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佐天「もう何も、私から奪わせるものか」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/11(火) 01:46:27.27 ID:GCgBMSWlo
○注意事項
世界観はほぼそのままですが、もしあの時ああなっていたら、というパラレルワールド物です
時系列は本編開始より2年?とりあえず佐天さんが中3になったところからのスタートです
展開の都合で死んでる人が生きてたり、立場が違ったりします
一応グロ描写ありです

投下は週に一回を目安にしていこうと思います
それでは、お楽しみいただければ光栄です
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少し暑くて少し寒くて @ 2024/04/25(木) 23:19:25.34 ID:dTqYP2V2O
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渾沌ゴア「それでもボクはアイツを殺す」 @ 2024/04/25(木) 22:46:29.10 ID:7GVnel7qo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714052788/

二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
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佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
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全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
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笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/11(火) 01:48:20.93 ID:GCgBMSWlo
ああ、まるで悪い夢でも見ているような、そんな数年間だった
私はあの日、最高の友人で、最愛の恋人で、そして私にとって何より大事だった人間を、最低な……そう、本当に最低な能力者の手によって失ってしまった
それから目に映るものすべてが色あせてしまったこの世界で、何もかもが狂っているこの世界で、それでも私は狂わずにいられたはずだった
それなのに今、狂った世界で暮らす普通の住人から私は狂っていると後ろ指をさされている
そう、こんな世界で普通に生きられるなんて私以外みんな狂ってしまった、そう信じていた
そう信じたからこそ、私は復讐のために生きてきた、復讐のためにすべてを捧げてきた

気付けば、私は一人ぼっちだった

力を手に入れても、私は何一つ守る事ができなかった
大事なものはすべて、力を望んだ代償として私の両手から零れ落ちていって、私の足元に大小様々な血溜まりを作っていった
それが嫌で嫌でたまらなくて、より強大な力を手に入れれば、今度はその代償として染みになった血溜まりの上にまた新しい血溜まりが形成されて
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/11(火) 01:50:45.97 ID:GCgBMSWlo
その血溜まりから、肉の塊となった彼女達が囁きかけるのだ

敵をとってくれ、私達をこんな姿にした連中を醜い死体に変えてくれと

だから、望むがままに殺してやった
豚のような研究者達を、ゴミみたいな腐った連中を
四肢を引きちぎり、臓物をぶちまけさせ、頭蓋を踏み潰し、二目と見れない無残な死体に変えてやった
今度はその死体が語りかける
ぱっくりと露出した頭蓋から、眼球を失い赤黒い血を垂れ流す窪んだ眼窩から

よくも殺したなと、お前は死ぬべきだと

2つの血溜まりは混ざり合って、私の腰よりも高く高くその水位を増やしていく
そして私の体に纏わりついたそれは、私に語りかけるのだ

殺せ
死ね

この2つの単語だけを寝ているときも起きているときも、どんな時でも語りかけるのだ
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/11(火) 01:52:23.81 ID:GCgBMSWlo
何もかも失って、寒くて寒くて、体も手も足も指も心も寒くて寒くてたまらなくて
でも、立ち止まるわけにはいかなくて
立ち止まってしまえば、彼女達の死から自分だけ逃げてしまうような気がして
立ち止まってしまえば、彼らや彼女達に引きずり込まれるような気がして

――――そして気付いた時、私はここまで来てしまっていた――――

「あははははは……今日はホワイトクリスマス、私からのプレゼントはどうですか? みんなみんな安らかに死ねますようにって願いを込めたんです」

−70℃を下回る冷風が吹き荒れる中、私は笑いながらそう告げる
都市を彩るクリスマスツリーはどれもこれも飾りやイルミネーション諸共氷に覆われてしまって、普段とは別の趣があるように感じられる

「あーあ、それにしても学園都市の優秀な能力者様が雁首揃えてこの程度なんて、笑えない冗談だと思いません? 恥ずかしくないんですか?」
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/11(火) 01:54:47.37 ID:GCgBMSWlo
「ハッ、近くに来ようともせず俺らが死ぬのをただ待ってるようなビビリ野朗がよく言ったもンだよなァ」

「ふふ、私はね、皆さんみたいなクソッタレに殺されてあげるわけにはいかないんですよ……私は私の同類で、私の友達にしか殺されるつもりはないんです。 だから一番確実な方法をとってるだけですよ」

白い髪の少年が、髪よりももっと真っ白な息を吐きながら私に噛み付いてくる
かつては恐れていた高レベルの能力者も、今となってはただの路傍の石ころと同程度にしか感じられない
それだけじゃない、今となっては自分の命さえどうでもいい、そう、どうでもいいのだ

「何で、こうなっちゃったんですの……?」

白髪の少年の横で、同じように凍りついた大地に倒れ伏した少女が、薄く氷の張った睫を重たそうに開いて悲しそうな光をたたえた目で語りかけてくる

「……もう戻れないんですよ。 皆が楽しく笑う日常には、私もあなたも彼も彼女も、みんなみぃんなもう戻れないんです」
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/11(火) 01:56:24.21 ID:GCgBMSWlo
「ふざけんな! てめぇの都合で、罪の無い人間を殺していいと思ってんのか!? 奪われたから奪うなんて事が許されると思ってんのかよ!」

今度はツンツン頭の少年が必死で身体を起こし、声を荒げながらこちらに向かってこようとする

「あははははは! 何もできないくせに威勢だけは強いなんて、最高に無様ですよ……上条さん」

嘲笑と共に、私が少し風を操作して強い風をぶつけてやると、彼はたまらず元いた位置よりも後ろに吹き飛んでいく

「安心してください、皆さんが死んだ後は皆さんの家族も恋人も友人も、私がきっちり殺して――――」
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/11(火) 01:58:21.72 ID:GCgBMSWlo
「佐天さん」

その時、私の言葉をさえぎるようによく知った声が私にかかる
ああ、ほら、良かったですね皆さん
私にもようやくお迎えがきたみたいですよ
ずっと待っていた、私を殺すのはあなたが、あなたこそがふさわしいの


その少女は、真っ白な雪が降る中私の前に天使のようにふわりと降り立った
その目にあらん限りの憎悪の炎を灯して、その手にはキラリと光る私と彼女のたった一つの約束を携えて
その少女は大切な私の親友で、私に復讐する権利がある、ただ一人の少女



「さあ、私を殺して――――」



8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/11(火) 01:59:46.53 ID:GCgBMSWlo







この夜、私の物語は決着を迎える事になる
どうしようもない狂気に翻弄され続けた、どうしようもなく愚かな私の物語は、きっとこれが一番のハッピーエンドなんだろう――――






9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/11(火) 02:03:21.11 ID:GCgBMSWlo
今日はこのへんで
次の投下は一週間以内には来ます、ではー
10 :と思ったら今日の投下分がもう少しあったので投下 [saga]:2011/10/11(火) 02:23:26.16 ID:GCgBMSWlo
4月20日

――――美琴サイド――――

まだまだ空気も澄んでいて、深呼吸をすると肺を暖かい空気が満たす、そんな気持ちのいい時間帯に
今春、晴れて高校生となった私、超電磁砲こと御坂美琴は学校への通学路を一人で歩いている
頭上ではつい先日まで満開だった桜が衣替えでもするかのようにその花びらを散らし、ヒラヒラと舞うその様はまるで桃色の雪を彷彿とさせる
散った花びらは街灯や路上に積もり、すぐ近くの道路をひっきりなしに走る車に巻き上げられたりもしている
満開の桜も好きだけど、散りかけの桜も大好きな私はすっかり上機嫌になって、適当なメロディを小声で口ずさんでみたりもする
すると、それが聞こえてしまったのか
同じく桜吹雪の中を通勤、通学する人間のうち何人かが私に怪訝そうな顔で一瞥をくれた

(しまった……死にたい……)

私は自分の顔が桜の淡い桃色なんかより一瞬で赤くなるのを感じ、なるべくその場から早く離れようと急ぎ足で歩道を進むと、その先の曲がり道を逃げるように回り込む
すると、一際大きな桜の木の下で私のよく見知った制服を着て、いかにも仲良さげに歩いている少女達を見つけた
少女達は片手に鞄を提げており、おしゃべりに夢中といった様子
私は少しスピードを上げて後ろから接近すると、驚かせないように声をかける
11 :と思ったら今日の投下分がもう少しあったので投下 [saga]:2011/10/11(火) 02:24:54.20 ID:GCgBMSWlo
「おはよう、2人とも」

私が散々通った常盤台中学校への通学路を歩く後輩達に、春の陽気に負けないくらい陽気に挨拶をする

「おはようございます、御坂さん」

「おはようございます、お姉さま」

通学路に沿って植えられている植え込みの桜から燦燦と降り注ぐ木漏れ日を浴びて、眩しそうに目を細めながら振り返った2人が挨拶を返してくれる
かつて自分が通っていた学校の制服に身を包んだ後輩達を見ていると、何だか無性に嬉しくて、
ポカポカとした陽気に学園都市中が包まれている季節である事も手伝ってか、今すぐ小躍りをしたいような気分に駆られる

「御坂さん、高校の制服やっぱり似合ってますねぇ」

そんな何気ない褒め言葉が無性に嬉しくて、黒を基調としたお上品な制服をお披露目するようにクルリと一回転する
フワっと一輪の花のように広がったスカートに、自分でも少しだけ満足してしまうあたり、やっぱり春の陽気は人のどこかをおかしくするのかもしれない
12 :と思ったら今日の投下分がもう少しあったので投下 [saga]:2011/10/11(火) 02:26:13.62 ID:GCgBMSWlo
「佐天さんこそ、常盤台の制服が板についてるわ。さっすが、私の後を継ぐ能力者ね」

「何を言ってますの、お姉さま。今日も佐天さんの目覚めが悪かったせいで危うく寮監様に折檻されるところでしたの」

「ほんっとにスミマセン……」

こんなに気持ちのいい朝なら、思わず寝ていたくなっちゃう佐天さんの気持ちもわからないでもないけどね
春眠暁を覚えずとは、昔の人は本当によく言ったものだと一人で感心する

「それではお姉さま、私達はこっちですので」

談笑しながら歩いていると、少し名残惜しそうに黒子がそう言って別れを告げる
以前は過剰なスキンシップにうんざりした事もあったけれど、そんな顔をされたら甘えさせてあげてもいいかな、なんてちょっとだけ思ってしまう

「失礼します、御坂さん」

佐天さんもそう言って頭を下げると、黒子の後を追って小走りで遠ざかっていく
13 :と思ったら今日の投下分がもう少しあったので投下 [saga]:2011/10/11(火) 02:29:17.15 ID:GCgBMSWlo
「佐天さん」

何故だか私は、小さくなっていく後姿に向かって声をかけずにはいられなかった
その背中は、とっても小さくて、今にも潰れてしまいそうな程弱弱しく見えて
このまま行かせてしまえば、今度こそ会えなくなるような、そんな漠然とした不安に駆られたから

「またね」

別れの挨拶、というよりはまた会えるという事の確認がしたかったのかもしれない
佐天さんは立ち止まって、長い黒髪を手で抑えながら、こちらを振り返る
その拍子に、肩や髪に乗っかっていたピンク色の花弁が空中へと四散していく

「はい」

ヒラリヒラリと舞い落ちてきたたくさんの桜の花びらが、突然吹いた風に乗って私と佐天さんの間に舞い上げられた
何だか、散ってしまった花びらが最後の最後、ほんの少しだけ残った魂を散らして見せてくれたような、そんな幻想的な光景だったけど、私はそれよりも佐天さんが見せた笑顔に釘付けになっていた
どこか寂しそうで、苦しそうで、切なそうで、今にも消えてしまいそうな笑顔
14 :と思ったら今日の投下分がもう少しあったので投下 [saga]:2011/10/11(火) 02:31:13.32 ID:GCgBMSWlo
「……佐天さん……」

2人の姿が見えなくなると、私はそう呟いて、桜の木を見上げる
晴れていた空はいつの間にかすっぽりとぶ厚い雲に覆われてしまい、灰色の絵の具を盛大にぶちまけたみたいになってしまっている
それを見た私は、先程までの陽気な感情はどこかに消え失せて、長かった冬の寒さを未だに引きずっているような気分になる
舞い散る桜の花びらが屑々と積もる雪のように、暖かかった春を覆い隠そうとしている
そういえば、桜の木の下には死体が埋まっている、なんて話があるけど、あれはあながち間違いじゃないのかもしれないと思う
この桜という木には、桜という花びらには、どこか人を狂わせる魔力が宿っている、そんな気がする
そういえば、あの少女も花が好きだったか――――

「……佐天さん」

あの忌々しい事件より、既に1年と半分近くが経過しているが、彼女の心はまだ、冷たくて、寒くて、真っ暗な冬のままなのかもしれない
事件後すぐにどこかに失踪してしまい、1ヶ月程前にフラっと帰ってきたときに比べれば、笑顔を見せてくれる回数も多くはなっている
しかし事件以前の、周囲をも明るくさせるような100点満点のパーフェクトスマイルは1度も拝めていない

「学校、行こっかな」

私は、誰に聞かせるでもなくそう呟くと学校への道をまた歩き出す
今や学園都市の8人目と呼ばれるまでに成長して帰ってきた、佐天さんの事を思いながら――――
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/11(火) 02:36:18.14 ID:GCgBMSWlo
今日はここまでで
一応プロットなんかも考えてあるので、遅筆ですが頑張って完走したいと思います
基本的にシリアスな感じにしていこうと思います、救いは……あんまりないかも
読んでくださった方ありがとうございましたー、それではー
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/11(火) 02:54:00.97 ID:mP4n63VSO
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/11(火) 09:03:14.60 ID:+0HSh5oIO
おつー

期待しとくわ
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/11(火) 11:11:46.83 ID:JUvp+J5IO
発言の前に名前入れてもらえると助かる
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/11(火) 19:56:58.07 ID:v4dTQewXo
佐天サイド



……………さん

長い、本当に長い夢を見ているようだった

………さ……んさん

今にして思えば、あの楽しかった日々が全て幻想だったかのようにさえ思える

……佐天さん

ああ、憂鬱だ……本当に憂鬱だ……

初春「佐天さん!起きてくださいよう!」

佐天「うわあ!」

まだ、暑いというよりは暖かいという表現の方がしっくりとくる5月の初頭
いつものように、学校で机に突っ伏すようにぐっすりと寝ていた私は、頭に花が咲いているように見える大げさな髪飾りを装着している少女の大声で、飛び起きるように目を覚ました
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/11(火) 19:58:35.88 ID:v4dTQewXo
初春「ふふふ、驚きましたか?驚きましたか?」

ケラケラと無邪気に笑いながら、本当に楽しそうな笑顔を浮かべる少女を見ていると、不思議と怒る気も失せてくる

佐天「何なのさ全く……こんな時はキスで優しく起こしてあげるのが礼儀ってもんだよ、初春」

やれやれと肩を竦めて見せて、自分の耳元で大きな声を出した少女に抗議と、若干の期待を込めそう言葉を投げかける

初春「何言ってるんですか、佐天さんってば」

今度は先程とは違う、呆れたような笑顔
しょうがないですね佐天さんは、ちゅっ
なんていう甘い展開をちょっぴり期待していただけに少し残念だなーなんて思ってしまう

初春「どうしたんですか?ぼーっとしちゃって」

あれ?何だったかな
そういえば、何か言いたいことがあったんだけど
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/11(火) 20:00:31.62 ID:v4dTQewXo
初春「何ですかそれ、暖かいからって駄目ですよ?」

今度は、優しい、見ているだけで幸せになれるような笑顔
彼女――――初春飾利は本当に不思議な女の子だと思う
出会ってまだ一ヶ月位しか経っていないのに、こんなにも私の心を惹きつけてやまないなんて
一緒にいるだけで、笑顔を見ているだけで、スキンシップと称して抱きついたり、手を握ったりするだけで
本当にそれだけで、心がじんわりと暖かくなって、それと同時に切なくなって――――

初春「大丈夫ですか?具合が悪いなら保健室にでも行ってみますか?」

佐天「ん、確かに、ちょっとしんどいかも……でもでも、初春がチューしてくれたら治るかもしんない」

本気に聞こえないように、なるべく冗談っぽくそうお願いしてみる
顔がとっても熱くなっていたから全然隠せてなかったかもしれないけど

初春「もう……ほんとにしょうがないですね、佐天さんは」

辺りをぐるりと見渡し、誰もいない事を確認した初春が、そっと唇を近づけてくる
え?なんていう間抜けな言葉が飛び出る前に、初春の唇と私の唇が重なって――――
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/11(火) 20:02:17.65 ID:v4dTQewXo
教師「こぉら佐天、私の授業は退屈か?おい」

佐天「…………すみません」

耳元で響く嫌味な声で、今度は完璧に目が覚める
そうか、そういえば今は授業中で、念動力の理論を学んでいたんだっけ
正直に言って、念動力の理念だとか、そんなものは意味がわからないし、自分とは関係もないので退屈なのだが、それを言っては火に油を注ぐ事になるのは明らかだろう
もう少し見ていてもいい夢だったのに、心底残念だと思う

教師「お前はニヤニヤしながら涎垂らして寝やがってホントに……いい夢でも見てたのか?ん?」

クスクスとクラスのあちこちから笑い声が聞こえてくる
ああ、ついてない
やっぱり今日は憂鬱だ

佐天「ホントにすみませんでした。以後気をつけますので……」

教師「む……そうか……授業中にはあまり、寝るなよ。レベル5は何かと大変だろうが、疲れてるならしっかり家で寝なさい」
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/11(火) 20:04:09.22 ID:v4dTQewXo
教官はそう言うと、そそくさと前に戻って授業を再開する
御坂さんから事前に教わっていた、この教官は素直になられると弱いという攻略法で、少しの罪悪感と引き換えに何とか事なきを得た私は、胸をほっと撫で下ろす
それにしても授業の厳しさもだが、以前いた学校に比べてここは随分と居心地が悪いと感じずにはいられない

私がレベル5になったのが、今年の3月

常盤台に3年生として編入したのが4月だから、だいたい1ヶ月ほど経過した事になるが、まともに話ができるのは白井さんくらいしかいないという現状に落ち着いてしまっている
特にそれを寂しいとも、不便だとも思わないからどうでもいいといえばどうでもいい話なのだが
いやいや、やっぱりどうでも良くはないのか?まだ14やそこらのうら若き乙女が何でも話せる親友の1人もいないなんて、流石に笑えないんじゃないかな?

「よし……今日はここまでにする。各自しっかり復習をしておくように」

そう言って出て行く教官を見送ったあとは、恒例の居眠りタイム……と言いたいところだが、この授業の次はお昼休みなので、私は一人でお弁当を広げる
そしてこれまた恒例の行事が行われるのだが――――
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/11(火) 20:07:46.47 ID:v4dTQewXo
「ねえねえ、一緒に食べましょうよ」

「わぁ、佐天さんのお弁当美味しそう」

「佐天様、その、私と一緒にランチでも……」

「あ、あの……私もご一緒しても、よろしいですか……?」

突然転校してきた、レベル5の能力者
しかもほんの1年と半年ほど前には無能力者だったとくれば、珍獣を見るような目で見られるのも仕方の無い事だとは思う
同学年、下級生問わず行われるこういう絡みはめんどくさい、どこかに行ってくれないだろうかとさえ思ってしまう自分に、かなり自己嫌悪
それでも、私は能力を手に入れたことに後悔などは一切ない
あのクソ野朗共をブチ殺せるなら、あのクソ野朗共がこれから味わう地獄に比べれば、私の経験なんて生ぬるいという言葉以外では表せないだろう

「どしたの?ぼっーっとしちゃって、体調悪い?」

佐天「……ん、何でもないよ。大丈夫大丈夫」

ああ、そうそうさっきの親友がいないって発言は間違いだったかな
正確にはいなくなった、こっちの方がしっくりくると思う
もっと正確に言うなら、殺されたと言うべきだ

存在しているだけで不愉快な気分になるような薄汚い能力者共に、だから私はやつらを駆除する力を望み、そして力を手に入れた
そして私はこれからも更に高みを目指すつもりだ
もう誰も、何も、私の友人達は勿論の事、血の一滴から髪の毛の一本まで私からは奪わせたりしない
そのためには最強になるしかないのだから

私の何を犠牲にしてでも、私が最強になってやる、絶対に、絶対に―――
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/11(火) 20:09:18.23 ID:v4dTQewXo






私のこの考えが、このドス黒い感情が、後に私を更に深い絶望のドン底まで突き落とす事になるなんて
そして、この時点で既にその計画は始まっていただなんて、いったい誰が気付くだろうか?
誰も気付ける筈なんてない、そうでしょ?だから私は悪くないよね?悪くないんだよ?悪くないって言ってよ。言ってください。言ってもいいんですよ?言えよ
ねえ――――






26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/11(火) 20:11:08.25 ID:v4dTQewXo


黒子「佐天さん、メールは見られましたか?」

私を囲む生徒の輪に紛れて昼食を摂っていた白井さんが、突然話しかけてくる
今では寮のルームメイトとして、主に私のせいで寮監様の折檻に怯える毎日を送っているあたり、本当に頭が上がらない
申し訳ないという気持ちでいっぱいだが、焼いた鉄板で焼き土下座をしろといわれたら多分拒否するけど

黒子「はぁ……その様子だと、見ていませんのね。よろしいですか、何とですよ、お姉さまが今日お泊りに来るらしいですの!」

佐天「へー……」

黒子「……お姉さまが今日お泊りに来るらしいですの!」

佐天「へ、へー……」

黒子「お姉さまが――――」

わかったわかった、わかりました、私の負けです、はい
白井さんのテンションが怖いことになってるけど、それはまあ、大好きな人とお泊りできるならしょうがないかな、人の性ってやつですよね
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/11(火) 20:13:23.95 ID:v4dTQewXo
黒子「という訳で、今日は授業が終わったら帰ってお部屋の片付けをしますの」

佐天「あれ?今日は風紀委員の仕事はいいんですか?」

黒子「佐天さんが入ってくださってからまだ1ヶ月たらずですが、私達の学区の犯罪は激減してますの。レベル5の抑止力というやつですわ」

レベル5――――学園都市に現在8人しかいない、能力者の頂点に君臨する能力者達
私はその中で第8位という位置に収まっている

能力名は”空力支配(エアロマスター)”

真空の刃を作り出したり、気流を操作し風速100メートルを超える突風を生んだり、手で触れずとも離れたものに推進力を発生させたり、空を飛ぶ事もできる
他には、相手の攻撃を風で読んだりだとか、風を用いての敵や障害物の探索だったり、風を用いたありとあらゆる事ができる能力だと、研究所の連中は言っていた
私はそれを、そんなものなのかと特に感慨も無く聞いていたけど

佐天「そんなたいしたもんじゃ無いですよ、私は。ただ、初春の代役を立派に務め上げて、安心させてあげたいだけです」
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/11(火) 20:15:34.30 ID:v4dTQewXo
その言葉に嘘はない
優秀な風紀委員だった彼女の代役を、私がやってあげたかった
初春のいた場所を、他の誰でもない私の手で守りたかった

黒子「佐天さんはよくやってくださっていますわ。私も固法先輩も随分楽になりましたもの」

佐天「まだまだ力足らずですが、根限りやらせてもらいますよ」

私がそう言うと、白井さんは満足そうな表情を浮かべる
レベルだけ見れば私の方が上だけど、まだまだ風紀委員の大先輩として、学ぶべき事はたくさんある

黒子「さて、それでは私は少し用事があるので席を離れさせていただきますの。あまり長い時間佐天さんを独占するわけにもいかないですし」

そう言うや否や、白井さんは食べ終わって丁寧に風呂敷で包んだお弁当を持って、そのままテレポートでどこかへ消えてしまった
去り際に残していった、とっても意地悪そうな笑みが気になるところではあるけど――――
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/11(火) 20:16:56.34 ID:v4dTQewXo
女の子「佐天様、あの、よかったらあの、私と……」

ああ、確かこの子は一年生の子だったかな
ふんわりと毛先がカールした長い茶髪、制服の上からだと胸は頼りないが、肩の丸っこいラインや柔らかそうな太腿が女らしい、随分と可愛らしい少女だ
毎日毎日熱心にお弁当の時間に会いに来るあたり、この子には何だか妙な懐かれ方をしてる気がする
というか、どことなく白井さんと同じ匂いがするんだよね、この子からは
できるだけ深入りしないように他人とは距離を置いてるんだけど、そういうところに惹かれる変な子もいるのだろうか

「佐天さん、私も風力系の能力なんだけど、何かこうレベルを上げる方法とかって知らない?」

「あ、私も聞いてみたい」

「是非ご教授を」

結局あの子の言いたかった事は他の声が大きい人達にかき消され、しょんぼりとした顔をしてまたお弁当をつつき始める
同学年の友達と一緒に食べたほうが楽しいんじゃないかな、何ていうお節介を焼いてあげたほうがいいんだろうか

佐天「んー、そうだなー……」
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/11(火) 20:18:31.50 ID:v4dTQewXo
地獄に足を踏み入れて、生きて帰ってこられたら
そんな言葉が喉まで出かけて、慌ててお腹の底までまた飲み込む

佐天「努力以外にないんじゃないかな」

結局返したのは、とりあえずの無難な解答
無難だけれど、一番希望が持てて、頑張ろうって思える素敵な解答だと思う

「努力かー……ってやばっ、授業始まっちゃうよ」

その事に気付くと、集まっていた人間は蜘蛛の子を散らすように、自分の机や教室へと戻っていく
机の周りはスッキリしたけど何だかスッキリしないのは何でだろう
あ、そうかそうか、大事なことを忘れてたよ

黒子「佐天さん?もう授業始まりますわよ?」

教室を出て行こうとした私に、いつの間にか帰ってきていた白井さんが話しかけてくる

佐天「いやー、午後からぐっすり寝るには、お手洗いをすませとかないとなーなんて思いまして」

黒子「なっ……あ、呆れましたの……」

お手洗いを手早く済ませてスッキリした私は、とりあえず頭がスッキリするまで午後は睡眠をとることにした――――
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/11(火) 20:21:04.99 ID:v4dTQewXo
とりあえず今回はここまでで
読んでくださった方、ありがとうございましたー
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) [sage]:2011/10/11(火) 21:02:34.90 ID:67Cc56Yi0
期待
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/11(火) 22:11:28.07 ID:9lY+m2eSO
乙。
既にかなり面白いからちゃんと完結させてくれよ。
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/11(火) 23:06:00.00 ID:mP4n63VSO
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/12(水) 19:22:23.63 ID:yuR00+URo
――すの

むにゃ……もう少し……もう少しだけ寝かせて……

――てくださ……まし、佐天さん

ああ、もう。もう少しだけって言ってるのに……

黒子「佐天さん、いつまで寝ていますの!」

佐天「―――――――はい……」

深い眠りから唐突に揺すって起こされた私は、今にも眠気で閉まってしまいそうな目を擦りながら恨めしそうに返事をすると、大きく一回伸びをする
机に突っ伏す様に眠っていたため、凝り固まっていた関節がパキポキと軽快な音を鳴らす

黒子「何時だと思ってるんですの、全く……」

ぼけーっとした頭で時計を見ると、信じられないことに既に16時を回っている
お昼の授業が始まるのが13時20分
となると、実に3時間近くも起こされることなく眠り続けていた計算になる
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/12(水) 19:25:23.76 ID:yuR00+URo
佐天「いやー、普通起こされるんですけど、結構ラッキーですね」

黒子「何がラッキーなんですの、何が。先生が起こしても全て無視、何をしても起きないので諦められただけですのに……ほら、涎の跡がついてますの」

口から伸びる涎の跡をハンカチで優しく拭いてくれながら、白井さんが呆れたといわんばかりの溜息をつく

佐天「ということはですよ、白井さん。これからは寝ていても大丈夫という事に……なりませんか?」

名探偵も裸足で逃げ出すレベルだと自負している私の推理を聞いて、白井さんは今度こそ本当に呆れた表情をして肩を竦めている
ぐぬぬ……馬鹿にしおって……

佐天「ところで白井さん、今日は御坂さんがお泊りに来るから早く帰るんじゃなかったですっけ?」

黒子「誰のせいでまだここに残ってると思ってますの……ささ、時間が惜しいですの。早く準備をしてくださいな」

どうやら白井さんの能力である、瞬間移動で寮まで送ってくれるらしい
いつもは、能力に頼りすぎると佐天さんのためになりませんの、なんて言ってあんまり送ってくれないけど、やっぱり愛の力は偉大なんだなと思う
いや、普段の私がだらしなさすぎるだけなのかな?これからは少し改めよう、うん
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/12(水) 19:27:17.18 ID:yuR00+URo
黒子「ほらほら、急いでくださいまし。一人で歩いて帰る事になりますわよ?」

小悪魔みたいな笑顔を浮かべて、白井さんがまだかまだかと私を急かしてくる

佐天「もうちょっと、もうちょっとだけ待ってください!」

置いてけぼりに焦った私は、さっきよりもおおよそ3倍の速度で荷物を鞄に放り込んでいく
女の子の鞄とは思えないくらい鞄の中は大惨事になってしまったけど、とりあえずの準備を終えた私は白井さんが差し出してくれた手を握る
ふにふにと柔らかくってとっても暖かい手は、白井さんの優しさに満ちている気がして、私はなんだか得したような気分になる

佐天「よろしくお願いします」

黒子「はいはい、帰ったらお部屋がピカピカになるまで掃除しますわよ」

私の手を握る白井さんの手に、私を逃がさないように力が込められる
あ、やっぱり小悪魔だ。あの笑顔の裏にはそんな意味があったなんて

佐天「えっ。あのー、やっぱり私歩いて―――」

黒子「もう遅いですの、観念なさいな」

白井さんがそう言うと、さっきまで見ていた教室の風景は、あっという間に一変し別の景色になった
ああ、こんな事になるなら、やっぱり時間をかけてゆっくりゆっくり一人で帰ったほうが良かったかな、なんて――――
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/12(水) 20:43:04.94 ID:j2a0BM2DO
ちゃんとした一人称の地の文あるんだし台本形式にする必要はないと思った

支援
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/12(水) 20:59:21.58 ID:xQCicBc9o
――美琴サイド――

御坂「くっそー、今日に限って学校が長引くなんて……」

帰宅ラッシュの時間帯と重なって若干混雑しつつある歩道を、私は一人で愚痴をこぼしながら全力で走っている
いかんせん人が多いためにあまりスピードが出せないのが現実なのだが、それでも目標の建物まであと少しというところまでやってきた

御坂「だいたい、他の生徒の模範になれとかもう聞き飽きたっての……」

これは以前からそうなのだが、努力でレベル5まで上り詰めた私に対して、周囲はいつも似たような事を口をすっぱくして言ってきたものだ
曰く、他の生徒の模範になれだとか、見本になれだとかなんとか、とにかくそんな言葉に私は嫌気がさしているのだ
中学生の時からそうだったが、高校に入学してもそれは変わらず、寧ろ以前より悪化している気さえしてくる
その点、彼女達は――――

御坂「期待されるのは嫌じゃないんだけどねぇ……あー、早く2人に会いたいな」
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/12(水) 21:01:58.82 ID:xQCicBc9o
彼女達は、いつもそんな私に普通に接してくれた
喧嘩した事もあったけど、その後は笑って仲直りして、もっともっと仲良くなって
いろんな所に行って、いろんな事をして

まあ、そのうち若干1名には普通とはちょっと違う接し方をされていたような気もするけど、別に嫌ではなかったし……
そんな事を考えて走っていると、目の前によく見知った建物がようやく現れる

御坂「はー、やっと着いた……さて、電話電話っと」

夕焼けですっかり茜色に染め上げられた常盤台の寮の前で、少し乱れてしまった呼吸を整えつつ、私は待ち合わせている人物の携帯に電話をかける

『もしもし』

1コール目で素早く電話は繋がったが、何故か携帯を相手にずっと睨めっこをしている彼女の姿が思い浮かんで、自然と笑顔がこぼれる

御坂「やっほー、着いたわよー」

『知っていますの。だって、窓から見えていますもの』

彼女が私にとって予想外の言葉を言い終わった瞬間に電話は切れて、そのかわりに――――
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/12(水) 21:04:16.57 ID:xQCicBc9o
黒子「お姉様ぁぁぁぁぁあああああ!」

電話越しではなく、私の頭上から黒子の声が響く
瞬時に私の脳内にはいくつかの可能性が浮かんでくる
1つ目、窓から私を呼んでいる
2つ目、部屋から大声を出している……ってああ、これは1と一緒ね
3つ目、……まさか、黒子のやつ

御坂「やっぱり、ってうわっ! ちょっ、危っ……ぐえっ!」

まさかのまさか、私の予想は見事に的中していた
瞬間移動で私の上に移動してきた黒子に、私はあっという間に抱きつかれてしまう

黒子「待ちわびたお姉様の到着に、黒子は全身でお姉様を歓迎いたしますの!」

御坂「お、遅れたのは悪かったわよ……ていうかほら、そろそろ離して」

そう言うと、黒子は渋々といった様子で私を解放してくれる
人目がない場所ならもう少しあのままでも良かったけど、流石にこう通りがかる人が多いと、ねえ?

