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智「さあ、おとぎ話をはじめよう」 Re:2 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/03(月) 02:08:28.35 ID:yJdPesPho
 前々スレ
 ニュー速VIP 智「さあ、おとぎ話をはじめよう」
 http://raicho.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1294396628/

 前スレ
 SS速報VIP 智「さあ、おとぎ話をはじめよう」
 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1294925055/

 このスレはブランド暁WORKSのゲームタイトル、るいは智を呼ぶ、るいは智を呼ぶFD−明日の向こうに視える風−、
 並びにコミュ−黒い竜と優しい王国−の前者寄りのクロス作品です。
 両方共に多大なネタバレを含みます。(【閲覧】さんや『伝説』の事など)
 これからるいは智を呼ぶ、或いはコミュをプレイしようと思っている方は見る際にご注意ください。

 セーブデータ1(一スレ目)は保存してある状態で、只今セーブデータ3を進行中ですのでこれの続きを見たい場合は前スレからみることをお勧めします。
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ぶらじる @ 2024/04/19(金) 19:24:04.53 ID:SNmmhSOho
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旅にでんちう @ 2024/04/17(水) 20:27:26.83 ID:/EdK+WCRO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713353246/

木曜の夜には誰もダイブせず @ 2024/04/17(水) 20:05:45.21 ID:iuZC4QbfO
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いろは「先輩、カフェがありますよ」【俺ガイル】 @ 2024/04/16(火) 23:54:11.88 ID:aOh6YfjJ0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713279251/

【MHW】古代樹の森で人間を拾ったんだが【SS】 @ 2024/04/16(火) 23:28:13.15 ID:dNS54ToO0
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こんな恋愛がしたい  安部菜々編 @ 2024/04/15(月) 21:12:49.25 ID:HdnryJIo0
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【安価・コンマ】力と魔法の支配する世界で【ファンタジー】Part2 @ 2024/04/14(日) 19:38:35.87 ID:kch9tJed0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713091115/

アテム「実践レベルのデッキ?」 @ 2024/04/14(日) 19:11:43.81 ID:Ix0pR4FB0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713089503/

2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/03(月) 02:12:44.81 ID:yJdPesPho
 今回はちかれた。
 でも楽しかった。
 色々と突っ込みたいところはあると思いますので質問だけはききます。答えられる質問には答えます。
 これで質問こなかったら笑っちゃうねwwwwwwwwww
 では、次回お会いしましょう。


 ※おしらせ※
 2スレ目に入ったため、
 EXTRA4 『和久津姉弟(しまい)のとある一日』
 が解放されました。
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/10/03(月) 03:20:58.21 ID:iyG8yqBgo
リク聞いてくれてありがとう!
二股ルートはまゆまゆルートの後日談的な感じかな?
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/03(月) 07:21:30.53 ID:NAnHVaHEo

智ちんが真雪と茜子に二股かけるのはおもしろかった。

前スレ見返すと半分はEXTRAだったんだな。
EXTRA4も同じくらいの長さになるのかな?
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/03(月) 17:15:27.57 ID:userlQUwo
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2011/10/03(月) 17:35:05.69 ID:3R0Z+pUqo

7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/03(月) 18:23:27.19 ID:yJdPesPho
 >>3
 ですね。まゆまゆルート後、茜子ルートを通って、このスレのグランドエンド一歩手前を経過したお話です。
 つまりありえたかもしれない未来――けれども結局、姉さんがいないので智的には袋小路だったわけです。

 >>4
 言われて見直して驚いた……あんな長くやってたんだ……
 今回のEXTRAはあくまで『とある一日』なので20程度を予定……長くても50程度ではないかと思われます。
 内容は、大まかですがif世界暁オールスターとでも言っておきます。
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府) [sage]:2011/10/07(金) 20:02:11.80 ID:o8c5G++ro
しばらく見てなかったら前スレ落ちてたとか…
どっかからログ探すか
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/14(金) 23:16:27.36 ID:vEARgbleo
 ねむい、ねむいー……
 一週間スルーしてゴメンナサイ、私情で余裕がなかったもので……
 できたら明日か、或いは明後日に第五幕より開始します
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空) [sage]:2011/10/14(金) 23:18:53.66 ID:rukkyDY50
舞ってる
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/17(月) 02:09:15.22 ID:cyQjmoHHo
智「久しぶり……になるのかな、こうして皆で集まるのって」

 とある伝手で一時的に借りているホテルの一室。
 そのベッドに腰掛けて、僕は言う。

繰莉「そうねぇ。繰莉ちゃんも卒業してからめっきりあやちん達とは会ってなかったし」

アヤヤ「そうですねぇ……アヤヤ、屋上も最近いってませんですよ」

 央輝はそんな話の無いように興味なさそうに壁によしかかり、アヤヤと芳守は揃ってもう一つのベッドの縁に座っていた。
 繰莉ちゃんは備え付けの小さな椅子に器用に足まで乗せて座っている。
 央輝はほぼ毎日、繰莉ちゃんとはそこそこに会ってるから兎も角、アヤヤと芳守は久しぶりだというのに殆ど変わってない気がする。
 何もかもが、懐かしく感じた。
 懐かしく思えるほど、僕らマクベスコミュは全員揃ってはあまり活動はしていなかったけれど。

央輝「それより、あまり時間はないのだろう?それなら早く、本題に入ったほうがいい」

芳守「そうだね、わざわざこんな所を借りてまでする話なんだから、重大以上に他ならない話なんだよね、きっと」

 芳守は大体察しているのか、央輝の言葉に合わせて口を開いた。
 そうだ。僕らは久しぶりに親交を深めるためにわざわざ集合を果たしたわけではない。
 そんな空気が一変したのを感じたのかアヤヤは複雑そうな表情をする。
 ……けれど一人の顔色を気にしていては話は進まない。一度大きく深呼吸をして、それから皆を一瞥する。

智「……じゃあ、本題に。その前に、皆はどこまで知ってる?」

 口々に、答えが返ってきた。
 全部。
 オマエから聞いた話。
 大体、コミュネットで流れている噂ぐらいは。
 最後の一人は、僅かな躊躇いの後に答える。

アヤヤ「――瑞和先輩が、その、なんていいますか……裏社会、ってやつに出入りしてることは……知ってます、です」

 それは本題に入った瞬間シンミリとし始めた部屋に染み渡るように響き、そして消える。
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/17(月) 02:13:14.00 ID:cyQjmoHHo
 コトの発端は、一年前。
 そうだ――もう、あの日から一年が経った。
 るいは学校を卒業してニートならぬ大食い賞金稼ぎを初めて、花鶏や伊代、僕は無事に進級。
 こよりや茜子は言うまでもなく、僕らの小さな溜まり場には惠や宮もたまにやってきたりするようにもなった。
 平和だった。不思議なくらいに、僕らには何もなかった。

 けれど、あることにはあったのだ。
 央輝の父親――本人に言わせると『義理だ』がつくだろうけれど、僕はこう呼ばせてもらう――が亡くなってしまったり。
 その結果、あやめ先生もあんなことになってしまったり。
 隣人さん……任甫さんに僕の存在が公になってしまったり、と。
 それはもう、色々なことがあった。
 矛盾するかもしれないけれど、色々なことがあり、そして何もなかった。
 僕も自分で言ってておかしいと思うけれど、それが全てだ。
 僕らの『呪い』についても、活動についても。それ以外の進展は何もなかった。

 閑話休題。

 一年前――――
 その日に今日へと繋がる原因がある。
 それは、呪われた僕らとは全く関係がなく、しかし僕には関係がある場所での出来事。

 曰く、そこは遊び場だった。
 曰く、そこは夢の様なものだった。
 曰く、そこは必要な場所だった。

 そんなコミュネットに必要で、夢のような遊び場であった場所――アバター・ギグが壊滅した。
 それから、半年もしないうちだったか。
 あの日から細々とカエサルレギオンの活動を続けている僕に、一つの情報が飛び込んできた。
 アバター・ギグは復活を果たした。
 嘗ての主催者とは全く関係のない一人物によって。

 瑞和暁人。
 重力を操作する黒い竜、バビロンコミュのリーダー。
 アヤヤの言うとおり、彼が裏社会ならぬ、アバター・ギグを復活させた。
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/17(月) 02:43:07.56 ID:cyQjmoHHo
智「……僕は学校どころか街まで違うからよくわからないんだけど、学校での様子はどうなの?」

アヤヤ「……以前より、欠席が多くなったような気がします。比奈織先輩も姿を全く見なくなりましたし……」

 しょんぼりしたようにアヤヤは言葉尻を窄める。
 多分、さっきの屋上にいかなくなった、ということに対する、理由にこれが当てられるだろう。

繰莉「ま、そうよね。あれまでの規模になるとバックは必要になるし、それに一種の企業みたいなもんだしね。そういうのの根回しや活動に忙しいんだと思うにゃあ」

央輝「同感だな。裏での交渉や手回しの時はトップが出向くのが道理だ。そうなれば無論、表舞台への時間はさきにくくなる」

芳守「そういうの、あたしはよくわからないけどさ。結構前に見た時、すごく切羽詰まってた表情してたのはわかったよ」

 その結構前、というのがどのくらい前なのか少し気にはなるけれど。
 今回の話の本題は、何も瑞和を中心としたものではない。
 いや、勿論関係ある人物としては最も真ん中に近いかもしれないけど。それならわざわざこんなところで話す必要はない。

智「それじゃあ、瑞和の話は一旦ここまでにしておいて。改めて本題に入るよ」

央輝「ああ、そうだな。とはいっても、ここまで来て予想がつかない馬鹿はいるのか?」

 央輝は小馬鹿にするような笑いを一瞬だけ浮かべ、アヤヤと芳守を見る。
 僕と繰莉ちゃんも同じくその視線を追った。
 考えるような素振りはほんの瞬き程の間のみ。

芳守「予想はなんとなくだけどついてる。あーやは?」

アヤヤ「アヤヤも、そんな感じで……」

 芳守はそれなりに聡いし、アヤヤも決して頭は悪くない。
 だからきっとわかっているだろうけれど、僕は認識の齟齬をなくすために改めていう。

智「僕達だけではどうにもならなくなった。だから、二人の力も貸して欲しい」

 それは、僕らが過去に交わした約束。
 アヤヤと芳守というカエサルレギオン反対派が、その活動に参加しなくていいと言った時にした制約。
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/17(月) 02:56:52.84 ID:cyQjmoHHo
 だめだ、頭回んない
 一年後にするかそうしないかの選択で糖分使いすぎた気がする……
 ああくそ、本当自分が嫌になる。ニ週間も開けたのにこんな少ししか書けないことと、こんな長々と言い訳をいうことが。
 こんなことは他で言えってね、わかってます重ねてごめんなさい……

 来週の月曜日から少しだけ余裕ができる……のかな。なので、来週からは週ニ更新を目指して頑張ります
 ここ一ヶ月の遅れをとりもどさないと……
 
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/17(月) 07:32:01.25 ID:PkRWTzpIO
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2011/10/17(月) 12:12:16.14 ID:Frfwd+l1o
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2011/10/17(月) 16:08:14.32 ID:cArN49GAO
暁人がギグを仕切ってるってことは蛮王ルート(非グッドエンド)後ですかね。
すみません、あの子の名前が出てこない…。
続き期待してる。
乙。
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/29(土) 23:13:03.20 ID:l3tiy7tmo
 久々に、ボチボチと……
 前回より一週間飛んで二週間目ですが、ここから更新頻度……あがるかなぁ……
 では開始
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/29(土) 23:32:51.98 ID:l3tiy7tmo
 二人は、基本的に僕らの活動に参加はしなくていい。
 少数派の二人の意見を重んじるならば、そういうことだった。
 ――但し、それは。
 僕らだけでは手が負えなくなった場合を除く。そういう、約束だった。

芳守「ちょっといい?」

智「はい、どうぞ」

芳守「それは瑞和がギグを再興させたことと何らかの関係がある……のよね?」

央輝「当たり前だ。でなければコイツが態々その話をした意味がない」

アヤヤ「やっぱり、そう……ですよね」

 アヤヤが僅か、気分を下げる。
 芳守の問いに対する央輝の答えは即ち、僕らからの援助要請の理由を導き出す。
 僕らがしている活動は、カエサルレギオンのもの。カエサルレギオンは王国であり、他の追随を許さない。
 先ほどまでの話題は瑞和の仕切るアバター・ギグ。繰莉ちゃんの言うとおり、一つの企業と化したそれは一国一城というに相応しいだろう。
 そして僕らだけでは手に負えない事態、という点が繋がっている。
 回答は容易に出すことが可能だ。

繰莉「……戦争、だね」

 ぽつり、と。
 繰莉ちゃんは誰に言うでもなく、そう呟いた。
 しかしそれは僕が直接言うのを躊躇った、央輝が言おうとした、芳守が考えだした、アヤヤが否定したかった事の代弁。
 一瞬だけの静寂を飲み込んで、僕は繰莉ちゃんの言葉に続けるように紡ぐ。

智「そう、戦争――戦争が、始まるんだ」

 誰が?どこで?どうやって?
 そんな疑問を呈する必要すらない。答えは既に出ているのだから。
 カエサルレギオンとアバター・ギグが、コミュの世界を巻き込んで、アバターでの全面戦争を行う。
 そんなこと、今更言葉にするまでもなかった。
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/30(日) 00:16:00.09 ID:F+67KNi+o
 コミュネットでももはや話題になっている。

 『カエサルレギオンがギグに喧嘩を売ったらしい』
 『なにそれkwsk』
 『何でも今すぐ畳まないと俺が潰すとか何とか言ったらしいぜ』
 『はぁ?なにそれふざけんなよ』『舐めてんだろ、ギグを。一度潰れたんだからもう一度潰すのだって楽だって』
 『そういやNOIZ主催んときもギグ潰したのはカエサルだって噂あったよな』『こりゃ本決まりだな。何が憎たらしいのかしらんけども』
 『つかギグ潰れたら困るな』『そうだな、良い稼ぎ場だし。他じゃあラウンドがうるさくてかなわんもんな』『つまりあれか?カエサルは俺らの場所をなくそうってことか?』
 『カエサルうぜぇ。タヒね』『禿同。まぁ俺はギグがなくなっても困らんけどカエサルうぜぇ』『向こうが来たところを逆にやっちまえばいいんじゃね?いくら強くても物量押しには勝てんだろ』
 『そうだな、それがいいかもわからんね。知り合いのコミュにも声かけてみるかな』『そうだ、俺たちは俺たちで場所を守ろうぜ!』『戦争だ!』『戦争だ!』『戦争だ!!』

 誰がどうやってその情報を仕入れたのかはしらないけれど、僕は本人ではないか、と睨んでいる。
 ギグに参加するアバターも錚々たるものだ。数も多い、あの頃より規模も段違いだ。
 カエサルレギオンもそれなりに数はあるけれど、合計するとあちらのほうがやや上回っている可能性も否定できない。
 ……それに、便乗して漁夫の利を狙う輩も当然のことながらいるだろう。
 そうなれば激戦は必須。そんな中、僕ら三人だけで生き延びる自信は流石に持っていなかった。

アヤヤ「つまり、あれ、ですよね。アヤヤ達は……瑞和先輩と、戦わなきゃいけないってこと……なんですよね」

繰莉「あくまで『最悪』だけどね。最終的にはカエサルのアバター、エル=アライラーとバビロンの戦いになるだろうけれど、その時に生き残ってれば或いはって感じだね」

芳守「……あの、バビロンと……か」

 芳守やアヤヤが慄いているのはバビロンの強さに対してではないだろう。
 いや、確かにバビロンは脅威だ。僕もそれは認めるし、真正面きっての戦いなら五分五分の勝負にすらならないだろう。
 それでも、二人の懸念は別にある。
 それはバビロンの接続者――瑞和を筆頭としたコミュメンバーのこと。
 瑞和暁人、竹河紅緒、柚花真雪、春日部春、伊沢萩。
 その何れとも面識があり、それなりに交流を持っていたアヤヤ達が躊躇うのも無理もない話だと思う。
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/30(日) 00:45:49.50 ID:F+67KNi+o
 僕ですらそうだ。央輝はどうかはわからないけれど、繰莉ちゃんだって思うところはある筈だ。
 ましてやアヤヤは瑞和に憎からぬ思いを抱いていて、紅緒とも真雪とも仲は良かった。仲がいい、という点では芳守もそうだ。
 だから、素直に頷かれるなんて最初から期待してはいなかった。少なくとも、僕は。

智「……逃げちゃう、っていう選択肢も一応考えたんだけどね」

アヤヤ「……逃げる、ですか?」

 僕の言葉に戦わずにすむのか、と希望を持った瞳をアヤヤは向ける。
 けれど僕はその輝きに答えることはできず、力なく首を振った。

智「ここで逃げるっていうことは、僕らの持つ全て、社会的地位、住居や財産、家族や友人何もかもをかなぐり捨ててどこか遠くヘ行くってこと」

央輝「そうでもしなければ、この大規模な戦争からは逃げ切れないだろうな。裏切り者としてカエサルに晒される危険性を考慮するなら、だがな」

繰莉「十中八九、そうなるだろーね。そうなったら右も左も敵だらけ、流石に九ツ魂持ちの繰莉ちゃんでも生きて帰れる気はしないなぁ」

 僕らが連続して『逃げる』選択肢について考察すると、アヤヤは押し黙った。
 命令に背けばカエサルに晒される恐れがある。それがあるために選択肢は『戦う』か、『逃げる』のどちらかしか存在しない。
 ……逃げられるのなら、僕だって逃げたい。けれど、それは裏切ることになってしまう。
 皆を、溜まり場にいる皆を。隣の任甫さんや、惠、それに宮和だって。皆を捨ててしまうことになる。
 そんな選択肢、僕には選ぶことはできない。

智「……それに――――まだ、僕は聞いてない」

芳守「……?何が?」

智「ううん、こっちの話。気にしないで」

 夜子の事。
 一年前、酔っ払った夜子は僕にすこしばかりの本音を見せた。
 ただ、それだけだった。
 あれから一週間から二週間に一度のペースで会っているけれど、そこまで深入りすることはなかった。
 ……懐き度はそれなりに上がったのだけれど。
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/30(日) 01:06:42.66 ID:F+67KNi+o
 ……いや、言わせなかったのは僕の方だ。
 夜子はもしかしたら言おうとしてた時もあったのかもしれない。
 けれど僕は夜子に何も言わせなかった。

 ……怖かったんだ、きっと。
 僕が何を言っても、恐らく夜子は聞き入れてはくれない。夜子は我斎の為に生きて、死ぬ。
 その事実を知ってしまうのが、たまらなく怖かったんだ。

 それなのに、どうして僕は未だに知りたがっているのだろう。
 夜子が我斎に尽くす理由。命をかけてまで仕える理由。
 一年が経った今でも、僕は、どうして夜子の――――

央輝「…………つ。おい、和久津!」

智「っ!」

アヤヤ「だ、大丈夫ですか、智先輩……?」

 央輝の一喝で、僕は現実へと引き戻される。
 周りの四人の注目を、僕は一身に集めていた。

智「……うん、大丈夫。どうしたの?」

 僕がようやく戻ってきたのを認めて、繰莉ちゃんが代表して言う。

繰莉「今日だけじゃ結論でないから、数日後の集会までに気持ちを纏めるって事で一先ずは決まったんだけど、それでいいかなってさ」

智「うん、わかった。アヤヤ、芳守。焦らないでゆっくり考えて決めてね。一年前の約束は気にしなくていいから」

 歯切れ悪く頷く二人を確認して、その場は解散となる。
 カエサルレギオンと、アバター・ギグ。
 その二つの王国の戦争に巻き込まれて僕らはどうなるのか、僕には未だ予想などつかなかった。
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/30(日) 01:12:00.96 ID:F+67KNi+o
    第五幕
    Chapter

  41 戦争前の一大会議
  42 ??? ←次はここ



 今回はここまで。久々なのにつまんない回だった気がする、ごめんなさい。
 というか一年経っても夜子と仲深まらないとか智ちんヘタレすぎる……いやまぁ、自分がそうしたんですが。
 よっし、次は頑張ってモチベあげて、面白いのかくぞー!シリアス分大めですが。
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2011/10/30(日) 01:18:26.64 ID:dymmG633o
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2011/10/30(日) 11:26:12.60 ID:/DXAA9Jfo
いやいや、面白かったですよ
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/30(日) 18:57:16.29 ID:ayGTEIJfo
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/30(日) 18:58:33.57 ID:ayGTEIJfo
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/12(土) 01:38:51.26 ID:Ol34+0Hxo
 先週、何か忘れてるなぁって思ったらコレだった
 本当ごめんなさい。一スレ目終わって気が抜けすぎだろう自分……

 ぼちぼちと。
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/12(土) 01:59:39.18 ID:Ol34+0Hxo
 空を眺める。
 都会の空は今日も濁っている。星は一等星が辛うじて見える程度だ。
 僕らの方の雲行きは、怪しいどころか何もかもが霧に包まれたようにわからない。
 つい先程も皆と話し合ったことだけれど、アバターギグとカエサルレギオン。ヘタをすればラウンドやその他の結社すらも関わってくるかもしれない戦争。
 どうなるかなんてわからないのが当然だった。

智「どうするかなぁ……」

 逃げる選択肢は潰した、戦う選択肢を選ぶしかない。
 そうとはわかっていても、切れる手札は一枚きり。
 皆にはその戦闘に参加するかしないかを迫っておいてなんで僕は新しい選択肢を産み出そうとしているのだろう。

智「……決まってるよね」

 ――みんなで、幸せになれますように。
 そう願ったのは一体いつのことだったっけ。
 いつのことだとしても、僕のその願いだけはきっと変わらないだろう。
 だから足掻くんだ。このどうしようもない状況でも、誰も不幸にならない未来へ歩むために。

 呪いを踏んだ時のことを思い出す。央輝に見つかった時じゃなくて、もっと昔、僕が幼かった時のこと。
 あの時は父さんや母さんがなんとかして僕を救ってくれたように思える。でなければ僕は今ここにはいないのだから。
 どうしようもない状況、少なくともあの瞬間の僕はそう思っていた。だけど救われた。だから、どうしようもない事なんてないはずだ。
 ……央輝のお父さんや、あやめ先生は駄目だったけれど。それでも、あの時の僕らがもっとうまく動いていれば問題はなかったはずだから。
 あの時のような後悔をしないために、僕は今成すべきことをしよう。

 戦争で不幸な人を出さないようにするために。
 みんなで、幸せになる世界へと向かうために。
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/12(土) 02:29:35.07 ID:Ol34+0Hxo
夜子「……和久津」

智「!?」

 道端ある自動販売機の直ぐ横に屈んでいた夜子に声をかけられた。
 びっくりして思わず身体を強ばらせてしまう。少し恥ずかしい。
 その様子をみて夜子は少しばかり顔を綻ばせる。
 いつもの制服のような服装に身をつつんだ夜子は尻部を払いながら、ぴょこんと立ち上がる。

夜子「今日は?」

智「いいよ、大丈夫」

夜子「ん」

 答えるやいなや、夜子は僕の一歩後ろに並ぶ。
 厳密には並ぶなんて言えないけどこれが僕と夜子の『並ぶ』だ。

夜子「アレは?」

智「アレって……ああ、央輝なら今日は他のところで暇を潰すって言ってたよ」

 多分、気をつかってくれたんじゃないかな。
 でも花鶏のところはありえない(ご飯が美味しくないと言っていた)し、可能性的には任甫さんのところかな。
 裏の世界から手は引くとはいっても、仲が良くはなったし。

夜子「…………」

智「? なぁに?」

夜子「……別に。こっちみんな」

 ぷい、と僕から視線を外して、そっぽを向く。
 なんというか、初めて会った時の対応がこんな感じだったから仕方がなく続けている感がして可愛らしい。
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/12(土) 02:42:38.49 ID:Ol34+0Hxo
夜子「……そういえば、和久津考え事?」

智「え、どうして?」

夜子「私に気が付かなかった」

 いや、まぁ確かに。
 いつもなら暗い闇に紛れてたって夜子はわかるけども。

智「……僕だって気が付かない時ぐらいあるよ?」

夜子「そう。…………」

 それっきり、夜子は口を噤む。
 気付かれたかな?
 多分気付かれた。
 僕はそれを誤魔化すように空を仰いだ。

智「……今日もいい天気だね」

夜子「……いつもみたいに雲が一面に広がってる」

智「いい天気でしょ?」

夜子「……まぁ、そうかも」

 何もかもが見えないぐらいが丁度いい時もある。
 少なくとも今はそうだ。
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/12(土) 02:49:53.12 ID:FQNFzJGmo
投下キテルー!
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/12(土) 02:51:20.09 ID:Ol34+0Hxo
 今回はここまで。

 今日も書く。頑張って明日も書く。三日連続でかく。
 某SSでは少なくても毎日更新するところもあるしね……ただでさえ人の少ないスレだから頑張らんと。
 三日連続終わったら、少なくとも週二で書こう。今度こそは有限実行。
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/12(土) 02:54:31.59 ID:FQNFzJGmo
うお、おつでしたー!
最近見つけてまだ追いつけてないけど楽しみにしてる!
週1ぐらいでも構わんよ、ゆっくりやってくれ
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/12(土) 07:43:21.36 ID:xB/EmOnFo
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/12(土) 23:55:18.73 ID:Ol34+0Hxo
夜子「ごちそうさま」

智「お粗末さまでした」

 談笑をしながらの食事を終える。とはいっても、話すのは専ら僕。
 話す内容もいつものこと。
 今日見たこと。今日あったこと。今日話したこと。
 学校の様子なんかも話したりする。
 夜子はたまに相槌を打つ程度であまり話してくれないからわからないけど、聞いてくれているから多分興味をもってくれてはいるんだろう。
 ……それとも、実は面倒臭いとかいつも思ってたりして。

智「ねぇ、いつも僕ばっかり話してるけど、つまらなかったりしてない?」

 僕と夜子の二人分の食器を片付けながら、尋ねてみる。
 テーブルに乗っていた煎餅を口に咥えて視線をテレビへと移していた夜子は僕を見て首を僅かに傾げた。
 ぱきん、と一際大きな音が部屋に響く。
 口の中に残ったそれを噛み砕き、夜子はやや考えつつ、いつもと同じトーンで答える。

夜子「……別に、つまらなくはない……と思う」

智「思うって」

夜子「でも、学校の話とかは面白い。私、やめたことは前に和久津に言ったよね」

智「……我斎は、一応通ってるんだよね?」

夜子「うん。だけど五樹は言わないし、私も聞かない」

智「じゃあ、また通いたいとか思ったりは?」

夜子「……興味はある、けど」

 その先の言葉は紡がれない。
 多分、予想しているとおりだ。また通いたい気持ちがあるならそもそも学校を止めはしない。なにせ、学校自体に問題があったわけではないのだから。
 夜子は単純、我斎に仕える為にそれをやめたに違いない。
 僕は『そっか』とだけ声をかけて、食器を洗面台へと持っていく。
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/13(日) 00:42:48.73 ID:dPbISZMxo
 きゅっ、と水道を止める。
 最後に洗った皿を水切り籠に立てて、手を雑巾で拭きながら居間へ戻る。
 夜子は相変わらずテレビを見ていて、煎餅とお茶を満喫していた。
 テーブルの上にある包みは全部で五つ。なんというか、和久津家に順応してきたように思える。
 央輝もそうだけど、夜子も食後なのによく食べるなぁ。
 ちなみに食べることに関して文句は別にない。だって食べてもらうために出しているんだし。
 僕も一つ食べようと菓子を入れた籠に座りながら手を伸ばす。

智「今日はどうする?」

夜子「……今日は帰る」

智「じゃあお風呂も別にいいね」

 煎餅を噛み砕く。
 バリバリ、とした感触とやき醤油の香りが素晴らしい。
 焙じ茶ともよく合う。うん、悪くない。
 ビバ和風。食事的にはおしゃれなフランス料理とか好きだけど、のんびりするには和が一番いい。
 読んで字のごとく『和』む。これぞ日本人の心だ。

智「…………」

夜子「…………」

 テレビからは偶然にも田松市で発生した事件が流れていた。
 駅の向こう側にある『如何にも』なビルが立ち並ぶ場所。その暴力団の一つの幹部が殺されたらしい。
 組同士の抗争ではないかと語られていて、呼ばれたであろうコメンテーターがしたり顔で政府への非難を告げていた。

智「物騒だね」

夜子「…………」

 お茶を飲む。ほぅ、と一息。
 人事じゃないな。そう思ったと同時、夜子が口を開いた。
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/13(日) 01:03:50.34 ID:dPbISZMxo
夜子「戦争をする」

 ぴたり、と時が一瞬止まった様に思えた。
 テレビの声が意識外に落ちていく。
 思考が戻ってきたのを素数を幾つか数えて確認し、僕は向かい合うソファーに座る夜子を見た。

智「知ってる」

夜子「うん、知ってる」

 僕は戦争をすることを知ってる。
 夜子は僕がその事を知ってることを知ってる。
 互いに確認作業を終えて、夜子は僕に訊く。

夜子「和久津は、出るの?」

智「そりゃあ、命令があれば。それでなかったら怒られちゃうでしょ?」

夜子「それだけで済めばいい方だけど」

 ううん、と夜子は首を振って続けようとした言葉を黙殺した。

夜子「……和久津。今から話すこと、五樹には黙ってて欲しい」

智「乙女の秘密?」

 こく、と声もなく夜子は頷いた。
 自分で言っておいてなんだか下半身がもぞもぞする。
 それを温和な作り笑いで隠して、どうぞ、と続きを促す。

夜子「私は、五樹のやることはいつも正しいと思ってる、間違ったことはないと思ってる。今でも、そう思う」

 でも、と夜子は続ける。

夜子「私には、五樹がわからない」

 それは僕が初めて見た我斎への懸念だった。
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/13(日) 01:26:42.03 ID:dPbISZMxo
夜子「……五樹がわからないのは、いつもの事だけど今回は尚更わからない」

智「……どういうこと?」

 夜子の言葉に僕も興味を持つ。
 尚更、というからにはそれなりに事情があるのだろう。

夜子「NOIZ――五樹は、同じテーブルに座ることができなかった。アバターギグは邪魔、だから潰した」

智「……潰した?」

夜子「そう。コミュネットではギグに恨みを持つ接続者の独断専行ってことになっているけど、実際はカエサルレギオンが手を引いていた」

 初耳だ。
 けれど、その事実はストン、と僕の中に落ちてくる。
 『すぐにわかる』。ギグが潰れる少し前に会った時、我斎は意味深長にそんな事を言った。
 なるほど、僕に何もしなくていい、といったのは既に手をうったからだったからか。

智「それで?」

夜子「瑞和が今のギグを仕切ってることは知ってる?」

智「勿論。前の主催と違って、結構顔出してるみたいだし」

 瑞和暁人と伊沢萩。それに自称美少女ガーディアンが主催をしているという話だ。
 夜子は僕の返事に頷いて続ける。

夜子「それもあるし、瑞和自身五樹と交流があった。だから席について交渉をすることは簡単なハズだった。なのに」

智「我斎は瑞和に手袋を投げた、か」
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/13(日) 01:46:47.81 ID:dPbISZMxo
 数秒の沈黙、或いは数十秒の沈黙。
 時計の音だけが響く部屋の静寂をまた打ち破る。

夜子「……カエサルによる王国は完成した。他の国は邪魔、切って捨てる理由もわかる」

 それでも――――。

夜子「私には、五樹がわからない」

 力ある組織は取り込めばいい。ギグは秩序を保つためある種必要なものなのだから。
 それを一言二言話して断られただけで喧嘩をふっかけるのはどうしてだろう。
 我斎なら、僕らに見えない何かを見ていてもおかしくない。けれど、それでも僕も不自然に感じた。

夜子「……五樹は、瑞和と和久津のことになったら人が変わる」

智「……僕も?」

夜子「少なくとも、直接会うのは瑞和と和久津だけ」

 これは特別扱いされて喜ぶべきなのだろうか。
 悩む僕の耳には夜子の言葉だけが届く。

夜子「だから、五樹を知りたい。戦争を起こす、五樹の本心が知りたい」

 これが夜子の本心。
 好きな人のことだから知りたいのか、単純にわからないから知りたいのかそれはさておいて。

智「夜子、その前に一ついいかな?」

夜子「……何?」

 夜子の目は僕をしっかり捉えている。
 僕もその目を見つめ返して、投げかける。
 コレさえ知れば、夜子も自覚していないそれを知ることができるかもしれないから。

智「夜子はさ、この戦争に賛成なの?反対なの?」

 僕のその質問は、思いの外部屋に反響した。
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/13(日) 01:48:37.04 ID:dPbISZMxo
 今回は以上です。

 ……なんかへん。へんじゃないんだけど、へん。
 んー、なんだろ……違和感がもやもやっと…………
 ええと、見ている人も何かあれば遠慮なく突っ込んでくださいませ。よろしくです。

 では、また明日……今日かな?ではでは。
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/13(日) 08:41:53.84 ID:g3sBxgfro
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/13(日) 12:39:36.18 ID:dPbISZMxo
 そういえば忘れてた
 知ってる人に教えて欲しいんだけど、公式で出てる9Rってビグウィグ、ファイバー、ブラックベリ、ダンディライアンだけだよね?
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/13(日) 12:49:50.29 ID:g3sBxgfro
>>43
そうだよ

ここがくわしい
http://www24.atwiki.jp/comu/pages/13.html
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/13(日) 20:56:33.20 ID:dPbISZMxo
 >>44
 ありがとう!
 というかこんなコミュのまとめwikiもあったのか……るい智しかないと思ってた。
 とりあえず残り五体の9Rを出すときはうさぎさんの名前から適当にとればいいね。

 10時ぐらいに本日分を開始します。
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/13(日) 22:02:32.68 ID:dPbISZMxo
夜子「……コミュの世界を手に入れることは、レギオンの、私達の――五樹の悲願」

 たっぷり十秒強の時間を経て、夜子は答える。
 それは立派な回答といえる。レギオンの幹部としては模範的な答えだろう。
 けれど、僕はそんな答えには惑わされない。

智「夜子ちゃん。本当はどういう意味かわかってるよね?」

夜子「…………ちゃん、つけるな」

 搾り出したように言われた訂正。けれどそのあとは続かない。
 眼が僕から外れて空を見る。
 取り繕おうとしているのか、或いは自分の心を探っているのかはわからない。僕は多少なりとも人は眼の動きで何を考えるかを知っているけれど、その考えも放棄した。
 自分の心を吐露するにしても、話題を逸らして茶を濁すにしてもそれは夜子の答えだと思うから。

夜子「わた、しは…………」

智「……夜子は?」

夜子「………………」

 心細そうに、夜子の視線は漂う。口は何かを紡ごうと半開きになったまま動かない。
 しかし、僕の眼と合わさったその一瞬で理解した。

 ――『わからない』。

 夜子は自分自身の心すらも『わからない』ことがわかった。
 我斎に仕えたい気持ち。我斎の心がわからなくて知りたい気持ち。
 他にもあるのかどうかはわからないけれど、様々な想いがごちゃまぜになって道を見失っているのだろう。
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/13(日) 22:19:17.19 ID:dPbISZMxo
智「ごめんね、意地悪な質問だった」

夜子「……別に、いい。話を聞いてもらっていたのは私だから」

 でも夜子の中には戦争を起こしたくないという気持ちも僅かながらにあることがわかった。
 それだけでも十二分にこの質問の価値はあったといえる。

智「もう一つ、質問いいかな」

夜子「……うん」

智「じゃあ、瑞和と夜子達ってどういう関係だったの?」

 ん、と夜子の言葉は早速詰まった。
 ……そんなに言葉にするほど難しいのかな?

夜子「……和久津と、大してそう変わらない」

智「僕と?」

夜子「…………不本意ながら、助けられたことがある。その時に五樹と瑞和は知り合った」

智「助けられたって……夜子が?」

 なんとも文句がありそうな表情でうん、と答える。
 ……それまでに不本意だったんだ…………
 そんな感想を振りきって、僕は思考を巡らす。 
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/13(日) 22:36:13.92 ID:dPbISZMxo
 我斎は言っていた。瑞和と夜子は『有象無象よりは近しい関係』だと。
 近しい?こんな不本意そうなのに?
 見る限り、第一次接遇は最悪そうだったように思える。
 そこで思いついた。

智「……ねぇ、夜子って僕に助けられた時も不本意だった?」

夜子「っ」

智「そんな緊張しなくていいから、正直に教えて?別に怒ったりもしないし、参考程度にだから」

夜子「…………。瑞和よりは、マシだった」

 これには流石に僕も苦笑いを浮かべる。
 けれどマシだった、ということは気に食わなかったに違いない。なにせ元の反応はアレだったし。
 つまり、それこそが他の人よりはマシということなのだろう。
 そしてその『マシ』というのが、夜子にとっては大きいものだということに違いない。
 なにせそれ以下は『有象無象』なのだから。

 ということは、だ。
 我斎だけでなく夜子にとっても瑞和はある種特別な存在だ、ということだろう。
 ともすれば、僕の位置に瑞和がいたかもしれないのだから。
 そういうことならば戦争をしたいのかしたくないのか『わからない』ということにも納得が行く。
 自分にとって全てである我斎。自分にとって特別である瑞和。そのどちらかを選ばなければいけないのだから。
 ……わかっていたら迷わず我斎を選びそうだし、きっと無意識下でそう思っているのだろうけれど。

智「……それで夜子は我斎の考えを知りたい、ね……」

 呟いて、ピタっと歯車が合わさったような気がした。
 僕の目的と、夜子の願い。
 奇しくも僕の目的――第三の選択肢を見つけ出すことは、今この瞬間に達成されてしまった。
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/13(日) 22:44:37.95 ID:dPbISZMxo
 それは、無謀とも言える選択肢かもしれない。
 その未来を考えれば、迂闊にその選択を選ぶことなど許されない。


 けれど。
 それでも。
 それでも、と――――


 僕は思った。
 みんなで幸せになれますように、と。
 この選択肢なら、そうなる可能性もある。
 けれどそうならない可能性もある。いや、寧ろそちらのほうが高い。

 どうすべきだろう。
 戦争に参加して、レギオンのコミュネット平定の為に尽力を尽くすのか、或いは。
 その第三の選択肢を選んで、未来が全く見えない世界を目指すのか。

 僕は――――




 >>50
 1 ……もう少し考えるべきだ。
 2 第三の選択に全てを託そう。

 ※ 重要なターニングポイントです。
    即バッドではなく、少し進んだ後に結果が発表されます。
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/13(日) 22:59:36.36 ID:g3sBxgfro
2
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/13(日) 23:12:16.92 ID:dPbISZMxo
 → 第三の選択に全てを託そう。


夜子「和久津?」

智「……なに、夜子?」

夜子「……ううん、なんでもない。ぼーっとしてるみたいだったから」

 ぼーっとしていたには違いない。
 ごめんね、少し考え事しててと告げて、僕は時計を見た。
 もうそろそろいい時間だ。

智「夜子」

夜子「何?」

智「…………」

 僕は僕が手にした選択を夜子に言おうとして、やめた。
 そちらのほうがいい気がしたから。
 態々悩んでる夜子に更に悩む要素をぶつけるだなんて、非道すぎるにも程があるでしょう?

智「……そろそろ帰ったほうがいいんじゃない?我斎の考えの件については、僕も考えておくから」

 夜子は僕の言葉に、同じように時計を仰ぎ見る。
 そしてふぅ、と溜息を一つ吐いた後に立ち上がった。
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/13(日) 23:24:04.27 ID:dPbISZMxo
夜子「そうする。今日は、その……うん、ありがとう、和久津」

 僕は夜子を玄関へ誘導しながらそれに答える。

智「ううん、結局力になれなかったし……」

夜子「そんなことない」

 先を行く夜子は立ち止まる。
 そして、振り返って僕を見上げた。

夜子「そんなこと、ない」

 僕はその行動に面食らった。
 そんなことない、なんて二度も言われるなんて思ってもみなかったから。
 数秒きょとんとしたあと、微笑を浮かべて夜子に返す。

智「そう言ってもらえると幸いだよ」

 ぽんぽん、と軽くベレー帽の上から夜子を撫でる。
 もう一度笑顔。今度は微笑みではなく、満面で。
 それを見た後、夜子も僅かに笑みを見せた。

夜子「アイツも、和久津も。……二人とも違うのに、二人とも似てる」

 アイツ?僕が似てるって、誰と、何が?
 そう問いかけようとした瞬間に、夜子は『それじゃあね』と素早く靴をつっかけて、玄関から飛び出した。
 少しばかり唖然としたけれど、僕は既に夜子の去った玄関を見て、心の中で『また今度』と呟いた。



 ――第三の選択肢。
 僕が選んだ、実現できるかもわからない、その選択肢は。
 『戦争が起きてから戦争を止める』、そんな無謀な選択。
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/13(日) 23:25:31.33 ID:dPbISZMxo
    第五幕
    Chapter

  41 戦争前の一大会議
  42 第三の選択肢
  → ???
  43 ???←つぎここ


 BAD回避かどうか気になるところですが、それは後々。
 次回は……未定ですね、はい。そろそろ久々にマクベス召喚するかも。

 ではでは
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/13(日) 23:30:13.86 ID:g3sBxgfro
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(宮城県) [sage]:2011/11/13(日) 23:36:16.36 ID:adNJFsB4o
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(青森県) [sage]:2011/11/14(月) 00:18:41.48 ID:fKE1Cb1No

中々に気になる引きだぜ・・・
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/15(火) 18:25:22.11 ID:fjqb1j3lo
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東海・関東) :2011/11/16(水) 11:46:25.19 ID:13//86UAO
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/19(土) 20:19:41.52 ID:K9EFSEQZo
 今朝、僕は学校をサボった。
 私服に身をつつみ、家には央輝に一応書き置きを置いておいた。
 燦々と照らす太陽の下を歩きながら、僕は携帯を手に取った。
 通話先は僕の知り合いで多分最も頼りになる人の一人。胡散臭いけど。

繰莉『もしもしこちら超探偵お悩み相談室だにゃ〜』

智「チェンジで」

 この超探偵に悩みなんて相談したら弱みを握られるどころじゃない気がする。

繰莉『ともちゃん冷たい。その冷たさで繰莉ちゃん、身体の芯まで冷たくなっちゃう』

智「暖房つければ?」

繰莉『……なんだか本当、今日乗ってくれないね』

 電話向こうでやれやれ、と繰莉ちゃんは呆れる。
 本当にやれやれと言いたいのはこっちの方なのだけれど。

繰莉『んでんで、今日はこんな真昼間からなんの御用事?繰莉ちゃんもそれなりに忙しいんだけどにゃー』

智「個人探偵の忙しさがわからないけど、繰莉ちゃん見てると忙しいと思えなくなるんだけど」

 確かに優秀ではあるけれど。
 情報の仕入れも速くて、死んでも死なない性格してるし。
 実際社会的に死んだと思われても死んでなかったから死なないで間違ってないよね。
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/19(土) 20:25:26.09 ID:K9EFSEQZo
繰莉『? どーしたの?』

智「いや、別になにも。そうだね、今回は依頼と言うか……僕らに必要なこと、かな」

繰莉『ほほう……カエサルでも出しぬくつもり?』

智「そんなところかな」

 言われて少し驚いた。
 まさかそんなピンポイントで来るなんて思ってもなかったし。
 ……多分偶然じゃなくて、繰莉ちゃんは僕が電話してきた時から予想してたように思える。

智「それで、瑞和が今いる場所を知りたいんだけど」

繰莉『……アキちゃんの?どうして?』

智「あれ、対策の件を予想してたんじゃないの?」

 またもや驚く。今度は逆の方向に。
 いやぁ、という声が聞こえ、恐らく苦笑いをしているであろう光景が目に浮かんだ。

繰莉『繰莉ちゃん、てっきりカエサルのエル=アライラーを倒すつもりかと』

智「……そんな無茶な」

繰莉『うん、だからとある筋、とある人物とかイロイロなところから情報集めておいたんだけど……いらなかった?』

 一体どこをどう駆け巡ればそんな情報が手に入るのか気になる。
 エル=アライラーの情報なんて並大抵の人物から手に入るわけがない。
 そのことを聞きたくなるのをグッと飲み込み、僕はきっぱりとそれを切り捨てる。

智「うん、ごめんだけど、今はいらない。だから瑞和のいる場所、知ってるなら教えてくれると嬉しい」
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/19(土) 20:41:00.95 ID:K9EFSEQZo
 暫くの沈黙があった。
 僕は疑問に思い、ふっ、と電話口に息を吹きかけてみる。
 わっ!?と繰莉ちゃんの驚いた、新鮮な声が聞こえた。

繰莉『……ともちゃん、私ね、そういうの良くないと思うの』

智「ごめんごめん、いきなり静かになったからどうしたのかなって」

繰莉『考え事も考え事、これいっちゃっていいのかなーって』

 繰莉ちゃんはいつもの口調で続けた。

智「ってことは……知ってるの?」

繰莉『………………あー、うん、知ってる。学校じゃないなら、きっと』

 繰莉ちゃんにしては珍しい、歯切れの悪い言葉に僕は怪訝な顔を浮かべる。
 知っているには知っている。けれど、言いたくない何かがある。
 きっとそんな感じだ。

繰莉『……ねぇ、ともちゃん。聞いていい?場合によっては、教えるかもしれないし教えないかもしれないんだけどそれを承知で答えてね』

智「……なにかな」

繰莉『ともちゃんは、アキちゃんに会ってどうするつもりなの?』

 繰莉ちゃんの望んでいる答えがどんな答えかわからない。
 繰莉ちゃんの求めている答えがどんな答えかわからない。
 けれど僕は。

智「――僕は初めに言ったよ」

 『僕らに必要なこと』だって。
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/19(土) 20:56:54.66 ID:K9EFSEQZo
 『僕ら』。
 それは例えば僕であったり、例えば繰莉ちゃんであったりする。
 央輝、アヤヤ、芳守も含まれているし、同盟のみんなだって勿論のこと。
 或いは夜子や我斎、レギオンの人々だってありえるし、はたまた奈々世さん達『円卓』だって考えられる。
 もしかするとそれは宮和や任甫さんだって枠の中にいるかもしれない。

智「とりあえず、僕が言えることは」

 不幸な人なんて見たくない。
 可能性はよくても五割以下で、博打としては分が悪いものかもしれない。

 けれど、僕は唱える。
 それでも、それでも――――と。
 この呪われた世界を、閉ざされた袋小路を打ち破る為に。
 ギグ側だって、カエサル側だって誰の不幸もなく戦争を止めることができるように。

 みんなで、幸せになるために。
 僅かでもその可能性に賭けたい。
 僕はそう告げる。

繰莉『………………』

智「………………」

 繰莉ちゃんは押し黙った。
 きっと再び考え事をしているのだろう、僕は歩みはとめないが今度こそ黙ってそれを待つ。
 そして、ぼそっと呟いた言葉が一つ聞こえた。

繰莉『…………これが、贖罪の機会……かな』

智「へ?」

繰莉『わかった、いーよ。教えてあげる。確実じゃないけど、多分アキちゃんは――――』

 答えに少し驚きつつ、しかしお礼を言って僕は通話を切る。
 短く息を吐いて、次の電車はいつか、電光掲示板を見上げた。

 さあいこう。
 繰莉ちゃんが教えてくれた、可能性のある場所――高倉市内で最大の大きさを誇る総合病院へ。
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/19(土) 20:59:01.12 ID:K9EFSEQZo
 本日はここまで。
 マクベス召喚したいけど、暫くは戦争の準備に奔走ですね。

 さて、一番の問題である同盟のみんなをどう戦争に絡ませようかな……
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/19(土) 22:38:09.07 ID:sbSuHA6eo
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(宮城県) [sage]:2011/11/19(土) 22:39:47.73 ID:nINs4hvho
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(空) [sage]:2011/11/20(日) 00:15:37.03 ID:MBEmA5X10
もつ
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/20(日) 14:16:37.79 ID:aDmMSORFo
おつ
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/26(土) 00:56:25.91 ID:Ejh6nqiJo
 病院のロビーはにわかに騒がしい。
 待合室に多く並んでいるソファーに座る殆どの人が老人だった。
 彼、彼女らは楽しそうに談笑して一歩も動く様子は見られない。
 どこかで聞いた覚えがあるような気がする。病院は老人たちの憩の場になっていて、救急でも無いと直ぐ様診療を受けられないとかなんとか。
 なるほど、この惨状なら頷ける。僕が病人なら或いは憤慨していたかもしれない。
 が、今日のところは無関係。
 天井よりぶら下がった案内板に従い、個人病棟へと足を向けた。

智「ええと……3019、3019…………」

 階段を登って、扉の上に貼り付けられている部屋番号を辿る。
 こつ、こつと僕が刻む足音が廊下に響く。
 嫌な静けさだった。勿論人の声は聞こえるけれど、それを上から打ち消すほどのそれ。
 病院というのは生と死の境目のようなものであるから、だろうか。
 少なくとも、僕はあまり長居したいとは思わない。

智「っとと、ここだね」

 3019号室。個人病棟にあるのだから個人部屋に違いない。
 ……よもや瑞和本人が入院している可能性はないだろうと思い、ふと名前を見る。
 ……福島蜜?いや、違う。なんか微妙に違う。
 副島、密。読み方もわからない名前だけれど……どこかで、見たことがあるような気がするのは気のせいかな?
 とりあえず、ここに瑞和が居る可能性がある、と繰莉ちゃんは言った。
 ならばこそ、いざ。

 ノックを二度鳴らす。
 返事はない。
 怪訝に思い、もう一度戸を叩いた。
 それでも、内側からのアクションは全く見られない。
 
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/26(土) 01:12:05.71 ID:Ejh6nqiJo
 おや、と思う。
 寝ているのか、或いは無視を決め込んでいるのか。
 はたまた、喋れない可能性だってありうる。
 ここは個人病棟、ここらの部屋に入院している人物はお金持ちであるか、他の人と相部屋にできない理由があるかが大半を占めているはずだ。
 だからその可能性も考慮して、僕は一声『失礼します』と声をかけてから戸を引く。

 そこは白い匣だった。
 隅から隅まで白が埋め尽くし、清潔というよりも空虚なイメージを抱く。
 そして、その窓際に置かれたこれまた白いベッドに、白いシーツの上に。そしてその傍らに。彼らはいた。

暁人「……お前、は」

智「……ほんとに、いた」

 僕らが同時に示すのは、やはり驚愕だった。
 瑞和は僕がここにいることへの、そして僕は本当に瑞和がここにいたことへの。
 繰莉ちゃんを疑っていたわけではないけれど、本当に病院に来ているなどと誰が思うだろうか。
 僕は久しぶりに会った友達とも呼べない知り合いに、なんと声をかければいいか迷って思わずベッドの上に視界を向ける。

 ――そこにいたのは、一人の少女だった。

 年はきっと僕らとそう変わらない。
 存在感は薄く、ふと目をはなせば今にも消えてしまいそうな、額の広さが特徴的な少女。
 目を閉じて呼吸器をつけて胸を僅かに上下させるこの部屋の主。
 彼女が、そう。『副島密』、なのだろう。

 僕は彼女を初めて見る。そのはずだ。
 けれど、僕は。彼女の名前を見た時と同じく、彼女を知っている気がした。
 それは、いつだったか。
 六年前?そんな昔じゃない。もっと最近、みんなと同盟を組んで、また他人と繋がってしまった、そう一年前。
 一年前。
 そうだ、一年前。
 僕はその時に、彼女の姿を、名前を、見て、聞いて、知っている。
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/26(土) 01:31:22.79 ID:Ejh6nqiJo
智「……その子って、確か」

 ――『放浪者』の。
 言外に告げたそれに、瑞和は僅かに目を伏せる。

暁人「……他で話そう。一応、病室だ」

 反対する理由なんて、僕にはなかった。


 そうして瑞和が向かった先は屋上だった。
 本日は快晴、洗濯日和。選択されたシーツが強い風に煽られてバサバサと音を立てていた。

暁人「……こんな所で会うなんて奇遇だな――ってわけじゃなさそうだな」

智「うん。繰莉ちゃんから聞いた」

 先輩から、と瑞和は小声で繰り返した。
 その隙に僕は瑞和をこっそりと観察する。
 黒いスーツに身を包み、それがサマになっている。
 以前、というほど見ては居ないけれど、確実に前に会った時よりは大きくなっていた。
 きっと見た目だけでなく、その精神も。
 でなければギグを立てなおしてカエサルと真っ向から立ち向かおうだなんて思いもしないだろう。
 そこまで考えたところで、瑞和は思い出したように空を見上げていた顔をこちらへと向けて、やはり思い出したように告げる。

暁人「――ああ、用事に入る前に。副島の事は秘密にしてくれ」

智「っていうことは、やっぱり」

暁人「察しの通りで」
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/26(土) 01:48:58.17 ID:Ejh6nqiJo
 ネットで見た。
 綾峰学園、つまり瑞和やアヤヤ達が通っている学校にアバターを召喚して攻め込んだ接続者を。
 その彼、或いは彼女が言うには狙いは『ノーマッド』だったらしい。
 ご丁寧にプロフィール情報までコミュネットに晒していた。
 恐らく、それを見た接続者は皆知っていることだろう。見ては居なくとも名前ぐらいは。

暁人「……もし生きてるって知れたら、恨みを晴らそうとどんな輩が来るか知れたもんじゃないしな」

 瑞和は軽く笑い飛ばしながらそういう。
 確かに短期間であの大惨事を発生させたノーマッドだ。その接続者となれば恨みどころじゃすまされない。
 しかしその彼女が居るのは僕も知らなかったぐらいだし、きっと殆どの人は知らないのだろう。
 ――だけど。

智「瑞和、でもあれは――」

暁人「生きてる」

 僕が言おうとした傍から、瑞和は言葉を被せた。
 続けて、もう一度繰り返す。

暁人「生きてる」

 生にしがみついているんだ、と。
 僕はそれきり、口を噤んだ。
 同時に理解する、瑞和がどうしてギグを再会したのか、という理由を。

 一年だ。理由はわからないけれど、あの副島さんは一年もの間眠り続けているに違いない。ずっと入院しているに違いない。
 けれど、その入院費は一体どこから出ている?
 家族?いや、そんなはずはない。家族が払い、見舞いに来ているのなら、あれほどに部屋の空気が死んでいるはずがない。
 そして、瑞和は副島さんがまだ生きていると信じている。
 これだけで十二分に答えが導き出せる。
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/26(土) 02:05:11.19 ID:Ejh6nqiJo
智「そっか」

 彼女の為。
 入院費は決して安く済んではいないはずだ。
 その入院費を補う為に。そう考えるのが妥当。

 瑞和と、あの副島さんの関係がどのようなものかはしらないけれど。
 繰莉ちゃんが『学校でないなら病院』という程に見舞いにきているのも確かである。
 故に、それほど大切な、一年以上目が覚めなくても諦め切れない相手だということもわかる。

 なるほど、それほどまでに大切ならばやはり頷ける。
 我斎の勧誘を蹴り、戦争をすると、抗うと決めたその理由が理解できる。

暁人「……それで、我斎んとこのやつがなんの話?もしかして刺客とかそんなの?」

智「違うよ、これは我斎……カエサルは関係なしの、僕の独断。央輝やアヤヤにだって教えてないし、繰莉ちゃんにだって『僕らの為』以外は言ってない」

 僕の言葉に瑞和は引っかかる所があったのか、眉を僅かに潜めた。
 そして僕は彼がどこに引っかかったのか、それも既にわかっていた。

瑞和「『僕らの為』?」

智「うん、そう。『僕らの為』」

 繰莉ちゃんもその意味を考えた箇所。
 真意を理解して協力してくれたその理由の箇所。
 瑞和には繰莉ちゃんよりも省略して、簡潔に要望だけを告げる。
 きっと、それで通じる筈だから。

智「瑞和達の力を貸して欲しい。互いに、最大限の利潤を生み出す為に」
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/26(土) 02:07:38.25 ID:Ejh6nqiJo
    第五幕
    Chapter

  41 戦争前の一大会議
  42 第三の選択肢
  → ???
  43 戦略フェイズ
  44 ???←次ここ


 ずっと智ちんのターン!
 まだまだ糸を張り巡らす時間……いや、次は視点移ると思いますけれど。
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/26(土) 02:40:32.29 ID:0fwHbxtCo
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(宮城県) [sage]:2011/11/26(土) 07:10:21.07 ID:cKYheP7To
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/02(金) 22:44:27.03 ID:rPMYdNRco
 卓上カレンダーのサンタ【閲覧】さんかわいい!
 しかし……もうこのカレンダーともあと一ヶ月でお別れか……
 っていうか来月でもう一年……?
 おかしい、確か一年前はあの一週間以内で終わらせるつもりだったのに……

 もう少ししたら更新始めます。
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/12/03(土) 00:13:08.73 ID:gslAxWJho
待機!
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/12/03(土) 01:06:23.61 ID:htNbkkTSo
 本日の集合場所は溜まり場その1。
 四時を過ぎて遠くから無駄に元気よく走ってきた皆元が開口一番にわたし達に質問を投げかける。

るい「今日もトモは休みなの?」

 きっと皆元が言わなければわたしがいったであろうこと。
 軽く周りを見渡して、智がいないことを改めて再確認する。二日連続の休みなんてたまにあることだけれど、それでも心が僅かにざわついた。
 確か、智達が一時期溜まり場に来なかった時が丁度一年前辺りだったはずだから。

伊代「いないって事はそうみたいだけど、連絡もないなんて珍しいわね。昨日はあったけど……あなた、何かしらない?」

 おっぱ……ごほん。伊代は皆元の言葉を受け取り、知っていそうな人物へと投げかける。
 我関せずと壁によしかかっていた、智と同じく昨日はいなかった自称AA。けど、わたしの見立てじゃどうみてもAAAなのよね。
 隙あらば暴いてやろうかしら。

央輝「……アタシに聞くな。逐一アイツの行動を知っているわけじゃない」

こより「そうなんですか?でもでも、一緒に住んでいるんじゃ?」

央輝「確かに一緒に住んではいるが、アタシだってたまには外で泊まる時ぐらいある。昨日がたまたまそうだったんだ、家にあったのは書き置きぐらいのものだな」

花鶏「書き置き?それには行き先とか書いてなかったのかしら」

央輝「ああ。かいてあったのは朝飯のことと、昼飯のこと。あと、夜には帰るってことぐらいだ。それ以外の事は知らん」

 茅場は何も言わない。つまり嘘ではないってこと。
 まぁ智のことだし、夜には帰るっていうのだから帰るのでしょう。それは心配しなくてもよさそうね。
 とりあえず次にあった時には無断欠席の落とし前を身体で払ってもらうとして、今は智の休みのことは置いておきましょう。
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/12/03(土) 01:24:05.48 ID:htNbkkTSo
花鶏「ま、それよりわたしには聞きたいことがあるのよね」

茜子「エロシアンが物申すそうです、皆の者、心して訊くが良いのです」

るい「うむ、くるしゅーない!」

こより「るいセンパイ、それいうのはどちらかというと花鶏センパイな気が……」

 茅場の茶化しに皆元が何かを勘違いして、そしてこよりちゃんがそれに突っ込む。
 見ると伊代が眉を引くつかせていた。
 ああ、またいつものか。

伊代「こ、こら!あなた達、茶化さないの!人が何かを言おうとしてる時はちゃんと最後まで聞きなさいって教わったでしょ!
    あなた達はいつもいつもそうやって人が真剣に何かを言おうとしている時に……」

 また始まった、智曰く伊代の『イケテナイ』説教。
 正しいことを言ってるだけのはずなのに言い得て妙だけど、全く本当にその通りよね。おっぱいがあるからわたしは許すけど。
 けどそんな伊代の口撃も通用しない相手がいるのよね、今日は。

央輝「いいから!オマエは黙ってろ!」

伊代「でも、」

央輝「あぁ!?」

 央輝ちゃんに凄まれて伊代は引き下がる。
 適材適所。伊代の暴走を止めるにはやっぱり央輝ちゃんが一番。

花鶏「……続けるわよ?」

 あたかも迷惑そうに振る舞う。
 なんだかんだ言って様子を見ているのは楽しいけど、とりあえず今は話を進めるほうが先だしね。
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/12/03(土) 02:01:09.06 ID:htNbkkTSo
花鶏「智が昨日何してたかについて、なんだけど」

 わたしを含む視線が自然に集中する。
 つい先程も智の行き先について聞かれていた央輝ちゃんに。

花鶏「まさか、昨日も知らなかったなんていわないわよね。昨日は確か智が『二人とも休む』って連絡してきたのだし」

 不穏な空気を感じ取った央輝ちゃん――いえ、央輝が帽子の奥からわたしを睨む。

央輝「……何がいいたい」

花鶏「簡単なことよ。『どうして』二人とも休んだのかは調べがついてる。あんた達もわかってるでしょう?」

 言いつつ、皆元たちを一瞥する。
 脳筋とこよりちゃんはわかってなさそうだけれど、伊代と茅場は察したような表情をした。
 智と央輝。二人が同時に溜まり場に来ないなんて日はここ一年、ある一時期を除いて滅多になかった。
 買い物とかの可能性もあるにはあるけれど、それならわたし達を誘わない理由がないわけだから除外しておく。
 つまり二人が同時に休むということはつまりそれは、わたし達には関われないあちらの、『高倉市の怪物』の――コミュのことについてに違いない。

花鶏「それでわたしが聞きたいのは『何のために』そうなったのか。何か起こっている筈よ、そっち側に」

 智が、央輝が。この一年定期的に、例えば一月に一度程度同時にいなくなる日でもあれば定期的に会っているのかと想像もつく。
 けれどそれはなかった。智も央輝もバラバラに休むことは稀にあれど、それの理由だってちゃんとわたし達に報告する。
 しかし同時に休んで、それの報告だけ。理由も何も言って来なかった。
 それが何か問題があることだということを裏付ける。

央輝「……オマエらには関係のないことだ」

伊代「なっ……関係ないわけないでしょう!?一年前だって二人が暫く来なかった時、みんな沢山心配したのよ!?」

るい「そうだぞイェンフェー!何の話かよくわかんないけど、私達は仲間なんだから関係無いことなんてないよ!」
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/12/03(土) 02:37:05.41 ID:htNbkkTSo
 央輝ちゃんも正直に言ってくれればそれで済むのに、なんで意地を張るのかしら。
 それともこれは身体で素直に――ってそんな雰囲気じゃないわね。
 伊代も皆元もさっきの央輝の言葉で感情的になってる。
 こよりちゃんは……

こより「お、落ち着いてくださいセンパイ方!喧嘩はダメですよぅ!?」

 ……目を回して仲裁に入ろうとしていた。けれど三人とも聞く耳はもっていない。
 放っておいても大丈夫そうね。
 再び目の前に視線を戻すと、やっぱり伊代と皆元の二人に央輝は詰め寄られていた。
 いつもなら少なくとも伊代の言葉には言い返すのに言い返さないところを見ると、やっぱり『言えないこと』があるようね。
 終いには積み重なる二人の言葉に舌打ちをして、威嚇をするように怒鳴る。

央輝「っ、知らん、知らん、知らん!オマエらにいうことは何も無い、私は帰るぞ!」

 そういうと央輝は帽子を深くかぶり直して高架下から飛び出る。

るい「まっ、いぇんふぇー!」

花鶏「待ちなさい皆元」

 それを反射的に才能を使って追いかけようとした皆元の手を掴み、なんとか押しとどめる。
 その僅かな間に、才能を使用しなければ追いつけない程のスピードを持つ央輝は、あっという間にわたし達の視界から消えた。
 まるで置いていかれた犬のような表情をするのは一瞬で、直ぐにわたしへと牙を向ける。

るい「なんで止めたんだよ花鶏!央輝はきっと何かに巻き込まれてるのに――――!」

花鶏「ええ、わかってるわ。それがわかっただけで十分だから止めたのよ皆元」

 それでも『なにぃ!?』と突っかかってくる。
 ちっ、これだから脳筋は。
 あれだけ詰め寄っても吐かない様子から、央輝ちゃんがどうやってもいわないであろうことは想像がつくでしょうに。
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/12/03(土) 09:25:48.63 ID:htNbkkTSo
 確かにこいつの性格を考えると仲間が何かに巻き込まれているのを放っておけないのは理解できるわ。
 けどその『何か』をわざわざ聞く必要はないのよ。
 『何か』に巻き込まれてるのがわかればそれで十分じゃない。少なくともわたしには大凡検討はついているのだし。
 それなのに、それなのにこの馬鹿は――――

花鶏「――――本当に考えが足りてないわねあんたは」

るい「なんだとぉ!?」

花鶏「聞こえなかった?脳足りんって言ってんのよ馬鹿」

るい「聞こえとるわい、馬鹿にすんな!それに私がノータリンなら花鶏はムネタリンじゃんか!」

 ああ苛々する。
 というかコイツ、脳足りんの意味わかってるのかしら。もしかして語感だけで言い返したんじゃないでしょうね。
 まぁ知ってようと知ってまいと関係ないか――――

花鶏「やるか」

るい「絶対やんねー!」

花鶏「意味不明よ馬鹿ゴリラ」

 いうやいなやわたしは懐に一気に潜り込む。
 真下からその顔面に向かって拳を叩きこまんとする。
 しかし皆元は顔ごとを後ろに逸らしてそれを回避した。

 いつも思うけどコイツの才能、本当に反則的。
 単純な力だけじゃなくて身体能力を全体的に向上するのだから反射神経も並じゃない。
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/12/03(土) 10:02:15.99 ID:htNbkkTSo
 わたしが空振りした隙を狙って、皆元は腰を軽くを落とした。

 ――『思考加速』。
 そこに或るのはわたしの支配する、わたしだけの世界。
 あらゆる事象をわたしは置き去りにする。

 拳……じゃない。そもそもその角度からは力が入らない筈だし――いや、皆元には関係ないか。けど違う動きがそう言っていない。
 なら攻撃手段は脚に決まってる。よもや全力ではないだろうけれどコイツのは当たるとわりと本気で痛い。だから当たらないに越したことはない。
 皆元の右足が小さく持ち上がる。来るのは左からか。
 そのまま膝が折り曲がり、予想したとおり左から皆元の膝蹴りがわたしの腹部を狙う。
 下がる、には時間が足りない。受け止める、には力が足りない。回避する、にはスペースが足りない。
 ならば、受け流す。わたしのこの才能をもってすれば、膝蹴りが当たった瞬間に後ろへ飛んで衝撃を殺すなんて容易い。
 そうして私自身も少し身体を落とした所で声が割り込んできた。

茜子「やめるのです腹ペコリーナ、エロエロ魔神」

 茅場だ。
 ピタリ、と目の前まで迫っていた膝が動きを止めた。
 念のため受け流そうとしていた力を使って皆元から距離をとりつつ、わたしは才能を解除する。

るい「アカネ」

花鶏「茅場、一体なによ?下らないことだったら承知しないわよ」

 髪を掻き上げつつ問いかける。とはいっても大体予想はついてる。

茜子「ご安心ください、茜子さんは安全設計で下にしかいかない仕様であります」

伊代「上らないのかよ」

 伊代も突っ込みをしつつもちゃんと茅場の言葉に耳を傾けていた。
 茅場、いつも飄々としてるくせに割と信頼されてるわよね。ヘタすれば智の次ぐらいに。
 才能のせいもあるんでしょうけど。
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/12/03(土) 10:44:15.28 ID:htNbkkTSo
茜子「暴食のいうことも最もです。けれど銀髪の言うとおり何かに巻き込まれたこと、それを知っただけでも十分だと言えます」

こより「え、ええと……つまりどういうことッスか?鳴滝、さっきから話についていけてなくて……」

茜子「……つまるところ、相手が隠しているならこっちが勝手に暴いてしまえばいいということです」

伊代「ちょっ、そんな人が隠しているようなことを暴くの!?そういうのは向こうから相談してくるのを待って、それからでもいいんじゃないの?
    それが嫌ならさっきみたいに無理矢理じゃなくて遠まわしに優しく聞いてみたりしてみるとか……」

花鶏「茅場、どう思う?」

茜子「NOですね、確固たる意志を感じ取りました。ですが、関係ない、やいうことはない、の時に感情の揺らぎを感じましたから隠し事は後ろめたいと思っている節はあります」

茜子「総合してみると、恐らくですがあの板胸二世は私達を巻き込みたくない、とでも思っているのではないでしょうか」

るい「……だから勝手に調べてトモやいぇんふぇーの手助けをする?」

花鶏「そういうことよ。というか隠したくないけど自分の問題に巻き込みたくない、ってあの言動みていたら才能なんか無くても余裕でわかるでしょう」

るい「……悪かったね、わかんなくて。べー」

伊代「でも、それでも……やっぱり仲間なら、待つべきじゃないかしら?相手が巻き込みたくないって思うのならそれを尊重して、問題が解決するまで待ってあげるべきじゃ?」

 正論よ、それは。
 けれどね、わたし達は散々に待ったはず。
 一年前、わたし達は待っていたはず。絶対に戻ってくるという言葉を信頼して、五人で溜まり場に集まって。
 それがあったからこそ――尚更わたしは介入すべきだという意志を持つ。
 だって、そうでしょう。
 一年前、五人で集まって待ちぼうけにされていた時にわたしは、わたし達は、

花鶏「智達の力になれないのか、って嘆いていたじゃない」
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/12/03(土) 11:17:26.19 ID:htNbkkTSo
 皆が皆、押し黙る。
 あの時のわたし達はただ待っていることしかできなかった。
 コミュとかなんとかいうのになんの関わりも持っていなかったから。

伊代「それだったら……今だって、あの子たちの力にはなれないじゃない」

 伊代が事実をそっと確かめる。
 今もわたし達は無関係。だから智や央輝は巻き込ませんとしている。
 勿論ただの人間なら、あんな巨大な怪物を相手にするなんてできないかもしれない。
 ――ただの人間なら。

花鶏「わたし達はただの人間じゃない――力ある、選ばれた人間よ」

 微々たるもの。
 皆元に対してわたしが攻撃を与えても殆ど決定打にはならないように、強大な力に対してのわたし達は気にくわないけれど虫のようなものに違いない。
 ――それでも。
 それでも、よ。

るい「智やいぇんふぇーが困ってるなら放っておけないよ!」

こより「鳴滝もです!あの、大きいのを相手にするのはちょっと怖いけど……でもでも、ともセンパイ達の為というのなら鳴滝、腹をくくります!」

茜子「か、勘違いしないでよねー茜子さんは姑息貧乳がいなくなるとエロペラ―に狙われるから助けるだけなんだからねー」

花鶏「誰もあんたなんか狙わないわよ」

 触れるならストライクゾーンではあるけれど。
 そんなわたし達の様子をみて伊代は溜息を吐いた。
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/12/03(土) 11:36:58.42 ID:htNbkkTSo
伊代「あなた達は……もう」

 やれやれと首を振った。その際にすぐ下の実二つがたゆんと揺れた。
 …………相変わらずいいおっぱいね。

伊代「わかったわよ。わたしだってわたし達を結びつけたあの子がいなくなったら困る――――きゃぁっ!?」

 素早く背後から襲いかかってそのたわわに実った果実をつかみとる。
 何度揉んでも素晴らしいわ。ずっしりと重みが来るのにまるでマシュマロの様に柔らかく。
 かぶりつきたい程ね。

伊代「あっ、ちょっ、いま、こら、んっ、しんけんな、はなし、して、だから、やめ、やめなさ……っ!?」

茜子「と口では言いつつも、下の口は素直なんだぜ」

伊代「そんなわけあるか!」

花鶏「そう?なら確かめてみようかしら」

 片方の胸を根元からもみ上げつつ、もう片方の手をスカートの下に潜り込ませて太ももをつつつ、と辿る。
 その度に伊代は艷声を漏らしながらも抵抗を測る。
 しかし、今のわたしにそんなものが通用するか…………ッ!

