勝てたところで、所詮その能力は下位互換でしかないのだから。



御坂「学園都市に存在する荷電粒子を全掌握して電子を制御しちゃえば、それで終わる話なんだからさ」



ボタッ、と肉の打つ音と共に何かが落ちた。

麦野沈利の左手だった。



96 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/24(土) 22:21:00.95 ID:yI0jjD9/0


御坂「――っ」

血にまみれ千切れたそれを目にした瞬間、御坂美琴の表情が引きつる。
喉が干上がったかの様に口を動かし、ガクンとその場に膝をついた。

御坂「あ、――」

拒絶するかの様に頭を抑える。痛みと共に脳を流れて行く映像は、あの時のフラッシュバック。

潰れて、擦れて、原型を留めていなかった自分の妹。

御坂「そろそろ、キツイ……かな」

嘔吐きそうになるのを耐え、御坂美琴は立ち上がる。

その空間には激戦。いや、一方的な虐殺の痕。
血が弾け、肉が千々に、床が抉れ、壁には穴。天井は裂け、一面は焦げていた。

唯一無事なのは、最深部。交信室へと繋がる道。

御坂「…………」

しかし、御坂美琴は一歩を踏み出さず、それを見つめた。

その少女を見つめた。

97 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/24(土) 22:21:28.86 ID:yI0jjD9/0




カラン、そんな軽くて乾いた音が響いた。
そこには小さな空のケースが転がっていて、


中身はなかった。


滝壺「むぎの、ごめんね……嘘ついて」

それでも、こうしないと、私は役にたてなかったと思うから。



98 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/24(土) 22:24:01.05 ID:yI0jjD9/0


御坂「…………」

そう呟いたのは、ピンクのジャージを纏った少女。
大きく見開き感情のこもらないその瞳は、御坂美琴を捉えて離さない。


御坂「確か私は、あの女を撃ち抜いたつもりだったんだけど」


その御坂美琴の言葉の先に、人が倒れていた。
目が潰れ、左腕が超電磁砲の余波で完全に消し飛び、血に沈みながらも、それでもまだ息をしていた。


御坂「……これアンタの仕業?」


確かに、自分は完璧な計算で超電磁砲を撃ったはずだ。
しかし、その軌道は大きく逸れた。着弾地点も大きく外れ、それの意味する事は、


御坂「あはっ、アハハハハハハハハハハハハハっ」


理解したのか、御坂美琴が愉快そうに笑って、笑って、笑って、


御坂「――アンタ……ちょっと厄介ね」


すうっと、御坂美琴の表情から常にあった笑みと、ある種の余裕が消え失せた。
パチッ、と体の表面から電流が漏れ、空気の弾ける音が連続する。

ぎょろりと、躊躇いのない殺意のこもった目玉が滝壺に向いた。


滝壺「……ッ」


しかし、少女は臆しない。
ここで臆するという事は、もう一度仲間を、居場所を失うという事だ。


滝壺「そんなのは、いや」


隠していた体晶は本当に使い切った。もう、滝壺理后に後はない。
先に自分の体が崩壊するか、この化け物を倒すかしか、道はない。


滝壺「絶対に、むぎのは殺させない!」


その瞳に光が灯る。

能力を暴走させ、尚も限界すら越えようとする少女の戦いが始まった。


99 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/24(土) 22:25:11.86 ID:yI0jjD9/0


                    【次回予告】




  「あのクソッタレ……体晶を、能力体結晶を使って――」

                          超能力者・麦野沈利




  「140万……? 一体なんの数字だよ。それ」

                          無能力者・浜面仕上




  「あはっ。最っ高、アンタこんな感触だったんだ。あは、アハハハハハハハハハハハハハ」

                          超電磁砲・御坂美琴




  

100 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/24(土) 22:26:20.24 ID:yI0jjD9/0


ここまで。理系じゃないから突っ込みは簡便な。
次で施設防衛編は終わり(始めから防衛できてないけど)お話はそのまま別パートへ入ります。
何編に入るかは……まぁ分かってるかもしれないけどお楽しみに。
次の投下は少し長くなります。量的な意味で。書き上がり次第来ます。ではでは。


101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/24(土) 22:29:59.31 ID:5DjYagor0
乙!

リアルタイムで見るとなんか緊迫感あるな
あいかわらず面白すぎる
もう一度乙!
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/24(土) 22:32:22.59 ID:8gb3cj040


レス予告に感謝
なぜだろう?第三位から咬ませ臭しかしない
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/09/24(土) 22:33:02.11 ID:nyAhPOOB0
乙!
御坂は体晶使ってるとみて間違いなさそうだな
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/24(土) 22:48:02.59 ID:5xziPoJa0
もし、体晶を使っていたとしても麦野みたいにすぐにガタがつくはず・・・・
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/09/24(土) 22:55:59.17 ID:j7ulhuN6o


次回予告に滝壺さんのセリフがない…………
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/09/24(土) 23:00:18.51 ID:zHyCeF2AO
左手落ちた時は死んだと思った。生きててよかったむぎのん。

予告での御坂は誰と戦ってんだ。まさか……
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/09/24(土) 23:21:00.97 ID:nAn21bB90

第三位が一方通行っぽく狂ってきてるな
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/24(土) 23:24:05.74 ID:3MtBr2oqo
人物紹介欄の上条さんの項目に、「すでにほぼ役目を終えた」とあるし
美琴が救われるルートが見えねえ

乙!
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北陸地方) [sage]:2011/09/25(日) 08:36:00.00 ID:YU5wiIpAO
良かった…麦のんはまだ生きてるんだな
でも10031号がヤバいし、美琴さんの狂いっぷりもヤバいぜ
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/09/25(日) 11:58:18.31 ID:4cqMZjIt0
麦のんの死体回収行こうと思ったら無理だった悔しい

上条さんが多少頑張らないとハッピーエンド難しそうなのにどうなるんだ…
111 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 16:06:48.76 ID:IY9FRPif0
もしかすると今日中、明日には投下できるかもしれない。
書きあがれば数時間前には一度予告します。

個人的には、今回の話はリアルタイム推奨です。
ではでは
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/09/25(日) 17:01:00.77 ID:P9CA92T8o

ちょっと黒子たちが心配なってきた;
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/09/25(日) 18:08:14.95 ID:PHtAx6WF0
っしゃ待ってる頑張れ
114 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 19:40:08.03 ID:IY9FRPif0
今日中に投下出来る。22時から24時の間。
またはっきりした時間は落とすんでこまめに見てくれると嬉しいです。

何度も書く様に今回はリアルタイム推奨です。
よければ投下と共におつきあいください。ではでは
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/25(日) 19:53:01.90 ID:+AZVrGgK0
おっしゃ、アンパンと牛乳用意して待ってる
116 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 21:41:08.58 ID:IY9FRPif0

23時投下。出来れば投下と共におつきあいください。
前スレ、前々スレを軽く読み返しておくとなお楽しめると思います。ではでは
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/09/25(日) 21:55:11.09 ID:5wXBAPGK0
凄い期待
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/25(日) 22:07:11.40 ID:qyayeoIdo
なんという自負!
超期待!
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/09/25(日) 22:21:44.78 ID:4xjrkGvJ0
+   +
  ∧_∧  +
 (0゚・∀・)   
 (0゚∪ ∪ +
 と__)__) +
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/25(日) 22:45:22.32 ID:nTg8t9th0
間に合った……!
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/25(日) 22:48:31.86 ID:5mC8mXsFo
やっべ。マジで興奮するわ。飲み物とお菓子の用意は十分ですぜ。どんとこい!
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/09/25(日) 22:56:50.47 ID:U2b8FESAO
いつの間にか映画館みたいになってるな
123 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:00:07.27 ID:IY9FRPif0

――――――――――――





それは、二人が樹系図の設計者情報送受信センターにたどり着いた、その瞬間に訪れた。

浜面「っ、なんだ!?」

前触れもなく、世界がぐらりと傾いた。

絹旗「ただの地震ですっ! 急いでください」

崩した体勢を整える。一息ついて、また駆け出した。
絹旗に並行し、浜面達は人の気配が一切しない施設を突き進む。


ズズズズゥゥゥン


絹旗「……っ、」

今度は施設全体が小刻みに震えた。
地震とも思えるこれは、そうではない。経験則から絹旗はそう直感する。

これは、戦闘の余波だ。

絹旗「――っ、と」

またぐらぐらと、今度は世界が揺れる。
震える大地に足を捕られ、絹旗の体勢が大きく傾く。


124 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:00:58.31 ID:IY9FRPif0


絹旗「くっ……」

絹旗の表情には、焦燥。
かつて感じたことのない程の焦りが浮かんでいた。

今の揺れ。
浜面には何でもない様に言ったが、絹旗はこの地震には覚えがあった。

スクールを追撃していた時に、何度も自分たちを襲った地震だ。
それも、全てそれらは滝壺が体晶を使った際に起こった現象。

絹旗「まさか……」

また、建物が揺れる。爆発音や、破壊音。
深部から聞こえてくるそれらは戦闘の余波であって、

今戦っているのは、誰だ?

絹旗「滝壺、さん……?」

何かが起こった。

それは分かる。

しかし、何が起こったのかが判らなかった。

浜面「フレンダッ!!」

そんな浜面の声が、絹旗を思考美の海から救い上げた。
駆ける二人の目の前に倒れていたのは、

フレンダ「う……あ、」

フレンダ=セイヴェルン。



125 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:01:35.05 ID:IY9FRPif0



絹旗「フレンダ!大丈夫ですか?」

駆け寄り、絹旗はその細い肩を抱く。
息はしている、脈も乱れているが命は感じられる。

フレンダ「あはは……結局、電流対策してなかったら……即死だった訳、で」

絹旗「喋らないでください……すぐに手当を」

フレンダ「いいってば……動ける、から」

緩慢な動きで、フレンダが立ち上がる。
その足下はふらついていて、とても激しい動きが出来る様子ではない。

絹旗「でも――」

浜面「まて、絹旗」

震えた声が。言葉を遮った。
その意味に、絹旗も気付く。

絹旗「…………っ」

音が止んでいる。

施設深部から伝わってきていた揺れが、音が、
まるでそもそもそんなものはなかったかの様な静けさがそこにあった。

戦闘が、終わった……?




126 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:02:14.53 ID:IY9FRPif0

フレンダ「麦野、滝壺……」

絹旗「……行きましょう」

絹旗が無理矢理にフレンダに肩を貸し、施設を突っ切る。
戦いは終わった。ならそこには麦野と滝壺が立っているはずだ。

絹旗「……っ」

しかし、どうしても嫌な予感しかしなかった。
最悪の結末がそこにあるような気がしてならなかった。

そして、深部。

辿り着いたそこは広い空間で、

そこには誰も立っておらず、

そこで倒れていたのは、

絹旗「……な、」

フレンダ「いや、……うそ」

二人からそんな声が掠れた声が漏れる。

目の前の光景を、現実として認識したくない。
そんな思いが、思わず口から漏れたような、そんな悲痛な声で。

絹旗「滝壺さんッ!!」

フレンダ「麦野っ!!」

127 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:02:48.76 ID:IY9FRPif0



名を叫び、駆け寄る。
口元から血を流し、死体の様に全身の力が抜けて倒れている滝壺に、
血溜まりに沈み、左手が吹き飛び、今死んでもおかしくないほどの傷を負わされた麦野に、

絹旗「滝壺さんっ! しっかりしてください。どうして、こんな……」

フレンダ「いやっ! いやだよ麦野っ! 死んじゃだめだってばぁ!!」

浜面「……っ」

破壊に埋め尽くされたその空間に、少女達の悲痛な声が反響する。
その中で、浜面の視線は一方に向いていた。

学園都市の頭脳と唯一交信できる、心臓部。
この施設の最深部へと続く道。

絹旗「浜面……なにしてるんですか、どこへ」

浜面「絹旗。麦野達を連れてここから出ろ」

その足を一歩踏み出して、

絹旗「浜面ぁッ!」

浜面は駆け出す。かけられた声を無視して。


128 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:03:30.25 ID:IY9FRPif0



浜面「――ッ」

最深部へと続く一本の通路は短く、そこにはすぐ辿り着いた。
中は薄暗く、いくつものモニターの明りか光源となっていて、そこに、

  「―――あはっ」

少女はいた。

キーボードを絶え間なく鳴らし、モニターを食い入る様に見つめ、
どこまでも愉快そうに笑って、笑って、笑っていた。

御坂「あはっ、あははは、そっか。今は『ソコ』にあるんだ。ふぅん。座標は――」

御坂「――、あは、駄目、笑ってなきゃやってらんない」

くつくつ、と。少女が笑いをこらえる様に声を漏らし、結局はまた笑った。

御坂「あは、あはははははははッ!! これで、これで全部――」

そして、

御坂「――で、アンタは誰?」

ぐるんと、御坂美琴が首を曲げた。

129 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:04:08.21 ID:IY9FRPif0


真横を、雷が駆け抜けた。

浜面「あ、――――」

声が出ない。それはあまりにも唐突だったから。
一瞬にして、体が芯から竦んでしまった。

御坂「あー、あ。ハズしちゃったか。」

そんな浜面仕上の姿を見て、御坂美琴はどこか残念そうに己の手を握り、また開く。

御坂「AIM拡散力場に干渉、制御かぁ……本当、とんでもない能力よね。
   それってレベル0もレベル5に引き上げちゃう事だって可能なんだからさあ」

そう言った御坂美琴の表情が、モニターの明かりによってうっすらと照らされる。

垣間見えたそれは、

御坂「ほんと、どこかのレベル5なんかよりよっぽど手強かったわ。あの女――まぁ」

14歳の少女が浮かべてしまえるような笑みではなかった。

御坂「次は、当てるけど?」


130 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:04:51.78 ID:IY9FRPif0


コツ、と御坂美琴が手を伸ばし一歩を踏み出す。
徐々に、明かりに照らされその表情がはっきりと視認出来る様になり、

浜面「…………」

その顔は当たり前だがミサカにそっくりだった。

しかし、どこかが違う。

御坂「あはっ」

笑みこそ浮かべてはいたが、その表情は死んでいた。
見開いた瞳には光がなく、黒い隈が沈んでいた。
制服ではない、ラフな格好をしていた。
首からは小さなカエルのマスコットが二つかけられていた

浜面「……お前は、妹達の為にこんな事――ッ」

言葉は最後まで言えなかった。

いつの間にか眼前、言葉通り目と鼻の先にまで迫った御坂美琴が、言わせなかった。
黒く沈んだ暗い目玉が二つ、浜面を飲み込む様に向けられる。
いつの間にかその表情から笑みは消えていて、

御坂「アンタ、あの子達を知ってるの?」

浜面「……っ」

その重力を感じさせる低い声に、威圧される。圧倒される。
その両手が伸ばされる。詰め寄る様に、浜面の胸ぐらに。

131 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:05:39.72 ID:IY9FRPif0



美琴「ねぇ、今なんていった? アンタなに? どうしてあの子達を知っているの?
   あの子達を苦しめるの? それともただの知り合い? それとも友達?
   なら礼を言わなきゃね。あぁ、でもこんなところにいるなら違うか。で、結局アンタは、

言葉が羅列される。聞き取れないほどの、声が浜面の元へ流れてくる。

美琴「あの子のなんなの?」

鬼気迫るその言葉に、浜面は声を絞り出す。

浜面「実験は……もう、はじまってるんだぞ」

もしかすると。と思った。
御坂美琴。それがどんな人物なのか浜面は知らないが、
それでもその少女が超能力者の中で比較的まともな部類だと言うのは知っていた。

協力出来るかもしれない。そう思った。
ミサカを助ける為にコイツなら手を組めるかもしれないと。

しかし、それが間違っていると気付いたのはついさっき。
麦野と滝壺のあの姿を見て。
そして、確信したのは、たった今。



御坂「だから?」



この少女は、こわれてる。

132 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:06:24.40 ID:IY9FRPif0


浜面「……っ」

パッ、と手が離された。

少女の顔は戻り、その目は黒に潰されていた。
裂けた唇が笑みを生む。しかし、その表情はどこまでも死んでいて、

御坂「いいのよ、あの実験は、今日で終わるんだから」

バチバチ、と、御坂美琴の体から電流が走り出した。

浜面「ッ」

バチィ!!

放電。それは徐々に大きくなって、背後のモニター、制御盤、
樹系図の設計者情報送受信センターの心臓部を破壊する。
もう、分かりきっていた事だが、この時点でアイテムの任務失敗が確定した。

御坂「あは、あはははは。そう、実験は終わる。私が、あの子達を――」

絹旗「浜面っ!!」

雷撃の一部が浜面に向かい、身を焼こうとしたその瞬間。
絹旗が素早く浜面の首もとを掴み、一瞬のうちに踵を返す。

絹旗「何やってんですかこの超バカ!! さっさと逃げますよ!!」

浜面「おまえ……なんで」

絹旗「止血もせずに超運べる訳無いでしょうが!! 
   ついでに言うと私一人では三人も運べないんですよ!! 手伝えバカ面!!」

絹旗の声を聞きながら、徐々に遠くなる御坂美琴はそれでも笑っていて、
それでも、瞳は底の無い穴のようなままだった。

ケタケタと響くその笑い声は、どこまでも耳に残って――



133 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:07:04.50 ID:IY9FRPif0




グラリ、と。

その瞬間、大地が一際大きく揺れた。

浜面「地震っ!?」

絹旗「そんなッ!! どうしてっ!?」

声が、揺れに掻き消される。足を取られながらもその元の空間へ戻り、
そこにいたのは

絹旗「麦、の……なにしてッ!?」

未だ小刻みに揺れるそこで、
大量に血を失い、目が潰され、左腕を捥がれてもなお意識を取り戻した麦野沈利がいた。

麦野「……どけ」

その顔は青ざめていて、怒りに染まった表情にもどこか覇気がない。

フレンダ「絹旗、なんとか言ってよ! 麦野がっ」

未だ倒れ、意識の取り戻さない滝壺に寄り添ったフレンダが叫ぶ。

絹旗「麦野、逃げましょう。もう仕事は失敗です。
   残る意味はありません」

麦野「関、係ねぇ……よ。逃げたきゃ……ッテメェらで勝手に逃げろ。私は、――」

言葉は途切れ、麦野沈利の体が揺れた。誰よりも早く麦野の体に手を伸ばしたのは、

浜面「……逃げるぞ。絹旗、滝壺を頼む」

絹旗「あ、……は、はい!」



134 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:07:46.75 ID:IY9FRPif0



麦野「テメェ、浜面ぁ!! 勝手な事してんじゃねぇ! 殺すぞッ!!」

勢いの欠片もない怒号が向けられる。
浜面はそれを無視し、麦野を背負おうと腕を伸ばす。

浜面「……今にも死にそうなのはテメェじゃねぇか。さっさと肩に――」

麦野「うるせぇ!!だから今すぐあのクソを殺すって言ってんだよ!!」

がむしゃらに振り回された右腕が、浜面の手を弾いた。
そのまま足を踏みしめ、息を荒くし麦野がぶつぶつと小さく、
それは焦点のあっていない目で呟かれていた。

麦野「あのクソッタレ……体晶を、能力体結晶を使って――」

体晶。
その言葉で、いくつかの疑問が繋がった。

麦野沈利がここまで圧倒された訳。
あのMARでの、侵入者。
全ては、この日の為に御坂美琴が周到に――

浜面「……えっ?」

いくつかの疑問は繋がった。

そして、それは新たなる疑問を生む。

しかしその疑問は考える余裕すら与えられず、それは突然訪れた。




135 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:08:29.25 ID:IY9FRPif0





浜面「なっ!!」

突然、建物全体が傾いた。

絹旗「フレンダ! 捕まって!!」

フレンダ「ひゃ、ひゃぁあっ!」

浜面「な、なんだよこれッ!!」

揺れや地震なんてちゃちな表現ではない。本当に建物が傾き始めていた。
床が、バキバキと音をたて徐々に斜めへと競り上がる。

浜面「くっ!!」

麦野「な、掴んでんじゃねぇっ!! 私は、まだやれる……言って――」

浜面「いい加減にしろ!!」

麦野「あぁッ!? 誰に、口聞いて、」

非常時だと言うのに、怒号が飛び交う。
それでもこの施設全体の悲鳴には掻き消され、だから浜面は叫ぶ。



136 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:09:11.21 ID:IY9FRPif0





浜面「さっきからうだうだうるっせぇんだよッ!! 
   俺だってテメェなんて助けたくねぇに決まってんだろうがッ!!」

麦野「ならさっさと離せばいいだろうが、誰もんな事望んでねぇんだよ!!
   道具の分際で、独善に浸ってんじゃねぇぞ……浜面ぁ!!」

浜面「仕方ねぇだろうが!! テメェがどう思ってようが知らねぇが
   周りにはテメェを居場所にしてる奴がいるんだ!死んで欲しくないって奴がいるんだッ!!
   どうしてスキルアウトのボスでも分かるような事が超能力者のテメェにわからねぇんだよ!!!」

麦野「ッ……な、」

言葉に詰まった少女が周りを見ると、
そこには、自分が指揮してきたアイテムがいた。

道具が、いた。

道具は、自分の事を心配そうに見つめていて、
その目は、とても、自分の事を道具としては見ていなくて、

麦野「…………」

浜面「お前を連れて逃げる。文句はその後アイツらに言えよ」

麦野「……借りにはしないわよ」

浜面「いつか返せ。レベル5に恩を売る機会なんてそうそうねぇ」



137 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:09:56.60 ID:IY9FRPif0




その言葉で意思は決まった。
滝壺とフレンダを抱えた絹旗と共に、施設の中を駆け抜け――

浜面「っ、駄目だ、抜けれねぇ!!」

建物が更に傾く。乱雑に持ち上げられたかの様に施設は縦横に振れ、
既にまともに歩けなくなっていた。なんだ。いったい、何が起きて、

麦野「動くな浜面……消し飛んでも、知らないわよッ!!!」

肩を貸す麦野の言葉と共に、弾けたのは閃光。
原子崩し。第四位の超能力者が、すぐ真横で発動される。

射出されたのは、その足場。

浜面「な、……」

正直に言って危険だと言うレベルではなかったので
怒鳴ってやりたいところだったが、目に飛び込んできたその光景を見て言葉を失った。

大穴が空いた鋼鉄の壁面。真下には、地面が見えた。

『あった』ではない。

『見えた』だ。



138 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:10:33.97 ID:IY9FRPif0




そこに見えたのは整地されてない荒れた大地、
元々そこになにかあって、まるでそれを引き剥がしたような、大地、

フレンダ「なに、……これ」

その言葉を口に出すのは躊躇われた。それは、あまりにバカバカしかったから。

しかし、目の前にあるのは現実で、つまり、まさか――



浜面「浮いて、る……」



建物は浮いていた。

浮遊する様に、中空を、ふらふらと。

麦野「絹旗! 全員掴んで飛び降りろっ!!」

絹旗「は、はいッ!!」

浜面「おい。これ10mはあるんじゃ――」

言葉は、絹旗に引っ張られた勢いによって遮られる。
直後、体が宙に放り出されて、

浜面「お、おおぉぉぉぉぉおぉぉっ!?」

地面が迫る。また、真横で何かが輝いた気がした。




139 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:11:25.92 ID:IY9FRPif0





麦野「痛ッ……う、ぅぅ」

隣からは麦野のうめき声が聞こえた。
当たり前だ、目が潰れ、腕が捥がれ、それでもまだこうして
意識がある時点で尋常じゃない苦痛が麦野を襲っているはずで、

原子崩しの放射による衝撃緩和も、今の麦野には相当の負荷を与えたはずだ。

浜面「絹旗、行くぞ」

荒れた大地から立ち上がり、再び麦野に肩を貸す。
しかし、いつまで経っても返事は返ってこず、

浜面「絹旗?」

振り向いたその先で、絹旗は空を仰いで、震えていた。

視線に釣られ、浜面も、空を、暗い星空を仰ぐ。

浜面「嘘だろ」

そんな言葉しか出てこなかった。
科学の街に住みだしてもう何年にもなる。

それでも、こんなむちゃくちゃは見た事無かった。しらなかった。

そこには、信じられないモノが『あった』

浜面「何なんだよこれぇッ!!」



140 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:12:47.88 ID:IY9FRPif0



視界一面。それは異様すぎる光景だった。

視界の範囲全てに、夜空を埋め尽くす程の何かが浮かんでいた。

数えるのも馬鹿らしくなる。何がだなんて、更にバカバカしい。

それは、先ほどのような『施設』であったり、『空港』であったり、
『工場』であったり、『航空機』であったり、『シャトル』であったり、
『電波塔』であったり、『高層ビル』であったり、『建物』であったり、

その空にはおおよそこの23学区にはあるであろう全てのモノが宙を漂っていた。

まるで、それは映画のワンシーンでも見ているような、
あまりにもスケールが大きすぎて、まるで現実味が湧かない。

ただ、それらはゆっくりとどこかに引き寄せられるよう、漂って行く。
その中に、先ほどまで自分達がいた施設もあった。

収束して行く場所に目を凝らす。遠くだが、そこに、誰かが立っていた。
見覚えのある、その顔。死んだ表情、裂けた口。うつろな目、

浜面「これ……どうなって」

声を失う浜面に向かって、苦痛に顔を歪める麦野が呟いた。

麦野「磁力だ」

浜面「……は?」

その時、ようやく浜面達は知った。

自分達が、どれほどの存在を敵に回していたのかという事を。



麦野「第三位のクソッタレが磁力で学区内のありとあらゆるもんを引き寄せてんだよッ!!」



御坂美琴の、本当の目的を。



141 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:13:49.77 ID:IY9FRPif0





ゴキャバキガギャガッ

音に表せないような、金属が潰れて行く破壊音が学区内に響き渡る。
建物が、航空機が、超磁力によってベキベキと縮んでいき、
それは一点に、御坂美琴の頭上に集結して行く。

浜面達はその場から一歩も動けず、それを見つめていた。

気付けば、目の前に出来上がっていたのは、巨大な、巨大、巨大な超鉄塊。

夜空より暗く、見上げても先が見えない高さのそれは、23学区に存在するありとあらゆる金属の集合体。

それは、ほのかに浮き上がっていて、地面とその鉄塊との隙間にいたのは、

御坂「あは、あははははは、あははははははははははははははははははははははははははははははっ!!!!!!!!」

狂気に侵され、狂喜に震えた御坂美琴。その引き裂かれた唇から、醜悪な叫びが漏れる。

浜面「なっ」

その瞬間、響く笑い声と共に現出したのは、火柱。

超構造物を挟むかの様に、橙色の二本の巨大な火柱が紫電を放ち、夜空を奔る。

否、それは火柱などではなかった。


142 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:14:16.15 ID:IY9FRPif0





御坂美琴が生み出したそれは、二本の『巨大なレール』






143 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:15:13.38 ID:IY9FRPif0




先ほどもふと生まれた疑問だった。



御坂美琴はなぜ、樹系図の設計者情報送受信センターに襲撃をかけたのか。



何が、目的でこの研究施設に入り込んだのか。

布束は言っていた。研究所を壊しても無駄なのは分かっているはずなのに、と。

ならば、なぜ御坂美琴はわざわざ無駄を承知でこの研究所に入り込んだ。

ここにあるのは、情報だけだ。
そう、御坂美琴が交信室で得た情報は、『座標』は

浜面「――まさか、」

そもそも始めから、全ての人間が勘違いをしていた。

御坂美琴は樹系図の設計者情報送受信センターにを破壊する為に襲撃したのだと、勘違いをしていた。

布束は、御坂美琴から直接聞いたはずなのに、その選択肢は始めから無かった。

言っていたはずなのに、御坂美琴の目的は、始めから――



144 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:15:46.75 ID:IY9FRPif0





  「――あはっ」



145 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:16:30.73 ID:IY9FRPif0




御坂美琴が腕を振った。
頭上の鉄塊を、殴り飛ばすかの様に。

その瞬間、浜面が見たそれは、まるで地上から伸びる閃光、落雷。

音の早さを何倍も超え、空に向けて放たれたそれは超電磁砲。

橙色の残像を残して空に消えたそれは、夜空を裂き、雲を貫き、成層圏を超え、突き進む。

衛生軌道上に漂う神の頭脳を貫き殺す槍となって

そして、小さく擦れきったその槍は、確かに『樹系図の設計者』を貫いた。




146 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:17:03.87 ID:IY9FRPif0




地上に訪れたのは、静寂。

浜面「アレが……超能力者」

畏怖の念が声に漏れた。

麦野「違う」

しかし、超能力者は否定する。

麦野「超能力者如きが、あんな真似――」

声は遮られる。

一瞬、遅れてやってきたのは神殺しの槍を放った代償。

大地が穿たれ、衝撃が木々を薙ぎ払う。

それは全てを塵に返し、

その瞬間、23学区が壊滅した。


147 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:17:36.86 ID:IY9FRPif0


















148 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:18:06.75 ID:IY9FRPif0


何も無いその荒野。

そこに、何百mにもなる、隕石でも落ちてきたのかと思うような窪みがあった。
その真ん中に、一人の少女が立って、空を見上げ、笑っていた。

御坂「あはは」

その少女は、笑っていた。

御坂「これで、後は――」

少女はほんの少し足を曲げ大地から離れる様に地面を蹴る。

そのまま姿は見えなくなった。


149 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:19:09.54 ID:IY9FRPif0
もうちっと続くよ!やったね!

5分休憩

150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/09/25(日) 23:19:40.92 ID:5wXBAPGK0
うおおおおいいいい
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/25(日) 23:21:13.22 ID:nTg8t9th0
誰かエネルギー計算を頼む
152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/25(日) 23:21:20.40 ID:qyayeoIdo
うおおおおおおおおおおおおおおおおおいいいい」
153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/25(日) 23:21:24.97 ID:vdJ8M8yY0
超巨大なレールガンをぶっぱなしたという訳か
御坂凄過ぎる
154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/09/25(日) 23:22:26.21 ID:bC5aZ/iVo
一方さんに攻撃するのかと思った。

が、もっと凄かった。
155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/25(日) 23:23:53.29 ID:SNQQR1ASO
なんかテンションあがるな
156 : ◆v2TDmACLlM :2011/09/25(日) 23:24:58.29 ID:IY9FRPif0






・「[ピーーー]」





157 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:25:50.10 ID:IY9FRPif0


布束「なんだ、これは――」

喉が詰まる。信じられない表示がモニターにあった。

布束「私の知らないセキュリティー……! いつの間にこんな」

だんッ、と制御盤を思い切り叩き付ける。

暗部の二人組が仲間の助けを聞き、急いで駆けて行ったのを見届け、
布束は本来自分がやるはずだった作業に戻った。

しかし、その目論みは失敗する。

布束「ミサカネットワーク……! 上位個体だと」

キーボードを叩き、必死に抜け道を探す。
予想外の事態に、少女は焦っていた。

だから、

後ろから迫る、その悪意に、布束は気付かない。

気付かずに、

布束「―――あ」

少女は、その場に倒れ、

布束「な――」

意識が落ちる間際に見えた。その人物は、

  「さようなら」

歪に、ゆがんだ、絶望の声。

布束「そ、んな……」

その言葉を最後に少女が起き上がる事は、もう無かった。

158 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:26:49.92 ID:IY9FRPif0
――――――――――――






逃げ延びたのは、奇跡だったのだろう。

死力を尽くした原子崩しの防壁によってなんとか衝撃を防ぎ、
浜面達はそのまま23学区から逃亡した。

幸いにも、そこまで苦労せず移動手段となる車を発見できたのも、奇跡だったのかもしれない。

その車をなんとか動かし、浜面達は第5学区にある近場の病院へ麦野達を運び込んだ。

分かっていた事だが、二人とも瀕死の重症だ。
助かるかは、分からないらしい。

まだ、さっきの出来事から数十分しか経っていない。
あり得ないほど、時間の流れが遅く感じた

何をするでも無く、暗い待合室のソファで三人は座る。
そこに会話は何も無かった。

浜面「…………」

御坂美琴。

浜面の脳裏に浮かんだのは、あの壊れた少女。

超電磁砲、第三位。少女の目的は、無事達成された事に成る。

衛星軌道上に浮かぶ樹系図の設計者の破壊。

それが、本当の目的。

全ては、あの実験を終わらす為。

彼女は、今頃は実験に向かっているのだろうか。
ミサカが現在も行っている、実験へ。


159 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:27:59.26 ID:IY9FRPif0



浜面「…………」

行かなければ。

まだ、実験が続いているのかは分からない。
確か、あれからもう40分は経っている。

浜面「………」

そして、

ピピピピピピピピ、ピピピピピピピピ

端末が、鳴り響く。

絹旗「……浜面、なってますよ」

浜面「……あぁ」

緩慢な動きで立ち上がり、その場を離れる。
足は止まらず、気付けば外へ。

風は、吹いていなかった。

浜面「……だれだ?」

初春『よ、よかった! やっと繋がった!』

端末を通して聞こえてきたのは、甘ったるい少女の声。

初春飾利。しかし、その声に含まれていたのは、焦り。

160 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:28:51.53 ID:IY9FRPif0


浜面「……あぁ、悪い。ちょっと出れそうになかったんだ、何か――」

初春『た、大変なんです! 上条さんが言っていた共通点を知らべたら、
   大変な事が分かったんですよ!!』

浜面「共通点……?」

少女の声は一向に収まるが気配はなく、端末越しにカタカタとキーボードを鳴らす音が
聞こえてくる。どうやらまだ調べているらしい。確か、レベルアッパー被害者の共通点。

初春『ひゃ、140万です……っ』

浜面「……は?」

いきなりの要領の得ない発言に、疑問符が浮かぶ。

140万?
1400000?
ひゃくよんじゅうまん?
161 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:29:22.92 ID:IY9FRPif0



浜面「140万……? 一体何の数字だよ。それ」

初春『〜だからっ!!』

初春が苛立つ様に語気を荒げた。
よほど慌てていて、今度こそ浜面にも伝わる様に、はっきりと少女は言う。

初春『1400000人ですっ!』

140万。その数字が、何を表すのか

浜面「……え?」

そして、それの意味を理解した時、


162 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:29:51.50 ID:IY9FRPif0






初春『レベルアッパー被害者の数が、140万人を越えてるんですっ!!』




163 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:30:19.21 ID:IY9FRPif0





学園都市に、雷が落ちた。



164 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:30:49.82 ID:IY9FRPif0

――――――――――――


操車場で、大地が弾けた。

砂利が舞い、礫の様に降り掛かる。
それは少女の細い体へ、いくつもいくつも

ミサカ「うぐぅっ!!」

とうとう、ミサカが倒れ、起き上がらなくなった。
制服は破け、肌は血に濡れ、額にかけた軍用ゴーグルはもう使い物にすらならない。

一方通行「よォ、もう終わりですかァ? ヒャハハッ、 
     それしか能がねェンだからもう少し楽しませろよォ!!」

少年が、学園都市最強がケタケタと笑いながら一歩、また一歩、歩み寄る。
手繰り寄せる様に、死がミサカへと近づいてくる。

ミサカ「う、あ……」

砂利の上で這うミサカに、もう動く力は残っていなかった。
全身に消えない痛みが刻まれ、視界は赤に染まる。

近づいてくる足音にを、待つだけだ。

そうして、今日の実験は終わる。
明日には、また次のミサカが死ぬ。それだけ。

いつの間にか、足音は止んでいた。


165 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:31:32.88 ID:IY9FRPif0




一方通行「はァ、あ……つまンねェな。」

一方通行の手が伸びる。

ミサカ「あ、ああ、ぁぁぁあぁぁぁぁっぁぁっ!!」

指が、ぐじゅぐじゅと肉を突き破り、体内へと侵入してくる。
激痛。焼けるような、今にも意識が飛んでしまうような、痛み。

これが、死。

ぐじゅっ

ミサカ「あぁぁぁぁあぁぁっぁぁぁぁっぁぁっ!!!」

一方通行「あー、うっせェうっせェ、ちったァ静かにできねェのか……ハッ」

無茶を言ったな。と自分でも思う。
だが、そんな事は関係ない。この手に触れた血を逆流させれば、もう終わりだ。

だから、一方通行は問う。何度も何度も終わりの間際、口にしたその言葉を。

一方通行「よォ、最後に言い残した事は――」

それは、その瞬間に訪れた。




166 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:32:06.15 ID:IY9FRPif0






キィィィィィィィィィィィィィィィン




167 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:32:54.34 ID:IY9FRPif0




一方通行「ッグ、うゥッ!?」

音。それは音だった。甲高い音。煩わしい音。
それは一方通行の脳をかき回し、ぐちゃぐちゃと、思考を乱す。

一方通行「が、ァァあぁぁぁっ!」

いくつもの思考が走り混線する。なんだ、なにが起こった?
何が思考を乱している。これはおと、音だ。ならば、

一方通行「ク、ソ」

反射が、上手く働かなかった。

肩に何かが触れるが、そんな事は気にしてはいられない。
とにかくこの音をなんとかして、

一方通行「ッ――はァッ!!」

音が、止んだ。

息が乱れる。なんだ、一体今のは何だった。

ミサカ「う、あ……はぁッ、はぁッ!」

妹達の仕業ではない。それは、今ここに倒れているミサカを見れば一目瞭然だった。
一方通行に何か罠を仕掛けたのなら、その罠に自分もかかるはずが無かったから。

じゃあ――なんだ?

168 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:33:43.02 ID:IY9FRPif0



ぽん、と、また肩に何かが触れた。

それは、人の手。

ミサカ「こんばんわ」

一方通行「あァ……?」

手を置いたのは、倒れている妹達とはまた別の個体。

しかし、その妹達は、ほかの個体とは、違った。

いや、この場合。些細な違いは問題ない。

例え妹達の一人がラフな服を着ていようと、カエルのマスコットを首からぶら下げていようと、
目が死んでいようと、にやにや笑みを浮かべていようと、そんな事は問題ない。問題なのは――

何故、自分に触れる事が出来ている。

そう一方通行が口に出そうとした瞬間。


ミサカ「あはっ」


目の前の、妹達。いや、




御坂美琴の、
      唇が、
         三日月の様に、
                裂けた。




169 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:34:16.63 ID:IY9FRPif0






御坂「つーかまぁえたぁ」




170 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:35:08.28 ID:IY9FRPif0




御坂美琴が腕を振り被る。

あまりにも馬鹿らしいその行為に、一方通行は思考を忘れる。
その腕が向かってくるのを分かっていたのに、避けようとはしない。

今までそういう戦い方をしてきたから、だから

だから、御坂美琴の拳は正確に一方通行の頬を打ち抜いた。




171 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:35:47.58 ID:IY9FRPif0


一方通行「あ……」

痛み、

一方通行「なンだ……」

熱が頬を焼く。

一方通行「何だよこれはァッ!!」

殴られた?

美琴「あはっ。最っ高、アンタこんな感触だったんだ。あは、アハハハハハハハハハハハハハ」

響く、御坂美琴の笑い声。

一転、何が起こったのか一方通行には分からなかった。
どうして殴られた。どうして反射が効かなかった。どうして、どうして、

一方通行「は、誰かと思えばこの前もボコボコにしてやったオリジナル様かよ。
     一体何回邪魔すりゃ気が済むンだオマエは」

原因は、分からない。分からないながらも推測するに、音。
あの音だろう。あれのせいで無意識に反射を切っていた。そうとしか思えない。

……笑えない話だ。

御坂「安心していいわよ。今日で最後だから。この腐った実験も――」

御坂美琴が笑う。ニタニタと、何かを確信したかの様に。
まるで、勝ち誇った様に、言い放った。

御坂「アンタの命も」


172 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:36:45.82 ID:IY9FRPif0



一方通行「俺の勘に触ってンじゃねェよ。格下がァァァッぁぁぁ!!!!」

侮蔑は、一方通行の怒りを爆発させる。

足にかかる運動量のベクトルを操作し、一気に御坂美琴に詰め寄ろうと、

一方通行「――っ」

そこで、ようやく一方通行は異変に気付いた。

御坂「……ねぇ、そんなに不思議?」

一歩踏み出した己の足を見て、ようやく一方通行は己の異常に気付いた。


御坂「能力、使えないの」


一方通行「なァッ――!?」

くすくすと、御坂美琴が嘲笑う。

一方通行「……っ!!」

言葉を失う。異常。異常だった。
いくら能力を発動しようとしても、その能力は展開しない。
演算をしようとも、何も、起こらない。



173 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:37:56.77 ID:IY9FRPif0



一方通行「オマエ……何をした。」

凡人ならばそれだけで竦んでしまうような視線が、御坂美琴を射抜いた。
しかし、少女の態度は崩れない。少女の余裕は崩れない。

御坂「簡単な事じゃない。アンタは今ベクトル操作も反射も使えない。
   これは明言。アンタにとって、絶対的な言葉」

一方通行「何をしたかって聞いてンだよォッ!!!」

怒号が飛ぶ。

一人の少女が倒れ。
二人の能力者が対峙するその場は、異常な雰囲気が漂い始めていた。

御坂「あはっ」

御坂美琴が、緩慢な動きで何かを取り出す。それは、リモコンのような、なにか

御坂「この音のせい、だとか思ってる?」

直後、鳴ったのは―――

一方通行「っ、グ……」

音。先ほどと同じ、脳を削るような音。

一方通行と、倒れたミサカが再び苦しみだす。

しかし、なぜか御坂美琴だけは、ニタニタと笑みを浮かべながらその場に立っていた。

音は、すぐに止む。

御坂「これ、キャパシティダウンって言うんだって。いろんな研究所にあったから
   いくつか貰って仕掛けといたけど、本当すごいわよねー。あははっ」

御坂「まぁ、もういらないけど」

軽く、捨てる様に御坂美琴はその手にもっていたリモコンを放り投げた。
次に、呟いたのは、

御坂「今なら使えるわよ。反射。」

一方通行「ッ!?」

174 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:38:43.95 ID:IY9FRPif0





その瞬間、一方通行は跳ねていた。遥か、上空へ

一方通行「なンだ、畜生どォなってやがるッ!!」

未だに、一方通行は気付かない。気付けない。
何が起こっているのか、何をされたのか。
第一位の頭脳をもってですら理解が出来なかった。

一方通行「……!?」

空から見下ろす操車場。そこに立っているものは、誰も、いなくて、

御坂「脳の働きってさ。簡単に言っちゃうと全部、ほとんど、電気信号によって行われてるのよね」

その声は、ぴったり背後から囁かれた。
感じた事の無い怖気が一方通行をおそ――

――待て。


一方通行「……おい、」


今コイツ何を言った。


175 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:39:23.21 ID:IY9FRPif0




御坂「脳が指令する電気的な信号によって、足は動くし手も動く。
   なら、……能力だって同じじゃない?」

一方通行「オマエ、まさか――」

一瞬で、ありとあらゆる情報を取捨選択し、一方通行は答えに辿り着く。

しかし、それはあり得ない。不可能な答えだった。

御坂「今、アンタは能力を使えない」

底の無い穴の様な目が、一方通行を移し込む。
見た事の無い焦りを感じた表情だった。

御坂「落ちたら死ぬわよ」

衝撃。

一方通行「あ、ァァァアぁッ!!」

打たれ弱い一方通行の華奢な体が、猛スピードで落下して行く。
反射は使えない。落ちて、落ちて落ちて落ちて落ちて。

一方通行「ぐ、ゥゥゥゥッ!!」

反射を取り戻したのは、ギリギリだった。


176 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:40:18.41 ID:IY9FRPif0


自分の意思ではない。明らかに、脳に何らかの介入が行われている。
脳内電流、生体電気。それらを全て掌握されている。これは確定だ。

だが、分からない。

いつ。これは、あの音によって全能力が切れたところを狙われた。間違いない。

どうやって。

そう、これが問題だ。

どうやって御坂美琴は反射が戻った状態で自分の脳に干渉している。

一方通行を覆う反射膜は絶対だ。電磁波でさえ寄せ付けない。
何らかの電気的干渉をしていたとしても、反射の膜は働くはずだ。
一度取り戻してしまえば、こっちのもののはず。なのに、なのに――

コツ、と足跡が、響いた。

御坂「学習装置。ってあるじゃない?」

その声と共に、背後から。
177 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:41:59.13 ID:IY9FRPif0

一方通行は立ち上がり、

一方通行「……っ!?」

立ち上がれなかった。
膝をついて、そこにうずく事しか出来なかった。

脳以外、体でさえも、掌握されてる?

御坂「あれって、五感全てに対して電気的に脳へ情報を書き込む装置なのよ。
   被験者に直接、知識や命令を、脳に上書きするの」

それは例えば、何時何分に能力を発動し、何秒後に解除しろだとか、
何時何分には、立つと言う行為が出来なくなるだとか、

御坂「電気的な信号によって、ね?」

そんな、ウイルス。

一方通行「ふざけンな。出来る訳ねェだろそンなこと」
178 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:43:03.01 ID:IY9FRPif0



しかし、一方通行はその言葉を否定する。
それは焦りでも虚構でも何でも無い、事実から導きだした答えだった。

一方通行「いくらテメェがこの街最強の電撃使いだろうが、出来る訳がねェ」

そう、そんな事が、出来てしまえる訳が無い。

御坂「へぇ?」

一方通行「たかが『第三位の超能力者』が、一瞬で、人間一人の脳の構造を理解して、
     情報を上書き、書き換える? ンな事は不可能だって言ってンだよ」

いや、実際は可能なのだろう。御坂美琴程の電撃使いならば、学習装置の代わりなど
容易に行える。しかし、そこには絶対的な壁がある。

時間だ。

言ってしまえば簡単なその作業。それは、一方通行でも代用する事は可能だ。
生体電流を反射できるなら、その先の操作が出来たところで不思議ではない。

しかし、その行為は、第一位の驚異的な『演算能力』をフルに使用したとしても、
必ず一分はかかってしまう。第一位ですら越えられない壁を『第三位の超能力者』が越えられる訳が――

御坂「あは、あはははは」

しかし、御坂美琴は笑う。笑って言った。


179 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:43:53.51 ID:IY9FRPif0










御坂「それは私が『第三位の超能力者』だったらの話でしょ?」









180 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:44:53.26 ID:IY9FRPif0



理解できない、そんな言葉が御坂美琴から飛び出した。

一方通行「……あァ?」

パチっ、そんな音と共に、御坂美琴から紫電が弾ける。

御坂「アンタさぁ、なんか勘違いしてない?言葉の意味ちゃんと理解してる?」

まるで我慢できないとでも言う風に、御坂美琴が笑う。

一方通行「………」

御坂「言ったじゃない。『実験は今日で最後』」


御坂「終わるの、今日で」




181 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:45:22.07 ID:IY9FRPif0







一方通行は、知らない。






182 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:46:17.30 ID:IY9FRPif0



今から物語は遡る。



始まりは、あの雷。七日前に学園都市に落ちた、雷。


誰も知らない一日目。


この狂った物語は、冒頭から、プロローグから、そもそも始めから全てがおかしかった。


183 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:47:05.68 ID:IY9FRPif0



垣根帝督は言った。

学園都市の機能を一部とはいえ停止させる雷なんて、レベル5であったとしてもあり得ないと。



駒場利得は言った。

落雷による被害が大きすぎると。



布束砥信は言った。

いったい何をすればあんな雷を引き起こせるのだと。


アイテムは言った。

本当にあれは超電磁砲が引き起こしたのかと。



麦野沈利は言った。

レベル5程度では、あんな真似は出来るはず無いと。



184 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:48:14.57 ID:IY9FRPif0






どこかで誰かが抱いたほんの小さな疑問は、ここで収束する。






185 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:48:57.91 ID:IY9FRPif0


――そう、御坂美琴の力はあまりにも強すぎた。




そもそも『第三位の超能力者』程度が学園都市の機能を半壊させる程の落雷を引き起こせるわけ無いのだ。



186 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:49:48.01 ID:IY9FRPif0



御坂「もうこれはいらないかな」

そう言って、御坂美琴は投げ捨てた。

首にかかっていたカエルのマスコットのような『イヤホン』を投げ捨てた。

それに引っ張られ、御坂美琴のショートパンツから抜け落ちたそれは小さな小さな音楽プレイヤー

そこからは御坂美琴が歌っていた、ソプラノメロディを歪にした音が流れていて、

そこに表示されていたのは、





TITLE  : Level Upper
ARTIST : UNKNOWN
     : 3511




187 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:51:18.20 ID:IY9FRPif0




御坂「あは、あははははっ、アハハハハハハハハハハハハハ」


体晶などではなかった。そもそもあれは、能力の暴走を促すものであって、
能力の強化に繋がるものではない。

そして、御坂美琴には適正が無く、能力が完璧に制御できていた。

それが、真実。


御坂「あははははははッ、取り込まれそうで寝る事も出来なかったけど、ばらまいて正解だったわ!」

操車場が、照らされる。御坂美琴のパーソナル。その光によって。

幻想御手。それは、能力者のレベルを上昇させる、悪魔の道具。


無能力者が使えば低能力者に
低能力者が使えば異能力者に
異能力者が使えば強能力者に
強能力者が使えば大能力者に
大能力者が使えば超能力者に


では、超能力者が使えば?


答えはそこにあった。

一方通行の目の前に、そいつはいた。

御坂「アンタを殺すわ、一方通行。そしてこの街も、狂った実験も、何もかも終わらせるッ!!!」

絶対能力者へと至った御坂美琴が、そこにいた。







188 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:51:51.99 ID:IY9FRPif0





              【次回予告】


   「あは、あはは……結局アンタはここで死ぬ。それがお似合いよ……じゃあね」

                  超電磁砲・御坂美琴



 
   「ihbf殺wq」

                  超能力者・一方通行




189 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/25(日) 23:54:27.74 ID:IY9FRPif0
おわり。ここまで。次回予告で一人だけ超電磁砲なのも仕込みでした。
何回かミスったけど。
今から前スレ前々すれの御坂さん登場シーンを読み返すとにやにや出来ると思います。

イヤー書きたかったとこかけてすっきり。まだまだ続くよ!ではでは
190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/25(日) 23:55:34.47 ID:9CBpH8gBo
おつおつ
191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/25(日) 23:55:49.37 ID:5mC8mXsFo
乙ー
192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/25(日) 23:56:58.67 ID:vdJ8M8yY0
乙!

やべぇ面白すぎる、あと伏線回収がうますぎる
193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/25(日) 23:58:18.55 ID:qwCqpoy40
140万人って……やべぇ原作の70倍……
なんぞこれ!?
194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/09/25(日) 23:58:49.20 ID:LiXq+J+AO


リアルタイムで見てよかった!
次もリアルタイムで見たいから告知お願いしますm(_ _)m
195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/25(日) 23:59:40.03 ID:4KutquWD0


>>1の複線回収能力に脱帽!
残りの複線にも多大な期待
もう一度、乙
196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/09/26(月) 00:01:12.52 ID:kGyjbiQi0

予想の遥か彼方にぶっ飛んでいった。恐ろしすぎる
絶対繋がらないと思ってた木山センセと美琴がこんな形でくっつくとは
確かに思い当たる節はあるけど一ミリも思い付かんかった
ていうか木山センセ暗躍しすぎだろこれwwwwwwwwwwww頑張りすぎだろwwwwwwwwwwwwww
いや。それにしても痺れた。乙
197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/26(月) 00:01:19.29 ID:zys+nLXgo
一時間リロードを繰り返すだけの俺でした
超乙!木山せんせい、アンタ偉いモン作っちまったな……!

ゴジラのような幻想猛獣が出て来ませんように!
198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/09/26(月) 00:01:23.18 ID:IfoZ1YDc0

ミサカネットワークの170倍……
199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/09/26(月) 00:02:51.93 ID:LetJJdCAO
そりゃ衛星も撃ち抜けるわwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
200 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/26(月) 00:03:02.52 ID:m5BnR3Ov0
算数が出来ない奴が紛れ込んでるな
201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/09/26(月) 00:03:11.61 ID:K/X2EQQCo

しかし、種明かしは死亡フラグ・・・
202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2011/09/26(月) 00:04:41.31 ID:woLmWyZAO
絶対能力者と黒翼……どっちが強いのかなぁ
203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/26(月) 00:05:26.09 ID:VlRIDPIO0
>>200
しかも複数人な
204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/26(月) 00:07:44.98 ID:v9BcskvG0
え、原作のレベルアッパー被害者って2万人じゃ?
俺間違ってた?2万×70で140万じゃないの?
205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/09/26(月) 00:15:40.32 ID:QtdUDvxAO

何か凄い物を読んだ…言葉に出来ねえ……
206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/09/26(月) 00:16:49.00 ID:IfoZ1YDc0
ウハwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwマジwwwwwwwwオレwwwwwwwwwwwwwwバカスwwwwwwwwwwww

小学校からやり直してきます
207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/26(月) 00:19:13.28 ID:hvVyLmWj0
一方さん天使化クルー!?
208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2011/09/26(月) 00:29:44.07 ID:woLmWyZAO
>>207
黒翼だろ
209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2011/09/26(月) 00:30:13.26 ID:woLmWyZAO
>>207
さすがに天使化はないせいぜい黒翼だ
210 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/09/26(月) 00:35:26.60 ID:02cxHpMi0
乙。
ミサカネットワーク×100+超能力者の頭脳か。
こりゃやべぇ。
211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県) [sage]:2011/09/26(月) 00:37:49.12 ID:LFmuREBuo
乙!
大量更新お疲れ様です。
まさか反射を破るなんて…
御坂は特攻してやられると思ってたから、嬉しい不意打ちだわ
212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/26(月) 00:42:15.80 ID:YTtgODvE0

140万人の何が凄いかって言えば、学園都市人口280万人の半数ってところだな
213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/09/26(月) 00:43:38.54 ID:vxL/pr9Ro
黒翼って便利だよなぁ
214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/26(月) 00:49:01.71 ID:YTtgODvE0
学園都市の人口230万人だったわ、恥かしい
215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/09/26(月) 00:55:27.13 ID:LetJJdCAO
どんでん返しばかりだな。幻想御手が140万人に被害でてたり、美琴がこんな形で絶対能力になるとか想像付かんかった。

こりゃ次もどんでん返しがくる予感……!もう天使になっても驚かんぞー
216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/09/26(月) 00:57:05.85 ID:kGyjbiQio
もう主人公に期待しまくるわ
217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/26(月) 01:51:00.64 ID:WivENF/Ao
すげえなまじで
218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/26(月) 03:30:31.08 ID:bj6HJ7JDO
浜面&上条に期待している
219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/26(月) 05:13:53.60 ID:F72pb0PIO
こりゃ浜面だけじゃスケールでかすぎて解決できそうにないww
上条さんだったら単独で解決できそうだけど、彼はこのSSじゃ脇役だしなあ
220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/09/26(月) 07:29:27.83 ID:6IqlwCl/o

あー、ラストは怪獣大決戦だなww
221 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/26(月) 09:02:57.12 ID:zWWVSN8AO
土御門が使うわけねえしなんかあるな……とか思ってたらすげえ!
222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/26(月) 11:26:25.58 ID:fPsAbuCDO
がんばれ浜面、マジがんばれ
お前こそ本当のヒーローだ
223 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/26(月) 11:48:51.10 ID:FY3Pu3WUo
黒翼発動とか御坂さん死亡フラグやで…
224 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/09/26(月) 12:27:03.37 ID:NcbzEYmAO
すげぇ……ただただすげえ
前にMNWがレベルアッパー乗っ取って他の能力使いながら実験に挑む所から始まる話見たがこれはそれ以上だな。
意識を失うどころか完全に掌握して100%演算力を引き出してる。
規模も違うしそりゃ強いわw
225 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/26(月) 13:46:35.08 ID:oYoB8aof0
>>219
それでも浜面なら…浜面ならきっとなんとかしてくれる
226 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県) [sage]:2011/09/26(月) 14:06:28.62 ID:xNxkAuXh0
ただ一人を助けるためなら浜面の右に出る者はいないからな
問題は、もうインデックスどうこうって話じゃなくなってるとこだ・・・
227 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/26(月) 16:05:42.02 ID:Lt7vRRqw0
この>>1の伏線回収能力凄すぎだろ        
このSSもう公式になればいいのに
228 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/09/26(月) 16:10:50.93 ID:6IqlwCl/o
つか、これ解決しても、レベルアッパー解除でペンデックス覚醒して暴れる悪寒ww
229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/09/26(月) 19:21:42.14 ID:yEW+OhYGo
>>228
停止した理由が能力者になったことだから問題ないだろ多分
でもこの>>1予想の遥か斜め前に行くから分からんwwwwww
230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/09/26(月) 20:05:04.33 ID:vGpl8G+a0

予想の遥か彼方にぶっ飛んでいった。恐ろしすぎる
絶対繋がらないと思ってた木山センセと美琴がこんな形でくっつくとは
確かに思い当たる節はあるけど一ミリも思い付かんかった
ていうか木山センセ暗躍しすぎだろこれwwwwwwwwwwww頑張りすぎだろwwwwwwwwwwwwww
いや。それにしても痺れた。乙
231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/09/26(月) 21:15:11.03 ID:uZmfmA6m0
レベルアッパーのアップロードが2種類あるって時点で美琴が使ってんのは予想付いたがここまでパワーアップするとは…
232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/09/27(火) 01:29:31.95 ID:ibsMA+gA0
2万人分のネットワーク:20000!通り
140万人分のネットワーク:1400000!通り

計算あってるか不安だしなんか根本間違えてる気がするけどだけどどう考えてもバケモノです本当にry
233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/09/27(火) 02:11:59.48 ID:e+UcA1GAO
なんの計算で何が何通りなのかさっぱりな件
234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/09/27(火) 14:47:44.86 ID:0dqAzHtD0
ネットワークの人のつながりの本数です説明ベタですみません

考え直したら2万人が199970001本で
140万人が979997900001本のつながりがある

だからざっくり考えたら原作の幻想御手の4900倍の性能かってことです以後こういうことはチラ裏にしときます
235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/09/27(火) 21:32:51.36 ID:tC0FKlLT0
ところで原作のレベルアッパーってたしか1万人じゃなかったっけ?
236 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/28(水) 17:13:05.19 ID:/qbYSr+k0
本日投下。時間は追々
量は少なめですが、今回もリアルタイム推奨です
237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/28(水) 17:26:54.73 ID:+zgtUQDIO
了解した
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/09/28(水) 19:53:24.73 ID:gUhfgTLg0
待ってたぜ。
239 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/28(水) 20:10:53.50 ID:/qbYSr+k0
今日の23時投下。
埋もれるかもなんでこまめにあげます。

この投下で御坂と一方通行の戦いは書ききります。
どんな展開が待っているのか予想を張るのも楽しめるかもしれません。

予想の答え合わせは投下後に。フライングはご勘弁を。ではでは
240 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/09/28(水) 20:12:15.85 ID:gFTRv4jEo
待ってるぜえええええええ
241 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/28(水) 20:47:02.35 ID:NKPmTB3Wo
短い内容で今日で御坂対一方終わりってことは結構あっさり決着着くのかな
どっちが勝っても片方は確実に死にそう
242 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/28(水) 20:56:27.36 ID:zF3BSXh5o
>>241
展開予想は投下後ってのが見えないのか?
243 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/28(水) 21:27:57.77 ID:+7Sd+zZL0
最近ペース早いな
嬉しい限り
244 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/28(水) 22:00:40.61 ID:/qbYSr+k0
1時間前。
何度も言うけどリアルタイム推奨です。

量は少なめとかほざいたけど前投下の2/3ぐらいありました。
結構な量です。ではでは

245 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/28(水) 23:00:26.44 ID:/qbYSr+k0





・悪意




246 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/28(水) 23:01:12.77 ID:/qbYSr+k0


瞼を開けると、まだそこに世界はあった。

ミサカ「う……ミサカ、は」

まだ、死んでいない。
海の底に沈んでいくような重い感覚はミサカを襲ってはいなかった。

意識を失っていただけだ。

ミサカ「痛っ……」

激痛。指の先を動かすだけで、傷つけられた全身に痛みが走る。

痛み。痛覚。生きている。

なぜ、自分はまだ生きているのか。一体実験はどうなったのな。
意識はどこから途切れたのか、

最後に聞こえたのは、そう。音だ。

最後に見えたのは、そう。確か、

ミサカ「お姉様……」

呟きは、飛び散る雷光によって掻き消される。

ミサカ「お姉、様……?」

呟きは、少女の嘲弄によって掻き消される。

ミサカ「一体、これは――」

信じられない、あり得ない、理解できない光景が、ミサカの目の前で繰り広げられていた。



一方通行「ク、ソッたれがァァああッ!!」

御坂「あはははは、最ッ高!! その顔が見たかったのよ!!地に這いつくばるアンタの顔がぁッ!!」



あの学園都市第一位を一方的に蹂躙する御坂美琴の姿が、そこにあった。



247 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/28(水) 23:02:09.49 ID:/qbYSr+k0





一方通行「……ッ、ァ!!」

雷撃が、御坂美琴に向かう一方通行の視界を遮った。

足は止まり、その大きく出来た隙を襲うのは紫電の奔流。

一方通行「チィッ!!」

腕を振る。いつもの様に掻き消そうとし、

一方通行「――――っ」

ゆっくりと流れる時の中、思考だけが場違いに駆ける。

――今は能力が発現しているのか?

