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唯「おけぶいんSS速報!」 -
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1 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[sage saga]:2011/10/17(月) 09:35:40.03 ID:0bPeG8iio
#1 「あらすじ!」
ひるやすみ!
唯「ねえねえ、きのうおもしろいブログ見つけちゃった!」
律「へぇ、どんなの?」
唯「えっと、ブクマしといたから……あ、あった!」
律「なになに……『おけぶいんSS速報』? なんだこりゃ」
唯「なんかケータイ小説みたいのがいっぱいあってね」
紬「うんうん」
唯「それでね、出てくるキャラが私たちそっくりだったんだよ!」
澪「ええっ?」
1.5 :
荒巻@管理人★
(お知らせ)
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旅にでんちう @ 2024/04/17(水) 20:27:26.83 ID:/EdK+WCRO
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木曜の夜には誰もダイブせず @ 2024/04/17(水) 20:05:45.21 ID:iuZC4QbfO
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いろは「先輩、カフェがありますよ」【俺ガイル】 @ 2024/04/16(火) 23:54:11.88 ID:aOh6YfjJ0
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【MHW】古代樹の森で人間を拾ったんだが【SS】 @ 2024/04/16(火) 23:28:13.15 ID:dNS54ToO0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713277692/
こんな恋愛がしたい 安部菜々編 @ 2024/04/15(月) 21:12:49.25 ID:HdnryJIo0
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【安価・コンマ】力と魔法の支配する世界で【ファンタジー】Part2 @ 2024/04/14(日) 19:38:35.87 ID:kch9tJed0
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アテム「実践レベルのデッキ?」 @ 2024/04/14(日) 19:11:43.81 ID:Ix0pR4FB0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713089503/
エルヴィン「ボーナスを支給する!」 @ 2024/04/14(日) 11:41:07.59 ID:o/ZidldvO
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713062467/
2 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[sage saga]:2011/10/17(月) 09:38:47.75 ID:0bPeG8iio
律「それってつまり、唯や澪、ムギみたいな?」
唯「そうそう! あずにゃんやりっちゃんだって出てくるんだよ!」
澪「な、なんだかこわいな…」
紬「でもすごく気になる! ねえ唯ちゃん、ちょっとみせてみせて!」
唯「うん。私読んだのまだこれだけなんだけどね、」
ぽちっ
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
→ 2010年10月03日 17:51 あい「私も新曲考えてみよっかなあ」 ★
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
きーんこーん かーんこーん♪
あい「なずにゃんまだかなー。もう4時だよ」
なつ「だなー。なずな、遅くなるって言ってたけどさぁ」
あい「あ。ロッキーたべる? お昼になずにゃんからもらったの、あまってたから。はい!」
なつ「さんきゅーあいー」
つぐみ「あいちゃん、わたしにも一本!」
3 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[sage saga]:2011/10/17(月) 09:41:51.20 ID:0bPeG8iio
あい「あいよーぐみちゃん、おじょうちゃんかわいーからおまけにもう一本!」
つぐみ「あらあら♪ ありがとう、あいちゃん! なんだか屋台のおやじさんみたいだね」
りお「練習って発想はないのかみんな・・・・・」
なつ「お? チョコに食指が伸びないってことは・・・・・さてはまた体重が」にやっ
りお「そっそういう意味でいったんじゃないからなっ」
なつ「えーいっ、身体検査だー!」ぎゅっ ぷにっ
りお「うわわわっ?! なつっ、へんなとこさわるなー?!」ぐいっ
どさっ ばたーん!
4 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[sage saga]:2011/10/17(月) 09:44:54.66 ID:0bPeG8iio
なつ「あたたた・・・・・うぅ」ぐすっ
つぐみ「なっちゃん、りおちゃん、だいじょうぶ?」おろおろ
りお「いたた・・・・・なつが変なこというから、まったく・・・」
なつ「うぅ・・・・・って。こ、この体勢は・・・//」むにー
りお「はっ?! うわわっ、ごめんなさいっ//」ずさっ
つぐみ「あらあら、ふふっ」
りお「もう、練習するんだから! 今日こそ本気だす! 本気出して脂肪も燃やすの!!」
なつ「あははっ、やっぱ図星だったんじゃん」
5 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[sage saga]:2011/10/17(月) 09:47:59.16 ID:0bPeG8iio
ガチャ
なずな「すいません、予定よりかかっちゃって」
あい「わーい、なずにゃーん!」だきっ
なずな「ひゃっ・・・・もう、いきなり抱きつかないでください!」
あい「えへへー、なずにゃん分補給だねっ」すりすり
なずな「はいはい・・・・・なんだかもう慣れちゃいました」
りお「はぁ・・・・・文化祭も近いんだぞ」
なずな「そうですよ。聴く人のこと考えたら、ちゃんとまじめに練習しなくっちゃ」
つぐみ「あ。ねえねえみんな、この曲なんだけど、いきなりこんな音いれちゃうなんてどうかな?」じゃーん♪
あい「おおっ! ぐみちゃんすごい!」
りお「い、いきなり流れが変わっちゃうな・・・どうしよう」
なつ「あえて流れをぶっこわすのだってなんかいいじゃん! 往年のみわちゃんみたいにさー」
りお「あれはやりすぎだって・・・」
6 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[sage saga]:2011/10/17(月) 09:51:02.64 ID:0bPeG8iio
なずな「うーん・・・今から新しいリフとか考えてて間に合うかなあ・・・・・」
あい「大丈夫だよ、なずにゃん! 私たちならなんとかできるよ!」ぎゅ
なずな「わたしはあい先輩がいちばんほっとけないですよ・・・・・はぁ」
あい「じゃあ・・・・・そうだっ、私もムギちゃんみたいに曲を作ってみたい!」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
律「うおおっ、これすっげえな!」
澪「本当に私たちそっくりだった…」
唯「でしょ? ねえっ、すごくないこのブログ?!」
紬「すごいすごい! ほんとにみんなそっくりだね!」
唯「じゃあ私もこの話みたいに作曲してみようかな!」
律「おー、名曲つくったれー! って、文化祭もう終わってるってば」
唯「ちぇー」
澪「それ以前に私たちは受験生なんだからな」
7 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[sage saga]:2011/10/17(月) 09:54:06.08 ID:0bPeG8iio
律「でもほーんとよくできてるなあ…」
紬「もしかして、私たちを知ってる誰かが書いたんじゃないかな?」
唯「ええっ」
澪「唯、これどうやって見つけたんだ?」
唯「んとねぇ、なんか昨日の夜、変なメール来て、そこにアドレスが…」
紬「すごい! なんだかSF映画の出だしみたい!」
律「あはは! まあムギの言うとおりだなー。……で、澪しゃんや」にや
澪「なっなんだよ急に」
律「……これ書いたの、おまえだろー!」びしっ
澪「えっ……ええっ?!」
8 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[sage saga]:2011/10/17(月) 09:57:09.50 ID:0bPeG8iio
律「だってそうだろっ、私たちのこと知っててこんなん書きそうなのって」
唯「そっかあ、澪ちゃんこういうのも書いてたんだね!」
紬「澪ちゃんすごい! ねえねえ、続きよませてよませて! このあとどうなるの?」
澪「いや、あの…」
律「だろだろ? ひゃあー、さっすが元文芸部志望! ってか澪、人に受験べんきょ」
澪「だから人の話をきけ!」ぐにっ
律「いあ゙あっいだいいだい?!」
澪「私はこんな話書いてない! ……っていうか律、昨日一緒に世界史の勉強してただろっ」
律「ああー、そっか。そりゃ書く暇ないよな……すまん澪」
澪「というか律、昨日の内容覚えてるんだろうな……?」じとっ
律「……きゃはっ☆」
澪「よーしじゃあ今日も一緒にがんばろっかー」
律「わーん! みおしゃんせっしょうなあっ!!」
9 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[sage saga]:2011/10/17(月) 10:00:13.27 ID:0bPeG8iio
きーんこーん かーんこーん♪
唯「わわ、昼休み終わっちゃった」
律「はぁ…今日も勉強だよう唯ぃ……」
唯「りっちゃん……わたしっ、りっちゃんのこと、わすれないからあっ!!」だきっ
律「ゆいぃー!!」ぎゅうっ
紬「……わっ、わたしだってりっちゃんのこと忘れないっ!!」むぎゅうっ
律唯「「むぎいいい」ちゃあああああん!!!」
澪「みんなー…次の授業のしたくしようなー……」
唯「あれ、次ってなんだっけ?」
10 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[sage saga]:2011/10/17(月) 10:03:16.94 ID:0bPeG8iio
律「現代文だ。ったくー、だいじょぶなのかあ唯ー? もう十月だぞ?」
唯「てへへ…最近その、なんかぼんやりしちゃって……」
澪「うーん……唯は夏からすごくがんばってたから、疲れが出たのかもしれない」
唯「あはは、こんなことならもっと前から勉強しとけばよかったね」
律「それとももしかして、まさか、唯にいちはやく春の訪れが……?」にやにや
唯「そっそういうんじゃないよっ」
澪「ほらほら、そろそろ先生くるぞ」
紬「でもあの話、最後まで読めなかったね…」しゅん
唯「じゃあアドレスおくるからね!」
紬「唯ちゃん、ありがとう!」
律「唯、私にも!」
澪「……わ、私にも」
律「なーんだぁ、結局気になってんじゃーん」うりうり
澪「う、うるさいっ」
11 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[sage saga]:2011/10/17(月) 10:06:21.16 ID:0bPeG8iio
じゅぎょうちゅう!
先生「ですから、書きたいことだけ膨らんでいても書き方が分からなければ書けません」
唯「………」かりかり
先生「論述問題でも小論文でもなにを書くのでも、まず書き方を身につけましょう」
律「………」めもめも
先生「書き方と書く内容は両輪の輪です。この二つは、よく読むことによってのみ育ちます」
紬「………」かきかき
先生「よく読むとは、書いた人を理解することですから、読み書きはコミュニケーションでもあり……」
つんつん
唯「?」
姫子(……澪からだよ)ぼそっ
唯(ありがと…!)ぼそっ
『もしかして、唯が書いたのか?』
12 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[sage saga]:2011/10/17(月) 10:09:25.05 ID:0bPeG8iio
『わたしああいうの書いたことないよ。ムギちゃんかな?』
『私も書いてないよ。もしかして、梓ちゃん?』
『えー、梓はそういうタイプじゃなくね? まー今日の部活んときだなー』
『↑おい、勉強がメインだからな。』
先生「それでは大問五、これは文学史の問題ですね。では(1)を……」
唯「……えへへ…」かりかり
先生「……平沢さん」
唯「ひゃ……はい!」がたっ
先生「言文一致体を作ったのは、誰だったかな?」
唯「あ、ええっと……なつめそうせき?」
先生「違う違う。ちゃんと集中しましょうね」
唯「す、すみません……」
先生「では秋山さん。分かりますか?」
澪「はい。二葉亭四迷です」
13 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[sage saga]:2011/10/17(月) 10:12:49.58 ID:0bPeG8iio
ほうかご!