御坂「いやー、それにしても急に悪いわね。今日はよろしくね」

黒子「いえいえ、お姉様なら私達はいつでも大歓迎ですの」

とりあえず急に宿泊を決めた事を詫びると、黒子は笑顔で嬉しい言葉を返してくれる
いつでもか……毎日でも遊びに来ちゃおっかなぁ
学校での私を特別扱いするような雰囲気にほとほと嫌気が差している私にとって、普通に接してくれる佐天さんと黒子はまさにオアシスのような存在なのだ
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/12(水) 21:08:09.89 ID:xQCicBc9o
「それに、佐天さんの気が少しでも紛れるなら――――」

どうやら、黒子も私と同じ考えだったらしい
彼女を失い、元気のなくなってしまった佐天さんを、何とか励ましてあげたい
彼女を忘れろとは言わない
いや、以前の彼女達の仲のよさを知っているものなら、そんな軽はずみな事は絶対に言えないだろう
だからせめて、前を向いて歩いていって欲しい
彼女の死を受け入れて、その上で彼女の幻影に囚われる事なく、自分の足で、自分の人生を――――

「さっ、お姉様、行きましょう。佐天さんが首を長くして待っていますの」

「ん、そうね。今日は遊ぶわよー」

これから楽しい事が待っているとわかっていると、自然と私のテンションも上昇していく
最近ストレスが若干たまっていたから、尚更だ

「……寮監様に目をつけられない程度にしてくださいましね。怒られるのは私と佐天さんなので……」

すると、そんな私の様子を察した黒子が、心配そうに私にお願いをしてくる
確かにあの寮監は怖い
多分、あれは未来から来た殺人兵器か何かだと私は常盤台の寮を出た今でも思っている
43 :>>42訂正 [saga]:2011/10/12(水) 21:09:46.07 ID:xQCicBc9o
黒子「それに、佐天さんの気が少しでも紛れるなら――――」

どうやら、黒子も私と同じ考えだったらしい
彼女を失い、元気のなくなってしまった佐天さんを、何とか励ましてあげたい
彼女を忘れろとは言わない
いや、以前の彼女達の仲のよさを知っているものなら、そんな事は絶対に言えないだろう
だからせめて、前を向いて歩いていって欲しい
彼女の死を受け入れて、その上で彼女の幻影に囚われる事なく、自分の足で、自分の人生を――――

黒子「さっ、お姉様、行きましょう。佐天さんが首を長くして待っていますの」

御坂「ん、そうね。今日は遊ぶわよー」

これから楽しい事が待っているとわかっていると、自然と私のテンションも上昇していく
最近ストレスが少しだけたまっていたから、尚更だ

黒子「……寮監様に目をつけられない程度にしてくださいましね。怒られるのは私と佐天さんなので……」

すると、そんな私の様子を察した黒子が、心配そうに私にお願いをしてくる
確かにあの寮監は怖い
多分、あれは未来から来た殺人兵器か何かだと私は常盤台の寮を出た今でも思っている
44 :>>42訂正 [saga]:2011/10/12(水) 21:10:53.85 ID:xQCicBc9o
「ふふっ、見つからないよう天にでも祈る事ね。私の熱いパッションはもう止められないわ」

「お、お姉様。それだけは、それだけは本当に勘弁してくださいまし……」

今度は本気で懇願するような目をしている
ほんの軽いジョークのつもりだったんだけどな、ていうか見つかったら多分私もまずいし

「冗談よ、冗談。ほらほら、飲み物とかも買ってきたから早く行きましょ」

私はそう言うと、買ってきた物が入った袋を持ち上げてみせる
袋の中は女子中高生の間で話題のスイーツ等で満載になっているが、決してゲコ太のグッズがもらえるからなんて理由でチョイスした訳じゃない事を付け加えておこうと思う

「はぁ……」

「何?」
45 :名前欄消すの忘れてた [saga]:2011/10/12(水) 21:13:44.27 ID:xQCicBc9o
「お姉様の趣味も相変わらずだと思いまして。お目当てのグッズは手に入りまして?」

……ばれてるし

「おおかた、期間限定とか、数量限定とかいう文字につられたんでしょうけど」

……図星だし

「高校生にもなって……黒子は心配ですの」

……心配までされてるし

「ぐぅ……」

何も言い返す言葉が浮かんでこなかった私は、せめてもの仕返しにとちょっとだけ意地悪を仕掛けてみる

「そこまで言うならアンタは食べなくてよろしい」

「あん、冗談ですわお姉様ー」

そう言い放ってさっさと歩き出した私の後ろを、黒子が足早に追いかけてくる
うん、やっぱり気兼ねなくこういうやり取りができるって、最高に素敵な事だよね
私は、黒子や佐天さんとはずっとずっとこういう関係でいたいと改めて実感する

――初春さん、どこかで今の私達を見ている?もし、寂しい思いをしてたらごめんなさい。
  でも、私達もいずれそっちに行くから、それまで悪いけど待っててちょうだい。そしたらまた4人でお茶でも飲んで、おいしいお菓子を食べて、くだらない話で笑いあいましょ?きっと、絶対に――――
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/12(水) 21:19:58.02 ID:xQCicBc9o
本日はここまでで
台本形式かそうでないかはどっちがいいんでしょうか?
皆さんの読みやすい方で行きたいと思いますので、良かったら教えてください
台本形式だと展開の都合上隠しておきたい名前だったりは何も書かずに行く事もあるかもしれないので、その辺はご了承ください
次回は推敲が終わり次第来ようと思います、ではー
47 :名前入れ忘れてたので>>44と>>45を訂正 [saga]:2011/10/12(水) 21:21:36.00 ID:xQCicBc9o
御坂「ふふっ、見つからないよう天にでも祈る事ね。私の熱いパッションはもう止められないわ」

黒子「お、お姉様。それだけは、それだけは本当に勘弁してくださいまし……」

今度は本気で懇願するような目をしている
ほんの軽いジョークのつもりだったんだけどな、ていうか見つかったら多分私もまずいし

御坂「冗談よ、冗談。ほらほら、飲み物とかも買ってきたから早く行きましょ」

私はそう言うと、買ってきた物が入った袋を持ち上げてみせる
袋の中は女子中高生の間で話題のスイーツ等で満載になっているが、決してゲコ太のグッズがもらえるからなんて理由でチョイスした訳じゃない事を付け加えておこうと思う

黒子「はぁ……」

御坂「何?」
48 :名前入れ忘れてたので>>44と>>45を訂正 [saga]:2011/10/12(水) 21:22:30.24 ID:xQCicBc9o
黒子「お姉様の趣味も相変わらずだと思いまして。お目当てのグッズは手に入りまして?」

……ばれてるし

黒子「おおかた、期間限定とか、数量限定とかいう文字につられたんでしょうけど」

……図星だし

黒子「高校生にもなって……黒子は心配ですの」

……心配までされてるし

御坂「ぐぅ……」

何も言い返す言葉が浮かんでこなかった私は、せめてもの仕返しにとちょっとだけ意地悪を仕掛けてみる

御坂「そこまで言うならアンタは食べなくてよろしい」

黒子「あん、冗談ですわお姉様ー」

そう言い放ってさっさと歩き出した私の後ろを、黒子が足早に追いかけてくる
うん、やっぱり気兼ねなくこういうやり取りができるって、最高に素敵な事だよね
私は、黒子や佐天さんとはずっとずっとこういう関係でいたいと改めて実感する

――初春さん、どこかで今の私達を見ている?もし、寂しい思いをしてたらごめんなさい。
  でも、私達もいずれそっちに行くから、それまで悪いけど待っててちょうだい。そしたらまた4人でお茶でも飲んで、おいしいお菓子を食べて、くだらない話で笑いあいましょ?きっと、絶対に――――
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2011/10/12(水) 21:22:59.63 ID:tRg8OQ8co
これだけ書く人が台本形式は逆に読みにくい、というか勿体ない。
普通で良いです。
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/13(木) 17:13:36.32 ID:fme0oOzeo
台本形式じゃない方が雰囲気に合ってる気がする

>>1の好きなようにってのが一番いいと思うよ
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/13(木) 21:25:38.10 ID:1TfY8fs/o
「潜入成功、ちょろいもんね」

監視カメラ、赤外線センサー、寮監、etc
それらのセキリュティの網を掻い潜って常盤台の寮に堂々と侵入した私は、綺麗過ぎる位に磨き上げられた廊下を黒子と共に歩いている

「はぁ……私の能力を使えば一発ですのに」

万が一、寮の大ボスに見つかった場合を想定して肝を冷やしていた黒子が呟く
わかってないなぁ、そのスリルが楽しいってのに

「しかしまあ、この寮も懐かしいわねー」

つい1ヶ月程前まで住んでいたはずなのに、目線を廊下のあちらこちらに送りながら、私はついそんな事を口走ってしまう
ああ、確かここが黒子達の部屋だったわね

「先日お泊まりにいらっしゃった時も、お姉様は同じことをおっしゃってましたが。佐天さん、ただいまですのー」

黒子はからかうようにそう言うと、ドアを開けて部屋の中にそそくさと入っていく

「そうだったかな……でも、あんたも卒業するとこうなるわよ。お邪魔しまーす」
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/13(木) 21:26:18.46 ID:1TfY8fs/o
私は黒子に反論しながら入室する
以前来た時は少しごちゃごちゃしていた室内も、今はなんだかスッキリと片付いているような気がする
もしかして、寮監に注意でも受けたのだろうかと一瞬心配になる

「おかえりなさい白井さん。御坂さん、こんばんはー」

黒子に続いて部屋に入った私を、制服にエプロンを着用してベッドに寝転がっていた佐天さんが上半身を起こして迎えてくれる
制服とエプロンの上からでもはっきりと確認できる佐天さんの胸と、自分の控えめな盛り上がりを比較してちょっぴり絶望
高校生になって少しは大きくなったんだけどな……くそぅ……

「どうしたんですか? 何かついてます?」

何かついてるかっていうと、ついてるところを見てたけど
流石にそんな事を正直に申告する勇気を私は持ち合わせていない

「いやいや、何でもないの。それにしても随分疲れてるみたいだけど、何かあったの?」
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/13(木) 21:28:21.63 ID:1TfY8fs/o
「実は、白井さんが嫌がる私に無理やり片付けを強要してきて……」

佐天さんは投げ出していた足を組み替えて、片手で口元を覆う女の子っぽい仕草をとると、目を伏せてそう告げる
黒子……あんたって子は……

「なっ! 部屋を散らかしていたのは佐天さんで……ああ、お姉様までそんな目で見ないで下さいまし!」

ふふっ、相変わらず2人の仲はいいようで安心安心
ところで、さっきから漂う諸巨躯を刺激する良い匂いはいったいなんだろう

「今日は私が腕によりをかけて作っちゃいましたからねー! じゃんじゃん食べちゃってください!」

言われてテーブルの上を見ると、まだ湯気の立つ美味しそうな料理が並べられている
味噌汁、肉じゃが、その他諸々のずらりと並べられた家庭的な料理に、思わずごくりと喉が鳴る

「すごい……全部佐天さんが作ったの?」

私の口から素直な感想がもれる
私も簡単な料理なら作れるけど、こんなに美味しそうには多分無理だろう
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/13(木) 21:31:25.56 ID:1TfY8fs/o
「いやー、白井さんにもかなり手伝ってもらいましたよ」

「そうですの、ささ、どうぞご賞味くださいまし」

全然成長しない胸を張って自慢げにしている黒子はほっておいて、私は荷物を適当な場所に置いて席についた
それに合わせて2人も食卓につく
食卓には椅子が3つしかなくて、本当なら空いている空間には彼女が座っているはずなのに
そんな考えを振り払って、せっかく集まったのだから今日一日は楽しく過ごそうと心に決める

「さ、それじゃあ皆グラスを持って!」

私はそういうと、お茶が注がれたグラスを片手に席から立ち上がる
いわゆる乾杯の音頭というやつをとってみようと、ふと思いついたのだ

「えー……あー……うーんと……」

やばい、何を言えばいいのだろう
私は頭の中で、まだあんまり長くない人生の中で何回か目にした場面を必死に思い出そうとする

「……ぐっだぐだですの」

「う、うるさい! とにかくかんぱーい!!」

痛いところをつっこまれた私は、これ以上傷を拡げないように強引に乾杯まで持っていく

「「かんぱーい!!」」

それに続いて、2人もグラスを持って乾杯をしてくれる
ちょっとの間、ガラスとガラスが優しくぶつかり合う音が室内に響く
料理の出来はどれも舌鼓を打つ程の出来だった
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/13(木) 21:32:08.68 ID:1TfY8fs/o
「はー、美味しかった。ごちそうさまでした」

食事を始めてから一時間位経っただろうか
若干多めに作られていたであろう料理は、全部私達3人の胃袋にペロリと収まっていた

「お姉様? 食後のデザートに黒子はいかがです――」

「やめなさいって」

やっぱり黒子は変わっていない
そう確信した私は、何だか嬉しいような、呆れるような非常に複雑な気分になる
でもとりあえず、佐天さんも笑ってるし、今日のところは額に優しくチョップをしておくだけで済ませてあげる事にした

「さて、じゃあ皆で食器を片付けてから、ゴロゴロしましょ!」

それから先は、かつての楽しかった日々が戻ってきたかのような、そんな感覚だった
片付けが終わった後は皆で狭いお風呂に入って、お風呂から上がったら買ってきたジュースやお菓子でだらだらと喋りながら過ごす
途中で個人個人が好きなことをやり出しても全く居心地が悪くない、そんな素敵な空間
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/13(木) 21:33:02.00 ID:1TfY8fs/o
「あふ……すみません、私そろそろ寝ますね……」

もうそんなに時間が経ったのだろうか
先程まで横になって携帯をつついていた佐天さんは眠たそうにそう呟くと、歯を磨くために洗面所へと歩いていく

「げっ……もう3時をまわってますの……私もそろそろ……」

携帯で時間を確認した黒子もまた、洗面所へとおぼつかない足取りでふらふらと向かっていく

「んー……私も寝ようかな……」

夜更かしはお肌の大敵っていうし、2人が寝るなら起きてる意味もあんまり感じられないしね
それにしても、たまっていたストレスなんて全部吹き飛んでいってしまうくらい今日は楽しかった
近いうちにまた遊びに来よう
そう心に誓った私は、名残惜しいけど今夜は寝る準備をするために、2人の後を追って洗面所へと歩き出した――――
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/13(木) 21:34:56.55 ID:1TfY8fs/o
短いですが本日はここまでで
台本形式ではない形式でいかせて貰おうと思います
読んでくださりありがとうございました、ではー
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [sage]:2011/10/13(木) 23:53:43.92 ID:TMYuk2Czo
おつなンだよ
59 :寝る前にもう少し投下 [saga]:2011/10/14(金) 00:02:01.07 ID:xx5L1mfMo
洗面所に到着すると、先に寝る準備を始めた2人が気だるそうにシャコシャコと歯ブラシを動かしている
何やら怪しい宗教に見えなくもないその様子に、私は思わず噴き出しそうになってしまう
普段から見慣れている何気ない光景であるはずだが、そこは深夜のハイテンションの産物という事でそっとしておいて欲しい

「黒子ー、私の歯ブラシとって」

私がお願いすると、黒子が私のお気に入りの歯ブラシを渡してくれる

「ありがと」

以前泊まった際に残しておいた、グリップにゲコ太のイラストが描かれた歯ブラシを受け取ると、軽くうがいをした後に歯磨き粉をちょこっと乗っけた歯ブラシを口にくわえる

「うえ……この歯磨き粉おいひくない……」

口の中によくある歯磨き粉のあの独特の清涼感のようなものが満ち、私は思わず顔をしかめてしまう
いつも私が使っているのはもうちょっと美味しいやつなんだけど、もしかして黒子達は歯磨き粉はこれしか知らないのだろうか
それはいけない、美味しい歯磨き粉を知らないのはゲコ太を知らないのと同じくらい人生を損しているのではないかと私は思う

「お姉様……種類はたくさんありますが、だいたいこんなものですの。お姉様は普段どのような歯磨き粉を使っていらっしゃいますの…」

どうやら私の心配は杞憂だったようだ
そして黒子の中では、いや世間では一般的にこれが普通の味らしい
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/14(金) 00:03:30.11 ID:xx5L1mfMo
「だーってこの歯磨き粉、なんかチョコミントアイスみたいな味がするんだもん。私、あの味あんまり好きじゃないのよねぇ」

「あー、なんかわかるような気もしますねぇ。 そういえば、味つきの歯磨き粉って結構種類ありますよね」

洗面台にちょこんと腰を掛けて、半分閉じたような目で佐天さんが相槌を打ってくれる

「そうなの! 個人的にはオレンジ系のやつが美味しくていいかなぁって思うんだけどね」

「……歯磨き粉に美味しさなんて普通求めませんの……あ、佐天さん、ちょっとよけてくださいまし」

「ふぁい」

佐天さんはモゴモゴと気の抜けたような返事を返すと、洗面台から降りてふらふらとこっちに歩いてくる
そうして私の隣まで来ると、今度は眠たそうに私にもたれかかってきた
黒子の意見に反論しなかったのは、負けを認めたからじゃなくて、佐天さんがもたれかかってきたためで、決してあんな大人っぽい意見にぐうの音も出なかったわけじゃないと言っておきたい

「それではお姉様、佐天さん。おやすみなさいですの……」

うがいが終わった黒子はそう告げると、ベッドを目指して亡者のような足取りで歩いていく
パジャマの襟がちょっと濡れていたのが何だか可愛らしかったりもしたけど、それより佐天さんをどうしようかなぁ
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/14(金) 00:05:52.07 ID:xx5L1mfMo
「んー……」

佐天さんは歯ブラシをくわえたまま相変わらず私にもたれかかって、眠そうな声を発している
整った顔立ちと、羨ましくなるくらい綺麗な黒髪ストレートと、少しだけ隙間の空いたパジャマの胸元と、全身から漂ってくる良い香りに思わずクラリときてしまう
何の自慢にもならないけど、私が男なら絶対襲ってる自信がある

「ありゃりゃ……ほら、佐天さんもそろそろうがいしちゃいなさい」

「ふぁい」

何だか危なっかしかったので、私にもたれかかってきている佐天さんを半ば抱っこするような形で洗面台まで運んであげる
そこで佐天さんは、口の中に溜まった歯磨き粉を、ぷえっ、なんていう可愛い音を立てて吐き出してから2〜3回うがいをすると、大きなあくびをしながらベッドのある部屋へと引き返していく
あー、それにしてもこの歯磨き粉は美味しくないなぁ……今度は味つきのやつ持ってきてあげようかなぁ
そんな事を考えながら、口を念入りに濯いで歯磨き粉の味を完全に消した私は、廊下の電気を落とすとうっすらと漏れる豆電球の光を頼りにベッドを目指していく

「御坂さん、白井さんはもう寝ちゃったみたいなので、申し訳ないですけど今日は私と一緒に寝てくださいね」

2つあるベッドの片方で、佐天さんはそう言うとズリズリと端に寄って私が寝るスペースを作ってくれる
黒子の方をチラリと見ると、確かにスヤスヤと静かに寝息を立てているのが確認できた
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/14(金) 00:08:32.48 ID:xx5L1mfMo
「全然構わないわ、むしろ佐天さんならこっちからお願いしたいくらいよ」

「あはは……さ、どうぞどうぞ」

そう言われた私はもぞもぞと佐天さんの横に潜り込む
おお……すごい暖かいし、いい匂いがする
もう少しお話しようと思って佐天さんの方に体ごと顔を向けると、すでに佐天さんは目を閉じて眠る姿勢に入っていた

「佐天さん……」

返事は返ってこない
それでも私はお構いなしに言葉を続ける

「もう、勝手にいなくなったりしないでね? 私達、ほんとに心配したんだから……相談してくれたら、私達……ううん、私だけでも佐天さんの力になるから……」

やっぱり返事は返ってこない
佐天さんが失踪した時、私達はありとあらゆる手を使って佐天さんを捜索した
いろんなデータにハッキングも仕掛けたし、色んなツテを頼ったりもしてみた
それでも、彼女に関する情報は一切得ることができなかった

そして、今の状況だ

失踪する直前まで無能力者だった彼女は今やレベル5で第8位、新たな常盤台のエースとして君臨する存在になっている
それ自体は素直に祝福すべきことだと思っている

だが、何かが

そう、何かが私に確かな違和感を覚えさせるのだ
それは喉に刺さった小魚の骨のように、些細だけどはっきりとした違和感を覚えさせる
ハッキングにかけては学園都市でも数本の指に入ると自負している私の能力を持ってしても、何一つ、目撃情報すら得られないなんて

――――もしかしたら佐天さんは、暗部……あるいは学園都市のもっと奥に潜む闇と接触していたのではないだろうか――――
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/14(金) 00:10:43.95 ID:xx5L1mfMo
「御坂さん」

ついつい考えが飛躍していた私に、眠ったと思っていた佐天さんが話しかけてくる

「な、何?」

「……ありがとうございます」

佐天さんはそう言うと、私に遠慮がちに抱きついてくる
腰に回された手や、少し押し付けられている胸、パジャマ越しに伝わる体温にやっぱり私はドキドキしてしまう

「佐天さん……」

私がそっと佐天さんの体を抱きしめた時には、佐天さんはもう寝息を立て始めていた
よく考えたら、そんな事があるはずない
学園都市の暗部やそれより更に深い組織に、こう言ってはなんだが、なにも知らない、どこにも属していない無能力者の少女が接触できるわけがないのだ
どこかにひっそりと旅にでも出ていたのか、それともしばらく実家で過ごしていたのか、きっとそんな感じだろう

能力については、もともと努力家だった彼女の事だ
どんな形であれ何らかのショックで能力が発現するのはよくある事らしいし、自己流で高みへと辿り着いたのだろう
一人で納得した私は、今日一日の疲れをとるには非常に良い抱き枕になりそうな少女を抱きしめ、自分のものよりかなり大きい胸に顔を埋める
深呼吸をした後に目を閉じると、私の意識はすぐに闇へと溶けていった――――
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/14(金) 00:16:00.93 ID:xx5L1mfMo
ここまで読んでくださった方、ありがとうございました
決してチョコミントアイスを馬鹿にしているわけではないので、悪しからず
御坂さんは子供っぽい方が可愛いかなーと思ってますがちょっとやりすぎた感が漂う感じです
次も一週間以内には投下に来ようと思います、それではー
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/10/14(金) 00:36:17.19 ID:zG8L9ssk0
乙ですの
微笑ましい三人の描写が後の悲劇をいっそう引き立てるわけだな…!
次回もたのしみ
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/14(金) 02:12:21.07 ID:puVB6fYuo
>>53に訂正があります
諸巨躯→食欲に脳内変換しておいてください

それと、明日にはまた投下にこれそうです
ラストまでまだまだ長いですが、誤字などがあれば指摘していただければちょっと助かります
ではー
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/14(金) 03:21:31.39 ID:pY4OFpg1P
やだ、面白い///
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/14(金) 03:46:41.75 ID:koLGl4Tjo
>>64
>決してチョコミントアイスを馬鹿にしているわけではないので、悪しからず
絶対に許さない
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/14(金) 12:42:39.09 ID:AbOScLhDO
おもしろい

地の文に句点がないのだけ気になる
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/15(土) 15:16:56.16 ID:2dmWC6/No
4月21日

佐天サイド

午前7時ちょっと過ぎ、学生の皆はまだまだゆっくりしているであろう休日のこんな時間帯に、私は歩道を爆走している。
休日出勤しているサラリーマンなんかが迷惑そうな目で私を見てくるけど、そんな視線に構っている余裕は今の私にはない。
私がこんなに焦っている理由は部活でもなければ、学校の補習があるなんてわけでもないのだが。

「やっばー……初春怒ってるかなあ」

理由は先程挙げたものより単純明快、友達との待ち合わせにばっちり寝坊してしまったためだ。
待ち合わせの時間は午前7時。
腕時計を確認すると、短針は7の位置に留まっているが、なんとも無情な事に時計の長針は既に3の数字を通り過ぎてしまっている。

「うう、目覚ましもちゃんとセットしたのに……」

こんな言い訳をしたところで寝坊をしたという事実に変わりはなく、時間が巻き戻るわけでもないのは承知しているのだがついつい口に出してしまう。
そもそもこんな早い時間帯に待ち合わせをする事になった原因は、数日前、私が初春に聞かせたある話まで遡る。

「初春、こんな話聞いた事ある?」

その日、いつものように学校でのかったるい授業を終えて2人で帰宅している時、私はその話を初春に話したのだ。
それは、私が体験した一種の都市伝説のようなもの。
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/15(土) 15:17:26.75 ID:2dmWC6/No
4月21日

佐天サイド

午前7時ちょっと過ぎ、学生の皆はまだまだゆっくりしているであろう休日のこんな時間帯に、私は歩道を爆走している。
休日出勤しているサラリーマンなんかが迷惑そうな目で私を見てくるけど、そんな視線に構っている余裕は今の私にはない。
私がこんなに焦っている理由は部活でもなければ、学校の補習があるなんてわけでもないのだが。

「やっばー……初春怒ってるかなあ」

理由は先程挙げたものより単純明快、友達との待ち合わせにばっちり寝坊してしまったためだ。
待ち合わせの時間は午前7時。
腕時計を確認すると、短針は7の位置に留まっているが、なんとも無情な事に時計の長針は既に3の数字を通り過ぎてしまっている。

「うう、目覚ましもちゃんとセットしたのに……」

こんな言い訳をしたところで寝坊をしたという事実に変わりはなく、時間が巻き戻るわけでもないのは承知しているのだがついつい口に出してしまう。
そもそもこんな早い時間帯に待ち合わせをする事になった原因は、つい数日前、私が初春に聞かせたある話まで遡る。

「初春、こんな話聞いた事ある?」

その日、いつものように学校でのかったるい授業を終えて2人で帰宅している時、私はその話を初春に話したのだ。
それは、私が体験した一種の都市伝説のようなもの。
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/15(土) 15:20:27.00 ID:2dmWC6/No
「またですか……佐天さんの話は眉唾物が多すぎるんですよねぇ。まぁ、幻想御手の一件があるので、嘘ばかりとは言いませんけど……」

以前からよく初春にこうやって話を聞かせていたこともあり、今回もまたいつものような話かと言いたげな目で私を見てくる。
先程、彼女が発した聞きなれない言葉、幻想御手。

幻想御手とは、通称レベルアッパーと呼ばれる代物で、ネット上で囁かれていたいわゆる都市伝説のようなもの。
聞くだけで能力のレベルが上がるというそれは、無能力者であることに悩みを抱いていた私にとって非常に魅力的な話だった。
そうして死に物狂いで情報を集め続けた結果、私は遂に力を手に入れた。
それは紛い物の力で、今までの私の努力を否定するようなものだったけれど、それでも、それでも私は嬉しかった。
私の手の上で木の葉が風の力で渦を描いたとき、私はとっても楽しい日常と、望んでいた非日常を同時に手に入れたと思った。
このままでは届かないと痛感していた能力者の領域にようやく足を踏み入れる事ができた、その時はその事実だけが私を支配していたのだ。

だけど、世界にはそんな美味しいだけの話は存在するわけなくて。

幻想御手の副作用として、私は意識不明の状態に陥ってしまったらしい。
その後、御坂さん達のおかげで私は無事こうして今も生活を送っているわけだけれども、その時の初春の狼狽っぷりといったらとんでもないものだったという事だ。
そこだけはもう、ほんとに申し訳ないと思っている。
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/15(土) 15:21:43.09 ID:2dmWC6/No
「今回はあれだよ、実際にあった話みたいだよ。あるケーキ屋さんの話なんだけどさあ」