一方通行「しまッ……!!」

迷いは動きを鈍らせ、そして、

御坂「……あはっ」


248 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/28(水) 23:03:08.17 ID:/qbYSr+k0



一方通行「――ッ、はァ、はァ……」

反射は戻っていた。
一方通行に襲いかかった雷撃はその進行方向を変え、虚空へ消える。

一方通行「く、ッそ……!!」

息が乱れる。焦燥からか、思考は正しく働かない。

御坂「……ほら、動かないと、死ぬわよ?」

一方通行「ッ!?」

御坂「おっそいのよッ!!」

意識したその瞬間には数歩離れていたはずの御坂美琴が、眼前に迫っていた。
懐に入られ、横薙ぎに振られたその蹴りは一方通行の華奢な体を吹き飛ばす。

一方通行「ごッ、がァ……!!」

反射は、切れていた。

マズい。マズい。

本能がそう警告する。

249 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/28(水) 23:04:26.33 ID:/qbYSr+k0


一方通行「ッ……!」

吹き飛ばされた体は何度も地に打ち付けられ、全身に熱が溢れる。

これが、痛み。

ぎこちなく、起き上がる。そして、

御坂「はろー、一方通行。気分はどう?」

体勢を整えた瞬間、もうそこに御坂美琴は立っていた。

見下し、嘲り笑う、格下のはずだった少女がそこに立っていた。

決して越える事の出来ない序列という壁を越えて。

物理的に追い付けるはずのない距離を、一瞬にして詰めて。

一方通行「クソ、が、テメェ自分の筋肉に電気流して――」

先ほどからの驚異的な身体能力も、つまりそう言う事だろう。

他人の脳を自在に弄り、自身の肉体をも完璧に制御、学園都市中の荷電粒子を完全に掌握し、

そしてそれらを可能にする為の莫大な超演算領域。

これが、第一位を越えた最強の電撃使い。

250 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/28(水) 23:05:15.06 ID:/qbYSr+k0




一方通行「は、しゃいでンじゃねェぞ雑魚がァァッ!!――っ」

そう吠えるも、一方通行はその場から動けない。

足も、腕も、縫い付けられ見えない何かに掴まれたかの様に動かなくて、

御坂「間違えないでよ。雑魚はアンタ」

だから、御坂美琴の爪先が一方通行の顎を蹴り上げてもそれを防ぐ手段はなくて、

一方通行「こ、あ……」

視界が点滅する。ぶちぶちと何かが切れた。一瞬、意識が飛びかける。

一方通行「あ、ァ――」

御坂美琴がその莫大な演算領域の全てを割いて行った無意識レベルでの脳の調整。

人の動き、思考、何もかもを司る脳が、一方通行の意思に関係なく直接命令を下している。

今は能力を切れ、今は能力を使え。今は立つな。今は足を一歩踏み出せ。今は手を振りかぶれ、今は、今は、今は――


一方通行「ちくしょうがァッ! ふざけやがってふざけやがってふざけやがってェッ!!!」


冗談ではない。そんな芸当は例えこの学園都市最強を誇る自分ですら出来やしない。

それを軽々とこなしたというのなら、確かに目の前の存在は第一位を越えている。
能力はともかく、演算能力は確実に自分が届かない高みにまで登られた。

だが、そんな事は許せない。最強たる一方通行は、そんな事を許してはいけない。

冷静に考えろ。どうすれば、活路を開けるか。

一方通行「――っ!!」

ダンッ!!と大きく地面を踏んだ。その瞬間、操車場の砂利が弾け、音の速度を超えた礫が御坂美琴に飛来する。

能力が戻っていた。



251 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/28(水) 23:06:10.06 ID:/qbYSr+k0




御坂美琴が鼻で笑う。

御坂「ふん」

自分を貫こうと奔る石礫を切り砕いたのは振動する黒の刃。
体の周囲に意思を持つかの様に渦巻くのは磁力で形成された砂鉄の剣。

一方通行「おォォォッ!!」

だが、そんな事には目も触れない。通用しない事は始めから分かっている。
まず一方通行がしなければならない事は――

御坂「――っ」

伸ばされた手が触れる瞬間、少女が一歩後ろに引いた。

避けた。という事は触れられれば対処できない。そういう事だ。つまり、

一方通行(まだ能力は切れてねェ……ッ!!)

一方通行は冷静に分析する。どうすれば、どうすれば状況を変えられるのかを。


252 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/28(水) 23:06:43.85 ID:/qbYSr+k0



一方通行にとって唯一の救いとなっているものがある。

それは、驕り。

いまや第一位をも凌駕した御坂美琴のその絶対的な余裕。

この少女は驕っている。

あまりにも強大な力を手にして、一方通行の能力を自在に制御して、
勝ちは自分にあると確信している。だから、遊んでいるのだ。

さっさと殺せばいいものを、こうして一方通行がもがくのを楽しんでいる。

その余裕を逆手に取れば――

御坂「――逆手に取れば、私に勝てると思った?」

一方通行「ッ!!」

背筋が凍ってしまう様な笑みと共に、雷撃の槍が放たれた。

それは、まるで引き寄せられるかの様に一方通行に向かい。

一方通行「が、ああああァァァあァッ!!」

能力が発動しているはずの一方通行の心臓を直撃した。



253 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/28(水) 23:07:37.13 ID:/qbYSr+k0




一方通行「く、おおっォォ……!!」

どさりと、一方通行が膝をついた。
刻みつけられた火傷の痛みによって苦痛が漏れ、薄い煙がゆったりと体から漂う。

美琴「あはは、痛かった? これでも電圧はかなり押さえたんだけど」

一歩、御坂美琴が笑いながら一方通行に近づく。
少女から漏れた電流がバチバチと弾け、時折見当違いの方向へ奔っていった。

一方通行「は……テメェ。どォやって、」

痛みに狂いそうになりながらも、一方通行は言葉を紡ぐ。

能力は切れていなかった。それだけは、間違いない。反射の壁も働いていた。

なのに、雷撃の槍は反射を越えて一方通行を貫いた。
生きているのは、御坂美琴が手を抜いたからに他ならない。

これも、脳を調整された弊害なのだろうか。
反射膜は張るなという命令が直接脳に下されたのだろうか。



御坂「アンタの反射の壁は絶対じゃない」



答えはどれでもなかった。




254 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/28(水) 23:08:21.35 ID:/qbYSr+k0




御坂「あくまで『向かってきた力を逆方向へに向け直す』だけ。それならさ、」

御坂美琴は笑いながら一方通行に向けて電撃を浴びせる。

一度目は、反射がかかりその電撃は霧散する、しかし――

御坂「反射が働くギリギリのタイミングで私がそれを逆方向に引っ張ったら、」

一方通行「が、あァァァァッ!!」

その先は言うまでもなかった。

二度目に放たれた雷撃が、一方通行の体を焼いた。

御坂「でも、これもネタが分かっちゃえば効かないのよねー。
   アンタが反射の設定を逆方向に向き直さない様にすればいいだけの話で。
   その為だけに思考や演算パターンを理解するのなんて死んでもイヤだしね」

くすくすと御坂美琴が笑う。



255 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/28(水) 23:08:55.02 ID:/qbYSr+k0



一方通行「……っ」

滅茶苦茶だ。理論も常識もあったモノじゃない。
つまり逆方向に向かった電撃を一方通行自身が反射して、引き寄せていたという訳だ。

何よりも滅茶苦茶なのが、その理論を実際にこなしてみせた御坂美琴。
その電磁誘導はもはや精密というレベルでの話を完全に越えていた。

一方通行「…………」

最強が、瓦解する。

地に這いつくばり、拳を握る。

少女は、まだ笑っている。

それが、油断だ。
それが、驕りだ。

一方通行「……ハッ」

最強の座から叩き落とされた一方通行が静かに笑みを浮かべた。

それは、逆転の秘策。

赤い瞳に光が宿る。

一方通行の反撃が始まろうとしていた。


256 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/28(水) 23:09:27.36 ID:/qbYSr+k0





しかし、




257 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/28(水) 23:10:08.77 ID:/qbYSr+k0



御坂「55秒。終わるわよ、能力」

その言葉によってそれは始まらず、終わりを迎えた。

一方通行「な、ァ……」

表情に浮かぶのは驚愕。

それを見て、御坂美琴が恍惚の笑みを浮かべた。
唇が真横に裂け、嘲るような笑い声がその場に響く。

御坂「あは、あはははははッ!! ねぇ、私が気付かないとでも思った?
   アンタが必死になって自分の脳味噌弄くり回しているのを見逃すとでも思ったわけ!?」

驕ってなど、いなかった。御坂美琴は始めからすべてを看破していた。


御坂「60秒あればアンタが脳に上書きした余計な情報を全部消せる事ぐらい、こっちは分ってんのよ」

一方通行「く、ぐ……っ」

一方通行のとった行動。

それは、まるで爪を研ぐかの様に静かに時間を稼ぎ、
御坂美琴に上書きされた脳のコマンドを全て削除する事だった。

仮にも第一位。上書きされる前の状態など、完璧に把握している。
現状の自分の脳と照らし合わせ、脳内の電気信号を制御して余計な部分を削除して行けばいいだけだ。

問題は上書きされた余計なコマンド。これが生半可な量ではなかった。

おおよそ400000のコード数。
この数を一秒も掛けずに書き込んだ今の御坂美琴は、正真正銘の化け物だ。


258 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/28(水) 23:11:12.03 ID:/qbYSr+k0



そうして、目論みは失敗に終わる。

そもそも、どのタイミングで能力は消えるのかは御坂美琴の設定次第なのだ。
その絶対的優位性を握られている中で、光明が見える方がおかしかった。

一方通行が55秒の間に駆除したコマンドは365000
残り35000のコードを消し去るには、どうしても5秒が足りない。

だから、これは最後に残った手段。

最後の希望は、残りの5秒。

あと5秒あれば、この脳に書き込まれた余計な情報も、全て消せてしまえる。

次に能力が戻ったときが――


御坂「させない」


そう言い放った御坂美琴の手が乱雑に、汚いものでも触るかの様に頬に触れた。触れて、笑った。

御坂「ほら、これで元通り」

希望が、握りつぶされた瞬間だった。



259 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/28(水) 23:11:52.43 ID:/qbYSr+k0





一方通行が絶望に染まる。

ニイッ、と少女が笑い、追い打ちをかけた。

御坂「今アンタに一秒以上触った。どういう事か分かる?」

一方通行「…………」

それは、つまり、直接的にこの電撃使いが脳内電流を操作したという事だろう。
一瞬で400000のコマンドを上書きしたこの少女が、その何十倍もの時間でそれほどの情報を上書きしたのか。
考えたくもなかった。

御坂「ほら、立ちなさいよ。一方通行。」

御坂「今なら能力、使えるわよ?」

一方通行「……ッ!」

御坂「 ウ ソ 」

御坂美琴の放った裏拳が一方通行の顎を打ち抜く。
嫌な音が鳴って、引っ張られる様に体ごと吹き飛んだ。

御坂「……あは、あはははは、あははははははははははははッ!!」

少女の笑いが響き渡る。どこまでも愉快だと言わんばかりに。




260 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/28(水) 23:12:47.24 ID:/qbYSr+k0




一方通行「……がッ、はァッ!」

吐き出した血は、赤かった。
口元から垂れる血を腕で拭い、立ち上がる。脳が揺れ、足下がふらつく。

一方通行「はァ……はァ……」

視線は、御坂美琴へと向けられていた。

そうまで痛めつけられる自分が可笑しいのだろう。
ニタニタと笑う御坂美琴は、一歩近寄り言葉を投げる。

御坂「あの子達の痛み、少しは分かった?」

一方通行「……あァ?」

御坂「死んで行った妹達の気持ち、少しは理解できた?」

一方通行「……ハッ、何を言うかと思えばよォ――人形の気持ちなンざ理解できるわけねェだろ。ボケ!!」

そう言って、一方通行は駆け出す。

御坂「そう……なら、せめて絶望してから死になさい」

いつの間にか、御坂美琴からは笑みが消えていた。


261 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/28(水) 23:13:46.46 ID:/qbYSr+k0




少女から溢れた稲妻が、全方位に放たれる。
それは一方通行にも向かい、

一方通行「ッ!?」

直撃したかに思えた雷撃の槍は、逆方向に向きを変える。
能力が、戻っていた。

御坂美琴「アンタは殺す、私が殺して、実験を止めるッ!!」

一方通行(どォする――どォするっ!!)

かつて無いほど思考が駆ける。
能力は戻った。いつ切れるかは分からない。
一秒後かもしれない、三秒後かもしれない。

攻めるか――? 取り戻した時間は、どうしたら有効に使える。

脚力のベクトルを操作して詰め寄る? 一瞬でも触れたらこっちが勝つ。
いいや駄目だ。超電磁砲は肉体にも電気を流して超速反応を得た。
極限まで研ぎすまされた反射神経を前にしては、接近戦はどうやっても無駄に終わる。
だからと言って、遠距離は致命傷にはなり得ない。

どうしても限られた時間というのがネックになる。

だから――

一方通行(限界を超えろ。自分の壁をぶち破れ)

反射を、全て解除する。

一方通行(演算領域を全て割け。あの女を上回る演算速度で脳の情報を書き換えろッ!)

御坂美琴の拳が、顔面に突き刺さった。




262 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/28(水) 23:14:37.32 ID:/qbYSr+k0






御坂「分かってるわよアンタが粘る事ぐらい。」

一方通行「グ、ッ――」

バチバチと漏電した電撃が中に奔る。
脳を揺さぶるその攻撃を受けても、一方通行は思考を辞めない。

御坂「アハハ、勝負ね。アンタが能力を取り戻すのが先か、死ぬのが先か」

それが勝負としてどれだけ破綻してるのか、御坂美琴自身分かっていない訳でも無いだろう。
透視能力を使って神経随弱をしている様なものだ。勝負は最初から決まっている。

一方通行(構ってる余裕はねェ……ッ!!)

また、振り抜かれた腕が一方通行の体を打ち抜いた。

一方通行「グ、はァッ!」

遊んでいる。御坂美琴は、この期に及んでまだ自分をいたぶっている。

御坂「そう、簡単に殺さないわ。殺す訳無いじゃない。あの子達を人形みたいに殺したアンタをっ!」

雷撃が刺さる。極限の苦痛が全身を駆けた。

御坂「あの子達を笑いながら殺したアンタを! 私の目の前で引き裂いたアンタをッ!!」

どこか息苦しそうに、御坂美琴は弾劾する。



263 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/28(水) 23:16:06.48 ID:/qbYSr+k0




一方通行「ご、がァッ!」

呼吸が乱れ、痛みに足ががたつく。
だが、引く訳には行かない。止まる訳には行かない。

御坂「あの子達だって生きているのに、必死に生きてるのに、アンタは殺したっ!!
   作られた命だってことは分かってる、勝手にクローンを作った事だって許せないッ!!」

押し寄せる暴力。止まる事の無い蹂躙。雷撃、糾弾。
御坂美琴の声は少しずつ悲痛な色に染まって行く。


御坂「――けど、もしかしたらって思った」


その声は、ボロボロの少女にも届く。

ミサカ「お姉様……」

御坂「本当の姉妹みたいだって思った。もしかしたら、って、思ったのに――」


ずっと、笑みを浮かべていた御坂美琴の表情が、繕っていた仮面が剥がれた。


御坂「私は、あの子達にまだ何もしてあげてなかった!」

今にも泣き出しそうな顔で、息も絶え絶えに暴力を振るう。

御坂「もっといろいろ教えてあげたかった……もっと一緒に過ごしたかった!」

一方通行は、もう意識さえあるのかも分からない。それでも御坂美琴は殴るのを辞めない。

御坂「買い物だって連れて行ってあげたかった! ご飯だって一緒に食べたかった!」

電撃が、巻き散らかされる。御坂美琴の心を焼き、一方通行の体を焼く。

御坂「もっと、もっと、もっとッ!!」


264 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/28(水) 23:17:23.78 ID:/qbYSr+k0




一方通行「……ァ」

とうとう、一方通行の膝が折れた。
それでも、思考はまだ駆ける。

超速で処理を行う裏で、息も絶え絶えの中思考は駆ける。

コイツは一体何を言っているんだろう。と

死に際に恨み言も言わない様な人形になにを必死になっているのだろう。と

もはや、笑いがこみ上げてくる。

たかだか電撃使いにいい様にされてる自分が、あまりにも滑稽で、惨めで、
ベクトル操作と言う無敵の力を持っていながら――

いや、違う。

自分の能力は無敵などではない。
いいところで最強止まり。こうして電撃使いに掌握されるほどに、隙だらけだ。

だから、こんなところで止まってられない。

自分は無敵を目指し、ここまで来たのだ。
さっさと潰して、上り詰めなければならない。

こんな格下に構っている。暇はない。

考えろ。能力はもう切れる。コマンド削除は間に合わない。
接近戦は無理、遠距離も無理、ならば可能な方法を編み出せ。
この一瞬で敵を叩き潰せる方法を見つけ無ければ、待つのは死だ。




だから、



265 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/28(水) 23:18:13.69 ID:/qbYSr+k0




     既存のルールは全て捨てろ。
     



     可能と不可能をもう一度再設定しろ




     目の間にある条件をリスト化し、その壁を取り払え。


266 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/28(水) 23:18:57.81 ID:/qbYSr+k0




そして、


「――な」


訪れたのは、


「ォ」


一つの暴走。



「ォォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」




267 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/28(水) 23:19:35.36 ID:/qbYSr+k0



黒より黒いそれが、乱雑に振るわれた。

御坂「あ、ああああああああああっ!!」

御坂美琴が回避できたのは、ただの奇跡だった。

御坂「なによ……これ」

一方通行の背中から噴射したそれは、黒い翼。
夜でも視認できるほどに黒いそれは、爆発的に伸び光を飲み込む。

御坂「新たな制御領域の拡大……? そんな、コイツ。この土壇場で一体――」

気付けば、体が震えていた。

圧倒的なまでの力を手にした御坂美琴が、得体の知れない力の前に震えていた。

御坂(マズい。この翼は――っ)

瞬時に、雷撃を振るう。手加減もクソあったものではない。
超級の演算領域をすべて割いて、極限まで出力をあげた雷撃の槍は光の速度で駆け、

一方通行「――――」

消失。

御坂「――ッ!!」

268 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/28(水) 23:20:06.91 ID:/qbYSr+k0



御坂美琴に焦燥が刻まれた。
能力は制御したはずなのに。一方通行の中で理解不能の力が働いていた。

それが、あの黒い翼。

御坂「だからって――」

ぐッ、と腕に力を込める。
一方通行の押し寄せるのは、御坂美琴の莫大な演算によって形成された超規模の電磁の津波。

押しつぶすかの様に一方通行に降り掛かったそれも、黒い翼の前に消失。

御坂美琴「あ……」

気付けば、御坂美琴の眼前に、一方通行は既にいた。

腕が伸ばされる。首に伸びたその腕を、御坂美琴は反応できない。

御坂「あ、あぁ……」

声が震える。見開かれた意思の籠らない赤い瞳に映った自分の顔は、恐怖で歪んでいて、

そして、

一方通行「ihbf殺wq」

不可視の力が爆発した。





269 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/28(水) 23:20:38.06 ID:/qbYSr+k0







ドサッと、何かが倒れる音がした。


黒い翼が掻き消えた一方通行が倒れ。




「あは、はは……」



その場には、御坂美琴が立っていた。






270 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/28(水) 23:21:37.41 ID:/qbYSr+k0






御坂「はぁッはぁ……」

全身から汗が噴き出す。虚脱状態かの様に、力が抜けた。
喉が枯れて、声がでない。絞り出したのは、乾いた嘲笑。

足下には、意識を失った最強が倒れていた。

御坂「は、はは……」

息が苦しい。

なにも知らなければ突如酸素が奪われたのかと錯覚を抱くだろうこの状態は、
まさしく御坂美琴本人が引き起こしたものだ。

御坂「今日は……風が吹かないわね」

少女の声が、無風の学園都市に響き渡る。

何かの前触れかの様に静まり返った学園都市に響いて、消えた。

御坂「まさか、役に立つなんて思わなかったけど」

空気中の酸素は電気によって分解する事が出来る。

通常なら酸素原子二つで酸素分子を作っているのに対し、
一度二つに分解された酸素原子は三つ繋がってオゾンを作る。

御坂美琴は常に電撃を放つ際一方通行、または自分の周囲に電撃を放っていた。

つまり今一方通行が倒れているのはなんて事の無い、ただの酸欠だった。



271 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/28(水) 23:22:17.05 ID:/qbYSr+k0




御坂「あは、あはは」

転がっている一方通行を、軽く足で蹴った。
全身の力が抜けきった少年は何の抵抗もなく、ただただ跳ねる。

御坂美琴は慢心してなどいなかった。
全てが全て、計算尽くで、周到だった。
決して、油断せず、その余裕には裏付けがあった。

なければ、わざわざ一方通行の能力を解放したりはしない。
余裕を与えたりはしない。第一位の恐ろしさは自分が一番分かっている。

二度も挑んで、惨敗したのは自分なのだから。

御坂「まぁ、三度目の正直って奴よね……こっちが倒れないかは不安で、
   最後の最後であんなもん出すなんて思わなかったけど」

唯一の計算外といえば、それだ。

最後に一方通行から顕現したあの黒の翼。思い出しただけでも背に冷たいものが這う。

もし、万全の状態であれを現出させていたら、
例え今の御坂美琴ですら決して勝てる事はなかっただろう。



272 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/28(水) 23:23:10.37 ID:/qbYSr+k0




御坂「ッ――!!」

激痛が脳に奔る。それは、幻想御手の弊害。
使用者を意識を蝕むそれを御坂美琴はこの七日間、
脳内電流を調整する事で耐えてきたがそれも限界が近づいていた。

脳波ネットワークを利用した超規模演算装置。

一体どこの馬鹿がこんなものを作ったのかは定かではないが、今回限りは感謝しなくてはならない。

だが、それももう終わりだ。

翼をもがれ、地に墜落した一方通行へ、手をかざす。

バチバチと、弾ける様な雷光が収束して行く。
それは、余波だけで命すら奪う様な、死の輝き。


「あは、あはは……結局アンタはここで死ぬ。それがお似合いよ……じゃあね」


そして、雷撃は放たれた。




273 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/28(水) 23:23:41.97 ID:/qbYSr+k0







その雷撃は真直ぐに真直ぐに真直ぐに突き進み、


「――えっ?」


御坂美琴を貫いた。





274 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/28(水) 23:25:28.14 ID:/qbYSr+k0





かざした手に収束した雷が掻き消えた

御坂「――ッ!?」

振り向き、周囲を見渡す。そこには、何も無い。

暗い暗い操車場。

唯一見えるのは、ぽかんとした妹達。

その妹達さえ、何が起こったのか分からないという顔をしていた。

御坂「……なに?」

思考が乱れる。なんだ? 今、何が起きた?


ジャリッ


と、混乱する御坂美琴を嘲るかの様にそんな音。

砂利を踏む音が、暗闇から聞こえた。
それは、一歩、また一歩、ゆっくりと近づいてくる。

闇から現れたのは――



275 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/28(水) 23:25:54.49 ID:/qbYSr+k0






御坂「……うそ」





276 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/28(水) 23:26:32.95 ID:/qbYSr+k0



御坂美琴は分かっていなかった。

学園都市を敵に回すという事がどういう事なのか、正しく理解していなかった。

やはり驕っていたのだ。
今の自分に出来ない事は無いと、第一位をも越える力を手にしてその力に溺れていた。

全てが自分の計算通りにいくと、思っていた。


御坂「……い、や」

どこからか弱々しい声が漏れた。

逃げる様に、後ずさる。



頭では、分かっているはずだった。

この街はまともじゃないと、資料をみて、実際に巻き込まれ、知った気になっていた。


けど、真に理解していなかった。


この街は『容赦』しない事を。

この街は『手段』を選ばない事を。

この街の『悪意』には底がないという事を


そして今、御坂美琴は理解する。





277 : ◆v2TDmACLlM [saga !red_res]:2011/09/28(水) 23:27:17.07 ID:/qbYSr+k0









                     「やっほう。殺しにきたよ。お姉様」









278 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/28(水) 23:27:45.19 ID:/qbYSr+k0



この街は、御坂美琴が思っているよりも更にどうかしていた。



279 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/28(水) 23:28:27.50 ID:/qbYSr+k0




御坂「はっ……あぁ……」

息が出来ない。気付けば、恐怖のあまり泣き出しそうになっていた。


番外個体「名乗るなら、ミサカワーストってところかな?」


闇の中で尚目立つ白の戦闘服に包まれた少女は、そう名乗る。

その姿は御坂美琴でも妹達でもあって、そのどれでもなかった。

そこに、人の形をした悪意が立っていた。

学園都市の悪意全てを詰め込んだような少女が立っていた。

番外個体「さ、はじめようか。お姉様」

ぎゃはっと少女が笑う。
妹達の印象からは似合わない。邪悪で感情的な笑みだった。

番外個体「ミサカは第一位にも実験にも興味ない。そういう風なオーダーはインプットされていない。
     ミサカの目的はお姉様の抹殺のみ。ミサカはその為に、その為だけに、わざわざ培養器の中から放り出されたんだからね」

紫電が弾ける。

絶望的な言葉と共に戦闘が始まった。

御坂美琴が命を賭けて守ろうとした妹達によって、その心を徹底的に砕く為の戦いが




280 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/28(水) 23:29:12.57 ID:/qbYSr+k0






           【次回予告】




「お姉様のせいでミサカは一万人以上、一万回以上殺されてきたんでしょう?」

                      欠陥電気・番外個体



「い、や……いや、ぁ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!」


                      超電磁砲・御坂美琴





281 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/09/28(水) 23:30:13.93 ID:/qbYSr+k0





じゃあ答え合わせをしようか



いい感じにどんでん返しの回でした。どうでしたでしょう。
これは大して前振りもしてなかったので予想つかなかった人も多いと思います。
ヒントはていとくんが言ってた量産能力者云々と布束さん関連だけだったしね。

この第10031実験編も残すところ残り数回。
それが終わると、物語の2/3が終了します。

よければ最後までおつき合いくださいな。ではでは。





282 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/09/28(水) 23:35:20.53 ID:JPJ/tNi30
乙!

あいかわらずいい意味で斜め上の展開だな
283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/28(水) 23:36:10.77 ID:zF3BSXh5o
>>1
一方さんなら黒翼だしたあと酸素には気付くような気もするけど面白いからいいやww
284 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/28(水) 23:37:05.16 ID:1oRvW3bh0

本当にまさかの展開に心が震えた
……、絶対能力者っていったいなんなんだろうな
285 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/09/28(水) 23:39:31.07 ID:eEYT7qqro


>>283
意識飛んでたんだから仕方ない気もする
286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/28(水) 23:53:02.00 ID:NKPmTB3Wo
乙!
自分の予想ではよくて相打ちくらいが限界だったぜww
287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/29(木) 00:11:21.23 ID:zWvh/m8Fo
まあ絶対、一方が負けるだろうと思ってたww
でもミサワ登場には震えたわー
288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/09/29(木) 00:12:09.83 ID:+bzKM192o
乙!
どんな展開になるのか予想ができないぜwwww
289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/29(木) 00:45:46.01 ID:JCAk4Zu5o
精神的に一番きつい相手が来たな…
290 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/09/29(木) 00:48:12.33 ID:iUbJOn6W0

この話では打ち止めってどーなってんの
291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/29(木) 03:12:22.10 ID:PDFzUG6Q0
浜面「俺、主人公だよな?」
インデックス「しあげは今回お留守番なんだよ」
絹旗「浜面は相変わらず超浜面ですね。出番なんて主人公にもないときはあります」
フレメア「てかアンタの予想とか推理ことごとくハズレだよね。結局、浜面って訳よ」
滝壺「大丈夫。私はあんまり出番が無いはまづらを応援してる」
麦野「はぁぁぁまぁづらぁぁぁ!! てめぇはさっさとお茶くんでこいっていってんだろぉぉがッ!!」
浜面「ひぃぃぃぃ!?」


初春「とりあえず作者乙っと」
吹寄「私の出番はこないのだろうか」
上条「原作主人公、現在脇役の俺はまだ出番があるとかんがえていいんでせうか?」
浜面「さぁな」


とりあえず作者お疲れさま
292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/29(木) 03:17:18.85 ID:PDFzUG6Q0
すまんフレメアとフレンダミスった

フレンダ「結局、はぶられキャラになりたかないって訳よ」

フレメア「大体、私は駒場のお兄ちゃんがいなくなったからどうなっちゃったの。にゃあ?」
293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/09/29(木) 07:13:54.37 ID:bqqyt3wAO
インデックス「私、本当にヒロインなのかな……?」
浜面「そういやずっと留守番だな」
御坂妹「まるまる1スレ出番がないとは逆に斜め上の展開ですね。とミサカは軽く小バカにしてみます」
上条「え?原作通りじゃry」
インデックス「ガァブ」
木山「なに、気にする事はない。目覚めれば活躍が待っているさ」
インデックス「よくよく考えてみれば全部あなたのせいなんだよ!」


番外個体「きゃはは、ボコボコにされてんじゃん第一位。笑えるー☆」
一方通行「うっせェ。つゥかなンでロシア行ってもねェのにオマエが出てくンだよ」
番外個体「それはミサカも意外だった」
打ち止め「ねーミサカは出ないのー?ってミサカはミサカは出番をねだってみたりー

というわけで乙。

7日目冒頭から書かれてた風が吹いてないってのはこの為の伏線だったんだな。
もしかして人通りが少ないっていうのは幻想御手で140万人が昏睡状態になってたからなのか?どこまで仕込んでいるのか気になる……
そしてミサワさん登場は鳥肌だった
294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/09/29(木) 07:27:51.46 ID:w86u4Tato

考えたら美琴が一方戦後に裏に首突っ込みすぎてたら、ミサワはこうなってた可能性あったなあww
295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北陸地方) [sage]:2011/09/29(木) 09:42:31.56 ID:KZBBoObAO

浜面or上条さん早く来てくれー!
296 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/29(木) 12:07:53.68 ID:qYYKu6xN0
乙乙!これリアルタイムで読みたかった〜
シリアスバトルものはもう一通の惨敗が定番だなw
そこは予想通りだったけど…ここで番外登場とは恐れいった
どんでん返しパネェ。つづき楽しみすぎる!
297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/29(木) 16:48:13.64 ID:D6NXSAKAO
乙!悪夢の具現だな……
次回も楽しみにしときます
298 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2011/09/29(木) 22:46:12.25 ID:4tJjPw/L0
遅ればせながら乙です!
まさかセロリが負けるとは……。
しかも番外個体まで登場するとは……。
主は本当にこちらの予想以上のものを出してきますね。
次回も期待です!
299 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/09/30(金) 12:21:43.68 ID:XYBxUszN0
作者乙だぜ。
ここでミサワかよ。浜面は事態の収束ができるのかい?
頑張れ浜面。
300 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/10/02(日) 13:26:40.94 ID:AqNm6jta0
今日の24時投下。できるかもしれない。

すいませんちょっと曖昧です。
確定ならば22時か23時にはレスします。
なかったら……ちょっと今日は無理かもしれません。
はっきりしなくて申し訳ない、以後こう言う事はないようにします。ではでは
301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/10/02(日) 13:27:51.59 ID:QQPaEykq0
+   +
  ∧_∧  +
 (0゚・∀・)   
 (0゚∪ ∪ +
 と__)__) +
302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/10/02(日) 14:10:05.94 ID:GKhsCMRAO
忙しいなら無理はしなくていいぞ
正直このクオリティーなら月刊でも問題ないレベルだ
303 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/02(日) 14:30:20.43 ID:phfFLMSyo
┌─────┐
│.ま っ て る │
└∩───∩┘
  ヽ(`・ω・´)ノ
304 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/02(日) 14:45:44.33 ID:v0vLyXzCo
そして禁書映画化決定+三巻12月発売決定ですよおまえら
今夜は祭りや!
305 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/02(日) 16:47:11.22 ID:PfFdBSxIO
※映画は暗部編になります
306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/02(日) 17:01:02.26 ID:v0vLyXzCo
お前本スレも荒らしてただろ
307 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/10/02(日) 23:07:14.50 ID:AqNm6jta0
これそう。なんだけど1時間程度遅れそうです。すません。
どちらにせよ投下はしたいと思います。ではでは
308 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/10/03(月) 00:16:51.67 ID:GGtmyvFk0
1時投下。遅れてすません。
309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) :2011/10/03(月) 00:51:07.56 ID:Q6kxqgEAO
わくわく
310 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/10/03(月) 01:00:06.63 ID:GGtmyvFk0





・妹達<シスターズ>




311 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/10/03(月) 01:00:52.44 ID:GGtmyvFk0



空気が弾ける音と共に御坂美琴は駆け出した。

敵を殺す為でも、何かを破壊する為でもない。

逃げる為に、御坂美琴は駆け出した。

学園都市の頭脳を殺し、あの第一位すらねじ伏せた今や絶対の能力者が、逃亡の為だけに奔っていた。

恐ろしい。

御坂美琴は素直にそう思う。

凄惨な実験よりも、

一方通行よりも、

能力を打ち消す少年よりも、

番外個体「きゃはは、愉快にお尻ふっちゃってさぁ! もしかしてミサカの事誘ってんの?」

背後に迫るその声は、御坂美琴の今までの行動を、想いを、根本的に覆す存在だった。



312 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/10/03(月) 01:01:31.30 ID:GGtmyvFk0




御坂「う、ぐッうぅぅぅ!!」

激痛。雷が弾ける音と共に空気を裂き飛来してきたのは、二センチ程度の短い鉄釘だった。
左腕に着地したそれを、少女は避けようとはしなかった。
いいや、出来なかった。避けるという考えに思考が追い付かなかった。

体が傾く。バランスを崩し、砂利の中へ転がり込む。

うずくまる背後で、番外個体の笑い声が響いた。

御坂「……いや。どうして、こんな」

御坂美琴が学園都市に反逆した最大の理由。
この街を敵に回してまで叶えたかった願い。

言うまでもない。それは一方通行を殺し、この実験を止める事。

死のレールを走らされる妹達を助ける事。

そのために、そのためだけに御坂美琴は光の世界にいながら暗い世界に身を堕とした。

全てを捨て、関係のない一般人を巻き込み、血に汚れ、心と体を擦り減らし、努力を否定し信念を曲げて幻想御手に頼って、
研究所を焼き払い、学区を潰して、樹系図の設計者を破壊し、とうとう一方通行を倒した。

何もかもを捨てた。プライドも生活も人としての大事なモノも。

非難されこそすれ決して褒められるものではない。

けど、そこまでしてようやく妹達を助けられると思った。救えると思った。
自分はどうなろうと、そのために必要な事は全てやったとあの瞬間思えたのだ。


313 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/10/03(月) 01:02:06.98 ID:GGtmyvFk0




なのに、

なのに、

よりにもよって、



314 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/10/03(月) 01:02:44.09 ID:GGtmyvFk0




学園都市の上層部はまさにピンポイントでそこを折る策を講じてきた。
この街を敵に回してでも救いたいと願った想い。その想いを粉々に砕く作戦を。

御坂(イカれてる……狂ってる)

救うべきは妹達。
倒すべきは妹達。

御坂(ミサカワースト……? この状況を作る為に、私の心を折る為だけに、
   私を殺す為だけに、そんな下らない理由だけで……また作った!?)

御坂(そんな、そんな、そんな! やっぱりこの街はまともじゃない。
   『敵』としてこの街を観察してみて分かった……この街の連中は根本的なところが壊れてる)

普段の思考パターンが成立していなかった。

番外個体の襲撃が、衛星さえ撃ち抜けるほどの莫大な演算能力を有した
御坂美琴をどれほど揺さぶっているのか、それが証拠。

番外個体「ほらほら、どうしたのお姉様。立とうよ。立ってミサカの顔を真直ぐ見てよ。
     ミサカはさあ、お姉様の為だけに生み出されたオーダーメイドのミサカなんだよ?
     そのためだけに頼んでもいないのに造られて調整されて頭の中弄られて、お姉様専用ミサカ
     て言っても過言じゃないのにさー。そんなミサカを見て即逃げ出すなんてオリジナルは酷いよねー
     ミサカ、訳が分からないよ。ぎゃははは」

御坂「……っ!!」

確かに、第一位を倒してしまうほどの力を持ち主に対する戦術としては、
いいや、この戦術は敵が御坂美琴だったからというのが最大の理由だろう。

その成果は、絶大だった。



315 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/10/03(月) 01:03:22.38 ID:GGtmyvFk0




番外個体「あはは、そんな目で見られても全然怖くないよ。っていうかむしろ泣きそう?
     大丈夫ーお姉様。何か嫌な事でもあったの? ミサカが聞いてあげよっか?
     頭も撫でてあげるよ? これでもボディはお姉様より成長してるしさぁ」

砂利を踏む音と共に番外個体が一歩ずつ近づき、
その距離が縮まる度に御坂美琴は這う様にして後ずさる。

番外個体「芋虫みたいで素敵。ぎゃはっ」

裂ける様な笑みを浮かべた番外個体は、うずくまる御坂美琴にそっと顔を近づける。
近づいて、その左腕を踏み抜いた。

御坂「あ、あぁぁあああぁぁぁああぁぁああぁああぁああッ!!」

番外個体「あはははははははははッ!! ねえ、どうして何の抵抗もしないのッ!?
     もしかしてあれ? まだミサカ達を守りたいとか救いたいとか考えてるつもり?」

言葉が刺さる。痛みが体中に広がって行く中、御坂美琴は諦めてはいなかった。
妹達を、こんな最低最悪な状況でも今いる妹達をどうやって救うか、考えていた。

考えていて、

番外個体「それさ、誰が頼んだ訳?」

そんな黒い言葉が、更に御坂美琴に斬り込んだ。



316 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/10/03(月) 01:04:30.58 ID:GGtmyvFk0





番外個体「ね、どの個体がお姉様に言ったの? 助けてって、救ってって、守ってって、
     どのミサカが言ったのかさぁ。教えてよお姉様」

グリグリと、鉄釘が刺さった腕をえぐる様に番外個体が足に力を込め、
轟くのは獣のような絶叫。番外個体はその叫びに機嫌を良くし、更に顔を歪めた。

番外個体「分かんないならミサカが教えてあげよっか?」

満足したのか今度は乱雑に髪を掴み、顔を近づける。
弱り切って、憔悴して、今にも泣き出しそうな少女に吐き捨てる様に言い放った。

番外個体「誰も頼んでないっつーの。 そもそも一万人もミサカが殺される『きっかけ』
     をつくっておいて、救おうとか守ろうとかほざいてるのが既に傲慢なんだよ。
     ミサカ達が生み出されたのも、こうやって殺されて行くのも、全部お姉様のせいじゃない。
     自分で元凶を生み出した癖になに今更火消しに躍起になってんの? これを罪って感じてるのはお姉様だけだよ。
     ミサカの意思なんて一切尊重していない。勝手に一人で盛り上がって場を掻き乱してるだけ
     それでどれだけの人間を殺したの? どれだけの人間を巻き込んだの? どれだけの罪を犯したの?」

御坂「う、……うぅっ!!」

番外個体「ミサカ知ってるよ? それってさぁ、自己満足っていうんだよね」

御坂「あ、あぁぁああぁっっぁぁぁッ!!!」

それは、決して否定されたくない存在に全てを否定された瞬間だった。

言葉の一つ一つが心を削っていく。
言葉の一つ一つが心を殺していく。

想いが、踏みにじられていく。



317 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/10/03(月) 01:05:23.58 ID:GGtmyvFk0





番外個体「うーん、なんか殺しがいが無いなー。ねえお姉様、もうちょっとやる気だしてよ。
     お姉様は今やあの第一位すら倒しちゃった絶対の能力者なんだからさー
     まぁ別に対策なんてしなくても勝てるからしてないけど、やっぱり何の抵抗も無いのは
     ミサカの気も済まないなー……あぁ、そうだ。やる気の出る話でもしてあげようか」


どさりと、落ちる音がした。御坂美琴が倒れ込む音だった。
そこにいたのは絶対の力を持った能力者でもなんでもない。
虚ろな目で、細い涙を流し、心を踏み砕かれた一人の少女だった。

そんな少女を見下ろし、番外個体は身から溢れる悪意を押さえつける事もせず、それを見つめる。

番外個体「お姉様さ。第一位を倒したんだよね。何はともあれ実験阻止じゃん。おめでとう。じゃあさ――」


その視線の先には傷だらけのミサカ10031号がいた。


番外個体「もう使い道の無い残りの妹達をどう処分しようが、ミサカの勝手だよね。」

御坂「ッ!? やめ――」

空気が弾ける音と共に、その手から鉄釘が発射された。
それは音の早さを越えてミサカ10031号に向かい、そして、

番外個体「……ちょっとはやる気でた?」




318 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/10/03(月) 01:05:50.84 ID:GGtmyvFk0




御坂「……こ、のッ」

息を荒げ、御坂美琴が立ち上がる。
左腕を庇いながらようやく御坂美琴は前を見据え、その襲撃者と向かい合った。
自分が高校生くらいまで成長したような顔の少女は、悪意のこもった笑みを浮かべる。

番外個体「ま、こんな鉄釘逸らすくらい朝飯前だよね。
     それでミサカに勝てるかどうかはまた別問題だけどさ?」

じゃらじゃらと、番外個体の手の中で釘が踊った。

番外個体「しっかりしてよ。お姉様が死んだらミサカは後ろの動けない妹達を殺すよ?」

御坂「さ、せるかぁっ!!」

一つ、二つ、連続で空気が弾け、音を越えて鉄釘が襲いかかる。
しかし、それは当たらない。真直ぐに飛ぶそれは御坂美琴に当たる直前、軌道が不自然にねじ曲がる。

番外個体「磁力か。能力じゃやっぱりミサカは勝てないなー」

そう言いつつも、番外個体は腕を下ろすのを辞めない。その手にはまだ鉄釘が握られていて、

番外個体「怖いよ。助けて」

御坂「――――ッ」

衝撃。次の瞬間には、鉄釘は御坂美琴の体に着弾していた。
番外個体の笑い声が、その場で響く。



319 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/10/03(月) 01:06:21.43 ID:GGtmyvFk0




御坂「あ、あぁぁあああッ!!」

痛みに狂いそうになりながらも御坂美琴はなんとかその場に踏みとどまる。
荒く肩を上下し、次の襲撃に身構えるも、限界は近い。

御坂「はぁ……はぁッ……」

心が、ズタズタだった。
御坂美琴が今立てているのは妹達の一人が狙われたからだ。
自分が死んでそれで済むなら、御坂美琴は素直に首を差し出していただろう。

しかし状況は単純ではない。自分が死ねば、妹達の一人が殺される。
せっかく実験を止める事が出来たのに、また妹達が死んでしまう。
それだけは、絶対に避けなければいけない。

かといって、目の前の番外個体も妹達だ。

悪魔の選択が迫る前にして御坂美琴は思考する。どうすれば。どうすれば――



320 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/10/03(月) 01:06:51.98 ID:GGtmyvFk0




番外個体「無駄だよ」

そんな少女に番外個体は笑いながらに突きつける。悪魔の選択を、悪意を込めて。

番外個体「ねえ、お姉様。いい事教えてあげようか?」

ニタニタと、少女が笑う。愉快で愉快で仕方が無いと言う顔だった。

番外個体「今。今この瞬間がさぁ、お姉様とミサカ達にとってのデカイ分岐点なんだよね。
     何の分岐点か、お姉様に分かるかな? ヒントは『このミサカ』がここに存在してるってこと」

御坂「……ま、さか」

その言葉だけで御坂美琴は一瞬で辿り着く。辿り着いてしまう。
それは、悪意の集大成。一人の少女を壊すためだけに用意された最悪のプロジェクト。

ぽつりと、その名は呟かれた。



321 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/10/03(月) 01:07:19.24 ID:GGtmyvFk0




番外個体「第三次製造計画<サードシーズン>」



322 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/10/03(月) 01:08:24.06 ID:GGtmyvFk0




番外個体「ミサカが何のために生み出されたのか知っていれば、説明するまでもないよね?
     また造る気だよ、学園都市は。もしミサカが失敗すれば、本格的に生産はスタートされる。
     お姉様のために、お姉様を殺すためだけに、今度は何体造られて死ぬのかな。
     あーあ、お姉様がこんだけ無茶しなきゃ新規生産なんて大胆な決定は下さなかったんじゃない?」

御坂「あ、あぁ……あ」

声が、震える。今度こそ震えが止まらなかった。
がたがたと、体の芯から悪意に侵され、怯えていた。

そんな御坂をみて、番外個体が満足げに笑う。



番外個体「余計な真似さえしなけりゃよかったのに、ぜーんぶ裏目にでちゃったね」



突きつけられたのは、とてもシンプルな答えだった。

殺さなければ殺される。
殺さなければ、更に殺すはめになる。
殺したら、殺してしまう。
殺されても殺される。

始めから答えは決まっていた。
結末は用意されていた。

がんじがらめで、逃げ場なんて一切無い。

これが学園都市。これが、本物の悪意。

御坂美琴がどう足掻いても、妹達は――

番外個体「どうする?」

番外個体が笑った。とても、とても、醜悪に。

番外個体「妹達を殺したくないならミサカに殺されるしかないよねぇ。でもミサカはお姉様を殺した後にそこの妹達を襲うよ。
     ミサカを殺さないとまた新たなミサカがお姉様を殺しにくる。どう転ぼうが『ミサカ』は死ぬんだよ、ぎゃははははははは!!
     どっちにしろお姉様の心もここで死ぬ。人格が粉々になるまで遊んであげるから存分に楽しんでよ!!」

鉄釘が飛来する。御坂美琴はそれを避けなかった。避けれなかった。

心が、折れる。



323 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/10/03(月) 01:09:03.29 ID:GGtmyvFk0





砂利の上を盛大に転がった。肌が擦れ、傷がまた増えて行く。
鉄釘が貫通した箇所からは血がどくどくと吹き出し、止まる気配はない。

御坂「…………」

もはや、立ち上がる事さえ出来なかった。
御坂美琴の根幹を支えていた柱が砕けちっていた。
一人の人間をよくもここまで壊せるものだと、素直にそう思う。

全て、間違っていたのか。

全部、全部。

御坂「う、うぅ……あぁ、ひっ、」

視界が歪む。もう無理だった。
一人の女の子には、ここが限界だった。
声を殺し、涙を流す。溢れるそれはもう止まらない。
流れる血の様にぼろぼろと零れ、大地に染みをつくる。

しかし、そんな事では、悪意は止まらない。

番外個体「泣いてないでさ、もっと逃げ回ってよ」



324 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/10/03(月) 01:09:54.87 ID:GGtmyvFk0




目の前に、番外個体が降り立った。じゃらじゃらと鉄の釘が音を立てる。

番外個体「お姉様のせいでミサカは一万人以上、一万回以上殺されてきたんでしょう?」

御坂「うあ、あぁぁあぁぁあっ!!」

言葉が刺さる。赤の他人から好き勝手に投げられる言葉とは、全く意味も痛みも違った。

声と言う僅かな空気の震えが、最強を超えた少女を内側から崩して行く。

番外個体「だから逃げ回ってよ。ガキみたいに泣いてないでさ。無様に命乞いしなよ。
     普通の人間が普通に死んで行くんじゃなくて最低でも一万回は人権を踏みにじらないと
     帳尻が合わない、言っておくけどこれは最低ラインだよ。利子を含めば三倍返しじゃすまないからね」

番外個体が無理矢理にミサカの髪を掴み、立ち上がらせる。
涙でぐしゃぐしゃになった少女に、それでも過酷な選択を強いる。



325 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/10/03(月) 01:10:31.80 ID:GGtmyvFk0





番外個体「あのさぁ、なんでお姉様が泣いて私が一番かわいそうですーみたいな顔してるの?」

番外個体が苛立つかの様に拳を放つ。そこに確かな悪意を乗せて。

そして強大すぎる憎悪を乗せて放たれたのは、呪詛の言葉。



番外個体「泣きたいのはこっちだよ。ミサカはお姉様を殺すために生み出された。
     別に生まれたくもなかったのに、無理矢理に生み出されてしまった。
     最終信号からの信号遮断や、統括理事の連中が常に脳と体をモニタリングするために
     皮膚を切り裂いて得体の知れない『シート』や『セレクター』を山ほど埋め込まれた。
     お姉様さえいなければこんな事にはならなかった。
     お姉様がそんな選択さえしなければミサカが生み出される事はなかった。
     生まれてくるにしても、こんな未来の無いやり方じゃなかったはずだよ。痛いよ。助けて。
     そんな言葉を知った時にはもうそんな事は言えない状態になっていた。
     だからミサカには糾弾する権利がある。お姉様を殺す理由がある。」



ゴッという鈍い音が聞こえた。

番外個体「あと、いい事おしえてあげよっか」

大きく視界がぶれる。
空気を爆発させて高速移動した番外個体が自分の顔を蹴り飛ばしたのだと気付くまで、
わずかなタイムラグが必要だった。



326 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/10/03(月) 01:11:13.12 ID:GGtmyvFk0




番外個体「お姉様はさ、泣くぐらいだもん。ミサカ達が出てくる悪夢とか見た事あるよね
     そこでミサカ達は言ってなかった? ああ、これは全部お姉様のせいなんですねって恨み言をさ」

御坂「……っ」

番外個体「ああ、その顔は覚えがあるんだ。それね、別に夢って訳じゃないんだよ。
     どうして他のミサカ達はお姉様を糾弾しなかったと思う?不自然だと思わなかった?
     一万回も殺され続けているのにどうしてその元凶であるお姉様に憎悪を抱かなかったのかな?
     一方通行に憎悪は向いていた? それは半分正解だよ。でも違う。答えはもっと簡単。
     ミサカ達は聖人君子じゃない、ミサカ達は清く正しいお嬢様でもない。
     自らの意思で恨まなかったんじゃない、ただ、それを理解、表現するための
     『人間らしい感情の処理方法』が不完全であったために、表に出なかっただけ」

淡々と告げられて行くその言葉に、御坂美琴が青ざめていく。
肩を振るわせ涙を流しながら、未だ絶望は少女を追いつめるのを辞めない。

自分は恨まれているのだろうか。そんな恐ろしい考えが急速に湧いて出る。
否定は出来ない、現に目の前の妹達がぶつけてきてるのはまぎれも無い悪意と、憎悪だから。

もしそうなら、もしそうならば――

番外通行「ぎゃはっ」

砂利の上に、赤い血がいくつも散った。
御坂美琴のか仇の流れに添ってラインを引いて行くかのようだった。
番外個体は靴の爪先についた赤い液体を土にこすりつけ、



327 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/10/03(月) 01:12:18.35 ID:GGtmyvFk0




番外個体「ねぇお姉様。ミサカ達は人形じゃない。ミサカ達にも感情はあるんだよ
     ミサカが証拠。お姉様に憎悪の感情を向けているミサカが証拠。
     じきに多くのミサカ達がそれに気付くよ。復讐の権利について考えるようになる。
     お姉様が勝手に酔いしれた贖罪行為は全部自己満足に過ぎない。
     ミサカ達の憎悪を軽減させる効果は全くない。どうしてか分かる?
     もう一万人も死んでるんだよ!! 今更許せる訳ないじゃん!!
     あは、あははははははははははははははははははははははは」


言葉と共に次々と靴の爪先が飛んできた。
その度に嗚咽と、痛みと、血と、涙が飛んだ。


番外個体「実験が中止になった事によって人間らしくなるミサカが必ず出てくる。
     人に触れて、ものに触れて、感情が芽生えるミサカが必ず出てくる。
     そうなればこの先、お姉様はあらゆるミサカから恨みを命を狙われる!!
     それが成功して命を落とすか、失敗してお姉様が全てのミサカを殺すか。
     いずれにしても、お姉様が望む誰もが笑っていられる幸せな世界なんて訪れない!!
     そこにお姉様の居場所なんてないんだからさぁ!!」


御坂「あ、あぁあぁっぁっぁ、うあぁぁぁっ!!」

避けようと思えば避けれたはずだ。
しかし、出来なかった。

それをしようと言う心の動きが湧いてこない。
湧いて出てくるのは言いようの無い悲しみと涙だけだ。

心が折れていた。
そこにいたのは能力者でも超電磁砲でもない。ただの14歳の女の子だった。


番外個体「泣いて現実から目を背けるなら勝手にしなよ。
     けど、ミサカの言った事は証明されてるよ。このミサカは、
     番外個体は、他のミサカと違って負の感情を表に出やすいように
     脳内物質の分泌パターンを意図的に再調整されている。
     巨大なネットワークの中から負の感情を読み取りやすいようにね。
     つまりさ、一方通行ほどじゃないにしてもお姉様に対する憎悪は存在しているんだよ。
     ……お姉様と一緒にアイスクリームを食べたミサカも、ね!!」


少女を踏みにじる様に叩き込まれた番外個体の足が、ふと止まった。
彼女は何かを見ている。



328 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/10/03(月) 01:13:18.71 ID:GGtmyvFk0




番外個体「言ったよね、お姉様。残りの妹達をどう処分しようがミサカの勝手だってさ」

御坂「……や、やめてぇっ!!」

番外個体「やだよ。だってお姉様、泣いてばっかでもう戦う気力も無いんでしょ?
     ほら、今も無様に体を這わせてさ」

御坂「う、くぅっ……」

がたつく足で御坂美琴は立ち下がる。
しかし、その目にもう戦意はない、覚悟も無い。

あるのは、たった一つのシンプルな答えだ。

誰も死なずにこの場を収める事は出来ない。

突きつけられた選択肢は二つ。

妹達を守るために番外個体を殺す。そして、その後襲いかかるであろう第三次製造計画によって生み出されたミサカを殺すか。
妹達を殺されるのを黙ってみて、その後自分が殺されるか。

どちらにせよ勝っても負けても死んでも殺しても、妹達は死ぬ。沢山死ぬ。

もう、諦めるしかないのか。

御坂「ぁ、ぁぁぁあああああああああああああッ!!」



329 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/10/03(月) 01:13:46.43 ID:GGtmyvFk0




バチンっ!!と空気が弾け、紫電が奔った。

御坂美琴の感情が爆発した音だった。
呼応するかの様に、空が鳴く。

番外個体「あはっ、そうそう。もっとやる気出してよ。ほらぁッ!!!」

鉄釘が飛ぶもそれは御坂美琴は当たらない。当たる訳が無い。

御坂「ッ!!」

番外個体「がッ、あ!!」

嗚咽が漏れたのは、番外個体だった。
超速度で詰め寄った御坂美琴に、なす術も無く組み伏せられる。

本気を出せば、こんなもの。
御坂美琴はあの第一位でさえ倒したのだから。

そして、番外個体は恐ろしいものを見る。
自分を押し倒し、マウントポジションを奪った御坂美琴。
その表情。虚ろな目。そこには、もう何も無い。

御坂「あ。ああああああああああああああああっ!!」

暴力が、襲いかかる。



330 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/10/03(月) 01:14:34.16 ID:GGtmyvFk0



番外個体「――――っ」

来るべきッ暴力に身構えた番外個体に、しかし痛みはやってこなかった。
うっすらと、瞼を開く。

番外個体「……ぎゃははははは。なんでまだ泣いてんのお姉様」

雨の様な雫が番外個体の頬に落ちる。

今にも殴りつけようと腕を振り上げた御坂美琴は泣いていた。
涙は止まっていなかった。顔はぐちゃぐちゃで、とてもこの街を代表する能力者には見えなかった。

御坂「ひっ、うぅ……あ、あぁぁぁあああああっ!!」

出来る訳がない。出来る訳がなかったのだ
突きつけられたどの選択も、御坂美琴は選べない。

御坂「嫌ぁ、嫌だぁ……! 私は、嫌ぁ……たとえ恨まれても憎まれてもいい。
   蔑まれても自己満足でもなんでもいいの……!! う、ぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」

敵の胸に顔を押し付け、少女は肩を振るわせ嗚咽を漏らす。
番外個体の戦闘服が涙で濡れていく。


331 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/10/03(月) 01:15:58.27 ID:GGtmyvFk0




そう、これは決めた事だった。何が何でもこれだけは成し遂げると決めた事だった。
例え誰に否定されようとも、これは御坂美琴がやらなければならない事だった。

御坂「自分勝手って思われてもいいよぉ! 誰に蔑まれてもいいのぉ! 
   私は……これ以上、アンタ達に死んで欲しくない……!!」

番外個体「……分かんないなぁ。ミサカはお姉様のそう言うところを突いたけど、
     やっぱり分かんないよ。なんでそういう思考になる訳?」

ケタケタと、番外個体が笑う。理解の出来ないものでも見るかの様に。
それに、御坂美琴は答える。向き合って、涙をこらえて、嗚咽が漏れそうな唇を振るわせて、

気丈に振る舞う、姉の様に。

御坂「それはね、アンタ達が……私の――」

結局、御坂美琴の出した答えはそんなモノだった。

誰も殺したくない。そんな甘い答えだった。



しかし、学園都市の悪意は、そんな答えを許さない。



332 : ◆v2TDmACLlM [saga !red_res]:2011/10/03(月) 01:16:26.98 ID:GGtmyvFk0

















                                   ぶちゅり




333 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/10/03(月) 01:16:56.58 ID:GGtmyvFk0





小さな音が聞こえた。

番外個体の体の中に埋め込まれた機械が爆発した音だった。




334 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/10/03(月) 01:17:30.32 ID:GGtmyvFk0





御坂「……え?」

自分の手が、生暖かい何かに浸かっていた。
それは赤く赤く。とても赤く、

涙が止まった。嗚咽も止まった。壊れた心が、更に砕かれた。
何も考えられず、全ての感情が平坦となる。

何かが振り切ったようだった。

御坂「いや……」

そして、膨張する。

感情は、膨張する。

御坂「……い、や」

それを視界にいれ、認識したら、もう終わる。

御坂「……あ、あぁ」

目が眩む。色のない世界で赤だけが広がっていった。




335 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/10/03(月) 01:17:59.12 ID:GGtmyvFk0





番外個体「か……あ」

番外個体の後頭部から背中にかけて、何かが避けていた。
決して少なくない量の血が溢れていた。

バチバチ、と少女の体から押さえようの無い光が漏れる。
急速に空が鳴いた。

そんな中で、倒れた少女は笑っていた。
歪な笑みで、笑っていた。

ぱくぱくと番外個体の口が動く。
掠れる様な声で、こう呟いていた。

番外個体「 お ね え さ ま の せ い だ 」

血を吐きながら、そう呟いた。

御坂「嫌」

もう、そこで、御坂美琴は、壊れた。

御坂「い、や……いや、ぁ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!」



336 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/10/03(月) 01:18:31.80 ID:GGtmyvFk0






その日、学園都市に二度目の雷が堕ちた。





337 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/10/03(月) 01:20:45.95 ID:GGtmyvFk0




荒れ狂う空から堕ちてきた御坂美琴の感情の全てをぶちまけた様なそれは、もはや雷とは呼べなかった。

まるで、柱。

学園都市にそびえ立ったのは、雷で出来た一本の巨大な柱。

それは、まるで神話の中に登場する神の裁き。

この世の終わり、ないし天罰を連想させる様な神々しいまでの破壊。

それは、街に漂うナノデバイスを全て焼いた。

それは、電力という力を使用するものを根刮ぎ壊した。

それは、一つの都市から光を奪った。

それは、一つの都市からあらゆる手段を一瞬で奪った。



どこかで、誰かが、不敵に笑う。



街は、そのすべての機能を停止する。



338 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/10/03(月) 01:21:46.00 ID:GGtmyvFk0







今日、この日――学園都市は死を迎えた。






339 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/10/03(月) 01:22:22.73 ID:GGtmyvFk0





御坂「あ……」

抜け殻の様に、御坂美琴の肩ががくりと落ちた。

崩壊。そんな言葉がよぎる。学園都市は全てを計算していた。
御坂美琴がどんな結論を出そうとも、同じ結末を迎える様に全てを仕組んでいた。

御坂美琴の精神をズタズタに引き裂けるように。

甘かった。御坂美琴はどこまでも甘かった。

そして、学園都市は本気で一人の少女を壊しにきた。
どんな状況であっても必ず御坂美琴に止めを刺すための装置。

それが番外個体という少女だった。

これが、学園都市の腐った連中が生み出した結果。

最低最悪の結末に、御坂美琴は――

御坂「……助けなきゃ」

ゆっくりと、立ち上がる。

蠢く番外個体を無視して、御坂美琴は足を踏み出した。
そして、手を伸ばす。

御坂「ねぇ、助けてよ」

白い少年に向かって。




340 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/10/03(月) 01:23:01.97 ID:GGtmyvFk0



御坂「ねぇ、助けてよ。アンタの力なら出来るでしょ?」

肩に手を置き、体を揺らす。反応は、無い。

俯せに倒れた最強は、起き上がらない。

御坂「ねぇ、起きてよ……ねぇ!!」

そう言って一方通行の体を揺する御坂美琴は、もう壊れていたのだろう。

御坂「お願いだから助けてよ! 私の妹を助けて。血が止まらないの。
   なんとかしてよ。ねぇってば!!」

あれほど憎んでいた存在に縋り付くほどに、もう何も考えられなかった。

御坂「ねぇ、起きて。起きてよ!! お願いだから助けて、何でもするから、
   謝るから、ねぇ!! アンタはさんざん殺してきたじゃない!! 一度くらい助けてよぉッ!!!!」




そして、


341 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/10/03(月) 01:23:29.85 ID:GGtmyvFk0





「コマンド実行、削除完了だ。クソッタレ」





342 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/10/03(月) 01:24:37.55 ID:GGtmyvFk0




パァンッ


何かが弾ける音がした。


御坂「……あ」


体全部が、灼熱に侵される。


座り込んだそこには、血溜まりが出来ていた。


左腕からは、血が流れていた。


その血は、一方通行に触れていた。


視界が、霞む。


何かが倒れた音がした。
全身の血が弾けた自分の体が、倒れた音だった。


御坂「……いた、い」


体は動かなかった。視線の先には同じ様に倒れる番外個体の姿があった。


手を伸ばす。届かない。


体を動かす。動かない。



343 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/10/03(月) 01:25:27.08 ID:GGtmyvFk0




御坂「あ……いや」


伸ばした手が、ぱたりと落ちた。


瞳から溢れたのは、涙だった。


御坂「こんな、の………い、やだぁ」


カランと、御坂美琴のポケットから何かが転がった。


それは、元はただの缶バッチで、今はただの鉄くずだった。


御坂「い、や……たすけ……だれ、か」


辛うじで息をしていた御坂美琴の体が動きを止めた。


御坂「…………………………………………」




344 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/10/03(月) 01:25:53.02 ID:GGtmyvFk0





光の失った瞳が何かを映す事は、もう無かった。




345 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/10/03(月) 01:27:11.24 ID:GGtmyvFk0






           【次回予告】



    「実験はまだ終わってねェ」

               超能力者・一方通行


    「ミサカぁっ!!」

               無能力者・浜面仕上






346 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/10/03(月) 01:29:28.36 ID:GGtmyvFk0




御坂ーず退場。お疲れさまでした。
断っておきますがみこちんは大好きです。
ミサカさん超空気でしたね。すまんかった。
あとすいません。>>163の雷が落ちたって言うのはミスです……三度目になっちまう。
とうとう学園都市が死を迎えました。機能的に。誰かさんの予言通りですね

今日は遅れに遅れてすいません。ではでは。


347 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/03(月) 01:33:05.05 ID:txuqeBeDo
つい1時まで待っちまったぜ乙

主人公補正の効かない学園都市ってこんな感じっぽいな
348 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/10/03(月) 01:34:32.90 ID:nLVfi5TYo


さっさとこのクズ誰か殺せよ……胸糞悪すぎる
349 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2011/10/03(月) 01:37:12.03 ID:8MmM9JeI0
乙!

