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【ストパン】土方圭助の憂鬱【土方×もっさん】 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) [sage]:2011/10/01(土) 22:23:23.60 ID:mf0Sx6460
こんばんは。
タイトルどおりストパンの土方×もっさんSSです。

土方についての公式設定は無いに等しいのでここの土方は
かなり私の妄想が入ったオリキャラに等しいものとなっています。
そのことをご承知おきの上読んで頂ければ嬉しいです。

それでは。
時期としては第2期1話のもっさんが烈風丸を打ちに山にこもったころで、
あの山篭りに土方が同行していたという設定です。

それでは、よろしくお願いします。
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木曜の夜には誰もダイブせず @ 2024/04/17(水) 20:05:45.21 ID:iuZC4QbfO
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いろは「先輩、カフェがありますよ」【俺ガイル】 @ 2024/04/16(火) 23:54:11.88 ID:aOh6YfjJ0
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【MHW】古代樹の森で人間を拾ったんだが【SS】 @ 2024/04/16(火) 23:28:13.15 ID:dNS54ToO0
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こんな恋愛がしたい  安部菜々編 @ 2024/04/15(月) 21:12:49.25 ID:HdnryJIo0
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【安価・コンマ】力と魔法の支配する世界で【ファンタジー】Part2 @ 2024/04/14(日) 19:38:35.87 ID:kch9tJed0
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アテム「実践レベルのデッキ?」 @ 2024/04/14(日) 19:11:43.81 ID:Ix0pR4FB0
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エルヴィン「ボーナスを支給する!」 @ 2024/04/14(日) 11:41:07.59 ID:o/ZidldvO
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) [sage]:2011/10/01(土) 22:24:33.32 ID:mf0Sx6460
それはガリア戦線が終結し、ガリアが解放されてより数ヶ月後のこと。
ガリア解放戦線で魔翌力のほとんどを使い果たした少佐。
普通のウィッチであれば退役を考えてもおかしくない状況であったが、現役に強いこだわりを持つ少佐は何とか自らの不足する魔翌力を補う方法を考えた。
そしてその結果たどり着いてしまった答え。

それが烈風丸であった。

使用者の魔翌力を吸い上げる、ウィッチにとってはまさに命を削る刀。
扶桑皇国にその鍛造の仕方は伝わっていたものの、あまりに非人道的すぎるとの理由で封印されていたものである。
少佐がその禁断ともいえる武器の使用を考えていることを知った私はもちろん全力で反対した。

「坂本さん!何を考えていらっしゃるのですか!!このような……文字通り貴女は命を削って戦うことになるのですよ!」
「それでも……だ。私がいた証を。扶桑皇国海軍に坂本美緒というウィッチがいたという証を刻んでおきたい。
私には戦うことしかできないからな。ここで戦いを止めれば、それは私が私でなくなってしまう」
「貴女は十分に戦ってこられた!リバウで!ブリタニアで!ガリアで!扶桑皇国海軍史に貴女の名前は永久に残ります!
今退役したところで誰が貴女を非難できますか!それに貴女には宮藤さんという立派な後継者が…………」
「宮藤のことは言うなっ!」

急に少佐が上げた大声に、私は一瞬たじろぐ。

「宮藤は私が無理やり戦いに巻き込んでしまったんだ。本当は戦いなんぞ嫌いな優しい少女だというのに。
これ以上宮藤を私の都合で振り回すつもりはない」
「し、しかし…………」
「くどい!」
「は、はっ!」

そういった坂本少佐の表情は妥協を拒む峻厳さに満ちており、私は黙ってうなずかざるを得なかった。
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) [sage]:2011/10/01(土) 22:25:33.94 ID:mf0Sx6460
私は大きくため息をつくと、再び少佐に向き直った。

「そこまで仰るのであれば…………もはや何も言いますまい。お心のままになされてください」
「そうか……すまんな、土方」
「いえ」

そういったきり坂本少佐の次の言葉を待つ。

「…………ならば土方、私が修行に出ている間の留守を」
「私もご一緒します」
「……何だと?」

少佐の言葉をさえぎっての私の発言に、少佐の眉が急角度で跳ね上がる。
気分を害しているのは明白だ。
しかし少佐と同じようにこちらにも譲れないものがある。

「その修行に、私も同行させていただきます。」
「馬鹿を言うな、貴様は…………」
「私にとっての上官は生涯貴女だけと心に決めております。貴女の行くところどこでも、この土方が側におります」
「な、ちょ、き、貴様っ、何を…………」

問答無用の鉄拳制裁すら覚悟していた発言であったが、帰ってきたのは少佐らしくない狼狽の声であった。
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) [sage]:2011/10/01(土) 22:26:21.56 ID:mf0Sx6460
恐る恐る目を上げると少佐は何故か顔を赤くして両手を虚空にさまよわせている。
な、何か失礼なことでも言ってしまっただろうか。
そう考えて先ほどの自分の発言を思い出してみる。

(私にとっての上官は生涯貴女だけと心に決めております)

勢いに任せていったので深くは考えていなかったが、確かにこれではプロポーズの言葉ととられてもおかしくない。
自分の言葉の意味を理解すると同時に、恥ずかしさがせりあがってきて思わずしなくてもいい弁解を始めてしまう。

「あ、いえっ、その、先程の言葉にはそんな意味はなくて、あの、口が滑ったといいますか、あ、いえ、別に少佐が魅力的でないとか言うわけではなく、ですから」

もはや自分でも何を言っているか分からない。
そんな私の慌て振りが可笑しかったのか、少佐は表情を緩めて笑い出す。

「はっはっはっ。土方の気持ち、しかと受け取ったぞ」
「…………勘弁してください」
「まぁそこまで言われてはこちらも応えざるを得んな」
「……では!」
「ああ。土方、修行の間のサポートを頼む」
「はっ!かしこまりました」

こうして、少佐と私は数週間、二人で修行を行うことになった。
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) [sage]:2011/10/01(土) 22:27:03.15 ID:mf0Sx6460
……二人きり、か。

「ええええええええええええええ!」

「ど、どうした土方」
「あ、いえ、な、何でもありません」

突然の大声に驚いたような少佐に慌てて取り繕うものの、思考回路はショート寸前であった。
今まで修行のことしか考えてなかったが、よく考えたら少佐と二人きりで数ヶ月過ごすことになるということに今気づく。
そしてそのことを意識しだすともうそれしか考えられなくなってきた。
少佐はそのあたりどう思っていらっしゃるのだろうかと思わず少佐の表情を伺い見る。

「近くの山中に小さいながら庵を構えた。必要な物資は近くの町から調達は出来るが、自給自足に近い生活になると思う」
「は」
「なので、正直貴様がいてくれれば私も修行に集中できてありがたい。自慢ではないが私の家事能力はどうにか人並みというレベルだからな」
「それは本当に自慢ではないですね」
「ははっ。言うじゃないか土方」

そう言っていつものように豪快に笑う少佐の表情は全く普段どおりで、特別な意識など微塵も感じられない。
やはり妙に意識していたのは私だけだったようだ。
そう考えると、今まで緊張していたのがうそのように全身から力が抜けていく。
少佐の前でなければ思いっきりへたり込んでしまっていたかもしれない。
少佐からすれば私など男とすら見てもらえていないのだろう。なんとも複雑な心境である。

…………こうして、私は修行に出かける少佐に同行することとなったのである。
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) [sage]:2011/10/01(土) 22:28:43.78 ID:mf0Sx6460
以上でとりあえずプロローグ終了です。
書き溜めがあまり無いので1週間ぐらいあけて投下しつつその間に続きを書いていくような形になると思います。

それでは。
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県) [sage]:2011/10/01(土) 22:30:47.43 ID:2p56VCNy0
はいはい俺得俺得
期待
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) :2011/10/01(土) 22:45:22.44 ID:fkyK7WnH0
俺得

必ずや完結させてくれ頼む
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2011/10/01(土) 22:49:20.49 ID:04pFoiC0o
乙乙

ちなみにフミカネ姐さんの1947ver.土方さんは見たかい?
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/10/02(日) 00:38:26.70 ID:SjZxOcMK0
期待期待
11 :1 [sage]:2011/10/07(金) 19:47:48.51 ID:dpw2KwcZ0
どうも、こんばんは。1です。
早速のレスありがとうございました。書き溜めがそんなに無いので投下ペースは遅いと思いますがお付き合いいただければ幸いです。

>>9
支部で連載している「Cold Winter1947」ですよね。
もちろん読んでます。
…………と言うかあれを読んだのがこれを書こうと思ったきっかけでもありますしww

それでは第1話(プロローグ入れて2話目)、始まります。
12 :1 [sage]:2011/10/07(金) 19:48:50.84 ID:dpw2KwcZ0
ある日の朝のこと。
少佐は天候等の問題がない限り、朝は剣の鍛錬を行って過ごしている。
私もそんな少佐の鍛錬にご一緒させていただくのを日課としていた。

「ふんっ!はっ!」

坂本少佐と並び、無心に剣を振り続ける。
しばらくそうしていると、少佐が不意に話しかけてきた。

「どうだ土方。たまには手合わせでもしてみるか」
「はっ」

少佐と手合わせをするのは久しぶりであった。これまで少佐に一本すらいれたことのない自分を思い出して少しだけ恥ずかしくなる。
剣の腕でははるかに少佐に及ばないが、それでも何とか一本でもとらねば男として名がすたるというものだ。
そんな決意も新たに、私は木刀を構えて少佐の前に立つ。

「いつでもいいぞ土方」

前に立っているだけだというのにその発する剣気によって自分の体が浮きそうになる。
さすがは達人と呼ばれる少佐である。
しかしこちらとて先祖伝来の天然理心流を修めた身である。
下がりそうになる自分に活を入れ、まっすぐに少佐の目を見返す。
13 :1 [sage]:2011/10/07(金) 19:49:25.59 ID:dpw2KwcZ0
「…………いい目だ。腕を上げたようだな」
「恐縮です」

その私の言葉が合図になったかのように、少佐の剣気が大きくなる。

来る。

そう思った時にはすでに少佐の木刀の切っ先が目の前に迫っていた。


「ぐっ!」
「よく防いだ!だがそれだけでは!」


一撃目は何とか防げたものの、続く二撃、三撃目が容赦なく私の体に叩き込まれる。


「がっ!」


達人である少佐の一撃は信じられないほどの威力であり、三撃もくらっただけでもはや立っているのもやっとという状態である。
しかしここで倒れるわけには行かない。


「おおおおおおっ!!」


もはや型も何もなく、少佐の気配のある方向に向けて全力で突きかかる。
しかし、少佐はそんなめくら滅法の戦法が通用する相手ではない。

そう、なかったはずなのだ。
14 :1 [sage]:2011/10/07(金) 19:50:13.89 ID:dpw2KwcZ0
しかし、ここから事態は思わぬ方向に転がっていくことになる。
先日からの雨で地面がぬかるんでいたのがよくなかったのか。
それとも少佐に一本入れることに夢中になりすぎた自分がよくなかったのか。

「うわっ!」
「…………っ!土方っ!」

ぬかるんだ地面に足を取られ、勢いのついたまま私は少佐のほうに倒れこむことになってしまった。
当然そんなことを予想していなかった少佐も、受身など取れるわけもなく……

「…………」
「…………」

気がついたら少佐の上に組み伏せるように至近距離で覆いかぶさっている自分の姿があった。
少佐もなにが起こったか分からないような呆然とした表情でこちらを見つめている。
しばらく二人とも無言のまま数秒が過ぎる。
先に正気に戻ったのは少佐のほうであった。

「あ、あの…………だな、そろそろどいて欲しいんだが……」

その少佐の言葉に我に返る。

「…………も、申し訳ございません坂本さん!!」
「あ、ああ……ま、まぁその、手合わせの上のことだし…………き、気にするな」

慌てて少佐の上からどき、地に潜りそうな勢いで謝罪する。
少佐のほうもさすがに恥ずかしかったのか、どこか赤い表情でこちらに視線を合わせようとしない。

「…………」
「…………」

再び訪れる沈黙。
そんな状況から、立ち直るきっかけを提供してくださったのはまたしても少佐であった。

「きょ、今日の鍛錬はこれくらいにするか。日も昇ってきたしな」
「は、はっ!では私は朝食の用意を」

そういって少佐に一礼を返すと、少佐の顔も見ずに私は庵へと駆け出したのであった。

15 :1 [sage]:2011/10/07(金) 19:50:59.21 ID:dpw2KwcZ0
朝食時。

「…………」

少佐は無言で私の作った朝食を食べている。
いつもなら少しぐらいの会話はあるのだが、少佐も少佐で朝の事件を気にしているのであろう。
機嫌が悪い様子でないのが唯一の救いではあるが、こういう雰囲気はどうも苦手である。

「さ、坂本さん…………」
「土方」

沈黙に耐え切れず口を開きかけた私の言葉をさえぎり、少佐が私の目を見つめてくる。

「今日一日、私の鍛錬に付き合え」
「は?」
「返事は!」
「は、はっ!お供させていただきます!」
「うむ。いい返事だ」

私の返事を聞くと同時に少佐は今までの様子が嘘のように機嫌がよくなった。
どうやら怒っているのではなさそうだ。

そして食事が終わった後、少佐と私はともに鍛錬へと出かけた。
16 :1 [sage]:2011/10/07(金) 19:52:16.70 ID:dpw2KwcZ0
背中に歩兵銃を背負い、駆け足気味の速度で山道を駆ける。
陸戦訓練は兵学校時代に少しはやったが専門ではない。たちまち息が上がってくるが、私より早いペースで前を走る少佐は息切れ一つ見せていない。

「どうした土方……もうギブアップか?」
「いえ……大丈夫です…………!」

正直このまま倒れこみたい気分だが、坂本少佐の前で情けないところは見せられない。
無理やりに気力を奮い起こし、少佐の後に続いて走り出した。

そうして走ること数時間。
今まで山道だったのが小川に突き当たったところで、坂本少佐はやっと足を止めた。

「よし。このあたりでいったん休憩だ」
「は、はっ…………」

何とかそう答えるものの、膝がさっきから小刻みに震えており、気を抜くとそのまま倒れてしまいそうだ。
そんな様子の私を見て、少佐は仕方のない奴だ、とばかりに笑って見せる。

「まったく……この程度でへこたれるなど、栄光ある扶桑皇国海軍はいつから幼年学校の同窓会になったのだ」
「全く持ってお恥ずかしい限りです…………」
「まぁ、ここまでついてきただけでも褒めてやる。どれ、肩を貸してやろう。銃を私に貸せ」
「え、あ、ちょっ…………坂本さん?」

そういうと少佐は戸惑う私にかまわず、私の銃を自分の肩に担ぎ上げると、私の肩に手をかけてきた。

「ほら、私に体重を預けろ」
「いや、少佐、私は平気で……」
「そんな顔をして言っても説得力がないぞ。そこにちょうどいい岩がある。あそこに座って休むとしよう」

そういって少佐は川のほとりにある大岩をあごで指し示す。
17 :1 [sage]:2011/10/07(金) 19:52:49.31 ID:dpw2KwcZ0
「あ、あの程度なら私でも歩いていけます」

そういって少佐の手を振り解いて歩き始めようとするものの、

「…………あ、あれ?」

3歩も歩かぬうちに膝から力が抜ける。
完全に少佐の手を振り解けていなかった私は、そのまま少佐の手に引っ張られるような形で倒れこんでしまうのであった。
しかもとっさのことで手をつく暇もなく、少佐の体の上に覆いかぶさるような形で。
いや、言葉を飾っても仕方あるまい。
何の抵抗も受けなかった私の顔が、少佐の胸に埋まる様な格好で。

「な、ななななななっ、何をしとるかーーーーーー!」

少佐の絶叫が、人の気配のない山の中にこだました。
18 :1 [sage]:2011/10/07(金) 19:53:21.48 ID:dpw2KwcZ0
「…………」
「も、申し訳ありません!」

その後、(比喩表現でなく)少佐に引きずられるようにして休憩場所にたどり着いた私は、
少佐に土下座せんばかりの勢いで謝罪していた。
私の両頬には綺麗な赤い紅葉の痕がある。

「…………」
「あ、あの、坂本さん……」

先ほどから一言もしゃべらない。というか視線すら向けてくださらない。
ならばこちらとしては許していただけるまで謝り続けるだけであるのだが。

「坂本さん」
「…………ひ、土方」
「は、はっ!!」
「こほん……ま、まぁ貴様もわざとやったわけではないだろうし…………こ、こういうことはお互い忘れるのがいいんじゃないか」
「はっ」
「大体貴様がつまらん意地をはるからいかんのだぞ。人の好意は黙って受け取っておけ」

そういった坂本少佐の表情は、もう怒ってはいなかった。

19 :1 [sage]:2011/10/07(金) 19:54:07.33 ID:dpw2KwcZ0
「ふー」

そういって少佐が岩の上に寝転ぶ。
失礼して、私もその隣に寝転ばせてもらった。
ここに来るまでは必死で気づかなかったが、周囲の木々はすでに紅葉真っ盛りで、赤、黄色、橙と鮮やかな色に染まっている。
そんな木々の間を吹き抜ける風が火照った体をいい具合に冷ましてくれている。
隣を見ると、少佐もかなり呼吸を荒らげているのが分かる。その呼吸に合わせ上下する少佐の胸。
胸…………

「……っ!」

思わず先ほどの感触がよみがえり、少佐から目を逸らしてしまう。
幸いにも少佐はそんな私の様子には気づいていないようだった。
真剣に心配してくださった少佐にそんな邪な思念を抱くなど…………
自己嫌悪で沈みそうになる考えをどうにか引き戻す。お互いに忘れようと少佐が仰ったのならこの件は蒸し返さないほうがいいだろう。

「…………」
「…………」

お互い一言も発しないまま、ただ時間だけが過ぎていく。
そんな時間が、私にはかけがえなく貴重なものに思われた。


小一時間ほどもそうしていたであろうか。
隣で坂本少佐が起き上がる気配を感じる。時計を見るともう昼過ぎだ。
どうやら少し寝入ってしまったらしい。

「土方、起きたか」
「は、つい寝入ってしまったようで申し訳」
「いちいち謝るな……貴様、存外可愛い寝顔をしているのだな」
「な…………か、からかわないでください」
「はっはっはっ。ちょっとした仕返しだ」

そういって笑う坂本少佐。
私はといえば、恥ずかしいやら情けないやらで顔から火が出るかと思うほどであった。
20 :1 [sage]:2011/10/07(金) 19:54:41.88 ID:dpw2KwcZ0
「さて、そろそろ昼飯にするか」
「は……しかし」

私も少佐も、携帯して来たのは歩兵銃と背嚢のみ。
しかし私と少佐の背嚢の中には昼飯になりそうなものは入っていない。

「大丈夫だ。もう少ししたら補給部隊が来る」
「補給部隊…………?ですか」

私の言葉が終わるか終わらないかのうちに、私の耳に聞きなれたエンジン音が聞こえてくる。
これは……まさか…………

「ふふふ、噂をすれば、という奴だな…………おーいっ!!ここだーー!」

エンジン音に向かって手を振ってみせる少佐。
その視線の先には、空を飛ぶ人影のようなものが一つ。
そしてその特徴的なエンジン音は聞き間違えるはずもない。
零式艦上戦闘脚二二型甲。通称「零戦」
そしてこのストライカーユニットを使っているのは…………

「さかもとさーーーーーん!」

上空の人影から返答が帰ってくる。徐々にスピードを落とし、高度を下げてくるにしたがってはっきりしてくるその小柄な人影には見覚えがあった。
かつてガリア戦線において活躍し、最終的に出現した人型ネウロイを無力化したのは彼女であると少佐より聞き及んでいる。

「宮藤、時間通りだな」
「ありがとうございます!お久しぶりです、坂本さん……それに土方さんも」

そういってこちらに向かって頭を下げるのは、元・501統合戦闘航空団所属、宮藤芳佳軍曹であった。

21 :1 [sage]:2011/10/07(金) 19:56:15.35 ID:dpw2KwcZ0
…………というところで2話目終了です。
これからも大体10レスぐらいの話を断続的に投下していく形になると思います。

それでは。
また来週に。
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/10/07(金) 23:21:22.08 ID:5usZTSyW0
楽しみにしてまっせ
23 :1 :2011/10/08(土) 00:05:24.73 ID:8Xw8n5yu0
せっかく書いたのでセルフage
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2011/10/08(土) 00:12:13.88 ID:v0ZKVpMSo
乙乙
なかなか好みよ
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/10/09(日) 03:17:52.60 ID:hwKhxDFD0
乙!

いいじゃないいいじゃない
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/10/10(月) 01:01:30.69 ID:054mEArAO
面白いけどラッキーはもうちょっと少ないほうが良いと思う
27 :1 [sage]:2011/10/10(月) 13:18:20.70 ID:Idrdz6GF0
皆様レスありがとうございます。

>>26
さすがに1話で2回はやりすぎでしたかねww
気をつけます。
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/10(月) 14:00:41.39 ID:O6y3VNjuo
いいねww
乙です
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(西日本) :2011/10/11(火) 22:47:28.14 ID:28f+pkLz0
wwktkしながら待ってます
30 :1 [saga]:2011/10/14(金) 20:34:41.18 ID:E44rocLH0
こんばんは。1です。
乙レス、ありがとうございました。
今日もまた1話投下です。

31 :1 [saga]:2011/10/14(金) 20:35:30.26 ID:E44rocLH0
「土方さん、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」

宮藤さんが差し出してくる弁当をつまむ。
彼女の料理を食べるのは初めてだが、501のウィッチの皆様が絶賛されているだけあって味はかなりのものだ。

「…………美味しいです」

つい口をついて出た素直な賞賛の言葉に、宮藤さんは照れたように顔を赤らめる。

「え、えっと…………その、う、嬉しいですー。土方さんのお口に合って」
「いえ、その、こちらこそ結構なものを……」
「あ、そういえば坂本さんから聞きましたけど、土方さんも料理するんですよね」
「え、ええ……まぁ」
「いつか食べてみたいですー。土方さんのお料理」

宮藤さんはあまり警戒心というものを持っていないようで、こちらが戸惑うような勢いでほとんど初対面に近い私にも積極的に話しかけてくる。
基地の連中にもよくお菓子などを差し入れているので、基地の兵士たちにも大人気だという話を聞いたことがあるが、それは彼女のこの性格にもよるのだろう。
32 :1 [saga]:2011/10/14(金) 20:36:15.71 ID:E44rocLH0
やがて腹もいっぱいになる。
すぐに帰っていくのかと思いきや、宮藤さんは椅子代わりに使っていた大岩のうえに寝転ぶと大きく伸びをした。

「うーん…………気持ちのいい日ですね」
「あ、はい……」

無邪気な笑顔を向けられ、ついこちらも戸惑ってしまう。
宮藤さんのような天真爛漫なタイプの女性とはあまり接したことがないのでいたしかたない、と誰にともなく心の中で言い訳をする。

「しかしいい所ですねここは」
「そうだろう。少し前にここを見つけていてな。いつか貴様と来たいと思っていたのだ」
「なっ…………そ、それは……」

坂本少佐の何気ない言葉に思わず裏の意味を読み取りそうになってしまう。
そんなつもりで言ったのではないのは百の承知なのだが。

「ん?どうかしたか?土方」
「い、いえ、何でもありませんっ!」

…………まったく。
これでは私の独り相撲ではないか。
そんな私の様子に坂本さんは気づく様子もなく、宮藤さんが笑顔で言葉を続ける。

「私の診療所の近くにもこういうところ、あるんですよ。子供のころはよくみっちゃんと一緒に遊びました」
「みっちゃん?」
「はい。私の女学校でのクラスメートです。ウィッチが大好きで、いろんな事を知ってるんですよ。でもみっちゃん自身は魔力……?
って言うのは全然なくて、ウィッチにはなれないって残念がってました。卒業したら師範学校に進んで先生になるそうです」
「ほう…………」

そういえば、坂本さんと一緒に宮藤さんの様子を窺っていた時に、一緒に黒髪のおとなしそうな女の子がいたような気がする。
祖父らしき人物が運転するトラクターの事故に巻き込まれた彼女を必死で治癒していた宮藤さんの姿がよみがえる。
あれがみっちゃんという方であろうか。
33 :1 [saga]:2011/10/14(金) 20:36:44.98 ID:E44rocLH0
「…………」
「…………」
「…………」

そんな他愛もない会話も一段落し、不意に沈黙が訪れる。
周囲の木々を揺らし、吹き抜けていく風に身を任せているだけで全身の疲れが抜けていくようだ。
「鍛錬」と坂本少佐は仰っていたがここについてよりそれらしき事を始める様子もない。
・どうやら今日一日は最初から休日にするつもりであったようだ。

「あ、そういえば土方さんってご家族は?」

宮藤さんが不意に話しかけてきた。

「……実家に両親と、妹が」
「あ、やっぱり妹さんがいたんですね」
「え?」
「いや、なんとなくですけど。土方さんって『お兄ちゃん』って感じだから」

そういって宮藤さんは笑う。
その笑顔が、故郷に残してきた妹の姿とかぶった。
今頃元気にしているだろうか。などと一瞬感傷的な気分になりかかる。

「土方の妹か。一度だけ会ったことがあるが、淑やかで扶桑撫子の見本のような子だったな」
「へえー。おいくつなんですか?」
「…………確か今年で15になるはずですが」
「あ、じゃあ私と同じですねっ」

そういえばそうか。同じ15だというのにこうも違うものなんだろうか。
そう思うと宮藤さんに親近感が沸いてくるから不思議なものだ。
34 :1 [saga]:2011/10/14(金) 20:37:18.79 ID:E44rocLH0
「なんて名前なんですか?」
「歳江、です」
「土方……歳江さん…………ですか」
「はい。現在海軍のウィッチ養成校に入っております……『どんな形でもお兄様と同じ道に進みたい』そうで…………」
「はは、それは楽しみだな」

少佐が笑う。
同じく軍人であった父が家を空けがちであったため歳江は私を父代わりと思っているようなところがある。
慕ってくれるのは嬉しいのだが、私が歳江の将来を縛っているようで何ともいえない気分ではある。


「……土方さん?」
「あ、いえ…………何でも」
「妹のことが心配か…………?何なら数日実家に帰ってもいいんだぞ」
「い、いえ、そ、そんな滅相もない!こ、この身はすべて坂本さんのためにあるものと思っておりますれば」
「…………え」
「あ、ああ…………そ、そうか」


私の言葉に、坂本少佐と宮藤さんが顔を赤くして黙り込む。
…………しまった。
また私としたことがついつい勢いのまま口走ってしまった。

「そ、そうか…………ま、まぁその何だ、そ、そこまで言われると少し恥ずかしいものだな」
「ふわ……土方さん、すごいです…………」

そう言いながら何だか二人ともちょっと嬉しそうなのはなんなんだ。
そして、どうしてこう学習しないんだ私は。

そんなアクシデントもあったものの、結局私たちは日が落ちる頃になるまでそこでのんびりとしていた。
35 :1 [saga]:2011/10/14(金) 20:37:45.67 ID:E44rocLH0
「さて、そろそろ日も落ちたな」

坂本さんの声にあたりを見渡すと、すでに沈みかけている夕日があたりを黄金色に染め上げていた。
気づかないうちにこんなに時間がたっていたのか。
そろそろ庵に帰らないと暗くなってしまう時間である。
またあの山道を走って帰ると思うと少し気が重くなるが、少佐とともに走れるならそれもよかろう。

「土方」
「は…………」
「今日は付き合ってくれて感謝する」
「いえ、私も楽しめ……いえ、鍛錬になりましたので」
「はっはっ。ならば私も貴様を連れ出した甲斐があったというものだ」

そういって豪快に笑うと、坂本少佐は宮藤さんに視線を向ける。
宮藤さんは一つ頷くと、自分の穿いていたストライカーユニットを脱ぎ、坂本少佐に差し出した。

「よし……ならば今日の最後に土方、貴様に褒美をやろう」
「え……」

そういうが早いか、少佐はストライカーユニットを穿き、起動させると私のほうに近づいてきた。

「ちょっとじっとしてろ」
「え?え?さ、坂本さん、なにを…………」
「いいから動くな」

状況が理解できないで戸惑うだけの私を抱き上げる少佐。
助けを求めるように宮藤さんのほうに視線を向けるが、彼女は笑顔で手を振るだけであった。

「土方さん、きっとステキな風景が見られますから……」
「え?そ、それはどういう…………うおっ」

私の言葉が言い終わらない間に、不意に視界がめまぐるしく動きだした。
そしてやってくる、内臓が浮き上がるような、そんな感覚。
これは…………

しばらくその感覚に耐えていると、不意に体の違和感が止まる。
36 :1 [saga]:2011/10/14(金) 20:38:41.26 ID:E44rocLH0
「もういいぞ。目を開けろ」

坂本少佐の言葉に、私は今まで目を閉じたままであったことに気づた。
恐る恐る目を開ける。
そこに広がっていたのは――――


「これは……」

まず目に入ったのは黄金色。
一つの文明の終焉を告げるがごとき、黄昏色。
視界のすべてがその色に染まっている。

「ははは、言葉もないか土方」
「あ、はい……」

少佐の言葉に、やっとのことで最小限の言葉を返す。
それほどまでに目の前の光景は圧倒的であった。
燃えるがごとき金色に染まった木々。
そして地平線の向こうに消えいこうとしている太陽。
それらがすべて自分の「眼下」にあった。

「どうだ、これが私たちウィッチの『見ているもの』だ」
「これが…………ウィッチの……」

少佐への返事の声が心なしか震えているのが分かる。
男に生まれてしまった以上決して見ることが出来ない光景。それが目の前にあった。
もちろん飛行艇など、魔力のないものが飛ぶ機械もあるにはあるが、それとはまた違った圧倒的な現実感が、私の心を震わせる。

「……貴様には一度、私たちの見ている風景というのを見せてやりたかった」
「あ、ありがとうございます」

坂本少佐付きの従兵になって数年経つが、少佐とともに戦えない自分に忸怩たる思いを抱えたことがないといえば嘘になる。
もちろん男である以上それは仕方のないことなのであるが、それでもやはり、敬愛する人間と同じ場所に立っていたいというのは抑えきれない思いである。
その思いがこういった形にせよ叶えられたのは望外の僥倖と言うべきだろう。
37 :1 [saga]:2011/10/14(金) 20:39:26.59 ID:E44rocLH0
しかし…………

仕方がないこととはいえ、この格好は何とかならなかったのだろうか。
少佐に抱きかかえられたこんな格好、人に見られたりしたら自害ものである。

「さて、このまま庵まで帰るぞ。しっかりつかまっていろ」
「え…………」
「このままだと危ないだろう。ほら、私の首に手を回せ」

そういって顔を近づけてくる少佐。
いやいやいやいや。
今ですら十分に恥ずかしいのに、これ以上近づいたら…………
しかし少佐はそんな私の気持ちには気づかぬように、不思議そうな表情でこちらを見つめている。

「ほら、早くしろ。落ちても助けてやらんぞ」

ええい……こうなったら!
もうどうにでもなれ、という思いを込めてさらに密着するように少佐の首に手を回す。
…………っ!
少佐の顔がわずか数センチのところに!

「全くなにを遠慮…………な、なっ!」

そのまま振り向いた少佐だが、さすがにこの距離に動揺したように表情が固まる。
って少佐!今手から力を抜いたら…………

「う、うわっ!」
「あ…………す、すまん」

すぐに抱きとめてくださったから事なきを得たものの、結果、少佐と私は数センチの距離をはさんで向かい合うような格好になる。
…………何だか最近こういう場面に出くわすことが多い気がする。

「…………」
「…………」

お互いが無言のまま数十秒が過ぎる。

「こ、こほん」
「坂本、さん…………」
「ま、まぁ何だ…………その……と、とりあえずこのまま庵まで飛ぶぞ……」
「は」

顔を背けながらそういう少佐を、私は不覚にも「可愛い」と思ってしまった。

38 :1 [saga]:2011/10/14(金) 20:39:59.03 ID:E44rocLH0
「じゃあ、私はこれで失礼しますね」
「ああ。世話になったな宮藤」

あのあと、私を庵まで送り届けると坂本少佐は再び往復して宮藤さんを連れて帰ってきた。
宮藤さんはここからまた横須賀まで帰るようだ。
我々のためにわざわざこんなところまで出張ってきていただいた宮藤さんには感謝の言葉もない。

「ありがとうございました宮藤さん」
「いえいえ。私も土方さんと色々お話できて俺しかったです。土方さんのお料理、いつか食べさせてくださいねっ」
「は。いずれ」
「じゃ、坂本さんもお元気で。無理しちゃだめですよ」
「ああ。分かっている」

そういい残すと宮藤さんはこちらに会釈を返し、大空へと飛び上がっていった。
39 :1 [saga]:2011/10/14(金) 20:42:34.03 ID:E44rocLH0
ということでここまでです。
土方の妹の設定は完全に私のオリジナルです。
「土方歳江」という名前に聞き覚えがあるという方もいるかもしれませんねw

妹はいずれ出そうと思ってます。
それでは。また。
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/10/15(土) 15:33:55.91 ID:C+bHskML0
良かったね土方[ピーーー]クソが!
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(西日本) :2011/10/17(月) 01:07:28.64 ID:WuY4RG6U0
もっさん達かわいいな。
土方×もっさん増えればいいのに。
42 :1 [saga]:2011/10/17(月) 22:23:48.47 ID:7C2Bxsrs0
セルフage
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/17(月) 22:34:34.93 ID:yrJXcZvUo
これはいいニヤニヤスレ
土方さんのキャラが結構いいね
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/10/18(火) 12:47:37.96 ID:QyAamsT50
乙!

ニヤニヤ
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/10/18(火) 23:56:19.42 ID:EDHMFCeAO
イチャイチャしとる…俺得
46 :1 [saga]:2011/10/21(金) 19:41:09.14 ID:DhIGHFQ40
こんばんは。
今週も投下しにきました。
乙レス下さった方、ありがとうございます。

今回はかなり短いですがよろしくです。
47 :1 [saga]:2011/10/21(金) 19:42:15.66 ID:DhIGHFQ40
かん、かん、かん。

いつものように、少佐のふるう槌の音がさして広くもない工房にこだましている。
私はといえば、その音を背後に聞きながら洗濯物を干していた。

「…………もう少し、気を使って欲しいものなんですが」

思わず誰に言うこともない愚痴がこぼれる。
私の手にあるのは少佐の「ズボン」である。
最初のころはさすがに気を使ったのかズボンだけは自分で洗濯していた少佐であるが、そのうちに面倒くさくなったのか
他の洗濯物と一緒にズボンまでなんの躊躇いもなく渡してくるようになった。
また風呂上りには平気でタオル一枚でうろつきまわり、普段から薄いシャツとズボンのみというラフな、というか目のやり場に困る格好である。
あまりのことに一度だけ抗議してみたことがあるのだが、

「なに、貴様以外に見るものもおるまい。私は気にせんぞ。はっはっ」

などといつものように豪快に笑われてしまっては返す言葉もない。
ウィッチたちの中では坂本少佐に性別を超えた禁断の憧憬を抱くものが少なからずいるという噂であるが、こんな少佐を見たらどう思うだろうか。
…………さらにシンパを増やすような気がしないでもない。
48 :1 [saga]:2011/10/21(金) 19:43:38.29 ID:DhIGHFQ40
そこまで思考を進めて、自分の考えが埒もない方向に脱線していることに気づく。
坂本少佐と二人で過ごしているという状況が妙な具合に作用しているのだろうか。どうも最近妙なことを考えがちな自分がいる。
少佐は私の上官で、私は従兵の身である。
そのあたりの区別はちゃんとつけなくてはいけない。分かってはいるのだが…………

「土方」
「ひ、ひゃいっ!」

そんな時に不意に少佐から声をかけられ、思わず妙な返事を返してしまった。

「ど、どうした?」
「あ、いや、な、何でもございません!」
「…………?ま、まぁそれならよいのだが」

暴れまわる心臓を何とか制御すると、極力平静を装って返事する。

「……それで、何か御用でしょうか」
「ああ、今から町まで物資の買出しに出かけるんでな。一緒に来てくれ」
「は」

少佐の言葉に敬礼を返すと、私は支度をすべく庵へと駆け出した。

49 :1 [saga]:2011/10/21(金) 19:44:25.83 ID:DhIGHFQ40
庵に程近い(といっても徒歩で数時間程度はかかるのだが)町の中心街。
戦時中であり物資の供給は十分でないはずだが、そこを歩く人々の顔に暗さは見られないのが救いである。
軍服を着た我々の姿はそんな雑踏の中でも目立つようで、行く先々で握手を求められたり激励の言葉を頂いたりした。
我々が守っているのは、こういう人々の「日常」なのだ。
改めて自分に与えられた任務の重さを自覚する思いである。

「野菜、肉…………こんなものでよいか」

そう呟いた少佐が振り返り、荷物を両手に持つ私に心配そうな視線を向けてくる。

「私も少し持ったほうが…………」
「いえ、そのお気持ちだけで十分です。お気遣いなく」

少佐の言葉に笑顔を返す。
烈風丸を打つという一番大事な仕事では魔力を持たない私は役に立たないのだ。
こういう場面でせめて役に立っておかねばわざわざ無理を言ってついてきた意味がない。

「そうか……まぁ、いったん車に戻ろう」
「は」
50 :1 [saga]:2011/10/21(金) 19:45:09.01 ID:DhIGHFQ40
「……む。あれは」

(高砂や この浦舟に帆を上げて〜)

歩き出した少佐が不意に聞こえてきた喧騒に立ち止まる。
これは……久しぶりに聞いたが「高砂」か。ということはこのあたりの店のどこかで祝言があるのだろうか。
辺りを見回すと、ある店の前に人だかりができている。
少佐の方に視線を向けると、少佐も興味を惹かれたように視線を向けている。
少佐の後に続いて、われわれもその人だかりの方へと足を向けた。

人だかりの中心では紋付袴の花婿と白無垢の花嫁が並んで、人々からの祝福の言葉をうれしそうに受けている。
こういう非常時でも、人の営みというのは絶えることなく続いているのだ、と妙に感傷的になって眺めていた。

…………そういえば坂本少佐はどうなのだろうか。
現在の少佐に結婚願望は薄そうだが、いずれはどなたかとこのように祝言を挙げる日が来るのだろうか。
そんなことを考えつつ何気なく少佐の方に視線を向けてみる。

「…………何か言いたそうだな土方」
「……いえ」

同じようにこちらに視線を向けていたらしい少佐と目が合ってしまう。
少佐らしくない皮肉っぽい言葉に今まで考えていたことを見透かされたような気がして、思わず視線をそらしてしまった。
51 :1 [saga]:2011/10/21(金) 19:45:38.36 ID:DhIGHFQ40
「私も……いつかはあのように祝福される側になるのだろうか。正直、今はとても考える余裕もないが、私の戦いもいつかは終わる。
そしてその時は…………そう遠くない」

やや照れたように視線を逸らしつつ、誰に言うでもなく少佐が呟く。
その横顔はどこか寂しげで、普段の少佐からは想像も出来ない表情に我知らず鼓動が早まる。
何か言葉をかけねば、と思うものの舌が口蓋に張り付いたように言葉が出てこない。
そんな私の沈黙を困惑と取ったか、少佐は相好を崩し笑顔を向けてきた。

「すまんな。詮無いことを言った」
「いえ」
「まぁ、そうだな…………もしもの時は貴様に貰ってもらうのも悪くはないかも知れんな」

しかし、その笑顔のままでとんでもない爆弾を落としていくのが坂本少佐である。

「なっ……さ、坂本さん!」
「ふふ。どうだ土方。自分で言うのもなんだが、私はなかなかの体つきをしていると思うぞ?」
「か、からかわないでください!」

そういって体を寄せてくる少佐に覚えず顔が赤くなってくるのを自覚する。
ヴィルケ中佐が見たら即決の軍法会議で銃殺にされかねないような場面である。

「はっはっはっ。まぁ貴様にはこんな男だか女だか分からん女よりもいい女がきっと見つかるさ。私が保証する」

そういって私から体を離し、少佐は再び笑う。
……その「いい女」の代表が目の前にいるのだが。
…………とはさすがに本人を目の前にしてはいえない。
私も少しは学習するのだ。

「行くぞ土方。少々時間を浪費しすぎた」
「はっ」

再び歩き始めた少佐のあとに続き、私も両手に荷物を抱えて歩き出した。

52 :1 [saga]:2011/10/21(金) 19:47:52.27 ID:DhIGHFQ40
以上です。
短くてすいません。


>「そうか……まぁ、いったん車に戻ろう」
すいませんこれは間違いです。
最初は車で来ていたという設定だったのですが山篭りという設定に似つかわしくないかなと急遽書き換えたためにこういうことになりました。

それでは。
また来週です。
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/22(土) 02:54:26.91 ID:UWhBEPqfo
>>52
乙ダナ
ストパンSS増えて嬉しいし何よりこの組み合わせが嬉しい
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/22(土) 07:46:23.42 ID:pMSDsmOIO
お似合い過ぎて応援したくなるww
乙です
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/10/23(日) 19:52:11.86 ID:XzNW6yFx0
乙ッス

くそっ口から出血してやがるぜ・・・
56 :1 [saga]:2011/10/23(日) 20:55:22.68 ID:CVk+hpRg0
セルフage
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(西日本) :2011/10/23(日) 22:55:10.45 ID:58tRsq790
くっそニヤニヤがとまんねぇ
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/10/24(月) 17:55:50.46 ID:Awa4ALH00
くそがくそがくそがくそがくそが
59 :1 [saga]:2011/10/28(金) 19:53:49.08 ID:4s/T7gwh0
こんにちは。1です。
今日も頑張って投下していきます。
そろそろ書き溜めのストックが尽きつつある……頑張って書かないと

60 :1 [saga]:2011/10/28(金) 19:54:24.62 ID:4s/T7gwh0
朝から降り続く雨が、軒端を叩いて規則的な音を立てている。
今日は朝から雨。
そのため、朝食を済ませてしまった後は家事担当の私は何もすることがなく暇をもてあましていた。
ラジオの天気予報は、この雨は今日一日は降り続くだろうといっている。
少佐はといえばこの天気に「気分が乗らない」と一言言って鍛冶場にも入らず私の目の前で暇そうに寝転がっている。

「あー暇だな土方」
「そうですね……」

少佐も私も、扶桑人気質というのかすることが何もないという状態にどこか落ち着かないものを感じていた。

「外に出て鍛錬でもするかー」
「風邪引きますよ」
「むー」

私の一言に少佐は不満そうにほほを膨らませる。
その、子供っぽいしぐさが妙に似合っていて思わず笑みがこぼれそうになり、目をそむける。
そんな私の様子には気づかず、少佐は相変わらず暇だ暇だとこぼし続けていたが、ふとその言葉が止まっった。

「ふむ…………良いことを思いついたぞ」
「よ、良いこと、ですか?」
「うむ。普段から私に良く尽くしてくれている貴様を労ってやろう」

不思議だ。
少佐が自信満々で言っているはずなのに不安しか感じないのは何故だろう。
そしてその私の予想は、次の少佐の言葉で完全に的中することになる。
61 :1 [saga]:2011/10/28(金) 19:55:00.11 ID:4s/T7gwh0
「今日一日、私が貴様の従兵を勤めてやる」
「え……じゅ、従兵ですか?」
「うむ。いけ好かない上司をあごで使ってやる好機だぞ」
「い、いえ、そのような」

そう言いながら笑う坂本少佐。
いけ好かないどころか坂本少佐の従兵であることに不満などかけらもないのだが。
しかしこちらが困惑している間にさらに少佐は話を続ける。

「せっかくだから呼称も変更しよう。そうだな…………『土方さん』、いやせっかくだから『圭助様』の方がいいか」
「うえっ!?」

突然呼ばれたその呼称が無性に恥ずかしく、思わず妙な返事を返してしまう。
け、圭助様て。
どこの華族様だ。

「まぁ、ご要望とあらば好きに呼んでやるが。『ご主人様』でも『あなた』でも」
「やめてください……」

少佐からさん付けで呼ばれるだけでもその違和感に転げまわりたいほどだと言うのに。
これ以上私の精神をすり減らさないで欲しいものだ。

「貴様も私を呼び捨てで呼んでいいぞ。何なら下の名前でも」
「ちょ、ちょっと待ってください」
「何、私がいいといっているのだ。ほら、呼んでみろ。私の名は『美緒』だ」
「え?え?で、ですから、いや、あの」

こちらの戸惑いなど意に介した様子もなく、少佐は妙に嬉しそうに促してきた。
しかし目を輝かせてこちらの言葉を待っている少佐の姿を見ると、なんだかそれでもいいか、という気分になってくる。

「え、えっと…………その」
「…………」
「み…………みお」
「っ!」

ネウロイの大群に囲まれたときよりも多大な勇気を振り絞ってやっとのことで発した言葉であったが、それを聞くや少佐はものすごい速さで顔をそらした。
こちら側に向けた耳が赤く染まっているのが分かる。
62 :1 [saga]:2011/10/28(金) 19:55:57.75 ID:4s/T7gwh0
(こ、これは…………)

少佐が、こちらに聞こえないような声で何かをつぶやいている。
さすがに少佐にとってもかなり恥ずかしかったようだ。

「こ、これはかなり…………その、照れる、な…………」
「は、はい」
「その、父親以外の男に名前を呼ばれたなど初めてだからな。予想以上に何というか…………」

こちらも妹以外の女性の名前を呼び捨てで呼ぶなど初めての経験だ。
お互いに視線の置き所に困ったような沈黙が流れる。

「うむ……やっぱりやめておこう。妙なことを言い出して悪かったな」
「い、いえ」

その少佐の言葉は、私と少佐の二人を救ってくれた。
雨は、まだ降り続いている。

63 :1 [saga]:2011/10/28(金) 19:57:21.18 ID:4s/T7gwh0
その日の夜。
夕食の片づけを終えた後の空白の時間。
私はこの時間を読書にあてることにしている。
読むのは戦術書や歴史書、大衆的な娯楽小説までさまざまだ。
最初のころは少佐も同じように読書をしていたが、どうもこういうことは性に合わないらしくいつの間にか読書をする私の隣で刀の手入れなどをするのが日課となっている。
朝のように突然ぽっかり開いた時間ではなく毎日定期的に訪れる空白。
この時間を少佐と二人の空間で過ごすのは、嫌いではなかった。

「……なあ土方」
「は」

今日もいつものように読書をしていると、少佐が話しかけてきた。

「酒、というのはどんなものなんだろうな」
「はぁ…………酒、ですか」

興味の薄い返事を返してしまうが、酒を飲んだことのない自分にはこれ以上の返事など返しようがないというのが実際のところである。
少佐も今年の8月に20歳になったばかりであろう。飲酒の経験があるとは思われない。
だからこその問いかけなのだろうが。
64 :1 [saga]:2011/10/28(金) 19:57:47.21 ID:4s/T7gwh0
「先日里に降りた時にな、馴染みの店主から分けてもらったのだ。私はいいといったのだが、どうも私はそういうものを好むように見えるらしい」
「…………」

少佐と酒か。
確かに一升瓶を抱えてくだを巻いている姿が妙に似合いそうだ。
…………そんなことを考えていたら表情に出てしまったのだろうか、少佐に睨まれた。

「なにを想像した?」
「い、いえ」
「…………まぁいい。それで、せっかくの好意を無碍にするのも、と思うわけだ」
「はぁ」
「貴様も付き合うのだぞ」
「え、えっ?」

ここで朝に感じたのと同じ感覚が私を襲ってくる。
いわゆる「嫌な予感」という奴だ。
ここで少佐に酒を飲ませると大変なことになる。
何故か私の本能とも呼べるものがそう警告してくるのだ。
そんな戸惑いを抱えた私がまごついているうちに、少佐は徳利と湯飲みを持って戻ってくる。

「ほら。本当は猪口があればいいのだがな。風情のないことだが」
「あの……坂本さん…………」
「どうした?」
「い、いえ、頂きます」

結局、まさか「嫌な予感がするので飲まないほうが」などとも言えず、なされるがままに少佐のご相伴にあずかることとなった。
一応儀礼として軽く湯飲みを合わせ、かちりと言う音をさせる。
こういう行為も自分には縁のないものであったため、ひどく新鮮な気分にさせられる。
しかし、それから少佐も私もなんとなく踏ん切りがつかないでいた。
匂いをかいで見たり、意味もなく透明な液面を見つめてみたり、そんなことをしながらしばらく時が過ぎる。
65 :1 [saga]:2011/10/28(金) 19:58:37.08 ID:4s/T7gwh0
「どうもこういうことはなかなか踏ん切りがつかないものだな」
「そ、そうですね」
「まぁしかし、このまま二人でアホみたいに固まっているというのも芸がない。せーので同時に行くぞ」
「は、はい…………」

酒本来の飲み方とは程遠い気がするが、この膠着状態を打開するにはそれしかなかろう。
一瞬の緊張感。
もはや何だか鍛錬をしているような気分だ。

「せーの!」

坂本少佐の声に合わせて、私と少佐は一気に湯飲みを呷る。
…………う。
最初に感じたのは喉を流れ落ちていく熱い塊。
飲み込んだものが喉を通って胃へと落ちていくのがはっきりと分かる。

「…………うげ」

そんな声が思わず漏れる。
決して気分がいいものではないな…………これを好んで飲む域に達するのはまだまだということか。
そういえば少佐はどうなのだろう。そう思って隣に目を向けてみるが、そこには顔を伏せたまま微動だにしない少佐の姿があった。
何かあったのだろうか。
心配になった私は私自身の不調も忘れ、少佐を軽くゆすって呼びかけてみた。
66 :1 [saga]:2011/10/28(金) 19:59:21.45 ID:4s/T7gwh0
「…………」

しかし少佐からの返事はなく、されるがままに左右にぐにゃぐにゃとゆすられている。

「坂本さん、坂本さん!」

それでも反応を返さない少佐にさすがに私の顔からも血の気が引く。

「坂本さん!!」
「…………ふふ」

3回目の呼びかけでやっと反応が返ってきたことに安堵するが、どうも様子がおかしい。

「さ、坂本さん?」
「ふふふ…………ふはははははははははっ!!」
「ちょ、ちょっと坂本さん!」

不意に笑い声を上げて庵から飛び出していきそうになる少佐を必死で押さえつける。
まさか湯のみ1杯程度であの少佐がここまで正気を失ったと?
信じられない気持ちでいっぱいだが、今はそんなことを言っている場合ではない。
外はまだ雨が降っている。
こんな状態で少佐を外に出したらそれこそなにが起こるかわからない。

「坂本さん落ち着いてください!」
「ははははははは」

ほとんど全身の体重をかけて押さえつけているというのに少しずつ入り口のほうへと引きずられていく。
もはや当身でも食らわせねばだめか、と覚悟したその時

「ははははは………ふふ」
「坂本さん?」
「あーつーいーー!!」

そう呟くと、少佐はいきなりズボンの上に羽織っていたシャツを思いっきり脱ぎ捨てた。
67 :1 [saga]:2011/10/28(金) 19:59:58.02 ID:4s/T7gwh0
「え、あ、ちょ、ちょっと少佐?」

目の前には紺色のズボンだけの少佐の姿。
元々海運国として発展した扶桑は、船の女性乗組員の服装からウィッチのズボンが発展している。
そのため、万が一水に落ちた時にも大丈夫なように他国のウィッチの方たちズボンとは異なり上半身まで覆うような形となっており、
その素材も撥水性の高いものとなっている。
そのズボンだけの姿で、私に組み敷かれるような体勢になりながら少佐は相変わらず笑い声を上げていた。
…………って、私は何を冷静に分析しているんだ。
そんなことを考えているうちに少佐はズボンの肩紐にまで手をかけて外そうとし始めた。

「ちょ、何してるんですか坂本さーーーーん!」
「あーーーつーーーいーーー!」

全くこっちの話を聞かない。
さすがにここまで来ては最終手段をとらねばならないか。
そう覚悟した私は当身を食らわせるべくいったん体を起こす。

「坂本さん…………申し訳ありません」
「ははははは……ふにゅ」
「……え?」

しかし、急に少佐の抵抗力がなくなり、私はそのまま床に少佐を押さえつけるような体勢で倒れこんでしまった。
…………何だか最近こういうことがやたら起こっている気がする。
何事かとしばらく動けずにいたものの、やがて程なくして規則正しい寝息が聞こえてきたとことで安堵する。
しかしこの体勢はいろいろとよくない気がする。
早急に少佐の上から退くべく、足に力をいれ…………ようとしたのだが。

「…………あれ?」

どうも足に力が入らない。
というか、意識まで朦朧としてくる。
どうも、先ほど1杯だけ飲んだ酒が今頃回ってきたようだ。
色々と激しく動きすぎたのも悪かったのかもしれない。
いかん…………はやく……どか…………なくて…………は…………
しかしそのまま、私の意識は闇に沈んでいった。
雨は、いつの間にか止んでいた。
68 :1 [saga]:2011/10/28(金) 20:00:32.99 ID:4s/T7gwh0
翌日。

(ん…………)

目覚めは最悪だった。
確か、里で貰ってきた酒を飲もうと少佐に持ちかけられ、そして…………

「……っ」

昨日のことを詳しく思い出そうとすると頭痛が襲ってくる。これが二日酔いという奴か。
どうやらなれない酒とやらのせいでこのような事態に立ち至ってしまったようだ。

ぼんやりしながらも、おぼろげながらに昨日のことが思い出されてくる。
確か少佐が酒を飲んだ途端にいきなり笑い声を上げながら外へ飛び出そうとして、それを止めようとした私は…………

(あ…………ああああああああっ!!)

昨日のことが思い出されるにつれ、羞恥で頬が赤く染まってくる。
あの後、いきなり服を脱ぎだした少佐を必死で止めているうちに少佐も私も体力の限界が来て眠り込んでしまったのだ。
…………と、いうことはこの全身に当たるやわらかい感触は……

恐る恐る目を開く。

(うおっ!)

いきなり至近数センチの距離に少佐の顔が迫り、思わず声を上げそうなのを必死で押さえ込む。
……よかった。
まだ目を覚ましていないようだ。こんな状態で少佐が目を覚ましたらそれこそどんな事態が待っているか分からない。
まずはこの体勢を何とかしなくては。
私はすぐに立ちあが……
立ちあが…………れなかった。
69 :1 [saga]:2011/10/28(金) 20:01:02.76 ID:4s/T7gwh0
「…………これは」

寝ている間に動かされたのか、少佐の両手が私の背中にしっかり回されている。
寝ているというのにその力は存外に強く、私はぴくりとも体を動かすことが出来ない。
少佐が目を覚まさない程度にゆっくりと動いて脱出を図ってみるが、うまくいかなかった。

ただでさえ先ほどから感じる少佐の寝息と体温でこちらの精神は磨り減っているというのに
少佐が起きるまでこのままなど、私の精神がどうにかなってしまいそうだ。

「う……ん…………」

今まで規則正しかった少佐の寝息が小さなうめき声のようなものに変わる。
……と同時に、私を拘束していた手の力が緩んだ。
その瞬間、私は必死に体をよじって少佐の手の中から抜け出すことに成功した。

…………少し惜しかった、とかそんなことは全く考えていない。
70 :1 [saga]:2011/10/28(金) 20:01:32.81 ID:4s/T7gwh0
「んあ…………土方、か?」
「はい」

程なくしてゆっくりと目を覚ました少佐。
まだ頭がすっきりとしないようで、生気のこもっていない視線をこちらに向けている。
少佐のあまり見られない表情に、思わず今の状況も忘れて見入ってしまう自分がいた。

「昨日……つっ」

昨日のことを思い出そうとする少佐であったが、すぐに顔をしかめて頭を抱える。
少佐の方もなれない酒に頭痛がひどいのだろう。
今日は一日休息日にしたほうがよさそうだ。
とりあえず、と冷水を少佐に差し出すが、

「…………っ!!」
「坂本さん?」

何故か私が近づくのを避けるように距離をとって飛びのく少佐。
何か異常でもあったかとさらに近づこうとするものの、少佐はそのたびに後ろへ飛びのいて近づかせてくださらない。

「あ、あの…………何か」
「な、何でもない私は大丈夫だっ!こ…………これから着替えるからついてくるな!!」

顔を赤くしたままそういうと少佐は私の返事も待たずに部屋を出て行った。
71 :1 [saga]:2011/10/28(金) 20:02:03.88 ID:4s/T7gwh0
「坂本さん…………」

後には伸ばした手の行き場所を失い間抜けに佇む私だけが残される。
…………どうしたのだろうか急に。
顔も赤かったし、ことによっては宮藤さんにご足労願うことも考えなくてはならないかもしれない。
いくら宮藤さんでも二日酔いの対処法までは知らないかも知れないが。


結局。
再び少佐が私の前に姿を現したのは優に小一時間は経過した後であった。


72 :1 [saga]:2011/10/28(金) 20:03:19.23 ID:4s/T7gwh0
……今日はここまでです。
酒のエピソードは2期のあの話を見てからいつか書こうと思ってましたw

それでは。
また来週です。
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/10/28(金) 21:15:52.55 ID:PhTBtBfj0
満員電車で転げ回るところだったわ

乙!
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(西日本) :2011/10/28(金) 23:59:54.82 ID:E0XCusUy0
やばい、顔がニヤけてくる。

乙です。
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2011/10/30(日) 14:02:26.74 ID:2HXtMra00
乙!

いいね
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/31(月) 00:26:43.62 ID:rcDdL/1IO
乙乙!!
いいねぇ今回も

2期のあの話ってどんな?
もうあんまり覚えてない
77 :1 [saga]:2011/10/31(月) 23:36:55.54 ID:59NQ9JPU0
皆様、レスありがとうございます

>76
2期第9話の「明日へ架ける橋」です。
海に行ったウィッチたちが洞窟を見つけ、探検するような話だったと記憶してます。
あの話の中で洞窟の中にあった樽に入っていたワインをまともに被ったもっさんが壊れるシーンがあって爆笑しましたw
78 :1 [saga]:2011/11/04(金) 19:54:44.15 ID:Fip18X7g0
こんばんは。
今週も投下しに来ました。
第6話です。
79 :1 [saga]:2011/11/04(金) 19:55:09.87 ID:Fip18X7g0
山の朝は空気が澄んでいる。
触れれば空気そのものが音を立てるのではないかという錯覚さえ起こしそうなほどに。
そんな朝の清澄な空気の中を少佐と二人で歩く。
目的は食料の調達だ。
もちろん、里に下りていけばたいていの食材は手に入るのだが、
せっかく食糧豊富な山の中にいるのにそれを活用しないのはもったいない、との事でこうして数日に一度、山中を歩き回っているのだ。
山中の行軍訓練もかねている、とは少佐の言葉だが海軍に所属して山中を行軍する機会がどれほどあるのかは考察しないが花であろう。

「土方、大丈夫か?」
「は」

後ろを歩く少佐の言葉にそう返し、手に持った鉈で腰まである草を斬り払いながら獣道を歩く。
少佐を振り返ってみれば、私より重い荷物を背負っているというのにその足取りは疲れなど微塵も感じさせない。
男として少々自信を喪失する思いである。

そんな風にしてしばらく歩いたころ。

ちくり。

足首にするどい痛みが走った。

「ん?」
「どうした土方?」

不意に立ち止まった私に、少佐が心配そうに声をかけてくる。
しかし足元を見ても何も見えない。
おそらく虫にでも刺されたか枝でも刺さったのだろう。
念のため周囲の草を広めに斬り払ってみるが何も見えない。

「……いえ、気のせいでした」
「…………そうか?何か異常があったら言うのだぞ。いつでも交代してやるからな」
「は」

この程度のことで少佐に心配をかけるまでもあるまい。
そう答えて歩き出す。
後から考えればこの判断は完全に誤りであったのだが、そのときの私はそんなことに気づく由もなかった。
80 :1 [saga]:2011/11/04(金) 19:55:35.47 ID:Fip18X7g0
「ぐ…………」

山中を歩き回ること数時間。
目的の食料も採取し、庵に帰るため歩き出してより程なくしてのこと。
最初はただの違和感だった。
どこかひねったのかもと思ったが、さほど気になるものではなかったので放置して歩いていた。
しかしそれは時とともに増大し始め、少し歩いただけで息が乱れ、異様なほどの脂汗が全身から吹き出るようになってきた。


「……少し休憩しよう」

薮漕ぎを続けること数分の後、少し開けた場所を見つけて少佐が言う。
少佐にも私の様子が尋常でないのが分かってしまったのだろう。
その言葉に私は返事をするのももどかしく、地面に腰を下ろす。
足の違和感は収まるどころかはっきりと痛みへと変わっていた。

「土方。足を見せろ」
「…………は」

有無を言わさぬ雰囲気で少佐が声をかけてくる。
大丈夫だ、とはとても嘘でも言えない。明らかに不自然なほどに体が重く汗もひどい。

「ちょっと我慢しろ」

そういってズボンを捲り上げて私の足を見た少佐の表情がこわばる。

「やはりな」
「しょ、しょうさ…………?」

体調の悪さは加速度的に進行しており、もはや声を出すのも億劫になってきている。

「マムシだ」
「ま、むし……」

もしかしてあの時の痛み……虫などではなく、マムシにかまれていたのか…………
そのまま何の処置もせず数時間山を歩き回っていたとは。いまだに意識を保っていられるのが奇跡と言っていいだろう。
81 :1 [saga]:2011/11/04(金) 19:56:04.15 ID:Fip18X7g0
「あ、あの…………」
「もう喋るな」

しかし、少佐の顔が徐々にぼやけていく。
まずい……だんだん…………いしき……が…………

「土方…………?土方っ!おい土方!返事をしろ!」


す…………いません…………少佐……そんな……顔を…………させ……る…………つもりは…………
意識を失う直前に見えたのは、少佐の今にも泣き出しそうな表情で、その表情はいつまでも私の脳裏に残り続けたのだった。
82 :1 [saga]:2011/11/04(金) 19:56:31.78 ID:Fip18X7g0
…………なんてことだ。完全に私の責任だ。

土方を背中に背負い、山道を出来る限りの速度で走りながら私は抑えようのない悔恨にとらわれていた。
山道を歩く際の大鉄則。毒虫、毒蛇には最大限注意を払わねばならなかったはずなのに。
ついついいつも歩く道だからと警戒を緩めてしまった。
そして土方が違和感を覚えたと思われるとき、つい土方の言葉を信じて軽く流してしまった。

「土方、すぐに里に着く。あと少しの辛抱だ」
「…………」

背中の土方に向かって呼びかけるものの、帰ってきたのは苦しそうな呼吸音のみ。
後から後からわいてくる嫌な予感を振り切るように大きくかぶりを振る。
後悔ならいつだって出来る。土方が回復してから土下座でも何でもして謝罪すればすむことだ。
今はとにかく一刻も早く安静な場所に土方を運ばねば。
無駄とは分かっていても、背中の土方に対する呼びかけを続ける。

「土方!貴様はこの程度で死ぬような男ではないはずだろう!あの時言った言葉、忘れたとは言わせんぞ」

(私にとっての上官は、生涯貴女一人と心に決めております)

この山篭りに出かけるとき土方の言った台詞を思い出す。
確かにまるで演劇のような大仰な台詞ではあったが、その言葉にどこか安心した自分がいたのも事実だ。
…………って、この非常時に何を思い出しとるんだ私はっ!
覚えず顔が赤らんでくる。

「…………っっ!!」

両手のひらで頬をぴしゃりと叩き、邪念を頭から追い出す。
そんなことは土方が助かってから考えればいい。

83 :1 [saga]:2011/11/04(金) 19:57:01.27 ID:Fip18X7g0
再び全力で走ること数分、やっとのことで里が見えてくる。
診療所の看板を見つけると戸を開けるのももどかしく駆け込んだ。

「はい、どうし――――」
「連れが、マムシだっ!」

…………後から思い出す。
いくら慌てていたからとはいえ入る前にもう少し言うことを考えられなかったものかと。

しかし、さすがは医師である。
私のように、慌てるあまり言語中枢に異常をきたす急患の付き添いには慣れているらしく、私の要領を得ない説明にも辛抱強く付き合ってくださり、すぐに処置がとられた。
しばらくして処置が終了したことを知らせに来た医師の言葉はしかし、私の不安を払うものではなかった。

「その、誠に申しあげにくいことですが―――」

咬まれてからあまりに時間が経ち過ぎており、すでに毒が全身に回りつつある。
このままでは最悪の事態も覚悟せねばならないとの事。
その言葉を聞いたときの私は、この世の終わりのような表情だった、とは後から医師より聞いた話である。

「そんな……な、何とかならないのか?」
「最善はつくしますが…………全身に回った毒を一瞬で除去するような魔法でも使わない限り……」

魔法……か…………
…………ん?
魔法…………だと?

そうだ…………!

「医師殿……電話を貸してもらえないか!」
「は、はい…………そちらです」

奴ならば……今の状況を打開するまさに「魔法使い」となってくれるかもしれない。

「はい、宮藤診療所……」
「宮藤か?坂本だ。実は――――」

84 :1 [saga]:2011/11/04(金) 19:57:32.65 ID:Fip18X7g0
「土方…………」

宮藤が到着するまでの間、私は土方のそばにずっとついていることにした。
しかし、こうしていったん落ち着いてしまうと、今まで考える余裕のなかったことが次から次へと押し寄せてくる。

医師の処置が適切だったのか、眠る土方の表情は一時期ほど苦しそうではなく、むしろ安らかなものとなっている。
しかし医師の話によればまだ予断を許さぬ状況は脱しきっていないとのこと。

「ん…………」

土方が小さく身じろぎする。
額の汗をぬぐってやりながら、その寝顔を覗き込む。
あまりいい趣味ではないと思いつつも、なぜかその寝顔から目を離せないでいる自分がいた。

(こやつは…………なぜこうまでも私などに……)

自分で言うのもなんだが、私は上官として仕えやすい人間ではないだろう。
理よりも感情を優先させて動き、そして一度決めたら梃子でも譲らない。
正直軍隊という組織には向いていないのかもしれない。
今回の山篭りとて半分は私のわがままのようなものだ。
しかし目の前の男は、そんな私に文句のひとつも言わずに仕えてくれている。

だからこそ、先ほどの医師の「最悪の場合も」という言葉に私は自分でも驚くくらいに動揺していた。
「はらわたが抜け落ちたような」とでも言うのだろうか。
土方が私の前からいなくなるかもしれないという連想は不吉なものとして私の心を侵食してくる。
85 :1 [saga]:2011/11/04(金) 19:58:15.59 ID:Fip18X7g0
(私にとっての上官は、生涯貴女一人と心に決めております)

…………っっ!
だ、だから今はそんなことを思い出している時ではないというに!

しかし自分と土方しかいないこの空間というのがいけないのか、次から次へと妙な連想ばかりが浮かんでくる。
…………そういえば鍛錬の途中、足を滑らせた奴にのしかかられるような体勢で…………

「坂本さん!」
「うわあああああああっ!」
「え?え?きゃっ!」

不意に病室の戸が開き入ってきた宮藤に必要以上に驚いてしまう。
突如私の上げた大声に宮藤の方が驚いている。

「さ、坂本さんどうしたんですか?」
「…………な、何でもない」
「そ、そう、ですか?」
「それより宮藤、さ、早速で悪いが土方を見てやってくれ」
「は、はい……」

私の言葉に、宮藤は不思議そうな表情をしながらもベッドで休む土方のほうに向き直る。
手をかざし、集中をはじめると、宮藤の頭に獣のような耳が現れ、背中からは尻尾が生えてきた。
宮藤の体全体が青白い光に包まれ、そばにいるだけの私にもその効果は伝わって来る。

「…………」
「…………み、やふじ」
「大丈夫です。土方さんは私にとっても……大事な人、ですから」
「え……?……あ、ああ…………そ、そうだな」

どうも先ほどのあらぬ連想のせいか宮藤の言葉に妙な意味を汲み取ってしまいそうになる。
宮藤も自分と同じ(しかも歳の近い)扶桑の男ということで兄のように思っているだけだろう。
86 :1 [saga]:2011/11/04(金) 19:58:53.95 ID:Fip18X7g0
しばらく、宮藤も私も言葉を発しないまま時間が流れる。
私にとって数時間にも感じられたその数分間は宮藤の声によって終わりを告げた。

「…………ふぅ」
「どうだ?」
「はい。もう大丈夫です」
「…………そう、か」

すがるような声の私に、宮藤は笑顔を返す。
私はといえば宮藤のその言葉を聞いた瞬間に全身の力が抜ける思いであった。
思わず椅子にへたり込みそうになるのをこらえる。

「よかったです。間に合って」
「……ああ。そうだな」

無邪気に喜ぶ宮藤を見ながら、私は心から安堵していた。

87 :1 [saga]:2011/11/04(金) 19:59:23.32 ID:Fip18X7g0
数日後。

「…………んん?」

薄く開けた目からうっすらと光が差し込んでくる。
私は…………どうしたのだろうか?
まだ頭がぼんやりとして、何か考えようとするとひどく痛む。

どれほどそうしていただろうか。
やがて私は、私の名を呼ぶ一つの声に気づく。
その声はとても聞き覚えのあるもので、その方は私にとってすべてを捧げて守るに値するお方で…………

「……た!…………じかた!!…………土方!!」
「…………は、は……い」

光の中にその方の輪郭がぼんやりと浮かんでくる。
扶桑の女性特有の流れるような黒い長髪。それを頭の後ろで無造作に結んでたらしている。

「土方…………全く、貴様はどれだけ寝れば気が済むのだ。従兵失格だぞ」
「も、申し訳ございません…………」

ああ、その方が今、私のために涙を流してくださっている。
そんなつもりはなかったのに…………私、などのために……

全身の気力を振り絞って手を持ち上げ、目元に流れる彼女の涙を拭う。
普段の私ならば絶対に出来ないことだが、頭がぼんやりしていた私は何故かそうすべきと思ったことを素直に行うことが出来た。

「…………ふん。気障な真似を。貴様らしくないな」

そう答える少佐はしかし、笑顔であった。
私の手をとり、頬に当てる。

「私の許可なく死に掛けるんじゃない…………馬鹿者が」
「…………は。肝に銘じます」
「そうか。ならば良い。はっはっはっ!」

そういっていつものように豪快に笑うお方こそ――――
私の生涯の上官、坂本美緒少佐であった。

88 :1 [saga]:2011/11/04(金) 20:01:18.83 ID:Fip18X7g0
……ここまでです。
このエピソードは私のじーさんの実体験を基にしてますw

畑仕事中に蛇にかまれたのに気付かず次の朝まで何もせずにいて死にかけたらしいですw

まぁそんなこんなでまた来週、です。
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(長屋) [sage]:2011/11/04(金) 21:08:18.10 ID:kR29/dv90
起きた土方さんにすがって泣くもっさんも見たかったが…

やっぱこうでないとな!乙!
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(千葉県) [sage]:2011/11/05(土) 09:13:46.34 ID:bkI0Vag80
こりゃ惚れるはずだわ・・・

乙!
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/05(土) 13:48:45.98 ID:1fHJVMVIO
乙!
次回も楽しみに待ってます
92 :1 [saga]:2011/11/07(月) 19:15:24.20 ID:/LUH+9We0
セルフage
93 :1 [saga]:2011/11/11(金) 21:13:21.43 ID:R5FrT6x+0
こんばんは。
今週も投下しに来ました。
そろそろ本当に書き溜めがやばい……でもがんばります。
94 :1 [saga]:2011/11/11(金) 21:13:56.49 ID:R5FrT6x+0
「……土方」
「…………っ!」

その日、いつものように起きだしてきた少佐の姿を見た私は数瞬呼吸を忘れるほどに驚いた。
少佐はいつものような紺色の装束ではなく、白色の装束を着ておられる。
扶桑において、「白」は神聖な色として古来より崇められてきた。
生死をかけた戦いに望む時、そして決意のほどを自ら示す時などにまとわれるのが白装束であった。
その白装束をまとわれたということは…………

「坂本さん…………」
「土方、私はこれより数日、鍛冶場に籠る。決して入るな。食事もいらん」
「しかし、それでは」
「大丈夫だ」

抗議の声を上げかけた私を制すると、少佐は笑顔を向ける。

「私とて自分の限界が分からんような人間ではない。本当に危なくなったら呼ぶ」
「は……」
「不服そうだな」
「正直無茶をしないという事に関しては少佐のお言葉は信用いたしかねます」
「…………はっきり言いおって」

少佐の表情が苦虫を噛み潰したようになる。
気分を害されただろうが、この人にはこれくらい言わないと私の知らないところで無茶をする可能性がある。
しかしそれと同時に分かっていた。
少佐が私の言葉如きで翻意するような方ではないと。

「……貴様の心遣い、有難く受け取っておく」
「…………はっ」

今は少佐からこの言葉を引き出せただけで良しとしよう。
95 :1 [saga]:2011/11/11(金) 21:14:30.55 ID:R5FrT6x+0
かん。かん。かん。

少佐がお籠りになってよりかなりの時がたち、もはや太陽は中天から西の空へとその位置を移していた。
しかし規則的に聞こえてくる槌の音は途切れることがない。
こうやって一人になってみると、改めて自分が少佐にできることの少なさに憮然とする思いが押し寄せてくる。
男である以上魔力をもてないのは仕方のないことと割り切ってはいるが、それでも一抹の寂しさはぬぐえない。

とんとん。

そんなことを考えていると、不意にドアがノックされる。
こんな山奥の庵に訪ねてくる人間などそれこそ稀である。
私の胸に一瞬緊張が走るが、その後聞こえてきた声でその緊張は霧散した。

「おはようございますっ!宮藤です。坂本さんいらっしゃいますか?」

ドアを開けた私の目の前に立っていたのは、重そうな大きなリュックを背負った宮藤さんであった。
96 :1 [saga]:2011/11/11(金) 21:15:00.63 ID:R5FrT6x+0
「…………そうですか……このさっきから聞こえてくる音は」
「はい。数時間ほど前からずっとです。せっかく訪ねてきていただいたのに申し訳ないのですが、誰も入れるなとのご命令ですので」

私の説明に、宮藤さんは一瞬落胆したような表情を見せるものの、すぐに笑顔に戻って言葉を続ける。

「うちの菜園でお野菜がたくさん取れたので、おすそ分けに来たんですよ」

そういって宮藤さんは背中に背負っていたリュックからたくさんの野菜を取り出して見せる。
道理で大きそうなリュックを背負っていたわけだ。

「それを背負って下からここまで?」
「あ、はい…………完全に私用でしたからストライカーユニットで来るわけにも行かなくて。
ふふ、こう見えても頑丈にできてるんですよ、私」

驚いた私の言葉に、宮藤さんはそう冗談っぽく笑って握りこぶしをつくって見せる。
確かに、大人の男でも難渋するような里からここまでの山道をリュックを背負って歩いてくるとは…………
華奢ななりをしていてもやはりウィッチであるということか。
……っと。
埒もないことを考えてしまった。
まずは礼を言うのが先であろう。

「ありがとうございます。大切に使わせていただきますね」

正直、戦時の統制下で野菜に限らず食料品全般が値上がりしている状況でこういう差し入れはとてもありがたかった。

「えへへ。お役に立てて嬉しいです」

そういって宮藤さんは笑顔を見せる。
97 :1 [saga]:2011/11/11(金) 21:15:28.58 ID:R5FrT6x+0
せっかくはるばる来ていただいたのにすぐに帰らせるのも失礼だろう。
お茶でも飲んでいかないか、との誘いに宮藤さんは笑顔で頷いてくださった。
私も話し相手がいなくて退屈していたところである。

しばらくは宮藤さんの学校生活や親友だというみっちゃんという少女の話などをしていたが、

「……あ、そういえば、妹さんのことお聞きしていいですか?」
「歳江のことですか?は。何なりと」

不意に話題を切り替えるように宮藤さんが聞いてくる。
やはり自分と同じぐらいの女の子のことは気になるのだろうか。

「ウィッチの養成学校に入ってるんですよね」
「はい。どうやらそれなりの魔力を持っていたようで。兄としてはあまり危険なことはしてほしくないんですが」
「あはは。結構心配性なんですね」
「そ、そういうわけではないんですが」

自覚していないではないのだが、改めて人に指摘されるとなんだか気恥ずかしいものを覚えてしまう。
「お兄様と同じ道に進みたい」そう歳江は言った。
ウィッチの適性がなくても後方支援要員か何かで海軍に入るつもりではあったらしい。
98 :1 [saga]:2011/11/11(金) 21:15:58.00 ID:R5FrT6x+0
「じゃあ、私が海軍に残ってたら妹さんにも会えたかもしれませんね」
「あ…………そうですね。501のビショップ曹長に雰囲気が似ているので……宮藤さんとはいいお友達になれるかもしれません」
「え、リーネちゃんにですか…………そういえば坂本さんも『扶桑撫子の見本みたいな子』って言ってましたね。
……一度、会ってみたいです」
「ま、まあ兄の贔屓目も入ってるかもしれませんが」

確かに宮藤さんなら歳江のいい友達になってくれるだろう。
そこまで考えてそういえば最近歳江と連絡を取っていないな、と思い出す。
坂本さんについて世界各地を巡っているのでそもそも連絡のしようがないというのもあるが、たまに届く歳江からの手紙などを見るたびに気になってはいた。
たまには手紙でも送ってみるのも悪くないか。

ふと窓の外に目を向けると、ずいぶんと太陽は西の空へと動いており、もはや夕刻と言っていいほどの時間になっていた。
話し込んでいるうちにずいぶん時間が経ってしまったらしい。
このままでは宮藤さんが自宅に帰りつくのが遅くなるばかりだ。
名残は尽きないが、このあたりが潮時だろう。

「宮藤さん、そろそろお帰りになったほうが…………下までお送りします」
「あ、えっと、その…………そ、それなんですけど……」

私の言葉にしかし、宮藤さんはなぜか顔を赤くしてうつむく。
次の瞬間宮藤さんの口から出た言葉は、私の予想をはるかにぶっちぎるものであった。

「あ、あのっ!きょ、今日はっ!こちらに泊めていただきたいんですが!」
「…………へ?」

その時私が挙げた声は、間違いなく私のそれまでの生涯の中でもトップ3に入るほど間抜けなものであった。
99 :1 [saga]:2011/11/11(金) 21:16:27.77 ID:R5FrT6x+0
宮藤さんが突然に発した一言。
そのあまりの予想外な内容に私は数秒の間呼吸を忘れたように宮藤さんを見つめる。
そんな私の態度を拒絶ととったのか、宮藤さんがあわてたように言葉を続けた。

「え、えっと……今から診療所まで帰るとなるとだいぶ遅くなっちゃいますし、だから、お母さんたちも、坂本さん達とゆっくりお話してきなさいって、その、だから」
「み、宮藤さん、落ち着いてください」

要するに宮藤さんの母上は、宮藤さんに「今日は坂本さんのところに泊まってきなさい」と送り出したということか。
まぁ確かに宮藤さんのご実家とここの距離を考えればそれが妥当な判断ではある。
前に来たときはストライカーユニットを使ったからこそ日帰りもできたが、徒歩での移動ではそうもいくまい。
しかし…………

「あ、あのっ、け、決してご迷惑はかけませんし、お家のことも何でもお手伝いしますから!」

……問題はそういうことではないのだが。
坂本さんがいるのならともかく、実質的に私と宮藤さんが二人きりになるというのは…………
宮藤さんの母上もこのような状況は想定していなかっただろう。
100 :1 [saga]:2011/11/11(金) 21:16:59.28 ID:R5FrT6x+0
「しかし、私と二人きりというのは…………」
「え?どうしてですか?土方さんがいればお母さんも安心だって言ってくれると思います」

そういって無邪気に微笑む宮藤さん。
…………本当に分かっていないようだ。
まぁ実際に何かが起こる可能性は皆無ではあろうが…………
それに、今から宮藤さんに延々と山道を歩いて帰れというのも酷な話である。
もとはと言えば私が話に夢中になって時間を忘れたことが原因なのだし。

「土方さん…………」

悩んでいる間にも宮藤さんは不安そうな視線をちらちらとこちらに向けてくる。
…………もう、こうなっては致し方あるまい。
坂本さんにはあとから事情を説明すればいいだろう。

「分かりました。ではお泊めします」

その言葉に宮藤さんの表情がぱっと明るくなる。

「あ、ありがとうございます!」
「…………いえ、こちらこそよろしくお願いします」

かくして、宮藤さんは今夜一晩、この庵に泊まることとなったのである。

101 :1 [saga]:2011/11/11(金) 21:18:29.48 ID:R5FrT6x+0
……というところで今回はここまでです。
相変わらず話の進みが遅くて申し訳ない。

また来週投下しに来られるように頑張って書き溜めときますねw

それでは。
読んで下さってありがとうございます。
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(愛知県) [sage]:2011/11/11(金) 22:50:22.62 ID:KDESMUqw0
乙!糖分が足りないwwwwww
もっさんフラグが立ったね!
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(千葉県) [sage]:2011/11/12(土) 10:35:10.87 ID:otjWjYae0
もっさん嫉妬で吐血しちゃうよ土方さん!
104 :1 [saga]:2011/11/13(日) 14:23:54.58 ID:tjkuXuCQ0
皆様レスありがとうございます。
せっかくなのでセルフage
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/14(月) 09:45:47.68 ID:LvuKNJLIO
乙乙
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(千葉県) [sage]:2011/11/16(水) 21:36:48.92 ID:tzHuFkNT0
age
107 :1 [saga]:2011/11/18(金) 18:40:27.51 ID:M/G5RfXn0
こんばんは。
今週も投下しに来ました。
よろしくです。
108 :1 [saga]:2011/11/18(金) 18:41:26.87 ID:M/G5RfXn0
「土方さん、このお洗濯物はどこにしまったらいいですか?」
「ああ、それはあそこの箪笥に……」
「はい…………っと、ちょっとこの隅のあたりに埃がたまってますね。せっかくだからお掃除しときます」
「あ、ありがとうございます」

「何でもお役に立ちます」という宮藤さんの言葉に嘘はなかった。
山篭りをはじめて数ヶ月。
元々がさつなところのある坂本さんに、一通りの家事は出来るものの人並みの手際でしかない私。
どうしても行き届かないところが出来るのは仕方のないところであったろう。
しかし宮藤さんはそんな私たちの庵をものの数時間で見違えるほどに掃除してくださった。

「ふぅ……こんなものですね」
「ありがとうございます」
「いえ、土方さんも手伝ってくださいましたし、泊めてくださるお礼ですよ」

作業を終え、宮藤さんが額に浮いた汗をぬぐいつつ照れたように微笑んだ。
外を見ると太陽は既に完全に傾き、もはや夕方というより夜といった方がいい光景になっている。
そろそろ夕食の準備にかからねばならないだろう。
109 :1 [saga]:2011/11/18(金) 18:42:31.80 ID:M/G5RfXn0
「さて、次は夕食の準備ですね」
「あ、お手伝いしますよ」
「いえ、そこまでしていただくのは…………」
「お手伝いしますって言ったじゃないですか。それに二人でやったほうが楽しいですよ」
「は、はぁ……」

厨房に向かう私の後についてくる宮藤さん。
それほど広くもない厨房に宮藤さんと二人で並んで夕食の準備を始める。
坂本少佐はそもそもあまり家事が得意な方ではないので、確かにこういう風に誰かと並んで家事をするなど、それこそ妹と暮らしていたころ以来のことである。
そんな妙な気恥しさをこらえつつ夕食の準備は進んでいく。
作業を始めて十数分たったのち。

「さすがに手馴れてますね」
「そ、そうですか?」
「そうですよ」

私の手元を覗き込みながら宮藤さんが感嘆したようにつぶやく。
料理の手際を褒められるなど初めての経験であるためなんだか妙な気分になる。
まぁ、そういう宮藤さんの方こそ私に注意を払いつつ私の数割増しの速度で作業をこなしているのだが。

「母が体が弱くてあまり厨房に立てなかったんです。子供のころからずっと私と妹で家事をしてて…………」
「それでもすごいですよー」
「……あ、ありがとうございます」

あまりに素直すぎる賞賛の言葉につい恥ずかしくなってしまう。
海軍という男社会で暮らしてきた自分は、どうも女性とこういう風に対等の立場で話すことに慣れていない。
無邪気に微笑んでくださる宮藤さんの笑顔がまぶしくて、覚えず鼓動が早まってくるのを自覚する。
彼女のこういう気さくなところは魅力的ではあるが、ついつい変な誤解をしそうになってしまうあたり性質が悪いと言えるかもしれない。

110 :1 [saga]:2011/11/18(金) 18:42:54.22 ID:M/G5RfXn0
「「いただきます」」

宮藤さんと向かい合って手を合わせる。
目の前の食卓には季節の彩に富んだ夕食の数々が。
私一人では正直これほどのものは作れなかったであろう。
見れば、宮藤さんも目を輝かせて目の前の食事に次々と箸をつけている。

「あむあむ……おいしーい!」
「そうですね」
「土方さん、すごいです。男の人でここまでお料理が上手って」
「い、いえ、何だかほとんどやってもらったみたいになっちゃって……」

事実、作業のほとんどは宮藤さんが片づけてくださった気がする。
味のほうもさすがである。

「そんな、私も土方さんとお料理できて楽しかったですよ。501にいたときはほとんど私が一人でやってましたから」

確かに、妹と一緒に料理をしたことはあったが海軍に入ってからはそういったことも絶えてなくなっていた。
正直、私自身も宮藤さんと一緒に料理をすることに楽しさを覚えていたのは事実である。

「そうだ。今度は土方さんが診療所のほうに遊びに来てくださいね」

そういって笑顔を向けてくる宮藤さん。
なぜかその笑顔が少しだけまぶしく感じられて、思わず視線をそらしてしまった。

111 :1 [saga]:2011/11/18(金) 18:43:20.48 ID:M/G5RfXn0
ほどなくして食事も終わり、片づけも終わった後の空白の時間。
あいも変わらず規則的な槌の音は聞こえてくる。
今まで一度も途切れることなく、だ。
宮藤さんがさすがに心配そうな表情で聞いてくる。

「…………坂本さん、すごいですね。ずっとあの音、途切れてないです」
「はい。私が何かお手伝いできればいいのですが……」

もう何回も繰り返した思考の袋小路。
仕方のないことだとは分かっていてももどかしい思いは消えない。

「ふふ。坂本さんのこと、すごく大事に思ってるんですね」
「は。あの方にお仕えすることこそが私の生きる道と心得ております」
「…………ちょっと羨ましいです。土方さんみたいな方にそこまで思ってもらってる坂本さんが」

私の表情に気づいたのか、元気付けるような宮藤さんの笑顔。
しかし、その笑顔がなぜか少し寂しそうに見えたのは…………まぁ、私の目の錯覚だろう。



「えっと……その、それで、た、大変図々しいお願いなんですが…………」
「あ、はい。何でしょうか」

会話もひと段落ついた後、宮藤さんが言いづらそうに手をもじもじさせながら切り出してくる。
…………坂本さんの客人である宮藤さんの願いを無碍にはできまい。
私にできるだけのことはかなえるつもりで先を促す。

「そ、そのっ!お、お風呂を頂かせて頂けませんでしょうか!!」
「…………へ?」

……再び宮藤さんの口から出た言葉に、私は再び間抜けな声を発することになったのであった。
112 :1 [saga]:2011/11/18(金) 18:43:51.25 ID:M/G5RfXn0
「〜〜♪」

宮藤さんは今、外にしつらえてある風呂に入っていた。
彼女の歌う鼻歌と、水音がこちらまで切れ切れに聞こえてきて、私は本を読みながらもなんとかその音を意識の外に追い出そうと努力を続けていた。
一日でも風呂に入らないことに違和感を感じてしまう扶桑人気質というやつは私も理解できる。
だから宮藤さんの申し出も理解できなくはないのだが…………
やはり完全に虚心でいるというわけにはいかないものである。

庵にある風呂は私と坂本少佐が使う想定しかしていなかったため、風呂と言ってもドラム缶に水を満たしたものに過ぎない。
そんなものに宮藤さんを入らせることに幾許かの躊躇いを覚えなくもなかったのだが、宮藤さん自身はあまり気にしていない様子であった。

「〜〜♪」

なおも聞こえてくる鼻歌。
しかし正直なところ、坂本さんと暮らしていればこういうシチュエーションには嫌でも慣れざるを得ない。
なにしろ坂本少佐は風呂上りにはズボンの上半身をはだけ、タオルをひっかけただけで私の前に出現するような方だ。
それと比べれば…………
何より宮藤さんは大事な客人なのだ。
その方に妙な気持を抱くなどあってはならないことだ。

そんな私の葛藤をすべて吹き飛ばす声が聞こえてきたのはその数瞬後であった。

113 :1 [saga]:2011/11/18(金) 18:44:21.66 ID:M/G5RfXn0
「きゃああああああああっ!!」

不意に聞こえてきた、夜のしじまを劈く悲鳴と何かが倒れるような大きな音。
その尋常ならざる響きに私の全身の血の気が引いた。
あわてて読みかけの本を放り出し、外へと飛び出す。

「み、宮藤さん!どうしました?……ってえええええええええ!?」

飛び出した私の目に映ったのは、一糸まとわぬ姿でこちらにかけてくる宮藤さんの姿であった。

「ひ、ひじかたさああああああああん!」

自分の姿にも気づかぬ様子で、私の姿を認めると一直線に私のもとへと走り寄ってくる。
そしてそのまま、何が起こったかわからぬままの私の胸へと飛び込んできた。
思わず抱きとめるような形で受け止めてしまうものの、事の急展開に私も混乱する。
114 :1 [saga]:2011/11/18(金) 18:45:18.72 ID:M/G5RfXn0
「ふ……ふえええええええええ!!」
「え、あ、ちょ、み、宮藤さん?あの、い、いったい何が」

私の腕の中で泣きじゃくる宮藤さんを落ち着かせようと言葉をかける。
とりあえずこのままでは私の精神が持たない。
私の着ていた上着を羽織らせると、小さい頃妹にしていたのと同じように宮藤さんの頭をゆっくりとなでる。
15にもなった娘さんにさすがにこの方法は嫌がられるかとも思ったが、宮藤さんは手を払いのけるでもなく、されるがままに任せていた。
そうしているうちに宮藤さんもいくらか落ち着いてきた様子である。

「宮藤さん…………」
「す、すいません……ひくっ…………あ、ありがとうございます……」

しかし落ち着いてきたらきたで、今のこの状況が問題になってくる。
こんなところを坂本少佐に見られでもしたら…………

しかし運命は、私の意思など無縁のところで確かに非情であった。
115 :1 [saga]:2011/11/18(金) 18:46:00.55 ID:M/G5RfXn0
からん。

不意に聞こえてきた何かを取り落したような音に、私の背中に冷や汗が一つ流れる。

「土方!今、宮藤の声が聞こえたよう…………な……」

続いて聞こえてきた、聞きなれていた声。
しかしこの場面では、一番聞きたくない声でもあった。

「土方……貴様何を…………」

振り返った先には、坂本少佐が呆然とした視線をこちらに向けていた。

116 :1 [saga]:2011/11/18(金) 18:47:07.13 ID:M/G5RfXn0
……ということでここまでです。
短くてすいません。

何とか来週にはこれるように頑張ります。

それでは。
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [sage]:2011/11/18(金) 21:17:58.47 ID:xin5zUEp0
乙!
修羅場キタ━━━━ヽ(・∀・)ノ━━━━!!

