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トレイン「超電磁砲?」 -
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1 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[sage]:2011/10/17(月) 02:15:29.11 ID:J9oPpOew0
花火の音が、港に響く。
色鮮やかな炎の花に、観客の歓声が湧き上がる。
花火玉の破裂音に混じる異音に、その誰もが気付かない。
人の目を離れた埠頭の陰で、二人の男が殺し合う。
一人は銃。もう一人は刀。
銃使いは斬撃を銃身で防ぎ、刀使いは銃撃を刀身で弾き飛ばす。
「その眼ぇっ!」
刀使いが叫ぶ。
「その眼だよぉっ!」
激しい鍔迫り合いが起こり、二人の顔がこの日最も接近した。
刀使いはその見開いた相貌から血の涙を流し、銃使いの男はそれを憎しみの表情で睨み付ける。
「よくも……あの女、あの魔女の呪縛で君はぁぁぁ!」
刀が振り上げられ、引き金が引かれ。
花火が、上がった。
1.5 :
荒巻@管理人★
(お知らせ)
[
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]: ID:???
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コナン「博士からメールが来たぞ」 @ 2025/07/23(水) 00:53:42.50 ID:QmEFnDwEO
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1753199622/
4日も埋まらないということは @ 2025/07/22(火) 00:48:35.91 ID:b9MtQNrio
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1753112915/
クリスタ「かわいいだけじゃだめですか?」 @ 2025/07/19(土) 08:45:13.17 ID:AK1WfFLxO
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1752882313/
八幡「新はまち劇場」【俺ガイル】Part1 @ 2025/07/19(土) 06:35:32.67 ID:BGCulupRO
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1752874532/
【安価・コンマ】力と魔法が支配した世界で【二次創作】 @ 2025/07/18(金) 23:44:57.84 ID:Xc8IdKRvO
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1752849897/
どかーんと一発 @ 2025/07/18(金) 21:10:10.35 ID:CEsRuBor0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1752840609/
冒険者育成学校 @ 2025/07/18(金) 01:36:01.28 ID:PkrtUMnv0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1752770160/
たてづらい部!! @ 2025/07/17(木) 23:24:46.15 ID:o3A0TqwG0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1752762285/
2 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/10/17(月) 02:20:36.81 ID:uZtlgHtSo
知欠先生の悪口は許さん!!
3 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[sage]:2011/10/17(月) 02:23:57.24 ID:J9oPpOew0
・BLACK CAT×超電磁砲
・禁書本編については漫画版途中までの知識しか無いため絡み無し
・超電磁砲は単行本は既刊読破。アニメ版は途中まで
・黒猫の時間軸はアニメ版終了後。ただし設定は読み切り、原作いいとこ取り
・初投稿な上遅筆になると思いますが、生温かい目でご覧ください
4 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[sage]:2011/10/17(月) 02:25:27.03 ID:J9oPpOew0
学園都市。
日本国、首都東京。
その西部及び隣県の一部を切り拓いて作られたその都市は、一見すると学園とその周辺産業を中心としたありふれた計画都市でしか無い。
だが、その学校では「超能力開発」がカリキュラムに組み込まれており、総人口の8割に及ぶ学生達が日々「頭の開発」に取り組んでいる。
しかし、科学の粋を結集した都市である半面、能力レベルを0〜5に分け優劣を付けるという性格上、非行に走る人間も多く、治安の悪さも問題として表面化しつつあった。
故に、路地裏を歩く人間は極めて少ない。
が、そんな路地裏を一人、悠然と歩く人影があった。
ツンツンと跳ねた茶色っぽい黒髪に、アウトローさを窺わせる様なラフな格好。
学生でも無ければ、都市内で働く人間にも見えないその風貌の通り、彼は学園都市で生活する人間では無かった。
能力開発を行っている性格上、この都市は外部からの侵入に対する警戒が非常に厳しい。
交通の遮断は元より、都市全体が分厚い壁に囲まれ、中に入るルートは極めて限定的だ。
更にそこでも厳しい検閲があり、煩雑な手続きの上で発行された許可証が無ければ入場を許されない。
その検閲を見事に潜り抜けて見せた男、トレイン=ハートネットは、昼間だというのに薄暗い路地をゆったりと歩いて行く。
こういった場所を歩く人間にありがちな急ぎ足や警戒心などは微塵も感じさせず、まるでウィンドウショッピングを楽しむかの様に視線を巡らせながら大通りの方へと向かうその足が、不意に止まった。
大通りとは逆の、より奥へと向かう細い道の方へ視線を向け、見通しの悪いその通りを見つめる。
その瞬間、その路地の陰から一人の少女が飛び出して来た。
その少女はトレインとぶつかってバランスを崩し、反対側の壁に叩きつく様にしてその動きを止めた。
5 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[sage]:2011/10/17(月) 02:28:33.85 ID:J9oPpOew0
「す、すいませ……」
荒く息を吐きながら少女が謝罪の言葉を言いかけるが、その言葉は乱入者によって遮られる。
「待てコラァ!」
少女の後を追う様に、スキンヘッドの男と茶髪のロンゲの男が路地から姿を現した。
少女と同様に息を切らし、肩で息をしながらも足の止まった少女を見てその顔には笑みが浮かんでいる。
「逃げる事ねーじゃんよ。ツれねーなぁ」
スキンヘッドの男がにじり寄るようにして少女との距離を詰める。
少女が長い黒髪とセーラー服を翻しながらそれをかわすと、丁度トレインが間に入る形になった。
「に、逃げるに決まってるでしょ! 今時あんな漫画みたいなナンパでついてくる人間がいると思ってんの!?」
少女の声には僅かな震えが混じっていたが、それでもその一言はスキンヘッドの男の表情から笑みを飛ばすのに十分なものだった。
「このっ――――!」
にじり寄るなどという生易しい物ではない。
極めて直線的に、真っ直ぐ、最短距離で。
男がその手を少女へ向けて伸ばす。
6 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[sage]:2011/10/17(月) 02:31:17.28 ID:J9oPpOew0
「おっと」
だが、その手が少女に届く事は無かった。
トレインの手が、自分のすぐ脇を通過しようとしたその手の動きを止める。
「――――離せコラァッ!」
一瞬の沈黙の後、スキンヘッドの男の怒声が路地に響き渡った。
トレインの手を乱暴に振り解き、少女の事は眼中に無いとばかりに向き直る。
その額には青筋が浮かび、スキンヘッドも相まって相応の迫力を備えていたが、当のトレインは我関せずで、キョトンとした顔で少女と男達とを見比べていた。
やがて、何かを思いついた様に少女の肩を叩き、面食らう彼女に話し掛ける。
「なぁ、取引しよーぜ」
「と、取引?」
いい事を思いついた、と言わんばかりのその表情に、少女は怪訝そうに答えた。
トレインはそんな事にはお構い無しで、更に話を続けていく。
7 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[sage]:2011/10/17(月) 02:34:36.34 ID:J9oPpOew0
「おうよ。助けてやっからメシ奢ってくれ」
「え? そ、それはまぁ……いいですけど」
さらりと言ってのけるトレインに多少面食らいながら、少女は人懐っこそうに笑う目の前の男と、その後ろで無視され我慢の限界に達している男達とを見比べた。
細身の体に、十代にも見える顔。
とてもじゃないが後ろの二人組をどうこう出来るとは思えない風貌に、少女は一抹の不安を覚える。
「……大丈夫なんですか?」
思わず口をついて出た少女の言葉に、トレインは不敵に笑って見せた。
「トーゼンだろ」
冷たい声音に、スキンヘッドの男が身構える。
瞬間的に張り詰めた空気の中、トレインはゆっくりと少女の肩を左腕で抱き寄せ、右腕で脚を抱き抱えた。
トレインを除く全員が呆気に取られる中、彼は笑顔で一言
「じゃなっ」
そう言い残して、身を翻して駆け出した。
8 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[sage]:2011/10/17(月) 02:37:49.30 ID:J9oPpOew0
「――――ま、待てっ!」
一拍置いて、我に返った二人組が慌てて追走を開始する。その光景を見て、少女は目を見開いた。
差が縮まらない。どころか、開いて行く。
人一人を抱えているにも関わらず。
息一つ切らせず、汗一つかかず。
平然としながら猛スピードで駆け抜ける男の顔を、少女は茫然と見つめていた。
この時、彼女は気付いていなかった。
自分が今、所謂『お姫様だっこ』の状態で、この後トレインがこの状態のまま大通りを猛然と駆け抜け、夥しい数の人間にこの姿を見られるという事に。
9 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[sage]:2011/10/17(月) 02:45:54.00 ID:J9oPpOew0
超電磁砲のクロス物のファーストコンタクトで「不良に絡まれる佐天さんを助けるパターン」と
「黒子に不審人物として声を掛けられるパターン」のどちらが多いのか真剣に悩みつつ、取り敢えずオープニング終了。
お気づきの点ございましたら是非ご指摘お願いします。特に学園都市側の設定で。
10 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/10/17(月) 03:36:58.40 ID:xJZyg5/IO
しらねーよ
好きにやれ下さい
11 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)
[sage]:2011/10/17(月) 07:11:59.64 ID:OBER89OAO
とりあえず期待
12 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)
:2011/10/17(月) 15:20:07.73 ID:oW1A12Sx0
待機
13 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2011/10/17(月) 15:46:52.46 ID:qpfHP4dk0
BLACK CATとか大好きすぎる
超期待
14 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(千葉県)
[sage]:2011/10/17(月) 19:41:29.13 ID:GodeBGyvo
イヴはっ?イヴはでるの?
15 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/10/17(月) 20:02:08.22 ID:1/qqEdOIO
イヴたんかキョウコが上条さんとToLOVEる展開を希望する
16 :
1
[sage]:2011/10/18(火) 02:18:17.76 ID:vEUQi9vg0
レスありがとうございます。
書き溜め分を放出します。
17 :
1
[sage]:2011/10/18(火) 02:21:43.42 ID:vEUQi9vg0
皿、皿、皿。
佐天涙子の眼前は正にそう形容する以外にない風景であった。
その皿の山の向こうでモソモソと動くダークブラウンのツンツン頭が、この山が更に高く聳えて行くであろうことを暗示している。
カレーライス。ラーメン。ハンバーグ。
あらゆるジャンルの食事を次々と胃に放り込んでいくその姿はむしろ痛快で、涙子だけでは無くレストラン中の注目の的となっていた。
「っか―――! いやー食った食った」
コップの水を一息で飲み干し、トレイン=ハートネットは膨れた腹を満足げにさすりながら向かいに座る涙子に向き直った。
「悪ぃなーこんな奢って貰っちまって。えーと……」
「あ、佐天です。佐天涙子。『涙』に子供の『子』で『るいこ』」
涙子の字の解説に、トレインは顎に手を当てて考え込む様な素振りを見せる。
「なみだ……ねぇ。日本語ってのは難しいな」
「あはは、変な名前ってたまに言われます」
カラカラとした涙子の爽やかさを感じさせる笑顔に、トレインの表情も自然と和らいだ。
18 :
1
[sage]:2011/10/18(火) 02:25:46.85 ID:vEUQi9vg0
「まー何にせよ助かったぜ。ここんとこ一日カップヌードル一個で過ごしてたもんでな」
「……トレインさんって、何の仕事してるんですか?」
涙子はトレインの姿を上から下まで見直しながら、怪訝そうな顔でそう聞いた。
若くは見えるが学生という雰囲気では到底無く、そもそも住民にある程度の限定性があるこの学園都市においてそこまで経済的に困窮している人間というのは想像し難かった。
「俺か? 俺は届け屋だよ」
「とどけや?」
「そ。届けもんしながら世界中を旅してんの」
「それって……」
瘋癲、と言いかけて涙子は口をつぐんだ。
「これが中々苦労が多くてよぅ。腹は減るし、ビンボーだし、腹は減るしでよ」
「二回も言うほどお腹減ってたんですか」
「おうよ。まともなメシにありつけてラッキーだったぜ。鼻からボタモチっつーんだなこーいうの」
「……『棚』ですね」
「そうだっけか? まー似てるからいんじゃねーの?」
涙子は若干目眩を覚えながら、改めて眼前の風来坊の姿を値踏みした。
19 :
1
[sage]:2011/10/18(火) 02:28:50.54 ID:vEUQi9vg0
世間ずれも世俗塗れもせず快活に笑うその表情は、その生き方が彼にとって決してミスマッチしてはいない事を強烈に印象付ける。
「でもいいですねそういうの。なんか『自由』って感じで」
だからこそ、彼女は自然と称賛の言葉を口にしていた。
「だろっ」
そして、その言葉に心底嬉しそうに笑うトレインの姿は、人間的な魅力に溢れて見える。
「ところでよ。奢られついでにも一個頼みがあんだけどさ」
「……もう奢りませんよ」
皿の山を掻き分けて顔を覗かせるトレインに、涙子は警戒心を隠そうともせずに出しかけた財布を後ろに隠した。
「だははっ、違げーって。街を案内して欲しいんだよ。来たばっかでよく分かんなくてさ」
食事を奢らせておいて、更に街を案内しろなどとは図々しいにも程がある話だが、不思議と厚かましさを感じさせないその子供っぽい笑顔に、涙子は苦笑しながら承諾するしかなかった。
20 :
1
[sage]:2011/10/18(火) 02:33:46.16 ID:vEUQi9vg0
短いですが区切りがいいので今日はここまでで
ちなみにトレインはアニメ版最終話でイヴ・スヴェンと別れた後、何でも屋的なことしながら旅してる設定になっております
21 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/10/18(火) 05:29:00.84 ID:OQBZ5K6Oo
届け屋だか運び屋だかってことは読み切り準拠なんかな
22 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/10/18(火) 06:06:19.48 ID:uo+vJCIjo
>>21
>>3
最初は誰に不吉を届けるのかね
23 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[sage]:2011/10/18(火) 06:27:12.93 ID:FRIqjg+1o
>>22
アニメ版って届け屋設定なの?