まあ、美琴はあそこまでしちゃった以上、救いはないよな……
生命的な救いはもちろん、精神的な救いすら
哀れというよりは、哀しい最期だったな
350 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2011/10/03(月) 01:41:55.82 ID:d0H8V/xAo
一方さんやアイテムは救われんのか?
あそこまでってのがどこまでか知らんが似たようなもんだろ
351 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/03(月) 01:47:53.38 ID:gBe2qB5DO
原作の一方さんもこれくらいやってくれたほうが良かったな
下手なご都合展開で主人公にされるより救いないくらいはっちゃけてりゃ良かったのに
352 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/10/03(月) 01:59:41.34 ID:7d4Zm4aAO
乙です
良い意味で気分悪くなる話だった…
この一方さんは救われてほしくないな
353 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/10/03(月) 02:33:30.92 ID:Q6kxqgEAO
浜面おそいよぉぉぉぉお!遅れてきすぎだよおおお!

乙でした。
354 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/03(月) 03:36:09.74 ID:7BApM4U00
乙です

美琴逝ったか?
主人公組、どうやって事態を収拾するんだ・・・
355 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/03(月) 05:24:13.13 ID:qt2Ld+pIO

やはり浜面じゃ全部を救うなんて無理だったか
356 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/10/03(月) 05:47:22.81 ID:JekmkTBAO
浜面は一人の為のヒーローだからな。いっぺんに何人も救えねだろ

さて、ミサカを助けられるか……
357 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/03(月) 07:47:06.76 ID:L1NC5Mlgo
御坂さん最後の最後まで味方がいないとかマジで悲しい結末だな…
この後回収されて脳だけの存在とかになっちゃうんだろうか
358 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/10/03(月) 08:16:07.41 ID:ebyzhtBAO

悲しいほどに救いがないな…
359 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/10/03(月) 08:53:36.39 ID:telhNsKfo

黒子は暗部落ちか復習に走って死ぬな、こりゃ
360 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北陸地方) [sage]:2011/10/03(月) 09:17:39.88 ID:eZx48ymAO
いや、上層部何やってんの
美琴は殺せたけど学園都市も終わったじゃねーか、本末転倒だよ!?
361 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/10/03(月) 11:09:08.02 ID:4xIBLK1Lo

美琴に救いは無いんだな
やっぱ上条さんありきか
362 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/10/03(月) 11:29:40.74 ID:gnLNH8uAO
これはよい番外個体
363 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/03(月) 16:20:46.01 ID:ahtKpdN00


あいかわらず面白い
ぶっちゃけ御坂は原作でもこうなっていた可能性もあったんだよな・・・
でもこれくらいやってくれた方が学園都市の異常さが際立っていい
364 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2011/10/03(月) 17:34:53.10 ID:HRql8fHV0


美琴助かってほしいが、腕一本は殺られただろうな。
浜面ッ!実験止めろ!!
365 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/10/03(月) 20:52:00.21 ID:bAA0R0rlo
乙!

ここの美琴さんは救われないなぁ〜……
浜面は一方通行にどうやって勝つのか気になるぜ
366 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/10/03(月) 22:54:52.80 ID:0HnDRz3go

美琴さんはこのあと、脳みそ持って行かれて、学園の需要を全てまかなう発電機になりますか?
367 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/03(月) 22:59:26.01 ID:w1Vh98Iy0
御坂は常に死亡フラグ担いでいるからしょうがないな
って事で乙
次回は助けたものと助けられたものの邂逅か?
とりあえず今は多大な期待
368 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2011/10/04(火) 06:31:32.54 ID:A604sHJx0
ミサカ達を助けてやってくれ浜面。
乙です。
369 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/04(火) 09:40:13.03 ID:68jyAz190
全部予見してたていとくんすごすぎわらた
370 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/04(火) 10:46:19.96 ID:a1Yf30NAO
魔術サイド大勝利!
いえーい!


ってわけにはいかんしどうする?
371 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/10/04(火) 12:00:44.45 ID:gel6ZpHAO
前スレ冒頭でていとくんが言ってた一人の意思が全てを絡めてるって意味がようやく解った。

よくよく考えてみれば後半からは全部木山先生に関わりがあるものを主軸に物語が進行してるし……幻想御手って装置が全部の独立した出来事を複雑に絡めてたんだな

372 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/10/05(水) 05:07:35.26 ID:Q1FnLPu80
しかしその木山先生もどうなったことやら
子供らを救えたかな? ……というか、幻想猛獣が怖い
373 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2011/10/05(水) 14:23:23.94 ID:vf6H0MD8o
予備電源含めて電源全部落ちたなら子供ら全員死亡だろうなww
374 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2011/10/05(水) 22:52:38.32 ID:9EqbnzB60
子供らどころか☆さんもヤバそうだww
375 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/06(木) 01:40:30.51 ID:0IwOu4mc0
>>374
停電で苦しむアレイスター想像したら吹いた
376 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/10/07(金) 23:07:43.77 ID:dBHNk3SD0
停電で初春が役に立てずに苦しむの想像したら気の毒になった
377 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/10/08(土) 14:23:43.49 ID:ScKSGTs/0
どうも。投下予告じゃありません。投下ですけどssじゃありません。
ちょっと適当にざかざか描いて自家発電してたんですけど、せっかくなんで落として行こうと思いまして、
イメージ掴みと次の投下までの繋ぎにでもーってことで。背景真っ白なのはご愛嬌。

http://wktk.vip2ch.com/dl.php?f=vipper20624.jpg
378 :名無しNIPPER [sage]:2011/10/08(土) 17:18:58.78 ID:ylPI63NDO
>>351
遅レスであれだがこれに関してはどっかのスレで禁書四大黒歴史扱いされてたな…
ちなみに他には熱膨張、木原神拳、世界の歪みが挙げられてた
379 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/08(土) 17:48:13.10 ID:Z3q3FC+Xo
>>377
見れないんだがもう消した?
380 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/08(土) 17:55:35.84 ID:Cz04JGZDo
>>379
普通に見れるが。専ブラで見てるんじゃないのか?ブラウザで開くといいよ。
381 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/10(月) 19:52:25.13 ID:dpmJYpyNo
GJ!
382 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/10/11(火) 09:30:32.31 ID:8jZ2qiSAO
ここの>>1はイラストも書けるのか……
383 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/15(土) 12:11:27.76 ID:ORBeyk7U0
俺が見てきた禁書ssの中で一番面白い
ここの1はもうホルスの領域にいるな  
384 : ◆v2TDmACLlM [sage]:2011/10/18(火) 00:04:37.74 ID:kpKhBvzAO
遅れてます。ハイペースの勢いままに10031次実験編も終わらしたかったんですけど中途半端に途切れて申し訳ない。10月中にはなんとか区切りもつけるつもりです。では
385 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県) [sage]:2011/10/18(火) 00:20:33.71 ID:Bx47zGu4o
いやっほう!
楽しみにしてるわー
386 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2011/10/21(金) 22:25:25.37 ID:pa+QcjMAO
期待して待ってます!
387 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/24(月) 23:15:07.93 ID:JSOej9Ot0
期待
388 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/31(月) 03:07:11.50 ID:UY8mGV8g0
マダカナ
389 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/10/31(月) 20:50:13.66 ID:ddFaUfMw0
+   +
  ∧_∧  +
 (0゚・∀・)   
 (0゚∪ ∪ +
 と__)__) +
390 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(東海) [sage]:2011/11/01(火) 14:41:53.25 ID:w5uuFNqAO
どうも、11月です

サーバを移転しました@荒巻 旧サーバ:http://vs302.vip2ch.com/
391 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/01(火) 19:25:15.29 ID:7Xek1RIq0
間に合わなかったか・・・

まぁいつでも待っているがね

1から読み返してみるか

サーバを移転しました@荒巻 旧サーバ:http://vs302.vip2ch.com/
392 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/02(水) 02:42:59.01 ID:8rlqvmzIO
こうして消えてくスレを色々知ってるだけに不安だぜ…
393 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/02(水) 21:18:04.81 ID:1atu3I0u0

ぐあああああああ10月間に合わんかったああああああ
本当にすまぬ……すまぬ。まさか一ヶ月も投下できないまま過ぎるとは思わんかった……!

申し訳ない!申し訳ないが明日投下です。
時間はおいおい。多分22時から〜24時の間!

待たせてホントにすまんかった。ではでは!
394 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) :2011/11/02(水) 21:19:29.24 ID:Fuh4lP/d0
きぃぃぃぃぃぃぃたぁぁぁぁぁ

待っていたぜ!! 
395 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(四国) [sage]:2011/11/02(水) 21:33:51.51 ID:tcs0ER+AO
おぉー。毎日更新確認してた甲斐があった。

楽しみに待ってるよー。
396 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(岡山県) [sage]:2011/11/03(木) 00:28:13.40 ID:3E0RLeNP0
……来るッ!!
397 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/03(木) 12:29:47.95 ID:6ocnBY/SO
追い付いた!すっごくおもしろいです!
御坂さんが一方に助けを乞うところとかムシが良過ぎて笑ったww

投下が楽しみすぐる
398 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/03(木) 12:45:29.09 ID:3Eb4WN1Xo
その理論で行くなら番外個体が一番イミフ
この程度で美琴に悪意が向くなら一方さんにこそ膨大な悪意が行って当然なのに見向きもしないとかww
399 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(USA) [sage]:2011/11/03(木) 13:11:01.69 ID:AaCvVCrso
ゴミみたいな感想つけるなよ
やれやれ
400 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/03(木) 20:46:13.52 ID:uhGZA1yH0
23時か24時投下になります。
確定は22時頃に。

一方通行やミサカ中心の話になります。
前スレでの登場回などさらりと読み返しておくといいかもしれません。
ではでは
401 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/03(木) 22:05:32.39 ID:uhGZA1yH0
24時投下ーやっとこそ区切りもつきそうです。
402 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/03(木) 22:30:41.29 ID:V81vzbnDO
よっしゃキター
403 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/03(木) 23:59:31.38 ID:+/b0qLyK0
そろそろかな
まちわびていたぜ
404 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/04(金) 00:00:08.91 ID:g8d+St4+0
─────────


砂利をまき散らしながら、地面を蹴った。

浜面「はぁっ──はぁっ──ッ、」

じわりと、体に嫌な汗が浮かぶ。

疲労と焦燥がそのまま浮かび上がったかのようなそれに、
全身が不快感に包まれたような錯覚を覚えるが、しかし気にしてもいられなかった。

車を乗り捨て、とにかく走った。

浜面「くそッ、どこだよッ!どこに――ッ」

衝撃。駆けた勢いのままに体が何かにぶつかり、倒れる。

荒々しい息づかいだけが聞こえ、闇に包まれたその操車場に視界はまだ順応しない。

浜面「…………」


今や闇はこの学園都市全域を包み込んでいた。先ほどの落雷…なのだろう。
圧倒的な力の奔流は蛇のように大地を這い回り、都市を照らす光という光全てを奪っていった。

それがどれ程の異常事態なのか。わからない訳がない。

そして、それを引き起こしたであろう原因も。

浜面「…………」

コンテナやそれ以外のものが積まれている中、浜面は立ち上がる。

浜面「──ッ」

走る。とにかくそれしかなかった。



405 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/04(金) 00:01:11.31 ID:g8d+St4+0



辿り着いたのは数分後。
月と星と一人の少女が見届けたその場所、実験場であり、終着点であり、地獄であるその場所に浜面仕上は辿り着いた。

浜面「なっ……んだよこれ」

そこにぶちまけられていたのはなんてことのない、一人の女の子が抱いた悪意と絶望。

そして茫然と呆然と、座り込んでいたのは見知った少女。傷つき、汚れ、全身が血にまみれた、

浜面「ミサカぁッ!!」

叫んだ言葉にぴくりと少女の肩が跳ねた。
ゆっくりと首だけを動かして視線は少年へ、捉えたその虚ろな瞳は徐々に驚きの色へと染まり、

ミサカ「どう……し、て。あなたが、ここに……と、みさ」

ゆっくりと、ミサカの体が揺れる。自制の聞かない体は砂利の敷かれた地面へ。

浜面「ッ!!」

支えるかの様に浜面がミサカへ駆け寄る。月明かりによって少女の傷だらけの肌が晒される。
抱き起こし間近で見たそれは誰が見ても思うほどに痛々しく、浜面の表情が苦々しいものに変わった。

浜面「ボロボロじゃねぇか!いったい何が……」

言いかけて、止まる。

何が、何があってこうして傷だらけなのか、それこそ愚問だろう。

ここは色濃い闇の中で、戦場で、実験場なのだ。

浜面「……っ」


406 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/04(金) 00:02:05.69 ID:g8d+St4+0



見渡すと、どこか見覚えのある高校生くらいの少女が倒れていた。
白い戦闘服は血で染まり、暗闇でも視認できるほどの赤が弾けている。

そして、もう一人。

そこで倒れている少女を、自分は知っている。

浜面「御坂、美琴……」

ほんの数時間前、第四位をいとも簡単に捻り潰し、第23学区を壊滅させ、
衛星をも撃ち抜き、絶対的な力を見せつけた超能力者が己の血に沈んでいた。

一瞬、目の前の光景を疑う。現状が信じられない。

あれほどの力を持った能力者が、どうして負ける道理があるのかがわからない。

つまり、それほど圧倒的だったという事なのだろう。

浜面「…………っ」

唯一この場に立っている白と黒と赤に濡れた少年が。

一方通行「ハ……ァァァァ……ァ」

月を背に、まるで王の様にその場に君臨していたのは、最強だった。


407 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/04(金) 00:03:18.94 ID:g8d+St4+0



一方通行「ア、アアア、アアァァァッ!!」

自身のように暗い天を仰ぎ、少年は掠れた声で咆哮をあげる。
開放感に体を震わせ、全能感に酔いしれるように、その口元には裂けた笑みが浮かんでいた。

足下に伏すのは、僅かの間ではあったが絶対に辿り着き暴虐の限りを尽くし、学園都市を殺した一人の少女。
全てを抱え込み、全てを内に秘め、全てを終わらせようとし、しかし悪意に勝てず散った哀れな少女。

その少女からぶちまけられていたのは真っ赤な絶望、今も流れる生の証だったもの。

一方通行「……よォ」

そして、少年はそれを一瞥すらせず言葉を投げる。
足下に倒れる少女でも、向こうで倒れている少女でも、場違いにもこの場に辿り着いてしまった無能力者の少年でもなく、

身を削られ、死の運命に存在を沈めるその少女に。

ミサカ「…………ッ」

一方通行「なにぼォっとしてンだ。立てよ」

鮮血色の瞳が少女を射抜いた。
浜面の存在などまるで無視し、その瞳はミサカにだけ向けられていた。

ニィッと、少年が嗜虐的な笑みを浮かべる。


408 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/04(金) 00:04:03.87 ID:g8d+St4+0



一方通行「意味があるかもわかンなかったこの実験の目的がようやく実感出来た、あァそうだ、俺は最強だ。学園都市最強。
     けどな、結局はただの最強止まりなンだよ。力を得た第三位にも劣るぐれェ俺は弱いンだ」

確かめるように、噛み締めるように一方通行が己の掌を握りしめる。
熱が灯るそれは痛覚。第三位に蹂躙され全身に負った傷は、そのまま一方通行のプライドにつけられた傷と同意だ。

だから、不愉快そうに一方通行は言い放つ。

一方通行「……ンなことはあっちゃなンねェンだよ。だから、立てよガラクタ」

少年が片足を浮かせ、靴のズレでも直すかのようにトンと地面を叩いた。

それだけで大地が震え、空が鳴く。

一方通行「実験はまだ終わってねェ」


409 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/04(金) 00:04:44.42 ID:g8d+St4+0



浜面「ッ――」

自分に向けられたものでも無いのに、その殺意に当てられただけで体の底から恐怖が這い上がってくる。
僅かでも闇に浸かっていた浜面の本能が警告する。

ステイルよりも、神裂よりも、麦野よりも、御坂美琴よりも、垣根提督よりも、コイツはヤバい。

ミサカ「……逃げてください。とミサカはあなたに逃走を促します」

ゆっくりと死が歩み寄る中ミサカがぽつりと呟いた。
嫌に事務的で、機械的で、感情のない声で。

ミサカ「……本実験はミサカの処理をもって終了となります。
    今ここから立ち去れば、あなたに危害が及ぶ事はありません。とミサカは――」

浜面「出来るかそんな事」

しかし、その言葉を浜面は遮る。
今にも崩れてしまいそうなミサカの肩を抱き、必死に少女の言葉を否定する。

ミサカ「……あなたの行動は理解しかねます」

浜面「うるせえよ。少し黙ってろ」

ミサカ「黙りません。そもそも、なぜあなたはここに来たのですか。
    何をしにきたのですか。とミサカはあなたの行動を非難します」

浜面「……っ」


410 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/04(金) 00:05:41.53 ID:g8d+St4+0



なぜここに来たのか。腕に抱く少女から投げかけられた、明確なその理由。
それを言葉にしろと言われたら、浜面は口を噤んでしまう。
そう、浜面がこの場にいる事に、確かな理由など無い。

浜面は御坂美琴の様に妹達を救う為にここに来た訳ではない。

浜面は布束砥信の様に実験を阻止するためにここに来た訳ではない。

浜面はヒーローの様に一方通行を倒すためにここに来た訳ではない。

浜面「俺は……」

一方通行「――チッ」

言いかけた言葉は、一方通行の短い舌打ちに塗りつぶされる。
共に訪れたのは死神の鎌。学園都市最強の腕を振ると言う簡単な動作が見えない衝撃となって浜面とミサカを薙ぎ払う。

浜面「が、ッあ!!」

少女と並び、宙へと放り出される。一瞬の浮遊感の後には墜落。
激痛に歯を食いしばりながらも浜面はぎこちなく立ち上がり、ミサカを背に庇う。

一方通行「……あァ?」

そしてその行為によって、一方通行は認識する。
闇の陰りによってぼんやりとしか捉えられないが、それでもようやく認知した。

イレギュラーの存在を。


411 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/04(金) 00:07:12.56 ID:g8d+St4+0



一方通行「は、なンだオマエ」

いつもの一方通行なら、疑問をそのまま言葉にして投げただろう。
何者だ、どこの関係者だ。第三位の連れか何かか。

しかし、

一方通行「とりあえず死ンどけ」

そう言って蹴った拳程の石は弾丸の様に弾け飛び、浜面の腹にめり込む。
低い唸り声をあげながら崩れ落ちる少年に、一方通行は見向きすらしない。

今の一方通行には、実験以外の物事に対して一切の興味が無かった。
いるはずのない人物が誰であろうとどうでもいい。ソイツの目的もどうでもいい。

一方通行「よォ、喜べモルモット。これからは真面目に相手してやるよ。
     俺が絶対に至る為に処分されるテメェらへせめてもの手向けだ」

その視線の全てはたった一体の少女に向けられていた。

一方通行「残り9969回、手ェ抜かずにぶっ壊してやる」

ギャハ。

そんな笑みが、闇の中に漏れる。
ザッという音は一方通行が駆け出した音だった。

一方通行「だからさっさと楽になれッ!!」

動けないミサカに、一方通行の腕が伸びる。
触れるだけで死に至るその必殺の魔手は、

浜面「こ、のぉッ!!」

寸でのところで空を切った。

一方通行「……チッ」

一方通行の表情が嗜虐的な笑みから、不機嫌なものへと変わる。
視線はふらふらと手を引かれ走る少女へ。そして、


412 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/04(金) 00:08:40.47 ID:g8d+St4+0



浜面「はぁッ――はぁッ――!!」

どうする。

どうする!どうする!!

浜面「くそッ!!」

そんな言葉で、浜面の思考領域は埋め尽くされていた。

恐怖と痛みによって考えは定まらない。
熱が灯り焼ける様な痛みを放つ腹部を押さえながら、いまにも崩れ落ちそうなミサカの手を引きながら、浜面は走る。
口の中ではどろっとした鉄の味が広がっていく。

畏怖の象徴。誰もが恐怖する最強のレベル5を前に、例に漏れず浜面の脳も正常には働いていなかった。

思考の取捨選択がおぼつかず、ありとあらゆる言葉で埋め尽くされる。
逃げる?戦う?命乞いをする?守る?生きる?死ぬ?助かる?殺される?

このまま逃げるべきか、戦うべきか、その判断すらままならない。
気付かないのはそれ故にだろう。

その選択肢が、始めから選択肢足り得てない事に。


413 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/04(金) 00:09:17.28 ID:g8d+St4+0



一方通行「舐めてンじゃねェぞォッ!!!」

背後から鳴り響いたのは、怒号。
同時に風を裂く音と共に大地に敷かれた砂利が物理法則を無視し、走る二人に飛来する。

その直線上にいるのは、少女。

ミサカ「ッく……」

避けようとしたミサカの体は、しかし思うようには動かない。力を振り絞り、その腕は浜面を突き飛ばす。

浜面「……な、」

そして凶器と化したその弾はまずミサカの腕を貫いた。

ミサカ「あ、あぁああああッ!!」

砂利を散らし、血を撒きながら二人ともが倒れ込む。
そもそもが満身創痍の二人では、第一位の前からは逃げる事さえままならなかった。

浜面「は、あ……くぅ、はッ」

ゴポ、という音と共に浜面の口腔内から血が溢れる。
激痛は引かず、もしかしたら内蔵が潰れたのではないかと嫌な思考に辿り着く。


414 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/04(金) 00:10:11.57 ID:g8d+St4+0



ミサカ「……逃げて、ください」

掠れた声が、浜面に届いた。
それは苦痛に呻く少女。何度も死を味わい、これからも殺されて行く一人の少女。

ミサカ「あなたまでもが、ここで……死ぬ必要は、ありません。とミサカは説得します。
    ……今、目を瞑って何も知らなかった事にすれば、今まで通りの日常に戻れます」

浜面「…………」

浅い息を繰り返し、今も血が流れる腕を押さえるミサカの表情は暗闇の中では伺えない。

ミサカ「ミサカは必要な機材と薬があれば、ボタン一つで自動生産できるんです」

ミサカ「作り物の体に、借り物の心。単価にして18万。在庫にして9969体も余りある。
    そんなモノのために、あなたが死ぬ必要なんてありません」

浜面「…………馬、鹿野……郎」

ぶつ切りにそう呟いた浜面が立ち上がる。
膝に手をつきながら、血を吐きながら、全身を軋ませながら立ち上がる。

浜面「ミサカネットワークってやつで聞いてなかったのかよ……今日言ったばかりだろうが」

向かうのは、砂利を砕きながら歩み寄る最強。
浜面を捉えた赤い瞳に含まれていたのは、確かな敵意。
その視線に震えそうになりながらも、浜面は言い放つ。

浜面「お前は、世界に一人しかいねえじゃねえか……!」

ミサカ「……ッ」

その言葉を少年から聞くのは、今日で二度目だった。
その言葉を少年からかけられたのは、初めてだった。

鼓動が、一段と大きく跳ねる。
ただの言葉が、不思議な程に胸に響いた。
だが、そんな余韻に浸る暇などあるはずも無く。

一方通行「下らねェ御託はそこまでだ。三下共が」

ドォン。と、すぐそばで音が爆ぜた。

一方通行がその能力を行使し、浜面が立つ大地が弾けた音だった。


415 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/04(金) 00:12:10.92 ID:g8d+St4+0



浜面「か、あ……ッ」

あたかもそれは散弾のように、礫が全身に飛来する。
もはや全身を撃たれたに等しい程の弾を浴びせられた浜面の膝が、がくりと折れた。

浜面「う……ぐぅッ!!」

しかし、倒れない。痛みと恐怖に体がぼろぼろになりながらも、浜面は動かずそこに立つ。

一方通行「ハッ、頑張るじゃねェか。チンピラ」

向かい立つのは、学園都市最強。
自分より体格の小さいこの少年が、学園都市のピラミッドの頂点。序列第一位。
殴れば吹き飛んで行きそうな華奢な体に触れようものなら、一瞬で返り討ちにされてしまう。

どうする。

一方通行「けどよォ、テメェがその人形とどンな繋がりなのかは知ンねェが、そろそろ倒れといた方が身の為だぜ?」

浜面「……っ」

どうすれば、無能力者である自分がこの状況を覆せる。

一方通行「忠告はしたぞ」

浜面「……ッ!!」
 

416 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/04(金) 00:12:43.10 ID:g8d+St4+0



一方通行の動作と共に、せめて的になる事を避けようと浜面も動く。
回転する思考は何も導きださない。なにも弾き出してくれない。

出せない。と言った方が正しいのだが。

一方通行「寝てろ。クズが」

トン、と一方通行の拳が浜面の体に触れた。
驚愕を顔に浮かべる暇もない。音も無く距離を詰められ、耳元で聞こえたその声はまるで死刑宣告。
同時に訪れたのは、

浜面「お、あぁああああああああッ!!」

ボコン。と人体ではあり得ない、鋼鉄をへこませたかの様な鈍い音。
重機でもぶつけられたかの様な衝撃が浜面を吹き飛ばす。

砂利をまき散らしながら派手に転がり、止まった頃には体はぴくりとも動かなかった。

浜面「こ、が……」

一方通行「それで立つンなら今度はしっかり息の根を止めてやるよ。クソ野郎」

そう闇の中に隠れた浜面に言葉を投げた時には、もはや視線すら向けられてはいなかった。


417 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/04(金) 00:13:22.07 ID:g8d+St4+0



一方通行「ハッ、なンだか興醒めしちまったなァ」

ミサカ「…………」

身構えようと、抵抗の意思を灯し体を振るわせるミサカを、しかし一方通行はつまらなさそうに一瞥する。

一方通行「よォ、せっかくこっちが真面目に取り組んでンだ。頼むぜェ、もっとやる気出してくれよ」

そう言って、端から見ればそれは一方通行がミサカを足で軽く小突いた様にしか見えなかっただろう。

しかし、それは、

ミサカ「う、あッ……ぁぁあぁッ!!」

一方通行「おォ、悪い悪い。ちょっとばかし強くしすぎたわ」

ケラケラと一方通行が笑い、宙空へとミサカの細い体が投げ出される。
舞った体は重力に引かれ、落ちて、落ちて、どさりと。

一方通行「…………っ」

どさりと、無様に崩れ落ちながらも、浜面仕上が受け止めていた。


418 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/04(金) 00:14:49.35 ID:g8d+St4+0



浜面「……っ、う!」

ミサカを正面から抱き止めた浜面の声が、苦痛の音を奏でた。
全身に焼ける様な熱を灯し、もはや限界なのだろう、浜面がその場に膝を付く。

一方通行「おい。俺は言ったと思うンだがなァ。次立ったら殺すってよォ」

気付けば、向かいに立つ一方通行の笑みはどこかへと消え去っていた。
新たに染まって行くのは、浜面に向けられる明確な殺意。

浜面「……立てるか」

自分を貫く殺意に気圧されながら、掠れた声で浜面はミサカの耳元で囁く。
虫の鳴く様な声で肯定を示したミサカを支える様に、浜面は腕に力を込めた。

状況は時間の経過に連れて格段に悪くなっている。
浜面にとってこの場での前提条件は、一方通行の撃破などではない。
そんなことはまず不可能。可能性という言葉を口にする事すらおこがましい。
この場での一番の目的は、ミサカと自分が生き残る事だ。

そして、それを達成する為の最大の障害は、この学園都市の頂点。

一方通行。

どうしても、どう思考を巡らそうとも、最終的な壁としてこの超能力者へと帰結する。

浜面「……ちくしょう」

視界がくらむ。意識すら曖昧な中、今更ながら浜面は思い知る。
現時点、自分が立っているのはこの場所は一切の光すら差し込まない絶望的な闇の中だ。


419 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/04(金) 00:15:38.71 ID:g8d+St4+0



浜面「……逃げろ」

不意に、言葉が飛び出た。

浜面「俺が時間を稼ぐ。その間に逃げろよ」

伝えたのは策とは言えない、計画とも呼べない、馬鹿げた言葉だった。

結局、浜面は学園都市第一位に対して対抗策を導きだす事が出来なかった。
抗う事も、争う事も出来なかった。今の今まで思考する事で生き延びてきたが、
今回ばかりは通用しない。その行為すら許されない。

それが第一位。それが最強。

ミサカ「……冗談も、大概にしてください。とミサカは、あなたの言葉を却下します」

浜面「聞けよ……このままじゃ二人とも死んじまうんだぞ」

ミサカ「なら……逃げるべきなのは、あなたです。とミサカは優先順位を――っ」

言葉を遮ったのは、ミサカの体を走った激痛。
今も貫かれた腕からは血が溢れ、それは少女を抱きとめる浜面の服を真っ赤に染める。

ミサカ「ッ……そもそも、あなたがこの実験に介入する理由が見当たりません。
    とミサカは分析します。だから――」

苦痛に呻きながらも、ミサカは小さな声で反論する。
自分でも分からない程意地になってでも、この少年をここから遠ざけようと言葉を紡ぐ。
しかし、またもそれは遮られる事になった。

浜面「じゃあ、聞いてやる。お前は……なんで五日前に俺を助けたんだよ」

息も絶え絶えになりながら振り絞られた浜面の言葉によって。


420 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/04(金) 00:16:38.28 ID:g8d+St4+0



ミサカ「……っ!」

浜面「お前は、どんな理由があって俺を助けた」

五日前。
それは、神裂火織の手によって浜面仕上が死の淵まで追い込まれた、あの日。

自らの命を賭けて、少年を救おうとしたあの日。

あの時から胸の辺りに宿った靄の様なものを、ミサカは知らない。
知らないし、理解も出来ない。

ミサカ「……あ、」

だから、それを言葉にする事なんて出来ない。
選べるのは、取り繕った様な言葉だけ。

ミサカ「……猫が、あなたが死んだら……猫が路頭に迷います。と、ミサカは」

浜面「嫌だったんじゃねえのか?」

ミサカ「……え?」

浜面「知り合いの死体なんて、見たくなかったんだろ」

ミサカ「…………」

浜面「……なぁ、お前言ったよな。なんでここに、来たのかって」

浜面「後味の悪い思いをしたくなかったんだろ……見殺すのが、嫌だったんだろ」

耳元で囁かれる言葉が、ミサカの中で何かを満たして行く。
見つからないはずの解を当てはめて行く。

浜面「死んで欲しくないし、殺されてほしくないんだ。だから、」

ミサカ「……ミサカは」



浜面「だからお前は俺を助けてくれたし、俺はここに来たんだよ」



ミサカ「…………ミサカ、は」


421 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/04(金) 00:18:14.04 ID:g8d+St4+0



言葉の続きは、紡げない。あるはずの無い『なにか』が、ミサカの中で芽生えかけていた。
空の様な、花の様な、水の様な、炎の様な、そんな何かが。

ミサカ「ミサカは……ッ!!」

ぐるぐると、頭の中をかけられた言葉が回る。
浜面仕上にかけられた言葉が回る。御坂美琴が吐露した言葉が回る。
褪せる事無く、消える事無くそれは胸にかかっていた靄を晴らし、刻み付けられる。

ミサカ「――――」

そうして、ようやくミサカは理解する。
どうしてあの時少年を助けたのか。
この靄のようなものはなんなのか。
自分がどういう存在か。
ミサカ達の命の価値が。

全てを理解する為の『何か』を、その胸に芽吹かせる。


422 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/04(金) 00:19:15.54 ID:g8d+St4+0



浜面「俺だって死ぬつもりはねぇよ。いいから……俺が合図したら、走れ」

ミサカ「…………」

それは虚勢では無い。浜面は、まだ死ねない。インデックスを救えずに死ぬ訳にはいかないから。

ただ、どうやって生き延びるか。その具体的なビジョンが浜面には見えない。
第一位としてのプライドを利用するだとか、能力者特有の驕りを利用するだとか、
そんなぼんやりとした事しか浮かんでこない。

浜面(まずい、まずい、よな。ちくしょう)

かつての神裂戦を彷彿とさせる危機的状況に、しかし光明は差し込まない。
差し込むのは、死が刻々と迫って来る実感だけだ。

ミサカ「…………分かりました。あなたの合図と共に、ミサカは走ります」

浜面「……ああ」

意外とすんなり言葉を受け入れた事に、内心ほっとする。
腕に抱く華奢な体は傷と血に塗れていても、それでも特有の温かさがあった。
今更ながらに、浜面は実感する。

この少女達は、人間だ。

ミサカ「逃げる前に、一つ。いいですか。とミサカはあなたに尋ねます」

浜面「……なんだよ」

もう、余裕は無かった。いたぶるつもりなのか、最強はゆっくりとこちらへ近づいてきている。

ミサカ「猫の首飾り、ありがとうございました」

浜面「…………」

その言葉を少女から聞くのは、今日で二度目だった。
その言葉を少女からかけられたのは、初めてだった。

そして、


423 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/04(金) 00:19:41.80 ID:g8d+St4+0






バチィッ





424 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/04(金) 00:20:55.84 ID:g8d+St4+0



浜面「――え?」

ピクリと、体が跳ねた。

浜面「――――っ、あ」

足場が揺れる。

ぐらぐらと、暗転して。

ゆっくりと世界が傾く。

どさりと響いた鈍い音は、自分が倒れた音だった。

ミサカ「申し訳ありません。とミサカは懇切丁寧に謝ります」

浜面「な、にを……、」

何が起きたのか、理解が追い付かなかった。
倒れる直前に見えたのは至近距離で弾けた閃光。打たれた様な、鈍い衝撃


425 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/04(金) 00:23:31.34 ID:g8d+St4+0



ミサカ「ミサカも、あなたに死んで欲しくはありません」

浜面「お、ま……え、」

舌が上手く回らない。
体が痺れて動こうにもその場から立ち上がる事さえ出来なかった。

傷を押さえながら佇むのは、少女。
猫のマスコットを首からぶら下げながら、その少女は穏やかに笑っていた。

ミサカ「……――……――」

少し、申し訳なさそうに言葉を投げる。
浜面はその言葉の意味を理解できない。受け止められない。

浜面「待てよ、待て……っ、お前……まさか」

這いながら手を伸ばすも、届かない。最悪の想像が脳をよぎる。
それは絶対に避けたかった事で、それは絶対に防ぎたかった事で、

浜面「や、めろ……ミサカ……やめ、」

声も、届かない。

ミサカ「いろいろ、ありがとうございました」

ぼろぼろになりながら、今にも崩れ落ちそうになりながら、
どこかあの名も無い猫を思い出させるマスコットを吊り下げながら、最後にミサカはもう一度にこりと微笑んだ。
微笑みながら、最後にミサカは言葉をかけた。


426 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/04(金) 00:24:02.03 ID:g8d+St4+0







ミサカ「スフィンクスを、よろしくお願いします」






427 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/04(金) 00:25:02.52 ID:g8d+St4+0




浜面「……おい、なんだよ、それ」

そういって、ミサカは背を向けた。歩んで行くのは悪魔の元へ、死神の元へ、最強の元へ。

浜面「……っ!!」

無理矢理にでも立とうとしたが、今度こそ体は動かなかった。


ふらふらと少女の背が遠のいて行くのを、浜面は見ている事しか出来なかった。



428 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/04(金) 00:26:00.59 ID:g8d+St4+0



何かを仕掛けてくる様子も無く、目の前を訪れた少女に一方通行が怪訝そうな表情を浮べた。

一方通行「……どォいうつもりだ」

ミサカ「お望み通り、第10031次実験を再開するんですよ。
    と言っても、ミサカは既に満身創痍でこれ以上動く事はかないません」

一方通行「…………」

その言葉は事実だろう。現に目の前の個体は息も浅く、全身に傷を負い、
押さえている腕からは未だに血が溢れている。

これ以上の戦闘は、もはや望めない。

ミサカ「様々なイレギュラーによって本実験は多大な遅れが生じました。とミサカは報告します。
    一刻も早く軌道を修正する為に、いち早く第10031次実験を終了させる事をミサカは提案します」

一方通行「ハッ、つまりなンだァ? お前は俺に早く潰してくださいって言ってンのかよ」

ミサカ「ええ」

一方通行「…………。やっぱ理解出来ねェな。人形ってのはよ。死ぬってのになンとも思わないンかねェ」


429 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/04(金) 00:27:21.11 ID:g8d+St4+0



ミサカ「……おかしな事を言いますね。そもそもこれはあなたの為の実験では?
    とミサカは疑問を口にします。」

一方通行「アー、ハイハイ。ンなに死にたきゃお望み通り潰してやるよ」

ミサカ「…………」

一方通行「にしても、ホント邪魔しかはいンねェ実験だったな」

衝撃だったのは、第三位の介入。そして一時的ではあるがこの自分を追い込んだと言う事実だ。
一つでも何かが狂っていれば、いま自分はここに立ってはいなかっただろう。

しかし、その出来事がいい意味でも悪い意味でも更に自身を加速させることを、一方通行は確信していた。

それは絶対への渇望。無敵への憧れ。突き進んだ道への疑問。

だが、これからも自分は振り返ることをせず、何かを背負うこともなく、たった一人でその名の通り突き進むのだろう。

邪魔をするものは誰もいないのだから。

一方通行「ハッ」

少年が笑う、少女に死を届けるために一歩を踏み出す。
高みへと登り、絶対へと至る為に一歩を踏み出す。

一方通行「じゃあな、出来損ないの模造品」

トン、と一方通行が軽く地面を踏みつける。
伝わった衝撃は増幅され、遠くで何かが弾ける音がミサカの耳にも届いた。


430 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/04(金) 00:30:09.57 ID:g8d+St4+0




月を背に舞い上がったそれは、この操車場にいくつも積み重ねられたコンテナの一つだった。
言葉通り、一方通行はアレでミサカを潰して殺すのだろう。四角いコンテナが風を薙ぐ鈍い音が、やけに長く響いている。

ミサカ「…………」

一方通行「……あァ、そうだ」

実験終了まで残り数秒という所だろう。一方通行が思いついた様に口を開いた。
それは、染み付いた習慣のようなモノなのだろう。
いつもまともな返事が返ってこないと分かりつつ、一方通行は常に、どの妹達にもその言葉を投げていた。
だから、この言葉に深い意味なんて無い。
今日はどのタイミングでも言いそびれていて、まるで思い出したかの様に訪ねただけだ。

そう、訪ねてしまった。



431 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/04(金) 00:30:53.63 ID:g8d+St4+0




一方通行「なンか言い残した事は、あるか?」





ミサカ「……ええ、ミサカは死にたくありません」





一方通行「…………は?」



432 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/04(金) 00:35:26.24 ID:g8d+St4+0



思わず、そんな間抜けな声が出てしまう。全身が石にでもなってしまったかの様に動けなかった。
コンテナはもう頭上に迫っていて、少女に陰っていて、這いつくばる少年は何かを叫んでいて、何もかもが間に合わなくて――

対するミサカは、どこか悲しそうに、それでも頬んでいた。
胸に吊り下がるマスコットを握りしめ、どこか安らかに笑みを浮かべていて、

その時ミサカの脳裏によぎったものは、一方通行には分からないであろう。
それは少年との出会いであったり、シスターとの出会いであったり、動物との触れ合いであったり、
御坂美琴の想いであったり、今まで死んで行った妹達であったり、少年にかけられた言葉であったり、

それは、ミサカというひとりの少女に『心』を宿した全てのものであって、



ミサカ「他の誰でもない、この『ミサカ』の命に価値がある事を、ミサカは教わりました」



だからミサカ10031号は言い残す。他の誰にでも無い、真っ白でいられなかった少年に。



ミサカ「――だから、ミサカは生きていたい」









ぐしゃ
433 : ◆v2TDmACLlM [saga !red_res]:2011/11/04(金) 00:36:02.04 ID:g8d+St4+0




轟音と共に広がったそれは、鮮やかな赤だった




434 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/04(金) 00:37:08.65 ID:g8d+St4+0



浜面「う、あ、ああああぁああぁあああぁぁあああぁぁぁあああああああああああああああああッ!!!!!!!!」

少年の絶叫が、闇に包まれた学園都市に延々と響く。

対し、もう一人の少年は言葉一つ発さなかった。

……いいや、この表現は正しくない。

一方通行「…………」

最強を謳う少年は、言葉一つ発せなかった。

最強を謳う少年は、目を見開き、震えていた。

一方通行「……………」

赤が飛び散りひしゃげたコンテナを目の目に、まるでそこに畏怖の象徴でもいるかの様に、震えて、怯えて、呆然と立ち尽くしていた。


435 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/04(金) 00:37:45.62 ID:g8d+St4+0







こうして長い夜は終わる。



こうして第10031次実験は幕を下ろす。



こうして、七日目の夜は過ぎて行く。






436 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/04(金) 00:38:23.08 ID:g8d+St4+0








それは、終局へ向けてのプロローグ。







437 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/04(金) 00:39:18.07 ID:g8d+St4+0



ここまで。ここで引っ張ってしまったのは正直いたかった。
本当にすません。これで第10031次実験編は終了となります。
同時に物語の2/3が終了しました。いや、あくまで目安なんで残りが同じ長さとは限りませんけど。
テレス撃破までとそこから実験終了編はかなりレス数に差あるみたいだし。多分一番長いかもしれない。
とにかくいつも見てくださってる皆さん本当のありがとうございます。
待たせっぱなしな時があってもうしわけない。その分はどこかで詰めて書こうと思います。

例え救えなくてもたとえ負けても浜面の物語が終わる事はありません。このまままだまだ続いて行きます。

今回の次回予告は無し!次は少し視点が別の人に変わるかもしれません。ではでは。




438 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(神奈川県) [sage]:2011/11/04(金) 00:40:50.90 ID:QMATVl5Po
乙乙
次回に期待
439 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/04(金) 00:41:24.17 ID:MwWcwbfk0
乙!!!

あああああミサカがああああつぶれちまったよおおおおお

浜面は上条さんと違って負けてもそのまま進まんとイカンのがきっついね

440 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/04(金) 00:41:27.81 ID:tgFVzqbDO

次も楽しみに待ってる
441 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/04(金) 00:41:38.21 ID:bD9Z0Li70

相変わらず救いようのない絶望感
442 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(神奈川県) [sage]:2011/11/04(金) 00:44:21.90 ID:lSG1wZFH0

なんともいえない悲しさだな
443 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/11/04(金) 01:02:31.25 ID:JIFZFYTZ0
乙 唯一負けても物語が進展する主人公の辛さを始めてみた気がする
444 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(関西地方) [sage]:2011/11/04(金) 01:15:32.46 ID:GU41lxfx0
うわあああああああああああああ乙

浜面より一方さんの今後が気になるね
445 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(福岡県) [sage]:2011/11/04(金) 03:12:38.55 ID:XeFhrr4l0

ホント浜面は一歩足を進めるたびに
心身共にボロボロになるな・・・
446 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(北陸地方) [sage]:2011/11/04(金) 08:27:26.14 ID:JGkmEHAAO
ちくしょう、やっぱり全員救うことはできないのか……
447 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(関西・北陸) [sage]:2011/11/04(金) 09:53:19.52 ID:FI7nbEuAO
乙。

ここで一方さんは初めて人形じゃなくて人間を殺してきた事に気づいちゃったんだね……
448 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(岡山県) [sage]:2011/11/04(金) 09:55:49.26 ID:K7VSRG5G0
絶望のまま進むことになるのか。浜面も一方通行も。
そしてまだ七日しか経ってないのかい。密度濃すぎだろ。
449 : ◆v2TDmACLlM [sage saga]:2011/11/07(月) 20:58:01.72 ID:zxWnVqWAO
話も2/3終わって区切りいいのでここで一度人物紹介更新版。
450 : ◆v2TDmACLlM [sage saga]:2011/11/07(月) 21:02:20.23 ID:zxWnVqWAO



浜面仕上

主人公。無能力者。体晶に適応しているチート体質ながらもレベル0。
微弱な能力こそあるもののそれは曰くレベルが3あっても役に立たないらしい。
多分ここ一週間は誰よりも不幸。
現在様々な荒波に揉まれ奮闘中



インデックス

ヒロイン。ピーチ姫ry
浜面によって学園都市の能力者になることを決意。
しかし日中聴きまくってた幻想御手のせいでその能力を披露する間もなく植物状態へ。
と思われていたが……?
能力不明。レベル不明。
現在入院中



スフィンクス

主役。浜面の寮に住み着き、ミサカが世話をし、インデックスがかくまった一匹の猫。
激戦を渡り抜く浜面に付き添い未だ傷一つないすごい猫。その役割とは……?
長い間名前が付くことがなかったが、心を宿したミサカの意思によってその名は遂に決定された。
しかし、彼女がその名を呼ぶ事はもうない。



絹旗最愛

主役。なんか近くにいるとどぎまぎするけど浜面とはよきお友達。
常盤平に所属するも不登校。友達が少なry
暗闇の5月計画の被験者。



滝壺理后

主役。アイテム大好き。麦野超好き。
過去にとあるトラウマを持ち若干人間不信気味。
同じ体質のせいか浜面にはなついている。
その能力をフルに使えばレベル0をもレベル5に引き上げる事が出来るらしい、
果たしてそれの意味するところは?
施設防衛の際、瀕死の麦野を守ろうと隠し持っていた体晶を全て使いきり
絶対能力者状態の御坂美琴に挑み善戦するも負傷。現在入院中。
何らかの実験の被験者。



フレンダ

鯖。能力値は3
目的はあるもののそれなりにアイテムにはご執心。
重傷だらけのアイテム勢の中でもそれなりに軽傷。
プロデュースの被験者。



麦野沈利

主役。レベル5でありながらも勝ち越しはテレスティーナだけ。
戦う相手が格上過ぎてなかなか活躍出来ないもしかしたら上条さん以上に不運な人。
垣根帝督にボコボコにされ御坂美琴には右目と左腕を持って行かれ惨敗。
道具は道具。だったけど最近は愛着が沸いてきた模様。
現在入院中。



451 : ◆v2TDmACLlM [sage saga]:2011/11/07(月) 21:06:24.94 ID:zxWnVqWAO



御坂美琴

主役。全ての元凶。
たった一人で一方通行を殺す為、幻想御手に手を出す。
140万人という超々規模のネットワークを駆使し、擬似的ながらも絶対能力者へと辿り着いた。
その悪魔的な戦闘能力は一方通行さえも楽々と追い詰めたが、御坂美琴を殺す為だけに作られた番外個体に敗北。
その絶望によって引き起こされた雷は学園都市の全てを殺す。
その直後セレクターを爆破された番外個体の治癒を一方通行に懇願するが、自身も身を裂かれてしまった。



番外個体

主役。御坂美琴を殺す為だけに無理矢理産み出された妹達。
その莫大な悪意は全て御坂美琴に向うよう調整されている。
能力差をものともせず終始美琴を圧倒するが、さらなる絶望と悪意を植え付けるために体内に埋め込まれたセレクターを爆破。
学園都市が死に至る引き金をひいた。



ミサカ

主役。猫が大好き。
浜面を助ける為に一度は命を賭け、二度目は命を捨てた。
浜面や猫、御坂美琴と触れ合う中で存在価値を見出だし感情と心を獲得。
名残惜しみながらもスフィンクスを浜面に任せ、一方通行にとある言葉を言い残し死亡。
製造番号は10031号



一方通行

主役。学園都市の第一位。
妹達を殺すことに迷いはなく人とは認識していない。が、浜面仕上を助けるよう10031号に脅され手を貸す。
その後、人を救える力があるかもしれない自分の今までの生き方に僅かな疑問を持つが実験をやめてしまえる訳がなく、
結果生きたいと願った人間<ミサカ>を殺した事によってその疑問は決定的な確信へと変わってしまう。



垣根帝督

主役。学園都市の第二位。
初日からこれから起こる事を全て予見した実は超すごい人。
しかし第二位という奢りからか、針の穴程の詰めの甘さが彼と心理定規の死を決定付けてしまった。
バッドエンド確定済みの一人。



心理定規

主役。垣根のパートナー。
精神操作系能力者だけどメンタルは並。
垣根と共通の目標を目指し、隣で歩くのは危ないから背負ってもらってる。
しかし垣根は彼女の能力の恐ろしさを真に理解していない。



初春飾利

主役。風紀委員。
佐天涙子が幻想御手によって昏睡したのをきっかけに
浜面、上条らと協力体制へ。
卓越した情報処理能力を持つが、現状の学園都市においてそれは意味のないスキルとなった。


452 : ◆v2TDmACLlM [sage saga]:2011/11/07(月) 21:10:21.49 ID:zxWnVqWAO



木山春生

主役。全ての黒幕。
全ての事件を無自覚に絡め、どんな手を使ったのか定かではないが学園都市の半分以上の人間に幻想御手をばらまいた研究者。
その目的はたった一つ。

この街の全てを敵に回しても。という彼女の言葉の真の意味はまだ誰も知らない。



453 : ◆v2TDmACLlM [sage saga]:2011/11/07(月) 21:12:46.80 ID:zxWnVqWAO



上条当麻

脇役。その役割のほとんどを終えたヒーロー
この物語では彼は主人公でも主役でもない。



454 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(関西・北陸) [sage]:2011/11/07(月) 21:16:51.87 ID:zxWnVqWAO
こんなもんすか。本編更新は今週にでも。ではでは
455 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(長屋) [sage]:2011/11/07(月) 23:47:58.37 ID:oCVXV0sxo
何が格好いいって上条さんを脇役と言い切るところがもう

456 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/08(火) 09:12:45.29 ID:FmWgJFt10
常盤平にはつっこんでおくぜ!

457 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/08(火) 10:11:57.29 ID:3Z38kYTIO
御坂と番外個体が明確に死亡したと書かれてないのが気になるな…
次回も期待しますん
458 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(栃木県) [sage]:2011/11/08(火) 20:18:18.62 ID:7rYYeM/Mo
布束さんは番外に殺されちゃたんだっけか
459 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/11(金) 02:32:40.82 ID:b7zV+anD0





――八日目――




460 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/11(金) 02:33:09.33 ID:b7zV+anD0





・舞台裏




461 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/11(金) 02:33:55.74 ID:b7zV+anD0



「…………」

ドレスの少女がそのホテルの一室からガラス越しに見下ろしていたのは、闇に呑まれた街だった。

常に輝きが途絶える事の無かった科学都市の総本山。
しかし今はその見る影すら無い。街からは光が消え、科学都市としての機能を失い、気味の悪い静寂が満ちて行く。

そこに栄華の限りを極めた華やかさを感じる事は出来なかった。

見上げればいつもそこにいた月でさえも、夜の空に身を隠してしまっていた。

全てが全て、黒に染まる。

「…………」

闇と光を隔てていたこの世界の境界線は、たった一人の少女によってズタズタに破壊されてしまった。

「……何も見えないわね」

ぽつりと、少女が呟いた。
視界に映るのは、闇。

限りなく純度の高い夜の闇。

「だろうな、なんせ学園都市全域……もしかしたら外にも被害が出てるかもしれねぇし。
 どのみち数日はこの街に光が灯る事はねえよ」

「……そう」


462 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/11(金) 02:34:44.08 ID:b7zV+anD0




暗闇から聞こえた声の主は、多分ベッドにでも寝転がっているのだろう。
この闇に包まれていても、彼の調子はいつもと変わらなかった。

多分、慣れてしまっているのだろう。
長きに渡り暗部の深淵に居座っていた超能力者――垣根帝督は、尚もその余裕を崩さない。

例え一切の光を奪われた闇の中でも、それでも彼は不敵に笑うのだ。

「…………」

少女の沈黙は、不安の表れ。

学園都市の闇に抗いほんの少しの自由を得た自分達を、光さえ喰い破り再び包みこんできた闇に対しドレスの少女はその不安を押し殺す事は出来なかった。
まるでそれは何かを暗示しているようで、どう足掻いてもお前達は逃げられないんだと言われているようで。
この状況が垣根帝督の計画通りだと分かっていても、その不安は心の最奥からゆっくりと這い上がってくる。

「……すごかったわね。あの雷」

だから少女は言葉を紡ぐ。
心にも無い言葉を紡ぐ。まるで振り払うかの様に。

「ん? あぁ、だから言ったろ。面白いものが見れるってよ」

「面白いもの……ね」


463 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/11(金) 02:36:17.23 ID:b7zV+anD0



思い起こすのは、学園都市を殺した光。

超電磁砲の放った雷……いや、雷とは言えないだろう。あれはどんな言葉で表せばいいのだろう。

裁き? 天罰? 審判? 断罪? 神罰? 死の光?

