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魔法少女隊R-TYPEs - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage]:2011/10/31(月) 19:00:52.04 ID:He5xgA8m0
注意書き

・これはR-TYPEシリーズとまどかのクロスSSとなります。
・かなりオリジナル設定の塊で、そもそも年代自体がR寄りになってます。
・Rなだけに割とキボウ(狂気と暴挙と欝設定)に満ち溢れているかも知れません。
・タイトルは魔法少女隊アルスより、大好きでした。このSSには関係ないけど。
・バイド注意報発令中です。


ここまで来て、ためらうことは何もない。
ただ、目の前に物語があれば綴り、目の前に空白がいれば書き殴るだけだ。
続きを書いて、ここに記そう。
さあ、行こうか。

――3、2、1、Let's GO!
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713861164/

トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713798788/

【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713788018/

ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713736565/

【安価】少女だらけのゾンビパニック @ 2024/04/20(土) 20:42:14.43 ID:wSnpVNpyo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713613334/

ぶらじる @ 2024/04/19(金) 19:24:04.53 ID:SNmmhSOho
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713522243/

旅にでんちう @ 2024/04/17(水) 20:27:26.83 ID:/EdK+WCRO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713353246/

木曜の夜には誰もダイブせず @ 2024/04/17(水) 20:05:45.21 ID:iuZC4QbfO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aaorz/1713351945/

2 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage]:2011/10/31(月) 19:02:54.94 ID:He5xgA8m0
電界25次元。作戦目標であるマザーバイド・セントラルボディが機能を停止し
すべてが終わったと思われた。その先で蠢く"歪み"
ワームホールの奥に潜む、ヒトを模した醜悪なる異形、すべてのバイドの親たる存在。
真に倒すべき"敵"「マザーバイド」

その顎から湧き出るイノチを躱し、屠り。
投げ掛けられる光弾を、その中でぎろりと目を剥く視線をすり抜け、撃ち続ける。
頭が砕け、身体が滅びても尚。高速で軌道を描く腕だけが執拗に迫る。
崩壊するワームホールの中で、ひたすらに無へと誘う腕を躱し、波動の光を撃ち込んでいく。

限界は唐突に訪れた。ワームホールが崩壊を始める。
極彩色に彩られた世界は崩れ、おぞましき異形を飲み込みすべてが消えていく。
終わったのか、と。ほんの僅かな安堵を抱いたその刹那。
空間を切り裂き突き出る腕、そしてその隙間から沸いて出た、砕いたはずの醜悪な頭部。
私を喰らおうと、その凶悪なる顎が迫る。
――その大きく開かれた顎に、私は容赦なくフォースを叩き込んだ。

今にも破裂せんほどにエネルギーを蓄えたフォースをその口に喰らい。飲み込み
内側から焼き尽くされていくマザーバイド。そしてついに、今度こそ。
その異形の体躯が、崩れ去っていく空間の中へと消えていった。


戦いは終わった。私は傷ついた機体を巡らせ、地球圏への岐路を辿る。
光を追い越し、時空を超えて。どこまでも、果てなく長い道を……。



以上を以って、第3次バイドミッション-THE THIRD LIGHTNING-の全行程を終了する。
本作戦においてバイドの中枢を打ち払い、そしてついに戻ることは無かった我等が英雄の冥福を祈る。
――Operation-THE THIRD LIGHTNING-経過報告書より引用。
3 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage]:2011/10/31(月) 19:03:53.30 ID:He5xgA8m0
2170年。
度重なるバイドとの戦闘を経て尚、地球は人類の故郷として健在である。
エバー・グリーンの落下による傷跡は今尚痛々しく残っているが、それでも人類の大部分は平和を享受してい

た。
その裏で蠢く、敵の影を感じながら。
その敵に抗する手立てを、着々と整えながら。

これはそんな時代を駆け抜けた少女たちと、彼女の物語である。
4 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage]:2011/10/31(月) 19:05:49.98 ID:He5xgA8m0
―――朝、見滝原市―――

さやか「おっはよーう、まどかー、仁美ーっ」

まどか「あ、さやかちゃん。おはよう」

仁美「おはようございます、さやかさん」

朝の通学路、彼女たちの交わす挨拶は何時もよりどこか弾んでいる。

さやか「いやー、いよいよ今日は修学旅行だねー。あたしは昨日はもう楽しみで楽しみでさ」

そう、今日は修学旅行。一般的な学生諸君にとってはとても楽しいイベントだろう。
声が気分が弾みだすのも無理はない。

まどか「さやかちゃんってば、楽しみすぎて眠れなかったりしてたりして」

さやか「あ、それはないからだいじょ〜ぶ!むしろ気が急いちゃって、起きたの5時だったくらいだもん」

仁美「まあ、さやかさんったら。でしたら今日の準備は万全なのですわね」

さやか「もちろんですとも!初めての宇宙!初めての無重力体験!
    人類最後のフロンティア、宇宙があたしを呼んでいる〜ってね」

まどか「さやかちゃん、ちょっとはしゃぎすぎなんじゃあ……あはは」

この修学旅行の行き先は、宇宙。
国際宇宙ステーション、ISPV-5が目的地となっている。
2170年の現在においては、宇宙旅行というのは海外旅行という意味合いとほとんど変わらない。
それほどまでに、宇宙は近い場所である。そこに恐ろしい危険があるということを除いては。
5 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage]:2011/10/31(月) 19:07:43.73 ID:He5xgA8m0
仁美「あんまりはしゃぎすぎると危ないですわよ、さやかさん。
   地球と比べて、宇宙はまだまだ危ないところなのですから」

さやか「そんなこと言って、いいよねー仁美は、いっぱい宇宙に行けてさ
    なんだっけ、あの火星のぐ、ぐー…グランゾンだっけ?」

仁美「グランゼーラ、ですわ。さやかさん。決して『造作もないことです』とか言い出したり
   火星かと思ったら金沢だった、何てこともありませんわ」

さやか「そっかそっか、グランゼーラね。あたしも行ってみたいな、グランゼーラ
    っと、そろそろ急がないと遅刻しちゃうね。急ごうか!」

まどか「あ、待ってよさやかちゃーん」

仁美「もう、お一人で行ってしまうのですから。待ってください、さやかさん」

少女たちが駆けて行く通学路、22世紀も半ばを過ぎた現在でも
その営みは、21世紀のそれから劇的に変わったとはいえない。


早乙女「ええと、急なことではありますが、修学旅行の前に転校生を紹介します」

朝のホームルーム、これから楽しい旅行ということもあって
完全に空気は浮ついている。そんな空気を更にざわめかせる一言が飛び出した

ほむら「……あ、暁美、ほむら……です。よろしく、お願いします」
6 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage]:2011/10/31(月) 19:08:40.43 ID:He5xgA8m0
ひとまず触りだけ、続きはまとまり次第といったところで
ちなみに、基本はSTG版の方の設定を使用しますが、一部TACの方の設定が出てくるところもあるかもしれません。
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/31(月) 19:25:26.04 ID:BLBKK2GDO
おおぉぉっ!来て下さったのですか!感激です!

シュウ博士とか小ネタもきいてますねwwと言うかキボウwwww
8 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage]:2011/10/31(月) 22:39:43.81 ID:He5xgA8m0
早乙女「ほむらさんは、家の事情で転校が修学旅行の直前ということになってしまったの
    いきなりで溶け込むのは少し難しいかもしれないけど、いい機会だとも思うの
    皆さん、仲良くしてあげてくださいね」

クラス中からほむらに視線が注がれる
眼鏡に三つ編み、見るからに気弱そうなほむらは、その視線に耐えかねて俯いてしまう。

さやか「うーむ、素材はなかなか。でもあの様子だといきなり溶け込むってのは大変そうだな」

まどか「そうだね。なんだかすっごく緊張しちゃってるみたいだし。じゃあさ、さやかちゃん」

さやか「おっと、それ以上は言いっこなし。まどかの言いたいことはわかってるんだから
    はーいせんせーいっ!暁美さん、私たちと一緒の班にしてもいいですかー?」

早乙女「美樹さん?えーと、確か貴女の班はまだ三人だったわね。
    じゃあお願いしようかしら。じゃあ美樹さん、暁美さんのこと、よろしくね」

さやか「まっかされました、よろしくねっ。暁美さん」

ほむら「え……あ、は、はいっ!」

上ずった声、たちまちクラスに笑いが溢れて。またしてもほむらが俯いた。
9 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage]:2011/10/31(月) 22:40:38.51 ID:He5xgA8m0
――HR終了後――

仁美「まさかの転校生さん、おまけにその転校生さんと一緒の班だなんて
   これはちょっとしたサプライズですわね。なんだか楽しくなってきましたわ」

さやか「でしょでしょ、それにあの子、なんかほっとけない感じだったし」

まどか「本当、さやかちゃんは面倒見がいいっていうか、優しいんだね」

ほむら「……あの」

さやか「あ、暁美さん!これからよろしくね。あたし、美樹さやか」

仁美「私、志筑仁美と申します。よろしくお願いしますね」

まどか「私、鹿目まどか。よろしくね、暁美さん」

ほむら「は、はい。あの、私学校のこととか何も知らなくて、だから
    色々、教えてください。お願いしますね」

さやか「あー、もうっ!いじらしいなぁ。大丈夫、あたしらがしっかり面倒みちゃうからね」

まどか「そうだよ、暁美さん。何かあったらすぐ私たちに教えてね」

ほむら(美樹さん、志筑さん、鹿目さん。……皆優しそうな人だな。
    お友達になれたら、いいな。こんな私でも)

新しい仲間を加えて始まった修学旅行。
いつの時代も女三人寄れば姦しいのは変わらないらしく。
さらにもう一人ともなれば、話は随分と盛り上がり、いつしかほむらも自分のことを話し始めるようになって

いた。
心臓の病気でずっと入院していたこと、この街で一人暮らしを始めること。
修学旅行のこと、沢山のことを話して。
10 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage]:2011/10/31(月) 22:41:50.10 ID:He5xgA8m0
軌道エレベーターに乗り込み宇宙港へ。

さやか「うわーっ、すごいよ見て見てっ!地球青いなーっ!!」

まどか「本当……宇宙から見た地球って、こんなに青かったんだ
    ほら、ほむらちゃんもみてごらんよ」

ほむら「………大丈夫、ちゃんと見てるから。……よかった
    まだ、こんなにも地球は青かったのね」

仁美「ほむらさん?……何か、とても懐かしいものを見るような目で地球を見つめてらしたけれど」

ほむら「懐かしい?……そうかも、知れない、な」

まどか・さやか「?」


そこからステーションへは小型の客船で向かう。
衛星軌道上を少し往復するだけの、何の危険もない旅路のはずだった。
……はずだった。
11 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage]:2011/10/31(月) 22:43:12.31 ID:He5xgA8m0
「進路上に何かが、そんな話は聞いてないが……っ!?これは、バイド反応!」

悪意は、どこにでも潜んでいる。

「回避をっ!」
「間に合いません……っ!被弾しました!」

悪意が形を成した様な、その異形の生命体を

早乙女「みなさん、落ち着いてください!班毎に分かれて、救命ポッドに避難してください」

すべてを侵蝕し、取り込み、 進化するそれを

まどか「何があったのかな…さやかちゃん」

さやか「わからないよ……でも、何かすごくまずい感じはする」

物質でありながら波動としての性質を持ち、あらゆる存在に伝播するそれを

仁美「まさか……これは」

ほむら「奴らに攻撃を受けているの……まさか、また奴らが」

ほむら「……バイドが、現れたと言うの」

『バイド』と、人は呼ぶ。
12 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage]:2011/10/31(月) 22:45:51.73 ID:He5xgA8m0
今日の分はここまで、あんまり書き溜めせずにちょくちょく置いていく派ですが
書き溜めもちゃんとしておいたほうがいいかな
あと、地の文とかってこんな感じでいいのだろうか。

>>7
ようやく設定と話の構想がまとまったので、いよいよ開始と相成りました。
こういう小ネタは好きなので、これからもちょくちょく入れて
上手いことキボウ分を緩和できたらな、と思ったり思わなかったりです。
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/10/31(月) 23:03:22.68 ID:qh1x+e7C0
>これはそんな時代を駆け抜けた少女たちと、彼女の物語である。

彼女ってやっぱり見た目は中学生の彼女なんでしょうかね……
14 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage]:2011/10/31(月) 23:16:57.73 ID:He5xgA8m0
>>13
そういえばあの子も14歳だったよな……と考えた瞬間にネタが決まりました
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/11/01(火) 00:13:12.56 ID:T243TMEDO
超期待!

キボウの濃度は、>>1さんの好きにしたら良いんじゃないかな〜。
16 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage]:2011/11/01(火) 22:38:35.57 ID:0I3P5ep50
――???――
「マミ、バイド反応だ!やっぱりさっきの撃ち漏らしがまだ隠れていたみたいだね」

「そう、それじゃあすぐに向かうわ。場所と数は?」

「数はそう多くない。場所は……まずいよ、旅客機の航路のすぐそばだ!」

「なんてこと、それじゃあ急がなくちゃいけないわね。出して!」

「ああ、すぐにマミもすぐに出られる準備をしておいて。行くよ!」

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17 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/11/01(火) 22:42:09.11 ID:0I3P5ep50
「船長!バイドを振り切れません!このままでは私たちだけではなく、乗客までも……」

「SOSは出しているんだろう?応答は!」

「直近のR部隊の到着まで、少なくとも5分は……と」

「状況は絶望的か。……しかたない、客船部分を切り離し、本船はバイドに突攻を仕掛ける!
 無駄かも知れんが、少しでもバイドの注意を乗客から逸らすぞ!」

「船長……わかりました。私もお供します」

「いいや、君は残れ。乗員の避難を助けるんだ。これは命令だ」

「しかし……っ。わかりました。船長、どうかご無事で」

「ああ、君も故郷の恋人によろしくな」

「いや、いませんからそんなの。居たら居たでフラグじゃないですか
 はぁ……とにかく、どうかご無事で」

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18 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/11/01(火) 22:43:49.81 ID:0I3P5ep50
――救命ポッド内――

爆音と振動が何度も伝わってくる。その度に散発的な悲鳴があがる。
今のところはまだ、致命的な被害は出ていないもののそれもいつまで持つのだろうか。

さやか「あはは……なんか、とんでもない修学旅行になっちゃったね」

仁美「ええ……私たち、これからどうなるのででしょう」

ほむら「……ここはまだ衛星軌道上で、軍の基地やステーションも近い。
    すぐに救援は来ると思うわ……だけど、それまでもつかどうか」

まどか「ほむらちゃん……なんだか、すごく落ち着いてるよね
    私、もう怖くて怖くてしかたないのに……すごいな、ほむらちゃんは」

さやか「ほんとだよ、最初はあんなにおどおどしてたのにさ
    実はすごい子だったんだね、ほむらは」

仁美「ええ、本当に。早速ほむらさんの意外な一面、発見ですわ」

ほむら(っ!……つい地が出てしまったわ。気をつけないと、怪しまれてしまうかも
    でも、今はそんなことを言っている場合じゃないのよね……なんとかしないと)

ビービービー! ビービービー! イイソウビダナ!

まどか「何これ……何の音っ?」

ほむら(アラート!?本格的にまずいわ、こうなったらアレを呼ぶしか……)

「お客様にお知らせします。本船はただいまバイドによる攻撃を受け、ステーションへの避難軌道を取っています
 指示があるまで、救命ポッド内にてお待ちください。繰り返します……」

繰り返されるアナウンス、いよいよ持って騒然となる船内。
不安げな声、恐怖に震える声、こんなときだからこそと、空元気を見せる声。
ひたひたと迫りくる、姿の見えない死の影を振り払うように、声はいくつも響き渡って。

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19 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/11/01(火) 22:44:19.80 ID:0I3P5ep50
まどか「どうしよう……私たち、死んじゃうのかな」

さやか「何バカなこと言ってるの、まどか!大丈夫……大丈夫だって」ギュッ

仁美「ええ、きっと大丈夫ですわ……これだけ地球の近くなのですから、すぐに助けは来るはずですわ」ギュッ

避けられない死の恐怖を乗り越えようと、繋がり、声を掛け合うその姿。
ほむら(――初めてできた友達、見捨てられるわけないじゃない)ダダッ

まどか「ほむらちゃん!?どこ行くの、今外に出たら危ないよっ!!」グッ

さやか「気持ちは分かるけど、逃げる場所なんてほかにないんだから……じっとしてようよ」

ほむら「……行くわ。あなたたちは、私が守ってみせる」

引き止める手を振り払い、走り去っていく。

さやか「守る…って、ほむらーっ!待ちなさいよもう……あー、もうっ!!
    ……あたしも行く!追いかけて、連れ戻してくるから」

まどか「あ……わ、私もっ……行くよっ!」

仁美「私も……行きますわっ」

さやか「まったくもー、二人とも…声、震えてるよ?」

まどか「さやかちゃんだって……ティヒヒ」

仁美「ええ、みんなそろって震えてますわ……くすっ」

さやか「ふふ……あはははっ」

死と隣り合わせの状況下、震える声を抑えて笑う。
一人なら耐えられない、動けない。けれど友達が、仲間がいれば
踏み出す勇気は沸いてくる。

さやか「じゃあ、あたしとまどかでほむらを探す。
    仁美は、ほむらとあたしらのこと、先生とか船の人に伝えといてよ」

仁美「わかりましたわ。二人とも、どうかお気をつけて」

さやか「任せなさい、って。すぐほむらを見つけて、戻ってくるから。
    さあ、行こうまどか!」

まどか「……うん、さやかちゃん!」

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20 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/11/01(火) 22:45:17.10 ID:0I3P5ep50
震える膝に、指を噛み締め力を入れて
立ち上がる。走り出す。揺れる船内を走り抜ける。
だが、しかし。その足は通路の窓から見えた光景によって止められた。

星の海の向こうに、いくつも浮かんでは消える光。
その光の源には、この客船モジュールを牽引していたはずの輸送船と
それを執拗に攻撃する、異形。バイドの姿。
窓越しに、輪郭がおぼろげに見える程度でしかないというのに。
その禍々しさと恐ろしさ。そして、どうしようもないほどに捻じ曲がった悪意が
容易彼女たちの足を止めた。

まどか「……どうして、ねぇ。さやかちゃん
    どうして、あんなところに船があるの?おかしいよね、こんなの」

さやか「うん……これじゃ逃げられないじゃない。
    もしかしてあたしたち……見捨てられた……?」

??「それは違うね。あの船は、バイドを引きつけようとしているんだよ」

突然の声。その正体を探ると、そこにいたのは白い小さな生き物。
半透明に透き通ったそれは、くりくりとした赤いクリスタルのような瞳で二人を見つめて。

さやか「え……って、何この生き物、さっきまでこんなのいなかったよね」

まどか「うん……もしかして、これが…バイド?」

??「違うよ、ボクがどうしたらバイドに見えるっていうのかな。
   ボクの名前はキュゥべぇ。君たちを助けに来たんだ!」

そう言って、キュゥべぇと名乗った生き物は笑った。

さやか「助ける……って、あんた。あの化け物をやっつけられるの?」

QB「ボクには直接バイドをどうにかすることはできない。
   何せ、ボクには実体がないからね。ただのプログラムだからね
   でも大丈夫。すぐに味方が来るよ。……ほら、来たよ」

キュゥべぇの言葉に振り向き、窓を覗き込んだ二人の目の前、一陣の黄色い流星が駆け抜けていった。
その流星は光の軌跡を散りばめながら、バイドの元へと飛んでいく。

それは、バイドを討つためのモノ。
人類の英知と希望、そして憎悪すらもが形を成したモノ。
放たれし矢から紡がれた、Rの系譜を受け継ぐモノ。
――そして時として、酔狂な遊び心も混ざるモノ。
『R戦闘機』と呼ばれる、異層次元戦闘機の姿であった。

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21 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/11/01(火) 22:48:02.12 ID:0I3P5ep50
ひとまず今日はこのくらいで。
こういう場所で書くのは初めてなので、どうもいまいち感じがつかめなかったりします。
何か気になるところなどあれば、遠慮なく言ってもらえると助かります。

ちなみに登場するR戦闘機は、スレ立ての話をしたスレに投下したようなオリジナルのものと
既存のものとが概ね半々程度の割合で登場する予定です。
色々と好き勝手な設定が混ざったり、時空が歪んだりバイド化しタりしまスガ、どうカ見てヤッて下さイ。

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22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/02(水) 00:12:35.64 ID:BWTUJRfq0
QBはTeam R-TYPE製のパイロット募集システムだろうか?

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23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/02(水) 01:02:36.93 ID:uSPQkhlko
もう>>1が侵食されているww
期待してます

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24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/02(水) 08:57:32.98 ID:6oBKsXYDO
>>1さんがバイド化しちゃったら、このSSを書いてもらえなくなっちゃうじゃないですかーっ!?
25 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage]:2011/11/02(水) 17:06:14.11 ID:LUjFxgU90
マミ「キュゥべぇ、そっちの様子はどうかしら?」キュピン

さやか「わ、急にモニターが出てきた」

まどか「女の人……?私たちよりも、ちょっと年上くらいだけど」

QB「問題ないよ、特に損傷は見られない
   それよりマミ、敵は少ないとは言え急だったからね、フォースなしでの戦闘になる
   十分に注意してくれ」

マミ「わかってるわ、キュゥべぇ。それじゃあ、船の人達をお願いねっ!」キュピン

さやか「モニターが……」

まどか「消え……ちゃった。あの、キュゥべぇ?今のは……?」

QB「彼女は巴マミ、ボクと契約してR戦闘機のパイロットになった魔法少女だよ」
26 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage]:2011/11/02(水) 17:06:53.27 ID:ZWJU3dty0
閃光煌く宇宙空間、その真っ只中をR戦闘機が往く。
巴マミが駆るその機体は、謎の技術提供者から持ち寄られた技術、ソウルジェムを搭載した試作機。
特殊な二種類の波動砲を備え持つ、バイドを縛り砕く浄化の光……とは彼女の言である。
――R-9MX“ROMANTIC SYNDROME”――
バイドを討つ意志と、そのための力を携えて。エーテルの波を受けてRが往く。

マミ「敵影確認。小型……キャンサーが3に中型……なんてこと、ゲインズまで来ているなんて
   他所の部隊は何をしてたのかしら。……愚痴っててもしかたないわね。一気に片付けるわよ!」

機体を一気に加速させる。瞬く間に機体は速度を上げてバイドへと肉薄していく。
おぞましいまでの加速。ザイオング慣性制御システムがなければ、人体など一瞬で挽肉へと変わってしまうだろう。
宿敵の接近に気付いたバイドが、客船の追撃を止め、迎撃に移るまでの僅かな時間。
その停滞をレールガンが引き裂いた。回避さえも追いつかず、キャンサー二機が蜂の巣となり爆炎を巻き上げる。
残ったバイドもすぐさま応戦を開始する。ゲインズが搭載された凝縮波動砲を放ち、キャンサーが体当たりを敢行。
後者はともかく、前者は直撃すればR戦闘機と言えどただではすまない。それだけの威力と速射性を持つゲインズは
熟練のR戦闘機乗りにとっても恐ろしい相手なのである。
……少なくとも戦場が、何もない宇宙空間でなければ、だが。

マミ「どんなに威力があったって、当たらなければ意味はないのよ
   R戦闘機の機動性、甘く見ないで!」

縦横無尽に宙を駆けるマミに対して、ゲインズの波動砲はまったく意味を成さなかった。
むしろ、気がつけば巻き添えを食ったキャンサーが直撃を受けて爆沈している。
実に報われないキャンサーである。南無。
27 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage]:2011/11/02(水) 17:07:27.87 ID:ZWJU3dty0
閃光煌く宇宙空間、その真っ只中をR戦闘機が往く。
巴マミが駆るその機体は、謎の技術提供者から持ち寄られた技術、ソウルジェムを搭載した試作機。
特殊な二種類の波動砲を備え持つ、バイドを縛り砕く浄化の光……とは彼女の言である。
――R-9MX“ROMANTIC SYNDROME”――
バイドを討つ意志と、そのための力を携えて。エーテルの波を受けてRが往く。

マミ「敵影確認。小型……キャンサーが3に中型……なんてこと、ゲインズまで来ているなんて
   他所の部隊は何をしてたのかしら。……愚痴っててもしかたないわね。一気に片付けるわよ!」

機体を一気に加速させる。瞬く間に機体は速度を上げてバイドへと肉薄していく。
おぞましいまでの加速。ザイオング慣性制御システムがなければ、人体など一瞬で挽肉へと変わってしまうだろう。
宿敵の接近に気付いたバイドが、客船の追撃を止め、迎撃に移るまでの僅かな時間。
その停滞をレールガンが引き裂いた。回避さえも追いつかず、キャンサー二機が蜂の巣となり爆炎を巻き上げる。
残ったバイドもすぐさま応戦を開始する。ゲインズが搭載された凝縮波動砲を放ち、キャンサーが体当たりを敢行。
後者はともかく、前者は直撃すればR戦闘機と言えどただではすまない。それだけの威力と速射性を持つゲインズは
熟練のR戦闘機乗りにとっても恐ろしい相手なのである。
……少なくとも戦場が、何もない宇宙空間でなければ、だが。

マミ「どんなに威力があったって、当たらなければ意味はないのよ
   R戦闘機の機動性、甘く見ないで!」

縦横無尽に宙を駆けるマミに対して、ゲインズの波動砲はまったく意味を成さなかった。
むしろ、気がつけば巻き添えを食ったキャンサーが直撃を受けて爆沈している。
実に報われないキャンサーである。南無。
28 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage]:2011/11/02(水) 17:08:35.88 ID:ZWJU3dty0
マミ「とはいえあの重装甲、レールガンだけじゃ貫くのはかなり骨ね
   そういうときは、こいつで勝負よ」

キィンキィンキィン、キィィィィィィ

独特のチャージ音と共に、R戦闘機の最大の武器、波動砲がチャージされていく。
戦闘機に戦艦主砲並の火力を持たせることを念頭に開発された波動砲。
元は機体前方に形成された力場から、ベクトルを付与したエネルギーを開放するというものだった。
それが何をトチ狂ったか、なぜかバイドの形状をしていたり、パイルバンカーだったりするまで存在する始末である。
そんな英知と狂気と遊び心の詰まった波動砲、それも試作機とあらば何が出てきてもおかしくない。

マミ「食らいなさい!リボン波動砲α……発射!!」

放たれたのは黄色の光弾、二対のそれは違わずゲインズへと向かっていく。
更にその光弾は、回避行動を取ろうとしたゲインズの目前でリボン状へと変化し、揺らめき
ゲインズの四肢に絡みついた。リボン状とはいえそれは超高エネルギーの塊である。
すぐさまゲインズの四肢は千切れて爆散し、もはやゲインズには戦闘能力は残されていない。

マミ「私の意志で自由自在に形状を、動きを変える波動砲
   それがこのロマンチック・シンドロームのリボン波動砲αよ……覚悟はいいかしら」

四肢をもがれ、最大の武器を失ったゲインズ。もはや撃墜されるのを待つだけなのか。
否。否である。バイドの恐ろしい攻撃本能は、どのような場合でもそれが衰えることはない。
四肢を失ったその機体そのものを武器へと変えて、恐ろしい突攻をしかけてきた。
――だが、遅い。次弾のチャージは既に完了していた。

マミ「そしてこれがもう一つ、4本のリボン波動砲を一本に束ね
   破壊力と持続性を増したリボン波動砲βよ」

機体の先端に再び波動の火が灯る、バイドを焼き尽くさんとする人類の意志を、憎悪を載せて。

マミ「ティロ・フィナーレ!!」

4本のリボン波動砲を束ねたその一撃は、違わずゲインズを貫いた。
爆発、沈黙。バイド反応も一気に収束していく。
29 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage]:2011/11/02(水) 17:09:22.81 ID:ZWJU3dty0
マミ「ふぅ、ざっとこんなものかしらね」


ほむら「……どうやら、私の出番は無かったようね」
   (助かった、というべきかしら。もし戦うことになっていたら……面倒なことになっていたでしょうし)

窓の外に幾筋も走る閃光をじっと見つめて。
それが全て消え去って、唯一残った黄色の光を眺めて呟く。
その表情には安堵と僅かな後悔が滲んでいた。

まどか「ほむらちゃん!こんなところに居たんだ……よかった、無事で」

ほむら「っ!?……鹿目さん、美樹さん?どうしてここに」

さやか「どーしてじゃないっての!ほむらが急に居なくなっちゃうから、探しに来たのよ
    一体どこに行ってたのさ……まあ、でも無事でよかった」

ほむら「それは……ごめんなさい。気が動転してたみたいで」

QB「どうやら、お友達は見つかったみたいだね」テトテト

ほむら「え?……これは、何?」

QB「これ、呼ばわりは酷いな。ボクはキュゥべえ。
   R戦闘機に乗って戦う魔法少女を助けるために造られた、プログラムさ」
30 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage]:2011/11/02(水) 17:10:13.03 ID:ZWJU3dty0
ほむら(おかしい。こんな話は聞いたことがない。魔法少女?キュゥべえ?何がどうなっていると言うの)

マミ「こっちは片付いたわ。キュゥべえ」キュピン

ほむら(それに、何でこんな子供がR戦闘機を?まさか幼体固定……?)

