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仮面ライダー555 VERSUS リベリオン 対 ギターウルフ ロケ地、白石 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :ny [saga]:2011/10/28(金) 21:37:34.33 ID:pbUGHxci0


1


【囚人番号KSC2-303 九月三日 午前十時二十五分】


悲鳴、銃声、怒号、狂喜、快感。
それらが一緒くたに纏められ、混在している空間。
何もかもが混じり合い、混沌とした原初に舞い戻ってしまったかのようだ。
それを狂気の空間と呼ぶべきなのかは分からないが、とにかく斯様にして常軌を逸した空間に彼は在った。
鮮血が散る。死臭が鼻腔を刺激する。
まさしく戦場だ。
戦場。殺し合い……、殺仕合の空間。
上等な場所だ。

思いながら、彼は黒く重いジャケットを翻し、己が手の拳銃のトリガーを弾く。
拳銃から発射された銃弾は、目の前の屍鬼の頭蓋を破裂させる。
屍鬼の鮮血が飛散し、彼の顔面を返り血に染める。
彼は笑う。嗤う。黒く、どす黒い情念を感じさせる暗黒の笑顔で。
これだ。これこそを感じたかった。彼はこれこそを求めていたのだ。
生と死の混沌。破壊への衝動。自らの思う儘に相手を殺し続けられるという快感。
この感情を感じるために生きてきたのだ。彼にはその確信があった。

彼は囚人だった。確か与えられたナンバーはKSC2-303。
数え切れないほどの凶悪犯罪、終身刑どころか死刑ですら軽いほどの罪を犯してきた。
狂気の社会不適格者と彼を人は呼称した。存在するだけで醜悪な腐臭を撒き散らす悪鬼と。
いいだろう。彼は気にしない。
何にしろ、この状況では狂気も規律も全てが無意味に帰すだけだ。
笑えるじゃないか、と彼は微笑した。
現在、社会適格者どもは死亡し、社会不適格者は快感を貪っているのだ。
こんな可笑しい事が他にあるだろうか。
故に彼は引き金を引く。相手が何であろうと無関係に、彼は破壊し続けるだけだ。
故に彼は殺す。己の拳で屍鬼の脳髄を引きずり出し、血液を浴びながら厭らしく笑う。
目玉を引き抜き、頭蓋を破壊し、腸を手に巻き付ける。
相手は屍鬼だ。遠慮する事はない。
ただ自分の破壊衝動が治まるまで行動し、殺し尽くす。
それが彼の行動理由、そして、全てなのだから。
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2 :ny [saga]:2011/10/28(金) 21:38:00.74 ID:pbUGHxci0


2


【グラマトン・クラリック ジョン・プレストン 九月三日 午前十時二十分】


プレストンはクラリックという生業にある。
グラマトン・クラリック。
その生業を一言で表すならば、法の番人とでも称すべきか。
プレストンの祖国は感情抑制のために薬物を使用し、永久の治安を生み出す事を理念とした国家だ。
戦争という行為を引き起こすのは人間の感情であり、
感情を抑えさえすれば人間は人道を制覇した権利人と化せる……、
掻い摘んで言えばそれがプレストンの祖国の思想だ。
無論、新鋭において奇抜に過ぎる思想理念ゆえに現在は未だ小国であるが、
それでも彼の祖国は着実に西洋を基点に勢力を拡大しているのが現在の状況だ。
祖国拡大の第一原因としては、終末思想の若者や宗教人を取り込めた事もあるだろうが、
それ以上に感情を抑制する事により可能となったグラマトン・クラリックの戦闘法の功績が大きいだろう。

そのクラリックの上位に位置するプレストンが、
別に気に留めるほどでもない小さな島国である日本に留まっているのには原因がある。
彼は祖国の命により東方見聞の出征を行っていたのだが、
任務を終えて祖国に帰る途中、
乗っていた飛行機が機器の整備不備により、最寄の飛行場に緊急着陸をする事になってしまったのだ。
クラリックとして勤めを全うしてきたプレストンにとって、
機器が整備されるまで何も行えないという現実はそれなりの苦痛であった。
祖国では焼き払われてしまった森林や、
祖国の建築物の様に白く無機質な建築方式ではない日本の家屋に、どうしても違和感を覚えてしまう。
それ以上に周囲の民間人の感情が煩わしかった。
祖国の人間は民間人といえども全ての人間が感情統制されており、
笑う、泣くなどといった感情を見せる事をしない。見せてはならないのだ。
感情を見せた途端、クラリックに粛清されるのが祖国の規律だった。

しかし、当然と言うべきか祖国でない日本の現地人達は、煩わしいほどに多くの感情を見せている。
少年が笑い、少女が照れた様に微笑む。
恋人同士なのであろう二人組は喧嘩でもしているのか不機嫌そうだ。
目まぐるしいほどに、人々が感情を見せる。

だが、文句を言っても仕方が無い。
この場は祖国でない以上、プレストンの違和感は胸に秘めておかねばならないものでしかない。
小さな吐息に似た嘆息を吐きつつ、結局プレストンは飛行場付近の宿泊施設で仮眠を取る事を決定した。
二時間ほど仮眠を取ったろうか。
予定通りの時間に覚醒したプレストンの耳に突然の悲鳴が届いた。
何らかの異変が生じたことを察知した彼は、悲鳴が起こったと思われる場所へ……、
商店街らしき通りに向かい、そして、彼は見た。
腹から臓物の露出されている人間、
否、ゾンビ、リビングデッド、グール、
それに値するモノが人間を襲っているのを。
生きてなどいるものか。中には脳髄が垂れているモノも在るというのに。
とにかく確実に死亡しているはずの人型のモノが人間を襲っている。
クラリックとして多くの人間を殺めてきたプレストンではあったが、
流石にこの光景には動揺せざるを得なかった。当然だ。
彼の祖国においても、リビングデッドが発生した前例はない。

この場合、プレストンが取るべき選択肢は二つあった。
前者はこの光景を無視し、他の飛行機を使い逃亡とするという選択肢。
後者はこのリビングデッドどもを、法において断罪するという選択肢だ。
答えには一秒と掛からず至った。
クラリックであるという自分の誇りが、後者をプレストンに選ばせていた。

我こそは神の法の執行者、グラマトン・クラリックなのだ。
ならば、取るべき選択肢は一つしかない。
プレストンは袖口に仕込んでいた拳銃を、流動的な動作で両手元に取り出した。
彼の銃は大口径ではないが連射性、速射性に優れた拳銃だった。
当然ながら威力もさしたるものではなく、
相手に決定打を与える事は出来ないが、彼にはそれで十分だった。
拳銃の規格の違いなど、微々たる問題でしかない。
3 :ny [saga]:2011/10/28(金) 21:38:39.50 ID:pbUGHxci0
プレストンは両手の拳銃を握り締め、
リビングデッドどもの群れへと突撃していく。
彼我戦力差は約二十対一。
敵方は呻くリビングデッド約二十体。
当方はクラリック一名。
粉砕せしめるには、楽勝に過ぎた。
余談となるが、彼の右手の銃は『ディンゴ』。
左手の銃は『ジャッカル』という名である。
彼がクラリックとして拳銃を初めて支給された際、師から指示されて名付けたものだ。
クラリックにとって拳銃は生命線であるだけでなく、当然ながら相手を断罪するだけの物でもない。
人生であり、生き様であり、何より相棒であるのだ。
故にこそ名付けるべきであると彼の師は語っていた。

感情論だ。
とプレストンは思ったが、何故だか拳銃に名称を付加させるだけで、彼の戦闘能力は格段に上がった。
両の手の拳銃こそが真の相棒だと思えるほどに。
不思議な事だ。師の語る事は常に正しく、間違いが無い。
彼はディンゴを前方の、ジャッカルを後方のリビングデッドに向けて乱射する。
まるで舞う如く敵を粉砕していく。
リビングデッドは彼に近付く事も出来なかった。

「鳳雷鷹」

小さく呟き、彼は戦闘の型を機動性重視の型へと移行させる。
先刻までですら、リビングデッドはプレストンに近付く事すら出来なかったのだが、
彼が型を鳳雷鷹に移行させた瞬間、彼の拳銃は彼を中心に全方位に移動する事が可能となり、
リビングデッドを近寄らせないどころか、その場から微動すらさせずに撃破する事が可能となっていた。
これこそが彼の戦闘術、断罪法だ。
名を『ガン=カタ』と言う。
ガン=カタとは東洋の神秘である『型』に、西洋の『拳銃術』を複合させた格闘術の総称だ。
ガン=カタは彼の祖国で研究された格闘術であり、
射程、軌道の予測可能な要素の抽出に成功したもので、
拳銃を最も効果的に扱え、統計的に反撃を受けない場所への移動を可能とする。
この型を極める事で、攻撃効果は一六〇%上昇、
防御面では六十三%上昇する事が実証されている。

ガン=カタの型の一つである鳳雷鷹は機動性重視の型だった。
攻撃性よりも多数の敵を始末する事を優先した型であり、
それ故、速射性に優れる彼の拳銃が最も効果を発揮できる型とも言える。
型を鳳雷鷹に移行させて、実に数秒。
彼は数秒で二十体のリビングデッドを全滅させていた。
しかし、これで終わりではないはずだ。
彼は拳銃の装填を念入りに行い、更に掃討を続ける。
4 :ny [saga]:2011/10/28(金) 21:39:24.72 ID:pbUGHxci0


3


【仮面ライダー555 斉藤美奈子 九月三日 午前九時七分】



「うりゃあっ!」

彼女は握った拳を目の前のゾンビに繰り出しながら、
自らの置かれた状況について深く考えていた。
厄介な状況になってしまったものだ。
大きな嘆息が出てしまいそうだった。
何故にこんなにも面倒な状況になってしまったのか。

彼女の名は斉藤美奈子。
アイドルを夢見る普通の中学二年生(自称)。
スリーサイズはナイスバディ(自称)。
過去に人知れず人類の存亡に関わる戦いに従事した少女で(本当)、
今は普通の中学生として恋に青春に真っ盛りだった(嘘。恋はしていない)。

美奈子が北海道を訪れた観光の為だった。
蟹と熊が食べたかったのだ。他に理由は無い。
観光費は前に人類を救った事もあり、政府の御偉方が出してくれた。
観光費が浮くなんてラッキー、と思いながら北海道の空港に付いた途端、
蟹どころか蟹アイスすら食べていないというのに、美奈子はこの状況に陥っていた。
まったく勘弁して欲しい、と美奈子は肩を落とす。

「まったく……、何なのよう!」

思わず愚痴がこぼれる。
探偵が事件を呼ぶのか、事件が探偵を呼ぶのか、
言わば名探偵の宿命のようなもので、
こうして自分は事件に巻き込まれながら、生きていかねばならないのだろうか。
何しろ空港を出て蟹を食べられる店を探していると、
突然に何の前触れもなくゾンビが出現して民間人を襲い始めたのだ。
それで嫌々ながら戦わなければならなくなってしまったわけなのだ。
これを不運と言わずして何と言えばいいのか。

一応、護身の為に変身ベルトを携帯していたのが、せめてもの救いだろうか。
そう。美奈子こそが過去に人類を救った仮面ライダー555なのだ。
……と彼女も大々的に世間の皆さんに主張したいと常々思っているのだが、
彼女が関わった事態の顛末は政府が情報操作によって隠匿したため、
一般人には真顔で耳打ちしてみたところで何の事か微塵も分からないだろうし、
単なる冗談だと思われるか、近寄りたくない電波系の少女の戯言だと思われるのが関の山だろう。

過去に人類の進化形と名乗った怪物が、人類を支配しようと暗躍した事があった。
瀕死の茶髪で長髪の色男から偶然通りがかった女子中学生にベルトが託され、壮大なる戦いの幕が明けた。
という少年漫画に頓に見られる展開で人類を救ったのが誰あろう彼女、斉藤美奈子なのである。
そんな無茶な、と言われても、事実なのだから仕方が無い。

ちなみに555はファイズと読み、一種の強化装甲の名である。
ファイズの装甲を変身によって装着する事で、
己の能力を何十倍にも高めて戦う事が出来るようになる。
その拳の一撃はゾンビの頭蓋をも一瞬で砕けるほどで、
他にも様々な特殊能力で多くの敵を圧倒する事が可能だ。
5 :ny [saga]:2011/10/28(金) 21:39:59.39 ID:pbUGHxci0
「もうっ! あんた達、邪魔ようっ!」

叫びながら、美奈子は力強い一撃でゾンビたちの顔面を砕く。
脳漿が飛び散り、返り血を浴びつつも、
美奈子は周囲の百体近いゾンビ達を撃破していく。
ゾンビが何体いるのかは知らないが、
この調子ならばすぐに全滅させる事が出来るだろう。

しかし、美奈子にはゾンビの件以外に、一つ気掛かりな事があった。
盗まれた変身ベルトの事だ。
変身ベルトには、
ファイズ、カイザ、デルタの三本があり、各々が別個の能力を持っている。
念の為、三本とも旅行鞄の中に携帯していたのだが、
ゾンビ達の不意打ちに気を取られている内に、
カイザのベルトだけを先刻何者かに盗まれてしまっていたのだ。

カイザの能力は高い能力を持っている。
ファイズと肩を並べるだろう。
しかし、カイザのベルトはかなり扱い辛かった。
何しろ変身した人間が悉く死んでしまうという特性があるのだ。
高過ぎる能力を引き出すせいなのかもしれない。
カイザに選ばれた適格者でしか扱えないのだった。
その適格者はもう居ない。過去の戦いで戦死していた。
故に変身出来る人間はもう存在しない。
変身してみたところで、その人間はすぐに死亡するはずだ。

だが、美奈子には嫌な予感がしていた。
何者かは意図してカイザを盗んだのではないか、と。
そうやって、考えに耽っていたのが悪かった。
突如、美奈子は後方からゾンビに羽交い絞めにされ、
残ったゾンビ達に一斉に襲い掛かられてしまっていた。
その数は三十体近くは居るだろうか。
変身しているとは言え、
それだけの数のゾンビに襲い掛かられては、流石に成す術がない。