良いところで切り上げおって
来週も楽しみにしておりますww
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/20(日) 14:19:28.91 ID:yfPAcvAm0
1から読んだぜ
歳絵ちゃんに土方は切腹申し付けられるべき

続きを待ってますよ
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(千葉県) [sage]:2011/11/20(日) 15:41:20.26 ID:ZysuqMMm0
土方ァ、ちょっとツラかせや・・・
120 :1 [age]:2011/11/20(日) 23:43:35.70 ID:+Ng/IR6I0
レスありがとうございます。
>118
歳江の元ネタに気付いてくださった方がいてうれしいですww
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/24(木) 09:37:57.54 ID:2X2AcMeIO
毎回ラッキースケベで羨ましいぞ土方ァァァァ!!!
122 :1 [age]:2011/11/27(日) 21:45:23.22 ID:yh30kjGV0
申し訳ありません。
最近忙しすぎて金曜日に投下できませんでした。
今から投下します。
123 :1 [age]:2011/11/27(日) 21:46:14.77 ID:yh30kjGV0
(Side sakamoto)

「…………」
「…………」

時が止まった、とはまさにこのような状態のことを言うのだろう。
突如私の鼓膜を刺激した悲鳴に思わず鍛冶場を飛び出した私の前に展開されていたのは
あらゆる意味で私の想像をはるかに超える光景であった。

土方がいる。
それ自体は問題がない。
しかし奴にしがみついているのは?
あれは…………

「宮……藤…………」

宮藤だ。
なぜここに宮藤が?
それより宮藤のあの恰好は?
なぜ土方にしがみついている?

様々な疑問が怒涛のごとく頭に浮かんでくる。
しかし何よりも、土方が宮藤を抱きしめているという光景そのものに私は自分でも驚くほどに動揺していた。

「…………っ!!」
「あ、さ、坂本さん!!」

気が付くと私は、自分でもよくわからない衝動に突き動かされるように二人に背を向けて走り出していた。

124 :1 [age]:2011/11/27(日) 21:46:38.60 ID:yh30kjGV0
「はぁ……はぁ…………」

どこをどう走ったのか、もはや分からない。
とにかくあの場にいたくなかった。
あの光景を見ていたくなかった。

そんな風に闇雲に走ること、どれほど経っただろうか。
もう何時間も走ってるような気もするし、まだ数分と言われれば納得してしまう気もする。
私はここが人跡稀な山中の細道であるということすら忘れていた。
踏み出した足が、あるべき地面を見失う感覚。
数瞬遅れてやってきた、奇妙な浮翌遊感。そして映画のごとく回転する周りの光景。

「う……うわああああああああ!!!」

そして、直後に訪れる暗転。
私の意識は闇に閉ざされた。
125 :1 [age]:2011/11/27(日) 21:47:16.60 ID:yh30kjGV0
(side hijikata)

「あ、さ、坂本さん!」

私の声などまるで聞こえないかのように走り去っていく少佐の背中を見ながら、私は間抜けに佇むしかできなかった。
2.3発殴られる程度は覚悟していた私にとって、坂本少佐の反応は正直予想外であった。

これでは、まるで…………

……い、いや。
今さそんなことはどうでもいい。数メートル先も視認困難な夜の中、こんな山道を闇雲に走り回ったら……起こる事態は容易に想像できる。
幸い、と言ったら不謹慎だが宮藤さんはほぼ落ち着きを取り戻しつつあるようだ。

「宮藤さん、申し訳ありませんが……」
「早く行ってあげてください。私は大丈夫ですから」

宮藤さんがこちらの目をまっすぐ見つめながら、いつもの笑顔で答えてくださった。
その宮藤さんの笑顔に、私も知らず知らず落ち着きを取り戻す。
宮藤さんに一礼を返すと、私は夜の闇の中へと駆けだした。


126 :1 [age]:2011/11/27(日) 21:47:53.88 ID:yh30kjGV0
「坂本さーーーーーん!!」

叫びながら山道を慎重に歩く。
ともすれば闇雲に走り回りたい衝動に駆られるが、ここで冷静さを失って二重遭難でもしてしまっては笑い話にもならない。
人気のない山中に、私の声が木霊していくのが聞こえる。
幸いというか、坂本少佐はかなりの勢いで飛び出して行かれたため、道がかなり踏み荒らされており追跡は容易であった。
懐中電灯の頼りない明かりを頼りに数十分も歩いたであろうか。

「そ、んな…………」

目の前の光景に、思わずつぶやきが口から洩れる。
道の片側が崖になっているところで、今までたどってきた少佐の足跡が、崖に向かって途絶えていた。
全身から血の気が引いていくのがわかる。

「坂本さん!坂本さん!返事をしてください!」

あとからあとから浮かんでくる悪い予感を打ち消すようにあらん限りの声で呼びかける。
しかし返ってくるのは私の声のみ。
坂本さんに何かあったら私は…………
……いや、悲観に沈むのはいつだってできる。
気を取り直し、もう一度声を張り上げようと息を吸い込んだとき、

(…………かた)

その声はかすかではあったが確かに私の鼓膜を刺激した。
私は声の聞こえてきたほうに懐中電灯を向けてみると、確かに道路脇より滑落したような跡が残っている。
下に向かって呼び開けてみるが、先ほどの声よりのち、返事らしきものは返ってこない。
私は持ってきたロープを近くの木に結び付けると、慎重に崖を伝い降りて行った。

127 :1 [age]:2011/11/27(日) 21:48:26.19 ID:yh30kjGV0
(…………いた)

降りること十数メートルになったであろうか。
崖の底の平らになった部分に横たわる坂本少佐の姿を発見した時、私は安堵のあまり全身の力が抜け、危うくロープを離しそうになった。
あわてて再びロープをつかむと慎重に少佐のそばへと降り立つ。
ざっと見た感じでは無数の外傷をおっているものの命に別状はなさそうだ。
しかし白装束が所々で破れ、痛々しい傷が露出している。
早く宮藤さんのもとへ運ばねば。

「坂本さん、坂本さん!!」
「…………う」

軽くゆすって呼びかけてみると、それに応えるように少佐の瞼がかすかに動くのがわかる。
これだけの崖から落ちて意識を失わずにいるとはさすが少佐、というべきか。
妙なところで感心しそうになるが、まだ安心はできない。
再び呼びかけを続けるにつれて、少佐の表情に生気が戻り、両の瞳がゆっくりと開いていくのがわかる。

「ん……ひじ、かた…………」
「は。土方圭助、ここにおります」
「そう……か…………」

その声はいつもの少佐の声に比べれば信じられないほどに弱弱しかったが、それでもその声で私の名を呼ばれたことに妙な安堵を覚える。
私の言葉に、少佐が弱弱しく微笑み、再び目を閉じた。
一瞬冷や汗が浮かぶものの、続いて聞こえてきた規則正しい寝息に、私は今度こそ全身でへたりこむことになったのであった。
128 :1 [age]:2011/11/27(日) 21:49:00.52 ID:yh30kjGV0
とりあえず持ってきた救急箱で怪我の応急措置を済ませて一息つくと、私は降りてきた崖を見上げた。
降りるときは夢中で気づかなかったが、かなりの高さのある崖である。5、6メートルはあるであろうか。
夜が明けるまでここで待機するという選択肢も検討したが、もはや秋から冬に移り変わりつつある山の気温は低く、こんな状態の坂本少佐をずっと置いておくことはできない。
応急処置は済ませたものの、早く庵に帰って宮藤さんに見せなければ安心はできない状況には変わりないのだから。

「坂本さん、失礼します」

しばらくためらった後、私は少佐を肩へと担ぎあげた。

軽い。

こんな非常時でありながら、私の第一印象はそれであった。
しかも白装束のみの少佐の体は必然的に私の体と密着することになり、その柔らかい感触は否応なしに私の集中力を奪う。
あわてて脳裏から煩悩を消し去ると、少佐の体をしっかりと固定し、ロープを上り始めた。
二人分の体重を支えつつ上るのは容易なことではなかったが、何とか時間をかけつつ登りきることができた。

「……ふぅ」

やっと一息をつく。
私の背中に負ぶさられているため少佐の表情は見えないが、まだ続いている規則正しい寝息からもう心配は要らないと見ていいだろう。
私は気合を入れなおすように坂本さんを背負いなおすと、庵に向かって歩き出した。
129 :1 [age]:2011/11/27(日) 21:49:34.12 ID:yh30kjGV0
(Side Sakamoto)


……ん。

ゆっくりと体がゆすられる感覚に、徐々に意識が覚醒してくる。
私は…………何を……
思い出そうとしてみるが、まだ完全に覚醒しきっていない意識の中からは何者も探り出せないでいた。
ただ、この揺れに身を任せているだけで不思議と安心している自分がいる。
私を包んでいるこの安心感に、私はもう少し浸っていたいと思った。

やがて意識がはっきりしてくるにつれ、記憶の底からさまざまなことが思い出されてくる。
確か、突然の悲鳴に驚いて駆けつけてみたところ宮藤が土方に…………

……う。

そこまで思い出し、あまりの羞恥に顔が赤くなってくるのを自覚する。
そうだ。
私は裸の宮藤が土方に抱き着いている光景を目撃して、思わず逃げ出してしまったのだ。
よく考えれば土方が宮藤に対し不埒な考えを抱くような人間であるはずがない。
それを、よく確かめもせずに逃げ出し、あまつさえ…………

……ん?

そういえば、あの崖から滑落した後私はどうなったのだ?
というか、この……心地よい暖かさはなんだ…………?
ゆっくりと目を開く。
130 :1 [age]:2011/11/27(日) 21:50:15.47 ID:yh30kjGV0
まず目に入ったのは大きな背中。
子供のころ、父に背負われていた時のような、その昔、宮藤博士とともにいた時のような安心感。
しかし今では両名ともこの世の人ではない。
ならば…………

「な…………っ!!」

ならば結論は一つではないか。

131 :1 [age]:2011/11/27(日) 21:50:53.09 ID:yh30kjGV0
「ひ、土方貴様っ!」
「え?あ?さ、坂本さん?」

不意に身じろぎをした私に驚いたように土方が振り返る。
しかし、背負われているという位置関係上、私と土方は至近で見つ合うことになってしまった。

「…………っ!」
「…………っ!」

同時に顔をそらす。
どうも先ほどのこと以来土方に妙な遠慮を感じてしまう。
私らしくないことは百も承知なのだが。

「と、とにかく降ろせ!わ、私は大丈夫だ」
「いえ。宮藤さんに見ていただくまでは安心できません」

私の抗議の言葉に、前を向いたまま土方が短く、しかしきっぱりと答える。
その耳が赤く染まっているのは、やはり土方も恥ずかしいのだろう。
しかしその恥ずかしさ以上に、私の身が心配ということか。
その強情さにあきれる半面、土方はそういう奴なのだと妙に納得してしまう。

「強情な奴だな」
「いろいろ心配をかける上司を持てばこうもなります」

その返事を返している土方の表情が、なぜか容易に想像できて、私は浮かんでくる笑みを抑えきれなかった。
132 :1 [age]:2011/11/27(日) 21:51:25.26 ID:yh30kjGV0
「……ふん。勝手にしろ」

そう答えて、土方の背中に顔をうずめる。
普段の私なら絶対にしない行為だが、なぜか自然にそうすることができた。
私の突然の行動に「なっ!」と土方があわてる気配が妙におかしく、私は声を出して笑うのをこらえねばならなかった。
…………この、馬鹿者め。
庵に帰ったらきっちりと事情を聴きだしてやらねばなるまい。

そう思って目を上げる。
夜空に浮かぶ月が、綺麗だった。
133 :1 [age]:2011/11/27(日) 21:52:56.12 ID:yh30kjGV0
ということで今日はここまでです。
書き溜めがやばいので2,3日遅れるかもしれませんが基本的に一週間一話投下を目指していきたいと思います。
それでは。
また来週、です。
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [sage]:2011/11/27(日) 21:57:16.47 ID:q5uh+Jgk0
今週も乙!といわざるを得ないな
もっさん可愛すぎワロタwwwwwww
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(西日本) :2011/11/27(日) 22:45:20.60 ID:53CNuqnn0
ヤバイ、悶え死にそうwwwwww
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/28(月) 00:44:05.70 ID:OFpmPADr0
あれ、これもしかして土方モテモテなのか!?
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/28(月) 16:42:06.59 ID:fJ42CCaIO
最高です!
138 :1 [age]:2011/11/28(月) 23:42:31.27 ID:PiK0HeU40
いつものセルフage

>>136
モテモテにはしたくないですが、いずれ他の501のウィッチ達とも絡ませていけたらいいなーとは思います。
妹いる者同士バルクホルンさんとかと意気投合したりしてww
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/29(火) 00:22:46.96 ID:CIxkC1rIO
リーネちゃんとペリ犬に期待!
犬は恋敵になりそうだけどww
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(神奈川県) [sage]:2011/11/29(火) 00:38:48.82 ID:IPnLw7q1o
男を追いかける姿を見たいとペリーヌに残すみゆきちは声優の鑑
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/29(火) 22:53:21.24 ID:MBbF7B6c0
そもそもペリーヌは百合じゃなくて、坂本少佐に死んだ父親の影を見てるだけ。
だから、実は、劇中でも男を追いかけてる
142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(千葉県) [sage]:2011/12/01(木) 16:16:08.62 ID:C2KNbzME0
クソックソッかわいすぎるぜ少佐!

>>140
フミカネ絵では男性飛行士に手を振ってたりしてたんだぜ
143 :1 [age]:2011/12/02(金) 20:14:23.00 ID:EGKo2VHX0
こんばんは。
急に寒くなりましたね。
今週もいつもの投下です。

>>141
そうだったんですか。
もっさんの男らしさならそれもありですよねww
144 :1 [age]:2011/12/02(金) 20:14:48.23 ID:EGKo2VHX0
「ならば宮藤、頼んだぞ」
「はい…………」

坂本さんに向けて、宮藤さんが意識を集中する。
淡い光に包まれたと思う間もなく、坂本少佐の傷がみるみるふさがっていくのがわかる。
私に続いて、坂本少佐も宮藤さんに救われたことになる。
本当に宮藤さんには感謝することだらけだ。

「……はい。大丈夫です」

宮藤さんの言葉に、坂本少佐はしばらく体の具合を確かめるように腕を触ったりしていたが、やがて満足そうにひとつ頷く。

「うむ。完璧だ。また腕を上げたようだな宮藤」
「えへへ……ありがとうございます」

坂本少佐の褒め言葉に、宮藤さんは照れたように微笑む。
…………しかし、そんな和んだ空気も、次の少佐の一言で終わりを迎えることになる。

「…………さて、土方に宮藤。事情の説明くらいはしてくれるのだろうな」

そういってこちらに向けられる坂本少佐の眼光の鋭さに、私と宮藤さんは顔を見合わせてため息をつくしかなかった。
145 :1 [age]:2011/12/02(金) 20:15:21.11 ID:EGKo2VHX0
「……なるほど。事情は理解した」
「あ、あの……ごめんなさい」

小一時間にわたる説明の後、やっと事情を理解してくださった坂本少佐の言葉に、宮藤さんが返事をする。

宮藤さんがポツリポツリと語って下さった状況は以下のようなものであった。

彼女が風呂から上がろうとした時を見計らったように風呂の中に何かひも状のものがが落ちてきた。
雨が降ってもよいようにと、ドラム缶は大きな木の根元に設置されているので、
枝でも落ちてきたのかと触ってみた宮藤さんは、それが突如湯の中で暴れだすに至り、恐怖のあまり駆け出したとのこと。
その言葉を聞いて私が風呂のあった場所へ確かめに赴いたところ、湯の中でのた打ち回る一匹の蛇の姿を確認した。

「わ、私、本当に怖くて…………それで土方さんの姿が見えたんでもう夢中で……」
「ふむ…………まぁそういうことなら……」

そういいながらこちらに視線を向けてくる少佐。
こちらに帰ってくるまでの間に私で説明できることはしたし、妙な誤解もこれで解けただろう。
146 :1 [age]:2011/12/02(金) 20:15:50.02 ID:EGKo2VHX0
「それはそうと……なぜ宮藤がここにいる?」
「あ、はい、それはですね……私のうちの菜園でお野菜ができたので、おすそ分けに持ってきたんですよ」
「は。新鮮な野菜をたくさん頂きました」
「ほう。それはすまなかったな。最近は戦時下で野菜などの価格も上がっているからな」

そういう坂本少佐の表情にも笑顔が戻る。
どうやら完全にとは行かないまでも機嫌は直りつつあるようだ。
やれやれ。今日は何とも波乱万丈な一日だった。

「それで、土方さんと一緒にお料理させてもらって、…………土方さんってお料理上手なんですね」
「…………ほう。ずいぶん仲良くなったんだな土方」
「い、いえ……その、まぁ」

何故かこちらを睨んでくる坂本少佐に、こちらの返事も不明瞭なものになってしまう。
しかしそんな少佐の様子には気づかず、宮藤さんは無邪気な笑顔で言葉を続けた。

「はい。仲良くさせていただいてます」
「……ま、まぁ、仲のいいのはいいことだ。うむ」

…………何だろうか。
笑顔で話しているはずの坂本少佐から発せられるこの妙に張りつめた空気は。
折角一息ついたというのに心が休まる暇がない。
147 :1 [age]:2011/12/02(金) 20:16:15.46 ID:EGKo2VHX0
「すまんな。こんな時間に」
「いえ、夕食のものが残ってましたし。たいした手間ではありませんでしたから」

宮藤さんと私とで用意した簡単な夜食をいつもと変わらぬ健啖振りで平らげる坂本少佐。
そんな坂本少佐の食欲に少し安心する。

話題は他に移り、宮藤さんがこの庵に泊まるという話になったとき、予想通り坂本さんの表情がひそめられる。

「それは…………ご両親は承諾しているのか?」
「はいっ」
「いや、しかし土方と二人だぞ…………」
「え?どうしてですか?土方さんとお料理できたりして私楽しかったですっ」
「そ、そうか…………」

あくまで何もわかっていないようににこにこと笑顔を崩さない宮藤さんに、坂本さんもそれ以上話の接ぎ穂を失ったように黙り込む。
坂本少佐が懸念されていることもわかる私は、なにも言葉を発することができないでいた。
そのまま「まぁ土方なら……」「いやしかし」などと悩むようにつぶやいていた少佐であったが、不意に顔を上げると、

「うむ。ならば私も今夜はこちらで休むぞ」
「え、ほんとですか!」

坂本少佐の言葉に、宮藤さんがさらに笑顔になる。
正直私も坂本少佐のその言葉に救われたような気分になっていた。
仕方なかったとはいえ、坂本さんの知らぬうちに宮藤さんを庵へあげたことについては私自身多少の罪悪感を感じなくもなかったのだ。

私の葛藤に気付く様子もなく、目の前の二人は楽しそうに談笑している。

「どうした土方。そんな呆けたような顔をして。さっさと布団を出すぞ」
「あ、お手伝いしますね」

そういいつつそろって笑顔を向けてくる二人に、こちらも自然と笑顔になっていく。
148 :1 [age]:2011/12/02(金) 20:16:44.12 ID:EGKo2VHX0
しかし、布団を敷くにあたってひとつの問題が発生する。
客が訪れることなど想定もしていなかったから当然のことではあるが、庵にある布団は私と坂本少佐の分、2組しかなかったのだ。
宮藤さんや坂本少佐を床で休ませるなど論外であるし、私が床の上ででも寝ればよいか。
そもそも坂本少佐と二人で過ごしていたときも寝るときは別々の部屋だったのだし。
そう思っていたのだが…………

「土方さんもこの部屋で一緒に寝ませんか?」
「…………え?」

宮藤さんの言葉に固まる私。
さすがにそれは問題があるだろう。
「男女七歳にして室を同じくせず」とまでは言わないがさすがに警戒心がなさ過ぎはしまいか。
救いを求めるように坂本少佐のほうに視線を向けるが、

「…………ふむ」

何故かあごに手を当てて考え込むような少佐。

「……わ、私は構わんぞ」

なぜか顔を赤らめつつ答える少佐。
…………貴女にそういう態度をとられたら私はどうしたらいいか分からないんですが。
覚えず私のほうも顔が赤くなってくる。
149 :1 [age]:2011/12/02(金) 20:17:40.33 ID:EGKo2VHX0
「…………」
「…………」
「……えっと、あの、どうしたんですか?」

宮藤さんが不意に黙り込んだ私たちに不思議そうに話しかけてきた。

「……いえ、何でもありません」

そんな宮藤さんの無邪気な表情に、私は今までの緊張が一気に解けたように大きく息をつく。
却って妙な連想をしてしまった自分が恥ずかしくなってきた。
坂本少佐に視線を向けると、どうやら少佐も同じような感想を抱かれたようで、私の視線に気づくと苦笑を返してくる。

「そうだな。501のころを思い出してみるのも悪くないな」
「はいっ!」

坂本少佐の言葉に、宮藤さんが嬉しそうに答える。
150 :1 [age]:2011/12/02(金) 20:18:21.63 ID:EGKo2VHX0
私の隣の布団に宮藤さんと坂本少佐。
やや窮屈そうにしながらも、少佐と同じ布団で寝られるということに宮藤さんは嬉しそうだ。
一方私は、自分のすぐ隣で坂本少佐が寝ているという事態に先ほどから私の心臓は時ならぬ鼓動を刻み続けている。
酔った坂本少佐に抱きかかえられたまま一晩過ごしたり、怪我をした少佐を背負って山道を歩いたりと、最近は妙に少佐と接近することが多い気がする。
少佐自身が余り気にしている様子がないのが複雑なところではあるが。

「えへへ。なんだかお父さんがいたころを思い出します。こうやってよく3人で寝てました」
「宮藤博士か……うむ。研究者としてだけではなく、一人の人間としても尊敬できる人物であった」

そういう坂本少佐の口調はどこか嬉しげで、そんな表情をさせる宮藤博士につい嫉妬じみた感情を抱いてしまう。
もはや故人となった人間に嫉妬するなど僭上の極みではあるのだが。
一度、博士と坂本少佐が写った写真を見せていただいたことがある。
写真の少佐は当然のことながら今より幾分か幼く、そして隣に立つ宮藤博士に心からの信頼の笑顔を向けていた。

「……土方?」
「い、いえ何でも」

どうやら思考に沈み込みすぎたようだ。
埒もない連想はこのあたりにしておかねば。

「しかし、このように並んで寝るというのも悪くないな」
「私も楽しいですよ」

そんな二人の会話を背中で聞きつつ、窓の外へと目を向ける。
空の月が綺麗だった。
151 :1 [age]:2011/12/02(金) 20:19:47.55 ID:EGKo2VHX0
……こんな感じで今日も終了です。
毎回毎回短くてすいません。
何とか週一のペースは崩さずに行きたいと思いますので。

それでは。
152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [sage]:2011/12/02(金) 21:04:01.21 ID:XvbVf3uk0
乙!

ちょっと嫉妬してあたふたしちゃうもっさんかわえええぇぇぇぇぇ!!

でも最近土方が良い思いしすぎてちょっとそこかわれ
153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(西日本) :2011/12/03(土) 00:23:29.28 ID:N0GGyFdK0

無理せずに頑張ってください。
154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 02:15:27.70 ID:pZSBVH+V0
乙乙
無邪気なミヤフジの笑顔が怖い
1期6話でのエイラの気持ちがよく分かるぜ・・・
155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/04(日) 11:08:57.99 ID:hgK7bYWIO
個人的に丁度いい長さでサラッと読めるので、この量で全く問題ありません
今回も面白かったです
156 :1 [age]:2011/12/04(日) 19:55:18.96 ID:ve0Ir6Uc0
いつものセルフage

皆様の温かいレスが何よりの励みになっております。
本当にありがとうございます。

157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(千葉県) [sage]:2011/12/04(日) 20:56:31.69 ID:oaIrU3VC0
すごく文章が上手くて僕ももっさんのように嫉妬しそうです><

このssで土方への見方が良い方向に変わったのは秘密
158 :1 [age]:2011/12/09(金) 20:29:00.55 ID:qAP+cwNv0
こんばんは。
今週も投下しに来ました。

>>157
ありがとうございます。
そういう風に思っていただけるのは光栄の極みです。
159 :1 [age]:2011/12/09(金) 20:29:34.79 ID:qAP+cwNv0
「ありがとうございました坂本さん」
「ああ。お母上にもよろしくな」
「はい」

翌日。
宮藤さんが坂本さんに出立前の挨拶をしているのを私はぼんやりと眺めていた。
どうも寝不足気味のせいか頭が上手く働いていない。
結局、昨夜はすぐ横で坂本少佐が寝ているという状況に一晩まんじりともできず朝を迎えることになった。

「ふぁ……」
「何だ土方、眠そうだな」

思わずあくびが漏れる。
不意に話を振られ、私はあわてて姿勢を正して返事をした。

「はっ!も、申し訳ございません」
「どうした。貴様らしくないが昨日何か…………いや、まぁ、そうだな」

そこまで言って、少佐も昨日のことを思い出したのだろう。
「何かあった」どころではない昨日のことを思い出し、少佐と私はお互いに視線をそらして黙りこんだ。
これ以上追求することは藪蛇になりかねないと判断したのか、少佐は咳払いを一つして表情を改める。
160 :1 [age]:2011/12/09(金) 20:30:09.08 ID:qAP+cwNv0
「と、とにかく、ちゃんと宮藤を送ってやるのだぞ」
「はっ」

あの夜から一夜明け、私は横須賀に帰る宮藤さんを近くの駅まで送るべく、こうして待機しているというわけだ。
その宮藤さんはと言えば、なにが嬉しいのか少佐と私のやり取りをにこにこしながら眺めている。

「ふふ。坂本さんと土方さんって本当に息ぴったりですね。なんだか羨ましいです」
「「……っ!」」

続いての宮藤さんの言葉に、思わず顔が赤くなってくるのを自覚する。
宮藤さんの方にからかおうとする意図などは全くないのは分かっているのだが、それだけに厄介でもある。

「ま、まぁせっかく街に出るのだ。土方もたまには羽根を伸ばせ。夕方までに帰ってくればよいからな」
「は」

正直なところ羽根を伸ばしていただきたいのは坂本少佐の方なのだが。
しかし食料品など不足しているものもあったし、ついでに補充しておくのも悪くないだろう。

「それじゃーです。坂本さん、ありがとうございました」
「ああ。こちらこそ野菜、感謝する」

坂本少佐の声に見送られ、私と宮藤さんは庵を後にした。
161 :1 [age]:2011/12/09(金) 20:30:40.85 ID:qAP+cwNv0
宮藤さんの前に立って山道を歩く。
なるべく開けた道を通るので大丈夫だとは思うが、先日のようなことが起こらないよう毒蛇等には細心の注意を払って進む。
そんな風にしてしばらく歩いたであろうか。

じっ…………

背中に感じる何者かの視線。
思わず後ろを振り返ってみるが当然の如く宮藤さん以外に人はいない。

「あの、宮藤さん……何か?」
「あ、い、いえっ!何でもないですっ!」

私の言葉に宮藤さんはあわてたように手を振り、再び歩き出す。
不可解な思いを抱えながらも再び歩き出したのだが、数分後にはまた同じ視線を背中に感じることになった。
歩きながら目だけを後ろに向けてみると、真剣な表情で私の背中にじっと視線を送っている宮藤さんの姿が映った。
それだけではなく、私の肩に手を伸ばしかけては引っ込める。
そんなことを繰り返しているのを見て、私も無視することはできなくなった。

「あの、宮藤さん…………何か御用があれば遠慮なく……」
「え?あ、その、私は別に……」
「私は坂本さんより宮藤さんのことを頼まれているのです。どうぞ何事も遠慮なくおっしゃってください」
「え、えっと、用って訳じゃ……ないん、です……けど」

私の言葉に宮藤さんはしばらく慌てていたものの、やがて恐る恐る、といった感じで口を開いた。
162 :1 [age]:2011/12/09(金) 20:31:13.60 ID:qAP+cwNv0
「えと……その、ひ、土方さん」
「は。何でしょうか」

彼女にしては珍しく、あらぬ方に視線を向けつつ何か言いづらそうに指を組んだりしている。

「その、よ、よかったら、でいいんですけど……」
「は」
「その、わ、私のことは、名前で呼んでくれないかなーなんて…………思ったり……」
「…………え?」

思わず素で返事をしてしまった。
そんな私の態度に宮藤さんは慌てたように手を振る。

「え、えっとその、昨日私のこと抱きとめて下さった時、なんだかすごく安心できて、お兄ちゃんみたいだなって思って、それで、私兄弟っていなかったからお兄ちゃんってのにずっと憧れてて、
だ、だから、その、妹さんがいる土方さんなら私のこと、妹みたいに思ってくれたら嬉しいなって思ったり……あ、でもいきなりこんなこと言われても土方さんも困りますよね、で、でも、
その、えっと、普通の兄妹みたいに『芳佳』って、その、呼んでくれたら嬉しいなって、そう思って…………」
「み、宮藤さん?」

機関銃のような勢いで一気にしゃべりだした宮藤さんの勢いに、私はただただ圧倒される。

「え、えっと、だ、だから、その…………うぅ〜〜」

ついには下を向いたまま黙り込んでしまった。
これは…………どうしたものだろうか。
まぁ、確かに昨夜、宮藤さんを抱きとめた時小さい頃の妹を思い出したのは事実だ。
163 :1 [age]:2011/12/09(金) 20:31:43.19 ID:qAP+cwNv0
「…………」
「ひ、土方さん?」

不意に黙り込んだ私に、宮藤さんが不安そうな視線を向けてくる。
……もはや仕方ないか。
私は大きく息をつくと、彼女から視線をそらしつつ小さな声で答えた。

「わ、分かりました……よ、芳佳」
「え…………?」

しばらく呆然としていた宮藤さんの顔がぱっと笑顔に変わっていく。

「は、はいっ!ありがとうございます。圭助お兄ちゃん」
「うえっ!?」

宮藤さんの口から発せられた呼称に思わず妙な返事をしてしまう。
た、確かに兄代わりになってほしいとは言われたが…………
実妹からは「お兄様」と呼ばれているためこの呼称は新鮮というよりなんだか恥ずかしい。

…………結局。
何とか「圭助さん」という呼称で勘弁してもらうために里につくまでの数十分を説得に費やしてしまうこととなった。

164 :1 [age]:2011/12/09(金) 20:33:19.57 ID:qAP+cwNv0
「それでは芳佳、お元気で」
「…………はい、ありがとうございました。圭助さん」

駅の改札で宮藤さんと別れの挨拶をする。
少し宮藤さんが不満そうなのは私が敬語で話し続けているためであろう。
あの後、宮藤さんは続いて私に対し敬語をやめるように要請してきたが、それだけは断固拒否させていただいた。
これは従兵としての私の矜持にもかかわることだ。
断った時の宮藤さんの寂しそうな表情に心が動かなかったと言えば嘘になるが、さすがにそこまで公私混同はできない。

宮藤さんを乗せた汽車が少しずつ小さくなっていくのを見送り、私は踵を返して歩き出した。
165 :1 [age]:2011/12/09(金) 20:36:56.23 ID:qAP+cwNv0
…………以上です。
すいません。
なんか芳佳のセリフの改行位置おかしくて読みにくくなってしまいました。
私が使ってるパソコンの画面サイズに合わせたらこんなことに…………

それでは、また来週投下しに来ます。
166 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/09(金) 21:14:18.15 ID:ev7tx1rD0
乙!

安定の2828感wwww
これは萌えだろ?これを萌えといわずなんとする
167 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 13:14:23.68 ID:yJeZBmxKo
いいねぇ
芳佳や土方の仕草が容易に想像できる
乙です
168 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 13:18:37.12 ID:2/wh8PNy0
土方も含めてみんなかわええのう
169 :1 [age]:2011/12/11(日) 21:37:05.04 ID:ghe/+w9o0
セルフでageる
ちょっとやりすぎたかと思いましたが好評なようで何よりですww
170 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/12(月) 22:03:33.10 ID:Mw3kbV2d0
宮藤、同姓に飽き足らず、異性にまで触手を伸ばし始めたのか。
171 :1 [age]:2011/12/17(土) 11:11:48.85 ID:JFE0ly7d0
すいません1です。
昨日は友人と鍋をやってて早々に寝てしまったので投下に来れませなんだ。
今から投下しますね。
172 :1 [age]:2011/12/17(土) 11:12:17.08 ID:JFE0ly7d0
――――さて、どうしたものか。

駅から街に出たところで、私は小さくつぶやく。
このまますぐに庵まで帰ってもよいが、生活必需品のいくつかが切れかかっていたのも事実だ。
せっかくここまで来ているのだから、物資の調達をしておくのも悪くないか。
そんな風に考えて市場に向けて振り返った時であった。

(……てください!)
(…………を何と心得るか小娘!)

不意に聞こえてきた言い争うような声……というかこれは片方が一方的に責め立てているようにしか聞こえない。
声のほうに振り向いた私の視界に、人だかりが見える。
騒ぎの中心に近づいていくにつれ、周りのやじ馬たちの「軍人さんが……」「あんな小さな娘さんに……」などのささやきが聞こえてくる。
そのささやきに含まれる単語、そして何よりその口調に非好意的な響きを感じ取った私はつい騒ぎの中心に向けて足を進める。
人込みをかき分けるようにして騒ぎの中心にたどり着いた私の前には、ある意味予想通りの光景が広がっていた。
173 :1 [age]:2011/12/17(土) 11:12:43.52 ID:JFE0ly7d0
「……だ、だから謝ってるじゃないですか」
「やかましい!!そんな心のこもっていない謝罪が謝罪と言えるか!私は忝くも少尉の位を拝命した海軍士官なるぞ。
その私に往来でぶつかっておいてただで済むと思っているのか!土下座して詫びろ!」

そう怒鳴っているのは一人の士官。
まだ若いように見える。おそらく20代前半であろう。海軍の士官服を着ており、肩章から少尉の階級にあると知れた。
怒鳴られているのはセーラー服を着た少女。
長く伸ばした黒髪がどこか妹の歳江に似ている。
しかし士官の怒鳴り声にすっかり萎縮し、震える両の瞳には涙が浮かんでいる。
周りの野次馬たちのつぶやきを総合するに、どうやら少女が前をよく見ていなかったために歩いている少尉にぶつかり、
その謝罪の仕方がなっていないということで少尉が怒りだしたとの事である。

「どうした小娘!!真に申し訳ないと思っているのなら土下座ぐらい訳ないだろう」
「うぅ……」

少尉の怒鳴り声は一層高まる。それに比して少女はますます体を縮こまらせ、今にも膝をつきそうである。
…………こういう手合いはどこにでもいるものだ。
特に、大学を出て若くして士官に任官した人間などは自分の父親のような年齢の部下を顎で使うことに妙な優越感を刺激されて勘違いするものが多いと聞く。
……っと。
そんなことを考えている場合ではなかった。
私は少女と少尉の間に割って入る。
174 :1 [age]:2011/12/17(土) 11:13:15.00 ID:JFE0ly7d0
「おい、聞いているのか貴様!」
「恐れながら」
「……ん?なんだ貴様」

突然の闖入者に少尉は一瞬ひるんだように沈黙するものの、私が自分より階級が下だと看取すると再び傲慢な表情を浮かべる。

「…………貴様、階級と所属を言え」
「は。横須賀鎮守府所属、土方圭助兵曹であります」
「ふん。兵曹ごときが何の用だ」

そういってこちらを睨んでくる少尉。
予想通りの反応だ。
軍隊組織に中途から入った人間の方が却って階級を絶対視するようになる。
しかしこちらは一兵卒からたたき上げた身だ。
その程度の暴言、むしろ温いぐらいである。

「少尉。海軍軍人という身分に誇りを持っておられるなら、そのような恥ずべき行いはおやめください」
「な、何を……」
「民間人の、それも少女に一方的に暴言を叩きつける行為のどこに誇りがありますか?」

少尉の目をまっすぐ見据え、腹に力をこめて言葉を吐き出す。
階級の下の人間は黙って従うもの、と思い込んでいた少尉の表情にあからさまな動揺の色が浮かぶ。
やがてその表情が羞恥と怒りで赤く染まったかと思うと、怒りの矛先を私へと変更してきた。
175 :1 [age]:2011/12/17(土) 11:13:44.42 ID:JFE0ly7d0
「なっ……きっ貴様!少尉たる私に口答えしようというのか?」
「私は貴方の部下ではありません…………これは口答えではなく御忠告です。そのような御振る舞いはあなた自身だけでなく扶桑皇国軍人全ての品位を貶めるものであると」
「貴様言うに事欠いて……!部下であろうがなかろうが同じだ!階級が上のものの言うことには素直に従うものだ」

「ふむ……ならば私の言うことなら貴官は素直に聞くと言うのだな」

不意に割り込んできた第三者の声。
声のした方に振り向いた少尉の表情が強張る。

「こ、ここここここれは杉田艦長!!」

あわてて背筋を伸ばして敬礼する少尉。
私も少尉の後ろから敬礼を返す。
声の主―戦艦「大和」艦長の杉田淳三郎大佐はゆったりとした動作で少尉の肩に手を置いた。

「少尉。その若さで士官に任官され晴れがましく思う気持ちは分かる。しかし誇りと傲慢は似て非なるものだ。
われわれは常に大多数の国民により支えられていることを忘れてはいかん」
「は…………はっ!」
「それにな……」
176 :1 [age]:2011/12/17(土) 11:14:10.85 ID:JFE0ly7d0
全身を硬直させている少尉の耳元に、大佐が口を近づけて何事かささやいた。
口元にいたずらっぽい笑みを浮かべた大佐の視線が私のほうを向いているように見えるのは…………気のせいだろうか。
大佐の言葉に、少尉の顔が見る見る青ざめていくのが分かる。

「あ、あ……」

私を見る少尉の表情に、畏怖の念が加わる。
次の瞬間、少尉は地に頭がつきそうな勢いで「私に」頭を下げると、杉田艦長への挨拶もそこそこに人だかりを掻き分けて逃走していった。
177 :1 [age]:2011/12/17(土) 11:14:43.04 ID:JFE0ly7d0
「…………」
「…………」

あまりの事態の急展開に、私はもちろん周りの野次馬までもがあっけに取られたように沈黙する。
そんな沈黙を破ったのは、またしても杉田大佐その人だった。

「はっはっ。これほどまでに効果があるとは……」

「やるじゃないかい軍人さん!」
「ああ、なんだかスカーッとしたぜ!」

大佐の呟きが合図になったかのように、周りの野次馬から賞賛の言葉が私と大佐に向けて浴びせられる。
そんな賞賛の嵐から逃げ出すように、私と少佐は野次馬の輪から抜け出した。

178 :1 [age]:2011/12/17(土) 11:15:19.99 ID:JFE0ly7d0
「…………ふぅ」
「はっはっ。なかなか面白いものを見せてもらったぞ土方君」

そういって笑う杉田大佐。
その態度にはいろいろ思うところはあるものの、まずは礼を言うのが先だろう。

「ありがとうございました。杉田艦長」
「なに。ああいった若者を教え導くのも我ら年寄りの役目だ。気にすることはない」

そんな杉田大佐に、私は先ほどから付きまとっていた疑問をぶつけてみることにした。

「あの、先ほどの少尉殿には何を……」

少尉に何事か耳打ちしただけで、あれほどまでに慌てさせるとは…………

「ああ、あれな」

そこまで言うと大佐はおかしさをこらえるように表情を緩め、言葉を続けた。

「本当のことを教えてやったまでだ。彼は『あの』坂本少佐の従兵だ、とな」
「な…………」
「正直私もあれほどまでの効果があるとは思わなかったが……いやはや、坂本さんのご高名ここに極まれり、だな」
「…………」

杉田大佐の言葉に、私は深くため息をつくしかできない。
少佐が扶桑の海軍軍人たちの憧れの対象であるのは知っていたが、どうやら本人すら知らないところでその名前は妙な形で広まっているようだ。
知らぬは本人ばかりなり、とはよく言ったものだ。

「……では、私は失礼する。少佐にもよろしくな」
「…………は」

そういって背を向ける杉田少佐を、私は複雑な表情で見送るしかできなかった。
179 :1 [age]:2011/12/17(土) 11:15:49.75 ID:JFE0ly7d0
さて、あとは…………
振り返った私の視界に、一つの小さな影が飛び込んでくる。

「あの…………」

ともすれば聞き落しそうな小さな声。
それは先ほど少尉の暴言を浴び続けていたあの少女のものであった。
嫌な思いをさせたこの少女には扶桑軍人を代表して(と言うのには役者不足ではあるが)謝罪をせねば。

「先ほどは申し訳ありませんでした。嫌な思いをさせてしまいましたね」
「あ、いえ、その、そんな……あなたはその、助けて下さったわけですし」

少女の態度に少し安心する。
しかし…………この少女、どうも先ほどから私の既視感を刺激してやまないのだが。
どこかで会ったことがあるのだろうか…………?

「その、本当に……ありがとうございます」

そう言って頬を染めてこちらを見つめてくる少女。
何故かその視線を直視することが躊躇われて、私は視線をそらす。
妙な沈黙がしばらく流れたが、その雰囲気を破るように少女が話し出した。
180 :1 [age]:2011/12/17(土) 11:16:19.23 ID:JFE0ly7d0
「そ、そういえば……先ほど『土方圭助』って名乗られてましたよね。もしかして…………坂本少佐の……?」
「…………え?」

少女の言葉に少し戸惑う。
坂本少佐の名前ならともかく、従兵に過ぎない私の名をこんな一般人の少女が知っているとは思えないのだが。

「は、はぁ…………そうですが」
「あ、やっぱり!」

少女の表情が明るくなる。

「あの、私のお友達のウィッチが坂本少佐と一緒の隊で戦っていたことがあって…………」
「一緒の隊で…………ああ」

少女の言葉に、今まで感じていた既視感が「記憶」となり脳裏に明確な像を形成してくる。
ああ、そういえばこの方は…………宮藤さんをスカウトに行ったときにこの少女が一緒にいたような気がする。
確か「みっちゃん」と呼んでいたな。

「あ、確かよし…………宮藤さんのお友達の?」
「はい。山川美千子って言います。思い出してくださいましたか?」

そう自己紹介し、少女は笑顔で頭を下げた。
181 :1 [age]:2011/12/17(土) 11:16:48.65 ID:JFE0ly7d0
「……それでは、宮藤さんを迎えにここへ?」
「はい。芳佳ちゃんがこちらに来てる、ってのは聞いてたので」
「はぁ…………」
「あ、も、もちろん、誰にも言ってません!」

私が一瞬浮かべた苦い表情に気づいたか、山川さんが慌てたように付け加える。
…………まぁ、この方なら無思慮にあちこち吹聴して回るようなことはしないだろう。

「それで、駅に着いたはいいものの芳佳ちゃんを探して歩いてたらあの少尉さんにぶつかってしまいまして……」
「そのことについては申し訳ありませんでした。軍人があんな人間ばかりだとは思わないで頂きたいですが」
「それは大丈夫です。土方さんみたいな素敵な方の方がはるかに多いんだって分かってますから」
「そ、それはどうも…………」

無邪気な笑顔でそんなことを言われ、ついつ赤面してしまう。
どうも最近年下の少女たちに調子を狂わされることが多い気がする。
宮藤さんとは行き違いになったことを話すと、山川さんは案の定少しがっかりしたような表情になるが、やがてすぐに顔を上げる。

「そうですか…………でも、土方さんにお会いできて嬉しかったです」
「あ、ありがとうございます」
182 :1 [age]:2011/12/17(土) 11:25:49.69 ID:JFE0ly7d0
…………これ以上話していると私のほうが耐えられそうにない。
そう思った私は促すように駅のほうを示してみせる。

「それでは、駅までお送りします……まぁすぐそこですが」
「はい……ありがとうございます…………ところで土方さんはこの後どうされるんです?」

必需品を補給して帰るつもりであることを告げると、駅に向かいかけた足を止め、山川さんは指を顎に当てて沈黙する。

「あの、よかったら、ですけど…………私もご一緒していいですか?買い物に」
「へ?」

続く彼女の言葉に対し、思わず間抜けな声を返してしまった私を、誰も責めることはできないであろう。

183 :1 [age]:2011/12/17(土) 11:29:10.05 ID:JFE0ly7d0
こんな感じです。
ついにみっちゃんまで出してしまいました……
秘め声CDかなんかでこの二人が会話してるらしいと聞いてついつい蛇足とは思いつつ入れてしまいましたww
脇道の話ばかりで本編が進まないのは何とかしないといけませんね。
この後烈風丸を打ったもっさんについてヨーロッパに行って501のウィッチたちと遭遇するところまで構想考えてるというのにww


それでは。
また来週。
184 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/17(土) 11:49:53.34 ID:lYZOZ5cx0
乙!

おいおい土方かっこいいのは良いがな

建てすぎだろもっさん泣くぞwwwwwwww
185 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/17(土) 17:18:38.65 ID:NNTDp61IO
おつつ!
フラグ立て過ぎ?
私は一向に構わん!
186 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/18(日) 12:51:35.35 ID:WKB4AfOt0
ひ、土方の嫁はみっちゃんだよな!?もっさんじゃ無いよな!?
あああああああくそくそくそおおおおおおおおおおお
187 :1 [age]:2011/12/19(月) 18:08:48.69 ID:1gktoxvd0
セルフage

フラグ立てすぎですよねww
自分で書いてて土方もげろとか思いましたからww
188 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/20(火) 00:41:32.98 ID:KzKYMPVu0
土宮でも一向に構わんッッ!
189 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/20(火) 22:35:03.26 ID:HEBRbPuA0
>>1はもしかして女性?
190 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/24(土) 14:00:42.87 ID:lqMIgXWd0
age
191 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/24(土) 15:53:33.52 ID:soBMKjYL0
今週はお休みかね?
192 :1 [age saga]:2011/12/25(日) 13:42:21.67 ID:DYSKM+VI0
1です。
>>189
いえいえ。間違うことなき男ですよw

>>191
すいません。
週末は職場の忘年会だのなんだの章もない用事が立て込んで投下しに来れませんでした。

では、今から投下しますね。
193 :1 [age saga]:2011/12/25(日) 13:42:58.38 ID:DYSKM+VI0
「土方さん、どこへ行きます?」
「え、あ、そ、それではまず食料品を…………」

私は現在、市場を山川さんと二人で歩いている。
何がどうなってこうなったのかは私にも判然としないが、どうも私は雰囲気に流されやすいところがあるようだ。
こんなところを坂本少佐に見られでもしたらあらぬ誤解を…………ってそんなことはないか。

「どうしたんですか?」

私の内心など知る由もなく、山川さんは無邪気な笑顔でこちらをのぞきこんでくる。
そんな山川さんの笑顔を見ていると、まぁ流されるのも悪くないか、などと思ってしまう自分がいる。
194 :1 [age saga]:2011/12/25(日) 13:43:42.67 ID:DYSKM+VI0
「あの、山川さん―――」
「美千子、です」

私の言葉は、彼女によってさえぎられた。
とまどう私に、山川さんは少し怒ったように続ける。

「土方さんのほうが年上だし、男の人なのにさん付けなんておかしいですよ。芳佳ちゃんのこともそんな風に呼んでるんですか?」
「あ、はい。階級で言えば上官に当たりますので」
「でも、私は軍人さんじゃないですし。『美千子』でいいですよ」
「は、はぁ」

……いつも思うのだが。
山道での宮藤さんと言い、先日の坂本少佐と言い、こういう時の女性というのはどうしてこうも迫力があるのだろう。
今私が感じている圧迫感に比べれば先ほどの少尉の怒声など子供の癇癪にしか思えない。

「なんなら芳佳ちゃんみたいに『みっちゃん』って呼んで下さってもいいんですけど」
「いや、それは…………」

さすがに私の何かが崩壊するような気がする。
しかし、以前のような女性を名前で呼ぶことへのためらいも薄れつつあった。
坂本少佐や宮藤さんのおかげ、と言っていいのだろうか。

「え、と……み、美千子」
「はい」

妙にうれしそうに返事をする山川さん。
195 :1 [age saga]:2011/12/25(日) 13:44:34.67 ID:DYSKM+VI0
「その、なんで私の買い物に…………?」

私の疑問に、山川さんは笑顔で答えて下さった。

「お礼ですよ……半分は」
「そんな……ご迷惑をかけたのは私たちですし、」
「それに」

何か言いかける私を遮ると山川さんは言葉を続ける。

「私、こんな風に一人で遠くまで来たの初めてなんです。だから芳佳ちゃんと合流してからちょっと買い物するつもりでした」
「なるほど」
「……っていうのが残りの半分の、もう半分。そして…………」

そこまで言うと、彼女の笑みがにやりとしか形容しようのないものに変化する。

「結局、私が土方さんともうちょっと一緒にいたいって思ったこと。これが最後の半分の半分です」
「え?あ、ちょっと…………」

そこまで言うと山川さんは私の言葉も待たずに私から視線をそらすと駈け出して行った。

「あ、何だかいろんなものがありますよ!土方さん!今日はいろいろ見て回りましょうねー!」

そういって手を振る山川さんに、私はため息を一つつくとゆっくりと彼女の後をついて歩き出した。
その口元が微妙にほころんでいたのは、仕方のない事だと思いたい。
196 :1 [age saga]:2011/12/25(日) 13:45:00.41 ID:DYSKM+VI0
「土方さんはお料理するんですか?」
「ええ、まぁ。よ……宮藤さんにはとても及びませんが」
「あ、芳佳ちゃんの料理食べたことあるんですか?上手ですよね。女の子としては憧れちゃいます」

よかった。「芳佳」と言いかけたのは気づかれていないようだ。
何故かこの子の前では宮藤さんのことを「芳佳」と呼ばないほうがいい気がする。
私自身宮藤さんと呼ぶほうが慣れているので問題はないのだが。

「……土方さん?」
「い、いえ、失礼しました」
「…………むー」

私の返答が気に入らなかったのか、山川さんが頬を膨らませている。
な、何か失礼なことを言ってしまっただろうか。

「あ、あの……何か?」
「私のほうが年下だし、土方さんは男の人だって言ったじゃないですか。敬語なんておかしいです」
「え?あ、それは…………」

何だか数刻前にも同じような問答をしたような記憶がある。
しかし「常に紳士たれ」がモットーの海軍暮らしが長いせいか女性に対し敬語を省いた喋り方をすることに違和感を覚えてしまう。
部下や同僚の男、それに妹に対してなら遠慮なくしゃべれるのだが。
そんなことを告げたのだが、なぜかこの返事は山川さんのお気に召したらしく、

「あ、そ、そうなんですか…………ふふ、女性、ですか……えへへ」

そんな言葉とともに顔を赤らめて笑顔を浮かべる山川さん。
…………相変わらず女性というのはいまいちよく分からない。

「そ、それじゃ買い物に行きましょう土方さん!」

そういうと山川さんは私の手を引き、人でごった返す市場へと歩みを進めていった。

197 :1 [age saga]:2011/12/25(日) 13:45:33.22 ID:DYSKM+VI0
それから山川さんと私は、色々な店を巡った。
実家が農家をされているという山川さんの野菜に対する目利きは正確で、私としてもおおいに学ぶところのある買い物であったといえるだろう。
それにどことなく山川さんは妹の歳江に似たところがある。
子供の頃(と言ってもそんな昔でもないが)妹と一緒に買い物をしたころを思い出して懐かしい気持ちに浸ることもできた。
そんな時間を過ごしているうちについつい私も時間を忘れてしまい、気が付けば太陽はもうすでに西の空に傾きつつある。
私はともかく、山川さんが家に帰る時間が遅くなってはご両親も心配されるだろう。

「あの、それではそろそろ時間も……」
「え…………あ、もうこんな時間なんですね……」

私の言葉に、山川さんも今気づいたかのような驚きの表情を浮かべる。

「それでは、駅までお送りしますね」
「あ、ありがとうございます…………」

そこからは私と山川さんは駅まで歩く。
買い物中はよくもこんなに、とばかりに話題の絶えなかった山川さんだが、さすがに疲れたのか私の少し後ろを無言で歩いている。
ほどなくして、駅に到着すると再び山川さんは私に笑顔を向けてきた。
198 :1 [age saga]:2011/12/25(日) 13:46:09.05 ID:DYSKM+VI0
「今日はありがとうございました。助けていただいた揚句に買い物まで一緒にしていただいて……」
「い、いえ。買い物に付き合っていただいたのは私のほうですし」
「ふふっ。芳佳ちゃんに会えなかったのは残念だったけど、土方さんに会えたのでおつりが来ちゃいますね」
「そ、そうですか……?あ、その、み、宮藤さんにもよろしくお伝えください」
「あ、芳佳ちゃんに…………そ、そうだな……うーん」

私の言葉に、なぜか山川さんは考え込むような仕草をする。
やがてちょっといたずらっぽい微笑を浮かべるとこう言葉を続けた。

「いえ、やっぱり今日の事は芳佳ちゃんには言わないでおこうと思います」
「え?そ、それは…………」
「心配させちゃうかもしれませんし……それに…………」

そこで言葉を切り、山川さんは私の顔を意味ありげに見つめる。
…………どうしたというのだろうか。
そんな不得要領な顔の私に山川さんはため息をつく。
199 :1 [age saga]:2011/12/25(日) 13:46:43.06 ID:DYSKM+VI0
「…………はあ。いえ、何でもありません。とにかく今日の事は私は芳佳ちゃんには言いません。土方さんも坂本少佐に言っちゃだめですよ」
「は、はぁ…………?」

まぁ取り立てて報告するようなことでもないといえばそうなのだが、ここまで固く口止めされるというのもいまいち理解できない。
そんな私の内心が表情に現れたのを読み取ったのであろうか、山川さんは急に顔を近づけてきた。

「もう…………とにかく坂本さんには秘密ですよ」
「は、はい」
「はい。よろしい」

その表情に気圧されるものを感じて思わずうなずくと、山川さんは一転して満面の笑顔を浮かべる。

「それじゃ今度こそ本当にお別れですね。ありがとうございました」
「は、はい……」
「横須賀に帰ったら私のうちにも遊びに来てくださいね」

それだけを言い残すと、呆然とする私を後に残し、山川さんは改札を抜けて人ごみの中に飲み込まれていった。

200 :1 [age saga]:2011/12/25(日) 13:47:23.83 ID:DYSKM+VI0
(Side Michiko)

(ふぅ…………)

徐々にスピードを上げていく汽車の座席に座り、遠ざかっていく駅の明かりを見つめながら、私は今日の事を思い出していた。
芳佳ちゃんに会えなかったのはもちろん残念だったか、今私の思考を支配しているのは一人の男性の姿であった。
土方圭助さん。
芳佳ちゃんと同じ501戦闘航空団所属の、扶桑のウィッチ、坂本美緒少佐の従兵。

「なんで私、あんなこと……」

口に出して呟いてみる。
もともと私はあまり男の人と話すのは得意なほうではない。
そんな私が初対面の男の人にあそこまで積極的に話しかけるなど、おじいちゃんが見たら卒倒するかもしれない。
しかし、あの時、あの少尉の前に立ちふさがってくれた土方さんの姿を思い出すたび、私の鼓動は早まる。
この人ともっと一緒にいたい。この人のことをもっと知りたい。
そんな思いに突き動かされるように、あんな態度をとってしまった。
変な女の子だと思われなかっただろうか。
またどこかで私を見かけたとき、声をかけて下さるだろうか。
そんな思いが私の中で渦のように駆け巡り、思考をかき乱す。
先ほどから一向に頬の赤さが消えてくれない。

(あ……これって…………)

私のような年頃の少女なら一度は夢見る単語。
何冊も読んだ小説の中に、今の私と同じような状況が何度も出てきている。
ああ、そうか、これが「そう」なんだ。
もう、間違いない。


私は今、「恋」をしている。

201 :1 [age saga]:2011/12/25(日) 13:48:15.77 ID:DYSKM+VI0
(Side hijikata)


「……思ったより時間がかかったな。面倒くさい上官から離れられたのがそんなに嬉しかったか?」
「い、いえっ!そ、そのようなことは」
「……ん?まぁ羽を伸ばせたなら何よりだ」

私が庵に帰り着いたのはもはや完全に夜の闇に包まれてからであった。
出迎えた坂本少佐の軽口に、つい普段以上に過敏に反応してしまう。
そんな私の様子に、少佐は一瞬不思議そうな表情を浮かべたものの、すぐにいつもの表情に戻る。

「それより早く夕食にしてくれ。昨日からいろいろありすぎてゆっくり食事をとる間もなかったからな。こちらの荷解きは私が…………ん?」
「どうされましたか?」

土間においた私の荷物の荷解きをしようとした少佐の手が一瞬止まる。

「……土方。貴様買い物は一人で?」
「え、あ、そ、それはもちろん!」

山川さんの顔が浮かびかけるが慌てて否定する。
しかしそのせいで否定に必要以上に力が入ってしまった。
そんな私の態度が不自然に映ったのだろう、坂本少佐の疑念の表情がさらに濃くなる。
202 :1 [age saga]:2011/12/25(日) 13:49:19.07 ID:DYSKM+VI0
(Side hijikata)


「……思ったより時間がかかったな。面倒くさい上官から離れられたのがそんなに嬉しかったか?」
「い、いえっ!そ、そのようなことは」
「……ん?まぁ羽を伸ばせたなら何よりだ」

私が庵に帰り着いたのはもはや完全に夜の闇に包まれてからであった。
出迎えた坂本少佐の軽口に、つい普段以上に過敏に反応してしまう。
そんな私の様子に、少佐は一瞬不思議そうな表情を浮かべたものの、すぐにいつもの表情に戻る。

「それより早く夕食にしてくれ。昨日からいろいろありすぎてゆっくり食事をとる間もなかったからな。こちらの荷解きは私が…………ん?」
「どうされましたか?」

土間においた私の荷物の荷解きをしようとした少佐の手が一瞬止まる。

「……土方。貴様買い物は一人で?」
「え、あ、そ、それはもちろん!」

山川さんの顔が浮かびかけるが慌てて否定する。
しかしそのせいで否定に必要以上に力が入ってしまった。
そんな私の態度が不自然に映ったのだろう、坂本少佐の疑念の表情がさらに濃くなる。
203 :1 [age saga]:2011/12/25(日) 13:51:01.91 ID:DYSKM+VI0
(Side hijikata)


「……思ったより時間がかかったな。面倒くさい上官から離れられたのがそんなに嬉しかったか?」
「い、いえっ!そ、そのようなことは」
「……ん?まぁ羽を伸ばせたなら何よりだ」

私が庵に帰り着いたのはもはや完全に夜の闇に包まれてからであった。
出迎えた坂本少佐の軽口に、つい普段以上に過敏に反応してしまう。
そんな私の様子に、少佐は一瞬不思議そうな表情を浮かべたものの、すぐにいつもの表情に戻る。

「それより早く夕食にしてくれ。昨日からいろいろありすぎてゆっくり食事をとる間もなかったからな。こちらの荷解きは私が…………ん?」
「どうされましたか?」

土間においた私の荷物の荷解きをしようとした少佐の手が一瞬止まる。

「……土方。貴様買い物は一人で?」
「え、あ、そ、それはもちろん!」

山川さんの顔が浮かびかけるが慌てて否定する。
しかしそのせいで否定に必要以上に力が入ってしまった。
そんな私の態度が不自然に映ったのだろう、坂本少佐の疑念の表情がさらに濃くなる。
204 :1 [age saga]:2011/12/25(日) 13:52:19.41 ID:DYSKM+VI0
「……本当だろうな?」
「も、もちろんです!……それよりなぜそんな風に?」
「いや、ただの勘なのだがな。何というか、貴様以外の人物の残り香があるというか…………宮藤とは違う……?」
「…………っ!」

思わず大声をあげそうになるのを必死で制する。
いわゆる「女の勘」というやつであろうか。
私の背中を嫌な汗が流れ落ちる。
…………もはやこれまで、か。
山川さんとの約束は破ることになるがこれ以上坂本少佐に隠し事をしているという状況に私が耐えられそうにない。
そう思った私が口を開きかけるが、

「まぁ貴様がそう言うならそうなのだろう。所詮私の『女の勘』など当てになりはしないしな。はっはっはっ」
「さ、坂本さん?」
「それより夕飯だ夕飯。また明日から鍛錬漬けの日々に戻るのだからな。今日はしっかりと栄養のあるものを頼むぞ」
「は、はぁ…………」

そう言い残すと、呆然とする私を一人残して少佐は自室へと帰って行かれるのだった。
205 :1 [age saga]:2011/12/25(日) 13:55:03.54 ID:DYSKM+VI0
ということでここまでです。
どうもみっちゃんが積極的過ぎる気もしますねw

それから、明日より私は冬コミのため上京しますので今週末の投下はできないと思います。
1月の第1週にまた会いましょう。

それでは皆様、よいお年を。
206 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 14:40:15.01 ID:7fC6phzl0
乙!

よいお年を
207 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/26(月) 00:21:14.20 ID:qUfZd36Z0
良いお年を!

それにしても土方モテモテすなあ
208 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/29(木) 05:24:40.47 ID:tQQfaXPIO
土方、貴様どれだけフラグを立てるのだ!
ニヤニヤが止まらんではないか!ww

今回も乙です
良いお年を!
209 :1 [age saga]:2012/01/03(火) 12:26:53.39 ID:1N6mUl9h0
あけおめage
210 :以下、あけまして [sage]:2012/01/03(火) 14:49:39.31 ID:n4Jq9J8F0
あけましておめでとう土方爆発しろ

もっさんが幸せになれますように
211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) :2012/01/06(金) 16:41:19.12 ID:VzTEZGl00
あけましておめでとう

もっさんを不幸にしたら住人がたいまつ持って襲いに行くからな土方
212 :1 [age saga]:2012/01/08(日) 10:58:11.35 ID:gvw0GBc+0
皆様、明けましておめでとうございます。
今年も頑張って投下していきますのでよろしくお願いします。
ちょっと遅れましたが今週分の投下です。

213 :1 [age saga]:2012/01/08(日) 10:58:58.36 ID:gvw0GBc+0
西暦1945年の新年、1月1日。
この1日を、私は坂本少佐と二人で迎えることとなった。
現在私と少佐は庵のある山の山頂に登り、ご来光を迎える準備をしていた。
昨年は何かと多難な1年であっただけに、今年こそは平穏無事な年であれ、との思いは強い。
坂本少佐たち501戦闘航空団の活躍によりガリアは何とかネウロイより解放したものの、それ以来ネウロイの活動は不気味な停滞を見せている。
しかしこのままであるはずがない、何か起こるとすれば当然今年となるだろう、というのが多くの人々の一致した認識であった。

「土方、寒くはないか」
「いえ」
「ふ。ブリタニアの基地はここなどよりはるかに寒かったしな」

そういいながら少佐は何かを懐かしむように笑う。
501時代のことを思い出されてでもいるのだろう。
現在、501戦闘航空団に所属しておられたウィッチの方々は世界各地に散って、それぞれのやり方でネウロイと戦っている。
そしておそらくこの先、何か緊急事態でも起こらない限り、旧501のウィッチたちが一堂に会することはおそらくもう二度とあるまい。
特に宮藤さんなどはすでに退役しておられるし、宮藤さんが再びストライカーユニットを穿くことを、誰よりも坂本少佐が望んでおられない。
その気持ちに嘘はないのだろうが、それでももうあのメンバーが集まることがない、というのは外野である私ですら一抹の寂しさを感じるほどなのだ。
当事者たる坂本少佐としても、何か思うところがあるのだろう。
214 :1 [age saga]:2012/01/08(日) 10:59:31.32 ID:gvw0GBc+0

「…………なんだ?私の横顔がそんなに珍しいか」
「い、いえ、何でもありません」

いかんいかん。
つい少佐の横顔に視線を注ぎすぎたようだ。
坂本少佐の問いかけに、思わずどもってしまう。
怪訝そうな少佐の視線をごまかすようにまだ暗い冬の空を見上げた。
冬の山頂は空気が澄んでおり、黒を背景とした夜空には宝石のごとく星が瞬いている。
ふいに、少佐が話し出す。

「……正直なことを言うとな」
「…………」
「き、貴様にはその……感謝しているのだ」

照れているのだろうか、少佐らしくない奥歯にものの挟まったようなものの言い方であるが、私はそんな少佐を不覚にも「可愛い」と思ってしまった。
最近、少佐の仕草一つ一つに「女性」を感じてしまうことが多々ある。
少佐という地位にあり、扶桑国民なら知らぬものはないほどの有名人ではあるが、それでもやはり20歳を迎えたばかりの女性でもあるのだ。
そんな当たり前のことをこの数か月で何度も実感として味わわされている。
私の内心を知ってか知らずか、少佐は私から視線を逸らしたままで言葉を続ける。

「今だから言うが……あのブリタニアでの戦いの後、魔力を失ったと知った時私は不安だった」

あの海辺での鍛錬にて、拳銃の弾すらはじけない自分のシールドに愕然としていた少佐の姿が蘇る。
確かに「旅に出る」と告げられたあの凛とした少佐の表情は、そういった不安の裏返しであったのかもしれない。
215 :1 [age saga]:2012/01/08(日) 11:00:06.33 ID:gvw0GBc+0
「子供の時に宮藤博士に出会い、それからは博士とともにストライカーズユニットの発展のために全力をささげてきた」
「……」

宮藤博士。
その名を呼ぶ時少佐は、どこか恋する少女のような無邪気な表情を浮かべることがある。
今、私の目の前で少佐が浮かべているような。
そんな表情の少佐を見るたび、私は心の奥にかすかな痛みを感じるのだ。
上官と部下という関係上、抱いてはいけない想いだとは分かっているのだが。

「私にとってウィッチであること、空を飛ぶことは生き方そのものと言っていい」

少佐の口調に割りこめないものを感じ、一旦開いた口をまた閉じる。

「だからこそ魔力を失うにつれて、不安は大きくなっていく一方だった。ウィッチでない自分など、想像することすらできなかったからな…………」
その結果たどり着いてしまったのがこの『烈風斬』だ。残り少ない魔力を無理やり絞り出し闘う。はっきり言って正気の沙汰じゃない」
「だがそうでもしないと、ウィッチでない自分というものに耐えられそうになかった。だが…………」

そこで言葉を切り、少佐は私に視線を向けてくる。
216 :1 [age saga]:2012/01/08(日) 11:00:47.09 ID:gvw0GBc+0
「貴様は……そん私に黙ってついてきてくれた。あんな恥ずかしいセリフを言ってまで、な」

そういって少佐は静かに笑う。
あの時は必死だったとはいえ、ずいぶんと気障なことを言ったものだ。
今更のように恥ずかしさがこみあげてくる。

「だからこそ、私は今正気を保っていられる。そんな気がするんだ。誰にも告げず一人で烈風丸を打っていたら、おそらく私は正気ではいられなかった」
「そんな…………」
「振り向いた時に常に見知った顔がある、というのはそれだけで心強いものなのだ。確かに私にはミーナ達を始め支えてくれる友がいる……でも彼女たちには彼女たちの国がある。立場がある。
私のわがままにつき合せるにも限度がある……だが」

そこで言葉を切り、少佐はからかう様な笑みを浮かべる。

「ま、要するに私のわがままにつき合せても心が痛まないし使い減りもしない奴だからな、貴様は」

そんなこと思ってもいないだろうに、少佐は偽悪的な笑みで小さく笑った。
……まぁ少佐がどう思っておられようと、私の気持ちは変わらない。

「私は貴女のお側にいられればいいのです。見返りなどもとより期待しておりません」
「…………ま、全く……貴様という奴は」

そう答える少佐の頬が赤いのは、この寒さのためであろうか。
そんな話をしているうちに今まで黒一色だった空の下の方が白くなっていく。
217 :1 [age saga]:2012/01/08(日) 11:01:35.02 ID:gvw0GBc+0
「そろそろか」
「は」

さすがに少佐は表情を改めると、今まさに白さを増してくる山の稜線へと視線を向け、目を閉じると手を合わせた。
あたりが明るくなるにつれて徐々にその横顔がはっきりしてくる。
今年初めてのご来光を背景に見る少佐の横顔は不思議な神々しさすら感じさせ、思わず一瞬見とれそうになった私はあわてて少佐と同じように手を合わせた。
今年はどんな年になるのだろうか。
ネウロイとの戦いももちろんだが、少佐と私、そして宮藤さんや他の501のウィッチの方々。
あの方たちにとっても大きな転機の1年になる。
なぜか根拠はないがそう思った。
218 :1 [age saga]:2012/01/08(日) 11:02:06.95 ID:gvw0GBc+0
そして。
もはや太陽が完全に昇りきった頃。

「ふにゃ〜〜」

私はぐったりして正体のない少佐を背負って山道を降りていた。
あの後、地元の人間が好意で差し入れてくださった甘酒。
それ自体はありがたいことなのだがまさかそれだけでこんな事になるとは…………

「ふふふふふ……」

そんな笑いを時折漏らしながら、背負っている私に強く抱きついてくる。
そのたびに全身がなんともいえない温かみに包まれ、私は理性を総動員する必要に迫られた。

(だが、まぁ…………)

こんなことで頭を悩ましていられるのも少佐を取り巻く状況が平穏を保っているからだと思えば……

「ふふふ〜〜〜」

すりすり、とほっぺたを押し付けてくる少佐。
…………どうやら、私の試練はまだ続きそうだ。

219 :1 [age saga]:2012/01/08(日) 11:02:51.67 ID:gvw0GBc+0
……というところで今回はここまで。
今年もよろしくお願いしますね。
220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/01/08(日) 16:42:54.23 ID:XFe2vwhr0
乙!

新年ももっさん可愛すぎワロタ
221 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2012/01/09(月) 15:41:26.40 ID:DJYoTSQWo
スレタイを見た瞬間に周囲の壁が吹っ飛んだ

土方ァァァァァァ!!!!
222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) :2012/01/10(火) 18:48:28.40 ID:ph9VZ/mL0
もっさんかわいすぎわろ…オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアア土方アアアアアアアア
223 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) :2012/01/15(日) 00:06:21.75 ID:6apcDrAO0
あげ
224 :1 [age saga]:2012/01/15(日) 10:12:44.62 ID:FJvBNmPd0
皆様おはようございます。
1です。

最近投下が遅れ気味で申し訳ありません。
何とか頑張っていきたいと思います。
それでは。今回分の投下、始めます。
225 :1 [age saga]:2012/01/15(日) 10:13:17.11 ID:FJvBNmPd0
年が明けて数日。
しばらくは平穏な日々が続きそうだと思っていた願望を多分に含んだ私の予想は、思っても見なかった形で裏切られることになった。

「土方、通信だ。貴様の母上様よりだそうだ」

ある日の朝、いつものように起きだしてきた私を出迎えたのは、少佐のそんな言葉であった。
母から?
その言葉に私の背中を嫌な予感が走る。
私の実家「土方家」は扶桑皇国においても歴史の古い、いわゆる名族というやつである、らしい。
伯爵だか子爵だか忘れたが、爵位も持っているはずだ。
私も幼いころは母に先祖の活躍譚を子守歌代わりに聞かされたものだ。
そしてその話の終わりに母は決まっていうのだ。

「あなたは土方家の次期当主なのですから、その名を汚さぬように国のために尽くすのですよ」

しかしそんな土方家の空気にどうしてもなじめず、幼年学校を卒業すると私は周囲の反対を押し切る形で士官でなく、一兵卒として海軍に入った。
それ以来実家とは微妙な距離を維持してきたはずであるが……ここにきて急に母から連絡とは。
しかも、ここの通信機に通信があったということは母上はわざわざ横須賀の鎮守府にまで出向いてきたということになる。
ただの挨拶であるはずもない。
唾を一つのみ込むと、私は少佐より渡された通信機を耳に当てた。

「……圭助です」
「圭助さん。お元気そうで何よりです」

受信機の向こうから帰ってくる母の声。
土方家と同じような名家のお嬢様でありながら、父が戦死したのち当主代理として土方家をまとめてきた
母の声は数年の時を経ても全く変わっておらず凛とした空気をまとっていた。
思わず背筋が伸びるのを感じる。

「は、母上こそ、相変わらずお元気そうで」
「おかげ様で。それで圭助さん、今回、こんな形でご連絡したのは……」

それ以降の儀礼的やりとりは無用とばかりに、母は今回の通信の核心をズバリと口にした。

「貴方のお見合いの話です」

……どうやら神は、私に安寧を与えてくれるつもりはないようだ。
226 :1 [age saga]:2012/01/15(日) 10:13:54.61 ID:FJvBNmPd0
「……見合い、ですか」

がたん。
ぱりん。

母の言葉につられるようにおうむ返しで返事をした直後、背後で響いた時ならぬ騒音。
振り返った私の眼に入ったのは割れた茶碗のそばで憮然とこちらを見つめる少佐の姿であった。

「坂本さん?」
「い、いや……少し手が滑ってしまったようだ。我ながら正月気分が抜け切っていないな……さて。箒は…………きゃっ!」

私の視線に気づき、あわてたように部屋出ていく坂本少佐。
しかし。

ごん。

「あたた…………」
「さ、坂本さん!」

今度は戸が閉まったままなのに気づかず頭から思いっきり戸に突っ込んだようだ。
額がかなり赤くなっているか大丈夫だろうか?

227 :1 [age saga]:2012/01/15(日) 10:14:27.87 ID:FJvBNmPd0
「……どうされました?圭助さん」
「あ、いや、申し訳ありません」

電話の向こうでもこちらが急に慌ただしくなったのは伝わったのだろう。電話口の母の声に、怪訝そうな色が加わる。
適当に返事をしつつも、あまりに突然降ってわいたようなこの話に心の平衡点を求めるように母に問いかける。

「ず、ずいぶん唐突な話ですね」
「何が唐突なものですか。あなたは次期土方家当主なのですよ。しかももう19にもなっている。土方家の将来のため、伴侶の選択は早すぎることなどありません」
「……」

土方家の将来のため、というところで私は少し唇をゆがめる。
やはり母は変わっていない。
ため息をつきそうになるのを必死でこらえ、恐る恐る、という感じで抗議の言葉を口にする。

「し、しかし……今はいろいろと大変な時期で…………」
「分かっています。何も今すぐに結婚しろというわけではありません。ただ将来自分の伴侶となるべき人間を早めに知っておくというのは大事なことだと言っているのです」
「は、はぁ」
「もう先方には話をしてあります。あとは貴方の日程次第です」
228 :1 [age saga]:2012/01/15(日) 10:15:15.44 ID:FJvBNmPd0
ちょ、ちょっと…………
あまりの話の急な展開についていけず沈黙する。
ふと目を上げてみると、少佐が先ほど割った茶碗を片付けているのが見えた。
しかし妙にそわそわとこちらに何度も視線を送ってきておりその手つきは遠目に見ても危なっかしい。
手を切ったりせねばよいが……
不意に沈黙した私の態度を不審に思ったのか、母が尋ねてくる。

「まさか……もうすでに誰か想い人がいるなどということは…………」
「い、言えそのようなことは決して…………」

母の言葉に、思わず私の声がオクターブ上ずる。
想い人、という表現にはやや語弊があるものの、私自身が生涯をかけて支えていきたい方ならすでに決まっている。
そんな私の煮え切らない態度に、母の言葉に疑念の色がさらに濃くなる。

「……まさか坂もt」
「ち、違います!」

母の言葉を遮るように、思わず必要以上に大きな声で否定してしまう。
行ってしまってから私は内心で天を仰いだ。
もはやそれは肯定しているのと同じである。

「……そういうことですか」
「そ、その、そういうこと、とは…………」
「でも、あなたはいずれ退役して土方家当主に収まる身。これからも軍一筋で生きていかれる坂本少佐とは……」
「……」

私としてはこのまま少佐のそばに居続けたいところであるが、周りはそれを許さぬであろうことは理解できる。
いつぞやであったか、里に下りた時に坂本少佐とともに祝言を見たときのことが思い出される。
坂本少佐もいずれ誰かのもとに嫁ぐ日が来る。
その相手が自分であれば…………などとは仮初にも考えられないが、坂本少佐以外の女性とそうなっている自分を想像するのはさらに難しかった。
再び訪れる沈黙。
229 :1 [age saga]:2012/01/15(日) 10:15:44.18 ID:FJvBNmPd0
「まぁ、確かに急であったのは認めます。貴方も心を決めるのに時間が必要でしょう」
「はい」
「……2日後に再び連絡します」
「は、はい」

母の有無を言わせぬ迫力に思わず頷いてしまう。

「では、ごきげんよう」

その一言とともに通信が切れた。
今まで保ってきた緊張の反動で、思わず膝からへたり込みそうになる。
男はどうしても根本的なところで母親にはかなわないようになっているらしい。

230 :1 [age saga]:2012/01/15(日) 10:16:21.40 ID:FJvBNmPd0
「……土方」
「さ、坂本さん?」

ふと一息ついたころで後ろを振り返ると、坂本少佐が表情の選択に困ったような表情で私を見ていた。

「そ、その、だな……今の、話なのだが…………」

少佐にしては珍しく、奥歯にものが挟まったような問い方であるが、なにを聞きたいかなどこの状況では想像がつかないほうが愚鈍というものだろう。

「見合いをしろ、との母の話です」
「そ、そうか…………そういえば貴様の家はかなりの名族だったな。そういう話も多々あるのだろう」
「は。しかし軍に入って以来そういうことはなるべく考えないようにしておりましたので」
「そ、そうか……」

再び沈黙する少佐。

「ま、まぁ……私としては?その、き、貴様の私事に口をはさむ様な野暮はするつもりはさらさらない、というかそもそも何か言えるような立場にないことは十分自覚しているし
貴様が行きたいというなら別に私が、な、何かを言うような性格のものではないし…………た、ただ私としては……その、料理のことも含めいろいろ
私の周りに気を配ってくれるものが一時的にせよ居なくなるというのは、ま、まぁ、要するに、烈風丸を打つという私の目的から考えればマイナスであるのは間違いないというか……」
「しょ、少佐?」

さらに続く少佐の言葉に、私は口をはさむタイミングを見失って沈黙する。
231 :1 [age saga]:2012/01/15(日) 10:16:56.83 ID:FJvBNmPd0
「そ、それに貴様はまだ19であってその、結婚など考えるには世間一般的には早いというか、私も20で、そんなことを考えた事もないわけだし、ここで貴様ほど気の利く従兵を他に
見つけるのは大変な作業というか?その、だな…………ああ、何を言っとるんだ私は……」

そんな風に頭を抱える少佐の姿に、私は不謹慎ながらほほえましさを覚えてしまった。

「…………わかりました少佐」
「ああ、今の言葉は忘れてくれ土方……要するに私が言いたいのはだな…………てどうした?」
「今回の見合いの件はお断りします。今はまだ、少佐のそばにいることのほうが重要ですから」
「な…………き、貴様はいつもいつも……っ!もう知らん!見合いでも結婚でも好きにしろ!!」

私の言葉を聞いた少佐の表情がみるみる赤く染まっていく。
私には見えないが、おそらく私の表情も同じ様な感じだろう。
そんな少佐をなだめつつ私は、どうやって母にこの見合いを断ろうかと考え始めていた。

232 :1 [age saga]:2012/01/15(日) 10:17:47.65 ID:FJvBNmPd0
(hijikata's mother side)

圭助さんが通信をしてきたのは、先の通信が終了して1時間もたっていなかった時であった。
どうやら横須賀鎮守府の通信室で待たせていただいたのは無駄ではなかったようだ。
返答は予想通り。今は結婚のことなど考えられない、というもの。

「……貴方の意思は変わりませんのね?」
「はい。誠に申し訳ありませんが…………今はまだ少佐のおそばを離れたくはないのです」
「……まぁそういうことなら仕方ないですわね」
「…………え?」

電話口の向こうで圭助さんが驚いたような声を上げる。
こんなにあっさりと了承されるとは思っていなかったのだろう。

「そ、それだけですか?」

圭助さんが恐る恐る聞いてくる。

「そうですが…………何か?」

わざと空とぼけて返す。
そんな私の態度に不審を抱いている様子であったが、目的は達せられたと感じたのであろう。
口調を改めて

「申し訳ありません。相手方に面目が立たなければ私に悪癖があったとかそんな話にしてくださっても結構ですので」
「ふふ……そうですか」
「母上……?」
「いえ、なんでもありません」

圭助さんは相変わらずだ。
自分が泥をかぶることを何とも思っていない。
その優しさはこういう世界では必ずしも美点ではないというのに。

「ともかく……私のことを思ってであることは理解しております。今回は誠に申し訳ありませんでした」
「もう、そんなに謝らなくても結構です。お仕事、頑張ってくださいね」
「は」

その言葉を最後に、電話は切れる。
折角の縁談を断られたことへの怒りよりもあの子が数年前と変わらないでいてくれることへの喜びが大きいというのは、土方家の嫁としては失格だろうか。
そもそも私自身当主代理である私に一言の相談もなくきめられたこの縁談には反対だった。
夫を早く亡くし、女である私が当主代理を務めていることで何かと軽く見られがちな土方家の権威復活を狙って親族連中が何やら動いていたらしいが。
私にはそれこそ知ったことではない。
我が息子ながら不器用すぎるあの子が、坂本少佐の心を見事射止めるのか。
それともほかの人間に射止められるのか。
どうなるにせよ、これからいろいろ楽しいことになりそうであった。


233 :1 [age saga]:2012/01/15(日) 10:21:35.07 ID:FJvBNmPd0
以上です。
この見合いの話は連載開始のころからいつかやろうと思ってましたw
見合い相手が実はペリーヌだったとかみっちゃんだったとか言うオチも考えていたんですがうまく話を張ってさせられずこういう尻すぼみなオチになってしまいました。
まぁもしかしたらこの話の続きを書いてみるかもしれません。

それでは。
また来週です。
234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/01/15(日) 11:58:17.20 ID:imEqBhNB0
乙!

