このスレッドはSS速報VIPの過去ログ倉庫に格納されています。もう書き込みできません。。
もし、このスレッドをネット上以外の媒体で転載や引用をされる場合は管理人までご一報ください。
またネット上での引用掲載、またはまとめサイトなどでの紹介をされる際はこのページへのリンクを必ず掲載してください。

∞木原式∞第一位のつくりかたた - SS速報VIP 過去ログ倉庫

Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

1 : ◆goBPihY4/o [saga]:2011/10/23(日) 22:48:25.59 ID:GCXIYf8do


前スレ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1313672261/


木原数多と一方通行が仲良く一等賞を目指すお話です

2スレ目になりました

【 このスレッドはHTML化(過去ログ化)されています 】

ごめんなさい、このSS速報VIP板のスレッドは1000に到達したか、若しくは著しい過疎のため、お役を果たし過去ログ倉庫へご隠居されました。
このスレッドを閲覧することはできますが書き込むことはできませんです。
もし、探しているスレッドがパートスレッドの場合は次スレが建ってるかもしれないですよ。

諸君、狂いたまえ。 @ 2024/04/26(金) 22:00:04.52 ID:pApquyFx0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1714136403/

少し暑くて少し寒くて @ 2024/04/25(木) 23:19:25.34 ID:dTqYP2V2O
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1714054765/

渾沌ゴア「それでもボクはアイツを殺す」 @ 2024/04/25(木) 22:46:29.10 ID:7GVnel7qo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714052788/

二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714049241/

佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713966248/

全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713869982/

2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2011/10/23(日) 23:29:54.45 ID:5nZD8lhvo
乙!
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2011/10/23(日) 23:40:09.81 ID:sd9cIYzMo
おつつ
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/23(日) 23:40:50.63 ID:x27M6Kt/o
乙!
まさか つくりかたた だとはwwwwww
5 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2011/10/23(日) 23:40:52.61 ID:GCXIYf8do

前スレで新しいスレタイについて素晴らしいアイディアを下さった方々、どうもありがとうございました

あの中から1つだけ選ぶことなんかできない!

ので、全部選びませんでした

ご容赦を

ではこのスレでもよろしく願いします
6 : ◆goBPihY4/o [saga]:2011/10/23(日) 23:43:16.44 ID:GCXIYf8do

     ――――――――――――――――――――→


下部組織の人間に送らせて、麦野とフレンダは第二十三学区の衛星管理センターへと向かう。

「で、結局どうやって解決する訳?」

フレンダの問い掛けに、麦野は窓の外から目を離さずに答えた。

「クラッキングってのはさー、する側とされる側の通信が繋がってて初めて成立するじゃない」

「うん」

「だからさ、衛星との通信を遮断すればいいんだよ」

「どうやって?」

「アンテナ、ブ・チ・コ・ワ・シ」

にっこりと、麦野は笑った。

「あははー……」

フレンダもとりあえず笑った。
7 : ◆goBPihY4/o [saga]:2011/10/23(日) 23:44:40.81 ID:GCXIYf8do

車で飛ばし、第二十三学区の航空宇宙工学研究所まですぐに到着した。

「よーっし、手っ取り早くぶっ壊しちゃおっかな」

「あのでかいアンテナ? 結局、標的が大きいとやりやすい訳よ」

降車し、ぐいっと伸びをして、二人は遠くからでもよく見える衛星通信用の大規模地上アンテナの方へと歩き出した。


と。

麦野の足が止まった。

「ぶ」

すぐ後ろを歩いていたフレンダが、彼女の背中にぶつかってしまう。

「麦野? 結局、どうかした訳……?」

「テメェ、何?」


麦野は、前方を見ていた。

その視線を追って、フレンダもアンテナへ続くアスファルトの上で視線を滑らせる。

そして、彼女は発見した。

ダウンジャケットを着た、高校生ほどの年頃の男を。


「おやおや。これはいけませんね」


男はため息をつき、アンテナを振り返って見て、首を振った。

「邪魔しようって訳?」

「おっけーい、適当に散らす」

麦野もフレンダも、相手が研究所のアルバイトだとか通りかかった一般人などではない事にすぐ気が付いていた。

明らかに自分達と同じ、暗いところをうろうろしている者の匂い。

だが特に緊張もしない。

彼女達は強い。

経験に裏付けられた自信があった。
8 : ◆goBPihY4/o [saga]:2011/10/23(日) 23:45:13.87 ID:GCXIYf8do

『アイテム』の二人はまだ知らないが、追跡中の猟犬部隊はよく知っている。

二人の前に立ちはだかった男の正体は、暗部組織『メンバー』の一人、査楽だ。

彼はアンテナの破壊を阻止するため、博士の指示でここまでやって来た。

ここで、やっと暗部同士の対立関係が成立。

麦野、フレンダ、査楽。

少なくとも一人はここで脱落する事になる。

9 : ◆goBPihY4/o [saga]:2011/10/23(日) 23:45:42.29 ID:GCXIYf8do

     ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞


麦野・フレンダペアを追跡していた部下から緊急通信が入った。


『木原さん! 『アイテム』と『メンバー』が接触しました!』

「よぉし! 詳しく聞かせろ!」

「答えはァ!!」

10 : ◆goBPihY4/o [saga]:2011/10/23(日) 23:48:02.39 ID:GCXIYf8do

つづく

980超えたら投下しない方がいいですね

ちぃ覚えた
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/23(日) 23:52:17.35 ID:x27M6Kt/o
乙!
答えはァ!?
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海) :2011/10/23(日) 23:54:30.41 ID:V9rFVhuAO
乙(あざとい)
答えはァ!?
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/23(日) 23:55:12.08 ID:lYxHyUzf0
答えは!?
1乙です。
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/24(月) 00:09:22.97 ID:lJk26MJSO

答えはァ?



気になって眠れんとですたい
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/24(月) 00:10:07.16 ID:abZDnV290
乙ですわァ!!
答えはァ!!
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/24(月) 00:12:50.36 ID:BthA5xyLo
Ω乙< こ、これは乙じゃなくて(ry
答えはァ!?
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/24(月) 00:27:03.61 ID:AMEeLBQqo
与えられた情報はAとBは仲が良い、Aの歩く速さはBの2倍、Aは3分前に歩きだしただから
仲がいいでAにBは合流したいって事として、でもAはBの2倍の速さで歩くから西に向かうと追いつけない
だから色々無視して、東に向かう事で地球をぐるりと回って合流って事かな?
それとも仲が良いからAは待っててくれる事を見越して、やっぱり西?

まぁ何が言いたいかと言えば、答えはァ!?
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県) [sage]:2011/10/24(月) 01:49:12.75 ID:jZnMZZbY0

答えはよ!
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/24(月) 08:23:16.24 ID:Am3i3+9L0
2スレ目も乙
答えはァ!?
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2011/10/24(月) 17:30:41.13 ID:ViCHClKu0
フレンダが脱落しそうな気がする・・・
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/24(月) 22:35:00.50 ID:11f95hOr0

スレタイww
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/26(水) 12:34:59.50 ID:v/xBEXmIO
次スレがかたたたになるのか、かかたたになるのか。それが問題だ
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/26(水) 19:35:13.28 ID:qNwWgvauo
イチタロウのカタタタ☆ツクリカタ
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/27(木) 09:46:48.81 ID:0XtavIa90
乙(あざとい)
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/28(金) 08:18:22.43 ID:BPJFyxNg0
∞木原式∞第一位のつくりかたたたたたたたたた
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/29(土) 09:48:11.28 ID:3f5TBCNIO
あたたたたたたたァ!!
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/29(土) 10:07:23.73 ID:3f5TBCNIO
間違えた
あまたたたたたたァ!!
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/29(土) 11:39:40.83 ID:80SMbwj3o
つまんねーよks
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/30(日) 13:33:15.67 ID:21r7lxTZo
一方「アタタタタタァ!」
30 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2011/10/31(月) 00:44:44.41 ID:e0G1ZUBlo

物凄く短いですが、生存報告がてら投下します

31 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2011/10/31(月) 00:45:18.54 ID:e0G1ZUBlo

     ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞


病室に液晶モニタと中継機材が持ち込まれた。

第二十三学区航空宇宙工学研究所の様子が映し出される。
かなり手ブレが激しいが、見られない事はない。

猟犬部隊の面々と一方通行は、ここでゆっくりと『アイテム』と査楽の格闘を観賞していた。

32 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2011/10/31(月) 00:46:08.08 ID:e0G1ZUBlo

「お、『メンバー』消えてンぞ」

「いた。麦野の真後ろだ」

「フレンダは?」

「麦野の正面。ポケットから何か出したな」

「手榴弾じゃン。おい、投げやがったぞ。麦野ごと吹っ飛ばす気かよ」

「わーお、麦野様無傷」

「査楽は?」

「また消えた」


テニス観戦者のように首を振りながら、画面の中で飛び回る三人を見守る木原と一方通行。

査楽は能力を使い、人の背後に瞬時に回り込む事で『アイテム』二人の攻撃を回避していた。

麦野はまだ実力を見せていない。牽制で拳を振る程度だった。

だが、フレンダが麦野の背後に回った査楽を麦野もろとも爆破しようとした際、
麦野は自らの能力を使用して、自分の周りに盾を作った。

噂では第三位の能力はとてつもない破壊力を持つそうだが、
使いようによっては防御もできるようだ。

33 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2011/10/31(月) 00:46:38.20 ID:e0G1ZUBlo

「レベル5含む二人相手によく頑張ってンな、査楽」

「しかしフレンダって奴、無事だと分かってるとは言え味方ごと爆破するかね」

「オマエなンか死ぬと分かってンのに部下撃つじゃン」

「あ、査楽またワープした」

「また麦野の後ろか。他人の背後にしか飛べねェのかよ」

「おっとーここで強烈な裏拳が入りましたー」

「おっとォ……って、え? ダウン? 一発KO?」



査楽は、麦野の裏拳に沈んだ。



34 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2011/10/31(月) 00:47:36.19 ID:e0G1ZUBlo

     ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞


査楽を撃破した麦野とフレンダは、その場で話し合っていた。

「邪魔者はコイツだけっぽいね。ってか、この後いるとしてもコイツレベルなら簡単かな」

「結局、アンテナ壊すだけなら二人もいらないって訳よ」

「んー」

麦野は唇に人差し指を当てて考え込んだ。

一応、上司からは「急げ」と言われているのだが、彼女達は悠長だった。

「んじゃフレンダ。ちょっとお願い事があるんだけど?」

「結局、この邪魔者の所属を探る訳でしょ?」

フレンダは、倒れる査楽をつま先でつつきながら言った。

「そ。ウチに喧嘩売ったお馬鹿さん達は、さくっと粛清してあげないとね」

麦野は、ヒールで査楽を踏みつぶしながら言った。

「らじゃーな訳よ。うまくやったらボーナス期待していい訳?」

「上に掛け合っとく」

「よろしく!」


さっと手を振り、フレンダは早速査楽の体を縄で縛り始めた。
拘束した上で情報を聞き出すためだ。

麦野は少しも見物はせず、さっさと破壊対象へ向かって歩いて行く。


『アイテム』の仕事は順調だ。

35 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2011/10/31(月) 00:48:33.18 ID:e0G1ZUBlo

     ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞


外部ターミナルの通信は遮断した。

復旧には大変な時間と労力が掛かるだろうが、とりあえずクラッキングの方は心配ない。

『グループ』の仕事の進捗もまずまずであった。

だが、もう一つの案件の方は依然として課題を抱えている。


「死んだ? 『人材派遣』が?」

問いかけた土御門に、鉄網がこくりと頷いた。

「私が近付こうとしたら、突然黒いセダンが目の前に停まって遮った」

「で?」

「その車の窓から銃口がたくさん出て来て、『人材派遣』を乗せた護送車を蜂の巣にした」

「で?」

「セダンはそのまま走り去った。すぐに確かめたけど、すでに『人材派遣』は死んでいた」

「セダンの正体は?」

「分からない」

「その車はどこへ行った?」

「分からない」

「追いかけるよう下部組織に指示しなかったのか?」

「私の価値は、人の心を読むことしかないから」

「……」


土御門は、出来の悪い部下を相手にしている中間管理職のような顔をして、ため息をついた。

36 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2011/10/31(月) 00:49:33.65 ID:e0G1ZUBlo

大口の取引の話を聞こうにも、受注した本人はもうこの世にいない。

情報のあるマンションは爆発している。

仕事場の方はもぬけのからだった。

ついでに、マンションを調べていた海原まで行方不明(死亡説濃厚)。

いよいよ八方ふさがりである。


何かとっかかりになるものは無いかと考えている土御門の耳に、軽快な音が響いた。

携帯電話の着信音だ。

喚くそれをポケットから取り出し、発信者の表示を見た彼の顔色が変わった。

すぐさま通話のボタンを押して応答する。

「誰だ」

『海原です。本物ですよ』

「……」

発信元は、死んだ可能性が高いはずの海原の携帯電話だった。

声がまるで違う。
普段聞いている声よりずっと低く、通りにくい声だ。

だが、土御門にとってはそれこそが電話の相手が海原本人であるという証明になった。

37 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2011/10/31(月) 00:50:01.63 ID:e0G1ZUBlo

「一応信じておこうか。どこで何をしている?」

『今、隙をついて電話をしているので、手短に言います』


一呼吸置いて、海原は言った。



『自分は今『ブロック』のアジトにいるんですよ』


38 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2011/10/31(月) 00:53:44.48 ID:e0G1ZUBlo

原作通りだからちっとも意外性がないつづく


ちなみに前スレで出て来たなぞなぞの答えですが、実は答えなんか無いんです

あれは「なぞなぞっぽく聞こえるように適当に喋った」だけで、実際はなぞなぞじゃないです

真剣に当てに来てた人がいたらすみませんでしたテヘ
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage saga]:2011/10/31(月) 01:17:35.66 ID:a9bs4AuO0
おっつー
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) :2011/10/31(月) 01:53:39.64 ID:5yM9YIiAO
下がりすぎだし投下もきたらから一度だけage
お疲れ様

木原くンと一方通行ンが一つの画面に顔寄せ合うのか……
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/31(月) 05:27:52.00 ID:qv2ef4hHo
きはらくゥン…
あくせられェたン…
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2011/10/31(月) 07:49:21.58 ID:/XrQMPhAO
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2011/10/31(月) 09:36:08.31 ID:dQFZsDIAO
かれ
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/31(月) 10:17:56.36 ID:RN+2/auJo
うわぁ・・・
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/31(月) 20:24:47.11 ID:h8gKFPBIO
>>1がsage進行なのに勝手にageるのはどうかと

>>1
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/31(月) 21:35:11.60 ID:0XE1PQlV0
>死ぬと分かってても部下撃つじゃン

ツッコミ的確すぎてワロタwwww
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/10/31(月) 21:46:16.52 ID:spsfgjdVo
期待

>>1
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/31(月) 22:59:38.27 ID:StvPXW8y0

原作を知るからこその楽しみもあるよ
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/01(火) 23:47:58.96 ID:qWv+YrFbo
1どうしたの?

サーバを移転しました@荒巻 旧サーバ:http://vs302.vip2ch.com/
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/02(水) 00:50:41.01 ID:LIlg1iy3o
定期スクリプトもどきのせいで周りが見えなくなったと思われ

サーバを移転しました@荒巻 旧サーバ:http://vs302.vip2ch.com/
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) :2011/11/06(日) 00:13:14.25 ID:mOaE9/iSO
まだかなー
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(長屋) [sage]:2011/11/06(日) 00:16:09.83 ID:C1qdhnJC0
>>51 豸医∴繧耕s
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(長屋) [sage]:2011/11/06(日) 00:17:51.08 ID:C1qdhnJC0
文字化け…(´・ω・`)
とりあえずsageろよks
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(長崎県) [sage]:2011/11/06(日) 09:02:57.45 ID:sCmipX98o
顔文字使ってるやつに言われても……
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/06(日) 10:14:45.36 ID:G/G00dzYo
>>54
ヒント:ID
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(関東・甲信越) [sage]:2011/11/06(日) 10:42:03.37 ID:AUqd/y6AO
なんで荒れそうなん
57 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2011/11/06(日) 22:53:57.84 ID:DafV07Rlo
生存報告です

ちゃんと書き溜めてから戻ってこようかと思っています

新しいルールだと1ヶ月か2ヵ月でHTML化でしたっけ
流石にそこまで放っておくことはないけど

忘れたころに戻ってきますので
それまで忘れてて下さい

上がってたらまた思い出して下さい
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) :2011/11/06(日) 22:56:09.91 ID:ZZC3B8mGo
>>57
頑張ってください
楽しみにしてますさかい。
寒くなってきたのでお体をお気をつけて
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/06(日) 23:18:11.01 ID:02yMX++ko
1ヵ月全く書き込みがない
もしくは
作者の書き込みが3ヵ月ない(LR変更後に建てられたスレは2ヵ月)

まあここで1ヵ月レスがつかないなんてことはなさそうだしあまり気にしなくてもいいと思う
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [sage]:2011/11/13(日) 14:26:31.00 ID:YESesqlAO
>>1はまだか!?
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(神奈川県) [sage saga]:2011/11/27(日) 21:41:58.03 ID:21+4S7/10
保守?
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/28(月) 23:38:37.28 ID:4xdMydt40
保守はいらんが支援
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(大阪府) [sage]:2011/12/02(金) 17:21:57.82 ID:5MfknYYQo
おっそいなー
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/04(日) 00:28:55.19 ID:ILqaj4g10
そろそろ一ヶ月経ちますよね……
どれくらい書き溜め出来たのかな?
マジ楽しみです。
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/05(月) 13:34:03.87 ID:fck1+TK4o
>>1ーーーー!早くきてくれーーーー!
66 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/12(月) 15:39:36.13 ID:RC7Xj9dGo
間に合わなくなっても知らんぞー‼
67 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/16(金) 15:50:38.92 ID:KFWjs5TIO
いいいいいい>>1くゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!???
生きてますかァァァああァァァあ???!!!
68 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/20(火) 02:56:28.76 ID:arEp51j80
一月ごとに生存報告くれるとうれしい
69 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/20(火) 23:22:03.87 ID:/8eZ4avY0
確かにそろそろ生存報告が欲しいな
70 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/21(水) 19:37:17.35 ID:cvYouj3J0
はやくきてぇぇっぇ
71 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/22(木) 23:47:59.72 ID:reklxMGa0
これもうこねぇだろ… 
うわあああああああ続きが気になるうううううう!
72 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/23(金) 00:56:38.93 ID:GQBrPt61o
あげんなクズ
一生ROMってろ
73 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/23(金) 01:08:01.49 ID:EIbIm0l00
クズとか言うなよ。
あげるなだけで充分。
74 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/23(金) 01:25:10.77 ID:CWvUsOqfo
かまうな
75 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/23(金) 12:15:59.35 ID:JVkHJ0KAO
76 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/23(金) 12:23:29.73 ID:NJmX4nQYo
77 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/23(金) 13:10:19.90 ID:qRUNmGuDO
芸能
78 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/23(金) 13:40:04.29 ID:qyoK6HoAO
まえだまえだ
79 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/24(土) 00:31:37.12 ID:HqZq+gAM0
結局、おとなしく更新待つのが一番って訳よ
80 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 17:23:23.39 ID:W+KvPNsMo
メリークリスマス
81 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 22:25:32.06 ID:dNfOSuCE0
見えた サンタになったあっくんを見て、御坂がトナカイ姿で鼻血噴いてるビジョンが見えた
そしてサンタコスのフレンダは俺の嫁
82 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2011/12/25(日) 22:28:34.48 ID:xuOxj/+ro
メリークリスマス…


すいませんすいません

結局一ヶ月以上放置してしまった

こういう時どんな顔すればいいのか分からないの…


いや、本当にすみません

どうにも書けなくて…


そんなわけでリハビリ投下します
83 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2011/12/25(日) 22:29:47.99 ID:xuOxj/+ro

土御門が海原と内緒話をしている頃、木原の病室では『人材派遣』が話題になっていた。

『グループ』を追跡している猟犬部隊の隊員の報告によれば、彼は護送車もろとも蜂の巣になったらしい。


「奴のマンションを改めて洗ったんですが、面白い物が転がってました」

『ブロック』に爆破された『人材派遣』のマンション。
その焼跡を調査して戻ってきた隊員が、写真を一枚取り出して、ホワイトボードに貼りつけた。

被写体は死体であった。

どこかで見た事のある顔をした男が、青ざめて目を剥き、焦げたフローリングに横たわっていた。

頬の皮膚の一部が切り取ったかのように正確に十センチ角に剥がれている。

「ちょっと待て。この顔かなり最近見た覚えがあるぞ」

木原が目を細めて写真を睨みつける。

彼より先に、一方通行が気付いた。

「すぐ横の写真と同じ顔じゃねェ? 『ブロック』の山手じゃン」

「あ、本当だ」

生気を失った虚ろな目は、生前の彼の写真とはあまりにもかけ離れていた。
だが、確かに『ブロック』の一員として張り出されている山手と、死体の顔は同一人物であった。
84 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2011/12/25(日) 22:31:03.22 ID:xuOxj/+ro


「『ブロック』に欠員が出たなんて報告は受けてねえぞ」

「そもそも普通にピンピンしてるらしいですよ、山手」

「じゃ、死体かピンピンしてる方、どっちかが偽物だな。普通に考えて生きてる方だろうが」

木原は確かめるように頷くと、改めて部下の方を向いた。

「で、この死体はどこにあったって?」

「『人材派遣』のマンションです。クローゼットに押し込まれてました」

「そりゃおかしいな。『ブロック』を張ってる部下の報告じゃ、部屋からはネズミ一匹見つかってないはずじゃねえのか」

「というよりですね、その『何も残って無かった』という報告をリーダーに上げたのが、誰あろう山手なんですよ」

「ピンピンしてる方の」

「ビンビンの」

「ビンビンって……」


つまり、現在二人の山手の姿が確認されていて、一方は死んでいる。
恐らく死体の山手が本物で、ビンビンの方が偽物である。
死体の存在を隠して『ブロック』に嘘の報告をしたのは偽物の山手。

「誰かが山手を殺して成りすましたって事か」

死体の写真の鼻をつつきながら、一方通行が言う。

「そうなるだろうな。本物の方の山手の脱落さえ確認できりゃ、別に偽物は誰だっていいんだが……」

山手の写真に×印を付けるよう、部下に顎で指示しながら、木原も考えを口にする。

「爆発の瞬間にマンションにいたはずなのに、やっぱり死体が見つかってない人間がまだいるだろ」

「――海原光貴」

こちらは残すべき『グループ』の一員である。
もし海原がニセ山手なら、うまい具合に生き延びてくれた事になる。
希望的観測に近いものも少し含まれるが、可能性は確かにあった。

「問題は、どうやって初対面の山手に咄嗟に変装すんのかってとこだな」
85 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2011/12/25(日) 22:32:26.94 ID:xuOxj/+ro

爆発、山手と部下が突入、山手を殺害、部下が気付く前にすり替わる。

誰にも気付かれずに山手だけ殺すだけでも相当な芸当である。
さらに、何の道具もなしにいきなり赤の他人に化けるというのだ。

海原はそれをやってのける人物か?

念動力能力者のボンボンが?

「無理じゃねェ?」

「無理だな」

希望的観測、撃沈。

と、またしても海原に関しては保留にしようかという、その時だった。

また一人、病室に猟犬部隊の隊員が戻って来て、興奮気味に告げた。


「木原さん。海原光貴に関して、とんでもない事が判明しました」

86 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2011/12/25(日) 22:33:52.39 ID:xuOxj/+ro


こういう時に期待して得した経験はとても少ない。

これは運命のせいではない。

単純に木原の感性の問題である。
普通の人間が喜ぶようなサプライズでも、彼は滅多に喜ばなかった。

だから、今回も大した話ではないだろうと軽く構えていた。

だが、現実は少しだけ優しかった。


「どうやら海原は、魔術師のようです」


戻ってきたヴェーラの告げた言葉に、木原はまんまと大喜びした。

「何だって? 魔術師?」

「ボンボンが?」

喜んだ木原が身を乗り出すと、ヴェーラも得意げに話し出す。

「『魔術師』というのは、前に学園都市を襲った組織『魔術』の一員を指す言葉です」

「学園都市とは別の超能力開発機関だってんだろ。で?」

ヴェーラを始め、猟犬部隊の隊員達は未だ『魔術』をオカルトだとは認識していない。
学園都市が発表したとおり、新しい科学の学派であると解釈している。

木原は『魔術』をそのままの意味で捕えていて、呪文を唱えて手から火を出すとか、
魔法陣を書いて化け物を呼び出すだとかいう事をやってのける者たちがいると考えている。

だがそれについて議論を闘わせる必要は無いので、彼はヴェーラ達の考え方に合わせて話を進めてやっていた。

一方通行はというと、どちらが正しいのか分からなかった。

常識で考えれば、オカルトなど現実にはあり得ない。
しかし、よりにもよって科学の分野で天才と称される木原がその存在を有ると断言しているのだから、
何となく有ってもいいのかもと考えてしまう。

正直どちらが正しくても良かった。
割とどうでもいい。

が、兎にも角にも海原がその魔術師であったという事実はそれなりに興味深かった。
87 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2011/12/25(日) 22:34:53.40 ID:xuOxj/+ro

「魔術師ってのは学園都市とは違う機関の奴らなンだろ? つまり常盤台の理事長の息子はスパイだったってのか?」

「確かにそういう身の上がばれたら、理事長の御曹司が暗部堕ちしてもおかしかねぇな」

「いえ。彼は本物の海原光貴ではないんです。我々が追いかけている方の海原は」

つまりニセ海原。

ついさっきまで山手がニセ山手で、その正体が海原ではないかと話し合っていた矢先である。

仮説が正しければ彼は山手のニセモノの海原のニセモノの何か、という事になる。

「化けてばっかりだ」

「化けるのが彼の特技なんです」

木原が耳を傾けるのを確認して、ヴェーラは詳しく話し始めた。

現在噂になっている海原光貴は、実は海原の皮を被った『魔術』からのスパイで、本名はエツァリという。

九月三十日の事件よりも前に学園都市に侵入を果たしていた。
目的は不明。
現在はその正体を上層部に見破られて、逆に暗部組織の一員として利用されてしまっている。

「彼が『魔術』の能力開発で得た能力は、対象の皮膚を手に入れることで発動する擬態のようです」

「死体の写真で顔の皮膚がきれいにはぎ取られてたが、擬態に使ったって事で間違いなさそうだな」

「って事ァ、つまり……」

「生きてるな、海原。やれやれ助かった」

一応の安堵と、期待したほど『魔術』が面白い現象を起こしてくれなかったのとで、木原は小さくため息をついた。

擬態くらいなら学園都市の超能力でも出来る。
相手の皮膚を切り取るなどの面倒がない能力者もいるくらいである。

ただ、能力者は一つの能力しか持ち得ないのでそれと決まればそれしかできないが、
魔術は条件さえクリアすれば一人でいくつもの奇跡を起こせるのだろう。
そのあたりが利点といえば利点か。

「観察を続ければ、他の魔法も使ってくれるかもしれねぇって事だ」

興味が音を立てて沸いてくる。

仕事そっちのけで、彼は部下に命じた。

海原の近辺を洗いまくれと。
88 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2011/12/25(日) 22:36:20.42 ID:xuOxj/+ro

     ――――――――――――――――――――→


『現在、自分は山手と呼ばれる男に変装しています』

土御門の電話に繋がる先で、海原はこう言った。

「そいつは『ブロック』の構成員か」

『ええ。メインメンバーの一人のようです。あまり話す時間がないので要点だけ』

海原はひとつ息をつき、要点を述べた。

『今『ブロック』が第二十三学区の衛星管理センターにクラッキングを仕掛けています』

「電子攻撃の多い日だな。奴らの目的は?」

『やっと分かったところです。衛星が乗っ取られるのを止めるために、『アイテム』という別の組織が動きました。
 ちなみにリーダーは第三位なのだそうで。彼女達はアンテナを破壊して有害な電波が届かないようにしたようです』

「とっくに偉い人が解決済みなんじゃねえか。
 まさか正体がばれるのが怖くて自力で戻って来られないとか言うんじゃないだろうな?」

土御門が呆れたような声を出すと、海原は苦笑で返した。

『そうではありません。そのアンテナの破壊こそが『ブロック』の狙いだったんです』

「アンテナの破壊が? ……」

なぜわざわざそんな事を、と海原に問う前に、土御門は自分の頭で答えを導き出した。

「衛星による監視を解除するため――」

『そうです。ひこぼしII号は学園都市と外部とを遮断する外壁を監視していますからね。
 通信を途切れさせれば、当然異常を関知してもこちらに届ける事ができません』
89 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2011/12/25(日) 22:37:31.67 ID:xuOxj/+ro

分かっていても、強力な光線を放つ事ができる衛星の制御をみすみす乗っ取らせる訳にもいかない。
まごまごしている内に『アイテム』のアンテナ破壊作戦は順調に完了、監視の目は無くなってしまった。

『彼らの狙いは、学園都市の外から大量の侵入者を受け入れる事。『人材派遣』が用意した傭兵です』

「……嫌なところで繋がりやがった」

『全くです』

再び、海原の苦笑。

『自分は出来る限りその侵入を止めるつもりですが、何しろ『ブロック』が雇ったのは五千人だそうなので……』

「分かった。俺たちもそっちへ向かう。奴らの侵入経路を――」

『あ!? すみませ、土――』

見つかりかけたらしい。

もしくは、見つかったか。

とにかく、『ブロック』の雇った傭兵団の侵入経路を聞きだす前に、海原との通信は途切れた。

「ったく……」

忌々しそうに舌打ちすると、土御門は少し離れた場所でつまらなそうに待機する結標と鉄網へ声を掛けた。

「衛星の監視が途切れてすぐに影響が出る場所で、五千人を一気に侵入させられるようなポイント。
 外壁から絞り出して出動するぞ」

「何なの? その妙に曖昧だけど具体的な指示は」


結標が呆れ声を出す横で、鉄網の虚ろな視線がぴくりと揺らいだ。

90 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2011/12/25(日) 22:39:09.54 ID:xuOxj/+ro