QB「お疲れ様、マミ。相変わらずいい腕だ」

マミ「ありがとう。だけど、あの客船は損傷が激しいからこのまま航行を続けるのは無理ね。
   船をこちらに寄越して、そのまま客船モジュールごと牽引しちゃいましょう」

QB「わかった。すぐに船を向かわせるよ。それと一緒に、何人か回収していきたい人員も居るんだ」

マミ「人員、って……もしかして、魔法少女の?」

QB「ああ、それも素質を持った子が三人もだ。思わぬ収穫だよ」

ほむら「何の話をしているの……あなたたち?」

QB「大したことじゃない。このモジュールをボクたちの母艦で牽引する
   それと、キミたちにもボクたちの母艦に一緒に来てもらうよ」

さやか「来てもらう……って、どういうこと?あたしたち、修学旅行の途中なんだけど」

まどか「それに、皆に黙って出てきちゃったから。戻らないと怒られちゃうよ」

QB「そんなことはどうでもいいんだ。重要なことじゃない。キミたちにはボクと一緒に来てもらう。そして……」

ほむら(機密保持のため拘束…かしら。どうやら修学旅行を楽しむどころじゃなくなりそう……少し、残念ね)

QB「ボクと契約して、R戦闘機のパイロットになってほしいんだ!」
31 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage]:2011/11/02(水) 17:10:57.67 ID:ZWJU3dty0
宇宙の闇は尚深く、人々は何も知らずにいる。
倒すべき敵も、抗う力もその闇も。
だが、少女たちは知ってしまった。巻き込まれてしまった。
最後の舞踏の繰り手を求めて、彼女たちの運命は廻りだす。
――もう、戻れない。


魔法少女隊R-TYPEs 第1話『ESCORT TIME』
32 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage]:2011/11/02(水) 17:11:52.26 ID:ZWJU3dty0
次回予告

まどか「マミさんは、どうして戦ってるんですか」

マミ「宇宙の平和のため、って言ったら。鹿目さんは信じてくれるかしら?」

ほむら「私は……信じるわ」

QB「小惑星帯に、正体不明のバイド反応が検出されたよ」

さやか「な、なな、なななっ!なんじゃありゃぁ〜っ!?」

ほむら「……改めてみると、卑猥」


マミ「――見せてあげるわ、R戦闘機の、本当の戦いをね!」


魔法少女隊R-TYPEs 第2話『SEXY DYNAMITE』
33 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage]:2011/11/02(水) 17:19:09.80 ID:ZWJU3dty0
というわけで、ここまでひとまず一区切り。
続きはまた出来次第、といった感じでしょうか。

ちなみにここでマミさんの機体の紹介も一つ
R-9MX ROMANTIC SYNDROME ロマンチック・シンドローム
ソウルジェム搭載型試作機
サイバーコネクタ技術の応用で、直接ソウルジェムに端子を接続することで
従来のサイバーコネクタを遥かに超える反応速度を実現させることに成功した機体。
これにより、五感で感じるように機体周囲の状況を把握し、身体を動かすように機体を操作することが可能となった。
ソウルジェム搭載型としては初期に製作された機体であり、反応速度こそ上昇したものの
機体性能自体は従来のものと大差ない。

この機体のもう一つの特徴は波動砲である。
R-9Wに搭載されたナノマシン波動砲を改良したものが搭載されており
リボン状の波動砲をチャージ数に応じて発射、搭乗者の意思に応じてその形状、軌道を変化させる。
通常の波動砲として使用することも可能な他、敵を拘束し持続的なダメージを与えることも可能である。
この系列の波動砲について回る問題であった搭乗者への負担という問題も
ソウルジェムを直接機体に接続することで大幅に軽減され、常用に耐えうるものとなった、はずだ。
そのため、この機体には試験管キャノピーは採用されていない(もっとも、その必要もないのではあるが…)。


>>23
侵食ナんてされテまセンよ。
ちょット昨日、オイシイはんバーガーを食べタだけデすかラ。

>>24
キガ ツク トワ タシ ハバ イド ニナ ツテ イタ
バイ ドデ モブ ンハ カケ ルカ ラキ ニシ ナイ
34 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage]:2011/11/02(水) 17:21:58.04 ID:ZWJU3dty0
おっと返し忘れ

>>22
QBさんの正体は今のところ不明ですが
魔法少女をR戦闘機のパイロットにしようとしているのは事実なようです。

では皆様、また次のお話でお会いしましょう。
Rの2ステージ目といえば、きっと何が出てくるかはお分かりだろうと思います……うふふ。
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/03(木) 01:01:40.48 ID:KWdBat9so
お姉さまの登場か・・・。
ワイズマンの直系の派生機になるのかな?
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/03(木) 01:17:16.52 ID:nzo17G9c0
2面は卑猥な敵なのがR-TYPEのお約束ですね。
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/03(木) 12:27:35.34 ID:ckEf9FoDO
ほむらちゃんは修学旅行に行けなくなったのを残念がってる様だが、行き先の場所が場所だからなぁ、結局似たような事になるか、もっと酷い事になってたかも?

ところで、>>1さんはageない方針なんですか?
38 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/11/03(木) 20:38:58.85 ID:RqsE0zst0
まだ書き溜め中ですが気になったので

>>35
いろんな意味でお姉さまです。
セクシー・ダイナマイトさんもかなりお姉さんですが、タイトル名と実際出撃する機体は
あまり関係がなかったりします。

>>36
お約束です。
今更ながらにあんな卑猥なモノ相手に中学生を戦わせるとか
どこの人非人でしょうか。絶対イカれた科学者集団か何かです。

>>37
ほむらちゃんにとってはこんな旅行は初めてだったので、きっと色々楽しみにしてたんでしょう
お友達もできましたしね。
後、流石に重要な施設なんかには護衛のR部隊が常駐しているはずです。今のところは。

そういえば今までずっとsageでしたね、次からは投下する前にでもageるようにしましょうか。
39 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/11/04(金) 19:34:13.02 ID:OCHNTEM/0
うむっ、緊急投下だ
40 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/11/04(金) 19:35:07.02 ID:OCHNTEM/0
客船モジュールを牽引し、ステーションへと向かう一隻の輸送艦。
宇宙の闇に映える白色に覆われて、桃色のラインや黄色のリボン状の彩色がどこか少女趣味的な印象を与えて

いる。
その船の名は、ヨルムンガンド級M型装備試験運用艦“ティー・パーティー”
魔法少女の駆るR戦闘機の試験運用を行うと同時に、彼女たちの生活空間ともなっているその船の中で。

マミ「いらっしゃい。私たちの船。ティー・パーティーへ
   色々あって疲れたでしょうし、まずは一息ついて、それから色々とお話しましょうか」

まるで軍艦の中とは思えないような、とはいえ艦の外装に通じる感じも受けるような
可愛らしい彩りの部屋の中。先ほどまでバイドとの戦闘を繰り広げていた少女が座っている。

さやか「えっと…その、貴女はさっき戦ってた人……ですよね」

まどか「確か、巴さん……って」

戸惑う二人。無理もない。
先ほどまでR戦闘機を駆ってバイドを殲滅していたその姿と、ティーポットを片手に微笑む今の姿は
まだ二人の中では繋がっていない。まるで、非現実的な何かを見るような表情で。

ほむら「…………」

唯一人、ほむらだけは緊張でも理解し得ない様子でもなく、静かにマミへと視線を向けていた。

マミ「そんなに緊張しないで、三人とも。巴マミよ。遠慮なくマミって呼んで欲しいわ
   何せ、あなた達は私の仲間になるかもしれないんだから」

さやか「そのことです!一体何がどうなってるんですか。
    魔法少女とか、R戦闘機のパイロットとか。いきなり過ぎて訳わからないですよ」

QB「それについてはボクのほうから説明するよ」

三人をティー・パーティーへと導いたキュゥべえが、再びその半透明の姿を現した。

マミ「長い話になると思うわ。お茶とケーキを用意したから、食べながらでも聞いて欲しいの」
41 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/11/04(金) 19:35:53.97 ID:OCHNTEM/0
部屋の中にふんわりと漂う、リンゴのようないい香りと甘くて美味しそうなケーキの誘惑も
頑なになった心と身体を解すにはまだ、足りない。
これは長期戦になるかもしれない、とマミが考え始めたその矢先に。

ほむら「折角用意してもらったのだから……頂きます」

率先してほむらが動いた。立ちすくんでいた二人の間をすり抜けてお茶会のテーブルへついて。
まだ不安そうに見つめる二人に振り向くと。

ほむら「……大丈夫よ、ちゃんと事情は説明してくれると言っているし
   まずは、一度話を聞いてみましょう?」

まどか「ほむらちゃんが言うなら……うん、わかったよ」

さやか「それに、いつまでもこうしてたって仕方ない……よね」

二人も続いてお茶会の席へつく。ひとまず始まってしまえばもう
楽しげなお茶会の雰囲気は、三人を巻き込み飲み込んで、いつしか緊張も消えていた。

さやか「〜っ♪このケーキ美味しい!まさか修学旅行がこんなことになるとは思わなかったけど
    これはこれで、もしかしたらすっごい経験かもね」

まどか「ほんとだね。最初はちょっとどころじゃなく驚いちゃったけど
    それでもこんな経験、普通じゃできないだろうし。紅茶も美味しいし」

ほむら「とてもじゃないけど、ここが船の中だなんて思えないもの……ね」

マミ「お茶もケーキもまだあるから、どんどん食べちゃっていいわよ」

さやか「はーいっ。あ、それじゃケーキもう一つもらっちゃおうかなー」

まどか「もう、さやかちゃんったら食べすぎだよー」



QB「……なんだか楽しそうだね、マミ」

マミ「ええ、実際楽しいんだもの。折角用意したお茶会の道具を無駄にせずに済んだし
   もしかしたら仲間ができるかもしれない、って考えたらね」

QB「そうなることを望んでいるよ、ボクも」
42 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/11/04(金) 19:36:20.26 ID:OCHNTEM/0
さやか「えーっ!?マミさんも、あたしたちと同じ学校の生徒なんですか!?」

マミ「ええ、歳はあなた達よりも上だから、三年生になるのかしら
   もっとも今は通えてないけど、ああ、でもちゃんと出席扱いにはなってるのよ
   授業の内容だってちゃんとこっちで見られるようにしてあるし」

まどか「その間は、ずっとこの船で過ごしているんですか?」

マミ「ええ、そうね。今はまだ何かと予定が詰まっているから
   次に地球に戻れるのは、ひょっとしたら卒業式の頃かもしれないわね」

そう話すマミの表情には、隠し切れない寂しそうな翳りも見えた。
慌ててそれをかき消したけれど、まどかにもほむらにも、それは確かに映っていた。

ほむら「寂しくはないの……その、ずっと一人で、巴さんは」

マミ「……それ、は、寂しくない。って言ったら、きっと嘘になるわ。
   友達とも会えないし、恋とか青春とか、全部地球に置き去りにしてきてしまった。
   キュゥべえもいるし、この船には娯楽施設や図書室なんかもあるから、退屈はしないのだけど」
  (だから、私は仲間が欲しい。……そのために、この子達を巻き込もうとしている。よくないわよね、こ

んなの)

広い宇宙の只中で、一人戦い一人生きる。
それがどれだけ辛いだろうか、寂しいだろうか。
想像することさえかなわずに、まどかもさやかも、静かに語るマミを見つめて。

マミ「でも、誰かが戦わなければいけない。だから私はこのキュゥべえと契約して
   魔法少女、ひいてはR戦闘機のパイロットになったというわけ。
   ……そろそろ、そっちの説明もしましょうか」

その言葉に、マミの膝の上で丸まっていたキュゥべえが身を起こす。
そのままぴょん、とテーブルの上に飛び乗って。
43 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/11/04(金) 19:38:31.19 ID:OCHNTEM/0
QB「少し長い話になるけど、まずは聞いて欲しい。魔法少女というのは、全ての生命体の敵
   バイドと戦うことができる唯一の希望、R戦闘機のパイロットのことを言うんだ」

さやか「今までの話を聞いてると、それはなんとなくわかる
    でも、何で魔法少女、なんて可愛らしいネーミングなわけ?
    それに、あたしたちはそのバイドのことも、R戦闘機っていうもののことも
    何も知らない。それなのに、いきなり戦って欲しいなんていわれても、無理だと思う」

QB「そう思うのももっともだ。それについては一つ一つ説明していくよ。
   魔法少女、というネーミングについてだけど、これはボクたちの昔からの慣習みたいなものかな」

まどか「昔からの、って……。じゃあそんな昔から、魔法少女になって戦ってる人がいたの?」

QB「ああそうさ、ずっと昔からボクたちは素質のある少女と契約して、彼女たちを魔法少女にしてきたんだ。
   とは言え、そのころはまだ彼女たちの敵はバイドじゃなかった。人の呪いが生み出す魔女と
   魔法少女たちは戦っていたんだ」
   
さやか「ってことは、昔は魔女と戦っていた魔法少女が、今はバイドと戦ってる
    それじゃあ、その魔女ってのは放置されてるってこと?」

QB「そうとも言えるし、そうでないとも言える。少なくともボクらが魔法少女をバイドと戦うためのものとしてから
   魔女は出現していない。恐らくこれからも出現することはないだろう」

ほむら(こんな話、聞いたことがない。魔法少女。……これにも、あいつらが関わっているのかしら)

QB「話が逸れたね、本題に戻ろう。魔法少女の素質を持っている者は皆
   R戦闘機のパイロットとしての素質も持ち合わせているんだ。その理由が……マミ、見せてあげてくれるかい?」

マミ「ええ、三人とも、これを見てちょうだい」

言葉と同時に、マミがつけていた指輪が光る。
次の瞬間、掌の上に卵より二周りほども大きい、黄色く煌く宝石が乗せられていた。
44 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/11/04(金) 19:39:31.48 ID:OCHNTEM/0
さやか「これ、何なんですか。……すごく、綺麗」

その輝きに見せられるように、ふらふらと吸い寄せられるさやか。
慌ててまどかがそれを掴まえて。

マミ「これはソウルジェムというの。キュゥべえと契約すると生み出される魔法少女の証、みたいなものかしらね」

QB「そう、そしてこのソウルジェムこそがあのR戦闘機を動かすのに必要なものなんだ。
   このソウルジェムを機体に接続することで、まるで自分の手足を動かすようにR戦闘機を操ることができるんだ」

まどか「なんとなくだけど、わかった……かな?ちょっと自信ないけど」

マミ「今はそれでいいと思うわ、その気があるならこれからいくらでも理解できるから。
   本当にすぐよ。私だって随分慣れているように見えるけど、初めてR戦闘機に触れてから
   まだ3ヶ月も経っていないくらいなんだから」

ほむら「3ヶ月……ですって?」ガタッ

まどか「ほむらちゃん?どうかしたの?」

ほむら「あ……いえ、なんでもないの。
    ただ、3ヶ月であんなにすごく戦えるようになるなんて、ちょっと信じられなくて」
   (ありえない、何かの間違いではないかしら)
45 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/11/04(金) 19:43:55.71 ID:OCHNTEM/0
今日はここまで、所謂説明回です
説明させようとするとセリフがえらい長くなる長くなるで大変です。

>>35
そもそもソウルジェム対応機自体が特殊な機体なので
ワイズマンの系列機ではありますが、直系機とは言えないかもしれませんね。
というかワイズマンを量産して正式採用する地球軍ェ……。

最近近所のゲームセンターがレトロゲーム特集をしているらしく
古いゲームが100円2クレで遊べたりしてます。
グラディウス、ダライアス、後ついでにファンタジーゾーン。
どれも面白いですね。ダライアスは新作にもちょっと手を出してみましたが。
しかし、もうどこにもR-TYPEの姿はないんですよね。
またゲームセンターに並ぶR-TYPEの姿を見てみたいものです。
……がんばれ、グランゼーラ。


では、本日はこんなところで。
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/04(金) 20:46:32.05 ID:tQGTSXTDO
お疲れ様です!やっぱり宇宙時代は色々違いますねぇ〜。ティー・パーティーか、可愛い船なのがせめてもの癒しだね。

しかし3ヶ月で自在に動かせるとか…普通に訓練を受けてるパイロットが泣いちゃうぜ?まぁ、魔法少女は後でもっと泣くかも知れないけどなww
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/04(金) 20:48:52.57 ID:LsQkAkxIo
続き期待
ぶっちゃけ魔法少女全然足りないよね。
まさかTeam R Typeによる強制魔法少女化が行われているのでは!?
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/05(土) 01:01:23.74 ID:dD3Qqn3DO
ここまで魔法警備隊ガンホーキなし
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [saga]:2011/11/05(土) 01:44:44.78 ID:nHfUif3U0
どうにも収まりがつかなかったので
もう少しだけ、続くんじゃ。
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [saga sage]:2011/11/05(土) 01:45:32.03 ID:nHfUif3U0
さやか「その…魔法少女のこととかはわかったんですけど、これからあたしたち、どうなるんでしょうか?」

まどか「私たち修学旅行の途中だし。ずっと戻らなかったら先生たちも心配するよね」

QB「少なくとも、今すぐ戻ることはできない。それに心配することはないよ
   君たちが船には事情は説明してある。キミたちは負傷していたため、こちらの船で保護してある、とね」

さやか「そんな、勝手にそんなこと!」

マミ「ごめんなさい、美樹さん。でもこれは必要なことなの。
   貴女たちが魔法少女になるならないに関わらず、ね。新型のR戦闘機を目撃してしまった
   それだけでも、私たちとしてはそのまま帰すことはできないのよ」

ほむら「何か……されるんですか。尋問とか軟禁とか、拷問とか」

さやか「ごっ、拷問!?う、うううウソですよね!ウソだと言ってよ、マミさん!」

まどか「拷問なんて……そんな、そんなの絶対おかしいよ!」

マミ「あー……ええと、ね。二人とも。ちょっと落ち着いて。
   それから暁美さんも、あんまり物騒なこと言わないでちょうだい」

QB「そうともさ、キミたちは魔法少女としてとても魅力的な人材だからね
   ボクとしても出来る限りの優遇はする。今はただもうしばらくここに留まってもらって
   魔法少女やバイドのことを、もっとよく知ってもらいたいんだ。その上で判断して欲しい」

さやか「うぅ、そこまで言うなら……仕方ないとは思うけど
    っていうか、そもそも戻りようがないんでしょ、今のままだと」

マミ「本当にごめんなさい。お詫びというわけではないけど、後で船の中を案内するわ。
   色々なものがあるから、一日二日くらいじゃ飽きることはないと思うから」

さやか「ほんとですかっ!?うわ、これはこれでちょっと得がたい経験って奴じゃない?
    宇宙船の中、こんなあちこち見て回れるなんて滅多にあることじゃないでしょ!」

まどか「さやかちゃん……切り替え早すぎ」

ほむら「でも、きっとこれくらいの方が長生きできると思うわ。……私もちょっと、船の中は気になるし」
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [saga sage]:2011/11/05(土) 01:46:16.66 ID:nHfUif3U0
ひとまず休憩、お茶とケーキも用意しなおして。お茶会は再開された。
話題はもっぱら、魔法少女のマミのことであったり、修学旅行の行き先の話であったり
特にマミは地球を離れて久しいからか、地球の流行のことなんかに随分と執心していたようだ。

QB「さて、じゃあそろそろ次の話に移ろうか。今度はボクたちの敵。バイドについての説明をするよ」

そうして再びキュゥべえがテーブルの上へと飛び乗った。
今度は一緒に、モニターも空中に浮んでいて。

まどか「バイド……それって、あの時船を襲ったあの機械みたいなもののことですよね」

QB「それは正しいけれど、正確にバイドのことを表しているとは言えない。
   マミ、詳しい話をする前に紅茶とケーキは、片付けておいたほうがいいと思うな」

マミ「………そうね。少し待っていて」カチャカチャ

さやか「流石に敵のことを話す、となるとやっぱり緊張しちゃうね」

まどか「うん、マミさんもやっぱり表情が固いし……ほむらちゃん?」

一気に張り詰めていく空気の中、ほむらだけがどこか違って見えた。
恐れているようでも、緊張しているようでもない。まるでそれが聞きなれたことであるかのように。
自然と耳を傾ける、そんな姿勢が出来ていた。

まどか「なんだか……すごく落ち着いてるんだね、ほむらちゃんは
    私なんか、これから敵の話をするって聞いただけで、こんなにドキドキしてるのに」

ほむら「ぁ……いいえ、そんなこと、ないわ。ただちょっと、人により顔に出づらいだけだと思う」

マミ「さあ、それじゃあ始めましょう。キュゥべえ、お願いね」

QB「ああ、わかったよ。じゃあ始めるよ。バイド、それは――」
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [saga sage]:2011/11/05(土) 01:48:30.67 ID:nHfUif3U0
キュゥべえ先生によるバイド講義、一時間目が開講した。
中空に映し出されたモニターは、バイドのその性質を、異形を、脅威を包み隠すことなく説明していく。
曰く、ありとあらゆるものに伝播し汚染する。
曰く、非常に強力な攻撃本能を持つ。
曰く、ヒトと同様の遺伝子構造を持つ。
曰く、その殲滅は容易ではない。
そして、そのバイドの姿でさえも、モニターは容赦なく映し出していく。
機械を浸蝕し操るもの、バイドそのものが作り出した新たな生命体。
――そして、生命を蝕み異貌を為したモノ。

さやか「……何、何なのよ“コレ”はっ!」

バイドに汚染された兵器が、見慣れた街並みを焼き払っていく姿。
さやかはその不条理に怒り、叫ぶ。

まどか「ぅあ、ぁ……ぃゃ、いやだよ、こんなの……ぅぐっ」ゲホッゲホッ

ドプケラドプスと呼ばれるA級バイドの、その異形と凶暴性。
ついにまどかは正視に堪えず、床に蹲ってえずきはじめる。
マミがその身体を支えて背中を擦る。震えも嗚咽も収まらない。

ほむら「――バイド……っ」

そしてバイドによって引き起こされた、人類史上最悪の事件。
コロニー、エバー・グリーンの地球への墜落。
それが引き起こした圧倒的な災厄に、ほむらは密かに歯噛みする。

QB「わかっただろう。これがバイドだ。これを放置しておけば、人類は必ず滅亡する
   それを防ぐために造られたのがR戦闘機で、それと戦うものが魔法少女なんだ」

さやか「わかったよ。……よくわかった。あれが、バイド」

さやかの瞳に移る色は、怒り。圧倒的な暴虐と理不尽への、その象徴たるバイドへの、憎悪。

まどか「ぅ……もう、大丈夫。ありがと、マミさん
    でも、マミさんはあんなものと戦い続けてるんだね……すごいや。私には、とてもできないよ」

まどかの記憶に焼きついているのは、恐怖。人知を超える醜悪なる異形、バイドそのものへの、拒絶。

ほむら「……戦う力があるのなら、戦わなくてはいけないのかしら」

ほむらの心で揺れていたのは、迷い。バイドを斃す力。それを持ち、振るうことへの逡巡。
三者が三様に心を揺さぶられていた。バイドという、終わらない悪夢を目の当たりにして。
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [saga sage]:2011/11/05(土) 01:59:02.52 ID:nHfUif3U0
ひとまず説明回の分くらいは終わらせておきたかった。
バイドについての詳しい説明は、ここに繰るようなR-TYPERの方々には不要かと思い省略
もしもうっかりR-TYPEについて詳しいことを知らずにここを覗くような稀有な方がいらっしゃいましたらば
Wikiなどで調べてみることをオススメします。
多分一番詳しくて一番愛が詰まっているのはニコニコ大百科かな、とは思いますが。

>>46
時代設定が完全にR寄りになってますので、そこをどう表現するかが悩みの種です。
その都合で仕方なくマミさんが本当にぼっちになってしまいました。
あの時代の一般人ってどういう生活しているんでしょうね。
R-TYPE FINALのOPで見る限りは、そこまで極端に変わっているような感じはしませんが。

そして魔法少女がパイロットとしての適性を持つ理由がまさにそれです
とにかく習熟が早く、すぐに戦力として成立する。それもかなりの蓮度で。
後でどんな目にあうかはまあ、その時のお楽しみといったところです。

>>47
足りないというよりも、まだソウルジェム搭載機の試験運用中なので
そこまであのお方達も本腰を入れてない感じのようです。結果がちゃんと出てくれればあるいは……。
ちなみに現在、とある事情により太陽系内のバイドはほぼ駆逐されている状態です。
いつまでそれが続くかわかりませんが、彼女たちは残存バイドの殲滅をかねた試験機の運用を行っていることになっています。

>>48
調べてみたらなんと、これもアイレムゲーだったのですね。
思わぬ偶然もあるものです、ちょっと動画でも見てみましょうか。
54 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/05(土) 02:00:19.63 ID:nHfUif3U0
おおぅ、トリが消えてた。

では今度こそ本当に投下終了です。
また次のお話で皆さんよろしくお願いします。
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/05(土) 02:09:52.24 ID:yirSIYORo

魔女になるのとバイドに侵食されるのとどっチガきついカなア
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/05(土) 07:20:27.94 ID:IqTjc9iDO
↑ダブルパンチ
57 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/11/05(土) 21:02:38.42 ID:nHfUif3U0
では本日の分の投下いきます。
58 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/05(土) 21:13:05.16 ID:nHfUif3U0
QB「どうやらステーションについたようだ、客船はここで切り離していくとしよう」

マミ「それで、この後はどうするのかしら、キュゥべえ?」

QB「そうだね、さっきのバイドとの交戦で概ね今日の試験項目は終了したと言ってもいい。
   それに、今日はこれ以上彼女たちに事情を説明するのは難しそうだ。
   今日のところはここまでにしておこうか」

マミ「そう、それじゃあ私は彼女たちに船の中を案内することにするわ。
   禁止区画以外のロックを解除しておいてね」

QB「わかった。じゃあ後のことは任せるよ、マミ」

そして、小さな光の粒子と化してキュゥべえの姿が掻き消えた。

マミ「さあ、それじゃあ行きましょうか。ティー・パーティーの中を案内するわ」

さやか「待ってました!難しい話ばっかりでもううんざりだったけど
    いよいよ船の中を探索できるってわけですね!くぅー、楽しみだなーっ!」

マミ「一応機密ってことになっている区画もあるけれど、それ以外ならどこだって案内してあげるわ。
   まずは見取り図を出すわね」

浮かび上がるモニター、映し出される船内図。

マミ「さっき話した通り、娯楽施設や図書室、他には食料プラントを兼ねた庭園やプールなんてのもあるわね」

さやか「何それ!?ちょっと豪華すぎじゃない?家なんかよりずっとすごいよ」

ほむら「とても軍艦の中とは思えないですね」

マミ「そうね、ただ一つだけ困ったことがあるのよ
   地球の電波が届かないから、テレビが見られないのよ」

さやか「あー、確かにそれは辛いかも。テレ東(テレビ極東)とかも見られないんですよね」

マミ「でも、それ以外概ね快適よ。この船だけで5人くらいは生活できるようになっているわ」

船内図を眺めてはしゃぐさやか、半ばあっけに取られているようなほむら。
……唯一人俯いて、まだ立ち直れていない様子のまどか。

ほむら「……鹿目さん?まだ具合の悪いのかな」

まどか「あ……ほむら、ちゃん。……うん、ちょっとさっきの、辛くて」

マミ「無理もないわ。あんなもの、女の子が見て耐えられるものじゃないもの。
   ごめんなさいね、鹿目さん。部屋に案内するから、そこで少し横になっていたほうがいいわね」