私が初春に話した内容は、こうだ
最近、駅前にオープンしたケーキ屋さんがあるのだが、いつ行っても閉まっているらしいのだ
平日も休日も、晴れの日も雨の日も風の強い日もだ
お店の前には8時開店、17時閉店の文字があるのに、ある少女が9時に訪れた時にはもう閉店していたらしい、というかしてた
私はいてもたってもいられず、お店の店長らしき人に話を聞いてみた
なぜこんなに早く閉店しているのかと
すると店長らしき人は、申し訳なさそうにこう言ったのだ――――

「8時20分にはケーキが全部売り切れちゃうんだってさ、怖いよね」

「……」

どうやら恐怖のあまり初春は言葉を失ってしまったらしい
ちょっと待って、そのアホの子を見るような生温かい目線はいったい何なの

「えー? 今の話で言いたい事わかんなかった?」
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/15(土) 15:23:23.49 ID:2dmWC6/No
どうやら初春は、私がなんの考えもなく今の私にとって、とっておきのこの話を聞かせたとでも思っているらしい。

「ごめんなさい佐天さん。私には話が高度過ぎて何が何だか……っていうか途中からただの体験談じゃないですかぁ!」

なんだなんだ、本当に私の話のレベルが高すぎて理解できてなかっただけなのか。
しょうがないなぁまったく、初春は本当にしょうがないなぁ。

「つーまーりー! 今度の休日に、行くよ」

「へ?」

鳩が豆鉄砲くらったような、っていうのはこういう表情の事を言うのだろうか。
もっとも、平和の象徴である鳩に豆鉄砲を撃ち込んでいるような野蛮な光景は見た事がないので何ともいえないが。

「店長さんが言うには、一時間位前に並んでればなんとか買えるらしいから、7時に駅前集合って事で。遅れたら豆鉄砲くらわせるからね」

ちょっとだけ、本当にちょっとだけ鳩が豆鉄砲をくらった所を実際に見てみたいと思った私は、流石に本物の鳩に撃ち込むような勇気はなかったので、学園都市の平和を守っている風紀委員で代替しようと考えたのだ。
ひどいですよー、なにするんですかさてんさーん、なんて言いながら両腕を振り回して襲い掛かってくる初春の姿が鮮明に想像できるけど、こればっかりは実際にやってみないと確かめようがない。
もっとも、これも初春には高度過ぎて伝わらなかったみたいだけど。

「豆鉄砲……? じゃあ白井さんや御坂さんも呼びましょうか」

どうやら、本当に初春は私の意図に気付いていないらしい。
そりゃ確かに、正式に言ったわけではないけどさ。
あんな風にキスまでおねだりしたのに、どうしてわかってないかなこの子は。

「んー、2人っきりで行かない? たまにはいいでしょ?」

「佐天さんがそれでいいならいいですけど」

これまたサラッと、初春は何を気にした様子もなくオーケーをもらってしまう。
もう少し意識してくれても……そうか、私の言いたい事がわかってないならそんな態度も仕方ないのか。

――まったく、初春は本当にしょうがないなぁ……――
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/15(土) 15:25:22.09 ID:2dmWC6/No
という風なやり取りがあって、これが待ち合わせ時間が妙に早い理由な訳である。
もっとも今現在本当にしょうがないのは自分で誘ったうえに時間まで指定しておいて、更には罰として設定した豆鉄砲までくらわせられるかもしれない、この私なのは間違いないのだが。

「はぁ、はぁ……ご、ごめんね初春」

結局私が待ち合わせ場所に到着したのは、時計の長針が4を回った頃だった。
必死で走ってきたせいもあって、汗をかいていたり息があがりまくっていたりと、爽やかな朝とは程遠いような状態に陥ってしまっている。

「もう、自分で言っておいて遅刻するんですから……」

少しだけ頬を膨らませて初春が私に抗議してくる。
私には返す言葉もないので、ただひたすらに謝る事しかできないのだが。

「ごめんね、初春……」

「ふふ、実はそれほど気にしてないですから大丈夫ですよ? さぁ、早くケーキ屋さんに並びましょうよ佐天さん」

どうやら初春には許してもらえたらしい。
今度からは本当に気をつけようと、私は深く心に刻み込む。
そうしないと、私の日課となっている初春のスカート捲りも落ち着いて行う事ができない、という事に気付いたというのは初春には秘密だけど。

「えーと、ケーキ屋さんはこっちだよ、ういは……」

言いかけて、私は絶句する。
件のケーキ屋の前にはすでに長蛇の列ができており、今から並んでも到底間に合いそうにはないのだ。
平日でさえすぐに売り切れてしまうような人気のお店であれば、休日には私達と同じような人が他に存在してもおかしくはない。
どうして私はそんな簡単な事に気付かなかったのか。

それだけではない。

もう少し早く来ていれば、予定通りにこの店を訪れていれば、ケーキは買えたかもしれない。
せっかくの休日に早起きまでしてくれた初春に申し訳ないという気持ちと、せっかく二人きりになれたのに、重大なミスを犯してしまう自分の不甲斐なさが私の心に重くのしかかる。
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/15(土) 15:27:17.61 ID:2dmWC6/No
「うわー、すっごい人ですねぇ。どうしましょう佐天さん、とりあえず並んでみます?」

「……ごめんね、今日はもうケーキは買えそうにないよ……本当にごめんね、初春」

私はもう、謝る事しかできなかった。
泣かないようにしようとは思ってたけど、半泣きくらいにはなっていたかもしれない。

「佐天さん……ちょっとベンチに座って待っててください。すぐ戻りますから」

ひどく落胆ている私を心配したのか、初春は私にそう告げるとどこかに走っていく。
私は初春の言葉通り、近くのベンチに腰を下ろして、一人で悶々と反省会を繰り広げる。
嫌われただろうか、やっぱり約束の時間すら守れないような人間は嫌いなのだろうか。
そんなネガティブな考えが、私の頭の中で浮かんでは消えてを繰り返す。

何分くらいそうしていただろうか。

「佐天さん、お待たせしました」

そんな声がしたので頭をあげると、満面の笑みを浮かべた初春が立っていた。
初春の手には、どこかに走っていく前には持っていなかった小さな紙袋が握られている。

「じゃーん、実は美味しいと評判の鯛焼きを買ってきたんです」

初春は紙袋の中からまだ湯気の立つ鯛焼きを取り出すと、鯛焼きがまるで空中を泳いでいるかのようにヒラヒラと軽く振って得意気にまた笑う。
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/15(土) 15:29:12.94 ID:2dmWC6/No
「……でも、1つしかないよ?」

私は精一杯の笑顔を見せながら、素朴な疑問を初春にぶつけてみる

「んー、佐天さん。美味しいものをもっと美味しく食べる方法って知ってますか?」

初春はやっぱり笑いながら私に聞いてくる
美味しいものをもっと美味しく……?

「正解は……これですよ、佐天さん」

さっきまで初春が持っていた鯛焼きは1つ
でも、今初春の手には2つの鯛焼きが握られている
1つは頭から胴体の真ん中まで、もう1つは胴体の真ん中から尻尾の先まで
魔法でも錬金術でもなかったけど、それは初春の思いやりによって生み出された魔法の鯛焼き

「貧乏臭いかもしれないですけど、私半分こするのって好きなんです。佐天さんは頭と尻尾どっちがいいですか?」

初春は本日最高の笑顔で、私に鯛焼きを差し出してくる

「……じゃあ、尻尾の方をもらおっかな」

「はい、どうぞ。冷めないうちに食べちゃいましょう!」

初春は私の横に座ると、まだ熱い鯛焼きをハフハフと頭からちょっとずつ食べていく
その様子が何だか小動物みたいで可愛くて、私は初春の横顔につい見惚れてしまう
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/15(土) 15:31:10.60 ID:2dmWC6/No
「はふはふ……佐天さん? 私の顔に何かついてますか?」

「い、いや! 何でもないよ、何でもない! この鯛焼き美味しいなあって思って……って熱っっ!」

慌てて口に鯛焼きを入れた私は、予想外の熱さにびっくりしてしまう
鯛焼きに入っている中身は、外側に比べて恐ろしいほどに熱を持っているということを身を持って体感する

「あはは、何やってるんですか佐天さんってば」

「いやー、あまりにも鯛焼きが美味しくてね」

私は照れ笑いを浮かべながらそう答える
多分、この鯛焼きは以前私も食べたことがある店のものだと思うのだが、その時に比べると格段に美味しく感じたのは事実だ
たっぷり詰まった餡子以上に、初春の心が詰まっているから美味しい、なんて恥ずかしい事を考えてみたり

「佐天さん、やっと笑ってくれましたね。佐天さんはやっぱり笑顔の方が似合ってますよ」

「あぅ……」

その一言、たった一言で私は、自分の顔が瞬時に熱くなっていくのを感じている
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/15(土) 15:33:08.64 ID:2dmWC6/No
ああ、やっぱり私は初春の事が好きなんだ
今日は一方的に私が悪いミスをしてしまったけど、それでも私の事を気遣ってくれる
そんな優しさに、暖かさに、初春という存在の全てに私は惹かれたんだと胸を張って言う事ができる

「……初春、私……初春の事――――」

本当は、まだまだ私の気持ちは言うつもりはなかった
言ってしまえば、今までの関係とか、何もかもが壊れてしまうと思っていたから

「私も、佐天さんの事――――」

初春は私の言葉を最後まで聞くと、私の手を優しく握って、目を閉じてそっと唇を近づけてくる

「ん……」

私の人生で2度目となる、家族以外とのキスは甘い甘い餡子の味がした
初春は後で、唇に鯛焼きの餡子がついてたからなんて言い訳してたけど、あれはもうキスとしてカウントしてもいいはずだ

――守るよ、初春の事。私、強くなって絶対に初春の事守るから。初春のために、強くなるから――
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/15(土) 15:34:48.83 ID:2dmWC6/No
「――――ん、朝か……」

その日見たのは、懐かしい夢だった。
それは、私が人生で最大の決断を下した日。

「初春……」

今でも思い出す、今でも夢に見る、そして今でも思う。
あの日、あの日の出来事が夢ならどんなに良かったかと。

「そういえば、御坂さんは――」

昨日、私の隣で眠ったはずの御坂さんの姿はベッドには既にない。
室内に漂う匂いから判断して、恐らく朝食を作ってくれているのだろうが。
私は、隣のベッドで眠っている白井さんを起こすと、登校するための準備として手始めにパジャマから制服へ着替えを始めた――――
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/15(土) 15:38:47.96 ID:2dmWC6/No
投下が遅れてしまいましたが、本日はここまでで
これからは句点をつけるようにしたいと思います、って今見返したらついてないところがかなりある……
それでは、次回もなるべく早く投下に来たいと思います
読んで下さった皆様、ありがとうございました
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/15(土) 16:29:10.60 ID:nztBQHUSO
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/15(土) 23:56:02.16 ID:M7fH2DaRo
「おはようございます、御坂さん」

水玉模様のパジャマから常盤台中学の制服へと着替え終えた私は、キッチンで鼻歌を歌いながら料理に勤しむ御坂さんに声を掛ける。
高校の制服の上から、ゲコ太のイラストが随所にちりばめられたエプロンを着用した御坂さんがこちらを振り向き、

「おはよう佐天さん。勝手にキッチン借りてごめんね」

私に挨拶を返してくれる。

「いえいえ。すみません、朝食まで作ってもらっちゃって」

食卓の上には狐色にこんがりと焼かれた食パンや、各種のジャムが並んでいる。

「好きでやってるんだからいいのよ、もう少しで卵が焼けるから待ってて」

きっと御坂さんはいいお嫁さんになるだろう。
浮気なんてしたら黒こげにされるかもしれないけど、そもそも御坂さんみたいに可愛い人と付き合って浮気をするなんて私には考えられない話ではあるが。
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/15(土) 23:57:23.45 ID:M7fH2DaRo
「おはようございます、佐天さん、お姉様」

いつもは私が起こしてもらうけど、今日は珍しく私に起こされた白井さんが、目を擦りながら食卓にやってきた。
寝起きで整えていないためボサボサになっている髪も、普段の見慣れたツインテールとのギャップも相成ってなかなか可愛いと思う。
ギャップ萌えとはこういう事を言うのだろうか。

「おはようございます白井さん。髪、整えてあげますから座ってください」

もう少し朝食が完成するまでには時間がかかると判断した私は、白井さんを椅子に座らせ、櫛と寝癖直しスプレーを手に取り背後に回る。
スプレーを吹き付けて、櫛ですいて、また吹き付けて、すいてを繰り返していくうちに、眠くなってしまったのか白井さんは寝息を立て始めた。
私は起こしてしまわないように慎重に、細くてきめの細かい茶髪を頭の両側で結んで、白井さんのトレードマークを作り始める。
うん、やっぱり白井さんはこうでなくっちゃ。

「はい、お待たせー。簡単なもので悪いけど食べて食べて」

白井さんの頭を撫でたり、プニプニのほっぺをつっついたり、髪の毛を弄くったりして遊んでいると、御坂さんがキッチンから料理を持って現れる。
ベーコンエッグというやつだろうか、目玉焼きの下にジューシーなベーコンが敷かれたその料理は、確かにお手軽だが非常に美味しいというのは周知の事実の筈だ。

「ありがとうございます。白井さん、朝御飯食べましょうよ」

私が肩を軽く揺さぶると、白井さんはすぐに目を覚ました。
二度寝しているのが私だったら、起きるのにかなり時間がかかるんだろうけど。
ていうか、そのパターンが私達が遅刻する鉄板なのだが。
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/15(土) 23:58:33.61 ID:M7fH2DaRo
「はぁー、朝こんなにゆっくりできるのなんてしばらくぶりですよね、白井さん」

「そうですわね。いつもは佐天さんがあと5分あと5分と布団から離れようとしませんもの。何度瞬間移動で布団ごと無理やり学校に連れて行こうと思ったことか……」

おーっと、ここで衝撃の事実が発覚。
まさか私が爽やかに二度寝をしている横で、そんなギリギリの戦いが行われていたなんて。

「あー、でも布団ごと学校に行けたらそれはそれで素敵だなーって」

「ほほう、では今度からしっかり送ってさしあげますの。寝巻き姿の佐天さんは、さぞ他の生徒の注目の的になりそうですこと」

やばい、この目はわりと本気の目だ。
そうなりたくなければしっかり起きるしかないのだが、きっと私はまた寝坊するだろう。
私は目線だけで、事の成り行きを楽しそうに見守っている御坂さんに助けを求める。

86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/15(土) 23:59:11.97 ID:M7fH2DaRo
「ほら、黒子も意地悪しないの。佐天さんも今度から二度寝せずにちゃんと起きるみたいだし、ね?」

しまった、まさかそうくるとは。
二度寝は私にとって、白井さんや御坂さんと一緒にいる時間の次くらいに好きな時間なのに。
白井さんはそれを聞くと、満面の笑顔で私にこう告げる。

「わかりましたの。これから学校に行く前は一切二度寝はしないという事でしたら、私も朝は優しく起こしてさしあげますの」

パジャマと布団持参で学校に行って、あとで寮監にどやされる事を引き換えにして至福の時間をとるか。
それとも、規則正しい生活を送って白井さんと仲良く登校するか。
少し悩んだ結果、

「白井さん、私が二度寝しないようにしっかり見張っててくださいね」

仲良く登校するほうを選んだ私は、白井さんに図々しいお願いをする。
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/16(日) 00:00:08.54 ID:boSbufsJo
「はいはい……ごちそうさまですの」

それを軽く流した白井さんは、食べ終わった食器を流し台に持って行く。

「これからは寮監に怒られることも減りそうね、佐天さん」

御坂さんが笑いながら話しかけてくる。
まあ、確かにあのままではいくらなんでも白井さんに申し訳ないとは思っていたから、いい機会だったのかもしれない。

「だといいですけどねぇ。あ、ごちそうさまでした御坂さん、とっても美味しかったです」

御坂さんに料理に対する率直な感想を述べると、白井さんと同じように食器を持って流し台へと向かう。
食器は帰ってきてから片付ける事にして、流しにとりあえず放置しておいた私は、歯磨きや鞄の準備など本格的に登校する準備を始める。

「えーと、鞄はどこだったかな……」

私は歯ブラシをくわえたまま部屋の中を鞄を求めてうろうろしてみる。
もしもつまづいたりして歯ブラシが刺さったらどうしよう、なんて事は怖いからなるべく考えないようにしないと。
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/16(日) 00:02:12.33 ID:boSbufsJo
「あったあった」

お目当ての品はベッドの横に放置されていた。
教科書は宿題として出た科目とか以外は学校に置いてあるため、実質準備するものなんて殆どないんだけど。

「さ、早く行きましょう御坂さん、白井さん」

うがいをして、鞄を提げてリビングに向かうと、すでに準備を終え談笑している白井さんと御坂さんに話しかける。
そんな馬鹿な。
まさか、よりにもよって私が準備が終わるのが一番遅いなんて。

「は、早いですね……」

驚きを隠せない様子の私に、白井さんが言う。

「今日の準備は昨日のうちに済ませておくのが普通ですの」

なるほど、そんな種も仕掛けもない魔法を使っていたから早かったんですね。

「前もって準備しておけば慌てる事もないしね、佐天さんもこれからはそうすればいいじゃない」

「そうですねぇ、考えときます!」

元気いっぱいにそう答えた私に、2人の呆れたような視線が突き刺さる。
ああ、こんな何気ないやり取りだけど、やっぱり友達っていいなぁ。
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/16(日) 00:03:14.41 ID:boSbufsJo
守りたい、今度こそ私の大事な友達を。
振りかかる全ての火の粉から、私はきっと守ってみせる。

「どうしたの? 早く行きましょ」

私の顔を覗き込むようにして話しかけてきた御坂さんが、私の手を引いて玄関へと向かう。
あの日、私は無能なただの一般人だった。
友達が殺されそうなところを這いつくばって眺めているしかない、非力な一般人だった。
そして、自分が死ぬかもしれない恐怖に震えていた、ただの臆病者だった。

でも、今は違う。
あの頃の無能な私はもういなくて、今の私には紛い物なんかじゃない、自分だけの力がある。


御坂さん、白井さん。きっと私は、復讐という名目でいつか人を殺します。
だけど、それでも、私と一緒にいてくれますか?
私の素顔を知っても、友達でいてくれますか?
ずっと――――
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/16(日) 00:09:02.60 ID:boSbufsJo
ここまで読んでくださった方、ありがとうございました
ここからしばらく佐天さんサイドで話が進んでいきます
だらだらと日常編が続かないようにしないと……
次回は一週間以内に来ようと思います、ではー
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/16(日) 00:16:09.55 ID:SzBm/V0SO


なんか美琴がお母さんみたいだな
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2011/10/16(日) 11:37:00.24 ID:OgrViPu/o
佐天さんってさ、 あたし じゃなかったっけ?
なんか意図でもあるん?
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/16(日) 19:04:12.19 ID:OZ0Zi7PUo
>>92
指摘されて気付きました、確かにあたしですね
今までの分は脳内補完で私→あたしでお願いします
これからの分はあたしに修正していこうと思います、ご指摘ありがとうございました
今日の夜には投下にこれそうです、では
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/16(日) 21:47:22.29 ID:HTqfswzdo
「それじゃ、私こっちだから。また遊びましょ」

常盤台の寮から3人で登校しているとY型に分岐している道で御坂さんが言う。
一つはあたしや白井さんの通う学校へ、そしてもう一つは御坂さんの通う高校へとそれぞれ続いている道だ。

「はーい」

「いつでもいらしてくださいまし」

あたし達は思い思いの返事をして、笑顔で手を振りながら御坂さんと別れる。
さーて、後は学校で寝るだけだ。
でも、その前に――――

「白井さん、気付いてますか?」

「はい?」

白井さんは不思議そうな顔であたしを見てくる。
うーん、十分な距離をとってるから、白井さんが気付いてないのも無理はないかな。

「実は、結構前からたまーに妙な視線を感じてたんですよねぇ。多分、尾行されてま――あ、キョロキョロしない方がいいと思いますよ」

辺りを険しい表情で見回そうとした白井さんをあたしは制止する。

「気付かれたら、正体を暴くのが難しくなりますから。白井さん、協力してくださいね」

「はぁ、協力するのはやぶさかではありませんが……」

白井さんは、どうやって暴くのかと言いたげな目線をあたしに送ってきた。
あたしが考えているのは作戦と呼ぶほど大層なものではないけど、非常に効果的な方法だと思っている。
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/16(日) 21:49:12.51 ID:HTqfswzdo
「白井さんの能力があればいけるはずです。位置はだいたいわかってますから」

視線に気付いた時からあたしは、あたしの能力で周辺を探っている。
風を起こし、起こした風の変化を捉える事で周辺の物体を探査する事ができるのは、あたしの能力の中でも非常に便利なものだと思う。
他にも相手の動きによって生じる風を読む事で攻撃を察知したりだとか、色々便利なものはあるんだけどね。

「次の曲がり角を曲がったら、あの電柱の上に移動させてください。あとはあたしの能力でやりますから」

白井さんが小さく頷いた事を確認すると、あたし達は何事もなかったかのように歩いていく。
そして、目標の曲がり角を曲がった時、

「白井さんお願いします」

あたしは作戦開始を告げる。
白井さんはまた小さく頷くと、あたしの体に触れて能力を発動させた。
一瞬で地面から電柱の上に移動したあたしは、上空から能力で目星をつけておいた位置を今度は肉眼で確認する。

ありゃ、尾行してたのってもしかして……

あたし達より少し遅れて曲がり角を曲がった少女は、急にいなくなったあたしを探しているのか、周囲を必死で確認している。
少し意地悪をしてやろうと思ったあたしは、電柱の上から音を立てないように少女のすぐ後ろに飛び降りることに決め、体を宙に向かって投げ出す。
空中で支えを失った物体は通常であれば重力に従い落下していくところだが、気流をコントロールする事で体を宙に浮かせ、ふわりとした着地に持って行く。
そして、背後から未だにキョロキョロしている少女の肩に優しく手をかけ
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/16(日) 21:49:54.20 ID:HTqfswzdo
「おはよう」

とりあえず挨拶をしてみる。
女の子は驚いたのか、体がものすごい硬直してるけど、こうじゃないと悪戯をしかけた意味がない。

「あ……」

ゆっくり振り返った女の子は、やっぱりあの子だった。
いつもお弁当の時間にあたしのところに来ている、自己主張の苦手な茶髪の女の子。
普段のおどおどした様子はなくて、今は泣きそうな表情で俯いてしまっているけど。
参ったな、ここまでするつもりはなかったんだけどな……

「佐天さん……あら、その子は確か……」

引き返してきた白井さんが、厳しい表情で女の子を見つめている。

「いったい何のつもりで私達を尾行していましたの?」

まあ、当然の疑問だろう。
同じ学校に通っているのに、わざわざ尾行する意味があるのだろうか。
まあ、あたしには何となく見当はついてるんだけど。

「あの、その……ごめんなさい……」

白井さんの追及に、女の子は本気で泣き出しそうになっている。
いけない、これはいけないですよ白井さん。
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/16(日) 21:54:30.50 ID:HTqfswzdo
「あー、白井さん、あんまり怒らないであげてください」

「怒ってはいませんの。ただ理由を聞いているだけですわ」

怖い、その態度は普通に怖いです、なんて言葉はおいといて。

「んー、どうしよっか。わざわざ後ろなんてついてこなくても、せっかくだからこれからは一緒に登校しよっか?」

眼の前で、今にも消えてしまいそうなほど萎縮している女の子にあたしはそんな提案をする。
よし、何とか泣かせる事態は避けられそうだ。

「佐天様……いいんですか……?」

少し明るさを取り戻した顔で、女の子は私を見つめてくる。
突き放してもよかったけど、それはあまりにもこの子が気の毒だったから。
深い関係になるつもりはないけど、やっぱりあたしは距離をとるよりも友達を作る方が得意みたい、なんて自惚れてみたり。
そして白井さんが何か言いたげな目であたしを見ているけど、気にしたら負けかな。

「全然おっけー! ていうか学校でも普通に話しかけてきなよ。ねぇ、白井さん?」

「はぁ……わかりましたの。貴方も、これからはこのような方法ではなくしっかり言葉で伝えなさいな」

諦めたように白井さんが言う。

「あ、でも――――」

この子とはこれから喋る事も多くなるだろうから、これだけは直してもらわないと。
正直言って、言われるたびに背筋を虫が這ったみたいにムズムズするんだよね。
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/16(日) 21:56:12.83 ID:HTqfswzdo
「様付けは、できれば……っていうかやめてくれると嬉しいかも。さんとか、別に呼び捨てでもいいよ」

「は、はい。わかりました、佐天様……」

おーい、言ってる言ってる。
もしかしてこの子は天然なのかな?

「様付けはやめてってば。あたし達、もう友達でしょ?」

「あぅ……」

女の子にそう言うと、何故か彼女の顔が見る見るうちに真っ赤になっていく。
すると、隣であたし達のやり取りを見ていた白井さんが一言、

「佐天さん……佐天さんはもしかして天然ジゴロですの?」

予想外な事を言ってくる。
いやいや、そんな馬鹿な。

「はぁ、気付いていないからこそ天然ジゴロですの」

「違いますってば、白井さん!」

今度はそんなあたし達を見て、女の子が笑う。
そんな女の子を見て、

「ん、そうそう。笑ってた方が可愛いって、これからよろしくね」

あたしはもう少し元気づけてあげようとそんな言葉をかける。
もっとも、余計に顔を真っ赤にして俯いてしまったけど。

「はぁ、佐天さんはやっぱり天然ジゴロですの。後輩キラーですの。プレイガールですの。女なのに女ったらしですのー」

なるほど、わかりました白井さん。
これはもう戦争ですね。

「白井さん、あたしももう怒りましたよ!」

うがーっと元気よく両手を上げて襲い掛かったあたしを、からかいながら白井さんがひらりと身をかわす。
しばらくの間、あたしは登校する度に白井さんにこのネタでからかわれ続けたというのは、また別の話――――
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/16(日) 22:03:00.00 ID:HTqfswzdo
l今回はここまでで
女の子はオリキャラとして設定するほど出す予定はないので、名前なんかは決めてません
日常はもう少し続きますの、プロローグの状態になるまではまだかなり時間がかかりますの
次回も一週間以内には来ようと思います、読んでくださった皆様、ありがとうございましたー
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/16(日) 22:16:06.38 ID:SzBm/V0SO
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) :2011/10/16(日) 23:10:08.20 ID:AnP9LRWCo
佐天様今日もペロペロさせて下さい
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/17(月) 20:03:34.76 ID:fNrQ7sxeo
5月2日

「白井さん……」

「はい?」

4月29日〜5月5日までの7日間、通称ゴールデンウィークと呼ばれる大型の連休に、あたしは風紀委員の詰所で過ごす事を余儀なくされている。
世間はやれ旅行だの、ショッピングだのと色めきだっているのが今のあたしには憎たらしくてたまらない。
皆が浮き足立っている時だからこそあたし達がしっかり仕事をしなければならないというのはわかっているのだが、どうしてもどこかへ遊びに行きたくなってしまう。
この前友達になった女の子から、連休どこかに行きませんかとか誘われてたんだけどなぁ。

「あたし、帰ってもいいですか?」

あたしは頭の上で拝むように手を合わせて、できるだけ愛嬌たっぷりに白井さんにお願いしてみる。

「もちろん、駄目ですの」

あたしのお願いは、白井さんの笑顔の前にあえなく撃沈してしまう。
もう17時なんですけど……サラリーマンも定時で帰る時間ですよ。
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/17(月) 20:04:45.13 ID:fNrQ7sxeo
「佐天さんの気持ちはわかるけどね。はい、コーヒー淹れたから、ちょっと休憩しましょ」

「あ、ありがとうございます固法先輩」

もう一度机に向かって書類と格闘を始めた私に、風紀委員としては白井さんよりもキャリアの長い固法先輩が差し入れをくれる。
白井さんが大先輩なら、固法先輩は何先輩なんだろうか。
超先輩? ウルトラ先輩? いっその事、超ウルトラ大先輩とかどうだろう。

「はぁー、美味しい。ていうか、ゴールデンウィークくらい治安が良くなってもいいと思うんですけどねえ。固法超ウルトラ大先輩もそう思いませんか?」

コーヒーを右手に持って、左手で書類をめくって適当に目を通しながら、私はさっそくその呼び方を使ってみる。
書類の多くは恐喝、暴力事件、強盗など犯罪の報告書であり、まるで世紀末を彷彿とさせる治安の悪さである。

「そうねえ、この辺は買い物に来る人とかも多いから尚更ね。普段は佐天さんのおかげで減ってるんだけどね。で、さっきの呼び方はいったいなに?」

流されたと思ってたけど、どうやら拾ってくれたらしい。
あー、何か不満そう。
あれかな、もっとグレードの高い呼び方のほうがいいのかな?
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/17(月) 20:07:02.48 ID:fNrQ7sxeo
「白井さんが私の風紀委員の大先輩なら、固法先輩はどうなるかなーって。超ハイパースーパーウルトラムサシノマスターデンジャーゴージャス先輩とかでしょうか」

「……白井さん、佐天さん疲れてるみたいだし、休ませてあげたほうがいいんじゃない?」

固法先輩が本気で心配そうな目で白井さんに訴える。
やばい、心配されるのは一番ダメージが大きいんですけど。

「そうですわね。書類と睨めっこするのは佐天さんも飽き飽きしてるでしょうし、パトロールにでも行ってきなさいな」

「えー、パトロールで――」

待てよ? 
そうだよ、お店とかをパトロールすれば合法的に、少しの間だけ休暇を満喫できるじゃない。
そう考えた私あたしは、

「わかりました! さっそく行ってきますね!」

元気よく返事をして、白井さん達の気が変わらないうちに風紀委員の支部を飛び出していく。
背後では白井さんが、頑張ってくださいですのー、なんて言って見送ってくれている。
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/17(月) 20:07:48.39 ID:fNrQ7sxeo
「白井さんって、案外意地悪よね」