相変わらずもっさん可愛いわぁ
>>1のおかげでセンターがんばれるわ
235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/15(日) 22:01:02.45 ID:oKmgMdpIO
乙!
よくまとまってて読みやすかったです
236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2012/01/16(月) 02:05:43.40 ID:Z1MFeMKGo
乙乙!!
土方かーちゃんマジイケメン
237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) :2012/01/16(月) 18:02:26.40 ID:34Y6Qg8S0
ちくしょう>>1文才あり過ぎだろ…
土方になら掘られても良い気がしてきた
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/01/17(火) 00:45:10.15 ID:V91QaG/Y0
土方、爆発しろ

そしてもっさんをちゃんと幸せにしろ
239 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/01/18(水) 15:48:27.05 ID:GHY+5dsio
ストパンで男なんてと思ったが土方は憎めない
240 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) :2012/01/19(木) 17:23:13.00 ID:LfKKl3XC0
ひじかたまじいけめん
241 :1 [age saga]:2012/01/21(土) 13:55:43.39 ID:6I/y7cxC0
こんにちは。
寒い日が続きますね。

それでは今週分の更新行きます。
今回はちょっとオリキャラっぽい人が出てきますのでそういうのが嫌いな方には申し訳ありません。
何か電波的なものを受信してしまいましてw

それでは、行きます。
242 :1 [age saga]:2012/01/21(土) 13:56:12.83 ID:6I/y7cxC0
「ふぅ……」

洗濯物を干し終え、一つ大きく息をつく。
二人しかいないとはいえ、それでも洗濯物はたまってくるものである。
相変わらず坂本少佐は何のためらいもなくズボンまで私に洗濯させようとするのが悩みの種であるが、最近はそれにも慣れてきた。
…………あまり慣れたくはないのだが。

その少佐は、朝から横須賀のほうに出かけられている。
何やら込み入った話を軍上層部と行うようで、出かけるその表情はすぐれなかった。
私も同行を申し出ようとしたのだが、いつ帰れるかわからないので家事を片づけておくように命じられて一人で出かけられてしまった。
こういった政治的なことに私をできるだけ関わらせないようにという少佐の心遣いは分かっていたのでありがたくこの時間を活用させていただくこととした。

洗濯が終われば、次は掃除である。
この際であるから年が改まった区切りの意味をこめて徹底的に行うのも悪くなかろう。

そんな風に考えて庵のほうに向かいかけた時であった。

243 :1 [age saga]:2012/01/21(土) 13:56:41.34 ID:6I/y7cxC0
「たのもう!」

不意に玄関先で聞こえてきた声に、私の背に緊張が走る。
私と少佐がここにいることを知る者は少ない。
宮藤さんのような軍関係者か、私と坂本さんの親族関係ぐらいである。
しかし、聞こえてきた声に聞き覚えはない。
考えたくはないが、坂本さんに何らかの害をなそうと訪れた者である可能性もある。
私は慎重に裏口より回り、玄関先を覗き込んだ。

「誰かおらぬのか!!この妾がわざわざ訪ねてきてやったのだぞ!!」

玄関先でそう大声を上げているのは一人の女性であった。
背中まで伸ばした金髪。雪のように白い肌。私ですら一瞬目を奪われるほどの美人である。
オラーシャかスオムスあたりの方であろうか。

「土方圭助とやら!出てこんか!」
「え?」

唐突に出てきた私の名前に、思わず声が出る。
そんな小さなつぶやきが聞こえてしまったのだろうか、女性がゆっくりとこちらを振り向く。
そのままの勢いで私のそばまで歩いてきて、値踏みをするように私をじっと見つめる。

「ふむ……貴様が土方か?」
「は、はい…………」
「全く……妾が呼んでおるのだからさっさと出てこんか」
「あ、あの?」
「まあいい。妾は疲れた。上がらせてもらうぞ」

私の返答など聞いていないかのように、開いた玄関から室内に入り込む女性。
244 :1 [age saga]:2012/01/21(土) 13:57:08.97 ID:6I/y7cxC0
「ちょ、ちょっと待ってください!貴女はいったい……」
「せせこましい所じゃのう。こんな木と紙だけの家に住んで、扶桑人の感性というやつはよく分からんわ」
「で、ですから…………」
「まぁ貴様も座れ。目の前を熊のようにうろうろされては目障りでかなわん」
「は、はい…………」

突然やってきたくせにまるで主人のようにふるまう女性。
その立ち居振る舞いにはもって生まれた威厳というか有無を言わさぬカリスマのようなものが備わっており、私は操られるように女性の正面に座った。

「さて、突然このようなところにやってきた無礼をまずは謝そう」
「は、はぁ……」

そういって頭を下げる。
どうやら自分の行為が無礼にあたることは自覚しているようだ。
それでもあえてやってしまうというタイプか。
坂本少佐と似たものを感じる。

「妾の名はハインリーケ・プリンツェシン・ツー・ザイン・ウィトゲンシュタイン」
「え…………?」
245 :1 [age saga]:2012/01/21(土) 13:57:38.65 ID:6I/y7cxC0
彼女の口から出てきたあまりに意外すぎる名前に、思わず絶句する。
ハインリーケ・プリンツェシン・ツー・ザイン・ウィトゲンシュタイン少佐。
確か第506戦闘航空団「ノーブルウィッチ」の戦闘隊長を務められ、カールスラントでも3本の指に入る撃墜数を誇る優秀なナイトウィッチだとの噂を聞く。
王室にも連なる名門貴族の御令嬢であるにもかかわらずウィッチとして前線に立つその姿は威厳に満ち、「王女(プリンツェシン)」の称号で呼ばれるほどであるという。
自分の名に対する私の反応にウィトゲンシュタイン少佐は満足そうに笑みを浮かべる。

「その様子だと妾の名を知っているようじゃの。その通りだ。我こそは第506戦闘航空団『ノーブルウィッチ』戦闘隊長のウィトゲンシュタイン少佐じゃ」
「そのウィトゲンシュタイン少佐がこのようなところに何用で……?」

だいぶ落ち着いてきた私は何とかその疑問をぶつけることができた。
その質問に、ウィトゲンシュタイン少佐はからかう様な笑みを浮かべる。

「……何じゃつれないの。事と次第によっては妻となるべき相手にその言葉とは」
「つ、妻……?」

少佐の口より再び出てきた爆弾に、思わず頓狂な声を上げる。
しかし、少佐とは今日はじめて会ったはずだ。
そこまで考えた私はある可能性に思い至る。

「まさか…………」
「やっと気づいたか。先日貴様に縁談が持ち上がったであろう?その相手がこの妾よ」
「な……っ!」
「ふふ。まぁ、そのくらい驚いてもらわねばわざわざ扶桑のこのような山中までやってきた甲斐もないというものじゃが」
246 :1 [age saga]:2012/01/21(土) 13:58:07.80 ID:6I/y7cxC0
その言葉に、今度こそ私は驚きの叫びをあげる。
そんな私の表情を、少佐は愉快そうに眺めていた。
最初から受ける気などなかったため相手のことには全く興味を持っていなかった。
縁談の相手がよりにもよって海外の、それも現役のウィッチの方だったというのにも驚いたが、それよりわざわざこんなところまでやってきてしまう少佐の行動力になにより驚かされた。
何だか坂本少佐との共通点をまた見つけてしまった気分である。
どうも私の周りの女性はこういう方が多いようだ。
私は大きく深呼吸を一つして、何とかこの唐突すぎる展開を理解しようと試みる。
先日急に縁談を告げられた時も驚いたが、今回の驚きはその比ではない。

「それで、最初の質問に戻りますが本日はいかなる御用で?」
「なに、妾との縁談に一顧だにせず断りを入れてきた男というのにちょっと興味が湧いての。少し調べて見たらなんとあの坂本美緒の従兵だというではないか」
「……それが何の関係が?」

少佐の「あの」に非好意的な匂いをかぎ取った私の表情が覚えず強張る。
私の言葉に少佐はしかし、さらに笑みを深くして言葉を続けた。

「…………ほう。目つきが変わりおったな。たいした忠臣ぶりよの」
「縁談については全面的に我々の責任です。お詫びで済むなら土下座でも何でもいたします」
「まぁそう先走るな。ただ妾としてもな、こうも一方的に袖にされたのは初めてでな。女としての自信を少々喪失した気分なのじゃ」
「それは…………申し訳ありません。しかし私は相手が貴女だと知ったのも今日が初めてなわけでして……」
「ならば」

そこで言葉を切り、少佐は私の顔の目の前数センチに顔を近づけてくる。
息がかかりそうな至近に少佐の綺麗な顔が迫り、覚えず顔が熱くなってきた。
247 :1 [age saga]:2012/01/21(土) 13:59:31.81 ID:6I/y7cxC0
「相手が妾だと事前にわかっていたら、少しは心が動いたか?」
「それは…………」

ウィトゲンシュタイン少佐には申し訳ないがそんなことは決まっている。
たとえ相手が誰だろうと坂本少佐以外の人間に心を動かされるなど、想像すらできない。
そんな私の内心を読み取ったのだろうか、少佐はおかしそうに笑う。

「くっくっくっ。貴様も正直者よの」
「はぁ…………」
「なかなか興味深かったぞ土方とやら。妾としては改めて縁談を申し込みたい気分だ」
「そ、それは…………申し訳ありませんが……」
「……ふん。躊躇なしか。あーもういい。女と二人きりだというのにほかの女の話題ばかり出すでない。この朴念仁が」

そういうと少佐は私から離れる。

「邪魔したな。土方とやら、坂本美緒に飽きたらいつでも妾のもとに来るがよい」
「ですから坂本さんに対する暴言は……」
「おお怖い。貴様に襲われんうちに退散するとしよう……では、さらばだ」
「は、はぁ……」
「ああ、分かっていると思うが妾の事は坂本美緒には話さん方がよいぞ。どうしてもというなら止めはせんが貴様のためを思って言っているのだからな」

そう言い残すと、呆然とする私に一瞥すらくれることなく少佐は去っていった。
ストライカーユニットの起動音がするところを見ると、ここまではストライカーユニットで来たようだ。
飛び去っていくウィトゲンシュタイン少佐の後姿をみながら、私は大きく息をついた。
……やれやれ。全く嵐のような方であった。


248 :1 [age saga]:2012/01/21(土) 14:00:11.76 ID:6I/y7cxC0
「すまん。早く帰りたかったのだが…………」

そんなことを言いながら坂本少佐が帰ってこられたのはもはや日付も変わろうかという頃であった。
申し訳なさそうに手を合わせる少佐に作っておいた夜食を出す。

「すまんな。何やかやといろいろやることが立て込んでしまってな。一兵卒であった方がどれほど気楽であったかと思うよ」
「いえ、お気になさらず」

どうやら食事をとる暇すらなかったらしい。
私の出した夜食をものすごい勢いで平らげながら少佐が苦笑する。
そんな少佐の様子を眺めながら、私は昼の出来事を少佐に話すかどうか迷っていた。
私の見合い話などという私的な話でただでさえお忙しい少佐の御心を悩ませるのも心苦しい気がするが、先日母から電話があった時の反応を見るに少しは気にしてくださっているのかもしれない。
…………いや、これは私の願望が多分に入っているのかもしれないが。
そんな風に悩む私の表情に気づいた少佐が怪訝そうな視線を向けてくる。

「どうした土方。何か心配事か?」
「あ、いえ、何も…………」

あわてて否定するもその不自然な態度は少佐に疑念を抱かせるに十分であったらしい。
こちらを見つめる少佐の視線がややきつくなる。

「そういえば……私の留守中に誰か来たのか?」
「うえっ?な、なぜそのように…………?」
「いや、まぁ勘なのだがな。先だって宮藤を送っていった時もそうだったが…………何というか、私の知らん女の影が……?」
「なっ……」

あまりに的確すぎるその言葉に私の表情がこわばる。
……こういう時の女性の勘はほとんど超能力の域に達しているのではないかと思う。
そのまま、何かを読み取ろうとするように私の顔を正面から見据える少佐。
何だか1か月ほど前にもこんなことがあったような気がするのだが。
まぁ別にウィトゲンシュタイン少佐と何があったというわけでもないし、少佐には申し訳ないがここはすっぱり話してしまおう。
妙な誤解を受けたままでいるというのも心苦しい。
249 :1 [age saga]:2012/01/21(土) 14:00:44.05 ID:6I/y7cxC0
「……なるほどな。あの506の姫様が」
「は。何とも嵐のような方でした」

ひとしきり事情を説明し終え、食後の茶を飲みながら少佐がつぶやく。
……何故か話す前より機嫌が悪化しているような気がするのは気のせいだろうか。
私に向けられる視線も、棘どころか針を含んだものになっている。

「それはそれは。たしかあの姫様は王家に連なる血筋だったと聞くが」
「そのように伺っております」
「ならばあの姫様とうまくまとまったなら貴様も王族の一員というわけか。いや、めでたい」
「で、ですから坂本さん、私にそんな気は…………」

私の言葉は少佐の耳に届いていないようで少佐は不機嫌そうな表情を崩していない。

「今日はもう寝る。疲れた」
「さ、坂本さん……」
「ついてくるな!風呂だ!」
「は、はっ!」

…………結局それから数日間少佐の機嫌は悪いままであり、毎日の鍛錬でさんざんに痛めつけられることになったのであった。

250 :1 [age saga]:2012/01/21(土) 14:05:51.69 ID:6I/y7cxC0
……ということで本日の投下終了です。
支部で公開されている「Cold Winter1947」に一瞬だけでてきたウィトゲンシュタイン少佐。
彼女のキャラが結構気に入っていたし、土方ってこういうわがままな少女に振り回される役割が似合いそうで急遽出演していただきました。
土方と同じく公式的な設定のほとんどないキャラであるので好きに動かさせていただきました。
口調などは「Cold Winter1947」に準拠しています。

こういうオリキャラのお嫌いな方には申し訳ありませんでした。
それでゃ、また来週。
そろそろ山籠もり編も終わりが見えてきた感じです。
251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/21(土) 14:32:02.13 ID:JaDiQg2DO
乙〜
土方、もっさんに対してもう一歩フォローが足りない…
252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/01/21(土) 16:58:52.00 ID:pfbJwSBX0
乙!

何て言うか…キュンとくるよね!
253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2012/01/21(土) 19:24:00.87 ID:9ayHBKlTo
乙!

壁殴ってくる
254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/01/23(月) 15:40:01.80 ID:qYltcwMH0

土方と友達になったら歯ぎしりする事も多そうだけど見てて凄く面白いだろうなww
255 :1 [age saga]:2012/01/23(月) 19:55:08.25 ID:Z+B7tACx0
セルフage
皆様、レスありがとうございます。
非常に励みになっております。
256 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) :2012/01/23(月) 22:07:36.57 ID:2t5e4vCO0
乙!
これでまた新しいルートが開拓されたな!!(壁殴りながら
257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/24(火) 10:09:07.41 ID:THO+hHuIO
おつー
さすがに土方は坂本一筋だな
258 :1 [saga]:2012/01/28(土) 16:57:19.87 ID:lyps2f9d0
こんばんは。1です。
今日もまた投下しに参りました。
最近レスの数がちょっと増えた感じで嬉しいです。
259 :1 [saga]:2012/01/28(土) 16:57:39.14 ID:lyps2f9d0
「土方!外を見てみろ!」

不意に坂本少佐のそんな言葉で起こされたのは2月も半ばになろうかという時の朝であった。
いつもは坂本少佐より早く起きて朝食の準備等をしておくのだが、どうやら今日ばかりは寝過ごしてしまったらしい。
あわてて窓から外を見た私の目に入ったのは、白一色に染まる外の風景であった。

「これは……」
「昨日から特に冷えるとは思っていたが…………まさか雪になるとはな」

そう。
窓の外はおそらく昨夜から降り続いたであろう雪によって白く染まっており、今も大粒の雪が音もなく降り続いている。
冬の朝は明けるのが遅く、夜の闇をバックに月明かりに照らされつつしんしんと降り積もる雪は幻想的な雰囲気を作り出している。
しかし実際に過ごす身としては幻想だの風流だの言っていられないのが実情であるのだが。
私は一向に衰える様子のない空を見上げてため息をついた。

「確かに……これは…………今日の鍛錬は中止ですね」
「え?…………あ、えっと、うん、そうだな。こんなに雪が降ってはさすがに外に出るわけにもいかんからな」

私の言葉に一瞬驚いたような声を上げると、少佐は手に持った何かを背中に隠そうとする。
まさか…………今日に限って少佐が私より早く起きたというのは……
260 :1 [saga]:2012/01/28(土) 16:58:08.11 ID:lyps2f9d0
「あの、その背中に隠したものは……?」
「こ、これか?そ、そのだな……そ、そうそう!こんなに雪が降っては外出もできんだろうから久しぶりに刀の手入れをしようとだな」

そういって差し出してきたのはいつも少佐が持っておられる刀であった。
こんなものを持っていったいなにをしようと…………って聞くまでもないか。

「まさかとは思いますが…………この雪の中外に出て鍛錬をしようなどと考えていらっしゃるのでは……」
「そ、そんなことはないぞ!さ、さすがにその程度の常識はわきまえている!……で、では私はもう少し休んでくるからな!」

そういいながら少佐は慌てたように部屋を飛び出す。
やれやれ。
突然の雪にはしゃいで外に飛び出そうとするなどまるで子供ではないか。
私は一つ大きくため息をつくと、朝食を用意すべく厨房へと向かった。

261 :1 [saga]:2012/01/28(土) 16:58:41.85 ID:lyps2f9d0
「しかし、何とも壮観だな」
「は」

食後のお茶をすすりつつ、少佐がポツリとつぶやく。
その眼は無言のうちに「外へ行きたい」と全力で訴えかけてきているが私は全力で無視した。
窓の外の目を転じれば、確かに壮観ともいえる光景が広がっている。
庵の近くには大きな滝があり、そこに向かって張り出した松に雪が積もり続けている光景などは、そのまま水墨画の構図を切り取ったかのようであった。

「積もりたての雪に足跡をつけたりするのは楽しいと思わんか?」
「自重してください。大事な御身なんですから」
「む…………」

少佐はふてくされたように黙っていたが、やがてそのままごろんと横になる。
少佐に憧れを抱いているであろう他国のウィッチたちがこんな少佐を見たらどう思うであろうか。
そんなことを考えたらふとおかしくなってきた。

「……何がおかしい」
「も、申し訳ございません」

不機嫌顔を作って見せる少佐に、あわてて表情を引き締める。
262 :1 [saga]:2012/01/28(土) 16:59:05.83 ID:lyps2f9d0
正直なところ、私にも少佐の気持ちは分からなくもないのだが、ここで少佐に風邪でも引かれては従兵の面目も何もあったものではない。
少佐はまだ諦めきれないようで、しばらく何事かうなっていたが、急に何かを思いついたような表情になった。

「そうだ、雪中行軍訓練というのはどうだろう土方?」
「…………こんな時に唐突にやる訓練じゃありません」
「いいじゃないか。オラーシャ辺りの戦場で雪原に不時着することもあるかも知れん」
「そんな特殊な状況に備える必要はありません」
「なぁ土方……」

そうつぶやくと少佐はそのまま無言で私を見つめてきた。
少佐らしくないその表情になぜか私は落ち着かない気分にさせられる。
そ、そんな顔をしたって…………

「さ、坂本さん……」
「なぁ…………」

う……
何故か湧き上がってくる罪悪感。
筋的に正しい事を言っているのは私のはずなのだが……
しかし結局のところ、私に少佐の要請を断ることなどできないわけで。

「はぁ…………仕方ありませんね。少しだけですよ」

私の言葉に少佐の顔がぱっとほころぶ。

「そうか!なんだやはり貴様も外に出たかったのだな!では外に集合!遅れるなよ」

嬉しそうに部屋を出ていく少佐の姿にまぁこういうのも悪くないか、と思ってしまうのが我ながら救い難い。
私は一つ息をつくと、少佐の後を追って部屋を出た。
263 :1 [saga]:2012/01/28(土) 16:59:35.81 ID:lyps2f9d0
「気を付け!番号!」
「1!」
「よし」

私の前に立ち、少佐は満足そうに頷く。
番号も何も私一人しかいないのだが、そういうところに突っ込むほど私は野暮ではない。

「では雪中行軍訓練、出発!」
「はっ!」

行軍訓練と銘打っているからには少佐の格好もそれにふさわしいものである。
黒いコートにブーツをはき、獣毛で覆われたシャコ―帽をかぶっている。
いつもの軽装の少佐を見慣れている私にとってもその姿は新鮮に映った。

「どうした土方?」
「い、いえ!何でもありません」

まさか少佐の姿を見ていたとも言えず、あわてて返事をする。
朝から降り続いていた雪は一応にも止んでいたが、空模様を見るにいつまた降り出しても不思議ではない状況である。
264 :1 [saga]:2012/01/28(土) 17:00:01.50 ID:lyps2f9d0
私はともかく、少佐の身に何か起こっては一大事である。
私は妙に嬉しそうに私の前を歩く少佐の後姿に声をかけた。

「ところで……今回の目的地は?」
「心配するな。私に任せておけ」

自信満々に言い切る少佐。
そうまで言われては私としては頷くしかない。
無茶をやるように見えて引き際は心得ていらっしゃる方(だと思う)ので心配はなかろう。
265 :1 [saga]:2012/01/28(土) 17:00:54.66 ID:lyps2f9d0
やがて、視界に小さな小屋のようなものが見えてきた。

「うむ。まだあるようだな」
「少佐、あそこが目的地なのですか?」

少佐は私の問いに大きく頷いて答えた。

「ああ。地元の人間しか知らない秘湯というやつでな。以前里の人間に案内していただいたことがある。非常に良い温泉だったぞ」
「は…………ってお、温泉ですか?」
「うむ。このような寒い日に雪を眺めながら温泉に入る……最高の贅沢ではないか」

そういって豪快に笑い声をあげる少佐。
いや、それはそういうものかもしれないが…………男の私が同行していることは気にならないのだろうか。

「ん?どうした?何か気になることでもあるのか?」

不思議そうに聞いてくるその表情を見るに、素で気づいていない可能性が高い。

「つかぬ事をお聞きしますが…………その温泉というのは男女別になっているのでしょうか?」
「いや、聞いた話では源泉もそんなに大きいものではないらしくてな、いわゆる混浴と…………っ!」

私の言いたいことをやっと理解したのか、少佐の表情が赤に染まる。
266 :1 [saga]:2012/01/28(土) 17:01:24.44 ID:lyps2f9d0
「…………」
「…………」

沈黙が訪れる。

「ま、まぁ…………ここまで来てしまったら引き返すのもなんだしな。い、一応ズボンをはいてきているし…………貴様も水練着を持ってきているのだろう?わ、私はその……構わんが」
「さ、坂本さんがよろしいのであれば…………」

少佐の言葉に私も答えるが、声がやや上ずったのは仕方のないところであろう。
そこから小屋までのわずかな距離が、私には無限の距離のように感じられたのは言うまでもない。


やがて小屋の前にたどり着く。
そこは簡単な脱衣所と温泉がセットになっただけであるが、そこから立ち上る湯気はここまでの行軍で冷え切った体には抗いがたい誘惑であった。
どうやら私たち以外に人の姿はないようだ。
さすがにこんな雪の中外をうろつくような酔狂人は我々ぐらいしかいないのだろう。
しかし、それは今この場に少佐と二人だけであることを嫌でも意識させる。

「ひ、土方…………」

少佐が視線を向けてくるが、目が合いそうになって思わずそらしてしまった。
…………再び沈黙が下りる。

「と、とにかくこんなところで突っ立ってても仕方あるまい。入るか」
「はい…………」

少佐の言葉に軽く頷き、私は少佐に続いて小屋への扉をくぐったのであった。
267 :1 [saga]:2012/01/28(土) 17:02:37.60 ID:lyps2f9d0
…………というところでここまで。
ラブコメの定番、温泉編ですw
まぁこの二人なんで間違いの起こりようがないわけですが。

では、また来週。
268 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/01/28(土) 18:43:38.89 ID:0hDITOpr0
乙!

雪景色のなか、防寒具着用して顔を赤らめるもっさん…

おっと、鼻血が…
269 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2012/01/28(土) 19:33:44.62 ID:/Zhm+2bLo


そろそろ竹井さんに通報したほうがよさそうだな
270 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東日本) [saga sage]:2012/01/28(土) 23:03:21.23 ID:j2rWc3Ut0
どうせ足を滑らせて、おっと危ないが起きるんだろー?
うじゅー、シャーリー寒いよう……
271 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/01/29(日) 12:46:50.00 ID:m4U7Q/wQ0


きちんと番号に答えてあげる土方さんマジ優しい
272 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/01/30(月) 00:16:05.97 ID:JEUaWiAo0
間違いが起きても、いいのよ?
273 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/30(月) 10:11:40.12 ID:pr/RO+4IO
間違いを起こす気がなくても起こる事はある!
乙です
274 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) :2012/02/01(水) 16:59:22.85 ID:CGB0qY5q0
かわいいなこの夫婦
275 :1 [saga]:2012/02/04(土) 17:07:56.57 ID:PnoTlIJ80
こんばんはー。
寒い日が続きますね(定番挨拶)
それでは、今週分の投下を開始させていただきます。
276 :1 [saga]:2012/02/04(土) 17:08:48.85 ID:PnoTlIJ80
雪が降っている。
周りの景色をすべて白に染め上げようとするかの如く。
時間的には昼を少し過ぎたぐらいの時間であるはずだが、厚く垂れ込める雪雲のせいでかなり暗く感じられる。
そんな中音もなく大粒の雪片だけが降り続ける光景は、言葉を奪われそうなほどの神秘性に満ちていた。

「……ふぅ」

湯につかった瞬間、思わず唸り声が出る。
我ながら年に似合わぬ仕草だと思う。

「ふふ。何だ土方、爺臭いな」

…………と思ったら案の定聞こえてくる背後からの声。
思わず気恥ずかしさに沈黙する。

現在、少佐と私はさして広くない露天の風呂の中に背中合わせにつかっている状況である。
少佐が湯を使われる間、私が外で待機することも考えたのだが、少佐の

「あのな…………貴様は私を部下を寒い中外に立たせて自分一人で湯を使うような人間にしたいのか?」

という少佐の言葉に私が折れる形でこういう仕儀と相成っている。
絶対にちらりとも後ろを振り向くまい。
そう考えて先ほどから全身の筋肉を硬直させているのだが、背後の少佐はと言えば何も気にしていないかのように背中越しに体を預けてきている。
背中にあたる柔らかい感触に、湯に入ってより数分もたっていないのに逆上せそうである。
そんな私の様子に、少佐が背後で苦笑する気配が伝わってくる。
277 :1 [saga]:2012/02/04(土) 17:09:33.09 ID:PnoTlIJ80
「おいおい……湯につかっているのにそんなに緊張していては意味がなかろう。もっとくつろげ」
「は、はい」

そういわれてはいそうですかと力を抜けるような精神をしていたらこんなに苦労はしていない。

「まぁ、こんな状況でくつろげという方が無理か。実をいうと私も少しは緊張しているのだ」
「そ、そうなのですか?」

それは意外である。
先ほどから何の遠慮もなくもたれかかってきているし、私が男であることもそんなに意識されていないのではないかと思っていたのだが。

「当たり前だ。わ…………私とて女なのだぞ」

それはよく分かっている。
坂本美緒少佐。
おそらく世界の海軍関係者でその名を知らないものはほぼ皆無であろうその方に、従兵としてお仕えすることになってより数年。
普段の凛とした少佐の姿も魅力的であるが、従兵である私だけが知っている少佐の「女性」としての姿。
それもまた、私の心を魅了してやまないものであった。
278 :1 [saga]:2012/02/04(土) 17:10:02.42 ID:PnoTlIJ80
「まぁ、これでも貴様を信用しているということだ。それに貴様ごとき返り討ちにするのはたやすいしな」
「はぁ……」

豪快に笑う少佐に、私はやや不明瞭な答えを返す。
私も男である。少佐に対しての忠誠心にわずかながら不純なものが混じっているのは自覚している。
だが、それと同時に少佐には私ごときには手の届かぬ高みにいて頂きたいという思いもまた、本当なのだ。
言ってしまえば私ごときに心を動かされないでいただきたい、というもの。
…………まぁそれも私の勝手な信仰というかイメージの押しつけなのかもしれないが。
どうもこの状況がいけないのだろうか。
どうもさっきから思考が埒もない方向に脱線していきそうになる。
そんな態度が少佐の不審を招いてしまったらしい。

「どうした土方。急に黙り込んで」
「あ、い、いえっ!な、何でもございません!」

振り向こうとする少佐を必死で押しとどめる。
こういう妙なところで無防備というか、抜けたことがあるのも少佐の魅力の一つだと思うが、少しは自重していただきたいものである。

279 :1 [saga]:2012/02/04(土) 17:10:34.44 ID:PnoTlIJ80
そのまましばらく、少佐の体温を背中に感じたままお互いに何もしゃべらず空を見上げつつ時間が過ぎる。
雪はいつの間にかやんでおり、恐ろしいほどの静寂が辺りを支配していた。
まるでこの世から、私と少佐以外の人間がすべて消え失せたかのようである。
それは私にとって不快な時間ではなかった。

「…………そろそろ上がるか。十分温泉も堪能したしな」
「は」

背後からかけられるそんな言葉に返事を返す。
確かに厚く垂れ込める雲のせいでもはやあたりは闇に閉ざされ始めている。
私は多少の名残惜しさを振り切るように勢いよく立ち上がろうとした。

「…………あれ?」
「ひ、土方?」

不意に視界が反転する。
と同時に少佐の焦ったような声が頭上から聞こえて来るのがわかる。
そして。

ぱしゃん。

そんな間抜けな音とともに、私の視界は暗転した。
280 :1 [saga]:2012/02/04(土) 17:11:05.80 ID:PnoTlIJ80
「…………っ」

ゆっくりと意識が覚醒していく。
最初に感じたのは心地よい微風。
そして頭の下の柔らかい感触。

「……ん」
「土方!」

聞きなれた声が聞こえてくる。
その声に引っ張られるように、ゆっくりと目を開いていくとそこには――――

「…………やっと目覚めたか馬鹿め」

坂本少佐の安心したような、それでいて少し怒ったような顔があった。

「さ、かもと……さん?」
「まだ起きなくていい。ゆっくり休め」

はっきり覚醒しきっていない頭で呼びかけると、少佐は起き上がろうとする私をおしとどめる。
確か…………少佐と二人で温泉に浸かって……それで…………

「全く。この程度の風呂で逆上せるとは鍛錬が足りんぞ」
「のぼせた…………のですか?」
「覚えていないのか……まぁ無理もないか。貴様は温泉から上がろうと立ち上がった瞬間に倒れたのだ」

少佐の言葉に、だんだんと記憶がよみがえってくる。
そろそろ上がるか、という少佐の言葉に立ち上がったところまでは覚えているが、それ以降の記憶がはっきりしない。
しかし少佐の言葉を信じるならばどうやらその瞬間に湯あたりを起こして倒れてしまったようだ。
…………少佐の前で何とも情けない事だ。
281 :1 [saga]:2012/02/04(土) 17:11:42.13 ID:PnoTlIJ80
「も、申し訳ありません」
「はは。まぁ貴様も疲れがたまっていたのだろう。逆上せる程につきあわせてしまってこっちこそすまなかったな」

徐々にはっきりしてくる視界に手に持った団扇で私を扇いでくださっている少佐の姿が映る。
というかこの体勢は…………もしかして……
先ほどから頭の下に感じるやわらかい感触の正体に思い当たると、私は慌てて飛び起きようとする。

「す、すいません!」
「こら、慌てて起きんでもいいと言っただろう。普段いろいろこき使われる上官を使ってやるいい機会だとでも思え」

そんな私を押しとどめると、そういって少佐は笑う。
そんな少佐の姿に、私は恐縮するしかできなかった。

「少佐、もう大丈夫です」
「……本当か?貴様のことだから私に迷惑だとかしょうもないことを考えているのではないのか?」
「い、いえ、そんなことは…………」
「いいからたまには私に甘えろ。こんなところに来てまで気を張っていてどうする」

私の緊張の一因が少佐の存在にあることを分かっていらっしゃるのであろうか。
…………まぁわかっててこういうことをおっしゃるような意地の悪い方ではないだろうが。
結局、少佐が私を放してくださったのは優に30分は過ぎた後であった。
282 :1 [saga]:2012/02/04(土) 17:12:08.94 ID:PnoTlIJ80
「さて、そろそろ戻るか。…………と言いたいところなのだが」

そこまで言って少佐は小さくため息をつく。
窓から見えた外の光景がその原因を雄弁に物語っていた。
私が間抜けにも逆上せて倒れている間に再び降り出した雪が辺りを覆っている。
しかも先ほどまではなかった風も吹き出し、あたり一帯は吹雪といってよい状況になっていた。
少佐に手間をかけさせただけでなく、予定まで狂わせてしまうとは……
何と詫びていいのかわからない。

「申し訳ありません。私が倒れたばっかりに……」
「何、貴様は悪くない。天気など誰にも予想できんものだからな」

私の謝罪に少佐は笑ってそう言ってくださるが私の忸怩たる思いは消えそうにない。

「しかしまぁ、これは…………動けそうにないな」
「あ、あの、私が里まで……」

私の申し出を、少佐は笑顔で遮った。

「気持ちは嬉しいがいくらなんでも無茶だ。それは最終手段にとっておこう。幸い、と言ってはなんだがこの小屋は結構頑丈にできているようだしな」

確かに外ではかなり強い風が吹き荒れているというのにこの小屋の中は静謐を保っている。
おそらく山の中で急な悪天候に見舞われた時の避難所のような役割も兼ねているのだろう。
囲炉裏……とは言わないが暖をとれる火鉢が部屋の隅に置いてあるのが目に入った。

「まぁ、とりあえずここで吹雪が過ぎるのを待つか」
「は」

行軍訓練の積もりできたため、燃料や携帯食糧等は用意してある。
とりあえずこのままではせっかく温まった体が冷えてしまう。
私は早速火を起こす準備に取り掛かった。

283 :1 [saga]:2012/02/04(土) 17:12:40.09 ID:PnoTlIJ80
「…………ふぅ。何とか人心地ついたな」
「は」

火鉢の中で燃える炭を見つめながら、少佐がつぶやく。
少佐と私は毛布にくるまりつつ、火鉢の傍に座り込んでいる。

「だからそんなに落ち込むなと言っているだろう。天候などだれにも分からんものだ。むしろこういうめったにない体験ができた面白いぐらいの考えを持て」
「は、はぁ…………」

再び訪れる沈黙。
ここまで少佐がおっしゃって下さっているのにこれ以上落ち込んだ姿を見せるのも却って失礼か。
そう思い直すと、私は背嚢のなかより携帯食料を取り出した。

「では、せめて食事の用意だけでも」
「おお。助かる。色々あって腹が減っているからな。予定とは違ってしまったが、まぁこういう場所で夜を過ごすのも悪くはないだろう」
「は、はい」

そう答えると、私は調理の支度に取り掛かった。


284 :1 [saga]:2012/02/04(土) 17:13:17.26 ID:PnoTlIJ80
食事も終わり、再びゆっくりとした時間が流れる。

「なんだかここにいると、今が戦時中だということを忘れてしまいそうになるな」
「は」
「ふふ。このまま世捨て人としての生活を送ってもいいんじゃないかと思えてくる」

そういって冗談っぽく笑うが、少佐ならそういった生活も似合いそうな気がする。
あまりに平穏過ぎる日々の連続で忘れそうになっているが、この旅は少佐が「烈風丸」を鍛えるためのものであるのだ。
この生活の終わり。それはすなわち少佐が再び戦場に赴く日が訪れることを意味している。
もちろんその時は自分もお供するつもりであるが、ここに来てからの少佐はそれなりに楽しんでいらっしゃるように見えた。

「少佐、私は…………」
「冗談だ。まだ私にはやることがある。それを果たすまでは世捨て人にはなれんさ。はっはっはっ」

深刻になりかけた雰囲気を――いやむしろ自分の中に少し芽生えかけた弱い心を、かもしれないが――吹き飛ばすように少佐が笑う。
どんな状況になっても、安易な道を選ぶことを潔しとされないのが坂本美緒少佐という方である。
だからこそ私も全身全霊をかけて少佐を支えようと誓ったのだ。

285 :1 [saga]:2012/02/04(土) 17:13:47.96 ID:PnoTlIJ80
「さて、では休むか。明日には晴れているといいが」
「は。では私はあちらで」
「ちょっと待て」

少佐の言葉に入口の方に向かいかけた私を少佐の手が引き止める。

「どこに行く気だ」
「いえ、扉近くで立哨を…………」
「要るか馬鹿者。こんな雪の中こんな小屋にやってくるとすれば遭難者だ。追い出してどうする」

少し怒ったような少佐の声。
腕をつかまれると強引に火の傍へと引き戻される。

「貴様もここで休め。いいかこれは命令だ」
「は…………?」
「い、いいから……ここにいろと言っているんだ!だ、黙って聞け!」
「は、はっ!」

少佐のよく分からない迫力に押されるようにそのそばに座り込む。
そんな私に満足したように、少佐は私に背を向けて横になる。

「いいか。私が目覚めた時に貴様がそこにいなかったら庵まで駆け足させるからな」

肩越しにそういった少佐の横顔が赤く染まっているように見えたのは、炎のせいだけではなかったのかもしれない。
286 :1 [saga]:2012/02/04(土) 17:16:08.36 ID:PnoTlIJ80
ということで今回の投下は終わりです。
逆上せて倒れる、膝枕、と温泉ネタの定番は抑えてみましたw
それではまた来週。
287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/02/04(土) 20:34:10.64 ID:1ko4lmUG0
相変わらず土方さん紳士すなあ
288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2012/02/04(土) 21:45:13.75 ID:1vPiOEMho
乙、土方が可愛すぎて生きるのが辛い
289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/02/04(土) 22:28:51.83 ID:J/etuE550
乙!

ああ、もっさんの膝枕か
おっと、鼻血が…
290 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/06(月) 13:36:58.72 ID:vuVoSWiIO
クオリティ高いなぁ
乙です
291 :1 [saga]:2012/02/06(月) 19:01:58.11 ID:jlwbP6xF0
皆様毎回毎回レスありがとうございます。

お礼の言葉とともにセルフage
292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) :2012/02/10(金) 17:22:34.90 ID:U+NDAytd0
age
293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/02/10(金) 20:17:24.55 ID:wv/JwM6lo
楽しみにしてますage
294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) :2012/02/10(金) 20:29:41.11 ID:fa7L//V8o
土方さんprpr
295 :1 [saga]:2012/02/11(土) 18:18:22.67 ID:jNcdGfqo0
みなさんこんばんは。
今週もまた投下しに来ました。
よろしくお願いします。
296 :1 [saga]:2012/02/11(土) 18:18:52.03 ID:jNcdGfqo0
「ん……」

ゆっくりと意識が覚醒していく。
ドアの隙間から差し込んでくる冬の朝特有の眩しすぎるほどの朝焼けと身を切るような寒気が徐々に私の意識をはっきりさせて来る。
昨日は結局少佐のそばで眠ることになってしまった。
宮藤さんと川の字になって眠ったとき以来のことであるが、今回はあの時ほど緊張はしなかったようだ。
そんなことに慣れてしまう自分というのもなかなかに想像しがたいものではあるが。
…………どうやら夜のうちに吹雪は去ったようで、扉の隙間から差し込んでくる光が眩しい。

ゆっくりと体を起こし、少佐の姿を探すもののさして広くない小屋の中には少佐の姿は見えない。
隣の温泉の方からなにやら音が聞こえてくるのを見ると、私より早く起きて朝風呂を楽しんでいらっしゃるようだ。
ちょうどいい。
ならば私はその時間を使って少佐の朝食を用意するとしよう。
そう思って立ち上がった瞬間であった。
297 :1 [saga]:2012/02/11(土) 18:19:23.04 ID:jNcdGfqo0
がら。

温泉へとつながるドアの開く音に振り返った私の眼に入った光景は。


「…………」
「…………」

時が止まる、というのはあのような空気のことを言うのであろうか。
部屋の隅に脱ぎ捨ててあった少佐のズボンに気づかなかった私が悪いのか。
私が寝ていると思って油断しきってズボンを脱いで温泉に入った少佐が悪いのか。
…………いや、普通隣で男が寝ているのにそんな油断はしないと思うのだが。

とにかく、振り返った私の眼に映ったのは何も着ていない状態で温泉側の扉から入ってくる少佐の姿であった。
少佐の方も私が起きている事に気づいて硬直している。

「その、さ、坂本さ……」
「き……きゃあああああああああああっ!」

少佐が案外に可愛らしい悲鳴を上げてしゃがみこむ。
……などと冷静に分析している場合ではなかった。
この空気を何とかせねば。

「いえ、その…………私は……」
「と……とにかくっ!は、早く向こうを向かんか馬鹿者!!」
「は、はいっ!」

やっと正気を取り戻したかのような少佐の言葉に、私は慌てて後ろを向く。
しかし一度見てしまった少佐の姿は容易には脳裏から去ってくれなかった。
…………背後から聞こえてくるごそごそという音が、さらに私の精神を苛むことになるのは数秒後のことであった。
298 :1 [saga]:2012/02/11(土) 18:19:48.64 ID:jNcdGfqo0
「振り向いたら軍法会議で銃殺だからな!」
「わ、分かっております」
「全く…………ん?なかなか……うわっ……とっと…………きゃっ!」

どたん。

後ろで聞こえる衣擦れの音や何かが倒れるような音を耳に入れないように精神を集中する。
やがて。

「……もういいぞ」

その少佐の言葉がかかるまでの数分間が、まるで数十時間にも感じたのはいうまでもない。


「…………まぁ、あれだ。今のことはお互い忘れるとしよう。その、わ、私のほうも油断していたことは確かなのだし」
「は、はい」

やっと落ち着きを取り戻した少佐の言葉に頷く。

「あー、その、なんだ…………ど、どうやら雪も止んだようだな」
「は」

所在無さをごまかすように、窓から空を見上げながら少佐がつぶやく。
この分だと帰りは行きよりもはるかに楽な道のりになるであろう。
そんなことを少佐に倣うように空を見上げながら思った。
299 :1 [saga]:2012/02/11(土) 18:20:15.47 ID:jNcdGfqo0
ざく。ざく。ざく。
雪を踏みしめる音だけがあたりに響いている。
小屋を辞してより小一時間。
そろそろ半分ぐらいは来ただろうか、というところで不意に少佐が立ち止まる。

「坂本さん?」
「……少し休むか」

そういうと少佐は近くの大きな木の根元に座り込んだ。
少佐から少し距離をとって座り、二人で水筒の茶を呷る。
冷え切ってしまった体が腹のそこから温まっていく感覚が心地よい。
しばらく少佐は無言で目の前の雪景色を眺めていたが、不意にぽつりと話し出す。

「…………すまんな。また気まぐれにつき合わせてしまって」
「いえ。もう慣れました」
「はっはっはっ。そうか」

そう言って豪快に笑う少佐。

「……私の故郷は九州の方でな。こんなに雪が積もることなどないようなところだからついはしゃいでしまった」

……確か九州は佐賀であったか。
確かに九州の方から見ればこんな雪は未知の領域だろう。
カールスラントやブリタニアではのんびり雪を楽しむような余裕もなかったであろうし。
300 :1 [saga]:2012/02/11(土) 18:20:47.55 ID:jNcdGfqo0
「貴様は……などと聞くのも野暮か。土方家と言えば関東では知らぬ者のない名家だしな。本来ならこんな風に対等に口をきくこともできん間柄なのだろうな」
「い、いえ、そんな…………」

慌てて否定する。
私自身、自分の家など意識したこともなかったし、何より少佐に妙なほめられ方をされると妙に居心地の悪い気分になる。

「そういえば聞いたことがなかったな。黙っていれば安楽な暮らしができるのになんでわざわざ軍などに?」
「いえ、特にこれという考えがあったわけではないのですが…………しいて言えばあの名家の雰囲気というのが合わなかった、としか」
「そうなのか?まぁ15,6の小僧であればそういうものかもしれんな」

正直あまり深い考えがあってのことではない。
ただ何となく土方家の雰囲気が私には合わなかった、それだけの事なのだが。
結果として妹を一人置いてきてしまったことには今でも忸怩たる思いがある。
301 :1 [saga]:2012/02/11(土) 18:21:21.92 ID:jNcdGfqo0
「そういえば……妹殿は元気にしているか?ウィッチの養成課程に入っているという話だったが」
「は。手紙などは定期的に届きますので元気にしていると思います」

子どもの頃からいろいろと気にかけてきた妹だが、ウィッチになると言い出したときはわが耳を疑ったものだ。
それなりの適正を示しているようで、私の元にも何度か名前が漏れ聞こえてくる。
ウィッチはその性格上「男の上官」の元に配属されることがないよう人事上の配慮がなされる。
次に妹と再会するときは私の階級を追い越しているかもしれない。
なんとも不思議な気分であるが、妹が元気でいてくれるというのは嬉しいものだ。

「ずっと貴様にべったりだったと聞くが……慕われているようだな」
「ま、まぁそうですね……」
「養成校を卒業したら会うこともあるだろう。可愛がってやるんだぞ」
「…………は」

微笑ましそうな少佐の言葉に、思わず複雑な表情になってしまう。
正直何年も会っていない妹があの頃のまま私を慕ってくれるか不安なところはあるのだが、時折送られてくる手紙を見る限りでは杞憂であるようだ。

302 :1 [saga]:2012/02/11(土) 18:21:50.63 ID:jNcdGfqo0
「……それにしても、貴様と出会ってもう2年近くたつのだな」

不意に少佐が話題を切り替える。
初めて少佐と出会ったときのことは今でもはっきりと覚えている。
当時私はその生まれからどこに行っても腫れ物に触るような扱いを受け続けていた。
私のような名家の子息は多くの場合士官として入ってくる。
それを蹴って一兵卒として入隊した私の存在は軍としても扱いに困るものであったのだろう。
下手に前線に送って戦死でもすればそれこそ大事だ。
結局坂本さんの従兵として配属されるようになったのも半ばは処理に困る物件を彼女に押し付けたようなものだったと聞く。
そんな経緯もあり何も期待せずに坂本さん(当時は大尉だった)の前に立った私に、坂本さんは豪快に笑いながらこういったのだ。

「…………ふむ。貴様が土方家の御曹司か?ずいぶん細いな。ちゃんと飯食ってるか?」

そういいながら士官食堂で山盛りの食事をおごってくださったのだ。
それから2年。少佐の下でそのお人柄に触れるにつけ、この方にずっとお仕えしたいという気持ちは強くなる一方である。

303 :1 [saga]:2012/02/11(土) 18:22:20.14 ID:jNcdGfqo0
「……何を思い出している?」
「少佐と初めて出会った時のことを」
「ああ……正直あの時はあまりいい印象はなかった。一兵卒として軍に入ったというのも所詮名家のお坊ちゃんの自己満足だろうとな」
「……まぁ、そういう部分もあったかもしれません」

少佐の言葉に、今なら素直に頷くことができる。

「まぁ、今では立派に勤めを果たしてくれている。全海軍中を探したとて貴様以上の人材はおるまい」
「……は。恐縮です」

少佐のやや大仰過ぎる褒め言葉に恐縮する。

304 :1 [saga]:2012/02/11(土) 18:22:51.17 ID:jNcdGfqo0
「そろそろ3月か」
「は」
「来月になったら、今度こそ烈風丸を打つ作業にかかる」

不意に表情を引き締めた少佐が再び話題を転換する。
ついに来たか。
…………前回はあのような妙なことになってしまったが、今回は坂本少佐の平穏を乱しそうな要素は私が全力で阻止するつもりである。
しかしそうなるとこの生活もあと少しか。
そう思うと寂しくもあるが、少佐が次のステップへ向かわれることへの喜びもある。
そんなことを考えているうちにずいぶん時間がたってしまったようだ。
少佐が立ち上がり、笑顔を向けてくる。

「さて、行くか。日があるうちに帰り着きたい」
「は」

少佐の言葉に返事を返すと、私はその後ろについて歩き出した。
305 :1 [saga]:2012/02/11(土) 18:24:45.66 ID:jNcdGfqo0
…………本日の投下はここまでになります。
温泉ネタのお約束をやってしまいましたw
次あたりから話を進めないといけませんね。

もっさんの出身地については公式設定はないようなので元ネタの坂井三郎に準じました。

それでは。
また来週です
306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) :2012/02/11(土) 19:04:19.42 ID:fNEmvP5Io
素晴らし過ぎる…
307 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/02/11(土) 19:58:08.05 ID:7HT+CtVv0
乙!

この空気が良いよね
308 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/11(土) 21:41:24.40 ID:HdqiRndE0
そろそろ物語が動き出しそうな予感・・・
309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2012/02/12(日) 00:18:51.73 ID:cZCvtvxco

次回も楽しみにしてる
310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/02/12(日) 14:20:51.14 ID:jbcdzw17o
乙! このスレは毎週の楽しみです。

この生活が終わった後も……あるんですよね?
311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) :2012/02/17(金) 13:30:32.51 ID:kOp8xN7m0

さすが土方さん高貴な生まれ
312 :1 [saga]:2012/02/18(土) 20:42:05.75 ID:p/tEtuXz0
こんにちは。
ちょっと遅くなりましたが今から投下します。

>>310
そこまで言っていただけると書き手冥利に尽きます。
一応この生活の後も第2期のストーリーに従って土方には一緒にロマーニャに行ってもらおうかと。
ほかの501のウィッチ達との絡みも書きたいですし。
313 :1 [saga]:2012/02/18(土) 20:43:31.83 ID:p/tEtuXz0
桜の花びらが、雪のように舞い落ちている。
横須賀第四女子中学校の校門前に立ちながら私は快晴となった空を見上げた。
私の傍らを女生徒たちとその父母らしき人々が、時折こちらに好奇の視線を向けつつ通り過ぎていく。
……やはりこういう場に私のような年代の男というのは珍しいのだろう。
なんともくすぐったいような気持ちに耐えながら礼服の襟を直す。
なぜ私がこのような格好でここに立つことになったのか。それは数日前にさかのぼる。
314 :1 [saga]:2012/02/18(土) 20:44:08.70 ID:p/tEtuXz0
「……卒業式?」

それは2月も終わりに近づき、3月も近くなったある日のこと。
寒さもだいぶ和らぎ、そこかしこに春の気配が感じられるようになってきていた。そんな折に、庵に突然訪ねてきたのは宮藤さんから聞かされたのはそんな言葉であった。
不思議そうな表情の私と坂本少佐に、宮藤さんはためらいながらも説明を始める。

「はい。あの……えっと、わ、私、もうすぐ女学校を卒業するんです」
「ああ、そういえば…………宮藤も15歳か」

少佐が頷く。
そういえば歳江と同年齢ということは宮藤さんも今年で卒業か。
確か御実家の診療所を継ぐといっていたような気がする。
宮藤さんならよい医者になるであろう。

「あの、それで……今度の3月初めに卒業式があるんですけど、おばあちゃんもお母さんもどうしても外せない用事ができてしまって……」

そういって宮藤さんが悲しそうな表情になる。
確かに卒業式といえば学生生活の総決算といってよい行事だ。
そこに親族が来ないというのは寂しいものだろう。
315 :1 [saga]:2012/02/18(土) 20:44:42.07 ID:p/tEtuXz0
「あ、あのっ!それで!さ、坂本……さんに、お、お母さんの代わりに来て頂けたらなって…………」
「…………成る程な」
「ど……どうですか?」
「む…………招待していただけるのは嬉しいのだが、な……」

しかし、少佐は難しい表情で黙り込む。
無理もない。少佐のような有名人が卒業式のようなイベントに参加するとなればそれこそ学校、下手すれば市を挙げての大事になりかねない。
少佐が如何に個人としての立場で参加しようとしても、おそらく少佐の名前に付属する名声がそれを許してはくれないだろう。
それに、少佐は何より烈風丸を打つという仕事に集中すると先日宣言されたばかりである。
宮藤さんには申し訳ないが、ここは難しいというものだろう。
そんな雰囲気を感じ取ったのか、宮藤さんの表情が暗いものに変わっていく。

「そ、そうですよね……坂本さんもお忙しいでしょうし…………あ、あの、無理を言ってすいませんでした…………」
「まぁ待て。確かに私が参加するのは難しいが…………」

そこで言葉を切り、少佐は私へ視線を向ける。
…………まさか。
そんな少佐につられるように宮藤さんも私へ期待のこもった視線を向けてきた。
そのまま少佐の口から出てきたのはある意味予想通りの言葉であった。

「土方。貴様に任務を与える」
「……はい」

私にこの任務を拒否する術などあるはずもなかった。
316 :1 [saga]:2012/02/18(土) 20:45:16.39 ID:p/tEtuXz0
「「圭助さーん!」」

私の名前を呼ぶ声に振り返ると、宮藤さんと山川さんがそろって手を振りながらこちらに走ってくるのが目に入る。
その声に、私に向けられた好奇の視線がいっそう強まるのを感じ、若干の居心地の悪さを感じながらも手を振り返した。
そのまま宮藤さんたちは私の前までやってくるとそろって頭を下げる。

「あの、今日は来てくださってありがとうございます」
「圭助さん、今日は礼装なんですね…………よくお似合いですよ」
「ほんと……なんだかすごくかっこいいですー」
「そ、そうですか…………ど、どうも……」

今日の私の格好はいつものような略式の半ズボンではなく、白詰襟に白ズボンという礼装姿である。
この装いをしたのはいつ以来になるであろうか。
普段着慣れない格好であるだけに何だか落ち着かないが、こういう場に出る以上普段の格好では失礼だろう。
しかし宮藤さんたちに口々にほめられると何ともこそばゆいような気分になる。
そんな風に宮藤さんと話していることで気安さを感じたのだろうか、遠巻きに見守っているだけだった周囲の少女たちまで話に加わってくる。

「あ、あの…………芳佳ちゃんのお兄さんか何かですか?」
「海軍の方ですよね……その礼装、素敵です!」
「お、お名前は何とおっしゃるんですか?」
「みっちゃんともお知り合いですか?」

こちらが驚くほどの積極性で次々に質問を投げてくる少女たちに、私はただ圧倒されるのみである。
317 :1 [saga]:2012/02/18(土) 20:45:56.39 ID:p/tEtuXz0
「は。横須賀鎮守府所属、土方圭助兵曹であります」

私の返事に、周囲の少女たちから歓声が上がる。
動物園の珍獣になったような気分で正直早く脱出したい。

「もー!!圭助さん困ってるよ!みんなあっち行って!」
「えー。芳佳ちゃんだけずるい。私も土方さんとお話したーい」
「そうよそうよー」
「みんな、そろそろ式が始まるよ」
「……みっちゃんまでー。まぁ、しょうがないか。…………土方さん、後でお話しましょうねー」

そんな私を救ってくださったのは宮藤さんと山川さんの声であった。
その声に私を取り囲んでいた少女たちがこちらに手を振りながら三々五々散っていく。

「ごめんなさい圭助さん。こういう場所に軍人さんが来ることなんてほとんどないから」
「あ、いえ、大丈夫です」

山川さんが苦笑しながら謝ってくるのに、私も何とか返事を返す。
確かに年配の方々の多いこの雰囲気に、軍服で、しかも生徒とほとんど変わらぬ年齢の私はかなり浮いた存在であった。

「それよりも、来て頂いて嬉しいです」
「坂本さんが来られればよかったんですが…………」
「いえ、私は圭助さんが来て頂いて嬉しいですよ」
「そ、そうですか……?」

そういってくる山川さんの笑顔に、妙に照れくさい気持ちになりつつ振り返った時であった。
318 :1 [saga]:2012/02/18(土) 20:46:26.49 ID:p/tEtuXz0
「…………」
「あ、そういえばみやふ―――おぅわっ!」

宮藤さんの不機嫌そうな視線とぶつかり、思わず小さく叫び声を挙げる。

「み、みや、ふじ、さん…………?」
「ずるいです」
「……あ、あの」
「…………」

その表情のままでこちらを睨みつけて来る宮藤さん。
先ほどまでの笑顔が嘘のような宮藤さんの表情に、私は戸惑ったような返事を返すしかできない。
……まぁ確かにわざわざ招かれたのに当の招待主を放って置いて他の方たちとばかり話していたら不機嫌にもなるか。

「す、すいません……その、えっと、みやふ…………芳佳、卒業おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます……」

私の言葉に、宮藤さんが頬を染めて嬉しそうに笑顔になる。
本来なら会って最初に言わなくてはいけない言葉であったはずなのだが。
我ながら何とも気の利かないことだ。
319 :1 [saga]:2012/02/18(土) 20:47:01.50 ID:p/tEtuXz0
くいくい。

服のすそを引っ張られる感覚に振り向くと、

ちょんちょん。

「…………」

笑顔のまま自分を指差している山川さんの姿があった。
笑顔ではあるのだが、そこから漂ってくる威圧感はただ事ではない。
……まぁ、さすがにこの流れで察しがつかないほど私は鈍い人間ではない…………つもりである。

「やまか…………美千子も、卒業おめでとうございます」
「はいっ」

山川さんも笑顔で返事をしてくる。
「山川さん」と呼びかけた時に山川さんから伝わってくる威圧感が増大したが、どうやら何とか私の態度は及第点を頂けた様だ。

「じゃあ、父兄席に御案内しますね」
「こっちですよ圭助さん」
「は」

そう言うと二人は私の手をとり講堂へと誘っていく。
客観的に見てかなり恥ずかしい構図だがいたし方がない。
今日の主役は彼女たちなのだ。
ならば彼女たちがこの日をよき思い出とできるよう、私は努めなくてはならないだろう。
彼女たちの御両親に比べれば役者不足もはなはだしいとは思うが。
320 :1 [saga]:2012/02/18(土) 20:47:45.65 ID:p/tEtuXz0
「宮藤 芳佳!」
「はいっ!」

名前を呼ばれた宮藤さんが壇上へと上がり、証書を受け取るのをぼんやりと眺める。
私もいつかはこういう場所に座って卒業する娘(か息子)の背中を眺める日が来るのだろうか。
そのとき、私の隣に座っているのが…………
…………いかんいかん。
自分の埒もない妄想を振り切るように小さく頭を振る。
いくらなんでも妄想の度が過ぎるというものだ。

「山川 美千子!」
「はい!」

続いて山川さんが呼ばれ、壇上へとあがっていく。
その横顔を眺めながら、私はあの駅で出会った時のことを思い出していた。

―――私が土方さんともうちょっと一緒にいたいって思ったこと。これが最後の半分の半分です。

そういっていたずらっぽく笑った山川さんの表情がかぶさり、覚えず顔が赤くなってくる。
ほとんど初対面といっていい私に対し彼女は過分に過ぎるほど好意的に接してくださった。
……まあ女子ばかりの環境にいると、年上の男は誰であろうと格好良く見えるものらしいし、ここで妙な勘違いはしないが吉であろう。

そんな私のとりとめのない連想のなか、卒業式はつつがなく終わったのであった。


321 :1 [saga]:2012/02/18(土) 20:48:31.75 ID:p/tEtuXz0
「うっ……ぐす…………手紙、出すからね……」
「うん……私たち、ずっと友達だよ」

卒業式の後の雰囲気というのはどこも同じのようだ。
そこかしこで少女たちの一団が名残惜しそうに友人たちの別れを惜しんでいる。
涙を浮かべたり人目もはばからず号泣する子たちも少なからずいるのが女子校の卒業式らしい。
そんな風景を見るともなしに眺めていると、不意に後ろから声がかけられた。

「圭助さんっ」
「あ、み…………芳佳」

振り返ると宮藤さんが笑顔を浮かべながら立っていた。
その後ろでは山川さんもこちらに頭を下げている。

「今日は来てくださってありがとうございます」
「いえ、こちらこそ坂本さんが参加できずにすいません」

正直私ごときに坂本さんの代わり務まるか不安ではあったのだが、どうやら宮藤さんたちも喜んでおられるようでよかった。
そのまま宮藤さんたちと話している私たちに、周囲の少女たちから好奇に満ちた視線が向けられてくるのを感じる。
322 :1 [saga]:2012/02/18(土) 20:49:33.18 ID:p/tEtuXz0
「……な、なんだか注目されちゃってますね」
「そ、そうですね…………」

宮藤さんも居心地悪そうにしている。
私としてもやはりこういう場はちょっと苦手だ。
式は終わったし、宮藤さんたちも私などと話すより友人たちと別れを惜しんでいた方がよかろう。
そろそろ私はお暇するとしよう。

「あの、私はそろそろ…………」
「そ、そうですか……」

私の挨拶に、宮藤さんが名残惜しそうな表情になる。
その表情に多少心が痛むが、私は坂本少佐の従兵という仕事を第一に考えねばならない立場にある。

「ご、ごめんなさい……土方さんもお忙しいって分かってるのに…………無理にお願いしちゃって……」

…………すいません坂本さん。
私はこんな表情の宮藤さんを置いてはいけません。

結局。
そのまま宮藤さんの家に呼ばれてお昼だの夕食だの頂くことになってしまい、泊まっていけと言うのを何とかお断りして家に帰った私を待っていたのは

「遅いわ!馬鹿者」

という少佐のお言葉であった。
323 :1 [saga]:2012/02/18(土) 20:53:23.22 ID:p/tEtuXz0
今回の投下終了です。
本当は宮藤さんの家にお泊まりでもっと長く(お風呂でばったりとかみっちゃん乱入とかお約束イベント含め)書こうとも思ったんですがこれ以上冗長になっても、ということで削りましたw
そろそろこの生活も終わりに近づいてます。
それでは。
また来週です。
324 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/02/18(土) 21:58:09.45 ID:P2h92r/ao
乙!
楽しみにしてます
325 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) :2012/02/19(日) 00:12:52.45 ID:bUphyg0L0
乙乙!!


毎週とても楽しみにしております
烈風丸製作・・・そしてその後のロマーニャでの生活も楽しみです・・・土方がミーナとペリーヌの二人とどんな会話をするのか楽しみでしょうがない(笑)

326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2012/02/19(日) 00:48:08.86 ID:RF3h41MKo
乙!超乙!!
327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/02/19(日) 05:26:19.19 ID:V167uIz7o
乙です!

土方が坂本さんについて行ったとして
ウィッチ達って男の兵士との会話は禁じられてるんじゃなかったっけ
あれは一期だっけ?
328 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) :2012/02/19(日) 12:17:00.29 ID:grGytXLJ0
土方さんモテモテすなあ
白詰襟が凄く絵になるであろうことは容易に想像できる

>>327
従兵なら話していいんじゃないの
二期で宮藤と会話してたし
329 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/02/19(日) 13:31:26.99 ID:DjlCj03DO
乙華麗

>>327-8確か中佐が作った501のみの規則だな(二期だと冒頭で扶桑の整備員と話してるし)
アフ魔女とかいらん子は普通に話してる
330 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/19(日) 18:10:30.78 ID:GpE0M+/50
ウィッチと男の会話を禁じてるのは501だけ
で、1期のあの話以降は多分それが緩和されてる
従卒制度に関しては、男の従卒もいれば女の従卒もついてるって設定だったはず

それなのに全編通してアニメで男の影が薄いのは、ぶっちゃけ監督の独自世界観
331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東日本) [sage]:2012/02/19(日) 21:13:04.37 ID:1l8w7IH90
男出すと人気落ちるからww
前作のスカイガールズがそれやって転けたろ?
332 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/02/19(日) 22:28:51.35 ID:k45pW+Ugo
それだけが理由じゃry
333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) :2012/02/20(月) 19:05:44.82 ID:W+OVWP2z0
全員彼氏持ちだったからな
334 :1 [saga]:2012/02/20(月) 19:06:07.95 ID:0E87c9fW0
セルフage

皆様、たくさんのレスありがとうございます。
>>327
気になって1期8話を見てみました。
どうやら>>329さんのおっしゃるとおり以前ネウロイに恋人を殺されているミーナさんが501だけに特別に設けた規則のようです。
「必要最小限以外の会話を禁じる」と言ってました。全く話しちゃいけないんだったらそれこそ非効率的ですからねw
話の最後で赤城の見送りを認めてるし、少しづつミーナさんも融通を利かせているんじゃないかと考えてます。

335 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/02/20(月) 21:42:25.74 ID:6Rz87D500
乙!

もっさんの出番はよ
336 :1 [saga]:2012/02/25(土) 19:00:18.64 ID:w2QVVkPI0
こんばんは。1です。
今週も投下の時間が来ました。
頑張って投下していきますのでよろしくお願いしますね。
337 :1 [saga]:2012/02/25(土) 19:01:16.19 ID:w2QVVkPI0
かん。かん。かん。
絶え間なく聞こえてくる槌の音。
坂本少佐が鍛冶場にこもられてより3日が経つ。
その間、食事や風呂のために一時的に戻ってこられる場合のほかはその音が途切れることはない。
宮藤さんにも事情は説明してあるし、坂本さんが集中を乱される事はないはずだ。
たとえあったとしても私が全力で阻止するだけだが。

…………しかし。
何とも暇だな。
少佐と鍛錬などをしていれば時間はあっという間に過ぎてくれるのだが。、
もともと少佐は華美を好まれる性質ではないので、この庵にあるのも必要最小限のものばかりであり、少佐が篭られている今家事と言ってもそれほど時間のかかるものではない。
扶桑人の性というのか、何もしないで手持ち無沙汰にしているという状況にどうも落ち着かないものを感じてしまう。

まぁ、こんなところにぼーっとしていても時間を無駄にするだけであろう。
少し早いが、鍛錬に出るか。
そう思って竹刀を持って立ち上がる。
338 :1 [saga]:2012/02/25(土) 19:01:57.59 ID:w2QVVkPI0
「ふんっ!ふんっ!」

気合とともに一撃を打ち込む。
少佐との鍛錬で得たことを忘れぬように毎日鍛錬は欠かさぬようにしている。
しばらく素振りを続け、少し休憩でもするか、と空を見上げた時に、それは目に入った。

「…………あれは?」

これ以上ないほどに晴れ上がった冬の空。そこに突如現れた黒い飛行物体。
最初は黒い点のように見えたそれが、徐々に大きくなってくる。
と、ともに

「ぁぁぁぁぁっぁぁぁーーーー!」

何故か女性の叫び声のようなものも聞こえる。
…………というかそれがどんどんこちらに近づいてくる。

「きゃああああああーーーー!た、助けてーーーーー!」

そのはっきりと聞こえてくるにつれ、それが人の形をとってくるのに気付いた。
どんどん近づいてくるそれはなぜかこちらを一直線に目指してくる。
どうもストライカーユニットを穿いた女性のようだが、機体の制御ができていないらしく非常に不安定な挙動を繰り返し、そのたびに女性の悲鳴が山中にこだましている。
339 :1 [saga]:2012/02/25(土) 19:02:27.36 ID:w2QVVkPI0
「そ、そこの人おおおおおお!どいてくださあああああああい!!」

突然の事態に何も対応できず立ち尽くしていると、ぼーっと突っ立っている私に気付いたのか、女性がこちらに声をかけてくる。
言われずともあの勢いで衝突されたら双方とも無事ではすむまい。
その言葉にはじかれたように、女性の悲鳴を背中に駆け出していた。
…………しかし、運命の神はそう簡単に私を不幸から救い出すつもりはないようだ。

「な、なんで私の行く方に逃げるんですかああああああ!」

…………知りません。
私、逃げつつ左に曲がる。
女性、左旋回。
私、Uターンして進路変更。
女性、Uターン。
…………
……

何故か私の逃げる方向逃げる方向に追尾するかのように女性の声が追いかけてくる。
もしかしたらあの女性は戦死したウィッチの魂か何かで私はそのターゲットに選ばれてしまったのだろうか。
そんな非現実的な想像をしたくなるほど、女性の追尾は的確だった。
たとえそれが本人の意思とは無関係なところで発揮された能力だとしても。
340 :1 [saga]:2012/02/25(土) 19:02:58.44 ID:w2QVVkPI0
しかし、走り慣れているとはいえ所詮人間の足とストライカーユニットの速度である。
徐々に背中の女性の声が大きくなってくるのがわかる。
それに気を取られて一瞬、後ろに意識をやった瞬間。

がさがさがさっ!

「うおっ!」
「きゃあああああ!」

ふいに周りの視界が暗くなる。
一瞬何が起こったか分からなかったが、どうやら茂みの中に突っ込んでしまったようだ。
…………女性の方は無事だろうか。
おそらく私の後に続くように茂みに突っ込んだと思うが……
まぁ、木や岩などに正面衝突したらただでは済まなかっただろうし、その点は二人とも幸運であったと言えるかもしれない。
341 :1 [saga]:2012/02/25(土) 19:03:40.46 ID:w2QVVkPI0
(……の!…………じょうぶですか?)

…………ん?
茂みに突っ込んだにしては頬にあたるこの感触は……
それに女性の声が頭上から聞こえる?
ゆっくりと目を開く。
最初に視界に写ったのは濃紺色。
はっきりしない意識の中何とか声を出そうとするものの、何故かモゴモゴとこもったような声になってしまう。
そこで初めて、目から下の顔全体が何かに覆われているようで声が出せない事に気付いた。

(あ、あの……あんっ!ちょ、ちょっと…………ふえっ、あ、あんまり……ひゃんっ!う、うごかないで…………くださ……いっ!)

女性が妙な声を上げる。
目の前には濃紺色の布らしきもの。
そして鼻と口を覆う、ごそごそと動くもの。
…………私の頭の中に最悪の連想が浮かび上がる。

(あっ…………そ、そこは……はうんっ!…………い、いま…………ひゃっ!ど、どきます…………からっ!)

女性の声が聞こえてくる。
ここは従っておいたほうがよさそうだ。
このままでは「女性の尻に敷かれて窒息死」という土方家末代までの恥となりそうな最期を迎えてしまうことになる。
…………
……

342 :1 [saga]:2012/02/25(土) 19:04:09.69 ID:w2QVVkPI0
そして。

「申し訳ありません……!」
「あ、あの、き、気にしないでください!私がぶつかっちゃったみたいなものですし…………」

土下座せんばかりの勢いで謝罪する私、そんな私の態度に慌てている女性という傍から見たら間抜け極まる光景が展開されることとなったのであった。
何とかそれも一段落し、とりあえずお互いの名前すら名乗っていないことに気づくほどに落ち着くまでには数分の時間を必要とした。
ひとつ大きく深呼吸をして無理やり落ち着くと、私は目の前の女性に問いかける。

「お名前と所属をお伺いしてよろしいでしょうか?見たところ、ウィッチの方のようですが」
「あ、す、すいません…………そういえばあなたもその格好、扶桑海軍の方ですか?」
「は。扶桑海軍横須賀鎮守府所属、土方圭助兵曹と申します」
「あ、そうですかー。私は諏訪天姫少尉。第504戦闘航空団『アルダーウィッチーズ』所属です」

そう答える諏訪少尉は眼鏡をかけた黒髪の小柄な女性であった。
先ほどからのごたごたでゆっくり見る機会もなかったが、どことなく妹の歳江を想像させるところがある。
504のウィッチか……あそこには確か…………坂本少佐の古くからのご友人である竹井大尉が所属しておられたはずだ。
ガリア解放後最前線となったロマーニャの防衛を担っていると聞いていたが。
343 :1 [saga]:2012/02/25(土) 19:04:53.52 ID:w2QVVkPI0
「504……竹井大尉のいらっしゃる航空団でしたか」
「あ、竹井さんをご存じなのですか?はい、竹井さんにはいつもお世話になってます」
「いえ、私は直接には。私の上官の坂本少佐と竹井大尉が古い友人であったとの…………」

私のその言葉を聞いた途端、諏訪少尉の目が急に輝きだす。

「えええええええーーーーっ!あの坂本さんの部下の方なんですか?」
「は、はい…………坂本少佐の従兵を務めさせていただいております」
「はえ〜〜〜そ、そうなんですか……」

私の言葉など耳に入っていないあのように、諏訪少尉は目を輝かせている。
扶桑海軍(というか世界の海軍)における坂本少佐の令名の高さを改めて思い知らされた。

「こほん。それで……諏訪少尉はどのような御用で…………?」

確か504戦闘航空団は宮藤さんが戦ったあの人型ネウロイとの交信を試みる「トラヤヌス作戦」にとりかかっているはずだ。
とてもこんな扶桑の片田舎をふらふらしている余裕はないはずだが…………
344 :1 [saga]:2012/02/25(土) 19:05:31.16 ID:w2QVVkPI0
「確か、504戦闘航空団はトラヤヌス作戦を行っていたはずですが……」
「あ、はい…………私はカールスラントから技術供与された新型のストライカーユニットのテスト飛行のために扶桑に戻ってたんですよ。私、まだ配属されたばかりのへっぽこウィッチだから」

えへへ、とはにかむように笑う諏訪少尉。
そういえば、諏訪少尉と言えばあの陸軍の諏訪真寿々中尉の妹さんのはずだ。
秘めた能力は相当なものだろうが……先ほどの状況を見るに先は長そうだ。

「あーっ!なんですかその納得したみたいな表情は!確かに私は今はへっぽこですけど、いつかはお姉ちゃんみたいに、いやそれ以上に高く飛べるウィッチになって見せるんですから!さ、さっきのはちょっと調子が悪かっただけです!」
「あ、い、いえっ、そんな……」

そんな私の内心が表情に出てしまったのだろうか。諏訪少尉が怒ったような表情を向けてくる。
こういう時の女性には逆らわないのが得策だ。
私は話題を転換する戦術に出ることにした。

「その、それで本日はそのテスト飛行で?」
「あ、そうそう!今日はそうじゃないんですよ。あの、坂本さんの従兵ってことは元・501戦闘航空団のウィッチさんたちの事もご存知ですよね」
「え、ええ、まぁ」
「そうですかー!それはちょうどよかったですっ!」

私の返事に、諏訪少尉は安心したように胸をなでおろす。
しかし、それに続いて諏訪少尉の口から出てきたのは意外な名前であった。
345 :1 [saga]:2012/02/25(土) 19:06:06.03 ID:w2QVVkPI0
「えっと、宮藤芳佳軍曹の事は…………」
「はい。存じ上げております」

坂本さんにではなく、予備役のはずの宮藤さんに用事とは。

「あの、その宮藤さんにお届け物があるんです。それで宮藤さんのお宅に向けて飛んでいたら途中でユニットの調子がおかしくなって……」
「そ、そうですか」
「あ、あははー」

先ほどのことを思い出したのか、諏訪少尉の顔が赤く染まる。
しかし、宮藤さんにお届け物とは…………何であろうか。
らしくもなく好奇心が刺激される。

「あの、差支えなければその『お届け物』を拝見しても?」
「うーん…………まぁ、いいんじゃないでしょうか。えーと確かここに…………あれ?こっちだったかな?」

そういうと諏訪少尉は軍服のポケットをまさぐり始める。
それはいいのだが…………
あまり男の私の見ている前で無防備に胸元や裾をはだけたりしないでほしいのだが。
どうも目のやり場に困る。
そうすること数分の後、少尉は一通の手紙を差し出してきた。
346 :1 [saga]:2012/02/25(土) 19:06:38.16 ID:w2QVVkPI0
「あ、あった…………えへへ、どこかに無くしてたらどうしようかと思っちゃいました」

そんな笑顔とともに少尉が手紙を差し出してくる。
表には確かに「宮藤芳佳様」と書いてある何の変哲もない手紙だ。
しかし、裏返して差出人の名前を見た瞬間、私の背中に戦慄が走った。
そこには、決してあるはずのない名前が書かれていたからだ。

「宮藤…………一郎……?どういうことでしょうか……?」
「わ、私は……この手紙を宮藤さんに届けるよう命令されただけで詳しい事は何も…………」

思わず諏訪少尉に視線を向けるが、少尉は慌てたように首を振る。
まぁ確かに504所属でつい最近までロマーニャにいた諏訪少尉が事情をご存じの訳がないか。
ここは坂本少佐に見せてご判断を仰ぐべきなのだろうが…………現在鍛冶場にこもっておられる少佐をまた呼び出すのは気が引ける。
ならば、従兵としてなすべきことはおのずと決まってくる。
私は少佐に向き直った。

「分かりました。では、私が宮藤さんのお宅までご案内します」
「え?あ、本当ですか?た、助かりますー」

私の言葉に、諏訪少佐は心からほっとしたような表情を浮かべたのだった。
347 :1 [saga]:2012/02/25(土) 19:08:44.74 ID:w2QVVkPI0
……以上で今回分の投下を終了します。
ということで土方が主人公スキル「ラッキースケベ」を発動する話でしたw

何とか2期第1話につなげられてよかったと思います。
それでは。
また来週です。
348 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/25(土) 21:35:43.83 ID:lIqBOtDDO
乙。

少尉に向き直った だね
349 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2012/02/25(土) 23:01:47.11 ID:tLwGEYSAo

物語が動き始めた!
350 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/02/25(土) 23:29:46.03 ID:/b3xSDvR0
乙!しかしもっさんの出番はすくないのである

351 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/26(日) 14:03:15.34 ID:VcJgeeaIO
一期の最終話だったっけ?
乙です
352 :1 [saga]:2012/02/27(月) 19:29:04.76 ID:4MZCqcFQ0
セルフage
>>348
すいません。
書いてるうちに少尉と少佐がごっちゃになっちゃって……
全部直したつもりだったんですが漏れてましたね。
353 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/02/29(水) 13:27:14.22 ID:f+40NSLn0
土方さんフラグ建て過ぎだろ…
ラノベ主人公と違って格好良いから余計に腹立つ
354 :1 [saga]:2012/03/03(土) 19:01:59.08 ID:r6zfgDjy0
こんばんは。
今週も投下開始です。
がんばりますねー。
355 :1 [saga]:2012/03/03(土) 19:02:43.18 ID:r6zfgDjy0
「分かりました。では、私が宮藤さんのお宅までご案内します」
「え?あ、本当ですか?た、助かりますー」

私の言葉に嬉しそうにそう答えると諏訪少尉は私に向かって手を伸ばしてきた。
…………これは、まさか。

「……え、えっと、これは?」
「あ、はい。空から行った方が早いと思いますので、私が土方さんを連れて飛びますね。土方さんは場所を指示してください」
「え」
「…………ちょっと、土方さん?」

思わず出てしまった声に、諏訪少尉の表情がたちまちに不機嫌そうに変わっていく。

「な、何ですかその不安そうな表情は!さっきはちょっと調子が悪かっただけでいつもはあんな失敗しませんよっ!!」
「い、いえ……そんなつもりは…………」

そうは答えたものの、少尉の先ほどの状態を思い出して多少不安な表情が出てしまったかもしれない。
そんな私に業を煮やしたのか、少尉が強引に私の手をとる。

「と、とにかく!行きますよ土方さん!」
「え…………え?うわっ!」

驚きの声を上げる間もあらばこそ、私の体は諏訪少尉に抱きかかえられるようにして大空へ飛び上がっていた。
356 :1 [saga]:2012/03/03(土) 19:03:27.63 ID:r6zfgDjy0
そして我々は何事もなく宮藤診療所の門前にたどり着く。
……本当に何事も起こらなかった。
少し拍子抜けしてしまうぐらいに。

「……着きましたね。ここが宮藤診療所です」
「ほら、大丈夫だったじゃないですかっ!」
「そうですね…………」
「もう、何ですかその拍子抜けしたような顔は……」
「す、すいません……」

膨れっ面で横を向く諏訪少尉を何とかなだめると、私は宮藤診療所の門をくぐった。

357 :1 [saga]:2012/03/03(土) 19:04:31.76 ID:r6zfgDjy0
「ごめんください」
「はーい……って土方さん?」

私の声に答えるように出てきたのは宮藤さんご本人であった。
一瞬笑顔になりかけるが、わたしの隣にいる諏訪少尉の姿を見つけると不思議そうな表情になる。

「あ、あの…………土方さん、そちらの方は?」
「あ、申し遅れました。私、第504統合戦闘航空団所属の諏訪天姫少尉であります」
「諏訪……さん、ですか?」

突然出てきた名前に宮藤さんが怪訝そうな表情になる。
無理もない。
しかしあの手紙の差出人を知ったらもっと驚かれるであろう。
宮藤さんの後に続くように、診療所の奥からもう一つの人影が現れる。

「芳佳ちゃん、お客さんって…………あ、ひ、土方さんっ!」

不意にかけられた言葉に振り向いた私の視界に、こちらにむけて笑顔のまま駆けてくる山川さんの姿が映る。
そのまま一直線に山川さんは私の胸に飛び込んできた。
358 :1 [saga]:2012/03/03(土) 19:05:15.01 ID:r6zfgDjy0
「え、ええっ!?」
「土方さん、お会いできて嬉しいです!」
「そ、それはどうも…………」

予想外の事態に固まる満面の笑みを向けてくる山川さん。
嬉しく思っていただけるのは光栄だが、さっきから私に向けられる宮藤さんと諏訪少尉の視線が痛い。

「……こほん。実は宮藤さんに手紙が届いています」
「…………え?て、手紙、ですか?」

こういうときは多少強引にでも話題をそらすに限る。
諏訪少尉が私の後を受けるように話を続ける。

「はい。横須賀鎮守府にたまたまいた私が配達を頼まれまして。土方さんのご案内でこちらに伺わせていただいたのですが」
「そうですか…………って、ええええええええ!?」

怪訝そうな表情ながらも手紙を裏返してみた宮藤さんの表情が驚愕に包まれる。
すでに亡くなっているはずの父親から手紙が来ればそれは驚くだろう。
359 :1 [saga]:2012/03/03(土) 19:06:01.17 ID:r6zfgDjy0
「お、お父さんから?え?ど、どうして?」
「すいません…………内容については何とも……」
「そ、そうですか……」

そんな二人のやり取りを眺めながら私はこの事態について思いをめぐらせていた。
……まぁ、あの世でこの世へ手紙を出すことが流行していないとすれば、考えられる可能性はそれほど多くない。
第1に、何者かが宮藤博士の名を騙って出したものである可能性。
第2に 宮藤博士が生前に出した手紙が何らかのトラブルで留めおかれていた可能性。
そして第3に…………

「宮藤博士が実際に生きている可能性、ですか」
「え…………?」

不意にかけられた声に驚いたように振り向いた私に、山川さんが微笑みかけてくる。

「可能性を考えてみたんです。土方さんも考えてらっしゃったんでしょう?」
「ま、まぁ…………」
「ふふ」

そういって微笑む山川さんになぜか私は底知れないものを感じた。
その微笑みを崩さないまま、山川さんは言葉を続ける。
360 :1 [saga]:2012/03/03(土) 19:06:48.02 ID:r6zfgDjy0
「まぁ、自分で言っておいてなんですがその可能性は限りなく低いと思います」
「……それはまたどうして?」
「生きているのに芳佳ちゃんに連絡の一つもない。これはおかしくないですか?」
「それはそうでしょうけど、博士が連絡を取ろうにも取れない状況にある、ということも…………」

飛躍しすぎかもしれないが、博士の頭脳を狙った何者かに拉致されているという可能性、そこまでいかなくても連絡の取りようのない地にいて帰れないでいるという可能性もないとは言えない。

「まぁ、扶桑の公式発表は戦災による死亡、ですからね。死体を確認した人がいるわけでもないですし、偽装や間違いの入り込む余地はないとは言えません。しかし…………」
「しかし?」
「市井の一市民ならいざ知らず、宮藤博士はストライカーユニット理論の第一人者ですよ?それほどの重要人物の死亡を偽装するなんて無茶もいいところです。そこまでのリスクを負うメリットがどこにもありません。博士が自らの意思で隠れ住んでいる、という可能性もあるにはありますが……それならそれで博士にはもう二度と世にでる意思がないということでしょう。この手紙を送ってくる意味が分かりません」

…………次々と紡がれる山川さんの推理には淀みがない。
本当にこの人は宮藤さんと同い年なのだろうか。
まぁ、我ながらこの想像には無理があるとは思っていたが。

「結局、一番可能性として考えられるのは博士が生前に出したはずの手紙が検閲等のトラブルで横須賀鎮守府内にとどめ置かれてたってことでしょうね」

山川さんの達した結論は私と同じものであった。
361 :1 [saga]:2012/03/03(土) 19:07:19.79 ID:r6zfgDjy0
「……お見事です」
「い、いえ…………そんな」

私の素直な賞賛の言葉に、山川さんは照れたように笑う。

「お、おかあさーん!おばあちゃーん!」

そんな私たちの会話も聞こえていないように、宮藤さんは慌てたように診療所の中に入っていく。
彼女の後姿に、私と山川さんはお互いに苦笑を交わしあうと診療所の中に入っていったのだった。
362 :1 [saga]:2012/03/03(土) 19:08:11.27 ID:r6zfgDjy0
「うーん……何かの…………設計図?」
「は……そのように見えますが…………」

宮藤家縁側にて、私と宮藤さん、そして山川さんと諏訪少尉は博士の手紙を前に困惑した表情を向け合っていた。
手紙の中に入っていたのは一枚の設計図。
それ以外には何も入っていなかった。
不思議そうに宮藤さんがつぶやく。


「何でしょうこれ……?」
「設計図…………でしょうか?」

曹候補課程で一応は習ったものの機械工学などに関しては門外漢もいいところの私としてもそれ以上の事は答えようがない。
ただ…………宮藤博士の名前で出されていることを考えるとこれはストライカーユニットの設計図と考えるのが順当な考え方だろう。

