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魔法少女「記憶のない私と白い不思議生物」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/09/28(水) 02:20:10.65 ID:dKYGPHKxo
※設定はまどマギ世界ですが本編通りの時間軸とは限りません。
※視点はオリキャラ魔法少女です。
※かずみキャラは>>1が読んでないので出ません。おりこは展開次第。
※ときどき安価します。
※モバゲーまどかが似たようなネタでどうしようかと思ったけどやります。
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少し暑くて少し寒くて @ 2024/04/25(木) 23:19:25.34 ID:dTqYP2V2O
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1714054765/

渾沌ゴア「それでもボクはアイツを殺す」 @ 2024/04/25(木) 22:46:29.10 ID:7GVnel7qo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714052788/

二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714049241/

佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713966248/

全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713869982/

【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713861164/

2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/09/28(水) 02:23:04.34 ID:dKYGPHKxo
目を覚ますと薄暗い場所にいた。
私「んー、ここどこ?あ、痛たた……」
頭が痛い。触ってみたけど血は出ていなかった。
体の他の場所は痛くないようだけど一応確かめてみようとして、
自分が地面に倒れているのに気づく。
とりあえず起き上がって汚れを払うついでに確かめたけど、服も破れたりはしていない。
でも、頭だけがガンガン痛い。割れるように痛いってたぶんこういう時に使うんだろう。
私「ううー、頭痛い……なんでこんなとこで倒れてたんだろ?」
そう言った時、気がついた。

――ここはどこ?私は誰?
私「あれ、これって記憶喪失ってやつ?」
本当にさっぱり何も思い出せない。
着てる服はどこかの学校の制服みたいだけど、当然見覚えはない。
ポケットに生徒手帳とか入ってないかと思ったけど、ハンカチしかなかった。
近くに自分のカバンとか転がってたりしないかと思ったけどそんなこともない。
手がかり何もなし。はい詰んだ。
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/09/28(水) 02:24:30.34 ID:dKYGPHKxo
途方にくれたその時、何か白い影が建物の上から飛び降りて、目の前に着地した。

QB「やあ、久しぶりだね、********」

そいつは、生意気にも人間の言葉を喋った。
え、なにこの不思議生物、こわい。
変な耳毛出てるし、目とか赤いガラス玉みたいで無表情だし。
しかもどうやら私のことを知ってるらしい。
こんな訳のわからない生物と関わってたとか、今までの私は一体何をしてたんだろう。
かなり気になるけどこれはチャンスだ。
さっきのはたぶん私の名前だろう。すぐ名前と認識できなかったから聞き逃したけど。
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/09/28(水) 02:28:57.91 ID:dKYGPHKxo
私「ねえ、それって私の名前?」

QB「何言ってるんだい、まさか自分の名前を忘れたなんてわけじゃないだろう?」

私「悪かったわね、そのまさかよ。全然何も思い出せないの」

QB「記憶喪失ってやつかい?興味深い事例だね、その様子だと僕のことも覚えていないのかい?」

私「こんな妙な外見で人の言葉を話す生き物とどうやったら知り合いになるわけ?」

QB「それについて説明するには少し段階を踏む必要があるね。

   まずは君自身のことを思い出すところからじゃないのかな。

   例えば君の名前だ。名前を思い出せないのは何かと不便だろう?」

私「確かにそうね、携帯とか生徒手帳とか何もないし。

   交番に行っても記憶喪失じゃ面倒なことになりそう」

QB「君の名前は……」


>>5(日本人女性名でお願いします。下の名前のみでも可)
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/09/28(水) 02:29:43.80 ID:wa7RPxP70
上条さやか
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/09/28(水) 02:34:06.04 ID:dKYGPHKxo
私「さやか?そんな名前だったっけ、うーん」

本当にこの名前だった?(Y/N)
>>7
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2011/09/28(水) 02:35:56.92 ID:wa7RPxP70
名前ダメだった……?

だったら「暁美まどか」
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/09/28(水) 02:40:49.56 ID:dKYGPHKxo
いや、本編キャラとかぶると因果律がごにょごにょ
具体的にはつじつまが合うように時間軸がずれたりします
しかし安価は安価ですし、出し直してもらった「暁美まどか」でいきましょう
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/09/28(水) 02:50:43.57 ID:dKYGPHKxo
まどか「暁美まどか……うん、確かに聞き覚えがあるわ」

QB「それじゃあまどか、君の名前から何か思い出せることはないかい?」

まどか「ええと、確か……お母さんはほむらって名前で。

     大切な友達の名前を私につけた、ってことかな」

QB「暁美ほむら、か。その名前を君から聞くのは久しぶりだね」

まどか「え、何のこと?」

QB「いや、何でもないよ。それより、ここがどこかについて話そう。

   ここは見滝原市。君もこの町に住んでいて、その制服は君が通っている学校のものだ」

まどか「ああ、えっと……思い出した。見滝原中、だよね」

QB「その通りだよ。でも、君には、その学校の生徒という以外に、とても重要な役目がある」

まどか「重要な役目?」(何か、嫌な予感がする)
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/09/28(水) 03:09:35.58 ID:dKYGPHKxo
QB「左手の中指を見てごらん、まどか」

まどか「何、これ?指輪だね、宝石がはまってる」

QB「それはソウルジェムと言って、魔法少女である証なんだ。

   もっとも、指輪の形はあくまで普段の持ち運びのための便宜的なものだけどね」

まどか「え……何?魔法少女?」

いきなり何を言い出すのか、この生物は。
魔法少女ってアレでしょ、ステッキを振ってシャランラーって大人に変身するとか、
カードを封印するとか、黒と白でプリティなキュアキュアとか。
何それふざけてるの。

QB「やれやれ、呆れたような顔をしないでくれるかな。

   君が何を考えたか知らないけど、ボクの言う魔法少女は、
   
   ボクと契約して願いをかなえた子がなるものさ」

まどか「契約に、願いね……また新しい言葉が出てきたわね」

QB「ボクは君たちの願いを何でも一つだけ叶えてあげられる。

   どんな奇跡も思いのままさ。その代わり、契約の証として出来上がるのがソウルジェム。

   そして、ソウルジェムを手にした子には、同時に使命が課せられる」

まどか「ああ……よくあるパターンね。願いの代償を払わされるってやつよね」
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/09/28(水) 03:26:26.61 ID:dKYGPHKxo
QB「何でも願いがかなうんだよ?正当な対価だと思うけどね。

   話を戻すと、使命というのは、魔獣と戦うことさ。

   魔獣は人の心の闇――憎しみ、ねたみ、恐怖、そういうものから産まれる存在だ」

まどか「いかにも放っておいたら悪いことしますって感じの設定ね。

     で、それを防ぐために魔法少女が戦わないといけないの?」

QB「人を襲うこともあるし、心の闇に付け込んで事故や事件を誘発することもある。

   そして、普通の人間には魔獣は認識できないんだ。
   
   だから魔法少女が必要なんだよ。魔獣を見ることが出来、魔獣と戦える存在がね」

まどか「ふーん……それで、魔法少女になるにはあなたと契約が必要なわけね。

     それってあなたに何かメリットあるの?

     わざわざ願いを叶えてあげて、人間を脅かす魔獣と戦えるようにするとか。

     まさか、人間のためのボランティアとかじゃないでしょ?」

もちろん魔獣とか言うのがとんでもなく強くて危険なら、
魔法少女になるのはいいことばかりじゃなさそうだ、とは想像がつく。
でも、この生き物自身が魔獣の被害を受けるとか言うわけでもなさそうだし、
だったら何でわざわざ魔法少女を生み出すなんて役目を負ってるんだろう。

QB「ふう……記憶を失っても君は鋭いね、まどか。母親に似たのかい?

  確かに僕にもメリットはあるよ。前にも君に説明したことだけど、もう一度繰り返そうか。

  エントロピーという言葉は記憶にあるかい?」
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/09/28(水) 03:39:50.59 ID:dKYGPHKxo
QB「(宇宙に優しい魔獣式グリーフシードシステムについてプレゼン中)」

QB「というわけさ」

まどか「ソウルジェムが魔力の源で、それを浄化するのに魔獣のグリーフシードが必要で、

     使い終わったグリーフシードがエネルギー源になる、ねえ。

     なんだかうまく出来すぎてる気がするけど」

QB「少なくとも君たちが一方的に損をするわけじゃない。お互いメリットのある関係だと思うけどね」

ソウルジェム、魔力、グリーフシード、感情のエネルギー……
何だろう、何か重要なことを忘れている気がする。
もっと突っ込んで聞いてみるべきだろうか。

>>13
1.さらに突っ込む
2.納得する
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/09/28(水) 03:42:43.33 ID:axtTgyEU0
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/09/28(水) 04:08:46.94 ID:dKYGPHKxo
まどか「例えばの話よ、願いはかなえてもらったけど魔獣と戦うのが嫌で逃げ回ってたとするわよね。

     それでペナルティとかはないの?」

QB「魔獣を狩るかどうかはその子の自由だ。ボクからペナルティを与えるようなことはないよ」

ん?どうも気になる言い方。

まどか「言い直すわ。デメリットはないの?狩った時と比べて、狩らない時のデメリットは」

QB「グリーフシードは手に入らないね」

まどか「つまりソウルジェムは浄化できないわけよね……。

    ねえ、ソウルジェムがずっと浄化できなかったら、どうなるの?」

QB「魔力が消耗して、いずれ尽きるだろうね」

まどか「それはわかってる……って、ちょっと待って。

    もしかして、魔法を使わなくても魔力が消耗されるわけ?」

QB「そうだよ」

まどか「何よそれ、魔法少女って燃料漏れでも起こしてるの?

     それで、魔力が尽きたら、どうなるの?魔法が使えなくなる以外で」

QB「それも覚えてないんだね、まどか。魔法少女の間では常識と言ってもいいことなんだが」

まどか「あれ、馬鹿にされてる?仕方ないじゃない、記憶がないんだもの」

QB「魔力の源であるソウルジェム、それに君たち魔法少女の肉体は、魔力が限界を迎えると」

QB「この世界から、消滅する。跡形もなくね」

まどか「え……」

QB「ボクにも、どういう作用でそうなるのかはわからない。

   ただ、その現象はいつの頃からか魔法少女達の間で、円環の理、と呼ばれている」

円環……円……まどか?
それは何かとても懐かしいような響きの言葉だった。

QB「君の母親である暁美ほむらは、何か知っているようだったけどね。

   とにかく、その運命を避けたいなら、ソウルジェムの状態には常に気を配ることだね」

まどか「デメリットどころか、とんでもない地雷だったわね。

     魔獣を狩り続けなければ戦えなくなって、いずれ消滅か……。

     夢も希望もない魔法少女もあったものね」

思わず溜息をついてしまう。
そして、この左手の指輪がこの生物の言う通り、ソウルジェムなのだとしたら、
私はもう、その魔法少女の運命にはまり込んでいるということだ。
ああ、恨むよ過去の私。
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/09/28(水) 04:19:48.58 ID:dKYGPHKxo
今夜はここまでです。
あれ、今気づいたけどQBの名前聞いてないじゃん……
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/09/28(水) 08:58:40.89 ID:ZPEQ2/0DO
ほむらちゃん程のクール美少女を堕とせた奴が居ると言う事か…?
一体どれ程の有能イケメンだというのだろうか?
まぁ養子かも知れんが。
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/09/28(水) 10:18:12.45 ID:iGSLQxE/0
鹿目知・・・
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/01(土) 00:58:28.54 ID:uLv1KCvDO
QBなんざ、ネコウサギとか適当に呼べば来るんじゃね?
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/02(日) 00:07:28.50 ID:H+0hR77Lo
数日あれば書き溜められると思ったがそんな事はなかったぜ。
再開します。
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/02(日) 00:11:30.30 ID:H+0hR77Lo
QB「さて、ずいぶんと話が逸れてしまったね。

  もう理解してると思うけど、まどか、君はボクと契約済みの魔法少女だ。

  今の話も、契約の時に全部説明したはずなんだけどね。君は覚えてないようだけど」

まどか「この指輪ね?魔法少女の証のソウルジェム。

    はあ……なんで私、魔法少女になんかなったんだろ」

QB「君は奇跡を望んで、ボクはそれを叶えてあげた。当然の対価だよ、まどか」

まどか「とてもそうは思えないけど。どう考えたって釣り合ってないじゃない。

    私もそんな契約、なんでしちゃったんだか。

    そりゃ、命がかかってたとかならともかく……

    ん?ねえ、そう言えば、私の願いって何だったの?」

そう、私が魔法少女になったのなら、その時に願いを叶えてもらったはずだ。
このうさん臭い生物がその時の私にちゃんと説明をしたのか、
私がその話に納得してたのかは大いに疑問だけど、
その時の私には、代償を払ってでも奇跡にすがりたい何かがあったはずなんだ。
そんな大事なことすら、今の私は覚えていない。

QB「本当に何も覚えていないんだね、まどか。君にとって重要なことだったはずなのに」
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/02(日) 00:32:43.71 ID:H+0hR77Lo
まどか「その通りだと思うけど、あなたに言われると何かムカつくわ。

     とにかく、あなたと契約したんだから、私の願いが何だったのか知ってるはずよね?」


QB「もちろん知っている。ただ――」

そう言い掛けて、うさん臭い小動物は宙を見上げた。

QB「まどか、話は後にした方がよさそうだ」

まどか「何よ、はぐらかす気……っ!な、何?」

左手の指輪が、明かりもないのに輝き出した。
それに、そんなものを見なくても、悪寒のような、嫌な感覚が体中に走る。
覚えてはいないけど、この感覚が何なのか、私にはなぜか理解できた。

まどか「なにか、近くにいる……これが魔獣ってやつなの?」

QB「記憶はなくても体に染み付いた感覚は消えていないようだね。

   そのソウルジェムの反応ならすぐ近くだ。いや、これは……」

薄暗い路地裏の闇が、いくつも渦を巻くように揺らいで。
人のような、でも明らかにこの世のものではない、何かが。
闇の中からにじみ出るように姿を現した。

まどか「っ……囲まれてる!?」

うめき声のような、聞いているだけでも気分が悪くなってくる声。
後ろを振り向くと、そこにも。
狭い路地裏の両側を塞ぐように、奇妙なノッポの人影――魔獣が現れていた。
ゆらゆらと体を揺らすようにして、音もなく少しずつ迫ってくる。
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/02(日) 01:01:20.09 ID:H+0hR77Lo
まどか「ど、どうすればいいのよ、これっ!?」

QB「落ち着くんだ、まどか。君はすでに魔法少女だといっただろう?