一つ言える確かな事は、そんな言葉でしか表現できないぐらいにあの力は人の枠を越えていたという事だ。

空が啼く様を、ドレスの少女はあの瞬間初めて見た。
それは、一人の少女の嘆きでもあった訳だが。

「ありゃ一種のチート、改造コード、裏技みたいなもんだからな。
 多分あそこまで演算能力が引き上げられたら一方通行や俺でも太刀打ちできねぇよ
 まぁ、それでも一方通行の野郎は死なねえんだろうな。こっちとしては殺されてくれたら楽だったんだが」

布のこすれる音と共に、暗闇の中で床が軋んだ。
こちらに向かってくるでも無いその足音を、少女は視線だけで追いかける。
そこに垣根の姿は見えない。

「……意外ね。あなたが負けを認めるなんて」

「あ? ……あー、つうかあれは電撃使いとか超能力者とかそういう枠を軽く越えちまってるんだ。
 明らかに能力者が上るべき階段を100万段程すっ飛ばしてやがる。
 俺達レベル5は一人で100の敵に勝てるが一人で100人の超能力者には勝てないんだよ」

そう言って、ぴたりと垣根の足音が止まる。
何かを探しているのか、ガサガサと小さな音が耳に届いた。

「……つまり、今の御坂美琴は超能力者100人分に匹敵してるってこと?」

「いや、大体50人分ぐらいじゃねえの」

「…………」


464 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/11(金) 02:37:23.13 ID:b7zV+anD0



小さく、しかし間髪無く返された言葉に、ドレスの少女は眉を潜める。
どうも垣根の言葉に現実味が湧いてこなかった。学園都市にたったの6人しかいない超能力者。
そのおおよそ十倍。垣根が50人いると考えればいいのだろうか。

「…………それは、なんというか。嫌ね」

「おい、なんか変な想像したろ」

呟きに対し、垣根の視線が真直ぐにぶつかって来ている気がした。
ドレスの少女は気付かない振りをしながら、再びガラス越しに学園都市を見渡す。
とは言え、なにも見えはしないけど。

「…………」

つい数時間前まではまだ光が灯り、しかし今は闇に覆われた科学都市。
自身の輪郭すら薄れて行きそうな暗闇の中で少女は今更ながら思い知る。

「……あなたが七日前に言っていた言葉の意味、ようやく理解できた」

「七日前?」

「ほら、言ってたじゃない。アイテムに追いかけられて、魔術師ってのを倒した時。電話越しで」

「……おぉ、あれな」

――あと七日間逃げ切れば学園都市は死ぬ。

ぼんやりと、少女は電話越しに聞いた垣根の言葉を思い出す。
初めて聞いた時には理解も想像も出来なかったその言葉の意味は、今なら分かる。
そして垣根に対し抱いたのは驚嘆と、ほんの少しの畏敬の念。

少女にとって真に恐ろしいのはこの災厄を生み出した御坂美琴ではなく、この結果を七日前の時点で言い当てていた垣根帝督。
その頭脳にどれほどの思考の海が広がっているのか、想像も付かないし底も見えない。


465 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/11(金) 02:37:58.58 ID:b7zV+anD0



「お、見つけた見つけたみつけたよーん」

「…………」

今しがた考えていた事を取り消したくなるような軽い声が聞こえた。
続けざまに聞こえてくるのは、ピッ、ピッ、という機械音。

「何してるの?」

「ピンセットで一応の確認……ハッ、予想通り滞空回線はもう使い物にならねぇな」

どこか機嫌の良さそな声。ゴトンっ、というのは垣根がピンセットを放り投げた音だろう。
七日前に強奪した、名の通り二本の爪が伸びる金属性のデバイスはもう用済みらしい。

そして、それは同時に垣根達に与えられた僅かな安息の時間が終わった事を意味していた。


466 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/11(金) 02:38:31.26 ID:b7zV+anD0



「そろそろ動くぞ」

その瞬間、垣根の声色が明らかに変わったのをドレスの少女は感じ取る。
急激に体の奥底から緊張感が迫り上がり、同時に自身の切り替えも行った。

ただの少女から、忌むべき闇の住人へ。

「学園都市は死んだ。手足を捥がれたアレイスターにプランを進める術はねぇ。
 こっから先はアイツの掌から溢れた未知の世界。アイツの思惑通りに事が運ばない世界だ」

垣根の声だけが暗い部屋の中で木霊する。
相変わらず自身の輪郭すら見えない闇は、少女に言いようの無い不安を植え付ける。

「俺達の目的はアレイスターを潰す事じゃない。あくまで対等の立場につき交渉権を得る事だ。
 その為には奴が並行して進めているプランを全て潰し、未元物質が第一候補に繰り上がる必要がある」

「その為の鍵が魔術の情報を持つガキ――インデックスだ」

「……魔術の情報、ね」

「ああ、場所も分かっている。撒いた餌はちゃんと機能してくれたようで助かったぜ」

くつくつと垣根から漏れるのは昨日の朝方に敵対した、あの無能力者の少年を思い出しての笑いだろう。


467 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/11(金) 02:39:00.01 ID:b7zV+anD0



打った布石は面白いくらい思い通りに機能した。アイテムの小間使いが馬鹿正直に垣根の言葉を信じて
インデックスに会いに行ってしまった時は笑ってしまったものだ。それこそが彼女を死へと導いてしまうというのに。

「そのアイテムの小間使い。彼の事は、ちゃんと調べたの?」

「あ? あー、ただの無能力者だろ。つい最近暗部に片足突っ込んだらしい。
 それ以前はスキルアウトとして活動してた、ぐらいしか特筆するとこはなかったはずだ。
 魔術師との関わりは知らねえが、気にかける程でもねえよ」

「……そう」

今少女がどのような表情をしているのか、垣根からは見えていない。
何かを考え込む様に目を伏せ、脳裏に過るのは浜面仕上に銃を向けていたあの一瞬。

何故だろう。と少女はぼんやりと考える。

(……なんで、)

何故あの無能力者は『心理定規』が通用しなかったのだろう。

どうしてあの少年の心を塗りつぶせなかったのだろう。

考えても考えても、その答えだけは分からなかった。


468 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/11(金) 02:40:22.85 ID:b7zV+anD0



「で、だ。これからの事だがよ」

思考は、垣根によって遮られる。

「まずはメインプランだけを残して予備のプランを全て叩き潰す。この七日間で必要な情報は全て叩き込んだ。
 これはそう時間のかかる事じゃねえ、1日あれば充分だ。そして魔術師のガキから知識を奪って殺せば全てが終わる」

簡単だろ? という問いに少女は素直に言葉を返せない。
とてもではないが少女には、それが容易い事とは思えなかった。

信用していない訳ではない。無謀だと思っている訳でもない。

ただ単に、不安なだけだ。

「…………」

自分たちの進む道に、先があるのか。
垣根には見えていて、自分には見えないその未知を歩くのが不安なだけだ。

それはたとえ隣に垣根がいると分かっていても、完全にぬぐい去る事は出来なかった。

「…………」

「行くぞ」

「…………」

「おい、何やってんだ。こっち来いよ」

「……あなたの姿が見えないんだけど」

「……ちっ、世話のかかる奴だな」

言葉が終わったその瞬間、空間に照らされたのは輝きと呼ぶには大げさで、光と呼ぶには弱すぎる灯火だった。


469 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/11(金) 02:42:30.33 ID:b7zV+anD0



「……あ、」

その灯火は燃え移るかの様に連鎖的に空間を照らして行く。ゆっくりと暗闇を割いて行く。
視界にぼんやりと映し出されて行くのは最早見慣れた部屋に、そこに立つ一人の少年。
徐々に輪郭がはっきりと、弱い光に照らされながらも浮かび上がり窓ガラスには一人の少女が映り込む。

「おら、これでいいだろ」

不承不承ながらに頭を掻き、垣根が呟く。
少年の体を中心に広がる灯火は燐となり、更にほのかな燐光が一つの空間を満たしていった。

くすりと、笑みが溢れる。もはや少女の視界に暗闇は存在しない。

「なんだか久しぶりにあなたを見た気がする」

「何言ってんだテメェ」

「あはは、ごめんなさい。それにしてもずいぶんメルヘンな演出ね。未元物質ってそんな事もできるんだ?」

「こんなくだらねえ事に使わせたのはテメェが初めてだ」

「それは……ちょっと嬉しいかもね」

「ちょっとこっち来い。殴る」

そういって、垣根は手を伸ばす。少女に向かい、その腕を差し出す。
そして少女は安らかに微笑み、その腕を伸ばしたところで――

「あっ」

思いっきり引き寄せられた。そして少女を包む込んだのはよく知る体に、ほのかな匂り、切なくなる温もりに、

――未元物質で生成された、燐を放つ白の翼。

その一瞬で、場の空気が異質なものへと変質する。

「――えっ?」

「黙ってろ」

上から聞こえる有無を言わせない垣根の呟き。そこに優しさはなく、視線は外へと向いていた。

そして、少女が垣間みたのは一瞬。



「自分らに酔って好き勝手ラブコメしてンじゃねェよ。ボケ」



黒と白を纏った小柄な少女が空高く舞い、窓ガラスを蹴り破る瞬間だった。


470 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/11(金) 02:43:25.53 ID:b7zV+anD0




             次回予告



「ムカつく喋り方だな。どこかのクソ野郎にそっくりじゃねぇか」

                    未元物質・垣根帝督





「おォ、こわいねェ。数字の順番がそこまでコンプレックスかよ」

                    窒素爆槍・黒夜海鳥





471 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/11/11(金) 02:44:30.49 ID:b7zV+anD0




うがー、ペースダウン。ていうか今までの投下が大量すぎた。ちょっと引きが甘いなーと思いつつ、ここまで。
いちゃいちゃ空間がシリアル戦場に早変わり。
明日以降私用で投下できるか分からなかったんで今回は投下予告無しでした。
あったほうがいいなーという方は申し訳ない。
という訳で垣根視点です。せっかくなんで黒夜ちゃんにも出張してもらいます。
続きは近いうちに。ではでは


472 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/11(金) 04:38:46.13 ID:P65YbrFIO

そう言えばいたねていとくん
いろいろ衝撃展開だったから忘れてた
473 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(長屋) [sage]:2011/11/11(金) 06:52:59.21 ID:bOBIZJ8to
うおおお風呂敷がでけええええええ
474 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(愛知県) [sage]:2011/11/11(金) 09:17:06.99 ID:2Ytb0b4T0
ここで黒夜・・・だと!
475 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(岡山県) [sage]:2011/11/11(金) 09:26:06.07 ID:uyWbDBo40
でも、作者公認でバッドエンドなんだよなていとくん。
476 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(関西・北陸) [sage]:2011/11/11(金) 17:29:04.22 ID:m6JqFD8AO
>>472
美琴の流れからが凄まじすぎてインさんとていとくんの存在感がマッハ
477 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/11(金) 23:30:14.71 ID:pch/3E/Qo






                  心




                  か








478 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(不明なsoftbank) [sage]:2011/11/24(木) 13:05:07.35 ID:fAnShH3bo
待ってるさ
479 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/27(日) 02:35:41.25 ID:101AdzdJ0
ようやく追いついた!
そして続きに期待!!
480 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/29(火) 15:50:37.76 ID:ySiIuuqw0
続き待ち中ー
481 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/05(月) 12:08:35.23 ID:x/AiARDm0
待ってる
482 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/06(火) 03:06:18.25 ID:HKiDAftDO
待ってる
483 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/08(木) 05:11:41.91 ID:ROF2UBay0




ガッシャァァァン。

そんな甲高い音が響き渡る。そこに降り立ったのは、やはり小柄な少女だった。
部屋に満たされたほのかな燐が少女を照らす。目つきは悪く、頭に引っ掛けられた白のトレンチコートが吹き込んだ風になびいてる。
手にはこの場にそぐわないかわいらしいイルカのぬいぐるみが抱かれていた。

「な、何?」

「はァ? 何ってオイオイそンなの分かりきってるだろォが、スクールのお嬢さン」 

キャハッ、と、とても友好的とは言えない笑顔で少女が笑った。そこにあるのは歪んだ嘲笑と、明らかな苛立。

「ホントはさァ、勘弁してほしいンだよね。
 私はこンな事する為にずっと爪を研いでたンじゃないのにさ。泣けてくるよ」

「ムカつく喋り方だな。どこかのクソ野郎にそっくりじゃねぇか」

「黒夜海鳥。覚えなくてもいいよ。どうせすぐに忘れられなくなる」

言葉を置き去りに、先に動いたのは黒夜だった。
その掌に凝縮された槍状の物質を垣根に向けて放ち、一気に詰め寄る。

対し垣根がとった行動は向かい来る衝撃を打ち消す事でもなく、黒夜自身を狙う事でもなく、

「きゃ――」

その衝撃を殺しながらも真っ向から受け止める事。
少女の悲鳴と共にふわりと体が宙に舞い、不可視の爆槍に押され向かうは後方。
そこにあるのは扉。



484 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/08(木) 05:12:08.49 ID:ROF2UBay0




バァン!と音を放ち木製のドアが薄暗いフロアに弾き飛ばされた。
共に吹き飛んできたのは、少女を抱いた垣根帝督。

しかし、その身には埃一つ被らない。

「おい、テメェはさっさと逃げろ。邪魔だ」

「え? でも……」

「恐らくアイツ以外は来てねぇ。いても心理定規を使えばたいていの奴にはなんとでもなる
 とにかく俺が着くまで下にでも隠れてろ」

「……大丈夫なの?」

「誰に言ってるんだ? それ」

「…………」

粉塵が舞う僅かな時間、少女と少年の間で交された会話はそれだけだった。
軽く背中を押し、燐の届かない暗い通路へと少女を突き放す。

視界が晴れた時には、既に足音は聞こえなくなっていた。

「は。意外と冷静じゃンか。そんなにその女が大事なのかなァ?
 随分俗だねェ、学園都市第二位は」

「おぉ、テメェも遊んでもらうなら俺みたいなカッコイイおにーさんがいいだろ?
 安心しろよ。まずはドアの開け方から教えてやる」

「つまンねぇジョーク」

イルカのぬいぐるみを踏みつけながら、黒夜が歪な笑みを浮かべる。
掲げた掌から噴出するのは、大気中の窒素を高濃度に凝縮した槍。
徐々に伸びて行くそれは天井を削り、そのまま部屋を割きながら垣根に向かって振り下ろされた。



485 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/08(木) 05:12:48.75 ID:ROF2UBay0




微かな笑みと共に共に垣根の背から二対、三対と翼が瞬時に顕現される。
未知の物質で造られたそれは爆槍を消し飛ばし、無造作に黒夜へと向かい壁ごと乱雑に薙ぎ払う。

「おっとォ、やっぱそう簡単にはやられてくンないよねェ!!」

「ハッ、課外授業だ。そのムカつく喋り方に免じて特別に超能力ってのを教えてやるよ」

二撃、三撃と真白の翼が少女へ追撃する。
一見柔らかそうなそれは極めて硬質な一撃と変質しており、壁を貫きながら次々と部屋の中にあるものを砕いていく。
そして、それを狭い空間で人間離れした動きをこなし躱して行く少女。

「オイオイ余裕ぶってると痛い目みるぜェ? あンま調子のンない方がいいンじゃない?」

「なら一発くれてやる。死んだら大人しく帰れよクソガキ」

瞬間、言葉を置き去りにし、黒夜の視界から垣根の姿が掻き消えた。

「ッ!?」

そして少女の小さな体に食い込んだのは、不可視の衝撃。
足が浮き、体が不自然に折れ曲がる。勢いは止まらずその体は重力に逆らい、天井を貫く。

「お、おおォォォ――ッ!!」

何層も、何層も、何層も。

突き破る都度に衝撃は黒夜の体に蓄積され、壊れて、壊れて――

「――が、はァッ!!」

その体に風が薙いだ時、自分が屋上も突き抜けて漆黒の夜へ放り出されたのだと、少女は理解する。
視界の端に映るのは、闇を裂いてその場に存在する純白。





486 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/08(木) 05:13:27.02 ID:ROF2UBay0





「かッ……あ」

コンクリートに叩き付けられ、少女の口から漏れたのは赤の混じった呻きだった。
立ち上がるその姿は傷だらけで、すでに満身創痍にも見える。

対するは、白を纏い余裕の笑みを浮かべた超能力者。

「まだ生きてるのか。案外丈夫だな」

「オイオイ、本気出し過ぎだろ。流石に勘弁してよ。
 私はあの絹旗ちゃンみたいに防御特化じゃないンだからさァ」

「はん。『暗闇の五月計画』の残骸か。難儀だよな。
 一方通行の演算パターンを参考に各能力者の『自分だけの現実』を最適化しようとかって内容だっけか」

「……、」

「結果、テメェが得たのはベクトル操作を基にした徹底的な指向制御能力。
 元々は風力使いか何かなんだろうな、アイテムにいた絹旗最愛もよ。
 だがテメェは掌からしか噴射する事しか出来ねえみたいだ。惨めとか思わねえの?」

「は、そンなくだらねェ拘りは遠の昔に捨てちゃったよ。
 むしろそれに拘っちゃってるのはアンタだろ? なァ劣等生」

「…………あ?」



487 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/08(木) 05:13:56.70 ID:ROF2UBay0




ぴくりと、垣根の表情が僅かに揺れた。
黒夜はその変化を見逃さず、愉快そうに嘲笑う。

「学園都市第二位。未元物質。名の通り未知の物質を生み出す、だっけ?
 はン、大仰な能力だ。それだけの能力を誇りながらきったねえ仕事して、
 それだけのキャパシティを持ちながらそれでも目の前の壁は越えられず、
 そンで挙げ句の果てには駄々をこねる様に学園都市を混乱させてさァ、
 上から聞いたよアンタの目的。アレイスターに認めてもらいたいんだって?
 ひゃっはははは!! あァ、思い出して笑っちまった。なあ垣根帝督。なぁ劣等生。
 そんなアンタに一個聞いていい?」

愉快そうに、少女が笑う。


「自分が惨めだとか思わない訳?」


その瞬間、場の空気全てを塗りつぶしたのは垣根から放たれるどす黒い殺意。
見るもの全てが怯える程の視線に乗せるそれは、憤怒。

「おォ、こわいねェ。数字の順番がそこまでコンプレックスかよ」

「死ね」

「お前が死ね」

直後、遥か階下で何かが弾ける音がした。
しかしそれだけでは止まらず、音は続く。
何かが這い上がって来るかの様な、そんな気配と共に、

黒夜が突き破った大穴から吹き出してきたのは、何千何万もの腕だった。




488 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/08(木) 05:14:24.31 ID:ROF2UBay0





「……っ」

数えきれない程のその腕は、一つ一つが互いを掴み合い、それは一本の巨大な腕の形を成していた。

仰いでしまう程の巨大で歪な腕。
そして頂へ立つのは、黒夜海鳥。その背には、脇腹には、肩には何本もの腕が紡がれていた。

「は。第三位のボケのせいで動くか心配だったけど、さっすが木原印のキチガイ製品だ。
 どこにも問題ねェじゃん。これで思う存分暴れられるってもンだよね」

「サイボーグ……悪趣味な奴だな。頭のネジが飛んでるとこまで一方通行に引き摺られてんじゃねぇの?」

「垣根くーン。悠長に構えていていいのかにゃーン? 私の能力の特性、忘れてない?」

「あ?」

黒夜海鳥の能力。それは、掌から窒素を制御し噴射する能力――

「……っ」

「遅ェよ」

それは一瞬の思考の隙だった。



489 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/08(木) 05:14:48.81 ID:ROF2UBay0




垣根に向けて撃たれたのは大能力者おおよそ数千人分の出力を誇る窒素の爆槍。
小さな腕が塊となり、その指先には更に腕が枝分かれし、一つ一つが束ねられ、
数百メートルにも及ぶ大質量が垣根の立つホテル諸共を突き崩す。

「こ、のぉ――ッ!!」

それは、垣根にとっては避ける事も出来たはずだった。

しかし、

「ひゃははッ! わざわざ受け止めちゃうって事はさァ、そンなにあの女が大事かよ!!」

そう、垣根帝督はこの攻撃を避ける事は出来ない。このホテルには、恐らくまだあの少女がいるのだから。

「――っち」

余波の熱が空気を焼く。
それを遮るかの様に垣根は白い翼を幾重にも重ね、徹底的な指向性の元制御されたその爆槍を受け止める。

「あァ、そォ。私を屋上へぶっ飛ばしたのも、一気に勝負をかけなかったのも、
 全部あのお嬢ちゃんが逃げる時間を稼いでたンだ。高位能力者同士の戦闘じゃ巻き込んじゃうし、
 もしぱっぱと片付けても予想外の事態だって起こりかねないもンなァ?文字通りアンタのアキレス腱って訳だ」

ならさ。と少女は笑う。

「私の命を賭けて殺しちゃっても、お釣りが来ると思うンだよねェ」

がちゃりと、屋上へと続くドアが開かれた。

「――――なっ」

現れたのは大量の腕に絡みつかれ、自由を奪われたドレスの少女だった。

「さァて、ここで問題。一気に窒素の奪われた空間に酸素や水素が大量に流れ込めばどォなるでしょうか? 頭のいい垣根くンなら、わかるよねェ?」

「て、めぇええええええッ!!」

垣根が叫ぶも、その声や姿は突如生まれた光によって掻き消される。

瞬間。決して小規模とは言えない爆炎が、夜に沈む街を照らす灯火となった。




490 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/08(木) 05:15:34.81 ID:ROF2UBay0





















491 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/08(木) 05:16:31.31 ID:ROF2UBay0



瓦礫と炎が踊り狂い、ホテルが崩落する中、立ち込める爆煙を突き抜けて落ちて行ったのは、漆黒の少女だった。
皮膚が焼けこげ、服も髪も燃えて墜落する体はコンクリートの大地に衝突する事無く、幾数もの腕が受け止め包み込む。

「あー、駄目だなぁ。これ、もう助かんないじゃん」

とは言っても、自分で引き起こした爆発に巻き込まれほぼ全ての腕を失った挙げ句、自身の体はもうボロボロだ。

使い物にならない程に。

「い、つつ……」

緩慢な動きで少女は立ち、一歩、二歩、歩いたかと思えば丁度いい瓦礫を背に倒れ込む。

一つ、大きなため息を吐いた。

これから自分に訪れる未来が分かっているかの様に。

まるで憂鬱そのものを体現するかの様に。

「ほーんとにさあ、始めに言ったけど私にだって目的があったんだよ。闇の中に潜んで、迫り来る脅威の対策とかしてさ」

「ほんと、あのムカつく実験潰してからはそれだけを目的にして生きてきたってのに……」

「あぁ、でもやり残したって言えばアレだ。殺し損ねちゃったんだよねぇ……木原数多。顔面刺青のあのクズ」

「他の研究員はみんな殺してやったけど、コイツだけは殺し損ねたんだった。絹旗ちゃんあたりが殺してくんないかなぁ……」

「いやぁ、無理か。アイツ、優等生だし。」

「……そこのところどう思う? 垣根くん」


492 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/08(木) 05:17:14.36 ID:ROF2UBay0




そう言って、黒夜は笑いながら目の前に立つ垣根帝督に言葉を投げる。
そして背に気を失った少女を抱えた垣根は、黒夜海鳥に言葉を返す。

「少なくとも、テメェより手の負えない奴じゃなかったぜ」

「ひゃはは。手に負えないのはいっつも問題児って相場は決まってんだ。案外私たちは似たもの同士なのかねぇ」

「同じにすんな」

「そりゃどーも」

燃え落ちる建物を背に、またも少女は深いため息を着く。

「ほんとさぁ、なんでアンタそんな女の子一人に必死になってる訳? 切り捨てた方がよっぽど楽じゃん。
 せっかく奇麗な羽根持ってんのに地に足付けて、わざわざ飛ばない方を選ぶなんてどうかしてるっつーの」

「あぁ、そうかもな。」

そう呟いて、垣根は背に眠る少女を抱え直す。

「まぁ、俺には丁度いいんだよ。闇の底で居座るより、縛られずに飛ぶより、何かを背負って地に足付くぐらいが」

「馬鹿じゃねぇの」

「かもな」



493 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/08(木) 05:17:53.25 ID:ROF2UBay0




思い出した様に、黒夜が呟いた。

「そうだ。ちょっと言い残した事があるんだけどさ」

「……なんだよ?」

ニヤリと、少女が笑う。

ソレはそもそもの目的であって、
ソレは黒夜が残す最後の嫌みであって。



『表舞台に君の居場所があると思うな』



「あ?」

呆気にとられた様な表情に、ついに黒夜の口から笑みがこぼれた。

「ひゃはは、アレイスターからの伝言。確かに伝えたから」

体の感覚は既にない。火の手はもう側まで迫っていて、崩落する瓦礫は徐々に数を増していた。

だから、きっとこれが最後の言葉になる。

「じゃあな。せいぜい頑張れよ。劣等生ちゃん」




ぐしゃり。




黒夜海鳥が最後に聞いたのは、そんな小気味よく、何かが潰れた様な音だった。



494 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/08(木) 05:19:01.14 ID:ROF2UBay0
―――――――



「……ん」

背で眠る少女が目を覚ましたのは、垣根が歩き始めて十数分経ってからだった。

「よぉ、どこか怪我ないか」

「……うん」

「そうか」

そんな言葉だけを交わし、垣根は歩みを止める事無く闇に包まれた学園都市を歩く。
こつこつと、一歩ずつ。

「……ごめんなさい」

「俺の判断ミスだ。お前に非はねぇよ」

「それでも、迷惑かけちゃったから」

「今更だろうが。んなのテメェを背負ったときから覚悟の上だ」

「うん……ごめんなさい」

「人の話聞いてんのかテメェ」

「ええ」

「ならさっさと起きろ。テメェを抱えると飛べもしねえ」

「もう少し……このまま」

「あー……ちくしょう。いそがしいってのに」

小さく舌を打ち、しかし、垣根は歩む事を辞めはしない。

「ちくしょう」

一歩、また一歩。少女を抱え、確実にその道を歩みながら。

「…………」

胸に小さく灯ったその不安を、必死に押し殺しながら。

一枚、また一枚と花弁を散らしながら。

少年と少女は進んで行く。



495 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/08(木) 05:19:28.47 ID:ROF2UBay0




その先に待つのが、避けようの無い死だとも知らずに。



496 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/08(木) 05:20:03.20 ID:ROF2UBay0






       次回予告




「帰りましょうか、浜面」

         アイテム・絹旗最愛

「ごめん」

         無能力者・浜面仕上







497 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/08(木) 05:25:51.49 ID:ROF2UBay0


おわり。いがしくて全然来れんかった。すまぬ……すまぬ。
という訳で黒夜ちゃん乙です。新約手元にないから確認出来なかったんだけどたぶんこんな戦い方は出来ないと思います。
あと口調がだいぶおかしな事になってたらすまんです。
なんていうか腕をつかってトリッキーな動きで空中戦とかやったりしたかったけど無理でしたずさー
次からは浜面パート。

あ、ひとつ言い忘れてましたが、この話の構成はめっちゃくちゃ前に全部終わっています。
使えそうなところは使わせて頂いてますが(実は今回の垣根パート元々の敵はブロックでした)
無理に適合性あわせるつもりもないので、新刊出るに連れ矛盾が激しくなって行きますがそこは多めに見てくれると嬉しいです。

考えてみれば神裂戦以降ソロでの戦闘パートが無かったね浜面……ざわざわ



498 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/08(木) 06:59:33.68 ID:zZ4jYKeqo
待ってたわ
499 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/08(木) 10:46:29.76 ID:NMrY7XeAO
黒夜さんに黙祷
500 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/08(木) 11:47:41.30 ID:EqBHkJ3AO
黒夜ちゃん死んじゃったか……乙
木原くンって作中に登場してたっけ?



次はもしや浜面のソロ戦闘来るのか。相手はまさか……Wktk
501 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/08(木) 13:56:20.22 ID:2I7y1hrxo
乙なのよな
502 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/08(木) 20:24:19.57 ID:7KjC9KqU0
乙!
次の更新も楽しみに待ってるぜ!
503 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/08(木) 20:41:14.06 ID:0YUKNkiSO

心理定規ちゃんペロペロ
504 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/08(木) 22:48:00.82 ID:olEB3kjh0
乙。
505 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/08(木) 22:54:07.50 ID:ROF2UBay0





・たとえヒーローにはなれなくても




506 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/08(木) 22:55:25.46 ID:ROF2UBay0




浜面「…………」

自分が今起きているのか眠っているのか、意識があるのかないのか、それさえも判断がつかなかった。

理由は単純。目を開いても閉じていても、そこにあるのはなんら変わることない闇だったから。

浜面「……ここ、は」

身を沈めた感覚。背を被う固さは、今の自分がベッドか何かに伏せているということを自覚させた。
見つめている闇は、おそらく浜面の知らない天井なのだろう。

浜面「……痛ッ」

焼けるような痛みが走ったのは、体を起こそうとしたその瞬間だ。
その熱はまるで鎖のように浜面の動きを拘束する。結局、起き上がる事はしなかった

絹旗「超動かない方が身のためですよ。浜面、どれだけ傷だらけかわかってないんですか?」

浜面「……絹旗」

すぐそばから聞こえてきたのは、聞き慣れた少女の声。
寝たままに少し上を向くと、そこには闇とは違う小さな影があった。



507 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/08(木) 22:56:15.86 ID:ROF2UBay0




浜面「なぁ……ここって」

絹旗「病院ですよ。覚えてないんですか? と、言っても私だって超詳しくは知りませんが」

浜面「病院……」

絹旗「私が街中を走り回ってここで浜面を見つけた時には、既にソファーに倒れこんで超意識を失ってましたよ。
   何時間も何時間も、死んだみたいに」

浜面「…………」

ソファー。なら今自分は病院の、恐らくは待合室に並ぶソファーの一つに倒れこんでいるのだろう。
そうわかってしまえば、今背を預けているこのスペースは酷く窮屈に思えた。

浜面「俺……どれくらい寝てた」

絹旗「かなり。私がここに着いたのは昼時でしたので大体超半日ぐらいじゃないですか」

浜面「今、夜なのか」

絹旗「これだけ暗い理由が他に超あるなら教えてください」

浜面「……そうか、そうだよな」

夜。

夜ということは、つまり浜面は半日どころではなく丸1日の間意識を落としていたと言うことになるのだろう。

1日。

浜面「…………」

おぼろげな記憶の中で鮮明に焼き付いたあの赤から、気付けばもう24時間が経過していた。

浜面「…………」

絹旗「……浜面?」

ふとした雰囲気の変化を、絹旗は本能的に察知したのだろう。
見えないとはわかりながらも、視線は横たわる少年に向かう。



508 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/08(木) 22:56:55.84 ID:ROF2UBay0




浜面「なぁ、絹旗」

絹旗「……はい」

浜面「麦野達は、どうなった」

絹旗「麦野は超重症。滝壺さんはもっと重症です。
   少しでも遅かったらどちらも死んでいました」

浜面「滝壺、そんなに悪かったのかよ」

絹旗「体晶のツケが超回ってきたんですよ。危うく廃人寸前になるところでした……
   あぁ、フレンダなら超ピンピンしてますよ。比較的軽傷でしたしね」

浜面「そうか」

絹旗「…………」

浜面「……なぁ」

絹旗「はい」

浜面「お前、よく俺がここにいるってわかったな」

絹旗「偶然です。色んな所を超駆け回って、たまたま見つけただけですよ」

浜面「大変だったろ」

絹旗「それはもう。携帯も超通じないどころか、いままでギリギリの所で保っていた都市機能が完全に潰れてしまいましたからね」

浜面「…………」



509 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/08(木) 22:58:14.90 ID:ROF2UBay0




絹旗「今、浜面と私がいるこの病院。どうして灯りが超一つもないのか解りますか?」

浜面「夜だから、じゃないんだろうな」

絹旗「えぇ、電子機器も一部のモノ以外は昨日の雷で軒並みやられたみたいです。電力も超通ってません。
   信じられますか? 学園都市の機能が一切動いてないんですよ。
   交通も、情報も、人も、灯りも、何も。まるで死の街です」

浜面「それは、不味いんじゃないのか」

絹旗「そうですね」

浜面「…………」

絹旗「…………」

浜面「……なぁ」

絹旗「なんですか」

浜面「…………」

絹旗「…………」



510 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/08(木) 22:58:43.30 ID:ROF2UBay0





ぷつりとそこで言葉は途切れた。黒に塗りつぶされた世界で続いていくのは、重い沈黙。

何かを言い出そうとするも言葉が紡げない。
そんな少年を横に、ぎしりと小さくソファーが軋んだのは絹旗が軽く体勢を崩したのだろう。
少年の言葉を待つかのように少女は小さく体を曲げ、足を抱える。

絹旗「…………」

浜面の纏う雰囲気の小さな変化。そして交わした会話の応酬。僅かな違和感を絹旗は見逃せない。

言葉が紡がれる事もなく数分が過ぎた頃。
小さく、ほんの小さくは少女から吐き出されたのはため息と、一つの答え。




511 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/08(木) 22:59:25.54 ID:ROF2UBay0












絹旗「生きてますよ。御坂さんも、一緒に浜面が超運び込んだ高校生くらいのクローンも」











512 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/08(木) 23:00:13.24 ID:ROF2UBay0




浜面「……そうか」

呟きと共に浜面の脳裏に蘇った記憶は、ミサカが死の間際、一方通行の元へ歩む直前に浜面へ託した最後の願い。

自分が死んだ後に、まだ微かに息のあるお姉さまと妹を助けてあげてほしいという最後の希望。

浜面「…………」

霧が晴れるかのように、雲がかっていた記憶が鮮明に浮かび上がっては流れるように消えていく。

コンテナが落ち赤が降ったその直後、浜面が気付いた頃には一方通行の姿はどこにもありはしなかった。
失意と絶望の底へと墜落しながらも、ボロボロの浜面の体を突き動かしたのはミサカの言葉。

なにをしたかといえばそれは至極簡単で、飛び散る赤を見ぬ振りをして軽くなった御坂美琴と妹達を車へ乗せ病院まで運んだ。
それだけだ。

そこから先は、覚えていない。

助かるかどうかなんて関係なく、ただ浜面はミサカの最後の願いに添った。



513 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/08(木) 23:02:02.70 ID:ROF2UBay0




浜面「……よく助かったな。血、止まらなかったのによ」

絹旗「ここの医者以外だと確実に助からなかったでしょうね。
   幸い、血液には超困らなかったそうです」

浜面「それにしたって、機材も電気も、なにもなかったんだろ」

絹旗「頑張ってくれたみたいですよ。一万人の、発電能力者が」

浜面「……そう、か」

絹旗「…………」

いまこの場にいる二人を包むのは暗闇で、だから少女には隣にいる少年の顔は見えない。
けど、見えなくとも、肩が震えているこの少年がどんな顔をしているかなんて、少女には簡単に予想がついた。

絹旗「帰りましょうか、浜面」

浜面「…………」

絹旗「多分、学園都市がこんな状態じゃ依頼も何もありません。しばらくゆっくり休みましょう」

浜面「…………」

絹旗「もう、無茶はしないで下さい。急にいなくなるのもやめてください。二度と一方通行には関わらないでください。
   暗部にいる限りどうしたって危険は伴いますが、あれに関わるよりは100倍マシです」

浜面「…………」

絹旗「あまり、心配かけるな。超浜面」

浜面「…………」

絹旗「……はまづ」

浜面「ごめん」



514 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/08(木) 23:09:57.12 ID:ROF2UBay0




少女の言葉はたった一言に遮られる。
ソファーを軋ませゆっくりと立ち上がった少年に、少女はとっさに言葉をかける事が出来なかった。

浜面「少しだけ、行きたいところがあるんだ」

絹旗「外には行かせられません」

浜面「……外じゃねえよ」

絹旗「じゃあ、どこですか」

その問いに答えた少年の表情は、暗くて絹旗には見る事は出来なかった。

その今にも泣き出しそうなとても弱々しい顔は、誰にも見せられないなと、少年は思った。

浜面「会いたい奴が、いるんだ」

絹旗「なら……私はここで待っています」

浜面「ああ」

そう呟いて、少年はゆっくりと、たどたどしく歩き出す。
闇に慣れた視界を頼りに、一度進んだ事のある通路を再び歩く。

浜面「――――ス」

いつのまにか溢れていたのは、とある少女の名前だった。

浜面「――ン――」

まるでその姿は、光を求めて彷徨う子羊のようだった。

少年は呟き、ふらふらと歩んで行く。



515 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/08(木) 23:10:53.20 ID:hrNS57xfo
スフィン…クス…
516 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/08(木) 23:11:11.38 ID:ROF2UBay0






浜面「――ごめんな、インデックス」





517 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/08(木) 23:11:57.96 ID:ROF2UBay0


少女のもとへ


518 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/08(木) 23:13:45.14 ID:ROF2UBay0



             次回予告



「にゃー?」
   
                      スフィンクス

「……ごめんな。アイツ、もういないんだよ」

                    無能力者・浜面仕上


「ねぇ、あの時お姉様はミサカになんて言おうとしたのかな」

                    欠陥電気・番外個体


519 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/08(木) 23:15:01.33 ID:ROF2UBay0



ちょっと短いけどここまで。
御坂さん実は超わかりにくい生存フラグありました。
ミサワさんは無かったです。お医者さんがすごいんです。
次も浜面パート。

一日経たずに書き溜を消化しちゃう病にかかった。やゔぁい
再構成増えてきましたね。これ終わったらステイルで一巻再構成とか書きたい。
ネタだけが増えて行く…

520 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/08(木) 23:26:21.29 ID:HAzoi3Mro
乙です
御坂さん生きてたか…だが今後のことを考えると素直に喜べないのよな
でも浜面なら助けた女全員救ってくれると信じてる
521 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/08(木) 23:36:12.87 ID:ICkts87z0
>>515
叩こうと思ったら的中しててワロタw
522 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/08(木) 23:45:54.72 ID:WNV6Wh9uo
523 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/09(金) 00:04:10.99 ID:I4a5V7SFo
おぉう…浜面パートは暗いな。
でも、これから明るくなるって信じてるよ。

投下、乙です。
524 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/09(金) 00:35:30.14 ID:uEXl2L+30
乙なのだぜ!
次回は来年かな? 期待して待ってるぜ!!
525 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/09(金) 00:50:22.83 ID:FHWRlCPQ0
相変わらず絶望しかねぇな
だが、それがいい
とりあえず、乙
526 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/09(金) 01:18:48.89 ID:LT+sE3lZo
>>521
ごめん、今更になって罪悪感が出てきた…申し訳ない
そして>>1
527 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/09(金) 02:15:10.03 ID:1dx//CEKo
御坂が生き残ったとしても精神は崩壊しているし殺戮してるしれべるあっぱーで100万人以上巻き込んでるし
拘束は免れないんだろうなぁ
528 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/09(金) 08:11:21.53 ID:O51dcfoRo
>>527
☆的に利用価値なさそうだし放置されるんじゃね
529 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/09(金) 10:21:20.17 ID:N1xJLmmAO
主犯は木山先生になるのかしら
530 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/09(金) 10:36:13.01 ID:yMfsYMtR0
ここから一カ月お預けなのか?
それなら地獄だな。
531 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/09(金) 12:33:49.02 ID:O51dcfoRo
>>529
もう首括ってそうだがww
子供達助けるどころか大停電に巻き込まれて死んだだろうし
532 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/09(金) 15:14:23.07 ID:HstdAf60o
ここまで全部木山先生の掌の上
533 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/09(金) 21:12:00.82 ID:N1xJLmmAO
>>531

いや、まだわからんでしょ。

むしろMARでの電撃使いが美琴じゃなく木山先生だったならもう助かってる可能性のが高い。

むぎのんがテレスさんぶっ飛ばした後は既に持ち去られてたけど美琴は体晶持ってなかったし。

534 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/09(金) 21:33:31.70 ID:lt+wOSYRo
もあいたんマジ健気
535 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 00:18:30.82 ID:F+e6j5VJo
番外生きてたけど、布束さんは無理だろうなあ
536 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/14(水) 22:16:35.81 ID:/7pyjNLp0




――――――――――


霞んだ視界はいつまで経っても途切れる事が無かった。
番外個体はようやくそれが生きているのだと実感する事が出来た。

番外個体「なーんで、死に損なっちゃうのかな」

気のせいかとも思ったが、いつまで経っても明確な死はやってこない。
ついに自分は助かってしまったのだと理解した時、番外個体の口から漏れたのはそんな言葉だった。

番外個体「やるじゃん。お姉様」

どうやら本当に自分は生き残ったらしい。
学園都市の計画は失敗した。
御坂美琴はあの悪魔の選択を見事に凌ぎきった。

ただ、

番外個体「でもさ、どうするの? それでも現状は変わらないよ?」

御坂「…………」

番外個体「……なんだ。つまんない」

御坂「…………」

おそらくは病室。そこに並ぶ二つのベッド。その一つに沈む御坂美琴からはいつまで経っても言葉は返ってこなかった。
窓から入り込む星の光に照らされる少女の意識は、どこかに深くに落ちたままだ。

番外個体「……ねー、起きないの? つうかなんでミサカはお姉様と仲良く並んでベッドに寝てんの?
     ねえねえムカつくから殺しちゃっていいのかにゃーん?」

ケラケラと、とても重病人とは思えないほど愉快そうに少女は笑う。
やはり隣に沈む少女から返事は返ってこない。

    「なにせ今は100万人以上がベッドを必要としていてさ? 病室に空きがないんだ。それと、」

その言葉に返事を返したのは少女ではなく、どこか子を諭す様な声だった。

冥土帰し「僕の患者に危害を加えるのは、とっても困るんだね?」



537 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/14(水) 22:17:22.48 ID:/7pyjNLp0




番外個体「……誰?」

首を動かし、少女は声の方へと意識を向ける。側に立っていたのは背の低い、白衣を纏った老人。
手に持つ携帯電灯から照らされる灯りによってぼんやりと浮かび上がるその輪郭は、どこかカエルに似ている気がした。

冥土帰し「ただの医者だよ? 今回、君たちの手術を受け持っただけのね」

番外個体「へぇ、随分腕がいいんだね。ミサカ、絶対に助からないと思ったんだけど」

冥土帰し「どうにもならない事をどうにかするのが僕の信条でね?
     なぁに、君たちより危ない患者なんて、いくらでもいたさ」

ふぅん。と、興味がなさそうに番外個体が呟き、再びその視線を隣に眠る少女、御坂美琴へと移す。

番外個体「…………」

冥土帰し「いいかな? 採血と、点滴の薬液を取り替えたいんだ」

番外個体「ご自由に。なんならそのまま殺してくれちゃって構わないよ」

冥土帰し「後ろの言葉は聞かなかった事にするよ?」

言葉は無かった事にされ、備え付きの棚に置かれた携帯電灯が部屋全体を淡く照らす。
カエル顔の医者がカチャカチャと音を立て薬液の入ったガラス瓶を変えていく中、
相も変わらず少女はぼんやりと御坂美琴を見つめていた。



538 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/14(水) 22:17:52.58 ID:/7pyjNLp0




番外個体「ミサカが先に目覚めたって事はさ、お姉様はかなり危ないの?」

冥土帰し「いいや、危なかったけど肉体的なダメージはむしろ君の方が酷かったね?」

番外個体「ちぇっ」

と舌打ちして、番外個体は自分の発言の不自然さに気付く。そもそも、考えてみればおかしな話だった。

なぜ、御坂美琴は重傷を負ってベッドに沈んでいるのだろう。
あの場であの状態の御坂美琴に傷を負わせられる存在がいるとは考えにくい。いるとすれば、

番外個体「なーんだ。実験、止まらなかったんだ。御愁傷様だね、お姉様」

結局、地獄はまだ終わらない。

この少女は目覚めてもまだ尚苦しむ事になる。その光景を想像して、番外個体はケラケラと――

番外個体「…………」

笑う事はしなかった。

不思議そうに顔をのぞこうとする医者に、話の続きを目で促す。



539 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/14(水) 22:19:10.46 ID:/7pyjNLp0




冥土帰し「うん? あぁ、彼女が目を覚まさないのはまた別の理由なんだよ」

番外個体「この一週間不眠不休で暴れ回ってたらしいし、寝不足とかなら笑っちゃうんだけどなぁ」

番外個体に正確な情報は知らされていないが、それでも御坂美琴がこの一週間の間、
学園都市暗部が関わる研究所を襲撃していたのは知っていた。破壊された研究所は9割強。
その残りの1割僅かに残った研究所の一つで自分が生み出された訳だが……

番外個体「まぁ……違うんでしょ?」

冥土帰し「残念ながらね? 超能力者でもある彼女もまた、大勢の中の一部の子供達の様に力を求めてしまったんだ。
     どう足掻いても届かない壁を越える為にさ。これはその代償だよ。おそらくはまだ目覚める事は無いだろうね?」

番外個体「……それ、説明する気ないよね」

訳分かんない。そう言って番外個体は更に深く、体を沈める。
しかし、少女に向けた視線を外す事はしなかった。

番外個体「…………」

何かが満たされて行くような、体験した事のない感覚が広がって行く。
消そうとしても、吐こうとしても、番外個体にはそれが出来なかった。

そんな少女にかけられたのは、またしても言葉だ。



540 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/14(水) 22:19:39.62 ID:/7pyjNLp0




冥土帰し「心境の変化に戸惑うのも無理はないね?
     君はどうも他の子達とは違ったプロセスで生まれみたいだからさ」

番外個体「……じいさん何者? ただの医者じゃないよね」

冥土帰し「僕はただの医者だよ。そして君達は僕の患者だ」

番外個体「答えになってないっつーの」

まるでふてくされたかの様に番外個体の声が不機嫌なものとなる。
ただ、それはカエル顔の医者に対してではない。

番外個体「…………」

元々、自分の存在というのはあってないようなものだった。

使い捨ての駒なのだ。その生命に価値なんてありはしない。

なのに、番外個体は生き残ってしまった。死んで終わるはずの命を救われてしまった。第三者の手によって。

その事実は負の感情ばかりを受け入れる様に作られた少女にとっては、
言葉通り戸惑うものであり同時にどこか心地よくもあった。

番外個体「…………」

それが、番外個体という存在は受け入れられない。

だって。

番外個体「結局、なにも変わってないんだ」



541 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/14(水) 22:20:07.48 ID:/7pyjNLp0




冥土帰し「うん?」

呟きは、誰に対して向けたのか少女には分からない。

番外個体「ミサカは失敗した。生き残って、お姉様も殺せなかった。
     今頃学園都市は第三次製造計画を本格的にスタートさせてるよ。
     一週間も経たないうちにミサカとお姉様を殺しにくる」

ただこの感情は、きっと、駒としての自分には、よくないものなんだと少女は思った。

番外個体「あそこで死んどけばよかったんだ。ミサカも、お姉様も。
     ほんの少し生き延びたって、ミサカ達に歩く道なんてないんだからさ」

その言葉は、自らを殺す刃だった。

今にも受け入れてしまいそうなその感情を殺す為の、自傷の刃だった。

しかし――

冥土帰し「そうとも限らないね?」

彼は優しい声で、その刃を包む様に手を添える。



542 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/14(水) 22:20:34.48 ID:/7pyjNLp0




冥土帰し「番外個体さん……でいいのかい? 君は今の学園都市の状況を詳しく把握しているかな?」

番外個体「さぁ? ミサカはずっと意識を失ってたから。……そう言えば真っ暗だね。ここも外も、明かりが付いてない」

何もかもが始めての番外個体は言われるまで気がつかなかったが、言われてみれば番外個体の中にある知識と
いまの状況は、何かがおかしい。どこかが食い違ってる。

冥土帰し「うん。困った事にね? 君のお姉さんが落とした雷のお陰で、今この学園都市には一部の施設以外には電気も何も通っていないのさ。
     だから君とは別の10000人の妹達には各医療施設で働いてもらっているよ。非常事態として、僕の権限でね?」

番外個体「ホント、何者なのかなーこのじいさん。……で、それがミサカに何の関係があるの?」

口ぶりからして妹達についての相当深いところまで知っているらしいただの医者は、それでも穏やかな笑みを浮かべていた。

冥土帰し「ここで疑問なのが、彼女がこの街を犠牲にしてまで放った雷は一体どこに落ちたかという事なんだね?」

番外個体「…………」

ふとした答えが、番外個体の頭をよぎる。

それは表情にも現れていたようで、カエル顔の医者はあたりだとでも言わんばかりに首を縦に振った。

冥土帰し「残念だけど、君の生まれた施設はもう素粒子レベルで残ってはいないよ」

番外個体「……マジ?」



543 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/14(水) 22:21:16.37 ID:/7pyjNLp0




冥土帰し「事実さ。そして今の学園都市にはまともな計画一つ実行に移せる力もないし、
     例え復旧したところで潰された施設と計画を一から建て直す力も余裕も理由もない。
     その頃にはもう彼女に敵としての脅威はないだろうからね」

番外個体「ちょ、ちょっと待って」

思わず、ベッドから起き上がる。体中に痛みが走り、目の前の医者からも制止されそうになるが、
番外個体はその疑問を投げ掛けずにはいられなかった。

番外個体「仮に第三次製造計画が凍結されたとしても、まだお姉様がこうなるまでに至った実験は終わってないんだけど。
     それでどうして敵としての脅威は無いなんて言い切れる訳?」

そもそもの話。実験を止める為に施設を破壊して回っている御坂美琴を殺すために番外個体は生み落とされたのだ。
根幹である実験が止まらない限り御坂美琴はこれからも施設を破壊するだろうし、学園都市はそんな御坂美琴を殺そうとするだろう。

実験が止まらない限り、終わりは無いのだ。

冥土帰し「ふむ?」

そう言うと冥土帰しは首を傾げ、さも当たり前の事の様に、まるでそれが決まっている事の様に言い放った。

冥土帰し「確かに。君の言う実験はまだ終わってないね? けどさ? それが数日後も続いているかどうかなんて分からないだろう?」

その言葉は、今度こそ番外個体が理解出来ない様なものだった。

番外個体「……何言って」

冥土帰し「とりあえず、当分の間は病院暮らしだね?」


544 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/14(水) 22:21:44.37 ID:/7pyjNLp0




番外個体「…………」

言葉を失うというのはこう言う事なんだろうと少女は思考する。始めての経験だった。

何かを言おうとするも、それは喉につっかえて出ては来ない。
出てきたのは、

番外個体「きゃははは」

ケラケラとした笑い声だった。

再び体をベッドに沈め、少女はさらに笑う。笑うしか無かった。

番外個体「何ソレ。もしそうだとすると結局ミサカは生まれてきた理由さえもなくしちゃったって訳だ、
     人生――なんて、もともと無い様なもんだけど、迷子の気分」

実際は、もっと酷いモノだろう。
生き延びるどころか自分は生き永らえてしまうかもしれないのだ。

不貞腐れるかの様に、少女はぽつりと呟く。

番外個体「こんな存在で生まれてきて何の意味があるのさ。まともに生きられやしない。
     ……ミサカには、お姉様を殺す事以外の道なんて無いのにさ」

例えこのまま御坂美琴を殺したところで、既にその行為に意味なんてない。

その先に待つモノは、何も無い。

冥土帰し「あるね?」

番外個体「……え?」

しかし、初老の老人はその言葉を否定する。

冥土帰し「道なんていくらでもある」

優しく、笑って否定する。



545 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/14(水) 22:22:10.93 ID:/7pyjNLp0




番外個体「…………」

冥土帰し「そうだね?まずは――生きる事から初めてみるのも、いいと思うよ?」

番外個体「生きる……か。ミサカには分かんないよ。今も死んでる様なもんだし、
     クローンなんてさ、いつ死のうがどうでもいい存在じゃん。周りが受け入れられるような――」

冥土帰し「ほら、少しチクリとするよ?」

番外個体「いっ――」

プシュッという音と共に、小さく番外個体の体が跳ねた。
見ると腕には採血用の無針アンプル。空の容器はみるみる赤い液体に満たされて行って、

冥土帰し「痛かったかい?」

カエル顔の医者は笑った。

番外個体「痛かったよ。ほんとに腕のいい医者なの?」

非難するかのようなその言葉に、白衣老人は笑みを崩す事も無く。
注射の痕に小さな絆創膏を貼りながらやはり諭す様に言った。

冥土帰し「うん? ならよかったじゃないか」

番外個体「はぁ?」

冥土帰し「それは、生きてるって証拠だよ」

番外個体「…………」



546 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/14(水) 22:23:04.90 ID:/7pyjNLp0




冥土帰し「うん。それじゃあ、また来るね?」

少女の言葉を待つ事無く、そう言って医者は部屋を去る。

冥土帰し「あぁ、そうだ。君は言ったね? クローンなんていつ死んでもどうでもいい存在だってさ?」

番外個体「……うん」

冥土帰し「それは違うね? もう君は僕の患者だ。決してどうでもよくなんか無い。
     あと……うん。君のお姉さんにも聞いてみるといい」


きっと、君が思ってるのとは違う答えが返ってくるからさ?


そう言って、今度こそ医者は部屋を去った。
残されたのは、何とも複雑そうな表情で唇を尖らした番外個体と、隣のベッドで今も意識が戻らない御坂美琴。

番外個体「……喰えないジジイだったなー」

なんて、ぼやきつつ。番外個体はじいっと少女を見つめる。

自分より、ほんの少しだけ幼い顔つきの少女を見つめ、

番外個体「さっさと起きろよ。お姉様のバーカ」

御坂「…………」

軽く、悪口を言ってみた。
心に溜まった残り粕の様な悪意をぶつけるかのように。



547 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/14(水) 22:23:28.61 ID:/7pyjNLp0




「やーいお姉様の泣き虫弱虫真っ平らー」

「…………」

「あ、でもお姉様もその内ミサカぐらい大きくなるのかな。
 きゃはは。じゃああんまり意味ないかもねぇ」

「…………」

「え、と。うーん……お姉様ってミサカの素体だけあって見た目は結構はいいんだよねー
 第一位や第二位みたいに見た目で弄れないし、なんか欠点無くてつまんないなー。ほかに何かないもんかね」

「…………」

「………………あー、だめだ。よく考えてみたらミサカってお姉様の事何も知らないんだった」

「…………」

「……早く起きてよお姉様」

「…………」

「分からない事もあってさ」

「…………」

「あんまり起きないと殺しちゃうか顔にラクガキしちゃうよ?」

「…………」

「覚えてる? お姉様がミサカの事組み伏せた時さ。お姉様大泣きしちゃって。
 無様ったらなかったよね。あれでミサカの素体だって言うんだから笑っちゃう」

「…………」

「あれさぁ、やっぱ分かんないんだよね。考えても考えても」

「…………」

「ねぇ、あの時お姉様はミサカになんて言おうとしたのかな」

「…………」

「起きたら教えてよ。つまらなかったらぶっ飛ばしちゃうかもしれないけどさ」

「…………」

「ねぇ」



548 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/14(水) 22:24:04.86 ID:/7pyjNLp0






「…………」

「……ちぇっ」





549 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/14(水) 22:25:05.26 ID:/7pyjNLp0




――――――――――――


窓からは月明かりが差し込み、ぼんやりとその空間全体を照らしていた。

浜面「…………」

設置された棚の上には純白の修道服が奇麗にたたまれており、
更にそこにはいつの間に戻ってきたのやら、見覚えのある猫が一匹。修道服を布団代わりにしながらくつろいでいる。

銀糸をばらまきベッドに沈むのは、浜面もよく知る少女だ。

浜面「…………」

ふらつく様に、その足は少女の下へと向かう。
一歩がたどたどしく、今にも倒れてしまいそうなその足取りの原因はきっと体ではなく心にあったのだろう。

ベッドの側に辿りついた時、ついに浜面はその場で崩れ落ちた。

浜面「………」

まるで子供の様に、少年はその場に膝を付き、少女の眠るベッドへ縋り付く。顔を埋め、嗚咽を漏らす。

浜面「くそ……ちくしょう。……ちくしょう」

その少年の体はボロボロで、その少年の心はズタズタだった。

浜面「……ちくしょう」



550 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/14(水) 22:25:36.46 ID:/7pyjNLp0




浜面「……なぁ、」

禁書「…………」

浜面「なぁ、インデックス」

かけた言葉は、決して届くはずの無い少女へ。

浜面「聞いてくれよ。お前と会ってない間さ。いろいろあったんだ」

そう呟いて、ぽつりぽつりと泡の様に浮かんで消えて行くのは、少年の独白。

あの夜殺されかけた事。アイテムと言う4人組の集団に引き込まれた事。
駒場の仇を討った事。インデックスと会うのが怖かったという事。病院について現実を知った事。
上条と言うツンツン頭に喝を入れられた事。三人で幻想御手解決に乗り出した事。
御坂美琴が暴れに暴れて衛星を撃ち落とした事。そして、

ミサカがクローンであった事。

毎日毎日殺されている事。

学園都市最強が関わっている事。

その実験でミサカに助けられた事。

その実験でミサカを助けられなかった事。


浜面「俺、アイツの事助けられなかったよ。ごめんな。お前の……友達だったのに」


そしてその実験は、多分これからも続くであろう事。



551 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/14(水) 22:26:29.77 ID:/7pyjNLp0




浜面「俺は、アイツに死んで欲しくなかった」

真白に沈んだ少年の独白は終わらない。
積もった感情が流れて行く様は、最早自分では止めようも無かった。

浜面「始めはクローンだなんて聞かされて、アイツの事を人として見れなくてさ」

よぎったのは、一人の少女。ふてぶてしくて、遠慮知らずで、ずうずうしくて、動物の大好きな一人の少女。

浜面「ハッ、笑っちまうよ。そもそも、疑いようなんて無かったのにな」

猫に餌をやっていたその姿は、 必死に探したあの姿は、
撫でて笑っていたあの姿は、 どこか寂しそうな表情を見せたあの姿は、

死の間際に見せたあの姿は、

浜面「それでも、馬鹿な俺でも理解出来たんだ。アイツ、アイツらは――」

まぎれも無く、人間だった。



552 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/14(水) 22:27:13.19 ID:/7pyjNLp0




浜面「けどさ、助けられなかったよ」

ミサカは死んだ。浜面の目の前で、潰れて、殺された。

その光景が、いつまで経っても焼き付いて離れない。

壊れたテープの様にソレは何度も何度も繰り返される。

浜面「結局、俺なんかには荷が重かった。出来るわけなかったんだ」

崩れる少年の肩が小刻みに揺れた。
後悔に、無力感に、絶望にが、大挙して浜面の心を飲み込もうとおそいかかる。

浜面「なぁ、インデックス。なんで俺の他にアイツを助けてやれる奴がいなかったんだろうな。
   何かが違っていれば、アイツは死ななくてすんだかもしれないのによ……」

それは、最早あり得る事の無い話で。それは、酷く自己的な八つ当たり。

少女を救えなかった自分への、何も変える事が出来なかった自分への、

そびえ立つ最強という壁を越える事が出来なかった自分への、断罪。

浜面「……ちくしょう」



553 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/14(水) 22:27:59.82 ID:/7pyjNLp0




浜面「…………」

沈黙の中、鳴いたのは猫。

スフィンクス「にゃー?」

最早、名無しではないその猫は、崩れ落ちる浜面を見てどこか不思議そうに鳴いた。

浜面「……ごめんな。アイツ、もういないんだよ」

その言葉を理解したのかしていないのか、また猫が鳴いて、修道服に身を沈めた。

浜面「ははっ……そういやよ。名前、ミサカの奴が根負けしてとうとう決まったんだ。
   よかったなインデックス。あの猫の名前。今日からスフィンクスだ」

禁書「…………」

言葉は返ってこない。

浜面「…………」

沈めていた顔をゆっくりあげると、そこにはやはり、眠ったままのインデックスがいた。
月夜が映えるのは、全ての機能を殺された学園都市。今や奈落の底の様な黒に塗りつぶされた街のせいだろう。

その空の光を遮るモノは、今は何も無い。

浜面「…………」

こんな状況になってさえ、実験は止まらないのだろう。
飽くなき強さに餓えたあの最強が止まるとは浜面には到底思えない。



554 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/14(水) 22:31:04.70 ID:/7pyjNLp0




浜面「……もう、どうしようもないんだよな」

死んだ街を眺めながら呟いた言葉は、溶けて消えて行く。

浜面「もう、止まらないんだ」

今も、この街のどこかでミサカが殺されている。殺されて行く。

これからも。最後の一人が死に絶えるまで。

浜面「…………」

諦めろ。心の中で、誰かが囁く。

浜面「アイツは、もう死んだ。まだ実験が続こうともう俺には関係ねぇ」

忘れてしまえ。心の中で、何かが囁く。

浜面「あぁ、ミサカと似た奴が死のうが俺には、関係ない。だから、」

そう、お前にはやる事があるはずだ。

元々の目的を思い出せ。お前がすべき事は、妹達を救う事じゃないはずだ。

救うのは誰だ?

浜面「……インデックス」



555 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/14(水) 22:32:11.44 ID:/7pyjNLp0




浜面「……そうだよ。お前を、起こさないとな」

そう言った少年の顔は、どかか悲しげに笑っていた。

どこかやりきれない様な顔をしていた。

どこか悔しそうだった。

浜面「もう、俺が実験を止める理由なんて無いんだから」

ゆっくりと、少年は立ち上がる。少女の側に寄り、その頬をそっと撫でる。

浜面「俺は、誰かれ構わず救って回れる様なヒーローじゃねえんだ」

このボロボロの腕は、女の子一人抱えるのが精一杯だ。
それが限界。身の丈にあわない事をするから、泣きを見る。

浜面「なぁ、インデックス」

少年は悲痛な面持ちで言葉を吐く。
全てを無かった事にしようと、自分を殺す。

浜面「俺はもうやめるよ。誰かを助けようとするのは、やめる」

差し伸べられた手を取るのも、誰かの危機に駆けつけるのもやめて、手を払って、見て見ぬ振りをする。

浜面はそう宣言する。

心も体も傷ついた少年は投げ出すと言う。



556 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/14(水) 22:33:48.80 ID:/7pyjNLp0




浜面「振り回されるのも、痛い目見るのも、もう懲り懲りだ。
   俺はもう俺の為に誰かを助けねぇ。お前一人で精一杯だよ」

だから、これからは一人の少女を救う事だけに専念しよう。

だから、これからは一人の少女を助ける事だけに専念しよう。

だから、これからは一人の少女を守る事だけに専念しよう。

浜面「俺は、誓ったんだ。お前を助けるって、一瞬を忘れられないお前に悲しい思いはさせないって。
   お前の笑顔を守り通すって」




557 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/14(水) 22:34:58.37 ID:/7pyjNLp0




                              だから?