「このこと、坂本さんは?」
「いえ……まだお知らせしていません」

宮藤さんの言葉に、私は首を横に振って答える。
今は坂本さんには一切の雑念を振り払っていただきたい大切な時期である。
特に宮藤博士の名前は坂本少佐にとっても特別なものであるだけになおさら。
…………しかし、この手紙、放っておいてよいようなものでもなさそうだ。
ならば、現状でできることはしておいたほうがよかろう。

「私が横須賀鎮守府の技術部に回しておきましょうか?」
「うん…………そうですね。それがいいと思います」

私の申し出に、宮藤さんも頷く。
坂本さんにはあとで知らせればよかろう。
事後報告の形になってお叱りを受けるかもしれないが、私がすべての責任を負えばよい。
かくして私は故人からの奇妙な手紙を預かることと相成ったのである。


363 :1 [saga]:2012/03/03(土) 19:08:48.42 ID:r6zfgDjy0
さしあたっての方針も決まり、我々は横須賀へ帰られる少尉を見送っていた。

「それでは少尉、お疲れ様でした」
「いえいえ。私はただの配達人ですから。それじゃ、お元気でー」

そんな言葉を残し大空へ舞い上がる少尉。
彼女が見えなくなるまで後姿を見送ると、私は宮藤さんと山川さんに向き直った。

「では、わたしも…………」
「「あ、あの!」」

私の言葉を遮るように、宮藤さんと山川さんが同時に声をかけてくる。

「な、何か……?」
「「わ、私も一緒に行ってよろしいでしょうか?」」

それは、ある意味予想通りの言葉であった。
自分の父親の事であれば何をおいても知りたいことだろう。
宮藤さんの必死な表情に、私は大きく頷いた。

364 :1 [saga]:2012/03/03(土) 19:11:43.54 ID:r6zfgDjy0
……というところで短くて申し訳ありませんが今回はここまでです。
これを書くに当たって2期の第1話を何回も見直しましたw

色々はっきり覚えてないことも多かったですね。

それでは。
また来週です。
365 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/03/03(土) 19:34:22.38 ID:x07uEO5Wo
乙!
毎週の楽しみだ
366 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/03(土) 22:17:03.58 ID:h3UAB+0DO
乙です!
最近ここを見つけて一気読みしました
2期開始wktk
367 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/03/03(土) 22:25:17.43 ID:3yMaOq7D0
乙です

これは楽しみ
368 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/03/06(火) 06:59:37.98 ID:yzT/+GvPo
乙です!
あいかわらずクオリティー高いですね
SS速報の中でも屈指の良作!
369 :1 [saga]:2012/03/06(火) 23:34:30.76 ID:e6wzQyax0
今日もセルフage

いつもレスありがとうございます。
本当に励みになっております。
370 :1 [saga]:2012/03/10(土) 12:46:11.98 ID:UXDr+X0F0
こんにちは。
ちょっと早い時間ですが今週分の投下を始めます。
よろしくお願いしますねー。
371 :1 [saga]:2012/03/10(土) 12:46:42.78 ID:UXDr+X0F0
(Sakamoto's side)

「…………ふぅ」

柄糸を巻き終わり、私は大きく息をついた。
出来上がった刀を持ち、切っ先から鍔元まで一通り眺める。
扶桑帝国に伝わる禁忌といってよい魔術理論。
その全てを駆使して出来上がった邪道の刀、烈風丸。
その完成品が今、私の手の中にあった。

(くっ…………これは……さすがというべきか)

持っているだけで全身の魔力が吸われていくような感覚に陥る。
あらかじめ作っておいた鞘に収めると、なんとかそれは収まった。
鞘の方を先に作っておいてよかった。

しかし今更ながら自分が作り上げてしまったものに戦慄に近い感情を覚える。
これで良かったのか、などとはもはや問うまい。
他のウィッチのように退役して結婚し、平凡な主婦となる、そんな生き方をあえて否定したところに今の自分がいる。
その選択を後悔したことはない。
372 :1 [saga]:2012/03/10(土) 12:47:18.31 ID:UXDr+X0F0
「だが…………」

後悔とは言わないまでも、心残りのようなものが生まれつつあることに私は最近、戸惑いを隠せないでいる。
原因は言わずと知れた「あの男」だ。
私の行くところならどこまでもついていく、欠片の躊躇いも見せずあの男は言い切った。
打算も下心も一切ないその表情を見たとき、私の心がどこかざわめいたのは事実だ。
この男とならば、そんな平凡な生活も悪くない、などと――――

「……ってだあああああああ!」

些か想像が埒もない方向へとそれ過ぎたようだ。
頭を掻き毟って益体もない想像を頭の外に追い出す。
……そういえばここ数日熱が入りきりで奴の顔を見ていないな。
久しぶりに奴の夕食に舌鼓を打つことができるのは楽しみだ。

そう思って庵の扉を開ける。

「…………ん?」

しかしそこには想像していた顔はなく、代わりに一枚の紙切れが。
腹からせりあがってくる嫌な予感を抑えつつ読み進める。

「…………っ!あの馬鹿者め!」

紙切れを丸めて放り捨てると、私は急いで荷造りを始めた。
373 :1 [saga]:2012/03/10(土) 12:47:56.02 ID:UXDr+X0F0
「ここが横須賀鎮守府……」

山川さんが感激したように赤レンガの門を見上げる。
確かに一般人にはあまり縁のない建物であるかもしれない。

「それでは、私は技術部に向かいますが……お二人はどうされます?」
「そうですね……」
「私は土方さんにお供させていただいていいですか?」
「はい……それは構いませんが」
「じゃあ決まりですね。もちろん案内してくださいますよね土方さん」
「え?え?あ、はい。わ、分かりました」

そういって私の腕をとり駆けだそうとする山川さん。
山川さんはウィッチになりたかったという話であるが、やはりこういう場所に興味があるのだろうか。

「ちょ、ちょっと待ってよーみっちゃん!」

少し遅れて、慌てたように宮藤さんが後をついてくる気配がした。
374 :1 [saga]:2012/03/10(土) 12:48:18.54 ID:UXDr+X0F0
隊舎内の廊下を歩いていると、すれ違う兵士たちが次々と宮藤さんに声をかけてくる。

「宮藤さーん!」
「先日の牡丹餅、すごくおいしかったです!」
「またお願いしますねー!」
「すごい芳佳ちゃん、大人気だね」
「え、えへへ……そんなことないよ…………」

宮藤さんが照れたように微笑む。
彼女の人懐っこさはここでも多くの宮藤さんファンを生んでいると聞いていたが、その人気の一端を思い知らされた気分だ。
あのままウィッチを続けられていればきっと坂本さんに匹敵する戦果を挙げられたことだろう。
仕方ない事とはいえ、わずか半年足らずしか共に戦えなかったのは残念である。

そんなことを考えながら歩みを進めると、ふと山川さんがの外の風景に目を奪われたように立ち止まった。

「あ、あれは……」

彼女の指差す先の岸壁には、巨大戦艦がその威容を現している。
……ああ、そういえば大和がヨーロッパに派遣されるという話を聞いたな。

「あの船ですか?…………新型戦艦の『大和』です」
「あれが大和……たしかあの駅で私たちを助けて下さった大佐さんが艦長をしておられるんですよね」
「ああ、そういえば……」
「ふふっ。あのときはありがとうございました」
「い、いえ、助けたのは杉田艦長ですし」
「そんなことないですよ。あの時の土方さん、すごくかっこよかったですから」

そういってほほ笑む山川さん。
そんな山川さんの笑顔がまぶしく感じられ、私は思わず目をそらした。

375 :1 [saga]:2012/03/10(土) 12:48:51.50 ID:UXDr+X0F0
「……それでは、お願いします」
「分かりました!はは、宮藤さんの頼みとあっちゃおろそかにはできませんね。全力を尽くしますよ」
「は、はいっ!お願いしますっ!」

技術部の技師たちに頭を下げる。
どうやらここにも宮藤さんファンの兵士はいたようだ。
本人の方はいささか居心地が悪そうではあるが、話がスムーズに進んだのはよかったと考えるべきであろう。



「あれー?土方さんじゃないですか」

技術部を出て廊下を歩きだすと、不意に後ろから声がかけられた。
振り向いた先には、先ほど別れたばかりの諏訪少尉が笑顔を浮かべたままこちらに手を振っている。

「諏訪少尉……」
「宮藤さんも、横須賀に何か御用だったんですか?」
「あ、はい。さっきのお父さんの手紙の件で…………」
「そういえば何だか設計図みたいなのが入ってましたね」
「は。こちらの技術部なら何かわかるかと思いまして――――」

そんな風に諏訪少尉と話し始めた時であった。
376 :1 [saga]:2012/03/10(土) 12:49:31.42 ID:UXDr+X0F0
「土方兵曹!」

不意に私を呼ぶ声に振り向くと、一人の兵士が緊迫した表情をこちらに向けている。

「何事だ?」
「ガリア軍令部より緊急入電です」
「……何だと?」
「欧州のネウロイに何か異変があった模様です」

ガリア軍令部…………確か504統合戦闘航空団がトラヤヌス作戦を行っていたはずだが……
そう思って諏訪少尉の方を見ると、少尉も不安そうな表情になっているのが分かる。
迷っている時間はなさそうだ。
少尉に大きな頷きを一つ返すと、私は通信室に向け駆け出していた。

「……しかし、なぜ私に?」

通信室への道すがら、私は伝令に尋ねる。
本来ならこのような緊急伝、私ごときが受けるべきものではないはずだが。

「よく分かりませんが……相手はどうやら坂本少佐との通信を望んでおられるようでしたので…………」
「坂本さんに?」

坂本少佐を名指ししての緊急伝とは。
私の中で嫌な予感が膨れ上がってくる。
377 :1 [saga]:2012/03/10(土) 12:50:07.12 ID:UXDr+X0F0
「土方だ!緊急伝の内容は?」
「は。『発 ガリア駐留ウィッチ隊、宛 連合軍各司令部 本日未明、トラヤヌス作戦遂行中にロマーニャ上空に新たなネウロイの巣の出現を確認、トラヤヌス作戦の目標たる人型ネウロイ、及び既存のネウロイの巣を砲撃により消滅させたのち、ロマーニャ北部に侵攻を開始』」
「何?」

ネウロイがネウロイを攻撃しただと?
宮藤さんたちも一様に驚きの表情を見せている。

「『トラヤヌス作戦は失敗。新たなネウロイは今までよりも格段に強化されており、ヴェネツィアは即日陥落。阻止せんとこれと交戦した第504統合戦闘は多大なる損害を受け、戦闘不能に至れり』」
「ええっ!」

驚きの声を上げたのは諏訪少尉であった。

「た、多大なる損害って……ドッリオ隊長さんは?竹井さんは?無事なんですか?ジェンタイル大尉、ゴットフリー大尉は?」
「ちょ、ちょっと落ち着いてください諏訪少尉」

通信兵に掴み掛らんばかりの勢いでまくしたてる諏訪少尉を何とか押しとどめる。

「だ…………大丈夫です……撤退に際し竹井大尉が軽傷を負われたようですが、マルヴェッツィ中尉の治療により事なきを得たと。一番重傷だったのはララサーバル中尉ですが彼女も後方に移送されて無事とのことです」
「そ、そう…………ですか……よかった」

通信兵の言葉に、全身の力が抜けたように諏訪少尉がへたり込む。
504のウィッチの方に犠牲はなかったか。不幸中の幸いというべきか。
……しかし504戦闘航空団といえば、戦闘隊長の竹井大尉を中心に、かなりの戦闘能力を持った隊であったはずだが…………
その504が壊滅的打撃を、しかもこんな短期間で受けたとなると……
新しいネウロイとやらの戦闘力のすさまじさが知れるというものだ。
378 :1 [saga]:2012/03/10(土) 12:50:40.98 ID:UXDr+X0F0
「それで、土方兵曹」
「どうした?」
「ガリア駐留のウィッチの方から通信です。どうやら元501戦闘航空団の方のようで、坂本さんを出してくれといっておりますが…………」
「元501の……?」

そういいながら通信兵の差し出す受話器を受け取る。
元501のウィッチでガリアに居るとなると……ビショップ曹長かクロステルマン中尉であろうか。
ともあれ、坂本少佐が不在であることを伝えて可能なら私が事情を伺っておくべきであろう。
私は些か緊張しながら受話器を取る。

「……扶桑海軍横須賀鎮守府、土方圭助兵曹であります」
「こちらガリア駐…………え?ひ、土方さんですか?え?ど、どうして?」

受話器の向こうから聞こえてくる声はまぎれもなく元501戦闘航空団のリネット・ビショップ曹長のものであった。

「リ、リーネちゃん?」

背後から宮藤さんの驚いたような声も聞こえてくる。

379 :1 [saga]:2012/03/10(土) 12:51:17.46 ID:UXDr+X0F0
「ビショップ曹長……坂本少佐は現在基地を離れられておりまして…………私でよろしければロマーニャの状況を教えていただけるとありがたいのですが」
「そ、そうなんですか……」

そして訪れる沈黙。
ビショップ曹長はあまり男と話すのが得意ではないようであるし、ここは宮藤さんに代わったほうが良いかも知れないな。
そう思って背後の宮藤さんを振り向きかけたとき、受話器よりビショップ曹長の声が流れ出してくる。

「え、えっと……詳しい状況はよく分かりません。ただ、ロマーニャで何かが起きているのは間違いないようです。こちらにもウィッチの援軍要請が来ているんですけど、派遣しようにもウィッチの数が不足していて……」
「ウィッチの数が不足……?」

ガリア軍令部に救援を求めねばならないほどにロマーニャのウィッチ隊の被害は深刻だというのか……
それにガリア軍令部の方でもウィッチが不足しているというのはどういうことだ?
詳しいことをたずねようとしたとたん、急に雑音が大きくなりビショップ曹長の声が不鮮明になる。

「それで……わた…………ふ…………」
「どうしました?ビショップ曹長!応答してください、ビショップ曹長!!」
「リーネちゃん!!」

ザザッ、という雑音とともにビショップ曹長の声が途切れる。
380 :1 [saga]:2012/03/10(土) 12:51:53.32 ID:UXDr+X0F0
「どうした?」
「だめです。電離層に乱れが生じていて……」
「くそっ!こんな時に……」
「リーネちゃん…………」

いつの間にか私のすぐそばまで来ていた宮藤さんが不安そうな表情でこちらを見上げてくる。
501時代、宮藤さんはビショップ曹長と特に親しくしておられたようだし、不安になる気持ちもわかる。

「土方さん!もう一度つないでみてください!今のリーネちゃんの様子は普通じゃなかった気がします!」
「分かりました……もう一度やってみろ」
「は」

通信兵にそれだけ命ずると、私は宮藤さんに受話器を手渡す。

「リーネちゃん?宮藤です!!何があったの?答えてリーネちゃ――――」

がちゃん。

しかし、不意に横に伸びてきた手がスイッチを落とし、無機質な音とともに通信が途切れた。
通信を切った相手を宮藤さんは驚いたように見上げる。

「宮藤……なぜお前がここにいる?」
「さ、坂本さん…………」

視線を上げた先には、瞳に怒りをたたえた坂本少佐の姿があった。

381 :1 [saga]:2012/03/10(土) 12:53:47.11 ID:UXDr+X0F0
以上です。
やっぱりアニメ本編に突入すると筆が進みますねw
アニメ版とちょっと変えて土方は501内である程度認識されてたことにしました。
坂本さんの従兵でいつも一緒にいればある程度は面識もあるんではないかと。

それでは、また来週です。
382 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2012/03/10(土) 21:41:12.61 ID:MQnFz1Vdo

久しぶりに鬼教官のもっさんが帰ってきたな!
383 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2012/03/11(日) 07:22:12.94 ID:XvrvDfyPo
乙です
本編を思い出しながら読み進めると楽しいですね
それと、みっちゃんのこれからの扱いがどうなるか、地味に気になりますw
384 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/03/12(月) 20:01:12.15 ID:GEyCRZKD0
おつおつ

初めて部下と会話をする上官らしい土方さんを見たかもしれない
385 :1 [saga]:2012/03/13(火) 00:18:35.82 ID:Bdo75PLS0
今日も今日とてセルフage

皆様レスありがとうございます。

>>383
みっちゃんについては迷ってますw
予想外にみっちゃんと土方のカップリングが評判いいみたいなんで。
どう考えてもロマーニャに行っちゃったら出番なくなるし、ついていかせるのも無理があるし……
まぁ、このままフェードアウトなんてことにはしないようにします。
386 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/13(火) 21:34:46.73 ID:bEGxnC570
アニメ版は一切存在見えないけど、ノベルズ版だと土方はいろいろ働いていて顔や性格も認知されてるよ。

まあ何が言いたいかといえば、書き手さんのさじ加減でいいと思う。
387 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/03/15(木) 16:24:53.30 ID:gF2qItRg0
みっちゃんみちみち
388 :1 [saga]:2012/03/17(土) 19:31:46.06 ID:RuLEpgqS0
こんばんは。
今週の投下、今から始めます。
>>386
ノベルズ版……そういうのもあるのか!
ほとんどアニメだけの知識で書いてましたからね。今度ノベルも買ってみようかな。
389 :1 [saga]:2012/03/17(土) 19:32:30.57 ID:RuLEpgqS0
「宮藤……なぜお前がここにいる?」
「さ、坂本さん…………」

怒りの表情を宮藤さんに向ける坂本少佐。
そんな坂本少佐の表情には気づかない様子の宮藤さんは坂本さんにまくしたてる。

「坂本さん、大変です!リーネちゃんが!また欧州でネウロイが出たって!!」
「…………それは、お前に関係があるのか?」

しかしそれに対する坂本少佐の返答は氷のごとき冷静なものであった。
その苛烈すぎる表情と語気に、宮藤さんの表情が固まる。
しかし宮藤さんは勇気を振り絞るようにこぶしを握ると言葉を続けた。

「か、関係あります!リーネちゃんはお友達です!!」
「友達、か…………お前というやつは……」

宮藤さんの口から出た「友達」という言葉に坂本さんが一瞬口元をほころばせかけるのが見える。
しかしそれも一瞬のこと。
坂本少佐はすぐに表情を改めるといつもの峻厳さで言い放った。

「だが、欧州の危機は我々扶桑海軍に任せてもらう。宮藤、扶桑軍人でないお前にここにいる資格はない。今すぐ出て行け!」
「坂本さん…………」
「土方、貴様も同罪だ。民間人である宮藤を機密区画である通信室に入れ、あまつさえ通信をさせようなどと…………本来なら営倉ものだぞ!」
「は…………も、申し訳ありません!」

坂本少佐の怒りは大きく、私には宮藤さん達が基地から追い出されるのを黙って見ていることしかできなかった。
390 :1 [saga]:2012/03/17(土) 19:33:04.18 ID:RuLEpgqS0
「私を……冷たい人間だと思っているか?」

肩を落とし、悄然として基地から出ていく宮藤さんの背中を部屋の窓から見つめつつ問わず語りに少佐がつぶやく。

「いえ。今回の全責任は私にあります」
「そういう事じゃない。宮藤が基地に出入りするのを黙認したりあまつさえストライカーユニットを使って弁当を届けさせたりしていたのは私だ。その私の宮藤への態度、『納得できません』と顔にありありと書いてあるぞ」
「そ、そんなことは……」
「ふっ。正直だな。しかしな。今回はピクニックに弁当を届けたりするのとはわけが違う」

それは分かる。
通信でのビショップ曹長の様子はただ事ではなかった。

「リーネの言葉を聞いたら、それがどんなものであれ宮藤は間違いなく自分も欧州に行くと言い出すだろう」

坂本さんの言葉に私はだまって頷く。
宮藤さんなら間違いなくそう言うだろう。

「宮藤には夢がある。診療所を継ぐというな。その夢の実現が手の届くところまで来ているのにそこに割り込む権利など我々にはない。それに、何より宮藤は軍人になるべきではない。あいつは……こういう言い方が適当であるかはわからんが優しすぎる。軍人としてそれは致命的な欠点だ」
391 :1 [saga]:2012/03/17(土) 19:33:40.47 ID:RuLEpgqS0
そういう少佐は、自分の表情が無意識に和らいでいるのを自覚していらっしゃるのであろうか。
それは貴女もです、という言葉が喉まで出かかったのを無理やり押しとどめるが、少佐にはわかってしまったようだ。
少佐の表情が再び不機嫌そうにしかめられる。

「…………何か言いたそうだな」
「い、いえ……」
「ふん……まぁいい。とにかく私はもう宮藤に金輪際軍にかかわらせたくない。これからは基地への出入りも禁止する。それで宮藤に恨まれるなら仕方ない」

そこまで言うと少佐は言葉を切り、宮藤さんの消えた窓の外へと視線を向ける。
その表情はうかがい知ることはできないが、私には少佐がどのような表情をしていらっしゃるのかありありと思い浮かべることができた。

「……少佐の優しさが、宮藤さんに伝わるといいですね」
「な、何を…………わ、私は優しくなどないと言っているだろう!貴様はいったい何を聞いておったのだ!!」

私の言葉に顔を赤くして怒る少佐。
だがその怒りは先ほどのものとは違いどこか迫力に欠ける。

「と、とにかくだ!今は宮藤のことより手紙のことだ。分かっている範囲でいい。事情を説明してくれ」
「はっ」

少佐の言葉に、私は表情を引き締めると事情の説明を始めた。
…………もちろん諏訪少尉の尻に敷かれて死に掛けたなどということは省略して。

392 :1 [saga]:2012/03/17(土) 19:34:06.34 ID:RuLEpgqS0
「……なるほどな」

私の事情説明を受けた少佐は、そう言うとしばらくの間黙考するように目を閉じる。

「まさか再び宮藤博士からの手紙とは、な…………」
「は」
「おそらく貴様の推論通り、長期間留め置かれていたのは検閲によるトラブルだろう。技術部に渡したなら何らかの成果を上げてくれる事を期待しよう」
「私の独断で事を進めてしまったことに関しては……」
「それはもういい。私のいない中でよくやってくれた。それより、まさかこんなに早くこれが役に立つ時がくるとはな…………」

そういって少佐は手に持っていた一振りの刀を示す。
私には魔力を感じ取る力はないが、それでも少佐の持つ刀が尋常のものではないことは分かる。
ついに…………完成したのか。
私の表情に、少佐は一つ大きく頷く。

「つい先ほど完成した。このタイミングで博士の手紙が届けられたのも、天の配剤というべきかもしれんな。…………私はこれから偉いさんに掛け合ってくる」
「と、言いますと何を……?」
「おおかた想像はついているのではないか?扶桑海軍が近々発動する欧州支援作戦の実施を前倒ししてもらうのだ。そしてそれに私も参加させてもらう」
「坂本さん…………」
「止めても無駄だぞ。確かに新型ネウロイの出現は予想外だがそんなことで私の意思は変わらん。今日この日のための烈風丸なのだからな」

少佐が私の言葉を先取りするように宣言する。
その少佐の表情は鋭く引き締まり、思わず数瞬の間見とれてしまうほどであった。
393 :1 [saga]:2012/03/17(土) 19:34:35.30 ID:RuLEpgqS0
「…………」
「どうした土方?」
「い、いえなんでもありません」

怪訝そうな坂本少佐の言葉に慌てて我に返る。
少佐のご意思が固まっている以上私から何かを言うことはない。
ならば私がとるべき行動は一つだ。

「坂本さん……」
「ああ、もちろん貴様にも来てもらうぞ。あれだけ大きなことを言ったのだ。いまさら腰が引けたなどとはよもや言うまいな?」

少佐のお言葉に、私は心の底から浮かび上がってくる喜びを抑えようとして失敗した。

「は…………喜んでお供させていただきます!」
「…………そうか。ならば出発は数日後になるだろう。いつでも出られるように準備をしておけ」
「はっ!」
「うむ。いい返事だ。これからもよろしく頼むぞ」

いささか力をこめすぎた私の返事に、坂本少佐は静かに笑みを向けてくる。
その笑顔に、これからもこの方についていこうという思いを新たにするのだった。

394 :1 [saga]:2012/03/17(土) 19:35:14.97 ID:RuLEpgqS0
それからの数日間はまさに嵐のように過ぎたといっていいだろう。
関係各所への連絡と調整、移動手段の確保、…………そして私たちが数ヶ月を過ごした庵の撤去など。

「……何とも感慨深いものだな」
「は」

庵の解体が終了し、燃え上がる庵の建材を眺めながら少佐がポツリとつぶやく。
確かにここでは色々な事があった。
マムシにかまれたり、温泉に行ったり、降って湧いたように見合いの話が持ち上がったり、山川さんとお知り合いになったり。
何より少佐とともに過ごすことができたあの数ヶ月は私にとって一生忘れられぬ日々になることだろう。
そういえば、温泉でちらりと見た少佐の…………

「…………じかた!」
「はっ、はいっ!」

不意に名前を呼ばれて気がつくと、少佐が怒ったような表情でこちらを睨んでいる。
395 :1 [saga]:2012/03/17(土) 19:35:44.24 ID:RuLEpgqS0
「何を思い出していた?」
「あ、いえ、その…………」

どうも私は表情に出やすいようだ。
少佐は呆れたようにため息をつく。

「全く……貴様も男ということか」
「も、申し訳ありません」
「ははっ。いやいや。少し安心したぞ」

私の謝罪に少佐は笑って答えた。

「何せ女と一つ屋根の下に数ヶ月も暮らしながら手を出すどころかそんなそぶりすら見せんのだからな。私に魅力がないのか不能なのかと真剣に心配したこともあったんだぞ」
「なっ…………そ、そんなことはございません!」
「まぁ貴様が手を出そうとしたところで返り討ちにしてやったがな」
「……からかわないでください」

…………全く、この方は。
この数ヶ月間私がどれほど忍耐を強いられてきたかも知らずによくもおっしゃるものだ。
しかし、それこそが坂本美緒という方なのだ、と改めて再認識させられる。
396 :1 [saga]:2012/03/17(土) 19:36:20.40 ID:RuLEpgqS0
「まぁしかし、退役したらこういうところで暮らすのも悪くないな。貴様も一緒にどうだ?」
「え…………?」
「はは。冗談だ。まだまだそんなことを考えるような年ではない。……すこしからかいすぎたな。悪かった」

そうはぐらかす様に言うと少佐は表情を改め、私に向かって右手を差し出してくる。

「こんな上官で申し訳ないが、これからもよろしく頼む」
「…………はっ!」

私はそう返事を返すと、少佐の手をしっかりと握り返した。
397 :1 [saga]:2012/03/17(土) 19:38:17.18 ID:RuLEpgqS0
以上で本日の投下は終了です。
最近出番がなかったもっさんと土方の会話だけでほとんど進みましたw

それでは。
また来週です。
398 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/03/17(土) 21:48:34.27 ID:RgnGorlgo
乙であります!
399 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2012/03/17(土) 21:59:50.62 ID:SybgUwdAo
次回も楽しみであります!
400 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/03/19(月) 05:02:28.61 ID:quAlEkhpo
乙です!
401 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/03/19(月) 15:27:07.98 ID:CWqv1JSg0
もっさんかわいいなあ
乙です
402 :1 [saga]:2012/03/20(火) 09:01:28.20 ID:W2ziJhcv0
セルフage

映画版ストパン見てきました。
ハインリーケ姫のキャラが全然違った……
あと、芳佳がどんどん超人化してる気がしますw
403 :1 [saga]:2012/03/24(土) 19:32:56.08 ID:snsTh2xI0
こんばんは。
本日の投下始めます。

よろしくお願いしますねー。
404 :1 [saga]:2012/03/24(土) 19:33:32.97 ID:snsTh2xI0
(Side Yosika)

「……どうしたの、芳佳?」

心配そうに話しかけてくるお母さんになんでもない、と笑顔で答えて私は部屋へと引き上げる。
……いや、上手く笑顔になっていたかどうか。
お母さんならおそらく気づいていただろう。
それでもお母さんは深く追求することなく、「そう」と一言だけ声をかけてお夕飯の支度へと戻っていった。

(扶桑軍人でないお前にここに居る資格はない。今すぐ出て行け!)

脳裏に浮かぶのはさっきの坂本さんの言葉。
確かに坂本さんの言っていることは正しいのだろう。
一応予備役扱いではあるが、正式な軍人でない私が軍の施設に勝手に出入りするのは軍としての規律が保たれない。

しかし。
あの時のリーネちゃんの声はただ事ではなかった。
リーネちゃんは今、ガリアでペリーヌさんとガリア復興の手助けをしているはずだ。
そんなリーネちゃんがあれほどまでに切羽詰まった声で通信してきたのだ。
欧州で何らかの危機が出来したことは間違いないだろう。
405 :1 [saga]:2012/03/24(土) 19:34:00.56 ID:snsTh2xI0
本当なら今すぐにでもリーネちゃんのもとに駆け付けたい。
しかし、あの剣幕では坂本さんはおそらく私の同行を許してはくれまい。
それに、私が身一つで駆け付けたとして何らかの役に立てるとも思えない。
坂本さんの言うとおり、海軍の人たちに任せるしかないのだろうか。

「どうしたらいいのかな……お父さん」

そう呟いて仏壇に飾られているお父さんの写真に目を向ける。
写真の中のお父さんは、私の大好きな優しそうな笑顔を向けてくれていた。

406 :1 [saga]:2012/03/24(土) 19:34:34.48 ID:snsTh2xI0
「芳佳ちゃん芳佳ちゃんっ!」

数日が経ったある日。
そんなみっちゃんの声で私は起こされた。
よほど慌てていたのか、セーラー服の下にはいているズボンの肩紐が片方ずり落ちている。

「今日の朝刊が届いたんだけど……」

肩ひもを治すのも忘れ、そういってみっちゃんは私に新聞を差し出してくる。
そこには大きな活字でこんな風に書いてあった。


「遣欧艦隊本日出航!!ガリアにて新たなネウロイの活動か」


その横に書いてある記事を読み進めてみる。
欧州のロマーニャで新たなネウロイの巣が出現。その新しい巣は、あの人間みたいな形をしたネウロイを撃墜すると、古い巣を飲み込んでロマーニャへ侵攻を開始。
ここまではあの通信室で聞いたことと同じだ。
ロマーニャ防衛にあたっていた504統合戦闘航空団「アルダーウィッチ―ズ」が大きな損害を受けたことも書いてある。
そういえば手紙を届けてくれた諏訪さんはずいぶん心配していたみたいだ。
しばらく読み進めるうちに、ある一つの記事に私の目が留まる。
407 :1 [saga]:2012/03/24(土) 19:35:00.30 ID:snsTh2xI0
「この遣欧艦隊には、ウィッチとして多くの武勲を立てられた坂本美緒少佐が同行され……」

坂本さんが?
だって、あのガリアでの作戦で坂本さんは魔法力を使い果たしてもう飛べないってミーナさんが…………
でも、あの坂本さんの事だから何か無茶をしているのかも……

「ごめんみっちゃん!私ちょっと用事ができちゃった!!」
「あ、え?ど、どうしたの芳佳ちゃん?」

そう考えるといてもたってもいられなくなった私は、新聞を放り投げると家を飛び出した。

408 :1 [saga]:2012/03/24(土) 19:35:32.57 ID:snsTh2xI0
(Side Michiko)


(芳佳ちゃん……)

いきなり飛び出していった芳佳ちゃんの背中を慌てて追いかけて走りつつ、私は記事の内容について考え始めた。
すれ違った時に小さく「坂本さん、どうして……」って言っているのが聞こえたから、今回の遣欧艦隊隊に坂本少佐が同行することを心配しているんだろう。
しかし、私はそれとは別の事に思いをはせていた。

(坂本少佐が行くってことは、あの人も……)

そう。
坂本少佐の従兵である土方圭助さん。
あの人も当然坂本少佐について欧州に行くことになるんだろう。
そうなると、またここではしばらくあの人には会えなくなるんだろうか…………

「…………」

ちくり、と胸の奥が痛む。
かたや扶桑の英雄の従兵。かたや女学校を卒業したばかりの小娘。
本来なら接点など持ちようがないのだが、私はあの人に出会ってしまった。
師範学校に行って先生になるというのはウィッチになれないと分かった時からの私の夢だし、おじいちゃんも期待してくれている。
今更どうこうできるものではない、それは分かっている。

それでも、私は…………

そんな胸の中のもやもやを抱えながら、私は横須賀鎮守府への道をひた走る芳佳ちゃんの背中を見失わないようにスピードを上げた。

409 :1 [saga]:2012/03/24(土) 19:36:00.06 ID:snsTh2xI0
(Side Hijikata)

遣欧艦隊の出発を控え、横須賀鎮守府は未曽有の活気に包まれていた。
何せこの欧州救援作戦にはあの坂本少佐が同行されるのだ。
坂本少佐たっての希望で二式大艇に乗っていくため船よりは2週間ほども早く着くことになる。
それだけ欧州の状況が不明瞭であるというのもあるのだろう。
ヴィルケ中佐や竹井大尉をはじめとして欧州には坂本少佐に縁深い方々も多い。
出発を目前に控え、私も出発の準備のために鎮守府内を走り回ることになったのである。

そんな中、ふと正門前を通りかかった私の耳に聞き覚えのある声が飛び込んできた。

「…………お願いします!坂本さんに会わせてください」
「申し訳ありませんが、宮藤さんの訪問は取り次ぐなと言われておりまして……」
「そんな……」

会話の中で聞こえてきた坂本さんという言葉と、何よりその聞き覚えのある声に視線を門へと向ける。
そこではある意味予想通りの光景が繰り広げられていた。
正門前で一人の少女が衛士に詰め寄っている。
410 :1 [saga]:2012/03/24(土) 19:36:29.27 ID:snsTh2xI0
「そこを何とかお願いします!」
「そ、そう申されましても…………」

宮藤さんに縋りつかんばかりにお願いされ、衛士も困ったような表情になっている。
私は二人の元まで歩み寄っていった。

「どうした?」
「こ、これは土方兵曹殿。その、宮藤さんが……」
「圭助さん!会えて良かったです。あの、坂本さんが欧州に行くっていうのは…………」

私の姿を見つけた宮藤さんの表情がぱっと明るくなる。
しかし、宮藤さんには申し訳ないが、坂本さんのご意志が固い以上私の答えは変わりようがない。

「申し訳ありませんが、お話できることは何もありません」
「そんな…………」

宮藤さんの表情が一瞬で暗く沈んだものとなる。
その表情に心が痛むものの、これは宮藤さんのためでもあるのだと自分に言い聞かせて宮藤さんに背を向ける。

「あ、あのっ……けいすけ、さん…………」
「…………申し訳ありません」

私の目くばせに応じるように衛士が門を閉める。

がちゃん。

無機質な鉄と鉄がぶつかる音。
その向こうの宮藤さんが今にも泣きだしそうな表情をしていたのが、私の心に残り続けた。
411 :1 [saga]:2012/03/24(土) 19:36:59.73 ID:snsTh2xI0
(Side Michiko)

「はぁ、はぁ、よしか…………ちゃん……」

息を切らせながら横須賀鎮守府の前にたどり着いたときは、無情にも閉じられた門の前で肩を落としてうなだれている芳佳ちゃんの姿があっただけであった。、

「坂本さん…………まだ戦う気なんだ……もう魔力も残ってないのに…………」

私の存在に気付いたのかそうでないのか、芳佳ちゃんが誰にともなくつぶやく。
しかし肩を落としていたのも一瞬のことであった。
しっかりと目を上げると、芳佳ちゃんは虚空を睨みつけるようにしていった。

「守らなきゃ……みんなを」

そう一言いうが早いか芳佳ちゃんは鎮守府の壁に沿って走り出していた。

「ど、どこに行くの?」
「欧州」
「えええええええええーーーーっ!!」
「ふふっ」

私の言葉を背に受けて振り返った芳佳ちゃんの表情は、今までの落ち込みようが嘘のように笑顔であった。
412 :1 [saga]:2012/03/24(土) 19:37:57.64 ID:snsTh2xI0
以上で終了します。

今回は土方目線すくなめで。
来週からはまた土方中心に戻ると思います。
それでは。
また来週。
413 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/03/25(日) 10:18:47.37 ID:6xRPkxv8o
乙です
芳佳がどうやってついて行ったのか覚えてないから来週が楽しみ
414 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/03/25(日) 12:31:09.52 ID:sFq/k6fI0
こう見ると宮藤は頭痛の種でしかないなww
415 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県) :2012/03/25(日) 18:09:55.67 ID:K6brvW2y0
乙!
芳佳もみっちゃんも魅力的で…
どのルートも見たくなっちゃう!!
416 :1 [saga]:2012/03/31(土) 18:53:01.66 ID:aO1YaMnZ0
こんばんは。
今週もまたやってきました。

よろしくお願いしますね。
417 :1 [saga]:2012/03/31(土) 18:53:36.48 ID:aO1YaMnZ0
扶桑皇国海軍が誇る大型飛行艇・二式飛行艇。
それが今、横須賀港にその巨体を横たえ、飛び立つ時を待っている。
扶桑皇国による緊急欧州救援作戦が前倒しで発動されたのが昨日。
私と坂本少佐、そしてストライカーユニットの技術者たちはいま欧州に飛び立つためにこの二式大艇のそばで待機していた。
そして、我々の目の前には一組のストライカーユニットが今まさに二式大艇に積み込まれようとしていた

「……これが『紫電改』か」

我々の前に鎮座するストライカーユニットを見て、坂本少佐がつぶやく。
それは今まで扶桑海軍の主力であった「零式海上戦闘脚(通称零戦)」の発展形と呼べるものであった。
ガリアでの対ネウロイ戦闘データをフィードバックし、零戦の後継機となるべく開発されたこの紫電改は、世界のどのストライカーユニットよりも一歩二歩先を行くものと自負できる。
ただ、急ピッチで開発が進められたためまだこの1機しか存在せず、テスト飛行すら十分に行えていないという問題もあるのだが。
そのあたりが気になるのか、紫電改を開発した宮菱工業の寺尾技師が坂本少佐に心配そうに声をかける。
418 :1 [saga]:2012/03/31(土) 18:54:25.84 ID:aO1YaMnZ0
「……テスト飛行も十分に行えておりませんが、よろしいのですか?」
「構わん。背に腹は代えられん。それにそのために彼女に同行してもらうのだからな」
「は、はいっ!よ、よろしくお願いします」

急に坂本少佐から話を振られ、そういって慌てたように敬礼したのは諏訪少尉であった。
憧れの坂本少佐を目の前にてやや緊張した面持ちである。
新型機をテスト飛行もなしに実戦に投入することを渋る上層部に対し、坂本少佐が出した提案というのがこれであった。
テストパイロットとして諏訪少尉を同行し、移動中にある程度のテスト飛行を行っていただく。
それでもかなりの異論は出たらしいが、そこは少佐が持ち前の押しの強さで押し切ったようだ。
少尉の方も504の仲間たちが心配であったらしく、少佐の申し出に二つ返事で了承して頂いた。
諏訪少尉は私の姿に気づいて笑顔を浮かべる。

「あっ、土方さん……また一緒ですね。お会いした時といい、何だか妙なご縁を感じちゃいますよー」
「そ、それは恐縮です……」

少尉の言葉に、思わずあの時のことを思い出した私の顔が赤くなる。
そんな私の態度に、少尉もつられるように顔を赤くして目をそらした。
私と少尉の間に奇妙な沈黙が降りる。

「…………ん?どうした二人とも」
「あ、いえっ!何でもないですはいっ!」
「そ、そうか?」

諏訪少尉の不自然な態度に少佐の顔に怪訝そうな表情が一瞬浮かぶが、そのタイミングで寺尾技師が少佐に話しかけたため話はそれきりとなった。
…………何とかばれずに済んだか。
同時に安堵の息をついた少尉と私は、顔を見合わせて苦笑を交わしあったのであった。
419 :1 [saga]:2012/03/31(土) 18:55:17.02 ID:aO1YaMnZ0
やがて積み込み作業も全て終了し、後は私と坂本少佐が乗り込むだけとなった。
ハワイ、リベリオン上空を横断して欧州まで約1週間。船で行くよりはるかに早く着くのが空路の強みである。
タラップを渡りながら少佐は後ろを振り返り、横須賀の街を感慨深げに眺める。
その横顔に少佐にしては珍しく、すっきりしない蟠りのようなものが見受けられるのは、やはり宮藤さんのことを気にかけておられるのだろうか。

「坂本さん……宮藤さんの事、本当に…………」
「もういいと言っているだろう。こここそがあいつの居場所だ。そんなに私一人では不安か?」
「…………いえ、差し出口でした」

坂本少佐の言葉に私は深々と頭を下げる。
貴女は人の見ていないところで平気で無茶をするお方だから、という言葉をすんでのところで飲み込む。
少佐がそこまで決意されているのだ。
私ごときが口をはさむべきではないだろう。

「……どうした?」
「は。も、申し訳ございません」

どうやらそんなことを考えていたら無意識に立ち止まってしまっていたらしい。
こちらに怪訝そうな視線を向ける少佐に促され、私は慌てて少佐の後を追っていった。

420 :1 [saga]:2012/03/31(土) 18:55:55.99 ID:aO1YaMnZ0
「二式大艇、発進準備よろし」
「よし…………発進!」

艇長の橋爪大尉の言葉に、少佐が号令を返す。
少しの揺動とともに二式大艇がゆっくりと水上を動き出した。

「…………」

無言で私の正面に座っている少佐は、一体何を考えておられるのであろうか。
やがて軽い浮遊感とともに二式大艇は離陸した。
見慣れた横須賀の街が、たちまち眼下に消えていく。
次にこの街を見るのはいつのことになるだろうか。
…………らしくもなく感傷的なっているのはこの数か月この街でいろいろなことがありすぎたからだろうか。

そんな感傷に浸る間もなく、ほどなくして機体は安定し、巡航体制になる。
その時であった。

「――――さーん!!」
「え?え?……声?な、何でこんなところで人の声が?」

後方からかすかに聞こえてくる声。
諏訪少尉は気味悪そうに周囲を見回すが、その声は私と坂本少佐にとっては非常に聞き覚えのあるものであった。
421 :1 [saga]:2012/03/31(土) 18:56:40.10 ID:aO1YaMnZ0
「坂本さーーーん!!」

先ほどよりもはっきりと聞こえてくる声。
坂本少佐は弾かれたように席を立ち、出入り口へと向かう。
そのまま少佐が出入り口を開くと、気圧差に押された空気がものすごい勢いで機内へと流れ込んでくる。
私や諏訪少尉は吹き飛ばされないように近くの柱に必死にしがみつかねばならなかった。

「しょ、少佐!勝手に出入り口を開かないでください!!」

ブリッジから聞こえて来る橋爪大尉のあせったような声を意に介した様子もなく、出入り口から後方に顔を出して呼びかける。

「なぜ来た宮藤!帰れといったはずだが」
「坂本さん!私も連れて行ってください!!」

返ってきたのは予想通り宮藤さんの声であった。
まさか横須賀基地よりストライカーユニットで飛んできたのだろうか。
…………相変わらずこうと決めたときの行動力はすごいものがあるな。

「だめだ!お前は…………」
「やっぱり私……守りたいんです!!」
「…………」
422 :1 [saga]:2012/03/31(土) 18:57:10.34 ID:aO1YaMnZ0
宮藤さんの必死の訴え。
「守りたい」との言葉に坂本さんが一瞬沈黙する。
しかし、その沈黙の一瞬のこと。

「……ふふふ」
「坂本さん?」
「…………ふふふ……ははははははははははっ!!」
「え?え?さ、坂本さんどうしちゃったんですか?」

急に高笑いを上げはじめた少佐に、諏訪少尉が戸惑ったような表情を向けてくる。
しかし私はやっと坂本少佐がらしさを取り戻したことを喜んでいた。
そうだ。
この笑い声。
この豪放磊落さこそわが主、坂本美緒少佐のものだ。

「宮藤……来い!!」
「…………はいっ!」

少佐が伸ばした手を、宮藤さんが掴む。
艇内に収容された途端、宮藤さんは今までの緊張が一気に解けたようにへたり込んだ。
423 :1 [saga]:2012/03/31(土) 18:57:53.97 ID:aO1YaMnZ0
「ひ、土方さん……に諏訪さんも…………」
「芳佳……全く貴女も無茶をされる方だ」

私の言葉に、宮藤さんはほっとしたように笑顔を返してくる。

「えへへ…………みんなを守りたいって思ったら勝手に体が動いちゃって」

まぁ、それでこそ宮藤さん、という気はするが。
そう思いながら振り返ったのだが

「…………土方」
「うおっ!」

突如向けられる坂本少佐の冷眼に思わず妙な声が出る。

「『芳佳』だと…………?土方、貴様いつの間に宮藤とそんなに仲良くなったのだ?」
「あ、いえ、そ、それは…………」

しまった。
少佐の前では「宮藤さん」で通すつもりだったのだが、宮藤さんが無事だったことにほっとしていささか気が抜けたようだ。
うろたえているうちに、がしっ、と首に腕を回されて押さえつけられる。

「……少し詳しく話を聞かせてもらおうか土方」
「は、はい」

もはや事ここに至っては抗うすべもあるまい。
私にできるのは事態の急展開にぽかんとしている宮藤さんと諏訪少尉に微妙な苦笑を向けることだけであった。

「わ、これってもしかして修羅場ってやつですか?きゃーーー!!」

二人が完全に視界から消えたのち、諏訪少尉の妙にはしゃいだ声が聞こえてくる。
欧州まで約一週間。
私にとってはとてつもなく長い旅になりそうだった。

424 :1 [saga]:2012/03/31(土) 18:59:10.88 ID:aO1YaMnZ0
本日はここまでです。
私事ですが、2期のBDBOXを買いました。
これで好きな時に見直せますw

それでは。
また来週お会いしましょう。
425 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/31(土) 20:49:33.58 ID:jxzu8P2DO
乙。

何となくスカパーの電源入れたら弐式から宮藤発進してヒビッたの思い出した。
そしてそのままストパンにハマった。

後申し訳ないが紫電改はじゅんじゅんと菅野も穿いてる。

ただし53型はもっさんだけかも。
426 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東日本) [sage]:2012/03/31(土) 22:41:18.35 ID:uaYOqgDN0
細かいけど
>やがて軽い浮翌遊感とともに二式大艇は離陸した。

滑走路から飛ぶなら離陸だが、海上からの発進なので「離水」が妥当では?
427 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2012/04/01(日) 02:53:10.38 ID:fEkijPkso
乙乙
また二期一話を見返したくなった!
428 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2012/04/01(日) 02:58:43.87 ID:fEkijPkso
細かい所でごめん
紫電改って宮菱じゃなくて山西製じゃなかったっけ
429 :1 [saga]:2012/04/01(日) 21:36:15.60 ID:TIoDgbgF0
セルフage
色々と細かい粗があったみたいですね……
ご指摘ありがとうございます。

>>425
Wikiで確認してきました。
確かに二人も紫電改21型穿いてるみたいですね。
アニメで新型のように扱われてたんで紫電改自体が新型機なのかと誤解してました。

>>426
確かにそうですね。

>>428
調べてみたところ機体は山西ですがエンジンは宮菱製なので同行した寺尾技師も宮菱の人間であったようです。

430 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/04(水) 12:09:16.83 ID:e/Jze6hIO
乙です
モテモテっすなぁ
431 :1 [saga]:2012/04/07(土) 21:36:15.94 ID:lXrL0gjt0
こんばんは。
1です。
本日も投下しに来ました。
よろしくお願いします。
432 :1 [saga]:2012/04/07(土) 21:39:47.28 ID:lXrL0gjt0
それは、最初の寄港地ハワイに向けての行程も半ばを過ぎた頃であった。

「……宮藤、貴様本当に身一つで飛んできたんだな」
「は、はい…………」

坂本少佐の呆れたような言葉に、靴すら履いていない宮藤さんが申し訳なさそうに目を伏せる。
そんな宮藤さんを坂本少佐はしばらく眺めていたが、不意に思い立ったように私に声をかけてきた。

「土方、ハワイでの滞在はどれほどの予定だった?」
「は。補給と簡単な機体整備だけの予定ですので3時間ほど」
「ふむ…………その滞在を1日延ばすことは可能か?」

少佐のお言葉は私にとって意外なものではなかった。
宮藤さんと諏訪少尉は目を丸くしていたが。

「……は。リベリオン政府との話はできております」
「我々の宿舎は?」
「真珠湾基地の士官用寝室を確保しております」
「ふん。まぁ貴様にしてはよくやったな」

私の返答に満足が行ったというように少尉が笑顔になる。
そして宮藤さんたちに向き直ると、満面の笑顔でこう言い放った。

「喜べ宮藤。ハワイで一日の休暇が与えられるぞ」
「え?え?ど、どういう事ですか?」
「はっはっはっ。どういうも何も聞いたままだ。私も少し休みが欲しかったところだしな。土方、貴様も休んでいいぞ」

戸惑っている宮藤さんと諏訪少尉に坂本少佐はいつもの豪快な笑い声で答えたのだった。

433 :1 [saga]:2012/04/07(土) 21:40:44.92 ID:lXrL0gjt0
「じゃあ、行ってきますね」
「圭助さんも一緒に来ればいいのに…………きっと楽しいですよ」

ハワイ、真珠湾基地。
そのゲートで今から街へ出かける宮藤さんと諏訪少尉が名残惜しそうな顔を向けてくる。
PX(基地内売店)ではなく町へ出ることを許可されたのは坂本少佐なりの気遣いであったのだろう。
これから向かう欧州ではのんきに買い物を楽しむような時間があるかどうかも分からないのだから。
そんなお二人に、私は強く同行するように頼まれたのだが、女性の買い物に私がいて役に立つとは思えないし、何より坂本少佐のおそばを離れるのが躊躇われたため丁重にお断りさせていただいた。

「いえ。私にはいろいろとやることがあるので……」

本当は嘘だ。
基本的に坂本少佐のお世話が仕事である私は、今日のように少佐がお休みの時は基本的に暇になる。
だがそれでも少佐のお側にいられる時間を少しでも増やしておきたかった。

「…………そうですか。それじゃ仕方ないですね」

そんな私の内心を見透かしているかのような表情を向けてくる宮藤さん。
何故かその表情にあらがい難いプレッシャーを感じた私はひるんだように目をそらす。

「と、とにかく……欧州ではこんなにのんびりした時間を過ごせる見込みはないかもしれないんですから。天姫さんも楽しんできてくださいね」
「はいっ!お土産買ってきちゃいますね圭助さん」

諏訪少尉が笑顔で返事をする。
「天姫と呼んでくれるまで返事しません!」という謎の迫力により名前で呼ぶことを半ば強引に承諾させられたのが先ほどのこと。
相変わらず女性というのは分からない。
434 :1 [saga]:2012/04/07(土) 21:41:16.72 ID:lXrL0gjt0
「貴様は外出しなくてよかったのか?こんなところで私と顔を突き合わせていても息がつまるだけだろう」

宮藤さんたちを見送った私の背中に、ふと声がかけられる。

「いえ。私は少佐とともにいられれば」
「……ふ、ふん。口だけは達者になったようだな」

そういって目をそらす少佐の顔が少しなりとも赤らんでいたのは私の見間違いではなかっただろう。
そしてふとフェンス越しに見える街のにぎわいを見つめつつ、誰に言うともなくつぶやいた。

「しかし……本当に今が戦時中とは思えん賑わいだな。リベリアンというやつは…………シャーリーの奴もそうだったが、楽天的な人間が多いようだな」
「は」

少佐の言葉に私も頷いてみせる。
ここハワイは、扶桑とリベリオン大陸のちょうど中間に位置する島であり、領土としてはリベリオンに属する。
ネウロイとの主戦場である欧州からも遠く離れていることもあり、今が戦時中であることを忘れてしまいそうになるほどの喧騒に満ち溢れていた。
住民たちもリベリアンらしい陽気な人々が多く、確かにこの国はあのイェーガー大尉を生んだ国なのだ、と実感させてくれる。

「で、我々はどうやって過ごすのだ?」
「…………一番、稽古をつけていただければ、」
「まぁ、そういうだろうと思っていた。手加減はせんぞ。かかってこい!」

私の言葉をまるで予期していたかのように少佐は腰に差していた烈風丸を構える。

「鞘つきとはいえこの烈風丸が並みの刀だなどと思わないほうがいいぞ」
「望むところです」

少佐の笑みに、こちらも笑みで返すと、私は竹刀をまっすぐ突き出した。
435 :1 [saga]:2012/04/07(土) 21:41:49.22 ID:lXrL0gjt0
「はぁ…………はぁ…………」
「どうした土方……もう終わりか?」
「い、いえ……まだ…………まだ……」

小一時間後。
どうやら少佐の「手加減はしない」という言葉が真実であったことを私は身をもって思い知らされることとなる。
もはや立っているのもやっと、という状態の私に対し少佐の剣気は一向に衰えていない。
少佐にそこまでの力を引き出させたことを誇ればいいのか、あまりの実力差に絶望すればよいのか。

「ヘイサムライ!どうしたどうした?タマ落としたか?」
「俺はあのニンジャガールに10ドルかけるぜ!」

いつの間にか私たちの周りには屈強な兵士たちが人垣を作っており無責任な野次を飛ばしてきている。
何でもイベントにしてしまうのは派手好みのリベリアンらしいというべきか。

「まぁ本気の私にここまでついてきたのは褒めてやる……だが貴様、まだ一撃すら入れていないぞ?男として悔しくはないのか?」
「……」

少佐が煽るように挑発的な笑みを向けてくる。
普段はこういう言葉を吐かれる方ではないのだが、少佐もこの場の雰囲気に流されていらっしゃるのかもしれない。
…………ならば、それに応えなくて何が男か。
このまま気絶してもいい。
きしむ全身に力を入れて立ち上がる。

「少佐……私のすべてをかけた一撃、受けていただきます」
「ふふ、そうでなくてはな。……来い、土方!」
「おおおおおおおおおおお!」

そのまま全身の力を込めて少佐へと撃ちかかる。
あの庵での鍛錬。
あれは無駄ではなかったと信じたい。

少佐の姿がスローモーションのように近づいてくる。
…………そこで、私の記憶は途切れた。
436 :1 [saga]:2012/04/07(土) 21:42:17.45 ID:lXrL0gjt0
「…………ん」
「気づいたか」

うすぼんやりとした意識。
そんな中で聞き覚えのある声が聴覚を刺激する。
頭の下には妙にやわらかい感触。
…………なんだか以前にも体験したことのあるシチュエーションである気がする。
あれはいつだったか……
そんなことを考える私に声がかけられる。

「全く。面倒をかけるな」
「……は。申し訳あり」
「謝らんでいい。貴様の最後の一撃、見事だったぞ」

その言葉にやっと今までの記憶が徐々に戻ってくる。
結局私は少佐に一太刀なりといれることができたのだろうか。

「少佐」
「……ここを見ろ」

そういって少佐は自分の脇腹のあたりを示してみせる。
少佐の着ておられる白い軍服に、黒い塵埃がはっきりと付着しているのが目の前に見える。
……どうやら私の最後の一撃は何とか功を奏したようだな。
あの時の自分を思い出すと思わずのた打ち回りたくなる。
どこのヒーローものの小説の主人公だ。
437 :1 [saga]:2012/04/07(土) 21:43:34.98 ID:lXrL0gjt0
「はっはっ。貴様が成長してくれて私も嬉しいぞ」

私の内心を読み取ったか、そういって笑う少佐。
そんな少佐の背後の窓から外を見る。
もう空は夕暮れに染まっていた。

「…………ところでな」
「は」
「その……気が付いたならそろそろ…………」

そういってやや顔を赤らめる少佐の態度に、私はやっと今の状況を理解する。
少佐の視線を追っていくと、私の頭の下に少佐の太ももがある。
…………以前に体験したことがあるというのはどうやら記憶違いではなかったようだ。
あの山奥の温泉で逆上せた時のことを思い出す。

「す、すいません!」

慌てて起きあがる。
そんな私を見て少佐は「まぁそれだけの元気があれば大丈夫だろう」と笑っていた。
438 :1 [saga]:2012/04/07(土) 21:44:31.01 ID:lXrL0gjt0
「ただいまですー……ってど、どうしたんですか土方さん!?」

そのタイミングを見計らうようにちょうど買い物から帰ってきた宮藤さんが驚いたような表情を向けてくる。
それもそのはずだ。
今の私の格好はひどいものだった。
軍服のあちこちはぼろぼろに裂け、顔のあちこちに擦り傷をこさえているのだから。

「い、いえ……ちょっと坂本さんとの鍛錬に気合が入りすぎまして」
「もう…………心配させないでください。」
「ははは。土方もなかなかの成長ぶりだったからな。私もつい本気を出してしまった」
「笑い事じゃないですっ!」

そういうと宮藤さんは私のそばにやってきて正座する。
そして私の方を真剣な表情でをこちらに向けつつ自分の太ももをぽんぽん、と叩いた。

「宮藤さん?」
「治療しますから、ここに寝てください」
「み、宮藤さん?」
「どうしたんですか?早く治療しないと大変ですよ?」

そういいながら微笑をこちらに向けてくる宮藤さんの真意は分からない。
ちらりと坂本少佐に視線を送ってみるが、少佐もどういっていいかわからないような表情で黙り込んでいる。
宮藤さんの後ろにいる諏訪少尉などは、完全に野次馬の表情で目を輝かせていた。
…………むぅ。

「わかりました。お願いします」
「はい♪」

妙に嬉しそうに私に手をかざす宮藤さんが私を開放してくださったのは、それから優に小一時間は過ぎた後であった。
439 :1 [saga]:2012/04/07(土) 21:46:04.54 ID:lXrL0gjt0
というところで以上です。
また膝枕ネタをやってしまいましたw
次あたりで欧州に到着すると思います。

ついにあの方の登場ですw
はたして土方は生き残れるのか……
ではまた来週。
440 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/07(土) 21:54:09.29 ID:UXhuWGVDO
乙。

更に混迷を極める土方争奪戦か、これからも目が放せないな。
441 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2012/04/08(日) 14:59:51.62 ID:PLWHPsMC0


土方!俺と代われwwww
442 :1 [saga]:2012/04/10(火) 20:37:39.13 ID:JO8rKFeu0
セルフage

レスありがとうございます。
頑張って書きますねー。
443 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/04/11(水) 16:22:16.69 ID:d/hqQ0YX0
土方さんが軍人としても強くなっちゃった><
444 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/04/14(土) 11:24:33.86 ID:Kqq2qq3I0
ちょっと扶桑軍に志願してくる
445 :1 [saga]:2012/04/14(土) 23:43:06.51 ID:UB++NCS30
こんばんは。遅くなってすいません。1です。

前回の話の最後で「次は欧州に到着します」とか言いましたが全くたどり着きませんでした。
アニメ2期2話の内容をなぞるだけなのですが、書きたいことが膨らんでいってしまい結局半分も描けない始末で……
何とも情けない限りです。

できるだけ早く欧州編を開始したいと思っておりますのでよろしくお願いします。
446 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/04/14(土) 23:44:45.70 ID:NQJbzetso
問題ないぜ
量が増えるならむしろ大歓迎
447 :1 [saga]:2012/04/14(土) 23:44:54.97 ID:UB++NCS30
「現在、アドリア海上空。間もなくロマーニャ軍基地に到着します」
「あー!やっと降りられる」

操縦室から聞こえてきた声に宮藤さんがほっとした表情になる。
何度か補給のために寄港を繰り返したとはいえ、ハワイのようにのんびりできるはずもなく、ほとんどこの狭い飛行艇の中に缶詰めだったのだ。
我々はこういった環境に慣れているが、慣れない宮藤さんにはさぞかしつらい旅だっただろう。

「鈍ったな宮藤……この程度の飛行でもう弱音か?」
「は、はいっ!すいません…………」

そういって宮藤さんを窘める少佐の表情もどこか嬉しげに見えるのは私の見間違いだろうか。

「そういえば……天姫さんはどうされるんです?」
「はいっ。とりあえず504のみんなの無事を確かめたいです。なので、着陸したらお別れですね」
「うむ。諏訪もよくやってくれた。貴様のおかげで紫電改53型もどうやら実用化の目途が立ちそうだ」
「い、いえ……」

諏訪少尉が照れたように謙遜するが、たしかにこのフライト中の諏訪少尉の働きは見事なものであった。
飛行艇からの発進という悪条件にもかかわらず精力的にテスト飛行を繰り返し、寺尾技師によればかなり実戦に耐えうるデータが取れたとのこと。

448 :1 [saga]:2012/04/14(土) 23:45:25.03 ID:UB++NCS30
ビーッ!!

そんな時、不意に艇内に警報音が鳴り響いた。
坂本少佐の表情がさっと緊張するのがわかる。
コックピットの橋爪大尉が、緊張した声で第一報を入れてきた。

「レーダーに未確認器発見!急速接近中!」
「なに…………?」

ゴォン!

坂本少佐の言葉と同時に、機体が大きく揺れる。

「未確認機よりの攻撃で第一エンジン被弾!なおも接近してきます!!」

橋爪大尉の声が響く。
もはや事態は疑う余地はなかった。

「ネウロイ……」

誰に言うともなく、宮藤さんがつぶやく。
しかしこんな高度でこれほどの機動とは…………確かに今までのネウロイとはけた違いだ。
ビショップ曹長の報告も過大なものではなかったということだろう。

「ネウロイ確認!距離は…………ざっと12000か。ちっ。ブリタニアで戦った時よりも数倍速いし大きいようだ」
「そんな……」

窓から外を見た少佐は、眼帯で隠された方の目でネウロイを確認して呟く。
不安そうな表情になる宮藤さん。
449 :1 [saga]:2012/04/14(土) 23:45:56.09 ID:UB++NCS30
「橋爪!このままじゃいい的になるだけだ。高度を下げてやり過ごせ!!」
「は…………やってみます」

少佐の命令に、腕利きの飛行艇乗りである橋爪大尉が答える。
そのまま少佐は私の方へと振り返った。

「土方!近くのウィッチ隊に援軍を要請しろ」
「現在行っております」
「よし。続けろ!」
「は」

私は通信機に向き直ると近くのロマーニャ軍基地に対して通信を開始した。

「こちら扶桑海軍遣欧艦隊所属の二式大艇!アドリア海上空にて大型ネウロイの襲撃を受く!援軍を要請す!繰り返す!アドリア海上空にて大型ネウロイの襲撃を受く!」

必死でロマーニャ各地にあるウィッチ隊へと通信を送る。
しかし、やっと通じた基地からもたらされた情報は、我々を絶望へと叩き込むに十分な凶報であった。
450 :1 [saga]:2012/04/14(土) 23:46:38.35 ID:UB++NCS30
「ロマーニャのウィッチ隊と連絡は取れましたが……航続力不足でこちらまでたどり着けるウィッチがいないとのこと」
「何だと?」
「なら……504はどうですか?戦闘力を失ったとは言ってもフェルさんたち赤ズボン隊のみんななら…………」

諏訪少尉の言葉にも、私は首を横に振らざるをを得なかった。

「504のみなさんはすでに後方へ送られているそうです。そうでなくてもとても戦える状態ではないとのこと」
「そんな…………」

私の言葉に諏訪少尉の表情が青ざめていく。

「この付近に30分以内にたどり着けるウィッチはいないということです」
「30分だと……このままでは5分で全滅だぞ」

眼下の光景を見ながら坂本少佐が苦々しげにつぶやく。
海上よりロマーニャ艦隊が必死の攻撃を行っているが、通常兵器による攻撃は全くネウロイにダメージを与えられておらず、逆にネウロイのビームにより次々と爆沈を遂げている。

艇内を重苦しい空気が支配する。
451 :1 [saga]:2012/04/14(土) 23:47:19.70 ID:UB++NCS30
「うわっ!」

その時突然、機体が大きく傾いた。
どうやら回避行動のために急激に高度を下げたようだ。
予期していなかった私は思わず無様に転倒する。
……少佐の前で何とも情けない事だ。
まぁ、幸いどこも怪我をしたところは…………え?

――――ぬるり。

無事を確認するために自分の脇腹にあてた手に、ありうべからざる感触が伝わってくる。
まさか……
恐る恐る脇腹へと視線を送る。

「土方!」
「圭助さん!!」

坂本少佐と宮藤さん、お二人の声が引き金となったように今までなんともなかった脇腹に激痛が走る。
ぐ…………どうやらどこかの突起物にぶつけたようだ。
身動きすらままならぬ激痛が全身を走る。

「圭助さん!圭助さん!」

慌てて駆け寄ってきた宮藤さんが手をかざす。
私の体が光に包まれるのと同時に、今までの痛みが嘘のように引いていくのがわかる。

「あ……ありがとう…………ございます……」
「圭助さん!」
「もう…………だいじょ……うわっ!!」

礼を言おうと体を起こしかけた私に不意に体重がかかり、私は再び固い鉄製の床との抱擁を強いられることとなった。
452 :1 [saga]:2012/04/14(土) 23:48:11.63 ID:UB++NCS30

「圭助さん…………よかった……ぐすっ……圭助さんに何かあったら私……ひくっ…………」
「宮藤さん……」

私の胸にしがみついたまま嗚咽を漏らす宮藤さん。
そんな彼女を安心させるように彼女の頭をなでる。
……考えてみれば宮藤さんに命を救われるのはあのマムシの時以来2度目だ。
彼女には返しきれない恩ができてしまったな。
いつか礼ができるといいのだが。

「…………こほん」

不意に聞こえてきた坂本少佐の咳払いにより我に返った私たちが慌てて飛びのく。
今がどんな状況か、一瞬忘れていた。

「ま、まぁとにかくだ。このまま手をこまねいているわけにもいくまい。私が紫電改で出る」
「坂本さん!」

宮藤さんが心配するように声をかけるが、坂本少佐は安心させるように笑顔を向ける。

「心配するな。貴様に救われた命、無駄にするつもりはない」
「で、でも……」

なおも心配そうな宮藤さんの様子を見かねたのか、諏訪少尉が割って入る。

「あ、あの…………よければ私が……」
「いや、諏訪、貴様…………実戦経験は少ないのだろう?」
「は、はい……で、でも」
「大丈夫だ。貴様は貴様の守りたいもののために戦え。その時はきっと来る」
「は、はい……」

しかし、少佐の言葉の前に肩を落として沈黙する。
自分の経験不足はだれよりも痛感しているのだろう。
…………やはりこうなるのか。
坂本少佐自身、常在戦場を自らの存在意義としているような方である。
この流れは必然であるともいえた。
坂本少佐の横顔に向けて私は声をかける。
453 :1 [saga]:2012/04/14(土) 23:49:02.14 ID:UB++NCS30
「坂本さん」
「もう何も言うな。土方。それより貴様は自分の体を気にしろ」
「そうですよ!私も土方さんのことを心配してるんですから!」

少佐の言葉に、宮藤さんが同調するようにふんす、と頷く。
そして宮藤さんは少佐に向き直ると言った。

「坂本さん!…………だったら私も一緒に行かせてください!」
「はっはっはっ!貴様らそう言うと思ったぞ」

坂本少佐はいつもの豪快な笑い声とともに、待っていたとばかりに宮藤さんの出撃を認めた。

「宮藤!私もあとから行く。貴様は先行してネウロイの攻撃をできるだけロマーニャ艦隊から逸らせ」
「はい!」

元気なひと言とともに宮藤さんが発進ユニットの方へと駆けだす。
宮藤さんは発進前に一瞬私の方に視線を向けてきた。

「……御武運を」
「はいっ!」

私の敬礼に答礼を返すと、宮藤さんは発進していった。
454 :1 [saga]:2012/04/14(土) 23:49:50.04 ID:UB++NCS30
「…………元気な人ですね、宮藤さん」
「はっはっ!宮藤はあの元気さが持ち味だからな。あの明るさには私も何度も救われている」

諏訪少尉の言葉に、少佐が誇らしげに笑ってみせる。
確かにあのどんなときにも前向きな宮藤さんの姿は501の皆さんに多くの影響を与えていたようだ。

「さて、紫電改の準備が済み次第私も出る。……土方。貴様はしばらく休んでおれ」
「い、いえもう私は大丈夫で……」
「いいから寝ていろ。どうせネウロイとの戦闘に貴様は役に立たん」
「…………は」

少佐の言葉に私は沈黙するしかない。
その言葉が少佐なりの不器用な優しさだとは分かっているが、それでも忸怩たる思いになるのは避けようがない。
そんな私の内心を知ってか知らずか、少佐は諏訪少尉に声をかける。

「……諏訪」
「はいっ!」
「貴様は土方を見ててやってくれ」
「は、はい…………」

諏訪少尉が緊張した面持ちで返事をする。

「そ、それでは土方さん、どうぞっ」

少佐の言葉に頷くと少尉はこちらに振り返り、椅子に腰かけた自分の太ももをぽんぽん、と叩き意味ありげな視線を向けてきた。
455 :1 [saga]:2012/04/14(土) 23:50:17.25 ID:UB++NCS30
「…………はい?」
「えっと、だからどうぞ」

再び太ももをぽんぽん、と叩く少尉。
その表情はこれ以上なく真剣で、なぜかよく分からないが抗いがたい迫力が伝わってくる。

「い、いえそんな重傷では……宮藤さんのおかげでかなり回復しましたし」
「あの、えっと、ハワイの基地で宮藤さんがしているのを見て…………土方さんってこういうのが好きなのかと」
「違います!」

……人を勝手に妙な性癖持ちにしないでいただきたい。

「貴様ら何をふざけとるか!今は戦闘中だぞ!」
「「は、はいっ!!」」

少佐の怒声に、私と少尉は慌てて着席する。
戦闘中に似合わぬ弛緩した空気は、しかし次の瞬間の寺尾技師の言葉によって霧散することになる。


「坂本少佐…………申し訳ありません。先ほどからの戦闘で魔導過給機が損傷した模様で……紫電改…………発進不能です」
「…………なんだと!!」

少佐の表情が強張る。
…………どうやら我々の危機はまだしばらく続きそうであった。
456 :1 [saga]:2012/04/14(土) 23:52:09.84 ID:UB++NCS30
以上で本日の投下分は終了です。
2話を何度も見直しているんですが、いろいろ細かいところ覚えてないもんですね。

頑張りますのでよろしくお願いします。

それでは。
457 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/04/15(日) 03:30:12.90 ID:x6DZI7Xfo
乙!
宮藤はちゃんと武器持って行ったのかな
458 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/04/15(日) 12:02:39.51 ID:csdh8cZ80

土方さんモテモテ過ぎてヤバい
459 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2012/04/16(月) 00:23:27.87 ID:oC263jA/o
乙乙!
460 :1 [saga]:2012/04/16(月) 19:47:30.03 ID:9+V8/Wni0
セルフage

>>457
アニメではちゃんと持っていってましたw
461 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/04/20(金) 23:09:30.21 ID:QgCamWGr0
週末が待ち遠しい
462 :1 [saga]:2012/04/21(土) 19:08:54.36 ID:VcOSlfYe0
こんばんは。
こちら九州は雨です。

それでは、今週分の投下を開始します。
463 :1 [saga]:2012/04/21(土) 19:09:54.30 ID:VcOSlfYe0
「坂本少佐…………申し訳ありません。先ほどからの戦闘で魔導過給機が損傷した模様で……紫電改…………発進不能です」
「…………なんだと!!」

魔導過給機が損傷だと……
私は思わず窓から外に目をやる。
宮藤さんは何とかネウロイの攻撃をロマーニャ艦隊から逸らすことに成功しているようだが、その分宮藤さん自身にかかる負担が大きなものになっているようだ。
これではいくら宮藤さんと言えど…………そう長くは持たぬだろう。

「坂本さん……」

坂本少佐に目をやると、何かを決意したような少佐の視線とぶつかる。
まずい。
これは何か無茶をしようとしているときの少佐の表情だ。

「橋爪!」
「は」
「責任は私がとる。ネウロイにできるだけ近づけ」
「「はぁっ?」」

私と橋爪大尉の言葉が重なる。
紫電改は発進不能、唯一の戦力宮藤さんは苦戦中。
この状況で唯一とれる手段はは宮藤さんを回収して全力でロマーニャ軍基地まで逃げることだ。
おそらく橋爪大尉もそう思っていたのだろう。
しかし坂本少佐の回答はそんな我々凡人の想像のはるか上をいっていた。
464 :1 [saga]:2012/04/21(土) 19:11:00.51 ID:VcOSlfYe0
「どうした橋爪!海軍飛行艇部隊一の腕利きと言われた貴様の腕を見込んでの命令だが何か不服か?」
「坂本さん!いくら何でも…………」
「…………へっ」

無茶すぎます。
その言葉はしかし、橋爪大尉の返答によってさえぎられた。

「……少佐にそこまで言われちゃあ、我々飛行艇乗りとしても腕で応えざるを得ませんな!少佐!そして皆さん方!しっかりつかまっててくださいよ!」
「ふはははは!それでこそ海軍軍人だ!」

少佐が愉快そうに笑い、上部デッキへの梯子をおろして手をかけた。
まさか、ストライカーユニットなしで…………

「坂本さん!」
「ふふ…………どうやら宮藤の病気が伝染ってしまったようだな。この状況で全くあきらめる気になれんのだ」
「しかし少佐は…………」
「土方」

その言葉は静かであったが、その不思議な迫力に押されるように口を噤む。

「貴様が私を心配してくれるのはありがたい。だがな。ここで弱気になるような私を、貴様は尊敬できるのか?今までと変わらずついてくれるか?」
「少佐…………」
「私はな、少なくとも私を慕ってついてきてくれる者たちの前では弱気になる訳にはいかんのだ。それが私、坂本美緒の生き方なのでな。こればかりは病気のようなものだ。おそらく死ぬまで直らん。貴様も厄介な上官にあたったと思ってあきらめろ」

最後は冗談めかしていたが、少佐の言葉に、何よりその表情に私は説得の無益を悟る。
万感の思いを込めて私は最敬礼を返した。

「…………失礼しました。お心のままに戦い下さい」
「うむ。必ず帰ってくる事を約束しよう。宮藤たちのため…………そして、その……き、貴様のために、な」
「……御武運を」

少佐の後ろ姿に黙って頭を下げる。
そんな私の姿に頷くと、少佐は梯子を上っていった。
465 :1 [saga]:2012/04/21(土) 19:11:21.07 ID:VcOSlfYe0
「…………何だかうらやましいです」
「何がです?」

少佐の姿が見えなくなったところで、隣の諏訪少尉が遠慮がちに声をかけてくる。

「坂本さんと土方さん、それに宮藤さんが、ですよ。すごくお互いを信頼してるんだなって伝わってきました」
「天姫さん……」
「私にも504のみんながいる。フェルさんやルチアナさん、でも……まだまだ私はあの人たちとは大きな差がある。いつかあんなふうに無条件に信頼し合えるようになれるのかなって」

少尉がそういって寂しそうに笑う。
……確かに、なまじ戦える能力がある分私などより少尉の焦燥感は大きいだろう。
尊敬する人の隣に立って戦えないこと。
それは私だけが感じているのではないのだ。

「その…無責任なことは言えませんが…………504の皆さんはきっと天姫さんを信頼してると思います。だからこそ新型機のテストを任せているんだろうと思います」
「土方さん……」
「あまり自分を卑下しないほうがいいと思います。天姫さんはウィッチとして十分貢献しておられる。504の皆さんはそれがわからない程度の人たちなのですか?」
「そ、そんなことないです!」

諏訪少尉が強い否定の言葉を吐く。
少尉にとっても、504の皆さんは本当に大事な仲間なんだろう。

「……すいません」
「あ、いえ…………」

そう言って心なしか潤んだ瞳で私を見上げてくる少尉。
…………ど、どうもこういう雰囲気は苦手だ。

「後ろの皆さん方!これからちっとばかり揺れるんでしっかりつかまってて下さいよ!」

操縦席から聞こえてくる橋爪大尉の言葉に、私たちは慌てて着席した。
466 :1 [saga]:2012/04/21(土) 19:11:52.87 ID:VcOSlfYe0

「きゃあああああ!」
「ぐ……」

突然機体が大きく旋回し、大尉の「ちっとばかり」という言葉がかなり割り引いたものであったことを実感させられる。

「よし、いいぞ橋爪!そのまま突っ込め!!」
「はい!」

操縦席より妙に楽しそうな橋爪大尉の声がかえってくる。
ストライカーユニットを積んだ状態の飛行艇でこれだけの機動をして見せるとは……
見る間にネウロイの影が大きくなってきた。
近くで見ると確かに今まで見てきたどのネウロイよりも大きい。
ほどなくして機体は大型ネウロイの左上方、ドッグファイトなら最高の位置に到着した。
あの図体だけあってそれほど機動性はないようだ。

「よし…………あとは私の仕事だ。よく見ていろ諏訪!」
「は、はいっ!」
「うおおおおおおおおおお!」

諏訪少尉が返事をするが早いか、少佐は裂帛の気合いとともにデッキから飛び降りた。
ネウロイのビームが次々に襲いかかるが、少佐の構える烈風丸がすべてを切り裂いていく。
…………なんて無茶だ。
人も、剣も。

「必殺!烈風斬!」

その叫びとともに少佐の剣からすさまじい気が放たれる。
その剣気はネウロイのビームをいとも簡単に霧散させると、そのままネウロイを貫いた。
467 :1 [saga]:2012/04/21(土) 19:12:20.65 ID:VcOSlfYe0
ネウロイの体が細かな粒子となって落ちていく。
そのまま自由落下を続ける少佐は慌てて駆け付けた宮藤さんによって抱き留められていた、
その姿は豆粒ほどにしか見えないが、おそらく少佐はあの豪快な笑い声をあげておられるのだろう。

私は全身の力が抜けるほどに安堵した。
隣を見ると、諏訪少尉もどこか魂を抜かれたような態で呆然と見つめている。

「お、終わったんですか……?」
「どうやらそのようです。……全く無茶をするお方だ」
「そ、そうですよね…………まさかストライカーユニットなしであそこまでやるなんて……」
「全くです。見ているこっちが寿命が縮む思いでしたよ」

私がそういうと私と少尉は顔を見合わせて笑顔を交わしあった。
468 :1 [saga]:2012/04/21(土) 19:12:47.67 ID:VcOSlfYe0
とりあえず危機は去ったため大艇を海上に着水させて宮藤さんたちを収容する。
私の姿を見るなりし少佐は開口一番こう言った。

「どうだ土方。私はちゃんと帰ってきたぞ」
「……お願いですから心臓に悪いことはしないでください」
「そうか?烈風丸ならたやすいと思っていたのだが」
「見てるこっちの心臓が止まりそうでしたよ」
「ははははっ。それは済まなかったな」

そういって笑う坂本少佐。
…………まぁ色々あったが、紫電改を使わずにこの危機を切り抜けられたのは大きい。
だが、そんな坂本少佐の表情が不意に引き締められる。

「だが、妙に手ごたえがなさ過ぎた気もする。本当に倒せたのか…………?」
「きっと坂本さんが強くなったからそう感じるんですよ!」

宮藤さんはそうおっしゃるが、確かに今のネウロイの最後はあっけなさすぎるという気がしなくもない。
以前のネウロイですら501全員でかかって何とか倒したようなものも多かったはずだ。
しかもあのネウロイは以前より強化されているはず。
あの頃より少佐が強くなっているといっても一人で倒せるような相手なのか?


そんな少佐の危惧は、次の瞬間聞こえてきた橋爪大尉の言葉で杞憂ではなかったことが証明される。
469 :1 [saga]:2012/04/21(土) 19:13:21.82 ID:VcOSlfYe0
「しょ、少佐!!ね、ネウロイが…………再生しています!!」
「何!」

振り向いてネウロイのいた海域を見る。

「そ、そんな…………」

諏訪少尉が絞り出すように呟く。
確かに橋爪大尉のおっしゃったとおり、まるで映画の逆再生を見るかのようにネウロイの破片が再び集まり始めていた。

「ちっ…………やはりか!」

少佐は眼帯を外しネウロイを見る。

「コアが移動している…………そういう仕掛けか!!…………宮藤!」
「は、はいっ!」

忌々しげにつぶやくと少佐は宮藤さんに向き直る。

「どうやらあのネウロイはコアが移動するタイプのようだ」
「こ、コアが移動?」

宮藤さんたちも驚いている。
無理もない。今までのネウロイにはなかったタイプだ。
ガリア解放戦の時に無数の高速移動する小さな破片の中にコアが隠れているタイプには遭遇したことがあると聞いたが、コア自体が移動するなど聞いたことがない。
470 :1 [saga]:2012/04/21(土) 19:13:54.95 ID:VcOSlfYe0

「帰ってきたばかりのところすまんが、もう一度出てもらう。ただし無理はするな。私も紫電改の修理が終わり次第出る」
「さ、坂本さんもですか?」
「ああ。コアが移動するということは一方向からだけの攻撃じゃ無理だ。同時多重攻撃しかない」

同時多重攻撃。
二方向以上から一点に向けて火力を集中する攻撃方法である。
コアの動きを察知できる坂本少佐が先読みして攻撃、運動性能に優れた宮藤さんがそれを追いかける形での攻撃。
確かにそれ以外にとれる方策はないだろう。

「坂本さん……」
「ああ。今度も絶対帰ってくると約束する。今まで私が戦場に出かけて帰ってこなかったことがあるか?」

私の言葉にそう冗談めかして笑って頷くと、少佐は先ほどからずっと紫電改の修理を続けていた寺尾技師に声をかける。

「紫電改はどれくらいで直りそうか?」
「あと5分で何とかします!」
「飛べさえすればいい!3分で仕上げろ!」
「はっ!」

そして少佐は宮藤さんに向き直った。

「…………ということだ。あと3分だけなんとか耐えて見せろ」
「はいっ!」

少佐の言葉に宮藤さんは元気良く頷くと、再び空へと舞い上がっていった。
471 :1 [saga]:2012/04/21(土) 19:16:58.89 ID:VcOSlfYe0
以上です。
なかなか話が進まないですね……
元ネタありのぶん書きやすいのはいいんですが余計な部分まで書いてしまいがちになりますねw

まぁ戦闘場面の描写とかは自信ないんでさらっと流してしまいたいと思いますが。
それでは。また来週。
472 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/21(土) 19:17:27.83 ID:TDnsnlUSO
お、再開してた
473 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/04/21(土) 20:57:38.76 ID:/MwYi5kc0
おつおつ
橋爪さんは真珠湾攻撃のときに撃墜された二式大艇のパイロットがモデルなんだよね
474 :1 [saga]:2012/04/23(月) 00:14:09.32 ID:PhYYX+Gt0
セルフage

>>473
そうなんですか。
兵器とかの考証もかなり正確にやってるみたいですねストパンは
475 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/04/24(火) 23:53:59.29 ID:ZUfKRMne0
少佐の心情が気になる。
恋心を自覚しているのだろうか?
476 :1 [saga]:2012/04/28(土) 19:40:45.41 ID:JF1/4tNl0
こんばんは。
今週分の投下に参りました。

書いたのを入れたUSBメモリを一瞬紛失してあせりましたが何とか見つかってよかったですw
477 :1 [saga]:2012/04/28(土) 19:41:29.69 ID:JF1/4tNl0
「あと3分……」

坂本少佐が祈るような表情で呟く。
視線の先では宮藤さんがネウロイに攻撃を仕掛けているが、ネウロイの再生速度が速いのと弾着の直前にコアを移動させる巧妙さのせいで、効果的な損害を与えられないでいる。
逆に、間断なくネウロイが発射するビームのせいでシールドを張りつつ回避するのが精いっぱいという状況のようだ。
これでは…………

「これでは、宮藤の魔法力が持たないぞ…………」

宮藤さんが膨大な魔力容量を持っているといっても無限であるはずもない。
このまま無駄にシールドで魔力を消耗させられ続ければ宮藤さんの魔力が枯渇するのは明らかだ。

「紫電改はまだか!」
「あと2分!」
「く…………」

寺尾技師の返事に坂本少佐が表情を険しくする。
これほど長く感じられる3分間もないであろう。
478 :1 [saga]:2012/04/28(土) 19:42:01.93 ID:JF1/4tNl0
「宮藤、後ろだ!」

坂本少佐の叫びに宮藤さんが後ろを振り向く。
移動するコアの探知に神経を使いすぎたのか、後ろの防御がおろそかになった一瞬を衝かれ、宮藤さんに向けてビームが放たれた。

「きゃっ!」

何とかシールドで防いだものの、体勢を崩した宮藤さんはそのままの体勢で錐揉み状に落下していく。
…………まずい。
今の衝撃で一時的に意識が飛んでいる可能性がある。
今攻撃を受けたら…………


「よしかーーーーーー!」


私は無意識に叫んでいた。
その時である。
479 :1 [saga]:2012/04/28(土) 19:42:32.78 ID:JF1/4tNl0
バシュッ!


どこからともなく飛来した一弾がネウロイを貫いた。

「いやっほーーーーー!」

続いて聞こえてきたのは聞き覚えのある声。



「これは…………まさか!」

見上げる坂本少佐の顔にも笑顔が浮かんでいる。

「シャーリーさん!ルッキーニちゃん!」

宮藤さんの声が響く。
高速で飛来する二人のウィッチ。
それは間違いなく、元501戦闘航空団所属のシャーロット・イェーガー大尉とフランチェスカ・ルッキーニ少尉であった。

「いや…………それだけじゃない……」

少佐の言葉と同時に、今度は別の方向から大型の弾頭が飛来する。
この弾頭は…………
480 :1 [saga]:2012/04/28(土) 19:43:03.92 ID:JF1/4tNl0
「対装甲ライフルだ…………てことは!」
「リーネちゃん!!」

視界の先にリネット・ビショップ曹長の姿を認めた宮藤さんが心から嬉しそうに叫ぶ。

「芳佳ちゃん!」

ビショップ曹長がそのままの勢いで飛び込んできて宮藤さんの手を取った。
再会を喜ぶようにお二人はそのままくるくると回っている。
その隣で呆れたような笑みを浮かべているのはクロステルマン中尉であろうか。
まさかガリアからここまで駆けつけて下さったのか。
なんともはや、である。

しかし、戦場の神はさらなる奇跡を用意していたようであった。


ドォン!