     ――――――――――――――――――――→


自分が『ブロック』の工作に一役買っている事を知る由もない麦野は、一仕事終えて気を緩めていた。
黒焦げの大型アンテナの隣で。

ふと秋物のコートのポケットで震え出す携帯端末。
取り出して通話を開始すると、上機嫌な声が電波に乗って耳に届く。

『ハロー麦野。そっちはどうな訳?』

「誰に口きいてるか分かってる? あんたはどこで何してんの」

『麦野がさっきぶっ倒した査楽って奴だけど、結局、『メンバー』とかいう暗部組織の一員だった訳よ』

「なるほどなるほど。で、そいつらはきちんと全滅させてあげた?」

敵対する者には容赦しない。
邪魔者はさくっと粛清するに限る。

『アイテム』はずっとその方針でやって来ているので、当然今のフレンダもそうしているに違いなかった。

『結局、まだ一人目。馬場って言ったかな? あと二人、老人と女が残ってるって訳よ』

たった数十分で相手の素性を割り出してメンバーの一員まで襲撃してしまうのだから、
フレンダの手腕は相当なものだった。

だが、これも『アイテム』にしてみれば当たり前。
麦野は特に労いもしないし、フレンダの方も期待した様子は無い。

「んじゃ、引き続きお掃除お願いね。私もこっちの後始末を付けたら合流するから」

『らじゃー。で、結局スキルアウトの方はどうなった訳?』

「そういえば連絡ないな。今から掛けてみる。じゃねー」

『おつかれって訳よ』
91 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2011/12/25(日) 22:40:24.27 ID:xuOxj/+ro

     ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞


『アイテム』の動向を一部始終を見ている猟犬部隊の隊員は、それをそのまま木原へと伝える。

報告を受けた木原は、ようやく×印が増え始めたホワイトボードを眺めて言った。

「やっと軌道に乗って来たか」

「人が潰れて喜ぶンだから、大した仕事だよなァ」


『スクール』、残り一名。

『ブロック』、残り三名。

『アイテム』、残り四名。

『メンバー』、残り二名。

『グループ』、残り四名。


スタートが二十名だった事を考えればまずまずである。

このままどんどん潰し合ってくれれば、猟犬部隊は万々歳だ。

大した仕事である。


92 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2011/12/25(日) 22:41:11.31 ID:xuOxj/+ro

つづくよ、馬場。

すまん、馬場。

名前しか出てなくてごめん、馬場。

そんなに嫌いじゃないよ、馬場。

犬のロボットとかカッコいいよ、馬場。

本当はフレンダと犬で対決とかしてたんだよ、馬場。

丸ごとカットしたけど本当は活躍したんだよ、馬場。

いい勝負したよ、馬場。

頑張ったよ、馬場。

馬場ん馬場ん馬ん場ん、馬場。
93 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 23:11:15.68 ID:+wFBIMJNo
馬場がゲシュタルト崩壊した
94 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 23:23:10.38 ID:/0k+ZJCIO
おかえりおつ!まってた!
95 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/26(月) 00:11:32.28 ID:uIQgNrlao
アビ馬場ノノン乙
96 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/26(月) 00:22:06.83 ID:g5Qt0KiJ0
乙乙!!まってたよん♪♪♪
今週3連休なのにびっくりするくらい投下が少ないよなリア充どもめ爆発しろ!!
そんな中で >>1 超乙www
☆.。.:*・゚☆.。.:*・゚☆Merry Christmas >>1☆゚・*:.。.☆゚・*:.。.☆
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/12/26(月) 03:16:06.99 ID:ZYvoUJKxo
馬場ん馬場ん馬ん場ん乙乙乙
98 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/26(月) 21:23:45.85 ID:OTBeqPIp0
age
99 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/26(月) 21:51:13.33 ID:EIEcZnRAO

最後の馬場ん馬場ん馬ん場んに全て持ってかれた
100 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/27(火) 10:10:30.21 ID:2D98H8FAO
あばばばばば馬場
101 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/27(火) 21:58:28.36 ID:Z9d08tUUo
馬場まつり
102 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2011/12/27(火) 23:44:45.32 ID:rwpmg9vao

     ――――――――――――――――――――→


スキルアウトは混乱していた。

リーダーが不在なのだ。ちょっとしたアクシデントですぐバラバラになってしまう。

臨時でとりあえずの仮リーダーを務めていた少年、浜面仕上は頭を抱えていた。

アジトに乗り込んできたのはたった二人の華奢な少女だったはずだ。
しかし、何十人もいた仲間は次々に叩きのめされ、今や両手で数えられる程度。

――強すぎる。これが高位能力者。

彼らはつい数時間前に『スクール』の一員を殺した事で、戸惑いながらも良い気になっていた。

皆で力を合わせれば、暗部組織の奴らだって倒せてしまうんだぞ! と。

だが、逆にこっちが油断していて向こうがその気で乗り込んできた時、彼らはあまりにも無力だった。

少数で各ポイントを見張っていた監視係は、異常を本部に知らせる間もなく黙らされてしまった。

本部の周りを固める用心棒達も、ものともせずになぎ倒され、一部など逃げ出してしまった。

本部――といっても、廃屋に粗大ゴミを持ち込んだような子供だましの秘密基地だったのだが――の連中が異常を察知したのは、
情けない事に敵が扉一枚隔てた所まで侵入してきてからだった。

そして、その心許ない扉も、意味不明の高位能力者の一撃で紙のように吹っ飛ばされて、お役御免。

めでたく侵入者とご対面というわけだ。

頭を抱えたくもなろうというものである。
103 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2011/12/27(火) 23:46:30.24 ID:rwpmg9vao

「何なんだよこいつら!? 外の奴らは何してんだ!?」

目の前に現れたのは、一見ひ弱そうな少女の二人組だ。

どう見ても小学生か中学生かそこらの、小柄で大人しそうな少女と、
ジャージ姿で高校生くらいの、やたら眠そうだが服の下に豊満な肉体を隠していそうな少女。

そんなか弱い女子二人に、茶髪にピアスで煙草でメンチなチンピラモドキの少年がビビっている。

彼女達は日夜喧嘩で鍛え抜かれたスキルアウト達の防衛線を破って、本部へ到達した猛者なのだ。

この際見た目は関係ないのである。

「私達が何者なのかは超どうでもいい事です。命が惜しければリーダーを指差してください。まず頭から潰します」

小さいほうの侵入者が言い放った。

途端に、仲間たちが一斉に浜面の方を指差す。

「っげ!! テメェら! 何て事しやがる!!」

「いやお前、実際リーダー代理だし……」

「指差さなきゃ殺すって言うし……」

スキルアウト達はぼそぼそと言い訳をしている。

浜面には駒場ほどの人望がない。
カリスマ性もない。

だから駒場が倒れた時も『リーダー』ではなく『リーダー代理』として祭り上げられたのだ。

こういう時、真っ先に都合よく差し出されてしまう立場なのである。

「畜生、裏切り者……」

「そっちですか。その超間抜け面でリーダーとは超片腹痛いですが、まあいいでしょう」

敵は浜面の苦悩など知った事ではない。
無情にもその強すぎる能力を持って、彼を殲滅せんがため構えを取っている。

「大人しく超拘束されれば、命だけは保証しますが」
104 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2011/12/27(火) 23:47:45.37 ID:rwpmg9vao

「――クソッタレ! 死んだらまず女子の風呂場に化けて出てやる!」

少女に狙いを定められて、浜面がヤケクソ気味に目を瞑ったその時だった。



「きぬはた。上」



――――ズダダダダダダダッ!!



天井の、丁度絹旗の真上から、機関銃の銃弾の雨が降り注いだ。

「ッ!!」

どうやって気配を感じ取ったのか、銃撃が降る直前でジャージが小さい方に助言をし、小さい方は寸でのところで身を翻して弾を避ける。

「まだいましたか」

顔色一つ変えずに足元の木片を拾い上げ、散弾の降ってきた方へと投げる。

彼女が放った破片はなぜか銃弾のような勢いをつけて飛び、天井裏へ突き抜けた。

その木片弾が天井板を五枚ほど剥ぎ落とすと同時、少女が狙ったのとは別の天井が崩れて男が飛び降りてきた。

「おっとっと……物騒なお嬢さんだな」

「半蔵!」

落ちてきたのは、スキルアウトの半滅に伴い浜面と共にのし上がった、付け焼刃の幹部の一員だった。
狭いところで寝るのが好きなので、たまたま天井裏で昼寝をしていたのである。
それがこの奇襲の役に立った。
結果仕損じているので立派に役立ったかというと微妙だが、浜面の命を救った事は確かである。
105 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2011/12/27(火) 23:51:01.22 ID:rwpmg9vao

「な〜に諦めてんだ、リーダー代理! でっけえのは図体だけかよ」

浜面を挑発しながら、今度はジャージの女に向けて小型の拳銃を発砲する半蔵。

「んだとコラ!」

悪友の言葉に乗せられて、浜面の頭に血が昇ってきた。
勢いに任せてベルトに手を伸ばし、自分も隠していた拳銃を取り出した。

そのトンデモ能力で難なく銃弾から身を守った小さい少女を見据え、銃口を向ける。

すると、二人の士気に押されるように、諦め気味だったスキルアウトの仲間達の闘争心が、じわじわと蘇ってきたようだった。

「やる気ですか? 超面倒な事になってきましたね。お互い超損するばかりだと思うのですが」

「大丈夫だよきぬはた。相手はもう十人もいないんだから」

侵入者たちは勝手に喋っている。それを聞いてスキルアウトの一人が息巻いた。

「そっちなんか二人じゃねえか。ナメんなよ」

そんなスキルアウトを無視して、ジャージの女に絹旗と呼ばれた少女が彼女の方へふり向く。

「滝壺さん。とりあえず頭、お願いできますか?」

ジャージの方は滝壺という名前らしい。目線がどこか上の空だが、絹旗の言葉にこくりと頷き、了解の意を示す。

そして、その返事を読み取った絹旗は、改めてスキルアウト達に対峙する。

レベル4の実力を持つ、小さな体の襲撃者は、肩をすくめた。



「ナメている、というよりも。レベル0が一人でも十人でも二十人でも私達にはあんまり変わりない訳でして」



ナメ切った発言を合図にして。


狭い本部で乱闘が始まった。
106 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2011/12/27(火) 23:52:05.07 ID:rwpmg9vao


滝壺がスキルアウトのリーダーを討つ間、絹旗が他を引き受ける。

バランスが悪い振り分けのようだが、これは単純に絹旗と滝壺の戦闘能力の差を示しているのだろう。

ともあれ、戦闘の構図はまんまと絹旗の定めたとおりになった。

すなわち、滝壺 VS 浜面。
そして、絹旗 VS 他。


絹旗はその小さな右手でスキルアウトの銃弾を防いだかと思うと、次の瞬間には相手の懐へ飛び込んで鳩尾に一撃、早速一人減らしていた。

「おい! 大丈夫か!?」

浜面が吹っ飛んだ仲間の名を呼んだが、返事は返って来なかった。
代わりに滝壺のパンチが飛んできた。

「うお!? あぶね!」

眠そうな顔に似合わず俊敏な動き。

絹旗より劣るらしいとはいえ、やはり滝壺もなめてかかっていい相手ではないらしい。

「思ったより素早いんだね」

「あのな、テメェには言われたくねえよ?」

「……?」

気の抜けるやり取りをしつつ、改めて戦闘再開。
107 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2011/12/27(火) 23:53:08.14 ID:rwpmg9vao

(……むむ。色気のねえジャージだが、あ、あの膨らみは……)

真剣勝負の真っ最中に何だか相手の胸に目が行く浜面。

ソレは置いておくとして。

「……って、え!?」

一瞬だった。

浜面と相手の距離は三メートルほど離れていたのだが、一瞬の間に間合いが詰められていた。

滝壺の右手が動く。

逆手のその拳を見て、先程絹旗に鳩尾をやられて飛んだ仲間の姿が浜面の脳裏にフラッシュバックした。

「――!!」

彼女の手が飛んでくる前に咄嗟に腹をガードした。が。


「おなかは嫌?」


フェイントだった。

どこかあどけない少女の声が聞こえた直後、右足に衝撃が走った。

「いっ……ッ!?」

ローキックに悶絶し、思わずうずくまろうとする浜面の頭部に、さらに追撃。

両手で脳天を思い切り引っぱたかれて意識がぐらついたかと思ったら、今度は本当に腹を蹴られて浜面も飛んでいた。

この間約五秒。

飛んだ先の壁に身体ごとぶつかって、チンピラリーダーの身体がずり落ちる。
108 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2011/12/27(火) 23:53:58.83 ID:rwpmg9vao

「ゲホッ! うぐ……」

足は痛いし頭はグラグラするし吐き気もする。
開始三十秒も経たない内にもう死ぬんじゃないかという状態になった浜面は、それでも何とか立ちあがった。
壁に手をついてまともに自立もできなかったが。

「あれ? まだ意識があるの? 思ったより頑丈なんだね」

よろよろで、やっとの事で立ちあがった彼を見て、ジャージの少女はきょとんと首を傾げた。

「テメェは見かけによらず肉体派だな、クソッ……?」

自分で言って、違和感があった。

絹旗が散弾に降られて平気な顔をしていたせいで、レベル4などというのは須く化け物の類だと思い込んでいた。
だが、どうにも動きがおかしい。

滝壺は、顔によらず俊敏で、常人離れした身のこなしをしていた。
眠たげな顔をして男の鳩尾を思い切り蹴り上げてくる。ひどい。

しかしそれだけだったのだ。

絹旗のように、小さな手のひらで異様なマジックをして見せたりといった事が全然ない。
強いて言えば半蔵の急襲を見破ったくらいだ。
ただ物理的に強いだけなのだ。
109 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2011/12/27(火) 23:54:59.60 ID:rwpmg9vao

「お前――本当に高位能力者なのか?」

「ん?」

気が付くと、浜面は敵に話しかけていた。

「……一応。私の能力は体晶っていう副作用の強い薬みたいなのを飲まないと全く使えないけど」

意外にも、相手もまともに返答を返してきた。

「命削って弱いものいじめしてますってか」

「大丈夫だよ。さっき使った分はもう切れてるから」

「……新しいのを飲まないのか? そりゃ俺をナメてるって事か」

つまり彼女は今、レベル4の能力に頼らず体一つで浜面の相手をしているのだ。
だから絹旗との配分が随分違ったのだろう。

「大丈夫だよ。私はただ、ここでもう一度体晶を使うくらいなら先の任務のために体力を取っておきたいだけだから」

「やっぱナメてんじゃねえか」

ふらり、と、浜面が壁から離れる。

ぼろぼろのグラグラ。ナメられて当然の有様である。

だが、これから負けようという弱者の色が、彼の瞳から読み取れない事に、滝壺は不思議そうな顔をしていた。
110 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2011/12/27(火) 23:56:43.06 ID:rwpmg9vao

「それ、いい事聞いたよ」

絹旗に追い掛け回されていたスキルアウトの一人が、いつの間にか浜面のすぐ隣にいた。

「つまり、あいつには普通の武器が普通に効く訳ね」

「お前、それ――」

彼が手に持っていたのは、手製の爆発物だった。

先日失敗に終わった高位能力者襲撃作戦のために用意した、棒火矢という兵器の先端部分である。
作戦が失敗した後も処分せずに護身用に持ち歩いているメンバーが何人かいたが、彼もその一人だった。

まるでオモチャのような手作りの一品だが、殺傷能力は侮れない。
少なくとも、能力による防御手段が無い丸腰の女の子の顔面一つ吹き飛ばすくらいならやってのけるだろう。

「オラ、一人撃破だ」

何の躊躇も無く着火し、ぼやっとしている滝壺に投げつけるスキルアウト。

「! 滝壺さ――」

半蔵の相手をしていた絹旗が気が付いて守ろうとするが、他のスキルアウトに囲まれて一歩出遅れた。


浜面が見た時、少女は「あ、結構まずいかも」と言うような顔をしていた。


「――!! あああああああッ!!!」

「浜面!?」

仲間の声がする。

かすれて聞こえる。

ハッキリ言って、浜面に全く分からなかった。

何故自分が走り出しているのか。

爆弾が今にも爆発しようとしている先へ、たった一人の少女が動けずに佇んでいる所へ。



「畜生――ッ!!」



――――バンッ



手作り爆弾が起爆した。

111 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2011/12/27(火) 23:57:21.15 ID:rwpmg9vao


「滝壺さん!」

「浜面! 浜面!?」


絹旗とスキルアウト勢が同時に叫ぶ。

直後、煙の中から咳き込む声が響き渡った。


「げほぉっ! はぁーっ! はぁーっ! あぶ、あぶねえええ!!」

彼等の心配は、取り合えず全員分取り除かれる事になる。

浜面も滝壺も無事だったからだ。

だが、それでよかったねとはならない。

「――浜面。何のつもりだ?」

半蔵の不機嫌な声が訊ねる。

「え……」

千載一遇のチャンス。
仲間の機転で強敵・レベル4を一人打ち落とせるはずだったのに、彼はそれを助けてしまった。

滝壺の体を抱えて息を吐く浜面に、仲間達と、ついでに絹旗の冷たい視線が突き刺さる。
112 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2011/12/27(火) 23:58:49.53 ID:rwpmg9vao

「い、言えない!! おっぱいが魅力的だったらつい助けちまったなんて言えない!!」

「声に、出てる……」

冷たい視線の中に、滝壺のそれも加わった。

浜面仕上、いよいよもって四面楚歌である。

「――リーダーが超バカの超ダメ男とは、スキルアウトには超同情せざるを得ませんね」

最初に動き出したのは絹旗だった。

つられるようにスキルアウトたちも動き出す。
浜面と、浜面に抱えられた滝壺を目指して。


絹旗がやってくる。
スキルアウト達もやってくる。

どちらも仲間を助けるため、相手を殺そうとしているのだ。


「ちょ、ちょっと待て! ちょっと待てよ! 少し話し合いを……うおおおお!!」

浜面は滝壺を抱き上げ、訳がわからないまま逃げ出した。

絹旗にドアを飛ばされた出入り口から、少女を抱いて一目散に飛び出す。

「待つのはお前だ浜面! 何してんだコラ!」

後方から半蔵のごもっともなツッコミが聞こえる。


「何やってんだ!? 俺は一体何してんだよォォ―――ッ!?」

「離して。優柔不断な男の人って応援できない」


走りながら叫ぶ浜面と、抱かれながら不満顔の滝壺。

これが、浜面仕上と滝壺理后の出会いであった。

113 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2011/12/27(火) 23:59:42.72 ID:rwpmg9vao



五分後。

浜面以外のスキルアウトを今度こそ全滅させた絹旗が、携帯端末を取り出した。


「麦野。滝壺さんが超拉致されました……超間抜けな顔の無能力者に」


114 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2011/12/28(水) 00:00:26.69 ID:Bpr3NcXLo

つづく


天井裏から下に向けて機関銃が撃てちゃう服部君パネェ

そんなスペースと安定感がある天井裏もパネェ

115 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/28(水) 00:03:55.12 ID:Ib0L73Kxo
さすがは天井裏さん

それに引き換え天井は、まったく……
116 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/28(水) 00:05:07.44 ID:fti9lnZO0
滝壺さんに接近戦で負ける浜面ェ
117 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/28(水) 02:09:29.65 ID:lBVkyot7o
118 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/28(水) 03:55:07.33 ID:asHaxzUa0
更新嬉しい!しかし浜面超浜面wwwwwwwwwwwwwwwwwwww
119 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/28(水) 13:45:01.19 ID:dkd7vdpAO


大丈夫、そんな、か弱い女の子にもぶちのめされる浜面を応援している
120 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/31(土) 01:05:44.41 ID:MS77+Huvo
おー来てたのか
121 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2012/01/02(月) 22:05:04.94 ID:OqQVjH1g0


流石浜面、ヒーローというにはあまりに中途半端すぎる
122 :以下、あけまして [sage]:2012/01/03(火) 16:38:21.09 ID:nlpbGDZY0
そんなバカ面が好きだwwwwwwww
123 :以下、あけまして [sage]:2012/01/04(水) 21:31:22.13 ID:VsNOZOu40
滝壺が強くなってるwwwwww
半端ねぇwwwwwwww
124 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/06(金) 21:58:50.79 ID:uxn4qPm9o

タキツボ様は新約2巻でスーパー強い事が判明しましたので

浜面くらいならぶっとばしてくれんじゃねーかと思って

ぶっ飛ばしていただきました

ありがたいタキツボ様にお辞儀をしましょう
125 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/06(金) 21:59:46.27 ID:uxn4qPm9o

     ――――――――――――――――――――→


第一一学区は、学園都市と外の地域を隔てる『外壁』に面した学区である。

巨大な物資をやり取りするため、広大な倉庫を持つ。

人目につかず、監視の目がゆるく、衛星さえ機能停止させてしまえば一時的に外部との接触が可能な場所がここだった。

『ブロック』の構成員に連れられて、山手に化けた海原(に化けたエツァリ)が辺りを窺った。

(土御門さん達は――間に合いませんでしたか。ここを突き止めてくれればと思っていたんですが)

こうなったら、一人で止めるしかない。

五千人の荒くれ者と『ブロック』を相手にして、侵入を阻止しなければならない。

(何をしでかすつもりかはまだ分かりませんが、ろくな事は起こらなさそうですし……)

一瞬、放っておいて逃げようかとも思ったが、結局彼は内心嘆息しつつ、侵入阻止のために残る事に決めた。

縁もゆかりもない学園都市のために。

というのは嘘で、スパイ活動中に学園都市に好きな子が出来てしまったので、彼は放っておく事ができないのである。
126 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/06(金) 22:00:36.70 ID:uxn4qPm9o


衛星の目が無くなっても、地上の監視ロボットは動いている。

だが、充電のために定期的に代機との交代が必要である。

交代時間のおよそ二十分、空からも地上からも見張りがなくなるタイミングで、『ブロック』は仕事を完遂しようとしていた。

(二十分で五千人……相当タイトですが……)

海原は、部下に指示を出す『ブロック』の幹部達から数歩後ろに下がった場所で、妨害の好機を窺っていた。

五千人を一人で止めるなど、並の人間には不可能である。

だが、彼は並の人間ではなかった。
優れた魔術師なのだ。

手段さえ選ばなければ、大勢の足止めもできなくはない。
その程度の必殺技を隠し持っている。

しかしデメリットは大きかった。
まず、『ブロック』に正体がばれる。
そして、魔術の存在が少なからぬ人数の目の前で明らかになってしまう。
さらに、あちこち大規模に破壊する事になるので、損害が馬鹿にならない。

出来れば、一人では立ち向かいたくなかった。

なかったのだが。


「時間だ。始めるぞ」


『ブロック』のリーダー・佐久の合図で、作戦は始まってしまった。


「仕方ありませんね……!」


呟いた海原は素早い動きで懐に手を伸ばした。
127 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/06(金) 22:02:05.53 ID:uxn4qPm9o

     ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞


「海原が動きました」


木原の病室。

猟犬部隊の隠しカメラの映像で『ブロック』の動向を見守っていた面々は、緊張して海原の手に注目した。

角度のせいでよく見えないが、黒光りする刃物のようなものを持っているらしい。

「何だありゃ?」

「魔術の秘密道具なンじゃねェの?」

「用途じゃねえよ。物質そのものだ。――石か?」

「黒曜石に似てる。理科の教科書で見た」

「へぇ、お前便利だな」

(しまった、教科書全部暗記してンのばれた)

もはや今更なボロを出して舌打ちする一方通行をよそに、木原は画面に集中している。

一方通行の推測は正解で、海原が持っているのは確かに黒曜石のナイフであった。

ここにいる人間には知る由もないが、魔術的に重要な意味を持つ鉱物だ。

「あんな石っころで何するつもりだ?」

「五千人の傭兵を皆殺しにする魔術とかだったらよォ、レベル5とケンカ出来ンじゃねェ?」

「さすがに一撃でそこまでの芸当は出来ねえだろうが……」

と、いうよりも。
もしただのスパイにそこまで出来てしまうようなら、『魔術』は思った以上に何でもありになってしまう。

超能力のエキスパートとしては、いくらなんでもそんなにまで差を見せつけて欲しくないというのが木原の本音だった。

やられたらそれはそれで楽しいかもしれないのだが。


そして、結果的に彼の期待と不安は、両方裏切られる事になる。

それも最悪な形で。
128 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/06(金) 22:03:59.56 ID:uxn4qPm9o

     ――――――――――――――――――――→


海原が行おうとしているのは、『トラウィスカルパンテクウトリの槍』という、れっきとした魔術であった。

金星の光を反射して対象に当て、どんな物質でもバラバラに分解してしまうという強力な術式だ。

強力な分使い勝手はあまり良くなく、一度に分解できるものは一つだけ。
五千人を一度にバラバラにはできない。

その術式を使って、外壁をよじ登って来る傭兵を一気に潰すには。

近くにある背の高い建物を倒壊させ、敵を巻き込む。
荒っぽいが今の彼にはそれしか手がなかった。

海原は『ブロック』に勘付かれないように慎重に当たりを見渡し、倒壊に最適な建造物を探した。

そしてひとつ、あたりをつける。

(巨大立体駐車場……あの位置と高さなら!)

時間がない。傭兵達は次々侵入を始めている。

覚悟を決める。

(最も効果的なタイミングを狙って――)


ゆっくりと、ナイフを空へ構える海原に向かって。


「やめておきたまえ、海原君」


と、声を掛ける人間がいた。
129 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/06(金) 22:05:04.97 ID:uxn4qPm9o

「――え?」

当然海原の動きが止まった。


背後から皺がれた声が聞こえた気がする。

気のせい?

振り返ると、声の主と思しき人物が確かにそこに立っていた。

白衣を着た、線の細い、太い縁の眼鏡の老人。

印象を一言で表すなら――『博士』と呼びたくなるような。


「失礼。本名はエツァリ君、だったかね?」


指で眼鏡の縁を持ち上げながら、『博士』は言った。

途端に海原の顔に緊張が走る。

「貴方は……?」

「私の正体も君の正体も、取り敢えず置いておこうじゃないか。お互い一番の問題はアレだろう?」

アレ、と言いながら、『博士』は親指で傭兵達の方を指した。


このやりとりで、『ブロック』の佐久と手塩も背後の珍客に気が付いたらしい。

五千人の招待客の方にも気を向けつつ、老人の方へ振り返る。
130 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/06(金) 22:05:53.41 ID:uxn4qPm9o

「おい、山手。そのジジイ誰だ?」

老人と向き合っていた海原へ、佐久が尋ねる。

海原にしてもこの『博士』とは今が初対面だ。
紹介して仲を取り持てるほどの立場でもない。

なので簡潔に答えた。

「知らねえよ。俺も今初めて見た」

「そうか。じゃあ直接聞くぞ。ジジイ。テメェは何者だ?」

熊のような巨体がずい、と押し寄せる。

『博士』はそれに怯む様子もなかった。

そして、にやりと笑みを浮かべ、手を広げて言った。

「初めまして、『ブロック』の諸君。一人は出張中のようだが……」

わざとらしく周囲を一瞥して、咳払いをひとつ。

「私は君達と同じ学園都市の暗部『メンバー』の一員だ。『博士』とでも呼んでくれたまえ」


老人らしくゆっくりとした動きでおじぎをして、『博士』は自己紹介を締めくくった。

131 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/06(金) 22:07:04.50 ID:uxn4qPm9o

     ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞


「ジジイイイィィィ――――――――――ッ!! 何止めてやがんだよォォオッ!!」


木原は悔しがっていた。

無理もない。

折角海原が、黒曜石らしきものを使った取って置きの魔術を披露してくれようとしていたのに。

あの『博士』はそれにストップを掛けてしまったのだ。

「何しに来やがったんだよ老害がッ!」

「普通に考えて、学園都市の危険を排除しに、だろォよ。それが『メンバー』の仕事なンだろ?」

年寄りが仕事熱心だったからといって木原が納得する訳がない。

五千人の学園都市への侵入を阻もうと立ちあがった『博士』に、彼は暴言を吐きまくっていた。
画面越しに。

「しかし、『博士』は一人で乗り込んできてどうするつもりなんでしょう?」

猟犬部隊の一人が至極まっとうな疑問を口にすると。

「知るか」

木原の回答もまっとうだった。

132 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/06(金) 22:08:27.89 ID:uxn4qPm9o

     ――――――――――――――――――――→


「自己紹介ありがとうよ。で、『メンバー』のジイサンはここへ殺されにやって来たってか?」

巨体を揺らして『博士』に近寄りながら、佐久が嘲るように言った。

『博士』は吐きかけられた言葉を払うように右手を振ると、海原の方を見て答える。

「君等『ブロック』の相手は私ではないよ。今こちらへ向かっているところだから少し待ちたまえ。それよりエツァリ君」

「……エツァリだと? 何だそりゃ」

『ブロック』の手前、海原は『エツァリ』という本名にはいと返事をする訳にはいかない。
しらを切って見せたが、老人は鼻で笑うばかりだった。

「奇遇にも君の目的と私の目的は一致していてね。あの傭兵達を止めたいのだろう?」

「ハッ! おいジイサン。あれをその御老体で止めようってのか? 弾かれて全身骨折がオチだぜ」

「山手、どういう、事? 彼の、言っている、意味は?」

佐久が『博士』を睨み、手塩が海原を見詰める。

その二つの視線を無視して、白衣の老人はまたも海原に向けて語る。

「君は何かの術式を使ってあの傭兵達の足止めをするつもりなのではないかね?
 だが、それには大きな損壊が伴う。違うかな?」

「……」

「山手」

『博士』の言葉に否定をしない海原に、手塩がさらに疑わしそうな顔で呼びかけた。

しかし博士の口は止まらない。

「それをすれば大変な事になる。ここは外壁のすぐ近くだ。そして今は衛星の目が断たれた緊急事態。
 こんな時と場合と場所で破壊工作を行えば、すぐ様あの"化け物"が出動するだろう」

あの化け物、という言葉に、全員が身じろぎした。
133 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/06(金) 22:09:55.54 ID:uxn4qPm9o

学園都市は治安維持のために通称『六枚羽』という無人攻撃ヘリを所持している。

科学の街最先端の技術を惜しげもなく投入した最新式で、その気になれば音速を超えて飛べる。
そして、その気になれば二千五百度の摩擦弾頭を落とせる。
五千人程度虐殺するくらいなら、その気になればやってのける。

そんな化け物を呼び出す事態になりかねないのだ。

「あるいはそれが君の狙いかもしれんがね。アレはそんなに融通の利く代物ではない。
 壁をよじ登る侵入者だけ排除して、近くに潜む君の生体反応だけ見逃してくれるほど甘くは無いよ」

語りかける老人を見据え、海原は黙って立っていた。

何と答えても、後ろの二人をごまかせる事はないだろう。

『博士』は彼の正体を知っている。
そして、あろう事か『ブロック』の邪魔をしようとしている事を喋ってしまった。

相手の狙いが分からず、身動きが取れない。

『博士』の長話が済んだ後、佐久と手塩はこちらへ詰問してくるだろう。
それをどうやって切り抜けるか。

そして、五千人の侵入はどうやって防ぐのか。


「そこで提案なのだが、あの傭兵の始末は私に任せてほしい」


また、海原の思考が止まった。

老人が何を言ったのか、一瞬良く分からなかったのだ。
134 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/06(金) 22:10:35.21 ID:uxn4qPm9o


最初に気を取り直したのは佐久だった。

彼も『博士』の言葉を聞いていた。そして固まった。

だが、次の瞬間には大笑いしていた。

「おいおいおいジジイ! 何寝言言ってやがんだ? あの数を見ろよ!
 その年齢じゃあ、お前能力者でもねえんだろ? どうやって始末するってんだ」

低い声でげらげら笑いながら、巨体を上下させる佐久。

『博士』はそれでも、気を悪くした様子はなかった。

「私は『上』とコネクションがあるものでね。特別にここで暴れる許可が出ている。
 私が起こした異常事態に限り、『六枚羽』は出動せんよ」

「暴れる、だと?」

手塩の問い掛けに、老人はゆっくりと頷いた。

「ご大層なものではないよ。特定の周波数に応じて特定の反応を示す、単なる反射合金の粒だ」

骨ばった指が、パチリと鳴った。



「私は『オジギソウ』と呼んでいるがね」
135 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/06(金) 22:11:01.22 ID:uxn4qPm9o








パン!