唯「もー、ムギちゃんがあんなタイミングで渡すからぁ」
紬「唯ちゃんがわるいんですー、授業はちゃんとききましょー」
律「まーまー、ここは二人とも悪かったってことで!」
澪「最初にメモ送ったのは律だろ」
律「……まーまー、過ぎたことじゃん♪」
唯「りっちゃんごまかしたーぶーぶー」
紬「でも、結局誰が書いてたんだろうね?」
律「だなー……あれだけ詳しいんじゃ、やっぱ私らの知ってる誰かだろ」
澪「わっ私は違うぞっ」
律「ほんとかー? あやしいなー」にやにや
澪「だから昨日は二人で――」
唯「わ、あずにゃん!」
梓「へ?」
14 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[sage saga]:2011/10/17(月) 10:15:53.23 ID:0bPeG8iio
たったったっ
だきっ
梓「ひゃっ」
唯「あずにゃあん探してたんだよー待ってたんだよー」すりすり
梓「なんですかいきなり…ていうか部室入りましょうよ」
律「そうだぞ梓。お前、まさかネット小説とか書いてたりしないだろうな?」
梓「はあっ…?! 律先輩まで、突然なにを言い出すんですかっ」
律「おっ、その反応は図星か?」にや
梓「何の話だかわかりませんが違います。……って、ムギ先輩まで落ち込まないでください」
紬「だって、梓ちゃんが書いてたらすごいなって思ったんだもの……」しゅん
澪「だとしたら、本当に誰が書いたか分からなくなるな」
梓「あのみなさんすいません、ちょっと話がつかめないんですけど……」
澪「ああごめんごめん。ちょっと気になるブログがあってな」
15 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[sage saga]:2011/10/17(月) 10:18:56.96 ID:0bPeG8iio
唯「これなんだけどね」
梓「……これが、どうしたんですか?」
唯「ここに載ってる小説のキャラがね、ほとんど私たちそっくりなんだよ」
梓「はぁ…」
紬「じゃあ続きは部室で読もう? 最後どうなるか気になる!」
律「そうだなー、ちょうど寸切れのとこでチャイム鳴っちゃったしなあ」
梓「はい、そうですね――って、あれ」
唯「あずにゃん?」
梓「いや、なんか身体が……えっ?」
澪「どうした? って、うわっ」
ガチャ
バタン
16 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[sage saga]:2011/10/17(月) 10:22:00.35 ID:0bPeG8iio
澪「なっ…ええっ?」
律「ど、どしたの澪」
澪「さっき身体が急に、誰かに押されたみたいに……」
紬「気のせいだよきっと、澪ちゃん疲れてるんじゃない?」
澪「そうかなあ…って、梓は?」
唯「あずにゃん、おいでよー?」
梓『それが、なんだか身体が動かなくって……!』
澪「え、そんな……」
律「おーい梓ー、先輩からかっちゃだm」
きーん こーん かーん こーん♪
17 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[sage saga]:2011/10/17(月) 10:25:04.79 ID:0bPeG8iio
唯(えっ?! こんな時間にチャイム?)
唯(って、声が出ない!)
唯(それに身体もぜんぜん動かない……どういうこと?!)
唯(どうしよう、っていうかみんなもぜんぜん身体が――)
律「……」
澪「……」
紬「……」
唯(みんな、どうしたの……?)
唯「……あずにゃんまだかなー。もう4時だよ」
唯(え!? いま私、口から勝手に言葉が!)
18 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[sage saga]:2011/10/17(月) 10:28:08.36 ID:0bPeG8iio
律「だなー。梓、遅くなるって言ってたけどさぁ」
唯(りっちゃんも……って、これさっきのあのブログだよね)
唯「あ。ロッキーたべる? お昼になずにゃんからもらったの、あまってたから」
唯(そんな……今日、ロッキーなんて持ってこなかったのに、ポケットから…!)
澪「……」
唯(なんとか言ってよ澪ちゃん……みんな、からかってるんだよね? わわっ、腕が勝手に動いた!?)
唯「はい!」
律「さんきゅー唯ー」
唯(これもブログ通りだ、じゃあ、次はムギちゃんが……)
紬「唯ちゃん、わたしにも一本!」
唯「あいよームギちゃん、おじょうちゃんかわいーからおまけにもう一本!」
唯(な、なにこれ……私、本当にあのブログの通りに操られてるの!?)
19 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[sage saga]:2011/10/17(月) 10:31:12.31 ID:0bPeG8iio
紬「あらあら♪ ありがとう、唯ちゃん! なんだか屋台のおやじさんみたいだね」
澪「練習って発想はないのかみんな……」
唯(どうしよう、なんなのこれ……私たち、普通にあのブログ通りに会話始めちゃってる……)
律「お? チョコに食指が伸びないってことは……さてはまた体重が」
澪「そっそういう意味でいったんじゃないからなっ」
律「えーいっ、身体検査だー!」
唯(二人とも危ないよ?!)
――ドサッ
20 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[sage saga]:2011/10/17(月) 10:34:15.71 ID:0bPeG8iio
みんながやりとりを続ける間、私はなにもできませんでした。
律「あたたた……うぅ」
何か見えない力に操られて、
紬「りっちゃん、澪ちゃん、だいじょうぶ?」
ブログに書かれた物語に操られる人形みたいになっちゃって、
澪「もう、練習するんだから! 今日こそ本気だす!」
身体が知らない誰かに乗っ取られてしまったのです。
ほら、台本通りならあずにゃんがそろそろ入ってくる。入ってきてしまう。
どうしよう、どうなってるの、早くきて、いややっぱ来ないで、
あずにゃんだけでも逃げて、誰か助けて……!
梓「すいません、予定よりかかっちゃって」
21 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[sage saga]:2011/10/17(月) 10:37:19.25 ID:0bPeG8iio
心の底でなにを祈っても、まばたき一つできないまま操られてしまう。
あずにゃんもやっぱ操られて、台本通りの台詞を口にした。
ああ、私が勝手に何か言ったよ、私の腕があずにゃんに近づいてく、抱きしめてしまう――
梓「ひゃっ……もう、いきなり抱きつかないでください!」
自分の身体に閉じこめられたみたいな感じで、私はずっとパニックでした。
それでもみんなはいつも通りの笑顔でやりとりを続けます。
おかしくなったのは私だけなんでしょうか?
唯「えへへー、あずにゃん分補給だねっ」
結局、私たちは身体を奪われたまま、
梓「はいはい……なんだかもう慣れちゃいました」
考えてもどうすることもできず、
紬「ねえねえみんな、この曲なんだけど、」
あのブログに書かれた物語が終わるまで、ずっと演技を続けさせられたのです。
22 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[sage saga]:2011/10/17(月) 10:40:22.64 ID:0bPeG8iio
◆ ◆ ◆
「“あなたの人生”という物語では、主人公はあなた自身です。」
小学校の国語か道徳の時間でこんな言葉を聞いたことがあるでしょうか。
でも、私はこれまでの人生で自分が物語の主人公だなんて思えたことはほとんどありません。
だって幼稚園の頃から文化祭の劇なんかでも木や石の役ばかりでしたし、
クラスでもほとんど活躍の機会がないレク係とかだったのですから。
正直、わたくし平沢唯は今の軽音部に入るまでぱっとしなかったです。
やれることもやりたいこともないし、聞かせたいことも見せられるものもなくて、
和ちゃんにだって高一の時「ニートになる」って言われちゃってたぐらいだもん。
それでも軽音部に入ってから、みんなのおかげで少しはやれることができたと思うのです。
りっちゃんや澪ちゃん、ムギちゃん。それに後輩のあずにゃん。
ギターボーカルとして文化祭で最高のライブができたのは、まぎれもなくみんなのおかげです。
でも、そこまで支えてもらっても私が表舞台に立てるのはステージの上でだけ。
普段の平沢唯はみんなに助けられてばっかりで、だめだめで、頭も上がらない。
憂やお母さんが作ってくれたごはんを食べて、和ちゃんたちに勉強を教えてもらって。
自分一人で何かを決めれるわけじゃないし、流されてばっかです。
そんな私だったのに、ある日突然本当に物語の主人公になってしまいました。
相変わらずばかだったから、本当のことに気づくのは遅すぎたのですが。
これはまず私の……いや、私たちの長い長い反省文となります。
ですからはじめに、考えもせずに物語をもてあそんでいた私たちが受けた罰について書かなくてはなりません。
23 :
◆ywkhR7Exfw
[saga]:2011/10/17(月) 10:42:38.54 ID:0bPeG8iio
とりあえずここまで
読んでくれた人ありがとう ひさびさのゆいあずだよ
全8〜10話構成なんで約一週間ほどおつきあいください
よかったら投下中にレスを挟んでいただけるとネタが広がるのでたすかります
というわけで次は憂が心配する話にする
#2「せかいかん!」 10/17 22〜23時辺りを予定
24 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/10/17(月) 16:12:41.71 ID:f9LrL8gjo
乙
ところどころ呼び方が混乱してるのはわざと?
25 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[saga]:2011/10/17(月) 23:09:46.60 ID:qWAlpae2o
#2 「せかいかん!」
その日、世界史のワークを近代ヨーロッパ文学まで終わらせると気づけばもう夜の八時過ぎでした。
窓の向こう側では十月の真っ白な月がこちらをのぞき込んでいます。
汗ににじんだ右手の小指側はもうシャーペンの芯やらなにやらで薄汚れています。
なんだか集中も切れてしまいました。おなかも空いちゃってたみたいだし。
私はペンをからっと投げて背中側に体重をよせ、ううーんと大きく伸びをします。
ちょっとイスの前足を浮かせてみたりして、転びそうな感覚を楽しんでみたり。
ってこんな風にゆらゆらしてるとせっかく覚えたことまで頭から落ちちゃいそうでこわいです。
あれ。『失われた時を求めて』書いたのってセルバンテスだっけ? うわ、ちがった!
直さなきゃ。わわ、修正テープどこだっけ? ああ、あったあった。
はぁ。なにやってんだろ私……こんなとこもし見られちゃったら、恥ずかしいな。あはは。
ふと見ると充電器につないでベッドに投げっぱなしの携帯が光っています。
あちゃー、メール来てたんだ……ぼすんとベッドに転がって、あわてて携帯を開きます。
澪ちゃんからでした。
『唯、ブログ更新されてた。
たぶん憂ちゃんが出てきそうだから、伝えた方がいいかもしれない。
それと、もし風邪引いたらお大事に。』
え……憂まで出てくるの? ていうか風邪引くってどういうこと?
むりやり受験勉強モードにして現実逃避していた頭が急に引き戻されます。
ブログとは、言うまでもなく数時間前に部室で話題になったあれのこと。
しぶしぶブクマしといた「おけぶいんSS速報!」を開きました。
トップページの最新記事には『まい「お姉ちゃんの代わりに部活にいかなきゃ」』というタイトル。
数時間前のことが頭をよぎったけれど、思い切ってその記事を読むことにしました。
26 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[saga]:2011/10/17(月) 23:10:13.66 ID:qWAlpae2o
#2 「せかいかん!」
その日、世界史のワークを近代ヨーロッパ文学まで終わらせると気づけばもう夜の八時過ぎでした。
窓の向こう側では十月の真っ白な月がこちらをのぞき込んでいます。
汗ににじんだ右手の小指側はもうシャーペンの芯やらなにやらで薄汚れています。
なんだか集中も切れてしまいました。おなかも空いちゃってたみたいだし。
私はペンをからっと投げて背中側に体重をよせ、ううーんと大きく伸びをします。
ちょっとイスの前足を浮かせてみたりして、転びそうな感覚を楽しんでみたり。
ってこんな風にゆらゆらしてるとせっかく覚えたことまで頭から落ちちゃいそうでこわいです。
あれ。『失われた時を求めて』書いたのってセルバンテスだっけ? うわ、ちがった!
直さなきゃ。わわ、修正テープどこだっけ? ああ、あったあった。
はぁ。なにやってんだろ私……こんなとこもし見られちゃったら、恥ずかしいな。あはは。
ふと見ると充電器につないでベッドに投げっぱなしの携帯が光っています。
あちゃー、メール来てたんだ……ぼすんとベッドに転がって、あわてて携帯を開きます。
澪ちゃんからでした。
『唯、ブログ更新されてた。
たぶん憂ちゃんが出てきそうだから、伝えた方がいいかもしれない。
それと、もし風邪引いたらお大事に。』
え……憂まで出てくるの? ていうか風邪引くってどういうこと?
むりやり受験勉強モードにして現実逃避していた頭が急に引き戻されます。
ブログとは、言うまでもなく数時間前に部室で話題になったあれのこと。
しぶしぶブクマしといた「おけぶいんSS速報!」を開きました。
トップページの最新記事には『まい「お姉ちゃんの代わりに部活にいかなきゃ」』というタイトル。
数時間前のことが頭をよぎったけれど、思い切ってその記事を読むことにしました。
27 :
(>>26は投稿ミス)
[saga]:2011/10/17(月) 23:14:28.70 ID:qWAlpae2o
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
→ 2010年10月04日 19:37 まい「お姉ちゃんのかわりに部活にいかなきゃ」 ★
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
くらさわけ!
