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アイリス「さよなら、ジャンポール」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :ny [saga]:2011/10/17(月) 22:15:43.30 ID:kMGjv5NB0
小春日和の麗らかな午後、大神はアイリスと共に散歩に出ていた。
時たま吹く春の風にはまだ少し涼しいものがあったが、
いつも陽気のように微笑むアイリスを見ていると大神の心も温かくなった。
数度の戦いを経、大神とアイリスは恋仲となっている。よき仲だ。
フランスから来たアイリス。いつも大きな熊のぬいぐるみを抱いているアイリス。
まあ、実を言うと恋人というよりは相棒、相棒というよりは保護者と子供だが、
アイリスは子供扱いされるのを嫌った。思春期の少女の扱いはひどく難しい。
だが、それでも大神はアイリスのことが好きだった。
何度も大戦中挫けたことがあったが、その度にアイリスと立ち上がり戦ってこれた。
かけがえのない仲間、そして、小さな恋人。それがアイリスだった。

「ほらー、おにいちゃん。はやく行こうよー」

とはいえ、まだまだ幼いのは事実だった。
彼女の行動は目まぐるしく、とても眼を離すことなどできない。
苦笑しつつ、「待ってくれよ、アイリス」と大神はアイリスを追いかけた。
近づいてくる。あと少しで手が届く自分の小さな恋人。
瞬間、とても強い風が吹いた。春一番という奴だろう。
フランス人形が着ているようなアイリスのスカートが風で靡き、
いやー、と可愛らしく悲鳴をあげて、アイリスが自らのスカートを押さえる。微笑ましい光景だった。
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佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
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全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
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笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
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トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
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【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
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ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713736565/

2 :ny [saga]:2011/10/17(月) 22:19:34.89 ID:kMGjv5NB0
だが、その行動が悪かった。
アイリスが余りに勢いよくスカートを押さえたせいで、
手に抱えていた大きな熊のぬいぐるみ……、ジャンポールが風に連れ去られてしまった。
高くジャンポールは舞い上がり、大神の視界を越えて遠く川岸の向こうまで連れて行かれる。

「あー、ジャンポールがー」
 
普段ならばぬいぐるみひとつでそんなに大騒ぎすることでもないが、アイリスの場合は違う。
彼女は幼い頃、圧倒的な霊力の高さゆえに、半分幽閉されたような生活を送っていたことがあったという。
そして、その中で一緒にいてくれた友人、それがジャンポールなのだった。
唯一無二の親友といっても過言ではないだろう。
大神はすぐに正面の川岸まで行くが、対岸は遠いし橋は遥か先だ。
歩いていくにも川底は深そうだし、泳いで行こうにも少し辛そうである。
更に悪いことに、ジャンポールはあと少しで川の中に落ちてしまいそうな場所にある。
泳いでいったとして、震動で川の中に落としてしまっては元も子もないし、帰りはどうやって持って帰るかという問題もある。
どうするべきか、と大神が思案していると、

「だいじょうぶ。アイリスにまかせて」
 
アイリスがいつもより凛々しい顔をして、何かを念じるような表情になった。
超能力、サイコキネシスだ。
平時、余り超能力を使わないアイリスであったが、今回ばかりは動揺しているようだ。
よほどジャンポールと離れていたくないのだろう。
大神は止めるべきかと思ったが、アイリスの表情を見ているとそうも言えなかった。
何、少しだけだ。少しだけ超能力を使って、ジャンポールを運ぶだけだ。
問題はない。
そして、ジャンポールはすぐに宙に浮き、アイリスの元へと戻っていく。
何の障害もなかった。
戻ってきたジャンポールをアイリスが愛しそうに強く抱いた。

「えへへー、おかえりー」

「よかっ……」

よかったな、と大神は言おうとしたが、その声とは違う甲高い声にかき消された。

「あれー? なんでぬいぐるみがもどってきたんだろー?」

その声の方向には、不思議そうな顔で子供が立っていた。一部始終を見ていたらしい。
あっちゃー、どう説明するべきか……、
と大神が子供への言い訳を考えていると、突然、アイリスが大神の身体に倒れこんだ。
慌てて、大神はアイリスを抱きとめる。
3 :ny [saga]:2011/10/17(月) 22:24:50.03 ID:kMGjv5NB0
「どうしたんだ? アイリス」

だが、アイリスは低く唸っているだけで何も答えない。
しかも、身体を痙攣させている。
さすがに心配になった大神はアイリスの頬を両側から挟み、彼女の大きな瞳と瞳を合わせる。
しかし、アイリスの瞳の焦点は合っていない。

「アイリス! 聞こえるかいっ?」

呼びかけるのに。必死で呼びかけるのにアイリスの反応はなかった。
だのに、アイリスの痙攣は治まることはないのだ。ひどくなる一方だ。

「アイリスっ! アイリスっ! 俺だよ!
俺がわかるかっ? しっかりしろっ!」

声の限り叫んだ。喉が枯れるほどに。見ていた子供が怯えるほどに。
すると、アイリスの痙攣が治まった。嘘のように、潮が引くように治まった。
ほっと大神が安心したのも束の間、今度は突然帝都を巨大な揺れが襲った。
巨大な、とても大きい地震だ。
アイリスを力強く抱きしめて、大神は必死に倒れないように地面を踏みしめる。
一体、何だというのだ。一体全体、これはどういうことなのだ。
大神に答えは出せない。だが、アイリスだけは守らねばならない。何としても。
帝都を悲鳴が奔る。そこらかしこで事故が起こっている。巨大地震に帝都は混乱する。

と。
突然、地震が止まっていないというのに、アイリスが大神を突き飛ばした。
子供の力のはずなのに、異常な筋力で大神はアイリスに突き飛ばされる。

「アイリス……?」

大神が地面に手を付いて伏せながら、動揺した口調で呟く。
アイリスは大神を見下ろしていた。
大神など知りもしない、赤の他人だという風に大神を冷たく見下ろしていた。
感情のない人形のようだった。冷たい視線で大神を見下していた。
見たこともないアイリスの冷たい表情に、大神は息を呑む。
瞬間。
アイリスが晴れやかな笑顔に変わった。開閉器を切り替えたかのように、一瞬だった。
だが、その笑顔は普段のアイリスの笑顔ではなかった。
黒い、真っ黒い、残虐性のみを発露させたような漆黒の嗤い。
そして、声こそアイリスと同じではあったが、声質が異質な嗤い声が響く。

「はははははは…ハ、あハハはハは…あはははハははははハ!」

例えるなら、降魔、魔族の嘲笑。
人間の憎悪を糧にして存在する存在の嘲り。
もしかしたら、このとき大神は初めて心の底から恐怖したかもしれない。
自分より一回り近く年下の少女に、大神は恐怖したのだ。どうしようもなく。
ジャンポールを投げ捨て、アイリスは飛んだ。浮いたのだ。自らの能力で。
こんなことはありえないはずだった。アイリスが飛ぶことなどまさか。
加え、ジャンポールを投げ捨てるなど、そんなことがあるはずがない。
まさしく、アイリスはアイリスであってアイリスではなかった。
大神の知るアイリスを超越していた。
間違いなく、彼女は大神の知るアイリスではないのだ。
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/10/17(月) 22:32:35.70 ID:Lb+xyIjAO
超・支・援・参・上・!
アイリスメインにしてた超俺得スレ
期待してるね!
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/10/17(月) 22:33:32.88 ID:Lb+xyIjAO
超・支・援・参・上・!
アイリスメインにしてた超俺得スレ
期待してるね!
6 :ny [saga]:2011/10/17(月) 22:33:58.78 ID:kMGjv5NB0
アイリスは少しずつ試すように、高く上昇していった。
このまま、飛び去るのかと思われた。

……だが。
何らかの異変を感じたように、アイリスが自らの頭部を固く押さえつけた。
同時に、地震が止まる。

「……るな。……れは、……が……らう」

高く飛んでいるせいか、声が余り聞こえない。
傍には誰もいないというのに、アイリスは誰かと話しているかのように見えた。

「…………………ッ!!!!!!!!!!」

彼女は何かを叫んだ。帝都が震えるような叫びだった。
衝撃波を感じる。
そして、アイリスの力がふっと抜けたように見え、速い速度で地面に落下していく。
それがあまりに咄嗟のことで、大神はすぐに反応が出来なかった。
気付いて、走り出したときにはもう遅かった。
アイリスのいる場所にとても届かない。
このままでは、アイリスが地面に叩きつけられてしまう。
大神は思わず眼を逸らしそうになった。

だが、その瞬間、見慣れた黒い服がアイリスの下へ滑り込んだ。
影は、しっかりとアイリスを抱きかかえている。
マリアだった。
ほっと大神は胸を撫で下ろしたが、すぐに思い直した。

「何なんだ……。一体……」

思わず呟いていたが、誰も答える者はいなかったし、大神も答えられなかった。
ただ、帝都が突然の大地震に、混乱した姿を見せるだけだった。
7 :ny [saga]:2011/10/17(月) 22:37:39.23 ID:kMGjv5NB0


今回はここまでです。
何と今時サクラ大戦。
昔書いた物をちょっと手直ししてみました。
設定改変結構あるかもですが、生暖かく見守っていただけると助かります。
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/10/17(月) 23:32:41.82 ID:Lb+xyIjAO
乙です
サクラ大戦好きだから続き期待してます
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2011/10/18(火) 14:01:18.11 ID:tbHWCqwAO
サクラ大戦とはこりゃまた珍しい……

期待してます
10 :ny [saga]:2011/10/19(水) 21:07:03.16 ID:oNEfTHUU0





アイリスを自室のベッドに寝かせ、大神はアイリスの部屋に帝劇全員を集わせた。
先刻の出来事について、皆と話し合っておくべきだと思ったからだ。
大神は言った。

「何を言ったらいいのかは俺にもよく分からない。現場にいた俺自身でさえ、何も掴めなかった。
恥ずかしながら、ただ動揺する事しか出来なかった。
だから、ただ事実だけを伝えようと思う。
皆の想像を超えていると思うけれど、事実だけをそのまま伝える。
突然、アイリスが痙攣を起こし、治まったと思ったら帝都を大地震が襲った。
そして、嗤いながらアイリスが宙に浮いた。
だが、何らかの出来事が起こったのか、アイリスは唐突に気を失い、同時に自身も嘘のように引いた」

帝劇全員、理解できていないように呻いていた。
仕方がない。
眼前で見た大神でさえ、まだ、現実を受け入れられていなかった。

「あのさ。まだよく分かんないんだけど、つまりはこういう事かい?」
 
カンナが頭を掻きながら、必死で考えたらしい結論を口にした。

「アイリスが霊力で宙に浮きながら、帝都に地震を起こしたと?」

大神は首を横に振ったが、それは否定という意味ではなかった。

「俺もアイリスがそんな事をすると信じたくはない。
だが、アイリスが気を失った寸前に地震が止まったのも事実なんだ」

「そんな……」

さくらが、信じられない、といった風情で呟く。
すると、毅然としてすみれが言った。

「おやめなさい、さくらさん。
あなたが動揺してどうするんですの?
それにまだアイリスが地震を起こしたというわけではないでしょう。
そうですわね、中尉?」

 彼女はいつも毅然としていた。こんなとき、彼女の存在は心強い。
 ああ、と大神が首を縦に振った。今度は肯定という意味だ。

「すみれくんの言う通りだ。
もしかしたら、あの地震はアイリスが霊力で起こしたものかもしれない。
だが、あのときのアイリスはアイリスじゃなかったと俺は感じているんだ」

え? と、普段感情を出さないレニが呟く。
アイリスの非常事態について、最も心配しているのは彼女に違いないだろう。無理もなかった。
とは言え、態度はすみれ同様毅然としていた。

「アイリスが……、
アイリスじゃなかったって……?」

「ああ、そうだ。
こう言うのも何だけど、俺は仮にもレニよりアイリスとの付き合いが長いから分かる。
地震が起こったときのアイリスの嗤い。あれは間違いなくアイリスじゃなかった。
少なくとも俺達には見せた事がない顔だった。
……マリア、どう思う?」
11 :ny [saga]:2011/10/19(水) 21:07:50.03 ID:oNEfTHUU0
奇しくも、現場に大神と共に居たマリア。
加え、大神よりも更にアイリスと長い付き合いのマリアなら、何か分かったかもしれない。
思い、大神は訊ねる。
マリアは何とも言えない顔つきで、静かに口にした。

「私も一部始終を見ていたわけではないので分かりませんが……、
確かに隊長のおっしゃる事は正しいように思います。
あのようなアイリスの姿は私も見た事がありません。
あれはアイリスではなく……、そう、まるで別人です」

そうなのだ。あの時のアイリスは確かに別人だった。
不意に紅蘭が寂しそうな、怯えているような、複雑な顔つきで言う。

「まさか、降魔や魔族の影響っちゅう事は……」

慌てて口を塞ぐ。あやめの事を思い出したのだろう。
無論、大神も、さくら、すみれ、マリア、カンナも忘れたわけではない。
突如、敵に回ってしまったあやめ。
今も忘れられない、辛い過去だ。
あやめと仲のよかった紅蘭が、それを危惧するのも当然だろう。
だが、大神はかぶりを振った。
そう。アイリスのあの変貌振りを見て、大神もあやめを思い出さなかったわけではないのだ。
降魔の可能性があるとい事も、仮定として考えていた。
だが、しかし……。

「大丈夫だ、紅蘭。
それはありえないはずだ。現在、降魔の活動は全く見られないじゃないか。
もしアイリスが何らかの魔の存在に操られるのなら、それは降魔の活動が相当に活発になった時だろう。
ただでさえ霊力の高いアイリスなんだ。
そんな事でも起こらない限り、魔の影響を受けるのは俺達の方が先さ」