558 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/14(水) 22:35:43.22 ID:/7pyjNLp0




浜面「…………」

少年の言葉はそこで止まる。何かに気付いた様に、言葉に詰まる。

次第に肩が落ち、顔も俯く。だから、少年の表情は誰にも伺えない。
その間、たった数分の間に少年が何を思い、何を感じ、何を決めたのかは、きっと本人にしか分からないだろう。

浜面「だから、さ」

そうして、確固たる決意が灯る。



559 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/14(水) 22:36:34.57 ID:/7pyjNLp0








浜面「だから、俺はミサカを助けるよ。あの実験を潰して、学園都市第一位をぶっ飛ばす」








浜面「そうしねえと、胸張ってお前の笑顔を守ったなんて、きっと言えないから」




560 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/14(水) 22:38:23.58 ID:/7pyjNLp0




起きた少女は悲しむだろう。
一瞬を忘れないこの少女はミサカが死んだ事にきっと悲しむ。

そして、毎日の様にミサカが殺されている事を知れば、その悲しみはどれほどにふくれあがるだろう。

そんな思いを、少女にはさせられない。
少年は、少女に誓ったのだから

浜面「悪い、インデックス。だからもう少しだけ、待っててくれ」

少年が笑う。どれだけ自分がむちゃくちゃな事を言っているか分かっているのだろう。
分からない少年ではない。それでも笑うのだ。ある種の勝利宣言をして。

浜面「すぐ帰ってくるからさ」

そう言った少年の顔は、どこか吹っ切れたようだった。



561 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/14(水) 22:39:33.15 ID:/7pyjNLp0




数分後。もうその病室に浜面の姿は無かった。

いたのは、夜月に照らされ眠る一人の少女と、居場所を探すかの様にうろうろと回る猫が一匹。

数分が経って、足を止める。新しい寝床は少女の眠るベッドに落ち着いたらしい。

少女のすぐ側に寄り、猫は何かを求める様に一度鳴いて、今度こそ体を丸め、真白へ沈んだ。



562 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/14(水) 22:39:56.50 ID:/7pyjNLp0




「にゃー」



563 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/14(水) 22:41:40.07 ID:/7pyjNLp0





        次回予告


「また、お会いしましたね」

        欠陥電気・ミサカ10032号


「じゃあ私を倒せますか!? この力は一方通行の能力を下敷きにして開発されています。
 私を倒せない限りあの最強には絶対に勝てませんッ!!」

        アイテム・絹旗最愛


「悪い、絹旗。俺行くわ」

        無能力者・浜面仕上



564 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/14(水) 22:42:07.23 ID:/7pyjNLp0






このスレでも浜面はばっちり上条さんの影響を受けてます。

だから言いすぎの回。
とりあえず神裂さんマジ空気の読める女。きっと猫の餌でも買いに行ってたんです。
予想外に長くなっちゃった。5000ペースで投下したかったのに倍だと…
今月中に一方通行編終わらしたいけど無理かなぁ

そろそろ次々回ぐらいからリアルタイム投下にうつります。
視点変更が糞多い回なので身構えてくれてると助かります。
ではでは。






565 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/14(水) 22:44:09.61 ID:npAJOuT5o
乙〜 うるっときてしまった。はまづら・・・
566 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/14(水) 22:50:12.79 ID:4s0Acaw6o

浜面かっけー
567 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/14(水) 22:50:16.16 ID:bhRwgAh40

浜面の戦闘シーンが見れるのか、全裸待機だな
568 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/14(水) 22:50:21.25 ID:0+DbPzIxo




569 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/14(水) 22:51:18.54 ID:Y91FpOe9o
一方さんはどうなってるんだろうか
570 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/14(水) 23:36:51.23 ID:rO8l6MbCo
乙、今回も面白かった
この浜面はどうやって一方通行に勝つのかなぁ
今から楽しみだ
571 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/14(水) 23:40:02.79 ID:icyXmvMAO
クソすげーSSだわ本当に。目頭が熱くなるよ本当に
572 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 11:10:09.29 ID:hAMafueAO
乙。
インデックスに胸を張れる答えを自分で選んだのがこれか。
上条さんのそげぶも伏線になってたんだなぁ
573 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 13:51:50.05 ID:phsZrnK40
浜面乙。
作者乙。
続きすげー楽しみにしてる。
574 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 17:49:01.84 ID:Sw8YTu5To

番外がカワイイのは仕様かww
575 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/16(金) 11:48:49.00 ID:zAto2XJl0
乙なんだぜ!
作者の人は時間を気にせず、思う存分書いて欲しい。
576 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/16(金) 20:39:47.63 ID:DDbz2P+AO
このSS何が凄いって、破綻させずにちゃんと原作イベントを切り貼りして再構成出来てる所だよな。
1巻、3巻、アニレー、SS1、15巻、20巻。探したらまだありそうだ。
577 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/24(土) 02:14:34.55 ID:MBTXRfwU0
相変わらず面白い
578 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/25(日) 08:47:35.72 ID:2RETGfYQ0




――――――――――――




「…………」

もう、視界は暗闇に慣れていた。

当然だ。既に半日、少女はここで待ち続けていて、今も待ち続けている。

そもそも、あの少年がいなくなった事に気付いたのはいつの時点だっただろう。

少女はぼんやりと振り返る。

落雷。そう、あの落雷だ。

最早、超能力とは呼べない規模で降り注いだあの雷は、学園都市の全てを殺し、ありとあらゆる手段と行為を奪った。

真っ先に被害を受けたのは、意外と身近にいた人物。

手術中であった麦野沈利。

予備電源さえ動かない中で、何もかもを奪われ死を待つしか無くなった麦野を救ったのは、一人……いや、大勢の少女。


妹達。


そして自分はその存在を知っていて、

『……浜面?』

その存在と自分にとって悪夢であるあの最強が繋がって、少女は少年の姿が見えないことにようやく気付いた。



579 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/25(日) 08:48:12.06 ID:2RETGfYQ0




『はぁッ――はぁッ――』

携帯は通じなかった。街は死んでいた。

『どこですか――浜面っ!!』

走っても走っても、少年の姿は見えなかった。気配さえ感じなかった。

数時間経って一度病院に戻った。水穂機構病院、確かそんな名前の病院だった。
その入り口では、フレンダが待っていてくれた。麦野と滝壺が無事だった事を知り、再び走った。

気付けば朝になっていた。

『なんで、いないんですか……』

生きも絶え絶えに、どうして自分はこんなに必死になっているのだろうと一瞬だけ思考して、すぐに振り払う。

また、走った。

『あ……』

見つけたのは、昼を過ぎてから。




580 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/25(日) 08:48:43.54 ID:2RETGfYQ0




そこはなんて変鉄のない病院。平常の精神なら見逃してたであろう、ただの病院。

ただ、違和感と言うにはそれはあまりにも不自然だった。

病院の入り口に突っ込み、乱雑に放置されていたその車は、あまりにもその場にはそぐわなかった。

だから少女はその病院に入り、

『――っ』

ソファに倒れ血に染まった少年を見つけた。

背筋が寒くなるのを感じた。

一瞬頭の中が真白になった。

『これ……』

それが少年自身の血ではないとわかった時には、叩き起こしてやろうかと思った。

けど、少女はそうしなかった。

ただただ、少女は安堵した。安心した。安らいだ。

そして、気付く。

いや、気付きそうになったから、少女は――



581 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/25(日) 08:49:17.17 ID:2RETGfYQ0




「はぁ……」

と、そこで思考を区切る様に深く吐き出されたため息は、闇に溶けて消える。

先ほどまで少年のいたソファに座りながら、ぶらぶらと振った足は空を薙いで、
これじゃあまるで子供のようだと思いながら、自分がまだたったの13歳だと自覚した時、

絹旗「ちぇっ……」

絹旗最愛はどこか拗ねるように、小さく舌打ちした。



582 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/25(日) 08:49:44.12 ID:2RETGfYQ0




絹旗「まったく。早く戻ってかないですかね、あの超馬鹿は……」

また、ため息。一体どれだけ自分はあの少年の事を待っているのか、
考えただけで呆れが止まらなくなりそうだ。

そもそもどうして自分は健気にもあの少年が起きるのを待って、
律儀にもあの少年が人に会いに行くのを待っているのだろう。

絹旗「あー、もう。一発殴って超無理矢理にでも連れて帰ればよかった」

そう言って、しかしそれは言ってみただけの、中身の無い言葉だ。

あの少年が目を覚ましたときのあの表情をみた絹旗には、そんな事は出来なかった。

絹旗「……いろいろ、あったんですかね」

それは自分と、自分達と離れていた僅かな間。
その間に、絹旗はなにがあったのか知らない。知らないが、想像はつく。
彼は行ったのだろう。走って行ってしまったのだろう。

クローンを助ける為に。たったそれだけの為に、あの第一位が関与している実験場へ。

絹旗「……ほんと、超馬鹿ですよ」

そして、助けられなかったのだ。

きっと、助けられなかったのだ。

だから、あんな表情をしていたのだ。



583 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/25(日) 08:50:26.88 ID:2RETGfYQ0




絹旗「あんなのに関わると、碌な事がないんです」

止めたというのに、少し目を離した隙に浜面は挑んで、負けた。
命があっただけでも、それはどれだけありがたい事か。

それが、どれだけの奇跡か。

絹旗「死んだら、何の意味も無いじゃないですか」

焼き付いているのは、幼い記憶。
物心つく前から染み付いた実験動物としての思い出。
何度も何度も何度も目の当たりにした死。
醜悪な研究者共と、あの顔面刺繍の男の顔。

絹旗「あー、駄目ですね! 超嫌な事思い出しちゃいました」

どうもこの闇の中は暗い思考を引きずり出される。
と、絹旗は頭を振ってソレを追い払う。考えるのは過去ではなく、未来の話。



584 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/25(日) 08:51:10.94 ID:2RETGfYQ0




絹旗「……浜面を連れ帰ったらどうしましょうか、しばらくは麦野と滝壺さんの看病をするとして、
   オフの日……と言ってもこれからはほぼオフですね。映画でも……あぁ、電気が超通ってないんでした」

死んだ街では娯楽は限りなく少ないのかもしれない。
当分自分の趣味が楽しめないとなると代案が必要となってくる。

なにかあるか……と考えていた中、その思考は足音によって中断される。

絹旗「……超すっきりしてるみたいですけど、誰に会って来たんですか?」

浜面「あぁ、ちょっとな」

戻って来た少年はどかか吹っ切れたように笑う。全く、人の気も知らないで。

絹旗「なら、さっさと行きましょう。もう待つのはごめんですし」

浜面「……悪い、絹旗。先に帰っててくれないか」

絹旗「……はい?」



585 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/25(日) 08:51:42.77 ID:2RETGfYQ0




耳を疑った。自分はもうソファからも立ち上がって準備も万端だというのに、
目の前のボロボロの少年は先に帰れと言う。

絹旗「あのですね、浜面。私が超待ってたのを分かってて言ってるんですか?」

浜面「ああ、感謝もしてるし悪いとも思ってる。今度何か驕るよ。だから、わりい」

絹旗「…………」

少し語気を荒くして言った言葉も、少年には届かなかったようで、だから絹旗は渋々と訪ねる。

しかし、訪ねようとした瞬間に響いたのは足音。
靴音を鳴らし闇の中を歩んで来たのは、一人の少女。

浜面「……よう」

御坂妹「またお会いしましたね」

絹旗「…………」



586 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/25(日) 08:52:08.33 ID:2RETGfYQ0




また。

そう言った少女の言葉に、浜面が訝しむ。

浜面「お前何号だ?」

御坂妹「ミサカの形式番号は10032号です。とミサカは問いに答えます」

納得。この妹達とは4度目の再開で、本来ならば今日が最後の邂逅だ。

浜面「……一応確認しとくけどよ」

御坂妹「実験ですよ。とミサカはあなたの想像通りの答えを口にします」

浜面「……っ」

少年の拳が硬く握られる。
やはり実験はまだ続いていて、これから死ぬのはこの妹達。

浜面「次の実験場は、どこだ」

だから浜面は問いを投げ、

絹旗「……浜面?」

しかし、その言葉に答えたのはミサカではなかった。



587 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/25(日) 08:52:36.74 ID:2RETGfYQ0




絹旗「まさか……冗談ですよね。浜面」

その少女の顔はどこか蒼白で、とても目の前の現実を信じられない様な目で
受け止めていて、自分が辿り着いた答えを否定して欲しくて、

絹旗「行くつもりなんですか……? 一方通行のところへ」

言葉にするのさえ虫酸が走る。
まさか先に自分を返して一人でまた一方通行に挑みに行くつもりだったのか。

嘘だと言って欲しい。そんなつもりは無いんだと否定して欲しい。
それは死にに行く様なものなのに、なのに

浜面「…………」

沈黙は、肯定。

絹旗「な――」

感情は、爆発する。



588 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/25(日) 08:53:07.63 ID:2RETGfYQ0




絹旗「相手は第一位ですよッ!? 学園都市最強なんですよッ!?
   そんな奴相手に何をどうするって言うんですか!!」

絹旗の必死の叫びが病院の待合室に木霊する。
響く声は、反響し、残響は闇に溶ける。

浜面「……わりい。けど、これ以上コイツらを殺させる訳にはいかないんだよ」

御坂妹「お言葉ですが、あなたの力では100パーセント一方通行に勝つ事は出来ない。
    とミサカは勝率をはじき出します。そこの方の言う通り、辞めておいた方が」

浜面「別に俺だって死にに行くつもりはねえよ。いいから次の実験場を――」

絹旗「待ってください。絶対に行かせる訳には行きません!」

言葉に割り込み、妹達と浜面の間に割り込んだのはまたしても少女。
焦燥が浮かび、その言葉には絶対の意思が宿る。

どうあっても、少年を進ませないと言う絶対の意思が。



589 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/25(日) 08:53:40.00 ID:2RETGfYQ0




絹旗「クローンのあなた。超余計な事を吐く前に、私たちの前から姿を消してください」

背を向けた少女に、絹旗が言葉を投げる。
さっさと消えろと、早く死にに行けと道を促す。

浜面「絹旗っ!」

絹旗「動かないで下さい!!」

手を伸ばした浜面に向けて放たれるのは、怒号。
殺意の籠った。闇の住人である殺人者の眼光。

絹旗「一歩でもそこを動けば、私がこのクローンを殺します」

浜面「――っ」

パキ、と絹旗の立つフローリングの床にヒビが入る。
その身を覆う能力を解放し、それは脅しではないと言う証拠。

御坂妹「……そうですね。なら、ミサカはお言葉に甘えて行くとしましょう。
    少々懸念事項も発生した事ですし。とミサカは歩みを進めます」

浜面「……待てよ」



590 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/25(日) 08:54:22.14 ID:2RETGfYQ0




コツコツと靴音を立てすり抜けていく少女を、浜面は呼び止める。
視線だけを向けた少女にどの様な言葉を投げればいいのか、浜面には分からない。

ただ、一つだけかけるとすれば、それは。

浜面「たしか、オマエらはミサカネットワークって奴で意識や視覚を共有してる。
   オマエらに個体差は生まれない。そう言ってたよな」

御坂妹「ええ」

浜面「なら、アイツの最後の言葉だって、痛みだって、その思いだって伝わったはずだ。
   なぁ、お前自身はどう思ってんだよ! こんな実験、本当にまだ続けたいなんて思ってるのか!」

御坂妹「…………」

張りつめる空気の中、沈黙は一瞬。
栗色の髪に隠れたその表情は見えず、しかしその声は微かに浜面へ届いた。

御坂妹「そんなものは、決まってます。とミサカは問いに答えます」

浜面「――――」

御坂妹「ただ、ミサカ達にはこの道しか無いのです」



591 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/25(日) 08:54:53.07 ID:2RETGfYQ0




そう言って、少女はまた歩き出す。
敷かれたレールに沿って、一本しか無い道を歩いて、
待っているモノが死だと理解して、突き進む。

少女の背がだんだんと遠くなって行き、浜面は

浜面「どけよ。絹旗」

目の前に立ち塞がる少女に言葉を投げる。

絹旗「……どきません」

少女は、ソレを斬って捨てる。

浜面「頼むから、どいてくれ」

絹旗「嫌です。もう、いい加減にしてください」

震える声で、少女は言葉を斬って捨てる。
ぐしゃぐしゃに歪めた顔で、少女は斬って捨てる。

絹旗「浜面は、どれだけ超心配かければ済むんですか。一度や二度じゃない。
   何回も、何回も、今浜面がここにいる事がどれだけの奇跡だと思ってるんですか」

その言葉は、奇跡なんてありはしない世界で生きて来た少女の言葉。
このまま行かせてしまっては、必ず死んでしまうと分かっている少女の言葉。



592 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/25(日) 08:55:30.68 ID:2RETGfYQ0




絹旗「浜面、もしかして自分は死なないとでも思ってるんですか?」

だから少女は放つ。己を殺して残酷なまでの現実を言い放つ。

絹旗「……………」

絹旗「超笑わせないでくださいよ。麦野の時は私が割って入らなければ絶対に死んでいました。
   MARでだって、運良く敵がフレンダを狙わなければ死んでいたはずです。
   垣根帝督が襲撃してきた時も、死ななかったのは彼の気まぐれじゃないですか。
   防衛戦でだって、麦野がメンバーを割っていなかったらどうなってたか分かりません」

それは、すべてがすべて事実だ。
暗部の世界では、人の命なんてゴミより軽い。
それほどこの闇は死で溢れてる。

そんな中、ここまで少年が生き永らえて来たのは、強烈な運があったからに他ならない。
しかし、それにだって限度がある。学園都市最強に対してそんなものは、ゴミ同然だ。

だから、何があっても少女はここで浜面を引き止めなければならない。
何をしても、何を言っても、自分がどう思われようとも、

絹旗「浜面は……無能力者じゃないですか。
   そんな、そんな出来損ないが第一位に勝てると思ってるんですか!?」



593 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/25(日) 08:56:07.98 ID:2RETGfYQ0




浜面「…………」

絹旗「負けたんでしょう!? 一度アイツに挑んで、浜面は負けたんです!
   救えなかった癖になんでまた挑もうなんて思うんですかっ!!」

浜面「絹旗」

絹旗「あなたみたいな無能力者は、私たちにしてみれば指一本触れなくても100回は殺せるんです。
   浜面は強くないんです! 映画みたいなヒーローなんかには、なれないんですよぉ!!」

だから。と少女の言葉はそこで途切れた。
唇を噛み締めて、肩を振るわせて、頭を伏せ、絹旗は已然とそこに立ち塞がる。

少女の姿は、とっくに見えなくなっていた。

絹旗「お願いですから……私にこんな真似させないでください」

両手を広げ、少女を救おうとする少年を阻むその絹旗の姿は、どこか

絹旗「なんで、なんで私がこんな役回りをしなければ行けないんですか。
   こんな、浜面に超立ち塞がるような、悪者みたいな真似なんて」

出会いは、隣の席に座ったのがきっかけだった。

それからは、背を追いかけて、隣を歩く事が多くなった。

唐突に、その小さな背で少年を庇う事になった。

けどやっぱり、歩むときは隣にいた。

なのに、今は。

絹旗「お願いです浜面。帰りましょう? 帰って、休みましょう」

そういって、少年に向けた顔は笑っていられたか、少女には分からなかった。

そして、少年の答えは、悲しいけど少女の予想通りで。

浜面「俺は、ヒーローなんかになれなくてもいい。
   ただ無様でも、惨じめでも、絶対に這い上がるって決めたんだ」

浜面「だから……わりい」



594 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/25(日) 08:56:35.78 ID:2RETGfYQ0




絹旗「……そうですか」

だらん、と。少女から腕の力が抜けた。

浜面に向かったのは、風圧。少女の肢体数センチの厚さで展開されたそれは、一撃必殺の装甲。

絹旗「どうしても行くって言うんですね」

浜面「ああ」

ギロリと、向けられた事の無い様な殺意の籠った視線が、少女から向けられた。
今までつき合ってきた少女から感じた事の無い、威圧感。

これが『アイテム』の牙であり、爪。

かつての少女の言葉を、浜面は思い出す。
一方通行に関わるのなら、殺してでも止めると凄んだ彼女の言葉は本物だと理解できた。

しかし、浜面だって、もう引けはしない。この道は、誇れる道は自分で決めたのだから。

浜面「俺はあの実験を潰す」

絹旗「じゃあ私を倒せますか!? この力は一方通行の能力を下敷きにして開発されています。
   私を倒せない限りあの最強には絶対に勝てませんッ!!」

瞬間、少女が跳ねた。




595 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/25(日) 08:57:29.59 ID:2RETGfYQ0




浜面「――――っ」

既に目は暗闇に慣れきっており、その一挙一動は目で追える。

しかし、

浜面「痛ッ――」

体は思う様には動かない。
慌てて数歩下がった時には、浜面が先ほどまで立っていた床は粉々に砕けていた。

絹旗「アイツは反射膜で常に自分を覆っています。全てのベクトルを操るなんてチートみたいな超能力者なんですよ!
   意味が分かりますか? どんな攻撃も、あの最強の盾には弾かれるんです!!」

少女が、その細腕を振る。それだけで周りに並べられていた長椅子の数々が宙に舞う。

絹旗「アイツの盾を貫けるような矛なんて、この世に存在しないんです。私だって、そうですよ。
   この体に纏う窒素の膜は並大抵の事では破る事は出来ません。この膜がある限り、誰も私には触れられない、
   痛みだって、温もりだって感じる事は出来ないんです!!」

少女が、吠える。その叫びは、いつの間にか悲痛なものへと変わっていた。

浜面「…………」

かつて、絹旗に触れた事は何度もあった。
怪我の手当をしていた時。
MARで巻き込まれた時。
垣根帝督の襲撃の際、その手に触れて、離した時。

温もりは、たしかに、感じなかった。



596 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/25(日) 09:02:20.78 ID:2RETGfYQ0




浜面「…………」

それが、どれだけ辛い事なのかは、浜面には分からない。
『能力』なんて、もったことは無いのだから。

絹旗「そんな相手に浜面はどうやって――」

少女が、更に駆ける。その腕を振りかぶり、死へと向かう少年を引き止める為に。
最強を模したその力をもって、少年を叩き潰す。

絹旗「勝とうって言うんですか!!!」

だから、浜面は、

浜面「――なんだ。ちゃんとあったけぇじゃねえか」

その腕を包み込み、そっと少女の頬へ『触れた』

絹旗「――――え」

少女に訪れたのは、戸惑い。

そして、何年振りになるかもわからない、暖かさ。

絹旗「なんで、暖かいんですか……え? どう、して」

少年のごつごつとした腕が確かに頬に触れている。
能力は発動しているはずなのに。

その手は角張っていて、傷だらけで、でも暖かくて。

目の前の少年はどこか笑っていて、

絹旗「どうして、」

可能性が、何百何千という可能性が絹旗の頭の中で弾かれ、答えを選び出す。

絹旗「浜面……まさか、能力を?」

浜面「悪い、絹旗。俺行くわ」



597 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/25(日) 09:03:14.39 ID:2RETGfYQ0




トン、と額を突かれた。その指先は最後まであったかくて、
そのあったかさに浮かれて、絹旗は尻からその場へ倒れ込む。

絹旗「あ……」

見上げる少年はやっぱりどこか吹っ切れた顔をしていて、倒れた絹旗の横をそのまま駆けて行く。

絹旗「……待って、待ってください! 浜面ぁ!!」

言葉は届かず。伸ばした腕も、届きはしない。

思いすら、届かなかった。

絹旗「あ、う……ぅ」

こみ上げてくる感情が何かは分からない。
なにがどうなったのかも、絹旗には分からない。

けど。

絹旗「〜〜ッ!!」

立ち上がり、そのまま駆ける。

いつもの様に、少年の背を追いかけるかの様に。

しかし、別の道を走りながら。



598 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/25(日) 09:03:44.14 ID:2RETGfYQ0




――――――――――――




例えるなら、少年には翼があった。

例えるなら、少年は縛られる事がなかった。

例えるなら、少年は自由だった。

誰にも少年を止められる事は出来なかったし、
誰も少年の前に立ちふさがる者はいなかった。

だからこそ、少年は浮いてしまうか様なその身の軽さで突き進んできたのだ。

止まろうとは思わなかったし、立ち塞がった者がいればその翼で乗り越えた。

背負うモノは無かったし、共に並ぶ者もいなかった、守るものさえ、なにもなかった。

そもそものきっかけは、なんだったのだろうか。

少年は考える。

…………

絶対。

そうだ。絶対になる事だ。

最強をも越えた存在に至る事だ。

だから――



599 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/25(日) 09:04:10.39 ID:2RETGfYQ0





『…………』

だから、少年は少女を殺した。

『違う』

だから、少年は少女達を殺し続けた。

『違ェよ』

10000人も殺した。

『違ェっていってんだろォが!!』

咆哮は届かない。

決して届きはしない。

『ミサカは生きていたかった』

気付けば、少女の声が響いていた。

『死にたくない』

一万人もの、少女の声が響いていた。

人として当たり前の事を願う少女の声が、まるで呪いの様に。



600 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/25(日) 09:04:50.15 ID:2RETGfYQ0




「…………」

瞼を開けると既に日は沈んでいて、荒れはてた部屋は痛い程の沈黙に沈んでいた。

「あァ……」

気怠そうに、一方通行はソファから起き上がる。拍子に、何かを踏んだ。

「ぎゃあぁッ!!」

それの感触は柔らかく、声を発した。未だ虚ろに目を細めた一方通行が視線を向けると、
その生き物は怯える様に縮み上がる。

なんて事の無い、それは学園都市の沈黙によって暴徒と化し一方通行の部屋を荒らしに来たスキルアウトの一人だった。
見回せば、そこそこ広い学生寮の一室には何人もの徒党を組んだ少年達がうめき声を上げている。

「はァ……またかよ。飽きないねェオマエらも」

呆れたように一方通行はため息を漏らす。
一方通行の身にこのような事があったのは、初めてではなかった。

自分持つ矛の力を過信し、驕り、その先の幻想を現実にしようとする馬鹿は、この街にはいくらでもいる。
学園都市最強。その肩書きはどうしても彼らには魅力的に見えるらしい。



601 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/25(日) 09:05:18.48 ID:2RETGfYQ0




「さて、どォっすかね」

びくりと、不良達が震える。
最早這う事ぐらいしか出来ない彼らの生殺与奪を握るのは、目の前に立つ最強なのだ。

「た、たすけて……」

「知るか」

「た、頼むよ。もうしないから!」

「だから知らねェよ」

だるそうに一方通行はその声を無視し、手を伸ばしたのは机の上に置かれていたコンビニ袋。
取りだしたのは大量に買い占めた缶コーヒーの一本。寝起きの頭脳を、その苦みで叩き起こそうとし、

「あァ、取り敢えず掃除しねェとな」

ソレを飲み込む前に、不良を軽く小突く。
不良達にはそう見えたのだろう。

「ぎゃ、ああああああああああああ!!」

しかし、ただそれだけ、悲鳴を散らせながら部屋の外へ吹き飛んで行った仲間をみて、
残りの少年グループは顔を青く染めた。どの道、この闇の中ではそれも視認出来ないが。



602 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/25(日) 09:05:45.82 ID:2RETGfYQ0




「ふァ……だりい」

欠伸を噛み締めながら少年が首を鳴らす。
何故か全身が軋み、痛みをあげていた。

何故だろうと、未だ調子の戻らない脳は疑問を浮かべる。

取り敢えず。一方通行は不良を蹴った。爆ぜた悲鳴は徐々に遠くなった。

喉が干上がる音があちこちからあがる。
それだけの数を処理しなければ行けない事に憂鬱に鳴ったが、
終わったら手に持つコーヒーを飲もうと決め、一方通行は一人ずつ痛みと共に吹き飛ばす。

窓際にのこった最後の一人は、恐怖に泣いていた。

「テメェで終わりか」



603 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/25(日) 09:06:21.52 ID:2RETGfYQ0




「ひぃっ……た、助けてぇっ殺さないでくれぇッ!!!」

いつもの様にお決まりの台詞を吐きながら懇願する駒で不良の元へ、
いつもの様に残虐な笑みを浮かべながら一方通行が向かって行く。

いつもの様に台詞を吐く。

「安心しろ。殺しちゃいねェし、殺しもしねェよ。俺は何も――」

何故だか、そこで言葉は途切れた。

何故だか、一方通行は分からなかった。

その答えは、意外と早くにやって来た。



「ひゃぁ! 死にたくねえ!! 生きていてぇよおおお!!」



「――――」

コーヒーの苦みに頼らずとも、その脳は覚醒した。
鮮明に甦るのは、昨夜。

超電磁砲に嬲られ、学園都市が死に、そして――

「…………」

手に握っていた缶コーヒーが滑り落ち、ゴンと鈍い音を立てた。

もう足下に不良はいない。今は同じ仲間と共にどこかでノびている事だろう。

なのに、ぼんやりと一方通行はそこに立っていて、月明かりに照らされていて。



604 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/25(日) 09:07:02.35 ID:2RETGfYQ0




「…………」

幼い頃から死は常に身近にあった。

文字通りこの街に飼われていた幼少期。
吐き気のする様な日々を過ごしたあの地獄で死を見る事など日常茶飯事だった。
その能力は時として誰かを殺し、傷つけ、玩ばれて来た。

苛まれなかった訳じゃない。それでも、どこかにラインはあった。
ギリギリを保つ自分で引いた境界線が、どこかにあった。

決して越えようとはしないでおいた一線は、あったのだ。

しかし、

「……く」

自分は以前、襲いかかってきた不良になんて言っていただろう。

返り討ちにしてやった不良になんて言い放っていたのだろう。

先ほどの不良に向かって、なんて言おうとしたのだろう。

「……く、くくく」

笑いが溢れる。あまりにも、可笑しくて、滑稽で、まるで自分が道化のようで。

こんな感情に心が埋め尽くされる学園都市第一位があまりにも惨じめで。

「ぎゃははははははっ!! あっはははははははははははっ! ひゃははははははははははははッ」

嘲笑が木霊する。

「ははは――あ、あァァァああああァァァああああァァァァァあァぁッ!!!!!!!!!」

それは、いつの間にか叫びに変わる。

大気は震え、その拡散した己の力は部屋をぐちゃぐちゃに荒らして行く。



605 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/25(日) 09:07:35.39 ID:2RETGfYQ0




「…………」

獣の様な雄叫びがが静まったそこは、嵐でも通りすぎていったかの様に荒れていた。
モノの原型が一つも残っていなかった。

最早枠組みしか残っていない窓から差し込む光は、一人の少年を照らしていた。

己を抱いてその場にうずくまる、一人の少年を照らしていた。

「……クソが」

体の至る所から焼ける様な痛みが脳に伝わる。
超電磁砲から受けた傷が、痛みが、まぎれも無く自分の生を証明させる。

痛い。

痛い。

痛い。

これを、一万人。

一万人の人間に振りまいて、殺して来たのか。



606 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/25(日) 09:08:06.67 ID:2RETGfYQ0




「う、うぅぅぅぅぅぅぅぅッ!!!」

違う。

違うんだと大声で叫びたかった。

アイツらは人形なんだ、人間じゃないんだと、

しかし、その叫びは否定される。

記憶の中の、彼が最後に殺した少女が否定する。

『ミサカは死にたくありません』

『ミサカは、生きていたい』

その言葉は、一方通行が今まで飽きる程聞いて来た『人間』の願いそのままで、

「あァ……そォか」

だから、人形を処理し続けていた少年はようやく理解する。

ようやく、気付く。

噛み締める様に、呟いた。

「俺は、人を殺したンだな」



607 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/25(日) 09:08:55.19 ID:2RETGfYQ0




途端に吐き気が押し寄せる。
心臓が縛られた様に萎縮し、立てない程の重力が降り掛かる。
その背に被いきれぬ程の死が、押し寄せる。

翼が、捥がれる。

「は、はは……」

なんだこれは。笑いが止まらない。

「クソッタレ……ひ、はは。最ッ高じゃねェかチクショウ」

自分は今、一万人の人間の屍の上にいる。

「チクショウが」

自分は今、一万人の人間の死を背負って生きている。

「クソ、が……」

なら、

「もう……立ち止る訳にはいかねェじゃねェか」



608 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/25(日) 09:09:22.83 ID:2RETGfYQ0




「…………」

カチ、カチ、カチ、カチ

再び沈黙に沈んだその部屋に、微かに響くのは時計の音。
細い秒針が壊れた盤の上で、時を刻み続ける。

第10032回目の実験が迫っていた。

そして、

秒針の音に紛れ、聞こえるのは、静かな足音。

それは、一方通行の部屋の前で止まり。

ひたり、と部屋に入って来た。



609 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/25(日) 09:09:44.77 ID:2RETGfYQ0




「…………」

それを感じても、一方通行は起き上がらない。

起き上がれない。

背に乗る少女達が、重すぎて。

その場に、震えながらうずくまる。

足音はとまり、一方通行の後ろに静かに佇んでいた。

先ほどの不良か、それとも新しい馬鹿か。

どちらにしろ笑っている事だろう。

この姿をみて、バットでも振りかぶっているのだろう。

「ねぇ、震えているの?」

聞こえたのは、少女の声だった。

予想外の声に、少しの驚きが隠せなくて、少年は思わず顔をあげる。

目の前の割れた窓ガラスの破片には月明かりに照らされる、
どこか弱々しい少年の顔が映っていて、その後ろに立っていたのは。



610 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/25(日) 09:11:06.03 ID:2RETGfYQ0










「もう大丈夫。ってミサカはミサカは優しく微笑んでみたり」









611 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/25(日) 09:11:50.53 ID:2RETGfYQ0




             次回予告




「いえいえ、命令が出ていましてね?
 絶対能力進化計画を阻害する組織『アイテム』を潰せ……と命令が」

                  メンバー・査楽



「じゃあ、アンタとはここでサヨナラって訳で」

                  アイテム・フレンダ



「くはははは。その顔は久しいな。久方振りだ」

                  メンバー・博士



「こんな成りになっちゃっても、やっぱ殺意には敏感なのよねぇ」

                  アイテム・麦野沈利



「ど、けェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェぇッ!!!!!」

                  アイテム・絹旗最愛


「……なンだテメェ」

                  超能力者・一方通行



612 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/25(日) 09:12:43.94 ID:2RETGfYQ0



投下がプレゼント(キリッ
まぁ生殺しですけど

いやー、朝のうちに間に合ってよかった。
そろそろお話も佳境です。
起承転結でいう転の最終局面です。

個人的には一スレ目が起。
二スレ目の半分までが承。
そこからずっと超長い転を彷徨ってるところでしょうか。
ここが終わればやっと結びです。結びの話も長くなる予定ですがよければ最後までおつきあいください。

次は新年にお会いしましょう。
多分キャラ最多予告。読んでの通り次回から一方通行編と暗部抗争編が並行します。
そしてリアルタイム投下も始まります。次からもりあがりまっせー

次はお年玉すな。
ではでは。よきクリスマスを



613 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 09:14:43.19 ID:zeNIRMvg0
1乙
最高のプレゼントをありがとう
めちゃくちゃ面白い
614 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 09:39:33.68 ID:jo4joZq90
otu
615 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 11:44:37.05 ID:4VSu5pM+o
ここで打ち止めか
一方通行を浜面が許せるかどうかだな

616 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 11:50:50.66 ID:w8DllR7Ho
乙ー
617 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 13:00:41.55 ID:zMrrkwVe0
これはいいプレゼント。
乙。
618 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 13:31:06.90 ID:Fs69SlPl0
乙ー

人を殺した事が無いつもりだった一方通行の中では、美琴はどういう扱いなのか
はじめから[ピーーー]つもりはなかったのか、
助けられたのを知っていたのか、
あるいは妹達同様に人形扱いなのか
619 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 16:18:45.26 ID:nTtjtwNfo
おつー
浜面能力者になったとしても触れないとダメってことは原作上条さんと同じか
620 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 17:50:10.44 ID:QoG3LGkAO


能力者になったわけじゃなく、アレを使ってる可能性が……。
621 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 19:25:42.38 ID:KmYKWfCg0


絹旗って真剣モードだと超がなくなるんだっけ?
622 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 19:35:48.21 ID:VPR1s0LC0


次回も楽しみにしてる。
考察とかは当たっても当たらなくても作者が困る事が多いから心の中に秘めとくのがいいと思う。
623 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 20:10:15.92 ID:YMTXEouY0
乙乙

いつも本当に想像の斜め上を行くな
つかこれは浜面アレ持ってるしアレも持ってるから更にアレ出来るしあそこにあるアレも使ったりするかもしれないし
ヘタするとL6御琴よりマズイ怪物にもなりかねないんだよな
初春と木山先生の薄さが気になる
624 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 20:12:43.06 ID:M5iS8QIko
625 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 21:25:01.63 ID:QuUh0leAO
乙!
626 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 21:44:49.58 ID:aVnb583AO


おい、読み返してたら前々スレ>>200辺りで次回のネタバレ食らったんだがwwwwwwwwwwww
627 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 22:05:20.31 ID:YslWds+90
            ___
           ,r'     `ヽ、
          ,i"        ゙;
          !.(●)   (●),!
          ゝ_      _,r''
         /  ;;;;;;  ・・ ;;;;) <それは報告しなくてもいいです。
         /          (_
        |    f\ トェェェイノ     ̄`丶.
        |    |  ヽ__ノー─-- 、_  )
.        |  |            /  /
         | |          ,'  /
        /  ノ           |   ,'
      /   /             |  /
     _ノ /              ,ノ 〈
    (  〈              ヽ.__ \
     ヽ._>              \__)
628 :  [sage]:2011/12/26(月) 03:01:40.45 ID:6tVRN/740
↑きめぇwwww

乙!! 次は年末年始か? 
629 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/26(月) 06:19:41.82 ID:ESo3XeZAO
2月の時にはここまで文章起こしてたのな。
SSってこんな念入りに長い目で書くものだったのか……すげえ。

>>1乙!!
630 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/26(月) 07:16:34.92 ID:indrEc3AO
乙。

そういや前スレ終盤でアレ拾ってたなぁ浜面。
レベル3なら役にたたんけど6にもなったらどうなるんだ?
631 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/26(月) 13:19:19.59 ID:+1XBZYPv0
次は新年だと言ったな……あれは嘘だ。

書き上げたら投下したい病が重傷…
今日の23時ごろ投下しますん。
632 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/26(月) 13:22:46.93 ID:PJHQ7meAO
まじすか
633 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/26(月) 15:10:25.35 ID:PAdzYPzzo
裏切ったな! 僕の心を裏切ったな!

良い意味で裏切ってくださってありがとうございます
634 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/26(月) 15:18:21.23 ID:DXBNxW2Q0
裏切りの代償はでかいぞ。
635 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/26(月) 20:47:00.32 ID:kAT8O6Ulo
よし来た来い来い
636 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/26(月) 23:07:36.53 ID:+1XBZYPv0
遅刻したすまん。いきます
637 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/26(月) 23:08:37.73 ID:+1XBZYPv0




――――――――――――




「はぁーあ……結局、一人だと心細いって訳よ」

死んだ街を歩み、そう呟いたのは両手に荷物を抱えたフレンダ=セイヴェルンだった。
抱えるのは数多くあるアイテムの隠れ家に置いてあった衣類や武器類、娯楽品や日用品など。

滝壺が倒れ、麦野が倒れ、絹旗と浜面は姿を消し、
まともに動けるアイテムの構成員はフレンダただ一人。

だからと言って一人街をうろつく訳には行かず、麦野と滝壺の様子も目は離せない。
言ってしまえば、これは当分を病院で過ごす為の生活用品の補充だ。

「あー、食料の確保は……まぁ、盗めばいいか」

こんなんじゃコンビニも機能していないだろうしなー、
と見回した街には一つの明かりも灯っていない。



638 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/26(月) 23:09:14.40 ID:+1XBZYPv0




「…………」

本当に、この街は死んでしまったらしい。
それが世界にどれだけの影響を与えるのか、フレンダの頭脳では想像もつかないが、
きっとそれは自分達の関係の無いところで動くのだろう。

「結局、絹旗はちゃんと浜面見つけられたかな」

とぼとぼと歩きながら呟いたのは、同僚である少女。
しっかりもので、その実一番もろい部分を持っているアイテムの最年少。

彼女が消えた浜面を必死にその足で追っていたのは、フレンダだって知っている。
引き止めたにも関わらず、彼女は行ってしまったのだから。

「特別……なんだろうな」

そこまでする理由は、そう。

フレンダにとってアイテムがそうであるかの様に、
絹旗にとって浜面仕上という少年が、そうなのだろう。

特別なのだ。

居場所なのだ。

問題は、本人には余り自覚が無いというところだろうか。



639 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/26(月) 23:10:21.48 ID:+1XBZYPv0




「はぁーあ、結局。めんどくさいって訳よ」

自分たちは暗部で、人殺しで、真っ当な光に下ではもう生きて行けない人間だ。
その身は、血に濡れすぎている。

「けど、さ」

もしも絹旗最愛という未だ幼すぎる少女に、名の通り最愛を注ぐ人が現れたのなら、
フレンダはそれでもいいと思う。

「…………」

この世界に生きている限り自分達は血にまみれたって、人なのだから。

「で、結局アンタはどちら様?」

少女の視線が、ぐるりと巡る。
向かう翡翠の瞳は、その背後の闇の中。

「いやぁ、気付きましたか……流石ですね」



640 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/26(月) 23:11:13.56 ID:+1XBZYPv0




少女の体が、僅かに強張る。
身に当てられた殺気は、まともな人間が放つには濃すぎる程で、
だから自ずとフレンダには答えが導きだせた。

「暗部の人間が……なんの用って訳よ」

「メンバー。ソレが私の所属する組織の名です」

闇に濡れながら現れたその姿は、自分よりは少し年上だろう、高校生程の少年。
涼しげな格好をした少年が、笑みを浮かべながら歩み寄る。

「結局、目的は何?」

一歩、足を後ろに引き、フレンダはあくまで冷静に問いかける。
暗部組織が他の暗部組織へと接触する事など本来はあり得ない。

あるとすれば、交渉か、はたまた、

「いえいえ、命令が出ていましてね?」

しかし、少年は笑う。あくまで笑って言う。

「絶対能力進化計画を阻害する組織『アイテム』を潰せ……と命令が」

「――っ」



641 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/26(月) 23:12:22.53 ID:+1XBZYPv0




瞬間、少女は両手に持っていた荷を投げ捨てる。
またヘマをした、あんな殺気を放つ人間相手にわざわざ確認するまでもないのに

と、そこまで思考して、

「でも、僕は嫌なんですよね」

「!?」

カチャリと、フレンダの後頭部に突きつけられたのは人殺しの道具。
背後から聞こえて来たのは、嘲笑の混じった冷たい声

「貴女みたいな愛らしい女性を殺すなんて、ね?」

「テレポーター……」

これまでに無い程、フレンダ=セイヴェルンの脳が加速する。
敵が引き金を引くまで残りコンマ数秒。今、一体自分に何が出来る。
相手は空間移動能力者。
自身を移動出来るという事は十一次元上の理論値を自在に計算出来る大能力者(レベル4)
対して自分は強能力者(レベル3)しかも能力の相性が絶妙に悪い。
しかし、このまま撃ち抜かれる訳にも行かない。

(なら――っ)



642 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/26(月) 23:13:03.27 ID:+1XBZYPv0




ゴトッ

「……?」

突如として、自分の足下に転がって来たソレに、査楽は目を見張る。
そのピンの抜かれた手榴弾の様な物を視認して、

「――なッ!?」

査楽は直ぐさま後ろへ跳ねた。

瞬間。襲ったのは予期していた爆風などではなく、目を覆う程の眩しい閃光。

「フラッシュバン……っ、この」

「自爆なんかする訳無いっしょ! 結局アンタってばお馬鹿さん?」

得意げに笑みを浮かべながらフレンダは体を捻り、
いつの間にかその手に引き寄せた銃を、未だ唸り声をあげ目を覆う襲撃者に向ける。

そして――



643 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/26(月) 23:14:05.30 ID:+1XBZYPv0




「……アンタって結局、空間能力者じゃなかったの?」

その引き金を直ぐさま引かなかったのは、目の前の大能力者があまりに滑稽だったからだ。
そもそもフレンダがシュミレートした状況と今のこの状況は大きく食い違っていた。

フレンダの考えでは、閃光弾を見てどこか安全な場所に非難すると予想していただけに、
こうもあっさりと戦況がひっくり返ると、少々拍子抜けである。

移動した瞬間に逃げ出そうと思っていた。なんて口には出さないが。

「あー、あ。なるほど。……そう言う訳ね」

数秒、思考の海に沈み答えを引き上げて来たのであろう、
フレンダがどこか納得のいったような表情を浮かべる。

「結局、アンタは他人の背後にしか移動出来ない出来損ない
 の空間移動能力者な訳だ」

「……っ!」

「ビンゴ? ならレベルも4まで届いてないって予想も正解かしら?」

「…………」

その言葉に、苦渋を舐めさせられたかのように査楽が表情を歪める。
すかさず手に持っていた銃を構えようとし、

「――っ」

ない。握っていたはずの銃がどこにも。

(まずい……落としましたかね)

などと勘違いし、予備の銃を取り出そうとしたところを。

パン!



644 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/26(月) 23:14:54.41 ID:+1XBZYPv0




乾いた音が鳴り響いた。
弾は少年の肩を貫通し、その身に纏う衣類を朱に染める。

「あ、あ”あ”あ”あ”あ”あ”っ!!」

「結局、ちんたらしすぎなのよ。アンタ」

身もだえる少年に向かってフレンダは更に撃つ。足を、肩を、脇腹を、

「まず最初の時点で撃つべきでしょ。私も馬鹿だけどアンタも相当馬鹿みたい」

そう、査楽にフレンダを殺す機会は、幾度となくあった。
歩いている時に背後に移動して、撃てば良かったし、
面と向かった時点で撃てば良かった。
虚を突いた瞬間に銃ではなくナイフを使えば確実だった。

「結局、そんだけ要領悪かったら出来損ないでも仕方ないわよね?」

「く、ぅ……!!」

無様に転がり込んだ査楽の懐から、予備の銃が滑り落ちる。
その銃に手を伸ばそうとし――

「はいパーン」

「うあああぁぁッ!!」

弾は少年の手の甲を貫いた。



645 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/26(月) 23:15:48.60 ID:+1XBZYPv0




「あーあ、痛そう。大丈夫?」

悲鳴に埋もれる様にカチカチと軽い音が連続する。弾切れだ。
撃ちすぎたかな、なんて思いつつフレンダはその銃を惜しむ事も無く投げ捨ててた。

「……く、あ」

「なに? 悔しそうにこっち見てさ。
 結局、さっき馬鹿にされた事怒ってるの?」

出来損ないの空間移動能力者。
その言葉は目の前に伏すこの少年のプライドを大きく抉った事だろう。
この街の学生にとって、能力と言えば存在意義の一つともなる重いものだ。

ソレをこうも馬鹿にされたら、その内心はフレンダには痛い程分かる。

だから、彼女は蔑む様に、笑って言う。

「まぁ、そんな悔しがらなくていいって訳よ。結局、」

私も同じだから。



646 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/26(月) 23:16:29.79 ID:+1XBZYPv0




その言葉に査楽は眉を潜め、対するフレンダはやはり笑う。
相手の能力の種が割れた以上もう逃げる必要も無い。

既に勝敗は決まっているのだから。

「難しいっしょ。十一次元上の理論値の計算。私もさっぱりな訳でさ
 結局、レベル3止まりな訳よ」

その瞬間。消失したのは査楽のすぐ側に滑り落ちていた予備の拳銃。
それは瞬きをした瞬間、少女の手元へ。

ここで査楽はようやく先ほど自分の握っていた拳銃がどこへ消失したのか理解する。

「私のは物体を自分の周囲に引き寄せる事しか出来ないんだけどね。それも銃以上の重さは無理。
 テレポーテーションじゃなくてアポートメントって呼ぶんだけど、まぁどうでもいいか」

カチャリと、少女は銃を構えた。
それは、少年に死を与える為の第一歩。

「じゃあ、アンタとはここでサヨナラって訳で」



647 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/26(月) 23:17:35.86 ID:+1XBZYPv0




パンパンと銃声が響く。

その銃はコンクリートに穴をあけただけで、

「――っ」

ソレを予測して振り向いたフレンダの背後に、査楽の姿は無かった。

あったのはフレンダが先ほど放り投げた弾の込められていない銃だけだ。

「……あれ?」

おかしい。敵は背に移動する能力者。当然撃たれる瞬間に背後へ飛ぶはずだ。そこまで予想して、
フレンダはわざわざ撃った瞬間、自身の背後に銃をアポートさせて査楽への埋め込みを狙ったと言うのに。

「あれれー? 結局、どういう事?『手元じゃなくて周囲って言ったじゃない。おバカさん』
 なんて決め台詞まで考えてた。の、に………」

「え……」

言葉が途切れたのは、急に熱が走ったからだ。
滲む様な赤が。口許から漏れ、脇腹からみがが広まる。

撃たれたという事は、考えなくても分かった。



648 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/26(月) 23:19:17.64 ID:+1XBZYPv0




「行動が遅すぎるのだよ君は」

声は、背後。闇の中から。
先ほどとは違う、しわがれた声。

「まずは最初の時点で撃つべきだろう。
 敵にわざわざ解かなくてもいいご高説を解くから、足下をすくわれる。」

(仲間――くそ、やっぱり馬鹿だ)

傷を押さえながら、膝をつく。
逃げる事さえ出来ない程の激痛が全身を焼いていた。

油断。油断だ。完璧にフレンダの頭からは敵に仲間がいると言う可能性が抜けきっていた。
そうだ。アイテムだって、どの組織だって、4人1組が常識なのに。

闇の中で、声は笑う。


649 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/26(月) 23:19:49.24 ID:+1XBZYPv0



「変わらないな。『置き去り』の時から何も変わってはいない」


650 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/26(月) 23:20:40.83 ID:+1XBZYPv0




「――――ッ!?」

その一言で、心臓が、爆ぜた。

血の気が、潮の様に引いて行く。
痛みが薄れて、生きる事より優先すべき事項がフレンダの中に生まれ始める。

聞き違いではない。確かにこの男は『置き去り』と、そう言った。

どういう事かなんて、考えなくても分かりきっている。

まさか。

まさか。

「き―――」

ギチ、ギチ、ギチ、と。
まるで機械の様に、小刻みにフレンダの視線が声の方へ移り、闇の中を射抜いて行く。
捉えたソイツは、良く知る人間だった。探し求めた人間だった。この世で一番殺したい人間だった。

「――は」

コツコツと靴音を鳴らし、その老人は姿を現す。

「くはははは。その顔は久しいな。久方振りだ」

甦るのは、惨たらしい実験。

「――ら」

甦るのは、戻らない笑顔。

少女は叫ぶ。今も己を犯して行く熱を忘れて。



651 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/26(月) 23:21:23.65 ID:+1XBZYPv0









「きはらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!」




「私の事は博士と呼ぶよう教育したはずだがね」








652 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/26(月) 23:22:38.72 ID:+1XBZYPv0




「やはりなにも変わらないな。子供のままだ。フレンダ=セイヴェルン」

そう言い捨てると、消音銃を構えた白髪の老人はくくっと笑った。
背後には、死ぬ思いで空間移動を成功させた査楽が呻いている。

「アンタはッ……!! そう、暗部にいたの。探しても見つかんない訳だ」

獣の様に少女が吠える。仲間内でさえ見た事の無い様な殺気を垂れ流し、
『木原』と呼んだ白髪の老人に対し、喰いかかる。

「あの実験で確か70人程死んだかね? そして君は生き残った。
 いや、用済みになったという方が正しいか。生きたまま君の脳を切る分ける前に――」

「プロデュースは終わったんだ」

「黙れ……」

少女の記憶に甦るのは、地獄だ。

凄惨で、醜悪で、酷くて、悲惨で、辛くて、涙すら血に変わる様な、地獄だ。

「そう、最後に生きたまま脳を切り分けたのは……誰だったか」

「黙れぇえええええええええええええ!!!」

少女が駆け出す。殺意を、怒りを、生を、血をまき散らしながら
その小鬼の様に笑う老人に向かって銃を向ける。

「あぁ、思い出した」

だと言うのに、老人は、木原は、笑みを崩さず、更にその醜悪さを深め、言い放った。



653 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/26(月) 23:23:18.62 ID:+1XBZYPv0










「そう、最後の被験者はフレメア=セイヴェルン。君の妹だったかな?」









654 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/26(月) 23:25:15.73 ID:+1XBZYPv0




――――――――――――



暗い。

始めに思ったのは、ソレだった。

どこかに寝かされていていて、

目を開いているのか、閉じているのかさえ分からない。

それでも、確かに自分が生きているという事は、分かった。

「あーあ、手持ち無沙汰。って言うか腕無いじゃん。あはは」

そういって、麦野沈利あるはずのない腕を伸ばし、笑った。



655 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/26(月) 23:25:52.91 ID:+1XBZYPv0




「はぁ」

軽い諦めの混じったため息を付いて、麦野はそのベッドに体を沈める。
おそらくは片目も潰れているだろう。傷は一生元には戻らないはずだ。

「あー、あのカエル顔の医者に頼まないとなー義手と義眼」

惜しい、訳ではない。暗部で生きている限りこう言った事は想定内。
傷は化粧で隠せるし、特殊メイクでもすればバレもしない。義眼も義手も、
学園都市製なら何一つ不自由さは無いだろう。

ただ面倒になるだけだ。これから生きて行くのに、少しの手間が加わっただけ。

「クッソ高いんだよなあれ。大事に扱わないと……」

と、そこまで言って、自分の言葉に笑ってしまう。

今自分はなんと言った?

「大事……、大事かぁ。そうね『物』は大事にしなきゃいけないわよね」

「く、あははははははは」

病室で、少女は静かに笑う。


656 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/26(月) 23:26:30.66 ID:+1XBZYPv0




遠くで聞き慣れた音が連続して鳴り響いたのは、その時だった。

「おーおー、こんな時でも銃ぶっ放す馬鹿っているんだ」

見つめたのは、窓の外。黒一色に染まった学園都市の中で、今も誰かが死んでいるのだろう。
今がどういう状況かは飲み込めないが、街に光が灯っていないというだけでその異常性は理解出来る。
なのに、何一つこの世界は変わらないらしい。

「さて、」

一言呟いて、その上半身を起こす。
起き上がれる体ではないはずなのに、麦野沈利という少女は平気な面でベッドから起き上がった。
手に取ったのは、備え付けの棚に置かれていた一枚のメモ。

「ふ〜ん。荷物をとってくる、麦野と滝壺が起きたら看病をよろしく、ね。」

月の光でどうにか読めるそのメモを書いたのは、フレンダだろう。字が汚い。

「滝壺さー。アンタも相当無理したみたいじゃん」



657 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/26(月) 23:27:28.59 ID:+1XBZYPv0




その声がかけられたのは、目の前のベッドに今も眠り続ける少女。
どうやらずっと隣に並んで眠っていたらしい。

「ったく、私に嘘付いて体晶隠し持ってたとか本来ならお仕置き確定なんだけど」

今は勘弁しといてあげる。そう呟いて見据えたのは、滝壺のベッドを越えて、更に越えたその先。

病室の扉。その先に潜む、数十の影。

「あはは」

麦野が笑う。

軽くその場で首を鳴らし、今は無いその腕をいたわるかの様に、残った手でそっと撫でる
それは、まるで何かを確かめる様に行われ、

「こんな成りになっちゃっても、やっぱ殺気には敏感なのよねぇ」

その瞬間、麦野沈利の笑みが真横に裂けた。


658 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/26(月) 23:28:45.38 ID:+1XBZYPv0




轟!!

と奔ったのは、一筋の閃光。

闇の中で僅かながらに学園都市を照らしたソレは、病室の壁を紙細工の様に貫き、
その先にいたブロックの構成員、山手の上半身を吹き飛ばし突き抜けて行く。

「――――っ!!」

どさり、と下半身から上が蒸発した人間だったものが倒れ。
音も無い叫びがブロックの構成員、及び下部組織に波及する。

大勢が戸惑うなか、かけられたのは言葉。

「はろークズ共。今からオマエらを殺す女です。よろしく」

超能力によって穿たれた穴。その外周部に、手がかかる。
地獄の底から這い出す様に覗き込んで来た少女は、悪魔にでも見えた事だろう。

特に、その腕。

あるはずの無い腕が、少女にはあった。

不定形な青い閃光が歪に腕の形を成していた。

振り払らわれる度にその腕は肉を裂き、焼き、命を散らして行く。

そして、

「ぎゃはあはははははははッ!! 寝起きの準備運動くらいにはなるんだろうなぁあああああああ!!!!」

虐殺が、はじまった。



659 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/26(月) 23:29:53.26 ID:+1XBZYPv0
途中ですが少し離席します。10分後投下
660 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/26(月) 23:38:55.86 ID:+1XBZYPv0



――――――――――――


一方通行。

そう呼ばれる以前はまだ、人間らしい名前があった。

名字は二文字で名前は三文字。

たいして珍しくもない名前だったはずだ。

ある時、突っかかって来た子供が自分に触れただけで骨を折った。

ソレを止めようとした大人達も、次々と傷付いて行った。

災いは、雪だるま式に膨らんで行った。


始まりは、きっとソレだ。



661 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/26(月) 23:39:36.38 ID:+1XBZYPv0




その場所は荒れ果てていた。

大地は穿ち、土は荒れ、積まれたコンテナは潰れ、
敷かれたレールは散らばり、赤が散らばる。

とにかくそこは、むちゃくちゃな爪痕が残っていて、

「…………」

そこはまぎれも無く、昨日自分がいた戦場だった。



662 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/26(月) 23:40:02.69 ID:+1XBZYPv0




「…………」

立ち尽くす少年の表情は、闇に隠れてわからない。
ただ、たった一人ひしゃげたコンテナの前で佇む彼の姿は、
後ろから見つめる少女の目にはとても孤独に思えた。

「この場所は不服ですか? とミサカはあなたに声をかけます」

「……別に不服じゃねェけどよォ。ちっとは隠蔽とかしなかったンかよ」

一拍遅れて、少年が言葉を返す。
口ではそう言うものの、態度、口調からして、
明らかに不快感を感じているであろう事は、少女にも分かった。

「しなかったのではなく出来なかったのですよ。とミサカは答えます。
 今学園都市にいる妹達は全員手が離せなかったのです」

だから少女は事実を言う。

ありのままに伝える。

「……つゥことは」

「ええ。そのままです」

ありのままに。あなたのすぐ側に潰れた死体があります。と



663 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/26(月) 23:41:05.94 ID:+1XBZYPv0




何となく。一方通行の表情が変わった気がした。

しただけだ。

「…………」

「どうかしましたか?と、ミサカは被験者一方通行の顔色が優れない事に疑問を抱きます」

チッ、と舌を弾く小さな音と共に、一方通行が一歩、歩み寄る。
今日殺す相手を見据えて、ゆっくりと。

「見えてねェくせにほざいてンじゃねェよ。……さっさとやるぞ」

「まだ実験開始までには1分の時間があります」

「……あァ、そォかい」

「…………」

「…………」

それは、それこそ10000回も繰り返して来た奇妙な沈黙だ。
殺される為だけに少女は待つ。
殺す為だけに少年は待つ。

普段なら話しかけてくるはずの一方通行は、
ひたすらに目を逸らしこちらを見ようとはしなかった。

少女から声をかけたのは、初めてかも知れない。



664 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/26(月) 23:41:36.14 ID:+1XBZYPv0




「上位個体に会ったのですか? とミサカは質問を投げ掛けます」

「…………あ?」

「打ち止め。というコードネームであなたと先ほどまで一緒にいた妹達ですよ」

そう言われ、少年は思い出したかのように言葉に応える。

「あァ、テメェらとは似ても似つかねェくらいよく口の回る妹達だったな。
 ボケた事を何度もほざくウザってェガキだったよ」

途端に不快感を露にし、一方通行は乱暴に吐き捨てる。
あの少女の存在は、よほどこの男の感に触ったらしい。

言葉から分かる様に、打ち止め。そう名乗った妹達は、確かに先ほどまで一方通行と共にいた。

しかし、この場にいるミサカ10032号が知っているのは、それだけだ。

「……今、彼女はどちらへ?」

「そンなのはテメェらが一番よく分かってンだろ」

「……そうですね」

そして、一分が終わる



665 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/26(月) 23:42:16.91 ID:+1XBZYPv0




「……では、これより10032次実験を開始します」

言葉が終わると共に、少女の体から紫電が奔る。

第10032回目の実験の幕開けだった。

「…………」

もう、止まらない。

「……そうさ、とまらねェンだ」

少年は向かって来た雷を軽く払う。

それだけで、闇を照らす紫電は霧散する。

そうだ。こんな風に腕を振ればいい。

それだけで、人は死ぬ。

いままでそうやって殺してきたんだから。

「……そうさ、もう一万人も殺ってンだ。
 今更、止まれる訳がねェだろ」

だから、少年は駆ける。その腕を、一万回殺した少女に向けて。

「――そうさ、誰が進化する為の実験だ」

脳裏に浮かぶ少女の、打ち止めと言われた少女の言葉を、少年は振り払う。
少女の言葉を、否定する。

「もう、進むしか道はねェんだ……!!」

だから――――



666 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/26(月) 23:47:24.59 ID:+1XBZYPv0



――――――――――――


「――はぁッ――はぁッ!!」

少女は駆けていた。

まるで疾駆のごとく、大地を踏み抜き、ビルとビルの間を飛交い、
闇を斬るかの様に駆け巡る。
必死に、休む事無く、息を切らせながら、少女はただひたすらに奔っていた。

目的はたった一つ。
浜面仕上はもう止まらない。何を言っても、止まらない。

少年は恐らく『アレ』を使っている。でなければ、あの温もりはあり得る訳ないのだから。

だけど、例えそうだとしても、最強に敵う道理なんてどこにもないのだ。

だから、もうこれしか無い。

だから、少女は走る。



667 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/26(月) 23:48:09.93 ID:+1XBZYPv0




「――はぁッ――はぁッ!!」

こうしていると、昨日から一日中走り回っているな。
なんて、笑ってしまう。

どうしてだろう。

足を一歩前に踏み出す度に、そんな疑問がわいてくる。

どうしてだろう

息を吸い込んで吐く度に、そんな疑問が降ってくる。

どうしてだろう

どうしてこんなに必死になって走っているんだろう?