どこからか飛んできたロケットがネウロイに着弾する。

「ロ、ロケット弾?」
「あっちです……!」

ビショップ曹長の指し示す方向には、やはり二人のウィッチの姿がある。

「エイラさん!サーニャちゃん!」

エイラ・イルマタル・ユーティライネン中尉とサーニャ・V・リトヴャク中尉であった。
481 :1 [saga]:2012/04/28(土) 19:43:37.72 ID:JF1/4tNl0
「きたきたーーーー!」

ルッキーニ中尉が躍るように前方宙返りし、再びネウロイへの攻撃を開始する。
5人ものウィッチの増援を得て戦況は一気に好転するも、こちらもネウロイを落とすための決め手に欠ける状況には変わりがない。
しかし、空を見上げる少佐の表情にもはや暗さはなかった。

「あいつら…………ふふふ、ここまでしておいて貴様の姿がないなどとは言わせんぞミーナ!!」

振り返りながら少佐が叫ぶ。
そう。
最後の真打とばかりに接近する3人のウィッチの姿を我々はすでに視界にとらえていた。

「ハルトマンさん!バルクホルンさん!ミーナ隊長!」

カールスラントの誇る撃墜王二人に、伝説とまで呼ばれる501戦闘航空団の元隊長の姿は、その場にいたすべての人間に希望を与えるものであった。

「フォーメーション・カエサル!!」
「「「「了解!!!」」」

ヴィルケ中佐の号令に応え、10人のウィッチたちが3人ずつのロッテ(編隊)に分かれる。
中佐の登場に、まるで半年近くのブランクなどなかったかのように501のウィッチたちが一つの「戦闘団」としての動きを取り戻しつつあった。

482 :1 [saga]:2012/04/28(土) 19:44:13.48 ID:JF1/4tNl0
「すごい……旧501、そろい踏みですね…………」

諏訪少尉が感嘆したようにつぶやく。

「ああ……まったく最高の仲間たちだ」

少佐が誇らしげに諏訪少尉の言葉にこたえる。
その言葉が引き金になったわけではないだろうが、寺尾技師の待ちに待った声が上がった。

「紫電改、行けます!」
「よし…………今までの借りを返しに行ってくる。土方!」
「は。御武運を」

少佐に向けてこの言葉をかけるのは何度目であろうか。
この言葉をかけるたび、何度目であろうと私は願う。
少佐が無事にこの戦場から帰って来て下さることを。

「うむ」

私に向けて大きく頷くと、少佐は紫電改を穿く。

「出力異常なし!」
「坂本美緒…………出る!」

寺尾技師の言葉にこたえるように少佐は大きく叫び、一筋の航跡を残して大空へと舞い上がっていった。
飛び立つ一瞬前に、私に笑顔を向けて下さったように感じたのは…………私の自意識過剰であろうか。
483 :1 [saga]:2012/04/28(土) 19:44:43.32 ID:JF1/4tNl0
それからの戦闘は「一方的」と称するのも些か控えめすぎるものであった。


イェーガー大尉とルッキーニ少尉がそのスピードで鈍重なネウロイをかく乱し、
ビショップ曹長が対装甲ライフルで着実にその装甲をはぎ取り、
クロステルマン中尉が電撃で動きを止め、
ユーティライネン中尉がネウロイのビームをよけつつリトヴャク中尉をネウロイの至近まで運び、リトヴャク中尉がフリーガーハマーで攻撃し、
ハルトマン中尉がシールドをまとった体当たり攻撃を仕掛け、
バルクホルン大尉がその並はずれた腕力で弾を撃ち尽くした銃をハンマーのように叩き込み、
そして宮藤さんがその隙をついてコアを一点へと誘導する。

まさに理想的な同時多重攻撃が行われていた。

「すごい……これが…………ストライクウィッチーズ……伝説の魔女たち」

隣で空を見上げる諏訪少尉がぽつりと呟く。
わずかな結成期間の間にガリア解放という驚くべき戦果を挙げ、そして短期間で解散していった501航空団は一部の軍関係者の間では伝説の部隊として畏怖と敬意をもって語られているという。
我々は今、伝説が再び姿を現す瞬間に立ち会っているのだ。
知らず知らずのうちに拳に力がこもる。

そして坂本美緒少佐。
484 :1 [saga]:2012/04/28(土) 19:45:26.69 ID:JF1/4tNl0
「うおおおおおおっ!」


烈風丸を構えた少佐がネウロイのビームに向けて一直線に突っ込んでいく。
無数のビームが少佐に襲いかかるものの、少佐は驚異的な機動でそのすべてを躱していった。
その姿はまるでユーティライネン中尉を見るようである。
紫電改の性能と、少佐の絶妙な魔力制御能力が合わさった神業的な機動であった。

しかし、そうこうしているうちにネウロイは複数のビームを束ね、一つの巨大なビームとして少佐に襲いかかる。

「ムリだ!当たるゾ!」

それはユーティライネン中尉の言葉であっただろうか。

「美緒!」
「手出し無用!」

悲鳴に近いヴィルケ中佐の言葉に、少佐は不敵に笑って返すと、烈風丸の刀身を翳してビームに向け突撃する。


「斬り裂け!!烈風丸!うおおおおおおおおおおっ!!」


そのまま烈風丸はネウロイのビームを切り裂き、少佐はネウロイと正面から相対する形になった。

そして。

「烈風斬!」

本日二回目の烈風斬。
今度こそそれはあやまたずネウロイのコアを一刀両断した。
485 :1 [saga]:2012/04/28(土) 19:45:56.58 ID:JF1/4tNl0
「……すごい刀ね、それ」
「ああ。私が一槌一槌魔力を込めて打ち上げた。刀身に魔力が練りこんであって、いわば刀自体が一つのシールドの役割を果たす」

戦闘後、再会を喜び合う宮藤さん達を少し離れた所で眺めながら少佐はヴィルケ中佐の問いかけに答えていた。
中佐は「そう」と短く答えた後、窘めるような表情になって続ける。

「…………それにしても、無茶しすぎじゃないの?」
「私は飛びたいんだ。あいつのようにな」

少佐の視線の先にはルッキーニ少尉と一緒にビショップ曹長の胸を揉んでいる宮藤さんの姿があった。

「やっぱり、降りるつもりはないのね」
「ああ!」
「…………了解」

一瞬の迷いすらない少佐の言葉に、ヴィルケ中佐は分かっていた、とばかりに小さく瞑目する。
486 :1 [saga]:2012/04/28(土) 19:46:33.91 ID:JF1/4tNl0
「……連合軍司令部からの命令を伝えます」

皆を整列させたミーナ中尉は表情を改めると、連合軍司令部からの「命令」を読み上げる。
ハルトマン中尉によるとかなり無理やりガラント少将からもぎ取ってきたようだ。
こういった行為に厳しいはずのバルクホルン大尉までが心なしか嬉しそうなのは、これから読み上げられる「命令」の内容がわかっているからだろう。

「旧501所属のウィッチたちは原隊に復帰後、現在ロマーニャ北部に侵攻中の新型ネウロイを迎撃し、これを撃滅すべし」
「…………えっと、つまりどういうこと?」

宮藤さんが隣のビショップ曹長に問いかける。
そんな宮藤さんの質問に、ヴィルケ中佐は一瞬笑顔を浮かべた後に表情を引き締め、返事代わりの宣言を返した。

「……ここに、第501戦闘航空団『ストライクウィッチーズ』を再結成します!」
「え…………りょ、了解!」
「「「「「「了解!!!」」」」」」

ミーナ中佐の言葉の意味を理解した宮藤さん達が笑顔で敬礼を返す。
それぞれに返事を返すウィッチの皆様方も心なしか嬉しそうだ。

この時刻をもって、伝説の魔女たちは、このアドリア海に蘇った。
487 :1 [saga]:2012/04/28(土) 19:47:06.47 ID:JF1/4tNl0
「と〜〜こ〜〜〜ろでっ!」

がしっ。

伝説の誕生する瞬間に立ち会えた喜びに震えて立っていた私の肩に不意に手が回される。
振り返ると、何故かイェーガー大尉が私の肩に手をまわして顔を近づけてきていた。
その顔に浮かぶにやり、としか表現しようのない笑みに思わず一歩後ずさる。

「い、イェーガー大尉?」
「あのな、私の事はシャーリーって呼べって前から言ってるだろ。大尉とかもいらない」
「は、はぁ……シャ、シャーリー…………さん」
「そうそう。まぁ、それはどうでもいいや。…………そんで土方の兄さんよ」

に、兄さん?
聞きなれない呼称に思わず表情が引きつる。

「あたしとルッキーニが駆けつける一瞬前に『よしかーーー!』ってすごい叫びが聞こえたんだけど……あれ、アンタだろ」
「え……」

ま、まさかあの叫びを聞かれていたのか……

「あー!たしかに聞こえた―!なになに?芳佳とけーすけ兄ちゃんってそんな関係なの?いつの間に?」

話を聞きつけたルッキーニ少尉も近づいてきて興味津々という表情でこちらを覗き込んでくる。
私の軍服の裾をしっかりと掴み、詳しく聞かせてくれるまでは離さない、と無言の圧力をかけてきていた。
……さすがはロマーニャの女性というべきか。
ふと思って宮藤さんの方を振り返ってみるが、

「え?え?ほ、ほんとなの芳佳ちゃん?」
「あ、えと、そ、それは…………その、け、圭助さんは私のことを心配してくれたからであって、別にそれ以上の事は……」
「あの、私は芳佳ちゃんが幸せなら別に……その、えっと」
「リーネちゃん話を聞いてよーーー!」

……あっちはあっちで大変そうだ。
488 :1 [saga]:2012/04/28(土) 19:47:43.51 ID:JF1/4tNl0
「なぁ土方の兄さんや。ここは素直にゲロったほうが身のためだぞ?私たちがいない半年間に何があったんだ?ん?」

意識的にか無意識にかは分からないが、私の首をがっちりと腕でホールドした状態でぐいぐいとその豊満な体を押し付けてくるシャーリーさんに何も言えずに硬直する私。

「私も知りたい!けーすけ兄ちゃーん!ねぇねぇどうなのさー!」
「い、いえ…………と、特には何も……」
「「うっそだー!」」

シャーリーさんとルッキーニ少尉の声が綺麗にハモる。

「だってさっきから兄ちゃんと芳佳のふいんき?がなんか前と違う気がするんだもん」
「だよなー」

顔を見合わせて頷くシャーリーさんとルッキーニ少尉。
…………これは、しばらく離していただけそうにないな。


「何っ!土方貴様……宮藤といつの間に!」
「さ、坂本さん…………いえ、ですからこれは」

騒ぎを聞きつけた少佐の声が不意に割り込んでくるが、正直この場面では一番聞きたくない声であった。
そんな私と少佐の間の空気に何かを感じ取ったのか、シャーリーさんは矛先を坂本少佐に転換する。

「おや?少佐は土方のお兄さんの恋路に興味がおありで?」
「ば、馬鹿者っ!そういう事じゃない!上官として従兵のことはきちんと把握しておかねばならんと……」
「やっぱり興味あるんじゃないですか」
「違うと言っているだろう!」

私の目の前で言い合いを始める二人。
事態はさらに混迷の度合いを深めているようだ。
声にならないため息をつく私の耳に、

「…………馬鹿ばっか」

ユーティライネン中尉のものらしいつぶやきがはっきりと聞こえてきたのであった。
489 :1 [saga]:2012/04/28(土) 19:50:19.18 ID:JF1/4tNl0
ということで本日はここまでです。
戦闘描写がしょぼくて申し訳ないです……

まぁ何とかロマーニャ編の開始まで持ってくることが出来ました。

ウィッチたちの土方への呼称は私が勝手に考えましたw
違和感がある方もいらっしゃるかもしれませんがご容赦を。

それでは。また来週です。
490 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長崎県) [sage]:2012/04/28(土) 20:01:39.96 ID:kZgapWbRo
乙!
土方ェ…
491 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/04/28(土) 22:13:19.31 ID:FzC6G+GY0
シャーリーさんは俺の嫁!
乙でした
492 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) :2012/04/28(土) 22:26:53.88 ID:kiKCJszb0
乙です!!
493 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/04/29(日) 00:36:38.49 ID:4yNmkMP+0
まだ色恋の予感だけでこうなら結婚なんてなったらどうなるんだ土方さん…(主に魔女からの尋問的に)
494 :1 [saga]:2012/04/29(日) 21:12:05.17 ID:KmFjfdns0
セルフage
>>493
結婚はまだ先の話になりそうですがw
色々からかわれることになると思います。
495 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/05/02(水) 10:06:14.28 ID:mNxPcYU20
よかった結婚確定か、友人知人の多い坂本さんが大変だ。
496 :1 [saga]:2012/05/05(土) 18:46:24.26 ID:sLG+MLMm0
こんばんは。1です。
ゴールデンウィークもあと1日となりましたが、みなさんいかがお過ごしでしょうか。
私は一歩たりとも部屋から出ずにアニメ見て過ごしてましたw

それでは、本日の投下開始します。
497 :1 [saga]:2012/05/05(土) 18:48:09.16 ID:sLG+MLMm0
「土方圭助兵曹」
「は」

再建なった第501戦闘航空団・司令室。
そこで私は司令のヴィルケ中佐と相対していた。

「貴官を引き続き第501戦闘航空団所属・坂本美緒少佐付従兵に任命します」
「は。謹んでお受けいたします」

敬礼とともにヴィルケ中佐より辞令を受け取る。
辞令を渡した佐はそこでふっ、と表情を緩めた。

「正直、貴方が来てくれてありがたいわ。あなたの事は美緒も信頼してるみたいだし。女所帯だといろいろ大変なこともあるし、頼りにしてるわね」

坂本少佐の従兵とは言っても四六時中何か仕事がある訳でもない。
ブリタニアにいた時はそんな空いた時間には力仕事や車の運転などウィッチの皆様方の手を煩わせるまでもない雑用をこなしていた。
私自身も何かしていないと落ち着かない性質なので正直こういう風に便利に使って頂くのは望むところと言えた。

「それで、貴方の住居だけど…………」
「それについてなのだがな」

中佐の言葉を遮るように坂本少佐が話し出す。

「土方を基地の中に住まわせてやるわけにはいかないか?」
「「えっ!?」」
498 :1 [saga]:2012/05/05(土) 18:48:40.92 ID:sLG+MLMm0
私とヴィルケ中佐の声がきれいに重なる。
従兵とは言っても男である自分が女性しか居ないウィッチ基地内に居住できる訳もなく、
ブリタニアにいたころは普段は基地近くに設けられた宿舎で暮らし、命令があれば基地の方に赴くのが常であった。
今回もそのようになるだろうとは思っていたし、そのことに不満などあろうはずもなかったのだが…………
ヴィルケ中佐に相対する少佐は存外真剣な表情である。

「美緒、貴女何言って…………」
「いや、何か用事があるときにわざわざ基地の外から呼び立てるのも気の毒かと思ってな。烈風丸を打ちに山にこもってた頃は一つ屋根の下に暮らしていたんだし」
「……………え?そ、それは本当なの土方兵曹?」

ヴィルケ中佐が驚いたように聞いてくる。

「え、えっと……」

私が言い淀んでいるところに、坂本少佐はあっさりと答えた。

「事実だ。何なら宮藤に聞いてくれてもいい」
「はぁ…………貴女ねぇ」

坂本少佐の返事を聞き、ヴィルケ中佐は額に手を当てて呆れたように首を振る。
…………まぁ確かに外から見れば上官と部下とはいえ男女が同じ家に二人で住むのはあまり褒められたことではないだろう。
そのあたりを気にしない豪気さも坂本少佐の魅力ではあるのだが……こうもあっけらかんと話されるとこう、なんというか…………

「どうした土方?」
「あ、いえ」

不思議そうな坂本少佐に、あわてて姿勢を正して返答する。
499 :1 [saga]:2012/05/05(土) 18:49:11.41 ID:sLG+MLMm0
「まぁとにかく。ここは扶桑の山奥じゃなくてロマーニャなの。いくら何でも騒動の種を自ら持ち込むわけにはいきません」
「土方が私やほかのウィッチたちに不埒を働くとでも?」
「そ、そうは言ってないでしょ……土方兵曹の事は信用してるわ。でも外聞とかそういうものが…………」
「じゃあ、他のウィッチたちに聞いて見るか。…………おい、そこの3人!」

坂本少佐は急にドアの外に向かって呼びかける。

「ひぇっ!」
「うじゅっ!」
「え?」

外で三者三様の小さな叫び声が聞こえた後、ゆっくりとドアが開いて3人の方が入ってくる。
予想通りの二人と、意外な一人。
シャーリーさんとルッキーニ少尉、そして…………宮藤芳佳軍曹であった。

「へへ…………ばれてた?」
「当たり前だ馬鹿者。……シャーリーとルッキーニだけならまだしも、宮藤貴様まで何事だ」
「ご、ごめんなさい……」

肩を落としてうなだれる宮藤さん。
そんな3名にヴィルケ中佐は怒りを通り越してあきれたようにため息をつく。
500 :1 [saga]:2012/05/05(土) 18:49:42.53 ID:sLG+MLMm0
「貴女たち立ち聞きしてたの……?もう、本来なら営倉ものよ?」
「まぁいいじゃないか。聞いていたなら話が早い。シャーリー、ルッキーニ、貴様らはどう思う?土方を基地の中に住まわせてやってもいいと思うか?」

「いいんじゃないの?土方の兄さんがいるといろいろ役に立つし」
「そーそー。私も賛成―!」
「貴女たちねぇ…………」

シャーリーさんたちはそう言ってくださるが、その表情には「だってその方が面白そうだし」とはっきりと大書してあった。
それがわかっているのだろう。
ヴィルケ中佐の眉間の皺がさらに険しさを増す。

「ほら、シャーリーたちもこう言ってるだろう。宮藤、貴様はどう思う?」
「わ、私ですかっ?」

急に話を振られて宮藤さんが慌てだす。
期せずして部屋にいる人間全員の注目を集めてしまう形となった宮藤さんが顔を赤くしてうつむいてしまった。

「芳佳もけーすけ兄ちゃんが一緒の方が嬉しいよね?」
「え、そ、それは、そのぅ…………う、うん」
「「おお〜〜〜」」

うつむきながらぽつりと答えた宮藤さんの返事に、シャーリーさんとルッキーニ少尉が同時に驚いたように声を上げる。
……なんだか当事者である私の意思を無視したところで話が進んでいるような気がするのだが。
ヴィルケ中佐はと言えば、渋い表情は崩さないものの、宮藤さんの返事に驚いたように微かに目を見開いている。

「まぁとりあえずほかの子たちにも聞いて見るわ」
「ああ、それならもう聞いてあるぞ」
「はい?」

坂本少佐の言葉に、今度こそヴィルケ中佐が彼女にしては珍しい音程を外した返答を返す。
501 :1 [saga]:2012/05/05(土) 18:50:12.28 ID:sLG+MLMm0
「はっはっはっ。兵は神速を貴ぶ、だ」
「何が神速、よ。最初っからそのつもりだったのね」
「そう怒るな。全員の了承はとった。嘘だと思うならこれから全員を呼んで確かめてみるか」
「はいはい。貴女の事だから手抜かりはないんでしょうよ」

自信満々に言い放つ少佐に、ヴィルケ中佐は両手をあげて降参の身振りをしてみせる。
一つ大きく息をつくと、中佐は私に向き直った。

「土方兵曹。仔細は聞いての通りです。特別に、本当に特別に、ですが…………今回の作戦中、貴方が基地内に居住することを許可します」
「は……はっ!」

「特別に」の部分を強調した中佐の言葉に、少々慌てながらも返答を返す。

「よーし!じゃあよろしくな土方の兄さん!」
「よろしくー兄ちゃん!」
「は」

シャーリーさんとルッキーニ少尉から相次いで握手を求められる。
…………どうやらこのロマーニャ滞在は、初めから波乱含みの展開のようだ。

502 :1 [saga]:2012/05/05(土) 18:50:38.90 ID:sLG+MLMm0
「それではブリーフィングを始めます」

作戦司令室代わりの大きなホールの演台でヴィルケ中佐が声を発する。

「…………その前に皆さんにお知らせすることがあります。土方兵曹。前へ」
「は」

ヴィルケ中佐に呼ばれて前へと歩み出る。
11人のウィッチの皆さんの注目が私に集まってくるのが感じられ、ややこそばゆい気持ちになってきた。

「坂本美緒少佐からお聞きの事と思いますが」

ヴィルケ中佐はそこで隣に立つ坂本少佐に恨みがましい視線を送るものの、当の少佐は涼しい顔で受け流している。

「ご存じの通り彼は坂本少佐の従兵である土方兵曹。この作戦中も引き続き少佐の従兵として勤務していただきます」
「扶桑海軍・横須賀鎮守府所属、土方圭助であります。よろしくお引き回しのほどを」
「本当に特例中の特例として、土方兵曹にはこの基地内に居住することを許可いたしました。もちろん居住スペースは別ですが」

坂本少佐が事前に話しておいたこともあり、居並ぶウィッチの方々に動揺は見られない。
…………まぁユーティライネン中尉やリトヴャク中尉などは本当に無関心なだけのような気もするが。
それでもビショップ曹長などは不安そうな表情をしているが、宮藤さんと私とのことを妙な風に誤解しているせいもあるのだろう、動揺を顔に出すまいと努力していらっしゃるようすが見て取れる。
……それはそれで問題な気もする。
503 :1 [saga]:2012/05/05(土) 18:51:15.67 ID:sLG+MLMm0
「それでは早速、明日からの偵察シフトの確認を…………」

実務的な話になると私のすることはなくなった。
見るともなしにウィッチの方々の様子を一通り眺めてみる。
宮藤さんと目が合うと、彼女は笑顔を浮かべてこちらに向けて手を振ってくださった。

「宮藤軍曹!話を聞いていたの?」
「す、すいません!」

…………早速ヴィルケ中佐に注意されている。
そのまま中佐はこちらにも厳しい視線を向けてきた。
どうも、余計なことはせぬが吉であろう。

504 :1 [saga]:2012/05/05(土) 18:51:39.39 ID:sLG+MLMm0
「よぉ土方の兄さん、初日から災難だったな」
「いえ、この程度は覚悟しておりましたので」
「そうかい。まぁなにはともあれ改めてよろしくな」
「は」

ブリーフィング終了後、話しかけてきたシャーリーさんと握手を交わしていると、ハルトマン中尉も話に加わってきた。

「しっかし少佐も強引だよねー。キミも苦労してるんじゃない?」
「いえ。坂本少佐のお側に仕えることは私にとって喜びでありこそすれ負担などとは」
「あーはいはい。そういうのいいから」
「こらハルトマン。その言い方は何だ。見上げた忠誠心じゃないか」

ハルトマン中尉がうんざりしたような表情になるのをバルクホルン大尉が聞きとがめる。
そして私に向き直ると左手を差し出してきた。

「坂本少佐に対するその忠誠心、見事だ。正直私は少し……いや、かなり反対だったのだが…………これからよろしく。土方卿」
「は…………」

…………バルクホルン大尉は私が扶桑で爵位持ちの家の出身だと聞いてより私の事を「土方卿」と呼んでくる。
正直止めていただきたいのだがご本人は改める気はないようだ。
505 :1 [saga]:2012/05/05(土) 18:52:06.63 ID:sLG+MLMm0
「えへへー。嬉しいですっ。圭助さんとまた一緒に過ごせるって」
「こ、こんにちは…………」

宮藤さんとビショップ曹長も話に加わってくる。
ビショップ曹長は宮藤さんの腕にしがみついたまま私からできるだけ距離を撮ろうとしていた。
やはり男性がすぐ近くで暮らすということへの恐怖感はあるのだろう。

「「それだ!!」」
「わっ!びっくりした」

急にシャーリーさんとルッキーニ少佐が声を上げる。
宮藤さんが驚きの声を上げるのにも構わずルッキーニ少佐は満面の笑みで言葉を続ける。

「何か芳佳とけーすけ兄ちゃんのふいんきが前と違うなって思ってたんだけど…………それだ!」
「ああ、そうだな。なんで今まで気づかなかったんだろうな……」
「え?え?ど、どういう…………」

分かっていない風の宮藤さんに指をびしっと突きつけ、少尉が宣言する。
506 :1 [saga]:2012/05/05(土) 18:52:39.89 ID:sLG+MLMm0
「圭助さん!」
「だよなー。今までずっと苗字で呼んできたのにいきなり名前呼びだろ?そりゃ何があったのか気になるってもんだ。なぁ土方の兄さんよ」

そう言いながらシャーリーさんは再び私の首に手をまわしてくる。
……なんだか昨日もこんなことがあったような…………

「今日こそはっきり答えてもらうぜ」
「ひ、土方卿!貴殿は…………」
「う……やっぱり芳佳ちゃん……」

それが合図となったかのように周りのウィッチの皆様方に取り囲まれる。
そんな私たちを遠くから眺めるユーティライネン中尉の一言。

「馬鹿ばっか」

そんなところまで、昨日と同じであった。
507 :1 [saga]:2012/05/05(土) 18:53:55.72 ID:sLG+MLMm0
……以上で本日の投下終了です。
やっぱり日常パートの方が書きやすいですねw

さて、そろそろアニメ第3話の話に入るころです。

それでは。
また来週です。
508 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/05(土) 22:44:56.57 ID:VyrtpyiIo

たしかに男手はあったほうがいいよね
509 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/05/06(日) 22:04:07.67 ID:gcpND9ag0

これはむしろ土方にとっては地獄なんじゃ……
510 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県) [sage]:2012/05/06(日) 22:29:41.93 ID:YUwrcE3co
乙!
週末の楽しみにさせて頂いております!
511 :1 [saga]:2012/05/07(月) 00:00:33.44 ID:LODj3xbf0
セルフage
毎回毎回レスありがとうございます。
こちらこそ励みになっております。
512 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東日本) [sage]:2012/05/07(月) 00:11:20.61 ID:AZcm633N0
>>1 乙でした。

>急にシャーリーさんとルッキーニ少佐が声を上げる。
>宮藤さんが驚きの声を上げるのにも構わずルッキーニ少佐は満面の笑みで言葉を続ける。

変換登録ミスかな?
513 :1 [saga]:2012/05/07(月) 06:11:10.72 ID:LODj3xbf0
>>512
すいません。ミスです。
天姫さんが出てきてから間違いには気を付けてたんですが……
514 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/05/08(火) 21:47:38.12 ID:9yXDnYq80
>>509
地獄というほどきつくもない生殺し感あふれる(主に俺らが)楽しい楽園じゃないか。
515 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/09(水) 13:47:25.66 ID:KCBu5xlIO
女の中にー男がひとりー♪

なんていう、からかい台詞を小学校ぐらいの頃は言ったな
今となっては、傍観者としてうらやましい限りだが
当事者としてみれば、今も変わらず辛いだろうww
516 :1 [saga]:2012/05/12(土) 23:22:49.38 ID:EI1usdOj0
こんばんは。
遅くなってすいません。
今から投下を始めます。
517 :1 [saga]:2012/05/12(土) 23:23:36.93 ID:EI1usdOj0
夕飯時。

特例として基地に住まわせていただくことへの返礼として、ウィッチの皆様方に料理を振る舞うことを提案したのはやはりというか坂本少佐であった。
ヴィルケ中佐はあまりいい顔をしなかったが、坂本少佐が強く勧めたのと意外にも宮藤さんが一緒になって推薦して頂いたため、渋々という体ながらも許可をしていただいた。

「おいしー!けーすけ兄ちゃんがこんなに料理上手だったなんて驚いたよ!」
「ああ。見事だ土方卿」
「へぇ。こんな特技を隠してたのか土方の兄さん…………人が悪いねぇ」
「ありがとうございます」

そして、私の料理に真っ先に賛辞を送ってくださったのはやはりと言うべきか、ルッキーニ少尉である。
他のウィッチの方たちも表現はさまざまなれど賞賛の言葉を送ってくださった。

「はっはっはっ!土方の料理は絶品だからな。この基地には貴重な男手だし、他にも色々使い立てしてやってくれ」
「ふふっ。久しぶりに圭助さんと一緒にお料理できて楽しかったですよ」

私の料理が皆の賞賛を受けていることで、坂本さんも宮藤さんも嬉しそうだ。
今まではほとんど宮藤さんが料理を一手に引き受けてきたようなので、さっそくこういう形で皆様のお役にたてたことは喜ばしい。
518 :1 [saga]:2012/05/12(土) 23:25:28.50 ID:EI1usdOj0
そして夜になった。
ここの基地は、中世の英雄物語に出てきそうな古城を改装したもので、私に与えられた部屋も全面石造りの堅牢なものであり、扶桑の畳と襖の部屋になれている私にはやや落ち着かない気分にさせられる。

こんこん。

畳の部屋のように床に寝転ぶわけにもいかず、落ち着かない気分で部屋の中を歩き回っていると不意にドアがノックされた。

「はい」

ドアを開けると、目の前には坂本少佐の姿があった。
予期せぬ訪問についつい声が緊張してしまう。

「坂本さん?」
「土方か…………今、いいか?」
「は。どうぞ」

私の勧めた椅子を断りベッドに腰掛けると(私としては無意識にそういうことをされるほうが心臓に悪いのだが)坂本少佐は口を開いた。

「どうだ?この部屋は?」
「は。扶桑での隊舎暮らしに比べれば分不相応なほどでありますが……」
「ありますが…………何だ?」
「その、どうも現実離れした感じで……どうも落ち着かない気分が」
「はは。まぁそういうものかも知れんな。確かに私もそう思わんでもない……というより貴様はいいとこの御曹司だろう。こういう部屋には私などより慣れているのではないのか?」
「いえ……土方の実家は純和風の家でしたので」
「そうなのか」

そんな会話をしばらく続けたあと、少佐は表情を改める。
519 :1 [saga]:2012/05/12(土) 23:27:49.50 ID:EI1usdOj0
「それで実はな…………これから夜の見回りに行こうと思うのだが」
「見回り、ですか」

出来たばかりで、基本的にウィッチ以外の人間が立ち入ることもないこの基地に見回りが必要とは思えないが。
私の要領を得ない返事に疑問を感じとったのだろう。少佐は悪戯っぽい表情で続ける。

「うむ。私がやりたいとミーナに願い出たのだ。できるだけ早くこの基地の内部構造を把握しておきたい……というのが建前ではある」
「はぁ…………」
「正直なところ、501がまた結成されるとは思わなくてな。少々興奮気味で眠れそうにないのだ」
「……なるほど」

その気持ちは分からなくもない。
私だってこのメンバーが一堂に会するのをまた見ることができるなどとは思っていなかった。
520 :1 [saga]:2012/05/12(土) 23:29:20.52 ID:EI1usdOj0

「それで、一人で回るのもなんだか味気ないと思って貴様も巻き込んでやろうと、そう思った次第だ」
「そうですか……」
「まぁ、貴様も着任初日で疲れているだろうし、無理強いはせんが」

そう言いつつも少佐は妙に真剣な表情で私の返事を待っている。
そんな顔をされずとも少佐の頼みを断るような不遜さはあいにく私は持ち合わせていない。

「…………は。そういうことであれば喜んでお供いたします」
「そうか?悪いな。無理を言ったような形になってしまって」

私の返事に坂本少佐も少し嬉しそうな表情になった。
521 :1 [saga]:2012/05/12(土) 23:29:53.05 ID:EI1usdOj0
かつ。かつ。かつ。
月明かりの差し込む基地内に、私と坂本少佐、二人の足音が響く。
ヨーロッパ風の古城という基地の特異性も相俟って、どこか現実離れした雰囲気を漂わせている。
やがて、我々は海に向かって突き出た堤防のようなところへとたどり着いた。

黒一色、と表現するしかない海の上に月だけが白い明かりを投げかけている。
坂本少佐の従兵になる前は私にも短いながら艦艇勤務の経験があった。
その時にはそれこそ日常的に見ていた風景だったが、こうして陸上から海を見るとまた違った感慨が湧き上がってくる。
そういえば、船から見る夜の海を最後に見たのはもう何年前になるだろうか…………

「…………船に乗っていたころを思い出しているのか?」

不意にかけられた言葉に、図星をつかれた私は数秒の間答を返すことが出来なかった。
その沈黙を肯定と取ったのか、少佐がさらに言葉をつなげてくる。

「まぁ、貴様も私の従兵になって長いからな。海が恋しくなったりすることもあるだろう」
「そ、そのようなことは決して!私個人といたしましてはこのままずっと坂本さんのお供がかなえば、と…………」
「…………っ!貴様というやつは…………」

私の答えに、少佐はなぜか私から顔を逸らした。

「…………常々思うのだが貴様はそういう事を軽々しく言わぬほうが良いぞ。特に女の前では」
「は…………?」
「まぁ、分からんならいい」

要領を得ないような表情の私に、少佐が呆れたようにつぶやく。

「行くぞ。こんなところで油を売っていては夜が明けてしまう」
「……は、はいっ!」

……なんだか機嫌が悪くなっていないだろうか。
釈然としない思いを抱きつつ、私は少佐の後に慌てて付き従った。
522 :1 [saga]:2012/05/12(土) 23:44:25.69 ID:EI1usdOj0
こんにちは。>>1です。

今日はかなり短いですが、ここでちょっと憧れていた「安価」ってのをやってみようかなぁ、と思いますw
この夜の見回りで土方ともっさんは501のウィッチの誰かに出会います。
安価するのはこの誰に出会うか、です。

現在基地にいるのはミーナさんじゅうきゅうさい、ハルトマン中尉、バルクホルン大尉、サーニャちゃん、エイラさん、ルッキーニちゃん、シャーリーさん、リーネちゃん、ペリーヌさん、芳佳の10名です。
この中から土方が出会うウィッチの名前を一人書き込んでください。

それでは安価先は>>530さん、よろしくお願いします。
明日の夕方17時ごろまでにそこまでいかなかったら最新レス、一つもレスがなかったらこの回はなかったことになりますw

名前以外は下安価で。
それでは。
ちょっとドキドキしながら。
523 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [Sage]:2012/05/12(土) 23:58:16.19 ID:Dp0HlU6IO
シャーロット・E・イエーガー大尉でオナシャス
524 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/12(土) 23:58:40.79 ID:9xPxlW4qo
乙ー
便利屋扱いがなんか似合うなww
だいぶ早いけど一応安価も。バルクホルン大尉で
525 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/13(日) 00:17:15.93 ID:/oFqN4aa0
サーニャちゃん に一票で
526 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [sage]:2012/05/13(日) 01:31:48.83 ID:28pV5PDAO
ハルトマン中尉を希望
527 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/05/13(日) 02:47:47.90 ID:sLxCYc9lo
バルクホルンに一票
528 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/05/13(日) 06:51:35.09 ID:AeyiDFAqo
俺の女神シャーリーさんで
529 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/05/13(日) 08:57:33.72 ID:9l9IBtiDO
んじゃ俺と誕生日が一緒なエイラで
530 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/13(日) 10:04:55.77 ID:tKeYt+H00
ペリーヌさんで
531 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県) [sage]:2012/05/13(日) 11:04:26.97 ID:Qu5vYAdRo
エーリカ
532 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/05/13(日) 12:23:21.85 ID:IaKxPTqc0
ペリーヌさんか
映画版で一気に好きになったキャラだし楽しみだ
533 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) [sage]:2012/05/13(日) 17:14:43.98 ID:Ir67V5AAO
土方が感電すると聞いて
534 :1 [saga]:2012/05/13(日) 18:22:31.35 ID:BlzeQAQ40
どうも。1です。
530とか盛り過ぎかと思ったら1日で到達してしまい驚いていますw

ということで安価はペリーヌさんですね。
今日中には何とか上げたい思います
遅くてすいません。

皆さん結構付き合ってくださったので本編とは別の「見回りパート」としてシリーズ化できたらいいなぁ、と思ったり。
土方さんが某帝国華撃団の隊長に見えてきたのは秘密w

535 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2012/05/13(日) 18:39:05.00 ID:j1y19TJ8o
乙乙
バルクホルン大尉に一票
536 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2012/05/13(日) 18:41:12.27 ID:j1y19TJ8o
おうふ、リロードしてなかった
537 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/05/13(日) 21:12:22.11 ID:ATtdQmV90
厄介な人に当たったなぁおい。
538 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/05/13(日) 22:59:22.95 ID:fWxCIszTo
ペリーヌぺろぺろ
539 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/05/13(日) 23:57:13.88 ID:IaKxPTqc0
見回るたびに誰かと出会う2人も不憫wwwwww
いや、安価で出会わないを指定すればいいか
540 :1 [saga]:2012/05/14(月) 00:13:28.07 ID:/RL2B29P0
再びこんばんは。
1です。
何とか見回りパートペリーヌさんVerを書き上げることができました。
3時間ぐらいで書いたので誤字、間違い等あるかもしれませんがご容赦を。

>>539
もっさんルートは本編で、この見回りパートはほかのウィッチ達とのエピソード、と考えておりますのでw
541 :1 [saga]:2012/05/14(月) 00:14:12.03 ID:/RL2B29P0
「あら……坂本少佐でいらっしゃますか?」

廊下の向こうから聞こえてきた声に、私と坂本さんが足を止める。
ほの暗い廊下の向こうから近づいてくるのは、まぎれもなくクロステルマン中尉の声であった。
思わぬ場所で少佐と出会えたことに喜んでいた中尉の表情が、隣に立つ私の姿を認めた瞬間に険しいものになる。

「ん……ペリーヌか。どうした。こんな時間に」
「少佐こそ……ひ、土方卿とこんな時間に…………」
「あ、いや、これはな……」

少佐も少しばつが悪そうに頬を書いている。

「その、どうも(501再結成の)興奮で眠れそうにないのでなな、まぁ、土方をつきあわせて見回りがてら頭を冷やそうと思って」
「こ、こうふ…………」

少佐の言葉に絶句した中尉の周りに、白い光が浮かびあがりばちっ、と音を立てた。

「ど、どうしたペリーヌ!放電しているぞ」
「あ、も、申し訳ありません…………っ!」

そう言って頭を下げる中尉であったが、そのままの姿勢で私に殺気の篭っていそうな視線を送ってくる。
思わず半歩ほど後ずさる私。
喉の奥から情けない悲鳴が漏れる。
542 :1 [saga]:2012/05/14(月) 00:14:54.53 ID:/RL2B29P0
「どうした土方?」
「い、いえ何でも…………ぐえっ」
「ちょっと土方卿」

ふいに私の襟首が後ろから掴まれた。
振り返ると、クロステルマン中尉が私の襟首をつかんだまま少佐ににこやかな笑顔を向けている。

「ちょっと土方卿をお借りいたしますわ」
「え?あ、おい、ペリーヌ……」
「ごきげんよう少佐…………土方卿、行きますわよ」
「く、クロステルマン中尉?」
「文句は後で聞きますわ」
「あ…………」

何とか中尉の手から逃れようと全力で抗うものの、そのまま中尉はものすごい力で私を引きずって少佐から離れていく。
視界から消える一瞬前、こちらに手を伸ばしかけてやめた姿勢のまま、少佐が少し寂しそうな表情を浮かべていたように見えたのは、月が見せた幻覚であろうか。
543 :1 [saga]:2012/05/14(月) 00:15:40.71 ID:/RL2B29P0

「ちゅ……ちゅうい…………」
「お黙りなさい」

さて。
中尉に引きずられたまま苦しい息の中で何とか声を絞り出すも、中尉によってぴしゃりと切り捨てられる。
いや、用があるなら普通に申し付けて頂ければ…………
先ほどから首が締まったまま引きずられているこの体勢は……
あ……まずい…………いしき…………が……
私の意識はそこで途絶えた。
544 :1 [saga]:2012/05/14(月) 00:16:25.48 ID:/RL2B29P0
ん……
ゆっくりと意識が覚醒していく。
何だかこの感覚、この数か月で何度か味わったような気がする。

見慣れない天井が目に入ってくる。
石造りで、まるで中世の建物のような…………
次第に記憶がはっきりと蘇ってくると同時に、今までのパターンを思い出し、恐る恐る頭の下に意識を集中してみる。
…………ほっ。
どうやら普通の枕とベッドの感覚である。
諏訪少尉に妙な性癖持ちと誤解されて以来どうも変なところで過敏になっているようだ。

「お目覚めになりまして?」

聞こえてくる声のした方に振り向くと、クロステルマン中尉がベッドのそばの椅子に座って複雑な視線をこちらに向けていた。

「ここは……」
「私の部屋ですわ」
「え…………」
「しっ!リーネさんが起きてしまいますわ」

驚きの声を上げかけた私を、中尉が制する。
隣のベッドを見ると、ビショップ曹長が穏やかな寝息を立てているのが目に入る。

「起きられますか?」
「は……何とか」
「では、ちょっとついて来て頂けます?ここでは話もできませんし」

声を潜める中尉の後について、私は曹長を起こさないように足音を忍ばせ部屋を抜け出した。


545 :1 [saga]:2012/05/14(月) 00:17:18.24 ID:/RL2B29P0
「まず最初に謝罪しておきますわ。私も頭に血が上っておりました。申し訳ありません」

城の中庭にある小さな庭園のようなところに来て一息つくと、中尉はそうやって頭を下げた。

「い、いえ」

中尉ともあろう方に謝罪され、私はただひたすらに恐縮するしかできない。

「半年ぶりにお会いした少佐は前にもまして凛々しくなっておいでで……そんな少佐と貴方が一緒にいるのを見たらどうしても気持ちが抑えきれなくなってしまって」
「は」
「ふふ。少佐の事となると自分の事のようにお喜びになるんですのね…………まぁ私も人のことは言えませんが」

少尉に対する褒め言葉を聞いて、我知らず嬉しそうな表情を浮かべてしまったのだろう。
そう言ってクロステルマン中尉は微笑する。
月明りに彼女の金髪が反射し、その姿は神々しいと言ってもよいほどに綺麗であった。
思わず我を忘れて一瞬見入ってしまう。

「どうかされまして?」
「い、いえ、何でも」
「……そうですの?」

慌てて中尉より目をそらす。
そんな私の態度に中尉は何か問いたげであったが、すぐに自分の聞くべきことを思い出したのか、やや言いづらそうに話を切り出した。

「それで……あの、先ほどの少佐がおっしゃっていた言葉の意味は…………」
「ああ、それですか」

確かにあのセリフは傍で聞いていた私にもやや説明不足のように思えた。
中尉が誤解をするのも無理なからぬところであろう。

「はぁ…………そういうことでしたの」

私の話を聞き終えた中尉はため息をつく。

「完全に私の一人合点というわけですのね……お恥ずかしい限りですわ」

自己嫌悪するかのように額に手を当てている中尉。
しかし、しばらくたった後中尉は顔を上げ、再び私に視線を向けてきた。
その視線に含まれる色は真剣そのもので、私は思わず音もなく唾を飲み込む。
546 :1 [saga]:2012/05/14(月) 00:17:51.10 ID:/RL2B29P0

「土方卿」
「は」

クロステルマン中尉も、バルクホルン大尉と同じように私の事を「土方卿」と呼ぶ。
正直私の持つ爵位とクロステルマン中尉がお持ちの貴族の位が同じものだとは到底思えないのだが、中尉はあくまで私を「卿」として扱うのをやめようとしない。

「貴方は……坂本少佐の事、どう思っていらっしゃいますの?」
「は、それは……もちろん偉大なる上官として尊敬して」
「そういうことではなく……分かっていらっしゃいますよね」

中尉の言葉の裏に含まれる意味を悟りつつなお韜晦を試みた私の意図は、中尉の鋭い言葉によりあっけなく挫かれる。

「そ、それは……」
「貴方の仕事ぶりは少佐から何度も聞かされておりますわ。『扶桑海軍中を探しても、土方ほど頼れる奴はおらん』そう笑顔で仰っておられました」
「こ、光栄です」

自分のあずかり知らぬところでの思わぬ賛辞に、嬉しいような恥ずかしいような複雑な気分である。

「そしてあなたが少佐を見る目……それが単純ならざるものであることもまた、承知しているつもりですわ」

中尉の語気は穏やかであるが、こちらに逃げや韜晦を許さない真剣さが込められている。

「貴方が少佐に向けている感情…………それは……」
「申し訳ありませんが」

非礼を承知で中尉の言葉を遮る。
これ以上中尉の言葉を聞いていると、自覚したくないことを自覚してしまいそうだ。

「その質問にはお答えしかねます。ただこれだけは申し上げておきます。私は少佐の事を心よりご尊敬申し上げており、少佐のためなら私はいかなる辛苦をも耐える覚悟であります」
「土方卿…………」

私の言葉に中尉は納得できなさそうな表情を一瞬浮かべるものの、すぐに表情を緩める。
547 :1 [saga]:2012/05/14(月) 00:18:45.28 ID:/RL2B29P0
「…………そうですか。今はそのお言葉だけで十分ですわ。つまらない事を聞いてしまい、申し訳ございませんでした」
「いえ、こちらこそご満足いただける回答ができずに……」
「ふふ、じゃあお互い様ということにしておきましょう」

中尉はそう言って微笑を浮かべる。
…………そういえば、中尉にお礼をまだいっていなかったな。

「あ、それから中尉」
「何ですの?」
「先ほどは私をお部屋に運んでいただき、看病までしていただいたようで…………ありがとうございます」
「べ、別にそれは……原因は私なのですし、その、て、手近に空いた部屋というのが私の部屋しかなかったというだけの話ですから…………」

緊急事態とはいえ、自分の部屋に男を招き入れ、あまつさえベッドに寝かせるという先ほどの行為を改めて思い出したのか、中尉の表情が赤く染まる。
そんな少尉に私も先ほどのシチュエーションを改めて自覚してしまい、顔がほてってくるのを抑えられないでいた。

「…………」
「…………」

一瞬の沈黙の後。
私とクロステルマン中尉はどちらからともなく頷きを交し合った。

「ここは……」
「は。お互い何もなかったということにするのが一番かと」
「そ、そうですわね…………でも」

そこで言葉を切った中尉はなぜか悪戯っぽく微笑む。
548 :1 [saga]:2012/05/14(月) 00:19:44.33 ID:/RL2B29P0

「折角こうやってお話しできたのですし…………」

そこで中尉は顎に指を当てて考え込む。
しばらく考え込んだ後、

「これから私の事は名前でお呼びくださいな」
「え…………中尉?」
「その『中尉』もいりませんわ。あの豆だぬ……宮藤さんからお聞きしましたが、扶桑海軍では親しくなると上官と部下でも階級を省いて呼び合う習慣があるそうですわね」
「は、はい」
「であれば私の事も『ペリーヌ』とお呼びくださって結構ですわ」
「はぁ……ペリーヌ…………さん」
「はい」

そう答えて笑顔を浮かべるクロステルマン中尉、もといペリーヌさん。
……ならばこの際だ。
「土方卿」という何とも落ち着きの悪い呼称も改めて頂こう。

「であればペリーヌさん、私も一つお願いが」
「分かっておりますわよ…………圭助さん」

私のお願いを先取りするように、そう言って彼女は片目をつぶってみせる。
はぁ…………なんだかこの方に適いそうにない。
そう思うが、決してその感覚は不快なものではなかった。

「それでは、お休みなさいませペリーヌさん」
「…………はい。よい夢を。圭助さん」

やや大仰に挨拶を交わしてペリーヌさんと別れる。
月は相変わらず中天にあり、私たちを優しく照らしていた。
549 :1 [saga]:2012/05/14(月) 00:27:03.84 ID:/RL2B29P0
以上です。
ちょっと日付変わっちゃいましたがご容赦を。

ちょっとドキドキしてましたが、皆様結構安価に反応していただいたようなのでこの「安価で夜の見回りパート」は随時本編の外伝的な位置づけとして随時入れていけたら、と思います。
なんだかますます土方が○神さん化してるなぁw

それでは。
また来週です。
550 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長崎県) [sage]:2012/05/14(月) 01:08:05.87 ID:nGNed4tBo
乙!
土方はどこまでフラグ乱立させれば気が済むんだ…
551 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/05/14(月) 02:51:16.39 ID:uJFlVqiQ0
○神さんだからしかたないねw
いいぞもっとやってください
552 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/14(月) 09:07:12.82 ID:NYEAmT4IO
大○さんならば一向に構わん!
伊○誠でないのならば

ペリ犬さんとは微妙な距離感があっていいですなあ
553 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/15(火) 16:55:35.88 ID:Y4PnjUnIO
良きかな良きかな
ぺりいぬ嬢うつくしひ
554 :1 [saga]:2012/05/19(土) 17:36:16.11 ID:Trqbs2NV0
こんばんは。
今週の投下に参りました。
555 :1 [saga]:2012/05/19(土) 17:37:09.03 ID:Trqbs2NV0
「また土方さんにお会いできてうれしいですよー」

そう言いながら諏訪少尉が笑顔を見せる。
ここは第504戦闘航空団「アルダーウィッチーズ」の基地。
私は現在坂本少佐と宮藤さんの3人で504のために救援物資を運んできていた。
私と諏訪少尉の視線の先では坂本少佐と竹井大尉が何やら深刻そうな表情で話し合っている。
先だってのトラヤヌス作戦の事を話してでもいるのだろうか。

「何でもネウロイがネウロイを撃墜したという話でしたが……」
「はい。竹井さんが人型ネウロイとコンタクトを取ろうとした矢先の出来事だったようです。竹井さんの迅速な判断の陰で被害は最小限に抑えられたみたいですが、それでも……」

話している諏訪少尉の表情はつらそうだ。
自分がその場にいることができなかったことへの悔恨は大きいのだろう。

「504にはドッリオ隊長をはじめロマーニャの方々がたくさんいらっしゃいますから。祖国の危機に何もできないってのはやっぱり…………きゃっ!」
「私たちがどうしたっていうのかな〜〜天姫っちゃん?」
「マルチナさん!や、やめてください……ひゃんっ!」

不意に横から伸びてきた二つの腕が諏訪少尉の胸のあたりをまさぐる。
いきなりの闖入者に驚く私に隣から声がかけられた。
振り返ると、小柄な黒髪の女性が屈託のない笑顔を浮かべている。
556 :1 [saga]:2012/05/19(土) 17:37:53.30 ID:Trqbs2NV0
「あんたが土方兵曹かい?扶桑じゃうちの天姫がお世話になったみたいだね。礼を言うよ」
「あ、いえ……こちらこそお世話になりました。えっと…………」
「中島錦。扶桑陸軍第47独立飛行隊からこっちに配属されてきた中尉だよ」
「よろしく。中島中尉」
「あー、そういうのなし。錦でいいよ。かたっ苦しいのは好きじゃなくてね」

そう言って朗らかに笑う中島中尉に、坂本少佐と同じ空気を感じ取る。

「天姫ってばずっとあんたの事ばっかり喋っててさ。姉貴分としては天姫がそこまで思い慕う男ってのがちょっと気になってたんだけど…………ふむ」
「に、錦さん…………?」

急に押し黙って私の事を値踏みするようにじろじろと眺め回す中島中尉。
居心地の悪いことこの上ない。

「うん。まぁちょっと線の細いところはあるが顔つきはなかなかだ。気に入ったよ」

そう言いながら手を差し出してくる中島中尉。
557 :1 [saga]:2012/05/19(土) 17:38:23.13 ID:Trqbs2NV0
「ちょっと錦ちゃん!私そんなに土方さんの事ばっかり喋ってないよ」
「そうか?なぁマルチナ、どう思う?」
「えー。昨日も『明日501から補給隊が来るんだけど、土方さんに会えたらいいなー』とか言ってたじゃん」
「ちょ、マルチナちゃん変なこと言わないの!」
「えーでも本当じゃん」

顔を赤らめてマルチナ、と呼ばれる少女を追いかける諏訪少尉。
少女はそんな諏訪少尉から軽やかなステップで逃げ回っている。

「あの方は?」
「マルチナ・クレスピ。ロマーニャの少尉だよ。『赤ズボン隊』って言ったらわかるか?あそこにいるフェル、ルチアナと合わせて『3変人』として有名なんだが」
「ああ…………」

「赤ズボン隊」の名前には聞き覚えがあった。
ロマーニャ公直轄のウィッチ隊であり、ロマーニャ全土から優秀なウィッチだけが集められる部隊であるとのこと。
とすればあちらで宮藤さんと話していらっしゃるのがフェルナンディア・マルヴェッツィ中尉とルチアナ・マッツェイ中尉か。
確か隊長のドッリオ少佐も赤ズボン隊出身だと聞くし、この504戦闘航空団をたった1度の戦闘で壊滅に追い込んだ新型ネウロイの実力のほどがうかがい知れるというものだ。

「まぁうちの天姫もあんたには心許してるみたいだし、またいつでもおいで。歓迎するよ」
「に、錦ちゃーん!…………あ、あの土方さん!!い、今のは錦ちゃんが勝手に言ってるだけで、あ……でも土方さんの事が嫌いとかそういうことじゃ全然なくて!その、だから……」
「はははっ…………まぁこんな奴だがよろしくしてやってくれ」
「は」

中島中尉の言葉に、諏訪少尉が顔を赤らめて反論している。
そんな諏訪少尉を、中島中尉は微笑ましそうに眺めていた。
501とはずいぶん雰囲気が違うが、この504のウィッチの皆さん方達もそれぞれ信頼関係で結ばれているのだろう。
558 :1 [saga]:2012/05/19(土) 17:38:59.96 ID:Trqbs2NV0
(side sakamoto)

「ふふ……ずいぶんあっちが気になるみたいね、美緒」

そう言って微笑むのは竹井醇子大尉。
504戦闘航空団の戦闘隊長であり、私にとっては養成学校時代からの頼れる親友だ。
ヴェネツィアに出現したという新型ネウロイについての話も終わりふと土方の方に目をやると、504のウィッチ達と談笑している奴の姿が目に入った。

「何の事だ?」
「とぼけないの。さっきからずっと天姫さんたちの方ばっかり気にしてるわよ」
「…………」

醇子の言葉にとっさに言い返すことができず沈黙する。
…………別に気にしているつもりなどなかったのだが、醇子にはそう見えていたのだろうか。

「土方兵曹、だっけ?貴女、だいぶ可愛がってるみたいだけど?」
「そ、そういうのじゃない」
「いいじゃない。貴女ももう20歳。恋の一つもしていいころよ」
「なっ、こ、恋だと…………」

予想だにしなかった醇子の言葉に、全身の血液が顔に集まってくるのを自覚する。
そんな私の反応が醇子には面白かったのだろう、声を出して笑うと言葉を続けた。
559 :1 [saga]:2012/05/19(土) 17:39:28.34 ID:Trqbs2NV0
「あのね、女学校の学生じゃないんだからそんな初心な反応はないでしょ」
「き、貴様が妙なことをいうからだっ」
「妙な事なんかじゃないわよ。この際だから言わせてもらうけどね」

そこまで言うと醇子は表情を改める。

「今でこその烈風丸とかいう刀のおかげで何とか現役にとどまってるけど、本来ならとっくに引退してる年齢なのよ?その後を考えるのはちっともおかしなことじゃないわ」
「私は…………そんなこと考えたこともなかった」

私の偽らざる心境だ。
同じようなことを土方に言ったことがあるような気もするが、ウィッチでない私というのが私にはどうもうまく想像できない。
そう醇子に告げると、彼女は処置なし、とばかりにため息をつく。

「なら、今からでも考えなさいな。見たところあの土方兵曹って人、悪い人じゃなさそうだし、将来的にライバルも出てくるんじゃない?その時になって後悔しないようにね」
「私は土方をそんな風に見たことなど…………」
「はいはい。とりあえず忠告はしたからね。あとどうするかはあなた次第」

聞いてられない、とばかりに肩をすくめて醇子は宮藤たちの方へ歩き出した。
取り残された形となった私は、釈然としない思いを抱えつつ土方の方に視線を移す。
相変わらず、ほかのウィッチ達と談笑する土方の姿が目に入った。

「…………馬鹿者めが」

無意識に口をついて出てきたその言葉が土方に対してのものか、はたまた自分自身に対してのものか、それは自分自身にも判断が付きかねる問題であった。
560 :1 [saga]:2012/05/19(土) 17:39:59.97 ID:Trqbs2NV0
帰りの車の中。

「ネウロイがネウロイを…………」

竹井大尉から聞かされたトラヤヌス作戦の詳細。
坂本少佐が語るその話に、宮藤さんは驚いたように絶句する。
横須賀の基地で概要しか聞いていなかったが、竹井大尉の話を聞くに事態はかなり深刻なようだ。

「504航空団は現在再編中だが、戦力を回復するにはまだ時間がかかる。物資はあっても何よりウィッチたちの魔力が回復しないことには戦力にならんからな」
「はい」
「そしてネウロイはそんな我々の事情を斟酌してくれるような相手ではない。こうしている間にも着々とロマーニャは奴らの手に落ちていく。だからこそ」

そこで少佐は言葉を切り、後部座席の宮藤さんへと視線を移す。

「我々ストライクウィッチーズの存在が唯一の頼みの綱となる。地上戦力が迎撃しているが、ネウロイに止めをさせるのは我々ウィッチだけだ」
「坂本さん…………」

そういったきり沈黙する宮藤さんであったが、ややあって聞こえてきた言葉は意思にあふれた力強いものであった。

「私、戦います!戦って、ロマーニャを守ります!」

どうやら504のウィッチの方々と出会ったことも、宮藤さんの決断にいい影響を与えていたようだ。

「うむ。よく言った宮藤!早速帰ったら特訓だ!」

助手席で坂本少佐も心なしか嬉しそうに答える。

「よし、土方!急いで基地に帰るぞ!」
「はっ!」

少佐の言葉にこたえるように、私はアクセルを踏み込んだ。
561 :1 [saga]:2012/05/19(土) 17:40:32.18 ID:Trqbs2NV0
そして基地に帰ってより宮藤さんを含め、ウィッチの皆様方の特訓が本格的に始まった…………のだが。

「はぁ…………はぁ……」
「ふぅ……」

疲労困憊という態で地面に突っ伏す宮藤さんとビショップ曹長。
隣で立っているペリーヌさんも二人ほどではないが荒い息をついている。

「……明らかに体力不足ね」
「あの3人はブリタニアで戦って以来軍から離れていたからな。実質半年のブランクだ」
「どうする?午前の飛行訓練でも危なっかしいところがあったし、あのままではとても実戦には出せんぞ」

そんなお三方の様子を見てため息をつくヴィルケ中佐、坂本少佐、バルクホルン大尉の3名。
どうやら宮藤さんたちの再特訓の道のりはまだまだ長そうだ。
562 :1 [saga]:2012/05/19(土) 17:41:02.42 ID:Trqbs2NV0

「宮藤芳佳軍曹、リネット・ビショップ曹長。ペリーヌクロステルマン中尉。貴女方にはこれから、近所に住む元ウィッチの方のもとに行ってもらいます」

そして翌日、朝のブリーフィングでヴィルケ中佐が告げる。

「元ウィッチ……ですか」
「ああ。アンナ・フェラーラというクソババ…………ご老人でな。若いころはウィッチとして名をはせておられたと聞く。今は引退されて近くに住んでいるのだがな。
私もそこで昔さんざんしごかれたもんだ」
「しょ、少佐もですか?」

ペリーヌさんが驚いたように声を上げた。

「ああ。半年のブランクで鈍った貴様らにはちょうどいいだろう。いいか、合格を頂くまで帰ってくるな!」
「「「は、はいっ!!」」」

坂本少佐の言葉に姿勢を正して敬礼する三方。
こうして、ブランクを取り戻すための特訓が始まった。

563 :1 [saga]:2012/05/19(土) 17:42:59.82 ID:Trqbs2NV0
以上です。
短くてすいません。
BD版の第3話を見直したら何かいろいろ忘れてること多いなぁ、と。
504基地のシーンは最初の数分だけなんですが、膨らませすぎてしまいましたw

それでは。
明日あたりにまた見回りパートの安価しに来ると思います。
564 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [sage]:2012/05/19(土) 18:28:31.95 ID:vvNYlCqAO
565 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/19(土) 18:35:00.31 ID:k5knCXhAo
乙です
566 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/19(土) 19:12:39.35 ID:tbgzH48DO
乙です
そういえばDSのいやぷにの話は……うん、土方には関係無いな
567 :1 [saga]:2012/05/20(日) 23:27:57.49 ID:3+2MDcs60
ぱたん。

ドアを閉める音が思いのほか大きく響き渡る。
約束の時間にはなっていないが、おそらく少佐の事だから5分前には待っていらっしゃるだろう。
足音を立てないよう細心の注意を払って廊下をしばらく歩くと、坂本少佐が月光に照らされて立っているのが目に入る。
…………やはり少佐をお待たせしてしまったか。
私の姿を見つけると、少佐は軽く手を挙げた。

「お待たせして申し訳ありません」
「いや、そんなに待ってはいない。それよりこちらこそすまんな。いつもいつも」
「いえ、戦いの方ではお役にたてませんし」

むしろこういった形で皆様のお役にたてる方が嬉しいというものだ。

「……うむ。ならば行くか」
「は」

そう言って歩き出す少佐の後ろに従い、私は暗い廊下へと歩みを進めた。

568 :1 [saga]:2012/05/20(日) 23:30:02.88 ID:3+2MDcs60
こんばんは。

>>565
いやぷにはやったことないんですが赤ズボン隊の方々が出ているようですね。


さて、今週もまた夜の見回りパート安価です。
現在基地にいるのはミーナさんじゅうきゅうさい、バルクホルン大尉、ハルトマン中尉、シャーリーさん、ルッキーニちゃん、エイラさん、サーニャちゃんの7名です。
ペリーヌさん、リーネちゃん、芳佳は修行中で基地にいません。

今回から「もっさん」の選択肢を設けます。
これが選ばれたときは誰とも出会わず、もっさんストーリーになります。

それでは。

今回は>>573さん、よろしくお願いします
569 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県) [sage]:2012/05/20(日) 23:55:48.32 ID:2nRgMKlbo
天使
570 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/05/21(月) 00:01:48.10 ID:KivU+T70o
サーニャ
571 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県) [sage]:2012/05/21(月) 00:07:59.03 ID:y+wEA2a9o
エーリカ
572 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/21(月) 00:09:03.24 ID:ibdk1hkDO
バルクホルンさん

>>568実は二話の直後、501基地を改装しなきゃいけなくて円形闘技場で2週間サバイバルをするっていう……
573 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) :2012/05/21(月) 00:12:08.97 ID:X78a0AOAO
もっさん
574 :1 [saga]:2012/05/21(月) 20:29:57.56 ID:+Xiv+o220
まさかのもっさんルート……w
いきなりもっさんルートに行くとは思ってなかったんで今から書きますw
何とか今日中には…………
575 :1 [saga]:2012/05/22(火) 00:22:05.02 ID:zl2zlq5S0
こんにちはー。
夜の見回りもっさんルート、出来上がりました。
短いですがご容赦を。
576 :1 [saga]:2012/05/22(火) 00:22:41.15 ID:zl2zlq5S0
「……静かだな」
「は」

前を歩く少佐の言葉に頷く。
確かにこの基地は無駄に広い。
それだけにどんな小さな音でも反響して大きく聞こえるものなのだ。


くぅ。


見回りを始めてすぐ、そんな風に聞こえてきた小さな音。
この音の発生源は私ではない。
それは私が一番よく分かっている。
ならばおのずと答えは決まってくる。
普段なら聞かなかったふりをすることもできただろう。
しかし、この石造りの広い空間の中で、その音は無視するにはあまりに不自然すぎるほどにはっきりと聞こえてきた。
577 :1 [saga]:2012/05/22(火) 00:23:56.63 ID:zl2zlq5S0
「…………」

少佐は立ち止まり、私から顔をそむけるようにあらぬ方に視線を向けている。

「あ、あの少佐…………」
「こ……これはだな!今日は宮藤たちの訓練に付き合っていたら気合が乗りすぎてしまってな!飯を食うのをうっかり忘れてしまっただけというかなんというか…………って土方何を笑っている!」
「…………っ!も、申し訳……あ、ありません……」
「口元が緩んでいるぞ馬鹿者!」

両腕をせわしなく動かし、妙に早口で言い訳をする少佐に妙におかしさが湧いてきてしまい、思わず浮かんでくる笑みを抑えるのに失敗した。

「もういい!今日はやめだ!部屋に帰るぞ私は!!」
「ちょ、ちょっとお待ちください少佐!」

そのまま踵を返す少佐の背中に、あわてて声をかける。

「何だ!」
「あの、わたくしも少々小腹が減っておりまして…………厨房を使用する許可を頂きたいのですが」
「…………」

私の言葉に、少佐は一瞬考え込むが、やがていつものような豪快な笑みを浮かべる。

「は、はっはっはっ!なんだ土方……そ、それならそうと早く言わんか!まぁ……そういうことなら仕方ないな!と、特別だからな!ミーナやバルクホルンには見つからんようにしろよ」
「は」
「では厨房へ向かうぞ。土方、ぐずぐずするな!」

急に元気を取り戻した少佐が私の手をつかんで引っ張っていくのにまかせるように、私も少佐の後に続いた。
578 :1 [saga]:2012/05/22(火) 00:24:35.86 ID:zl2zlq5S0
厨房。
月の光が差し込まないそこは、廊下以上に暗く、隣に立っているはずの少佐の気配すら感じ取れないほどであった。

「暗いな」
「ひゃっ!」
「こ、こら!妙な声を出すな馬鹿者!!」

ふいに、私の耳のそばで囁くように聞こえてきた少佐の声に驚きの声を上げる私を少佐が口に指を当てて制する。
首筋に少佐の息遣いが感じられるのが、妙にくすぐったい。

「ふぅ…………まぁしかしこう暗くてはな……ふむ。ならばこれを明かり代わりにするか」
「烈風丸を抜かないでください!」
「…………そうか」

……全く。
それがどれだけ大それたものか分かっていらっしゃるのだろうか。
心なしか残念そうに烈風丸を鞘に戻す少佐。
幸い、見回りなので懐中電灯を持ってきている。
これに薄い紙を張れば光が外に漏れることはないだろう。
579 :1 [saga]:2012/05/22(火) 00:25:02.27 ID:zl2zlq5S0
そして数十分後。

「……さすがは土方だな」
「恐縮です」

ちょうど白飯があったのは好都合だった。
懐中電灯の光があるとはいえ、そんな頼りない光の中で複雑な料理などできるはずもない。
宮藤さんに感謝、である。
これ以上ないという笑顔で握り飯をほおばる少佐の姿をほほえましく見つめる。

「……どうした土方?」

どうやら私は自分で思っていた以上に長時間見つめていたようだ。
どこか居心地悪そうに少佐が睨んでくる。
話を切りかえるように、ぶっきらぼうに少佐がもう一つの皿に盛られた握り飯を示した。

「土方も食え。特別に私が握ったものだ」
「は」

少佐の言葉にこたえ、目の前にある「丸い」握り飯に手を伸ばす。
少佐の握られる丸い握り飯も久しぶりだ。
私はちゃんと三角に握ろうとしているのだ、と主張するが何故か最終的に出来上がるのはいつもきまって丸い握り飯であった。
580 :1 [saga]:2012/05/22(火) 00:25:32.43 ID:zl2zlq5S0
「…………不満そうだな」
「い、いえ……そのようなことは」
「ふん……別に食わんでもいい」

私の表情に違和感を感じ取ったのか、少佐がすねたようにそっぽを向く。
しばらくそうしていた少佐であるが、やがて何かを決意したように頷くと、恐る恐るといった態で声をかけてきた。

「な、なぁ土方…………」
「は」
「これは一般論として答えてほしいのだが……いやそれじゃ意味がないな。貴様についての特殊論として…………ああそうじゃなくて!」

何やらいろいろとつぶやきながら時折頭を掻き毟る少佐。

「と、とにかくだ……やはり貴様もその…………女は料理や家事ができた方が……いいと思うか?」
「は?」

一瞬何を聞かれたかわからず、失礼極まる返事になってしまったが少佐は気にしておられないようだ。
581 :1 [saga]:2012/05/22(火) 00:26:00.05 ID:zl2zlq5S0
「だ・か・ら・だ!その、貴様がもし……その、女と付き合ったり結婚するとしてだ、やはりその、料理や家事のできる女の方がいいと思うのか?」
「えっと……いえ、別にそのようなことは」
「ほ、本当だな?あとで『やっぱりなし』とかいうのはなしだぞ!」
「いえ。私も家事や料理をするのは好きなので…………特にそういった面で面倒をかけようとは」
「う、うむ……そう言ってくれるのは嬉しいのだがな。し、しかし…………それもなんとなく女として釈然としないものが………ううむ」

そこで少佐は考え込むように顎に手を当てて沈黙する。

「そうだ!家事は交替でやるというのはどうだ?私も今からならある程度覚えられるだろうし!」
「あ、あの、坂本さん?」

…………少佐は何を言っているのだろうか。
私の疑問の表情に、少佐は何故か不機嫌そうに声を大きくする。

「……その顔は何だ?私が家事など覚えられるはずなどないとか思っているな!これでも簡単な料理はできるし、軍人として自分の事は自分でする習慣はついてるのだぞ!」
「は。それは分かっておりますが……」
「ならば問題ないではないか!うむ……それで週末は二人で分担するのだ。まぁ職業柄なかなか家には帰れんだろうがな。これならば貴様も文句なかろう」
「い、いえ、そういうことではなく……………」
「何だ。何か文句がるのか?私がやるより自分がやる方がましだとか思っているのか?だからそういうことはこれからおいおい覚えていけばいいと……」
582 :1 [saga]:2012/05/22(火) 00:26:31.88 ID:zl2zlq5S0
ぱちり。

不意に視界が明るくなる。

「……全く。何やってるの貴方たち」

まぶしさに目を伏せる私たちの耳に聞こえてきたのはヴィルケ中佐の声。

「なんだか人の声が聞こえると思ったら……美緒、これはどういうこと?」

その言葉に、少佐は正気に返ったようにあたりを見回す。

「あ、こ、これはだな、その、夜の見回りをしていたんだが、その…………」
「じゃあこれは何?」
「…………すまん。どうしても腹が減ってしまってな」

観念したように告白する少佐にヴィルケ中佐は大きくため息をつく。

「全く……土方兵曹!美緒が無茶をやりだしたら止めるのがあなたの役目でしょう?」
「は。申し訳ございません」
「待てミーナ。土方は悪くない。私が強引に…………」
「分かってるわよそんなこと。とりあえず今日はもう寝なさい。そして明日朝一番に二人そろって司令室まで来ること。わかったわね」
「だからさっきも……」
「坂本少佐!」
「は」

なおも何事か言い訳しようとする少佐を、ヴィルケ中佐はぴしゃりと黙らせる。
去っていく中佐の後姿が見えなくなってから、私と少佐はしかし、なぜか顔を見合わせて笑いだしてしまいヴィルケ中佐にさらに怒られることになったのであった。
583 :1 [saga]:2012/05/22(火) 00:27:07.62 ID:zl2zlq5S0
「あっれー?少佐にけーすけ兄ちゃん、どったの?」
「……まぁ昨日いろいろあってな」

昨日の罰としてハンガー掃除をしている私と少佐の姿が珍しかったのか、ルッキーニ少尉が話しかけてくる。

「ふ〜ん。少佐はともかくけーすけ兄ちゃんまでなんて珍しいね」
「あ、それは……」
「まぁ土方は私のとばっちりを受けたようなものだがな」

さりげなく私をかばってくださる少佐。
そんなお二人のやり取りを眺めながら、私は昨日のことについてぼんやりと思いを巡らせていた。
少佐の仰りよう、あれはまるで…………

「土方兵曹!手が止まってるわよ!……真面目にやる気がないなら少し運動でもしてきたらどう?具体的に言うと滑走路10周くらい」
「はっ!」

不意に聞こえてきたヴィルケ中佐の言葉に私は思考を中断する。

「兄ちゃん怒られてやんのー」

そんなルッキーニ少尉の言葉を後ろに受けつつ、私は滑走路へと飛び出していった。
584 :1 [saga]:2012/05/22(火) 00:28:11.44 ID:zl2zlq5S0
以上です。
もっさんと土方の関係がかなり迷走してる感じですが……
楽しんでいただければ幸いです。

それでは。
また来週。
585 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/05/22(火) 00:41:41.25 ID:Btlp0RvD0
2828しちゃうぜどうしても。
少佐が乙女チックというかなんというか…
家柄でいったら竹井さんも土方さんのお見合い相手になれるんだよな。
586 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/22(火) 00:53:31.07 ID:iULgZ5K8o
2828
587 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/22(火) 07:49:09.77 ID:bdJGxxnIO
乙ー
すっかりワイフ気取りのもっさんかわいいww
588 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) :2012/05/22(火) 22:07:13.47 ID:4H++NlYAO
もっさん完全に結婚を前提に会話してるじゃないですかー!
やったー!
589 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/05/24(木) 16:28:35.64 ID:7EXpXlzw0
寝室に帰ってから自分の言った言葉の意味を理解して悶えるもっさんを妄想して萌えた
590 :1 [saga]:2012/05/26(土) 22:39:30.78 ID:R77/kGo80
1です。
申し訳ありません。
ちょっと忙しくて今日中の投下ができそうにないです。
明日には何とか投下できるようにしたいと思います。

>>589
まさにそういうもっさんを想像しつつ書きましたw
591 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県) [sage]:2012/05/27(日) 23:02:17.31 ID:Mg53qrWmo
ええい!>>1はまだか!
592 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/05/27(日) 23:42:10.95 ID:M7Vmz9qMo
こない……
593 :1 [saga]:2012/05/27(日) 23:57:36.64 ID:k4Y1Citd0
すいません!1です。
忙しいのは何とかなったのですがネタが思いつきませんでしたw
実のところまだ半分ぐらいしか書けてません。

このまま投下なしというのも申し訳ないので変則的になりますが夜の見回り安価を先にします。



ひた、ひた、ひた。


今日もまた、足音を立てないよう細心の注意を払って廊下をしばらく歩く。
この時間に見回りを行うのも恒例になってきた気がする。
私がどれほど余裕を持って行っても、

「ああ。毎回済まないな」

少佐は必ず私より先にいて待っているのが常であった。

「お待たせして申し訳ありません」
「いや、そんなに待ってはいない。それよりこちらこそすまんな。いつもいつも」

これもまた恒例になりつつあるやり取り。
しかし、こういう形で少佐と少しでもともにいられるというのはやはり、何事にも代えがたいものだ。

「……うむ。ならば行くか」
「は」

そう言って歩き出す少佐の後ろに従い、私は暗い廊下へと歩みを進めた。


選択肢は前回と同じ、ミーナさんじゅうきゅうさい、ハルトマン中尉、バルクホルン大尉、シャーリーさん、ルッキーニちゃん、サーニャちゃん、エイラさん、もっさんの8つ。

ちょっと先に>>600で行ってみます。

期限は明日の夕方。


それでは。
本当に申し訳ありませんでした。
594 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/27(日) 23:59:41.57 ID:hEpRh26jo
もっかいもっさんで
595 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/28(月) 00:02:41.55 ID:GIthODr0o
バルクホルン大尉で
596 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/05/28(月) 00:44:00.73 ID:NMiqVdr90
ハルトマン中尉で。
597 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [sage]:2012/05/28(月) 00:44:29.84 ID:QLWK+eSAO
ハルトマン中尉を希望
598 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/05/28(月) 01:07:43.41 ID:ooDxzdu3o
サーニャちゃん
599 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/05/28(月) 01:45:27.33 ID:KRsRNchc0
シャーリーさん
600 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/28(月) 01:46:12.87 ID:rQUuGZiIO
シャーリー
601 :1 [saga]:2012/05/28(月) 22:32:08.42 ID:FQuac83M0
こんばんは。1です。
シャーリーさんですね。
何とか書き上げられました。
例によって短いです。

それでは。
やっと投下できる。
602 :1 [saga]:2012/05/28(月) 22:33:07.52 ID:FQuac83M0
「今日はストライカーユニットの格納庫の方に行ってみるか」
「は」

少佐の後について歩きつつ、ふと思い出す。
そういえば宮藤博士がよこされたあの謎の設計図の解析は進んでいるのだろうか。

「そうだな。……ははっ、あれからいろいろありすぎて忘れていた」

そう言って笑う少佐。
まさか501が再結成されるとはあのころは思いもしなかったのだから無理もない。

「そういえばあれを届けてくれた504の……諏訪だったか、彼女とはずいぶん懇意にしているようだが」
「え?い、いえそんなことは…………」

少佐としては何て事のない話の種として持ち出したのだろうが、初めての出会いが衝撃的過ぎたためどうも諏訪少尉の話題になると虚心ではいられない自分がいる。

「…………そういえば先だっても504のウィッチ達とも仲良く話していたようだな」

続いての少佐の言葉にははっきりと険がこもっていた。

「は、その、天姫さんが私の事を504の方々にお話ししていたらしく、その」
「ほぅ……『天姫さん』か。そういえばあの時は気づかなかったがいつから名前で呼ぶようになったのだ貴様」
「そ、それは…………」
「……どうしたその表情は。まるで私が貴様を問い詰めているようではないか」

そういう少佐の表情は笑顔だが、その背後から放たれるプレッシャーは如実に少佐が不機嫌になっていることを示していた。
603 :1 [saga]:2012/05/28(月) 22:33:46.61 ID:FQuac83M0
「……あ、あれは?」
「どうした?」

救いを求めるように周囲に視線を向けると、ちょうど折よくストライカーユニットの格納庫が入ってくる。
しかし格納庫の扉が少し開いており、そこから明かりが漏れ出ていた。
考えづらいが不審者の類であろうか。

「少佐……」

緊張を帯びた口調で坂本少佐のほうを見るが、なぜか視線の先の坂本少佐は苦笑を浮かべている。

「たぶん奴だ。全くブリタニアにいたころから変っとらんな。就寝時間は守れと何度も言っているのだが」
「…………奴、ですか」

坂本少佐の口調からしてこの格納庫にいる人間が誰か分かっているのだろうか。
そんな少々の疑問を感じつつ、少佐の後に従って格納庫へと足を踏み入れた。
そこにいたのは、製図台の上の一枚の設計図を眺めているシャーリーさんの姿であった。

「シャーリーさん?」
「…………ん?」
「……っ!」

振り返ったシャーリーさんの格好に思わず目を逸らす。
その豊満な肉体をどうにか押し込んだような作業服の上衣は大きくはだけられ、その姿は男である私にはいささか刺激が強いものとなっていた。
そんな私には気づかず、少佐はシャーリーさんに声をかける。
604 :1 [saga]:2012/05/28(月) 22:34:13.57 ID:FQuac83M0
「シャーリー。またこんなところか。休むのも仕事の一つだといってあるだろう」
「ははは……ごめん少佐。ちょっと時間忘れちゃって。そちらは夜の見回りかい?」
「は」
「ふーん…………土方の兄さんと二人きりとは、仲のよろしいこって」

そう言いつつ、シャーリーさんはにやり、と笑う。

「シャーリー?」
「いやいや、何でもありませんよ少佐殿?」

少佐の問い詰めるような口調にも動じず、わざとらしく大仰なポーズで答えて見せるシャーリーさん。
……相変わらず自由なお人だ、と思う。
意図しての事か無意識の事かわからないが、その動きに合わせるようにシャーリーさんの……その、たゆんたゆんと揺れるある部分に自然と目がひきつけられる。
…………その格好は何とかならないだろうか。
どうも目のやり場に困る。
そんな私の視線の先に気付いたのか、少佐の機嫌が悪化するのが感じ取れる。

「…………何を見ている土方?」
「い、いえ何でも!」

こちらを睨んでくる少佐に、慌てて答える私だが、当のシャーリーさんは気にした様子もなく私の視線など気にならないかのように胸元のシャツを引っ張って風を送ったりしている。

605 :1 [saga]:2012/05/28(月) 22:35:19.50 ID:FQuac83M0
「あのな…………シャーリー、その格好は何だ。土方が目のやり場に困っているぞ」
「ははっ。この作業服、窮屈でさ。まぁ土方の兄さんなら別にいいよ」

そういって無邪気に笑うシャーリーさん。
そちらが良くてもこちらは反応に困るのですが。
思わず視線をシャーリーさんから外す
その視線の先には机の上に広げられた一枚の設計図。

「これは…………?」

どうやらストライカーユニットの設計図のようだが、どうも今までの機体とはかなり違って見える。
何気なく漏らした言葉に反応したのはシャーリーさんであった。

「ああ、何だと思う?」
「ストライカーユニットの図面、ですか…………でも何だか今までのとはかなり違うみたいですね」
「わかるかい?」

私の言葉にシャーリーさんは嬉しそうに私の傍へとやってくる。

「すごいだろ?ジェットストライカー。いわゆるターボジェットを備えたストライカーユニットさ。レシプロ機じゃ出せないものすごいスピードが出せるって聞いて、完成したら一番に穿いてみたいと思ってたんだ」

ジェットストライカー。
その言葉には聞き覚えがあった。
606 :1 [saga]:2012/05/28(月) 22:35:53.78 ID:FQuac83M0

「507にいるハルトマンの妹が開発に携わってるらしくてね。ハルトマンに頼み込んでその妹から図面のコピーを手に入れてもらったんだ。図面があったからどうだってわけじゃないんだけど、いつかこれを穿いて空を飛ぶ自分を想像するといてもたってもいられなくて」

そう言ってシャーリーさんは、図面を指差しながら専門用語を駆使して色々な説明を始める。
ストライカー工学など兵学校で一通り学んだだけの私だが、それでもシャーリーさんの説明は私のような門外漢にも興味深く聞けるようなものであった。
どうやらこういうことを話せるのが楽しくて仕方ないらしい。
好きこそものの何とやら、とはよく言ったものだ。
しかし…………説明に熱中するあまり、私と体を密着させるようになっているのに気づいていない。

ぐい。

「いたたっ」

不意に耳が引っ張られる感覚に私の意識が戻る。
振り向く間もなく坂本少佐にそのまま耳を引っ張られ強引にシャーリーさんから引き離された。

「行くぞ土方。シャーリーもさっさと寝るんだぞ」
「はーい。お二人さんも仲よくな」
「余計なことは言わんでいい!!」

少佐とそんなやり取りをしているシャーリーさんに私も声をかける。

「それではシャーリーさん。あまり無理をなされぬよう」
「おー。土方の兄さんもまたなー。今度また色々教えてやるよ」
「は」
「土方っ!」
「は、はいっ!ただいま!」

笑顔で手を振るシャーリーさんに会釈を返すと、私は慌てて坂本少佐のあとを追いかけていった。
607 :1 [saga]:2012/05/28(月) 22:36:40.05 ID:FQuac83M0
「…………」
「あ、あの、坂本さん……」
「……」
「その、さ、坂本……さん」
「土方」
「は、はいっ」

それから暫く無言のまま早足で歩き続けた少佐であったが不意にそういって立ち止まった。
その後ろを同じく早足で追いかけていた私は思わずぶつかりそうになってしまう。

「その、だな」
「はっ」

「やはり貴様も…………その、お、大きい方が……」

「……は?」
「い、やっぱり何でもない気にするなっ」

何かを呟いたようだが声が小さくて聞き取れなかった。
聞きなおすと急に坂本少佐は再びこちらに背中を向けて早足で歩き出す。
再び私は慌てて追いかけるしかなかった。

「あの、坂本さん、先程は何を……」
「う、うるさいっ!きょ、今日はもう解散だっ!さっさと部屋にもどれ!」
「は、はっ!」

突然の態度の急変に戸惑う私を残し、少佐は足元も荒く廊下の先へと消えていった。

608 :1 [saga]:2012/05/28(月) 22:38:40.33 ID:FQuac83M0
というところでここまでです。
シャーリーさんって土方と絡ませやすいんですよね何だか。
本編でも出番が多いのはそのためですw

でも私が一番好きなのはサーニャちゃんですから(迫真)

まぁとにかく次話はできるだけ早く上げたいと思います。
それでは。
609 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県) [sage]:2012/05/28(月) 22:48:06.69 ID:csGdNLSwo
>「やはり貴様も…………その、お、大きい方が……」

フラウは今泣いているんだ!
610 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/05/29(火) 01:52:42.74 ID:ps/9Lbyw0
乙です
少佐も小さくはないよね、別に・・・・・・
>>1には悪いが私が一番好きなのはシャーリーさんですから(真剣)
今回も大満足ですがシャーリーが恋しくなったら今度こそ自力で安価取ってみせますとも
611 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/05/29(火) 22:21:23.50 ID:V322nUT10
上から4番目だから普通だよな
612 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/05/29(火) 23:39:10.38 ID:ps/9Lbyw0
シャーリー>リーネ>ミーナ>もっさん=ゲルト>エイラ>ペリ犬=芳佳>サーニャ>エーリカ>ルッキーニ
こんな感じでしょうか?
公式でサイズ表とかあったっけ?
613 :1 [saga]:2012/05/30(水) 23:24:42.64 ID:0s1PQ5a/0
セルフage
>>612
公式では
シャーリー>リーネ>ミーナ>もっさん>トゥルーデ>エイラ>サーニャ(ここ重要)>ペリーヌ>芳佳>エーリカ>ルッキーニ
らしいとWikiにはありました。
もっさんはおっきい方なんですねw
614 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/31(木) 19:09:12.06 ID:qDAXu2zIO
ジェットといえばMe262かな?
615 :1 [saga]:2012/06/02(土) 12:21:33.72 ID:prv5dyvJ0
こんにちは。
6月になりましたね。
ちょっと早いですが今週分の投下です。
616 :1 [saga]:2012/06/02(土) 12:22:20.68 ID:prv5dyvJ0
「土方兵曹、ではよろしくお願いします」
「は」

そう言い残して去っていくヴィルケ中佐の後姿を見送りつつ、私はあたりを見回した。
そこには大小さまざまの物資が梱包された状態で並んでいる。
宮藤さんたちが近所に住む元ウィッチの方たちのもとに修行に向かってより数日後。
501基地は稼働したばかりであり、稼働可能状態にするためにいろいろな物資が断続的に運び込まれることになる。
基地の維持に不可決なものからウィッチの皆様の私物まで、それらの荷解きと選り分けの監督。
それが私に与えられた最初の任務であった。
作業員たちに指示を与えつつ、不審な荷物がないか一通り見て回る。