まどか「ごめん……なさい、そうするね」

ふらつくまどかを、マミが肩を支えて何とか立たせて。

マミ「美樹さん、暁美さん。悪いけれど、二人で船の中を見てきてくれるかしら。
   私は、鹿目さんを介抱しているから」

そうして、そのまま部屋を出て行った。
残された二人、さやかは少し苦い顔をして。
59 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/05(土) 21:14:27.68 ID:nHfUif3U0
さやか「また……やっちゃったな。一人で勝手に浮かれすぎて
    まどかのこと全然見てなかった。友達なのに。……気をつけなきゃ」

迷いと後悔を振り払うように、一度大きく頭を振って、それから。

さやか「じゃあ行こうよ、ほむら」

ほむら「……ええ、行きましょう。美樹さん」

ティー・パーティー内、マミの自室にて

マミ「本当はちゃんと部屋を用意できたらいいのだけど
   急なことで、まだ整理とかが終わっていないの。ごめんなさい、鹿目さん」

まどか「いいえ、気にしないでください。私のほうこそごめんなさい、こんなに弱くて」

マミ「それこそ気にすることないわ。あんなものを目にしたら当然よ。
   キュゥべえももう少し、配慮ってものを覚えてくれるといいのだけど」

ベッドに横たわり、マミの冗談染みた口調に力なくも笑みを浮かべるまどか。
恐らく大丈夫だろうと考えて、マミも立ち上がって。

まどか「あの……マミさん」

そんなマミを、まどかが呼び止めた。

まどか「一つだけ、聞いてもいいですか?」

マミ「ええ、いいわよ」

まどか「……マミさんは、どうして戦っているんですか。
    こんなに怖いのに、あんなに危なくて、もしかしたら死んじゃうかもしれないのに」

その言葉に、弾かれたように目を見開いて、言葉に詰まるマミ。
僅かな逡巡。その顔はやがて、どこか諦観染みた笑みへと変わって。

マミ「宇宙の平和のため、って言ったら。鹿目さんは信じてくれるかしら?」

まどか「信じたい……信じたいんです。でも、だけどっ。
    あんなに怖くて、それだけで命を駆けられるなんて……私にはできないよ。
    マミさんも死んじゃうんじゃないかって思ったら、怖くて、怖くて……っ、ぐすっ」

マミ「鹿目さん………」ギュッ

まどか「ぁ……マミ、さ」

マミ「私も怖いわ。戦わなくて済むのなら、戦いたくないって思うもの。
   格好つけて余裕ぶって、自分を奮い立たせて戦ってる」

まどかを抱きしめるマミの腕も震えている。
恐れないはずもない。どれだけの力があろうと彼女はまだ年若い少女なのだから。
バイドと戦うためのモノとなることも、戦いの宿命を受け入れることも、容易である筈がない。

マミ「それでも私は、自ら望んで戦っているの。
   バイドは、誰かが戦わなければいけない敵だから。
   それに私は身寄りがないから、もし何かあっても誰かを悲しませることもないもの」

そう言って、マミは少し寂しげに笑う。
広い宇宙のその只中で、孤独一つを友にして、これからも戦い続けるのだろう。
その昏く重い道の果てで、いつか……。そんな姿が、まどかの脳裏に浮んで消えた。

まどか「だめだよマミさん。そんなの……そんなの、悲しすぎるよ。
    一人で戦って、一人で死んじゃうなんて。私、私……っ」

抱きしめられた身体から、マミの孤独が伝わってくるようで。
居た堪れなくて、どうにかしてあげたくて、か細い声で言葉を紡ぐ。
それをどうにかする手段が、孤独を打ち消す力がその手にある事を知っていても
どうしても、その決意は言葉にできなくて、それが悔しくて、怖くて。

マミ「鹿目さん……貴女は優しい子ね。それこそ貴女には、戦いなんて似合わないわ。
   でも貴女がそう思ってくれるなら、覚えていてくれるなら、私はまだ戦えるわ。
   貴女に会えて良かった、鹿目さ――いいえ、まどかって呼んでいいかしら」

顔を上げればそこに映ったマミの顔には、もう孤独を憂う色は消えていた。

まどか「はい……マミさん」

たとえ仮初でも、ほんの僅かだったとしても
自分の言葉はマミを救い得たのだろうか。それを感じて、まどかの表情も和らいでいたのだった。

マミ「ありがとう……まどか」
60 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/05(土) 21:15:33.40 ID:nHfUif3U0
一方その頃。

さやか「すごいなー、ここ。シミュレーションルームだっけ。
    R戦闘機に乗って戦闘を体験できるーって言う奴ででしょー?」

ほむら(『イメージ・ファイト』に『GALLOP』、『Xマルチプライ』まで……よくこれだけ揃えたものだわ)

さやか「ちょっとやってみたいけど、動かないんだよねー、これ
    後でマミさんに聞いてみようかな」

ほむら「ねえ、美樹さん」

ひとしきり室内を眺め終え、ほむらが静かな声で話しかける。

さやか「ん、どうかした?」

ほむら「美樹さんは、バイドと戦うつもりなの?」

その言葉に、楽しそうに笑っていたさやかの表情も曇り。

さやか「あー……そのこと、か。うん、正直バイドは憎いよ。
    あんな酷いことをして、その上まだ皆を苦しめようとしてる。許せない」ダンッ

拳を握って、その拳を壁に撃ち付けながら。

さやか「でも、戦えないよ。死ぬのは怖いし、もしあたしが死んだらみんな悲しむと思うから。
    悔しいけど、そこまで覚悟して立ち向かうことなんて、あたしにはできない」

ほむら「そうね、それが当然だと思う。こんな歳の子供が戦いに出るなんて
    そんなの間違ってる、許されるはずがないわ」

さやか「なんか……さ、ほむら。最初見たときから随分印象変わったよね。
    そっちが素なのかな?まああたしは、そういうちょっとクールなところも嫌いじゃないけどね」

ほむら「っ!?そう、かしら。……っていうか、からかわないで欲しいわ、美樹さん」

さやか「そうそう、その言い方も気になってたんだよね。美樹さん、っての。
    あたしだってほむらって呼んでるんだからさ、ほむらも、さやかって呼んでよ」

ほむら「え……でも。いいのかしら」

さやか「あたしがいいって言ってるの!他の誰に許可取るのさ?」

ほむら「それそうね。……ええと、さやか」

さやか「ん、よしっ!改めてよろしく、ほむらっ!」

少女たちは手を取り笑いあう。
ここで終われば全ては、雨降って地固まる的ないいお話で済んでいたのだろう。
――だが、悪意(バイド)はそれを許しはしない。
61 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/05(土) 21:28:38.75 ID:nHfUif3U0
というわけで本日投下分終了です。
いよいよ次は再び戦闘パート、R戦闘機の真価は発揮されるのか。
乞うご期待です。

>>55
きっと魔女の方が辛いはずです。
何せヒトとしての意識もなくなッちゃウわケですカら。

>>56
魔女がバイド化するのか
それともバイドが魔法少女になった末路なのかによってまたえらい扱いが変わりそうですね。
“魔法少女ドプケ☆らどか”とかでてきそうな予感。
62 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/05(土) 21:44:12.68 ID:nHfUif3U0
ああ、後もう一つ。
今このスレってどのくらいの方が見てらっしゃるのでしょうか。
ニッチなクロスですからそう多くはないでしょうが
もしかしたら今後安価とかするかもですので、ちょっと尋ねてみたいなと思いまして。

とりあえず大体のキャラの立ち位置と話の骨組みくらいは出来上がりました。
思ったよりTAC成分が強くなってきた模様です。副官の子とか超出したい。
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/05(土) 23:47:02.65 ID:IqTjc9iDO
投下感謝です。
どうなって行くのか、気になりますな〜。出したい人が居る?なら出してしまいましょうぜ。

結構宇宙開発されてるみたいなのにテレビは見れないのか…何かまずい事でもあるのかねぇ?ネットとかはどうなのかな?
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/06(日) 00:13:08.59 ID:eLkU1kNMo
乙です
読んでるけどリアルタイムでは遭遇してない

誰も死んだりして欲しくないけどR-TYPEだからなあ……
TAC成分多目でもいいと思うよ!
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/06(日) 00:15:28.91 ID:SJ4uDzmH0
めちゃ見てるよー

>“魔法少女ドプケ☆らどか”とかでてきそうな予感。
いやさすがに無いだろwwww

R-TYPE超好きだけどS-R-TYPEとTAC1,2しかやってないから
TAC成分多いと嬉しいなって
66 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/11/06(日) 04:01:17.00 ID:MlN3w2Rr0
いやらしいバイドのご活躍を描いていたら、なんか気がついたら書きあがっていた。
そんなことよりおなかがすいたよ。

投下します。

※今回は、かなり卑猥でアレな描写が多分に含まれます。
 そういうのが苦手な方はご注意ください。
67 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/06(日) 04:02:20.71 ID:MlN3w2Rr0
キュップイ!キュップイ!キュップイ!

部屋の中に奇妙な音が響く。

マミ「アラート?何かあったの、キュゥべえ?」

QB「ああ、またバイドだ。今度はこの先の小惑星帯に反応が出た。
   このまま現地へ向かうから、出撃の準備をしておいてくれ」

マミ「やれやれ、休ませてもくれないのね。まったく、やんなっちゃうわ」

軽く肩を竦めて笑う、幾分か力が抜けているようにも見える。

まどか「……頑張って、マミさん」

ベッドから身を起こし、手を差し伸べるまどか。

マミ「ええ、行ってくるわ。すぐ片付けて戻ってくるから、待っていてね」

手と手を合わせて、乾いた音が一つ鳴る。
そしてマミは戦士の顔を纏って部屋を出る。いつも震えていたはずの手は、もう震えていなかった。

マミ「一人じゃない、誰かのために戦える。それだけで、こんなにも力が沸いてくるのね……知らなかったな」

閉まった扉に背を向けて、呟く。
そして彼女を想う者は一人ではない。アラートを聞きつけたさやかとほむらも駆けつけてきた。
68 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/06(日) 04:03:05.44 ID:MlN3w2Rr0
さやか「マミさんっ!……行くんですよね」

マミ「ええ、バイドなんて全部やっつけてくるわ。見ていてね、美樹さん」

さやか「はい!あたし、何もできないけど……マミさんのこと、応援してますから!」

さやかがマミの手を取り両手で握る。
想いを託して強く熱く。そこに篭っていたのは願いと敬意。
そして、隠せざるバイドへの憎悪。

ほむら「巴さん、どうか気をつけて」

マミ「大丈夫よ、今の私はバイドになんて、負ける気がしないわ」

マミの顔に浮ぶのは自信。けれどもそれは、慢心のようにも映って。

ほむら「本当に、本当によ。お願いだから気をつけて。必ず戻ってきて」

マミ「心配性なのね、暁美さんは。……でも大丈夫。油断はしないわ」

そして、少女たちに見送られ彼女は再び宇宙へと飛び立った。
眼前に臨む小惑星帯、そこに潜むバイドを討たんがために。
69 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/06(日) 04:03:37.16 ID:MlN3w2Rr0
マミ「小惑星帯に突入したわ、キュゥべえ。通信状態はどうかしら?」

無数の岩塊が漂う小惑星帯を縫うように、マミの機体が駆け抜けていく。
ザイオング慣性制御システムによって得られた機動性は、小惑星帯での飛行さえも容易に成し遂げた。

QB「通信状態は良好だ。カメラ・ビットの調子も問題ない」

カメラ・ビット、それは本来索敵機に搭載されているビットである。
情報収集の役割を果たすそのビットは、入手した情報を逐次ティー・パーティーへと送信している。
それは作戦室のモニターに映し出され、さやかとほむらが息を呑んでその動向を見守っていた。

マミ「確かにバイド反応自体はあるようだけど、小惑星なんかと反応と混ざってしまっているわね。
   どうにもわかりづらいわ。一番大きな反応があったのはどこかしら?」

QB「一番大きな反応は小惑星帯のほぼ中央、岩塊の密度が薄まっているあたりからだ
   恐らく、ここに住み着いたバイドの中枢だと思うな」

マミ「じゃあ、ひとまずそれを目指してみましょうか……っ!?」

突如、機体を掠める敵弾。
咄嗟に機首を巡らせていなければ恐らく直撃していただろう。
飛来した敵弾は、機首に装着されたフォースによって防がれていた。

フォース。それは最強の矛にして不朽の楯。
それは、R戦闘機がバイドを斃し得るモノにしているもう一つの理由。
“バイドをもってバイドを制す”その理念が形を成した姿。
このフォースを装着することで、R戦闘機はその真価を発揮する。
フォースを介した各種光学兵装や、機体後部にフォースを装着することによる後方への攻撃。
そして、フォースに蓄積されたエネルギー解放することにより、広域殲滅を可能とするデルタウェポン。

そしてそれに加えて、人工的にフォースを生み出そうとした結果の副産物であるビットを装着した姿。
それこそがR戦闘機のフル装備であり、あらゆるバイドを殲滅する、究極の力の象徴なのだ。
70 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/06(日) 04:05:41.80 ID:MlN3w2Rr0
マミ「敵の攻撃ね。……なるほど、岩塊に偽装してたのね。道理で気付かないわけだわ」

岩塊が変貌し、リング状の機体に変わる。その中心から突き出した砲台。
岩塊に偽装したバイドの要撃生命体、リボーである。
武装も装甲も貧弱、所謂雑魚という奴である。偽装による不意打ちも敢え無く妨げられた。
そんな雑魚の辿る末路など、最早たかが知れている。

マミ「狭いところに誘き寄せての騙まし討ち。それで勝ったつもりかしら?
   ――見せてあげるわ、R戦闘機の、本当の戦い方をね!」

言葉と同時に放たれた、三筋の青い光線。
それはリボーを打ち砕き、焼き払う。それだけでは留まらない。
敵機や岩塊に接触、それを砕きながらも反射していく。そういう性質を持つ反射レーザーなのだ。
幾何学的な軌道を描いて放たれ続ける反射レーザーは、次々にリボーの群れを打ち砕いていく。

マミ「負ける気はしないけど、これじゃ埒が明かないわね。
   このまま中心部へ突入するわ。キュゥべえ、ナビをお願いね」

QB「任せてよ、マミ。そのまま10時の方向だ」

マミ「OK!それじゃあ一気に行くわよっ!!」

そしてまた、R戦闘機に火が灯る。
無数の光線をばら撒いて、無数の破壊を散りばめて。小惑星帯を駆け抜ける。
そもそも障害物の多い小惑星帯には、バイドも小型のものしか存在できなかったようで。
リボーやキャンサー程度の妨害しかなく。それは須らくR戦闘機に敵し得るものでもなかった。

マミ「もうじき指定座標に到達するわ。……確かに比較的強いバイド反応だけど
   本当に中枢かしら、中型程度の反応しか見られないわ」

小惑星帯中心部、比較的障害物の少ないその場所に“ソレ”はいた。
ソレは禍々しくも艶やかな色彩を持って漂っている。
そしてソレは光を放ち……姿を変えた。
71 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/06(日) 04:06:24.42 ID:MlN3w2Rr0
マミ「っ!?どういうこと、バイド反応が急速に増大してる。これじゃまるでA級並みの反応よ。
   どうなっているの!?」

QB「こちらでも確認した、少なくともこの先に何かがいることは間違いないようだ。
   ただA級ともなると、マミでも手に余るかもしれない。
   敵の情報を可能な限り入手して、掃討が困難なら離脱してくれ。離脱ルートを検索するよ」

マミ「いいえ、その必要はないわ。たかがA級バイドの一匹や二匹。
   R戦闘機ならやれるはずよ。……かつての英雄たちも、そうだったんでしょう」

QB「……それは否定しない、そしてマミの腕が確かなのも認める。
   それでも、無理だと思ったらすぐに引き返すんだ、いいね」

マミ「わかったわ。……小惑星帯中心部へ、突入するわ」


さやか「マミさん……頑張って。お願い……勝って、帰ってきて」

モニターの前、さやかは両手を合わせて固唾を呑んで見守っている。

ほむら「………」

ほむらもまた、食い入るような視線でマミが描く戦闘の軌跡を追っている。
時折何かを呟いているが、その声は誰にも届かない。

マミ「もうすぐ敵が視界に入るわ。……って、な、何なのよ…これはっ!!」

そこに映し出されたものは。

さやか「な、なな、なななっ!なんじゃありゃぁ〜っ!?」
72 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/06(日) 04:07:02.28 ID:MlN3w2Rr0
生理的嫌悪感を感じさせる醜悪に蠢く肉塊。
その肉体のところどころにくぱぁ、と開いた唇のような孔。
びくんびくんと脈動するたび、その孔からは体液が流れ出し
体液でぬらぬらと濡れそぼったそこから現れる、無数の節で構成された棒状の肉の塊。
もう正直やめたいがまだ続く。

その肉塊の名は、生命要塞ゴマンダー。間違えのないようにもう一度言っておく。
ゴマンダーである。決して濁点を取ったり順番を入れ替えたりしてはならない。
そして棒状の肉の塊の名は、防衛生命体インスルー。文字通り、くぱぁと開かれたゴマンダーの孔に
ずるずると蠢きながらインしていく。そしてまたぬるりと現れる。
蠢く肉の節からは、まさしく肉そのものといった弾が全方位へと放たれている。
その膨らんだ先端は超硬質の金属で形成され、黒光りさえ感じるような恐ろしい異形を備えている。
……まだ終わらない。

そして何より目を引くのは、ゴマンダーの頭頂部に聳える瞼のような器官。
瞬きの用に開かれては閉じるその奥には、綺麗にすらも見える青色が覗いている。
そしてそれを覆い隠すように、肉厚の瞼が包み込んでいるのだ。
終ワレ。


マミ「え、何、これ?へ、えええっ!?」

完全に気が動転している。
無理もない、いきなり目の前にこんな卑猥な物体が突きつけられたのだ。
熟練のRパイロットでさえ、正気を失い飛び込んでいく事例さえあるほどの代物である。
マミが受けた精神的ショックは、計り知れないものだろう。

さやか「何よ、何なのこれ、こんな、こんな……ものがっ!!?」

それは恐らく、キャベツ畑やコウノトリを信じている可愛い女のコに無修正のポルノをつきつけるような
最悪に卑猥なファースト・コンタクトであっただろう。
彼女たちはそこまで純粋ではなかろうが、この卑猥な物体のインパクトはそんな些細な違いさえ忘れさせてしまう。
それに下卑た快感を感じるような者がいるのならばそれは病気だろう。早急に入院の必要がある。
73 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/06(日) 04:07:38.16 ID:MlN3w2Rr0
ほむら「……改めて見ると、卑猥」

だがしかし、暁美ほむらはうろたえない。

ほむら「巴さん、しっかりして。気を取り直して。敵が来る
    インスルー、その棒状の方は、胴体さえ破壊してしまえば脅威ではないわ
    胴体部分を破壊すれば、そいつはゴ……げほ、その大型バイドの中に戻るはずよ。
    そこを狙って、あの露出している青い部分、コアに可能な限り接近して」

それどころか、これ以上なく適切な指示まで出し始めたのである。

マミ「え?あ、暁美さんっ!?どうしてそんなことを、いきなり……?」

ほむら「いいから!死にたくなければ撃ちなさい、巴マミ!!」

語調も荒く、今まで感じたこともないような何か、覇気のようなものすら感じさせて。

マミ「っ、は、はいっ!!」

それに気圧されてか、マミも正気を取り戻す。
インスルーが放つ肉弾をかいくぐり、反射レーザーでその胴体を焼き払う。
肉塊が焼けて崩れていくその光景は、やはり精神衛生上あまりにも悪いが、それは思考の端へと追いやって。
苛烈な攻撃に耐えかねたインスルーは、たまらずゴマンダーの中へと逃げていく。
すぐに再生されるはずだが、その隙を逃さずマミの機体がコアの直上に肉薄する。

マミ「で、できましたっ!」

ほむら「上出来よ、もう大丈夫。ゴマ……その大型バイドの弱点は、その瞼の下のコアよ。
    そしてその周囲は、インスルーが攻撃できない絶対安全圏。そこにいる限り攻撃を受ける心配はないわ」

マミ「それじゃあ、後はコアを破壊すれば……」

ほむら「そう、それで終わりよ。反射レーザーならそのままでも十分。
    だけど、その機体の波動砲ならもっと手っ取り早いと思うわ」

さやか「……どういうことなの」

QB「わけがわからないよ」

そして、置いてけぼりの一人と一匹であった。
74 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/06(日) 04:09:13.19 ID:MlN3w2Rr0
マミ「コアが開いたところを狙って……リボン波動砲、発射!」

くぱぁ、と開かれたその瞼に波動のリボンが突き刺さる。
閉ざすことを許されず、ぱっくりと開かれコアが曝け出されてしまい。
その青々と脈打ち、明滅するコア目掛けて。

マミ「これで……終わりよっ!!」

ありったけの青い閃光が、放たれた。
声にならない断末魔を響かせながら、崩れ、爆散していくゴマンダー。

マミ「やった…やったわ!A級バイドを倒したのよ!」
  (ほとんど暁美さんのおかげだったけど。……そもそも、あの子は何なのかしら。戻ったら聞いてみましょう)

時を同じくして、作戦室にまどかが入ってくる。
どうやらしばらく眠っていたらしい、髪に寝癖がついている。

まどか「ごめん、さやかちゃん、ほむらちゃん。私寝ちゃってて……マミさんは?」

さやか「マミさんなら、今丁度バイドの親玉をやっつけたところだよ!
    すごかったんだから、マミさんは勿論だけど、ほむらもさ」

まどか「ほむらちゃん?……何か、したの?」

ほむら「……それは、ええと」

やってしまったという顔で、言葉を濁すほむら。
驚きながらも、無事に終わったことを喜ぶさやか。
状況が飲み込めず、首を傾げて困惑顔のまどか。
そして一人、いや一匹、意味深げな視線をほむらに向けるキュゥべえ。
75 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/06(日) 04:10:47.01 ID:MlN3w2Rr0
誰も気付けなかった。


マミの機体が機首を翻し、帰路を辿ろうとしたその背後。
崩れ去るゴマンダーの肉体が変貌し、禍々しくも艶やかな紫色の球体へと、姿を変えるのを。
勝利に浮かれるマミもまた、それに気付くことができなかった。

ほむら「ファントム・セルっ!?……だめよ、マミ、逃げてっ!!!」

ほむらが気付き、叫ぶ。全ては遅かった。
他のバイドに擬態する能力を持つバイド、ファントム・セル。
その肉体が発光し、姿を変えていく。
絶望の象徴たるその姿、まさに異形、まさにバイドたるその姿は。
先ほどまどかを打ちのめした、ドプケラドプスのそれだった。

そして、バイド反応の強烈な増大に気付いて機首を巡らせたマミの機体を
その胸部から生えたもう一つの頭が、その巨大な顎が。

――――飲み込んだ。

魔法少女隊R-TYPEs 第2話『SEXY DYNAMITE』 ―終―
76 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/06(日) 04:12:15.30 ID:MlN3w2Rr0
【次回予告】

「私が……戦う!」

立ちふさがるは絶望。それを払わんがため
黄昏を齎すモノが再び宇宙を駆ける。

「ELIMINATE DEVICE……Wake Up!」

しかし、全ては遅すぎた。
躊躇いは犠牲を、犠牲は不和を生む。

「あんたのせいだ。あんたのせいでマミさんはっ!」

絶望は払われる。だがそれは救いではない。
絶望の向こうには、永く昏い灰色の道が広がっている、だけで。

「………戦う。もう逃げないって決めたから」

――そして少女は、己が運命を選択する。

魔法少女隊R-TYPEs 第3話『RAGNAROK』
77 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/06(日) 04:21:38.16 ID:MlN3w2Rr0
以上です、色々とやらかした感がバリバリです。
絶対この深夜のテンション、後で見返したら後悔するんだろうなぁ。

>>63
出せるものなら出します。
というか出せるように話を組んでしまえばいいだけなのです。
とはいえ、私はTACの方は1の最初のほうをやったきりで
それ以降は動画などでしか見たことがないので、矛盾が出てきたりするかもしれませんが。

テレビは単純に地球の電波を中継するものがないから、という理由だったりします。
あの時代だと、もうテレビなんてものはないのかもしれませんがその辺はご愛嬌ということで。
それはそれとして、マミさんの生活環境自体は、かなりの厚待遇だったのではないかと思います。

>>64
はい、早速RのRな面が顔を出し始めました。
原作ですら3話まで待ったのに、待ちきれませんでした。

今後は恐らくTAC設定とFINAL設定がまぜこぜになって話が進んでいくと思います。
登場キャラクターも増える予定なので、期待していてください。

>>65
確かにドプケラさんはちょっと少女というには薹が立ちすぎかもしれませんね。
となるとここは魔法少女ばいど☆アルファとかならどうでしょうか。
夏の夕暮れも綺麗に映える事だと思います。

スーパーは唯一なんとかクリアできたRでしたね。
実際にやっていたのは小学生のころですが、あの頃はまだ
あのゲームの裏側にこんな設定があるとは思いもしていませんでした。


結構みなさん見ていてくれるんだな、とちょっと感動しています。
安価についてはもしかしたら次の話で出てくるかもしれません。
状況と人の入り次第ではありますが。
では、また次のお話でお会いしましょう。
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/06(日) 08:25:46.88 ID:fTyd5b1f0
マミった……

ひょっとして魔女が生まれない理由って、魔女になる前に死んでしまうからじゃ……

そして、マミは「飲み込まれた」……
まだ生きているかも……
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/06(日) 08:31:31.90 ID:IIMmKcqDO
続きが早くて嬉しい限りです。でも無理はしないで下さいね。

A級バイドの二段構えとか…ファイナル止まりの俺には考えられない事だ。おのれ中の人、マミさんを返しやがれぇ!(あっ、でもバイド化してたらいいです)
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/06(日) 08:33:30.90 ID:83j/tSZdo
さすがですゴマンダー姉さん・・・。
ファントム・セルよ、次はダストネイト・ワームだ・・・。
81 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/11/06(日) 18:42:51.86 ID:MlN3w2Rr0
第3話、いよいよ本格的にキボウが動き始めます。


さあ、行こうか。
82 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/06(日) 18:44:19.50 ID:MlN3w2Rr0
さやか「ひぃっ……ぁ、そ、んな……」

目の前の現実を受け入れられないとでも言うかのように、目を見開いたまま何度も首を振るさやか。

まどか「……ぁ、ぁぁ、ぁぁぁっ」

掠れた声を漏らし続けるまどか。それは間もなく悲鳴に変わるだろう。
だが、悪夢はそれさえ待ちはしない。

マミ「嫌っ!イヤァぁぁぁぁぁァァっ!!」

絶望に染まったマミの悲鳴が、衝撃に震える二人を打ち据えた。

マミ「どうして!――ッで!?ナんで!?
   誰――助―ッ……ぃ゛や゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」

音声さえも途切れ、ひび割れていく。それでもその叫びは留まることを知らず。
飲み込まれなかったカメラビットは、マミの機体がドプケラドプスに喰らいつかれ
飲み込まれていく様を克明に映し出している。

マミ「キュゥ――!!ほ―――さん!!誰か!誰カァっ!!
   ――ヤダ、ワタシ……シニタく、ナ――」グシャァ

何かが潰れるような、とてもとても嫌な音。
バチバチと何かが爆ぜる音。………もう、マミの声は聞こえない。
83 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/06(日) 18:45:10.98 ID:MlN3w2Rr0
さやか「いゃ……ああぁぁァァァぁっ!!マミさんっ!マミさぁぁぁぁんっ!!!」