そうなのだった。アイリスは飽くまでアイリスなのだ。
彼女ほどの霊力の持ち主が魔に支配されるほどの悪意が帝都を覆っているのだとしたら、
大神達どころか帝都の人間の八割が何らかの魔に侵食されているはずだ。

「せやったら……、一体何なんやろか」

それは大神にも分からなかった。
しばらく沈黙が続いたが、マリアがアイリスの顔を覗き込みながら、ぽつりと言った。

「ひとつだけ、心当たりがあります」

全員がマリアの表情を窺った。
彼女は無表情で、何も掴めなかった。
マリアは大きく息を吸って、声を絞り出した。

「私も確証があるわけではありませんが……、こういう事例を聞いた事があります。
隊長、『狐憑き』をご存知ですか?」

「狐? コーン、って鳴くあの狐かい?」

「そうです。古来、日本では狐憑きという、憑依現象が存在しました。
突然、普通の人物が、人が変わったように豹変する現象です。
暴れたり、性格が正反対になったり……。
古代の人々はそれを狐の霊が憑いて、人間の人格を豹変させていると考えました。
しかし、近代になってそれは……」

途端、マリアが言葉を止めた。
アイリスが眼を覚ましたのだ。
少々不安だったが、大神はアイリスに出来る限り優しく声を掛けた。

「アイリス、目が覚めたかい?」

アイリスは何故自分が眠っていたのか分からない素振りで、辺りを見回す。

「どうして、みんなここにいるの?」

大神は説明に困ったため、真実に触れるのを避けた。

「散歩してたら、いきなりアイリスが眠っちゃったんだよ」

少し無理のある説明だったかもしれない。事実でもあるが。
アイリスは多少疑問そうに顔を膨らませていたが、すぐに微笑み直して言った。

「そうなんだ。うーん。何でだろ? アイリス、はしゃぎすぎちゃったのかなぁ?」

「ははっ、そうかもしれないな」
12 :ny [saga]:2011/10/19(水) 21:08:51.73 ID:oNEfTHUU0
意味のない会話だった。
アイリスには軽いテレパスがある。
その気になれば、アイリスは自分に起きた事の全てを知ることが出来るだろう。自分に起きた異変さえも。
だが、その場に居た全員、自らの口から事実を告げる事は出来なかった。
アイリスを不安にさせたくないし、何より、何も分かっていない状況で何を言えというのだろう。
途端、何かを思い付いたらしく、アイリスが大神を呼んだ。

「ねえねえ、お兄ちゃん。ちょっとこっちに来て」

何事かと思い、大神はアイリスの方に身体を寄せる。
瞬間、鋭い表情をしたマリアがアイリスの頭を掴み、ベッドの布団に顔を埋めさせた。

「マリアっ?」

唐突な事態に動揺して大神は言ったが、マリアが厳しい表情のまま叫んだ。

「隊長、気をつけてくださいっ! アイリスは刃物を持っていますっ!」

「なっ……?」
 
まさか、そんな事があるはずがない。
アイリスがそんな恐ろしい事をするはずがない。
大神は必死でマリアの言葉を否定しようとするが、思わず見てしまった。
アイリスの右手には、どこから取り出したのか、確かに刃渡り五寸もの短刀が握られている。
否定しようがない事実だった。大神は思わず後退する。

だが、当然それだけでは、終わらなかった。
何らかの力に弾き飛ばされたように、マリアがアイリスの身体から引き離される。
その力があまりに巨大な力だったのか、マリアは途轍もない速度で壁に叩き付けられていた。

「ぐっ……」

相当の痛みを伴ったのだろう。マリアが苦しそうに呻いた。
それでも、マリアは絶叫した。

「隊長っ! アイリスから離れてくださいっ! 速くっ!」

マリアが何を言っているのかは、大神にはよく分からなかった。理解したくなかった。
しかし、幾度もの戦場を潜り抜けた大神の本能が、叫んでいた。
逃げろ、と。
認めたくはなかった。だが、認めざるを得なかった。
アイリスが、自分の小さな恋人が、まさしく今、自分を殺そうとしているのだと。
拳を握り締め、震える身体を必死に抑えて、
だが、それでも大神の士魂は逃げる事を許さなかったし、
何より大神自身がアイリスの異変を放っておく事など出来なかった。出来るはずがなかった。

「隊長っ! 急いでっ!」
 
必死にマリアが叫んでいる。マリアの気持ちは痛いほど分かる。
されど、逃げるわけにはいかないのだった。
自分は前に出るのだ。
アイリスに何が起こっているのかは分からない。
それでも、自分はアイリスを止めなくてはならない。
だからこそ、自分は足を踏み出さねばならない。

だのに、大神の足は動かなかった。
決して恐怖からではなかった。そんなものは超越している。
アイリスのためなら、命だって投げ出す覚悟はとうの昔に出来ているのだ。
しかし、やはり大神の足は動かないのだった。
それは無論、大神の恐怖のためではない。
足が何らかの物理的な力で押さえ込まれているのだ。
まるで誰かに強く足を掴まれているかのように。
その様子を見て、漆黒の笑みでアイリスが嗤った。

「あっはははハははははハ!」

先刻のあの声だった。
冷酷さと残酷さを兼ね備えた、真っ黒い笑みだった。

「てめえは其処、俺は此処だ」

その声は間違いなく、アイリスの口から発されている。
アイリスではない表情、声色で、アイリスが言っている。
さくら達は驚愕して、何も言えないようだった。
カンナこそアイリスの変貌振りに不自然さを感じ、
アイリスに飛びかかろうとしていたようだったが、
大神と同じように足が動かないらしく、悔しそうに唇を噛んでいた。
13 :ny [saga]:2011/10/19(水) 21:09:57.54 ID:oNEfTHUU0
「な、何をしたんだ。アイリス……」

大神が言うと、アイリスは不機嫌そうに頭のピンクのリボンを解き、吐き捨てるが如く言った。

「アイリスぅっ?
俺はアイリスじゃねえよ。今度間違えたらマジで殺すぜ、大神」

声色が微妙にアイリスと違っていた。口調は全然違っていた。
もう、分かった。
こいつは、アイリスでは、ない。
奴は続けた。

「いいか? よく憶えとけよ。
俺の名前はポルナレフだ。ポ・ル・ナ・レ・フ。
分かったか? てめぇらの取るに足らないちっこい脳味噌によぉく叩き込んどけ」

「ポルナレフ……だと?」

大神が呟くと、きっとアイリス、いや、ポルナレフが大神を睨んだ。
途端、鈍器で殴られたような衝撃が大神の頭部を襲った。
気絶しそうなほどの衝撃。
一瞬、大神の意識は遠退いたが、どうにか立て直す。

「隊長さんよぉ、態度がなっちゃいねえなぁ。
俺には敬語を使え。使わなきゃ殺す。ソッコー殺す。
分かったな? 分かったら返事だ」

ぎゃはははは、とポルナレフは下品に嗤う。アイリスの身体で嗤う。
許せない侮辱だった。
今、アイリスが汚されているのだ。
大神の体中に怒りの閃光が奔る。
赦せない。
赦すわけにはならない。これだけは、何としても。
だから、思わず叫んだ。

「貴様は一体何なんだっ! 何だか知らないがっ!
それ以上アイリスを汚すと、絶対に貴様を許さないぞっ!」

虫を見るような表情を浮かべて、ポルナレフは大神を見下した。

「分かってないようだな、隊長さんよぉ。
アイリスに化けたさっきの奇襲が失敗したから、
今回だけは見逃してやろうかと思ったが、そんな態度じゃ命はいらねぇようだなぁ?
ああっ?
どちらにしろ、貧弱なアイリスの奴をこっちに留めてんのは、
てめえの存在がでかいようだから、いつかは殺すんだけどなあっ!」

下卑た声で叫び、アイリスの身体を支配しているポルナレフが、大神に右手を向けた。
空間が歪み、感じた事もない霊力の波動が場を支配する。
だが、大神にはどうしようもないのだ。情けないまでに。

「じゃあな、隊長さん」

ポルナレフは小さく微笑みながら呟いた。

「大神さんっ!」

叫んださくらの声が妙に耳に響いた。
これで自分は死ぬのか。
アイリスに何が起こったのかも分からず死ぬのか。
絶対にアイリスを守ると誓ったのに、それを果たせずに死んでいくのか。
そう思うと、大神は情けなくて涙が出そうになった。
間もなく衝撃が来る。絶対的な霊力で自分は砕かれる。物言わぬ肉塊に変わる。
死の恐怖が襲い掛かり、大神は反射的に眼を閉じた。
14 :ny [saga]:2011/10/19(水) 21:10:26.76 ID:oNEfTHUU0
だが、
いつまで経っても、
衝撃は訪れない。

経ったのはほんの数秒のはずだが、大神には何時間にも感じられた。
もう死んでしまったのだろうか?
否、そうではなかった。
手が動く。足も動く。肉体に自由が戻っている。
思い切り、大神は眼を見開いた。
そこには自らの身体があった。劇団の全員も無事だった。
そして、アイリスも。

「な……ん……だ……?」

アイリス、いや、ポルナレフが大神に向けた掌を震えさせていた。
身体の自由が利かない。そんな様子だと大神は受け取った。
これが好機だと大神、マリア、カンナ、レニの四人はポルナレフに飛び掛る。
だが、四人とも何らかの衝撃に吹き飛ばされた。霊力は未だ健在のようだ。
しかし、弱い。
吹き飛ばされはしたものの、人にぶつかられた程度だ。大神達に大した負傷はない。
どうやら明らかにポルナレフは弱っているようだ。
ならば、と再び大神はポルナレフに飛びかかろうとしたが、ポルナレフの異変を無視する事も出来なかった。
押さえ込むのは、この異変が収まってからの方が好機だと思ったからだった。
苦しそうに、ポルナレフは呟きを続けていた。

「アイリスか……? いや、違う……?
てめえか……、てめえかよ! 出てくんな!
今は俺だ! 俺なんだよ!
てめえはいっつもいっつも俺の邪魔ばっかしやがって!
やめろ! 来るなっ!」

ポルナレフが烈しい痙攣を始める。
得体の知れない何かと何かがアイリスの中でせめぎあっている。
何が勝つのか、何が負けるのか、大神には分からない。
だが、大神にはどうしようもないという事だけは、よく分かった。
すぐにポルナレフの痙攣は治まった。
ポルナレフの首が力なく垂れ下がる。
前回と同じだ。
レニがアイリスに駆け寄ろうとするが、大神がそれを手で制した。

もしかしたら……。
もしかしたら、まだアイリスの中にポルナレフが宿っているかもしれない。
そう思うと、レニを危険な目に遭わせる事は出来なかった。
躊躇ったが、祈るような気持ちで大神はアイリスに近付いていく。

鼓動が高鳴る。
声を掛ける。
何度か揺らす。
眼を覚ますアイリス。

「お兄ちゃん……」

ポルナレフがまた演技をしているのかもしれなかった。
だが、ポルナレフという存在がよく知った現在、大神にはすぐに理解出来た。
今のアイリスは、ポルナレフでは、ない。
ポルナレフがアイリスの演技をしていても、今のアイリスとは何かが違う事が大神には分かる。
何がとはっきりとは言えないが、雰囲気や心が違う事が分かる。
そう。自分はアイリスの恋人なのだ。
それくらい分からずして、どうしろと言うのか。

「ごめんね……。
ごめんね……」

アイリスが泣き出していた。
先刻までの記憶があるのだろうか。ポルナレフという存在の事も。
だが、今はそんな事はどうでもよかった。
不意に途轍もなく切ない衝動が巻き上がり、大神は久々に再会できた自分の恋人を、人目も憚らず抱きしめた。
とても、強く。自らの温もりで包み込めるように。
15 :ny [saga]:2011/10/19(水) 21:10:54.72 ID:oNEfTHUU0





「教えてくれ、マリア」

 アイリスの手を強く握り締めながら、大神は重く呟いた。

「先刻も言っていたが、狐憑きとは一体何なんだ?
いや、俺も狐憑きは知っている。それが我が国古来の妖怪の伝承だという事も。
だが……、それがアイリスと何の関係があるんだ?」

「そうですね……。本当は皆に聞かせるのはまだ早いのかもしれないけど……」

嘆息した後、マリアがアイリスを横目に言った。
マリアはアイリスにこの話を聞かせる事に反対のようだったが、
当事者抜きのそんな会議は好ましくない、という大神の案で渋々語っているように見える。

「前に言ったとおり、狐憑きとは突然人の人格が豹変してしまう事を指します。
それを古来の人々は狐の妖怪が憑いて、人格を豹変させていると考えていた。
ここまでは話しましたね?
近年、その狐憑きの原因が明らかになった。その事も話しましたね?」
では、その原因とは何なのか? 紅蘭?」

唐突に名を呼ばれ、紅蘭は驚いた様子であたふたと応じた。

「な、何やのん、マリアはん……」

「アナタも知っているでしょう? 狐憑きの原因を」

「せやな……。
ウチも開発を職としてる身やさかい、そっち方面にも自然と詳しくなるっちゅうもんや。
幸か不幸かは分からんけどな………」

「もういいではありませんか! 早く原因をお教えなさいな!」

堪え切れなくなったのか、すみれが声を荒げる。
いつも短気なすみれで大神は困らされるが、今回だけは同感だった。
マリアも紅蘭も、狐憑きの原因を言いたくないように見えた。
だから、大神はすみれの言葉に頷いた。