全巻読んだし読み切りも読んだけど、アニメは見てないんだよな
24 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)
[sage]:2011/10/18(火) 12:27:14.79 ID:yTgAWwdc0
>>23
「ただし設定は読み切り、原作いいとこ取り」
25 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/10/18(火) 18:25:19.52 ID:+xBpvQ3bo
>>23
アニメは連載準拠なんじゃね
26 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[sage]:2011/10/19(水) 01:21:19.25 ID:J3UnaRqpo
>>24
すまん、そこに目がいってなかった
>>25
アニメが原作準拠だとすると、その後の時間軸なのに読み切りの設定でやるのか
>>1
がどういう設定でやりたいのかいまいちつかめないけど、期待してるよ
難しく考えず待ってる
27 :
1
[sage]:2011/10/19(水) 23:34:19.76 ID:LfZrfi6K0
やはり設定いいとこ取りは良くなかったかも知れませんね……いたく反省しております
届け屋とあえて名乗らせたのはいろいろ理由もあったのですが、まぁ正直どちらでも話にあんまり影響はございませんので、深く考えずにお読みいただけると幸いです
それと、最初に書くべき事なのですが、黒猫・超電磁砲両作品において基本ネタバレ上等となっておりますので、未読の方はご注意ください
28 :
1
[sage]:2011/10/19(水) 23:42:03.26 ID:LfZrfi6K0
少女は怒りに震えていた。
その小さく華奢な身体はその魂の奥底から湧きあがる激情に激しく震え、溢れんばかりの衝動に身を任せる様にその白い拳が赤く鬱血するまで握りしめる。
「……『子供っぽい下着は如何なものかと』とか」
そしてその声はまるで奈落の底からひり出す様に低く、おぞましいまでの怒気と悪意に満ちていた。
「『常盤台のエースがスカートの下に短パンははしたないですの』だとか」
白く並びの良い歯が軋む。
そして、爆発の時は訪れた。
「あぁんたは私のママかぁぁぁぁぁぁ!!」
御坂美琴は掌をテーブルに叩き付け、勢い良く立ち上がった。
その衝撃でテーブルの上のコーヒーカップが揺れ、置き皿に微量のコーヒーが零れ落ちる。
だが美琴はそんな事はお構い無しに、喫茶店のテーブル席の向かい側に座る少女に詰め寄った。
「どう思う? 初春さん!?」
29 :
1
[sage]:2011/10/19(水) 23:44:29.49 ID:LfZrfi6K0
「え、えと……」
その剣幕に、頭に花を乗せた少女、初春飾利は引き攣った笑みを浮かべながら、気付かれない様に僅かに身を引いた。
「と、取り敢えず落ち着いて下さい御坂さん。注目の的です……」
「……え?」
恥ずかしそうに俯く初春の言葉を受けて美琴が周囲を見渡すと、なるほど確かにお世辞にも広いとは言えないその喫茶店内に美琴の声は隅々まで響き渡り、店内にいる他の客の視線は全て彼女に注がれている。
「……オホンッ」
気まずさを紛らわすためにワザとらしく大きな咳払いを一つして、さも何事も無かったかの様な自然かつ流麗な動作で美琴は席に座り直した。
「で……どう思う実際。何だか最近特に口煩いのよねあの子。私がチンピラ追っ払ったりなんかすると凄い剣幕なんだから」
「えっと、白井さんはきっと御坂さんの事が心配なんですよ」
初春は、美琴が「あの子」と呼んだ少女、白井黒子の姿を思い浮かべながら少し逡巡して、言葉を選びながら遠慮がちに話した。
30 :
1
[sage]:2011/10/19(水) 23:48:24.11 ID:LfZrfi6K0
「それが釈然としないのよね。私の方がレベルは上なのに」
「というよりは……やっぱり風紀委員じゃない御坂さんにそういう事をして欲しくないんだと思います。風紀委員だって管轄外の地域での権力行使は越権行為になりますから」
「それは分かってるんだけどさ。やっぱ降り掛かる火の粉は払わなきゃならないわけよ。んで払ってると風紀委員が来る前に終わっちゃうのよね」
「……自分で払える人も風紀委員が来る前に終わらせられる人もあんまりいないと思うんですけど」
さらりと言ってのける美琴に、初春は苦笑しながらコーヒーを一口啜った。
それを見て美琴も自分の分のカップを手に取り、何気なく窓の外へ視線を向ける。
「でも、最近本当に物騒なんですよ。この間だって……御坂さん?」
31 :
1
[sage]:2011/10/19(水) 23:52:46.18 ID:LfZrfi6K0
初春がカップを置いて話を再開するが、当の美琴は窓の外へ視線を移したまま、貼り付いたかのように動かない。
まるで信じられない物を見たかのように茫然と窓の外を見続ける彼女の様子に、初春も怪訝そうに窓の外へ目をやった。
「……佐天さん?」
そこにいたのは、初春の良く知るルームメイト。
長い黒髪をなびかせながら、彼女は一見ウィンドウショッピングにでも興じている様に見える。
一点だけ、彼女らの視線を釘付けにする理由があるとすれば。
「……お、男の……人?」
その隣にいる、ダークブラウンのツンツン頭の男の存在であった。
32 :
1
[sage]:2011/10/19(水) 23:54:32.66 ID:LfZrfi6K0
「私の学校、この先にあるんですよ」
「随分学校が多いんだな。ワケ分かんなくなってきたぜ」
涙子の案内を聞きながら、トレインは頭を掻いて苦笑した。
さっきから第7学区を案内されているのだが、中高問わず学校だらけで最早彼には区別が付かなくなっていた。
「あははっ、まー『学園』都市ですから。人口のほとんどが学生ですし、どうしても学校が多くなりますよ」
「学校って聞いただけで頭痛がする身にゃ辛い街だね」
溜息混じりのトレインの言葉に、涙子は楽しそうに破顔した。
その様子を見てトレインも愛想の良い笑顔を返す。
「この辺りは大体こんな感じですけど、他に行きたいトコとかありますか? 他の学区とか」
「……」
「トレインさん?」
「お? あぁ、わりーわりー」
後ろを向いて何事かを考えていたトレインは、覗き込んで来た涙子に気付いて取り繕う様な笑みを浮かべた。
「そーだな。ちょっとまだ行きてーとこがあんだよな」
「じゃあ、分かる所なら案内しま――――」
涙子が言い終わる前に、トレインがぐいとその身体を引き寄せた。
33 :
1
[sage]:2011/10/19(水) 23:56:44.88 ID:LfZrfi6K0
抱き寄せられた格好になった涙子は目を白黒させながら為すがままになっている。
それに構わず、次にトレインは彼女と自身の身体を脇の狭い路地へと滑り込ませた。
その瞬間、物陰から二つの人影が姿を現す。
二人の入って行った路地目掛けて全速力で駆けるその人影は、転がり込む様にビルとビルの間へ身体を捻じ込んだ。
「わわっ!?」
そして茫然と立ち尽くしていた佐天涙子と衝突しそうになり、急ブレーキをかけ停止した。
「み、御坂さん? 初春も?」
「佐天さん!? あれっ?」
涙子がそこに佇んでいた事にも驚いたが、何よりも美琴を驚かせたのは男の姿が見えなかった事だ。
確実に路地に入った筈なのに、どこにもその姿が見えない。
路地には隠れる様な場所も、死角になる曲がり角もかなり先の方まで存在しないのだ。
「何だ? おめーら知り合いか?」
34 :
1
[sage]:2011/10/19(水) 23:57:52.00 ID:LfZrfi6K0
「!?」
予期せぬ方角から声を掛けられ、美琴と初春は留め金の外れたバネ細工の如き勢いで振り返った。
その先にいたのは、涙子と共に路地へ入って行ったはずの、ダークブラウンの髪のツンツン頭。
「どーりで妙な感じだと思ったぜ。興味本位で追っ掛けてるって気配だったしな」
二の句の継げない美琴と初春に構わず、トレインは合点がいったといわんばかりの表情で一人納得している。
「空間移動能力者!?」
美琴の脳裏に真っ先に浮かんだのは、彼女のルームメイトである白井黒子。その能力。
一瞬で物体を別の場所へ移動させる能力は、確かにこの状況に当て嵌まる。
「テレ……なんだそりゃ?」
だが、当の本人は初めて聞いた、と言わんばかりの顔で聞き返して来た。
「……あんた、能力者じゃないの?」
「あぁ、そういやここの学生は何かすげー能力使える奴がいるんだっけか。忘れてたぜ」
美琴の質問を聞いて思い出した、と言わんばかりにトレインは指をパチン、と鳴らした。
その様子は虚言や演技には到底見えず、ここで美琴は彼が能力者であるという思考を頭から取り除いた。
だが、それは根本的な解決にはつながらない。
能力無しに、彼が彼女達の後ろから姿を現したカラクリを解く事は出来なかった。
「……あんた、何者?」
自然と美琴の質問は抽象的になり、その警戒心を隠そうともしない声音にトレインは迷う事無く答えた。
「自由気ままでその日暮らしの、ただの野良猫だよ」
35 :
1
[sage]:2011/10/20(木) 00:08:35.22 ID:rMXBfplB0
本日の投下はこれで終了となります
お付き合いありがとうございました
36 :
1
[sage]:2011/10/22(土) 04:37:28.25 ID:R0SN1dWm0
「……ふぅ」
短く溜息を吐いて、白井黒子は凝視していたPCモニターから目を離した。
鼻根を指でつまんでマッサージし、背凭れに深くその身を預けると、キシリと椅子の軋む音がする。
ジャッジメント第177支部。
整然と、或いは雑然と並べられた事務用品の中で、彼女が前にしているPCモニターにはいくつかの画像データが表示されていた。
内側から何かが爆発した様に裂けたアルミ缶に、放射状に広がる様にひしゃげたアルミ製のスプーン。
街を歩けば誰でも見る事が出来るそれらは、普通であれば誰も見る事が出来ない様な無残な姿を画面に晒していた。
一頻り眼球に溜まった血流が解消されるのを感じ、黒子は画面に視線を戻す。
先程までと何ら変わらない姿でそこに映る画像に辟易した様に、無意識に溜息が出た。
37 :
1
[sage]:2011/10/22(土) 04:38:53.33 ID:R0SN1dWm0
「あんまり根を詰め過ぎると、気付く物も見落としてしまうわよ」
デスクの上にホットコーヒーの入ったマグカップが置かれ、黒子は視線を上げて何時の間にか傍らに立っていた少女の姿を見上げる。
「固法先輩……」
黒子は眼鏡の奥に優しげな瞳を湛える少女の名前を呼び、すぐにまた厳しい表情になって画面に目を戻した。
「そうも言っていられませんの。今こうしている間にも、どこかに爆弾が仕掛けられているかもしれませんわ」
「……あなたが倒れては元も子も無いわ」
その様子を見て固法は窘める様に言うが、無理に黒子を止めようとはしない。
黒子の言っている事は最もであったし、事実この件に関する捜査は徹底的に行き詰っていた。
38 :
1
[sage]:2011/10/22(土) 04:40:24.52 ID:R0SN1dWm0
虚空爆破事件。
アルミを基点に重力子を加速させ放出することでアルミを爆弾に変える。
そんな能力を使用していると思われる事件は、現場から回収されている遺留品の多さに反し、解決の糸口はおろか一歩の進展さえ見えていなかった。
当初、同様の能力者でこのクラスの使い手は学園都市のデータベースに一人しかおらず、早々に事件は解決すると思われたが、肝心の容疑者は事件発生前から意識不明で入院しており犯行は不可能であった事が判明、捜査は瞬く間に暗礁に乗り上げた。
時間、場所、周期。関連性も規則も無く、能力を使用して遺留品の残留思念を追う事も出来ない。
爆弾代わりに使用されているのは量産品ばかりで入手先の特定も不可能。
その無差別性は勿論、ぬいぐるみの中にアルミを埋め込むなどの手口の巧妙化、当初は派手な音を立てる程度の破壊力だったものが対人殺傷能力を備えるまでになるといった危険性の増大。
黒子の頭を悩ませる物は多かった。
39 :
1
[sage]:2011/10/22(土) 04:42:38.71 ID:R0SN1dWm0
画像を切り替えていく内に、黒子の表情が一層険しくなる。
そこに映っているのは物ではなく、人。
この事件での負傷者達の姿であった。
「……風紀委員が9人も負傷するなんてね」
その画像を見て、固法が遣る瀬ない口調で呟いた。
わずか一週間でこれだけの数の風紀委員を病院送りにした事件など近年例が無い。
だが、本来当事者としては頭を抱えて聞くべきその言葉に、黒子は引っ掛かりを覚えた。
「どうしたの?」
考え込む様な素振りを見せる黒子に、固法は覗き込む様にして話し掛ける。
40 :
1
[sage]:2011/10/22(土) 04:44:18.48 ID:R0SN1dWm0
「……幾らなんでも多過ぎると思いませんか?」
「言われてみれば……」
言われて固法もはたと気付いた。
これまでに発生した事件は8件。
その全てで風紀委員が何らかの負傷を負っている事実。
重力子の加速を観測する事で爆弾の位置をある程度事前に特定出来るため、最初の数件以降は全て爆発前に風紀委員が現場に到着していた。
日用品が凶器に変わるというえげつなさも、今にして思えば巧妙なカモフラージュだったのかも知れない。
だが、気まぐれで無差別だとばかり思われていたこの事件には、一つだけ明確な目的があった。
「犯人の狙いは――――」
黒子の言葉は甲高い電子音に遮られる。画像ファイルを立ち上げていたPCモニターに違う画面がポップアップし、学園都市の広域地図が大写しにされた。
その一点には、重力子の発生を示すアイコンが点滅していた。
41 :
1
[sage]:2011/10/22(土) 05:36:23.54 ID:R0SN1dWm0
「爆弾魔ぁ?」
通りを歩きながら、トレインは初春の言葉に大仰なリアクションを取って見せた。
周囲にいた何人かが何事かと振り返るが、多くは気にする事も無くトレインの言葉は往来に紛れて消える。
「この一週間で何件も起きてるんです。爆弾が何処に仕掛けられているか分からないから厳戒態勢ですよ」
「随分と物騒な街だねぇ」
涙子と出会う切っ掛けとなった不良共の姿も思い浮かべつつ、トレインは嘆息混じりに呟いた。
「でも心配いりませんよ。その為の風紀委員、ですからっ」
それをどう取ったか、初春は自身の右腕に付けられた腕章を示しながら誇らしげに胸を張った。