五千人が消えた。


136 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/06(金) 22:12:35.47 ID:uxn4qPm9o


「なっ……あ……?」


佐久が間抜けな声を上げている。

海原も似たような声を上げたい気分だった。

『ブロック』が『人材派遣』に依頼して雇った傭兵は、確かに五千人、外壁を乗り越えて侵入を始めていた筈だった。

それなのに、今ではその現場は静まり返っている。

広場の隅で『博士』と海原と『ブロック』の佐久と手塩がむなしく立ちつくすのみ。

一瞬にして、服だけ残して、五千の兵士たちが消えてしまった。

驚く面々を前にして、『博士』だけが優越に浸るように笑っていた。

「原理を簡単に説明するとだね、一種のナノデバイスのようなものを空気中の雑菌に付着させて散布するのだよ。
 『オジギソウ』は私の持つリモコンが出す周波に反応して生物の細胞を毟り取る」

ぐっ、と自らの右手を握って見せる。

佐久のこめかみに青筋が走った。

「ま、ここまで大量の『オジギソウ』を準備するにはもちろん、
 君等のこの作戦の時間と場所を事前に知っている必要がある訳だが」

「ッ! テメェ! 全部知ってたってのか!? 馬鹿にしやがって……ッ!!」

逆上した佐久が『博士』に襲いかかろうとした時だった。

落ち着いた動作で、『博士』はそれを制して言った。

「いやいや、私の余興はここまでだ。君達には相応しい相手を用意している」

「何……?」
137 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/06(金) 22:13:31.61 ID:uxn4qPm9o

佐久が眉根をひそめたと同時、彼のズボンのポケットから電子音が漏れ出て来た。

「もしもし……チッ、鉄網か。危険だからあんま連絡すんなっつったろ」

「鉄網?」

佐久の携帯電話に連絡を寄こしたのは、『グループ』に潜入している鉄網だった。

当然海原は彼女の正体など知らないので、なぜこの局面で、しかも佐久に連絡を取ろうとするのか分からなかった。

彼の動揺に、手塩が気付いた。

「山手……?」

「いや、何でもねえよ」

手塩の視線を振りほどくように、海原は佐久の様子に注目する。

佐久は鉄網からの報告に耳を傾け、しばらくじっと聞き入っていたが、急に表情を変えた。

「『グループ』が俺達に気付いた? こっちに向かっているだと?」

言いながら、『博士』の方へ目をやっている。

『博士』は黙って笑っていた。

「クソッ、何で引き留めなかった? 別の場所に誘導すりゃいいだろうが」

佐久の問い掛けに、鉄網は何か答えたのだろう。
彼はぎりぎりと歯ぎしりして、やり場のない怒りに震えていた。

(私の役割は心を読む事しかないから、とか何とか言ったんでしょうね……)

彼自身が正解を確かめる事はできなかったが、海原の推測は当たっていた。
138 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/06(金) 22:14:14.31 ID:uxn4qPm9o

「呼んだのは、あなた?」

手塩が『博士』に向かって訊ねる。

それを『博士』は首を振り、否定した。

「私は成り行きを知っているだけでね。『グループ』を操るまでの権限はないよ。
だが確実に言える事がひとつ」

『博士』は指を一本立てて、

「彼等はここに全速力で向かっている。五千人の侵入を阻むためにね」

まあ、五千人の始末は私が付けてしまったが……などとぼそりと付けたして、彼は言葉を結ぶ。

「そして、だ。ほら、そうこうしている内に到着したようだよ」
139 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/06(金) 22:16:47.57 ID:uxn4qPm9o

「何だと!?」

佐久が思わず辺りを見回したその時。

彼の視界に飛び込んで来た。

『ブロック』の下部組織のひとりが。

「佐久さん! 倉庫の裏に不審な車が」

「車?」

次の瞬間、まさにその倉庫の裏から銃撃音が聞こえて来て、続いて車の急ブレーキの音が鳴り響いた。

音に続き、弾丸から逃げるように、一台のキャンピングカーが佐久達の数十メートル向こうに躍り出て来る。

「あの車……」

海原の呟きに、手塩が答える。

「『グループ』、だ。間違いない」

当然のように吐き出される言葉に、海原は耳を疑った。

知っている。
『ブロック』の手塩が、『グループ』の車を。

――なぜ?

などと聞く訳にはいかないない。海原は今"山手"なのだ。

大分怪しまれているとはいえ、決定的なところでは正体は見破られていない。
『ブロック』の幹部であれば知っているはずの事を、わざわざ尋ねるなど間が抜けている。

「またも珍客か……」

質問の形は取らず、さぐる意味でこの話題を広げてみる。

「手間が、省けたと、考えよう。ターゲットが、向こうから、来てくれたのだから」

『グループ』のキャンピングカーを眺めて、手塩が言った。
彼女からは一切動揺の色が感ぜられない。どこまでもどっしり落ち着いている。

「チッ、人質の準備も出来てねえってのによ」

佐久が悔しげに唸ったが、作戦がすべて駄目台無しになったとは考えていないようだ。

「直接交渉と、行こう。あの子は、降りて、来るかな」

手塩が平坦な声で言った。

140 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/06(金) 22:17:14.46 ID:uxn4qPm9o


『グループ』は仲良しこよしのグループではない。

むしろ薄情な集まりである。

だから、ここで仲間の車を見つけて海原がホッとするのは少し筋が違う。

違うのだが、やはり『ブロック』でいつ正体がばれるかと緊張しているよりは、
『グループ』の中で過ごしていた方が安心するのだろう。

正直に言って、彼はホッとしていた。

141 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/06(金) 22:17:55.50 ID:uxn4qPm9o


つづく

原作でオジギソウに楽勝した垣根は絶対スゴイ

142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/01/06(金) 22:19:05.34 ID:6M6vhfG7o
乙!!
オジギソウってそんな強かったんだな
143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/06(金) 23:12:56.28 ID:GruTfGe+o
実際、相手が悪かっただけで超トンデモ兵器だよなぁ
144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/01/07(土) 00:03:25.96 ID:xdhYMjUUo
乙ー
そんなに一気に毟り取れたのかオジギソウ
145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/01/08(日) 17:00:24.28 ID:LiFvM+D+0
アックアさんや垣根クンが強すぎただけで
実際は半端無いんだなオジギソウ
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/01/08(日) 21:25:40.22 ID:u0LJ80Hi0
突っ込んでいいかわからないけど骨は残ったハズっすよオジギソウ
147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/08(日) 23:15:26.44 ID:u2z8Xflvo
金属を一瞬で抉り取れるんだから骨もいけるんじゃね?
原作で骨と服残したのは恐怖煽る為とか視覚的な効果狙ってとか
148 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/11(水) 00:21:06.16 ID:A74oMYrdo
>>146
オジギソウageしすぎましたごめんなさい
ステマじゃないよ本当だよ

つづき↓
149 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/11(水) 00:22:12.16 ID:A74oMYrdo

     ――――――――――――――――――――→


一方通行は画面の前から離れて病室のドアに手をかけた。

すると、木原がどこへ行くのかと尋ねてくる。

便所だと簡潔に答えると、彼は急に興味を失ったようだった。
150 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/11(水) 00:24:56.56 ID:A74oMYrdo

実際一方通行の目的は用足しだったのだが。
どこか違和感があった。

木原は今、魔術師の映る生中継に夢中になっている最中なのだ。
一方通行がどこへ行こうがどこかで死のうが注意など払うはずがない。

そもそも最初のパシリで、何かおかしいと思った。
次の反則ナゾナゾも妙だった。
だが、「まるで時間稼ぎのようだ」と思った瞬間、大体飲み込めた。

寮に帰らせないためだ。
木原は一方通行を傍に置きたがっている。

恐らく、部下の裏切りを警戒しているのだろう。
木原も自分が部下に慕われるタイプではない事を充分承知している。
碌に体が動かせない今の状況は、彼に不満を持つ隊員たちにとって、
日ごろの鬱憤を晴らすまたとない好機だ。

ただ彼らは、木原に危害を加えると一方通行が羽を出してキレる事を知っている。
猟犬部隊の面々も九月三十日の時に傍にいたのだ。

一方通行がいる間は誰も木原に手を出せない。
それを見越して、怪我で動けない木原は、
暗部の仕事中は極力一方通行を引き留めようと考えているようだ。

オーソンだかロッドだかオラフだか。
木原が特に警戒していたのは外国っぽいコードネームの男だった。

木原殺されてしまうのは一方通行としても本意ではないので、
謀反が怖いから見張ってくれと言われれば断りはしない。

だが、木原は一方通行にそうとは告げず利用しようとしている。
一方通行に弱みは見せたくないのだろう。
木原数多という男は誰に対してもそうである。


『WC』の扉へ向かう道すがら、一方通行は一人色々と考えていた。

泊まり込みの見舞いって申請とか要るんだろうか、とか。
151 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/11(水) 00:26:06.55 ID:A74oMYrdo

     ――――――――――――――――――――→


「――最悪。これじゃ正面から五千人相手に戦争するしかないないじゃない」

「大人数を相手するのは慣れてるが、四桁超えるとどうかな……」

「どうせ私が大半を相手する事になるんでしょう? 警備ロボットが復帰するまでの間、傭兵達を食い止めればいいのよね」

キャンピングカーから愚痴を言い合いながら降りて来たのは、土御門と結標の二人だった。

山手に化けた海原は、素早く土御門と結標に向かって自分が海原だと合図を送る。
二人から、わずかな動きだが了解したような反応があった。

「もうひとり、小さいのが、いたのでは?」

『グループ』の車から鉄網が出て来ないのを気にしたのか、手塩の方から質問が飛んだ。

鉄網は『ブロック』が『グループ』に送り込んだスパイであった。

この局面で顔を見せないと言う事は、『グループ』の隙をついて『ブロック』のサポートをするつもりなのかもと手塩は考えていたのだが――
152 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/11(水) 00:26:55.95 ID:A74oMYrdo

「鉄網は、どうした?」

「ああ、あいつはお前等のスパイだったんだっけか」

さしたる興味もなさそうに、土御門が頬を掻きながら言った。
続きを結標が引き受け、

「ペアで『人材派遣』のマンションを捜査したのに海原だけ爆破されたり、
 彼女一人に任せた『人材派遣』が死んだり、
 移動中にこそこそどこかに連絡を取ったり……どう考えても胡散臭すぎるでしょう?
 よそからのお客様だって事は明白だから、お引き取りいただいたわ。
 ……出来る限り丁重に」

言葉を結び、彼女は肩をすくめて見せる。

「フン……まあ、あいつは人の心を読む以外に価値のないコマだからな。それにしちゃよくやったんじゃねえか」

佐久はほとんど関心もなさそうに、鉄網の末路を評価した。
手塩の方からも特に言う事はないらしい。

ひとりの少女の命運は、こうして静かに尽きていた。
153 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/11(水) 00:28:25.59 ID:A74oMYrdo


「さて。色々と聞きたい事はあるんだが……」

儚い少女の話を早々に切り上げ、土御門が切り出す。

「何はともあれ、例の五千人について聞きたいな。今どんな感じだ?」

目線は佐久の方へ向けていたが、これは海原に対する質問だった。

真意を汲み取った海原は、会話に入り込んで答える。

「ついさっき、そこのジジイに邪魔されたとこだよ。
 何やったんだか知らねえが、五千人が一気に消されちまった」

忌々しそうな顔をして、作戦に支障をきたされた『ブロック』の一員を装う。

土御門は一瞬驚いた様子で『博士』の方に目をやったが、
どこにも傭兵の影も形も見当たらないのを確かめて、一応納得したようだった。

「……一応狙いを聞いておこうか。なぜこんな大規模な反乱をしでかした?」

体の大きな佐久を正面に見据えて、土御門が問いかける。
そこへ結標も加わった。

「どうせ五千人を暴れさせたところで、適当に被害を撒き散らした辺りで鎮圧されて終わりでしょう」

投げ掛けられた問いに、佐久は少し考える様子を見せた。
やがて話しても問題ないと判断したのか、単に自分達の考えた大作戦を自慢したいだけなのか、
彼は計画の全貌を語り始めた。

「別にあの人数を大ハシャギさせるためにわざわざ呼んだ訳じゃねえよ。
 俺達の狙いはある施設の制圧だ」

「そう。私達は、少年院を、狙うつもりだった。あそこの、守りも、堅固だからね」

リーダーに倣い、手塩もネタばらしに付き合っている。

少年院と言われて、結標の肩が微かに動いた。

「少年院って、一〇学区の? あんな所を襲ってどうしようっていうの?」

少年院といえば、一口に言うと素行の悪い青少年を放りこんでおく場所というイメージがある。
ただ、学園都市の場合は別の側面も持っている。
154 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/11(水) 00:29:42.63 ID:A74oMYrdo

学園都市は警察の機能を持たない。
代わりに警備員や風紀委員という自治・自衛の機関が存在するが、
それでも取り締まれないのが、これといった悪事がない、もしくは目に見える罪が軽い者。

例えば「将来的に」学園都市に危害を及ぼす「可能性のある」「思考の持ち主」などは、
現状何の罪もないが放置もできない。

学園都市の条例に反逆罪という罪はない。
が、当然、統括理事会に歯向かう動きをする人間には制裁を与えたい。

そこで出てくるのが少年院だ。
学園都市に悪意を持っている可能性があるが、
大罪を犯すには至っていない素行の悪い青少年を、まとめて放りこんでおける押入れである。

結標はかつて、その「素行の悪い青少年」のグループの頭だった。
自分達という不気味な能力者の存在の根源に疑問を持った子供たちの集まりだった。

それだけでは反逆とも素行不良とも言えないのだが、
疑問の解消のために学園都市外部との接触を図ったために統括理事会の見逃せるラインを越えてしまった。

結果彼女達は一網打尽にされたのだが、結標だけは自由の身で残された。

彼女の持つ能力『座標移動』は非常に強力で、応用力もある。
そして空間移動系の能力者である彼女は、窓のないビルの現役の案内人でもある。
押入れに押し込んで放置するには勿体なさすぎたのだ。

かつての仲間を少年院に送りこんで人質とする事で、学園都市は結標を暗部に引き入れて利用している。
155 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/11(水) 00:31:05.22 ID:A74oMYrdo

少年院には結標の仲間がいる。

それは『グループ』の中では周知の事実で、鉄網が潜り込んでいたからには『ブロック』にも筒抜けのはずだ。

結標が警戒するような目線を送ると、佐久は嘲るように口元を歪めた。

「そもそも鉄網を送り込んだのも、全てはお前達『グループ』の動向を完璧に把握するため。
『グループ』の一員――結標淡希の動向を」

にやにやと満足げに頷きながら、佐久は結標を眺め回した。
念願の獲物を目の前にした、猛獣のような顔だった。

「……私、ですって?」

突然の御指名に戸惑う結標。

「ええ。君は、窓のないビルに、入ることが、許されている。私達は、そこを襲撃するつもりなの」

「少年院の仲間達を人質にして、お前を従わせる事でな」

佐久のこの言葉を聞いて。

結標から漂う空気が刺すように冷たくなるのを、隣に立つ土御門は感じた。
156 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/11(水) 00:35:32.71 ID:A74oMYrdo



「さてさて、諸君。ここで『ブロック』と『グループ』が闘うにしても、人数的に公平さに欠けると思わんかね?」

これまで黙っていた『博士』が、突然口を挟んだ。

「『グループ』が四人……いや、三人かな? 『ブロック』は二人」

一人頷く『博士』を見て、周囲の人間は「別にそんな事どうだっていいだろう」という顔をしていたが、
彼は特に空気を読むなどという気はないらしく、続けて喋る。

特に『ブロック』は山手が自分達の味方だと思っているので、
このじいさんは足し算もまともにできないのかと半ば生温かい視線でもって彼を見詰めていた。

「だからバランスを保つために、我が『メンバー』から一人出そうと思う」

視線に動じない『博士』が右手をスッと上げると、倉庫の影から一人の少女が姿を現した。

『メンバー』の一人。
猟犬部隊の調べでは、能力不明のただの普通の女の子、のはずである。

「紹介しよう。彼女が海原少年の相手を務めさせていただく、ショチトル君だ」

「……何……!?」

今度こそ、海原は動揺を隠せなかった。

そのショチトルという名前に覚えがあったからだ。

「なぜ貴女が……」

戸惑う海原に、少女が答える。

「久しぶりだな。エツァリ」

海原の目をしっかりと見据え、制服姿の少女は一歩踏み出した。

突然、色白の少女の顔が剥がれた。

『ブロック』や『グループ』の面々が目を見張る中、『博士』だけは落ち着いていた。

「心配する必要はない。彼女は魔術師でね。あれは変装の魔術なのだよ」
157 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/11(水) 00:37:12.12 ID:A74oMYrdo

日本人の学生の皮が剥がれて出て来たのは、褐色の肌に彫りの深い顔立ちの少女だった。

少女"ショチトル"は、山手に化けた海原に化けた魔術師を真っすぐ指差して、言った。

「他の奴はどうでもいい。私の狙いは貴様だけだ」



『ブロック』はぽかんとしている。

『グループ』は怪訝な顔をしている。

海原は黙りこんでじっとしていて、


「魔術師の対決か。実に興味深い」


『博士』は楽しげに手を擦り合わせていた。
158 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/11(水) 00:37:47.33 ID:A74oMYrdo

     ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞




一方、とある病室で歓声が上がった事は言うまでもない。



159 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/11(水) 00:38:28.12 ID:A74oMYrdo

『ブロック』対『グループ』。

ついでに海原対ショチトル。

猟犬部隊としてはどちらを応援するかは明白だ。

構図がきっちり分かれているので観戦しやすい。

黙って流れを見守りつつ、『グループ』がピンチになるようであればそっと手助けすればいいのである。

さらに、『ブロック』には結標を殺せないという事情まである。

有利というか、ほぼ出来レースと言っていい。

簡単な仕事の方は放っておいて、仕事熱心な猟犬部隊のリーダーが注目するのは、やはり魔術師対決だった。

何しろ本気で魔術師同士が魔術で闘ってくれるというのである。

願ったり叶ったりだった。
160 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/11(水) 00:39:41.18 ID:A74oMYrdo

つづく


寝ながら考えたおまけ↓

木原「『猟犬部隊』のクズの中には、性犯罪で取っ捕まって暗部落ちした奴もいる訳だ」

一方「まァ、いてもおかしかねェけどよ……」

木原「デニス、マイク、オーソン、ロッド、オラフ、ケインズ」

一方「?」

木原「この中に一人、性犯罪で捕まったホモがいる」

一方「!!」
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2012/01/11(水) 00:43:05.89 ID:0IBoAGJdo
おつうぇーい


残りが性犯罪で捕まってないホモ達という可能性も微粒子レベルで存在している……?
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/11(水) 02:12:18.25 ID:8R0WxhOPo
まあホモは大体傷害罪で捕まるけどな
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/11(水) 13:32:17.41 ID:CgRcBpGc0
羽を出してキレるとか足し算もまともにできないのかみたいな
言い回しが面白い
164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県) [sage]:2012/01/13(金) 15:53:46.99 ID:0VUK1L+I0
続き来てたあ(歓喜)
男同士は性犯罪に含まれないときいたことあるお
つまりホモを裏切ったから暗部落ちしたんや!
165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/01/13(金) 23:24:49.47 ID:e+NR9u0/o
部下を片っ端から一方通行にけしかけて
ロシアンルーレット的な感覚で超絶楽しんでる木原を幻視した
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/01/14(土) 00:18:07.60 ID:yrQrfdGg0
前スレから追いついた
現在15巻読んでる俺にはタイムリーな話だ
急いで次巻買ってくる
167 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/15(日) 17:09:51.49 ID:cO0GK3zEo

このSSって、原作のストーリーの根幹を平気でネタばれしてたりするので

今更ですが未読の紳士淑女はご注意くださいね…

つづき↓
168 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/15(日) 17:11:12.42 ID:cO0GK3zEo

     ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞


戦闘中の会話を聞くに、海原とショチトルは以前仲間だったようである。
海原が元の組織を裏切り学園都市に寝返ったため、ショチトルが粛清に赴いたようだ。

そこまで事情を説明して下さるのは結構な事だが、何にせよ猟犬部隊にはあまり関係ない。
仲間割れは気の毒だが、重要なのは二人の心情ではない。戦闘の中身だった。

二人の魔術師は、まんまと科学者の前で魔法を使いまくってくれた。

負い目があるのか個人的思い入れがあるのか、海原の方はあまりショチトルには仕掛けなかった。
対して少女は積極的で、まさに殺る気満々である。
周りに学園都市の、魔術に関わりのない人間がいるのにもかかわらず、気にも留めずに魔術を行使している。

案外、彼等にとって魔術の存在は秘匿すべきものでもないのかも知れない。


169 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/15(日) 17:13:37.84 ID:cO0GK3zEo

(魔術師側に魔術を隠すルールはない? ならなぜ学園都市の連中は誰も魔術を認知出来なかった? ……)

木原は考えた。

確かに海原は最初、魔術を人前で使いたがらない様子だった。
だがショチトルは気にせず見せつけていたし、
海原も相手が魔術を大っぴらにするのを咎めはしなかった。

魔術師は、魔術を隠す気がないかも知れない。

ならば、学園都市にもその存在を示す証拠はいくらか流れ込んできてもおかしくない。
科学の街にほんの少しでもオカルトを実証する情報が入った場合、飛びつく科学者はいくらでもいたはずなのだ。
それなのに、実際には誰も知らなかった。

いや、九月三十日には学園都市側がそれらしい代物を使って侵入者を追い出したのだから、誰も知らないという事はなかったはずだ。
だが少なくとも、一部の人間しか認知していなかった。

魔術を隠しているのは魔術師ではない。
『魔術』を「学派」と呼んだのは、他でもない学園都市なのだ。

(ふうん……アレイスターの独り占めって訳でもなさそうだし……きな臭ぇのは嫌いじゃねえが……)

木原が問題にするのは、魔術がなぜ学園都市の人間に隠されたのかではない。
学園都市の上層部が隠したがっている領域に自分が踏み込む事の危険性を考慮していた。

(あんまり調子に乗ると怖い人に怒られるかねえ……今のところ警告らしいサインは貰ってないんだけどな)

知ってはまずい事を知りそうな人物に学園都市が「これ以上やったら覚悟しろ」というサインを出すことはままあるし、
木原がその警告を出す役割を果たしたこともある。

しかしだからといって、自分にまだそれが来ていないから安心していいという指標にはならない。
警告なしで消しに来る事があるのが統括理事会である。
しかも、木原数多という人間は、そういった礼や義を尽くされるような立場ではない。
何せクズの猟犬部隊の親玉だ。

彼は今の自分がグレーソーンにいるらしい事は理解している。
ここから先は真っ暗で、いつ落とし穴にはまるか分からない。

手探りでラインを探していくしかないようだ。



だからビビッて魔術の観察をやめましょうというほど、木原の脳みそは物分りがよくなかった。

目の前の画面の中の魔術戦は、「統括理事会の事はそれとして置いておこう」と思わせるほど魅力的だった。
170 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/15(日) 17:14:21.24 ID:cO0GK3zEo

     ――――――――――――――――――――→


木原とは違い、一方通行は魔術にそれほどの興味をもっていないのだが、
海原とショチトルの戦いには素直に関心していた。

他人の体を操る魔術。

何もない場所から大剣を出現させる魔術。

体がいきなりごそりと崩れ落ちる現象。

まるで次々と奇術が飛び出すサーカスだった。
能力者として(推定)レベル4の実力があるだけに、
ここまでの事を開発なしでやってのける人物が、しかも大勢いるらしいというのには驚きだった。
171 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/15(日) 17:16:57.35 ID:cO0GK3zEo

木原だけがやけに盛り上がる中、ひとりの猟犬部隊隊員が水を挿した。

「木原さん、結標が手塩に押され気味です。援助しましょうか?」

呼ばれた木原はあからさまに嫌そうな顔をしたが、仕事は仕事だ。
むっとしながらも部下の方を見た。

「あ? 手塩? 狙撃でもしとけば?」

いかにも適当な調子で、リーダーは隊員に指示を出す。
すかさず、ごくまともな指摘が返って来た。

「一応それなら一発で片は付きますが……我々の存在に勘付かれては困るのでは?」

「じゃー、あれだ。『オジギソウ』の時に偶然生き残って、手塩に逆恨みした傭兵の振りして撃て」

よくもまあ色々と思い付くものだ。
もう何度も見てきた姿だが、一方通行は改めて木原という人間に呆れた。
機転が利くのか極度の面倒臭がりなのか、人に厄介事を押し付けるアイデアは瞬時に思い浮かぶらしい。

外部から『人材派遣』によって召集された五千人の傭兵達は、『博士』の『オジギソウ』によって皆殺しにされている。
その攻撃から辛うじて生き残った残党を演じて、猟犬部隊のひとりが手塩を狙撃する手筈となった。
172 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/15(日) 17:18:19.46 ID:cO0GK3zEo

「どうせなら佐久も殺ってしまいましょうかね?」

作戦に了解した後、隊員はさらに木原に提案を持ちかけて来た。

「土御門はどうなんだ? 佐久とサシだったよな」

「余裕面して挑発してますが、どうもハッタリのようですね」

「負けそー?」

「佐久も佐久で冷や汗かいてますから、まあ本人にやらせても何だかんだで勝てそうです」

「だったらほっとけよ」

話は終わりとばかり、木原は視線を画面へ戻した。

そこへ、隣で聞いていた一方通行が、土御門にも加勢が必要ではないかと口を出す。

「『グループ』は鉄網以外は生き残らせなきゃいけねェンだろ?
 聞いた感じじゃ土御門と佐久はどっこいどっこいぐれェじゃねェか」

「だからって死にかけの傭兵崩れが何発もクリティカルヒットさせたらおかしいだろ」

少年の意見を、木原は面倒そうに一蹴した。

「不思議なラッキーって事になンじゃねェの」

「土御門がテメェ並のバカだったらそう思ってくれるだろうが、残念ながら奴はテメェほどバカじゃねえ。
 ちなみに、テメェと土御門のバカさが逆だったら俺はどんなにラッキーだったか分かんねえよ」

「『不思議なラッキー』は冗談だっつの。そこまでの私見は求めてねェよ」

短い会議で、手塩は狙撃、佐久は現状どおり土御門に倒させる事になった。
173 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/15(日) 17:19:52.14 ID:cO0GK3zEo

     ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞


短い時間が過ぎた。
混戦だが決着は早めに付きそうだった。

戦闘は順調に、猟犬部隊の思惑どおりの展開で進んでいる。

一時劣勢に見えた土御門が渾身のカウンターを繰り出し、佐久をノックアウト。

「木原さん、土御門が佐久を撃破しました」

「ほー、グラサンの意地を見せたな」

「なンだそりゃ」

傭兵の生き残りを装った猟犬部隊の隊員が、手塩の狙撃に成功。

「結標も相当痛手を負いましたが、再起不能ではないでしょう。無事です」

「ンじゃ、『ブロック』は壊滅か」

「そうえいばそうか。やったぜ」

「オマエ何もしてねェだろ」

残る枠は『グループ』の海原と『メンバー』のショチトル戦。

これも、ショチトルの自滅によってほぼ片が付きそうだった。
174 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/15(日) 17:22:10.17 ID:cO0GK3zEo