あい「まいー…あいすぅー……」ぐてー
まい「だめだよお姉ちゃん、ちゃんと安静にしてなきゃ」
あい「うぅ…頭いたいよお……」
まい「どうしよう……お医者さんはもう閉まっちゃってるよね、夜中の十一時だし…」
あい「だいじょぶ、明日には治るよぉ……ごほっ、けほっ」よろよろ
まい「だっだめだよお姉ちゃん! ちゃんと寝てないと」
あい「……だって明日は久しぶりに練習するって、みんなと約束したんだもん」
まい「…そっかー………あっ」
28 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[saga]:2011/10/17(月) 23:17:18.04 ID:qWAlpae2o
――次の日
あい「あー、なずにゃんおはよう!」ダキッ
なずな「はぁ……朝から元気ですねー、あい先輩」
あい「えへへ。なずなちゃ…なずにゃんはきょうもかわいいねぇ」
なずな「へ?」
あい「なっなんでもないよ! えへへへっ」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
どうやら今回は風邪をひいたあいちゃんに妹のまいちゃんが変装する話のようです。
なっちゃんやなずなちゃんたちがちょっとずつ怪しんでワナにかけるのが面白かったです。
もしこれが私たちに何の関係もない話だったら、普通に楽しんでたはずなのに。
けど、明日の私がこの台本通りになっちゃうとしたら話は別、大変なことです。
出てくるキャラの人間関係からして、私が演じた“あい”の妹である“まい”とは憂で間違いないでしょう。
だとすると、憂も部室で起こったような出来事に巻き込まれてしまうはず。
まだ今一つ信じられないですけど。
そうそう、私だって風邪でもなんでもありません。
いまは平熱、たぶん36度。当然頭だって痛くない。ぴんぴんしてます。
なのに私、ほんとに風邪引いちゃうのかな?
そこまで再現されたら、もうこれ呪いかなにかです。
29 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[saga]:2011/10/17(月) 23:22:26.10 ID:qWAlpae2o
ちょっと数時間前のことを思い出してみます。
あの記事の再現が始まってから、私たちは部活を終える時間まで自由を奪われ、操られてしまいました。
やっとあの記事に書かれたお話の落ちまで行ったら、突然ぷつんと身体の力が抜けて、
はずみでいつもの席に座り込んでしまいました。
まるで糸を切られた操り人形みたいに気が抜けてしまって、しばらく誰も動けません。
陽の傾きかかった空の赤は、窓の外からみんなの影を焼き付けるほど濃く色づけています。
夕陽が私たちを捨てられたおもちゃみたいに映すのが、どうしてか気持ち悪くなるほど怖くって。
はっと我に返り、思わず自分の右手を動かしてみます。
ぐー、ぱー、ぐー。
よかった。ちゃんと動く。
自分の手を見てようやくこの身体が私の元に返ってきたのが分かりました。
そんな実感の冷たいしぶきが胸の奥に伝った数秒後。
足下をさらうような恐怖が津波のように押し寄せてきました。
――なあ、今の……なんだ?
誰に聞かせるでもない言葉を最初に発したのは、りっちゃんです。
30 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[saga]:2011/10/17(月) 23:29:29.29 ID:qWAlpae2o
律「今のって、」
はじめに自分の言葉を発したのはりっちゃんです。
そしたらみんな、操り糸をほどかれたみたいに口々に騒ぎはじめます。
唯「だよね、今のってあの記事の!」
紬「なんだか急に身体が動かなくなって、そしたらあのブログと同じ台詞を…」
唯「わかんない、けど――」
澪「唯。さっきのブログちょっと見せて」
澪ちゃんのせっぱ詰まった声に、あわてて携帯を開きます。
机に落としてしまいそうになりながら例のブログのあの記事を確認します。
五人の頭が画面の方に寄せられ、息づかいや心臓の音さえ重なり合うようです。
31 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[saga]:2011/10/17(月) 23:34:34.78 ID:qWAlpae2o
予感が確信に変わるにつれて、なにか悪い熱が胸の奥で膨らんでいくのを感じました。
重い空気のかたまりが私たち五人をまとめて押しつぶしてしまうような、悪い夢に呑み込まれたような感覚。
律「……同じだ」
りっちゃんの震えた声が聞こえました。
後輩のなずなちゃんが登場するシーンまでスクロールしたところで、あずにゃんが堪えきれず目をそらします。
なにか声をかけて安心させたかったけどどうすることもできず、
見たくないのと確かめたいのが入り交じった気持ちのまま、私は続きを読み続けます。
梓「先輩たち、からかってなんかいませんよね?」
律「ばか、私ら三人、唯以外はみんなあれ最後まで読んでねえんだぞ?!」
震える声で尋ねたあずにゃんに、りっちゃんが青ざめた顔で返します。
みんな私と同じように、あの話に操られていたみたいです。
澪「唯、続き見せて」
澪ちゃんの呼びかける声。私はあわてて続きのページを開きます。
一字一句確かめましたが……やっぱり、なにからなにまで今起こったことと一緒でした。
それも、その時は私以外の誰もまだ読んでいなかったはずの結末部分まで。
32 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/10/17(月) 23:36:23.71 ID:YFEzu/1SO
急に地の文増えたな
最初の台本はなんだったんだ?
多分、地の文満載で行くのが目に見えるな
33 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[saga]:2011/10/17(月) 23:39:40.46 ID:qWAlpae2o
律「……マジかよ」
紬「ぜんぶ一緒だった……」
めまいがしました。
読みながら頭の中で再生される声はまぎれもなく私たちのものなのに、
それなのに自分の台詞が自分のものに思えなくって。
もう、遠くで響くカラスの声と耳鳴りの区別が付かないぐらいにぐるぐるしてきて。
梓「……いっそ、からかっていてくれたらよかったのに」
あずにゃんの沈んだ声が心臓を揺さぶるように響くので、
私はつい心の中でごめんなさいって謝ってしまうのです。
よけいなものを見つけてしまって。なのに、不安を取り除くこともできなくって。
逃げるように携帯の画面に目を向けたらもう五時半過ぎでした。
部室の天井が低くなってきたような気がしました。押しつぶされちゃいそう。
また目をそらしてあずにゃんの方を見ると、向こうに見える空は赤とも青ともつかない色に染まっています。
見られてる気がしたのです。私たちが、巨大で得体の知れない視線に。
食べられてしまいそうにも思えたのです。私たちが、あのムラサキ色の獣みたいな雲に。
神様とも悪魔ともいえるような、決して手は出さないけど心の中までのぞき込んでるような存在。
昨日、ちらっとだけ見たブログのコメント欄が頭をよぎりました。
あんなふうに雲のような巨大な何かが私たちを眺めながら、今も好き勝手な感想を交わしているかもしれない。
そんな妄想が膨らます圧迫感と虫取りかごに閉じ込められたような閉塞感で、吐き気さえ覚えてきました。
張りめぐらされた静脈みたいに不気味な色の空と雲の眼差しが怖くて、
結局私はあずにゃんから眼をそむけてしまうのです。
34 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[saga]:2011/10/17(月) 23:44:51.78 ID:qWAlpae2o
律「……あ。でもさ」
そんな重たい空気を破ったのはりっちゃんです。
といっても、普段の元気な声じゃありません。
床に落ちて砕けたティーカップのかけらを拾い集めるみたいに、あたふたした声。
いつもみたいにみんなをぐいぐい引っ張っていくような力はありません。
律「えーっと、その……逆に考えてみようぜ」
澪「どういう意味だ」
澪ちゃんはちくりと刺すように声を上げ、はっと自分の口を指先で覆います。
発した声が思った以上に重く響きすぎて、それに自分で驚いてしまったみたい。
澪「わ。ごめん、律」
律「いいって。でさ、その……なにかに操られたんじゃなくて、予言、だったとか?」
よ、予言?
35 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[saga]:2011/10/17(月) 23:49:55.44 ID:qWAlpae2o
あ、と声をもらしてしまいます。
紬「どういう、こと?」
律「ああうん。もともとこうなるようにできてた、とかって」
書かれた通りに操られたのではなく、これから起きることが書かれていた。
そう考えると、さっき感じた恐怖が少し和らいだ気がしました。気のせいかも、ですけど。
澪「つまりこれは、未来が書かれたブログ、ってことなのか」
予言書。自分たちの未来が書かれた文書。ノストラダムスとか、そういうやつ。
なんだか急にあのブログがあやしい輝きを発した気がしました。
なにか大事なことをごまかしたようで怖かったけど、ちょっと面白そうだなとも思ってしまいました。
唯「じゃ、じゃあもしかして今までの私たちのやりとりも……」
律「あ、それあるかも。唯ちょっと見せて」
私たちは過去ログのページをいくつか開いてみます。
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【かころぐ!】
・なずな「先輩たちにちゃんと練習してほしいの!」
2010年10月03日 コメント[5]
・りお「歌詞を書きに海に行ったら私以外の部員がみんないた」 ★
2011年10月02日 コメント[8]
36 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[saga]:2011/10/17(月) 23:55:00.51 ID:qWAlpae2o
・つぐみ「今日のお菓子はシュールストレミングなの〜♪」
2010年10月02日 コメント[5]
・なつ「りおが小6の時の作文見つけたったwww」 ★
2010年10月01日 コメント[10]
・あい「新入部員のポンちゃんだよ!」なずな「えっ」
2010年09月30日 コメント[6]
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見たところ、どれも登場人物の一人の台詞がタイトルになっているようです。
試しにいくつかの記事を開いてみましたが、やっぱりすべて台詞だけで書かれていました。
まるで劇か何かの台本のようです。本物の台本なんて読んだことないですけど。
澪「あのさ唯、この海のやつ。昨日の私たちのことなんじゃないか?」
唯「え、……あ、そっか。たまたま澪ちゃんがいたって」
そうそう、昨日の日曜はたまたまあずにゃんと出歩いてたらりっちゃんたちに出くわして、
それで流れで海に行ったらちょうど澪ちゃんが来てて気まずくなって――
紬「その、昨日はごめんね?」
澪「いや、いいっていいって! ぜんっぜん気にしてないから!」
律「ていうか見ろよ、やっぱこれ昨日の私たちの会話そのまんまじゃん」
37 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[saga]:2011/10/18(火) 00:00:04.86 ID:pBaba4geo
りっちゃんに言われて記事に目を通すと、やっぱり聞き覚えのある台詞が並んでいました。
普段から意識しておしゃべりしてるわけじゃないから一字一句思い出したのではないですが、
覚えてる限りの私は、確かにここに書かれてた通りにしゃべり、動いていたのです。
やっぱこれ、未来が見えるんだよ。
りっちゃんが独り言のようにそうこぼしました。
澪「未来が見えるって、私たちはこの通りになっちゃうってことなのかな――」
梓「そんな、ありえないですよ!」
とつぜん声をあげたあずにゃんに思わずびくってしてしまいました。
梓「だって、そんな、未来が勝手に決められちゃうなんて、やっぱりおかしいです!」
突き刺すようなまなざし。その目は少しうるんでいるようにも見えました。
怖かったんだ、たぶん私とおんなじように。
でもそれ以上のことは射すくめる二つの瞳に向き合っても読めません。
38 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[saga]:2011/10/18(火) 00:06:09.98 ID:pBaba4geo
律「でもこれ、つい最近の私たちまでちゃんと書いてあるし、」
梓「書いてるのだって、普通の人間なんですよね? ただのブログなんだし」
そんな神様みたいなことがあるわけない。というより、あってはいけない。
傾きかけてた私たちに、きっぱりとあずにゃんは言うのです。あんなにも震える声で。
その場の空気が固まります。なんだか窒息してしまいそうで、どうしていいかもわからなくって。
紬「あ、でも絶対にそうなるってわけじゃないのかも……ほら、これ」
取り繕うようにムギちゃんが見せたのは、10月02日に更新されたもう一つの記事。
つぐみちゃん――おそらくムギちゃんのことでしょう――が変な食べ物を持ってくるというお話。
唯「む、ムギちゃん……その、シュールストレミングって、なに?」
そんな話をしてる場合じゃない気もしたんですが、一応気になっちゃったので。
39 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[saga]:2011/10/18(火) 00:12:16.29 ID:pBaba4geo
梓「確か、北欧あたりのとても臭い食べ物でしたっけ?」
ちょっと気まずくなりそうなところであずにゃんが話を合わせてくれます。
律「そうそう、なんか魚かなんかの缶詰で、飛行機に持ち込めないぐらい臭いって」
澪「って。何の話だよ」
思わず止めたあとで吹き出してしまったのは澪ちゃんでした。
張りつめるばかりだった空気が一瞬ほどけた気がします。
紬「……でも私、こんなもの持ってきてないよ」
みんなでシュールなんとかの話を読み終わった頃、改めてムギちゃんが言います。
お話自体はたぶんコメディで、臭い缶詰をどうやって捨てるかで右往左往する展開でした。
もっとも、今は笑うどころじゃなかったんですが。
唯「もしかして、予言書にも当たり外れがあるのかな?」
思いつきで言ってみました。……そしたら数秒後、あずにゃんの顔色が変わります。
40 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[saga]:2011/10/18(火) 00:18:19.69 ID:pBaba4geo
梓「あ……あっ、すいませんちょっと!」
あずにゃんはあわててブログが表示された私の携帯を奪い取ります。
目の色を変えて画面に向き合って、何かを確かめているようです。
梓「唯先輩。憂って自転車に乗れますよね?」
へっ?