「すみれくんの言うとおりだ。マリア、紅蘭。
今は一刻を争うんだ。また、ポルナレフがアイリスの中に発現しないとも限らない。
その前に、対抗策を練っておきたい」

紅蘭が大きく嘆息してから、渋々言った。

「ウチらも単に勿体ぶってるわけやないんや。
でも、大神はんの言う事ももっともやもんな。
分かった。言うわ。狐憑きってな、簡単に言うともう一人の自分なんや」

「もう一人の自分……?」

「そうや。まだウチも詳しく知っているわけやないから、断定は出来んけどな。畑違いやし」

そこからの言葉はマリアが継いだ。

「続きは私が言います。もう一人の自分。
つまり、多重人格。専門用語で言うと、解離性同一性障害。
一人の肉体の中に何人もの人格が宿る精神病です」

精神病、という言葉を聞いて、アイリスが軽く反応したが、じっと沈黙していた。

「何人もの人格が宿るって……、
幽霊とかが入り込むんですか……?」

さくらが深刻そうな表情になって呟いたが、
マリアは大きくかぶりを振った。
16 :ny [saga]:2011/10/19(水) 21:11:56.24 ID:oNEfTHUU0
「それじゃ、狐憑きを信じていた昔の人と同じでしょう、さくら。
そうではないのよ。飽くまで、多重人格という症状から生じる人格はもう一人の自分なの」

「心が分かれるっちゅうほうが分かりやすいかも知れんな。
人間には何かは知らんけど、何かきっかけがあって、心がいくつかに分かれてしまう事があるらしい。
それでそれぞれが違う性格を持っていくらしいんや」

俄かには信じがたい話だった。
もう一人の自分、多重人格、解離性同一性障害。
そんなものが実在するのだろうか。

だが、受け入れなければならないのも、また事実だった。
二つの人格。
アイリスとポルナレフ。
無邪気なアイリスと、邪悪の塊のようなポルナレフ。
光と闇。
陰と陽。
その両極端な人格が、アイリスの中でせめぎあっている。それは確かなのだ。
何故なのか、どういう事なのか、大神には分からない。

「ただ一つ、分からん事がある」

と、眼鏡を指で押し上げながら、紅蘭が呟くように言った。

「詳しくは知らへんけど、多重人格っちゅうのは、いきなり発症するもんじゃあらへんらしい。
そりゃあそうや。昔のきっかけで分かれた心が、少しずつ性格を持っていくのが多重人格や。
いきなり発症してたまるかいな」

それもそうだ。
大神は頷いて、尋ねる。

「それじゃあ、アイリスはずっと多重人格っていうやつだったってわけなのか?」

「そういう事になるはずなんやけど……」

 それにはカンナが反論した。

「でも、待ってくれよ。
今まで皆の前で、あんなポルナレフとかいう厭な野郎が出てきた事はなかったじゃないか。
どういう事なんだい?」

余程、自分が何も出来ず、ポルナレフに翻弄された事を根に持っているのだろう。
カンナの悔しそうな態度が、その言葉に聞いて取れた。
苦笑して、紅蘭が応じる。

「まあまあ、そんなにあつうならんと。な? カンナはん。
……でも、確かにカンナはんの言う通りなんや。
今までウチらの前でポルナレフっちゅういけすかん奴が、アイリスの身体を支配した事はない。
何かの理由で眠っとったんか、それとも、別の理由なんか……。
とにかくポルナレフは活動しとらんかった。
重要なのは次や。
どうして、活動しとらんかったポルナレフが今頃になって活動を始めたんか?
そのきっかけがきっと何かあるはずなんや。問題なのはそれが何なのかや」

「隊長。何か心当たりはありませんか?
私も現場には偶然いたのですが、一部始終を見ていたわけではありません。
私の目撃したのは、宙に浮いて地震を起こすアイリス、気を失って落下するアイリス……。
それだけです」

「そう言われてもなぁ……」

突如話を振られ、困った大神は頭を掻いて必死に思い出す。
まず自分とアイリスが散歩をしていた。
春一番が吹いて、アイリスがスカートを押さえた。
その反動でジャンポールが風にさらわれた。
河岸の向こうにジャンポールが連れて行かれた。
それから……。
17 :ny [saga]:2011/10/19(水) 21:12:59.49 ID:oNEfTHUU0
「そうだ。
強い風でジャンポールが河岸に連れて行かれたから、アイリスが霊力を使って自分の所に戻したんだ。
でも、それくらいならいつもの事だしなぁ……」

「ううん」

大神の言葉は、アイリスに否定された。
押し殺された声で、辛そうにアイリスは続けた。

「アイリス、おぼえてる。アイリスが霊力をつかったときに、男の子が見てたの」

大神もそれは覚えていた。
突然宙に浮いたジャンポールを見て、不思議そうな顔をしていたあの時の少年。
だが、その少年が何だと言うのだろう。

「アイリスね、その男の子を見たとき、身体がすっごくあつくなったんだ。
アイリスはおぼえてないのに、アイリスじゃないだれかがおぼえてるみたいに、
どこかでみたようなきがしたんだ。
そうしたら、アイリスの身体がかってにうごいて、空をとんだり、地震をおこしたり……。
だからね……」

震えて、アイリスは涙を流していた。
大神は頭に手を置いて、落ち着かせるよう撫でてやった。
だが、もしそうであるならば……。

「隊長」

レニがアイリスの顔を辛そうに見つめつつ、吐き出すように言う。

「これから言うのは、ボクの仮定なんだけれど……」

「ああ、構わない」

「アイリスが、昔、半分幽閉された状態で生活していたことを、知ってるよね?
だけど、全ての現象にはきっかけがある。
そう。当然だけど、アイリスが幽閉されるきっかけになった事件も、あったと思うんだ。
それが何かはアイリスも憶えてないだろうし、些細な事かもしれないけど、
トラウマというものはそういうことから起こる。
もしかしたら……、もしかしたら、だけれど、アイリスが幽閉されるきっかけは、
霊力をたまたま使ったときに誰かに見られてしまったからとは……、考えられないかな?」

「つまりは……」

 珍しく、さくらが会話に口を挟んだ。

「今回の場合はたまたま男の子が見ていた。
偶然かもしれないけれど、それがアイリスの心にひどく衝撃を与えるものだったかもしれない。
って事よね?」

「……そうだね。そうなるかな」

言ったが、しかし、言った後、レニはかぶりを振った。

「いや、そうとは限らない。
別にアイリスの心に衝撃を与えるものでなくても構わないんだ。
事実、アイリスは何も分からなかったって言ってる。
つまり……、アイリスの中の誰か、
その誰かが目覚めるきっかけとして受け取れば、それだけでポルナレフは発現する」

「誰かって……、やっぱりあの厭な男ですかー?」

「その辺りはボクにも分からない。ポルナレフかもしれないし、他の人格かもしれない」

レニの言葉を聞きながら、大神は少し項垂れたようになった。
もしもレニの言葉の通りだとするならば……。

「すまない、みんな。俺の管理責任だ。
俺がアイリスの霊力に気を配っていれば……」

その通りだ。
レニの言葉が正しいのなら、完全にアイリスに注意していなかった大神の責任である。
18 :ny [saga]:2011/10/19(水) 21:13:35.10 ID:oNEfTHUU0
「ううん、アイリスのせいだよ……。
霊力をあんまりつかっちゃいけないって、マリアの言うことをちゃんと聞かなかったんだもん……」

アイリスの言葉で暗い雰囲気になりかけていく。
だが、カンナは明るく言ってくれた。

「気にすんなって、二人とも!
誰にだって、予想出来てない事だったんだしさ!」

カンナの明るさは、いつも大神に勇気を与えてくれる。
ありがとう、と大神はカンナに頭を下げる。
へへっ、とカンナは少し照れたように笑った。
二人の固い信頼関係を羨ましそうに横目で見つつ、紅蘭が語調を変えて言った。

「カンナはんの言う通りや。きっかけはどうでもええ。
要はこれからどうするかや」

それには織姫も賛同した。

「そうでーす! うじうじしても意味ありませーん!」

こうして、途方もない作戦会議が始まった。
解決法も、戦法も全くない状態だった。
しかし、紅蘭の言う通り、これからどうするかが問題なのだ。
自らの小さな恋人を守るために。大切な存在を守るために。
そうするしかなかった。
そうしなければ、不安感で押し潰されそうだった。
19 :ny [saga]:2011/10/19(水) 21:14:03.05 ID:oNEfTHUU0





結局、何の解決策も出なかった。
作戦会議を数時間続けるが、何しろ今までの敵とは違い、
多重人格という途方もない上に前例がない強敵ゆえ、答えが出ようはずもない。
幸いポルナレフが発現する事はなかったものの、大神達は時間を消費しただけだった。
仕方なく、三人ずつアイリスの傍にいる事にして、解散する事になった。
ちなみに最初の監視は、さくら、カンナ、織姫だ。
大神が一人部屋で寝転んで解決策を考えていると、突然扉が叩かれた。来客だ。
扉の先で待っていたのはマリアだった。
深刻そうな表情をしていたため、思わず部屋に上げてしまった。
部屋に上がると、マリアは唐突に重苦しく言った。

「事態は思った以上に深刻なんです」

「………………」

「隊長。何故私がここまで解離性同一性障害に詳しいか、お分かりになりますか?」

「いや……」

「私がクワッサリーと呼ばれた頃です。
完全にというわけではありませんが、私にはそこそこ親しい知人がいました。
その知人こそが解離性同一性障害だったんです。
彼女はよく自分の事を話してくれました。
幼少の頃、両親に受けた虐待の事、自分を憎んでいる人格の事、解離性同一性障害の事などを……。
それで、詳しくなれたのです」

「今、彼女は………?」

大神が訊ねると、眼を伏せてマリアが辛そうに呟いた。

「……死にました。他人格の負荷が重過ぎたんです。
自殺願望がある他人格が彼女の首を斬って、彼女ごと死にました」

「厭な……、話だな……」

「ええ……」

「アイリスもそうなる……と?」

マリアは首を振った。
否定ではあったが、肯定でもあるようだった。

「もっと酷いです。隊長。
アイリスは霊力を有しているのですよ」

ああそうか、と大神は頭を抱えた。
そうなのだ。アイリスは霊力を持つのだ。それも最高位の。
それはどれだけ危険な事か。
アイリス自身ですら分からないほど危険なのだ。
それをポルナレフに悪用されてしまったとしたら……。

「更に……、です」

 マリアは駄目押しした。

「ポルナレフには恐らく制限がない。
純真なアイリスと対となる人格です。
恐らく、次に彼が発現したとしたなら、制限なく霊力を使い行き着く果ては……」

「帝都の完全消滅……だとでも?」

「或いは、先にアイリスの霊力が完全に尽き果てるか……」

霊力の完全消滅。つまり、アイリスの死だ。絶望的だった。
だが、何かをしないわけにもいかないのだった。

「一つ、提案があります」

「提案?」

「私の霊力を使い、アイリスの時を止めます。つまり、冷凍睡眠です」

「出来るのかい? そんな事が」
20 :ny [saga]:2011/10/19(水) 21:14:27.69 ID:oNEfTHUU0
「ええ、必ず。紅蘭の科学力と私の霊力を使えば、必ず成功すると思います。
現在の状態では、アイリスの治療法は恐らくありません。
ならば、治療法を確立するまで、アイリスを仮死状態にするしか……」

「駄目だ!」

部屋が震えるほど、大神は叫んだ。
冷静なマリアの表情が驚きで固まるほどだった。

「何を言っているのか分かっているのか、マリア?
アイリスが俺たちと同じときを生きられなくなるんだぞっ!
そんな事を出来るはずがないだろうっ!」

アイリスは人一倍背伸びをしたがる子だ。大人になるのを誰よりも望んでいた。
そんなアイリスの時を止め、皆と違う時間を生きさせるなど、
理屈的には分かっていても、どうしても大神には出来なかった。
目覚めた時、その幼心に再び大きな傷を受けさせてしまうなど……、そんな事が出来るわけがない。
だが、マリアは譲らなかった。譲れないのだ、彼女も。

「私だって……! 私だってそんな事は分かっています!」
 
叫んで、震えていた。
そうだ。彼女は友人を失っているのだ。
きっとマリア自身が多重人格の恐ろしさを、誰よりも分かっているのだ。

「……すまない」

 呟くように大神は謝る。

「いえ、私こそすみません、隊長。動揺してしまって……」

それから、二人は何も言わなかった。
眼前の強大な敵に絶望していた。
相手はもう一人のアイリス。
どうやって相手をしろというのだろうか……。

「もう一つだけ……」

「え?」

「もう一つだけ、可能性があります」

「ある……のか?」

「ええ。ですが、とても確率の低い可能性です。それでも、構いませんか?」

運命と戦わずしてアイリスを失うか、運命と戦って低い確率に賭けるか。
選ぶとしたら後者しかない。
全員帰還、だ。理想かもしれない。無理な理屈かもしれない。
だが、その理想を貫き通さずして、何が軍人だろう。何が隊長だろう。
理想だけで人は救えないのは分かっているが、理想を無くしては未来を創造する事は出来ない。
偉ぶって犠牲すら数字としてしか見られない隊長に、何の意味があるだろう。
だから、大神は言うのだ。賭けるのだ。

「当然だ。教えてくれ、マリア」

「分かりました。
隊長、ポルナレフに異変が起こった時の事を覚えていらっしゃいますか?」

「霊力が弱まった時の事かい?」

「そうです。彼は言っていたでしょう?
『アイリスか……? いや、違う……?
出てくんな! てめえはいっつも俺の邪魔ばかりしやがって!
今は俺だ! やめろ! 来るなっ!』と大体そんな感じの事を……」

大神は首肯する。
そうだ。大神が殺されそうになる寸前だった。
あの時はアイリスが助けてくれたのかとも思ったが、振り返るとどうも違うようにも思える。
マリアは続ける。
21 :ny [saga]:2011/10/19(水) 21:15:14.84 ID:oNEfTHUU0

「ここで『ポルナレフ』の言う『てめえ』。
『アイリス』ではない、別人格。
この別人格こそがポイントだと思うんです」

「第三の人格……って事か」

「そうです。考えてみてください。
明らかに『ポルナレフ』の精神力は『アイリス』の精神力を絶対的に上回っています。
ですが、アイリス。いえ、今は『イリス』と呼びましょう。
『イリス』の身体を支配しているのは『アイリス』です。
これはどういう事なのでしょう?」