「やっばぁー……」

美奈子が弱気に呟いたその時だった。

「うおおおおおおおおおっ!」

熱い雄叫びが聞こえたかと思うと、物凄い速度で何かが激しく煌いた。
6 :ny [saga]:2011/10/28(金) 21:40:26.55 ID:pbUGHxci0


4


【ロックンローラー ギターウルフ 九月三日 午前九時十分】


ギターウルフというロックンローラーが在る。
ミュージシャンではない。アーティストでもない。
ロックンローラーだ。
彼は叫ぶ事で魂を伝播させる。
魂魄の哭する戦慄のシャウト・ロックこそが彼の生き様だ。
ロックンロールは彼の生き様であり、命を賭すものであり、全てなのだ。

ギターウルフが北海道に訪れた理由は魂の導きからだった。
己の中のもう一つの魂魄が北海道を訪れろと哭し、彼はそれに抵抗しなかった。
彼は己の中の衝動と絶叫をこそ信頼し、己の行動指針として疑わない。それが彼だからだ。
訪れた北海道ではゾンビどもが群れ、阿鼻叫喚の地獄絵図を描いていた。
原因は知らない。興味も無い。
ただ、戦え、と彼の内なる力が哭す。
故に戦う。
彼にとって歌う事と戦う事、そして生きる事は同義。
全てが闘争、全てがロックだ。
魂が戦えと言うのなら上等。上質なロックを闘争で表現してやる。
彼は自分の魂魄を、ソウルを、ロックンロール魂を示してやるのだ。

「ロックンロオオオオオオルッ!」

彼は彼の相棒であるギター……、阿修羅を振り回し、ゾンビに向けて発砲する。
ギターウルフは阿修羅の中にショットガンが仕込んでいた。
阿修羅は戦うための相棒であり、歌うための相棒だ。全てにおいての魂の半身なのだ。
ショットガン程度仕込んでおくのは当然だった。
ゾンビどもの頭蓋がはじけ飛ぶ。血流が散る。心臓が弾ける。
奴等の呻き声が歌になる。
ゾンビの断末魔、それは上等なるコーラス。

上質なライヴだろ?
微笑してショットガンを乱射しながら、彼は阿修羅で音楽を奏で続ける。
両の手の指から奏でられる醜悪な、秀麗な、粗暴な、安寧な、上質なロック。
ロックを謳う。否、哭す。繋ぐ。奏でる。
数百体程度のゾンビどもを撃ち滅ぼしただろうか、
唐突に少女の悲痛な声がギターウルフの耳に届いた。
ロックを止めて周囲を見渡せば、
まるでテレビジョンで稀に目にする特撮ヒーローの如き強化装甲を身に纏った者が、
ゾンビに羽交い絞めにされて襲われそうになっているのが目に入った。
声からすると、どうやら強化装甲を纏っているのは少女らしい。
流石のギターウルフとは言え、
ヒーローごっこをする少女を助けるのはどうかと一瞬思ったが、
結局は思うより行動する正直な性格、身体が勝手に動いていた。
7 :ny [saga]:2011/10/28(金) 21:40:54.78 ID:pbUGHxci0
ギターウルフは纏うジャケットの中から、一枚のピックを取り出した。
ピックの名は是清。阿修羅を奏でられる唯一のピックだ。
他のピックでは阿修羅を叫ばせる事は不可能だった。
是清以外のピックは阿修羅が拒否しているかの如く、
阿修羅の弦に触れただけで四散して消滅してしまうのだ。
ギターウルフは是清をゾンビに向ける。
少女を救う為に、己の律動の為に、彼はそうせねばならない。
叫ぶ。哭す。
シャウト、シャウト、シャウト……!

「うおおおおおおおおおっ!」

手裏剣を投擲する如く、ピックを激しく摩擦する。
凄まじいまでに摩擦される是清。是清から激しい静電気、否、電流が発生する。
人間に可能な事なのかは不明だが、ギターウルフには出来ているのだから可能なのだろう。
電流が幾重にも分かれ、ゾンビどもに向かって放出された。
一瞬でゾンビが断末魔の叫びを上げ、感電か、それとも何かの効果か、倒れ伏した。
電光石火の必殺技、最高の範囲攻撃。
粋な言い方で言えば、そんなところか。
己でもこの技の詳しい理屈は分からないが、出来る以上彼はそのまま己の技を受け入れている。

捕まっていたヒーロー少女は唖然としているようだった。
されど、ギターウルフは叫ぶ。
ゾンビに満ちた虚空に、否、されども輝く紺碧の空に向けて。
彼はギターウルフ。
ギターの狼なのだから。
8 :ny [saga]:2011/10/28(金) 21:41:43.90 ID:pbUGHxci0


5


【仮面ライダー555 斉藤美奈子 九月三日 午前九時十二分】


何が起こったのかはよく分からなかったが、
気が付けばゾンビ達は突然現れた目の前の男に倒されてしまっていた。
危機が去ったというのに、どうにも釈然としない。
美奈子は取り敢えずベルトを外して変身を解除する。

「何て言えばいいのかなあ……」

何とも言葉にし難い。
目の前の男は美奈子のように変身しているわけでもなく、完璧な生身だった。
身に付けているのは黒いジャケットに黒いサングラスで、傍に毒々しい柄のギターも置いてある。
彼は恐らくミュージシャンなのだろう、と美奈子は思った。
どうやら手に持っているピックを使ってゾンビを倒したようなのだが、どういう理屈で倒したのか全く不明だ。
多分、ピックから電撃かビームを出したのだろうが、深く考えると頭が痛くなってくる。
きっと彼はそういう事が出来る人なんだ、と思う事で美奈子は無理矢理自分を納得させた。
一応、助けられた礼は言っておく事にする。

「あ……、ありがとうございます……」

「気にするな。お嬢ちゃん。
俺は俺のシャウトに従っただけだ」

「ああ……。そうなんですか……」

口ごもりながら呟く美奈子を、気にしない素振りで彼は続ける。

「お嬢ちゃん、名前は?」

「あ、斉藤美奈子……です」

「俺はギターウルフだ」

「ギー太ウルフ?」

「ギターウルフだ」

何故かそれは譲らなかった。
そういう人なんだ、と美奈子は再び自分を納得させた。
彼が何者なのかは微塵も分からないが、
一応は助けてくれたのだし、ゾンビを倒す仲間には違いないはずだ。
知っているかどうかは分からないが、この状況について訊ねてみる。

「あのぅ、ギー太さん……。
この状況について何か分かっているんですか?」

「知らないな。だが……。」
俺の中が疼くんだよ。魂が叫んでいるのさ。
ゾンビどもを討ち滅ぼせとな」

「はぁ……、疼くんですか」

「それはそうと、どうやって変身してるんだ、それ?」

「これですか? 知りません?
仮面ライダー555ですよ……、って知らないでしょうけど」

「ああ、知らない。見せてくれ」

「ええ、いいですけど……」
9 :ny [saga]:2011/10/28(金) 21:42:19.31 ID:pbUGHxci0
言ってから、美奈子は変身ベルトを再び腰に装着した。
片付けていた携帯電話を漆黒のポシェットから取り出して、変身コードを入力する。

5・5・5。
コードファイズ入力。
スタンディング・バイ。

「変身ッ!」

ベルトに携帯電話を装着すると、
全身を赤い光が包み、装甲が纏われていく。

コンプリート。

「闇あるところ光あり、悪あるところ正義あり。
仮面ライダー555見参ですっ!」

決まった……、
と美奈子が悦に入ってポーズを取っていると、
ポーズと台詞も変身に必要なのか、とギターウルフに突っ込まれた。
ただの趣味だと美奈子が答えると、
ギターウルフは興味無さそうに、そうか、とだけ呟いた。
冷静に指摘されると流石に気恥ずかしい。
気まずい沈黙が流れたが、数秒後、
唐突に何の前触れもなく、ギターウルフが身体を痙攣させ始めた。
不安になって美奈子は訊ねる。

「どうしたんですかっ?」

「これは……、これは……!
感じる! 感じるぜ!」

「何を感じるんですっ?」

「俺のソウルが……、ソウルが熱く滾っている。
ロックンロール魂が!
ABAYO!!」

「あ……」

美奈子が言葉を掛ける事すら出来ない間に、
ギターウルフは近くに停めてあった巨大なバイクに跨って走り去って行った。
恐ろしいほどの速度だった。すぐに視認出来なくなった。
確実に時速三百km以上の速度を記録するだろう。
明らかに違法改造だ。

「外観は普通のバイクなのに……、
何なのかなぁ、あの人……?」

ギターウルフという名らしい彼は常識を逸脱し過ぎていた。
正義の味方という荒唐無稽な存在である美奈子ですら、
彼の前では単なる女子中学生でしかないようだった。

「何か感じるとか言ってたけど……」

ならば、ギターウルフを追うべきなのだろう。
行く当てがあるわけでもない。
美奈子はベルトから変身に必要な携帯電話、
ファイズフォンを引き抜いてコードを入力する。

3・8・2・1。

ジェットスライガー・カムクローサー。

合成音声が流れると共に、
ジェットスライガーが美奈子の下へと飛翔してきた。
ジェットスライガー。
仮面ライダー555専用の高速移動兵器だ。

「北の方向……か」

3・8・4・6。

ジェットスライガー・テイク・オフ。

「取り敢えず……、行きますか」

美奈子は呟いて、ギターウルフの後を追う。
その時、彼女は気付いていなかった。
ギターウルフのバイクは確かに違法改造だが、
美奈子のジェットスライガーはそれを遥かに上回る違法改造バイクだという事に。
10 :ny [saga]:2011/10/28(金) 21:42:48.62 ID:pbUGHxci0


6


【白石の味方 雅楽戦隊ホワイトストーンズ 九月三日 午前九時二十五分】


本郷隆、南郷進、北郷誠の三人は改造人間である。
北海道札幌市白石区をただ只管に愛し、白石区を守る為に命を掛けて戦う三人だ。
幼少の頃に事故で死亡した彼等だったが、
改造手術を受ける事で新たな生命と白石を護る力を得ていたのだ。
また彼等は伝説の雅楽師の血を引いている由緒正しい人間でもある。

「本郷! あそこを見てみろ!」

「何ッ! あれは……!」

南郷に示された方向に本郷が見たのは、
凄い速度で駆け抜けていくバイクだった。時速三百kmは軽く超えているだろう。
本郷達が注目する間もなく、そのバイクはすぐに見えなくなった。
ロックでもやってそうな人が乗っていたような気がしたが、
一瞬の出来事だったため確証はない。

「速いバイクだな」

「ああ、俺のパッソルとどっちが速いかな?」

「あっちのバイクに決まってるだろ!」

「おい、二人とも! 変な生物が来るぞ!」

本郷が下らない事を言っていると、北郷に文句を言われた。
本郷は肩を竦めつつ、微苦笑を浮かべる。

「気にしない、気にしない」

「気にしろよ! おまえは一休さんか!」

漫才をやり合っているうちにも、
変な生物が千鳥足で本郷達に近づいて来ていた。

「あいつら、酔っているのか?」

「ゾンビだよ!」

北郷にまた怒られ、頭を掻いて本郷が頭を下げる。
気が付けば多くの変な生物が白石区を埋め尽くしていた。
何処から湧いて来たのか、その数は二百体以上だ。
見た感じではまだあまり被害はないようだが、
このままでは白石の人々にも危険が及んでしまう事もあるだろう。
ならばホワイトストーンズとして、彼等は戦わなければならない。
11 :ny [saga]:2011/10/28(金) 21:43:32.71 ID:pbUGHxci0
三人は三つの雅楽器を服の中から取り出し、雅やかな雅楽を奏で始める。
白石区は哀しい雅楽師たちの物語が残る街。
雅やかなる郷土愛が溢れる街なのだ。
しばらく奏でただろうか、いつの間にか三人は白い戦士へと変身していた。
白いタイツを装着した頼もしいその姿……、これぞまさしくホワイトストーンズだ。

説明しよう!
南郷、北郷、本郷の三人は、雅やかな雅楽の音色を奏でると、
自分の意思に関係なく、雅楽戦隊ホワイトストーンズに変身してしまうのだ!

「とうっ!」

三人で力強いポーズを取り、イカした名乗りを上げる。

「雅楽戦隊ホワイトストーンズ!」

説明しよう!
改造手術の影響でホワイトストーンズに変身してしまった彼等は、
一般人よりはかなり強くなれるのである!
その頭突きは瓦を十枚は割り、レンガで殴られても痛いくらいで済み、
切れ目を入れていない木材も割れるようになれるのだ!

そして、彼等は昭和四十六年に建設された、
直径五十六メートルの菊水円形歩道橋、
更にナイスなデザインで建設大臣賞まで受賞した、
白石が世界に誇る建造物の上で変な生物と戦うのであった!