るい「本当にイヨ子のはすっごいなースイカみたい」

こより「たはは……なんかもうイロイロと台なしッス……」

 こよりちゃんのその声を最後に。
 眼の前に火花が散ってわたしは意識を失ったのだった。
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/12/03(土) 11:38:28.43 ID:htNbkkTSo
    第五幕
    Chapter

  41 戦争前の一大会議
  42 第三の選択肢
  → ???
  43 戦略フェイズ
  44 知らない場所で動く事態
  45 ???←次ここ


 おわーり。
 ごめんなさい、昨日は寝落ちしちゃってました……
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 11:56:38.77 ID:iZXcWGsgo
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(宮城県) [sage]:2011/12/03(土) 15:07:37.55 ID:z8WE+ln2o
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(京都府) [sage]:2011/12/03(土) 15:18:33.99 ID:H5JG4+Vwo
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/12/03(土) 18:33:32.50 ID:gslAxWJho
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(空) [sage]:2011/12/04(日) 16:22:11.20 ID:4XjDLeEh0
もつ
93 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/09(金) 06:40:10.60 ID:YUPbA8fHo
最近になってるい智やり直して、SS検索したら良SSに巡り合えた
自分のペースで頑張ってくれ、楽しみにしてるぜ
グランド√楽しみ過ぎるわ
94 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/12(月) 22:13:29.53 ID:zdYuZq8Oo
 お待たせしております申し訳ございません。
 とりあえず明日はそれなりに重要なテストがあるので明日飛ばして明後日、水曜に投下する予定です。

 >>93
 そう言って頂けると勇気(?)が湧いてきます。
 ありがとうございます!
95 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 19:10:21.80 ID:bJxgjUP4o
学業優先で構わないよ
96 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/15(木) 01:42:21.14 ID:iyMBCsedo
 僕は暗闇に満ちた自然公園のベンチに座って考える。
 果たして次に打つべき一手は何かと。

智「我斎や夜子に話を説くのは得策じゃない」

 説得出来なかった、だけで終わるならまだいい方。
 ヘタをすればその場で僕は始末されてしまう可能性すら孕んでいる。
 というかそもそもそんなことができているなら戦争なんて始まらない。

智「かといって、『円卓』に相談を持ちかけるのも間違ってる」

 奈々世さん辺りならなんとかなりそうな気がしはする。
 けれど、僕は知っている。奈々世さんのアバターである緑色の『竜型』であるフッフール。それが過去に繰莉ちゃんを殺そうとしたことを。
 というか本人から聞いた。
 それを奈々世さんがしたのかどうかはわからないけれど、アバターを見た一般人を殺すなんて危険思考を持つ人が彼女のコミュ内にいる時点で論外だ。
 唯一の安全圏とも思われる彼女に寄り添うことすらできないのだ、他の人物なんてもっての他だろう。

智「……だから、話の通じそうな戦争の当事者に交渉に行ったんだけどなぁ」

 屋上での一幕を思い出す。
 瑞和は是とも非とも言わなかった。
 いやあの空気ならば、恐らく『非』に傾いていたことだろう。
 理由は幾つか考えられる。
 例えば僕が罠に嵌めようとしているのではないかと疑っているとか。
 例えば例え戦争を中途でやめたとしても我斎がそのまま手を引くとは限らないとか。
 恐らく、その辺りだ。
97 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/15(木) 02:08:44.64 ID:iyMBCsedo
 まぁ眼の前に都合よく現れた選択肢を信じられないのは当たり前のことだ。
 けれどそう簡単に切って捨てることもできないようだった。
 それで彼の下した結論は『その場の状況判断で決める』とのことだった。
 ああ、素晴らしき逃げの言葉。どんな選択肢をとったとしても僕は文句を突きつけることができない。
 多分だけれど、自分が劣勢ならきっと僕の話の賭けに乗って、優勢ならそのまま我斎を押し切るつもりに違いない。
 一国一城の主としては、間違いなくそれが正しい。都合のいい時に都合のいい方に賭ける。そのことに一部の隙も見いだせない。
 だから僕は色良い返事を期待してる、とだけ返して病院から去ったのだ。

智「変わったなぁ」

 それ程までに瑞和を知っていたわけではないけれど。
 でもアヤヤに話を振った時に彼女が寂しそうな表情をした理由がよくわかった。

智「彼女の為、ね」

 病室で眠っていた彼女のことを思い出す。
 ノーマッドの接続者、副島密。
 大切な人、に違いない。
 愛する人、に違いない。
 故に手段を選ばない、彼女を救うためならきっとなんだってするだろう。
 感情論程に厄介なものはない。なにせ、その場の感情に押し流され易いために理論的な予測がし辛いからだ。

 その点に置いてだけは我斎はシンプルだ。自分の目的に向かって、二者択一になった場合は被害が少ない方を直ぐに切り捨てるだろう。
 例えそちらに家族や気の置けない親友がいたとしても、『俺の覇道の為に死ね』と真顔で死刑宣告が出来る人だろう。
 ……話がズレた、元に戻そう。
 つまり僕がいいたいのは、瑞和の戦場での行動は予想がつかないということだ。

智「さてはて、どうしましょう」

 そして、やはりここで次に打つべき一手は何か、という疑問にぶち当たる。
98 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/15(木) 02:21:00.88 ID:iyMBCsedo
 カエサルレギオンはダメ、円卓も却下。
 瑞和は保留……けれど自分の都合のいい方向にはきっといかないことは確定だ。
 それなら、あとは無投票なストライダー達しか残っていない。

智「……けど、僕にそこまでの人徳もない、と」

 頼れるのは我が身ひとつ。
 いや、『繋がっている』仲間たちを含めれば五つ。
 それでも戦争を途中でやめさせるには圧倒的に足りない。

智「うーん」

 僕は考える。
 させるべき一手、さすべき一手を。
 夕焼けが燃える新都心で、出来ることは何かと考える。
99 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 02:21:54.86 ID:iyMBCsedo
 おわーり
 ねる
100 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 07:44:25.39 ID:sxXZHPLho
101 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 07:48:11.98 ID:Jofjyn6IO
102 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 09:28:27.44 ID:showqB1Fo
きてたー乙
続きも気になるけどEXTRA4の姉弟話も気になるな…
最近FDやり直したせいか、姉さんに幸せになってほしい欲求が高まってて困る
103 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 21:52:14.68 ID:1ykejVjxo
104 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/18(日) 00:25:49.63 ID:b4Ktf5Kfo
「……あれ、もしかして智さん、だよね?」

 ふと上から声をかけられる。
 地面を向いていた視点は目の前に現れたその足の持ち主を辿り、僕をのぞき込んでいる彼女へと追いついた。
 知っている顔。少し名前を思い出すのに時間がかかったけれど、喉につまらない程度であったと思う。

智「……紅緒?」

紅緒「そうそう、紅緒さんですよーっと」

 瑞和と同じく久々に会う知り合い。
 僕が覚えていたことに対して、紅緒は表情を綻ばせた。

紅緒「智さんの住まいとか学校って田松市だったよね?どうして真昼間からこんなところに?」

智「今日はちょっと用事があって。学校は休業」

紅緒「不良さんだ、いけないんだー」

智「それを言ったら紅緒だって」

紅緒「私は創立記念日でお休みなの。正義の味方は学校をサボらないのだ」

 えっへんと胸を張る。
 その理論で言ったら僕は正義の味方じゃないらしい。実際そのとおりだし意義も唱えられない。

紅緒「それでそれで、用事の割にはこんなところでどうしたの?陰鬱そうに見えたけど」

 意外に目ざとい。
 確かにお先真っ暗で少し欝が入ってたかもしれないけど、そんな直ぐ見破られるなんて思ってもいなかった。
105 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/18(日) 00:53:58.84 ID:b4Ktf5Kfo
 紅緒は真っ直ぐだ。嘘を言えばきっと簡単に信じるに違いない。
 だからこそ、僕は嘘を言うのが憚られた。
 瑞和と同じバビロンコミュ――というのも理由にあった。真逆の嘘をついてもどうせすぐにバレる。
 ならば今はとりあえず、匂わせる程度で。

智「色々あって、とりあえず頭を悩ませようかなと」

紅緒「頭を悩ませ……あ、隣いい?」

 間髪いわずに頷くと、ありがと、と笑って僕の隣に紅緒は腰掛けた。
 なんというか一年前からは想像もできない光景だ。ただアヤヤや芳守の知り合いってだけな関係なのに。
 紅緒はなんとなく、そういう垣根をふっ飛ばしそうな感じがする。
 例えるなら『友達の友達は友達!』と心の底から思っていそうな。
 ……だからこそ嘘をつき辛い、人徳があるのだろう。

紅緒「……それで、頭を悩ませる、だっけ。何かトラブルでもあったの?こっちにわざわざ来るほどだし……んー……アヤヤちゃんと喧嘩した、とか?」

智「僕にはアヤヤが怒る姿が想像できないんだけど」

紅緒「あはは、そうだね。アヤヤちゃん基本的に良い人だし」

 紅緒は確かにその通りだと思ったのか自分の言ったことに笑う。
 多分初めから当てよう、なんて考えていないに違いない。
 僕が紅緒のことをどのくらい知っているのか、といわれたらそれ程には知らないけれど、少なくとも困っている知り合い(この場合は僕)を頬っておけない性格だってことぐらいはわかっている。
 正しく、『正義の味方』。

 ふと思う。この正義の味方は、同じコミュの瑞和のやり方をどう思っているのか、と。
 さっきはバビロンコミュだから、僕が瑞和に持ちかけた話がすぐにバレると――つまり、同じ意見を持って行動していると――思ったけれど、直感でないな、と思い直した。
 だって、そうだ。瑞和はお金儲けの為に円卓も非公認(黙認はしているけれど)の賭博行為に手を染めている。それは良くてグレーゾーン、悪くて真っ黒だ。
 きっと、快く思っていないには違いない。
106 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/18(日) 01:29:07.88 ID:b4Ktf5Kfo
 ――言うべきか、言わざるべきか。
 五人の接続者の力関係はどうであろうとも、アバターの操作権に関してはどれも等しい。
 つまるところバビロンコミュのリーダーである瑞和と、コミュ内の一人である紅緒のバビロン操作権は同じなのだ。
 故にここで紅緒に僕の計画を告げて協力してもらえば、それでもう一つの抑止力になり得るというわけだ。

 瑞和側に何人の人がいるかわからないが、伊沢は確実に含まれる。
 紅緒も真雪も対してお金に欲深そうには見えないし、特に紅緒は先程思った通りだろう。
 唯一分からないのは春さんだ。あの人の考えは読みづらい。どんな状況になってものらりくらりとしそうな、暖簾に腕押し、糠に釘な感じ。
 けれど瑞和が今まで何事も無くギグを動かしていたことからみるに、どういう理由かはわからないけれど春さんも瑞和側だ。

 つまり三人。過半数があつまれば反対意見があったとしてもアバターは動かすことができる。
 だから一人じゃ抑える力にはなり得ない。一見そう見えがちだけれど、実は違う。
 一人が反対意見を出すとそれを抑制するのに一つの賛成意見が必要となる。
 四人接続だったとして、三人賛成一人反対ならば賛成一つが反対一つを打ち消して賛成二つが残る。よって、アバターを動かすことのできるのは実質二人だけ、なのだ。
 三人だったなら何とか戦えるだろう。けれど二人ならそうもいかない。ましてバビロンは『竜型』、きっと細かい動きなど不可能になる。
 一か全か、その程度の動きしかできなくなる。そんな状況でエル=アライラー率いるレギオンに勝てるわけがない。
 結果、紅緒を一人此方側に引き入れるだけでも十分な抑止力になるというわけだ。

 けれど、これには問題が残る。この場で考えられるだけでも既に三つ。
 一つ。紅緒は紅緒で納得はしていないけれど協力はする状況であるかもしれないということ。
 二つ。瑞和、或いは伊沢が裏切り者をすぐに殺すことの出来る人間である可能性があるかもしれないということ。
 三つ。真雪も含めて、相手側は四人かもしれないということ。
 最初と最後のならまだしも、二つ目だと致命的だ。協力を要請したばっかりに死んでしまう確率が生まれる。

 紅緒を見た。
 どうしたんだろうかというような、様子を伺う瞳で見つめ返してくる。
 揺らぐ。
 どうしようもなく、真っ直な正義の味方を犠牲にしてしまうことを見出し、可能性を前に揺らいでしまう。
107 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/18(日) 01:43:52.39 ID:b4Ktf5Kfo
 しかし、しかし、しかし!
 僕に今打てる一手はこれしかない!
 これをしなければ、誰かが、誰かが、或いは誰かが――――死ぬ。

 幻視する。
 例えばアヤヤ。
 例えば瑞和。
 例えば僕ら。
 例えばそれ以外の、見知らぬ誰かが泣いている光景を。

 そして、或いは。
 夜子が――夜子が声をあげて、哭き叫ぶ光景を。

 きっと、これは可能性だ。
 僕がここで何も言わなかった場合に突き進むであろう可能性。
 どうしようもないほど悲劇に満ち溢れた未来。


 覚悟を決めろ、和久津智。
 お前は――僕は、決めたんじゃないのか。
 第三の選択肢に。
 未来のわからない、僅かな道に。
 それならば、例え犠牲が出たとしても――自分が犠牲になったとしても受け入れる覚悟をしろ。


 僕は僕自身を叱咤する。
 そうだ、決めた。僕は願ったんだ。
 どちらに転んでも閉ざされた選択肢を前に。


 それでも。
 それでも――――と。


 そして僕は。
 夜子の前で想ったその覚悟を、今再び受け入れる。
108 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/18(日) 01:44:41.14 ID:b4Ktf5Kfo
    第五幕
    Chapter

  41 戦争前の一大会議
  42 第三の選択肢
  → ???
  43 戦略フェイズ
  44 知らない場所で動く事態
  45 種
  46 ???←次ここ

 矛盾が生じたので>>98の最後の行、『夕焼けが燃える』を『真上にある太陽が照らす』に差し替えます。
 申し訳ございません……orz

 >>102
 少なくともEXTRAはこのルートを終えた後で何卒……


 それでは、このあたりで
 また次回


 ……戦争が遠い。
109 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/18(日) 10:10:30.40 ID:kXkC0ppEo
110 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/18(日) 11:30:34.87 ID:dQXuUF1Eo
111 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/18(日) 14:59:35.69 ID:jsDnsZ9Uo
乙!
わざわざ返信ありがとう、EXTRAもこの√も楽しみにしてます!
112 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/18(日) 15:11:19.21 ID:DzTGrzuLo
113 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/21(水) 03:37:52.04 ID:zgHIARVPo
 こっそーり予告というかクリスマス用のモノを。

 安価は誰を選んでもオーケーです。
 るい智の少女同盟は言わずもがな、真雪や夜子等のコミュ陣や、或いは男性を選んでも構いません。
 無論のことながら姉さんでも、です。

 とりあえず誰になるにしても、24日当日に投下します。
114 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/21(水) 03:38:18.09 ID:zgHIARVPo
 ――朝、目が覚めてから窓の外を見ると雪が降っていた。
 今日の日時は十二月二四日、所謂ホワイトクリスマスイブだ。

 ここも結構な都心だし、雪が降ることは案外少ない。年に一度二度あるかないかなんていつものことで、二桁になれば奇跡だろう。
 まぁそれはそれとして、つまり僕がいいたいのはクリスマスイブに雪が降るのは結構な確率だということ。
 そんな日に恋人同士で過ごせたならばそれはもう幸せなことだろう。

智「……今年は、人事じゃないかな?」

 いつもならば僕はただショートケーキでも買ってきて、料理も腕によりをかけて一人でお祝いをするところだけど。
 今年はそうじゃない。ちゃんとした予定がある。
 なんかふわふわする。気分が高揚している証拠だろう。でも、それも仕方が無いと思う。
 だって、今まではずっと一人だったのだから。いや、一人じゃなきゃいけなかったから。
 秘蜜が知られてしまった時はショックだけれど、ノロイも追ってこないし、こうしてイベントデーを楽しんで過ごせるのだから万々歳だ。

智「さて、と――」

 昨日より用意しておいた服に着替える。白を基調にした服装で、対照的に黒タイツを履く。
 無論のことながら、今日は冷えるらしいから手袋を履くのも忘れない。
 素早く身支度を整えて、鏡に写った自分に笑顔を投げかける。

智「うん、今日も女の子女の子♪」

 いつもなら自己嫌悪に陥るけれど今日はそうもならない。
 それ程までに僕は楽しみにしているらしい。


 >>115と、クリスマスイブを過ごすのを。
115 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/21(水) 06:57:04.49 ID:ND/ELUIDO
るいねーさん
116 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/21(水) 10:43:22.92 ID:6H6EYQXio
男でもおkって、もし瑞和とかになってたら男同士でクリスマス過ごすことになってたのか
あるいはもしれんふーさんだったらと考えると…

るいねーさんでよかったちゃんと相手女の子でよかった
117 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 00:23:04.23 ID:k7h2OBPxo
 →るいと、クリスマスイブを過ごす。


 ――――――――――――――――――――。

 街中、景色や空気はクリスマスムード一色だった。
 サンタクロースの扮装をしてティッシュ配りやケーキの売り込みを見ていると尚更それが強く実感できる。
 流石にコンビニの店員までそんな格好をしているのはやり過ぎだと思うけれど。

 流石に雪が降っているからか道路の中央を走る車の歩みは遅い。
 故に道路がいつもより混んでいて、斜め横断をする人が後を立たない。
 僕の待ち合わせ場所だってそうやって車の間を縫えば少しは速くつくのだけれど。

智「一応、優等生だからね」

 『外出時には制服着用』の校則を破っておいて何が優等生とか思ったりもするけれど、今更な事だし。
 それにしても今日の雪は都会のそれにしては柔らかい。
 水分を含んだ、べちゃっとしたものではなくてなんというかこう、さらさらふわふわとして掌(手袋着用)で受け止めると結晶が目視できるレベルのもの。
 北の方でいうパウダースノウ……とはまた違うのかもしれないし、見たこともないから違いはわからないけど。きっと近しいものなんじゃないかと思う。

 待ち合わせ場所は大きなクリスマスツリーとイルミネーションがある広場。
 その直前の信号待ちをしていたところで、赤くて長い髪をひとまとめにした頭を見つける。
 きっと相手も僕に気付いているに違いない。
 だって、その見えている頭がまるで我慢しているように小刻みに動いているから。ウズウズしてる。
 にへら、とダラしない笑みを浮かべてみる。きっと僕もそうに違いないのだから。

 信号が青になる。
 ゆっくりと人ごみは動き始めて、そして僕らは道路の中心点で交わる。
118 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 00:48:27.96 ID:k7h2OBPxo
 パシン!と軽快な音が鳴り響き、そしてその手は繋がれる。
 意味のないハイタッチ。いや、意味はあったのかもしれない。
 るいは敢えて逆の手で僕のそれを受けて、そのまま手を繋いだのだから。

るい「えへへ」

智「じゃあ、行こうか」

 満面の笑みを浮かべるるいと顔を見合わせて僕はそのまま方向転換したるいの手を引っ張り、信号を渡る。
 渡りきったと同時に、るいは手を離すやいなやなりふり構わず真正面から僕の首に手を回して抱きついてきた。
 反応する暇すら無い。

智「わわっ、る、るい!?」

 さっきのハイタッチといい、今の奇行といい、周囲の視線を集めるには十分すぎる行動だ。
 けれどるいはそんな事は微塵も気にせず、まるで世界に僕らしかいないように振る舞う。

るい「トモ〜、私ね、今日をす―――っごく楽しみにしてたんだよ!」

 至近距離で言うるいの顔は、少しばかり赤い。
 風邪ではないし、僕と近くにいるから赤くなっているというわけでもない。単純に辺りの気温が低いからだろう。
 だから僕は右の手袋を外してるいの髪に軽くつもった雪を払い、その冷たくなっている頬に触れる。
 女の子の柔らかい肌を堪能しつつ、るいの言葉に答える。

智「勿論僕もだよ。昨日の夜は楽しみすぎて直ぐには眠れなかったぐらい」

るい「知ってる。だって私もそうだったもんね」

智「嘘つき。るいなんて布団に入って数秒で寝てたじゃない」

るい「えへ、ばれた?」

 照れ笑いを浮かべるるい。
 目の前で寝ているのだから、当然。
 ちなみに寝てから起きたらるいはいなかった。というのも待ち合わせをしていたから。
 とはいっても実際に待ち合わせをしたらるいは踏んでしまうから、僕が一方的に『何時にどこどこに行くから』と言っただけなのだけど。
119 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 01:27:39.25 ID:k7h2OBPxo
 るいは回していた手を開放して、改めて僕の手を掴んで道を行く。
 冬の外で吹きさらしになっていた手はとても冷たかったけれど、芯は暖かくもあった。

るい「トモの手、暖かいね」

智「手袋履いてたからね。片方だけだけど、るいも履く?」

るい「るいねーさん無敵乙女だから、寒さなんてへっちゃらへっちゃら」

 胸を張るるい。
 でも本人は平気でも、実際には冷たいわけで。
 僕はもう片方の左手の手袋を口に引っ掛けて外してコートのポケットに入れ、繋いでるるいの手に重ねる。

智「でもこうすればるいの手も暖かくなるよ」

るい「それじゃあトモが歩きにくいんじゃない?」

智「そこはほら、無敵乙女の力でなんとか」

るい「がってんしょうち!」

 一体何をするつもりなのかはよくわからないけれど。
 とりあえずるいと僕は、雪舞うクリスマスイブにも周りに負けないほどラブラブだった。

智「そういえば今日はごちそうにしようと思うんだけど、何がいい?ちくまよは勿論作るけど、それ以外で」

るい「私、ちくまよがあれば十分だよ?」

智「それじゃあ僕が満足しないから、ね?」

 そういうとるいはようやく頭を悩ませ始める。
 本当にちくまよだけでよかったみたいだ。なんというか、料理人として料理のしがいがないというか……

るい「んー……あ、じゃあ私アレ食べてみたい!よく漫画とかである、鳥の丸焼き!」

 るいが目を輝かせる。反対に僕は苦笑した。
 当然だ、折角るいが思いついてくれたところ悪いけれど、鳥の丸焼きを作るには沢山の障害があるのだ。
120 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 01:43:54.28 ID:k7h2OBPxo
智「アレは流石に……まず今から鳥一匹の調達なんてできないし、調理場もないし」

るい「花鶏ん家とかじゃできないの?」

智「あそこのオーブンも確かに大きいけど、やっぱり材料がないのがネックだよ」

 できれば要望に答えてあげたいところだけど。
 と思ったところで丁度僕の携帯が震えた。

智「っと、るい、ポケットから携帯とってくれない?」

るい「あいあい」

 僕の両手はるいの左手を温めるのにふさがっているため、るいに頼む。
 辿々しくもポケットから携帯を取り出すことに成功し、内容を告げるようにと続ける。

るい「えっと……あ、花鶏だ」

 噂をすればなんとやら。
 ……なんというか、『そういう予感』しかしないのは気のせいかな?
 いや、多分――当たってる。
 だって、るいの顔が一瞬にして輝きを取り戻したから。
 そして僕は、わかっている答えを確認するようにるいに問いかける。

智「嬉しそうだけど、どうしたの?」

るい「イヨ子が福引で鳥一匹当てたんだって!やるねイヨ子!」

 どんな福引だよ、と。まず思ったのはそれだ。
 そんな都合のいいことが或るわけがない。と次に思ったのはこれ。
 けれど僕らの存在がある以上、可能性があるものを否定できないのも確かなわけで。
 結局、僕はその不可解なまでの偶然を受け入れざるを得なかった。
121 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 01:56:39.15 ID:k7h2OBPxo
 伊代は溜まっていたクリスマスイベントの福引で鳥を当てた。
 けれど家には調理する場所も何も無いし、そもそも生きてるから一人ではやり辛い。
 そこで白羽の矢が立ったのが、僕らも考えた通りの花鶏邸。
 あそこならなんとか調理することもできるし、ついでに皆を呼んで『独り身クリスマスパーティでもやろう』ということになったようで。
 それで僕らにも連絡が来た、と。
 つまり、そういうことらしい。

智「願ったりかなったり」

 先ほどまでこんな偶然或るはずがないと思っていたけど、渡りに船だ。
 るいがご所望していた鳥の丸焼きを出すことが出来る。まぁ、生きてる鳥は捌いたこと無いけど……多分なんとかなるだろう。
 というかそれなら、今から向かわないとした準備とかの関係で間に合わなくなるんじゃ?

智「ねぇるい、それならこれから――」

 ぎゅっ、と。
 僕の言おうとした台詞に先回りして、るいは繋いだ手に力を僅かに込めた。
 見ると、るい犬は物欲しそうな顔でこちらを見つめ返してくる。
 逸らしても、その懇願する視線は変わらない。

るい「くーん、くーん」

智「るい、あの、」

るい「くーん」

智「るい、」

るい「きゅーん」
122 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 02:22:25.14 ID:k7h2OBPxo
 ――ああ、駄目だ。
 ダメというのはるいの意志を曲げることではなく、僕の心が。
 恋人がこれ程に所望しているのに、骨抜きにされてしまっている僕が裏切れるはずがない。

智「……折角の、デートだもんね」

 僕も答えるようにるいの手を握り返した。
 そして携帯を受け取り、花鶏に『用事で少し遅れる』と言う旨のメールを打つ。
 手伝わなかったとか因縁をつけてセクハラを受けるかもしれないけど、きっとるいが守ってくれるだろう。
 ……男としてどうかと思うけど。
 送信して、るいにこれでいいか、と見せる。

るい「さすがトモ!ありがとー!」

 手放しで喜ぶ。
 手を今度こそ解放したかと思いきや、腕ごと抱きしめてきた。
 伊代には及ばずとも花鶏よりは大きいその胸の感触が押し付けられて、身体中の血管が活性化する。

るい「えへへ、トモだーいすき」

 それは、どういうの意味で?
 問いかけようとして、無粋なことに気付く。
 だって、るいはきっとこういうに決まっているから。
 満面の笑みで、なんの屈託もない表情で。『全部』っていうに間違いないから。

 そう思ったら、知らず知らずのうちに僕は笑みを零していた。
 しかしそれを消そうとは思わない。隠そうとすらしない。
 るいと僕は全部が全部、通じ合っているのだから。

智「それじゃあ、まずはどこにいく?好きなだけ付き合うよ」

るい「それじゃあそれじゃあ、まずは――――」

 るいは覚えのある食事処の名前を告げて、僕を再び苦笑させた。



 僕らは類で友だ。
 だからきっと、僕らの関係がこうなることは必然だったのではないか、と思う。
 だって、そうでしょう?



 ――――何故なら、『るいは智を呼ぶ』のだから。
123 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 02:24:24.99 ID:k7h2OBPxo
 おしり……じゃなくておわり。
 実は安価、るいは少し予想外だったり。
 だからクオリティの低さがヤバイ。いや言い訳ですけどねorz

 それではまた次回に。
124 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 02:36:27.16 ID:tkTLFswfo

>>1的には誰が来ると思ってたの?
125 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 10:05:52.70 ID:+hZFIFKAo
126 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 12:00:31.47 ID:k7h2OBPxo
 >>124
 人気度的に茜子さん、姉さん、まゆまゆあたりかなぁと思ってました。
 あとはネタ的に任甫さん。
127 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 12:04:27.60 ID:rizwiaj9o

任甫さん予想されてたのか…見てみたいような見てみたくないような
128 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 14:39:37.00 ID:ZxOZ8ht8o
れんふーさんがOKならもしかしてみやk\パリーン/
まぁ安価狙えたならイヨ子って書くんですけどね!
129 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2012/01/01(日) 00:43:49.12 ID:dSmIclGDo
 無事に画集を買うことはできたが&のグッズは買えなかった……
 くやしいのう……くやしいのう…………

 それはさて置き、あけましておめでとうございます。
 とりあえず冬季休暇(五日まで)が終わる前までに一、二回更新します。
 兎にも角にも、今後共よろしくお願いします。
130 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2012/01/02(月) 15:52:24.01 ID:V5+7bV8do
明けましておめでとうございます
ぼちぼち待ってます
131 :以下、あけまして [saga]:2012/01/04(水) 22:37:19.25 ID:/mFZXWIso
 ――呼ぶ声がした。

 お父さんと、お母さんと。
 それから、夕と。
 私の、大事な、かけがえの無い、家族――だった。

 今はもう、全てが過去のもの。
 だからこれは夢だ、幻想だ。瞬きをすれば消えてしまう夢物語だ。
 ――私は、既にこれらを振りきった。

『夜子』

『夜子』

『お姉ちゃん』

 幻想が、空想が私を呼ぶ。
 そこにあるのは、私の夢見た世界。
 あったらよかったと思う、理想の世界。

 お父さんとお母さんと、それから夕と。
 皆が私に手を伸ばす。
 こっちにおいでと。一緒に帰ろうと。

 私は、既にこれらを振りきった。
 振りきった。
 五樹が振り切らせてくれた。
 だからこんなものはもう必要ない。縋るための妄想なんて私にはもう必要ない。

 それなのに。
 それなのに私はその光景に心臓が高鳴る。
 もしかしてこれは、本当なんじゃないか。
 今までのが全部悪い夢で、本当は皆生きているんじゃないか。
 その、僅かな可能性にかけて、私は呼ぶ。呼びかけてくれたように、呼ぶ。

夜子「お父……さん……、お母、さん…………夕……」

 あらゆる事を理解している、という様に頷く。
 私は、震える手で差し伸ばされた手を掴もうと、手を伸ばして。




 ――――やはりそこで、唐突に目が覚めるのだ。
132 :以下、あけまして [saga]:2012/01/04(水) 22:59:36.79 ID:/mFZXWIso
夜子「…………」

 残るのは『やっぱり』という心の鈍い痛み。
 あと、不自然に伸ばされた手。

夜子「……寝てた」

 ソファーの上で横向きで寝てた為に下敷きにしていた腕が痺れ痛み、それを証明する。
 少し横になっただけのつもりだったのに、つい寝てしまった。
 最近疲れが溜まっていたからだろうか。
 けど五樹に比べたら私なんてなんてことない。今だって五樹は学校に行ってる筈なのだから。

 私はソファーから起き上がり、時間を確かめる。
 ええと、確か朝食を食べたのが六時半で。その後横になったのが五樹が行った後だから七時ぐらい。
 今が十時だから、三時間も眠っていたことになる。

夜子「あわわ」

 いけない、今日だってやることはそれなりにあるのだ。
 『円卓』、ギグの動向調査や戦場の下見。
 あとは少しでも多くの戦力を削る。これは一般人にアバターが確認されにくい深夜限定だけれど。
 大体その二つが私の仕事だ。

 スカーフを締めて、ベレー帽を被る。
 軽く皺になったスカートをパン!と払い、玄関に寂しく残されているブーティーを履く。
 ドアノブに手をかけてから誰もいなくなる部屋に振り返る。

夜子「いってきます」

 絶対に返事は帰ってこないと知っているけれど。
 私はその言葉を置き去りに、携帯に耳を当てながら家を出る。
133 :以下、あけまして [saga]:2012/01/05(木) 00:11:05.92 ID:BKV9gxtAo
 日時が経つのは案外速い。
 気がつけば空は赤く染まり、ふと見あげれば星が瞬く。
 その時間になったなら、もはやそこは私の独壇場だ。
 目が痛くなるほどに輝くネオンの光を尻目に私は唱える。

夜子「――ビグウィグ、起きろ」

 蒼い門から飛び出すのは私が騎士たる証。
 エル=アライラーを守護する九本の剣であり楯。
 9R。
 私が五樹に必要とされる唯一の武器。
 それを振りかざし、ベレー帽のリボンを翻し。私はビルの屋上を飛ぶ。

 今宵の敵はギグ側のアバターだ。
 けれどアイツ……瑞和の命令に従っているわけじゃなくて、五樹と同じように戦争に向けてただ自分を優位にしようとしているだけの奴。
 恐らくは今の内に余計なものを排除しておいて戦争のどさくさに五樹や瑞和を殺そうとでもしているのだろう。
 当然そんなこと、私が許さない。

 けれど何故私がその奴らが今日こうして動くことを知り得たのか。
 それは単純に昼間に仕掛けを、ダミー情報を流しただけの話。
 ギグに参加する大多数はストライダーだ。結社を組むのもいるけれど基本の情報源は接続者同士の情報源に過ぎない。
 レギオン程に大きくなればそこだけじゃなくてあらゆる方向から情報収集は可能だけれど、小さい結社かストライダーなら情報収集は主に二つしか方法はない。
 セーブハウス、もしくはコミュネット。
 その二つにそれっぽい情報を流せば思慮の足りてない馬鹿は簡単に釣れる。
 そんな馬鹿でも、乱戦になった時には一歩ヘタを打てばこちらの戦力を削られかねない。だから先に潰す。

 飛び移った先で私は周りを見渡す。
 誰もいないことを確認して、眼に優しくない光の照り返る眼下を見下ろした。
134 :以下、あけまして [saga]:2012/01/05(木) 00:43:05.56 ID:BKV9gxtAo
 そこには囮として用意した男が二人、壁によしかかってだべりながら何かを待っている素振りを見せる。
 後に来る予定なのは男二人と女一人の三名。
 ダミー情報では、それらはカエサルレギオンの幹部クラスと下っ端の命令伝達ということだけれど。
 実際にはその五人は全員が同じコミュ。陽動として動いてもらうけれど万が一の時に身を守れる様に。

夜子「…………」

 屋上の給水塔影に隠れて息を殺し、様子を伺う。
 三人も待っていた二人に合流し、路地裏に消える。
 その路地裏にその後の逃走経路も既に用意してある。同時に闇に潜んでビグウィグを走らせる。
 予定通り。
 後は囮を殺そうと召喚されて無用心に追いかけてきたところに打ち込む。

夜子「……! きた!」

 路地裏に青白いゲートの輝きが僅かに見えた。
 指定位置にビグウィグを設置して、視覚情報を受け取る。

 ――走り、逃げるような足音、人間のが五つ。
 ――それの数歩後ろ、狭い路地裏を工夫して走る三メートルを超えるアバターが一つ。恐らく『騎士型』。
 ――ビグウィグの切っ先をグルン、と九十度曲げる。飛び出るように月明かりに照らされる位置に到達するけれど誰も気が付かない。

 暗闇に混じる騎士が獲物を追い詰める。
 追いつく。
 その一瞬。追い詰めた、と思わせ、油断が生じるその一瞬こそ、私が待ち望んだ時。

 奔る。
 奔る、奔る、奔る。
 空から一直線に、それはまさしく彗星の如く。
 奔り降る――――

夜子「射貫け、ビグウィグ――――!!」

 一閃。
 雷光が煌き、真上から騎士は落とし斬られる。
135 :以下、あけまして [saga]:2012/01/05(木) 01:02:26.56 ID:BKV9gxtAo
夜子「……おしまい」

 その後の数十秒、ビグウィグをその場に一時停滞させた。
 或いは先程追ってきた騎士型ですら敵を倒したと安心させるための囮かもしれないから。
 今回はその心配はなかったようで、私はビグウィグの召喚を解除した後に囮の役を果たしたコミュに携帯で連絡をかける。

夜子「『ナイト』だ。今回の任務は見事だった、カエサルも賞賛している」

 最後に手を下したのは私で、五樹もそんなこと言っていないけれど。
 私の意思は五樹の意思にほぼ等しい。だから然程問題はない。

夜子「尾行に十分に注意しつつ解散しろ。何かあれば次いで連絡する。以上」

 一方的にこちらからの要件を伝えて切る。
 とりあう必要はない。あちらだってわかっていてレギオンに入っているのだから。

夜子「帰ろう」

 私の姿は恐らく誰にも見られていないだろう。だから気をつけるのはビルから出る瞬間のみだ。
 認めたくないけれど私は子供に見られるらしい。だから企業ビルから出てくると勘ぐられることがあるらしいから。
 周囲に見られていないことを確認しつつ、私はその場を後にする。
136 :以下、あけまして [saga]:2012/01/05(木) 01:23:28.64 ID:BKV9gxtAo
 夜の繁華街を歩く。
 スーツを来た会社員達の集団が行き来し、水商売の女性がそれを捕まえようと躍起になっている。
 一年前は、瑞和はよくここらに居た。
 というか出会ったのは正しくそこだ。

夜子「……最悪だった」

 ちょっとした失態、ミス。
 それで私は五樹が瑞和に貸しを作る原因を作ってしまった。
 今思えば――やっぱりこれは大きな失態だったに違いない。
 五樹が瑞和に執着して、戦争を仕掛けることになるなんて予想もついていなかった。

夜子「やっぱり、瑞和は気に入らないけど」

 仮にも、助けれてくれた人物。
 誰も見向きをしてくれなかった優しい世界で、手をさし伸ばしてくれた数少ない人物。

 だから、というわけではないけれど。
 多分、それが原因ではないのだろうけれど。
 戦う、ということが――なんとなく、もにょる。
 それがどうしてなのか、わからない。嫌いなのに、気にくわないのに――戦いたくない。

夜子「和久津なら――わかるのかな」

 するりと出てくる名前に、私は苦笑する。
 和久津。和久津智。瑞和と同じように知り合った女の人。
 五樹とも瑞和とも違うのに、二人共ともまたどこか似ている。
 きっと、私の今の二番目で。
 そしてまた、どこか、お母さんにも似ている人。

夜子「和久津なら、きっと」

 そう、きっと。
 どんな答えでも教えてくれそうな。そんな気がした。
137 :以下、あけまして [saga]:2012/01/05(木) 01:26:15.03 ID:BKV9gxtAo
    第五幕
    Chapter

  41 戦争前の一大会議
  42 第三の選択肢
  → ???
  43 戦略フェイズ
  44 知らない場所で動く事態
  45 種
  46 騎士の勤め
  47 ???←次ここ

 今回は夜子回。
 久々に出したアバターがビグウィグというね。というかそれよりも信頼度の高さが半端ない。
 一年も付きあえばこうなる……よね?

 というわけで次回に続きます。
138 :以下、あけまして [sage]:2012/01/05(木) 03:08:23.25 ID:b2mJruZyo
乙!
139 :以下、あけまして [sage]:2012/01/05(木) 03:15:08.21 ID:fonKtCYOo
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/06(金) 07:08:44.40 ID:rjw9wziIO
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/01/14(土) 23:37:51.97 ID:58cekySio
 やばいやばい、なんか超難産。
 いや大体の展開は思いついてるんだけど細かい部分(全体のキャラの動き)を全部書くと時間が行ったり来たりで見づらいなーとか思ったり。
 そんなわけで困ったときの安価です。

 >>142
 1 繰莉
 2 紅緒
 3 伊代
 4 ???
142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2012/01/14(土) 23:39:41.02 ID:x1nPG2Gio
空気を読まずに3
143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/01/14(土) 23:44:04.90 ID:58cekySio
 おおう予想以上にお早い反応。
 伊代把握。少女同盟側の動きの要です彼女は。断じて空気よめないわけではない(ry

 そしてもひとつおまけ

 ※おしらせ※
 一年経過したため、
 EXTRA5 『真耶「智が相手してくれないから安価で未来を導く」』
 が解放されました。

 時間余った時のお遊びにご活用ください。
 では書き始めます。
144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/01/15(日) 00:06:03.46 ID:BkRZ1+Zso
 わたし――白鞘伊代はペンを置いた。
 時刻は午前零時を丁度回る。
 誤解なきようにいっておくけれどいつもはこんな夜遅くまで起きていない。
 とはいっても時折、勉強が長引いた時にはこんな時間になったりしたりすることもあるから、この『いつもは』というのは大抵の場合、という意味であって。
 そう、殆どの場合に置いては午前零時前には勉強を終えて明日の学校に備えて就寝する、という意味だ。
 だから、いつもならこのペンを置いた時点で眠りに入るのだけれど。
 残念ながら、今日は違うのよね……

伊代「全く、あの子ったら本当に人使いが荒いんだから」

 愚痴るその言葉は思いの他、卓上ライトしか点灯していない部屋に響いた。
 あの子。フルネームで花城花鶏。
 わたし達の中で最もプライドが高くて、傲慢で、自信過剰気味なクォーターの同級生。
 大食いの――ええと、るいとよく喧嘩をする割には、彼女の事を含めて仲間の事を意外と大事に思っている人。
 最も、面と向かってそんなことをいったら何をされるかわかったもんじゃない。
 今日……ああいや、もう昨日か。昨日だっていきなり回りこんできたと思ったら、わたしの、この、むね、胸を…………

伊代「…………はぁ」

 非生産的。あの同性愛嗜好さえなければ。
 この胸だって、わたし好きで大きくしてるわけじゃないのよ?それなのに周りは勝手に羨ましがったり妬んだりにやけた顔で見てきたり……
 ……やめよう。今は、そんなこと関係ないから…………はぁ……

伊代「それよりもこっちね」

 頭を切り替える。
 机の上に広げていた教材や筆記用具を鞄の中にしまって、代わりに借りてきたノートパソコンを取り出す。
 花鶏がわたしに振った役割はいつもと同じ、『情報収集』。
145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/01/15(日) 00:40:04.55 ID:BkRZ1+Zso
 コミュ――智や央輝が関係している出来事に、わたし達はそう簡単に立ち入ることができない。
 一年前に追いかけていった時の、アバターギグ、だったかしら。
 あそこには一般人も見物に来るらしいけれど、あいにく私達には伝手が智達ぐらいしかないから全くもってわからない。
 けれど以前に聞いたことも覚えているし、一年前には何度か覗いたこともあったから忘れるはずはない。
 そのコミュの情報は、インターネット上の特別な掲示板でやり取りされていることを。

 携帯の電波を受信するUSBを差し込んで、起動。
 同時にキーボードに手を置く。

伊代「………………」

 パソコンの起動音、卓上ライトの灯り。
 それだけがある暗闇の部屋の中で、わたしは深呼吸を一つする。
 わたしはフェアを求める。世の中はアンフェアで、フェアなことなんて殆ど無いけれど、だからこそわたしはフェアを求める。
 だから不便な〈呪い〉を背負っているとしても、フェアじゃない、それを使いたくはなかったけれど。
 わたしは、〈才能〉を使う。

 『悪法も法』――そういったソクラテスを、わたしは好まない。
 悪法は悪。それ以上でもそれ以下でもない。
 けれど。だけど。それでも。
 仲間の為、なら。
 痣で、〈呪い〉で、同じ思いで繋がった親友達の為なら。
 わたしが動かないことで万一の事が起こってしまうなら。

伊代「別に、構わないじゃない」

 独善的な正当化。
 そんなのは、誰でもなくわたしが一番わかっている。
 けれど、仕方ながないじゃない?

 わたし達はやっぱり、類で友なんだから。
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/01/15(日) 01:04:20.47 ID:BkRZ1+Zso
 集中する。
 わたしの全てを、それで満たす。
 眉間の裏に、チカリと、電流のような何かが瞬く。
 瞬間、ありとあらゆる情報がわたしの脳裏を通り過ぎていく。

 手に取ったものをうまく扱うことの出来る能力。それがわたしの〈才能〉。
 例えば、知恵の輪だったら簡単に解けたり、何かのパスワードも一瞬でわかったり、ハンドルを握れば運転の仕方がわかったり。
 そういえば、智が『道具の最適化能力』とか言ってたような気がする。うん、それが一番しっくりくる。
 あとは車とか銃とかならわたしの運動神経に左右されたりもする。けど逆にそういったものを使わない、パソコンとか携帯とかなら、それこそなんだって出来る。
 一般人に見つけられないサイトを探すことなんて三十秒もかからない。

伊代「みつけたわ」

 コミュネット。間違いない、以前に智に教えてもらったことのある掲示板だ。
 教えてもらった時のメールが残っていればこんな気苦労せずには済んだのに。

伊代「過ぎたことを言っても仕方がないわね。兎に角、速く済ませましょう」

 複数に並ぶスレッドを上から下まで一気にスクロールする。
 それだけで中身を把握する。どんな話題が流れ、どんな雰囲気になっていて、どんな話が繰り広げられているかを。
 けれど、とりたてて探す必要はなかった。
 なぜなら、その情報は一際目立ったものだったから。

伊代「『戦争』……?なんか物騒な単語ね」

 その情報に目を止めて、わたしは能力を通さずに吟味する。
 復活したアバターギグと、カエサルレギオンという結社の戦争が起こる直前、らしい。
 荒れに荒れ、殺伐とした空気になっている中で、わたしは〈才能〉の力で一つの流れを誘導している彼、または彼女を見つけた。
 それは、あたかも戦争前に血気盛んなコミュを引っ張り出そうとしている、そんな流れに誘導しようとしている人。
 わたしは、それになにやらきな臭いものを感じた。

伊代「……何かあるわね」

 それの誘導をしているそれぞれが単発IDなのに、そのIPが同じなのはおかしいにも程がある。
 今まで手に入れた情報を携帯に接続して転送しつつ。
 わたしは疑念を感じたそれを探しに、広大なネットの海に再び潜る。
147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/01/15(日) 01:07:11.31 ID:BkRZ1+Zso
    第五幕
    Chapter

  41 戦争前の一大会議
  42 第三の選択肢
  → ???
  43 戦略フェイズ
  44 知らない場所で動く事態
  45 種
  46 騎士の勤め
  47 知らない場所で動く事態2
  48 ??? ←次ここ


 今週から期末テストなので来週の更新は望めないかもです。
 しかし&は延期かぁ……少し残念。
 けど楽しみに出来る期間が伸びたと思えばいい……のか?
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/01/15(日) 01:22:32.65 ID:8ic59tsmo
乙。
149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/15(日) 01:26:26.25 ID:jrrBPCDvo
150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2012/01/15(日) 01:46:12.06 ID:n0iSTaUBo

やっぱり俺のイヨ子は可愛いな!
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/15(日) 02:09:42.47 ID:afe4JxcGo
乙乙。&早くやりてーなー
152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/01/16(月) 02:15:28.10 ID:L0ULsBmqo
延期マジか…知らんかった残念
153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) :2012/01/18(水) 12:58:07.86 ID:JWYzGD8AO
乙ー。
154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/04(土) 22:38:40.11 ID:44CBCNugo
 おまたせ致しました
 明日の昼間か夕方過ぎに更新する予定です
155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/04(土) 22:39:33.38 ID:tMU9JqQUo
楽しみに待ってます
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/05(日) 14:05:41.44 ID:mkM3qIeko
 ――――僕が居た。


 僕は目の前に鎮座する僕をただ見下ろしていた。
 ここはどこだ。君は誰だ。僕はなんでここにいる。
 そんな疑問すらも忘却の彼方へと消えてゆく。
 今まで見たことも着たこともない、高級そうな着物を見にまとっている僕。
 その僕は傍らで見ている僕を一瞥もせずに何かを言っている。

智「■■、■■■■■■■」

 僕、だ。
 どんなにこれが非現実で有ろうと、それには違いないのに。
 僕はどうしても、僕を僕と思えない。

智「■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」

 だって僕は、こんな理解の出来無いことを喋らないから。
 自分自身にも理解の及ばない言語なんて使えないから。

智「■■■、■■■■、■■■■、■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■」

 ■■の■■が濃い。
 まるでその一つ一つに■が■■■あるかのように。■■一つとっても■■。
 だから■■■■■■のか、それとも■■■■■■■■■のか。

智「■■■■■■■、■■■■■■■■■■■。■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■」

 ■■■、と■■が■■。
 これが■■の■■と■■■■なの■■■か。
 そしてようやく■■する。
 ■は、■が■■■■の■■を■■■い■と。

智「……■?」

 ■■、■■■■■。
 ■?■■■、■■?
 ■■■■■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■。
 ■■■■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――――

智「……■■■■■。■■■■■。■■■■、■■■■■、■■■■■■――――」

 ■■■■■。
 ■■■■■■■■、■■■■■■■■、
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/05(日) 14:26:52.92 ID:mkM3qIeko
智「……っ」

 見慣れた天井。
 ちゅんちゅん、と窓の外から聞こえてくる雀の声と陽の光。
 否応無しに僕を現実へと引き戻す。

 額を抑えながら上半身を起き上がらせる。
 見渡す。
 そこは本当に見慣れている、僕の部屋だ。
 ガラスのテーブルと、バネがイカれているソファー。キッチンの方に目を向けると一人暮らしをする際に購入したトースターもある。
 まごうこと無く、僕の部屋だ。

智「…………夢?」

 唐突に誰かに文句をつけたくなった。
 強迫概念に迫られて強制的に起こされたに近い僕の心象はすこぶる悪い。
 そもそもなんであんな嫌な夢を…………

智「ん?」

 嫌な夢。そう、嫌な夢を見た。
 それなのに内容をすっかりと忘れてしまっている。ただ嫌な夢を見た、ということだけ覚えている。

智「まぁ、嫌な夢なんだから態々思い出すことは無いと思うけど」

 僕は決してマゾではないのだし、嫌いなことを進んでやる性癖なんてない。
 そんなのは花鶏だけでお腹いっぱいだ。花鶏もマゾというわけではないけど。

智「とりあえず、起きるとしますか」

 今日も今日とてやることは沢山ある。
 それはもう、学校なんて出てられない程に。
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/05(日) 14:30:05.18 ID:mkM3qIeko
 少ない、少ない……それなのに気力がないとは何事…………
 夜に続きます
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/05(日) 22:38:03.96 ID:mkM3qIeko
 ごめん眠さがパない
 続くとか言っておいてできなかったマジごめん

 それと誰か見てたら聞きたいんだけど、今更だけど視点変わる時って先に人名入れたほうがいい?
 side○○みたいに。
 多分戦争が始まるまで小刻み(約一レスごと)に視点が変わりそうな勢いなので……
160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/02/05(日) 22:42:12.77 ID:sCmd/d8ro
入れてくれたほうが混乱しないかな
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/05(日) 22:57:19.49 ID:B46Vbg8Eo
人名は入れてあると把握しやすい
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/12(日) 22:01:44.30 ID:3IbwCkvTo
 把握しました。
 今日は余裕無いので明後日に書くけど、今年はバレンタインイベントいらないよね
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/12(日) 23:11:17.70 ID:gfBZRyAGo
バレンタインイベントはほしいよ。
164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/02/12(日) 23:26:12.38 ID:G97TH3i+o
バレンタインイベント見たいなー
165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/13(月) 01:06:35.52 ID:TnsPT8BRo
 >>163-164
 バレンタインイベントは去年書いたじゃないか!
 これ以上何を求めるというんだ……!?
 なんて冗談はさておき、望まれたなら仕方がない。

 自由安価(男は×)、といいたいところだけどそうすると俺の好きなキャラが中々こないんだよね!たまには特権使ってもいいよね!
 ってことで明日の昼12時までに↓四つまでキャラ自由安価(ただし男は除く)、その後>>1の好きキャラを加えた五名でコンマ一桁(つまり確率は五分の一)で決めます。
 ↓四つまで満たなかった場合には>>1が適当に決めますので悪しからず。
 あと好きキャラがダブるほど見てる人は多くないと思うけど同キャラを書きこんで確率上げるのは禁止です。ダブった場合は下にずれる方向で。
 というわけでage
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/02/13(月) 01:11:12.40 ID:WkhokTvko
宮和
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2012/02/13(月) 01:17:58.54 ID:NhMahQ56o
イヨ子
168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/13(月) 08:07:54.93 ID:MTHrA9pto
花鶏
169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/02/13(月) 09:15:13.31 ID:T5cwXfZ9o
真耶
170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/02/13(月) 09:33:37.67 ID:ZtAwdA8AO
 コミュメンが一人もいないな……
 ってか俺がねじ込もうと思った真耶がいれられている……だと……
 ……それじゃこのレスでコンマ一桁が1〜4ならまゆまゆ、6〜9なら夜子、5ならカゴメ、0なら密が残りの枠。
 カゴメか密の場合は相手は暁人、まゆまゆか夜子の場合は選択式になります。


 >>171のコンマ一桁
 0か4:宮和
 1か3:伊予
 7か9:花鶏
 2か8:真耶
 5か6:このレスで決まるキャラ
171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/13(月) 11:37:08.32 ID:6VbLAcnIO
どうだ
172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/02/13(月) 12:50:33.30 ID:ZtAwdA8AO
 2ということで真耶さんですね。
 これは幸せ和久津姉妹劇場が来たる……!

 ではまた明日にお会いしましょう。
173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/02/13(月) 21:24:56.08 ID:T5cwXfZ9o
よっしゃああああああ
174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2012/02/13(月) 22:59:10.74 ID:NhMahQ56o
悔しいけど真耶様なら仕方がないなwwww
175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/02/14(火) 08:59:46.79 ID:Wkiykwowo
うおおおお真耶姉さんきたで!!
引き寄せたなこれは…
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/15(水) 18:54:31.86 ID:WwVjYAOYo
 バレンタイン過ぎちゃったね!
 これは書かなくても仕方が無いよね!ね!
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/15(水) 19:27:59.26 ID:dvO0u2obo
俺の中ではバレンタインはまだ終わっていないので書いてください。
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/02/15(水) 19:38:54.43 ID:QZI7foXYo
バレンタインが過ぎたならホワイトデーを書けばいいじゃない
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/15(水) 20:51:29.34 ID:JoBjbCPSO
真耶様がチョコレートを渡せずにいたという流れで
180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/15(水) 22:02:19.83 ID:WwVjYAOYo
 なんて、嘘なんですけどね。
 ではバレンタイン編を始めましょう。
181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/15(水) 22:18:20.20 ID:WwVjYAOYo
「智……智……?」

 聞きなれた声が僕を揺さぶる。
 ダブルベッドを今の状況では一人で占領している僕としては、やはり布団というのは恋しがたいものだ。
 まして、まだ寒さの残る二月となれば尚更。

智「ううん……後五分……」

「智ったら、そんな事言ってると遅刻するわよ」

 布団を深く被り埋まる僕からそれを引き剥がそうと無理矢理に引っ張り、遂に僕はそれを剥がされる。
 暖かかった布団様は消えて代わりに室内の微妙な空気が僕を包み込んだ。

智「さむっ……!」

「もたもたしてるから寒いのよ。さっさと着替えてしまえば姉さんみたいに平気になるわ」

智「そうだけど……やっぱり寒いものは寒いものでして」

 答えると、布団を四つ折りに畳む僕の双子の姉さん――和久津真耶は呆れたように言う。

真耶「全く、智ったら。それじゃあ姉さんがいなくなったらなんにもできないわね?」

智「僕ってそんなに頼りないかな」

真耶「ええ、とっても。少しでも目を話したら車に撥ねられてしまいそう」

智「そこまで!?」

真耶「ほら、早く着替えて。智の分の朝ごはんはもう出来てるから、今からパンと味噌汁を持ってくるわ」

 そういうと姉さんはキッチンの方へ消える。
 二人で使うガラステーブルの上に置いてあるのはベーコンエッグとソーセージだ。
 これにパンまではいいと思うのだけれど、味噌汁は不協和音を生み出してる気がしてならない。
 それでも香ってくるその匂いを嗅ぐと、どうしても唾液がでてくるけれど。
182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/15(水) 22:29:31.88 ID:WwVjYAOYo
智「姉さん、朝ごはんなら僕が作るから起こしてっていつも言ってるのに」

真耶「あら、起こしても起きないのはどこのどなただったかしら?」
    それに智が起きてこない時でもないと姉さん、台所に立たせてもらえないじゃない」

智「いやだって、姉さんよく火加減間違えるから焦がすし。正直僕が作ったほうが美味し……」

真耶「……何か、言ったかしら?」

 ゾク、と薄ら寒いものを感じる。まだ寝間着を脱いでも居ないのに。
 やられる。思うより先に口が動いた。

智「ボク、ネエサンノオリョウリガタベタイナー」

真耶「あらそう?それじゃあさっきのは気のせいだったみたいね」

 冷や汗がどっと流れた。
 危ない。頭の働いていない朝はよく口を滑らせてしまう。
 しかしそれでも普通に言葉が流れた。慣れって怖い。

真耶「おまたせ。智はマーガリンでよかったのよね?」

智「うん、ありがとう姉さん」

 僕は最早食べる前に着替えるのを諦めてテーブルに付く。
 対面についた姉さんと顔を合わせて、手を合わせた。

智「頂きます」

真耶「頂きます」

 今日も今日とて、お馴染みの日常が幕をあける。
183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/15(水) 22:45:28.41 ID:WwVjYAOYo
 ご飯も食べ終わり、姉さんが片付けている内に僕は制服に着替える。
 姉さんと全く同じ制服姿。鏡を見てタイを整える。
 僕と姉さんは双子だから同じ姿をしてしまえば瓜二つだ。違うのは髪の長さぐらいのものに違いない。
 多分、スリーサイズも同じ……だと思う。我が姉ながら情けないと思うけれど。

真耶「智ー、今何かいったー?」

智「う、ううん!何もいってないよ!?」

 姉さん怖い。
 怖いものなんて目じゃないぐらい怖い。
 未来でも知ってるんじゃないかってぐらいに怖い。

真耶「……こっちは終わったわ。智は?」

智「準備おっけーだよ」

真耶「そう、それじゃあ行きましょう」

智「うん……っとと、姉さん先に靴履いてていいよ」

真耶「どうしたの智……ってアレね。わかったわ、外に出て待ってるから」

 うん、と生返事を返して冷蔵庫の戸を開く。
 危うくとりわすれるところだった。
 今日の為に一人前だけ用意しておいたチョコレート。
 いつもお世話になっているあの子(昨日まで散々欲されたから)にプレゼントするものだ。

 何故なら今日は二月十四日、世間一般で言うバレンタインデーなのだから。
184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/15(水) 22:58:12.04 ID:WwVjYAOYo
 外に出ると何やらアパートの前で姉さんが警戒態勢をとっていた。
 何かと思い視線の先を辿ると、そこにはこのアパートのゴミを出す場所がある。
 それだけなら。それだけならよかった。
 それなのにそこには――――『奴』がいた。

「……おや、おはようございます和久津さん方。いつもながら、姉妹仲がいいですね」

真耶「ごきげんよう」

智「ご、ごきげんよう。そ、そちらもお元気そうで」

 さり気なく姉さんの影になるように移動する。
 『奴』――彼は僕らの隣の部屋に住まう任甫さん、という。
 いつも資源ごみの日――即ち今日だ――には女装男子、男の娘モノの漫画やら雑誌やらを息を吸って吐くように捨てる姉さんとは別の意味で怖い人だ。
 ……僕の、天敵だ。
 だから姉さんも十二分に警戒を払っている。

真耶「それでは学校なので、失礼します。いきましょう、智」

智「う、うん。失礼します」

 そそくさと、先を行く姉さんの後を追う。
 僕らのどこを見ていたのか、後ろから『あれで男ならばな……』という声が聞こえたような気がした。


 寒気がする。

185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/15(水) 23:17:11.56 ID:WwVjYAOYo
智「あの人、いつもいつも心臓に悪いよ……」

真耶「そうね、もしかしたら智がそうだとバレてしまったら地下室監禁調教もきっと夢じゃないわね」

智「夢じゃないってなんか言葉間違えてない?」

真耶「あら、そういうこというの?姉さん、ショックで口が滑ってあの人に智は実は男なんですって言ってしまうかもしれないわ」

智「それは洒落にならないから本当にやめて!?」

 そう、今更だけど僕は男だ。
 男だけど、スカートで、女生徒で、お姉様だ。
 どうしてか、といわれても別に理由など存在しない。ただ姉さんに入学する際、

真耶『あ、そうそう。智は女ってしておいたから』

 と言われた。拒否権などなかった。
 別に本当の性別がバレたら死んでしまう呪いなんて背負っているわけでは断じてないのだ。
 そのくせ、姉さんはスカートで、女生徒で、お姉様だ。
 理不尽を感じる。少なくとも僕がこの格好である以上、姉さんは男子の制服を来て然るべきなのに。
 ……それはそれで似合っていそうで、少しだけ腹が立つ。

 前を行く生徒が、男女問わず振り返る。
 入学してもうすぐ二年、僕らは全校生徒の間で『美人双子お姉さま』として有名となっている。
 今は登校中だから人の目も多くて声をかけるにかけれないだろうけれど、学校についたら勇気のある子はチョコレートを渡しにくるはずだ。
 僕も男の格好でそれを貰えたら嬉しいのだけどね……
 と、そんなことを考えながら歩いていると、目の前からすっ、と見知った顔が飛び出してきた。

186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/15(水) 23:32:07.10 ID:WwVjYAOYo
「おはようございます、和久津さま。真耶さまも、おはようございます」

智「おはよう宮。相変わらず僕は和久津さま、なんだね」

「当たり前です。宮にとっての和久津さまは、名前で呼ぶことすらも眩しく、眼前にしてしまえば息が詰まるほど愛している存在なのですから」

 それを聞いて、僕と姉さんは顔をあわせて苦笑いする。
 彼女は冬篠宮和、僕の一年の時からのクラスメートだ。
 自称僕の最強のストーカーであり、きっと僕に関しての知識量なら姉さんとタメを張れると思う。
 その姉さんについては、僕と似ている姉であるということで一応は崇拝の対象らしいけれどやはり一番は僕らしい。
 ……乙女心って、わからない。

宮和「和久津さま、真耶さま。宮もご一緒してよろしいでしょうか?」

智「断る理由がないよ。ね、姉さん」

真耶「……そうね。智が言うなら、仕方が無いけれど……その代わり、一つ条件を出させてもらってもいいかしら?」

 珍しい、姉さんがそんな条件を出すなんて。
 宮和もそう思ったのか、少しだけきょとんとした後にしかしそんな顔をしたことを微塵も見せずに笑顔で承諾する。

宮和「はい。なんなりとお申し付けください」

 すると姉さんは笑みを浮かべた。
 本当に珍しいな、今日の姉さん。気分でもいいのかな?

真耶「そう。それじゃあ後で話すわ。ここじゃ、人目が多すぎるし」

宮和「そうですね。それでは参りましょう」

智「うん。今日は日が日だから、話し込んでると人ごみもできそうだしね」
187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/15(水) 23:53:29.10 ID:WwVjYAOYo
 玄関先について、僕らと姉さんは別れる。
 姉さんは色々やることがあるらしく(何でも来年の為の根回しだとか)、宮に『また後で』と告げた後、下駄箱のチョコを回収して去っていった。
 姉さんのそのお願いごとは気になるけれどきっと二人の秘密になるに違いない。僕の前で言わないということは往々にしてそうなのだ。

 僕も下駄箱を開ける。するといくつかのチョコレートがこぼれ落ちた。
 ……去年も思ったけれど、最後に入れた人はどうやって詰めたのだろうと気になって仕方がない。
 ふと宮和の方をみると、宮和も数個のチョコレートを手にしていた。
 僕らとは違う宮和も別の層から人気がある。独特な思考ルーチンな天才さん基天災さんは今日も絶好調だ。

智「宮も沢山貰ったね」

宮和「はい、そうですね。しかし宮にはこれらのものより、万金に値する和久津さまのチョコが欲しく存じます」

智「あはは、じゃああげるよ」

 綺麗にラップされたチョコと入れ替えに、僕は少々笑いながら透明な袋に入れておいたトリュフチョコを宮和に差し出す。
 飴と鞭ではないけれど。
 たまにはいつも僕のフォローをしてくれる彼女に労いの言葉をかけるのも悪くないだろう。
 ちなみに姉さんには作った出来立てをあげた。とても好評だった。

宮和「……これは」

智「今までありがとう。それと、これからもよろしく」

 とりあえず受け取った宮和は、受け取ったものが何だか理解するまで時間が要した。
 次の瞬間には正しくパァッと例えるのが相応しい程に咲いた笑顔と共に、宮和はそれを優しく抱きしめる。

宮和「……ああ、和久津さま。宮はうれしゅうございます、和久津さまのお気持ちが、暖かく、宮はこのチョコレートのように溶けてしまいそうです」

智「そんな大袈裟な」

宮和「いいえ、決して大袈裟ではございません。孤高なる和久津さまが宮に、宮の為に作ってくれたと思うと……ああ、宮は、宮は……!」

 いけない。
 危険を察した僕は宮和を無視して教室への道を歩き始めた。

宮和「ああ、お待ちください和久津さま。宮はまだ和久津さまへの想いを全て語り尽くしてはございません」

 待てない、待てない。
 何故ならいつもの日常と少し違う今日という日はまだまだ続いてゆくのだから。
188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/15(水) 23:54:44.01 ID:WwVjYAOYo
 前編終わり、後編へ続く!

 ……あっれぇ何故か宮主体になってるよ?
189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/02/16(木) 04:45:30.79 ID:MsxCn+fIo
乙。さあ早く後編を
190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/02/16(木) 08:40:59.81 ID:TmC0wN5Xo

待ってる
191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/16(木) 09:21:49.97 ID:fDUiv70Jo
192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/16(木) 13:55:41.06 ID:XDNTXxK5o
 昼休み。姉さんは宮和を連れてどこかへ行ってしまった。
 仕方がなしに購買で購入したパンを手に一人で彷徨く羽目となる。
 そうしたら、まぁ。出てくる出てくる。 

後輩女子A「和久津先輩!こっ、これバレンタインのチョコです!受け取ってください!」

後輩女子B「わっ、私のもよろしくおねがいします!」

智「あはは……ありがとう、大事に食べさせてもらうよ」

 これでもう三、四つ目。朝のと分と合わせると二桁は下らない。
 きっと姉さんも同じ分だけもらっているのだろうか。おそらくそうだろう、彼女らがもう一つ手に持っているそれは僕の貰ったものと同じだから。
 きゃあきゃあと黄色い声を上げながら去っていく後輩達を見送り、僕は溜め息を零す。
 これじゃあおちおちご飯をゆっくり食べることもできない。

智「……そうだ、中庭にでも行ってみようか」

 あそこなら草陰もあるし、一人だけなら隠れて食べられるだろう。
 きっと邪魔される心配もない。
 南館と北館をつなぐ渡り廊下からぐるりと回って中庭へ。その間にプレゼントは二つ程増えた。
 その中庭には至って健全な交際をしているだろうカップルがいくつかと、同性同士のグループが一つ二つ。
 これならば然程問題はない。
 僕は知る限り校舎から見えにくい草むらの影に隠れる、すると――

智「おや?」

「……ん?」

 先客が居た。
 黒くて綺麗な髪を後ろで纏めた後に幾つも編んでいて、更にこの学園には珍しく服を着崩している。加えてつり上がった目付きが印象的だ。
 そんな彼女は木によしかかり、片手を頭の後ろに回してもう片手で本を読んでいた。
 ここは日の当たらない木陰で、周りからも確認しづらい。リラックスするにはうってつけの場所だけれど……少しリラックスしすぎじゃないだろうか。
 観察している僕を訝しげに思ったのか睨みをきかせ、本を閉じて軽くドスの聞いた声で僕を威圧する。

「なんだオマエは、ここはあたしが先に使っているんだ。用がないなら他を当たれ」

智「まぁ、そのようですが。生憎僕にもそれなりに事情ってものがあって、人目を避けてご飯を食べなければならないのでして」

「はっ……なんだそれは」

 彼女は小馬鹿にしたように嗤う。
 しかしなんとなく不快感は感じない。何故だろうか。
 というか僕の事を知らないみたいだ。いや、知っていて欲しいというわけではないけれど、それでも知らないのは珍しい。

「まぁいい……あたしの邪魔をしないなら、別に何をしてても構わん」

智「ありがとう、ええと……」

「央輝だ。尹央輝」

智「ありがとう、央輝さん」

 お礼をいい、僕は焼きそばパンの包みを開いた。
193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/16(木) 14:05:32.65 ID:XDNTXxK5o
 風に木陰が揺れる。一歩踏み出せば大きな声で聞こえてくる談笑は、ここではとても遠くに聞こえた。
 一つしか買ってこなかった僕は直ぐにパンを食べ終わり、暇を持て余して目の前の央輝さんを見ることにした。
 僕に見られても動じていない、或いは気づいていないだけなのか。
 ともすればこの学園には珍しい不良に見えなくもないが、この一シーンを切り取ればとても絵になる気がした。

央輝「……なんだ。あたしの顔に何かついてるか?」

智「眼と鼻と口と……」

央輝「そういうのはいい」

智「そう?それじゃあ、特に何もっていうのが正しいかな。でも、とても綺麗だからつい見とれちゃって」

 僕にそういわれると面食らったように目を丸くした。
 そして顔を少々赤らめる。

央輝「ばっ、馬鹿かオマエは。お世辞を言っても何もでないぞ」

智「お世辞じゃないんだけどなぁ」

 うん、本当に綺麗だと思う。
 クールビューティ、とでもいうのだろうか。いや、少し違うかな?
 けれど少しだけ日本人離れした央輝さんは、僕には魅力的に映った。

智「そうだ、ここで会ったのも何かの縁だし、少しだけ食べるのを手伝ってくれない?」

央輝「食べる?さっきオマエはパンを食べていただろう」

智「そうだけど、今日という日だから貰うものが沢山あってね。一人じゃ食べきれないから」

 そう言って、僕はカバンの中から複数のチョコレートを取り出す。
 それを見て一瞬合点の言ったような表情を浮かべた央輝さんだったが、直ぐに疑問にぶち当たったようだ。
194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/16(木) 14:15:54.73 ID:XDNTXxK5o
央輝「待て。バレンタインだというのはわかった。が、オマエは女だろう?どうしてこんなに貰ってるんだ?」

智「最近は友達に渡す友チョコや、お世話になってる人に渡す世話チョコなんてものもあるんだよ?まぁこれは友チョコでも世話チョコでもないけど」

央輝「……? どういうことだ?」

智「そういえば、自己紹介してなかったね。僕は二年生の和久津智。央輝さんは、和久津家の美人姉妹……ってきいたことないかな?」

央輝「ああ……クラスの奴が噂をしていたのを聞いたことがある。ということはオマエがそうなのか?」

智「とっても不本意だけどね。僕の目標は、草木のように平和に過ごしていくことだから」

央輝「ふん……どちらの立場においても、それがそう簡単に掴めないっていうのはどうやら本当らしいな」

 皮肉げに央輝さんは笑った。
 僕が彼女の言った事の意味に対して考えを巡らせていると、僕の開けたチョコレートを一つ、彼女はとって口に入れた。

央輝「貰っておいてやろう。和久津……でいいのか?あたしはこっちに来てから日が浅いから呼び方がよくわからん」

智「うん、和久津でいいけど。僕には双子の姉さんもいるから、どちらかというと智って呼んでもらえた方がわかりやすいかな」

央輝「そうか。それじゃあそう呼ばせて貰う」

智「うん、それじゃあ僕も央輝、でいいかな」

央輝「……好きに呼べ」

 今日の昼休みは、中々充実した出会いがありました。


 後に、彼女……尹央輝がつい最近一年生に転入してきた後輩だと知るのは、また別の話。
195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/16(木) 14:25:53.93 ID:XDNTXxK5o
あやめ「それでは、本日はこれまで。号令をお願いします」

緋本「起立、礼」

 粛々とHRが終了し、帰宅時間となる。
 この後思い思いに散らばった皆は部活なり遊びなり、好きなように放課後を過ごすのだろう。
 さて、今日の僕はどうしようか――そう考えた矢先だった。

宮和「和久津さま」

智「わっ」

 鞄を持ち上げた瞬間を宮和に捕まえた。
 そしてそのまま、ぐいぐいと僕を力強く引っ張る。

宮和「本日は真耶さまから許可がでましたので、和久津さまとデートでございます」

智「えっ、えっ!?何それ、何それ!?」

 そんなの聞いてないよ!?姉さん一体なんの許可を出してるの!?
 僕のそんな疑問は宮和にも、勿論姉さんにも届かず。
 僕は宮和に連れられて彼女とデートをする運びになってしまった。
196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/16(木) 14:44:17.46 ID:XDNTXxK5o
 駅の向こう側は、学生で賑わっていた。
 とはいっても勿論南総学園の生徒は少ない。校則に『買い食い禁止』や『寄り道の禁止』があるのだから当然だ。
 それだけでは無視する生徒もいるが、時々先生が抜き打ちで見まわるから気が抜けない。
 だから少ない、ではなく僕らに見えない場所にいる、というのが正しいだろう。

智「宮、どこへ行くとか決めてるの?」

宮和「和久津さまとなら、どこへでも」

智「いやいや、そうじゃないでしょ」

 確かに割とどこでもよさそうな感じだけれど。
 宮和ならナチュラルに危ないところに僕を連れ込みそうだ。
 だから先に確認しておくのが一番いい。

宮和「そうでございますね……オフィーリア、は如何でしょう?」

智「あのガトーショコラの、だよね?いいよ、そこにしよう」

 オフィーリアは駅からほど近いショッピングモールにあるカフェだ。
 他の店より少しばかり値段は張るけれど、雰囲気を味わうにしても悪くない買い物に違いない。
 姉さんと二人で街に出た時に必ず寄る場所でもある。

宮和「そういえば和久津さま。真耶さまと三人でお出かけになることはございましても、こうして二人きりになるのは初めてでございますね」

智「あれ、そうだったっけ?」

宮和「はい。和久津さまはいつも宮の誘いを快く受けてくださるのですが、その際どうしても真耶さまに報告するきらいが見られるようでして」

智「……そういえば、そうかもしれない」

 今朝姉さんの言ってた、地下室監禁調教ではないけれど。
 僕は密かに姉さんに調教されているのかもしれない。
197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/16(木) 15:01:56.50 ID:XDNTXxK5o
宮和「そういえば和久津さまは――――」

 宮和と話しながら、ショッピングモールへ向かう、その途中。
 結構、大きな女性とのグループとすれ違う。
 色々な制服が入り交じっている彼女らは、街中で嫌なくらいに光彩を放っていた。

「お腹すいたなー、ねーみんな、どこか食べにいかない?」

 初めて会う。

「るい、あなたいつもそんな事いってるじゃない。たまには我慢を覚えないと太るわよ」

 初めて見る。

「でもでも伊代センパイ、鳴滝も少し疲れましたよぅ。どこかファミレスにでも入って、何か飲みたいッス」

 それなのに、どうしてだろう。

「あら、ならわたしはこよりちゃんを食べちゃおうかしら?」

 その彼女らはどこか懐かしい雰囲気を放っていて。

「でたー! エロリアンの腕触手攻撃にちみっこウサギは逃げられないー!」

 ……どこか、覚えのある声が聞こえたような気がして。
 僕は立ち止まり、つい振り向いた。
 そして、彼女らに混じっていた彼――いや、彼女と、眼が会う。

 時間が、止まったように感じた。
 とても切ない、郷愁のような喉元の苦しさが通り過ぎてゆく。

 初めて会う。
 初めて見る。
 それなのに、僕らは、どうしてか。
 どこか、別の場所で。
 出会っているような、そんな気がした――――
198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/16(木) 15:10:15.68 ID:XDNTXxK5o
「メグミ、何してんのー!いくよー!」

宮和「和久津さま、どうかなさいましたか?」

 宮和の声に、僕は現実に引き戻される。
 見つめ合った彼女も同様に。

 ……例え、どこかで彼女らと僕が会っていたとしても。
 今の僕らが立つこの場所には、なんの関係もない場所なのだろう。
 僕らが出会わなかったということは、つまりそう言うことに違いない。

 しかし、彼女の唇が、僅かに動く。
 そして、それに合わせて僕も唇のみを動かした。



 ――――いつか、また。



 その言葉を互いに告げて、僕らは僕らの日常へと帰ってゆく。
 何も、呪いや才能、家系や柵なんてなんの関係のない、日常に。
 それでもきっと、縁があるならまた巡りあうこともできるのだろう。
 いや、それはきっと、近い未来。
 だから、今はこれでいい。いつか、また。そんな言葉だけれいい。
 だって、おそらく。



 僕らは、また出逢うに違いないのだから――――。
199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/16(木) 15:24:58.41 ID:XDNTXxK5o
 宮和とのデートを終えて、僕は帰宅する。
 すっかりと空は闇夜に彩られ、スモッグだらけの隙間からは一際眩しい一等星のみが目視できた。

智「姉さん、怒ってるかな……」

 しかし、宮和にデートの許可を出したのは姉さんだ。
 そもそもどうしてそんな許可をだしたのか?それが気になる。

 アパートの前に到着するとドアの窓から光は漏れていて、姉さんがいることが確認できた。
 持ち歩いている合鍵をドアに差し込み、かちゃん、という軽快な音と共にドアを止める鍵がなくなったことを知る。
 ノブを捻り、扉を開くと同時に僕は居間にいるだろう姉さんに向かって声を投げかける。

智「ただいまー」

真耶「きゃあっ!?」

 キッチンからボンッ!という爆発音。
 慌てて僕は靴を脱ぎ捨て、鍵を閉めることすら忘れ、駆ける。

智「姉さん、大丈夫!?」

真耶「え、あ、ああ、智……帰ってたのね」

 答える姉さんは無傷だ。
 いや無傷だけど。無傷には違いないのだけれど。
 なんていうか、白いクリームまみれだ。
 キッチンの上を見ると幾つも出されたボウルの中に氷やらクリームやらが入っている。
 レンジ件オーブンを見ると、煙を吹いていた。どうやら犯人はこれらしい。
200 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/16(木) 15:37:15.27 ID:XDNTXxK5o
智「姉さん……一体何してたの?」

真耶「……今日、バレンタインでしょう?だからチョコケーキを作ろうと思ったのだけれど、途中からチョコは沢山もらったから食べ飽きてるかもって思って、普通のケーキにすることにしたのよ。
    そうしたら買ってきたスポンジが足りなくて……仕方がなしにオーブンで焼いたら温度を間違えたみたいで」

 だからって爆発するのはおかしい。
 ため息を吐く。これは呆れとかそういうのではなく、安堵の息だ。

智「……まぁ、姉さんが無事でよかった。とりあえず片付けしようか」

真耶「智、待って」

 姉さんがかき混ぜていたであろう白いクリームの入ったボウルを拾いかけた所で姉さんにとめられる。
 姉さんは自分の姿もそのままに、冷蔵庫を開けて『それ』をとりだした。

真耶「姉さん、こういうの作るの初めてだし……それに、スポンジも市販のもので、味だってもう飽きちゃってる味かもしれないけど」

真耶「ハッピー・バレンタイン、智」

 それは、チョコクリームをふんだんに使ったチョコケーキ。
 フルーツは皿の上にこぼれ落ちてるし、クリームだって下の方まで完全に塗れていない。
 見栄えはとても悪くて、正直言ってお世辞にも上手だとはいえないできだけれど。
 僕にとって、姉さんが僕のために作ってくれたこれは、どんなものだろうと変えのきかない、とても大事なものだ。
 だから僕は、姉さんからそれを受け取って、笑う。
 心の底から、感謝を込めて。

智「ありがとう、姉さん。ハッピー・バレンタイン!」

真耶「……ふふっ」

 姉さんも笑う。
 僕も笑う。
 今の和久津家には、決して他のどんな家にも負けないほどの笑いが溢れていた。


 さぁ、片付けをしよう。
 そして、僕の腕によりをかけたご馳走を作ろう。
 その後は、二人で姉さんのケーキを食べよう。
 やることはそれだけだ。別段特別なことなんてこれからもない。


 だって、これからも続いていく今までと同じ日常に特別なことなんて何も必要ないのだから――――。
201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/16(木) 15:38:54.63 ID:XDNTXxK5o
 バレンタイン編、真耶――『ぬくもりのそばで』、終わり!
 呪いのないIF世界でのお話でした。
202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/02/16(木) 15:39:28.36 ID:TmC0wN5Xo
wwktk
203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/02/16(木) 15:40:07.37 ID:TmC0wN5Xo
乙!!!
204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/16(木) 16:01:12.66 ID:fDUiv70Jo
205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/02/16(木) 16:33:51.71 ID:MsxCn+fIo
206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/16(木) 18:37:21.00 ID:XDNTXxK5o
 冷静になって見なおした。これバレンタインあまり関係なくなってね?
 原作BGMを聞きながら書くとやっぱりテンションがおかしくなるな……
207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/21(火) 00:05:18.53 ID:X6fmTlv4o
 つまりうるせぇとっとと続きかけよってことですねわかります

 では2〜3レス程度しか書けなさそうですが本編再開
208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/21(火) 00:29:47.48 ID:X6fmTlv4o
 ――side 阿弥谷 縁


 阿弥谷縁は正義の味方である、なんて。
 少し前はそんな存在に憧れたり憧れてなかったり。
 とりあえずまぁ、アクセプターの礼道要みたいな異能アクションモノの主人公に夢見るお年ごろだったわけです。

 私がコミュの世界に巻き込まれたのは、言わずもがなな一年と少し前。
 あの頃はよかった、なんて感傷に浸ることもしばしば。

 だってあの頃は。
 繰莉先輩ちゃんや、副島先輩が屋上にいて。
 紅緒ちゃんや真雪ちゃん、よっしー達と戯れたりもして。
 そして何より。
 瑞和先輩が、近くにいました。

 阿弥谷縁は正義の味方である、なんて。
 私は自分の手の届く場所にしか手を差し伸べない、つまり偽善者のようなもので。
 きっと瑞和先輩こそが、正義の味方だったんじゃないか、とよく思います。
 本人はフェミニストだ、なんていってはぐらかしますケドも。

アヤヤ「そんな瑞和先輩と、戦う……」

 智先輩はいいました。『戦争が始まる』、と。
 戦争っていうのは、互いの主張がぶつかり合ってそれが話し合いで解決できない時に発生する摩擦のようなもの、と学校で習いました。
 この場合の『正義』は果たして、どっちにあるのでしょうか。
 瑞和先輩達か、それともカエサルか。

アヤヤ「あやややや……」

 難しいです。
 瑞和先輩は、瑞和先輩の正義……きっと副島先輩の為に戦ってるんだと思います。
 カエサルは、よくわかりませんけれど、カエサルの正義の為に戦っているのだと思います。
 互いにとって、互いの信念こそが正義。
 難しいです。

 じゃあ、私の正義って?
 智先輩は先日、逃げる選択肢もあると提示しました。
 無論様々な理由から却下されましたが、つまりそれはカエサルの正義とは異なっているということ。
 その正義の向ける先によって、私達の行く先は大きく左右されることになると思いました。


 じゃあ、その私の正義って?


 三人よれば文殊の知恵。
 ともかく、目の前に捉えたよっしーに話を伺うことから始めてみよう、と私は思ったのでした。
209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/21(火) 00:56:28.35 ID:X6fmTlv4o
 ――side 柚花 真雪


真雪「はぁ」

 深い溜息を一つ。
 最近はずっとこんな感じ。ギグの夜に見つかってしまったから、お母さんに四六時中見張られて。
 私は金の成る木ですからね。それも当然といえるかもしれません。
 服を着させられてるペットって、こんな感じなんでしょうかね?
 唯一休める場所は学校ですが、それでもお母さんに頼まれているのか先生たちが見ている気がしています。

真雪「状況は中々、芳しくない様子ですね」

 なので。ゆっくり出来る場所はここ、トイレぐらいのものです。
 携帯からは暁人さんからのメールと、紅緒さんからのメール。
 ネット上の噂は私にも聞き及んでますし、大体の事情は察しているつもりです。
 カエサルレギオンとの戦争。正直、どう転ぶかわからない相手。
 できれば来て欲しい、というのが暁人さんの弁。対して紅緒さんも来て欲しい、という点に関しては一緒なのですが目的が真逆。

真雪「暁人さんを止めたい、ですか」

 暁人さん、乙女心がわかってないですね。フェミニストのくせに。
 私の出番を打診してる場合じゃなくて、内側の分裂を防ぐべきだと思いますけど。
 まぁ、食事にはたまに……というかつい昨日も行ってるみたいですが。
 紅緒さんだけに限らず、女性に好かれていることに気がついてるくせにないがしろにしてると足元掬われますよ?

真雪「さて、どうしましょう」

 夜間外出禁止令は未だ解除されず、どこに行くにもお母さんと一緒。(某教育番組でなく。念のため)
 一年も経過してますから警戒が多少緩んでいるとは言っても、きっと見つかったら首輪だけじゃなくて発振器とか埋められそうな悪寒です。

真雪「でもまぁ、行くしかないでしょうね」

 私達は繋がっていて、一蓮托生なんですから。
 例え赤の他人でも、死する時は一緒になってしまっているのですから。

 私はトイレに付いている小さな窓を見る。
 そこから見える空には、自由に舞う鳥がいた。
210 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/21(火) 01:00:30.19 ID:X6fmTlv4o
 今日はここでおしまい。
 他の人達のターンはまだ続きます。
211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/21(火) 01:13:22.00 ID:A0QX+WD4o
212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/02/21(火) 01:19:48.45 ID:rNF/fjUNo
213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/23(木) 00:12:07.94 ID:cDpxoacmo
 智ちん、真耶さんとケーキを食べてから書きます。
 とりあえず今回のきりの良いところまで。
214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/23(木) 01:35:58.58 ID:cDpxoacmo
 ――side 茅場 茜子


 今朝方、貧乳娘一号店を見かけました。

 私は別に学校通わなくても問題はない……というか通ったら死活問題ですが、アレはそうではないはずです。
 なのにアレは学校へ向かわず、私服で、駅の方向へと向かっていたのです。
 考えられる事案としては、おそらく新都心へと向かうのでしょう。というかそれ以外考えられません。

茜子「……ふむ」

 抱いていたガギノドンを地面に下ろすと、ガギノドンは一目散に路地裏へと消えていきました。
 今日の猫会議は残念ながら茜子さんは欠席です。誠に、非情に口惜しいですが。
 ……別に泣いてませんよ?