「――っ」

それは、今朝も一瞬だけ考えて、振り払った疑問。

それは、何度も何度も自分にぶつけた、決して問いの見えない疑問。



668 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/26(月) 23:50:04.00 ID:+1XBZYPv0




少女は問う。

走りながら、自身に問う。

どうして、こんなに必死になってるんですか?



「はぁッ――わかりませんよッ!!」



669 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/26(月) 23:50:31.66 ID:+1XBZYPv0




少女は問う。

走りながら、自身に問う。

どうして、あの馬鹿の為にこんなに走り回ってるんですか?


「――知りま、――せんッ!!」



670 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/26(月) 23:51:59.50 ID:+1XBZYPv0





思い返したら、あの馬鹿に随分と振り回されてた気がする。

「はぁッ――はぁッ――!!」

麦野に殺されそうになった時も、MARでの時も、
垣根帝督が襲撃して来たときも、今だって。

たったひとりの人間の為に一方通行に関わるなんて、どうかしてる。

「はぁッ――はぁッ――!!」

どうしてですか?

「〜〜〜〜ッ!!」



671 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/26(月) 23:53:37.52 ID:+1XBZYPv0




理由。

あの少年の為に、絹旗が命を賭けてしまえる理由とは、一体なんだろう。
それを、自分は探している。心のどこかで求めている。

「…………」

いや、本当は探す必要なんて、どこにもない。

そんなの、始めから知っている。

ずっと前から、気付いてた。

ずっと前から、分かってた。

「は、はははっ!!」

自然と、笑みがこぼれる。
それは、自分が語るには余りにも滑稽で、
余りにも気恥ずかしくて、余りにもバカらしくて、

だから少女は笑う。

「超馬鹿ですね、私も! 
 まさかこんなC級映画のヒロイン並みにちょろかったなんて思いませんでした」



672 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/26(月) 23:57:47.46 ID:+1XBZYPv0




少女は問う。

笑いながら、自身に問う。

どうして?

「そんなの、好きだからに決まってるじゃないですかッ――!!」

「死んで欲しくないんです。当たり前じゃないですかぁぁぁぁぁッ!!!」

バカみたいだ。暗部の人間。人殺しが、
こんな理由で必死になるだなんて。

いつから、なんて分からない。

どこが、なんてもっと分からない。

ただ、その少年は自分には持ち得ないものを沢山くれた。

映画館での隣の席が、もう一つの居場所だった。

忘れてしまっていた温かさを教えてくれた。

だから、少女は、走って、走って――



673 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/26(月) 23:58:38.08 ID:+1XBZYPv0




駆ける絹旗の前に現れたのは、四足歩行の機械の獣だった。
メンバーから差し向けられた刺客の一人。馬場芳朗の操る機械獣は、
その視界に絹旗最愛を捉えると、直ぐさま戦闘用の駆動に切り替わる。

怪しく発光する眼を向け、今やその足を止める気配など無い少女と相見えるが――




「ど、けェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェぇッ!!!!!」




それは、まさしく一撃だった。

爆散し、四散したその機械の獣に一瞥さえせず、絹旗は駆けて行く。


そして―――



674 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/26(月) 23:59:12.82 ID:+1XBZYPv0




「見つけました」

少女は、そこに辿り着いた。

肩を上下し、息も絶え絶えになりながらも、
少女は少年より早く、この場へ辿り着いた。

立つのは激戦の爪痕が酷く残る操車場。
映るのは、暗闇の中でも尚目立つ白。

学園都市最強。一方通行。

足下には、まだ辛うじで生きているであろうボロボロの妹達が転がっていた。



675 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/26(月) 23:59:46.52 ID:+1XBZYPv0




「……なンだテメェ」

その深紅の瞳が絹旗を捉え、その存在を視認する。

同時に、少女の体が震えた。

最強を前にした恐怖と、少年より先に着いた喜びと
この先に待ち受ける未来を前に、震えていた。

声が掠れる。しかし、その声は、いつもの少女とは明らかに違っていて、

「は、はは……本当、何やってるンでしょうねェ、私は」

「……あァ?」

少女の幼い記憶には何も残ってはいない。
それこそ、あの地獄の様な実験漬けと一方通行という名前だけだ。

本人を目の前にして思う事は、いくらだってある。



676 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/27(火) 00:01:42.40 ID:/WSZZLp+0




「別に、今更恨ンでなンてないンですよ?今日まで生きて来れたのだって、
 超間接的に言えばアナタのお陰とも言えるかもしれないンですから――けど、」

「オマエ――その喋り方」

一方通行が気付く。
突如現れたこの小さな少女が何なのか。どういう人生を送って来て、
自分にどの様な感情を持っているのか。敵か、味方か。

しかし、気付いた時には遅かった。

爆発的な瞬発で、瞬きを終える間にその距離を零に縮めた少女は、既に腕を振り抜いていて、



「な――」

「けどあのバカをアナタなンかに殺させる訳にはいかないンですよォッ!!!!」



その拳は、確かに反射の壁を越えて一方通行の体をぶち抜いた。



677 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/27(火) 00:02:27.62 ID:/WSZZLp+0






         次回予告


「ごめん……ね? ごめんね、フレメアぁ」

           アイテム・フレンダ


「もう一度絶望しろコラ」

           アイテム・麦野沈利


「……離れろよ。絹旗から離れろ」

           無能力者・浜面仕上




678 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/27(火) 00:04:26.87 ID:/WSZZLp+0





ここまで。

フレンダと博士は捏造満載です。

万有引力<アポートメント>
なんて当て字用意してたけど恥ずかしくて辞めた。



取り敢えずアレとかアレとか言われると書いてるこっちのが気になるよ……
ちゃんと話進んだらその伏せ字外してなに予想してたのか教えてくれ。
そして今回はすこしだけレス返

>>618
本当は冥土返しのところでフォロー入れるはずだったんですが、
というかそのための回だったんですがすっかり忘れてました。すいません。
殺すつもりはなく、御坂の意識が落ちたのは疲労と幻想御手に取り込まれたためという事で補完してもらえれば。
構成ミスです。後付けみたいで申し訳ない。

>>626
そう言えば、間違えて投下したりもしてました。
やっと追い付いたんですなぁ。まさかここまでかかるとは。



黒夜ちゃんとかフレメアとか新キャラが出る事によって多少配役は変わっていますが、
話の本筋はスレ立てた時から全く変わっていません。予定通り進行中です。なげえよ。
あ、でも予定では7月くらいに終わるかなーなんて思ってました。全然そんな事無かったぜ!
本当に、それとヒロインの出番の少なさだけが予想外です。
絹旗は上条さんで言う美琴ポジかなーなんてイメージしてます。……このssのヒロインはインさんですよ?

ではでは。



679 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2011/12/27(火) 00:05:22.94 ID:/WSZZLp+0
あ、次こそ新年にお会いしましょう。ではでは
680 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/27(火) 00:07:36.22 ID:uVIW9h1Jo
乙、最高だ
よいお年をお過ごしください
681 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/27(火) 00:41:20.79 ID:EbKn3NxSO
682 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/27(火) 01:01:51.18 ID:u0pQFTyR0

あんまり他スレでこういうこと言うべきじゃないと思うんだけど
アポートって今更年上スレのフレンダと一緒で胸が熱くなるな。
こっちもあっちも両方大好きです。
683 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/27(火) 08:18:39.76 ID:U5gUyyvF0
まさかの新年ならずアフタークリスマスの投下とは、作者超乙なのだぜ!
そして良いお年を!!
684 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/27(火) 10:44:25.97 ID:tKFVqwoAO
乙。

フレメアはそういう役回りかぁ。クリスマスケーキみたいに切られたのかよ……
絹旗もフレンダも木原絡みの実験体にされてたんだなぁ。

となると滝壺は……?
685 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/27(火) 12:06:15.01 ID:2D98H8FAO
博士の名前が気になる

木原黄河砂!
木原無量!
木原一!
686 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/27(火) 22:47:43.57 ID:y3Jid0Wi0
打ち止め?
687 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/27(火) 22:59:16.68 ID:fVv/aW6AO
とりあえずsageとこうよね…え、もう北野って喜んじゃったじゃん
688 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/28(水) 03:26:38.03 ID:ttcp9FlDO
乙っす
面白いなぁ
689 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/28(水) 14:25:58.26 ID:824bvvSAO
乙!
690 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2012/01/01(日) 00:00:29.68 ID:LgjsmCxi0
あけましておめでとうございます
今年もこの作品を楽しみにさせて頂きます
691 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2012/01/01(日) 14:08:42.49 ID:ospIcCoAO
前スレの垣根といい>>592の絹旗といいこの>>1は間違いなく幽白好き。

そしてあけおめだ
692 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/01/07(土) 17:22:16.71 ID:/AUX9bPt0
やべえ、一気に読んだ。

こんなSSは一方さんの改変モノ以来だわ。
693 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/01/07(土) 19:44:31.61 ID:7uV/a35+0
支部から来て一気に読んだ。一日潰してしまっぜ……

続き楽しみにしてます!
694 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/01/08(日) 04:34:54.12 ID:aUq8ypmAO
無知ですまんのだが支部ってなに?
695 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2012/01/08(日) 10:13:49.46 ID:7eLhZhMto
ピクシブ
後半のシブから取って支部
696 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/01/08(日) 16:32:52.94 ID:aUq8ypmAO
>>695
見てきたありがとう。

とうとうこのSSが漫画になったのか……>>1おめ
697 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/01/10(火) 00:51:07.74 ID:ayEgDbkAO
そろそろ来ないかなぁ?





スレタイ回収してないよねぇ?
お勧めスレ読んでてスレタイ自体かなり伏線はってるんじゃないかと深読みしてしまうのだが…
698 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/11(水) 21:40:25.75 ID:Q5lWxYjj0
マダカナー
699 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/13(金) 04:18:45.78 ID:g/FrxMw40
>>693
kwsk
700 :名無しNIPPER [sage]:2012/01/14(土) 16:02:06.99 ID:GzpbtvwAO
>>699
支部にイラスト有り
701 : ◆v2TDmACLlM [sage]:2012/01/15(日) 17:42:31.35 ID:s+QZqIAR0
ちょっといろいろあって次の投下は月末か月初めになりそう。すまぬ。
次回はいろいろ頑張るんで待っといて欲しいです……すまぬ。
702 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/01/15(日) 18:58:49.20 ID:FCrX9efXo
まってる
703 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/26(木) 17:34:12.76 ID:4B3guVni0
わたしまーつーわ
704 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/28(土) 22:01:56.26 ID:fgIXnKrM0
これが終わったら、裏で上条さんが何してたか書いてほしいなぁ。1が良かったらだけど
まあ、とりあえず待ってる
705 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/02(木) 02:43:00.44 ID:wjcltocO0
>>704面白そうだけど上条さんは大まかな時系列で書いた事以外は重要な事なにもしてないんだぜ。

やっといろいろおわた。今週中には投下すんぜー
706 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/02(木) 02:43:47.57 ID:nndKALGIO
おうよー
707 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/02(木) 18:43:46.85 ID:GHo3lGbW0
来るまで待つよ
708 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/02(木) 21:09:28.35 ID:1PsJxa0Go
ひゃっほう!
709 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/02/02(木) 21:20:03.72 ID:FQ5x/gYAO
この話の着地点はスレタイ見ればわかるんだけどそこに至る過程が全然見えん。
どうなることやら……
710 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/02/02(木) 23:14:10.44 ID:Waqor9Iu0
+   +
  ∧_∧  +
 (0゚・∀・)   
 (0゚∪ ∪ +
 と__)__) +
711 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/03(金) 09:31:29.27 ID:5yMo7H+Y0
期待
712 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/05(日) 12:55:21.27 ID:3tN6DeYG0
九時くらいに投下するぜー。
もしかしたらソレより早いかもしれんぜー
713 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/05(日) 14:49:51.57 ID:bsFm/YRSo
私まーつーわ
714 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) :2012/02/05(日) 17:10:50.62 ID:4MelAEzl0
いつまでもまーつーわ
715 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/05(日) 20:16:00.68 ID:3tN6DeYG0
少し早いけど、30分頃に
716 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/05(日) 20:29:01.08 ID:3tN6DeYG0




―――――――――



肌は、姉の自分より色白かった。
そのことで少し妬いてしまって、辛く当たった事があったかもしれない

瞳は透き通った青色で、姉妹そろって奇麗だねー
なんて言われたのをよく覚えている。

フリルの付いたもこもこのドレスを着せたその姿は
人形みたいで、とても愛らしかった。

ホラー映画が好きで、もしかしたら絹旗とも趣味が合うかもしれない。
苦手な食べ物はグリーンピース。サバは……あまり好きじゃなかった気がする。

名前はフレメア。たった一人の私の妹。



717 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/05(日) 20:29:52.61 ID:3tN6DeYG0




それは、もう遠い過去だ。

『……いや』

忘れる事のない、過去だ。

『いやぁ……』

幼い私は手足を拘束され、絶対に通される事のない研究室へと連れてこられていた。
周りを下賎な研究者に囲まれ、分厚いガラスが目の前の空間を切り取っている。

まっさらな空間の中には、様々なモニターや計測器、手術衣を着た研究者。
その中には自らの事を博士と呼ばせる最も狂った研究者。木原がいた。

そして、中央に置かれた寝台。革帯でその細い裸身を縛り付けられ、
頭部をゴツゴツとした機器で固定されていたのは、

『フレ、メア……』

私のたった一人の肉親で、たった一人の妹で。けど、

『これより開頭に入る。存分に被験体の数値と情報を採取したまえ。見逃さん様にな』

『いや、いやぁあああああああああああ!!』

私は、人がモノになる瞬間を見た。



718 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/05(日) 20:31:05.21 ID:3tN6DeYG0




『やめて、やめてやめて! お願いだから! フレメアを壊さないで!!博士ぇ!!』

必死の叫びは、ガラスの向こう側には届かない。
フレメアの白い額にメスの先端がつき当てられ、一筋の雫が浮いた。

そして、麻酔も無しに

刃は走る。

『      !!      !!!』

四肢を動かせない少女が、跳ねた。
目玉を剥き出しにし、裂けるかと思う程その唇は大きく開いていて、

『やだ。やだやだやだやだやだフレメアッ! フレメア!!!!』

声は一切届かない。向こうの声も、聞こえない。それでも分かる。分かってしまう。
血と涎が滲むその口許から漏れた言葉は、その一言だけは嫌でも届いてしまう。

『たすけて』

『フレメアァァアアッぁぁぁぁぁぁぁぁあぁ!!!!』

地獄は、まだ終わらない。始まってもいない。



719 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/05(日) 20:32:47.32 ID:3tN6DeYG0




―――――――――



弾が、細い足を貫いた。

「――あ、」

じわりと、熱が走る。

踏み込んだ足から力が抜け、駆けた勢いのままにフレンダはその場に倒れ込んだ。
銃が手から滑り落ち、靴音と共に硝煙の臭いが風に乗り、もがく少女の鼻腔に届く。

「くッ……痛ッ」

フレンダの体を襲ったのは焼きごてを押し付けられたかの様な熱と痛み。
弾が貫通した脇腹と足からは少量とは言えない程の血が漏れている。

「感情的にその場での行動をとってしまうのは君達姉妹の悪い癖だ。そうだろう?」

「……結局、私は今日、この日の為に生きて来たって訳よ。冷静になんて、なれる訳が無い。」

膝を付き、激痛に意識をとられながらも視線は真直ぐに、ただ真直ぐに白髪の老人を射抜き、少女は吠える。

「アンタを殺す為だけに、私は生きて来たッ!!」

痛みを無視し、少女は走る。

「フレメアを壊したアンタを、私は許さないッ!!!」



720 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/05(日) 20:33:37.09 ID:3tN6DeYG0




「復讐かね。この世界ではよくある話だ。」

対し木原と呼ばれた白衣の老人は変わらぬ表情でフレンダを迎え、笑う。

人ではなく犬か何かでも見る様な目で少女を嘲り、その引き金を躊躇いも無く引いた。

「――あ、あぁぁぁぁぁぁッ!!」

しかしその弾は雄叫びをあげる少女に届く事はなく、細かな金属音を鳴らしコンクリートへと突き刺さる。
老人の表情に少しばかりの驚きが浮かんだ。

「ほう、その傷でよくそこまでの演算が出来たものだ」

遅れて響く硬質音。
フレンダが駆けたそこには、先ほどまではなかったはずのヒビ割れた拳銃が落ちていた。

アポートメント。

フレンダの持つその空間移動能力は物体を自らの周囲に引き寄せる能力だ。
完璧にサポート向けの能力であり、戦闘の際は自らのツールとハッタリで戦う彼女だが、
この場合に限りその能力は若干ながら仕様を変える。

銃を撃った博士に対し、フレンダが行った事は簡単だ。

弾の射線状に物体を引き寄せただけ。

弾道さえ分かっていれば、その射線状に物体を引き寄せておけば弾は弾き返せる。



721 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/05(日) 20:34:43.58 ID:3tN6DeYG0




「しかし、そこまでの綿密な演算は君には荷が重いだろう。それも手負いの状態で」

「――だから、速攻で決めさせてもらうって訳よぉぉッ!!」

一歩、二歩、とフレンダが老人の元へと駆ける。あと一歩で至近距離。足の感覚は既にない。血を流しすぎたせいか視界も霞む。
キャパシティを越えた演算は平凡な自分には度が過ぎた。精密演算はあと一度が限界だろう。

だから、この一撃で。

「ら、あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

地面を蹴る。血を零しながらも浮いた体を捻り、白髪の脳天に向け踵を落とす。そのヒールからは隠し刃。
すべてが一瞬の動きで、本来ならばもうその時点でフレンダの勝利は決まっていたのだろう。

「変わらないな。感情に身を任せるからあと一歩のところで君達は躓いてしまう」

「――あ、」

だが、しかし。少女の体は最早限界だった。

振り下ろした必殺は空を切り、体勢は崩れ体はそのまま硬いコンクリートへと打ち付けられる。
転がった体に、不思議と痛みは感じなかった。




722 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/05(日) 20:35:35.85 ID:3tN6DeYG0




「く、うぅ……」

体から熱が抜けて行く感覚が少女を襲う。痛みより先に、震えが来た。
見上げた夜空はぼやけ、星が歪む。

まずい。そう直感が言う。

これはまずい。

「冷静になりたまえ。かつての恩師に再開を喜ぶ暇も与えない気かね?」

「だ、れが……!!」

吐き出す言葉も、最早弱々しい。
体が衰弱しきって行く中で、フレンダは必死に仇を睨みつけ心を燃やす。

そうしないと、きっと意識は二度と戻って来れないところへと落ちてしまうから。

「ふむ、そうだな。まずはその熱い鉄を冷ましてしまおうか。私の後ろに転がっているアレが見えるかね?」

そういって老人が指差した方に転がっていたのは、先ほどフレンダを襲撃したテレポーター、査楽の姿だった。
フレンダによって瀕死の傷を負わされた査楽の息は浅く、大量の血がその大地に染み付いている。

もう、長くはないだろう。そして、

「見ておきたまえ」

老人がそう呟いた瞬間だった。



723 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/05(日) 20:36:13.60 ID:3tN6DeYG0




「あ、ぐ、ぎゃぁあぁぁぁああぁあぁぁぁぁああああッ!!!」

突然の絶叫。もちろんそれはフレンダでも博士でもない。
倒れ伏す査楽だ。いや、それは査楽だったものと言うべきか

「な……」

フレンダが暗闇の中で視認出来たのは、査楽の顔の皮膚が消失した所からだった。
さらに脂肪や筋肉が順番に消えて行き、最後は脳さえも消えてなくなり、
服と骨だけになって地面へと崩れて行く。

カラン、という音はプラスチックの様に軽かった。

「すごいものだろう? オジギソウと言ってね。ただの反射合金の粒なのだが、
 特定の周波数に応じて特定の行動をとる非常に便利な道具だ。御坂嬢のお陰で一部は使い物にならないがね」


語る言葉は、フレンダの耳には入ってこなかった。ただただ、身に走る怖気がフレンダを包んでいた。
体から溢れて行く熱は止まらない。ただ、ソレとは違う寒気が全身に走っていた。



724 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/05(日) 20:37:14.54 ID:3tN6DeYG0




「…………っ」

細胞のひとつひとつを毟り取られるというのはどれほどの苦痛なのだろう。

恐怖。

死の間際で、過去の実験にも似通った恐怖が少女を襲った。
痛みとは違う理由での汗が、額から流れ落ちる。

熱した心が、冷めて行く。

「アレが数分後の君の姿だ」

「!」

びくりと体が跳ねる。その挙動を、老人は見逃さない。

「怖いかね?」

真横に伸びた口許から、呪詛にもにた言葉が吐き出される。

「それは君の良い癖だフレンダ少女。酷い現実を前にすると途端に心が迷う。死の恐怖を意識してしまう。
 君は他の何よりも自分が大切なのだよ。よく今まで仲間を裏切ってこなかったものだと褒めてもいいが、
 これほどの死が迫ってしまえばどうだろうな。もしかすると裏切るかもしれない。その迷いが良い証拠だ」

「なにせ今でさえ、復讐の決意が薄らいでいる」

「…………」



725 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/05(日) 20:37:54.41 ID:3tN6DeYG0




それは、全てが全て、正しい言葉だった。

復讐は忘れていない。

目の前で妹を壊した木原は許せないし、今だって殺してやりたい。
アイツはフレメアを殺したのだ。許せる訳が無い。

そのために、今までアイテムで生きて来た。
復讐の爪を研ぎながら、この時を待っていた。

なのに、なのに、

「…………う、」

今、この場からどうやって生き残るか、どうすれば死なずに済むか。
心の片隅でそんな事をかんがえている自分が、ここにいる。

妹の仇を討ちたい。仲間は欠けて欲しくない。
そう思っていても、心はバカ正直に自分が優先して生きたいと願っている。

それが、まぎれも無くフレンダ=セイヴェルンと言う人間だった。

「君がどうして今を生きてるか、その理由を教えてやろう」

そして、そんな少女に木原と呼ばれる研究者は追い打ちを欠ける。



726 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/05(日) 20:39:02.36 ID:3tN6DeYG0




「勿論おぼえているだろう。あの実験の前々日、研究員が君に聞いたはずだ」

「――――ッ」

言葉と共に、甦る一瞬の記憶。

幼い頃の怯える自分に、対するは名前も顔ももう覚えていない研究員。

覚えているのは、問いかけられた言葉だけだ。

それは少女の心に付いて離れない悪魔の選択。



『次の実験。君か、君の妹。どちらが先にする? 一晩考えたうえで博士に言って来なさい』



そして、幼いフレンダ=セイヴェルンは――


「私は、答えた」

ぽつりと、最早立つ気配すらないフレンダが小さく呟いた。

「私は、ちゃんと一晩考えて、アンタに言った。」

震える声で、弱々しい眼で、しかし自分の正だしさを主張するかのように叫んだ。





「私が先に受けるから、フレメアを助けてあげてって言ったッ!!!!」


「それとまったく同じ答えを君の妹はものの数分で私に言いに来たよ」




返された答えは、フレンダの知らない事実だった。



727 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/05(日) 20:40:00.28 ID:3tN6DeYG0




「――え?」

声が、震える。

その一瞬だけは痛みも、熱も、寒さも、消え失せた。

見上げた老人は醜悪に笑い、笑い、笑っている。

「正直私も迷っていたのだよ。どちらを被験者に迎えようとも一人は残さなければならない。
 そう決められてしまってはね。だから君達に委ねた。まぁどちらでも良かったのだが」

「く、ははは。君達は本当に仲睦まじい姉妹だったよ。どっちもお互いの身を案じる答えが返って来たときは感動したものだ」

「分かるかね? あの少女にとって君の命はそれほど重かったのだ。ただし、姉の方は随分と迷っていたみたいだがね?」

「あ。あ、ぁ……」

倒れ伏すフレンダの体が震える。吐き出すのは悲痛な声。
漏れだすのは過去の後悔。溢れ出すのは涙。

「わた……私が、」

「そう、君は自分の命惜しさの結果、妹を殺してしまったんだ。
 どれほど妹がかわいいと言ってもやはり自分程では無かったかね?」

言葉が、弾になって少女を貫く。
実際に撃たれるよりも、きっとそれは痛かった。



728 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/05(日) 20:40:48.99 ID:3tN6DeYG0




「う、ぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁあっ!」

夜の街に、少女の声が響き渡る。

ソレを見下し、老人は笑う。

「いい顔だ。人が絶望し心折れる瞬間というものはなかなかの見世物だな」

少女にその声は届いていないだろう。
涙をこぼし、嗚咽を漏らす少女は、己を呪い、絶望の渦へと堕ちる。

そこは学園都市暗部と同じ程に厄介な場所だ。

「絶望というものは私にも覚えがある。確かその頃はまだ十二才だったはずだ。
 とはいっても、私が絶望したのは芸術であって己ではない。君のとは違ってな」

言葉を終え、老人はその場に佇みフレンダの額に銃を向ける。
それはせめてもの慰めだったのかもしれない。決して外さない様に、一瞬で殺す為に。

「ひとつ教えてあげよう。あの実験は非人道的ではあったが別に意味の無い実験だった訳ではない。
 あの結果は何らかの形でこの学園都市に現れる。君の妹の死は無駄ではなかったのだ。」

「ここで意味も無く死ぬ君とは違って……ふん。聞いていないか」

老人がその引き金を引く。虚ろ眼の少女は最後まで同じ言葉を呟いていた。

「ごめん、ね?……ごめんね、フレメアぁ」

もうどこにもいはしない妹に向かって。

「ここで、サヨナラだ」



729 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/05(日) 20:41:18.32 ID:3tN6DeYG0








パァン







730 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/05(日) 20:41:45.51 ID:3tN6DeYG0




一発の銃弾が少女に向かって撃ち込まれた。



一瞬跳ねた体はすぐに動かなくなった。



731 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/05(日) 20:43:08.83 ID:3tN6DeYG0




「最後の一発。ふん、これもなにかの巡り合わせかね」

夜の静寂が街を包んだ。

立つのは白衣を纏う一人の老人だ。

そして側に倒れるのは少女。
金髪を散らし、命さえも散らした少女の姿は暗闇に包まれてよく見えない。

だが、もはやそんなことはどうでもいい。
自分の仕事をこなした彼に待つのは一定の平穏だ。

「そろそろ向こうの制圧も終わった頃か……ふん、気に喰わない仕事だったな」

そう呟き、老人は白衣を翻し闇の中へ溶けて行く。

最中、靴が蹴ったのは人骨。先ほどオジギソウに喰われた査楽の骨だ。

「……早くにもメンバーを補充しなければな。馬場は生きているだろうが、随分減ったものだ
 いや、査楽に手を下したのは私だったか、くくく……」

自嘲気味に老人は一人笑う。

そして一歩を踏み出そうとし、

しかし、その一歩が踏み出す事は無かった。



732 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/05(日) 20:43:38.63 ID:3tN6DeYG0







「つーかまえたって訳よ」






733 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/05(日) 20:44:49.05 ID:3tN6DeYG0




声が聞こえた瞬間には、その華奢な腕は背後からがっちりと博士の体を掴んでいた。

「な、ぁッ!?」

老人の喉が干上がる。瞬時に今現在の状況が理解出来ない。
何故。そんな単語が頭の中を埋めて行く。

「あ、頭を狙って撃ったはずだ!! 何故――」

何故、フレンダ=セイヴェルンが生きている。

そんな言葉に、少女は笑う。
息も絶え絶えに、薄い笑みを浮かべる。

そして、背後に感じる熱。

滲むかの様な、生温い熱。

「貴、様――」

それだけで老人は理解する。

どうして少女が生きているのか。なぜ、こうして自身を掴んでいるのか。

「銃弾を――額に向けて撃った銃弾を自分の周辺にアポートしたなッ!!!」

それが答え。

代償は、腹部への着弾。


http://wktk.vip2ch.com/dl.php?f=vipper32526.jpg



734 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/05(日) 20:48:09.46 ID:3tN6DeYG0




「……結局、ちゃんと死体を、確認しなかったアンタのせい。な訳。痛――っ」

フレンダの表情に苦痛が走る。

当然だ。限界を超えた精密演算を2度も行い、三カ所も致命傷を負った。
脳も、体もズタズタだろう。このまま放っておけば、間違いなく死ぬレベルの重症だ。

そう、焦る必要は無い。

「く、ふはは。そのまま振りをしていれば助かったかも知れないものを、
 どういうつもりかね。そんなに妹のところへ向かいたいか」

至極平静を装い、老人はしがみつく少女に語りかける。

「は、はは。バカじゃないの……」

「……なに?」

しかし、少女は老人の言葉を一蹴する。途切れ途切れに、声を吐き出す。

「私は、フレメアが守ってくれたからいまここにいるの。フレメアのお陰で、ここにいる」

噛み締める様に、言葉を吐き出す。

「結局、そんな私がむざむざ向こうなんか行っちゃったら、会わせる顔なんてないわ」

乗り越える様に、力を込める。

「けどね、アンタから逃げるのだけは、死んでもイヤって訳よ」




735 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/05(日) 20:49:03.81 ID:3tN6DeYG0




「ぐ、ぅ……何をッ」

埒があかないと判断した老人が、少女の腕から逃れようと必死にもがく。
しかし、いくら振りほどこうとしても少女は食らいつくかの様に離れない。

掴んだその手を、離さない。

「――ねぇ、博士。私の能力、当然知ってるよね?」

投げ掛けられた言葉には応えず、しかしその脳内で老人は思考する。
フレンダの能力と今の言葉、この状況を照らし合わせたら導きだせるもの、それは、

「――っ!! まさか」

             ・・・・・
「私が今この状況で、例えば足下の人骨とかを所構わずアポートしたら、どうなるかは当然、わかるよね?」

最悪の答え。



736 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/05(日) 20:53:07.45 ID:3tN6DeYG0




「確かに私は臆病者だけど、土壇場で迷うけど、けどやっぱりどう考えてもフレメアの命は私より重い。だから、」

その瞬間、老人の脳内に描かれたのは想像もしたくない歪な未来。
人としての尊厳が全て失われる様な、そんな未来。

「考えてみたのよ。こんな目にあって、フレメアやみんなが死んで、これは誰が悪かったんだろうって。
 私? そうに決まってる。運? そうに決まってる。学園都市? そうに決まってる。 
 けどさ、もっと悪い奴がいたって訳よ」

くすりと笑った少女の腕に力がこもる。老人にソレを振りほどく力はない。
拳銃ももう弾がない。オジギソウもこんな距離では使えない。

「結局、どう考えてもアンタが一番悪いに決まってるじゃない――ッ!!!」

「ま、まて! やめ――が、ぁあああああああぁぁぁぁぁぁぁあぁぁあああああああああああああ――――――――――――――――――――――――――――」





737 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/05(日) 20:54:26.35 ID:3tN6DeYG0




「――あ、」

どさりと音をたてて何かが倒れたのは、随分時間が経ってからだった。

立っていたのは、金髪を散らす少女。その視線は地面に横たわる何かへと向けられていて、

「アンタ、芸術好きだったんでしょ? 良かったじゃない。随分愉快なオブジェよ。それ」

そう言って、ゆっくりとその場に倒れた。



738 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/05(日) 20:55:09.17 ID:3tN6DeYG0




ようやく、街は本来の静寂を取り戻す。

「フレメア……お姉ちゃん、そっち行くかもしれない」

消え失せそうな少女の声がぽつりと浮かんだ。

「……ごめんね。ほんとにごめん。ありがとう」

「こんなお姉ちゃんだけどね、私、フレメアの事、ほんとに――」

「――…………」

言葉は途切れ、暗い闇の中でそれ以上浮かぶ事はなかった。



739 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/05(日) 20:56:11.17 ID:3tN6DeYG0




そして、


「く、ははは……ははははh、はh、はは」


静寂が終わる。



740 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/05(日) 20:56:45.71 ID:3tN6DeYG0





立ち上がったのは、最早人としての体を成していない老人だった。
空間移動の際に起きる割り込みという現象によって、体の至る所から異物が突き出ているその姿は、もはや化け物にしか見えないだろう。

それでも老人が生きていたのは、ただの運だった。
内蔵が致命傷を負わず、心臓が潰れず、辛うじで生きているだけの存在。

当然、先は長くない。待っているのは避けようの無い死だ。

そんなことは分かっている。ただ、死ぬ前にやっておかねばならない事が老人にはあった。

「最後に、貴様だけ、でも殺して……くはは」

目を見開き、取り出したのは小さな手の平に収まる程度の装置。

それは、未だこの空間にも漂うオジギソウの制御装置だ。
目標は、目の前で倒れる少女。

「ふ、ふふ。結局、貴様はここで死ぬのだよ。フレンダ=セイヴェルン。
 妹の様に科学に発展する意味のある死ではなく、無意味にここで、死んでゆけ」

異形の老人が笑う。勝ち誇る様に笑う。

おおよそ数秒後。骨しか残らないであろう少女の未来を想像して、高らかに笑う。

そしてその瞬間が訪れ、



741 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/05(日) 20:57:27.78 ID:3tN6DeYG0




轟!!

と、いう爆砕音と共に、老人の目の前を蒼白の閃光が駆けて行った。

「な……な、」

次の瞬間、訪れるのは爆風。その風圧が、大気中に漂うオトギリソウを全て吹き飛ばす。

轟音が鳴り、衝撃が押し寄せ、今度こそ言葉もでない老人に投げ掛けられた三つ目は、声。

「安心しなさいフレンダ。アンタは死なない」

ソレは女の声だった。

「私が守るからね」

「バ、バカな!何故ここにいる!! 貴様がここに現れるなど……ッ」

原子崩し、麦野沈利、学園都市第四位。

老人にとって決して目の前に現れるはずの無い女の姿が、そこにあった。



742 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/05(日) 20:57:58.36 ID:3tN6DeYG0




「な、何故……」

「何故もクソも無ぇよクソジジイ。あんだけ派手にドンチャカやってたら簡単に辿り着けるわよ。
 ……にしても、またすごい格好ね。私も人の事言えないけど」

そう言った本人の姿は、確かに異常だ。
まず、纏っているのは全身に巻かれた包帯に、ぼろぼろの入院着のみ。見える素肌は傷に塗れ、
何より異常なのはその腕と目だ。

ぽっかりとあいた眼孔からは青白い光が覗き、その腕は能力によって不安定な腕を形成している。

「化け物、みたいと思うかもしんないけど、アンタよりはマシかもね」

「こんな……こんなはずは、これでは、はじめから……!!」

どうやら麦野の言葉は届いては無いらしい。
ぶつぶつと、老人は血を吐きながら狼狽し、その足を一歩引く。

「ッ――!!」

そして引いた瞬間、老人の足はこの世から消滅していた。

蒸発、といった方が正しいだろうか。



743 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/05(日) 20:59:11.24 ID:3tN6DeYG0




「あ、ぁあああああ!!」

「おーいおいおい。なに逃げてようとしてんだよクソジジイ。
 せっかくここまで来てあげたんだからさ、ちょっとは相手しなさいよ」

そう言って、麦野沈利が、一歩を踏み出す

「たっく、私の道具もボロボロだしさぁ。アンタどうしてくれんのアイツ」

言葉とは裏腹に残虐さを浮かべ、また一歩踏み出す。

「ひ、ぁ……」

声が干上がる。後ろへ駆ける為の足はない。
対抗出来る武器も無い。可能性すら、何も無い。

また、悪鬼の笑みを携えた少女が一歩を踏み出す。

その歩幅が自らの寿命なのだと、老人は知ると共に全てを理解した。

なぜ、この少女が現れたのかを。

「まさか。あの男……我々をはじめから囮に――」

「ねージイさん。初めて絶望してのって12才っつってたっけ?」


そして、最後の一歩が踏み出された。

残虐に、笑いながら。






「もう一度絶望しろコラ」






http://wktk.vip2ch.com/dl.php?f=vipper32527.jpg

744 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/05(日) 21:01:20.94 ID:3tN6DeYG0




ちょーっと予告まで届いてないんだけど諸事情でここまで。つまり予告もなし。
掘り下げ足らずでちょっと申し訳ない暗部抗争編のフレンダ編終了。以外と長かった……
全然来れずすまぬ……これが年明け初めての投下になるなんて思いもしなかった。

あと今回は絵付きです。雑で申し訳ないですがひとつのイメージとして受け取ってもらえればーと思ってます。

あとなにげに1年突破してました。はじめから追って来てくれてる方途中参加で読んでくれてる方
本当にありがとうございます。2年目いく前には終わらしますきっと。
次の次の次くらいで一方通行編は終わる予定……2月中になんとかしたいなぁ

ではでは。



745 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) :2012/02/05(日) 21:22:09.91 ID:W6l7XGhL0
ひさびさの乙!!
746 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/05(日) 21:24:03.95 ID:Y8Ob/bi00
待ちくたびれたぞ

今回も面白かった
747 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/02/05(日) 21:25:54.30 ID:vqJZnc0p0
乙でした
748 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/05(日) 22:00:23.01 ID:bsFm/YRSo
乙ー
749 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/05(日) 23:30:14.09 ID:eHcjDz0Uo
乙です
750 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/02/06(月) 00:36:41.17 ID:4sbd6dxH0
乙です

>>743
>>なぜ、この少女が現れたのかを。

少……女……?
751 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) :2012/02/06(月) 06:03:00.20 ID:8ljPD7HAO
>>750屋上
752 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/06(月) 07:33:32.48 ID:1JE8ZglDO
>>750
×少女 ○美少女
753 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/06(月) 07:36:12.62 ID:kxS3xmqEo
>>750
×少女 ○処女
754 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/06(月) 09:34:05.36 ID:3nIdDf5co
       _
     σ博士λ
     〜〜〜〜 
    / ´・ω・)   <フレンダさん♪フレンダさん♪
 _, ‐'´  \  / `ー、_ あそこにオジギソウがあるでしょ〜?
/ ' ̄`Y´ ̄`Y´ ̄`レ⌒ヽ
{ 、  ノ、    |  _,,ム,_ ノl
'い ヾ`ー〜'´ ̄__っ八 ノ
\ヽ、   ー / ー  〉
  \`ヽ-‐'´ ̄`冖ー-/


       _
     σ博士λ
     〜〜〜〜 
    /´・ω・ )   <数分後の君の姿だ
 _, ‐'´  \  / `ー、_
/ ' ̄`Y´ ̄`Y´ ̄`レ⌒ヽ
{ 、  ノ、    |  _,,ム,_ ノl
'い ヾ`ー〜'´ ̄__っ八 ノ
\ヽ、   ー / ー  〉
  \`ヽ-‐'´ ̄`冖ー-/


755 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/02/06(月) 11:46:37.52 ID:mltElIEp0
乙乙
アポートみたいな地味な能力も使い方次第でかなり化けるよね
フレンダは肉弾戦でも戦うんだからかなり有用だな
756 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/06(月) 17:54:35.21 ID:0eTr+IBU0

757 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/02/07(火) 17:20:06.49 ID:FHxsdKUAo
画像消えてる(´;ω;`)ウッ…
758 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/02/07(火) 20:21:36.05 ID:bSn+H89to
759 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/02/08(水) 20:18:49.28 ID:5XZkcZUAO
挿絵あったのか……見たかった
760 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/08(水) 22:37:10.54 ID:tn6brwVe0
きてたか。久しぶりの乙
761 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/02/11(土) 21:36:25.88 ID:R5ek1CgS0
>>759
挿絵は支部でこれの漫画書いてる人が公開してるよ
762 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/14(火) 03:02:21.27 ID:pTOL/OYZ0





絹旗最愛には勝算があった。




763 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/14(火) 03:04:44.58 ID:pTOL/OYZ0




少女が有する能力『窒素装甲』には自動防御という特性が組み込まれている。

それは体表面に常時薄い窒素の膜が展開され、銃撃、打撃。
一定以下の質量攻撃を全て弾き返すという非常に優れたものだ。

しかし、この能力は大気操作系能力者であった絹旗最愛が一方通行の
思考及び演算式の一部を移されたからこそ発現した力に過ぎない。


いわば窒素装甲とは一方通行を真似た劣化能力なのだ。


そして、その大元である一方通行にも当然ながら自動反射という特性が備わっている。


絹旗最愛の様な攻撃を防ぐ為の防護膜とは根本的に違うそれは、
一方通行にとって生きる為に必須な要素以外のすべてを皮膚に触れた瞬間、
自動で対象のベクトル量に-1の係数を付加するというものだ。



764 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/14(火) 03:05:17.27 ID:pTOL/OYZ0




打撃も、衝撃も、銃撃も、斬撃も、人から向けられる悪意さえも、
一方通行が纏う最強の盾を前には届かず全てが跳ね返される。

それが、最強たる所以。

それが、超能力者序列一位。

彼が構える盾は何もかもを防ぎ、何者も触れることすら叶わない。

例え勝負を挑んだ所で勝てる道理が無く、勝てる可能性すらありえない。

しかし、

しかし――――

暗闇の5月計画という実験により脳を弄られ、
第一位の能力者のパーソナルデータを植え付けられた実験体。

斬り込んで言えば『一方通行の防護性』の全てを刷り込まれた被験体。


その彼女であったからこそ持った確信。


一方通行の『反射の特性』を知り尽くした唯一の能力者である彼女にしか知り得ない情報がひとつだけあった。



765 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/14(火) 03:06:03.16 ID:pTOL/OYZ0








一方通行の自動反射は絶対ではない







766 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/14(火) 03:07:44.90 ID:pTOL/OYZ0




前述の通り、一方通行と絹旗最愛が持つ特性は似ているようで根本的に違う。

絹旗最愛の『自動防御』は身に襲いかかる脅威を防ぎ、
一方通行の『自動反射』は生きる為に不必要な要素を全て反射する。
            


しかし、それは裏を返せば生きる為に必要なものは受け入れていると言うことだ。




例えば光。

例えば音。

例えば、


例えば――――酸素。




そう。いくら最強の超能力者とはいえその体は何ら変わらない、ただの少年、ただの人間だ。




人間は酸素無しでは生きて行けない。

そして、酸素の構成要素のおよそ8割を占める物質は――

『窒素』

何の因果だろうと、少女はそう思う。
こんな番狂わせがあっていいモノなのだろうかと、少女はそう思う。




それは決して届かないはずの一方通行と言う名の最強の盾に空いた小さな小さな穴だった。



767 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/14(火) 03:09:35.30 ID:pTOL/OYZ0





穴。

恐らく唯一であろう弱点。

人間として、一方通行は窒素を日常的に受け入れざるを得ない。

つまり一方通行はその能力の特性上、操作をしない限り窒素を自動反射することができないのだ。

小さな小さな、しかし絹旗最愛<窒素を操る能力者>にとってそれはとてつもなく大きな穴だった。

だから少女の拳は一方通行に届いたし、確かにその体を貫いた。

圧倒的だった。

それは蹂躙と呼ぶに相応しいのかもしれなかった。

呼吸をする間さえ与えず、その攻撃は続いた。

もう一度言おう。

それは一方的だった。

一方的に――――



768 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/14(火) 03:10:06.42 ID:pTOL/OYZ0




絹旗「っ――――あ、」

一方的に、絹旗最愛は蹂躙されていた。

第一位の圧倒的なまでの力によって、

絹旗「こ、のォ――」

歯を食いしばり、なんとか倒れる事だけは避けようと必死に立つその姿は傷だらけだ。

一方通行が放つベクトル操作による砲撃は小石でさえも弾丸となって絹旗に襲いかかり、
その攻撃の前には少女の身を覆う窒素膜でさえも大した意味をなさなかった。

ぐらりと、視界がぶれる。

絹旗「痛ッ……」

押さえる腕に走る灼熱。
経験則からでも分かる。それは、確実に折れている痛みだろう。

絹旗「…………」

闇が包む中、少女の鼓動が早まり、じわりと額に汗がにじむ。



769 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/14(火) 03:10:32.96 ID:pTOL/OYZ0




絹旗の攻撃が届いたのは、初撃の一手だけだった。

その一手で終わらせなければならなかった勝負は終わらず、
その瞬間に絹旗最愛の敗北は決したと言っても過言ではないだろう。

その後の展開は想像に難くない。

一方通行「……ハッ」

相対するのは、紅い瞳を揺らす最強。

構える事も無く、ただそこに悠然と立ち尽くすだけの白い少年。

一方通行「いつまでそォしてるつもりだ。クソガキ」

絹旗「……決まってンでしょうが」

ザッと、操車場に引き詰められた砂利が砕かれる。
倒れそうになりながらも、一歩を踏み出し、

絹旗「アナタを殺すまでですよォッ!!」

少女が駆ける。



770 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/14(火) 03:11:01.19 ID:pTOL/OYZ0




一方通行「三下の吐く台詞だ」

しかし、その行為は届かない。

絹旗「ぐッ、う!!」

衝撃。

爆縮した窒素によって跳ねる様に駆けた少女の動きを止めたのは、またしてもただの小石だった。
一方通行が軽く蹴っただけのその小石はベクトルを何倍にも増幅され、絹旗の細い体を撃ち貫く。

絹旗「が、あ!」

痛みと共に、しかし加速した勢いが止まらず、少女はその勢いに引っ張られ、砂利のうえを転がり落ちる。
ガリガリと音を立て、一方通行の足下まで。



771 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/14(火) 03:12:07.45 ID:pTOL/OYZ0




絹旗「あ、う……」

漏れた声は、言葉にならなかった。
痛みと共に熱が広がる。なのに意識だけはどんどんと遠ざかって行くかの様に絹旗は感じた。

脳裏を過ったのは、過去。

相対している人物が人物なのだからしょうがない気がする。

甦るのも、ただの闇だ。

今も落ちそうになっている、暗い闇。

一方通行「暗闇の五月計画。確か木原のクソ野郎が取り仕切っていた実験の一つだったか」

絹旗「…………ッ」

一方通行「ソイツがまだ生きてたってのも驚きだが、ンなことはどォでもいい。
     なンの用があって来たのかは知らねェ。けどな、俺の邪魔をするってンなら話は別だ」

倒れる少女に降って来た言葉は、濃い殺意が込められた声。
心臓も凍ってしまう様な、冷たい言葉。

恐らく自分を射抜く視線は、とても冷徹なものなのだろう。

死ぬ。

ここで、死ぬ。



772 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/14(火) 03:13:52.86 ID:pTOL/OYZ0




絹旗「はっ、はは……」

掠れた声が漏れた。まるで笑い声の様に。

呼応するかのように、声が降る。何かに言い聞かせる様に。誰かに言い聞かせる様に

一方通行「あァ、本当に、なンでこンなに邪魔が入るのかがわかンねェ。
     なァ、もう半分来ちまってンだ。今更止まる訳にはいかねェンだよ。だから……死ね」

言葉と共に、ゆっくりと少年の右足が持ち上げられる。
頭を潰して、ソレで終わらせるつもりなのだろうかと絹旗は遠くなる意識の中で思考する。

俯せに倒れる少女の視界に映るのは、一方通行に、遠くに倒れる御坂美琴によく似た少女。

絹旗(結局……止められませんでしたね)

我ながら無茶をしたと、そう思う。
あの少年が辿り着く前に一方通行を倒してしまえばだなんて、
よくそんな思考に思い至ったし、よく実行に移したものだ。

けど、



773 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/14(火) 03:14:33.80 ID:pTOL/OYZ0




絹旗(私が死んだら……どうなって……)

浜面は、ここには辿り着いていない。
絹旗がいち早く一方通行の元に着き数十分経つが、人の来る気配はない。

絹旗(このまま浜面が来ずに実験が終わってしまえばいい、なんて、超、最低ですかね……)

意識が薄れる。倒れてると言う感覚が絹旗の体から抜けて行く。

絹旗(でも、それぐらい、死んで欲しくないんです……浜面)

絹旗「生きてて、欲しいんです……」

声は、誰にも届かない。

いつの間にか、過った過去はあの少年のものと入れ変わっていた。

いつの間にか、甦ったのはあの少年の顔だった。

絹旗(映画……見れませんでしたね。奢り損、ですか……)

絹旗「はま……つ、ら」

暗くなる。

そして、



774 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/14(火) 03:17:04.35 ID:pTOL/OYZ0











            「離れろよ」









775 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/14(火) 03:17:35.39 ID:pTOL/OYZ0




「……あ?」

呟いたのは、一方通行だった。
新たに現れた声の方へと、視線を向ける。




http://wktk.vip2ch.com/dl.php?f=vipper33187.jpg
776 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/14(火) 03:18:37.14 ID:pTOL/OYZ0




闇に包まれたその空間でぼんやりと見えたシルエットは、男のものだった。

息をつかせ、その少年は一歩、一歩と砂利を踏みながら近づいてくる。

月明かりによってうっすらと照らされたその顔は、憤怒に染まり、

「……離れろよ、絹旗から離れろ」

「なンだ、テメェ」」

「離れろって言ったんだ」

必死にその怒気を押さえ込む様に声を殺し、一歩近づく。

しかし、一方通行は臆しない。
その程度は障害ですら無く、ただ面倒が増えただけだ。

だから彼はため息をつきながら言葉を吐き出し、

「……まァた邪魔者かよ。一体何人――

「ゴチャゴチャ言ってないで離れろって言ってんだッ!! 聞こえねぇのかクズ野郎ッ!!!」




ついにその怒りを露にした浜面仕上の怒号によってそれは遮られた。



777 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/14(火) 03:19:38.02 ID:pTOL/OYZ0




一拍の間が、操車場を支配する。



「……あ?」



一瞬の空白が、少年を絡めとる。



「……へェ、そォかよ」



次の瞬間、少年が薄く笑いながら投げた言葉。



「面白ェな。オマエ」



赤い瞳に殺意が宿ったその瞬間が、殺し合いの幕開けとなった。



778 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/14(火) 03:20:10.63 ID:pTOL/OYZ0






                  【次回予告】




「テメェが相手してンのは例えるなら最強の盾だ。届く訳ねェだろ。矛も持たねェ無能力者の拳なンざ」


                                超能力者・一方通行




「証明してやるよ一方通行。テメェをぶっ飛ばすのに矛なんざ必要ねぇって事をなぁッ!!!!」


                                無能力者・浜面仕上





779 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/14(火) 03:21:53.47 ID:pTOL/OYZ0






くっそ短いけどここまで。前半文はスポイラーを結構参考にしました。
つうか本当は前回でここまで書くつもりだったんだがちょっとごにょごにょ。
やああああっと一方通行戦来た!!信じられない事に浜面ソロ戦闘パートは神裂さん以来だ…
ある程度書き溜めてるから多分そんなには待たせない。次回はリアルタイム推奨のフルバトルです。

ではでは!!




780 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/02/14(火) 03:39:29.42 ID:Jiu2YNAJo
>酸素の構成要素のおよそ8割を占める物質は――『窒素』
…………えっ
…………えっ

「大気」か「空気」かな?多分

浜面はどうやって抗うつもりなのか……とりあえず乙!
781 : ◆v2TDmACLlM [sage]:2012/02/14(火) 03:46:29.36 ID:pTOL/OYZ0
>>780

や、やらかしてた…はずかしい。
申し訳ない、普通に大気でした。
782 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/14(火) 06:35:29.97 ID:L402hisIO
挿絵がメガバイツだとあいぽんだと厳しいなぁなんてワガママを言ってみたり
783 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/14(火) 06:41:05.77 ID:nDznQRQ40
乙、舞ってる
784 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/02/14(火) 10:29:39.52 ID:wwf7+ooAO
>>782

携帯だと更に厳しいなぁなんてワガママも言ってみたり。支部にもあるみたいだからいいけども

乙でした。
785 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/16(木) 10:49:08.18 ID:EN66sJQi0
来てたか。乙
786 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北陸地方) :2012/02/16(木) 14:45:11.67 ID:Ke0FpzTAO
787 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/16(木) 15:30:46.07 ID:XEAgq2Yb0
なぜageるのか
788 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/02/16(木) 15:32:29.76 ID:ulbujygAO
オマエモナー
789 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/16(木) 19:13:34.09 ID:h22EjFSz0
来てたー!次がひたすら楽しみ
790 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/02/17(金) 04:55:52.38 ID:JOQFqjDL0
791 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/02/17(金) 04:55:53.35 ID:wfwQqV+V0
792 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/17(金) 20:23:43.55 ID:ijvfNWAu0
ちょっと早い予告だけど来週にはくるんだぜ。土日が理想。
一方通行編はそれで終わる予定。確実に大量投下。
リアルタイム推奨。投下までにさらっと読み返し推奨。地味だけど重要な所拾ったり

投下時間はまた落としに来ます。
なんにせよこれで起承転結の転が終わり、話は新しい展開へ。是非是非よろしくおねがいします。

ではでは。
793 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/02/17(金) 21:13:45.09 ID:jex4Mr5po
全身全霊で舞ってる
794 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/17(金) 23:36:13.26 ID:gj3K+nzfo
>>792

そろっとこの話も終盤なのか…
795 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/02/18(土) 00:36:31.10 ID:DeqoDj9Q0
冷えるからな
風邪ひくなよ
796 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/18(土) 15:23:07.34 ID:Z6ExaJ4k0

このssが終わっても1には禁書ssを書き続けて欲しい
797 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/02/18(土) 16:17:08.47 ID:d0ZafOcAO
乙。

一方さん倒したら後はラスボス化した木山先生だけか。
798 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/02/19(日) 21:04:24.27 ID:Xk5Uw0MW0
新しい展開がぶっ壊しの超展開にならないことを祈る
799 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/19(日) 22:15:52.85 ID:35/7CfzQo
木山先生が氷華さん召喚するに10ギル
800 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/21(火) 21:54:58.31 ID:zkH90aHN0
(某スレに酔ってつまんない事書いてごめんね)
801 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/23(木) 07:24:05.09 ID:dDB1XxD40
土曜に投下するぜー22時くらい。

大量投下のつもりだったけどちょっと糞長くなった。ペンデックス戦より長い。
100レス超えそうで笑えないからやっぱ一方通行編は分割するかもしれません。すまぬ…
という訳で土曜の22時に投下。
リアルタイムで追うとまた違った緊張感があると思うのでよろしければ追って下さいな
七日目からさらりと読み直しておくとちょっと幸せかもしれません。

ではでは
802 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/23(木) 13:52:47.29 ID:wFF2jWxDO
全裸で舞ってる
803 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/23(木) 14:37:33.93 ID:KYT/caAbo
このスレもいよいよ佳境みたいだな
4スレ目まで行くのだろうか、えらい長いなー

804 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/02/23(木) 15:31:33.39 ID:NgzIq1pAO
読み返して気付いたけどここのていとくんと一方通行って対になってるんだね。

わざわざ邪魔になる心理定規背負って二人で己の道を進むていとくん
何も背負わず一人で己の道を進む一方通行。

この二人がどうなるかも気になるぜ……
805 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/23(木) 19:29:44.20 ID:e/+o8g5qo
帝凍庫くンはバッドエンド確定らしいけどな
806 : [乙]:2012/02/25(土) 15:30:26.59 ID:8dvIOjdy0
807 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県) [sage saga]:2012/02/25(土) 16:38:29.88 ID:/n8nwVGP0
いちおつ
久しぶりに来たら丁度投下予定日にクリティカルヒットとか運がいい
あのピクシブの人とここの作者同一人物なのか驚いた
808 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 18:01:25.47 ID:Ux+iblOO0
予定通り22時に。
長いんで追ってくれる方は1時間ぐらい付き合って貰う事になります。
決着までは行けると思いますが、やっぱり区切る事になりそうです。一方通行編でこのスレは締めですね。
なんども言う様に前スレ七日目あたりからさらりと読み返しとくと核心部分がよく理解出来て幸せになります。多分。

ではでは。
809 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/02/25(土) 18:14:32.76 ID:4c3qMG1AO
期待!
読み返したいが時間ねえ…
810 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) :2012/02/25(土) 20:06:49.50 ID:ZtmhivwAO
期待期待!
811 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 21:59:51.65 ID:Ux+iblOO0
さて1分前。よろしくです
812 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:00:24.93 ID:Ux+iblOO0




月明かりが照らすと言えど、互いの姿はこの闇の中では朧げにしか認識出来なかった。
紗幕を通したような劣悪な視界の中、しかし浜面仕上は射抜くかの様に視線を向ける。

その先に立つのは、この学園都市の頂点。
あの御坂美琴さえも倒し、麦野沈利の遥か上を行き、垣根帝督をも凌駕する最強の能力者。

一方通行。

浜面「……っ」

相対するのは、2度目だ。

だが、その身に降り掛かるのは一度目の邂逅とは比べ物にならない程のリアルな殺意。
それなりの死線をくぐり抜けたきたはずの体に伝わる、死の前兆。

昨夜は立ち向かったとはいえ、歯牙にもかけられていなかったのだと浜面仕上は思い知る。

これがレベル5。

これが超能力者。

この街に住む全能力者にとっての越えられない壁。



813 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:01:12.72 ID:Ux+iblOO0




一方通行「…………」

対し、一方通行が突如現れた少年に感じたのは微かな既視感だった。

姿は闇に塗れ明瞭には捉えられない。辛うじで怒りに染まる表情が読み取れる程度。
しかし記憶の深淵に沈む違和感。自分はどこかでこの少年に会っているのだろうか。

そんな疑問が一方通行の中で生まれ、しかしそれはほんの一瞬で霧散する。

どうでもいい事だった。

一方通行「ハッ、コイツから離れろ……ね」

今すべき事はなにか。そんなモノは決まっている。

一方通行「ならちゃンとキャッチしろよ」

そう言って一方通行は笑いながら軽く蹴った。

足下に転がっている少女の細い体を蹴り上げた。

浜面「――テメェッ!!」

叫ぶよりも早く、絹旗の体が宙に放り投げられる。
だらんと弛緩しきった体に意思は感じられず、頭から砂利の敷き詰められた大地へと落ちていく。




814 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:01:57.83 ID:Ux+iblOO0




浜面「――っ!!」

思考する前に、浜面仕上はその場を駆けていた。
滑り込む様に落ちる少女に向かって手を伸ばす。

浜面(間に合え――っ!!)