多少白けた空気が流れる中で、トレインが一言。
「……サボってる癖にねぇ」
「ち、違いますよ!? 警ら中なんですっ」
慌てふためく初春の様子を見て、トレインの目が悪戯っぽく歪む。
「あんたの上役に会う機会があったら伝えとくぜ」
「うあっ、やめて、やめてくださいぃー!?」
明らかにからかって遊んでいるトレインと、期待通りのリアクションを返す初春。
傍から見ていればそれなりに楽しい光景だが、その様子を美琴は一歩引いて眺めていた。
42 :
1
[sage]:2011/10/22(土) 05:37:19.97 ID:R0SN1dWm0
適当にはぐらかされた先の路地での一件が、未だにその心に引っ掛かっている。
「どうかしたんですか?」
怪訝そうな顔をしている美琴に涙子が話し掛けた。
「ううん、何でも無いの」
「……? あ、着きましたね」
取り繕う様な笑顔を見せた美琴に涙子は不思議そうな顔をしたが、目的地に到着した事に気付き特に追求する事は無かった。
「おーでっけぇなー」
トレインが頓狂な声を上げて眼前のビルを仰ぎ見る。
43 :
1
[sage]:2011/10/22(土) 05:39:50.07 ID:R0SN1dWm0
「Seventh mist」と書かれた看板を掲げるその店舗は、そうしている間にも何人もの人間が出入りしその賑わいを伝えていた。
「あんまりキョロキョロしないでよ、恥ずかしいから」
美琴は子供の様な無邪気な顔で物珍しそうに周囲を見回すトレインの腕を掴み、引きずるように建物の中へと入って行く。
大きなガラス扉を潜ると、冷房の効いた空気が夏の日差しに汗ばんだ彼女らの身体を心地よく冷やした。
「おぉー」
トレインが感嘆の声を上げながら、物珍しそうに周囲を見回す。
正しく『初めて都会に足を踏み入れた僻地出身者』なその様子は店内の注目の的となっていた。
「ちょっと……」
「まーまー、いいじゃないですか御坂さん」
それを嗜めようとした美琴を涙子が宥める。
「それよりほら、ありましたよ。トレインさんの探し物」
涙子が指差した方向に目を遣ると、そこには日本の夏の風物詩の一つが展示されていた。
44 :
1
[sage]:2011/10/22(土) 05:42:52.95 ID:R0SN1dWm0
「へぇ、こいつが本場の『ユカタ』って奴か」
心無しか、先程までと比べて若干声のトーンが落ちたトレインがその一角へと近付く
落ち着いた紺色に派手さを抑えた模様の男性用と、打って変わってピンクを基調に、黄色の花柄が散りばめられた華やかな色合いの女性用が、どうやら今年の流行らしかった。
ディスプレイされたそれらをトレインは何処となく懐かしげな視線でしげしげと眺める。
「トレインさん、浴衣似合いそうですよね。髪の毛も黒っぽいですし」
「ん? あーいや、自分で着るつもりは無ぇんだわ」
男性用浴衣とトレインの姿を交互に見ていた初春の言葉を、トレインは笑顔で否定した。
「じゃあ何で見に来たのよ」
不審げな表情の美琴の追及に、トレインは少し遠い目をして女性用の浴衣へ視線を移す。
「昔、知り合いが良く着ててな。ちょいと懐かしくなったんだよ」
「知り合いって? もしかして恋人とか?」
「そういうんじゃねぇって。親友だよ、親友」
トレインの表情と女性用浴衣へ向いた視線をどう取ったのか、涙子がやたらと興奮した様子で食い付く。
が、トレインは何の後ろめたさも感じさせず、きっぱりとそれを否定し、さばさばしたその様子に涙子は少しつまらなそうな顔で身を引いた。
その時、ややチープな音質の、電子音丸出しのポップミュージックが鳴り響いた。
45 :
1
[sage]:2011/10/22(土) 05:43:48.98 ID:R0SN1dWm0
聞いただけで携帯電話の着信メロディだと分かるその音楽に、美琴、初春、涙子の三人が互いを見合う。
一拍置いて、その着信音が自分の携帯電話からだと気付いた初春が慌てた様子で制服のポケットから携帯を取り出し、画面に映る相手の名前を一瞥してスピーカーを耳に当てた。
「もしも――――」
『初春っ!! 今何処にいるんですのっ!?』
初春の第一声が終わる前に、初春本人は愚か、トレインや美琴にまで聞こえるほどの大音量がスピーカーから鳴り響く。
音割れしてはいるが聞き慣れたその声に、美琴と涙子は電話の相手を悟った。
「い、いえそのっ、警ら中でありまして決してサボってるわけでは……え?」
しどろもどろ、と言った調子だった初春の表情が一変する。
「そ、それで観測地点は――――?」
スピーカーの向こうの相手の言葉に、初春の身体が硬直した。
「……白井さん、私、今丁度そこにいます」
血の気が引いたのか、やおら冷静な口調で初春は呟いた。
未だ通話相手からの声が漏れ聞こえている携帯を耳から離し、他の三人の方へ向き直る。
46 :
1
[sage]:2011/10/22(土) 05:57:23.10 ID:R0SN1dWm0
「皆さん、落ち着いて聞いて下さい。たった今、この建物内で重力子が観測されました」
その言葉の意味を悟った涙子と美琴の表情が驚きに染まった。
「……さっき言ってたヤツか。どこにあるかは分からないのか?」
そんな中で、トレインだけが冷静な口調で状況を確認する
その随分と場慣れした様な落ち着き方に、美琴は一瞬だけトレインに視線を向け、すぐに逸らした。
「それは……分かりません。ですが、爆発まではまだ若干の猶予があるはずです。ですから、今すぐこのビルにいる人達を避難させます」
通路を駆け回る子供達。
洋服選びに余念の無い女性達。
何も知らない一般客の姿に視線を巡らせながら、やや音量を絞った声で初春は話を進める。
「避難って……どうやって? どれだけいるかも分からないんだよ?」
「そ、それは……」
だが、涙子の指摘に初春の表情が一気に翳る。
手分けをしたとしても全ての客に声をかけ、事情を説明して避難させていたのでは時間がかかり過ぎるし、かといって店内放送で爆弾の事を伝えては一気にパニックが起こる恐れがあった。
迅速に、それでいて冷静に。
理想的な誘導を行うには、時間も人手も足りないのは明らかだった。
47 :
1
[sage]:2011/10/22(土) 05:57:50.74 ID:R0SN1dWm0
「んー……」
重苦しい空気を孕んだ時間が過ぎる中、妙に間延びした声がそれを打ち破った。
声の主であるトレインは三人の少女の注目を一身に受けながら、リラックスした様子で人気の無い通路の奥へと歩いて行く。
「まー考えててもしょーがねーしよ。とっととやっちまおーぜ」
言いながら、トレインはある設備の前で歩を止めた。
白を基調にした壁には不釣り合いな赤い塗装を施されたその装置を見て、三人はほぼ同時に風来坊の意図を悟る。
「あ、アンタまさか――――」
「こうすりゃ、手っ取り早いだろっ」
美琴の言葉を遮る様に、トレインは迷い無く火災報知機のボタンを押し込んだ。
48 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東海)
[sage]:2011/10/22(土) 12:02:58.58 ID:7pBS5efAO
面白い 期待
49 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/10/22(土) 16:54:14.74 ID:bFEPLNeIO
上条さんの出番はカットか
まあ上条さん出したらトレインの存在すら空気になりかねないから仕方ないのかな
ところでイヴとキョウコの出番はありますか?
50 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/10/22(土) 19:15:27.18 ID:MTDMlu53o
面白すぎる
スヴェンとクリードの出番はありますか?
51 :
1
[sage]:2011/10/23(日) 16:12:45.92 ID:p47Kb2V60
>>49
上条さん、なんとも扱い辛くて……出てもチョイ役程度になりそうです
元々超電磁砲本編でも幻想御手編ではほとんど絡んできませんし、落とし所がない状態ですね
イヴとキョウコは今の所出す予定です
>>50
スヴェンの名前が出てくるとは正直思わなかった
どちらも出す予定となっております
細々と書いておりますが面白いと言っていただけるのは何よりの励みになります
本日分の投下を開始します
52 :
1
[sage]:2011/10/23(日) 16:13:46.29 ID:p47Kb2V60
「何をやっているんですの、あの子はっ!」
白井黒子は街中を駆け抜けながら、どれだけ話し掛けても一向に返事を返さない通話相手に毒づいた。
苛立った様子で通話状態になったままの携帯を切り、時折テレポーテーションでショートカットをしながら、全速力でセブンスミストを目指す。
重力子の加速が観測された地点に、風紀委員である初春がいた。
これまでの経緯を考えても、偶然というには出来過ぎている。
連続爆破事件の犯人の狙いは十中八九、風紀委員。
しかしそれが分かっても、犯人の特定は愚か絞り込みさえ出来ていなかった。
量子変速。爆弾生成に使用されている能力がそれだった
該当能力者は少なくは無いが、これまで起きた事件の規模の爆弾を作り出せるレベル、すなわち『大能力者』は学園都市内に一人しかいない。
そこまでは良い。
53 :
1
[sage]:2011/10/23(日) 16:14:30.47 ID:p47Kb2V60
だがその該当人物は、事件発生の前日から意識不明で入院中で、現在も回復の見込みさえ立たない状況であった。
徐々に爆発の規模が増している事から短期間で能力が大幅に向上した人物、という線も考えられるが、それも現実的とは言い難い推理に留まっている。
だからこそ、重力子の加速が観測された地点に風紀委員が居合わせた今回の事件は大きな意味を持つ。
重力子が加速したその瞬間には、確実に犯人はそこにいた事になるからだ。
事件解決の、千載一遇の好機に違いなかった。
「――――っ」
ギリ、と黒子は歯軋りした。なぜ、よりにもよって初春なのか。
一般人を避難させる。爆弾を探す。犯人を捕まえる。
自分なら出来るのに。
自分の能力なら犯人に遅れを取る事無く、爆破範囲からも難なく逃れる事が出来たのに。
54 :
1
[sage]:2011/10/23(日) 16:16:12.51 ID:p47Kb2V60
犯人は捕えなければならない。
だが、初春に万が一の事があっていいはずも無い。
風紀委員としての責務と、友人を思う気持ちの間で揺れ動く心を抑え付ける様に、黒子は再びテレポートを行った。
55 :
1
[sage]:2011/10/23(日) 16:17:21.40 ID:p47Kb2V60
セブンスミストから避難してきた人混みの中で、佐天涙子は不安げな表情で自分がつい数分前まで中にいた建物を見つめていた。
その中には、彼女の親友である少女がまだ残っている。
「初春……大丈夫かな」
残っている人がいないか、最後に確認すると言って分かれた友人の顔を思い出しながら、彼女は激しい自己嫌悪に襲われた。
本当に心配なら、自分も残れば良かったのだ。
それなのに今ここにいるのは、怖かったからに他ならない。
自分が心配している少女は爆弾の恐怖を乗り越えて、いるかも分からない逃げ遅れた人を救うためにあの場にいるというのに、自分は親友の身が危険に晒されていながら恥ずかしげも無く逃げ出している。
セブンスミストから避難してきた人混みの中で、佐天涙子は不安げな表情で自分がつい数分前まで中にいた建物を見つめていた。
その中には、彼女の親友である少女がまだ残っている。
「初春……大丈夫かな」
残っている人がいないか、最後に確認すると言って分かれた友人の顔を思い出しながら、彼女は激しい自己嫌悪に襲われた。
本当に心配なら、自分も残れば良かったのだ。
それなのに今ここにいるのは、怖かったからに他ならない。
自分が心配している少女は爆弾の恐怖を乗り越えて、いるかも分からない逃げ遅れた人を救うためにあの場にいるというのに、自分は親友の身が危険に晒されていながら恥ずかしげも無く逃げ出している
56 :
1
[sage]:2011/10/23(日) 16:19:01.33 ID:p47Kb2V60
>>55
の書き込みは無視してください
貼り付けミスです
57 :
1
[sage]:2011/10/23(日) 16:19:35.71 ID:p47Kb2V60
セブンスミストから避難してきた人混みの中で、佐天涙子は不安げな表情で自分がつい数分前まで中にいた建物を見つめていた。
その中には、彼女の親友である少女がまだ残っている。
「初春……大丈夫かな」
残っている人がいないか、最後に確認すると言って分かれた友人の顔を思い出しながら、彼女は激しい自己嫌悪に襲われた。
本当に心配なら、自分も残れば良かったのだ。
それなのに今ここにいるのは、怖かったからに他ならない。
自分が心配している少女は爆弾の恐怖を乗り越えて、いるかも分からない逃げ遅れた人を救うためにあの場にいるというのに、自分は親友の身が危険に晒されていながら恥ずかしげも無く逃げ出している。
58 :
1
[sage]:2011/10/23(日) 16:20:17.07 ID:p47Kb2V60
仕方が無いよ、と頭の中で誰かが囁いた。
今に始まった事じゃない、何時もの事だ。初春は風紀委員で、レベルは低くとも能力者で、自分の様な無能力者の一般人とは全然違う。
立っている場所、見える景色。
自分にはきっと、彼女が見ている物を見る事さえ出来ていない。
それは果たして、対等な友人同士と呼べる関係なのだろうか。
もしかしたら、友人だと思っているのは自分だけで、初春は自分に近付いてくる下等な生き物と、仕方無しに付き合ってくれているだけではないのだろうか。
ギリ、と握った拳に力が篭もる。
俯いた顔を上げる事が出来ずに、涙子の視線は足元のアスファルトから貼り付いて動かなかった。
「あの……」
だが、不意に声を掛けられ反射的に顔が上がる。そこにいたのは、不安そうな顔をした一人の女性だった。
59 :
1
[sage]:2011/10/23(日) 16:26:05.02 ID:p47Kb2V60
投下終了します
書き溜めが進めばもう一度来るかもしれません
60 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/10/23(日) 21:19:38.33 ID:i03QkYaIO
乙
ブラックキャットのキャラは結構出す予定?