   君には魔獣と戦う力がある。さあ、ソウルジェムに念じるんだ」

まどか「そんなこと言われたって、それを覚えてないんだってば!」

QB「魔法少女であることはもう君の一部だ。

   自転車の乗り方と同じだよ、一度身に着けたら簡単には忘れない。

   ただ君の意識の表面からそのことが消えているだけだ。

   その証拠に、君は魔獣の気配を忘れていなかっただろう?」

こんな状況でよく落ち着いて喋っていられるものだ。
ああ、でもこいつなら壁をちょろちょろ登って逃げられるかも。
後ろに下がろうにも、路地裏のどっちも魔獣。できるのは壁際に下がるくらい。
はっきり言って乙女の大ピンチだ。
魔獣のこともすっかり覚えていないけれど、こいつらがまとった嫌な気配はわかる。
こいつらは、間違いなく、私の命が欲しいんだ。

まどか「ああ、もう!こうなったらなるようになれよ!」

今やまぶしいくらいに明滅する指輪に、意識を集中する。
一瞬指輪全体が輝いてほどけるように消え、自然と広げた手のひらに、別のものが形作られる。
それは細かい装飾が施されたアクセサリーのようなものだった。
全体は卵を連想するような形で、装飾の中には大きな宝石のようなものがはまっている。

その形も、大きさも、重みも、輝きも、私の手にしっくりと馴染んで。
それは間違いなく、私のものだと、私は理解した。
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/02(日) 01:22:18.99 ID:H+0hR77Lo
魔獣はもう十歩と離れていないところまで迫っている。
でも、私の体は自然と動いていた。
たん、と地面を蹴ると、身体能力を強化された私の体は高く跳躍する。
魔獣が私の動きを追うように反応し、その布をまとったような体の内側から
闇のような色をしたいびつな腕をざわざわと伸ばしてくるのを、
視界の端に捉える余裕すらあった。

そのまま建物の壁を蹴って、さらに一段高いところにある配管を踏み折り。
追ってくる魔獣の腕をかわしながら、ついに屋上へと飛び出した。
空中に飛び出した私に向かって闇色の腕が殺到する。
それを、空中で強引に体を振って方向を変え、建物の屋上に転がるようにして着地する。

そして、私は手の平に握っていた宝石――ソウルジェムを目の前に掲げ、念じた。
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/02(日) 02:03:11.37 ID:H+0hR77Lo
ソウルジェムが七色の光になってほどけるように消え、私の体を包む。
今まで身に着けていた制服はどこかへ消えて、代わりにモノトーンの、
「魔法少女」という言葉からのイメージにしてはシンプルなコスチュームが私の体をまとう。
そして、手には私の武器。

私を見失った魔獣が屋上に這い登ってきた時には、私はもう武器を構え終えていた。

まどか「残念、遅いわ」

引き絞られた弓の上部に、ボウッと炎が灯り。
番えられた魔力の矢が輝きを増して。
私はそれを解き放つ。

すさまじい魔力の波動が空気を震わせ、炎が花びらのように散る。
魔力の輝きを尾のように引きながら、空を裂いて飛ぶ矢は、無数の光線となり。
ようやく私のほうを認識しようとしていた魔獣の体を、容赦なく抉り取った。

音もなく崩れ落ちる魔獣の体が空中で溶けるように消え、
何か黒い粒へと収縮する。
それは、カツ、カツン、と乾いた音を立てて屋上のコンクリートに転がった。

さっき現れた魔獣と、たった今打ち抜いた魔獣の数が同じであることを確認して、
私はふうと大きく息をつき、弓を下ろした。
そして、私の服も元に戻る。

その時になってようやく、さっきの生き物を下に置き去りにしてきたことに気がついた。
しまった、さすがにまずかったかな。

QB「ひどいよまどか、ボクを置いていくなんて」

前言撤回。なんだこの狙っていたような間は。
いつの間にか、そいつは背後の屋上の縁ににちょこんと座っていた。

QB「ボクの言ったとおり、どう戦えばいいか、ちゃんとわかっただろう?

   それにしても見事なものだね、とても記憶をなくしているなんて思えないよ」

まどか「そうね、ソウルジェムを持ったら、なぜか勝手に体が動いたの。

     どうすればいいのか全部体が覚えてた感じ」

QB「まどかは魔法少女としてはベテランだからね、あの程度の状況なら造作もないさ」

まどか「そうなの?」

私にはベテランというのがどの程度のものか、わからないのだけど。
でも、あの程度の魔獣に、囲まれたくらいで遅れを取るようなことはないのだろう。
もっとも、仮にいくらすごくても記憶がないから実感もわかないんだけど。

まどか「でも確かに、負ける気は全然しなかったわね」
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/02(日) 02:19:35.95 ID:H+0hR77Lo
QB「ところでグリーフシードを回収しなくていいのかい?」

まどか「グリーフシード?ああ、さっきの話で言ってたあれね」

QB「ほら、そこに転がってるだろう?

   それでソウルジェムの穢れを取ったらボクによこしてくれればいい。

   すぐの方が手間も省けるからね」

黒いキューブのようなグリーフシードを拾い上げ、使い方を聞きながら穢れを取ると、
白い珍獣は妙に嬉しそうにそれを背中の口のような部位に放り込んだ。

QB「きゅっぷい♪」

まどか「……何それ?」

可愛くない、っていうか背中に口がついてるとか絶対おかしい。宇宙生物とかの類だ。
あ、そもそもさっき宇宙から来たとか言ったっけ。
マスコットみたいな外見して詐欺だ。なんかこう、見てないところでうぞうぞ変形くらいしそう。
と考えたところで気持ち悪くなってやめた。

まどか「ところでさっきの話だけど」

QB「ん、何だい?」

もしかして本当にとぼける気なのか。

まどか「私の願いよ。私は一体何を願ったの?」
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/02(日) 02:41:01.61 ID:H+0hR77Lo
QB「それだけどね、まどか。それに関してボクからは話せない」

まどか「え?何、どういうこと?」

QB「そのままの意味さ。確かにボクは君の願いを知っている。

   だが、君にそれを告げることは出来ない」

まどか「いや、意味がわからないわ。私の願いよね?なんで私本人に言えないの?

     願いは言えない決まりでもあるわけ?」

QB「そんな決まりはないよ。だが、言えない。

   これは契約に伴う取り決めとは関係のない、個人的な取引……つまり、約束という奴さ」

まどか「約束?私の願いを言うなって?誰とのよ?」

QB「それも言えない。ボクが言えるのは、約束の内容だけだ。

   暁美まどかの願いの内容を、誰にも明かさないこと。それが例え本人でも、ね。

   ボクも驚いているよ。

   まさか、本人も対象とするなんて無意味に思えることが、意味を持つなんてね」

まどか「その約束って、そんなに重要なの?私本人が知りたいって言ってるのに」

QB「ボクにとっては、極めて優先順位が高いといっていい。

   確かにボクは魔法少女との契約と、エネルギー回収を遂行するために存在しているが、

   この約束は他の魔法少女との契約よりもはるかに優先すべき事項だ」

意味がわからない。
ここまで頑固にこだわる「約束」の相手は一体誰なんだろう。
そして、どうして私の願いを言うななんて約束をしたのか。
対象に私自身も含めているなんて、まるで、私が記憶を失うのを知っていたみたいだ。
誰が、何のために?
私がそれを知ると何かまずいのだろうか?
しかしその理由を考えようにも、その材料すら私にはない。
頭が痛む。吐き気がこみ上げてくる。目に前がぐるぐると回る感覚がして――

私の意識は再び途切れた。
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga]:2011/10/02(日) 02:48:30.24 ID:H+0hR77Lo
第1話「私は一体何を願ったの?」




今夜はここまでです。
安価入れられなかった。すみません。
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/04(火) 16:36:57.59 ID:np3uBwyDO
願い…気になりますねぇ。

しかし、ほむらさんとの間に一体何があったのか…?
29 : ◆J0gg2XogfY [sage]:2011/10/05(水) 17:38:19.91 ID:420F34qHo
数日置きにちょこちょことしか動かないスレで、
しかも平日のこの時間とか
見てる人いるのか疑問ですが、始めます。

あとトリ付けました。
30 : ◆J0gg2XogfY [sage]:2011/10/05(水) 17:43:18.99 ID:420F34qHo
目が覚めて見えた景色は、あの屋上とは全然違う場所だった。

まどか「知らない天井だわ……とか言うのかしら、この場合」

知らない場所で目が覚めるのも二度目なので、冗談を言うくらいの余裕がある。
まあさっきの路地裏はそもそも天井がなかったけど。
ここはどこかの部屋の中らしいが、でも病院とかではない。
額にはタオルか何かひんやりした感触があって、誰かが介抱してくれたようだった。
体を起こそうとすると、まだ少し頭の芯がずきずきと痛む。
それでも、部屋の中を見渡すと落ち着いた雰囲気の家具で統一されていて、
自分がベッドに寝かされているのがわかった。

その時ちょうど、ドアが開いて入ってきたのは
>>31
1.私と同年代くらいの女の子
2.小さな女の子
3.20代くらいの女の人
31 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/05(水) 17:53:06.48 ID:420F34qHo
あと、安価付けてても15分くらい待って反応なさそうな場合は自動で進めます

sageだったので一応ノーカンにして今から>>32
32 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/05(水) 18:19:17.05 ID:420F34qHo
すみません、上がってないのでちょっと構成を仕切りなおします。
>>30-31は無しで。
次から改めて始めます。
33 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/05(水) 18:20:41.12 ID:420F34qHo
まどか「この家でいいのよね?」

時刻はもう夕暮れ時、私はとあるアパートの前に立っていた。
手の中のメモには確かにここの住所と、部屋番号が書いてある。
しかしここが自分の家だと言っても、記憶がない私には知らない誰かの家を訪ねるのと変わらない。
少し緊張して、年代モノらしい、やけに立派なつくりのドアを開く。
中はホールになっていて、少し薄暗かった。
廊下の奥には、各部屋へのドアがずらりと続いている。
部屋番号からすると2階のはずだ。
ホールの隅にある階段は、アパートにしてはこれもやけに立派だった。
昔の時代が舞台のテレビドラマとかで、そこそこ裕福なお屋敷とかで出てきそうな感じだ。
建物の外見も、古くはあったけどしっかりしていたし、案外昔はそういう場所だったのかもしれない。
そして2階に上がった廊下の突き当りが、メモの示す部屋だった。

まどか「暁美……って、確かに書いてあるわね」

下の名前までは書いていなかったが、こんな苗字がそうあちこちにあるとも思えない。
記憶がないんだから確証はないけど、珍しい苗字だろうというのは何となくわかる。
無意識に唾を飲み込むと、意を決してノブを回す。

がちん、と硬い感触がした。

……まあ、鍵はかかってるのが当然だろう。
うっかり忘れていたわけではない。決して。
合鍵だといって渡された鍵を差し込むと、錠の外れる音がして、そのことにほっとする。
そして改めてノブを回すと、今度こそ、私は私の家に足を踏み入れた。
34 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/05(水) 18:38:48.96 ID:420F34qHo
部屋の中は、広くはなかったがまあこんなものだろう。
玄関からすぐ作りつけのキッチンがあり、小さなお風呂とトイレ。
その他に部屋が二つほど。
しかし部屋の構造より気になったのは、家具の類はほとんどなく、
代わりに大量の箱や紙束が山積みになっていることだった。
ためしに箱の中も見てみたが、やはり細かい文字がびっしりと埋まった何かの資料だ。

まどか「W、A、L……ワル……ワルプルギス?」

目に付いた単語を口にしてみたが、記憶を探るヒントにはなってくれそうもない。
でも、この部屋の、生活感のなさ過ぎる感じは、どこか覚えがある気がした。
その時、ポケットの中の携帯が鳴った。
鍵や他のもろもろと一緒に、私のものだと渡されていたものだ。

まどか「はい、暁美です。

     ええ、先ほどはお世話になりました。おかげさまで、無事家に着きました。

     え、これからですか……そこまでお世話になるわけには、いえ、確かにそうですが。

     はい、それではお言葉に甘えて。今からまた伺います」

電話の主は、さっき私を助けてくれた人で。
この殺風景な部屋を見て少なからずショックだった私は、夕食の誘いを断れるはずがなかった。
35 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/05(水) 18:43:14.23 ID:420F34qHo
時間は少し戻る。

再び気を失った私が、目が覚めて見た景色は、あの屋上とは全然違う場所だった。

まどか「知らない天井だわ……とか言うのかしら、この場合」

気を失って知らない場所で目覚めるなんて、貴重な経験が早くも本日二度目。
そりゃ、冗談を言う余裕くらいある。まあ、さっきの路地裏はそもそも天井なんてなかったけど。
どこかの部屋の中らしいが、でも病院とかではない。
額にタオルか何かひんやりした感触があって、誰かが介抱してくれたようだった。
体を起こそうとすると、まだ少し頭の芯がずきずきと痛む。
それでも、部屋の中を見渡すと、そこは落ち着いた雰囲気の家具で統一されていて、
自分がベッドに寝かされているのがわかった。

その時ちょうど、ドアが開いて入ってきたのは
>>36
1.私と同年代くらいの女の子
2.小さな女の子
3.20代くらいの女の人
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/10/05(水) 18:55:03.73 ID:cDVHUfMio
3
37 : ◆J0gg2XogfY :2011/10/05(水) 18:58:23.54 ID:420F34qHo
3で了解

すみませんがいったん席を外すため中断します。
また夜10時ごろから投下再開します。
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/05(水) 19:30:59.17 ID:Mvc25swJ0
3
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/05(水) 21:18:24.95 ID:poHIt7VDO
20歳位の女性…一体誰なのだろうか?

まぁ誰であっても楽しく読ませてもらいますけどね!
40 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/05(水) 22:41:53.37 ID:420F34qHo
すみません、予定より遅れましたが再開します。
41 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/05(水) 22:43:05.17 ID:420F34qHo
20代くらいの女性「あら、気がついたみたいね。大丈夫?どこか痛むところはない?」

優しげな微笑みと、それによく似合う穏やかな声。
お日様の光のような豊かな金髪に、ふわっとした縦ロール。
その人の姿に、私は見覚えがあった。でも、肝心の名前は思い出せない。

まどか「あ、あの……」

金髪の女性「あ、まだ無理に起きない方がいいわ。

        怪我はしてないようだったけど、ひどく苦しそうだったもの。

        大丈夫、私はあなたをよく知ってるわ。暁美まどかさん」

タオルを代えるためなのだろう、洗面器とタオルを持ったその人は私のそばまで来て手を握ってきた。

まどか「ええと……あの、私の名前を?」

金髪の女性「ええ。でも、あなたは記憶が無いんですって?

        それなら、改めて自己紹介しなくちゃね。

        私は巴マミ。元魔法少女で、あなたのお母さん――暁美ほむらさんとは仲間だったわ」
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/05(水) 22:43:23.01 ID:RGmULSxCo
主役の容姿は?
母親にの黒髪美少女?
まさかピンクのショートツインテ?
43 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/05(水) 22:45:18.70 ID:420F34qHo
まどか「巴……マミ、さん?」

マミ「やっぱり覚えてないみたいね。ひどいわまどかさん、あんなに懐いてくれてたのに」

おどけて拗ねたような声を出すマミさん。

まどか「ご、ごめんなさい」

マミ「ふふ、いいのよ。記憶がないって、きっととても不安で、怖いことだと思うもの。

   ゆっくり体を休めて、だんだん思い出していけるようにすればいいわ」

まどか「はい。でも、どうして私はここに?」

QB「僕がマミを呼んだんだ。さっき、キミがまた気を失ってしまった時にね」

どこから湧いて出たのか、例の白いネコウサギがいつの間にかベッドの隅にいた。

マミ「キュゥべえ!女の子の寝室に勝手に入るなんて、行儀が悪いわよ」

QB「ひどいなマミ、僕はマミとまどかを呼んできてくれって言われたから来たって言うのに」

そうか、この変な生物はキュゥべえというのか。考えてみたら私は名前を聞いていなかった。
というより、こいつに名前があるなんて思わなかったし。
しかも「キュゥべえ」なんてマスコットみたいな可愛い名前、絶対詐欺だ。
インキュベーターとかなんとか、そういう怪しげな名前の方が似合ってる。
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/05(水) 22:54:25.59 ID:cDVHUfMio
うおおおおおお!!!
大人の魅力を持ったマミだと!?
素晴らしすぎる。
3で良かった。
45 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/05(水) 22:56:55.45 ID:420F34qHo
マミ「おおかた、杏子が待ちくたびれちゃったのね。

   まどかさん、お茶の用意ができてるんだけど、起きられそう?

   無理ならこの部屋に運んでくるけれど」

まどか「あ、いえ、大丈夫です。もう頭痛も引きましたから、起きられます」

ベッドから起き上がって気づいたけど、着ているのは制服ではなくて
ピンク色のパジャマだった。

マミ「ああ、制服は汚れてしまってたから、勝手だけど着替えさせてもらったの。

   今洗濯してるところだから、後で持って帰るといいわ」

まどか「すみません、そんな事まで」

マミ「いいのよ、それより、あっちの部屋に用意がしてるから行きましょう。

   他にもあなたを知ってる人が来てるから、何かヒントになるかもしれないわ」

そして寝室を出た私は、リビングらしい広々した部屋に案内された。
46 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/05(水) 23:09:32.43 ID:420F34qHo
>>42
すみません、後で容姿を描写する機会がありますのでまだしばらくお待ちください。
------------------------------------------


女性「よーう、記憶喪失のお姫様」

そう声を掛けてきたのは、赤いロングヘアを無造作にまとめた女の人だ。
マミさんと同じくらいの年だと思うけど、この人はマミさんとは対照的に目つきが鋭い。

マミ「もう、杏子ったら。まどかさんは大変なのよ。からかわないで」

杏子「はいはい、悪かったよ。あ、アタシは佐倉杏子だ。よろしくな。

    ちなみにお前はアタシの子分「嘘はだめだよ、きょーこ姉ちゃん」

杏子と呼ばれた女性の口をさえぎったのは、私が着ていたのと同じ制服を着た女の子。
そうすると、この子も見滝原中の生徒なんだろう。
緑色のショートカットがいかにも活発そうな印象だ。

杏子「チッ……せっかくうまいこと吹き込むチャンスだったのに、邪魔すんな、ゆま」

ゆま、というのがこの子の名前らしい。

ゆま「ダメだよ、記憶がないって、よくわからないけどきっとすごく大変だよ。

    変なこと言ってまどかお姉ちゃんを困らせちゃダメ!