自滅と分かったのは、ショチトルの体に異変が起こった時に海原が驚愕したからだ。
彼が仕掛けた魔術の効果なら、自分で驚いたりはしないだろう。

彼らの戦いは、前半はショチトルが海原を押していた。

武器を持つ海原の手を操って自殺させようとしたり、木製の大剣を宙から取り出して振り回したりと、反撃を許さない実力差であった。

ただ、これを実力差と考えたのは誤解だった。

海原が大剣を防いだ直後、ショチトルの体の一部がごっそり崩れ落ちたのだ。

二人の話を盗み聞いたところから推察すると、彼女は身に余る魔術を使うために相当な無茶をしたらしい。
その魔術には自分の体を削り取るような交換条件が必要で、使う度に減った身体の一部は返って来ない。
人間そのものを消耗品の兵器にしてしまうような魔術だったのだ。

分かった事は多い。

魔術を使うのも無条件ではないらしい。
強力なものにはそれだけ準備や覚悟が必要で、使う本人にも知識や技術が必要だ。
さらに、覚悟次第では自分の寿命すら犠牲にして本来の実力以上の力を手に入れる事が出来る。

これは学園都市の能力者にはない考え方だ。
能力者には明確な序列があり、レベル1は同系列のレベル5に勝てない。
殺そうと思えば銃器でも使えば可能なのだが、純粋に能力同士の戦いの場合、結果は一定だ。
死ぬほどの決意を固めても、絶対に順位は覆らない。
出来ないものは出来ないので、その限界の中で立ち回らなければならない。

魔術の場合は「無い袖が振れる」。


無茶をして限界を超えたかつての仲間の命を、海原もまた無茶をして、どうにか救ったらしい。

半壊の体でぴくぴくと僅かに動くショチトルを、ぼろぼろの海原が見詰めている。

不気味な構図で、最後の戦闘も終了した。
175 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/15(日) 17:23:38.92 ID:cO0GK3zEo

     ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞


結標は、人質にされようとしていた少年院の仲間達を守った。

というより、犯人に立ち向かっていたところ、相手が勝手に撃たれた。

海原は自分が裏切った以前の仲間との決着を付けた。

土御門は完全に巻き込まれた訳だが、命令通り学園都市の脅威を撃破した。

『グループ』は全員五体満足で生きている。

全員病院送り決定だが、それはつまり彼らに新しい任務が来ない事を意味するので、
この先妙なちょっかいを出されない限り『グループ』は安泰だ。

保護すべき者たちを保護する。
暗殺部隊にとって慣れない任務が滞りなく終わりそうな事に、病室の面々は胸をなでおろした。

彼らは守るより壊す方が得意なのだ。

残りは『メンバー』が一人、『アイテム』四人と『スクール』一人。

――ひとつ、部下から残念なお知らせがあった。

「木原さん、傭兵の振りして手塩を狙撃したウチの隊員ですが」

「ん? 成功したっつってたろ」

「手塩は始末しましたが、代わりに『ブロック』の下部組織に報復されて死にました」

「だろうなあ……」

残念無念のお知らせに対し、リーダーからの感想はそれだけだった。

これでは部下に恨まれて当然である。
176 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/15(日) 17:25:18.28 ID:cO0GK3zEo

     ――――――――――――――――――――→


『グループ』が去り、『ブロック』の下部組織も撤収して、静かになった一一学区。

いつの間にか姿を消していた『博士』の動向を、猟犬部隊はしっかりと追いかけている。
彼は、報復されて打ち捨てられた猟犬部隊の一員の死体を調べていた。

「侵入者ではない……『猟犬部隊』か、『迎電部隊』あたりか?」

『博士』は、死体が外の人物のものでない事を見抜いていた。
そしてずばり謎の狙撃手の正体に迫っている。

「どうやら、私の与り知らない動きがあるようだね」

『博士』はフム、と頷き、立ち上がって歩き出した。
顎に手を当て、何か考え事をしているようだった。

「――ま、私は私の数学的興味が満たされればそれでいい。
 学園都市にいられるなら、そのために裏でどんな風に利用されようと構わんさ」

あっさりと、『博士』は死体に関する考察を終えた。
彼の今日の仕事はもう終わりなのだ。
命令されていない事まで気を配る必要はない。
177 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/15(日) 17:28:47.91 ID:cO0GK3zEo


「じゃ、死んでも本望?」


年の割によく伸びた彼の背中へ、かわいらしい少女の声が投げ掛けられた。

彼は振り返った先にいる人物の名を知っていた。
学園都市の暗部に関してはコネがあるのだ。

フレンダ。

敵対したものを許さない方針のもと『メンバー』を追っていた、『アイテム』の一員だった。


「オジサンめーっけ! 結局、そろそろ天狗の納め時って訳よ」

彼女は笑って、来ているブレザーのポケットに手を入れた。

「ん? テングだっけ?」


中には無数の起爆装置が入っている。

178 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/15(日) 17:29:16.31 ID:cO0GK3zEo

     ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞


五分後、猟犬部隊のリーダーのもとへ、『メンバー』完全壊滅の報告が入った。


179 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/15(日) 17:29:50.60 ID:cO0GK3zEo

※年貢です

つづく


おまけ↓

>>160
木原「しかも俺狙いで猟犬部隊に志願したらしい」

一方「!!」
180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/15(日) 20:49:06.76 ID:8RveugmJ0
おつおつ

ダメだそいつ・・・早く、何とかしないとww 
181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/01/15(日) 20:52:27.40 ID:+/U/F++no
おつ
むしろまだ生きてるのか怪しいww
182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/15(日) 21:16:06.65 ID:W2oYbxtTo
さて、ていとくん抜きでどうやってむぎのんを始末つけるのか気になるところだなぁ
183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/16(月) 00:42:51.23 ID:g8z7r1O3o

狙撃して死んだ奴ってもしかして…
184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2012/01/16(月) 01:03:12.91 ID:GXeOPrRSo
わたしです
185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/16(月) 04:29:07.27 ID:4LoTowmFo

 \                    /
   \  丶       i.   |      /     ./       /
    \  ヽ     i.   .|     /    /      /
      \  ヽ    i  |     /   /     /
   \
                                  -‐
  ー
 __           わ た し で す           --
     二          / ̄\           = 二
   ̄.            | ^o^ |                 ̄
    -‐           \_/                ‐-

    /
            /               ヽ      \
    /                    丶     \
   /   /    /      |   i,      丶     \
 /    /    /       |    i,      丶     \
186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/01/17(火) 00:17:45.62 ID:nTCNmA0Lo
なぜかAAがエイワスに見えた
187 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/17(火) 01:00:28.64 ID:XuIV6eXEo

     ――――――――――――――――――――→


「えー……と、俺は、浜面仕上」

とりあえず自己紹介してみた。

目の前のジャージの少女はしばらくぼやっと黙っていたが、やがて気が付いたように顔を上げた。

「私は滝壺理后」

「そ、そうか。滝壺……ほっ」

とりあえず返答がもらえた事に安堵する浜面。

場所は、どこかの学区のどこかの倉庫。

滝壺を抱えて訳も分からず逃げまくって来た浜面は、とても心細い気持ちで少女に話しかけていた。

この滝壺理后という少女、全く掴みどころがないのである。

始終ぽけっとしていて、何を話しても二言くらいしか返して来ない。

かと思えばいきなりカッと目を見開いていずこからかの信号を受信していたり、
いつの間にかぐーすかぴーと寝ていたりするのだ。

そして、抱いて走って来た感じおっぱいは大きい。

「いや、それはどうでも良い! どうでもよくはねえけどどうでも良い!」

「何が?」

「何でもねえよこの野郎!!!」

浜面仕上は頭を抱えていた。

これから一体どうすればいいのだろう。
188 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/17(火) 01:01:46.65 ID:XuIV6eXEo

「聞きたい事があるの」

突然、滝壺の方から話を振って来た。

真っ黒な瞳が微かな光を反射している。

見詰められて、浜面の喉からごくりと音が鳴った。

「なんだよ」

「どうして私を助けたの?」

「アン? そりゃ……」

言えない。
おっぱいが気になったからなんて。

ではなくて、浜面本人にも実はよく分かっていなかった。

目の前で同年代の少女が爆死しそうになっていた。
その事実に気が付くと同時に、彼の体は動き出していたのだ。

「ずっと考えてたんだけど。敵をわざわざ守る意味が分からなくて」

「ああ……俺も」

「え?」

きょとん、と黒い目が見詰めてくる。

分からないものは仕方がないので、浜面は正直にそのまま伝えた。

自分でも分からない内に体が動いていたと。

頭の片隅にこびりついていた邪念に関しては省いて。

曖昧な浜面の言葉を、滝壺は熱心に聞いていた。
189 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/17(火) 01:03:33.00 ID:XuIV6eXEo


「自分が死んじゃうかもしれないのに、名前も知らない他人が死にそうになってたら助けるの?」

「あーもー、今の俺をいくらつついたって答えなんか出ないからな! あん時は夢中だったんだ」

「自分を顧みずに夢中で知らない人を助けられるなんて人、初めて見たよ」

「うるせえな」

「浜面は優しいんだね」

ぺろりと。

挨拶でもするかのように、ごく自然に褒められた。

「は……?」

自慢じゃないが、十五年生きて来て人から褒められた経験など片手の指の数にも満たない。

慣れない褒め言葉に浜面が固まっていると、

「優しいんだよ、浜面は」

どうしてそんなに不思議そうな顔してるの? と言いたげな表情で、滝壺が重ねて言った。

憎まれ口なら多少素早く切り返せるというのに、
ストレートに好意的な言葉をかけられると固まってしまう。
育ちの悪い不良の悲しいサガか。

「初めて見たって……俺は優しいなんて初めて言われたぞ」

どぎまぎしながら、どうにか答えを返す。

すると、滝壺はゆっくり瞬きをして、言った。

「初めて同士だね」

ほんの少し口角を上げて、彼女は微笑んでいた。


オイオイ。

なんだこの子。


かわいいぞ。



190 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/17(火) 01:06:01.03 ID:XuIV6eXEo

     ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞


老人一人が爆発して、いっそう人気のなくなった一一学区。

「んー! 結局、やる事きっちりこなすと気分がいい訳よ」

広い空間に一人立つのは、ひと仕事終えてゆったり伸びをするフレンダだった。

「――た」

「……ん?」

そんな彼女の耳に、ぼそぼそと人目を憚るような声が聞こえてきた。

内緒話となると是非とも聞きたくなる。
彼女は声のする物影の方へ、音を立てないように慎重に近寄った。

巨大なガレージの角の向こうに、黒ずくめのいかにも怪しい人物が立っている。
断片的にだが、どこかへ通信する男の声が聞こえた。


「『ブロック』の壊滅を確認、と……了解」

「『メンバー』も今終わったとこです」

「はい。フレンダは引き続きこちらで追跡します」


お?

何と自分の噂話が報告されているらしい。

フレンダは益々興味津々になる。

うら若き乙女の後を付け回すとは、けしからん。
191 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/17(火) 01:07:19.90 ID:XuIV6eXEo

と、すぐ後ろで当のフレンダが聞いている事にも気付かない謎の男は、さらに興味深い言葉を口にした。


「『スクール』は風前の灯ですし……次は『アイテム』の壊滅ですかね?」


おお?

これはこれは。

本人の前で何と大胆な。

この内緒話だけでは、詳しい事情など飲み込みようがなかった。
だが、それでもこの男が自分達にとって敵性である事は理解した。
となればやる事は簡単だ。

通話を終えて、再びフレンダの監視に戻ろうとした男に、手製の爆発物を突き付けて――

「ちょーっと、今の話詳しく聞かせて欲しい訳よ」

かわいらしい少女は、可愛らしい笑顔で尋問を開始する。
192 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/17(火) 01:10:19.55 ID:XuIV6eXEo

     ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞


フレンダを追っていた部下からの通信が途絶えた。

「だろうなあ。あんな見通しの良いところでのんびり報告なんかしてたらなあ。そりゃ見咎められるよなあ」

仲間の訃報を聞いた木原は、さして興味もない様子で述べた。

冷たいどころか無責任である。
部下が目立つ場所にいるのを分かっていてわざわざ電話を掛け、無理やりその場で報告をさせたのは木原なのだ。
彼の判断ミスで、部下が一人犠牲になってしまった。
それどころか、猟犬部隊の存在を知られてはいけないフレンダにこちらの情報が奪われた。
さらに、監視役がいなくなったのでフレンダの動向を追えなくなってしまったというトドメ付き。

指導役として最低の失態である。

が、木原は涼しい顔をしていた。

「その内麦野か絹旗と合流すんだろ。ほっとけ」

「猟犬部隊の工作に気付かれた件は」

「ほっとけ」

そして、さっさと魔術師対決動画の検証に戻ってしまった。

193 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/17(火) 01:11:26.27 ID:XuIV6eXEo

     ――――――――――――――――――――→


麦野は絹旗から仲間の誘拐を聞かされてから、すぐに捜索を始めていた。

攫われたという滝壺の通信端末に何度か通信を試みたのだが、繋がらなかった。

「滝壺は間抜けちゃんだから、健康無事な時でもケータイに出てくれなかったりすんのよねー……」

んー、と唇に人差し指を当てて考え込む麦野。

彼女はあまり滝壺を心配していなかった。
滝壺が担当していたのはスキルアウトの壊滅。
無能力者ごときに『アイテム』がやすやすと捕まるはずがないのだ。

「余計な手間をかけさせないでほしいのよね。絹旗も付いてたくせに。あとで二人ともオシオキ確定だかんね」

ふう、とため息をついて、麦野は再び通信端末を取り出した。
だめもとでもう一度掛けてみようと考えたのである。

「リ、ダ、イ、ア、ル、と。レッツゴー電波!」

小さな機械から呼び出し音が漏れてくる。
耳でそれを受け止めながら、彼女は相手の応答を待った。

『――もしもし』

出た。

通話に出たのは、滝壺の声だった。

「って出てんじゃねーか! コラァ滝壺!! テメェどこで何してんの!!!」

間延びした仲間の声に、麦野は切れた。

切れてもその怒りをぶつける相手がこの場にいないので、代わりにすぐ横のガードレールを蹴ったらひしゃげた。
194 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/17(火) 01:12:55.36 ID:XuIV6eXEo

『んと、スキルアウトのアジト』

「嘘吐くな」

『えっ』

ばれないと思っていたらしい。
滝壺は自分の居場所を麦野に隠そうとしている。

「あんたが拉致されたって、絹旗から連絡があったの。スキルアウトの肩に担がれて連れてかれたって?
 情けないって思うのは分かるけどさ、正直にどこでどういう状況にいるか話してごらん?」

ちょっとだけお仕置きを軽くしてあげるという御褒美をチラつかせると、滝壺は少し考えるような間を空けた。

『攫われたのは、うん、その通りだけど、もう大丈夫。解決したから』

「解決って? どうやったの?」

ちゃんと相手はぶっ潰したのか、と麦野は問うている。
また少し、滝壺は黙っていた。
だが彼女の返事が遅いのはいつもの事なので、返答に窮しているのかそうでないのかは判断が付かない。

『……殺したよ。えーと、高いところから押したら落ちちゃって、死んじゃったの』

「ふーん? ……」

文頭の「えーと」が気になるところである。
麦野が次の質問を考えていると、通話機から滝壺とは別の声が割り込んで聞こえて来た。

『おーっす滝壺。ビール買って来たぞ』

『しー。静かにして。待ってて』

男。

男がいる。

滝壺の横に。

どうやらスキルアウトの。


……ビール?

195 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/17(火) 01:13:48.27 ID:XuIV6eXEo

「――滝壺」

『なに?』

「もう一度聞く。どこで何してる? 迎えに行くから言いなさい」

『気にしないで。すぐ戻るから。いつものファミレスで会おうよ』

あくまで淡々と、滝壺は返して来た。
彼女は一度も自分の本当の居場所の情報を口にしていない。

リーダーが最初から聞いている質問なのに。

だが、喋りたがらない仲間の態度を、麦野は笑い飛ばした。

「バッカねえ。通話に応答した時点でテメェの負けなの。そこの場所は探知済み。二一学区の倉庫街かにゃー?」

『違うよ。倉庫じゃないよ』

「二分でそこ行くから」

抑揚は無かったが、どうやら焦っているらしい事が分かる滝壺の言葉を遮断し、問答無用で麦野は告げた。

「動くんじゃねぇぞ」

一方的に通話を終了。

話しながら移動を始めていた彼女は、もうほとんど滝壺たちのいる倉庫の目と鼻の先まで辿り着いていた。
196 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/17(火) 01:15:25.28 ID:XuIV6eXEo

     ――――――――――――――――――――→


気まずい沈黙を打破するには、酒の力を借りるんだ!

というオトナっぽーい結論を導き出した浜面は、
滝壺を倉庫に残して近所のコンビニから缶ビールを二本かっぱらってきた。

「おーっす滝壺。ビール買って来たぞ」

戻って来て声を掛けると、滝壺は手元の携帯端末をのマイクに手を当てて、慌てた様子で浜面を制した。

「しー。静かにして。待ってて」

(あ……悪ぃ)

ジェスチャーで謝罪して、お口にチャックで彼女の隣に座る浜面。

滝壺は、通話相手と倉庫にいるのいないのといった話をしている。

『アイテム』の仲間だろう。
確かに、スキルアウトである浜面と一緒にいる事が知れたらまずいのかもしれない。

通話を切った滝壺に、浜面はすまなそうに声を掛けた。

「あの……聞かれちまったか?」

「ん、大丈夫。でも仲間が迎えに来ることになったから、浜面の姿は見せないほうがいいかも」

「そうか。駅かどっかで待ち合わせか? 何だったらそこまでくらいなら送るけど……」

「ここに来るの。後二分。急がないと」

「は!? 二分?」

連絡を取ってから別行動中の仲間と二分で合流。
普通早くても三十分程度はかかるだろうと思ったのだが、さすが高位能力者ぞろいの暗部組織、恐るべし。
197 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/17(火) 01:16:23.80 ID:XuIV6eXEo

「冗談だよな?」

「むぎのはやると言ったらやるよ。急いで。じゃないとはまづらも殺されちゃうから」

「殺されちゃうの!?」

どうやら、思ったよりも危ない状況らしい。

滝壺が話の分かる少女だったので、その仲間も案外優しいのかもと思ったが、
案の定のスパルタぶりだった。

「えーっと、どっかで適当にやり過ごせばいいのか?」

「出来るだけこの倉庫から離れて。ダムのほうへ行けばむぎのとはぶつからないはず」

「分かった。あ、ビールは持ってったほうがいいよな」

「うん」

折角買ってきたコンビニの袋をぶら下げて、倉庫から出ようとした時だった。

浜面の頭の中でひとつ引っかかるものがあった。


「――おい、滝壺。今、俺『も』殺されるっつったか」

「? 言ったっけ?」

「言った! なあ、他に誰が殺されるっつーんだよ?」

「特に誰も……」

「お前か? 滝壺」

黒い瞳が揺れた。
198 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/17(火) 01:17:44.11 ID:XuIV6eXEo

「ふざけんな! だったらお前も逃げねえと……」

「大丈夫。はまづらと一緒にいた事に気付かれなければ、ちょっとお仕置きされるだけで済むから」

「ばれただろ、さっき! 電話してる時に俺の声が向こうに届いたよな?」

「届いてないよ」

「嘘を吐くな」

「えっ」

ばれないと思っていたらしい。
どうやら彼女は嘘を吐くのが下手なようだ。
根が素直すぎるのだろう。

知れば知るほど暗部に向かない気がする少女だ。

「……テメェが逃げねえってんなら、俺はまたテメェを担いでくぜ」

「心配しなくていいよ。時間がないから、はまづら……」

これ以上押し問答を続けてもしょうがない。

浜面は無理やり、また滝壺を抱え上げようとした。

ようとしたところで。

「ごめん、はまづら」

ごきり、だか、めきり、だか。
妙に生々しい音が鳴り響いた。

それが自分の首から出た音だと気付いたとき、浜面は意識を失いかけていた。

「大丈夫」

――何がどう大丈夫なのか分からない。

「巻き込んでごめんね、浜面」

――勝手にお前を担いで連れだしたのは俺だぞ。

「殺されるなんて思わなかったでしょ? 良いんだよ。浜面は関係ないから。帰って」

微笑みながら、頭を撫でられた気がする。

それを認識するかしないかのところで――


――落ちた。

199 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/17(火) 01:18:31.25 ID:XuIV6eXEo

     ――――――――――――――――――――→


わざわざ蹴らなくてもドアは開くのに。

麦野は倉庫の扉を蹴り飛ばして入場した。

中には滝壺が一人でぽつねんと座っている。

ピンクのジャージ。
呆けたような瞳。

いつもと変わらない。

「はろー、滝壺。お一人?」

「うん、一人だよ、むぎの」

「いつまでそれ言う気?」

腕組をして、呆れたようにため息を吐く麦野。

「さっきまで男が一緒にいただろ。スキルアウトだよな? どこに逃がしたの?」

「スキルアウトは殺しちゃったよ。高いところから落としたの」

「死体がビールなんか買って来るか、ボケ」
200 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/17(火) 01:20:35.12 ID:XuIV6eXEo

麦野が放ったのは、ただの軽口のような一言だった。
だが、その一言と共に放たれた威圧感は、軽々しいものではなかった。

彼女は最初からふざけてないどいない。
嘘にいつまでも付き合う気もない。

「ま、いいか。隠してるなら探せばいいし」

右手をひらひらと振り、にっこり笑う。

美人だが、どこか恐怖を感じさせる笑顔。

「……探す?」

「私が来るまでに急いでこっから追い出したんだろ? 電話切ってからもう五分くらいは経ったかな?
 パクれる車もないような学区だし、徒歩でのこのこ逃げてんならそう遠くには行ってないよね」

自分の考えにうん、と頷き、

「私が本気で"探し物"したら、見つけられないもんなんかないって知ってるだろ?」

麦野は利き手を見せ付けるように持ち上げた。

彼女の能力は『原子崩し(メルトダウナー)』。

電子を『粒子』でも『波形』でもない、曖昧なままの形で強制的に固め、白い光線としてその手から放つ。
直線に直進する極太レーザーは、簡単な倉庫くらいなら貫いてなぎ倒すくらいの破壊力を持っている。

レベル5、学園都市第三位の能力だ。

本気になれば、第二位の御坂美琴を超える事も不可能ではない――かもしれないらしい。

物探しが得意な能力かといわれれば微妙なところだが、
邪魔な建物をなぎ倒して、生死問わずの探し人を炙り出す事は可能である。

つまり、探している間に相手は死んでしまうかもしれないのだが。
201 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/17(火) 01:21:50.30 ID:XuIV6eXEo

「こんな人気の無い場所を一人でうろうろしてる柄の悪いバカを探し出せばいいんでしょ。簡単簡単」

「……やめようよ、むぎの。そんな人はいないんだから」

「ふん? 止めるの? いつもは私のする事に文句なんか言わないのにね?」

止めようとする滝壺を無視し、颯爽と倉庫から出ようとする麦野。

「滝壺ちゃんのお仕置きは後でゆっくり。まずは先に、『アイテム』に舐めた真似してくれたおバカちゃんを見つけてあげないと」

「待って、むぎの」

柔らかいのに、芯がすっと通ったような声だった。
それが、麦野の足を止めた。

「何?」

「スキルアウトを、探して、見つけて、どうするつもり?」

「どうするって――」

唇に指を当てるかわいらしい仕草をして、麦野は少し考えた。
そして、言った。

「ブ・チ・コ・ロ・シ、確定かな?」

「――だったら」

ゆらり、と、全身ピンクの少女が立ち上がる。

「行かせる訳にはいかない。私はここでむぎのを止めるよ」

二人の視線がかち合った。

一人は覚悟を決めていて、一人は決意を固めていた。

ほんの少し、静かな時間が流れる。
202 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/17(火) 01:25:25.75 ID:XuIV6eXEo

     ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞


際どい丈のワンピースを着た小柄な少女が、街を歩いていた。
ふと何か気付いた表情になり、小さな機械を取り出す。

取りつけられた液晶画面を見て、確認するように頷くと、ボタンを押して機械を耳に当てた。

「――フレンダ?」

『あろはー絹旗! よかった、絹旗はちゃんと出てくれた訳よ』

『アイテム』の一員・絹旗のもとに、仲間のフレンダから連絡が入ったのだ。

「"私は"? 他の人は超出なかったという事ですか。麦野ですか? 滝壺さんですか?」

『麦野。全然繋がんない訳よ。すっごい報告があるんだけどなあ』

「ちなみに滝壺さんとも超繋がりませんよ。実は滝壺さんがスキルアウトに攫われたんです」

『攫われたぁ? 全く、とんだヘマな訳よ』

「……今麦野は回収しに行ってます。あの人は何か一つに集中すると超一直線ですから、フレンダからの通信は超無視してるのかも」

『結局、ひどくない……? ――って事はもしかして、二人はスキルアウトに負けたわけ?』

「超失礼な事を言わないでください。私が超殲滅しました」

『全員? そ、そう……』

「他のメンバーの状況はそんなところです。
 滝壺さんの方は麦野がいれば援護はいらないそうですから、何か問題があるならそっちを手伝いましょうか?」

絹旗が申し出ると、フレンダは思い出したように声を弾ませて言った。

『そうそう! 次のエモノが大決定な訳よ!』

「エモノ……そういえば、フレンダは『メンバー』なる暗部組織を超粛清していたんでしたっけ」

次から次へとよく見つけるものだと絹旗がため息をつくと、何を勘違いしたかフレンダは誇らしげに鼻を鳴らした。

「――で、その次のエモノというのは何をやらかしたどこの誰なんですか?」

『むふふ〜。ね、絹旗。猟犬部隊か木原数多って、聞いた事ある?』

望み通りの質問を受けて、フレンダは嬉々として答えた。

203 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/01/17(火) 01:26:15.50 ID:XuIV6eXEo

つづく


おまけ↓


>>179
木原「さらに、俺が満足に動けない今の状況をチャンスだと思ってるらしい」

一方「!!!」


一方「……木原くン、俺晩飯買って来るわ。一時間くれェ掛けて」

木原「ちょ、待てこの野郎! 病室から離れるんじゃねえよ!!」

204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2012/01/17(火) 01:33:45.84 ID:5qQdKgpGo
おつ

手元に一方を置きたいのはそれが理由かよww
205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/17(火) 11:53:39.68 ID:hxPuwU0SO
一方さん木原君ヤらせる気まんまんじゃないですか
206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/17(火) 23:39:38.70 ID:MBcUzl3ko
木原くン、塗るタイプと注入タイプどっちがイイ?
207 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/01/22(日) 22:07:12.72 ID:dZbrlJW10
つボラギノールどっちにも使えるぜ!!
しかし麦のんと戦わせるために一方さん引き留めるネタとしちゃ結構捨て身だよな
208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(広島県) [sage]:2012/01/30(月) 22:06:37.68 ID:2b89rh5ho
キョロ━(゚∀゚≡゚∀゚)━キョロ━マダ━?
209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/01/31(火) 02:35:37.17 ID:I8fwwbhso
麦のんと戦っても反射オンリーで勝てそうな気が
210 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/13(月) 11:11:50.48 ID:CtIIntAAO
>>209
数多ちゃン守りながらとなるとそれだけじゃきついんじゃね?
211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(広島県) [sage]:2012/02/13(月) 22:08:04.62 ID:ni8a5lBto
魔だかな(´・ω・`)
212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/19(日) 20:33:44.23 ID:VJBMtY1eo
まだだな
213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/03/01(木) 14:51:08.28 ID:focRbQ4Z0
マダー
214 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/03/08(木) 01:43:00.64 ID:7MK73wPqo
生存報告だけでも……ウウッ
215 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/03/08(木) 01:44:16.71 ID:7MK73wPqo
一応書く気はあるんです
ウウッ
216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/08(木) 02:06:09.57 ID:U+iDkmL5o
何があったのかは知らんが、楽しみにして待ってるぜ!
217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/08(木) 21:17:57.79 ID:cMTi2RYFo
良かった生きてた
待つわ
218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2012/03/08(木) 21:27:35.50 ID:iUJeEk9R0
>>1の生存報告で今日一番の笑顔が出た
いくらでも待てる!
219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/09(金) 00:40:29.23 ID:eqX1b3K60
待つわ
220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/03/10(土) 01:04:49.98 ID:d4Irz1cto
?????邨( ^??^ )??
221 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/03/11(日) 23:49:36.98 ID:/3Hwa2nt0
大丈夫 いつまでも待つわ
222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/14(水) 07:32:11.75 ID:iYkzc5WIO
略していつわ
223 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/03/16(金) 02:00:23.12 ID:7kpiE8JQ0
五和愛してる
224 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage saga]:2012/03/17(土) 00:25:50.33 ID:Ho2UFtxU0
>>222
あんた上手い。誇っていいよ
225 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/17(土) 23:25:39.01 ID:PQ45OJ7Uo
跨っていいよ
226 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/03/26(月) 13:30:47.49 ID:aW3Yie6Y0
保守
227 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/04/03(火) 09:10:30.12 ID:N5uBjMme0
舞ってる
228 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/04/04(水) 01:23:59.72 ID:wggRB3Yho
まだかな(´・ω・`)
229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県) :2012/04/10(火) 00:12:32.94 ID:6eDouBNH0
まだかよ
230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/10(火) 01:47:47.81 ID:sCq9QBC0o
生存報告オナシャス
231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チリ) [sage]:2012/04/10(火) 16:18:24.30 ID:lumhIAQv0
死にました
232 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/04/10(火) 17:36:59.61 ID:ed4dVgvyo