戦いは省略。
取り敢えず変な生物を二百体くらい殲滅した頃、
不意に煩い排気音の巨大なバイクが止まり、
何らかの強化装甲を纏っているらしい搭乗者が、
ホワイトストーンズに不安そうに声を掛けた。

「あのー、
そこの白い人達にちょっとお尋ねしたいんですがー……」

外見は特撮ヒーローだというのに、丁寧な言葉遣いをされると異様に怪しかった。
しかも声質からして、強化装甲を纏っているのはどうやら女性……、
しかもかなり幼さが残るくらいの女の子のようだ。
少なくとも大型二輪の免許は絶対に取得していないだろう。
無免許運転は危険なのでやめてほしい。

「どうかしたんですかー?」

自分達と同様に強化装甲を纏っている(こちらは白いタイツだが)少女に、
何となく親近感を抱いた本郷は、眩しい笑顔で白い歯を輝かせて返事をしてやった。
少女は安心した様子で頭を下げて続けた。

「少し前に無駄に速いバイクがこの辺を通りませんでしたかー?」

「大きなバイク……?
あ、そうか。通りましたよー!」

「あ、それじゃあ、すみません。
どっちに行ったか教えて頂けますー?」

「あ、はい。
南郷通りを進みましたよー」

「すみません。この辺の地理が分からなくて……。
どっちの道です?」
12 :ny [saga]:2011/10/28(金) 21:44:36.59 ID:pbUGHxci0
彼女の言葉に反応して、こっちですよー、
と北郷と南郷が指を差して言ったが、二人が指した方向は異なっていた。
戸惑ったヒーロー少女は首を傾げているようだった。
対した北郷も複雑な表情で腕を組んでいる。
不意に南郷が言った。

「待て、北郷! そっちじゃあない!」

「えっ? こっちが南郷通りだろう?」

「分かってないな、北郷。
おまえみたいに皆は地下鉄菊水通への道を南郷通りだと思っているが、違うんだ!」

「何だって?」

「あっちは南郷通りではなく、南一条通りなんだ!」

「ええっ!」

衝撃的な事実だったらしい。
北郷は瞳孔を大きく見開いて叫んでいた。

「南郷通りはそっちじゃあなく、水穂大橋に続く道……。
こっちの事を言うんだ!」

「そうだったのか!
すまない、南郷……」

「いいんだよ。
皆、間違って覚えているみたいだしな」

「それじゃあ……、こっちでいいんですか?」

北郷達のやり取りを見ていたヒーロー少女が、迷子になった子供の様に再び訊ねた。
それはそうだろう。
観光者(多分)に御当地ネタが分からないのは自明の理だった。
13 :ny [saga]:2011/10/28(金) 21:45:08.31 ID:pbUGHxci0
「そうそう。
気を付けて行きなよ」

「あ、はい! それと……」

心配そうな様子で彼女は口元に手をやった。

「何だい?」

「ゾンビ相手に大丈夫なんです?
見たところ貴方達も美奈子と同じ様な戦いをしてきたみたいですね。
変身スーツの形状はかなり違うみたいですけど……。
そんな薄いタイツみたいなスーツで平気なんです?」

どうやら本当に心配してくれているらしい。
本郷は彼女を安心させる為、気障に顔の前で指を振った。

「大丈夫だよ。白石は俺達が守る。
その為に俺達は雅楽戦隊ホワイトストーンズになったのさ」

「貴方達も美奈子と同じなんですね……」

「ああ。似た者同士頑張ろう!」

本郷が言うと、ヒーロー少女は視線を少しだけ下げて囁いた。
何処となく嬉しそうだった。

「まだ……、こんなに戦っている人たちが居たんだ……」

「どうかしたのか?」

「いえ……。それでは急ぎますので失礼します。
本当にありがとうございました」

頭を下げたヒーロー少女(どうやら美奈子という名前らしい)は南郷通りを進んでいく。
ヒーロー少女の武運を祈りつつ、姿が見えなくなるまで見届ける。
本郷は不敵に微笑んで、北郷達と手を合わせて気合を入れた。

「さて、白石は俺達で守ろう!」

「おおっ!」

バイクに乗ったヒーロー少女と、白い服を着た戦士たちが街を護る為に戦っている。
それはとても滑稽な光景かもしれないけど、同時にとても素晴らしい事じゃないかな。
そう本郷は思ったが、それは流石に気障過ぎたので言わないでおいた。
何はともあれ、またいつ変な生物が現れてもおかしくはない。
しっかり腹ごしらえをして、これからの局面に臨むとしよう。
14 :ny [saga]:2011/10/28(金) 21:45:43.42 ID:pbUGHxci0


7


【グラマトン・クラリック ジョン・プレストン 九月三日 午前十時三十分】


かなり長時間、リビッグデッドどもの掃討を続けていたプレストンだったが、
久方ぶりに建物の片隅に生きている人間を発見した。どうやら逃げ遅れた現地人のようだった。
隠れていたのは祖国の娘を思い出させる五・六歳の幼女だった。
発音には少し自信がなかったが、プレストンは学びたての日本語で少女に語り掛けてみる。

「大丈夫か?」

どうやら伝わったらしい。
暫く怯えたようにしていたが、少女は震えながら頷いた。

「心配はいらない。此方に出て来るんだ」

少女は建物の片隅から少しずつ身を出してくる。
生存者を見るのは久し振りだった為、
クラリックにあってはならない事だとは思いながらも、プレストンは安心に似た感情を禁じ得なかった。

刹那、彼は表現出来ない不快な感情を読み取り、少女を抱いてその場から跳躍する。
数瞬後、クラリックと少女の居た場所は、銃弾で蜂の巣にされていた。
少女を庇う形で彼は物陰に転がり込み、プレストンは銃弾の発射元に視線を向ける。

男が居た。
悪趣味な黒いジャケットを着た一人の男が、拳銃を持って悠然と立っていた。
奴が撃ったのだろう。
プレストンは少女を庇いつつ、男にディンゴの銃口を向けた。

「何故、撃った?」

男は不思議そうな顔をして、やる気のない口調で呟いた。

「ここは戦場だろ? 誰を殺そうと俺の勝手だろうが?」

どうと言う事ではないという表情で男は呟いていた。
瞬間、プレストンは男から意味不明な闇黒の感情を読み取っていた。
彼には相手の感情を読み取るという特殊能力がある。
否、特殊能力と言うと語弊があるかもしれない。
そこまで優れた能力であるというわけでもないのだ。
ただ何となく、彼は人間がどの様な感情を抱いているか知る事が出来るだけだ。
感情が深ければ深いほど強く感じ、弱ければ微々たる感覚しか得られない。
彼の能力はその程度のものでしかない。
15 :ny [saga]:2011/10/28(金) 21:46:12.22 ID:pbUGHxci0
何故、こんな能力が己に備えられたのかは、プレストン自身にも分からないが推測は出来る。
恐らくは感情抑制の薬物の副作用だろう。
彼は自らの感情を持たない代わりに、他人の感情に鋭敏になっているのだ。
専門的に言うならば脳の体性感覚野の再配置とも言えるかもしれない。
人間は脳の一部に何らかの損傷を負った際、
損傷した付近の脳が損傷した部分の脳を、己の役割を効率よく行うために取り込む事がある。
それが脳の体性感覚野の再配置だ。
例えばプレストンのように感情を司る脳の一部分を機能させない事で、
逆に付近の脳の働きが活発になる事例も多々報告されている。

彼が初めて感じる男(以下、ジャケット)の感情は紛れもなく異常を過ぎていた。
憎悪、憤怒、虚脱感。
それらが全て混在し、複合的に各々が逸脱して歪曲されている感情。
これほどの異常感情を感じた事はない。
祖国では深い程度の感情を持つ者は感情違反者として処罰されるが、
ジャケットの感情は感情違反者を超える感情異常者と呼べるほどの異常な感情を有していた。
瞬間、少女を軽く遠くに投げてから、飛翔していた。

「空魔」

呟いて型を移行させる。
鳳雷鷹系統の最上位型、空魔。
自身が回転する事で全方向への射撃を可能とした型だ。

だが、ジャケットはその空魔を軽く避けていた。
空魔の軌道を読み取り、避け、反撃に転じる。
荒削りな拳銃捌きで、華麗とは言い難い動きではあるが、人間を射殺する為には確実な攻撃だった。
拳銃の弾丸はプレストンを僅かではあるが掠め続ける。
どうも本能的に戦う方法を知っているとしか思えない。
まさしく殺戮機械として生きる為に生まれ落ちた醜悪な怪物と言える。
しかし、プレストンは法の執行者、グラマトン・クラリックなのだ。
敗北は赦されない。

「黒獅子」

攻撃重視型、黒獅子。
近接戦闘を主としたガン=カタの型だ。
最大限に効力が発揮されれば、相手との距離がほんの僅かであったとしても、
プレストンは最大の攻撃効果を挙げる事が可能となり、相手の弾丸が自らの身体に触れる事は有り得ないだろう。

それでもやはり、ジャケットは有り得ない動きで攻撃に転じてくるのだった。
黒獅子は相手の拳銃をこちらの拳銃で払いながら戦う型でもあるのだが、
ジャケットはそれを圧倒的な腕力で無理矢理に押し退けていた。
プレストンをして捌き切る事が不可能な乱打だった。
まさに決着が訪れない死闘。
久遠にこの戦いが続くのか、そんな思いがプレストンの頭を掠めた瞬間だった。

「ロックンロオオオオオオオオオオオオオルッ!」

場違いなギター音とシャウトがプレストン達を包んだ。
16 :ny [saga]:2011/10/28(金) 21:49:05.59 ID:pbUGHxci0


今回はここまでです。
自分の好きな物を丸ごとぶち込んでクロスさせてみました。
誰得ですが、よろしければ読んでやってくださいませ。

ちなみにファイズの中の人が違うのは、男ばかりでキャラが被るからです。
申し訳ないです。
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/28(金) 21:57:27.51 ID:twz9E4tDO
乙。

555とは俺得。
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2011/10/28(金) 22:15:37.78 ID:MBDlSzjto
いいスレだ感動的だなだが有意義だ

誰が首コキャされますか(期待)
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2011/10/28(金) 22:58:44.14 ID:8bcTccgoo
リベリオンとは俺歓喜
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県) [sage]:2011/10/29(土) 09:52:15.12 ID:eNQeBtKR0
坂口拓ちゃんがクロスSSに出るとわwwww
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/29(土) 15:20:58.99 ID:oYZvMgXDO
ホワイトストーンズwwwそうか北海道だからか…
しかしリベリオンとは俺得すぎる
次回も期待
22 :ny [saga]:2011/10/30(日) 20:26:41.98 ID:PgVtK3jr0


8


【仮面ライダー555 斉藤美奈子 九月三日 午前十時四十五分】


またこれは厄介な事になっているらしい、と美奈子は嘆息した。
ギターウルフを追い掛けて来たまではいいが、
辿り着いた場所ではギターウルフに加えて変な男が二人も増えていて、しかも対峙していた。
新規参戦者が多過ぎて、どうにも美奈子の頭は混乱してしまう。
人の顔を覚えるのが不得手な美奈子には、一大事と言っても過言ではあるまい。
今度、対人関係の仕事をしている従姉妹の香苗にでも、
人の顔を覚えるいい方法でも教えてもらいたいところだ。

新規参戦者らしい一人は西欧系の外国人だった。
神父服のような服装を身に纏った壮年が近い男性だ。
何処となく眉間に皺が寄った厳しい顔をしているようだったが、
微笑めば柔らかい笑顔を見せてくれるかもしれない。

対するもう一人の男は日本人ではあったが、
妙な黒いジャケットを着ている上に身体中が返り血に塗れていて、どうにも極悪人にしか見えなかった。
先の外国人とは異なり、彼が微笑んだところで、柔らかいどころか厭らしい笑顔にしかならないだろう。
更に言わせて貰えば、日本人の方の男は美奈子の趣味ではない。
これは誰にでも声を大にして主張したい、
といつも思っている事なのだが、彼女の男の趣味は筋肉質な兄貴なのである。
鍛え抜かれた男の、否、漢の身体。
美奈子はそんな筋肉質にこそ心惹かれ、恋に墜ちるのである。
その意味では、現在揃っている男達の中で言えば、ギターウルフが一番美奈子の好みの男性かもしれない。

ギターウルフに緩慢な歩みで近付くと、美奈子は小さく耳元で囁いてみる。

「ギーさん。この人たちは誰なんですか?」

「知らんが、片方の身分は分かるぜ。
あれはグラマトン・クラリックだな」

「……クラリス?」

「クラリックだ」

ああ、そうか、と美奈子は手を叩いた。
クラリックならば美奈子もニュースで何度か見た事がある。
そのニュースでは確か世界人権団体に人権侵害の象徴とか言われていたはずだ。
その際、美奈子が画面に見たクラリックの姿は、確かに眼前の外国人の服装とよく似ていた。

「それよりあそこに少女が居る。助けてやれ」

「あ、はい……」

ギターウルフの言葉通り、男達が対峙している場所から少し離れた場所に幼い少女の姿があった。
怯えた素振りで二人の男を見つめている。
確かにこの少女をこそ助けなければ、自分は正義の味方の風上にも置けないヒーローになってしまうだろう。
しかし、この状況で少女を助ける為に自分が離れてしまうと、大変な事になりそうな気もしていた。
これではギターウルフを追ってきた意味も無くなってしまう。
可哀想だとは少し思ったが、美奈子は少女を仲間に任せる事にした。
23 :ny [saga]:2011/10/30(日) 20:27:46.58 ID:PgVtK3jr0
5・8・2・1。
オートバジン・カムクローサー。

近くに来ていたのか、オートバジンはすぐに飛んで駆けつけて来た。
オートバジンは仮面ライダー555の専用バイクであり、意思を有しているAIを搭載している。
特記点としては人型に変形する事も可能で、
それにより細かい作業も可能となり戦闘力も劇的に倍加する事が挙げられる。

「あの女の子を保護してあげて」

人型になったオートバジンは、
頷いたように振舞ってから少女を乗せて連れて行った。

怖くないから安心してね、
と怯えている少女には言ってみたものの、
あんな怪しい人型機械に連れて行かれたら怖いだろうな、と美奈子は自分で自分に突っ込んだ。
何だか少し悪い気もするが、今はそれどころではない。

さて、この状況、一体どうしたものだろうか。
この膠着状態を解かない事には、ゾンビの掃討も出来なければゾンビ発生の原因調査も出来ない。
少し厭だったが膠着を解く為に美奈子は静かに口を開く。
因みに日本人の方は悪人に見えたので、
クラリックの方に声を掛けてみる事にした。