届くはずもない、声を。

まどか「マミさん!返事をしてよ、マミさんっ!!ウソだよ、こんなの絶対おかしいよっ!!」

覆しようもない絶望を、叫ぶ。

ほむら「そんな……マミさん。マミ……っ」

QB「どうやら、絶望に暮れている暇もないようだ。
   あのバイド、ファントム・セルがボクたちを探知したようだ、追いかけてくる」

カメラ・ビットが伝える映像は、マミの機体を取り込んだまま発光。
再び球状へとファントム・セルの姿を捉えていた。そしてその映像も、機体の消失に伴って途切れた。

QB「この船には、バイドと戦えるような装備はない。
   ……撤退して、近くの部隊に応援を頼めればいいんだけどな」

ほむら「恐らく無理よ」

QB「なぜそう言い切れるんだい、暁美ほむら。
   キミはまるで、あのバイドのことを知っているようだ」

ほむら「ええ、知っているわ。あのバイドのことならば……きっと、誰よりもよく、ね」

どこか諦観を帯びた表情で、それでも何かを決意したような口ぶりでほむらが言う。

QB「じゃあどうするんだい、この船に他のR戦闘機は搭載されていない。
   よしんばあったとして、誰がそれでバイドと戦えるっていうんだい?」

未だ、二人の泣き叫ぶ声が響く作戦室を、一度静かに見渡して。

ほむら「何の問題もないわ。――私が……戦う!」

作戦室の扉を開く、そして走り出す。
走り……出そうとしたその腕を、涙を浮かべてまどかが掴んでいた。

まどか「どこ……行くの、ほむらちゃん?ダメだよ、ほむらちゃんも……死んじゃうよっ」

その手に自分の手を重ね、まっすぐまどかの瞳を見据えて。

ほむら「……大丈夫よ、もう誰も死なない。誰も、死なせない」

力強くそういうと、僅かにまどかの手が緩んだ隙に扉の向こうへと駆けていった。
84 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/06(日) 18:45:44.91 ID:MlN3w2Rr0
ほむら「キュゥべえ、聞いているんでしょう」

船内を走りながら、誰も居ない虚空に語りかける。
だが、その声に応えるものがいた。

QB「ああ、聞いているよ。……気付いていたのかい?」

ほむら「ええ、この規模の船を動かすのには、あまりにもこの船には人が居なさすぎる。
    そしてお前の存在。……お前がこの船を動かしているんでしょう?
    完全にプログラムに制御された船、だなんて。まるでSFね」

QB「概ねキミの言っていることは正しい。ボクはこの船と魔法少女を運用するためのプログラムだ。
   ……もっとも、プログラムという言い方は適切ではないけどね」

ほむら「今はそんなことを聞いている場合じゃないわ。
    至急パイロットスーツを用意して、それから、格納庫のハッチを開けておいて」

QB「一体何をするって言うんだい、キミは。
   だけどそうするより他に、この状況を乗り切る術もなさそうだ。
   ………用意は済ませた、後は好きにするといい」

ほむら「ええ、そうさせてもらうわ」

眼鏡を外して放り投げる、三つ編みに結んでいた髪飾りを解く。
ふんわりと、まるでその空間だけ重力が減じているかのようにその黒髪は広がって。
その髪飾りを握って、囁く。

ほむら「ELIMINATE DEVICE……Wake Up!」

生体及び声帯認証によって、髪飾りから発せられた信号。
その信号を辿って、それは現れた。
主の呼び声を聞きつけ、異層次元を超えて。

パイロットスーツを着込み、ハッチでそれを見つめるほむら。

ほむら「もっと早く、私が決断していれば……ごめんなさい。マミ」

祈るように小さく呟いて、放たれた矢のように駆け出した。
開かれたハッチの外に覗いた宇宙空間、そこで待ち構える、黄昏を齎すものを目掛けて。
85 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/06(日) 18:46:19.70 ID:MlN3w2Rr0
小惑星帯を無理やりこじ開けて、鋼の巨体が押し進む。
かつて第2次バイドミッションにて遭遇した、高速起動戦車・ライオス。
それがバイドの適応能力によって、宙間戦闘にも対応した形態。
エアボーンアサルトと呼ばれるそれが、小惑星の岩塊をものともせずに押し進み、ティー・パーティーへと迫っていた。

QB「まずいな、あれはボクの操縦じゃとてもじゃないけど振り切れない。
   ほむらが間に合ってくれればいいが……」

こんな状況下にあっても、一切キュゥべえの声にも表情にも焦りは見られない。
もしやすると、端からそんなものは存在していないだろうか。

そしてそんな期待も空しく、エアボーンアサルトからの追尾ミサイルが放たれる。
R戦闘機ならばともかく、輸送船クラスの機動性ではかわすことなど敵わない。

QB「まどか、さやか。急いでどこかに掴まるんだ!衝撃が来るよ!」

しかし、二人は動かない。否、動けないのだ。
絶望は未だ、二人の心と身体を縛り付けていた。
絶望は人の心を縛る。そしてそのまま時として、その命さえも奪ってしまう。
だからこそ、必要なのだ。その絶望を払うものが。

飛来したミサイルが、レールガンに打ち抜かれて炸裂する。
更に続けて撃ち放たれたレールガンが、エアボーンアサルトの動きを止めた。
青いラウンドキャノピー、なだらかな曲線で構成されたその機体。
それは――

QB「ラグナロック?……なぜ、そんなものがここに?」

R-9Ø ―RAGNAROK―
第3次バイドミッションにおいて、敵中枢の破壊という多大な戦果を挙げた機体。
三種類のフォースに対応するコンダクターユニットを持ち、強力な波動砲をも備えた
まさしくバイドを完全に排除するための除去装置とも言える機体である。

現在でもデチューンを施されたものが一部量産されており、各所でバイドとの戦いを繰り広げている。
少なくともそれは、最前線にあるべき機体。
こんな辺境の宙域にあるはずのない機体が、エアボーンアサルトへと肉薄する。

QB「まさか…キミなのかい?暁美ほむら」
86 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/06(日) 18:47:04.86 ID:MlN3w2Rr0
ラグナロックのキャノピーの下、迫る敵の巨体を睨みつけながら。
暁美ほむらはそこにいた。

ほむら「ハイパードライブシステムの損傷が激しい。下手に撃ったら、動けなくなるわね」

迎撃用レーザーをこともなく掻い潜り、エアボーンアサルトの唯一の弱点、装甲に包まれたコアの正面へと潜り込む。
波動砲ですらも防ぐその装甲の前では、攻撃するためにコアが開く瞬間を狙って攻撃を仕掛けるしかない。
だが、ラグナロックの性能の前では、それすらも無意味。

ほむら「メガ波動砲……食らいなさいっ!」

放たれた青白い波動の光、貫通力を極限まで強化したその波動砲は
コアを守る装甲も、そしてそのコアでさえも容易に貫き、焼き払う。
あれほどの巨体が、異形が、たったの一撃で撃沈したのである。


まどか「あれに……ほむらちゃんが乗ってるの?でも、どうして?」

QB「それはボクにもわからない。そもそも、何故今まであれのことを黙っていたのか。
   あの機体は何なのか。わからないことだらけだよ」

さやか「何よ……それ。あいつは、最初から持ってたんじゃない。戦えたんじゃない。
    なのに、あんなこと……なんで」


そして、エアボーンアサルトが再び発光し、ファントム・セルの姿に戻る。

ほむら「逃がしはしない。これで終わりよ」

再びメガ波動砲のチャージを開始する。
このまま放てば、ファントム・セルがさらに姿を変える前に撃破することもできるだろう。

??「ホムラ、サン?ドウシテ、ワタシヲウツノ?」

通信デバイスを介して、強制的に送り込まれた声。
それは、まるで擦り切れかけたテープで再生したかのような、掠れてひび割れていて。
けれどもそれは、その声は……巴マミの、声だった。
87 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage]:2011/11/06(日) 18:54:47.76 ID:MlN3w2Rr0
………死ぬよりひでぇや。

いろんな人に読んでもらえたらいいな、と
少なくともそういう思いは込めてこの作品を書いていますが
ここまでニッチでキボウに溢れた内容、生粋のR-TYPER以外にはまず受け付けられないでしょうね。

>>78
まだ『生きて』はいるようです。
そして少なくともこの時代の魔法少女たちは、R戦闘機のパイロットとしての適性の方が大事ですので
魔女化するようなことは今のところないようです。

>>79
割と自分のペースで書き進めております。
ただ、時々暴走することがあるようですが。

Vと凾ノは、過去のボスのリファインのようなボスが出てくるステージがありますね。
でも実際やってみると、そこまで辛くもなかったりします。
特に今回ぼこぼこにされているエアボーンアサルトなんかは、本当のボスは地形とPOWたんだということを教えてくれます。

>>80
こんな[禁則事項です]な代物を女性がデザインしたという逸話には流石の私も驚かざるを得ません。
バラカス「俺もいるぞ!」
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/06(日) 20:10:01.72 ID:83j/tSZdo
ラグナロックか。
てっきりほむらの能力である時間停止、過去への移動を発展させて亜空間航行能力持ちのウォーヘッドかと想像してたな。
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/06(日) 20:25:56.70 ID:IIMmKcqDO
1日の内に続きが見られるなんて…っ!

遂にほむらちゃんの秘密の一端が明らかに。しかしこの後からが大変だろうな…でも負けないでくれ、僕らの暁美ほむら!
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/07(月) 01:05:32.87 ID:/zq4/UMa0
ところで、マミさんが艦に一人で乗っていたのは、「魔女化しても周囲に被害を出さないため」で、
優遇されていたのは、「ストレスを抑え、魔女化の進行を抑えるため」だったりするのでしょうか?
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/07(月) 03:04:52.28 ID:hPkUkLt6o
取り込まれちゃったか
キボウに溢れる未来が見えてもう何も怖くない
92 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/11/07(月) 13:28:38.44 ID:2CMplQqx0
お昼時でもゲリラ投下、いっきまーす。

※なお今回、とあるキャラがかなり大変なことになります
 何をどう注意するというわけでもありませんが、ご覚悟を
93 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/07(月) 13:29:27.77 ID:2CMplQqx0
ほむらが、まどかが、さやかが。
誰もの顔が、驚愕で歪む。だがそれでも、ほむらは手を止めない。
止めてはいけないことを、知っている。
だが、ほんの僅かにタイミングがずれた。フルチャージの手前で放たれた波動砲は
ファントム・セルを貫通したが、その活動を停止させるには至らずに。
再び、ファントム・セルが姿を変えた。


ラグナロックと通信をリンクさせ、ようやくモニターを再構成することに成功。
再び映像が映し出されたモニターには、対峙する二機のR戦闘機の姿が映し出されていた。
片やラグナロック。そして、もう片方は……。

まどか「あれ……マミさんの」

マミの乗機、ロマンチック・シンドロームがそこにいた。

ほむら「まさか、R戦闘機にまで擬態を……っ!」

驚愕の連続、そして驚いている間もなくロマンチック・シンドロームのレールガンが迫る。
回避行動を取るほむら。フォースもミサイルもないR戦闘機同士の戦闘では
基本的に、注意するのはレールガンと波動砲。
いずれも機首と直線上に並ばなければまず被弾しないようなもの、回避自体は容易ではあった。

マミ「ホムラサン、アナタもワタシヲコろスノネ。
   ジャアアナたもワタシノてキ、タオスシカなイジャナイ!」

聞こえる声、耳を塞ごうにもそんな余裕すらもない。

さやか「どうして……どうしてあの二人が戦ってるのさ!」

まどか「キュゥべえ、どうにか止められないの?こんなのおかしいよ!
    マミさんが生きてたのに、なのに何で戦わなくちゃいけないのっ!」

QB「二人を止めるのは、ボクには無理だ。そもそもマミはもう、恐らく……」
94 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/07(月) 13:29:54.97 ID:2CMplQqx0
宇宙を切り裂き黄色の閃光が迫る。
マミが放ったリボン波動砲、四方から囲い込むような軌道を取るそれを
急減速でやり過ごす。そのまま錐揉み状に高度を下げて、レールガンの追撃を回避する。
その回避機動には、もはや余裕さえ見て取れた。

ほむら(狙いが甘い。反応も遅い。機動も雑そのもの。……コレはもう、巴マミじゃない)

ぎり、と歯を噛み締める。激しい感情が、怒りが胸の奥からこみ上げてくる。
それはバイドに対するだけではなく、自分自身にも向いていて。

ほむら「どこまで……どこまで人を弄べば気が済むの――バイドっ!!」

咆哮。そして回路を切り替え波動砲のチャージを開始する。
メガ波動砲とは違う、もう一つの波動砲。この機体の最強の武装。
レールガンを掻い潜り、ぎりぎりまで機体を密着させてそれを放った。

ラグナロックから再び放たれる青白い光。
それは機体周囲に展開し、ほぼ密着していたマミの機体を焼き払った。
爆発。吹き飛ばされて再びファントム・セルへと姿が戻る。
95 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/07(月) 13:31:17.76 ID:2CMplQqx0
マミ「ヤメて、ホムラさン」

ほむら「黙れ。喋るな。――ハイパードライブ」

機体周囲に展開した光が、再び機体に吸い込まれていく。
そして放たれる、数え切れないほどの波動の光。
ハイパードライブ。それは一撃必殺の威力を持つ波動砲に、連射という
決して相容れるはずのない要素を付け加えた超兵器。
立て続けに叩き込まれる波動の光に飲み込まれて、ファントム・セルの姿が焼ききれていく。

マミ「ヤ、め――た…ケテ。―――」

微かに聞こえるその声には、今は耳も心も閉ざして。
そしてついに、数多の影持つ悪夢、ファントム・セルはその存在を失った。

マミ「――ドウ、して?」

ほむら「BYEBYE―BYDE」

二つの声が、交差した。
96 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/07(月) 13:31:45.64 ID:2CMplQqx0
ハイパードライブは、既存の波動砲と比べても並ぶものがないほどの威力を誇る。
だがそれは、大きな代償も伴っていた。過剰なエネルギーの発生による熱暴走である。
これを回避するため、ラグナロックには緊急冷却を行うための機関が設けられている。
だが、ほむらの機体のそれは作動していなかった。
そんな機体でハイパードライブを使用すれば、どうなるか。

ほむら「オーバーヒート。……動かなくなるくらいかと予想していたけど。
    このままでは、まずいわね」

機体内部に設置された計器の類はすべて、機体が異常加熱していることを示している。
そして冷却を行うことも不可能。このままでは、辿る結果は唯一つ。
内側からの熱に耐えかねて爆発。もちろん巻き込まれれば命はない。

ほむら「キュゥべえ、聞こえる?」

QB「ああ、見事な戦いぶりだったねほむら。後でその機体のことだとか
   いろいろと詳しく話を聞かせて欲しいな」

ほむら「機体を破棄するわ。脱出するから回収して」

QB「えっ」

意外に思うことかも知れないが、R戦闘機には脱出機能が搭載されている。
第2次バイドミッションにおいて、バイド帝星を破壊したウォーヘッドがそれを用いて、地球に帰還したという例もある。
そんな脱出装置を使用して、ラウンドキャノピーを中心としたコクピットブロックが機体から分離した。
遠ざかっていくラグナロックを見つめるほむら。やがてその機体が、大きく膨らみ破裂した。

「……さようなら、ありがとう。ラグナロック」

静かに眼を伏せ、祈るように。彼女は呟いた。
97 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/07(月) 13:32:25.33 ID:2CMplQqx0
ほむら(結局、戦うことになってしまったわね。……どうしようかしら、これから)

思案に耽るほむら。その視界の端にちかちかと煌く何かが見えた。

ほむら「あれは……」



その後、ほむらはティー・パーティーに無事回収された。
悪夢を退けて、それでも尚船内に漂う雰囲気は、暗い。
キャノピーを外してヘルメットを取り去り、束ねていた長い髪を揺らしてほむらが立ち上がる。
その姿を、じっと見つめていた影があった。それは――。

ほむら「……さやか」

さやか「気安く呼ばないでよ」

投げ掛けられたのは、拒絶。

さやか「何よ、アレ。ほむら、あんた戦えたんじゃない。なのに、何で戦わなかったの?」

ほむら「それは……」

答えられず、口を噤んで俯くほむらに。

さやか「あんたはマミさんを見捨てたんだ。あんたが戦っていればマミさんは死ななかった。
    あんたのせいだ。あんたのせいでマミさんはっ!」

言葉の楔が胸に突き刺さる。
唇を噛み締めて、言葉の一つも返せずにほむらはただ、立ち尽くす。

まどか「だめだよさやかちゃん。そんなこと言ったら……ほむらちゃん、可哀想だよ」

いつの間にやら追いついていたまどかが、さやかの手を取り制止する。
けれども、そんな手すらも振り払って。
98 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/07(月) 13:33:12.38 ID:2CMplQqx0
さやか「……わかってる。わかってるんだよそんなこと。あいつがあたしたちを助けてくれた。
    あいつがいなかったらきっと、今頃あたしたちは死んでたってことくらい」

まどか「だったら、どうしてこんなひどいこと……」

さやか「でも、だけど!それで納得できるわけないじゃない!
    マミさんは死んだんだ!助けられたかも知れないのに、あいつのせいで!!」

怒りに震える……否、それだけではない感情で、さやかの声も震えていた。
分かっているのだ、何か事情があったのであろうことくらい。
それでも納得できない。したくない。マミの命を奪ったバイドへの憎悪が
何もできない自分へのふがいなさが、行き場所をなくして暴走しているだけで。

それに気づいて、ほむらも顔を上げる。
噛み締めすぎた唇から滲んだ血を、ぐいと払って。

ほむら「ごめんなさい。本当に。本当に……っ。さやか。これを受け取って」

さやか「なんだよ……え、これ、って」

静かにさやかに歩み寄り、ほむらが手渡したもの。それは。

まどか「それ……マミさんの」

琥珀色の輝きを放つ、マミのソウルジェムだった。

ほむら「脱出したとき、漂っていたのを見つけたの。
    バイド汚染の反応もなかったから……私が持っているより、貴女たちが持っていたほうがいいと思うわ。
    ……本当に、ごめんなさい」

それだけを言い残して、ほむらは疲れた足取りで格納庫を後にした。
後に残された、二人は。

さやか「うぅ……本当に、本当にマミさんは……あぁ、ぁぁぁぁぁぁっ!!」

まどか「さやかちゃん……マミさんは、あんなに優しくて、強くて。
    私たちに、いろんなことを教えてくれたのに……なのに、うぅ、うぁぁっ」

慟哭するさやか、そのさやかの肩を抱きながら、自らも嗚咽を漏らすまどか。
その声はしばらく途絶えることはなく、ただ握り合った掌の中のソウルジェムだけが
静かに、琥珀色の輝きを湛えていた。
99 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/07(月) 13:34:05.64 ID:2CMplQqx0
QB「すごい活躍だったね、暁美ほむら」

格納庫を出て、パイロットスーツを脱ぎ捨てながら通路を歩くほむらの前にキュゥべえが現れた。

ほむら「……残念だけど、今はお前と話をしたい気分じゃないの。
    少し休ませて頂戴」

QB「そうさせてあげたいのは山々なんだけど、ボクとしてもキミに話があるんだ。
   暁美ほむら。……いいや、スゥ=スラスター」
100 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/07(月) 13:40:10.75 ID:2CMplQqx0
ひとまずここまで、ということで。

>>88
残念ながら、このお話のほむらちゃんはまだ魔法少女ではないのです。
というか、正体がかなり明らかになってしまいました。

>>89
そしてもっと重大な秘密が明らかになってしまいました。
本当はもっと後の方までひっぱろうかと思いましたが
ただでさえいろいろ設定を弄くっているのだから、ひた隠しにしたまま進めるよりは
なるべく早めに設定は出してしまおうと考えた結果です。

>>90
残念ながら詳しいことはまだ話せませんが
この時代の魔法少女たちは今のところ魔女化するということはありません。
そしてティー・パーティーは、もともと複数の魔法少女を運用するように作られています。
つまり、単に魔法少女になってバイドと戦うような物好きが他にいなかったというだけなのです。
まだ試験運用中だからというのもありますが、やはりマミさんがぼっちになってしまいました。

>>91
果たしてバイドになってしまった人の意思はどうなるのでしょうか。
そもそも、バイドに恐怖はあるのでしょうか。
考えど考えど答えはでません、海鳥達の声でも聞きに行きましょうか。
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/07(月) 15:24:35.22 ID:ZN3vNWsDO
投下乙です!ラグナロック、お疲れ様。

ところで、これからほむらちゃんはどっちの名前で呼べば良いんだい?
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/07(月) 18:57:47.03 ID:n3uJj3Ymo
続き期待
キボウに満ち溢れている・・・。
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/07(月) 19:42:21.29 ID:hPkUkLt6o

マミさんのソウルジェムが例の人たちに見つかったら
あんな実験されたりこんな実験されたりするんだろうなあ

バイドに細胞の一片まで汚されて精神もずたずたに陵辱されちゃったマミさんが
この上さらに酷い目に遭うかと思うとかわいそうなのに興奮しちゃう、不思議!
104 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/11/08(火) 00:30:36.84 ID:rVfZVRML0
投下します。
105 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/08(火) 00:31:55.49 ID:rVfZVRML0
まるでさび付いたブリキ細工のように、軋むように緩慢に彼女――スゥと呼ばれた少女の首が巡る。
その視線の先では、相変わらず感情というものが一切見えないキュゥべえの顔があった。

ほむら「………なぜ、その名前を」

我ながら、愚かしいことを聞くものだとほむらは思う。
Rに関わるものが、その秘密に触れるものが、その名前を知らないはずもないというのに。

QB「知っていて当然だろう?彼女は英雄だ。……まさか、こんなところで生き残っていたとは思わなかったがね」

やはり迂闊だった、と。
あの時戦ってしまったことを悔やむ。
だがどうすればよかったのだろうか、あそこで戦わなければ恐らく、自分は生きていなかっただろう。

QB「キミが乗っていたあのラグナロックは、正式に量産されていたものとは違う。
   あの波動砲を搭載していたのは、第3次バイドミッションに投入された一機だけだ」

初めから自分には、戦う運命しかなかったのだろうか。
衝撃的な言葉は、まるで足元をぐらつかせるかのようで。
スゥは壁に手をつき、もたれるように身を寄せて。

QB「それにあの情報が確かなら、キミのその姿にも納得がいく。ラグナロックのパイロット
   スゥ=スラスター。彼女は幼体固定を受けて、その身体を14歳の少女のそれに変えたというじゃないか」
フラッシュバック。

目が覚めてまず目に入った、やけに高い天井。
手をかざすと見えた別人のそれ。やけにか細く小さくて。
がやがやと騒ぎ立てる男たちの声がやけにうるさく感じられて。

そんな、今までに何度も味わってきた記憶の残滓を噛み締めて。
胃の奥からせり上がってくるような苦い感触を飲み込んで。

ほむら「そこまで知っている。ということは、やはりお前は……」

QB「御察しの通り。ボクもまたTEAM R-TYPEの一員だ。ボクの場合はゲスト、という言い方の方が正しいけどね」
106 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/08(火) 00:32:58.51 ID:rVfZVRML0
スゥの顔が苦々しく歪む。
TEAM R-TYPE。それは、R戦闘機の開発全般に携わる研究チームのことである。
人類最高峰の英知と狂気と遊び心が結集したそのチームは、今まで3度の対バイドミッションを成功させている。
ただし、その闇は底知れないほどに深い。
曰く、四肢切断やパッケージ化によるパイロットブロックの圧縮。
曰く、人命すら使い捨ての消耗品として扱うその設計思想。
曰く、ドリル、パイルバンカーを戦闘機に搭載しようとすらするその呆れ果てた思考回路
そしてついに近頃では、バイドそのものを素体とした機体すら生み出している、とも噂される。
まさに、人類史上類を見ない、最強にして最凶、最悪のイカレ科学者集団である。

ほむら「……やはり、そうだったのね。お前は私をどうするつもり?」

QB「そうだね、妥当なところだと軍に引き渡すくらいだろうね。
   とは言え軍はキミの存在を公にはしていない。となるとその後はまた、彼らの管轄下ってところだろうね」

ほむら「なら、そうなるわけには行かない。もうあそこに戻るつもりはないわ」

QB「随分と嫌われたものだね、彼らも。……じゃあ提案だ」

感情のない笑みを浮かべて、キュゥべえは小さく飛び跳ねて。
その拍子に、耳がふわりとスゥのほうを目掛けて揺れた。

QB「マミは優秀な魔法少女だった。キミが見殺しにしなければ、もっと沢山のデータをボクたちに齎してくれただろう。
   スゥ=スラスター。キミがマミの代わりに魔法少女になってくれるなら、ボクはキミを暁美ほむらとして扱うよ」

それはつまり、軍に対してもTEAM R-TYPEに対しても、この生き残ってしまった英雄の存在を秘匿するということで。
それだけの権限を、この目の前の生物は持っているということだった。

ほむら「結局どちらを選んでも、戦うことに変わりはないじゃない」

QB「そうだね、だが彼らの元で実験動物紛いの扱いを受けるのと
   魔法少女として人間らしい生活を過ごすのでは、まるで大違いじゃないか」
   
どうにもならない状況、苛立ちを押さえきれず歯噛みすると、切れた唇から流れた血の味が口の中に広がって。

ほむら「……しかたない、か」

憧れていたもの、普通の人としてのささやかな暮らし。
子供達の中に混ざるのは気がひけたけれど、それでもそれはきっと戦いの日々を忘れさせてくれるはずだった。
そんな願いも、バイドと彼らの手によって敢え無く引き裂かれていった。

ほむら「やるわ。魔法少女、なんて柄ではないけれど」

QB「よし、それじゃあ契約は成立だ。キミは今日から、この船の魔法少女だ」

そして言葉と共に、キュゥべえの耳がスゥの胸元へと吸い込まれていった。
107 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/08(火) 00:33:54.19 ID:rVfZVRML0
声も枯れよとばかりに泣いて、疲れ果て、一つのベッドで身を寄せ合うようにして眠るさやかとまどか。
一人部屋の中で俯いて。掌の中で煌くソウルジェムを眺め、眠れぬ夜をすごす……ほむら。
それぞれがその胸中に暗澹たる感情を抱えながら、夜と呼ばれる時間は過ぎて。
そして、翌朝。


さやか「決めたよ。あたし、魔法少女になる」

この船の食事は全て、マミが自分で用意していたらしく。
しかたなく備え付けの携帯食料を齧りながら、さやかが唐突にそう切り出した。

QB「驚いたね。あれだけ戦えないと言っていたキミが、一体どういう心境の変化だい?」

さやかは一瞬だけ躊躇うような顔をして、ぎゅっと、ポケットの中のソウルジェムを握り締めて。
それからついに、覚悟を決めたような表情で。

さやか「マミさんは、ずっと一人で戦ってたんだ。みんなのために、バイドを倒すために
    あたしは、そんなマミさんの想いを無駄にしたくない。あたしに戦うための力があるなら
    戦いたい。戦って、バイドを倒したい!」

QB「キミのその覚悟は本物かい?本当に、あのバイドと戦えるのかい?」

キュゥべえは、どこまでも無機質な顔でそう問いかけるだけで。

さやか「………戦う。もう逃げないって決めたから」
108 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/08(火) 00:35:06.73 ID:rVfZVRML0
そんなさやかの覚悟に、隣で静かに耳を傾けながら、まどかは。

まどか「本当に戦うんだね。……さやかちゃんは」

さやか「うん。ごめんまどか。あたしやっぱり、あいつらを放っておけない。
    それに悔しいんだ。このまま負けたまま、逃げたまま終わっちゃうのが」

まどか「さやかちゃん……私、ね。私も、戦えたらって思ってたんだ。
    マミさんみたいに、強く、格好良く戦うことが出来たら、皆を守れたらって」

ぎゅっと締め付けられるように痛む胸を押さえて、震える声でまどかの言葉は続いた。

まどか「でも……だめだよ、できないよっ。あんな死に方なんて……私、いやだよぉ。
    怖くて怖くてどうしようもなくって。さやかちゃんが戦うって言ってるのに、私
    何の役にも立てないよ……ごめんね、さやかちゃん」

さやか「まどか……。ううん、まどかが気に病むようなことじゃないよ。
    それにさ、あたしだってそんな立派な理由だけで覚悟、決めたわけじゃないし」

色が白くなるほど強く、自分の手を握り締めて。

さやか「憎いんだ。バイドも、力があるのにそれを使おうとしない奴も。
    だからあたしは戦う。そんな風には絶対にならない。バイドを倒してみんなも守る。
    そういう魔法少女にあたしはなってやるんだ、そして、見返してやる」

QB「キミの覚悟はどうやら本物のようだね。……わかったよ」

そして再び、ほむらにそうしたようにキュゥべえの耳がさやかの胸元へと伸びて。
光が、その中から零れ落ちるように生み出された。

QB「これがキミのソウルジェムだ。キミはこれを手にすると共に、戦いの宿命を受け入れることになる」

溢れ出る光は、青く煌く宝石の形となってさやかの手の中に納まった。
その小さな宝石は見た目よりもずしりと重く、その手に圧し掛かる。
それはきっと、背負った定めの重さなのだろう。
109 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/08(火) 00:35:37.92 ID:8wIVLH4J0
そこへ、結局一睡もできぬまま、疲れた表情のほむらがやってきた。