    あ、私は千歳ゆまだよ。まどかお姉ちゃんの後輩なんだ」
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/05(水) 23:20:08.91 ID:S/Ekklcwo
ゆまが後輩か……
48 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/05(水) 23:21:07.59 ID:420F34qHo
マミ「自己紹介もいいけど、とりあえず座って落ち着きましょう?

   ほら、まどかさんも座って」

まどか「あ、はい。失礼します」

ゆま「マミお姉ちゃんの紅茶とお菓子は最高なんだよ。

    まどかお姉ちゃんもお気に入りだったから、食べたらきっと何か思い出すよ」

杏子「つーか何でもいいから早く食おうぜ、冷めたらもったいないだろ」

そして、ティータイムが始まった。
ゆまちゃんの言う通り、紅茶は香りも風味も素晴らしかったし、お茶菓子もどれも手が込んでいて、
甘さだけではなくて、果物の酸味やコーヒーの苦味も味を引き立てていた。

けれど結論を言えば、残念ながら、それは私の記憶を取り戻す役には立たなかった。
いや、今までにもこんなお茶会を楽しんていた気はしたけれど、
それ以外の、私が何者で、なぜ魔法少女になったのか、そういうことは思い出せなかった。
49 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/05(水) 23:42:03.04 ID:420F34qHo
その代わり、マミさん達はいろいろと私にまつわる話をしてくれた。

マミさんと杏子さんは、私の母親――暁美ほむらと魔法少女仲間であったこと。
ゆまちゃんも魔法少女であること。
私も含めてずっと交流があり、家族同然の付き合いであったこと。

そして、マミさんは言いにくそうに言った。

マミ「でも、暁美さんは、あなたの父親のことは一度も話してくれなかったわ」

まどか「えっと、それって、どういうことですか?」

杏子「アタシらもあいつも、しばらくバラバラに活動してた時期があったからな。

    数年は会ってなかったんじゃないか?

    それで、見滝原に帰ってきたら、もうあいつの後ろにくっついて、ちっこいお前がいたんだ」

ゆま「それって……」

ゆまちゃんが気まずそうに何かを言いかける。

マミ「わからないわ。別れてしまったのか、何かがあったのか。暁美さんは何も言わなかった」

杏子「まあ、本人が言いたくねーことを詮索しても、仕方ないしな」

まどか「でも、他の人には言わなくても、私は知っていたかも……そうですね?」

マミ「そうね、あなたの父親のことなんだから、あなただけには話していたかもしれない」

ゆま「でも、それもわからなくなっちゃってるってことだよね……」
50 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/05(水) 23:56:43.87 ID:420F34qHo
杏子「そもそもお前にも明かしてない可能性だってあるからな。

    最悪でもほむら本人は知ってるんだろうが、それにしても問題がある」

まどか「その問題って、何ですか?」

マミ「これも言いにくいんだけど、まどかさん。落ち着いて聞いてね?」

マミさんの真剣な声に、自然と身構える。
何か良くない内容なのだろうとは簡単に察しがついた。

マミ「暁美さん……あなたのお母さん、暁美ほむらさんは、いま行方不明なの」

まどか「!それって、まさか……」

全身の血の気が引く気がした。しかしすぐに杏子さんが言葉を引き継ぐ。

杏子「いや、そうじゃない。円環の理に導かれちまったってんなら、こいつが感知するはずだ。

   ほむらのソウルジェムがこの宇宙から消滅したってな」

テーブルの足元で丸まっているキュゥべえをフォークで示す。

QB「僕たちは全てのソウルジェムを管理しているからね。

   正確な位置の特定については精度に限界があるけれど、

   ほむらほどの力を持った魔法少女のソウルジェムが消滅したとなれば、

   それがわからないはずはないんだ。

   理由は不明だが、位置は特定できない。

   でも暁美ほむらはまだこの世界のどこかで生きている、それは間違いないよ」
51 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/06(木) 00:08:31.63 ID:x7U3Yejno
そんな話の後、重苦しい雰囲気が漂いだしたのを察したように、
マミさんが「そろそろ切り上げましょう」と告げてお茶会はお開きになった。

帰り際に、洗濯が終わった制服と、
杏子さんが例の路地裏の近くで見つけたという私のカバンを受け取った。
中には私の生徒手帳や携帯も入っていた。
けれどもう一つ、あるはずのものがない。

マミ「これ、暁美さんから預かっていた合鍵よ。これを持っていって」

そして、マミさんが差し出した銀色の鍵を受け取り、
服を借りたことにもお礼を言って。
着いて行こうかという申し出を断って、私は記憶に無い家路に付いた。
マミさんに書いてもらった自宅への地図のメモを持って。
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/06(木) 00:20:54.13 ID:4Awx5F8DO
乙です

ゆまたんより年上……だと……

ほむほむ何歳の時の子供なんだとか
本編とその辺りで時間的なズレがあるのかとか他にも色々考えてまう


……これ以上はネタ潰しになりそうだからやめとく
既になってたらごめんついきになったんだ
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/06(木) 00:22:58.61 ID:OmBy/T5DO
そして>>33に戻る、と。
中々にややこしい状況になってるね。
取り敢えずほむらさん探しから始めるのかな?

それにしても、大人になった皆さんも素敵ですね〜。仕事とか何してるんだろ?
54 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/06(木) 00:41:04.64 ID:x7U3Yejno
再び、時間を戻す。

夕食も素晴らしく美味しいものだったけれど、どこか重苦しい空気は続いていた。
私自身が情報を整理できてないせいもあるだろう。
父親はわからず、母親は行方不明。おまけに自分は記憶喪失。
きっと記憶を失う前でも、マミさん達は私のことを何かと気に掛けてくれていたに違いない。

マミ「私達で力になれることがあったらいつでも助けになるわ。遠慮なく言ってね」

杏子「ほむらにはさんざん世話になってるしな。

    それに、ヒヨッコの面倒見るのも魔法少女の先輩としての務めって奴だ」

ゆま「まどかお姉ちゃん、いつでも遊びに来てね!あと学校でもよろしく!」

みんな優しい。
でも、その優しさに頼り切るのは気が引けて、また一人、見知らぬ家に帰ってきた。
一人になると途端に不安が襲ってくる。
この家には見覚えがあるのに、それ以上のことが思い出せない。

まどか「もう、休もう……」

記憶を失って一日目。ひどく疲れた気がする。
学校は体調不良とでも言えばしばらく休むことも出来るだろう。
行ったところで記憶がないのでは、
おとなしく休んでおいた方が余計なトラブルを生まないかもしれない。

それでも、せめてシャワーくらい浴びておこう。
そう思って、お風呂のドアを開けて。
正面の鏡に映った顔を、記憶を失ってから何度か確かめた顔を、まじまじと見つめる。
その顔は、マミさんに見せてもらったお母さんの写真と、
似ているようで、似ていなかった。
目元はお母さんほど切れ長ではなく、どちらかといえば丸っこい。
クールビューティという感じのお母さんに比べれば随分柔らかな顔つき。
そして、一番違うのは髪。
髪型こそ同じようなロングだけれど、綺麗な黒髪だったお母さんとは違って、私の髪は。

なぜか桜を思わせる、鮮やかなピンクだった。
55 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/06(木) 00:45:46.30 ID:x7U3Yejno
第2話「私はあなたをよく知ってるわ」



今夜の投下は以上です。せっかくですのでレスを少し。
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/06(木) 00:47:15.63 ID:4TNF1r9Wo
お疲れ様でした。

桃髪姫様でしたか・・・・・・ふむ。
57 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/06(木) 01:00:41.24 ID:x7U3Yejno
>>42
というわけで容姿はこういう感じです。
一応意味があってこうなってます。

>>44
時間軸は本編どおりでないのでこういうこともあり得ます。
書きたかったから出したけど、大人の魅力を出せるかは今後努力します。
まだ魔法少女なのかとかはまたこの後の展開で。

>>47>>52
はい、おりこの時間軸とほむほむの年齢を考えると
明らかに何かおかしいわけですが、そのあたりも理由はあります。
その辺も追々出していければと。

>>53
ちょっと最初の手違いもあってこんな構成になりました。
わかりにくかったらすみません。
ほむらお母さんがどうなってるのかは重要な要素ですが、
基本は見滝原とその周辺での話になる予定です。
仕事のこととか出るかどうかは展開によるかも。
58 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/06(木) 01:14:13.34 ID:x7U3Yejno
ところで髪の色って記号として便利だけど
実際そのままの色で描写するとなんか変な感じがするよね
とやってしまってから思うのでした。

次回投下は週末10/8〜10のどこかの予定です。
2回できればいいけど1回になるかもしれません。
読んでもらえてるうちに頑張りたいと思います。
ではまた。
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2011/10/06(木) 20:17:22.66 ID:asfaugnc0
倍支援だ・・・!
60 : ◆J0gg2XogfY [sage]:2011/10/11(火) 05:33:30.07 ID:ON92b0L2o
思ったより捗らず、予告日の投下できずに面目ない。
11日夜に投下できる予定です。
61 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/11(火) 19:55:03.92 ID:ON92b0L2o
投下予定日がずれ込みましたが投下します。
ちょっと短めです。
62 : ◆J0gg2XogfY [sage]:2011/10/11(火) 19:56:18.37 ID:ON92b0L2o
学校というのはそれ自体一つの世界のようだ、と誰かが言っていた。
先生を除けば同じ年代の人たちしかいない。
同じ授業を受けて、同じ場所で時間を過ごす。
そこに通う人間にはそれが全て……とまでは言わないが、
生活のほとんどは学校が占めているには違いない。
だから、知らない学校に行くことは、知らない世界に行くことと同じこと。

見滝原中。
いつも通っていたはずの学校も、記憶喪失中の私には初めての場所だ。
気分は転校初日のようなもの。
ところが向こうは全員こっちを知っているわけで、それは果たしていいのか悪いのか。
お約束の質問攻めなどに遭わないのは実に結構なことだし、
授業もカバンに入っていたノートを見る限り何とかなるだろう。
方程式や年号を忘れたわけではなさそうなのは幸いだ。

けど、何気なく振られた会話がスムーズに返せないのは困る。
例えば今週末に重大な約束をしていて、それについて相談を受けたりしたらどうするのだ。
例えばこの前貸した2000円返してと言われても、それが冗談かどうか分からない。
いや別に、携帯や写メを見ても顔と名前が結びつかないクラスメイトの人間性を
疑うわけではないけれど、記憶喪失だなんてバレたらどうなるか。
心配されて気を遣われるか、面白がってからかわれるか、気味悪がられるか。
どれも真っ平ごめんだ。
魔法少女なんてろくでもない非日常に足を突っ込んでいるのが分かった以上、
学校でくらい平穏な日常を満喫したいのが人情ってものでしょう?
63 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/11(火) 19:57:39.65 ID:ON92b0L2o
まどか「というわけで今日は病欠ってことにしようと思うの」

ゆま「よくわからないけど、記憶喪失でも病欠ってあるのかな?」

まどか「似たようなものよ。それに理由は風邪ってことにしておくわ」

ゆま「え?それじゃ仮病なんじゃ……」

まどか「記憶喪失なんですって馬鹿正直に言ったら休む意味なくなるじゃない」

ゆま「言ってること無茶苦茶だよ」

記憶喪失になって2日目の朝。
サボる気満々だった私を、ゆまちゃんが朝早くから訪ねてきていた。
見滝原中までの道を覚えているか心配だと言ってわざわざ寄ってくれたらしい。
それはわざわざ申し訳ないと思うけど、正直気が進まない。
私が渋っていると、ゆまちゃんの携帯が鳴った。
64 : ◆J0gg2XogfY [sage]:2011/10/11(火) 19:59:33.07 ID:ON92b0L2o
ゆま「あ、マミお姉ちゃん。ええと、マミお姉ちゃんが思ってた通りで……え、代わるの?」

なるほど、マミさんの指示でもあったわけか。
お母さんと付き合いの深かったらしいマミさんにしてみれば、私も娘のようなものなんだろう。
差し出された携帯電話を耳に当てると、マミさんの声。

マミ「もしもし、まどかちゃん?おはよう」

まどか「お、おはようございます、マミさん」

あれ?何だろうこの感じ。マミさんの声は昨日と同じ優しい声で、でもこの空気は。

マミ「学校は、行きなさい」

まどか「ハイ」

即答した。
いやだって、あり得ないからこのプレッシャー。例えるなら絶対零度。
有無を言わせないとはこのことね。

マミ「変に思われたくないって思ってるのかもしれないけど、

   何か思い出す役に立つかもしれないわ。

   閉じこもっていたら思い出すきっかけもなくなってしまうわよ」

そうかと思うと打って変わって言い聞かせるような口調。
完敗だ。ぐうの音も出ない。

まどか「わかりました、ちゃんと行きます。ご心配かけてすみません」

マミ「うん、よろしい。ゆまちゃんもいるから、何かあれば頼ってね。

    学年が違うから何でもすぐにとはいかないかもしれないけど」

まどか「ええ、頼りにさせてもらいます。頼もしい後輩ですから。

     それに、昨日話してもらった、同じクラスの魔法少女の子も」

マミ「そうね、あの子もいい子だし、まどかちゃんとは仲が良いから

   事情を話せば力になってくれると思うわ」

まどか「はい、ありがとうございます……それじゃ、行ってきます」

そうと決まれば、のんびりしている場合ではない。この状況で遅刻だとか目立つ事態は避けるに限る。
私はゆまちゃんに少し待ってもらい、急いで身支度を整え、一緒に家を出た。
65 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/11(火) 20:01:53.70 ID:ON92b0L2o
登校時間としては早すぎも遅すぎもしない時間帯。
見滝原中までの通学路になっている遊歩道は、同じ制服の子たちでひっきりなしで、
これなら学校の場所を知らなくても道に迷う心配はない。
そこをゆまちゃんと歩きながら、お互いのクラスや位置関係を確認し、学校の様子も聞いておく。

少女の声「おー、おはようまどか。あれ、ゆまも一緒?」

そこに後ろから声を掛けてくる誰か。
元気がありあまってる感じの声に振り返ると、ボーイッシュな青髪の少女がいた。

まどか「おはよう……さやか」

ゆま「!?