「あのー……、どうかしたんですか?」

少し驚いたようにクラリックは反応した。

「女性か、君は?」

「はい。美奈子は中学二年生の女の子です」

「成程、東方は神秘で満ち溢れているな」

「あははは……」

美奈子は誤魔化して笑った。
東方の神秘と言われて、否定出来ない自分が哀しい。
クラリックは気にした風でもなく、淡々と続けた。

「君の質問の返答だが、私はあの男と戦っている。
あの男は感情違反者だ」

「感情違反?」

少し沈黙したが、
そうか、とクラリックは呟いた。

「そうだな……。
あの男は感情違反でもあるが、何より殺人者でもある」

「やっぱり悪い人なんだ……」

呟いて視線を移すと、日本人の方(以下、ジャケット)はやれやれと肩を竦めた。

「変なロッカーが来たと思ったら、次はテレビの特撮か?
勘弁してくれよ。俺は遊んでんだよ。殺しっていう極上の遊びをよ。
だからよ、ヒーローごっこなら別のところでやってくれよ。
なあ、電波系のコスプレっ娘の美奈子ちゃんよ」

「で……電波……」

美奈子は何とも言えない感情に支配され、
気が付けばファイズフォンを抜いて斜めに傾け、拳銃の様な形態にしてからコードを入力する。
ファイズフォンはコードを入力する事で、ファイズポインターという銃に変形出来るのだ。
24 :ny [saga]:2011/10/30(日) 20:28:19.68 ID:PgVtK3jr0
1・0・6。
バーストモード。

「この男、美奈子が倒していいですか?」

「おまえがかよ?
おいおい、美奈子ちゃんよ、ふざけるなよ」

ジャケットが肩を竦めて、嘆息しつつほざく。
美奈子は沸々と湧き上がる怒りを抑えつつ、小さな言葉で怒りを表現していく、

「人を電波という人は許しません。絶対に許しません。
えー、許しませんとも」

美奈子が電波という言葉に過剰反応するのには深い理由がある。
過去に世界を救っていた時、助けられた住人が美奈子の変身を解いた姿を見ると、
助けられた身分のくせに決まって美奈子を電波だと称するのだ。まったく失礼な事この上ない。
それ故に美奈子は電波という言葉を許せないのだ。

ファイズポインターを向けつつ、美奈子はジャケットに少しずつにじり寄っていく。
だが、それをギターウルフがギターを弾き鳴らして制した。

「下らねえな。殺し合いなんて下らねえよ!
それよりロックに魂を震わせやがれ!」

美奈子としては話の腰を折らないで欲しかったが、彼の言う事も正論ではあった。

「ふ……」

一瞬だけクラリックが微笑んだように見えた。

「すまないがこの男は私に任せて欲しい。
頼めるだろうか? ギターウルフと言ったか?
ロックの魂とやらはよく分からないが、君に譲れない事があるのは理解した。
しかし、君にも譲れない事がある様に私にも譲れない事がある。
私は神の法の執行者だ。私は執行者として使命を果たさねばならない」

少し惜しかったが、美奈子に反論はなく、小さく頷いてファイズポインターをベルトに戻した。
クラリックの使命を奪うほど怒りに震えているわけでもなければ、戦闘の空気を削ぐほどの間抜けでもない。
彼女もまた百戦錬磨なのだ。

「いいぜ。さっさと決めて来い。
その後は俺のライヴに付き合ってもらうけどな」

意外とギターウルフも理解しているようだった。
今現在、何を成すべきかを。

「どいつもこいつも……。
この世界には死んだ方がいい人間が多過ぎるんだよ」

ジャケットはまたほざいたが、珍しく彼の言う通りだと美奈子は思った。
死んだ方がいい人間は多過ぎる。
特にジャケット自身だ。
死んだ方がいい人間が多いと言う人間は大勢いるが、
そんな人間は自分こそ生きていていい人間だと思っているのだろうか。
過去から戦い続け、美奈子はそれを深く理解している。
結局のところ、他人を認められない者は自分をも認められず、
自分が自分自身にすら認められない怒りを世界全体に向けてしまうだけだという事を。
故に、美奈子はクラリックにジャケットを任せるのだ。

ジャケットが拳銃をクラリックに向け、クラリックも拳銃を構える。
そして……、戦闘が再び始まった。
25 :ny [saga]:2011/10/30(日) 20:29:10.77 ID:PgVtK3jr0


9


【囚人番号KSC2-303 九月三日 午前十時五十二分】


彼は思う。
この世界は無駄と欺瞞に溢れていると。
人の闇を認めない世界に何の魅力を感じ、どのように生きていけというのだろうか。
彼は闇と共に在った。闇の中に在った。
闇こそが彼の癒しであり、渇きであり、飢えでもあったからだ。
故にこそ闇の在らぬ世界に彼は存在し得ない。
そして、闇を認めぬ象徴とも言えるべき存在が、現在彼の目の前に居る男だった。

グラマトン・クラリック。
欲望を認めず、感情すら認めず、世界を統治する審判者。

彼は思う。寝言は寝てから言えと。
自分を認めない世界の存在など、破壊し尽くしてしまえばいい。
審判も統治も関係ない。必要ないものなのだ。

だが、彼は考える。
何故、自分の中には汲めども尽きない破壊衝動が生じるのか。
平凡な家庭に生まれ、平凡に生きてきたはずだというのに。
ずっと考え付けてきた疑問。
この湧き上がる想いは何なのか。
この感情は憎悪なのか、絶望なのか、若しくは悲哀なのだろうか。
否、そのどれとも違う。それは分かり切っている。
唯一言えるのは破壊こそが、自分を形作っているのは間違いないという事だけだ。

「黒獅子」

クラリックが呟き、戦闘の型を移行させる。

彼は思い出す。
自分が現在戦闘中であった事を。
ならば戦闘するのみだ。
眼前の怨敵を打ち砕くのみだ。自分はそれでいいのだろう。
彼は腕を力任せに振り回す事でクラリックの拳銃を押し切り、
足技で反撃してクラリックを追い詰めていく。
圧倒的な力により、クラリックの型も崩れていき、精彩を欠かしていく。
戦闘に有利な型を取るクラリックの戦闘力も高いが、所詮戦闘は実力が勝敗を決定付ける。
強者が勝つのは自明の理だ。
26 :ny [saga]:2011/10/30(日) 20:29:38.37 ID:PgVtK3jr0
「ぐっ……」

蹴りがクラリックの腹を抉る度に呻き声が発される。
簡単なものだった。
彼はクラリックの二挺拳銃のみを注意していればいい。
対して自分は拳銃と言う攻撃方法に捕らわれていない。
彼は単に出鱈目な破壊衝動をそのままクラリックにぶつけているだけだったが、
彼の高過ぎる生まれ付いた圧倒的な能力はクラリックを更に劣勢に追い詰めていった。

「終わりだぜ、変態」

彼が呟くとクラリックも諦めたのか、
黒獅子と言うらしい型を解き、無防備な状態でその場に立ち尽くした。
これで終わりだ。
この状態では拳銃を繰り出す事も出来ないだろう。

彼がそう思った瞬間だった。
クラリックの拳銃の銃底が彼の顔面を捉えたのは。
鈍痛。
激痛が顔面に奔る。

「獣魔」

彼が気付いた瞬間には、クラリックは拳銃の銃身に持ち替えていた。
成程な、と彼は何処か冷静に考えていた。
拳銃の攻撃だけに拘っていては、敵を討ち滅ぼせない。
だからこそ、敵の虚を突ける攻撃方法をクラリックは選択したのだ。
そう。彼が己の破壊衝動のままに攻めたように。
彼はクラリックの銃底による乱打に成す術もなかった。
幾度もの乱打が顔面を捉える。
銃底にも何らかの仕込みがあるらしく突起物が突き出しており、その突起物が更に彼の顔面を穿っていった。
それも長くは続かなかった。
クラリックの猛攻が止まった瞬間、彼は冷たい感覚を額に感じていた。
無論、クラリックの拳銃の銃口の感覚だった。
頭を異物感が襲う。
感覚が消える。

そして、世界は闇に堕ちた。
27 :ny [saga]:2011/10/30(日) 20:30:15.15 ID:PgVtK3jr0


10


【グラマトン・クラリック ジョン・プレストン 九月三日 午前十時五十五分】


危なかった。
獣魔の型に移行していなければ、恐らく負けていただろう。
獣魔とは攻撃重視の型である黒獅子の上位発展型だ。
近接戦闘を強いられる状況を見越して考案された型が黒獅子であり、その奥の手が獣魔だった。
機動性重視の空魔と異なり、獣魔は完全に近接戦闘対応として考案されている。
拳銃の遠距離攻撃を敢えて棄てて近接戦闘に専念する事で、敵の虚を突ける奥の手だ。
無論、近接戦闘だけではなく、
ディンゴを獣魔、ジャッカルを黒獅子と両手で異なる型を取る事で、様々な戦闘に対応が可能ともなる。

「見事だな、クラリック」

少女がギターウルフと呼んでいた男が、プレストンに賞賛の声を浴びせる。
プレストンはどう反応するでもなく、無感動に拳銃を己の上着の袖口に収納し直した。
無表情なままに思考するのは、これから起こるであろう事態についてだった。
目の前の殺人鬼は討ち滅ぼしたが、ただそれだけだ。
事態は何も進展してはいない。
勿論、日本という国に何かの思い入れがあるわけではなく、
このまま祖国に帰還するという選択肢もあったが、彼の誇りがそれを赦さなかった。
ここまで関わってしまった以上、
このリビングデッドどもの発生原因をこそ突き止めねば、祖国への帰還は赦されない。

気が付くと、少女がギターウルフに何事かを訊ねていた。

「あの、ギーたん……。
何かを感じるって言ってましたけど、
このジャケットの人の事だったんですか?」

ギターウルフは何も答えずに腕を組んでいる。
何かを熟考しているようだった。
少女は質問の対象をプレストンに変えた。

「えっと、クラリックさん……」

「ジョン・プレストンだ」

「じゃあ、プレストンさん。
プレストンさんはこのゾンビが発生した原因、分かります?」

「いや、私は何も知らない。君は?」

「美奈子も分かんないです……」

特に意味のない会話だった。
やはりギターウルフしか答えを知り得ていないのだろうか。
唐突に。

「そのロッカーの感じるって言ってたのは、多分俺の事じゃないかな?」

響く冷徹な声。
プレストンは声の方向に視線を移す。
その場所に居たのは一人の髭男、
そして周囲に付き従うリビングデッドどもだった。
28 :ny [saga]:2011/10/30(日) 20:30:44.52 ID:PgVtK3jr0


11


【仮面ライダー555 斉藤美奈子 九月三日 午前十一時零分】

うわぁ、また変な人が来た……。
美奈子は何となく泣きたい気分で肩を落とした。

「変な人で悪かったな」

髭男が冷たい視線を美奈子に向け、
文句でも言うかのように冷笑しながら呟いた。

「あれ? 美奈子、声に出してました?」

「よく聞こえたよ」

「あ、ごめんなさい……」

「まぁ、いいけどな」

髭男は外見と異なり軽い性格らしく、さして気に留めた様子もなく呟いた。
それからプレストンも美奈子もギターウルフも無視して、
死んでいるジャケットに向かってゆっくりと歩いていった。
辛そうなのか、嬉しそうなのか……、
どちらとも取れる複雑な表情をしつつ、髭男はジャケットの顔をゆっくりと覗き込んだ。

「死んだか……」

「仲間なのか?」

プレストンが淡々と訊ねたが、
髭男は笑みさえ浮かべて淡々と事実を述べる様に応じた。

「いや、嫌いな男さ。
殺してくれたおまえ達に感謝したいくらいさ」

やはり事実なのだろう。
髭男は何の感傷も抱いていないようだった。
しかし、それよりも重要なのは、彼の周囲に居るゾンビの事だった。
何故、彼はゾンビと行動を共にする事が出来ているのだろうか。
その上、ゾンビの構成も悪趣味過ぎる顔触れだった。
無駄に露出が多い女性、眼鏡の男、赤い髪のサングラス男、猿のような顔の中年、
彼等に先刻死んだジャケットを入れるとまるで特撮戦隊ものだ。

だが、美奈子には、
それ以上にゾンビの一人に注目せねばならない理由があった。
猿顔の持っている物だ。
見覚えのあるトランクを猿顔が持っていたのだ。
29 :ny [saga]:2011/10/30(日) 20:31:13.84 ID:PgVtK3jr0
「カイザフォン……!」

思わず美奈子はそうこぼしてしまっていた。
カイザフォン。
仲が悪いながら共に戦った戦友、瀬川明美の使っていた変身道具だ。
ファイズである美奈子と、カイザとして戦った明美。そして、デルタの渚。
三人は三人の意思の下に戦い続け、戦いを終わらせた。
戦いを終わらせられたのは、口惜しいが明美の戦果でもある。
美奈子と渚の二人が諦めそうになる中、明美は戦って散っていった。
見事な散り様だった。
その彼女の死を乗り越えて、美奈子達はどうにか過去の戦いに勝利出来たのである。
だからこそ、ゾンビの手にカイザのベルトがある事に我慢がならなかった。

「何故、貴方達がカイザのベルトを持ってるんですっ?」

美奈子は叫んでいた。
激昂していたかもしれない。

「ああ……、これか?」

髭男が飄々として笑った。

「これからの目的の為にちょっと借りてる。
無断で悪かったけどな」

「これからの目的……だと?」

ギターウルフが呟いて、ギターを髭男に向ける。
どうやらギターの中にショットガンが仕込まれているらしい。
無茶苦茶な事をする人だが、やはり美奈子は、彼はそういう人なんだ、と思う事で自分を納得させた。

「そう、目的さ。
……なあ、おまえ達は黄泉返りの森を知っているか?」

「……知るかよ」

「今、日本中で死者が甦っている。
これはバミューダトライアングル、小笠原沖に代表される魔の領域に顕著な現象でもある。
魔の領域が日本中で広がっているんだよ。
黄泉返りの森ってのは、日本の中でも特別魔の領域としての特性が高い場の事なのさ。
勿論、此処の事じゃないんだが、
現在北海道のこの場所は黄泉返りの森と同じくらいに魔の特性が強まっているようなんでね。
だから、俺達はわざわざ此処に来たって事なんだよ」