まどか「あ……おはよう、ほむらちゃん」

さやか「おはよう、うわ、なんか酷い顔だね。でも、あれだけ戦ったら疲れもするよね」

ほむらは、さやかの掌に握られていたソウルジェムを見て、目を見開いた。
自分のものとも、マミのものとも違うその色は、間違いなくそれがさやかのものであることを示していた。

ほむら「さやか……貴女、まさかっ!」

さやか「そう、そのまさかだよ。ほむら。あたしは魔法少女になった。
    ――あたしはあんたみたいにはならない。全部守って、戦い抜いてみせる」

覚悟と、そして優越感のようなものを滲ませて。
まるでほむらを見下すように、さやか冷徹に言い放った。

魔法少女隊R-TYPE 第3話『RAGNAROK』 ―終―
110 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/08(火) 00:36:11.99 ID:rVfZVRML0
【次回予告】
そして彼女たちは魔法少女となった。
辛い訓練や学習、時に補修に苦しめられながらも、魔法少女たちは宇宙を往く。

「あたしはまだ、あんたのことを信用できない」

「それでも、私は貴女を信じる。貴女なら、やれる」

しかしまだ、彼女たちは魔法少女の持つ闇を、知らない。
その闇は、ついに形を為して襲い来る。

「愛は不滅だ。どれだけの距離も障害も、私たちを阻むことはできない」

「あなた方にもう未来はありません。さようなら、過去の魔法少女たち」

「――本物の、魔法少女?」

そして……奴らが、また。

「コロニー内部から、大量のバイド反応が!」

「うむっ、緊急連絡だ」

魔法少女隊R-TYPE 第4話『NO CHASER』
111 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/08(火) 00:43:29.18 ID:rVfZVRML0
というわけで、第3話終了です。
ほむら=スゥという設定を考え付いたところからこのお話が始まったといっても過言ではありません。
そのため、もしかしたらずっとほむらちゃんの言動に違和感を感じておられた方もいたかもしれませんね。
一応ここまでが序章、のような感じになるでしょうか。

次は一気に時間が飛んで、ここからは本格的に魔法少女の戦いが始まります。
R-TYPERの諸兄に置かれましては、じっくりと胸にキボウとクレジットを持って
挑んでいただければ幸いです。

もしR-TYPEを知らないけど覗いてみたよという方。
居られましたらばぜひ御一報ください、ぶったまげます。

>>101
あくまで扱いとしては暁美ほむらなので、ほむらちゃんのままでもいいですが
スゥちゃんと呼びたければそれでもよいかと思います。
今のところ作中では、彼女が暁美ほむらを名乗る限り、ほむらと称することにしていきます。

>>102
キボウもようやく一山超えた感じでしょうか。
ここからは、魔法少女たちとゲーム本編のお話が主軸となってきます。
主にTAC1、2、FINALあたりの話となりますので、どうか楽しみにしていてください。

>>103
マミさんにはまだ生存の可能性が残されています。
ただ、生きているのがマミさんかどうかはわかりかねますが……。

ちなみに、TEAM R-TYPEの方々は今も嬉々としてソウルジェムを研究しています。
間違いなく、そのうち何かよくないものが生まれてくることでしょう。
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/08(火) 01:01:55.49 ID:LiRImEXDO
お疲れ様ですー。
マミさんに喝を入れるシーンでは、ほむほむマジ教官!みたいに思いましたよ。

しかし魔法少女化するのに願いすら聞いてもらえないとか…それで固有能力を得られるのだろうか?
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/08(火) 01:11:19.66 ID:Ois0tZ/ko
べぇさん報告されたくなければサンプルになれとか鬼畜すぎるだろ
…さやかちゃん命をかけて戦うことの意味をしっかり理解できてるのかな。
そんな急な感情でなってもいいこと無い気がするけども…
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/08(火) 08:53:25.25 ID:9zEh4vMA0
TEAM R-TYPE所属のQBと契約したさやか。
絶望決定ですな。
115 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/08(火) 12:19:36.36 ID:b/THfWGH0
お昼休みにちょっとだけ、まだ書き溜めたまってないので投下は夜にでも。

>>112
もしほむらちゃんがあの後ちゃんと地球に帰還していたら
もしかしたらR戦闘機乗りの教官とかになっていたかもしれませんね、一応英雄だし。

ちなみに、そのあたりの話については今回の話である程度ネタバラシをする予定です。

>>113
そんなQBでもまだTEAM R-TYPEと比べればかなり有情です。間違いなく。
今のさやかちゃんはバイドへの憎しみと自分へのふがいなさ、マミさんへの負い目と純粋な正義感。
これらが混ぜこぜになって暴走しています。止められる人は誰もいませんでした。
唯一止められそうなほむらちゃんも、ほむらちゃんは拒絶しちゃいましたしね。
そしてQBは分かってて止めませんでした。

>>114
QBはTEAM R-TYPEの中でもかなり独自の裁量権を持っています。
人事とか設備とかその他諸々で。
つまり、QBの下にいるかぎりはそこまで人権、倫理?とりあえずバイドに漬けてみようぜ!
な連中のお世話にはならないと思います。
116 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/08(火) 12:25:16.80 ID:b/THfWGH0
そしてここからが本題ですが。

安価……というのもアレなんで、皆さんにちょっとアンケートみたいなものをとってみようかと。
1.今後、活躍が見てみたいR戦闘機があればお答えください。
※基本はFINALに登場している機体でお願いします。究極互換機はご遠慮ください。

2.今後、跳梁跋扈するところが見てみたいバイドがいればお答えください。
※STGの方の敵は大体出すことはできますが、TACで出てきたほかのアイレムゲーのボスなんかはさすがにきついです。
 あと太陽ノ使者とかはさすがに……。

3.この作品は、基本FINALとTACの設定を使って進行していきますが
  どうしても1〜3や凾フ内容が混ざることがあります。今回のスゥちゃんのように。
  これらは如何せん古い作品なので、知らない方も居られるかと思います。
  そこで、そういった設定などに関しては補足を入れたほうがよいでしょうか?

以上の三点です、とりあえず4話が終わるくらいまではご意見を受け付けたいと思いますので
皆様、よろしくお願いします。
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(滋賀県) :2011/11/08(火) 13:46:24.14 ID:Q0S9aNfPo
R-13Aは出るんですか!
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/08(火) 17:03:48.38 ID:K2cDZ7Rfo
ソウルジェム搭載型バイド系機体に期待

1.焼きプリンとディザスターを
2.地形込のライオスとオージザプトム、卑猥枠でバラカスを
3.どうしても入れる必要があるなら入れるくらいでいいんじゃないかな?
  書きやすいようにでいいと思う
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/08(火) 19:18:32.74 ID:LiRImEXDO
リクエストかー、ゲインズとか鉄板はいいとして、俺が出すのは微妙なのが多いでしょうけど出します。

1・波動砲が美しいダイヤモンド・ウェディングと、バイド系機体の不思議ちゃんであるプラトニック・ラブで。
2・どっちもボスキャラですが、次元作成者グリッドロックと、バイド化ならまかせろー!なノーメマイヤーさんでww
3は…好きにしたら良いと思うよ!←適当で済みません。
120 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/11/08(火) 21:20:49.58 ID:rVfZVRML0
では第4話、投下します。
121 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/08(火) 21:21:30.27 ID:rVfZVRML0
早乙女「先日転校してきた暁美ほむらさんですが、手続き上の間違いがあったらしく
    今日から別の学校に通うこととなりました。暁美さんからは伝言を預かっています」

見滝原の朝。教室の喧騒は、どこかいつもと違うざわめきに満ちていた。
一日だけで、事件と一緒に去っていってしまった転校生。そして。

早乙女「それと、美樹さんがご家庭の都合で転校することとなりました。
    急なことで私も驚いています。まさか一度に二人もお友達が転校してしまうだなんて」

その言葉に、教室のざわめきがさらに大きくなる。
そしてそれと同時に、好奇心と疑惑の入れ混じったような視線が
それでいて、どこか腫れ物に触れるような空気が彼女の――一人、地球に戻ったまどかへと突き刺さった。

結局、さやかとほむらは地球に戻ることはなく、そのまま宇宙で訓練や任務に就くのだと言う。
まどかはただ一人、この件に関して口外しないことと
しばらく監視がつけられるということを説明されて、地球へと帰還することになった。

その道中、まどかは二度泣いた。
一度目は、地球に降り立ち地面を踏みしめたとき。
そして二度目は、無事に家まで帰り着き、家族に抱きしめられたとき。

そして今もまた、居た堪れなさと寂しさや悲しさが混ざり合って
まどかは零れ落ちそうな涙を必死に堪えていた。

それまで当たり前だと思っていた平和が、日常が偽者であることを知って。
大切な親友が、新しくできた友達が、その向こうへと行ってしまったことを実感して。
まどかには、いつもの学校の景色やその喧騒が、なぜか色褪せたものに見えてしまうのだった。
122 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/08(火) 21:22:26.99 ID:rVfZVRML0
そして、3ヶ月が過ぎた。

3ヶ月である。時間としては短すぎる。それでも、魔法少女とかつての英雄には十分過ぎるほどの時間で。

さやか「こちらサンデー・ストライク。リボー7、キャンサー6、タブロック2、後……なんだっけ?
    あのゴミ箱みたいなやつ。そいつを2つ撃破!周囲にバイド反応はないよ」

QB「それはストロバルトだね、さやか。バイドに汚染された高機動清掃クラフトだ」

バイドによって占拠された廃プラント。そこに巣食うバイドの殲滅が
今回彼女に課せられた任務だった。

さやか「高機動清掃クラフト……って、なんでたかだか掃除する機械にそんな性能つけるんだか」

半ば呆れ顔でさやかが言う。
ひとまず周囲のバイドを殲滅、一息ついてまた戦いへ。

さやか「よっしゃ!それじゃこのまま、一気に奥まで殲滅しちゃうよー!」

ほむら「その必要はないわ」

突如、割り込みの通信。見ればそこにはほむらの機体が。

さやか「その必要はない、って……どういうことさ?」

ほむら「この先の敵は全て撃破したわ。一番奥には作りかけのノーザリーもいたから
    それも一緒に破壊しておいたわ」

さやか「な……っ」

絶句。さすがはかつての英雄というべきか。
極めて短時間に、極めて効率的にバイドの殲滅をやってのけた。
この3ヶ月というもの、さやかは常にほむらの凄さを思い知らされていた。
演習や模擬戦においても、そしてこと実戦に至っても。
さやかはほむらがかつての英雄であることを知らない。ただ凄腕のR戦闘機乗りだと考えていた。

ほむら「まだまだね、美樹さやか。そんなことでは私には一生追いつけないわ」

そしてほむらも、それでいいと考えていた。
あの日、マミが死んでしまったその日からずっと、二人の関係は刺々しいままだった。
改善しようとも考えた。けれどもなかなかさやかも取り付く島を見せなくて。
だからほむらも、それでいいと考えてしまった。
それならばそれで、憎むべき、そして追い越すべき先達としてさやかを鍛える。
その目論見は見事に当たる。さやかの持つバイドへの、そしてほむらへの憎悪は。
さやかに生き抜く気力と、戦う力を与えていた。

ほむらの眼から、あえて贔屓目的な視線を外してみても。
あの時のマミと同レベルまではもってくることができただろう。
ほむらは、内心の寂寥感と満足感を同時に感じながら、現在のさやかをそう評価する。
123 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/08(火) 21:23:10.16 ID:rVfZVRML0
さやか「んなこと言ったって、あんたの機体とあたしの機体じゃ、性能が違いすぎるんだってーの」

そう、さやかの言葉にも一理ある。
ほむら現在駆る機体。それはR-13B“カロン”と呼ばれる機体。
フォースのバイド係数を極限まで高めた結果、非常に扱いづらくなってしまった機体である。
扱いには熟練が必要ということで、ほむらにテストパイロットとしての白羽の矢が立った形である。

たとえ扱いづらい機体と言えど、それはR-13A“ケルベロス”や、名機と謳われるR-13A2“ハーデス”
これらの機体の発展系、最終形とも言える機体である。
それに比べてさやかが駆るサンデー・ストライクは、R-9C“ウォーヘッド”を元に量産された低コスト機。
地球連合軍の中ですら、既に型落ちの機体として新兵の練習用くらいにしか使われない、そんな機体である。
性能の差は歴然なのは事実。むしろそんな機体でこれだけの戦果を上げるさやかを、ほむらも内心では評価している。

ほむら「機体の性能に頼るようでは3流ね。狙いも甘いしフォースの付け替えも遅い。
    そんなことではバイドに勝てはしないわ。無残に死ぬだけよ」

さやか「ああそうですか!ったく覚えてなさいよ。戻ったらシミュレーションでボコボコにしてやるんだから!」

ほむら「そんなことを言って、一度でも私に勝てたことがあるの?貴女は」

さやか「ぐぎぎ……」

心無い言葉を投げかけるたび、ほむらの胸がちくりと痛む。
けれども必要なのだと割り切って、心を冷たい氷の底に沈めて、ほむらは憎まれ役を演じ続けた。

さやか「……でも、そろそろあたしだって専用の機体をもらってもいい頃だと思うんだけどな。
    マミさんだって、あの時はもう……」

マミのことを思い出してしまう。あの綺麗な機体を駆って、華麗にバイドと戦っていた姿を。

さやか(……まだ、追いつけないのかな。マミさん)

その姿は、さやかの中で一つの理想となっていた。
ほむらがさやかをマミと同等と評価していても、さやか自身はそう思っていない。
追いつこうとしても追いつけない。そんな憧れと未練をマミの姿に重ねていた。
124 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/08(火) 21:24:21.19 ID:rVfZVRML0
ほむら「……実力が伴えば、嫌でもあいつらは機体を送り込んでくるわ。
    それがマトモな機体なら、いいのだけど」

ほむらの心配はそこだった。R戦闘機のテストパイロット。
それは、正常な神経をしたパイロットなら決してやりたがらないことだからだ。
理由は明快、全てはTEAM R-TYPEの仕業である。
人権や倫理を放棄した機体設計が為された試作機が、日夜彼らによって生み出されている。
そんなものに乗らされるのだから、いつ命を落としても不思議ではない。

せめて、自分が守らなくても平気なくらいの実力を身につけるまでは。
そう願い、キュゥべえに掛け合った結果がこのサンデー・ストライクである。

ほむら(でも……もうこの分なら、心配いらないのかもしれない)

さやかは戦い抜いた、そして危なげなく生き残った。
それほど厄介な敵は残していなかったとは言え、あれだけの敵を撃破して、だ。

QB「そんなキミにいい知らせだよ、さやか。キミの専用機がもうすぐ届くらしい」

そしてその思索は、キュゥべえの嬉しそうでもあり、やはりどこか無機質な声によってかき消された。
125 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/08(火) 21:25:04.63 ID:rVfZVRML0
QB「これがキミの新しい機体。キミだけの為に造られた、専用機だよ」

格納庫には、全体に青いカラーリングの施された機体が眠っていた。
コクピットブロックの真下に一基、機体の背後二基のブースター。
それだけに留まらず、機体の左右には旋回補助と思しいブースターが三基ずつも設置されている。
異様なほどのブースターの数。それによってその機体は、一種歪とも言える形状を取っていた。

さやか「これがあたしの、あたしだけの機体……でもこれ、なんかちょっとごつごつしてない?」

QB「その辺りは我慢してもらうよりほかないね、試作機だとどうしても、外観まで気を配れないことも多いんだ」

パイロットブロックのすぐ後ろに設置された、大きな砲身が特徴的なその機体。
それはかつて、パトロールスピナーと呼ばれたもの。その系譜を継ぐもの。

さやか「それでそれで、この子はなんて名前なの?」

QB「R-11M3“フォルセティ”だ」

さやか「フォル……セティ?」

QB「“正義”と“平和”を司る神の名前なんだ。キミの機体にはぴったりだと思うよ」

さやか「正義と平和か、へへ。何か照れちゃうな。まあ、正義と自由、なんて言われなくてよかったかな。
    よろしくね。フォルセティ」

親しみを込めて、むしろもう愛しさにも似た気持ちを込めて、さやかの手がフォルセティの表面をなぞる。
その顔は、まださやかが友人であった頃に見た表情と、よく似ている気がした。

ほむら「……よかったね、さやか」

祝福するのが正しいことか、それはわからない。
この機体を手にしたということは、これからますます激しい戦いがさやかを待ち構えている。
それでも今は、さやかが見せたその表情が嬉しくて。
聞こえないようにこっそりと、そう呟いた。

さやか「よーっし!そうと決まれば早速、乗ってみなくちゃねーっ」

ほむら「その前に、今日はこれからシミュレーターでさっきの戦闘の反省と模擬戦よ。
    忘れたわけじゃないでしょう?」

それとこれとは話が別、とばかりに冷たく言い放つのだった。
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(長屋) [sage]:2011/11/08(火) 21:26:01.96 ID:x6SsPcvjo
1デコイ波動砲機
2ベビードブケラ
3その場その場でどうでしょう

支援
127 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/08(火) 21:26:15.56 ID:rVfZVRML0
また少し時は過ぎる。
さやかは順調にフォルセティを乗りこなしていった。
フォルセティ、と名づけられたその機体。それはまさしくR-11S2“ノー・チェイサー”の正当進化系であり。
それは同時に、異常な進化を遂げてしまった機体、ということでもあった。

R-11系列の機体は、そもそもにして市街地などでの運用を想定し
機動性や旋回性能の向上を目的に開発されたものである。
その開発は、武装警察での運用試験を経て進められ、パイロットへの耐G機構などが指摘されながらも
ノー・チェイサーの開発をもって終了した。……はずだった。
しかし、彼らの飽くなき探究心は、ソウルジェムを手にしたことによって更に暴走することとなる。
更なる機動性を、更なる旋回性能を。……そして、殺人的な加速を。
パイロットのことなどまるで考えていない、異常なほどの機動性と加速性能。
とどのつまり、フォルセティとはそういう機体であった。

そんな機体にさやかは乗り続けてる。
今のところ、その身体に異常は見られない。
ほむらは、逆にそれが不安だった。

さやか「あたしも、もう大分この子の扱い方に慣れたよ。ねえ、ほむら」

ほむら「……何かしら?」

さやか「鬼ごっこ、しようよ?」

ある時、さやかがそう切り出したのだ。

QB「なるほど、なかなか面白いことを考えるね。
   ほむらがカロンで逃げ回り、さやかがフォルセティでそれを追いかける」

さやか「それで、5分逃げ切ったらあんたの勝ち。あんたにペイント弾を当てられたらあたしの勝ち。
    そろそろ証明しようと思ってさ。機体性能さえ並べば、あたしはあんたになんか負けないって」

ほむら「随分とくだらないことを考えるのね。……でもいいわ。腕の違いって奴を教えてあげる」

そもそも、機動性という意味では今ではさやかの方が上なのだから、こんな勝負自体成り立たないのだが。
だからと言って、負けるつもりもない。性能だけで全てが決まるほど、この宇宙は甘くない。

さやか「ふん、言ってろ。絶対見返してやるからねっ!」
128 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/08(火) 21:28:01.77 ID:rVfZVRML0
そして、ティー・パーティーから放たれた信号弾を合図に、カロンが船を飛び出した。
それからきっかり30秒後。

さやか「さあ行くよーっ!フォルセティっ!!」

青い炎を撒き散らし、フォルセティが宇宙を舞った。
一気に最大加速、見る間にカロンの反応が近づいてくる。
最大速度での急接近からの強襲。一撃で決める、その自信があった。
だからさやかは、キャノピー越しにカロンの姿を捉えて、最大速度で突撃していった。

ほむら「相変わらず、何も考えずに突っ込んでくるだけなのかしら」

その突撃と共に放たれたペイント弾を、機体を僅かにずらしてかわす。
そのまま機体を転身、すれ違いざまに今度はこちらからペイント弾を叩き込んだ。
それは違わず命中し、フォルセティの青い機体に赤い花が咲く。

さやか「な……っ!よくもっ!!」

ほむら「別に、私から撃たないとは一言も言っていないわ」

さやか「くっそー……っ」

闇雲に突っ込んでいっても、ただやたらと弾をばら撒くだけでも、ほむらには届かない。
ならどうすればいい。さやかは考える。
先ほどのほむらの機動。ほむらの機体の性能、それは自分の機体のそれよりも劣ってはいなかったか。
だとしたら、付け入る隙がないわけがない。例えどれだけ技量が劣っていても、足の速さと小回りならば負けはしない。

さやか「……なら、そうするしかないよね。体力勝負だ、行くよほむらっ!!」

再びフォルセティが加速し接近してくる。

ほむら「そんながむしゃらな突撃、何度やっても……っ!?」

最小限の動きでそれをかわすほむら。しかしフォルセティは喰らい付いてきた。
こちらが機体を廻らせるよりも早く転身し、再び狙いをつけてくる。
慌てて機体を加速させ、次の射撃から逃れる。しかし、それにも付いて来る。
単純な足の速さでなら、いかなほむらとて勝ち目はない。
故に、機動でかわしてやりすごす。それ自体は決して難しいことではないはずだった。



3分が過ぎていた。ほむらはまだ、さやかを振り切れていない。

ほむら「どこまで……付いて来るっていうの?信じられない」

急旋回、急上昇、急降下。上も下もわからなくなるほどの激しい機動。
そのたびに、ついてこられずフォルセティが離れていく。
だが、次の動きに転じようとする前に既にフォルセティは背後に迫っている。
まるで息つく暇も与えないとでも言うかのように、執拗に迫ってくる。
あれだけの動きをこれだけの時間。体力的にも、身体への負担的にも普通では考えられない。
不安にも似た焦りが、ほむらの中で広がっていた。

さやか「くそ……また追いつけない。また……でも、まだまだぁっ!!」

捉まえた!そう思った目前でカロンが急に軌道を変える。
追いきれずに逸れた機体の進行方向を無理やり捻じ曲げ、尚カロンの後を追い続ける。
我ながらがむしゃらなことをしていると思う。けれど、これくらいしか勝てる手立ては思いつかない。
少なくともこうしている間、一度もほむらに攻め手を許していないのだから。
激しい軌道を繰り返す中で、さやかは自分の意識が研ぎ澄まされていくのを感じていた。
129 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/08(火) 21:28:38.56 ID:8wIVLH4J0
そして、そんな激しいチェイスを遠めで見つめる機影が、二つ。

「あの二人、随分と楽しそうなことをやっているじゃないか。
 なあ、そろそろ私たちも混ざってもいいだろう?」

「そうね、彼女たちの動きは見せてもらったわ。あれならば私たちの敵ではないでしょう」

「ん、決まりだね。――さあ、行こうか。織莉子」

「――ええ、行きましょう。キリカ」
130 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/08(火) 21:38:52.98 ID:rVfZVRML0
ひとまず今日はここまで、ということで。
今回は魔法少女同士の戦いが続きます。

>>117
FINALの内容は大体網羅する予定です。
もう一度言います。“FINAL”の内容は大体やります。

>>118
色々と渋いとこをついてきますね。
多分ソウルジェム対応のバイド系機体は出てくると思います。
その不幸な生贄が誰になるかはまだわかりませんが。

そして地形込みライオスとか、あれをマトモに描写できるかどうか気が遠くなりそうです。
でも、スピーダッ!のないFINAL仕様だとライオスの脅威も半減かもしれませんね。
オージザプトムは……かーなり難しそうですね。
そしてバラカスさんはゴマンダーさんの中にお帰りください。

>>119
ダイアモンド・ウェディングは出せるには出せますが、あれがうっかり戦闘したりすると
大変なことになりそうですね、市民感情的な意味で。
ノーメマイヤーさんは夏の風物詩ですね(夕暮れ的な意味で
出るとして一体誰があんなことになってしまうのでしょうか。

>>126
デコイ機はどうしてあんなに残念な子ばっかりなんでしょうね。
ある意味お似合いのキャラがこの作品には一人いらっしゃいますが。
そしてベビードブケラ、そんな感じの敵、いましたでしょうか。
微妙に記憶が曖昧で……とはいえドプケラさんはちゃんと撃破してあげたい敵ですね。
なにせR-TYPEの顔とも言うべき敵ですから。


さやかちゃんの機体の紹介については、4話が終わってから他の機体と一緒にさせていただきます。
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(滋賀県) :2011/11/08(火) 21:50:35.34 ID:Q0S9aNfPo
>>130
なるほど期待
というか嫌な予感がするんだけど
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/08(火) 21:52:33.24 ID:K2cDZ7Rfo
おつ
石川県警とは予想外だった。
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/08(火) 22:08:01.51 ID:8wIVLH4Jo
乙乙
織莉子たちも連合軍の所属なのかしらん…?

>>130
デコイ機は設定上は超つおいのに仕様の関係で…
単機で戦域を維持しつつ指揮機もやれて基本スペックも上から数えた方が早くて頑丈なのに…

ベビードブケラというか、TACUのドブケラドプス培養体の子供のドブケラドプス幼生体ですな
ジャミング(亜空間も?)に反応して突っ込んできて1TチャージのドブケルンMAXを群れでぶっぱなしてくる鬼畜でござった…
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/08(火) 23:15:37.76 ID:LiRImEXDO
ペイント弾でどうしろと…
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/08(火) 23:49:41.93 ID:gOwXwVd0o
投下乙です

ドブケラさんはぜひ出て欲しい、ファントム・セルのまがい物じゃなくて
あとシリーズお約束の巨大戦艦も

136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [saga]:2011/11/09(水) 14:29:59.32 ID:+Be44PY/0
お昼時に投下すると、さすがにすぐには感想をもらえなくてちょっとやきもきしちゃいます。
そんなことよりクロスボーン・ガンダム新作連載開始ですかー!?やったー!!