ええっ、ああっうん、乗れるよ。そりゃ普通乗れるじゃん。
……急に聞かれて、授業中いきなり指名されたみたいにどぎまぎしてしまいました。
聞いたあずにゃんは、そうですかとつぶやくとまた携帯の画面に向き直ってしまいます。
なんだったんだろ、今の――
梓「澪先輩、オナニーって知ってますか?」
澪「えっ…えええっ?! いや、そのっ、」
って、あずにゃん何聞いてるの?!
41 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[saga]:2011/10/18(火) 00:24:26.68 ID:pBaba4geo
律「梓……さすがにそれは関係ないんじゃ」
私にもあずにゃんの考えが読めません……。
さすがに呆れた感じのりっちゃんに、あずにゃんはまた質問します。
梓「律先輩。先週の火曜か水曜、澪先輩の家でえっちなビデオ見ませんでしたか?」
律「見てないって!? いや、行ったけどさ! ってかなんで澪んち行ったの知ってるんだよ……」
隣の澪ちゃんと同じように顔を真っ赤にするりっちゃん。
あずにゃん、どういうつもりなんだろ……?
紬「梓ちゃん、なにか分かったの?」
梓「……やっぱりそうだ」
ぱちっ、と携帯を閉じてあずにゃんは私たちに言います。
梓「これ、十月一日以降でタイトルに星がついてるものだけ再現されてるんです」
42 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[saga]:2011/10/18(火) 00:30:30.61 ID:pBaba4geo
言われて確認してみると、たしかに星の付いた二つの記事だけは現実に起きていました。
休み前にりっちゃんが小さい頃の澪ちゃんの作文を持ってきたのも本当です。
この記事より前にも星付きのはありますが、
どうやら現実に起こるようになったのは澪ちゃんの作文の記事からのようです。
紬「ほんとだ……梓ちゃん、おてがらだね」
梓「あともう一つ問題があるんです」
あずにゃんはほほえんだムギちゃんの方を見向きもできずに続けます。
眉を下げてしょんぼりするムギちゃんと、まだ表情をこわばらせたままのあずにゃん。
なにか声をかけたかったのですが、やっぱりうまい言葉も見つからなくって。
澪「問題、って?」
梓「トップページ。ここに、投稿ページってありますよね」
私たちは画面を覗き込みます。
「おけぶいんSS速報はおけぶいんSS専門まとめブログです。
ニュー速VIPやSS速報VIPだけでなく、こちらのメール投稿フォームでもSSを募集しています!」
紬「……ねぇ、SSって、あの記事のことでいいのかな」
澪「そうだと思う……でも、これって誰でも投稿できるのか」
はい。
一段低い声のトーンで、あずにゃんは応えました。
誰でも書き込めるから、誰でも私たちのことを操れるってことかもしれません――そう付け加えて。
43 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[saga]:2011/10/18(火) 00:36:34.06 ID:pBaba4geo
SSってやつは誰でも書ける。書けてしまう。
だから、誰でも私たちを人形遊びみたいに操ってしまうことができる。
私たちはもう、見えない糸に身体中を縛り付けられているのかもしれない。
律「……つまり、私たち、誰かの書いた話の通りに操られてたってことか」
りっちゃんの言葉が音楽準備室に重く響きます。
想像もできないようなことが起きてしまって、怖いのかもよく分かりません。
自分たちのすることが、未来が、運命がすでに決まっているだなんて。
澪ちゃんに怯えた目を向けられたけど反射的にそらしてしまいます。
向こうであずにゃんの手が少し震えていました。
どうしていいか分からないまま、秒針の音がかちかちと歯ぎしりみたいに鳴っていました。
紬「で、でもそしたら、このブログ見れば未来が分かるってことなんじゃないかな?」
いきなりの声に、身体がびくってなってしまいます。
44 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[saga]:2011/10/18(火) 00:42:37.48 ID:pBaba4geo
ムギちゃんは沈黙をむりやり破るようにおどけた声で続けます。
紬「あのね、もしこれが私たちの未来を予言してるなら、その未来も変えたり、」
律「……そっか。じゃあ、もしかしたらこれ……すげーかも!」
いち早く反応したのはりっちゃんでした。
律「なあ唯、これすごいことになるかもしれないぞ!」
唯「へ、へえっ?! いや、あの……」
目を輝かせて私の手を握るりっちゃん。
でもまだ頭が追いついてなくて、うまく返すことができません。
いつものりっちゃんと違って思いっきり不自然で、たどたどしくて、
だけど変なこと言うと本当に壊れちゃいそうで、私は形になりかけた言葉を飲み込みます。
律「なあ、澪って文芸部に入りたかったじゃん? SSってやつ書いてみなって!」
澪「ばっばか! そんな、未来を変えちゃうなんて、……危ないだろ?!」
律「いいじゃんちょっとぐらいさあ。なんかこう、うまいもん食べられる話にしようぜ! なっ、ムギ」
紬「え、うん……そうだよね! 考えたら、何でも叶う魔法のブログだもんね」
何でも叶う魔法のブログ。呪いではなく、魔法のブログ。
テストの内容も、大学入試の答案だって、もしかしたら分かるかもしれない。
もし宝くじの番号とかが分かれば、下手したら億万長者になれるかもしれない。
そんな必死の呼びかけに、固まっていた澪ちゃんたちも少し乗ってきたみたいです。
したいことをして、食べたいものを食べて、楽しく好きに生きていけるかも。
それに、本来なら結ばれない恋でも、相手の気持ちを変えられるかもしれない。
……本当はこのときからちょっとだけ、使ってみたいな、なんて私も思ってしまいました。
45 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[saga]:2011/10/18(火) 00:48:40.91 ID:pBaba4geo
それからは主にりっちゃん、ムギちゃん、澪ちゃんの三人は今後のことを話し合いました。
あずにゃんはさっきから顔色が悪くて、話し合いにあまり参加せずに三人を眺めています。
りっちゃんは「なんでもいいから書いて投稿して、実験してみたい」と言っていました。
けれども慎重な澪ちゃんがそれを許すはずもありません。
今は動向を探りながら、この力が本当なのか、そして止める方法は無いのかを探ろう。
そんなところで話がまとまったみたいです。
私だってみんなのやりとりにあわせたかったのですが、正直ちょっとついていけなかったです。
肝心な時にみんなを助けられなくってって、ダメだなあって思っちゃいます。
たぶん、りっちゃんはみんなを元気にしたかったんだと思うのです。
そう思うといまいち場の雰囲気に乗れなくなっちゃって、
心配させちゃいけないと思うんですけど、私も不自然になっちゃいそうで、
律「……ゆい?」
唯「――へ? あっごめん、なっなにかな!」
律「唯、いま一瞬寝てただろ! あははっ」
唯「あ、あはは…」
……失敗しちゃってました。やっぱダメだ、私。
46 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[saga]:2011/10/18(火) 00:54:21.92 ID:pBaba4geo
今思うと、りっちゃんも目の奥ではずっと怖がっていたように見えます。
だってほんと不自然だったもん、急にはしゃいだりしててさ。
でもだめだ、いったん難しいことは忘れよう。たのしいことしよう。
気持ちを無理やり切り替えて、話を合わせることにします。
唯「ねっねえ! そしたらその、おいしいごはんとかも――」
言いかけたところで部屋の外から物音がしました。
心臓がぐいっとつかまれた気がして、みんな一斉に振り向きます。
さわ子「あんたたち、まだ残ってたの?」
律「……ふぃー、なんださわちゃんかよー…」
私もつられて力が抜けてしまいます。
さわ子「なんだ、ってなによ。顧問の先生にひどい言い方ねえ」
さわちゃん先生は口をとがらせました。
私はテーブルの上の携帯を取り上げてさわちゃん先生に今までのことを、
澪「すいません。ちょっとこれから軽音部をどうしていくかって話で盛り上がってしまって」
……言えませんでした。
47 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[saga sage ちょっと中断する]:2011/10/18(火) 00:54:58.61 ID:pBaba4geo
律「そうなんだよなー。梓一人で部員集められんのか? って先輩は心配で心配で……」
紬「それで梓ちゃんも一緒に、軽音部になにか残せないかなって考えていたんです」
梓「……はい。その、先輩方にいろいろ聞いていただいて
唯「……」
さわ子「ふーん……あんたたち、意外と世話焼きなのね」
律「意外とって失礼だなー、まったく」
みんな口を挟む間もなく、ごまかしてしまいます。
今さらあのブログのことは言えません。
どうやらごまかせたようで、それからは受験勉強の話題に変わりました。
しばらくりっちゃんの点数がいじられた後、でもね、と先生は付け加えます。
さわ子「そうねえ……梓ちゃん、何かあったら相談してね?」
さみしいじゃない、勝手に悩んで勝手に答え出されちゃったら。
そう言ってくすっと笑う先生はいつも通り子供みたいなのに、
なぜかこのときだけはお母さんのようにも見えてしまいました。……笑われるかな。
梓「大丈夫ですよ。心配いりません、なんとかしますから」
にこっ、とあずにゃんは微笑んでみせます。
その笑顔は、さっきのりっちゃんよりはうまく見えました。
48 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/10/18(火) 02:13:28.83 ID:4KiMH7aR0
やばい、おもしろい。
49 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/10/18(火) 07:20:09.73 ID:lKHNRelOo
こういうの好き
続きたのしみ
50 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/10/18(火) 22:05:51.27 ID:0Zai7LsDO
続きはやくー
51 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[saga]:2011/10/19(水) 09:54:03.40 ID:4QGItb6Yo
結局、あのブログのことはさわちゃん先生には言えませんでした。
理由をつけようと思えば、いろいろ挙げられるでしょう。
笑われるかもしれない。信じてもらえるか、少しだけ怖い。
なにより、受験も近くて進路指導で忙しい先生に迷惑はかけられない。
でも、今考えたものなんて全部後付けのこじつけです。
本当はもっとやっかいな、私たち五人の「なんとなく」の空気がそうさせたんです。
私たちは3年間、あずにゃんとは2年間、いいこともわるいことも共有しすぎました。
ですからひとたび動き出すと、並んだドミノのように、水面の波紋みたいに流れ伝ってしまうのです。
下校時、先生と別れたとたんに沈黙が私たちをふわりと包んでしまいます。
夏も終わってこんな時間ですから、外はだいぶ暗くなっていました。
なにか話すことないかな。
考えてみるのですが、うまくいきません。
ていうか、私どうして無理に話題探してるんだろ。
さっきさわちゃん先生に明るくよそおったから、後ろめたかったのかも。
みんなも、そうなのかな?