   あ、お、おはよう、さやかお姉ちゃん」

さやか「どうかした?変な顔して。あ、もしかしてあたし寝癖直ってないとか!?」

まどか「大丈夫、なんともなってないわ」

ゆま「う、うん、何でもないの」

さやか「そう?まあいいや、早く行こ」

私達を追い越して歩き始めたさやかの背中を見ながら、ゆまちゃんが耳打ちしてくる。

ゆま「ねえ、さやかお姉ちゃんのことは思い出せてたの?」

まどか「まさか。さっぱり覚えてないわ」

私が知っているのは、この子が私の友人でクラスメイト。
そして、同じ魔法少女だというだけ。

――上条さやか。
66 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/11(火) 20:04:25.58 ID:ON92b0L2o
少なくともクラスメイトや担任など身近な人物のことは頭に入れておこうと
ゆうべのうちに、携帯のアドレス帳や写メの記録、カバンの中身など
貴重な記憶の手がかりを駆使して、わかる部分は暗記したのだ。

一夜漬けでどうなるかと思ったが、案外何とかなるものだ。
記憶をなくす前は付き合いが深かったようだからそのせいかもしれない。
本当は今日のうちにもっと情報を整理しておくつもりだったけど、
この調子なら後のことは臨機応変で何とかなるだろう。

考えてみたらそもそもこの性格や喋り方も元通りなのかわからない。
でも昨日からキュゥべえやマミさんたち、それに友人であるらしいさやかと話して
何も言われないのだから、
そのあたりは無意識に同じように話しているんだろうと勝手に思うことにする。

さやか「ところでさ、まどか」

先を行くさやかが振り返り、首をひねった。

まどか「なに?さやか」

さやか「どっかイメチェンとかした?よくわかんないけど、なーんか、雰囲気違う気がするんだよね」

何てことだ、もうバレた。
付き合いの長い親友というのは確からしい。
67 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/11(火) 20:07:30.31 ID:ON92b0L2o
ゆま「あ、あのねさやかお姉ちゃん」

しかしどのみち彼女には事情を話すつもりだったわけで、かえって好都合というものだ。

まどか「いいわ、ゆまちゃん。私から話すから」

さやか「え、何?ゆまとの内緒話だった?」

まどか「別に、さやかにも話すつもりだったから問題ないわ。

    でも、ここではちょっと話しにくいし時間もあまりないわね。後で話すから、それでいい?」

さやか「けっこう大事な話かな。じゃあ休み時間……だと教室抜けるわけにも行かないか。

    お昼休みにいつもの屋上で、いいかな?」

まどか「構わないわ。それとゆまちゃんも一緒に」

ゆま「うん、大丈夫だよ」

その『いつもの』というのがどこか、わからないけど。
一緒のクラスなんだからついていけば問題ないだろう。
ゆまちゃんが何も聞かないということは、最悪ゆまちゃんに聞けば分かるのだろうし。

さやか「って、のんびりしてたら時間まずいよ。急ごう!

     話の続きはまた後で!」
68 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/11(火) 20:35:32.37 ID:ON92b0L2o
ひとまず以上です。
夜にもう少し追加で投下します。
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/11(火) 21:18:18.64 ID:TaRqlF5DO
今度はさやかちゃんがズレている…。

上條君、奥さんはもしかして…ワカメっぽい髪の人なのかい?
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/12(水) 00:38:08.33 ID:9qug0UtEo
乙でした。
桃髪(まどか)に青髪(さやか)に緑髪(ゆま)のトリオか。
凄まじい皮肉を見ている気がする……。
71 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/12(水) 02:08:47.61 ID:4gdaAH10o
続きを投下します。
72 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/12(水) 02:11:10.86 ID:4gdaAH10o
さやかに従って急いだのが功を奏したようで、
遅刻することもなく、早すぎることもないという絶妙な時間に教室に着いた。
これなら余計な会話をする羽目になってぼろが出ることもない。
間もなくチャイムが鳴って、入ってきたのは中年という感じの女の先生。
ホームルームを始めるなり、真剣な顔で咳払いをする。

先生「今日は皆さんに大事なお話があります」

思わず身構える私。
何だか知らないが、聞くのが記憶をなくす前でなくてよかった。
しかしなぜか、クラス全体に漂うげんなりとした空気はどうしたことか。

先生「皆さんはプッチンプリンを食べるとき、

    底のカラメルを一緒に食べますか、それとも最後に取っておきますか?

    はい、中澤君!答えて」

何かの例え話だろうか、意味が分からない。
指名された中澤君も明らかに困っているじゃないの。

中澤「はあ……どっちでも好きなほうで良いんじゃないですかね」

というかプッチンプリンなのに、お皿に出して食べる選択肢はないのかしら。
73 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/12(水) 02:12:29.50 ID:4gdaAH10o
先生「その通り!

    そしてお皿に出すなんて汚れ物が増えるような行為はもってのほかです!」

あ、それは駄目なのね。

先生「いいですか、女子の皆さん。

    カラメルを最後まで残すのが貧乏臭くてみっともないだとか、

    小さいことを言う男と交際してはいけません。

    そして男子の皆さんは絶対に、プッチンプリンの食べ方一つで

    交際を断るような大人にはならないこと。

    いいですね!?」

さやか「まーた駄目だったか……」

斜め後ろの席のさやかが苦笑混じりにつぶやくのが聞こえた。
周りの反応を見ても、これは恒例行事のようなものらしい。
担任の、早乙女先生といったっけ?
まあ、なんというか、悪い人ではないみたいだけど。

早乙女先生「それと、今日は転校生を紹介します」

『『『そっちが後かよっ!?』』』

あ、なんだか一体感。
クラスの全員が内心で一斉にツッコミを入れていた。
そんな私達の内心など気にした様子もなく、先生が声を掛ける。

早乙女先生「それじゃ、入ってきて」
74 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/12(水) 02:16:13.71 ID:4gdaAH10o
ドアが開き、誰かが入ってくる。


かつん。
もう見慣れた女子の制服。
なぜか頭の奥が、ずきりと痛んだ。

かつん。
ローファーの音が、やけにリノリウムの床に響いて聞こえる。
音が耳の中で響いて、まるで鐘の音のようにこだまする。

かつん。
華奢な体に、まとった雰囲気はどこか儚げで。
息が苦しくてぜいぜいと呼吸は荒く、喉がからからになっていって。

かつん。
艶やかで長い黒髪は、三つ編みにまとめられて。
心臓が壊れたかと思うほど激しく脈打ち、全身の血が熱く沸騰しそうで。、

かつん。
赤いナイロールの眼鏡の奥で、憂いを帯びた瞳が揺れている。
その瞳が、ふとこちらを向いた、その瞬間。


意識が、暗転した。
75 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/12(水) 02:25:34.20 ID:4gdaAH10o
今晩の投下分はここまで。
3話分はもうちょっと続きます。次回はまた土日になるかと。
76 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/12(水) 02:38:00.51 ID:4gdaAH10o
>>69
最初の安価を捨てずに回収できる算段がついたのでさやかちゃん登場です。
そもそも上条はあの上条君とも限りませんが。

>>70
そこは意図してなかったですが確かにそうですね。
髪型も境遇も違う組み合わせですけど。


あと安価有無は投下前に宣言しておいたほうが良いでしょうか?
書き溜めでない部分もあるので完全に対応とは行かないかもですが。
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/12(水) 08:33:34.71 ID:UOJRj7PDO
中学時代のおかんそっくりな人が降臨したwwww
まどかは存在パラドクスかなんかで気絶しちゃうし、展開気になりまくりだぜ。
安価の有無ねぇ、名前欄の所にでも書いてみてはどうでしょう?
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/12(水) 21:37:32.19 ID:wTK3aVdLo
乙です。
歳取ってるとはいえ早乙女先生、質問に答える中澤君、やってきた転校生。
桃青緑は偶然にしてもここまで似せて整えたヤツはきっと悪趣味だわww

安価はするなら投下開始時に宣言するぐらいで良いような?
79 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/17(月) 15:24:58.93 ID:WGlIMCN6o
うん、また遅れたんだすまない。
土日の休みがずれたよとか言い訳はあるけど、守れない投下予告とか意味ないよね。
待ってくれてる人がいたらマジですみません。

そしていつからメガほむの眼鏡がナイロールだと錯覚していた?
でもこの時間軸(?)ではこうなっているということで、訂正なしでいきます。

3話の残り分になりますが、投下します。
80 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/17(月) 15:26:05.44 ID:WGlIMCN6o
これは夢。
それははっきりと理解できた。

空は暗雲が渦巻いて、暴風と豪雨が荒れ狂っている。
何もかもがめちゃくちゃに吹き飛ばされ、ビルも、木々も、道路も、町のすべてが無残な姿を晒していた。
そしてその荒れ果てた町の上に、巨大な何かが浮いていた。
ドレスを着た逆さまの女性のようなシルエット。けれどその中身は、巨大な歯車が回っているだけ。

我が物顔でゆっくりと進むその怪物の周囲に、4色の輝きが舞っている。
赤、青、黄、そして紫。
光が走り、爆発が閃く。その輝きの主が――魔法少女たちが怪物と戦っているのだ。
けれど怪物はなんら意に介す様子もなく進み続ける。
怪物はあまりに巨大で、対する魔法少女たちはあまりに小さい。
まるでゾウに挑むアリの群れ。
うるさい虫でも追い払うかのように、暴風が渦巻いて周囲のビルもろとも根こそぎ吹き飛ばす。
一つの輝きが、消えた。
81 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/17(月) 15:27:06.35 ID:WGlIMCN6o
それでも魔法少女たちは戦いをやめない。
極彩色の禍々しい炎が荒れ狂う。不吉な輝きの光線がなぎ払う。
そのたびに、輝きは一つ、また一つと消えていく。
魔法少女の命が、失われていく。

私は知っている。
あの輝きが、私のよく見知った人たちであることを。
誰よりも優しくて強い、けれど寂しがり屋の先輩。
悪ぶって素直じゃないけれど、仲間思いの勝ち気な少女。
向こう見ずで単純だけど、熱くて純粋な心を持っている友人。
そして――。

だというのに、私の心はひどく褪めていた。
もう結末を知っている映画でも見ているかのように。
これが彼女達の運命なのだと、仕方のないことだと、受け入れていた。
そしてこの後に起こることも、もう終わってしまったこと。

輝きの最後の一つが、ふらふらと枯葉のように落ちて。
それと入れ替わるように、新たな輝きが生まれた。
暖かく、優しく、全てを包むような、今までのものより遥かに力強い輝き。

まばゆい桜色の光が膨れ上がり、怪物も、景色も、全てを飲み込んで――
82 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/17(月) 15:28:26.07 ID:WGlIMCN6o
目が覚めた。

白い天井に、風にそよぐ白いカーテンが視界の端に入る。
少し固いベッドと、薬くさい空気。
外からは笛の音や人の声が響いてくる。
病院? 違う、私は教室で倒れたはずだから……

女性の声「気がつきました? ここは保健室です」

静かな声が返ってきた。女性の声だけど、先生にしては若すぎる。
カーテンが開いて、誰かが覗き込む気配がする。
眼鏡をかけた女の子だ。あれ? 何か見覚えがあるような……。

眼鏡の少女「突然倒れたのでびっくりしました。どこか体が悪いんですか?」

まどか「ええ、大丈夫。ちょっと気分が悪くなっただけよ。

    あなたは、えっと……」

眼鏡の少女「さっきクラスの人には自己紹介をしたんですが、倒れていたあなたは知りませんよね」

ああ、なるほど、さっきの転校生だ。
ところでさっきって、今何時なんだろうか、と別のことが気になってしまう。

眼鏡の少女「ホムラアケミです。よろしくお願いします」
83 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/17(月) 15:29:29.00 ID:WGlIMCN6o
え?
思わぬ名前に、ぺこりと頭を下げてお辞儀をしたその子をまじまじと見てしまう。

アケミ「火の群れと書いて火群です。あけみは平仮名」

視線の意味を疑問と受け取ったのか、名前の書き文字の説明をされた。

まどか「あ、ありがとう。でもごめんなさい。見てたのはそうじゃないの。似てる名前だから、驚いちゃって」

お母さんと、とは言わなかった。
余計な詮索をされても困るし、偶然にしたって悪趣味すぎる気がする。
というかそれ以前にややこしい。他のクラスにするとかなかったのだろうか。

あけみ「そうですか。すみません、まだクラスの人の名前を覚えきれてなくて」

火群さんの受け答えはやけに淡々としていた。こういう性格なのだろうか。
気のせいか、こっちに向けられている視線もあまりいい雰囲気のものではない。

まどか「私から名乗った覚えもないし、謝ることないわよ。

    私は暁美まどか。暁(あかつき)っていう字に、美しいで、暁美。まどかは平仮名よ。」

あけみ「よろしくお願いします。

    確かに似てますね、でも私を『火群』と呼んでもらえれば問題ないと思います」

まどか「そういうのって、普通は名前で呼んでって言うものじゃないの?」

あけみ「『あけみ』ではややこしくなります。それに」

わずかに言葉が途切れる。そして続いた言葉は、ひどく冷たい、人を拒むような響きのものだった。

あけみ「私は、あな――皆さんとそこまで親しい仲でもないですし」

今、言い直したわよね?
よくわからないけど、これは明らかに嫌われてるというか、警戒されてる。
何か悪印象持たれるようなことでもしてしまっただろうか。
まあ、せっかく転校の挨拶をしようとしたところにいきなり人が倒れるとか、悪かったと思うけど。
84 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/17(月) 15:30:43.93 ID:WGlIMCN6o
まどか「そう。

     あの、さっきは悪かったわね。せっかく転校してきて始めの挨拶なのに、滅茶苦茶だったでしょ?」

あけみ「そうでもありません。

     保健委員の方が対応してましたから、少し遅れただけで自己紹介も無事出来ました」

まどか「あ、そうなの……それなら良かったわ。

     ところで火群さんはどうして保健室に?」

あけみ「心臓の持病で、薬を飲まないといけないんです。

     今は休み時間なので、そのために」

まどか「そう……今って休み時間だったのね」

淡々とした会話が続く。
空気がどんどん重くなってる気がする。保健室という締め切った空間だから、余計かもしれない。
さすがにそろそろこの空気がきつくなってきた。
記憶がないから初対面かどうかは大して変わらないと思うけど、明らかに敵意を向けられるのは辛い。

あけみ「そろそろ休み時間が終わるみたいです。私はこれで」

まどか「あ、ちょっと待って。私も戻るから、一緒に――」

さっさとドアに手を掛けて出て行こうとしていた火群さんが、半分だけ振り返った。
その眼鏡越しに投げられた視線は、敵意ではない。でも決して親しみのあるものではない。

あけみ「あなたは」

むしろ、未知のもの、得体の知れない何かを見るような、そんな視線。
警戒。恐怖。疑念。

あけみ「あなたは、何なんですか? 私はあなたを知らない」

そのまま、ぴしゃり、と火群さんの姿はドアの向こうに消えて。
授業開始のチャイムが鳴り響いた。
85 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/17(月) 15:32:00.17 ID:WGlIMCN6o
第3話「私はあなたを知らない」





ふう、展開としてはこれだけなのに、なかなか難産でした。
人物がどんどん増えて把握がめんどくさいかと思いますが、
これで主だった人物は出揃ったので、次から核心に向けて動き始める予定です。
86 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/17(月) 15:43:51.47 ID:WGlIMCN6o
>>77>>78
悪趣味な>>1です、ティヒヒ
展開を気にしてもらえているなら嬉しいです。
どうして世界がこうなってるのか、いい意味で予想を裏切っていきたいと思います。

安価ですが、開始時に宣言+安価部分で名前欄に明記
という形で行かせてもらおうかと。
今回投下では安価なしでしたので特に書きませんでしたが、
無しなら無しで明記すべきかもしれませんね。
もしリアルタイムで見てる方がいたら申し訳ないので。

次回はまた週末あたりの予定です。
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/17(月) 16:24:55.15 ID:FmfUFlBDO
う、お、ん。んんー?一体全体何がどうなっちまってるんだ?