61 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/10/23(日) 21:23:51.46 ID:5//0Xjdeo
>>60
>>51
62 :
1
:2011/10/25(火) 02:26:55.49 ID:DZuM5CB+0
>>60
主要なキャラクターは概ね出るんじゃないかと
それでは短いですが、本日分投下します
63 :
1
[sage]:2011/10/25(火) 02:27:40.20 ID:DZuM5CB+0
「いやーやってみるもんだね」
ざわめく群衆の中で、やたらと陽気な声が響き渡った。
その能天気過ぎる声音に、隣にいた美琴が顔を顰める。
「……ってことは、やっぱり深く考えてたわけじゃないのね」
溜息混じりの美琴の呟きに、トレインは猫の様な笑顔を浮かべて親指を立てて返事をした。
その様子に美琴はもう一度大きく溜息を吐いて、鈍痛が響いている気がする頭を抑える。
「それより、周りをよーく見ときな」
「え?」
急に真面目な雰囲気を帯びたトレインの口調に、美琴はやや面食らいながら間の抜けた返事をした。
トレインは視線を周囲にたゆたわせながら、やや低い声音でそれに答える。
64 :
1
[sage]:2011/10/25(火) 02:28:35.72 ID:DZuM5CB+0
「やけに落ち着いた奴とか、妙に余裕ぶった奴とかな。そういうのが絶対いるはずだからよ」
「……それが犯人だって?」
口調は疑問形ながら、美琴の視線は自然と周囲へと向けられていた。
「安易にそう考えるつもりはねーさ。少し離れた場所で様子を見てる可能性もあるしな。ただ、そういう連中が爆破後、すぐに現場から離れたら十中八九そいつが犯人だ。だろ?」
整然とした説明に、美琴は呆けた様に聞き入っていた。そして、眼前の男が只の能天気では無かった事を認識する。
先程の火災報知機を作動させた事もそうだ。
店内放送にしろ、口頭で伝えるにしろ、人を介して直接伝えられる場合に比べ、単純な機器の動作による非常通報は現実感を伴わない。
言うなれば避難訓練と同じ様な物だ。危険を実感する事が無いが故に、人は冷静に動ける。
トレインがどこまで考えてあの行動を取るに至ったのか、美琴に知る術は無い。
だが、少なくとも言える事は、あの状況で彼は限り無く正しい選択肢を選び、臆する事無く実行に移して見せたという事だ。
65 :
1
[sage]:2011/10/25(火) 02:29:12.38 ID:DZuM5CB+0
「アンタ、本当に何者なのよ」
それを踏まえて、美琴はもう一度問いかけた。
だがそれにもトレインは顔色一つ変えず、茶化した様な笑顔を浮かべたまま。
「さっきも言ったろ? 気ままで自由でその日暮らしの、ただの野良猫だってよ」
「そういう事を言ってんじゃ――――」
激昂しかけて、不意に視界に入った人影に美琴は次の言葉を飲み込んだ。
見知ったその人物は長い黒髪をたなびかせながら、なぜかセブンスミストの中へと慌てた様子で駆けこんで行く。
「佐天さん?」
美琴の呟きに反応してトレインも振り返り、今まさに建物内に入ろうとするその姿を捉えた。
その瞬間、トレインの顔色が変わる。
「何してんだアイツっ」
珍しく焦った様な様子で駆け出すトレインの姿を見て、慌てて美琴もそれを追った。
66 :
1
[sage]:2011/10/25(火) 02:30:07.34 ID:DZuM5CB+0
今回はここまでで終了となります
短くて申し訳ありません
67 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2011/10/25(火) 03:24:33.30 ID:AoPoK0QK0
ブラックキャットとは懐かしい
68 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/10/25(火) 04:00:08.43 ID:6/gzPk47o
なつかしいなあ
69 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)
[sage]:2011/10/25(火) 06:55:18.69 ID:WAmbh2sAO
乙
70 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)
[sage]:2011/10/25(火) 09:52:14.13 ID:ZnsVhVNAO
ブラックキャット好きなだけに御坂って文字を見るだけで拒絶反応を起こす自分が悔やまれる
71 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/10/25(火) 16:29:54.63 ID:YXS16mEDO
そういやアニメのトレインはレールガン使えなかったな
72 :
1
[sage]:2011/10/28(金) 02:59:43.54 ID:GklwqiGC0
人気の無い建物内に、革靴とリノリウムが擦れる音が響く。
一切の人の気配を感じないフロアを見渡して、涙子はゆっくりと足を止めた。
少し乱れた息を整えていると、自分の物では無い足音が二つ、近付いてくる事に気付く。
「佐天さんっ」
振り返ると、美琴とトレインが小走りに近付いてくるのが目に入る。
「何かあったのか?」
周囲を窺いながら問いかけるトレインに、涙子は焦燥した表情を向けた。
「女の子が、その……避難する前にはぐれちゃってて、何処捜してもいないって」
「……逃げ遅れかよ」
涙子の言葉で状況を察し、トレインは舌打った。
73 :
1
[sage]:2011/10/28(金) 03:00:24.93 ID:GklwqiGC0
「それはそれとして、何だって一人で探しに来たりすんだよ。状況分かってんだろ?」
「……ごめんなさい」
「……? な、何か調子狂うな」
しゅんとして謝る涙子の様子にトレインは面食らいながら、気まずそうに頭を掻いた。
「まぁいいや。とにかくてめーらはさっさと戻れ。ガキは俺が探すから」
「ちょっと、何でそうなるのよ」
仕切ろうとするトレインに美琴が喰ってかかる。
「何でもどうしても無ぇよ。外探す必要だってあんだろーが。つかこの状況じゃ外にいる可能性の方が高けーんだよ」
面倒臭そうなトレインの物言いに美琴の眉が一気に吊り上がった。
「じゃああたしが中を探すわ。アンタが佐天さんと外を探しなさい」
「あぁ? 子供が危ねー橋渡るもんじゃねーぞ」
「誰が子供よっ!」
「ふ、二人とも落ち着いて……」
この様な状況にも拘らず、今にも殴り合いのケンカを始めんばかりの二人を涙子が宥めようとするが、トレインも美琴も聞く耳を持とうとしない。
74 :
1
[sage]:2011/10/28(金) 03:01:05.17 ID:GklwqiGC0
「み、皆さん?」
その時掛けられた第四者の声に、その場にいた全員が声のした方向を振り返る。
そこには、三人に注目されてやや面食らった様子の初春が立っていた。
「どうしたんですか? 避難したんじゃ――――」
「おねーちゃん」
初春の言葉を遮りながら、一人の女の子が初春に近付く。
それを見て、涙子はホッと胸を撫で下ろし、美琴も安心した様な笑顔になった。
「こ、子供? 一体どこに……?」
見落としがあった事に愕然としながらも、初春は膝を着き女の子に目線を合わせた。
そんな初春に、女の子は持っていた物を差し出す。
「眼鏡かけたおにーちゃんが、おねーちゃんに渡してって」
「えっ……?」
差し出された何の変哲も無く、見覚えも無く、渡される覚えも無い大きなぬいぐるみに、受け取ろうと伸ばし掛けた初春の手が不意に止まる。
75 :
1
[sage]:2011/10/28(金) 03:01:39.27 ID:GklwqiGC0
「離れろっ!!」
初春が最悪の事態を理解すると同時に、トレインの発した大音量が響き渡る。
その瞬間、金属音と共にぬいぐるみの中心が歪む。
「――――っ」
咄嗟に、初春はぬいぐるみを捥ぎ取って放り投げた。
そのまま爆弾に背を向け女の子を守る様に抱き締める。
その様子を見て、美琴はスカートのポケットに手を突っ込み、常にストックしてあるコインに指をかけた。
(超電磁砲ならっ)
余裕で間に合う。そう確信して、ポケットに入れた手を引き抜く。
その瞬間乾いた金属音がして、美琴は自分の足元に目をやった。
「しまっ――――」
視界に入ったのは、無情にも指から抜け落ち床を転がる一枚のコイン。
だが、何より致命的だったのはそれに気を取られた一瞬。
落ちたコインをすぐに拾えば、間髪入れずに次のコインを取り出していれば。
間に合ったはずだった。だが、想定外の事態に美琴の身体は動かない。
「初春っ!」
涙子の悲鳴も、何もかも。
爆炎が全てを飲み込んだ。
76 :
1
[sage]:2011/10/28(金) 03:02:32.47 ID:GklwqiGC0
短いですが、本日分の投稿を終了します
77 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/10/28(金) 19:10:54.95 ID:JJqvnbFRo
良いところで……!
乙
78 :
1
:2011/10/29(土) 00:00:03.08 ID:jBTI75i60
本日分の投下を開始します
79 :
1
:2011/10/29(土) 00:01:02.92 ID:jBTI75i60
轟音と共にガラス戸が吹き飛ぶ。
突然の爆発に騒然とする群衆の中で、介旅初矢は自身の能力の発動を確認して一人ほくそ笑んだ。
そのままゆっくりとその場を離れ、人気の無い路地へと入って行く。
「……やった」
歪んだ口元から震える声が漏れ出た。
徐々に湧き上がる実感を噛み締める様に拳を握り締め、歓喜にその身を震わせる。
「あの規模、あの威力! 今度こそ逝っただろっ!」
花飾りを頭に乗せた風紀委員の姿を思い浮かべながら、介旅初矢は歪んだ笑みに表情を染めた。
彼の想定通り風紀委員は最後まで建物内に残り、爆弾を詰めた人形を預けた子供と遭遇した。
風紀委員の愚直さと子供の間抜けさ加減を嘲笑いながら、まるで難解なパズルを解いた時の様な、全てのピースが漏れなく収まる快感に彼の身体は打ち震える。
「能力も段々使いこなせて来てる……やれるぞこれなら。風紀委員も、クズ共もまとめてみんな――――」
そして拳を振り上げ、髪を振り乱し。その内に秘めた邪悪で醜い欲望を吐きだす様に叫び
「吹き飛ばっ」
80 :
1
[sage]:2011/10/29(土) 00:01:47.07 ID:jBTI75i60
その瞬間、言い様の無い浮翌遊感を感じた。
「あがっ!?」
衝撃に身体が捻じ曲がり、肺の中の空気が押し出され奇妙な声が口から洩れる。
気付いた時には、彼の身体は薄汚れたアスファルトの上に倒れていた。
「はぁい」
介旅が状況を把握するより前に、頭の上から声が掛けられる。
混乱する頭で振り返ると、そこには一人のショートカットの少女が立っていた。
「用件は言わなくても分かるわよね、爆弾魔さん?」
「な……」
少女の表情は笑顔。だが、その奥から滲み出る言い知れない迫力に、介旅の身体は自然と後ずさる。
「……何の事かな。さっぱり分からないんだけど」
が、彼とて馬鹿では無い。
『爆弾魔』という単語に敏感に反応し、すぐに平静を取り戻して素知らぬ顔で言い切って見せる。
81 :
1
[sage]:2011/10/29(土) 00:02:31.53 ID:jBTI75i60
「あら、ごめんなさい。『逝った』とか随分物騒な言葉が聞こえたものだから」
「ああ……いや、ほら。外から見てても凄い爆発だったからつい、ね」
話しながら、介旅は気取られない様にゆっくりと、尻ポケットに忍ばせていたスプーンに手を伸ばした。
この状況で能力を使えば彼自身もただでは済まないが、四の五の言っていられないのも確かであった。
「それに建物の中にまだ人がいるみたいだったし、あれじゃ中の人はとても助からないんじゃないかと」
スプーンを握り、能力発動の準備を終える。
相手の様子を窺おうと視線を走らせるが、少女の表情は貼り付いた様な笑顔のままで、その真意は読めなかった。
「ご心配無く。一人の死傷者も出ていないから」
「……は?」
極力平静を装っていた介旅の化けの皮が見る間に剥がれた。
元々眼前の少女の言葉などろくに耳に入っていなかったが、その言葉だけは聞き捨てられなかった。
取り繕った表情が剥がれ、一瞬素に戻ったその表情を少女は目を細めて見つめている。
82 :
1
[sage]:2011/10/29(土) 00:03:16.87 ID:jBTI75i60
「あら、意外かしら。それとも誰か死んでないと困る?」
「いや……そういうわけじゃ」
その視線の意味を察し、介旅は言葉も含めて少女の意図を悟った。
そして口先だけでは逃れきれないと判断し、隠し持ったアルミスプーンを基点に、重力子を加速させる。
爆発の規模をセーブし、更に爆発寸前にスプーンを少女の背後へ投げ捨てる。
鞄で頭をガードすれば、自身の命にかかわる事は無いはずだ。
そう考え、意を決してポケットからスプーンを引き抜く。
その瞬間、スプーンが爆ぜた。
介旅が茫然と、取っ手だけが残ったスプーンから少女へ視線を向けると、少女は右手を前に構え、その指先で電撃が爆ぜる。
83 :
1
[sage]:2011/10/29(土) 00:03:55.86 ID:jBTI75i60
「常盤台の……超電磁砲」
震える声で、介旅は絞り出した。
「知ってて貰えて光栄だわ」
特に嬉しくも無さそうな声で美琴は言い捨てる。
「……ははっ」
その姿を介旅はしばし呆然と見つめ、不意に自虐的な笑いを浮かべた。
異様な雰囲気に美琴は疑問符を浮かべながら、警戒心を強める。
が、介旅は美琴のそんな様子に構わず顔を上げ、歪んだ目つきでその姿を睨み付けた。
「さぞかし気持ちいいんだろ、そうやって人を見下すのは」
「何?」
理解の出来ない介旅の言葉に、美琴は顔をしかめた。
「力のある奴はみんなそうだ。弱い人間を踏みにじって、食い物にする。それが当り前だと思って、何とも思わないんだろっ」
美琴はようやく理解する。眼前の少年の言葉の意味と、そこに込められた歪な感情。
それが、醜悪で薄汚い嫉妬心だと気付いた瞬間、美琴の表情は一変した。
84 :
1
[sage]:2011/10/29(土) 00:04:31.72 ID:jBTI75i60
「どいつもこいつも[
ピーーー
]ばいい! お前みたいなのが――――」
けたたましい破裂音が介旅の言葉を遮った。
迸る電撃がコンクリートを破壊し、舞い上がる粉塵が二人を包む。
「……一つ、教えとくわ」
身を竦めた介旅に向けて、美琴は低く静かに語り掛けた。
「常盤台の超電磁砲はね、元はただの低能力者だったの」
怒りと憐れみが綯い交ぜになった表情で、美琴は介旅に一歩近付く。
「それでもそいつは頑張って、やがて超能力者と言う力を掴んだの」
静かになった路地の中を、落ち着いた言葉が漂って消えていく。
美琴は決して介旅の事を過小評価はしていない。
ここまで言えば、自分の言いたい事は理解出来るだけの頭は持ち合わせているだろうと、敢えてそこで言葉を切った。
85 :
1
[sage]:2011/10/29(土) 00:05:17.93 ID:jBTI75i60
「……自惚れんなよ」
だが、介旅の口から返って来たのは、美琴でさえ予想だにしない言葉であった。
「昔は能力が無かったから、だから弱い奴の気持ちが分かるって? そういうのが一番ムカつくんだよ!」
壁に手を掛けて立ち上がり、介旅は自分が抱える劣等感を、罵声と共に吐露して行く。
「努力して結果が伴った人間に、努力しても結果が伴わない人間の気持ちが分かるわけ無いだろっ!」
「この――――っ」
そして、美琴の思考からも、冷静さは最早吹き飛んでいた。
若さゆえの無理解。
彼女もまた、決して理解し得ない人間がこの世には必ずいるという事を理解出来てはいなかった。
視界が赤く染まったと錯覚するほど、猛烈な勢いで頭に血が昇るのを自覚する。
感情に任せて電撃を放とうとした瞬間、けたたましい羽音が彼女の意識を奪った。
「何!?」
顔を上げたその視線の先にあったのは、黒い塊。
否。黒い塊に見える、大量の見た事も無い蟲の群れ。
それは凄まじい勢いで美琴に襲いかかった。
「――――っ」
反射的に放った電撃が迸り、視界を埋め尽くす夥しい数の蟲を弾き飛ばす。
耳障りな破裂音が路地に響き渡り、数秒の後、現れた時と同じ様に唐突に、蟲達はその姿を消していく。
静けさを取り戻した路地で美琴が周囲に視線を巡らせると、介旅初矢の姿は何処にも無かった。
86 :
1