あたしは気付かなかった、白井さんがあの小悪魔のような笑顔を浮かべていたことに。

「まぁまぁ、外に出るのはいい気分転換になると思いますの」

「私は余計疲れるだけだと思うんだけど……」

あたしがこの2人の会話の意味を理解するのは、パトロールを始めてすぐの事だった――――
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/17(月) 20:08:34.46 ID:fNrQ7sxeo
ちょっと外出します
帰ってきたら再開します
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/17(月) 20:56:15.81 ID:+auPYqhlo
人、人、人。
右も左も前も後ろも、私の頭上以外は見渡す限りが人で埋め尽くされている。
支部を元気よく飛び出してきたあたしは、往来のど真ん中で今日が大型の休日だったという事を改めて実感していた。

「あー、失敗した……そうだよ、人が少ないわけないじゃん」

傾き始めた太陽を見ながら、あたしは溜息をつく。
どこの喫茶店を見ても人でいっぱい、ショッピングセンターの中なんて息をつく暇もないほど人で溢れかえっているのは想像に容易い。
しかも、パトロールに出かけると言った手前、もうしばらくは支部にも帰れないときている。

「駄目駄目、こんなとこにいたら余計疲れるって。路地裏でもパトロールしてこよーっと」

実際問題、人の目が多い場所で犯罪はほとんど起こらない。
今回報告されていたものも、だいたいが大通りから少し外れた小道なんかでよく起こっているのだ。
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/17(月) 20:57:12.49 ID:+auPYqhlo

「ここで絡まれてたのが以前のあたしなんだけど、常盤台の制服だと絡まれにくいのかな?」

あたしが現在在籍している常盤台中学校は、所属する条件として能力者としてのレベルが3以上という異例の基準が設けられている。
勿論所有している能力にもよるが、だいたいの場合、高位の能力者に対して一般人はあまりにも無力なのだ。
あたしはそれをよく知っている。

ま、というわけで触らぬ神に祟りなし。
あたしが無能力者だった時は、最低でもレベル3、レベル4も珍しくないなんていう連中に喧嘩を売ろうなんて、特別な理由でもなければまず思わなかったね。

「んー、いい時間かな。白井さんには人が多かったですって報告しよう、そうしよう――――」

薄暗くて、なんだか陰気くさい路地裏から出ようと歩き始めた時、

「や、やめてください! 人を呼びますよ!」

女性の声で、何かに襲われていそうな台詞があたしの耳に飛び込んできた。
何やらただならぬ雰囲気を感じたあたしは、声のした方に能力を用いて全速力で、文字通り飛んでいく。

「呼んでみろよ、誰もこねーって」

「待ち合わせしてるんです、放して!」

風を従え空中を駆けるあたしの目に飛び込んできたのは、5人の男に囲まれた1人の女の子。
見るからに柄の悪そうな男達は、必死で逃げようとする女の子の腕を掴んでいる。
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/17(月) 20:58:02.54 ID:+auPYqhlo
「いいじゃねぇか、待ち合わせなんてよぉ。俺達と楽しい事――――」

「お、おま、お待ちなさーい!」

ここは白井さん風に決めてやろうと考えたあたしは、まず第一声でいきなり失敗してしまった。
だってこれ、思ってたより恥ずかしかったんだもん。

「ああん? 誰だてめぇ」

よし、この台詞の後なら言える。
ありがとう、名前も知らないお兄さん。

「ジャッジメントです!」

そう言い放つと、地面に降り立ったあたしは、風紀委員の腕章を男達に見せ付けるように引っ張る。
この一連の動作が、白井さんのお約束というやつなのだが――

「ぎゃはは! 風紀委員だってよ! 女が1人来たところで何ができるんだよ!」

どうやら、あたしの予想以上に頭の悪い連中らしい。
第7学区、特にこの辺りの風紀委員は凶暴だ、っていう噂は有名だと思ってたんだけど。
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/17(月) 20:59:50.39 ID:+auPYqhlo
「やめませんか? おとなしくその女の子を解放すれば、せっかくの連休をあたしにぶっ飛ばされて病院の天井のシミを数えながら過ごすなんて事もないんですよ?」

あたしは、誠意を込めて男達を説得する。
白井さんや固法さんは犯人を必要以上に傷つけずに捕まえるのが上手なのだが、どうにもあたしはそういうのには向いていないから。
まあ、内心こんな連中は一度痛い目を見たほうがいいとも思っているけど。

「おい、聞いたかよ。ずいぶんなめられたもんだな、あぁ?」

あたしよりも頭1つは大きい男が顔を近づけて凄んでくる。
煙草の匂いがきつすぎる口臭に、あたしは思わず顔をしかめてしまう。

「はぁ、わかりましたわかりました。ところで後ろ、気をつけたほうがいいですよ?」

「あ?」

あたしの言葉につられて、目の前の男は後ろを振り向く。
勿論、後ろには絡まれていた女の子と男の仲間しかいない。
こんな初歩中の初歩にひっかかるなんて、やっぱりこいつらはあたしの想像以上に頭が悪い。
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/17(月) 21:02:28.22 ID:+auPYqhlo
「あー、ごめんなさい。見間違いでし――――たっ!」

謝りながらあたしは、男のがら空きのボディーに拳を叩き込み、胃袋を正確に撃ち抜く。
普通のボディーブローであれば、いくら内臓に叩き込んだとはいえ、あたしのようなか弱い女の子の一撃で戦闘不能なんて事にはまずならないだろう。
だが、あたしの先程の一撃は能力によって発生させた推進力により速度に補正がかかっており、男はたったの一撃で体をくの字に折り曲げ、吐しゃ物を撒き散らしながらその場に崩れ落ちる。

「なっ――――?」

足元で悶絶する男はもう戦闘不能。
そう判断したあたしはその男を放って置いて、今度は近くで驚愕の表情を浮かべていた男の腹部を軽く手で押す。
自分の体に異常がないか、すぐさま両手で身体中を触診し始めた男の目の前に、あたしは指を3本立てた状態の掌を向け、カウントするように指を1本ずつ折り曲げていく。

3、2、1

そして、カウントが0になり、立てていた指が全部寝た瞬間、

「うおおおおおおお!」

男の腹部に、あたしから遠ざかるような推進力が発生。
ボウリングのように後ろにいた男2人を巻き込みながら、ビルの壁に背中を強打し動かなくなる。
触らなくても推進力は発生させられるんだけど、そこはまあ演出って事で。
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/17(月) 21:04:10.15 ID:+auPYqhlo
「さてさて――」

あたしは、残った1人の男を笑顔で見つめる。
本気でやれば、今頃路地裏は肉片と血の海になっていただろう。
それを理解しているのか、男の顔には恐怖の色が浮かび、ジリジリと後ずさりながら

「悪かった、俺達が悪かった! か、勘弁してくれ!」

なんていう命乞いをしてくる。

「謝るのは、あたしにですか?」

そう、あたしは風紀委員の仕事の一環でこいつらをのしただけだ。
別に楽しい休日を妨害されたわけでもなければ、絡まれて怖い思いをしたわけでもない。
むしろ、あたしに絡まれて怖い思いをしたのは男達のほうだろう。

「あたしにですか? って聞いてるんです」

今度は、口調を少し厳しくして問いかける。
無傷の男からは今にも叫び声をあげて、被害者面して助けを呼びそうな雰囲気が漂っている。

「た、頼む! もうしない、助けてくれ!」
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/17(月) 21:06:00.51 ID:+auPYqhlo
はぁ、聞こえてないのかな?
ほんと、頭が悪いなあ

「もう一回だけ聞きますよ? 謝るのは――あたしにですか?」

あたしはそう言うと自分の体を浮かせる要領で、足元に散らばっている小石やガラスの破片、悶絶している男、更には男達のものと思われる車をも宙に浮かせる。

「悪かった! 勘弁してください! お願いします!」

自分達が絡んでいた女の子に対し、地面に頭を擦りつけながら男は謝り始める。

「あ、あの、大丈夫! 私は大丈夫ですから!」

それを見て女の子の方もうろたえている。
ま、ここまですればもういいかな、今回は見逃してあげよう。

「これに懲りたら、もう馬鹿なことはやめてくださいね」

空中に浮かせていたものを慎重に地面に降ろしたあたしは、注意をしてあげる。
この言葉は、暗に次またこんな現場を見かけたらこんなもんじゃ済まさない、といっているのと一緒なのだが。

「わかったら、行ってもいいですよ。ただし、伸びている人達はちゃんと連れ帰ってください」
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/17(月) 21:07:28.05 ID:+auPYqhlo
あたしの言葉に返事をした男は、仲間を車に押し込み終わると、排気ガスを噴射しながら凄まじい速度で立ち去っていく。
それを見届けたあたしは、

「こんなとこ、女の子が1人で歩くのは危ないですよ? 次からは気をつけてくださいね」

女の子にも防犯意識の低さを指摘し、支部に帰還するため踵を返す。
そんなあたしを押し留めたのは、女の子が発した言葉。

「待って、待ってください!」

腰が抜けて歩けなくなったか、それとも路地裏から1人で出るのが怖いかのどっちかだろう。
そう判断したあたしは、送っていきましょうか? みたいな感じで声をかけようと思い、その場に立ち止まる。
もっとも、この予想は大間違いだったわけだけど。

「涙子……涙子だよね?」

「――え?」

それは、確かにあたしの名前。
200万人以上の人口を有する学園都市で、名前を偶然ピンポイントで呼ばれるなんて事があるのだろうか?
好きな食べ物、年齢、学年、それらを言い当てられたのとは全く異質のもの、偶然にしては、それはできすぎた正解なのだ。
つまり、目の前の少女は、少なくともあたしを知っているという事になる。

「涙子――――私だよ――――」

驚いて、思わず彼女の顔を見つめていたあたしの頭の中に懐かしい名前が蘇ってくる。
それは、あたしが以前籍を置いていた柵川中学の級友で、あたしと一緒に幻想御手を使用した少女。
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/17(月) 21:07:59.45 ID:+auPYqhlo



「アケ、ミ……?」



116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/17(月) 21:09:13.03 ID:+auPYqhlo
今回の投下はここまでで

キャラ崩壊は言わないでっ!
そして、ちょっと投下の頻度が減るかもしれないです。
読んでくださった皆様、ありがとうございました。それではー
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/17(月) 22:05:39.73 ID:VofRFaFSO


佐天さんというより超佐天さんだな
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/18(火) 01:16:42.25 ID:9VxYtnLho
むしろ超ウルトラ大佐天さんじゃね?

>>1
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/10/18(火) 20:56:01.99 ID:XuTafpBAo


これが佐天さんを超えた佐天さんを更に超えた超佐天さん3ってところだ
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/20(木) 00:32:22.93 ID:Y4aQ8MBXo
「ふいー。今日の仕事は終わりかなーっと」

結局、あの後支部に戻って報告書の製作などの業務が完全に終了したのは、20時近くになっての事だった。

「お疲れ様ですの、では門限もありますし帰りま――――」

支部の玄関前で時計を気にしながらそう言った白井さんに対し、あたしは

「あー、すみません白井さん。あたし、今日はちょっと用事があるので先に帰っててもらえませんか?」

堂々と門限破りを宣言する。
もしも門限破りがばれると、鬼の寮監にこっぴどく叱られ、その上掃除などのペナルティが課せられる。
あたしがそんなリスクを背負ってまで規則を破る理由は1つ。
路地裏でかつての級友と奇跡的な再会を果たしたあたしは、彼女の強い要望もあって、これから彼女と話すことにしているためだ。

「どうなっても知りませんわよ? 帰ってきたら迎えに行ってさしあげますので、連絡してくださいな」

「よろしくお願いします。じゃあ、お疲れ様でした白井さん」

昼間に比べると人通りも少なくなった支部の前で、あたしは白井さんを見送ると、ポケットから携帯電話を取り出す。
画面には、バックライトに照らされて級友の名前が浮かび上がっている。
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/20(木) 00:34:23.67 ID:Y4aQ8MBXo
「もしもし、アケミ? 仕事終わったから、今からなら大丈夫だよ」

あたしの第一声は、どこかの会社員が同僚と飲みに行くときに実際に使っていそうな言葉。
もっとも、電話の向こうの少女はそんな事をこれっぽっちも気にすることなく、待ってましたとばかりに返事をしてくる。

『おつかれー! 駅前のジョナサンにいるんだけど、場所わかる?』

駅前のジョナサン……はいはい、あそこかな。

「んー、多分わかるよ。わかんなかったら電話するね」

『りょうかーい。あ、着いたら入る前に電話してね。じゃ、待ってるよー』

それだけ言うと、電話はプツリと切れてしまった。
それにしても、我ながらとてつもない偶然が起きたものだと思う。
偶然パトロールに出かけて、偶然あんな路地裏に入って、そして偶然絡まれていたのが偶然あたしの友人だったとは。

「はー、事実は小説より奇なり、って言うけどほんとにそんな事があるなんてねえ」

初春がいなくなってから、今日までの長い間で、彼女達との繋がりはなくなったものだと思っていた。
あたしは突然彼女達の前から姿を消してしまったのだ。
今はもう、既に学園都市の記憶から忘れられようとしている初春のように、あたしもまた彼女達の中では過去の人になってしまったのだと思っていた。
嬉しさと、気恥ずかしさと、申し訳なさとが3.3:3.3:3.3でブレンドされているような、複雑な気分のままあたしは待ち合わせ場所へと向かう。
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/20(木) 00:35:40.96 ID:Y4aQ8MBXo
「うあー。しかしまあ、何ていえばいいんだろう……」

久しぶり? 元気にしてた? 涙子ちゃん、ただいま帰還しました?
チープな言葉があたしの頭の中をぐるぐると回る。
いったい、どんな言葉で彼女達と再会すればいいのか。

「ジョナサンジョナサン……あー、ここかぁ」

考え事をしていると時間なんてあっという間に過ぎるもので、いつのまにやらあたしは目的の建物の前にやって来ていた。
まだかける言葉はわからないが、きっとどうにかなる。
そう決断をくだしたあたしは、電話を取り出すと先程の番号へともう一回発信する。

『もしもーし』

あたしからの電話は、1コール目で相手の少女に繋がった。

「ん、着いたよー」

『おっけー、今迎えに行くから待ってて』

電話の向こうの少女がそう告げ、通話が終了してから数秒後――――

「おっす! わざわざごめんね、こっちこっち」

店内からアケミが出てきて、あたしの手をひいてズカズカと奥に入っていく。

「いやー、実はここにむーちゃんとまこちんもいるんだよね」

「え」

なんてことだ、それは初耳なんですけど。
アケミ、むーちゃん、まこちんといえば柵川中学の仲良し3人組じゃないですか。
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/20(木) 00:36:58.33 ID:Y4aQ8MBXo
「あはは、驚いてる? 実はむーちゃんとまこちんにも涙子の事は言ってないんだよねー。あ、ちょっとここで待ってて、場をあっためてくるから」

アケミは悪戯っぽく笑うと、そそくさと座席へ戻っていく。
やばいやばいやばい、完全に想定外の事態に体がどんどん熱くなっていく。

「お帰りアケミ。どこ行ってたの?」

あー、この声はまこちんかな?
何だか大人びた声になってるなあ。

「んー、実はねぇ、今日は皆に会わせたい人がいてね」

「え、何何? もしかして彼氏?」

座席がにわかに騒がしくなる。
アケミ、これは完全に逆効果だってば……

「違う! 正解は――この人でーす!」

いつまでも固まってても仕方がないので、あたしはアケミの好意に甘えて、座席の死角になっていた場所からのそのそと出て行く。

「あははは……皆、久しぶりー……」

上手い言葉も結局思いつかなかったため、あたしは困ったように頬を掻きながら無難な言葉を並べてみる。
ニコニコしているアケミの横で、懐かしい友人達の目が徐々に点になっていく。
あたしと一緒に幻想御手を使って、4人揃って意識を失った、ある意味戦友のような存在である彼女達。
アケミ、むーちゃん、まこちん、あたしは頭の中で何度も名前を呼んでみる。
あの頃はめちゃくちゃ楽しかったなんていう、寂しい年寄りみたいな言葉と一緒に――――
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/20(木) 00:37:53.04 ID:Y4aQ8MBXo
「じゃじゃーん、涙子でーす! いっとくけど、本物だよ」

「ええええええ! やっぱり涙子だよね!? うわー、うわー!」

アケミのそんな紹介を聞いて確信を持ったのか、2人は同じようなタイミングで同じような言葉を発する。
久しぶり、とか、元気だった、とかそんな感動的なシーンが繰り広げられようとしていたどこにでもあるファミレスの一角。
そんな空気をぶち壊したのは、お昼から何も食べ物を与えていない、あたしのお腹だった。

「あははは……と、とりあえず、何か頼まない……?」

空気を読まず、大きな音を立ててあたしに食べ物を要求してきた図々しいお腹を強めに叩いて黙らせると、あたしはとりあえずそんな提案をしてみる。
あっ、このお腹め、宿主様に反抗してまた音をたてやがったな。

「そうだね。せっかくまた会えたんだから話もいっぱいしたいし、なにより夜はまだまだ長い!」

笑いをこらえながら、3人のリーダー的存在のアケミが2人に確認する。
よかった、皆異論はないみたい。

「そういえば、アケミはなんで涙子のいる場所知ってたの?」

あたしがメニューを眺めて食べたいものに目星をつけていると、まこちんが真剣な目でアケミに質問する。
あー、これはきっと、あたしも質問攻めにあうな。
夜が長くなることをこの時点で確信したあたしは、ちょっと多めにご飯を頼むことを決めた――――
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/20(木) 00:44:22.43 ID:Y4aQ8MBXo
短いですが、今回の投下はここまでで
超電磁砲はもう少しアケミ達の出番を増やして欲しいです
そして日常編が……長い

読んでくださった皆様、ありがとうございました。
次回は一週間以内には来ようと思います、ではー
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/20(木) 02:59:15.85 ID:jHr3dGGUo
>>1
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/20(木) 03:40:36.84 ID:o7lLpdHSO


そういえばアケミとか全然出ないよな
まこちん好きなんだけどなぁ…
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/22(土) 17:19:11.80 ID:i6AgjsMWo
「でさあ、結局アケミはどうやって涙子を見つけたの?」

運ばれてきた、少し味付けの濃いパスタをあたしが口に運んでいるとき、まこちんからそんな質問が飛び出す。
まあ、当然の疑問だよね。

「話せば長いんだけどさあ――――」

ドリンクバーで器一杯に満たしたコーラを飲みながら、アケミが少しずつ今日の出来事を語り始める。
まこちんとむーちゃんとの待ち合わせに遅れそうだったから路地裏を通った事。
そこで不良達に絡まれたこと。
そして偶然、風紀委員としてパトロール中だったあたしに助けられたこと。

「へー、そんな偶然あるもんなんだねぇ。っていうか涙子、能力者になったんだ。おめでとー!」

感心した様子で、むーちゃんが祝福してくれる。
そうそう、以前からむーちゃんはちょっとマイペースなとこがあるんだよね、変わってないなあ。
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/22(土) 17:20:37.34 ID:i6AgjsMWo
「でも、涙子の能力って相当強そうだったけど、レベル幾つくらいなの?」

アケミが興味津々といった様子であたしに質問してくる。
まあ、これは隠す意味もないかなと判断したあたしは、

「んー……レベルは一応、5……かな。序列は8位だったはず」

正直にそう打ち明けた。
3人の反応はあたしの予想した通り。
「え?」という声の後に、数秒間の空白、そして――――

「レベル5!?」

テーブルをひっくり返しそうな勢いで、3人はあたしに質問をあびせてくる。
あたしが帰ってきて、御坂さん達と再会した時もこんな感じだったなあ。
この光景に既視感を覚えていたあたしは、ほんの1ヶ月ほど前にも同じようなやり取りがあった事を思い出す。

どんな能力なの? 能力名は? 

このへんの質問には、あたしは嘘はつかない。
あたしがわかる範囲でなら、質問には正確に答える。
でも――――

どんな訓練をしたの? どうやって超能力者にまでなったの?

――――1年半も、どこにいたの?――――

これらの質問は、あたしは全力ではぐらかす事に決めている。
誰のためかといえば、それが一番友人のためだと思っているから。
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/22(土) 17:21:36.59 ID:i6AgjsMWo
「なるほどねぇ、修行の旅に出かけていたと……」

今度はメロンソーダをストローで飲みながら、アケミが興味深そうな目であたしを見てくる。
上手く誤魔化せたかな? 御坂さん達は物凄い疑ってきたけど、これはどうなんだろう……

「まぁ、いいじゃん。涙子も困ってるみたいだし、この話はやめにしようよ。それより、せっかくまた会えたんだから、再会を祝って今日は朝まで遊ぼ!」

た、助かった。
流石まこちん、以前からあたし達の中じゃ一番大人っぽかったもんね。

「それもそうだね。じゃあ、ポッキーゲームしよう! 負けた人はドリンクバーに直行ね!」

今日は朝までコースか……とりあえず白井さんに連絡しなきゃ
携帯を取り出して待ち受け画面を開いたあたしは、メールが届いている事を報せるマークが表示されていることに気がついた。
えーと、着信一件、白井さんからか。
内容は――――
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/22(土) 17:23:04.77 ID:i6AgjsMWo
From.白井さん
Sub.なし
Time.23:42

本文.
佐天さん、気をつけてくださいまし。
寮監に佐天さんがいない事がばれてしまいましたの。
なるべく早く帰寮された方がよろしいかと……

「どうしたの? 涙子、顔色悪いよ?」

今まさに、ポッキーゲームで唇が触れ合う寸前の所まで行っているまこちんとむーちゃんを尻目に、あたしの体から嫌な汗が吹き出る。
もういい、こうなりゃヤケだ。
今日は寮に帰らずに、明日は支部に直行。
明日何食わぬ顔で帰れば寮監も何も言わないはず、多分、恐らく、きっと。

「何でもないよー。さぁ、あたしとポッキーゲームで戦うのは――――」

結局、両方が粘った末に唇が触れ合ってしまい、顔が真っ赤になっているむーちゃん達は置いといて。
白井さんに了解のメールを返したあたしは、ポッキーを口にくわえて立ち上がりアケミ達3人の中から挑戦者を探す、はずだった。
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/22(土) 17:25:17.84 ID:i6AgjsMWo
「ずいぶん楽しそうじゃないの、俺達も混ぜてよー」

あたしの意図とは180度位違う形で、あたし達の前に挑戦者が現れる。
下品な恰好をした男達はあたし達のテーブルを囲うように立っており、皆一様にニヤけたような表情を浮かべている。
2、3、4……ふーん、たかが10人か。

「俺達さあ、せっかくの連休に男ばっかで暇なんだよね。俺、君なんかすっごい好みだなー」

金髪のピアスなんかがチャラチャラした、おそらくこのクソみたいな連中のリーダーであろう男はそう言うと、まこちんの肩に手を回した。
まこちんはビクっと肩を震わせると、アケミやあたしに助けを求めるような目線を送ってくる。
……相変わらず、ここは治安が悪いなあ

「や、やめてください!」

「俺の友達もさあ、君達の事気に入った――――」

リーダー格の男の汚い手が、まこちんのまだ発育途上の胸へと回される。
服の上から撫で回すように、嫌がるまこちんはもちろん、完全に無視してだ。
その隣では、別の茶髪の男が同じようにむーちゃんに絡みだしている。

あ、これは駄目だ。こいつらは痛い目見せてやらないとわかんない連中だ。

そう悟ったあたしはまず手始めに、目の前に置かれているコーラが少しだけ残ったグラスを掴むと、金髪の男の目の前へ放り投げてやる。
中身の氷やジュースを振りまきながら、放物線を描くグラスに金髪の男の視線が注がれた瞬間――――
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/22(土) 17:27:08.38 ID:i6AgjsMWo
「――――おごっ」

店内に、ガラスが割れる音と、何かが潰れたような音が響く。
叩き込まれたあたしの拳が、グラスと男の鼻骨を粉砕した音だ。
能力により補正のかかった拳による殴打と、鋭利な破片による切傷。
2重の傷を負った男は、ガラスの散らばる床に真っ赤な斑点を残しつつ、絶叫しながら転げまわっている。

「あーあ、ほんとせっかくの連休に運が悪いですよね。今のあたしは非番なんで、皆さん病院送りは確定ですよ?」

次は、むーちゃんに絡んでいる固形の排泄物のような色をした髪の男。
何が起きたか理解できていない様子の男の体を能力で浮かせると、そのままファミレスの大きなガラス目掛けて叩きつける。
先程とは比較対象にならないほどの破壊音が店内に響き渡り、路上に転がった男は先程の男とは対照的にピクリとも動かなくなる。

「まあ、死にはしないんで大丈夫ですよ。非番とはいえ、あたしは一応風紀委員なんで」

近くにいた男の腹に蹴りを叩き込みながら、あたしは笑顔でそう告げる。
腹を押さえて前傾姿勢になった男の顔面に、今度はアッパーを一撃。
拳が肉を打つ独特な感触の後、男は白目を剥いて完全にダウンしてしまった。
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/22(土) 17:28:35.38 ID:i6AgjsMWo
「ひっ、うわあああああああ!」

あー情けない。まだ7人近くもいるのに、たった4人の女の子相手に逃げるなんて。

「あたしが皆さんの腐った性根を叩き直してあげますから、覚悟してくださいね。」

逃げ惑う不良達に対し、追撃の姿勢を見せたあたしを止めたのは、アケミの言葉だった。

「る、涙子、やりすぎだよ! 救急車呼ばないと!」

やり過ぎ? あたしが、やり過ぎ――――?

アケミに言われて、あたしは気がついた。
金髪の男の顔面には相当深いところまでガラスの破片が突き刺さっており、皮膚の下の赤黒い肉をのぞかせている。
この男は治療をうけたとしてもひどい傷跡が残るだろう。
また、アッパーをお見舞いした男の顎の骨は砕けているであろう事を、拳に残った感触があたしに教えている。
ここまでやるつもりはなかった。
でも、頭に血が昇っていて――――

「……すみません、お店の修理代はここに連絡してくださいす。皆、またね」

あたしは風紀委員の連絡先を置くと、救急車を手配するお店の人達に背中を向け、ファミレスを後にする。
あのままあそこにいても、多分注意くらいで終わっただろうけど、何だか歪んだ自分の素顔を垣間見てしまった気がして。

「はぁ……始末書、かなぁ……」

ファミレスからちょっと歩いたところにあった自販機で、何やら怪しげなジュースを買ったあたしは、急激に後悔の念にとらわれていた。
いつもなら、多少やり過ぎる事はあっても、後遺症を残すような怪我はさせなかったんだけど。
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/22(土) 17:30:10.41 ID:i6AgjsMWo
「はぁ……始末書、かなぁ……」

ファミレスからちょっと歩いたところにあった自販機で、何やら怪しげなジュースを買ったあたしは、急激に後悔の念にとらわれていた。
いつもなら、多少やり過ぎる事はあっても、後遺症を残すような怪我はさせなかったんだけど。

「あっ、いた! 涙子いたよ!」

自販機の近くにあったベンチに座り込んで反省会をしていたあたしの耳に、さっきまで一緒にいた友達の声が聞こえた。
続いて、パタパタと近づいてくる2組の足音。

「はぁ……涙子、急に出て行くから心配したよ。あの人たち、命に別状はないってさ。それに、あいつらこの辺の厄介者みたいでさ、お店の人も喜んでたよ」

アケミがあたしの隣に腰をおろしながら教えてくれる。

「……そっか。皆も、もう遅いから帰った方がいいんじゃない?」

そう言ったあたしの肩に優しく手を置きながら、まこちんが言う。

「助けてくれたお礼も言ってないし、パーティも途中だしさ。何より、こんな涙子はほっとけないって」

「皆……ってうわっ!」

不覚にも泣きかけたあたしに、前方からむーちゃんが抱きついてきた。

「そうときまればあたしの家ここから近いし、続きやろうよ!」

あたしの胸に頬ずりをしながら、笑いながらむーちゃんはそう提案する。

「いいね! 今夜は涙子を寝かせないよー!」

同じように、横から腕に抱きついてきたアケミが笑う。
まこちんはそんな2人の様子を見て、呆れたような笑顔を浮かべている。
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/22(土) 17:31:15.56 ID:i6AgjsMWo


あたしの運命の歯車は、もしかしたらこの日、あの出会いから本格的に動き出したのかもしれない。
個別に動いていた歯車が全て噛み合って、1つの装置となり凄まじいトルクを持って回転し始めている。
あたしが現時点で犯してしまっているミスに気付くのは、もう少しだけ後の事なのだけど――――


137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/22(土) 17:36:32.36 ID:i6AgjsMWo
今回の投下はここまでで。
それにしても何だかやけに好戦的な佐天さんになっているような……

10月中には日常編が終了すると思います。
次回の投下は一週間以内に来ます、ではー。
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/22(土) 20:33:40.30 ID:fOj1bXfSO
佐天人は戦闘民族だからしょうがない。
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/22(土) 20:36:50.15 ID:eZz93K3SO


スカウターで佐天さんの戦闘力を計りたいな
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2011/10/22(土) 23:22:48.48 ID:eRCoTdNfo
ボンッ!
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) :2011/10/23(日) 06:18:14.58 ID:gG0x9IfK0
汚ねえ花火だ…
142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/10/23(日) 14:11:14.78 ID:CgMQZz0N0
サテンサン!
143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/29(土) 01:32:27.82 ID:wAjpKMYIO
もうそろそろか
144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/30(日) 00:06:56.46 ID:yWqTbFU/o
申し訳ありません、1週間以内と言っておいて、今日はちょっと投下できそうにありません。
そして見返すと結構おかしな文章が目に付く……これからはしっかりチェックしないと。

明日には投下できると思いますのでもう少しお待ちください。
145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [sage]:2011/10/30(日) 02:04:44.75 ID:Inq2Va1go
待ってる
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/30(日) 12:32:45.85 ID:ufVR2f8po
なんだか柔らかくて、暖かくて、気持ちいい。
体を揺さぶられる感覚で目を覚ましたあたしが、最初に抱いたのはそんな感想だった。
ぼんやりと薄目を開けてみると、あたしの顔を初春が上から見下ろしている。

「もう。ちょっとだけ膝枕してなんて言って、佐天さんはすぐ寝ちゃうんですから……」

そういえば、お風呂上りにそんな事を言ったような気もする。
初春と同棲を始めて1ヶ月とちょっと。
既に9月も半ばに差し掛かり、ついこの間まで夏だったなんて嘘のように感じるほど涼しい日々が続いている。