茜子「茜子さんの趣味は人の秘密を暴くことですからね」

 それは とても たのしい。
 まぁ嘘ですけど。

茜子「秘密を暴いてしまおうと言ったのは私ですからね」

 つい昨日、あやつらと話しましたからね。
 『自分達が智さん達の力に慣れなくて悔しい』、なんて。
 茜子さんは、まぁ、ほんのちょびっとだけですけど。一応痣と呪いで繋がっている仲ですから赤の他人よりは気にかけます。

茜子「……問題は、今日の少女同盟に出席できなくなりそうなことと、それが連絡できなさそうなことですが」

 まぁ、問題はないでしょう。
 いざとなれば目の前をゆくすけこまし貧乳ブルマに携帯でも何でも借りればいいわけですし。


 そんなわけで、茜子さんこと私、茅場茜子は智さんを追跡しているわけです。
215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/23(木) 01:54:25.90 ID:cDpxoacmo
 ――side 四宮 夜子


我斎「夜子。幹部全員に通達をしろ」

 七時も直前になったころに五樹は言った。
 計画を実行に移す、と。

夜子「……はい」

 五樹の計画に不備はない。
 あったとしても私如きが口を挟めるわけはない。
 その計画に不満があったとしても、それは同様。

我斎「俺達のメンバーには俺から通達しておく。夜子、お前は先に現地入りしろ。下準備は抜かり無くやれ」

夜子「……はい」

 きっと私は、それでも五樹にしてほしくない。
 戦争を。争いを。特別な感情を抱く人達との殺し合いを。
 だから、返事につい一拍置いてしまった。
 いつもなら私の返事を聞いてすぐさま扉の向こうへと出ていく五樹が、今日に限ってそれに気がついたのか足を止めていた。

我斎「夜子」

 いつもの、冷たい、冷酷な眼で問いかけてくる。

我斎「怖いか」

 怖いわけでは、無いと思う。
 五樹の為に生きて、五樹の為に死ぬ。
 その覚悟は、生き返らせてくれた瞬間から出来ている筈だから。
 だから私は首を振る。
 怖いわけではないのだ、と。
216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/23(木) 02:16:50.35 ID:cDpxoacmo
夜子「私は大丈夫。五樹の期待にこたえてみせる」

我斎「そうか」

 五樹は返事をすると、身を翻した。
 準備を終えていない私を部屋の中に残して、外へと出ていく。

我斎「期待している」

 差し込んだ光が、私を照らして。
 その眩しさに目が眩み、光が消えた時には勿論五樹はもう玄関にはいなかった。

夜子「期待されてる。五樹に」

 ならば、私はそれに全力で応えよう。
 騎士なのだから。
 私は、王を守る騎士なのだから。

 でも。
 やっぱり、心のどこかに針のような、楔のような何かが突き刺さっている。

 五樹は、何を目指しているのだろう。
 瑞和に、何を求めているのだろう。
 わからない。だから知りたい。それは騎士にあるまじき感情。きっとそれこそが針であり楔。
 きっと、そうに違いない。
 だったら、やっぱり迷うことなんてない。
 五樹の命令に従っていれば――きっと、それは自然に消え失せるに違いないのだから。

 ……和久津。
 ふと、脳裏に三人目が浮かんだ。
 私の悩みを、和久津は解くことができたのだろうか。
 五樹の考えを、和久津は知り得ることができたのだろうか。
 私はその考えを、頭を振って外に放り投げた。

 今はただなずべき事を成す。
 ただ、それだけでいい。
217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/23(木) 02:20:08.24 ID:cDpxoacmo
    第五幕
    Chapter

  41 戦争前の一大会議
  42 第三の選択肢
  → ???
  43 戦略フェイズ
  44 知らない場所で動く事態
  45 種
  46 騎士の勤め
  47 知らない場所で動く事態2
  48 様々
  49 ???←次ここ


 あー夜子の考えがすごいブレる。
 根底が『我斎の為に生きて死ぬ』だから迷いをもたせるのが難しいんだよね……
218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/23(木) 07:53:42.28 ID:bdODqi/IO
219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/02/23(木) 17:25:20.33 ID:qNll5a2fo
220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/27(月) 23:51:51.08 ID:UiBp4k76o
 あのさあのさ正直気になってるんだけどさ
 俺ってば例えばバレンタインとかクリスマスとかお題に沿った短編の方が面白いと思ってるんだけどどうなの?
 本編っている?

 いやそりゃあ寧ろいらないとか言われると少しショックだけども今のgdgd感じゃ仕方が無いかぁと思ってたりもするわけよ
 それで短編のほうが面白いんだったら書くこっちも楽しいし、見てる方も楽しいから一挙両得じゃんよ?

 そんな訳で重ねて聞こうと思います
 本編って、いる?
221 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/02/27(月) 23:54:56.40 ID:eVwIXioVo
続きが気になるから本編を書いて欲しい
222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/27(月) 23:59:18.44 ID:V9zYuShWo
本編もおもしろいよ
だからいる
223 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2012/02/28(火) 00:11:02.68 ID:3A0Bsdblo
本編も短編も楽しんでる身としては両方とも見たい

ただ大事なのは>>1が何を書きたいのかって事だと思うし、暫く自分が書きたいものを書くってのもアリだと思うよ
224 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/28(火) 00:51:31.67 ID:MUqG+9Qso
 そっか……そっか、うん
 いやね単純に>>220の通りグダグダになってたから『俺、面白いもの書けてるのかな?』って疑問に思っちゃっただけなんだ
 それでマイナス方面に考えて『これなら短編書いてたほうがいいんじゃないか?』ってなっちゃっただけなんだ

 書きこんでから思ったけど完全にかまってちゃんだったねごめんなさい
 でもありがとう元気が湧いてきた

 よっし、じゃあ頑張るか……明日早いから、明日からだけども
225 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/02/28(火) 01:46:00.06 ID:fRWeGz5To
両方おもしろいよ!
226 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/29(水) 01:05:57.72 ID:G3f4jObCo
 ――side 瑞和 暁人


 今日も今日とてギグは盛り上がりを見せている。
 戦争だなんだとコミュネットが騒ぎ立てていたとしても、ギャラリーには何ら関係のないことらしい。
 いや、関係がないと思い込んでいるだけなのか。

伊沢「おい瑞和」

 舞台端で観客達を眺めていた俺は不意に後ろから伊沢に声をかけられた。
 伊沢とはまぁ、いいビジネスパートナーだ。隙あらば俺を主催の座から引きずり降ろそうとしようとするところ以外は。
 一応カゴメとこいつのボディーガードで俺は守られている。カゴメが会場を彷徨いている時にはこいつ一人になるが、イザという時のモノもあるから心配はない。
 バビロンはこちらがたった二人だとしても簡単にやられるような、やわなアバターじゃない。

暁人「んだよ?」

伊沢「ちょっとこっちにこい」

 そう言って伊沢は俺を舞台裏に誘う。
 舞台の上では騎士型同士が互いの槍を振るってぶつけ合い、轟音を犇めかせていた。
 サービスのように鍔迫り合いをして観客を煽り立てる。
 これならば後数分もしないうちにどちらかの決定打で決着がつくだろう。目を話しても何ら問題はない。
 俺は伊沢についていって、会場のライトが僅かに漏れている舞台裏へとついていく。

暁人「何か問題でもあったか?」

伊沢「大ありだボケ」

 伊沢はそういいながら懐に腕を突っ込んだ。
 ふと周りを見るが、カゴメはどこにもいない。
 まさかこいつ、カゴメがいないからって俺に下剋上を……!?
 少し腰を引けつつ、両手をを前に突き出す。

暁人「待て、話せばわかる」

伊沢「……何いってんだてめえ」
227 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/29(水) 01:47:36.93 ID:G3f4jObCo
 呆れながら一枚の紙をつきだしてきた。
 こんなピリピリとしている状況においてコミュのメンバーを一人減らすような馬鹿はいない。
 だから少し遊んでみただけだというのに、ノリが悪い。

暁人「んで、なんだこの紙」

伊沢「今日の面子だ」

 会場で一際大きな歓声があがった。
 どうやらあの『騎士型』達の決着がついたようだ。司会が勝利者を祀り上げる。
 そんな人々の感情をBGMに俺はほんの少しばかり挿し込む光を頼りに伊沢から受け取った紙に目を通した。
 その紙自体に、変わった点は見受けられない。ただ、あるとすれば。

暁人「なるほどな」

伊沢「どうすんだ?俺らで潰すか?」

暁人「いや、今日は俺達の出る日じゃない。やるとしてもお春さんがいれば、だけど……今日は居ないだろ?」

 伊沢が舌打ちをする。血気盛んは相変わらずだ。
 伊沢が見つけ、俺に報告してきた名前。それはカエサルレギオンの名の知れている幹部クラスのアバターだ。
 つまりこれは本格的に喧嘩を売ってきた、と思うべきか。


 ――――『いつか』が脳裏を過ぎった。


 ただ、ただ蹂躙されゆく人の森を。
 壁に、地面に、天井に。赤い花が無数に咲きほこったあの夜を。
 悲鳴を、恐怖を蹂躙し、人々の絶望が理不尽に奪われていったあの日を。
228 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/29(水) 02:12:04.24 ID:G3f4jObCo
暁人「相手は、初心者か?」

伊沢「ああ。どんな手練でも初戦には違いないからな」

 幾つもの可能性を考える。
 ギグという存在を危うくするつもりか、或いは『あの日』のようにギグを潰すつもりか。
 いや、その可能性は薄いだろう。一応名前は知れているのだからカエサルの命だとすぐに行き着く。
 そうしたならカエサル側のアバターとそれ以外の総勢力戦だ。明らかに分が悪い。
 だとすれば宣戦布告が一番考えられる。
 現れたアバターを、何の躊躇もなく壊し。そしてカエサルレギオンがギグを潰すのだと声高々に宣言するのだ。

暁人「……警戒しておく、しかないな」

伊沢「俺らが出ねえんなら、そうするしかねえだろうな」

 何れは一国を持ちたいという野望を持つ伊沢にしても、足がかりであるギグが潰されてしまうのは困るに違いない。
 俺も、金が必要だ。
 利害は一致している。

暁人「俺は受付の方から回ってく。伊沢は逆から頼む。一応警護にも伝えておいてくれ」

伊沢「瑞和、てめえ何様のつもりだ?お前に言われなくてもそんぐらい問題ねえよ」

 言い合いながら、逆方向へと駆け足で走りだす。
 ギグは潰させない。潰すわけにはいかない。

暁人「密――――」

 病院でまだ眠っている恋人を想い、思わずその名前が口から漏れた。
229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/29(水) 02:13:10.44 ID:G3f4jObCo
 おわーり
 だけど今日の夜にも更新します
230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/02/29(水) 02:45:46.33 ID:30Fcbi9zo
231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/02/29(水) 05:19:16.25 ID:KLKvFhoOo

続きも楽しみにしてる
232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/29(水) 07:22:32.14 ID:D5r7wQTIO
233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/02/29(水) 21:17:37.97 ID:RqziP3t8o
乙!
234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/01(木) 00:27:51.90 ID:kRbY1Feno
 ――side 蝉丸 繰莉


繰莉「ほむ」

 騒がしい会場の片隅で、繰莉ちゃんは屋台で売っていたホットドックを食べる。
 見た目や味に関しては中の下だけれどもこういうのは雰囲気代も含む。だからまぁ、仕方のない値段なのだろう。
 今日もギグは大繁盛。繰莉ちゃんの探偵業より繁盛していてちょっぴり嫉妬。

繰莉「……お、当たった当たった」

 眼の前で力の拮抗していた『騎士型』の片割れが、EX能力を使ったのか槍が見事なまでに相手の胸元に吸い込まれる。
 力の加減はしていたのか、相手は完全に破壊しつくされはしなかったが機動力の限界が来たようで倒れる。
 審判が止めに入り、ゴングが鳴った。
 観客の発する大きな雑音。いつものことだけど、やっぱり慣れない。
 まぁ繰莉ちゃんだってお金を賭けて、それで賭けた側が勝ったならこの会場の一部にはなるのだろうけれどもね。
 ホットドックの最後の一欠片を飲み込む。

繰莉「えーっと……確か今のが四戦目だよね」

 本日の対戦カードは八つ。
 強者同士の大目玉は一番最後に配置される。
 逆に、初参加者同士の対決は最初……かとおもいきや案外そうでもない。
 中堅同士の対決を続けて行って場を暖めてから、初心者同士の対決にも熱を入れられるようにする、というのがここの専らの戦略。
 だから、後一つか二つ頃。

繰莉「……お、きたきた」

 ポケットの中で携帯が震えた。
 たっぷり三回バイブ音が鳴り終わるまで待って、焦らした後にその電話に出る。
235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/01(木) 00:54:00.64 ID:kRbY1Feno
繰莉「わたし繰莉ちゃん。今貴女の後ろにいるのー」

 僅かな沈黙。

『失礼します』

繰莉「まってまってまってまって」

 いきなりの返答に慌てて静止をいれる。
 アキちゃんとかともちゃんとかなら普通に返してくれるのに、世の中には冷たい人が多いにゃー。

『あちらの準備は整っているようです』

繰莉「そっか。んー、次じゃなきゃあと十分ってとこかにゃー」

繰莉「というか、超・探偵にタイミングまで頼むってそんなサービス普通はしないよ〜?ちょっちは感謝してもいいんじゃないの」

『こちらも人手が足りないのです、我慢してください。そちらの利害とも、一致しているのでしょう?』

繰莉「……さあて、どうかにゃー」

 本当、抜け目ない。
 そういう情報は本来、繰莉ちゃんから全部渡す筈のモノなのに個別で仕入れるんなら繰莉ちゃん必要ないんじゃないの?
 だったらこんな危険な場所にいる必要もないよねー。

繰莉「そんじゃ、作戦開始と同時に指定の番号にラブコールいれるよ」

『頼りにしてますよ、探偵さん』

繰莉「ノンノン。探偵じゃなくて、“超”・探偵。忘れちゃやーよ、ボールス卿」

 鼻で笑ったような音が聞こえて、ぷっつりと繋がれていた糸が切れる。
 続いての対戦カードが画面に映し出されて、歓声に混じって繰莉ちゃんはポツリと呟く。

繰莉「天秤の調整も、楽じゃないね」
236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/01(木) 01:54:32.01 ID:kRbY1Feno
 ――side ???


 二人の少女は給水塔の上に立つ。
 今日も新都心の空は曇っている。星一つ見えやしない。

「見えてる?」

「もちろん」

 自分では見えているが、傍らの少女は見えないのではないかと心配したが杞憂だったようだ。
 目標とした場所は遥かに遠い。
 だが一応は目視出来る場所である。
 アバターを介せばその知覚範囲は更に広がる。が、自分達からも見えているのなら外す心配は殆どないだろう。
 少女は給水塔の下にいる男子二人を一瞥して、夜に響かない声で唱える。

「来なさい、――――」

 淡い青色のゲートから現れたアバターは『魔弾型』。
 それは目標物より、より近く。そして自分達の届く限界の位置まで移動させる。

「大丈夫?」

 心配するような再びの問いかけに、もう一人の少女はやはり答える。

「大丈夫」

 瞬間、問いかけた少女のポケットの中で握りしめていた、使い捨ての携帯が震えた。
 合図。
 それを傍らのパートナーへと伝える。

「オーケー。絶対に、当ててやる」

 答える少女は目を瞑って大きく深呼吸をする。
 そして息を吐ききると同時、その目をしっかりと見開き、アバターの知覚を掌握し、その両方でターゲットをしかと捉える。

「――――行けっ!」

 限りない殺意を言葉に込めて。
 『魔弾型』のアバターは発光し、その弾を放った。



 瞬間、ギグの会場が燃え上がる――――。
237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/01(木) 02:08:02.93 ID:kRbY1Feno
 ――side 和久津 智


 モダンな雰囲気の、空気の良いカフェの中にて。
 連絡を終えた僕の目の前にはなんとも言いがたいファッションの女の子二人が座っていた。
 そして片やカフェオレとパフェ――こちらはまだいいとして――、片やラーメンがそれぞれの目の前に置かれている。
 なんとも、シュールな光景。
 僕は体質のことも気をつかい、ラーメン大好き少女の隣は避けて、彼女の目の前に座る。

智「なんでラーメン」

茜子「ラーメンは人類が産み出した至極の料理です。茜子さんが死んだときは花の代わりに麺とスープで埋め尽くされたく存じます」

真雪「想像するととてもカオスな光景になりそうですね」

 真っ黒な喪服を来た僕らの真ん中にある棺桶。その棺桶の中で眠る茜子。
 そしてその回りにはラーメンが……
 カオスどころじゃない。

智「それにしてもこの組み合わせはなんなの」

茜子「奇人変人コレクターの貧乳ブルマリアンがいいますか」

真雪「なんですかブルマリアンって。智さん、ブルマでも履いてるんですか?」

智「いやまぁそうだけどさ!重要なのはそこじゃないでしょ!?僕奇人変人コレクターじゃないよ!?」

 なんか思わぬ暴露をされた気がするけど、僕にとってはソッチのほうが大事だった。
 人聞きのわるい、誰が奇人変人コレクター。そんなものになった覚えは……

茜子「暴食王、百合百合ん、ちみっこ、メガネおっぱい、AAA」

真雪「後は繰莉さんに、私達でしょうか」

 ありました。
 というかこの人達、自分達が変人だっていう自覚あるんだ……
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/01(木) 02:25:26.51 ID:kRbY1Feno
真雪「それにしても……改めて、ありがとうございます。助かりました」

智「いや、何か追われてたみたいだし。仮も一応あるからね」

 それに必要な接触でもあったわけだし僥倖といえるだろう。

 事の発端は数時間前。
 そう簡単にあきらめないぞということで二度目の誘致を瑞和にしようとしたところに何かから追われている真雪を発見。
 その時は知り合いということでとりあえず声をかけたわけなのだけれど、その後偶然にも追手を見ていた茜子の誘導の元、追手から逃げたわけだ。
 流石ヤのつく職業の方から逃げていた経験を持つ茜子。隠れ方などは突飛だったけれど、無事に撒くことに成功した。
 一応ということで暫くの間路地裏で身を隠しておいて、もういいだろうと表に出てきたのが日が暮れたつい先程。

 その後適当なカフェ、つまりここに入ってどうして茜子がいるのかということについて詳しく聞いた。
 頭を抱えたくなった。
 巻き込みたくないから僕は溜り場に行かないで、つまり相談しなかったというのに。
 とりあえず溜り場にいかないで行方知らずになっている茜子を心配しているだろうということで花鶏に連絡したのが直前のことだ。

智「それで、真雪はどうして逃げてたの?」

真雪「はい……実は路地裏に入ったところ、何やら怪しい取引をしている人たちを発見してしまいまして、それで逃走を」

茜子「…………」

智「うそ。本当?」

真雪「はい、嘘ですが」

 思わず茜子を見てしまう。茜子は我関せずで既に食べ終わったラーメンのスープを飲み始めていた。
 なんというかこの二人……なんか似ている気がするのは僕の気のせいだろうか。
239 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/01(木) 02:37:31.57 ID:kRbY1Feno
真雪「本当は、暁人さんの収集がかかりましたから親の目を盗んで抜けだしてきたんです」

智「それは本当?」

真雪「ええ。……私今、本当は、って前置きしましたよね?」

 それでも嘘をつかれると次から信用できなくなるのが人間というもので。
 よく顔をあわせて、互いに性格がわかっているのならそんなことはないのだろうけれど。
 こんな時ばかりは茜子の〈才能〉が羨ましい。

智「そっか……それじゃあやっぱり、捕まっちゃ困るわけだよね」

真雪「そうですね……もしかしたら暁人さんとのやり取りを掴まれて張られてるかもしれませんし……流石に今日は行動不可ですね」

茜子「茜子さんも行動不能です。追跡で行動フェイズは終了しました」

智「…………」

 言葉に困った。
 まぁとりあえず茜子はおいておくとしても、だ。
 真雪をここで手放すということは得策ではない。ということは僕が匿うのが一番だ。
 田松市ならば一時的に僕の家に。新都心ならセーフハウスに。

智「というわけで問題ない?」

真雪「大歓迎です。というか私、我儘言える立場じゃありませんからね」

茜子「屋根と壁があるならどこへでも」

 茜子の冗談にならない冗談を皮切りに。
 僕らはカフェから出て、明日に皆の集まるホテルへと足を向けた。

 ギグの会場で何が起こったのか、全く知りもせずに。
240 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/01(木) 02:40:35.52 ID:kRbY1Feno
    第五幕
    Chapter

  41 戦争前の一大会議
  42 第三の選択肢
  → ???
  43 戦略フェイズ
  44 知らない場所で動く事態
  45 種
  46 騎士の勤め
  47 知らない場所で動く事態2
  48 裏の動き
  49 崩壊の火種
  50 ???←次ここ

 おわーり
 次より一度目のサビにようやく入ります
241 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/03/01(木) 04:43:20.25 ID:Z8OxfPueo
242 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/03/01(木) 06:10:50.09 ID:9LRnmKXno

次から話が大きく動きだしそう
243 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/01(木) 10:55:29.04 ID:oWoKtKDXo
244 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/01(木) 18:17:49.10 ID:Del6ePLno
乙!!
245 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/06(火) 00:51:35.72 ID:yPJa3+lAo
 このレスでコンマ判定
 末尾奇数なら今書く 偶数なら今日の夜に書く
246 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2012/03/06(火) 14:09:18.24 ID:rUKjLVCAO
今日の夜が楽しみだ!
247 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/07(水) 00:38:28.29 ID:bVZad1Xoo
 僕らがその話を知ったのは日もようやく越したばかりという時間のことだった。
 ベッドの上では僕と真雪が背中合わせに眠り、茜子は風呂場で寝ると言って、部屋が死んでからほんの数時間。
 僅かなタイムラグはあれど、僕と真雪、二つの携帯電話が同時に鳴り響いたのだ。

 僕の電話は夜子からだった。
 昨日に『ギグ潰し』の第一作戦が決行された、という事後の報告。
 ならば戦争に対する収集か、かと思いきや果たしてそうではなく。
 カエサルレギオンの幹部の一人が、作戦を決行するまでもなく死んだ――らしい。
 そしてその犯人は最近はめっきりと姿を全く見せなかったコミュ狩りだとも言っていた。
 僕らが倒したあのソリッドや、瑞和達が倒したジャック以外にコミュ狩りがいるだなんて、と僕は驚愕したが重要なのはそこではないらしい。
 そのコミュ狩りはその日のギグすらも潰してしまったらしい。
 つまりそれはギグ側でも無い事を示す。コミュ狩りなのだから当然といえば当然なのだが。

 だが何も知らぬギグ側の人々はカエサルが遂に動いた、と考えるに違いない。
 それまで言って、ようやく本題だ。
 夜子は言った。カエサルは潜る、と。大々的に接続車狩りでもやられたら溜まったものではないとのことだ。
 そして夜子もコミュ狩りの動きと、情報収集で動き回るからこれからこちらからの連絡はあまり取れないのだ、と。
 僕はそこまでの情報を飲み込んで、夜子との通話を切った。

 真雪の方は瑞和からだったらしい。
 単純に真雪の親からの連絡が行っており、どこにいるのか、という確認の電話だ。
 僕らのことは適当に濁して、ホテルに居ると言った。
 その後に首尾よく、ギグ会場で何があったのか話を聞き出していた。
 
 真雪の話を聞く限り、流れは大きく三つのことがあったようだ。
 一つ目は外部からの攻撃によって戦闘していた二つのアバターは死に、ギグの会場は半壊。観客も数十名が死んだということ。
 二つ目にはその戦闘をしていたアバターの片方がカエサルの手のものであったので警戒していたため、生き残った人たちの避難は素早く済んだということ。
 そして三つ目はカエサルが予見した通り、ギグ側の接続者達はこの攻撃をカエサルの仕業だと思い、ギグを仕切るリーダーである瑞和に『反撃だ』との訴えが来たこと。
248 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/07(水) 01:13:09.46 ID:bVZad1Xoo
真雪「なんというか、大変なことになってるようですね」

智「そうみたい、だね」

 けしかけた幹部が消えてしまったことは確かにカエサルにとって痛い事実だが、ギグ側は接続者が瑞和のコミュを除いて状況判断できていないというのが大きい。
 そして大衆は、時に支配者に勝る。
 多くの接続者が『カエサルに反撃を!』と唱えてしまえば瑞和はそうせざるを得なくなるのだ。
 もしそれに対して色よい返事を返せなければ『革命』が起きてしまうに違いない。そうなるともはや戦争どころでもなくなる。
 その動きを見切って表舞台から潜った我斎は流石としかいいようがない。

智「問題は……コミュ狩り、か」

 その目的は未知数。
 一見カエサルの戦力である幹部アバターを破壊したようにも見えるが、ギグを破壊したようにも見える。

真雪「或いは、その両方……第三勢力かもしれませんよ」

智「カエサルも、ギグも邪魔で、それを消し去って頂点にたとうとする……ってこと?」

真雪「ええ。カエサルレギオンに次ぐ有力なカバルは……確か、ネロとかいいましたっけ」

 考えられなくはない。
 有能なリーダーならば今回の事はカエサルの戦力を削ぎ、ギグと真っ向から戦わせる結果を生むと予想できる。
 けれど僕は、もっと彼らを邪魔だと思う存在を知っている。

智「――――九倉さん」

真雪「え?あの、ラウンドの偉い人……ですか?」

 議長を差し置いて名を名乗る『円卓』のランスロット。
 少し『円卓の騎士』を知っているならばその名は事実上、彼が円卓の中で一番だということを指していることは簡単にわかる。
249 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/07(水) 01:35:26.80 ID:bVZad1Xoo
智「うん。一度しか会ったことは無いけれど、あれ、底がドロドロしてる」

 例えるなら、ハイエナ。
 自身にもそこそこの力はある上に小狡い。
 表面上は平和主義を装っているだけで、私兵を幾つも飼っていそう。
 今回動かしたコミュ狩りもそうなのではないか。
 自分にとって邪魔なアバター。それを私兵で破壊する。それこそがコミュ狩りの正体なのではないかと僕は予想する。

智「……まぁ、仮説の一つに過ぎないけど」

真雪「しかし、一理ありますね」

 真雪も僕の仮設にしきりに頷いた。
 ……しかし、どうして僕は真雪と考察などしているのだろう。
 いやまぁ、たしかにこれから僕の計画を話して仲間に引き入れるには情報の共有も必要だけれど。
 話も丁度いいし、一旦揺さぶってみようか。

智「ところで真雪は、どうするの?」

真雪「どうする、とは?」

智「いや、単純に。瑞和のところにいって手を貸すのか、それとも帰るのかーってこと。きっと戦争の第一波は、今日か明日中には起こるんじゃないかと思うけど」

 ふむ、と真雪は考える素振りを見せる。
 アバターで繋がれたその瞬間から、同じコミュの接続者は運命共同体だ。
 瑞和が真雪を呼んだ、ということはアバターが壊れるかもしれないと踏んでのこと。
 真雪ならきっとそこまで頭が回っているだろう。ならば答えはきっと、

真雪「はい、でなきゃ、私も死んでしまいますから」、だ。

 しかし、出来れば。
 出来れば、真雪だって戦争で他のアバターと争いたくはない、壊したくはない。そう思っているはずだ。
 そうしなければ大切な物を守れない、例えば瑞和なら、それをするにも致し方ないと思うかもしれないが。
 真雪は、そうじゃない。
 故に、僕はこう告げる。

智「ねぇ。紅緒にも言ったんだけど、僕には戦争を止める考えがあるんだ――――」
250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/07(水) 01:39:28.36 ID:bVZad1Xoo
 コミュをやり直してたらあの戦争は戦争でないことに気がついた。
 我斎の思考回路なら倒すべき敵が全て現れるまでは出てこない……ハズ。
 泥仕合になったら征する為に出てくるかもわからんけど。

 展開広げる予定だったのに上記の理由からこんなふうになってしまった。
 とりあえず今日はおわり、です。
251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/07(水) 01:48:16.88 ID:r7v+QaNCo
252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/07(水) 01:50:50.72 ID:nvPjfvY3o
乙乙!!
253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/03/07(水) 01:54:18.98 ID:NAVxCKzUo
254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/03/07(水) 03:09:44.11 ID:AaBqr+JSo
255 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/14(水) 00:36:56.47 ID:935a7MG2o
 誰かいる?
 ……いやいても居なくても関係ないけども。

 ぼちぼちと。
256 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/03/14(水) 01:01:53.64 ID:Z1GFd3NEo
呼ばれた気がした
257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/14(水) 01:18:18.15 ID:57uUTVexo
きたよ!
258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/14(水) 01:28:00.73 ID:935a7MG2o
 ――side ???


 例え、裏社会で何が起こっていたとしても。
 表向きの新都心、高倉市の繁華街は相も変わらず賑わっている。

 ちょっといかがわしい店に立ち寄る会社員。
 今夜の宿すらなく路銀稼ぎに精を出す家出人。
 そして、それらに混じり周りを伺いながら歩く、接続者――――

 許斐は、ラウンドの13人居る円卓卿の一人だ。
 最大結社のラウンド。それに吸収される形となった中規模の結社、現派閥のトップを務めている。
 それでもラウンドの中では新参な方であり、古参側と言われる九倉を含めた六人の円卓卿に対して人事ならぬ感情を持っている。
 故に、というべきだろうか。彼は新参の円卓卿中でも発言力があり、しかし血気盛んな性格をしている。

許斐「……まだ、見つからないのか」

 そんな性格だからこそ苛立ちを隠さず、しかしその苛立ちを押し込んで傍らのコミュメンバーに問う。
 問われた青年は首を振って答え、許斐はチッ、と大きな舌打ちをした。

 ランスロット――――九倉光一から電話が来たのは、日にちをまたぎ、四時間前のことだった。
 内容は、『遂にカエサルがギグに喧嘩を売るらしい』ということ。続けて『念のため用心しておけ』ということだ。
 善意か、否か。どちらにしても、許斐にはどうでもよかった。
 問題は、九倉が自分に態々そんなことを告げてきた、という事実。
 そして九倉がラウンド内でカエサルに次ぐ武闘派派閥を持っているという事実。
 その二つの事実をフィルターとした結果、真に彼が伝えたかったことを歪めて曲がった形で許斐は受け取ってしまうことになる。
 『俺が全部纏めてカタをつけるから、お前は黙ってみていろ』、と。
259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/14(水) 01:48:06.89 ID:935a7MG2o
許斐(用心、だ? んなもん、先に潰しちまえばする必要もねぇだろうが)

 その電話の後二時間。
 ギグの会場は燃え上がった。
 彼が予測するに、カエサルの手によって。

 それまで、二時間も余裕があった。
 自らの結社を集合させるには十二分な余裕があった。
 あくまでも彼はリーダーであり。有能な人物だからこそ円卓卿の一人となっている。
 燃え上がる前にチカリとネオンではない光がほんの一瞬だけ瞬いたのがわかった。
 予め投入していたのではなく、ギグの途中に『魔弾型』のアバターがその遠距離狙撃を打ち込んだ。それを容易く見抜き、範囲を狭めて繁華街に包囲網を敷いているのだ。
 カエサルも、一応『円卓』の一員である。そして、その部下も。
 ならば、見覚えがある筈なのだ。一瞬でも見たことのある顔があれば、それこそがカエサルの部下に違いないのだ。
 そう信じて早二時間。既に日も超えて、しかし繁華街の賑わいは頂点を見せている。

許斐(見つかっていない、ってことはまだ出てないに違いねぇ。包囲網に気づいて、身を潜めている可能性が高い……)

 動きは迅速。だが、思い込めば猪突猛進。それが彼の長所であり短所であるだろう。
 例え導き出した答えが間違いでも、突き進んでしまうのだから。

許斐「包囲網を狭めろ。見つけたら路地裏に追い込んでアバターを出させて破壊でも何でもしろ」

「了解……って、許斐さんはどこへ?」 

許斐「うるせぇよ、俺の行動に口出しすんな」

 苛立ちが募っている彼は、繁華街を後に人気のない方へと向かう。
 今はネオンの光や、楽しげな音すらもストレスとなる。
 途中の自販機でコーヒーを購入し、雑木林の中で一服する。
260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/14(水) 02:00:23.18 ID:935a7MG2o
許斐「ふーっ! ……ったく、九倉のヤロウ……七面倒臭いことさせやがって……」

 実際には彼の独断だが、思った通りに進まない事象には八つ当たりしたくなるのが人の常だ。
 肺にめいいっぱい煙草を吸い込み、吐く。
 それで僅かにでも冷静となったのか、足元にその吸殻を捨てて、足で踏み込んでその火種を消す。

許斐「うし……とっとと終わらせて、首もって帰るか」

 気合を入れ直し、雑木林に背を向ける。
 瞬間。
 ズン、と。
 背を向けた、その先から。
 人ならざるモノの、地を踏みしめる音が聞こえた。

許斐「っ――――!?」

 咄嗟、振り返り。
 叫ぶ。
 名前を。
 自らを弾丸とした武具の名を。

 蒼白いゲート。
 しかし、やはりそれすら遅く。
 ゲートが消えるより早く、その瞬間に、そのアバターは八つ以上の破片に分解されていた。

 一瞬にして蒼白となり。
 同時、彼のコミュは息絶える。


 ■■■■■■■■――――――



 それを実行したアバターは、ただただ、鬨の声を上げる――――。
261 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/14(水) 02:02:40.35 ID:935a7MG2o
 こんな所で。
 次は、金曜日の昼間ぐらいから多めに時間とる……予定。
 
262 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/03/14(水) 02:16:11.51 ID:Z1GFd3NEo
263 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/14(水) 03:08:42.06 ID:57uUTVexo
乙!!
264 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/14(水) 06:14:40.78 ID:hgOiuNDio
265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/03/14(水) 14:58:50.02 ID:lws9ugHzo
乙ー
266 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2012/03/14(水) 17:14:23.62 ID:gLYIxPGmo
おつー
267 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2012/03/15(木) 23:39:29.02 ID:gtjcHeEAO
O2!
268 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/16(金) 13:00:17.12 ID:ypcMPuuCo
 あれ乙が六つもあるなんて珍しい

 出かけるまで約四時間ぐらい
 見切り発車だけど頑張りましょう
269 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/16(金) 13:33:56.97 ID:ypcMPuuCo
 ――side Nothing


 高倉市。
 またの名を、新都心。
 五年前――いや、六年前に大規模なテロがあり、潰れかけた街。

 ビルが立ち並ぶ、新都心。その片隅。
 上原麻里子は今日の宿を探していた。
 桐生直樹は酔っぱらってそこらの自販機に抱きついていた。
 瀬川羽澄は残業をようやく終えて帰宅する途中だった。
 そんな大勢のエキストラ達は何が起こっているのかも知らず、いや起こっていることすらしらず、街を行く。
 彼、或いは彼女らの頭上、遥か遠く。
 ちかり、と遠くで光が瞬く。


 ――――そして、光が降る。


 沸き起こったのは怒声。
 響き渡ったのは悲鳴。
 膨れ上がったのは恐怖。

 それら全ては、理不尽と不幸。

 蒼白い光の門が立て続けに、夜闇に光る。
 生き残った彼らの中で、一体どれだけの人がそれがアバターの起動だと理解できただろう。
 死んでしまった彼女らの内で、一体どれだけの人がそれが自分に向けられていたのだと思ったことだろう。

 『巨人型』、『騎士型』、『魔犬型』、『魔弾型』、『竜型』、『無機型』。
 多種多様の化物が、怪物が、アバターが。これが一体なんの目的など分からぬままの一般人すらも蹴り上げ、切り裂き、踏み潰し、蹂躙する。

 薄れる意識の中、幸運にも生き残った人々はこう思う。
 これは、テロだ。
 六年前の、再来だ。

 化物に立ち向かうことすら出来ない彼らの意識は、巻き起こる砂塵や、吹き飛ばされる人間に潰されて消える。
270 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/16(金) 14:00:48.62 ID:ypcMPuuCo
 少女はそれら全てを予見していたの如く、パニックを起こす人々の隙間を縫い、駆ける。
 軽く腕を振るうだけで、彼女の傍らに控える『剣』は空を舞い、王を討ち果たさんとする不遜者を射抜く。

夜子「ビグウィグ!」

 それがアバターだと、アバターと知覚を共有した接続者は気づけただろうか。
 いや、気がついたとしても、もはや遅い。
 それを回避するには、少なくとも思考が光を追い越す必要がある。

夜子「――――射貫けぇっ!」

 光よりも速く。
 人の絶対に追いつけないスピードで、『剣』は一体のアバターを射抜く。
 四宮夜子は既に予見していた。
 何故ならカエサルが潜り、今は自分こそが『カエサル』なのだから。
 その為の情報操作も全く怠っていなかった。

 狙われることを知っていた。
 その上で、人の森の中にいた。
 そうすれば例え自分が生きていても死んでいても、どれが『カエサル』なのか、或いはだったのか、など相手にはわからないのだから。

 そしてビグウィグ――9Rを一体だけしか出さないのも彼女の手の一つである。
 エル=アライラーの全貌を知らない人物は、これがエル=アライラーの一部だと思うはずがない。
 もしくはこれ自体がエル=アライラーだと判断するに違いない。小型で高火力、今まで姿を見たことがない、という伝説にも合点が行くのだから。
 もし、攻撃をしている接続者が、カエサルが死んでないと思い、しかしこれをエル=アライラーだと認識するならば。
 エル=アライラーの死こそが、カエサルの死である。
 ならば、そのエル=アライラーを破壊すれば――――

 轟音。
 夜子の視界が僅かに揺れ、ビグウィグに放たれた攻撃があたったのだ、と理解した瞬間に視覚の接続を閉じる。


 そして、カエサルは、一時的な死を迎える。
271 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/16(金) 14:27:49.58 ID:ypcMPuuCo
989 名無しさま[sage]:20××/××/××(木)02:01:01
    なんていうか、もう何もかも終わりだよな
    噂じゃ円卓卿も何人かやられたって話じゃん

990 名無しさま[sage]:20××/××/××(木)02:02:43
    ジャックの辺りでもう見えてたけどな
    円卓はどうすんのかね?戦争起こすの?

991 名無しさま[sage]:20××/××/××(木)02:04:13
    新都心でギグのやつらがテロ起こして、カエサル死んだってマジ?

992 名無しさま[sage]:20××/××/××(木)02:06:21
    >>991
    >>852を参照
    重傷か、死体って話
    円卓も連絡がとれないらしい

993 名無しさま[sage]:20××/××/××(木)02:06:35
    反円卓のネロカバルも動いてるって話だろ
    こりゃもう平和主義の円卓でも避けて通れんな

994 名無しさま[sage]:20××/××/××(木)02:07:59
    円卓VS反円卓VSギグか……
    レギオンはどれにつくの?
272 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/16(金) 14:38:10.15 ID:ypcMPuuCo
995 名無しさま[sage]:20××/××/××(木)02:09:05
    >>994
    いやどれにもつかないだろ
    きっと第四勢力

996 名無しさま[sage]:20××/××/××(木)02:11:42
    群雄割拠の時代か
    胸が熱くなるな

997 名無しさま[sage]:20××/××/××(木)02:12:56
    私的にはギグが勝ち残って欲しい
    一度だけ参加したことあるけど勝ったら割とお金貰えた

998 名無しさま[sage]:20××/××/××(木)02:14:23
    どこがが勝つにしても無傷じゃすまないな
    どこかに隠れて静観してたほうが懸命な希ガス

999 名無しさま[sage]:20××/××/××(木)02:15:57
    戦争とかドキがムネムネするな!
    俺も参加しようかな

1000 名無しさま[sage]:20××/××/××(木)02:17:31
    コミュネットの終焉だな

1001 名無しさま[sage]:20××/××/××(木)02:17:31
    このスレッドは1000を超えました
    新しいスレッドを立ててくださいです...
273 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/16(金) 14:39:17.75 ID:ypcMPuuCo
    第五幕
    Chapter

  41 戦争前の一大会議
  42 第三の選択肢
  → ???
  43 戦略フェイズ
  44 知らない場所で動く事態
  45 種
  46 騎士の勤め
  47 知らない場所で動く事態2
  48 裏の動き
  49 崩壊の火種
  50 コミュネットの終焉
  51 ??? ←次ここ

 少し休憩
274 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/03/16(金) 14:55:56.24 ID:9jHmIYK2o
乙!
275 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/16(金) 15:50:47.25 ID:ypcMPuuCo
 ――side 和久津 智


 睡眠というのはとても重要なことだ。
 人間の求める三大欲求の一つでもあることから、健康に重要な役割を持っているということも察せられる。
 これから何が起こるかわからない状況では、一瞬の判断が命取りだ。
 だから僕らはまた、すぐに眠りについて英気を養った。
 気がついたら、時刻は既に六時。
 着信もちらほら。眠りを邪魔されないようにマナーモードにしていたから気が付かなかった。

智「ふぁ……」

茜子「昨日はお楽しみでしたね」

智「うわっ!?」

 ベッドの下から現れた茜子に思わず僕はバランスを崩し、ベッドから転げ落ちる。
 ぽーん、と携帯が宙を舞う。
 落ちたのがベッドの上なのは幸い。壊れたらどうしようもなくなるところだった。

真雪「なんですか、全く騒々しい……」

 寝起きの真雪はメガネをかけてなく、且つ髪も降ろしていた。
 カーテンの隙間から僅かに覗く太陽光に照らされてその金髪が煌く。
 昨日は夜で、色々聞きたいこともあったから気が付かなかったけれど、妙に艶やかで。

智「……真雪って、美少女だったんだね」

真雪「はえ……?」

茜子「ふむ、成程。つまり茜子さんも美少女ということですね?」

 頭を引っぱたきたくなるが、そこは我慢。
 スルーして、真雪の跳ねている髪を軽く整えてあげる。
276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/16(金) 16:05:25.37 ID:ypcMPuuCo
智「ほら、かわいい」

真雪「あ……ど、どもです」

 格好が格好なら、どこぞのお姫様っぽい。
 それにしても、どこかで見たことがあるような気がするんだけど。
 ……まぁ、いいか。

茜子「それで。夜中に何やら茜子さんを除け者にして相談をしていたようですが。それはさて置き、これからどうするんですか?」

 茜子の呈した疑問。
 僕はそれに少し考えてから答えた。

智「そうだね、とりあえずは別行動かな?真雪は瑞和達のところだよね?」

真雪「……ええ、まぁ。そうですね」

 少し躊躇いながらも真雪は答える。
 深夜のこと、真雪はどう考えてくれただろうか。
 僕が紅緒に言ったことは真雪にも伝わっていたみたいで、計画の全貌を話すと、

真雪『……智さんが考えたんですか、それ。確かに紅緒さんにしてはおかしな発想だと思いました』

 と言われた。
 まだ深くは考えていなかったらしく、とりあえず脱走せねばということで追いかけっこが始まったらしい。
 その解答は先送り。故に、真雪はどう考えてくれたのだろうか、だ。
 しかしここで確認は必要ないだろう。きっとその時になればわかるのだから。
 僕は携帯のメールで現状を確認しつつ、真雪に告げる。

智「とりあえず、頑張ってね。外は色々物騒らしいから」

真雪「はい、ありがとうございます」

 真雪は身支度を素早く整えると、十分足らずで部屋を出ていった。
 場には、僕と茜子だけがのこされる。
277 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/16(金) 16:26:32.42 ID:ypcMPuuCo
智「それで、僕は出かけようと思うんだけど」

茜子「それでは茜子さんも行きましょう」

智「それはダメ」

 茜子は僕についてくるということぐらいは予想ができた。
 でなかったら態々僕をストーキングしてくるわけがない。
 心配なのか、それとも僕が余計なことをしないか見張る為なのかはよくわからないけれど。

茜子「それも却下します」

智「茜子……」

茜子「智さんが幾ら言っても、私は引きづられてでもついて行きますよ」

 不意に呼ばれた名前に思わず面食らった。
 茜子は僕らの名前を呼ぶことはあまりない。その場で作っただろう変なあだ名で呼ぶばかりだ。
 それほどまで、茜子は本気だということだろうか。

智「…………」

 しかし、それではこちらも困るのだ。
 新都心にはわりかし人も多い。加えて、今は物騒な状況だ。
 路地裏にでも連れ込まれで触れられでもしたら、茜子はいとも容易く呪いを踏んでしまうことになる。
 さて、どうしようかと悩んでいた矢先。
 力強く、ドアがノックされた。
 僕らが玄関の方を振り返るのと同時、ノックをしている人物の声が響く。

央輝「和久津、あたしだ!尹央輝だ!いるんだろう!」

 央輝――
 グッドタイミング、というべきだ。
 僕はオートロックの鍵をすぐさま開けて、央輝を部屋へと招いた。
278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/16(金) 16:49:52.77 ID:ypcMPuuCo
央輝「……おい、なんでこいつがここに居る?」

智「昨日つけられちゃって」

茜子「つけましたにゃー」

 茜子のふざけた語尾に、央輝は少しばかり目を細めた。
 いつも繰莉ちゃんにちょっかいを出されている央輝だ、化け猫は一人で十分なんて思っているに違いない。
 文句を言おうとしたのをなんとか踏みとどまり、央輝は僕に視線を戻した。

央輝「……まぁいい。それで、状況は聞いているか?」

智「うん、聞いてるけど……央輝はどうしてここに?」

央輝「オマエが家にいないからだろうが!」

 目を見開いて歯をむき出しにする。
 思わず一歩、たじろぐ。
 その隙間を埋めるように央輝は一歩踏み出し、僕へと肉薄する。

央輝「オマエから貰った携帯も通じない、行き先もわからない!あたしがどんな思いで夜の街を駆けまわったと思ってる!知り合いの情報屋にも全部あたったんだぞ!」

 耳の奥にまで響くような怒鳴り声。
 本来なら全部そちら側の勝手な行動で、理不尽な八つ当たりにこっちも怒ってもいいのだろうけれど。
 内容が内容であり、そしてそれを言っているのがあの尹央輝だ。
 僕はこう尋ねるのが正解だろう。

智「ええと……その…………心配、してくれたの?」

 僕のその言葉に、茜子は誂うように茶々を入れる。

茜子「旦那、こいつぁとんだツンデレでっせ。ぐひひひひ」

央輝「うるさい!オマエは黙っていろ!」

茜子「おおっとこれは失礼しました、ミス・ツンデレ」
279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/16(金) 17:01:51.67 ID:ypcMPuuCo
央輝「こっ、の……!」

智「ま、まぁまぁ落ち着いて落ち着いて」

 怒りを爆発させそうな央輝。これはいけない。
 そう思った僕は茜子と央輝の間に割り込む。けれどその矛先は僕へと向けられた。

央輝「誰のせいでこんな思いをしてると思ってる!?全部オマエのせいだ、ああもう苛つく!」

 駄目だ、一旦落ち着かせないと。
 僕は冷蔵庫内に入っているルームサービスの飲み物を取り出し、央輝に手渡す。

智「ほら、一回それ飲んで、座って落ち着いて。央輝が僕の事を心配してくれたのはわかったから」

央輝「誰が、お前の事なんて…………心配、してやる……………心配してやるものか!」

 しかし口調とは裏腹に、怒鳴りつつも僕のいうことに従ってベッドの片隅に座りつつドリンクを一気飲みする。
 本当によっぽど疲れていたのだろう、500mlのものをあっという間に飲み干してしまった。

央輝「はぁ、はぁ、はぁ…………本当に、居場所が掴めない時にはどこに行ったのかと思ったぞ……こっちではあっちこっちでテロも起きているようだったからな」

智「うん。ごめんね央輝、皆の方に連絡を入れてたから、すっかり忘れてた。央輝に真っ先に無事の連絡を入れるべきだったね」

央輝「全くだ……」

 頭を抱えて、溜息を吐く。
 ようやく央輝の暴走は収まりをみせたようだ。
 僕も央輝の近くに腰を下ろし、茜子は僕らとは微妙な距離をとりつつ、呟いた。

茜子「全く、はた迷惑な話です」

智「半分ぐらい茜子のせいだからね?」

 そうして静かになった部屋で、僕らは一時の凪の時間を過ごすのだった。
280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/16(金) 17:02:56.98 ID:ypcMPuuCo
 おわーり。
 &の発売まであと半月か……楽しみでもあるけれどヤバイな
281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/16(金) 17:19:19.47 ID:Vri5CDIfo
282 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/03/16(金) 18:37:29.74 ID:9jHmIYK2o
休憩中だったのに乙ってしまった、すまん…
乙ーゆんゆんマジツンデレ
283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府) [sage]:2012/03/16(金) 20:33:33.71 ID:xtdlJ6S/o
284 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/03/16(金) 20:37:14.77 ID:XKG+BofFo
285 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/16(金) 21:57:04.67 ID:VTU/8yuAo
乙!
286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/26(月) 18:52:28.37 ID:5GU8RjcHo
 ごめんなさい、風邪引いたっぽいです
 今回と、明日から絶対外せない用事があるからもしかしたら来週まで長引くかも
 本当にごめんなさいです……
287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/27(火) 05:20:26.93 ID:X/31CHQ/o
気長に待ってます!
288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/03/27(火) 21:59:47.48 ID:Bwhr7EY8o
無理はしないようにな
のんびり待ってるから、しっかり治せよ
&の発売も近いんだし!
289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2012/03/28(水) 07:17:20.86 ID:AUz1me2AO
ゆんゆんマジツンデレ乙&お大事にー。
290 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/06(金) 14:26:41.04 ID:WuTrqhaVo
 風邪が治らねーと思ったらマイコプラズマ肺炎だった
 何を言ってるか分からねーと思うが(ry

 入院ではありませんが安静にせよとのことなのでもう暫く休みます
 誠に申し訳、です
291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/04/07(土) 21:49:21.45 ID:0uzBy/tqo
リアルがあってこそですからね
お大事に
292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/04/08(日) 00:06:09.34 ID:hGNoeZN5o
なんか大変なことになってたんだな
マジお大事に
293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/14(土) 00:21:36.52 ID:C5E5i33Xo
央輝「それで、どうするんだ?」

 部屋の空気は入れ替わらねど、雰囲気は入れ替わる。
 央輝が部屋を訪れてから凡そ三十分、ようやく話は本題へと移る。

智「打って出る、といいたいところなんだけど」

 ちらり、と僕らとは少しばかり距離をとる茜子を見遣る。
 如何せん彼女は僕が無茶をしないか見張りたいらしい。
 けれど僕としては茜子ばかりか、関係のない皆を巻き込むことは遠慮したい。
 コインの表が皆との日常だとすれば、裏はこちらの、コミュの世界。誰だって大切な人を巻き込みたくない、と思うのが心情のはずだ。

智「央輝、茜子を引き受けて、ここにいてくれない?」

央輝「……何を言っているんだオマエは」

 呆れたように央輝は息を吐く。

央輝「わかってるのか? これはあたしらが起こしていた組の抗争とはわけが違う、一歩間違えば死ぬレベルの戦争なんだぞ?」

智「わかってるよ。ギグ、円卓、反円卓、レギオン。四つ巴の戦場がここで、いつ火がついて爆発してもおかしくないってことも」

 第一次世界大戦はヨーロッパの火薬庫と呼ばれるバルカン半島から始まった。
 そこには様々な諸民族がせめぎ合っていて、その民族問題から戦争は始まりを告げたのだ。
 宛ら今の新都心は、コミュネットの火薬庫と呼ぶのが相応しいに違いない。
 最も、その爆発はこの街だけで収拾されるに違いないのだけれど。

央輝「だったら――」

智「だからこそ、個人で動くべきなんじゃないかな」

 三人、四人。或いは五人、この状況で何かしらの目的を持ち、固まって行動していればそれは一つのコミュに違いない。
 どのグループについても、自分の仲間ぐらいはわかっているはずだ。そこに知らないコミュを見つけたらどうなるだろうか。
 答えは簡単、敵だと思う、だ。
 例え一般人たちの目を気遣ってその場では叩かれずとも見張られる可能性は高い。つまり行動が狭められてしまうのだ。
 僕は顔が割れてる――とは言ってもギグのトップである瑞和、同じくレギオンのトップである我斎、夜子。そして円卓卿達だけだ。
 最後の人々がネックには違いないのだけれど、一人で行動しているなら中々に目立ちにくいのではないだろうか。
294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/14(土) 00:45:45.66 ID:C5E5i33Xo
智「運任せ、っていうのは重々に承知してるよ。けど、僕はコレと決めてからこの数日、危ない綱渡りをしてきたんだ」

 あと半日。
 今日の夕方に、皆はここに集合する。
 蝉丸繰莉、阿弥谷縁、芳守南堵。そして僕ら。
 戦争を目前に、それぞれがそれぞれの答えを持って。
 それまで現状が耐え切れば、僕の計画、その下拵えはようやくその全てが完了する。

智「それまで、どうかお願いしたいんだ。茜子は勿論、皆を巻き込みたくないから。巻き込んだとしても、安全圏にいて欲しいから」

 央輝はこれでいて案外中々、仲間思いの人だ。
 宮和にいわせれば正しく『ツンデレ様』に違いない。
 自分は戦えても仲間が危険になるならば殿を勤めながら退散する。そんな人だ。

茜子「……智さん、だから私は――」

央輝「チッ」

 茜子の言葉を舌打ちで央輝は遮る。
 立ち上がり、太陽避けの外套を翻し、そして僕に背を向けつつ言う。

央輝「いいだろう、オマエの言うとおりにしてやる」

 だが、と紡ぐ。

央輝「一つ、連絡をいつでも取れるようにしろ。そしてもう一つ、コイツを安全圏まで送り届けたらオマエと合流する。この二つを約束しろ」

智「安全圏って、この街にそんなの――」

央輝「アイツらを呼べば済むことだろう……きっと、いや恐らく。アイツらの性格を考えるともう既に向かっている」

 溜息を吐く。
 確かに、皆の傍は僕の行動についてくるよりは安全に程近い。
 が、茜子を含めて五人、だ。状況が悪い、人数が悪い。
 それでもるいや花鶏がいるならなんとか、だとしても難しい。

 鉄塔を叩いて渡る、それが僕の生き方だ。
 それなのに二つも運任せになるなんて、思ってもみなかった。
295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/14(土) 01:05:24.13 ID:C5E5i33Xo
智「わかった、それで」

央輝「よし。ならまずは、」

 央輝との契約は成立した。
 そのまま行動に移ろうとして、不意に、

茜子「勝手に話を進めないでくださいっ!」

 部屋に声が響く。
 初めて聞く、茜子の激情に僕は思わず目を見開いた。
 ぎり、と歯軋りの音。

茜子「私はみんな、良かれと思い踏み入れたんです、巻き込まれたんです」

茜子「死ぬ覚悟はとうの昔、お父さんが逃げた時から……いえ、自分が呪われた身であると知った時から出来ています」

茜子「だから、無視しないでください、見てみぬ振りをしないでください」

茜子「遠ざけないで、ください」

 ――『良かれと思い』。
 きっと誰もがそう思って、それを言動に表している。
 僕だって『良かれと思い』単独で行動していたし、央輝も『良かれと思い』僕を心配し探しだした。
 茜子や皆だって。『良かれと思い』僕らの手助けになろうと、巻き込まれてしまおうと思った。

 だがそれは、矛盾している。
 誰かの『良かれ』は他の人間の『良かれ』を否定するのだ。
 どうしようもないほどのすれ違い。
 誰もが『良かれ』と思っているはずなのに、その結果誰かの『良かれ』を踏み潰す。
296 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/14(土) 01:28:37.91 ID:C5E5i33Xo
 ああ、ここはやっぱり呪われた世界だ。
 誰もが思うがままに進まない、進めない。

 僕はなんて言ったっけ?
 こんな呪われた世界を。
 そう、こんな呪われた世界を。

智「――こんな呪われた世界を、やっつける」

 呟く。
 『良かれ』『良かれ』『良かれ』『良かれ』『良かれ』。
 どれかをとればどれかを打ち消す?
 どれかを踏み潰さなければどれもとることができない?
 僕の『良かれ』は譲れない。だからって他の『良かれ』を潰したっていいものか?
 否。答えは、否。
 それを是とするのなら、僕はこんな場所に立ってなどいない。第三の選択肢などつかみとってはいない。

 だから、探そう。
 何れをも否定せず、何れをも達成する選択を。
 譲り合い、妥協し、交渉し、話し合い、歩み寄り合い、折り合い、調停し。
 そして皆が納得できる選択を。

智「茜子。茜子の言いたいことは、わかったよ」

智「だから――」

 譲歩する。
 僕は、茜子やるいや花鶏やこよりや伊代を。皆を頼る。
 だけど。
 今だけは。下準備の終わりまでは。首を突っ込まないでほしい。
 コレが、僕に出来る最大限の譲歩だ。
 それを茜子に、皆の意思に告げる。

茜子「………………」

 暫しの沈黙。
 茜子は自らを含めて損得の計算が出来る人間だ。
 パルクールレースの際、僕の身柄も賭けるとなった時、『自分をさし出せばよかったのに』と言ったことからもそれは伺える。
 故に計算する。きっとその才能をもつかい、僕らの微細な心の変化も読み取りつつ。
 答えを、出す。

茜子「……それが妥当なところ、ですね」

 やれやれ、とでもいうように首を軽く横に振った。
 よかった、こちらの交渉も成立したようだ。

茜子「ただし」

 いつもなら猫を持っている腕を、びしっ、と僕に突きつけて。
 ジトッ、とした目で僕に言付ける。

茜子「次はありませんからね」

智「……重々、承知しております」

央輝「……話は終わったのか? なら、行くぞ」

 先ほどまで我関せずだった央輝がようやく口を開く。
 そして開始する。
 それぞれが譲れない、『良かれ』の為に。
 それぞれが胸に秘める、『良かれ』の為に。
297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/14(土) 01:35:44.49 ID:C5E5i33Xo
    第五幕
    Chapter

  41 戦争前の一大会議
  42 第三の選択肢
  → ???
  43 戦略フェイズ
  44 知らない場所で動く事態
  45 種
  46 騎士の勤め
  47 知らない場所で動く事態2
  48 裏の動き
  49 崩壊の火種
  50 コミュネットの終焉
  51 譲れないもの
  52 ??? ←次ここ


 おまたせいたしました、絶賛大復活です。
 全然関係ない話なんですが、大学の部内冊子の作品に智ちんがいてびっくりしましたまる

 それはさておき、本当におまたせいたしました。&の発売日を普通にまたいでしまいました。
 &の内容は……うん、ここではいいか。
 兎に角。遅くなって申し訳ございませんでした。
 できれば、明日というか今日も更新します。できれば。
298 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/14(土) 01:52:08.01 ID:PJJBnPy4o
299 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/04/14(土) 09:43:42.88 ID:JeTlcAF+o

体調よくなったんだな。よかったよかった
300 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/04/14(土) 12:00:45.50 ID:wR3XmmAho
301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/22(日) 23:41:08.41 ID:alYlxhyXo
 土日が終わる……だと……
 昨日今日と時間が取れなかったので(更新できなかったので)明日か明後日に来ます
 というかこのルートの終わりは見えてるのに遅々として進まないのはどうしてなのか……
302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/24(火) 22:49:39.88 ID:Z5azaquGo
智「……以外に、すんなりと終わったなぁ」

 僕が向かった先は『円卓』だ。戦争の一端を担う大組織でもある。
 けれど、そこにも引っかかる場所はあるのだ。
 円卓卿、高遠奈々世。
 今は危機的状況のためか、余計なものがいたため僕の頼みを話すのは困難を極めたけれど。
 それでも掛かった時間とその結果を比較してみれば無駄ではなかった、といえる。

智「けど粛清、か……」

 聞いた話を思い出す。
 なんでも九倉が裏で悪いことをやっていてその弾劾裁判を行ったらしい。
 死体はあがっていないがそれはアバターによって奇襲したためであり、十中八九命はないだろう、という話だ。
 奈々世さんが僕の願いを聞いてくれたのは、きっとそんなことがあったからだろう。
 これ以上余計な犠牲者、死人を増やしたくない、例えそれが敵であっても――などというなんとも甘い願いがあったからだろう。
 それに漬け込むのは大変心苦しくもあるけれど、今は心を非情にしてそれを貫かなければならない。

智「とりあえずこっちの情報も僅かだけど信用して貰えたみたいだったし、あとは計画通りにことが進めばオッケーってことだね」

 その計画通り、が難しいのだけれど。
 皆が介入してきたせいで誤差の範囲だけれどズレが生じているし、まずはその皆と合流してなんとかするところから始めないと。
 そう思って僕は携帯をだして電話をかけ――――。

智「――――?」

 脳裏に閃きが走る。
 ふと見ると、そこはビルとビルの隙間にある路地裏。
 光の届かぬ闇の世界。そこで今は何が起きているのかわからないブラックボックス。
 無償に、必要以上に。僕にはそれが気にかかった。
303 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/24(火) 22:56:18.12 ID:Z5azaquGo
 理性では、『そんなところを通る必要はない』とわかっている。
 アバター同士の抗争が繰り広げられている可能性が大きいし、メリットがないくせにデメリットが大きすぎるのだ。
 それなのに五感以外の何か――所謂第六感と呼ばれるものだろうか、それが酷く頭に警鈴を叫ぶのだ。
 『行かなければきっと後悔する』と。

 僕は――――


 >>304
 1 導かれる様に路地裏へ
 2 それよりも皆と合流を
304 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/04/24(火) 22:58:11.05 ID:WkS++Nnro
1
305 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/24(火) 23:22:37.81 ID:Z5azaquGo
 → 導かれるように路地裏へ


智「……行こう」

 口内に溜まった唾を嚥下する。
 安全だ、という保証はない。だから出来る限りの神経を張り巡らせ、いつでもマクベスを召喚できる準備を怠らない。
 そこまでしてこの路地裏を通る価値があるのか?
 先ほども言った通り、メリットもない、デメリットだけの選択だ。
 だから仮に問われたとしたらこう答えるしかない。『これは迷いの神様に導かれたのだ』と。

 裏に一歩足を踏み入れるだけで、ジャリッという足音が嫌なくらいに響く。
 なるだけ音を立てず慎重に且つ注意深く歩みを進める。
 耳を澄ます。僅かな音でも聞き伸ばせばそれは致命傷となり得る。
 コツ。ジャリ。コツ。コツ。コツ。ジャリ。コツ。ジャリ。ジャリ。
 息を大きく吸って、また踏み出す。

 携帯が震えた。
 咄嗟に止めてしまい、しまった、と思った。
 きっと今のは央輝か誰かだ。早くも約束を破ってしまうことになるなんて思っても見なかった。
 多分直ぐに切られて怒りケージが充電されたに違いない。これは愚痴の一つや二つ覚悟しなければならない。
 そしてそんな不幸の割に、ここには何もない。遠くに表通りの喧騒が僅かに聞こえるだけで、それだけだ。

智「……損した」

 思わず、溜息を吐かざるを得なかった。
 最大の危機はなかったけれど、それでもデメリットだけしかなかった。
 僕の第六感は果たして無意味だったわけだ。

智「とりあえず、折り返し電話しないと」

 画面をみるとやはり央輝。
 嗚呼、きっと怒っているだろうな。そう思いながら電話帳を開こうとした時に思わず携帯を取り落として。
 その携帯の落ちた音は、それよりももっと大きな金音に打ち消された。
306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/24(火) 23:34:32.76 ID:Z5azaquGo
智「っ!?」

 その音は丁度次の角を曲がった先から聞こえてきた。
 息をすることさえ忘れる。
 少しばかり外面に傷のついた携帯をそっと回収して忘れていた息を更に潜める。

 足音はせず。
 どこかの誰かがアバターに追われていたり、アバター同士の戦いが起きたりしているわけではないらしい。
 二度目、携帯が震えた。
 やはり反射的にサイドボタンを押して止めて、見通しの悪い路地裏で、更に見辛い曲がり角を注視する。

智「…………」

 今の金音は、恐らく鉄パイプか何かが地面に倒れた音。
 どこかの酔っぱらいがぶつかって倒したという確率が最も高そうだけれど……いや、この思考はいけない。
 確実にないと言い切れない限り、それだと思い込むことはそれ以外であった時に自分の判断力を低下させる。
 先程よりも音を殺し、息を隠し。なるべく素早く角に近づいて。
 そっと、その先を見遣る。

 そこにはやはり鉄パイプなどの廃材が路地裏に転がっていて。

智「――夜子っ!?」

 そして見知った少女がそれの下敷きになっていた。
307 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/24(火) 23:37:38.50 ID:Z5azaquGo
 おわーり。
 GWなのに大きな予定の空きが取れない……どういうことだってばよ……
 とりあえず次回は土曜を予定しています。
 それでは。
308 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/24(火) 23:46:36.32 ID:tnMAEajoo
309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/04/24(火) 23:48:19.80 ID:WkS++Nnro
310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/04/25(水) 00:36:19.07 ID:iE3splD3o
311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/29(日) 02:18:08.35 ID:/oeXu1Soo
 苛々しているだろうその相手の電話に僕はようやく出る。

央輝『約束が違う! オマエはいつでも連絡をとれるようにすると――――』

智「ごめん央輝、話はあとで! 今どこにいる!?」

 央輝の怒声を無視し、僕は携帯を肩で耳元に引っ掛けつつ尋ねる。
 僕の声から何やら急を要する事態だと悟ったのか、自らの怒りを引っ込めて問いに答えてくれた。

央輝『今は、そうだな。駅とあのホテルの真ん中辺りか』

智「それじゃあ、そこら辺で人一人治療出来るところとか、医者とか知ってる!? できれば黙秘つきで!」

央輝『……知ってるには、知ってる。が、オマエ一体何を、』

智「わかったありがと! それじゃあホテルの前で!」

 手早く携帯をポケットにしまい、夜子を背負い直す。
 外傷は身体にはそれほど見られないけれど、壁に掛かっていた鉄屑の下敷きになった時にぶつけたのか、頭から少量の血が出ていた。
 頭の怪我というのはヤバイ。血が出ていないでも後遺症になる可能性もあるというのに。
 やっとこさ僕が路地に入った入り口まで戻ってきた。出る直前に辺りを素早く見渡す。
 例えば夜子がその正体を見抜かれて追いかけられていたのなら周辺にはその追手がいるに違いない。それは、普通の人とは異なる動きをするだろう。
 運がよかったのか、それとも憶測が外れていたのか。表通りにはたむろしている若者達と、この新都心で起こったテロなど関係ないとでも言う風に行き来する人々しかいなかった。

智「……よし」

 何食わぬ顔で表通りに出る。
 夜子の頭の怪我は帽子で隠しつつ、慌てず急がず、しかし少し早足に央輝への待ち合わせ場所へと向かう。
312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/29(日) 02:34:54.69 ID:/oeXu1Soo
 ――side 四宮 夜子


 足がじくじくして、引きずるようにしながら私は路地裏へと逃げこんだ。
 壁伝いに、奥へ奥へと歩を進める。
 しくじった。
 いや、しくじったと言う程に取り立てて大きなミスではない。ただ、騒ぎに巻き込まれて足を挫いたというだけだ。だが、移動力が低下して作業に多少の障害が出る。
 人はそれを、『しくじった』というのだろうけれど。

 ……そんなことより、怪我の大小の方が私にとっては大事だった。
 折れてはいない、と思う。
 恐らく捻挫だ。適切な応急処置をすれば、全力とは言えずとも走れるようにはなる筈だ。
 けれど。

夜子「……戻るのは、危険か」

 安全に治療できる場所というならば、やっぱりカエサル――五樹の元が一番だ。
 けれど、それは隠れ家に入る場所が割れてしまう危険性も孕んでいる。
 仮に私の正体を知っているものがわざと怪我をさせ、機動力を低下させて追跡しているならばこれ以上の失態はない。
 迂闊な真似を、する訳にはいかない。

夜子「っ――――!」

 前を、足元を見ておらず。無造作に投棄されていた鉄屑に足を取られる。
 バランスのとれない私は、立てかけられていたそれらに頭から突っ込んだのだ。
 ガランガランガランガラン、とけたたましい音がすぐ近くに響き渡ったのは覚えている。

 それから――――
 それから、どうしたんだっけ。
313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/29(日) 02:53:11.88 ID:/oeXu1Soo
 …………そう、確か。
 私は、その下敷きになっていて、そこから引き摺り出されたのだ。
 敵か、或いは味方か。どちらにしても私は抵抗する気力などなかった。
 頭を打ったのか、意識は朦朧としていて足も満足に動かせない。
 その状態でどうして、逃げよう、なんて思えるのだろうか。

 その時に思ったのは、やり残したことがないか、だ。
 後悔なんて、ある筈もなかった。
 死にたくないなんて、思うはずもなかった。
 生き返らせてくれたのは他でもない五樹だ。私はあの日から、五樹の為に生きて死ぬと誓ったのだ。
 強いていうのなら五樹に想いを伝えられなかったことだけれど。それは最早叶わない願いだと知っていたから。

 死など既に畏れることはなく。
 主のために剣を取り、振るい、そして死ぬ。
 それが私の決めた道。
 それが私の誓った道。
 それが私の――――

『そん、なの……そんなのって……』

 ――そんなのって、ない。
 不意に、遠くにその言葉が聞こえたような気がした。
 これは、いつの、誰の言葉だったっけ。

 ――こんなに頑張って。こんなに尽くした子は、報われなきゃ嘘だ。幸せにならなきゃ嘘だ。
 そんなことはない。
 これは、私が決めた道なのだから。
 そんなことすらわからないのに、口を出さないで欲しい。


 なのに。
 その人の言葉は、まるで。
 そう、まるで――――
314 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/29(日) 03:11:45.15 ID:/oeXu1Soo
 ――――暖かい。
 僅かな振動が、私の意識を深層から呼び覚ます。
 いつかと同じ暖かさが、私を包み込んでいた。


 それは、一年前か。
 いや、違う。その時にもあったけれど、それよりももっと昔。
 私がまだ、私でなかった頃。
 まだ、皆が生きていた頃。

 私は転んで、膝に怪我を負った。
 怪我といっても擦り傷で、今となってはどうってことのない怪我だ。
 絆創膏も張ってもらったけれど、それでも痛くて、痛くて私は立ち上がることができなかった。
 その時だ。
 私をすくいあげて、そして背中に背負ったのは。

 その時と同じ、暖かさ。
 身体だけでなく、心から私のことを想っているその暖かさが、直に伝わってくる。

夜子「おかあ……さん…………」

 だから、私が呼んでしまうのはきっとおかしくはなく。
 寧ろ当然の反応だったはずだ。
 死んでしまっているのはわかっていても、違う誰かだとわかっていても、そう呼ばずにはいられなかった。


 それにしても。
 ――――ああ、暖かい。
315 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/29(日) 03:28:24.31 ID:/oeXu1Soo
夜子「っ……う…………」

 意識が、覚醒する。
 長い夢を見ていた、そんな気がした。
 起き上がると頭痛が走る。手で確かめると、綺麗に包帯が巻かれていた。
 その後に周りを見渡す。
 どうやらどこかのビジネスホテルの一室のようだった。

「……オマエ、調子はどうだ?」

 突然かけられた声に身を固くする。が、声のした先をゆっくりと見遣ると、そこにいたのは知り合いだった。
 知り合い、とはいっても私は数回しか見たことがないけれど。
 確か……央輝、と言っていたような気がする。

夜子「……調子は、悪いわけじゃない。けどいいわけでもない」

 動くのに支障はない、程度のもの。
 必要以上の負担をかけたらその瞬間に決壊でもするだろう。
 その返事をきいて、央輝、とやらはふん、と鼻を鳴らした。

央輝「そうか。なら大人しくしていろ、もうすぐアイツが帰ってくる」

夜子「アイツ……?」

央輝「オマエを運んできたアイツだ。全くもって、火中の栗を拾いに行くようなどうしようもない馬鹿のことだ」

 ああ――大体、わかった。
 この人がいて、その特徴から恐らくそうだと理解できる。
 それでも、恐らく彼女が私を助けてくれたのだ。
 きっと、私を背負ってここまで連れてきてくれたのだ。


 ――そんなのって、ない。
 やっぱり、きっとその言葉は彼女のもので。
 その言葉を思うと、何故か私は不自然なほどに満たされた。
316 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/04/29(日) 03:29:21.68 ID:/oeXu1Soo
 ここまでー
 三連休……もう一回ぐらい更新したい……
317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/04/29(日) 05:41:10.09 ID:yWL1I/rIo
318 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2012/04/29(日) 08:52:24.29 ID:OT3oihoAO
おっつー。GW仕事で潰れた自分にはここの更新だけが楽しみだよ…。
319 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/29(日) 09:35:12.88 ID:F3+XnoMEo
320 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/04/29(日) 17:38:19.54 ID:uBRMB3KQo
おつ!!
321 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/12(土) 01:31:41.19 ID:JKEKl1nlo
 レポート爆発しろ。
 今から眠気が許すまで。
322 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/12(土) 02:05:39.68 ID:JKEKl1nlo
 ――side 和久津 智


智「出来れば……ううん、絶対に、皆は巻き込みたくなかったんだけど」

 同じ呪われた仲間。
 同じ境遇の類友。
 それでも命のやり取りをする場には、普通は出ないと思うのだけれど。

伊代「まだあなたはそんなこというの?」

 思ったの、だけれど。
 僕は伊代の言葉に首を振る。
 同時、るいの久しぶりに見る満面の笑みが僕の網膜に焼き付いた。

るい「そうこなくっちゃ! トモと私たちは一蓮托生、運命共同体だもんね!」

こより「るいセンパイが難しい言葉を使ってるー!」

伊代「これは、明日は雨ね」

智「どちらかと言えば槍かも」

花鶏「何が降ってもこの底なしは傷ひとつ負わなさそうだけれどね」

るい「なにせ、るいねーさん無敵乙女ですから。えっへん」

 胸を張るるい。それを輪にかけて、更に話題が広がる。
 ああ――懐かしい。
 たったの数日だけだったような気がするし、数週間、数ヶ月間もこの空気に触れていなかったような気がする。
 或いは昨日会っていたにしても、この空気を味わうことができなかったに違いない。
323 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/12(土) 02:30:08.03 ID:JKEKl1nlo
茜子「それで、あのAAAは一体どこに?」

智「央輝なら隣の部屋。流石に怪我人の傍で騒ぐのは不味いから」

るい「えっ、いぇんふぇー怪我したの!?」

伊代「え、でもわたし達にこの子を渡した時には何もなかったし、そのあとにしても怪我するほどの事故なんて……」

 違う違う、と騒ぎ立てる皆を治めつつ。

智「なんていうか、僕の……そうだね、娘? みたいな。こっち側で気にかけてる子なんだ」

 咄嗟に夜子が背中で僕のことをお母さん、と呼んだのを思い出して。
 知り合いで済ませてしまえばよかったものを、そういってしまったのが間違いだった。

花鶏「えっ、智ちゃんに娘!? 相手はどこの誰!? わたしの智をその汚れた手でぐしゃぐしゃのべしゃべしゃにしたのは誰!?」

智「いや、だからみたいなものってだけ、」

花鶏「いけないわ、すぐに消毒しなくちゃ。丁度ここにベッドが一つ、さぁ智ちゃん汚い男なんて捨ててわたしと一緒にヘブンへ――――!」

伊代「落ち着きなさいあなたはっ!!」

 伊代の筆に尽くしがたい攻撃が避ける間もなく花鶏にクリーンヒット。
 『ごふっ!?』とこれまた酷い悲鳴(?)を上げて床に崩れ落ちる。
 ……やっぱり、瞬間的な攻撃力に関して、伊代はるいをも凌駕すると思う。

こより「それで、なんのお話……でしたっけ」

茜子「そこの卑怯極まりない胸なし一号の、自称娘だとかいう人の話です」

 花鶏が暴走モードになったので避難していたのか、るいの後ろから発言をするこよりに茜子が答える。
324 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/12(土) 02:54:34.57 ID:JKEKl1nlo
智「放っておけない、みたいな感じの意味でね。こよりは一度会ったことあるよ」

こより「えぇっ、本当ですかぁ!? ともセンパイの知り合いで、娘みたいな人……ええっと……」

 覚えていないのも無理はない。一年前のあの日は、こよりの印象はより強い衝撃で上書きされてしまったはずだから。

るい「その子が怪我したの? じゃあトモ、早く行ってあげなくちゃ」

智「うん。だから結構、僕慌ててるんだ」

 でも約束を先に果たさなければ。
 茜子の方を見ると、溜息をつかれた。

智「それじゃ、役割を。まずはバックス、伊代と茜子。LANはつながってると思うから、リアルタイムで逐一最新のデータを入手して欲しい」

茜子「私はその情報の真偽判断、といったところですね」

 うん、と頷き伊代の方へ顔を向ける。
 伊代も僅かに表情を引き締め、『わかったわ』と答えた。

智「それで次に、機動力を持ってるるいとこよりは情報伝達係。乱戦になったら連絡機器が破壊される可能性が高いから、その場合の部隊」

智「でもるい、危なくなったらこよりを守ってあげてね」

こより「不肖鳴滝こより! るいセンパイの足を引っ張らないように頑張りますです!」

るい「るいねーさんにまかせんしゃい!」

 ぱしん、とタッチを交わするいとこより。
 どちらかといえばこちらはあまり心配はしていない。逃げることに関してこよりはエキスパートのようなものだから、るいが時間を稼いでくれれば逃げられる。
 そしてそのるいも、アバターと比べたらイケナイが頑丈だ。怪我はあまりしてほしくないけれど適材適所、仕方がない判断というやつだろう。
325 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/12(土) 03:11:48.68 ID:JKEKl1nlo
智「それで花鶏は中継役。場合によってはどっちの立場もこなす、マルチタイプってところ」

 要領のいい花鶏にはいいポジションだろう。
 能力の反動か何かかは知らないが気絶と睡眠を同時にこなしている花鶏には後で伝えてもらうとして。

智「緊急時の集合場所はここを指定しておくけど、万が一の時の退避場所をピックアップしておいて」

伊代「ええ、わかったわ。わかりやすく、見つかりにくい場所、でいいのよね」

智「うん。休める場所でもあれば尚ベスト」

 初めの懐かしい、心地良い空間につい時間を忘れてしまった。
 故に口早で役割分担を済ませたが、苦情が出ないところを見ると問題は特にないようだった。

智「それじゃ、何かあったら直ぐに呼んでね」

 返事を聞くよりも早く、僕は隣の部屋へと移動をする。
 央輝からの連絡で夜子の眼が醒めたことは知っていたけれど、やはり自分で確認するまでは安心できない。
 人の力で叩かれたのではないとはいえ、鉄材をその小さな身体で受け止めるのは無茶にほかならないのだから。
326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/12(土) 03:12:24.51 ID:JKEKl1nlo
 眠い無理。
 明日昼に更新する。
327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/05/12(土) 03:39:50.44 ID:fjVGfPNho
328 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/12(土) 11:12:53.48 ID:VzBLbatMo
329 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/12(土) 13:21:40.86 ID:JKEKl1nlo
央輝「遅い」

 部屋のドアが開いて開口一番。
 央輝が口を尖らせて僕に文句を言った。

央輝「確かに医者を呼んだのはあたしだが、患者を押し付けて面倒を見させるのは違うだろう」

智「でも皆を目の届くところに置いておかないと危ないし、そこのところの説得が……」

央輝「オマエからだ、後は知らんとでも言えばアイツらは納得するだろうに」

 央輝は大きな溜息を吐いた。
 要するに央輝は顔を数回見たことがあるだけの、特に知らない人間と二人でいて気不味かったのだろう。
 それは少し悪いことをした。

智「ごめんね央輝、気をつかわせちゃって」

央輝「ああ……わかったのならいい」

智「それで夜子は?」

夜子「……さっき起きた」

 僕らの声が聞こえていたのか、ぼそぼそとした声が部屋の奥から聞こえた。
 よかった、と胸を撫で下ろす。あとは怪我の所為で熱がでなければ大きな問題はないだろう。
 央輝の横を通り部屋の奥へ行き、夜子と対面する。

智「よかった、案外大丈夫そうだね」

夜子「このぐらいの怪我なら、いつも負ってるから。初めての時の方がよっぽど酷い」

 初めての時、というのはきっと僕が初めて夜子を助けた時のことだろう。
 決して初体験ではない……と思う。
330 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/12(土) 14:18:21.49 ID:JKEKl1nlo
央輝「……足は軽度の捻挫、全身に打撲。痛み止めを飲ませた、数日安静にしておけば問題はないと言っていた」

智「そう。直ぐに行動するならどのくらい持つって言ってた?」

央輝「痛み止めの効く時間だけだな、もって三時間……丁度三錠残っているから、今の時間も含めたら連続しては十時間が限界だろう」

 夜子を見遣ると少し難しそうな表情を見せる。
 いつ何が起こるかわからない状況で、常に気を引き締めていたいのだろう。
 だがたったの三錠しかない。あの王様の隣で戦い続けるには、少し心許ない量。

智「夜子、今すぐやるべきこととかあるの?」

夜子「今はない。私は死んでることになってるから、あとはストライダーの溜まり場でも行って偽情報を流す程度だけど他の部隊でも代用可能」

智「そう、それじゃあ――――」

 ピッ、と玄関の方を指さす。
 しかし厳密には玄関ではなく、そのすぐ横にある洗面所、そして。

智「薬効いているうちに、シャワーでも浴びておきなよ。央輝、二人ぐらい入れると思うから手伝ってあげて」

 瞬間、二人の眼が丸くなった。
 先に動いたのは央輝。

央輝「な、まっ!? オマエさっきのあたしの言葉わかってなかったのか!? オマエがいれてやればいいだろう、なんであたしが!」

智「いや、央輝こそ何言ってるかわかってるの!?」

 シャワーに入れる、というのはつまり裸になることでして。
 夜子が女の子だ、っていうのも最もな理由だけど、それよりもっと重大な問題があるのでして。

央輝「あたしよりオマエが入れた方が――――……!」

 瞬きのうちに、央輝の興奮で紅潮していた表情が固まって、動揺を見せる。
 気付いた。というか思い出した。
 本当、央輝はよく僕の本当のことを忘れる。
 それだけ擬態できてる、といえば聞こえはいいんだけど……男としての自尊心も軽く失ってる気がする。
331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/12(土) 14:49:22.05 ID:JKEKl1nlo
央輝「すまん、また忘れていた……」

智「……思い出してくれてありがとう、それで、お願いできる?」

央輝「ああ……仕方がない、隣の部屋の奴に押し付けるわけにも行かないしな。引き受けるとしよう。」

 やれやれ、と首を振りつつ央輝はいう。
 よかった、流石に花鶏とかに押し付けられたらどうしようかと思うところだった。

央輝「それにしても、こうして実感する度に思うが……とことん、その〈呪い〉オマエの為にあるようなものだな」

智「やめてよ、命がかかってるんだから……」

夜子「……呪い? 命がかかってる?」

智「ああああああああ、夜子は気にしなくていいから!」

 油断してたらすぐこれだ。央輝か僕が口を滑らせてなくて本当によかった。
 他の人がいる時には気をつけておかないと……

智「それより夜子も早くベッドから出て! 地面に倒れてたんだから汚れてるでしょ」

夜子「……でも、一人で入れる」

智「痛み止めって本当に痛みを止めるわけじゃないからね? 下手に動いたらやっぱり痛いから、洗ってもらうのが一番だよ」

 言われ、夜子は央輝へと視線を移す。
 数秒の間二人して真顔で見つめ合っていたが、やがて僕へと顔を向けて。

夜子「……わかったけど、洗ってもらうなら和久津の方がいい」

央輝「ぶっ」

 央輝が吹き出す。
332 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/12(土) 15:05:34.46 ID:JKEKl1nlo
夜子「?」

央輝「くっ、くくくっ……言われているぞ、和久津」

智「そ、そんなこといわれたって」

 嬉しい。
 いや、違う! 確かに嬉しいは嬉しいけど! そういうことじゃなくて!
 男としては誘われたなら入りたいけど、僕は女で、いや男だけど女ということになっていて男だとバレたらノロイを踏んで……!