[sage]:2011/10/29(土) 00:06:15.09 ID:jBTI75i60
今回の投下は終了となります
お付き合いありがとうございました
87 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(新潟・東北)
[sage]:2011/10/29(土) 08:24:37.61 ID:s+t4LF4AO
シキさんか…
乙
88 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西・北陸)
[sage]:2011/10/30(日) 19:09:14.00 ID:9wGNg8vAO
あれ、能力と道併用とかヤバくね
89 :
1
[sage]:2011/10/30(日) 22:32:10.44 ID:HX5XWeMT0
本日の投下を開始します
90 :
1
[sage]:2011/10/30(日) 22:32:58.55 ID:HX5XWeMT0
革靴が砕けたタイルを踏みつける音がして、黒子は一瞬足元に視線を向けた。
派手に抉り取られた床は、元の白く清潔感のある面影を感じさせはしなかった。
視線を上げると、そこには更に悲惨な光景が広がっている。
抉れた柱。焼け焦げてぼろ切れになった衣類。生々しくひしゃげたマネキン。
その全てがこの場で起きた爆発の威力を物語っていた。
そしてその凄惨さは、黒子が歩を進めるほど増していき、ロープの張り巡らされた爆心地の周囲は最早跡形も無いという表現が相応しい。
数人の風紀委員と警備員が現場を行き来しているのを眺めながら、爆発の瞬間に居合わせた自身の相棒に思考を巡らせる。
掠り傷や軽い火傷はあった物の、この威力の爆発に見舞われた事を考えればほぼ無傷といっても過言では無いほど、初春飾利は五体満足であった。
「御坂さんのおかげです」と笑う初春の台詞を思い出して、黒子は一つの違和感を覚える。
美琴であれば、超電磁砲で爆発前に爆弾を吹き飛ばすはず。
だが実際に爆発は起きており、ましてや超電磁砲の発射だけでこの惨状が生まれるわけも無い。
それでありながら、爆弾の近くにいた初春は軽傷で済んでいる。
偶然では済まされない異様な事態に、黒子は顎に手を当てて考え込んだ。
が、携帯の着信に気付いてすぐにその思考を打ち切る。
画面に表示された発信相手の名前を見て、彼女は嘆息しながら疑念を頭の隅に追いやった。
91 :
1
[sage]:2011/10/30(日) 22:36:15.92 ID:HX5XWeMT0
朦朧とした意識の中で、介旅初矢はゆっくりと目を開いた。
まず視界に入ったのは、薄暗い部屋で唯一の光源となっている数台のPCモニター。
自分の右手に置かれているそのモニターの脇に、人の気配があった。
「目が覚めたかね」
その人物が声を掛けてくる。
それなりに若そうな印象を受けるその男の顔の造形は闇に紛れて分別できないが、モニターの微弱な光が眼鏡に反射しているのだけは見てとれる。
「介旅初矢くんだったかな? 気分は如何かな」
話し掛けられるが、介旅は答えない。
というより、過剰ともいえる警戒心が、答える事を拒否していた。
必死で記憶を辿り、意識を失う直前の景色を思い出す。
超電磁砲の少女に追い詰められた所で、確実に彼の記憶は飛んでいた。
92 :
1
[sage]:2011/10/30(日) 22:36:48.31 ID:HX5XWeMT0
「そう怯える事もあるまい」
唐突に眼鏡の男の反対側、つまり介旅の左側からしゃがれた声がかかる。
介旅は跳ね飛ぶ様に首を回してそちらに視線を向けた。
その時、安っぽいパイプ製のベッドが軋み、彼は自分がベッドに寝かされている事を認識したが、そんな事はどうでも良かった。
視線の先にいるのは、例によって顔の造形までは判別出来ないながらも老人と分かる。
しかし、眼鏡の男以上に異様な雰囲気を発するその老人は、間違いなくまともな類では無かった。
「我々は、君に興味があるんだよ。介旅初矢くん」
革靴の音と共に、眼鏡の男が話す。
何時の間にか、その声は介旅の横たわるベッドのすぐ脇で発せられていた。
「『幻想御手』。それを使用した人間がどうなるのかに、ね……」
93 :
1
[sage]:2011/10/30(日) 22:37:51.24 ID:HX5XWeMT0
「う――――む……」
照り付ける太陽の光に身を焼かれそうな暑さの中で、黒子は眉根を寄せて呻り声を上げながら考え込んでいた。
「さっきから何なのよ黒子。熱中症になるわよ?」
隣にいた美琴が、ルームメイトの異様な様子に呆れた様に話し掛ける。
しかし、敬愛する『お姉様』の言葉にも、黒子は顎に手を当てたまま難しい表情を崩さない。
「……お姉様、昨日の虚空爆破事件の犯人、本当に介旅初矢という男子学生で間違いございませんの?」
「え?」
少し先行していた美琴は、黒子の言葉に驚いた声を上げ、足を止めて振り向いた。
「そう言われるとちょっと自信無くなってくるけど……間違いないと思う。それがどうしたの?」
「『書庫』の登録データでは、介旅初矢のレベルは2。つまり『異能力者』判定となっていましたの」
「嘘!? あの威力はどう見ても『大能力者』以上の能力だったわよ?」
信じ難い黒子の言葉に、無意識に美琴の言葉も大きくなる。
黒子は顎に手を戻し、少し俯いて逡巡する様な素振りを見せて、美琴の方へ向き直った。
94 :
1
[sage]:2011/10/30(日) 22:38:24.93 ID:HX5XWeMT0
「……実は、今回の様に登録された犯人の能力と被害状況に食い違いのあるケースは、これが初めてではありませんの」
「どういう事?」
「どうもこうもありませんの。『書庫』に登録されている能力レベルでは到底実現し得ない規模の被害が出ている事件が、ここ最近続いておりますの」
溜息混じりに黒子は話を続ける。
「データ登録のミスかどうかも確認は急いでおりますが……これだけの件数で同時に登録ミスが起きるというのも現実的ではありませんし」
「って事は、つまり―――」
「ええ、つまりそれは」
「……」
「……どういう事なのでしょう」
「私に聞かれても……」
余りに無意味な会話にげんなりした美琴が、何と無しに視線を前に戻すと、公園の中に設置された一台の自販機が目に入った。
95 :
1
[sage]:2011/10/30(日) 22:40:22.31 ID:HX5XWeMT0
「まぁ、煮詰まってるなら気分転換でもしてみましょ。冷たい物でも飲めば何かいい考えが出るかも知れないわよ」
「そうですわね……」
美琴が指差す方向を見て、黒子も頷く。
「……昨日の事件と言えば、一緒にいたという殿方とは、どんな方ですの?」
自販機へ向かう道すがら、黒子が思い出した様に問うた。
「え? どんなって言われてもな」
聞かれた美琴は、少し回答に困った様な素振りを見せ、言葉を選ぶ。
「そんな印象に残るタイプじゃ無かったしなぁ。ちょっと茶っぽい黒髪に、黒の革ジャン着てたのは覚えてるけど」
嘘は言っていない。
事実、美琴が抱いた第一印象は「普通の男」であった。
だが、彼女は絶対にその顔を忘れない。
理由は二つ。
路地で美琴と初春の後ろから姿を現した事と、昨日のセブンスミストでの行動。
96 :
1
[sage]:2011/10/30(日) 22:41:05.95 ID:HX5XWeMT0
爆弾が爆発する瞬間、彼は初春と爆弾の間に立ちはだかり、左手に何かを持って、その腕を思い切り振り抜いていた。
何をしていたのか、美琴には見当も付かない。
が、結果として初春と女の子(ついでに美琴と涙子)は助かり、混乱の中彼は姿を消していた。
その行動が酷く格好付けている様に思えて、美琴の内心は穏やかではない。
才能も能力もある彼女にとって、昨日のささやかで致命的なミスは許し難い物だったし、その尻拭いをされたのは耐え難い屈辱なのだ。
例えそれが、初春と女の子を守るためで、本人にはそんな恩着せがましい心持は無かったとしても。
「黒髪に、革ジャンですか……」
一方で、黒子は黒子であらぬ方向を見ながら一人呟いていた。
「それは、丁度あの殿方の様な格好ですの?」
「え?」
言われて美琴が視線を向けると、確かにそこには茶っぽい黒髪で革ジャンを来た男が居た。
公園のベンチの上で寝苦しそうに眠っている男。
トレイン=ハートネットその人だった。
97 :
1
:2011/10/30(日) 22:46:59.64 ID:HX5XWeMT0
本日の投下を終了します
お付き合いありがとうございました
98 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(香川県)
[sage]:2011/10/30(日) 22:49:33.82 ID:SMUGKXewo
乙
99 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(関西地方)
[sage]:2011/10/30(日) 23:01:08.61 ID:/mF9e5GGo
ああ、乙だ
100 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)
[sage]:2011/11/01(火) 12:49:29.34 ID:7dUYBG4/o
乙
黒猫は小説の設定とか出る?
サーバを移転しました@荒巻 旧サーバ:
http://vs302.vip2ch.com/
101 :
1
:2011/11/03(木) 21:32:41.18 ID:vLsR+zZF0
>>100
多分出ないと思います
内容覚えてないので
何か美味しい設定とかあれば教えて欲しいくらいでございます
それでは投下を開始します
102 :
1
:2011/11/03(木) 21:33:39.16 ID:vLsR+zZF0
ゴクリ、ゴクリと喉が清涼飲料水を嚥下する音が鳴る。
「ぶは――――っ」
缶の中身が空になるまでを一息で飲み干したトレインは、缶から口を離し大きく息を吐いた。
「いやー危うく干乾びる所だったぜ。サンキューな」
そして、白い目をしてその様子を見ていた美琴の方へ向き直る。
「別にいいけどさ……アンタそれで何とも思わないわけ?」
「ん? あぁ、どうせならジュースよりミルクの方が良かったな!」
「いい歳して中学生に飲み物奢らせて何とも思わないのかって言ってんのよ!」
激昂に合わせて美琴の周囲に微弱な電撃が迸る。
それでも視認できるほどに爆ぜるその出力に、トレインは目を丸くして驚いた。
「おーそれがおめーの『能力』か。すっげーな」
余りに純粋に向けられた称賛の言葉に、美琴は気勢を削がれた様に押し黙る。
103 :
1
:2011/11/03(木) 21:37:06.44 ID:vLsR+zZF0
「お姉様、この方が?」
その様子を見て会話が一段落したと判断したのか、黒子が脇から顔を覗かせた。
「あ、ああ……そうよ。まぁ、昨日会ったばかりなんだけど」
「ふむ……」
黒子は興味深げ、というよりはまるで値踏みするかの様な視線をトレインに向ける。
「お初にお目にかかりますわ。わたくし風紀委員の白井黒子と申しますの」
そして愛想の良い笑顔を浮かべながらその手を取って自己紹介をした。
「トレイン=ハートネットだ。よろしくな」
対するトレインもまた、人懐こい笑顔で応える。
「トレインさんはどういった目的でこの街に?」
「おお、なんでもこの街にしかない食い物屋が結構あるらしくてな、旨いモン食いに来た!」
余りに余りなトレインの回答に力が抜けて行くのを感じながら、美琴は眼前のやり取りを眺めていた。
そこでふと、一つの違和感に気付く。
104 :
1
:2011/11/03(木) 21:38:34.87 ID:vLsR+zZF0
(……黒子ってこんなに愛想良かったっけ)
風紀委員と言う立場もあってか、白井黒子という少女は余り他人に隙を見せない。
特に初対面、加えて外部からの来訪者であるトレインに対して妙に愛想を振りまくその様は、少なくとも美琴には想像し難いものであった。
だが、その違和感の正体に美琴が辿り着く前に、黒子の携帯が着信を知らせる電子音を鳴り響かせた。
黒子は携帯を手に取ると、二、三言話して美琴の方を振り向く。
「お姉様、わたくし急用が入ってしまいましたの。申し訳ありませんが、失礼させていただきますわ」
「え? あ、うん。別にいいけど」
挨拶もそこそこに、身を翻して去って行く黒子の姿を見送りながら、美琴は所在無げに溜息を吐いた。
「中々面白いヤツだね」
不意にトレインが発言し、反射的に美琴の視線はトレインへ向く。
打って変わって、先程の黒子と同じ、値踏みする様な鋭い目つきを見せるその姿に、美琴背筋に悪寒が走った。
「いやーしかし『ですの』なんて言うヤツ初めて見たぜ。『ざます』以来の衝撃だわ」
「……あんたねぇ」
105 :
1
:2011/11/03(木) 21:40:40.62 ID:vLsR+zZF0
だが、それも一瞬の事で、次の瞬間に美琴の前にいたのは、変わらずにお茶らける気ままな風来坊でしか無かった。
そんな人物に一瞬でも警戒心を抱いた自分に呆れながら美琴は二度目の嘆息をする。
「……さて、と」
一息ついて、トレインが立ち上がる。
今度は何を始める気かと見つめる美琴を尻目に、近くにあったゴミ箱に空き缶を捨ててトレインは美琴の方へ向き直った。
「俺もそろそろ行くわ。ジュース、サンキューな」
「何か用でもあんの?」
「いやそーいうわけでもねーんだけどさ。折角来たんだし色んなトコ見て回んないと損だろ?」
「そりゃまぁそうかも知んないけど……観光地じゃ無いんだし面白い所なんてそんな無いわよ?」
「そーでも無いって。知らねー街をブラッとすんのもいいモンだぜ?」
「ふーん……」
イマイチ理解できないという表情で美琴は呻った。
「ま、そーいうワケだからよ。じゃあな」
そんな美琴を残して、トレインはさばさばした様子で去って行く。
一人残された美琴は、居心地の悪さと口にできない違和感を抱えて溜息を吐いた。
106 :
1
:2011/11/03(木) 21:41:51.83 ID:vLsR+zZF0
三日で4レス分しか書き溜まってない事に絶望しつつ、短いですが本日分の投下を終了します
お付き合いありがとうございました
107 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)
(関西地方)
[sage]:2011/11/03(木) 22:50:44.05 ID:GwAdga9O0
>>1乙
108 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)
[sage]:2011/11/11(金) 00:33:00.31 ID:nbKGEhXP0
まってるぜ
109 :
1
:2011/11/13(日) 23:24:20.96 ID:x0RYZ4oc0
ご無沙汰しております
ようやくお見せできるほどに書き溜まりましたので、投稿を開始いたします
110 :
1
:2011/11/13(日) 23:25:00.10 ID:x0RYZ4oc0
美琴と別れてしばらく歩き、公園の端の人気の無い所まで来たトレインはやにわに足を止めた。
風が木の葉を揺らす音だけが僅かに聞こえる中で、トレインは周囲の気配を探る。
「……折角一人になってやったんだぜ。勿体ぶらずに出て来いよ」
トレインがそう言うと、少しのタイムラグの後に木の陰から小柄な人影が姿を現した。
「白井黒子、だっけか。俺に何か用かい?」
トレインはさして驚いた様子も無く、気のおけない仲間同士が世間話をする様な気軽さで問い掛ける。
対する黒子は表情を変えず、風でわずかに乱れたツインテールを掻きあげた。
「ええ……この街にご興味がおありの様ですので、案内して差し上げようと思いまして」
「へぇ。どこに連れて行ってくれるんだ?」
「そうですわね。わたくしの所属する、風紀委員の第177支部など如何でしょう。空調完備、仮眠用のソファーもございますのよ。何でしたらしばらく滞在していただいても構いませんし」
「なるほど。そいつは随分魅力的だね」
一見和やかな会話とは裏腹に、場の空気が急速に冷え込んで行く。
話しながらも無造作に距離を詰めていた黒子が数メートルの距離にまで近付いてきた所で、不意にトレインが上着の内ポケットに手を入れた。
111 :
1
:2011/11/13(日) 23:25:57.38 ID:x0RYZ4oc0
「だが悪りーな。片道切符のエスコートなんざゴメンでねっ」
身構える黒子の眼前で、トレインは上着から手を引き抜き、取り出した物を黒子と自身の間の中間地点へ向けて投げつけた。
途端に、破裂音と共に夥しい量の煙が周囲を包む。
(――――煙幕っ?)