投下します。
137 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/09(水) 14:31:15.20 ID:+Be44PY/0
QB「まさかさやかがほむらにああまで喰らい付くとはね、ちょっと以外だったよ」

無人のティー・パーティー。二人のチェイスを眺めてキュゥべえが呟く。
その耳が、ぴくんと小さく揺れて。

QB「……秘密通信?一体誰だい、今いいところなんだけどな」

モニターに映し出されたのは、なんともいえない奇妙な生き物。
人の服を着てデフォルメされた猫、とでも言えばいいのだろうか。
三毛猫のような柄に、科学者然とした白衣。それっぽい眼帯や機械風の義手まで装着している懲りようである。

??「まあ、そう言うなよインキュベーター。折角この私が、面白い出し物をもってきたんだぞ」

聞こえる声は、見た目とはある意味裏腹にまだ歳若い男性の声。
やけにテンションは高い。

QB「その名前で呼ぶのは、出来ればやめてもらいたいな。誰が聞いているかわからない。
   それで、どういうことなんだい、出し物っていうのは」

??「古い魔法少女の粛清だよ。我々TEAM R-TYPEは、ついにソウルジェムの新たなる可能性を見出した。
   この力があれば最早今までの魔法少女は必要ない。それどころか、バイドの殲滅すらも容易だろう」

どうやらこの男、あのTEAM R-TYPE(クサレカイハツチーム)の一員であるようだ。
その声からは、圧倒的な狂気と自信が滲み出している。

??「まあ見ていたまえ、我々の作り出した魔法少女が、古臭い魔法少女を粉々に打ち砕く瞬間をね」

それでも、キュゥべえの表情は変わらない。
何を考えているのか、想像すらも付かないのである。

??「君はもう少し驚くべきだ。君がもたらした技術が、ついに君の力を超えて進化するのだよ。
   少し位は感謝してしかるべきだと思うがねぇ?」

QB「……まあ、やってごらんよ」

ようやく呟いたその言葉は、なぜか酷くつまらなさそうな口調だった。
まるで、これから起こることがわかっているかのように。
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 14:31:37.92 ID:BWizHQ4bo
クロボン嫌いじゃないんだがな〜漫画版を描いてる人がきr…

投下まってました!!!
139 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/09(水) 14:32:11.58 ID:+Be44PY/0
QB「ところで、その映像はなんだい?ボクとキャラが被るじゃないか」

??「これかね?私の姿をそのまま映すと、君のような手合いはともかく皆がとにかく怖がるものでね。
   仕方なくこの映像を映すことにしている。だがこの姿も悪くはないぞ。
   これはかつて日本の金沢に生息していたといわれる、ニホンカイハツヤマネコという生き物でね……」

以降、しばらくその生き物についてのまことしやかな噂が続く。
何でも高度な知能を持つ生き物で、独自にゲームを開発していた、だとか。
開発が進み住処を追われ、今では火星に住処を移している……だとか。眉唾もいいところである。
140 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/09(水) 14:33:17.73 ID:+Be44PY/0
それはさておき超高速の鬼ごっこは続く。
追いかけ、追い縋り、その背に迫り。
追いかけられ、突き放し、また追いかけられる。
制限時間の5分はもうすぐ過ぎようとしている。
だが、ほむらはともかくさやかはそんなことにも気付けないほどに集中していた。
そして二人の機体が激しい軌道を描き、再びぶつかり合おうとした、そのときである。

ほむら・さやか「っ!?」

二人の機体が、それぞれ間逆の軌道を描いて急旋回。
そしてその二人の機体のすぐ横を、フォースが通り過ぎて行った。


キリカ「おやおや、避けられてしまったよ。当たったと思ったんだけどな」

織莉子「仕方ないわ、キリカ。当たらないのはわかっていたことだから」

現れたのは、二機のR戦闘機。
片やまさに戦闘機然としたシャープなフォルムを持つ純白。
機体の左右に伸びた主翼と、その横に展開する黄色のビットが印象強い。
そしてもう一機は漆黒。装甲を強化されたキャノピーに加え
機体後部に設置された球状のレドームが設置された、所謂索敵機と呼ばれる代物で。

ほむら「軌道戦闘機に……索敵機?なぜこんなところに」

さやか「ちょっと!一体どういうつもり、いきなり攻撃してくるなんて」

怒気の混じった声で食って掛かるさやか。
その声からは、さやかが消耗しているようには見えない。


キリカ「ひどいなぁ織莉子は、わかっていたのなら教えてくれればいいのに」

織莉子「あら、でもそれを言うならキリカだってわかっていたのではないかしら?」

キリカ「まあね、でもちゃんと織莉子に教えて欲しかった」

そんなさやかの声など無視して、なにやら話し込んでいる二人。
その姿が、更にさやかの怒気を煽る。

さやか「あんたたち……人の話ちゃんと聞きなさいよ!」

ほむら「さやか、あの二人は……」

さやか「わかってる、攻撃してきたんだ、敵って言われてもおかしくない。
    でもなんで、バイドでもないR戦闘機があたしらを攻撃してくるの?」

混乱は拭えなくとも、さやかの思考は研ぎ澄まされたままである。
だからこそ怒りに身を任せることが自殺行為であることも、この二人が敵である可能性もわかっていた。

織莉子「貴女たちのような古い魔法少女は、もう不要なのですよ」

キリカ「そうそうっ!これからはバイドは全部私たちが倒すから
    キミたちは、安心してここでくたばっていってくれたまえ!」

そして再び二機が迫る。
フォースにビットの完全装備。片やこっちはペイント弾。
相手になるはずもない。
141 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/09(水) 14:33:49.24 ID:+Be44PY/0
ほむら「さやか、ここは一度撤退を……」

せめてフォースでもなければ、まともに戦うことすら出来もしない。

さやか「いいや……ここは、戦うっ!」

ほむら「さやかっ!」

フォルセティに火が灯る。

織莉子「っ。キリカ!」

キリカ「OK、織莉子!」

何の合図も、ろくな通信の一つもなく。
キリカの駆る黒い機体が、フォルセティの進路の前に立ちふさがっていた。

キリカ「ざんねん、キミの人生はここで終わってしまった!」

フォースを介して放たれる赤い光線。
加速に入る一瞬の隙を突いた攻撃、こちらの動きのタイミングを把握していなければ出来るはずもない。
だが、それでも。

さやか「邪魔……するなぁぁぁっ!!!」

フォルセティが加速する。迫る光線をその身に掠め、更に速く突き進む。
二機の機体が、ほぼ掠めあうように交差して、すぐさまフォルセティは機体を転身。

キリカ「予想以上に早い!?……“使う”暇も与えさせてくれないなんてね!」

織莉子「キリカ、来るわ」

キリカ「拙い、退避するよっ!!」

フォルセティのその機体の内から、静かに聞こえる共鳴音。
波動砲のエネルギーがチャージされていく音だった。

さやか「遅いよ。喰らえーっ!!」

そして放たれたその波動砲は無数の光弾の形を成して、二人を目掛けて飛んでいく。
ロックオン波動砲。フォルセティには、ノー・チェイサーと同様の強化型が搭載されている。
市街地などでの運用を前提とし、誤射を防ぐために敵をロックオンする機能を搭載された波動砲である。

さやか「足の速い相手には、ぴったりだね……こりゃ」

キリカの機体だけでなく、織莉子の機体も同時にロック。
無数の光弾を浴びせかけながら、その攻撃範囲に驚いたように声を漏らす。
これで相手がただのR戦闘機ならば、それで終わっていただろう。
142 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/09(水) 14:34:17.69 ID:+Be44PY/0
キリカ「いやぁ、今のは危なかったよ。でも今回はちゃんと“使う”ことができた」

織莉子「ええ、そうね。キリカのお陰で助かったわ」

さやか「な……っ」

無傷。あの無数の光弾を全てかわしきったとでも言うのだろうか。

キリカ「でも参ったな。もう一人には逃げられてしまったよ」

さやか「え……ほむら?」

いち早く離脱したのだろうか。ほむらの姿はどこにもなかった。
愕然とした。そして何よりそう感じた自分に怒りがこみ上げてきた。
ここに至っても、自分はほむらに頼っていたのか、と。

キリカ「ははは!キミ、見捨てられちゃったねぇ!」

さやか「はっ、冗談。あんな奴、端からあてにしてないっての」

織莉子「強情で、真っ直ぐで……ですが、それだけに愚かね。
    人は一人では戦えない。その手を自ら振り払う貴女は……私たちには勝てません」

さやか「言ってろ。あたしは……負けないっ!!」

機動性ではこちらが上。もう一度あの二人を振り切って。
今度こそフルチャージの波動砲をお見舞いしてやる。
劣勢さえも振り切ろうと、フォルセティが再び駆け出した。
143 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/09(水) 14:35:20.64 ID:+Be44PY/0
QB「なるほどね、つまりキミたちが作り出した魔法少女を
   ボクらの魔法少女にぶつけてきたというわけだ」

??「そうとも、もっとも相手になるとは思わないがね。
   そう確信できるほどに、我々が手にした力は大きい」

ティー・パーティー内、キュゥべえとニホンカイハツヤマネコの通信は続いていた。

QB「確かに、あの二人の機体は普通じゃないね。一体何をしたんだい?」

??「何のことはない。ソウルジェムを徹底的に解析した結果、その新たな可能性を見出しただけだよ。
   それは人の精神エネルギーを変換し、科学や理論では説明できない事象を引き起こす。
   あえてその名を使うことを恐れないならば、それは十分“魔法”と呼ぶべき力だと思うよ、私はね。
   魔法少女が扱うとすれば、随分とふさわしい名前だとは思わないかね!」

まるで自分の研究の成果を見せ付けるように捲くし立てる。
その声は狂気と狂喜に震えているようで、それすらも受け流しているキュゥべえである。

??「キミが我々にもたらしてくれたソウルジェムの技術は、魂を肉体から切り離すという
   今までにまるでなかった観点を与えてくれた。お陰でサイバーコネクトも更なる進化を遂げることができた」

QB「それは確かに興味深いね。一体今度は何をしでかしたのかな」

キュゥべえはひたすら聞き役に回る。
この手の手合いは、適当に話を合わせていればいくらでも話を続けてくれる。
色々と情報を引き出すには、とてもよい機会だった。

曰く、サイバーコネクト技術の進化によって生まれた新たなる技術。
サイバーリンクと呼ばれたそれは、パイロット同士を電子的に接続することで
互いの思考や感覚をリアルタイムで共有することができる、という確かに革新的なものだった。
とはいえ、それをそのまま用いれば搭乗者への負担が大きすぎる。
故にこの技術は、ソウルジェム同士を介するという形で実現することとなった。

そうして生まれたのがあの2機であり、そのため調整を受けたパイロットが
呉キリカ、美国織莉子の二人だった。

??「あの二人が持つ魔法と、サイバーリンク。この二つが組み合わされば最早敵などはいないよ。
   まずはキミのお抱えの魔法少女を軽くひねって、その実力を証明してあげるよ」

QB「……なるほどね、だがそう簡単にいくかな。おや、ほむらが戻ってきたね」

もう一つ開かれたモニターに、ほむらの姿が映し出されて。

ほむら「キュゥべえ、至急フォースを出して。ほむらの分も一緒に牽引するわ」

QB「どうやら彼女たちは、徹底的に抗うようだね。……わかった、フォースを射出するよ」

ほむら(すぐ戻るから、お願いだから耐えていて、さやか)

たとえ2対1とは言え、あれだけの機動を見せたさやかならそうやすやすと落とされはしない。
信じたかった。今までになく、焦りが身体を支配していた。
144 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/09(水) 14:35:46.44 ID:+Be44PY/0
キリカ「随分頑張るねぇッ!でもほらほら、次行くよ。次次、次次次ぃッ!!」

さやか「っとにもう……次次うるさいっての…ぅあっ!?」

機体を掠める黄色い光。それはレーザーではなく、実体を持つ物質で。
イエロー・ポッドと呼ばれる軌道戦闘機に搭載されたその武装は、それ自体を敵にぶつける
ポッドシュートという特殊な攻撃方法を持つものであった。

織莉子「そんなにキリカばかりに構っていると、私、拗ねてしまいますよ?」

キリカ「あーあ、織莉子が拗ねた。キミのせいだ、キミがさっさとくたばっていればよかったのにさぁ」

さやか「く……っそ」

あまりに状況は悪かった。
2対1という状況自体がよくない上に、こちらの攻撃はまるで当たらない。
まるで撃つ前から、どこから攻撃が来るのかわかっているかのように軽々と避けていく。
速さでかき回そうにもそれがなぜか上手くいかない。
あの黒の機体に近づいた時から、機体の速度が上がらない。

さやか「どうして……動いてよ、フォルセティっ」

今のところまだ致命的な被弾は避けている。
けれどもそれも、もういつまでもつかわからない。

キリカ「足が止まったね。じゃあ、これで終わりだ」

さやか「何を……って、ロックオンされてる!?まさか……」

キリカ「そう、私の機体の波動砲もキミのものと同じ、敵を捉えて逃がさないのさ。
    じゃあ、さよならだ!」

放たれようとする光、それを遮って襲い来る、光学チェーンを備えたフォース。

キリカ「っとと、危ない危ない。……なんだ、キミ。わざわざ死にに戻ってきたんだ」

さやか「……なんで、あんた。ほむら」

ほむら「どうやら……間に合ったようね」

立ちふさがるように、ほむらの駆るカロンの姿がそこにあった。
145 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/09(水) 14:45:33.22 ID:+Be44PY/0
では本日はここまでということで。
二回くらいで4話は終わるかと思ってましたが、どうやらもう少しかかるようでスゥ。

>>131
多分とってもキボウに満ち溢れたお話だと思います。
ただあの機体周り、微妙に開発順序がおかしいんですよね。
ケルちゃんを迎えに行くのがそれより前に開発されてる機体だっていう。
未帰還だったからデータも回収できなかったりしたんでしょうか。

>>132
ひとまず今出ている魔法少女用機体のコンセプトが
今までの機体をさらに進化させたらどうなるか、という感じで作っています。
完全に魔法少女のための新造機というのはまだ出てきていない感じですね。

>>133
はい、彼女たちは思いっきりあのクサレカイハツチームの玩具でした。
キュゥべえとは別口で魔法少女について研究しているチームもあったようです。

ドンマイさんもTACでは結構できる子だという話も聞かないではないですが
その辺りはどうなのでしょうね。やはりTACももう一度しっかりやり直したいな。
っていうかなんですかその外道砲台は。

>>134
さすがにどうにもならないかと思いきや、まだ波動砲がありました。
それもちゃっかり避けられちゃってますけどね。

>>135
恐らく出すと思います。
ドプケラはある意味マミさんの敵討ちにもなりますしね。
巨大戦艦は……こいつも描写が難しいというか。
FINALだと思いっきり市街地上空に来てるんですよね。
あれ撃沈しても市街地にそのまま墜落する気がするのですが……。

>>138
長谷川先生は最高ですよー。
確かに絵が古いのはいかんともしがたいですが、そこさえ目を瞑ってしまえば。

やはり一番好きなのはマップスでしょうか、ネクストシートも楽しみに見てます。
あー、伝承族とバイドとかだれか絡ませてくれないものでしょうか。
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 14:45:41.21 ID:nrDgUfGDO
♪ 圧倒
147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 14:49:26.39 ID:BWizHQ4bo
>>145
おつおつ!
マップスとか好きなんだけどガンダムが丸っこくて嫌なんだTT
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(滋賀県) :2011/11/09(水) 14:59:59.12 ID:Z4Rxovtdo
>>145
完全に魔法少女の為の機体とか言ってソウルジェムだけを乗せた機体とか作るんだろ
人間なんてでかい物乗せなくて良いからかなり容量が詰め込めるぞ!やったねクサレ開発チームちゃん!

ところでプラチナ・ハートさんは出せますか?出撃的な意味で
149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 16:35:15.63 ID:ec17dAyDO
続きだーやっほーい!
能力持ちが相手とか本当に厄介過ぎるな。それでもほむらちゃん達ならやってくれる筈!

にしても、文字通り魂を繋ぐなんてパイロットには危険でしかない事をよくやらせるもんだ。さくせんはバランスだいじにですね。

もうすこしかかるようでスゥ ワロタwwww
150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 19:40:52.69 ID:quzS1KmTo
ソウルジェムがあるなら四肢切断も容易だろうな・・・
151 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/11/10(木) 00:36:43.03 ID:Nq6yVlQ/0
なんとまだ4話が終わりません。恐るべし戦闘パート。

では、投下します。
152 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/10(木) 00:37:42.82 ID:Nq6yVlQ/0
さやか「逃げたんじゃ、なかったの?」

ほむら「逃げないわ。貴女が戦うというのならね。
    フォースを引っ張ってきたから使いなさい。波動砲だけで戦える相手ではないわ」

さやか「……ありがと」

ほむら「それと、少し話しておきたいことがあるわ」

さやか「話……って、今どういう状況かわかってんの?」

ほむら「わかってる。だから……そのための時間は作るわ」

キリカ「私たち相手に時間を作る?ははは、キミはジョークのセンスがあるね。
    ……キミたちの時間は、ここで終わるんだよっ!!」

迫る黒の狂機、だがその動きは急停止する。

キリカ「……なぜ止めるんだい、織莉子?」

織莉子「だめよキリカ。……やられたわ。下がりましょう、キリカ」

迎撃のため放たれたアンカー・フォースを意にも介さず機体を翻す。
その行動に、ほむらは違和感を感じる。それでも打つ手は変わらない。

ほむら「ドース開放……刄Eェポン、起動」

さやか「刄Eェポン、って……まさかこんなとこでっ!?」

刄Eェポン。フォース限界までエネルギーが蓄積された、ドースブレイク状態でのみ使用可能な
フォースに搭載された最後の切り札。一度に広域を殲滅することも可能であるが、あくまでそれは対バイド用の兵器である。
R戦闘機同士の戦闘では、すぐさま効果範囲から離脱されて十分な威力は発揮できない。
それでも、有無を言わさず敵を遠ざけることに成功した。
153 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/10(木) 00:38:37.64 ID:Nq6yVlQ/0
ほむら「今のうちに、さやか。ついてきて」

さやか「……わかった」

その隙に、全速力で戦線を離脱。追っては来るだろうが時間は稼げるだろう。

ほむら「時間がないから、このまま逃げながら話すわ。落ち着いて聞いて。

    あの二人は、私たちと同じ魔法少女。……それも、どうやら本当に魔法じみた能力を持っているらしいわ」

さやか「はぁ!?魔法って……そんなこと言われて信じると思う?」

ほむら「思わないわ。でもあの連中ならそれぐらいはやってもおかしくない。
    ……さやか、貴女はあの二人と戦っていた。なら何か違和感を感じたんじゃない?
    普通ではありえない、起こりえないことを」

さやか「………確かに、ある。でも、なんでいきなりそんなこと」

ほむら「キュゥべえが話しているのを聞いたわ」

所謂、盗聴という奴である。

さやか「あいつ……帰ったら色々問い詰めてやらないと」

ほむら「そのためにも、あいつらを何とかしなくてはいけないわ。
    聞かせて、さやか。貴女があいつらと戦って感じたことを」

さやか「まずあの白い方だけど、あいつはまったく攻撃が当たらないんだ。
    っていうか、あたしが撃つ前にもう回避してる。そんなこと、あんたできる?」

ほむら「……無理、ね。ある程度先読みで回避することはできるけど。
    あの機体は、さっきも私が刄Eェポンを使うことを読んでいた」

さやか「ってことは……もしかして」

ほむら「ええ、ということはあいつの能力は……読心とか予知能力の類ね」

さやか「マジですか……って、そんなのどうやって戦うっていうのさ」

ほむら「方法がないわけでもないわ。わかっていても避けられない攻撃をすればいい」

さやか「簡単に言うね、できるのそんなこと」

ほむら「流石に私も一人では難しいわ。でも二人がかりでかかれば、十分勝機は掴めるはずよ」
154 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/10(木) 00:39:16.68 ID:Nq6yVlQ/0
ほむら「今のうちに、さやか。ついてきて」

さやか「……わかった」

その隙に、全速力で戦線を離脱。追っては来るだろうが時間は稼げるだろう。

ほむら「時間がないから、このまま逃げながら話すわ。落ち着いて聞いて。

    あの二人は、私たちと同じ魔法少女。……それも、どうやら本当に魔法じみた能力を持っているらしいわ」

さやか「はぁ!?魔法って……そんなこと言われて信じると思う?」

ほむら「思わないわ。でもあの連中ならそれぐらいはやってもおかしくない。
    ……さやか、貴女はあの二人と戦っていた。なら何か違和感を感じたんじゃない?
    普通ではありえない、起こりえないことを」

さやか「………確かに、ある。でも、なんでいきなりそんなこと」

ほむら「キュゥべえが話しているのを聞いたわ」

所謂、盗聴という奴である。

さやか「あいつ……帰ったら色々問い詰めてやらないと」

ほむら「そのためにも、あいつらを何とかしなくてはいけないわ。
    聞かせて、さやか。貴女があいつらと戦って感じたことを」

さやか「まずあの白い方だけど、あいつはまったく攻撃が当たらないんだ。
    っていうか、あたしが撃つ前にもう回避してる。そんなこと、あんたできる?」

ほむら「……無理、ね。ある程度先読みで回避することはできるけど。
    あの機体は、さっきも私が刄Eェポンを使うことを読んでいた」

さやか「ってことは……もしかして」

ほむら「ええ、ということはあいつの能力は……読心とか予知能力の類ね」

さやか「マジですか……って、そんなのどうやって戦うっていうのさ」

ほむら「方法がないわけでもないわ。わかっていても避けられない攻撃をすればいい」

さやか「簡単に言うね、できるのそんなこと」

ほむら「流石に私も一人では難しいわ。でも二人がかりでかかれば、十分勝機は掴めるはずよ」
155 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/10(木) 00:40:12.74 ID:Nq6yVlQ/0
さやか「二人がかり、ね。……じゃあ、あの黒い方はどうするってのさ。
    やりあった感じ、向こうの方ががんがん攻めて来る分面倒だよ」

それは違う。あの白い機体は攻めてこないのではなく攻めていないだけだ。
攻め手を黒の方に任せているのか、それともまだ余裕があるのかわからないが。
そんな思考は今は振り切り、ほむらは言葉を続ける。

ほむら「では次よ。黒い方の機体。あっちはどうだった?」

さやか「あっちは……よくわかんないんだよね。何か、あいつと戦ってると機体の動きが遅くなるんだ」

ほむら「機体への干渉……今はどうなの?」

さやか「今は……あ、元に戻ってる。でも本当に遅くなったんだ。
    そうなる前は、フォルセティなら余裕であいつら振り切れるくらいだったのにさ」

ほむら「となると、あの機体を中心に一定範囲、ということなのかしらね。
    ……他に判断のしようもないし、そういう風に仮定しましょう」

さやか「これだけ聞くと、とてもじゃないけどあたしらに勝ち目は見えないんだけど。
    なんとかできるの、あんた」

ほむら「……」

しばし、沈黙。

さやか「ちょ、ちょっと……何か言いなさいよ」

ほむら「やれるわ。貴女と私なら」
156 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/10(木) 00:40:48.49 ID:Nq6yVlQ/0
織莉子「この分ならば、もうすぐ追いつけそうね」

キリカ「まったくあいつらー、あんな派手なことしといて尻尾巻いて逃げるだけか。
    やっぱり、私たちは最強だね」

織莉子「ええ、でも油断してはだめよ、キリカ。貴女に何かあったら悲しいもの」

キリカ「わかってるよ織莉子、あんなやつらになんて一発だってもらうもんか。
    ……おや、あいつらが動きを止めたみたいだ。観念したのかな」

二つの狂機が迫る。立ち向かうカロンとフォルセティ。
攻撃に移ろうとしたその瞬間、両機は散開。別々の方向へと飛んでいく。

織莉子「どうやらあちらは、一対一がお望みのようですね」

キリカ「いいよ、相手してやろうじゃないか。でもあっちのすばしっこいほうはちょっと面倒だ。
    織莉子、向こうは頼んでいいかい?」

織莉子「ええ、じゃああちらの相手はキリカに任せるわ。どうか気をつけてね」

キリカ「ああ、大丈夫さ。愛は不滅だ。どれだけの距離も障害も、私たちを阻むことはできない」

織莉子とキリカもそれを追い、散開する。
データリンク機能を強化したアンチェインド・サイレンスをベースとしたこの機体ならば
おおよそレーダーで捉えきれる範囲であればサイバーリンクが途切れることはない。
そして、それを超える範囲で距離を取るというのであれば、それは放置すればいいだけのこと。
負けるはずはない、と確信を持って追跡を開始した。
157 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/10(木) 00:41:27.24 ID:Nq6yVlQ/0
ほむら「やはり私を追ってきた。……どうか持ちこたえて、さやか」

祈るように呟いて、カロンの機首を巡らせ同時にフォースを放った。

キリカ「おおっと……危ないなぁ。キミはもう逃げるのはやめるのかい?」

こともなくそれをかわし、応じて赤いレーザーを放つ。
当然、それに当たるほどほむらも易くはない。

ほむら「別に私は、逃げたつもりはないわ」

キリカ「へぇ、じゃあ今度こそ楽しませてくれるんだろうね。
    でもすぐに終わらせるよ。早く済ませて織莉子のところに帰りたいんだ」

ほむら「敵を前に長口上……3流ね」

キリカ「お前……ッ!!」

キリカの声が気色ばむ、その隙を縫うように再びフォースが放たれる。
それをかわしたところに、フォースから伸びる光学チェーンの追撃が迫る。

キリカ「くっ……このっ、いい加減にっ……」

それもかわされたと見るやフォースを引き戻し背後からの攻撃。
さらにフォースをつけてのレーザー照射、まさに怒涛の攻勢を仕掛けていく。

キリカ「まったく、喋る暇もくれないなん……って!
    キミは随分せっかちすぎる。ならば、時間は私が……創るっ!」

キリカの魔法―時間遅延―が発動する。
牙を剥いて迫るフォースが、それに繋がる光学チェーンが、全ての動きが遅延する。
幸いにも、その影響はカロン自身には及んでいない。
それを見て、ほむらは自分の推測が確信に変わるのを感じていた。
158 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/10(木) 00:42:30.95 ID:Nq6yVlQ/0
織莉子「では、私のお相手は貴女ですか。あの子の手前、攻め手はあの子に任せていましたが……
    今度は私も、本気で行きますよ」

ぞくりと、寒気にも似た感触が機体越しにも伝わってくる。
だが、気圧されてもいられない。負けられない。でもその前に。

さやか「一つだけ、聞かせて」

織莉子「……いいでしょう。死に往く貴女への、せめてもの手向けです」

さやか「なんで、魔法少女同士が戦わなくちゃいけないの。
    あたしたちの敵は、バイドなんじゃないの?」

織莉子「ええ、そうです。私たちの敵はバイドです。私たちはバイドを倒すための存在です」
    
さやか「なら、何でこんなことっ!」

織莉子「バイドを倒すのは、私たちです。だから、貴女たちは必要ないのです」

さやか「どうしてそうなるのよ。今だって、沢山の人がバイドと戦ってる。
    協力する事だって、できるはずじゃないっ!」

織莉子「いいえ、それすらも必要がないのです。私たちがいれば、私たちだけでバイドは全て殲滅できる。
    それを認めさせるためにも、中途半端で古臭い魔法少女は、消し去らなければいけないの」

まだ望みはあるんじゃないかと思った。
敵は圧倒的な悪意、バイド。そんな敵と戦うのに、同じ魔法少女同士で争う必要なんてない。
それは正しい道理のはずだ、説得だって出来るはずだと思っていた。
けれど、彼女らは既に狂気の住人だった。ならばもう、無理やりにでも止めるしかない。


さやか「……あんたら、狂ってるよ。そんなの、あたしが許さない」

迷いは、消えた。絶対に止める。
覚悟と決意を載せて、正義と平和の神がその翼に火を灯す。
159 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/10(木) 00:43:12.13 ID:ENWKukp50
織莉子「っ……やはり、足回りでは勝てないようね」

圧倒的な加速と旋回性能を持って、まずは織莉子の背中を奪う。
だが……撃たない。

織莉子「……撃ってこない?攻撃する未来が見えない。一体どういうこと?」

あくまで撃たず、どれだけ逃げても執拗に背中に張り付いてくるばかり。
どれだけ先の未来を見ても、その景色は変わらない。
それはつまり、このままでは振り切れないということも意味していた。

織莉子「私の後ろをうろちょろと……退きなさいっ!」

R戦闘機はあらゆる角度への攻撃を可能とする性能を持っている。
それは機体の背後であろうと関係ない。だがしかし、R戦闘機は機体背後への攻撃能力の大部分を
フォースの存在に頼っている。これだけの起動をしながらでは、フォースを付け替えている余裕はない。
それでもまだ、織莉子に打つ手はあった。

イエロー・ポッドが射出され、機体後方に迫るさやかを襲う。
それこそが、さやかの待っていた瞬間だった。
その軌道と交差するように放たれる、フォルセティのロックオン波動砲。
攻撃と同時の大きな隙を突かれて、回避が一瞬遅れた。
織莉子の機体を直撃、小さな爆発とともにその機体が吹き飛ばされていく。

さやか「当たった!……っとぉ、危ない危ないっ」

それと同時に迫り来るポッドを何とかかわして、なおも執拗に
体勢を立て直した織莉子の背後へと張り付いた。
160 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/10(木) 00:44:01.75 ID:Nq6yVlQ/0
さやか「やれる、って。何かいい作戦でも思いついたの?」

話は少し遡る。

ほむら「ええ、貴女と私の能力、機体性能を考えると、これしか方法はないと思うわ」

曰くほむらの考えた作戦はこうである。
予知、ないし読心能力を持つ織莉子に対して有効な攻撃
それは徹底的に後の先を取ること。相手の攻撃にあわせて攻撃し。
相手の機動を常に追い続ける。
そしてそれができるのは、圧倒的な機動性を持つさやかのみ。

それで倒せるならばよし、倒せなくとも時間は稼げる。
その間に、ほむらがキリカを叩く。

ほむら「ようするに、あの鬼ごっこでさやかが私にしていたことをすればいい、それだけよ」

さやか「それだけ、って……あれがどれだけ大変だったと思ってるわけ?
    ただでさえきついのに、攻撃避けながらなんて……できると思う?」

ほむら「やれるわ、貴女なら」

僅かな沈黙。

さやか「それでもあたしは……あたしはまだ、あんたのことを信用できない。
    あんたがあいつに勝てるかどうかだってわからないし、今度もまた見捨てるんじゃないかって思ってる
    ……マミさんの時みたいに」

ほむら「っ!?」

言い返せない。マミを見捨ててしまったのは事実。
その事実が、今になって殊更に重く圧し掛かってくる。
けれど、それで思考を、機動を止めれば待っているのはマミと同じ運命だけ。
だから抗わなくてはいけない、立ち止まってはいけない。