 様々な感情がぐるぐる巡る。
 るいに風呂に誘われた時でもこんな混乱することなんてなかった。
 花鶏の家でお風呂に乱入された時でもここまで変な感情を持たなかった。

 ああもう、つまり。
 どんな顔をしていいのかわからないの。
 笑えばいいと思うよ――――じゃなくて!

智「ダメ! 僕は他の人と一緒にお風呂に入っちゃいけない病なんで!」

夜子「でも、」

智「デモも打ち壊しもないのー!」

 ああ、もう。
 いろんな意味で台無しな気がした。

智「いいからほら、さっさと行く! 央輝も準備して!」

央輝「全く……さっさと入るぞ」

夜子「……はぁ」

 夜子の諦めのような溜息を最後に僕は一人部屋に置き去りにされて。
 電池が切れたように布団の上に倒れるのだった。
333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/12(土) 15:08:00.26 ID:JKEKl1nlo
 本日はこれにて。
 GW一日しか更新できなくてごめんなさい、レポート死ね状態だったので……
334 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/05/12(土) 15:21:15.96 ID:fjVGfPNho
335 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/12(土) 15:51:28.88 ID:VzBLbatMo
336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/27(日) 23:09:15.14 ID:smLjIvGZo
 あーもう、やることが多すぎる!
 その癖先の展開ばっか思い浮かぶし、それなのに筆が全然追いつかないし!
 ……本当に、またせて申し訳です…………orz

 明日、来ます。
337 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/28(月) 08:31:51.09 ID:XEap/gQ5o
無理すんなよー


待機
338 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [《aga]:2012/05/28(月) 23:43:39.98 ID:J7qIVenMo
 ――side 瑞和 暁人


暁人「こうして皆で集まるのも、久しぶりだな」

 ぐるりと揃った面子の顔を確かめる。
 場所はギグの一会場として稀に使用する倉庫街。
 奇襲をかけられたとしても迎え撃つには好都合な場所でもある。

真雪「そうですね。私、あれから全く会えませんでしたからね」

 そういう真雪は一年前と何ら変わらない。
 相変わらずの低身長のミニマムボディにあちゃーなファッション。
 人気のない廃墟的な辺りの雰囲気も相まって、以前に六人で今後の方針について集会をしていたことを思い出した。

紅緒「連絡は結構取り合ってたけどね。暁人もそうでしょ?」

暁人「まあな。こっちでもそっちでも、何かあったらヤバイわけだし」

伊沢「ま、どっちにしたってチビを巻き込むようなヘマはしねーよ。これまでもそうだし、これからもな」

カゴメ「ほう、相変わらず口だけは一人前だな。貴様らが興じている遊びでもそれぐらいの勢いが欲しいものだな」

暁人「参加してるときは割と圧倒的に勝ってると思うんだけど」

 正直バビロンは俺と伊沢の二人でも回る。
 お春さんがいれば移動も気にしなくていいから後ろ盾を得た気になれるけれど、伊沢の操作センスが半端ない。
 お陰で殆どの場合に置いてEX能力を使用せずに済んでいる。

カゴメ「暁人、お前は蟻を踏み潰して高笑いするのか。お前もそれと大差ないだろうに」

暁人「…………」

 黒い魔女は道化を貶すのがお好き。
 相も変わらず、いい趣味をしている。
339 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/29(火) 00:03:47.73 ID:vJzrQie/o
春「お春さん的には昔の思い出話に花を咲かせるのもいいんだけどね? 今日は流石に余裕ないんじゃないかな」

 その口調とは裏腹に余裕のありそうなお春さん。
 そうだ、今は一秒も惜しい。

カゴメ「これだから暁人は愚鈍なんだ」

暁人「スイマセンデシター」

 マシンボイスで適当に謝り。
 そして本題へ。

暁人「伊沢とお春さんは兎も角、大体の状況は掴めてるか?」

真雪「はい、暁人さんからの情報があったので大まかには」

紅緒「私も、雲行きが怪しくなってきた頃から掲示板よく見てたから」

 つまり大体の筋は理解しているというわけだ。
 それなら話は早い。

暁人「結論から言うと、我斎……カエサルが死んだっていうのはダミーだ。あいつはそう簡単に死ぬようなタマじゃない」

伊沢「ま、そりゃそうだろうさ。馬鹿共は倒した倒したって騒ぎ立ててるらしいがな」

 ネットに広まっているのは偽情報に踊らされ、小さな剣のアバターこそがエル=アライラーだと思った人々だ。
 それがギグ側の接続者だから尚更性質が悪い。
 ギグVSレギオンだなんだとはいっても、レギオンは我斎を中心とした結社であり、ギグは言っちゃあなんだが、烏合の衆。
 ギグという一つの旗本に集っているとはいえ、俺達は命令を出せる立場ではない。
 勿論私兵というかか細い関係を持っている接続者もいるにはいるが、それでも雀の涙というレベルのもの。真実を告げ、本物を警戒するように言ってはいるものの、心許ない事この上ない。
340 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/29(火) 00:30:48.86 ID:vJzrQie/o
真雪「ネットを通じて本物な訳がない、とは言っても反論する人は絶対に出てきますしね……倒したと思っている人然り、情報操作の人然り」

春「あちらさんは水面下のやりあいも慣れていそうだしねぇ。こりゃ分が悪い」

カゴメ「フン。だから言っていただろう、有事の際に備えて掌握しておけと」

 そうはいうものの、俺には今持っている関係だけでも手一杯だった。
 私兵を飼う、ということはそれに見合う報酬も与えなければならない。わかりやすく言えば金だ。
 オーナーへの上納金はまだいいとしても、密の治療費も考えると必要以上に資金を割くことなどできない。

カゴメ「その為体がこれだ。地面に埋まって猛省しろ」

暁人「そんな余裕もねーよ」

 これに関しては俺の落ち度だ、最終目的を後回しにしたとしても守りを堅牢にすべきだった。
 だとしても、過ぎてしまったことを悔いても仕方がない。
 幸運なことに、バビロンは昔に比べて大幅にレベルアップもしているのだから。
 伊沢、お春さん、紅緒。そして抜けていた、真雪。
 全員がいれば、三強の一つに数えられるエル=アライラーにも引けをとらない……ハズだ。

暁人「例え及ばなくとも、死ぬ気でやればなんとか」

真雪「……まぁ、死ぬ気でやらなかったらマジで死にますからね」

伊沢「ケッ」

 相打ち覚悟、といいたいところではある。
 が、俺には相打ちじゃ意味が無い。
 勝たなければ。勝って、生き残らなければ。
 もはや、俺一人の身体ではないのだから。

紅緒「……でも、どうするの?」

真雪「ですね。死んだってことになっているということは、ギグや円卓の戦力が削れるまで穴熊を決め込むでしょうし」

伊沢「だな。どうすんだよ瑞和」

瑞和「……誘き出すしかないだろ」

 きっと、生きていることがバレている、ということは向こうにバレているに違いない。
 俺はそれに気付かない振りをしよう。
 潜んでいるだろう場所に襲撃を仕掛けるという手立てもあるが、恐らくは待ち構えているだろうからダメージが大きいだろう。
 ならば危険を承知で罠を踏みに行くほうがずっといい。
341 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/29(火) 00:37:23.27 ID:YiImaIq/o
wwktk
342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/29(火) 00:49:07.38 ID:vJzrQie/o
 ――――赤い色を想い出す。


 俺が望んで引き金を引いた。
 俺が願って引き金を引いた。
 俺が求めて引き金を引いた。

 理不尽な掠奪への復讐の為。
 無慈悲な搾取への抗いの為。

 無力に打ち震え、絶望を噛み締めて。
 それでも、許せなくて。
 許せなくて、認められなくて、受け入れられなくて。
 何も出来なかった自分自身へ敵意を抱き。
 それが嫌で、俺はあの日、自ら銃を手に取り、引き金を引いた。

 理不尽を許さない。
 俺はあの時、そう誓って、そう想ったはずなのに。

 ああ――――
 俺は今、理不尽になろうとしている。
 理由もなく、自分自身の為に命を奪おうとしている。

 『死に意味なんてない』。
 いつかの屋上で巡りあった殺し屋はそういった。
 どうしようもなくその通りだと思う。
 人は自分の目的の為にそれを遂行し、命を奪う。


 ――――赤い色を想い出す。
 ――――赤い色を想い出す。
 ――――赤い色を想い出す。


 認めよう。
 俺は一の為に百を殺す。
 我斎は百の為に一を殺す。
 それがぶつかり合った時に生じる死に意味などない。

 認めよう。
 俺は自分の許せなかった、理不尽になることを。


 ああ。
 窓一つ無い屋根のせいで、全くもって空は見えないけれど。
 新都心にしては珍しく、とても澄んでいる空が広がっているような気がした。


 さぁ。
 戦争の、始まりだ。
343 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/29(火) 01:12:45.19 ID:vJzrQie/o
 ――side 和久津 智


智「もう大丈夫なの?」

夜子「うん。十分過ぎるほど休んだから」

 もう少しゆっくりしていけばいいのに。
 そうも言っていられない状況だから、僕はその言葉を飲み込んだ。
 風呂から上がって、央輝は仮眠をしている。きっともう少ししたらそんな余裕もなくなるのだろうから、今のうちに寝かせてあげたい。

智「それじゃあ、気をつけてね。何かあったらすぐ連絡して」

夜子「大丈夫。今日のところは他の部隊に任せて、戻ったら安静にしておくから」

智「そう、それならいんだけど」

 我斎が潜っている場所がどこにあるのかは検討もつかないけれど、痛み止めが効いている間に戻れる場所にあるのだろう。
 些か不満だけれど、我斎の近く程安全な場所はないだろう。
 それに、こちらだって夜子に聞かれたら不味い話を少しばかりするわけだし。

夜子「それじゃあ、ありがとう和久津」

智「ううん、礼には及ばないよ。夜子の為だから、ね」

 言って、軽く微笑みかける。
 すると夜子はやはり多少戸惑ったような表情を見せた。
 きっとこういうだろうな、と思っているとその通りに、しかしやはり少しばかり躊躇いつつ、僕に問いかけてきた。

夜子「……それは、どうして?」

智「どうして、って言われても」

 僕的には放っておけない、というだけなのだ。
 それがどんな感情を起因としているのか、それはさておきとして。
 例え恋愛感情だったとしても、僕が打ち明けることはきっとない。
 故に僕は、こう答えざるを得ない。

智「お母さんだから、ってことでもいいんだけど」

 そこで夜子の表情をチラとだけ伺って、僅か赤面したのを確認した後。

智「お姉ちゃんの方が、僕的にはいいかな。お母さんだと、年離れすぎだしね」
344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/29(火) 01:26:08.18 ID:vJzrQie/o
智「だから、本当にいつでも頼っていいんだからね?」

 ベレー帽の上から夜子の頭を優しく叩く。
 少しばかり恥ずかしそうに視線を下にむけて、か細い声でうん、とだけ頷く彼女はとても可愛かった。
 それに僕はよし、と返し。

智「それじゃ、本当に気をつけて」

夜子「……うん」

 そして夜子はその小さな背を向けて玄関の方へと向かう。
 僕も見送りとばかりに玄関先までついていくが、ドアに手をかけたところではた、と夜子の動きが止まった。

夜子「そういえば」

 夜子は振り返らず、僕に尋ねる。

夜子「前の話はどうなったの?」

 前の話、というと。
 きっと我斎の考えを知りたい、というやつだろうか。
 それは果たして目下進行中だ。が、それをいうわけにはいかない。

智「きっと、数日中にわかるよ」

夜子「……そう」

 我斎曰く、夜子は頭がいい。僕も夜子は優秀だと思う。
 だから、僕の言葉の意味をきっと汲んでくれている。
 戦争中に何かをするのだということを、きっと夜子はわかって、そして何も言わない。
 そこに夜子からの信頼を感じて、僕は心の底から嬉しさが湧き上がるのを感じた。
345 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/29(火) 01:32:54.49 ID:vJzrQie/o
夜子「それじゃ、和久津も、気をつけて」

智「うん」

 別れの言葉はそれだけで。
 夜子は扉の向こうへと消えた。

智「……さて」

 僕も今のうちに休息をとって置かなければ。
 これから先、下手をすれば一日二日は休めないのだから。

 ふと、疑問に思う。
 僕は、どうしてこんなになってまで必死になるのだろうか。

 自分の為?
 違う。

 夜子の為?
 違う。

 誰のため?
 決まっている。

智「――――皆の為、だもんね」

 僕は最確認するようにそう呟いて。
 皆が集合する前にシャワーを浴びてしまおうと、浴槽に足をむけるのだった。
346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/05/29(火) 01:37:19.21 ID:vJzrQie/o
    第五幕
    Chapter

  41 戦争前の一大会議
  42 第三の選択肢
  → ???
  43 戦略フェイズ
  44 知らない場所で動く事態
  45 種
  46 騎士の勤め
  47 知らない場所で動く事態2
  48 裏の動き
  49 崩壊の火種
  50 コミュネットの終焉
  51 譲れないもの
  52 誰が為の決意
  → ???
  53 ??? ←次ここ


 本日は以上です。

 再度。遅れて申し訳です……
 きっとまた遅れることもあるかもですが、気長に見てもらえると幸い……
 でももうそろそろるい智って期限切れ……? いえ、自分的には恐らく、一生現役ですが。
 それでは、また。
347 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/05/29(火) 05:44:21.45 ID:6bJCNk2uo

るい智は永遠に不滅です
348 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/29(火) 09:32:44.79 ID:iBAz8xolo
349 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/29(火) 17:10:03.59 ID:YiImaIq/o
350 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2012/05/29(火) 22:16:34.97 ID:XIdjppxAO
おーつー。
351 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/01(金) 23:58:05.46 ID:2Y32L37bo
 コンマダイスロール
 奇数なら今から書く
 偶数なら明日書く
352 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/02(土) 23:55:18.36 ID:x20V3F53o
 日は沈み、新都心は明け暮れて。
 僕はベッドに、椅子に座る四人の前に立ち、演説モドキを披露していた。

智「以上が僕の考える計画。その為の根回しはできる限りした。何か質問はある?」

 ざっ、と一瞥する。
 反対意見を出そうにも、何に反対をするのか明確にしないことには始まらない。
 だから僕は計画を話し、それの是非を問いかける。

アヤヤ「つまり、それって……謀反ってことですか?」

繰莉「みたいだね。まー大体予想はついてたけど」

 軽い口調でいう繰莉ちゃん。
 まぁ瑞和の居場所とか教えてもらったりしていたし、バレていても仕方がない。

芳守「でも、どうしてそれを先に? 今日は参加するかしないかを決めて集まるだけだったはずだけど」

智「不公平だからね」

 何が、という必要もない。
 以前に話しあったのはレギオンとして参加し、ギグと戦うか否か、という話だった。
 だけど今僕がやろうとしていることは数日前から打って変わって、アヤヤの言った通り謀反だ。
 それを隠して参加の是非を問うなんて不公平にも程がある。

央輝「オマエらしくないな?」

智「何が?」

央輝「口八丁で言いくるめないところが、だ。オマエなら『聞かれなかったから』とか素知らぬ顔で言って、無理矢理巻き込むものだとばかり思っていた」
353 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/03(日) 00:20:19.58 ID:52ZHOhwMo
 酷い評価だ。
 けど強ち間違っても居ない。
 いつもの僕なら、同盟とかそんなのを結んだ頃の僕ならきっとそうしていた。

智「命がかかってるからね、他人の命まで勝手にベット出来る程僕は厚顔無恥でもないつもり」

央輝「よく言うな。どうせオマエ以外が参加しないと言っても、オマエ一人でマクベスを使う癖に」

智「うん、そうだね。きっとそうなるから但し書きがつくんだよ、目に見えなくらい小さな文字で、『そうなった場合も命の保証はしません』ってね」

アヤヤ「契約書って怖いですね……」

繰莉「そりゃまぁ、ねぇ。殆どの場合に置いて契約ってやつは持ちかけた人に対して有利になるように作られているものだし」

芳守「そういう時の為に調停っていうものがあるんだけどね。きっとこの場じゃいつまで経っても平行線」

 繰莉ちゃんも芳守も、よくわかっている。
 僕は例え皆が止めたとしても絶対に折れるつもりはないし、例え多数決でアバターを奪われたとしても何とかしようと右往左往するだろう。
 それこそ、ふん縛ってでも。

智「さて。それじゃあこれらを踏まえた上で、答えて欲しいんだ。できれば時間もあげたいけど、残念ながら導火線はいつ火薬へ到達するかわからないもので」

 できる限り、早急に。
 ふん、と無表情な央輝の鼻から息が漏れる。
 それが僕の言葉のつまらなさから来たものだとわかるのは、直後の言葉を聞いて。

央輝「どうせオマエがやることは変わらないし、乗りかかった船だ。最後までオマエについていってやる」

智「央輝……」

央輝「……勘違いするな。オマエのことだ、どうせ一人で戦うとか脅して置きながらいざ戦って勝算がなくなった時にはアバターを消して自分一人で死ぬに決まってる」

央輝「そうなったら誰があたしの飯を作るんだ。言っておくが、生半可な腕じゃあたしはもう満足しないんだからな」

 そう言ってソッポを向く央輝。
 言外に責任をとれ、と告げられている気がするのはきっと気のせいではなく。
 それを除いたとしても、この優しい吸血鬼は僕についてきてくれるのだろう。
354 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/03(日) 00:34:37.93 ID:52ZHOhwMo
繰莉「……うん。繰莉ちゃんも智ちゃんに賛成かな?」

 繰莉ちゃんはそう言いながら足をぱたぱたとさせる。
 僕が聞き返すまでもなく、繰莉ちゃんは続ける。

繰莉「繰莉ちゃん、智ちゃんやゆんちゃんのこと気に入ってるから、放って置いて死なれたら気分悪いし」

繰莉「アキちゃんもお気にの後輩だから、破滅に突き進むのも止めてあげたいし、そして何より――――」

 区切る。
 パタパタとさせていた足も止む。
 その瞬間の繰莉ちゃんの表情は、いつもの悪戯なチェシャの笑みではなく。

繰莉「――――贖罪、だしね」

 寂しそうな笑み。
 それは今にも消えてしまいそうなぐらいの弱々しいそれで、僕は思わず呆けて、見惚れてしまった。
 我に帰った時、眼前に儚い少女は存在などせず、そこにはただ小さな探偵がいるだけ。

 贖罪。
 なんの罪か、なんて問いただすつもりはない。
 きっと繰莉ちゃんは僕らが知らない何かを背負っているに違いなくて、それに触れてほしくないに違いないのだから。
 だから僕は、ただ返す。

智「そう、ありがとう」

 と。
 その言葉にアイコンタクトで返された返事は僕を心強くしてくれた。
 これで過半数。残りは二人。
 僕が視線を移すと、片割れ、阿弥谷縁は真っ直に僕を見つめていた。
355 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/03(日) 00:50:38.64 ID:52ZHOhwMo
アヤヤ「この計画って、人を殺さなくてもいいんですよね?」

智「うん」

アヤヤ「この計画って、カエサルの意思に反するんですよね?」

智「そうだよ」

アヤヤ「この計画って、瑞和先輩と、命を賭けて戦わなくてもいいんですよね?」

智「そうでないことに命を賭けることにはなるけどね」

 幾つかの質問をぶつけられ、尽くそれを肯定で返す。
 そうですか、と生返事で返したアヤヤはようやく僕から視線を外し、低い天井を見上げる。
 そして目をつむり、大きく深呼吸。
 何かに納得したかのように、小さく『うん』と頷いた。

アヤヤ「それならばアヤヤに否定する理由なんてありません! 不肖この阿弥谷縁、智先輩を全力でサポートさせていただきます!」

 そういうアヤヤは満面の笑みで、ビシッ!と敬礼を決める。
 この小さな体躯の少女にも、抱えきれないほどの苦悩や葛藤があったはずだ。
 それでも、決意した。
 それは僕らの為ではなく、自分の――瑞和の為なのかもしれない。
 けれど僕の意見に賛同してくれた以上、僕は彼女を導かざるを得ない。
 後輩、阿弥谷縁の言葉は、僕の決意をより盤石なものにした。

芳守「……言うまでもないけど、私も賛成」

 最後の芳守はアヤヤを見守り終わってから迷うこと無く、そう切り出した。
356 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/03(日) 01:17:41.48 ID:52ZHOhwMo
芳守「瑞和には、大きな借りがあるの。返しても返しきれない、大きな、大きな借り」

 それがどんなことなのか、聞く必要はない。
 どんな借りがあるにしても、それは胸の中にそっと仕舞いこんで置くものだから。

芳守「それを返す為の絶好の機会でもあるし。けど、やっぱりそれだけじゃない」

芳守「自分の為、アヤヤの為。和久津の為、央輝の為、蝉丸の為。ひいては、仲間の為、友達の為」

 芳守南堵は、普通が一番と言うことを自覚している平凡普通な少女だ。
 普通に生きて、普通に死ぬ。それこそを至上主義としている。
 そんな彼女が戦う選択肢を選ぶというのは普通から外れていると思いがちだが、案外そうではないらしい。
 友達の為に自らの力を貸すということは、決して異常などではないのだから。

芳守「私は、その為に力を貸すよ」

 そういう芳守の顔はとても可憐だ。
 覚悟を決め、腹を括り。最早何者の言葉にも揺るがない決心をした、そんな顔つき。
 僕はそんな彼女を見て、自らの行いが誰が為かを最確認する。

 僕は、僕らは弾丸だ。
 竜を動かす動力源であり、そして魂そのものでもある。
 弾丸のポケットは一つ一つ別になっているように、僕らの魂もバラバラだ。
 赤の他人。
 ただの知り合い。
 完全には分かり合えない。


 それでも。


 ――――それでも、と。


 今、僕らの目指す先はたった一つで。
 その目的に向かって皆が協力しあうのなら。
 きっとそれは、一つとなったといえるのではないだろうか。
 いや、きっと、なんて曖昧なものじゃなく。僕らは紛れもなく、一つの意志だ。


 そして、僕は、僕らは、これを――――『同盟』と呼ぶんだ。
357 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/03(日) 01:32:12.73 ID:52ZHOhwMo
 不意に、扉が勢いよく開かれた。
 そちらを見遣ると、隣の部屋で待機していた筈のるいがそこに立っていた。
 その表情は酷く焦燥に包まれていて、何かが起こったことは一目瞭然。
 そしてるいは、誰に促されるでもなく、手にした情報を僕らに告げる。

るい「大変だよ! 今駅の方でアバター同士の対決があって、酷い騒ぎになってるって――――!」

 その事実を聞いて、僕らは顔を見合わせ。
 そして互いに頷いた。

アヤヤ「駅の方ですね!? 今すぐ、向かいましょう!」

芳守「早くしないと火がどんどん飛び移って手が付けられなくなる。急がないと」

央輝「……ここらの地理は一応頭に叩きこんである。数分しか変わらんが、それでも気休め程度にはなるだろう」

繰莉「特徴と色がわかれば、大体のアバターは繰莉ちゃんわかるよ。なにせ、超・探偵だからねぃ」

智「ティッシュとハンカチは持った? 拠点の守りや兵糧の確保は? 暗い夜道を照らすライターぐらい持ってもバチは当たらないよ」

 あとは、手筈通りに。
 僕はるいにそう告げて、皆を連れてホテルの廊下へと飛び出す。

 さぁ、行こう。
 戦争の始まり? そんなのはくそくらえだ。
 僕らが赴くのは、戦場であれど、戦争の場ではない。

智「全身全霊を持って――――何もかもを阻止する」

 この優しい王国の構築を。
 この呪われた世界の完成を。
 その先に起こるであろう悲劇の何もかもを。

 そして。
 大事な、大事なあの小さな少女の為に。

 いざ行かん、僕らの戦場へと。
358 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/03(日) 01:34:10.73 ID:52ZHOhwMo
    第五幕
    Chapter

  41 戦争前の一大会議
  42 第三の選択肢
  → ???
  43 戦略フェイズ
  44 知らない場所で動く事態
  45 種
  46 騎士の勤め
  47 知らない場所で動く事態2
  48 裏の動き
  49 崩壊の火種
  50 コミュネットの終焉
  51 譲れないもの
  52 誰が為の決意
  → ???
  53 心重ねて


 第五幕終わり。
 さあ次からは最終幕の幕開けでっす!
359 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/06/03(日) 02:16:10.53 ID:M2oeKhdTo
360 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/06/03(日) 09:19:14.33 ID:q1NMwvB0o
乙ー
盛り上がってきたwktk
361 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/03(日) 10:19:41.65 ID:Sspi16gFo
362 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府) [sage]:2012/06/03(日) 21:10:40.68 ID:vWCsQ5BVo

盛り上がってきてわくわくする
363 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2012/06/04(月) 23:15:28.59 ID:QmAIp0yAO
乙乙乙乙!
これはクロスオーバーディスクとか出してもいいと思うんだ。
364 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/06/05(火) 17:01:01.75 ID:BjSIlv04o


期待してる!
365 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/16(土) 23:51:46.36 ID:kt7imUoqo
 逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ……
 ここで書かなかったらズルズルと書かなくなってしまう……
 ……うん、それでは書きましょうか。
366 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/17(日) 00:12:02.79 ID:Vl7FLsHjo
蘭「ふっふふ〜ん、ふふふふ〜ん」

 蔵内蘭は高倉市を歩いていた。
 その言ってしまえば玉ねぎのような髪を揺らし、人ごみを泳ぐ。

蘭「ふぅ。見つかりませんなぁ」

 彼女がこの場にいるのは全くの偶然である。
 或いは真に彼女自身の意志であるとも言えるかもしれない。
 つまるところ、どこかの誰かさんに都合のいいように導かれたとかそういうわけではないのだ。

 ネットで見たのだ。恐竜だか怪獣だかがこの街に出るという情報を。
 普段は田松市から外に出ない彼女がここまで出できたのはその為であった。
 聞こえよく言うなら興味本位、悪く言うなら野次馬根性。
 それでも一朝一夕……どころか一夕だけで見つけられる筈もなく。

蘭「ふむ……ローマは一日にして成らず、今日のところは帰ることにしましょう!」

 家では紫丸がお腹を空かせて待っている頃だ。
 ……或いは親が餌を与えているのかもしれないが。
 そうして蔵内蘭は駅へと駆け足で向かうのだった。


 さて。
 繰り返すが、彼女がここにいるのは全くの偶然である。
 どこかの誰かに言われただとか、無意識に働きかけられただとかそういうことではなく、あくまで自分の意志で彼女はここにいるのだ。
 だから、そう。
 彼女が丁度駅に足を向けたその時に空から『それ』が降って来たのを見たことも、全くの偶然なのだ。
367 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/17(日) 00:42:33.49 ID:Vl7FLsHjo
 星が降る、とはまさにこのことを指すのであろう。
 凄まじい勢いで落ちてきたそれは、駅前の時計を、信号機を、電柱を巻き込みながら人の波へと突進する。

 死、死、悲鳴、死、悲鳴、死、死、死、死、悲鳴、死。
 それはいとも容易く悲劇を、理不尽を実現する。

 空でチカリと光ったそれを確認出来た人は不幸だった。何故なら不思議に思って立ち止まってしまったから。
 信号が青くなった瞬間歩き出した人は幸運だった。何故ならその数瞬後にその場所を災厄が駆け抜けていったのだから。
 世の中には、知らないほうがいいこともある。

 だが、逆もまた然り。
 分からなかったが故に何も出来ずに巻き込まれて死んだ接続者が居た。
 光を見て何かが来ると直感で判断し、人混みを駆け抜けて行った人は一命を取り留めた。

 理不尽や惨事、それに巻き込まれた人、巻き込まれなかった人を分ける最大の要因はやはり運に尽きる。
 死に意味なんてない。どこかの誰かがそう語るように、死ぬのなんて誰でもいいのだ。
 選ばれたか、選ばれなかったか。ただそれだけの話。

蘭「なっ、なんですか!?」

 落ちてきたそれは血を浴びて多少赤くなりつつも、立ち上がる。
 それは騎士。人を簡単に射抜くことの出来るだろうロングスピアを持ち、自らが落ちてきた方を見遣る。
 瞬間、次いで光が堕ちてきた。
 爆発が連続し、音が消えて、人が吹き飛ばされる。
 そこでようやく、未だ生きていた幸運な人間達は怪物達からより離れる為に混乱を散らしながら四方八方に散り散りになるのだ。

蘭「…………っ!」

 無論、彼女もそうせざるを得ない。
 興味で探しに来た怪物が目の前にいる。が、そんなことよりまずは命だ。先立つものがなければ、もはやどうしようもない。
 だから彼女は、一目散に近くの路地裏へと逃げこむのだった。
368 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/17(日) 00:57:41.81 ID:Vl7FLsHjo
蘭「はっ、はっ、はっ――――ふぎゃあっ!?」

 路地裏を走っていた彼女は不意に足を取られ、顔面から付近にあった黒いゴミ袋の塊に突っ込む。
 少なく見積もっても数日は放って置かれているのであろう、蘭の服やその肌はあっけなく黒く汚れる。
 生ゴミでなかっただけ不幸中の幸いなのだろうが、それでも気持ち悪いことこの上ない。
 表通りでは未だに爆発音が続き、逃げ惑う人々の喚声が響き渡る。

 まだ、近い。まだ、遠くに逃げなきゃ。
 そう考えた彼女はゴミから脱出しようともがき。
 突然、その手を引っ張られた。

蘭「うひゃあぁっ!?」

 自分以外誰も居ないと思っていたのだ、驚くのは当然のことだろう。
 しかし抗うことも出来ず、そのまま引っ張られてゴミから脱出し。
 ――目の前にいたのは、紛う事なき美少女だった。

「大丈夫? 怪我は?」

 優しく問いかけて来る言葉に蘭はつい涙が出そうになった。
 しかし、問いかけには答えねば。そう思った少女は空元気を回して笑う。

蘭「はいっ! お陰様で怪我もなくっ!」

「そう、それはよかった」

 ニッコリと微笑むそれは、まるで蘭にとって女神のようであった。
 自分が汚れていることも忘れて抱きつこうとしたその瞬間、割り込んで声がかかる。
369 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/17(日) 01:23:50.64 ID:Vl7FLsHjo
「おい! 時間がないんだ、早く行くぞ!」

「わかってる、すぐ追いつくから先に行って!」

 見ると、彼女の他にも人がいた。
 一人、二人、三人、四人。彼女も含め、五人。
 そして先に行って、の言葉通りに四人はこの場から立ち去るのだ。
 自分が、さっき来た方向へと向かって。

蘭「あ……」

「ねぇ君、高倉市の人?」

 少し前屈み気味になって蘭に目線を合わせる彼女に、蘭はやはり慌てつつ、元気に答える。

蘭「あ、いえ! 家は田松市にあるので!」

「そっか。それじゃあ、今日は家に帰るのは諦めた方がいいかも。安全な場所……そうだね、どこかの地下とかに行って、家に連絡。熱りが冷めるまで外に出ちゃダメだよ」

 そう口早に言うと、彼女は蘭の頭を数回ぽんぽんと叩いた後に背を向ける。

「じゃあ、気をつけて。なるべく急いでね」

蘭「あっ、あの! その……お姉さま!」

 彼女の足が向いた先は、やはり少女が向かってきた方向。即ち、理不尽が行き交う死の地帯。
 そんな彼女に、蘭は投げかけずにはいられなかった。

蘭「あの、その……そっちは危ないですから、行ったら危ないのです!」

 見知らぬ少女の忠告。
 混乱しているのか要領は全く得ていないが、言いたいことは伝わってきた。
 行ってほしくない、のだろう。
 こんな混乱の中、自らを助けてくれた良い人を死地に投げ込みたくないのだろう。

 だが、しかし、やはり。
 それでも。
 彼女、和久津智は。顔だけ振り向かせ、答える。

智「僕は、僕たちは。それを止める術を持っているから」

 だから、やるんだ、と。
 小さな少女にそう告げて、智は先を行った四人を追いかける。

 残された蘭は、不意打ちに等しい形で心が高なったのを感じた。
 それは、人によれば吊り橋効果、と呼ぶのかもしれないが。
 少なくとも少女は、生まれて初めてとなるその感情を押し留めて、智達が来た方向へと駆けてゆく。
370 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/17(日) 01:30:14.69 ID:Vl7FLsHjo
 おうふ……展開が進まなくて死ぬる……なんで気まぐれで蘭登場させたし……
 次は、火曜か、水曜に、書ける、はず、です……
 ごめんなさい……
371 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/17(日) 01:51:28.13 ID:TuOEuDKfo
372 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/06/17(日) 06:01:00.39 ID:gOkivJ4Go
373 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/06/17(日) 15:37:19.82 ID:kVBS+qreo
374 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/23(土) 01:10:14.82 ID:+YR2A/Fuo
 凄惨な光景だった。


 信号機はひしゃげ曲がり、アスファルトの表面が吹き飛ばされてその下がむき出しになっている。
 駅の傘となる角ばった外観は豆腐のように崩れ、窓という窓は衝撃波で割れている。
 最早ここは、人々の行き交う、四方八方へと繋がる電車の宿場ではなく。
 戦場。荒地。死地。そのどれもが相応しくない。
 いうならば、そう、いうならば。
 爆心地。

智「……っ」

 酷い。
 血で血を洗い流すかのごとく、瓦礫は赤く染まり。
 動き出すのを待っていたであろう自動車は凹んでひっくり返り、潰れ。
 不幸中の幸いだったのは、この駅で電車は地下を走っていて、更に駅そのものが崩れていないことだろう。
 きっと、駅の中にいる人は怪我こそすれ、死人は殆どいないはずだ。

 だがしかし。
 そんなことは関係ないというように、爆発音が連続する。

 それぞれのアバターには一長一短の特徴がある。
 例えば今荒野に立っている『騎士型』は近距離戦でのリーチが長く、かつ人間型の為動かしやすい。が、典型的なバランスタイプが故に他の系統に秀でている特徴に劣る。
 例えば今大砲を撃ち放つ、恐らく『魔弾型』は典型的な遠距離タイプ、近距離では殆ど勝ち目はないものの、相手の攻撃範囲外からならば一方的に相手をなぶり殺すことができる。
 片や見晴らしの良い荒地に立ち、片や見えない場所から狙撃する。今この場において有利なのは圧倒的に『魔弾型』だ。

 爆発、爆裂、そして誘爆。
 その音が世界を断絶し、鼓膜を置き去りにする。
 しかし、それでも。
 瓦礫に凝立するその『騎士型』は倒れない。
375 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/06/23(土) 01:42:05.51 ID:+YR2A/Fuo
繰莉「緑の体躯にロングスピア、そして何者にも劣らぬその鉄壁。間違いなくレギオン屈指の盾、『アイギス』だね」

智「情報どうもありがとう、ってことは『魔弾型』の方がギグってことかな」

 『アイギス』、噂には聞き及んでいる。
 曰く勝ちは無けれど負けは無し。曰く最強の盾。
 そのEXは正体不明だけれど、防御のみに特化したカエサルの最大の城壁に違いない。

智「ってことは、もしかして踏み込まれてる?」

芳守「だろうね。アレだけの砲撃を受けて無傷に近い、ってことは多分幹部の一人だろうし」

 切り札の一枚を切ることは容易ではない。
 ということはそこまで追い詰められているということだ。

アヤヤ「とっ、とりあえずよくわかりませんが、やらなきゃいけないんじゃないでしょうか!?」

央輝「……そうだな、ここでグズグズしていたら包囲されるだろう。そうなったら戦わずに潜り抜けることは難しくなる」

 そうだ、『アイギス』は間違いなく幹部クラス。
 ならばそれを討たんとアバターが集まってくるのは道理。
 僕らの目的は騒ぎを出来るだけ小さく纏めて収めること。つまり比較的早急にこの場を制圧する必要がある。
 ……恐らくこの状況なら、『アイギス』すら討てるだろう。
 だが、『まだ』だ。

 故に僕は名乗りを上げる。
 カエサルの剣ここにありと、そう知らしめるべく。


智「――――来い、マクベス!!」


 朱き竜のその名を、呼ぶ。
376 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/23(土) 02:25:24.76 ID:+YR2A/Fuo
 寝てた
 駄目無理
 書きたいのに書けない
 時間もない
 最悪
377 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/23(土) 18:30:20.86 ID:MyBu3i6kP
待ってる
378 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/06/23(土) 22:14:12.69 ID:SBTn9oqYo
お待ちしています
379 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2012/06/23(土) 22:14:56.95 ID:0xMOBKGPo
読者は黙って待ちガイル
380 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/07(土) 22:16:46.88 ID:kMiPNviio
 あーもう最近マジ都合悪い
 全く更新できなくて申し訳です……
 今しばらく待っていただけると幸い……
381 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/13(金) 01:19:33.03 ID:rU4XxvS6o
 ――side Unknown


 少女は復讐者だった。

 不自由はなかった、はずだ。
 アメリカ生まれで幼少時代はアメリカ育ち。
 両親が離婚したということもあったが兄とともに母方につき、その母の再婚と共に海を渡り。
 凡才ではあるがそれは全て努力で補ってきた。
 義父とも不仲ではなく、強いていえば新しく性になった『海保』という音の響きが気に入らなかったぐらいか。
 つまり、そう。少女に不自由はなかったのだ。

 ――兄が、突然に急死するまでは。

 集団自殺だった。
 少女には兄が自殺するだなんて信じることができなかった。いや、有り得ないことなのだから信じられる方がおかしいという考えだったのだ。
 だがしかし、慕っていた、仲の良かった兄が死んだのは事実であり。
 同時に彼女自身の心も少しずつ、衰弱していった。

 そんな時だった、少女が少女Aに呼ばれたのは。

 少女はそこであらゆるものと出会い、知った。
 兄が死んだのはただの集団自殺なんかではないということ。
 兄は『それ』にとっては邪魔な存在であった為に、石を蹴飛ばすように排除されたということ。

 それを知った時、彼女は復讐者となったのだ。
 褐色の肌を身にまとい、金髪碧眼を煌めかせ。
 傍らにパートナーとも呼べる親友を置いて。
 少女は『それ』に――カエサルに、復讐を誓ったのだ。

 ――その少女の名は、ロンド、と言った。
382 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/07/13(金) 02:02:12.66 ID:rU4XxvS6o
ロンド「……半ば、不意打ちだったわね。今日か明日辺りとは睨んでたけど、もう少し日が沈んでからだと思ってたわ」

 外套の灯りは消え、大きな電気は遮断されている。
 死の匂いに満ちた、駅前に続く大通りを避けて彼女らがいるのは小さな飲み屋が立ち並ぶ裏道だった。
 最も人気は全くなく、灯りも落ちて一寸先は闇。アバターの知覚を頼りにしないと直ぐに壁にぶつかるという場所だが。

いろは「機を見て敏なり、だからこそ不意を打ったってのが正しいだろうね。けど、逆にこれはチャンスだよロンド」

ロンド「……ええ、わかってるわ」

 先ず彼女が行うのは深呼吸。
 壊滅する前のギグでバビロンに敗してから一年。あの日、ロンド・ロンドは一度心が折れた。いや死んだ、といってもいいだろう。
 復讐を果たすために、立ち止まるわけには行かず。その意志を真正面から否定された接続者のアバターに敗北した。
 今こそ彼女は思う。それこそが、運命だったのではないか、と。
 あそこであのまま突き進んでいたとしても自分には破滅しかなかっただろう。
 あの場で一度自分が死んだからこそ、凡才しかない自分を見つめなおし、この一年、心身ともに鍛錬を積むことができたのだ。

ロンド(その点じゃ、バビロンについては感謝しなくちゃならないわね)

 この状況を創りだしてくれた、ということもその感謝には含まれる。
 ギグが潰れてしまっていたなら、きっとカエサルは表に出てくることなどなかっただろうから。

いろは「多分だけど、ギグの奴らがカエサルの潜伏場所に強襲でもかけたんだと思う。だったら奴が出てくるのも時間の問題だよ」

ロンド「ええ、その時は頼りにしてるわパートナー」

いろは「合点」

 拳の甲で互いのそれを打ち付けあい。
 彼女らのアバター、ミスJhは二つ目の姿に形を変える。

ロンド(カエサル――今こそ、兄の敵を…………っ!)

 ロンド・ロンドは自らの魂、その決意をアバターへと込めた。
383 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/13(金) 12:33:56.95 ID:rU4XxvS6o
 すっごい勢いで寝落ちすいませんでした
384 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2012/07/13(金) 19:47:36.97 ID:sfPPxvK6o

ここでロンドさん登場か・・・
385 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/07/13(金) 20:28:50.90 ID:HnuUMkxro
386 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/07/13(金) 20:30:57.45 ID:8upWXouMo
乙!
387 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/13(金) 21:51:17.62 ID:o1t+LMldo
388 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/04(土) 18:11:20.80 ID:6XO3LVFlo
 おまたです
 本日更新予定です
389 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/05(日) 23:35:29.54 ID:/2jcbNu1o
 予定というものは破られるためにあるのです
 嘘ですごめんなさい普通に寝ちゃっただけです
 それではいつも通り僅かですが再開します
390 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/06(月) 00:05:54.22 ID:hNIu+/Foo
 ――side 瑞和 暁人


 携帯電話が鳴り響く。
 つい一ヶ月前に購入したばかりの最新機種、それを手にとった。
 裏のビジネスライフには複数の携帯機器は欠かせない。
 表示される見慣れた記号、その向こうから聞こえてくる声に耳を傾けて情報を得る。

カゴメ「さながら、不幸の手紙だな」

 魔女は電話を受け取って直ぐに他の班へと連絡を回す俺をみてせせら笑う。
 そうはいってもこっちも必死も必死、駒落ちの将棋をしている気分。
 その上王将の位置はわからないと来た。
 だが、諦めるわけにはいかない。
 火蓋は落ちた、あとは盤上に王を引きずり出して叩くのみだ。

紅緒「……ねぇ暁人、私たちはでなくていいの? 街中、酷い騒ぎになってるんだよ」

 その情報源はネット。
 真雪が広げたノートパソコンにはリアルタイムでまるで祭りのようにログが急速に流れていく。
 事情を知っているもの、知らないもの。その両方の同様と混乱が入り混じり、新都心専用のローカルネットワークはパンクしそうな勢いを見せていた。
 ……そう、ローカルのみ。グローバルネットワークは接続すらされず、テレビにも特番は流れない。
 何らかの情報規制が行われている。俺達にとっては好都合に違いないのだが。

紅緒「暁人ってば!」

暁人「……今は出たくても、出れない状況だ」

 バビロンはあまりにも有名だ。
 戦争の始まりを告げる狼煙はあまりにも多くの人を蹂躙した。つい先日のテロ騒ぎがあって多少の人通りはいつもに比べて二割減だったとはいえ、それでも相当数だ。
 コミュネットは、存外に広い。その死んだ中にとあるコミュの親類、友人がいてもなんら不思議じゃない。
 それの怒りの矛先は? 理不尽な死に対する報いを、鋭く尖った刃を向ける先は?
 そのお山の大将がのこのこと出ていけば、カエサルとぶつかる以前に負傷は免れない。
391 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/06(月) 05:28:13.59 ID:hNIu+/Foo
春「うちらは言っちゃえば玉だからね。一番後ろでどーんと構えてなくっちゃ」

真雪「そうですね……そういう意味でも、ああいう意味でも。紅緒さんの言いたいこともわかりますが、下手に飛び込んだら犬死にするだけです」

 真雪とお春さんはよくわかってらっしゃる。
 ……だが、本当に、紅緒の言いたいことはよくわかる。
 理不尽な死。無意味な死。価値など無い死。
 それらが許せないことぐらい、今の俺にも理解できる。
 が、それをやめろと、とめてやれ、と言われたならきっと尊大な王様の如くこう答えるだろう。

 『なんにでも犠牲はつきものだ』と。

 ああ、これは戦争にもなる。
 俺は一人の為に大勢を犠牲にしようとして、あいつは大勢の為に一人を犠牲にしようとしている。
 わかっている。どっちが正しいのか、なんて。
 わかっている。どっちを優先すべきか、なんて。

 よくある命の天秤だ。
 猫一匹と猫二匹。どちらかしか助けられないなら、どっちを選ぶ?
 大勢の人はまず、どうしても片方しか選べないのなら、と猫二匹を選ぶに違いない。
 ならば、と告げられる。 『それなら人一人と人二人ならば?』
 殆どの人は、驚き、動揺し。そして苦渋の判断として、人二人を選択するのだ。
 どこぞのヒーローならばどちらも助ける方法を見つけ出す、無くても見つけ出す、なんていうのだろう。

 しかしそれは幻想だ。
 しかしそれは空想だ。
 しかしそれは理想だ。
 しかしそれは――――――――
392 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/06(月) 05:49:55.20 ID:hNIu+/Foo
 ……結局のところ、そういうことだ。
 少人数は多人数に殺される。 一人は皆の為に犠牲になる。
 それを躊躇なく、容赦なく行えるその人物こそ、英雄と呼ばれる者だ。
 だからやっぱり、あいつは、我斎は英雄に違いないのだろう。
 でも、俺は。

暁人(副島)

 脳裏に浮かぶのは、ベッドの個室で昏倒している少女。
 ただ、一人の為に。
 一度全てを失い、そしてまた失いつつある愛しい人の為に。
 この選択は英雄とは程遠い。 両方を選ぶ、なんていうヒーローよりも、自分しか考えていない、偽善以上の思考回路だ。
 わかっている。
 わかっている。わかっている。わかっている。


 それでも。
 ――――それでも、と。


 捨てられない。
 捨てるわけにはいかない。
 例え、世界を敵に回しても。
 ただ自分にとって大事な一人を。世界を。王国を。全身全霊を賭けて、守ってみせる。

暁人「くっせ」

 思わず苦笑する。 
 だがそのぐらいが丁度いい。
 状況的には不利に他ならないのだ、黙るよりは冗談をぶち撒けれる余裕のあった方がいい。
 それを仰ぎ、魔女は再びせせら笑うのだった。
393 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/06(月) 06:19:33.09 ID:hNIu+/Foo
伊沢「おい」

 俺とは違う、別のやつの対応をしていた伊沢が声を上げる。
 俺の方がカエサル討伐の指揮だとするなら、伊沢は別勢力の動きのまとめだ。
 所謂偵察。鉄筋だらけのコンクリートジャングルで捜索に特化したアバターでそれをする。
 成果は、どうやらあったようだ。

暁人「どうした?」

伊沢「ミスJhが居たとよ」

 びくっ、と紅緒が跳ねる。
 どうやら一年前のことはやはりトラウマになっているようだ。
 しかし、ロンド、ではなくミスJhと来た。

暁人「朗報だ」

 出てくると思っていた。
 ロンドのカエサルに対する執念は異常だ。
 だから、俺達に負けた一年前から姿を表さなかったのは非情に理に適っている。
 逆に、彼女らが出てきた、ということは。

暁人「よし、行くぞ」

 それ即ち、カエサルが姿を現すということ。
 情報は数だ。数は力だ。
 そして何よりも、誰よりも早く先手を打つ。

 伊沢の悪い口が響き。
 お春さんの穏やかな声が続いて。
 真雪と紅緒は二人して顔を合わせて頷き。
 そしてカゴメは腕を組んで、ふん、と鼻で一蹴する。

 俺達は、『一』だ。
 『多』には及ばない、見捨てられるはずの小さな『一』の集まり。それが俺達だ。
 何れ等しく淘汰される。さながら運命共同体。黒き竜に集った個の集合体。

 そして俺達は、それぞれの一の為に。
 足並みを揃えて、重い腰を上げる。

 宣言する。
 鼓舞するのでも、士気を上げるためでもなく。
 ただ、事実を事実として受け入れる為に。

暁人「出陣だ」

カゴメ「暁人は暁人なりに、精々頑張るがいいさ。どんなことになろうと、私はお前を受け止めてやろう」

 こんな状況でも、いやこんな状況だからこそ、か。
 カゴメはやはり、少しだけ優しかった。
394 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/06(月) 06:25:17.93 ID:hNIu+/Foo
    第六幕
    Chapter

  54 開幕
  55 ??? ←次ここ


 今回はこんなところで。
 また寝落ちすいませんでした。
 しかし進みませんなぁ……いや僅かながらに進んではいるのですが。
 これじゃ&のリテイクとか妄想のまま終わりそうだ……
395 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/06(月) 11:02:22.11 ID:FEct/OwCo
396 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/08/06(月) 11:37:41.49 ID:9Y6uTRbko
397 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/08/07(火) 09:03:59.44 ID:czH75U/Do
おつ!
398 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(広島県) [sage]:2012/08/07(火) 12:46:33.91 ID:rkUohbG30
ノロイさんとアバターて
どっちがつおいの?
399 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2012/08/19(日) 17:36:31.05 ID:kyTJSAOAO
>>398
アバターでも破壊できないって意味で言えば
アバター<ノロイさん
では?
400 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(広島県) [sage]:2012/08/20(月) 12:43:43.78 ID:b3kwS+j80
こないね
401 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/08/20(月) 16:58:33.15 ID:c/CUcBQbo
 呼ばれて飛び出て以下省略
 すいませんです、毎度のことながら忙しさがマッハなんです
 なんかもう引きこもってニートでSSだけ書いてたい……それはそれで苦痛になるかもですが

 丁度、今日か明日か、時間が取れたら投下したいと思ってます


 >>398
 >>399の言うとおり、アバターでも破壊できないって意味になるとアバター<ノロイさんですね
 ノロイさんに物理攻撃は通用しない筈ですからね
 また、ノロイさんの起こせる現象が最大でどの程度か想像は尽きませんが、仮にアバターが標的になったとしたらそれを破壊できるぐらいの現象は起こせるのではと思います
 そういう風になっているなら、こちらでもアバター<ノロイさんということになりますね
 ノロイさんを倒せるとしたら、そうですね、暁works内だったらDDCの情報の改竄ぐらいしかないんじゃないでしょうか
402 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/27(月) 00:05:16.94 ID:LQM/aQIwo
 時間を取りたい時に取れなかったり用事が入ったりするのはお約束
 いつものことながら長らくおまたせを。それでは書き始めます
403 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/27(月) 00:37:18.21 ID:LQM/aQIwo
 ――side 四宮 夜子


 とんとんとん。
 無機質なコンクリートの壁に包まれた階段を下る。
 ……追跡はされていない、ハズだ。

夜子「……ふぅ」

 壁に背を預ける。ひんやりとした冷たい感触が、僅かな痛みの響く身体に伝わってきた。
 ファイバーの索敵モードを使用すれば敵の追跡ぐらいなんてこと無い。
 ……けど、今は使おうにも使えない。
 ビグウィグを暫定的にエル=アライラーとしたことで、それに似たアバターがもう一度姿を表してしまったなら王は生きているということが公になってしまうから。

 すぅ、と息を吸う。
 鉄の扉。ノックの回数はニ、四、四。扉横についているナンバーロックは三一六〇七七の六桁。
 両方を満たし、ガチャリ、と内側から鍵が開けられる。
 私は帽子をかぶり直して、扉をそっと押して開いた。

 内部に広がるのは小広いロビー。
 そこにいた二グループ十名のレギオンメンバーの眼がこちらへと向けられる。

夜子「『ナイト』だ。カエサルは?」

「512室に」

 それに臆すること無く告げると、鍵を開けた少年――きっと、私よりも年上だけれど――が答える。
 彼を一瞥し、小さく頷く。

夜子「わかった。引き続き警護に当たれ」

 返事を聞くまでもなく、彼の隣をすり抜けて奥のエレベーターへと乗り込む。
404 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/27(月) 01:10:58.75 ID:LQM/aQIwo
 五階のボタンを押し、そして私は揺り籠の中に閉じ込められる。

 この隠れ家は少々特殊な構造をしている。
 出入口は今さっき入ってきた地下と、一階にある裏口の二つのみ。
 地下の鍵はオートロック+内部からの施錠。施錠は行なっても行わなくてもいいが、行った場合は当然のことながら電子ロック解除だけでは中に入れない。
 また、上に登る手段がエレベーターしかない。

 対して、一階から最上階までは階段が存在するが、裏口は外からは開けない。一度見たことがあるが、どう見ても壁にしか見えなかった。
 よくもまぁこんなおかしな建物を作ったものだ、とは思う。
 が、今はその酔狂な考えに感謝する。こうして、私達の隠れ家として役に立っているのだから。

 電子音が軽快な音を発した。

夜子「っ」

 四角い箱の鉄扉が開け放たれると、そこには見慣れた背中があった。
 ずっと、私が追ってきた背中。ずっと、私が守っていく背中。

夜子「五樹っ!?」

我斎「夜子か」

 五樹は私の声に、振り向かずに断定する。
 が、今は喜びを感じている暇じゃない。
 五樹のいる場所は窓際。夕焼けに染まる街を見下ろす姿は、外からも同様に見えているはずだ。

夜子「五樹っ、そこに居たら外から狙い撃ちにされちゃう! 早く部屋の中に!」

我斎「俺の命を狙う奴ならそんな不確実な方法は取るまい。確実に殺せる状況で、確実に殺しに来る」

 そうはいっても、気が気ではない。
 他のメンバーもここにいるはずなのに、ああ、どうして止めなかったのか。
405 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/27(月) 01:35:44.59 ID:LQM/aQIwo
夜子「でもっ……!」

我斎「心配は不要だ」

 その言葉に、口を噤む。
 それでも、万が一ということがあるのに。
 普段の五樹ならば、こんなことは絶対にしないのに。

我斎「夜子」

 五樹は私を呼ぶ。
 しかしそれは、私を呼んだわけじゃない。

夜子「はい、カエサル」

我斎「首尾はどうだ」

夜子「レギオンのメンバー全員に臨戦状況をしかせてます。情報操作の方は、逸っている大衆は操作できてるかと」

我斎「そうか」

 五樹はその報告を聞いても、心一つ乱さない。
 出来て当然。そのはずなのだから。

我斎「…………もうすぐだ。あの道化を斃し、ようやく俺達の王国が完成する」

 悲願の。
 五樹がずっと願っていた、待ち望んだ、その理想が。
 完成する。
406 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/27(月) 02:00:36.86 ID:LQM/aQIwo
 けど、やっぱり。
 その背中は、いつもと違って。
 私には、五樹はわからない。

夜子「!」

 瞬間、遠くで爆発が起こった。
 あっちの方向は駅の方向。隠れ家の一つがある場所で――――

「カエサル! 拠点γが襲撃されたと!」

 部屋の中で待機していたであろうメンバーが慌てた様子で飛び出し、報告してきた。
 それに対し、五樹はただ呟く。

我斎「始まったか」、と。

 数瞬、五樹は沈黙した。
 窓の外の世界では爆発が続く。

我斎「間もなく乱戦になる。下の警備の奴らにも報告しろ」

「はっ!」

 彼は気合の入れた一声と同時に、部屋に戻っていく。

我斎「夜子」

夜子「はい」

 一瞬の間すら待たず、返事を返す。
 今、この瞬間から。
 私はただの道具となる。

 ―― 一瞬、あの人の姿が脳裏を過ぎった。

我斎「出るぞ」

夜子「っ……はい」

 私の詰まった返事など、五樹は意にも介さず。
 唱える。
 五樹が五樹である、その名を。

我斎「――――制覇せよ、エル=アライラー!」

 窓の外。
 一歩遅れて現れた召喚を意味する門から、騎士型のアバターが襲来する――――。
407 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/08/27(月) 02:04:03.79 ID:LQM/aQIwo
 ここまでー
 さて来週は……ギリギリ時間あるかな
 時間があれば、きます。潰れる可能性も割と高しですが……

 というか夜子はカエサル呼びは他人にいう時しかしないね
 カゴメルートとかでも普通に戦争中五樹呼びだったね
408 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/27(月) 07:36:22.53 ID:0UwTljQUo
409 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/08/27(月) 08:50:13.08 ID:lykCCtomo
おつ!
410 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/08/27(月) 12:23:38.95 ID:gG02qX/vo
411 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/08/31(金) 10:36:53.69 ID:KiiS31UCo




 ※これから数レスは本編と全く関係のない突発企画です。
   興味の無い方は一番下までスクロールすることをオススメします※




412 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/08/31(金) 10:37:29.93 ID:KiiS31UCo
 TAKAKURAマースエンドレス!!




結奈「はーい、今月もやってきました!
   TAKAKURAマースエンドレスのお時間です!
   パートナリティは私、只今巷で人気な結奈と!」


結香「同じくパーソナリティの、今日もわくわく、乙女ゴコロ全開の結香がお送りします。
   ――って別に芸名じゃなくていいんじゃないの? というかキャラ作りは軽く疲れるの」


真雪「さっそくぶっちゃけましたね智さん。
   そういうとこ、結構好きですよ」


智「そ、そりゃどうも……」


真雪「まぁ、嘘なんですけどね」


智「嘘なの!?」


真雪「それでは改めまして。
   TAKAKURAマースエンドレス、パーソナリティは息をするように嘘を吐く私柚花真雪と、その他で、お送りします」


智「いやいやいやいや! 僕一人だけだから! その他で省略しないで!?」


真雪「えっ、智さん見えてないんですか?」


智「えっ……って別に誰もいないよね!
  いつも嘘に引っかかると思ったら大間違いだからね!?」


真雪「…………まぁ嘘だと思いたいのならそれでもいいんじゃないですか?
   私は別に気にしませんし」


智「何その煮え切らない答え!? 何かいるの!?
  いつもみたいに『まぁ、嘘ですけどね』って言ってよ!」


真雪「それじゃあ最初のコーナーにいきますねー」


智「全力でスルーされた!」
413 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/08/31(金) 10:38:00.80 ID:KiiS31UCo
 ■   □   ■


真雪「『私の街の、都市伝説!』のコーナーです」


智「大体どんなお便りが来るのか予想ついちゃうコーナーだね」


真雪「それはいいっこ無しですよ智さん。
   それでは最初のお便り、お願いします」


智「えっと、高倉市にお住まいのDMさんからのお便り。
  『私の家は高層マンションで、結構上の方に住んでいます。
   なのに夜になると、夜な夜な窓の外にククリナイフを持った黒髪長髪の女が現れるんです。
   私の他にもこのような体験をしている方はいませんでしょうか?
   また、対策を教えて下さい』……とのこと」


真雪「…………」


智「…………」


真雪「それ、見なかったことにして、次いきましょうか」


智「そうしましょうそうしましょう」
414 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/08/31(金) 10:38:31.42 ID:KiiS31UCo
真雪「次は、猫の里にお住まいのafternoon colorさんからのお便りですね。
   『私の住む街には時折、猫たちに囲まれて集会を開く猫女という人がいると言われています。
    しかし、私は毎晩、数多の夜に猫たちの集会に顔を出しているのですがそんな人は見たことがないのです。
    この都市伝説、一体なんなんでしょうにゃー』」


智「どう考えてもafternoon colorさん本人です本当にどうもありがとうございました」


真雪「なんとなくですが、このお便りの向こうで私と同じ声の人が変な笑い方をしてる気がします」


智「そういえば、猫関連といえばもう一つ。残り八つさんから。
  『巷で有名なんだけど、私の住む街には人の形をした猫がいるらしい。
   そいつはにゃーにゃーいいながら人々の噂を集めてるんだってさ。
   おっかしいよねぇ』」


真雪「もうこの二人は一緒になってしまえばいいんじゃないでしょうか」


智「いやいや、この二人は(多分)女の人だから、そんなこといったら都市伝説、『怪奇! 黒尽くめバイクの女!』が――――」


「呼んだかしら!?」


智・真雪「「呼んでませんから帰って下さい。切なに」」
415 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/08/31(金) 10:39:10.61 ID:KiiS31UCo
 ■   □   ■


智「……そんなわけで、今日のゲスト。花城花鶏さんですー」


真雪「わーぱちぱちー」


花鶏「……何かしらこの見るからに歓迎してなさそうな雰囲気は。
   指入れるわよ」


真雪「やめてください死んでしまいます」


智「……とりあえずこれでボケ役が成立したことでして」


真雪「イザという時、暴走を止める方が居ないと思うんですけど仕様ですか?」


智「うん、もし暴走したらその時は――――」


真雪「その時は?」


智「真雪を犠牲にして、僕は逃げる」


真雪「おやおや、そんなことしていいんですか?
   そんなことしたら、困ったことになりますよ?」


智「多分ならないから、大丈夫」


真雪「困るっていえっ!」


智「いたっ!」


真雪「困るっていえっ! 困るっていえっ!」


智「真雪、いたっ、その台詞ダメっ! すっごくダメ、台無し!! 困る、困るから!」
416 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/08/31(金) 10:39:38.04 ID:KiiS31UCo
真雪「ふぅ。というわけで、智さんが犠牲になってくれるんですねありがとうございます」


智「なにそれ聞いてない!」


真雪「言ってませんからね」


花鶏「……私は別に、夫婦漫才を見に来たわけじゃないんだけど。
   それとも、どちらかが私の妻役になってくれるのかしら」


真雪「智さん、出番です」


智「思った以上に速かった! というか了承していない!」


花鶏「あらあらいいのかしら。
   私はノンケでも食っちまう女なのよ」


智「いやだめちょっ花鶏そこやぁの、あっ」


真雪「それではお二人の絡みが終わるまで待っている間にお聞きください。コミュ―黒い竜と優しい王国―サウンドトラックより、『愛しい人と』です」



 ♪〜「愛しい人と」〜♪
417 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/08/31(金) 10:40:04.95 ID:KiiS31UCo
 ■   □   ■


花鶏「ごちそうさま」


智「……選曲も、仮にも付き合ってる人を見捨てるって選択も、何もかも間違ってると思うの……
  僕、もうお嫁にいけない」


花鶏「大丈夫よ智ちゃん。その時には私があなたを貰ってあげるわ。
   さぁ、一緒にベッド・インして、朝までエンジョイしましょう?」


真雪「それは断固として阻止します。
   智さんは私のです、絶対に渡しませんからね」


花鶏「ほう……つまり智を落としたら、貴方も手に入るってことね」


真雪「その発想はなかったです」


智「このままだと明日になったら僕も真雪も花鶏のことをお姉様って呼ぶ気がする!
  そんな未来、やり直しを要求する!」




 ※只今やり直しております、暫くお待ちください※
418 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/08/31(金) 10:40:31.04 ID:KiiS31UCo
 ■   □   ■


花鶏「それで、なんの話だったかしら」


智「次のコーナーじゃない? はいこれ、タイトル」


花鶏「えっと、何々? 『私のついた嘘』?」


真雪「あ、それ私の考えたコーナーですね。
   ようやく実装されたようで、ホッとしました」


智「あっ、そうなんだ? 兎も角、真雪は言わずもがなとして、花鶏って最近ついた嘘とかある?」


花鶏「そうね、無いわね」


真雪「さらっと言い切ったところ悪いですが、私の中のもう一人の私がこれを言えと囁いています。
   『嘘』、ですね」


智「そうだろうね。花鶏とか嘘が服着て歩いてるような存在だし」


花鶏「人聞きならないわね。私のどこが嘘まみれだって言うのよ」


智「花鶏ってさ、ナンパした時、『愛しているのは貴女だけ』とか言うタイプじゃない?」


花鶏「…………ぐー」


智「能力反動の振りしないっ!」
419 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/08/31(金) 10:41:13.01 ID:KiiS31UCo
真雪「それではさっさと本題のコーナーに入ってしまいましょうか。
   まず初めのお便りはこちら。 繁華街にお住まいのトカレフさんからのお便り。
   『最近、俺の妹が相談してきたことがあったんだ。
    その内容が、彼氏のできた友達が胸が大きくなってきた、羨ましいとかいう話でな。
    ほんでどうしたら胸が大きくなるのかっつー相談にそのうち大きくなるって答えちまったんだけど……
    胸って、ほっといてもおっきくなるもんなのか?』とのことです」


智「それ、なんてエロゲー?」


真雪「その突っ込み、智さんも割と私に毒されて来ましたね。
   というかこの人、相当なシスコンですね。
   いや、この番組を知っている時点でロリコンさんなんでしょうか?」


智「……それには触れないでおいてあげよう?
  もしかしたら僕の方が目的なのかもしれないし」


真雪「それはそれでヤバイですが……
   さて、どう思いますか並乳の花鶏さん」


花鶏「うっさいわね、そのまな板揉むわよ。
   ……そうね、性的に、他人に揉まれると揉むと大きくなる、とはよく言うわよね」


真雪「私は毎晩揉まれてますg 智「はいそこまでー」


花鶏「? まぁ兎に角、胸を大きくしてあげたいならその妹の写真を送って来なさい。
   私のタイプだったら天国を見せてあげるわ」


智「そういう噂って異性からっていう但し書きがつくんじゃ……」


花鶏「あら? 同性でも大きくなるわよ」


真雪「どうしてそんな自信満々に言えるのか……
   ああいいですいいです、皆まで言わずともわかりますから」


智「それじゃそろそろ次のお便りに行ってみようか」
420 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/08/31(金) 10:43:21.82 ID:KiiS31UCo
真雪「レソトにお住まいの、夏に五月蝿いアレさんからのお便り」


智「胡散臭さ」


花鶏「胡散臭さ」


真雪「というかレソトってどこですか?
    全く聞いたこと無いんですが」


花鶏「周りを南アフリカ共和国に囲まれた、小さな王国よ。
   世界最南の内陸国とも呼ばれているわね」


智「明日どころかきっとこれからも役に立たないムダ知識をどうもありがとう。
  それで肝心の内容の方は?」


真雪「あ、はい。
   『初めまして、いつもこの番組を楽しみにしています。
    これからもがんばってください』
   ……普通に呼んだら、これ以上ないくらい普通の、ファンレターなんですが……」


智「このコーナーで出すということはつまりその内容そのものが嘘ってことかな」


花鶏「普通にファンレターとして出せばいいものを……」


智「花鶏、GO!」


花鶏「報酬は処女膜でいいわよ」


智「嫌だよ!?」


真雪「そもそもありませんしね……」
421 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/08/31(金) 10:43:49.07 ID:KiiS31UCo
 ■   □   ■


真雪「さて、そうこうしている内に今月のTAKAKURAマースエンドレスも終わりの時間を迎えてしまいました」


花鶏「やってて思ったけれど、月一のくせにやけに短いわね」


智「単純にウィークエンドレスの方が長かっただけじゃない?
  あっちは人数が多かった分だけ一つのトピックにかける時間が長かったからね」


真雪「まぁこっちはこっち、あっちはあっちでやっていきましょう。 今までもこれからも。
   それでは最後に、最近メジャーでも大人気のアクセプターZの主題歌、『こころのプリズム』を聞きながらお別れをすることにしましょう」



 ♪〜「こころのプリズム」〜♪



花鶏「ねぇ智。今夜あのコンサートの時の衣装来て私のベッドで待っててくれない?」


智「コンサート衣装どころか普段着でも制服でもメイドでも和服メイドでもナース服でも何もかもでお断りだよ!?」


真雪「……最後ぐらいしっかりしめましょう」


智「ほら花鶏言われてるよ離れて! ……こほん、それでは来月も皆さんが明日に向かって全力で走って行けますように」


花鶏「この台詞が『明日の向こうに〜』と『Run』に掛かってると気付く人ってどのくらいいるのかしらね」


智「そういうのはいっちゃだめだよ! 滑ったギャグを解説するぐらいしちゃいけないよ!」


真雪「それでは、次回のTAKAKURAマースエンドレスでお会いしましょう」


智「じゃあねー!」





花鶏「どうでもいいけどなんで私ゲストに呼ばれたのかしら」


智「深刻な人数不足の為、じゃないかな」


真雪「世知辛い世の中ですね……」
422 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/08/31(金) 10:44:50.69 ID:KiiS31UCo
 おしまい。
 本編は多分二日か三日あたりに。
 では。
423 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/08/31(金) 10:56:47.62 ID:jhpfeQ1Jo
424 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/31(金) 11:46:32.59 ID:FCLe9JvJo
425 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/09/01(土) 01:54:56.93 ID:mtrIhH3bo
おつ!
たまにはこういうのもいいね
426 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/09/03(月) 22:32:07.86 ID:mgi5kBrdo
 今日はリミットが00時であまり時間ないので短めかもです。
 それでは一心不乱に。
427 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/03(月) 23:03:44.53 ID:mgi5kBrdo
 新都心は暗闇に包まれていた。
 いたるところでアバター同士の抗争が起こり、局地的な戦局は次々と移り変わる。
 が、全体的に見ればまだ、これは始まったばかりに違いない。
 違いない、というのも不確かではないけれど。
 と、いうのも。

我斎「プランCだ。 βはポイントFへ向かい通信を回復させろ。 その後はγと合流して行動不能のメンバーの回収にあたれ」

 言われた、エル=アライラー護衛の片割れが直ぐ様私達から離れていく。
 街へ繰り出してすぐ、連絡手段が断たれた。
 タイミング的に、恐らく電話系統の施設に問題が発生したのだろう。
 電線が切られたのか、電気が消えていることからも簡単に察することができる。


 ■■■■■■■■―――――――


 吠える。
 私達ではなく、漆黒より現れたアバターが。
 緑色の『巨人型』。 私は知らない、ということは向こうもこちらを知っている訳がない。
 故に、敵。

「やっちまえ、――――」

 思うが早いか。
 相手が意志を込めるよりも速く、騎士はその剣で緑の巨人を穿つ。
428 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/09/03(月) 23:20:01.81 ID:mgi5kBrdo
我斎「余計な追撃は必要ない。 迅速に体制を整えて第二波の迎撃に移れ」

 この状況、単体で行動しているアバターはただの阿呆に他ならない。
 そんな阿呆はそもそもこんなに素早く情報を仕入れることなどできない。
 つまり、この状況に置いてアバターが一体の場合はよっぽど腕に自信があるということで。
 何をするまでもなくやられるようなアバターが出てきた場合は、つまり。


 ■■■■■■■■―――――――


 ■■■■■■■■―――――――


 チームを組んでいる、ということだ。
 恐らく私達の今さっきまで隠れていた隠れ家を襲撃でもしようとしていたのだろう。
 となればギグ組。
 躊躇する理由など、無し。

 先の巨人の亡骸はとうに消え、眼前に佇むのは斧を掲げた騎士と傍らに潜む猟犬。
 魔犬が跳びかかると同時、グルン! と騎士はその腕を回す。
 ――戦斧ではなく、投斧
429 :途中で投稿してしまいました、やり直します [saga]:2012/09/03(月) 23:29:28.53 ID:mgi5kBrdo
我斎「余計な追撃は必要ない。 迅速に体制を整えて第二波の迎撃に移れ」

 この状況、単体で行動しているアバターはただの阿呆に他ならない。
 そんな阿呆はそもそもこんなに素早く情報を仕入れることなどできない。
 つまり、この状況に置いてアバターが一体の場合はよっぽど腕に自信があるということで。
 何をするまでもなくやられるようなアバターが出てきた場合は、つまり。


 ■■■■■■■■―――――――


 ■■■■■■■■―――――――


 チームを組んでいる、ということだ。
 恐らく私達の今さっきまで隠れていた隠れ家を襲撃でもしようとしていたのだろう。
 となればギグ組。
 躊躇する理由など、無し。

 先の巨人の亡骸はとうに消え、眼前に佇むのは斧を掲げた騎士と傍らに潜む猟犬。
 魔犬が跳びかかると同時、グルン! と騎士はその腕を回す。
 ――戦斧ではなく、投斧!

 ガィン! と金属同士の削れあった音が鳴り響く。
 蒼く、淡く光るその剣は放たれたそれを一合と交わすことすらなく、両断した。

 続いて迫り来る『魔犬型』。
 地面を滑るファイバーが、それの眼前に踊り出る。
 犬は、騎士にすら届くことはない。
430 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/03(月) 23:59:22.45 ID:mgi5kBrdo
夜子「ファイバ――――――!!」

 閃光。
 直線上にあるモノ全てを刺し抉る、光速を超える魔弾。
 魔犬のみ為らずその背後に控えていた騎士型すらも貫いて、ファイバーは帰還する。

我斎「警戒を怠るな」

 けれどそれが当然であるというように、五樹の表情には迷い一つ見られない。
 それに習い、私も改めて気を張る。
 今の閃光が、ファイバーの、ひいてはエル=アライラーのものだと気がついたのはどれだけいただろう。
 滅多に姿を表さないとはいっても、特徴の一つや二つは漏れ出るものだ。
 それの一つが、EX発動時に発生する雷撃、光の奔流。
 その情報を知っているなら、エル=アライラーが討たれたというのはやはりガセだったと気がつくまでに時間は必要ない――――

夜子「っ!」

 私はブラックベリを素早く旋回させる。
 突如として舞い上がるのは爆風。
 十中八九、『魔弾型』。 狙いすましたかのような一撃を見るに、きっと初めからカエサルを狙っていた。

夜子「五樹」

我斎「問題はない、引き続き迎撃へ当たれ」

 頷くと同時、二つ目の爆撃を感知した。
 盾を再び展開するやいなや、烈風が私達を突き抜ける。
431 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [saga]:2012/09/04(火) 00:03:01.59 ID:kV84oKaQo
    第六幕
    Chapter

  54 開幕
  55 王の君臨
  56 ??? ←次ここ


 ここまでー
 なんか状況描写が少なすぎる気がする……わかりにくくて申し訳ございませぬ……
432 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/04(火) 00:26:10.33 ID:PGO5a8IWo
433 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/09/04(火) 00:34:20.12 ID:k4udtu//o
434 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(広島県) [sage]:2012/09/05(水) 22:53:58.86 ID:O+eIizXm0
435 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/09/06(木) 02:03:10.84 ID:jHcq4xe5o
おつ!
436 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(広島県) [sage]:2012/09/11(火) 16:01:01.73 ID:crtZS3E50
巨根
437 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/16(日) 18:45:08.77 ID:YzAEgwDto
 巨根ってなんぞ……
438 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/22(土) 00:26:01.67 ID:TuNwTlKvo
 宣言しておかないとサボりそうだ……
 明日ってか今日投下
439 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(広島県) [sage]:2012/09/22(土) 23:03:24.25 ID:88pk97cu0
キターーーーー?
440 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/23(日) 00:41:12.24 ID:MGP9IckGo
 きたよー
 ぼちぼち書きます
441 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/23(日) 01:01:11.23 ID:MGP9IckGo
 ――side ロンド・ロンド


 数撃、そのどれもが撃ち落された後に念のため問いただす。

ロンド「本体は?」

いろは「何処かにはいるんだと思うけど。 流石にこんな状況じゃわからないね」

 予想通りの返答に溜息を一つ吐く。
 けれどこれは落胆じゃない。
 本体を斃せないのなら、アバターを狙うまで。

ロンド「いろは、お願い」

いろは「任せときな」

 ミスjHのモード・ハイドはいろはの操作しか受け付けない。
 つまり虎の子の『魔弾』もいろはしか撃てないということ。
 不安は感じないけれど、もどかしさを感じる。

いろは「――――まただ、撃ち落された」

 飛び交う剣は恐らくエル=アライラーの一部。
 あと一歩のところで、届かない。

いろは「魔弾を使うしか無い……か」

 魔弾は通常の弾に比べれば低速だ。
 大火力を持つエル=アライラーに確実に当てるのは難しい――――
442 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/23(日) 01:21:12.11 ID:MGP9IckGo
ロンド「いろは、何秒いける?」

 ミスjHの強みはそのEX能力。物質透過で相手の物理的、そして思考的死角をつく。
 けれど、それは一度既に見られている。
 相手の防御をすり抜ける『ブロディーの鎚』、そしてあのバビロン戦。
 それらを知っているなら、考察力の高い人物ならミスjHの能力に気がついていても不思議じゃない。
 リスクは最小限。距離は詰めない。
 だからこその問い。

いろは「……わかんない。十秒は持つと思う」

 十秒。短くもなく、長くもない。そんな微妙な時間。
 飛び交う剣をすり抜け、一撃。完全に破壊するなら、二撃は欲しいところだ。
 エル=アライラーに立ちはだかる、騒ぎを聞きつけて街中に群がるアバターは後を尽きない。
 けれど、それでもまだ隙は見出だせない。

いろは「…………」

 いろはの唾を飲む音が聞こえて、ミスjHが虹色に発光する。
 せめて、ギリギリの場所まで距離を詰めるつもりなのだろう。危険度が変わりないのなら、私にそれを止める義務はない。
 それよりも、配るべきは周りの様子。
 あと一つ。何かがあと一つあればとどく。
 あと一つあれば――――!