「ん……もうちょっとだけ。……駄目?」

あたしはおねだりしながら、初春の太腿の上で頭を左右にコロコロと転がす。
若干初春がくすぐったそうな素振りを見せた事を確認したあたしは、そのまま強引にうつ伏せまで持って行ってみる。
太腿の間に顔を埋めるような姿勢をとったあたしに、初春は少し慌てながら

「だ、駄目です佐天さん! 最近涼しいんですから、しっかり布団で寝ないと風邪ひいちゃいますよ?」

もっともらしい意見であたしの頭を引き離そうとしてくる。
抵抗しても良かったけど、また後で甘える事にしたあたしは、言われたとおりに太腿から顔を離す。
147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/30(日) 12:33:45.43 ID:ufVR2f8po
「しょうがないなぁ……じゃ、あたし先にベッドに行ってるから」

歯磨き等を初春より先に終わらせていたあたしは、一足先に寝室に向かう。
あたし達が今住んでいる部屋は風呂とトイレは別、キッチンにリビング、寝室もある。
2人で住む事を決めた時に、御坂さんや白井さんが色々と手を回して準備してくれたため、家賃なんかもかなりお安く済んでいる。

「ふあ……やっぱり布団は気持ちいいなあ」

寝室に置かれた大きめのベッドに潜り込んだあたしは、ふかふかの枕に顔を埋めながらあくびを一つ。
当初は2段ベッドにする予定だったベッドは、お祝いという事で御坂さん達から貰った、2人で寝ても窮屈さなんて全然感じないような大きなベッドになっている。

「お待たせしましたー」

わざと寝返りをうって布団の感触を楽しんでいると、寝る準備を終えた初春が寝室にやってきた。
あたしは初春の入るスペースを作るために、少しだけ端に詰める。
よいしょ、なんて可愛い声を出して布団に入ってきた初春を、あたしは優しく抱きしめて歓迎してあげる。

「初春ぅ……ナデナデして」

「もう……佐天さんは甘えんぼさんですねぇ」

あたしの頭を撫でる初春の手は、優しくて暖かくて、あたしは速攻でウトウトしてしまう。
ダメダメ、今日はちゃんと言いたい事があるんだから。
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/30(日) 12:34:31.74 ID:ufVR2f8po
「ふふっ……って、ひゃあ! 佐天さん、何してるんですかぁ!」

背中に回していた手を徐々に下に持っていって、パジャマの裾から手を突っ込んだあたしは、初春の背中を優しく撫で回す。
更に、あたしは初春の首筋に顔を近づけると、唇を触れるか触れないか位のタッチでスライドさせる。

「んっ……駄目ですってばぁ……」

身をよじって逃れようとする初春を、あたしはいっそう強く抱きしめて、

「ねえ、初春。あたし達、将来結婚するんだよね?」

耳元で囁きかける。
それは、もう何度も繰り返してきた約束。

「だったらさ、苗字で呼び合うのってなんかおかしくないかな?」

結婚すれば、佐天飾利か、初春涙子になるのだろう。
その時に今のように苗字で呼び合っていては、何かおかしいような気がするのだ。
それに、名前で呼び合えるのって、何だかとっても素敵な気がして――――
149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/30(日) 12:35:45.69 ID:ufVR2f8po
「2人っきりの時くらい、涙子……って呼んでよ、飾利ぃ」

言ってあたしは、初春の耳たぶを甘噛みする。

「やぁ……佐天さん、駄目ですって……」

むう、恥ずかしがってるのか、なかなか強情だなぁ。
いいもん、言ってくれるまでいぢめるから。

「ねえ飾利、言ってくれなきゃしてあげないよ?」

今度は、背中を撫でていた手を徐々に下に滑らせて、パジャマのズボンの上から初春の大事な部分を撫でてみる。
下着と衣服、2枚の布に遮られているものの、初春のそこは既に熱を持っているのがはっきりと手に伝わってくる。

「んっ、やっ……私、もう……」

「そんな声出しても駄目だよ、ちゃんと言ってくれなきゃ」

今にも音を立てて崩れ落ちそうな理性を必死で奮い立たせつつ、あたしはゆっくりと指を動かす。
やっばい、そろそろ限界かも……

「あっ……る……涙子さん……もう、意地悪しないでください」

「……あはっ、よくできました。賢い飾利には、ご褒美たくさんあげるね」

その夜、あたしの部屋は初春の嬌声が何時間も響いていた――――
150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/30(日) 12:36:50.42 ID:ufVR2f8po
「ねぇ飾利ぃ、機嫌直してよー」

「知りません! 涙子さんなんてもう知りません!」

布団を頭まで被った初春が、あたしの言葉に抗議の声を上げる。
確かに、足腰が立たなくなって生まれたての小鹿みたいになるまで責めたのは悪かったと思うけど、初春も悦んでたのに……

「やり過ぎたよー、ごめんってば」

布団の中の初春を抱きながら、あたしはまた謝罪。

「私、何度も許してくださいって言ったのに……」

行為の最中の許してくださいなんて、ある意味スパイスにしかならないのに。
心の中ではそう思っても、口に出すときっと今日は布団から出てきてくれなくなると直感したあたしは、やっぱり謝る事しかできない。

「ねえ、飾利、もしかしてあたしの事嫌いになった……?」

「……嫌いなら、一緒の布団でなんて寝てないですよ」

やっと布団から頭を出してくれた初春に、あたしは軽くキスをする。
あたしより小さくて、あたしより力も弱くて、それでもあたしなんかより何倍も優秀な少女。
そんな初春に、あたしはある決意表明をする。
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/30(日) 12:38:15.49 ID:ufVR2f8po
「飾利、あたし能力者にはなれないかもしれないけどさ、できるだけ強くなって飾利を守ってあげる。だって、飾利はあたしの嫁になるんだもんね」

嫁を守るのは、きっと旦那様の役目だから。
能力者はおろか、今はそこらへんの不良にも勝てないあたしだけど、その気持ちだけは持っていたいから。

「ふふっ、じゃあ私、涙子さんを頼っちゃいますよ?」

「もっちろん! どーんと任せて! 悪いやつは片っ端からやっつけちゃうから!」

ヒーローに憧れるどこかの少年のような事を言って、あたしは胸を張る。
そんなあたしに、初春が言う。

「涙子さんは、強くなったらヒーローになりたいんですか?」

きっと、これは涙子さんらしいですね、なんて意味が込められていたのだろう。
強くなって何がしたいか、そういえばあんまり考えた事がなかった。
強くなれば、きっと今までとは違うような非日常がやって来ると、何となく思っていた。
ただ、何となく周りにいる能力者達が羨ましくて、何となく自分もああなれたら楽しいだろうなとしか考えてなかったから。

「うーん、そうだね。飾利を守るヒーローになりたいかなぁ。まっ、今は無能力者なんだけどね。才能もないみたいだし、さ」

あはは、と笑ってみせたあたしを、初春が抱きしめてくる。

「……涙子さんなら、大丈夫ですよ。きっと大丈夫です」

「……うん」

幸せだった、強くなれなくても、ずっと初春は傍にいてくれるものだと思っていた。
いなくなるなんて考えられなかった、考えようともしなかった。
我ながら、凄まじい皮肉だと思う。

――守りたい人間がいなくなって、初めて強くなれるなんて――
152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/30(日) 12:40:16.28 ID:ufVR2f8po
「……ん、夢かぁ……」

耳元で鳴っている電子音で目を覚ましたあたしに、猛烈な頭痛と倦怠感が襲ってくる。
それと同時に、昨日何があったかも徐々に思い出した。
あの後、むーちゃんの家に招待されたあたしは、むーちゃんの実家秘蔵のお酒とやらで乾杯したのだ。
来た時は女の子の匂いがした部屋には、今でも若干アルコールの匂いが漂っている。

「あ、涙子おはよー。朝御飯できてるから、食べようよ」

ひょっこりと顔を出したエプロン姿のアケミに連れられて食卓に行くと、既にまこちんとむーちゃんが席に着いていた。

「おはよー」

「お、おはよ」

何か、あたしは一瞬妙な空気になったような気がした。
顔が赤いまこちんとむーちゃん、困ったように笑っているアケミ。
昨日何かあったんだろうか。

「……あたし、もしかしてもしかすると、何かやらかした……?」

いわれてみれば、酒を飲んだという記憶はあるものの、その後どうなったかというのはあまり覚えていない。
飲んだ、確かに飲んだのだが……
153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/30(日) 12:41:32.47 ID:ufVR2f8po
「いやー、あれだよ、あれ。昨晩はお楽しみでしたね、みたいな」

トーストを運びながら、アケミが笑う。

「……すごかった」

え? ちょっとむーちゃん、あたし何やったの?

「でも、まだセーフだよあれは、うん。セーフセーフ」

ま、まこちん?

「ていうか涙子、携帯鳴ってるけどいいの?」

「え? ……あああああああああ!」

着信履歴が白井さんでびっしりと埋まっている。
しまった、よりにもよってこのクソ忙しい時期に風紀委員の仕事に遅刻するなんて。

「……大丈夫?」

えーい、ままよ。
あとは野となれ山となれ。
人はそれを諦めと言うのだろう。
154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/30(日) 12:42:36.50 ID:ufVR2f8po
「とりあえず、あたしは行かなきゃ……これ以上迷惑かけると……」

ああ、考えただけで恐ろしい。

「そっかー、涙子、また遊ぼうね」

もちろんだよアケミ。

「後でメールするねー」

待ってるよまこちん。

「むぐむぐ、ばいばい涙子ー、もぐもぐ」

……マイペースだね、むーちゃん。

「またね、皆! それじゃ」

この後、支部についたあたしは白井さんからのとんでもないお叱りを受けてしまい、
なおかつ寮では寮監様に非常に厳しい愛の鞭を受けることになるのだが――――

今のあたしには、そんな事はどうでもよくて。
偶然に偶然が重なってやって来た、この何でもない日常がずっと続いてくれればいい、なんて思っていたのだけれど。
155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/30(日) 12:43:49.90 ID:ufVR2f8po



世の中に美味しい話なんてありはしない、あたしがそれを思い出すのは、すべてが手遅れになってからの話で――――


156 :>>153 訂正 [saga]:2011/10/30(日) 12:45:03.27 ID:ufVR2f8po
「いやー、あれだよ、あれ。昨晩はお楽しみでしたね、みたいな」

トーストを運びながら、アケミが笑う。

「……すごかった」

え? ちょっとむーちゃん、あたし何やったの?

「でも、まだセーフだよあれは、うん。セーフセーフ」

ま、まこちん?

「ていうか涙子、携帯鳴ってるけどいいの?」

「え? ……あああああああああ!」

アケミに言われて携帯を開くと着信履歴が白井さんでびっしりと埋まっている。
しまった、よりにもよってこのクソ忙しい時期に風紀委員の仕事に遅刻するなんて。

「……大丈夫?」

えーい、ままよ。
あとは野となれ山となれ。
人はそれを諦めと言うのだろう。
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/10/30(日) 12:48:27.55 ID:ufVR2f8po
短いですが、本日の投下はここまでで。
10月中に日常編、終わりませんでした……

SSで佐天さんはいろんな人とくっついてるけど、やっぱり佐天×初春は鉄板だなあと思ったり。
次回の投下も一週間以内に来ようと思います。
読んでくださった皆様、ありがとうございました。それではー
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/30(日) 12:52:11.42 ID:S4/vxzeSO


全裸待機してた甲斐があったな
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/10/30(日) 22:22:48.38 ID:RIriYHTAO
乙!
160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [saga]:2011/11/06(日) 02:56:09.36 ID:eJ3ELZhuo
5月7日

連休が終了し、世間がおとなしさをとり戻し始めた5月の第1土曜日に、あたしは寮のトイレを1人で磨いている。

「はー……自業自得とはいえ、嫌な罰だなあ……」

元を辿れば無断外泊した自分のせいとはいえ、あたしはついつい愚痴をこぼしてしまう。

「だいたい、元々綺麗なんだからやる必要ないのに……もうやめ! 鬼寮監もここまでやれば文句は言わないはずでしょ」

もうそこそこトイレは綺麗になったと判断したあたしが、掃除用具なんかをしまおうとした時

「ほほう、鬼寮監とは私の事か? 佐天」

後ろから、絶望的なお声があたしにかけられる。
怖い、後ろを振り向くのが怖いなんて、心霊スポットに行った時もありはしなかった感覚のはずだが――――
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [saga]:2011/11/06(日) 02:57:55.66 ID:eJ3ELZhuo
「本来なら厳しく指導するところを事情を汲んで掃除にしてやったのに、鬼寮監とはな」

「い、いらしてたんですね、寮監様。いやー、明日もお掃除張り切っちゃいますよー。あは、あはは……」

あたしの予想に反して、寮監はあたしの肩に手を置くとニコリと微笑む。

「いや、もう掃除はいい。やはりお前は私が直に厳しく指導してやらないといけないようだからな」

肩を掴む手に、ギリギリと力が込められる。
やばい、これはやっぱり予想通りの結末になるだろう。
そう確信したあたしの背中を、冷たい汗がつーっと撫でていく。

「そ、それだけは許してください! あたし、ほんとに反省してますから!」

「遠慮する必要はないぞ、佐天。幸い今日は土曜日だ、今まで以上にたっぷり反省していくといい」

凄まじい力でトイレから引きずり出されたあたしは、廊下のドアから覗くその階の住人達の同情するような目に見送られ、そのまま引きずられるように寮監のお部屋に連行される。
やはりこの歳になって独身、彼氏もいないとなると少々荒っぽくなってしまうのだろうか。
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [saga]:2011/11/06(日) 03:00:40.19 ID:eJ3ELZhuo
「佐天、今失礼な事考えただろう?」

「へ? いや、やっぱり大人になって彼氏とかいないと女の人って怖くな――――はっ!」

やばい、しまった、やってしまった。
クソ度胸がこんなところで悪い方向に発揮されるなんて。
くそっ……くそっ……あたしってほんと、嘘をつくのに向いてない……ッ!

「なるほどなるほど、お前はまだ若いから解らない事もあるだろうな。安心しろ、今後このような失言がないようお前の体にたっぷりと教えてやる」

いやん、何かいやらしい発言。
違う違う、馬鹿を言ってる場合じゃないですよこれは。
そういえば最近、寮監がこの際女性でもいいと言っていたという都市伝説を聞いた事があるような――――

「お前は以前から規則破りが多かったからな。さあ来い」

「お昼に友達と約束があるんです! お昼までには、お昼までには――――ひいいいいぃぃぃぃぃぃぃいいいい!」

寮生新規則『寮監のプライベート話すべからず』
他の何を破ってでも、これだけは守らないといけない、鉄の掟が今日生み出されてしまった。
そしてあたしがこの規則の第1の被害者――――
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [saga]:2011/11/06(日) 03:01:53.43 ID:eJ3ELZhuo
「ぐっはぁ……寮監め、あそこまでやる事ないだろうに……」

朝の早くから昼前までこってり絞られたあたしは、痛い身体を引きずりながら待ち合わせ場所へと向かう。
規則破りに始まり、普段の生活態度、そして未だに独身である事、若い事の素晴らしさを叩き込まれたあたしはもうよろよろ。
長い話の間はほとんど正座で足は痺れるし、恐怖で嫌な汗が流れるし、なぜか最後に熱い抱擁を受けた意味もよくわからないし。

「美人なのに、彼氏がいないのもよくわっかんないけどなぁ……」

寮監の理想が高いのか、それとも世の男共の見る目がないのか。

いや、寮監様はもう絶世の美人です。きっと世の男に見る目がないんでしょう。あたしが男ならいちころです、いちころ。

どこがで考えが読まれているような気がして、あたしは心の中ですかさずフォローを入れる。
流石にないか?
いやいや、あの寮監なら十分ありえる……

と、そんなくだらない事を考えながら歩いていると、待ち合わせ場所の駅前に到着した。
一足先に待ち合わせ場所に到着していた待ち合わせの相手は、きょろきょろと忙しなく周囲を見回している。
164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [saga]:2011/11/06(日) 03:02:45.42 ID:eJ3ELZhuo
「おーい。ごめんね、待った?」

初春なら間違いなくスカートを捲ったところだけど、流石に後輩の女の子にそれをするほど馬鹿じゃない。
死角から死角への気配を殺した移動、できれば見せてあげたいけどね。

「い、いえ! 私も今来たところです」

一度は言ってみたい台詞、いただきました。

「よし、今日は買い物に行くんだっけ? 何買う予定?」

「えーと、あの、そのぅ……」

なんだなんだ、買いにくいものなのか?
それともただ単に制服デートがしたかっただけとか?

「まあ、どっか遊びに行ってからでもいいけどさ。あたしも連休遊べなかった分を取り戻したいしね」

「その、えっと、ブ……」

ブ?
あたしが不思議に思っていると、目の前の少女は意を決したように顔を上げると、恥ずかしそうにこう言った。

「胸につける下着を、そろそろ買ってもいいんじゃないかって言われて……佐天さんなら詳しいんじゃないかと……」
165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [saga]:2011/11/06(日) 03:03:17.73 ID:eJ3ELZhuo
ああ、ブラジャーね、ブラジャー。
あたしは全然いいけどね。
ブ、ラジャー! なんちって。

「となるとセブンスミストかなぁ、あそこ結構可愛い下着があったような、なかったような……」

まあ、あの周辺なら、何かと遊ぶところもあるしね。

「よーし、そうと決まれば出発しんこーう! 時は金なり、善は急げってね!」

元気よく駆け出したあたしの後を、ぱたぱたと女の子がついてくる。
お昼は買い物で、夜は御坂さんがお泊りに来る。
きっと楽しくなるだろう、あたしはそう信じてる。

「あの、何か楽しい事でもあったんですか?」

「ん? いやいや、たまには後輩と制服デートもいいなぁってね」

漫画とかだったら、ボンッなんて効果音が入るような勢いで女の子の顔が真っ赤になる。
あはは、ほんと可愛いなあ――――
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [saga]:2011/11/06(日) 03:05:33.98 ID:eJ3ELZhuo
休日だけあってカップルやら何やらで、セブンスミストは妙な喧騒に包まれている。
そんな大勢の人でごった返す店内の下着コーナーで、

「う、うわー、下着がいっぱい……」

女の子は可愛らしい下着を興味深そうに眺めている。

「ところで、胸の正確なサイズとかわかってる?」

見るからに巨乳の女性向けのブラを手にとっていた少女に、あたしは質問してみる。

「えーと……すみません、ちょっとわかんないです……」

「そかそか、ちょっと待ってて。すみませーん」

あたしは近くにいた店員さんに声をかけメジャーを借りると、女の子を試着室に呼ぶ。

「さ、脱いで脱いで」

「え!?」

何をそんなに驚く事があるのか、逆にあたしが驚くくらいなんですけど。
脱がなきゃ正確なサイズわかんないでしょうに。
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [saga]:2011/11/06(日) 03:07:16.50 ID:eJ3ELZhuo
「あ、はい、そういう事なら……」

女の子はそう言うと、上着を1枚ずつ脱いでいく。
サマーセーター、半袖のブラウス、インナー代わりのタンクトップ。
全部脱ぎ終わり上半身が裸の状態になった少女は、両手で胸を隠してしまった。

「ほらほら、計測するから自分でこう胸を下から持ち上げてもらえる?」

バストサイズを計測する際、測る場所は2つある。
1つはトップ、もう1つはアンダー。
余談になるので、気になる方はネットなりなんなりで調べてみてほしい。

「んー……これは……AAかな……」

「え、エーエーですか?」

「うんAA。ところで何かこれがいいなあっていう下着とかあった?」

あたしはメジャーを手早く巻き取りつつ、女の子に聞いてみる。

「いえ、特には……できればあの、佐天さんに選んでもらいたいなあ、なんて」

「あたし? 好みとかいまいちわかんないしなあ……ゲコ太がプリントされた可愛いようなのは――――」

これはあたしの好みじゃなくて、御坂さんの好み。
一応言っとくけど、一応ね。

「あ、私そういうのはちょっと……」

御坂さんがいなくて良かった。
以前、ゲコ太の可愛さについて2時間位語ってもらった事があったから。
あの時の御坂さんの勢いといったらもう、まさに飛ぶ鳥をも落とすというか、白井さんもたじたじというかなんというか。
168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [saga]:2011/11/06(日) 03:07:52.32 ID:eJ3ELZhuo
「おーけーおーけー。じゃああたしの趣味で選んでくるね」

あたしは女の子を試着室に残して、とりあえず店員さんにメジャーを返すと、下着売り場に向かう。
えーと、とりあえず、これとこれと、この勝負下着と――――

10分後、あたしはかごに可愛いと思った下着を満載にして、試着室の女の子のもとへと向かう。

「よーし、それじゃあこの下着からいってみよう! はい!」

「は、はい……」

あたしは、白でちょっとしたレースがついたブラを手渡す。
1分……2分……5分……おかしい、遅すぎる。
何か嫌な予感がしたあたしは、女の子に声をかけてみる。

「大丈夫?」

「う……あ、あの」

どうやら中に居るし、倒れてもいないみたい。
だったらどうしたんだろう?

「付け方、わかんないです……」

「あー、ナルホドね。初めては難しいかもね、いいよ、あたしが教えてあげる」

あたしはそう言うと、試着室の中に進入する。
女の子はブラを肩からかけた状態で、困ったような表情を浮かべていた。

「えーと、ブラはまずこうして胸を持ち上げて――――」

後ろに回りこんだあたしが、女の子の胸に手をかけた瞬間

「ん……」

女の子は何やら色っぽい声をあげて、若干体をくねらせる。
胸が小さいと敏感っていうのは、実は間違っていないのかも。
169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [saga]:2011/11/06(日) 03:09:21.23 ID:eJ3ELZhuo
「こうしてね? 胸をね? 持ち上げて、こうね? こうだよ、こう」

掌にすっぽり収まるくらいの可愛い胸を、あたしは弄ぶように揺らしたり、揉んだりしてみる。

「くぅ……あ……や、やめ……はうっ」

やめて、なんて言う割には口でしか抵抗しないんだから。
別に感じさせるのが楽しいなんて訳じゃなくて、ただ単に胸の感触が気持ち良かったからなんて、独りよがりな理由で胸を触り続けていると

「うわっと」

あたしの腕に、女の子1人分の体重が急にかかった。
どうやら、あたしがやり過ぎて女の子の腰が抜けてしまったようだ。
あたしに両脇を抱えられるような体勢になった少女は、はぁはぁと肩で息をしている。

これはあれだ。
この後晩御飯にでも連れて行ってあげて、帰りがけに偶然通りかかったホテルの前で、入ろっかなんて誘えば多分そのまま勢いでいける。
どうするあたし……まあやらないけどね。

「ごめんね? 大丈――――」

「佐天様ぁ……私……もう」

今度は女の子があたしの胸に8の字を描くように指を動かしながらそう言う。
やっばい、変なスイッチ押しちゃったみたい……

耽美な禁断の世界に入る寸前だった女の子を正気に戻したのは、試着室の外からかけられた

「申し訳ありません、お客様。店内でそのような行為に及ぶのは……」

軽く自殺を考えてもいい、恥ずかしすぎる一言だった――――
170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [saga]:2011/11/06(日) 03:09:50.43 ID:eJ3ELZhuo
買い物を無事に終了したあたし達は、セブンスミストから少し離れた場所にあるファミレスで一息ついている。

「うう……もうお嫁にいけないです……」

あの後色々試着した結果、結局あたしが今日身に着けてきた下着のサイズ違いを購入した女の子が恥ずかしそうにそう呟く。

「だーいじょうぶだって、多分。……あは、あはははは」

はい、ごめんなさい。ぶっちゃけ調子に乗りすぎました。

「ごめんね、許してくれるなら何でもするから」

乾いた喉をウーロン茶で潤しながら、あたしは手を合わせてお願いしてみる。

「何でも……何でもですか? じゃあ――」

女の子のお願いは、食事代を奢ってとか、この後ホテルにとかではなく
171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [saga]:2011/11/06(日) 03:11:18.99 ID:eJ3ELZhuo
「佐天さんの身につけているものをくださいませんか?」

「ん、それだけ?」

簡単なお願いに、あたしはちょっとだけ拍子抜けしてしまう。
身に着けているものか……下着は流石に無理だし……

「じゃあ、はい」

あたしは自分の頭から白梅を模した髪飾りを外すと、それをそのまま女の子へ渡す。
以前初春から貰った同じような髪飾りなら何があっても手放さないだろうけど、それは大事に部屋にしまってあるから。
さよならあたしのヘアピンちゃん、1ヶ月位のお付き合いだったけど、楽しかったよ。

「ありがとうございます!」

女の子は両手でそれを大事そうに包むと、自分の鞄にそっと入れる。

「でも、何であたしの身につけているものが欲しかったの?」

残っていたウーロン茶を一息で飲み干すと、あたしは女の子に尋ねてみる。

「私、お母さんに言われてたんです。人が身につけてるものにはその人の魂が宿るんだって。その人のものを持っていると遠くにいても繋がっていられるんだって。だから――――」

「私はこれで、佐天さんともっと強く繋がっていられると思うんです」

そう言って笑った女の子の顔に、ほんの少しの翳りを感じたのは、あたしの考えすぎだろうか。
この少女も何か、自分と同じようなものを抱えているのではないだろうか、なんて。
172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [saga]:2011/11/06(日) 03:12:22.22 ID:eJ3ELZhuo
「そっか……そうだといいな」

初春、あたしは今も初春と繋がっているの?
何度も肌を重ねて、数え切れないくらい唇を重ねて、だけれどいなくなってしまった彼女は、魂だけはあたしのもとに置いていってくれたのだろうか。
だとしたら、彼女の魂はあたしに何を望むのだろう。
復讐?それとも平穏?

「佐天さん……?」

「……ん、何でもないよ。さ、もう少し遊んで、今日は帰ろっか」

あたしは机の上の伝票をつかむと、2人分の会計を手早く済ませる。

今は、そんな事考えなくてもいいよね?
そんな事は、あたしが1人の時に悩んで、そして決めればいい。
だから今は、今はせめて、今この時を楽しもう。
御坂さんがいて、白井さんがいて、常盤台の友達がいて、アケミ達もいる、今この時を――――
173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [saga]:2011/11/06(日) 03:22:11.33 ID:eJ3ELZhuo
短いですが本日の投下はここまでで
日常編は次で終わる予定です。
そしてプロットを見返すと女の子の登場が脇役としては意外と多い……名前とかって決めちゃっても大丈夫なんでしょうか?
メイン未満脇役以上みたいな立ち位置なのでちょっと微妙な感じです、それに女の子女の子言うのはちょっと違和感が

また一週間以内に投下に来たいと思います、ではー
174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(関西・北陸) [sage]:2011/11/06(日) 03:27:09.60 ID:KqVcJzAAO
1乙
待っててよかった
175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/06(日) 09:57:00.22 ID:A8TGxAzSO


女の子の名前は>>1のやりたいようにやってくれ
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/06(日) 17:10:52.30 ID:7f+ch0FIO
……ふぅ

……ふぅ

……ふぅ

……ふぅ



明日は腹筋が筋肉痛だな
>>1
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/11(金) 23:45:50.05 ID:+nyXCkK/o
「ただいま帰りましたー」

彼女の買い物に付き合った後、ゲーセン等を巡って遊び疲れたあたしが寮に帰還したのは、門限ギリギリになってからの事だった。
日は既に傾き始め、もう少し遅れたら鬼の寮監が飛んできたところだ。

「お帰りなさい、佐天さん。ご飯できてるから手を洗ったらキッチンにきてね」

「ギリギリセーフですの。お帰りなさいませ佐天さん、荷物は私達に渡してくださいな」

御坂さん達へのお土産として買ってきたものが詰まった紙袋を抱えて玄関を開けると、いつものゲコ太エプロンを着けた御坂さんと、妙に大人っぽいレースがあしらわれたエプロンを着けた白井さんが出迎えてくれる。
あたしは言われたように重たい荷物を渡しつつ、

「ありがとうございます。ところで、今日の晩御飯って何ですか?」

白井さん達にそう問いかける。
玄関まで漂ってくるスパイシーな匂いは恐らく、あれなのだろうけど――――

「今日はカレーを作ってみたの。雑誌に美味しそうなカレーの作り方が載ってたから、ついね。もしかしてカレーはあんまり好きじゃなかった?」

あたしの予想は的中。
ほんとに好きなのは一晩寝かせたカレーだけど、御坂さん達のカレーなら美味しくないわけがない。
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/11(金) 23:47:19.24 ID:+nyXCkK/o

「あたし、カレーは大好物なんです。楽しみだなぁ」

脱いだ靴を綺麗に揃えると、あたしはスキップでもしたい気持ちでキッチンに向かう。
いや、正確には向かおうとした。

「佐天さん、手洗いうがいが先でしょ?」

御坂さんはあたしの肩を優しく掴むと、洗面所に向かうようにあたしを誘導する。
そういえば、実家でもよくお母さんに言われてたような……

「い、嫌だなー、わかってますよ? 手洗いですよね、手洗い」

「そうそう。黒子、私達は料理を運びましょ」

紙袋をぶら下げてキッチンに引き返していく御坂さん達を、あたしはしばらくぼーっと眺めていた。
日常とは、こういうものだったかもしれない。
ふとあたしの脳裏に、彼女がいた頃の記憶とともに、そんな思いがわいてくる。
あたしが身をおいていた環境は、思い出を懐かしむにはあまりにも過酷過ぎて、すっかり忘れてしまっていた。
楽しかった思い出を、憎しみと、憤怒に変換して。
そうしてあたしは地獄の底を生き延び、こうして舞い戻ってきたのだ。
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/11(金) 23:48:13.34 ID:+nyXCkK/o
「佐天さーん、まだですのー?」

不意に、キッチンから白井さんの声が響く。
御坂さんから言われていた事を思い出したあたしは、これ以上2人を待たせないように急いで洗面所に飛んでいくと、ハンドソープで大雑把に手を洗い、そそくさとキッチンに向かう。

「お待たせしましたー。って、うわぁ! 美味しそう!」

テーブルの上には、食欲をそそる匂いを振りまくカレーと、福神漬け、らっきょう等が置かれていた。
カレーの具にはぱっと見ただけでも人参、じゃがいも、牛肉等が見受けられる。