「『てめえ』が『ポルナレフ』を抑え込んでいる?」

「恐らくそうでしょう。
それと『ポルナレフ』は『てめえはいっつも俺の邪魔ばっかしやがって!』と言っています。
つまり、『てめえ』が『ポルナレフ』をずっと抑えつけていたのでしょう」

「それじゃあ、その第三の人格と接触出来れば、『アイリス』を救える?」

喜んだ表情で大神は言った。希望が見えてきたのだ。当然だ。

「それを人格統合……と言います。
第三の人格と協力して、アイリスの人格を一つに統合出来れば、帝都の危機、アイリスの危機は消えます」

「そっ、そうか!
じゃあ、早速実行……」

「待って下さい!」

マリアが大神の肩を掴み、
最も言い難かったのだろう事を言った。

「この方法には大きな問題があります」

「大きな問題だってっ?」

「例の友人が教えてくれたのですが、
解離性同一性障害は白人の女性が80%以上を占めているそうです。
その内、幼少時に虐待を受けていた人が殆どです」

「それが……?」

「『第三の人格』、『アイリス』、『ポルナレフ』は幼少時の虐待の記憶は殆どないでしょう。
『第三の人格』は『ポルナレフ』を抑え込めるほどですし、
『ポルナレフ』にしても虐待のトラウマ程度で、今更衝撃を受けるような人格ではなさそうです。
『アイリス』も少し憶えているだけ。
つまり、もう一つ大きなトラウマを抱えた、第四の人格があるはずなんです」

「第四の……人格だって……」

「今回、『ポルナレフ』を発現させる隙を作ってしまった、第四の人格。
恐らく、それこそがアイリス本人……、主人格の『イリス』です」

「『イリス』っ?」

「勿論、本人であると言う確証はありません。
ただ、これだけは言えます。
私達のよく知っているアイリスは、『アイリス』であって『イリス』ではないと」

「『アイリス』が本人じゃないっていうのかっ? 殆ど前面に出てるじゃないかっ!」

いえ、とマリアは言った。
大神は認めたくなかった。認めるのを拒否しようとした。
だが、マリアは残酷に続けた。彼女自身辛いだろうに。

「前面に出ている人格はホストといって、本人である必要はないんです。
例の知人もそうでした。
そして、きっとその事は『アイリス』も気付いているんじゃないでしょうか」

「『アイリス』自身が……?」

「『アイリス』は自分の事を『イリス』と呼ぶのを好みません。
些細な事ですが、それこそ、彼女が自分を『イリス』本人でない事を、気付いている証拠ではないでしょうか?」

「『アイリス』が本人じゃない……」
22 :ny [saga]:2011/10/19(水) 21:15:42.10 ID:oNEfTHUU0
衝撃だった。酷い冗談だ。悪い夢なら醒めて欲しかった。
だが、残念ながら夢ではない。
これは現実なのだった。

「なあ、マリア。統合された人格はどうなるんだ……?」

吐き出すように大神が言って、吐き出すようにマリアが応じる。共に辛かった。

「多少残りますが、主人格のパーツとして生きていくらしい……です」

何という事なのだろう。
アイリスを救うために必要な人格統合。
人格を統合して、アイリスを助けなくてはならない。
だが、そのこと自体が『アイリス』という自分の小さな恋人を、消してしまう事になるのだ。
アイリスを救うために、『アイリス』を消さなくてはならない……。
何てことだ。どうしようもないじゃないか………。
大神は拳を自室の壁に叩きつけて、胸に襲い来る痛みと戦った。
何度も何度も叩きつけ、皮が剥け、血が流れても、大神は壁を拳で叩き続けた。
唇を噛み締め、拳を握り締め、必死に絶望と戦う。
大神は、英断を迫られていた。
23 :ny [saga]:2011/10/19(水) 21:16:37.63 ID:oNEfTHUU0


今夜はここまで。
えー……、フランス人なんで、ポルナレフです。
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/21(金) 01:52:58.53 ID:ZSj/JVU3o
乙です。これは発想の勝利。
第三の人格の名前はジャンポールかなやはり。
25 :ny [saga]:2011/10/21(金) 19:16:55.35 ID:sT9PuPCN0





時計の音だけが、アイリスの部屋に響いていた。
皆には退室してもらい、大神はアイリスと二人きりでいた。
アイリスと二人きり。これが普段であれば、どれだけ幸せな事だったろう。
アイリスは何も言わなかった。
全てを分かっているのだろうが、何も言わなかった。
ぽつり、と大神は言った。

「アイリス……。アイリスに言わなきゃならない事がある……」

「うん……」

「アイリスは、病気なんだ。
それを治すためには、色々とアイリスに協力してもらわなきゃならない」

「うん……」

「だけど、それは………」

言葉にする事ができない。
言葉にしてしまったら現実になるようで、恐い。
アイリスを救う事。
それは『アイリス』を消してしまう事でもある。
どうにか言葉にしようと、大神は口を開く。
それでも、声が出ない。喉が渇き切っている。
熱い、身体中が。
時間はない。
一刻も早く、人格統合を実行せねば、
再び『ポルナレフ』が発現し、帝都も、アイリスも無に帰するだろう。
それだけは避けねばならない。
迷う事はないはずだった。

だのに。
『アイリス』との想い出が邪魔するから。
傍に居て、笑ってくれていた記憶が邪魔するから。
大神は何も言えない。

「お兄ちゃん……」

辛そうな表情。
だが、決心したような、そんな表情をアイリスが浮かべた。

「アイリスは……帝国華撃団だから」

はっ、とした。
アイリスはそういう子なのだと、今更気付いた。
26 :ny [saga]:2011/10/21(金) 19:17:23.50 ID:sT9PuPCN0
「アイリスが消えるのが……いいんだよね?
みんなのためにも、そうするのが一番……いいんだよね?」

感じ取っていたのだろう。
自分がどうするべきなのかも分かるのだろう。
そして、分かってしまったから。
分かってしまったから……、アイリスが取る行動は一つなのだ。
人格統合。
自分が消えてしまう事は分かっている。
けれども、

「アイリスがこのままだったら、いけないんだもんね……。
もしも、もういっかい『ポルナレフ』がでてきたら、きっとお兄ちゃんにひどいことしちゃうよ……。
みんなもひどいことされちゃう。レニも、お兄ちゃんも、みんな、みんな……!」

誰よりも泣き虫なくせに、布団のシーツを握って、

「だから、アイリス、消えるよ……。
『ポルナレフ』といっしょに……、もとのアイリスにもどる……」

 身体が震えても、抑えて、唇が震えても、噛み締めて、

「アイリスは……それをえらぶよ……。お兄ちゃん……」

必死で言う。泣きそうな表情のくせして、気丈に言葉を吐き出す。
アイリスはそういう子。そういう優し過ぎる子なのだった。
大神の瞳が涙に支配されそうになる。
駄目だ、出てくるな!
アイリスが必死に堪えているのに、恋人の自分が泣いてどうするんだ!
だのに、大神は溢れそうになる涙を、堪える事が出来ない。
涙などに負けてたまるか。
確かに泣きたい時は泣くべきなのだろう。
だが、今泣くべきは自分ではない。自分ではないのだ。

「あっ、あははっ……。お兄ちゃん、ないてる……」

必死の笑顔で微笑むアイリス。
胸がひどく痛い。
だが、泣いてはならないのだ。自分は涙に負けてはならない。
何とか言葉を出そうとするが、大神は何も言えない。
それでも、大神はアイリスを正面から力強く抱いた。
温もりを伝えてやりたかった。
温もりを感じたかった。

「お……お兄ちゃ……。はずかしいよお……」

結局、大神は溢れ出そうな涙には勝てなかった。
しかし、これだけは言える。

「アイ…リス……、いいんだ。アイリスこそ我慢するな。
泣きたい時は泣いていいんだ……。
今泣かなくて……、どうするんだ。
本当に辛い時は……泣いてもいいんだよ……!」

どうにか搾り出した。伝えなくてはならない言葉を、とにかく搾り出した。
そう。これだけは言える。
結局、大神は溢れ出そうな涙には勝てなかった。
しかし、負けもしなかった、と。
大神の腕の中で、アイリスが小刻みに震え始める。震えた声で言う。

「ずるいよぉ……お兄ちゃん……。
アイリス……、アイリス……がまんしてたのに、がんばってがまんしてたのに……。
そんなこといわれちゃったら……、ないちゃうよぉ……。
とまらなくなっちゃうよぉ……」

「いいんだ。泣いていいんだ……!」

 途端、アイリスがしゃくりだす。止まらず、しゃくり上げる。

「う……う……うう……。
うわあああああああああああああああああああっ!」

大声で泣き始める。
部屋中をアイリスの号泣の声が包んだ。
ずっと、大神はアイリスを抱き締めていた。
涙に負けず、胸が悲鳴を上げても、アイリスが温もりを忘れないように。
自分がアイリスの温もりを忘れないように、ずっと、ずっと、抱き締めていた。
27 :ny [saga]:2011/10/21(金) 19:17:54.61 ID:sT9PuPCN0





「『ポルナレフ』……。アイリス、しってるかもしれない」

大声で泣いて多少は落ち着いたのか、アイリスがぽつりと呟いた。

「知ってるって?」

「うん。夢のこと」

「夢だって?」

「たまにね。アイリスがこわい夢を見た、っていう時があるよね?
そのときの夢に変な男の子が出てきたんだ」

「それが『ポルナレフ』?」

多分、とアイリスが頷く。

「その男の子はね、いつもアイリスをおいかけるんだ。
なんだかよくおぼえてないけど、『こんどはおまえが鬼だ』って、おにごっこみたいに、おいかけてくるの。
だから、アイリスはにげるんだけど……」

「『今度はおまえが鬼だ』……か」

「でもね、いつもジャンポールがたすけてくれるんだよ」

「ジャンポールが?」

「だって、アイリスのたいせつなおともだちだもん。
だからたすけてくれるんだよ」

飽くまで夢だ。
だが、大神の心のどこかに引っかかった。
『ポルナレフ』の言う『てめえ』、その『てめえ』の役割を、ジャンポールがしている。
もしかして、『ポルナレフ』の言う邪魔な人格とは、
アイリスの他の人格ではなく、もしかしたら、ジャンポールなのではないか。
まさかな、と大神はかぶりを振った。ジャンポールはただのぬいぐるみだ。そんな事はありえない。
アイリスのイメージとして、『てめえ』がジャンポールと重なっただけだろう。

「でもね」

まだ、アイリスの夢の話は続いているようだった。
慌てて、枕元のジャンポールからアイリスの方向に視線を戻す。
28 :ny [saga]:2011/10/21(金) 19:18:46.63 ID:sT9PuPCN0
「それをずっと見てる女の子がいたんだ。なにもはなさないで」

「今度は女の子……か」

「アイリス、はじめのうちは、なにもしてくれないその子がきらいだったんだよ。
だけどね、夢の中で何回かは、その子とおはなしができたんだ。
それでアイリスははなしたんだよ。
『どうしてたすけてくれないの?』って。
そうしたら、その子は言ったんだ。
『わたしはみんなにきらわれてるから』って。
なんとなくだけど、アイリスは思ったんだ。
あの子はむかしジャンポールしかおともだちがいなかったアイリスと同じなんだって。
レニをはじめて見たときみたいに、そう思ったんだよ。
だから、レニみたいにたすけてあげたいんだ」

抽象的過ぎて大神には何とも言えなかった。
たかが夢とも言える。
だけど、夢だからこそ、真実を語っているのではないかとも思った。夢という形で。
『第三の人格』、『イリス』、『アイリス』、『ポルナレフ』。
四つの人格。
四つの性格。
『イリス』は絶望的に生きている。自分は不要な人間だと思っている。
だから、他に三つの人格を作った。
まず、人から好かれやすいよう無邪気で孤独に耐えられる人格、『アイリス』を作った。
だが、その反動で邪悪な人格、『ポルナレフ』が生まれた。
『ポルナレフ』は『イリス』の世界に対する憎悪を、全て背負って生まれた。
喜びとか、愛とか、殆どの感情は『アイリス』に奪われている。
だからこそ、アイリスの身体を欲しがっているのかもしれない。
そして、自己防衛本能なのか、故意なのか、『第三の人格』が生まれた。

『第三の人格』は僅かに残った『イリス』の善意の人格なのだろう。
だから、『アイリス』を守るためだけに存在している。
こういう事なのだろうか……。
全ては、ずば抜けた霊力を持って生まれてしまった、『イリス』という少女を襲ってしまった悲劇。
神の悪戯によって生まれた哀しい存在。
全員、被害者なのかもしれない。
『第三の人格』も『アイリス』も『イリス』も、当然ながら『ポルナレフ』も……。
そして、『アイリス』は『イリス』を救いたいと言っている……。

「でも、アイリス……。その子を助けるという事は……」

「わかってるよ、お兄ちゃん………。わかってるんだもん、アイリスも」

そして、アイリスはその意味を『わかってる』。
ならば、自分は何をすべきなのだろう。
泣き叫ぶほどの絶望と恐怖を抱えて、
必死に自分でない誰かを救おうとしているアイリスを前にして、何が出来るというのだろう。
すると、アイリスは優しい微笑を浮かべて言った。

「だいじょうぶだよ、お兄ちゃん。
そんな悲しい顔しないで、いいんだよ」

言われて、気が付いた。
自分はまた辛い表情を浮かべていたらしい。

「アイリスも、こわいんだよ。ほんとうはいつもみたいに泣きたいんだよ。でも………」

どうして、アイリスはこんな穏やかな表情が出来るのだろう。
自分よりも遥かに年下なのに、何故こんなに強い表情が出来るのだろう。
不安だろうに、恐いだろうに、アイリスは、何故こんなにも強い?