どうも死体です



やっと3K(帰れない・帰れない・帰れない)の仕事が収束したので、
そろそろ戻ってこようと思います

お待たせして申し訳ありませんウウッ
233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [saga]:2012/04/10(火) 17:49:08.66 ID:8CgYTcuL0
ktkr
234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/10(火) 19:02:27.80 ID:eHBQe1bDO
wktk
235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/04/10(火) 19:58:38.71 ID:b92Ue9U50
生きてた!良かった!
236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/04/10(火) 21:53:37.35 ID:VzXMQcLh0
1Kじゃねーか。
生きててよかった
237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/10(火) 22:45:45.29 ID:46FWxlESO
生きててよかつた

3K(上条、木原、垣根)とは一方通行の天敵やで
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北陸地方) [sage]:2012/04/10(火) 23:01:06.03 ID:yFSpby4AO
やったあああああ
嬉しい!
239 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/11(水) 12:41:36.50 ID:YH+sbLFIO
3Kって帰れない、帰らない(悪化)、帰りたくない(末期)だろ
心の病的な
240 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2012/04/11(水) 18:03:52.17 ID:iu7JAZgAO
ktkr
241 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/04/11(水) 20:13:32.60 ID:nzVXuAK4o
舞ってる!
242 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/12(木) 16:19:41.90 ID:rSGjmsbLo
お帰りいいいいいい
243 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/12(木) 17:23:52.63 ID:8kuQWUHIO
3Kって帰りたい・帰れない、さよなら・カントリーロードじゃなかったのか……
244 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/04/14(土) 17:12:47.34 ID:5cqQl5nso

     ――――――――――――――――――――→


「行かせる訳にはいかない、ねえ? 私の邪魔しようっての?」

「うん。むぎの、諦めてくれない?」

麦野と対峙する滝壺は、ゆっくりと背筋を伸ばし、腰を落とした。

臨戦態勢に入った滝壺の、麦野が良く知る構えだった。
平気な顔をして大の男でも捻り潰して見せる、顔に似合わず力強い動き。

麦野は滝壺の体術にそれなりの信頼を置いていた。
それが、麦野自身へ向けられようとしている。

だが、彼女は意に介さなかった。

「やだーん。もしかして忘れてる? テメェは私より弱いのよ?」

麦野は明らかに小馬鹿にしていた。

麦野は身体能力も開発の能力も、戦闘面において滝壺より上だった。

彼女の『原子崩し』は相当な破壊力を持つ。
即ち、戦闘に直結する、決闘向きの能力なのだ。

対して滝壺の『能力追跡』は、他の能力者が発生させるAIM拡散力場を検索、追跡する能力である。
多彩な能力者の中でも非常に特殊で、将来性を買われてレベル4に認定されている。
使いようによっては便利だが、一対一で喧嘩をするには心許ない。

麦野からすれば、舐めて当然の相手だ。

リーダーの余裕を読み取ってか、滝壺は構えながら言った。

「確かに私は闘うのには向いてないけど……」

ジャージのポケットから小瓶を取り出す。

「応用次第では足止めくらいならできるはず」

彼女の力は、普通の能力者のようにただ頭の中で演算するだけでは発動できない。
体晶という、身体に害のある化学物質を服用して、無理やり能力を暴走させて使うのだ。

彼女以外の能力者にとっては有害でしかない小さな粒を、彼女は躊躇なく口に入れる。

245 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/04/14(土) 17:14:42.33 ID:5cqQl5nso

麦野は、その姿を何度も見ていた。
体晶を服用した滝壺は、生気を失ったように虚ろな表情になって、機械的に喋るのだ。

「体晶……滝壺、本気?」

滝壺の体が脱力して、腕がだらんと両脇に垂れた。

そして、口が勝手に動いたような動作で事実を述べる。

「追跡対象、『原子崩し』を認識。解析作業を開始」

「解析? まさか……」


彼女がやろうとしているのは、「追跡」ではなくて「解析」。
通常は能力者の追跡のために使用する能力なので、普段は行わない演算だ。

ただ、聞いた事があった。
『能力追跡』は、やろうと思えばそういった事もできるだろうと仮説が立てられている。
何しろ高い成長性を秘めた能力なのだ。

つまり何をしようとしているのかというと。

「はあ……乗っ取ろうっての? 私の能力を? レベル4がレベル5を? なあ、オイ、『能力追跡』!!!」

それは、見ようによっては高能力者から超能力者への侮辱であった。
246 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/04/14(土) 17:16:31.35 ID:5cqQl5nso

滝壺は答えない。
体晶モードの彼女は、設定した目的を果たすまで他の事にほとんど集中できなくなるからだ。

目の前の『原子崩し』を解析し、AIM拡散力場ごと操ろうとしている。

麦野が能力を行使すれば、それだけ滝壺に情報が渡る事になる。

しかし、レベル5は強気だった。

「レベル1や2じゃねぇんだ、そう簡単に私の頭ん中まで見破られてたまるかよ!」

手元が光る。

音の響く広い倉庫の中で、光線が荷台を破壊する音が反響した。

「解析レベル四%。完遂まで推定五十分」

麦野の渾身の攻撃を、脱力したままぬらりと避けて、滝壺は作業状況を報告する。
勝手に口から出るのだろう。

五十分もかかるなら、体晶の効力が切れるまでにやり遂げる事は不可能だ。
だが、麦野が滝壺の前で『原子崩し』を使い続ければ、解析作業は早まっていく。

放っておけば自滅してくれる相手だ。逆に、ちょっかいを出せば噛み付いてくる。
それを目の前にして、麦野は。

「もっちろん、おクスリが切れる前に私が終わらせてあげる」

素直に待つ性格では無かった。
247 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/04/14(土) 17:17:41.53 ID:5cqQl5nso

こうなると、むきになって能力を使いまくるのが麦野であった。

滝壺は、普段は優れた身体能力を持つが、体晶を使ってしまうと、能力が使える代わりに体が自由に動かせないという極端な性質を持っている。
なので、今殴りかかれば一気に片が付いてしまう。
しかし麦野はそうしなかった。

能力で勝負を仕掛けて来た部下を、能力で叩きつぶしたい。
その意気込みを虫けらのように踏みつぶしてやりたい。

それだけのために、確実な勝利を捨てて、能力同士の闘いを受けて立っているのだ。

白い光線が幾つも発射され、倉庫の壁に穴をあけまくった。
だが、本命の的にはなかなか当たらない。

滝壺はふらふらと逃げ、解析を続けている。

「ふん、セミオートで避けてやがる。私の癖くらいは解析済みか」

「解析レベル三五%。完遂まで推定二五分」

「いちいち報告すんじゃねえよ! 鬱陶しいんだよ!!」

崩れた原子が飛んだ。

滝壺の体が勝手に避ける。

麦野の舌打ちと、滝壺の声が重なった。


「解析レベル四十%。完遂まで推定二十分」


248 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/04/14(土) 17:18:51.20 ID:5cqQl5nso

     ――――――――――――――――――――→


浜面が目覚めた時、一番最初に思ったのは「狭ッ!!」だった。

次が「暗ッ!!」。

その次が「痛ッ!!」。

およそ爽やかとは言い難い目覚めである。

痛いのは足と首と腹と背中だった。
足は滝壺にやられたせい。
首も滝壺にやられたせい。
腹も滝壺にやられたせい。
背中だけ覚えがない。

「何だ……?」

暗くて狭い中、浜面がやっと体を動かすと、体の下にゴロゴロと野球ボールほどの大きさの玉が幾つも敷き詰められているのが分かった。
棘のようなものが出ていて、それが刺さって痛いのだ。

「何だこれ、イテ!?」

頭を上げようとして天井にぶつかる。
縦にも横にも狭い空間だ。
自分の膝が曲げられて、箱のような場所に無理やり押し込められている。

天井を思い切り押し上げた。
ほとんど力を必要とせず、それは開いた。
微かな光が差し込んで来る。

「……木箱? の、蓋?」


浜面が押し込まれていたのは、リンゴの入った木箱だった。
249 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/04/14(土) 17:20:07.43 ID:5cqQl5nso

どうやら食品を保管する倉庫らしい。
空調機能はないようで、浜面が冷凍保存されるような事態にはなっていない。
先ほど滝壺と逃げ込んだ倉庫とはそう離れていないだろう。
彼女は時間がないと言っていた。

「クソ! あいつ――」

自分が殺されると分かっていながら、浜面だけを逃がそうとした少女。
ぼけっとしていて掴みどころがないくせに、やたら自分の意地は通そうとする少女。

段々とはっきりしていく意識の中で、感情もはっきりと際立ってきた。

――殺されるなんて思わなかったでしょ? 良いんだよ。浜面は関係ないから。帰って。

最後に掛けられた言葉を思い出す。

滝壺は逃げろと言っていたのだ。

「……逃げねえぞ」

立ち上がり、箱から降りて、倉庫の戸を開ける。

薄暗い景色で時刻が大体分かる。
まだそんなに時間は経っていない。

「逃げねえぞ、俺はこのまま逃げる訳じゃねえ!」

誰に言い訳してるつもりなのか、宙に向かって一人で叫びながら、走る。

「このままあいつを放って逃げられるかよ! クソッ! クソォッ!!」

俺は一体何をやってるんだろう、という、今日の朝から頭にこびりついている疑問が、またも浮かんで消えた。

250 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/04/14(土) 17:20:42.60 ID:5cqQl5nso

     ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞


その頃の病室。

「木原さん、麦野と滝壺が何か勝手に仲間割れしてます」

「マジで? ラッキ!」


251 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/04/14(土) 17:21:49.18 ID:5cqQl5nso

     ――――――――――――――――――――→


体晶が、切れた。

もう『能力追跡』は使えない。
滝壺の瞳に生気が戻り、それと同時に彼女の足が崩れ落ちた。

解析は終わらなかった。ぶっつけ本番で『乗っ取り』をするには、レベル5の『原子崩し』は難易度が高過ぎたのだ。

そして、体に悪い薬を服用し続けた負債が、よりによって今、彼女の全身に圧し掛かって来た。

心臓が重い。
息苦しい。
体が動かない。
変な汗が出て来た。

放っておいても死ぬような気がする。

が、幸か不幸か、放っておいてくれない女が、目の前にピンピンしていた。


「だぁ―――ッ!! くっそぉぉぉ! 当たんなかったッ! もう終わりぃ?」


滝壺が全力でかかって行って勝てなかった女、麦野は、頭を抱えて悔しがっている。

『能力追跡』である程度麦野の能力使用の癖を掴んでいた滝壺は、自動で彼女の攻撃から身をかわしていた。
麦野はあくまで能力だけで滝壺に対抗するつもりで、体術を一切使わず滝壺を狙い撃ちしていたのだが、
のらりくらりと逃げ回る滝壺に、とうとう体晶の効力が切れるまで攻撃を当てる事が出来なかったのだ。

ゲーム感覚である。
滝壺は命がけなのに。
252 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/04/14(土) 17:22:35.62 ID:5cqQl5nso

「う……むぎ、の……」

乱れる呼吸の合間を無理やり縫うようにして、言葉を絞り出す。

いらついている麦野は、「ああ?」と乱暴に返して来た。

「おね、が……」

「は? 何言ってんのか分かんない」

お願いだから。
はまづらを追わないで。
彼を殺さないで。

言いたい言葉が繋がらなかった。
苦しくて声が出ない。

靴音が聞こえて、麦野が歩いているのが分かった。
立ち上がって麦野を止めないと、彼女は浜面を追いに行ってしまう。

焦りと苦悶を全身に感じながら、滝壺は体を動かそうとした。
したが、駄目だった。
動いてくれない。

「はあーっ。クソ、悔しい! このままじゃ終われないかんね」

意外にも、出入り口に向かっていると思われた麦野の声が、滝壺のすぐ上から聞こえた。

そうか、先に私を殺すのか。

合点が行って、少し安堵する。
私を殺す間に少しでも時間が稼げるなら。
253 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/04/14(土) 17:23:47.76 ID:5cqQl5nso

麦野の手が伸びてきて、滝壺の首か胸倉辺りを掴むかと思ったら、どういうわけか人体急所を無視してジャージのポケットをまさぐり始めた。

「えーっと、滝壺ちゃんはいっつも、この辺に隠し持ってたんだっけ?」

他人の手がごそごそと自分のポケットを弄り回している感覚に、滝壺は小さく身じろぎした。

「む、い……」

「黙ってて」

何か言おうとする滝壺を、麦野は短く、そして冷たく遮った。

やがて、「やった! 見つけた」と楽しげな声を上げて、麦野の手が滝壺から離れた。
その手には見慣れた小瓶が握られている。

「たい、しょう?」

搾り出す声に、満足げに麦野が頷く。

「ん、そう。た・い・しょ・う。コレを一粒取りまして――」

言いながら、瓶の蓋を開けて体晶を取り出す麦野。

まさか飲む気? と滝壺は思ったが、そんなはずはないと考え直した。
体晶を使って能力を暴走させて役に立つのは、現状分かっている内では滝壺のみ。
通常の状態で最強の破壊力を出せる『原子崩し』が服用する意味などないのだ。

なら、何をする気か?

体晶を使って意味があるのは――
254 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/04/14(土) 17:24:28.66 ID:5cqQl5nso


考える滝壺の前髪を、麦野の手が掴んだ。
引っ張って無理やり顔を上げさせる。

「滝壺。コレ飲んで」

にっこり笑って、言った。

体中を蝕む劇薬をさらに飲めと言う。

「……な、ん、で」

「だーって、さっきの体晶モードの滝壺がさ、私の『原子崩し』を全部避けちゃうんだもん。悔しいじゃない?」

まるでジャンケンで負けちゃった、とでも言うように軽い調子で言い、麦のはため息を吐いた。

「私、こういうの勝つまで続けたい派なんだよね」

左手の瓶をくるくるともてあそびながら、リーダーは笑っていた。
滝壺の視界はすでにぼやけていたが、なぜかその笑顔だけは鮮明に見えた。

「やり直そっか、シューティングゲーム」

細い指が、つまんだ粒を口元に運ぶ。
255 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/04/14(土) 17:25:11.08 ID:5cqQl5nso

扉が開いた。

突然だった。

一瞬風が吹き抜けて、髪を揺らされた麦野が振り返る。

「おい、何してんだ」

そこには、チンピラが一人立っていた。

浜面だ。
霞んでも分かる。
粗野だが安定感のある声だった。

そして、ちょっとビビッてますというのがありありと分かる声でもある。

「はまづら……」

戻って来た浜面を見て、滝壺は微妙な顔をした。

彼女にしてみればがっかりである。
折角命がけで逃がしてやったのに、なぜ戻って来るのか。

だが少しだけ。

その表情に安堵の色が見えた。
256 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/04/14(土) 17:26:18.91 ID:5cqQl5nso

「テメェは誰?」

滝壺から手を離さず、中腰のまま麦野は訊ねた。
こんな体勢でも、襲い掛かって来られてからでも対処できると考えているのだ。
つまり舐めている。

だが、そんな事を気にかけている余裕は浜面には無かった。

「俺は滝壺の知り合いだ。で、お前は滝壺に何してんだ」

「何でもいいじゃん。出てくか死ぬか選びなさい」

麦野は突如現れた不良少年に命じた。
つまり素直に出ていけば殺さないというのだ。

そもそも、麦野は滝壺がかばおうとしていたスキルアウトを殺すために滝壺と対決していたはずである。
その最終目標が目の前にいる事に気付かないほど間抜けではない。

ただ、一番大事な事が彼女の中で変わってしまっただけなのだ。
もう浜面に用はないのである。

しかし邪魔をするなら容赦はしない。
彼女は殺すと言ったら殺す女だった。
257 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/04/14(土) 17:26:58.48 ID:5cqQl5nso

滝壺は前髪を捕まえられたまま、やっとしっかりと声を出した。
人間必死になれば何でもできるものだ。

「むぎの、お願い。はまづらを……殺さないで」

「あ? 誰よ浜面って」

「それ」

ひょい、と浜面を指で指す滝壺。

「『それ』って……」

微妙に傷ついた顔の浜面。
気にも留めない麦野と滝壺。

「あーそれ? それが浜面なの?」

麦野の方は浜面を指差しはしなかったが、とりあえず「それ」扱いである。

「で、その浜面クンを殺さないで欲しいんだ? ふーん、友達になったの?」

「うん」

「そうなんだ。でもダメ」

ガン。

鈍い音が鳴った。

258 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/04/14(土) 17:27:42.11 ID:5cqQl5nso

それから、どさっと人の倒れるような音が鳴るまでの間、浜面には何が起きたか認識出来なかった。

すぐ横で滝壺の体が倒れ込んで、やっと分かった。

蹴ったのだ。

麦野が。

滝壺の顔面を。

ヒールで。

「って何やってんだよテメェ!? お前ら仲間なんだろ?」

「仲間だからこそのお仕置きでしょ。私だって心を痛めてんの。
これからも仲良くやってくなら信頼関係は大事にしなきゃ」

悲しげに息を吐き、麦野は転がる滝壺を見降ろした。

「ねえ、滝壺ちゃん? 仲直りにゲームしよっか?」


麦野の手には体晶の粒が握られている。

滝壺は無言だった。

259 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/04/14(土) 17:28:18.20 ID:5cqQl5nso

つづく


なんてひどいおんなだ!
260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/04/14(土) 17:33:17.00 ID:elzRoDGso
麦のんデレるよな…?な…?



なんてひどいおんなだ!
261 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/14(土) 19:08:40.05 ID:pUZK4uiSO
久々に外道むぎのんを見た…
262 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/14(土) 19:40:36.14 ID:gPeLlRwwo
待ってたよ乙!
263 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/04/15(日) 02:50:38.07 ID:mJLNo8dYo
舞ってましたよおつ(`・ω・´)ゞ
264 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/15(日) 22:54:53.41 ID:JriwESuIO
木原「いいぞもっとやれ」
265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/19(木) 00:21:52.37 ID:2OYO/TxSO
きてたあ!
むぎのんたまんねえ
266 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/28(土) 01:31:44.61 ID:jPMp28Yzo
まだかな(´・ω・`)
267 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/05/02(水) 17:16:09.33 ID:n7nGeRxgo

蹴られて詰られて何の反応もないのは、滝壺がぼんやりした子だから――ではもちろんない。

極度の緊張の中で、守るべき者の姿を見た浜面はやっと気が付いた。
滝壺の様子がおかしい。

今までこの倉庫の中で何が行われていたのかは知らないが、
おそらく麦野が滝壺を痛めつける構図だったのだろう。
滝壺が元気でないのは理解できる。

だが、暴力や体面を傷つけるような能力を振るわれたにしては、苦しみ方が異常だった。

顔面蒼白。呼吸が上がっていて、額には変な汗がにじみ出ているようだ。
上半身だけでさえ自重を支える力もなく、地面にへばりついている。

怪我人というより、重病人だった。

彼女をこんな風にした人間には、浜面にはほとんど心当たりがない。
あるとすれば、滝壺の横に膝をついて、彼女の前髪を乱暴に掴む女くらいだ。

浜面は麦野を睨みつけた。

「テメェ……暗部組織の仲間なんだろ? ってことは高位能力者か。まさか、毒か何かの……」

「ちっがーう。私の能力は電子を無理やり固めて危険物に変える事。
 何だ、高位能力者を狙ってハシャいでたスキルアウトの一員のくせに、私を知らないの?」

学園都市第三位に向かって的外れな推測を喋り出した男に、麦野はため息交じりに答えた。

そこで、浜面ははじめて目の前の相手の正体に気がついた。
滝壺は彼女を「むぎの」と呼んでいた。

「――むぎの? 麦野って、まさか、あの……」

学園都市にたった六人だけ存在する、レベル5の一人。
浜面たちが憎んでやまない、高位能力者の暗部組織のリーダーである麦野沈利という女の名前は、
『スクール』を調べたついでにスキルアウト達が把握しており、彼も聞いた事があった。

自分の能力をぺろりと他人にばらしてしまう暗部のリーダー。
スキルアウトごとき、いくら手の内を晒そうと問題ないと考えているのだろう。

「じゃあ、滝壺のその状態は何なんだよ!?」

焦れる浜面に、麦野は短く答える。

「体晶のせいだろ」

「たい……しょう……?」

告げられたその言葉にも、浜面は覚えが合った。
268 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/05/02(水) 17:17:21.66 ID:n7nGeRxgo

つい先ほど滝壺本人から聞いた話だ。
彼女はその薬のようなものを用いて能力を暴走させる。
そうしないと能力が使い物にならないレアケースなのだ。

体に害をなすものだから、なるべく使いたくないと滝壺は言っていたが……

「使ったのか」

「今まで溜め込んでた負担が一気に来たみたい。もう長くないかもね」

まるで何でもないように、麦野はさらりと言い放った。
仲間の命が危ぶまれようと、全く興味がないらしい。
そもそも彼女自身が滝壺を殺すつもりでいるのだ。

浜面は衝撃を受けた。
麦野の態度にも、滝壺の覚悟にも。

いくらなんでもそこまで体に悪い薬だとは思わなかった。
だが現にこうして滝壺は死にかけている。

恐らく、浜面を守るために。

「滝……」

浜面が滝壺に駆け寄ろうとしたその時だった。

鋭い閃光が浜面の顔面すれすれの所を走り抜けて、倉庫の壁を突き抜けた。
269 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/05/02(水) 17:18:45.16 ID:n7nGeRxgo

「いいか、無能力者」

低い声が倉庫の中に響きわたる。
それを聞いただけで、浜面は震え上がりそうになった。
つい先ほど、命をかけても滝壺を守ろうと固く決意したばかりなのに。

――明らかに、こいつは、ヤバイ。

一瞬目が合っただけでそう確信できてしまうほど暗く鋭い眼光で、麦野は浜面を射すくめる。

「私は学園都市第三位の超能力者。
 テメェを殺すのに一秒掛からない。
 私はこの女を殺すゲームをしようとしてる。
 邪魔をする奴を殺すのにも特に葛藤はない。
 理解した?」

美しい、だがそれ以上に恐ろしい女が、小首を傾げて笑顔でそう尋ねて来た。

鳥肌が立った。

美しい以上に怖かったからだ。

浜面は何も答えられず、時間が緩やかに過ぎた。

返事のない相手にため息を一つ吐き、麦野は言葉を続ける。

「――分かんない、か。ま、無能力者なんて馬鹿ばっかりか。
 いいわ。じゃあ馬鹿にでも分かるように説明したげる」

コツン、と、ブランド物のパンプスの踵が床を打った。

「五秒やるから消えろ」

低い、女性の声だと分かるのに低い、地底から這い上がって来るような声が告げた。

「な……」

浜面はまともに返事もできない。
女相手に恐怖で声が出ない。
270 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/05/02(水) 17:19:57.75 ID:n7nGeRxgo

怯えて固まっている相手に慈悲をかけるほど、麦野は心優しい人間ではなかった。

約束の五秒が経過した瞬間、彼女は浜面の方へ駆け出していた。
浜面の目は麦野の動きを追っていた。
右手をしっかり握って脇へ引いている。

自慢の光線が飛んでくるのかと浜面は思ったが、それなら彼女がわざわざ走って近づく必要はない。
現に先ほど彼女は一歩も動かず彼を殺しかけた。

だが、浜面の脳裏には、つい三十秒ほど前に顔面の横をすり抜けていった光線のイメージが焼き付いている。
直進してくる攻撃を予想して、彼は無意識に左側へ体を避けた。

そこはまさに、麦野の正拳が狙っていた場所だった。
271 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/05/02(水) 17:21:35.69 ID:n7nGeRxgo

一撃食らって体制を崩した後は、サンドバッグ状態だった。
抵抗の余地が全くない。
喧嘩慣れしている浜面でさえ、麦野がいつどうやって次の一撃を繰り出してくるのか、かろうじて予想はできても防御が追いつかない。

レベル5の超能力者は、思った以上の武闘派だった。
浜面相手に能力を使う気がないようだ。
わざわざ無能力者の土俵に合わせる事で、さらなる実力の差と絶望を思い知らせてやろうとしている――のかもしれない。

「ほらほらぁ、痛いかな!? はぁーまづらぁ!!」

「……っぐぇ……ッ!」

鳩尾に膝蹴りをまともに受けて、体をくの字に曲げた浜面が、床に崩れそうになった。
その決して小柄でない体を、麦野が片手で支えて立たせる。

「浜面くぅん。もうダウンしたい?」

「……っ、よ、ゆ、ぅだよ、クソ」

自力で立っていない浜面の弱々しい強がりを、冷たい笑顔が見守っていた。

「じゃあ、この手離して何秒立ってられるか試してみるか? 私は倒れるまでに何発殴れるか試してみよっかにゃーん」

白い手が浜面から一度離れた。

ぼろぼろの体が倒れようとする。

「はい、いーち」

楽しげなカウントが聞こえた。
272 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/05/02(水) 17:23:27.21 ID:n7nGeRxgo


     ――――――――――――――――――――→

合計六発。

ここまでやられて立っていられたのは、浜面の根性というより、倒れないように殴る方向を調節する麦野の器用さによるところが大きい。

「んだよ、目標二十回だったのにぃ」

唇を尖らせて、麦野が床に転がる浜面を見下しながら言った。

「何でこう、群れて粋がるやつってバラにすると弱いんだろ。あいつ守るんじゃなかったのー?」

麦野が適当に指さした先に、床にへばりついて震える滝壺の体があった。

そう、さっさと立ち上がって麦野を倒さないと、彼女の言うとおり滝壺を守る事ができないのだ。

床についた手に力を込めようとする。
ガクガクと震えて全く立ち上がる役に立たない。

「く、そ……」

膝を立ててみる。
すぐにずるりと滑ってまた転がった。

ひれ伏す浜面の上から、麦野の大笑いする声が降りかかってきた。

「ねえ浜面くん。もしその状態で立てたら、あんた逃げてもいいよ。
 もちろん、滝壺は置いてってもらうけど」

腕を組んでにっこり笑いながら、優しいお姉さんが弟にアドバイスするような軽い調子で、麦野が言った。

「こんなに頑張ったんだし、いいんじゃない? そろそろ帰れば?」

「ふざけんじゃねえよ……!」

もう一度立とうと、浜面が無駄な努力をし始めたその時だった。

遠くから声が聞こえた。



「はまづら」

273 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/05/02(水) 17:24:16.25 ID:n7nGeRxgo

動く事もままならないはずの、滝壺が発した声だった。

「な……喋る、な、滝壺!」

遠く床に転がる滝壺に、浜面はあわてて怒鳴り返す。
滝壺は聞き入れなかった。

「逃げてくれない?」

震える声で、彼女は言った。
床に這いずりながら、呼吸をするのすら辛そうな状態で、浜面に呼びかけている。

「は?」

必死に訴えかける内容は。

「私を置いて、はまづら一人で帰って」

それを聞いた瞬間に。

急に起きあがる気力が沸いた。
ボロボロの腕に力が入る。
なぜだか分からないが立ち上がれた。

「ぶっ殺すぞ」

そして少女の切なる願いを、浜面は切り捨てる。

今さら滝壺を見捨てる事など出来るはずがない。
何が何でも二人で生き延びる。

知らない内に、浜面の腹は決まっていた。
だから、こんな気弱な提案をする彼女を許す事ができなかった。

一言で否定された少女は、「そう……」と小さく頷いた。

そして、言った。

「じゃあ、闘うしかないね」
274 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/05/02(水) 17:25:24.33 ID:n7nGeRxgo

かり。

小さく、軽い音が鳴った。
少女の歯が、錠剤を噛み砕く音だった。


「滝壺!? それ、飲んだらマズイんじゃ……」

浜面が滝壺に駆け寄ろうとするが、麦野の足が横から飛んで来て、阻まれてしまった。

「折角滝壺が私の言う事聞いてくれたんだから、邪魔しないでくんない?」

そう、彼女の望んだとおり、滝壺はもう一度体晶を使った。
もう限界だったのに、さらに体内に劇薬をねじ込んだ。
華奢な体がどうなってしまうか分からない。

心臓を高鳴らせて見守る浜面の視界の中で、
ガクガクと震えていた滝壺の体が、ぴたりと止まった。
かたり、と彼女の首が折れる。

「何度やっても無駄だけどねん。私の能力は乗っ取れない。準備が済んだらゲーム開始だよん」

「私の『能力追跡』一人では……むぎのに敵わなかった」

呻くように、俯いたままの少女が言った。

「はまづらがいてくれてよかった」

「た、滝壺……?」

完全に脱力したまま、音もなく彼女は立ち上がった。

その顔から汗はひいていた。

「応援してるからね」

少女の目が死んだ。
275 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/05/02(水) 17:26:08.44 ID:n7nGeRxgo



「対象の――能力を――検索」



体晶モード突入。
虚ろな声が響く。

浜面は動けなかった。
麦野は動かなかった。

ただ、滝壺を待っていた。

「やーっと始まったか。前置き長すぎ」

自分のAIM拡散力場を相手が解析し出すのを待ちながら、麦野が能力発動の準備を始めた。

だが。

「対象、『浜面仕上』をスキャン。解析開始」

「は?」

超能力者、麦野沈利を無視して。

『能力追跡』はレベル0の不良少年の解析を開始。

そして、

「――完了」

「ッ早!?」

レベル0の解析は楽勝だったらしい。
276 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/05/02(水) 17:27:56.87 ID:n7nGeRxgo

「で、その無能力者の脳内をスキャンして何の意味があるわけ? どうせエロい妄想が詰まってるだけなんでしょ?」

「うぐ!? 本当の事なんか言わなくていい!」

麦野がいらいらと片足を床に打ちつけながら、滝壺に言い放つ。

浜面の発動できない能力を読み取った滝壺は、ふらふらとおぼつかない足取りでくるりと向きを変え、麦野の方へふり向いた。

「『原子崩し』の解析レベルは――現在五十パーセント――」

先ほどの体晶の効力で一部解析した麦野のAIM拡散力場を、滝壺は記憶していた。
現状を誰にともなく報告し、さらに続ける。

「『原子崩し』――麦野沈利の――AIM拡散力場に――仮想領域を展開」

「なに?」

麦野の表情が動いた。
彼女は事態を瞬時に了解している。

浜面はよく分かっていない。

丸きり役に立たない自分の能力の情報が、滝壺によって根こそぎ読み取られた事。
それから、麦野の能力も半分程度滝壺によって解析されているらしい事。

彼の頭で分かるのはそれくらいだった。
それも、意味があるとは思えなかった。

レベル0の能力など丸裸にしたところで役に立たないし、
レベル5にしても解析できたのが半分では使いようがないだろう。

それでも、余裕しゃくしゃくだった麦野の顔色が変わっている。

これから何が起こるのか見当もつかなかった。

表情のない滝壺は、ぼそぼそと口元で述べる。



「麦野沈利の力場に展開した――仮想領域を使用して――」



「浜面――仕上の――演算領域を――」



「拡張する」



一言、宣言された瞬間。

「ッ!! ぐあぁぁぁぁあああッ!?」

麦野と浜面が同時に頭を抱えた。
277 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/05/02(水) 17:29:24.80 ID:n7nGeRxgo

頭が爆発したかと思った。

みるみるうちに、晴れ渡るように自分の演算能力が上がっているのが分かった。
今なら何でもできる。分かる。

自分の能力など知らなかったのに、何をすればいいのか手に取るように理解できた。

急にぼやけていた視界が広がったような。
曇っていた目が見えるようになったかのような。

いや、そうではなくて。

生まれた時からずっと地下室で世界に光があることを知らずに生きて来た人間が、
初めて外に光と景色がある事を知ったような感覚だった。

眩しすぎて一瞬目を塞いでしまったが、慣れて見てみたら途方もない世界が広がっていた。

顔を上げて、周囲を見る。

殺風景な倉庫は何も変わっていない。
滝壺がふらふらと倒れかけている事も、一部の演算領域を乗っ取られようが麦野がレベル5である事にも、何の変わりもない。

だが、浜面の目には何もかも違って見えた。

(こういう、事だったのか……『分かる』って)

今の浜面は、滝壺が何をしたのか理解出来ていた。

(今まで分かんなかったのが不思議なくらい……)

滝壺は、掌握した五十パーセントの麦野のAIM拡散力場を一部乗っ取り、その膨大な演算領域を浜面に分け与えたのだ。
もとも浜面には、開発された能力を行使するのに必要な領域がほとんど無かった。
そこで、麦野の領域を間借りして、浜面のために使えるようにしたのだ。

今まで全く得体の知れなかった、あったはずだが使えなかった浜面の能力が、無理やり使えるようになってしまった。
そして、その分だけ麦野が使える部分が減っている。

無能力のスキルアウト・浜面仕上は、レベルを二段飛ばしで駆け上がり、強能力者にまでシフトしていた。


「――仮想領域の――使用可能時間は――残り十分」


ただし、時間制限付きで。
278 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/05/02(水) 17:30:46.94 ID:n7nGeRxgo

一方、無能力者に演算領域を「一部」乗っ取られた麦野は。

(クソッ! 何だよこれ……!!)