これが新世界というものか…。
88 : ◆J0gg2XogfY [sage]:2011/10/17(月) 17:10:02.23 ID:WGlIMCN6o
>>87
ですよねー……
ある程度狙ってそうしてますが、さすがに混乱すると思うので一度整理しましょうか。
話にならってまどかの主観をもとに書いてみます。


暁美まどか:
主人公。見滝原中2年で魔法少女だが記憶喪失中。
桃髪、ロング。武器は弓。QB曰く「魔法少女としてはベテラン」
暁美ほむらの娘らしい。

暁美ほむら:
まどかの母親らしい。
魔法少女で、マミ、杏子とは仲間だった。
現在行方不明だが、QBによれば少なくとも生存しているのは確か。

キュゥべえ:
少女と契約して魔法少女にする力を持った謎の宇宙生物。
感情エネルギーを収集するために魔獣のグリーフシードを集めている。
まどかの願いの内容を知っているが、ある人物との約束により明かすことを拒否している。

巴マミ:
ほむらの魔法少女仲間だった人。20代くらい?
紅茶を入れるのとお菓子作りが得意。
優しいが怒ると怖い。

佐倉杏子:
ほむらの魔法少女仲間だった人。20代くらい?
斜に構えているけど結構いい人。

千歳ゆま:
見滝原中1年で魔法少女。
マミ、杏子と同居。しっかり者でいろいろ世話を焼いてくれる。

上条さやか:
見滝原中2年で魔法少女。まどかと同じクラスで親友。
ゆまも含めて3人で活動していた。

火群あけみ:
見滝原中2年。まどかと同じクラスに転入してきた少女。
まどかに警戒心を持っているようだ。
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/17(月) 17:13:22.55 ID:P4IlGu17o
20代で中学生の娘を持った訳か、黒い人は



拾った子じゃなかったら種付けした奴は磔刑だな
90 : ◆J0gg2XogfY [sage]:2011/10/17(月) 17:20:43.50 ID:WGlIMCN6o
>>89
まどかがマミさん達見て20代と思っただけで本t

おや誰か来たようだ
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/17(月) 19:47:49.71 ID:t1EyxI6yo
乙です。
普通のメガほむかと思わせておいて2周目以降メガほむっぽいこの雰囲気。
>>1さんは本当に鬼畜なお方だ……ww
92 : ◆J0gg2XogfY [sage]:2011/10/22(土) 15:22:28.09 ID:IFyapa4bo
報告です。
今週用事が立てこんでまして、一応のプロット程度は立ってますが
書き溜めがまったく出来てません。
すみませんが投下は1週お休みさせてもらうことになりそうです。
遅筆のせいで、待ってくれてる方には申し訳ない。

>>91
鬼畜ですかね?
まあ、秘密や問題を抱えてる女の子たちが
魔法少女という接点で関わっていくのがまどマギですから。
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/22(土) 15:23:42.65 ID:ZUkyhH9DO
この世界にも、近い未来にとてつもなく大きな脅威が待っているのか…?
94 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/31(月) 19:50:55.67 ID:veyCNnpuo
先週お休みをいただいた分今週頑張らないと……と思ってましたが、
文章量が倍に! なんてことはありませんでした。
相変わらずスローペースですがお付き合い下さい。

なお今回投下分も安価はありません。
というかプロットがかなりガチガチになってしまい、
今後安価が出るかどうか怪しいかも……。

では第4話前半を投下します。
95 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/31(月) 19:52:57.34 ID:veyCNnpuo
さやか「それにしてもびっくりしたよ、いきなり倒れるんだもん」

ゆま「まどかお姉ちゃん、大丈夫なの? やっぱりまだ具合悪いんじゃ……」

まどか「心配してくれてありがとう。大丈夫よ、今は何ともないわ。午後からは授業に出るから」

昼休みの屋上で、私たち3人はお弁当を囲んでいた。
私はパンでも買えばいいかと思っていたけど、準備のいいことにゆまちゃんが2人分持ってきていた。
私の前にあるのはその片方というわけだ。

ゆま「まどかお姉ちゃん、今大変だし、お昼のことまで考えてないかもってマミお姉ちゃんが」

まどか「そんなに気を遣ってもらって、マミさんにはお世話になりっぱなしね。うん……美味しいわ」

でもご飯に模様を描くのはいいとして、題材があの妙な生き物――キュゥべえなのはどうかと思う。
開けた瞬間、思わずグチャグチャにしたくなったわ。
せっかくのお弁当だからさっさと削り取るだけにしたけど。
一方のさやかのお弁当も可愛らしい。これもお母さんの手作りってところかしら。

まどか「ところで私が倒れた時かその後、何かあった?」

さやか「何かって例えば? 別にまどかが倒れた他に事件とかなかったよ。

    まどかを先生達が保健室に抱えていって、その後で転校生が自己紹介しただけ。

    あ、それでねまどか! ゆまちゃんも聞いてよ、その転校生の名前がびっくりなんだけど」
96 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/31(月) 19:53:48.70 ID:veyCNnpuo
ゆま「何なに? 変わった名前とか?」

まどか「盛り上がってるのに悪いけど、もう知ってるわ。火群あけみ、ね」

ゆま「ええっ!?」

さやか「……あれ、何で知ってるの?」

まどか「保健室で会ったの。

    ちょうど目が覚めたときに、火群さんが薬を飲みに来てたから、自己紹介されたわ」

さやか「あ、そういうことか。まどかが驚くだろうなって思ったのに、ちぇー」

ゆま「それってすごい偶然……だよね? でもまどかお姉ちゃん、何て言うか……嫌じゃない?」

まどか「お母さんとのこと? 別に人の名前なんて、同姓同名だってよくあることよ。

    わざわざ同じクラスにしてややこしくしなくてもいいのにとは思うけど」

さやか「学年でうちのクラスだけ人数少なかったからね。それは仕方ないんじゃない?」

まどか「ああ、そういうことなの」
97 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/31(月) 19:54:54.30 ID:veyCNnpuo
さやか「あ、そう言えば転校生もまどかのこと訊いてきたよ」

まどか「私のことを?」

さやか「うん。さっきの人は誰ですかって。名前教えて、親友だって言ったら何か考え込んでた。

    あ、まどかのお母さんの名前までは言ってないけど……何、もしかして知り合いとか?」

まどか「違う、と思うけど……ちょっと待って。と言うことはあの子、私の名前は知ってるのね?」

さやか「忘れたんじゃなければ知ってると思う。

    あ、それで思い出したけど、あの子、あたしやチエの名前も一発で覚えてたよ。

    普通、転校したてで全員の名前ってなかなか覚えにくいと思うんだけど。

    2限の数学も、ずっと休学してたはずなのにすらすら解いてたし、やっぱあれかな?

    眼鏡っ子だけに秀才キャラとか?」

さやかのよくわからない評価はともかく、どういうことだろう?
保健室で会ったとき、火群さんはまだ皆の名前を覚えていないとか言ったはずだ。
あれは嘘だったんだろうか。でも何のために?

ゆま「どうかしたの、まどかお姉ちゃん?」

まどか「いえ、ちょっとね」
98 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/31(月) 19:56:12.66 ID:veyCNnpuo
さやか「やけにあの子のこと気にするね、まどか。さては惚れたかぁー?

    確かにあの眼鏡っ子キャラは萌えだけど、浮気はだめだぞー。まどかはあたしの嫁だもん!」

うりうり、とさやかがひじで突っついてくるので、思考は中断されてしまった。
ゆまちゃんに目配せすると、いつものことだよ、という風に肩をすくめていたので、おでこを押してやめさせる。

まどか「馬鹿なこと言ってないで、他にも教えて。火群さん、他にも私のこと何か言ってたりしなかった?」

さやか「え、もしかして本気……ごめん冗談だから、無言でそんな目で見るのやめて!」

ゆま「さやかお姉ちゃん、私は女の子同士でも応援するよ?」

さやか「ゆまちゃんもそんな純真な目で見つめないで! 心が痛いから!」

まどか「はぁ……もういいから、何か言ってなかったの?」

さやか「うう……その名前聞いてきたくらいで、あと何もなかったよ。

    授業始まっちゃったし、休み時間になったら薬飲むって保健室に行っちゃったし。

    あ、それはまどかも知ってるか。その時に会ったんだもんね」

名前くらいであんな敵意を向けられるとも思えないけど。
他に何もなかったのなら、私が倒れたこと自体に問題があったか、寝ている間に保健室で何かがあったのか。
でなければ、さやかが言ったように、実はもっと前にどこかで会っていて、それを忘れてしまっているのか。

まどか「そうなのよ、そうなんだけど……ねえ、午前中の授業ではどんな感じだった?」

ゆま「その人のこと、何か気になることでもあるの? まどかお姉ちゃん」

まどか「ええ、ちょっとね……保健室で会った時、あまりよく思われてないみたいだったから。

    気づかないうちに嫌われるようなことしてたかなって気になって」
99 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/31(月) 19:58:32.15 ID:veyCNnpuo
さやか「いやー、ないと思うよ、そんなこと。

    さっきも言ったけど、まどかが倒れて、名前訊かれて、休み時間にあの子が保健室行って。

    関わりありそうなことなんてそのくらいだよ。それくらいで嫌われるとかないと思うんだけど」

もちろんさやかが何か見落としている可能性だって無くはないけど。
でも、原因がわからないという意味では同じことだ。
後は本人に訊くくらいしかないけれど、あの調子ではまともに話が出来るかすら怪しい。

さやか「ただおとなしいって言うか、クール系っていうの? 壁作ってるみたいな感じはするかな。

    単に緊張してたのかもだけど、自己紹介の時は名前だけ言って黙っちゃって。

    みんなが話しかけてもあんまり喋らないし」

つまり私以外に対しても、保健室で見たような調子だったのは変わらない、ということだろうか。

さやか「でも何だか知らないけどあたしには向こうから話しかけてきたんだよね。

    名前で呼んでください、とか言っちゃってさ。

    あれかな、あたしの魅力にクラクラ来ちゃった?」

……何だか、私に対する態度と随分違うじゃない?
さやかの余計な妄想はどうでもいいとして、私には親しくないから苗字で呼べとか言ったのに。
これはいよいよ、私だけが原因不明の嫌われ方というか、拒絶されているらしい。
100 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/31(月) 19:59:25.41 ID:veyCNnpuo
まどか「なるほどね、ありがとう。大体わかったわ」

ゆま「まどかお姉ちゃん、その人に嫌われてる理由、わかったの?」

さやか「え、あれ、今度はツッコミなし? スルーですか?」

まどか「わかったのは、私が嫌われてるのは気のせいじゃなさそうってこと。

    それから、嫌われる理由がわからないってこと。

    でも理由のほうは、もしかしたら私が忘れてるだけかもしれない。

    知るには火群さん本人に訊くしかないと思うけど、教えてもらえる気がしないわね」

ゆま「うーん……仲良く出来ればいいのにね」

さやか「こんなのってないよ、酷すぎるよ……」

これ以上この問題について考えても仕方ない。
と、結論が出たところで、肝心の話題を出していないことを思い出した。
なぜか落ち込んでいるさやかに声を掛ける。

まどか「とりあえずこの話題は終わりにしましょう。

    それよりさやか、朝言った通り、大事な話があるのよ」
101 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/31(月) 20:03:14.20 ID:veyCNnpuo
さやか「あたしどうにかなっちゃうよ……」

ゆま「さやかお姉ちゃん、すねちゃってるよ?」

まどか「ちょっと聞きなさい、さやか!」

なぜか体に染み付いていた速度と角度で、さやかにツッコミを入れる。

さやか「はっ!? あ、ごめんごめん。

    そう言えばそれで集まったんだっけ。で、大事な話って?」

まどか「その前に、ここ、私たち以外に誰もいないわよね? あまり人に知られたくないから」

ゆま「大丈夫だよ、ここ使ってるの私たちだけだもん。普段は鍵がかかってるし」

なるほどね、魔法少女同士の秘密の場所、というわけか。

まどか「じゃあ話すわ。ゆまちゃんはもう知ってるけど、実は私……記憶喪失なの」

さやか「へえ、記憶喪失か……は?」
102 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/31(月) 20:04:00.94 ID:veyCNnpuo
まどか「記憶がないの。昨日の昼間より前のことが、全然思い出せないの」

さやか「またまたー、ご冗談を。だってあたしやゆまちゃんの名前とか覚えてるじゃん」

まどか「ゆうべ必死に顔と名前だけ覚えて、話合わせてるのよ。そうじゃないと怪しまれるでしょ」

さやかはどう見ても信じてない表情で、ゆまちゃんの方を見る。

ゆま「本当……だと思うよ。

   昨日キュゥべえが、道端でまどかお姉ちゃんが倒れてて、記憶がないって言ってるって呼びに来たの。

   マミお姉ちゃんが家に連れて来たけど、私たちのことも最初覚えてなかったみたいで……」

さやか「うーん……じゃあ、先週CDショップに一緒に買い物行ったのも覚えてない?」

まどか「覚えてないわ」

さやか「あたしとまどかが可愛がってた野良猫のこと覚えてない?」

まどか「さっぱり」

さやか「それじゃ、あたしがマックでいつも頼むものは何?」

まどか「わからないわね」
103 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/31(月) 20:04:54.24 ID:veyCNnpuo
さやか「それならあたしがまどかに2000円借りたことも覚えてないよね」

まどか「覚えてないけど、もし本当なら返して欲しいわ」

さやか「いやそれは嘘だけど。ううーん……キュゥべえやゆまちゃんも言ってるし。

    それにまどかはそんな妙な冗談言うキャラじゃないし。

    なんでそんなことになっちゃったの? なんで隠してるのさ?」

まどか「原因なんてこっちが知りたいわ。気がついたら路地裏で倒れてて、記憶がなかったの。

    あのキュゥべえとかいう変な生き物が来なかったら名前も思い出せてなかったかもね。

    私が魔法少女だってこともそのとき聞いたわ。

    隠してたのは余計なトラブルを避けたかったから。

    気がついたらお母さんは行方不明だし、父親は不明だっていうし。

    訳のわからない魔獣とか言うのと戦わなきゃならないし。

    これだけでも頭がごちゃごちゃなのに、学校で妙な気を遣いたくないわ」
104 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/31(月) 20:14:46.99 ID:veyCNnpuo
ゆま「それに、病院とか行ったら、たぶんいろいろ訊かれると思う。

   警察の人が来て、まどかお姉ちゃんの一人暮らしのこととかわかったら何か言われるかも」

まどか「下手したらどこかの施設に入れられるかもね。

    そうなったらいよいよ周りに知ってる人のアテもないし、魔法少女としても活動できないでしょうね」

さやか「それはまずいよ……っていうか、まどかと離れるなんてやだよ!」

ゆま「私だってそんなの嫌だよ!」

まどか「だから、少々不便だけど黙っておきたいのよ。

    でも、同じ魔法少女同士だし、親友なんだから、さやかなら味方になってくれると思って」

さやか「そっか……ありがと、まどか。頼ってくれて。出来ることなら何でもするよ」

まどか「まあ、お願いするって言っても口裏合わせとか、会話のフォローとかかしらね。

    もしかしたら普通にしてる間に記憶が戻るかもしれないし」
105 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/31(月) 20:21:09.88 ID:veyCNnpuo
ゆま「私もお手伝いしたいけど、学年違うし、そばにいられないかも……」

まどか「ゆまちゃんは昨日も今朝も、学校のこと教えてくれたじゃない。

    おかげで教室の場所がわからなくて迷ったりしなくて済んだわ。

    休むつもりだったのに連れてきてくれたし、お弁当まで準備してくれたもの。

    十分助けてもらってるわよ。ありがとう」

さやか「おおー、さすがゆまちゃんはよく気が効くねえ」

ゆま「う、うん……ありがと、まどかお姉ちゃん」
106 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/31(月) 20:26:55.35 ID:veyCNnpuo
お互い頭を下げる妙な光景だったけど、この二人とは本当に仲が良いんだなとわかる。
単に魔法少女の秘密を共有しているというだけでなく、お互いを信頼し、尊重している親友なんだと。

さやか「でもそれだと、今までみたいにまどかに仕切ってもらうわけにも行かないな」

まどか「私が仕切るって、何のこと?」

ゆま「魔獣退治のパトロールだね、今まではまどかお姉ちゃんがリーダーだったけど」

まどか「そんなこともやってるのね。
     
    ……無理ね、土地勘も思い出せないし、戦うにしても一人なら何とか動けると思う。

    だけど連携とかは無理だと思うわ」

さやか「おお、それじゃ、遂にさやかちゃんの時代ですかな?

    前から思ってたけど、武器が剣っていかにもリーダーって感じだもんね!」

まどか「なぜかしら、戦ってるところ見た記憶がないのになぜか不安を感じるわ」

ゆま「私はそれでいいよ?」

さやか「まどかはキツイなあ……本当は覚えてんじゃないの?