「お兄ちゃんのおかげだよ」

意外な言葉だった。
思わず聞き返していた。

「俺の……かい?」

「うん。お兄ちゃんがそばにいてくれたら、アイリスはだいじょうぶなんだ。
どんなにこわいときでも、お兄ちゃんがいるって思えば、アイリスは……こわくないんだよ」

何も言う事は出来なかった。大神はもう一度強くアイリスを抱き締めた。
こんなに小さな子が必死に頑張っている。必死で決心している。
ならば、自分は見届けよう。何が起ころうとアイリスの傍で。
自分にはアイリスの傍にいる事しか出来ない。
いや、自分にはアイリスの傍にいる事が出来るのだから。
29 :ny [saga]:2011/10/21(金) 19:19:14.80 ID:sT9PuPCN0





例えば春。
桃色のリボンが揺れていた。桜の花と同じ色。言って、無邪気に笑う少女がいた。
例えば夏。
大きな花火に驚く。慣れない下駄に戸惑いながら、可愛い浴衣で遊ぶ少女がいた。
例えば秋。
枯れ葉舞う頃、だからこそ穏やかな頃。ぬいぐるみを抱いた少女がいた。
例えば冬。
雪。銀色の世界。綺麗な金髪が更に映える。そんな雪に笑う少女がいた。

その少女が決断した。
ならば、彼女の思うままに見守ろう。
そうする事しか……、出来なかった。
30 :ny [saga]:2011/10/21(金) 19:19:41.92 ID:sT9PuPCN0





人格統合はそんなに難しい事ではないらしい。
それぞれの人格が人格でなくなり、主人格を補う形で生きていく事を選択したのなら、
それだけで人格の統合は終了する。スイッチを切るようにあっけなく、多重人格症は終わりを告げるのだ。
だが、当然そううまくはいかない。
アイリスの場合は二つの難関が立ちはだかっていた。
まずは『ポルナレフ』。
あの非協力的な人格。自分が本人に取って代わることを狙う人格。
彼と話し合い、統合に至らせるまでは、長い時間が掛かるだろう。

否、彼はまだ問題ではないかもしれない。
問題なのはアイリスの主人格、『イリス』だ。
『イリス』はこの局面に至ってすら、未だその人格を現さない。
恐らく、彼女は全てを拒否している。努力も、気力も、全て放棄している。
そんな人格ょ相手にどう説得すればいいのか、皆目見当もつかない。
確かに人格全てを放っておいて、『アイリス』以外の人格のみを、
無理にでも消滅させるという手段もなくはなかった。
薬物療法という少々危険な手立てであるが、成功はするだろう。
ただ、その事が『アイリス』にどんな副作用を与えるか分からないし、何より『アイリス』自身が拒否した。
何人もの彼女達を消失させる事は、『アイリス』は望まない。

『イリス』達はアイリスなのだ。
悲劇故に悪い方向に進んでしまった、アイリスの可能性なのだ。
それらを消すのが、解決と言えるだろうか。
否、そうではない。
それではただの逃避だろう。
誰しもが醜い一面や、脆い一面を持っている。
それぞれに向き合い、立ち向かわなければ、人間は成長出来まい。
もしもその自分から眼を逸らした場合、その先に待つのは破滅でしかない。
だから、アイリスは戦うのだ。
誰のためでもなく、自分のために自分と戦うのだ。
そう、大神は信じたかった。
31 :ny [saga]:2011/10/21(金) 19:20:51.05 ID:sT9PuPCN0





数日が経った。
アイリスに変化は見られなかったが、安心は出来なかった。
こちらも『ポルナレフ』と対抗する手段を、まだ見つけられていない。
出来た事といえば、紅蘭に頼んで対象者の霊力を何とか抑制する程度の機械を作ってもらえた程度だ。
マリアの知人(恐らく友人)の話から経過を推察したり、
レニの尽力でアイリスの深層心理に話し掛けてはみたが、やはり無理だった。
相手はあの『ポルナレフ』なのだ。生半可では返り討ちにあうだろう。
時間だけが残酷に過ぎていった。
『ポルナレフ』が発現しない理由は、恐らくは霊力を少しずつ溜めているためだろう。
次回……、そう、次回発現した時こそ、
『第三の人格』に邪魔されず活動出来るよう、彼の無尽蔵とも言える霊的能力を高めているのだろう。

勝負は次回だ。
次回、全ての決着が着く。
『ポルナレフ』が勝ち、『アイリス』も帝都も無に帰するか、
『アイリス』が彼を統合し、そして、『イリス』の部品として『アイリス』が生きていく事になるのか。
どちらにしろ『アイリス』はこの世から消えるのだろう。想い出だけを残して、きっと。
それを見たくはなかった。
大神は『アイリス』を失いたくなかった。
時が止まってほしいと思った。
時が止まっててくれたのなら、大神はアイリスと一緒に居られる。居られるのだ。

だが……。
それを求めるわけにはいかなかった。
心では思っていても、本当に望むわけにはいかなかった。
それは『アイリス』の時をも、止めてしまう事になるから。
『アイリス』はこれから楽しい人生を送るのだ。
『イリス』の部品かもしれないが、それでも、彼女は楽しい人生を送っていかなければならないのだ。
これまで彼女が戦ってきたのはそのためだ。
だから、大神は出来る限りアイリスの傍に居る。
『アイリス』が消える『その時』が来るまで。
大神は『アイリス』との想い出を作り、
消えてしまったとしても『アイリス』に何らかの温もりを憶えて欲しかったのだ。
いつか来る二人の『その時』に備えて。
そして……、『その時』は訪れた。
32 :ny [saga]:2011/10/21(金) 19:21:21.53 ID:sT9PuPCN0





前触れはなかった。
まさに一瞬。刹那。
その刹那に大神は、アイリスの傍から遥かに吹き飛ばされた。
壁にぶつかり、背中に鈍痛を感じながらも、『その時』が来たのだと大神は思っていた。
頭が真っ白になりそうだった。
幾人もの仲間を失くした時の感覚によく似ている。
このまま、自分は『アイリス』を失ってしまうのだろう。永遠に。
『ポルナレフ』を撃退出来たとしても、その先に待つのは『アイリス』の消滅。
消滅。
一切の……無。
アイリスはこの世界から消え去るのだ。消え去ってしまうのだ。
自分には何も出来ない。
アイリスが消滅する。自分には何も出来ない。
自分には何も出来ない。自分には何も出来ない。自分には何も出来ない。
何も何も何も何も何も何も何も……。

「隊長っ!」

異変に気付いたらしく、マリアが部屋に飛び込んできてから叫ぶ。
はっ、と大神は一気に現実に引き戻される。
何を考えているんだ、俺は!
自分を叱咤し、張り手を自分の頬に張る。
そうだ。自分は『アイリス』の決断を見届けると決めたのだ。
ならば、絶望している暇など、あろうはずもない。
自分に出来る事はないかもしれない。
ないかもしれないが、それでも、何もしないよりは余程いい。
現在、自分自身にやれる事をやっておかなければ、一生後悔するだろう。
大神は瞳を閉じ、拳を握る。唇を噛み締める。
そして、決断するように、大神は大きく眼を見開いて叫んだ。

「『ポルナレフ』っ! 貴様に話があるっ!」

久方ぶりに発現したせいか、
『ポルナレフ』の焦点は寝惚けた如く合っていなかったが、
暫くすると、眼を座らせた真っ黒い狂気の表情と化した。

「よお、隊長さん。
久しぶりじゃねぇか。てめぇは殺すっつったはずだが、また俺の前に顔出すとはいい度胸だなぁ?
殺されに来たのかあっ?」

相変わらず、人を喰ったような態度をする男だった。
アイリスが汚されるような気がして、大神は途轍もない不快感に襲われる。殴り掛かりたいたいほどだ。
だが、今回は駄目だ。
『ポルナレフ』と会話をしなくてはならないのだ。

「いや、違う。話だ。そう、話をしようじゃないか、『ポルナレフ』。
俺は貴様と話さなきゃならない事がある。
貴様も、俺に話す事があるはずだろう?」

「話? 話だと? 俺はてめぇに話なんかねぇよ」

呆れたように『ポルナレフ』が返す。
大神の事など、屑ほどの関心も持っていないらしい。
だが、ここで引くわけにはいかなかった。

「だが……」

「だがよぉ、大神、いいだろう。一ついい話をしてやる。
重要な話だぜ。よく聞け」

意外な反応だった。大神の言葉より先に『ポルナレフ』が反応した。
これまでの奴にはない反応だ。
アイリスのリボンを解きながら、昔話でもするように『ポルナレフ』は軽く始めた。
異変に気付いたのか、さくら達がやってきていたが、『ポルナレフ』はそれは無視した。
33 :ny [saga]:2011/10/21(金) 19:21:58.54 ID:sT9PuPCN0
「昔、一人の男の子が居ました。
何処から来たのか分からない、何処に行くのか分からない……、
ただ、真っ暗な深淵の園で一人きりで生きている男の子がいました。
温もりはない。光明もない。
何もない世界で一人きりで生きてきました。
彼は自分自身が誰であるのか、何のために生まれてきたのかも分からない中途半端な存在でした……」

穏やかな口調だった。
奴らしくもない様子に見えた。

「ある日、初めて知らない子供達が男の子の前に現れました。
子供達は言いました。『さあ、怖がらなくてもいいんだよ。僕達と一緒に行こう』と。
さて、そこで男の子はどうしたでしょう?」

大神は何も答えなかった。答えられなかった。
それを見届けると、満足そうに『ポルナレフ』は立ち上がった。
光源に照らされた彼の影はアイリスのものではなく、化物じみたそれのようだと大神は感じた。

「全員殺したんだよ」

ぽつり、と言った。

「全員殺してやったよ。脳漿をぶちまけるほどに粉砕してやった」

「非道い事を……」

さくらの呟きを、『ポルナレフ』は見逃さなかった。
鋭い眼光をさくらに向け、さくらはサイコキネシスで頬を張られる。
唇から一筋の血が流れたが、さくらは何も言わず『ポルナレフ』を睨み付けていた。

「何も知らない莫迦が! 偉そうに他人を語るんじゃねぇっ!」

「何故だ……?」

大神は思わず呟いていた。
『ポルナレフ』をここまで支配している感情が一体何なのか、それを知りたかった。
確かに大神だって誰かを殺したいと思った事はある。
腹が立ったり、人を憎んだりという事も日常茶飯事だ。軍人なのだ。
士道を生きている大神ですらそうなのだ。
寧ろアイリスくらいの年頃の子が、そういった感情を持たないのは異常とも言える。
だが、『ポルナレフ』のそれは一線を画していた。
憎悪とか、殺意とか、斯様な陳腐な言葉では語れない気がする。
もっと常人では発想すら出来ない、人間が踏み込んではならない何かを知っているのだろう、彼は。
すると、『ポルナレフ』は言った。非常に誇らしげに。

「いいだろう。昔話の続きだ。
その男の子には一つだけ記憶に残っている事があったのです。
自分が何者なのか分からないのに、名前しか分からないのに、
それなのに頭に呪いの様にこびりついている記憶があったのです。
それは誰だか分からないけれど、大量の人間達の記憶です。
大量の人間達に囲まれ、蔑まれている記憶です。
いや……」

『ポルナレフ』は息を吸った。

「それくらいはいい。
その程度なら慣れている。軽いもんだ。
だが、その記憶の中でも更に強く残っている記憶がある。
奴らの眼。怯えきったような眼だ。今思い出しても虫唾が奔る。
奴らはな、俺を化物を見るような眼で見やがった。
もっと非道いぜ。あの無責任な愚民どもはな!
俺を虫でも見るかのような眼で見やがった!
ただの虫を見る眼ですらない!
害虫を見る眼でな!
奴らの考えていることが、テレパスを使わなくっても、よぅく分かったよ。
『化物だ』、『害虫だ』、『排除しろ』、『消してしまえ』ってな。
他人に恐怖して、後はさっさと排除かよ!
集団心理野郎共がよおっ!」
34 :ny [saga]:2011/10/21(金) 19:22:33.71 ID:sT9PuPCN0
頭痛がした。彼の感情の波と衝撃の波が共鳴している。
だが、頭痛がするのは、そのためだけとも言えなかった。
何だ?
他人が他人の力に恐怖する。
それがこのような事を引き起こしてしまうのか?
ただ、たまたま存在してしまった異端児というだけで、こんな悲劇を背負ってしまうものなのか?
悪い夢のようだ。皆、分かり合えるはずなのに、どうしてこんな擦れ違いが起こる?

「さっきの数人の子供たちだけどな……。
あれは『臆病な主人格サマ』の別人格だ。今は『あいつ』と『俺』、『主人格』に『アイリス』。
多分、これだけしか俺の中に居ねえけどな、一時期はそれこそ百を越えてたよ。
丁度、『アイリス』が家に監禁されてた時だ。
『アイリス』も辛かっただろうがな、俺は一人で生きてたよ。
他の人格にその一番辛い記憶を押し付けられてなぁッ!