いや、違うよ。みんなはもっとちゃんとしたことで悩んでるはずだから。
52 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/10/19(水) 09:59:06.12 ID:SRaxxiZeo
お、たまたま覗いたら来てた
仕事終わったら読むわ
53 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[saga]:2011/10/19(水) 10:00:07.53 ID:4QGItb6Yo
高校に一番近い街灯の下にさしかかると、午後六時の暗がりに溶けて見えなかった黒い影がふいに姿を見せます。
その影がひどく重く見えて、そんな影を気にするほどうつむいていた自分にも気づいて、
わざとらしく顔を上げてみるのですが、その向こうでも私と同じようにうなだれる小さな影がありました。
二つにくくった髪が歩くたびに少し揺れていて、一瞬、冷たい手をあの子の体温であっためたくなります。
けどギターを背負っているので後ろからは抱きつけません。
私は前に回ろうとして――いや、それほどでもないか。ていうか、そんな場合じゃないんだ、今は。
澪「どうしよう」
そんなつまんない、自分勝手な悩みは澪ちゃんの声でシャボン玉みたいにはじけてしまいました。
私だけ、危機感に欠けてるのかな……ああもう、ちゃんと悩まなきゃいけないのに。
いや、悩んでるよ。そうなの? よくわかんないけど。……ああああ。
律「ゆい?」
唯「えっ、うん」
今度はうまく返せた、はず。
54 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[saga]:2011/10/19(水) 10:06:11.15 ID:4QGItb6Yo
律「あのさ、とりあえずアドレスもらっとくよ」
唯「うん。ブログだよね?」
他になにがあるんだよ、って笑うりっちゃん。ごめんなさい……。
携帯電話のメール画面を開いてブログの存在を知らせてくれたメールを探します。
寝る前にたった一人の後輩とのたわいないやり取りを件名の「Re: 」の数だけ重ねた一覧表示をスクロールしていくと、
そこには一通だけ知らないアドレスから送られてきたメールが一通。
届いたのは昨日の夜十時あたりです。
開いてみてもアドレスだけで、私も一度は間違いメールだと思ってスルーしてましたが、
ちょうど受験勉強にも疲れ、みんなとのメールもぱたっと止まってたので、なんとなく開いてみたのです。
紬「……なんだか笑えないな」
唯「え?」
紬「ほら、昼休みに。SF映画みたいって」
……あはは。
55 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[saga]:2011/10/19(水) 10:12:16.26 ID:4QGItb6Yo
メールを一斉転送したあとで、各自ブログを見ておこうとなんとなく決めて、
そのまま解散したのが夕方六時半頃でした。
家で待っていた憂に「疲れてない?」って聞かれましたが、うまく答えられません。
あの場で言葉を奪った空気はまだ油膜みたいに私の口をふさいでいるみたいです。
結局、このときは憂にはなにも言えないまま、私は受験勉強へと逃げ込んだのでした。
そして九時を過ぎて。
今回更新分を一通り読み終わった私はリビングで憂の作った夕食を食べていました。
きょうのメインのおかずはよく焼いたさんまです。
さんまは小さい頃から毎年このぐらいの季節になるとお母さんが焼いてくれました。
なので虫のやわらかい声が響く頃になると、大根おろしと少し苦い魚肉の味を思い出すのです。
憂「皮、むこっか?」
唯「んーん、だいじょうぶ」
とはいうものの、箸で皮をはがすのは今でもあまりうまくありません。
テーブルの向こう側で憂は皮と骨と魚肉をさらさら分解してみせるのですが、
私は内蔵の苦いところをつぶしてしまったりして、うまくやれません。
ブログのことが頭を離れないせいで、よけいに手さばきが悪くなってるのかも。
56 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[saga]:2011/10/19(水) 10:18:19.91 ID:4QGItb6Yo
唯「ねえ、関係ないんだけどさ」
憂は箸を止めて見上げます。
まるで私の話を最初から待っていたみたいに、少しも驚かずに。
唯「きょうね、びっくりすることあったんだよ。実は」
憂「ふふ、どうしたの?」
唯「もー、なにがおかしいのっ」
憂「わかるよー」
……そんなに分かりやすいのかな、私って。
でも、今なら止まっていた言葉がさっきまでとうってかわってすべり出そう。
家に帰ってきて、なんていうか「普通」に身体ごと浸かってみたような、
そういう抱き枕みたいなやわらかい空気が見えない油膜を溶かしたみたいです。
57 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[saga]:2011/10/19(水) 10:24:23.54 ID:4QGItb6Yo
私はきょう起きたことを一通り説明しました。
憂「お姉ちゃん。だめだよ、変なアドレス開いちゃ」
ええっ。まあ、それはそうだけど……ごめんなさい。
憂「うーん……それでつまり、そのブログに未来のことが書かれてる、ってこと?」
そうなのでしょう、たぶん。
私もどういう仕組みでとかぜんぜん分かりませんが、
なにか怖いことが起こってるのは確かです。
本当は憂にあんまり心配はかけたくなかったですが、
記事に憂っぽい登場人物が出てきてたので、黙ってるわけにはいかないでしょう。
唯「うん。でね、そのブログ、さっきも更新されてて」
――そこに、憂も、載ってるんだよ。
58 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[saga]:2011/10/19(水) 10:30:27.03 ID:4QGItb6Yo
言葉が出やすくなったとはいえ、まだなにかが胸の奥につかえたような息苦しさがありました。
たぶん、私たちの問題に憂まで引き込むのに抵抗があったんです。
それに憂に一度話してしまえば、もっともっと頼ってしまいそうだから。
まったく……高三なんだよ、私。しっかりしなきゃだめだよ、ばか。
憂「そうなんだ、それで……そのブログ、今も見られる?」
携帯電話をテーブルの向こうに渡すと憂はちらっと画面を見て、お味噌汁のわきに置きました。
ああそうだった、先に食べなくちゃね。
唯「じゃああとで……あぅ」
飲み込もうとしたら、魚の骨がささっちゃいました。
くすっと笑って「落ち着いて」なんて妹に言われる始末で、なんていうか情けないです……。
59 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[saga]:2011/10/19(水) 10:36:30.60 ID:4QGItb6Yo
憂「お風呂、先に入ってて。お皿洗ったらブログ読んでみるから」
食べ終わると、憂はそう言って私の重ねたお皿をてきぱきと持っていきました。
やっぱり憂の作るごはんが一番おいしいです。
きょうはあのことが気になって味わう余裕がなかったのが残念でしたけど。
そういえば、あずにゃんもいつか作ってくれるって言ってたっけ。楽しみだなあ。
憂「ふふ」
唯「え、なに?」
憂「梓ちゃん、どうだった?」
……ときどき自分の妹がおそろしくなります。
60 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[saga]:2011/10/19(水) 10:42:34.28 ID:4QGItb6Yo
憂「だって、梓ちゃんのこと話したり考えたりするとき、お姉ちゃんいつもほほえんでるもん」
唯「あぅ……私って、そんなに顔に出やすい?」
憂「お姉ちゃんだからだよ、たぶん。それで?」
それで、と言われてもどう答えていいか一瞬わからなくなります。
きょうはあんなことがあったから、そっちで精一杯。って、言い訳かも。
唯「……とりあえず、先お風呂はいるね」
考えることが多すぎて頭がぐるぐるしてきそうなので、自分に水でもぶっかけてやることに決めます。
うなづいた憂は私のお皿を持っていきます。
骨や皮をとるのが下手なせいで少し肉を残してしまった魚の目が、なんだかうらめしげでした。
61 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[saga]:2011/10/19(水) 11:01:45.68 ID:4QGItb6Yo
洗面所でさっきまでつけていた下着まではずして部屋着ごと洗濯機に放り込みます。
急に身体が2キロぐらい軽くなった気がしました。
そんな、十二単みたいなとんでもない服を身にまとっていたわけでもないのに。
汗でもかいていたのでしょうか?
なんだか、今日いろいろあった分の疲れごとはがし取ったみたいで身体がうわつくようです。
ほとんど乾いた、少しだけべたっとした身体に思いっきりシャワーを当てます。
水量は全開で、腕や胸の皮膚ごと剥がし取るぐらいに、頭の中身まで洗い流すぐらいに。
胸の奥まで空っぽにして、肌の感覚がなくなるぐらいにシャワーに打たれ、
目を閉じてみると……なんとなく、いつか見たあの子の姿がまぶたに浮かびました。
あずにゃんが、ただ笑ってて。どしゃ降りの雨の中、こわれたみたいに両腕広げて。
私も楽しくって、ずぶぬれなのにけらけら笑って、すべてがどうでもよくなって、ただ楽しくって。
思い出すだけで聞いたこともないような音楽が聞こえる気がして、
噛みしめるだけで食べたこともないようなふしぎで甘い味が広がる気がして。
背中の冷えを感じてシャワーを頭の方から移すと、曇った鏡に変な顔した一人の女の子が映ってました。
とたんに恥ずかしくなって、流れ出る水を思い切りぶつけてしまいます。
62 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[saga]:2011/10/19(水) 11:08:49.37 ID:4QGItb6Yo
あれはいつだろう。
そうだ、六月の大雨の日だ。嵐の中を二人で特攻部隊みたいに走って帰った日。
ギー太持って帰るのあきらめて、むったんと一夜を過ごすなんて言ったら照れちゃってさあ。
シャワーを止めてボディソープを泡立てながら、一緒にお風呂に入ったことを思い返してみます。
噛みすぎて味のなくなったガムの、まだ残る味を噛みしめるように。
お風呂で二人、私は小さな身体をあっためながら、なんかいいなって、変ににやけてるのつっこまれて。
そういえば。
梅雨が明けた頃から、私たちが二人きりになることは減った気がします。
そりゃあそうでしょう。だって大事なことがたくさんあったんですから。
文化祭のライブ。進路決定。受験勉強。
計画を立てたり物事を続けたりっていう、苦手なことばかりがありました。
そして、これからも。ちゃんとした形で、卒業できるように。
卒業? うん。そしたら、たぶんハッピーエンド。
ハッピーエンド? ほんとに?
唯「……はあーあ。なんか、ぐだぐだだよねー私。ゆいー、ちゃんとしなさい」
吐き出すようにおどけた声を出して見ると、自分の声がさいなむように響きました。
それはまるで誰かに聞かせるみたいで、
もうすでに誰かに聞かれてる気がして、
63 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[saga]:2011/10/19(水) 11:15:53.29 ID:4QGItb6Yo
そのとき。
ふと。憂にあのブログのことを言ってしまったのを思い出して、
もしかしてこの思考も全部すでに書かれて読まれてるんじゃないかって急に怖くなって、
誰かが私を見てるような、肌の感触からあの思い出まで読まれてる気がして、
壊さなきゃって、もしそんなものを伝える機械や仕組みがあるなら壊さなくちゃって、
なんか急に不安になってきて、
なんか急に恐怖が襲ってきて、
なにかこう、逃げなきゃ、予想を覆さなきゃ、書かれそうにないことを、私っぽくないように、
唯「ああー。あー、あー! 私は平沢唯です! 好きな食べ物は……夏目漱石です!!」
……なにやってるんだろ、私。あはは。
憂『おねえちゃーん、なーにー?』
唯「なっなんでもなーい! そろそろあがるからー」
足音が遠ざかるのを聞いて、十数秒前の気持ち悪さがとたんにばからしくなって、
ごまかすように私は自分の身体を浴槽に沈めようとして、
唯「あわ、まだ流してなかった……」
こんなんじゃだめなのに。どうしたらいいんだろ。
64 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[saga]:2011/10/19(水) 11:22:57.33 ID:4QGItb6Yo
憂「お姉ちゃん、読んだよ。おもしろかった」
お風呂上がり。
バニラバーをなめていた私に憂はそう言って携帯を返しました。
憂は……あんまり動じていないみたいです。
たぶん、信じていないんだと思います。
そりゃそうでしょう。ブログに書かれたことが本当になるなんて。
心配になるどころか、私だったらなにをどう心配すればいいかすら想像つかないはずです。
想像力、あんまないし。
唯「たぶん、幻覚とか催眠術みたいなものだよね。気のせいだよ」
さっきの私のばかみたいな行動なんて、まさに錯覚に振り回された例でしょう。
憂「そうかなあ。さっき、梓ちゃんもそう言ってた」
唯「え、あずにゃんと話したの?」
憂「うん。メールだけど」
そっか……私、頼りなかったから心配されてたのかも。
がんばらなきゃだよ。ああ、もう。
憂「それで、もし本当にそれがそうなら、って考えてみたんだけど」
65 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[saga]:2011/10/19(水) 11:30:24.86 ID:4QGItb6Yo
あれ。
憂、信じてるの?
憂「まだ信じられないけど、でも……お姉ちゃん、そんな顔で嘘つかないから」
唯「……そっか」
真偽は分からないけれど、私のことは信じている。
そう言い切る、そこまで言える憂に、私は少し申し訳なさを感じました。
バニラバーの冷たさが舌にひびくみたいで、さすがにこの時期はきついかなって。
唯「ごめんね。巻き込んじゃって」
憂「大丈夫だよ。それでね……読んでて、私思ったんだ」
元気付けるようなほほえみをくれたかと思うと、その顔はすぐに曇ってしまいます。
その曇りはすぐに晴れて、新しいレシピを見つけたときみたいな顔に戻るのですが、
残像として脳裏に残った憂の顔は変に気になってしまいます。
66 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[saga]:2011/10/19(水) 11:37:28.43 ID:4QGItb6Yo
唯「……憂はどう思う? おけぶいんって」
憂「うーん、本当だったら、すごいなあって思うよね」
だけどね、と憂は付け加えます。
――もし本当だったら、これを書くのって、すごく怖いことだと思うんだ。
67 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[saga]:2011/10/19(水) 11:50:16.22 ID:4QGItb6Yo
唯「怖いって、やっぱりそうかな? うーん、たしかに操られるのは……」
憂「書く方だって、好きなようにできちゃうのはおそろしいと思うよ」
うーん……。
今の私には、よく分からなかったです。
だって書く側はなんでも好きなように作れるんだよ?
だったら、怖い思いなんてしないように、させないようにできるんじゃないかな?