「おかわりあるから、たくさん食べてね。それじゃ、いただきまーす」

「いただきまーす」

御坂さんのいただきますに、あたしと白井さんもほぼ同時に続く。

「美味しい! 美味しいですよ御坂さん、白井さん!」

あたしも料理は結構得意な方だから、一口食べたらわかってしまう。
お手軽で美味しい料理として人気の高いカレーだが、このカレーは1手間も2手間もかけられているという事に。
とりあえず、香りのスパイスとしてコリアンダー、クミン、カルダモン等が入っているのは確定だろう。

「気に入ってもらえたみたいで嬉しいわ。ねぇ、黒子」

「それにしても、ここまで変わるものだなんて。私も少々驚きですの」

白井さんが、感心したような口調で言葉を発する。
でも、あたしには少しだけ物足りなく感じてしまうのは、恐らく――――
180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/11(金) 23:49:03.58 ID:+nyXCkK/o
「もしかして、御坂さんと白井さんって辛いの苦手ですか?」

そう、このカレー、確かに美味しいのだが甘口なのだ。
辛いのが特に好きなあたしには、そこが少しだけ物足りない。

「いえ、私は別に。というか寧ろ辛いのは好きですの。これはお姉様が――――」

「ちょっ! ストップストップ! 黒子、やめなさいって!」

どうやら御坂さんの意向で甘口になったらしい。
御坂さんはこういうところも可愛いなあ。

「甘口も美味しいですよね。あたしは辛いのも甘いのも好きですよ?」

「うう……だって、辛いのが苦手って何か恥ずかしくない?」

それは好みの問題で、別に気にする事ではないと思うのだが、どうやら御坂さんにとっては恥ずかしい事らしい。
よくあるような、

「えー? ミルクと砂糖ありありー? きもーい、きゃはははは。ブラックじゃないコーヒーが許されるのはー、小学生までだよねー」

みたいな感じなんだろうか。
ああいうのはほんとに勘弁して欲しい。
181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/11(金) 23:50:19.43 ID:+nyXCkK/o
「ですかねぇ……自分の好きな味で食べればいいと思いますよ?」

「そうよね、辛いのが食べれたからって偉いわけじゃないもんね」

御坂さんは笑顔でそう言うと、美味しそうにまたカレーを頬張りだす。
すると、それまで静観していた白井さんが、

「ただし、わざわざ辛いお菓子に挑戦して2口くらいでギブアップした後、私に丸投げするのは勘弁してほしいですの」

誰もが終わったと思った話題を掘り返した。
完全な不意打ちに、御坂さんはゲホゲホとむせた後、必死に言い訳を始める。
御坂さん曰く、女には負けるとわかっていても戦わなきゃいけない時があるとかそういう理由で買ってくるらしい。
暴君パパネロとか、カライムーチョとか、白井さんが言うには御坂さんの後処理のせいで辛さが売りのお菓子は殆ど制覇してしまったとの事だ。

「ふー、ごちそうさまでした。とっても美味しかったです」

おかわりしたカレーも食べ終わったあたしは、口論を続ける2人を食卓に残して、流し台へと向かう。
お鍋の中にはまだまだカレーが残っており、明日の朝ご飯が決定している事を暗にあたしに告げている。

「佐天さーん、お風呂が沸いてますのでお先にどうぞですのー」

すると、食卓の方からそんな言葉があたしにかけられる。
至れり尽くせりとは、きっとこういう事を言うのだろう。
182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/11(金) 23:52:15.72 ID:+nyXCkK/o
「わかりましたー。お先に入らせてもらいますね」

そう返したあたしは、替えの服と下着を準備すると、お風呂場へと向かう。
制服を脱ぎつつ、脱衣所に設置してある大きな鏡に映った自分を見た時、あたしはなんだか違和感を感じる。
違和感の正体はすぐに判明した。
いつもあるはずのところに、あるはずのものがないのだ。
それは、ヘアピン。
今日遊んだ女の子に渡した、白梅を模しているあたしのトレードマークともいえるヘアピン。

「あちゃー、あと初春から貰ったのしか持ってないぞ」

繋がっている、彼女の言葉が不意にあたしの頭をよぎった。

「繋がってる……うん、繋がってるかぁ。久しぶりに、初春がくれたヘアピン使おっかな」

壊れないように、汚れないように、どんな時もそのヘアピンだけは大事に扱ってきた。
思えば、あたしはその魂の繋がりとやらに助けられていたのかもしれない。
絶望的な状況を乗り越えてこられたのも、実は初春が助けてくれていたのだとしたら――――
183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/11(金) 23:52:47.86 ID:+nyXCkK/o
「さってんさーん! 一緒にお風呂入りましょ!」

「へ?」

半分くらい脱いだところで手を止めて考え事をしていると、脱衣所の扉が勢いよく開け放たれ、御坂さんと白井さんが入ってくる。

「でも、多分狭いですよ?」

2人が抱えている着替えから判断して、そんな事は百も承知の上なのはなんとなく理解できてるけど、あたしは一応確認してみる。

「何とかなるわよ、ねえ黒子?」

「むしろ、密着していた方が興奮――――あいたっ」

相変わらずの白井さんを、御坂さんが軽く小突く。
そんな様子がおもしろくて、あたしは笑顔でそれを見つめてしまう。
すると、

「ていうか、相変わらず大きいわね、佐天さん。ちょっとごめんね」

いつの間にかあたしの背後に回りこんでいた御坂さん、あたしの脇の下から手を差し込んでくる。
まさか、御坂さんも死角から死角への移動をマスターしていたなんて。

「え? って、何してるんですか、御坂さん!」

「いやー、ご利益あるかなーなんて、ね?」

あたしの胸を揉みながら、御坂さんが悪戯っぽく笑う。

「むう、もしもご利益があればそれで食べていけそうですね! やばい、あたし閃いたかも」

やっぱりあたしって天才なんじゃないだろうか。
そう思いません? 白井さん。

「早い話、人はそれを風俗と呼ぶと思いますの……」

「あー……」

白井さんの言葉に何故か納得してしまったあたし達は、とりあえずお風呂に入ることにした――――
184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/11(金) 23:54:36.54 ID:+nyXCkK/o
本日はここまでで。
日常編は次回で終了になってしまいました、申し訳ありません。

投下は明日か、遅くても明後日にはこれると思います。
では、読んでくださった皆様、ありがとうございました。
185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/11(金) 23:58:04.94 ID:eN0Ii211o

佐天さんが風俗・・・ごくり
186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/12(土) 00:19:46.86 ID:Rjb0H/7SO


日常編終わるのか、今後に期待
187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/15(火) 02:50:45.44 ID:96vOPyAko
「さて、明日も休みだし、今日はたくさんお喋りしましょ」

午前1時を回り、多くの人が眠りにつき始めているであろう時間帯に、御坂さんが布団の中でそう言った。
あたし達の頭上では豆電球が優しいオレンジ色の光を放っており、部屋に響く音といえばあたし達の声と、
外からたまに聞こえてくる車のエンジン音、それとあたしの枕元でカッチコッチと時を刻む目覚まし時計くらいだろう。

「それもそうですね。そういえば今日こんな事があったんですよ――――」

御坂さんの一言で乗り気になったあたしは、先程までの眠気はどこへいったのやら。
ハキハキと今日の出来事を語り始める。

「え、寮監にそんな事言ったの!? ……よく生きて帰ってこれたわね」

「いやいや、半分くらい死にかけました。白井さんも気をつけてくださいね」

「肝に銘じておきますの」
188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/15(火) 02:51:32.29 ID:96vOPyAko
やっぱり、2人の反応は予想したとおり。
どんな目に逢うか想像してしまったのか、もぞもぞと布団の中で身震いをするように動いている。
本日のベッドの構成は、白井さんたっての希望で白井さんと御坂さんが一緒の布団で寝ているため詳しくはわからないが、きっとそうだろう。

「でも、寮監って美人なんだから彼氏くらいできそうなんだけどなぁ……」

御坂さんは不思議そうな口調でそう呟く。
やはり、皆が疑問に思うのだろう。

「ですよね。そういえば、木山先生も彼氏がいないみたいなんですよ、不思議ですよね」

あたしは、以前から疑問だった事を御坂さん達に話してみる。
やはり脱ぎ女などという都市伝説の張本人だからだろうか、とあたしは余計な事を考えてしまう。

「たしかに美人でしたわね。――ところで、彼氏といえばお姉様」

何かを思いついたように、白井さんの口調が急に真剣になる。

「あの類人猿とはいったいどうなって――――」

「なっ!? なななななな、なんで私があいつの彼女にならなきゃいけないのよ!?」
189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/15(火) 02:52:07.00 ID:96vOPyAko
ああ、御坂さんは相変わらずあの上条当麻という男の人とは進展していないのか。
御坂さんも可愛いのに、その当麻と言う人は相当な鈍感なのか、あるいは既に付き合っている人がいるのか――――

「――でも、好きな人がいるって、とっても素敵じゃないですか?」

布団の中で揉み合いになっていた2人の動きが、ピタリと止まる。
しまった、不用意な発言をしてしまったと心の中で後悔したけど、時を巻き戻すことなんてできはしない。

「佐天さん……」

ああ、やっぱり。
2人に余計な気を遣わせてしまって、あたしは申し訳ない気持ちになる。

「あははは……すみません、さっきのは気にしないでください」

「うん……」
190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/15(火) 02:52:47.99 ID:96vOPyAko
気にするな、なんて無理があるお願いだろう。
だって、あたしの声は涙を必死に堪えていたせいで、くぐもった声になっていたから。
楽しかった思い出を、楽しかった日常を、あたしは思い出してしまった。
そして、彼女がいない日々を、あたし自身が肯定しようとしてしまった。
こんな日常も悪くないなんて、あたしは思ってしまったから。
初春の事を、あの日の決意を、あの地獄の日々を、過去の事だ、なんて思ってしまいそうだったから。
そんな自分が、ひどく薄情で、とても弱い人間に思えて――――

「うっ……ひっく……」

部屋の中にはお喋りの声はなく、あたしの嗚咽と無情にも時を刻み続ける時計の音だけが響く。
どうして、恋人の話なんて始めてしまったのだろう。
どうして、こうなる事が予想できなかったのだろう。
どうして、彼女がいた日々がこんなに遠くに感じられるのだろう。
どうして、あたしは――――
191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/15(火) 02:53:34.98 ID:96vOPyAko
「大丈夫、大丈夫よ佐天さん。私達がずっと居るから。ほら……」

いつの間にかあたしのベッドに移動してきていた御坂さんと白井さんが、あたしを抱きしめてくれた。
御坂さんは右、白井さんは左、普段なら両手に花ですよ、なんて軽口を叩けるのだろうけど、今のあたしはそんな事は言えなかった。

「あたし……御坂さん、白井さん……初春は、初春は、あたしに復讐を望んでるんでしょうか?」

ほんとは、気付いている。
ほんとの復讐の理由は、初春のためじゃなくて、あたし。
そう、あたしのために復讐が必要なんだって事に。
人は死んだらたんぱく質の塊、オカルトを否定する人は魂なんて存在しないって胸を張って言うだろう。
だけど、あたしはあの女の子の言う、魂の繋がりを信じていたいから。
そして、きっとその繋がりは白井さん達にも残っているはずだから。

「……私は、正直言って、佐天さんに復讐なんてしてほしくないな。でも――」

佐天さんが絶対に復讐するっていうなら、止められないかも。
御坂さんはそう言って、あたしを強く抱きしめる。
192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/15(火) 02:54:23.49 ID:96vOPyAko
「初春は、普段は気弱なところがありましたが、風紀委員としては1流、心構えは超1流でしたわ。職務を全うして殉職した事に、きっとなんの未練もない、私はそう思ってますの」

白井さんは、そう言って言葉を続ける。

「そりゃあ、犯人は私の手で逮捕してやりたいですの。佐天さんもそう思いませんこと? 私は、あの男を逮捕する事が初春の無念を晴らす唯一の手段、そう思いますの」

「……もし、あたしが復讐のために法に反するような手段をとった場合、どうしますか?」

「……そうなった時は、万が一そうなってしまった時は、風紀委員としての仕事を私は全うさせていただきますの。初春もそれを望むでしょうから」

初春がそれを望んでいる。
じゃあ、あたしにも、風紀委員としてあいつを捕まえることを望んでいるの?
とっ捕まえて、裁きの場へと引きずり出す、初春はそれを望んでいるの?

「あたし、決めました。初春と約束したんです、ヒーローになるって。悪いやつを片っ端からやっつける、ヒーローになるって」

それは、初春と交わした約束。
結婚するも、初春の事を守ってあげるも、何の約束も果たせなかったあたしが、唯一まだ果たせそうな約束。

「向かってくる悪いやつはとっ捕まえて、いつかあいつも捕まえてみせます。それが、そう、それがあたしが初春のために果たす約束です」

御坂さんと白井さんが、嬉しそうな表情であたしを見つめてくる。
ヒーロー、この世にヒーローなんていない、そう嘆いた事もあった。
ヒーローがいないなら、あたしがヒーローになればいい。

――あたしが、ヒーローになってみせよう――
193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/15(火) 03:01:40.17 ID:96vOPyAko
結局、この世にヒーローなんて都合のいいものは存在しなくて。
あたしはヒーローでもなんでもない、世間一般に言うところの大量殺人者へと成り果ててしまうのだけれど。
あたしにそのきっかけを与えるのは、この日よりおおよそ1ヶ月後に届いた、たった1通の手紙と数枚の写真。

差出人は、あたしのよく知っている研究機関。
超能力者進化発展技術研究所、通称『超技研』と呼ばれる、地獄の底。

ごめんなさい、御坂さん。
ごめんなさい、白井さん。
さようなら、アケミ、むーちゃん、まこちん。
短い間だったけどありがとう、常盤台の皆。

あたし、皆のために殺人鬼になります。
194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/15(火) 03:02:40.15 ID:96vOPyAko



――――もう何も、あたしから奪わせるものか――――



第1部 日常編 完
195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/15(火) 03:07:14.82 ID:96vOPyAko
投下が遅れてしまい申し訳ありません、短いですが今日はここまでで。
何故か急にシリアスな感じになってきました。
今後は目的のために動く佐天さんと、その佐天さんを追う御坂さんで話を進めていく予定です。
それと、これからは若干グロ描写が入ると思います。
それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました。
次の投下は1週間以内、できれば土日には来たいと思います。ではー
196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(愛知県) [sage]:2011/11/15(火) 05:14:52.06 ID:IC6MOg9/o

続きに期待せざるを得ない
197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/15(火) 16:19:29.93 ID:U48T3OLSO


続きが待ち遠しいな
198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟県) [sage]:2011/11/15(火) 19:44:15.40 ID:C6UyKBKjo


続きが気になりすぎて剥げた
199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西・北陸) [sage]:2011/11/19(土) 23:32:10.47 ID:p2wmYGLAO
はははハゲちゃうわ!








まだ…
200 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西・北陸) [sage]:2011/11/25(金) 19:14:21.55 ID:6eDnQfFAO
>>199
(´・ω・`)ショボーン
201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西・北陸) [sage]:2011/11/27(日) 09:51:39.77 ID:W4TjnPEAO
わたしまつわ
202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/27(日) 18:11:58.63 ID:nnNxhze+o
申し訳ありません、土日には来たいとか言っておいて
実家に帰省したりなんやかんやで2週間近く経過してしまいました……
来週の早いうちに続きを投下したいと思いますので、本当に申し訳ありませんがもうしばらくお待ちください
203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/27(日) 20:05:43.17 ID:1gzqy4tSO
>>202
待ってる
204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/30(水) 17:41:41.78 ID:FyUUb4DSo
――美琴サイド――

その日、佐天さんが私達の前から再び姿を消した、運命の日。
私は、佐天さんの置かれている状況なんて露知らず、いつもの通学路で黒子に出会い、そうして他愛もない話をしながら学校へ向かう。

「そういえば、佐天さんは先に行っちゃったの?」

いつも仲良く2人で登校しているはずなのだが、今日は珍しくもう一人の少女の姿が見えない。
もしや喧嘩でもしたのではないかと心配になった私は、黒子に遠まわしに聞いてみる。

「いえ、体調が悪いそうなので寮でお休みしてますの。確かに顔色が優れなかったので、心配ですの」

黒子がふぅっと溜息をつきながら、申し訳なさそうにそう言った。
近頃は風紀委員が相当な激務らしく、休日もろくにない様子だったから、恐らくそれで黒子はこんな様子なのだろう。

「ふーん……そうだ、今日学校が終わったら佐天さんのお見舞いに行ってもいい?」

「ええ、大歓迎ですの。それではどこかで待ち合わせしましょうか」
205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/30(水) 17:42:27.72 ID:FyUUb4DSo
少し話し合った結果、学校が終わったらお見舞いとして元気が出そうなものを探すため駅前に集合する、という事であっさりと決定した。
遊びに行くわけではないのが残念だけど、弱っている佐天さんに御坂美琴特製のお粥でも作ってあげようと思った私は、頭の中で使いそうな材料とそれが売っているであろう場所に目星をつけておく。
私がそんなことを思案しながら歩いていると、

「あぁ、お姉様。私はこっちですので、名残惜しいですが……」

本当に残念そうに黒子がそう声をかけてきた。

「うん、じゃあまた放課後ね」

いつもの場所で黒子と別れた私は、彼女の後姿が見えなくなるまで見送った後、足早に自分の学校へと向かい歩き出す。
きっと今日も今日とて、見本になれだのなんだのと口うるさく言われるのだろうけど、今はそんな事はどうだっていいのだ。
相変わらず朝の空気は清々しいし、空はこんなにも晴れているし、何より、最近佐天さんが以前のような状態に戻りつつあるのが実感できるから。
206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/30(水) 17:43:13.45 ID:FyUUb4DSo
帰還した当時の彼女を思い出すと、どんなに笑顔でいてもそれ以前の彼女とは何かが違っていたと思う。
ぎこちない、そう。
本人に自覚があるかどうかはわからないが、瞳の中に暗い光を宿した彼女の微笑みはどこか人形的で、作られた笑顔のようにぎこちなかったのだ。
笑い方を忘れてしまったというか、無理して笑っているというか、何かを隠すために笑っているというか。

きっとそれは、彼女が彼女のために果たそうとしていた目的が関係しているのだろう、と私は推測する。
彼女のために、罪人に報復するための力から、彼女の使命を引き継ぎ守るための力へ。
あの日の決意で、佐天さんに決定的な心境の変化が起こったのではないか、そう私は思うのだ。
もっとも、そんな事を本人に確認する訳にもいかず、全ては私の推測でしかないのだが――――
207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/30(水) 17:43:55.48 ID:FyUUb4DSo
きっと、今日もいい日になる。
神様が立てている予定なんて私の及び知るところではないが、そう確信にも似た何かを感じた私は、軽くスキップを踏んだりしながら上機嫌で1日のスタートを切った――――
208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/30(水) 17:44:37.09 ID:FyUUb4DSo
「お姉様、落ち着いてくださいまし……」

放課後、駅前の指定した場所で合流した私に、黒子がそう言った。
理由はいたってシンプル。

「毎回毎回あの教師連中め……前に出て書かせるのが見本って意味わかんないっつーの」

いつもより、今日は妙に多くの事を押し付けられたせいで、私が若干興奮気味に愚痴を言っているのが原因である。
実際、愚痴の1つや2つ言いたくもなる。
他の生徒が授業中にウトウトしていても注意程度で済まされるのだが、私が太陽の誘惑に負けて居眠りをしようものなら、さあ大変。
といっても、注意されて終了なのだが、かなりの確率で最後にこんな言葉が入ってくるのだ。

『お前は他の生徒の見本にならなければいけない。自覚を持って行動しなさい』

「見本だのお手本だの、勘弁してほしいわよほんとに」

困ったような顔で笑う黒子を見て、少し甘えすぎかな、と私は思った。
私もあまり愚痴をこぼして後輩を困らせるものではないとは思っているのだが、私が甘えられる数少ない相手が、彼女なのだ。
この際だからもう少し甘えさせてもらうのも悪くはないのではないだろうか。
209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/30(水) 17:45:17.30 ID:FyUUb4DSo

「お姉様も相変わらず大変そうで……あ、お姉様が言っていた食品が売っているのはここですわね」

日常のストレスを吐き出す私の愚痴を笑顔で聞いてくれていた黒子が、立ち止まり私にそう言った。
それはどこにでもありそうなスーパーだが、1人暮らしを始めてから教えてもらった安くて品揃えも豊富な、心強い学生の味方なのである。
実際、今の下校の時間帯には、夕食を自炊をしている学生から惣菜で済ませてしまう学生まで、そこそこ広い店内には様々な制服が入り乱れている。
惣菜が半額になる20時あたりがもっとも激しい戦いになるのだが、それは今体験する必要はないだろう。

「えーっと、出汁は昆布でとるとして、あとはトッピングだけど……」

「随分と本格的なお粥を……トッピングというと、ジャコや塩昆布なんかでしょうか」

黒子が感心したように呟いたあと、具材のアイデアを提供してくれる。
ジャコや塩昆布も勿論いいが、見た目を考慮するとイクラも捨て難い。
悩みながら商品棚を物色する事10分以上、私は遂にこれだという商品を見つける事に成功した。

「黒子、これなんてどう?」

私が手に取ったのは、梅干。
お粥のお供の定番であり、体にもいいのは周知の事実だろう。
だが、黒子は

「……お姉様、相変わらずですの……」

呆れたような視線を私に送ってくる。
どうやら黒子は、私がこの商品を買うと、期間限定でゲコ太のグッズがもらえるキャンペーンに釣られたと思っているらしい。
210 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/30(水) 17:45:46.30 ID:FyUUb4DSo
「ち、違う、違うわよ! いい? お粥って実は消化はあんまり良くなくて、私は消化を助けるためにこの梅干を――――」

「はいはいはいはい、勿論わかってますの。佐天さんもきっと喜ぶと思いますわ」

「ちょ、黒子! 誤解、誤解だってば! 黒子ー!」

レジで支払いを終わらせた私は、先を歩く半笑いの黒子を急いで追いかける。
この後は、少しその辺をぶらついた後、常盤台の寮に入り込んで、佐天さんのお見舞いをする。
吐き出したおかげで溜まっていたストレスもなくなって上機嫌になった私は、よくいくクレープ屋でもゲコ太キャンペーンがやっていた事を思い出し、とりあえず黒子を誘ってみる事にした――――
211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/30(水) 17:46:39.19 ID:FyUUb4DSo
「ふんふふーん、これ見て黒子、これ。すっごい可愛いでしょ? 可愛いでしょ?」

あの後、相変わらず黒子には呆れたような顔をされたものの、無事キャンペーン中のクレープ屋に行った私達。
そこで、私に思いがけないサプライズがあったのだ。

「大当たり! お嬢ちゃん、特賞のジャンボゲコ太だ、おめでとう!」

キャンペーンは、1000円以上お買い上げの場合にその場でくじが引けて、結果に応じた景品が手に入るというよくある方式だった。
そこで私は、ネットで数万円の値がつくほどの、特賞のジャンボゲコ太を見事引き当てたのだ。
いざとなればネットオークションで手に入れる事も考えていたのだが、やはり自分で手に入れたものの方が嬉しい。
自分の上半身ほどもあるぬいぐるみを抱きかかえた私は、今現在やはり黒子に呆れた顔をされている。

「お姉様、高校生にもなって……ああ、早く部屋に持っていきましょう。目立って目立って仕方ありません」

先程から、確かに通行人からは好奇の目が向けられている。
何だろう、クジでの勝負には勝ったはずなのに、すごく負けた気分に襲われる。
212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/30(水) 17:47:32.10 ID:FyUUb4DSo
「……そうね、佐天さんにも見せてあげたいしね」

「私としましては、もう少しお姉様の可愛いお姿を通行人の皆様にお見せしておいてもよろしいのですが」

黒子が意地悪な笑顔で、私に言う。
浮かれてて気付かなかったが、流石にこれは、いくらゲコ太でも恥ずかしい。

「あ、アンタ……」

「冗談ですの。では行きますの」

私の手首を黒子が握った瞬間、景色が一変。
人通りのまばらな往来から、常盤台の寮の内部、黒子達の部屋へと瞬間移動する。
最近片付けられているらしい部屋には、明かりが灯っていて、ベッドでは体調不良の佐天さんが寝ている。
そうして、帰宅した私達に気付いた佐天さんは上半身を起こして私達を笑顔で迎えてくれる――――筈だった。

213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/30(水) 17:49:04.89 ID:FyUUb4DSo
「……なっ」

「……え?」

私達は、飛び込んできた光景にしばし愕然とする。
部屋にはあるはずのものがなく、いるはずの人がいなく、そして倒れるはずのない人が倒れていたのだから。

「りょ、寮監様! しっかりしてくださいまし! 誰にやられたんですの、何があったんですの!?」

脈はあり、呼吸もしている。
これといった外傷もない。

「うっ……白井、か。……さ――――」

聞きたくない、聞くな。
私の直感がそう警鐘を鳴らしていた。
何となく、誰がやったのかを私は連想してしまっていたから。

「佐天、だ。……佐天、は……どこに――――」
214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/30(水) 17:51:43.30 ID:FyUUb4DSo
短いですが本日はここまでで
しばらく御坂視点で話が進みます、そしてここからシリアスな感じに……
それでは、読んでくださった皆様、ありがとうございました。
次の投下は一週間以内を予定してしますが、最近忙しいのでどうなるか……
215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/30(水) 18:14:52.65 ID:KABjwC/SO


あんまり無理せずに自分のやりたいペースでやってくれ
216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西・北陸) [sage]:2011/11/30(水) 21:24:50.71 ID:uAyTGr0AO
おつ
217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西・北陸) [sage]:2011/12/01(木) 00:34:15.14 ID:5PeQaztAO

風邪でもひいたら大変だから無理すんなよ
218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/01(木) 09:19:37.63 ID:JAfS6/SDO
219 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/26(月) 04:28:28.82 ID:464UUgmxo
220 :1 [sage]:2011/12/26(月) 20:17:03.93 ID:qvBKiAHDO
長期に渡り何の連絡もせず申し訳ありません。
不調だったPCのマザボが壊れてしまったため、現在修理に出しております。
再開は早くても年明けになる見込みです。
修理が完了したら、書き溜めておいた分を投下にきたいと思います。
読んでくださっている方、申し訳ありませんがもう少しだけお待ちください。
221 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/26(月) 21:10:27.35 ID:LeQN4VJto
まってる
222 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/26(月) 22:39:16.64 ID:y9tQHliAO
最高のクリスマスプレゼントです!
223 :以下、あけまして [saga]:2012/01/05(木) 01:38:19.49 ID:9lN9wgYeo
6月11日(第2土曜日)

「……まずは先日の礼を言おう。御坂、世話をかけた。ありがとう」

一人訪れた真っ白な病室で、見舞いにと持ってきた色とりどりの花を受け取った寮監が小さくそう呟いた。
もしかしたら、無断で寮に侵入した事を咎められるかもしれない。
心の中でそんな事を考えていた自分が、何だか恥ずかしい。

「いえ……あの、いつごろ退院できそうですか?」

厳しい人とはいえ、常盤台中学に籍を置いていたときにはかなりお世話になっている人に、私はそんな事を聞いてみる。
それを聞いた寮監は口元にわずかに笑みを浮かべ

「そうだな、本当ならすぐにでも……と言いたいところだが、検査だのなんだのでしばらくかかるそうだ」

一息でそう言った。
良かった、私がそう安堵したのも束の間で、今度はベッドから上半身を起こした寮監が真剣な眼差しで呟いた。

「御坂、本当に聞きたいのは、そんな事じゃないのだろう? 佐天の居場所は、残念だが私にはわからない」

「……あの、いったい、佐天さんとの間に何があったんですか?」

寮監は、私達が訪れた理由がお見舞いだけじゃない、きっとその事に最初から気付いていたのだろう。
ならば、小細工を弄するのは時間の無駄にしかならない。
世間話でお茶を濁し、外堀を埋めていって聞き出すなんてやり方は必要ない、この直球な質問はそう判断しての事だ。

「……わからん、というのが正直なところだ。御坂達が来る30分ほど前に、佐天の様子を見るために部屋に入ったのだが――――」
224 :以下、あけまして [saga]:2012/01/05(木) 01:40:01.92 ID:9lN9wgYeo
――――

「佐天、貴様は病欠のため安静にしていると聞いたのだが、何をしている?」

「……」

黒髪に眼鏡をかけた、いかにも厳格な雰囲気の漂う女性の質問に、同じく艶やかな黒髪を腰に届きそうなまでに伸ばした少女がゆっくりと振り返った。

「……質問を変えようか、貴様はいったいどこに行くつもりだ? 引越しをする予定がないなら、そんな荷物はいらないはずだがな」

旅行に使うような、車輪のついたケースに服などを詰めていた手が止まり、部屋の中には重苦しい沈黙だけが残る。
もともとかなり少なかったと記憶している少女の荷物は、いまや数個のケースに収まり、彼女が使用しているスペースにはほとんど荷物が残っていない。
生活感溢れる同室の少女のスペースと比べると、ベッドのシーツ等も綺麗に整えられた彼女のスペースは、モデルルームのような印象を受ける。

「何かあったのなら相談に乗るが――――」

「……退学して、実家に戻ろうかと思いまして。理由は聞かないでください」

「見え透いた嘘だな。能力者の外出、よもや帰省など認められる事は少ないだろう。まして、レベル5となれば尚更だ」

「……わかりました、寮監様。こちらに来てくださいませんか? 長くなりそうなので、座って話しましょう」
225 :以下、あけまして [saga]:2012/01/05(木) 01:40:53.17 ID:9lN9wgYeo
寮監の頭に、彼女が常盤台中学に入学しここに入寮する際、彼女の友人から聞いた特別な事情が蘇った。
もし、もしもその事情が理由としてあるなら、幸か不幸か、寮には寮監と佐天しかいないのだ。
話を聞いた後は頭でも撫でて、咎めることはしまいと思い、寮監は佐天に歩み寄っていく。
それが、間違いだった。

「寮監様――――ごめんなさい――――」

近づいた寮監の口と鼻を、佐天のしなやかな手が塞いだ。

「なっっ…………!」

一見、何の敵意もない行動だが、寮監はその場に膝から崩れ落ち、苦しそうに息をしている。
何も無い空間を睨む虚ろな瞳が、何かを訴えるように佐天を見つめた。
佐天は寮監の傍にしゃがむと、もう一度優しく口と鼻に手のひらをあてがった。