    まあ、さっきのは冗談として、ゆまちゃんがいいと思うな。

    正直、いろいろ考えて戦うのはあたしの性格に合ってないし。

    それにゆまちゃんの方があたしなんかよりずっとベテランだもんね」
107 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/31(月) 20:36:05.12 ID:veyCNnpuo
まどか「そうなの? ゆまちゃん、子供の頃に契約したとは昨日聞いたけど」

さやか「そうだよ、私なんか契約したのはつい2ヶ月前。

    それになんたって、ゆまちゃんはあのマミさんと杏子さんの愛弟子だもん」

ゆま「ええー……自信ないよ。ずっと一緒に暮らしてるってだけだから……」

まどか「今の私じゃ戦力としては半人前以下よ。さやかがそう言うなら、あなたに任せるのがいいと思う。

    やってくれるかしら、ゆまちゃん」

さやか「そうそう、あたしだって実力の違いくらいわかるよ、ちょっと悔しいけどね」

ゆま「う、うん。頑張ってみる。それじゃ、いつも私たちがしてるパトロールの内容とか説明するね」

不安そうな言葉とは違って、ゆまちゃんの表情は活き活きしていた。
年下なのにしっかりした子という昨日からの印象は間違っていないらしい。

ゆま「あ、まどかお姉ちゃん、ちゃんと聞いててよ。

   まどかお姉ちゃんに一番ちゃんと聞いてもらわないとダメなんだから」

まどか「ああ、ごめんなさい。それで、パトロールってどうやってるの?」

ゆまちゃんが広げた紙に目を落とす。
だから、そのときの私は気づかなかった。
隣の校舎の屋上から、私たちをじっと見つめる視線があることに。
108 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2011/10/31(月) 20:42:31.71 ID:veyCNnpuo
第4話前半は以上です。
ストーリーに進展がなくて申し訳ありません。
後半はできれば3日に投下したいと思っていますが、
筆の進み具合によって遅れるかもしれません。

よかったらまた読んで下さい。

>>93
今の時点では、事件が起こらないとお話が盛り上がらないと思っています、とだけ。
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/10/31(月) 20:58:45.40 ID:KVbpGD9AO
文章書くのうまいなぁ
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/31(月) 21:41:58.58 ID:FHZsGJx+o
お疲れ様でした。
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/07(月) 16:40:06.67 ID:ZN3vNWsDO
あけみって聞くと、よく水商売の看板に使われてる様なイメージがあるのは何でなんだろ?
112 : ◆J0gg2XogfY [sage]:2011/11/09(水) 00:49:59.85 ID:S5Gl+BRho
書く書く詐欺になってきてる気がする>>1です。
また報告のみですみません。
4話後半のとあるシーンで詰まってまして、大幅に遅れております……。
さすがに次の週末までには何とかお届けできれば、と。

それとは別に、仕事の事情で今まで以上に投下が遅れるかもしれませんが、
エタるつもりはありませんので気が向いた時にでも様子見に来てもらえれば幸いです。
あまり開くようなら1回を短めにすれば何とか……なるかなあ?

>>109
うまいと思う作者さんはこの板だけでも大勢いますし、
そういう人たちに比べて自分ではまだまだと思いますが、励みになります。
ありがとうございます。

>>110
この板に自分でスレを立てて書くのは初めてですが、一言一言がとても励みになってます。
書くことでしか返せないと思うので、お待たせしてるのは申し訳ないですが、
頑張って書いていきたいと思います。

>>111
確かに古い刑事ドラマとかでも出てきそうですね、何ででしょう。
「ほむら」は苗字でもなんだか厨二っぽいです。
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/20(日) 16:47:34.82 ID:Qpl4vacDO
結構複雑なお話しみたいだし、時間がかかるのは仕方がないんじゃないかと…。
114 : ◆J0gg2XogfY [sage]:2011/12/16(金) 00:43:27.60 ID:0otso04mo
1ヶ月以上放置ですみません。
構想をまとめたり書き進める時間がまったく取れていない状態です。
まさか本当に1行も進まないとは……。
最終的な展開と方向性についてはほぼ固まっているのですが、
細かい部分やすぐ次の話の内容が全然詰められていないのです。

一度打ち切って仕切り直すことも考えましたが、
ここまで読んでいただいている方に申し訳ないですし、
年末年始で多少時間が取れそうなので何とかしたいと思います。

言い訳めいた報告のみで申し訳ないですが、もう少しお待ち下さい。
115 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/18(日) 14:40:42.07 ID:6oxpPedWo
ティヒヒしながら待つ
116 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2012/01/01(日) 14:53:04.98 ID:P/ZZYaaDO
あけおめ!>>1さんは元気だろうか?
117 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2012/01/05(木) 02:52:36.70 ID:BZ5a96P3o
明けましておめでとうございます。
松の内が明けないうちに生存報告できて幸いです。

さんざんお待たせしてすみませんでした。
第4話後半部分、投下します。
118 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2012/01/05(木) 02:54:01.58 ID:BZ5a96P3o
夕陽に照らされたビルの影が、道路を光と影のまだら模様に染めている。
私たち3人の影も長く伸びて、影の中へと溶け込んでは、再び光の下へ姿を見せる。
まるで自分が影絵の舞台にいるかのような、目の前の景色が現実なのか夢なのかが曖昧になっていくような、そんな感覚。
私自身はこの街のことも、毎日繰り返しているというパトロールのことも何も覚えてはいないのに、ごく自然に2人と歩いている。
路地裏で襲われた私にキュゥべえが言ったように、たとえ記憶がなくても体が覚えている、というものだろうか。
でも無我夢中だったあの時とは違う。まるで私の頭の中と、私の体は別のもの。
そんな錯覚すらして、またあの鈍痛が頭の奥でうずきだした。

「そう言えば、午後の授業って大丈夫だったの?」

近くの誰かが発した言葉に、ふと我に返る。緑の髪の少女――ゆまちゃんが私を見上げていた。
その手には、細やかな装飾の施された、淡く緑に光る宝石のようなもの――彼女のソウルジェムが握られている。
まだその輝きは淡く、魔獣を呼び込むという瘴気は、それほど濃くなってはいないようだった。

「ええ、問題なかったわよ。授業が理解できるかどうか心配だったけど、そういうことは頭に残ってるのね」

前回までの授業の内容がきっちりまとめられていたノートといい、元の私に感謝しておかないと。

「なんで記憶喪失のまどかがわかって私がわからないのか、訳がわからない……」

この場にいるもう一人、さやかは何だか落ち込んでいた。
そう言えば当てられて答えられなかったせいで宿題を追加されていたっけ。ご愁傷様。
119 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2012/01/05(木) 02:55:11.59 ID:BZ5a96P3o
「あ、えっと、そっちもあるけどそうじゃなくて……」

「ああ、火群さんのことね?」

もうひとつの懸案事項である、謎の転校生・火群あけみ。
教室に行けば必然的に顔を合わせるしかないわけで、何かひと悶着くらいは私も覚悟していたのだが。
結論から言えば、何もなかった。

「彼女の席は最前列で、私とは離れているしね。それでも時々、ちらっとこっちを見てるようではあったけど」

「休み時間や放課後も何も言ってこなかったね……って言うか、むしろ関わらないようにしてるって感じかな?」

「あなたに懐いてるって言ってたから、てっきり放課後のお誘いでもあるかと思ったのに」

「やっぱり、まどかが近くにいたからじゃない?」

保健室での態度と、さやかから聞いた様子だと、私を押しのけてさやかに話しかけたりしてもおかしくなさそうな気がしたけど。
実際にはそんなことはなく、近づいてすら来なかった。
他のクラスメイトに囲まれていたせいもあるかもしれない。
それでも私たちが一緒に教室を出ようとした時、一瞬、剣呑な視線を送ってきていたから、気にはなっているのだろう。
120 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2012/01/05(木) 02:56:03.36 ID:BZ5a96P3o
「え、そんなことあったの?」

「気づいてなかったのね。まあ火群さんが敵視してるのは私だけみたいだし、あの視線も私あてなんでしょうね」

しばらく話を聞いていたゆまちゃんが、首をひねりながら話に入ってくる。

「うーん……確か、さやかお姉ちゃんのことは好きそうなんだよね、その人」

「なんでか知らないけど、そうだね。あ、あたしから聞いてみるってのはどうかな? なんでまどかを嫌うのか」

「何となく、それって逆効果だと思う。もしかしてその人、まどかお姉ちゃんにヤキモチ焼いてるんじゃないかな?」

「え?」

「はあ?」

私とさやかは、いきなり妙なことを言い出したゆまちゃんを見つめた。
121 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2012/01/05(木) 02:56:56.01 ID:BZ5a96P3o
「あのね、もしその人がさやかお姉ちゃんのことを前から知ってて、好きだったらって考えたのね」

今ひとつ自信なさそうに首を傾げながら、ゆまちゃんは続ける。

「いや、でも私はあの子のこと知らないよ?」

「だから、もしかしたらって話。それに、前にどこかで会ってて、その人だけが覚えてるかもしれないでしょ。

 さやかお姉ちゃんが記憶喪失とかじゃなくて、単純に忘れてるかもってことだけど」

「ううーん……まあ、そりゃ絶対会ったことないかって言われると自信ないけど」

さやかが腕組みをして考え込んでしまったので、私が先を促した。

「それで、もしそうだとしたら?」

「うん、それで、やっとさやかお姉ちゃんに会えたのに、もう他の人と親しくしてたら、ちょっとがっかりっていうか……。

 その親しそうな人にヤキモチ焼いちゃうんじゃないかなって思ったの」

「つまり、それが私ってこと?」
122 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2012/01/05(木) 02:58:29.89 ID:BZ5a96P3o

「うん……杏子姉ちゃんと一緒に初めてマミお姉ちゃんと会った時、私がそんな感じだったから。

 その時のマミお姉ちゃんは、杏子姉ちゃんに意地悪なこと言ってるような気がして嫌だったんだ。

 でも、二人が仲良さそうだったのも嫌だったんだよね。

 だからイライラして、ついマミお姉ちゃんに意地悪しちゃった」

嫉妬して意地悪とか、このゆまちゃんからは想像できないわね。

「いったい何したの?」

「えへへ……マミお姉ちゃんのスカートめくっちゃった。そしたらマミお姉ちゃん泣いちゃって」

ぺろっと舌を出すゆまちゃん。
意地悪でスカートめくりって、可愛らしいのかえぐいのかよくわからないわ。
小さな子にスカートめくられて泣き出すマミさんもどうかと思うけど。

「あの人今でも純真すぎるけど、昔はどんだけ乙女だったのよ……」

さやかが半分あきれたように言う。
123 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2012/01/05(木) 03:01:25.12 ID:BZ5a96P3o
「あ、その人が、本当にそう思ってるかはわかんないよ。私は直接会ってないし。

 もしかしたらそうなのかもって思っただけで、本当は違うかも」

「ありがとう、参考になったわ」

ゆまちゃんはやっぱり自信がなさそうな雰囲気だった。
私も半信半疑だったけれど、確かにそれならある程度筋は通る気がする。
もっとも、本当のところはやはり確認してみなければわからないわけで、どう確認すればいいのかが問題なのだが。

そして私たちの会話がふと途切れた、その時に。

「あ……!」

ゆまちゃんが小さく声を上げる。
見ると、ソウルジェムの光が、何かを知らせるように明滅を始めている。
昼間、パトロールの概要と一緒に教わった。
瘴気が流れ込み、魔獣がこの世界に生まれ出ようとしている。
124 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2012/01/05(木) 03:04:58.73 ID:BZ5a96P3o
「こりゃ、今日のパトロールは『あたり』だったみたいだね」

さやかが視線を向けた先は、すっかり日が傾き、夜に染まりつつあるビル街のプロムナード。
いつの間にか周囲は不気味なほど静まり返り、生きて動いているものは私たち3人だけのようにも感じられる。
意識を凝らせば、目には見えない闇のような空気があたりを漂い、次第にそれが凝り固まっていくのが感じられる。

「気をつけて、まどかお姉ちゃん」

「来るよ、まどか……あいつらが」

太陽が一瞬の輝きを残して沈み、急速に闇が広がっていく。
かりそめの日常が終わり、魔法少女の時間が始まろうとしていた。
125 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2012/01/05(木) 03:05:45.94 ID:BZ5a96P3o
第4話「私がそんな感じだったから」

126 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2012/01/05(木) 03:20:59.24 ID:BZ5a96P3o
約2ヶ月ぶりなのにこの短さとかどういうことなの。
しかも予定では3人チームでの戦闘お披露目だったはずがそこまで進めてないという。
この3人の空気をなかなか取り戻せなくてつらかった。
待っていてくださった方にはひたすら感謝です。

次回もまたしばらく間が空いてしまいそうな感じなのですが、
空きすぎると自分でも空気感を保つのが厳しくなるというのが身に染みましたので、
そう遠くないうちに、と言っておきます。
次回こそはゆまちゃんさやかちゃんにも魔法少女として見せ場があるはず。
かつ、謎の火群さんの動きも見せて行きたいところです。
頑張ります。
127 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2012/01/05(木) 03:23:46.17 ID:BZ5a96P3o
ひとつ言い忘れました。
今回、台詞の前の名前が不要かもと思ってなくしてみましたが、どうでしょうか。
これでいい、誰の台詞かわからん、など意見をいただけると幸いです。
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/06(金) 09:36:54.33 ID:ST+V7mvDO
乙です!
3人のコンビネーションバトルがどうなるのか楽しみですね!

キャラの台詞はなんとなくわかりますよー。
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/06(金) 22:10:15.39 ID:FaTNuebxo
乙です
キャラの台詞はこのぐらいの人数なら問題なくわかりました。
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/07(土) 22:05:52.74 ID:kRuOOMu4o
名前なかったけど自然と分ったしいいんじゃないかな
131 : ◆J0gg2XogfY :2012/01/17(火) 00:00:18.46 ID:XD3pczZSo
ゲームブック風まどかのスレが面白すぎて続きが気になる。

すみません私も次の週末くらいには何とか。
あと名前なしでも大丈夫そうとのことなのでこのままいってみます。
この先、会話に参加する人が増えて混乱しそうになったらその時はまた考えるということで。
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/19(木) 08:46:07.21 ID:tM613ccDO
ククク…(←意味不)、週末か、楽しみだ。
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/23(月) 23:01:21.83 ID:gakNdJqE0
まってる
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/01/27(金) 16:17:29.75 ID:dwZTxaHs0
マミ「今日も紅茶が美味しいわ」668からの分岐改変が起きない平行世界
もし改変が起きない平行世界のマミがシャルロッテに死ななかったら OR マミ死亡後にまどかがマミ、QBの蘇生願いを願ったら
魔法少女全員生存ワルプルギス撃破
誰か書いてくれたらそれはとってもうれしいなって
135 : ◆J0gg2XogfY :2012/02/19(日) 12:57:28.18 ID:YBkoqVt8o
なんかもういろいろとすみません。
とりあえず投下します。
136 : ◆J0gg2XogfY :2012/02/19(日) 12:58:01.99 ID:YBkoqVt8o
私たちの他には人っ子一人見えないビル街を、闇が覆っていく。
私たちと対峙するように渦巻く瘴気の中に、ぼんやりと人影のようなものがいくつか現れ始めた。
あれは人のようで、人ではない。この世界の歪みから生まれ、人々に絶望をもたらすもの。
そして、私たち魔法少女の敵。魔獣、と呼ばれるものたち。

「さぁーて、それじゃ、いっちょ行きますか!」

指輪をソウルジェムに戻し、さやかが元気に宣言する。そのソウルジェムの輝きは、鮮やかな青。

「うん、まどかお姉ちゃんも」

ゆまちゃんの手の中のソウルジェムも、まぶしいくらいに緑の輝きを放っている。

「よろしくね、ゆまちゃん、さやか」

私も自分のソウルジェムを手にした。
私の色は、紫。ただし完全な紫ではなくて、わずかに赤みがかっている。

私たち3人がそれぞれジェムを掲げると、3色の光が身体を包み込んで、一瞬で魔法少女の衣装に変わっていた。
私のシンプルな衣装と比べると、他の2人はかなり凝っていて、武器もそれぞれ違っている。
137 : ◆J0gg2XogfY :2012/02/19(日) 12:59:02.84 ID:YBkoqVt8o
ゆまちゃんは肩を大胆に露出したチューブトップ風のワンピースに、頭にはネコ耳のような飾りのついたヘッドドレス。
魔法少女というイメージには比較的近いかもしれないが、どっちかというとメイドさんかウェイトレスだ。
けれど手にしている武器は、コスチュームの雰囲気とはかなり異彩を放っている。
ゆまちゃん自身の背丈ほどもある長い柄の先端に、大きな球がついており、さらに尻尾のような飾りが垂れている。
魔法少女の定番アイテム、魔法のステッキ……と言い張るにはごつすぎる。ハンマーだとか呼ぶほうがしっくり来そうだ。
小柄なゆまちゃんには似合わないような武器だし、だいいち全然魔法少女っぽくない。