そして、

絹旗「――――っ、う」

明暗する視界に少女は微かな声を漏らす。
コマ切れになる意識の中感じたのは浮遊感。
しかし、落ちる自分の体を包み込んだのは砂利とレールが敷かれた
大地ではなく、今まで感じた事の無い様な形容しがたい感覚だった。

しかし、それは一瞬。

絹旗「な、んで……」

それは幻想であったかの様に、絹旗最愛は目の前にある現実を理解する。

このボロボロの体を受け止めたのが誰なのか。
滲む視界に写るのが誰なのかなんて、わかりきっている。

絹旗「なんで来たんですか……浜面」

絶対に来て欲しくなかった少年が来てしまったのだと、少女はその瞬間理解した。



815 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:02:38.30 ID:Ux+iblOO0




絹旗「なんで……勝てる訳ないじゃないですか」

弱々しく、痛みに引き摺られながら少女は言葉を吐く。

浜面「……絹旗」

絹旗「殺されに……来たような、ものじゃないですか」

涙を浮かべそうになりながら、折れた腕で浜面の胸を叩く。

少女は知っている。浜面仕上では絶対に一方通行には勝てない事を。
小細工をしようが絶対に勝てない事を。

例え――浜面仕上が能力を開花させたとしても。

絹旗「いくらレベルアッパーを使ったからって、浜面なんかじゃ勝てる訳ないですかぁ……っ」

そう、それしか説明がつかなかった。
浜面が自分に触れることの出来た理由も、こうまでして一方通行に挑もうとする理由も。
勝ち目が0の戦いなんて、どんなバカでも挑まない。
浜面が勝てる可能性は、1に満たない数字でしか無いがあるのだろう。だからこのバカはここに来たのだ。

だが、絹旗は知っている。

そんな都合のいい奇跡なんて、起こらない事を少女は知っている。
付け焼き刃の能力では第一位には届かない。

唯一届いたであろう『窒素装甲』さえも、砕かれてしまったのだから。



816 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:03:16.76 ID:Ux+iblOO0




浜面「…………」

そして悲痛な声を漏らす少女に、浜面は答えない。
答えず、腕に抱いたボロボロの少女をその場にゆっくりと寝かし、
羽織っていたブラウンのジャージを少女にそっとかけてやる。

浜面「ごめんな、絹旗」

絹旗「――あ」

浜面「けど、お前のおかげで間に合った。間に合えた。
   ……アイツも、ちゃんと生きてる」

アイツ。というのが誰なのか、そんな事考えなくても分かる。
浜面の視線はまだ死んではいない御坂美琴のクローンに向けられていて、

浜面「絹旗がいなきゃ、きっと俺はアイツが生きてる間に辿り着けなかった」

絹旗「……は、ははっ」

その瞬間、思わず声が漏れる。笑わずにはいられなかった。
自分がとんでもない間違いを犯してしまっていた事に、絹旗最愛はようやく気付く。

もしあのまま自分が動かず後を追わければ、浜面はきっとこの場所に間に合ってはいなかっただろう。
実験はなんのイレギュラーも無く終わり、そうして浜面仕上はなにも出来ないまま、
結局はこの大きな闇に抗う事も出来ずに全てが終わっていたはずだ。



817 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:03:46.37 ID:Ux+iblOO0




そうして、この少年は生きていたはずだ。明日も、明後日も、ずっと。

だが。

自分の行動が、本来あるべきはずの運命を変えてしまった。

浜面仕上を死なせたくない一心で一方通行に挑んだ絹旗の行動が、
逆に一方通行と浜面仕上という勝負にもならないカードを引き寄せる事になってしまった。

それは少女の押さえきれない想いが引き起こしたほんの少しの、しかし致命的な歯車のズレ。

絹旗「お願いです浜面……逃げ、て」

動けない体にかけられたボロボロのジャージを掴み、
そう訴える絹旗の言葉は、しかし立ち上がる少年には届かない。

その視線の先にはもう一人しか映っていない。

だから絹旗最愛は分かってしまう。確信してしまう。
あぁ、本当にコイツはこの実験を終わらせに来たんだ、と。

そんなものはこの薄暗い闇の中だとしても、目を見てしまえば分かった。
少女の血に濡れた手を硬く握りしめているのを見れば分かった。

止まらないなんて事は、分かりきってしまっていた。

だから、



818 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:04:24.14 ID:Ux+iblOO0




絹旗「勝てるん……ですか。」

バカな事を訪ねた。心の底からそう思う。
そんな訳ないのに、

なのに。

浜面「勝つさ」

ボロボロの少年はそう言い切った。
かつて麦野沈利にさえ手も足も出なかった少年が、遥か格上を見据えそう言いきった。

絹旗「じゃあ勝ってください。……一緒に、帰りましょう」

浜面「あぁ」

だから、もう何も言う事はなかった。



819 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:05:00.13 ID:Ux+iblOO0




「よォ、もういいのかよ」

まるで見下すように口元を歪めた一方通行が、言葉を投げた。
それは、今にも溢れ出しそうなほどの怒りに染まった少年へ、

「うるせえよ」

ザッ、と一歩を踏み出す。
もう引き返せない一歩を浜面仕上は踏み出す。

傷に塗れ、一歩を踏み出すだけでも灼熱が走るはずの
己の体を無理矢理に動かし、一方通行に相対する。

浜面仕上を捉えたのは、赤い瞳。
かつてヨハネのペンと向き合った時を彷彿とさせる、狂気の紅。

「そこのガキもテメェも何が目的かは知らねェが、こっちは相当苛ついてンだ。引き返すンなら今だぜ?」

「…………」

「そうかい」



820 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:05:48.35 ID:Ux+iblOO0




止まることの無い少年を笑い、心にも無いことを言ったなと少年は思う。
元より一方通行はこの場にいる三人共々、逃がすつもりは欠片も無い。

最強の座を狙い向かって来た能力者共のように、成り上がろうと徒党を組んだスキルアウト共のように、
今までそうしてきたように、自分に牙を向けるものは叩きつぶせばいい。

理由も、手加減する必要も最早ありはしない。だから、殺してしまえばいい。
自分はもう、一万人以上の十字架を背負い、これからも更に背負い続けるのだから。

「ならさっさとかかってこい、三下。俺ァさっさとこンな実験終わらしてェンだよ」

「じゃあ辞めちまえばいいだろ」

「……あァ?」

「終わらしたいなら、こんな実験辞めちまえ」

沸々と、浜面仕上の感情が沸騰する。
べっとりと絹旗の血に濡れた左手を、力強く握る。

視線に乗せたのは、揺るぎようの無い固い意志。

狂熱の深紅と、憤怒の黒が交わる。



821 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:06:32.27 ID:Ux+iblOO0




「知った風な口聞くじゃねェか」

引き裂かれた様な笑みを浮かべ一方通行が笑った。
お前が何を知っているのだとでも言う風に。

「知らねぇよ。俺は何も知らない」

そして、少年は知らないと答える。

御坂美琴がどんな思いでこの実験を止めようとしたのかも、
一万人の妹達が何を思って生きて、何を感じて死んでいったのかも、
何故一方通行がこんな実験に参加して、なにを思って一万回もこんなこと続けてきたのかも、

浜面仕上はなにも知らない。

「俺が知ってるのは一つだけだ」

それは、浜面がここに立つ理由。

それは、浜面が一歩を踏み出す理由。

たった一人の少女の為に。

「あァ?」

既に互いの距離はおよそ十m。数歩走れば、この拳は届く。だから、



「……テメェをぶっ飛ばすのにはそれだけ知ってたら十分だっつってんだよッ!!」



内に秘めた感情の全てを爆発させて、少年は駆け出した。




822 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:07:31.93 ID:Ux+iblOO0




実のところを言うと、一方通行は突如現れたイレギュラーを目の前に僅かながらの警戒心を抱いていた。

普段の一方通行なら決して持ち得ないだろうその感情を抱かせたのは、勿論、浜面仕上ではない。
未だ引く事の無い、体に刻み込まれた傷。痛み。今まで知る事の無かった外的刺激に対する反射的な防衛心。

例外的にとはいえ反射を貫いた御坂美琴、絹旗最愛との戦闘経験が、一方通行の慢心を揺るがしていた。

そこへ現れた謎の男。

あろう事かこの一方通行に啖呵を切り、挙げ句勝つ気でいる救いようの無いバカ。
だが、それは裏を返せば絶対的な自信があるに他ならない。

だから、僅かながら一方通行は警戒していたのだ。

どんな方法で攻撃を仕掛けてくるのか、
どんなとてつもない能力を持っているのか、

もしかしたら、反射を越えてくるかもしれないと、

だから、駆けてくる少年を目の前に、微かに一方通行は身構えた。

そして、そんな一方通行から漏れたのは焦りでも感嘆でも賞賛でも驚嘆でも感心でもない。

「はァ?」

ただ純粋な、落胆だった。



823 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:08:20.63 ID:Ux+iblOO0




「お、ぉおおおおおおおおおおおおおッ!」

遅い。

今にも殴り掛かられそうだと言うのに、悠長にも一方通行が思ったのはそんな言葉だった。
目の前の男の気迫は大したものだ。勢いも、敵意も、この最強を前にすれば合格点だろう。

なのに、体が付いて来ていない。一方通行から見ても分かる程、その動きは緩慢で無駄が多い。
未だ闇に隠れたその姿からはよく見えないが、振り上げた腕も大振りで、まるで子供がわめいてるようだ。

不意打ちとはいえ一方通行に一撃を食らわし、対等の土俵へと上った二人の少女に比べれば
全てにおいてレベルが低い。今の数秒間で1000回は殺せている程、この男の動きは鈍かった。

「舐めてンのか、テメェ」

そして、それは一方通行の内に溜まった苛立を怒りへと昇華させ爆発させる。

学園都市第一位を相手にここまでコケにしたこの男に対する怒りと、
こんな男にあろう事か警戒心を抱いてしまった自分に対しての苛立が混ざり合い、

「吠えてンじゃねェぞ三下ァぁぁぁッ!!」

ドン! と、ただ大地を強く踏んだだけの一方通行の行為が、
その体を中心に地雷でも踏んだかの様な爆発を引き起こした。



824 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:09:15.53 ID:Ux+iblOO0




「ッ!!」

今にも腕を振り抜こうとした浜面仕上に襲いかかったのは、衝撃に押され撒き散る大量の砂利だった。
それは一つ一つが銃弾のような速度で飛来し、浜面の体に突き刺さる。

「ぐ、がぁあああッ!!」

まるで至近距離からショットガンでも浴びせられたかの様な衝撃。
突き刺さる散弾の勢いだけではない。押し寄せる爆風も加わり、浜面の足が地面を離れ浮き上がる。

吹き飛ばされ、宙を切るその体は自由に動かせる訳も無く、

「遅ェ遅ェッ!! そンな動きじゃ100年遅ェぞ格下ァあッ!!」

だと言うのに、一方通行の追撃は止まらない。
もう一撃。更に地面を踏んだかと思えば、今度は一方通行のすぐ側に取り付けられていた一本の鋼鉄のレールがバネに弾かれる様に直立した。

「死ンじまえ。クズが」

そして間髪入れずに叩き込まれた一方通行の拳によって、
くの字に折れ曲がったレールは鋼鉄の砲弾へと役割を変えて発射される。

この間、1秒。未だ浜面仕上の体は落ちる事はなく、

(ま、ず――)

避ける事すら出来ないその体勢のまま、鋼の砲弾は鈍い音をたてて激突した。



825 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:10:22.71 ID:Ux+iblOO0




「――――っっっっ!!」

散弾に貫かれた衝撃をさらに十乗した様な破壊力が浜面を襲った。
トラックに跳ねられた事は無いが、跳ねられたとしたら今の様な衝撃なのだろう。

「う、おぉおおおおおおッ!!」

そして、弾かれた体は更に勢いを増し、積み上げられたコンテナの壁に激突する。

「ハッ、今ので生きてるたァ随分丈夫な体してンじゃねェか」

「か、はッ」

遠くから聞こえる声に減らず口を返す余裕も無い。
いつの今にか砂利の上に転がっていた体はギリギリ五体満足で保っていられたらしい。
とっさに体を丸めたお陰で鉄の砲撃が体を貫いたり腕を丸ごと刈って行くという事は、どうやら避けられたようだ

だからと言って、安堵する暇すら浜面には与えられない。

「!!」

聞こえたのは、風を切る音
闇の中から超スピードで迫って来たのは先ほどと同じ、砲弾と化した鉄のレール

約数十本。



826 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:11:14.34 ID:Ux+iblOO0




「な、――っ!!」

一瞬の硬直、しかし直後に横に飛ぶ事が出来たのは奇跡だろう。

鉄と鉄がぶつかり合い、まるで鐘のような鈍い音が操車場に響き渡る。
それも一度では終わらなかった。

「く、そッ」

間髪入れず、浜面はコンテナの壁に添って走り出す。

自身に向かって次々と飛来するそれは奇妙なリズムで音を途切れさせる事無く、コンテナに突き刺さって行く。
そして突き刺さる毎に響く轟音は聴覚を狂わせ、浜面は気付く事が出来ない。ギリギリまで気付く事が出来なかった。

「よォ」

目の前で待ち構える最強に。

「ッ――」

2度目の爆発。
またも一撃一撃が弾丸のような砂利がおよそ数百、浜面の目の前で巻き上げられる。
とっさに腕で覆ったものの、そんな数は防げる訳はなく。

「ぐ、あぁあああッ!

その勢いは浜面の体を再び宙へ押し上げ、何メートルも吹き飛ばす。



827 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:12:10.21 ID:Ux+iblOO0




「痛、う……」

口腔内でじわじわと鉄の味が広がって行く。
全身の感覚が麻痺し、今倒れているのか、それともまだ吹き飛ばされているのかすら浜面には分からなかった。

(駄目だ……まだ倒れる訳には、いかねぇ……)

薄れそうになる意識を無理矢理に叩き起こし、浜面は立ちあがる。
立ち上がる事が出来てようやく、さっきまで自分は転がっていたのだと実感する。

「はぁ……はぁ……ッ」

熱が走る。防いだとは言えない先ほどの弾丸は浜面の全身を叩き、じわじわと体力を奪って行く。
足ががたつく。上手くその場に立っている事すらままならなかった。

「――――、」

マズい。そんな言葉が、脳裏を駆ける。

このままじゃ――

「テメェは俺に触れる事さえ出来ずに死ぬ」

「ッ!!」

「そンな所か?なァ、三下」

コツコツと、まるで余裕だと言わんばかりに一方通行が迫ってくる。
追いつめる様に、じわじわと。

その顔に笑みを浮かべ、しかし殺意ははっきりと乗せたままに。

「オマエさァ、もしかしてめちゃくちゃに足掻いて足掻いて
 足掻きまくれば勝てる。なンてバカな勘違いしてねェか?」



828 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:13:16.17 ID:Ux+iblOO0




クカカッ、と一方通行が笑った。
今までそう勘違いして挑んで来たバカ共の時と同じ様に、見下し、笑う。

「だとしたら悪ィが、そンなもンは幻想だ」

そう、それは決してる掴めぬ幻の様なモノだ。
大抵の奴らはソレを知らず、身の丈を弁えず巨大な壁に挑み、死んで行く。

「オマエは俺が殺す。分かるか? この意味」

そんなバカには、現実を突きつけてやるのが一番だ。

「俺が殺すと言った以上、テメェの死は絶対だ」



829 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:14:12.56 ID:Ux+iblOO0




「う、るせぇよッ!!」

叫んで、駆け出す。腕を振り、浜面仕上は一直線に駆けて行く。
そんな行動こそが一方通行の言う幻を掴もうとするバカだと知りながら、浜面仕上は諦める事をやめない。

その姿は、一方通行にとってはやはりこれまでと同じ愚か者にしか見えなかった。

「必死に駆けずり回ってりゃ攻撃も届くとでも思ってンのか?
 言っただろ。ンなもンは幻想だってなァッ!!」

震脚。

一方通行が軽く大地を踏んだだけのその行為によって、大地が揺れる。大気が震える。

風を切り裂き飛来したのは石礫に、レール。
操車場がステージである以上、一方通行の弾薬は尽きる事は無い。いや、それは操車場で無くても同じ事だろう。
今更に浜面仕上は思い知らされる。圧倒的な分の悪さに。圧倒的な実力差に。圧倒的な能力差に。

「ち、くしょう……」

次々と浜面を貫こうとする砲弾を避けようと、その体は方向転換を余儀なくされる。
まるで踊り狂う様に砂利が叩き付けられ、紙一重で砲弾を避けるも、痛みも疲労もどんどん蓄積されて行く。

「ぎ、あ……っ!!」

何十メートルか駆け回ったところで、とうとう浜面仕上は血を撒きながらその場へと倒れ込んだ。



830 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:15:03.63 ID:Ux+iblOO0




(くそ……)

元々予想はしていた。

学園都市一位を相手にするというのは、こう言う事だと。
迫り来る破壊。苛烈を極める戦場。

一筋縄じゃ無い事ぐらい、分かってた。だが、

「ぐ、うぅぅ……」

この身に降り掛かっているのは、その想像を遥かに越える痛み。激痛。
元々、浜面の体は酷く傷ついていた。この七日間を思えばそれは当然であろうが、
ソレに増して傷つけられて行く体は、最早限界のギリギリまで来ていた。

・・・・・・
浜面の定めた限界のギリギリまで来ていた。



831 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:16:02.32 ID:Ux+iblOO0




(まだ、だ……まだ、早い)

飛びそうになる意識を必死に保ち、浜面はゆっくりと立ち上がる。
腕が、足がガタガタと震え、血と汗が混ざった液体がぽとりと落ちる。

(まだ、使う訳にはいかねぇ……)

再び立ち上がり闇が遮る視界の中で見据えるたのは、尚も余裕そうに振る舞う最強の能力者。
コツコツと、まるでハントを楽しむ狩人のようにゆっくりと歩み寄ってくる。

「……っ」

再びその足に力を込める。何度吹き飛ばされようと、浜面仕上の表情に諦めは浮かばない。
だが、いざ大地を踏み抜こうとしたその瞬間、浜面仕上の足はぴたりと止まった。

引き止めたのは、声。

「な、にを……しているのですか……と、ミサカは傷だらけの、アナタを……引き止めます」

浜面のすぐ側で這いずる様にこちらを見上げた、ミサカ10032号の声だった。



832 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:16:53.64 ID:Ux+iblOO0




「何故、アナタがここにいるのです……と、ミサカは再度、問いか、けます」

浅い呼吸を繰り返し、傷だらけでもはや立ち上がる体力も残ってないというのに、少女はそんな言葉を投げる。

「…………んなの、決まってんだろうが」

同じく満身創痍だというのに、なおも壁にぶち当たろうとする少年へ。

「この実験をぶっ潰しに来たんだよ」

「バカな、事を……言わないで下さい!! 昨日の事を、もう忘れたのですか……」

「10031号の想いを、アナタは無駄にするつもりですか!!」


――ミサカも、あなたに死んで欲しくはありません。


そう言って一方通行の元へと向かった少女の姿が、甦る。
全てを悟って、全てを任せて死んで行ったあの少女は、今の浜面を見たら何というのだろう。

「アナタがミサカ達を助ける為にそこに立つ理由なんてないのです……っ」

今この場にいる顔も声も同一の少女と同じ事を言うのだろうか。

「…………」

きっと、言わない。



833 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:18:27.86 ID:Ux+iblOO0




「勘違いするんじゃねぇよ」

「は……?」

「俺は妹達を救う為にここに立ってる訳じゃねぇ」

そんな言葉を返され、少女が目を丸くする。
なら、コイツは何のためにここにいるのだ、とでも言いたげに。

だから少年は吐き出す。ここに立つ理由を、たった一言。

「悲しむ奴がいる」

「何を、言って……」

「テメェら一人が死んじまうだけで、大泣きしちまうような奴がいるんだ」

一人の女の子の為に、ここにいると。

「そいつの為に俺はアイツをぶっ飛ばす。こんな実験も潰して、お前らも殺させねぇ」

「そんな……ミサカは、死ぬ為に何万と生み出された存在で――」



834 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:19:04.73 ID:Ux+iblOO0




「よく聞けよ御坂妹。お前らが死ぬつもりだろうが死ぬ運命だろうがそんなの俺には関係ない。
 だから、一つだけ当たり前の事を教えてやる」

未だに目を覚まさない少女を思いながら、浜面は拳を握る。
自分がまだ戦える事を、自分の意思がまだ死んでいない事を再確認するように、

「お前にはもう死んだら悲しむ奴がいるんだ……そんな奴は勝手に死んじゃいけないんだよ」
 アイツがそうだった様に、お前だって世界に一人しかいないんだぞッ!」

「――――っ」

浜面仕上は決して忘れないだろう。
目の前で散った命を、言葉を、後悔を、絶望を、無力感を、悲しみを、

こんな思いをもうする訳にはいかない。させる訳にはいかない。絶対にここで止めなければいけない。

だから、叫ぶ。



「俺はこの実験をぶっ潰す。ミサカの為でもお前の為でも俺の為でもない。インデックスの為にだ!!!」



まるで誓いの様にそう言い放ったボロボロの少年の背は、とても大きく見えただろう。
それほどにその言葉は力強く、その言葉は真直ぐに少女の胸に響く。



835 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:19:52.46 ID:Ux+iblOO0




「ミサカ、は……」

言葉は続かない。代わりに体の芯が沸々と熱くなって行くのを感じ、
浮かれた様に体が軽い。理解の及ばない様々な感情が波となって押し寄せる。

これが心なのだと、その瞬間少女は理解した。

死んで行った姉から得た知識ではなく、自分自身の本物の経験としてそれは少女の中で花咲いた。

「全部が終わったらもう一度聞かせてくれよ。お前自身が本当はどう思っているのか」

「……そんなものは、決まっています」

その言葉は、今日で2度目だ。



836 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:20:49.77 ID:Ux+iblOO0




一度目は数時間前。最後まで曝け出す事は出来なかった。

死と言う目的地の決まった道を走る彼女にとって、
その言葉はきっと生まれた意味を覆す言葉だったから。

「ミサカ……は生きたい」

だが、いまなら言えた。躊躇いも無く流れ出た。何故かは、もう分かる。
この命に価値があって、このミサカの為に泣いてくれる人間がいるのならば、



「10031号がそう思った様に、この世界を知って、この感情を理解して、生きてみたいと、ミサカは自分の心に従います」



その一言は簡単に言葉にできたから。

「……なら今からお前を助けてやる。だからそこで黙ってみてろ」

そして少年は一歩を踏み出す。




837 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:21:19.34 ID:Ux+iblOO0





「ク……ハハッ」

ぽつりとその場に漏れたのは、命の取り合いの最中には相応しくない、笑い声。

浜面からでもミサカからでもないその嘲笑は一方通行から零れ、それは徐々に溢れ出す。

「ヒャハハハハハハハッ! そうかそうかよ、見覚えがあンのも納得だァ!」

一方通行の記憶に残る僅かな既視感。
内に問いかけた疑問が、二人の姿を目の前に霧散するように晴れて行った。
まるで庇う様に立ち塞がる男に、今にも死にそうな妹達。

この光景を、一方通行はほんの少し数十時間前に見た。

「テメェ、昨日も邪魔をしに来やがったチンピラじゃねェかッ!!」

駆け抜けるのは、昨夜の第10031次実験。
一方通行にとって歯牙にもかけぬ存在だった故に記憶からは薄れていたが、確かにあの場にはイレギュラーがいた。



838 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:21:59.05 ID:Ux+iblOO0




そもそも眼中に無かったのだから姿も顔も覚えていない。今も一方通行の視界から見えるのは
立ち向かってくる男のぼんやりとしたシルエットだけで、昨日と同じ男だと言う確証はない。

だが、確信はあった。

「そうかよ。何が目的でこの俺に挑ンで来たかと思えば……ハッ、笑わせやがる」

そのイレギュラーがこちらへ向ける敵意だけは、最強の座欲しさに挑みにくる連中では到底抱けない様なモノだったから。

「今までみたいな馬鹿じゃねェ、大バカだよテメェは!! 目的は昨日の復讐か!? それともそこの妹達か!?
 何にしろ殺されるのが目的で生み出された人間一人を守る為だけにこの一方通行に喧嘩売るなンざ――」

「ちがうな」

「あ?」

「アイツは死んだんだ、もういない」



839 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:22:55.70 ID:Ux+iblOO0





浜面仕上はヒーローではない。

自身も、そして周りも彼をヒーローとは決して認めはしないだろう。
そうと呼ぶには浜面仕上はあまりにも脆弱で、あまりにも汚れていて、あまりのも多くのものを取りこぼしすぎた。

彼の親友も、あの少女も、もういない。

「俺はッ! 俺の目的の為だけにテメェをぶっ飛ばしに来てんだ!! 妹達もテメェの都合も関係ねえ!」

「ッ――吠えてンじゃねェぞ三下ァ!! 俺に勝てるとでも本気で思ってンのか!!
 テメェみたいな雑魚は指一本動かさなくても1000回殺せンだ!! 威勢だけで、命賭けるだけで勝てると思ってンじゃねェ!!!」

浜面仕上はみんなを救ってハッピーエンドを迎えられる主人公には決してなれない。
誰にも選ばれず、資質らしいものなども何一つ持っていないのだから。

だが――



840 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:23:26.42 ID:Ux+iblOO0




「無能力者の命一つと学園都市最強――ハッ、安い最強だな」

「こ、の――」

たとえヒーローにはなれなくても。

「わりいが賭けるまでもねぇよ」

「――ッ!!」

たった一人の少女の為に駆け出す少年の姿は、




「だからここでハラァくくってもらうぜ!! 最強ォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」




まさしく少女の為のヒーローそのものだった。



841 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/02/25(土) 22:23:51.45 ID:ZtmhivwAO
熱いぜ浜面……
842 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:24:29.83 ID:Ux+iblOO0




呟かれたのは、押し殺された怒りだ。

「ふ、ざけンなよ……」

見開かれた血色の瞳はその色を更に深め、目の前の最弱を映し込む。
沸々と何かが沸きで、体が震える。かつて無い程の怒りが一方通行の芯から吹き出していた。

こうまで自分を蔑み、こうまで自分を侮辱し、こうまで自分をコケにした。

「ふざけンな……」

この学園都市第一位を、最強の能力者を、たかが路地裏のチンピラが。

安い最強。確かにそうだ。
こんなバカに喧嘩を売られる程に、自分の最強は安すぎる。

「ふ、ざけンじゃねェぞォォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!」

天を衝くような怒号が響き渡った。巻き起こるのは烈風、大地を走るのは亀裂。
衝撃が一方通行を中心に全方位へ拡散し、殺意が浜面の元へ押し掛ける。

「お、ぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおッ!!!」

しかし、常人なら一瞬で屈してしまうだろうその威圧感を浜面は振り払う。



843 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:25:09.85 ID:Ux+iblOO0




人に当然の様に存在する死の恐怖。恐れる心。
今の浜面には、それが全くと言っていい程無かった。

相手はあの学園都市最強。それに真っ向から挑んでいるというのに、
負けるかもしれない、死ぬかもしれない。そんな未来は微塵も感じ得ない。

何故か、そんなものは決まっている。

「この実験は俺が潰すっ!! アイツが起きる前に、テメェだけはぶっ飛ばさなきゃいけねぇんだよぉッ!!!」

浜面仕上には絶対の『可能性』があった。

何も浜面仕上はバカ正直に勝てる見込みもなく一方通行に立ち向かった訳ではない。
あの最強の『能力者』を倒す為の『切り札』が、浜面にはあったのだ。

それは――


「歯ぁ食いしばれよ最強ォ!! 俺の最弱はちっとばっか響くぞぉぉぉぉぉッ!!!」

「――ッテメェに酔ってンじゃねェよ無能力者ァあああああッ!!!」


それは絹旗最愛が看破した『能力』では無かった。

当然だ。




844 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:25:35.52 ID:Ux+iblOO0











浜面仕上は幻想御手など使っていないのだから。









845 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:26:44.04 ID:Ux+iblOO0




そう、浜面仕上は自身で言った様に今も変わらず正真正銘のレベル0。何の特別も、力も持たない無能力者だった。
しかし、確かに『一方通行に対する切り札』が浜面の中にある事に、一方通行も薄々ながらも気付いてくる。

(疑問だった。なンであいつは能力を使ってこないのか。お陰で反射が上手く働かず、今もこうして目の前の男は生きている。
 そうかよ、レベル0の出来損ないなら納得だァ。使わないじゃなくて使えねェってわけだ。だが、それなら――)

なぜ目の前の無能力者はこうも自分に立ち向かってくるのか――決まっている。

あるのだ。

最強の能力者を倒しうる『何か』が。

(奴は何かを隠してる――俺の反射を超える秘密をッ)

「――上等じゃねェかァああああッ!! 確かめてみろよ、そいつが届くかどォかなァあああああ!!!」

反射。

一方通行を覆うそれは、まさしく最強の盾。

貫けるものなど、存在しない。

「覚悟しろよ第一位ッ!! テメェの最強がどれほどのもんか教えてやるよぉッ!!!!」

「超えれるもンなら超えてみやがれ!! その幻想を現実にしてみせろよ最弱ッ!!! 
 テメェを踏み台に俺は無敵に上り詰めてやるよォぉおおおおおおおおおおお!!」

轟音が炸裂し、最強と最弱が交差する。





たったそれだけで、勝負は決した。



846 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:27:14.15 ID:Ux+iblOO0





「――――は」

一瞬の静寂の後、爆塵が晴れて行く。

「だから、言ったろ」

そこに立っていたのは――



847 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:27:55.31 ID:Ux+iblOO0










            「そンなもンは、幻想だってなァ」









848 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:28:39.01 ID:Ux+iblOO0




浜面には、確かに一方通行を倒せる可能性があった。

しかし、それは可能性であって確定されたものではない。

僅かな狂いが、その可能性すら消してしまった。

最強。

その存在は余りに遠く、余りに届かない。

無能力者が挑むには、最強という壁は高すぎた。

それが、敗因。



849 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:29:19.69 ID:Ux+iblOO0
5分休憩。まだまだつづくよ!やったね!
850 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:34:25.44 ID:Ux+iblOO0




終わってしまったその空間に静けさが訪れた。
傷一つない少年、一方通行はまるで王者の様に君臨し、笑みを零す。

「く、ははは、ひゃははははははははははははははははッ!!!」

天に届くまでのその笑い声は、どれほど続いただろうか。
やがてそれも止み、一方通行の視線は敗者へと向けられる。

「う……ぅ」

無様にもコンテナの壁へと吹き飛ばされ、最早虫の息である無能力者の少年へ。

「よォ、あそこまで偉そうに吠えてどンな気分だよ。今の様は」

返事は返ってこない。当たり前だ。
数十メートルもぶっ飛ばせば、声も届かないだろう。

「ハッ、つうかまだ生きてンのな。どンだけ丈夫なンだっつうの」

結局、無能力者の矛は超能力者の盾には届かなかった。

触れもせず、一方通行が巻き起こした衝撃は浜面仕上の体を吹き飛ばし勝負を終わらせた。
持っていたであろう自分に対する『切り札』を、使わせるまでもなく。

「ハッ、わっかンねえなァ。どンな根拠があって、テメェは俺に挑んで来たんだ? なァ、オイ」

くつくつと笑いながら、少年は近づいて行く。

愚かにも最強へ挑み破れた、浜面仕上にトドメを刺す為に。



851 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/25(土) 22:34:33.03 ID:z8aAlwzfo
なんてこったい……
852 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:35:20.72 ID:Ux+iblOO0




「く、ぐ……、」

そして、敗北を喫した少年は尚も立ち上がる。

が、

(限界。ここらが、潮時か……)

コンテナの壁に背を預け、流した血と荒々しい呼吸が今の現状を物語っていた。
足が震え、汗と血が混ざり合った体液が大地を汚す。

もう、ここが『限界』だった。

浜面に残された選択肢はここで殺されるか、
それともこの絶望的な状況をひっくり返す様な『切り札』を用意するか。

「は、はは――」

そう、浜面仕上の『切り札』は、まだ失われてはいない――



853 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:35:54.82 ID:Ux+iblOO0










――ハズだった。









854 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:36:29.81 ID:Ux+iblOO0




カラン、と。

お互いの距離がおおよそ10m程になったその時、一方通行の足が何かを蹴った。

「あァ?」

砂利でもなく鋼鉄でもないその乾いた音に、一方通行が目を向ける。

それは、ある『モノ』だった。

「――ほォ」

それは、浜面仕上が吹き飛ばされた時に、その懐から転がり落ちたモノだった。

武器でもなんでもないソレをみて、一方通行の表情に
とてもとても醜悪な笑みが現れたのは、一方通行にも見覚えがあったから。

これで、全てに辻褄が合わさる。

なぜ無能力者の分際で学園都市最強に挑んだのか、
なぜそんなにも絶対的な勝利への確信があったのか、

なぜ、

「――ッ、くッ」

なぜ、目の前の少年はそんなにも焦りの顔を浮かべているのか。

「よォ、テメェの狙いはコイツだったってわけだなァ」

ゆっくりと、一方通行はそれに足を乗せる。徐々に、その希望を削ぐかのように

それは、目の前のレベル0が機を狙い、仕掛けるチャンスを伺っていた、一方通行の盾を貫く矛。

全ての能力者に対する最強の『切り札』



855 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:36:58.02 ID:Ux+iblOO0










御坂美琴がこの操車場に仕掛けたキャパシティダウンの制御装置。









856 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:37:43.48 ID:Ux+iblOO0




浜面仕上は回収していたのだ。昨夜、ミサカの元に向かう際に設置されたキャパシティダウンに気付き、
御坂美琴がこの操車場に投げ捨てた装置を、密かに回収していた。

「なンか変だと思った。そォ言う事か。俺はまンまと乗せられてたって訳だ。
 そうだなァ、確かにコイツで昨日は痛い目を見たんだった。ハッ、なかなか悪知恵が働くじゃねェか」

そして学園都市に訪れた大停電のせいで妹達は隠蔽工作を行えていない。
つまりは、そう言う事だろう。

「く、ハハハハハ」

自然と、笑いがこみ上げる。なんだ、本当にコイツは自分を倒すつもりだったのではないかと、
あれだけ大口を叩いて、一歩間違えていればこの立場は逆転していたのではないかと。
もしかすると、本当にアイツの矛は自分を貫いていたのではないかと。

「――ハッ」

自分の間抜けさに笑ってしまう。

だから、

「ざァンねェンでしたァ」

バキバキバキィッ!!と、一方通行はその制御装置を躊躇いも無く踏み抜いた。

そうして、浜面の表情が絶望の色へと染まり、一方通行は笑う。

笑って、一歩を踏み出す。



857 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:38:27.69 ID:Ux+iblOO0




「で? よォ、次はどうすンだ? はッ、どうしようもねェよなァ」

砂利を鳴らし、ケラケラと歩みよって行く。

「惜しいなァ、テメェは本当に惜しかったよ最弱。喧嘩売る相手が悪かった」

距離を縮めて行く。

「テメェが相手してンのは例えるなら最強の盾だ。
届く訳ねェだろ? 無能力者の拳なンざ」

コンテナの壁を背に立ち尽くし、俯く少年の元へと。

「唯一届いたかもしれねェ『切り札』はもうゴミだ」



 近 づ い て 行 っ て し ま う



「もう俺を貫ける矛なンざねェよ」



858 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:38:55.52 ID:Ux+iblOO0




そう言い放ち、対する浜面はもう諦めたのかピクリとさえ動かない。その表情も伺えない。
だから、一方通行はうずくまる少年の目の前に立ち、見下し、嘲笑し、その体に手を伸ばす。

このまま触れてしまえば、コイツは死ぬ。弾けて死ぬ。

「じゃあな、最弱。テメェの幻想はここで終わりだ」

それは勝利宣言だった。

徹底的に心を踏みにじる様に、鼻先まで近づきながら、囁く様に、言ってやった。




「――――イイ加減楽になれ」



そして――



859 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:39:26.64 ID:Ux+iblOO0











一方通行は気付かない。










860 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/02/25(土) 22:39:41.87 ID:ZtmhivwAO
おお!?
861 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:40:24.07 ID:Ux+iblOO0




「――は、はは」

そのうなだれた少年が薄く笑みを浮かべている事に、気付かない。

「レベル5ってのはどいつもこいつも似た様な奴ばかりだな」

「……あァ?」

一方通行の顔が疑問に染まる。何が起こったのか理解が出来ない。
何故だ。そんな三文字が莫大な頭脳を埋め尽くす。

「第二位も、三位も、四位も、テメェらレベル5はみんな俺みたいなレベル0の前じゃ余裕丸出しだ
 さっさと殺せばいいのに勝ちを確信したと思えば鼻先まで近づいて来て見下しやがる」

そう、それは麦野沈利の様に、御坂美琴の様に、垣根帝督の様に、

「やっと、この距離まで近づいて来てくれたよ。なぁ?」

――ここにいる一方通行の様に。

「なンだ、なンで、テメェ――俺の腕を掴ンでンだァぁぁぁあああああッ!!」



862 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:40:53.50 ID:Ux+iblOO0





浜面仕上は知っている。




『雑魚が格上に勝つ事が出来るかもしれない唯一の方法』を、知っている。




そして、一方通行は知らない。




決定的な事をしらなかった。



863 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:41:28.66 ID:Ux+iblOO0




そもそもキャパシティダウンなどを、浜面は当てにはしていなかった事に。




そもそもキャパシティダウンなどが、この全てが静止した学園都市で動くはずが無い事に。




故に、あの切り札は『必殺の切り札』ではなく『捨ての切り札』だった事に。



864 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:41:54.52 ID:Ux+iblOO0











一方通行は気付かない。









865 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:42:47.27 ID:Ux+iblOO0




たった今さっき、砕かれた浜面の『切り札』は、



一方通行がソレを浜面仕上の必殺の『切り札』だと思い込む確信があったからこそ、  



浜面仕上が『一方通行に破壊させる為に曝け出した』という事に気付かない。



866 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:43:22.82 ID:Ux+iblOO0










浜面「切り札は最後まで見せるな。見せるなら更に奥の手を持て」








867 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:44:05.84 ID:Ux+iblOO0




「テメェ、なに言って――」

ぱっと、一方通行の手が払われた。
何気ない動作によって行われたその行為に、一方通行は驚愕を隠せず、そして捉える。

この至近距離で、ようやく一方通行は己の敵がどんな姿なのかを知った。

姿はボロボロで、傷だらけで、全身を包帯に覆われていて、
そして――その右腕にとても不似合いで、とても不釣り合いなモノが腕を覆う様に縛り付けられていた。

その『奥の手』がなんなのか、力の向きを自在に操る超能力者は知らない。

全てを掴めるはずの一方通行は知らない。

そう。例え超能力者でも、あの聖人がそうであったように『知らないものは知らない』のだ。

物理、魔術、そして『超能力』だろうとその力を全て吸収し無効化してしまう防御結界。


『歩く教会』


そんなモノは、知るはずが無い。だから――

「あぁ、教えてやろうか?」

ニヤリと、浜面が笑った。獰猛に。凶暴に。

その腕に絶対の『盾』を纏い、体勢を大きく崩した一方通行に対し振りかぶる。




「その無駄な勝利宣言が決定的な隙になるつってんだよ」




瞬間。最強を覆う盾を打ち破り、ぐしゃりと音を立てて絶対の盾に覆われた浜面の拳が一方通行の顔面を打ち抜いた。



868 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:45:14.04 ID:Ux+iblOO0




「ゴ、ガァッ!!」

一歩、二歩と、理解の追い付かない思考の中、一方通行の足が後退する。
一体何が起こったのか、未だに彼は分からない。分かるはずも無い。

「ク、ソ……なンなンだよソレはァ!!!!」

叫び、乱雑に、乱暴に腕を振り回す。
触れただけで全身が弾け飛ぶその腕はまさしく一撃必殺であって、
たとえ同格の超能力者でさえ容易には近づけないはずの攻撃だったはずだ。

だが――

パシン。と、そんな軽い音と共に一方通行の毒手は白の残像によってたたき落とされる。

「――――な」

理解が出来ない。能力は発動しているはずなのに。
最強の防壁はちゃんと存在するはずなのに。

「らあああああああッ!!」

どういう訳かこの無能力者はソレをも上回って一方通行の『最強』を打ち砕く。

「グ、はァッ!!」

聖なる加護により『絶対』の特性を持つ力によって。



「証明してやるよ一方通行。テメェをぶっ飛ばすのに矛なんざ必要ねえって事をなぁッ!!!」



浜面仕上が大地を駆ける。
『限界まで出し惜しみ』した『余力』を全てぶつける為に。

――反撃が、始まった。



869 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:46:17.61 ID:Ux+iblOO0




――――――――




絹旗「そんな、信じられません……」

その光景を見て、ぽつりと呟いたのは意識を取り戻した絹旗最愛だった。

絹旗「あの一方通行を……押している?」

はじめは何かの見間違いかと思った。
これは夢ではないのかと錯覚した。

だが、月明かりに照らされたそれは、まぎれも無い現実。

あの浜面仕上が、一方通行を圧倒していた。
信じられない事にただの殴り合いで、だ。

絹旗「一体どんなすごい超切り札を使ったんですか、浜面……」

能力によるものかと思ったが、見る限りそうではない。
一方通行の反射膜を完全に無視出来る能力など絹旗は知らないし、
そんなものはこの世に存在しないだろう。

ならば、一体どうやって浜面はあの最強の盾を打ち破っているのか。

考えてもそれは分からなかった。

今、絹旗のが分かるのはたった一つだけだ。

絹旗「……勝て、る?」



870 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:46:55.76 ID:Ux+iblOO0




このまま行くと、勝てるかもしれない。
そんな希望。あり得るはずの無い、現実。

『勝つさ』

そんな自信に満ちた少年の言葉が甦る。
荒唐無稽で信じられるはずもなかったその言葉が現実味を帯びて来ている。

絹旗「……ッ」

どくん。と、心臓が跳ねた。

あの最強を浜面仕上が倒すかもしれないという予感が、絹旗の血を熱く滾らせる。
また一発、浜面の拳が一方通行を貫いた。

勝てる。

絹旗「浜面……っ」

気付けば折れた腕も気にならず、体は起き上がっていた。
かけられたジャージをぎゅっと握り、額には汗が浮かぶ。

絹旗「勝って、ください……」

意識せず心の声が、絹旗の想いが言葉になって口から漏れ出る。
一度漏れたものはもう止まらない。何度も、何度も、絹旗は叫んだ。

絹旗「浜面……勝って。勝ってくださいッ!!」



871 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:48:36.66 ID:Ux+iblOO0



――――――――



もしかしたら。

始めはそんな可能性を抱いたところから、浜面の無謀な計画は始まった。

あらゆるベクトルを操り全てを反射する超能力者、一方通行。

常識的に考えて浜面がそこに入り込む隙も、余地も一切ありはしない。
無能力者が超能力者に実力で勝つなんて、そんな無理矢理なご都合主義はこの世界には存在しない。

しかしそんな浜面が一方通行よりも、この街の誰よりも優位に立てるモノが確かにあった。

浜面は魔術という科学の街の住人ならば頭から否定する非常識の存在を知っている。

そして、もし一方通行の全ての向きを操るという力が適応されない例外があるとしたら。

存在しないものが、知らないものがあるとしたら。

既知と未知。

その僅かな誤差に、必ず勝機はある。



872 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:49:10.49 ID:Ux+iblOO0




「なンだッ! チクショウ!! いったいなンだってンだ――がァッ!!」

また、一撃。視界一面が真白に染まる。

視界がぶれ、脳が揺れる。
経験した事のないような痛みという感覚が襲いかかる。

理解出来なかった。意味が分からなかった。

なんだ? なにが起こってる?

何故自分は殴られている?

沸き上がる疑問に返ってくる答えは無い。
学園都市一位の頭脳を持ってしても、今起こっている現象が理解出来なかった。

一方通行には自動反射という特性が備わっている。

それは、一方通行にとって生きる為に必須な要素以外のすべてを皮膚に触れた瞬間、
自動で対象のベクトル量に-1の係数を付加するというものだ。

打撃も、衝撃も、銃撃も、斬撃も、人から向けられる悪意さえも、
一方通行が纏う最強の盾を前には届かず全てが跳ね返される。

それが、最強たる所以。

それが、超能力者序列一位。

彼が構える盾は何もかもを防ぎ、何者も触れることすら叶わない――ハズだった。



873 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:50:19.18 ID:Ux+iblOO0




「が、ァッ!!」

なのに、

「ぐ、ゥッ!!」

なのに、

「クソ、一体何をしやがったンだテメェェえええええッ!!!」

ブンッ、と乱雑に振った腕は、空を切る。
前のめりになった隙だらけの体勢にまた、浜面仕上の拳が打ち込まれた。

「く、が……っ、なンで反射が――」

何故。

また、その言葉が口をついて出る。

能力は正常に働くし、今も反射膜は全身を覆っている。
いつもの通り、触れたものを全て跳ね返す最強の盾は健在なのに、

なのに、あの無能力者が纏う白だけが反射出来ない。

ただの運動エネルギーのハズなのに、反射膜に触れた瞬間ベクトル係数に-1を負荷するはずが、
触れた瞬間反射膜を消し去ってそのまま皮膚に衝撃だけが突き刺さってくる。

明らかにそれは、一方通行の知らない材質、知らない法則で作られた、異質だった。



874 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:50:46.41 ID:Ux+iblOO0




「なンだ、なンだってンだよォ!!」

目の前に存在する余りの理不尽に一方通行は憤る。
この手は全てを掴めるはずなのに、科学の世界の頂点に君臨しているというのに、
今起こってる事に理論の理の字も分からない。

まるで存在するはずの無いオカルトを目の前にしている様な、そんな錯覚。

「ぐ、ゥううううううッ!!」

このままではマズいと、本能が警告をならす。
距離をとらなくてはと、一方通行の体が後ろへ傾いたその瞬間。

「逃がすかよ」

瞬時にソレを察知した浜面の右手が、全てを消しさる白を挟んで一方通行の腕を掴んでいた。

そして、また一撃が一方通行へ叩き込まれる。



875 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:51:23.36 ID:Ux+iblOO0




「か、ぁ……」

途切れそうになる思考の中で、感じたのは違和感。

(クソがァッ!! コイツ、さっきに比べて格段に動きが速くなってやがるッ)

先ほど、浜面仕上は一方通行に近づいても手も足も出なかったはずだ。
落胆する程に動きが遅く、大振りで隙だらけだったはずだ。

それがどうか。

今向かってくる敵はまるで別人だ。

無駄の少ない動きに滑らかな重心移動。
繰り出してくるその状況に合った攻撃。
全部が先ほどのチンピラとは違いすぎる。

つまり――そう。全ては計算通りだったのだ。

浜面仕上は知っていた。10031次実験の際に、その身を以て僅かながらも
一方通行の戦闘パターンを経験し、答えを導きだしていた。

一方通行は対等の相手との戦いに慣れていないという事を。
こうして反射と判断力を封じるだけで、無能力者でも十分戦う事が出来ると。

始めから今までの動きも、言葉も、焦りも、全てがそのための布石。

嬲られる振りをして一方通行を限界まで油断させ、一方的に主導権を握る為だけの、伏線。

(コイツ、本気で超能力者を潰しにかかって――)



876 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:52:12.28 ID:Ux+iblOO0




「……ぐ、チョーシ乗ってンじゃねェぞ三下ァァァあッ!!」

タン、と一方通行が軽く大地を踏む。
同時に足下に寝かされていた鋼鉄のレールがバネ仕掛けのように跳ね上がる。
あとはこれに触れさえすれば鋼鉄の長弾は浜面の体を貫くはずだ。

しかし

「させるかよぉッ!!」

浜面仕上はその行為を許さない。一方通行の手が鉄骨に触れるよりも早く、その顔面に拳を叩き込む。
地面に叩き付けられ、勢いよく転がる一方通行は自身の体が巻き上げる砂利の向きを操り、大量の散弾を浜面に向かって浴びせる。

だが、それは浜面の目の前で大きく広げられた結界によって阻まれる。

『歩く教会』

核にさえ耐えうる、魔術の結晶。

本来は至極の防御霊装であるはずのそれは、この場合に限り絶対の攻撃霊装へと仕様を変えた。

最強の盾を貫く絶対の矛など、浜面は持っていない。
だから、絶対の盾で最強の盾を打ち砕く。それが、何の特別も無い無能力者の選択だった。



877 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:53:43.35 ID:Ux+iblOO0




「クソ。クソォ!! クソォォォォォオオオオ!!!」

獣の様な咆哮と共に一方通行の足下が爆発した。まるで弾丸の様にその体が浜面へと飛ぶ。
脚力のベクトルを操作する事によってその瞬発速度を何倍にも高めたのだろう。

だが、その直線的な軌道は簡単に読めてしまう。

どこを狙っているのか、どうすれば避けられるのか。

「チクショウがァ! こンなとこで終われるかよォ!!!
 今更この道は変えられねェ!! こンなところで辞めちまえる訳ねェだろォがァああああ!!!」

積もらせた感情を爆発させたかの様に、一方通行が吠えた。溢れた本音は、思ってしまったからだろう。
負けるかもしれない。無能力者に破れてここで止まってしまうかもしれないと、そんな予感が。

こうしてヘビの様に踊る左右の一撃必殺を振りかぶっても、目の前の敵には擦りもしない。

「何言ってんのか分かってんのか、テメェッ!!!」

「分かってねェのはテメェだ! もう1万人も殺してンだぞ!?
 今更止まっちまったら俺が殺して来た1万人の妹達はなンだったンだよ!!
 勝手に生みだされて、俺に殺されただけのアイツらは一体なンだったンだッ!!!!」

今でも鮮明に甦る。初めて人を殺したあの瞬間からここに至るまで10031回の少女の最後。

ここで自分が止まってしまったら、いままで自分がして来た事の意味も、
あの少女達が生まれた意味も死んだ意味も、全てが無かった事になってしまう。

全てが、なんの意味もなくなってしまう。

人は、潜在的に失う事を恐れる生き物だ。その例に漏れず、一方通行は恐ろしかった。
ここで止まってしまうと言う事がどういう事なのか、彼にははっきりと理解出来たから。

一万人の人間を殺した事実だけを背負って一人で生きて行く事など、彼には到底出来なかったから。

当然だ。能力と言う衣を剥いでしまえば、結局のところ一方通行でさえただの子供でしかないのだから

「もォ俺にはアイツらを殺して無敵になるしか道はねェんだ!! この道しか残ってねェんだよォぉおおおおおおおおおおおお!!!!」

「こ、の――バカ野郎ぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

再び轟音が鳴り、お互いが交差する。しかし、一方通行の手は空を切り、浜面仕上の拳は一方通行を貫いた。



878 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:54:16.19 ID:Ux+iblOO0




「ご、ァ――」

ガクガクと体が震える。それは、目に見える一方通行の限界だった。

元々一方通行は酷く打たれ弱い人間だ。
能力に頼り切り痛覚と言うモノを忘れてしまったその体は、痛みにとても弱い。

ただでさえ御坂美琴による蹂躙、絹旗最愛の一撃など、ダメージは確実にその溜まっていた。だから、

「――ァ」

だから一方通行の膝はがくりと折れて、

「――あ、ああああああああああああッ!!」

その瞬間。浜面のソレまでに無い本気の拳が顔面に突き刺さった。



879 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:54:44.80 ID:Ux+iblOO0




「……本気で言ってんのかよ、テメェ」

静かに呟かれたその言葉は倒れゆく一方通行へと突き刺さる。

「妹達だって、生きてるんだよ……生きたいって思ってるんだ」

悔しそうに奥歯を噛み締める浜面が思ったのは、一人しかいなかった。

「例えお前がもう一万人殺しちまったところで、
 それが残り一万人を殺していい理由になんてならねぇだろうが……っ」

あのミサカしかいなかった。

「アイツらは人形じゃねぇんだぞッ!!」



880 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:55:21.04 ID:Ux+iblOO0




「あァ――」

そして、ゆっくりと時間が流れる中一方通行はその言葉を噛み締める。

(分かってンだよ――アイツらが人形じゃない事なンて)

(俺が殺していい理由なンて無い事も、そンな事全部、わかってンだ――)

(分かってンだよ、こンな事、間違ってるって――――)

今なら分かる気がする。

何故、自分が10031回もあの少女達に向かって最後の言葉を聞こうとしたのか。

きっと、待っていたのだ。

『死にたくない』という言葉を、

歯止めが利かなくなった自分を止めてくれるその言葉を待っていたのだ。




881 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:55:48.71 ID:Ux+iblOO0




(けど、だめだ。もォ、全部が遅い――認められねェンだよ。もし、認めちまったら)

自分の進む道は自由で、誰にも邪魔されず、何も背負う事もなく、
浮いてしまうかの様に体が軽い、それは最高の環境のはずだった。

今は、どうだ。

目の前にはイレギュラーが立ち塞がった。

背には、一万人の少女の十字架が乗っている。

足は血の海に絡みとられ、前にしか進めない。

止まる事なんてできやしない。こんな所で止まれっていうのなら、

「あ、ァ――」

なら、俺は一体どう歩いて行けばいいんだよ。

「あァァァァぁあぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

一方通行の絶叫が轟く中、それはほんの一撫で――

一陣の風が吹いた。



882 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:56:33.49 ID:Ux+iblOO0




「ッ――」

バッと、見るからに優勢だった浜面仕上が一方通行との距離を自ら離した。

距離。武器を持たない浜面仕上にとって優位性と直結する距離をわざわざ離したのは、
それを凌駕する程の何かが来る予感がしたから。

そしてそれは正しく、その瞬間

「――、な」

悲鳴が、掻き消える。

風速120メートルの大暴風が浜面の体を簡単に吹き飛ばし、辺一帯全てを薙ぎ払った。



883 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:57:18.92 ID:Ux+iblOO0




風が死に、音が死に、大気が死んだ。

一方通行は起き上がり、己が作り上げた惨状を目の当たりにし笑みを浮かべる。

砂利が巻き上げられ、大地は所々が削れている。もはや見る影も無かった。
数十メートルも吹き飛ばされた少年は壊れた鉄塔に激突して、ズルズルと地面へ崩れ落ちている。
いくら正体不明の力が働いていたとしても、当たりどころが悪ければもう動けはしないだろう。

実勢、浜面仕上は死んだ様にピクリとも動かず、手足を投げ出している。
生きているのか死んでいるのかすら疑わしい状態だが――――

「う、ぅ……」

「ハッ、ホンットに丈夫な奴だなテメェは!!」

生きている。数十メートル先に落ちた少年はまだ生きていて、
しかし立ちあがることは出来ない。無様に、もがいている。



884 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:58:01.04 ID:Ux+iblOO0




「いいぜ、今度こそ殺してやるよ。跡形もなく、なァ……ッ!!」

両腕を、空にかざす。それだけで一方通行を中心に再び烈風が巻き起こった。
肌を切る様な鋭い風は追い上げられる様に夜空に昇り、やがて生まれたのは、太陽の様な眩い白。

「空気を圧縮、圧縮、圧縮ねェ。ハッ、愉快なもンの出来上がりだァ!! 
 オラ来いよ最弱!! テメェが正しいってンならそいつを証明してみろォ!!!」

無数の鋼鉄レールが十字架の様に突き立てる景色の中、暴風と狂笑が吹き荒れる。
風を操ることでまるで世界を掌握したかのような感覚が体を駆け抜け、一方通行は自分の勝利を確信した。

「ヒャハハハハハハハ、ハハ……ハ―――――――――――――」

そうして圧倒的で、誰も止められないその姿に、一方通行は奥底に眠るある記憶を思い起こす。




「ァ、―――――――――」



885 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:59:05.57 ID:Ux+iblOO0




それは、自分にとっての世界を敵に回してしまった幼い記憶。

雪だるま式に積もっていき、なにもかも失ってしまった災いの記憶。

一方通行という少年を作り上げた、全ての始まり。

少年はひたすら強さを求めた。

ひたむきに強さを求めた。

強くなる為に、強くなった。

最強になって、無敵になる為に。

何かを変える為に。



886 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 22:59:38.38 ID:Ux+iblOO0




『何か』

それは、忘れてしまっていた少年の目的。

無敵になって何をしたかったか、一方通行は忘れていた。

見ない振りをしていた。

それは、幻想の様なものだったから。

力が争いを生むのなら、戦う気も起きない程の絶対的な存在になればいい。

そうしたら、いつかまたあの日々に戻れるなんて――

そうすれば、もう誰も傷つけなくていいなんて――

ホント、本当に―――



887 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 23:00:01.63 ID:Ux+iblOO0











一方通行「ホント、なにやってンだ――――――俺」










888 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 23:00:31.79 ID:Ux+iblOO0





ポツリと呟いた言葉は、風に掻き消されて誰にも聞こえなかった。


もう――――止まることはできない。




889 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 23:01:14.12 ID:Ux+iblOO0




――――――――




絹旗「……う」

朦朧とした意識を叩き、少女はまるで呻く様に声を発する。
何がどうなったのか、意識が途切れる直前までを思い出そうと絹旗は必死に記憶を掘り返す。

――風。

そう、風だ。

余りにも強大で、余りにも不自然な風がこの操車場を中心に突然吹き、
その凄まじい暴風が軽く自分の体を何メートルも吹き飛ばした。大地に叩き付けられた体はガタガタだ。

仰向けに倒れたまま見回すと、辺りは酷いものだった。
何もかもが吹き荒れ、そこの台風でも発生したかの様な爪痕がごっそりと大地を抉っている。

絹旗「はは……」

だと言うのに、その手にはしっかりと浜面が自分にかけてくれたジャージを握っていた。



890 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 23:01:46.15 ID:Ux+iblOO0





絹旗「…………」

そして、闇を照らすソレを目の当たりにする。
絹旗が見上げる100メートル程の上空。そこには眩い輝きを放つ病的なまでの白があった。

それは一般的には高電離気体と呼ばれるものだ。

絹旗(街の風を一点に凝縮……ハッ、超デタラメ、ですね)

更に光源は膨れ上がる。圧縮された空気はその姿を変え、
太陽の様に夜を照らしながらジリジリと10000度の高熱の余波で操車場を焼いていく。

絹旗(あんなもの、もう人類に対応出来る領域を完全に越えてますよ……)

あれがぶつけられでもしたら、辺一帯何も残らず消滅してしまうであろう、それほどの高エネルギー。
きっと抗う事さえ、もう許されない。



891 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 23:02:22.87 ID:Ux+iblOO0




絹旗「…………………………」

なのに、きっとあのバカは諦めない。

絹旗「……………………………か」

どう足掻いても無駄というのに、まだ立とうとしている。

絹旗「……………………………………ですか」

『勝つさ』

『俺はこの実験を終わらせる』

そんな言葉を本気で実現しようとして、
生きて帰ろうと言う自分の願いを本当に叶えようとしている。

なら、

絹旗「私だけ諦める訳には、いかないじゃないですか」




その時、風が吹いた。




傷だらけの肌が撫でられ、髪が散り、ソレがはためく。

手に掴んでいた『浜面のジャージ』がはためいて、そのポケットから『何か』が転がり落ちた。

絹旗「…………」

少女はそれに手を伸ばす。




その『音楽プレイヤー』に手を伸ばし、そして――――



892 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 23:03:14.43 ID:Ux+iblOO0