憂「ふふ。お姉ちゃんはやさしいね」
唯「そうかなあ……想像できてないだけだよ」
ほんと、だめだ。想像力つけなきゃいけないのに。
憂「書く人って、なんでも好きなようにできるなら、神様だよね」
唯「うん」
憂「でも、私たちにとっては神様でも、その人にとってその人自身は普通の人間なんじゃないかな」
普通の人間がとつぜん神様にならなきゃいけなくなって、
みんなが完璧に幸せになれる世界を作ろうとするのって、
そんな重すぎる責任、担える人なんて普通はいない。
憂はそんなことを話すと、また顔を曇らせるのでした。
68 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[saga]:2011/10/19(水) 11:55:59.86 ID:4QGItb6Yo
私はそんな憂に元気になってほしくて、なにを言えばいいか考えます。
けど、話すことなんて浮かびません。
神様になる怖さは、私にも想像できるものでした。
唯「……でも、りっちゃん言ってたよ」
自分で考えられないので、引用になりますけど。
唯「おけぶいんのSSはセリフだけだし、そこまで悩まなくても書けるんじゃないかって」
たしかに、澪ちゃんぐらいだったら書けそう。
私は……ゼロからお話を作って書いて、なんてたぶん無理だけど。
「U&I」だって、本当にあったことがきっかけで書けたんだし、
澪ちゃんみたいなかわいい歌詞なんて書けっこないもの、
憂「……そう、かなあ」
69 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[saga]:2011/10/19(水) 12:00:09.24 ID:4QGItb6Yo
唯「大丈夫だよ。たぶん、みんなで考えればいい方法も浮かぶはずだし」
そうです。
りっちゃんが引っ張ってくれて、
ムギちゃんが支えてくれて、
澪ちゃんがまとめてくれて、
あずにゃんがそばにいてくれれば。
きっと、きっとなんとかなるよ。
唯「それに、憂だっているもん」
憂「ふふ、ありがとうお姉ちゃん」
よかった。憂も笑ってくれた。いつも通り。
たぶん、あした学校に行ったら誰かが答えを出して、導いてくれるはず。
大丈夫、だよね。うん。
言い聞かせながら、不安をうまくくるみながら、でもそのうち本当に大丈夫な気がして。
70 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[saga]:2011/10/19(水) 12:05:07.52 ID:4QGItb6Yo
唯「うーいっ」
私は食べ終わったバニラバーの棒をごみ箱に捨てると憂の元へ、
駆け寄ろうとして、
だきつこうと、して、
あれ?足が
足がうまく
からだのかんかくが
……ああっ!あたまが、あたまのおくが、ゆわんゆわんして!!
「ちょ……大丈夫、おねえちゃ
ねえ、うい? どこっ、まっくらに――
「おねえちゃ……えっ すごい熱……どうして……!
息が、えほっ、ごほっ……なんで、いきができな……
……えちゃん! おねえちゃんっ――ねえっ、どうしたの?!ねえっ!!」
71 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[saga]:2011/10/19(水) 12:12:03.42 ID:4QGItb6Yo
――まず、じっとり湿ったタオルケット。
おでこに冷たいのが染みこんでく。でも、痛くて重くて、熱い。
あたまがぐるぐるする。
ぼうっとする。喉がひりひりして……ごほっ、けほっ、こほっ
ここは……ああ、そっか。
憂「おねえちゃん、だいじょうぶ?」
どうやら一瞬のうちに意識を失ったらしい私は、憂に看病されていました。
それにしても、こんなにすぐ手際よくできるなんて。
憂「えっと、念のためって……ごめんね、私も、ほんとうにそうなるなんて」
そこでようやく憂のはれた目に気づきました。
さっきまで泣いてたばかりなんでしょうか。
ごめんね、お姉ちゃん、やっぱり心配させちゃった。
72 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[saga]:2011/10/19(水) 12:13:22.30 ID:4QGItb6Yo
憂「……あのね、わたし、おねえちゃんにっ、」
そんな憂の泣き顔を見たら、いてもたってもいられなくって。
倒れる寸前に感じた、身体がばらばらになるような恐怖もどっかいっちゃって。
そうだよ、大丈夫って伝えなきゃ。
うん。大丈夫なんだ。大丈夫って決めたんだから。
あの話が終わったら、私の身体も治るはず。死んだりはしないはずだから。
唯「うい、わたしは、だいじょ
――言おうとした瞬間、言葉がなくなりました。
私の言葉を、今回の神様に奪われてしまいました。
ああ、またあの時の感覚だ。
73 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[saga]:2011/10/19(水) 12:13:52.89 ID:4QGItb6Yo
それからの流れは、部室の時と同じでした。
唯「まいー…あいすぅー……」
憂「だめだよお姉ちゃん、ちゃんと安静にしてなきゃ」
憂の心配そうな顔は変わりません。それだけが、なんだかただ一つの救いに感じます。
唯「うぅ…頭いたいよお……」
憂「どうしよう……お医者さんはもう閉まっちゃってるよね、夜中の十一時だし…」
唯「だいじょぶ、明日には治るよぉ……ごほっ、けほっ」
ちょうど私が奪われた言葉を神様に言わされるなんてひどい嫌がらせだと思いながら、
私の口はしばらくの間、他人の言葉を語り続けたのでした。
74 :
◆ywkhR7Exfw
[saga]:2011/10/19(水) 12:20:38.90 ID:4QGItb6Yo
今回はここまで
読んでくれた人ありがとう 寝落ち+外出で大幅に間が空いてすまない
とにかく次は律澪にする
#3「みせば!」 今週金曜〜日曜辺りを予定
>>24
ぶっちゃけ
>>18
の唯の台詞は誤字だけどどうにかして伏線にできれば・・・いいのに・・・・
75 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[sage]:2011/10/19(水) 12:24:40.64 ID:4QGItb6Yo
おっとこっちは今のうちに訂正
>>73
× 唯「まいー…あいすぅー……」
○ 唯「ういー…あいすぅー……」
76 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/10/19(水) 19:32:59.65 ID:haMLXVLio
次回も楽しみにしてるよ
乙
77 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2011/10/19(水) 22:05:31.50 ID:SRaxxiZeo
乙
78 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(埼玉県)
[sage]:2011/10/22(土) 21:59:39.29 ID:bySxHio/o
面白い!
79 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
[sage]:2011/11/21(月) 18:08:55.50 ID:LgewqY2mo
久しぶりに読み応えあるなと思ったら一ヶ月更新なしかよ…
80 :
◆ywkhR7Exfw
[saga]:2011/11/24(木) 03:04:07.26 ID:b9tPVtJ+o
#3 「みせば!」
やっぱり、書かない方がいいと思う。
ちゃんとした話を、誰も傷つかない話を作る自信なんてないから。
澪ちゃんは今朝、部室で最後にそうまとめました。
きっぱりとそう言い切られてしまうと、本当にそんな気がしてしまいます。
私は思わず場をつなぐような言葉を探そうと思ったのですが、
ごまかすようにスナック菓子の箱に手を伸ばしたところでもう空っぽで、
ついでに気のきいた意見の一つも思いつきません。
あずにゃんの向こう側、窓の外側は空箱みたいにくすんだ色で覆われています。
雲の厚さのせいか、なにか本当に閉じこめられてしまったような気がしました。
ブログについての話題も尽きたせいか、ふっと会話の流れが途切れてしまって、
うまく形にならないまま、私たちは教室に戻ります。
本当はその時から、なにか大事なことを見逃しているような気はずっとしていました。
言い訳に、なってしまうのですが。
81 :
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(埼玉県)
[saga]:2011/11/24(木) 03:06:10.67 ID:b9tPVtJ+o
昨日の五時過ぎ、おそらくあの記事の再現が終了した直後、
私を苦しめていた熱や喉の痛みは夢から覚めるようにすうっと消えてしまいました。
家のどんな薬を飲んでも憂の作ったおいしいお粥を食べても治らなかった、
ある意味で不治の病だった私の風邪は跡形もなく消えてしまいました。
残された私は着替えてあずにゃんたちを迎えにいこうとも思ったのですが、
流れ出た汗に湿るパジャマや寝過ごしてふわふわした頭はしばらく戻りません。
そうこうしている間に家の鍵が開く音。憂が帰ってきたみたいです。
重く巻き付くようなパジャマを引きずるようにして玄関先まで迎えに行きます。
唯「憂、ただい……」
なにかを言うより先に抱きつかれてしまいました。
82 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(埼玉県)
[saga]:2011/11/24(木) 03:13:14.05 ID:b9tPVtJ+o
しがみつくなりしとしとと涙を降らせる憂の背中に、ぎゅっと腕を回します。
こんなわけのわからないことに巻き込まれて、憂も気を張っていたのでしょう。
大丈夫だよ、なんとかなるよ。気のせいだよ。
あったかい身体をなでながら、そんな気休めさえも口にできなかったのは、
たぶん私が自分の言おうとしたことさえまるっきり信じれてなかったからです。
憂「よかったあ…こわかった……」
唯「……おつかれさま、憂」
身体を震わせる憂の髪を撫でながら、こんな風にするのはいつぶりだろう、
なんて場違いなことを考えてしまって、私は心の奥で謝ります。
誰に? ……とにかく、だれかに。たとえばこう、神様とかに。
と、おなかが鳴ってしまいました。いまいちしまらないです……。
憂「ふふ、ごはんもう作っちゃおっか? ありがとう、お姉ちゃん」
そう言って乾ききらない涙を目元に残したまま笑うと、憂がそそくさと自分の部屋に向かいます。
なにもすることの浮かばない私はぼんやりと廊下に取り残されました。
83 :
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(埼玉県)
[saga]:2011/11/24(木) 03:20:17.46 ID:b9tPVtJ+o
夕飯を食べてからは憂と二人でブログについて話しました。
それから実際に二人で過去ログやSSについて調べてみました。
分かったことはいくつかあります。
まず、記事となる小説――SSというらしいです――はネットの掲示板に投稿されたものでした。
「おけぶいんSS速報」の場合は読者からのメール投稿も行っているようですが、
記事になるSSのほとんどは掲示板からの転載でした。
これはさっき部室で澪ちゃんたちに聞いたのですが、
掲示板に投稿されたSSを転載するブログはいくつもあるみたいです。
「まとめサイト」と呼ばれるそんなブログの中でも、SS専門ブログは一定の人気があるようです。
百合ファイル、ミッシェル速報、SSふらっしゅ、SS海くらげ、
ありすフォーマー、SS保管場所……ざっと見ただけでもこれだけありました。
ですが、他のサイトがアニメやマンガのキャラクターを借りたSSも多く載せているのに対して、
この「おけぶいんSS速報」はどうやら「おけぶいん!」という作品のSSしか掲載しないみたいです。
ブログの管理人も以前は作者の一人だったようで、「おけぶいん!」に思い入れがあるようです。
ですが、どうもおかしなことがあります。
SS、というのは二次創作といってほとんどがアニメやマンガのキャラクターを基にしたものですが、
私たちを操るSSの原作のはずの「おけぶいん!」という作品は、いくら検索しても見つかりません。
それもそのはずでした。
「おけぶいん!」なんていう作品は、そもそも存在しなかったのです。
84 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(埼玉県)
[saga]:2011/11/24(木) 03:27:20.41 ID:b9tPVtJ+o
調べると、「おけぶいん!」はネット上で作られた架空の作品でした。
架空の作品の二次創作、という設定で匿名の複数の作者が少しずつ作り出していったみたいです。
キャラクターの設定はいくつか決まっていました。
こんな感じです。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
→ 2009年05月12日 19:37 「おけぶいん!」キャラクター紹介!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
・倉沢あい (
http://j.mp/w3iiEO
)
高校生。桶で遊ぶだけと勘違いしたまま部活に入部する。
説明書も読まずに直感で動くタイプ。
かわいいもの、ちいさいもの、甘いものが大好き。
・田中なつ (
http://j.mp/ufqfFU
)
部長として部員をひっぱるリーダー。
大ざっぱでノリがよく、元気いっぱいな性格。
りおとは幼稚園からの幼なじみ。
・秋川りお (
http://j.mp/u2XPXo
)
なつの幼なじみ。
容姿端麗で成績優秀だが、恥ずかしがり屋で引っ込み思案。
自分を変えようと演劇部に入部するつもりが、なぜかこの部活に。
・山吹つぐみ (
http://j.mp/ujHtiN
)
おっとりした物腰やわらかなお嬢様。
部室にいつもお茶菓子を用意して、あいたちとティータイムを楽しむ。
ピアノの腕も一流で、実はかなりの力持ちだったりする。
85 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(埼玉県)
[saga]:2011/11/24(木) 03:34:22.43 ID:b9tPVtJ+o
・中村なずな (
http://j.mp/vvaxti
)
新しく入部した1年生。あいの妹、まいとも同じクラス。
まじめな性格で、部活のゆるい空気にはちょっとやきもきしている。
音楽一家に育ったおかげでテクニックは確かなもの。
・倉沢まい (
http://j.mp/vlFdMi
)
あいの妹で、なずなのクラスメイト。
気だてがよくて万能で、家事も勉強も達者なよくできた妹と評判。
姉を含む周りの人々へのお世話がほとんど生きがい。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
それぞれにイラストが付けられていて、その姿も私たちに生き写しでした。
本当に私たちのことを見て書いているんじゃないかとうすら寒くなります。
他にも「佐々木ゆん」「渡部まどか」といった人物が登場するようですが、
二人はどうも作中での登場頻度が少ないようで、
メインのキャラとしては扱われていないみたいです。
和ちゃんは、私が幼稚園の時から家族のように仲良くしてきた大親友です。
そりゃあ軽音部のみんなやクラスの友達と比べることはできませんが、
“サブキャラ”なんて勝手に言いきられてしまうのは、やっぱり納得できないです。
純ちゃんだって、最近あずにゃんや憂を通して仲良くなったのですが、優劣や序列なんて付けたくない。
みんな、友達を“サブキャラ”なんて簡単に言えちゃうものなのかな。
いま、私はだれの“サブキャラ”なんだろう?