「…………これは」

ある一つのトランクの前に来たとき思わず私は呟いた。
留め金は締まっているが、雑多に詰め込んだのがありありと分かる様子で、少しでも乱暴に扱ったら内側からはじけ飛びそうなほどに膨れている。
しかも隙間からはみ出しているように見える白い布は……
…………あまり考えないほうがよさそうだ。
私は首を振って埒もない連想を頭から追い出すと荷札を確認する。
そこには予想通りの名前が書いてあった。

すなわち。

「エーリカ・ハルトマン中尉」

であった。
617 :1 [saga]:2012/06/02(土) 12:23:17.93 ID:prv5dyvJ0
「……どうしましょうか、これ」

途方に暮れたような作業員たちの表情に私も頭を抱えたくなった。
ここまで運んでくる間も、大の男が二人がかりでやっと運んできたとのことである。

「まぁ、私が何とかしておこう。貴様らはほかの荷物にかかれ」

そう言ってとりあえず作業員たちを他の作業にかからせたものの、何かいい思案が浮かんだわけではない。
しかしウィッチの方々の私物ともなればなるべく早くお届けせねば日常生活に支障が出てしまう。

荷物を前に立ち尽くす私に、不意に声がかけられた。

「ん?土方卿か?」
「あ…………バルクホルン大尉」
「この荷物は…………いや済まない。事情は理解した」

振り返った先には、ハルトマン中尉とコンビを組むカールスラント二大エースの片割れ、バルクホルン大尉が立っていた。
私のそばに来ると、目の前の荷物に貼ってある荷札の名前を見ただけですべてを理解したようだ。
額に指を当てつつ眩暈をこらえるように頭を振る。

「……済まないな土方卿。あいつには常々整理整頓はしっかりしろと口を酸っぱくして言っているのだがな」
「は…………」
「カールスラント軍人にあるまじき、というか人としてあるまじきずぼらさだぞあいつは。ブリタニア基地での奴の部屋を見たことがあるか?あれはもはや人が生活できるような部屋では…………」

堰を切ったようにハルトマン中尉への愚痴をこぼし始める大尉。
その話がひと段落するまで、私にはただ待つしかできなかった。
618 :1 [saga]:2012/06/02(土) 12:23:38.02 ID:prv5dyvJ0

「…………重ね重ね済まなかった。」
「い、いえ、そんな……」

私の隣を歩く大尉がそう言って頭を下げる。
その手には先ほどのハルトマン中尉のトランクが握られている。
結局中尉のトランクは私一人の力では動かせず、大尉にウィッチとしての力を使っていただくという情けない結果となってしまった。
そのことを責めるでもなく、かえって済まないと頭を下げる大尉の姿に、私はただひたすら恐縮するしかできなかった。
ついで、ということで私の手にはバルクホルン大尉の荷物がある。
ハルトマン中尉と同じぐらいのトランクだが私でも片手で持てるほどに軽く、いろんな意味で好対照なお二人の姿を垣間見たような気分にさせられる。

「時に土方卿、妹御は元気か」

ふいに話題を転換するように、バルクホルン大尉が尋ねてきた。
……そういえばバルクホルン大尉にも妹がおられたな。
同じ妹を持つ身として何か相通じるものを感じてしまう。

「は。無事に扶桑のウィッチ養成課程を卒業したとの知らせが参りました。長い軍隊生活、どこかで会えることがあるかもしれません」
「そうか……妹が同じ道に進んできてくれるというのもいいものなのだろうな。クリスには到底無理だが…………」
「妹さんのお加減はいかがです?」
「ああ。徐々に回復してきてはいるようだ…………まぁ、こういうご時世でなければずっと一緒にいてやりたいのだがな」

そう言って遠くを見つめる大尉の姿はシャーリーさんが冗談交じりに「シスコン」と呼ぶのも頷ける。

「ん?どうした土方卿」
「あ、いえ、なんでも…………」

そう答えたところで大尉が立ち止まる。
どうやら目的地に着いたようだ。
619 :1 [saga]:2012/06/02(土) 12:24:07.79 ID:prv5dyvJ0
「さて。まぁ奴の事だからおそらく寝ているだろうが……せっかくだし茶でもご馳走しよう。少し寄っていくといい」
「いえ私は仕事が……」
「迷惑をかけた詫びだと思ってくれ。何ならこの後の仕事を手伝ってもいいぞ」
「さ、さすがにそれは…………」

そんなやり取りをしながらドアを開ける。
ウィッチの方々のお部屋は初めて(正確に言うとペリーヌさんに部屋に連れ込まれたことはあるが)見るが、ドアの向こうの部屋はかなり広い。
二人でこの部屋を使えるというのだとしたらかなり贅沢な話だ。
欧州らしい堅牢な石造りの部屋に、ベッドが二つ並んでおり、部屋の真ん中が柵のようなものでしっかりと区切られていた。

「…………」
「これは『ジークフリート線』だ。こうしてはっきり区切っておかないとハルトマンの奴、私のスペースだろうがなんだろうが構わずに散らかし始めるからな」

私の怪訝そうな表情に気付いた大尉が苦笑しつつ説明してくださる。
なるほど。
日常生活でのハルトマン中尉はどうやら噂以上の方のようだ。
同じカールスラント人なのにこうも違うものなのだろうか。
真ん中の「ジークフリート線」を境に部屋の様子も好対照をなしている。
いかにも軍人らしく一部の隙もなく整頓された右半分。
足の踏み場もない、という言葉がまさにぴったり当てはまる左半分。
その中心のベッドでは小さな塊がもぞもぞと毛布をかぶってうごめいている。
620 :1 [saga]:2012/06/02(土) 12:24:55.46 ID:prv5dyvJ0
「んー…………トゥルーデと……けーすけ?」

私たちが入ってきた気配に気づいたか、物憂げにごそごそと体を起こすハルトマン中尉。
そんな中尉の態度に、大尉は早速声を荒げる。

「いつまで寝とるか貴様!土方卿が貴様の私物を持ってきてくれたぞ」
「ん〜〜そう。ありがとーけーすけ…………んんっ」

焦点の定まっていないとろんとした目をこちらに向けると思いっきり伸びをする。

ぱさり。

そんな軽い音とともに中尉のまとっていた毛布が床へとずり落ちた。

「全く貴様はいつもいつも…………」
「…………」

いつものようにハルトマン中尉を注意する大尉の声が途中で途切れる。
無理もない。
時が止まった、というのはまさにこのような時に使う表現なのだろうか。

毛布の下から現れたハルトマン中尉の姿は、一糸まとわぬ姿であった。
621 :1 [saga]:2012/06/02(土) 12:25:31.38 ID:prv5dyvJ0
「き、ききききき貴様っ!何という格好で…………」
「んー…………ありゃ」
「『ありゃ』ではないっ!さっさと服を着んかハルトマン!」

慌てて後ろを向いたため一瞬しかその姿は目に入らなかったものの、その姿は私の脳裏に鮮烈すぎるほどに焼き付いていた。
背後でバルクホルン大尉が叫んでいる声が聞こえる。

「だってー、持ってきた服、みんな汗臭くなっちゃったんだもん。気持ち悪いよ」
「だからと言って裸で寝る奴があるかっ!ちょうど貴様の私物を持ってきたからさっさと服を着ろ!」

後ろの方からそんな風に言い合いをする声が聞こえてきて、不謹慎の極みながら思わず吹き出しそうになるのをこらえる。

「えーっと……ズボンズボン…………あったこれだ」
「全くお前というやつは……少しは規律というものをだな」
「はいはい。わかってるよー」
「分かってないだろう!」

結局、ハルトマン中尉が服を着終わったのはそれからたっぷりと十分ほどが経過した後であった。

622 :1 [saga]:2012/06/02(土) 12:25:57.14 ID:prv5dyvJ0
「いやー、修羅場だったねぇ」
「何を他人事みたいに…………貴様はもっとカールスラント軍人としての意識をだな……」
「はいはい……はむっ」

何とか人心地がついて、我々はバルクホルン大尉が入れて下さった紅茶とお菓子を前にしていた。
バルクホルン大尉の怒気を受けても、中尉は涼しい顔でお菓子をほおばっている。

「まぁ、でもけーすけには悪いことしたよ。ごめん」
「それが反省している者の態度か!」
「ごめんね。ひんそーな物見せちゃって。トゥルーデのだったらちょっとは喜んでもらえたんだろうけど」
「…………貴様はもうしゃべるな。頼むから」

ハルトマン中尉の言葉に先ほどの光景が思わず脳裏によみがえってくる。
思わず顔が赤くなるのを自覚し、中尉から目をそらす。

「ま、とにかくありがと。そして…………」

そんな私の態度を知ってか知らずか、中尉は満面の笑みを浮かべ、私に右手を差し出してきた。

「これからよろしくね、けーすけ!」
「そうだな…………まぁハルトマンがいろいろ迷惑をかけると思うが、卿なら何とかしてくれるだろう。よろしく頼む」

同じように左手を差し出してくる大尉。

「は。こちらこそ、よろしくお願いします」

そう答える私の表情がやや緩んでしまったのは仕方ない事であったと思いたい。


623 :1 [saga]:2012/06/02(土) 12:27:21.90 ID:prv5dyvJ0
…………以上です。
なるべくいろんなキャラをまんべんなく出したいのですが難しいですね。

それでは。
また2,3日後に安価しに来ます
624 :1 [saga]:2012/06/04(月) 00:27:51.96 ID:BzoPDqlV0
セルフage

明日あたり安価します。
よろしくおねがいしますね。
625 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/06/04(月) 01:09:13.91 ID:dBS3+tTa0
安価楽しみ
お姉ちゃんと土方の絡み方が結構好みだったりする
626 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/04(月) 01:40:41.97 ID:dvDj1hSIO
乙です
627 :1 [saga]:2012/06/04(月) 22:37:20.27 ID:BzoPDqlV0
「そ、その……済まなかったな。先日は」

見回りのための待ち合わせ場所にたどり着いた時の少佐の第一声がそれであった。
前回、シャーリーさんと出会った時に突然不機嫌になられたことを言っているのだろうか。
結局その原因は教えて頂けなかったが、まぁ気にすることでもないだろう。

「いえ…………お気になさらず」
「……ならいいのだが」

私の言葉に、少佐もややぎこちないながらも笑顔を返して下さった。

「……ならば今日も行くか」
「は」

そう言って歩き出す少佐の後ろに従い、私は廊下へと歩みを進めた。




ということで夜の見回りパート安価です。
現在基地にいるのはミーナさんじゅうきゅうさい、バルクホルン大尉、ハルトマン中尉、シャーリーさん、ルッキーニちゃん、エイラさん、サーニャちゃんの7名です。
ペリーヌさん、リーネちゃん、芳佳は修行中で基地にいません。

それでは。

今回は>>632さん、よろしくお願いします。
628 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/06/04(月) 22:47:39.26 ID:YMXIz59Go
バルクホルン大尉!
629 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/04(月) 22:47:41.74 ID:6zkh0NT/o
ksk
630 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/04(月) 22:48:31.24 ID:6zkh0NT/o
シャーリーさんで
631 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/04(月) 23:00:26.56 ID:SFtb+ZrAo
バルクホルン大尉
632 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県) [sage]:2012/06/04(月) 23:04:58.69 ID:/EEBrXAVo
天使降臨
633 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/04(月) 23:41:33.09 ID:DwcTxrJIO
誰?
634 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/06/04(月) 23:43:55.57 ID:dBS3+tTa0
しまった出遅れた
635 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/05(火) 00:09:16.60 ID:VBCYETVG0
ルッキーニで
636 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [sage]:2012/06/05(火) 01:10:23.13 ID:Q+PWJoaAO
これはようやくEMTの流れ
637 :1 [saga]:2012/06/05(火) 07:50:37.38 ID:36kbqo/t0
1です。
1日ぐらい待つつもりだったのに1時間ぐらいでいきなり到達してびっくりしましたw

>>632
天使…………
えっと……>>636さんの発言もあるし、これはハルトマンさんということでよろしいのでしょうか?
638 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県) [sage]:2012/06/05(火) 17:45:07.43 ID:OspsIIpmo
うむ
639 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県) [sage]:2012/06/05(火) 17:45:33.68 ID:OspsIIpmo
……少し分かりにくかった、スマナイ
640 :1 [saga]:2012/06/05(火) 19:33:20.74 ID:36kbqo/t0
了解しました。
それではハルトマンさんルートで。
641 :1 [saga]:2012/06/07(木) 00:39:23.31 ID:LZ+fdtJz0
こんばんは。
ハルトマンさんルート完成です。
遅れて申し訳ありません。
642 :1 [saga]:2012/06/07(木) 00:40:10.96 ID:LZ+fdtJz0
「……あれ?けーすけに少佐?」

ふいにかけられた声に振り向くと、そこにはハルトマン中尉が立っていた。

「ハルトマン。こんな時間にどうした?」
「あはは。なんだかお腹がすいて眼がさめちゃってさ。厨房行ったら何かあるかなって思ったけど鍵しまってたよ」

そう言って笑う中尉の言葉に、私はやや気まずげに少佐と顔を見合わせる。
先日の、私と少佐が厨房に忍び込んだ事件は公には語られなかったが、それ以来夜間は厨房のカギがしっかりとかけられるようになったのだ。

「けーすけと少佐は?こんな時間にデート?」
「ち、違うわ馬鹿者!!ただの見回りだ!」

即座に否定する少佐。
そんな少佐の態度がおかしかったのか、中尉が声をあげて笑う。
確かにただの見回りだが、そこまで力いっぱい否定しなくてもよかろうに、などと思ってしまう。
643 :1 [saga]:2012/06/07(木) 00:40:58.95 ID:LZ+fdtJz0
「ふーん…………まぁいいや。ちょうど退屈してたし、私も一緒に行っていいかな?」
「別にかまわんが、バルクホルンが怒らんか?」

確かにあの方なら夜中に無断で部屋を抜け出したなどと知ったらお怒りになるだろう。
……というかどうやって大尉の目をかいくぐって部屋を抜け出したのだろうか。

「トゥルーデは徹夜でクリスへの手紙書くって今部屋でうんうん唸ってる。私が抜けだすときも生返事だったよ」
「なるほどな……」

そう答える少佐の苦笑する気配が伝わってくる。
先日の事といい、大尉の妹さんに対する過保護ぶりも堂に入ったものと言えるかもしれない。
妹さんを守れなかった過去があったとのことであるし、仕方ないのかもしれないが。
同じ妹を持つ身としてはすこしだけ大尉の気持ちがわかる。
…………そういえば中尉にも妹さんがいらっしゃったはずだが。

「そういえば中尉にも妹さんがいらっしゃったのでは?」
「あ、ウルスラのこと?うん。まぁ双子なんだけどね。確か今はスオムスの507にいるのかな?」
「どんな方なのです?」
「あれぇ?けーすけってばウルスラに興味あり?」
「い、いえ、そういうのでは…………」

慌てる私の態度を見て中尉はにひひ、と笑う。

「…………そうだねー。私なんかよりずっとしっかりした子だよ。あの子は。昔はマニュアルを盲信するというか、融通の利かないところもあったけど、507のみんなと付き合うようになって変わってきたってさ」

そう話す中尉の表情はどこか嬉しそうで、この方もバルクホルン大尉に負けず劣らず妹さんの事を大事に思っているのだと伝わってくる。
とてもカールスラント四強の一角とは思えないその無邪気な笑顔に、知らず心が和んだ。
644 :1 [saga]:2012/06/07(木) 00:41:38.50 ID:LZ+fdtJz0
「……ふむ。兄弟というのも、いいものなのだろうな」

ぽつりと少佐がつぶやく。
少佐は一人っ子だったとのことだ。
そういうものに憧れる気持ちもあるのだろうか。

「そうだなー。少佐は頼れるお姉ちゃんって感じだよねー」
「ん?そ、そうか…………」

中尉の言葉に、少佐はまんざらでもなさそうに頭をかく。
正面切ってこういうことを言われるのには意外と慣れていないのだろうか。
まぁ、確かに少佐が妹らしく誰かに甘える場面というのは想像しづらい。
そんな私たちに構わず、中尉の話は続く。

「トゥルーデは……世話焼きたがりの親戚のおばさんだねありゃ。そのうち私にお婿さんでも紹介してきそうな気がする」
「ぷっ……こ、こら…………バルクホルンに失礼だぞ……くくくっ」

言葉では中尉を窘めるものの、少佐もまた笑いをこらえきれないでいる。
…………妹のクリスさんへの過保護ぶりを見るに、あながち冗談と笑い飛ばせない雰囲気が大尉にはある。
「貴様のようなだらしない奴は傍に誰かいてやらねばな!」とか言いながら。

「まぁそうなったらけーすけ、お願いね」
「は……はぁ…………?」
「…………なにが言いたい?」

意味ありげな視線を向けてくる中尉の真意を測りかね、不明瞭な返答を返す。
しかし少佐には何か感じるものがあったのだろうか、その気配が剣呑なものに変わる。

「分かんないならいいよ」
「…………は、はぁ」

勝手に話を脱線させて勝手に話を終わらせる中尉に、私は戸惑ったような表情を返すしかできなかった。
相変わらず自由な方だが、そんな自由さに幾許かの羨望の念を抱いていたことも、また否定しがたい事実であった。
645 :1 [saga]:2012/06/07(木) 00:42:24.01 ID:LZ+fdtJz0
そんな他愛のない会話をしつつしばらく歩いた私たちは、気が付くと海岸へと降りていた。

「海かぁ。そういえばカールスラントにはほとんど海ってなかったなぁ」

そうつぶやく中尉の横顔はどこか寂しげである。
ネウロイの勢力下に置かれて久しい故郷の事を考えてらっしゃるのだろうか。
今ではカールスラントはネウロイの本拠地のような様相であると聞く。
中尉も、その飄々とした態度の下で、割り切れないものを抱えていらっしゃったのかもしれない。

「子供のころね、お父さんに連れられてアジアの方に住んでたこともあるんだ」
「ほぅ」

続く中尉の言葉に少佐が驚いたような表情を浮かべる。
話の内容より、この場で中尉が自分の過去のことを話し出したことに驚いたようだ。
我々は中尉にとって、そういった個人の事を話しても構わない相手と認識していただいたのだろうか。
…………まぁ中尉の事だから何も考えていないだけ、という可能性も否定できないが。

「でも何だかそこでの生活は合わなかったな」
「お父上との生活が、か」
「ううん。お父さんの事は大好き。でもあの熱帯みたいな蒸し暑い環境が合わなくて、何回も病気したらしいよ」
「お父上は確か医者であったな」
「うん。私もね。退役したらお医者さんになるのが夢なんだ」
「え」
「…………なにその表情?」

思わず出てしまった声に、中尉が拗ねたように頬を膨らませる。
何だかあらぬ誤解を与えてしまったようだ。
エースオブエースと呼ばれるほどの方が自分が退役した後のことを考えていらっしゃるのが意外な感じがしただけなのだが。
そう説明するも、中尉にはいまひとつピンと来ていないようだ。
646 :1 [saga]:2012/06/07(木) 00:43:16.62 ID:LZ+fdtJz0
「ふふ。相変わらず無欲な奴だな、貴様は」
「そうかなぁ。まぁでも、勲章とか昇進とか別にどうでもいいって思ってるのはほんとだよ」
「全く。貴様の部屋を片付けていたら騎士鉄十字章を踏んづけたときはさすがに呆れたぞ」
「だってー。あの時は眠かったのに無理やり授賞式に参加させられて、帰ったらすぐ寝ちゃったんだもん」

……あの騎士鉄十字章を無造作に床に転がしていたというのか。
何とも驚くべき方である。

「私が軍人らしくないってのは分かってるよ。でも私は私だし変えるつもりもない」
「気にするな。私もたまに思う。私は軍人に向いてないんじゃないかと」
「はは。この3人の中で一番軍人らしいのはけーすけだよね」
「違いない」

そう言ってお二人は笑う。

「……っと。ごめんね。私ばかり話しちゃって」
「いや。なかなか面白い話が聞けて有意義だったぞ。なぁ土方?」
「は」
「だったら話した甲斐があったってものかな。んじゃーね。おやすみ」
「あまり夜に出歩くなよ。ミーナがうるさいぞ」
「はーい。少佐もね。気分が盛り上がったからって変なことしないでよ」
「す、するか馬鹿者!」

少佐の怒声を背に暗い廊下に消えていくハルトマン中尉。
その後姿を眺めながら、中尉が多くのウィッチ達から慕われている理由が少しだけわかった気がした。

647 :1 [saga]:2012/06/07(木) 00:44:26.80 ID:LZ+fdtJz0
短くてすいません。
意外とハルトマンさんは絡ませずらいことに気付きましたw

それでは。
また週末に。
648 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/07(木) 01:10:44.11 ID:rO2YL2ADO

ウルスラってドラマCDでブリタニアに二回来てるし、ノイエカールスラントの技術省勤務なのは天使も知ってたはず
……本人忘れっぽいけどスオムスじゃないところだってニュアンスでエイラに話して訂正されてたような
649 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/07(木) 21:41:44.07 ID:gFJHgNMy0
アニメじゃバルクホルンも素っ裸で寝てなかったっけか
女性はすくなくともブラはしないで寝るのが普通だろ
650 :1 [saga]:2012/06/08(金) 07:39:37.63 ID:c09nwRyb0
セルフage
>>648
マジですか……CDドラマまでチェックしてませんでした。
うろ覚えで書くと碌なことにならないですね。

>>649
そういえばそんな場面があったような…………
651 :1 [saga]:2012/06/09(土) 23:26:27.10 ID:KjYv6mNK0
こんにちは。
1です。
今週分の投下に参りました。
よろしくお願いします。
652 :1 [saga]:2012/06/09(土) 23:27:30.66 ID:KjYv6mNK0
作戦室。
海図台をはさんでヴィルケ中佐と坂本少佐が深刻な顔を突き合わせている。
ヴェネツィアにて移動型ネウロイの出現が報告され、現在お二人でその対策を確認しておられるところだ。

「観測班の報告では、ヴェネツィアで出現したネウロイはアドリア海沿岸をまっすぐ南下してるみたいね」
「直線的にしか移動しないタイプか…………ならば海上で迎撃できそうだな」
「ええ。うまくいけば地上への被害は最小限に抑えられそうね」
「うむ。しかし、我々がどうしても受け身になるのは仕方ないとはいえ……どこを通るか、いつ出現するか、はネウロイのみぞ知る、か…………何とも歯がゆい事だ」

そう言いながら少佐はやや表情を険しくする。
ネウロイの出現パターンはある程度ではあるが、予想できるようになってきている。
だが、それでも予報が外れることもままあるのが現状だ。
こちらからアクションをかけた結果のトラヤヌス作戦があのような失敗に終わった以上、我々人類が取れる作戦行動の種類もおのずと限定されてくるのは致し方ないところであろう。

「愚痴ってもしょうがないわ。私たちは出来ることをするだけよ…………って、ちょっと待って美緒」
「どうした?」
「ネウロイの飛行コース…………一か所だけ陸地をかすめるんだけど……」
「ここは…………まずい!」

ヴィルケ中佐の指し示す地点を覗き込んだ少佐の表情が強張る。
少佐の背後から同じように地図を覗き込んだ私も、少佐の緊張の意味を一瞬で理解した。
少佐が引かれた白墨の線は、ロマーニャ本土から橋でつながった一つの島をかすめて南方へと延びている。
たしかあの島には…………

「土方!アンナ教官に連絡だ。ネウロイ接近中、直ちに訓練を中止し避難されたし、とな。まぁ宮藤たちならすでに接近に気付いているかもしれんが」
「は」

にわかに慌ただしさを増す司令室を背に、私は通信室を目指して駆け足で走り出した。
653 :1 [saga]:2012/06/09(土) 23:28:02.38 ID:KjYv6mNK0
「…………そうかい。仕方ないね」

電話口でそう答えるアンナ教官の声はやや生気を欠いているように思われる。

「この家をネウロイに明け渡す日が来るなんて……長生きはするもんじゃないね」
「申し訳ありません。こちらから救援を送ることができればよいのですが…………」
「あんたが謝るこっちゃないさ。そっちの基地からじゃ間に合わないのは明らかなんだ……ん?」

不意に電話の向こうが慌ただしさを増す。
聞き覚えのある声が聞こえてくるのを見ると、どうやら宮藤さんたちもネウロイの接近に気付いたようだ。
しばらく電話口での応答があった後、再びアンナ教官の声が聞こえてきた。

「どうやらそちらのお仲間さんが話したいとさ」
「は…………?」

アンナ教官の言葉に、私はやや怪訝な声を返す。
私に話、というからには宮藤さんだろうが、いったい何の御用であろうか。

「圭助さんですか?宮藤です」
「お疲れ様です。アンナ教官からお聞きになったと思いますが…………」
「はい。こちらに近づくネウロイの姿を確認しました。…………私とリーネちゃんとペリーヌさんで迎撃します」
「…………宮藤さん?」

続いての宮藤さんの言葉に、思わず言葉を失う。
たった3人で新型のネウロイに挑もうというのか……
654 :1 [saga]:2012/06/09(土) 23:28:33.82 ID:KjYv6mNK0
「し、しかし…………」
「無謀なのはわかっておりますわ。しかし、アンナさんにとってこの家は思い出の詰まった大事な家なんです。それさえ守れないで何がウィッチですかっ」
「……ペリーヌさん?」

宮藤さんの後を続けるように聞こえてきたのは今度はペリーヌさんの声であった。

「しかしいくら何でも……」
「ふふ、心配してくださるのですね」
「当たり前です!」
「それは光栄なことですわ。…………しかし私はウィッチなのです。目の前でネウロイの被害が出ようとしているのに見過ごすことなんてできません。それにここでアンナさんの家を見捨てては坂本少佐に顔向けできませんわ」

そう言ってペリーヌさんはもう一度ふふっ、と笑う。
655 :1 [saga]:2012/06/09(土) 23:29:16.20 ID:KjYv6mNK0
「ですから圭助さんは心配せず、基地で私たちの帰りを……」
「大丈夫です!数日間だけですけどアンナさんに鍛えてもらって成長しましたから!」
「……ちょっと宮藤さん!圭助さんとお話ししているのは私です!割り込まないでくださる?」
「先に割り込んだのはペリーヌさんじゃないですか!私だってお話ししたいんです!」
「ちょっとお待ちなさいな。私の話が終わったら代わって差し上げますから」

……なんだか妙な方向に話が進んできていないだろうか。
そう思って何とか彼女たちの話に割り込もうと口を開いた瞬間であった。

「あんたたち!いいかげんにおし!ネウロイが近づいてきてるってのに何遊んでんだい!」

緊迫感などみじんも感じさせない少女たちの騒ぎを、アンナ教官の一言が沈黙させる。
さすがは、というべきであろう。

「え、えっと……とにかくあのネウロイは私たちで何とかします。圭助さんは気にせず私たちの帰りを待っていてくださいね。…………っと、もっとお話ししてたいですけどそんな余裕なさそうですね。それじゃ!」
「あの」

がちゃん。

最後は宮藤さんが一方的に話した後、私の返事すら待たず電話が切れた。

「えっと…………」

さして広くもない通信室の椅子に座り、呆けたように受話器を握り締める私は傍から見たらさぞかし間抜けに見えたことだろう。

656 :1 [saga]:2012/06/09(土) 23:30:00.54 ID:KjYv6mNK0
「…………なんだと?」

私から通信内容を知らされた坂本少佐はそう言って下を向いた。
宮藤さんたちの独断を怒っているのか、と一瞬思ったがそれはしばらくして聞こえてきた豪快な笑い声により間違いであると判明する。

「くく…………ははははっ!そうか!宮藤が言ったか!自分たちでやると!はっはっはっ!」
「さ、坂本さん?」
「いや、すまん。宮藤も言うようになったな、と思ってな」

確かに501に来たばかりのころの宮藤さんからすれば想像もできない変わり方だ。
ストライカーユニットひとつで二式大艇を追いかけてきたことといい、宮藤さんの中で何かが変わりつつあるのは間違いないだろう。

「まぁ私としては可愛い弟子の成長を喜ぶべきだが」

そこまで言って少佐は表情を引き締める。

「それとは別に、こちらでも救援の準備を整えておくべきだろうな」
「は」

そういうと司令室に向かって歩き始める少佐の後に、私も従った。
657 :1 [saga]:2012/06/09(土) 23:30:51.69 ID:KjYv6mNK0
「な、何!宮藤が?…………は、早く救援を!フラウ何をしている早く出撃準備だ!」
「トゥルーデ落ち着きなよ……宮藤がそんなに簡単にやられるわけなじゃん」

宮藤さんたちが修行中の島に向けてネウロイ出現。
その第一報を聞いたウィッチの方々のうち一番最初に声を上げたのはバルクホルン大尉だった。

「い、いやしかし……フラウ貴様も見ただろう先日の宮藤のあの体たらくを。何かあってからじゃ遅いんだぞ……ああ、宮藤…………今すぐ駆けつけてやるからな……」
「だめだこりゃ」

取り乱し続けるバルクホルン大尉を見て、ハルトマン中尉があきらめたように首を振る。
そんな大尉の様子に一瞬驚いたようなヴィルケ中佐だったが、ひとつ咳払いをすると何事もなかったかのような平静を取り戻した。

「ま、まぁとにかく宮藤さんたちの援軍にはバルクホルン大尉とハルトマン中尉、それにルッキーニさんとシャーリーさんの二小隊で行ってもらいます。
「おお!望むところだ!行くぞハルトマン」
「ちょ、ちょっとまってよー」

「りょうかーい!シャーリー今日こそ最速を更新するチャンスだよ!」
「ああ!今日は調子がいいからな!いっちょ頑張ってくるぜ」

それぞれの言葉を残しブリーフィングルームを出ていく皆様。
彼女たちの後姿を見ながら、でも私はその救援が無駄足に終わるといいな、などと不謹慎も甚だしい事を考えていた。
658 :1 [saga]:2012/06/09(土) 23:31:36.46 ID:KjYv6mNK0
結局のところ。
私の望みが通じた訳ではないのだろうが、バルクホルン大尉たちの救援は無駄足に終わった。
宮藤さんたちは3人で見事ネウロイを撃破し、アンナ教官の家を無事に守り抜いて帰還。
しかもアンナ教官にも合格を頂けたようで、また今日からこの基地に宮藤さんたちが帰ってくることは素直に嬉しかった。

「まぁあいつらも無事成長してくれたようで何よりだ」
「そういえば……坂本さんもアンナ教官のもとで修行されたとお聞きしましたが」
「ん……………?ま、まぁ…………そ、そんなことも……あったような…………」

何故か決まり悪げに口を閉ざす。
先ほど電話でアンナ教官に礼を告げているときも何やら悪態をついていたようだしやはり苦手意識はあるのだろうか。
ふと少佐が、壁にかかっている501戦闘航空団のエンブレムに目をやる。
そこには星形にならんだ5本の箒が描かれている。
そのエンブレムを見つめる少佐の表情はどこか懐かしげで、何故か私は声をかける事すらできないでいた。

「アンナ教官……貴方の不肖の弟子はもう少し頑張ってみようと思います」
「…………坂本さん?」
「いや、なんでもない。さて、明日からまた特訓漬けだ。宮藤たちにも覚悟しておけと伝えておけよ」
「は」

そう言い残して部屋を出ていく少佐の姿はどこか楽しげですらあった。
659 :1 [saga]:2012/06/09(土) 23:33:54.25 ID:KjYv6mNK0
こんばんは。
今週の投下は以上です。
やっと3話の内容が終わった……
どうも進みが遅いですねw

完結はいつになるやら…………
がんばります。

それでは。
2,3日後にまた安価しに来ますね。
660 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/06/10(日) 01:13:14.85 ID:jOfYAA+yo
乙です!
ああ、ようやく俺の好きな3人が帰ってきたよ
661 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/06/11(月) 23:29:07.30 ID:KhvST/ev0
面白かった!
アニメでも2期3話は大好きなんですよ
特に股間を刺激されてプルプルするプッツンメガネが可愛すぎるwww
662 :1 [saga]:2012/06/12(火) 00:31:16.86 ID:ZfZyZjlC0
>>661
かなりの問題回でしたよねアレw

「んっ…………」

大きく伸びをして、全身に残った眠気を振り払う。
ポケットから時計を出して確認する。
現在午前5時。
昼になれば全身を焼くように照り付ける苛烈なロマーニャの気候ではあるが、この時間ではさすがに太陽も水平線から少し顔をのぞかせた程度であり、半そででは少し肌寒く感じてしまうほどである。
底抜けに明るくて、どこか情熱的。
我々のイメージするロマーニャの女性そのものの気候である。
ルッキーニ少尉も将来的にはそんな女性に成長されるのだろうか。
そんな要らざることを考えているうちに、前方に少佐の姿を認める。
慌てて少佐のもとに駆け寄る。

「お待たせしてしまいましたか」
「い、いや、構わん」

私の謝罪の言葉にしかし少佐は何故かややぎこちなさ気に挨拶を返す。
少佐から「早朝の鍛錬に付き合わないか」との唐突なお誘いを受けたのが昨日。
こちらに来て以来鍛錬する暇もなかった私はその申し出をありがたく受けさせていただいた。
このロマーニャ滞在のうちに少佐の域に、というのは些か望みすぎとはいえその足元ぐらいにはたどり着きたいものだ。

「……では、行くか」
「は」

そう言って歩き出す少佐の後に続いて、私も歩みを進めた。

安価の時間ですよー。
今回はちょっとシチュエーションを変えてみました。
まぁやることは同じなんですがw
現在基地にいるのはミーナさんじゅうきゅうさい、バルクホルン大尉、ハルトマン中尉、シャーリーさん、ルッキーニちゃん、エイラさん、サーニャちゃん、ペリーヌさん、リーネちゃん、芳佳の10名。
もちろん「もっさん」の選択肢もあります。

それでは。

今回は>>667さん、よろしくお願いします。
663 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/06/12(火) 00:55:58.95 ID:qpOIdDYao
安価になると急に人が出てくる予感……
取れそうもないが、とりあえずリーネちゃん!
664 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/06/12(火) 01:12:46.55 ID:Kaetoagy0
ksk
665 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/06/12(火) 02:31:07.15 ID:OoIl0PsNo
バルクホルン大尉
666 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/12(火) 02:41:31.06 ID:uTkWMpL8o
ルッキーニ
667 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県) [sage]:2012/06/12(火) 05:51:34.52 ID:cl4viNnjo
サーニャ
668 :1 [saga]:2012/06/12(火) 19:41:55.54 ID:ZfZyZjlC0
サーニャんきたあああああああああああ!
頑張って書きますね。
669 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/06/13(水) 20:51:40.00 ID:kjUG9F5M0
今回は明け方だから大丈夫ですね
野暮ったい話ですが、普段の見回りでサーニャは無理なのでは?
夜間哨戒の任務中ではないかと
670 :1 [saga]:2012/06/13(水) 20:52:15.27 ID:yFZvX3GT0
こんばんは。
サーニャんルート、投下開始です。
671 :1 [saga]:2012/06/13(水) 20:53:48.12 ID:yFZvX3GT0
「……今日はここまでにしておくか。」

坂本少佐の言葉に、私は黙って礼を返す。
少佐とともに朝の鍛錬を初めて小一時間。
日も昇って確かにそろそろいい頃合いだろう。

「貴様もなかなかやるようになったな。私も本気で相手をせねばならぬ場面が何度もあった」
「光栄です」

少佐の素直な褒め言葉に、いささか面はゆい気持ちになりながらも頭を下げる。
こちらに来る途中のハワイにて本気の少佐に相手をしていただいて以来、私なりに個人鍛錬は続けてきたつもりだ。
まだまだ少佐の足元にも及ばぬ身であるが、それでも目標である少佐に褒めていただけるのは嬉しいものだ。

「さて、では私は部屋に帰る。昼までは待機なのでゆっくり休ませてもらうぞ。貴様も休め。ミーナに言っておいてやる」
「は」

正直全力に近い鍛錬の後で体のあちこちが悲鳴を上げている。
なので少佐の申し出は素直にありがたかった。
居住区の方へと姿を消す少佐を、私はその後姿が見えなくなるまで感謝の念とともに見送った。

672 :1 [saga]:2012/06/13(水) 20:54:28.18 ID:yFZvX3GT0
かさり。

少佐と別れ、自分の部屋に向かって歩く私の耳に、かすかな足音のようなものが聞こえてきた。

こつ。こつ。こつ。

微かながらその足音ははっきりと私のほうに近づいてくるのがわかる。
こんな時間ではあるが、ウィッチのどなたかが出歩いておられるのだろうか。
そんなことを考えている私の視界に、小さな人影が入ってくる。

「あれは……リトヴャク中尉?」

北方の方特有の透き通るような白い肌と、昇り始めた日の光を反射して綺麗に輝いている銀髪。
間違いなくサーニャ・V・リトヴャク中尉であった。
…………しかし、あれは。

こつん……ずる……ずる…………こつん……

その足取りはふらふらして危なっかしく、数歩歩くごとに壁に頭をぶつけていた。
何か体調に異常でもあったのだろうか。
とりあえず彼女のそばに走り寄ってみる。
673 :1 [saga]:2012/06/13(水) 20:55:39.00 ID:yFZvX3GT0
「あ、あの……リトヴャク中尉?」
「…………?」

私の声に気付いたように顔を上げる中尉であるが、その瞳は眠たげに半分閉じられており、私のことを認識していらっしゃるのかどうか怪しい。
…………ナイトウィッチである中尉の事だから、夜間哨戒明けなのだろうか。

「中尉?」
「…………」

ばさっ。

「うわっ!」

そのまま中尉は私の顔を穴があくほどじっと見つめたかと思うと、何の前触れもなく私の方に倒れこんできた。
何とか受け止めることはできたものの、そのままピクリとも動かない中尉。
……やはりどこか不調でもあるのであろうか。
嫌な予感がせりあがってくるのに任せ、私は思わず声を上げていた。

「中尉!中尉!」
「……………くー」

返ってきたのは規則正しい寝息であった。
……どうやら単に眠たいだけであったようだ。
全身の力が抜けるような感覚に、思わず中尉の体を地面に落としそうになり慌てて抱き抱える。
何とか抱き留めることはできたものの、そのまま中尉は私の腕にしがみつくような格好で眠り込んでしまわれた。
674 :1 [saga]:2012/06/13(水) 20:57:57.99 ID:yFZvX3GT0
やはり、今はちょうど夜間哨戒明けなのだろう。
そうであるならばこれほど眠そうなのも納得できる。
……しかし、だとすればこのままぼーっと突っ立っていても意味はあるまい。
こんなところで中尉を寝かせておくわけにはいかないし、私が部屋に帰れない。
そう思い直した私は、中尉を起こすべく軽くゆすぶってみるが、

「中尉、起きてください中尉!」
「ん…………」

私の声に中尉は軽く身じろぎをするものの起きる気配はない。
むしろ起きることを拒否するように私に一層強くしがみついてくる。

「…………どうしよう」

誰にともなくつぶやいた私の言葉が、広い廊下に反射してむなしく消えていった。
675 :1 [saga]:2012/06/13(水) 20:58:37.76 ID:yFZvX3GT0
とにかくこのままいても仕方あるまい。
中尉をしがみつかせたまま立ち尽くしているこの状況をヴィルケ中佐にでも見られたらあらぬ疑いをかけられかねなかった。
よし。
中尉には申し訳ないが、ここは失礼して…………
私は両腕に力を込めると、眠り込んでいる中尉の体を抱き上げる。

……軽い。

それが私の第一印象であった。
ウィッチとはいえ齢14歳の少女なのだから当たり前といえばそうなのだが、戦場であの大型のフリーガーハマーを自由に扱う姿と、今私の腕の中で無邪気に眠る姿がどうしても重ならない。
この小さな肩に、全人類の命運を握っているのだ。
それは中尉だけでなく、宮藤さんに坂本少佐、いや、世界各地で戦っていらっしゃる全てのウィッチの方々に共通することなのだろうが。
改めて何もできない自分の立場に忸怩たるものを覚える。

「ん…………」

我知らず両腕に力を込めてしまったのか、中尉が苦しそうに身じろぎする。
……今はそんなことを考えている場合ではないか。
私は中尉の体をしっかりと抱えなおすと、再び歩き出した。
676 :1 [saga]:2012/06/13(水) 20:59:12.84 ID:yFZvX3GT0
「…………」

リトヴャク中尉とユーティライネン中尉が使っていらっしゃる部屋の前。
その前に立って私は息を整える。
ここに来るまでにウィッチのどなたかに出会ったなら事情を話して中尉を託してもよかったのだが、幸か不幸か誰にも出会うことなくここまで来てしまった。

こんこん。

しばらく躊躇った後、ゆっくりとドアをノックする。

…………

30秒経過。
中からの反応はない。
ユーティライネン中尉もお休みになっているのだろうか。
そう考えると些か躊躇いを覚えるものの、だからと言って中尉を放置するなど論外であるし、ほかの解決策も思いつきそうにない。
ユーティライネン中尉にはあとでお詫びすればよかろう。

こんこんっ。

「ユーティライネン中尉、申し訳ありませんが…………」

先ほどより強めにノックをし、併せて小声で呼びかける。

再びしばらくの沈黙。

……これは無理か。
こうなれば、お疲れのところ申し訳ないが坂本少佐のお部屋で一時的にでも預かっていただこうか。
そう思って踵を返しかけた私の背後で、緩慢にドアが開く音がする。
677 :1 [saga]:2012/06/13(水) 21:00:25.73 ID:yFZvX3GT0
かちゃり。

「ん〜〜何だよもう…………」

振り返ると、ユーティライネン中尉が眠そうに眼をこすりながらドアの隙間から顔を出していた。

「あの、申し訳ありません、こんな時間に」
「ん?お前は坂本少佐の従兵の…………」
「は。土方です」
「ふ〜ん……あんたここに来ていいの?…………ってサーニャっ!」

けだるそうに返事をしていた中尉の表情が、私の腕に抱かれているリトヴャク中尉の存在を認めた途端に一変する。

「あ、あんたサーニャに何を…………」
「それが……」
「だからサーニャに何したか答えろー!」

ぶんっ!

思わず横に飛びのいたところに少佐の前蹴りが通過する。

「よけるな!」
「ちょ、ちょっと待ってください中尉!私は…………」
「聞く耳もたーん!」

結局のところ。
周囲の騒ぎにリトヴャク中尉が目を覚ますまで、リトヴャク中尉を抱えて身動きの取れない私はひたすらユーティライネン中尉の蹴りに耐え続けることになったのだった。
678 :1 [saga]:2012/06/13(水) 21:01:43.90 ID:yFZvX3GT0

「いたた…………」
「じっとしててくださいね圭助さん」

宮藤さんが私の腕に手をかざす。
彼女の手から発せられる淡い光に包まれると、今までの痛みが嘘のように引いていった。

「もう、坂本さんとの鍛錬もいいですけど、怪我してまでやらなくても……」
「申し訳ありません」

起きてきた宮藤さんに私の怪我の事を問い詰められた結果、私は少佐との鍛錬の怪我と答えた。
さすがに本当のことを答えるのは私自身ばつが悪かったというのもある。
おかげで当のの少佐からは「朝にはそんな様子はなかったのだが……?まぁちょっと気合が入りすぎたようだな。すまん」と不審がられつつも謝られ、さらに罪悪感を抱え込むことになったが。

「おはようございます」
「おはよー」

そんな声に振り返るとユーティライネン中尉とリトヴャク中尉がこちらに歩いてくるのが見えた。
ユーティライネン中尉は私の姿を認めると露骨に顔をしかめてそっぽを向く。
しかしリトヴャク中尉はそんな中尉の手を取ると、こちらに向かって歩みを進めてきた。
679 :1 [saga]:2012/06/13(水) 21:02:32.07 ID:yFZvX3GT0

「あの」
「は」
「えっと、その、今朝はありがとうございました。部屋まで運んでいただいたみたいで」
「あ、いえ、そんな」
「…………」

丁寧に頭を下げるリトヴャク中尉に思わずこちらが恐縮する。
そんなリトヴャク中尉の後ろで、人でも殺せそうな視線を向けてくるのはユーティライネン中尉。
異様と言えば異様なその雰囲気の中で宮藤さんだけが事情も分からず戸惑ったように慌てていた。

「え、あの?ど、どうしちゃったんですかエイラさん?」
「な、なんでもない…………ほら、行くぞサーニャ!」
「う、うん……それじゃ、失礼します…………土方さん」

私にもう一度深々と頭を下げると、ユーティライネン中尉に引っ張られるようにしてリトヴャク中尉は去っていった。

「……何があったんですか?」
「ま、まぁ色々と…………」
「ごまかさないでくださいっ」

その後、やや不機嫌気味な宮藤さんに解放していただくまで色々と昨日のことを尋ねられることになったのだった。
680 :1 [saga]:2012/06/13(水) 21:04:28.59 ID:yFZvX3GT0
以上です。
サーニャんは1番好きなキャラなのでどうやって絡ませようか悩みましたw

次は本編4話のジェットストライカーの話(別名ルッキーニのお風呂回)に入っていきますw
それでは。
また週末に。
681 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2012/06/13(水) 23:34:03.08 ID:LehgjE+uo
物理的に絡んだのかwwwwww
682 :1 [saga]:2012/06/16(土) 11:34:05.86 ID:abAlz+ZC0
セルフage
今日中には次の話を上げたいと思います。
683 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/06/16(土) 22:08:02.20 ID:qOJ90gSj0
毎週この時間が楽しみ
wkwk
684 :1 [saga]:2012/06/16(土) 23:31:37.81 ID:abAlz+ZC0
こんばんは。
ちょっと遅くなりましたが今から投下開始します。
685 :1 [saga]:2012/06/16(土) 23:33:04.23 ID:abAlz+ZC0
「土方兵曹」
「は」

廊下で、ヴィルケ中佐に声をかけられる。

「シャーリーさんを知らない?」
「いえ」

中尉の言葉に頭を振るが、なんとなくシャーリーさんの居場所には心当たりがあった。
あの方なら大体非番の時は格納庫にこもりっきりになっている。
しかも、私が何かの用事で格納庫を通りかかるたびに呼び止められ、起動試験やらに付き合わされることが最近増えてきていた。
それはいいのだが、「格納庫でエンジン回すと暑いんだもん」との理由でほとんど裸のような格好で行っているのだから性質が悪い。
……どうも最近のシャーリーさんは私が彼女の格好に目のやり場に困っている様子を楽しんでいるような節がある。
というわけで私は用がない限りできるだけ格納庫には近寄らないようにしていた。

「心当たり、ありませんか?」
「え、と…………」

中佐の言葉に、思わず目をそらす。
あまりに不自然すぎる態度は中佐にはバレバレであったようだ。

「あるのね?」
「…………は」

少なからざる沈黙ののち、返事をする。
中佐はそんな私の内心を忖度してくださるような方ではもちろんない。

「じゃ、見かけたら司令室の方に来るように言っておいてください」
「…………」
「返事は?」
「はっ!了解いたしました!!」

中佐に敬礼を返すと、私は格納庫へと駆け足で向かった。
686 :1 [saga]:2012/06/16(土) 23:33:49.11 ID:abAlz+ZC0
ぶるるるる…………

さして広くない格納庫内にプロペラの回転音が木霊している。
やはり予想通りシャーリーさんは格納庫にいた。
そしてこれも予想通りほとんど裸のような格好で。
シャーリーさんの姿をなるべく視界に入れないようにしながら近づいていく。

「お、土方の兄さん。ちょうどよかった。起動試験に付き合ってよ」
「あ、いえ。ヴィルケ中佐が」
「まぁまぁ。損はさせないから見ていきなって」

そうまで言われては視線を向けざるを得ない。
しかしシャーリーさんが視界に入った途端再び顔をそらしてしまう。
いや、もう何というか…………
プロペラが回るその風圧で揺れ動く二つのものが、その。

「シャーロット・イェーガー大尉!」

そんな弛緩した雰囲気に似つかわしくない凛とした雰囲気の声が響く。
その声を聴いたシャーリーさんがあちゃーとばかりに頭に手をやった。
視線の先には、カールスラント軍のきっちりとした軍服を一分の隙もなく着こなすバルクホルン大尉の姿があった。
687 :1 [saga]:2012/06/16(土) 23:35:12.06 ID:abAlz+ZC0
「そんな格好で何をしている!」
「……いいじゃないか。減るもんじゃなし」
「そういう問題じゃない!土方卿が困ってるだろう!」
「いや、土方の兄さんは喜んでくれてたよな」
「…………土方卿?」

バルクホルン大尉から睨まれる。
……ここで私に振らないでいただきたい。

「とにかくだ!貴様らリベリアンは規律をなんだと思ってるんだ」
「へー。カールスラント人は規則にうるさいってか?どうなんだハルトマン?」
「え?」

にやにや笑いながらシャーリーさんが大尉の背後に視線を向ける。
そこにはシャーリーさんと同じく下着のような格好で出歩いているハルトマン中尉の姿があった。
上を見れば天井の梁の上で眠っている(よく落ちないな、と思う)ルッキーニ少尉も同じような格好だし、ここのウィッチの方々はもう少し女性らしい慎みを覚えていただきたいと思う。
……考えてみれば坂本少佐も私と二人でいたときはこんな感じであったし、ウィッチになるとこんな風になってしまうのだろうか。
妹の歳江の事が少し心配になってくる。

「は、ハルトマン!貴様それでもカールスラント軍人か!」
「んー?そうだけどー?」

半分眠ったようなとぼけた声であっさりと答える中尉に、大尉が天を仰ぐ。
688 :1 [saga]:2012/06/16(土) 23:35:53.60 ID:abAlz+ZC0
「もう……何をやってるの貴女たちは」

そこに突如割り込んでくる呆れたような声。
振り返ると、ヴィルケ中佐と坂本少佐が格納庫に入ってくるところであった。

「ミーナ。私はこのお気楽リベリアンに一言文句を言ってやろうと」
「なんだよー。この堅物軍人バカ」
「なんだと貴様!」
「はいはい。そこまで」

再び再燃しかけたお二人の口げんかをヴィルケ中佐が制した。
……さすがは手馴れていらっしゃる。
そのまま中佐は私に鋭い視線を向けてきた。

「土方兵曹。この程度の事で気おくれしてないで少しは仲裁する努力をしたらどう?」
「は…………」
「はっはっはっ。女同士の口論に男が割って入るのは効果がないばかりか事態を一層ややこしくする危険をはらんだ行為だ。そう土方を責めるな」
「美緒まで…………ま、とにかく。そろってるなら都合がいいわ」

ヴィルケ中佐達の後ろに大型のトレーラーが続く。
そのトレーラーが運んでいるのは…………

「ジェットストライカー!完成してたのか」

一番最初に声を上げたのはやはりというか、シャーリーさんであった。
689 :1 [saga]:2012/06/16(土) 23:36:43.92 ID:abAlz+ZC0
「ええ。今日ノイエカールスラントから届いたの。試作機だけどカタログスペックでは最高時速950qとあるわ」
「時速950q!」

シャーリーさんが驚いたような声を上げる。
無理もない。
レシプロ機ではどれほど頑張っても500q/hがせいぜいだというのに、その約2倍とは……

「これは?」

バルクホルン大尉がその傍らにある大口径の砲身に興味を示す。

「ジェットストライカー専用の武装みたいね。50oカノン砲1門に30o機関砲4門」
「そんなに持って本当に飛べるのか?」

坂本少佐の疑問はもっともである。
これではもはや「空飛ぶ要塞」だ。
よしんば飛べたとしてこれだけの重装備を取り回すことができるのはバルクホルン大尉しかおるまい。
そんなことを考えている私の耳に、シャーリーさんの声が飛び込んでくる。

「なあなあ、これ私に穿かせてくれよ。楽しみにしてたんだ」

シャーリーさんはすっかりこのジェットストライカーに魅せられた様子であった。
ハルトマン中尉に頼んで設計図を取り寄せてもらうほど楽しみにしていたのだからさもありなんという気はする。
ヴィルケ中佐もそのつもりで私にシャーリーさんを呼びにやらせたのだろう。
しかし、それに異議を唱える声が上がった。

「ちょっと待て。ノイエカールスラントで作られたのなら私が穿くべきだろう」
「は?国なんか関係ないだろ。950qだぞ?超音速の世界を知ってる私が穿くべきだ」
「貴様の頭には速度の事しかないのか!試作機のテストというのは好き勝手に飛び回っていいというものじゃないんだぞ」

そして再開される言い争いに、また始まった、とばかりにヴィルケ中佐と坂本少佐がため息をつく。
その時であった。
690 :1 [saga]:2012/06/16(土) 23:37:38.79 ID:abAlz+ZC0
「いっちばーーーーん!」

そんな陽気な声とともにジェットストライカーの上方から小さな影が飛び降りてきて、ジェットストライカーを装着する。
今まで天井の梁の上で眠っていたルッキーニ少尉であった。

「あ、ずるいぞルッキーニ!」
「へへーん!早い者勝ちだよー!」

抗議するシャーリーさんにそう言って舌を出してみせると、ルッキーニ少尉はジェットストライカーを起動させる。
ごおおおお、というレシプロ機とは比べ物にならないほどの起動音とともにジェットストライカーは起動した。
のだが。

「くぁwせdrftgyふじこlp;@!」

突然そんな声にならない悲鳴とともに飛び上がった少尉がこちらに向けて走ってくる。
そのまま私に抱き着くと、少尉は涙目になった顔を向けてきた。

「ふえぇ……けーすけ兄ちゃん…………何かビビビって来た……あれ、キライ!」
「びびび、ですか」
「そう!何かねこうびびびーってきてぞわわーってなって、気持ち悪いのっ」
「はぁ」

正直ストライカーユニットを穿いたことのない私には何とも答えようがないが、やはり大出力である以上一気に魔法力を抜き取られる感覚というのがあるのだろうか。

「どうしたルッキーニ?」

心配そうに駆け寄ってくるシャーリーさんに、ルッキーニ少尉は先ほどの話を繰り返した。
シャーリーさんは一瞬考え込むように宙に視線をさまよわせるが、やがてヴィルケ中佐の方に向き直る。

「やっぱ私はパスするよ。考えてみたらレシプロでやり残したこともあるし、ジェットを穿くのはそれからでも遅くないかなって」
「ほう……怖気づいたか?まぁ見ていろ。私が穿く!」

言うが早いがバルクホルン大尉はジェットストライカーを装着する。
先ほどルッキーニ少尉が穿いた時以上の魔方陣が広がった。
691 :1 [saga]:2012/06/16(土) 23:38:33.03 ID:abAlz+ZC0
「……すごい」

恍惚とした表情で大尉がつぶやいた。
確かに魔力などない私でもジェットストライカーとは桁違いのその出力は肌で感じられる。
これならばあの重武装も納得がいくというものだ。
まぁ世の中には刀一本でネウロイと渡り合う規格外のウィッチもいるが。

「……土方。何か失礼なことを考えていなかったか」
「い、いえ」

少佐に剣呑な視線を向けられ、あわてて表情を引き締める。


「どうだ。そのレシプロでこのジェットに渡り合えるか?」
「子供みたいにはしゃぐなよ。新しいおもちゃを買ってもらった子供じゃないんだから」
「……負け惜しみか?」
「気が変わっただけだ。私はこれでいいんだよ」
「ふん。気まぐれなリベリアンめ」
「何を!これだからカールスラント人は」

再び再開されそうになったお二人の言い争い。
その緊迫した雰囲気を中和するように緊張感のない声が割り込んでくる。
692 :1 [saga]:2012/06/16(土) 23:39:19.26 ID:abAlz+ZC0
「みなさ〜ん!お昼ごはんができましたよ〜〜」

声の主はやはりというべきか、宮藤さんであった。
その後ろにはビショップ曹長も立っており、私の方におびえたような視線を向けつつ宮藤さんの後ろに隠れている。
さすがにこの場の雰囲気に気付いたのか、宮藤さんが私に小声で囁きかけて来た。

「あの、どうしたんですかシャーリーさんたち」

私は簡単に事情を説明すると、宮藤さんもまたため息をつく。

「はぁ、またですか…………」
「まぁ喧嘩するのは仲の良い印というしな。ここは後腐れなく決めるべきだろう……いいな?ミーナ」
「どうせ反対してもやるんでしょう?」

いつの間にか会話に入り込んできた少佐とミーナ中佐。
少佐が何をやろうとしているか、予想がつきすぎる私はミーナ中佐と同じように額に手を当てて俯くしかできなかった。
693 :1 [saga]:2012/06/16(土) 23:42:30.13 ID:abAlz+ZC0
以上です。
4話を見直していたら思わずルッキーニのお風呂シーンを何度も見直してしまいましたw
それでは。

また安価で。
694 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/17(日) 00:04:15.08 ID:7RwyAnIDO
乙!!土方が言ってるのは普通のレシプロ戦闘機の事?
二期でやっとこ零戦の21型だし、ストライカーはBf109-K4の740qが当時最速だった筈、シャーリーは1期で実測800q以上出してるし。
695 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/17(日) 01:36:44.79 ID:84n5P4dDO

あの世界はウォーロックがラムジェット積んでるし、スオムスの最強ポンコツなブルーステルでさえ520km/h出るからなぁ……
696 :1 [saga]:2012/06/18(月) 19:41:43.91 ID:lr1chqeW0
セルフage

>>694
現実世界での二次大戦期のレシプロ機がだいたい500〜600q/hのイメージだったんであのセリフになったんですが……
まぁ土方さんは扶桑人ということでとっさに零戦のスペックが浮かんできたのだと脳内補完してくださいw
しかしシャーリーさんレシプロで800km/hとかさすがですねww
697 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/06/20(水) 00:44:39.70 ID:mKJnVEgO0
俺がシャーリーを大好きな理由が2期4話には詰まってる
シャーリーはいつもふざけているように見えてオンとオフをしっかり使い分けられるんだよな
スピードには目がないけど、ルッキーニが嫌だと言ったらちゃんと引くことができる
芳佳やルッキーニのような年下に慕われているし、劇場版とか見る限りはミーナやもっさんからの有事の際の信頼も厚い
他キャラをdisるわけじゃないけど、501の中で一番大人なのはシャーリーだと思う
堅物なトゥルーデやミーナは案外子供なんだよな

なんて、ついマジ語りしちゃったぜ
698 :1 [saga]:2012/06/20(水) 23:33:56.20 ID:r5MDhYUO0
>>697
確かに4話のシャーリーさんはかっこいいですよね。
お気楽に見えるけど超えちゃいけない一線ってのをちゃんとわきまえてる感じ。

足音を立てないように廊下を走る。
もはや恒例となった早朝の鍛錬に向け、私は太陽の光が差し込み始めた薄暗い廊下を急いでいた。
いつも時間に余裕を持って部屋を出るのだが、いつも少佐は先に待ち合わせ場所にいらっしゃる。
しかし、今日に限っては……私が目を覚ました時、枕元の時計はどう急いでも間に合いそうにない時間を指していた。
青くなった私が慌てて準備を済ませ、今こうして足音を忍ばせつつ廊下を走っているというわけだ。

(……言いたくはないが)

昨日の夜の事を思い出す。
いつも通りの時間に休もうとした私を叩き起こしたのはルッキーニ少尉とシャーリーさんのコンビである。
突然の訪問に戸惑う私をお二人は「夜間待機で退屈だったから」といろいろ引っ張りまわした挙句に哨戒へと飛び立っていかれてしまった。
お二人のせいにする気は毛頭ないが、さすがに愚痴の一つもこぼしても罰は当たらないだろう。
待ち合わせ場所に近づくと、案の定少佐はすでに到着しておられた。

「……どうした。遅刻だぞ」
「は。申し訳ありません」
「何かあったのか?」

そう少佐は尋ねてこられるが、何故か本当のことを言う事は躊躇われ、私にできるのはただ謝罪の言葉を連ねることだけであった。

「まぁそれほど待ってもいないし、構わんがな」
「申し訳ありませんでした」
「もう謝るなというに」

いつもの笑顔でそうおっしゃった少佐の後に続き、私も歩き出した。

今回も安価。
現在基地にいるのはミーナさんじゅうきゅうさい、バルクホルン大尉、ハルトマン中尉、シャーリーさん、ルッキーニちゃん、エイラさん、サーニャちゃん、ペリーヌさん、リーネちゃん、芳佳の10名。
もちろん「もっさん」の選択肢もあります。

それでは。

今回は>>703さん、よろしくお願いします。
699 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/06/20(水) 23:46:01.60 ID:C/e7cHK7o
ルッキーニちゃん!
700 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/06/20(水) 23:47:32.96 ID:yyxbLzmio
バルクホルン大尉
701 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/21(木) 00:09:37.85 ID:SFVO8WhDO
ストーリー的にはお姉ちゃんかルッキーニかな?シャーリーはもう出てるし。

という訳で安価ならルッキーニで。
702 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/21(木) 00:12:28.43 ID:sL2rIU2Wo
サーニャガイインダナ(・×・)
703 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/21(木) 00:30:56.75 ID:RnbJ11Hco
シャーリーさん
704 :1 [saga]:2012/06/21(木) 18:22:33.78 ID:ZuhUeKXV0
シャーリーさん2回目ですねっ。
了解です。
705 :1 [saga]:2012/06/22(金) 23:36:20.39 ID:G/caOMhb0
こんばんはー。
シャーリーさんルート何とか書き上げました。
投下しますねー。
706 :1 [saga]:2012/06/22(金) 23:37:14.52 ID:G/caOMhb0
「今日はここまで、だな」

少佐の言葉に私はその場にへたり込む。
今日の鍛錬はいつもにもまして激しかったような気がするのは気のせいであろうか。
……まぁ最初に遅刻してしまった私が何を言ったところで言い訳にしかならないが。

「どうした土方。このお気楽なロマーニャの空気に感化されて鈍ったか?」
「…………も、申し訳、ありません」

荒い息の下からやっとそう答えるのが精いっぱいの私を見て、少佐はさすがにばつの悪そうな表情を浮かべるとすると、「昼までは休んでいろ」とだけ言い残して風呂場の方へ向かわれた。
後に残された私はもはやだれも見る者もいないのをいいことにその場に大の字に寝頃ぶ。
昼ともなれば全身を焼き焦がす勢いで照り付けるロマーニャの太陽であるが、この時間はまだそれほど暑くもなく、海から吹きつけてくる風が火照った体を心地よく醒ましていった。
呼吸が落ち着くと同時に、意識の奥から眠気が泡のように昇ってくる。
どうせ昼まで休みだし、ここは…………
そして私の意識は暗転した。
707 :1 [saga]:2012/06/22(金) 23:37:57.14 ID:G/caOMhb0
「んっ……」
「よ。土方の兄さん。おはよ」
「…………シャーリーさんですか」

どれほど眠っていたのだろうか。
目覚めた私の視界に最初に飛び込んできたのは空を背景にしたシャーリーさんの笑顔であった。
それはいいのだが、先ほどから感じるこの頭の下の場違いな柔らかさは……
まさか…………また、であろうか。

「あ、あの……」
「珍しいな。兄さんがあんな緩んだ表情で眠りこけてるって」

屈託なく笑うシャーリーさん。
次第に覚醒してくる意識が、私の周りの状況を認識させていく。
予想通り私の頭はシャーリーさんの太ももの上に載っていた。

「す、すいません!すぐどき…………」
「こーら、おとなしくしてろ」

慌てて起きあがろうとするが、シャーリーさんに力づくで押さえつけられる。


「ちょ、ちょっと」
「暴れるなって言ってるのに。ほら抵抗するだけ無駄だぞ」
「ひ、人を呼びますよっ!」
「こんな時間に人なんか通らないさ…………ほら、諦めて気持ち良くなんな」
「う、ううぅ…………」
「んーいい表情だねぇ」
「や、やめてください…………」

…………思わず乗ってしまった。
708 :1 [saga]:2012/06/22(金) 23:38:53.82 ID:G/caOMhb0
どうやらシャーリーさんは魔力を発動しているようである。
相変わらずこういう仕事以外の事には一生懸命になるお方だ。
私の抵抗むなしく、再びシャーリーさんの太ももに押し付けられる。
やがてそんな小芝居にも飽きたのか、表情を改めるとシャーリーさんは尋ねてきた。

「今日も少佐にしごかれてたんだな。相変わらずよくやるねぇ」
「は…………」
「…………あー、その、だな……」

我ながら不明瞭な回答になってしまう。
しかし、そんな私の態度にシャーリーさんは彼女にしては珍しく何かを言い淀むような態度を見せた。

「もしかして……昨日私たちが散々連れまわしちゃったせいで寝不足、とか?」
「…………い、いえ、そんなことは」

慌てて否定してみるが、私の表情に肯定の色を読み取ったのであろう、シャーリーさんが些かばつの悪そうな表情になる。

「……そいつぁ悪かった。昨日はちょっと悪乗りしすぎたみたいだな」
「いえ、私自身も楽しんでおりましたし……」
「いや、昨日の事はちょっと私も気になってたんだよね。…………まぁお詫びってわけじゃないけど太ももくらいなら貸すよ。ゆっくり休みな。あたしも昨日夜間哨戒だったから午前は休みなんだ」

そう言ってシャーリーさんは優しげな手つきで私の頭を撫でて下さる。
う…………これは……
あまりの心地よさに再び眠りそうになる。
思えば、家にいたころは土方家の長男として、また歳江の兄として恥ずかしくない振る舞いを心掛けてきた。
軍隊に入り、坂本少佐に出会ってからはその従兵として自らを強く律することが習慣となっていた。
なので、女性からこのような扱いを受けるというのは…………その、なんというか慣れないせいもあるのだろうが些か以上に恥ずかしい。
しかし、それは決して不快なものではなかった。
ルッキーニ少尉がいつもシャーリーさんに抱き着いているのもわかる気がする。
709 :1 [saga]:2012/06/22(金) 23:39:31.07 ID:G/caOMhb0
「なぁ兄さんよ。髪は伸ばさないのかい?」
「か、髪…………ですか」
「そうそう。扶桑の男の軍人ってさ、判で押したみたいに短髪だよね。それも触るとチクチクする感じの」

そう言いながらその感触を思い出したのか、シャーリーさんが少し顔をしかめる。
そんなシャーリーさんの表情が少しおかしくて、私は状況も忘れて思わず吹き出した。

「笑うなよー。まぁロマーニャ男みたいになれとは言わないけどさ、もう少し気を使ってみたらどうだい?兄さんは素材はいいと思うんだよな」
「はぁ」

いまいち要領を得ない顔で頷く。
自分の顔が男としてどうであるか、など今まで考えたことすらなかったのだから。
そんな私の反応に、シャーリーさんは苦笑を浮かべる。
710 :1 [saga]:2012/06/22(金) 23:40:05.50 ID:G/caOMhb0
「まぁいきなり変われってのも無理な話か。でも少佐に対するアピールにはなるかもな」
「…………そうでしょうか?」

少佐というワードに思わず反応してしまった私は、次の瞬間にシャーリーさんが浮かべたにやにや笑いを見て自らの失策を悟った。
……正直すぎるというのもある意味やりにくい。

「まぁがんばれよ兄さん。ああいうタイプは結構男が積極的に動かないと進展しなかったりするからな」
「い、いえだからそういうのでは……」
「あたしは応援してるからな」

私の弱弱しい反論はしかし、シャーリーさんの浮かべる笑顔にあっさりと跳ね返された。
まぁシャーリーさんはお気楽な方に見えて、ちゃんとわきまえた方である。
無思慮に言いふらしたりすることはないだろう。
ある意味相談相手ができたと思ってよいのだろうか。

「相談ぐらいなら乗るから、いつでも部屋に来なよ」
「…………は」

だからこそ、いつもなら慌てて拒絶するであろう続いての言葉にも、素直に頷くことができた。
711 :1 [saga]:2012/06/22(金) 23:40:59.92 ID:G/caOMhb0
そして小一時間後。

「うぅ……まだ足の感覚がない…………」
「申し訳ありません。つい……」
「はは、気にすんなって。私がやりたくてやったことなんだからさ」

私の肩に体重を預けながらシャーリーさんが弱弱しく笑う。
シャーリーさんの膝があまりに心地よく、そのままの体勢で話し込んでしまったのがいけなかった。
立ち上がろうとしたシャーリーさんは見事に体勢を崩し、そして現在のような仕儀に至るというわけだ。
何というか、申し訳なさと恥ずかしさでこのまま穴を掘って埋まりたいほどである。

「……まぁでも安心したよ」
「何がです?」
「半年前は土方の兄さんって少しお堅い感じがあったけどさ、いや、今でもそうなんだけどさ、ちょっと柔らかくなった気がする」
「そうでしょうか?」

自分の変化というのはどうもわかりにくい。
しかし、シャーリーさんの口調を聞く限りそれは悪い方向への変化ではなさそうだ。

「やっぱりあの半年の間に何かあったんだな?」
「やめてください」

そう言いながらシャーリーさんは肩に回した手でほっぺたをつついて来た。
712 :1 [saga]:2012/06/22(金) 23:41:41.98 ID:G/caOMhb0
避けようにも、手を離したらシャーリーさんを放り出すことになってしまう。
私にできるのは何とか身をよじってシャーリーさんの魔手から逃れようとすることだけであったが、シャーリーさんが首に回した手に必要以上の力を込めているためそれもままならないまま、シャーリーさんの部屋につくまで好きにいじり倒されることになったのであった。


「ありがとな」
「いえ、こちらこそ申し訳」
「もういいよ、それは」

シャーリーさんの部屋の前の到着し、改めて謝罪の言葉を口にしようとする私をシャーリーさんが押しとどめる。
そして小鳥のような身軽さで(あるいは彼女の使い魔にちなんでウサギのように、というべきか)私から身を離すと、

「まぁさっきも言ったけど、兄さんはいい方に変わってるよ。それは保証する」
「はぁ」
「そーだな。私は今の兄さんの方が」

そう言うと少佐は悪戯っぽく片目をつぶる。


「好きだよ」


その一言を残し、ドアの前で呆けたように立ちすくむ私を残して部屋に入っていってしまった。
713 :1 [saga]:2012/06/22(金) 23:42:34.34 ID:G/caOMhb0
……こんな感じで終わりです。
どんどん短くなっていくww

すいませんです。

それでは週末に。
……ってもう週末ですがw
714 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/06/23(土) 00:09:15.32 ID:2yNjGgO3o
乙!
715 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/23(土) 03:20:11.68 ID:mTX8AewK0
やばい、最後の一言が素敵すぎるw
716 :1 [saga]:2012/06/24(日) 00:30:18.02 ID:idalbYBU0
こんばんは。
遅くなってしまいましたが今週分の投下です。
717 :1 [saga]:2012/06/24(日) 00:31:17.67 ID:idalbYBU0
「よーいドン!」

ルッキーニ少尉の合図とともにシャーリー、バルクホルン両名が上昇を始める。
結局のところ実力を持ってお互いの遺恨を晴らすべしという坂本少佐の裁定により二人の勝負が実現したわけだが……
正直これほどのものとは思わなかった。
レシプロ機としては非常識な速度で上昇するシャーリーさんにもあきれるが、バルクホルン大尉のジェットストライカーはそれのさらに上を行っていた。
傍らで見つめる宮藤さんやペリーヌさんも驚いている。
ここ地上からではお二人の姿はもはや芥子粒ほどにしか見えないが、それでもジェットストライカーのすごさは実感できた。

「シャーリーさん、12,000mで上昇が止まりました。バルクホルンさん、さらに上昇しています」

観測班のリトヴャク中尉よりの連絡が入り、地上の人間にどよめきが走る。
レシプロ機で12,000まで上昇したシャーリーさんの非常識もさることながら、それをさらに超える高度を記録するジェットストライカーとは……
718 :1 [saga]:2012/06/24(日) 00:32:07.79 ID:idalbYBU0
「大したものだな。二人とも。いや、ジェットストライカーが、か」
「ええ。でも…………」
「何か心配があるのか?」
「あれだけの出力、ものすごく魔力を食いそうな気がするのが気になるわね」

ヴィルケ中佐の懸念はもっともである。
どれほど性能の良いユニットであってもそれを穿くウィッチの事を考えていない機体は失敗作である。
誰もが宮藤さんのような底なしの魔力を有するわけではないのだ。

しかしヴィルケ中佐のそんな心配をよそに結局、続く搭載量勝負においてもバルクホルン大尉はシャーリーさんに圧勝したのだった。


「お夕飯は肉じゃがにしてみました」

その夜。何故か皆で格納庫で夕食をとることになり宮藤さんが肉じゃがをふるまっている。
そんな中、私は皆から離れて一人ぽつんと座っているバルクホルン大尉の姿を見かけた。

「……バルクホルン大尉」
「あ、ああ……土方卿か」

私が声をかけると大尉は顔を上げるが、その表情にははっきりと隈が浮かび疲労の色が濃い。
719 :1 [saga]:2012/06/24(日) 00:32:56.36 ID:idalbYBU0
「あの、お食事はとられた方が……」
「ああ、そこにおいておいてくれ。あとで食べる」

そう答える大尉の声は普段の彼女からは想像もできないほどにとても弱弱しく、恐ろしく消耗しているのがありありと分かる。
昼間のヴィルケ中佐の言葉がよみがえる。
やはり大出力のユニットはそれ相応の魔力を消費するものなのだろうか。
私は差し出がましいとは思いつつ忠告してみることにした。

「その、差し出口とは思いますが、あまり無理をされないほうが」
「気遣っていただけるのは感謝する。だが無用だ。これしきの事で音を上げるような惰弱な人間はカールスラントには必要ない」
「しかし…………」
「けーすけ、いいよ」

不意に横から声がかけられる。
振り向くと肉じゃがの皿をもってもぐもぐと食べながらハルトマン中尉がこちらに歩いてくるところであった。

「全く……いつも『体調管理も軍人の務めだ』なんて言っときながらこれじゃ、説得力ないよトゥルーデ」
「うるさいっ!あのジェットストライカーは絶対に必要なものだ。そのためのテストに役立つならこの程度の無理など」
「ほい」
「あ…………」

ハルトマン中尉が持っていたスプーンでバルクホルン大尉の額を軽く小突く。
それだけで、バルクホルン大尉はあっけなく尻餅をついた。
720 :1 [saga]:2012/06/24(日) 00:33:35.04 ID:idalbYBU0
「ほら。フラフラじゃないトゥルーデ。ちゃんと食べないと。宮藤が作ったんだからおいしーよ」
「あ、うん、そうだな……はぐっ!」

そう言うとハルトマン中尉はバルクホルン大尉の口にスプーンを突っ込む。

「ね?おいしかったでしょ?ほら、次いくよー」
「分かった分かった!自分で食べられるから余計なことをするな!」

そんなお二人のやり取りを背中で聞きつつ私はその場を後にした。
……さすがはハルトマン中尉である。バルクホルン大尉の扱いかたは心得ていらっしゃるようだ。
私ごときがしゃしゃり出るまでもなかったか。

「……バルクホルンさん、大丈夫でしょうか」

お二人のやり取りを眺めている私に、宮藤さんが声をかけてくる。
そもそもこの、格納庫で食事というのも宮藤さんがバルクホルン大尉のために考えたことだという。

「確かに大尉は体力は底なしの方ですが……どうもあのジェットストライカーというやつはそれ以上に魔力を消耗するようですね」
「そうですか…………」

心配そうに大尉の方に視線を向ける宮藤さん。
視線の先ではバルクホルン大尉が宮藤さんの肉じゃがを食べていらっしゃるが、その手つきは機械的で、とても食事を楽しんでいるようには見えない。
そんな大尉の様子に、私と宮藤さんは顔を見合わせてため息をつくのだった。
721 :1 [saga]:2012/06/24(日) 00:34:09.16 ID:idalbYBU0
「よーい、どん!」

ルッキーニ少尉がその掛け声とともに旗を振りおろす。
翌日。
今度はシャーリーさんお得意の速度で勝負することになり、心配するヴィルケ中佐をよそにバルクホルン大尉は再びジェットストライカーを穿いて空へと上がっていかれた。
ルッキーニ少尉の合図とともにシャーリーさんが弾丸のような速度でスタートする。
…………ん?
しかし、シャーリーさんがスタートされた後もバルクホルン大尉はその場にとどまったままである。
何かのトラブルであろうか。

「バルクホルン!ほら、どーん!どーん!」

そう言ってルッキーニ少尉が旗を振り回すが何故か微動だにしないバルクホルン大尉。
……その時であった。

ごおん!

空気が震えるような振動とともにバルクホルン大尉がスタートを切る。
発生した衝撃波でルッキーニ少尉があらぬ方へと吹き飛ばされるのが見えた。
スタートしたバルクホルン大尉はそのまま一気にシャーリーさんを抜き去っていく。

「す、すごい…………」

そう呟いたのは誰であっただろうか。
スピード勝負においてシャーリーさんがここまで差をつけられるとは…………。
地上で見ている我々もあまりの事に言葉も出ない状況である。
しかし。

「…………あれ?トゥルーデなんだかおかしいよ」

最初に異常に気付いたのはハルトマン中尉であった。
そう言われてバルクホルン大尉に目をやると、確かに一直線に飛ぶのではなくどこかフラフラと不安定な軌道を描いているのが見える。
…………と言うか。

「ちょ、ちょっと!バルクホルンさん落ちてるよ!」

宮藤さんの声。
その直後、我々は盛大な水柱とともに海に落下する大尉の姿を見た。
722 :1 [saga]:2012/06/24(日) 00:34:39.68 ID:idalbYBU0
結局のところ。
大尉の事故の原因は誰がどう見てもジェットストライカーによる法外な魔力の消費によることは一目瞭然であり、大尉はヴィルケ中佐よりしばらくの飛行禁止と自室待機を命じられることとなったのであった。
そして、ジェットストライカーはこれもまた中佐の命によって封印されることになった。
バルクホルン大尉は「テスト機に不具合はつきもの」と抵抗したらしいが、ヴィルケ中尉が「命令だ」と無理やり納得させたとのこと。

「バルクホルンさん、大丈夫でしょうか」
「そうですね…………」

宮藤さんも心配そうだ。
彼女によれば、海から救出された大尉の表情はげっそりと頬がこけ、まるで死人のようだったとのこと。
魔力を吸い尽くされるとはそれほどの事であったのか…………
考えられないが、少佐がもしそんなことになったとしたら私は正気を保てる自信がない。

「あの、せめてお部屋に何か元気のつくものを作って持って行って差し上げたいんですけど……」
「……そうですね。私もお手伝いします」
「あ、ありがとうございます!」

せめてこういうことだけでもお役に立たねばやりきれない。
私と宮藤さんは顔を見合わせて頷きあうと、厨房へと歩を進めた。
723 :1 [saga]:2012/06/24(日) 00:35:33.71 ID:idalbYBU0
今回は以上です。
なかなか話が進みませんね……もうちょっと頑張らないと。
それでは。
724 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/06/24(日) 01:20:56.52 ID:aNnVsP/zo
乙です
725 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/06/24(日) 01:31:03.85 ID:jVY4Q7oMo
乙乙
726 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/24(日) 01:36:00.02 ID:l+CEhmewo
おつおつ
727 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/24(日) 01:40:49.81 ID:GaLAFOry0
続き乙です。

>バルクホルン大尉は「テスト機に不具合はつきもの」と抵抗したらしいが、ヴィルケ中尉が「命令だ」と無理やり納得させたとのこと。

直ぐ上はちゃんと「中佐」なのに……?
728 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/24(日) 01:46:39.14 ID:y2hgLTPDO
乙!

後シャーリーが少佐になってたところがあった気がする。
729 :1 [saga]:2012/06/25(月) 23:00:42.59 ID:NbXReD7J0
セルフage

>>727
あああああああすいません!
呼称間違いが多発しているんで気をつけようと考えた矢先にこれだよ!

>>728
>>712のシャーリーさんの決め台詞の前で盛大に間違いました。
よりによってこんなとこで間違わんでも……
730 :1 [saga]:2012/06/26(火) 23:52:12.87 ID:cNsaj2ul0
「しかし貴様も律儀だな」

隣を歩く少佐が声をかけてきた。
月明りが差し込む廊下は、夜中だというのにかなり明るく、少佐の横顔をはっきりと浮かび上がらせる。

「毎日毎日面白くもない見回りに付き合って」
「は」

私としては好きでやっているのだから余計なお世話です、と言いたくなるのをぐっとこらえる。
小一時間だけとはいえ、少佐と二人で過ごす時間が得られるのだ。
これで断るなど私にとってみれば正気の沙汰ではない。

「まぁそのおかげで私も退屈を紛らわすことができているわけだがな」

そう言って少佐は笑う。
正直、この見回りを少佐がまだ続けている理由は謎である。
ウィッチ基地に侵入して不埒を働こうとするものなどはっきり言えば皆無であろう。
ただ少佐の暇つぶしに付き合わされているだけなのかもしれないが、それならそれで構わないと思う。

「では、今日も行くか」
「は」

少佐の後に続き、私は月明かりのさす廊下を歩きだした。



こんばんは。
今回も安価です。
現在基地にいるのはミーナさんじゅうきゅうさい、バルクホルン大尉、ハルトマン中尉、シャーリーさん、ルッキーニちゃん、エイラさん、サーニャちゃん、ペリーヌさん、リーネちゃん、芳佳、もっさんの11名。

それでは。

今回は>>735さん、よろしくお願いします。
731 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/27(水) 03:44:06.22 ID:frrz2RQJo
シャーリーさんで
732 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県) [sage]:2012/06/27(水) 06:57:48.04 ID:26l1/kXjo
サーニャな
733 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/27(水) 08:19:46.23 ID:SyotJ5E/o
安価取っていくといずれはサブヒロインルートも出来たりするのかな

安価ならバルクホルンさん
734 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/27(水) 17:10:43.16 ID:LNhfiVgzo
シャーリーさん
735 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/27(水) 17:23:47.26 ID:xJAx6CKwo
エーリカ!
736 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/27(水) 17:24:05.01 ID:w7gQbQLy0
芳佳ー!
737 :1 [saga]:2012/06/27(水) 18:54:59.45 ID:jOCY839y0
こんばんはー。
エーリカちゃんですね。
了解しました。
738 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/27(水) 19:04:10.29 ID:PoLHlNsx0
うおー!二十秒差で負けたー!?
739 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/27(水) 21:18:39.94 ID:9fK66ucqo
勝った!
初安価ゲットや!
740 :1 [saga]:2012/06/27(水) 22:14:17.17 ID:jOCY839y0
こんばんは。
エーリカルート投下です。
よろしくお願いしますねー。
741 :1 [saga]:2012/06/27(水) 22:15:04.77 ID:jOCY839y0
「……ん?」

見回りも終わり、少佐と別れて自分の部屋に向かって歩いている私の視界に、一つの人影が映る。
月明りのさす中庭。
その中庭に幾つかおいてある長椅子にその人影は寝転んでいた。
格好からするにウィッチのどなたからしいが……
こんなところで眠ってしまわれてはいくら乾燥したロマーニャと言えど風邪をひいてしまうだろう。
そう思いながら近づいていく。

「ハルトマン中尉?」

そう。
人影はハルトマン中尉であった。
しかし…………この格好は……

「くー……」

何も悩み事などないような緩んだ表情で大口を開けつつ眠る中尉。
その体は逆さまになって半ば椅子からずり落ちており、何というか、目のやり場に困る状況になっていた。
何故こういう仕儀になったのかいまいち分からないが、ハルトマン中尉ならなぜか納得できてしまえるような気がする。
とにかくここは起こした方がいいだろう。
こんな姿勢でいまだ目をさまさないのが不思議だが。
742 :1 [saga]:2012/06/27(水) 22:15:36.49 ID:jOCY839y0
「中尉、中尉」
「くー」

軽く体をゆすぶりつつ呼びかけてみるが、目を覚ます気配すらない。

「中尉!」
「んんん〜〜〜」

少し強めに呼びかけるが、中尉はわずかに身じろぎをしたのみである。
む……
これ以上大声を出しては眠っている方々の迷惑にもなりかねない。
どうしたものか。
少し考えたのち、私は一つの事を試してみる気になった。

「おい!ハルトマン起きんか!いつまで寝ているつもりだ馬鹿者!」
「トゥルーデぇ……あと3時間……………」

出来るだけバルクホルン大尉の口調を真似てみると、効果は覿面だった。
気怠そうな声ながらちゃんと返事が返ってくる。
呼び捨てで呼ぶのが何となく恥ずかしいが、ハルトマン中尉の事だしおそらく覚えてはいまい。
しかしあと3時間とか……いつもあのお二人はこんな会話を繰り広げているのだろうか。
そう思うとこんな時だというのになぜだか笑いがこみあげてくる。
743 :1 [saga]:2012/06/27(水) 22:16:30.71 ID:jOCY839y0
「こーらハルトマン!馬鹿なことをいっとらんで起きろ!だいたい貴様にはカールスラント軍人としての…………」
「んもー!分かったよトゥルーデ…………んっ」

そう言ってハルトマン中尉は小さく伸びをする。
眠たげに眼をこすっていたが、やがて下半身のズボンに手をかけて…………ってちょっと待て待て待て!