ほむら「それでも、私は貴女を信じる。貴女なら、やれる」

さやか「なんでそう言い切れるのさ、あんたはっ!」

ほむら「知らなかった?さっきの鬼ごっこのとき、私は本気で逃げていたのよ」

敵が近い、もうこれ以上語ることもないだろう。
ほむらは機首を巡らせ、敵を待つ。

さやか「本気で……って、じゃあ、あの時……」

あの時確かに、自分の力はほむらに並んでいた。
絶対的な壁だと思っていた、どうあがいても敵わなかった、ほむらに。

さやか「……それ、ウソだったら承知しないからね」

なぜだか自信が満ちてきた。今なら、誰にだって負ける気がしない。
161 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/10(木) 00:44:43.01 ID:Nq6yVlQ/0
キリカ「何で、何で当たらないんだよっ!!」

交戦から数分。キリカの機体に被弾はない。
というのも、迫る攻撃はフォースだろうとレーザーだろうと全てが遅くなる。
そうなればかわすことなど容易にできる。
けれども、ほむらもまた被弾していない。
フォースやレーザーによる攻撃を絶え間なく浴びせかけながら、返しの一手すらも撃たせない。

キリカ「まさか……見切ったって言うのかい。たったあれだけで、私の魔法の範囲を」

時間遅延の魔法は、ことR戦闘機同士の戦闘においてはほぼ無敵とも言える。
だが、それは完璧ではない。効果範囲を過ぎればその効果は消滅してしまうものだった。
ほむらは既に、最初の交戦で光学チェーンの軌道からその範囲を見切っていた。
そしてその距離から、つかず離れずの攻撃を繰り返していた。
相手の集中力を削りミスを誘う。古典的な手ではあるが、相手の様子を見るに
どうやらそれは有効なようだった。

キリカ「大したものだよ、キミは本当に。でも、私は負けないっ!」

急加速して迫るキリカを、その範囲に入らぬように急旋回でかわす。
幾度となく繰り返されてきた光景。その中でほむらはまたしても見切る。
魔法は特異。けれども腕自体は、自分には遠く及ばない、と。

ならば負けるはずはない。確実に削り、潰す。
ただ、今もぎりぎりの戦いを続けているはずのさやかのことだけが気がかりだった。
162 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/10(木) 00:45:19.82 ID:Nq6yVlQ/0
織莉子「本当に、信じられないほどのしつこさね」

こちらの状況は硬直していた。
撃てば撃たれるということがわかって、織莉子はそれ以降主だった攻撃を控えている。
だがさやかも、振り切られることなくとことんその背中を追い続ける。

織莉子「このままでは埒が明かないわ。……キリカのことも心配だし」

サイバーリンクは、キリカの焦りを克明に伝えてくる。
早く行って助けなければと、焦りは募る。

さやか「焦る必要なんてない、どれだけ時間をかけたっていい。……負けない。絶対に」

さやかは慌てない。焦らず静かに敵の背を追う。
あのときほむらを追いかけたときに感じたような、精神が研ぎ澄まされていく感触。
それを今もまた、感じ始めていた。

織莉子は思う。
この機体が軌道戦闘機でよかった、と。それが可変機能を持っていることに感謝した。
機体を急減速させる。フォルセティも遅れずそれに続き、機体に制動をかける。
機体の動きが止まる。背後を取っている以上、それは絶好の好機。

だが、さやかはほんの一瞬だけ躊躇した。
あまりにもあからさま過ぎる動きを、罠ではないかと疑ったのだ。
その一瞬が、全てを決することになった。


軌道戦闘機と呼ばれる機体は、速度の変化に合わせた可変構造を持っている。
そして、その際に生じる余剰エネルギーを機体後部に放出している。
その放出されたエネルギーの炎は攻撃性を持ち、熟練パイロットの中には
それを敵への攻撃に利用したものもいる、という記録が残されている。

さやか「え……そん、なっ?」

視界を埋め尽くす青白い炎。
反射的にそれを避けようとするも、避けきれずに炎はフォルセティのキャノピーを直撃した。

さやか「きゃぁぁぁっ!?」

きりもみするように軌道を反らし、そして動きを止めるフォルセティ。
その姿を確認し、それがこれ以上動かないことを確認してようやく、織莉子は深く安堵の吐息を漏らした。

織莉子(バックファイア……まさか、こんなぶっつけで使用することになるとは思わなかったわ。
    貴女は強敵だったわ。あと一瞬、貴女が撃つのが早ければきっと……やられていたのは私だったでしょう)

織莉子「キリカは無事かしら……」
163 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/10(木) 00:45:51.99 ID:Nq6yVlQ/0
ほむら(そろそろね……仕掛けましょう)

フォースを回収。その軌道に沿うようにキリカに接近していく。

キリカ「やっと来る気になったようだね、今度こそ捉まえてあげるよっ!」

迎え撃つキリカ、それに対してほむらが切った札は。

キリカ「レールガン?今更こんなものが、通用すると思っているのかい?」

いままで使ってこなかったレールガン、しかしそれも時間遅延に掴まって。
その弾速が著しく低下する。狙い通りだった。
即座にフォースを装着、レーザーを放つ。それはキリカに届く前に、レールガンの弾丸を打ち抜いた。
炸裂、その中から零れだしたものは……。

キリカ「なんだいこれは……まさか、ペイント弾っ!?」

先の鬼ごっこの時のまま、そこに装填されていたのはペイント弾。
レーザーに炙られ、その中の特殊インクをばら撒いた。
しかもそれは、時間遅延の範囲内。ゆっくりと広がり、拡散さえも緩慢なそれは
たとえ一瞬だとしても、キリカの動きを留めるには十分過ぎた。

キリカ「なんだ、こんなものっ!!」

それを振り払うように機首を廻らせると、そこには。

ほむら「これだけ近づけば、魔法も関係ないわ」

カロンの機首と、そこから打ち出されたアンカー・フォースが迫っていた。

キリカ「ッ、うあぁぁぁっ!!?」

アンカー・フォースは、従来の弾幕を張るタイプのフォースとは異なり
敵に食いつき、直接破壊するタイプのフォースとなっている。
それはつまり、一度食いつくことさえ出来れば後は、対象を破壊するまで逃さないということで。

ほむら「終わりよ」

キリカ「終わらない、終わらないよ……こんなことで、私の愛は…っぁぁぁぁ!!」

ぎりぎりと鉤爪状のコントロールロッドが機体に食い込んでいく。
後はもう幾許もしない内に、この機体もフォースに焼かれて潰えるだろう。

ほむら(……やっかいな相手だった。さやかは持ちこたえているかしら)

さやかの元へと機首を向ける。その視線が凍りついた。

織莉子「その手を、離しなさい」

言葉と同時の冷酷な射撃は、寸分違わずカロンを打ち抜いた。
164 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/10(木) 00:46:47.64 ID:Nq6yVlQ/0
ほむら「くっ……ぅぅ」

即座に機体の状態を確認、まだ動ける。
だがそれでも、状況は絶望だった。

キリカ「ああ……織莉子、すまない。私は役に立てなくて」

織莉子「気にしなくていいのよ、キリカ。もう、これで終わりよ」

フォースの拘束から逃れ、黒煙を上げながらも敵意を向ける黒の狂機。
全ての武装をこちらに向け、今にもその殺意を開放しようとする白の狂機。

キリカ「終わりだね。キミは強かったよ」

ほむら「そんな……さやかは」

織莉子「私がここにいる、ということは……語るべくもないことでしょう?」

ほむら「あぁ……そん、な」

また、死なせてしまった。絶望が胸を支配する。
抗いようのない絶望が、死が迫る。立ち向かう気力も、もう失せていた。

織莉子「あなた方にもう未来はありません。さようなら、過去の魔法少女たち」

そして……最後の一撃が。
165 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/10(木) 00:53:56.79 ID:Nq6yVlQ/0
R戦闘機同士の戦闘を書くのが楽しくて止まりません。
でも、これを過ぎたらしばらくそういう話もないでしょう。
なにせ、R戦闘機の敵はバイドなのですから、ね。

>>147
私はあのガンダムの姿も大好きなのですどね。
立体化するとまた殊更に格好いいなぁと思います。
フルクロスのMGとか組み立てたのもいい思い出です。

>>148
やりそうですよねー、あの連中。エンジェルパックより丈夫そうですし。
きっとその内ソウルジェムをBJ物質に漬け込んだりしますよ。

出るかなー、出せるとは思いますが、戦う慰霊碑さんには困ったものです。

>>149
ほむらちゃんは見事にやってくれましたが、最後の最後で逆転されてしまいました。

あの二人はそのために調整されており、かなりの共依存の状態です。
……え?原作もそうだったろって?

>>150
この時代になると、普通に切っても生体義肢とかやりそうですからねー。
案外さくさく切ってるのかもしれませんね。
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/10(木) 02:34:18.36 ID:0YOQKkYDO
投下お疲れ様!
二人は…二人は生き残れるんですかっ!?

MAGIC-R戦闘機と書いて、マジカル戦闘機と読む。

ソウルジェム(だけ)搭載機って…少女分が無いから最早魔法“少女”じゃないよね、魔法“ファイター(戦闘機)”だよね。
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(滋賀県) [sage]:2011/11/10(木) 02:43:16.15 ID:KhJif6szo
>>165
バイドジェム搭載型R戦闘機とかいかにもで素敵だな
ちょい役でも戦わなくてもいいのでできたら出てもらいたいでござる

しかしこれキャストとゲームの結末とかで色々考えてたら最後がすごくしっくりくるな
168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/10(木) 03:36:08.02 ID:UpMMTS7qo
アイレムならここでゲームオーバーか3つの選択肢でどうにかなるか・・・。
169 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/11/10(木) 23:17:18.96 ID:Nq6yVlQ/0
なんとか4話ができました。
なんか今日は微妙に重いですが、様子見しつつ投下していきましょう。
170 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/10(木) 23:20:09.46 ID:Nq6yVlQ/0
??「なかなか梃子摺りはしたが、どうやらそろそろ終わりのようだね」

ティー・パーティー内。
キリカの機体から送られてくるデータは、さやか、ほむらの機体が沈黙したことを示していた。
ソレを声高に話しながら、彼は自らの成果に満足していた。

QB「そうだね、もう終わりだろう。二人とも限界みたいだ」

キュゥべえの声は揺るがない。

??「おいおい、折角手塩にかけた魔法少女が今まさにつぶされようとしてるのに
   キミって奴は本当に薄情な奴なのだねぇ。ああ、そもそもキミに感情なんて存在していなかったのだったね」

QB「勘違いしないで欲しいな。終わりだと言ったのはあの二人のことじゃない。
   キミが用意した、あの二人のことさ」


織莉子の放ったレーザーは、明後日の方向へと飛んでいった。
動けない敵を相手に外すような距離ではない。遊んでいるのだろうか。

キリカ「……?織莉子、どうしたんだ、外すなんて君らしくもない」

織莉子「ぁ……ぁぁっ。っぐ、か、ぁぁあぁっ!!」

聞こえてきたのは痛々しい苦悶の声。

キリカ「織莉子、織莉子っ!?……一体何が、っ。うぁ……っぐがぁぁぁ!!」

続けてキリカも苦しげな声を上げる。もはや機体操作すらもままならないようだ。
171 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/10(木) 23:21:01.86 ID:Nq6yVlQ/0
??「何だこれは!?この反応は……一体どういうことだっ!!」

QB「当然の結果だよ。……ボクたちは、キミが魔法と呼ぶ技術の存在を知らなかったわけじゃない。
   もともと、ソウルジェムを媒体として精神エネルギーを消費し魔法を行使する。
   それが、魔法少女の本来の姿なのだからね」

??「なっ……では、なぜ最初からその技術を我々に示さなかった!
   我々には扱いきれないとでも思っていたのか、貴様はっ!!」

QB「それは違う。確かにキミ達ならば、魔法と呼ばれる超常の技術でさえ自分の物にしただろう。
   事実、その結果キミたちは本物の魔法少女を作り出すことに成功しただろう?
   でもね、ソレは不安定だったのさ」

??「どういう、ことだ」

QB「魔法を使えばそれだけソウルジェムに穢れが溜まる。
   そしてそれが限界を超えたとき、魔法少女は変貌を遂げるんだ。
   魔女、とボクらがかつて呼んでいた、魔法少女の本来の敵にね」

??「………そういうことか、だから貴……キミは、魔法を封印したソウルジェム技術を
   我々に提供した、と。そういうことか」

QB「その通りだ。魔法が使えない代わりに、魔女になることもない魔法少女。
   丁度、丈夫で消耗の少ないパイロットユニットを求めていた君たちには
   まさにうってつけの存在だっただろう?」

??「確かに、ソウルジェムは非常に有用だよ。エンジェルパックほど面倒な手入れが必要なわけでもないからね
   それで、あの二人は回収できるのかい?まだ彼女たちからは回収したいデータが山ほどあるんだがね」

QB「無理だろうね。もう間に合わないだろう。そもそも彼女があの状況を放っておくとは思えないよ」

??「……まったく、これでまた初めからやり直しか。あの二人はいい固体だったんだがな。
   サイバーリンクのテストベッドとしても、最高に近い出来だったんだぞ。まったく忌々しい」

忌々しい、と何度も未練がましく呟きながら通信は打ち切られた。
172 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/10(木) 23:23:33.12 ID:Nq6yVlQ/0
ほむら「どういうこと……でも、この機を逃す術はないわ」

二人の機体は完全に沈黙している。
仕留めるのは容易い。……はずだったのだが。

ほむら「フォースコンダクターに損傷……撃てるのはレールガンだけ?……何の冗談かしら、これは」

そして当然、そのレールガンも中身はペイント弾である。
どうやら先ほどの織莉子の攻撃は、機体に深刻な障害を及ぼしていたらしい。
となると残る頼みの綱はフォースシュートのみ。そのフォースはと言えば。

ほむら「……本当、悪い冗談ね」

暴走である。カロンの持つアンカー・フォースはバイド係数を極限まで高められている。
そしてその弊害とも言うべきものが、この暴走である。
フォースがコントロールを失って、好き勝手に暴れまわっているのである。

どうしたものかと途方に暮れる。
微動だにしない二人の機体を一瞥。最早脅威ではないだろう。
結局、また一人だけ生き残ってしまったのか。

ほむら「さやか……」

さやか「あたしを呼んだ、ほむら?」

所在無く呟いた声に応えたのは、すこし途切れ気味ではあるが
それは確かにさやかの声だった。

ほむら「えっ……さやか、無事、だったの?」

さやか「キャノピーに傷入って、おまけにちょっと気絶してただけ。
    生きてるよ、何そんな心配そうな声出してんのよ」

元気そうな声が聞こえて、本当にほむらは安堵した。
かなりの苦戦、納得のいかない幕切れではあったが、勝ったのだ。

さやか「それで、あの二人はどうしたの?ほむらがやっつけたの?」

ほむら「いいえ、むしろやられそうになったわ。でも突然二人とも苦しみだして、動かなくなった」

さやか「何よそれ、一体どういうこと」

ほむら「わからない。……でも、推測はできる。
    R戦闘機は、必ずしもパイロットのことを考えて作られているわけじゃない。
    むしろあいつらなら、パイロットの生存なんて度外視した機体を作っていても不思議はないわ」

さやか「あいつら……って、あのTEAM R-TYPEって奴だっけ?」

さやかはまだ、Rの名を背負うその腐れ外道共の所業を知らない。
わざわざ知ることもない。健全な精神を保ちたければ知らないほうがいい。
知ってしまったものは、誰しもが口を揃えてそう言う。
それが少しだけ、さやかは気に入らなかった。
173 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/10(木) 23:24:29.69 ID:Nq6yVlQ/0
さやか「じゃあ、あの二人はもう……死んだ?」

ほむら「……まだ、一応生きてはいるようだけど」

二人の機体を見れば、まるで苦しみ悶えているかの用に不規則に機体が揺れていた。

さやか「じゃあ、まだ生きてるんだ」

ほむら「仕留めようと思ったけど、私の機体もこのありさまよ」

さやか「……ああ、そう。そりゃよかったよ」

さやかの声は微妙に冷たい。
何を思ったか、さやかはフォルセティを二人の機体に近づけていく。

さやか「あんたら、大人しくしてなさいよ。今から機体を牽引するから
    キュゥべえなら、きっと何とかする方法も知ってるはずだよ。……多分」

ほむら「さやかっ!貴女……自分が何をしてるかわかっているの?
    その二人は、私たちを殺そうとした。敵なのよ」

さやか「何言ってんのさ、あたしの敵は……バイドだよ」

ほむら「さやかっ!貴女があの二人を哀れに思う気持ちも、助けたいと思う気持ちもわかる。
    でも、それは間違っているのよ。貴女自身を危険に晒すことにもなるわ」

さやか「そうやって、また拾える命を見捨てるんだ」

その言葉は言外に、マミのことを言っているのは火を見るよりも明らかで。
ぎり、とほむらは歯噛みする。一体いつまで言われ続けるのか、責められ続けるのか。
だがその恨み自体は間違いではない。責めるのは、そこじゃない。

ほむら「混同してはダメよ、さやか。あの二人はマミとは違う。
    例え今助けたところで、必ずまた貴女に牙を剥くわ」

さやか「……あたしさ、バカだから。そういう先の難しいことまでわかんないんだよ。
    目の前に拾える命があって、あたしはそれに手を伸ばせる。だったら伸ばさない理由なんてない。
    言ったでしょ。全部守って戦い抜く、って」

静止も聞かずに、さやかは牽引の準備を進めていく。
とはいえいかなフォルセティでも、二機を同時に牽引するのは困難で。

さやか「あたしのやってることも言ってることも、間違ってるかもしれない。
    でも、これだけは曲げたくないんだ。これを曲げたら、あたしの戦う意味がなくなっちゃう」

それでもどうにか、不恰好に二機を後ろに括りつけて。
フォルセティは動き出す。速度はなかなか上がらない。
174 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/10(木) 23:25:08.13 ID:Nq6yVlQ/0
さやか「ああ……くそ、やっぱり過積載かなー。全然スピード上がらないや。
    でも、お願いだから頑張ってよ。フォルセティ。今度こそ、あたしに誰かを助けさせてよ。
    ………ねぇ、お願いだよ」

願うよう囁く。たとえどれだけ願ったところで、機械仕掛けの心は動かない。
それでも、その言葉は人の心を揺らすことはできた。

ほむら「……さやか、貴女は本当に、バカね」

でも、それが羨ましくもあった。
その有様は、やはり強情で、愚かではあった。
それでもその姿は、まるでその機体が名乗る神のように気高いようにも思えてしまった。
そのひたむきさを、純粋さを守りたいと思った。
でもそれは、とても難しいということもわかっていた。

ほむら「機体自体は動く。ペイロードも一機分くらいなら余裕はある。
    ……偶には、お人好しにのってあげるわ」

勿論、そんな気持ちは素直に言えるわけもないけれど。


欠伸が出るほどのろのろと、宇宙を進むフォルセティ。
その前にカロンが割り込んで。

さやか「何?邪魔しないでよ。今急いでるんだ」

ほむら「急いでいるなら、せめてその大きな荷物の片方は落としていきなさい」

さやか「冗談でしょ、あたしは命の取捨選択なんてできないってば」

ほむら「……捨てろなんて言ってないわ。そいつを拾っていけば、魔法とかいう奴の正体もわかる。
    そう、利用できるかも知れないと思っただけよ」

さやか「へ?……あー、えっと。何言いたいのかわかんないんだけど」

ほむら「っぐぐ……」

前言撤回。やっぱりただの愚か者かもしれない。

ほむら「片方ぐらい、私が持つと言っているのよ。いいから早く下ろしなさい。
    ……急ぐのでしょう?」

さやか「あんた……へへ、じゃあこっち任せるよ。落とすんじゃないわよーっ」

そして、さやかが黒を、ほむらが白を背負って。二人並んで空を往く。
さやかは、なんだか少しだけほむらへのわだかまりが、憎しみが薄れていくような気がした。
……ちょっとだけ、心が軽くなった。

やはり年頃の女の子である。誰かを憎んで生き続けるのは、何かと辛かったのだろう。
175 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/10(木) 23:25:58.92 ID:Nq6yVlQ/0
やがて二人はティー・パーティーに戻る。
キュゥべえは、少しだけ意外な顔をしながらもキリカと織莉子を受け入れた。
二人を救う方法も、一応ないこともないらしい。

今度こそ救えたのだと、さやかは喜んだ。
ほむらも、今回は素直に喜んでもらおうと、それ以上何かを言うことはなかった。


QB「……ぎりぎりのところで、魔女化は防ぐことはできた。
   とは言えどうしたものかな、このまま素直に帰すというのも考え物だ」

キャノピーの開かれた二機の間に立って、静かに呟くキュゥべえ。
その開かれたキャノピーの中には、無数に蠢く機械や配線。そしてその中央。
僅かな握り拳ほどのスペースに。
直接回路に接続された、ソウルジェムだけが煌いていた。
176 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/10(木) 23:27:44.66 ID:Nq6yVlQ/0
新米指揮官 ――の航海日誌より

地球連合艦隊の少将であり、偉大な提督であるジェイド・ロスが太陽系内のバイドを駆逐し
バイド駆逐艦隊を率いて宇宙の彼方へ旅立ってより2年。
太陽系内では、バイドによる大規模な活動は今までほとんど確認されてこなかった。
人々は、若き司令官の奮戦ぶりを想像し、平和が訪れる予感を共感していた。

……しかし近頃、太陽系内、それも地球近隣でバイドの活動が報告されるケースが増えてきている。
これは何を意味しているのか、彼らはやはり、バイド中枢を討つことができなかったのだろうか。
だとすれば、バイドの攻勢はこれからますます強くなるのかもしれない。
私はそれを考えて……

 戦いを恐ろしいと感じた

 戦いを嬉しいと感じた

 バイドを倒せることを嬉しいと感じた

ニア英雄の身を案じた
 私は、誰も知らぬ異邦の地で戦っているのであろう英雄の身を案じた。
 どうか彼らが勝利することを、そしていつか、この星へと帰還することを願った。

 軍を辞めようかと思った


それはそれとして、私は太陽系内のバイドに対する対策を練らなければならない。
意識を思索に沈めようとしたその時。バイド出現を告げるアラームが鳴り響いた。

「うむっ、緊急連絡だ」


その報せは、地球圏の全ての部隊に伝えられた。
「エバー・グリーン内部に、大型バイドの反応が確認されました。
 さらにコロニー周囲に、大量のバイド反応が確認されています。
 地球圏周辺の全ての部隊は、直ちにこの鎮圧に当たってください」

人類とバイドの最終戦争、“ラストダンス”は、今まさにその幕を開けようとしていた。


魔法少女隊R-TYPEs 第4話『NO CHASER』 ―終―
177 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/10(木) 23:28:47.97 ID:Nq6yVlQ/0
【次回予告】

「じゃあ何?あたしら、とっくに死人だったってこと?」

少女はついに、一つの真実に辿りつく。
そしてそれは、もう一つの可能性を指し示す。


「何やってんのあいつ!あんなところでっ!!」

その可能性を噛み締める間もなく、新たな戦禍が地球を襲う。
出会ったのは、もう一人の少女。

「えっ……仁美っ!?」

「とにかく、作戦の内容を説明しますよ。よく聞いてくださいっ」

それと、彼女。 

「――食うかい?」

次回、魔法少女隊R-TYPEs 第5話
          『METALLIC DAWN』
178 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/10(木) 23:38:39.73 ID:Nq6yVlQ/0
全力でR戦闘機同士の戦闘を描いてみたら、まさかこんなに長くなるなんて。
この先どれだけ長くなるのか、ちょっと気が遠くなる思いです。
そしてついに名前が出てきました、提督です。彼もまたいつか登場……させられたらいいなぁ。

>>166
生き残りました。相手の自爆みたいな形でしたけどね。
そして魔法少女仕様の機体の形式番号に使われているMは、まさしくMAGIC
もしくはMAGICAだったりMAGIAだったり。語源はどれも一緒です。

中身は少女の魂ですから。おまけに本体はそっちですし。
きっと魔法少女って言えますよ!

>>167
どう見てもあの連中はやらかしそうですよね。
そういう機体も、いつか出せるのならば出してみたいものです。
精神汚染とかおもいっきりされてそうですが。

果たして誰がどのエンドに辿りつくのでしょうね。
夏の夕暮れを見るのは、誰なんでしょうか。

>>168
結局敵の自爆という形で決着です。
やはりどうも戦闘シーン周りになるとあのアイレム風のノリは出せませんね。
179 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/11(金) 00:18:59.58 ID:8EsyXzQO0
そいえば4話が終わったら機体紹介するって言ってたのに忘れてました。

さやかちゃんの機体
R-11M3 FORSETI フォルセティ
ソウルジェムプロジェクトに伴い、開発が再開されたR-11シリーズの後継機。
R-11シリーズは、R11-S2において旋回性能の向上という主目的を達成したが
頑丈で消耗の少ないパイロットユニットであるソウルジェムを入手したことにより
さらなる加速及び旋回性能の追及を目指して開発されたのがこの機体である。
エンジン出力の向上、補助旋回ブースターの増設により、一見いびつとも取れるフォルムへと変貌を遂げた。
その性能は、開発者をして「殺人的な加速だ!」と言わしめるほどのものである。

武装等はR-11S2のそれに準ずる。


織莉子さんの機体
OFM-4 SCULD スクルド
開発中の軌道戦闘機の試作機、OFX-4を次世代魔法少女仕様にカスタムを加えたもの。
美国織莉子が持つ予知能力を最大限活用するため、サイバーリンクシステムにより
僚機と常時互いに情報をフィードバックしあっている。
またこの機体自体の戦闘能力も決して低くはなく、彼女自身の高度な操縦技術も併せて
1対1の戦闘であればまず負けない、というレベルにまで達している。

武装等はOFX-4のそれに準ずる。


キリカの機体
R-9EM2 CLOCK DOWN クロックダウン
サイバーリンクシステムを運用するために、データリンク機能が強化された
R-9ER2を元に開発された次世代魔法少女仕様の機体。
またこの機体自体はベースが索敵機であり、機体性能はそう高くないが
彼女の魔法である時間遅延を使用することで、性能で上回る相手に対しても対等以上に戦うことが可能。
ただし自機から一定の範囲までしかその効果を及ぼすことができない。
この機体に搭載されている捕捉追尾波動砲と時間遅延の組み合わせは凶悪そのもの。

武装等はR-9ER2のそれに準ずる。
180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/11(金) 00:25:44.14 ID:Y2+kA/1r0
うーん、QBがTEAM R-TYPEに技術提供をする理由が大きななぞになっていますね。

魔女化しないなら、エネルギーを回収できないし。
バイドを滅ぼしたいなら、あの世界探せばバイドを滅ぼすことを願う少女はいくらでもいそうだし。
181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/11(金) 00:30:05.53 ID:Y2+kA/1r0
一言言い忘れていました。

やっぱりソウルジェムしか乗っていないのか……
182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(滋賀県) [sage]:2011/11/11(金) 00:36:11.76 ID:YEz9UKcNo
そういやこれほむらちゃんとまどかの間に特別な感情とかは無いんだな今思えば
まどか本編のように助けられたというわけでもないし約束を交わしたわけでもないし
また後で描写されるかも知れんけど
というかさやかがその内自分から自身のソウルジェムを実験の為に提供しだしそうだな
まどか本編みたいに自暴自棄になって

>>180
バイドを滅ぼせる程の因果を持った少女がまだ出てないんじゃないか?
普通に人間がバイドによって全滅でもしてしまえばQB達が折角見つけた牧場が無くなってしまうわけだし
183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/11(金) 00:46:30.80 ID:tP+wJcPDO
投下感謝です!
そうか、過去には魔女化あったんだもんな。願いと言うか能力を持てばこそ、魔女化もするって訳か。人が作った魔女は、QB達の魔女歪で汚なそうだな…。

>>180さんは、 ほむら「夏の夕暮れ」ってスレに投下されてる小ネタを後ろの方から良く見てみたら、ヒントがあるかもよ?
184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/11(金) 00:51:41.75 ID:tP+wJcPDO
↑済みません誤字りました。
魔女より歪で でした。
185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/11(金) 19:23:59.82 ID:BrONa8CFo
杏子はパイルバンカーであってほしい・・・
186 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/11/11(金) 21:33:25.12 ID:8EsyXzQO0
さて、いつもより大分早めですが今日の分の投下をしましょうか。
みなさんなんだか色々考えて居られるようで、そういう色んな考えが出てくるのは
作者として嬉しくもあり、うっかり先の展開が予想されててドキっとしたり
あ、やべっそこまで考えてなかった、とびっくりしたりします。

では、いきます。
187 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/11/11(金) 21:34:43.90 ID:8EsyXzQO0
茫洋たる大海原、その真っ只中を自由自在に駆け抜ける。
空はどこまでも澄んでいて、琥珀色の夕暮れに染まっていた。
その澄み切った空気の中、身体で風を切って進む。
照りつける太陽の光が、吹き抜ける風が心地よい。
眼下で波打つ水の煌きがとても美しい。

――見覚えのある場所

それは、とても幸せなことのはずなのに。
眼前に臨む幾つもの光、それはとても懐かしいはずの、光。

――見覚えのある仲間達

光が私の身体を焼いていく。
全てが、光の中に消えていく。

――だけど……なぜ?