「理由は知らない方がいい……お世話になりました、さようなら」

今にも切れてしまいそうな意識の線を必死で保っていた寮監の耳に、そんな言葉が届いた。
佐天がどんな顔でその言葉を発したのかはわからないが、それを聞いた瞬間、寮監の意識の糸は途切れ、闇へと溶けていった――――

――――
226 :以下、あけまして [saga]:2012/01/05(木) 01:41:51.50 ID:9lN9wgYeo
「……すまない。私では、佐天を止められなかった……」

普段の厳格な雰囲気はどこへ行ったのか。
俯き、申し訳なさそうに話す寮監に、私はかける言葉が見つからなかった。

「申し訳ないが、この後すぐ検査があるんだ。今日は、見舞いに来てくれて嬉しかったよ」

沈黙を破ったのは、寮監のそんな一言だった。
ベッドから降りると、院内専用のスリッパを履き、病室の扉へと歩いていく。
私も、これ以上長居をしたら迷惑になると思ったため、寮監の後をついて扉へと向かう。

「御坂、遊びに来る時は、たまには私のところにも顔を見せるように。あと、体には気をつけてな」

「えっ、私が来てるって知ってたんですか!?」

「ああ、ばればれだったぞ。まぁ、私も言われているほど鬼じゃないって事だ、覚えておくといい」

心臓が跳ね上がった私に笑顔を見せて、寮監は病院の廊下を元気そうに歩いていく。
227 :以下、あけまして [saga]:2012/01/05(木) 01:42:43.75 ID:9lN9wgYeo

「……すまなかった、本当に」

遠ざかっていく背中越しに、消え入りそうな寮監の声が私に届いた。
私は、寮監が廊下を曲がりその姿が見えなくなっても、しばらく病室の前を動く事ができなかった。

「寮監、絶対に佐天さんは見つけます。絶対に……」

改めてそう決意した私は、当初の目的を達成したため、病院を後にする。
事前に、私は寮監のお見舞い、黒子は風紀委員の仕事の傍ら情報収集。
そして私の方がひと段落したら、支部で報告会、そう決めていた。

きっと、佐天さんも今、この雲一つない空をどこかで眺めているのだろう。
見つけてみせる、気付いたときには全てが手遅れだったあの実験のようになる前に。
228 :以下、あけまして [saga]:2012/01/05(木) 01:43:05.51 ID:9lN9wgYeo



「佐天さん――――またね――――」


229 :以下、あけまして [saga]:2012/01/05(木) 01:43:40.03 ID:9lN9wgYeo
「黒子ー、いるー?」

風紀委員第十七支部に到着した私は、手早く番号を打ち込み入り口のロックを解除すると、見慣れた室内へと足を踏み入れる。
かつて、初春さんが使っていたスペースには、そのスペースを引き継いだ佐天さんの姿もなく、ひょっこり彼女が帰ってきているかもしれないという私の淡い期待は打ち砕かれてしまった。
初春さんがいなくなって、見るたびに寂しく感じていた空間が、よもやまた復活するなんて。
私の心が、やりきれない気持ちで満たされる。

「ああ、お姉様、随分早いですわね。何かわかりまして?」

奥の部屋から姿を見せた黒子の質問に、私は首を横に振る事で答えを返す。
私達が推測していた以上の情報を得ることができなかった事が伝わったのか、黒子も残念そうな表情を浮かべている。

「あんたの方はどうなの? 黒子」

ただでさえ忙しい風紀委員の仕事の最中なのだ、私はあまり期待もせずにそう聞いてみる。
返ってきたのは、私の予想とは違う、こんな言葉だった。

「……報告がいくつかありますの。立ち話もなんなので、こちらにどうぞ」
230 :以下、あけまして [saga]:2012/01/05(木) 01:44:40.27 ID:9lN9wgYeo
会議室、扉の上のプレートにそう書かれた部屋に黒子の後に続いて入室すると、固法先輩が何かの書類と睨めっこをしていた。
私の存在に気付いた固法先輩は書類から顔を上げると、軽く手を振りながら挨拶をしてくれる。

「御坂さん、久しぶりね。残念だけど、佐天さんは来てな――――」

「固法先輩、お姉様にもこの話を聞く権利はあると思いますの。お話してもよろしいでしょうか?」

固法先輩の言葉を遮り、黒子が何かを確認する。
しばしの沈黙、この話とはなんなのだろう。
私の心に、不安と好奇心が湧き上がる。

「……そうね。私は、本部の方に呼ばれているから、悪いけど白井さんが話してくれる? 御坂さん、またね」

固法先輩はそう言うと、部屋から足早に立ち去ってしまった。
2人きりになった部屋で、黒子は会議室の長机に置かれたノートパソコンの前の椅子に座ると、私にも座るように促しながらこう言った。

「お姉様、良い報告と悪い報告――――」

黒子はそこまで言いかけて、何か考えるところがあったのか、首を小さく振るとすぐさまこう言い換える。

「――――いえ、悪い報告と、もっと悪い報告がありますの。どちらからお聞きになられますか?」
231 :以下、あけまして [saga]:2012/01/05(木) 01:47:34.58 ID:9lN9wgYeo
「何よ、それ…………」

黒子の顔からは、冗談の類は一切見られない。
言葉を失った私の心の準備ができるのを待っているのか、黒子はぶ厚い書類に目を通し始める。
支部の外では、固法先輩の乗っているバイクがエンジン音が響かせながら、遠ざかっていく。
そうして耳に痛いほどの静寂が訪れた会議室で、私はカラカラに渇いた喉から声を絞り出した。

「……悪い報告から教えてちょうだい」

私の言葉を受け、黒子は書類から目を離すと、報告を開始する。

「わかりましたの。では一つ目、佐天さんの捜索のために、風紀委員と警備員が投入されることが決定しましたの」

「それのどこが悪い報告なのよ?」

私の頭にそんな疑問が浮かぶ。
人海戦術なんていう言葉があるように、人を探すなら、人数が多い方がいいはずだ。

「目的が問題ですの。身柄の保護ではなく、拘束する事が今回の投入の目的ですの。指名手配、とも言いますわね。極秘裏にですが」

指名手配、その言葉に嫌な汗が背中を流れていく。

「佐天さんが犯罪者だとでも言いたいの? 確かに寮監を病院送りにはしてたけど――――」

黒子は、悲しそうに首を振ると、私の言葉が終わるのを待たずにこう告げた。

「それがもっと悪い報告ですの。佐天さんが病院送りにしたのは、かつて佐天さんが捕まえたスキルアウト10名。復讐のつもりだったらしいですが、3人は死亡、残りの7人はいずれも重傷ですの」
232 :以下、あけまして [saga]:2012/01/05(木) 01:49:12.82 ID:9lN9wgYeo
「嘘でしょ……? 確かに、風紀委員でもやり過ぎる事はあったみたいだけど……」

「残念ながら、事実ですの。こちらを見てください」

黒子がパソコンに向かい、何かの操作をすると、スクリーンにパソコンの画面が投影される。
スクリーン上のカーソルが動き、フォルダをクリック。
その中の動画ファイルをクリックすると、プレイヤーが起動し動画の再生が始まった。

「音声も拾える、高性能防犯カメラによる映像ですの。……辛くなったら、いつでも言ってくださいまし」

どんな映像でも、目を背けるつもりなんてなかった。
画面上には、私達の探している少女の姿が映り、聞きなれた声もしっかり聞こえている。
動画に映っているのは紛れもなく佐天さんだと認めた上で、私はこの言葉を発せずにはいられなかった。


「黒子…………あれは誰なの? ほんとに、佐天さんなの……?」
233 :以下、あけまして [saga]:2012/01/05(木) 01:52:37.66 ID:9lN9wgYeo
皆様、あけましておめでとうございます。
すっかり時間があいてしまいましたが、とりあえず今日はここまでです。
次は一週間以内にこれると思います、たぶんですが。
それでは、読んでくださった皆様、ありがとうございましたー。
234 :以下、あけまして [sage]:2012/01/05(木) 02:25:17.16 ID:cIZvq2DAO
235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/05(木) 10:49:54.58 ID:1WMLtVPSO
佐天さんが邪天さんになったのか…
236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山形県) [sage]:2012/01/05(木) 22:22:43.49 ID:AyU9aWL1o
待ってたよ。乙
237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/06(金) 11:47:36.48 ID:QeH2xouDO
寮官はどう落とされたのかね
風を操る能力って応用力高いから妄想が捗る捗る
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/07(土) 18:15:36.64 ID:mDHwyw630
酸素濃度とか操作したとか
239 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/09(月) 15:36:08.53 ID:lW7Xbt1s0
佐天さんというか堕天さんやな
240 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/01/24(火) 02:24:31.38 ID:0rG4N1zRo
見ないほうがよかった。
私の歩んできた人生の中で、どれだけそう思った事があっただろう。
怖い映画を見た時、消費期限の切れた食べ物の入った容器を開けた時、思い返せばそう思った事はかなりあるのかもしれない。

では、少し言い方を変えて、見たくなかったではどうだろうか。
絶対能力者進化実験の資料、とある男性の幅広い異性との付き合い、それらは私の人生において、ある種の転換点になったものばかりだった。
知らずにいられればどれだけ幸せだったか、無知のまま何事にも気付かず生きていられればどれだけ気楽だったか。
それでも、私は知ってしまった。
知ってしまった以上、私はきっと彼女を止めようとする自分を止められないだろう。

「……黒子、風紀委員や警備員は、佐天さんをどうするつもりなの?」

「何事もなく逮捕できれば御の字ですが、抵抗するようであれば強引な手段に訴える事になると思いますの。何といっても、レベル5の能力者ですから……」
241 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/01/24(火) 02:27:05.15 ID:0rG4N1zRo
黒子が憂いを帯びた目で茜色に染まりつつある夕焼け空を眺めながら、そう呟いた。
強引な手段、それがきっと暴力を伴うものであろう事は、私にも容易に想像できることだった。
しかし、近代兵器で武装した程度で、戦闘向きの能力を所持している超能力者に太刀打ちできるかどうかは甚だ疑問ではあるのだが、私はそれを口に出す事はしなかった。
黒子の目が、それらの懸念される事柄を全て理解した上のものだと、なんとなく感じていたから。

「……そっか。ところで、アンタはどうするの?」

私のそんな質問に、黒子は空を眺めていた目線を私に向ける。
その目は先程とは違い、強い決意の光を灯しているように見えた。

「私は、風紀委員ですの。いかに友人といえど、犯罪を犯したものは処罰しなければなりません。私は……そう、風紀委員として佐天さんを捕まえます」

私は、変わりつつある私の日常の中で、変わらないものを見た気がした。
彼女のそれはある種の決別とも言える言葉ではあったが、何故だかそれが嬉しくもあったのだ。

「ん、そう言うと思ってたわ。私は私で、佐天さんを追いかけてみる。止めても無駄よ」

本当なら、私は彼女達に協力を申し出るべきだったのかもしれない。
レベル5の能力者を捕まえるためには、同じレベルの能力者を使うのがもっとも確実な手段なのだから。
4と5、近いはずのその数字も、能力者の世界では絶望的なまでに差が存在している。
それほどまでに、レベル5とその下のレベルとでは実力に差があるのは、とうの昔に皆知っているはずだ。
242 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/01/24(火) 02:27:50.00 ID:0rG4N1zRo

「お互い、無茶だけはしないようにね。何かわかったら報告するわね」

私がそうしなかったのには、いくつか理由が存在する。
まず1つ、黒子から読ませてもらった資料には、佐天さんを凶悪な犯罪者だと捕らえている節がいくつか見られた。
確かに、あのVTRだけを見ればそう思うのも無理はない。
自分の邪魔をする者に、一切の容赦なく力を振るう。
そんな印象を受けても仕方がないだろう。
それならば、なぜ彼女はあの時寮監を一切の外傷も与えず、気絶させるだけに留めたのか。
時間を稼ぐなら殺して死体を隠すなりすれば、私達に与える情報をもっと少なくできたはずだ。

2つ目、早い話が私は佐天さんを信じていたい。
風紀委員の協力者として彼女の前に姿を見せたら、自分を捕まえにきたと思われ、話すらできないのではないか。
私は、佐天さんに会って、真実を確かめたい。
そのためには、余計な肩書きなどは無いほうがいいと思ったのだ。

「お姉様……佐天さんは、どうしてこんな事をしたのでしょうか……」

「……わからない。でも、何だか嫌な予感がするの。早く佐天さんを見つけないと、全てが手遅れになってしまうんじゃないかって。それじゃ、もう行くわね」
243 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/01/24(火) 02:30:03.18 ID:0rG4N1zRo
私はそう言うと、本部での用事を済ませて帰還した固法先輩とすれ違うように風紀委員の支部を後にする。
思わず見惚れてしまうくらいに赤く染め上げられた空を眺めて、自分に何ができるだろうと少しだけ思いを走らせてみる。
風紀委員や警備員のような組織的なものにも所属していなければ、人脈も人員もない。
持っているのは磨き上げてきた能力と、かつての苦い経験で培った押し寄せる絶望との戦い方だけ。

「とりあえず、情報収集から始めないと……佐天さん、待っててね。すぐ追いついて、私にできる事があるなら助けてあげるから」

今からでも、風紀委員に協力を申し出なよ。
1人じゃ見つけられない、それは以前佐天さんが失踪した時にわかってるでしょ?

そうやって囁きかける弱い心の声を振り切るかのように、足元に転がっていた空き缶を蹴り飛ばし、私は歩き出す。
2年前の、あの実験のように、全てを手遅れなんかにはしたくないから。
あの時は、偶然とあるヒーローが私を助けだしてくれた、だから私はここにこうして存在していられる。
アイツは、今もどこかで困っている女の子をかっこよく助けて、長ったらしい説教をしているのだろうか。
以前の自分なら、その光景を見たり考えただけでイライラが募ったものだが、今となってはまたやってる位に受け止められるのは、自分が成長したからなのか、それとも――――

(やめやめ。こんな時にあんなヤツの顔思い出したら、アイツの不幸体質に巻き込まれるわ)

そう思った私は、浮かんできたアイツの顔を追い払うように軽く頭を振る。
まずは軽く、ハッキングでも仕掛けてみよう。
当初の目的である情報収集に頭を切り替えた私は、とりあえず自分の部屋に帰る事にした。
244 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/01/24(火) 02:30:53.89 ID:0rG4N1zRo
6月17日(第3金曜日)

小鳥が囀りを始め、窓から柔らかな光が差し込み始めた自室。
いつもならまだまだ夢の中にいる時間帯に、私は眠たい目を擦りながらパソコンと向き合っている。

「はぁ……今日も特に収穫なし、か」

私はそう呟いて大きく伸びをした後パソコンの電源を落とすと、カップに注がれた朝御飯の代わりの濃い目のコーヒーを一息で飲み干した。
そういえば、ここ1週間で自宅でまともに睡眠をとった日があっただろうか。
帰ってくればパソコンに向き合い、佐天さんに関する情報を必死に探し、朝が来れば登校して学校で睡眠をとる。
ある意味で規則正しい生活を送っているものだと、自分でも関心してしまう。

「あふぅ……学校めんどくさいなぁ」
245 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/01/24(火) 02:31:39.36 ID:0rG4N1zRo

空になったカップを机に置いた私は、今度は手鏡を持ち上げると、最低限の身嗜みを整えようと鏡を覗き込む。
鏡に映った私の顔は、目の下にはっきりとした隈があり、ついこの間と比べると随分疲れた雰囲気が漂っている。
この1週間、私が手に入れた情報があまりに少ないというのも、日々蓄積される疲れに拍車をかけているのかもしれない。
若干癖のついた髪を整え、最低限の化粧を終えると手鏡を机に置き、今度は手に入れた情報をまとめたノートをめくる。

調査をする中で、気になる情報はいくつかあった。
最近学園都市のいくつかの研究所が何者かに壊滅させられている事。
施設だけではなく、多くの場合所員も殺害されている事。
生き残った所員の証言から、それは恐らく同一人物である事。
ただし、どの情報もそこまでだった。
あと1歩、それらの研究所では何が行われていたのか、生き残った者が末端の者だったという事もあり、それがどうしてもわからないのだ。
核心に迫る情報だけが高度な技術で隠蔽され、自分の能力をもってしても発見できない鉄壁に覆われている。
まるで、この研究所の襲撃さえも含めた全てが一つの計画であるかのような用意周到ぶりに、若干の気持ち悪さを私は覚えていた。
246 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/01/24(火) 02:32:08.98 ID:0rG4N1zRo
「今日か明日、研究所をいくつか調査しないとね……って、うわっ! もうこんな時間!」

窓の外から聞こえ始めた通学する学生達の声を受け、何気なく時計に目をやった私は、遅刻ギリギリの時間になっている事に驚く。
私は、部屋着を脱ぎ捨て急いで制服に着替えると、あらかじめ準備してあった鞄を手に取り、慌しく部屋を飛び出した。
雲1つない青空から降り注ぐ日の光は、徹夜明けの私には眩しすぎて少し目が痛い。
学校についたらとにかく寝よう、私は心の中で大きな声では言えないそんな決意を固める。
机は寝心地がよくないけど、そこは妥協するしかない。

「忙しくなりそうね……頑張らないと」

ヒーローがいないなら、ヒーローになればいい。
彼女が語ったそんな言葉が私の脳裏に浮かんだ。
私にとってのヒーローは、認めたくはないが私をドン底から掬い上げてくれた上条当麻という男。
佐天さんにヒーローがいないなら、おこがましいかもしれないが私が佐天さんにとってのヒーローになろう。

「ヒーロー、か。私にもアンタみたいに、かっこいいヒーローなれるのかな――――」
247 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/01/24(火) 02:33:33.18 ID:0rG4N1zRo
短いですが今日はここまでです
なんかいろいろ一段落したので更新を頑張りたいと思います
それでは呼んでくれた皆様、ありがとうございましたー
248 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/01/24(火) 09:34:43.02 ID:HM3W7lMb0


この先も楽しみだ
249 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/24(火) 16:54:14.24 ID:sAKOHTkDO
来てたか乙!
次も待ち遠しい
250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府) [sage]:2012/01/25(水) 21:32:37.00 ID:qeBnesUgo
乙!
楽しみにしてるぞ
251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/01(水) 20:20:09.99 ID:0u3VmIgRo
もうすぐ、日が暮れる。
帰宅するサラリーマンや買い物袋を提げた主婦、制服の襟元を緩めスポーツバックを提げた部活帰りの学生達を眺めながら、
公園のブランコに腰を掛けている私の口から、小さな溜息が漏れた。
今日の夜、襲撃を受けた研究所のうちの1つを調査する事にした私は、その研究所まで距離がある住まいにわざわざ帰宅する気にもならなかったので、こうして適当な公園で時間を潰しているという訳である。
足下の砂や砂利をローファーを履いた足で蹴飛ばしたり、何をするでもなく携帯でお気に入りのサイトを巡ってみたり。
ただただ時間が過ぎるのを待つというのは案外苦痛なものではあるのだが、文句を言ってもなにも始まらない。
少しして、携帯でできる暇つぶしもなくなった私は、鞄に携帯を無造作に突っ込むと、あらかじめ買っておいた飲み物を口に含む。

「はぁ……あと1時間、ってとこかなぁ」

辺りが完全に闇に包まれ、街灯と月だけが街を照らす時間になるまでは待つ。
警察や警備員、風紀委員といった治安維持組織の管理下に置かれているであろう建物へ侵入しようというのだから、慎重すぎるほどに行動するのは当たり前といえるだろう。
何か重要な手がかりが掴めるかもしれない、そんな期待と緊張でカラカラに渇いた喉を、もう1口飲み物を飲んで潤す。
252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/01(水) 20:20:34.59 ID:0u3VmIgRo
「おーい、御坂」

ペットボトルを手に持ったまま、目が届く範囲の星の数を数えていると、不意にそんな声が聞こえた。

「……なによ」

目線を下げると、目の前にツンツン頭の男が笑いながら立っていた。
上条当麻、かつて私を助けてくれた男で、私が惚れている男。

「いや、たまたま通りかかったら見覚えのあるシルエットが見えたから来てみた……って訳ですよ。久しぶりだなぁ御坂」

「そういえば、アンタに会うのも久しぶりね」

以前は、顔を見るだけで何ともいえない気持ちになったものだが、この2年ほどでずいぶん落ち着いたものだと自分でも思う。
今はそれどころではないというだけかも知れないのだが、それはすべてが終わってみないとわからないことではある。

「御坂が高校に入る直前に会ったのが最後だったかな。上条さんに会うたびにビリビリしてきたのが嘘みたいですよ」

「それは悪かったって言ってるでしょ……」
253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/01(水) 20:22:35.96 ID:0u3VmIgRo
過去の自分の行いを掘り返された私は、多少の罪悪感から顔を背けてしまう。
この天然女たらしには、それでもちょうどいい制裁だったとも思うのではあるが。

「冗談冗談。久しぶりに会ったんだし、少し話でも――――」

「悪いけど、今日は無理ね。これから用事があるの」

上条当麻の顔を見つめながら、私はぴしゃりとそう言い放った。
心の乱れを生じさせるような事態はできるだけ避けたいと思ったのと、移動などにかかる時間を考慮すると、そろそろ行動を起こすのにいい時間になったためだ。

「――――それに、可愛いシスターさんが帰りを待ってるんじゃないの?」

私のこの一言で、目の前の男の表情に明らかな焦燥が見て取れた。
手に提げた買い物袋から察するに、晩御飯は帰ってから作るつもりなのだろう。

「や、やばい! インデックスのやつ絶対怒って……じゃあ御坂、またな」

アタフタと走っていく男を見送った私は、ゆっくりと立ち上がる。
その反動で少しだけブランコが揺れて、静かな公園にキイッと古びた金具が擦れる音が響いた。

「……行こっか」

そう呟いた私は、空になったペットボトルをゴミ箱に投げ入れ、目的の研究所に向かって歩き出した――――
254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/01(水) 20:25:58.84 ID:0u3VmIgRo
―――――――

学園都市第19学区、人類の科学と繁栄の象徴とも呼ばれるこの学園都市の一角に、その学区は存在している。
繁華街や学校、研究施設などが立ち並ぶ他学区と比較すれば、なぜこの学園都市にこんな学区が存在しているのか疑問を抱くほどに、その一帯は寂れていた。
街並みはどこか古臭く、夜になれば人と出会う方が珍しい。
再開発の失敗、それに伴う他学区への流出、寂れてしまったのには様々な理由が挙げられるが、私はここは意図的に寂れさせてあるのではないかと思っている。
何故そう思うのかであるが、今日私がこんな辺鄙な場所にわざわざ足を運んだ理由に、そう思う理由の1つがあった。
第19学区の外れに、小さな森林のような場所がある。
ただ一つの入り口には、立ち入り禁止の看板と監視カメラ、地図を見ると、そこには森林以外は何も存在しない事になっている。
恐らく、何か公の場に晒されるわけにはいかない実験でも行っていたのだろう、と。
そして、人気の少ないここはそれらを実行し隠蔽するのに好都合だったのではないかと、私は推測している。

「……警備の一人もいないなんて、逆に怪しすぎるでしょ……」

私の操った電磁波で、隠されていたカメラが誤作動を起こしている間に、私は易々とその森林への侵入に成功する。
道なき道をしばらく進むと、少しだけ開けた土地があり、私の眼前にその施設が姿を現した。
255 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/01(水) 20:27:49.96 ID:0u3VmIgRo
「えーと……脳波解析研究所……?」

周りを有刺鉄線のようなもので囲われている施設の、唯一の入り口と思われる場所にあったぶ厚い扉に、そんな表札がかけられている。
入り口の両脇には、守衛の詰所と思われるものが存在しており、厳重な警備が敷かれていたことがうかがえる。

「それにしても、ひっどい有様ね。怪獣でも攻めてきたんじゃないかしら」

頑丈に作られていたであろう扉は、無残にもひしゃげて、止め具が壊れたのか内側に折り重なるようにして倒れている。
守衛の詰所は、恐らく侵入を試みた人物と一悶着あったのだろう。
壁や床に、洗浄しきれなかった血液が思い思いの線や斑点で赤黒い模様を描いていた。

(ふーん……警備が薄いのは警備員や風紀委員の手には負えない相手ってのが理由かしら。あるいは、ここにはもう守るべきものは何も残っていないか……)

それでも、私はゆっくりと施設内部に足を踏み入れていく。
施設内部は、私の読みがあたったのか、既に引き払われた後だったらしい。
情報を扱っていたであろう端末は徹底的に破壊され、研究設備が置かれていたはずの部屋は、何がなんだかわからないくらいに徹底的に破壊されている。
事件が起こった事を知った直後に来ていれば、そんな後悔が私を襲う。
256 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/01(水) 20:30:12.21 ID:0u3VmIgRo
「でも、随分急いで引き払ったみたいね。いろいろ隠しきれてないじゃない」

守衛詰所もそうだったが、施設内部ではもっと凄惨な戦闘が勃発したのだろう。
壁、床、天井、机、少し見回せば、それらのどれかに必ず血痕が付着しており、
大小さまざまな機械も、鈍器のようなもので破壊されたものや、鋭利な何かで切りつけられたようなものなど、様々な壊れ方をしている。
死体がなくてよかった、施設内部をくまなく探索している私は、そう思わずにはいられない。

「えーと、給与明細……結構貰ってるわね……研究員への通知……どうでもいいわね……あーもう、変な書類しかないじゃない」

縫いぐるみが所狭しと飾られた部屋で、私は机の引き出しに残っていた書類をあさっている。
だいたいはくだらないものなのだが、それでも調査を続けるうちにいくつかわかってきたことがあった。
襲撃は十中八九、能力者、それもかなり高位の能力者によるものであること。
職員は施設内部に住んでいたであろうこと。
それは、このベッド以外にはぬいぐるみしかないのではないかとすら思う部屋から漂う、妙な生活感が物語っている。
私服が詰められた箪笥だったり、洗濯物が満載された籠だったりだ。
可愛らしい部屋だが、できる事ならここから早く出たいと私は思っていた。
この部屋の主は、この部屋で侵入者に殺害されたのだろう。
家主のものと思われる血液は縫いぐるみに染み込み、それらを赤黒く染め上げている。
257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/01(水) 20:31:39.30 ID:0u3VmIgRo
「はぁ……嘘でしょ、手がかりになるようなものは全部処分され――――」

机をあらかた調査し終え、落胆した私がそこにあった椅子に座り、視線を下に落とした、その偶然のおかけで。
私は、机の下の本当に気付きにくい場所にある、ピンク色のノートを発見することができた。

「…………研究員の、日誌?」

それを拾い上げた私は、ページを適当にめくってみる。
日誌は、研究員のものと思われる血液が固まっており、とても読めたものではないページがしばらく続いている。
データであればこんな事にはならないのだが、それが破壊されている今は、この研究員に感謝するしかない。

「あ、ここから読めそうね…………5月16日月曜日――――」
258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/01(水) 20:33:06.70 ID:0u3VmIgRo
――――

5月16日(月)
今日、この研究所に新しい被験者が3人連れられてきた。
どうやら拉致でもされてきたのだろう、自分の置かれている状況が飲み込めていないらしい。
少し協力してくれたら家に帰すと約束し、それぞれ、3542、3543、3544と番号を割り振った。
どうやら被験者番号3103と同じ履歴の持ち主との事、楽しみだ。
所長達にいつまで生き残るか賭けをしようと誘われたので、私は2ヶ月以内に全員死亡するに賭けておいた。
鈴木は3人のうち1人は生き残る方に賭けていた、相変わらず馬鹿な奴である。
明日から投薬を行い、様子を見る。

5月19日(木)
被験者のうち、3543番が不調を訴えてきた。
頭痛が治まらないらしい。
17日から続けている投薬の影響であるのは明らかなのだが、風邪でも引いているのだと諭し、新たな薬を渡す。
薬を受け取ると3543番は、お礼を言って部屋に帰って行った。
今日与えた薬が、先日与えたものを強力にしたものだとも知らずに呑気なものである。
私の経験上、3543番はこれで死亡するだろう。
まったく、3103番と比較すると全くもって役に立たないモルモットだ。
259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/01(水) 20:34:20.32 ID:0u3VmIgRo
5月21日(土)
私の読み通り、今朝3543番が死亡した。
3542番と3544番には、3543番への実験は終了したので、解放したと言っておいた。
3544番も体調が悪そうである。
また、本日から別の薬の投与を開始する事になった。
下手をすれば廃人のようになってしまう薬だが、研究のためなので仕方ない。
廃人のようになった被験者の処分を任されなければいいのだが。

5月24日(火)
3542達への実験開始から1週間が経過した。
3544番は口数が少なくなり、たまに喋る言葉は整合性のない意味不明なもの。
さらに、目からは光が消え失せている事からすでに廃人となってしまったと推測できる。
どうやら3544番はここまでのようだ、明日にでも所長から処分命令が下るだろう。
やれやれ、実験とは思うようにはいかないものである。

5月25日(水)
やはり、本日所長から3544番への処分命令が下った。
3544番が若い女だったという事からか、副所長が処分を担当するらしい。
実験で廃人になり、最後の最後に変態の慰みものになるとは、モルモットとはいえ若干の同情を覚えないでもない。
処分を終えた副所長が、嬉々として処分の様子を報告書に書いていたので後ろから覗いてみたが、数行で気分が悪くなったので部屋に帰ってきた。
これで残る被験者は3542番一人のみとなった、いつまで持つか楽しみである。
260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/01(水) 20:37:40.77 ID:0u3VmIgRo
5月26日(木)
副所長のアホめ。
興奮していたのか、3542番の前で処分の様子を漏らしてしまった。
そんな事はない、ただの妄想だと説得を試みたが、家に帰って警察に行くと聞かなかったので、やむをえず身柄を拘束した。
私個人としては、従順なモルモットは丁重に扱うべきだと考えるが、今回は仕方がない。
身動きがとれない状態にして監禁したうえで、3度の食事はチューブを介して摂取させる事になった。
副所長がひどく興奮していたが、所長命令により今後3542番への接触を一切禁じられた。
ざまあみろ。

5月28日(土)
3542番がしきりに殺して欲しいと懇願するようになった。
だが、こちらとしても貴重なモルモットを殺すわけにはいかない。
拘束を解けば自殺する可能性も捨てきれないため、このまま実験を継続する事に決定した。
また、今日より投薬の量と種類を増やす事に。
これが終われば第1段階は終了する事になる。
ここまで来たのは何番以来だったか、たしか3500番辺りで1人いた記憶があるが、定かではない。

5月29日(日)
投薬の量を増やしたのが原因か、薬物によるショック現象が3542番に発生した。
3542番は何とか一命を取り留めたものの、この影響で3544番と同様に廃人と化してしまった。
ブツブツと友人の名前を呟き、謝罪の言葉をひたすら並べている。
副所長が処分するなら自分がすると所長に提案していた、黙れ変態め。
その後、副所長を除いた抽選の結果、処分は私が担当する事になった。
ボタンを1度押すだけとはいえ、常識人の私には少し気が引ける作業である。

5月30日(月)
本日、3542番への処分を実行した。
ボタンを押して致死性の猛毒を送り込むだけの簡単な仕事である。
絶命する瞬間、3542番が研究所に来てから初めて微笑んだように見えたのは私の目の錯覚だろうか。
ともあれ、やはり今回の賭けは鈴木の一人負けで、予定通りの結果と収入に頬が緩む。
3103番のような逸材はやはりそうそうには来ないものであるということを鈴木に教え、私は部屋に帰ってきた。
明日にはまた被験者が送られてくるらしい、楽しみである。

――――
261 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/01(水) 20:39:47.54 ID:0u3VmIgRo
「……何よこれ、何なのよこれは!