私はみんなが大好きなのに。
86 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(埼玉県)
[saga]:2011/11/24(木) 03:41:30.69 ID:b9tPVtJ+o
そんな話を憂にすると、憂は「物語だからしょうがないよ」となぐさめました。
物語には終わりがあって、登場人物の数が決まっていて、そんな枠組みがいくつもある。
そうでなければ、いらないことを切り捨てなければ出来事を物語として記録することはできない。
物語はそういうものなんだって、高校受験で小説を読むときもそう言われた気がしました。
それは確かに、そうだと思うのですが、
じゃあ“いらないこと”ってなんなのでしょうか。
ふと、あずにゃんが前にティーセットを片づけてしまおうとしたのを思い出します。
ちょうどこのキャラ紹介記事が書かれたころでした。
いまではあずにゃんは率先してティーカップを運んでくれます。
出会った時に比べると、笑い顔がとても多くなった気がします。
確かに、私たちは軽音部なので練習以外のことはいらないことなのかもしれません。
でも、それでも絶対に必要なのです。
なんでかって言われてもうまく言い返せないけど、
とにかくそういうのがなけりゃ私たちじゃなくなっちゃうんです。
87 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(埼玉県)
[saga]:2011/11/24(木) 03:48:34.11 ID:b9tPVtJ+o
部室でみんなの話を聞きながらここまで思い返すと、ますます気持ち悪くなってきます。
私は指も手足も動かせて、息をしてものを食べる生身の人間なのに、
ネット上の読者たちには当然のように“架空”だとか“創作”なんて言われてしまうなんて。
勝手に物語にするために“いるもの”と“いらないもの”を決められてしまって、
あまつさえ、そんな想像上の存在に運命を乗っ取られてしまうなんて。
だったら。
それならいっそ私だって、作者の側に回ってしまえば。
世界観を設定して登場人物を動かして運命を定めて、
“いるもの”と“いらないもの”を自分で決められる立場になってしまえば。
そんな風にも考えてみるのですが、
本当に友達を動かすって考えると気が引けてしまいます。
私が“いらない”と決めたものが、他の誰かには大事なものだったら。
そう考えると、一文字も書き出す勇気がわきません。
澪ちゃんも、たぶん怖かったんだと思います。
88 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(埼玉県)
[saga]:2011/11/24(木) 03:55:37.48 ID:b9tPVtJ+o
澪「――唯?」
唯「あ、ごめんごめん」
気づけばみんな荷物を片づけているところでした。
糖分がないと頭がうごかないってりっちゃんが持ってきたお菓子ももう空っぽです。
あずにゃんは、食欲がわかないと言ってあまり食べてませんでしたが。
梓「唯先輩、昨日ちゃんと寝れました?」
唯「ほえ? えーっと、うん、ふつうかな……?」
そしたらあずにゃん、急にくふふって笑うのです。
え、今のおかしかった?
梓「すいません、なんでもないです……ふふ、唯先輩は唯先輩ですね」
唯「あ、うん……大丈夫だよ。あの風邪はすっかり治ったから!」
梓「……そう、ですね。唯先輩が元気なら、私も大丈夫です」
なんだろう。
やっぱり食欲ないみたいだし、疲れてるのかな……?
89 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(埼玉県)
[saga]:2011/11/24(木) 04:01:46.88 ID:b9tPVtJ+o
律「ちゃんと食わないから背が伸びないんだぞー」
梓「……分かってます。そのぐらい」
律「……ま、人のこといえねーけどさ」
あは、ってつっこみの入らない自分のギャグを自分で笑い飛ばすりっちゃん。
あずにゃんは小さな体をさらにちぢこませるようにそそくさと部室の戸締まりを確認しています。
朝来たばかりだから、窓も開けてないと思うんだけど……。
梓「そういえば唯先輩、ブログ読んでみてどうでした?」
唯「え? ああっうん、面白いんじゃないかな」
あずにゃんの声。急に呼ばれて、一テンポ遅れてしまいます。
見るとなんだかまじめな目で私の顔をのぞきこんでいます。
90 :
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(埼玉県)
[saga]:2011/11/24(木) 04:11:49.95 ID:b9tPVtJ+o
梓「もー、ちゃんと読んだんですか?」
唯「うーん……すごいのもあったけど、おもしろかったよ?」
あの、私があずにゃんにサプライズしかけるのとか、それと、……うーん。
まじめな返事を期待されたはずなのに、
面白いとかつまらないぐらいしか言えない自分がいやです。
小学校の時の読書感想文も、苦手だったもんね……あーあ。
でも、っていうかだって私は、
梓「――ひゃっ」
ぎゅうっ。
唯「本物のあずにゃんの方が好きだもん!」
91 :
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[saga]:2011/11/24(木) 04:21:53.16 ID:b9tPVtJ+o
ごまかさないでください、なんて腕の中であめ玉みたいな声で言うあずにゃん。
ごまかしてなんかないよ、ほんとにそう思うんだもん。
きょう初めての体温、本日最初のあったかあずにゃん分です。ぎゅうっ!
澪「でも、案外いろんなジャンルがあるんだね。日常ものとか恋愛ものとか」
律「あー、あれ笑った! 澪が吐きながら襲いかかってくるやつ!」
澪「いきなりそのSSか」
律「あんなの再現されたら大変だよな……こう、澪がぐわあーって!」
ぱしん。澪ちゃんがりっちゃんをひっぱたくとこまでがお決まりの流れ。
あはは、って思わず笑ってしまって、
そしたら腕の中のあずにゃんのこと思うとふまじめっぽくて申し訳なくなって、
ていうかそんなの再現されちゃったら本当に、
梓「そうですよね! コメディとか、うまく書ける人ってすごいなって思います!」
あれ?
意外と落ち込んでなかったのかな?
92 :
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[saga]:2011/11/24(木) 04:31:56.58 ID:b9tPVtJ+o
紬「そうそう、昨日すごくいいSS見つけちゃった! 切ない恋愛ものなんだけど」
澪「ふふ、ムギはそういうの好きそうだもんな」
律「えー? 澪はもっと好きそうじゃん」
澪「好きだけど、なんだろ……リアルすぎると恥ずかしくなってくる……」
照れて口元を隠す澪ちゃん。
やっぱり、読み込みすぎると感情移入しちゃうのかな?
っていうか、私たちがふつうにみんなとこう、恋愛的な意味でつきあってる設定って、
律「あはははっ、ってか唯と梓はもう付き合っちゃえばいいんじゃね?」
唯「……あぅ」
気づくといきなり恥ずかしくなってきました。
私、思いっきり抱きしめちゃってるし。
93 :
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[saga]:2011/11/24(木) 04:41:59.86 ID:b9tPVtJ+o
ええとつまり、私と、あずにゃんが、付き合ってる……!
えっそれってふつうにちゅーしたりデート行ったりそれにえっと、
紬「ふたりとも、顔まっかだよ?」
梓「言わないでください!」
あはは……って、なんかこの部屋あつくない?
梓「それは唯先輩が抱きついてるからです!」
律「ムギちゃま、ふたりともお熱いことですわねぇ?」
唯「もうあずにゃんいけずー…!」
もうこうなったら、勢いです。
いっそほんとに付き合っちゃって、ちゅーとかしちゃうかいお嬢さん?
梓「朝っぱらからはずかしいことしないでください!」
ばたん。
さすがに突き飛ばされました。ガードかたいよ……。
94 :
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[sage saga]:2011/11/24(木) 04:44:28.28 ID:b9tPVtJ+o
澪「お前ら、そろそろ授業始まるぞ……」
澪ちゃんがあきれた目を向けました。ごめんなさい。
テーブルに残ったお菓子の空き箱をゴミ箱に捨ててしまって、カバンを拾い上げます。
律「ってかムギ、さっきのSSってどんなの?」
するとりっちゃんが尋ねました。
紬「ええっと、今年の八月ぐらいの記事だけど、あい「シャングリラ」ってSS」
ああ、あれか……長そうだから飛ばしちゃったんだっけ。
澪「うん、あれは切なくってよかった。あいが卒業しちゃうからって、なずなが――」
律「おおーっと澪ストップ! ネタバレだってば?!」
大げさに口をふさごうとするりっちゃん。
っていうか、あずにゃんは読んだの?