――――――――




その時だった。

「なァッ!?」

ぐにゃり、と

突如、そのプラズマが形を歪めた。
ベクトル操作によって超圧縮された空気の塊がみるみるうちに形状を変え、霧散して行く。

吹き荒れていた嵐のような巻き風の勢いが、死んで行く。

「くそ、なンだってンだァッ!」

風を操る一方通行の表情に、焦りが生じる。
この手に掴む風の計算は完璧のはずだ。
なのに組み上げた側から一方通行の演算を縫う様に風の動きが乱されて行ってしまっている。
この明らかに不規則な風の乱れは、能力によって行われたものに他ならない。

しかし、

「ンな訳がねェ! そンな強度の風使いがこの街に存在する訳がッ!!」



893 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 23:03:55.77 ID:Ux+iblOO0




そう。一方通行の演算式はこの街の隅々に渡り及んでいる。
第一位の計算式を乱す程の処理能力を持つ風使いがいるとすれば、ソイツは間違いなく超能力者だ。

だが一方通行の知る残り5人の超能力者に、そんな能力者は存在しない。

考えられるのは、

「――まさか」

一方通行の演算パターンを把握し、第一位に近づくまでの処理能力を持つ風使い。

「――まさかッ」

説明はつく。

今アイツが『アレ』を使えば、その域に簡単に辿り着ける。

「テメェかァ!!!」

視線の先にはボロボロの少女が立っていた。

元々は高位の『風力使い』であった少女が立って、その手に風を掴んでいた。

目の前に立つ敵の癖を全て知り尽くした少女がニイっと笑う。




幻想御手により今や超能力者(レベル5)へと到達した絹旗最愛の『窒素装甲』はその効果範囲を爆発的に伸ばし、一方通行の風を掻き乱す。




http://wktk.vip2ch.com/vipper34199.jpg
894 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 23:05:16.66 ID:Ux+iblOO0




「…………」

そして、少年は立ち上がる。

ゆっくりと、もう崩れない様に足に力を込めて。

目が霞んでも、血が滲んでも、今だけはソレを無視して一歩を踏み出す。

大丈夫。拳はまだ握れる。

歩く教会も、ここにある。

インデックスは、側にいる。

「なンで立てるンだよ……お前はァ!!」

風はもう止みそうで、目の前に立つ第一位の咆哮が掻き消される事なく浜面の耳にも届いた。

だから、浜面は一歩を踏み出す。目の前に立つ少女の横を通り過ぎ、

「わりいな、絹旗」

「後で、聞いてもらいたい事あるんです。いいですか?」

「あぁ」

「じゃあ、さっさと行ってこい」

「あぁ」

「一緒に、帰りましょう」

「……あぁ!」




風が、止んだ。



895 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 23:06:44.90 ID:Ux+iblOO0




「う、おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおッ!!」

同時に、浜面が駆け出す。

腕に絶対の盾を握り、そのボロボロの足で地を踏みしめ、駆け上がる。

目の前に立つ最強の元へ。

「は、はは……いいぜ、面白ェよ。最ッ高に面白ェよオマエはァァああああああッ!!」

そうして夜空に吠える様に絶叫した一方通行も共に駆け出す。
その拳を握り、目の前の最弱を殺す為に距離を詰める。

お互いの距離は20メートル。交差するまで僅か3秒

一方通行もただ殴られていた訳ではない。勝機はあった。
確実に勝利を得る為に頭脳は働いていた。

向かい来る最弱の腕を覆う布には一方通行の知らない力がある。だから、ソレはどうでもいい。
要は当たらなければいいのだ、避けてしまえばいい。
浜面仕上がその腕を振り被り、振り下ろす角度、早さ、そんな計算は一瞬で終わる。

体はそれに着いて行ける。躱して、触れてしまえばそれでいい、それだけで、

「これで終わりだァァあああああああああああッ!!!!!」

タイミングは完璧だった。

第一位の計算に狂いは無い。タイミングは完璧だったのだ。

だから――




896 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 23:07:14.84 ID:Ux+iblOO0










敗因はきっとソレだ。









897 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 23:08:32.71 ID:Ux+iblOO0




「さっきも言っただろ」

「――ァ?」

気付けば浜面仕上は目の前にいた。あったはずの3秒を0に縮め、そこにいた。
それこそ、脚力のベクトルでも操作したのかと思った程。

しかし、まだ一方通行は何もしてはいない。拳さえ構えていない。


「その無駄な勝利宣言が決定的な隙になるってよ」


必殺を繰り出す前に封殺された一方通行の心臓が凍った。そして全てを理解する。

『まだあった』

まだあったのだ。

一方通行を確実に倒す為に限界まで出し惜しみした最後の『奥の手』が――




「じゃあな、最強。てめえの幻想はここで終わりだ」



898 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 23:09:06.73 ID:Ux+iblOO0




浜面仕上が獰猛に笑った。
全身に巻いた『発条包帯』による超加速の痛みを無視して




「――――いい加減楽になっちまえ」




瞬間、浜面仕上の拳が一方通行の顔面へと突き刺さる。

その華奢な体が勢いよく砂利の敷かれた大地に叩き付けられ、乱暴にゴロゴロと転がっていった。



899 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 23:09:48.21 ID:Ux+iblOO0




「――――」

静けさが、風の様に広がって行く。



     レベル5
「楽勝だ。超能力者」



ぼつりと呟かれたそれは、勝利宣言だった。

完膚無きまでの勝利宣言だった。




どちらが勝ったかなんて、言うまでもなかった。



900 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/02/25(土) 23:11:18.63 ID:Ux+iblOO0




レベル6シフト編、暗部抗争編は次でラストです。
次回予告はありません。続きは近いうちに


ではでは。


901 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/02/25(土) 23:12:16.70 ID:ZtmhivwAO
902 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県) [sage]:2012/02/25(土) 23:13:26.83 ID:GTL8blSoo
903 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/25(土) 23:14:54.86 ID:mZ9qb6nro
904 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/25(土) 23:14:55.56 ID:rLVYK8yKo
905 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/25(土) 23:17:05.12 ID:taoX+Rmoo


勝つ度に色んなものを失っていってるよね。
今回ももしかしたら……
906 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/02/25(土) 23:22:49.98 ID:NXFql93Bo
こりゃ次回は次スレまたぎそうだな
907 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/02/25(土) 23:28:06.04 ID:beCggSvAO
「楽勝だ、超能力者」

↑こんなこといってる間もインデックスは全裸で病室
908 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北陸地方) [sage]:2012/02/25(土) 23:38:13.03 ID:T3O2VhVAO


浜面おまえはよくやった、
だからいい加減休め
909 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県) [sage saga]:2012/02/25(土) 23:53:41.74 ID:/n8nwVGP0
いちおつ
絹旗レベル5は熱いなその役を絹旗が持ってくかー
次も楽しみに待ってる
910 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2012/02/25(土) 23:54:32.97 ID:47NeOyVvo


歩く教会を来た浜面を想像してしまった
911 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/25(土) 23:59:43.85 ID:gslJQbRr0

↑病服着てるから大丈夫だろ
912 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/02/26(日) 00:00:32.23 ID:ixkZtcjQ0
乙、としか言えねえ
圧巻だったぜ……
913 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福島県) [sage]:2012/02/26(日) 00:08:29.22 ID:x8/gSifyo
なんかこの一方通行のテンションみたいなの
ドラゴンボールで見た
914 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/26(日) 00:10:47.54 ID:E9SPeN++o


つうか>>1、るろ剣と幽白が好きだろww
浜面の能力絡みの伏線も残ってるし、今後に期待です
915 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/02/26(日) 00:22:40.83 ID:/cdPNefA0
乙。

つまりこの戦いでの最大の功労者は垣根だったわけだな。
916 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/26(日) 00:33:12.02 ID:OZq2L2QIO
乙です
キャパシティダウンまでは想像してたが、歩く教会は盲点だった

我儘を聞き入れ挿絵のサイズ調整までしてくれてありがたいです
917 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/26(日) 00:51:00.75 ID:Hs6WLXWDO
歩く教会はなんとかよめたけどキャパシティダウン撒き餌でハードテーピングが決め手で絹旗レベルアッパーが最強サポートというのは読めなかった
すばらしい発想力に敬服せざるをえない
918 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2012/02/26(日) 01:07:35.66 ID:+7t5lHjX0
まじで浜面さんカッコいいわ。
ここの浜面さんのかっこよさは異常。
919 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県) [sage]:2012/02/26(日) 02:28:31.76 ID:a24gmzg1o
乙っす。
歩く教会とハードテーピングを使うとは完全に予想外だったわ。
読んでる間、腹に力が入りっぱなしで、読み応え抜群でした。
920 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/02/26(日) 04:21:46.04 ID:QN2bwRGCo
某木原禁書でも最終兵器歩く教会だったなあと思ってたらまだ隠し玉持ってやがった……超浜面超パネェ
921 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) :2012/02/26(日) 18:31:50.28 ID:FGb8ts/B0
うおああああああああ
すげええええ
原作でもこんなに興奮しなかった。
922 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/26(日) 18:36:18.11 ID:mblVoaF60

浜面マジかっけぇ。絹旗超けなげだな、でもレベルアッパー使ったからこの後昏睡か・・・
923 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/26(日) 22:27:47.28 ID:M4sOLK280
あーおもしれー
924 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) :2012/02/26(日) 23:54:10.87 ID:ti1ZIEwAO
>「無能力者の命一つと学園都市最強――ハッ、安い最強だな」
>
>「こ、の――」
>
>「わりいが賭けるまでもねぇよ」
>
>「――ッ!!」



かっこよすぎ濡れた
925 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/02/26(日) 23:59:07.42 ID:bB64U8JAO
なんというか発想力が凄過ぎて嫉妬しちまうわ…
926 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/27(月) 01:34:11.74 ID:OG7i71cJ0
うん
927 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/27(月) 08:30:51.58 ID:cNwCggP10
プロに匹敵する構想力ッ!

そこに痺れる憧れるゥ!
928 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/27(月) 13:41:46.39 ID:XJhlaB0e0
心理描写が本当に上手いな
一方通行の悲痛さがひしひしと伝わって来る
929 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/02/27(月) 15:16:39.67 ID:8tjSSjd/0
乙でした!
930 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/02/27(月) 21:56:44.93 ID:BMIQCvXT0
乙!

次が気になりすぎて夜も眠れぬ!
楽しみ!
931 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/02/28(火) 18:22:35.73 ID:SKs6Vfd70
このSSは浜面の戦い方がすごく浜面らしいな
ハッタリや有るものを最大限に生かすとこが原作の麦のん戦に引けをとらない
932 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/28(火) 20:46:38.10 ID:tyoUeCaa0
再構成で4スレ目とは…!
すごいぜー!」
933 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県) [sage]:2012/02/29(水) 17:39:17.08 ID:XuzZvA06o
熱すぎワロタwwwwww
原作のvs麦野(一戦目)を思い出させる熱さだった
934 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/03/01(木) 00:17:18.99 ID:Kq9TwfkAO
>>561が歩く協会使用の伏線になってたんだな…今読み返してようやく気付いた。

何はともあれ乙。次も楽しみにしてるよ。
935 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/03/01(木) 02:14:35.07 ID:T5e/k2oAO
>>934

すっげぇ……全然気付かなかった。
他にも気付いてないだけで他にもめちゃくちゃ伏線あったりするのか……?
936 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/03(土) 20:51:19.71 ID:XPyyRDhR0
乙乙
協会だけは想定内だったけど他は斜め上だった
予想よりずっと泥臭くて熱くてゾクゾクしたぜ
937 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/04(日) 23:42:57.64 ID:ZXBbb8rq0

本編では特に役に立たなかったハードテーピング
まさかこんなにやる子だったとは…
938 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/05(月) 11:06:12.54 ID:LUSxeIFAO
あえて言おう
予想通りだ

でも乙
939 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/03/05(月) 11:25:00.64 ID:57nD5bJAO
原作じゃ負けちまった駒場のリーダーも喜んでるだろ。
940 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/03/06(火) 14:07:05.41 ID:ATW6O2ub0
関係ないけどBzの衝動が
一方通行のイメージにぴったりだと思うんだが
941 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/06(火) 19:18:04.81 ID:IXN/BPQ0o
関係ねえな
942 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/03/06(火) 21:55:06.61 ID:UqPbJBtN0
関係ないけど多分木〜金の23時に来ると思う。遅れてごめん。
木曜18時までになにもアナウンス無かったら金曜23時確定で

以外と歩く教会見抜いてた人が多かった。ぐぬぬ……
という訳で最終章手前で丁度このスレは締めだね。
予定じゃもうちょっと進むつもりだったけどキリもいいしよしとしよう。
1スレ消費してしまった一方通行編と暗部抗争編は次で決着。

良ければリアルタイムで追ってやってください。
きっと予想より斜め上の出来事が待っていると思います。

長々と申し訳ない。ではでは。
943 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/03/06(火) 22:02:32.99 ID:aV5f344Do
私まーつーわ
944 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/06(火) 23:14:06.75 ID:J661Tl+x0
今から楽しみ!!
だけど期末テストorz
945 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/06(火) 23:15:29.98 ID:iAlytb55o
一日ぐらい遅れてもいいのよ無理しないで
946 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/07(水) 06:56:17.50 ID:YxbZRO47o
うむ
947 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(四国) [sage]:2012/03/07(水) 12:10:40.27 ID:qeDHVIgAO
楽しみにしてるよ!
948 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/03/07(水) 14:21:18.85 ID:JeUXX/vAO
俺の予想だと初春が美味しいとこ持ってく
949 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/03/09(金) 10:05:01.12 ID:T6HO9CG50
ちょっと予定の調整上手くいかなくて明日になるかもしれない。マジすまん。
来れたら23時になんとか……来れんかったら明日23時になる……すまぬ、すまぬ。
あと予定より長く書きすぎて残りレス数ちょっと怪しいからこれのレスポンスは脳内でおねがい……
950 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/03/10(土) 22:59:59.55 ID:CXdAdGKN0
しゃーラスト行くぜー
951 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/03/10(土) 23:00:41.09 ID:CXdAdGKN0



―――――――――


浜面「――はぁっ!! ――はぁっ!!」

肺に溜まった息を荒々しく吐き出し、どさりと浜面仕上はその場へ座り込んだ。

全身が痺れ体の感覚もない。
汗が噴き出し疲労感がどっと押し寄せ、もはや一歩も動こうなど思えなかった。

浜面「ち、くしょう……いてぇ」

ゆっくりと痛みを耐える様に、小刻みに腕を伸ばす。
その腕は全身に巻かれた包帯、いや――

浜面「――ふう」

その手に握られていたのは、浜面が仕込んだ最後の奥の手。

発条包帯<ハードテーピング>

使用者の間接を無理矢理に動かし運動能力を極限まで高める、今と成っては駒場利徳の置き土産。

絹旗「まさかそんなもので一方通行に挑んだんですか? 超信じられません」

と、後ろから降って来たのは心底呆れた様な少女の声に、

絹旗「ほら、浜面。これ返します」

少女にかけてやったボロボロのジャージ。


952 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/03/10(土) 23:01:21.05 ID:CXdAdGKN0



絹旗「ったく、ハードテーピングなんてどこから見つけて来たんです?」

浜面「家にあった」

絹旗「なんですかそれ。超わけわかんねー」

ははん、と少女がバカらしそうに虚空を見上げ冷えた笑いを浮かべる。
まさか家まで一度ソレを取りに行ったとでもいうのか、とでも言いたげな顔だったのだが、

浜面「…………」

そのまさかだった。

絹旗の元から走り去ったあの後、浜面仕上は酷く冷静だった。
当たり前だ。これから最強に挑もうというのに、頭に血が上っていては仕掛けた策も成り立たない。
それに、浜面はその時点では次の実験場の場所すらも分かっていなかった。
体は満身創痍。走ったとしても限界は近かったし、車などでは絶対に見つからないだろう。運などもってのほかだ。

だからいくら悠長な行動だと思われようが、一番効率のいい方法はこれしかなかった。

駆動鎧と同様の機動性を手に入れようが、間に合うかは賭けだったのだが―――

浜面「ホント、ありがとな。絹旗」

このボロボロの少女がどれだけ頑張ってくれたのかは、見れば分かる。

絹旗「ふん。いいですよ、別に。私は私の為に超戦っただけですから。
   ……まさか、本当に勝ってしまうだなんて超思いませんでしたけど」

浜面「言ったろ? 勝つってさ」

勝つ。その言葉通り、浜面は勝利した。
何の特別も持たない真の無能力者が、最強の超能力者に勝利した。
それがどれほどの事かだなんて未だに実感が湧かない。だが、

その勝利は余りにも危うい偶然の上で成り立っていたのもまた確かだ。


953 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/03/10(土) 23:01:58.69 ID:CXdAdGKN0



もし浜面が最初からハードテーピングを使っていたとしたら、きっと一方通行には勝てなかっただろう。
その莫大な演算能力で、最後の一撃もあっさりと見切られていたはずだ。

だからこそ粘って粘って粘って粘って、限界まで出し惜しみする必要があった。
一方通行の決定的な隙を誘う為に。

雑魚が格上に勝つ可能性をほんの1%でもあげる為に。

絹旗「本当、あのホスト野郎には感謝しねぇとな……」

超能力者直々の助言……とは言えないだろうが、
垣根帝督の言葉が一方通行との戦いにおいて多大な影響を及ぼしたのも事実だ。

あの最悪とも言える出会いが無ければ浜面は恐らく死んでいただろう。
それだけではない。様々な要素が積み重なって、いまのこの状況がある。

もしも一方通行以外の超能力者3人と出会っていなかったら。
もしも超能力者3人と直接会って、その特有の驕りを知らなかったら。
もしもこの操車場が実験場じゃなかったら。
もしも御坂美琴がこの操車場にキャパシティダウンを仕掛けなかったら。
もしもミサカが自分を助けてくれなかったら。
もしも自分が能力者だったら。
もしも発条包帯がなかったら。


もしもインデックスに出会ってなかったら。


この勝利は、きっとあり得ないはずだったから。

絹旗「ムチャクチャですね浜面は。ホント、超ムチャクチャですよ」

聞こえたのは肩の荷を降ろした様なため息に、ほんの少しの笑い声。
少女はゆっくりとその場にへたり込み、少年のボロボロの体に体重を預ける。


954 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/03/10(土) 23:02:52.26 ID:CXdAdGKN0



浜面「いてえ」

絹旗「私の方が痛いです。腕が超折れてるんですよ?」

浜面「すげー折れてそうだな」

絹旗「あとでおぶれ」

浜面「いやその発想はおかしい」

くすくすと、終わった戦場で微かな笑い声が風と共に流れて行く。
それは二人が得たほんの僅かな休息で、終わりを告げたのは絹旗の言葉だった。

絹旗「……どうするんですか?」

浜面「…………」

どうする。

真剣味を帯びたその問いかけに、浜面は答える事が出来なかった。

何をどうするか。そんな事は、聞かなくても分かる。

絹旗「…………」

遠くに倒れる最強に向けられた少女の視線を見れば、そんな事はすぐに分かった。

浜面「…………」

一方通行はまだ生きている。

そう、浜面仕上は一方通行を倒したのだ。
無能力者でありこの学園都市の最底辺、本来落ちこぼれであるはずのレベル0がレベル5を倒した。
しかもこの広い街に6人しかいない超能力者の中でも突き抜けた能力を持つまぎれも無い最強。
230万人分の1の天才を、おおよそ140万人と溢れる無能の中の1人でしかない浜面仕上が勝利した。

そんなものは前代未聞の事であって、とてつもない快挙なのかもしれない。しかし、しかしだ。

それが一体なんだというのだ。


955 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/03/10(土) 23:03:37.64 ID:CXdAdGKN0



浜面「…………」

そもそも、浜面仕上の目的は一方通行を倒す事ではない。
一方通行を主軸として進行する絶対能力進化計画を潰す事だ。

その目的を果たす為の前提条件。

それは、最早言うまでもない。

浜面「殺すさ」

静かに答えた言葉に訪ねた少女はほんの少し目を見開いて、一瞬伏せる。

絹旗「……そうですか」

浜面「あぁ、アイツが生きてる限り実験は終わらない」

絹旗「私が殺ってもいいですよ。因縁、結構ありますし」

浜面「元々は俺の都合だ。汚れ役だけやらせる訳にいかねぇよ」

浜面「…………」

俺が殺す。

言い聞かす様にそう呟いた浜面は立ち上がり、おぼろげな足取りで一歩を踏み出す。
今も意識をどこかへ置き去りにした最強の元へと近づいて行く。

浜面「…………」

これで終わる。

馬鹿げた実験も、妹達の死の運命も、あの最強も、なにもかも。



956 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/03/10(土) 23:04:15.46 ID:CXdAdGKN0



浜面「…………」

だと言うのに、その足を一歩進めるに連れて心は陰って行く。
霧がかかった様に見えていたはずのものがぼやけて行く。

それは、やはり聞いてしまったからだろう。

殺し合いの最中に叫ばれたその心奥を。
曝け出された一方通行の感情を。

その言葉を吐き出したのは、浜面が知っている一方通行では無かった。
妹達を人形と呼んで笑って殺していた一方通行では、決して無かった。

浜面「それがなんだっていうんだよ」

足を引きずりながらも辿り着き、未だ意識を置き去りにした
一方通行を見下ろしながら浜面仕上は静かに呟く。

浜面「オマエが生きてたら、実験は終わらない。今殺さなきゃ実験は終わらねぇんだ」

もしも仮に、あり得ない話だが、一方通行が一万人の妹達を殺した事を後悔していたとしても、
実験は終わらないだろう。ここで辞めてしまえる訳が無い事ぐらい、屑でも分かる。

起きるまで待って、訪ねろとでも言うのだろうか。まだ実験を続けるのかと。

浜面「じゃあな、最強」

バカらしい。

浜面「実験はここで打ち止めだ」

ぐったりと横たわる体に反射はかかっていなかった。

それならば、生身の浜面でさえも簡単に殺す事が出来る。
こんな細い首、少し力を加えれば簡単に折る事が出来る。

だから、浜面は尽きたはずの力を振り絞って手を伸ばして――


957 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/03/10(土) 23:04:57.35 ID:CXdAdGKN0










    「まって!!!」









958 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/03/10(土) 23:06:53.51 ID:CXdAdGKN0



浜面「っ!?」

小さな少女だった。
聞き覚えの無い声、見たはずの無い顔。

青い毛布を被ったちいさなちいさな小動物の様な少女が、
倒れる最強を庇う様に浜面の前に割って入って来た。

  「この人を殺さないで! って、ミサカはミサカはあなたを引き止める!」

浜面「な……は?」

  「お願いだから、この人を殺さないでってミサカは……ミサカは……」

浜面「ちょ、ちょっと待ってくれ。なんだ、なんなんだよ!」

困惑。唐突に訪れた状況に浜面は戸惑いを隠す事は出来なかった。
理解しようとするも、浜面の前に立ち塞がった少女の悲壮な声はそんな暇を与えてはくれない。

唯一分かったのは、

浜面「お前……妹達、なのか?」

その少女の顔は、浜面の良く知る少女にそっくりだった事。

御坂妹「検体番号20001号、妹達の最終ロットにして司令塔。打ち止めですよ、とミサカは説明します」

浜面「御坂妹……!」

御坂美琴によく似た、しかし幼すぎる少女に動揺を隠せない浜面を
諭す様に声を投げて来たのは傷だらけの御坂妹だった。

御坂妹「無事でしたか、上位個体。とミサカは安否の取れなかった上位個体の姿に安堵します」

打ち止め「うん……この人に吹き飛ばされたけどちゃんと死なないように能力を使っていてくれてたから。
     ってミサカはミサカはついさっきの事を思い返してみたり……えへへ」

打ち止め「おかげでここに来るのも苦労しちゃった……」

そう言って、目を伏せながら少女は寄り添う様に一方通行の側に座り込む。
ここまで走って来たのだろう、その素足は傷に塗れあちこちが血で滲んでいた。


959 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/03/10(土) 23:07:37.29 ID:CXdAdGKN0




絹旗「……待ってください」

誰もが言葉を発しない静まり返った闇の中で、その問いを投げたのは絹旗最愛だった。
腕を押さえながら、この不可解な状況に少女は詰問するかのように言う。

絹旗「あなたが妹達というなら、どうしてその男を超庇おうとするんですか?
   私はある程度しか事情を知りませんが、それでも筋が超通りません」

打ち止め「…………」

浜面「……その通りだ。お前だって、ミサカネットワークって奴でソイツが今まで何してきたか知ってるだろ」

そう、この少女が御坂妹の言う通り妹達だというのなら、知っているはずだ。
10031回の死を、殺戮を、悲劇を、一方通行がどういう人物かを。

打ち止め「……うん、知ってる。ってミサカはミサカは頷いてみる」

そして、その言葉を少女は肯定する。
震える様に、その血に塗れた過去を振り返る。

打ち止め「痛かったし、苦しかった」

浜面「――っ、なら!」

打ち止め「でもっ!」

浜面「っ!」

打ち止め「でもね、ミサカはミサカは思うの」

打ち止め「もしもミサカ達がもっと早くに一方通行のサインに気付いていれば、
     こんな事にならなかったんじゃないかって」

浜面「……サイン?」

その言葉を、浜面仕上は理解出来ない。隣にいる絹旗最愛も同様だろう。
人を殺し続ける中でどのようなサインがあるというのか、二人にはこれぽっちも分からなかった。

絹旗「なんですか……サインって」

だから、うずくまる青い毛布の少女に問いかける。



960 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/03/10(土) 23:09:11.27 ID:CXdAdGKN0



打ち止め「……一方通行はいつも、いつも言っていた。
     第2次実験の時から欠かす事なくミサカにずっと問いかけ続けていた」

打ち止め「言い残した事はないのかって」

浜面「それが……なんだって言うんだよ」

打ち止め「会話にならないなんて分かってるのに、それでも一方通行は10031回もそう言った。
     人形だって言い放ってた妹達とずっとコミュニケーションをとろうとしてた」

打ち止め「ミサカはミサカは後悔してる。もしミサカがその言葉に、死にたくないって、
     これ以上戦いたくないって言ったら……実験はどうなっていたと思う? ってミサカはミサカ訪ねてみる」

浜面「…………」

静かに投げ掛けられたその言葉に、浜面は答える事が出来ない。
辛うじで絞り出した言葉は、

浜面「……変わらない」

打ち止め「本当に?」

浜面「……………」

戸惑いながらも言った言葉に即座に返されたのはそんな問いかけだった。

打ち止め「本当に、そう思う?」

そう言って、ミサカは倒れる一方通行の髪を撫でる。
どんな気持ちでそんな事をしているのか、どんな表情でそんな事をしているのか、浜面には分からない。

打ち止め「あなたは一方通行と二回も対峙した。
     違いは、何か感じなかった? ってミサカはミサカは問いかけてみる」



961 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/03/10(土) 23:09:43.60 ID:CXdAdGKN0




浜面「…………っ」

違い。

違和感。

それは先ほどから浜面仕上に襲いかかってるそれに他ならない。

自ら高見へと行く為だけに、笑いながらミサカを潰した一方通行。
殺してしまった自分にはもう後が無いと言わんばかりに、その声をぶちまけた一方通行。

たった数十時間を経て戦ったあの最強は、まるで別人だった。

絹旗「どうなんですか、浜面」

浜面「…………あぁ、違って見えた」

だから、認めるしか無い。
認めるしかないのだ。

打ち止め「きっと、この人はこんな実験はしたくなかった。
     妹達を殺したくなんてなかった。って、ミサカはミサカはそう思う」

浜面「そんなの……都合のいい思い込みにしか聞こえない」

打ち止め「うん」

しかし、とは言ってもどうしたって妹達が一方通行を庇う事に浜面には納得が出来ない。

浜面「あのミサカは、俺の目の前で殺されたんだ」



962 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/03/10(土) 23:10:57.91 ID:CXdAdGKN0




浜面「御坂妹だって、殺されかけたじゃねえか……ッ」

御坂妹「…………」

打ち止め「うん……それも間違ってない。ってミサカはミサカはそう思う」

打ち止め「きっと、あなたがいなかったら実験は止まらなかった。
     一方通行はミサカ達を最後まで殺して実験を終わらせてたって、ミサカはミサカは確信を持って言える」

打ち止め「だって、ミサカが一方通行のサインに気付いた時にはもう、一方通行は10000人も殺してたんだから」

浜面「…………」

打ち止め「止まれない。そんなの、止まれる訳ないよ……」

揺れる声が、少女と共に小さく響いた。
震えながら打ち止めは一方通行の元へ寄り添い、その側を離れない。

浜面「…………」

だから、浜面は問いをかけた。
一人の妹達としてではなく、妹達の司令塔である打ち止めに。

浜面「……お前は、こいつを許すのか?」

打ち止め「許さない」

返って来たのは、刃の様な鋭い言葉。

打ち止め「絶対に許さないって、ミサカはミサカは断言する」

打ち止め「この人を許しちゃえば……ミサカは自分達の痛みも罪も、忘れる事になっちゃうから」

ただその刃は、とてもとても温かいものを宿していて、

打ち止め「それだけは、やっちゃいけない事だから」



一方通行「勝手な事を、ペチャクチャ喋ってンじゃねェよ……クソガキ」



しかしその言葉を、最強は無下に払った。



963 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/03/10(土) 23:12:08.84 ID:CXdAdGKN0




途端にこの場にいる全員に緊張が走る。
張りつめられた糸の様に、空気がキリキリと音を立てる。

叫んだのは、浜面だった。

浜面「ッ!! 打ち止め、そいつから」

打ち止め「離れないよってミサカはミサカは先に決意を固める」

浜面「……っ」

今度こそ、誰も言葉を発しない。
目覚めた最強と妹達の司令塔である幼い少女がその空間を支配した。

打ち止め「一方通行……ミサカは」

一方通行「うぜェンだよ」

怒気を孕む声にびくっ、と少女の肩が震えた。
それでも、少女は倒れたままの最強に向かって手を伸ばす。

一方通行「次、顔見せたら殺すって言っただろォが」

しかし、その手も容赦なく払われる。

打ち止め「……その時にも言ったよね。ってミサカはミサカは同じ言葉をもう一度あなたに投げ掛ける」

一方通行「…………」

打ち止め「ここで実験を止めて、ミサカを守っていって欲しい」

一方通行「…………」

訪れたのは沈黙。ギャラリーと化した浜面達が動けない中で、一方通行と少女が視線を交わらせる。
互いに思い出していたのかも知れない。『打ち止め』と『一方通行』の、初めての邂逅を。

一方通行「…………」

目を逸らしたのは、一方通行だった。

一方通行「その時にも言っただろォが。俺の、……」

噛み締める様に言ったのは、一方通行だった。

一方通行「俺の力は殺すことと壊すことしかできねェよ。
     守る事も、救う事も出来やしねェ。何人ぶっ殺したかお前が一番よく知ってンだろ」

打ち止め「うん」

一方通行「なら、無駄だ。どうしたって止まる事なンざできねェ」

打ち止め「…………」

打ち止め「自分の為に死んだ10031人の人間の為に?」



964 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/03/10(土) 23:14:33.13 ID:CXdAdGKN0




一方通行「…………」

ぶつけられた言葉に、一方通行は答えない。答える事ができない。

打ち止め「そうだよね。ってミサカはミサカは同意する」

打ち止め「1人殺せば後には引けない」

打ち止め「10人殺せば後ろを向けない」

打ち止め「100人殺せば引き返せない」

打ち止め「1000人殺せば進まなければならない」
 
打ち止め「10000人殺せば背負わなければならない」

打ち止め「一万の願いを、痛みを、苦しみを、あなたの為に死んだ妹達の願いと祈りと目的を」

一方通行「…………」

簡単な話だ。

自分が人形の様に潰して、壊して、玩んでいた実験動物は実は人間でした。

気付けば、10000を超える十字架が立ち並んでいました。
気付けば、自分は血の海に身を浸していました。
気付けば、自分は死体の山に立っていました。
気付けば、無敵になると言う目的はどこかに散っていました。

気付けば、自分は今まで人を殺してきた理由と目的と意味を守る為に、更に人を殺そうとしていました。
 
それだけの、簡単なお話。
              ・・・・・・・ 
打ち止め「でもね、一方通行。もう一度言うよ」

だが、それはもう終わる。
哀れで愚かな少年の話は、少女の言葉によって終わりを迎える。

打ち止め「ミサカ達はもう知ってしまった。ミサカを必要としてくれている人がいるって事を。
     このミサカ一人一人に価値がある事を、だからね――」

打ち止め「だからミサカはもう一人だって死んでやる事は出来ない」

他でもない、今まで手にかけて来た少女によって。

打ち止め「それでもあなたはミサカ達を殺す?」



965 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/03/10(土) 23:16:55.50 ID:CXdAdGKN0




一方通行「…………」

打ち止め「さっきも言ったけど、ミサカは許さないよ。あなたを許さない。
     一万の妹達を殺した事も、二万人の妹達を殺して1人で全てを背負う事も」

打ち止め「そんな事は、絶対に許さない」

そうして少女は微笑んで言った。
絶対的な意思を宿し残酷な言葉を、それでも少女は笑って告げた。

打ち止め「もう、あなたにはミサカを背負って歩いて行くしか道はないの」

一方通行「…………俺は、」

打ち止め「負けたあなたには、ミサカと一緒に罪を背負って歩いて行くしか道はない」

打ち止め「ミサカを守って歩いて行くしかな、い……の」

ゆらりと、言葉が途切れた少女の体が傾いた。

浜面「打ち止め!?」

軽い音を立てて倒れた少女に誰もが反応する事が出来ないなか、御坂妹が素早く駆け寄る。

御坂妹「調整不足ですね、とミサカは推測します。
    元々培養器に入っていたのにも関わらず落雷の影響で出来た隙に抜け出してきたようですから」

浜面「じゃあ早く研究所に……いや、今の学園都市じゃまともに動く所なんて、」

そう、現在の学園都市の機能は全てが全て、静止している。
この状況でクローンの調整が出来る施設などある訳が無いし、あったとしても浜面はそんな場所知らない。

じわりと、焦りが浮かぶ中で、

一方通行「どけ……俺が連れて行く」

呟いたのは、起き上がった最強だった。

浜面「一方通行……」

一方通行「心配すンな……アテならあンだよ」

そう言って一方通行は、呼吸を荒くし苦痛の表情を浮かべる打ち止めに手を伸ばす。
10031回も妹達を殺したその腕で、幼い少女を抱きかかえた。

周囲が言葉も吐き出せないのを構わず、一方通行はそのまま足を踏み出す。
少女を抱いて、突き進む。

浜面「待てよ。お前は……これから」

一方通行「知るか……言っただろォが。俺の力は殺すことは出来ても守る事は出来ねぇよ」

それ以上の言葉を交わす事は無かった。



966 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/03/10(土) 23:18:50.79 ID:CXdAdGKN0




浜面「…………」

一方通行「…………」

一瞬の間が過ぎた後、打ち止めを抱えた一方通行は再び歩みだす。
闇の中に、消えて行く。

浜面「…………」

絹旗「……浜面?」

少女が少年に声をかけたのは、きっと何かを感じたからだろう。
唇を噛み締め、拳を固く握りながら震える少年に、きっと何かを感じたからだ。

そして、

浜面「……っ、一方通行ぁッ!!!」

一歩を踏み出して、少年は叫んだ。
闇の中でも聞こえる様に残っていない力を振り絞って、轟く様に大声で。

ぴたりと、一方通行の足が止まった。

浜面「てめぇは言ったな、自分の能力は殺すことと、壊すことにしか使えない。
   救う事も守る事は出来ないって……そいつは違う」

一方通行「知らねェだろ……オマエは何も」

浜面「しらねぇよ! けどな……っ」

何故自分はこんな事を言っているのだろうと、浜面仕上は叫ぶ中でそう思う。
ついさっき殺し合いをした相手に何を言っているのかと、バカらしくなる。

だが、言わずにはいられなかった。叫ばずにはいられなかった。



浜面「お前は俺を助けたじゃねぇかッ!!! 一週間前、あの路地裏で死にかけてた俺を! お前の能力で助けたんだろうがッ!!」



殺す事と壊す事しか出来ないなんていうその言葉だけは、幻想だという事を知っていたから。



967 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/03/10(土) 23:19:33.27 ID:CXdAdGKN0




一方通行「……オマエ、あの時の――」

浜面「お前の能力は壊すことと殺すことだけじゃない! 救う事だって、守る事だって出来るんだ!!
   そいつを否定する事だけは絶対にしちまったら駄目なんだよ!!」

一方通行「…………」

振り返る一方通行と浜面仕上の視線が交差する。
初めて目の当たりにした赤い瞳は、どこまでも澄んだ色だった。

浜面「……俺も、ミサカを殺したお前を許さない。絶対にだ。だから……」

その言葉は、続かない。
この先からは既に浜面仕上が言える事も、何も無い。

もう、浜面のすべき事は終わっているのだから。

一方通行「…………」

今度こそ、交わす言葉は無かった。
一方通行は再び前を向き、歩いて行く。

次第にその姿は夜の中へ消えて行った。



968 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/03/10(土) 23:20:05.88 ID:CXdAdGKN0




――――――――――


闇の中を突き進む白い少年と、その細い腕に抱かれた少女との間に言葉は無かった。

荒々しく呼吸を乱す少女を抱え、少年はひたすら歩く続ける。

一方通行「…………」

その歩く道は、今までと何ら変わらない道だ。
一方通行という一人の人間が歩んで来た長い道だ。

一万人の墓標が並び立ち、赤だけが世界を彩る、そんな道。

一人で歩いて行くはずだった道。

しかし、今は違った。

一方通行の腕の中には、一人の少女が眠っている。
今、一方通行はその腕に誰かを抱いて、何かを背負いながら歩いている。

一方通行「…………」

重い。

少年は素直にそう思う。

重い。

少年は初めてそれを知る。

一方通行「あァ……そうかよ」

温かい。

一方通行「俺は、こンな事も知らずに生きて来たのか」

一人の少女をその腕に抱いて、少年は初めて『重さ』を知った。

初めて、肌で触れる『温かさ』を知った。

一方通行「こンな、当たり前の事も知らずに……ッ!!」

失いたくない。心からそう思った。



969 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/03/10(土) 23:20:49.05 ID:CXdAdGKN0




一方通行「どこで、間違ったンだろォな……」

それは、きっと初めてあの少女を殺してしまった時から――

一方通行「分かってたンだ……間違ってる事なンざ」

まるで懺悔の様にぽつりぽつりと浮かぶ言葉は、暗いところへおちて行く。
一歩進む度に、少年の心の内をせき止めるかの様に立ち塞がっていた壁が崩れて行く。

一方通行「俺は――」

打ち止め「――アクセラレータ」

今にも立ち止まってしまいそうな少年に言葉をかけたのは、腕の中に沈む少女だった。
熱に浮かされるように顔を赤らめ、額には汗が滲んでいる。

打ち止め「誰だって、ひとつも道を間違えずに生きていけたら……
     それは素晴らしい事だなって、ミサカはミサカはそう思う」

だと言うのに、その手は一方通行に向かって伸ばされる。

打ち止め「けど、ないんだ。そんなの」

そうして、笑って少女は言うのだ。



打ち止め「だから泣かないでって、ミサカはミサカはあなたの頬を拭ってみたり」



一方通行「…………」

音のない嗚咽が少女と少年の間でだけ、木霊する。

微笑みながら、少女はその光景を意識と共にそっと心の奥底にしまいこんだ。



970 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/03/10(土) 23:21:20.90 ID:CXdAdGKN0




――――――――――


少女を背負いながら歩いて行った少年の姿が遠くなった頃、
唐突に言葉を発したのは、浜面でも絹旗最愛でもなく、一方通行達を見つめていた御坂妹だった。

御坂妹「ありがとうございした。とミサカは唐突に礼を述べます」

浜面「なんだよ。いきなり」

御坂妹「ろくに話も出来なくて申し訳ない、絶対に恩は返す。と上位個体が……いえ、これは妹達の総意ですが」

浜面「……それもミサカネットワークって奴か」

お互いの脳波を能力によって繋げ意識、視聴覚の共有や記憶のバックアップ。
かつて聞かされたその言葉が正しいのなら、今目の前にいる御坂妹の言葉には
ダイレクトに今の打ち止めや他の妹達の意識が反映されているのだろう。

浜面「……いいよ。俺はお前らの為に戦ったんじゃないんだ」

御坂妹「ならばこれは10031号を含むミサカ達に様々なものを与えてくれた礼です。
    受け取らない事は許しません。と、ミサカはあなたに無理矢理にでも恩を返す事を誓います」

そう言い放ち、向き合った御坂妹その瞳には、かつて無かったはずの輝きが生まれていた。
だから、浜面は理解する。人が持つその意思だけは、どうあっても変わらないと。

浜面「……分かったよ」

御坂妹「えぇ、あなたの為ならば上位個体と我々9969人の妹達はどんな無理難題でもこなしましょう。
    と、ミサカはあなたにお約束します」

浜面「あぁ。その時は頼む」



971 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/03/10(土) 23:21:58.14 ID:CXdAdGKN0




言葉と共に、自然と手を差し出す。
その行為に少し戸惑った様な表情を浮かべた御坂妹は、しかしすぐに理解したのか、
同じ様に傷だらけの手を伸ばした。

固く繋いだ手の温もりは、きっと妹達にも届いただろう。

御坂妹「ミサカはそろそろ行きます」

数拍の間を置いた後、そう切り出したのは御坂妹だった。
言葉と共に、一歩を踏み出す。

浜面「行くって、どこへ?」

その問いと同時に御坂妹の視線は遠く、一方通行達が歩んで行った方へと向けられる。

御坂妹「あの2人と共に、です。ボロボロの一方通行だけに上位個体を任せる訳にはいきませんので……
    妹達の司令塔である上位個体が一方通行と共に行くなら、ミサカも隣を歩いていきます」

浜面「……そうか」

御坂妹「では……」

別れの挨拶は、そんな簡素なものだった。
小走りで歩んで行く御坂妹の姿は次第に闇の中へと消えて行く。

浜面「…………」

多分、御坂妹は打ち止めを介して知ったのだろう。
一方通行がどのような答えを出したか、打ち止めがどのような答えをだしたのか。

それが、答え。

例え夜の中に消えてしまったとしても、浜面にはそれが見えた様な気がした。

一方通行と共に歩んで行く妹達の姿が。

浜面「…………」

だから、もう何も言う事は無かった。



972 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/03/10(土) 23:22:50.90 ID:CXdAdGKN0




誰もいなくなった静かな操車場。
温い風が吹き、戦場だったその場に残ったのは傷ついた少女と少年。

浜面「…………」

空間を支配したのは、妙な静寂だった。
それはやはり、後味の悪い結末でしかあり得なかった舞台の幕が
何の悲劇も無く下ろされてしまったからであろう。

悲劇を望んでいた訳ではない。ただ、意外だっただけだ。
妹達という少女達の出した答えに、浜面も絹旗も呑まれてしまっただけだ。

だが、惨劇は終わった。

ここで浜面仕上がすべき事は、もうありはしない。

浜面「……絹旗」

だから浜面は隣に立ち尽くす少女に声をかけた。

帰ろう。と、声をかけようとして、

浜面「……え?」

しかしその声は、カラン、と絹旗の手から滑り落ちたそれの音に遮られた。

闇の中で薄くディスプレイが光る音楽プレイヤーの軽い音に、遮られた。



浜面「……絹旗、それ」

絹旗「……あはは」



一瞬の間を置いて、視線が重なる。

絹旗「すいません。浜面」

ぐらりと、少女の体が傾いた



973 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/03/10(土) 23:23:48.01 ID:CXdAdGKN0




浜面「――ッ!!」

ザザァッ!と砂利が跳ねた。
倒れる絹旗を間一髪で抱きとめ、そのまま砂利の上に倒れ込む。

受け止めた少女の体は全身の力が抜け、小柄だというのに死体の様に重く感じた。

絹旗「は、はは……我慢するの、超辛いですね。これ」

浜面「絹旗……なんで」

絹旗「かけてくれたジャージに、突っ込んでたじゃ……ないですか。
   浜面こそ……あれ、自分のですか? もう、何回も……超聴いていたようですが」

ディスプレイに小さく映る数字は25と表示されていた。
それは勿論浜面の持つ幻想御手ではない。
昨夜、施設防衛の直前に絡んで来た不良から回収した音楽プレイヤーの一つだった。

絹旗「私も、超眠っちゃうんですかね……一昨日の、風紀委員の親友さん、みたいに」

浜面「…………っ!!」

絹旗「二度と目覚めなかったりするのは……流石にヤ、ですね……ははは」

ぎこちない笑みで浮かんだその言葉に、浜面は答える事が出来ない。
その通りだと、答える事なんか出来るはず無かった。

ただ少女の肩を力一杯抱き締め、堕ちそうになる体を支える事しか出来なかった。

浜面「なんで……使えばこうなるって、分かってたんだろ……っ!!
   お前まで眠っちまったら――」

震える声は最後まで紡げない。
今にも意識を落としてしまいそうな少女の視線はどこにも定まっておらず、
何かを思案するかのように虚空を仰いでいた。


絹旗「…………前に、浜面に普通の女の子みたいだって……言われた事、ありましたよね」

浜面「……え?」

絹旗「あの時、私……ほんとは超嬉しかったんです」

浜面「絹旗……? 何を、」

絹旗「きっと、そう言ってもらえるのって……私たちからしたら超嬉しい事で……きっと、超幸せな事なんでしょうね」

浜面「……っ」



974 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/03/10(土) 23:24:33.61 ID:CXdAdGKN0




それは、かつて絹旗の事を何も知らなかった自分が言ったあの言葉だった。

絹旗「普通に道端で友達と出会って……映画に行ったり、アドレスを……交換したり、
   知ってましたか? あの時、わたし超緊張してたんですよ……死んじゃいそうでした」

学園都市の事など何も知らず、なんの垣根もない友人として並んで歩いた日常だった。

絹旗「ドキドキしながら電話して、その時は……邪魔されちゃいましたが……なんて、言うんですかね」

浜面「分かった、分かったよ……」

絹旗「誰よりも……浜面には、死んで欲しくなかったんです」

浜面「……もう、わかったから!!」

叫んだ言葉は夜闇に響き、消えていく。
音の無いその閉鎖的な闇の中で、限界に近い絹旗が小さく呟いた。

その瞳はもう虚ろで、見えているかどうかさえ分からない。

絹旗「浜、面……今、私。いつもより、能力の制御が……今だけ、自動防御……切ってるんです……だから、」

それでも、堕ちそうになる意識を気力だけで保ち、絹旗は言葉を伝える。

願いを伝える。

絹旗「だから……抱きしめて――



975 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/03/10(土) 23:25:49.59 ID:CXdAdGKN0




浜面「っ!!」

言い終わる前に、浜面はその小さな体躯を抱き寄せた。

糸の切れた人形を抱いているかの様な重さにも関わらず、
浜面はそのボロボロの体で絹旗を抱きしめる。離さない様に。逃がさない様に。

絹旗「……あ、はは。超、あったかい」

浜面「……起こしてやるッ!! お前が眠っちまっても絶対に叩き起こしてやるから!! だから……っ」

言葉は続かない。遮るかの様に、掠れた声が浜面の耳元で囁かれた。

絹旗「さっき……言いたい事あるって……言ったの、覚えて、ます?」

浜面「絹旗っ……」

絹旗「わたし………浜面のこ、と―――」

絹旗「…………………………」

その言葉が続く事は無かった。

浜面「絹旗?」

絹旗「…………………………」

その瞳に意志はなかった。

浜面「………っ」

浜面「絹旗……っ」



976 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/03/10(土) 23:26:33.04 ID:CXdAdGKN0






こうして、絶対能力者進化計画は終焉を迎える。


こうして、八日目の夜は終わりを告げる。


しかし、浜面仕上はまだ知らない。


自分達が走り回ったこの舞台の裏側で一体何が起こっているのか。


自分達が役目を終えたこの舞台の裏側で何が進行しているのかを。


闇の衣を脱ぎ捨て、今まさに舞台の上に登ろうと歩み寄る一つの影を。


本来あるはずの無い幕が用意されている事を。






浜面仕上はまだ知らない。





977 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/03/10(土) 23:26:58.76 ID:CXdAdGKN0




・幕間劇



978 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/03/10(土) 23:27:24.38 ID:CXdAdGKN0




――――――――


かつて、滝壷理后にも今とは違う居場所があった。
かつて、滝壷理后にも今とは違う仲間がいた。
かつて、滝壷理后にも今とは違う心の拠り所があった。

笑顔が満ち溢れる居場所で信頼しあえる仲間に囲まれて、自分を包んでくれて、
伸ばしてくれて、必要としてくれて、優しい笑みで自分達を見つめてくれる。大好きな人がいた。

こんな生活がずっと続けばいいのに。そう思った。

そしてそんな生活は、ある日一瞬で終わりを告げた。

目が覚めるとソコは冷たい棺の中で、見渡した居場所だっソコに溢れていたのは血の海と、何かの残骸。

「ひっ――」

それは、仲間だった何か。

体が硬直し、動かない。見上げた先には、あの人がいた。

「た――すけ、て」

声が出ない。唇を動かし、助けを乞う。気付いて、助けて――

「――――」

視線が絡まる。

「――で、」

自分を包んでくれて、伸ばしてくれて、必要としてくれ、優しい笑みで自分達を見つめてくれていたあの人は、

「なん――で――」

大好きだった人は、歪んだ笑みで、自分達を、見下ろして、いた……?



979 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/03/10(土) 23:27:53.71 ID:CXdAdGKN0




――――――――



滝壺「…………」

今が現実なのか、それともまだ夢の中にいるのか、
意識を取り戻した滝壺理后がぼんやりと思ったのはそんな事だった。

滝壺「……ここは」

病院。自分が寝かされているこの状況と消毒液が香りでそれはすぐに分かった。
分からないのは、不自然な程の街の暗さと、病院では漂うはずの無い血の臭い。

滝壺「…………」

ベッドから体を起こし、とにかく辺りをゆっくりと見回す。
しかし、周りから得れた情報は滝壺の意識には入ってこなかった。

思考しなければならない事は沢山あるはずなのに。

レベル5という枠を完璧に超えていた御坂美琴との戦闘。
限界を超え新たな可能性に辿り着きかけたが、一歩届かなかった能力。
瀕死の重傷を負った麦野沈利。失敗した任務。現在の状況、学園都市の異常。

考えなくてはいけない事が一切考えられなかった。

それほど、滝壺の心に居座ったそれは他が入る隙もない程に大きな存在だった。



980 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/03/10(土) 23:28:25.62 ID:CXdAdGKN0




滝壺「久しぶりにみたな……あの夢」

過去。

滝壺理后の現在を形成する過去。

かつて、滝壷理后にも今とは違う居場所があった。
かつて、滝壷理后にも今とは違う仲間がいた。
かつて、滝壷理后にも今とは違う心の拠り所があった。

それは全て、過去の話だ。

滝壺「…………」

感情に浸る。というのは今のような事を言うのだろうと彼女は思った。
そのせいか、体調がダイレクトに影響しているのか、
肌寒い体は温もりを求め、近くに置かれていたピンク色のジャージに手が伸びる。

羽織ったけども、それは人の温もりには程遠かった。

過去の温もりには程遠かった。



981 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/03/10(土) 23:28:57.22 ID:CXdAdGKN0




滝壺「…………」

瞳を閉じ、ゆっくりと海に潜るかの様に滝壺は逃げる。
過去から離れようと、暗い暗い深海へと潜って行く。

そう、今の自分には昔とは違う居場所がある。
そう、今の自分には昔とは違う仲間がいる。
そう、今の自分には昔とは違う心の拠り所がある。

けど、どうしたって滝壺はそれを忘れる事は出来なかった。
太陽の様に眩しかったあの頃を忘れる事が出来なかった。

滝壺「……どうして」

だからだろう。

滝壺「どうして、助けてくれなかったのかな……」

ぽつりと、求めるかの様にその名前を呟いてしまったのは。



982 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/03/10(土) 23:29:28.30 ID:CXdAdGKN0










滝壺「きやま、先生………」









983 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/03/10(土) 23:30:27.34 ID:CXdAdGKN0










  「おー、おー、死体だらけじゃねえか! 囮ご苦労さん、っと」









984 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/03/10(土) 23:30:58.06 ID:CXdAdGKN0




滝壺「っ!?」

酷く嫌悪感を抱かせる男の声。
その声が病室の遠くから聞こえた瞬間、滝壺の意識は瞬時に切り替わった。

コツコツと、響く足音。ぴちゃりと跳ねる血溜まり。音の主の姿は見えない。
見えないが、本能が警告する。

逃げろと。

滝壺「…………誰」

そしてその音の主が姿を見せた瞬間、滝壺理后は後悔する事となる。

即座に逃走と言う行為に移らなかった事を。

  「流石第四位ってところだな。そう思うだろ? 嬢ちゃん」

言葉が終わったその瞬間、男が跳ねた。
白衣を翻し腕を伸ばすその男は弾丸の様に駆け、少女の小さな顔を乱暴に掴んで言い放つ。

滝壺「んうっ!!!!」

  「わりいな、こっちもアレイスターからの仕事でよ」

その顔面刺繍の男は、醜悪な笑みで言い放った。



985 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/03/10(土) 23:31:25.31 ID:CXdAdGKN0










木原「ちょっと死んでくれや」










http://dl3.getuploader.com/g/3%7Cbl_radio/342/挿絵5.jpg
986 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/03/10(土) 23:32:09.02 ID:CXdAdGKN0




こうして、起こるはずの無かった物語は紡がれる。

正しく進んだならば、本来あり得るハズの無かった章の幕があがる。

暗い、暗い学園都市のビルの中で浮かんだ人間の笑い声は誰にも届くことはないだろう。

そうして、引き延ばされた少年の物語は加速する。

歪められた終わりに向かって突き進む。




そこに幸せな結末など、用意されているはずが無い。




To Be Continued.....
987 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/03/10(土) 23:33:18.78 ID:CXdAdGKN0



ここまで!昨日は申し訳なかった。次は気つけます……あ、でも脳内レスポンスありがとうございました。
お陰でなんとか収まりました……それといつものロダが使えなくてちょっと別のです。不都合あったらすません……

これでレベル6シフト計画、暗部抗争編は終了です。
今回一番おいしいとこを持って行っていたのは木原くンでした。博士は犠牲になったのだ。
名前だけはぽつぽつ出ていたこの人も勿論ストーリーに関わってきます。
実は前スレの初期に登場してました。アレイスターの所で。

やっと最終章です。長かったぜ……本気で終わりが近い。
ここまで来れたのは皆さんのお陰です。本当にありがとうございます。

そしてこのスレはここでおしまい。ここまで付き合って頂きありがとうございました。
ちょっと次スレ建てて来ます。

ではでは


988 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/03/10(土) 23:34:00.30 ID:61+YB3h9o
乙!!

セリフ回しが神だわ
989 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/10(土) 23:34:53.57 ID:zYLnJCva0

やっぱ面白すぎる
990 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/03/10(土) 23:37:35.23 ID:8Ibr8y9+0
乙!
木原くン...
991 : ◆v2TDmACLlM [saga]:2012/03/10(土) 23:40:36.99 ID:CXdAdGKN0




次スレになります

「――――心に、じゃないのかな?」3<br>
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1331390316/


そして最終章に入るにあたって一つだけアナウンス。
物語に関する伏線は全て張り終えました。残りは一気に回収して行くだけとなります。

この先は前スレ、特に前々スレで各キャラ達が『何をしていたか』が非常に重要になってきます。
多分覚えていない人が大半だと思いますが(更新遅くてほんとすいません)
今後は多分ほとんどが告知してからの投下になると思うのでリアルタイムで100%楽しみたい!
という方は、さらりと読み返し推奨です。

あと同時に予告。
次回はこのSSの核となる最重要の謎が明かされます。
謎解き回です。さっそく伏線大回収劇です。是非リアルタイムで楽しんで頂ければと思います。

長々と失礼しました。残りは適当に埋めて頂ければうれしいっす。
次スレでもよろしくおねがいします。ではでは。

992 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県) :2012/03/10(土) 23:48:24.88 ID:LYknfcrH0
いちおつ
絹旗かわいそうす
毎回がクライマックスすぎるな、最終章も楽しみにしてる。
993 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/10(土) 23:49:01.28 ID:ctgvjTS8o
>>1
木原くンきたぁあああああああああああ!!
994 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県) [sage saga]:2012/03/10(土) 23:49:06.19 ID:LYknfcrH0
すまん下げ忘れた
995 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/11(日) 00:03:52.53 ID:UvCP7fu2o
最近の生き甲斐になった
待つわ乙
996 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/11(日) 00:24:20.03 ID:UYLUoVCR0

もう最終章か
楽しみだけど名残惜しいな
997 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/11(日) 00:55:21.40 ID:5yU59OCIO
乙です
998 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/11(日) 01:39:58.94 ID:9WNNDXx1o
スレ立て乙
向こうに書きこもうかと思ったが、登場人物紹介とかやんなら邪魔かなと思って書けなかったぜ

木原くんに大期待
999 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) :2012/03/11(日) 04:28:55.20 ID:eHGNXsdo0
スレ立て乙
滝壺が……
1000 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/03/11(日) 06:47:34.07 ID:ayndjDsW0
1000だったらみんな幸せ
1001 :1001 :Over 1000 Thread
____   r っ    ________   _ __
| .__ | __| |__  |____  ,____|  ,! / | l´      く`ヽ ___| ̄|__   r‐―― ̄└‐――┐
| | | | | __  __ |  r┐ ___| |___ r┐  / / | |  /\   ヽ冫L_  _  |   | ┌─────┐ |
| |_| | _| |_| |_| |_  | | | r┐ r┐ | | | /  |   | レ'´ /  く`ヽ,__| |_| |_ !┘| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|‐┘
| r┐| |___  __|. | | | 二 二 | | |く_/l |   |  , ‐'´     ∨|__  ___| r‐、 ̄| | ̄ ̄
| |_.| |   /  ヽ    | | | |__| |__| | | |   | |  | |   __    /`〉  /  \      │ | |   ̄ ̄|
|   | / /\ \.   | |└------┘| |   | |  | |__| |  / /  / /\ `- 、_ 丿 \| | ̄ ̄
 ̄ ̄ く_/   \ `フ |   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  |   | |  |____丿く / <´ /   `- 、_// ノ\  `ー―--┐
           `´ `‐' ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`‐'     ̄          `  `´          `ー'    `ー───-′

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ネット掲示板でできる簡単なゲーム作ろうぜ @ 2012/03/11(日) 06:19:58.45 ID:6lUil0/K0
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女「能力者バトルロイヤルだと……!?」男「俺の能力は……」 @ 2012/03/11(日) 04:53:23.84 ID:ydNy1fOfo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1331409198/

火野映司「後悔してからじゃ遅いから」さやか「後悔しない為に戦う」 @ 2012/03/11(日) 04:14:28.03 ID:4yOXcUyn0
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暇だからみんなで安価画像うp◆36(sage進行) @ 2012/03/11(日) 03:44:00.92 ID:okKx+EkIO
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パー速で汝は人狼なりや?やろうぜwwwwwwww @ 2012/03/11(日) 02:55:27.79 ID:+cl9AmF20
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男「エルフの書物は読めた…後は……」 @ 2012/03/11(日) 01:07:37.66 ID:OZ0qxDKn0
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ここだけファンタジー世界Part176 @ 2012/03/11(日) 01:00:48.38 ID:y6ffl/F0o
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キョウ「エルミナージュ?」カミナギ「そうだよ、キョウちゃん!」 @ 2012/03/11(日) 00:59:17.58 ID:yFVrGVCUo
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