 そんな願いが通じたのか。
 蒼い召喚ゲートが、エル=アライラーの眼前に出現する。
 今、だ。
 今だ。
 今しかない。
 気付いたら、叫んでいた。

ロンド「今っ!!」

いろは「――――――!!」 
443 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/23(日) 01:49:58.20 ID:MGP9IckGo
 ――side 四宮 夜子


 疾走る。
 疾走る、疾走る、疾走る。

 部分召喚しているビグウィグ、ファイバー、ブラックベリ、ダンディライアン。
 ビグウィグとファイバーを傍らに、私は疾走する。
 目まぐるしく入り乱れる情報に頭がバンクしそうになりながらも。

夜子「ファイバー、索敵モードA」

 幹部を狙っていた、虹色の発光を放つアバター。
 既にその情報は入っている。
 だからそれを見つけさえすれば――――

 突如。
 残した9Rの視覚情報から、眼前に召喚されたアバターのそれが届く。

夜子「黒い、竜――瑞和…………!」

 驚くのも束の間。
 遂に捉えた発光フレアを中心として、七つの槍が放たれ、すぐ横を通り過ぎてゆく。
 私は瑞和の方向へ引き摺られた思考を打ち切り、感情を殺す。
 やるべきことは、一つ。

 続いて、轟音。
 まさか。9Rの楯を抜けた?
 五樹は――――無事?
 ……大丈夫、無事に決まってる。
 私は高鳴る心臓を抑えて、そう自分へ語りかける。
 だってそもそもアレは、エル=アライラーじゃないんだから。

 真上。
 索敵して捉えた地下の敵へ、ビグウィグを垂直に装填する。

夜子「ビグウィグ――――――!!」

 王へと歯向かう者へ、断罪を。
 私はただ、剣を振り下ろす。

 そして剣は、愚か者を引き裂いた。
444 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/09/23(日) 01:52:13.16 ID:MGP9IckGo
 おわーり。
 戦況入り乱れてるなぁー、ちゃんと状況わかりますかね……?
445 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/09/23(日) 02:04:08.10 ID:/mWj5ZpWo
乙。
問題なく分かるよ。
446 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/23(日) 07:10:23.19 ID:Vi1YXgvzo

わかりますよ
447 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/30(日) 22:53:01.37 ID:sM+++/SYo
 それならよかった……
 
 と、ついでに次の投下日をば
 今回は火曜の夜に更新します
448 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/02(火) 22:49:14.78 ID:FRtgi7rDo
 すまん修羅場(恋愛関係でない)で今日はむりぽ
 週末に
449 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/10/03(水) 19:25:13.84 ID:1Xqo6U9to
そんなこと言いつつ実は・・・
450 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/07(日) 00:24:11.26 ID:AELuOvtIo
 ――side 瑞和 暁人


 我斎五樹。
 武闘派結社、『カエサルレギオン』の王にしてコミュネットの在り方の変革を望む者。
 影に隠れ、闇に紛れ暗躍する夜子を裏で糸引くもの。

 ――それが。
 そいつが。
 遂に。
 目の前に立っている。

 乱戦状況となっている今現在、我斎の傍らに立つアバターは偶然出会ったアバターと、執拗に狙ってくるアバターの二つを同時に相手していた。
 後者は恐らくロンドだろう、だけれど今は関係ない。
 夜子の剣が周りを飛んでいるが、それはカモフラージュにすらなりはしない。
 それなりの金をはたいて購入した暗視ゴーグルから伊沢は目を外して、呟く。

伊沢「アレがエル=アライラーか? にしちゃ、随分とみみっちいんだな」

暁人「多分アレは偽物だな」

 我斎の傍らに立っているのは、なんの変哲もないただの騎士型だった。
 実際にエル=アライラーを見たことなどないが、夜子の剣が関与するモノがなさ過ぎる。
 だが知らない奴はそれがエル=アライラーだと思ってしまうだろう。
 先の一件でエル=アライラーだと思われて破壊された剣を操っているように見えるのだから、尚更。

紅緒「それで……どうするの? バビロン、行く?」

暁人「……出来れば、使いたくないところだけどな」

 ……いや、何の変哲もないといいつつもしっかりと飛び交う剣のフォローを受けつつ数多のアバターを捌いているのだから実力は折り紙つきだ。
 正直、真正面から行きたくない。
 本物のエル=アライラーと対峙するには、全快でも尚足りない。
451 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/07(日) 01:01:14.00 ID:AELuOvtIo
春「ふむ。 なかなか難しいねぇ」

 この場に突然バビロンが現れるだけでも随分な不意打ちになるだろう。
 だが、あの騎士型と一合まみえるだけでそのアドバンテージは消えてしまい、エル=アライラーの召喚を許してしまう。
 どのタイミングがいいのか。
 唾を飲み、戦況を眺めたところで、ぽつりと聞こえた。

真雪「爆発が……止んだ?」

 ロンド・ロンド。
 ……っ!!

暁人「楯の準備っ!!」

真雪「えっ、はっ、はいっ!」

 寝ている時に水を頭からかけられたかのような反応をする真雪を尻目に。
 俺は告げる。
 魂を銃弾として込めなければその鉤すら振るうことのない黒い竜へと。

 日はとうに隠れ、影に隠れていた月が蒼く煌く。
 その今こそ、勝機。


暁人「――――出ろ、バビロン!!」


 七対十四の灼眼。
 十の尖角。
 闇よりも尚濃い黒鋼。

 初期起動でビギナーキラーを返り討ちにし。
 ラウンドの顔、高遠奈々世のアバター、フッフールを打ち負かし。
 コミュ狩り、ジャックを破壊し。
 常勝無敗のかの蛮王とさえ互角に渡り合ったと噂される。
 今やアバター・ギグの旗印。


 ■■■■■■■■―――――――


 バビロン。
 応える様に蒼いゲートから現れた黒竜は高らかに咆哮する。
452 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/07(日) 01:30:59.07 ID:AELuOvtIo
 突如として眼前に現れた黒い竜に、王を守る近衛兵は慄く。
 だが後退のみならず、蹈鞴を踏むことすら許されない。


 ■■■■■■■■―――――――


 吠える。
 槍ではなく白刃を振るい武功を立てた騎士はかの英雄の如く勇猛果敢に竜へと立ち向かう。
 ――だが、それはあまりにも遅すぎた。

 騎士の傍らに仕える二本の剣が駆け抜ける。
 それは黒い竜を狙ってのものでは決してなく、すぐに到達する火矢を撃ち落とすため。
 だが、その火矢は果たして。
 生半可な盾では防げぬ、銃弾。

真雪「――――――ッ!」

 何よりも速く、それが展開する。
 黒、黒、黒、黒、黒。
 夜闇すら飲み込み、世界からあらゆる現象を断絶する、黒の楯。
 それがミスjHの魔弾すら防ぐことは、一年前に既に証明されている。

 爆音、爆音。
 次いで、爆音。
 だがそれが耳に届くのは爆発より後だ。

 ビリビリと響き渡る轟音が晴れるより早く、バビロンは騎士の制空圏へと踏み込む。
 無論、斬撃は飛んでくるはずなどない。
 一つの願いが死に――そして、バビロンの感知能力で更にもう一つの野望が死んだことも理解する。
 が、バビロンは立ち止まらない。
453 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/07(日) 02:10:43.65 ID:AELuOvtIo
 どんなに強力無比なアバターにでも、避けられない弱点がただ一つだけ存在する。
 それはアバターを操るのが腐っても『人間』だということだ。
 バビロンを操る俺たちだって人間であり、エル=アライラーを操る我斎だって人間だ。

 ならば。
 アバターを召喚する前に、それを操る人間を叩き潰せば、なんの問題もないのだ。

瑞和「我斎――――――――――!!」

 バビロンの視界で捉えた、周りに夜子以外のだろうエル=アライラーの接続者を連れた我斎は。
 ――――笑った。

紅緒「ぁ――――!」

伊沢「っ、クソがっ!!」

 瞬間、制御が伊沢にもぎ取られる。
 抗議の声をあげようとした、その刹那。
 激しい金属音が鳴り響き、視界が揺れた。

 俺の視界が揺れたわけではない。 バビロンの視界が揺れたのだ。
 何者かに真横から突進を食らい、吹き飛ばされてビルに激突した。
 死んだのは一割五分、といったところか。
 紅緒の感知と伊沢の反応に救われた。 それがなかったら、機能の半分は持っていかれていたに違いない。

春「これって、ちょっとヤバイんじゃない?」

真雪「…………です、ね」

紅緒「…………」

伊沢「クソがっ……!」

 聳えるのは、朱。
 バビロンとは異なり、一般的な『竜型』とは大きくかけ離れてはいないフォルム。
 けれど、やはりそのステータスは他のアバターと一線を画している。

 彼女らがカエサルレギオンに入ったと聞いた時から、いつかこうなるだろうとは思っていた。
 だが、しかし、けれど。
 これはあまりにも、都合の良すぎる登場じゃないか。
 まるで、御伽話のように。

瑞和「マクベス…………!」

 あと一歩が届かず。
 まるで、掌の上で踊らされているような錯覚に陥った。
454 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/07(日) 02:14:50.69 ID:AELuOvtIo
 今回はここまで。

 次回は予定を変更しまして
 智「二度目の冒険は、思い出を超える」
 をお送りします

 嘘ですごめんなさい
 ではまた
455 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/10/07(日) 03:20:57.87 ID:+zxupQaFo
456 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/07(日) 10:35:26.59 ID:pvqP8WDJo
457 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2012/10/08(月) 11:15:40.41 ID:MEoW1ZKAO
智「二度目の冒険は〜」是非やって欲しいw
乙です
458 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/19(金) 09:24:13.57 ID:IquFrnJWo
 本日辺り更新します
 
 冗談の嘘予告はまぁ追々……
459 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/10/19(金) 12:44:20.92 ID:DqQPYJGe0
待ってました
460 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/20(土) 01:22:15.73 ID:ZNcpQqa1o
 ――side 和久津 智


 ……間にあった。
 皆の息は荒い。マシなのは僕と央輝ぐらいのものだ。
 マクベスが臨戦態勢を見せているところを見ると、息を整えながらも集中力は途切れさせていないらしい。

 駅前での一戦は『アイギス』が攻撃を引きつけている内に僕らが迎撃して勝敗をつけた。
 とはいっても破壊はしておらず、半壊させた辺りでわざと見逃した。
 それについては誰も文句は言わない。 そもそも破壊=殺すことを快く思わないメンバーだ、どうせこの後の戦闘には邪魔できないなら破壊しなくてもいいという考えだったのだろう。
 きっと僕一人が殺そうとしても、他の四人によって止められたに違いない。
 ……そんな気は、さらさらないけど。

 それはともかくとして。
 僕らはその後上がった、目印のような青白い砲弾を目にして此処に駆けつけた訳だ。
 奇しくも、物理的に我斎と瑞和の間に割って入るような形で。

我斎「役者は揃ったか」

 我斎が前に出た。
 バビロンが復帰する。
 あまりに突然だったから手加減ができなかったが、この文だと損害はあまり無いようだ。
 それはそれで、マクベスとの地力の差を感じてしまうけれど。

暁人「人を勝手に出演者にしないで欲しいけどな」

 導かれる様にして、瑞和も前へ、バビロンの足元へと出る。
 それこそが既に演目の一部だ。
 そして我斎は、役者は揃った、と言った。
 然るに。

智「……つまり、何をしようとしてるかもお見通し……ってことだよね」

 僕も前へ。
 見て、瑞和は沈黙を貫き、我斎は嗤う。
461 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/10/20(土) 01:34:14.44 ID:GHAJD7smo
待機
462 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/10/20(土) 01:41:49.58 ID:/VI0JrNyo
わっふるわっふる
463 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/20(土) 01:54:28.48 ID:ZNcpQqa1o
我斎「魔術師にでも憧れたか?」

 なるべく、慎重に動いていたと思うのだけれど。
 夜子にはあまり情報を掴ませていないから、それ以外のソースもあったのだろう。
 まぁ新円卓のリーダーに謁見したことを知られないと、そんなわけがあるはずが無いとは思っていた。
 真の狙いは知られていない。 深く踏み込んで来ないのはそう取るべきだ。

我斎「楯であれば後生大事に抱え込んでやったものを。 お前も同じだぞ、道化」

瑞和「生憎だけど搾取されるだけの人生なんて真っ平御免」

我斎「ふん。 以前もそう言って、俺に手袋を投げさせたな」

 アバターの戦いが創りだした瓦礫に足掛け、僕達を見下ろす。
 王の如く。

瑞和「一応聞くけど、剣を収めるつもりは無いわけ?」

我斎「愚問だぞ道化。 お前とてわからないわけではあるまい」

 最早、互いに引こうにも引けぬ状況であることを。
 そう言う両者とも、道を一歩も譲るつもりなど無い。
 我斎は謳う。 まるで演説でもするかのように、しかしその声は鉛のように低く、鋼の様に冷徹に。

我斎「俺は王国を手にする。 王国には新しい秩序と法が不可欠だ。 王国に楯突く輩には制裁が必要だ」

我斎「その為なら百でも千でも斃そう。 それが王国を生むというのなら」

 それが、カエサルの行動原理。
 百を救うなら十を殺す。 百を殺し先に千を生かす。
 カエサルはそこで言葉を区切る。
 待っている。 僕らの、宣言を。
464 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/20(土) 02:20:20.97 ID:ZNcpQqa1o
瑞和「……前にも言った通り、俺ってば結構な守銭奴なんだ」

瑞和「皆のニーズに答えてた結果、こんな大きな城の主になっちまった」

瑞和「でも、それで不幸だと思わない。 大事な物を安全に固守する力が手に入ったわけだからな」

瑞和「けど、それを奪うってんなら、残念だけど『はいそうですか』って潰されるわけにはいかない」

 言われ、我斎は表情一つ変えない。
 ただ、、なんとなく、だけれど。
 落胆しているようにも見えた。


 そして僕の番がやってくる。
 考えて見る。 僕の理念の芯ってなんだろう、と。
 思考するまでもない。 そんなものはないのだ。

 ただ、誰かが泣いているのが嫌だ。
 ただ、誰かが悲しんでいるのが許せない。
 ただ、誰かが嘆くのを見捨てることが出来ない。

 それを手の届くところでしたい、それだけの話だった。

 けれど世界は残酷で、手を繋ぐ人間が増える程、届く手の数は広がってゆく。
 けれど世界は理不尽で、誰かの幸せを願うには誰かの不幸を願わなければならない。
 誰も彼も、幸せになれる未来など存在しないのだと世界は嘲笑う。
 それを僕らはこういうのだ。
 呪われている、と。


 千人を救う為に百人を見捨てる。
 一人を守る為に世界を敵に回す。
 それはどちらも正しい。
 これらは、願いだ。
 幸せになろうとするための、願いだ。

 だからこそ。
 だからこそ、僕は。
 だからこそ、僕らは――――
465 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/20(土) 02:38:42.60 ID:ZNcpQqa1o
智「認めない」

 その歪んだ願いを。
 他の何もかもを蹴落とさなければならないという考えを。

智「向けられた心配にすら答えられない人間が、何を出来る? 何を成せる?」

智「だから、二人は正しくとも、正しくない。 間違ってなくとも、間違っている」

 皆が幸せになれる世界。
 そんなものは、御伽話の物語にしか存在しないだろう。
 この呪われた、優しい王国ではなるようにしかならない。



 ――それでも。
 それでも、と。



智「僕は二人を、否定する」

 正しくとも。
 間違っていても。
 正しくなくとも。
 間違っていなくても。

 僕は、それを否定する。
 それは、どうして?
 囁く脳裏に過るのは、一つの光景。

 ああ、長々と理由付けをしてみたけれど。
 やっぱり、ここに集約されてしまうのだろう。


 ――『ただ一人の少女を悲しませることなど許さない』、という、ただ一言に。
466 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/10/20(土) 02:54:42.74 ID:ZNcpQqa1o
我斎「ふん」

 カエサルは鼻で嗤う。
 そして身を翻す。
 言うべきことは全て言ったと示すように。

我斎「ならば、後はその力で示せ」

 青白い光の奔流が、我斎の去りゆく背中の真上に現れる。
 言うまでもなく、わかる。
 それは、アバター召喚の合図。
 偽物などでは、目眩ましなどでは断じてなく。
 これは、そう、正しく。

我斎「――――制覇せよ、エル=アライラー!」

 月下に浮かぶ、九本の白銀の刃を携えて。
 常勝無敗、現コミュネットで無敵と謳われる。
 正真正銘の、エル=アライラー。

我斎「そして、コミュネットの礎となれ。 道化、そして愚者」

 愚者、と。
 僕のことを我斎はそう呼んだ。
 言い得て妙だ、少なくとも僕は賢者などではない。
 そこまで聡明に、何も彼もを悟り、諦めることなど出来ない。

 しかし、知っているだろうか。
 字面では愚か者と書く、未熟な若者を記す『愚者』という言葉そのものには。
 『無限の可能性』が秘められているということを。


 そして同時。
 銀と黒、そして朱のアバターが動き出す。
467 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/10/20(土) 02:57:41.32 ID:ZNcpQqa1o
    第六幕
    Chapter

  54 開幕
  55 王の君臨
  56 決戦
  57 ???←次ここ


 今回はここまで。
 運が良ければ月曜までにもう一回来るかも?
468 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/10/20(土) 07:09:14.81 ID:oPAeYL9+o
乙!熱い展開だな、次も楽しみだ
やっぱ智ちんはカッコいいなあ
469 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2012/10/20(土) 09:11:04.91 ID:khhRsc7Qo
投下乙でした!
なかなか追いつけないけど楽しみにしてます!
470 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/10/20(土) 12:20:26.32 ID:/VI0JrNyo
471 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/10/20(土) 16:18:27.72 ID:PMUxognBo
472 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/04(日) 01:30:53.20 ID:0htdI1/Qo
 すいません今日は無理です
 いや別に宣言はしてませんでしたけども……

 明日の用事が早めに終われば昼過ぎに更新すると思います
 来なかったら多分来週になるかと……そうなれば重ねて申し訳、です
473 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/11(日) 21:12:32.14 ID:SaRPklMPo
 ……やばいなー
 展開ってかバトルシーンの立ち回りが全く浮かんでこない
 でも今日かかなくちゃなー
 ……よし、頑張るか。 風呂入るから一時間後にだけど。
474 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/11/11(日) 23:12:19.78 ID:SaRPklMPo


 ■■■■■■■■―――――――


 黒の竜が咆哮する。
 ただの『竜型』には到底到達し得ない、『魔犬型』をも上回る速度で疾風を引き起こす。

 銀の覇王はその獰猛な怪物を打ち取らんと迎え撃つ。
 空に舞う九つのブレード、その内の二つが空に雷撃を奔らせた。

智「――いくよっ!」

繰莉「あいよっ、と!」

 朱の竜もその激突に合わせ、戦場へ赴く。
 先ず僕らが討つべきはバビロンではない、エル=アライラーだ。
 バビロンが真っ先にエル=アライラーへと向かったのは同じ考えだから……ではなく、こちらが畏れるべきでないと思っているが故。

 だが僕らは背中から刺すような真似をせず、エル=アライラーへと向かう。 というのもバビロンを押さえつける自信があるからだ。
 種は、既に巻いている。 紅緒と真雪、二人を信じるならエル=アライラーを倒してからバビロンを相手取っても遅くはない。
 だからこそ、バビロンの背後を取らず一時的に共闘する。
 幾らバビロンが、マクベスが『竜型』で有数の力を持っているとしても個々では覇王には敵うまい。

 エル=アライラーの周囲から光が迸る。
 夜子か――いや、違う!
 アレはもっと速い、これはただの能力の副産物に過ぎない!

芳守「あーや、盾じゃない!」

アヤヤ「あややっ!?」

 放たれる雷撃は矢となり不届き者へと向けられる。
 マクベスの制御に手を加え、直線的に向かうはずだった進路を迂回させる。
 丁度、エル=アライラーとバビロン、その相対する直線上を通過するように。
475 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/11/12(月) 00:04:43.69 ID:1huJYkLBo
 バビロンの十の尖角から湧き出る黒の楯。
 何物にも犯せぬその重力の壁はエル=アライラーの雷撃すら阻む。

央輝「っ!? くそがっ!」

 バビロンの背後を通り過ぎる瞬間、グルン!とその尾がマクベスを薙ぎ払う。
 飛び退くが勢いは殺せず、そのままエル=アライラーの正面右上に飛び出る。
 感覚で捉えたエル=アライラーの姿。

 マクベスの丁度下を通り過ぎるように横薙ぎに剣を払い、バビロンが真横へ数メートル吹き飛ばされる。
 同時、狙っていた様に余っていた剣が竜の身体を捉えた。

 放たれる一撃必殺。
 僕は咄嗟、その光速を超える矢をマクベスの表面ギリギリを滑らせる。
 生半可ではない、その剣より発される熱はマクベスを僅かに焦がすがこればかりはどうしようもない。

 目標を失った閃光はそのまま直進し、ビルに風穴をあける。

アヤヤ「ナイスプレーッ、智先輩!」

智「まだだよ!」

 狙いが即死級でなかったのは、情けかそれとも。
 僕自身が叫んだ通り、考える暇はなく。
 磁力――『吸引』。
 マクベスをエル=アライラーに、突撃させる!

 未だ一歩たりとも動かぬエル=アライラーに右方からマクベスと、左方からバビロンが襲いかかる。
 ――だがそれすらも止められる。
 互いの伸ばした爪は見えない壁に阻まれる。 磁力がある限り永遠に向かい続ける筈のマクベスもいつの間にか力を失い地へと墜ちた。
476 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/11/12(月) 00:18:01.26 ID:1huJYkLBo
 駄目だ、書けない……どうした自分……
 火曜までに練って来ます……本当に申し訳ない……自己嫌悪…………
477 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2012/11/13(火) 01:41:48.34 ID:iddVtiKho
np 適当にお待ちしております
478 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/11/13(火) 05:09:18.30 ID:vcxB783ao

無理すんなよ
479 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/11/14(水) 00:25:45.83 ID:J1yuWaMno
 来る刃は横一線。
 煌くその剣は浮かぶ九本の騎士とは異なり王の宝刀。

 まずった、喰らう。
 力を何割削がれるか――と思うや否や、剣は竜の皮膚を掠るだけに留まった。

繰莉「ふぃー、あぶなにゃー」

 繰莉ちゃんの機転。
 磁場を背後に生み出すことによって遠ざかることに成功したようだった。
 バビロンも同様に回避できたようで、三つのアバターは初期位置を変更したのみで睨み合う。

央輝「……なんだアレは。 いきなりぶち当たったぞ」

智「……多分、あの周りの剣の……『盾』って奴だと思う」

 あれは夜子が扱っていたものだ。
 『部分召喚』。 あったらラッキー、というおまけ機能。
 それだけでも幾数ものアバターを葬り去ってきたのだから本体の実力は折り紙つきだろう。

芳守「……見えない壁……ううん、違うかな。 でも、何かに刺さったみたいに一定距離より先には進まなかった」

 マクベスはおろか、バビロンの攻撃すらも同時に退ける盾。 そして、貫けば一撃必殺の剣。
 それこそがエル=アライラーを無敗の覇王としているEX能力に違いない。
 ……正直、嫌になってくる。

智「早まったかな」

央輝「お前が言うか」
480 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/11/14(水) 00:51:33.51 ID:J1yuWaMno
アヤヤ「でもでも、アヤヤ達の盾だって無限には使えないんですし、攻撃してればいつかは当たりますよっ!」

智「それより先にこっちの魔力が尽き……来るよっ!」

 その車輪のような下半身分からは想像も出来ないスピードで迫る。
 周囲にその電撃を漂わせて。

央輝「チィッ!」

 舌打ち同時、マクベスの左腕の爪が、刃が、装甲が弾け飛ぶ。
 真っ直に突いた大剣はただそれだけでマクベスの物理攻撃機能のほぼ半分を奪い取った。
 いや、半分で済んでよかった、というべきか。
 ヘタをすればその半身ごと持っていかれていた可能性も否めない。

央輝「これでも、喰らえっ!」

 返す刀の反撃。
 失った左腕の代わりに、全力の右腕を振るう。

 響く轟音。 間違いなく、クリーンヒットしたに違いない。
 しかし、それでも。
 銀の騎士の鎧は僅かに剥がれただけに過ぎず。

芳守「か、た――――!?」

智「逸らして!」

 迫り来る第二波。
 袈裟斬りに振り下ろされる剣に光はないが、それでも脅威的な威力に替わりはない。
 アヤヤに磁力の壁を展開させ、逸らすと同時。
 その剣へ磁力を宿らせ、『反発』によって剣の振られる方向へそのまま逃げて緊急退避する。

 そしてブレーキをかけるように地面を削り、蹴り、砲弾の様に今度こそと真横からの再攻撃。
 破壊力とは速度に大きく依存する。
 ゼロ距離の攻撃ならアレしかダメージがなくとも、これなら――――!
481 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/11/14(水) 01:35:10.01 ID:J1yuWaMno
 そう思う僕らを縫い止めるのはエル=アライラーより放たれる光の矢。
 磁力の壁では止められない。

 そう思い真横へ全力回避するマクベスとすれ違うのは黒い竜。
 音を置き去りにして、何よりも速く。
 それを追いかけるのはきっと足止めをしていた五つの白刃。

 そして僕らの前に立ちはだかるのは、

「……和久津」

 声に、前を見る。
 見ていたけれど、見ていなかった肉眼で、僕は彼女を捉えた。

智「……夜子」

 マクベスの意識で感じ取る。
 夜子の剣、その数四本。 何れもマクベスを虎視眈々と狙っている。

 再び、視線を戻す。
 夜子は僕を真っ直見つめていた。
 その向こう、夜子の背後では黒の竜と白の軍神が死闘を繰り広げている。

央輝「おい和久津、そいつは――――」

 何かを言おうとした央輝を手で制する。 きっと央輝は気付いている。
 他の皆とも一度顔を合わせていたことがあったけれど、その時は適当に誤魔化した。
 だからアヤヤと芳守はカエサルの手下の一人、ぐらいにしか思っていないだろう。
 もしかしたら繰莉ちゃんは知ってるかもしれない。 けど空気を読んでいるのか、口を挟んでこないから後回しだ。
482 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/11/14(水) 01:50:51.54 ID:J1yuWaMno
智「……あっちは、操作しなくても大丈夫なの?」

夜子「……うん。 私しかできないのは単独召喚と切り離しだけだから、9Rの操作は他のメンバーでも出来る。
    でも、和久津のアバターの周りにいるのは私が操作してる」

 ということはこれを話している間は攻撃はしてこないということだろうか。
 エル=アライラーが直接攻撃してきたなら別だろうけれど、今はバビロンにかかりっきりだ。
 時間が差し迫っているとはいえ、会話をする程度の時間はある。

 さて、と。 何から話そうか。
 先ずは確認からかな。

智「さっき、外したのは夜子?」

夜子「……うん。 和久津と、話したかったから」

 やっぱり、と思う。
 さっきというのは初撃の光の矢の後、マクベスが躱した槍のことだ。
 あれはもし当たっていたとしても致命傷にはなり得なかった、と思う。
 ほぼ完璧に回避できたのは、それのお陰だ。
 そしてそれをどうして行ったか、については同時に答えてくれた。

智「聞きたいのは、どうしてこうなったか、だよね」

夜子「…………」

 その沈黙は肯定。
 きっと夜子は答えを知っている。
 知っていて、こうしてここに来ている。
 あわよくば、その答えが違っていてほしいから。
483 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/11/14(水) 02:17:43.70 ID:J1yuWaMno
智「横から王国が欲しくなったから、っていうのが望んでる答えだよね」

夜子「……それじゃ、やっぱり」

 夜子の言葉に、しかし首を横に振る。
 確かに、それもある。 最初の原理はそれだった。
 けど今は違う。

智「夜子に悲しんでほしくない。 僕がそう思ったから、そうしてるんだよ」

 カエサルは、我斎は英雄だ。
 きっと、遅かれ早かれ王国を作る。 前代未聞の王になれる才覚も持っている。
 しかし。
 暴君は、滅びる。
 きっとその時、夜子は共に死ぬか。 或いは残されて悲しみに暮れるだろう。

 そうならない為に、必要だ。
 並び立つ対抗勢力が。
 或いは、暴君と為らない為の楔が。

智「だから僕は、この戦争をこの手で終わらせる」

智「悲劇を最小限に抑えるために、そして僕の目的の為に」

夜子「……どう、して」

 僕の答えを聞いて。
 夜子は絞りだすように、問いかける。
 全くもって、理解できないような、細い声で。

夜子「どうして、そんな……私の為に」

 ――お母さんだから、お姉さんだから。
 そう言ってしまうのはきっと簡単だけれど、違う。 家族愛なんかでは、断じてない。
 そうだ、きっと、これは。

智「同じだよ、夜子ちゃん」

夜子「ちゃん、つけ…………え?」

 僕は、この可愛らしい、小さな騎士様のことを。

智「夜子が我斎に抱く気持ちと、同じ。 好きだから、だよ」

 好いてしまっているから、だ。
484 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/11/14(水) 02:18:53.08 ID:J1yuWaMno
 レスありがとうございます、めっちゃ励みになります。
 とりあえず今日はここまでということで。
 では、また。
485 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/14(水) 07:16:31.42 ID:M3dA1PG3o
486 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/11/14(水) 10:18:48.64 ID:2fYWeJyDo
乙。久しぶりにコミュやりたくなってきた
487 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/11/18(日) 00:52:31.53 ID:4fTd32Zlo
アヤヤ「ええっ、智先輩って噂に聞く百合、」

芳守「アヤヤ少し黙って」

 背後で声がしたがすぐに掻き消える。
 そうだ、僕は『オンナノコ』、だ。
 仮に相手が性別という壁を超えて受け入れてくれたとしても更に問題が残っている。

 それは、僕の身体のこと。
 本当は男の子だということも最もだけれど、僕には〈呪い〉がある。
 『本当の性別を他人に知られてはならない』という、人生を偽りで埋め尽くさざるをえない呪いが。
 ほんの一晩、閨を共にすれば踏んでしまうかもしれないその節制で、僕は心を開くことすら許されない。

 加えて、夜子は我斎のことが好きだ。
 だからこれは叶わぬ恋。
 決して交わることなんてない、儚い恋。

 本当は、言うつもりなんてなかった。
 自分にすら嘘をつき、『妹みたいなものだ』と誤魔化して。
 それで最後までやりきってやろう、と。 そう考えていたんだ。
 でも、やっぱり現実はそう甘くなんかなくて。
 夜子はきっと、僕が言わないと納得しなくて。
 だから、告げてしまった。
 『夜子のことが好きだ』、と。

488 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/11/18(日) 01:19:33.07 ID:4fTd32Zlo
 目に見えて、夜子は動揺した。
 思わずアヤヤが反応したように、女の子同士だから、というのが最もだったかもしれない。
 普通なら、恋愛感情として見るはずなどないのだから。

夜子「ぁ、え……ちょっ、え……? わく、和久津、私、そういうのは、今は……」

智「答えなくていいよ。 今必要なのは、それじゃないから」

 勿論、答えてもらい、受け入れてくれるならそれ以上の僥倖はないだろう。
 けれど結局は先の障害が邪魔をして、距離を開かざるを得ないのだ。
 ……そもそも、受け入れてくれることはないだろうけれど。

 それなのにどうして僕が告白をしたか。
 それは簡単だ。 少し冷静になれば、話の前後から夜子ならすぐにわかるに違いない、けれど。
 僅か、苦笑する。 恋愛事となれば途端に顔を真紅に染めるこの少女は、恐らく冷静になれないに違いない。
 だから僕は自ら答えを掲示する。

智「僕は夜子のことが好き。 だから、夜子の為になんでもする。 丁度、夜子が我斎にしているのと同じように」

 夜子は自分を騎士だという。
 騎士は王の為に身を粉にして尽くし、そして盾となり死ぬのだという。
 そしてその王はそれが当然だと言い切り、見返りすらしない。
 夜子は我斎を思う。
 しかし、それなら。
 夜子のことは、一体誰が思ってくれるのだろう。

 夜子は僕のことをお母さんみたい、と称した。
 拘る様に、少なくとも僕には、そう聞こえた。
 それから悟る。 我斎が保護者をしていることからも、きっと夜子の家族はいないのだと。
 そしてきっとそうなった夜子を拾ったのが、我斎なのだと。
489 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/11/18(日) 01:42:52.17 ID:4fTd32Zlo
 それから、夜子が気を払う人間はいなかったに違いない。 逆に、親切にされたこともなかったに違いない。
 僕と、それから瑞和を除いて。
 だから夜子は、拘った。 どこか我斎に似ていると、拘った。
 出来れば、夜子は。 心の隅で、その二人も我斎と同じように失いたくないと思っただろう。
 瑞和のことは毛嫌いしているようにも見えたが、それは僕と会っていた初めの頃も同じだったから恐らくは間違い無いだろう。

 けれど、一番は我斎で。
 自分の願いは二の次で。
 例え一番で自分の願いが叶わないとしても、それを果たすのだ。

 それを僕は許したくない。
 だからこんな戦争に介入した。 だからこんな無茶を押し通らせる。
 それが答え。
 夜子が『どうして』と言ったことに対する、僕の答え。

 それに、夜子だけじゃないんだ。 これは後付だけれど。
 皆の願いを、叶えることが出来るかもしれない可能性も秘めているから。

智「だから、僕は倒して、止めるよ。 例え相手が夜子でも」


 ■■■■■■■■―――――――


 意志を乗せられた朱の竜は低く唸りをあげる。
 左腕は既に使い物にならない。 しかし諦めない。
 エル=アライラーがどれだけ化物でも。
 バビロンがどれだけ怪物でも。
 そこに倒せる可能性がある限り、絶対に諦めない。
490 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/11/18(日) 02:03:54.67 ID:4fTd32Zlo
 機動力は問題ない。
 魔力だってまだまだ全力で戦える。
 右腕だけでも、なんら問題はない。

智「いくよ、夜子」

夜子「…………」

 戸惑い。
 それが夜子に最も色濃く現れていた感情。
 ふと降ってきた、自分の願いが叶うチャンスをふいにしていいものかと、迷っているようにも見えた。
 けれど僕は決断をするまで待ってはいられない。 本当なら、待ちたいけれど、夜子が自分の意志で決めるまで、待ってあげたいけれど。
 時間は刻一刻と進み、戦いは徐々に終わりへと近づいていく。

智「止める気がないのなら――――僕は行くよ」

 答えはない。
 四本の剣はなにをするでもなく、ただそこに居た。

繰莉「……それじゃ、参りましょうか」

 繰莉ちゃんのその声を合図に。
 マクベスは動きを見せない9Rのすぐ傍を通り抜け。
 そして、白の騎士と黒の竜が争う戦場へと、飛び込んでいく。
491 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/11/18(日) 02:06:20.38 ID:4fTd32Zlo
 今回はここまで。
 書いてる時に見直してて気付いたけど夜子がなんで我斎に命を預けてるかの理由を智ちんに言ってなかった……
 特に問題はなかった……と思うけれど。

 次は……決着、までいけるのかな。
 それでは、このへんで
492 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/11/18(日) 09:44:43.69 ID:VvcLVBjko
493 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2012/11/18(日) 12:31:00.48 ID:lpc7aC6Xo
494 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府) [sage]:2012/11/18(日) 19:23:54.32 ID:/rXXeA9fo

良い展開でワクワクしてきた
495 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/07(金) 23:48:04.10 ID:0sYQlSipo
 おまたせしましてございます……
 もう12月ですね……一年以上経ってスレの半分も行かないとかどれだけ遅筆なのかごめんなさいorz

 では書き始めます……の前に。
 ちょっと早めですがクリスマスイベントの対象キャラを決めちゃおうかと。
 前書きは>>114を参照。 るいねーさんのみ選択不可。


 ―――――――――――――――――――





 (前略)

 いつもなら自己嫌悪に陥るけれど今日はそうもならない。
 それ程までに僕は楽しみにしているらしい。


 >>496と、クリスマスイブを過ごすのを。
496 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/07(金) 23:56:58.21 ID:NCoDUNKZo
赤猫
497 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/08(土) 00:02:11.61 ID:M5EiZYAOo
 把握しました
 それでは寝るまで書きます
498 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/08(土) 00:33:04.57 ID:M5EiZYAOo
 マクベスが戦いの最中に割り込む。
 エル=アライラーはいち早くそれを察知し、周りに浮かぶその矛の幾つかをこちらへと向ける。

 と、同時に対面していたバビロンはこちらに気を取った一瞬の隙を見逃さない。

 豪腕の鎚が振るわれ、不覚にも白銀の騎士はその攻撃を捌ききれず、真正面から受け止める。
 対なすもう一方の、鉄槌。 しかしそれは難なく躱す。 或いはこちらを『本命』を躱す為に先の一撃を受け止めた可能性すらある。
 が、その間にもマクベスは接近する。

 バビロンの攻撃が重いハンマーだと例えるなら、マクベスの攻撃は鉄甲をつけた拳に過ぎない。
 並のアバター同士ならばそれでも十分な破壊力は得られるが、この戦いではそうはいかない。
 正体不明の盾、そしてあのレベルアップして堅くなっている装甲。
 バビロンの強大な一撃――フェイクだけど――を受け止めても尚怯まないそれは無敵とも言えるだろう。
 この三つ巴の勝負、地力だけならば圧倒的不利。

智「だったら――地の利を生かすしかないよね」

 マクベスにあって、バビロンやエル=アライラーにないもの。
 それこそが地の利。
 確かに、先程言った通りバビロンやエル=アライラーの機能は強大だ。
 けれど、このフィールドにおいて、それは単なるオーバースペックでしかない。
 全力で駆け抜ければ一秒としない内にビルに激突する。
 力を出し惜しみしないで攻撃したなら周囲の建物は簡単に吹き飛ぶに違いない。
 それで誰も被害者が出なければそれでいい。 が、もしもそのアバターを操る接続者が倒壊に巻き込まれてしまっては目も当てられない。
 だから。 バビロンもエル=アライラーも、全力を出すことはこの場では難しいのだ。

 けれど、マクベスは違う。
 このビルだらけの街中において、マクベスのみが最大限にその能力を引き出すことが出来る。

 マクベスが両者に迫る。
 滑るように、その両者とも最弱のマクベスを狙おうと剣を、爪を振るい、

 ――――ギャイン!、と。
 その凶器同士をぶつけ合わせた。
499 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/08(土) 01:01:45.18 ID:M5EiZYAOo
 黒と白のアバターに接近していたマクベスは、近づくスピードよりも速く、遠ざかっていた。
 理由はただ一つ。
 真正面からぶつかっても、勝ち目などないから。

 瞬間。
 マクベスは縦横無尽に、空中を、大通りを挟んで、ビル間を駆けまわる。

芳守「――――そこっ!」

 その意味不明な行動に、僅か、白の騎士が動揺するのを『盗賊』である芳守は見逃さない。
 同時、急転直下。
 マクベスと同期している目線は目まぐるしく変化する。

央輝「ふっ!」

 空から降ってくる一撃。
 エル=アライラーはそれを馬鹿正直に受け止めず、その手に持つ剣で、真後ろに、さながら巴投げのように受け流す。
 マクベスの正面に現れたのはビル。 そのまま行けば直撃して動きを止める。
 その隙を見逃さんと、バビロンの迎撃に手一杯の本体に替わり、二本の凶刃がその瞬間を狙わんと引き金を引く。
 マクベスがビルに着弾する、まさにその時。

繰莉「超・探偵の腕の見せ所、ってね」

 繰莉ちゃんがその手を、指を軽く動かす。
 ビルに激突する予定だったマクベスは、そのまま垂直にビルの壁を走る。
 二本の矢は本来マクベスの居るはずだった位置を穿ち、大破する。

 ぼんやりと、我斎の『何』、という声が聞こえたような気がした。
500 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/08(土) 01:25:13.81 ID:M5EiZYAOo
 マクベスがここまで不可思議な動きをしているその理由。
 正体は、磁場だ。

 ここら一体のビルの全てに磁場を貼り付ける。
 すると、どうだろうか。 さながらピンボールのようにビルとビルの間を駆け抜け、更にマクベスの速さも増してゆく。
 行なっていることは、いつかのコミュ狩りを倒した時と何らかわりはない。
 ただ、立体的に磁場を張り付けている、つまりEX能力で影響を与えている分、魔力の減りが格段に速くなっている。

アヤヤ「が、ガンガン減っていきますよう!?」

央輝「それより先に決着をつけてしまえば問題あるまい!」

 加速し、音よりも速いそれは最早肉眼で追うことは出来ない。
 恐らく今のマクベスは、直線でならバビロンやエル=アライラよりも速い。
 数瞬の間に一撃、また一撃。 速さの乗った攻撃は先程のものとは比較にならない攻撃力を秘め、エル=アライラーの力を多少なりとも削いでゆく。
 そろそろバビロンもこちらがエル=アライラーしか攻撃していないことに気がついたのか攻撃のタイミングを合わせてくれていた。
 剣もこちらの動きを予測し、またエル=アライラーを釘付けにしているバビロンをも狙うが、そのどれもが不発に終わっている。
 残り四本が動けばまだ結果は違っただろうが、その支配を持つ夜子は未だ動かない。

 つまるところ。
 マクベスとバビロンは、エル=アライラーを押していた。

智「これなら……!」

 イケる。
 そう思った時は、まさしく。
 マクベスが丁度エル=アライラーへ一撃を叩き込む瞬間で。
 バビロンも、その渾身の一撃を込めて右腕を振るった瞬間で。

我斎「……万象を灼け、エル=アライラー」

 そして、エル=アライラーもまた。
 その右腕に握られている、十本目の光り輝く剣を、振り下ろした瞬間でもあった。
501 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/08(土) 01:29:21.13 ID:M5EiZYAOo
 すいませんここまでです……もうちょいイケるかと……
 重ねてすいあmせんです……
502 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/08(土) 01:37:30.27 ID:YYVxlzz9o
無理すんな
乙!
503 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/08(土) 13:07:47.46 ID:/qZl8zhjo
504 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/08(土) 16:12:56.87 ID:2AIbiORqo
505 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/12/08(土) 23:01:53.07 ID:yAWF71KB0
506 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/09(日) 10:25:59.69 ID:xPrcrOGBo
これは・・・ゲームにしたい出来ですね
507 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [[sage]]:2012/12/12(水) 23:15:45.58 ID:PxySdSlD0
乙です。
新顔です。初めて見つけましたクオリティーの高いるい智とコミュのクロス!!
EXストーリーも面白かったです!!赤猫さんのクリスマスはさらに期待ww
これからも楽しみにしています、頑張って下さいね!!

るい智に賞味期限はきっと無し!!
508 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/20(木) 00:59:28.76 ID:9Vb0j5XMo
 明日更新のお知らせ。

 私事で今回の冬コミに行けないのが辛い……
 折角真耶さまの色紙が販売されるっていうのに……

 もうすぐ書き始めてから二年ですね……VIPにいた頃は全速力で書いてたのに未だ一ルートも終わってないとかどうしてこうなった。
 長々と見続けて貰っている人には本当申し訳ございません。
 そして新規の方も終わるまで幾月待たせるかわかりませんが、頑張っていきますので何卒よろしくお願いします。
509 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/12/20(木) 19:53:43.64 ID:f42q6mDg0
乙!待ってます!
510 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/21(金) 00:25:43.96 ID:HMzYqhngo
 では出来るところまで始めます
511 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/21(金) 00:57:59.71 ID:HMzYqhngo
我斎「――――フリスの断罪!!」

 それは光だった。
 白銀の軍神の傍を飛ぶ九つのブレード、それの閃光など比較にすらならない。
 それは正しく、太陽と同義。
 其れに近付くありとあらゆる物、者、モノ、全てを消し飛ばす電光。

 その奔流は混凝土を吹き飛ばし、網膜にその存在を焼き付ける。
 空へと高く伸びたそれは際限なく証明を果たしていた。
 即ち、『絶対の覇王此処に在り』と。

 時が止まる。
 正確には、そうなったかのように錯覚した。
 誰しもが、目の前にある現実を遥か遠くに感じていたはずだ。

 これが、エル=アライラー。 その知られざる能力。
 僕がそれを思った時、ようやくまだ生きていることに気がついた。

智「…………生き、て……」

繰莉「……死んだかと思った」

 繰莉ちゃんの切実な声が耳に届いた。
 どうやら、本当に生きているようだ。 喜ぶ暇すらない、すぐさまマクベスの状況確認に入る。
 酷い有様だった。
 機能は八割が失調。 足も片方がもげて居る上にビルに強く衝突してその身を埋まらせていた。

芳守「……流石にもう無理だね。 これ以上やったらまともに一撃を喰らわないでも魔力切れ、私達の負け」

アヤヤ「負け……負け、ってことは……」

 それって、つまり。
 アヤヤがそれを紡ぐより前に、目の前に現れた男に声が潰された。
512 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/21(金) 01:23:03.82 ID:HMzYqhngo
我斎「そうだ、お前達は負けた」

智「っ……我斎…………!」

夜子「五、樹……?」

 我斎五樹、その人が目視できる距離に居た。
 静観していた夜子も、突然の主来襲に瞳を瞬かせる。

我斎「バビロンも、お前のマクベスもフリスの断罪を凌いだ。 その点については流石だ、と褒めておこう」

我斎「だが、本来は反賊であるお前達には過ぎた褒賞だ」

智「だったら、それはいらないから別の事で返して欲しいんだけど」

我斎「無論、くれてやる。 その器に収まりきらない程のものをな」

 言葉にいきり立つ央輝を手で制する。
 幾ら央輝が速いと入ってもアバターの方が速い。 こちらが何かをする素振りを見せたならその瞬間にマクベスは射抜かれる。
 悔しいけれど、ここは座して我斎の言動を見守る他ない。

 僕との会話でそれ以上のことを言うつもりは無いようで、我斎の視点はすぐ傍の、背を向けている夜子へと向けられる。
 こちらからは真正面のため、その表情ははっきりと伺えた。

我斎「夜子、どういうつもりだ」

夜子「…………」

 夜子は答えず。
 しかしその顔は如実に感情を露わにしていた。
 例えるなら、親に怒られる直前の子供が一番近い。
 こちらはその比ではない情感を抱えているのだろうが。
513 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/21(金) 01:42:25.59 ID:HMzYqhngo
我斎「裏切ったか」

夜子「違うっ!」

 弾かれたように夜子はこちらへ背を向けて、我斎へと向き直る。

夜子「私はっ! 五樹を裏切ろうなんて思ってないっ!」

夜子「ただ、私は、私は……五樹が、わからなくなって……ただ、それが知りたくて…………」

 そう、そうだ。
 夜子はただ、我斎が何を考えて戦争を起こすのか知りたかっただけだ。
 目障りだなんだとはいいつつも、瑞和を一目置いていた我斎は彼を見逃すことも出来たはずだ。
 なのにしなかった。 その理由を、ただ夜子は知りたかった。

我斎「――――たったそれだけのことに、俺の手を煩わせたのか」

夜子「…………っ」

智「我斎っ!!」

 ふざけるな。
 ふざけるな――――

智「どうして! どうしてそんなことが言えるの!!」

智「夜子は我斎のことが好きで! 知りたくて、でも聞けなくて、苦しんで! それで僕に相談してきた!!」

智「我斎は夜子の好意を知ってて、それで、どうして、そんな酷いことが言えるの!?」
514 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/21(金) 02:11:45.90 ID:HMzYqhngo
 我斎は顔色一つ変えず、静かに反論を返す。
 僅かに、目を細めて。

我斎「以前にも言った筈だ。 夜子はカエサルの剣であり、それ以上でもそれ以下でもない」

我斎「そして夜子もそれを知り得ている。 ……いや、知り得ていたはずだった」

我斎「お前が」

 鷹の目。
 我斎の冷徹な瞳は僕を貫き、縫い止める。

我斎「和久津、お前がそうしたな。 世話役に近付けたのは、失敗だったか」

 失敗だった?
 何が。 どうしたことが失敗だったって?
 一人の女の子が、望みを抱いて、その望みを叶えたいと思ったことそのものが失敗だったって?

 ああ、駄目だ。
 我斎は、正しい。
 為政者として、王としては限りなく正しい。 大事の前の小事を切り捨てる、紛れもなく正義だ、英雄だ。


 ――――それでも。
 それでも、と。


 綺麗事だ、なんて言われずともわかってる。
 そんな御伽話なんて世界に数えるほどしかないことだって理解してる。
 僕らはみんな呪われている。 みんな僕らに呪われている。
 我斎は、未来に十人でも、百人でも、千人でも、万人でも救うだろう。
 それでも? それでも!

智「やっぱり、駄目だ」

 踏み潰された幾数の願い。 それを小事と切り捨てるなんて、そんなのは許されない。
 ましてや、私事だけれど、自分の大切な人の願いをたったそれだけのこと、なんて吐き捨てるなんて!

智「僕は――――我斎を否定する」

 楔になる、なんて大仰な事は言うつもりはない。
 ただ、認めさせる。
 それだけのこと、なんて吐き捨てられる願いはこの世に存在しないと。 この冷徹な王に、認めさせる。
515 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/21(金) 02:30:19.50 ID:HMzYqhngo
我斎「……ふん」

 一瞬の間を置いて、我斎は鼻を鳴らす。

我斎「お前が認めようと認めまいと、王国に法はあり、秩序はある。 それは夜子も同じだ」

夜子「…………っ」

 夜子は戦慄する。
 が、夜子が殺されることは絶対にないと言い切れる。
 夜子は王国に必要な人間であるから、我斎はみすみすそれを切り捨てる真似などしない。
 故に我斎が夜子に下す処罰が想像もつかない。 きっと夜子もそう思っているからこそ、戦慄したのだろう。

我斎「夜子」

夜子「…………はい」

 我斎が名を呼び。
 そして、告げる。 罪を犯した夜子に下す、罰を。

我斎「方法は問わん。 和久津を殺せ」

夜子「え…………」

智「なっ……!?」

 僕を、殺す?
 そんな、そんなことって。
 そんなことって……っ!

夜子「わく、つ」

 戸惑い。
 振り向いた夜子の目は酷く動揺し、揺らめいていた。
516 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/21(金) 02:44:18.35 ID:HMzYqhngo
我斎「和久津。 今日までの働きに温情として、お前にチャンスをやろう」

 我斎は嘲笑う。
 できるものなら、やってみろと。

我斎「俺を否定するというのなら、この場を生き延びて見せろ」

 それは即ち。
 生きたくば、僕に夜子を殺せと言っているのか。

央輝「和久津! オマエ、このままみすみすとアイツの言う通りになるつもりか!?」

 そんなわけない、そんなのは御免だ。
 僕は生きるし、夜子だって殺さない。

智(マクベス――――!)

 再起動させる。
 ただし、動く動作は見せず、残っている一握りの魔力をその口元へ集結させる。
 『磁力弾』。 マクベスの最強にして究極の技。
 これをエル=アライラーに放てば機能低下は免れない。
 そうしたならエル=アライラーを、ひいては矛を収めるしかなくなるだろう。

我斎「……夜子」

夜子「……いつ、き。 私……私…………っ」

 自惚れるつもりはないけれど、僕も夜子にとって我斎の命令と天秤に掛けられる程の大切な存在になっているようだった。
 この隙に、マクベスの攻撃をエル=アライラーに…………!
517 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/21(金) 02:55:02.27 ID:HMzYqhngo
 瞬間。
 まさに、その瞬間だった。

「――――――――!」

 僕の名前が呼ばれた。
 聞き覚えのある声で、大通りを、先ほど放たれたエル=アライラーの光線を頼りに駆けてくる。
 きっと、既に気がついている。
 我斎も、夜子も。
 瑞和を含む、バビロンコミュの皆だって。

 ああ、ああ。 なんでこんな時に。
 来ては、行けない。
 来てしまっては、駄目だ。

智「――――るいっ! 来ちゃだめっ!!」

 ほんの少し遅れて、こよりもアバターの意識内へと突入してくる。
 るいは持ち前の身体能力で僕の声を聞くことが出来たのか立ち止まったが、それだけだ。
 こよりに気を配るのも、僕の言葉の意味を理解するのも。 あまりにも、遅すぎる。

我斎「――――夜子」

 我斎は言う。
 一つ目の命令が聞けないというのなら。
 二つ目の命令を聞くしかないと。

我斎「やれ」

夜子「…………」

 ちらり、と。
 夜子は我斎と、次に僕の顔を見て。
 そして、申し訳なさそうに目を下げた。
518 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/21(金) 03:07:50.78 ID:HMzYqhngo
 瞬間、立ち止まっていたブレードが――9Rが再起動する。
 そして躊躇すらせず、ここに駆けつけたるいとこよりへと狙いを定めた。

智「あっ――――」

 マクベスを――――
 駄目だ、ここで動かしたら確かにるいとこよりは助けることができる。
 けれど、そうしたらマクベスは魔力切れ、その上エル=アライラーに止めを刺される。

 そうなれば、待つのは死。
 ここにいる、僕、央輝、繰莉ちゃん、アヤヤ、芳守。 全員が死ぬ。

 だからと言って、マクベスを動かさなければるいとこよりが死ぬ。
 間違いなく、骨すら残さずに文字通り消えてなくなる。

智「まっ、待って、そんな」

 迷っているうちにも事態は進む。
 こよりもるいが立ち止まっていることに気付き足を止め、格好の的となり。
 あとは、引き金を下ろすだけとなる。
 その引き金は、命令を下された夜子が握っていて。

夜子「……ごめんなさい」

 許しを乞わない、懺悔の言葉と共に。
 それは、放たれる。

智「――――――――っ!!」

 逃げて、でも。 やめて、でもない。
 僕はただ。 ただただ、辿る未来に絶叫した。
519 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/21(金) 03:20:57.87 ID:HMzYqhngo
 ああ――――知っている。
 僕はこの未来を、知っている。


『遂に、戦争が始まった』

 木霊する。
 耳元で、それが。

『我斎五樹は、四宮夜子やカエサルレギオンを引き連れ新都心を凱旋する』

 いつ聞いた言葉だろう。
 いつ聞いた未来だろう。

『尹央輝、蝉丸繰莉、阿弥谷縁、芳守南都らは、計画を成就させるために我斎五樹に従い、機を見て計画を実行に移す』

 その言葉は、強かった。
 ただこのことを告げるにしては、密度が濃すぎる言葉だった。

『それでもやはり、戦争は食い止められない。それどころか、大切な人の命の危機にまで発展する』

 カチリ、と。
 僕を経由していた回路が外れた。
 瞬間、もう一つの弾倉に僕の魂が込められる。

『……智?』

 大丈夫、わかってる。
 確認しなくとも、今は聞こえてるし、今は理解できる。
 それをわかっているかのように、言葉は続けた。

『……唱えなさい。心の底から。それでも、それでもと、望むのならば――――』

 一つの、魔法の言葉。
 たったこれだけを伝えるための、只管に重く、只管に濃い、これらの言葉に込められた情報の密度。



 さぁ、今こそ。
 今こそ唱えよう。

 全部を救う為に。
 詰みになった将棋盤をひっくり返す為に。

智「来たれ――――」

 それは、メアリー・スー。
 それは、デウス・エクス・マキナ。
 それは、それの名は――――
520 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/21(金) 03:22:07.65 ID:HMzYqhngo





智「来たれ、スティング」




521 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/21(金) 03:22:44.25 ID:HMzYqhngo
 僕は、何ら迷うこともなく。
 ただ守りたいという意志のみを込めて。
 その名を、呼んだ。
522 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/21(金) 03:27:39.03 ID:HMzYqhngo
    第六幕
    Chapter

  54 開幕
  55 王の君臨
  56 決戦
  57 機械仕掛の神
  58 ??? ←次ここ


 やっとかけた……
 ちなみに>>519の『』内の言葉は>>156の■です。
 地の文の方は希望があれば後に伏字無いver出します。

 多分次はクリスマスです。
 赤猫さんはきっと呪い解けたあと。 あれって智の家に住んでるのかなどうなのかな。
 復習しておかなくては。

 では、また。
523 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/21(金) 09:38:17.86 ID:uhS2yK9fo
乙ー
524 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/21(金) 17:58:47.27 ID:/4SDwaYwo

伏字無いver希望します。
525 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/21(金) 20:47:33.71 ID:MkkRUIgSo
乙、伏字ない奴もみたいな。
526 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/24(月) 23:21:42.28 ID:1TMBXJnvo
 遅れて申し訳ないです
 用事で書き貯めも時間ももう少し掛かりそうなんです
 日付を越してしまいますが深夜には書ききります
527 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/24(月) 23:32:48.83 ID:1TMBXJnvo
 書き溜めも→書き溜めも無く、です。 重ねて申し訳……
528 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 00:37:38.68 ID:n6sltEmmo
 ――朝、目が覚めてから窓の外を見ると雪が降っていた。
 今日の日時は十二月二四日、所謂ホワイトクリスマスイブだ。

 ここも結構な都心だし、雪が降ることは案外少ない。年に一度二度あるかないかなんていつものことで、二桁になれば奇跡だろう。
 まぁそれはそれとして、つまり僕がいいたいのはクリスマスイブに雪が降るのは結構な確率だということ。
 そんな日に恋人同士で過ごせたならばそれはもう幸せなことだろう。

智「……今年は、人事じゃないかな?」

 いつもならば僕はただショートケーキでも買ってきて、料理も腕によりをかけて一人でお祝いをするところだけど。
 今年はそうじゃない。ちゃんとした予定がある。
 なんかふわふわする。気分が高揚している証拠だろう。でも、それも仕方が無いと思う。
 だって、今まではずっと一人だったのだから。いや、一人じゃなきゃいけなかったから。
 秘蜜が知られてしまった時はショックだけれど、ノロイも追ってこないし、こうしてイベントデーを楽しんで過ごせるのだから万々歳だ。

智「さて、と――」

 昨日より用意しておいた服に着替える。白を基調にした服装で、対照的に黒タイツを履く。
 無論のことながら、今日は冷えるらしいから手袋を履くのも忘れない。
 素早く身支度を整えて、鏡に写った自分に笑顔を投げかける。

智「うん、今日も女の子女の子♪」

 いつもなら自己嫌悪に陥るけれど今日はそうもならない。
 それ程までに僕は楽しみにしているらしい。


 >>496と、クリスマスイブを過ごすのを。
529 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 00:56:35.43 ID:n6sltEmmo
 →茜子と、クリスマスイブを過ごす。


 ――――――――――――――――――――。

 準備を終えた僕は僕のベッドの前へと仁王立つ。
 小振り山がこんもり一つ。 羽毛布団を頭まで被って姿が見えない彼女は僕の恋人。
 僕が起きて一人出かける準備するのもお構いなしに未だ布団から出ようとしない。

智「ほらもう僕は準備しちゃったよ。 早く起きて起きて」

 もぞもぞ、ゆらりゆらり、と。 その動きが返事。
 苦笑する。 この日、前日まで外に出て遊びにいきたいと言って予定を立てたのはどこの誰だったっけ。
 仕方がない、出てくるまで待つことにしよう。
 僕は枕元の方に腰掛け、頭と思わしき部分を撫でる。

茜子「……今朝もお楽しみですか?」

 ぴょこん、と茜子の顔だけが逆の方向から飛び出した。
 撫でていた手を止めて、降参するようにそっと手を挙げる。

茜子「オトコのコブルマーはやはりお尻がお好きですか。 まぁ茜子さんもどうしてもというのなら吝かではありませんが対価交換としてそちらのお尻も差し出して頂きますがよろしいですな?」

智「そんな対価交換嫌だよ!?」

 確かに興味がないっていったら嘘になるけど!
 その代わりに僕の初めて(後ろ)がなくなるなんて誰も得しないよ!?
530 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 01:13:38.38 ID:n6sltEmmo
茜子「まぁそれは冗談として」

智「冗談じゃなかったら全力で遠慮するよ……」

茜子「やるならいろいろと準備が必要ですから、智さんの誕生日辺りで」

智「いやいやそんな無茶しなくていいから」

 軽くノリノリな辺りが恐ろしい。
 このままだと本当に僕の誕生日までには茜子は準備をしてくるのではないだろうか。
 どことなく、目を光らせておかなきゃ。

茜子「そうですか、残念です。 それにしても……」

 茜子は毛布を羽織ったまま起き上がり。
 僕の姿を一瞥する。

茜子「折角のデートなのにどうしてその姿か」

智「うーん、別にパンツルックでもいいかなと思ったんだけど、やっぱり人多いでしょう?」

 いくら呪いが解けたとは言えども僕の死活問題は継続中。
 これでも一応男なわけで、それなりの格好をしたらやっぱりそれなりに男に見える……筈だと思う。
 ましてや今日はクリスマスイブ、僕は一応学園で有名なお姉様な訳でして。

智「人に見られたらあらゆる意味で不味いと思われるのですまる」

茜子「はぁ」

 溜息を吐かれた。
 それはしょうがない。 茜子は前々からそういう格好をした僕ともデートをしてみたいと言っていたのだ。
 こういう時こそ、したかったに違いないのに。
531 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 01:26:00.53 ID:n6sltEmmo
智「ごめんね、茜子。
  その代わりといっちゃなんだけど、春に時間あれば旅行にでも行こうか。 ほら、結構前に話に出た、猫霊島だっけ? に行ってみるのもいいよね」

 猫霊島とは皆で以前旅行したいと話が出た時に茜子が上げた場所の名前だ。
 いろいろあってその話はお流れになったのだけど、茜子が行ってみたいと言っていたのだから僕も行ってみたいと思う。
 好きな人とそういう気持ちを共有するのは、とても大事なことだと思うから。

茜子「二人きりで、ですか?」

智「? 勿論」

 茜子が何を心配しているのかよくわからないけど。
 そう思ってのことだったので、即座に頷く。
 その返事を聞くと安心したように茜子は僅かに笑みを浮かべた。

茜子「それなら、許します」

智「そっか、ありがとう。 ……っていうか起きてるなら着替えて着替えてっ!?」

 言い終わるより先に、茜子が布団を羽織ったまま覆いかぶさってくる。
 身体を捻り、頭を壁にぶつけないようにしたけれど変な体制になった為に茜子をどかすこともできない。

智「茜子? 出かけないなら出かけないでいいんだけど、それならコート脱ぎたいんだけど……」

茜子「いいえ、出かけないなんていってません。 ただ布団の外は寒いので、智さんに温めてもらおうかと」

 そう言って僕の手をとった茜子はすぐに顔を曇らせた。
 当然だ、僕の手には今手袋が履かさっている。
 呪いが解けて、人の温もり(特に僕の)を感じたい茜子は直接触れ合いたかったのだ。
532 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 01:48:19.73 ID:n6sltEmmo
茜子「脱がします。 よろしいですね」

智「別にいいけど、外に出る時は履いても……」

茜子「ボシュート」

 手慣れた様子で僕の手袋はそこから消えて、ゴミ箱へぽいされる。
 その代わり手のひらには何ものにも代えがたい温もり。
 つい一年前では絶対に触ることの出来なかった禁断の領域。

茜子「智さんの手、温かいです」

智「茜子の手も温かいよ」

 微笑みあって、互いに手をぎゅっ、と握る。
 暫しの沈黙。 けれど、それは全く苦になるわけのない沈黙だ。
 一人ならば孤独を感じるそれは、二人ならば、互いに心の通じ合っているという錯覚まで起こす。
 しかし、それはやっぱり錯覚だ。
 茜子の持っていた〈才能〉でもないと、その人が何を考えているかなんてわからない。
 人の心は酷く虚ろで、瞬間瞬間で形を留めずに変わってゆくのだ。

 でも、それでいい。
 見えることは便利だ。 けれど、それは全てを嘘だと見抜いてしまう。 幻想なんて無く、現実を突き付けられてしまう。
 見えないことは恐ろしい。 けれど、そこにほんの少し混じった希望があらゆる絶望を吹き飛ばしてくれる。
 だから、これでいい。
 錯覚でも、幻想でも。 心が通じあえていると思うその事こそが大事なのだから。
533 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 02:13:21.61 ID:n6sltEmmo
智「……本当に、今日はこのまま家でいるのもいいかも」

茜子「それは承認しかねます」

 僕が言えば、茜子は即答した。

茜子「智さんも楽しみにしてましたでしょうけど、私も楽しみにしてたんですよ」

智「これまた、どうして?」

茜子「私には関係のない世界だったから、です」

 いわれ、ああ、と理解する。
 そういえば、文化祭の時も似たようなことを言っていた。
 人が大勢いる。 楽しそうに笑っている。 とても怖い場所。

 それは特に日本のクリスマスではそうなる。
 言うならば全国規模の祭だ。
 局地的なものではテレビで見たことのある夏と冬の二大祭りがもっとも人が集まるだろうけれど、人が一番外に出る日と言えばこの日と三が日ぐらいのものだろう。
 そんな日は、外をぶらついていたらいつ何処で誰が触れてくるかわかったものじゃない。

茜子「今日とか、元旦とか。 私は家の隅でじっとしていました」

茜子「私が知るのは、ブラウン管の向こう側。 雪が振ったり、恋人と居たりで一喜一憂する世界」

茜子「それは絵付きの小説となんら変わりません。 私たちの存在の方がよっぽど奇なりなのに」

智「茜子……」

 茜子は孤独の呪いだった。
 僕や花鶏なんかもそうだけれど、それでも偽ることで人と接することはできる。
 茜子にはそれが出来なかった。
 だからそれらの世界はあまりにも遠いもので、別世界のものだと思わざるを得なかった。
534 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 02:23:52.04 ID:n6sltEmmo
茜子「だから、とっても楽しみだったのです。 特に、智さんと一緒だから」

 不意に微笑まれ、どきん、と胸が高鳴る。
 きっと、バレている。 呪いが無くとも存外、この少女の感性は鋭いのだ。

智「だったら、早く準備しないとね? 今日はご飯も外で食べるんでしょ?」

茜子「はい。 朝も、昼も、夜も。 そのあとは、おまかせで」

 夜のあと、と言えば、やることは一つしかない。
 伊代がいたなら、『聖なる日を性なる日にでもするつもり!?』とでもいうのだろう。
 別に僕は猿というわけじゃない。 ただ茜子と一緒に居られる、それだけで幸せだ。

 でも、茜子が望むなら。 今日は、全国的な例に習ってもいいのかもしれない。
 聖人の誕生日に罰当たりめっ、と誰かが脳裏で囁く。

 でも、別にいいじゃないか。
 今更だけど、人並みの、普通の人がやっている例に習ったって、いいじゃないか。
 世の理から外れていた僕らだけれど、過去に呪われていた僕らだけれど。
 別に、人並みの幸せを得たっていいでしょう?

智「……だからその為には先ず、着替えないとね」

茜子「では手をつなぎっぱなしでお願いします」

智「それは料理より無茶だよ!?」

茜子「やればできます。 ということでレッツ・トライ!」

 こんな、てんやわんやな朝の時間。
 僕らのクリスマス・イブは、まだ始まったばかりだった。
535 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/12/25(火) 02:27:04.66 ID:n6sltEmmo
 おしまい。
 無印のエピローグみたら茜子さんは智ちんの家にずっと泊まっていたようで。
 FDの茜子さんのシーン見てたら可愛すぎて悶えた。

 では、今回はこれにて。
 来年は一体誰になりますかね。 いや、その前にバレンタインイベントか……
536 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/25(火) 03:56:03.64 ID:In9Ae9Bmo
乙。赤猫さんマジヒロイン
537 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/25(火) 16:31:58.50 ID:eW0MyRIFo
538 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/12/26(水) 14:53:58.10 ID:cBlk4mZ3o

>>528 智ちんの秘蜜・・・ゴクリ。
539 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/12(土) 21:30:29.59 ID:+kB+e6dyo
 生存報告です、念のため
 明日時間があれば、>>156の伏字無しと続き書きます
 クリスマス以降更新できなくて本当に申し訳……
540 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/13(日) 12:04:39.08 ID:Af688jU8o
智ちんちん握って待機
541 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/13(日) 12:46:55.59 ID:4GE+G+oEo
真耶様を眺めながら待機
542 :>>156 :2013/01/13(日) 22:19:23.91 ID:XrEKeLcho
 ――――僕が居た。


 僕は目の前に鎮座する僕をただ見下ろしていた。
 ここはどこだ。君は誰だ。僕はなんでここにいる。
 そんな疑問すらも忘却の彼方へと消えてゆく。
 今まで見たことも着たこともない、高級そうな着物を見にまとっている僕。
 その僕は傍らで見ている僕を一瞥もせずに何かを言っている。

智「遂に、戦争が始まった」

 僕、だ。
 どんなにこれが非現実で有ろうと、それには違いないのに。
 僕はどうしても、僕を僕と思えない。

智「我斎五樹は、四宮夜子やカエサルレギオンを引き連れ新都心を凱旋する」

 だって僕が未来の出来事を知り得る筈が無い。
 こんな理解の出来ないことを言い聞かせるように僕自身に言うはずがない。

智「尹央輝、蝉丸繰莉、阿弥谷縁、芳守南都らは、計画を成就させるために我斎五樹に従い、機を見て計画を実行に移す」

 情報の密度が濃い。
 まるでその一つ一つに力が込めてあるかのように。言葉一つとっても重い。
 だから理解出来ないのか、それともあえてそうしているのか。

智「それでもやはり、戦争は食い止められない。それどころか、大切な人の命の危機にまで発展する」

 ゾクッ、と悪寒が走る。
 これが本当の悪寒というものなのだろうか。
 そしてようやく理解する。
 僕は、僕が辿る未来の結果)を語っていると。

智「……智?」

 僕が、僕を呼ぶ。
 僕?僕って、ナニ?
 果たして目の前にいるのが僕なのか、それならば僕はなんなのか。
 つまり僕は僕であり僕は僕でなく、僕はぼくはボクはボくは僕僕僕僕僕僕僕ボクボクぼくボくぼク――――

智「……唱えなさい。心の底から。それでも、それでもと、望むのならば――――」

 スティング。
 その言葉を聞いて、僕はこの世界から、
543 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/13(日) 22:20:14.95 ID:XrEKeLcho
 誰か>>540にノロイさんを呼んでおいてあげて下さい。
 それでは始めます。
544 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/13(日) 22:43:54.40 ID:EvYNeMI2o
    。 。 
  へ, -'―'-、  
,._へ(::( ・ω・)f二0_____.,:;:'"'""'"'--___                      , 。; 、゚
と,__,.(,,つ;,=0,―' ̄ ̄ ̄ ''':;:.,..,.:;:;;-'''""                    ミ:□>*・∵.←>>540
545 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/13(日) 22:55:27.98 ID:XrEKeLcho
 『魔弾型』のその遠距離攻撃、それは星が振るようなものだと思った。
 エル=アライラー、9Rのその必殺の一閃、それは正しく光だった。

 だと、いうのなら。
 これは一体、なんと形容すればいいのだろう。
 ……そんなこと、考える前から解っていた。


 それは――――『断罪』だ。


 鋼と鋼のぶつかりあう轟音。
 空飛ぶ刃を地面に突き刺さし、縫い付ける。
 まるで、それが同じ空を呼ぶことを許さぬように。

 遅れて、纏った突風が、風切り音が舞う。
 そして周囲一メートル程の塵を吹き飛ばし、その存在を誇示するのだ。

 三メートル近い、余計な装飾の一切ない鋼のブレード。
 触れることすら憚られる、人の身では到底辿りつけないだろう唯我独尊の存在。
 ここら一帯の何もかも、一切が止まったこの世界で、ポツリ、と聞こえる。

夜子「――――ス、」

我斎「スティング、だと…………!?」

 その返事に呼応するように、その剣は地より引きぬかれ、ゆらり、と宙へ浮く。
 万物の穢れも許さない刀身は、まるで次の獲物を定めるようにぐるりと回転する。
546 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/13(日) 23:06:46.77 ID:XrEKeLcho
 誰も、動かない。
 誰も、動けない。
 動いた瞬間に恐らく射抜かれる、そういった気配があった。

繰莉「スティングって……ヤバイなんてレベルじゃないんじゃないの……」

央輝「どっ、どういうことだ。 説明しろ化け猫」

繰莉「説明しろも、何も。 アレは、『伝説』だよ。 コミュネットで最強とも、神とも謳われてる。 そういうモノ」

 繰莉ちゃんと央輝の会話が、随分と遠くに聞こえた。
 現実味がない、と言ったほうが近いかもしれない。
 なにせ僕の意識は、その件のスティング、それそのものに引き寄せられていたのだから。

 酷く、大きな力。 それが僕の頭に流れ込んで来ていて、余計なことを考える余裕など微塵もない。
 ただ、周りの事象を認識する。 それだけで皮膚が蹴破られ、頭蓋が飛び出てしまいそうな程の激痛。
 それでも、まだマシな方だ。
 接続数は、二つ。 僕と、もう一人の誰か。
 その誰かが、制御する力を殆ど引っ張っていてくれていたから。

 狙いを定める。
 切っ先は、白銀の軍神。
 その、心の臓。

 いけない。
 そう思った瞬間には打ち出されていて。
 ほんの少しだけ、狙いを逸らすのが精一杯だった。

547 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/13(日) 23:34:18.23 ID:XrEKeLcho
我斎「――エル=アライラー!」

 エル=アライラーの持つ、その十本目の剣。
 それに最小限度の力を宿らせて、迎え撃つ。

 拮抗も無く。
 火花さえ散らず。
 エル=アライラーのその大剣は霧散する。

 だがそれでも、意味はある。
 ほんの僅かな、些細な抵抗でも、スティングの狙いをまた微量に逸らすことは出来た。
 二つのズレが重なったなら、それで十二分。

 絶対の刃は、無敵の騎士を貫いた。
 しかしそれは致命傷ではなく、それでも戦闘不能には十二分の深手で。
 バビロンとマクベスの二体を相手にしても尚顕在であったエル=アライラーは、力尽き地に伏す。

 必殺の刃が必殺でなかったブレードは、なんの動揺も見せず、再び地面に伏した王へ刃を向け。
 今度こそ、僕は全力でその行動を止める。
 アバターは多数決。 二人しかいないのなら、僕が止めれば攻撃は出来ない。
 もう、いいじゃないか。
 決着はついた。 何も、殺すことはないじゃないか。
 それでも殺すというのなら、それこそ僕が死んでも、それを止めてみせる。

 スティングの硬直は、数瞬にも満たなかっただろう。
 それでも僕には、永遠のように感じられた。
 流れこんでくる無数の力。 僕が下したものでない咎。
 息がつまりそうで、ともすればその膨大な力に飲まれてしまいそうで。
 きっと、そのままだと五秒すら持ちそうになかった。

 その僕の状況が伝わったのかどうか、それはわからないけれど。
 もう一人は僕の意見を尊重してくれて、矛を収めてくれた。
 何故か、向こうで溜息をついている光景がありありと網膜に焼き付けられる。

 あれは――――この人は――――
 思い出せそうだったその一瞬、スティングが彼方へと帰って行き。
 その余波で、その景色は掻き消えてしまった。
548 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/13(日) 23:52:37.55 ID:XrEKeLcho
智「――――はっ」

 ガクン、と力が抜ける。
 気付いたら地面に身体を擦りつけていた。
 頭が、果てしなくズキズキと、その痛みを主張していた。

央輝「――わ、」

夜子「和久津っ!」

 夜子が他の何を見向きもせず、駆け寄ってくる。
 僕の上半身だけを抱え上げて、何度も僕のことを呼ぶ。

智「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

 大丈夫だよ、心配しないで。
 そう声を出したつもりだったのに、漏れるのは荒い息だけだった。

央輝「和久津、どうした!?」

智「はぁっ、はぁっ……いぇ、んふぇ……」

 続いて駆け寄ってきて、僕の顔を覗き込むのは央輝。
 今の僕は、マクベスに接続していない。 だから、伝えなければ。
 これこそ、死んでも。

智「バビロンを……止めて」

 聞いて、首を横に振る。
 意図がわからなかった。 どういう状況になっているのか、それがわからないのがこんなにもどかしいだなんて。
 そしてその補足は央輝の後ろから飛んできた。
549 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/13(日) 23:58:52.69 ID:XrEKeLcho
芳守「大丈夫、バビロンは動きを止めてる。 一応警戒はしてるけど、動く心配はなさそうだよ」

 聞いて、安堵する。
 紅緒と真雪。 きっと二人が止めてくれたのだろう。
 僕のやっていた準備が、功を成した。

 視界の端に、全てが去ってゆく青白いゲートが映る。
 るいとこよりの僕を呼ぶ声が、更に近くに聞こえる。

 これで、終わりだ。
 やっと、終わりだ。
 正直、何が起きたのか、とか。 なんでマクベスの接続が切れて、他のアバター、それも伝説と呼ばれるスティングに接続されたのか、よくわからないけれど。

 僕らの戦争は、ここに終結を告げたのだ。
550 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/01/14(月) 00:02:50.80 ID:iZGDRrz8o
 今回はここまで。
 ようやく、一つ目のルート大詰めです。 ここまで二年、重ねて申し訳……
 あとノロイさん出張乙でした。

 では、また。
551 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/14(月) 00:03:46.71 ID:JULhTaoTo
乙。
552 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/14(月) 00:30:24.41 ID:cF8NaaA3o
553 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/14(月) 01:43:21.87 ID:/Zf6MsGQo
いいスレ見っけた
頑張ってください、乙。
554 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/01/14(月) 09:38:36.61 ID:6Yn0OQhLo
乙!
555 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/02(土) 00:18:29.42 ID:XZlco6RVo
 遅ればせながら。
 明日……今日?更新予定です。
556 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/02(土) 11:46:27.71 ID:GREgj6Mio
お、まじすか。
楽しみにしてます。
557 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/03(日) 01:16:25.22 ID:/3UDzBeao
 僕の意識は重々しく、出来るならば今すぐに倒れ伏してしまいたい。
 けれど戦いが終わったとは言えどもまだやるべきことは残っている。
 夜子に大丈夫だと伝え、なんとか自力で立ち上がる。
 そこには、僕らをその視線で射抜く王がいた。

我斎「貴様、何をした」

 その疑問に行き着くのは、至って当然のこと。
 スティングの襲来と、僕の不調。 偶然の一致で片付けるにはあまりにも難しすぎる。

智「……さぁ、なんだろうね」

 それでも、僕にはこういうしかない。
 僕がスティングと繋がっていた。 それは紛れもない事実で、僕自身がよくわかっている。
 けど、何故そうなったか、というのは逆に僕も聞きたいところだ。
 僕はただ、あの夢で僕の言っていたことをなぞったまでのことなのだから。

我斎「…………」

 見極めるような目で僕を見据える。
 例えばそれに何かしらの物理的力が少しでもあったなら、僕は再び地面に倒れていただろう。
 幸運にもそれにはそんな力がなかったのと、ようやく肉眼で確認したその姿と声が僕の意識を引き留める。

るい「トモッ! 大丈夫!?」

こより「る、るいセンパイ、なんだか今は取り込み中なんじゃ……」

 その姿は、多少の汚れはあるものの怪我はほぼ皆無に等しい。
 よかった、と内心胸を撫で下ろした。
558 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/03(日) 01:34:10.14 ID:/3UDzBeao
 我斎はるいとこよりを一瞥し、再び僕に――いや、その傍の夜子に視線を移す。

我斎「夜子」

 瞬間、夜子はたじろぐ。 そして、僕の顔色を仰いだ。
 命令はこなせなかった。 その上、僕が倒れた時に真っ先に駆け寄ってきた。
 その二つから鑑みるに、夜子は我斎からの怒りを恐れている可能性もある。
 それ以外で僕に都合のいいように判断するなら、倒れた僕のことを心配してくれているとか。 こっちはあったとしてもおまけ程度だろうけれど。

智「大丈夫」

 努めて、作り笑いを見せる。
 僕が大丈夫だという意味もあるし、そして夜子の不安も払ってみせるという意味もある。

智「我斎」

 僕は残っている理性を集結させて、我斎に言葉をぶつける。
 この、大切な女の子の為に。

智「我斎のしようとしたことは、僕にはわからない。 夜子にも、誰にだって、それこそ我斎自身にしかきっとわからない」

智「そして、それはきっと正しい。 我斎の目指す世界には多分必要で、その目指す世界は正しいものなんだと思う」

 けれど。
 僕は言葉をそう接続する。

智「それは限りなく正しいけど――――限りなく間違ってる」

 だって、そうだ。
 例え、どんな崇高な目的があろうとも。 誰かの涙を礎とすることは許されない。
 例え、どれほどの英雄になるのだとしても。 誰かの涙を糧としたことは忘れてはならない。
559 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/03(日) 01:54:39.46 ID:/3UDzBeao
智「だから、僕は、僕らは。 我斎がまた同じことをしようとする限り、間違ったことをしようとする限り、それを否定する」

 ようやく、辿り着いた。
 我斎が何故、こんな強硬手段でギグを潰そうとしたのか。

 我斎は。 僕と瑞和を似ていると言った。
 夜子も。 我斎や僕らを似ていると言った。

 瑞和は可能性だったんだ、きっと。
 カエサルレギオンを、我斎を食い止め、そして今まで犠牲になった人を忘れることを許さないと、そうなった可能性。
 自らのやったことを戒めてくれる、無理矢理にも思い出させてくれる。 そういうものの可能性。
 戒めのない英雄は暴君だ。 暴君はいつしか民によって討たれる。
 だから、我斎は無意識か、意識的か、望まないながらも望んでいた。 自らの楔となる人物を。

 瑞和は、それになり得る……いや、なり得た人物だった。
 我斎はこの戦いの前口上で瑞和の言葉に落胆したような表情を見せた。
 それは失望か、或いは幻滅か。 どちらにしても然程変わらないけれど、もしくはそれに準じた感情を抱いたに違いない。
 可能性の潰えた杭はただの邪魔なものでしかない。
 故に、取り除く必要がある。 落胆の感情と入り混じり、それが我斎を動かした。
 きっと、それだけの話だったのだ。

 そして、このまま放っておいたなら。 十中八九、同じ事が繰り返される。
 ならば、僕が役目を負おう。
 我斎の望んだ、楔になどならない。
 僕がなるのは、鎖だ。
 我斎だけじゃない。 同じように、瑞和の行き過ぎた行為も止める。
 僕は我斎と瑞和を繋ぐ鎖になる。
 
 瑞和は、既に我斎の求めていたものにはなれないけれど。
 それでも、我斎の行動を鑑みる鏡になれる。
 今や彼らの目指す行き先は違えども望む者という点では一緒なのだから。
560 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/03(日) 02:39:15.80 ID:/3UDzBeao
 我斎の鋭い眼光が僕を貫いた。
 それにも、もう慣れた。
 やがて、我斎は僕から視線を外し、背を向ける。

我斎「約束は、約束だ」

 その言葉に込められた感情は、僕にはわからなかった。
 けれど、その言葉には。

我斎「お前は生き残った。 今は見逃してやる。 次は無いと思え」

智「もしかしたら、次もまた光が落ちてくるかもしれないけど?」

我斎「安心しろ。 お前がそれを目にすることはない」

 その言葉には。
 許しが含まれているような気がした。

我斎「行くぞ夜子」

夜子「っ! はっ、はいっ!」

 闇へと、去りゆく背中。
 夜子もそれを追いかけかけて、僕の方を振り返る。

夜子「……ありがとう、和久津」

 ただそれだけを告げて、夜子も深い闇へと掻き消える。




 この後は、僕は手配した通り。
 各自生き延びた大将と、奈々世さん率いる『円卓』が各地で暴走した接続者達を鎮圧。 それから、隠蔽。
 そんな中で僕らもなんてことなく、それが当然のように生き延びて、ホテルで皆と再会を果たした。


 ――――かくして、此度の戦争は真の終わりを迎えた。
561 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/03(日) 02:42:56.01 ID:/3UDzBeao
    第六幕
    Chapter

  54 開幕
  55 王の君臨
  56 決戦
  57 機械仕掛の神
  58 戦争の終焉
  59 ??? ←次ここ


 終わり
 次が夜子√終わり……かな?