「魔の領域……ねえ」

「世界には光があって闇がある。
光を存在させるために、対の存在として闇というものがある。
それはコインの裏表だ。片方が欠けては片方も存在出来ない。
表裏一体。その魔の特性が現在、何らかの干渉によって活性化しているんだ。
光を覆い尽くさんがくらいに」
30 :ny [saga]:2011/10/30(日) 20:31:48.44 ID:PgVtK3jr0
「それで貴方達は何をしようって言うんですかっ?」

「別に俺は何をどうこうしようってわけじゃない。
闇の力を全て吸収して、神に近い存在になろうと思ってるだけなんだよ」

「中二病……っ?」

リアル中二である自分が言うのも変だとは思いながら、美奈子は呟いた。
まさか本当に神を目指している中二病患者が、
この世界に存在しているとは思ってもいなかったからだ。
しかも、闇の力を利用としようとしている所が更に中二臭くて、
自分の事では無いのに恥ずかしさでその場から逃げ出したくなりそうだった。
自らの病気を自覚しているのかいないのか、髭男が悪い笑顔を浮かべて続ける。

「そう、神だ。
その為にこの場所の力が必要なんだよ。
現在、この場所には世界中の何処よりも闇の力が集中している。
それこそ黄泉返りの森よりもね。
理由は分からないが、今更それはどうでもいい。
俺は単にその闇の力を吸収する儀式を行いに此処に来ただけなのさ」

「カイザフォンをどうして奪ったんです?」

「護身……かな? 用が済んだら返してやってもいい。
さあ、分かっただろう。此処から去ってくれないか?
別に俺はおまえ達と争おうと思っているわけじゃないんだ」

髭男の瞳からは何も読み取れなかった。
しかし、プレストンは淡々と、されど髭男を睨み付けつつ言った。

「騙されるな、少女」

「……斉藤美奈子です」

「では、美奈子。
もう一度言うが騙されるな。
私は人のある程度の感情を読み取る能力を持っている。
別にそれは信じなくてもいいが、とにかく私の能力を持ってしても、その男からは何の感情も感じられない。
感じられるのはただの闇。紛れも無い漆黒の闇だ。
こんな手合いの結末は知っている。自分を巻き込んで世界ごと滅ぼすだけだ」

人の感情を読み取れる能力を信じたわけではなかったが、
プレストンの言っている事は美奈子にも深く賛同できた。
美奈子も髭男と話していて、無機質な人形と話している感覚を禁じ得ない。
そう。髭男からはまるでジャケットと同じ物を感じさせられるのだ。
ならば、髭男を信じるに値しない条件に十分過ぎるというものだ。
不意に髭男が面倒そうに拍手を始める。

「見事だね、クラリック。
俺の感情を見事に言い当てた。
そうだ。俺は神の力を手に入れたら、この世界を闇に包ませる予定さ。
破壊を無限に愉しむ為にな。
残念ながら交渉決裂だな。
それじゃ、どうする? 今すぐ戦うか? それとも、ちょっと遊ぶ?」

髭男の言葉が終わるか否かの瞬間、美奈子は駆け出していた。
彼等にカイザフォンを使わせたくないという美奈子の想いが彼女を突き動かしていた。
これ以上、明美を侮辱させたくはない。
しかし、美奈子の想いは意味を成さなかった。
猿顔が唐突にベルトを装着したのだ。
コードを入力していく。
31 :ny [saga]:2011/10/30(日) 20:32:15.16 ID:PgVtK3jr0
9・1・3。
コードカイザ入力だ。
スタンディング・バイ。

「へんしんっ!」

脳が腐っていそうな声で叫んだ猿顔を黄色い光が包む。

コンプリート。

次の瞬間には、猿顔が仮面ライダーカイザに変身を完了していた。
仮面ライダーカイザ。
明美が変身していた懐かしい姿だ。
選ばれていない人間が変身を行えば死んでしまうというのに、猿顔は変身を完了していた。
有り得ないはずの現実だが、刹那、美奈子は思わず呟いていた。

「そうか……、そうだったんだ……」

発想の逆転。
装着した人間が元から死んでいたとしたならば、カイザに変身しても死ぬ事は二度と無い。
通常では有り得ない現象ではあるが、現在の様にゾンビが溢れている状況なら或いは可能となる。
何処で知ったのか分からないが、
恐らく髭男はそれを見越して、美奈子からカイザフォンを奪ったのだろう。
護身。その通りだ。
変身しても死にはせず彼を護るカイザであれば、イージスの盾の如く最強の盾となるだろう。
更にカイザはファイズと同じく、本人の持っている能力を数十倍にも高められる。
その効果が人間の能力を超えたゾンビにも発揮されるならば、それこそ最大最強の敵だろう。
まったく、冗談でもない。

ならば、美奈子はどうするべきなのか。
速攻だ。それしか勝つ方法は有り得ない。
美奈子は左腕に腕時計のように装着していたファイズアクセルの上半分を取り外し、
流れるような動作でファイズアクセルをベルトの上に再装着する。

コンプリート。

聞き慣れた合成音が響くと、
仮面ライダーファイズの装甲の一部が剥き出しになり、流動的なフォルムへと再変身を終えていた。

これが仮面ライダーファイズ第二の形態、アクセルフォームだ。
行動可能時間こそ短いものの、実に通常の千倍の速度で行動出来る形態だ。
勿論、肉体的な負担も大きく、
何度も連続しては使えないが、髭男達程度の人数であればどうにか間に合うはずだ。

美奈子はまだ左腕に残っている、
ファイズアクセルの下半分のスイッチを押した。

スタート・アップ。
ファイズアクセルが始動する。

不意を突かれた髭男チームは、即座に反応出来なかった。
美奈子はファイズポインターを乱射しながら彼等に接近していき、
一番手近に居た露出の多いゾンビの顔面を渾身の拳で砕く。
彼女の顔面は脳髄まで吐瀉物のように飛散する。

次は眼鏡の男だ。後ろ回し蹴りで撃退する。胴体が千切れて内臓が露出した。
所詮はゾンビの耐久力なのだった。哀しいほどに脆かった。
32 :ny [saga]:2011/10/30(日) 20:32:48.72 ID:PgVtK3jr0
そして、赤髪のサングラス。

エクスチェンジ。

合成音声と共に美奈子の脚から光が掃射される。
俗に言うライダーキックだ。
光は赤髪の前で花開くように広がっていた。
光自体には特に効果はなく見えるかもしれないが、
その実、光に質量を持たせる特殊な構造の光線のため、
美奈子の蹴りに数十倍の威力を付随させられる光である。

「やあああああああああああああっ!」

美奈子の渾身の絶叫。
蹴りが赤髪の身体を貫く。悲鳴すら上げられずに、赤髪の身体は四散した。
流血が美しく花開くようだった。流血の花だ。
そして、正念場。残りはカイザに変身した猿顔と髭男だ。
彼等が主力と見て間違いない。

「やあああああああああああああっ!」

もう一度だ。
もう一度、美奈子は髭男に向けてキックを繰り出す。
幾らゾンビを従えて神になろうとしている中二病とは言え、
この速度、この威力に耐えられるはずがない。

だが。
髭男は人間に反応出来ないはずのその速度に反応していた。

「センスはいい。だけど、まだ若いな」

軽口と共にどこから取り出したのか、
髭男は無機質な鋼のような刀を振り回した。
攻撃の成功を信じていた美奈子は反応出来ずに刀が直撃し、
目にも映らない速度で付近のビルの壁へと激突させられてしまう。

タイム・アウト。
リフォーメーション。

時間切れだ。
ファイズアクセルの効果が切れ、アクセルフォームが解除される。

「どうしろって……、言うの……」

吐き捨てるように美奈子は言っていた。
人間どころか機械でも反応出来ないはずの速度に髭男は反応し、撃退して見せた。
どんな身体構造をしているのだろうか。
更にそれ以上に手強いはずのカイザには、攻撃を繰り出す事すら出来なかった。
八方塞がりだった。
少なくともすぐには手の尽くしようがない。
その間にギターウルフとプレストンは殺されてしまうだろう。

「どうすれば……」

人類を救ったくせに愚か過ぎる己の無力さに、美奈子は思わず呟いていた。
泣いていたかも知れない。
明美を失った美奈子。それを繰り返そうとしているのだ。自分自身の無力のために。
それが悔しかった。

「それじゃ、終わりだな」

髭男が愉快そうに微笑んでいた。
ギターウルフ、プレストンが、それに反応して銃を、ギターを構え直す。

「やって来い」

カイザである猿顔の肩を叩いて、髭男はその場に座り込んだ。
早くギー太ウルフさん達を助けにいかないと……。
美奈子がそう思った刹那、何者かが猿顔に向かって駆け出していた。
33 :ny [saga]:2011/10/30(日) 20:34:20.14 ID:PgVtK3jr0


12


【囚人番号KSC2-303 九月三日 午前十一時十分】


闇の淵を歩いていた。
自分は死んだのだろう事は理解出来ていたが、
何故か現世で何が起こっているのかも理解出来ていた。
己の枕元で何事かを喋り続けられるかの如き感覚。
臨死体験というやつなのだろうか。
だが、彼は臨死体験自体に興味はない。
このまま何事も無ければ、何の未練もなく死ねたはずだった。
しかし、唐突にもう音を捉えないはずの彼の耳が、懐かしい声を捉えていた。

「そのロッカーの感じるって言ってたのは、多分俺の事じゃないかな?」

忘れもしない男の声。
誰の声なのかは知らないはずなのだが、本能的に分かっていた。
自分はこの男をこそ憎み、この男をこそ殺さねばならないのだと。
何故なのかは分からなかった。
すぐには理解出来ずに思考が混乱した。

されど、死の淵で響く言葉が彼の中の記憶の扉を開いていく。

「別に俺は何をどうこうしようってわけじゃない。
闇の力を全て吸収して、神に近い存在になろうと思ってるだけなんだよ」

神か。狂った事を言っていやがる。
彼は死の淵の中で毒づく。
既に理解出来ていた。
声を聞く度、封印されていた記憶が蘇る。
神になろうとした人間が過去に自分のすぐ近くにいた事を、彼は思い出していた。

――俺と張り合うな。

話している男の声で、遠い記憶の中の誰かが話している。
過去に彼が、遥か数百年以上前に彼が言った言葉。
彼こそが近く、愛おしい怨敵。殺さねばならない仇敵。
己が破壊衝動に囚われ続けた真の理由。
そうだ。分かった。

……兄だ。
遥か過去、兄弟としてあった事のある、倒すべき同胞。
自分を過去に殺した兄。神になろうとして、前世の自分を殺した兄貴。
結果、過去の兄は神に至る事は出来なかったが、この時代になって再び神の領域を目指し始めたのだろう。
させるかよ、そんな事。
神だろうと何だろうと関係ないが、あいつの思うままにだけはさせてたまるもんかよ!
思った瞬間にまず怒りの感情が来た。
それから憎悪が彼の五体を、彼の魂魄を染め上げていく。
深く闇を凌駕する完全なる無色の感情が彼を支配し、
彼は己の思考そのままに屍鬼として蘇っていた。
魔の領域の効果もあるのだろう。
彼が屍鬼として復活するのも、現在ならば極自然だ。
だが、人間の思考力を有したままに甦れたのは、間違いなく彼の憎悪の至る領域の結末だった。
34 :ny [saga]:2011/10/30(日) 20:35:03.04 ID:PgVtK3jr0


13


【グラマトン・クラリック ジョン・プレストン 九月三日 午前十一時十分】


現在、どうやら日本中で死人がリビングデッドとして蘇っているらしい。
あらゆる場所でリビングデッドが発生している。
故にジャケットの男が蘇っても何ら不思議ではない。
寧ろ当然の結果だとすら言えるだろう。
それにも関わらず、プレストンにとって、
否、誰にとってもこのジャケットが生き返るのは予想外に違いなかった。
無論、生き返るというのは、リビングデッドになるという意味ではない。
ジャケットは文字通り生き返っていたのだ。
ジャケットは自分の意思で動き回り、ファイズに似た装甲の戦士、カイザを襲っている。
通常のリビングデッドには有り得ない理性的な行動だった。

更に言わせて貰えば、ジャケットはカイザのベルトを奪う事に専念していた。
死亡していた時に自分達の会話を聞いていたとでも言うのだろうか。
ファイズなどの強化装甲は、ベルトを外す事で解除される事を知っていなければ出来ない芸当だった。

しかも、だ。
驚くべき事にジャケットは猿顔のベルトを奪い取ったのだ。
圧倒的な力の差があるはずだというのに、その力の差を物ともせずに奪い取っていた。
生き返った事によりジャケットの本質的な力が、
リビングデッドの能力に相乗されて底上げされているに違いない。
そうなれば勝負はジャケットのものだった。
呻く如く動いている猿顔の顔面に拳を繰り出すと、猿顔の顔面をジャケットの拳が貫いていた。
どころか肘まで食い込んでいる。ジャケットが腕を抜いた時、猿顔の顔面に大きな穴が空いていた。

その戦闘時間、実に三十秒弱。
引き攣った笑顔で、髭男はジャケットに吐き捨てていた。

「やっぱり生き返ったか、弟よ」

「おまえの話は長いんだよ。
おかげでやっと昔の事を思い出せたぜ」

髭男が弟と呼ぶという事は、ジャケットと髭男は兄弟なのだろうか。
プレストンは少しだけ疑問に思ったが、
勿論、彼等はそのプレストンの様子に一瞥もくれずに、彼等の話を進めていった。

「やはり運命なんだろうな。
時を越えた前世の兄弟の巡り合い。ドラマティックな話だよ」

「胸糞悪い運命だぜ。
だが、そのおかげで俺はおまえを殺せるんだけどな。今度こそ」

「おまえに出来ると思っているのか?」

「テメェに言われる事じゃねぇんだよ、クソヤロウ!」

彼等の話は過熱しているようだった。
その隙を突いて、というわけではないだろうが、
彼等の会話のせいで完全に無視される形になってしまった美奈子が、
肩を竦めながらプレストンの傍に近寄ってきた。
かなりの負傷があるように思えたが、その実はあまり深い負傷は負っていなかったようだ。
35 :ny [saga]:2011/10/30(日) 20:35:31.56 ID:PgVtK3jr0
「前世……、兄弟の戦い……かあ……」