一方、さやかの衣装は私とも、ゆまちゃんともまったく雰囲気が違う。
動きやすそうなチューブトップにミニスカートは、それだけなら元気系キャラの魔法少女という感じに見える。
ただその上に羽織っているのは白いマント、それにグローブ、ブーツと来ると、どうもヒロインという雰囲気ではない。
それに加えてさやかが手にしている武器は細身の剣だった。
魔法少女というより、ファンタジーRPGに出てくる剣士とかのイメージだ。
あるいは、ヒロインを影で助ける仮面の騎士だとか。
もっとも、さやかにはそれが妙にしっくりくる……と言って本人が喜ぶかどうかはわからないけど。
138 : ◆J0gg2XogfY :2012/02/19(日) 12:59:45.59 ID:YBkoqVt8o
そして私はといえば、昨日も見た、ちょっと変わった制服とでも言い張れそうなシンプルな衣装。
武器が弓というのは、この中では一番魔法少女らしいと言えるかもしれない。
お揃いのヒラヒラコスチュームにメルヘンな武器とか、現実の魔法少女はそんな贅沢は言ってられないらしい。

「おーいまどか? ぼさっとするなー、あいつらそろそろ来るよ」

「ああ……ごめんなさい、大丈夫。それじゃ、昼の打ち合わせどおりでいいのね?」

「うん。あ、それと改めて言うけど」

私のほうを振り返ったゆまちゃんの言葉が、途中から響きが変わった。

『昨日教えた念話、魔獣と戦うときはこれで話すようにしてね』

『あ、そか。あたし達これに慣れてるから、まどかに言い忘れるところだったよ。

 戦ってる間にしゃべってたら舌噛んじゃうし、声も聞こえないことが多いしね』

「わかっ……と」

つい口に出してしまってから、2人と繋がる思考の波に声を乗せて言い直す。
139 : ◆J0gg2XogfY :2012/02/19(日) 13:00:51.35 ID:YBkoqVt8o
『わかったわ、こうね』

『お、使い方ちゃんと覚えてるじゃん。感心感心』

『昨日練習したもんね、まどかお姉ちゃん』

『そこは言わなくてもいいのよ、ゆまちゃん』

使ってみれば、なるほど確かにこれは便利だ。
声が聞こえる範囲にいる必要はないし、考えればその速さで会話が出来る。
おかげで、魔獣が実体化しようとしているこの瞬間にも、悠長に会話をしてられるというわけ。
魔翌力を多少なりとも使うから、なかなか普段から使うわけには行かないらしいけど。

『っと、そろそろまずいかな。じゃあゆまちゃん、まどかのサポート頼むよ。あたしはいつも通り……』

さやかが陸上のクラウチングスタートのように姿勢を低く構えた。
その足元に、青く、魔翌力の輝きが複雑な模様を描き出す。
その見据える先には、もう透けてはおらず、はっきりと見える姿になってこちらにゆっくり迫ってくる魔獣。

『突っ込むだけだぁっ!』

疾風が吹いた。
青く輝く魔翌力を尾のように引きながら、さやかが突撃する。
ゆまちゃんが隣でハンマーを構え、私も少しあわてて弓を番える体勢に入った。
140 : ◆J0gg2XogfY :2012/02/19(日) 13:02:41.94 ID:YBkoqVt8o
残りは夜にまた。
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/19(日) 13:54:35.24 ID:mw56j03f0
お疲れ様です

sagaワスレテルヨー
142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/19(日) 14:53:41.59 ID:Dbou4IMDO
いよいよ戦闘開始か!

まどっちは衣装とかを残念がってる?様だけど、ひらふわファッションにファンシー武器の方が良かったのか?
143 : ◆J0gg2XogfY [saga sage]:2012/02/19(日) 17:03:33.82 ID:YBkoqVt8o
>>141
素で忘れてました、やっちまったーということで再投稿


『わかったわ、こうね』

『お、使い方ちゃんと覚えてるじゃん。感心感心』

『昨日練習したもんね、まどかお姉ちゃん』

『そこは言わなくてもいいのよ、ゆまちゃん』

使ってみれば、なるほど確かにこれは便利だ。
声が聞こえる範囲にいる必要はないし、考えればその速さで会話が出来る。
おかげで、魔獣が実体化しようとしているこの瞬間にも、悠長に会話をしてられるというわけ。
魔力を多少なりとも使うから、なかなか普段から使うわけには行かないらしいけど。

『っと、そろそろまずいかな。じゃあゆまちゃん、まどかのサポート頼むよ。あたしはいつも通り……』

さやかが陸上のクラウチングスタートのように姿勢を低く構えた。
その足元に、青く、魔力の輝きが複雑な模様を描き出す。
その見据える先には、もう透けてはおらず、はっきりと見える姿になってこちらにゆっくり迫ってくる魔獣。

『突っ込むだけだぁっ!』

疾風が吹いた。
青く輝く魔力を尾のように引きながら、さやかが突撃する。
ゆまちゃんが隣でハンマーを構え、私も少しあわてて弓を番える体勢に入った。
144 : ◆J0gg2XogfY :2012/02/20(月) 03:45:55.59 ID:NimpRjebo
深夜でも夜のうちには違いない、はず。続きです。
145 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2012/02/20(月) 03:46:37.87 ID:NimpRjebo
『ちょっとさやか、本当に大丈夫なの!?』

作戦通り真正面から突っ込むさやかを、魔獣が何もせず見てるはずがない。
うめく様な奇妙な声を上げながら、僧衣の中から腕を伸ばしてくる。

『先手必勝ぉぉっ!』

さやかはそれに向かって、止まるどころかさらに加速した。
弾丸のように魔獣に突っ込むと、そのまま横薙ぎに剣を振るう。
青い魔力の輝きが一閃し、魔獣が数体切り裂かれた。
ただ一人で突っ込んできた相手に、残りの魔獣の腕が迫る。
が、さやかは何もない空中を蹴って、今度ははるか頭上へと跳び上がっていた。
そこへ、至近距離を黒い光線がかすめる。

『うわっとっと!』

あわてて体を翻すさやか。けれど、かわしきれなかった光線が剣に当たり、刀身が砕ける。

『ちぇっ、このぉっ!』

手にこめた魔力の輝きが爪のように伸び、左右それぞれ3本、計6本の剣がさやかの両手に現れた。
そのまま、回転の勢いに乗せて打ち放つ。
けれどそれも魔獣の光線に撃ち落とされ……なかった。
見えない何かに横から押されたように、剣の軌道がずれ、光線は何もない空間をむなしく通り過ぎる。
剣は勢いを殺さぬまま、魔獣に次々と突き刺さる。けれど魔獣は倒れない。
146 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2012/02/20(月) 03:47:28.86 ID:NimpRjebo
『爆ぜろッ!』

さやかが叫び、拳を握りこむ。
突き立ったままの剣が一瞬まばゆく輝き、周りの魔獣も巻き込んで爆発を起こした。

『すごい……』

思わず呟く私。十数体はいた魔獣は、さっきの一瞬だけで半分近くに減っていた。
たん、と軽い音を立てて、マントをはためかせたさやかが私たちの横に降り立つ。

『へへへー、まどかにそんなこと言われるなんて照れちゃうな。
 ま、こんなの序の口序の口。あいつらまだ出てきそうだし』

さやかが相好を崩して頬をかいたのは少しだけで、すぐに顔を引き締める。
確かに、魔獣が湧き出てきた瘴気の渦は、薄れる様子もなくその場に存在し続けている。

『ところでさっき、剣の飛んでいく方向が変わったみたいに見えたけど、あれは……』

『うん、私だよ』

ハンマーを振り抜いたままの体勢だったゆまちゃんが、ハンマーを軽々と担ぎなおして答える。

『これを振ると、衝撃波っていうのが出るんだよ。それを使っていろいろできるんだ』

『魔獣にぶつけたり、さっきみたいに方向をずらすとかね。あたしが投げただけじゃ真っ直ぐしか飛ばないから』

なるほど、剣の軌道を変えつつ相手の体勢も崩す、と二段構えなのね。
それにしてもさやかが剣を投げて、ゆまちゃんの援護までにまったくタイムラグがなかったのは驚きだ。
よっぽど普段からお互いの動きを見て知って、連携に慣れているんだろう。
私も、本来ならそうだったんだろうけど。
147 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2012/02/20(月) 03:48:45.97 ID:NimpRjebo
『大丈夫だって、まどか。昨日は一人でうまくやったんでしょ?
 なら、すぐあたしたちと一緒の戦い方だって思い出すよ』

私の気持ちを見透かしたようにさやかが言う。私の親友というのは伊達ではないらしい。

『私も出来るだけ、まどかお姉ちゃんがやりやすいように手伝うよ』

ゆまちゃんの言葉は控えめだけど頼もしい。
確かに今はないもののことを言っても仕方ない。仲間を信じて、できることをやるだけ。

『ありがとう、2人とも。それじゃ、ここからは』

残っていた魔獣の群れが、腕を持ち上げる。合計な十本もの指先が、私達を狙う。
光線の束が飛来する一瞬前に、3人ばらばらに飛びのいた。

『私も参加させて……もらうわっ!』

左に飛びながら、空中で弓を引き絞る。魔力が矢となって生成されるなり、私はそれを解放する。
わずかに魔力の余波を残し、それは魔獣に向かって飛んでいく。
その結果を見届けるより早く、私は次の矢を番え、また放つ。そしてさらにもう一射。
左足からタイルに着地して、よろけそうになるのをかろうじて踏みとどまった。
2発の矢を受けた魔獣が溶けるように消え、1発受けた魔獣も大きくよろめいている。

『そいつは任せて!』

空気が震え、魔獣が体を曲げて吹っ飛んだ。
私の矢でダメージを受けていたそいつはそのまま消滅する。
148 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2012/02/20(月) 04:08:00.46 ID:NimpRjebo
残った魔獣に向けて、上空から剣の雨が降り注ぐ。
一部は撃ち落されるものの、魔獣を貫き、串刺しにする。

『ゆまちゃん、アレ頼んだ!』

『うん!』

さやかに応えて、ゆまちゃんがハンマーを振り上げ、石突で地面を突いた。
緑色の光が稲妻のようにタイルの上を走ると、魔獣の足元で弾け、何かが飛び出す。
それは無数の緑のリボン……いや、植物の蔓だ。
魔獣に絡みつき、さらには束にでもするようにまとめて締め上げ、動きを封じる。

『今だよ、まどかお姉ちゃん! さやかお姉ちゃん!』

『よっしゃ! 併せるよ、まどか!』

『なるほどね、これなら外さないわ』

さやかが青い光をまとって、上空から猛然と突っ込んでくる。
それに併せるように、再び弓を引き絞る。
今度はすぐには放たない。番えた矢に魔力を送り、一撃必殺の威力へと高めていく。
引き絞られた弓の上部に、ボウッと炎の花が咲く。

『これで……』

『決めるわ』

矢を放つ。同時に、青い輝きが魔獣をなぎ払った。
二つの膨れ上がった魔力が、魔獣を切り裂き、穿ち、消し飛ばしていく。

輝きが晴れたとき、魔獣の姿も、渦巻く瘴気の気配も消えうせていた。
149 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2012/02/20(月) 04:21:12.06 ID:NimpRjebo
今回は以上で。
戦闘をもったいぶったわりにあっさり終わったような。
ゆまちゃんの拘束はマミさんに習いました。

>>142
ちょっとわかりにくかったでしょうかね。
アニメとかの魔法少女ってそういうもの、というイメージとは違うんだなーとは思ってますが
そっちが良かったと思ってるわけではないです。


かろうじてエタらないギリギリを歩んでますね。
読んでくれてる方には申し訳ないです。
予告するのはもう怖いですが、なるべく頑張りますので。では、また。
150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/02/20(月) 10:45:18.38 ID:T7zh9dOwo
お疲れ様でした
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/20(月) 14:57:30.84 ID:T5uVbJDDO
お疲れさ〜ん。
まさかのブロークンファンタズムとはwwしかし阿吽の呼吸並のコンビネーションとか、凄いもんだねぇ。
152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/21(火) 23:57:30.70 ID:aFFXCUQ90
ゆまちゃんの包容力がすごい こりゃお母さんだな
153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/08(木) 23:45:03.89 ID:Tv2IOW6SO
待ってるよー
154 : ◆J0gg2XogfY [sage]:2012/03/20(火) 15:48:06.61 ID:z9uYshf/o
まどポも買ったきりで進められず、
ここも書き進まず自分はいったい何をやっているのか……

すみません、エタらないようにはします
155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/25(日) 08:43:56.95 ID:Xy1fJ0BDO
そうか、頼んだぞ>>1さん!
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/22(日) 22:55:04.43 ID:TTqZeR8b0
おっとあぶない
157 : ◆J0gg2XogfY [sage]:2012/05/19(土) 06:57:27.72 ID:mhEis+OLo
トリップすらわからなくしてテストする有様
今晩ちょっとだけ来ます
158 : ◆J0gg2XogfY [sage]:2012/05/20(日) 07:40:36.37 ID:Jdmnkfsdo
こ、これは朝7時じゃなくて31時なんだからね!
というのはさすがに無理がある。

投下します、本当にちょっとだけ。
159 : ◆J0gg2XogfY [sage]:2012/05/20(日) 07:41:41.36 ID:Jdmnkfsdo
かつ、かつん、と小石が転がるような乾いた音が響く。
魔獣が変じたグリーフシードが地面に落ちたのだ、というのを理解するのに一瞬の間が必要だった。

「やー、今日は早く片付いたね……んで、グリーフシードはっと……」

再び軽やかに着地したさやかが、念話でなく口に出してそう言って、魔獣たちが群れていたあたりにいそいそと歩いていく。

「うん、誰も怪我がなくてよかった。ね、まどかお姉ちゃん?」

隣のゆまちゃんも安心したように息をついて構えを解くと、手にしていたハンマーが光の粒になって消えうせる。
笑顔を向けてくるゆまちゃんにうなずき返して、私達もグリーフシードを拾い集める。

「でも、思ったよりあっけなかったわね。あんなビームを撃ってくるなんて少し驚いたけど」

「そりゃ、こいつら毎日のように沸いて出るからね。いちいち苦戦してたりしたらたまんないって」

「ああ、そういえばそうだったわね……」

この非日常的な戦いが、魔法少女にとっては日常なのだと聞いてはいるけれど、まだ今の私には実感できていない。
なにせ、記憶をなくしてからは2日分の戦いしか経験していないのだし。

「今日みたいにすぐ片付けばいいけど、いつもそうとは限らないもんね。

 早く倒せてみんな無事なら、その方がいいよ」

「いくら人よりは頑丈で怪我もすぐ治せるって言ったって、やっぱ痛いのは痛いんだよねえ、あのビームとか。

 それに魔翌力の消費もバカになんないし」

「さやかお姉ちゃんはいっつも無茶するから……」

「あはは……それは否定できないかも。ゆまちゃんには世話掛けちゃって悪いなーって思ってるよ」

心配そうなゆまちゃんに、さやかが苦笑いを浮かべる。
160 : ◆J0gg2XogfY [sage]:2012/05/20(日) 07:42:13.26 ID:Jdmnkfsdo
「でもさ、実際あたしがこの中では一番頑丈だし、だったら先陣切って突っ込むのはあたしの仕事でしょ?

 それに、サポートしてくれる頼れる仲間がいるんだしさ」

「信頼してるのね、ゆまちゃんのこと」

「まあね、魔法少女としては大先輩なわけだし……って、なに他人事みたいに言ってんのさ、まどか。

 もちろん、あんたのこともだよ」

「え? いえ、私は……その、今の私で、役に立てるのかしらね?」

今までは、確かにそうだったのかもしれない。
しかし今の私は、さっきの戦い方だって二人の作った流れに任せていただけで、良かったのか悪かったのかすらわからない。
それでさやかの期待に応えられるかというと……

「あのねえ、まどか」

いつの間にかさやかの顔が目の前にあって、ぐぐっと迫ってきた。

「記憶喪失だか知らないけど、そんなウジウジしてんの、まどからしくないよ?