「ちゅ、中尉!」
「あれ?トゥルーデ、何だか声が……あれ?もしかしてけーすけ?」

慌てて出した私の素の声にハルトマン中尉が不思議そうな表情になる。
あ、あぶなかった…………

「も、申し訳ありません。中尉がなかなかお目覚めにならないので……」
「なんだー。びっくりさせないでよ」
「…………びっくりしたのはこっちです」
「あはは……いつも寝るときは裸だから…………ってそういえばけーすけに見られるのって2回目だね」

そう言いながら中尉は(さすがに恥ずかしそうに)ズボンを穿きなおす。
…………確かに、中尉の荷物を部屋にお持ちした時にも寝起きの中尉を思いっきり目撃してしまった気がする。
744 :1 [saga]:2012/06/27(水) 22:17:05.56 ID:jOCY839y0
「重ね重ね面目ありません…………」
「いいよいいよ。こっちこそこんなひんそーなもの見せちゃって申し訳ないね」
「…………」

反応に困る。
前回もそうなのだが、中尉に私は男と思われていないのだろうか。
そんなふてくされたような私の表情が気に入ったのか、中尉は背伸びして私の頭を撫でようとしてくる。

「…………あはは、けーすけは可愛いなぁ」
「や、やめてください」

シャーリーさんに膝枕された時もそうだったが、ハルトマン中尉もまたどこかつかみどころのない方である。
こういう女性はどうも苦手だ。
私はやはり坂本少佐のようなさっぱりとした方が…………っといかんいかん。
埒もない方向に脱線しかけた意識を慌てて戻す。

「し、しかしなぜこのようなところで?」
「夕方の哨戒を終わって部屋に帰ろうとしたところまでは覚えてるんだけど…………あまりに眠くて途中で力尽きちゃったのかな?」

「のかな?」と言われましても。
バルクホルン大尉は一緒ではなかったのか、と尋ねるが、大尉はどうやら妹さんのクリスさんからの手紙が届いたとかで一目散に部屋に帰って行かれたそうだ。
相変わらずの方である。
745 :1 [saga]:2012/06/27(水) 22:17:47.93 ID:jOCY839y0
「まぁとにかくありがとね。さすがにこんなとこで寝てたら風邪ひいちゃったかも」
「……お気を付け下さい。それでなくても中尉の生活環境は良好とはいえないんですから」

あの時拝見した中尉の部屋。
「あれは人間が暮らせる部屋じゃない」というバルクホルン大尉の言葉に全力で同意したくなった。
私も少佐などに「貴様は几帳面すぎる」と言われる性質ではあるが、あの部屋の対比はいっそ見事なほどだと思う。

「ひどいなー。これでも年に1回ぐらいは掃除するんだよ」
「…………せめて自分の部屋で遭難しないうちに助けを求めてくださいね」
「あ、それはけーすけが私の部屋を片付けてくれるってこと?」
「え」

突然の言葉に驚いて振り返った私は、中尉の胡散臭いほどの笑みを見ることになる。
その笑みを崩さないまま中尉は言葉を続ける。

「けーすけならいつでも部屋に来ていいよ。ついでに片づけとかもしてくれるとなおいいかな。最近トゥルーデが手伝ってくれなくなってさ」
「いえ、そんなつもりで言ったわけでは……」
「だいじょーぶ。その辺に落ちてるズボンとかこっそり持って帰っても見てないふりしてあげるから」
「するかっ!」

あ、まずい。
思わず素で答えてしまった。
746 :1 [saga]:2012/06/27(水) 22:18:20.36 ID:jOCY839y0
「あ、その、申し訳ありません」
「…………うん。けーすけがそういう喋り方するの初めて聞いたよ。ちょっと新鮮だったかも」

しかし中尉は私の無礼を笑って許して下さった。

「けーすけの方が年上なんだし、これからずっとそういう喋り方でもいいよ」
「いえ、それはさすがに……」
「えー」

なぜそこで残念そうなのだ。
しばらく考え込んだ中尉は、やがて顔を上げる。

「じゃあさ、私の事『フラウ』って呼んでよ」
「フラウ、ですか……。そう言えばヴィルケ中佐や坂本さんがたまに呼んでらっしゃいますね。確かカールスラント語で…………」
「うん。『お嬢様』とか『奥様』みたいな意味だよ。新任少尉になった時に周りのおじさんたちにそう呼ばれてたんだ。私…………まぁ今もそうだけど、いろいろ小っちゃかったから。『はやくフラウって呼ばれるほど大きくなれよ』って。早い話がからかわれてただけなんだけど」
「は、はぁ……」

素直に「そうですね」と答えるのもためらわれ、曖昧な返答をする。
747 :1 [saga]:2012/06/27(水) 22:18:58.53 ID:jOCY839y0
「でも、結構気に入ってるんだよ実は。こーんなちっちゃな女の子が『フラウ』なんて仰々しく呼ばれてるって、ちょっと面白くない?私自身お嬢様なんて柄じゃないのに」

そう言って笑う。
そこには自分の体型に対するコンプレックスなどみじんも感じられない。
こういう自由なところは中尉の魅力だと素直に羨ましくも思える。

「だからさ、けーすけもフラウって呼んでくれると嬉しいな」
「は…………フラウ」

私がそう呼ぶと、中尉は照れたように微笑んで言葉を続けた。

「……うん。まぁ片づけは冗談だけど、いつでも部屋に来ていいってのはほんとだよ。お茶ぐらいなら出すから」
「…………」

ハルトマン中尉の部屋でお茶か…………
確かヴィルケ中佐と坂本さんが「フラウは料理禁止!」と命令までしていたな。
どんなものが出てくるか逆に楽しみかも知れない。

「失礼なこと考えてない?」
「いえ、全く」

私の沈黙に、怒ったような返事をする中尉の表情はしかし笑顔であった。

748 :1 [saga]:2012/06/27(水) 22:20:19.84 ID:jOCY839y0
こんばんは。
ということでエーリカルート2回目です。
今度から「部屋に来ていいよ」って言われたウィッチに関しては部屋を訪ねる、の選択肢を入れようかと思ったり。

それでは。
また週末に。
749 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/27(水) 23:41:08.55 ID:9fK66ucqo
乙!
エーリカマジ天使!
750 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/28(木) 00:36:13.59 ID:p5r+pw6Co
乙!
珍しく土方さんがフレンドリーだwwww
751 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県) [sage]:2012/06/28(木) 21:05:23.63 ID:V3IdvlnGo

この天使の破壊力は人殺せるレベ……あ、元からか
752 :1 [saga]:2012/06/30(土) 13:15:03.37 ID:xzAcT2DT0
こんばんは。
雨続きでうっとおしいですね。
それでは、今週分の投下に来ました。
753 :1 [saga]:2012/06/30(土) 13:15:50.51 ID:xzAcT2DT0
「あ、あの……バルクホルンさん」
「む。宮藤に土方卿か。すまんな。こんな格好で…………んっ」

部屋で謹慎していらっしゃるはずのバルクホルン大尉の部屋にお食事を持っていくと、大尉は天井の梁にぶら下がって懸垂をしておられた。
部屋にいる気安さからか、薄いタンクトップにズボンのみという格好で、思わず私は目をそらす。

「あの…………何してるんですか」
「見ての通りトレーニングだ。私が落ちたのはジェットストライカーのせいじゃない。私の能力不足だ」
「ま、またあれを穿くつもりなんですか?」
「当然だ。あれを使いこなせれば戦況は劇的に変わる」

宮藤さんの驚いたような問いかけに、大尉は当然とばかりにこたえる。
確かに大尉の故郷のカールスラントはいまだネウロイの勢力下にある。
そう考えれば戦局を一気に逆転させる可能性を秘めた新兵器に飛びつきたくなる気持ちもわからないではないが…………
いくら何でも無謀すぎる。
あんなものを繰り返し穿いていてはそれこそ命に関わりかねない。
しかし、バルクホルン大尉は頑固なカールスラント人気質の見本のような方である。
私や宮藤さんの言葉などではとても翻意してくださらぬだろう。
どうしたものかと宮藤さんと顔を見合わせていると、一人の女性が私の視界に入り込んで来た。
754 :1 [saga]:2012/06/30(土) 13:16:35.66 ID:xzAcT2DT0
「無駄だ。あきらめろ」

その女性―シャーリーさんは普段の剽軽さとは打って変わった真剣な表情で大尉に忠告する。

「なんだ。私を笑いに来たのかリベリアン?魔力切れで墜落など、まるで新兵だしな」
「あのストライカーはやばい。お前もわかってるはずだろ……今度穿いたりしたら飛べなくなるだけじゃすまないぞ」
「あのジェットストライカーの戦闘能力の高さは貴様も知っているはずだ。私の後に続くウィッチ達にできるだけ良いものを残してやりたい」
「だからって自分が死んだら何にもならないだろ!」
「私はそれでも、強くならねばならないんだ」

苛立ったようなシャーリーさんの叫びにも、大尉は振り返ることすらしない。
…………私ごときが口をはさむことではない。
それは十分すぎるほどに分かってはいたが、その大尉の態度は私の苛立ちを刺激するものでしかなかった。

「大尉!」
「…………土方卿?」

さすがに私が大声を出したことには驚いたのだろう。
梁を握っていた手を離すと、私の方を振り返る。

「そうやって無理をなされて誰が喜ぶんですか。大尉はもっとご自分を大事になさってください」
「…………それこそ無理だな。今更私の心根など変わる訳もないし変える気もない。石頭と呼ばれようがなんだろうがこれは直らん」
「「この分からず屋!」」

期せずしてシャーリーさんと私が同じ言葉を重ねるように叫ぶ。
思わずシャーリーさんと顔を見合わせてしまうが、その言葉が合図になったかのように基地全体に警報が鳴り響いた。
755 :1 [saga]:2012/06/30(土) 13:17:09.37 ID:xzAcT2DT0
「…………ネウロイ」

ふと隣のスペースでそんなつぶやきが聞こえたかと思うと、ガラクタの山をかき分けるように小さな人影がむくりと起き上がる。

「ハルトマンさん!」

宮藤さんが驚いたように声をかける。
……ハルトマン中尉にいままでのやり取りをすべて聞かれてしまったということか。
しかし、思わず黙り込む我々の空気など知ったことか、とばかりに中尉は軍服を羽織ると「おっさきー」の一言とともに部屋を出て行かれた。

「わ、私もいかないと!…………」

宮藤さんもそう言って部屋を出ていく。
そんな周りの様子がまるで目に入っていないかのように、バルクホルン大尉は私たちに背を向けて佇んでいた。

「…………」
「…………」

残された私とバルクホルン大尉の間に重い沈黙が降りる。
756 :1 [saga]:2012/06/30(土) 13:17:47.25 ID:xzAcT2DT0
「土方卿、私はいいから貴様も司令室へ…………」
「今の大尉を放っては置けません」
「…………あのな」

私の言葉に、大尉はあきれたように答える。
しかしどう思われようと、今の大尉をそのままにしておくことは私にはできなかった。
幸いというか何というか、頑固者の上官の相手は手馴れている。

「大尉、私は……」
「すっきありー」
「うわっ」

突然私の横を一陣の黒い風か駆け抜けた。
それはバルクホルン大尉の背中に無言で近寄ると、大尉の耳に何かを押し込む。
その黒い影―ハルトマン中尉―は入ってきたのと同じ俊敏さで「にゃっはははは」と笑いながら戸惑う我々の前を突っ切って部屋を出て行った。

「た、大尉、今のは…………」
「ハルトマンだな」
「その耳のものは?」
「どうやらインカムのようだ」

そう呟くと大尉は片耳からそれを外し私に投げてよこす。

「…………私が聞いてよろしいので?」
「ハルトマンもそのつもりだったのだろうさ」

少々躊躇うが、大尉は気にされていないようなので受け取ったそれを耳に装着する。
757 :1 [saga]:2012/06/30(土) 13:18:28.27 ID:xzAcT2DT0
『目標はローマへ向かって南下中。会敵予想地点を修正。およそ……』
『分かっている。こちらでも視認した』

ヴィルケ中佐と坂本少佐の声が耳に飛び込んでくる。
戦闘中は出番なしになることが多い私にとってそれは久しぶりに耳にする生のネウロイとの戦いの声であった。
こちらに来る途中で二式大艇を守りながら少佐たちが戦った時のことが思い出される。

『…………分裂した!?』
『5対5だし、ちょうどいいじゃない』
『数で押し切る気かっ!……各自散開、各個撃破!これ以上先に行かせるな』
『『『『了解!』』』』

次々に聞こえてくる戦闘の様子。
大尉の後姿に目をやると、それを聞きながら無意識にであろう、窓際に置いた手を握り締めているのがわかる。
しばらくは銃声と、ウィッチの皆様方の気合いの声ばかりが聞こえてくる。
しかし戦況はあまり芳しくないようだ。

『くっそぉ…………じっとしてろよ!』

焦れたようなシャーリーさんの声。
コアの含まれる一番早い個体を任されているようだが、シャーリーさんの機動すら振り切るネウロイとは……
それに続く坂本少佐の声にも余裕はない。

『ミーナ?こちら坂本。シャーリーが苦戦しているようだが、こちらも手が足りない。至急増援を頼む』
『分かったわ!宮藤さん、リーネさん!』
『『はいっ!!』』

その時であった。
大尉が耳からインカムを取り出し部屋の隅に投げ捨てたのは。
758 :1 [saga]:2012/06/30(土) 13:19:03.85 ID:xzAcT2DT0
そのまま振り返った大尉の瞳には決意の色が現れており、それを見た瞬間私は説得の無益を悟った。
…………まぁここで仲間の危機を見過ごすような大尉など、正直私も尊敬はできないが。
そのまま私を睨みつけるような表情で、大尉は口を開いた。

「土方卿。止めるか?」
「私は坂本少佐の従兵です。貴女の行動にまで責任は持てない。それに…………」
「それに?」
「上官の無茶には慣れてますから」

私の言葉に、大尉は一瞬毒気を抜かれたような表情で沈黙するが、やがて坂本少佐のような豪快な笑い声をあげる。

「はっはっは!それもそうだな!貴様が『あの』坂本美緒少佐の従兵であることを忘れていたよ」
「……さっさと行ってきてください。ああ、あとでヴィルケ中佐に怒られる時は一緒ですよ」
「当然だ。便所掃除でもハンガー掃除でもやってやるさ」

そう答えると、大尉は私の横を駆け抜けて部屋を出て行かれた。
…………と思ったら、入口のところで立ち止まり私の方を意味ありげな表情で見つめてくる。
759 :1 [saga]:2012/06/30(土) 13:19:32.99 ID:xzAcT2DT0
「どうされましたか?」
「……土方卿、私の従兵も兼任してみないか?」

そういう大尉の表情は、本気が4割、冗談が6割といった感じであった。
私は肩を竦めて返す。

「……遠慮しておきますよ。頭痛の種は一つで十分です」
「…………そうか。じゃあな。せいぜい無茶な上官に頭を痛めてろ。土方」
「ええ。分かってます。バルクホルンさん」

そうお互いに笑みとともに言葉を交わしあうと、私はそのまま廊下へと駆けだしていく大尉の背中が見えなくなるまで敬礼を送り続けた。
御武運を、と祈りながら。

760 :1 [saga]:2012/06/30(土) 13:21:18.86 ID:xzAcT2DT0
以上です。
2期第4話はシャーリーさんとトゥルーデお姉ちゃんのコンビがいい感じの話でしたw
次の第5話はルッキーニちゃんが主役の「ロマーニャの休日」です。

それでは。
761 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/30(土) 19:39:05.99 ID:qId9L2jro
乙!
ウルスラは…?
762 :1 [saga]:2012/07/03(火) 19:58:06.08 ID:uGGkI3Et0
セルフage

1です。
夏コミ初のサークル参加に向けて本を作り始めて日程的に余裕がなくなってきましたw
なので、申し訳ありませんが安価は2週間に1回とさせていただきます。
来週の水曜ぐらいに再び安価しに来ます。
本編は変わらず毎週末に更新しますのでどうかご容赦のほどを。
それでは。
週末またお会いしましょう。
763 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/07/04(水) 00:07:30.79 ID:0XosftMGo
乙乙
楽しみにしてます
764 :1 [saga]:2012/07/07(土) 22:19:41.40 ID:G/Fdl4S30
こんにちは。
ちょっと遅くなりましたが今週分の投下、始めさせていただきます。
765 :1 [saga]:2012/07/07(土) 22:20:53.99 ID:G/Fdl4S30
結局のところ。
ジェットストライカーで出撃したバルクホルン大尉によりネウロイは撃墜されるものの、急激な魔力の消耗に耐えられなかった大尉は気絶、
制御を失ったジェットストライカーが暴走する。
このままでは魔力を吸い尽くされる……ところをシャーリーさんが追いかけて止めることで何とか落着と相成った。
しかし、レシプロ機でジェットストライカーに追いつくとは…………何というか、シャーリーさんらしいと言えばそうなのかもしれないが。

「……このたびはご迷惑をおかけし、申し訳ありませんでした。どうやらジェットストライカーには致命的な欠陥があったようです」

そう言ってバルクホルン大尉に頭を下げるのは、ジェットストライカーを回収に来られたハルトマン中尉の妹御であるウルスラ・ハルトマン中尉だった。
そんなハルトマン(妹)中尉をバルクホルン大尉は気にするな、と励ましている。
しかし……こうお二人が並んでいるのを見ると、本当によく似ているな、と感心させられる。
眼鏡をかけて物静かな雰囲気は姉のハルトマン中尉とだいぶ違うが、それでもそれ以外の外見的な部分は姉のハルトマン中尉と全く見分けがつかないほどに似ておられる。
双子だという話だが、ここまで似ているのは双子でも珍しいのではなかろうか。
何だか同じ顔をした方がが二人いるというのも落ち着かない気分である。
同性の兄弟姉妹というのはどこもこんな感じなのだろうか。
そんな風に考えながら見るともなしに何やらバルクホルン大尉と話し込んでいたハルトマン(妹)中尉の方を見ていたところ、中尉もこちらの視線に気づかれたようで、
大尉との話を打ち切ってこちらへ向かって歩いてきた。
766 :1 [saga]:2012/07/07(土) 22:21:34.68 ID:G/Fdl4S30
「…………土方圭助さん、ですか?」
「は、はっ……」

その第一声は予想だにしないものであった。
なぜ私の名前を…………
そんな疑問を私の表情から看取ったのだろう。中尉(妹)はややはにかみながら答えて下さった。

「あの、姉さまからお名前だけはうかがっていたので…………」
「そ、そうですか」

思わず答える方もぎこちなくなってしまう。
私の知らないところでこの姉妹の会話に私の名が上ったことがあったかと思うと些か恥ずかしい。

「その、ハルトマン中尉は…………」
「はい」
「いえ、そうではなくて姉上様のハルトマン中尉は」
「あ、姉さまの事ですか」

…………そうか。
お二人とも階級まで一緒なのでどちらも「ハルトマン中尉」とお呼びせねばならず何ともややこしい。

「…………あの」
「何でしょう」
「私の事はファーストネームの『ウルスラ』でお呼びいただいて結構ですよ。姉さまと一緒だと紛らわしいでしょうし」
「はぁ……」
「あ、私の事も『エーリカ』でいいよ。それとも前にも言ったけど『フラウ』でもいいよ」
「ハルトマン中尉?」
「ね、姉さま?」

不意に話に割り込んできたのは姉のエーリカ・ハルトマン中尉であった。
何とも神出鬼没というか自由な方である。
767 :1 [saga]:2012/07/07(土) 22:26:52.65 ID:G/Fdl4S30
「んじゃ、改めて紹介ね。扶桑海軍の……苗字なんだっけけーすけ」
「…………土方圭助兵曹であります」

紹介ぐらいまじめにやってください、というツッコミをぐっと飲み込みウルスラ中尉に挨拶をする。

「あ、えっと、ウルスラ・ハルトマン中尉です。ノイエカールスラントでストライカーユニット開発をしてます」
「でも507戦闘航空団所属でもあるんだよね」
「はい。今のところは東部戦線も落ち着いているみたいなので、出向という形でノイエカールスラントのユニット開発部に所属させてもらってるんです」

……なるほど。
確かに、空を飛ぶより地上で製図台の前に座っているのが似合っていそうな感じではある。

「姉さまともども、よろしくお願いしますね」
「あ、はい」

そう言ってハル…………ウルスラ中尉は頭を下げる。
姉と違って礼儀正しそうな方である。

「…………何か失礼なこと考えてない?けーすけ」
「いえ」

横から睨んでくるエーリカ中尉に、思わず私は目をそらした。
768 :1 [saga]:2012/07/07(土) 22:29:09.73 ID:G/Fdl4S30
「離せ!私は体力を回復せねばならんのだ」
「リベリオンの食べ物は嫌いじゃなかったのか?すなおに美味いって言えよ」
「…………まぁまぁだ、と言っておこう」
「ちょ、ちょっと……たくさんあるのになんで取り合いになっちゃうのぉ〜〜?」

目の前ではバルクホルン大尉とシャーリーさんがいつもの言い合いをしている。
それを止めようとおろおろする宮藤さんの姿も、これまた見慣れたものである、と言えるかもしれない。
ウルスラ中尉が迷惑をかけたお詫びに、と山のようにジャガイモを持ってきてくださったために、机の上にある料理はジャガイモ料理ばかりであった。

「土方」
「あ、これは坂本さん」

宮藤さんたちの事を見るともなしに見ていた私に背後から声をかけてきたのは坂本少佐であった。
手に盛った皿には山のように料理が盛られ、それをいつもと変わらぬ健啖振りで平らげているその姿は、多少なりとも手伝った私にとっても料理人冥利に尽きるものであった。

「相変わらずの見事な腕だな」
「いえ、ほとんど芳佳の手によるもので、私は少し手伝っただけです」
「そんなことないですよ!」

不意に会話に割り込んできたのは宮藤さんであった。
769 :1 [saga]:2012/07/07(土) 22:30:57.37 ID:G/Fdl4S30
「あれだけのジャガイモ、土方さんが手伝ってくれなかったらとても…………ありがとうございます」
「そ、そうですか」
「それに、土方さんってすごく手際が良くて。私なんかぶきっちょだから時間かかっちゃうんですよね」
「そんなことは…………宮藤さんもお上手ですよ」
「…………えへへ。圭助さんにそう言ってもらえると自信ついちゃいます」

そう言って照れたように笑う宮藤さん。
どうも、こう正面切って礼を言われるというのは居心地が悪い。

「こほん」

横合いから不意に聞こえてきた咳払い。
振り返ろうとした私の耳が不意に引っ張られる。
そのまま私は坂本少佐に耳をつかまれてハンガーの外へと引っ張り出される。

「土方!ちょっと来い」
「は、はい?坂本さん?」
「いいから!腹が膨れたらちょっと体を動かしたくなったのだ付き合え!」
「は…………?」
「返事はどうした?」
「は、はいっ!」

結局私は意味も分からずそれから小一時間少佐に付き合ってエプロンを走ることになった。

「ふふふ〜頑張れよ〜少佐!」

その姿を見て何故かシャーリーさんが私でなく少佐に声援を送っていたのは…………なんなんだろうか。
770 :1 [saga]:2012/07/07(土) 22:31:37.88 ID:G/Fdl4S30
さて、災難というものは全く予想しないところから襲ってくるものだ。
そんなことは十分に分かっていたつもりだった。
しかしそれは分かっていた「つもり」でしかないのだ、そう私は思い知らされた。
…………いや、災難呼ばわりなど相手に失礼の極みだとは分かっているのだが。
それでも呼ばずにはおられない。

それはジェットストライカーの事案から数日たったある日のこと。
いつものようにウィッチの皆様の雑務をこなすべく奔走する私のもとに、宮藤さんが声をかけてきたのが始まりであった。

「あの、圭助さん……」
「どうしました?」
「あの、その、圭助さんにお客さんが…………」
「私に、ですか」

そこまで聞いて私も宮藤さんと同じ疑問に首をかしげる。
この異国の地で、私をわざわざ訪ねてくるような知り合いには心当たりがない。
坂本さんのような有名人ならまだしも、対外的には無名もいいところの私である。

「その、すごくきれいな女の人で……」

そう告げる宮藤さんはしかし、どこか不機嫌そうだ。
女の人……か。
それでさらにわからなくなった。
501のウィッチの方々以外にここまでわざわざ訪ねてくるような知り合いなど、504の諏訪少尉ぐらいしか思いつかないが、少尉であるなら宮藤さんも面識がある。
そんな風に宮藤さんと考え込んでいると、不意に聞こえてくる声。
771 :1 [saga]:2012/07/07(土) 22:32:57.43 ID:G/Fdl4S30
(妾をこれほど待たせるとは何事じゃ!)
(この部隊の教育はどうなっておる!)

そんな声に、私は聞き覚えがあった。
確かに「あの方」なら宮藤さんが知らないのも無理はない。
時ならぬ闖入者に、ウィッチやその他の基地職員の皆さんももの珍しそうに部屋から飛び出してきた。
これは……………私が出ていかないと埒があきそうにないな。
出て行ったら出て行ったでまたひと騒動持ち上がりそうではあるが。
しかし、私を待ち構えていたのは「ひと騒動」どころの災難ではなかったのである。

「少佐殿」
「お、やっと出てきたか圭助よ。全くここは暑くてかなわんの」

私の姿を見つけたその方―ウィトゲンシュタイン少佐―は、うんざりしたような表情を浮かべると私のもとに駆け寄ってくる。

「あの、本日はどのような御用で」
「…………ふぅ、相変わらず貴様はつれないの。妾の方が新たな性癖に目覚めそうじゃ」
「いえ、ですから」
「貴様に会いたいから来た、これ以上の理由が必要かえ?…………のう」

そこで言葉を切るとウィトゲンシュタイン少佐はちらりと、窓から顔を出している坂本少佐に視線を送ると、この基地全体を揺るがす爆弾を投下した。

「――――わが婚約者殿?」

「「「えええええええええええーーーーーーーーっ!!!!!」」」

少佐の言葉に一瞬の沈黙ののち沸き起こったおどろきの声。
その発生源は主にルッキーニ少尉とシャーリーさんであったと確認しているが、とにかく。
「災難」の種は、まさに不意にやってきた、のであった。


772 :1 [saga]:2012/07/07(土) 22:34:18.74 ID:G/Fdl4S30
こんばんは。
誰も覚えていないだろうと思いますが、前半で登場した婚約者のウィトゲンシュタイン少佐ですw
本編ストーリーをなぞるだけというのも面白くないと思いますのでちょっとオリジナル展開を入れてみましたw
それでは。

今週は安価あります。
773 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県) [sage]:2012/07/07(土) 22:41:51.60 ID:dE8JfZLeo
姫様ってことはクニちゃんも来ますよね?やったー!
774 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/07(土) 23:21:08.04 ID:B9GxxLgd0
やばいw 話が盛り上がってきて気になる
775 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/07/08(日) 09:13:38.70 ID:RK14ebXpo
これは修羅場の予感がしますね…
776 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/08(日) 16:01:07.82 ID:gZ0PxrFIO
乙!
ちゃんと覚えてるよ!
777 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) :2012/07/09(月) 00:21:20.64 ID:ROoGNUkS0
あれだ
最近もっさんが目立ってない気がしてた
この修羅場展開を待ってました
778 :1 [saga]:2012/07/09(月) 22:53:07.98 ID:eaadr1DW0
セルフage
皆様レスありがとうございます。
そんなに修羅場が好きかww
779 :1 [saga]:2012/07/12(木) 00:35:12.17 ID:XjhU2W1I0
「補給物資の受け取りですか」
「うむ」

坂本少佐が頷く。
突然司令室に呼び出された用事はこのことだったか。
その後を、傍らにいるヴィルケ中佐が引き継ぐ。

「ガリア総監部から補給物資が届くんだけど、あっちもいろいろ忙しいらしく、輸送機を割く余裕がないとのことよ」
「それで、陸路を?」
「ええ。一両日中に近くの町にたどり着くわ。貴方にはそこまで輸送物資を受け取りに行って、そこからその輸送隊の指揮を引き継いでほしいの」

なるほど。
確かにこのような仕事にウィッチの皆様方を使うまでもない。
私は敬礼を一つすると了解の旨を伝えた。

「ありがとう。それで…………」

そこで言葉を切ると、ヴィルケ中佐はなぜか少し言いづらそうにためらってからその後を続けた。

「貴方の護衛としてウィッチを一人つけます」
「いえ、私ごときにそのような……」

ヴィルケ中佐の申し出に、私は慌てて手を振る。
ウィッチの方が出張るまでもないということで私にお鉢が回ってきたのだろう。
ここでそのお手を煩わせては本末転倒もいいところだ。

「まぁそう言うな。貴様も一人じゃ退屈だろう?」

そう言って微笑む坂本少佐とため息をつくヴィルケ中佐。
……なるほど。
その光景だけで私はすべてを理解した。

「私は賛成できないんだけど……確かに補給部隊が襲撃を受けることも考えられるし、まぁ仕方ないわね」
「聞いての通りだ。行きはストライカーで飛んで行けるが帰りは2日といったところか……それほどの長旅でもない。気分転換だと思って楽しんでくるがいい」
「……は」

少しの躊躇いの後任務を拝命した私に、坂本少佐は満足そうに頷いてみせた。



今回の安価はちょっと変り種。
近くの町までウィッチの誰かと補給物資の受け取りに行ってきます。
現在基地にいるのはミーナさんじゅうきゅうさい、バルクホルン大尉、ハルトマン中尉、シャーリーさん、ルッキーニちゃん、エイラさん、サーニャちゃん、ペリーヌさん、リーネちゃん、芳佳、もっさんの11名。


今回は安価のやり方を変えてみます。
ここから10レス下の>>789までを安価ゾーンとし、最もたくさん名前の登場した方が安価ということにします。
同一IDによる複数投票は1票とみなし、同票が複数あった場合は最初にその数に達した方を安価達成とします。

>>789までいかなくても明日の夕方ごろに締め切ります。
それでは。
780 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/07/12(木) 00:42:07.01 ID:Lfj9DnXWo
形式が変わったのは嬉しい
もっさん
781 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/12(木) 00:43:34.33 ID:N4xGEHGIO
リーネちゃん!
782 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県) [sage]:2012/07/12(木) 00:46:12.50 ID:dioLB/DUo
エイラ
783 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/12(木) 00:47:44.01 ID:ike3v4kDo
ミーナさんじゅうきゅうさい
784 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [sage]:2012/07/12(木) 01:04:11.57 ID:F3zPcTQAO
ここはもっさんで
785 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/12(木) 01:09:58.39 ID:a+tVKbHD0
エイラかなー
786 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2012/07/12(木) 01:15:49.03 ID:L7eL8jDKo
エイラ!
787 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県) :2012/07/12(木) 01:43:07.08 ID:nsNAMkrV0
芳佳ちゃん!
788 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/07/12(木) 01:53:16.17 ID:Pt/I+Aeio
芳佳
789 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/12(木) 04:39:02.29 ID:TWqOW1a8o
もっさんでお願いします
790 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/12(木) 15:28:17.21 ID:XxeOdfL4o
エイラともっさんが同率か…
どうなるんだろ
791 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [sage]:2012/07/12(木) 18:21:31.41 ID:F3zPcTQAO
同じ数の場合は先に多くなった方が採用だからエイラだね
792 :1 [saga]:2012/07/12(木) 23:44:50.33 ID:XjhU2W1I0
こんばんは。
>>791さんのおっしゃるとおりエイラさんになります。
エイラさんか……どんな話になるか私も想像つきませんw
頑張って書きますのでよろしく。
793 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/12(木) 23:51:43.98 ID:8NztQsLY0
途中まで読んでいて、こりゃウィトゲンシュタイン少佐が護衛だなと思ってたら、


まさかの安価ww
そしてエイラか……

さてどうなることやら。
794 :1 [saga]:2012/07/14(土) 00:15:19.15 ID:6RjQ92tj0
こんばんは。
何とかエイラさんルート投下に来ました。
絡ませづらさが半端なかったww
795 :1 [saga]:2012/07/14(土) 00:19:50.72 ID:6RjQ92tj0
「全く…………何で私がこんな奴の護衛なんか……」
「だめだよエイラ、そんなこと言ったら。土方さんはいつも私たちをサポートしてくれてるんだから」
「でも……私は一瞬たりともサーニャの傍から離れたくないんだ」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど…………ね、エイラ」

まさか、私の護衛役というのがユーティライネン中尉だとは思わなかった。
目の前では、不機嫌そうに不満をこぼすユーティライネン中尉を、リトヴャク中尉が窘めている。
私の姿に気付くと、リトヴャク中尉が声をかけてきた。

「あ、おはようございます土方さん。エイラの事よろしくお願いしますね」
「はい…………」
「私は別によろしくしてもらわなくてもいいけどな」
「エイラっ!」
「う…………」

ふてくされたようにそっぽを向くユーティライネン中尉の態度に、私とリトヴャク中尉は思わず顔を見合わせる。
……何とも嫌われたものだ。
796 :1 [saga]:2012/07/14(土) 00:20:16.31 ID:6RjQ92tj0
「うーん……ねえエイラ、土方さんのことなんでそんなに嫌うの?この前は部屋に帰る途中で寝ちゃった私を部屋まで連れてきてくれたし、優しい人だよ」
「…………だ、だからだっての」
「……エイラ?」

頑なな態度を崩そうとしないユーティライネン中尉に、リトヴャク中尉も困ったような笑顔を浮かべた。
そのまましばらく考えるように沈黙すると、おずおずという感じで切り出す。

「うーん…………エイラがそんなに嫌なら……あの、土方さん、私が護衛じゃダメでしょうか?」
「え?さ、サーニャっ!」

リトヴャク中尉の言葉に、あわてたように振り返るユーティライネン中尉。

「だってエイラ、いつまでたっても準備しないし……そんなに嫌なら代わりに私が…………」
「そ、それはダメ!分かったよ!行けばいいんだろ行けば!」

そう言うと中尉は私たちの返事も待たずに格納庫の方に駆けていった。
797 :1 [saga]:2012/07/14(土) 00:21:15.69 ID:6RjQ92tj0
「え、えっと……その、エイラ、いつもはあんなにツンツンしてないんですけど…………どうしちゃったんだろ」
「……はは」

不思議そうに首を傾げるリトヴャク中尉に私は苦笑を返すしか出来ない。
しかし私はその理由が分かりすぎるほどに分かった。
要するに自分とリトヴャク中尉の間に入ってこられたくないのだろう。
宮藤さんにも一時期同じような態度をとっていたことがあったのを思い出す。

「とにかく、エイラがいろいろ失礼なこと言ったりするかもしれませんが、あんまり怒らないでくださいね」
「は」

それはもちろんだ。
今まで仲良くしていた友達に、自分以外に同じように仲良くする相手が現れたのだ。
しかもそれが異性となれば平静でいられないのも理解できる。
こればかりはゆっくりと理解して頂くしかあるまい。

「こら扶桑人!さっさと行ってさっさと帰るぞ!」
「は、はっ!」

格納庫の方から聞こえてきた中尉の声。
慌ててリトヴャク中尉の前を辞し、ユーティライネン中尉の下へと駆け出す。

「…………えっと、土方さんファイトっ」

後ろから聞こえてきたいささか間抜けなリトヴャク中尉の励ましの声に、ちょっとだけ和んでしまったのは秘密である。
798 :1 [saga]:2012/07/14(土) 00:21:57.42 ID:6RjQ92tj0

「…………」
「…………」

ユーティライネン中尉に抱えられたままガリアの上空を飛ぶ。
下に広がるガリアの大地は、そこかしこに建設中の建物があり復興途上にあるのがはっきりと分かる。
これもペリーヌさんとビショップ曹長の頑張りの賜物であるだろう。
私自身がユニットで飛べない以上、必然的にこういう形になってしまうのは仕方のないことだが、何とも恥ずかしい格好である。
恥ずかしさを紛らわすため何か話しかけようとするものの、中尉は基地を出発して以来むっつりと黙り込んだまま一言も発していない。

「あ、あの…………ユーティライネンちゅ」
「エイラ」
「は?」
「エイラ。エイラって呼んで。中尉とか呼ばれるの慣れてないし」
「は、はい」

それだけしゃべると再び中尉は同じように黙り込んでしまう。
結局、目的地に着くまで私とエイラさんが交わした会話はそれだけだった。
799 :1 [saga]:2012/07/14(土) 00:22:31.42 ID:6RjQ92tj0
「それじゃ、後はよろしくお願いします」
「は」

ガリア総監部から輸送部隊を指揮してこられた担当者の方と書類の引き継ぎを終えた時、もうすでにあたりは暗くなっていた。

「今夜はここに泊まりになりそうですね」
「……そ」
「あ、エイラさん!」
「ついてくんな」

私の言葉にそれだけ返すと、エイラさんは私の返事も待たずに町の方へと駆けだしていかれた。
慌ててその背中を追いかけようとするも、最初から私のことなど問題にしていないかのように、町の雑踏へと消えて行かれる。

(あ、街に行くなら気をつけてくださいね)
(……何か?)
(ネウロイが近づいてきてるってんでちょっと最近この街もざわついてるみたいで)
(治安が悪化している、と?)
(まぁそんなに深刻なことじゃないと思いますが…………あちらのウィッチの方なんてお綺麗ですからね。いい女と見たらほっとかないロマーニャ男達が色めき立ってますよ)
(…………ご忠告、感謝します)

先ほど現地の協力者の方と交わした会話が脳裏によみがえってくる。
エイラさんの事だから心配はいらないと思うし、私が余計なことをしたらまた中尉の機嫌を損ねてしまうかもしれない。
そう思うものの、その時はその時だ。
エイラさんに何かあっては501の方々にそれこそ腹を切って詫びても済まない。
私は覚悟を決めると、エイラさんの消えていった方向へと歩みを進めた。

…………そして「当たって欲しくない予想ほど当たる」という古くからのことわざが真理であることを確認したのは、エイラさんを探して雑踏を歩き回ること数十分後の事であ
800 :1 [saga]:2012/07/14(土) 00:23:05.47 ID:6RjQ92tj0

「……うるさい」
「ああ、かくも麗しき我が女神!僕の心をとらえて離さぬその声が、無慈悲に僕を傷つける」
「話聞いてんの?」
「ああ、聞こえているともその鈴のごとき玲瓏なる声は、僕にとって天上の音楽にも等しく、僕は君の声にただ無力に打ち震えるだけさ」

…………。
メインの大通りから一本内に入った裏路地。
そこ似たのはエイラさんと、そしてエイラさんにしつこく声をかける長身の男。
そこそこ整った顔立ちではあるが、当のエイラさんはうるさそうに一瞥すら与えずに突き放している。
しかし、当の男はその声など聞こえていないかのようにエイラさんに一方的に話しかけていた。

「我が女神、願わくばこの熱き一夜を貴女と過ごす栄誉を、この哀れな羊めに賜りますよう」
「だーかーらー」

そう言って心底うんざりしたように顔を上げたエイラさんと、目が合ってしまう。

「あ」

私が思わずそんな声が漏れるのと、にやりと笑ったエイラさんが私のほうに歩いてくるのはほぼ同時であった。

「ほら土方、あんたが待たせるから変なのが声かけてきちゃったじゃん!」
「は…………」
「んじゃ行くよ土方!今日はとことん付き合ってもらうんだからね」

そう言うとエイラさんは私の腕を取り、返事も待たずにその場から離れるように早足で歩きだす。

(おお、わが麗しの女神にはすでに半身となる男が……これほどの悲劇があろうか)

後ろの方で男が一人で呟いているのが聞こえてくる。
しかしそれにしてもロマーニャの男というのはこういうやたら大仰な言い回しが好きだな。
そんなことを考えつつ、私はエイラさんに手をひかれるままに夕暮れ迫り始めた街中を早足で歩いていた。
801 :1 [saga]:2012/07/14(土) 00:23:38.82 ID:6RjQ92tj0
「ふぅー」

そして人通りの多い通りに出たところでエイラさんはやっと一息ついたように橋の欄干によりかかった。
しばらくはぼうっとしたように行きかう人々を眺めていたが、やがてぽつりと呟くように言葉を発した。

「ロマーニャ男ってあんなのばっかなの?」
「…………まぁあまりサンプルがないので何とも言えませんが」

私も軽く肩を竦めて答える。
やがて、エイラさんはやや躊躇うようにしばらく間を置くと、おずおずと切り出した。

「まーいいや。その…………一応礼は言っとく。ありがと」
「いえ。協力者の方から最近治安が悪化していると聞いたもので」
「そっか……じゃあさ、せっかくだからちょっと付き合ってよ。サーニャにお土産買おうと思うんだ」
「は」
「んじゃ行こうか、土方」

そう短く呟くと、エイラさんは伸びをするように体を起こし、そして私と出会ってから初めての笑顔を向けて下さった。
802 :1 [saga]:2012/07/14(土) 00:25:57.27 ID:6RjQ92tj0
以上です。
やっぱりこの二人絡ませづらいわ……w

それではまた週末に(ってもう週末ですが)
803 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/14(土) 01:57:02.85 ID:MGTcqufDO
乙!

804 :1 [saga]:2012/07/14(土) 23:56:10.80 ID:6RjQ92tj0
こんばんは。
こちら大分は連日の雨です。
では、今週分の投下、はじまります。
805 :1 [saga]:2012/07/14(土) 23:56:53.01 ID:6RjQ92tj0
「…………」
「…………」
「…………」

501戦闘航空団応接室。
その部屋の中の空気は、発火寸前の緊張感に満ちていた。
部屋にいるのはヴィルケ中佐、坂本少佐、そしてウィトゲンシュタイン少佐の3名…………に私。
坂本少佐は苛だたしげに部屋の中を歩き回り、ヴィルケ中佐はどう話を切り出してよいものか困ったようにソファに座っている。
そんな空気の中、ウィトゲンシュタイン少佐だけが平然としてヴィルケ中佐の正面で紅茶を飲んでいる。

ふと顔を上げると窓の外にはぴょこぴょこと動く特徴的なうさぎ耳。
……シャーリーさん、隠れているつもりのようだが丸見えです。
806 :1 [saga]:2012/07/14(土) 23:57:45.09 ID:6RjQ92tj0
「さて、ウィトゲンシュタイン少佐」

ややあって、躊躇いを振り切るようにヴィルケ中佐が声をかける。

「何かな?」
「506戦闘航空団の戦闘隊長である貴女がなぜここに?」
「うむ。それについては隊長より書簡を預かってきている」

そう言うと少佐は鞄より一通の書類を取り出す。
506戦闘航空団の隊長…………と言うとロザリー・ド・エムリコート・ド・グリュンネ少佐であったか。
書類に目を通すヴィルケ中佐の表情が硬さを増していく。
やがて小さなため息とともに読み終わると、その書類を傍らの坂本少佐へと手渡す。

「…………なるほど。506のと501の間の技術交流を図りたい、と」
「まぁな。……我が506の誕生の経緯については聞いておろう?」
「かなり難産を極めたということは」
「うむ。ガリア復興の象徴としたいのだか何だか知らんが『貴族のみ』などという妙な条件を設けたためにそれに縛られて隊長選びすらままならなかったというからお粗末な話だ」

506設立に関しての騒動については扶桑にいたので断片的にしか知らないが、他の戦闘航空団のようにその地域防衛のため自然発生的に生まれたのではなく、明らかな政治的意図をもって結成されたための難産であったと聞く。
最初は501のペリーヌさんを隊長に、という話だったようだが、ガリア復興に集中したいペリーヌさんに断られたところから迷走が始まったそうだ。
少しでも新戦闘航空団内での影響力を維持したいガリア政府、ブリタニア政府、そして新興国であるためにそもそも貴族というものが存在しないリベリオン政府の思惑が複雑に絡み合った結果、セダンを本拠とするA集団、ディジョンを本拠とするB集団という2つの集団が戦闘航空団内に存在するという妙な状況が発生している。
807 :1 [saga]:2012/07/14(土) 23:58:40.23 ID:6RjQ92tj0
「それで、技術交流ですか」
「うむ。このままでは何とも中途半端な状況が続きかねんのでな。我が506が何とか戦闘航空団としてやっていくためには他からの援助が不可欠。
そこに主ら、501の再結成の話が持ち上がってきたのでこれに乗らぬ話はないだろうと……情けない話ではあるが」
「しかしそれならばディジョンのB集団との統合が先だろう」

そこに坂本少佐が割り込んでくる。
少佐は先ほどから不機嫌そうに部屋の中を歩き回り、時折ウィトゲンシュタイン少佐の方に鋭い視線を向けている。
そんな坂本少佐の視線にも全く動じた様子はなく、ウィトゲンシュタイン少佐は平然とティーカップに口をつけている。

「まぁ確かにな。しかしB集団の方も設立したばかりという点では妾らと同じ。それよりも技術や戦闘経験の方ではるかに先を行く主らに頼ろうというのが妾らの結論じゃ」

そう言ってウィトゲンシュタイン少佐はティーカップを置き、坂本少佐に挑発的な視線を向ける。
……坂本少佐の表情がさらに硬くなった。

「それで、そのための連絡員として貴女が来た、と」
「うむ。しばらく厄介になるぞ」
「「「ええっ?」」」

3人の驚きの声が重なる。
私と坂本少佐と…………そして窓の外にいるシャーリーさんだ。
と同時に窓の外のうさぎ耳がものすごい勢いで視界から消える。
……これは、この内容はもはや基地中に広まったとみて間違いないな。
808 :1 [saga]:2012/07/14(土) 23:59:42.97 ID:6RjQ92tj0
「なに、ほんの1か月ほどじゃ。もちろんミーナ、主の指揮には従うつもりであるし、それに…………」

そこで言葉を切ると、ウィトゲンシュタイン少佐は私に視線を向けてくる。

「ここには貴様もおるし。のう、圭助よ?」
「…………その話なんだけど」

そう言いながらヴィルケ中佐までもが同じようにこちらに視線を向けてきた。

「どういうことか説明してもらおうかしら?土方兵曹」
「は」

人でも殺せそうなヴィルケ中佐の視線にやや気圧されつつ、私は確かに見合いの相手として紹介されたが実際は見合いすら行っておらずすでに断ったということを説明した。

「なるほど。そういうこと……そういえば確か貴方は扶桑では爵位持ちの家の生まれだったわね」
「ま、奴のいうことは間違っておらん。しかしまぁそれと妾の気持ちというのは無関係での」

そして今度は視線を坂本少佐の方へと転じる。
809 :1 [saga]:2012/07/15(日) 00:00:11.84 ID:v/Dr2LVi0
「…………何か?」
「いや、なんでもない。まぁ妾個人としてはそこの圭助の事はそれなりに気に入っておっての。今回の話が持ち上がった時に真っ先に志願させてもらったというわけじゃ」
「ほう」
「妾の事をここまで一方的に袖にしたのは奴が初めてじゃ。女として黙ってはおれん」
「…………我々は女である前にウィッチだ。余計な感情は邪魔になるだけだぞ」
「ふん…………これでは忠誠の捧げ甲斐もなかろうに。奴も律儀なことよの」
「……何が言いたい?」
「分からんか?それとも分からんふりをしておるのか?」
「ちょっと、貴女達やめなさい!」

一触即発の雰囲気になった二人の間にヴィルケ中佐が割って入る。
ウィトゲンシュタイン少佐は今だ気持ちが収まらぬ様子の坂本少佐の方を見やって肩をすくめると、ヴィルケ中佐の方に向き直った。

「もちろんロマーニャに出現した新型ネウロイについての噂は聞いておる。戦力として期待してもらって構わんぞ」
「…………まぁ色々言いたいことはありますが、正式な要請である以上受けないわけにはいかないでしょう」
「ミーナ!」

坂本少佐が何か言いたそうに言葉をはさむが、ヴィルケ中佐の手前自重したように口を噤む。

「ただしほかの隊員と同じように私の指揮には従ってもらいます」
「むろんじゃ。それで妾の部屋は?」
「見ての通りこの基地は無駄に広いから好きな部屋を使っていいわ」
「あ、それならこの圭助と同室というのは」
「「いいわけないだろう(でしょ)!」」

ウィトゲンシュタイン少佐の悪ふざけに、ヴィルケ中佐と坂本少佐の声が重なった。
810 :1 [saga]:2012/07/15(日) 00:00:54.07 ID:v/Dr2LVi0
「あ、圭助よ」

部屋を出たところでウィトゲンシュタイン少佐に呼び止められる。

「貴様にこれを渡しておこう」

そう言いながら少佐が差し出したのは一冊の本のようなものであった。
開いてみると、格子状に区切られたマス目が何ページにもわたって続いている。

「これは?」
「うちの整備員に渡しているスタンプ帳じゃ。妾の望みを果たすごとに押していってやる」

そう言われてよく見てみると、確かに最初のページの格子にスタンプがいくつか押してあるのが見える。

「貴様には特別サービスじゃ。すでに5個も押してあるなど506の整備員どもが聞いたら泣いて狂喜するぞ」
「は…………?」
「スタンプが貯まると、妾からのご褒美があるからな。期待しているのだぞ」

「ウィトゲンシュタイン少佐!」

そんな少佐を呼ぶ声が聞こえる。
振り返ると、坂本少佐が先ほどよりさらに険のある表情でこちらを睨んでいるのが見えた。

「おっと、もう少し主とは話していたいがこれ以上話していると視線で殺されそうじゃの。それではの」
「は…………」

こちらに手を振りつつ坂本少佐の方へと去っていくウィトゲンシュタイン少佐。
811 :1 [saga]:2012/07/15(日) 00:01:24.25 ID:v/Dr2LVi0
その姿を見つつ、やや呆然として立っていたその時。

「捕獲!!」
「うわっ!」

急に視界が暗転する。
何か袋のようなものをかぶせられたのだと気付いたのはそれから数瞬後。

「シャーリーたいちょー!けーすけ兄ちゃん捕獲かんりょーいたしました」
「ご苦労、」ルッキーニ隊員。それではこれから土方兵曹を我々の部屋まで護送する。作業開始!」
「あいあいさー!」

その言葉とともに体が持ち上げられる感覚。
……まぁ、応接室で話していた時からこの二人が何らかの形でアプローチしてくるだろうことは予想していたので、驚きの反面納得もしている。
私はすべてをあきらめたように、運ばれるままに身をゆだねることにした。


「さて、土方の兄さんや」

ほどなくして私は解放されるが、そこは裁判所の被告席であった。
目の前にはシャーリーさんが、その横にはルッキーニ少尉が。
それぞれ目を輝かせてこちらを見ている。

「……色々と聞きたいことがあるんだけど。話してくれるよな?」
「兄ちゃん兄ちゃん、あの美人さんとどんな関係〜?」

…………結局、お二人が飽きて解放されるまで、私は小一時間延々と根掘り葉掘り聞かれることになったのであった。
812 :1 [saga]:2012/07/15(日) 00:03:51.74 ID:v/Dr2LVi0
以上で本日の投下終了です。
申し訳ないですが今週は安価ありません。

それでは。
また来週に。
813 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/15(日) 00:21:56.92 ID:oydRlKv3o
乙乙、今日も面白かった
姫様いいキャラしてるなー
814 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/07/15(日) 16:07:43.85 ID:uBvfuIFro
乙!
これは良い展開
ロマーニャへ行くのはこれが終わってからかな?
815 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/07/15(日) 20:48:19.81 ID:U493UjA30
ロマーニャで思い出したがロマーニャの姫との絡みも楽しみ
816 :1 [saga]:2012/07/18(水) 20:39:42.61 ID:k9le0kbd0
セルフage

皆様レスありがとうございます。
「私のロマーニャ」は次話なのでもう少しお待ちをw
817 :1 [saga]:2012/07/21(土) 19:11:25.91 ID:XuLkJfyg0
こんにちは。
九州は雨が降ったり晴れたりで蒸し暑い日が続いてます。
それでは本日の投下です。
818 :1 [saga]:2012/07/21(土) 19:12:50.55 ID:XuLkJfyg0
『あの……こんにちは』

…………そう、声をかけてくるのは見知らぬ少女。
年のころは8〜9歳くらいであろうか。
これは……私の記憶であろうか。
少女の顔はよく分からないが、私は確かにこの場面をどこかで見たことがある。
あたりを見回す。
そこは大きな和風家屋の一室。
ここは…………そう、ここは土方家の本宅。
物心ついた時から、この無駄に広い和風家屋が私の家であった。

『え、えっと…………と、もうします……けいすけさま』

そう言って目の前の少女は折り目正しく手をついて頭を下げる。
圭助様……そう呼ばれていたのはもう何年も前のこと。
ふと私の体を見下ろしてみると、私も12歳ごろの肉体になっている。
ああ、これは……夢か。
私がまだ、土方伯爵家の御曹司であった頃の……

『その、圭助さま、えっと、その』

目の前の少女が、どこか慌てたように言葉をつなぐ。
ずっと黙り込んだままの私を見て機嫌を損ねたと勘違いしたのだろうか。
困ったように微笑むその笑顔は、なぜか私の記憶巣を強く刺激する。
そう、あれは確か私が12歳になった時のこと。

『圭助さま、その、もしよかったら、その、私を――――』

そうだ、この少女の名は、確か――――
819 :1 [saga]:2012/07/21(土) 19:13:21.03 ID:XuLkJfyg0
むにゅり。

右手が柔らかいものに触れる感覚に、私の意識が急速に覚醒していく。
何か、懐かしい夢を見ていたような気がするが……
意識が眠りから覚醒していくのとリンクするように、夢のなかでの少女の面影も急速に薄れて消えていく。
そしてその代わりにはっきりしていく私の周りの状況。
ここは間違いなく私の部屋、のはずだが…………

むにゅり。むにゅ。

先ほどから右手に感じるこの柔らかく人肌のぬくもりを感じさせるものは……
そして私の鼻腔を刺激する、この香りは……

「ん…………あっ……」

耳のすぐそばで聞こえてきた声。
その声は最近聞いたばかりのもので…………

「ウィ、ウィトゲンシュタイン少佐!」
「ん…………」

私の隣で眠そうに瞼をこすっているのは、間違いなくウィトゲンシュタイン少佐であった。
思わず大声をあげそうになるのを必死で制する。
この際少佐がなぜ下着姿なのかも突っ込むまい。
少佐が?なぜ?こんな時間に?私の部屋のベッドに?さっきの手に感じた感触は?
色々な疑問が頭の中を中でぐるぐると渦巻く。
820 :1 [saga]:2012/07/21(土) 19:13:48.59 ID:XuLkJfyg0
「どうした圭助。ハトがパンツァーファウストを食らったような顔をして」

ハト四散してます。
どんな表情ですか。
……そんなことはどうでもいいのだが、私も少々混乱しているようだ。
目の前の少佐に何か言いたいのだが言葉がうまくまとまらない。
しかし、とりあえず何か言わねば。
誰かに見つかる可能性は低いとはいえ私の精神が持たない。
そんな逡巡の挙句やっと出てきた言葉が、

「お、おはようございます」
「うむ。おはようだ圭助よ」

…………訂正する。
私もかなり混乱していたようだ。


結局、私が落ち着いて少佐と話ができるまでには数分の時を要した。
821 :1 [saga]:2012/07/21(土) 19:14:17.00 ID:XuLkJfyg0
「いやいや、朝からなかなか面白いものを見せてもらったぞ」

そう言いながら愉快そうに笑う少佐。
その格好は先ほどよりはましになったもののやはり私などには目のやり場に困るものであった。
どうやら私が先ほど寝ぼけて働いた無礼には気づいていらっしゃらないようなのが救いか。
しかし、そんな私の困惑を面白がるように、少佐は私の目の前で足を組んだり上体をそらして伸びをするなどやりたい放題である。
とりあえず、この状況に立ち至った原因を究明しておかねば。

「と、とにかく」
「どうした圭助よ」
「なぜ私の部屋に少佐がいらっしゃるのです?」
「部屋を間違った」
「え…………」

悪びれもせずに言い放る少佐に、私の方が絶句する。
いやいやいやいや。
同じ基地内とはいえ、ウィッチの方々と私の寝室はかなり離れており、そもそも棟からして違う。
どこをどうすれば間違うというのか。
というかどうして同じベッドに入っているのか。
入った時点で気づくだろう。
ツッコミたい点はいくつもあるがしかし、私目の前で笑みを浮かべる少佐は自分のお言葉を訂正するつもりはないらしい。
…………とりあえず、少佐には早く自分の部屋に帰っていただかねばなるまい。

「少佐、いろいろ申し上げたいことはございますが今はとりあえずお部屋にお帰り下さい」
「ふふ、もう少し貴様の困った顔を眺めているのも一興じゃが、妙な騒ぎを起こしてここを追い出されてもつまらぬか。今日のところは引き下がるとするかの」

そうおっしゃると少佐はベッドから起きあがる。
そのまま出ていくのかと思いきや、私の方に顔を近づけ、一言だけ呟いた。

「それでどうじゃったかの?妾の胸は?」
「…………っ!」
「くくく、正直な奴じゃの」

瞬時に顔が赤くなるのが自覚され、私は反射的に少佐から飛びのく。
そんな私の様子を見て、可笑しそうにひとしきり笑った後、少佐は今度こそ本当に部屋から出て行かれた。
822 :1 [saga]:2012/07/21(土) 19:14:48.35 ID:XuLkJfyg0
「今日は一つお知らせがあります」

その日の午後。
ウィッチの皆様方が集まるブリーフィングルームでヴィルケ中佐がそう切り出すと、シャーリーさんとルッキーニ少尉によってある程度事情をご存じだったのだろうウィッチの方々が一斉に私の方に視線を送ってくる。
シャーリーさんとルッキーニ少尉の表情は完全に楽しんでいるにやにや笑いであったが、宮藤さんと坂本少佐の視線は、棘どころか針を多量に含んだもので、私としては曖昧に視線をそらすことしかできない。
ざわつき始めたブリーフィングルーム内の空気を引き締めるようにヴィルケ中佐は一つ大きく手を叩くと、言葉を続けた。


「静かに!……先般、セダンの506戦闘航空団より技術交流の申し込みがありました。そのため、506の戦闘隊長であるウィトゲンシュタイン少佐がしばらくの間こちらで過ごします」
「ハインリーケ・プリンツェシン・ツー・ザイン・ウィトゲンシュタインじゃ。色々学ばせてもらうからよろしく頼むぞ」

そう言って堂々と自己紹介する少佐の姿は気品に満ち溢れており、「女王(プリンツェシン)」の二つ名もむべなるかな、という気がしてくる。
ビショップ曹長が怯えたように身を引くのが見えた。
ペリーヌさんはやや険しい表情を少佐に向けている。
やはり上流階級同士、我々にはわからぬ人間関係というものがあるのだろうか。
そう言えば506設立当初に隊長候補のトップだったのは確かペリーヌさんだったと聞く。
823 :1 [saga]:2012/07/21(土) 19:15:17.14 ID:XuLkJfyg0
「はいはーい。しっつもーん」

そんな私の思索を中断するように、ルッキーニ少尉の声が響き渡る。

「けーすけ兄ちゃんとはどんな関係なんですかー」

ルッキーニ少尉の質問に場の雰囲気が一瞬にして緊張するのがわかる。
待ってました、とばかりに微笑むウィトゲンシュタイン少佐。

「言ったであろ?妾と圭助は婚約者同士じゃ」
「「おおおーーーー!」」

驚きの声を上げるのはルッキーニ少尉とシャーリーさん。
恐る恐る坂本少佐の方を見ると、もはや人でも殺せそうな目つきでこちらを睨んでくるその視線とぶつかる。

「そ、それはたしかにそういう話もありましたが…………」
「が、残念ながら妾は圭助のお気に召さなんだようじゃ。妾に一顧だにせず破談と相成った」
「えー」
「全く罪作りな男よ……のう坂本よ」
「うえっ!?わ、私は別に…………」

そう言うとウィトゲンシュタイン少佐は坂本少佐へと視線を向ける。
今までの勢いが急にそがれたように視線をそらす少佐。
そんな坂本少佐の姿を見届けると、ウィトゲンシュタイン少佐はその挑発的な視線をこちらへと向けてくる。
824 :1 [saga]:2012/07/21(土) 19:15:48.12 ID:XuLkJfyg0
「ま、しかし逃げられたら追いかけたくなるものでな。というわけで圭助、いつか貴様を我が下に跪かせてみせるゆえ、楽しみにしておれ」
「おーかっこいいー」

無邪気にぱちぱちと拍手をするルッキーニ少尉。
…………幼いとはいえやはりロマーニャの女性ということだろうか。

「で、どうなんだ土方の兄さんは?」
「あ、いえ、わ、私ですか?」

不意に話を振られて思わず声が上ずる。

「そうそう。今のを聞いて少しぐらい心が動いたりしたか?」
「それは妾も興味あるところじゃの。圭助……どうであったか?」
「けーすけ兄ちゃん、どうなのさー」
「ど、どうなんですか圭助さん!」

宮藤さんの視線までもが私に注がれる。
冷や汗が背中を伝うのがはっきりとわかった。

永遠とも思えるその数秒間を救ったのはまたしてもヴィルケ中佐の声である。

「貴女たち!いい加減にしなさい!…………それでは今日の哨戒シフトを発表します」

その声にとりあえず席に戻るウィッチの方々であったが、その目の輝きを見るにこの後いろいろ追求されるのは間違いなさそうだ。
事の最初から興味なさそうに窓の外を眺めていたユーティライネン中尉が一つ大きく欠伸をした。

825 :1 [saga]:2012/07/21(土) 19:17:12.81 ID:XuLkJfyg0
以上です。
夏コミに向けていろいろやることが増えてきて大変ですw
頑張って書いていくのでよろしくおネギしますね。
826 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/07/21(土) 20:10:30.72 ID:12diVAOAo
乙っす!
827 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2012/07/21(土) 20:46:00.86 ID:aMY4ut93o
乙乙!
828 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/07/21(土) 20:47:47.62 ID:d5D5QVh3o
おつー
829 :1 [saga]:2012/07/24(火) 01:45:48.54 ID:l5DtHOjP0
セルフage
今週は安価アリです。
頑張りますねー。

ってかおネギしますってなんだ……
お願いしますですw
830 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/24(火) 08:00:02.69 ID:gmoUtkhIO
ギャグかと思ってた件ww
831 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/07/25(水) 00:06:53.99 ID:HIdkLxDJ0
面白かった
次回もおネギします
832 :1 [saga]:2012/07/25(水) 21:35:40.61 ID:GVXVG/yR0
「…………」

無言で廊下を歩く。
外は雨。
私の立てるひそやかな足音だけが断続的な雨音の中、響いている。

扶桑で言えば梅雨の時期であるから、この季節に雨がちになるのはむしろ当然のことのように思えるのだが、乾燥している地中海地方では珍しい事であるらしい。
はしゃいで外に飛び出していこうとしたルッキーニ少尉がシャーリーさんに止められていた。
夏は夜、とは古代の女流文学家が残した名文であるが、確かにこの月さえ見えない漆黒の闇の中さらさらと聞こえる雨音というのはある種の情緒を思い起こさせる。

今日もまた、日課となった見回りのために人気のない廊下を歩いていた。
やがて前方に、坂本少佐のお姿が見えてくる。

「来たか」
「は」
「……しかしよく降るな。このロマーニャでここまでの雨というのも珍しい」
「そうなのでしょうか」
「はは。確かに扶桑には梅雨があるからな」

そう言って短く笑う。

「まぁいい。これでは外の見回りは出来まい。それとも月形半平太を気取ってみるか?」
「…………止めておきます。春雨というにはいささか強すぎる雨ですから」
「ふふ。そうだな」

少佐の言葉に私も少し笑う。
半平太が歩いたのは春雨のなかである。
これほどの雨の中を歩くのは風邪をひくだけであろう。

「ま、それはともかくとして……行くか」
「は」

「まぁそう言うな。貴様も一人じゃ退屈だろう?」

少佐の後に続いて私も歩き出した。
二つに増えた足音が、雨音の中に響いていた。


今回も安価です。
現在基地にいるのはミーナさんじゅうきゅうさい、バルクホルン大尉、ハルトマン中尉、シャーリーさん、ルッキーニちゃん、エイラさん、サーニャちゃん、ペリーヌさん、リーネちゃん、芳佳、もっさん、そして今回からハインリーケ姫が加わって12名。


前回と同じく安価ゾーン方式をとってみます。
安価ゾーンはここから10レス下の>>842まで。
最もたくさん名前の登場した方が安価ということにします。
同一IDによる複数投票は1票とみなし、同票が複数あった場合は最初にその数に達した方を安価達成とします。

>>842までいかなくても明日の夕方ごろに締め切ります。
それでは。
833 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県) [sage]:2012/07/25(水) 21:38:12.24 ID:GBmofm4Qo
834 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/25(水) 21:39:44.47 ID:vcFuU9lVo
シャーリーさん!!!
835 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/07/25(水) 21:40:54.23 ID:Hz2fp0ULo
バルクホルン大尉!
836 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/07/25(水) 21:54:06.58 ID:x/eVmDdno
シャーリーさんで
837 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/07/25(水) 22:19:01.83 ID:HPDzaQU80
ハインリーケ姫一押し
838 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/25(水) 22:47:30.63 ID:d0n4tDLPo
姫は期間限定だし選ぶしかないね

ハインリーケで!
839 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/26(木) 00:19:10.44 ID:sbUejy4IO
ハインリーケ
840 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/26(木) 01:04:49.33 ID:wFYb2ewko
せっかくだから姫で
841 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/26(木) 01:45:41.52 ID:AddzSuxRo
ここらで一度もっさんを
842 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/07/26(木) 01:58:51.62 ID:ShAyaCqxo
俺がなに選ぼうが姫で決定じゃねーか!
843 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/07/26(木) 16:41:29.37 ID:gXf7HX6AO
姫親衛隊多すぎィ!!
844 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/26(木) 22:53:11.47 ID:rb012dF00
そりゃ501メンバーはもう飽きるほど話出てるからな
他のメンバーが絡む方が新鮮だもん
845 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/27(金) 11:31:51.71 ID:dsKkmcJio
姫みたいにグイグイ来るキャラ好きなんだよなー
846 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) :2012/07/27(金) 16:30:19.52 ID:WDdotZhh0
もっさんと土方さんのイチャラブはまだですか?
847 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2012/07/27(金) 16:32:26.13 ID:WDdotZhh0
すまん上げちまった…
烈風斬打たれてくる
848 :1 [saga]:2012/07/27(金) 23:00:40.12 ID:0ydUGmHC0
こんばんは。
ハインリーケ姫ぱねぇ……圧倒的ですねw
投下は明日になります。
すいません。
849 :1 [saga]:2012/07/28(土) 14:45:16.35 ID:cScFoqix0
こんばんは。
何とかハインリーケ姫シナリオ完成しました。
850 :1 [saga]:2012/07/28(土) 14:45:55.65 ID:cScFoqix0
ぴかっ。

夜の暗闇を劈くように空が一瞬光ったかと思うと、数秒の間をおいて腹に響くような雷鳴が聞こえてきた。
これは本格的に春雨どころではなくなってきたようだ。

「結構近いな。今日は早めに切り上げるとするか」
「は」

少佐の言葉に、私もうなずく。
どの道やってもやらなくてもいいような見回りだ。
少佐と二人で過ごせる時間が短くなるのは少し残念と言えばそうだが、こんな天候では雰囲気も何もあったものではあるまい。

ぴかぴかっ。

再び空が白く、今度は二度光った。
その後聞こえてきた雷鳴までの時間が心なしか短くなってきているような気がする。

「今のは近そうだな」
「そうですね」

坂本少佐の言葉にそう答えた、その時であった。

(きゃああああっ!)

微かに聞こえてくる女性の悲鳴のような声。
少佐にも聞こえたらしく、その表情がさっと緊張するのがわかる。

「土方」
「は」
「ついてこい」

少佐の言葉に無言でうなずくと、私は少佐の後に続いて走り出した。
851 :1 [saga]:2012/07/28(土) 14:46:36.35 ID:cScFoqix0
声の元を探して走り回っている間にも、雨はだんだんとひどくなり、雷も徐々に近づいてくるのがわかる。
そうして何度目の角を曲がった時のことであっただろうか。

ぴかっ!!
どおおおおん!

今までとは比べ物にならぬほどの強烈な光と、1秒とおかずに聞こえてきた鼓膜を聾するほどの大音量。
それと重なるように、私の目の前に出現する小さな黒い影。

「うわっ!」
「きゃ」

ぽすん。

一瞬遅れて、胸のあたりに軽い衝突感がやってくる。
しかし一瞬だけ聞こえた、この声は…………

「え?」
「け、けいすけえええええええええ!!!」

何が起こったかわからないままに押し倒されるようにして床に転がる私とその小さな影。
先を走っていた少佐が心配したように駆け戻ってくる。

「ど、どうした土方……とウィトゲンシュタインか?」

坂本少佐が持っていた懐中電灯で私の上に覆いかぶさる黒い影を照らす。
その小さな明かりに照らされていたのは、間違いなくウィトゲンシュタイン少佐であった。
852 :1 [saga]:2012/07/28(土) 14:47:06.26 ID:cScFoqix0
「…………」
「あの……ウィトゲンシュタイン少佐?」

その後、私に抱き着いたまま離れようとしないウィトゲンシュタイン少佐に坂本少佐の機嫌が悪くなりかけるも、雷鳴が鳴るたびに身をすくませて私に縋りつく少佐の姿に、坂本少佐もさすがに心配そうな表情になる。
しかし、いつまでも廊下の真ん中でこんな体勢でいるわけにもいかない。
今の雷で起きてしまった人間もいるだろうし、シャーリーさんやルッキーニ少尉などに見つかったらどんな事態が出来するか想像するだけでも恐ろしかった。

「とりあえず場所を移リましょう…………ウィトゲンシュタイン少佐、立てますか?」

折悪しく、私の声に重なるように再び雷鳴が鳴り、ウィトゲンシュタイン少佐はさらに私にすがりつくようにして小刻みに首を振る。
こんなウィトゲンシュタイン少佐は初めて見るが、そんな感慨に浸っている場合ではなかろう、

「坂本さん…………」
「まぁ仕方があるまい。緊急時だしな」

少佐が苦笑しつつうなずくのを見届けると、私はウィトゲンシュタイン少佐のひざ裏に手を差し込んで抱き上げる。
普段の態度からは想像もできないほど、その体は頼りないほどに華奢で軽かった。

「とりあえずここから一番近いのはラウンジか」
「はい」

少佐と頷きをかわしあうと、私はラウンジに向けて足跡を殺して走り出した。
雨は、先ほどより少し小降りになった…………気がした。
853 :1 [saga]:2012/07/28(土) 14:47:41.11 ID:cScFoqix0
「とりあえずソファに寝かせるぞ」
「は」
「私は明かりをつけに行ってくる。こんな時間だが非常時だ。仕方あるまい」

人気のないラウンジというのは思った以上に寂しいものであった。
普段、誰かしら人でにぎわっている光景しか見たことがないからなおさらであろうか。
そんな感慨を抱きながら、腕の中で規則正しい息をしている少佐をソファに寝かせる。
どうやら運んでいるうちに泣き疲れて眠ってしまわれたようだ。
しかし、暗闇の中にうっすらと見えるだけだがじっくり見ると本当に美しいお方である。
坂本少佐のような快活さとも、リトヴャク中尉のような可憐さとも違う、まさに「美人」という言葉が人の形をとったようなその顔の造形。
それが今は子供のように無邪気な寝顔をさらしておられる。
思わず失礼とは思いつつもその寝顔から目が離せないでいる自分がいた。

そんなことを考えているうちに明かりがつく。
どうやら発電設備は問題なく機能しているようで一安心である。
私は一つ大きく息をつくと、相変わらず規則正しい寝息を立てておられるウィトゲンシュタイン少佐に視線を向け――――
854 :1 [saga]:2012/07/28(土) 14:48:23.96 ID:cScFoqix0
「…………っ!!」

ようとして慌てて後ろを向く。
視界に入ってきた少佐の姿は、とても直視できるようなものではなかった。
というか言ってしまえば、裸であった。
さすがにズボンは穿いておられたようだが、それ以外は完全に何もつけておられない状態である。
確かに運んでいる最中も、腕のあちらこちらに接する肌から伝わる体温に精神を削られる思いであったが…………
どうやら寝ている状態から服を着るのも忘れて部屋を飛び出したようだ。
さすがにこの状態は問題があるだろう。
あとは坂本少佐にお任せして、私は――――

くい。

その場を離れようとした私の体が、かすかな力で後方に引っ張られる。
思わず振り返った私の視界に飛び込んでくるのは、白磁のごとき少佐の裸身。
慌てて再び背を向けるものの、先ほどより強い力で引っ張られ、思わずバランスを崩す。
そのまま私は少佐の隣に倒れこんでしまった。

「す、すいません!!」
「…………圭助」
「少佐?」

背後から聞こえてきたのは、雨音にかき消されてしまいそうなかすかな声。
それは普段のウィトゲンシュタイン少佐からは想像もできないほどの声であった。

「頼む……雨がやむまででいい…………側に居てくれぬか」
「ウィトゲンシュタイン……少佐…………」

少佐がどんな表情をしているかはむろんわからない。
しかし、しばらくして背中にかかってきたのは人ひとり分の体重であった。
855 :1 [saga]:2012/07/28(土) 14:49:10.25 ID:cScFoqix0
「…………」
「…………」

しばらく無言で、少佐と私は背中を合わせたまま座り込む。
外の雨音はだいぶ小さくなっており、雷鳴も微かなものとなっているのが分かった。
どうやら峠は越えたようだ。

「……何かしゃべらんか馬鹿者」
「少佐……」
「ふん。詰まらぬ気遣いは無用じゃ。あれほどの醜態を晒してしもうた妾にはもはや恥などないも同然じゃ。何でも答えてやるぞ」
「ウィトゲンシュタイン少佐」

少し語気を強めて名前を呼ぶと、少佐は再び沈黙する。

「少佐…………今この時、少佐がどのような言動をとったとて私は一夜の夢と忘れることをお約束します。ですから……」
「圭助……」
「私ごときではご不満かも知れませぬが、そこはご容赦いただきたく」
「ふん…………貴様も男であるからには言うた言葉には責任を持てよ」

がばっ!!

少佐の言葉とともに、不意に体の前に回されてきた両腕、背中にあたる二つの柔らかい感触…………これについてはあまり考えないことにしておこう。
856 :1 [saga]:2012/07/28(土) 14:49:50.52 ID:cScFoqix0
「…………昔から……雷だけは苦手での」
「そうですか」
「子供のころは父上や母上のベッドに潜り込んでは呆れられておった。ま、さすがにこの年になるとそう言うわけにもいかんが…………おお、そうだ。今度雷が来たときは貴様のベッドに潜り込むことに」
「勘弁してください」

そんな状態をヴィルケ中佐にでも見られたら二人そろって501を追放されかねない。
しかし、そんな冗談を言える程度には心の平静を取り戻しおられるようで、まずは一安心と言えるだろう。

「まぁ、しかし………。くくっ、先ほどの表情と言葉、不覚にも貴様に本気で惚れそうになったぞ」

耳元で聞こえる少佐の声に、思わずこちらまで赤面しそうになる。
しかし、そういえば坂本少佐はどうされたのだろうか。
電気をつけに行っただけにしては時間がかかりすぎているが…………
857 :1 [saga]:2012/07/28(土) 14:50:29.28 ID:cScFoqix0
ぎゅっ。

「いたたっ!」

ふいに背中に走った激痛に思わず叫び声を上げる。

「今、坂本のことを考えておっただろう?この状態でほかの女のことを考えるとは貴様も大した者よの」

そんな私にかけられたのは先ほどとは打って変わった冷たい少佐のお言葉であった。
…………どうして分かったのだろうか。
こういう時の女性の洞察力はもはや超能力と言っていいかもしれない。

「……申し訳ございません。しかし私にとって常に優先されるべきは…………」
「分かった分かった。それ以上言うな。妾の心がめげそうじゃ。こういう時には嘘でも『貴女が一番です』と言うものじゃぞ朴念仁め」
「申し訳ありません」
「謝るな」

その言葉とともに、背後から回されていた両腕が再び背中の方に引っこんでいく。

「まぁしかし、こうして背中を貸すぐらいはしてくれるのじゃろ?」
「は。無論でございます。心行くまで」
「…………馬鹿めが」

そうつぶやいたきりウィトゲンシュタイン少佐は沈黙する。
いつの間にか、雨音は完全に聞こえなくなっていた。
858 :1 [saga]:2012/07/28(土) 14:51:29.58 ID:cScFoqix0
以上です。
姫のちょっと違った側面を出してみましたがいかがでしょうか?
それでは。
本編の方は頑張りますが今日中には上がらないかもしれません。
そうなったら申し訳ありません。
859 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/28(土) 15:52:23.58 ID:15BscnhLo
乙!
860 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/28(土) 22:08:10.00 ID:xoivRI4IO
ありがとうございます!ありがとうございます!
861 :1 [saga]:2012/07/29(日) 23:35:20.19 ID:UNsawB6Z0
こんばんは。
連日暑い日が続きますね。
それでは遅くなって申し訳ありませんが本編の投下です。
862 :1 [saga]:2012/07/29(日) 23:36:16.41 ID:UNsawB6Z0
ウィトゲンシュタイン少佐の突然の来訪より数日。
その数日の間で、ウィトゲンシュタイン少佐のカリスマ性というか人を従わせる力はものすごいものがあると実感させられる。
今では整備班の男どもは少佐の仰ることならどんな無茶でもやってのける集団へと訓練されてしまっていた。
ウィッチとしての能力も折り紙つきで、昨日も夜間哨戒中に小型とは言えネウロイを一人で撃墜して「王女」の二つ名は伊達でないことを証明したばかりである。

…………のは、よいのだが。

そのウィトゲンシュタイン少佐がことあるごとに私にからんで来ようとするのにはいささか閉口していた。

「のう圭助よ、妾のこのズボン、どうかや?似合うておるか?」

「圭助、背中に虫が入ってしもうた。取ってくれ」

「…………ほれ。襟が歪んでおったぞ。全くだらしのない奴じゃの」

そんなことを基地内で私を見かけるたびに仕掛けてくるのである。
しかも坂本少佐や宮藤さんに見せつけるかのように。
そんな私たちを面白そうに見てにやにやしているルッキーニ少尉とシャーリーさんという光景ももはや定番と化していた。
863 :1 [saga]:2012/07/29(日) 23:37:00.57 ID:UNsawB6Z0
おかげで基地内ではなるべく少佐に遭遇しないように気を付けて歩くのだが、何故か少佐は私の行先を知っているかのように私の行く先々に出現する。
この数日で、私の精神はまるで最前線で数か月を過ごしたかのように疲労していた。


そんな、私にとっては数か月にも思えた数日が過ぎたある日のこと。
私と坂本少佐は司令室に呼び出され、ヴィルケ中佐から一つの命令を受けていた。

「506の基地に、ですか」
「そう」

それは、506戦闘航空団の基地に返礼の特使として向かうようにというものであった。
確かに技術交流という以上こちらからも人を派遣する必要はあるだろうが、新型ネウロイにとっての最前線となるここを簡単に離れてしまっていいのだろうか。
その疑問を伝えると、ヴィルケ中佐は事もなげにうなずいた。

「大丈夫。向こうもその辺は分かってくれてるみたい。ただ儀礼上こっちが何もしないわけにもいかないでしょうから、向こうでの滞在は2〜3日といったところかしら」
「私もですか?」

何気なく放った一言に、少佐の目が細められる。

「…………何だ。私と二人は嫌か?」
「い、いえそのような……」

少佐の表情が急速に不機嫌さを増していく。
…………今の一言は迂闊であった。
864 :1 [saga]:2012/07/29(日) 23:37:37.88 ID:UNsawB6Z0
「こーら美緒、拗ねないの」
「べ、別に私は拗ねてなど…………」
「……まぁいいわ。とにかく行ってくれるわね」
「了解した」
「は」

そう答える私の声は些か語気が強めであったかもしれない。
ここ数日間、坂本少佐の従兵と言いながらウィトゲンシュタイン少佐に絡まれ通しで碌に従兵としての務めを果たせていなかったのだ。
数日とはいえ、少佐と二人で旅をする機会を頂けたのだから、この時期に失った信頼を取り戻さねば。

「ど、どうした土方?」
「……し、失礼しました!」

不思議そうな表情の少佐に、思わず目をそらす。
ついつい少佐の顔を正面より見つめすぎてしまった。

「それじゃ、しっかり役目を果たしてきてね」
「は」
「うむ」

かくして、少佐と私の二人旅は決まったのであった。
865 :1 [saga]:2012/07/29(日) 23:38:10.88 ID:UNsawB6Z0
「それでは、坂本少佐の旅路の安全を祈り、ウィトゲンシュタイン少佐の歓迎の意味をこめて」

「「「「かんぱーーーい」」」」

ヴィルケ中佐の声に続き、少女たちの声が唱和する。
格納庫には大きなテーブルが置かれ、その上には各国の料理が所狭しと並んでいた。
翌日のブリーフィングにて、少佐と私がセダンへと旅立つことを告げた時、坂本少佐の送別会とウィトゲンシュタイン少佐の歓迎会を一緒に行うことを提案したのはやはりというべきか、シャーリーさんである。
悪乗りしたシャーリーさんが「どうせなら基地の職員総出で賑やかにしようぜ」と言いだしたのはさすがに止められたが、ヴィルケ中佐の方もこういった息抜きの必要は認めていたのだろう。意外なほどスムーズに準備は進み、そしてこの夜の開催と相成ったのであった。

「よ。兄さんがいないとしばらく寂しくなるな」

不意に声をかけられて振り返ってみると、シャーリーさんが皿いっぱいの料理を持ちながら笑っていた。
866 :1 [saga]:2012/07/29(日) 23:38:49.44 ID:UNsawB6Z0
「あ、今回はありがとうございます。このような盛大な会を…………」
「いいっていいって。私の楽しみのためでもあるんだから」
「は……」

悪びれもせずにそう言ってしまえるのがシャーリーさんらしい。
ひとしきりあたりを見回すと、シャーリーさんは声を潜めると私の耳に口を近づけてきた。

(ま、上手くやんなよ。少佐と二人になれる機会、あんまりなかっただろ最近)
「…………っ!」

シャーリーさんの言葉に顔が赤面してくるのがわかる。
従兵としての務めを果たすことばかり考えていたが、考えてみればこれほど長く少佐と二人で過ごすのはあの山中での庵での生活以来か。
庵での生活の一コマ一コマが鮮明に思い出されてくる。
あの生活は私にとって何物にも代えがたいほどに充実した時間であったと言えた。

「じゃーな。帰ってきたら話聞かせてもらうからな」
「……お手柔らかに」

私の言葉に、「考えとくよ」と笑顔で答えると、いつの間にか空になっていた皿の補充のためにシャーリーさんはテーブルの方に向かって行かれた。
867 :1 [saga]:2012/07/29(日) 23:40:10.76 ID:UNsawB6Z0
「あ、あの圭助さん!」

不意に後ろからかけられる声に思わず反射的に振り向く。
そこには予想通り宮藤さんがやや顔を赤くして立っていた。

「えっと…………」
「あの、その、今日はお手伝いいただいてありがとうございました」

私の言葉を遮るように、そう言ってぺこりと頭を下げる。
本日のテーブルの上の料理一個中隊は殆どが宮藤さんによるものである。
さすがに量が量なので私も手伝いはしたが、それでもどう贔屓目に見ても作業量は宮藤さん7、私3といったところであった。

「いえ、私など最後に少し手伝っただけですし」
「そんなことないですっ!」

やたらと元気よく否定してくる。
そのまま言葉の接ぎ穂を失ったように沈黙すると、宮藤さんは何度もためらうように口を開きかけては閉じ、を繰り返したのちに思い切ったように聞いてきた。

「えっと、それで、その…………」
「はい」
「ウィトゲンシュタインさんとは……その」

やはりそこか。
868 :1 [saga]:2012/07/29(日) 23:40:50.08 ID:UNsawB6Z0
少佐が来られてからの私の姿を見るに聞きたくなるのも無理はない。
しかし…………何と説明したものか。
私自身少佐がなぜここまで私にからんでくるのか皆目見当がついていない状態なのだ。
そんな風に沈黙した私の態度を誤解したのか、宮藤さんが慌てたように手を振ってくる。

「あの、その、言いたくないこととかあったら別に、その…………」
「あ、いえ、そういう訳では……」

再び訪れる沈黙。
しかし、宮藤さんは何かを決心するように大きく息を吸い込むと、

「あ、あのっ!私、二番目でもいいですから!」
「は、はい?」

唐突に放たれた意味不明なひと言に、私は怪訝な表情を返すことしかできない。
二番目…………と言われても私には何のことやらさっぱりわからなかった。
しかし、宮藤さんはその一言ですべての勇気を使い果たしたかのようにそのまま私に背を向けて駆け出していく。

「あ、あの宮藤さん!!」
「まぁ落ち着け、圭助よ」

慌てて追いかけようとした私の腕がつかまれる。
振り返るとそこにはイブニングドレス姿のウィトゲンシュタイン少佐の姿があった。
869 :1 [saga]:2012/07/29(日) 23:41:27.35 ID:UNsawB6Z0
「少佐」
「くく、健気ではないか。『二番目でいい』などと。まぁ『三番目』と言わなんだあたりがあ奴なりの意地、というところなのだろうて」

少佐は何をおっしゃっているのだろうか。
どうやら先ほどの宮藤さんの謎の発言についてだと思うが…………
二番目だの三番目だのと唐突に言われても私にはまったくもって意味不明である。
そんな私の表情に気付いたのか、少佐がやや苦笑気味に続ける。

「…………どうやら気づいておらぬようじゃの。であれば妾がわざわざ解説してやる法もないか」
「え、少佐……」

そう言うと少佐はこれ以上話すつもりはないとばかりに話題を切り替えてきた。

「それよりもじゃ。どうじゃこのドレス?貴様のために着替えてきたというのに貴様が何も言ってくれぬでは甲斐もないというものじゃぞ」

そう言いながらモデルのように優雅にターンを決めて見せる。
確かに普段の軍服姿と比べ、黒のイブニングドレスをまとった少佐は魅力的であった。
無味乾燥なハンガーの中にありながらその姿は浮き上がるどころかそこになくてはならぬ部品のようにうまくはまり込んでいる。
思わず見とれてしまった私を満足そうに見やると、少佐は嬉しそうに言った。

「くく、その表情だけで十分じゃ」
「えっと、少佐」
「ではの…………っと、そうそう。506には扶桑の貴族の娘もおる。まぁ仲良くしてやってくれ。…………もっとも貴様なら心配はいらぬだろうがの」

そう言うと、少佐はまだ少々呆然としている私に笑顔を向けると料理の卓の方へと優雅に歩み去って行かれた。
870 :1 [saga]:2012/07/29(日) 23:42:00.94 ID:UNsawB6Z0
「こら、何をぼーっとしておるか」

こつん。

後頭部を軽くはたかれる感覚に振り返ると、坂本少佐が不機嫌そうな顔をして立っていた。
今までのウィトゲンシュタイン少佐との会話を見られていたのだろうか。
思わず羞恥で顔が赤くなる。
我ながら自分の意志の弱さに恥じ入るばかりである。

「まぁいい。確かにあのウィトゲンシュタインは魅力的だ。男ならだれでも見とれてしまうのも分かる」

そう言って少佐は、ハルトマン中尉とバルクホルン大尉と話しているウィトゲンシュタイン少佐に視線を向ける。

「私などがあんな服を着ても似合わぬだろうしな……ははっ」
「そんなことはございません」

はっきりと否定する。
私の存外に強い否定の言葉に、少佐の目が驚いたように見開かれる。

「少佐もきっと、ああいう服がお似合いになることと思います」
「土方…………」
「少なくともウィトゲンシュタイン少佐よりも私の目には魅力的に映ることでしょう」

そこまで言ってしまってから、さすがにちょっと言い過ぎだったかと恐る恐る少佐の表情を伺い見る。
871 :1 [saga]:2012/07/29(日) 23:42:29.68 ID:UNsawB6Z0
「ば、馬鹿者が…………男が心にもない世辞など言うではない!」
「いえ、決して世辞などでは……」
「本気ならなおさら悪いわ馬鹿者!!」

そう言うと少佐は顔を赤くして視線をそらす。
…………どうも私の悪い癖だ。
少佐のことになるとついつい言葉が装飾過剰になる。

「…………まぁ、しかしその、なんだ……一応礼は言っておこう」
「いえ、そのような……」
「ありがとう」

そう言って微笑まれた少佐の表情は、先ほどのウィトゲンシュタイン少佐の何倍も私には魅力的に映ったのであった。
872 :1 [saga]:2012/07/29(日) 23:45:38.77 ID:UNsawB6Z0
ということで以上です。
ちょっと本編から離れた幕間的な話になってしまいましたがいかがでしょう。
次は坂本少佐と土方のヨーロッパ珍道中編ですw

それでは。
506にいる扶桑の貴族の娘って誰なんでしょうね(棒)
それでは。
873 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県) [sage]:2012/07/30(月) 00:06:18.18 ID:+q5Udiwoo
キタ!黒ちゃん来た!これで勝つる!
セダン組は好きなキャラ多いんですうれC
874 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/30(月) 00:20:56.60 ID:1EoIwNqI0
乙おつ

でも2〜3日の出張で「送別」はないだろう
1ヶ月くらいならわからんでもないがな
歓迎会と合わせるにしても。

異常すぎるレベルの朴念仁もなぁ……あんまり行き過ぎると絵空事になっちゃうんだよね
875 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/07/30(月) 02:30:10.47 ID:BizUQKzH0
自己暗示的なのと相手が大抵上官だから気持ちが繋がらない
または心の底から坂本さんなんじゃね?
なんという忠誠と献愛
876 :1 [saga]:2012/07/31(火) 07:09:19.08 ID:yzC5ZQyO0
セルフage
毎日暑いですね(毒にも薬にもならない定番挨拶)

>>874
まぁその辺は何かにかこつけて騒ぎたかったシャーリーさんの悪乗りということで。
それに、移動も含めると二人が基地を離れる期間はもう少し長くなります。

朴念仁に関しては>>875さんのおっしゃる通りです。
私の中の土方は基本、もっさん以外の女性は「そう言う対象」として見ていません。
でもその唯一の相手であるもっさんは「上官」であるためそんなそぶりを出してはいけないと思っています。
……しかし、ちょっとやりすぎたかもしれませんね。

それと、大変申し訳ないですが夏コミ用の本に専念したいので、今週末と来週末はお休みさせていただきます。
大変申し訳ありません。
この2週間の間に頑張って書き溜めとくつもりですので。

それでは。
重ね重ね申し訳ありませんでした。

追伸
夏コミ行かれる方はよかったら来てくださいねー。
3日目に海上自衛隊本出します。
877 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2012/07/31(火) 07:51:16.60 ID:Rg4suy7r0
乙!
夏コミ頑張ってください
878 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/31(火) 10:55:02.97 ID:JLlN+KEOo
乙です!
そしてまさかの海自本。スペース言ってくれれば遊びに行こっかな
879 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/31(火) 19:25:32.74 ID:LNJkW7tIO
乙!