たまたまだ。たまたま、あの日、俺は他人格と接触出来た。
奴ら俺を見てひどく狼狽してな。
掌返したみたく俺を懐柔しようとしやがった。。
これから一緒に生きよう。記憶を共有しようって……。
遅いんだよ。
いくら謝られたってなあ、俺はこれっぽっちも臆病者共を生かすつもりなんぞなかったからよおっ!
殺してやったよ! 人格が一片たりとも残らないように消滅させてやったよ!」

長い独白は終わった。
『ポルナレフ』は自虐的に嗤……笑っている。
大神は、花組は、どうしても何も言えなかった。
『アイリス』が辛い経験をしてきた事は知っている。
それを苦難の果てに、長い戦いの果てに、乗り越えた事は知っている。
だが、『ポルナレフ』はそれ以上に辛い現実を生き抜いてきたのだ。
そう、彼は煉獄を孤独に生きてきたのだ。
彼を説得し、『アイリス』を取り戻す自信が、大神の中にはなかった。

だのに、レニは言った。強く、言った。

「それでも!」

『ポルナレフ』が無気力に目線をレニに向ける。

「アイリスはボクたちの大切な仲間なんだ! アイリスを返してくれっ!」
それを『ポルナレフ』は穏やかな眼で、見つめた。
サイコキネシスを覚悟していたらしいレニは、拍子抜けしたようになった。

「それは……出来ない」

突如、帝都を再び地震が襲った。大規模だ。かなり大きい。
少しずつ『ポルナレフ』が宙に浮いていく。

「悪いがな、俺の力はまだそこそこでな、『主人格』の野郎を消してしまえるほどじゃねぇんだ。
だから、俺は『アイリス』と統合して、更に力を得なきゃならない。
確かにあの愚民共は憎いさ。
俺を害虫みたいに扱いやがったあいつらは、何度殺したって飽きたりねぇさ。
だがな、もっとも許し難いのは『イリス』だ!
自分で自分の出来事を受け止めようともせずに、
表は『アイリス』に、裏は『俺』に役目を押し付け、現実からいつまでも逃げ回ってやがる『イリス』!
あの野郎だきゃあ……、
修羅地獄で煉獄の業火で数万回、数億回、数兆回、燃やし尽くしてやっても飽き足りねえっ!」
35 :ny [saga]:2011/10/21(金) 19:23:41.53 ID:sT9PuPCN0
地震が更に強くなっていく。
上昇する『ポルナレフ』の霊力に帝都が耐えられないのだ。
しかも、更に最悪な事に、彼はそれを自覚していない。
そうだ。そうなのだ、と大神は思った。
存在するだけで危険な無限大。
それがアイリスだったのだ。
余りにも高過ぎる霊力。
帝都を消滅させ、全てを消滅させ、自分すらも消滅させてしまうほどの巨大過ぎる霊力。
これは……悲劇……なのだろうか?
神がほんの気まぐれで作り出してしまった少女の。
そして、運命なのだろうか?
何もかも消滅させ、自分すら消滅させる運命に、アイリスは飲み込まれてしまうのか?

否、そんな事はさせない!
運命など存在しない。存在するはずがない。存在させてはならないのだ。
だから、大神は言うのだ。
足が震えても、手が震えても、唇が震えても、何が起こるとしても、言うのだ。

「アイリスを……、アイリスを返してくれっ!」

『ポルナレフ』の憎悪、悲哀は痛いほど分かる。
このような出会い方でなければ、分かり合える事が出来たかもしれないのだ。
だが、大神は余計な考えを、振り払わなければならなかった。
二者択一。
『ポルナレフ』は敵だ。『アイリス』を救うためには、彼を止めねばならなかった。
きっと今回の事件の発端は『ポルナレフ』なのだろう。
もしかしたら、彼はあのまま『アイリス』の中で一生を終えていたかもしれないのだ。
だが、数日前の少年の不思議そうな眼が、昔を彷彿とさせるから。
ひどく心に重く残る恐怖が、『ポルナレフ』の胸を騒がせるから。
彼は覚醒してしまったのだろう。
『イリス』を振り払わなければ、自分が自分として存在できないから。
だから……。

「隊長さんよ……」

突然、『ポルナレフ』は穏やかな口調で言った。

「もう遅いんだよ。『アイリス』の思念は殆どもう感じねえ。
さっき俺が出てきた時だろうな、あいつの人格は殆ど散って行っちまった。
だから……、残っているのはあいつの残留思念、その程度だから、だからなぁっ、前言ったろ?
『アイリス』を現世に留めてんのは隊長さんだとよおっ!
だから、悪ぃが死んでくれっ!
アンタが死ねば、『アイリス』は完全に消滅して、霊力は俺のもんだ!
俺のために死ねぇっ!」

その言葉に、大神は唐突に力が抜けていくのが分かった。

「嘘……だろ……?」

『アイリス』は……もう居ない?
助ける事も出来ない?
統合の手伝いもしてやれない?
結局、自分には何も出来なかったのか?
これまで戦友達を失った時のように……?
何も……?
瞬間、アイリスの顔が大神の脳裏を過ぎった。

『お兄ちゃんがそばにいてくれたら、アイリスはだいじょうぶなんだ』

そうだ。諦めたらそこで終わりだ。
全員帰還だ。生きなければ何にもならない。死んだら終わりなのだ。
そして、自分は『アイリス』の傍にいてやると決意したのだ。
どんなになっても諦めず、彼女の名を呼び続ける事を大神は誓ったのだ。
『アイリス』は自分が居れば恐くないと言っていた。
その期待に応えるのが隊長の……いや、恋人としてやらねばならない事だ。
36 :ny [saga]:2011/10/21(金) 19:24:11.85 ID:sT9PuPCN0
「『アイリス』っ! 聞こえていたら返事をしてくれっ!
俺が傍に居る! 俺は……、此処に居る!
だからっ! だからっ!
聞こえていたら返事をしてくれっ!
何も恐くないからっ! 俺が居るのだからっ!」

返事はない。
『ポルナレフ』が大神に掌を向ける。サイコキネシスの準備だろう。

「俺達はまだ何もやっていないだろうっ!
これからなんだっ! これからっ、俺達はっ!
俺達は生きていくんだっ! 楽しくっ!」

返事はない。
花組も声を上げる。届いていないかもしれない。もう聞こえないのかもしれない。
それでも、仲間を信じていたかった。

「故郷をまた案内してくれるんでしょうっ? 楽しみにしてますっ! だからっ!」

「幾度もの戦いを切り抜けた貴方がそれでどうします! これ以上恥をさらす前にっ!」

「また別れるなんて厭や! 花組は不滅や! せやから、せやからっ!」

「今度、本格的に稽古つけてやるって言ったじゃないか!
あれだけ楽しみにしてただろうっ? 大サービスだ! 奥義付きで稽古してやるっ!
だからっ!」

「『アイリス』っ! あの子も待ってるっ! キミはボクを救ってくれた!
だから、今度はボクがキミを呼ぶ! あの子とキミを待つ! だから早くっ!」

「情けないでーすっ! 返事をしないとまたからかいますっ! だからっ!」

全員の言葉が響く。
そして、大きな波紋となって重なる。

「返事をしてくれ! 『アイリス』っ!」

だのに、返事はない。

「だからっ! もう遅いんだよっ! 大神いっ!」

激昂して『ポルナレフ』が途轍もない霊力を集中させていく。
大神の霊力など相手にならない。
それほどの霊力が『ポルナレフ』に集まっていた。
言葉は届かなかったのか……?
傍に居てやると約束したのに、果たせないまま終わってしまうのか……?
死は恐くなかった。それだけが大神は無念だった。

「じゃあなっ! 隊長っ!」

『ポルナレフ』の声が響き、大神の身体が横凪に吹き飛ばされた。
37 :ny [saga]:2011/10/21(金) 19:24:51.81 ID:sT9PuPCN0





激痛が大神の身体を支配していた。
身体中が悲鳴を上げている。
だが、痛みを感じられる程度なら大した事はないはずだ。
どうにか、大神は立ち上がる。
痛いが、動けないほどではない。
しかし、これはどういうことだ?
あの霊力は確実に人間の致死量を超えていたはずだ。
手を抜いたのか?

だが、それが違うことはすぐに分かった。
目の前で、信じがたい光景が広がっていたのだ。

「………………っ?」

否、特に変わってはいなかった。
花組は全員無事だ。『ポルナレフ』も健在。違っているのは……。
空を飛ぶ一つの物体。
自分など相手にならない霊力を身にまとう存在。
そして、大神はそれに見覚えがあった。

「ジャンポール……っ?」

ジャンポール。
そう、『アイリス』の一番の親友、ジャンポールだ。
どういう事なのか、大神は一瞬現実を受け入れられなかった。
ただのぬいぐるみのはずのジャンポール、それが何故……?
瞬間、大神は『アイリス』の言葉を思い出した。
いつもジャンポールがたすけてくれるんだよ、という『アイリス』の言葉。
夢でなく、真にジャンポールが助けてくれていたと言うのか?
『ポルナレフ』は動揺しているようで、眼を剥いてジャンポールを睨みつけていた。

「てめえっ! てめえは『アイリス』と一緒に消えたはずっ!
また邪魔すんのかっ? どうしていつも俺の邪魔ばかりしやがるんだ、ちくしょおっ!」

『ポルナレフ』は絶叫する。ジャンポールはただ浮いている。
唐突に。
大神の脳裏に声が届いた。そして、それは花組全員も同じようだった。

『言ったよ。僕はアイリスを護るって』

ジャンポールの声だ。
『アイリス』がジャンポールと話すとき、ジャンポールの声真似をしていたときの声だ。
そうなのだ。と大神は思った。
アイリスを真に守る者。
簡単な事ではないか。ジャンポールだ。ジャンポールしかいない。
何て事はない。『ポルナレフ』の言う『てめえ』とは、『ジャンポール』だったのだ。
分かり切っていた事ではあったが、確証が無いから確信は持てなかった。
だが、もう間違いはない。
幼い頃から傍にいたアイリスの親友。
彼女を救い続けてきた英雄、『ジャンポール』。
きっと、ジャンポールその物は、ただのぬいぐるみなのだろう。

しかし、『イリス』が孤独に耐え切れず『ポルナレフ』を作り出したように、
『アイリス』はもっと違う方法で、もっと違う考え方で、
自分を救ってくれる親友、英雄を無意識のうちに作り出したのだ。
自分の辛い記憶を押し付ける対象ではなく、彼女らしく無邪気に、
ただ友達が欲しい一心で、その友人像をジャンポールに投影する事で。
そう。きっとそれこそが、アイリスを護る人格『ジャンポール』だ。
そうして生まれたのが、『アイリス』を護るぬいぐるみ、ジャンポール。
ぬいぐるみに別人格が宿るのも、彼女のテレパス能力があってすればのことに相違ない。
思えば『アイリス』はジャンポールが居ない時は、精神的に不安定な事が多々あった。
『ジャンポール』が傍に居るという事が、彼女の精神を保たせていたのだ。

いつも、護っていてくれたんだな、ジャンポール……。
その大神の思念が通じたのか、瞬間、ジャンポールの背中が嬉しそうに見えた。
38 :ny [saga]:2011/10/21(金) 19:25:18.49 ID:sT9PuPCN0
『『アイリス』はこっちに移動させた。君に勝ち目はないっ!』

『ジャンポール』の思念が響く。
苦々しそうに、『ポルナレフ』は舌打ちした。

「ジャンポールっ! 居るのかっ? そっちに『アイリス』がっ?」

祈るように叫んだ。そうであって欲しいと叫んだ。
そして、聞こえた。
最も愛しい者の声。聞きたくて堪らなかった、自分の恋人の声が。

『うん。ここだよ、お兄ちゃん』

『アイリス』の声だ。間違いなく、『アイリス』の声だ。
もう聞けないかもしれないと覚悟さえしていた『アイリス』の声だ。

「無事かいっ? アイリスっ!」

『うん、だいじょうぶだよ。
ジャンポールが……、ジャンポールがアイリスをたすけてくれたんだよ。
夢みたいに……!』

「よかった……。本当によかった……!」

花組全体でも、歓喜の声が上がった。
取り分け、レニが嬉しそうにしていた。
だが、人間と思えぬほど、激しい表情をした『ポルナレフ』が絶叫した。

「があああああああああっ!」

空気が揺れる。
帝都が揺れる。
次元すら揺らすような咆哮だった。

「てめえらあああああっ!
俺を怒らせてそんなに嬉しいかあああああっ!
殺してやる! 殺してやるぜえっ、てめえらああああっ!
あの『臆病者』共の別人格みたくよおおおおっ!
脳髄までぶちまけさせてやるぜえええええっ!」

激しい言葉だった。
大神が悪寒を感じるほどの猛々しい言葉だった。
だが、『アイリス』は、ジャンポールの中に居る『アイリス』の意識は、揺らぎもしなかった。

『そんなことさせないよっ!
それに『ポルナレフ』だって、本当はそんなことしたくないんだって、アイリスは分かってるんだもん!』

「何……だと……!」

『『ジャンポール』にたすけられるまで、アイリスは『ポルナレフ』だったんだもん!
『ポルナレフ』のなかにアイリスがいたんだもんっ!
だから、分かるんだよっ! 『ポルナレフ』のかんがえてることがっ!』

『そうだよ』

『アイリス』の言葉を、『ジャンポール』が継いだ。

『僕はずっと君を抑えていたから分かる。
君の中にあるのは新しい世界への渇望。
そう、狂おしいほどの愛情への渇きだ。だから、そこまで主人格に執着し、こだわっている』

「てめえらに何が分かる!」

『分かるよっ!』

『アイリス』の叫びに、『ポルナレフ』がほんの少し怯えた。
あれだけ強気に振る舞ってきた『ポルナレフ』が、怯えたのだ。
圧倒的に精神レベルが劣っているはずの『アイリス』の叫びに。
39 :ny [saga]:2011/10/21(金) 19:28:29.24 ID:sT9PuPCN0
『だって、『ポルナレフ』はアイリスだもんっ!
アイリスがひとりでさみしかったときに、もっとさみしかったもうひとりのアイリスだもんっ!
だから、アイリスには『ポルナレフ』が分かるのっ!』

『そう、君は怖がっているだけなんだ。
人の世界を怖がっているだけなんだ。
一人だけで生きて来たから、他人が信じられなくて、
誰よりも強い力を持たないと裏切られてしまいそうで、
恐怖しているから恐怖で他人を支配しようとしているんだ。
怖いから……、誰よりも自分が怖がりだと知っているからだ!』