美奈子は小さく呟いてから、強化装甲の中で深く嘆息したようだった。

「出来の悪いBL漫画みたい……。
従姉妹の命さんが喜びそう……」

口調は悪かったが、体調は悪くないようだ。
プレストンは美奈子の無事な姿を見て少しだけ安心し、その事実が彼自身をひどく動揺させた。
グラマトン・クラリックである自分が安心と言う感情に気付いてしまうとは、あってはならない事のはずだった。
そういえば戦闘が激化していたために感情抑制薬物の投与を忘れてしまっていたが、そのせいなのかもしれない。
クラリックとしては即座に薬物を投与するべきなのだろうが、残念ながらその暇はありそうもない。
それに何故か安心という感情は、プレストンにとって決して不快な感情ではなかった。

「大丈夫なのか、ファイズ?」

ギターウルフも無愛想な顔をしながらも、心配はしていたのだろう。
美奈子に軽く訊ねていた。

「美奈子ですよう」

「それじゃあ美奈子、怪我は無いか?」

「何とか大丈夫ですね。
それよりもまた変な事になってきましたね……」

「ああ、ジャケットの奴が生き返っちまって、猿っぽい奴もやられちまった。
あのジャケット、ゾンビになってるってわけでもないようだし、何がどうなってるんだかな」

プレストン達が集まって話している間にも、兄弟は何かを話しているようだった。
話は白熱し、前世の言い争い、諍いについても話しているように聞こえる。

「それじゃあ、俺に協力するつもりはないんだな?」

「何度も言わせるな。おまえに協力するくらいなら、死んだ方がマシだぜ」

「ならば死ぬんだな」

「そっちがな」

ジャケットが言い様、髭男が巨大な鋼の如き日本刀を構え、ジャケットに襲い掛かっていく。
力が底上げされたとはいえ、生身ではジャケットに勝ち目はないだろう。
せめて武器があれば話は別だろうが。
それが分かっているからこそ、
髭男――兄も、ジャケット――弟に遠慮なく攻め込めるのだろう。
瞬間、弟は兄の予想すらしなかったはずの行動を取っていた。
36 :ny [saga]:2011/10/30(日) 20:36:03.22 ID:PgVtK3jr0
「何だと……」

「こう使うんだったな……」

弟が持っていたのはカイザフォンだった。

9・1・3。
コードカイザ入力。
スタンディング・バイ。

初めて髭男は焦った表情を見せた。

「待て! そいつを使うんじゃないっ!」

「これを使えばパワーアップするんだろ?
少々ダサいが……、変身ッ!」

弟に装着されていくカイザの強化装甲。

コンプリート。
合成音声の後に弟は仮面ライダーカイザへと変身していた。

「成程……。力が溢れてくる。
ダサいが中々いいぜ、これは」

弟が呟いた瞬間、兄の刀は弟の腹に直撃していた。
大木ですら軽く一刀両断されかねない一撃。
速度、威力、呼吸、何もかも申し分なかったはずだ。
しかし、弟は微動もせず、無造作に兄に向かって拳を繰り出していた。

「ぐっ……」

異常なまでの速度で兄が後方に吹き飛ばされる。
美奈子が兄に吹き飛ばされた速度を遥かに超えていた。

「いい玩具だな、これは。
兄貴、もうおまえとの関係もこれで終わりらしいな」

「俺は神になる男だっ! こんなところでっ……!」

途轍もない負傷であるというのに兄は叫んだ。
しかし、それ以上どうしようもなかった。
弟はベルトに装着されている十字状の物体を兄の方に向ける。
少し手間取っていたがどうにか戦闘本能からか使用法が分かったらしく、
ベルトの上半分を十字状の物体に装着して物体の引金を兄に向かって引いた。

金色の光が銃弾となって兄を襲い、その後に物体は剣へと化した。
金色の光は兄の身体を縛り付ける。
相手を捕縛する質量を有した光であるらしい。

「じゃあな、兄貴」

剣を逆手に構え、直線に駆け抜ける弟。
十字状の光、Xが兄に襲う。
数瞬後、兄はX状に切り裂かれていた。
相当量の出血と共に兄は崩れ落ちる。
こうして兄と弟の時を越えているらしい前世からの戦いは終わった。
37 :ny [saga]:2011/10/30(日) 20:37:32.46 ID:PgVtK3jr0


今夜はここまでです。
意外と作品を知られてるみたいで歓喜中。
ちょっと古いのばかりですが、知ってる人多くて何よりです。
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2011/10/30(日) 20:40:33.20 ID:5jY7j+Sc0
ギターウルフにホワイトストーンズとか俺得すぎる
39 :ny [saga]:2011/11/01(火) 20:42:47.83 ID:bymHgrWI0


14


【仮面ライダー555 斉藤美奈子 九月三日 午前十一時二十分】


……最悪だ、と美奈子は思った。
あれだけ強敵だった髭男――兄が実にあっさりと殺されてしまったのだ。
予想外の展開が続き、
美奈子の脳内は多くの思考が錯綜して目まぐるしいほどだった。

「生き返ったようだな」

特に深い感情もなく、
ギターウルフが無愛想にジャケット――弟に訊ねていた。

「おかげさまでな。ロッカー」

「ギターウルフだ」

「ギターウルフ?
……ふざけた名前だな」

「おまえの服装ほどじゃない」

「上等だぜ。
俺はおまえらにも恨みがあるからな。
特にクラリックにな」

それはそうだろう。
何しろ先刻プレストンに殺されたのは他ならぬ彼なのだから。

「それでどうするつもりだ?」

プレストンは嘆息がちに呟いた。
無表情なのは変わりなかったが、何処か数分前とは異なる無表情に見えた。

「おまえを殺すぜ?」
「無益な争いは好まないが、
君は感情違反……いや、それ以上に、人として生きていてはいけない型の人間だ。
ここで君を逃せば君は更に多くの人を殺すだろう?
ならば、私に君との戦いを拒否する選択肢はない。
君の望みどおり、私は君を断罪させてもらう」

「断罪……ねえ。偉そうじゃないか、クラリック。
確かにおまえの言うとおり、俺はこれから世界を壊してやる。
当然だ。この世には死んだ方がいい人間が大勢居るからな。
それこそ断罪だな。
腐っちまった世の中の浄化になるんじゃないか?」

「そういう君が……」

「生きている価値のある人間のつもりですか?」

プレストンの言葉は美奈子が続けた。

「腐った世の中。死んだ方がいい人間。
そんな事を考えている人間がどれだけ不要で迷惑な存在か、貴方は分かっていないみたいですね。
腐った世の中と言う人は、むしろその人の頭が腐っているんです。
腐った世の中だと思う人間は、結局何も出来ないのを他人のせいにしている人間なんです。
美奈子はこれまでの長い闘いの中でそれを学びました」

「分かってねえな。
おまえのようなガキが世の中を悪くしてるんだよ」

サーバを移転しました@荒巻 旧サーバ:http://vs302.vip2ch.com/
40 :ny [saga]:2011/11/01(火) 20:43:18.53 ID:bymHgrWI0
「そうかもしれません。
だけど、貴方のように開き直れませんから。
そのような逃避はしたくないですしね。
それにそんなに腐った世の中だと言うなら、貴方の理想の世界というのは何なんですか?
自分に都合のいい世界ですか?
それではただの子供の駄々と変わりありませんね。
でも、それすらもどうでもいいかもしれません。
貴方の思想は美奈子の考えとは相容れません。
貴方と美奈子は共存出来ません。
だから……」

「いい加減にしとけよ、美奈子ちゃんよ」

「いい加減にするのはおまえだ」

ギターウルフがギターをかき鳴らして笑った。

「世の中がどうだとか、死んだ方がいい人間だとか、そんな事に俺は興味ない。
俺はロックと共に生き、ロックと共に死ぬ。
世界がどうよりロックに己の全てを乗せろ!
ロックンロール!」

「まったく馬鹿どもが……!」

確かに馬鹿だった。
己の力を遥かに超えた弟を相手にするというのに、感情を逆撫でしてどうするというのだろう。
何の意味にもならない上に、自分たちを不利にするだけだろう。
それでも……。

それでも美奈子達には信念がある。
信念故に立つ三人なのだ。
信念故に彼等は生きているのだ。
美奈子はギターウルフたちを手招きして集め、耳元で呟いた。

「すみません、二人共。
これから死んじゃうかも知れませんけど、一緒に戦ってくれませんか?」

「気にするな、美奈子。
俺は俺の思うように戦うだけだ」

「ああ、私も神の法の執行者だ。
集団戦には慣れていないが、奴のような男を放ってもおけない。
感情違反者などより、あの男をこそ、
グラマトン・クラリックとして、
否、ジョン・プレストンとして、排除せねばならないと思う」

出会ってまだ僅かしか経ってはいないが、美奈子は二人に絆を感じた。
未来を創造するために戦ってきた同類として、何を棄てても戦っていけると感じられる。
プレストンがまた静かに口を開いて訊ねた。

「だが、どうする?
このままでは勝ち目がないだろう。その程度の戦力分析はできる」

「ぶつかるだけだぜ!
やっちまえよ、ロックンロール!」

「いえ……。
美奈子に作戦があります」

サーバを移転しました@荒巻 旧サーバ:http://vs302.vip2ch.com/
41 :ny [saga]:2011/11/01(火) 20:43:52.39 ID:bymHgrWI0


15


【介入者 不明時間】


介入者は闇の領域で一つの戦いを見守っていた。
遥かなる信念同士の戦いを。
遅かれ早かれ、この戦いは終わるだろう。
この戦いが終わった暁には、自分も姿を現さねばならない。
世界を手中にする為に。

サーバを移転しました@荒巻 旧サーバ:http://vs302.vip2ch.com/
42 :ny [saga]:2011/11/01(火) 20:44:31.53 ID:ndBom0/20


16


【仮面ライダー555 斉藤美奈子 九月三日 午前十一時三十五分】


無茶な作戦だと自分でも分かっていたが、美奈子はその作戦に賭けるしかなかった。
美奈子はクラリックとギターウルフの援護射撃を背に、弟に向けて駆けていく。
当然ながら弟はカイザの強化装甲もあって大した負傷を見せないが、
美奈子としても銃撃程度でこの男を止められると思ってはいなかった。

拳。蹴。肘。
弟に接近した美奈子は、眩いほどの速度で攻撃を繰り出す。
角度、速度、全てにおいて重い攻撃だったはずだが、弟は殆ど負傷を受けなかった。
ゾンビの力を得た上にカイザの力が相乗されているのだ。
これくらい当然かもしれない。
美奈子の攻撃の切れ目に、弟の速く重い拳が割り込み、美奈子に衝撃を与える。
覚悟はしていたが、予想以上に重い。
衝撃が装甲を通り越して十分に美奈子に伝播する。
これほどの攻撃力を有した敵と対峙するのは、美奈子も初めてだった。

だが、その程度で敗北するわけにはならない。
それに美奈子の役目は攻撃ではない。
そう、先に兄がカイザによる護身を計画していたように、
美奈子も仲間達の盾……、イージスの盾なのだ。
イージスの盾による防衛の後、ハルパーの鎌により弟を狩る。
そして、ハルパーの鎌が弟の首筋に迫る。

「マニューバーGRaMXs。
……ガン=カタ奥義、飛影」

美奈子の後方から駆けて来ていたプレストンが奥義を繰り出す。
ガン=カタ奥義、飛影。
別名マニューバーGRaMXs。
マニューバーGravicon(Gravity-control) Rapid acceleration Mobility break Cross(X) shoot 。
日本語訳すると重力加速制御応用の急加速突撃、
ならびに攻撃対象との交差射撃による空間戦術という意味になる。
本来は戦闘機などのマニューバーパターンであり、
あまりの難度故に理論上の産物でしかなかった伝説の技巧だったが、
ガン=カタは敢えてそのパターンを取り入れ、奥義に応用していた。
常人では到底生身で行える技巧では無いのに、
プレストンのようにガン=カタを極めし者のみが扱える最終奥義だ。

マニューバーGRaMXsの名は伊達ではなかった。
カイザと化した弟の攻撃ですら当たらない。
攻撃を避けつつ、プレストンは確実に弾撃を当てていく。
避ける。跳躍する。
舞う如く、踊る如く、相手を屠り去る絶対奥義。
斯様な完璧な型ではあったが、美奈子はそれを見ていて緊張させられた。

近接戦闘奥義、獣魔。近接戦闘型、黒獅子。
機動戦闘奥義、空魔。機動戦闘型、鳳雷鷹。
防衛戦闘奥義、海魔。防衛戦闘型、爆竜。

全ての型を相乗させ効果を高めた物が飛影という型であったが、
飽くまでプレストン自身は生身なのだ。
弟の攻撃が当たれば一撃で確実に即死する。

サーバを移転しました@荒巻 旧サーバ:http://vs302.vip2ch.com/
43 :ny [saga]:2011/11/01(火) 20:44:58.07 ID:bymHgrWI0
だが、弾撃はかなり長い間続けられていた。
プレストンには申し訳ないが、美奈子達にはこれしか取る手段がなかった。

「いつまでも無駄な攻撃をしてるんじゃねえよっ!」

長く続く攻撃に遂に弟の堪忍袋の緒が切れたらしい。
弾丸の乱射を物ともせず強引に攻め込み、弟はプレストンに斬撃を繰り出した。
刹那、美奈子は携帯電話のエンターボタンを押していた。

エクスチェンジ。

「行けええええええええええっ!」

仮面ライダー555のキック。
クリムゾン・スマッシュだ。
弟に向かって駆ける。駆け上がる世界。
弟の眼前に紅の光が花開く。

「やあああああああああああああああっ!」

光の質量と共に、
美奈子の蹴りが弟へ繰り出される。

「甘いんだよッ!」

しかし、それすらも弟は剣を用いて防御した。
驚愕的なまでの反応速度。そして力だ。
攻めている方こそ美奈子だが、明らかに力負けしている。
このままでは弟の剣に身体ごと吹き飛ばされ、追い討ちを掛けられてしまう事だろう。
それでも、美奈子は諦めてはいない。
否、全て作戦通りだ。
嘲笑を込めて、美奈子はそっと弟に囁いてやる。