今まで分かっていたはずの事が、急に分かり辛くなっていた。

急に視界が開けた浜面に対し、こちらは急に片眼が潰された感覚。
そして、片足も持って行かれた感覚。
処理速度が遅いのだ。

(これじゃ、一発撃つのに時間が掛かり過ぎる――ッ)

彼女の『原子崩し』の破壊力は圧倒的だった。
しかしだからこそ、計算式の構築に時間がかかる。
さらに、強力すぎて自分の腕をふっ飛ばしかねないため、防御用の演算にも余計な時間を割いている。

的に照準を定めて、腕が消し飛ばないように威力を調節、「曖昧な電子」を構成、撃つ前に的が動いたら方向の微修正。
ここまで一瞬でできていたものが一秒でも遅れると、狙って当てるのが途端に難しくなるのだ。

(しかも滝壺は私の動きを先読みしてやがるし、狙わないで乱発した方がまだ当たるか……?)

彼女は、この期に及んでまだ滝壺しか見ていなかった。

無能力者と侮っていた男が、飛躍的にパワーアップしているであろう事にまで、頭が回らなかった。

それは、彼女が一度目標を定めると他が見えなくなってしまう性格だから。
そして、演算領域を一部奪われて、思考能力が一部欠如していたからだった。
279 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/05/02(水) 17:32:00.27 ID:n7nGeRxgo

ゲームは雨天決行。
予定変更も軌道修正もなし。

麦野は、体晶モードの滝壺に、光線を一発当てるのを諦めていなかった。

「しょうがないから数撃ちゃあたる作戦で行くわ」

言って麦野は、胸元から薄いカードのようなものを取り出した。
拡散支援半導体(シリコンバーン) と呼ばれる学園都市製の『原子崩し』専用の装備である。

性質上一直線にしか放射出来ない光線を、カードの中で組み合わされたパネルに反射させ、広範囲に分散させる役割を持つ。

「どこに撃つかは考えない。だから私にもあんたにも軌道は読めない」

「なーんか実力で勝った気はしないけど、ふらふらのテメェに当たれば終わりでしょ」

取り出したカードを構え、にこりと笑う。

虚ろな目をした滝壺は、じっと動かなかった。

280 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/05/02(水) 17:33:47.73 ID:n7nGeRxgo

そこへ、低い男の声が割り込んだ。

「やめといた方がいいと思うぜ」

ふり向くまでもない。
ここにいる男は、例のボロボロのチンピラただ一人。
滝壺が死にかけながら必死に守ろうとしている無能力者だ。

「私忙しいんだけど。一応聞いてあげようか? 文句があるなら三秒で終わらせて」

「文句も何も。お前のために忠告してやろうと思っただけだよ」

レベル3に上がった浜面は、その両手を前に突き出して構えていた。
能力者が能力を行使しているような格好だ。

「……無能力者が何やってんの」

「あんたのお陰で今はレベル3か4あたりだ」

時間制限付きの強能力者は、挑発的に口の端を上げた。

自分の演算領域を乗っ取られた事を意識して、麦野の眉尻がぴくりと動く。

「で、3だか4だかになったからどうだっての?」

わざわざ言わなかったが、彼女の目は「私はレベル5だけど」と言っていた。
そんな目つきを無視し、浜面は楽しげに語る。

「何と、聞いて驚け。俺の能力も電子操作だったのさ」

麦野と同系統。
もちろん彼女よりは下位に当たるだろうが、浜面の能力も麦野と同じく、電子を操るものだったという。

能力の系統が違えば闘い方の勝手も違う。極端に弱体化したレベル5とレベル3なら、上手くはまれば勝てるかもしれない。
しかし今の浜面は、レベルが上がった所で敵と同系統。
しかも格下となれば、普通は絶望してもおかしくない場面である。

だが、彼には勝算があった。
今回の一件に限り、彼の語るそれは、とても都合のいい能力だったのだ。

「俺の能力は、密閉された空間に強力な磁場を形成して、そこに存在する電子の"道"を作ること」

道を切り開いた両手がひらひらと動く。

「お前の体を出発点とした"道"は、既に俺だけが知ってるルートを辿って、結局お前の元に帰るように設定済みだ。つまり」

滝壺に向かってカードと右手を構えたままの麦野を、浜面の指が指した。

「撃ったものはそのままお前に跳ね返る」

電子の通り道を決定する。
狭い、閉ざされた空間でのみ。

たったそれだけ。芸のない能力だ。

だが、その"道"の強制力だけは絶対である。

この場ではそれで充分だった。
281 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/05/02(水) 17:35:10.06 ID:n7nGeRxgo

麦野にとってはやたらと不利な能力者。

ポッと出の男が、本来はレベル0のくせに、滝壺と麦野の力に頼って、彼女に勝った気でいる。

ここでムカつかずにいつムカつけというのか。

「で? たったそれだけで何調子こいてんの?」

不機嫌に、麦野が反論する。

すらりとした腕を浜面の方へ伸ばした。
『原子崩し』を行使する時の構えである。

彼女は、能力者として長い時間を過ごしている。
自分の能力を使いこなすには、それが高度であればあるほどそれなりの訓練が必要である事を知っている。
ついさっき能力者として目覚めた浜面が、急にそれを使いこなすなど出来るはずがないと思っている。
彼は麦野の殺人光線のルートを勝手に決めていると言ったが、そんな事は一朝一夕では出来ないと経験上分かっていた。

だから、構わなかった。
能力を使って浜面を叩き潰す事を。

「余裕だな……自滅する事になっても能力を使うと?」

そして、もっと簡単な回答も用意できる。

「私の『原子崩し』は電子を『粒子』でも『波形』でもない形で留める……」

彼女の手に、白く輝くものが集まり始めた。
その一点を注視する浜面が、怯んだように後ずさった。

「へえ……そりゃ面白いな……」

「留めた電子は、外部からの影響を受け付けないで、私が意図したとおりに操作できる」

「え、てことは……」

ぎくり、と余裕ぶっていた浜面の顔色が変わる。

「俺の能力は、『電子の道』は、もしかして……?」

「ハッ! 私の『原子崩し』に普通の電子相手の理論なんざ通用しねぇーんだよ!!」

頭の中で、普段より数段遅い処理速度で、目の前の男を叩きのめす演算式が構成されていく。
的に照準を定めて、腕が消し飛ばないように威力を調節、「曖昧な電子」を構成、撃つ前に的が動いたら方向の微修正。

「だからぁ、真っすぐテメェに向かってぶっ飛ぶってワケ!!」

「なっ――」

ありったけの気合をぶち込んで。

『アイテム』のリーダーは、スキルアウトのリーダー代理に向けて、粒機波形高速砲を撃ち放した。
282 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/05/02(水) 17:37:09.51 ID:n7nGeRxgo


――ガァンッ――



直後、彼女の右肩に小さな穴が開いた。



「が、ふッ――!?」

思わず膝を折る。
麦野には、何が起こったのか一瞬訳が分からなかった。

倉庫の中には、銃声の余韻のような音が壁に反響しあっていた。
硝煙の匂い。

銃器で撃たれた、と理解した時、浜面の足が目の前まで迫っていた。

「立ちあがられちゃ困るんでな、もう三発」

「テメェっ! 待――」

ガン、カチリ、ガン、チャキ、ガォン。

無慈悲に、宣言通り三発。
外さないようにしっかりと狙って、浜面は麦野の四肢の自由を奪った。

「うあァァ――ッ!! ……ハァッハァッハァッ……ッ」

思わず体をくねらせて、芋虫のように床を這いずった。

(なっ……なん、で……)

激痛の中で、麦野は考えた。
283 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/05/02(水) 17:38:36.57 ID:n7nGeRxgo

隙だらけの上、今現在は時間の掛かり過ぎる「照準を合わせて発動」を選択した麦野。
どうやら浜面は、その隙をついて攻撃を仕掛けてきたらしい。
実は持っていたらしい拳銃で。

「テメェっ、新しい能力で、私と、っ闘う気だったんじゃ……」

切れ切れに尋ねる麦野に、浜面は「あ? 俺の能力?」とあきれ顔で返してきた。
息を吐き捨て、そして続ける。

「電子の道だぁ!? 俺にもよく分かんねーよ! どんな理論だっつーの!」

「ハァ!?」

「んな『原子崩し』対策専用みたいな都合のいい能力が、いきなり飛び出すわけねえだろ!」

「ッ! じゃあ……」

「……俺の能力は電子操作じゃなかった。結局、この局面じゃ使い道はなかったよ。騙して悪かったな」

浜面は、最初から唯一の武器である拳銃でレベル5と闘うつもりでいた。
だが、相手は百戦錬磨のレベル5。
武器を取り出してもたもたと安全装置を解除して――などとやっているうちに、簡単に殺されてしまうと容易に想像がついた。
だから、最後の最後まで、麦野に絶対の隙を作り出すまで、切り札は見せなかったのだ。

ボコボコに殴られるという布石を置いて、その存在は隠しとおした。
問題はどうやって隙を作るかだったが、
滝壺が浜面の能力を底上げするというパフォーマンスをしてくれたお陰で、もっともらしい嘘が吐けたのだ。
284 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/05/02(水) 17:40:33.71 ID:n7nGeRxgo

「折角手に入れた能力でスパッと勝てねえのは残念だったけど」

最初に撃ち抜いた右肩を抑えて転がる麦野に、もう一度拳銃を向ける。
今度は確実に、意識を止められる部位を狙って。

「俺はずっとコッチ方面でやってきたからさ。慣れた方で闘うわ」

何か考えがあるのか、麦野は抵抗する様子も許しを乞おうとする気配もなかった。

五回目の銃声が響いた。
285 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/05/02(水) 17:41:45.10 ID:n7nGeRxgo


     ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞

『アイテム』の麦野、滝壺と、名も知れぬスキルアウトのリーダーの戦いに決着がついた。

驚いた事にスキルアウトの一人勝ち。
『アイテム』は二人とも再起不能になってしまった。
その内一人は自滅だが。

予想外といえど、これは猟犬部隊にとってはうれしい誤算だった。
『アイテム』は全員退場してもらわなければいけないからだ。

そして、能力開発の学者である木原は、今回の滝壺の闘い方に興味を示していた。

「他人の領域を使ってレべルシフトねえ……」

呟いた言葉に、一方通行が反応する。

「俺に応用しよォったって無駄だと思うぜ。超レア能力者が体晶使ってやっと十分間なンだからよォ」

「それに……0を1以上にするなら有効だが、演算領域だけ広がったって、使いこなす頭がなきゃ無理だろうな」

諦めたような口調だったが、木原はそのまま黙り込んでしまった。
それは、頭の中で何かをシミュレートしている時の顔だという事を、一方通行は知っていた。

(イイから諦めてくれよ……)

一方通行の願いをよそに、猟犬部隊の任務は着々と進んでいる。


残るターゲットは三人。

『アイテム』の残り二人、絹旗とフレンダ。

そして、意外にも最後まで生き残っている、『スクール』の心理定規。
286 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/05/02(水) 17:42:48.07 ID:n7nGeRxgo
つづく

はたして『能力追跡』でこんなことできるのか

とか色々考えて禁書を読むと結構たのしいのです
287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/02(水) 18:13:58.65 ID:aNuunpbSO
むぎのんあっけなかったな……
288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/05/02(水) 21:51:59.61 ID:o9nf3NXmo
麦野ではHAMADURAには勝てない
289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/03(木) 00:23:28.72 ID:FOSNi64+o
それができるかどうかはあんまり問題ないんだけど
それを浜面に使用するより自分に使用すれば(ry
290 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/03(木) 21:14:24.33 ID:t7IHVUzSO
確かもっと覚醒すれば能力に干渉してレベル操作可能ってあったよね、ロシア編で
291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2012/05/04(金) 16:18:35.19 ID:xQv2/lxT0
楽しかったのです
乙ゥ
292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/04(金) 18:22:16.78 ID:z+sp/wpZo
別に浜面に生き残ってほしいなんて思わないんだけどね
293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/05/05(土) 13:21:14.38 ID:PEB8XU4i0
追いついた・・・って、あれ?待って、結局答えは!?
294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/05/05(土) 13:39:10.04 ID:9MSEVDSg0
いつの間にやら来てた乙!
295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県) :2012/05/05(土) 16:25:32.98 ID:tGYc5awX0
乙でした!
296 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/05/23(水) 19:53:14.68 ID:cMKsPun4o
まだかなー
297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/24(木) 10:57:27.29 ID:zXExjTiio
まだかねー
298 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/05/27(日) 12:24:24.78 ID:q86qJ9/Qo
まだかにー
299 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/05/29(火) 10:03:44.96 ID:TgmGgj/Mo
まだかのー
300 :名無しNIPPER [sage]:2012/05/29(火) 17:29:32.88 ID:KConPBmAO
まだだなー
301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/06/07(木) 11:05:19.70 ID:MFhwuIoy0
まだかにゃー
302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/06/07(木) 23:56:02.26 ID:6EmTNsAIO
まだかにゃーン
303 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県) [sage]:2012/06/08(金) 00:16:27.51 ID:4qCR5HLAo
>>302
[ピーーー]ks
304 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/08(金) 10:38:52.20 ID:0Pdf6ZDHo
この演算能力の強化って多分、仮想領域であったとしても最低限演算に使えるように他人のAIM拡散力場のフォーマットを書き換えるか無理やり受け入れさせる必要があるからある意味幻想御手のようなことをしているのでは?まぁ短時間だから大丈夫だろうけど
まぁ滝壺の能力が能力追跡のようにある程度能力に干渉できるのであれば可能だろうけど、AIM拡散力場を乗っ取って更にそこからフォーマットを変えて浜面のAIM拡散力場のフォーマットに変えるわけだから滝壺に相当な負担がかかると思うんだけど。
そいういえば幻想御手で一時的に能力が上がった人の能力って若干上がっているから多分浜面もレベル1ぐらいにはなっているんじゃないかな?ここの描写だと単に浜面の演算能力不足がレベル0という結果を出しているわけだから。
305 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/06/08(金) 11:43:40.04 ID:qBc39eDh0
>>304
長ェンだよ三行で書いてくれ
306 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/08(金) 16:41:40.83 ID:0Pdf6ZDHo
>>305
擬似的な幻想御手
滝壺か浜面
脳がアボン?
307 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/06/08(金) 19:09:34.04 ID:im3E+AH0o
>>304
というか滝壺の能力は能力追跡だし浜面が強能力者になったとも書いてあるんだけど
文ちゃんと読めよ
308 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/06/09(土) 04:57:12.20 ID:UQU0Ef+zo
>>307
だから、他人のAIM拡散力場の演算領域を他人から乗っ取って一時的に上昇させるなると意味合いとしては
幻想御手のような脳波ネットワークを作るようにとまでは行かないだろうけど最低限フォーマットは合わせないといけないから
となると、必然的に無理やり合わせて浜面の脳に負担をかけるか、フォーマットを書き換える滝壺の方に負担がかかるかの
どっちかだと思うから。となるともし滝壺の方に負担が行っているとしたら普通よりも早く倒れるんじゃないのかな〜と思って。

それと浜面が強能力者になったのは滝壺のAIMストーカーで麦野のAIM拡散力場の演算能力を一時的に乗っ取って演算能力を上げているだけだから常時強能力者ではないし。

で、幻想御手の後レベルが上昇したということがあるらしいから。ここの描写では単純に浜面の場合は演算能力不足だっただろうから能力を使えたということは
自身の能力も理解できただろうからと言うことは自身のパーソナルリアリティも理解できただろうからある程度演算の効率化も出来てレベルが上がっているんじゃないかな〜と考えただけ。
309 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/06/09(土) 09:25:13.82 ID:/vYhgKZPo
>>308
幻想御手の後でレベルが上がったのはごく一部だけだしそいつらは元からちょっとは演算できていた奴ら
浜面の場合元から演算領域が狭すぎたんだから、演算しようにもできないわけだ

負荷云々はわからん、そこら辺は推測の域を出なくなるから
310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/06/09(土) 16:02:58.35 ID:VcBCBIZLo
来たかと思ったのに!来たかと思ったのに!
311 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/09(土) 20:25:06.72 ID:lUS53vfoo

     ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞


心理定規の少女の近くに行け。

というのが、ナンシーに与えられた任務であった。
どこにいるのかと尋ねると、この病院だと教えられた。
驚いたことに、すぐ近くにいたらしい。

「この病院には垣根がいる。あいつも『スクール』だからな。何かと世話を焼くことがあるんだろ」

「行って何をするんですか?」

「多分向こうから接触してくる。聞かれることには適当に答えていい。本当の事を喋っても構わねえ」

「? ただお喋りして来いってことですか」

「そうだ。ついでに話の流れで一つ情報を漏らしてやれ」

「はあ……何を教えてやればいいんでしょう?」

ベッドから上半身を起こしたリーダーは、病室窓から日の暮れた外の景色を眺めていた。

視線をそこから動かさず、木原はナンシーに向けて指示を出す。

「もうすぐ『猟犬部隊』のリーダーの命を狙って、『アイテム』のフレンダって女がこの病院を襲撃する。無関係の患者も爆撃に巻き込まれる可能性があるってな」

窓の外の向こう側には、病院の入り口へ真っ直ぐ伸びる一本の長い道と、軽やかな足取りでそこを歩く金髪の少女の姿が見えていた。
312 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/09(土) 20:25:48.09 ID:lUS53vfoo

     ――――――――――――――――――――→


夜になっていた。

怪しげな黒ずくめの男を締め上げて事情を知ったフレンダは、『アイテム』の後を付け回していた組織を壊滅させるべく動いていた。

大した仕事だとは思っていなかった。
相手は学園都市の暗部組織のひとつらしいが、能力者もいないし、主な任務が人探しらしいしで、『アイテム』と同格以上とは思えなかった。

そんな小物のもとへ一人乗り込むことよりも、『アイテム』に舐めた真似をした連中を放置して麦野に怒られる方がよほど恐ろしかった。

彼女は夜道を歩いてる。

向かう先は、敵のボスがいる病院だった。
なんでも、ボスは大怪我をして入院中らしい。
包帯ぐるぐる巻きの状態で人に喧嘩を売ろうというのだから大胆である。

日付が変わる前に片が付くだろう。
フレンダは気軽に構えていた。

そして、その予測は当たっていた。
313 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/09(土) 20:26:26.15 ID:lUS53vfoo

スキップ混じりに病院に近づくと、さてどうやって爆破しようかと考える。
病院は寛大な施設だ。中に入るだけなら誰でもできる。
問題は警戒中の部下たちをどう蹴散らすか、だが……

「こんばんは」

突然、後ろから声をかけられた。

知らない女だった。

フレンダは相手に向き直り、女をもう一度観察する。
やはり、どう考えても、どう見ても、知らない女だった。

アップにした金髪に、真っ赤で派手なドレス。
年齢はフレンダより二つか三つ下に見えるが、大人びた化粧をしていて――

「何て言うか、オミズ?」

「近いバイトはしてるかもね。興味があるなら今度詳しく話してあげる。それより」

にこにこ笑いながら、ドレスの女が近寄って来た。

だが、フレンダは何故か警戒心を抱かなかった。

この子なら、別に平気。
私に悪い事なんかする訳ない。

出会って三十秒なのに、どういう訳か彼女を信頼していた。
314 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/09(土) 20:27:08.91 ID:lUS53vfoo

目の前まで来たドレスの少女は、フレンダの手を握って、上目遣いでこう言った。

「あなたのお名前は?」

聞かれて答えないのも何なので、フレンダは答える事にした。

「フレンダ」

「うん。フレンダ。かわいい名前だね」

名前を聞いてにっこり笑ったドレスの少女は、さらに質問を重ねる。

「フレンダはこの病院を襲いに来たのかな?」

別に知られて困るほどの情報でもないので、教えてやる事にした。

自分達のチームにちょっかいを出している連中がいる事。
そのリーダーがこの病院にいる事。
頭を潰すためにこの病院を襲うつもりでいる事。

にこにこ聞いていた少女は、一度こくりと頷くと、真剣な目つきでフレンダを見詰めた。
フレンダは、「話を聞いてやらなきゃいけない」という気持ちになった。

「お願いがあるの。この病院を襲撃するのは、やめてもらえないかな?」
315 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/09(土) 20:28:01.57 ID:lUS53vfoo

「お、ねがい? なんで私がアンタのお願いなんか聞いてやらなきゃいけない訳……?」

少女の瞳はフレンダを捉え続けている。

フレンダは目を逸らせないでいる。
大事な話の最中だから。

「この病院には私の大事な人が入院してるの」

少女が言った。
フレンダは頷いた。

「ひどい怪我してずっと眠ってる」

少女は悲しげだった。
フレンダも少し悲しくなった。

「フレンダが病院丸ごと襲撃したら、巻き込まれちゃうかも知れないから」

必死に訴えて来る少女。

襲撃を決行すると、この子を悲しませる事になる。

でも――

「やらない訳にはいかない訳よ。ここまで来て敵を見逃したら、ウチのボスが黙ってないから」

フレンダは、何故か普段は絶対に頭の片隅にも浮かばない「罪悪感」というものを覚えながら、少女に告げた。

「なるべく、あんたの大事な人の病室には迷惑かけないようにするからさ」

そう言って、少女の横を通り過ぎようとした。

少女はフレンダを呼び止めた。
316 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/09(土) 20:28:30.91 ID:lUS53vfoo

「フレンダ」

呼ばれて無視するのも気が引けるので、フレンダは止まってやる事にした。

「何?」

「それじゃ、別のお願い。もっと簡単なのがあるの。聞いてくれる?」

話くらいは聞いてやってもいいと思ったので、フレンダは頷いた。

「後ろ、向いてくれないかな?」

「ん? 後ろ? 何で?」

彼女は、フレンダに少女の反対側を見るように要求して来た。
理由を尋ねても答えない。

「信じて。私は何もしないから。ちょっとだけ後ろ向いて、じっとしてて?」

「何だか分かんない女相手に背中晒せっての? 結局、やる訳ない訳よ」

「大丈夫。私はフレンダを裏切ったりしない。わかるよね?」

「……」

分からない。

分からないのに。

この子からの信頼を裏切りたくない。

初めて会った他人なのに。

「本当に……何もしない?」

「うん、約束するよ」

フレンダは後ろを向いた。
317 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/09(土) 20:29:03.22 ID:lUS53vfoo

約束するよ、と彼女は言ったのだが。

約束など守るはずもなかった。

彼女は赤いドレスの胸元から、黒光りする物体を取り出した。

女性用の拳銃だった。

フレンダは彼女を信じて後ろを向いている。
じっとしている。

ピストルを構えて引き金を引けば、止まった的など簡単に撃ち抜ける。

「ありがと、フレンダ……ごめんね」

人差し指が引き金を引いた。

華奢な体が吹き飛んだ。


ドレスの女の。
318 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/09(土) 20:29:43.25 ID:lUS53vfoo

     ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞


任務を終えて木原の病室へ戻る道すがら、ナンシーは一方通行とすれ違った。
トイレに行く途中らしい。

「一方通行」

「ンだよ」

何もしていないのに睨まれるナンシー。
一方通行は虫の居所が悪いらしい。

「あんた、知ってる? 『アイテム』のフレンダがこの病院に向かってるんだって」

「あァ、木原を制裁するつもりらしいなァ」

「絹旗も向かってるんだって」

「そォかよ……」

一方通行はポリポリと頭を掻いた。

『アイテム』の残党が木原を狙ってここへ向かっているという話を聞いてから、彼はずっと落ち着かなかった。

「相手はたった二人だけど、一人は能力者だし、ついさっきスキルアウトの集団を丸ごとぶっ潰した実力者だもんねえ」

「何が言いてェンだよ」

一方通行がいらいらと尋ねると、ナンシーは顔をあげて言った。

「はっきり言うけど、あの子たちが病室まで上がってきたら、猟犬部隊の隊員だけじゃ木原さんを守りきる自信はない」

その声は真剣だった。
一方通行の表情が苦々しげに歪む。

「もう外まで来てる。すぐそこよ。あんたが闘いたがらないっていうのは知ってるけど――」

ナンシーは、しっかりと一方通行の方を見ていた。

「木原さんが何で猟犬部隊と無関係のあんたを呼んだのか、分かってるんでしょ?」

「……チッ」

ナンシーは真剣だった。
少年は何も答えなかった。

そして、見詰めるナンシーを無視して足を動かす。

彼は病室ではなくトイレでもない方向へ歩いていった。
319 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/09(土) 20:30:40.56 ID:lUS53vfoo

     ――――――――――――――――――――→


「あ? は? ええ?」

背後の轟音に驚き、フレンダが約束を破って振り返った。
そして、それに対して何の罪悪感もない。

彼女が振り返った先には、年下のドレスの女よりさらに小さな少女が立っていた。

「――き、絹旗」

「超甘いですよフレンダ。敵の能力にまんまと嵌ってどうするんですか」

『アイテム』の仲間、絹旗最愛が、その能力でドレスの女を叩き伏せていた。

倒れる少女の手には拳銃が握られている。
どう考えても撃とうとしていたのだ。フレンダを。

「『スクール』とかいう超暗部組織の一員です。自分と他人の『心の距離』を操って、他人と強制的に超仲良しになったり出来るようですね」

絹旗の説明ではフレンダにはよく分からなかったが、何となく、ドレスの少女が催眠術のような能力を駆使していたらしいことは理解できた。

「結局、私は撃たれるところだった訳……?」

「アレで撃たずに帰ったらとんだ茶番だったでしょうね」

ため息混じりに言って、肩をすくめる絹旗。
フレンダは突然駆け出し、その小さな肩を抱きしめた。

「ちょ、いきなり何ですか!? 超離してください!」

「いやーん! モアイちゃんチョーサイコーな訳よ! ありがとー!!」

「誰がモアイですか。超叩きつぶしますよ」

飛びついてくるフレンダを鬱陶しそうに振りはらい、絹旗は改めて病院を見上げた。

「さて、超さっさと仕上げてしまいましょう。邪魔者は超排除しておかないと、麦野に超お仕置きされてしまいますからね」

「オッケー。絹旗がいれば楽勝な訳よ」

「調子いいんですから」

小さな口から、小さなため息が漏れた。
320 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/09(土) 20:31:27.59 ID:lUS53vfoo

真っすぐ歩いて、一分。

病院の正面玄関。

その脇に、白髪の少年が立っていた。

少女たちが近寄ると、ゆらりと動いてドアの前に立ちふさがる。

「お願いがあるンですがァ」

無関係の一般人ではない。
明らかに敵意のこもった瞳で、彼はフレンダたちを見据えていた。

「このびょォいンを襲うのはやめてもらえませンかね?」

赤い女の次は白い男だ。

「やれやれ……超面倒な病院ですね」

「猟犬部隊の子分か何か? ま、結局絹旗なら一ひねりな訳よ」

「さりげなく私にやらせようとしないでくだい」

フレンダを睨みつけながら、絹旗が臨戦態勢に入る。
釣られてフレンダも身構える。
少年の姿勢は悪かったが、目付きが戦闘用のそれに変わった。

本日最後の戦闘が、静かに始まった。

フレンダの最初の予測どおり、日付が変わる前に片が付く勝負である。
321 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/09(土) 20:32:00.33 ID:lUS53vfoo

     ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞


三人の戦闘が始まったのを、ナンシーは物影から見届けた。

他の人間が近くにいない事を確かめて、そっと胸元から携帯端末を取り出す。

ボタンを操作し、いずこかへと発信した彼女は、端末を耳に充てて数秒待った。

じりじりと反応を待つ。

相手が出た途端、挨拶も抜きに彼女は言った。

「番犬君は引っぺがしたわよ。リーダーは今無防備」

ナンシーは周囲をもう一度見回し、それから病室の方を見上げる。

相手が何か言った。
彼女は答えた。



「いいえ。でもその代わり、私の身の安全は保証してくれるんでしょうね?」


322 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/09(土) 20:33:02.70 ID:lUS53vfoo

     ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞


『スクール』最後の一人が倒れて、

『アイテム』の残りの二人も倒れて、

猟犬部隊の任務が無事完了したのと同時刻。


「おとなしくするじゃん! テロ組織『猟犬部隊』!」


内部の裏切りばかり警戒していたため、こんな普通の脅威が現れるとは思っていなかった。

突然、ドタドタと慌ただしい足音が聞こえて来たかと思ったら、武装した警備員が大勢木原の病室に乗り込んで来たのだ。

「な、警備員!?」

「俺達がテロ組織だと……?」

『猟犬部隊』の部下たちは、しばしぽかんと呆けていた。

そしてはっと我に返ると、我先にと窓から外へ逃げて行く。
323 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/09(土) 20:33:45.97 ID:lUS53vfoo

当然だが、動けない木原を担いで行こうという者など一人もいない。
木原が彼らの立場でももちろんそうするだろう。
だが自分がそれをやられると腹が立つのはなぜだ。

しかし、薄情な部下たちの逃走も無駄なようだった。病室は窓の下も含めすべて包囲されている。

一方通行は帰って来ない。どうやら部下の誰かにハメられたようだ。大体誰だか想像が付いたが。

手詰まり。

今逃げることは考えなかった。

木原の頭にあったのは、今回の奇妙な任務の内容――『グループ』以外の壊滅を見届ける事。


「『猟犬部隊』も壊滅って事か……アレイスターッ!!」


銃を構えて近寄って来る警備員を睨みつけながら、
木原はこの場にいない人物の名を叫んでいた。


324 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/09(土) 20:34:39.27 ID:lUS53vfoo





               →レシピ5...おわり




325 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/09(土) 20:35:11.03 ID:lUS53vfoo

つづく。

木原、アウトー

326 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/09(土) 20:37:36.28 ID:nYtnx+EUo
/デデーン\

乙。
327 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/09(土) 20:52:00.72 ID:BM+9mF04o
いいな
328 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/06/09(土) 21:58:06.76 ID:IsUM1C+Yo
329 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空) [sage]:2012/06/09(土) 22:12:14.77 ID:B93pUTNN0
やだ、ドキドキする
330 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/06/09(土) 22:33:44.93 ID:TFTAyt1AO
この発想は無かったww
331 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/06/09(土) 22:41:15.65 ID:eZJIS5wKo
おつ
332 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/06/10(日) 01:09:08.55 ID:wArhZu3No
乙ー
333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/06/10(日) 03:23:07.45 ID:fO+MUsBD0
乙ー
334 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/06/10(日) 07:29:17.49 ID:vccMiEkJo
乙ー
335 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2012/06/10(日) 14:01:37.23 ID:UO8sUcHVo
オツーン
336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/06/11(月) 00:36:10.70 ID:ENgbanv70
乙ー
337 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/13(水) 23:17:13.53 ID:HNv0iK95o





               ∞おやつ@:調書の山




338 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/13(水) 23:19:00.09 ID:HNv0iK95o

『おーっす、帝督。シャバの空気はどう?』

『何がシャバだ。俺は退院しただけだ』

『もうちょっと健康ってものを喜べって。ところでお願いがあるんだけどぉ』

『断る』

『は、早!? 聞くだけ聞いてくれてもいいじゃん!?』

『テメェの頼みなんざ嫌な予感しかしねえし、俺は誰の指図も受ける気はねえよ』

『まーまー、つっぱってないでたまには人の役に立つじゃん。あの子をウチで預かってるのは知ってるな?』

『……あのガキがどうした』

『先生は今日も残業で遅くなるから、家に一人で待つあの子の世話を頼みたいんだけど』

『断る』

『いやいやいや、夜に一人は本当に危ないじゃん! あの子すぐふらふら出歩こうとするし、気が気じゃないじゃんよ』

『他を当たれ。そもそも警備員が残業だと? 夜勤の奴に押し付ければいいだろ』

『私の仕事は私がやるじゃんよ。……けど、この調書の量はちょっとめげそうになるじゃんよ……』

『調書だ?』

『つい最近とっ捕まえたテロ組織のリーダー、調べれば調べるほど余罪がバカスカ出てきて、どれから送検したらいいか全然分かんないじゃん』

『……テロ組織のリーダー、ね』

『罪状が確定しないから未だ勾留扱い……なんだか調書に時間稼ぎされてる気分じゃん……』

『ふーん』

『というわけだからさ、一つ頼むよ、帝督』

『勝手にこの垣根帝督を名前で呼ぶな。大体あのガキは俺を嫌ってるだろう』

『ん? そうでもないじゃん。お前が意識不明でぶっ倒れてる間、あの子はずーっとお前のお見舞いに行ってたじゃんよ』

『…………』

『おやー? 感動した? じゃ、その心に芽生えた新しい気持ちを携えて、夕飯の世話頼むじゃん』

『ふざけんな。誰が行くか』

『そういうわけでよろしくじゃーん。しっかりやれよ、帝督!』

『お、おい!? 待っ――』



「……あの女、切りやがった」
339 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/13(水) 23:19:28.69 ID:HNv0iK95o





               ∞おやつ@...おわり




340 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/13(水) 23:20:09.53 ID:HNv0iK95o

つづくんじゃーん
341 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/13(水) 23:25:25.19 ID:ewLdsqqNo
乙じゃん
342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2012/06/13(水) 23:27:32.72 ID:4hQgzfA2o
おつたたた
343 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/06/14(木) 22:11:28.76 ID:w6SyquCDo
344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) [sage]:2012/06/14(木) 23:40:11.65 ID:rSr6bfqg0
乙でしたたた
345 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県) [sage]:2012/06/15(金) 00:22:12.73 ID:ipHt4Ggjo
乙じゃん
346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/06/15(金) 00:29:49.38 ID:PdnAKTnAO
乙じゃんじゃーん
347 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空) [sage]:2012/06/15(金) 02:04:11.77 ID:sp/OBDdA0
乙じゃん
348 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/06/16(土) 19:59:34.65 ID:ySYUIaZno
乙レス
349 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/17(日) 18:22:27.25 ID:Q/mnw9Igo





               →レシピ6:ゆとりある新人教育




350 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/17(日) 18:23:17.98 ID:Q/mnw9Igo

学園都市の第七学区に、「窓のないビル」と呼ばれる建造物がある。
一般に出入り口と呼ばれるようなものが一切ないビルで、出入りするにはレベル3以上の空間移動系能力者の協力が必須である。

このビルの、どこかの階の、どこかの部屋に、学園都市の統括理事長アレイスター=クロウリーが浮かんでいる。

特別に任命された空間移動系能力者の「案内人」に連れられた者だけが、統括理事長が逆さに浮かぶ巨大ビーカーの前に立つ事が許されるのだ。

学園都市の暗部組織『グループ』でブレーンの役割を担う土御門元春は、この日窓のないビルの内部で、統括理事長を前にしていた。

アロハシャツにサングラスというラフな出で立ちで。
351 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/17(日) 18:25:28.76 ID:Q/mnw9Igo

     ――――――――――――――――――――→


「仕事の方はどうだね」

土御門の仕事といえば学園都市の反乱分子の壊滅などが主であり、すなわち人殺しの首尾はどうかと尋ねているのだが、統括理事長は気軽な調子である。
対して、土御門は不機嫌だった。

「最悪だ」

「最悪か」

これは意外といえる回答だった。
発足以来、『グループ』が仕事を仕損じた事はない。
暗部の仕事が順調というのも手放しで喜べたものではないが。

「やる事はやってるさ。だが鉄網の後釜が絶望的に使えない。人の足ばかり引っ張りやがる」

吐き捨てるように言い放つ土御門。
アレイスターは笑っているとも怒っているともつかない表情でそれを眺めている。

「そうそう。『グループ』にはつい最近新入りを補充したのだったな。彼は使えないか」

「想定範囲外の使えなさだ。推定レベル4だと? 胡散臭いのを寄越しやがって」
 
「最新式の測定期を騙すくらいには高いスキルがあるという事だよ。
 ついこの間まで普通の学生だったのだから、公にできない仕事が不慣れなのは多少仕方ないだろう」

「慣れの問題じゃないと思うがな」

何かを思い出すように、アロハシャツの高校生は苦々しい顔をした。

「ほう? ならば何が問題なのかね」

「聞きたいか? じゃあ教えてやる」

サングラスの奥の瞳がぎらりと光る。

彼は今、使えない新人のせいで溜まりに溜まった鬱憤を晴らそうとしていた。
352 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/17(日) 18:33:40.75 ID:Q/mnw9Igo

「奴のデビュー戦は『雑貨稼業(デパート) 』の抹殺だったんだが」

「武器の横流し、身分証明書の偽造、人身売買……調子に乗りすぎて許容されるラインを踏み越えた男だったかな」

「それだ。本人にゃ大した戦闘能力もないし、ボディーガードがいるって訳でもない。
 そこまでの下調べは終わらせといて、客を装って近づいてさっさと片づけるって役をあいつにやらせてみたんだよ」

「実力的には出来るはずだな。人殺しに日和ったか」

「腰が抜けただけならまだかわいげがあったんだがな」

「かわいくない失敗をしでかしたと。潜入は上手くいったのか?」

「そこまではな。ターゲットも疑わなかったよ。で、奴の店兼根城に足を運んで、新入り君は見てしまった訳だ」

「何をだね」

「『雑貨稼業』の店に、奴が趣味で飼ってた女の子がいたんだよ」

「女の子?」

「天井から裸で吊してサンドバッグ扱い。ちょっといたずらした一般生徒か何かをどっかから取り寄せたらしい。
 サディスティックな趣味を持った変態野郎だった訳だ」

「ふむ。それで新入りはショックを受けたという訳か?」

「ショックを受けたのかどうかは知らないがな。奴は余計な事をしてくれた」

「余計な事とは?」

「『雑貨稼業』の野郎を縛り上げて、裸で天井から吊しやがったんだよ」

「……それはその、飼われていたという女子生徒と同じ状態にしたという事か?」

「野郎の顔に油性マジックで落書きっつーオマケ付きでな」

「凝り性だな。それだけで大分時間をロスしているだろう」

「だから余計な事だっつってんだよ」

「確かにな」

「しかもちょっと上手ぇんだよ」

「上手いのか。落書きが」

「ターゲットの顔でアートしてんじゃねえよ」

「上手い方が余計に腹が立ちそうだな」
353 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/17(日) 18:35:03.93 ID:Q/mnw9Igo

「それだけじゃない」

「ターゲットを吊して落書きして、まだ余計な事ができるのか?」

「奴は殺さなかった」

「……それは問題だな。任務は失敗したのか」

「そうじゃない。俺が様子を見に行って片を付けたよ。その時の言い訳に呆れたんだ」

「何と言ったのだ?」

「『え? "まっさつ"って、擦るって事じゃねェの?』だとよ。犯罪者ゴシゴシ擦ってどうすんだよ!」

「"摩擦"と"抹殺"……か……? 擦ったのか? 『雑貨稼業』を……」

「一生懸命擦ったんだとよ! 野郎の全身を!」

「それはもしかして"抹殺"と"マッサージ"も掛かって……いや、まさかな……」

「それ以上は言わないでくれ!」

「わかった」

「それで――吊して――落書きして――擦った――挙げ句に――」

「落ち着きたまえ。呼吸が乱れているぞ」

「大きなお世話だ。まだあるんだよ」

「まだあるのか?」

「あるんだよ! すべての仕事を終えたと思ったあいつは、俺に連絡を寄越した。終わったら呼べって言っておいたからな。
 で、呼ばれてのこのこ行ったよ俺は。ターゲットはまだ生きてるし吊されてるし顔は芸術的にデコられてるし摩擦で全身真っ赤だしで言葉を失ったがな」

「それは……大変だったな」

「忘れられねえよ、あの時のあいつの『ひと仕事終えました』って感じのドヤ顔は」

「さぞ腹立たしかっただろうな」

「俺はその場で説教かましたよ。これじゃ任務は失敗だとな。あの野郎は聞いてんだか聞いてないんだか分からん顔してたけどな」

「まずは現場を離れた方がいいと思うが……まあ、仕方ないか」
354 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/17(日) 18:36:13.53 ID:Q/mnw9Igo

「そしたらトドメが来たんだよ」

「来た? 何が来た?」

「救急車だよ! あの野郎!! 救急車呼びやがった!!」

「きゅ……なぜだ?」

「知らねえよ! 吊されてた女の子を助けようとしたのかもしれんがな! あんな場面に一般の救急車なんか呼んで何が起こると思ってんだ!」

「当然大騒ぎだな」

「ピーポピーポ言いやがって、『雑貨稼業』の店に近づいて来るんだよ! サイレンの音が段々デカくなるんだよ!
 そんであいつを見たらまた『呼んでおきましたよ』って感じのドヤ顔なんだにゃー!!」

「それで……どうやりすごしたのかね……」

「さっきの通報はいたずらでしたって言うしかねえだろ。俺が出てって頭下げたよ。超怒られたね。超怒られたね!!」

「彼は一緒に謝らなかったのか?」

「一瞬目を離した隙に逃げやがったよ……ッ! 何よりむかつくのが……ッ! あの野郎! 全部確実にわざとやってやがるんだ!!」

「落ち着きたまえ。震えているぞ」

「放っといてくれ。あの白髪を思い出しただけで勝手に体がバイブレーションするんだよ。出来れば別のメンバーに替えてもらいたいとこだ」
355 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/17(日) 18:37:07.84 ID:Q/mnw9Igo

「残念だがそれは出来んな。それに、『迎電部隊(スパークシグナル)』の件ではそれなりに活躍したそうじゃないか?」

「子供を人質に取って暴れたクズ共のやつか? 確かに大勢を相手に一網打尽にするにはかなり役立ったな。
 相手が武装してたから、あいつは一人真ん中に突っ立てれば終わりだった」

「ずいぶん荒っぽいやり方だが、人質はよく無事だったな」

「あんなバカに人質付きのデリケートな敵の対処なんて任せられるか。人質と一緒にいた本隊は俺と結標がやった。
 あいつと海原には外にいた補助部隊をやらせたんだ」

「まさか敵のために救急車を呼んだりはせんだろうな」

「それがだな……」

「まさか、通報したのか? 君から散々説教されたのに……?」

「戦闘でだな……相手が銃火器を使ってだな……」

「……」

「近くにあった植木鉢が……燃えてだな……」

「消防車か……」

「消防車だ……」

「『迎電部隊』を倒し、人質は無事解放し、消防車が出動か」

「俺は海原のあそこまでキレた顔を初めて見たよ」

「彼はいつもにこにこしているからな」

「『微笑んでるけど目は笑ってない』ってのはああいうのを言うんだろうな」

「機会があれば是非見てみたいものだ」
356 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/17(日) 18:38:24.60 ID:Q/mnw9Igo

「『迎電部隊』といえば……奴らは何を要求してあんな事をしでかしたんだ?」

「ほう。急に真顔になったな。この流れに持ってくるのが世間話の目的かね?」

「ここへ呼び出したのも話を振ったのもあんたのはずだ。
 どうなんだ? 人質を取ったテロ組織を警備員に対処させずに暗部組織に潰させたのは、奴らの要求がおおっぴらに出来ないからじゃないのか」

「もしそうだったとして、私が君に本当の事を話すと思うかね?」

「嘘でもいいぜ。そこから読みとれる情報もある」

「……」

「……」

「では、信じるかどうかは君の判断に任せるとしよう」

「相変わらず気味が悪いほど素直だな。カマのかけがいがない」

「君との言葉遊びは心地よいが、いつまでもやっている訳にはいかないのでね。
 一つ仕事を頼みたいと思っている。それこそが、『迎電部隊』が命掛けで欲しがっていた情報と直接関わるのだが」

「随分と上手い具合に話がすすむじゃないか」

「『迎電部隊』が狙ったタイミングが今回君達に任せる事になった仕事と被るのは不自然ではないさ。
 何しろ任せる仕事が文書の運び屋で、彼らが狙ったのはその文書に書かれた内容に関連するのだから」

「……運び屋?」

「そう。君達には、近々学園都市に運ばれる荷物を守り抜いてもらいたい」
357 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/17(日) 18:39:33.05 ID:Q/mnw9Igo

「近々、というと……」

「正式な日程は決まっていないが、今月中に第三次世界大戦が開戦する。学園都市は宣戦布告に応じる形で参戦する事になる」

「その事態を避けようという気はない訳か」

「これでも何度か話し合いの場を設けようとはしてきたのだがね……どうも相手が応じてくれない」

「向こうもそう思ってるんだろうさ。それで『近々』、荷物が学園都市に運ばれる事になるのか?」

「そういうことだ。戦乱に乗じてある魔術的な文書を奪取する。アタッシュケースに入れられるはずだ」

「魔術的な……」

「どこで嗅ぎ付けたか、『迎電部隊』もアレの存在と重要性に気付いたらしくてね」

「文書の事か?」

「いや、そこに書かれた内容の事だ」

「何が書いてある」

「それを君が知る必要はないが……そうだな。扱いづらい新入りを育ててもらっている事だし、駄賃として一つ教えてやるとしよう」

「勿体ぶるんじゃねえよ。一体何が書いてある」

「『ドラゴン』。それを解き明かすのに必要な知識が記されている」

「……ドラゴン……?」

「これ以上は自分で考えたまえ。さて、私が君だけを呼びだして伝えたかったのは、これから頼む仕事がどれほど特異かつ重要であるかという事だ。
 分かってもらえたかな」

「『グループ』には魔術を理解している奴がもう一人いる。海原にもケースの中身については語るなという事か?」

「君が話したいならそうして構わんよ。後にオペレーターから正式に依頼がいくと思う。それまでは好きに調べ回るといい」

「……」
358 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/17(日) 18:41:08.92 ID:Q/mnw9Igo

それ以上の会話は続かなかった。

部屋にはもう一度案内人が呼び出され、土御門は窓のないビルを後にする。

彼は学園都市にいいように使われている身だった。
もともとは優れた魔術師だったが、学園都市に潜入して能力開発を受け、その力を行使する事ができなくなった。
学園都市には彼の義妹がいて、今のところ何の不自由もなく優秀な学生としてごく普通の学園生活を送っている。
だが、土御門が不穏な動きを取れば、すぐにでも人質に取られてしまうだろう。

アレイスターの口から出た「ドラゴン」という言葉について、彼は考えを巡らせる。
学園都市の弱点となる情報なら、彼自身も喉から手が出るほど欲しかった。
だが、当の学園都市の頭がああもあっけらかんと暴露してくれるのだから、土御門がそれを知っても統括理事長には何のダメージもないという事だ。

だが。

次の指令は「ドラゴンの情報の入ったアタッシュケースを守ること」。
つまり、一時的にそれが手に入る。

簡単に開く鍵ではないが、手だてがゼロという訳でもない。
幸い準備期間もありそうだ。
359 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/17(日) 18:42:31.93 ID:Q/mnw9Igo

     ――――――――――――――――――――→


『グループ』の新入りが好き勝手に任務を滅茶苦茶にしていた頃。

ある小さな家庭で、小さな事件が起きていた。



「おーい、最終信号。そろそろご飯だから、テーブルの上片付けるじゃん」

親代わりの女性が、見た目十歳ほどの少女に声を掛ける。

「帝督も来るから、ちゃんときれいに……」

教員用のマンションのキッチンから、彼女は少女の部屋を覗き込んだ。
少女は部屋の真ん中で突っ立ったまま、俯いて動かない。

「最終信号? どうした? 具合でも悪いの?」

「ううん、大丈夫だよって、ミサカはミサ……カ、は」


そのまま、少女の身体は崩れるように床へ倒れて行った。
360 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/17(日) 18:42:59.11 ID:Q/mnw9Igo

     ――――――――――――――――――――→


世界は急激に動き始めていた。

十月十八日、ロシア連邦が学園都市に宣戦布告。

十月十九日、 第三次世界大戦、開戦。


小さな少女も、少年達も、無関係ではいられなかった。



361 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/17(日) 18:43:24.60 ID:Q/mnw9Igo





               →レシピ6...おわり




362 : ◆goBPihY4/o [saga]:2012/06/17(日) 18:44:12.26 ID:Q/mnw9Igo

つづく

「日和る」は若者ことばらしいけどまあいいか
アレイスターが若者ことば使ってもいいじゃないか


アレイスター「あげぽよ〜↑↑」
363 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/17(日) 19:06:50.07 ID:JB3lYWvSO
乙ぽよ

ロシア編キターー!楽しみだぜwktk
364 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2012/06/17(日) 19:13:47.37 ID:4+QPNOh9o
おつぽよ〜↑
365 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空) [sage]:2012/06/17(日) 20:13:38.09 ID:9oZe2Pqe0
乙ぽよ〜↑

一方さんのドヤ顔マジ最高!
366 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage saga]:2012/06/17(日) 22:01:32.57 ID:e0VgQJ3y0
久々の更新 乙!

ところで木ィ〜原君は退場で、今後の再登場予定は無しっすか?
367 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/06/17(日) 22:32:42.48 ID:SyJ3UdO3o
くぅ〜かっこいいぜぇ!アクセラレーター!
乙です
一方さんドヤ顔がwwww
368 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/06/18(月) 00:09:34.39 ID:8hNvSyyAO
乙ぽよ〜ドヤァ
369 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県) [sage]:2012/06/18(月) 01:22:55.36 ID:YoTTuzSd0
とりあえず絹旗との戦闘の描写書けよ
370 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/06/18(月) 01:25:14.59 ID:3sdzGzPeo
乙ぽよ〜↑
371 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2012/06/19(火) 18:00:45.98 ID:G37WcnAD0
乙ぽよォ〜
白髪の人w
木原くンのためにがんばってんのかな
372 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/19(火) 20:05:32.21 ID:WvKly09Wo





               ∞おやつA:彼の事




373 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/19(火) 20:06:40.43 ID:WvKly09Wo

世界を、とてもとてもとても高い位置から見下ろす者がいた。

悠久の時を漂う彼は、生きているわけでもなければ死んでいるわけでもなく、ただ存在する。
存在しない時もある。気まぐれな『何か』である。

彼は価値と興味を見出した相手と話をする。

果てしないほど久しぶりに世界へ現出し、さて誰にちょっかいを出してやろうかと彼が考えた時、候補に挙がった人物は四人だった。

みな一様にまだ年若い少年。しかし歳の割に背負うものは大きい。

まず、学園都市の第一位。

この街は世界を動かす物語の重要な舞台の一つだ。
その街で一番高い能力を持っているとなれば、一度話をしてみる価値はあるかもしれない。

だが残念ながら、その第一位は代理であった。

本来第一位になる予定だった人物が逃げ回っているせいで椅子が空いてしまい、
頂上が空席だとあまりにみっともないので座らされているだけなのである。

そう考えると、彼としてはわざわざ会いに行くほどのものでもないと判断せざるを得ない。

ではその本来の第一位になるべき人物の方はどうか。

これも却下である。何せ逃げ回って頂点に立つのを拒む腰ぬけだ。
確かに相当な可能性を内に秘めてはいるが、それが目覚めるにはまだ時間がかかるようだ。

芽吹いてもいない種に用は無い。

では次の一人。

これは、きっかけさえあれば主人公になれるが、なければただのエキストラ、という不安定な側面を持つ少年だ。

今のところエキストラのようなので、彼の興味はそちらへは向かなかった。


となると必然的に、最後の一人と話をしてみようという事になる。
374 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/19(火) 20:08:20.33 ID:WvKly09Wo

とある少年――ここでは仮にA君としよう。

A君は、どこかの真第一位とは違ってとても厚い人望を持っている。

何故かというと、それはひとえに彼の人格によるものであった。

歳は同じだし、背丈もほぼ一緒。

A君と白い少年には似通う部分も多々あったが、大体の部分においてA君の方が一歩か二歩ほど優れていた。

もやしっ子の真第一位と比べ、A君は健康的でがっしりした体つきをしている。
殴り合いのガチンコバトルならA君が十戦十五勝くらいの戦績を叩き出すだろう。

寮生活が長いから料理や掃除などの家事もひととおりできる。

良く笑い、素直に怒る。親しみやすくて、どんな人物ともすぐ打ち解けられる。

そして、A君は自分の心に真っすぐで、絶対に信念を曲げない。

おまけに、当然ながらというべきか、異性に非常にモテる。

特別容姿がいいわけではない。
よくある普通の顔をしたA君だが、その瞳に宿す強い輝きは、そこらのイケメンアイドルなんかよりずっと人を惹きつける魅力があった。

例の生っちろいのより、ずっと主人公を務めるのに相応しい人物である。

一応、単純な見てくれとIQだけなら白いのの方がやや上だという事にしておく。
375 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/19(火) 20:09:03.09 ID:WvKly09Wo

最も重要で、最も主人公にふさわしい人物。
四人も候補を挙げておきながら、実は最初から彼の心は決まっていた。
彼は最も完成された主人公であるA君の元へ向かう。

向かった先で何をするのかというと、相手を挑発して、向かって来たところをこてんぱんに叩きのめすのである。

いい迷惑だ。
選ばれなかった三人はラッキーと言える。

しかしA君は折れない。彼は非常に優れた主人公だ。
打ち負かされて地にひれ伏す羽目になっても、大切な少女を助け出すという目的を果たすため、再び立ち上がる。

何度倒されても、立ち上がる。
それが、A君がA君たる所以なのだ。

彼はその好奇心を少しだけ満足させる。

単純に、退屈なのである。
長い時間を生きて来た。大抵の事はもうずっと前に見聞きしてきたものと変わりない。

そんな中で、A君はそれまで彼が出会ったどんな現象とも違う何かを見せてくれる。

面白い人物だ。きっと、興味は尽きないだろう。

いつかまたこの少年の前に姿を現そう。彼は自然とそう思った。
376 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/19(火) 20:09:55.38 ID:WvKly09Wo

ところで、その他三人のおまけについてだが。

彼に選ばれなかった少年たちは、もう少し自分の力で這い上がらなければならない。



一つか二つ、何か足りないのだ。

377 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/19(火) 20:11:05.35 ID:WvKly09Wo





               ∞おやつA...おわり




378 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/19(火) 20:12:16.56 ID:WvKly09Wo

つづく。

>>366
出るよ。超出るよ。めっちゃ出るよ。出まくるよ。

>>369
バトルシーン書くの苦手なんすよ…
379 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空) [sage]:2012/06/19(火) 21:31:23.09 ID:KwPwzIzD0

木原くンはヒロインだからめっちゃ出てもらわないとな!
380 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/06/19(火) 22:59:52.29 ID:mI+ZEP0ao

381 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/06/19(火) 23:19:02.01 ID:AUCFKw1no
乙!
上条さんついに来たか!
382 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/06/20(水) 00:25:27.13 ID:rOQzXksAO

A君とは一体ダレナンダー
383 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/20(水) 00:39:21.80 ID:+QlVUz0DO
十戦中五戦もオーバーキルされるのか一方さんwww
乙です
384 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/06/20(水) 07:16:01.88 ID:qQKpqZ3+0
ガチンコで殴り合いバトルを“させてもらえれば”でしょ?
原作と違ってこの一方さんは慢心なんてしないだろうし、わざわざ体格スペック差のある相手を自分の懐になんて近づけさせないと思う。

実際バトルになったとしたら、一方的な遠距離レンジ攻撃で上条さんのほうが為す術も無くあぼ〜んじゃね?
385 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/06/20(水) 09:27:28.95 ID:e3JkCYhro
この一方さんだったらそもそも喧嘩せずに全力で逃走してくれると信じてる
386 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/06/20(水) 14:03:23.10 ID:/z/CBo7t0
そもそも戦う理由が無い
387 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/20(水) 17:11:32.64 ID:8iMug6qN0
確かに、ここの一方さんならまず逃げるだろうな。
相手が自分のことを殴ることが出来る、なんて知ったら絶対に逃げる。
もう相手が視界に入った時点で全力で逃げる。
388 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/21(木) 22:37:56.92 ID:zM/dYTOi0
でもヒロインに危害が加わったら本気出す
389 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/21(木) 22:50:00.16 ID:xPeGXMmSO
>>388
開始直後に本気出して灰翼発動とか無理ゲーじゃないですかー
ノーバウンドで吹っ飛ぶ上条さんが見えた
390 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/06/21(木) 23:02:03.44 ID:2tlPSCxto
ヒロインって麦のんですよね( ^ω^ )
391 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/21(木) 23:40:58.05 ID:EfpZydxHo





               →レシピ7:天使のレシピ




392 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/21(木) 23:43:47.40 ID:EfpZydxH0