 それにさっきだって、ちゃんとあたしやゆまちゃんに合わせてくれたじゃない」

さやかの顔は真剣に怒っていた。

「第一、役に立つとかどうとか、仲間ってそういうことじゃないでしょ。

 記憶があろうとなかろうと、まどかはあたしやゆまちゃんの仲間で親友だよ!」

どうやら私は、こうまで言われてわからないほど鈍い人間ではないらしい。
そのことに心底感謝した。

「ごめんなさい、もう言わないわ。それとありがとう、さやか」

「あーあ、さやかお姉ちゃんに全部言われちゃった。私だって、まどかお姉ちゃんのこと、大好きだよ?」

ゆまちゃんが肩をすくめて、少し拗ねたように言った。
161 : ◆J0gg2XogfY [sage]:2012/05/20(日) 07:42:48.69 ID:Jdmnkfsdo
「あー、ごめんゆまちゃん。

 まあ、ぶっちゃけるとさっきの台詞、あたしが師匠にほとんど同じこと言われた、そのまんまなんだよね」

「師匠?」

「杏子姉ちゃんのことだよ。まどかお姉ちゃん、昨日会ったでしょ? 赤い髪の人」

「ああ、あの人ね……師匠って、魔法少女の?」

あんまり人に指導するとかいうタイプの人には見えなかったけど。

「半分は私が一方的に言ってるだけみたいなもんだけどね。

 師匠が直接何かを教えてくれたっていうのはあんまりなくって、マミさんやゆまちゃんに教わったことが多いけど。

 けど、あの人は目標というか、憧れというか……」

「マミお姉ちゃんは人のお世話を焼くのが好きだけど、杏子姉ちゃんはそういうのやりたがらないもんね。

 でも、人と付き合うのが嫌ってわけじゃなくて、言葉にしたりするのが照れちゃうんだと思う。

 黙ってついてこい、見て覚えろー、みたいな感じ?」

なるほど、それは何となくわかる気がする。
姉御肌とでも言えばいいんだろうか、女性にモテそうな感じだ。
つまりさやかの妙にキラキラした顔は、そういう感情も混じってるんだろう、たぶん。

「ダメ出しはガンガンされたけどね。

 だからあたしも結構へこんじゃってさ、もう足手まといだから一緒に戦うのやめますって言ったら、怒られた」

そう言うさやかの顔は本当に嬉しそうで、誇らしげで。
そんな風に思える相手がいるのは羨ましいと思ってしまった。
私にも誰かそういう人がいたんだろうか。例えば、魔法少女だったというお母さんとか。
162 : ◆J0gg2XogfY [sage]:2012/05/20(日) 07:58:07.24 ID:Jdmnkfsdo
前回投下の後で感想くれたり待ってくれた人にはごめんなさい。
言い訳すればいろいろあったんですが、1ヶ月の保守すら放置とか自分でもひどすぎる。

3ヶ月ぶりなのに投下が3レスとか、しかも特に話が進まない会話のみ。
さやかちゃん以外が積極的に喋ってくれないのが困る。
先を何も考えてないってことはないので途中を抜ければ……
でも書けなくなる人ってみんなそう言うよね。

と言い訳ばかりの自分語りになるのでこの辺で。ではまた。
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/20(日) 08:48:40.43 ID:aA95bfDCo
乙!
さやかちゃんは相変わらずだなあ
164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/05/20(日) 09:45:00.61 ID:qh5eQObRo
乙!!
次も舞ってる
165 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2012/06/17(日) 11:49:14.92 ID:JM5eQJJ2o
・スレの勢いが現行かつまどかでは最低だった
・読んでるまどかSSとして名前を挙げてくれてる人がいた

嬉しいような面目ないような。でも改変後SSはもっと増えろ。
投下します。
166 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2012/06/17(日) 11:50:44.67 ID:JM5eQJJ2o
ずきん、と頭の芯が疼いた。
あ……この感じは、まずい。
目が眩んだように視界がちかちかと明滅し、脳裏に途切れ途切れの映像がよぎる。
ピントの合っていないスライドショーでも見せられているようで、細部はぼやけてよくわからない。

映像の中で、私の前には得体の知れない何かが居た。
私は迫ってくるそれに怯え、それがもたらすもの……死と絶望を待つしかない。
けれどそこに、突然誰かが現れる。
私を守るように……美しい輝きをまとった人影が。

『……大丈夫……』

これは、私の記憶……だろうか。いつか、どこかで、私が見た光景。
私を助けてくれた人。私が憧れた人。私の……
167 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2012/06/17(日) 11:51:45.73 ID:JM5eQJJ2o
「まどか!?」

「まどかお姉ちゃん!」



「……っ!」

ぐらついた体を、一歩踏み出して何とか踏みとどまった。
光と影がでたらめに踊っていた視界に、景色が戻ってくる。
青い髪の友人と、緑の髪の後輩が、心配そうに覗きこんでいた。

「……ごめんなさい、ちょっと頭がくらっとしただけ……」

そう言って何気なく手を当てた額は、自分でも驚くほど冷たかった。完全に血の気が引いている。
たぶん、顔色はひどいものになっているに違いない。
踏みとどまったつもりの足には力なんて入っておらず、2人に支えられてやっと立っていた。

「そっちにベンチがあるから、少し休もう?」

「そうだね、まどかは歩こうとしなくていいから、捕まってて」

いやも応もなく、荷物のように抱えられてベンチまで引きずられていく。
ベンチの背にもたれれば大丈夫、と思ったのだけど、ゆまちゃんに半ば強引に寝かされてしまった。
168 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2012/06/17(日) 11:53:26.69 ID:JM5eQJJ2o
「やっぱり、まだどこか具合が悪いのかな。

 ごめんね、私が何も考えずにパトロール一緒に行こうなんて言ったから……」

濡らしたハンカチで、ゆまちゃんが甲斐甲斐しく汗を拭いてくれる。

「ゆまちゃんの責任じゃないって。あたしもつい、いつもの調子でまどかを頼っちゃったからさ」

さやかの肌も汗ばんでいる。気分が悪いからではなく、走って水を汲みに行ってくれたからだ。
そう言えば、いつの間にか私も含めてみんな魔法少女姿から制服に戻っていた。
いくら人通りが少なくても、あんな格好で街中を走ったらさぞ目立ってしまうだろうな。

「そんな大げさよ……本当に、ちょっと目眩がしただけ。それに着いて来るって私が決めたのよ。

 ゆまちゃんやさやかが気にすることないわ」

まだいくらか頭がぼんやりはするものの、目眩も頭痛もおさまっている。



「おや、まどか。あまり顔色が良くないようだけど、大丈夫かい?」

まるで心配しているように聞こえない声が頭の上から聞こえた。
顔を上げると、あの奇妙な生き物が、いつの間にか近くの塀の上にちょこんと座って見下ろしていた。
169 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2012/06/17(日) 11:54:43.57 ID:JM5eQJJ2o
「キュゥべえ、来たんだ」

「魔獣の反応があったからね。グリーフシードの回収が必要だろう?」

「あ、うん。そう言えばまだ使ってなかったね。みんな、ソウルジェム出して」

二人はもうてきぱきとグリーフシードを並べている。
私も体を起こそうとしてゆまちゃんに押し留められ、ソウルジェムだけを差し出した。
やはり魔力を使ったせいか、さっきまでと微妙に色合いが違う。
それをグリーフシードで作った輪の中に置くと、みるみる穢れが吸い込まれていく。

「どうせならもっと早く来て加勢してくれればいいのに」

「ボク自身に魔獣を倒す手段や能力はないよ。そのために君たち魔法少女がいる」

キュゥべえもその様子を見つめたまま、面白みのない答えを返してくる。
170 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2012/06/17(日) 11:58:44.41 ID:JM5eQJJ2o
「……冗談よ。昨日も思ったけど、あなたもうちょっとデリカシーってものはないの?」

「君が記憶を失ってからまだ説明していなかったかい?

 僕には人間が持つような感情や感傷はないんだよ。ただ……」

キュゥべえは首をかしげるように私のほうを見て、無表情な目を数度ぱちぱちとさせた。
視線が合って数呼吸ほどのわずかな沈黙。

「ただ、何よ?」

「……いや、君たちは優秀なチームなんだ。簡単にいなくなられては僕も困る」

一瞬何か別のことを言いかけたようにも感じたけど、気のせいだろうか。
それにしても、つい今しがた感情がないとか言ったわりに、心配しているようにも聞こえる。
デレというやつだろうか。
でもきっと、そこを突っ込んでも無駄なんだろうという予感がした。
二人の方を見ても、「いつものことだし仕方ない」というように目で語って肩をすくめている。
171 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2012/06/17(日) 12:15:45.69 ID:JM5eQJJ2o
「きゅっぷい……さて、それじゃボクは行くよ」

穢れを吸い終わったグリーフシードを例の口に放り込むと、キュゥべえはさっさと歩き出した。
その背中にゆまちゃんが声をかける。

「キュゥべえ! うちでご飯食べて行かないの?」

「え、何……そんなことしてたの?」

確かにちょっと見たら猫みたいな何かに思えなくもないけど。

「遠慮しておくよ。杏子が帰っているんだろう?

 せっかく君たちが顔を揃えた機会にボクがいては、彼女も落ち着かないだろう」

「ああ、そう言えば師匠帰ってくるって言ってたっけ。

 でもあんた、そんな気を遣うやつだっけ?」

さやかが突っ込む。

「君たちの反応を推測するくらいはできるさ。それに、少し用事もある。それじゃ」

そう言うと、今度こそ駈け出して、塀を飛び越えて姿は見えなくなった。
172 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2012/06/17(日) 12:36:22.02 ID:JM5eQJJ2o
「キュゥべえを夕食に誘うとか、なんて言うかすごいわね。相手は宇宙生物よ?

 あ、でも昨日私がご飯に呼ばれたときは来てなかったわよね?」

というかそもそも、あの生き物は何を食べるんだろう。
グリーフシードさえ食べてれば十分、という気もするけど。

「もともとマミお姉ちゃんのところによく来てたみたいだから、その流れで、かな。

 昨日も何か用事があるって、まどかお姉ちゃんの少し後で帰っちゃったんだよ」

「ふーん、あいつの用事ってなんだろ。やっぱり魔法少女か魔獣の関係かな?

 あ、それより、師匠が帰ってるんでしょ? 代わりにあたしがお呼ばれしてもいいかな?」

さやかがうきうきした様子で尋ねる。
でも、手に携帯を握っているのはさすがに気が早いと思う。
ゆまちゃんやマミさんの性格なら断るとも思えないのは確かだけど。

「うん、一応マミお姉ちゃんに訊いてみるけど、たぶん大丈夫だよ。

 まどかお姉ちゃんも、昨日に続いてだけど、どうかな? 一人じゃ心配だし……」

「まどかは今一人暮らしになってるんでしょ? 倒れたらまずいし、いっそ泊まっちゃえば?」

何やら勝手に話が進んでいく。
173 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2012/06/17(日) 12:46:44.77 ID:JM5eQJJ2o
「泊まるって、さやか、そんな勝手に……」

「それも構わないと思うよ?

 昨日だって本当は泊まっていけばいいのにってみんな思ってたんだから」

ゆまちゃんの爛漫な笑顔。どうやら逃げ道は塞がれてしまったらしい。

「はあ……わかったわ。でもそれならそれで、着替えを取りに一度戻らせて」

さやかは両親に連絡し、ゆまちゃんはマミさんに了承を取り付けた。

「で、まどか。歩ける? 肩貸そうか、あ、おんぶのほうがいい?

 何ならお姫様抱っこでも……」

「いいから! もう自分で歩けるわよ」

3人揃って、もうすっかり日の暮れた道を歩き出す。

「……?」

ふと、視線を感じた気がした。
けれどあたりはもう静まり返っていて、人影も見当たらない。

「まどか、行くよー」

「ああ、ごめんなさい」

気のせいだろうか。
ごくわずかな違和感を振り払うようにして、私は二人を追いかけた。
174 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2012/06/17(日) 12:48:31.67 ID:JM5eQJJ2o
第5話「そのために君たち魔法少女がいる」

175 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2012/06/17(日) 13:05:33.37 ID:JM5eQJJ2o
やっと5話終了できました。

肝心の話の本筋が全然進まないのが困りものですが。
この超スロー展開SSを読んでくださってる方には感謝するしかありません。
ありがとうございます。ではまた次の投下時に。
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/06/17(日) 13:07:19.37 ID:RGxYCbf3o
お疲れ様でした
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/17(日) 16:56:23.44 ID:yYgxZ8Zto
エタらなければ良いと思います!
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/17(日) 18:50:49.76 ID:I8dXMW0DO
さてさてこの先どうなってゆくやら。
179 : ◆J0gg2XogfY [sage]:2012/07/17(火) 02:07:50.93 ID:Fv+Cu6jgo
また1ヶ月で保守のみのレス……。
更新頻度だけは、無限の世界やあれから10年の改変後名作と一緒ですね!

起こすイベントは決まってるはずなんだがなあ……。
180 : ◆J0gg2XogfY [sage]:2012/08/17(金) 00:51:01.48 ID:SV8IDt7Vo
無限の世界を目標にしてましたが、全然足元にも及びません。
自分も放ったらかしの身で人のこと言えませんが続いてほしいなあ。

そういえばゲームブックの人も帰って来ませんね。
同じ記憶喪失ネタでしたが自分より圧倒的にうまくさばいてたのが印象的でした。

保守代わりの回顧レス。
181 : ◆J0gg2XogfY [sage]:2012/09/18(火) 00:55:13.25 ID:fLVdzYuvo
潔く一度仕切りなおすべきかもしれないですが一応保守を。
182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/18(火) 19:32:04.41 ID:p+2CJ3vCo
わいはまっとりますよ
183 : ◆J0gg2XogfY [sage]:2012/10/14(日) 05:35:13.54 ID:49dqXgU3o
劇場版と新作予告見てきて、思うところあったので報告を。

安価で始めたスレですが、最初のうちに想定していたのと
途中からやりたい方向性がずれてきて、その辺のすり合わせをどうするかで随分悩んでました。
立て直すべきかとも思ったのですが、
安価形式で始めたことを捨てるのに踏ん切りがつかなかった理由がありまして、
安価を因果律の外からの干渉として扱って、干渉があった事自体を
話に組み込むなんてことを考えてました。話が進んでから後付けで考えたことですけども。
そもそも改変後設定になったのも後付けですし。


それで、本題ですが。
一旦仕切りなおしということで、立て直しさせてもらうことにしたいと思います。
安価スレではなく、作った設定を一部変えつつ継承して、
通常のSS形式としてやらせてもらう形になります。
おそらくタイトルは
まどか「記憶のない私と〜」というような感じになるかと。
ただ実は深夜でこっそりやってたネタがあるので、
もしかしたらそちらを先に出すかも知れません。

こんな開店休業のスレを見ていてくれた方がいたのはありがたいことです。
6月から停滞状態の末に結局こういう形になり、申し訳ない。
また目につきましたら覗いてやっていただければ幸いです。
184 : ◆J0gg2XogfY [saga]:2012/10/14(日) 05:39:28.58 ID:49dqXgU3o
こちらのスレは数日置いてHTML化依頼させてもらいます。

進んでない間、談義スレでたびたびチラッチラッしていたのは
自分でもどうかと思うので猛省しておきます。

それではまたいずれ。
185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2012/10/14(日) 08:33:30.13 ID:od0gS5lAO
乙、主人公はまどかか
安価で決めたまどかかどうなのかは楽しみにしてます
186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/14(日) 21:17:50.04 ID:hdNLxqPLo
乙!
深夜の方を教えてくれたらそれはうれしいなって
楽しみに待ってます
187 : ◆J0gg2XogfY [sage]:2012/10/15(月) 23:12:50.74 ID:BUeLEkqqo
>>185
タイトルからまどマギだとわかりにくいと
いつだったか言われてた気がするので、キャラ名は入れるつもりです。


>>186
ほむら「立方体の部屋……」

クロスものです。
うっかり圧縮にかかって落ちてしまったので、こっちでやり直そうと思ってます。
188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/16(火) 00:27:20.15 ID:MUGUQTNFo
なんだあれはあんただったのか
楽しく読ませてもらってたぜ
189 : ◆J0gg2XogfY [sage]:2012/10/17(水) 07:50:32.89 ID:cf4K4gOXo
依頼してきました。
あまり間を空けるとまた自分の中でグダグダになるので、近いうちにお目にかかりたいと思います。

ありがとうございました。
190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/10/19(金) 18:49:14.52 ID:k5ciF+4bo
乙乙!
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