 何をやってるのよ、こいつらは! 何のためにこんな事をやってんのよ!」

怒りで、私は声を抑える事すら忘れていた。
湧き上がってくる感情を発散させるために、足下にある縫いぐるみを思い切り蹴飛ばす。
どこの誰が犠牲になったかはわからないが、それでもこの日誌は私を怒らせるのには十分すぎるものだった。
因果応報、報い、天誅。
こいつらは殺されても仕方のない連中だったのかもしれない。
そんな感情を抱きながらページをめくっていると、最後の日誌、恐らくこの研究員が絶命の間際まで執筆していたところまで辿りついた。

「あ……日誌はここで最後ね。……えーと、6月13日――――」
262 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/01(水) 20:43:59.25 ID:0u3VmIgRo
――――

6月13日(月)
最悪の事態だ。
やつがきた、この研究所にやつがきてしまった。
モニターの向こうでは、生きたまま手足をもがれ、内臓を引きずり出された副所長が魚のように痙攣している。
最悪だ、最悪だ、なんということだ、やつは私達を皆殺しにするつもりだ。
生き延びたモルモットが獅子になって帰ってきたなんて、笑えない冗談だ。
スピーカーから笑い声が響いている。
どうか、どうか、気付かずに通り過ぎてください。
ああ、かみさま、どうか――――

――――
263 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/01(水) 20:46:25.10 ID:0u3VmIgRo
短いですが本日はここまでです
現在プロットの見直しをしていますので、次回投下までに少々時間がかかるかもしれません
それでは読んでくださった皆様、ありがとうございましたー
264 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/01(水) 21:16:08.14 ID:Rv3EuVDDO
いいスレ見つけてしまった

>>1
265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/02/02(木) 01:55:24.00 ID:Tl9S4V+/o
更新乙
266 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府) [sage]:2012/02/02(木) 15:50:55.22 ID:vmB9J28yo
キテター!乙!
267 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/02(木) 22:07:51.75 ID:jq7tD/+do
被験者番号3 10 3とな
268 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/02/03(金) 20:43:06.06 ID:lLxFNkoAO
>>267
3付けとは律義だな
269 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/04(土) 21:44:06.41 ID:jJTUO6rx0
地獄へ堕ちろ外道!
270 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/02/27(月) 01:22:31.93 ID:M5d99Kywo
佐天さんー
271 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/24(土) 07:58:35.20 ID:JIz3hYUDO
はよ
272 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/26(月) 01:42:25.36 ID:lHBrnkOBo
6月18日(第3土曜日)

超能力者進化発展技術研究所、関係者の間では「超技研」の通称で呼ばれる施設の薄暗い廊下を、一組の男女が雑談を交えながら歩いている。

「そういえば、お前は成功例と会うのはこれが初めてだったかな」

しわのよった白衣に身を包んだ長身の男は、超技研の実質的な責任者であり、最重要事項とされる実験の主任研究員を務めていることから、他の研究員からはそのまま「主任」と呼ばれている。
研究員らしからぬ強面の顔には、歴戦の戦士を彷彿とさせる傷がいくつも刻まれており、ある種の貫禄を醸し出している。

「は、はい! 確率およそ3574分の1、唯一生き残った実験体……被験者番号3103に会うのは、私は初めてです」

男の後ろから、女が目を輝かせて、確認するように言葉を返した。
前を歩く男と比べ、2回りも小さく、真新しい白衣に身を包んだ女性は、つい最近この研究所にやって来たばかりの新米研究員であり、現在は研修中の身分である。

「そうか、お前に1つだけ注意しておかなければいけない事がある」

「注意……? なんでしょうか」

男は足を止め、困ったように息を吐くと、一言ずつ聞き取りやすいようにこう言った。
273 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/26(月) 01:43:56.83 ID:lHBrnkOBo
「3103番を、必要以上に刺激しないことだ。質問責めにしたり、彼女からの質問に答えなかったり、挑発なんてのはもってのほかだ」

「……刺激してしまうと、どうなるのでしょうか?」

「……殺される、間違いなくな。3103番は我々が情報を与える対価として、我々に何を提供していると思う?」

顎に手を当て、女はうーんとしばらく考えたあと、

「データ、でしょうか?」

そう返答をした。
男はその答えを聞くと、首を振り、苦笑しながら正解を教えてやろうと前置きしてから口を開く。

「我々の命だ。情報を与えるかわりに、我々を生かしておいてやる。この面会も、彼女が情報を教えろと言ってきたから行うようなものだ。3103番は我々の事など道端のクソ程にも思っていないぞ」

「ですが、彼女がこの実験に参加したのは自ら望んで、そして実験のおかげで力を得たはずです。感謝されこそすれ、恨まれる理由など……」

「残念だが、恨まれる理由はある」

男の力強い断定に、女はますますわけがわからないという顔をする。

「っと、そろそろ面会の時間だ。遅れるのはまずい。この話は後でしよう」
274 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/26(月) 01:44:52.47 ID:lHBrnkOBo
腕時計で時間を確認した男は、面会室となる部屋へ向かうため歩き出す。
女は渋々と言った表情で質問の言葉を飲み込むと、男の後をパタパタと小走りでついていき、廊下の端にあるエレベーターに乗り込むと3Fのボタンを押す。

「さて……今回は何をご所望されることやら……」

エレベーターが3Fに着いた事を知らせる音が鳴ると同時に、主任がそう、どこか嬉しそうな顔で呟いた――――
275 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/26(月) 01:47:06.82 ID:lHBrnkOBo
超能力者進化発展技術研究所、客人用宿泊室

エレベーターを降り、何重にもロックがかけられたぶ厚い扉を超えた先に、3103番と呼ばれる少女の暮らす一室がある。
この部屋は超技研に要人が視察に訪れた際に使用される、もっともセキリュティが強固な部屋であるが、現在そのセキリュティは外部ではなく、内部にいる少女の活動を制限するために使用されている。
テレビやベッド、風呂トイレは別で、キッチンも付いているその部屋に足を踏み入れた2人は、ベッドに退屈そうに座るこの部屋の主に声をかけた。

「気分はどうだ、3103番。痛い場所や体調が優れないなどあったら気兼ねなく――――」

「喋らないでください。あなたはあたしの質問にだけ答えればいい……前にも言いませんでしたか?」

「……っっ、失礼。気分を害したなら謝ろう」

「謝罪もいらない、聞きたくない。あたしの質問にだけ答えてください」

落ち着き払っている主任とは対照的に、新米研究員の女の背中には嫌な汗がつーっと流れていく。
見た目は10代そこそこの可愛らしい少女だが、この少女は自分達の事を人間として見ていないと言う事実。
そして、丸腰の自分達など、捻り殺すのに造作もないという事を知っている彼女にとって、これは寿命が縮むようなシチュエーションであった。
276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/26(月) 01:50:25.07 ID:lHBrnkOBo

「……実験に失敗した人間はどこに集められているか、もちろん知ってますよね?」

「ふむ……実験に失敗した被験者は集められて内密に焼却処分――」

男が言葉を言い終わる前に3103番と呼ばれた少女は立ち上がると、細い腕で白衣の襟元を思い切り掴み、引き寄せる。
相当凄まじい力で引かれているのか、苦痛に歪む男の顔を見上げるように覗き込んだ3103番は、言い聞かせるように言葉を発していく。

「アンタ達が、実験に失敗した貴重な出来損ないをそのまま焼却処分するわけない……そうですよね? 処分するなら少なくともどこかで死体を弄くり回した上で……ねぇ、くそ野郎。

 あたしが探してるもの、わかってますよね? それがどこにあるかもわかってますよね? わかっててあたしにそんな答えをした、そうですよね?」

近くで見ているものの、新米研究員の女は1歩も動く事どころか、声を発する事さえできない。
止めに入る事で刺激を与えてしまえば、それは自分の死をも意味する事を知ってしまっているからだ。
それと同時に、新米研究員の胸中に抑えがたい好奇心が沸いてくる。
こんな素晴らしいモルモットを思うまま弄くれたらどれほど幸せだろう、考えただけで涎が出そうになる。
277 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/26(月) 01:51:46.92 ID:lHBrnkOBo
「あたしは、死んだ友達を生き返らせてくれなんて無茶な事は言ってません……死体の在り処を教えろ、嘘をついたら今まで殺したどいつよりもひどく責め抜いて殺す」

「ぐっ――――わ、かった――――がはぁ! げほっ……」

解放された男は床に這いつくばり、しばらく咳き込んだ後、ゆっくりと口を開いた。

「……3103番、君の探しているものは、第10学区の人体解析研究所のメインラボという場所にある……この施設は超能力者進化発展技術研究所の支部のようなものだ。地図は後で渡そう」

「次、同じ事をしたら……わかってますよね?」

「肝に銘じておこう。他には聞きたい事はないかね?」

「アンタ達が言っていた、あたしが破壊した施設を探ってる人間を調べて、わかったら連絡してください。あたしは外出してますから」

「……わかった、それならすぐにでも突き止められるはずだ。無事帰ってくることを祈っているよ」

「ああ、あと――あいつの居場所――もね」
278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/26(月) 01:55:20.41 ID:lHBrnkOBo
外出のための荷造りを彼女が始めたのを確認すると、2人は彼女の部屋から逃げるように退室する。

「あなたもあいつらと同じ」

部屋を出ようとする女の耳に、小さく少女の声が響いた――――
279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/26(月) 02:01:35.19 ID:lHBrnkOBo
部屋を出た2人はそのままエレベーターまで歩くと、自分達の部屋がある1Fのボタンを押し扉を閉じる。
そこまできて、緊張の糸がようやくほぐれた女が一息つきながら主任に感想を漏らした。

「なんていうか……あんな目ができる人間がいるんですね……純粋な殺意というか……あんな目で見られたの生まれて初めてです。3574分の1を生き抜いたのも納得しました。あと、あなたもあいつらと同じ……ってどういう意味なんでしょうか」

「? そんな事いつ言っていた?」

覚えがないと言う主任に、新米研究員は

「えーと、部屋を出る時に聞こえませんでした? 同じような位置にいたので主任にも聞こえるはずなんですけど」 

そう言って必死に確認をとるが、主任は聞こえなかったと首をかしげている。

「まぁ、いいです、はい。いやーでも、なんていうか極上の素材ですね。許されるならバラバラにして隅から隅までチェックしたいです」

喉もと過ぎれば何とやら。
先程までの緊張はどこへ行ったのか、すごいものを見つけた時の子供のような表情で呟く女を見て、男はほんの少し自虐を含んだ笑みを浮かべる。
やはり、こんな実験に携わる人間は、自分も含めろくな奴がいない。
人間としてのネジが何本か吹っ飛んでいるような連中しか、実験を遂行できないのだ。
自分も彼女も、ここにいる連中は皆、3103番を人権を尊重された1人の人間ではなく、せいぜい試験管の中で反応する薬品と同じ程度のものとしか見ていない。
よくもまぁこんなクズばかり集まったものだと改めて考えると、それが男にはおもしろかったのだ。
280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/26(月) 02:02:16.80 ID:lHBrnkOBo
「お前には研究者としての資質があるな……だが、逃げるなら今のうちだぞ?」

その言葉をうけ、不思議そうに女が主任の顔を見る。
1Fに到着し、開かれたエレベーターの扉から出ながら、主任はさらに続けていく。

「3103番は我々を殺すだろう。我々に利用価値がなくなった時には間違いなく、な」

「……しかしこんな機密に関わってしまった以上、逃げても消されるのがオチですよね」

「一理ある。まぁ拷問の末死ぬことを考えれば、上層部に処分されるほうが幾分か気が楽かもな」

冗談っぽくそんな物騒な事を言いながら、データの整理と人体解析研究所の職員に連絡をとるために去っていく大きな背中を眺めながら、新米研究員は

「はぁ……」

と、諦めとも恍惚ともとれる吐息を発したのだった――――
281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/26(月) 02:06:59.69 ID:lHBrnkOBo
あんまり進んでませんが、今回はここまでで
プロットの見直しに相当時間がかかってしまいました、申し訳ありません……
一応もう少し先までは書いてあるので、推敲が終わりしだい投下します
明日には続きが投下できると思うので、お待ちください
それでは読んでくださった皆様、ありがとうございましたー
282 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/03/26(月) 10:19:28.07 ID:tJuT/ge5o

待ってたよ
283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/26(月) 11:19:42.43 ID:efN4RWhDO

ダース単位でネジが飛んでやがる
284 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/26(月) 11:41:10.21 ID:0Aif4Ek00
>>283
ダースじゃ足りなくね?
285 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/03/26(月) 11:55:09.55 ID:+sl9huBso
乙!
286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/03/26(月) 12:20:36.12 ID:+fvZVjLuo
きたな
287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/27(火) 00:59:08.17 ID:H3J/drumo
人体解析研究所

学園都市の第10学区に存在するこの研究所は、能力者の体を解析し、能力開発分野の発展を目的として設立された研究機関であり、
研究所内には膨大な量の能力者の研究者垂涎のデータが蓄えられている事から、能力を専門とする研究者の間ではかなり有名な施設でもある。
また、設立当時から黒い噂が絶えない事でも有名であった。
例えば、あそこは生命に関わるような人体実験を行っているだとか、施設内に死体処理施設があるだとか、それはもう様々な噂が生まれては消えていった。
そして今、第10学区でも一際大きなその研究所の敷地内を、一人の少女が軽い足取りで進んでいる。
普段なら、厳重な警戒を行っている守衛も、研究について語り合う白衣の研究者達も、少女以外の人間の姿は気配すら見当たらない。

「待ってたぜ、3103番」

不思議に思った少女が辺りを見回していると、不意に敷地内で1番大きな建築物――メインラボ――の正面玄関と思われる場所から1人の男が姿を現した。
歳は30ほど、身長は170後半で痩せ型、短く刈り込まれた髪と、無精髭と切れ長の目が特徴的な男だ。

「おっと、待て。俺を殺すのはお前の勝手だが、俺をここで殺すとお前の探しものは一生見つからないぜ。賭けてもいい」

少女の発した殺意を感じ取った白衣の男は、特に焦るでもなく小さく両手を挙げてそう言ったあと、さらに言葉を紡いでいく。
288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/27(火) 01:01:35.24 ID:H3J/drumo
「お前の探しものがある場所だが、そこは機密上の関係で超厳重なロックがかけられていてね。その上入り口も極少数しか知らないときている」

「へぇ……実験に関わってるろくでもない連中は少数派ってことですか?」

「まぁな、大半の連中はただの研究者さ。実験については何も知らない……ふぅ、落ち着いたみたいだな。こっちだ、着いてきな」

殺意が幾分か弱くなったのことを確認すると、メインラボの内部へと歩き出した男のあとを、少女も一定の距離を保ちながら追いかけていく。

「紹介が遅れた、俺はこの研究施設で研究員をやってるもんだ。所長達はびびっちまってね、下っ端の俺が今日の接待役ってわけ。

 それにしても悪いね、急な事だったからお茶も何も用意できてなくて。お前のデータはまだ少ない。今度は是非、客人として来ていただきたいな」

「……モルモットとして、の間違いですよね?」

「否定はしない。ここはまぁ能力者の体を解析する事を目標とした機関だからな。高位能力者――レベル5――ともなると絶対数が少なくてね

 なに、安心してくれ。俺は超技研や脳波研の連中とは違って被験体は丁重に扱う。生きていようが死んでいようが、ね。」

厳重なセキリュティに守られた扉をいくつも開け、無断で侵入した者を葬るシステムを解除しながら進みつつ、男が饒舌に語っている。
その傍らを追随する少女は、短い返答をするだけであるものの、それを気にかける様子もなく、男の話の勢いはますます激しくなっていく。
289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/27(火) 01:04:26.37 ID:H3J/drumo
「だいたい、連中は被験体に対して思いやりがなさすぎる。特に1度成功例が出てからなんて、輪をかけてひどい――あぁ、すまん」

「いえ……」

頭をかきながら訂正する男からは今まで殺してきた研究者と違い、少女がよく知っている、ある研究者と同じように自分を気遣ってくれている、そんな感じがした。
自分を人間として扱う研究者を目にするなど、それこそいつ以来であろうか。

「……どうして、こんな実験に関わったんですか? 優秀な研究者なら、他にもいくらでも道はあったんじゃないですか?」

初めての少女からの質問に、男は少し驚きの表情で振り返ると、少しの思案ののち口を開く。

「そうだな……実験に参加している研究者がどんな連中か、お前もよく知っているだろう? ろくでもない連中ばかりだ。見学もしたが、ひどいものだった」

「……」

「どうせ実験を受けるなら少しでもいい環境で受けさせてやりたくてね。……と言っても、俺は最近実験へ参加したばかりだから、発言力も権限も持っていないんだけどな」

そう言った男は、不意に扉の前で立ち止まると、少女の方へと振り返る。

「――ここだ。お前の探し物がなんなのかは聞いている。その場所まで案内しよう」 

今までのものよりかなり長いパスワードを打ち込み終わると、扉に据え付けられているスピーカーが認証したという音声を発し、左右に開いていく。
290 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/27(火) 01:05:37.93 ID:H3J/drumo
「……俺は、この中を見たお前に殺されても何の文句も言えないだろう。案内が終わったら、後は好きにしてくれ」

男は心なしか沈んだ声でそう言うと、扉を超え中へと足を踏み入れていく。
保っていた距離が近くなっている事を特に気にせずに、男を追った少女が目にしたのは、自分が行った殺害の現場に匹敵するほど凄惨な光景だった。

「何をしているんですか、ここは?」

ずらりと並ぶ寝台の上には、腹部を切り開かれ、内臓を抜き取られる最中と思われる死体が放置されていた。
その傍らには、繋がったままの脳と眼球と脊椎が浮かび、歩く2人を恨めしそうに眺めている。
部屋の隅に並ぶバケツの中には、黒ずんだ血液が目いっぱい貯められている。

「ここは、標本室。やってることは解剖さ。運ばれてきた死体は、ここでバラバラに解剖されて保存される。空っぽになった死体はゴミと一緒に焼却されるんだ」

誰にも知られる事なく殺された被験体は、死体となっても実験から解放される事はない。
被験体の名前も知らない自分には、誰にも見つからない場所に何も記されていない小さな墓標を作ってやる事しかできない。
悲しそうにそう呟いた男を、少女は責める事ができなかった。

「解剖を終えた死体のなかで、特に重要だとされたものは、ここに保存されるんだ。それ以外のものは小さな瓶に保存され、一定期間が経てば廃棄される」

何かの液体で満たされた巨大なカプセルがいくつも並ぶ部屋に案内された少女に、男がそう説明する。
291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/27(火) 01:06:46.03 ID:H3J/drumo
「お前の探している被験体はこのでかいのに保存されてる、よく覚えてるよ。……解剖を担当したのは、俺だったから。接待役になったのも、所長がびびったのは事実だが、なんていうか……」

「……あたしはあなたを殺そうとは思いません。あなたは、火の粉じゃなさそうですから……それより、あたしの探し物は?」

その言葉が心底意外だったのか、落ち着いていた男に若干の焦りが生じた。
少女は、殺されないとわかった途端に焦る男の様子がおかしくて少しだけ口元に笑みを浮かべる。

「す、すまん。なんというか、所長の話だと感情のない殺戮兵器とでも言いたげなあれで、覚悟も決めていたもんだから。……あ、あぁ、探しているのはここだ、ほら番号が」

3542というプレートが掲げられた容器の前に立った少女の目から、一筋の涙が零れた。
実験の成功例、価値ある実験動物、殺戮兵器、3103番と接するときは人間と思うな。
それが、男が3103番と接触する前に聞かされていた情報だった。
ところが、蓋を開けてみればどうだ。
人の死に怒り、悲しみ、涙を流す。
狂気としか思えぬ実験を嬉々として行う連中より、彼女の方がよっぽど人間らしいではないか。
292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/27(火) 01:10:18.49 ID:H3J/drumo
「……お前が探している人間はあと2人いるそうだが、その2人はここには保存されていない。……1人は普通に解剖されて、もう1人は酷く死体が損傷していて、すぐに廃棄されたんだ」

「……そう、ですか。……実験に、ましてや初期段階にひどく体が損傷する実験なんてなかったはずなのに、どうしてですか?」

男の発した言葉に、少女が怪訝な顔で聞き返す。

「脳波研……初期段階を行う実験所の副所長は、極度の嗜虐趣味……要するにドSで有名な変態なんだ。女の悲鳴を聞かないと勃たないってもっぱらの噂だった。

 ……言いたくないが、処分が決まった後で、並の拷問より酷い目に合わされた末に殺されたんだろう。画像としても残ってて一応持ってきてるが……見ない方がいいと思う」

男の言葉に少女は首を横に振って、手を差し出す。
渋々といった感じで差し出した手に渡された画像を見た少女は、眉を顰め目を堅く閉じる。

「……お前に渡したいものがあるんだ。手を出してくれ」

拳を握り締め、地面を涙で濡らす少女の前に、男はある物を差し出す。
293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/27(火) 01:14:18.12 ID:H3J/drumo
「ヘアピン……髪ゴム……これって」

「遺品さ。お前に渡しておこうと思って、持ってきたんだ。俺が解剖を担当した被験体からは、何か取っておいて、弔ってやる事にしてるから……」

少女は両手で包み込むように受け取ったそれを眺め、肩を震わせしばし大粒の涙をこぼすと、顔を上げて男の方を見る。
その顔に、男は純粋な恐怖と、悲しみと、罪悪感を覚えた。
憎悪、少女の目には憎悪の炎が燃え盛り、憤怒と悲愴な感情がヒシヒシと伝わってくる。

「……この研究所で、あなた以外の実験に関わってる人は、どんな人ですか?」

「……ろくでもないやつらさ。女なら、死体でも犯すようなやつもいる。こいつはまだマシな方だ。目玉抜き取った穴に突っ込んだり、あけた穴から脳味噌や内臓に突っ込むやつ、死体で遊ぶやつ……正直、狂ってる。

 もしかしたら、この研究所でこの実験に携わる連中の目には、俺のほうが狂っているように映っているかもしれないな……」

「……わかりました。あたしのお願い、2つ聞いてもらってもいいですか? 1つは、3人をあたしの指定した場所に弔ってあげてください」

臓器が浮かぶ容器をいたわるように手で撫でながら、少女は言葉を繋いでいく。

「もう1つは――――」
294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/27(火) 01:15:33.57 ID:H3J/drumo
人体解析研究所、大会議室

「――――というわけです、はい」

少女が研究所を訪れてから、数時間が経過した人体解析研究所の1室で、避難していた研究員達を前に、男が熱弁をふるっている。

「ふむ、3103番から取得した細胞を調べたところ重大な発見をしたと、そういう事かね」

所長と書かれたプレートの前に座った、髭をたくわえた恰幅のいい男がそう尋ねる。

「えぇ、その通りです。この研究所でこの実験に関わる皆さんにお集まりいただいたのはそのためです」

10名前後からなる実験チームがにわかに色めき立つが、男はそれを制すると、

「ここで話すより、見ていただいた方が早いかと。標本室に移動しましょう」

静かにそう告げて、歩き出す。
全員が男の後ろをついてきている事を確認すると手際よくロックを解除し、標本室へと研究者達を招き入れる。
295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/27(火) 01:16:29.09 ID:H3J/drumo
「で、発見とはなにかね?」

「えぇ、この部屋です。では――――」

開かれた扉の先を覗いた所長以下実験に携わるメンバー達の顔を、ふわりと風が撫でた。
そして暗闇の中から、わざとらしく足音を響かせつつ近づいてくる人影が徐々に鮮明になっていく。

「お、お前は……き、貴様! 我々を裏切ったな!」

「お前達にはもう付き合いきれない……3103番の方がお前達よりよっぽど人間だよ、ケダモノどもめ」

吐き捨てるように男が言葉を発した瞬間、男に詰め寄っている所長の片腕が少女の能力によって切断され、鮮血を撒き散らしながら宙を舞った。
296 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/27(火) 01:18:45.81 ID:H3J/drumo
――――――

辺りが暗闇に包まれ、人通りもまばらになった研究所の前で、3103番と呼ばれる少女が白衣の男に頭を下げている。

「……それじゃあ、すみません。後はよろしくお願いします」

「あぁ……お前の言うとおり、指定の場所に弔っておこう。やつらの死体も片付けておく。それと、何かあったら連絡してくれ、できるだけ力になるよ」

「ありがとうございます……これだけ研究施設を破壊して、研究者を殺せば、実験は中止されたりとかは……」

「残念だが……ないだろうな。以前のように大規模に行うのは難しいだろうが、比較的小規模な設備でも1人か2人なら実験は可能だからな。成功した前例もある。俺の方も何とか実験を中止させられるよう努力してみるよ」

そう言って煙草に火をつけた男に小さく頷くと、少女は黒髪を翻し歩き出す。

「待ってくれ、3103番……本当の名前はなんていうんだ?」

「――さ――」

立ち止まり、名を名乗ろうとしたところで、彼女の携帯が着信を告げるメロディーを奏でた。

「ありゃ……ちょっと待ってください」

ポケットから取り出し、掛けてきた人間を確認すると、通話ボタンを押して少女は何者かと通話を開始する。

『喜べ3103番、いい報告がある。施設を探っている人間がわかったぞ』

「教えてください、どんなやつですか?」

『あぁ驚いた、実に驚いたよ。施設を探っている人間は――』
297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/27(火) 01:26:12.55 ID:H3J/drumo
本日はここまででー
この辺はササッと終わらせて、御坂さんと佐天さんが直接ご対面するとこまで突っ走りたい……
次回もできれば明日中には投下したいと思います
では、読んでくださった皆様、ありがとうございましたー
298 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/03/27(火) 03:04:56.87 ID:8a1QQRxLo
なんだ研究所はリョナラーのすくつ(←なぜか変換できない)だったのか
299 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/27(火) 03:35:14.18 ID:BNyAVyNSO
普通にそうくつと…
300 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2012/03/27(火) 04:20:10.16 ID:nW53uj5AO
301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/03/27(火) 07:53:00.43 ID:iizC3hk/o
>>299
半世紀ROMってろ
302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/03/28(水) 08:48:12.46 ID:2MNOr7Dlo
いま気づいたが3103って佐天さんって読めるのな。見落としてた
303 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/28(水) 09:20:26.25 ID:qM01Qqnro
まさかと思って日常編を読み返してみた
3542、3543、3544ってもしや・・・
304 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/28(水) 22:12:04.82 ID:hxYaRkEIO
マジかよ……気付きたくなかった事実だわそれ……
305 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/17(火) 11:32:20.13 ID:pH+UBEQho
まだかな?まなかな?
306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/13(日) 04:45:32.21 ID:8j0Kn8Wz0
気づけばもう5月

そろそろ生存報告がほしいっすね
307 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/23(水) 19:46:53.45 ID:Lhvh52z00
かえってきてんww
ずっとまってるww
308 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [saga]:2012/05/26(土) 23:08:41.48 ID:TP4rgPN3o
気付けば6月……生存報告にやって参りました
まずは報告が遅れた事のお詫びを申し上げます、すみませんでした
現在仕事のほうが新しい生産ラインの立ち上げ等で忙しく、なかなかSSが書けない状況です
ちょっとずつ書き続けてはいるので、近いうちにある程度の量をまとめて投下できると思いますので
申し訳ありませんがもう少しだけお待ちください
309 : ◆CsNrSX8/D6 [saga]:2012/05/26(土) 23:10:15.18 ID:TP4rgPN3o
たびたび申し訳ありません
一応これからはトリップを付けておきたいと思います
310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/05/26(土) 23:35:59.55 ID:UN9eXYEto

舞っている
311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2012/05/27(日) 00:34:11.03 ID:rXfqpM3AO
どうしてこうなった…
312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/27(日) 19:50:54.63 ID:xIEyPUUDO
よかった、落ちてなかったんだな
楽しみに待ってるから完結させてね!
313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/28(月) 10:16:33.24 ID:/+RmzwiZ0
おお、お帰り〜ww
ゆっくりぼちぼちがんばって
ずっとまってるww
314 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/25(月) 00:32:27.23 ID:1ALsEaeDO
ひたすらに待つ
315 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/07/12(木) 02:06:37.46 ID:ZHgtYn7AO
うん
316 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/07/16(月) 17:08:11.20 ID:AcLyl3op0
待ってる
317 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/07/19(木) 21:16:22.23 ID:bOhh/p0Jo
まだか
318 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/27(金) 01:32:33.19 ID:kSfWRtdYo
そろそろ生存報告がほしいところだな
319 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/07/31(火) 02:18:00.59 ID:+ZiF9GfVo
なんとか完結させて欲しい
320 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/08/18(土) 08:23:58.58 ID:yItN005/0
まだ…
321 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/09/04(火) 03:48:35.35 ID:f8+ZxyYAO
まちます
322 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/09/18(火) 23:15:26.15 ID:iJyXc0En0
待ってるよ
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