少々予想外だった相手の行動に、一瞬黒子の身体が硬直した。
が、すぐに立て直し、相手の行動を分析する。
先制か、逃走か。
そして次の瞬間には、黒子の身体は煙幕の中では無く、空中にあった。
空間移動能力。
荒事のみならず、あらゆる場面で応用の効く彼女の「相棒」とも言えるその能力は、一瞬にして彼女を煙の中から脱出させ、相手の動きを視認できるベストな場所へと導いていた。
立ち上がる煙を眼下に捉え、素早くトレインの姿を探す。
112 :
1
:2011/11/13(日) 23:26:40.45 ID:x0RYZ4oc0
(いたっ!)
程無く、少し離れた場所を駆けるトレインの姿がその視界に収まった。
予想以上の脚力に驚きつつも、黒子は再び能力を使用する。
次の瞬間、黒子の身体はトレインの頭上へ。
死角からの不意打ち。
重力の助けも借りた攻撃で、相手を蹴り倒し制圧する。
彼女が描いた青写真は、現実のものとなるはずだった。
しかし、彼女が次に感じた感触は相手を蹴り倒したものでは無く、その眼前に倒された相手の姿は無い。
反射的に顔を上げると、その先に少し驚いた様な表情で黒子を見つめるトレインの姿があった。
踏み出し掛けた足が止まる。
タイミングも距離も完璧だった。
が、かわされた。
完全な死角に空間移動した上で、完全に先を取ったにも関わらず。
信じ難い現実に、黒子は追撃を躊躇った。
113 :
1
:2011/11/13(日) 23:27:27.30 ID:x0RYZ4oc0
「すげーな、瞬間移動ってヤツか?」
流れる沈黙を、トレインの言葉が破る。
しかし、その言葉は黒子の身体を再び硬直させた。
『空間移動能力者』の存在を知っている学園都市の学生、或いは関係者ならばいざ知らず、トレインは外部から来た人間である。
『超能力』の存在くらいは知っていても、その細かいバリエーションにまで精通しているはずがない。
だがトレインは彼女の能力をほぼ見抜いている。
まさか、能力者では。
万が一にも有り得ないはずのその考えを、それでも黒子は拭いきる事は出来ず、その足は貼り付いた様に動かない。
「その分だと最初から疑ってたって感じだな。どうしてだい?」
不意にトレインに声を掛けられ、黒子は我に返った。
緊張感で思わずごくりと嚥下するが、彼女の口内はからからで、一滴の唾液も無くただ喉が品無く鳴るだけだった。
114 :
1
:2011/11/13(日) 23:28:01.50 ID:x0RYZ4oc0
「……別に、ただの事実に基づいた推測ですの」
話に乗るのは躊躇われたが、混乱する頭を落ち着かせる時間を向こうから提供してくれているのだと割り切り、黒子はゆっくりと話し始めた。
「『何となく行ってみたい』、『美味しい物を食べたい』。そんな理由でこの街に入る事はできませんの。もし仮に貴方の許可証が正規に発行された物だとしても、初対面である私に目的を隠す時点で疑わしいですし。どちらだとしても、貴方を疑う理由はあれど、信用する理由はございませんわね」
ゆっくりと間を使いながら、それでも一息に黒子は話し終えた。
「……にゃるほど。こいつはマズったね」
対するトレインは顎に手を当て、納得した様な素振りを見せる。
しかしその表情に焦りや驚きは無く、虚勢では無い笑みを浮かべたまま、トレインの視線が黒子を射抜く。
自信に満ちたその視線に、黒子は思わずたじろいた。
「見逃してくんね?」
「……は?」
そして悪びれもせず臆しもせず放たれた言葉の意味が一瞬分からず、黒子は間の抜けた声を漏らした。
余りに唐突で滑稽なその台詞に黒子の理解は遅れ、そして理解すると同時に渇いた笑みがその表情を彩る。
115 :
1
:2011/11/13(日) 23:28:48.32 ID:x0RYZ4oc0
「仰る意味が、良く分かりませんが」
「いやーだからさ、大目に見てくんねーかなって」
トレインは変わらず人懐こい笑顔のまま、堂々と図々しく言い切った。
盗人猛々しいを体現した様なその有り様に、黒子の眉根は寄り目元が引き攣る。
「出来ない相談ですわね」
突き放す様に、一段声を低くして黒子は言い放った。
取り付く島も無いその雰囲気にトレインは頭を掻きながら苦笑う。
「……しょーがねーか」
諦めた様に呟いて、トレインは黒子の方へ向き直る。
変わらぬ笑顔。しかし先程までとは明らかに違う色を湛えたその表情に、黒子はその意図を悟った。
「その能力じゃあ逃げるってわけにもいかなそうだしな。相手になってやるよ」
猛烈に密度を増していく空気の中で、黒子は考える。
自身の能力をあっさりと見抜かれた事、それは大した問題にはならない。
無論、先制攻撃で決着が着けばそれに越した事は無いが、彼女の能力は看破されても応用が効く。
むしろ能力への警戒心を逆手に取ってやればいい。
冷静さを取り戻し、頭が冴えてくるのを感じながら、黒子はずっと躊躇っていた一歩をようやく踏み出した。
116 :
1
:2011/11/13(日) 23:31:42.43 ID:x0RYZ4oc0
「……まっ、やるなら本気で来た方がいいぜ」
戦意あり。
その動きを見てそう判断したトレインが、挑発とも警告とも取れる言葉を発する。
刹那、強い風が吹いて彼の衣服を煽り、その胸元が露わになった。
(XIII……?)
そこに記されたローマ数字。
黒子はその意味を測りかね、そして次の瞬間それを悟った。
「不吉を……届けられたくないんならな」
XIII。現代における忌み数の一つ。
13番目の招かれざる異端者。悪魔のダースを示すその数字は、今まさに相応の意味を持って、黒子を覆い尽くそうとしていた。
117 :
1
:2011/11/13(日) 23:39:17.19 ID:x0RYZ4oc0
本日の投下を終了します
お付き合いありがとうございました
なお、私事で恐縮ですが、年末にかけて極端に投稿速度が落ちると思われます
お読みいただいている皆様には申し訳ありませんが、気長にお待ちいただけると幸いです
118 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(関西地方)
[sage]:2011/11/13(日) 23:42:11.92 ID:b9UD3IRX0
乙!
気長に待ちます
119 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(不明なsoftbank)
[sage]:2011/11/13(日) 23:59:09.70 ID:GH2WNj6D0
乙
ブラックキャットとか超俺得だ
120 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
[sage]:2011/11/15(火) 03:11:54.81 ID:ERpiEnCL0
乙
楽しみに待ってるよ
121 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(埼玉県)
[saga sage]:2011/11/15(火) 23:19:52.89 ID:E90gKTZx0
超懐かしい
頑張って!
122 :
SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)
[sage]:2011/12/11(日) 14:21:21.29 ID:exfXa2mSO
来年が待ち遠しい
123 :
1
[sage]:2011/12/24(土) 23:26:04.41 ID:MsIdTHw00
お久しぶりでございます。
年内最後であろう投下を開始したいと思います。
124 :
1
:2011/12/24(土) 23:26:45.51 ID:MsIdTHw00
ざわ、と全身が総毛立つ様な感覚が黒子を襲う。
それを振り切る様に黒子は空間移動を行い、一瞬にしてトレインの視界から消えた。
そして次の瞬間、彼女の身体はトレインの背後にあり、彼女の視界にはその無防備な背中が映る。
無反応。
慎重かつ迅速に、トレインが彼女の出現に反応していない事を確認し、左足を軸に反時計回りに振り返り様に、その華奢な身体を思い切りしならせて、右足の回し蹴りを叩き込む。
はずだった。
だが、刹那のタイミングでトレインは反応し、背を向けたまま右腕で黒子の蹴りをガードして見せる。
「な……!」
有り得ない超反応に、思わず黒子は驚きの声を漏らし、振り返るトレインの様子を見て本能的に飛び退き距離を取った。
「おっと」
トレインはそれを追う素振りも見せず、その場で上半身を少し反らせて頭頂部目掛けて落下してきた物を右手で受け止める。
「おめーのか?」
右手に収まった物を見せびらかす様にひらひらと振りながら、およそたった今自分に対して攻撃を仕掛けて来た相手に対してとは思えない気安さで、トレインは黒子に声を掛けた。
黒子はそれに応えず、出方を窺う為に密かに転移させていた、トレインの手に収まった自身の携帯電話を見つめながら、一つの推論に至る。
125 :
1
:2011/12/24(土) 23:28:03.35 ID:MsIdTHw00
トレインは明らかに、彼女が空間移動をした後にアクションを起こしていた。
つまり、移動先を先読みしているわけではない。
そうなると、問題は常人では考えられない驚異的な反応速度と言う事になる。
だが、これに関しては黒子には思い当たる物がある。
彼女のルームメイトである電撃使い、御坂美琴。
彼女の身体からは常に微弱な電磁波が放出されており、周囲に異変があれば反射波を察知して反応する事が出来る。
無論、トレインが能力者でかつかなり高位の電撃使いという前提が必要ではあるが、少なくとも辻褄は合っている。
そしてそこまで考えて、黒子は再度空間移動を行った。
今度は背後でも、上空でも無く、ただ単純に少し離れただけの位置に。
トレインが本当に能力を使用して黒子の位置を察知しているのであれば、この距離であればその有効範囲内には入らないはず。
そう考えて、黒子はトレインの様子を窺い、
「……!」
絶句した。
126 :
1
:2011/12/24(土) 23:28:29.21 ID:MsIdTHw00
「そんな離れて攻撃できんのかい?」
トレイン=ハートネットは迷う事無く振り返り、その金色の瞳が黒子を射抜く。
推測が外れたショックと、その視線が孕む威圧感に、思わず黒子は後ずさった。
「あなた……一体どういう能力者ですの?」
思わず、そんな言葉が口を衝く。
「いやー俺にゃ瞬間移動したり雷出したりはできねーな」
しかし、どこか縋る様な色のあった黒子のその言葉に、トレインは笑いながら否定とも肯定とも取れる言葉で応じた。
そして、その一言はトレインが思った以上に黒子の心を揺さぶる。
(読心……?)