 どうでもいいですけど>>49の選択肢はスティング召喚フラグでした。
 フラグ立ってなかったら、ここまできてBADでしたね。

 それでは、また。
562 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/03(日) 02:57:28.25 ID:/3UDzBeao
 ああそうだ忘れてた。
 バレンタインイベントの安価です。

 >>563
 姉さんはなし、できればるいねーさんと茜子さんも除外でよろです。
563 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/03(日) 06:24:56.93 ID:ymV/wG/ro
乙でした。次で夜子ルート終わりか。寂しくなるな。
安価ならこより
564 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/03(日) 11:17:01.18 ID:q3Moiw/qo
565 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/03(日) 11:24:20.31 ID:2zkmJf8do
乙乙。ようやく封印されたセーブデータ1にも陽の目が……!
しかし我斎本編のような事にはならない、ん、だよね……?
566 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/04(月) 17:38:49.75 ID:2xrrOSnXo
くっそ今年も真耶様といちゃいちゃを期待したのにwwww

567 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/06(水) 00:10:21.17 ID:zw/Fqekk0

まだ前スレを読みきれてないけど、支援!
前スレの>>57の予想を遥かに超えててすごいと思う、それにすごくおもしろい!
568 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/07(木) 23:49:10.69 ID:mqsHgeA1o
智「……と、言うわけで。 事後処理はいつも通り『円卓』に、ダメそうならギグに誘致で」

 二人の代表を前に、僕はつい先日あった事件の報告をする。
 その代表にはそれぞれ護衛が(無論、僕にも)ついており、しかし口を挟むことはない。 あくまで、護衛。 『円卓』のは護衛ではなく副議長だから、時たま口を挟むこともあるが。
 そして僕の言う事件は、カエサルレギオンとギグの戦争ではなくもっと小規模な、それこそビギナー同士の小競り合いレベルのもの。
 それの事後処理は、あの時に比べれば容易いものだろう。

奈々世「はい、承りました」

 『円卓』のトップ、奈々世さんが僕の報告に返事を返す。
 九倉さんを失った……いや、葬った『円卓』は奈々世さんをトップ、旗印に据えて新生『円卓』と化した。
 レギオンとギグの戦争の事後、鎮圧の為に武威を見せた『円卓』の地位はジャック後の支持率に比べ、比較的向上した。
 奈々世さんは未だに武力行為を用いることを快く思っていないらしいが、それで上手く回っているからなんともいえないのだろう。
 最も奈々世さん自身が直接命令するようなことはせず、実際にそういったことを命じるのは副議長の、彼女と同じ『フッフール』の接続者であるディヴィットさんが行なっている。
 つまるところ、『円卓』議長の事実上の黙認、といったところだ。
 ……でなければ、この場に彼らが居ることはきっとなかっただろうし、そもそもこの場が設けられることすらもなかっただろう。

瑞和「そういや、智。 またBKが暴れてるって話だけどさ」

智「ああ、うん。 わかった、打診しておくよ」

 もう一つの代表は、ギグ。
 ギグの代表者と『円卓』が轡を並べているのは少し前を思い出すと考えられない光景だ。
 そして打診しておく、という打診の先は、無論のことながらカエサルレギオンだ。
 何故か僕も、その仮初の代表者という立場に再び収まっている。
 つまるところこの会談は、『円卓』、『ギグ』、そして『レギオン』の代表者の会談ということだ。


 あの戦争から早一ヶ月。
 僕の奇策は、成った。
 それも、思いうる最高の形で。
569 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/08(金) 00:13:01.44 ID:xm7jaLimo
 カエサルは……我斎は。 僕の言葉が届いたのか、或いはそれ以外か。 無茶をするような真似は見せなくなった。
 ……いや、する必要がなくなった、のだ。
 ギグと、そして円卓。 その二つの独立を内包したシステムを組んだ方が、犠牲は少ないのだから。

 此度、円卓が見せた武威。 それは先も言ったとおり、新生と同時の地位上昇もあった。
 奈々世さんの人望は厚い。 加えての支持率の追加は、『円卓』の発言力を初期の、までとは言わずとも急激に押し上げるまでの効果はあったのだ。
 今までの円卓の活動は問題なく続けられる。 そこに多少の鎮圧作業も加わった。 それが、新しくなった『円卓』の活動だ。
 ただ、慈善事業という訳にはいかない。 九倉さんの行なっていた麻薬売買(後から聞いた話だが)は『円卓』の活動資金に大きく関わっていた。

 故にそこを補うのは、ギグの売上だ。
 ギグのトップ、瑞和の望むのはあの入院している彼女の治療費だ。
 それさえ確実に確保できれば後はどうでもいい……というわけでもないが、調節はきくらしい。
 瑞和の交渉術は中々のものらしく、今のところ目立った問題は聞かない。
 それなら今暫くはきっと、問題無いだろう。 ギグの収入は大きく減るものでも無ければ大きく増えるものでもないだろうから。
 そしてギグはそこらで暴れるアバターが少なくなるという抑止力にもなっているわけだから、つまり『円卓』にとってもウィンウィンな関係になる。

 けれど、その仕組に文句を抱くものは必ず出てくる。
 また、それ以外にも『吹っ切れた』アバター、例えばBKやコミュ狩りが出てくることもあるだろう。
 それを制圧するのが、カエサルレギオンの役割だ。
 そもそも、カエサルレギオンの目的はそこにある。
 王国に秩序を齎すこと。 それが最終的な目標なのだから。

 だから、カエサルレギオンの考えは最初に戻るのだ。
 ギグと『円卓』。 そのシステムを利用した方が、その実現はグッと早くなる。


 それぞれに得があり、そしてそれぞれを支える。 その関係が成立した。
 だからこそ、この三つの会談、三党合意は成立したのだ。
570 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/08(金) 00:31:02.21 ID:xm7jaLimo
瑞和「それじゃ、今日はここまでってことでいいのか?」

奈々世「こちらに議題は……大丈夫です」

智「こっちもないよ。 じゃあ、何か問題があれば『ホットライン』に」

 顔を見合わせて、頷く。
 次回はまた、一週間後。 まだ始まって一ヶ月も経っていないのだ、そのぐらいのスパンが丁度いい。
 次第に長くなっていって……最終的にはやはり一ヶ月から一ヶ月半に一度が理想的だ。
 何か問題があれば、『ホットライン』で連絡が来ることになっているし。

智「ふぅ」

 ぼふっ、と椅子に深く腰掛ける。
 潰れて放置されたにしては勿体無いぐらいの質だ。 家に持って帰りたいレベル。
 未だに、僕の家のソファーのバネは壊れているし。

瑞和「お疲れみたいだな」

カゴメ「凡骨とは違って板挟みだからな」

瑞和「今凡骨に俺の名前をルビ振らなかったか!?」

 瑞和と、護衛のカゴメさん。
 瑞和と一対一で向き合った時はあの時は変わったと思ったけれど、こういうふとした光景を見るとあの時の面影も残っているのだなと思う。
 二人の漫才に苦笑しつつ出口を見遣ると、奈々世さん達が丁度出て行くところだった。
 僕の視線に気付き、瑞和も小難しそうな顔をして話題を合わせる。

瑞和「……『円卓』は忙しいらしいからな。 前だって五分しか話す時間取らせてもらえなかったし」

央輝「あの副議長、必要以上にあの綺麗事主義を庇ってるみたいだからな」

智「まぁ、過保護すぎでいいんじゃない。 奈々世さんだと自分に身の危険が迫ってもヘタしたら抵抗しなさそうだし」

 馬鹿にしているわけではなく、褒め言葉として。
571 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/08(金) 00:56:24.99 ID:xm7jaLimo
央輝「兎角、駄弁るのはまた、だ。 今日のうちは早めに解散したほうがいい」

カゴメ「仕切るな木端。 いつから貴様は立案できる立場になった?」

瑞和「だからお前はそこらに喧嘩売る癖をやめろ! お願いだから!」

カゴメ「暁人、いいことを教えて置いてやろう」

瑞和「いいことな気がしないから全力で遠慮する!」

智「あはは……とりあえず出ようか。 もしかしたら襲撃される可能性もあるわけだし」

 瞬間、カゴメさんに射抜かれる。
 物理的な意味ではなく、視線的な意味で。
 しかしそれは数秒にも満たず、僕以外の誰が気付く間もなく逸らされた。
 そして早足に、出口へと足を向ける。
 突然の行動に唖然とする僕らを尻目に、カゴメさんは一言置いていく。

カゴメ「……何をしてる、暁人。 置いていくぞ」

暁人「お、おう。 じゃあな、二人とも。 また今度」

 それすらも待たずに出て行くカゴメさんを慌てて瑞和は追い、場から立ち去る。
 風の様にいなくなった二人に僕と央輝は顔を見合わせて、僅か首を傾げた。

智「なんだったんだろう」

央輝「アタシが知るか。 それよりアタシらも行くぞ。 一応アタシはオマエの護衛なんだからな、オマエが行かない限り勝手には行けん」

智「あっ、うん。 ごめんね央輝、僕らも行こうか」

央輝「ああ」

 そうして、僕らもこの場から立ち去り。
 第四回になる合同会談は終わりを迎えた。
572 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/08(金) 01:03:05.49 ID:xm7jaLimo
 眠気がヤバイので今回はここまででお願いします……

 まだ終わらなかった……orz
 副題的には、戦争後の話その一って所ですね
 多分、次で本当に終わる……終わる……かなぁ……


 >>563
 バレンタインこより把握です。
 恐らく次の更新はこれになるかと。

 >>565
 ノーコメントで。

 >>566
 今年もイチャイチャ出来る方法はまだありますよ。
 つまり今年のクリスマス安価を取ればいいんです!

 >>567
 ご新規さんどうもです。
 前スレ>>57見なおして落ち込んだ……
 一ヶ月一年とか冗談じゃないじゃん……現実レベルじゃん……


 そういえばまだソースは見てないけれどラノベ化?らしいですね
 つまりこの自給自足で満たしていた物語が必要なくなる……!?
573 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/08(金) 02:12:23.02 ID:QoRkUC/vo


>>572
クリスマスイベントまでに完結してないことを祈って良いのかwwwwww
そしてこっちもラノベ化してほしいもんだwwww質と量なら十分だろ
574 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/08(金) 10:06:41.57 ID:A1P0u18zo
ttp://moedigi.com/goods/2013/01/ruitomo-sin-novel/
ノベル化ってこれのことか。
乙でした
575 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/08(金) 12:10:51.03 ID:2e9BmK0y0

コミュとるいとものクロス作品を読めるのはここだけ!
576 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/10(日) 00:51:30.22 ID:ZxjwDpH+o
投下おつでしたー
終わるって聞くとそれだけでも寂しくなるな……
577 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/15(金) 14:15:25.91 ID:QIhoDe90o
 なんで14日に限って……
 今夜は時間ないので更新できません、明日(時間があれば)書きます……
578 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/15(金) 20:05:31.69 ID:Fa7wXU7K0
舞ってる
579 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/20(水) 23:50:16.98 ID:usvLGyHfo
 やっと……終わった……
 しかし死亡確実……どうしたものか……

 ああいやすいませんこっちの話ですはい。
 明日書きます。 絶対。
580 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/21(木) 00:09:50.79 ID:SxJU3w+Yo
単位・・・
581 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/22(金) 00:29:23.38 ID:1QIZDGUQo
 たんい……? なにそれおいしいの……?

 んでは、ぼちぼちと。
582 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/22(金) 00:49:12.45 ID:1QIZDGUQo
 時は二月某日。
 バレンタイン……ではなく、それより数日後。
 あの悪夢のようなバレンタインは未だに忘れられない。


 その日の朝、僕は温かい布団の中で起床した。
 目覚ましの時刻が正しれば、時刻は午前六時五十五分。 支度を始めようと、布団をかけ払う。

智「……寒っ!」

 無論のことながら、僕は裸だった。
 昨日もこよりと、その、アレを何回もしたのだ。
 五回までは覚えてる。 昨日は四回まで覚えていた。
 その夜の営みも、毎日がエブリデイだ。 こよりの勉強は底知れない。

智「さむさむ……下着下着……」

 掛け布団を纏い、押入れの中を探る。
 近頃は僕のでないものも半分ぐらい増えてきた。 こよりは見えないところまでおしゃれのしたい年頃らしく、様々な物がある。 今や七割が彼女のもの。
 対して僕のは至ってシンプルな、普通のものだ。
 ……男が女モノを履く時点で普通ではないけれど、それは隅に寄せておこう。
 そんなわけで、手前に並んでいるのはこよりのものばかりなわけで。
 奥を探って、ようやく引き出したそれを見て、僕は苦笑いせずにはいられなかった。

智「これは……」

 黒いランジェリー。
 こよりが『オトナの魅力を〜!』などと言って着て襲いかかってきた時のものだった。
 なんというか、目の毒だ。 結局ブルマを上から履くのだから最悪下着はどんなものでもいいのだけれど、これだけは避けたいという一品だった。
 奥に入ってたことを鑑みるに、それはこよりも同じらしい。
 あれはあれで新鮮だったけど、こよりは着るというより着られてる感じだったから。
583 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/22(金) 01:01:47.49 ID:1QIZDGUQo
智「おっといけないいけない、早くしないと」

 ふと我に返り、再び下着を掘り出す作業に移る。
 とりあえずパンツ……パンティーを履いて、その上からブルマを履く。
 ブラジャーだけは絶対に着ない。 着たら大事なものを失うような気がするから。
 鳥肌を擦りながら制服を着る。
 僕は今日も問題ない、一人の美少女だった。

智「ふぅ」

 鏡を見て、憂う。
 いつものことながら自己嫌悪。
 最近は自分の中の男を感じてるから尚更だ。

智「さてと、それじゃあごはんつくろうかな」

 エプロンを制服の上から着て、台所へと向かう。
 昨日の晩に作り置いておいたおにぎり二つは見事に消えていた。
 『ごちそうさまです(はぁと)』とメモが書き置きされている。
 それを見て僕は、笑みが零れた。

智「さてと」

 みにみに元気っ子からの力を分けていただいたところで。
 僕はぐっ、と背伸びした。

智「それじゃあ、今日も張り切っていこう!」

 そうして僕は一日の元気の源である、朝食を作りにかかったのだった。
584 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/22(金) 01:20:05.19 ID:1QIZDGUQo
 その後のことは、大体予想通り。
 バレンタインだから、宮和に『智』チョコと愛情(哀情)を押し付けられたり。
 先輩後輩同級生問わず、チョコを貰ったり。
 男子からはチラチラと様子を窺われたりして。
 どっと、精神がすり減った状態だった。

 そこに、アレがきたのだ。

 油断してたわけじゃない。 ただ、やるわけないと思っていただけだ。
 最近は僕の教育の成果もあって大分上手になってきてて、週に一回二回は任せられるから平気だと思い込んでいたのだ。
 その結果が。

智「ただい…………っ!?」

 部屋に入った瞬間に漂う、甘ったるい臭い。
 こう、嗅いだだけで胸焼けしそうな、焼いたバナナの臭いを十倍ぐらい濃縮したような……
 靴は、あった。 僕は抜き足差し足でそっと台所を覗きこむ。

こより「ふんふんふふーんー♪」

 そこには楽しそうなこよりと、なんだかよくわからない物体が鎮座していた。
 それはどんぶりの中にこんもりと積もっていて、茶の色をしている。
 それは多分、チョコレートだろう。
 何をいれたのかわからないけれど、多分チョコレートに違いないだろう。
 でも、どんぶりに入れる意味がない。 普通に皿でもいいような気が……とその時、作業中に落としたのだろう、床にあった何かのパッケージが目に入った。
 『絶品! 生らーめん!』。

585 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/22(金) 01:38:26.55 ID:1QIZDGUQo
智「チョコマシマシ!?」

こより「ほぇ?」

 僕が思わず張り上げた声にこよりは溶かしたチョコレートをそのとんぶりにかけながらこちらを向いた。
 そして笑顔。

こより「おかえりなさい、ともセンパイ! ええと、お風呂にします、ご飯にします? それとも……」

智「それはいいから、溢れてるよ!?」

こより「え、あっ、あわわわわわ!」

 どんぶりからこぼれ落ちるチョコレート。
 それを見て、こよりは手元にあるチョコレート入りのボウルを弾き上げて――――

 閑話休題。

 そしてソファーに座った僕の前には、その得体のしれない物体Xが鎮座しているわけだった。

こより「さぁどうぞともセンパイ! ハッピー・バレンタインです!」

智「あ、やっぱりそれなんだ」

 過去数作から推測するに、今回も『主婦たるもの、余り物を上手に使おう』なのだろう。
 それが何故かバレンタインというイベントと、不可思議な融合を果たしてしまっただけで。
 その『だけ』が明らかにおかしいのだけど……

智「……先に聞いておくけど、これはなに?」

こより「ともセンパイはモテまくりですから、普通のものは飽きてると思いまして、私のアレンジを一捻り加えた次第であります!」

こより「ついでに夕食を作ることで節約にも貢献してるんですよう!」

智「……そう」

 こよりの思考に理屈は求めまい。
 ただ僕は、これを食べるだけでいいんだから。
 今までのだってちょっと胸焼けする程度だったから、大丈夫、問題ない問題ない…………

智「ンぶふっ!!」

こより「と、ともセンパ〜イッ!?」

 その日の意識は、それで途切れた。
586 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/22(金) 02:01:04.27 ID:1QIZDGUQo
 と、そんなことがあったわけで。
 多分、一生忘れられないバレンタインになったと思う。
 恋人から貰ったチョコレートで生死の境をさまようなんて、そうそうできる体験じゃないから。
 がちゃんと鍵を開けて、そして中に入るなり一言。

智「ただいまー」

 しん、とほんの一瞬だけ静まり返り。
 ぱたぱたとそのツーテールを揺らし、新妻よろしく最愛の情人が僕を出迎える。

こより「おかえりなさいですよう、ア・ナ・タ!」

智「今日は一体何を見てたの?」

こより「二組の新婚夫婦が入り交じる昼ドラです! 刺したり刺されたり、突いたり突かれたりのどろどろでぶるぶるな内容でした!」

 ということは今日は昼授業だったのだろうか。
 それはいいとして、僕には気になることがあった。

智「ところでこより、その頬についてるのなに?」

こより「ほぇ?」

 言うやいなや、こよりは指でそれを拭って一瞬見つめた後、パクンと口に咥える。
 瞬間、なんとなく嫌な予感が脳裏を過ぎった。
 いや、でも、まさか。 つい数日前にやったばかりだし、そんなことあるわけない。
 なんとなく甘い匂いがするような気がしなくもないけど、そんなことあるわけない。
 あるわけ……あるわけ…………

智「……こより」

こより「はいっ! なんでしょうかともセンパイ!」

智「今日の夜ご飯、なに?」

 一瞬、きょとんとした表情を見せて。
 パッ、と花が開くようにはにかんだ。

こより「えへへ、秘密なのであります!」

 ……あるわけ、ないよね?
587 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/22(金) 02:26:13.94 ID:1QIZDGUQo
こより「ともセンパイ、今日の私は一味違うのです! 前回の反省を活かし、私は超鳴滝こよりに進化したのですよ!」

智「わぁっ、それはすごいねこより、僕の心は不安に戦々恐々としてるよ!」

こより「まぁまぁ、とにかく、食べてみて下さい! 超私の、リベンジマッチを!」

 じゃじゃーん!とテーブルの上に置かれたのはガスコンロ。
 おや、と思うと次に持ってきたのはチョコレートの海に沈んだ幾つもの竹串だった。
 数秒、それをじっと見つめて、思い当たるのは一つ。

智「……これって」

こより「はいっ! チョコフォンデュです!」

 予想外も予想外だったけれど、プラスの方向に予想外だった。
 これならハズレはほぼ確実に無い。
 立派にバレンタインと言っても納得のできるものだ。

こより「それではともセンパイ、改めまして……いえ、数日遅れてしまいましたけど。 ハッピー・バレンタインです!」

智「……うん、それじゃあ。 いただきます」

こより「はいっ!」

 数日遅れで、しかも一度失敗したけれど。
 これはこれで、こよりらしい。
 いや。 僕ららしい、バレンタインだったと言えるんじゃないだろうか。

こより「ちなみに、食べ終わったあとのデザートもありますからね!」

智「デザート?」

 そう言って、再びはにかむこより。
 僕はそれに少しばかり首を傾げ、しかし気にせず笑い返してからこより特製のチョコフォンデュに手を伸ばす。



 その後、デザートと言う名のチョコレートプレイをした僕らの話はまた別の機会にでも。
 兎にも角にも、きっと良い意味でも悪い意味でも。 忘れられないバレンタインだった。
588 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/22(金) 02:32:00.26 ID:1QIZDGUQo
 おわーり。
 最初からあっち方面の展開しか思い浮かばなくて困った。
 そして出来がいまいちな気が……うーん…………

 ……それは、それとしておいて。
 次は前にも言ったとおり、夜子√最終回……の予定です。
 時間があれば明日か明後日にでも来るかと思います。
 それでは、また。
589 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/22(金) 02:33:04.66 ID:zgPjnYbQo
590 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/22(金) 02:36:59.51 ID:nDN7KAZJo
591 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/22(金) 10:25:38.32 ID:Ox6rt7UY0
592 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/22(金) 16:38:01.62 ID:h1RktbwVo
593 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/22(金) 21:25:16.37 ID:9Kpe9Jueo
乙楽しみにしてる
594 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/23(土) 01:02:52.85 ID:Rq82OUhvo
 夜の街を央輝と行く。
 あの戦争の爪痕は僅かに残っているが、それでも立派に街は活動していた。
 破壊された建物や、死人が少なかったのもその要因だろう。
 しかしながらそれは規模に比べて、の話。
 沢山の人が死んだ。
 理不尽に、無意味に。
 もう、無関係の人々はそれを忘れて、それぞれの日常へと帰っている。

智「……やるせないね」

央輝「……言っても、仕方がないだろう。 オマエも、アタシ達もできることは全部やった。 それで間に合わなかったものは、仕方がない」

 わかっている。
 精一杯、両手を伸ばして。 それで救えた命と、救えなかった命。
 僕らにできることは限られている。 それは実に少なくて、何もかもを救うことなんかできやしない。
 でも、だからって。

智「忘れちゃ、いけないんだよ」

 少なくとも僕らは、いや、僕は。
 あの日に行われた光景を、忘れちゃいけない。
 あの日に奪われた命を、忘れちゃいけない。
 仕方がなかった、なんて言葉で切り捨てちゃいけない。

央輝「……オマエがそういうなら止めはしない。 勧めはしないがな」

智「そうだね、じゃあその前に、仲間に頼ろうかな」

 るいでも、花鶏でも、こよりでも、伊予でも、茜子でも。
 アヤヤでも、芳守でも、繰莉ちゃんでも。
 勿論、央輝も。

智「その時は、頼らせてくれるんだよね?」

央輝「……知るか」

 そっけないそれこそが、何よりの返事だった。
595 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/23(土) 01:23:16.81 ID:Rq82OUhvo
 こほん、と一つ咳払い。
 照れ隠しからの、あからさまな話題転換。

央輝「……それより、今日はどうするんだ? 帰るのか、それとも、」

「和久津」

 央輝の言葉を遮るように、僕の名前が呼ばれる。
 すぐ近くの自販機、その影から現れたのは見慣れた姿。

智「夜子。 迎えに来てくれたの?」

夜子「ん」

 短い一言。
 その返事に、僕は小さい微笑みを浮かべた。

智「……と、そういうわけで。 明日は好きなもの作るよ、何がいい?」

央輝「……そうだな。 なんでもいいが、あれだ。 あの野菜にソースをつけて食べる奴。 あれがいい」

智「バーニャカウダのこと? うん、わかった。 じゃあそれで……?」

 ぐいぐいと裾が引っ張られる。
 そちらを見ると、夜子が僕を見上げていた。

夜子「今日、私もそれがいい」

智「えっ……う、うん、別に簡単だからいいけど……」

夜子「やった」

 ちらりと央輝を見て、得意げな顔をする。
 央輝はそれを見て僅かに眉を動かすが、なんとかスルーして僕へ視線を移した。

央輝「……じゃあな和久津。 くれぐれも気をつけろよ」

夜子「私がいるから問題ない。 わかったらさっさとあっちいけ」

 しっしっと邪魔者でも扱う様に言い捨てる夜子。
 僕はそれに対して苛立ちを隠さない央輝を苦笑いで留めることしか出来なかった。
596 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/23(土) 01:45:38.03 ID:Rq82OUhvo
 夜子の央輝への風当たりが悪くなったのは最近のことだ。
 だって戦争直前にお風呂一緒に入っていても問題はなかったし、事後報告で顔を合わせた時もそんなに険悪な雰囲気はなかった。
 友達ではないけれど知り合い、それ以上でもそれ以下でもないという状態で悪くなるわけはないと思っていたのだけれど……

智「何かあったの?」

夜子「? なにが?」

智「……ううん、なんでもない」

 藪をつついて蛇が出るか、はたまた木霊するだけか。
 そのどちらかには違いないので、深追いはしない。
 きっと何れ教えてくれる日が来るだろうし、それは多分遠くない未来だと思うから。

智「それじゃ、行こうか」

夜子「うん」

 そして僕らは僕らの家へと帰る。
 僕らの家とは言っても、使うのは週に二、三回だけ。
 場合によっては翌日学校のある日もあるから、ゆっくり寛ぐことも中々に難しいけれど。

 それでも、僕があの日に勝ち取った大事な場所だ。
 僕と夜子が家族になるために得た、二人の居場所だ。

 あの後、僕は夜子に家族になりたいと言った。
 僕は夜子のことが好きで、けれどそれは絶対に叶うことはないから。
 それでも、傍にいたい、見守ってあげたいと考えた結果がそれだった。
 我斎からは『好きにするがいい』と、驚くほどあっさりと許可が出た。 反対はされずとも、何かしら言われると思っただけに拍子抜けしたのも事実だ。
597 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/23(土) 02:00:51.97 ID:Rq82OUhvo
 一番の難関は、きっと夜子自身だったと思う。
 好きにしろ、ということは夜子の思ったとおりに、ということだったから。
 それに、その言葉を聞いた時、夜子は明らかに戸惑っていたのもある。
 愛想を尽かされた、とか。 そんなことを思ったのかもしれない。 それなら意地でも、『自分は我斎の傍に居る!』と言うだろう。 実際その通りだったし。
 我斎が夜子に愛想を尽かす、だなんて。そんなこと、もうあるわけないのに。

智「……ねぇ、夜子ちゃん」

夜子「……なに」

 もはや否定しないその敬称。
 しかしそれでも恥ずかしいのか、少しばかり顔を赤らめている。

智「手、繋ごうか」

夜子「…………」

 返事は沈黙と、うっすら動く手。
 僕の手の甲に触れてはびくっと小さく震えては離れる。
 その手を僕は無理矢理掴んだ。

智「それじゃ、早く帰ろうか!」

夜子「あっ、ちょっ、ちょっとまっ……っ!」

 恐らく、僕らが結ばれることは一生ないだろう。
 少なくとも、この呪いが僕の身体に刻まれている限りは絶対に。

 それでも――――
 そう、それでも。

 ようやく掴むことの出来た、この手だけは決して離さない。
 僕はそう胸に秘めて、慌てる彼女の手を引っ張るのだった――――
598 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/23(土) 02:07:44.00 ID:Rq82OUhvo
    第六幕
    Chapter

  54 開幕
  55 王の君臨
  56 決戦
  57 機械仕掛の神
  58 戦争の終焉
  59 未来へと続くおとぎ話
  60 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

  ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
  ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
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  ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
  ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■



■■「この先は、やめておきなさい」

■■「きっと、後悔するわ」


 僕は――――

 >>599
 1 続ける
 2 やめる
599 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/23(土) 02:16:35.36 ID:pqpT/qD1o
600 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/23(土) 02:17:50.18 ID:8XyINyHBo
1
601 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/23(土) 02:41:05.32 ID:Rq82OUhvo
 珍しく、雨が降っていた。
 央輝はいない。 何やら急用が入ったらしく、夕食を食べ終えた後すぐに家を出て行った。
 僕は一人で洗った皿を拭きながら、雨音を遠くに聞いていた。

智「なんだか嫌な雨」

 夕方から急に降ってきた、ゲリラ豪雨には及ばずともそれなりに強い雨音がかれこれ三時間以上も続いている。
 テレビをつけると、どこかで大雨洪水警報が発令されていた。

智「これは朝まであがらないかな」

 朝までにあがってたらそれでいいのだけれど、朝も降っていたら気が滅入る。
 どっちだろうなぁと思っていたら不意にチャイムが鳴り響いた。

智「はぁーい」

 任甫さんだろうか、この時間に訪ねてくる人と言えば彼ぐらいしか心当たりがない。
 大した用事でないなら帰ってもらおう。
 でなければ僕の命に関わる。
 そう思いながら開いた玄関先には予想外の人物がいた。
602 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/23(土) 02:49:53.14 ID:Rq82OUhvo
智「……夜子?」

 姿を見た時、思わず呆けてしまった。
 いつもなら来る時に連絡をくれるし、大抵夕方だから選択肢から消していた。 

智「どうしたのこんな時間に……って」

 二の句を継ごうとして、それが止まった。
 夜子は、びしょ濡れだった。
 この雨の中、どうやら傘も差さずにここに来たらしい。

智「びしょ濡れじゃない!? ほら、早く入って! お風呂準備するから!」

 ぐい、とその手を掴む。
 それは冷たく冷えきっていて、温度が残っているのかさえも怪しい。
 これはお風呂が沸くまで待っていられない。 今すぐシャワーを浴びさせて温めるのが先決だ。
 そう思って夜子の手を引っ張るが、彼女は微動だにせず。

智「……夜、子?」

夜子「…………」

 ぼそぼそと。
 いつもの声より数段小さな声で、何かを告げている。
603 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/23(土) 02:58:15.01 ID:Rq82OUhvo
夜子「…………きが…………で………………」

 ふと、気がついた。
 夜子の帽子と服に一線、雨で濡れただけでない何かがついていた。
 注意深く見ないと気が付かないぐらいの、その小さな跡。

夜子「…………きが…………こで………………」

 その色は、赤。
 リンゴの色。 いちごの色。 ポストの色。
 そして、それは何より。
 血の色。

夜子「…………つきが…………じこで………………」

 夜子の言葉が、その音量も合わさって嫌に遠くに聞こえる。
 けれど、僕は既に気がついている。
 夜子の不可解な様子と、そのついてる赤い線から、考えられることは一つ。

 考えたくない。
 知りたくない。
 だって知ってしまったら、それが真実になる。
 未来へと繋がったこのおとぎ話が、幻想だったと突き付けられてしまう。

 僕は耳を塞ぐ。
 それでも、止めることなど出来ない。
 夜子の声は、僕の指の隙間から耳へと入り込み、それが僕が選んだ行く末だと告げる。
604 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/23(土) 03:02:22.12 ID:Rq82OUhvo




夜子「――――いつきが、じこで…………わたしをかばって………………っ!」



 テレビの速報を読み上げる声と。
 嫌な雨の雨音が。
 僕の耳に、只管に木霊していた。





 どこまでも。





 どこまでも。





 どこまでも――――――――







605 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/23(土) 03:18:48.84 ID:Rq82OUhvo
 声――――が。
 脳裏に、誰かの声が響く。

『これで、いいの?』

 嫌だ。
 よくない。
 だって、違う。
 こんな未来は、望んでいない。
 こんな絶望的な未来なんて、僕は決して望んでいない!

智「こんな、運命……こんな、結末…………」

 だったら、とるべき道は一つだけだ。
 望まない。
 この運命を、結末を、そのすべてを根本から。


智「――――やり直しを要求するッ!!!!」


 否定する――――
 これでは駄目だ。
 
 こんな道は棄却せよ。
 さあ、もう一度。


 ――――よりよき結末を探しにいこう。
606 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/23(土) 03:19:26.61 ID:Rq82OUhvo





『――――だから、後悔するって言ったのに』




607 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/23(土) 03:23:54.36 ID:Rq82OUhvo
    第六幕
    Chapter

  54 開幕
  55 王の君臨
  56 決戦
  57 機械仕掛の神
  58 戦争の終焉
  59 未来へと続くおとぎ話
  60 残響する雨音

  99 その後の話(EXTRA→チャプター選択より)


 夜子√おわり。
 それではとりあえずおやすみなさい。
 今後のことは後日。
608 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/23(土) 03:41:05.96 ID:Rq82OUhvo
 ああ忘れてた。
 本スレでも言ったけど智ちんと真耶さま誕生日おめでとー
609 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/23(土) 07:47:03.57 ID:uPQX4lyso
お、お、おぉぉ!?
と、とりあえず長くの連載ひとまずお疲れ様です。この後Exと央輝ルートがあって……楽しみだぁ。
610 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/23(土) 10:06:23.12 ID:8XyINyHBo
夜子√お疲れ様でした。
後、誕生日おめでとう
611 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/23(土) 10:08:02.06 ID:SevJttyG0
おおおお!?鳥肌立ったった……
乙、そして誕生日おめでとう
612 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/26(火) 01:27:20.91 ID:7zk6zWfco
 ※おしらせ※
 一つのルートが終了したため
 EXTRA2 『とある未来の』
 が解放されました。

 並びに
 Chapter 『00』
 が解放されました。

 並びに
 ルート 『■■■■』
 が解放されました。

 並びに
 EXTRA 『クリア済ルートの追記シーン』
 が解放されました。
613 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/26(火) 01:36:31.06 ID:7zk6zWfco
 missみすミス

 EXTRA2 『とある未来の小話』
 です。 真に申し訳ございません。

 Chapterとルート解放はまぁ本当は全部のルート後の予定でしたけど思った以上に時間がかかったのでもう解放しました。
 上記の文で大体予想つくかもですが突っ込まないでくださいませ。
 『クリア済みルートの追記シーン』はChapter 00前提なのでそれを見てからの方を勧めます。
 どちらもNew Gameの際に選択肢を出しますのでご了承を。

 さて、次書くものですが。
 前にEXTRA4っていいましたけど、念のため選択肢出します。
 なので専ブラじゃない方もいるようなのでageさせて頂きます。
 本日の夜十二時ぐらいに安価を出す予定ですので自ら選びたい人はふるってご参加を……
 いやそんなに競争率高いわけじゃないですけど。

 それでは、また夜に。
614 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/26(火) 02:44:28.18 ID:uWjP53hDo
了解しました。また夜に
615 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/26(火) 10:37:33.44 ID:vTKM+sMQ0
待ってますー、楽しみ
616 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/26(火) 12:04:30.02 ID:tyh3BzWko

楽しみ
617 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/26(火) 23:51:45.95 ID:7zk6zWfco
 た、楽しみって言われても今日書くとは誰も…………
 さ、触りだけは書くのかもしれないなぁ〜

 んでは選択肢行きませう。
618 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/26(火) 23:55:13.24 ID:7zk6zWfco
 Save1
 惠ルート チャプター36

 Save2
 はじめから

 Save3
 夜子ルート Clear
 (New Game)

 Chapter Select

 EXTRA

 どれを選びますか?
 >>619
619 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/27(水) 00:02:15.31 ID:S2uyJ68no
EXTRA
620 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/27(水) 00:03:34.26 ID:803XO3YJo
 →EXTRA


 EXTRA1
 『真雪と智のアイドルユニット』 Clear

 EXTRA2
 『とある未来の小話』

 EXTRA3
 ???

 EXTRA4
 『和久津姉弟のとある一日』

 EXTRA5
 『真耶「智が相手してくれないから安価で未来を導く」』

 どれを選びますか?
 >>621
621 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/27(水) 00:05:09.51 ID:S2uyJ68no
EXTRA1
622 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/27(水) 00:07:08.43 ID:803XO3YJo
■■「えっ」
623 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/27(水) 00:10:02.06 ID:803XO3YJo
 本当によろしいですか?
 (本気で前スレからコピペしますよ?の意)

 >>623
 1 はい
 2 いいえ
624 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/27(水) 00:10:54.32 ID:803XO3YJo
 ぎゃあみすった
 動揺しすぎワロス

 >>625
 1 はい
 2 いいえ
625 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/27(水) 00:11:15.36 ID:DhtsYeHWo
2
626 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/27(水) 00:12:48.43 ID:803XO3YJo
 →EXTRA


 EXTRA1
 『真雪と智のアイドルユニット』 Clear

 EXTRA2
 『とある未来の小話』

 EXTRA3
 ???

 EXTRA4
 『和久津姉弟のとある一日』

 EXTRA5
 『真耶「智が相手してくれないから安価で未来を導く」』

 どれを選びますか?
 >>627
627 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/27(水) 00:13:36.74 ID:BmffKayeo
EXTRA5
628 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/27(水) 00:16:55.12 ID:803XO3YJo
 ※注意※
 ※行動安価多いです※
 ※安価によってはキャラブレイクする恐れがあります※
 ※やり直し要求回数は三回までです※
629 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/27(水) 00:20:42.09 ID:S2uyJ68no
新しくなる訳じゃないのね
630 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/27(水) 00:28:25.13 ID:/ksvBYX7o
うお逃した・・・
631 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/27(水) 00:30:56.06 ID:803XO3YJo
 ――――ザザ――――ザザザザ――――ザ―――――

 ザザザ――――ザザ―――――――

 ―――――――――ザザザザザザザザザザザザザザザザザザ―――――――――



「ふぅ」

 彼女はまた、溜息を吐いた。
 探せども探せども、求める未来は見つからない。
 そのことに嘆いているのだろうか。

「――退屈ね」

 誰に言うでもなく、呟く。
 彼女の言う『智』という人には未だ出会ったことはない。
 一体、どこで何をしているのだろうか。

「ねぇ、『観劇者』さん」

 不意に、話しかけられて驚く。
 基本的にここに来た時は何の気なしにただ未来を『観』せられるか、或いは独り言を聞いているのみだ。

「退屈しのぎに、一つ遊びでも設けようと思うのだけれど」

「貴方に、道標をして貰いたいの」

 それは、酷く彼女らしくない提案。
 いつもなら、こちらなんていてもいないようなもので、干渉なんてしないというのに。
632 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/27(水) 00:37:40.01 ID:803XO3YJo
「……言ったでしょう? 私は、酷く退屈なの」

「たまには、こういうものもいいじゃない」

「どうせ、望む未来など見つかりっこないのだから」

 そんな彼女の瞳は諦めに満ちている。
 嫌だな、と思った。
 『智』のことをこんなにも想っている彼女が、誰かのことをこんなにも大事にしている彼女がそんな顔をするのは。

 ――だから、やってやろう。

 望む未来がどんなものなのか、わからないけれど。
 幾度も幾度も挑戦して、掴んで見せよう。

「ふぅ。 やる気になっても、どうせ打ち砕かれるだけよ」

「まぁ、退屈しのぎにはなるのだから――――やってごらんなさい」

「う、ふ、ふ、ふ、ふ」

 彼女は、嗤う。
 相も変らず、壊れた笑みで。

 視界が、揺らぐ。
 足元が、覚束無くなる。
 そして視界が反転して――――



 ――――ザザ――――ザザザザ――――ザ―――――

 ザザザ――――ザザ―――――――

 ―――――――――ザザザザザザザザザザザザザザザザザザ―――――――――
633 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/27(水) 00:44:30.10 ID:803XO3YJo
 ■一日目■


 ちゅん、ちゅん、ちゅん。
 小鳥の囀りが、僕の寝起きの耳をくすぐる。

智「っ、ぁ――――」

 温かい布団の中で、ぐっと伸びる。
 そしてまた眠りたくなる衝動を抑え、布団から這いずり出た。

智「今日も、いい天気」

 カーテンを開けて、朝日を浴びる。
 ベランダの手すりに掴まっていた雀たちが一斉に飛び立っていった。

 今日は学校がある。
 けれど、何か用事があったきがする。
 

 ↓1
634 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/27(水) 00:46:37.81 ID:S2uyJ68no
宮と何時かしたデートの約束があった
635 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/27(水) 00:54:16.98 ID:803XO3YJo
智「なんだったかな……」

 頭を捻らせて、ぴん、と来た。
 そうだ、確か宮和とデートの約束をしたんだった。

 呪われたこの身ではどうしても深い関係を持つ、ということは憚られる。
 故に今まではずっと断ってきたのだけれど……
 一度くらいならいいかな、と思ったのだ。
 もう彼女との付き合いも一年を超えている。 お世話になった回数は両手では数え切れない。
 だからそのお返しというわけでもないけれど、たまには付き合ってあげようと考えたのだ。

智「……まぁ放課後だけだしね」

 所謂放課後デートいう奴。
 なんとなく、もにょる。
 僕は男だけど女で、女の子同士でデートは普通で、でも宮和は僕に好意(友達以上恋人未満)を抱いていて、そして僕は…………。

智「複雑怪奇なこの関係……」

 でも、一日二日一緒にいるだけでどうにかなるわけでもあるまい。
 兎角、僕は学校へと出かけるのだった。
636 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/27(水) 01:03:44.49 ID:803XO3YJo
 何か予定がある時、そしてその予定について考えている時。
 案外、時間の進みというのは早いものだ。
 今朝学校についたと思ったら、もう放課後。
 時間が早いとなんとなく、損した気分になる。

宮和「和久津さま」

智「宮」

 帰りのHRも終わり、すぐに宮和は僕の傍に寄ってきた。

宮和「和久津さま、宮は今日という日を、心待ちにしておりました」

宮和「和久津さまが私に付き合ってくださると聞いた日から、幾度も、幾度もその日の予定を考えるくらいに」

智「例えば、どんな?」

宮和「そうですね、オーソドックスに、駅前を歩きまわる、だとか」

宮和「互いに似合いそうな服を選んで試着する、なんてのも考えました」

智「へ、へぇ、それは……」

宮和「和久津さまならきっと、どんな服も見事に着こなすのではないかと思っております」

宮和「例えば――――」

智「説明しなくていいから! それで、どこにいくのかとか決めたの?」

宮和「それではですね……」

 ↓1
637 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/27(水) 01:07:50.86 ID:BmffKayeo
映画館
638 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/27(水) 01:13:39.16 ID:803XO3YJo
宮和「映画館、などは如何でしょう」

智「映画?」

 僕の問いかけに、宮和は笑顔で頷いた。
 宮和と映画。 なんとなくあわないような、あっているような気がしないでもない。

智「何か見たい映画とかあるの?」

宮和「実は、女子高生の恋愛物の映画が上映されているとの噂を聞いたもので」

智「へぇ、オーソドックスな恋愛モノだね。 宮もそういうのに興味あるんだ?」

宮和「はい。 私と和久津さまの関係をお伝えしたところ、ネットでの友人が是非にと」

 前言撤回。
 なんだか嫌な予感しかしない。

宮和「では和久津さま、行きましょう」

智「……うん、そうだね」

 僕の嫌な予感が当たらないことを祈りつつ。
 僕らは学校を出るのだった。
639 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/27(水) 01:25:11.14 ID:803XO3YJo
宮和「大変、面白かったですね」

 上映後、宮和が軽く生き生きとしていた。
 確かに、女子高生の恋愛物ではあった。
 問題はそれがR指定が付いている上に、百合ん百合んしていたということだ。
 それを見てげっそりしていた僕を仰ぎ、宮和は少しばかり肩を落としつつ。

宮和「……どうやら、和久津さまには合わなかった様ですね」

智「……いや、そんなことはなかったんだけど」

 面白くはあったのだ。
 心理描写もしっかりしていたし、見どころも沢山あった。
 ただ、設定が僕には受け入れがたかっただけの話であって。

智「今度は、もう少しゆるーい奴だと嬉しいな」

宮和「そうですね。 宮も大変楽しみましたが、少しばかり胸焼けをしてしまいました」

 心理描写だけではなく、そういうシーンの描写も濃かったからなぁ。
 空を見上げると、既に夕焼けに染まっていた。
 放課後に映画一つみたら流石にそんな時間になるか。

智「宮、時間大丈夫?」

宮和「はい、あと少しだけなら」

智「それじゃあ、適当に歩こうか。 近くにおいしいプディングのお店もあるんだ」

 そうして、宮和と歩いてその店へと向かう途中。
 見知った姿を見た。


 ↓1
 (複数可)
640 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/27(水) 01:32:41.06 ID:Aux/H1+Oo
イヨ子と花鶏
641 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/27(水) 01:46:11.43 ID:803XO3YJo
伊予「あら? あなた……」

花鶏「? どうしたの、って智と……どちらかしら」

 僕が気がつくと同時に、二人もこちらに気がついた。
 なんとなく、珍しい組み合わせだ。

宮和「和久津さま? お知り合いですか?」

 そういえば同盟の皆と宮和が会うのは初めてだったな、と思う。
 ついでの機会だし、紹介してしまおう。

智「ああ、うん。 二人とも、こっちは僕のクラスメイトの冬篠宮和」

宮和「宮でございます。 以後、お見知り置きを」

 ちょん、とスカートの裾を軽く持ち上げ、敬々しく頭を垂れる。
 その様になった姿を見て、花鶏が慄く。

花鶏「っ……ほ、本物のお嬢……っ!? わたしのアイデンティティが……ッ!」

伊予「そんなぐらいでショック受けないの。 わたしの名前は……ええと…………」

智「白鞘伊予。 それでこっちのショック受けてるのが、花城花鶏。 ちょっとした知り合いなんだ」

伊予「そう。 こちらこそ、よろしくね」

 そういう伊予に、宮和は微笑みを返す。
 がしかし、すぐにそれははた、と何かを思い出したかように変化を見せた。
642 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/27(水) 02:00:11.62 ID:BmffKayeo
伊代の名前は間違えないであげて…
643 :伊予→伊代。 まさか名前を間違えるなんて……orz [saga]:2013/02/27(水) 02:01:16.87 ID:803XO3YJo
智「……宮? どうしたの?」

宮和「いえ……和久津さまは宮の知らない所で他の女性の方々とお会いになって居られたのかと思いまして」

宮和「学園最強の和久津さまストーカーを自負しております宮にも、知らないことはあったのかと……」

花鶏「ふっ……それじゃあ、もっと重要な情報を教えてあげましょうか」

伊代「あ、復活した」

 地面に伏していた花鶏は宮和の言葉を聞いてすくっと立ち上がる。
 そしてその長い髪の毛をファサッ、とかき揚げ、そして告げる。

花鶏「何を隠そう、智ちゃんは私の愛人、ラマンなのよ」

智「隠すもなにもそんな事実ないじゃん!?」

宮和「まぁ。 禁断の愛、ですね。 ぽっ」

智「宮和もなんで頬を赤らめるの!?」

 先ほどの映画でも似たようなシーンがあったような気がする。
 さながら、僕は二人の思われ人に取り合われている主人公の女の子なのだろうか。
 男の子だけど。
644 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/27(水) 02:16:28.59 ID:803XO3YJo
花鶏「どうしてもっていうなら、貴女もわたしの愛人にしてあげるわよ? 中々におっぱいも大きいみたいだし」

 じゅるり、と花鶏が宮和の胸を見て舌なめずりをする。
 それに対し僕が止めに入る前に、宮和は身を一歩退き、しかし動じずに返答する。

宮和「申し訳ございません、宮は和久津さま一筋ですので」

花鶏「ふっ……智に目をつけるなんて、貴女見どころがあるわ」

宮和「ええ。 出会った時からの一目惚れです」

花鶏「わたしもよ。 あのなだらかな胸。 すらっとした腰。 撫で回したいわ」

宮和「そのお気持ち、お察し致します。 けれど、和久津さまの魅力はそれだけではく――――」

花鶏「……へぇ、それは盲点だったわ。 それじゃあこういうのとか――――」

宮和「それは、とても……そそられますわ」

 何だか不穏な話してるぅ――っ!!
 なんとなく、出会ってはイケナイ二人が出会ったような気がする。
 危険だ。 主に僕の貞操がっ!

智「伊代っ! 逃げよう!」

伊代「えっ、逃げるってどこに」

智「どこでもいいから、速くっ!」

 ばっ、と伊代の手を掴んで走りだす。
 そうして、僕らの鬼ごっこが始まったのだった。
645 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/27(水) 02:18:22.20 ID:803XO3YJo
 花城花鶏 の好感度が少し上がりました。
 白鞘伊代 の好感度が少し上がりました。
 冬篠宮和 の好感度が上がりました。

 一日目を終了します。
646 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/27(水) 02:20:24.11 ID:803XO3YJo
 こんな感じで進みます。
 とりあえず今日は夜中なので一日だけ。
 多分明日も来ます。 明日は十時ぐらいに来れるかと。


 >>642
 ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……
 正直間違えた本人がめっちゃショック受けてます……
 死にたい……
647 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/27(水) 02:45:42.43 ID:803XO3YJo
 一応寝る前にシステムだけ置いておきますね。


 ・一日間の間で安価は三回程度。
 ・一回目の安価で一日の予定が決まります。
 ・好感度の上昇は三段階です。
 ・好感度が一定を超えるとエンディングを迎えます。
 ・好感度が一定同士が巡りあうと……?


 他にシステム面で疑問点があれば質問してくれたら答えます。
 っていうか住人がそんな多いわけでもないこのスレで安価とかぶっちゃけ自殺行為に近いような……いや言っても仕方がないか……始まっちゃったし……
648 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/27(水) 08:13:35.97 ID:F5W2oB0t0
おつおつー
今後の展開期待
649 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/27(水) 08:40:04.24 ID:BmffKayeo
650 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/27(水) 11:33:54.33 ID:+3OZA1iAO
これは面白い。
651 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/27(水) 14:40:17.64 ID:/ksvBYX7o

できるだけ参加したいな
652 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/27(水) 14:50:46.11 ID:tgOT8e4Eo

良かった・・・ >>640でれんふーさんって書かなくて良かった・・・!
653 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/27(水) 22:03:48.96 ID:803XO3YJo
 ■二日目■


 シャッ、とカーテンを開ける。
 朝日が差し込み、僕は思わず手でそれを覆った。

智「今日もいい天気ー」

 晴れだと、なんとなく嬉しい気分になる。
 そうだ、たまには布団を干そうかな。 干すだけで結構良い感じになるし。
 そういえばよく言うお日様の香りって、ダニとかの死骸のにおいらしい。
 ……そんな豆知識は丸めてぽいだ。

 そんなこんなで布団を干した僕は服を着こむ。
 今日はどんな予定があったっけ?


 ↓1
654 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/27(水) 22:10:55.95 ID:S2uyJ68no
ピンクポッチーズで買い物
655 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/27(水) 22:25:13.12 ID:803XO3YJo
 ぴんぽーん、とチャイムが鳴る。
 準備も出来ていたから、そのまま外に出た。

るい「おっはよートモ! 今日は絶好のお出かけ日和だね!」

智「おはようるい。 花鶏と、茜子も」

 玄関を開けると、花鶏とるい、茜子が居た。
 どうやら僕を迎えに来てくれたらしい。

花鶏「本当は……ふぁ…………本当は、待ち合わせ場所にいる予定だったんだけどね。 この馬鹿がどうしてもっていうから」

るい「だって、花鶏のご飯不味いんだもん」

智「僕の家にたかりに来たってこと!?」

茜子「茜子さんに食べ物を与えると徳ポイントが上昇します。 さあ勇者トモよ、この私に供物を与えればよいのだー」

智「えぇー……」

 僕にも、大して余裕があるわけじゃないんだけど……
 まぁ花鶏の家はセロリ丼を始めとした僕でも嫌なものがあるっていうし。
 たまには、仕方がないか。

智「でも、こよりや伊代も待ってるだろうから少しだけだよ?」

るい「わーいトモちん大好きー!」

 手早く朝食を済ませた後。
 皆で待ち合わせ場所へ向かった。
656 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/27(水) 22:37:21.45 ID:803XO3YJo
 待ち合わせにはこよりと伊代が既に待っていた。
 僕らの姿を捉えたこよりがインラインスケートでぴょんぴょん跳ねる。

こより「センパイたち〜! こっちですよ〜!」

伊代「随分遅かったじゃない。 何かあったの?」

茜子「話せば短いことながら……」

伊代「短いなら話しなさいよ!?」

智「皆が急に家に押しかけてきてね。 朝ごはんを一緒に食べたんだよ」

こより「えぇ〜っ! るいセンパイたちだけずるいですよう! 鳴滝もともセンパイのおいしーご飯、食べたかったっすよう!」

智「ごめんね、また今度機会があれば」

 平謝りしつつ、また約束を。
 きっとその時はまた皆で僕の家にでも集まるのだろうか。
 いや花鶏の家を間借りして、パーティをするのもいいかもしれない。

智「伊代もごめんね、遅れちゃって」

伊代「時間は少し過ぎてるって言ってもまだまだ時間はあるし、問題ないわよ」

 そういってもらえるとありがたい。
 そうして僕らピンク・ポッチーズ(仮)が全員集まり、本日のミッションを開始する。
657 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/27(水) 22:49:21.02 ID:803XO3YJo
るい「そんでそんで、どこいくの? 食事処?」

伊代「あなたねぇ、ちゃんと話聞いてなかったの? あれよ。 今度皆で旅行に行くって、その時の準備でしょ?」

花鶏「ぶっちゃけて言うと水着ね。 島だから、結構な水辺があるみたいだし」

智「水着!? 何それ聞いてない!」

茜子「おや? ボク娘の危険度がレッドゾーンに入りましたよ?」

こより「どうかしたんですか、ともセンパイ?」

 いやいやいや。
 いやいやいやいやいやいやいや!
 水着は危険が危ない! ダメ、絶対!

智「ぼ、僕実は海に入ったら死んじゃう病なんだ!」

花鶏「ふぅん。 茅場、どうなの?」

茜子「はい、嘘です」

 ぎゃあ僕史上最大のピンチ!
 どうする? どうする!?


 ↓1
658 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/27(水) 23:02:07.80 ID:S2uyJ68no
呪いのことをほのめかしている
659 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/27(水) 23:16:58.72 ID:803XO3YJo
智「ええっと、ええっと……」

るい「もしかしてトモちん、胸のこと? 前に小さいからって私と一緒にお風呂も入りたがらなかったもんね」

花鶏「なんだ、そんなことなら問題ないわ。 智ちゃんのその小さなお胸も、ありのままを可愛がってあげるから」

智「そういう問題じゃないの――っ!!」

 だって、だって!
 色々、危ないどころじゃない!
 そもそも学園の水泳の授業だってなんとかごまかしてるレベルなのに見られたり触られたりしたら一発アウトだから!
 もうこうなったら、言うしか無い。
 けど直接的には駄目だ。 僕の呪いはその正体がバレるだけで踏む。

智「あ、アレが、アレが関係あるの! だから、絶対ダメ!」

こより「アレ?」

伊代「アレって……アレのこと?」

茜子「なるほど、謎は全て解けました。 被害者はボク娘、凶器はその服の下にしまってあるのです!」

るい「? アカネ、何いってんの?」

 遠回しすぎるよ茜子!
 もっと直接的に言ってよ!
660 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/27(水) 23:27:15.83 ID:803XO3YJo
花鶏「服の下、ね」

 じろり、と花鶏が僕の身体を上から下まで見下ろす。
 けれどそこにいつもの獲物を狙うような視線はなかった。

花鶏「別に、裸を見られちゃいけない、って訳じゃないのよね。 あの時に皆見てるわけだし」

伊代「そうね。 彼女みたいに触っちゃいけないってわけでも無さそうだし……本当、あなたのアレ、検討もつかないわよね」

 ヒントは、そこら中に転がっている。
 僕の呪いの答えは、その全てのヒントを繋ぐ鎖のようなものだ。

 なるべく人を避ける。
 露出をなるべくしない。
 なんらかの行動の縛りがあるようには見えない。
 けれどなんらかの制限がそこにある。
 僕の呪いを知ったなら、その全てに合点が行くだろう。
 しかし、言うことはできない。
 当然だ。
 それがバレる時、僕の命は無くなるのだから。

 僕の呪いについて考察をする二人に、こよりは慌てて割り込む。

こより「ま、まぁまぁセンパイ方。 無理に探る必要はないのでは?」

るい「んだんだ。 トモだって、別に隠したくて隠してるわけじゃないんだから。 そうでしょ?」

智「……うん。 ごめんね」

茜子「…………」

 茜子が呆れた様に息を吐いた。
661 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/27(水) 23:37:02.87 ID:803XO3YJo
茜子「まぁ、それを言ってしまえばレズ女のもわからないわけですし。 ここは一先ず矛を収めましょう」

花鶏「……そうね。 今日の趣旨からもズレてしまうものね。 仕方がないわ、今回は智の特例を認めることにしましょう」

 続いて、花鶏も溜息を吐いた。
 少し険悪な雰囲気になったことに対しての溜息だろうか。
 少しばかり申し訳なく思った直後、その思いを吹き飛ばす発言をした。

花鶏「残念だわ。 智ちゃんにはマイクロビキニを着せてあげようと思ってたのに」

智「それは呪い関係なくても嫌だよ!?」

花鶏「仕方がないからおっぱいで我慢するわ」

伊代「……着ないわよ?」

花鶏「智ちゃんやこよりちゃんみたいな小さいのに着せるのもいいけど、やっぱり大きいほうがいいわよね」

伊代「だから着ないって……いや、ちょっと、あなた。 こっち来ないでよ、ねぇみんなも何か言って……」

 伊代が助けを求めるように視線を僕らの方へと向ける。
 しかし、それに答える者はおらず。

こより「ごめんなさい伊代センパイ、止めたら次は鳴滝に来そうなので……」

伊代「う、裏切り者――ッ!!」

 伊代は大魔王に飲み込まれる運びになった。
 合掌。
662 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/27(水) 23:39:26.86 ID:803XO3YJo
 夜、不意に誰かと話したくなった。
 それは昼間の空気を僅かながら険悪にしてしまった原因を負っていたからかもしれない。
 携帯を開き、僕は彼女の連絡先を開いた――――


 ↓1
663 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/27(水) 23:50:20.54 ID:BmffKayeo
花鶏
664 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/27(水) 23:57:08.37 ID:803XO3YJo
 コール音は数回響いた。
 まるで躊躇うようなその間、僕は布団の干してある手すりに肘をかけて、空を見上げていた。
 それから、また数秒。
 たっぷり十数秒の時間をかけて、花鶏は電話に出た。

花鶏『何よ?』

智「こんばんは、花鶏」

花鶏『…………』

 返ってくるのは沈黙。
 きっと、僕の真意を測りかねているのだと思う。

智「今日は、月が綺麗だよ」

花鶏『……ええ、見事な半月ね』

 田松市の空は、薄暗い。
 夏ともなれば尚更だ。
 そんな中でも、星の見えない夜空でも。 ただ月だけは月光を放ち輝いていた。
665 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/28(木) 00:06:16.47 ID:OlbVBHEjo
智「…………」

花鶏『…………』

 二人して黙する。
 その静寂は、決して嫌なものではない。
 けれど今日に限っては、心地良いものでもなかった。

花鶏『……それだけが用事ってわけじゃ、ないんでしょ』

智「うん……そうだね」

 どこから言おうか、と考えを巡らせた。
 絡め手は僕の得意分野だ。 煙に巻くのも苦手じゃない。
 けど、違う。
 今は言うべきは、そういう小手先の誤魔化しじゃない。

智「今日の、その……僕の呪いのことなんだけど」

花鶏『…………』

 返ってくるのはまたもや沈黙。
 なんとなく電話の向こうの顔は続けろ、と言っているような気がして、僕はただ続ける。

智「ごめん。 僕の呪いは、絶対に、誰にも言うことはできない。 ただ、それだけしか言えないんだ」

智「本当に、ごめんなさい」

 頭を下げる。
 見えているとは思えないけれど、そうでもしないと僕の気が晴れないのだ。
 ただのエゴに過ぎないけれど。
666 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/28(木) 00:12:53.92 ID:OlbVBHEjo
花鶏『……わかってるわ』

智「うん……知ってる」

 花鶏は、賢い。
 知識とかそういう面もそうだけど、頭が回る、の意味の賢いだ。
 だから、わかっている。
 僕が、言いたくても言えないことがあるということも。
 自分と同じように。

花鶏『……ふ、ふふ』

智「……花鶏?」

花鶏『ふふふふふっ、ふふふふふふふふっ』

 花鶏は、笑っていた。
 電話の向こうで、とても可笑しげに。

るい『花鶏ー、何笑ってんのさ、きしょいよ?』

花鶏『っさいわね皆元! あんた明日の朝昼夜全部白菜のみにしてやるわよっ!』

智「ぷっ」

 聞こえたそのやり取りに、思わず噴出す。
 それに気がついたのか、花鶏は咳払いを一つ。
667 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/28(木) 00:21:53.89 ID:OlbVBHEjo
花鶏『……ねぇ、智』

智「ん……なあに?」

花鶏『智はわたしの呪い……何かわかってる?』

智「……ううん。 検討もつかない。 接触系じゃなさそうだし、言葉も縛られるようには見えないし」

花鶏『そう。 それでいいわ』

花鶏『もしわかってたら、無理矢理にでも智の呪いを聞き出すところだったから』

智「それは……恐ろしいね」

花鶏『ええ。 だから智。 これでいいのよ、別に。 わたしも智の呪いを知らない。 智もわたしの呪いを知らない。 それで、いいのよ』

 そういう花鶏の口調は、少し寂しげに聞こえて。
 だから僕は思わず口走ってしまった。

智「でも、僕は花鶏のことをもっと知りたいな」

 唖然。
 きっと目の前にいたら、珍しい表情をした花鶏が拝めたことだろう。

花鶏『ばっ、ちょっ、何言って……ああもう、もういいわ。 切るわよ、智』

智「うん。 また明日ね、花鶏」

花鶏『……ええ。 また明日』

 小さな、未来の約束を交わし。
 僕らは通話を終えた。

 僕はもう一度空を見上げる。
 半月は、雲に隠れて見えなくなってしまったけど。
 例え見なくなったとしても、確かにそこに輝いているのだ。
668 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/28(木) 00:22:23.81 ID:OlbVBHEjo
 皆元るい の好感度が上がりました。
 花城花鶏 の好感度が少し上がりました。
 鳴滝こより の好感度が少し上がりました。
 茅場茜子 の好感度が少し上がりました。

 二日目を終了します。


 三日目に進みますか?
 (一人でも入れば進みます)
669 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/28(木) 00:23:57.70 ID:OlbVBHEjo
 あ、ええと今やるかどうかの意味です。 すいません言葉足らずでした。
670 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/28(木) 00:27:14.88 ID:K7QF7fp6o
進みたいな
671 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/28(木) 00:30:06.66 ID:OlbVBHEjo
 了承です。
 小休止しますので45分頃にまた書き始めます。
672 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/28(木) 00:51:05.57 ID:OlbVBHEjo
 ■三日目■


智「今日も張り切って行こう!」

 拳を天井へ掲げ、気合を入れる。
 たまにはこういうことをしないと、本気で自分が男であることを見失いそうになる。

智「たまには一日中男らしく振舞いたいなぁ」

 勿論そんなことをしたらまず呪いを踏む。
 そして隣人、任甫さんに見つかってきっと監禁ルートだ。
 怖い。

智「それじゃ、今日も元気に出かけることにしましょー、おー」

 自分で返事を呼び、そして自分が返事をする。
 これぞ、最強の自作自演!
 ……はぁ。

智「いってきまーす」

 兎角、僕は家をでるのだった。


 ↓1
673 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/28(木) 00:54:04.93 ID:K7QF7fp6o
溜まり場に行ってみる
674 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/28(木) 00:55:09.80 ID:uT2Gb9iX0
央輝に会いにいく、でいいのかな?
675 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/28(木) 01:05:12.29 ID:OlbVBHEjo
智「一番乗りっ!」

 高架下、落書きだらけの日陰の場所。
 風が少しばかり強いけれど、そんなのは今の季節には丁度いい風だ。

智「んー」

 ぐぐぐーっと背筋を伸ばす。
 今日は皆来るだろうか。
 いや、きっと来るに違いない。

智「最初に誰が来るかなー」

 今日も楽しい一日が始まる。
 そんな予感がしていた。


 ↓1
 (キャラクター、複数不可)
676 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/28(木) 01:06:19.32 ID:uT2Gb9iX0
茜子
677 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/28(木) 01:18:49.38 ID:OlbVBHEjo
茜子「おや、怪奇・ボク女! だけですか」

智「おはよう茜子。 るいと花鶏は?」

茜子「茜子さんは昨夜猫共の集会に出席したため、貴奴らのことなど存ぜずのですにゃー」

 茜子は猫を抱いたまま登場した。
 高架下の日陰は猫にとっても過ごしやすい気候らしく、茜子の手を離れてもゴロゴロと地面に転がっている。

茜子「それで、怪奇・ボク女! は」

智「一々人を妖怪みたいに呼ばないでもらえるかな」

茜子「何を言うか。 怪奇・ボク女! は平安時代から越後地方に伝わる由緒正しい妖怪なのですぞ」

智「それでそのボク女は一体何をするの?」

茜子「ボクっ娘を皆殺しにします」

智「怖いよ!?」

 あからさまな作り話でも怖すぎるオチだった。
678 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/28(木) 01:34:53.31 ID:OlbVBHEjo
智「でも実際、日本の妖怪とかって怖いのが多いよね」

茜子「そうですね。 妖怪枕返しとか一見くだらないですけど地方によっては枕を返されただけで死ぬという話もあるぐらいですし」

智「なんていうか、超常現象的なのが多いね。 僕らの呪いと才能がいつからあったのかは知らないけど、もしかしたらそういう都市伝説になったこともあるのかも?」

茜子「実際、約三名ほど都市伝説じゃないですか」

 茜子は呆れたように首を振る。
 るいは最強のフードファイターとして。
 花鶏は気に入った女の子を攫うバイクの王子様。
 あと茜子の言うのは吸血鬼と呼ばれている央輝のことだろう。

茜子「次回は、『黒夜叉六鬼衆、都市伝説になる。』の一本立てでお送りします」

智「だから何処の忍者さ」

こより「あっ、ともセンパイー! 茜子センパイー!」

 こより(妖怪とか都市伝説とか好き)が僕らの姿を見つけてインラインスケートで駆けてくる。

こより「ふぃー、ようやく休めますようー。 屋上の方に行ったら誰もいなんですもん、少しばかり焦ったっすよもう」

智「お疲れ様」

 なでりなでりとするとこよりは気持ちよさそうにきゅーん、と鳴いた。
679 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/28(木) 01:49:23.69 ID:OlbVBHEjo
智「なんとなく、この三人って珍しいかも?」

こより「そうですねー、なんとなくるいセンパイとかいつも居るような気もしますし」

茜子「ここで茜子さんの豆知識。 枝豆は未成熟な大豆なのです」

こより「リアル豆知識だあ! そういうのなら鳴滝も知ってますよ! 納豆と豆腐は字を間違えて今の字になったんですよう!」

智「あ、それガセだよ」

こより「なんと!?」

茜子「くくくくく、ちみっこではまだまだ茜子さんに遠く及ばぬのです」

 ちみっこって言っても茜子も結構小さい部類に入ると思うのだけど。
 そう思った途端、茜子にぎろりと睨まれたような気がした。
 苦笑いをしつつ、両手を上げて降伏のポーズ。
 茜子の才能は、本当に油断ならない。
680 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/28(木) 01:59:43.49 ID:OlbVBHEjo
こより「そういえば、この三人ですと胸の平均点がぐっと下がりますね」

智「……そういえば、そうだね」

 胸の小ささで言えば同盟内では当然僕が一番下、次にこより、その次に茜子だ。
 大きさの順番は伊代が不動で時点がるい、三番が花鶏。
 番外編で言ったら央輝はこよりと同じぐらい、宮和は伊代と一位を争うのではないだろうか。

こより「ちなみにともセンパイってどのくらいの大きさがいいですか?」

智「ええっ!? なんでそんな話になるの!?」

こより「なんとなく気になっただけですよう! 鳴滝は貧乳はステータスですから別に気にしてませんけど、ともセンパイはどのぐらいがいいのかなーって」

 い、いきなりどのくらいがいいって言われても……
 僕は……


 ↓1
 (大、中、小。 或いは……)
681 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/28(木) 02:00:31.60 ID:K7QF7fp6o
682 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/28(木) 02:12:25.32 ID:OlbVBHEjo
智「……人並みには、欲しいかなぁ」

こより「そうですよねぇ、ともセンパイは身長もそこそこありますし、そっちの方がバランスよさげですよね」

 僕自身が欲しいわけじゃなくて、求める理想の彼女像だけど。
 実際に彼女になったならそんなのはきっと気にしないとは思うけれど……
 そもそも、僕に恋人なんて出来るわけがない。

智「はぁ…………」

茜子「……?」

 僕の複雑な心中を覗きこんだのか、茜子は軽く首を傾げている。
 流石にこの悩みは理解しにくいに違いない。
 複雑な乙女心……もとい、男心なのだから。

こより「そういえば、鳴滝、前に――――」

茜子「ほう、それはもしや古に伝わりし――――」

 それから、皆が集まるまで。
 こよりと茜子の生み出す噛み合っているようで噛み合っていない、不可思議ワールドを僕はただ放浪していたのだった。
683 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/02/28(木) 02:13:37.31 ID:OlbVBHEjo
 花城花鶏 の好感度が少し上がりました。
 鳴滝こより の好感度が少し上がりました。
 茅場茜子 の好感度が沢山上がりました。

 三日目を終了します。
684 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/28(木) 02:16:08.17 ID:OlbVBHEjo
 本日は、こんなところで。
 現在好感度ダービートップは茜子です。

 次回は少し未定。
 今日明日はこれないかもです。 少なくとも行う前日には通知致します。

 それでは、また。
685 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/28(木) 09:16:47.07 ID:RLnSYLmao
686 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/28(木) 09:55:55.35 ID:Bvutvhz2o

茜子さんの補正値がやばい
687 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/02/28(木) 11:37:01.73 ID:K7QF7fp6o
乙。なんか赤猫さん上がりまくってんな
688 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/02(土) 16:54:20.90 ID:NUmANfU80
>・好感度が一定同士が巡りあうと……?

これを目指したい
689 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/03(日) 20:36:14.58 ID:zNLecKeQo
 多分明日くるでー
 汝になるかはわかりませんけど、10〜12時に来るかと思いまする
690 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/04(月) 00:17:32.34 ID:1OhqBK0P0
>>1かな?
待ってるでー
691 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/04(月) 22:20:08.55 ID:L4K6rKQGo
 おるかー

 まぁいなくても関係ないですけどね
692 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/04(月) 22:21:14.72 ID:jdlcXqb5o
おるよー
693 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/04(月) 22:26:44.08 ID:L4K6rKQGo
 ■四日目■


 朝起きて、何か違和感。

智「……最近、何か変な気がするなぁ」

 変には変なんだけど、何が変なのかわからない。
 毎日学校には通ってるし、皆にも会ってる。
 何が変なんだろう……

智「わからないってことは大したことないとは思うんだけどな」

 心に留めておく、程度にしよう。
 とりあえずは今日もやることは沢山あるのだ。
 例えば、隣人、任甫さんの包囲網をくぐり抜けたり。
 例えば、今日も学校でばれない様に通ったり。
 例えば――――


 ↓1
694 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/04(月) 22:29:00.19 ID:v6De8JY80
央輝
695 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/04(月) 22:39:12.86 ID:L4K6rKQGo
智「……確か、央輝と待ち合わせが」

 吸血鬼、裏世界の王。
 睨まれたら動けなくなるとの噂もある。
 そんな彼女はなんと、僕らと同じ呪われた人間だったのでした。
 な、なんだってー。

智「それでも、溜まり場には寄り付いてくれないけどね」

 基本的に日向だし、難しいところもあるだろう。
 彼女の呪いは見て分かる通り、『太陽の光にあたってはならない』。
 だから日陰を好むし、幅の広い帽子を被る。
 そして人一倍プライドが高い。 裏稼業をしているから仕方がないところはあるのだろうけれど。
 それが彼女、尹央輝だった。

 けれどそんな彼女も仲間思いというか同じ境遇を持つ僕らに思うところはあるようで。
 ふとした時に食事を作ってあげたら、偉い喜ばれた。
 それから、たまに食事を作りに行ってあげているのだ。

智「それじゃあ、いってきまーす」

 返事のない部屋に投げかけて。
 僕は家を出た。
696 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/04(月) 22:49:24.81 ID:L4K6rKQGo
央輝「ふぅ」

 無事に食事を終えて、央輝は一息つく。

智「お粗末さまでした」

央輝「ああ。 今日もうまかった」

 食事は日々の活力だ。
 どんなにひもじくても、食事だけは決して妥協するべきではない。
 三食おやつ付き。 これが理想だ。

 ちなみに今いる場所は央輝の下宿場所、もとい隠れ家その1。
 何かあった場合にはこの場所を使ってもいい、と彼女からのお墨付きだ。
 その2以降はあるらしいけど知らない。 あまり深く踏み込んでもいいことはないし、気にしないけれど。

智「ところで央輝ってさ、昼間はいつも何してるの?」

央輝「何もしていない」

智「何もって……」

央輝「何も、だ。 ただじっとしている、ただそれだけだ」

 溜息を吐きながら言われる。
 確かに央輝には家から出るだけで命取りだ。
 だから家で何かをしているのかと思ったのだけれど……
697 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/04(月) 22:51:53.80 ID:L4K6rKQGo
智「本とか、テレビとか」

央輝「アタシには文字は読めん」

智「そっか……」

 でも、それじゃあ寂しい。
 いくら慣れているとは言っても、そんなんじゃいつか精神が擦り切れてしまう。

智「ですので、何かしようと思います」

央輝「いきなりなんだ?」

 さあ考えよう。
 央輝でも出来る、室内で出来る何かを。


 ↓1
698 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/04(月) 22:55:54.80 ID:jdlcXqb5o
非電源系ゲームとか
699 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/04(月) 22:58:26.19 ID:L4K6rKQGo
 トランプとかって意味でオーケーです?
700 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/04(月) 22:59:42.10 ID:jdlcXqb5o
OKです。
701 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/04(月) 23:06:06.90 ID:L4K6rKQGo
智「央輝さ、トランプとかってわかる?」

央輝「……ポーカーやブラックジャックなら教わったことがある」

智「ちなみに勝率は?」

央輝「駆け引きが重要なゲームらしいからな。 〈才能〉でかき乱せばわかりやすい」

 くくっ、と笑う。
 多分仲間内で賭けでもやったのだろう。
 なんとなくそういうところが想像できてしまう。

智「まぁ今回やるのはそんなブラックなやつじゃなくて、簡単な奴にしよう」

 しゃっ、しゃっ、しゃっ、とトランプを混ぜながら言う。

智「ねぇ央輝、神経衰弱って知ってる?」
702 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/04(月) 23:12:32.58 ID:L4K6rKQGo
央輝「おい和久津! オマエサマしてるだろう!?」

 ゲームも中盤を迎えた頃、央輝が憤慨する。
 カードのほぼ全ては僕のもの。 そしてまた、ワンペア。

智「してないよ。 なんかこう、ぱっと脳裏にひらめくだけだから」

 昔から直感がいいとは思うけれど、ここまでのは初めてだ。
 今も五回連続成功で……あ、違った。

央輝「クソ……見てろ…………!」

 央輝が意気込んで、床に並べられたトランプを睨みつけた。


 結果は、お察しの通りだった。
703 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/04(月) 23:21:02.04 ID:L4K6rKQGo
央輝「クソッ、クソッ!」

智「央輝、ゲームにそんなにムキにならなくてもいいんじゃ……」

央輝「ムキになんかなっていない!」

 ギロッ、と睨みつけてくる彼女に僕は無抵抗の意志を示す。
 流石にバカ勝ちしすぎだ。
 次からはもっと考えよう、と思いつつトランプを片付けようとする行動が央輝の目に留まる。

央輝「まて。 他のだ、他のゲームを教えろ」

智「えっ、でも」

央輝「このまま負けっぱなしだとアタシが廃る! いいから早く次のを考えろ!」

 ……えっと。
 そこまでいうなら、考えるけど……
 僕一人じゃ勝ちか負けしかないし……
 誰か、呼ぼうか?