十月某日。

先の人事異動で生き残った『グループ』は、学園都市の汚れ役として、元気に働いていた。

土御門、海原、結標、一方通行という四人の正規メンバーで構成される彼らは、
この日二手に分かれて行動をしていた。

一仕事終えた土御門・海原組は、結標・一方通行組との合流地点まで戻って来た。

『グループ』が普段から使っているキャンピングカーが、約束通り彼らを迎えに来ている。

そこに向かって並んで歩きながら、二人はしばし雑談する。
393 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/21(木) 23:46:06.48 ID:EfpZydxH0

「やれやれ。今日も朝帰りになりそうですね。……向こうのチームは上手くいったのでしょうか」

学園都市の外部に技術情報を持ち出そうとしていた組織と夜通し闘っていた海原は、
疲れているのかいないのか分からないような笑顔で言った。

隣を歩く土御門の表情も、サングラスに隠されて海原からはよく分からなかった。

「どうだかな。ミッションは完了したとは言ってたが、『上手く』いったかどうかは別問題だ」

特にあの新入りがいるし、と彼は言外に含ませていた。
海原は苦笑して答える。

「そうですねえ……彼は何というか、いかにもただのだらけた高校生という感じがするのですが、何が原因で暗部堕ちになったのでしょう?」

「あいつ自身は一般人で通してきたようだが、保護者がもともと暗部の人間だったらしい。その親代わりが捕まったんだ」

「では、もしかして……」

「処刑をダシにされた、という事なのかもな。俺はそこまでは聞いてないが」

忌々しげに、土御門は言った。

彼も、学園都市に義妹を人質に取られているようなものだ。
結標も大事な仲間を少年院に軟禁されている。
海原にしても似たような事情があるのだろう。

この街のやり方は、いつも同じだ。
シンプルで効果的。

あくまでも推定だが、レベル4の力をいいように使うため、学園都市は一方通行の保護者を罪人として捕えている。
散々暗部組織の一員として使い倒して来たにもかかわらずだ。

「ま、だからといって同情できる相手じゃないけどな」

何しろ使えない。

「そんな事を言わないであげましょうよ……」

相変わらず本音の見えない笑顔で、海原は土御門を宥めた。
394 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/21(木) 23:49:19.58 ID:EfpZydxHo

キャンピングカーの傍に到着した。
慣れた手つきでドアを開け、二人は乗り込む。

中では、最近加入した使えない新メンバーの一方通行が、シートを一列占有して寝ていた。
そして、向かい側でそれを嫌そうに眺めながら足と腕を組む結標の姿もあった。

「遅かったわね。こっちはとっくに終わったわよ」

一方通行と組まされた結標は機嫌が悪かった。
帰還した二人を見ようともしない。

「お疲れ。帰る前に、ついでに次の仕事の連絡だ」

「また? 今度は一体何なの」

「アタッシュケースの護衛」

結標は、組んでいた腕を解き、うんざりしたようにため息を吐いた。

「しけてるわねえ」

「作戦名はドラゴンレシピだそうだ」

説明を続けながら、土御門は寝ている一方通行の肩を掴んで引き起こし、壁にもたせ掛けて椅子にもう一人分のスペースを空けた。

乱暴に引っ張られてうっすら目を開けた一方通行は、小さく舌打ちしたが、すぐ壁側に顔を向けて眠り始めた。

海原は結標の隣ににこにこ笑いながら腰掛け、向かいに座る土御門に問いかける。

「具体的には?」

「ロシアで手に入れたあるモノを入れたアタッシュケースが学園都市に届く事になってる。二十八日深夜だそうだ」

答えて、土御門は言う。

「戦場から帰還した戦闘機はアタッシュケースを積んで第二三学区の格納庫に入る。
 中でそれを受け取って、第一二学区の研究所まで無事に荷物を届ければ任務は終了だ」

「そのアタッシュケースというのも、学園都市製のやたら頑丈な代物なんでしょうね」

「並の鍵師や能力者には解錠も破壊も無理だろうな」

「ふぅん……運び屋が中を見ようとしても手も足も出ないと」

結標が大して興味もなさげに呟いた。
395 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/21(木) 23:51:29.68 ID:EfpZydxHo

「だったら、戦闘機の戦士にまかせておけばいいんじゃない? どうせ駆動鎧(パワードスーツ)の化け物が乗ってるんでしょう?
 わざわざ『グループ』が出る意味が分からないわ」

駆動鎧とは、鎧のように身につけられる学園都市自慢の人体補助装置である。

普通の人間が着ただけで並はずれた身体能力を発揮できるようになる代物だ。
訓練された兵士とあらば、高位能力者でさえほとんど敵はいないだろう。

だが、土御門は首を横に振った。

「並の鍵師や能力者じゃない奴がその荷物を狙ってくる可能性があるらしい。
 だから駆動鎧の「いかにも」って感じの兵士を囮にして、裏で俺たちが運び出す訳だ」

「何者なのでしょう? 並の鍵師でも並の能力者でもない襲撃者というのは」

「さあな……そこまでは知らされてない」

海原の質問に首をすくめてから、土御門は改めて周囲を見た。

「詳しく説明するぞ……一方通行!」

座席で眠りこけていた白髪頭が、気だるそうに顔を上げた。

「……」

赤い瞳を眠たげに擦り、彼は身を起こして土御門の方へ目をやる。

「起きろ。次の仕事の説明会だ。今度わざとヘマしたら、お前の親も無事じゃ済まないぞ」

そう脅されて、一方通行は大きく欠伸をした。

「あ……? 土御門、パウスカートはどォした?」

「どんな夢見てやがったんだコラァ!!!」


この"ドラゴンレシピ"と呼ばれる作戦が、一方通行にとって通算四回目の任務になる。
396 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/21(木) 23:52:06.18 ID:EfpZydxHo


※ パウスカート…フラダンスの衣装

397 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/21(木) 23:54:53.93 ID:EfpZydxHo

     ――――――――――――――――――――→


電話が掛かって来ない。

別に来てほしい訳ではないが、来るなら来るで早めにしてくれないと、夜の予定が立てられない。

来ないなら来ないで分かるようにしてもらいたい。

垣根帝督はいらついていた。

ここ最近の習慣として、ある女性警備員の家に泊まる事が多い。

女性警備員のヒモになった訳ではない。

彼女には一人、引き取って育てている少女がいる。
夜勤で忙しい警備員が家に戻れない日に、幼い少女が一人で留守番する事にならないよう、垣根に世話を頼むのだ。

このところ夜勤続きの彼女は、垣根に頼りっぱなしだった。

今日だけ、今夜が最後と言われ続けて連続五日。
少女はもうすっかり、毎日垣根が来てくれるものと決めつけて喜んでいる。

いつも当日にいきなり電話が来て、いきなり引き受ける事になる。
だから、電話があるまで予定が入れられない。
久しぶりに夜遊びにでも繰り出そうかと思っているのだが、
また電話があるかもしれないと思うと、気になってその気になれないのだ。

嫌なら断ればいいのだが、警備員は「断る隙を与えずに電話を切って押しつける能力レベル5」という実力の持ち主だ。

だったら電話に出なければいいのだが、すると少女が彼を探して一人で街を出歩く事になるらしい。
そんなのは保護者の監督不行き届きなので、やはり放っておけばいいのだが、自分のせいで誘拐などされては夢見が悪い。

と、自分に言い訳しつつ結局断らない。
何だかんだ言って留守番が嫌いではないのである。


だが、今日は電話が掛かって来ない。
398 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/21(木) 23:56:52.01 ID:EfpZydxHo

「黄泉川の奴……この第一位様をいつまで待たせやがる気だ……」

垣根は鳴らない携帯端末を睨み付けて、イライラと警備員の名を呟いた。

別に電話をする約束などしていないのだから、彼の呟きは言いがかりである。

時刻は夕方。

電話があるならそろそろのはずだ。

「……クソ。なにやってんだか、俺は」

十分経過。

「はっ、とうとう夜勤地獄から解放されたか? あの女……」

一時間経過。

「……ま、良かったんじゃねえの。久しぶりに親子水入らずで晩飯でも食ってろ」

三時間経過。

「……結局夜になっちまったじゃねえか。クソ、あのアマ……」

「……」

「いいや。遊びに行っちまおう」

睨み付けていた携帯端末をポケットにねじ込み、彼はいらいらと歩き出した。
399 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/21(木) 23:59:40.65 ID:EfpZydxHo

――という事が三日続いた次の夕方だった。
ついに待ち焦がれていた電話が鳴った。

(いや別に待ってねえけど)

一コール目で気が付いていたが、あえて五コールほど焦らせてから応答する。
すると、最近ではすっかり聞き慣れた女教師の声が、スピーカーから漏れ出てくる。

『帝督……』

「何の用だ」

あえて不機嫌な声を出す。

が、相手は意に介した様子もなかった。
どうもそれどころではないようだ。

何か切羽詰まったような声で、電話を掛けてきた女――黄泉川が、垣根に語り掛ける。

『帝督……どうしよう……』

「あ?」

垣根は眉を顰めた。
単純に、相手の言った言葉が似合わなかったからだ。

黄泉川は気弱な女ではない。
むしろ男勝りな方で、学園都市第一位にして暗部組織のリーダーである垣根をも、留守番させるためにぐいぐいと引っ張り込む豪傑である。

そんな彼女の口から「どうしよう」などという不安感の代表格みたいな言葉が転がり出るとは思ってもみなかった。

垣根が続きを待つと、黄泉川は自信なさげにぽつりぽつりと語り始める。

『最終信号が……最終信号が……目を開けてくれない……』

「……ガキが、何だって?」

ぞわり
と、背筋が疼くのが分かった。

かつて垣根に姉たちを殺され、身を守るために垣根を騙し、今も騙し続けるために彼の前で笑顔を絶やさない少女。

最終信号が、目を開けない。
黄泉川はそう言ったのだ。
400 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/22(金) 00:01:40.21 ID:UnljxJfLo

『急に倒れて……三日前だった。病院に連れて行ったけど、普通の病気じゃないって、今原因を探ってるところだって、そればっかりで……』

「……」

『最終信号は普通の体じゃないじゃん。私には事情はよく分からないけど、特異体質だって事は知ってる。
 その体質を専門に研究してる友達がいるんだ。そいつにも協力してもらったけど……』

最終信号の診察をした友人は、青い顔をして黙り込んでしまったそうだ。

『わ、私はもう、頼れる人がいなくて……あの子がいなくなったら……あの子に何かあったら私は……』

消え入りそうなか細い声で、黄泉川は呟いた。
その声は焦燥感に溢れていた。

何か、垣根の胸に思い当たるものがあった。

『あの子にもしもの事があったら、私は生きていけないじゃん』

BABY_FACE。

学習装置で最終信号の脳に刷り込まれた自衛用のプログラム。

自分の身の危険を感じた時、最終信号は無意識に他者の庇護欲を掻き立てる行動を取ろうとする。
他人に自分を守らせるため、そして、自分を攻撃させないため。

最終信号は黄泉川を敵とは見なしていないが、もし彼女が最終信号を見捨てたら、最終信号は路頭に迷う事になる。
黄泉川に捨てられないため、できる限り長い間守らせるため、少女はBABY_FACEを発動させていた可能性が高い。

黄泉川は長い間最終信号と暮らしていた。
その影響をかなりうけている彼女の最終信号に対する扱いは、
今や普通のかわいがり方ではなくなってるのかもしれない。

哀れだと思う。
自分と同じく。

そして未だ、垣根は自覚しながらその呪縛から逃れられていない自分に気付く。

「……おい、黄泉川」

何故なら、彼はまたしても、少女を救う事に精神の全てを集中させようとしていたからだ。

「今、最終信号はどこにいる」

『……第七学区の総合病院に。入院させてるけど……』

「テメェもそこにいるんだな? いねえならすぐに向かえ。俺もそっちに行く。病室まで案内してもらうぞ」

『……帝督……』

最終信号を失ってしまう可能性を口に出したせいだろう、うっすらと涙声になっている黄泉川を無視して、
垣根は言いたい事だけ言って通話を切った。
401 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/22(金) 00:02:23.60 ID:UnljxJfLo

(……ちょっと、久しぶりか)

未現物質の翼を作り出す。
何ヶ月かぶりに、空を飛ぶ。

移動手段としてこれが一番速いからだ。
402 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/22(金) 00:03:51.59 ID:UnljxJfLo

     ――――――――――――――――――――→


文字通り一足飛びで病院の上空に到着すると、病院の門の前、しょげた様子で俯いている黄泉川を発見した。
彼女の背丈はもともと垣根より低い。
だが、黄泉川という女は、態度と懐のでかさで、その体を実際よりも大きく見せる人物だ。
大切な少女を失うかもしれない不安に取り憑かれた今の彼女は、普段よりずっとずっと小さく見えた。

目の前に降り立つ。
気付いた黄泉川が顔を上げた。

「帝督。あの……」

「挨拶は抜きだ。とっとと案内しろ」

言って、垣根は自分が先に立って院内へと歩き出す。
黄泉川は、押し黙ってとことこ付いて来た。

そして。

「ここじゃん」

受付を済ませ、病院の中を案内してきた黄泉川が、ある病室の戸の前で足を止めた。

「……」

ドアの前の彼女を無言で押し退けて取っ手を掴み、ノックもせずに室内へ入り込む。

たかだが三日か四日ぶりなのに、垣根は最終信号に会うのが随分久しぶりのような気がした。

「最終信号」

一応、ベッドに向かって呼びかけてみる。
当然と言うべきか、返事は来なかった。
403 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/22(金) 00:07:09.93 ID:UnljxJfLo

つかつかと歩み寄り、垣根は最終信号の姿を見た。

ベッドに横たわり、全身から嫌な汗をかいて、苦しげに呼吸を荒げている少女がそこにいた。

意識はほとんど無いらく、顔を歪めてただひたすら不自由に息を吸って吐いている。

(これは――)

この症状は、見た事がある。

「帝督?」

横に来た黄泉川が、垣根の様子が変わったのを見て声を掛けて来た。

彼女に、というより、自分で確かめるように、垣根は自分の直感を言葉にする。

「同じだ。俺が最初にこいつに出会った時と――九月にクソ野郎に襲われた時と」

思い出しただけで反吐が出るような事件。
二度の学習装置の時の症状と、今回の最終信号の症状は、限りなく似ていた。

「そうか、上位個体特有の、普通の病気じゃない――」

「帝督? 何か知ってるじゃん? この子を治せるの?」

僅かな期待に縋りつくように、黄泉川が垣根の肩を掴んだ。

垣根はその手を取って、丁寧に引き離す。

「一人――何か知ってそうな男がいる」

「何だって? 誰?」

「木原数多。お前がテロ組織のリーダーだと思ってとっ捕まえた野郎だよ」

黄泉川が止まった。

「あいつが……何で? 最終信号と何か関係があるじゃん? だって、あいつは能力開発の研究者で、あとテロリストで……
 特異体質の子供の治療なんて、関わりようがないじゃん?」

「テメェに理解されようがされまいがどうだっていいんだよ。出来れば死ぬまで会いたくない相手だが……
 とにかく俺は奴を問い詰める。何が何でも吐かせてやる」

そう言って、垣根はもうほとんど最終信号の方を見ず、さっと踵を返した。

「待て、帝督」

その背中を、黄泉川が呼び止めた。

どっしりした、いつもの声で。
404 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/06/22(金) 00:08:52.24 ID:UnljxJfLo

「拘留されてる人間に面会するなら、警備員の私がいた方が話が通りやすいじゃん」

「……だから何だ」

「私も行く。この子が苦しんでるのにじっとしてるなんてできないじゃんよ」

苦しむ最終信号を悲痛な顔で見詰めて、黄泉川が言った。

垣根は、彼女の目を見てじっと黙っていたが――

やがて口を開いた。

「勝手にしろ」

そして、彼はもう一度だけベッドの方を見る。

必ず助けるから。

脳の中だけでそう告げて、彼は病室を後にした。
405 : ◆goBPihY4/o [ saga]:2012/06/22(金) 00:09:57.96 ID:UnljxJfLo

つづくつづく


何か今日この板重い……?
406 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/22(金) 00:11:47.18 ID:kKfyaEvD0
久々に重い乙
407 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/22(金) 00:43:38.93 ID:k0ZnJraIO

次も楽しみです
408 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2012/06/22(金) 00:50:30.45 ID:CGpC7b3Mo
おつおつ
409 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/06/22(金) 01:07:04.90 ID:97R6hfHZo

垣根がんば!
410 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/22(金) 11:41:26.20 ID:sjl4oVJIO
おつー!
411 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/06/22(金) 17:09:45.00 ID:oeCzP4oAO
おーつ!
412 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/06/23(土) 00:46:37.63 ID:egr2sZULo
413 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/30(土) 13:44:18.24 ID:U1jRqSAIO

乙ー

さあ、木原くンはどう反応するか....
414 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/07/06(金) 00:02:16.01 ID:uBuRmtZW0
パウスカートwwwwwww
いつもアロハシャツ着てるからかwwww
415 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/07/07(土) 00:17:13.99 ID:cESFgOZF0
ようやく追いついた
垣根ンかっこいいな
乙!
416 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/07/09(月) 00:48:42.32 ID:gU163TObo
一ヶ月経ちました
417 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/07/09(月) 00:49:11.08 ID:gU163TObo
↑誤爆です、すみません
418 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県) :2012/07/11(水) 02:16:39.06 ID:a6Zz401Y0
おれもやっと追いついた。乙!
419 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/07/11(水) 02:36:28.37 ID:PhwOQQS1o
下げようぜ・・・
420 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東) [sage]:2012/07/11(水) 08:40:10.04 ID:qwDEIWjAO
期待させやがって…
421 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/07/12(木) 13:52:23.63 ID:n9OUacgZ0
まだかなー?まだかなー?
422 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/07/17(火) 01:08:21.22 ID:0XkAniFRo

     ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞


こういう時に限って素晴らしい仮説が浮かんだりするのである。

書き留める紙とペンくらいなら手に入るが、実証する手立てが無い。
彼は投獄されているのだから。

木原は欲求不満に陥っていた。

捕らわれたのは初めてではない。
学生時代にはよくやんちゃして留置所にぶち込まれたものである。

顔の入れ墨はそんな若さの名残だ。
今でも割と気に入っているが。

浮かび上がる理論の波を持て余して悶々としている木原のもとへ、一人の職員がやってきた。

「面会人だ」

彼は淡々と告げた。
423 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/07/17(火) 01:09:17.15 ID:0XkAniFRo

「面会……?」

あまりいい予感がしなかった。
自分にわざわざ会いに来る人物には心当たりがいくつかあったが、
どれもこれも恨み言を言われるか打算で何らかの情報を聞き出しに来るかしか思い当たらない。

それと、面倒臭い。

「それって断れんの?」

一応木原は尋ねてみた。
案の定返ってきた答えはNOだったが。

「貴様にそんな権利があると思うか? とっとと来い」

制服の男はぶっきらぼうに言うと、舌打ちする木原を連れて面会室へ向かう。

「推定無罪だろ……」

まだ裁判前の木原のつぶやきを、彼は無視した。

面会を断れない理由を、木原はほどなく知る事となる。
木原に会いに来たのは、学園都市の超VIP、垣根帝督だったのだ。
424 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/07/17(火) 01:10:38.03 ID:0XkAniFRo

ガラス越しに男が座った瞬間、捻り潰したくなった。
特に理由はない。
顔を見ただけでムカつくのだ。

垣根は沸き上がる殺意を押し殺して、挨拶がてら憎まれ口を叩く。

「見れば見るほど俺の破壊衝動を刺激する面してやがるぜ」

「じゃあ見んな。特別にとんぼ返りをする権利をくれてやるよ。帰れ」

相手は相手で、垣根の顔など見たくもないようだった。

理由は分かる。
先月の終わりに彼の全身をぼろぼろにしたのは垣根なのだから。

というわけで、垣根も木原も間仕切りさえなければすぐにでも相手に殴りかかりそうな雰囲気だった。

「余計なお世話だよ。テメェと違って自由の身だからな」

「自由の身ねえ……」

子飼いのモルモットが?
とでも言いたげな木原の顔に、さらに垣根の殺意が募る。

そこへ、じれったそうに黄泉川が口を挟んだ。

「憎まれ口なんか叩きあってる場合じゃないじゃん。早く本題に入ろう」

垣根にくっついてやってきた女性警備員の顔を見て、木原はまた不愉快そうに表情を歪めた。
彼女こそ、木原を捕らえてぶち込んだ張本人である。

「嫌な顔が揃い踏みだな。用事だけ聞いて唾吐いて帰ってやるから、とっとと話せ」

垣根が何か言い返そうとするのを手で制して、黄泉川は木原をまっすぐに見て話し始めた。

「最終信号が倒れたんだ。お前が何か知ってるかもって帝督から聞いて来た」
425 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/07/17(火) 01:11:45.38 ID:0XkAniFRo

最終信号の名を聞いて、木原は首を傾げる。

「ラストオーダー? 梅酒ロックとか?」

「とぼけてんじゃねえよ。テメェが一ヶ月前に殺しかけたガキだ」

「俺が殺しかけて失敗したのはテメェだったはずだぞクソガキ」

「ああ、それで俺に手も足も出なかったんだっけ?」

「ボコボコだったのはテメェだろうが」

「お互い様じゃん。いいから早く」

黄泉川に肩を叩かれて、垣根は一度息を付き、どうにか話の軌道を修正する。

「前にあのガキが倒れた時は、どっちもテメェが関わってやがったよな。
 最初にあいつを治すように俺に言ったのはテメェだし、九月の三十日はテメェがあいつにウイルスをぶち込んだ」

「で?」

「その二つの時と、今のあいつの症状が似通ってる」

「で?」

木原は物凄い勢いで集中して、自分の右手の親指の爪を観察していた。
つまり垣根の話は適当に聞き流していた。

「聞いてんのかテメェはよ……」

「全然」

ガタリと椅子を鳴らして立ち上がる垣根を、黄泉川が宥めて座らせる。
426 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/07/17(火) 01:13:32.00 ID:0XkAniFRo

「お前は以前、意図してあの子をあの状態にした事があるじゃん。
 だから今度もお前が何かしたのかもって、私たちは思ってるじゃんよ」

しきりに爪を気にする木原に、黄泉川は問いかけた。

木原は右手から目を離さなかった。

そのままの姿勢で、端的に一言告げる。

「俺じゃねえよ」

「だったら誰がそんな事するんだよ」

視線で殺してやろうと言わんばかりの目つきで木原を睨み付けながら、垣根が口を挟んだ。

「何でそんな事を俺が教えてやらなきゃいけねえんだか……」

はーっとため息をついて数秒、木原は気だるそうに顔を上げた。

「前にもテメェに聞かれて俺は答えたよな?
何でガキを襲ったかっつーと、上の指示があったからだ。 個人的な趣味じゃねえよ」

「それにしちゃ楽しそうだったがな」

「仕事は楽しむもんじゃないと思ってんなら社会に出たあとやってけないよ、坊ちゃん」

「地獄に落ちろ」

垣根の体がまた不穏な動きをしそうになり、黄泉川が彼の肩を掴んだ。
だが彼女の方も、木原の暴言には思う所があるようで、必死に自制心を働かせるように唇を噛んでいた。

「だったら心当たりを教えてほしいじゃん。最終信号を苦しめて得をするのは誰だ?」

「……」

黄泉川からの質問に、木原は少し考え込んだ。

「過去二回、そのガキに俺を関わらせたのは、アレイスターの野郎。つまり統括理事会の総意なんだろう」

彼の呟いた言葉に、黄泉川が目を見開く。
まさか暗部組織のテロ行為の黒幕が学園都市の統括理事長だとは思いもよらなかったのだ。

垣根にしてみれば、その程度でいちいち驚かれたりショックを受けられては、相手をするのも面倒だった。

「動揺するのは勝手だが、黙ってろよ」

彼に釘を刺されて、黄泉川は何か言いたげだったが、結局頷いて黙り込んだ。
427 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/07/17(火) 01:16:11.68 ID:0XkAniFRo

「俺がには心当たりはそれしかない。だからって今回もアレイスターの野郎が一枚噛んでるかっつーと、それも微妙だがな」

警備員の葛藤になど何の興味もない様子で、木原が続ける。

「犯人は分かりませんって事か。この役立たずが」

垣根の悪態に、木原が眉をひそめた。
気にせず垣根が尋ねる。

「だったら次だ。あのガキを治す方法は?」

「前と同じ症状っつうなら原因も同じだ。ウイルスが頭にぶち込まれてる。ならワクチンを入れてやればいい」

「どうすれば手に入る?」

「ガキが死ぬまでに犯人を突き止めて出させるか、自分で作るかだな」

「正体不明のウイルスのアンチプログラムを作る? それこそ最終信号が死ぬまでに出来るのか?」

「現在の人格データをスクリプト化して、ウイルスが埋め込まれる前のと比べれば、異常な部分は炙り出せるだろう。
 健全な部分を傷つけないようにおかしな部分だけ取り除くプログラムを書いてやればいい」

欠伸をしながら喋る木原を、垣根はじっと睨み付ける。
そこで、若干話について行けていなかった黄泉川が、気が付いたように口を挟んだ。

「人格データのスクリプト化……そういえば、桔梗がそんなような事をしたって言ってたじゃん」

桔梗というのは、彼女の友人の名である。
芳川桔梗は妹達の量産計画に携わっており、妹達の人格データや学習装置の扱いに心得があった。

そのプロが、今の最終信号の脳の状態を見ても、ウイルスの正確な姿が分からなかったのだという。

「あいつも最終信号の人格データを見て、ウイルスの部分らしいものは分かったんだけど、
 ウイルスが複雑で、ただ消しただけじゃ正常な部分にどんな影響があるか推測できないんだって」

単純な、白黒反転させただけのアンチプログラムでは、最終信号の心が壊れてしまう可能性がある。
ウイルスが彼女の脳のどの部分に何をしているのか具体的に理解出来なければ、ワクチンは作れないらしい。

「ウイルスらしい記述が、見た事もないようなプログラムで――桔梗は『まるで呪文みたいだった』って」
428 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/07/17(火) 01:16:51.51 ID:0XkAniFRo

「そのスクリプトは?」

少しだけ、木原の顔色が変わっていた。
黄泉川の方を見て、急かすように尋ねる。

「まだあんだろ? ちょっと見せてみろ」

「ここには持ってきてないじゃんけど……見てどうするじゃん?」

「さあ? ワクチンのヒントくらいなら思いつくかも知れねえな」

「ふざけんな。テメェはまた引っかき回す気だろうが」

垣根の指摘に、木原は肩をすくめるだけで返事はしなかった。

黄泉川はその木原を見詰めて、しばらくして口を開いた。

「分かった。すぐ持って来るじゃん」

「おい、黄泉川!」

「他に手がないなら仕方ないじゃん。それとも帝督、統括理事長のところに殴りこむ? 用意してるかどうかもわからないワクチンを奪いに行けるか?」

「……」

垣根は言い返さなかった。
それで話が決まったと解釈した木原は、じれったそうに二人を追い出そうとした。

「決まったんなら早く行け。とっとと出てけ。それか死ね」

ガラスをぶち抜いて殴ろうとする垣根の首根っこを黄泉川が掴んで止めて、
二人は面会室を後にした。
429 : ◆goBPihY4/o [sage saga]:2012/07/17(火) 01:18:22.36 ID:0XkAniFRo

つづく

今回はただ会話してるだけでしたね
つまり日常系ですね
430 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長崎県) [sage]:2012/07/17(火) 01:32:17.73 ID:6sX5OtPro
おつおつ

うん、確かに日常回だったな
431 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/07/17(火) 05:24:29.90 ID:x/16GxT6o
物騒な日常だな、おいww
432 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/07/17(火) 11:37:11.18 ID:jQc57kJyo
>>1乙!
待ちくたびれてたぜ、木原編はおもしろいww
433 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/07/17(火) 18:47:09.19 ID:EcnLN71ho
434 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県) [sage]:2012/07/17(火) 22:44:19.25 ID:pEumn0eRo


誰も傷を負っていない
つまりほのぼの日常回だな
435 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方) [sage]:2012/07/18(水) 01:22:31.44 ID:owvoKYkHo
ほのぼの乙
436 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/07/25(水) 19:57:25.73 ID:LamwQgAIO
癒されるな
437 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/07/28(土) 01:30:44.18 ID:K/rikaeb0
>>1乙 
いやぁ、日常だなぁ。
438 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) :2012/07/31(火) 12:33:28.28 ID:LP+rS85y0
乙〜
439 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/01(水) 04:12:27.82 ID:6CMC2IMOo
sageろ
440 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/01(水) 05:06:25.64 ID:eD7GCHuLo
きたと思ったら
441 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/08/01(水) 12:59:16.62 ID:/PEVuPiY0
なんだ、木原くんの日常かよ
442 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/08/06(月) 22:49:06.38 ID:4dQyjGjK0
いい日常回だった
443 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/08/14(火) 21:01:58.19 ID:1sevpQ2fo
まだかなー
444 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/08/27(月) 16:55:07.02 ID:1UaiZTm60
待ってるよー
445 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/03(月) 02:29:20.11 ID:BhBSvWe/o
まちます
446 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/14(金) 19:46:09.81 ID:Dc0QqI2SO
もうすぐ二ヶ月か……まだかなー
447 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/09/17(月) 03:56:30.70 ID:7VxhL1kP0
まだかなー?まだかなー?
448 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/17(月) 18:31:30.15 ID:qilZSszEo
依頼出ましたー
449 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/09/17(月) 20:34:48.38 ID:KHjelz7l0
>>448
マジかよ…
450 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/09/19(水) 19:34:07.68 ID:Tk6fWVgR0
>>448
そ、そんな・・・・
230.82 KB   
VIP Service SS速報VIP 専用ブラウザ 検索 Check このエントリーをはてなブックマークに追加 Tweet

荒巻@中の人 ★ VIP(Powered By VIP Service) read.cgi ver 2013/10/12 prev 2011/01/08 (Base By http://www.toshinari.net/ @Thanks!)
respop.js ver 01.0.4.0 2010/02/10 (by fla@Thanks!)