まさかとは思う。
しかし完全に否定する事が出来ない。
空間移動を終えるまで反応しなかったのは、自分の認識に齟齬を起こす為かも知れない。
『雷出したりはできない』という言葉は、自分の思考を読んでの物かも知れない。
悪い方向にばかり思考が噛み合い、黒子の明晰な頭脳は今や彼女を助けるどころか、その行動を縛り付けてしまっていた。
127 :
1
:2011/12/24(土) 23:28:58.24 ID:MsIdTHw00
「返すぜ」
そんな黒子の心中を知ってか知らずか、相変わらず気楽な様子でトレインは右手の携帯電話を黒子へ向けて放り投げる。
黒子は険しい表情でそれを受け取りながら、一つの決意を固めた。
比較的短めな常盤台中学の制服のスカートの下からある物を取り出し、トレインにも見える様に掲げて見せる。
「針……いや、矢か?」
トレインが目を細めて、然程大きくは無いそれを確かめる。
それは、黒子が常にスカートの下、太腿に巻いたベルトに挟んである鉄製の矢。
身体が小さく、制圧力に欠ける彼女の、もう一つの相棒。
普段は専ら、対象の衣服を地面や壁に縫い付ける等して抑え込むのに使用される。
が、これにはもう一つ、裏の使い方とでも呼ぶべき使い方があった。
「痛っ……?」
次の瞬間、トレインは左肩に焼ける様な痛みを感じる。
一瞬前まで黒子の手中にあった鉄矢は、今はトレインの左肩を貫いていた。
128 :
1
:2011/12/24(土) 23:29:38.38 ID:MsIdTHw00
「少し、わたくしの能力についてご説明いたしますの」
それを確認して、黒子はゆっくりと話し始める。
「お察しの通り、わたくしの能力は空間移動。一瞬で離れた場所へ移動する事が可能ですのよ。それはわたくし自身だけでなく、わたくしが触れていた物も同様に」
反応を窺う様な黒子の話し方に、それでもトレインの表情は変わらない。
「そして、移動した物は元々そこにあった物を押し退けて転移する」
ゆっくりとした動作で、黒子は右腕を上げ、トレインの左肩を指差した。
「丁度、その様に」
黒子の言葉を最後に、二人の間に沈黙が流れる。
トレインは黙ったまま左肩に右手をやり、刺さったままの鉄矢を引き抜き無造作に投げ捨てた。
渇いた音が響き、赤い線を引きながら鉄矢が地面を転がる。
「大怪我をする前に諦めては如何でしょう。わたくしとしても、この様な使い方は本意ではありませんし」
黒子にとっても、これは賭けだった。
状況にもよるが、相手の体内へ直接異物を転移させる事は、彼女にとって最終手段に近い。
それをあっさりと披露して見せ、更に解説まで加えたのは、一重にトレインを諦めさせるため。
圧倒的な力を見せつけ、その後で逃げ道を用意する。
そうすると人は簡単にそちらへ流れてしまう。
その為に、黒子は奥の手を見せつけたのだ。
129 :
1
:2011/12/24(土) 23:30:10.57 ID:MsIdTHw00
「……ふーむ」
無論、これが本意ではないという言葉に嘘は無い。
彼女自身、この様な使い方をするのは相手が高位能力者である時のみだし、それでさえ今と同様、戦意を削ぎ落す為に肩や足といった命に関わらない部位にしか打ち込む事は無い。
ここまでやれば、大抵の人間は空間移動という能力の脅威に気付き、降伏する。
トレイン=ハートネットはどうか。
黒子はかつて無いほど動揺した心を抑え付けながら、静かにトレインの次の言葉を待った。
「マジメな奴」
だが、発せられたトレインの言葉は余りに想定外で、黒子の全身は硬直する。
「でも……いー奴だね」
「何を言って……」
揺さぶりを掛けたはずが、逆に自分が動揺している。
この男は、そんな事ばかりだった。
しかし、その微塵の後ろめたさも無い快活な笑顔に戦意は感じられず、その言葉も拡大解釈すれば投降の言と取れなくもない。
黒子の身体から僅かに力が抜けた。
130 :
1
:2011/12/24(土) 23:31:07.93 ID:MsIdTHw00
「だが悪りーな。そいつは出来ねー相談だ」
「っ!」
だが、続けられたトレインの言葉は投降では無く、あくまで敵対の言葉。
ここまでやってなお、諦めるどころか余裕を湛えたままのトレインの様子に、黒子の表情が一瞬で引き攣る。
「後悔しても……知りませんわよ!」
黒子が次の鉄矢をその手に収めると同時に、トレインが黒子目掛けて一直線に駆け出す。
アスリートも真っ青になるほどのその脚力。
それを、封じる。
トレインの移動速度を考慮に入れ、その右足太腿へ目掛けて黒子は鉄矢を転移させた。
だが、その鉄矢は何も貫く事は無く、虚空に出現し一瞬後、透明感のある音と共に地に落ちた。
「なっ……!」
刹那のタイミングで、進行方向をずらし鉄矢を回避したトレインの動きに黒子が目を見張る。
二本、三本。
続けて放った鉄矢もまた、トレインの身体に干渉する事叶わず、何本もの矢が地を転がった。
131 :
1
:2011/12/24(土) 23:31:53.23 ID:MsIdTHw00
タイミングを読まれている。
ギリギリのタイミングで方向をずらし、鉄矢を回避するトレインを見て、黒子はすぐにそれを察した。
同時に、抱いていた疑念が再び鎌首をもたげる。
やはり、読心能力者。
疑念と言うより、最早確定に近い感覚で、その思考は黒子の頭を支配する。
ではどうするのか。
その考えがまとまる間も無く、トレインの身体が大きく跳躍した。
意表をつかれ、黒子の反応が遅れる。
黒子は咄嗟に、持っていた鞄を前面に出してガードの体勢を取った。
次の瞬間、強烈な衝撃が黒子を襲う。
受け切れない。
黒子は予想以上の衝撃にそう判断し、バックステップでそれを受け流した。
続けて、全体重を乗せた蹴りを繰り出したトレインが着地する。
そのまま、猫の様な俊敏さでトレインが更に前に出る。
132 :
1
:2011/12/24(土) 23:35:18.11 ID:MsIdTHw00
右ストレート、左足の回し蹴りから返す刀の横蹴り、足払い。軸足を変えての後ろ回し蹴り。
型も動きも出鱈目そのもの。
だが、トレインの驚異的な身体能力が、それを恐るべきラッシュへと変貌させる。
右、左、足元、袈裟掛け。
あらゆる方向から繰り出される攻撃は捌くのが精いっぱいで、じりじりと黒子の足は後退して行く。
何とかしなければ。
咄嗟に、黒子は飛んできたトレインの左拳を避けながら、その袖口に右手の指を引っ掛け掴んだ。
「おっ?」
意表を衝いた黒子の行動に、トレインが驚いた様な声を上げ一瞬動きを止める。
その隙に、黒子はその拘束をより確かな物にしようと左手を伸ばす。
が、その手がトレインに届く前に、トレインの袖口を掴む右腕に何かが触れる感覚を感じた。
視線を移すと、トレインの左拳が、ちょうど黒子の右手首に乗せられているのが目に映る。
その行為の意味に黒子は一瞬気付けず、そして視界の端でトレインの右手が下から彼女の右ひじ関節を突き上げる様に動くのを捉え、すぐにそれを悟った。
133 :
1
:2011/12/24(土) 23:36:00.89 ID:MsIdTHw00
(――――折られるっ!)
理解するとほぼ同時に、黒子はトレインの袖口を掴んだ右手を離し後退する。
「逃がさねーぜっ」
が、トレインはそれを許さない。
上唇を舌なめずりしながら瞬く間に間合いを詰める。
それに対し、黒子は
「逃げておりませんわよ」
空間移動で一瞬にしてトレインの懐に入り込んだ。
「っ!?」
トレインの動きが止まる。
黒子の驚異的ともいえる能力制御が生んだ渾身の一手。
乾坤一擲の気合いで、黒子は左足を振り抜いた。
が、黒子が足に感じる感触は固い。
ガードされた、それを認識すると同時に再び空間移動を行い、今度はトレインから距離を取る。
134 :
1
:2011/12/24(土) 23:36:39.12 ID:MsIdTHw00
トレインの追撃は無い。
それを確認して、黒子は彼のとった二つのリアクションを思い返す。
黒子が袖を掴んだ時。眼前に空間移動した時。
トレインは『驚いた』。
それはつまり、黒子の行動がトレインの予想の範疇を越えたという事。
そしてそれは、トレインが彼女の行動すべてを見抜いているわけではない事を示している。
些細なことではあるが、それでもその事実は黒子の頭を冷静にするに十分な物だった。
警戒した様に動かないトレインに向かって、黒子が駆け出す。
間合いを外し、タイミングをずらす。
ありとあらゆる角度から、ありとあらゆるタイミングで繰り出される黒子の攻撃に、完全に攻守が入れ替わった。
が、防戦一方でも、トレインの反応は凄まじい。
後手に回っても対応しきれるその反射神経は、一撃足りとも黒子の打撃の直撃を許さない。
一方的な様相とは裏腹に、その内実は拮抗していた。
だが、それでも黒子に焦りは無い。
黒子の姿が再び消える。
瞬間、トレインは身構えて、黒子の姿が現れない事に気付き、硬直した。
135 :
1
:2011/12/24(土) 23:37:10.24 ID:MsIdTHw00
その時、黒子の身体はトレインの背後にあった。
全ては、布石。
直前の攻防で、黒子は全ての空間移動をトレインの視界内で行った。
それは一重に、空間移動と言う能力の最たる使い方である、『死角への移動』からトレイン意識を逸らすため。
先程までは、死角からの攻撃は全て紙一重のタイミングで防がれた。
ならば、その紙一重を作り出す。
黒子の渾身のブラフは、確かに功を奏した。
トレインへ向けて手を伸ばす。
彼女の能力は、極めて応用範囲が広い。
例えば、如何にトレインが素早く動けるとしても、彼の足が地中に埋まり、抜け出せない様にしてしまえばそれで決着が着く。
勝利の確信と共に、黒子はトレインの肩に手を掛けた。
はずだった。
136 :
1
:2011/12/24(土) 23:39:03.86 ID:MsIdTHw00
まさに黒子の指は触れようとしたその刹那、トレインの身体が前方へ倒れ込む。
「――――っ!?」
伸ばした手が空振りした事に驚きながら、黒子は倒れ込んだトレインが地に手を着き、限界まで負荷をかけられたバネのように身体を縮めるのを見て、咄嗟に腕を身体の前で交差させ、ガードの体勢を取った。
その刹那、激しい衝撃が黒子を襲う。
自由の利かない空中、トレインが全身を使って放った衝撃を受け流す事は出来ず、黒子の身体はまるでスーパーボールの様に跳ね飛んでいく。
(高いっ!?)
遥か下方に遠ざかって行く地上を目にし、黒子は最高点に達した瞬間、咄嗟に空間移動を行った。
次の瞬間、けたたましい音と共にその身体が茂みに突っ込む。
木の葉を撒き散らしながら黒子が身体を起こすと、トレインは追撃するでもなく、先程の場所から動かずに黒子の姿を眺めていた。
137 :
1
:2011/12/24(土) 23:40:15.20 ID:MsIdTHw00
「……随分と余裕ですわね」
身体中に纏わりつく葉を叩き落としながら、黒子は低い声で言った。
それに対し、トレインが笑う。
「俺のがつえーからな」
ギリ、と黒子は歯軋りした。
だが、悔しいが否定も出来ない。
恐らく、真っ向から行ってもこの男には勝てない事は、既にこれまでの攻防で重々承知していた。
しかし、黒子はそれで簡単に退けるほど単純では無かったし、それを素直に認められるほど純情でも無かった。
再び空間移動を行おうと、演算を開始。
が、それはすぐに中断された。
正に空間移動をしようとした瞬間、トレインが指を鳴らし、思わず黒子は能力の使用を中止してしまったのだ。
驚いて目を見開く黒子に対し、トレインは見せびらかす様に指を鳴らした右手を前に出して見せる。
138 :
1
:2011/12/24(土) 23:40:44.90 ID:MsIdTHw00
「当たりかい?」
その一言で、黒子は戦慄した。
やはり読心能力者なのだろうか。
だが、ならばなぜ今このタイミングでそれをアピールする様な行為をするのか。
黒子の頭が高速回転する中、トレインは余裕の笑みを崩さない。
「あんまり俺を甘く見ない方がいいぜ。もうタイミングも分かったからな、同じ手は通じねぇ」
「……っ」
黒子は息を呑む。
そして、こんなにも眼前の男の能力に、自身の注意が向き過ぎていた理由を悟った。
全ては事実から、目を逸らした結果。
つまり、この男は黒子が信じられないほどの身体能力と反応速度で以って、漫画の登場人物の如く気配だけで空間移動に対応していたのだ。
黒子の自身の能力に対する自負が、こんな単純な事実から目を曇らせた。
「俺としちゃこれで諦めてくれるとありがてーんだけどな」
自虐的に笑う黒子の様子を見て、トレインが言う。
だが、その口調には一つの確信が見え隠れしていた。
黒子が、まだ諦めはしないだろうという確信が。
139 :
1
:2011/12/24(土) 23:41:18.28 ID:MsIdTHw00
「……あなたこそ、わたくしの能力を低く見過ぎですの」
言って、黒子の身体が消える。
トレインが身構えるが、黒子は姿を見せない。
トレインが疑念を抱いた瞬間。
「うおっ!?」
眼前に現れたのは、黒子では無く一本の樹木。
トレインはそれをギリギリで回避、しかし次の刹那には街灯が彼目掛けて突っ込んで来た。
「そーいう事かいっ」
次々と現れる物体を避けながら、トレインは公園の通路を駆け抜ける。
確かに、トレインは少々黒子の事を甘く見ていた。
自身が気配を探れないほど離れた場所から、こうも正確に攻撃を行えるなど予想だにしなかったのだ。
これならば、反撃の機会を与えず一方的に攻撃出来る。
「おっと」
頭上に現れたベンチの襲撃を難なくかわす。
それでも、トレインの表情に焦りは無い。
右に左に、狙いを逸らす様に不規則に動きながら、彼は驚異的な脚力で走り続けていた。
140 :
1
:2011/12/24(土) 23:41:49.95 ID:MsIdTHw00
トレインの姿を視認できるギリギリの位置を保ちながら、黒子はそれを追い掛ける。
目に付いた物を転移させて、攻撃の手も緩めない。
電柱、街灯、ベンチ、ゴミ箱。
あらゆる物がトレインの四方八方を取り囲み、そしてトレインはそれを難なく切り抜ける。
「根競べですのっ!」
自らを奮い立たせるように黒子は檄した。
長期戦になる、その確信と共に、眼前の街灯を転移させる。
その瞬間、黒子はある音を聞いた。
鈴の音。
どこから聞こえたのかと一瞬探り、すぐに戦慄する。
トレインの視線が自身の姿を捉えている事に黒子が気付いた刹那、爆発音と共にその耳元を、衝撃が走り抜けた。
141 :
1
:2011/12/24(土) 23:42:33.34 ID:MsIdTHw00
「……ふぅ」
美琴は当初の目的であった清涼飲料水を飲み干し、息を吐いた。
空になったアルミ缶をゴミ箱に放り込みながら、何とは無しにトレインの去って行った方向に視線を向ける。
変わった男だ、と思う。
食欲に任せて学園都市に来る人間など聞いたことが無い。
気楽で気ままな風来坊の姿を思い出しながら、こうしていても仕方がないと踵を返して、美琴は一つの違和感に気付く。
眼前の自販機。
先程、自分はあの男に飲み物を奢った。
そして、彼はこうも言った。
『美味い物を食いに来た』と。
缶ジュース一本、買う金も無いのに。
思わず振り返り、トレインが歩いて行った方向に再び視線を向ける。
その瞬間、その方向から爆発音が響いた。
142 :
1
:2011/12/24(土) 23:43:07.93 ID:MsIdTHw00
耳鳴りがし、黒子はバランスを崩して尻餅をついた。
状況に頭が追い付かない。
分かるのは未だ止まぬ耳鳴りと、頬に走る熱。
そっと頬に手をやると、ぬるりとした感触と共に、赤い血が彼女の手を染める。
攻撃を受けた、咄嗟にそう判断し、立ち上がろうと腕に力を込めた。
「おっと、動くなよん」
それと同時に、黒子の額に固い物が突き付けられる。
眼前に立つトレインの右手には、まるで洒落た調度品の様な装飾の施された物が握られていた。
だが、黒子へ向かってぽっかりと口を開けているそれは、考えるまでも無く、拳銃。
チェックメイト、そう言いたげなトレインの表情に黒子は悔しげに歯軋りした。
「……なぜわたくしの居場所が分かりましたの」
不本意ながら、黒子は眼前の手品師に種明かしを要求した。
143 :
1
:2011/12/24(土) 23:43:45.49 ID:MsIdTHw00