 ↓1
 (呼ばないのも有り)
704 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/04(月) 23:23:38.32 ID:jdlcXqb5o
るい、こより
705 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/04(月) 23:36:35.84 ID:L4K6rKQGo
智「というわけで、助っ人を及びしました」

るい「やっほーいぇんふぇー!」

こより「お久ぶりっすよう!」

 元気っ子姉妹のご登場。
 この二人がいるだけで騒がしくなる。

智「それじゃあ人数も増えたことだし、大富豪とかしてみる?」

こより「あ、ともセンパイのとこだと大富豪なんですね! 鳴滝のところだと大貧民です」

るい「私のとこだと大富豪だったなートモとお揃いー」

央輝「ええい、呼称の別はどうでもいいから、早く内容を説明しろ!」

 こうして夜まで四人でゲームをして過ごした。
 途中から罰ゲーム付きだったのはお約束。

 こんど皆で人生ゲームとかするのもいいかもしれない。
706 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/04(月) 23:39:28.45 ID:L4K6rKQGo
 皆元るい の好感度が少し上がりました。
 鳴滝こより の好感度が少し上がりました。
 尹央輝 の好感度が上がりました。

 四日目を終了します。


 今続いて、五日目に進みますか?
 (一人でもいれば進みます&進む場合十二時に再開します)
707 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/04(月) 23:41:16.41 ID:jdlcXqb5o
はい。進みます
708 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/04(月) 23:41:25.78 ID:v6De8JY80
進みます
他にも誰かいるかな
709 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/05(火) 00:02:53.47 ID:s5ODzb5To
 見づらいけど好感度表作ったよー

 四日目終了

 皆元るい  ☆☆☆
 花城花鶏  ☆☆☆
 鳴滝こより ☆☆☆
 白鞘伊代  ☆
 茅場茜子  ☆☆☆☆
 尹央輝   ☆☆
 才野原惠  ☆
 冬篠宮和  ☆☆
 ???   

 (リストの人数は随時更新する恐れがあります)


 ってかもうちょっと安価は冒険してもいいのよ。
 別に()の中身を無視しても問題ないし。
 好感度下がる恐れはあるけどね! 死ぬ恐れもあるけどね!

 では参ります。
710 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/05(火) 00:08:06.88 ID:8oTAwBX6o
石橋は叩いて渡りたい私です
711 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/05(火) 00:11:12.98 ID:s5ODzb5To
 ■五日目■


智「眠りが浅い……」

 頭がぼーっとする。
 今日は何故か何度も深夜に目を覚ましてしまった。

智「休みたいなぁ」

 優等生で通ってるわりには、最近欠席の多い僕。
 だから言うだけ。 サボっても誰も咎めはしないけれど、地位を保つためには必要なこと。

智「頭もスッキリしないし、シャワーでも浴びてから学校に行こうかな」

 シャワー室に向かい、寝間着を投げ捨てる。
 長い髪を丁寧に梳かしつつ、さっ、とシャワーを浴びる。
 女の人ってすごい。 髪が長くても毎日ちゃんと手入れしているのだから。

智「最近慣れてきてるけどね……」

 軽く自己嫌悪。
 けれど今日はシャワーも浴びたからそんなのに時間を無駄にしている余裕はない。

 今日も今日とて、頑張って生きよう。


 ↓1
712 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/05(火) 00:13:16.91 ID:BVyuh87So
伊代と買い物
713 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/05(火) 00:25:47.21 ID:s5ODzb5To
智「おまたせ、伊代。 待った?」

伊代「ううん、わたしも今来たところよ」

 待ち合わせ時間には間に合っている。
 けれどこういう会話をするのは彼氏彼女の間では常識だろう。
 ……僕らは外面上は女の子同士だけれど。

伊代「それにしてもいきなりね。 あの子達に内緒なんて」

智「サプライズ・パーティ。 内緒の方が盛り上がるでしょ?」

伊代「でも、やっぱりあれには話さなくちゃいけないのよね」

智「あれって?」

伊代「ええと、ほら、あの白頭の」

 ああ、花鶏か。
 まぁ僕らの家で一番つかえるのはあそこしかないし、仕方がない。

智「まぁ花鶏だけなら。 本命はるいとこよりでしょ、ほとんど」

伊代「ふふっ、そうね」

 騒ぎ立てる二人を思い浮かべたのか、伊代は僅かに微笑みを浮かべる。
 
714 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/05(火) 00:37:41.35 ID:s5ODzb5To
 ふと、その顔をじっと見つめてしまう。
 その視線に気がついた伊代ははたと真顔になり、少しばかり戸惑いを見せた。

伊代「え、なに? わたしの顔に何かついてる?」

智「ううん。 ただ、可愛いなって」

伊代「なっ」

 驚きと、遅れて伊代の顔が紅くなった。

伊代「も、もう、何言ってるのよ! あなたまであのレズと同じになったの!?」

智「いやいやいや、そうじゃないよ。 ただ単純に可愛いって思っただけだって!」

伊代「嘘ばっかり! あなたの方が断然乙女力高いじゃないの!」

智「いや、それは…………その、ありがとう?」

伊代「え? ああ、いいえ、どういたしまして?」

 なんだか不思議な空気になる。
 なるほど、これが伊代のイケてないワールドか。
 口に出したら怒られそうだけれど。
715 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/05(火) 00:49:37.17 ID:s5ODzb5To
智「そ、それよりさ、はやく買い物いかない? るいとか茜子とかいつ帰ってくるとかわからないし」

伊代「そ、そうね。 ところで、あなたの得意料理とかってなんなの?」

智「僕? そうだね、フレンチとかイタリアンとか。 ちょっとおしゃれな感じなやつ」

伊代「へぇ、そうなの。 わたしは家庭料理しか作らないからそういうのはわからないのよね」

智「でもその家庭料理がとても上手じゃない。 一家に一人欲しいよ」

伊代「なんか、あなたにそう言ってもらえると嬉しいわ」

 そういって伊代は再び笑みを見せた。
 けれど今度は突っ込むなんて無粋な真似はしない。 ちらりと盗み見見て、僕も笑う。

 ふと。

智「…………?」

伊代「どうしたの?」

智「ううん、別に。 多分気のせいだから」

伊代「そうなの?」

 心配をかけまいと答えた返事に、首を傾げる伊代。
 誰かに見られたような……?
 まぁ、知り合いならきっと、声をかけてくるだろう。


 ↓1
716 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/05(火) 00:52:29.99 ID:8oTAwBX6o
視線が気になるので探してみる
717 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/05(火) 01:02:33.91 ID:s5ODzb5To
智「…………」

伊代「……? どうしたの? 袋に入れ終わったなら籠返してくるけど……」

智「あ、うんお願い」

 伊代が籠をもって、近くに積んである籠にその籠を置きに行く。
 その隙をみて、また僕は周りを見渡した。
 
智「うーん……」

 見られてる、ような。
 やっぱり、誰かに見られている気がする。

伊代「おまたせ」

智「……うん、ありがと。 伊代、ちょっと付き合って欲しいんだけどいいかな?」

伊代「? いいわよ。 買い忘れか何か?」

智「ううん、そういうんじゃないんだけど、ちょっとね……」

 こうなったら最後の手段だ。
718 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/05(火) 01:18:18.68 ID:s5ODzb5To
 僕と伊代は一旦別れることにした。
 人混みに紛れ、路地裏へと隠れる。
 足音は僕を追ってきた。 予め用意しておいたメールで伊代へ連絡し、同時にわざと足音を立てて逃げる。

智「っと」

 二つ、三つ。
 その角を曲がった所で僕は待ち伏せをする。
 この道は一方通行、逃げる先はない。
 追いかけてきた足音は僕の元まで来て、そして……

智「わあっ!」

「きゃあっ」

 尻餅をつく、その姿を確認して。
 珍しいものを聞いた、と僕は目を丸くした。

智「何してるの……宮」

宮和「見つかってしまいました」

 しょんぼりとした姿に手を差し伸ばして、伊代にもう一度連絡をいれた。
719 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/05(火) 01:32:44.04 ID:s5ODzb5To
智「それで、どうしてストーキングなんか?」

 危害はなかったとはいえども、事情聴取。
 僕らが顔を並べているのはちょっとモダンな雰囲気のチェーン店。
 緑色で真ん中に女の人が書いてあるマークと、僕の知る限り一番名前の長いドリンクが売っているお店だ。

伊代「その子って……前にあなたが一緒に居た人よね?」

宮和「そういうあなたは白鞘様、でしたね」

伊代「様、なんて。 やめてよくすぐったい。 同学年なんだから」

智「まぁ、宮はいつもこんな感じだから。 気にしないであげてよ」

 僕も初めは背中がぞわぞわしたけど、今はもう慣れたし。
 というか逆に人を呼び捨てにする宮和が想像できなかった。

宮和『和久津、本日も良い天気でございますね』

 ……うん、ない。
 ぶんぶんと首を振ってその妄想を打ち消した所で、再び本題に。

智「で! どうして僕らの後をつけてたの?」

720 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/05(火) 01:42:30.87 ID:s5ODzb5To
宮和「お恥ずかしながら、前回のことで、宮にも和久津様のことでも存じないことがございました」

智「いや別に恥ずかしくないから。 むしろ僕が恥ずかしいから」

宮和「ですので、偶然和久津さまと白鞘さまのお姿を見かけたものですので少しばかりストーキングをと」

智「その理屈はおかしい」

 けれどその理屈が通じてしまうのが宮和なんだよね……
 僕は一息つくのと同時にカプチーノを一口飲む。

伊代「あっちもこっちもで、あなたも大変ね……」

智「ありがと伊代……」

 わかってくれるのは伊代だけだ。

宮和「ところで、お二人は一体何をしていらしたのですか?」

智「今日の夕食の買い物だよ。 パーティしようと思って」

宮和「パーティ」

 ほう、と。 宮和が鸚鵡返しにする。
 ここであったのも何かの縁。 いっそのこと、誘ってしまおうか。
 いや、でも……皆の呪いのこともある。
 どうしようか。


 ↓1
721 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/05(火) 01:50:02.32 ID:8oTAwBX6o
同盟メンバーに誘っていいか聞いてみる
722 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/05(火) 02:05:38.86 ID:s5ODzb5To
 普通に考えて、皆に聞くべきだよね。

智「伊代はどう思う?」

伊代「え? 何が?」

 伊代……
 小さく心の中で溜息を吐いて、軽く説明する。
 宮和をパーティに誘ってもいいか、否か。

伊代「ああ、ええと……わたしは、保留、かしら。 皆がいいって言うなら」

 まぁそうだよね。
 サプライズじゃなくなるけれど、仕方がない。
 僕は二人にちょっと待っててと告げてから電話をかけた。

 結果。
 僕含め、賛成3、反対2、保留1。

智「ってなわけで、過半数を得ました」

伊代「いいんじゃない? あの子とか、あとあの子とか気をつけてもらえば」

智「だね」

 ひそひそ話を終えて、ようやく僕は宮和に向き直った。
723 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/05(火) 02:15:41.75 ID:s5ODzb5To
智「それで、宮和どう?」

宮和「和久津さまのお友達、ですか」

 少しばかり考えた仕草を見せた後。

宮和「胸が高鳴りますね」

智「そんなに高鳴る要素はないと思うんだけど」

 少なくとも、その胸は十分に高まっているし。
 最後の一口を飲み干して、そして席を立つ。

智「それじゃ、行こうか。 これ以上いたら遅れちゃいそうだし」

伊代「そうね。 あっ、あなたは何か苦手なものとか好きなものとかある?」

宮和「いいえ、特には。 けれど……そうですね、強いて言えば」

智「強いて言えば?」

宮和「和久津さまの得意料理を頂いてみたいです」

 少し、嬉しくなった。

智「伊代、じゃあ少しだけまた買い物付き合ってもらってもいい?」

伊代「ええ、もちろん」

宮和「わたくしもお供いたします」

 こうして、この日の僕らは楽しい夜を過ごしたのだった。
724 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/05(火) 02:17:17.74 ID:s5ODzb5To
 皆元るい の好感度が少し上がりました。
 花城花鶏 の好感度が少し上がりました。
 鳴滝こより の好感度が少し上がりました。
 白鞘伊代 の好感度が上がりました。
 茅場茜子 の好感度が少し上がりました。
 冬篠宮和 の好感度が上がりました。

 五日目を終了します。
725 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/05(火) 02:19:41.25 ID:s5ODzb5To
 五日目終了

 皆元るい  ☆☆☆☆
 花城花鶏  ☆☆☆☆
 鳴滝こより ☆☆☆☆
 白鞘伊代  ☆☆☆
 茅場茜子  ☆☆☆☆☆
 尹央輝   ☆☆
 才野原惠  ☆
 冬篠宮和  ☆☆☆☆
 ???    


 本日はここまで。
 見事なまでに突出した人がいないというね。

 明日は多分ムリで……次は恐らく明後日に来るかと。
 遅筆で申し訳です。

 では、また。
726 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/05(火) 02:25:23.56 ID:8oTAwBX6o
乙でした
727 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/05(火) 08:45:14.57 ID:BVyuh87So
728 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/05(火) 12:56:49.13 ID:KzayOdwQo
729 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/05(火) 13:09:24.44 ID:ZaSMFXT60
乙乙、ゆっくり待つよ
730 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/05(火) 20:17:27.84 ID:SHQ8dA5Q0
はじめから読んだら全力で一日が潰せてしまった。
コミュはやってないけどすごい面白い。
続きも楽しみにしてる
731 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/05(火) 20:54:10.93 ID:t/vVPNY3o
俺も最初は智ちんprprで見始めたけど、ここで真雪√終わった辺りにコミュ買いに行ったわ
732 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/06(水) 07:17:10.10 ID:KBDDaB5AO
央輝と茜子が路地裏で遭遇してるところに、ばったり
733 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/06(水) 07:22:58.30 ID:KBDDaB5AO
↑ミスった…。
乙、次も期待してる
734 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/06(水) 13:34:45.53 ID:oxbFuEdd0
そういえば俺もこのスレ見てコミュをやろうって決めたんだった
735 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/07(木) 00:41:37.67 ID:RSfjq0iko
 当SSはるい智並びにコミュ購入促進委員会公認SSです。
 まぁ、嘘なんですけどね。

 おるかー
736 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/07(木) 00:47:08.20 ID:5yfvWGxV0
おるよー
737 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/07(木) 00:50:24.14 ID:0Rbhnroho
勿論です
738 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/07(木) 00:51:18.11 ID:RSfjq0iko
 なら一日だけいきますです。
 ここだけの話、朝のテキストパターンが底をついてきてるのだぜー
 でも頑張る
739 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/07(木) 00:58:40.90 ID:RSfjq0iko
 ■六日目■


智「すこぶる快晴っ!」

 と、いいつつ今日の天気は雨。
 太陽がなくなると、人類は一ヶ月も持たずに絶滅するという話を聞いたことがある。
 つまりそれほどまでに太陽の光というのは重大な役割を担っているのだ。
 精神的作用の他にも太陽を浴びないとビタミンDが人体内で生成されずに骨粗鬆症などを引き起こす恐れもあるらしい。
 太陽ってすごい。 僕は改めてそう思うのだった。

智「一日ぐらいお天道様も休みが欲しいよね」

 僕だって週一週二の休みを所望するのだから、年中無休で働く彼、或いは彼女はもっと休みが欲しいに違いない。
 そんなわけで、太陽がなくとも気合を入れる僕。

智「……とりあえず朝ごはんを作るところから始めようかな」

 そして僕はまた一日の予定を思い浮かべながらキッチンへと足を向けるのだった。


 ↓1
740 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/07(木) 00:59:40.28 ID:U1TV5fbjo
任甫さんとお食事
741 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/07(木) 01:01:55.85 ID:5Z6EjTvUo
やりやがったwwwwwwwwww
742 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/07(木) 01:20:45.14 ID:RSfjq0iko
 お休みだから朝から手の込んだ料理を作っていた。
 瞬間、ピンポーンとチャイムが鳴り響く。
 こんな朝早くから、誰だろう?
 皆の顔を思い浮かべながら扉を開くと、背筋に悪寒が走った。

任甫「おはよう和久津さん」

智「あ……お、おは、おはようございます、任甫さん」

 隣人、任甫さん。
 僕史上最大の天敵である。
 実はとあるマフィアのお偉いさんであり、央輝と顔見知りでもある。
 その伝手で知り合ったのだ。
 ……知り合って、しまったのだ……

任甫「今日は生憎の雨だ、気が滅入って仕方がない。 和久津さんは雨は好きか?」

智「え、ええ、まぁ……嫌いではないです」

 厚着をする大義名分ができるし……
 濡れると下が見えてしまうという点においては諸刃の剣だけれど。

任甫「ふむ、そうか。 突然だが、央輝の居場所を知らないか? ちょっとした用があるんだが俺は未だに連絡先を教えてもらえていなくてな」

智「央輝ですか。 ええと、いつもの場所……は、教えちゃダメか。 わかりました、連絡しておきます」

任甫「ああ、頼む」

 爽やかイケメンスマイル。
 黙ってれば普通にモテそうなタイプなのにどうしてこの人はもう……
743 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/07(木) 01:32:35.21 ID:RSfjq0iko
任甫「……ん? 良い香りがするな」

智「え? あ、ああ、丁度朝昼兼用のご飯を作ってたところでしたから」

 ふと振り返り、軽く説明する。
 すると、それを見計らったかのように任甫さんの腹部から音がなった。

智「…………」

任甫「…………」

 僅かな沈黙。
 瞬間、弾けたように任甫さんは笑う。

任甫「ハッハッハ、これはすまない。 昨日の夜から何も食べてなくてね」

智「は、はぁ。 そうなんですか……」

 その瞬間、ふと閃きがあった。
 いや、なんで閃いたのか。 そしてどうして僕は何も考えずそれを口にしてしまったのか。

智「あ、じゃあ食べていきます?」

 言ってから、それは不味いと理解した。 が、それはあまりにも遅すぎる。
 相手は隣人だ。 確かに、そういう時には別段誘ってもおかしくはないだろう。
 しかし。 彼はかの道のエキスパートだ。
 女装した男にしか興味がもてないという、まさしくピンポイント中のピンポイント。
 ふとした所作言動から僕が実は男の子であることが露見してもおかしくはない。
 もしそうなってしまえば、呪いが――――いや、僕の貞操が一大事なのだ!
744 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/07(木) 01:43:16.45 ID:RSfjq0iko
 けれど、今のはなし、というわけにはいかない。
 いや、命がかかってるけど、それよりも大事なものもかかってるけど! 自分から提案した言葉を引っ込めることは難しい。
 望みの綱は彼が本当に女には興味がないということだろうか。
 もしかしたら、『いや、遠慮しておこう』という可能性が、なきにしもあらず――――

任甫「……それじゃあ、ご相伴に預かることにしよう」

 きゃ―――――――――――っ!!?
 メーデー! メーデー!!
 混乱と救難信号が僕の中で渦巻く。

任甫「実は央輝から和久津さんの食事は美味いと聞いていてね。 一度食べてみたかったんだ」

 央輝――――――ッ!
 央輝のせいで今僕はピンチだよ! 果てしなくピンチだよッ!!
 いやこの結果を招いたのは僕自身の過ちだけどもっ! だけどもっ!!

智「じゃ、じゃ、じゃじゃじゃじゃじゃあああ、ドウゾ、オハイリクダサイ……」

任甫「ああ、邪魔させてもらおう」

 僕が一歩引いて、任甫さんが一歩踏み出す。
 そうして僕は史上最悪の敵を家に招いてしまうという愚行を果たしてしまったのだった……
745 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/07(木) 01:45:17.37 ID:5OBYw54D0
まさかのやり直しになってしまうww
746 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/07(木) 01:46:56.75 ID:5yfvWGxV0
ともちんぴんち!
747 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/07(木) 01:55:30.32 ID:RSfjq0iko
 僕は機械と化していた。
 ボロをみせないように、みせないようにと考える以前に、思考が停止してしまっていたのだ。

智「……ハイ、ドウゾ、メシアガッテクダサイ」

任甫「ああ、頂こう」

 テーブルの上に並べた食事を任甫さんは器用に箸を繰り、大皿から小皿に盛り付ける。
 食事の腕には自信があるけれど、果たして大丈夫だろうか。
 一応るいと央輝のお墨付きはあるけど。

任甫「…………」

 任甫さんは無言で口に運び、ひと通り口にしてから箸を置く。
 そして僕を見つめた。

任甫「噂に違わないな。 これは央輝が美味い美味いという理由もよくわかる」

智「あ、ありがとうございますぅ〜……」

任甫「……全く、本当に惜しいな。 和久津さん、君は本当に生まれてくる性別を間違えている」

智「あはは……ちなみに、もし、僕が仮に本当は男の子だったりしたら……どうします?」

任甫「無論、どんなことをしてでも手に入れる」

 きゃー。
 きゃー。
 きゃー。
748 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/07(木) 02:02:55.58 ID:RSfjq0iko
任甫「……和久津さん?」

 ……はっ。
 ショックで意識が明後日の方向に飛んでいた!
 見ると、任甫さんが眉を潜めてこちらを見ていた。

智「な、なんでしょうか」

任甫「いや。 先ほどから様子がおかしいみたいだが……具合でも悪いのか? それならば俺に気にせず休むといい.」

智「いいいいいえ結構ですぅ!」

 もしも。
 もしも僕が寝ている時に彼がふと僕の身体を触ったりしたら?
 もしも何か彼の目に止まるものがあって、僕が男だってバレてしまったら!?

智「目も当てられない……」

任甫「何か言ったか?」

智「いえ! 何も!!」

 少しも気を抜けない。 一体、いつになったら僕はこの緊張感から開放されるのか。
 何か! 何か起きて! この状況を変える何か!
 なんでもいいから! はやく、はやく――――っ!!


 ↓1
749 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/07(木) 02:05:29.39 ID:0Rbhnroho
ゆんゆんが来る
750 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/07(木) 02:05:52.89 ID:5OBYw54D0
こよりから電話
751 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/07(木) 02:20:30.19 ID:RSfjq0iko
 ピンポーン、と再びチャイム。
 ここぞとばかりに急いで立ち上がり、ぱたぱたと逃げるように玄関へと向かう。
 そしてすぐさまドアを開けて、その姿を確認してほっと一息つく。

智「いぇんふぇー!」

央輝「っ!? な、なんっ!?」

 茜子と同じくらいの身長である彼女を力一杯抱きしめる。
 さっきは余計なことを言ってたことについて呪ってたけど、今このタイミングは天使だ。

智「まってたよー!」

央輝「ええい離れろっ! 一体何なんだ!?」

智「わわっ」

 力強く押されて、尻餅をつく。
 しかしこのぐらい、今までの耐え切れない空気に比べたらどうってことない。

央輝「はぁっ、はぁっ……なんだ一体……」

任甫「央輝、来たか」

央輝「任甫……いきなり何かと思えば、アタシを呼んだのはオマエか」

 央輝は任甫さんの顔を見て溜息を一つ。
 対して任甫さんはその表情を崩すことはない。
752 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/07(木) 02:35:58.15 ID:RSfjq0iko
央輝「それで、なんだ? アタシを呼んだんだから重大な用事なんだろう?」

任甫「いや、なに。 時間が空いたから同郷同士、親睦を深めようと思ってな。 どうだ、この後」

央輝「…………」

 央輝は黙って僕へ視線を移した。
 僕は首を軽く振って、知らないという意思表示。
 それをみて央輝は再び溜息を吐いた。

央輝「……任甫、オマエ、女には興味がないんじゃなかったのか?」

任甫「うん? ああ、和久津さんか。 彼女はお前もよくしてもらっているし、実に惜しいからな。 対象にはならずとも夢想、もといインスピレーションの題材にはなりえる」

智「…………」

 もうやめて……
 僕をイジメないで……
 そんなこと、本人を目の前に胸を張って言うことじゃないから…………

央輝「……運がよかったな、今日はアタシも暇なんだ。 その暇と、コイツに免じて今日は付き合ってやる」

任甫「おお、そうか!」

 にわかに任甫さんの表情が明るくなる。
 ある種、央輝のことは妹のように思っているのかもしれない。
 早速、任甫さんは靴を履き、僕に振り返る。

任甫「和久津さん、ごちそうさま。 美味しかった、機会があればまた是非食べたいぐらいに」

智「あは、あはは……機会があれば……ね」

 そんな機会は二度とないと信じたいけれど。
 央輝もこちらを仰ぎ、その時はアタシも呼べと告げて家を出て行く。
 果たしてこの空間には僕だけが残って。

智「あは……ははは……ふぅー………………っ」

 力尽き、その場にへたり込んでしまった。
 ……その日の記憶は、そこで途切れてしまっている。
753 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/07(木) 02:40:05.83 ID:RSfjq0iko
 安価が余ってしまったので、ボーナス安価を行います。

 ↓1のキャラクター一名を対象。
 そのレスのコンマにより好感度上昇が変化します。
 01〜40で小上昇。
 41〜80で中上昇。
 81〜00で大上昇。


 ↓1
754 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/07(木) 02:40:36.80 ID:0Rbhnroho
755 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/07(木) 02:42:27.82 ID:RSfjq0iko
 尹央輝 の好感度が少し上がりました。
 姚任甫 の好感度が上がりました。

 冬篠宮和 の好感度が上がりました。

 六日目を終了します。
756 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/07(木) 02:46:00.04 ID:RSfjq0iko
 六日目終了

 皆元るい  ☆☆☆☆
 花城花鶏  ☆☆☆☆
 鳴滝こより ☆☆☆☆
 白鞘伊代  ☆☆☆
 茅場茜子  ☆☆☆☆☆
 尹央輝   ☆☆☆
 才野原惠  ☆
 冬篠宮和  ☆☆☆☆☆☆
 ???   
 姚任甫   ☆☆


 現在の好感度はこんな感じです。
 任甫さんは一回で☆五つとか考えたけどボツりました。
 ちゃんとした攻略対象キャラだよ! やったね!

 明日これるかなーどうかなー
 来るとしても12時前後(誤差15分程度)で来なかったら明日は無し、明後日になります。

 それでは、また。
757 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/07(木) 02:49:06.85 ID:0Rbhnroho
乙。任甫さんが攻略キャラとか誰得ww
758 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/07(木) 02:50:09.75 ID:5OBYw54D0
おつーww
759 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/07(木) 09:00:00.89 ID:U1TV5fbjo
760 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/07(木) 11:47:34.81 ID:5yfvWGxV0
おつーwwwwwwまさかの展開だったけど、おもしろかったwwwwww
761 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/07(木) 14:39:21.13 ID:5Z6EjTvUo
やっぱり任甫さんも攻略キャラになってしまわれたかwwwwww
762 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/08(金) 00:00:00.01 ID:RSfjq0iko
 きたでー

 おるかー
763 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/08(金) 00:00:34.37 ID:3rqugwIo0
おるよー
764 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/08(金) 00:01:31.80 ID:Ah2bkuf60
はいよー
765 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/08(金) 00:01:53.51 ID:V8JbnHQro
投下の予感
766 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/08(金) 00:05:54.49 ID:PSWBNkToo
 ■七日目■


 一週間最後の日、日曜日。
 もとい、週末。
 けれど週末といいつつ、週の初めな気がするのはどうしてだろう。
 カレンダーによっては日曜日が初めのものと月曜日が初めのものに別れているためだと思われる。
 ちなみに僕は前者型。

智「だからといって、何かあるわけじゃないんだけどね」

 日曜日のイメージカラーは私的に白。
 まっさらな日って感じ。
 予定もまっさら。 正しく自由。

 僕はこれから予定を立ててもいいし、立てなくてもいい。
 二度寝三度寝もいいかも。
 さて――――今日は何をしよう?


 ↓1
767 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/08(金) 00:07:14.78 ID:3rqugwIo0
性欲が溜まってるので一度抜く
768 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/08(金) 00:09:24.37 ID:Ah2bkuf60
噴いた
769 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/08(金) 00:16:51.37 ID:V8JbnHQro
鼻が良い人は抜いたかどうか分かるらしいね。
るい姉さんにアウトか?
770 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/08(金) 00:18:24.89 ID:PSWBNkToo
 ………………
 …………
 ……

 なんだろう。
 なんだか急に、催してきたというか。
 こんなことは久しくなかったと思う。
 いや、朝とか、生理現象としてはあったと思うのだけれど、こう、なんというか、胸が高鳴るということがだ。
 率直にいえば興奮。

智「…………」

 今は、僕一人だ。
 今のところ、気配は何一つない。
 しかし、それはあくまで今のところ。 僕が作業中、るいが突然にドアをぶち破ってやってくる可能性も否定出来ない。

智「まずは、場所だね」

 すぐに隠れられる場所とか、或いは時間を稼げる場所がいい。
 後、何を使うか、だ。
 普通にAVとか……一つしかないから何回も使ってるのだけれど……パソコンで探すとかでもいい。
 或いは……仲間をそんな目で見たくはないけれど……

智「生理現象なんだ……!」

 男として。
 時には、やらねばならない時がある。


 ↓1 (場所)

 ↓2 (オカズ)
771 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/08(金) 00:18:59.06 ID:V8JbnHQro
トイレ
772 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/08(金) 00:21:45.14 ID:dDhdXGnOo
伊代
773 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/08(金) 00:31:14.31 ID:PSWBNkToo
 そうだ、トイレに行こう。
 いや尿とかするんじゃなくて、隠れ場的な意味で。
 仮にるいとか花鶏とかその他もろもろの人が鍵を開けて(不法侵入)で入ってきてもこれなら時間が稼げる。

智「そうと決まれば、早速」

 ばたん、かちゃり。
 鍵をかけたのを三度確認、そしてスカートごとパンツを下ろして便座につく。
 僕のオトコのコは見事なまでにそそり立っていた。
 これじゃあ、仮に今日我慢していたとしても外に出られなかったかもしれない。

智「……と、とにかく、……しなくちゃ」

 自分でいうのもこっ恥ずかしさが湧いてくる。
 普通の男はそうではないんだろうな。
 自分が女に染まっているということを実感してしまう。

智「……ようし、こうなったら今日は徹底的に男の子をしてやるっ!」

 それには先ず、オカズが必要だ。
 それなら、決まってる。
 伊代だ。
 男の子は基本的に、胸の大きいのを使うとかなんとか。 今までの話にも、伊代は胸をよく見られるとか言っていた覚えがある。
 るいも大きいし、実際に何度も(不可抗力で)見ているけれど、伊代と比べたらスイカとメロンだ。

智「……よし」

 気合をいれて。
 僕は自分のものを掴んだ。
774 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/08(金) 00:36:34.44 ID:PSWBNkToo
 ↓1
 (直前、最中、事後)
 (何が起こるか(何も起こらないでも可))
775 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/08(金) 00:37:53.25 ID:Ah2bkuf60
賢者になった途端伊予がくる
776 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/08(金) 00:39:27.97 ID:uiwUyEhXo
最中に伊代がって打とうとしたら一歩遅かった
777 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/08(金) 00:55:50.07 ID:PSWBNkToo
伊代『ちょっと……そんなにじろじろ見ないでよ。 恥ずかしいじゃない』

 伊代はブラジャーを外しながら、恥ずかしそうに腕で覆いながら身を捩る。
 場所は僕の部屋。 時刻は夜、カーテンの隙間から漏れる月の光に照らされ、二人でベッドに並んで腰掛け、既に事の寸前だ。

智『伊代の胸、綺麗だから恥ずかしがることないよ?』

伊代『また、あなたはそんなこと……もう』

 ぷい、と顔をそむけるのを抑えて、軽く強引にキスをする。
 抵抗はない。 既に何度もしていることだから。
 それどころか、伊代の方から積極的に舌を絡めてきた。

伊代『ん……ちゅぷ、ちゅる、んんっ、ふぅっ……れろ、んっ、ちゅぱ、ふぅんっ、んっ』

 一分にも満たないけれど、濃厚なそれ。
 唇を離した僕らの間に絡み合った唾の糸が垂れ、伊代の惚けた顔がとても艶やかだった。

伊代『はぁ、はぁ……もう、あなた。 また、上手になってない?』

智『伊代が可愛いすぎて、もっと可愛くさせたくなるから』

伊代『理由になってない……んっ、ちゅるっ』

 再びのキス。
 たっぷりとそれに時間をかけて、それからようやく僕はその熱り立ったそれを晒す。
 
778 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/08(金) 01:08:58.10 ID:PSWBNkToo
智『ねぇ伊代。 今日は久々に、胸でして欲しいな』

伊代『本当、あなたも胸が好きなのね?』

 それは男の性といいますか。
 逃れられない宿命とでもいいますか。
 そういう言い訳がましいことを言っていると伊代は溜息を吐いて、ベッドから降りて僕の前に回る。

伊代『たまにはあなたの言うことも聞いてあげないと、フェアじゃないものね』

 伊代の手が僕のそれをそっと掴んだ。
 外気に冷えた手はひんやりとしていて、ビクンッと反応する。
 最初の頃はそれだけで驚いていた伊代も慣れてきているのか、小さく笑った。

伊代『ふふっ……期待、してるの?』

智『……そうかも』

 言われて、再び反応する僕のモノ。
 男は皆潜在的マゾらしい、というのは何処で聞いたんだっけ。
 しかし例えマゾでなくとも、これは反応せざるを得ないとは思う。

伊代『それじゃ……するね?』

智『……うん』

 頷いて、伊代はそっとその乳房で僕を包み込んだ。
 相も変らず柔らかくすべすべなそれに包まれるだけで僕は興奮で暴発しそうになってしまう。
779 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/08(金) 01:20:10.28 ID:PSWBNkToo
 そこをなんとかぐっと抑えると、絶え間なく快楽の波が襲ってきた。
 伊代の手が胸を挟んでゆっくりと動き、僕の様子を伺いながら調節される。

伊代『んっ、しょ……んっ……』

智『っ』

 高揚で呼吸が乱れる。
 伊代は僕のキスが上手になったと言っていたけれど、伊代はこちらが格段にうまくなっている。
 初めのころは、たどたどしく、手探りで加減が出来ていない分とても気持ちよかったけれど、今もそれと同じぐらいに気持ちいい。
 油断するとすぐに達してしまいそうになる。

智『はぁっ、はぁっ、はぁ――――っ』

 深呼吸して、なんとか理性を保つ。
 そんな僕をみて、伊代は妖艶な表情を浮かべる。

伊代『ねぇ、……』

 伊代は、僕の名前を呼んで。
 その手で僕が絶頂するギリギリを維持しつつ、言った。

伊代『イッても、いいんだからね?』

智『…………っ』

伊代『我慢しないで、わたしの胸に、沢山だしても、いいんだからね?』
780 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/08(金) 01:31:41.82 ID:uiwUyEhXo
ふぅ・・・ なんでこんな可愛い娘が不人気なんや・・・
781 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/08(金) 01:33:20.50 ID:Ah2bkuf60
すごい力が入ってて生唾ですわ
782 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/08(金) 01:37:56.99 ID:PSWBNkToo
 僕を包む感触が変化する。
 伊代が手を不規則に動かし始めたせいだ。
 次々と変化する快楽が僕に襲いかかり、僕を快楽の頂点へと導く。

智『っ、伊代っ! ぼっ、僕、もう…………っ!』

伊代『いい、から……このまま、胸に――――っ!?』

 ぐいっ、と思わず伊代の頭を掴んで、その口を胸の間から先が出ている僕のそれへと引き寄せてしまう。
 伊代は驚きに目を見開いたけれど、その手は止めず。

智『あっ、あっ、ぁああっ…………!!』

伊代『んっ、んぶっ…………!』

 腰が浮いて、伊代の胸に、口にそれを押し付ける。
 快感が遂に爆発し、白い欲望をただ放出した。

 伊代の手は止まる――けれど、それだけでは終わらない。
 大量の白濁液をただ、若干苦しそうに飲むのと同時に舌で僕のモノの先を転がす。
 僕のモノに付着しているそれらを舐めとるようなその動きは、僕を絶頂のその先へと誘った。

智「伊代っ……いよっ……!!」

 思わず、名前を叫ぶ。
 そして僕は再び、彼女の口にそれを解き放った――――
783 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/08(金) 01:58:33.59 ID:PSWBNkToo
智「〜〜〜〜っ」

 予め用意しておいたティッシュペーパーに向かって僕はそれを解放した。
 トイレットペーパーはものにもよるけれど素早くやらないとモノに張り付きやすいからティッシュの方がいいのだ。
 それで最後まで絞り、出し切ったそれをこれまた予め用意しておいたビニール袋(小)に放り込んでその口を固く閉める。
 ここでようやく、一息。

智「はぁ……はぁ…………」

 とても興奮した。
 こんなに量が出たのも久しぶりな気がする。
 そんなに溜まっていたのか、それとも伊代に対して吐き出したかったのか。
 もしかしたら、両方かもしれない。
 さて、後はこのゴミを明日の燃えるゴミにバレないように出せばいいだけ――――

 どんどんどんどん! ピンポンピンポンピンポン! と。
 必死に玄関の扉を叩く音がして、僕は飛び上がった。
 なっ、何!? 敵襲!?

伊代『はやく! あなた、はやく開けて!!』

 いっ、伊代!? なっ、なんでこんなタイミングで!?
 僕はとりあえずビニール袋を生理用ナプキン(フェイク用)とトイレットペーパーの影にビニールを押し込めて、急いでトイレを出る。

智「いっ、今開けるから! とりあえず叫ぶのと叩くのはやめて!」

 いいながら、玄関の鍵を開ける。
 鍵がなくなったと同時、ガチャン!とすごい勢いで扉が開いた。
784 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/08(金) 02:04:21.18 ID:PSWBNkToo
 同時に、抱きつかれてその胸が僕に押し付けられる。

伊代「よかった……! 無事だったのね!」

智「えっ、えっ!? なっ、なに!?」

 慌てるも慌てる。
 先程まで妄想していた相手が今目の前にいるのだから。

伊代「あ、あなたの家の前に来たら、わたしの名前を大声で叫んでいるのが聞こえて……切羽詰まってるみたいな声だったから……っ!」

智「えっ!?」

 もしかして、絶頂の時。
 妄想の中で伊代の名前を呼んでたはずが、もしかして声に出てた!?

伊代「よかった、何もなくて、本当によかった……!」

智「い、伊代……」

 ともすれば、今にも泣きそうな伊代を腕の中に、僕の気持ちは罪悪感でいっぱいだった。
 こんな娘を僕は……その、使ってしまったのだと思うと……

智「……ごめんね」

伊代「……へ?」

智「……ううん、なんでもない…………」

 ごめんなさい。
 本当に、ごめんなさい……
 僕は伊代が僕から離れても、謝罪を心中で反芻するのだった……
785 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/08(金) 02:05:27.03 ID:PSWBNkToo
 白鞘伊代 の好感度が沢山上がりました。

 七日目を終了します。
786 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/08(金) 02:07:34.65 ID:3rqugwIo0
おつ!!
よかった!
787 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/08(金) 02:08:05.33 ID:V8JbnHQro
終わりかな?乙
788 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/08(金) 02:08:27.24 ID:PSWBNkToo
 七日目終了

 皆元るい  ☆☆☆☆
 花城花鶏  ☆☆☆☆
 鳴滝こより ☆☆☆☆
 白鞘伊代  ☆☆☆☆☆☆
 茅場茜子  ☆☆☆☆☆
 尹央輝   ☆☆☆
 才野原惠  ☆
 冬篠宮和  ☆☆☆☆☆☆
 ???    
 姚任甫   ☆☆


 ……なにしてるんだろう…………
 ……明日は何時になるかわかりませんが来ます、多分。

 それでは、また。
789 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/08(金) 02:13:16.05 ID:Ah2bkuf60
おっつー!
790 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/08(金) 10:27:09.56 ID:dDhdXGnOo
791 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/08(金) 23:26:47.35 ID:EiqpolNLo
乙乙ー
792 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/09(土) 01:24:54.42 ID:WGEFx+d6o
 すいません。
 眠くてつい夜寝してたらこんな時間になってしまいました。

 だれかいます?
 そしてやります?
793 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/09(土) 01:42:25.11 ID:WGEFx+d6o
 ……どうやら遅れすぎて居ないみたいですね。
 多分明日……今日は、絶対来れると思います。
 例のごとく十二時ぐらいですけど……
 
 本日はまことに申し訳でした……
794 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/09(土) 03:01:43.68 ID:EKKmLZuY0
しまった、俺も忘れてた……
待ってる! あと、あげてくれたらと見付けやすいと思います!
795 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/09(土) 06:06:41.08 ID:Zt83VPoK0
はじめる時は上げてくれていいのよ?
796 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/09(土) 23:47:16.00 ID:WGEFx+d6o
 よ、夜中だったから……どうせ誰もいないだろうなと……

 はっじまっるよー
797 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/09(土) 23:48:50.08 ID:u5rIyVT0o
今日は参加できそう
798 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/09(土) 23:56:42.58 ID:WGEFx+d6o
 ■八日目■


智「…………」

 ぼんやりとした頭で、天井を見つめる。
 ああ、なんだかすごいいい夢を見ていた気がする。
 そういう夢に限って覚えていないのはどうしてだろう。
 人間嫌な事のほうが印象に残りやすいのだ。

智「きょうは……」

 身体を起き上がらせて、寝ぼけ眼を擦る。
 ぐぐぐーっ、と伸びて、腕の関節がこきこきと鳴る。

智「はぁー」

 ばたん、と再びベッドへ。
 いけない、このままだと二度寝してしまう。
 この時期の布団は、本当に魅力的で……誘惑が……

智「……よしっ」

 勢いをつけて、起き上がる。
 頭はバッチリ覚醒。 念のため両手で自分の頬を叩く。
 若干ヒリヒリするけれど、しかたがあるまい。

智「さようなら僕の布団、君の暖かさは忘れない」

 そういって、僕は後ろ髪ひかれながらもベッドに背を向けた。
 ……どうせ、夜にはこんにちはすることになるけれど。


 ↓1
799 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/09(土) 23:58:05.58 ID:u5rIyVT0o
運動でもしてみる
800 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/10(日) 00:14:17.41 ID:925ef980o
智「……そういえば、最近運動とかしてない気がする」

 学校の体育の授業とかでもなるべく露出を防ぐために女の子の日ーとか体調悪いーとかで欠席してるし。
 運動は健康の為には必須だ。
 加えて、適度に運動をしておかないと有事の時に困る。
 ……前のパルクールレースみたいなことがこれからないとも限らないし。

智「よし、じゃあ今日は運動しよう!」

 それにしても色々と問題があるのだけれど。
 場所とか、服装とか、その他もろもろ。
 正直なところ、制服とか私服で外をランニングでも問題はないといえばないのだけれど、奇異の目で見られること間違いなし。
 僕の目標は草木のように静かに生きることなんだ。

智「そんなわけで、皆を巻き込もうかと思います」

 ここで出すのは携帯電話。
 登録してある連絡先はワンプッシュですぐに呼び出せる。
 さて、誰を巻き込んでみようか?


 ↓1
 (二人以上)
801 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/10(日) 00:16:12.78 ID:LW8z3Z4Xo
れんふーさん
乗務
802 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/10(日) 00:18:07.10 ID:925ef980o
 じょ、乗務の連絡先知らないから……
803 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/10(日) 00:19:14.92 ID:WlTTzCN4o
再安価?
804 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/10(日) 00:21:42.72 ID:925ef980o
 出来ればとってくれた人にもう一度注文を頼みたく。
 現時点から五分たっても来なかったら安価は↓1でお願いします。
805 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/10(日) 00:25:46.35 ID:LW8z3Z4Xo
最安価かと思ってたわ
れんふーさんと恵と連絡先知ってるなら三宅
806 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/10(日) 00:31:13.15 ID:925ef980o
 ぶっちゃけると自分の実力不足です真に申し訳……

 三宅は、まぁいつか来ると思っていましたけれど。
 連絡先を知ってるか知ってないかで言えばNO、になるのかなぁ。
 どこかしらの安価で出てきたら○○とか××とか……

 とりあえず続きをば。
807 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/10(日) 00:47:50.31 ID:925ef980o
 ふと思いついた隣人さんに声をかけてみた。
 内面的には最悪だけれど、能力を考えるとこの人ぐらいしか適任が居ない。

任甫「なに? 俺にコーチを頼みたいだと?」

 頷く。
 今回の目的は運動件自衛の為の能力アップだ。
 僕も護身術はかじっているけれど、それでも外見と言葉で少しばかり意表をつかなければイケナイものだ。
 実戦向きな喧嘩術とでも言うべきモノを習うのも、悪くはない。
 そういうのならば央輝でもいいのだけれど、生憎ながら今は昼だ。 何らかの事故で日にあたっては危ない。
 加えて、指導してもらう時にもしもの場所に触れてしまう恐れもある。
 そういう点についてなら任甫さんは心配いらないだろう。

任甫「……ふむ、前の食事の礼もある。 和久津さんになら問題はないと思うが……如何せん、俺に指導の経験はないから教えるなら実践方式だ」

任甫「俺自身が相手をして、加減を間違え怪我をさせるわけにもいかん。 もう一人欲しいところだが、心当たりはあるか? 出来れば、巨乳でない……いや、なんでもない」

 るい達のことを思い出したのか。 るい、花鶏と確かに目立った人たちは皆胸が大きかった気がする。
 けれどこよりとか茜子とか、小さいのも一応いたのに……
 まぁ二人とも女の子っぽいからあまり気に留めていなかったのだろう。
 それはそれとして。

智「その点なら心配ないです」

 任甫さんの注文にあう、うってつけの人材。
 恐らく、何もなければ場所も提供してもらえるだろう。
 僕はその人物に連絡すべく、開いたままの携帯を操作した。
808 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/10(日) 00:58:32.88 ID:925ef980o
 突然の電話にも、彼女――才野原惠は冷静に対処してくれた。
 経緯を告げると納得したように、しきりになるほど、と頷く。

惠『それで僕に目が止まったと、そういうことだね』

智「うん、ごめんねいきなり」

惠『折角の誘いだ。 無碍にするのも悪いだろう?』

 場所は大貫邸。
 その敷地面積は花鶏の家をも上回る。
 普通の人間では泊まることも叶わない家を見上げて、任甫さんは感嘆の声を上げた。

任甫「すごいな。 高級住宅街があることは知っていたが、近くにくるのも、ましてや入るのも初めてだ」

智「あぁ。 こちらは繁華街に近いですからね」

 縄張りとか、そういったものもあるのだろう。
 けれどきっと、それよりも驚く羽目になるのではないかと思う。
 そしてその後の様子もありありと想像できる。
 先に謝っておこう。 ごめんなさい。

智「それじゃあ、チャイムを鳴らしますね」

 蔦に覆われた門のチャイムを鳴らす。
 すると、目の前で待っていたかのように直ぐ様門が開いた。
809 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/10(日) 01:10:49.31 ID:925ef980o
 佐知子さんと思っていた予想に反して。
 姿を表したのは家主本人だった。

惠「やぁ、智。 数年ぶりの再会かな?」

 至って真面目な声で、冗談を投げてくる。
 久方ぶりに会った彼女は、なんら変わっていなかった。

智「惠、久しぶりだね。 こちらがさっき言ってた央輝の知り合いの、任甫さん」

惠「話には聞いてる。 本日は武術を指導してくれるそうだね、よろしくお願いするよ」

任甫「ああ、こちらこそ――――っ」

 任甫さんの表情が惠を見て固まる。
 それもそうだ。 惠は一見顔立ちの整った美少年にしか見えない。
 見定めるように、任甫さんは惠の頭から足の先までを一瞥した。
 そんな彼を流石に不審に思ったのか、惠は僕に問いかけてくる。

惠「……智、彼はどうしたのかな? 僕の顔に何かついているかい?」

智「ええと、任甫さんは……その……女装した男の子にしか興味の持てない性格なんだ」

 へぇ、と惠は返して、口の端を釣り上げる。
 きっと自分が値踏みされていることがわかったのだろう。

惠「それなら、僕は女の子の姿で君たちを迎えればよかったかな?」
810 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/10(日) 01:24:32.54 ID:925ef980o
任甫「……わく、和久津さん。 つかぬことを聞くが、彼は、その――――」

 女装癖があるのか?
 その質問に僕は苦笑いを返すことしか出来ない。

智「改めて紹介しますね。 才野原惠、『彼女』は歴とした女の子です」

 瞬間、任甫さんの表情が唖然、驚愕と続いて落胆へと変わった。
 それもそうだ、僕がいうのもなんだけど、美少年としての惠はきっと女の子の姿がとても良く似合うだろう。
 例えば、任甫さんの求める男の娘のように。
 しかし、最初から女の惠が女の子の格好をしても、格好いい系の女子が女の子の格好をしている、という風にしかならないだろう。
 求めたものが見つかったと思った瞬間、その幻想を打ち砕かれる。
 そんな残酷なことをするつもりはなかったけれど、予想はついていた。 だから先にごめんなさいと謝ったのだ。

任甫「………………など」

智「え?」

任甫「男装女子など……邪道だ」

 憎たらしい敵を目の前にしたかのようにいうが、その言葉に覇気はない。
 それ程までにショックだったのだろうか。
 本当に申し訳無くなってくる。 男の娘の雑誌を家の前に捨てて僕を恐怖のどん底に陥れた罪はこんなものではないけれど……

惠「ねぇ智。 そんな彼がコーチで大丈夫かい?」

智「……大丈夫、問題ないよ」

 そうだということを、祈るしかなかった。
811 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/10(日) 01:25:32.71 ID:925ef980o
 安価が余ってしまったので、ボーナス安価を行います。

 ↓1のキャラクター一名を対象。
 そのレスのコンマにより好感度上昇が変化します。
 01〜40で小上昇。
 41〜80で中上昇。
 81〜00で大上昇。


 ↓1
812 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/10(日) 01:25:50.15 ID:WlTTzCN4o
813 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/10(日) 01:27:33.23 ID:925ef980o
 才野原惠 の好感度が少し上がった。
 姚任甫 の好感度が少し上がった。

 才野原惠 の好感度が少し上がった。

 八日目を終了します。
814 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/10(日) 01:28:39.18 ID:925ef980o
 八日目

 皆元るい  ☆☆☆☆
 花城花鶏  ☆☆☆☆
 鳴滝こより ☆☆☆☆
 白鞘伊代  ☆☆☆☆☆☆
 茅場茜子  ☆☆☆☆☆
 尹央輝   ☆☆☆
 才野原惠  ☆☆☆
 冬篠宮和  ☆☆☆☆☆☆
 ???    
 姚任甫   ☆☆☆


 九日目に進みますか?
 例の如く一人でもやるなら進みます。
815 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/10(日) 01:29:09.35 ID:vfrpWvWEo
やろう
816 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/10(日) 01:29:56.55 ID:DL14nIgr0
今回まだ安価取れてない
悔しいからやって欲しい
817 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/10(日) 01:30:11.73 ID:WlTTzCN4o
GO
818 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/10(日) 01:35:07.85 ID:925ef980o
 ■九日目■


智「か、身体の節々が……」

 全身筋肉痛。
 昨日は任甫さんに痛みを思い知れとばかりにめっきり扱かれたのだ。
 惠も珍しく、顔を歪ませていた気がする。

智「何も、悪気はなかったんだから……」

 悪気がないですむなら、世界はとっくに平和になっているけれど。
 そもそも、あっちだって僕の精神力を毎日減らしているんだから、少しぐらい……
 ……いや、それこそ悪気がない、か。

智「はぁー……」

 今日は快晴、絶好の洗濯日和。
 僕は身体を起き上がらせるだけで痛みの走る身体を何とか立ち上がらせた。

智「それじゃあ……今日も、頑張ろう」

 いつもより、五割減で。


 ↓1
819 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/10(日) 01:35:44.40 ID:vfrpWvWEo
あやめ先生とお話
820 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/10(日) 01:50:14.36 ID:925ef980o
 僕らの担任、今坂先生は生徒に人気だ。
 見た目の若さ、温和な性格。 男子生徒には胸の大きさも魅力的なようだ。
 しかし、その人気は面白い授業にある。
 悪く言えば堅苦しい、よく言えば古き良き南総学園には個性的な先生も多いけれど、今坂先生も抜群に個性的なのだ。

 現代国語の授業を受け持つ先生は漢字の意味や読み書き、論文などしっかりとした授業を行う。
 しかしその真骨頂は古文漢文現代文の小説などの解説にある。
 酷く深く感情移入し、その微細な心情までも想像して解説する先生は過去、さぞかし文学少女だったに違いない。
 宮和に言わせれば、今坂先生のその状態は、

宮和『震えるぞハート、燃え尽きるほどヒート、というところでしょうか』

 となる。
 なるほど、とは思う。
 正しく心で登場人物のそれを感じ取り、熱意として燃やしているのではないだろうか。

 そんな今坂先生の授業は大好評である。
 授業の進み具合は悪くなるのだけれど、作品一つとってもこの様子なので印象が深くなって記憶に残りやすいのだ。
821 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/10(日) 02:09:08.83 ID:925ef980o
 しかしながら、だ。
 本当の今坂先生の人気の秘密は、その人柄にある。
 温和な性格、とはいったけれど。 それだけには留まらない。
 生徒の微細な変化、それすらも見抜いて親身に相談に乗ってくれる。
 ……勿論先生も人間だから、全員が全員の変化がわかるというわけではないみたいだけれど。
 こと僕に至っては、百発百中の精度を誇るのだった。

あやめ「和久津さん?」

 歩いている後ろ姿を咎められた。
 進路相談は最近したばかりだから、なんだろうと思いながら振り向いて微笑みを返しつつ。

智「なんでしょうか、今坂先生」

あやめ「いえ……和久津さん、足を痛めているのかしら」

 驚いた。
 宮和でさえ見抜けなかった筋肉痛をほんの一瞬で白日の下に晒してしまったのだから。

智「ええ、はい。 昨日、少し運動をしすぎてしまって……」

あやめ「それはつまり、筋肉痛?」

智「まぁ、はい」

 お恥ずかしながら、と付け加える。
 それに今坂先生はほっとしたような表情をした。
822 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/10(日) 02:21:45.22 ID:925ef980o
あやめ「よかった。 どこかで捻ってしまったのかと思いました」

 きっとそれは本心。
 茜子を目の前においても白だと判断できるに違いない。

智「心配をおかけしました」

あやめ「いえ、いえ。 生徒を気遣うのも、教師の役割ですから」

智「ありがとうございます」

 腰を曲げて、ぺこり。
 その際にも痛みが駆け抜けるが、なんとか笑顔の下に隠せたのではないかと思う。

智「それじゃあ、失礼します。 さようなら、今坂先生」

あやめ「はい、さような……あ、少し待って和久津さん」

 何かを思い出したように僕を呼び止めて。
 返事をするより先に、今坂先生は僕へと接近していた。

あやめ「リボンが曲がっていますよ」

智「え……」

あやめ「これで、大丈夫です」

 ニコリと笑顔。
 思わず僕ははにかんでしまった。
823 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/10(日) 02:35:31.52 ID:925ef980o
あやめ「……前にも言ったと思うけれど、先生、和久津さんといると何か安心するの」

智「ええ……はい」

 それはつい最近のことだ。
 もし僕がまっとうな男子生徒なら教育委員会も驚きの発言だった。
 一応、女の子ですけど……

あやめ「どうしてかしら。 和久津さんは……違うのに」

智「……はい?」

 今坂先生の話が一瞬飛んで、僕は首を傾げた。
 それに対して先生は口が滑ったとばかりに笑みを浮かべる。

あやめ「ごめんなさい、なんでもないわ。 それじゃあ和久津さん、お気をつけてお帰り下さいね?」

智「……はい、さようなら先生」

 再び頭を下げて別れの挨拶を告げると、今坂先生は小さく手を振って僕へと背を向けた。
 その先生の背中はなんとなく、物哀しそうに見えたのは……気のせいだったのだろうか。
824 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/10(日) 02:36:53.22 ID:925ef980o
 安価が余ってしまったので、ボーナス安価を行います。

 ↓1と↓2のキャラクター一名ずつを対象。
 そのレスのコンマにより好感度上昇が変化します。
 01〜50で小上昇。
 51〜80で中上昇。
 81〜00で大上昇。


 ↓1
 ↓2
825 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/10(日) 02:39:20.56 ID:WlTTzCN4o
赤猫
826 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/10(日) 02:45:49.74 ID:mxpJpppY0
こより
827 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/10(日) 02:46:43.78 ID:925ef980o
 今坂あやめ の好感度が上がりました。

 鳴滝こより の好感度が上がりました。
 茅場茜子 の好感度が上がりました。

 九日目を終了します。
828 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/10(日) 02:50:20.71 ID:925ef980o
 九日目終了

 皆元るい  ☆☆☆☆
 花城花鶏  ☆☆☆☆
 鳴滝こより ☆☆☆☆☆☆
 白鞘伊代  ☆☆☆☆☆☆
 茅場茜子  ☆☆☆☆☆☆☆
 尹央輝   ☆☆☆
 才野原惠  ☆☆☆
●冬篠宮和  ☆☆☆☆☆☆
 ???   
 姚任甫   ☆☆☆
 今坂あやめ ☆☆


 遅筆で申し訳です……そして今日は安価が上手く出せなかったです、重ねて申し訳……
 ただの指定キャラ好感度アップイベントじゃないですかー……

 多分、明日は十時ぐらいに……多分……
 それでは、また……
829 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/10(日) 02:52:55.46 ID:mxpJpppY0
おつー
反応遅くてすまんな
830 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/10(日) 02:53:23.05 ID:WlTTzCN4o
乙。…………あやめ先生にも好感度が。もしかして指定したキャラは全員攻略対象か
831 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/10(日) 10:07:59.28 ID:vfrpWvWEo
832 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/10(日) 11:39:12.54 ID:DL14nIgr0
おつおつ!
833 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/10(日) 22:37:16.67 ID:925ef980o
 遅れました。
 いますかー

 あ、あやめ先生には元からルート存在するから……危険だから詰まれただけだし……
 好感度は、ちゃんと無いキャラも存在するし……
834 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/10(日) 22:39:49.42 ID:WlTTzCN4o
いますぜ
835 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/10(日) 22:51:37.07 ID:925ef980o
 ■十日目■


智「はむっ」

 テレビを横目に見ながら朝食を。
 今日の朝ごはんはいかにもな洋風。
 食パンに、スクランブルエッグに、ソーセージに、ベーコンに、チーズに……
 この形式は、案外嫌いじゃない。
 なぜなら食パンを活かせるから。

 一人暮らしようの小さな食パントースター。
 僕が一人暮らしするときに憧れて真っ先に買った、家で一番付き合いの長いものだ。
 そろそろ、多少ガタが来始めているような気がしなくもないけど、愛着のあるもの。
 完全に壊れてしまうまできっと僕はこれを使い続けるのだろう。

智「形あるもの、いつかは壊れる……」

 形あるもの、だけではないけど。
 形ないものもいつかはなくなってしまうかもしれない。
 壊れてしまうかもしれない。
 そのいつか、が今日明日でないことを祈るばかりだ。

智「ごちそうさまでしたっ!」

 パン!と手合わせ一つ。
 朝の補給は完了、それじゃあ今日も今日とて。

智「張り切っていこうっ!」


 ↓1
836 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/10(日) 22:52:59.70 ID:WlTTzCN4o
宮 伊代 赤猫と遊ぶ
837 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/10(日) 23:03:45.65 ID:925ef980o
 今日は宮和とお出かけ。
 心なしか、宮和の機嫌がいつもよりいいような気がする。
 一緒に歩いていても幸せオーラが飛んでくるような……そんな感じ。
 ちょっと、説明が難しいけれど。

智「……宮、何かいいことでもあったの?」

宮和「和久津さまと一緒に居られるだけで、宮は胸が弾んでしまいますわ」

智「それ以上!?」

 伊代にも匹敵する大きさの胸。
 それが弾んだら一体どうなってしまうのか。
 もしかしたらメートルを超えてしまうのでは?
 メートル胸……男のロマンがある。 一生に一度は見てみたいものだ。
 宮和の胸が弾んだら、その夢もきっと遠くない気がするけれど。

智「――――って、そうじゃなくて! 宮、いつもより機嫌がいいでしょう?」

宮和「そうでしょうか」

 きょとんと、とぼけ顔で。
 それを見て更に僕はわからなくなる。
 とぼけているのか、或いは生粋の天然さんか。
 宮和ならば、どちらもありうる。
838 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/10(日) 23:10:46.21 ID:925ef980o
宮和「どうかなさいましたか、和久津さま」

 僕の顔を覗きこんで、にっこり笑顔。
 真意を測りかねて、僕もとりあえず笑顔を浮かべておいた。
 ――君子、危うきには近寄らず。
 この件で宮和をこれ以上言及するのはよそう。
 なんとなく、命に関わるような気がする。

智「きょ、今日はどこにいこうか?」

宮和「わたくしは和久津さまがおられるなら、どちらへでもお供いたしますわ」

 智だけに? とか聞いてみたいけれどやめておこう。
 宮和なら笑顔で頷きかねない。

智「……そうだね、じゃあ」

 いくつか候補地を頭の中に浮かべた所で。
 人混みの中、見知った顔と眼があった。
839 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/10(日) 23:24:07.96 ID:925ef980o
智「あっ」

茜子「…………」

 まるで不意打ちに虫でも踏みつぶした時のような。
 そんな驚いた顔で茜子は僕を見ていた。

伊代「? どうしたの……って」

 傍にいた伊代も茜子の視線を辿り、僕に気付く。
 小さく手を振ると、伊代はちゃんと茜子の服の裾を確認し、手首を掴んでこちらへと寄ってきた。
 その胸が、若干揺れる。
 小走りでも揺れるその大迫力は巨乳クラスにしか出せないものだ。
 さっきも宮和とくらべていたけれど、やっぱり胸の大きさは伊代が一番大きい。

智「ユー・アー・ウィナー」

伊代「……え? な、なに? なんなの?」

 突然として言われ、戸惑う伊代。
 それを見て茜子は溜息一つ。

茜子「全く、このダメおっぱいメガネは。 空気読め」

伊代「えっ!? い、今の反応いけないの? いきなり言われたら戸惑うのも普通じゃない?」

茜子「そちらではなく」

 茜子はちらりと視線に訴えかける。
 その先は宮和。 そういえば茜子は宮和と初めてだったっけ。
840 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/10(日) 23:28:23.38 ID:925ef980o
 おうふ、ミスった。
 やり直します。
841 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/10(日) 23:30:15.34 ID:925ef980o
智「あっ」

茜子「…………」

 まるで不意打ちに虫でも踏みつぶした時のような。
 そんな驚いた顔で茜子は僕を見ていた。

伊代「? どうしたの……って」

 傍にいた伊代も茜子の視線を辿り、僕に気付く。
 小さく手を振ると、伊代はちゃんと茜子の服の裾を確認し、手首を掴んでこちらへと寄ってきた。
 その胸が、若干揺れる。
 小走りでも揺れるその大迫力は巨乳クラスにしか出せないものだ。
 さっきも宮和とくらべていたけれど、やっぱり胸の大きさは伊代が一番大きい。

智「ユー・アー・ウィナー」

伊代「……え? な、なに? なんなの?」

 突然として言われ、戸惑う伊代。
 それを見て茜子は溜息一つ。

茜子「全く、このダメおっぱいメガネは。 空気読め」

伊代「えっ!? い、今の反応いけないの? いきなり言われたら戸惑うのも普通じゃない?」

茜子「そちらではなく」

 茜子はちらりと視線に訴えかける。
 その先は宮和。
 きっと茜子的には自ら地雷に突っ込むその行動を言っているのだろう。
842 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/10(日) 23:31:09.81 ID:WlTTzCN4o
そういや、パーティーで合ってるか
843 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/10(日) 23:46:49.72 ID:925ef980o
宮和「ごきげんよう、白鞘さま、茅場さま」

 ペコリと丁寧に宮和が頭を下げる。

茜子「ふむ、くるしゅーない」

伊代「何言ってるのよあなたは! 失礼でしょ!」

 いい、伊代も少しぎこちなく『ごきげんよう』と言う。
 慣れないなら無理して合わせなくともいいと思うのに。

伊代「最近、よく一緒に居るのねあなた達」

茜子「こっ、これはもしやっ! 禁断の百合ップル爆誕か――――っ!?」

智「その花鶏が飛んできそうな発言はやめない!? そもそもそういうんじゃないから!」

宮和「和久津さま。 宮は大歓迎でございます」

 すっ、と僕の腕を音もなく掴み。
 ぎゅっと、まるで恋人のように腕に抱きついた。

智「!?!?!!!?」

宮和「和久津さまは、お嫌いですか?」

 嫌じゃない! 嫌いじゃない!
 けど、胸が、胸が!
 むにって、僕の腕が宮和の胸の中に!!

伊代「なっ……!?」

茜子「…………」

 宮和の突然のアプローチに僕だけならず伊代と茜子も動揺する。
844 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/10(日) 23:59:08.51 ID:925ef980o
伊代「ちょっ……やめなさい! ほっ、ほら、人前でしょう!?」

宮和「それはつまり人が見ていなければいい、ということですね。 それでは和久津さま、その路地の影に……」

伊代「そ、そういうことじゃなく!」

 混乱している伊代。 それでも持論を並べ立ててなんとか宮和を僕から引き離そうとする。
 それに対して宮和は順にその言葉の穴を見つけて反論を返す。
 どうやら意地でも僕の腕を離す気はないらしく。

伊代「――――っ!!」

宮和「――――」

 ……るいと花鶏みたいな、大仰な喧嘩とは違うけれど。
 口喧嘩な分、逆に大事に見えるというか……なんというか…………
 これを一言で表すなら、そう。

茜子「シュラバーですね」

智「あっ、あかねっ……!?」

 いつの間にか、宮和と反対側の腕を茜子は掴んでいた。 さながら、一瞬生えてきたかのように錯覚する。
 二人が相変わらず口論をしているのを尻目に、茜子はこそっと耳打ちをしてくる。

茜子「おっぱいメガネも、箱入りおっぱいも、感情が滅茶苦茶です。 さっさと止めたほうが良いのでは?」

智「そっ、そんなこといわれても……」

 ここまでヒートアップした喧嘩を収めるのは難しい。
 口八丁でやり込めてきた僕だけれど、僕が渦中でその原因だからこそ出来ないこともある。
845 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/11(月) 00:13:02.45 ID:By0nunmro
茜子「はぁ」

 呆れたように溜息を吐かれた。

茜子「この鈍感ボク女。 状況わかってますか?」

智「わ、わかって……」

茜子「いいえわかってません」

 即答!?
 茜子は尚も続ける。

茜子「今は、単純に二人があなたを引っ張り合っている状態です。 それは結局優柔不断が招いたこと」

茜子「ですので、智さん。 あなたがちゃんと選べば二人とも大人しくなるはずなのです」

智「…………」

 一理ある、けれど。
 果たして本当に止まるのだろうか。
 女の子の喧嘩は理屈よりも感情だとか聞いたことがあるし、甚だ疑問だ。

茜子「大丈夫です。 この二人はちゃんと理屈で行動出来ます」

智「…………、でも……」

 それでも躊躇う僕に茜子は呆れ果て。
 そして、精一杯息を吸って。
 僕が止めるよりもはやく、それを放った。

茜子「私とあの子のどっちが好きなのよ――――っ!!」

 ……口調は、いつもと変わらない平坦なものだけれど。
 それでも二人の喧嘩を一時的に止める分には十二分だった。
 茜子に視線で、『はやく答える』とせっつかれる。

 僕は、僕が選ぶのは――――


 ↓1
846 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/11(月) 00:15:28.90 ID:GHq4jDpk0
喧嘩をしない赤猫さん
847 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/11(月) 00:15:44.10 ID:YeiE3dE4o
848 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/11(月) 00:27:47.63 ID:By0nunmro
 深呼吸して。
 宮和、伊代、茜子の顔を見渡し。
 そして僕は、質問を投げかけてきた彼女に答える。

智「……僕は、茜子が一番好きだよ」

伊代「!?」

宮和「!?」

茜子「!?」

 三者三様の驚愕。
 質問をなげつけてきた茜子すらもこの答えは予想していなかったのか目を見開いて驚きの表情を見せた。
 冷静な思考を出来ない今のうちに、問題解決に乗り込む。

智「と、いうことで……宮、腕離してくれると嬉しいんだけど……」

宮和「……はい。 和久津さまがそうおっしゃられるなら」

 宮和は名残惜しそうに、指だけでも触れている最後の最後まで僕の腕の感触を堪能した。
 堪能させてもらったのは僕の方な気がするけれど……

智「伊代も、これでいいよね?」

伊代「えっ、あっ、はい、えっ、ええ、大丈夫よ、ごめんなさい。 わたし、ついカッとなっちゃって……」

宮和「いえ、お互い様、でございますよ。 お恥ずかしながら、宮も和久津さまが特別扱いする皆様に嫉妬してしまっていたようですので」

智「そっ、それじゃあ、二人とも。 ここで会ったのも何かの縁だし、皆で一緒に遊びにいかない? 仲直りも兼ねてさ」
849 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/11(月) 00:35:35.61 ID:GHq4jDpk0
策士智ちん
850 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/11(月) 00:42:32.39 ID:By0nunmro
 僕が提案したそれに伊代も宮和も返事二つで頷いた。
 よかった、これで大丈夫そうだ。

智「茜子も大丈夫だよね?」

茜子「えっ……あっ、はい。 問題ありません。 我らの母星、八連大宇宙との通信は途絶えておりませぬぞ」

伊代「なんの話をしてるのよあなたは」

宮和「母星なのに大宇宙なのですか」

 宮和のズレた突っ込みをよそに。
 僕らは結果、ボウリングに行くことになった。
 本当なら宮和と二人で行く予定だったけれど、これはこれで結果オーライ。 人数は多いほうが楽しいのだ。
 そうして向かおうと足を一歩踏み出した時、後ろから服の裾を引っ張られた。
 前を歩き出した二人は気付かず、少しばかり先をゆく。
 それを確認して、裾を引っ張った茜子は此処ぞとばかりに悪態を吐いた。

茜子「おいこのタラシ貧乳」

智「……何さそのネーミング」

茜子「当たり前です。 さっきのはどう考えてもあの二人のどちらかを選ぶところです」

茜子「それがなんで私を選ぶか」

 なんで、と言われても。
 それは最初は、二人のどちらかを選ぼうとしたけれど。
 何か違う、と思ったんだ。
 言ってしまうなら――そう。

智「……僕は、ただ自分に素直にしたがっただけだよ」

茜子「…………っ」

 茜子の顔が僅かに朱色を帯びる。
 きっと目を見て、僕の言葉が真実だとわかったのだろう。
851 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/11(月) 00:52:07.08 ID:By0nunmro
智「それじゃあ、行こう茜子。 二人とも待ってるよ」

 少し先を行った所で、宮和と伊代の二人は立ち止まってこちらを伺っていた。
 呼びかけて、茜子を仰ぎ見る。
 茜子はそんな僕にも気付かず、また溜息を吐いて。

茜子「…………これは、なんとまぁ」

智「何が?」

茜子「……なんでもありません」

 聞かれていたことに対してか、若干睨みつけて来ているような。
 それに少しばかり怯むと、茜子は僕より先に歩きはじめた。

茜子「この…………が」

智「えっ、何? 何か言った?」

 多分、いつもの変な呼び名か何かだと思うのだけれど。
 茜子はこちらをちらりとも見ずに、そのまま無視して歩き続けた。

智「……もしかして、嫌われちゃったかな」

 今度、何かプレゼントでもあげることにしよう。
 高級猫缶とかも一緒に添えて。


 そうして今日の僕らはいつも通り、平和に過ごしたのだった。
852 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/11(月) 00:53:30.74 ID:By0nunmro
 安価が余ってしまったので、ボーナス安価を行います。

 ↓1のキャラクター一名ずつを対象。
 そのレスのコンマにより好感度上昇が変化します。
 01〜50で小上昇。
 51〜80で中上昇。
 81〜00で大上昇。


 ↓1
853 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/11(月) 00:54:06.07 ID:85k0qEy7o
任甫
854 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/11(月) 00:54:43.81 ID:By0nunmro
 白鞘伊代 の好感度が少し下がりました。
 茅場茜子 の好感度が沢山上がりました。
 冬篠宮和 の好感度が少し下がりました。

 姚任甫 の好感度が少し上がりました。

 十日目を終了します。
855 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/11(月) 01:00:19.27 ID:By0nunmro
 十日目終了

 皆元るい  ☆☆☆☆
 花城花鶏  ☆☆☆☆
 鳴滝こより ☆☆☆☆☆☆
 白鞘伊代  ☆☆☆☆☆
 茅場茜子  ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 尹央輝   ☆☆☆
 才野原惠  ☆☆☆
 冬篠宮和  ☆☆☆☆☆
 ???   
 姚任甫   ☆☆☆☆
 今坂あやめ ☆☆


 最近ボーナス安価多い……申し訳ない。
 というわけで好感度高い同士が会うと若干の修羅場が発生します。 キャラによって匙加減は替わりますが。

 十一日目に行きますか?
 行く場合は十分程度遅れる(書く時間もあるので、実質二十分程度)かと思いますが、それでもよろしいなら。
856 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/11(月) 01:01:24.85 ID:85k0qEy7o
いこう
857 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/11(月) 01:01:41.25 ID:47FpHF0To
赤猫がダントツトップに踊り出たか。
続投で
858 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/11(月) 01:16:53.23 ID:By0nunmro
 ■十一日目■


智「今日の魚座は三位かぁ」

 何の気なしに見ていた星座占い。
 三位というのは十二ある星座の中からならいいのだろうけれど正直微妙だ。
 一位も言うほど良くはないと思うし。
 というか携帯などの占いでは順位が下のくせに総合運が上回っているということも多々存在する。
 つまりおざなりということだ。

智「でもまぁ、結果がいいと元気が湧いてくるよね」

 占いなんてものは、いいものだけを信じて悪いものは忘れてしまえばいい。
 そうそう悪い結果なんて出るものでもない気がするけれど。

智「そういえば胡散臭いのとかそういうのもやってそうだよね」

 なんか法外の値段を請求されそうな気がしなくもないけど。
 まぁ僕の目的は、目下占いよりも呪いを解くことの方が先決だ。
 今度あったらそれとなく聞いてみようかな。

智「それじゃあ、いってきまーす」

 そうして、僕は家を出た。


 ↓1
859 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/11(月) 01:19:14.41 ID:85k0qEy7o
エロゲーを買いに行く
860 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/11(月) 01:31:41.00 ID:By0nunmro
 僕が突如興奮したことは記憶に新しい。
 その結果、伊代に酷い罪悪感を抱いてしまった。
 本当は男なんだから処理するのは致し方無いとしても仲間をそういうことに使うのは間違っていたようだ。

 そんなわけで、今日は新しいモノを物色しに街まで出てきた。
 ……なんでわざわざ出てきたのだろうか、と自己嫌悪。
 だって、最近はネット通販だってあるのに。
 というかあのAVだってそうやって買ったものなのに。

 けれど初めてのものに手を出すのだ、実際に見てみないとわからない。
 そう、今日僕が買いに来たのはAVではなく、エロゲーだ。
 僕はとりたてて、二次元が嫁、だとかそういったことは全く無いけれど、ネットサーフィンをしているとたまに劣情を催すものもある。
 実在していない分、手頃にすることが出来るかもしれない、というのが僕の弁。
 そして、AVと違ってモノによっては女性のユーザーも多いらしい。
 それなら別に恥ずかしくはない。 ……いや、恥ずかしいけれど。

智「……わざわざ、街まで出てきたんだしね…………」

 田松市にもそういったゲームショップはあるけれど。
 何かの間違いで知り合いに見られてしまったらたまったものじゃない。
 だからわざわざ遠出してきたのだ。 このまま手ぶらで帰るのも嫌だ。

智「それじゃ、行きますか……」

 全国展開している、有名なアニメ・ゲームショップへ。
861 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/11(月) 01:40:24.09 ID:By0nunmro
 店内には女性が多かった。
 三大アニメショップの中でも一番の女性向け、そこを僕は選んだ。
 ちらほらと男性はいるけれど、比率で表すと七:三ぐらいだ。 目を気にすることもない。

 アニメグッズの並ぶ棚を潜り抜け、薄い本(男の娘ものが偶然目に入った)に戦々恐々とし。
 そこでようやく、一番奥のエロゲコーナーに辿り着いた。
 人はあまり居らず、品数もそれほど多くはない。
 それでも有名どころや新しい作品はひと通り揃っているようだ。

智「……いろんなのがあるんだ」

 軽く見渡すと、ジャンル別に別れている。
 僕はエロゲ初心者もいいところで、良し悪しなど全くわからない。
 だからジャンルから選ぶのが一番だと思う。
 さて、どれにしようか。


 ↓1
862 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/11(月) 01:41:55.56 ID:47FpHF0To
陵辱、調教もの
863 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/11(月) 01:47:42.82 ID:LtggpTcWo
よりにもよってww
864 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/11(月) 01:56:40.64 ID:By0nunmro
智「んと……」

 陵辱・調教の作品を一つ手に取る。
 パッケージには露出度の高い鎧を身にまとった金髪の女のキャラクターが白濁液を身にまとってこちらを睨みつけていた。
 どうやら姫騎士を好みに調教していくものらしい。

智「……これでいいかな」

 説明を見るとどうやらこのキャラクター以外にもロリ系の妹と、熟女系の母親がいるらしい。
 オールラウンダーの僕には何ら心配はない。
 というか家族なのに髪の色が違うってどういうことなのだろうか。
 気になる。

智「まぁ、いいか」

 一応他にもなにかないか見てみよう。
 そう思い、棚を見たまま一歩後ろに下がると、

「わわっ」

智「あっ、と。 ごめんなさいっ」

 ばっ、と飛び退く。
 どうやら後ろに人がいたようだ、気が付かなかった。
 振り向くと、小さな彼女も頭を下げて、謝罪をしていた。

「いえ、こちらこそ。 よそ見してて……って」

智「あれ」

 見覚えが。
 誰だっけ…… 
865 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/11(月) 02:04:08.67 ID:By0nunmro
 見覚えがあるのはそちらも同じようで、しきりに首を傾げていた。
 面識はないはずなんだけど、どこかで見たような。
 んー……?