ところで位置は何処なんでしょうか(懇願)
880 :1 [saga]:2012/07/31(火) 21:18:45.41 ID:yzC5ZQyO0
こんばんは。
応援ありがとうございます。

スペースは三日目R−05a「海の漢」です。
正確には海上自衛隊幹部候補生学校本、ですがw
興味を持っていただければ幸いですw
881 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/14(火) 00:07:04.24 ID:QNcx0qVA0
追いついた。
それぞれのお話はうまいなあ、と。

でも安価初めてから、読んでる人(レス取った人)の嗜好に引っ張られすぎてる。
例えば「もっさん以外は2回目禁止」とかにしないと、本筋が喰われちゃうんじゃないかな、と思った。
それぞれの投下のとき読めば気にはならないんだろうけど、最初から通して読むと迷走しかけてる気がしました。
882 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/08/14(火) 14:23:59.56 ID:7eEDUc3IO
ハーレム物なのに主人公の土方がしっかりしてるからどんなに頑張って迷走しても最後はもっさんに収束するんじゃないか?
883 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/08/15(水) 15:20:59.29 ID:IH1lpJ0k0
安価でのストーリーはあくまでサブでしょ
メインは脱線せず順調に進んでるよ
884 :1 [saga]:2012/08/16(木) 20:18:02.66 ID:iU8o8mOM0
こんばんは。
1です。

夏コミ終了後の燃え尽き症候群にはまり込んでますw
スペースに来ていただいた方はありがとうございました。

それで、大変申し訳ないのですが、いろいろと忙しくてまだ続きをかけていません。
なので、続きは来週末までお待ちいただきたく。
あまりペースを崩したくはないのですが、初のサークル参加でかなり燃え尽きてますw

それでは。
来週末には必ず戻ってきますので。
885 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/08/16(木) 20:18:45.34 ID:hdCz+VTpo
おひさー
待ってるよー
886 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(佐賀県) :2012/08/17(金) 17:07:55.14 ID:AvL74Cgp0
887 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2012/08/18(土) 12:56:10.06 ID:g/Whl9Da0
余裕の全裸待機
888 :1 [saga]:2012/08/25(土) 18:39:42.44 ID:00ilLjgV0
こんばんはー。
1です。
1か月ぶり久々の投下に参りました。
よろしくお願いしますね。

>>881
ご意見ありがとうございます。
基本はスレタイにもあるように土方×もっさんなのですが、それ以外のウィッチ達との絡みも描きたかったのでこうなりました。
ただ、確かにかなり悩みながら書いているので迷走しているように見えたかもしれませんね。
889 :1 [saga]:2012/08/25(土) 18:40:21.25 ID:00ilLjgV0
ロマーニャからガリアへの道のりは、車で3日ほど。
506戦闘航空団への特使という任務を拝命した私と坂本少佐は、石畳で舗装された街道を私の運転する軍用車で走っていた。
空路を選ぶことも検討されたが、ネウロイがいつ現れるかわからない状況では時間がかかっても比較的安全な陸路を選ぶ方が現実的な選択と言えた、
坂本少佐の乗る車を運転するのも久しぶりである。
そんな感慨ともいえないような気持ちにひたりつつ運転していると、

「こうして見ると…………ガリアの復興は順調のようだな」

助手席に座る坂本少佐がポツリとつぶやく。
確かに、ネウロイから解放されたばかりのガリアの風景は、そこかしこに崩れ落ちた建物の残骸があるものの、それ以上に建設中の建物の姿が目につき、全力で復興中という感じであった。
人間とはかくもしたたかなものか、と感心させられる。
家を失い、家族を失い、大事な人を失ってなお、生きることをあきらめようとしない。
……しかもここから少し東に行ってライン川を越えれば、まだそこはネウロイの勢力圏内だ。
そんなところでしたたかに生き続ける人々の姿が、我々には心強く見える。

「ペリーヌとリーネがいろいろと尽力したおかげではあるのだろうが、人というのは存外たくましいものだな」

そう仰る横顔はどこか楽しげですらある。
私は少佐の言葉に返事を返しつつ、横目で傍らの地図を確認する。
行程は順調なようだ。
この分なら夕方前には本日宿泊する予定の街につけるだろう。
890 :1 [saga]:2012/08/25(土) 18:41:15.65 ID:00ilLjgV0
夕刻。
予定より少し早めに予定の街にたどり着き、適当な宿へと投宿すると、あとはやることがなくなった。
窓から外を眺める。
ここに来るまでに何度も見てきた街の風景と同じように、この街でもそこかしこに崩れ落ちた建物と再建途中の建物が同居していた。
無傷な建物は皆無と言っていい。
私たちが泊まっているこの宿屋も、外壁に足場が組まれているのが窓から見える。
申し訳ないから、と宿代を値引きしてくれようとした主に相場よりかなり多めのチップを払った坂本少佐は店員一同から歓呼の声をもって迎えられた。
その時のことを思い出して、少佐が照れたように頬を人差し指で掻く。

「まぁ、こんなことでしか役に立てんのがもどかしくはあるが」
「坂本さんには坂本さんにしかできないことをご立派に果たしておられます。そのことについては何者にも文句は言わせませんよ」
「ふふ、全く貴様という奴は…………」

私の言葉に、少佐はやや頬を赤く染めつつそっぽを向く。
と、そのタイミングでドアがノックされた。

「はい」

ドアを開いた私の目の前に立っていたのは金髪を無造作に頭の後ろで束ねた少女であった。
891 :1 [saga]:2012/08/25(土) 18:41:54.28 ID:00ilLjgV0
年のころは13,4歳ほどであろうか。
私の姿に怯えたように身をすくませるものの、やがておずおずと

「あ、あの…………」
「何か?」
「お、お父さん……じゃなかった、て、店主が…………その、お二人をばんしゃんに……」

ばんしゃん?
この地方の方言か何かであろうか。
怪訝そうなわたしの表情に、少女がさらに動揺する。

「じゃ、じゃなくて、えっと、その、お、お夕飯に…………」
「はぁ……」
「え、えっと、その、あんなお客さんは珍しいって、お父さん、じゃなくて、店主が、その…………だから」

さらに支離滅裂になっていく少女の言葉。
このままではこの少女とコミュニケーションをとるのは何時間たっても無理だろう。
…………妹にするのと同じ方法が役に立つかわからないが、試してみるか。

「……落ち着いてお話し下さい。お嬢さん」

そう言うと私は視線を彼女に合わせるためにかがみこむと、警戒心を解くように笑顔を浮かべつつ、その柔らかな金髪をゆっくりと撫でる。

「あ…………は、はい」

最初は驚いたようだった少女の表情から徐々に硬さが取れていくのがわかる。
その表情が驚きから微笑に変わるのを見届けると、私は彼女の頭から手を離した。

「あ…………」

手が離れるときどこか名残惜しそうな表情をするところまで妹にそっくりでつい笑ってしまう。
892 :1 [saga]:2012/08/25(土) 18:42:20.93 ID:00ilLjgV0
「もう大丈夫ですよね?ゆっくりでいいからお話し下さい」
「あ、は、はいっ!」

まだ少し残る緊張のためか顔を赤くしてはいるが、それでも先ほどのような硬さは見られず、むしろ笑みさえ浮かべて少女は話し出す。

「え、えっと、店主が、お二人のご厚志に感謝の意を示すために晩餐にご招待したいとのことです」
「晩餐に、ですか」
「は、はいっ!こんなご時世にあんなに気前のいいお客さんは珍しいって」
「それはそれは……恐縮です」
「あははっ、恐縮です、だなんて変なの」

そう言って快活に笑う。
どうやらこの快活さこそ彼女の本来の姿であるらしい。

「いいじゃないか。ご招待にあずかろう」

背後から聞こえてきた声に振り返ると坂本少佐がこちらに近づいてきていた。

「どうせ夕食の当てもなかったのだ。歓迎して下さるというのに断る方が失礼だろう」

そう言うと少佐は腰をかがめ、少女の瞳を正面より覗き込む。

「御覧の通りの不調法者ではあるが、扶桑皇国海軍少佐・坂本美緒、店主のご招待、喜んでお受けしよう」

そして大仰に一礼して見せる少佐。
少女はと言えば突然と話の展開に驚いたように目を白黒させていたが、やがてその驚きの表情は坂本少佐の笑顔につられるようにはじけるような笑顔に変わっていく。

「ふふ、よろしくね。私アリス。アリス・ブルーメンタールっていうの」
「そうか。私は坂本美緒。こ奴は私の従兵で、土方圭助だ」
「よろしくお願いします」
「うん!よろしくねっ!美緒!圭助!」

そう言うとアリスは私たちの手を取って廊下へと引っ張り出したのであった。
893 :1 [saga]:2012/08/25(土) 18:43:00.45 ID:00ilLjgV0
「それでは、東の国からいらっしゃったウィッチさんとその従者さんに」
「「「「乾杯!!」」」

すでに出来上がっているのか、赤ら顔の店主の声にこたえるように、そこかしこでジョッキを打ち合わせる音が響く。
その後は周りの人々はそれぞれてんでばらばらに好きなことを話しては大笑いしており、主賓であるはずの私たちに注意を払うものとていない。

(どうやら……)
(我々の歓迎を出汁に騒ぎたかっただけのようですね)

少佐と顔を見合わせて苦笑する。
しかし、こうして心からこの宴を楽しんでいる人々を見ていると、出汁にされるのも悪くないな、と思える。
ガリアで、ブリタニアで。
501戦闘航空団のウィッチの方々が戦ってこられたこと。
そしてその後のペリーヌさんたちの形を変えた戦い。
そのささやかな成果が、今目の前にある。
それが私にはたとえようもなく誇らしく、そして嬉しかった。

「えっと、美緒、圭助…………っとと」

そんな喧噪のなかでもはっきりと聞こえてくる幼い声。
振り返った先にはアリスが自分の顔ほどの大きさもあるジョッキを二つ持って危なっかしくフラフラと立っていた。

「アリス、どうしたんですか?」
「美緒たちにはこれ。家で作った果実ジュースだよ」
「これは……ありがとうございます」

事前に我々は任務の途中なので(理由はそれだけではないが)飲酒はご法度、と言ってあったのを覚えていてくれたのだろう。
中々に聡明な少女のようだ。
アリスからジョッキを受け取っている間、彼女は背後で騒ぎ続ける大人たちを眺めてため息をつく。

「お父さんたちもひどいよね。美緒たちの事ほったらかして自分たちだけで楽しんじゃってさ」
「はは、アリスもほったらかされた口か」
「う…………まぁね」
「ではあぶれ者同士、親交を深めるとするか」

そう言いながらアリスの持つ小さなコップにジョッキからジュースを注ぐ。

「「「乾杯!」」」

そんな三つの声が、店内の喧騒に加わった。

894 :1 [saga]:2012/08/25(土) 18:43:44.22 ID:00ilLjgV0
「ひ〜〜〜じ〜〜か〜〜〜た〜〜〜〜」
「…………」
「わははははははは!」

どうしてこうなった。
私の脳内ではこの言葉が無限にリフレインしている。
これと同じ光景を数か月前に見たような気がするのだが。

「ん?どうした辛気臭い顔をして……こういう席でそう言う顔はいかんぞ!はははは!」

そう言いながらけらけらと笑い続ける少佐。
私は傍らのアリスを振り返る。
その視線には若干ながら非難の色が含まれていたかもしれない。
同じジョッキの中身を飲み干したにもかかわらず顔色一つ変えていない彼女がきまり悪そうに目をそらす。

「…………ごめん。多分どこかの誰かが中身をすり替えたんだと思う」

なるほど。
そう言うことか。
どこの誰だか知らないが、余計なことをしてくれる。
895 :1 [saga]:2012/08/25(土) 18:44:24.59 ID:00ilLjgV0
「ひ〜〜〜じ〜〜〜か〜〜た〜〜〜!なにをよそ見をしとるか貴様っ!」

その言葉とともに、私の肩に少佐の細い腕が回される。

「大体貴様はさっきからアリスに構いすぎらぞ!私の事ももっと構わんか馬鹿者が!」
「さ、坂本さん、もうこれ以上は…………」
「だいたい何だ、頭を撫でてやったりして!私にはそんなことしてくれたことない癖に」
「ですから、もうこのくらいにしないと明日に……」
「ほら!私の事も撫でろ!ほらほらほら!」

…………ダメだ。
全く会話が成立していない。
しかし、こうなった少佐を見たのはもう3度目である。
となれば過去の経験が生きてくるというものだ。
まぁ、そんな経験はなるべくならしたくないが。
……そろそろであろうか。

「おい、聞いているのか土方!私がいいと言っているのだ!私にもっと…………」

そこで少佐の言葉が途切れる。
どうやら時間切れのようだ。

「……ふにゃ」

そんな可愛らしい声と共に私にべったりとくっついていた少佐の体から急に力が抜ける。
896 :1 [saga]:2012/08/25(土) 18:44:56.92 ID:00ilLjgV0
このことあるを予期していた私は難なく少佐の体を支えることができた。
……しかし。

「と、とりあえず、少佐をどこかにお運びしないと」

全身に伝わってくる柔らかな感触に私の理性がどうかなってしまいそうだ。
先ほどのジョッキの中身が入れ替わってたのは少佐だけではないらしい。

「うーん…………ここから一番近いのは私の部屋だね。ついてきて」

少し考えるような表情の後、アリスがそう申し出てくる。
しかし……同じものを飲んだはずなのに目の前のこの少女の平気そうな顔は何なんだろうか。
そんな私の表情に気付いたのか、アリスは悪戯っぽく笑ってみせる。

「宿屋の娘なめないでね。もっと小さいころからお父さんやお客さんたちに鍛えられてるんだから」
「…………そ、そうですか」

正直知りたくない世界だった。
知ったところでどうなるものでもないが。

897 :1 [saga]:2012/08/25(土) 18:46:26.46 ID:00ilLjgV0
「はい。お水。圭助もお酒慣れてないんでしょ?」

そう言いながら私に冷水を差し出すアリス。
明らかにこの場で一番落ち着いているのは彼女であった。
我々より年下なのに、客商売をやっているとこういうものなのだろうか。
傍らのベッドの上では少佐が幸せそうな表情で寝息を立てている。

「ありがとうございます。……申し訳ありません、お手数をおかけして」
「…………な、何言ってんのよ。私はこの宿の娘。貴方はお客さん。お世話するのは当然」

そう言って目をそらすが、その表情は赤く染まっていた。
そんなところは年相応に見えて、思わず笑みが浮かんでしまう。

「…………なによ」
「いえ、何でも」

鋭い視線を向けられ、あわてて肩をすくめる。

「それに、美緒がこうなった原因はこっちにあるようなもんだからね……まぁジョッキ一杯でこんな風になるなんて予想はしなかったけど」
「ははは、まぁ普通はそうでしょうね」

そしてそんな少佐のお世話をするのが少しずつ楽しくなりつつある自分にも一種の救いがたさを感じる。
急に気恥ずかしくなり、救いを求めるように部屋の中に視線をさまよわせた。
そんな私の視線を止めさせたのは、ベッドサイドに置かれていたひとつの写真立て。
そこには今より幾分幼いアリスと、その隣で笑顔を浮かべるやや年上の少年の姿があった。
898 :1 [saga]:2012/08/25(土) 18:47:56.17 ID:00ilLjgV0
「……お兄ちゃんだよ」

私の視線の先に気付いたアリスがポツリとつぶやく。
しかしその表情は先ほどまでの快活さとは打って変わったどこか陰のあるものであった。
その表情に、「お兄ちゃん」とやらについて尋ねていいか一瞬ためらった私に、アリスが笑みを向けてくる。

「もう、変な気を使わないでよ。まぁ圭助の予想通りよ。お兄ちゃんはこの街がネウロイに襲われたときに…………ね」
「…………」

どんな言葉も空々しくなってしまいそうで、思わず口を噤む。

「私ね、いつもお兄ちゃんの後をくっついて回ってた。本当にお兄ちゃんが大好きだったんだ」

唐突に話し始めるアリス。
しかしその瞳は写真の中の兄に向けられたままである。

「あの日もそうだった。ネウロイ警報が出たから、地下の防空壕に避難する途中だったんだけど、私、途中でお兄ちゃんとはぐれちゃって……今から思えばそのまま防空壕に行ってれば会えたはずなのに…………あの時は早くお兄ちゃんに会わなきゃってお兄ちゃんを探してうろうろ歩き回って…………あとで街の人に聞いたんだけど、お兄ちゃんも必死で私の事探してくれてたみたいなの……でも、そうこうしてるうちにネウロイが来ちゃって…………私だけが、生き残っちゃった…………」

最後の方の声は小さくかすれ、震えていた。
私は何も言えずに沈黙する。
昨日今日出会ったばかりの私などの言葉が彼女の心に届くとは思えない。
だから私は、妹が泣く度にそうしたように彼女のそばに立ち、その小さな頭をゆっくりと撫で続ける。
アリスもそうされるのが心地よいのか、ゆっくりと頭を私の胸に預けてきた。
…………確かに少佐たち501戦闘航空団の働きによりガリアは解放され、多くの人々が助かった。
しかしやはりすべての人をというわけにはいかず、このアリスの兄のように指の間からこぼれてしまった命も厳然としてあるのだ。
899 :1 [saga]:2012/08/25(土) 18:48:25.07 ID:00ilLjgV0
「あの、その、我々の力及ばず……」
「謝ったりしたらぶんなぐるわよ」

発しかけた謝罪の声は、少し怒ったようなアリスによって遮られる。

「貴方たちはガリアを、故郷の街をネウロイから取り戻してくれた。そのことに感謝こそすれ恨む気持ちなんてないもの」
「アリス…………」

思わずアリスの名前を呼ぶ。
その言葉を聞いた彼女は驚いたように私から身を離した。

「ああ……もう!その呼び方!…………何で貴方はそこまでお兄ちゃんそっくりなのよ!!」
「そ、そうですか」
「顔は似てないんだけどね。雰囲気っていうのかな。一緒にいると安心できる感じが本当にそっくり。だから…………」

そう言うと再びアリスは私の胸に頭を預けてくる。

「今だけは……こうしてて…………お兄ちゃんがいつもしてくれたみたいに……」
「……ああ。アリス」

私の言葉が、静かな月夜に溶けるように消えていった。
900 :1 [saga]:2012/08/25(土) 18:52:19.00 ID:00ilLjgV0
翌日。

「……ここよ」

私たちを先導してきたアリスがそう言って振り返る。
彼女の後ろには無数の十字架型の石碑。
その街から少し離れた場所にあった墓地は、町の規模を考えると不釣り合いなほどに大きく、この街にもネウロイによる多くの死者が出たであろうことを想像させる。
翌朝、目が覚めると我々はこの街の墓所に参らせてもらうことをアリスに申し出た。
……どうやら昨日のアリスとの会話を途中から聞いておられたらしい(そのおかげで散々からかわれたが)少佐がぜひにと言い出したのだ。

「気を遣わなくてもいいのに。お兄ちゃんの事はもう……」
「そう言うのじゃない。私たちがこうしたかったんだ」

どこか後ろめたそうなアリスに、少佐は微笑を浮かべて告げた。

「第一、そんなに気になっていないなら昨日土方に抱き着いたりはするまい?」
「も、もう!それはもう言わないでって言ってるでしょ」

少佐のからかいに、アリスが頬を染めて反論する。
そんな言い合いも、墓地の中を歩くにつれてどちらからともなく厳粛な表情へと置き換わっていった。
やがてアリスは、一つの墓標の前で立ち止まる。
シンプルなその墓標には、アリスと同じ姓の少年の名が生没年とともに彫られていた。
15年にも満たないその年月に、改めてこの少年の生涯を思いおのずと表情が引き締まる。
901 :1 [saga]:2012/08/25(土) 18:52:52.66 ID:00ilLjgV0
「……お兄ちゃん」

か細い声で呟いたアリスが墓前に膝をつく。
墓標の周囲は綺麗に手入れがなされており、アリスや亭主たちがこの少年の事を片時も忘れていないであろうことは容易に想像できる。

「……土方」
「は」

少佐の言葉にうなずくと、私は持ってきた花束を墓前に供える。
そして墓前に跪いて首を垂れる少佐の後に従い、私もこの少年への祈りをささげたのであった。
……傍から見れば自己満足行為そのものかもしれない。
しかし、昨日アリスから兄の話を聞いた時、私も少佐もこうせずにはおれなかったのだ。
そんな少佐の気持ちを代弁するかのように、空がにわかに掻き曇ってくると、細い雨が降り出した。

「少佐、そろそろ…………」
「もう少し……いさせてくれ」

私の言葉に耳を貸そうともせず、少佐は結局雨がやむまでその場を動こうとはしなかった。


902 :1 [saga]:2012/08/25(土) 18:53:24.97 ID:00ilLjgV0
「それでは。ありがとうございました」
「ごめんな兄さん達。俺達で勝手に騒いじまって」
「いえ、皆さんの楽しそうな姿を見るのはこっちも嬉しかったですから」
「…………元気でね」
「アリスにも、いろいろとお世話になりました」

翌日。
出立する私と坂本少佐を見送ってくださる宿屋の店主とアリスに挨拶をする。

「御亭主……その、月並みな言葉しかかけられず申し訳ないが…………復興、頑張ってくれ」
「いえいえ。501のウィッチさんにそんな風に言われちゃ気合も入るってもんでさあ」

そういて豪快に笑う店主。
昨日あれだけ飲んで騒いでいたとは思えないほどである。
そして私は、先ほどからそんな店主のそばで刺すような視線を私に向けてきているアリスに声をかけた。

「……アリス」
「…………た来なさいよ」
「え?」
「だ・か・ら!帰りも絶対この街に立ち寄りなさいって言ってるの!」
「は、はっ!」

その迫力に反射的にうなずいてしまった。
そんな私の姿に少佐がおかしそうに笑っているのが視界の端に映る。

「安心しろ。私が引きずってでも連れてきてやるからな」
「本当?ぜ、絶対だよ美緒!」
「ああ。安心するといい」

妙に仲がよさそうに話をしているアリスと坂本少佐。

「…………ではな」
「ああ。そちらさんもお元気で」
「また会いましょう」
「…………絶対だからね」

亭主親子とそんな挨拶を交わしながら、私は軍用車のアクセルを踏み込んだ。
903 :1 [saga]:2012/08/25(土) 18:54:07.20 ID:00ilLjgV0
「そろそろか」
「は。あと数時間ほどでセダンに着けるかと」
「そうか……やっとこの素敵なシートともお別れか」

私の言葉に助手席で少佐が大きく伸びをする。
501の基地を出発して数日。
我々はやっとセダンまで数時間のところまで来ていた。

「では、私はもう一眠りする。セダンに着いたら起こしてくれ」
「は」

そういうと少佐は助手席で丸くなって寝息を立て始める。
乗り心地とは無縁の軍用車でヨーロッパの石畳道路を数日。
少佐としても疲れのたまっておられるところであろう。
どうせ今日中に着けばいいのだ。
私は少佐の眠りを妨げぬよう、心持ち車のスピードを落とした。
904 :1 [saga]:2012/08/25(土) 18:54:35.84 ID:00ilLjgV0
そして走ること数時間。
やっと視界にセダンの街の城壁が見えてくる。

「ん…………そろそろか」
「はい。城壁が見えてきました」
「そうか。やはり陸路というのは堪えるな。私ももう若くないということか」
「い、いえそのような…………」

悪戯っぽく笑う少佐に私自身がどう返してよいかわからないでいると、ふと道路の脇に、一人の女性の姿をとらえる。

「あれは…………」
「む。女か?しかもあの服装は……」

少佐の言葉に、私も目を凝らしてみる。
確かに道路脇に立っていた女性の服装は我々扶桑の人間には非常になじみの深いものであった。
白のゆったりした上衣に、やや短めのうす紫色の袴。
扶桑皇国陸軍のウィッチの皆様だけに許される服装がそれであった。
そう言えば、彼女のそばに止まっている車も我々のとよく似た形をしている。

「扶桑のウィッチか?しかも陸軍の」
「そう言えば、ウィトゲンシュタイン少佐が506には扶桑の方もおられるとおっしゃっていたような…………」

そんなことを話していると、件の女性がこちらに気付き、あわてたように道路へ出てくる。
こちらに大きく手を振りながら。
905 :1 [saga]:2012/08/25(土) 18:55:05.45 ID:00ilLjgV0
「……のー!すい…………せーん!」

その様子に、私と少佐は顔を見合わせつつも車を止める。
女性はその様子に安心したようにこちらへと駆け寄ってきた。

「えっと、その、501戦闘航空団の、坂本美緒少佐ですか?」
「ああ、そうだが」

少佐の返事に、女性はぱっと表情を明るくする。

「よ、よかった…………グリュンネ隊長にお迎えに行けって言われてたのに、私ったらうっかり何時ごろ着くのか聞いてなくて……街の入口で待ってたら通りかかるかなーって思って待ってて正解でした!」
「そ、そうか……それは…………ご苦労だったな」

あーよかったー!と無邪気に喜ぶ女性に少佐は戸惑ったような表情を浮かべる。

「と、とにかくだ。私が第501戦闘航空団所属、扶桑皇国海軍少尉坂本美緒だ」
「その従兵を務めさせていただいております、土方圭助と言います」

我々の名乗りに、女性は慌てたように敬礼を返してくる。

「あ、も、申し訳ありません!私は第506戦闘航空団所属、扶桑皇国陸軍中尉の…………あれ?」

そこまで言ったところで中尉はなぜか運転席の私の顔を、何か深刻な表情でしげしげと見つめて来た。
906 :1 [saga]:2012/08/25(土) 18:57:53.23 ID:00ilLjgV0
「…………中尉?」

突然見つめられて戸惑う私の反応にも構わず、中尉はさらに顔を近づけて私の顔を観察してくる。

「……………んー。あ、あの……土方さん、と仰いましたね」
「は、はい」

息がかかりそうなほどの至近で声をかけられ、答える私の声はやや上ずっていたかもしれない。

「失礼ですけど、私とどこかで会ったことありません?」
「い、いえ…………」

同じ扶桑軍所属であるし、何かの拍子にすれ違ったこと程度ならあるかもしれないと必死になって記憶を探ってみるものの、目の前の女性の顔に思い当たる節は全くなかった。

「そうかなぁ…………う〜〜ん……」

私の言葉にも納得できないかのように、中尉は私の顔を見つめるのをやめようとしない。
心なしかその距離が近づいてきているようで、もはや私の視界の9割が女性の顔で支配されている。

「ごほん!」
「あ、ご、ごめんなさい私ったら!」

不意に聞こえてきた咳払いに、中尉は慌てたように後ろへと飛びのく。

「人の顔をやたらに覗き込むなど無礼にもほどがあるぞ」
「す、すいませんでした……」
「…………土方も!なすがままにされているんじゃない」
「も、申し訳ございません」

少佐の不機嫌の6割ぐらいは私にも向けられているような感覚がして、思わず中尉とともに身を固くする。
中尉は気を落ち着けるように深呼吸を何度もすると、今度こそ敬礼とともに名乗られた。

「さ、先ほどは失礼いたしました。わたくし、第506戦闘航空団所属、扶桑陸軍中尉の黒田那佳です。坂本少佐他1名を、506航空団基地までご案内いたします!」

そこまで一息で仰り、黒田中尉は笑顔を浮かべる。
それが私と坂本少佐のセダン滞在の始まりであった。
907 :1 [saga]:2012/08/25(土) 19:00:20.43 ID:00ilLjgV0
久々の投下で必要以上に気合が入った。正直反省はしている(棒)

ということで普段より長めにお送りしました。
たまにはこういうオリジナル展開もよいのではないかと。

それでは、また来週に。
読んで下さりありがとうございました。
908 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/08/25(土) 20:19:30.74 ID:q5MUus/No
くにちゃんきたな
909 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/08/25(土) 22:28:55.01 ID:XxBQciwAO
910 :1 [saga]:2012/08/27(月) 19:15:02.30 ID:v/XnuEcs0
セルフage
911 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2012/08/29(水) 17:17:32.02 ID:NmQMvlvQ0
乙!坂本さん可愛い
912 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/08/31(金) 15:29:57.36 ID:QQs0W53Mo
おつー
913 :1 [saga]:2012/09/01(土) 20:41:18.68 ID:N8y/6jAi0
すまぬ……すまぬ…………
まだ次の話がかけておりませぬ……明日夜まで待ってつかぁさい……
506の隊員たち黒ちゃんと姫以外設定なさ過ぎてほとんどオリキャラになってます。
…………と、先に謝っとけば大丈夫やろ(震え声)
914 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/02(日) 16:38:05.93 ID:cTxl0JQ0o
楽しみに待ってるー
915 :1 [saga]:2012/09/02(日) 19:25:05.81 ID:eVDNws9G0
こんばんは。
何とか書き上がりましたので投下します。
昨日も言いましたが、黒ちゃんと姫以外の506隊員についてBDについていた資料集の他ははフミカネさんが書いたSSぐらいしか見つからなかったので私の妄想が入ったオリキャラに近いものとなってます。
そこのところをご承知おきください。
それでは。
916 :1 [saga]:2012/09/02(日) 19:25:33.81 ID:eVDNws9G0
「黒田那佳中尉、第501戦闘航空団の坂本美緒少佐以下1名をご案内してまいりました」
「お疲れ様。黒田中尉は下がっていいわよ」
「え…………は、はいっ!」

目の前の机に座る金髪の女性の言葉に、黒田中尉が私に視線を送りながら部屋を出ていく。
何故か部屋にいる間も黒田中尉はちらちらと私に視線を送って来ては金髪の女性に窘められていた。
このようなヨーロッパの真ん中では扶桑人に会うことが珍しいのだろうか、とも思ったが、ならば坂本少佐の方にはほとんど視線を向けないのが解せない。
知名度で言えば少佐と私など比較にすらならないはずだが。

「どうされましたか?」

そんな事を考えていると、目の前の女性がにこやかにほほ笑んできた。
その表情はまさに貴族と称すべき気品にあふれており、思わず顔が赤くなってくるのを自覚する。

こつん。

「いたっ」
「鼻の下を伸ばすな馬鹿者。他隊の隊長だぞ」
「も、申し訳ありません」

思わず見とれていたら隣の少佐に小さく頭を小突かれてしまった。
そんな我々を見て女性が可笑しそうに笑う。
917 :1 [saga]:2012/09/02(日) 19:26:05.92 ID:eVDNws9G0
「ふふ、仲がおよろしいのね」
「あ、いえ、そういうわけでは…………」

少佐と仲がいいと言われるのは少し嬉しくもあるが、改めて言われると妙に恥ずかしいものだ。

「あ、ごめんなさいね。自己紹介がまだだったわ。私はロザリー・ド・エムリコート・ド・グリュンネ少佐。この506戦闘航空団の名誉隊長を務めているわ」

……名誉隊長?
聞きなれない役職に怪訝な表情になった私に気付いたのか、少佐が説明して下さる。

「隊長ではあるけど、私が戦場に出ることはほとんどないのよ。年齢的にも魔力量的にも退役を待つだけだったのを無理やり引っ張り出されたお飾りの隊長だから」

そう言うグリュンネ少佐の表情にはしかし、内容とは裏腹に自嘲や皮肉の成分は見られない。
与えられた職務を精一杯果たそうというその姿勢は尊敬できるものである。
それに、年齢のことを言うなら坂本少佐だって…………
…………い、いかんいかん。
これ以上は上官に対して不敬もいいところだ。

「……ん?どうした?」
「な、何でもございません!」

少佐の言葉に答える声が不自然に上ずってしまった。

918 :1 [saga]:2012/09/02(日) 19:26:34.52 ID:eVDNws9G0
「扶桑皇国海軍少佐、坂本美緒だ。よろしくお願いする」
「従兵の土方圭助兵曹であります」
「よろしくお願いしますね。あ、私の事はロザリーとお呼びください」
「ああ、よろしくロザリー。私の事も美緒でいいぞ」

そう言って二人の少佐は握手を交わす。

「貴方もよろしくね」
「は」

私にまで手を差し出して下さるグリュンネ少佐と握手を交わす。

「じゃ、お二人の部屋に案内するわね」
「うむ」
「は」

「あ、じゃあ私がご案内しますよっ!」

私たちが立ち上がると同時に、そんな言葉と共に部屋に入ってきたのは黒田中尉であった。

「……黒田中尉、立ち聞きしてたの?」
「えへへ、ごめんなさい…………」

呆れたようなグリュンネ少佐と、悪びれた様子もなく頭をかいている黒田中尉。
黒田中尉のこの隊での位置が分かった気がする。

「じゃあ、私についてきてくださいねー」
「よろしく頼む」
「よろしくお願いしますね」
「はいー」

…………と、我々は黒田中尉について歩き出した。
919 :1 [saga]:2012/09/02(日) 19:27:09.25 ID:eVDNws9G0
「ここですよー」

と、黒田中尉に連れてこられた部屋は、ごてごてと飾り立ててはいないものの、調度の一つ一つが厳選された上品なものであった。
この部屋だけを見せられると高級ホテルの客室かと思ってしまいそうだ。
ここのウィッチはすべて貴族の出身であると聞く。
そう言う面でもある程度の配慮がなされているのだろうか。

「ほう…………」

同じ感想を持たれたのか、隣で坂本少佐が感嘆のため息を漏らす。

「すごいですよね。あとでご案内しますけど、簡易談話室なんかもすごいですよ。高級ホテルのロビーみたいなんですから。貴族とはいっても貧乏分家の出身の私には居心地悪くて」

そう言って黒田中尉は笑う。
皮肉めいたことを言っても陰湿な感じを受けないのは中尉自身の持つ雰囲気のようなものが作用しているのだろうか。
くるくると変わる表情が宮藤さんを思い起こさせる。

「はは、確かにあまり豪華すぎる部屋というのも落ち着かぬものだな」
「そうですよねー……あ、それで」

そう言った黒田中尉は私の方に向き直る。

「従兵の方用のお部屋はそっちにありますからねー」
「そうですか、それはご丁寧に…………ってえっ?」

思わず素で突っ込んでしまったが、今黒田中尉は聞き捨てならない事を言わなかっただろうか。

「へ?どうしましたか?」
「い、いや…………え、同じ部屋に?」
「あ、はい。従兵さんの方も一緒だと聞いたので、従兵さん用の部屋がついたお部屋を用意したんですけど…………」

そう言って部屋の入口のわきを指し示す黒田中尉。
確かに中尉の視線の先に小さなドアがあるのが見える。
……なるほど。
920 :1 [saga]:2012/09/02(日) 19:27:38.35 ID:eVDNws9G0
「いや、しかしさすがに……」
「え、何か不都合でも?」

いや、不都合というか…………まぁ、その。
しかし、この私の胸に湧き上がってくるもやもやした思いは何とも言語化しずらい。
我ながら自意識過剰もいいところだと思うが、それでもやはり全く何も思わない、というわけにはいくまい。
考え込んでしまった私に、中尉が恐る恐るという態で声をかけてくる。

「あ、あの…………よく分かりませんが少佐と同じ部屋がそんなにお嫌でしたら、グリュンネ隊長に言って部屋を変えてもらってもいいですけど」
「その、嫌というわけでは…………」
「そうなんですか?」

そう言って黒田中尉が首をかしげる。
無理もない。私自身何故ここまで必死になるのかわからないでいるのだから。
まぁしかし、黒田中尉のご厚意にここは甘えておこうか。

「あ、そういうことでしたら……」
「いいじゃないか」

しかし、私の言葉を遮ったのは坂本少佐の声であった。

「き、貴様は私の従兵なのだし?わ、私に何かあったら……す、すぐに駆けつけられる場所にいるのはむしろ当然というか……それに扶桑にいたころは同じ家に住んでいたんだし、というか別に私は気にしないから黒田に余計な手間をかけさせるな!さっさと決めろ馬鹿者!」
「は、はっ!」

最後の方のよく分からない迫力に押されて反射的に返事をしてしまった。

「え、えっと……じゃあ、このお部屋でいいんですね?」
「はい」

黒田中尉も坂本少佐の勢いに少々戸惑い気味である。
かくして。
ひと悶着あったものの、こうして私と坂本少佐のセダンでの生活が始まったのであった。
921 :1 [saga]:2012/09/02(日) 19:28:07.53 ID:eVDNws9G0
「えーそれでは、皆さんにご報告があります」

それから小一時間後。
ブリーフィングルームに集合した506の皆様方にグリュンネ少佐より紹介していただくこととなった。

「501戦闘航空団より、坂本少佐に期限付きで出向していただくことになりました。隣は従兵の土方圭助兵曹です。坂本少佐と言えばあのガリア解放を成し遂げた501でも最古参の方、短い期間ではありますが、皆さん色々と学ぶこともあるでしょう」

その言葉が終わるか終らないかのうちに、目の前に座っていた一人の方から声が上がる。

「ふん。気に入らないな。501だか何だか知らないが、引退間際の人間引っ張り込んで何を学べっていうんだ?」
「…………っ!」
「よせ、土方」

それは最前列に座っていらっしゃった浅黒い肌に赤栗色の癖っ毛が印象的な女性の声であった。
激昂して一歩踏み出しかけた私を押しとどめたのは少佐自身であった。
少佐は女性に向き直ると、あえてかどうかは知らないが挑発的な表情を作って言葉を続ける。

「…………ほう。言うではないか青二才。名はなんと?」
「アドリアーナ・ヴィスコンティ。これでも大尉だよ」

ヴィスコンティ家と言えば一時はミラノの支配者とも言われた名族である。
さすがノーブルウィッチーズの名は伊達や酔狂ではない、といったところか。
しかし、この方も黒田中尉とは違った意味で貴族という感じを受けない方である。
この若さでこれほどの階級におられるということはこの方もウィッチなのだろう。
922 :1 [saga]:2012/09/02(日) 19:28:42.12 ID:eVDNws9G0

「ふん。実力のない者ほどやたらに噛みつきたがるものだ。貴様が軍で学んだのは愚にもつかない言葉遊びのやり方か?」
「……持って回った言い方しやがって。要するに実力を見せろってことだろう?」
「招かれた身であるから言葉には気を使ったつもりではあったのだがな」
「よーし。じゃあ…………」
「やめなさいヴィスコンティ大尉!」

一触即発になりかけたお二人の間柄を救ったのはグリュンネ少佐のお言葉であった。

「美緒も!喧嘩しに来てるわけじゃないんでしょ?」
「…………済まなかった。つい頭に血が上ってしまって」
「あ、おい!」
「ヴィスコンティ大尉!」

ヴィスコンティ大尉の方はまだ言いたいことがありそうだったが、グリュンネ少佐の無言の圧力に不承不承という態ながらも引き下がる。
どうもあのヴィスコンティ大尉という方は少佐とは致命的に相性が悪いような気がする。
……なぜだかは私にはわからないが。

「うん。僕もそう思うよ」
「そうですよね…………って?」
「こんにちは、圭助クン」

不意に別方向からかけられた言葉。
思わず返事をしてしまったが、振り返った先では小柄な少女?少年?がこちらに屈託のない笑顔を向けてきている。
923 :1 [saga]:2012/09/02(日) 19:29:07.25 ID:eVDNws9G0
「あ、あの…………」
「どうしたの?……あ、僕の名前はアイザック。キミもそう呼んでくれるとうれしいな」
「アイザック……さんですか」

アイザック……と言うことは男性なのだろうか。
しかし、この方のまとう雰囲気からは一般の兵士とは違う、何か神秘的な空気を感じさせる。
501のウィッチで言えば、リトヴャク中尉が一番近いだろうか。
階級章を拝見するに少尉のようだが、この若さで少尉の位にあるということは…………

「まさか…………」

思わずつぶやく。
確かに古代には魔力を持つ男というのも存在したと伝承にはあるが、今この時代において男ウィッチの話など聞いたことがない。
覚えず、視線がアイザックさんの胸元へと移動する。

「…………えっち」

照れたように胸元を隠しながらアイザックさんが頬を染めた。

「あ、いえ、そ、それはその…………」
「圭助クンはそんな人だったんだね……」
「土方、貴様…………」
「違います!」

慌てて弁解する私に、坂本少佐も冷たい視線を向けてくる。
さ、さすがにこんなことで少佐に誤解はされたくない。

「わははははは!そのくらいで勘弁してやれアイザック!兄さん困ってるぞ」
「…………うん」

そんな空気を打破して下さったのは、唐突に上がった笑声であった。
声のした方を振り返るとヴィスコンティ大尉がこちらを見ながら爆笑している。
そんな大尉を見ながら、グリュンネ少佐はやれやれとばかりに頭に手を当てている。
…………あ、何かこういう光景を501の基地でも見た気がするぞ。
924 :1 [saga]:2012/09/02(日) 19:29:34.80 ID:eVDNws9G0
「…………もう。お客様をからかわないの。土方兵曹、『彼女』はイザベル・デュ・モンソオ・ド・バーガンデール少尉。れっきとした女性よ」
「え?」

そう答えた私の表情はさぞかし間抜けなものであっただろう。
ヴィスコンティ大尉が再び爆笑する様子が、それを物語っていた。


「……ゴメン」
「あ、いえ…………おかまいなく」
「ふふ、騙されやすいんだね」
「やめてください……」

当初の神秘的な様子はどこへやら、表情豊かに笑うバーガンデール少尉。

「改めてよろしくね、圭助クン」
「は……バーガンデール少尉」
「アイザックでいいよ。改めて少尉なんて呼ばれるのに慣れてないし」
「そうですか…………」

女性でありながら男性名を名乗っているのには何かわけがあるのだろうか。
一瞬気になりはしたが、初対面でそんな立ち入った事までお聞きするのは失礼であろう。
925 :1 [saga]:2012/09/02(日) 19:30:02.62 ID:eVDNws9G0

「そして最後にっ!」

再び横合いから割り込んできた声。
振り返ると黒田中尉がなぜか胸をそらしながら立っていた。

「いつもニコニコ貴方の隣に這い寄る扶桑陸軍中尉、黒田那佳です!改めてよろしくお願いしますね」
「…………」
「…………」
「や、やだなー。ここは『異形の神かよ!』ってツッコむとこじゃないですか―」

こ、この方は何をおっしゃっているのだろうか……
唐突な挨拶に固まっている私と少佐に、そんな微妙な空気を察した黒田中尉が慌てたように付け足す。
その後ろではグリュンネ少佐が再び額に手を当てて俯いていた。
しかし、黒田家と言えば公爵家として扶桑の政財界にかなりの重きをなす名家である。
そう言った家の方にしてはその、なんというか…………らしからぬ立ち居振る舞いが多々見られる気がする。
ご自分のことを「貧乏分家の出身」と仰っていたし、そのあたりが何か関係しているのだろうか。

「…………」
「ぬおっ!」

そんな考え事をしつつ目を開けると、目の前数センチのところに黒田中尉のお顔。
思わず妙な叫び声をあげてしまった。
しかし中尉はそんな私の様子に気づいた様子もなく私の顔を穴が開く程に見つめてくる。
926 :1 [saga]:2012/09/02(日) 19:30:29.94 ID:eVDNws9G0
「ここまで出かかってるのよね……ねぇ、本当に私と会ったことない?」
「…………そうおっしゃられましても」

まぁ、考えられるとすればまだ土方家当主候補であった頃にどこかで出会っていた可能性も無きにしも非ずであるが…………
そんな真剣な様子の中尉に、ヴィスコンティ大尉がからかうように声をかける。

「何だ何だ?黒田、客人の従兵に早々とコナかけるたぁなかなかやるじゃねぇか」
「あ、いえ、そう言うのじゃなくてっ!…………うーん。あの、もう一度お名前を聞かせて頂けません?」
「は。土方圭助兵曹であります」
「ひじかた、けいすけ…………」

そうつぶやいたきり中尉は再び黙り込む。
そんな困った様子の中尉の姿が、わずかながら私の記憶巣を刺激した。
数日前に同じような夢を見たような気が――――

そう、あれは、確か――――



『あの……こんにちは』

『え、えっとくろだ、くにか、ともうします……けいすけさま』

『その、圭助さま、えっと、その』

『圭助さま、その、もしよかったら、その、私を――――』



そう言いながら目の前で困ったように微笑む少女の姿が、今目の前にいる黒田中尉の姿と徐々に重なっていく。
そうだ。
何故忘れていたのだろう。
この子は。

「あーーーーーーーーっ!」

不意に上がった頓狂な叫び声が私の回想を中断させる。
それはあまりに突然であったので、目の前の黒田中尉があげたものであると私の脳が理解するまで、数瞬の間を必要とした。
中尉はそんな私には構わず、私を指さすと言葉を続ける。

「圭助様ーーーーーーーっ!」
「那佳…………ちゃん?」

黒田中尉の言葉に反応して私の口からこぼれ出た名前。
その二つの名は、ほぼ同時に部屋の中に響いた。

927 :1 [saga]:2012/09/02(日) 19:33:06.26 ID:eVDNws9G0
ということで本日分の投下終了です。
キャラ設定のほとんどないキャラを描写するというのは自分の妄想を盛り込める反面難しいですね。
506でも日常安価やろうかな。
ま、もっさんか黒ちゃんの実質二択でしょうがw
928 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県) [sage]:2012/09/02(日) 19:56:10.81 ID:3Lwk2q+Ao
そいやさhttp://i.imgur.com/2h3cQ.jpg
http://i.imgur.com/GRbV6.jpg
929 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/09/02(日) 19:57:06.03 ID:VO4EVz2O0
うお投下来てたかwwww
最近見始めました。
応援してますこれからも頑張って下さい。
930 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/09/02(日) 20:27:05.46 ID:yfDt3xh8o
おつー
また土方は過去のフラグを……なんて罪深い男なんだ

あと参考画像ありがたい
931 :1 [saga]:2012/09/03(月) 23:02:23.41 ID:9nQvD0ML0
セルフage

>>928
ありがとうございます!
イザベルきゅん赤毛だったとは……
純粋フランク人のベルギカ出身ってことでなんとなく502のニパみたいな外見を想像してました。

あと、黒ちゃんはあのドヤ尻絵のイメージが強かったのでありがたいです。
932 :1 [saga]:2012/09/09(日) 09:14:33.98 ID:3X7gq1iJ0
遅れて申し訳ありません。
続きですが、今日の夜か、事によると明日になるかもしれません。
頑張りますのでどうかよろしくお願いします。
933 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/09/09(日) 10:48:58.60 ID:cCsFfx44o
待ってます
934 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2012/09/09(日) 21:51:21.85 ID:pjoXXGCF0
ワクワクテカテカ
935 :1 [saga]:2012/09/09(日) 23:28:25.38 ID:3X7gq1iJ0
すいませんすいません!
結局今日も忙しくてかけませんでした!
明日には必ず……

代わりに水曜に506の日常安価やりますから!
……需要あるかしらねーけどw
936 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/09(日) 23:45:34.04 ID:7Sys7whQo
そりゃ需要はありまくるよ。待ってるよー
937 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2012/09/10(月) 13:20:19.23 ID:iXqJ1hyl0
無理はしないで下さいねー
のんびり待ってます
938 :1 [saga]:2012/09/10(月) 22:06:34.87 ID:smlBy0bQ0
ふー。
何とか書きあがりました。
やはり週1本(+α)は余裕がありませんね。
毎日更新されている方とかすごいなぁと感心することしきりです。

それでは続きです。
939 :1 [saga]:2012/09/10(月) 22:07:03.01 ID:smlBy0bQ0
「圭助様ーーーー!」
「那佳…………ちゃん?」

思わず私の口から洩れた言葉に、黒田中尉が嬉しそうに私の手を取って握りしめる。

「あ、はいっ!思い出して下さったんですね圭助様っ!」
「いえ、その…………」
「うわー懐かしい!あれから6……7年ですかね?圭助様もおっきくなりましたねー」
「あ、ありがとうございます…………」

ほっておいたらいつまでもしゃべり続けそうな黒田中尉を止めて下さったのは横合いから割り込んできたグリュンネ少佐の声であった。

「黒田中尉!」
「え?あ、あ…………ご、ごめんなさい……」

グリュンネ少佐の声に今の状況を再確認した黒田中尉が恥ずかしそうに手を離す。

「あ、あはは…………どもすいませんでした」
「貴方たちの事情は知らないけど、もう少し節度をもってね」
「す、すいませんっした…………」

殊勝な表情をして見せる黒田中尉だが、私と目が合うとうれしそうに微笑んで見せて再びグリュンネ少佐に怒られていた。
そして。
こちらにももう一つ問題が持ち上がろうとしていた。

「…………土方」
「は、はいっ!」

恐る恐る声のした方に目をやると、坂本少佐の不機嫌そうな視線にぶつかる。

「……あとで話がある」
「は…………」

そう答える私の表情は、死刑執行を明日に控えた死刑囚のようなものであったとは、一部始終を完全に外野席から一言も発せず眺めていたヴィスコンティ大尉のお言葉である。
940 :1 [saga]:2012/09/10(月) 22:07:32.76 ID:smlBy0bQ0
結局、それから少佐に事情を説明するのに小一時間を要することになったのであった。



「……ふむ。そう言うことであったか」

私の話に、そう答える少佐の表情からは先ほどまでの不機嫌さはやや薄まっている。

「子供の頃の、な。正直私には想像もつかん世界だな」
「私も正直ほとんど覚えておりませんで」

私が土方家次期当主候補としての生き方しか知らなかった頃、10をわずかに過ぎた私に急に引き合わされた「花嫁候補」の女の子。
しかし、正直結婚だの花嫁だのという言葉は当時の私にとって異次元の言葉にしか思えなかった。
ただ覚えているのは、反応の薄い私に困ったように微笑む少女の顔。

「しかし今まで忘れていたとはいささか薄情すぎやせんか、土方」

そう言いながら少佐はからかうような視線を向けてくる。
どうやら機嫌はかなり直ってきているようだ。
しかし、性質の悪い事にそれに乗っかるように黒田中尉までもが拗ねたような半眼を向けてくる。

「本当ですよね……圭助様の薄情者」
「…………だ、そうだが?『圭助様』」
「勘弁してください…………」

こういうタイプの女性にからまれたら早々に白旗を上げるに限る。
坂本少佐と長年付き合ってきた中で身に着いた処世術であった。
941 :1 [saga]:2012/09/10(月) 22:08:00.41 ID:smlBy0bQ0
案の定、少佐の方もそれ以上からかうつもりもなかったのか黒田中尉の方へ向き直る。

「黒田、貴様は黒田家本家の人間だと言ったな?」
「あ、はいっ。と言っても…………たまたま魔力があってウィッチになれたんで箔付けのために急遽本家に迎えられただけで、本来は傍流も傍流、家系図の端っこにかろうじて引っかかってるだけみたいな貧乏分家の生まれですけどね」

そう言って苦笑する中尉。
なるほど。
黒田中尉の「らしからぬ」ふるまいの訳はそこだったか。
それをまるで何でもない事のように言える中尉も大したものだ、と妙なところで感心する。

「だから、貴族社会の端っこに必死でしがみついてるみたいなとこがあったんですよ。それである時土方家のお坊ちゃんと会えることになったらお母さんたち張り切っちゃって……『どんな手を使っても絶対にモノにしてきなさいよ!』って10歳の私に言うんですよ……もう、困っちゃいました」

それは…………何ともアクティブなお母上である。
隣で少佐が必死で笑いをこらえているのがわかる。

「意味は全然分かんなかったけど、とりあえず今から会う男の子に気に入られるようにすればいいんだなって思って、お淑やかな振る舞いとかいろいろ練習したんですよ……それなのに…………はぁ」

そこで中尉は言葉を切り、なぜか私を非難するような視線をぶつけてくる。

「初めて会った圭助様は私のことなんて全然眼中にないって感じで……私、どうしていいかわかんなくなっちゃって…………」
「そ、それはその……申し訳ありませんでした」

意味もなく謝ってしまう。
正直、こちらもかなり緊張していただけなのだが。
しかし黒田中尉はこちらが拍子抜けするほどにあっさりと表情を改める。

「まぁ、それっきり会うこともなかったですし、私も今の今までぼんやりとしか覚えてなかったんですから、おあいこですけどね」

そう言って笑う。
942 :1 [saga]:2012/09/10(月) 22:08:29.48 ID:smlBy0bQ0
しかし何というか改めて貴族社会というものは狭いものだと実感させられる。
あの時出会った女の子がまさかウィッチとして登場するとは。

こつん。

不意に後頭部に走った軽い衝撃。

「……ロザリーの時と言い貴様はいろいろ目移りしすぎだ馬鹿者」
「そ、そのようなことは決して!」

再び不機嫌さを増しかけた坂本少佐に軽く頭をはたかれ、あわてて弁明する。
どうやらまた妙に真剣に女性の顔を見つめてしまったようだ。

「仲いいな、あんたら」

呆れたような表情のヴィスコンティ大尉の言葉も、グリュンネ少佐に次いで二度目であった。

943 :1 [saga]:2012/09/10(月) 22:08:58.60 ID:smlBy0bQ0
翌日。
朝の鍛錬のため、私と坂本少佐は、セダン基地の廊下を歩いていた。
ロマーニャにある501の基地よりもかなり緯度が高いせいか、同じ時間であるのに窓の外はすでに白みきっている。

「起こしてしまって済まなかったな。こんなところに来てまで私に付き合わんでもよかったのだぞ」
「いえ、私が好きでやっていることですので」
「そ…………そうか……ま、まぁそれないらいいが」

私の言葉に頬を染めて目をそらす少佐。
今回はあまり恥ずかしいセリフでもなかったと思うが……
そんなことを話しながら廊下を歩いていると、

「あれ?坂本さんに……圭助様?こんな時間に何か?」

廊下の向こうから現れたのは黒田中尉であった。
あの衝撃的な出会い以来、中尉は私のことをずっと「圭助様」と呼んでくる。
5つも上の階級の方に様付で呼ばれるなど違和感どころではないので改めて頂けるようお願いしたのだが、子供の頃の癖だから、と言って改めて下さろうとはしなかった。
まぁ、その時の表情は明らかに面白がっていたのだが。
ついでに「私の事も昔みたいに『那佳ちゃん』って呼んで下さいねー」という申し出は丁重にお断りさせていただいた。
944 :1 [saga]:2012/09/10(月) 22:09:40.40 ID:smlBy0bQ0
「あ、いえ、ちょっと朝の鍛錬に」
「へぇー」

少佐に代わって私が答える。

「こんな時間に、ですか?すごいですねー」
「まぁ、習慣のようなものですから」
「それでもそんな風に習慣になるまで続けられるってすごい事ですよー。さすが少佐ともなると違うんですねー」

そう言って中尉は大げさに驚いてみせた。
あまりに大げさな驚き方に、少佐も少々居心地が悪そうである。
そんな私たちの様子には気づいていない様子で、黒田中尉は話を続けてきた。

「あ、そうだ!私もご一緒してよろしいですか?」
「黒田が?経験はあるのか?」
「いえ、それが全く」

あっけらかんと言い放つ中尉の言葉に、思わず少佐と共にコケそうになる。
945 :1 [saga]:2012/09/10(月) 22:10:08.38 ID:smlBy0bQ0
「でも、剣術とかってすごく憧れてたんですよー。ここじゃ扶桑の方に出会う事もあんまりなくて」
「ま、まぁそうかも知れんが…………正直私も土方も人に教えるのはあまり慣れていなくてな」
「あ、じゃあお二人の訓練を見学させていただくだけでもいいですから」

そう言って中尉はニコニコと笑っておられる。
うーむ。
何故だか妙に積極的だ。
多分本当に興味があるだけなんだろうが。
少佐と顔を見合わせたのち、少佐が小さく頷くのを確認した後私は中尉に向き直った。

「では、ご一緒いたしましょう」
「本当ですか!ありがとうございます!」

そう言いながら嬉々としてついてくる黒田中尉に若干の不安を覚えていたが、ほどなくしてその不安は杞憂でなかったことが明らかになる。

946 :1 [saga]:2012/09/10(月) 22:10:36.23 ID:smlBy0bQ0
「ほらほら!どうした黒田!」
「うっ……少しは手加減してくださいよぉ」
「ふっ、これでもだいぶ手加減しているつもりなのだがな」

そう言いながら少佐は妙に楽しそうに黒田中尉に竹刀での一撃を叩きこみ続けている。
どうやら人に教えるのが楽しくなっているようだ。
対する黒田中尉の方と言えば、まともに竹刀を構えることすらおぼつかない状態で坂本少佐の一撃を必死でいなしている。
……いや、そんなものではない。
単に翻弄されているだけ、と言った方がしっくりする。
それでも倒れずに何とか持ちこたえているのは少佐の絶妙な手加減のおかげか、それとも黒田中尉の身体能力自体がそれほど悪くないせいなのか。

「…………まぁこんなところだろう」
「ふぅ〜〜〜」

その少佐の言葉を待ちかねていたかのように、ぺたりと中尉がへたり込む。
張りつめていた緊張の糸がぷっつりと切れてしまった感じである。
947 :1 [saga]:2012/09/10(月) 22:11:04.15 ID:smlBy0bQ0
「では、次は土方、黒田と仕合って見ろ」
「…………私ですか?」
「貴様も見ているだけではつまらんだろう。たまには私以外の相手と鍛錬するのもよかろう」

そう言いながら少佐が放り投げてきた竹刀を受け取る。

「うぅ……ちょ、ちょっと休憩させてくださいよぉ」
「甘えるな黒田!私と土方の鍛錬じゃこんなものウォーミングアップにすらならんぞ」
「えええ〜〜」

少佐の言葉に、涙目になった中尉が上目づかいで哀願するような視線を向けてくる。
…………さすがに心が痛む。
いくらなんでも中尉は素人なのだし、少しぐらい休憩を……
そう思って少佐の方に視線を向けるが、少佐はその笑顔を崩すことなく、立てた親指を下に向けられた。

「…………申し訳ありません中尉。お立ち下さい」
「け、圭助様の鬼!」

聞きようによってはものすごい誤解をされそうな言葉を投げつけられる。
それでもよろよろと立ちあがるあたり黒田中尉も扶桑軍人なのだな、と妙なところで可笑しくなった。

948 :1 [saga]:2012/09/10(月) 22:11:33.09 ID:smlBy0bQ0
「では開始します」
「あーもうどうでもなれ!ですよ」

半ばやけくそ気味に言い放ちつつ構えをとる黒田中尉。
しかしその構えは先ほどとは見違えるほどに様になっている。

「いきますよー!てええええい!」

防戦一方だった先ほどの鍛錬の反省を生かしたのか知らないが、中尉が気合いの声とともに打ち掛かってくる。
しかし所詮は素人の攻撃。
予備動作も大きく軌道が丸わかりである。
体をわずかに半身にしてかわす。

「えええええ……ってあららっ?」

気合を外された格好の中尉が蹈鞴を踏む。
そのまま転びそうになるのを何とか踏みとどまり、くるりと振り向いた。
貴族のみに着用が許されている藤色の袴がふわりと翻る。
…………ん?

「よ、よけないでくださいよー!」

振り返った中尉はそんな言葉とは裏腹の真剣な表情を崩すことなく、そのまま二撃、三撃と連続して打ち込んでくる。
そのたびに再び藤色の袴が先ほどより大きく翻るのがいやでも目に入ってきた。
中尉の方は鍛錬に夢中で気づいていらっしゃらないようだが……
…………まずい。
これは私の精神衛生上非常によくない。
949 :1 [saga]:2012/09/10(月) 22:12:04.30 ID:smlBy0bQ0
「ちゅ、中尉!あの」
「なんですかよく聞こえません!行きますよ圭助様!」

しかし中尉は戦いの中でアドレナリンが分泌されているのか、私の必死の呼びかけにも気づいていらっしゃらないようである。
しかも先ほどより大きく動かれるので、袴が完全にめくれあがりそうになることも一度や二度ではなかった。
気にしないようにと精神を集中させればさせるほど、そちらの方に目が行ってしまう。
……これは多少本気を出してもすぐに終わらせるしかあるまい。

「行きますよ!必殺!黒田星天翔!!」

何だかよく分からない技名を叫びながら黒田中尉が一撃を打ち込んでくる。
それは本日一番の速度と威力であったが、やはりその軌道は読みやすいものである。
これならば―――

「とおおおおおお……って、えっ?」

変事はその直後に訪れた。
身体能力が追い付いてないのにやたらと大振りの攻撃を出した結果、黒田中尉の体は竹刀に振り回されるように安定を失う。
あとはそこを軽くついてやれば……何?

それは完全な偶然であった。
踏み込んだ中尉の足がしっかりと地面をとらえきらず前方へと滑る。
950 :1 [saga]:2012/09/10(月) 22:12:33.66 ID:smlBy0bQ0
その結果、中尉の動きに合わせるように突き出していた私の竹刀が完全に上滑りするような形になった。
まずい。
このままでは―――

そう思った瞬間にやってきたのは衝撃……ではなかった。
前方へと倒れこむ感覚の後、視界が白いもので染まる。

「きゃ、きゃああああああ!」

間近で聞こえる中尉の悲鳴に近い声。
その大声が私の意識をはっきりさせていった。
頭を振って意識を無理やりに覚醒させる。

「ぬぉっ!」
「きゃっ!」

顔を上げた私は、目の前数センチのところに中尉の顔を発見し思わずお互いに飛び退く。
やっと視界が開けた私の目に飛び込んできたのは、尻餅をついた黒田中尉の姿。

「…………っ!」

思わず反射的に目をそらすものの、一瞬だけでも見えてしまった光景は頭に強く焼き付いている。
私の目の前で大股を広げるような格好で尻餅をついている中尉。
その袴は完全にめくりあがり、そして先ほど私の視界を奪った白いものはまさか……
951 :1 [saga]:2012/09/10(月) 22:13:02.50 ID:smlBy0bQ0
がいん!

不意に頭に走った衝撃。
振り向くと、坂本少佐が目に怒りの炎をたたえて立っていた。

「土方」
「は」
「喜べ。これから私が貴様に全開の本気で稽古をつけてやる」
「…………は」

その氷点下とでも称すべき声色と、何よりその表情に、私には黙って頷く以外の選択肢は残されていなかったのである。
952 :1 [saga]:2012/09/10(月) 22:14:41.67 ID:smlBy0bQ0
ということで本日分終了です。
506編は2〜3話で終わらせる予定だったのに、いざ書くとなんかいろんなシチュエーションが頭に浮かんできて無駄に長くなりますねw

では、水曜日にお約束した日常安価やりますね。
953 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2012/09/11(火) 13:29:01.11 ID:F1YiGU4N0
乙!
954 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/11(火) 13:46:03.75 ID:S9jVeyoXo
おつおつ
このスレ見て506にも興味が湧いてきたよ
955 :1 [saga]:2012/09/12(水) 21:18:39.60 ID:bSSrQSqo0
みなさんこんばんは。
それでは安価導入部を。


「…………」

宵闇の降りた廊下を歩く。
506の基地に来てより最初の夜。

枕が変わると眠れない、などという繊細な神経とは無縁であったはずだが、夜中にふと目覚めてしまった私は、らしくもない好奇心を発揮して深夜の基地内を散歩していた。
グリュンネ少佐からは基地内は自由に歩いてよいとの許可を頂いている。
よく眠っていると思われる坂本少佐を起こさないように、そっと部屋を抜け出すと、私は当てもなく基地内を歩き始めた。

窓の外を見るとすぐそばまで木々が迫っており、ああ、ここはガリアなのだ、と実感させられる。
オリーブ以外の植物は育たないと言われるほど植物の少ないロマーニャとは違い、ここ北部ガリアは昔よりうっそうと繁る森に閉ざされた地域であったと聞く。
それは、どこか扶桑の森を連想させるところがあり、不思議と心が安らいだ。
ふと、坂本少佐と数か月篭った山中の庵の事が思い出される。

(しかし……基地の作り一つをとっても部隊の特徴というのは出るものだな)

廊下のところどころに見られる調度や敷物は素人目に見ても厳選されたものであるのがわかる。
黒田中尉が落ち着かないと言ったのもわかる気がした。
古代の闘技場跡を改造した501の基地は、装飾も少なく質実剛健な雰囲気があったものだが、ここはまるでホテルの廊下か英雄物語に出てくる城を歩いているようだ。

そんなことを考えながら歩いていると、私の足跡に加えてもう一つの足跡が正面から響いてくるのに気付いた。
ほどなくして相手側もこちらの存在に気付いたようで、不意に足音は止まりこちらに視線を向けてくる。
その瞬間を見透かしたかのように月を覆っていた雲が晴れ、相手の方の姿を浮かび上がらせた。
月明りに照らされて立っておられたその方は――――



というわけで506日常安価です。
安価対象はグリュンネ少佐、ヴィスコンティ大尉、黒田那佳中尉、イザベルきゅん、もっさんの5名。
少なっ!
まぁ506という航空団の特殊性を考えたら仕方ありませんがw

今回も安価ゾーン方式をとってみます。
安価ゾーンはここから10レス下の>>965まで。
最もたくさん名前の登場した方が安価ということにします。
同一IDによる複数投票は1票とみなし、同票が複数あった場合は最初にその数に達した方を安価達成とします。

>>965までいかなくても明日の夕方ごろに締め切ります。
それでは。
956 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県) [sage]:2012/09/12(水) 21:27:02.21 ID:QR5vKyw0o
イザベル
957 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/09/12(水) 21:36:21.27 ID:+5GQI5eho
もっさん
958 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/12(水) 22:19:48.98 ID:0ojkTtUIO
ヴィスコンティ
959 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/09/12(水) 23:07:08.72 ID:0nYA5apco
グリュンネ
960 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2012/09/12(水) 23:26:30.17 ID:sI+gd0YA0
ヴィスコンティ大尉
961 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/12(水) 23:57:44.91 ID:aiWU74Uuo
イザベルきゅん!
962 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/13(木) 00:40:57.17 ID:gQwY1vpD0
普通にヴィスコンティ大尉ダナ
963 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/13(木) 01:09:52.16 ID:Ae6n8Khgo
グリュンネさんで
964 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/13(木) 02:13:45.19 ID:94Ij1KK4o
イザベル
965 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/13(木) 02:16:33.14 ID:8dtDwCJ0o
ヴィスコンティさん!
966 :1 [saga]:2012/09/14(金) 07:41:52.92 ID:+Abpdn7K0
ヴィスコンティ大尉4、イザベルきゅん3、グリュンネ少佐2、もっさん1という予想外の結果にw
黒ちゃんが1票もはいらんとは……

まぁとにかくヴィスコンティ大尉ですね。
今週末ぐらいには何とか。それでは。
967 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/09/14(金) 11:56:24.91 ID:cKROwelLo
>黒ちゃんが1票もはいらんとは……
直前にイベントあったし、想定内でしょう
968 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/14(金) 12:27:28.41 ID:o+jpodHko
>>1の書く色んな子が見てみたいからねー
969 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2012/09/14(金) 13:51:20.74 ID:nzK0jlCC0
ヴィスコンティさんが人気だったのは以外だ…
黒ちゃんはもう結構絡んだしね
970 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/09/14(金) 19:40:10.75 ID:cKROwelLo
実質2人……いやPC携帯の二刀流で実質一人の可能性も(ry

日を跨いでるとどうも邪推してしまう
971 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/16(日) 18:28:42.10 ID:O2yGVQhWo
次スレまだ?
972 :1 [saga]:2012/09/16(日) 23:20:36.16 ID:8xBZPRM/0
ども。1です。
ヴィスコンティ大尉の話、投下は明日になります。すいません。

次スレはその話の後あたりにしようかと。
まさか2スレ目に突入するとは思ってなかったですがw
それでは。
973 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/09/16(日) 23:51:37.63 ID:O7mQ56l80
最初はもっさんとのイチャラブだったのに!
私はそれしか望んでいないのに!!

もっさんだろjk
974 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) :2012/09/17(月) 00:33:19.83 ID:E6kDsJnj0
楽しみに待ってるぞ〜
975 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/17(月) 00:36:12.36 ID:8rBDwQ6IO
もっさんに突っかかってきたヴィスコンティ大尉と関わる事が、もっさんとイチャラブの前に必要な行動ではないのかね?
976 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/09/17(月) 07:58:36.79 ID:raSDi1NIO
早くもっさん分を補給させてくれ
977 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/09/17(月) 10:32:34.57 ID:Ehj2xXNf0
>>975
うぅ… 一理あるな…

だが最初はもっさんだけのあっはんうっふんな展開でしたのに
他の小娘共が増えて…
もっさんが泣いちゃいますよ土方!!!

やっぱり…
もっさんだろjk
978 :1 [saga]:2012/09/17(月) 23:15:36.48 ID:1gJ8EHUc0
こんばんは。
何とか書きあがりましたー。

では投下しますね。
979 :1 [saga]:2012/09/17(月) 23:17:13.31 ID:1gJ8EHUc0
「ん?」
「ヴィスコンティ大尉」

月明りの中こちらに歩いてきたのは、アドリアーナ・ヴィスコンティ大尉であった。

「……ああ、坂本少佐の。えっと……」
「土方圭助です」
「ああ、そうそう土方土方。すまない。どうも扶桑人の名前は覚えにくくてね」

そう言って屈託のない笑顔を向けてくる大尉。
501で言えばシャーリーさんに似ているだろうか。
しかし、この方は昼間坂本少佐に対し暴言を吐いた方である。
そんな警戒心が表情に出ていたのか、大尉はいきなり頭を下げた。

「その……昼間は済まなかったな。あんたの上官をくさすみたいなこと言っちまって。ありゃちょっと言い過ぎた」
「い、いえ、そのようなこと……」

機先を制されて毒気を抜かれた体の私に、大尉の口から続けてかけられたのは意外な言葉であった。
980 :1 [saga]:2012/09/17(月) 23:17:59.13 ID:1gJ8EHUc0
「正直、坂本少佐の事がちょっと羨ましくてな」
「羨ましい、ですか」
「ああ。こちとらノーブルウィッチーズだのなんだの持ち上げられても、結局は政治的駆け引きの中で生まれた鬼っ子でしかない。現に部隊運営のノウハウすら他の部隊に頼らにゃならん体たらくだ。そう言うのが少しもどかしく思う時もあるのさ」
「大尉…………」
「B部隊との統合の話が出るたびに潰されるのは何でだかわかるか?B部隊の隊員はほとんどがリベリオン人だからな。ノーブルウィッチーズの隊員としてはふさわしくない、だとさ。初めてそれを聞いた時は馬鹿馬鹿しくて言葉も出なかったさ」

大尉は肩を竦めつつそう言うと、月明かりに照らされた庭園の方へと目を向ける。

「私の生まれ育ったロマーニャがネウロイに侵略されようとしてるのに、お偉いさんどもは愚にもつかん政争にうつつを抜かして現場の事なんぞ省みようともしない。だから少佐みたいに、国のため、民のために何も考えずに一身を捧げている人間が羨ましくてな。そのやっかみが入ってあんな言い方をしてしまった。何とも無様な話だ」

そう言って壁に拳を打ち付けるヴィスコンティ大尉。
その横顔は、やはり自らの国に誇りを持ち、その民を案じる「貴族」そのものの姿であった。
欧州で「高貴なる義務(ノブレス・オブリージュ)」などと呼ばれているものの大尉なりの発露の仕方なのだろう。

「…………そこまでの覚悟をお持ちの方に私ごときが何か申し上げることはありません」

私の言葉の意図を察したのか、大尉が苦笑する。

「ま、あんたからすりゃ『謝る相手が違う』わな。明日にでも少佐には謝っとくよ。それでもあんたには一言言っときたくてさ」
「い、いえ。私もちと軽率であったと」
「じゃあお互い様ってことでいいかな」

そう言いながら手を差し出してくる大尉。
少し躊躇った後、私はその手を固く握った。
981 :1 [saga]:2012/09/17(月) 23:18:55.13 ID:1gJ8EHUc0
「あ、そーいや、そっちに行ったうちの姫様はどうだ?あんたの婚約者だっていう」

不意に大尉が話題を切り替える。
……というか大尉がそのことを何故ご存じなのだろうか。
そんな疑問が顔に出てしまったのか、大尉は弁解するような苦笑を返してくる。

「いや、501との交流の話が出たとき、あっちに派遣されるウィッチにあの姫様が真っ先に立候補したからさ、珍しい事もあるもんだと思って詳しく聞いて見たら教えてくれた」
「…………」
「しかも結局断ったんだろ?言っちゃなんだがあの姫様、性格にはやや難ありだがそれに目をつぶればかなりの上玉だろ?おかげで姫様専属の整備班の連中の士気がどん底に落ち込んで大変だったんだからな」

そう言って笑う大尉。

「いえ、特に考えがあったわけではなく、今はそう言うことを考える余裕がないというだけで…………」

しかしその返答に、大尉は何か納得するものがあったらしくにやりとした笑みを浮かべる。

「ふむ。坂本少佐以外の女は眼中になし、か?」
「…………なっ!」

その言葉を聞いた瞬間、全身の血液が顔に集まるような錯覚を覚えた。
982 :1 [saga]:2012/09/17(月) 23:19:27.38 ID:1gJ8EHUc0
「んなっ……ななななな何をおっしゃるのですか!さ、坂本少佐はけ、敬愛すべき上官であって、わ、私ごとき者がそのような感情を抱くなど」
「やっぱりそうか。うんうん」

これ以上ないほど不自然に上ずった声で返答する私に、大尉は何事か納得したように頷く。

「どうせ立場がどうのとかくっだらないこと考えて遠慮してた口だろ?」
「く、くだらなくなど…………」

言ってから失言に気付く。
これでは大尉のお言葉を肯定したも同然ではないか。
案の定、大尉は肩を竦めて呆れたような表情を向けてきた。

「全くこれだから扶桑の男ってやつはうじうじと女みたいに…………少しはロマーニャ男を見習ったらどうだ?」
「いえ、あそこまではさすがに……」

以前エイラさんといった街で彼女にしつこく声をかけていた男を思い出す。
自分はとてもあんなふうにはなれない。

「難しく考えすぎなんだよ。…………あんたにとっていい女がいた、それがたまたまあんたの上官だった。それだけだろ」
「い、いくらなんでもそこまでは」

そこまで割り切れるのならこんなに悩まない。
ヴィスコンティ大尉も、ロマーニャの女性ということなのだろうか。
983 :1 [saga]:2012/09/17(月) 23:20:01.42 ID:1gJ8EHUc0
「好きなんだろう?少佐のこと。だったらごちゃごちゃ考える前に当たってみろよ。相手の目を正面から見つめて『愛してる』これで大半の女は落ちる」
「そ、それはさすがに…………」

そんなことをした瞬間に烈風丸の錆にされそうな気がする。

「そうかな……?見たとこあんた見かけはそこそこいけてるし、成功率は高いと思うけどな」
「いえ…………その……」

そうは言われても、そんな簡単に生まれ持った性質が変わる訳でもない。
深刻に考え込んでしまった私に、さすがに言い過ぎたと思ったのか大尉は冗談めかして付け加える。

「あー、その、だな。色々と偉そうに言っちまったけど、生まれ持った性質ってのはなかなか変えられないのは分かる。だから私の言葉も外野の無責任な意見程度に思ってくれりゃいいさ」
「は…………」
「…………何だか済まないな。こんな時間に呼び止めて説教じみたこと言ってしまって。ロザリーにも言われるんだ。人の心配しすぎって」

そう言って照れたように笑う大尉。
984 :1 [saga]:2012/09/17(月) 23:20:34.39 ID:1gJ8EHUc0
しかし大尉がほとんど初対面の私と少佐のことを気にかけて下さっているのは、純粋に嬉しかった。
多分、大尉自身はとてもお優しい方なのだろう。
だから私は大尉に感謝の意を伝えるべく口を開く。

「いえ、そんなことは。大尉がとてもお優しい方だというのが分かっただけでも収穫ですよ」
「…………う」

しかし、大尉は私の言葉になぜか照れたように顔を赤らめる。

「大尉?」
「…………ひ、土方さんよ。あんた出会う女にみんなそんな風に言ってるのかい?」
「そんな風に、というのは……」
「そんな風に直球で相手を褒めたり、ってこと」
「そ、それは…………まぁ」
「は〜〜〜そうか」

私の返事に、大尉はなぜか掌で顔を覆って俯く。
…………何かまずかっただろうか。

「その顔は本当に分かってないな。じゃ、私がいろいろ言うことでもないか」
「…………あの、失礼ですが仰る意味が」
「分かんなくていいさ。何だかあんたはそのままの方が面白そうだからな」

そう答えた大尉の表情に、何故かシャーリーさんの笑顔が重なった。


「引き止めて悪かったな」
「いえ。私もヴィスコンティ大尉とお話しできて楽しかったです」
「…………土方さんよ。やっぱり少佐以外の女の前じゃそう言うことなるべく言わないほうがいいぞ」
「……は、はぁ」

何が『そう言うこと』なのかよく分からないがとりあえず頷いておく。
私の返事に、大尉は後ろ手に手を振って闇の中へと歩み去って行かれた。
985 :1 [saga]:2012/09/17(月) 23:21:06.17 ID:1gJ8EHUc0
翌日の朝。

「土方か。おはよう」
「あ、少佐。おはようございま…………っ!」

(あんたにとっていい女がいた、それがたまたまあんたの上官だった。それだけだろ)

部屋から出てきた坂本少佐に出くわした瞬間、不意にヴィスコンティ大尉と昨日交わした会話が蘇ってきた。
不意に顔が赤らむのを自覚する。

「ん?土方、どうした?どこか体調でも…………」

そう言いながら少佐は掌を額に当ててくる。

「少々熱いか…………まぁあれだけの長距離運転は久しぶりだったしな。何なら今日は休んでいても……」

そう心配そうな表情で呟く少佐の表情を、何故か見られない。

「土方?ど、どうした?」
「あ、う、その…………」

さすがに妙に思った少佐が近づいてくる。
う…………

「す、すみませんちょっと頭冷やしてきます!」
「あ、おい土方っ!」

だっ!

少佐の声を背に、思わず部屋を飛び出してしまう。

「土方…………」

背後から聞こえてくる、少佐のどこか寂しそうな呟きに心が痛むものの、足は止まらなかった。



数十分後。
土下座する勢いで部屋に戻った私を待っていたのは「土方が反抗期に…………」と部屋の隅で膝を抱えて落ち込んでいる少佐であった。
986 :1 [saga]:2012/09/17(月) 23:23:10.79 ID:1gJ8EHUc0
ということで短くて申し訳ありませんが以上です。
506の人たちがほとんどオリキャラっぽくなってますがご容赦ください。

では、次スレ立ててきますねー。
987 :1 [saga]:2012/09/17(月) 23:30:32.34 ID:1gJ8EHUc0
次スレです。

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1347892033/

そして埋めネタ代わりにアンケートを。
まぁ純然たる興味だけなので適当にお答えくださいw

「もっさん以外で土方に似合いそうなウィッチとその理由は?」

それでは。
1000までご自由にお使いくださいねー。
988 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/17(月) 23:32:07.14 ID:IuwGymdO0
乙乙
ついに2スレ目突入か
989 :もっさんだろjkを言い張る者。 :2012/09/17(月) 23:43:54.11 ID:Ehj2xXNf0
2スレおめでとう。
先ほどから「もっさんだろjk」を
言い張るものです。

tkもっさん可愛いwwwwww
反抗期wwwwww

>>987
まあもっさんと土方が一番いいのだが…

ううむ…他のウィッチか…
990 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/18(火) 00:13:38.85 ID:ksqAC6XIO
>>989
sage忘れてるぞ


これはシャーリーちゃんやろうなぁ…土方をガンガン振り回しつつもちゃんと気遣ってくれそう

土方の性格考えるならペリーヌも悪くない
991 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/18(火) 03:16:59.49 ID:Q9GE6hTdo
エーリカちゃんとか天姫ちゃんとか
992 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2012/09/18(火) 10:06:02.65 ID:gXRBZVWw0
芳香ちゃんかなー
やっぱり扶桑人同士が似合うし、お互い気遣い合えるほのぼのカップルになりそう
993 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/09/19(水) 01:21:56.97 ID:zt0ULvzp0
考えてみたが、もっさん以外ありえないという結論が出ました
土方美緒って素敵な名前だと思います
994 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長崎県) [sage]:2012/09/19(水) 02:06:19.10 ID:V3bCSJqvo
エーリカとかシャーリーに振り回される土方とか、素敵やん?
995 :もっさんだろjkを言い張る者。 :2012/09/19(水) 16:52:51.99 ID:FohWm4ne0
>>993 同感だ。
996 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/09/19(水) 17:29:37.20 ID:f7UIVIDl0
シャーリーか芳佳
997 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県) [sage]:2012/09/19(水) 17:30:03.69 ID:PthU3Pwno
>>995
コテハンは辞めた方がよろしいかと
998 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県) [sage]:2012/09/19(水) 18:52:18.79 ID:0eiR7aup0
ペリーヌはありだと思う
土方さんちょっと天然ジゴロっぽいところあるし

まあもっさん一択なんですけどね
坂本圭助っていうのも素敵な名前だと思います
999 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/19(水) 20:48:22.28 ID:Ndz5FIdG0
ツンデレ女に超鈍感男の組み合わせは飽きた
1000 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/09/19(水) 20:51:50.69 ID:Ndz5FIdG0
ああ、お題が出てたんだっけ。失礼。

鈍感でくそまじめ過ぎて暗い男には、明るく世話好き直球勝負のシャーリーだろう。
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犬 @ 2012/09/19(水) 20:33:44.66
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【Fate】TYPE-MOON SS談義スレ 6【月姫】 @ 2012/09/19(水) 20:13:46.25 ID:KITeGFFso
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ここだけ魔王の城 コンマ00で魔王様に怒られる @ 2012/09/19(水) 20:03:12.88 ID:AujsTDaIO
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げじまゆは安心しろ @ 2012/09/19(水) 19:57:46.07 ID:F/JBSEzSO
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狐娘「早う脱げ」男「だが断る」 @ 2012/09/19(水) 19:07:26.45 ID:rJH4JI2W0
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ここだけ能力者の集まる高校 さらにコンマゾロ目で異能の力に覚醒136 @ 2012/09/19(水) 18:59:08.96 ID:snwAvhuUo
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漫画と小説の新都社 @ 2012/09/19(水) 17:19:22.12 ID:ZO3gvvYvo
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橘純一「アマガミ飽きた」 @ 2012/09/19(水) 17:00:44.88 ID:mssgmmrAO
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