「黙れ黙れ黙れっ!」

『ポルナレフ』が頭を抱えて絶叫する。
言葉を否定するように。自分を否定するように。
自分の中の葛藤を見せられるようだった。誰しもが一度は経験する精神の葛藤だ。
誰しもが自分の真実の姿を知るのは恐い。だから、葛藤するのだ。自分が信じられず。
しかし、答えはすぐ傍にあるのだ。
一歩踏み出し、自分のしがらみを捨て去れば、きっと未来は見えてくるはずなのだ。
「甘い」と悲観論者は笑うかもしれないが、大神は希望を信じたかった。
幾度もの大戦。それは希望を求める戦いと言い換えても過言ではない。
誰しもが希望を求めて戦っていた。平和の中に希望があると信じて、戦い続けてきた。

絶望? 何度も感じたことがある。
破滅? 何度も悩まされた。。
だが、その度に立ち上がった。帝都の幸福のために、平和のために戦った。
それが自分の信じる道だった。誰に何を言われようと曲げるつもりはない。
その先に未来が、希望があるのなら、何度挫けても立ち上がってやる。
まして、アイリスのためならば。
大神は地を踏み締めた。

「怖がるんじゃないっ!
『ポルナレフ』っ! 一歩踏み出すんだっ!
君がもし誰かを信じるのならば、俺も君を信じるっ!
何度裏切られたって、立ち上がればいい事なんだっ!
きっと君と分かりあえる仲間が出来るっ!
まずは俺が君の仲間になってみせるからっ!」

小細工も何もない。
大神の心の底からの言葉だった。

「どいつもこいつもよおおおおおっ!」

言葉こそそれだったが、確かに『ポルナレフ』は弱っていた。
自分の中にある『アイリス』や『ジャンポール』、
そして大神の言葉を受けて、暖かい言葉を受けて、戸惑っているようだった。
それでも、『ポルナレフ』は叫んだ。自己否定するのが怖いのか、叫んだ。
40 :ny [saga]:2011/10/21(金) 19:30:04.02 ID:sT9PuPCN0
「どいつもこいつも無駄口ばかり叩きやがってよおっ!
いいだろうっ! 無駄口なんぞ叩けないようにしてやるからよおっ!」

それは『ポルナレフ』の最後の自己境界線だった。
最大霊力を自らに集中させていく。
それを分かっているのだろう。『アイリス』は『ジャンポール』と共に霊力を集中させていく。
だが、『ポルナレフ』よりも弱い。それはすぐ見て取れた。
どうやら、『ポルナレフ』の霊力の充填は完了したようだ。
『ポルナレフ』の霊力が花組を襲う。

『まけないもん……っ!
『ポルナレフ』にアイリスのきもちをわかってもらうためにも、ぜったいにまけないもんっ!』

霊力の波動を『アイリス』と『ポルナレフ』の霊力が迎え撃つ。
およそ人類の誰しもが体験したことがないだろう、強大過ぎる霊力の衝突。
もしも、この全ての霊力を破壊に向けたとしたら、国一つ楽に吹き飛ぶだろう。
しかし、圧倒されているわけにもいかなかった。
慣れない遠距離霊力で、微々たるものだったが『アイリス』達の手助けをする。
さくらも、マリアも、すみれも、カンナも、紅蘭も、織姫も、レニも、
それぞれがそれぞれに精一杯に霊力を『アイリス』達の手助けに使う。
帝都が軋む。

「ぐ……、ぐぐっ……。
消滅しちまえよ、てめえらああああああああああっ!」

全てを掻き消すような『ポルナレフ』の絶叫が響く。
花組の全ての霊力を集めたと言うのに、まだ『ポルナレフ』の方が強い。

『ごめんね、お兄ちゃん……。
ちょっと、かてないかもしれない……、アイリスじゃとめられないかも……』

「気にするなよ、アイリス。
俺が選んだんだ、後悔はないよ。
だけど、まだ諦めるな。最後の最後まで、諦めず頑張るんだ。それが帝国華撃団だろ?」

「そうでーすっ! 全員帰還でーすっ!」

大神が言うと、織姫が口に笑みさえ浮かべて言った。

「わたくしがこんなところで果てるわけがないでしょうっ?
わたくしはトップスタアなんですのよ。これからのためにも、わたくしのために全力をお使いなさいっ!」

高飛車にすみれ。

「こんなことなら霊力の特訓をもっとしとくんだったよ……。
まあ、いいさ! 心配すんなよ、アイリス!
これからは厭でもどこまでも付いてってやるからさ!」

力強くカンナ。

「だから、あれだけ人前で霊力を使うなと言っておいたでしょう?。
まったく、一段楽したらお説教よ、アイリス」

普段どおり説教くさくマリア。

「ウチはまだまだしたい研究があるさかい、死ぬわけにはいかんのや。。
せやから、しっかり頼むで、アイリス!」

おちゃらけて紅蘭。

「大丈夫。みんなの力が揃っているんだから……。だからっ、頑張りますよっ!」

自分に言い聞かせるようにさくら。

「頑張ろう、アイリス。
今度は……、ボクがキミのために何かをする番だ!」

そして、レニだ。

『みんな………。うん。みんながいるもん。がんばる。アイリスはがんばるっ!』

『いい仲間を持ったね、『アイリス』。羨ましいよ。さて、僕も全力を尽くすよ!』

仲間が居る。仲間が居るのだ。
強くなった。『アイリス』は。みんなと一緒に強くなれたのだ。『アイリス』は。
今ここで散ったとしても、後悔はない。大神の心に後悔はない。
相当に相乗効果で霊力は高まっているはずだが、『ポルナレフ』の強大な霊力に大神達は押され始めた。
やはり、無理なのだろうか。
絶大的な能力を手にしている『ポルナレフ』には敵わないのだろうか。
41 :ny [saga]:2011/10/21(金) 19:31:48.59 ID:sT9PuPCN0
と。
『ポルナレフ』に唐突に異変が起こった。頭を抱えて霊力が弱まっていく。
しかし、それはこれまでと違う。
『ジャンポール』は此処に居るのだ。彼が抑止しているわけではないだろう。
ならば、ならばそのようなことが出来るのは………?

「『イリス』っ!」

『ポルナレフ』が歓喜したような、絶望したような複雑な声色で言った。
そう、『イリス』だ。
この局面に至り、ようやく発現したのだ。
彼を閉じ込め続けていた主人格が。
だが、何のために……?

「いい度胸だ、『イリス』っ!
『アイリス』を救いにきやがったな、いいだろう!
相手をしてやるっ! 何処へでも憑依しやがれっ!」

『ポルナレフ』が言うと、突然にアイリスの霊力が増大していった。
これが主人格と言うべきか、恐ろしいほどの潜在能力だ。
この霊力であれば、『ポルナレフ』を撃破出来るかもしれない。

「来い来い来い来いっ!
てめえを殺したくてうずうずしてんだよ、俺はあっ!」

だが、いつまで経っても、何も起こらない。
どころか、『アイリス』の霊力がみるみるうちに低下していく。

「お、おい……。『イリス』……?」

拍子抜けしたように『ポルナレフ』が肩を落とす。
見るからに不安そうだ。
急に宙に浮いていたジャンポールが床に落ちた。
同時に『ポルナレフ』の瞳から涙が流れる。

「あれ? 何で泣いてんだ、俺は………?」

「泣いているのは君じゃないよ」

アイリスの口から微妙に違う声が、腹話術のように出ていた。

「てめえ、『ジャンポール』……!
いつの間に戻ってきやがった……!」

「泣いているのは『アイリス』だよ」

「な……! 『アイリス』まで……!
何だよ! 『イリス』はどうしやがった!」

「……死んだよ」

「ああっ?」

「死んだんだ。僕らの主人格は」

「冗談言ってんなっ! 死ぬわけないだろ! 何でいきなり死にやがるんだよっ!」

一人の少女が自分自身と会話を交わす。
奇妙な光景を前に、マリアが何かを気付いたように呟いた。
42 :ny [saga]:2011/10/21(金) 19:32:40.12 ID:sT9PuPCN0
「発現しなかったのではなく、発現出来なかった……?」

「何だと?」

「そう……。『イリス』は発現しなかったのではない。
発現出来なかったのよ……」

「何でだよっ! あいつの霊力は俺より上なんだぜっ!」

「そうね。霊力だけは……」

「霊力だけ……だと?」

後の言葉は『ジャンポール』が続けた。

「ここから先は僕の推測なんだけど……、彼女は何らかの理由で、
多分、君が言うように、たくさんの人々から害虫扱いされたために……、何人違う自分を作ったんだろう。
でも、そのためには代償も払わなければならなかったんだ」

「代償……」

「高過ぎる霊力を破滅寸前の人格で抑え続ける事。
それが彼女の払った代償。そうは考えられないかな?
一時期、僕は『イリス』と会った事がある。
彼女は後悔してた。幾人もの自分を作り、それぞれに辛い役目を負わせた事を。
だから、彼女はこれ以上の悲劇を生み出さないために、霊力を抑える役目に付いたんじゃないかな……?」

「うん……、そうだよ。きっと……」

泣きながら『アイリス』が言う。
何故、泣いているのか、『アイリス』にも分からないだろう。
だが、『アイリス』は泣いていた。
もしかしたら、僅かに残された『イリス』の残照が、そうさせていたのかもしれない。

完全なる沈黙。先刻までの喧騒が嘘のようだ。
誰も何も言わなかった。言えなかった。言えない雰囲気がそこにはあった。
あれだけ負の霊力で支配されていた『ポルナレフ』が、とても弱々しく見えた。

「どうする?」

不意に『ジャンポール』と思われる声が響いた。

「『イリス』は消滅したよ。消滅した人格は二度と再生されない。
君の好機だよ。どうするの? 僕たちも消滅させるかい?」

淡々とした言葉だった。淡々と事実を述べているという口調だ。
『ポルナレフ』はアイリスの中で、少し逡巡したようになったが、もういい、と言った。
大神は何も言わなかった。
自分に言い聞かせるよう、『ポルナレフ』は繰り返す。

「もういい。俺は消える。
それがてめえらの望みなんだろ?
分かったよ、俺は消える。それで元通りだ。何事もなく、な」

ただのぬいぐるみとなったジャンポールが、その様子をただ冷淡に見つめている。
43 :ny [saga]:2011/10/21(金) 19:35:07.09 ID:sT9PuPCN0


今回はここまでです。
次回、最終投下。

>>24

ブラボー! おお…ブラボー!!
すみません。
バレバレなネタでした。
44 :ny [saga]:2011/10/24(月) 21:14:10.54 ID:Ie10TeSW0





消える、と『ポルナレフ』が言ってから、彼の気配は本当に消滅した。
統合されたのかどうかは分からないが、大神たちはその言葉を信じるしかなかった。
一年以上に匹敵する長い一日だった。
疲労した身体を何とか立て直し、大神はアイリスの家族に報告を済ませた。
『分かりました』
報告の際、アイリスの母親は言っていた。
自分の娘に起こった悲劇。
そして、幾人もの娘の可能性の出来事を、彼女は『分かりました』と言った。
それ以上のことは何も言わなかった。
悲しんでいるのか、喜んでいるのか分からないままに、彼女との通信を大神は終えた。
終わったんだな、と大神は思った。
これから彼女が、アイリスに起こった出来事を受け止めるまでには、相当の時間が掛かるだろう。
花組も、アイリスも、勿論、大神自身も。
だが、一段落はしたんだな、とそう大神は思った。

部屋に戻った時、マリアが『アイリス』が大神を呼んでいる事を告げた。
二人きりで話がしたいらしい。
どうにか疲弊した身体に喝を入れ、大神はアイリスの部屋に向かった。
『アイリス』は乱れた髪形のまま、ベッドに座って大神を待っていた。
どうにか挨拶をしつつ、大神は『アイリス』の隣に腰を下ろした。
しばらく黙っていたが、彼女は意を決したように大神に呟く。

「よお、隊長さん」

『アイリス』、いや、『ポルナレフ』は手に短刀を持っていた。
45 :ny [saga]:2011/10/24(月) 21:14:38.61 ID:Ie10TeSW0





わざと見せ付けるように短刀を振ると、『ポルナレフ』は大神の首筋に押し当てた。

「甘かったな、隊長さん。死んでもらうぜ」

大神は無言だった。
身じろぎもせず、『ポルナレフ』の行動を待っていた。

「あばよ」

言って、『ポルナレフ』は首筋の短刀を前に進めた。
ざくっ。そんな音が聞こえた。
切れているのは、大神の首ではなかった。
林檎だ。
いつの間に手にしていたのか、『ポルナレフ』の左手に握られている林檎が切られていた。
ははっ、と『ポルナレフ』が微笑んだ。
黒い笑みではなく、意地悪な少年といった様子だった。歳相応の。

「『アポート』、物体移動って超能力だ。驚いたろ?」

「ああ、少しね」

「驚きが少ないな。
って言うか、分かってたみたいだな、隊長さん?」

「殺気が無かったからな」

大神が言うと、『ポルナレフ』が残念そうに溜息を吐いた。

「さすがは剣の達人。そういうのはバレバレってか?
……林檎食べる?」

「……貰うよ」

しばらく二人で林檎を食べていた。
旬は過ぎていたが、不味くはなかった。
ただ二人無言で林檎を食べる姿は、ある意味滑稽かもしれない。
食べ終わると、何処となく明るく『ポルナレフ』が言った。