「そう。剣で防御するよね……。
だって、そうするように仕向けたんだからっ!」

「何だと……!」

「ギーたんッ!」

長く続いたプレストンのマニューバーGRaMXs、
加えて美奈子の追撃に、弟は忘れてしまっていただろう。
流離いのロックンローラー、ギターウルフの存在に。

「オッケー!
ロックンロオオオオオオオオオオオオオオオオルッ!」

ギターウルフが駆ける。走る。走り抜く。
プレストンも、美奈子も、キックの光すら避け、辿り着いたのは弟のすぐ眼前。

「貰ったあっ!」

「何だとお……っ!」

ギターウルフはベルトに手を掛け、
無理矢理にベルトを弟から奪い取った。
弟の変身が解除され、弟は生身に戻される。
それでも弟は剣を捨て、自らの腕で美奈子のキックを防御し続けていた。
半ゾンビとは言え、信じ難い耐久力だ。
しかし、次の瞬間、プレストンが呟いた言葉に、弟は絶望に陥った事だろう。

「変身」

コンプリート。
聞き慣れた合成音声。

「まさか……」

弟は横目でプレストンに視線を向けていた。
美奈子も彼の姿を確認し、満足を込めて頷く。
そう。プレストンが白黒の装甲を纏ったライダーに変身したのだ。

仮面ライダーデルタ。
カイザ、ファイズと違って試作型に近く、誰もが変身出来るベルトのライダーだ。
気弱な渚が使っていたベルトのために少々力不足な感もあるが、実際問題としては性能的にそう違いはない。
ファイズと十分肩を並べる実力を持っている。

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44 :ny [saga]:2011/11/01(火) 20:45:23.64 ID:bymHgrWI0
更に。
美奈子達の後方で、再び猛々しい咆哮が響いていた。

「変身ッ!
ロックンロオオオオオオオオオオオオルッ!」

コンプリート。
合成音声が流れ、変身したギターウルフがギターを鳴らして叫ぶ。

「仮面ライダーカイザ、見参ッ!」

選別されていない者が使うと死亡してしまうカイザのベルトだったが、
ギターウルフは死亡しておらず、むしろ先刻よりも元気そうにしていた。
変身しても無事だろうと狙って行った作戦ではない。
これは賭けだった。
美奈子が作戦を伝えた瞬間、ギターウルフは自分も変身する事を提案した。
本当は二人のライダーで弟を攻める作戦だったのだが、それでは力不足が否めない。
故に彼は己も変身する事を提案したのだ。
美奈子はそれを止めたが、心配するな、と彼は語っていた。
その通りだった。
信じる力が全てを救う事もある。
人の想いは伝わりにくく、無駄になってしまう事も多々あるが、
それでも人の想いは時として無駄にはならない。

「チェック」

プレストンがデルタのベルトの受話器に呟く事で、受話器が拳銃へと変化する。
併せてギターウルフもキックを繰り出すために、携帯のエンターボタンを押した。
ファイズの赤い光に並んで、カイザの金の光、デルタの白い光が上下に花開く。

「はああっ!」

「ロックンロオオオオオオオオオオオオオオオオルッ!」

美奈子の上下にプレストンとギターウルフが駆け、光と共に蹴りを繰り出す。
流石の弟とは言えども、三方向からの蹴りに耐え切る事は出来なかった。
ギターウルフ、プレストン、美奈子の順に弟の身体を貫いていく。
ぱっ、と赤い鮮血が広がり、原子の塵のように細かく分解されて弟は崩れ去った。
斃したのである。
三人して、その場にゆっくりと座り込んだ。

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45 :ny [saga]:2011/11/01(火) 20:45:49.53 ID:bymHgrWI0


17


【グラマトン・クラリック ジョン・プレストン 九月三日 午前十一時四十分】


漸くの事で前世に捕らわれ、人生を狂わせたのであろう弟達を粉砕出来た。
安堵感、喜悦、達成感。
様々な感情がプレストンを駆け巡る。
複雑な気持ちではあったが、
プレストンはもうその感情を拒絶しなかった。
拒絶出来なかった。
感情抑制の薬物を投与していなかったためでもあるだろうが、
一度取り戻してしまった感情を再度棄て去る気は不思議にも起きなかった。
彼もまた、神の法の最後の審判者でありながら、一人の人間であったのだ。
感情は戦争を呼ぶものだが、感情を無くして人間に何の意味があるだろう。

何とはなしに訪れた日本という国で、
プレストンは失っていた物を取り戻してしまっていた。
祖国に戻れば様々な問題が起こるはずだ。
それでもプレストンは感情を祖国に再び伝えたいという考えを棄て切れない。
無論、これから自分がどうするべきなのかは分からない。
しかし、感情が自分の中に在るという事は、決して不快な感覚では無かった。
眼前の二人の戦士の生き様を間近で目にしてしまったからかもしれない。

「これで終わったんです?
ゾンビももう活動を停止とかしてたりしてませんかね?」

プレストンの前で初めて変身を解除した美奈子が、疲労困憊の表情で呟く。
美奈子……。
年端も行かぬ少女でありながら、
彼女の背負う重荷と信念はもしかするとプレストン以上かもしれない。
だのに、彼女は笑顔を崩さず、窮地にも諦める事をしない。
見事な戦士だ、とプレストンは感心を禁じ得ない。

「さて、私には分からないが………」

プレストンも変身を解除して、
デルタのベルトを美奈子の手元に返した。

「さあな。だが……」

含みのある口調でギターウルフも変身を解除した。
カイザドライバーを美奈子に渡す彼の姿を見て、プレストンはまた思う。
面白い男だ、と。
他にも言うべき事はあるのかもしれないが、
何はともあれ、彼に対する感想はそういうものでいいのではないかと思えた。

美奈子もプレストンと似た事を考えているのだろう。
非常に楽しそうな笑顔を浮かべて、軽い感じでギターウルフに訪ねていた。

「ギー太さん、身体は平気ですか?」

「何も問題ないぜ?
だから、ギターの狼さんに任せてりゃ平気なんだよ」

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46 :ny [saga]:2011/11/01(火) 20:46:16.47 ID:bymHgrWI0
「不思議な人だなあ、本当に……」

「それより美奈子。
初めておまえの服装を落ち着いて見るんだが、それは何なんだよ」

「え? ゴシックロリータですけど……。
フリルがひらひらで可愛いでしょ?」

「趣味が悪い」

それはプレストンも言おうと思っていた事だった。
彼も美奈子が変身を解除したときには、少なからず驚いていたのだ。
フリルの多い黒を基調としたゴシックのドレス。
長い黒髪を纏める白黒のレースのリボン。
まさか特撮少女の中の人が斯様な服装だとは、普通は誰も思いもしない。

「いいじゃないですか、趣味なんだから。
何でなんですかねえ、いつも美奈子が変身を解除すると皆そういう事言うんですよ。
毎回毎回、助けてあげたのに、まったくもって失礼な。
失礼にゃ。にゃんにゃかにゃん」

「服装はともかく、そういう事を言ってるからだと思うぜ。
それとおまえのさっきの質問だが、恐らくゾンビ共は……」

瞬間、ギターウルフの身体が唐突に痙攣し始めた。

「来た! 感じる!
遂に来やがったああああああああっ!」

「一体、何が来るんですっ?」

「待て。……空だ! 空を見やがれ!」

「空……?」

美奈子が視線を上げ、プレストンも続いて視線を上に向けた。

「……うそん」

美奈子が信じられない物を見たという表情で目を剥いていた。
プレストンも即座には現実を信じられなかった。
上空には多数の巨大な円盤が、所狭しと肩を並べて浮かんでいた。

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47 :ny [saga]:2011/11/01(火) 20:47:36.40 ID:bymHgrWI0



此度はここまでです。
次回、最終投下予定です。

ギターウルフを知ってる人がいて、更に歓喜です。

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48 :ny [saga]:2011/11/02(水) 21:18:54.29 ID:1hqkFc1P0


18


【ロックンローラー ギターウルフ 九月三日 午前十一時五十分】


これだ。これこそ自分が呼ばれた理由だ。
彼はそう思っていた。
大量のUFO。
否、UFOという言葉は、未確認飛行物体という意味だから語弊があるか。
正確に言うと、大量の空飛ぶ円盤となるだろう。
とにかく、この大量の空飛ぶ円盤こそがギターウルフの戦うべき敵なのだ。
魔の領域が世界中で活性化しているというのも、
この異星からの侵略者達(多分)の科学力に原因があると見て相違ないだろう。

飽くまであの馬鹿兄弟やゾンビ達は前座だったのだ。
人間対人間の戦いは終わり、
人間対謎の生命体の戦いという名の本番が始まるというわけだ。

「こんなの……、ありです?」

美奈子が半笑いで呟いていた。
確かに絶望的な状況に思える。
円盤共は胴体の下方部から光線砲を出して、周囲を破壊していく。
破壊されていく建築物。
どうやらゾンビを使っての世界征服は諦め、
直接の武力行使で世界を支配するつもりらしい。
明らかに地球人とは科学力が遥かに違い、戦闘力は比較するべくもなかった。
絶望的と言うのだろう。一般常識では。
それでもギターウルフは言うのだ。

「諦めるんじゃねえ! 
男ならやっちまえよ! ロックンロール!」

「女ですけど……」

美奈子の弱気な様子を見て、
流石のギターウルフにも若干の迷いが生じていた。
やはり駄目なのだろうか。
世界中の皆も諦めてしまっているのだろうか。
奴等は強大過ぎる敵だと言うのだろうか。

されど、彼は思うのだ。
呼ばれたのは、あの円盤共にではない。
自分を呼んだのは、否、導いたのは、手元にある相棒、阿修羅なのだと。
阿修羅が円盤を駆逐しろと言っているのだと。
阿修羅はギターウルフにそれが出来るから導いてくれたのだと。
故に、ギターウルフは諦めない。
何が起ころうと、円盤共を排除してみせるのだ。
その時、付近のビルの街頭テレビから、大きな叫びが聞こえた。
49 :ny [saga]:2011/11/02(水) 21:21:08.56 ID:1hqkFc1P0


19


【白石の味方 雅楽戦隊ホワイトストーンズ 九月三日 午前十一時五十二分】


「みんな聞いてくれ!」

本郷達は変な生き物を掃討したのち、
行きつけのテレビ局の喫茶『ヒーロー』の協力を得て、
世界の皆に放送を、自分達のメッセージを伝える電波を発信していた。

説明しよう!
ホワイトストーンズは白石の味方の改造人間であるため、白石以外では変身が不能なのだ!

白石の皆を放って他の町を救いには行けないが、他の町も見捨てる事は出来ない。
白石の味方ではあるが、彼等は正義の味方でもある。
だからこそ、本郷たちは世界の皆に勇気を伝える事にしたのである。
勇気の応援。勇気という名の後方支援だ。
きっと世界中に戦っている人々がいる。
一人で戦っているような人々が。
一人で戦い続けるのは辛く厳しいものだが、
他にも戦っている人がいると気付いてくれれば、それだけで戦う勇気が溢れ出てくるはずだ。
本郷達はそう思い北海道テレビに協力を頼むと、北海道テレビは快く了承してくれた。
ありがとう、北海道テレビ。

「俺達も戦っている!
変な生き物を粗方片付けたと思ったら、今度はUFOなんかが出てきちまった。
とても絶望的な状況に思えるかもしれないけど、だけど、皆よく考えてくれ!
俺達が変な生き物を倒したから、UFOなんかが出てこなきゃならなくなったんだよ!
そうさ! UFOさえ倒せばこれで終わりなんだよ!
あと少し! あと少しで、白石……じゃなくて、世界を守り切る事が出来るんだ!
俺達は白石を護るから、皆もあと少し頑張ってくれ!」

届いてくれ。俺達の想い。
そう祈りながら、ホワイトストーンズは放送に参加していた。
勇気を世界に伝えるために。
50 :ny [saga]:2011/11/02(水) 21:21:38.60 ID:1hqkFc1P0


20


【仮面ライダー555 斉藤美奈子 九月三日 午前十一時五十五分】


「あの白い人達……」

美奈子はテレビを覗き込みながら、呟いていた。
そうだ。皆戦っている。
諦めそうになりながらも、懸命に戦っている。
皆のおかげで自分達が在る。
他の皆が他の場所でゾンビと戦っているから、自分は弟達を撃破する事に専念出来た。
応援してくれるから、勇気が湧き上がってくる。
そうだ。
やり残した事があるというのに、諦める事は出来ない。

「やりましょう。
ギーさん!」

「オーケーだ、美奈子。
いい顔だぜ」

「しかし、どうするんだ?
私は残念ながら対空戦闘は不能なのだが」

「美奈子に任せてください、プレストンさん。
申し訳ないんですけど、
美奈子のバイクの中に置いてあるトランクを持って来てくれませんです?」

「了解した」

プレストンが駆けていき、
その間に美奈子は再び携帯電話を漆黒のポシェットから取り出した。

5・5・5。
コードファイズ入力。
スタンディング・バイ。

「変身ッ!」

コンプリート。

美奈子は変身を完了させながら思う。
出来る事ならば、これでファイズへの変身は最後にしたいと。
これを最後の戦いにしてみせたいと。

「闇あるところ光あり、悪あるところ正義あり。
仮面ライダー555見参ですっ!」

捲土重来。
プレストンが赤いトランクを美奈子に投げ渡し、美奈子はトランクにファイズフォンを差し込んだ。

アウェイキング。
再度、美奈子は変身コードを入力していく。

5・5・5。
スタンディング・バイ。

コードがベルトの開発会社である、
スマートブレイン社の人工衛星へと伝わる。

555_2 ACCEPT。

美奈子に照射される人工衛星のエネルギー。
赤く、紅く、美奈子のファイズスーツに変化が表れる。

真紅のファイズ。
幾分か重装甲に変化している。
これがファイズの最終形態、ブラスターフォームだ。
51 :ny [saga]:2011/11/02(水) 21:26:20.84 ID:1hqkFc1P0
「一体、いくつ形態があるんだよ?」