「おめーが飛ばしてくるモンは大体予想が付いたからな。適当なのにコレ付けといた」
言いながらトレインが左手に持った物を示す。
僅かな揺れで敏感に音を奏でるそれは、トレインが首に巻いていた鈴付きのチョーカー。
つまり、彼が目印を付けた物が転移した瞬間は、黒子は確実に元々その物体があった場所にいる。
それだけの事だった。
だが、それでも黒子は戦慄する。
それに気付いたとしてもやる人間がいるだろうか。
よしんばやる者がいたとして、それをこうまで完璧にこなせるだろうか。
彼女が物を転移させてからその場にいる時間など、数秒にも満たない。
その僅かな時間で飛んできた物に付けられた目印を確認し、それを回避し、更に振り返って正確に攻撃を加える。
最早、悪魔染みているとしか形容の出来ない芸当を、この男はまるで路傍の雑草を踏み潰す様に、あっさりとこなして見せていた。
144 :
1
:2011/12/24(土) 23:44:23.56 ID:MsIdTHw00
「言っとくが瞬間移動しようとしても無駄だぜ。俺が引き金を引く方が速ぇからな」
行動を見抜かれ、黒子の表情が険しくなる。
先程彼女が感じた衝撃は、恐らく銃撃による物。
発射した、その事さえ認識させない恐るべき早撃ちは、『引き金を引く方が速い』という台詞が虚言では無い事を、黒子に痛烈に知らしめていた。
歯噛みしながら、それでも諦めずに黒子はトレインを睨みつけた。
「……参ったね、こりゃどーも」
その視線に、トレインは予想以上に困惑した表情になった。
左手で頭を掻きながら、次の自身の行動を決めかねている様な素振りを見せる。
「黒子っ!!」
その刹那。
トレインの右側、少し離れた位置から激昂。
トレインと黒子が同時に振り向き、その視線の先には少女が一人。
その少女はコインを持った右手をコイントスの形にして前に突き出し、整った眉を吊り上げてトレインを睨み。
電撃を纏っていた。
「伏せなさいっ!!」
理解するより先に黒子が頭を下げ、その瞬間、コインが弾かれる。
そのコインは電撃を迸らせ、地を抉り驚異的な速度でトレインへと迫り。
けたたましい着弾音が周囲に木霊した。
145 :
1
:2011/12/24(土) 23:45:45.25 ID:MsIdTHw00
パチパチと、美琴の指先で電気が爆ぜる。
そして、渇いた金属音と共に、弾き飛ばされたトレインの装飾銃が地に落ち、擦れ音を響かせ転がった。
その様子を、美琴は茫然とした表情で眺める。
コインに電磁加速を加え、音速の3倍以上の速度を誇る彼女の代名詞ともいえる『超電磁砲』。
コンクリートさえ容易く貫通する威力を誇るそれを、美琴は決して当てるつもりで放ったのではない。
牽制として、怪我をさせない程度に照準を外して撃ったのだ。
だが、本来であればトレインの脇を素通りし、数十メートル先でコインが燃え尽き消失するはずの彼女の超電磁砲は、その軌道を変えられ、公園の煉瓦が敷き詰められた地面に大きな穴を空けていた。
美琴の眼前で、トレインが驚いた様な表情で右手と美琴を交互に見やる。
この男は、音速の3倍以上の速度で飛来するコインに反応し、持っていた銃で弾き飛ばそうとして見せたのだ。
そして、見事に触れて見せた。
衝撃で銃は吹き飛ばされた物の、常人であれば反応する事すら困難な超電磁砲に。
信じ難い光景に、美琴と超電磁砲の威力を知る黒子は絶句し、場の空気が停滞する。
146 :
1
:2011/12/24(土) 23:46:31.26 ID:MsIdTHw00
それを打ち破ったのは、トレインだった。
彼が飛び退き、落ちた銃を左手で拾おうとしてようやく、美琴と黒子も我に返り、状況の整理が出来ない中で反射的に一歩を踏み出す。
それを牽制する様に、トレインは素早く銃を構え、引き金を引いた。
響いたのは、渇いた発砲音。
ではなく、異様な速度で撃ち出された銃弾が煉瓦を穿つ、くぐもった音だった。
「何だぁ?」
明らかに普段とは違う、愛銃から放たれた弾丸の弾道に目を見張るトレインの眼前で、銃身がバチバチと弾ける様な音を発した。
「レ、レールガン……?」
黒子が呻く。
黒子と美琴は、驚いた表情のままトレインの持つ装飾銃を見つめ、その足は貼り付いた様に動かない。
それも無理は無い。
今、トレインの銃口から放たれたのは、正しく美琴の『超電磁砲』と同じ弾道を描いていたのだ。
トレインはその表情を見て、公園の中心部へ向かう方向、階段十段ほど高くなった場所まで飛び上がる。
「何か良く分かんねーが、チャンスみてーだしこのまま逃げさせて貰うぜ?」
様子を窺う様なトレインの口調に、それでも美琴と黒子の身体は動かない。
「じゃなっ」
それを確認して、トレインは振り向き、走り去って行った。
147 :
1
:2011/12/24(土) 23:48:47.20 ID:MsIdTHw00
投下を終了します。
全くストーリーに進展がございませんが、お付き合いいただきありがとうございました。
148 :
SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)
[sage]:2011/12/24(土) 23:56:21.09 ID:jnuLt67DO
乙乙!
アニメは俺は見てないんだが、トレインはレールガンを知らないのか?
それともレールガンが無くなったあとか
……書いてあったらすまん
面白かったよ
よいお年を
149 :
SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)
[sage]:2011/12/25(日) 02:07:23.18 ID:7YJE/5pDO
やっぱり超電磁組って基本的にウザいな
黒子は好きだけど
150 :
SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)
[sage]:2011/12/25(日) 09:06:13.05 ID:scjm+ucDO
乙
銃越しのレールガンと他の生身へのダメージが明らかに釣り合ってねーよw
トレインさんは原作でもスピードと反射神経とオリハルコンにステ振りまくって生身と回復力はおこぼれ程度なんだよな
151 :
SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)
[sage]:2011/12/25(日) 18:25:43.32 ID:qmt/cbzSO
年内に来るとは、ありがたや
乙
152 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/02/10(金) 00:11:52.64 ID:KLxeoapSO
コナイー?
153 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/02/27(月) 15:07:26.63 ID:bsWb5ncDO
オーイ
154 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
:2012/03/12(月) 02:09:41.22 ID:EU7FiCOX0
>>148
アニメではレールガンの設定は無くなってました。
そのせいで身体が縮む話がただのネタ回に。
恐ろしいほど間が空きましたが書き溜まっている分をこっそり投稿致します。
155 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
:2012/03/12(月) 02:10:34.24 ID:EU7FiCOX0
甲高いエギゾーストサウンドが耳を刺激する高速道路のサービスエリアで、リンスレット・ウォーカーはコーヒー片手に、仏頂面で車に寄りかかっていた。
時折声を掛けてくる男どもを適当にあしらいながら、彼女の視線は手元の時計と売店との間を忙しなく行き来する。
痺れを切らした様にリンスレットが冷めたコーヒーを喉に流し込むと、ポケットの中の携帯が振動した。
彼女は振動音を響かせる携帯を取り出して画面を確認すると、意外な人物の名前に驚きながら通話ボタンを押し、電話を耳元に運ぶ。
『おっ、ひっさしぶりだな、リンス』
リンスレットが何かを言うより先に、電話の向こうの相手が挨拶をしてきた。
「トレイン? どうしたのよ急に」
『どうしたじゃねーっつの。聞いてた話と色々違うぞ、学園都市』
驚きの中にわずかな喜色が籠っていたリンスの声音とは裏腹に、トレインは憮然とした声で言った。
その言葉に、リンスの整った眉が寄る。
「何? どういう事よ?」
『風紀委員ってのは学校の外での活動は制限されてるんじゃねーのかよ。普通に喧嘩吹っ掛けられたぞ』
「え〜? 風紀委員の権限は校内限定で、校外での警備は警備員の管轄だって聞いたけど」
156 :
1
:2012/03/12(月) 02:11:35.26 ID:EU7FiCOX0
思わず大きくなったリンスの声に、周囲の視線が集中する。
バツが悪そうに身を屈めながら、リンスは声のボリュームを絞って話を続けた。
「っていうか、風紀委員と揉めたって、アンタそれまさか能力者じゃないでしょうね?」
『おーそれがよぅ、すげーなあいつら。瞬間移動したり雷出したりすんだぜ』
「……心配した私がバカだったわ」
能天気に語るトレインの声に、リンスは呆れてがっくりと肩を落とした。
『しっかしいきなり侵入した事バレるしよ。随分適当な情報寄越してくれんじゃねーの」
「しょうがないでしょ、学園都市の情報はあんまり外に出てこないんだから。大体いきなり過ぎんのよアンタ、偽造パスの手配が間に合っただけでも褒めて貰いたいもんだわ」
『んだよ、金は払ったじゃねぇか』
「友情割引の格安料金をね。ってか、何だって急に学園都市へ行く必要があるのよ? おまけにスヴェンとイヴも別行動だし」
『まー色々とあってな。つか、スヴェンに言ってねーだろうな』
「……当ったり前じゃない」
『んだよ、今の間は』
「何でも無いわよ」
言いながらリンスは視線を巡らせ、その視界に入った人影を見て青ざめた。
157 :
1
:2012/03/12(月) 02:12:22.41 ID:EU7FiCOX0
あ、ごっめ〜ん。ちょっと急用が出来たから切るわね〜!」
『あぁ? おい、まだ話は――――』
トレインの抗議の声を通話ごと断ち切り、リンスは無音になった携帯電話をしまって飲み込み掛けた息を吐きだした。
「リンス。誰と話してたの?」
それを見計らったかのように、眼下から声が掛けられる。
「ち、ちょっとね」
「……?」
引き攣った笑顔で誤魔化すリンスの様子に、声を掛けた金髪の少女は不思議そうな表情をするが、それ以上の追及はせずに手に持っていた袋をリンスへ差し出した。
「ハンバーガーと、コーヒー。ブラック」
「あ、ありがと」
それを受け取り、リンスはコーヒーを取り出すと一口啜った。
熱と苦みが口の中に広がるのを感じながら、リンスは思い出した様に少女に向き直る。
「二人はどこ行ったの?」
「まだ買い物してる。お土産買うんだって」
「……」
予想通りに返って来た、一番予想したくなかった回答を聞いて、リンスはがくりと肩を落とした。
158 :
1
:2012/03/12(月) 02:13:07.53 ID:EU7FiCOX0
「何だってんだ、リンスの奴」
会話がぶつ切れた携帯電話を左手に携えたまま、トレインは一人ごちた。
しかしブラックアウトした画面は何も応える事無くトレインの憮然とした表情を映し続け、トレインは溜息混じりに携帯をポケットへ滑り込ませた。
その瞬間、右手にずきりとした痛みが走る。
「……むぅ」
赤く腫れ上がり、握り締めるどころか触覚さえ未だ戻らない自身の右手に、珍しくトレインは表情を顰めた。
美琴の放った見た事のない弾道と、それに弾き飛ばれた直後、同じ弾道を撃ち出した自らの愛銃。
理解の出来ない事象ばかりで、トレインは考え込む様な素振りを見せた。
「……ま、今度会った時に聞きゃいいか」
しかし、元来深く物を考える性質ではない彼は、美琴や黒子と敵対した事さえ忘れたかのように快活な表情に戻ってそう呟いた。
159 :
1
:2012/03/12(月) 02:13:53.53 ID:EU7FiCOX0
「トレインさん?」
トレインが当ての無い散歩を始めようとした矢先、数m離れた場所から声が掛けられた。
少し驚いた様にトレインが振り向くと、そこにはセーラー服姿の涙子が同様に驚いた様な表情で彼の事を見つめている。
「おー、ナミダコじゃねーか」
が、トレインの返事で一瞬でその表情は固まった。
「……ルイコですけど」
「そうだっけか。まぁ言い易いしいいじゃねーの」
「人の名前を語呂で変えないで下さい」
「かてー事言うなって」
抗議の言葉を受けても無邪気な笑みを崩さないトレインの様子に涙子は嘆息し、諦めた様に話題を変えた。
「今、何してたんですか?」
「ん? 散歩だよ散歩。折角来たんだ、色んなとこ見ねーと損だろ?」
「はぁ……」
それほどまでにやる事もする事も無いのかと呆れながら、涙子は溜息とも生返事ともつかない声を出した。
160 :
1
:2012/03/12(月) 02:15:26.44 ID:EU7FiCOX0
が、彼女はすぐにその表情を顰め、鼻をひくつかせながらやおら周囲の臭いを嗅ぎ始める。
そして暫し鼻を鳴らした後、涙子はトレインの方へ汚物を見る様な視線を向けた。
「……トレインさん、臭いです」
「ん? そうか?」
嫌悪感を盛り付けた涙子の言葉に、トレインは自身の衣服をつまみ上げて鼻を寄せた。
「自分じゃ分かんねーな」
しかし、自分より10歳も年下の中学生に軽蔑染みた眼差しを向けられ体臭を指摘されながらも、トレインはさしてショックを受けた風でも無くあっけらかんと笑って言い切った。
「……はぁ」
そこまで堂々とされてしまってはお手上げだ、と言わんばかりに、涙子は大きく溜息を吐く。
「シャワー貸してあげますから、ウチに来て下さい」
「はぁ? いいよ別に、臭いじゃ死なねーし」
「周りが迷惑するんです。いいから、ほら行きますよ」
そう言って、涙子はトレインの手を取り強引に歩き出した。
その様子をトレインは少し驚いた様子で眺めながら、一瞬その顔に懐かしさの様な表情を浮かべ、為すがままに引っ張られて行った。
161 :
1
:2012/03/12(月) 02:16:47.30 ID:EU7FiCOX0
わずかばかりですが、投稿を終了します。
お付き合いありがとうございました。
162 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長屋)
[sage]:2012/03/12(月) 02:21:06.95 ID:Xz44CZoS0
生きてたのか、良かった
乙
163 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/03/12(月) 09:57:30.61 ID:IK1gnikAo
乙!!
164 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(不明なsoftbank)
:2012/05/08(火) 11:20:25.46 ID:Ykciv9rl0
続きに期待してます
165 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/05/08(火) 14:03:46.61 ID:NyBLS78IO
乙
166 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(山口県)
[sage]:2012/05/26(土) 11:52:11.14 ID:G/sXxBWUo
バックシールドの判定ってどうなってるんだろうな
古代とか停滞する系統だと盾に判定吸われた後たまにキャラにヒットするが
盾の効果で一定時間無敵、とか一定時間弾の判定なくすとかそんな感じなのか
167 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/05/26(土) 14:30:08.68 ID:m1iPxXgLo
誤爆か?
100.35 KB
[ Aramaki★
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