「えっと……どこかでお会いしたこと、ありましたっけ?」

智「いや……でも、見たことあるような、ないような……名前を聞けば思い出すかも」

 ああ、と少女もぽん、と手を打つ。

真雪「私は柚花真雪です。 そちらは?」

智「僕は和久津智」

 柚花真雪。
 うーん、やっぱり聞き覚えのない。

真雪「……なんでしょうね、この違和感」

智「さあ……」

 僕に聞かれても。
 一応南総学園の有名人だけれど、それは局地的な話だし、そもそもそれならこちらがそっちのことを見たことがあるというのがおかしい。

真雪「……それはともかくとして。 少し避けて貰えますか?」

智「あ、うん。 ごめんね」
866 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/11(月) 02:13:16.85 ID:By0nunmro
 柚花……さんは僕と同じコーナーに用があったようで、上から下までザッと見る。
 そして小さく息を吐いた。

真雪「やっぱり、ここにはないですね……他行きましょうかね」

智「柚花さんは、ゲーム歴長いの?」

真雪「はい、そこそこには。 そういう和久津さんはどうなんです? さっき随分悩んでいたみたいですけど」

 見られてた?
 もしかして僕が悩んでる間ずっと後ろに、とか?
 ……それはないか。

智「僕は今日が初めてで。 どれがいいのかなって悩んでたの」

 柚花さんは僕の手元をちらりと見て、若干動揺する。

真雪「りょ、陵辱もの……初めてなのに中々エグいですね……」

智「いっ、いや! 僕の趣味じゃないから! ただ偶然目に入っただけだから!」

真雪「それが目に付く時点で割とそういう素質有りだと思いますよ、私は」

 確かに普通の人は見向きもしないだろうけどさ!
 仕方がないじゃん、本当なんだから!
867 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/11(月) 02:26:57.97 ID:By0nunmro
智「……そういう柚花さんは、ここにはないって言ってたけど。 どんなのを探してたの?」

 方向転換、攻守逆転。
 しかしそれに怯むことなく、柚花さんはすらすらと告げる。

真雪「ええと、双子の姉と弟が女学院に入学して他の女生徒を堕としていくゲームです」

 頭が真っ白になった。
 つまりそれって……

智「男の娘もの……?」

真雪「あ、その言葉知ってるんですね」

智「な、なんでそんなもの……」

 もしや、任甫さんの同類とか?
 確かに女の子なら男の娘好きがいてもおかしくはないけど……ないけど……!

真雪「いえ、ネットの知り合いが噂を聞いて探しているんです。 どうせなら、ポイントとか付きますからこういうところで購入してあげようかと」

智「ああ、なるほど……」

 安心と納得が同時に来た。
 ああよかった……
868 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/11(月) 02:30:03.22 ID:By0nunmro
真雪「それじゃあ私はそれを探しにいきますので、これで」

智「あ、うん。 じゃあね」

真雪「はい、さようなら」

 柚花さんは振り返りもせず、店から去っていった。

 人との出会いは一期一会。
 きっと僕と彼女が出会ったのもただの偶然で。
 でも、もしかしたら。
 僕らがまた出会うこともあるのかもしれない。
869 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/11(月) 02:30:55.82 ID:By0nunmro
 安価が余ってしまったので、ボーナス安価を行います。

 ↓1のキャラクター一名ずつを対象。
 そのレスのコンマにより好感度上昇が変化します。
 01〜50で小上昇。
 51〜80で中上昇。
 81〜00で大上昇。


 ↓1
870 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/11(月) 02:33:00.36 ID:47FpHF0To
真雪
871 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/11(月) 02:33:30.72 ID:By0nunmro
 柚花真雪 の好感度が少し上がりました。

 柚花真雪 の好感度が少し上がりました。

 十一日目を終了します。
872 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/11(月) 02:36:34.53 ID:By0nunmro
 十一日目終了

 皆元るい  ☆☆☆☆
 花城花鶏  ☆☆☆☆
 鳴滝こより ☆☆☆☆☆☆
 白鞘伊代  ☆☆☆☆☆
 茅場茜子  ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 尹央輝   ☆☆☆
 才野原惠  ☆☆☆
 冬篠宮和  ☆☆☆☆☆
 ???    
 姚任甫   ☆☆☆☆
 今坂あやめ ☆☆
 柚花真雪  ☆☆


 あまりに多いので、次からボーナス安価のシステム変えますね……
 余りが二つ溜まったら一回行うことにします。

 明日はお休みします。
 明後日、何も予定が入らなければ十時前後に。

 それでは、また。
873 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/11(月) 02:37:08.41 ID:47FpHF0To
874 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/11(月) 08:53:34.71 ID:85k0qEy7o
875 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/11(月) 09:01:30.51 ID:Qd/odVll0
赤猫押しは俺的に良い展開だ
乙!
876 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/11(月) 12:31:15.87 ID:4QUq4q1AO
あなたって本当に最低の屑だわ!
…言って見たかっただけです。乙
877 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/12(火) 21:46:03.78 ID:dlkYOd31o
 きたでー

 一応言っておきますねー
 エンディング条件は満たしてるんで単体指定したら安価によっぽどの付加条件がない限りすぐにエンディングになります。
 あんまり放おっておくとゴニョゴニョですから気をつけてくだしあ
878 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/12(火) 21:54:42.56 ID:dlkYOd31o
 ■十二日目■


智「ふー、今週ももう終わりかー」

 制服を着ながらカレンダーを見て、ほっと一息。
 今週も生き延びることができました。

智「まぁまだ終わったわけじゃないけどね」

 溜まり場に行ったり、遊びにいったり、泊まったり。
 週末だし、そんな予定も入るかもしれない。

智「まぁ、よっぽど油断しない限りは大丈夫大丈夫」

 今までだって、皆とそうやってこれたんだし。
 ……いや、お風呂とかお泊りとか、そういうのは少し危険だけれど。
 耐えられた事例もあるんだから、うん。 大丈夫。

智「うん、今日も女の子」

 くるり、と鏡の前で一回転。
 ふわりと浮くけれどそれだけ、わくわくさま鉄壁のスカートは今朝も現在。

智「いってきまーす」

 返事の返ってこない言葉を居間に投げかけ。
 そして今日もまた、日常へと出かける。


 ↓1
879 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/12(火) 22:01:56.18 ID:SaiASfWto
エロゲープレイ
880 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/12(火) 22:21:06.45 ID:dlkYOd31o
智「ただいまー」

 授業を終えて、僕は真っ直ぐに帰ってきた。
 何故かといえば、昨日買ってきたゲームをやるためだ。
 家事に使う時間はそれほどでもないけれど、勉強などの時間もあるから出かけて帰ってきてからだとゲームをやる時間がとれなかった。

智「えっと……」

 こういうのは初めてだから勝手がわからない。
 かと言って人に聞くわけにはいかないし。
 箱の中身を開くと、でかい箱なのに中身はCD-ROMと数枚のハガキ大の用紙、そして箱に書かれていたものと同じ絵柄が書いてあるユーザーサポートマニュアルだ。

智「これを先に読むべきなのかな……いいや、わからなくなったら読もう」

 伊代とかだと全部読み終わってから次に進めそうなものだけれど、そんなデリケートなものでもないだろう。
 CDの入っているケースのビニールを丁寧に剥がし、中から取り出す。
 そしてそれをパソコンにそのままいれた。
 カリカリカリ……とCDを読み込む音が聞こえて、数瞬遅れてCDのデータを使用するかしないかと表示される。

智「勿論する、で」

 その窓は閉じ、代わりにインストール、アンインストール、閉じるが表示される画面が開く。
 インストールを押し、進めていくとステータスバーが現れて現在のインストール状況が表示された。
 データ容量が多いのか、時間が少しかかるみたいだった。
881 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/12(火) 22:39:11.05 ID:dlkYOd31o
智「今のうちにお茶でもいれておこうかな」

 素早く移動して、お湯を沸かしにかかる。
 使うのはティーパックではなく、れっきとしたお茶の葉だ。
 以前、宮和と出かけた時に寄り、これいいなと思って数グラムだけだけれど購入したものだった。
 そんなに贅沢は出来ないから、これから買うとしても月に一度ぐらいのものだろうけれど。

智「良い香り」

 少量ティーポッドに移して、カップも用意する。
 この葉はカップも予め温めておいたほうが良いらしく、少しばかり多めにヤカンに水をいれておいた。
 数分もするとお湯が湧いて、先にティーポッドにお湯を注いで蓋をする。
 次に余ったお湯をカップに注いで、まんべんなく暖かさが伝わるようにぐるりと回した。

智「完成ー」

 完成と言っても紅茶だし、たいしたものではないけれど。
 戻ったらパソコンの画面にはインストール完了、と表示されていた。

智「それじゃあ、初めましょう」

 紅茶を注ぐと、香りが部屋にふわっと広がった。
 初体験に少しばかりドキドキしている心をその香りは中和するように鼻孔をくすぐる。

智「……よし」

 セットアップ画面にはインストールボタンの代わりにプレイボタンが表示されていた。
 僕は意気込み(或いはそれを興奮しながらと呼ぶのかもしれない)つつ、プレイボタンを押したのだった。
882 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/12(火) 22:40:03.91 ID:dlkYOd31o
 ↓1
 (これから、何が起こるか)
883 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/12(火) 22:48:30.08 ID:W09KEiN/o
朝までやって完全クリアする
884 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/12(火) 22:53:02.39 ID:tPVr+cC2o
抜きゲーを1日でクリアするまでやるのか・・・ 結構きついぞwwww
885 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/12(火) 23:00:34.22 ID:dlkYOd31o
 ――――それから。
 僕はゲームをやり続けた。

 勿論、食事はとった。
 最小限に、食べながらもプレイできるようにおにぎりだけだったけれど。
 そして僕は、ゲームをやり続けた。
 やり続けなければならない、何かしらの抑制力が働いていたのだと思う。
 そうでなきゃ、僕がここまでやるなんて思えない。
 ……よっぽど、性欲に飢えてない限り、きっとそうだと言い切れる。

 時刻は十二時を回った。
 しかし僕はゲームを続けた。

 時計は三時を指した。
 けれども僕はゲームを続けた。

 いつの間にか六時で、夜が明けていた。
 けれども僕はゲームを続けた。

 メールが来ていたような気がする。
 電話がなっていたような気がする。
 来客があったような気がする。

 それでも僕は、ゲームをし続けた――――
886 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/12(火) 23:12:39.57 ID:dlkYOd31o
 そして時刻は、午前七時半。
 家の外では雀や鳩や烏が鳴いている。

 寝ずにプレイして、半日。
 CGモード、回想モード、エンディング回想。
 その全てを僕は完全にコンプリートした。
 正直、後半は何周もしていたからスキップモードを駆使してようやく、というレベルだ。

智「…………面白くは、あったかな」

 少なくとも値段分の価値はあったと思う。
 ヒロインの心理描写もはっきりしていたし、墜ちるまでの過程もよかった。 陵辱、調教プレイも豊富だった。
 いくつも僕が処理に使えそうなシーンもあったし、実際に何度も処理した。
 一晩でこんなに処理したのは初めてではないかと思う。

 僕は、エロゲーというものをどこかで侮っていたのかもしれない。
 ただの二次元のえっちぃ絵が付いている小説だと思っていたのかもしれない。
 けれどその認識は僅か、誤っていたのだと思う。
 今にも瞼が落ちそうな中、僕はぽつりと呟く。

智「エロゲーって、すごい」

 昨日……いや、一昨日見たコーナーでは他にも沢山のゲームがあった。
 泣きゲーとか、熱血ものとかも。
 僕が選んだのは処理するためのゲーム、所謂抜きゲーからのジャンル、陵辱、調教からの選択だったけれどそれ以外にもハーレムだとか、ロリだとか、寝取られだとか。
 ――他のは、一体どんなものなのだろうか。
 若干、気になり始めた今日このごろだった。
887 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/12(火) 23:13:14.04 ID:dlkYOd31o
 好感度変化はありませんでした。

 十二日目を終了します。
888 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/12(火) 23:14:42.78 ID:tPVr+cC2o
終わったwwwwww
889 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/12(火) 23:15:40.84 ID:dlkYOd31o
 十二日目終了

 皆元るい  ☆☆☆☆
 花城花鶏  ☆☆☆☆
●鳴滝こより ☆☆☆☆☆☆
 白鞘伊代  ☆☆☆☆☆
 茅場茜子  ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 尹央輝   ☆☆☆
 才野原惠  ☆☆☆
 冬篠宮和  ☆☆☆☆☆
 ???     
 姚任甫   ☆☆☆☆
 今坂あやめ ☆☆
 柚花真雪  ☆☆


 なんというか、風呂敷の広げようがありませんでした。 申し訳ございませんです……

 十三日目、続けますか?
890 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/12(火) 23:16:37.37 ID:SaiASfWto
はい
891 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/12(火) 23:20:36.13 ID:Fc9G7mhh0
くっそわろたww
892 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/12(火) 23:22:33.38 ID:Fc9G7mhh0
あ、続けるで
893 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/12(火) 23:24:29.31 ID:/NZVYSSz0
きてたか!
続けるで!
894 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/12(火) 23:26:19.99 ID:dlkYOd31o
 ■十三日目■


智「眠い……」

 大きな欠伸を一つ。
 ああ、頭がまともに働かない。
 今日が休みでよかった。 休みでなかったら自主休講にするところだった。

智「今日は、やること……あったっけ……?」

 ぼんやりとした頭で考える。
 お風呂、はいってなかったっけ。
 冷蔵庫の中身も心もとなかったような気がする。
 そういえば昨日も一昨日も溜まり場に行ってなかったな。

智「……まぁ、いいか」

 ただ只管に、眠い。
 オールナイトのゲームプレイ、その代償は果たしてこれ以上無い睡眠欲だった。
 僕はパソコンをシャットダウンし、そのままふらふらと布団に倒れた。

智「おやすみー」

 また、明日。


 ↓1
 (何が起きるか)
895 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/12(火) 23:26:31.11 ID:W09KEiN/o
続けよう
896 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/12(火) 23:27:12.10 ID:/NZVYSSz0
るいと花鶏とそれぞれ同時に遊びに誘われる
897 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/12(火) 23:28:30.50 ID:W09KEiN/o
>>895はミス
安価下で
898 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/12(火) 23:34:38.91 ID:dlkYOd31o
 ――――――ピリリリリリリ


 ――――――ピリリリリリリ


 耳を劈く音。
 寝ぼけ眼を開き、しかしあまりに眠くて閉じ。
 手探りで携帯を探した。

智「……ぁった…………」

 相手が誰かすら確認せず、電話にでる。

智「ふぁい」

花鶏『智ちゃん、おはよう。 今日のパンツは何色かしら?』

智「えっとね……白だったかな……」

花鶏『……!?』

花鶏『……はぁ、はぁ……智ちゃんの白パンツ……! い、いえ。 嘘を付いているかもしれないわね……!』

智「えー……そんなことないよ……」

花鶏『いいえ、智ちゃんのことだからわたしをぬか喜びさせるに違いないわ! これはすぐに確かめなきゃ! 今どこにいるのかしら!?』

智「ん……家」

花鶏『智ちゃんの家ね! わかったわ、すぐに行くから!! あそこを洗って……いえ、首を洗って待っててちょうだい!』

 ……あれ、でんわ切れてる。
 僕、何言ったっけ……
 まぁ、いいか……
899 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/12(火) 23:37:11.82 ID:tPVr+cC2o
起きろ智ちん、死ぬぞ・・・!
900 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/12(火) 23:41:14.41 ID:Fc9G7mhh0
デッドエンドフラグは身近に転がっている
901 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/12(火) 23:43:07.42 ID:dlkYOd31o
 ――――――ピンポーン


 もぞり、と寝返りをうつと、今度はチャイムが鳴り響いた。
 出るのが面倒くさい……今は眠いの。
 だから居留守を使おう。


 ――――――ピンポーン


るい『トモち――ん、おっはよ―――――――っ!!』


 ――――――ピンポンピンポンピンポーン


るい『あっれ、おっかしいなぁ、寝てるのかなぁ……』


 ――――――ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポーン


るい『うーん……トモちーん?』

 諦めたかと思いきや、今度はドアをドンドンと叩く。
 ……五月蝿いなぁ、眠れやしない……
 仕方がない、適当に出てすぐに帰ってもらおう。

るい『トモちーん、いるなら返事して――――っ!』

智「いるよーっ……」

 がちゃり、と玄関のドアを開く。
 ふぁー、と大きな欠伸を一つ。 寝ぼけ眼をこすり、そこにいる人間を確認する。
902 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/12(火) 23:49:33.76 ID:tPVr+cC2o
         。 。
       , -'―'-、
   /i\(::(・ω・) <出番と聞いて
   ⌒'⌒/レ::::::::レ  
       .しー-J
903 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/12(火) 23:56:04.33 ID:dlkYOd31o
るい「あっ、おっはよ、トモちん! 昨日も一昨日も来なかったから、心配し……」

智「……あれ、るい? どうしたの、こんな朝早くから……」

 るいは驚いている。
 むしろ驚くのは僕の方だと思うのだけれど……
 それにしても、眠い……

るい「と、智? どうしたのさその格好? 髪ボサボサだよ!?」

智「ふぇ……?」

 僕は今、寝間着の筈だ。
 だから、別に髪がボサボサでも問題はない……気がする。 別に外に出るわけじゃないんだし。

智「えっと……用がないんなら、ごめんね。 今、僕眠いんだ……ふぁ……」

るい「え……う、うん。 ええと……智ちん、元気、だよね? うん、それならいいんだ、うん……」

智「うん……じゃあね」

 そういって扉を閉めようとすると、るいが待ったをかけてきた。
 一体なんだろうと思うと、僕の髪のあたりをくんくんと犬のように嗅ぎまわる。

るい「やっぱり……トモちん、昨日お風呂はいってないでしょ? なんか変な臭いするよ」

智「うん……今日の夜入るよ……」

るい「ダメだよ! トモちんは可愛いんだから、毎日お風呂入らなくっちゃ! 眠いなら、るいねーさんが洗っちゃるから!」

智「……んー」

 洗ってくれるなら別に、いいかな?
 そう思った傍に、僕のアパート前にバイクが止まる。
904 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/13(水) 00:07:04.81 ID:mAOgV4ayo
花鶏「智ちゃん! この花鶏お姉さまがその言葉の真偽を確かめに……来……た……?」

るい「あ、花鶏」

智「花鶏も……ふぁ、おはよう……」

 挨拶をするけど、返事はなし。

花鶏「なにこれ。 なんで皆元が智ちゃん(寝間着ver)とイチャコラしてるの? これおかしくない?」

るい「別におかしくもなんともないよ。 さ、トモ。 早くお風呂はいろう」

花鶏「お風呂!? 智ちゃんの寝間着姿を一人で堪能した上にお風呂まで!? 許さないわ、その権利譲りなさい!」

るい「絶対譲んねー!」

 花鶏はものすごい勢いで階段をかけ登ってきて、るいはそれを迎え撃つ。
 がっし、ぼっか。
 狭い場所で暴れるので、足元がギシギシと音を立てた。

 ……さて。
 僕は、どうしようか。


 ↓1
905 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/13(水) 00:08:39.64 ID:mB8O0Gxmo
目がくっきり覚めて現在の状況を確認する
906 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/13(水) 00:18:37.74 ID:mAOgV4ayo
智「ん……んー…………?」

 何か、おかしくない?
 ふるふる、と頭を左右に振る。
 そこでようやく、目の前で起きている出来事を明確に認知することが出来た。

るい「――――!」

花鶏「――――!」

智「ちょっ……二人とも何してるの!?」

 二人が喧嘩していた。
 いつものことだけれど家の前では迷惑がかかるし、万が一階段から落ちたりしたら危ない。
 ので、僕は身体を張って二人の間に入り込み喧嘩を止める。
 二人とも息が荒く、とても興奮しているようだった。

智「一体、何があってこんなことになったの!?」

るい「こいつがわけわかんねーこというからに決まってる!」

花鶏「皆元が智ちゃんとお風呂入るってうらやまけしからんことを言うからに決まってるわ!」

 ……ええと。

智「なにそれ?」

花鶏「はっ、ほれみなさい! 智ちゃんはあなたなんかとお風呂には入らないって言ってるわ!」

るい「だからって花鶏とも入るなんて一言も言ってないじゃんか!」

 そういうるいに、花鶏は勝ち誇ったような表情を浮かべる。
 髪を掻き上げて、そして僕をちらりと見て。

花鶏「残念だったわね。 智ちゃんはわたしにその白パンツを見せる約束をしてるのよ」

智「なにそれ!?」

 先ほどよりも七割増しの驚きだった。
907 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/13(水) 00:25:11.61 ID:mAOgV4ayo
花鶏「まっ、まさか……智、わたしを謀ったというの……!?」

智「いや、謀ったもなにもそんな約束してないよ!?」

 多分。
 その言葉を聞いて、ショックで花鶏は膝をついた。

花鶏「そんな……まさか智ちゃんがわたしを騙すなんて……」

るい「そらみろ。 花鶏もトモに振られてんじゃん」

智「いや、振るも何も……」

 るいに弁解していると、花鶏の肩が小刻みに震えた。
 小さく、笑いも混じる。

花鶏「ふっ、ふふ……ふふふふふ、ふふふふふふふふふふふっ!!」

智「なっ、なに!?」

 すごい不気味なんだけど!?
 そう思うと同時、ゆらり、と。 まるで死体が起き上がったかのように花鶏は起き上がる。

花鶏「全く、智ちゃんは小悪魔ね……このわたしを騙すだなんて……」

智「いや、だから騙してなんて……」

花鶏「そういうイケナイ子には……お仕置きが必要よね?」

 キラリ、と。
 花鶏の瞳が怪しく光った。
908 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/13(水) 00:33:20.42 ID:mAOgV4ayo
智「ひっ」

 その視線に射抜かれた僕は、蛇に睨まれた蛙のように硬直してしまった。
 殺られる……いや、犯られる!?

花鶏「ふふっ……ふふふふごふぁっ!?」

 花鶏が僕に襲いかかるその寸前。
 るいのラリアットが花鶏の首にジャストミートした。
 一回転し、地面に墜ちる。

るい「――成敗っ!」

智「あ……ありがと、るい…………」

 勿論加減はしたのか、花鶏はぴくぴくと痙攣したように動いている。
 先ほどの動きを見たから、まだこれから起き上がるのではないかと怖い。

るい「……トモ、ごめんだけど家の中少し貸してもらえる? 花鶏、このままだと邪魔になるからさ。 あと、今のうちにお風呂入ってきなよ」

智「う、うん。 あっ、るいとは入らないからね!?」

るい「わかってるって。 おかしいと思ってたけど、やっぱりトモちん寝ぼけてたんだね」

 にひひと笑うるい。
 そのるいを見て、僕は照れ笑いを浮かべる。

るい「珍しいモンみちゃった! 今度皆にあったら自慢しよっと」

智「恥ずかしいからやめてよ!?」

るい「どーしよっかなー? 明日のことなんてわかんないしなー」

 誂うようにるいは僕を見て、笑う。
 きっと彼女は言わない。 自分の心のなかにしまって、二人きりの時にたまに弄る程度だろう。
 まぁ、そのぐらいは許してあげよう。 花鶏の魔の手から救ってくれたのだし。
909 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/13(水) 00:38:42.88 ID:mAOgV4ayo
智「とりあえず入って。 お茶ぐらいは出せるからさ」

るい「それじゃ、おっじゃましまーす」

 るいは花鶏を背負って楽しげに僕の家へと入っていく。
 僕それを見送って、周りに通行人がいないかどうかを確認した。

智「……ふぅ。 誰も見てなかったみたいだね」

 喧嘩してるとかで警察に通報でもされると大変だったからね。
 よかったよかった。

智「さってと、僕もお風呂はいろっと」

 るいが居るとはいっても、ちゃんと鍵をかけて入らないとね……
 そう思いながら扉を閉める、その瞬間。
 視線のようなものを感じた。

智「……?」

 しかし、周りには誰も居らず。

智「……気のせい、かな?」

 僕はそう思い込み、そのまま扉を閉めたのだった。
910 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/13(水) 00:40:12.08 ID:mAOgV4ayo
 皆元るい の好感度が上がりました。
 花城花鶏 の好感度が少し上がりました。

 ■■■■■ の■■■が少し上がりました。

 十三日目を終了します。
911 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/13(水) 00:42:52.39 ID:mAOgV4ayo
 十三日目終了

 皆元るい  ☆☆☆☆☆☆
 花城花鶏  ☆☆☆☆☆
●鳴滝こより ☆☆☆☆☆☆
 白鞘伊代  ☆☆☆☆☆
●茅場茜子  ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 尹央輝   ☆☆☆
 才野原惠  ☆☆☆
 冬篠宮和  ☆☆☆☆☆
 和久津真耶 
 姚任甫   ☆☆☆☆
 今坂あやめ ☆☆
 柚花真雪  ☆☆


 好感度表もいーかんじになってきましたね。

 時間余ってますし、十四日目に進みますか?
912 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/13(水) 00:43:09.50 ID:mB8O0Gxmo
じゃ、続投お願いします
913 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/13(水) 00:44:12.19 ID:mAOgV4ayo
 あっやば
914 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/13(水) 00:44:16.23 ID:mB8O0Gxmo
所で好感度表の黒丸は一体何ですか?
915 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/13(水) 00:48:47.62 ID:mAOgV4ayo
 なんでしょうねー私にはわかりかねますねー
 それでは続きはじめまする
916 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/13(水) 00:49:35.21 ID:QaVMnnGl0
>>914
俺も気になってた!
917 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/13(水) 00:51:05.67 ID:mB8O0Gxmo
ときメモの爆弾みたいな感じだったりするのだろうか?
918 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/13(水) 00:51:58.25 ID:ty9kFdp10
爆弾だと…… エンディングいけます印じゃないのか
919 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/13(水) 00:56:40.66 ID:mAOgV4ayo
 ■十四日目■


智「すっきり」

 昨日はるいと花鶏が帰ってから一日中寝てたから目もはっきりと冴えている。
 というか昨日は危なかったと思う。
 少しでも目がさめるのが遅れていたら、呪いを踏んでいたかもしれない。
 そう思うと、背筋に悪寒が走る。

智「と……とりあえず、助かったのだからよかったとしよう、うん」

 これからは意識不明の状態で何か行動をするのはやめておこう。
 仮に。 仮にだけど。 裸のまま、接客する、なんてこともあるかもしれないし。
 そしてそれが任甫さんとかだったりすると、もうヤバイなんてものじゃなくなるし。

智「……外に、出ようか」

 家の中にいたら際限なくマイナス方向に悪いことを考えそうな気がする。
 兎角、外に出よう。

 さて、どこにいこうか?


 ↓1
920 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/13(水) 00:57:27.27 ID:mB8O0Gxmo
こよりと赤猫と遊ぶ
921 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/13(水) 01:00:16.40 ID:QaVMnnGl0
たまり場に行くと、そこに居たこよりと赤猫といっしょにお出かけすることになった
922 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/13(水) 01:09:16.31 ID:mAOgV4ayo
智「お」

茜子「あっ」

 街を歩いていると、猫を引き連れている茜子に出会った。
 茜子は抱えていた黒猫……確かガギノドンを下ろして僕の近くに寄ってくる。

茜子「三十年ぶりです、お変わりないようですね」

智「いやいやそんなに会ってなくないから。 精々四日だから」

 それに三十年も経って変わってないって怖いよ!

茜子「時にあなたは、この四日一体何をしていたのですか? 昨日一昨日はおっぱいのメールや電話にもでなかったそうじゃないですか」

智「街に出かけてたり、家でやることあったり……まぁ色々だよ」

茜子「…………嘘はついていないみたいですね」

 もしかして、心配してくれたのだろうか。
 茜子にしてはなんだかこんな真っ直ぐな心配の仕方は珍しい。

茜子「それでは質問を変えます。 この数日間、誰かと密会とかしましたか?」

智「えっ」

 密会……昨日のるいと花鶏、あれは密会といえるのだろうか。
 別に隠れてたわけじゃないし、あっちが勝手に来ただけだから……違う、かな?

茜子「……ふむ、グレーですか。 まぁ、よしとしましょう」

智「あはは……」

 何がいいのか、よくわからないけれど。
 とりあえず僕は茜子に許されたのだった。
923 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/13(水) 01:10:21.70 ID:QaVMnnGl0
爆弾だったのか……あぶねぇ……
924 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/13(水) 01:11:35.70 ID:ty9kFdp10
一日千秋の思いでお待ちしておりましたとかかわいいやん
925 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/13(水) 01:20:45.93 ID:mAOgV4ayo
こより「ついー」

智「……あれ?」

 うさぎみたいなツーテール。
 人混みを綺麗に縫う彼女は、正しく鳴滝こよりだった。

こより「ついー」

智「おーい、こよりー!」

 ひと目も憚らずに叫び、手を振った甲斐があり、こよりはすぐにこちらに気がついた。
 ピョンピョン跳ねながら笑顔でこちらへと寄ってくる。

こより「ともセンパイ〜っ! お久しぶりッスよ〜!」

 ぐるぐると僕の周りを回るこより。
 僕の前で後ろ手に腕を組み、ぴたりと止まったところで頭を撫でる。

智「よしよし」

こより「うにゅ〜っ!」

 まるで顎をゴロゴロしている猫のように気持ちよさそうな顔をする。
 小動物チック、可愛い。
926 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/13(水) 01:30:08.45 ID:mAOgV4ayo
 ふと、こよりは僕の後ろにいた茜子に目を向けた。
 そして目を丸くする。

こより「はれ、茜子センパイどーしたんですかそんなに不機嫌そうな顔して? もしかして鳴滝、何かいたしましたか!?」

 撫でる手を止めて茜子を振り返ると、確かに不機嫌とも取れなくもない表情をしていた。

智「本当だ。 茜子、どうしたの?」

茜子「……あなたは私の心配なんてせずに、周りの心配だけしていれば良いのですこのビッチ」

智「あれま」

 どうやら何かしたのは僕の方だったみたいだ。
 心当たりはないけれど、もしかしたらこよりを撫でてたのが原因かな。
 茜子も、もしかしたら撫でて欲しかったとか?
 ……それはないか。 だって触れたら呪いを踏んじゃうわけだし。

こより「……むーん」

 こよりは顎に手を当てて頭を捻る。
 そしてピコン、と頭に電球を光らせた。

こより「事件のかほりがします!」

茜子「そんなものありませんロリっ子迷探偵」

こより「うっはぁ! 鳴滝名探偵ですってともセンパイ!」

智「字が違うと思うよ」
927 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/13(水) 01:46:47.09 ID:mAOgV4ayo
 女が三人揃えば姦しい。
 僕は男だけれど、それまでに馴染めてるということで一つ。

 僕らは傍からみれば似ていない姉妹のようなものだったのだろう。
 仮にも全員が全員(不本意ながらも)美少女だったという点で、騒いでいても可愛いと評されて温かい眼差しを向けられるだけですんだのだった。

智「三人いることだし、どこか遊びに行こうか?」

こより「鳴滝も賛成ッス! ……茜子センパイはどうしますか?」

茜子「……行かないというとでも思ったか、バカめ!」

 カッ、と目を見開いてへんてこなポーズをとる。
 なんの意表をついたのかわからない。
 逆にそう思うことが意表をつかれたということだろうか。

智「……とりあえず、何処に行くか決めようか」

 そういうと、こよりと茜子にジッと見つめられた……ような気がした。
 なんだか、この選択に重要な何かがかかっているような気がする。
 気がした、気がする、ばかりだけれど。 多分実際にそうなるのだろう。
 ならば、僕も気合をいれて挑まねばなるまい。

 さて、何処に遊びに行こうか?


 ↓1
928 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/13(水) 01:49:07.65 ID:QaVMnnGl0
コスプレ専門店で皆で試着しまくる
929 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/13(水) 02:00:22.31 ID:mAOgV4ayo
智「……ちょっと、趣向を変えてみようか」

 少し前、エロゲーを買う時にココらへんにもないのか少しだけ調べた。
 その時にちょっとした面白いお店を見つけたのだ。

こより「なんですか? その趣向って」

茜子「……ふむ。 茜子さん好みの香りがしますぞ?」

 いーかんじに興味を引きつけられたみたいだ。
 パン、と一度手を叩く。

智「それじゃ、いってみよー!」

 いざ、コスプレ専門店へ。
930 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/13(水) 02:16:20.61 ID:mAOgV4ayo
こより「へぇーっ、ほぉーっ!」

 こよりははしゃいでいた。
 メイド、巫女、スク水、ブルマ、制服。
 忍装束、ビキニアーマー、チャイナ、チアガール、魔法少女。
 その他にもアニメ、ゲームキャラクターの私服などもある。
 客の数は存外に少なかった。

智「初めてきたけど、いろんなのがあるんだね」

茜子「この店、絶対あの白髪が御用達にしておりますぜ」

 そういえば花鶏の家にメイド服とか色々あったっけ……
 考えられなくもない。

智「まぁそれは置いておいて。 今日は皆の違った一面をみてみるってことで」

こより「はいはーい! それじゃあ、皆で自分の着るものを選んでいっせーのでというのは如何でしょう!?」

智「うん、それがいいね」

茜子「茜子さんの変身ぶりを見て恐れおののくがいいのだふははははー」

 先ほどの変なポーズをしたまま、茜子は店の奥へ消えていく。

こより「そいでは、鳴滝も選んで来ますね! ともセンパイのコスプレ、楽しみにしてます!」

智「うん、じゃあまた後で」

 軽く手を振ってからこよりを見送り、そして僕も物色し始める。
 さて、何がいいだろうか。
 安全牌で行くと制服系統。 けれどあまりに面白みがなさすぎると露出度の高い服を着せられる可能性が浮上してしまう。
 さて、どうしようか……と見ていたところに目がとまる。

智「…………なんで」

 なんでこれが、ここにあるんだろう。
 僕がやったエロゲーの、ヒロインの服が…………
931 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/13(水) 02:39:21.37 ID:mAOgV4ayo
 数分後。 試着室を前に、僕らは立っていた。
 三つあるそれの中には既に僕らが自分で選んだコスプレが用意してある。

こより「じゃあ最初は鳴滝からいきます!」

 そう言って鼻歌混じりに試着室に飛び込んだこよりはそのロリ体型を思う存分に生かしたコスプレ。
 そう、簡単にいえばスク水。
 オーソドックスにして原点、小中の頃を思い出させる、幼児体型に最も合うものといえば当然これだろう。

こより「じゃじゃーん! どうです、どうです!?」

智「おぉー……っていうかそのまんまじゃない?」

 確か以前にこより、自分のがあるとかなんとか言っていたような。
 それに気づくと、こよりばバツの悪そうな顔を浮かべる。

こより「実は、あまりいいのがなかったんです……キャラ物を選ぼうにも、ここはウィッグとかないみたいですし……」

茜子「くくく、真のコスプレイヤーというのは外見が似ていなくとも心を一つにさせてするものなのじゃ」

 ずいっ、と茜子が何か変な口調を口走りながら一歩前に出る。

茜子「次は茜子さんが着替えたいと思いますがよろしいですね?」

智「うん、楽しみにしてるよ」

 そういって一度扉を閉じた茜子は閉じて少しの間は布が擦れていた音が聞こえていたけれど、それが止んでから暫くの間、扉を開けなかった。
 呼びかけると答えるようにドアを内側からノックするので、別に寝ているわけではないようだった。
 ……多分だけれど。 茜子は露出の高い服をきたのではないだろうか。
 それで、『もしも』を考えて人前に出ることを怖がっているとか。
932 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/13(水) 02:46:26.77 ID:mAOgV4ayo
 それは、嫌だ。
 僕は楽しんでもらいたくて、ここを選んだだけであって。
 別に、ムリをしてまで特別な服を来てもらいたいわけではないのだ。

智「……茜子?」

こより「ともセンパイ……」

 何か思うところのあるこよりに大丈夫と声をかけて、僕は茜子に声をかける。
 ノックが返ってきて、聞いてることを確認すると続けて言った。

智「別に、無理はしなくていいんだよ」

智「嫌だったら嫌だって言っていいし、ダメだったら諦めたっていい」

智「僕らに出来ないことは、あまりにも多すぎるんだから」

 人と関われない。
 触れ合えない。
 思いを通じ合えない。
 それが僕らの呪いだ。

智「だから、いいんだよ。 無理しなくたって、何もしなくたって、別に誰も構いやしない」

智「むしろ僕は茜子がきぐるみ型を着てくるんじゃないかとか思ってて、というかそれしか頭になくて。 逆にそれがいいなとか思ってて」

智「それで、僕は……」

茜子「いいです、わかりましたから」

 ノックではなく、言葉。
 それが返ってきて、顔をあげると同時にそのドアが開いた。
933 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/13(水) 02:54:26.64 ID:mAOgV4ayo
茜子「にゃー」

 茜子は。
 猫、だった。

 いや厳密に言えば猫耳と尻尾をつけて、局部と手足だけをこれまた猫のそれの形をしているもので覆っている。
 もっと簡単にわかるように言おう。
 擬人化した猫、というのが最も近い。

こより「おぉっ」

 こよりも思わず感嘆の声を上げる。
 少しばかり頬を赤らめながらも猫のポーズをする茜子は、魅力的だった。

智「うん……うん。 似合ってるよ」

茜子「……にゃー」

 鳴いて返事をする。
 いつもは白日の下に晒すことのないその白い肌と、とてもよくマッチしていた。

茜子「……もう、いいですか。 流石に、これ以上は、限界です」

智「……うん。 ありがとうね、茜子」

 ドアを再び閉める音がその返事で。
 僕は茜子が出てくるより先に、自分の用意していた衣装へ着替えるために試着室へと入る。
 そのこっ恥ずかしさを、紛らわすために。
934 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/13(水) 03:05:03.38 ID:mAOgV4ayo
こより「ともセンパイ可愛いですよう! もう鳴滝が持って帰りたいぐらいです!」

智「花鶏みたいなこといわないの!」

 こよりがそういう僕は、先ほど見つけたエロゲのヒロイン……の、妹の衣装を着ていた。
 ヒロインの衣装自体はアーマーに近く、胸の大きさが違うと見栄えが全くもって悪くなるためだ。
 だから胸の大きさは左程変わらない、ヒロインの妹のまるでお姫様のような(というかそのもの)のコスプレをしているのだった。
 茜子を見ると、既に普段通りの格好でいつもと変わらない無表情を貫いていた。

茜子「3点」

智「低っ!?」

 自分で言うのもなんだけど、中々に似合っているとは思う。
 なのにこの点数は如何に。

茜子「意外性なし、露出度低い、なりきってない」

智「そんなこと言われたって……」

 なりきったら僕調教されるハメになるんだけど。

茜子「そんなわけで優勝は茜子さんです。 勝者は敗者に命令できます。 心して聞くがよいのです」

こより「そ、そんなのきいてませんよう!」

茜子「言ってませんでしたからね」

 しれっと言う茜子は一向に悪びれるようすもない。
 というかそもそも見せ合おうと言ったのは僕のはずなんだけど……いいや。
 茜子が、楽しんでくれるなら。
935 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/13(水) 03:14:20.67 ID:mAOgV4ayo
智「まぁまぁ花鶏じゃないし、そんな無茶は言わないと思うから。 とりあえず、聞くだけ聞いてあげようよ」

こより「ぶーぶー」

 こよりは若干口をとがらせるけれど、それだけだ。
 本当に嫌なら心から拒否しているはず。 だから別にいい、と想っているのだろう。
 だから僕は視線で茜子を促し、そして彼女は小さく頷いた。

茜子「では発表します!」

 だらららららららららららら。
 だん。
 頭のなかでドラムロールの音が鳴り響き、そして。

茜子「今度はみんなで来て、みんなで同じゲームをすること! これが罰ゲームです!」

智「えっ……」

茜子「……嫌、でしたか」

 そういって、僕の目をじっと見つめる。
 それは決して、嫌か嫌でないかを読んでいるわけでは決してなく。
 僕は笑みを返し、小さく首を振った。

智「ううん、むしろ大賛成。 今度は、皆で一緒にこようか。 ね、こより」

こより「はいっ! 今度は鳴滝が優勝を目指しますよう!」

 張り切るこよりに、それをみて微笑ましく笑う僕。
 そして、雰囲気の変わってきた茜子。
 この店の中にいても、たった今この瞬間には、世界には僕らだけしかいなかった。


 茜子が変わったことが、いい方向に転がるか悪い方向に行くのははわからないけれど。
 それでも今は、この世界がずっと続きますように、と。
 僕はただ、そう願ったのだった。
936 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/13(水) 03:15:02.79 ID:mAOgV4ayo
 鳴滝こより の好感度が少し上がりました。
 茅場茜子 の好感度はこれ以上上がりません。

 十四日目を終了します。
937 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/13(水) 03:17:37.04 ID:mAOgV4ayo
 十四日目終了

 皆元るい  ☆☆☆☆☆☆
 花城花鶏  ☆☆☆☆☆
 鳴滝こより ☆☆☆☆☆☆☆ 
 白鞘伊代  ☆☆☆☆☆
 茅場茜子  ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 尹央輝   ☆☆☆
 才野原惠  ☆☆☆
 冬篠宮和  ☆☆☆☆☆
 ???    
 姚任甫   ☆☆☆☆
 今坂あやめ ☆☆
 柚花真雪  ☆☆


 なんかおかしな感じになった気がする……
 違和感を覚えたら真に申し訳ないです……

 次回は少し未定です。
 兎角、最低でもやる一時間前にはあげます。

 では、また。
938 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/13(水) 03:20:21.80 ID:mB8O0Gxmo
赤猫さん、好感度カンストしてたのか
乙でした
939 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/13(水) 03:21:56.91 ID:QaVMnnGl0
変な安価出したせいかな、ごめんよ
個人的には面白かった、乙!
940 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/13(水) 03:27:51.81 ID:ty9kFdp10
カンストかーおつー
941 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/15(金) 18:02:46.63 ID:3eJNGRRho
 今日の十一時ぐらいにやりますです。
942 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/15(金) 18:07:40.66 ID:RbvxURa90
舞ってる!
943 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/15(金) 22:54:42.44 ID:3eJNGRRho
 >>939
 安価冒険してもいいっていったのはこちらですから気にしないでくださいませ。
 むしろこっちの腕のなさを笑ってやってください……

 はじまるでー
944 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/15(金) 22:59:47.46 ID:/84jms3y0
こいよ
945 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/15(金) 23:01:37.64 ID:RbvxURa90
きたよ
946 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/15(金) 23:02:32.33 ID:3eJNGRRho
 ■十六日目■


智「朝だー」

 ガバッ、と一気に起きる。
 視界良好、空どころか思考に曇り一片なし。
 久々に良い感じ。

智「それでも気を抜いちゃいけないんだけどね」

 下手をすればパンを咥えながら走っていると曲がり角でぶつかるという行為で(死亡)フラグが立つこの身。
 学園内でもいつもついて歩く最強のストーカーもいることだから、気の一つの抜けやしない。
 外面を取り繕い、優等生の仮面を被り。
 和久津お姉様は今日も絶賛憂鬱中だ。

智「はぁー……」

 敵を作らないようにするのも大変なのでして。
 女子のイジメは怖いという。 この歳になると性的なイジメがあることも少なくない。
 ふとしたことでイジメにも発展する。 例え宮和などが居なくとも、真、気を抜けないのだ。

智「まぁでも、行かなかったら行かなかったで問題だしね」

 いつもの日常へ、やはり憂鬱を背負って僕は向かうのだった。


 ↓1
947 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/15(金) 23:02:35.12 ID:XTgeao3mo
バッチコイ
948 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/15(金) 23:03:50.52 ID:XTgeao3mo
(アカン)
安価下で
949 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/15(金) 23:04:04.09 ID:X0NQlTQ5o
ラブレターをもらう
950 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/15(金) 23:07:22.21 ID:3eJNGRRho
 それっていつものことじゃないですかー
 前もそうでしたけど、安価を謝って踏んだ場合は安価下です。
 安価先が少し実現不能だった場合はそれを言いますので、できれば踏んだ本人に再指定していただきたいです。
 まぁ、居なければ最安価しますれれど。

 手渡しor下駄箱? 或いはその他(指定)?
 男女どちらかも併せてどうぞ
951 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/15(金) 23:10:53.77 ID:RbvxURa90
知らない男から手渡しで
952 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/15(金) 23:12:00.71 ID:XTgeao3mo
あっはい
それじゃあ男から手渡しで
953 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/15(金) 23:12:07.48 ID:X0NQlTQ5o
手渡し 女 
954 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/15(金) 23:13:46.54 ID:3eJNGRRho
 お、おう
 すいませんこちらの追加指定なのでこの場合は>>949、つまり>>953になります
 言葉足らずですね、いつも申し訳ございません……
955 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/15(金) 23:21:06.77 ID:RbvxURa90
ごめん、勘違いしてた
956 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/15(金) 23:27:27.37 ID:3eJNGRRho
宮和「おはようございます、和久津さま」

智「おはよう、宮」

 あたかも偶然居合わせたかのような感じだけれど、これは明らかに待ち伏せをしていたに違いない。
 学校についてから遭遇することもしばしばだけれど登校途中で会うのは大抵そうだからだ。

宮和「今日は大変、良いお天気ですね。 和久津さまも輝いております」

智「僕が輝いているかはともかくとして、今日は確かに良い天気だよね」

 雲ひとつない快晴日和。
 ここまで天気が良いと気分まで晴ればれとしてくる。
 逆に一つの心配事。 あの日陰でしか生きられない少女は大丈夫だろうか、と。
 そういえばあの呪いって曇っていたりしたら大丈夫なのだろうか? それとも太陽の日に当たるのはやはり雲というフィルターを通してもダメなのだろうか。
 月の光も太陽の光が反射しているのだーというのは置いておくとして、そこのところが少し気になる。
 気軽に試すわけにはいかないから、どうしようもないのだけれど。

宮和「如何なさいました?」

智「ほぇ?」

宮和「何か、思案顔のご様子でしたので。 物思いに耽っておられる和久津さまも、いつもながらに可愛らしくはありますが」

智「あ、あはは……」

 苦笑いしか出てこない。
 いけないいけない、宮和を前にしてる時にはこちらに集中しなくては。
 もし何かの気の迷いとか、ネット上の友人に教えられたとかでぼーっとしている時に胸を触られたりしたら溜まったものじゃない。
957 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/15(金) 23:49:04.76 ID:3eJNGRRho
 そんなこんなで学校につく。
 きゃあきゃあと黄色い声。 
 一応この学校は男女共学なのだけれど、何故か女子の方が力が強く感じるのは何故だろう。

 良く言えば由緒正しい、悪く言えば古臭いと銘打たれたこの南総学園は名門といえば名門だ。
 そうなれば入学してくるのはお坊ちゃまやお嬢様。 どちらを全面的に表に出そうと思えば、後者のほうが見栄えがいいに決まっている。
 花も恥らう乙女の園。 園、とまではいかないかもしれないがそういう人間が多いと認識させることは学校を廃れさせない為の方法だったのではないか。
 女子が見れば憧れを抱く。 男子が見れば禁断の領域と思う。

 そういったものの結論が、この僕なのかもしれない。
 立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花。 柔らかく、されど触れがたし。 僕の姿は果たして理想のお姉様像だろう。
 毎日のように、手を変え品を変え下駄箱に入れられるラブレターもそういった高嶺の花に近づきたいという願望に一歩踏み出してみた結果だ。
 僕にしてはありがた迷惑。 その相手が男子だとしても女子だとしても、だ。

宮和「今日は、平和なようで」

智「みたいだね。 いつもこうなら嬉しいんだけど」

 靴を入れ替えて下駄箱を閉める。
 多い時には五通を超える手紙は、8:2でラブレターか悪戯。
 全てが悪戯ならこちらも手のうちようがあっただけに、困り果てている。
 しかし今朝下駄箱になかったからといって油断することなかれ。 夕方に二つ三つ入っていることも珍しくはない。

智「まぁ仮に入ってても、まとめてポンだけど」

宮和「常々思っておりますが、和久津さまは恋愛沙汰に興味があられないのでしょうか」

智「少なくとも今のところはないかな。 異性でも同性でも」

 宮和と並んで廊下をゆく。
 宮和は危険だけれど二年生では僕と双璧を成すお嬢様だ。
 それなりに仲が良いことも知れ渡っているし、二人でいると中々話しかけてくる人も居ないから少しだけ楽が出来る。
 油断はできないけれど。
958 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/16(土) 00:05:54.94 ID:cjDg07dgo
智「それじゃあ宮、ちょっと花摘んでいくから先に行っててよ」

宮和「はい、承知しました。 それではまた後ほど」

智「うん、じゃあね」

 軽く手を上げて、階段を登った後逆に別れる。
 目の前にあるのは青と赤色の扉。 僕が選ぶのは勿論後者。
 個室が並ぶ女子トイレ、男子トイレとの違いは小便器があるかないかだ。
 他にも強いて言えば、鏡を見て髪型やナチュラルメイク(先生たちにバレない程度の本当に薄っすらとしたもの)をしている生徒がいるかいないかだろう。
 空いている個室に入って周囲を確認。 隠しカメラなどがないかどうかも念のため。
 そうした後にようやく僕は音姫をならしつつ花を詰む。

智(いつやっても、アレは慣れないなぁ)

 正直音姫は用を足している時の音を隠すためとは言っても集中力が途切れる。
 だから女性は用をたすのが長いのではないかというのが僕の一つの説でもある。

「あっ、あのっ! 和久津先輩!」

智「?」

 トイレからハンカチで手を拭きながら出るやいなや、すぐに話しかけられた。
 見覚えのない娘。 朝や夕方挨拶に来る娘は大体顔を覚えているし、その記憶に間違いないだろう。
 先輩というところからきっと後輩ちゃん。 素早く知っている顔と照らし合わせるけれど、やはり見覚えはない。

智「ごめんね、少し待って貰えるかな」

「はっ、はい! こっ、こちらこそお手を煩わせて申し訳ありません!」

 緊張しているのか、噛み噛みだ。
 微笑ましく思いつつ、ハンカチを内ポケットにしまって、ようやく向き合う。
959 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/16(土) 00:15:45.44 ID:cjDg07dgo
智「まずは、おはよう」

「はっ、はいっ! おはようございます、先輩!」

智「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」

 軽くこよりを思わせる。
 違うのはその身長と髪型だろうか。

智「それで、何か御用?」

「はっ、はい……はい! ええと、これ!」

 すっ、と出されるのは手紙。 ざわっ、と偶然見ていた他の生徒がざわめき立つ。
 少しばかり怯む。 が、どうも相手方には僕の様子に気付く余裕などないようで。
 とりあえず表面を取り繕って、それを受け取る。
 多分、紛れもなくラブレター……
 女子と男子の割合は半々、なので珍しくはないのだけれどこうして手渡しでくるのは中々にレアだ。

智「……どうも、ありがとう?」

「いっ、いえ! 放課後、また来ます! お返事お願いします!」

 そう言って、彼女は風の様に去っていった。
 残されたのは僕とその手紙。
 下駄箱に入ってたなら、そのままポイなのだけれど。

 さて、如何しようか。
 教室に足を向けつつ、僕はそれに頭を悩ませるのだった。
960 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/16(土) 00:24:11.30 ID:cjDg07dgo
宮和「それで、和久津さまはどうなさるのですか?」

智「どう、って……決まってるよ」

 言わずもがな。
 教室に戻ってからこっそり開いた手紙には、予想通りの言葉が綴られていた。
 前世の恋人だった、や私の運命の人、などよりはよっぽど良い。 真っ直ぐな想いだ。
 けれどこの『ずっと影から見ておりました』というのはなんとかしてほしい。

宮和「たまに、視線を感じることがありました」

智「気付いてたなら言ってよ!?」

 しかし、どうしようか。
 恋に恋してる。 そういう風にもとれる。
 憧れを恋と勘違いしてる、多分そうなのだろう。

宮和「思い出を一つ、さし上げては如何でしょう」

智「思い出?」

宮和「はい。 例えば、こう和久津さまが彼女を抱きしめて差し上げるとか」

智「まぁ、その程度でいいなら」

 それが本当の恋でないなら、きっとそれで満足する。
 兎角。 どうしようか。
 放課後にもう一度来るとは言っていたけれど、僕には逃げることだって出来るし。

 チャイムが鳴る。
 あやめ先生が来た。
 後は、授業中にゆっくりと考えることにしよう。


 ↓1
 (どうするか。 返事をする場合、その内容も)
961 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/16(土) 00:25:23.81 ID:euy+l/y5o
一回お試しデートをしてみる
962 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/16(土) 00:38:41.35 ID:DSMpA74D0
ヤバい 毎日のラブレターの内容がエスカレートする
963 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/16(土) 00:48:08.67 ID:cjDg07dgo
 例えそれがまやかしだったとしても正面から告白する勇気は本物だ。
 それから逃げるのは卑怯者のすることだ。
 だから僕は逃げない。 元々卑怯者に違いないけれど、そういうのとは違うから。

 放課後、僕は彼女に連れられて中庭に来ていた。
 手紙を渡した時は廊下だった流石の彼女も、返事を聞くのにひと目があるのは恥ずかしいらしい。
 まぁ〈メール子〉さんの連絡網で僕が中庭に移動したということは知れ渡っているだろうけれど。

「せっ、先輩! それで、その……」

智「今日は天気がいいよね」

「ふぇっ!? あっ、はっ、はいっ、そうですね! 天気いいですね、はい!」

 不意打ち気味に話題を投げ、とかく『YES』を勝ち取る。
 共通の話題は仲を深める、とはよくいう。 天気の話もそれに漏れない。
 それに関係のない話は緊張を和らげる効果もある。 趣味や特技などから聞きに入って、面接などにもよくある手法だ。

智「知ってる? イギリスも大体、話にはいる時は天気の話から入るんだって。 日本とよく似てるよね」

「そ、そうなんですかぁ」

 関心したような声で、少しばかり力が抜けた感じがする。
 うん、悪くない手応え。

智「そういえば聞いてなかったね。 君の名前は?」

「あっ、はい、ええと、私は――――」

 この小動物チックな彼女を僕は〈うさぎ〉ちゃんと称しようと思う。
 こよりとダブってしまうけれど、この場限りの便宜上だ。
964 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/16(土) 01:01:14.26 ID:cjDg07dgo
 それから数分、僕らは他愛無い話をした。
 担任の先生、今日のお昼、昨日のこと、明日のこと。
 時折笑顔を見せる彼女は十二分に可愛らしい。 きっと部活とか入っていれば可愛がられるタイプだ。
 〈赤色〉さんに目を付けられたらきっとお気に入り認定でもされるだろう。

〈うさぎ〉「それで、その……先輩。 そろそろ、お返事を聞かせて欲しいんですけど……」

 うまい具合に緊張が取れて、すらすらと言葉が流れる。
 これなら大丈夫そう。 僕は少し困った風を装って、眉を細めた。

智「ごめんね。 僕、そういうのは考えられないんだ」

〈うさぎ〉「あの……冬篠先輩とそういう関係って噂もあるんですけど……」

 驚いた。
 仲がいい部類だとは思ったけれど、まさか噂されるレベルだとは。
 しかし、仕方がないかもしれない。 僕はラブレターは一つも受け取らない、優等生オーラを突き抜けてくるのは宮和だけ。
 そうなると、そうなってしまうだろう。

智「ううん。 宮とはただの仲の良い友達だよ」

〈うさぎ〉「そ、そうなんですか……」

 少しばかり肩を落とす〈うさぎ〉ちゃん。
 あわよくば、『二番目でもいいから』とでも言おうとしてたのだろうか。

智「本当にごめんね。 折角勇気出して告白してきてくれたのに」

〈うさぎ〉「いっ、いえ! 元々撃沈して玉砕でしたから! 私なんかが和久津先輩と付き合えるなんて!」

 つまるところ、駄目で元々だったのだろう。
 それなのに勇気を出した〈うさぎ〉ちゃんは本当にすごいと思う。
 例え、それが恋に恋してたとしても。
965 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/16(土) 01:12:32.99 ID:cjDg07dgo
〈うさぎ〉「ええと……」

智「…………」

 言葉を失くす。
 振った相手が慰めるのは違う。
 出来るのは先輩として、次からは普通に接してあげるぐらいだ。
 そんな中、彼女は沈黙から逃げるようなことはしないで、ゆっくりと口を開く。

〈うさぎ〉「その……一つだけお願い、いいですか?」

智「なあに? 行き過ぎないことなら、構わないよ」

 来た。
 宮和の言うとおり、『思い出をください』というやつだろう。
 無いと思うけれどエッチはダメ。 フレンチ・キスもNG。
 頬や額にキス、または後ろから抱きしめる程度なら大丈夫。
 正面から抱きしめるのがダメなのは、そうすると僕のオトコのコが自己主張してしまう可能性があるからだ。
 一応、ブルマを履いてはいるけど。

〈うさぎ〉「あの……デート、してもらえますか」

智「……はい?」

 思わず聞き返してしまった。

〈うさぎ〉「だからっ! そのっ! デートっ! ……して、頂けないでしょうか…………そうしたら、諦めがつくので……」

 あー……
 返事に困った。
966 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/16(土) 01:19:10.60 ID:cjDg07dgo
 デート。 デート。 うん、デート。
 危険性は少ない。 正面からの抱きつきよりかは。
 けど、デート。 デート、かぁ……
 宮和でも、一年以上を要した、デート、かぁ…………

智「うーん……」

〈うさぎ〉「ダメ……でしょうか」

 悩む僕を見て、気を使うように言う。
 きっと彼女はそんなに悩むのならと撤回し、今日はありがとうございましたと逃げていくだろう。
 そうしてきっと、また影から僕を見守るのだ。
 ……それは、いけない。

智「……いいよ」

〈うさぎ〉「えっ……ほっ、本当ですか!?」

 ぱっ、と花開く。

智「行き過ぎないことならいいって行ったからね。 でも今日だけだし、誰かに言ったりしちゃダメだよ?」

〈うさぎ〉「はい……はいっ!」

 涙を浮かべて、満面の笑み。
 誰かに行っちゃダメとは言っても、きっと誰かが聞いているかもしれないけど。
 それでも、必要以上に広まるのを防ぐためだ。

 かくして僕らは放課後デートする運びになったのだった。


 ↓1
 (デート中に起こる出来事。 人物指定だけでも可)
967 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/16(土) 01:23:24.75 ID:euy+l/y5o
痣持ち全員にデート中を見られる
968 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/16(土) 01:26:06.20 ID:DSMpA74D0
赤猫さんにこよりちゃんまで病んでしまう
969 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/16(土) 01:40:30.94 ID:cjDg07dgo
 デートは恙無く、実しやかに行われた。
 南総学園の制服は割かし目立つ。
 僕はごく普通の美少女だし、〈うさぎ〉ちゃんも平均よりはずっと上。
 そんな二人が手を繋いで街を歩いているといつもより目立つのも仕方がない。

 僕らがしたデートというのは、至って普通のものだ。

智「どうぞ、召し上がれ」

〈うさぎ〉「あ……ありがとうございます」

 ソフトクリームを二つ買って、片方をあげたり。

智「この服、可愛いね。 似合うんじゃないかな」

〈うさぎ〉「ほっ、本当ですか?」

 一緒に洋服を見て回ったり。

〈うさぎ〉「見て下さい和久津先輩! この子すごく可愛いです!」

智「そうだね、君みたい」

 ペットショップでうさぎを見て、こんな会話をしたり。
 〈うさぎ〉ちゃんは世間知らずではないけれど箱入りの、宮和ともすこし違うタイプの娘だった。
 小さなことで一喜一憂する、やはりこよりによく似ている。

970 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/16(土) 01:53:05.58 ID:cjDg07dgo
 時間が経つのはあっという間。
 〈うさぎ〉ちゃんの家には門限があるらしく、六時が近付くとしきりに時計を気にしていた。
 そして時間が五分前に迫った頃、〈うさぎ〉ちゃんは大きなため息を吐いた。

智「そろそろ?」

〈うさぎ〉「! はい……」

 深く、肩を落とす。
 それ程までにこのデートが口惜しいのだろうか。
 もしそうだとしたら、僕も嬉しい。

智「どう? 満足できた?」

〈うさぎ〉「いえ……いっ、いやっ、はい! 満足できました!」

 一瞬本音が漏れて、慌てて取り繕う。
 なんとなく、自然にその頬を撫でた。
 流石に柔らかく、そのまま髪の毛をくるくると指先で遊んでから離す。
 終わった頃には〈うさぎ〉ちゃんの顔は空に負けじと真っ赤に染まっていた。

智「……何かあったら、相談に来ていいからね?」

 例えば、イジメの相談。
 例えば、勉強の相談。
 例えば……新しい恋の相談。
 正直、ここまで僕がするのはあまりない。 けれど関わってしまったのだ。
 だったら、とことんまで幸せを願いたい。
 その気持ちが少しでも伝わったのか、〈うさぎ〉ちゃんはデートを許可した時のような満面の笑みで強く頷いた。

〈うさぎ〉「はいっ!」

 そうして、〈うさぎ〉ちゃんとのデートは終わる。
 見えなくなるまで手を振って、振って、振って。
 そうして、僕らはただの先輩と後輩になったのだった。
971 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/16(土) 02:02:19.36 ID:cjDg07dgo
 ……その後の話を、少しだけ。
 いや〈うさぎ〉ちゃんの話ではなく、僕の。

 実は、僕と〈うさぎ〉ちゃんのデート模様は見られていたらしい。
 それも皆が皆、央輝と惠にまで。
 〈うさぎ〉ちゃんと別れた直後、僕は路地裏に拉致られて皆に問い詰められたのだった。

花鶏「智、どういうこと? あの可愛い娘ちゃんは一体……じゃなくて、何楽しんでたの!?」

こより「ともセンパイをともセンパイと呼んでいいのは鳴滝だけですよう!」

るい「トモ、いつもより楽しそうだった……」

伊代「別にあなたの交友関係にどうこう言うつもりはないけど……気をつけなさいよ?」

茜子「…………なんですか。 こっちを見ても何もありませんよ」

央輝「別にオマエが何をしてようとしったこっちゃない。 が、こっちに火の粉が飛ぶような真似だけはするなよ」

惠「智、君は案外にプレイボーイ……いや、この場合はプレイガールとでも言うべきかな?」

 七者七様の反応。
 それに対して、僕は苦笑いしか出て来なかった。

智「あは、あはは……」

 教訓。
 初めての人とデートをする時は、知り合いが誰も居ない場所に行こう。
972 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/16(土) 02:04:46.30 ID:cjDg07dgo
 前回の分のボーナス安価を行います。
 前回忘れてしまっていたので、特別に二回です。

 ↓1と↓2のキャラクター一名ずつを対象。
 そのレスのコンマにより好感度上昇が変化します。
 01〜50で小上昇。
 51〜80で中上昇。
 81〜00で大上昇。


 ↓1
 ↓2
973 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/16(土) 02:08:56.24 ID:i1JWD7aho
こより
974 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/16(土) 02:09:09.90 ID:euy+l/y5o
るい
975 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/16(土) 02:11:09.36 ID:cjDg07dgo
 皆元るい の好感度が少し下がりました。
 花城花鶏 の好感度が少し上がりました。
 鳴滝こより の好感度が少し下がりました。
 茅場茜子 の好感度が少し下がりました。

 皆元るい の好感度が沢山上がりました。
 鳴滝こより の好感度が少し上がりました。

 十五日目を終了します。
976 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/16(土) 02:14:53.34 ID:cjDg07dgo
 十五日目終了

 皆元るい  ☆☆☆☆☆☆☆☆
 花城花鶏  ☆☆☆☆☆☆
 鳴滝こより ☆☆☆☆☆☆
 白鞘伊代  ☆☆☆☆☆
 茅場茜子  ☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 尹央輝   ☆☆☆
 才野原惠  ☆☆☆
 冬篠宮和  ☆☆☆☆☆
 ???   
 姚任甫   ☆☆☆☆
 今坂あやめ ☆☆
 柚花真雪  ☆☆


 題:『和久津智のお姉様な日常』
 ごめんなさい嘘です。 ちょっとした短篇みたいになっちゃいました。
 このモード自体が短篇集みたいなものですけど……ね。

 多分明日も来ますです。
 それでは、また。
977 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/16(土) 02:17:44.82 ID:i1JWD7aho
978 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/16(土) 02:24:18.92 ID:euy+l/y5o

全体的に好感度上がってるな
979 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/16(土) 02:27:41.80 ID:DSMpA74D0
おつー
980 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/16(土) 02:36:39.33 ID:9f0O1eSS0
???がずっと気になるぜwwww
981 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/16(土) 02:55:12.85 ID:5OZ8Tkqyo
982 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/16(土) 03:13:07.17 ID:9f0O1eSS0
ところで、次スレはどうするんだ?
方針だけでも教えてくれると助かる
983 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/16(土) 11:15:22.11 ID:cjDg07dgo
 あーもうこんなところまで来てたんだ……
 一日分やろうにも微妙な残りレスだし、今日始める時に新しく立てます。
 それで次スレを貼った後にこのスレで今日の分を始めます。
 埋まった瞬間に次スレに移行、ということで。
984 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/16(土) 22:20:58.44 ID:cjDg07dgo
 スレ立てて来ますねー
 そしたら始めますです。
985 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/16(土) 22:28:41.29 ID:cjDg07dgo
 次スレ 智「さあ、おとぎ話をはじめよう」 Re:3
 http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1363440428/

 立てました。
 まずはこちらのスレから埋め、というか今日の分を開始します。
986 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/16(土) 22:30:37.13 ID:DSMpA74D0
はいよー
987 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/16(土) 22:37:50.13 ID:cjDg07dgo
 ■十六日目■


 今日の天気は曇り。
 降水確率は三十%、まぁまぁの確率。
 十%でも降る時は降る。 まぁ折りたたみの傘を持っているから問題なし。

智「二つ、だけどね」

 何故かと問われれば、単純明快。
 例えば、るい。
 あの元気一発乙女力全開の彼女はまず大傘を持つか持たないかの二分の一。
 そして雨が降るときにはきっと持っていない。
 仮に雨降る街中で遭遇したら、いれてー!と抱きついてくるに違いない。
 死活問題だ。

智「……じとじとしてるのも嫌かな」

 雨そのものは嫌いじゃない、けど。
 温度が高く、汗が嫌な感じになるのは嫌いだ。
 好きな人はあまりいないと思うけれど。
 今日は、まだそういうのではないから運がいい。

智「今日の時間割は……」

 頭の中で思い浮かべ、鞄の中を確認する。
 仮にも優等生、忘れ物があってはならないのだ。

智「うん、大丈夫」

 それでは、今日も今日とて。
 和久津智、いきます。


 ↓1
988 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/16(土) 22:39:08.25 ID:DSMpA74D0
真雪と遊ぶ
989 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/16(土) 22:39:45.90 ID:DSMpA74D0
何気なく指定してしまったけど時間割指定じゃないよね?
990 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/16(土) 22:41:03.12 ID:cjDg07dgo
 かんけいないっすよー
 大体学校ある日は放課後とか、朝から出かけるとかそんな場合は学校サボってるって考えてくれておkです。
991 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/16(土) 22:45:07.26 ID:DSMpA74D0
ありがとー
992 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/16(土) 22:58:42.89 ID:cjDg07dgo
 溜まり場(その一)にて。
 皆が適当に持ってきたお菓子をつまみながら他愛ない談笑をする。

こより「知ってますかセンパイ方!」

智「はいどうしたのこよりん二等兵」

こより「さー、いぇっさー! なんと、本日未明、結奈ちゃんがこの田松市にくるらしいのです!」

 ちなみに未明というのは明け方より前を指すのでこの場合の使い方は間違っている。
 それはさておき。

智「結奈?」

伊代「あれ、あなた知らないの? 最近、朝のお天気コーナーとかでも出てる娘よ」

花鶏「こよりちゃんに負けず劣らずのナイスロリペタボディよ。 機会があればこよりちゃんと並べて鑑賞したいわね」

るい「確か、歌も歌ってたよね。 可愛い娘だったのは覚えてるよ」

智「るいも知ってるんだ。 茜子は?」

茜子「にゃー共に人間社会の複雑さは関係ないのです」

 この面子で知らないのは僕と茜子だけか。
 花鶏がセクハラ発言をするのだから可愛いには違いないのだろう。

伊代「それで、その娘がここに来るって話……だったわよね」

こより「そうですそうです! 野外ライブで入場は自由とか何とか! もし良ければセンパイ方見に行きませんか!?」
993 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/16(土) 23:12:03.97 ID:cjDg07dgo
るい「はいはーい! るいねーさんは行く!」

花鶏「ふむ。 たまにはそういうのもいいかもしれないわね」

こより「伊代センパイやともセンパイはどうしますか?」

伊代「わたしも行ってみたいけど……確かその娘、結構ローカルな人気あったわよね? そしたらこの子とかは……」

 茜子を指して伊代は顔を曇らせる。
 茜子は人に触れるだけで踏んでしまう呪いだ。 人混みで触れてしまう、なんてことはよくある話。
 確かに危険だ。

智「だったら、僕が一緒に遠くで見てるからこより達は近くに見に行きなよ」

伊代「え、それなら別にいいけど……いいの?」

智「うん。 だってそもそも僕はその結奈ちゃんって娘のことみたことないし」

 これからファンになる可能性もなくはないけど、それはあくまで未来の話。
 少なくとも今日、今はまだ見たことすらないのだから。

智「茜子もそれでいいよね?」

茜子「鉄はありません」

るい「鉄?」

花鶏「……異論、ね」

 鉄=iron=異論。
 なにも解説が必要な程遠回しに言わなくても。

こより「そいでは!」

 こよりが一際大きな声を上げて。

こより「行きましょう、センパイ方! 結奈ちゃんはすぐそこッスよう!」

 インラインスケートで誘導するこよりを追って。
 僕らはぽつぽつと歩き始めたのだった。
994 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/16(土) 23:27:19.13 ID:cjDg07dgo
花鶏「むさっ苦しいわね」

 開口一番、花鶏の放った一言は正しく的を射ていた。
 むさっ苦しい。 暑苦しい。
 花鶏の言っていた情報が正しいなら、結奈ちゃんとやらはこよりぐらいのりんごロリらしい。

智「おっきいお友達……」

こより「うっひゃあ、これじゃあ近寄れないッス……とりあえず鳴滝、いっきまーす!」

 一分こよりんチャレンジ。
 人の波にぶつかる。 弾ける。 ぶつかる。 弾ける。 ぶつかる。 弾ける。
 一分も繰り返すと、目を×にしたこよりが帰ってきた。

智「よしよし……」

伊代「でもこれじゃあ全く見えないわね……」

るい「おっしゃ! ここはるいねーさんにまかせんしゃい!」

 るいの〈才能〉が発揮する。
 太っている人や痩せている人や中肉中背の人、それらで構成された肉の壁を強引に切り開く。
 加減は、しているのだろう。

花鶏「ナイスよ皆元! こよりちゃん、伊代、早く行くわよ!」

こより「あいあいさー! それではともセンパイ、茜子センパイ、また後ほど!」

伊代「それじゃあ後は任せたわよ」

智「うん、気をつけて」

 るいが切り開いた道を三人は慌てて追いかけて。
 それが終わってものの数秒でその道は閉じてしまった。
995 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/16(土) 23:38:53.88 ID:cjDg07dgo
智「それじゃ、僕達ももう少し見えるところに移動しようか」

茜子「はい。 ……?」

 茜子が不思議そうに空を見上げる。
 つられて、僕も見上げた。
 ポツリ。 ポツリ。

智「雨だ」

茜子「のようですね」

 茜子は抱いていたガギノドンを地面に放すと、ガギノドンは慌てた様子で走り去って行ってしまった。
 猫には猫の避難場所のようなものがあるのだろうか、と少し気になった。

茜子「それでは茜子さん達も雨宿りに行きましょう」

智「そうだね」

 調度良く、近くに二階建ての喫茶店もあることだし。
 駆け足でそこに向かうと、ついた頃には雨がザーザー降りになっていた。

智「三十%だったのに」

 念のため傘は二つあるけれど。

茜子「しかし、これではライブは無さそうですね」

智「そうだね」

 見ると、チラホラと解散を始めていた。
 やはり傘を持ってきていた人も多いらしく、ビニール傘がそこら中に咲き乱れている。
996 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/16(土) 23:53:44.81 ID:cjDg07dgo
 携帯が震えて、メールが届く。
 どうやら今日は珍しいことに伊代も含めて誰も傘をもっていなかったらしく、このまま僕らも流れ解散らしい。
 その旨を茜子に告げて、これ見よがしに溜息を吐いた。

智「少しだけ楽しみだったのに。 この様子じゃ見れたとしてもまともに見れなかっただろうけど」

茜子「今度、にゃー共の会議で適当に話題を振っておきます。 ボク女同盟会長も参加しますか?」

智「機会が合えばね」

 善処します、と同等ぐらいにやる気のない言葉。
 そですか、と茜子は小さく返した。
 流れを変えるように、僕は笑いかけて提案する。

智「何か飲む? サイズが一番小さいので良ければ奢るよ」

茜子「ベンティアドショットヘーゼルナッツバニラアーモンドキャラメルエキストラホイップキャラメルソースモカソースランバチップチョコレートクリームフラペチーノでお願いします」

智「何その呪文」

 というかそれってベンティ(約600ml)の時点でサイズ小さくないからね。
 茜子の注文を振りきって、ショートのカプチーノ二つ。
 軒先で並んで飲んでいると、知っている格好の少女がこれまた慌てた様子で店に駆け込んで来た。
 カエルの形をした帽子に付いている水滴を弾くその姿に小さく声をかけた。

智「……柚花さん?」

真雪「ほぇ」

 不意打ち気味だったのか、変な声。
 身長差があるため僕を見上げて、そこでようやく僕だと気がついた。

真雪「ええと……そういうあなたは、和久津さん?」

智「うん。 偶然だね」

 本当、偶然。
 新都心の方ではなく、こっちで会うだなんて。
997 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/17(日) 00:04:34.02 ID:dizGBdSNo
茜子「……お知り合いで?」

智「う、うん。 前に、ちょっと」

 これはヤバイかも。
 柚花さんの口から仮にでもあの単語が漏れたら。
 いくら誤魔化しても、茜子にはそれは無効化されてしまう。

真雪「一体、どうしてここに?」

智「僕のホームタウン。 丁度ここでなんかライブがあるって友達が言ってたから、その付き添い」

真雪「ああ、結奈、でしたっけ」

茜子「……?」

 茜子が首を僅かに傾げた。
 けど無理に会話に参加されて口が滑ってもいけない。
 僕は前に出てきそうな茜子を手で制しつつ、柚花さんと会話を続ける。

智「そういう柚花さんはどうして?」

柚花「仕事です。 こっちでやることがあって」

智「仕事?」

柚花「ええ、なんでも不思議な粉をそこら辺の若い人に売るんだとか。 和久津さんもおひとつ如何です? お安くしておきますよ」

智「それって危ない仕事!? だめだよそんなの!?」

柚花「ええ、まぁ嘘なんですけどね」

智「…………」

 ココらへんではそういう粉とか鉄筒とか持ってる人もいるから、割と洒落にならない。
998 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/17(日) 00:18:59.16 ID:dizGBdSNo
真雪「まぁその仕事も雨でお流れになりましたし。 どうです和久津さん、此処であったのも何かの縁、どこか遊びに行きませんか?」

智「え、別にいいけど……」

 ちらり、と茜子を見る。
 柚花さんもふむ、と考えを巡らせてから声をかけた。

真雪「そちらの方はどうします?」

茜子「……茜子さんは退散します。 雨に弱いので、にゃー」

 まぁ、仕方がない。
 いきなり無関係の人と心を開いて仲良く出来る程、僕ら呪い持ちは強くない。

智「それじゃ、これ。 明日にでも返してくれたらいいから」

茜子「……ありがとうございます。 それでは、また」

 持っていた折りたたみの片方を渡すと、茜子は軽く頭を下げてそのまま去っていった。

真雪「……変わった人ですね」

智「あはは……まぁね」

 柚花さんも、外見だけなら十分変わってると思う。 悪い意味で。

真雪「……それじゃ、行きましょうか」

智「……うん」

 躊躇いつつ、返事を返して。
 僕らは何故か、共に行動することになったのだった。
999 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/03/17(日) 00:20:22.41 ID:dizGBdSNo
 ↓1
 (行く場所、遊ぶ場所)


 次から次スレです。
1000 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/03/17(日) 00:23:38.71 ID:FN7YjK0h0
真雪さん主導で趣味を紹介してもらうデートコース

すまん具体的な場所が思いつかなんだ。
1001 :1001 :Over 1000 Thread
     ,.ィ'",ィ    `' 、                 
 .  /_ / __,,,     ',                 
   //..、 ̄.,、、ゝ     .',                 
   i.F‐'゙  `'ー‐',.     l      
   !|       `‐、  ,.、 ',        
   ||,,,,_ ,  _,,,,,,  | |7}. ',     久々にわろうた  
   ||. ̄ ,'  ´ ̄   リ!|/  ',       げにいみじきすれのたつのも今はむかし 
   !.',  i,_っ     l!|   ヽ       
 . l ',  _,,_      | l    \   あたらしき人まいりこれりども 
   | ヽ `゙´     , ヽヽ       程しらぬものばかりなりて いとこうじけり 
   ヽ. ヽ、    ,.ィ   ヽ,
  /,、ri个`,゙゙゙゙´   //ヽ ,、
                          SS速報VIP(SS・ノベル・やる夫等々)
                          http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/


1002 :最近建ったスレッドのご案内★ :Powered By VIP Service
one and only reethi rah 36 with Everyone @ 2013/03/16(土) 23:57:30.59 ID:bOvkBnUso
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1363445850/

Order viagra canada @ 2013/03/16(土) 23:54:03.28 ID:QKjoRu500
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/operate/1363445643/

(安価)岡部「暇だから安価で行動するか」 @ 2013/03/16(土) 23:17:36.19 ID:DHjPsjGL0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1363443455/

初春「上条勢力を使って佐天さんを潰す」食峰「フフ」 @ 2013/03/16(土) 23:13:19.64 ID:dJPe4NL10
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1363443199/

【安価】主人公「まどか☆マギカオフライン」 ★65【コンマ】 @ 2013/03/16(土) 23:01:55.77 ID:BKM2z66oo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1363442515/

リツコ「あなたgシンジ「お義母さん!」 !?」 @ 2013/03/16(土) 22:53:24.70 ID:t+uEdJxO0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1363442004/

上条「安価で借金返す」打ち止め「ミサカは応援!」 @ 2013/03/16(土) 22:46:33.56 ID:K5RLO4tp0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1363441593/

YFdrIujdpF @ 2013/03/16(土) 22:43:11.98 ID:byx4ZRbM0
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