95 :
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(埼玉県)
[saga]:2011/11/24(木) 04:45:05.19 ID:b9tPVtJ+o
梓「……うーん。わたし的にあれは微妙かもです。なんか、あざとくって」
澪「梓、意外とハードル高いな……」
ていうか先輩たちはSS読むよりも受験勉強に集中してください。
あずにゃんは主に私の方を見てそう言うのです。
唯「いやあ……読み出すと止まんなくなっちゃって……あはは」
梓「ブログのことは私と憂で考えてみますから、唯先輩は受験に集中してください」
にっこり笑うあずにゃん。でも目は笑ってません。
うぅ、そんなに私、信用されてないのかな……。
と、予鈴が鳴ってしまいました。
律「唯、いそぐぞ!」
唯「ああっ、待ってりっちゃん?!」
あずにゃんまたね!って最後にもう一度どさくさまぎれのハグ。
その身体は、さっき無理やり抱きしめた時よりかはやわらかく感じました。
96 :
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[sage]:2011/11/24(木) 04:49:04.11 ID:b9tPVtJ+o
(ちょっと中断するです)
97 :
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[sage]:2011/11/24(木) 05:04:21.98 ID:k+YYcptDO
支援
98 :
◆ywkhR7Exfw
[sage saga]:2011/12/18(日) 23:44:27.67 ID:tW5BUwcSO
それからぎりぎりで朝のホームルームに間に合って午前の授業が始まりますが、どうも集中できません。
他のこと、つまり授業の内容に頭を働かせたいのですが、さっきのことが気になってしまうのです。
んん。
さっきのこと、って具体的になんなんでしょうか? 私は結局なにに悩んでるんでしょうか。
とりあえずいまは数学の演習時間ですが、どうにも計算が進みません。
解法の流れが自分でもよく分からなくなってきて、今やってる一つ一つの計算の意味もすでにあやふやです。
ノートから目を上げてみると、クラスのみんなは真剣に机に向かっています。
一瞬、それがすべて同じ人に見えて寒気がしました。
“勉強する人”を数十個コピペしただけの光景に感じて怖くなって、澪ちゃんの方に目を向けます。
澪ちゃんは見向きもせず、解答を続けています。
長い黒髪と後ろ姿が私の知ってるそれとつながるのに少し時間がかかります。どうも頭がうまく働きません。
ああもう、こんなんじゃだめなのに。
さっきもあずにゃんに白い目を向けられたばっかなのに。
でも、たくさんのことが頭の中で膨らみすぎて何一つちゃんとできないのは困ります。
ちょっと一度ペンを机に置いて、頭を整理してみた方がよさそうです。
99 :
SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)
[sage saga]:2011/12/18(日) 23:45:25.59 ID:tW5BUwcSO
いち、ブログどうするか。
これは確かに心配です。書かないって決めた以上はあんな風にならない方法を考えなきゃです。
でも身体ごと乗っ取られるようでは、対策もなにもないでしょう。
もし、私たちの身を危険にさらすようなSSが書かれてしまったら。
……最初にSSが再現された日の、あずにゃんの泣きそうな顔が頭をよぎりました。
私よりもしっかりしてるはずの憂だって、あんな風に抱きついてきたのです。
あー、ほんっとダメだ。私、年長者なのに。安心させてあげなきゃなのに、ぜんっぜんダメだ……。
不安と申し訳なさで誰かに謝りたくなっても相手がいないしそもそも授業中でした。とりあえず、次。
に、もし書くとしたらどうすればいいのか。
正直言ってこの状況で一番簡単に身を守る方法は、こっちで安全な物語を書いてしまうことです。
りっちゃんは最初からそう考えてました。ムギちゃんも、案外乗り気です。
澪ちゃんはいやがりますが、ブログからずっと逃げ続けるのもむずかしいと思うのです。
100 :
SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)
[sage saga]:2011/12/18(日) 23:46:06.28 ID:tW5BUwcSO
ブログの管理人に連絡をして消してもらう、とも考えたのですが、
あずにゃんは「こんな話を信じてもらえるわけがない」と言います。
実際、そうでしょう。書いてる人たちに登場人物がいきなり出てきて、
「あなたの書く話で私たちがこまるんです!」なんて言っても、
私だってSFかおとぎ話だと思っちゃいますよ。
だとしたら、いずれは書くしかない。
じゃあ、なにを書いたらいいのか。
そんなことを考えたとき、はじめにぽんと浮かんだのはひどい案でした。
唯「……ゆい、あず?」
姫子「え?」
唯「へ? あっううん、なんでもないよ!」
思わず口にでちゃって、ふしぎそうに私を眺める姫子ちゃん。
よっぽど変な顔でもしちゃってたんでしょうか、私。
ていうか授業時間です、まだ。それどころじゃなくたって、ちゃんとしなきゃいけません。
いや、ほんと、ちゃんとしなきゃいけないんです。私は。
101 :
SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)
[sage saga]:2011/12/18(日) 23:47:00.64 ID:tW5BUwcSO
澪「――ゆい?」
唯「ほぇ? あははっ、なんだっけ」
いつの間にか私の席の周りにはイスがよせられてて、みんなのお弁当が広がってます。
顔を上げれば澪ちゃんとりっちゃんの向こう側で隣のクラスの子が学食のパンをかじってます。
ふっと目に入ったアキヨちゃんと視線がぶつかって、なんかお互いはずかしくなってそらします。
そっか、もうお昼休みになってたんだ……ぜんぜん気づかなかった。
と、そこでノートの端っこにメモったアイデアのいろいろを思い出して、
律「んー? さては唯、自習ん時遊んでたなー?」
唯「こ、これはその……なんでもないって」
律「おりゃあっみせろー!」
りっちゃんの攻撃を避けながらうまくノートをカバンに避難させました。
それでも襲いかかってくるりっちゃん、すると澪ちゃんの紙パック牛乳を倒してたたかれちゃいます。
あははって笑うムギちゃんと私。でもいろんなことが心の中で重たくていつもみたく笑えません。
102 :
SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)
[sage saga]:2011/12/18(日) 23:47:43.75 ID:tW5BUwcSO
和「もう、唯は受験生でしょう?」
唯「の、和ちゃん……」
隠したカバンの方から突然話しかけられて、肩のあたりがびくってなっちゃいました。
はっ、とノートの方を見たけどさすがに開かれてはいません。
ほっと一息つくんですが、なんだか悪いことしてるみたいな気がして、
そしたらほんとに悪いことしてたみたいな気持ちになっちゃって、
和「……あんたたち、今度はどんな悪だくみしてるのよ」
紬「えっ、りっちゃんたちなにかするの?!」
律「いやムギは知ってるだろ!」
あはは、って吹き出しちゃう横でついてけない感じの和ちゃん。
壁作って私たちだけの話で盛り上がっちゃってるみたいで、申し訳ないなあって思います。
103 :
SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)
[sage saga]:2011/12/18(日) 23:48:16.73 ID:tW5BUwcSO
澪「ごめん和、ちょっと私たちにもよく分からないことが起きてて……」
それは場をつなぎとめる、和ちゃんを会話に入れるための言葉だったのでしょう。
ですが澪ちゃんの言葉が、あのことをより強く意識させてしまって。
和「うーん……相談できるうちに相談しておいた方がいいわよ? よく分からないけれど」
唯「和ちゃん……」
そのときの、和ちゃんがなぜか今も頭に残っています。
二つの瞳がやさしくって、たまにぎゅってしたときなでてくれるような目で、
だけどどこか見えない膜で私と和ちゃんが遮られてるような気がして、
ふっと頭の中で「サブキャラ」って言葉が頭をよぎって、
そしたら急に目の前の人間がハリボテの画像でしかないんじゃないかって怖くなって、
一気に引き離されて二度と会えなくなっちゃうような変な想像が広がってしまって、
104 :
SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)
[sage saga]:2011/12/18(日) 23:48:51.84 ID:tW5BUwcSO
和「――ちょっゆい?! どうしたのよ、急に!」
唯「あ……」
私の手が、和ちゃんの指をぎゅっと握っていました。
自分の指先は変に汗ばんでいて気持ち悪くって、
ていうかなんで立ち上がってまで和ちゃんに触れようとしたのかわかんないんですけど、
とにかく「真鍋和ちゃんはここにいる」っていうのに溶けちゃうぐらい安心したんです。
そして、
和「……唯、ちょっと生徒会行ってくるけど大丈夫?」
唯「あ……うん。ごめんね、だいじょうぶだから」
すべてをぶつけそうになった私のことを、私は深く深く恥じたのでした。
105 :
SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)
[sage saga]:2011/12/18(日) 23:49:54.16 ID:tW5BUwcSO
和ちゃんが行っちゃってから、ようやく私はお弁当を広げようとカバンを開けます。
目に映るのはさっきの授業のノート。
澪「どうした? 早く、食べちゃおうよ」
愛想笑いみたいなのを返しながら、ノートを深く深くしまいこんでお弁当を取り出します。
そのときなんだか澪ちゃんの優しい声やほほえみが怖くなりました。
今だから言えますけど、私が書こうとしたのはあずにゃんと仲良くするお話でした。
あずにゃんとは文化祭終わってから受験勉強で忙しくなって、
顔をあわせたってなんだか一緒に楽しんでいちゃいけない気がして、
なんとなくだけど距離とかそういうのを感じていたのです。
その分、お話の中だけでも一緒にいたい。
もっともっと、いろんなとこに出かけておいしいものを食べて、手をつないで歩きたい。
昨日もあんなつらそうな顔してたあずにゃんも、ほっこり笑ってくれるような話を作りたい。
そう思って、どこに行ってなにをしようかなんて考えてたら、
いつしか授業中なのに行き先のメモがたくさんたまってしまったのです。
106 :
SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)
[sage saga]:2011/12/18(日) 23:50:38.56 ID:tW5BUwcSO
唯「ごめんね。……ごめん」
律「ん?」
なにか言われないうちにお弁当を広げて、わざとりっちゃんのプチトマトを取っちゃいます。
こんにゃろー、ってやっぱり私の首をしめてくるりっちゃん。いつも通りです。
勢いあまっていつも食べない葉っぱの部分も食べちゃって、それがすごく苦くて、いやになりました。
私はあの神様みたいなブログを、自分の都合で使おうとしてしまいました。
歌詞とかと違ってあれは人の気持ちも考えず、むりやり自分の物語を押しつけるものなのです。
あずにゃんだって、いやがるかもしれないのに。
そういえば朝もみんなと話したことですが、
あのブログにも私たちが恋人同士になる話がたくさん書かれていました。
私は、あずにゃんとそういうことがしたいんでしょうか?
そんな難しいことじゃなくって仲良しでいたい、ぎゅってしてあったかあったかでいたい、
ただそれだけなのに、ああいう風に書かれちゃうと意識してしまいます。
あーもう、だめだ私。りっちゃんが朝あんなこと言ったからいけないんだ。
っていうか、みんなの問題なのに、私あずにゃんのことばっかり考えてる……。
107 :
SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)
[sage saga]:2011/12/18(日) 23:51:17.97 ID:tW5BUwcSO
律「みおー、食べないの?」
澪ちゃんの方のお弁当も、あんまり減っていません。
私はごまかすように卵焼きを口にほおりこんで――けふっ、ごほっ。
乾いた喉にひっかかっちゃってうまく飲み込めませんでした。
あう、ムギちゃん飲み物ありがと……。
澪「……あのさ、今日もやっぱ更新されてるのかなって」
無理しておどけた雰囲気をつくってた私たちに、澪ちゃんは問いかけます。
一気に引き戻された感じで、言葉を失ってしまいます。
さっきからずっと私たちは私たちを演じてるみたいで、
その違和感が雰囲気にひび割れを作ってて、それがぱつっと割れた感じ。
ごめん、なんて澪ちゃんも言うけど、私たちみんな分かってたししょうがないんです。
憂の作ったお弁当は、こんな日でもおいしかったです。
澪ちゃんのそれほど汚れてない箸と減ってないお弁当箱を見て、
なにがどうとも分からないけど、とにかく謝りたくなってしまいました。
みんな口に出さないでも悩んでいるはずなのに、私はすぐ楽観的になってしまうのです。
108 :
SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)
[sage saga]:2011/12/18(日) 23:51:48.33 ID:tW5BUwcSO
唯「じゃ、じゃあとりあえず見てみようよ。ブログ」
軽く話題を変えてみるつもりで言ってみます。
暗くなりそうな雰囲気を、どうにかしたかったんです。
そういえば朝からなんとなく携帯開くのも遠ざけてたし、
もうそろそろ、最低一日一回ぐらいは勇気を振り絞って見とく必要があるでしょう。
律「さぁて次の犠牲者は誰かなー?」
澪「そんな不謹慎な……」
律「ほら、さわちゃんが澪にコスプレさせてバイトとか昔のSSでもあったじゃん?」
澪「それは絶対いやだ…!」
お化け屋敷に入る前みたいに、変にちゃかしあうような会話。
でも、こうやってると本当にいつも通りみたいな気がしてくるから不思議です。
一人ではブログを開くのが怖いけど、誰かと一緒なら少しは怖くない。……はず。
109 :
SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)
[sage saga]:2011/12/18(日) 23:52:42.06 ID:tW5BUwcSO
私は四人で、それぞれの携帯でいっせーのせっで一緒に開こうと提案しました。
大丈夫。どうせ、風邪を引くぐらいのことしか起きない。
それに何度も経験していれば、再現を止める方法だっていつか見つけられるはず。
そう口々に言い聞かせ合いながら、四人でそれぞれの携帯を開きました。
「「「「せーのっ、えいっ!」」」」
……けれども、その日更新された記事は、今までみたいに生やさしいものじゃなくって。
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→ 2010年10月06日 06:38 りお「なつを私のものにしてやる!」 ★
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ぶしつ!
なつ「あっつー・・・・」ぱたぱた
りお「なつ・・・・制服のボタンしめろよ。お行儀わるいぞ」
なつ「えー? いいじゃんふたりっきりなんだしさぁ」
りお「・・・・そんなこというから」ずいっ
110 :
SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)
[sage saga]:2011/12/18(日) 23:53:11.80 ID:tW5BUwcSO
なつ「へっ?! ちかいっ、顔近いってりおしゃん?!」
りお「我慢できなくなっちゃうじゃないかー!」がばっ
なつ「ひゃあっ!?」
どたーん!
りお「・・・・なつが、なつがわるいんだから」
なつ「ひっ・・・りおしゃん、どしたの? あはは・・・・」
りお「・・・・んっ、ちゅ・・・れろっ」
なつ「ふあっ・・・ぷはあっ! なっなんだよりおぉ・・・・!」
111 :
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[saga]:2011/12/18(日) 23:55:05.98 ID:tW5BUwcSO
りお「ほんとはずっと、こうしたかったんだから」ちゅ
なつ「やっやめろよー・・・・!」もじもじ
りお「・・・・えいっ」くちゅ
なつ「ふああっ・・・! そ、そんなとこ・・・・」
りお「・・・・なつだって濡れてんじゃん」
なつ「・・・・やめろっ、ばか、・・・・ああっ!」
りお「ほら、脱がせてあげる」ぬぎぬぎ
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澪「……」
律「あは、はは……」
えっと、その、……冗談、だよね?
112 :
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[sage]:2011/12/19(月) 05:07:49.71 ID:nSCQrMudo
ワッフルワッフル
113 :
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[sage]:2012/01/17(火) 02:23:38.24 ID:Q5+sVHhgo
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