ギターウルフが少し羨ましそうに呟く。
もしかしたら彼のギターも何段階か変形出来るよう、
改造しようと思っているのかもしれない。

「これで最後ですよ。
これこそ美奈子の最後のデウス・エクス・マキナです」

「混沌の闘争を無理矢理の結末に至らせる機械仕掛けの神……か。
上手い例えだな。そして、見事な思春期発言だ。
リアルな中学生の例えってのは、これだから甘く見れない」

「それ程でも……、です」

頭を掻きながら、美奈子はコードを入力していく。

5・2・1・4。
ファイズブラスター・ディス・チャージ。

肩に背負ったバズーカ砲を上空に向け、
美奈子は多数の空飛ぶ円盤に攻撃を開始する。
何機かの円盤にバズーカ砲の弾丸が直撃した。
空飛ぶ円盤はかなりの衝撃を受けているようだったが、
まだ少し攻撃力が足りないらしく、撃墜には至らなかった。

刹那、ギターウルフが真剣な表情で美奈子に訊ねていた。

「その形態は飛べそうな形態に見えるが……、飛べるか?」

「ええ、背中のジェットで飛べます。
それが何か?」

「俺を乗せろ。円盤をぶっ潰す。
無理なんて言わないよな?」

「そうでした。ギー太さんに不可能はないんですよね?
短い付き合いですけれど、何となく分かってきましたよ。
ブラスターフォームもですけど、
美奈子にとってはギー太さんこそが本当のデウス・エクス・マキナです。
貴方こそ世界の危機に適応する決戦存在なんです。
だから、信頼してます。信頼出来ます。
さあ、肩に乗ってください。
それとプレストンさんは撃墜した円盤の誘爆に巻き込まれないように避難していて下さいね。
……ギー太さん、行きますよ!」

「オッケー! ロックンロール!」

プレストンが去るのを見送ると、
美奈子はファイズブラスターにコードを入力していく。

1・4・3。
ブレイドモード。

ファイズブラスターが剣型に変形し、美奈子の手に収まる。
更に美奈子はコードを入力する。

5・2・4・6。
ファイズブラスター・テイク・オフ。

背中からのジェット噴射が激しくなる。
ギターウルフが肩車の形で美奈子の肩に乗った。
少々格好悪いが仕方がそれは御愛嬌だ。

「征くぜえええええっ!
ロックンロオオオオオオオオオオオオオルッ!」

飛翔する。高く、雲すらも越えて高く。
気付けば蒼穹の空に二人は在った。

「どうしますか、わたしの狼さん?」

「決まってんだろ。
一番でかいのが親玉だ。そいつをぶっ潰す!」

「分かりました」

親玉らしき円盤はすぐに見つかった。
巨大な上に角まで付いている。御親切な事だ。
美奈子はファイズブラスターを操作して、その親玉円盤へと近付こうとしたが、円盤達も必死のようだ。
親玉を斃されないように道筋を遮る。
52 :ny [saga]:2011/11/02(水) 21:26:47.71 ID:1hqkFc1P0
「あんた達、邪魔ようっ!」

エンターボタンを押す美奈子。
そのままブレイドで円盤共を切り刻む。
空を飛んでいるだけに耐久力はそうないようで、美奈子は次々と円盤を撃破した。
遂に親玉だ。
ゾンビを操り世界を混乱に陥れた黒幕。この世界への謎の介入者。
目的は分からないが、ひょっとすると神の御使いか何かで、
愚かな人類を粛清しにきた天使とかが乗っているのかもしれない。
勿論、それは前に従姉妹が読んでいたライトノベルの設定を借用してみただけだ。
しかし、こんな時にもそういう設定をつい思い出してしまうのは、
やはり自分がリアル中二病という証拠なのかもしれない、と何となく美奈子は落ち込んだ。

だが、敵が神であろうとどうであろうと、
美奈子には彼等に殺されてやるつもりは毛頭無かった。
敵であるならば、容赦なく粉砕するのみだ。
それが生きるという事なのだから。
死ぬ時は誰が相手であろうと最後の最後まで抵抗し、それから死んでやるだけだ。

「はいだらあああああっ!」

叫んで親玉に斬り掛かろうとした刹那、
待て、とギターウルフが美奈子の斬撃を遮った。

「どうしたんですかっ?」

「そのブレイドじゃ無理だ。俺には分かる。
小粒は倒せても、親玉は倒せないだろうな」

「だったら、どうすれば?」

「おまえはあいつに近付く事だけを考えればいい。
後は狼に任せな」

「信用していいんですね?」

「当然だ」

ならば信用出来る。
美奈子は頷いて親玉円盤に向かった。
53 :ny [saga]:2011/11/02(水) 21:28:08.37 ID:1hqkFc1P0


21


【ロックンローラー ギターウルフ 九月三日 正午】

美奈子の肩に乗ったまま、
ギターウルフは阿修羅に手を掛けていた。
阿修羅との出会いは二十年前の事だ。
まだ駆け出しのロッカーだった自分が中古品屋で見つけた古ぼけたギター。
それが阿修羅だった。
阿修羅は命を分け与えあった相棒と言っても過言ではない。
ギターウルフは片時も阿修羅から離れず、阿修羅も自らの半身として働いてくれた。
カイザに変身しても死ななかった理由は、自分の中に二人分の魂が宿っているからだとギターウルフは思う。
阿修羅と自分の二人分だ。
だから、ギターウルフは阿修羅を信じられる。
阿修羅と共に生きられるのだ。

美奈子は彼の指示通り、
親玉円盤の攻撃を避けながらほんの鼻先の距離まで接近してくれていた。
中学生がここまで指示通りに動いてくれたと言うのに、
自分が上手くやれなければ、ロックンローラーと名乗る資格がないというものだ。

ギターウルフは阿修羅の中に宿る力を解放させる。
それこそ阿修羅の中に仕込まれている日本刀、醍醐狼だ。
醍醐狼自体は阿修羅の中に仕込まれている極普通の日本刀に過ぎないが、
単なる日本刀は時としてあらゆる物を切断し、運命すらも両断する刃と化す。
東洋の芸術に石を水滴で削って芸術品を作るという手法があるが、
醍醐狼は水滴ではなく、ギターウルフの音楽で磨き上げられた日本刀だった。
ギターウルフが阿修羅でロックを奏でる度、
音が、振動が、空気が、魂魄が、ソウルが染み込み、醍醐狼の切れ味は加速度的に増していった。
阿修羅とギターウルフが磨き上げた、彼等の子供とも言うべき存在が醍醐狼だと言える。

「うおおおおおおおおおおおおおっ!」

阿修羅の中の醍醐狼を頭上に掲げ、親玉円盤に向けて勢いよく振り下ろす。
抵抗感は感じなかった。
豆腐を切るような感覚だけが、ギターウルフの手の中に残った。
瞬間、親玉円盤は醍醐狼によって一刀両断にされていた。

一撃必殺。

真っ二つにされた親玉円盤は浮遊力を失い、地上に落下していく。
爆発、轟音、粉砕。
すぐに親玉円盤は跡形も無くこの世界から消失した。

後は小粒の掃討が残っているが、
もう小粒の円盤も戦意を残してはいないだろう。
終わったのである。
ギターウルフは阿修羅の中に醍醐狼を収め、狼の如く吼える。
彼はギターウルフ。
ギターの、狼なのだから。
54 :ny [saga]:2011/11/02(水) 21:28:40.03 ID:1hqkFc1P0


22


【仮面ライダー555 斉藤美奈子 九月三日 午後零時二十分】


「今度こそ終わり……です?」

美奈子は変身を解除してまだ不安交じりに呟きながら、
付近の電気屋のテレビに目をやると、ゾンビ、円盤両者沈黙というニュースが流れていた。
何故かそのニュースは白い人達が担当して放送していた。

「そのようだな」

プレストンが呟くと、美奈子は初めて二人の前で微笑んだ。
ギターウルフはやはり飄々としたもので、いいライヴだったぜ、と豪快に笑っていた。
彼はずっとこの調子で何も変わらないが、
何も変わらない調子だからこそ、彼は全ての魂魄をギターに込め、存在し続けられるのだろう。
美奈子は薄く微笑みつつ、スカートのフリルの埃を払って訊ねてみる。

「これからどうします?」

「私は一日ゆっくり休んで祖国に帰るつもりだ。
飛行機の準備もまだだろうからな。
一応、待たせている者もいるからもう行かねばならないが」

プレストンが会ったばかりの時とは若干違う無表情で応じる。
不意に思い立って、美奈子は訊いてみた。

「祖国に帰って、何をするんですか?」

「そうだな……」

暫くプレストンは黙考していたが、声色を柔らかくして言った。

「祖国に戻って、見極めたいと思う」

「見極めたい……ですか?」

「ああ、見極めたい。無論、祖国では禁忌だがね。
感情が是なのか非なのか、見極める行為すら禁忌でしかない。
だが、私は見極めてみたい。
感情の無い人間は、それこそ先刻のリビングデッドのような存在でしかない。
しかし、感情が戻れば祖国はまた混乱の渦に呑まれるだろう。
だから、見極めたい。
私はずっと考える事を放棄してきた。
全てを規律に任せてきた。
それではいけないのだと……、感じた。
だから、始めてみようと思う。再び考えるという行為を。
それが何年……、何十年掛かるかは分からないが、やってみる価値はあるだろう」

「応援しています。異国の……、美奈子の友達さん」

美奈子は手をプレストンに差し出した。
彼がどうしていいのか疑問を浮かべた顔をしていたため、美奈子は優しく囁いた。

「手を握ってください。それが友情の証、友愛の証です」

「ああ、すまない。
祖国の習慣ではないから……」

言いながら、プレストンは美奈子の手を握って微笑んだ。
初めて見るプレストンの笑顔だった。
美奈子の予想通り、優しそうな表情だった。
55 :ny [saga]:2011/11/02(水) 21:29:07.57 ID:1hqkFc1P0
「感情の有無の是非はともかくとして、
みんながこうして手を繋げるような、そんな国にしてください」

「ああ……、頑張るよ」

ギターウルフは興味の無いようにしていたが、
不意にプレストンに小さな笛を投げて寄越した。

「おまえも魂と信念を持ったいい男だったぜ。
何か困った事があればその笛を吹きな。
何処に居ようと、何をしていようと、俺の気が向けば絶対に駆け付けてやる」

「一回吹くとお子さんが、二回目で奥さんが、
三回目でギターウルフさん本人が飛んで来るとかのアイテムですか?」

「俺はマグマ大使か! と言うか、おまえは本当に十四歳か」

「失礼な。こんな可憐な美奈子が十四歳以上に見えます?」

「ならば、そんなネタを使うな」

暫しプレストンは二人の様子を愉快そうに見ていたが、

「ありがとう。ギターウルフ。
それでは、また、いつか」

言って、踵を返して去っていった。
またいつか逢えるかどうかは分からない。
だが、信じる事が大切なのだろうと美奈子は思った。
プレストンの戦いはこれから長く厳しい物になるだろう。
世界の根幹を揺るがす大戦争がまた起こるのかもしれない。
しかし、それすらも恐らくは人が生きるという事のはずだ。
美奈子は決心を込め、だが、極めて明るく言ってみせた。
56 :ny [saga]:2011/11/02(水) 21:31:01.38 ID:1hqkFc1P0
「さてと、美奈子達はどうします?」

「俺はギターウルフだからな。
また何処かでライヴをするさ。気が向けばおまえも観に来な。
特別に格安でいい席をくれてやる」

「そうですね。
それもいいですけど、これから一緒に蟹でも食べに行きません?」

「そうか……。確かにもう昼時だな」

「政府からお金も出るんで、遠慮しないでいいですよ」

「正義の味方が国家権力との癒着か?」

「そういう言い方しないでくださいよ……」

「まあ、いいか。
そうだな。ライヴは蟹を食べてからにするか」

結局、あの円盤と馬鹿兄弟が何を望み、何をしようとしていたのかは分からない。
推測は出来るが、推測を並べても無意味な結論を得るだけだ。
闇の力が増幅した事で、世界に何の影響を及ぼすのかも結局は分からないままだ。
だが、一つだけ言える事がある。
この世界は今まで良くも悪くもなってきた。
これからも良くも悪くもなるだろう。
素晴らしい未来が待っているのか、暗澹とした惨劇が待っているのか、それは誰にも分からない。
それこそ推論しても、実に無意味な事だ。
それでも、未来は人の想いが創造するもので、その為に美奈子達は生きている。
再び世界を闇が包んだら、その時の事はその時に考える。
それでいいのだと美奈子は思う。
世界は終わる。何時しか必ず終わるだろう。
しかし、ならばそれまで美奈子と恐らくギターウルフは終焉の抑止力として働いていく。

まあ、何はともあれ、今は蟹だった。
当初の目的を忘れてはならない。
白い人達に礼を言って、一緒に蟹を食べるのも面白いかもしれない。
不安な未来だけではなく、楽しい事を考えて生きていくのも大切な現実のはずだった。
思いながら、ギターウルフと共にゾンビに溢れていた街を去っていく。
こうして美奈子は狂気の非日常から、掛け替えの無い日常に回帰したのだった。
57 :ny [saga]:2011/11/02(水) 21:36:33.58 ID:1hqkFc1P0


今回で終了です。
超マイナージャンルでしたが、お付き合い頂きありがとうございました。

あ、今更ですが、
ガン=カタの奥義の名前は忍者戦士飛影のロボの名前から拝借しました。
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(愛知県) [sage]:2011/11/02(水) 23:06:54.68 ID:HTrourmOo
わりと俺得に近かった感じの>>1
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/03(木) 08:14:00.44 ID:DNCTXotIO
宮城かと思ったのに
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