「あんたと最期に話がしたかったんだ」

「俺もさ。
あのままじゃ後味が悪いし、君とはまともに話せた事が無かったからな」

「そうか……」
「だが、その前に一つ訊かせてくれないか。
今、『アイリス』達はどうしているんだ?」

「俺の中で見てる。
記憶の共有ってやつだな。
先刻の短刀の時は、流石に少し焦ったみたいだったぜ」

『ポルナレフ』が悪戯盛りの少年のように笑った。
小悪魔といったところだろうか。
アイリスの姿で小悪魔的態度を取られると、可愛く見えるから不思議だ。

「隊長さん。俺はもうすぐ『アイリス』達と統合する」

率直だった。笑っていたかと思うと、とても突然に真剣な言葉だ。
めまぐるしいほどだった。

「それで……いいのか……?」

「まぁな。あんたらだって、それを望んでいたんだろ?」

いや、と大神は首を振った。

「それは君が帝都に危害を与えようとしていたからさ。
そうでなければ、別に俺達は君がそのままでもいいと思っているよ。
君が望むのならば」
46 :ny [saga]:2011/10/24(月) 21:15:16.06 ID:Ie10TeSW0
予期していなかった言葉だったのだろう。
『ポルナレフ』は動揺したらしかったが、すぐに平静の顔となった。

「そう言われると嬉しいが、やっぱ俺は統合するよ。
分かれたものは、一つになった方がいいのさ。
元通りが一番だ」

「そうか。残念だな。
君とはいい友人になれそうだったんだけどな」

その言葉は本気だった。
『ポルナレフ』は敵対した仲だったが、憎悪はない。
分かり合えるものならば、友人として生きていくのも悪くないと思えるほどだった。
だが、やはり『ポルナレフ』は決心を曲げないようだった。
彼が統合する前に、大神はどうしても訊きたいことがあった。
『イリス』をもう恨んでいないのか、という事だ。
『ポルナレフ』は複雑そうに微笑んだだけで、何も答えなかった。

彼にも分からないのだろう。
自分に全てを押し付けた『イリス』。
だが、結果的に自分を護っていた『イリス』。
それくらいで許せるわけがない。許されるべき事ではない。
それでも、『ポルナレフ』は少しだけ、彼女の真意を知る事で、
『イリス』を許す事が出来るようになっているようだった。
少しだけだったが、それは大きな一歩だったのだろう。
少しでも人を許せれば、人間は根本的に他人を憎悪できないものだ。
無論、完全無欠に許せない事もあるだろう。
それはこれからきっとアイリスの中で、答えを探し続けるのだろう。
それが『ポルナレフ』の出した一つの答えだった。

もう一つだけ、彼は言った。
『アイリス』は『ポルナレフ』よりも数倍弱く作られたはずだった。
故にあれほどまでに精神的に強く生きられるはずがなかった。
だのに、『アイリス』は『ポルナレフ』の想像以上に強かった。
それはいい仲間、いい恋人に恵まれたからだろうと。
強くなった『妹』の成長を、無駄にするのが嫌だというのも統合の理由だと。
そう彼は語った。
そうして、『ポルナレフ』と大神は握手を交わし、それで終わった。
これから『ポルナレフ』は大神の知らない道を歩き続け、答えを探しに行くのだ。
己の選んだ事。
己のしなければならない事を探しに。

最期に一つだけ、
彼は、『妹』を傷付けるなよ、とだけ言って消えた。
当然だった。
大神はこれから小さな恋人と歩き続け、守り続ける。
きっと。
47 :ny [saga]:2011/10/24(月) 21:23:44.24 ID:Ie10TeSW0





『ポルナレフ』が統合され、次に現れたのは『アイリス』だった。
泣いていた。
敵対していた『ポルナレフ』だったが、そんな敵との別れにも涙を見せる。
『アイリス』はそんな少女なのだった。
大神はアイリスの頭に手を置き、落ち着かせるように撫でた。
突然に脳内に言葉が響いた。

『次は僕の番だね』

驚いて視線をやると、ジャンポールが浮いていた。
憑依したのだろう。

「ジャンポールっ?」

『アイリス』、いや、アイリスがジャンポールを驚いた表情で見つめた。

『『ポルナレフ』が統合されて、『イリス』も消えた。
僕が此処にいる意味はないからね』

「いやっ!
ずっとおともだちだったのに、これからはおはなしもできるとおもったのに、
もうおわかれだなんて……、そんなのいやっ!」

ジャンポールはぬいぐるみなのだが、
大神には何故かとても彼が哀しそうに見えた。

『大丈夫だよ、アイリス。
ジャンポールはただのぬいぐるみに戻るけれど、『僕』はずっと君の中で生きる。
だから、お別れじゃないよ。これはお別れじゃないんだ』

「でも……。でも……っ!」

泣きながらジャンポールを掴もうと、アイリスが手を伸ばす。
大神はその手を掴んで、かぶりを振った。

「駄目だ、アイリス。彼の気持ちも考えるんだ……!」

「だけど、だけど、お兄ちゃん……!
アイリスさみしい、さみしいよおっ!」

『泣かないで。泣かないでアイリス。
ほら、僕と君が初めて出会った時の事を思い出してごらん?』

「はじめてあったとき………?」

床に下りて、ジャンポールが続ける。

『僕が生まれたとき、君はくまのぬいぐるみと二人でいた。
一人ぼっちで寂しそうにしていた。
友達が欲しい、友達が欲しいって心の中で泣いていたよ。
だけど、僕はただの別人格。どうしようもなかった。
僕は願ったんだ。君を助けてあげたいって』

「うん……。うん……」

涙を流しながら、アイリスが頷く。昔を思い返しているのだろう。
大神が知る事のない二人の過去だ。
少しだけ、妬けた。
48 :ny [saga]:2011/10/24(月) 21:24:41.88 ID:Ie10TeSW0
『そうしたらさ、僕は気がついたらくまのぬいぐるみの中にいた。
君がそうしたのか、僕の力だったのか、
とにかく僕は熊のぬいぐるみ……、ジャンポールとして君の友達になろうって思ったんだ。
そうする事が君のためだと思ったんだ。
流石に自由に動くわけにはいかなかったけど、君が眠っているときとか、語りかけていたんだよ……』

「だったら、ずっといっしょにいようよぉ……。
ジャンポール……」

『それは出来ないよ。僕達は一つに戻るべきなんだ。
特に君の場合はそう。
霊力が高過ぎるから、不自然に人格が分かれていては危険なんだ。
『イリス』が消滅してしまったように、君もそうなる可能性があるからね。
それに……』

「それに……?」

『君には恋人が居る。親友が居る。仲間が居る。
だから、僕が居なくてもきっと大丈夫。
恋人が童女趣味なのが気になるけどね』

「童女趣味……って……」

『あははっ、冗談だよ。大神さん。
アイリスをこれからもお願い出来る?』

「当然さ」

満足そうにジャンポールは、大神に向けて手を伸ばした。
その小さな手を、大神は強く握り締めた。

「ジャンポールぅ……」

『君なら大丈夫だよ。
でも、時々は思い出して欲しい。
この何気ない熊のぬいぐるみを見た時にさ、
ああ、こんな奴が居たなって、そう思い出してもらえたらそれだけで十分さ。
それだけで僕の生まれた理由があるんだって思えるよ』

「うん……。うん……!」

アイリスも分かったようだった。
哀しそうだったが、哀しいけど同時に嬉しい別れもある。
そういう別れがある事を、大神は彼女に気付いて欲しかった。
だが、急に不安になって、大神が訊ねた。
49 :ny [saga]:2011/10/24(月) 21:25:24.87 ID:Ie10TeSW0

「でも……、統合してアイリスは一体どうなるんだ?
『イリス』は消えてしまった。
主人格が居なくても、アイリスは大丈夫なのか……?」

『その辺りは僕にも分からない。
ただ、主人格と言っても、『イリス』も数ある人格の内の一人に過ぎないから、大した影響はないと思う。
彼女が実存するのであれば、彼女に統合されるべきなんだけど、居ないとなればアイリスに統合するしかない。
勿論、色々と問題もあるし、多くの障害が君達を襲うだろう。
『イリス』が抑えていた霊力は、アイリスが一人で抑えていくしかなくなる。
そのためにも、統合は不可欠なんだ』

「……そうか」

『でも……』

「でも……?」

『アイリスは大神さんが守ってくれるんでしょう?』

「ああ、そうだな……」

「お兄ちゃん……。
アイリスをずっとまもってくれるの……?」

アイリスに自分の手を触れられる。
少し逡巡したが、大神は頷いた。

「守る事は無理かもしれない。
だけど……」

二人で頑張れば、大丈夫さ。
言って、大神はアイリスの唇に軽く唇を重ねた。

『見せ付けられちゃったかな。
それじゃ、そろそろ僕は行くよ』

「ジャンポール……っ!」

必死に涙を堪えて、アイリスは大神と強く手を繋ぐ。
ジャンポールが最期にアイリスを見た。
震える唇を開いて、その唇で……、

「さよなら、ジャンポール」

そう、アイリスは、言った。
50 :ny [saga]:2011/10/24(月) 21:25:55.90 ID:Ie10TeSW0





あれから、数日が経った。
帝都は平穏を取り戻し、何事も無かったかのように時間は流れた。
アイリスはと言えば、『ジャンポール』が統合された瞬間から眠り続けている。
マリアによると、突然の記憶の統合により脳が少し混乱しているのだろうという事だ。
何人分もの新しい記憶が急に増えたのだ。無理はない。
命に別状はないらしく、巡回中にアイリスの見舞いに行くのが大神の習慣となった。

勿論、不安はある。
昔、舞台で、記憶喪失の主人公の記憶が戻った途端、
記憶喪失中に行っていた事を、その間に出来た恋人のことも全て忘れる、という内容の演劇を見た事がある。
もしかしたら、アイリスもそうなっているのではないか、という不安が大神の胸から離れない。
巡回を終えた後、アイリスの部屋の前ではマリアが神妙そうな表情で待っていた。
一挙に不安になった大神はマリアを問い詰めた。
アイリスに何かあったのかと。
マリアは何が起こったのかを言いたがらなかった。
とにかく、何か事件があったわけではない、とは言っていた。
当然、斯様な説明で大神が納得するはずがない。
大神はアイリスの部屋の扉を一気に開く。
部屋の中には……。

「うわーん。ふくがはいらないよおっ!」

「いいっ?」

下着姿の金髪の少女が嘆いていた。
大神は驚いて眼を剥く。
当然、その少女も驚いたようで、悲鳴を上げて枕を投げた。

「もうっ! お兄ちゃんったら!」

「ご、ごめん、アイリス!
……って、アイリス……?」

大神の疑問はもっともだった。
部屋の中に居たアイリスの身長が高かったのだ。
体格も年齢相応に追い付こうとしているかのように、女性的な曲線を描き始めていた。
元々小柄である事は分かっていたが、あまりにも唐突に身長が伸び過ぎていた。
レニより少し小さいくらいだろうか、その程度まで成長していた。

部屋の中に入ったマリアが大神を部屋の外に出し、嘆息しつつ説明を始めた。
これまでは精神的に不安定で、肉体の成長が年齢に追い付いていかなかった。
だが、統合によって精神が安定し、肉体も歳相応に育ち始めたのだろうと。
不可思議な現象ではあるが、
これもアイリスの新しい人生が始まった証拠なのだろう。

と。
はいっていいよ、とアイリスの部屋の中から声が聞こえた。
どうやら着替えが終わったようだ。
深呼吸をして、大神はもう一度アイリスの部屋に入る。
その中には少々外見が変わったものの、自分の愛しい恋人がいた。
昔の服を着るのは諦めたようで、レニの好んで着る地味なシャツを着ていた。レニに借りたのだろう。
地味ではあったが、こんな姿のアイリスも可愛いと思えてしまう自分自身に大神は苦笑する。
51 :ny [saga]:2011/10/24(月) 21:26:21.86 ID:Ie10TeSW0
「おかえりなさい、お兄ちゃん」

「ただいま、アイリス」

不安は無用だったようだ。
外見こそ異なり始めているが、アイリスは愛しい自分の恋人のままだった。
アイリスと自分は幾度もの困難を乗り越え、此処まで辿り着けたのだと大神は確信した。
これからアイリスは成長していくだろう。
きっと更に素敵な女性に成長していく事だろう。
人格統合の影響がこれからどのように出てくるかは分からない。
アイリスが己の高過ぎる霊力を抑制出来るかどうかも。
しかし、アイリスには、多くの仲間が居る。勿論、大神自身も含めて。
だから、きっと大丈夫だ。

無論、いつかどうしても解決出来ない大きな壁が、立ち塞がる事もあるだろう。
絶望に打ちひしがれ、愚かな争いに心を痛める事もあるだろう。
されど、斯様な時こそ、何人もの仲間がいた事を思い出そう。
長く愛しい恋人を守ってくれていた、一人の仲間の事を思い出そうと思う。
熊のぬいぐるみ……、ジャンポールを見る度に、きっと。
そして、いつか……、
いつか自分に子供が出来たら、その熊のぬいぐるみの話をしてあげよう。
自分の愛しい人を助けてくれた、小さな英雄の事を。
大神は、成長していく愛しい恋人を見つめながら、そう思った。
視線が合い、アイリスは照れたように微笑んだ。
この笑顔のために戦ってきたのだと、今更ながら気付いたような気がした。
52 :ny [saga]:2011/10/24(月) 21:27:32.97 ID:Ie10TeSW0


これにて終了です。
少しでもサクラ大戦を懐かしんで頂けたら幸いです。
それでは、ありがとうございました。
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/25(火) 00:30:44.41 ID:SEbZRcd9o
乙でした。

イリスに統合されるのかと思ったらこういう展開だったか。
ラストのアイリス急成長はワラタ
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/25(火) 01:54:36.13 ID:GPRxqnt3o
乙!
家族が増えるよ!やったねアイリス的な想像をして見に来ました。
良かったです、すいませんでした。

55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2011/10/26(水) 20:57:10.09 ID:4pao/VrSo
乙と言わざるを得ない
できたらまたサクラ大戦で何か書いてもらいたいな
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/27(木) 23:27:53.50 ID:6WnpUpFwo
アイリス以外の花組全員にもそれなりのバランスで台詞ふってるのは上手いと思った。
結構苦労したんじゃないかな。
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