???「――さん、鹿目さんっ!」
188 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/11(金) 21:35:14.20 ID:8EsyXzQO0
まどか「っ、はいっ!?」

見滝原、いつもの学校風景。授業中の一コマ。

早乙女「今は授業中ですよ。居眠りしてちゃいけませんっ」

まどか「あ……ご、ごめんなさい」

教室が笑いで揺れる。
それがとっても恥ずかしくて、まどかは机に顔を伏せてしまう。

仁美「ふふ、まどかさんが居眠りだなんて。珍しいこともあるものですわね。
   昨日は、夜更かしでもしていたんですの?」

まどか「あはは……そんなんじゃないよ、ちょっとうとうとしちゃっただけ」

気を取り直して授業は進む、けれどもまどかの心はどこか上の空だった。

まどか(なんだったんだろう、あの夢……なんだかすごく、悲しい夢だった)

色褪せた日常は、いつしかまどかの中で普通になっていた。
星の海の彼方で戦う二人のことを思い出し、思い悩むことも少しずつ少なくなっていた。
平和な日々。今日も明日も、それが続いていくのだと錯覚していた。
189 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/11(金) 21:36:15.84 ID:8EsyXzQO0
ティー・パーティー内。格納庫。
そこはあたかも太陽の日の差さぬ宇宙空間のように、冷ややかな空気に包まれていた。

さやか「どういうことよ、これ」

さやかの眼前には、先ほどまで死闘を繰り広げた二機の機体。
そのキャノピーは開かれていて、そこに見えたのは到底人が入れるとも思えない
それほどにびっしりと機械や配線が張り巡らされたコックピット。

ただその中心にぽっかりと、握り拳ほどの隙間がある、だけで。

さやか「どういうことなのよ、これは。あいつら、一体このどこに乗ってたって言うの?」

その表情は信じられないものを見るかのように凍りつき
その声は、驚愕に張り詰めていた。

ほむら「……ある程度予想はしていた、けれどこれは」

ほむらの声も、何処か痛みを堪えるように苦々しいもので。

QB「とうとう見てしまったんだね、君たちは」

さやか「キュゥべえ!これは……これは一体どういうことなのよ!
    あんな……あんなの人が乗るようなもんじゃないよっ」

途端にさやかがキュゥべえに食ってかかる。
ほむらもまた、問い詰めるような視線をキュゥべえに投げ掛けている。

ほむら「パイロットのパッケージ化。……そういう黒い噂は聞いていた。
    でもまさか、実在していたなんて……」

QB「確かに、パイロットをパッケージ化して容量を圧縮していた事例は確認されている。
   でも、これはそんなものとは違うんだ。……キミたちはもう知ってしまったからね
   話してあげるよ、ちょうどいい機会だ」

そうしてキュゥべえは話しだす。
魔法少女の真実。ソウルジェムが魔法少女の魂そのものであること。
それを直接機体に接続することで、操作性や耐久性の向上を図ったということ。
そして魔法少女は、魔法を使って戦うのが本来の姿であるが
魔法を使えばソウルジェムが穢れ、最終的には死に至ると言うこと。

魔女のことだけは巧みに伏せて、キュゥべえは一通りの真実を語った。
190 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/11(金) 21:36:53.45 ID:8EsyXzQO0
さやか「何よ……それ、それじゃああたしらの本体は、このソウルジェムって訳?
    じゃあ何?あたしらの身体は、とっくに死人だったってこと?」

QB「魂を持たない肉体を死体と呼ぶのなら、確かに魔法少女は既に死人なのかもしれない。
   でも考えてごらんよ、さやか。キミは生身の身体でバイドと戦い抜けると思うかい?
   あのフォルセティの機動に、生身の人間が耐えられると思うのかい?」

さやか「っ……それは」

少しでも考えれば分かっていたことだ。
フォルセティのあれだけの加速性と機動性。それによって掛かるパイロットへの負荷。
それに難なく耐え切っていたこと、魔法少女となったことが原因と考えなければ
とてもじゃないが信じられない。

さやか「でも、勝手にそんなことされて、納得できるわけないじゃない!」

QB「昔からずっとそうだ、事実をありのままに伝えるとキミたちは決まって同じ反応をする。
   訳が分からないよ。どうして人間はそんなに、魂の在処にこだわるんだい?」

さやかは何も言い返せない。ほむらもまた、黙って耳を傾ける。

QB「少なくとも、彼らが行っていた方法よりは随分と人道的だと思うよ。
   いくら魂を操る術がないからって、人の意思を司る器官だけをパッケージ化して
   そのまま機体と直結するなんて、いくらボクたちでもやらないようなことだ」

さやか「彼ら、って……そんなことまでしてたっての。TEAM R-TYPEは」

QB「噂くらいにはなっていると思ったけどね、四肢切断を行ったパイロットを
   機体に直結している、と。……でも、実際はそれどころではなかったようだね」

さやか「そんなの……狂ってる。間違ってるよ……」

ほむら「でも、そこまでしなければ人類はバイドに勝てなかった。
    ……非人道的な、許されざる所業だとは思う。だけど私は、それを責める気にはなれない。
    そもそも、責められたところで彼らが活動を改めるとは思わないけれど」

さやか「ほむら……本当に、本当にそうまでしないと勝てない相手なの、バイドは」

ほむら「………ええ、それだけの敵よ。バイドは」

そう語るほむらの脳裏には、かつてのバイドとの戦いが蘇る。
朽ち行く幻獣の身体の中で、重金属の回廊の中で、機械と生命が入り混じる研究所の中で。
そして、理解の範囲を超えた異次元の中で。彼女は常にバイドとの戦いを続けていた。
だからこそ、そう言えるのだ。
191 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/11(金) 21:37:27.59 ID:8EsyXzQO0
さやか「そんな敵に……勝てるのかな、あたしたち」

QB「勝てない敵ではないよ。事実人類は、今までに三度バイド中枢の破壊に成功している。
   だけど、その度に奴らは復活を遂げている。以前より更に力を増してね」

聞くところによると、第2次バイドミッションが一番の激戦であるという話も聞くが。
バイドを全体として見れば、復活の度にその勢力は増している。
そしてそれに対抗するために、人類の叡智も暴走を続けているのである。

さやか「じゃあ、本当にバイドを全部やっつけるのって、無理なのかな……」

改めて認識する、バイドという敵の強大さ。
まるで打ちのめされたかのように、さやかの声にも力がない。

QB「……認めない」

ほむら「……?キュゥべえ、今、何か……?」

聞こえた呟き、そしてほんの一瞬だけキュゥべえの顔が曇ったような気がして。
そんなところは見たことがなくて、怪訝そうな顔を浮かべたほむら。

QB「何でもないよ。確かにバイドは強大で、その殲滅は容易じゃない。
   それでもボクたちは戦い続けなければいけないんだ」

次の瞬間には、何時ものような感情の読めない表情で平然と言葉を継げていた。
その変化に、何か心に引っかかるものを感じながらもほむらは。

ほむら「そうしなければ、人類に未来はないのよ。バイドを本当の意味で根絶するために。
    彼らは、残虐非道と罵られようと、異端の研究を続けているのだと思うから」

QB(実際のところ、知的好奇心の暴走としか言えないような連中ばっかりなんだけどね)

さやか「………そっか。うん、まあ……そうだよね。たとえこの身体がもう死んでたって。
    それでも、あたしはバイドを倒す正義の魔法少女だ。それさえ変わらなければ、きっと、大丈夫」

胸中に渦巻く複雑な思い。
理不尽な状況に対して怒る気持ちはもちろんある。
けれども眼前で蠢くバイドという、悪意をもった理不尽の塊は。
そんなものを気にかけていられないほど、少なくとも今は忘れてしまえるほどに大きかった。
192 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/11(金) 21:38:40.43 ID:8EsyXzQO0
さやか「それで、結局あの二人はどうなったわけ?助かったんでしょ?
    そこにソウルジェムがないってことは、どこかに保管してあるとか?」

QB「ああ、あの二人なら勝手に暴走して死なれても困るからね、とりあえず隔離してあるよ。
   魔法も一応封印しておいたから、別に心配はいらないと思うけどね」

さやか「魔法、かぁ。……そんなとんでもない力があったら、バイドだって一気にやっつけられるのかな」

思い描くのは戦闘の最中、二機が見せた超常の力。
負けてしまったことが悔しくて、バイドの強大さが恨めしくて。
もっと力があればいいのに、そんな魔法が使えたらいいのに、と思ってしまっている自分をさやかは感じていた。

QB「お勧めはできないな。魔女のいない今の時代、たとえ魔法が使えたとして
   あっという間にソウルジェムが穢れきって死んでしまう。それに、たとえ魔法があったとしても
   それでバイドを殲滅することができるかといえば、それも難しい」

さやか「なんでよ……魔法ってのは何でもできちゃうから魔法なんじゃないの?」

QB「魔法、という言葉を使ってはいるけどね、結局これはボクたちが生み出した技術なんだ。
   生物の精神エネルギーを変換して、物理法則に因らない力を作り出す技術。
   だから、それ以上の技術に対しては十分な効果を発揮することができない」

ぴくり、とキュゥべえの耳が揺れて、その瞳がす、っと細められ。

QB「一体、どれほどの技術が詰め込まれているのだろうね。バイドには。
   もっとも、そんな道理を捻じ曲げてしまうほど、膨大な魔力の持ち主ならば話は別なんだろうけどね。
   今のところ、それほどの魔力を持った魔法少女は見つけられていない。残念だけど」

結局、改めてバイドの強大さを知らされることとなり、誰もが言葉も告げないままで。

さやか「……納得できないし、色々と許せないことはあるけどさ。
    今は、飲み込んでおく。バイドを全部きれいさっぱり片付けてから、きっちり問い詰めてあげるからね。
    覚悟しときなさいよ、キュゥべえ」

語調は明るく、ちょっとおどけてさやかが言う。
無理しているであろうことは容易にわかる。それでもその明るさは
不安が立ち込める船内の雰囲気を、少しでも晴らしてくれたのだろう。

さやか「じゃあさ、あたしちょっと部屋戻ってるよ。なんか疲れたし。
    機体も傷つけちゃったし、こりゃ修理が必要かなー」
193 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/11(金) 21:40:32.46 ID:8EsyXzQO0
呟きながら、格納庫を後にするさやか。
残されたほむらは、今はもう表情の読めないキュゥべえに問いかける。

ほむら「一つだけ、いいかしら」

QB「なんだい、ほむら?」

ほむら「R戦闘機にはソウルジェムだけが乗っていた。その間、私たちの肉体はどうなっているの?
    私たちの肉体は、ソウルジェムから少し離れただけでも死体に戻ってしまうのでしょう」

QB「ああ、そのことか。勿論その間身体はちゃんと保存してある。一種のコールドスリープって奴かな。
   大丈夫、心配することはないさ。百回繰り返しても人体への影響が出ないのは確認済みだよ」

それはつまり、そういうことをされた被験体がいたということで。
相変わらず、彼らの抱える闇の深さにまず辟易、そして。

ほむら「なら、巴マミの肉体は」

QB「保存はしてある。なかなか陸に降りる機会がなかったからね。
   埋葬をする暇もない。仮死状態のまま、身体だけは綺麗に保たれているよ」

ほむら「そう……わかったわ」

目を伏せ、僅かに沈思。
すぐにそんな思索を打ち切って、ほむらも続けて格納庫を後にした。


QB「たとえどんな手を使っても、どれだけの犠牲を払っても、バイドは倒さなくちゃいけないんだ。
   この宇宙のためにも、ボクたちが使命を達成するためにも、ね」

扉に背を向けたまま呟いて、その姿が掻き消えた。

194 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/11(金) 21:49:51.27 ID:8EsyXzQO0
さて、第5話の幕開け、説明回パート2です。
全部まるっと設定を弄っているから、どうしても説明が多くなりますね。
皆さん退屈してらっしゃらないでしょうか。

>>180
QBさんにはQBさんなりの目的があるようです。
多分まどかサイドのキャラで一番設定を弄っていないのはQBさんだと思います。
他のキャラは下手すると誰コレレベルになってんじゃないかと戦々恐々です。
ほむらちゃんの場合はある程度仕方ないと割り切ってはいますが。

そして魔法少女は全員ソウルジェムだけ機体に接続されていました。
あんな頑丈で手入れの要らないエンジェルパックがあったら、そりゃ活用しますよね。

>>182
今のところまどかさんが完全に空気なのが悩みの種です。
後2話くらいはこのまま空気で過ごしてもらう予定ですし。
そしてさやかちゃんは今現在バイド憎しと揺れ動く正義感で突き動いています。
割と不安定ではありますが、バイドが絶対悪なのであんまり揺らがないかもしれません。
魔女化もしませんしね。

>>183
この辺も割と独自解釈ですが、R戦闘機に乗った魔女、なんていう性質の悪い代物
絶対に相手にしたくはありません。QBさんもそういう不確定要素は取り除きたかったのでしょう。
今必要とされているのは、安定して扱える兵器でしょうから。
そしてTEAM R-TYPEはきっと懲りずに頑張るんじゃないかと思います。
人工グリーフシードまで作れたら永久機関の完成なのですが……。

>>185
あんなイロモノ機体、一体誰が使うって言うんですか。
またまたご冗談を、HAHAHA。
195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/11(金) 22:07:36.69 ID:BrONa8CFo
キュウべぇってもしかして母星をバイドにやらr(地球連合軍に検閲・削除されました
196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/11(金) 22:17:04.51 ID:MQvfW52Oo
これfinalCが綺麗に決まりそうだ。
魔女化したR戦闘機が…ねぇ
197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(滋賀県) [sage]:2011/11/11(金) 22:44:31.14 ID:YEz9UKcNo
登場フラグが立ってるから言うだけ言うけどあんこちゃんは暗黒の森の番犬だと思ってました
あんこちゃんだけに
198 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/11(金) 23:03:46.98 ID:tP+wJcPDO
お疲れ様です〜。退屈?そんな訳無いに決まってるじゃないですか!

ベェさんからしてみりゃ、折角エントロ調整してた所に、宇宙ごと侵食・変質させるとんでもない宇宙の破壊者が現れた訳なんだよな。規模が違うけど、鳴滝さんとは良い友達になれそうだ。
199 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/12(土) 00:55:25.07 ID:ff+OtR2v0
なんか本格的に書くテンションじゃないけど、何か軽く書いてみたくなりました。

幕間劇【補習】

魔法少女として、R戦闘機に乗る訓練を行うさやかちゃん。
今日はどうやらシミュレータでの模擬戦闘。
イメージファイトという筐体……じゃなくって、シミュレータでの訓練中。

さやか「よっしゃー!今日はなんだか調子いいよーっ!!
    行けるんじゃない、今日こそ今日こそ、最後まで行っちゃうんじゃない!?」

QB「すごいや、さやか。この分だとレベル5もクリアしちゃうんじゃないかな」

さやか「へへん、やっぱりあたしって才能あるかもーっ!っとと、危ない危ない。
    さあさあ、このまま一気に行くよダイダロスーっ!」


―間―
しばらくさやかちゃんが頑張っているところを各自ご想像ください。

さやか「よっしゃー!!レベル5クリアっ!」

QB「目覚しい成長振りだよ、さやか。……おや、でもこれは」

    DATA

LEVEL1....87%
LEVEL2....91%
LEVEL3....75%
LEVEL4....74%
LEVEL5....91%

 AVARAGE  84%
  BORDER  90%
          −6%

さやか「へ、なにこの画面?え、今ので終わったんじゃないの?」

QB「……さやか、非常に残念なことを報せるよ」

さやか「な、なにさ……キュゥべえ」

QB「補習だ」

  PENALTY   MODE

さやか「補習ってなに!?え、ちょっと、何これ!?え、そ、装備はーっ!?!」


二週目じゃなくてよかったね、がんばれ、さやかちゃん!



その頃ほむらは。


     WARNING!!
A HUGE BATTLE SHIP
    GREAT THING
IS APPROACHING FAST

ほむら(なんでこんな旧時代の電子玩具が……でも楽しい)


しょうもない上にどえらく古いネタでごめんなさい。
こんなしょうもないものばっかりではありませんが、ちょっと気が向いたときに
さくっと幕間みたいなものも書いてみたいなと思ってます。
まだ余り話が進んでいない状況ではありますが、もしこんな話が見てみたいとかあれば
是非教えてください、やるきが出たら書くかもしれません。
200 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/12(土) 01:09:09.55 ID:ff+OtR2v0
>>195
とにかく拷問だ、拷問にかけろ!

>>196
私は欲張りなので、全ルートをやれたらなぁとぼんやり考えています。
魔女化したR戦闘機、ミサイルとか波動砲でも撃ってくるんでしょうかね。
そんなのと戦わされたら魔法少女も形無しな気がします。

>>197
その発想はなかった!
でも面白そうですね。多分一話で杏子ちゃん退場することになりそうですけど。

>>198
楽しんでいただければ幸いです。

うっかりバイドを使ってエントロピー問題を解決だー、とか言い出しかねませんが。
あ、それはTEAM R-TYPEか。
おのれバイドー、全部お前のせいだー(何も間違ってはいない
201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/12(土) 07:07:52.35 ID:mymkDLBDO
普段キボウに満ち溢れてますし、たまにのんびりとした間幕は良い箸休めになりますな〜。何よりほむらちゃんが楽しそうだし。

見てみたい話か…>>1さんが好きなSTGを世界観クロスした世界のお話しとかどうでしょうか?
202 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/11/12(土) 23:53:25.89 ID:ff+OtR2v0
今日はちょっと筆が滞りました。
なんだか今回もかなりさやかちゃんに助けられたような気がします。

では、投下行きましょうか。
203 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/12(土) 23:54:04.30 ID:ff+OtR2v0
小さく音を立てて、部屋の扉が開く。
灯りのない部屋の中、小さく煌く小さな光。
琥珀色の輝きを放つ、マミのソウルジェム。
灯りをつけるのも忘れて、真っ直ぐにその灯りに手を伸ばして、さやかは。

さやか「本当に、これがマミさんの魂だって言うの……?
    信じられない。だけど……これがマミさんだって言うなら……あたしは」

そのままベッドに横になり、掌の中の輝きをじっと見つめている。
そこへ鳴り響くブザー音。

ほむら「私よ、入ってもいいかしら」

さやか「っていうか、鳴らして入ってくるのなんてあんたくらいしかいないでしょ。
    ……ほら、開けたよ」

枕元のパネルを弄って、扉を開けて灯りもつける。
部屋が明るくなったと同時に、ほむらが中へと入ってきて。

ほむら「お邪魔するわ」

さやか「珍しいね、あんたがあたしの部屋に来るなんてさ」

ほむら「……話しておきたいことがあったから」

さやか「そっか。……実はさ、あたしもあんたに話したい事があったんだ」

ほむら「そう。じゃあ、貴女から先に」

さやか「いやいや、ここはあんたから先に……ってやってたら、話は進まないか。
    んじゃ、あたしから先に話すよ。実はさ……」

言葉を切り出そうとした、その時に。
鳴り響くアラーム。そして続けて響く声、それは。
204 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/12(土) 23:54:49.97 ID:ff+OtR2v0
「エバー・グリーン内部に、大型バイドの反応が確認されました。
 さらにコロニー周囲に、大量のバイド反応が確認されています。
 地球圏周辺の全ての部隊は、直ちにこの鎮圧に当たってください」

ほむら「っ!?エバー・グリーンから、バイドが……そんな」

さやか「エバー・グリーンって……地球に墜落したあれだよね。
    そんなところからバイドが……これ、どう見たって一大事でしょうがっ!!」

ほむら「どうやら、話をしていられる状況ではないようね」

さやか「うん、とにかく一回、キュゥべえに事情を聞いてみよう。話の続きは……後で」
205 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/12(土) 23:56:08.85 ID:ff+OtR2v0
QB「エバー・グリーン……まさか、まだあそこにバイドが根付いていただなんてね。
   しかしこの位置はまずいな。こんなところからバイドが湧き出たら……」

さやか「キュゥべえっ!!」

QB「きたね、さやか。それにほむらも。見ての通りだよ。かつてバイドの手によって
   地球に墜落したコロニー、エバー・グリーンから再びバイドが現れた」

ほむら「おかしな話ね、あのコロニーは事故以来、ずっと軍の管理下に置かれていたはずなのに」

QB「そうだね、確かにこんなこと普通じゃ考えられない。
   でも今は、そんなことを考えている場合じゃないようだ」

さやか「そうだよ、地球にそんなやばいバイドが現れたってなら、あたしらだってすぐにでも駆けつけないとさ!」

QB「軍があれほど急な緊急通信を送るんだ。状況はかなりよくないんだろうね。
   きっとかなり大規模な作戦になる。ボクたち程度の部隊が参加したところで、どうなるとも思えないけどな」

ほむら「……私も、あまり大規模な部隊での行動は慣れてないわ」

というよりも、ほむらの心配は自分の素性が誰かに知れることだったのではあるが。
実際、団体行動が向かないというのも事実だった。単機突攻による敵中枢の撃破。
それこそが彼女の本来の戦い方だったから。

QB「それに、作戦に参加しようにも動かせる機体がない。
   カロンは武器系統がやられているし、フォルセティも万全とは言いがたい」

さやか「っ……それは。で、でもっ!あの二人の乗ってた奴があるじゃん!
    あれに乗れば、行けるんじゃないの?」

QB「正気かいさやか?あれにはどんな改造がされているかボクにだってわからないだよ。
   そもそもあの二人以外に動かせるのかすら定かじゃない。命を粗末にするつもりがないなら
   やめておくべきだよ。ボクもみすみす魔法少女を失いたくはない」

さやか「そんな……じゃあどうしろってのさ!黙って見てろってわけ?出来るわけないでしょ!」

さやかは訴える。声を限りに、これだけは譲れない、と。
地球には守りたいものがある、守りたい人がいる。それを壊そうとする敵と
戦うことが出来ないなんて、そんな事があっていいはずがない。
206 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/12(土) 23:56:47.78 ID:ff+OtR2v0
さやか「……フォルセティで出るよ。キャノピーにちょっと損傷があるだけ、大したダメージはないはずだよ」

ほむら「さやかっ!まずは落ち着いて。そんな浮き足立った状態で出ても何にもならない。
    それに、フォルセティはこれ以上戦闘を続けられるような状態じゃない
    自分の機体の状態くらい、わかっているはずでしょう」

さやか「っ。わかってる、わかってるけど……でも、だからってどうしたらいいのよ!」

QB「今できることといえば、速やかにどこかのドックに寄港して機体を修理するしかない。
   その後で、できる限り速やかに地球に向かう。ボクに考えうる最善の方法だよ、これは」

さやか「そんなの……そんなの認められない。何か方法があるはずだよ、何か……何か」

――どうやら、お困りのようだな――

それは突然、船の回線に割り込んでやってきた、声。

さやか「っ!?今の……何?」

QB「キミは……まだ居たのかい?」

その声は、先ほどの戦闘の最中キュゥべえと話していた男の声で。
キュゥべえがその声に応じると同時に、モニターには再びあの猫のようなキャラクターが浮かび上がった。

??「何、二人の反応がまだ消えていなかったのでね、しばらくそちらの様子を伺っていた。
   すると、なにやら面白そうな話が出てきたじゃあないか。なあ、そこのお嬢さん?」

さやか「あ、あたしっ?」

声をかけられ驚いたようにさやかが答える。
ほむらと言えば、その画面には目を合わせないように、部屋の隅からキュゥべえに恨みがましい視線を送っていた。
207 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/12(土) 23:57:23.54 ID:ff+OtR2v0
??「そうだ、聞くところによると……キミは、戦える機体が欲しいそうだね?」

さやか「それは、欲しいけど……まさか、そっちにあるの、あたしに動かせる機体」

途端にさやかの顔が張り詰め、今にもモニターに食って掛かっていきそうで。

??「もちろんだとも。我々の方で使えなかった試験機が、まだ残っているよ。
   キミがその試験運用もかねて地球へ向かってくれるというのなら……」

QB「彼女はボクの管轄だ。あまり、勝手な口出しはして欲しくないものだね」

彼の言葉を遮って、キュゥべえが告げる。

??「ではどうするというのだね?他に方法なんてないはずだ。
   ……選ぶのはキミだよぉ、美樹さやか」

その声は酷く楽しんでいるようで、あたかも笑っているかのようにさえ聞こえる。
相変わらず、テンションは高い

さやか「何で、あたしの名前……」

??「魔法少女を扱う私が、そのパーソナルデータを知らないはずがないだろう?
   さあ、決断したまえ美樹さやか。我らと手を取り戦うか
   それとも、その奇怪な生き物に踊らされて指をくわえてみているか……」

ほむら「………っ」

見ていられない。とほむらは歯噛みする。
このままならばさやかは間違いなくその手を取るだろう。
その先には、あの二人に訪れたような破滅があるであろうことは想像できる。
せっかくできた……そう、仲間と呼べるような相手をそんなことに巻き込ませるわけには、いかなかった。

ほむら「だめよさやかっ!……お願いだから落ち着いて。お願いだから……今は待って、さやか」

モニターを前に、悩むさやかのその手を取って。
泣きそうにも見えるような表情で、さやかに訴えかける。
208 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/12(土) 23:58:00.23 ID:ff+OtR2v0
??「キミは誰だね?今私は彼女と話をしているんだよ。邪魔はしないでもらいたいな」

ほむら「黙りなさいっ!……お前達のやろうとしていることなんてわかってる。
    さやかを、そんなことに巻き込ませるわけにはいかないのよ!」

??「わかっている、だと?……笑わせる。キミに我々の何がわかるというのだ」

不意に、彼の口調が低くなる。

??「我々はバイドを倒し、人類を救うためにこうしているのだよ?
   それをそこまで悪し様に言うキミは、一体人類のために何ができているのだね。
   人類の存亡と、ちょっとした犠牲。天秤にかけるまでもないことじゃないか!?」

ほむら「戦った。……戦って、戦って戦って戦い抜いた!」

投げかけられる辛辣な言葉に、ほむらの思考は赤熱する。
その言葉が自分の身を危うくするとわかっていても、止められなかった。
あの壮絶な戦いが。全てを背負って一人戦いぬいた日々が。
それを背負っているからこそ、ほむらは怒り、言葉を止めることが出来なかった。

ほむら「お前達のせいでふざけた身体にされて!最悪の戦地へ送り込まれて!
    一人で……一人で戦って。戦い抜いて……生き延びて……っ!!」

その剣幕に圧されたように、一瞬彼は押し黙り、それから。

??「……面白いことを言う。キミは、一体何者だ?」

ほむら「っ!?」

その、やけに落ち着いた彼の声に、ほむらは我に返って。
そうしてすぐに、事態の拙さに気がついた。

QB「彼女は暁美ほむら。……ボクが見つけた魔法少女だ。彼女は珍しい経歴を持っていてね。
   魔法少女になる以前にから、R戦闘機での実践経験があるようだ」

助け舟を出すキュゥべえ。相変わらずの無表情が、このときばかりは頼もしく見えた。

??「なるほど、暁美ほむら……こちらのデータにはないな。ふむ……。
   ああ、話が逸れた。それで美樹さやか、キミの答えを聞いていなかったね」
209 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/12(土) 23:59:19.19 ID:ff+OtR2v0
ほむら「駄目よ……お願いさやか、行っちゃ駄目!」

さやか「ほむら。……あはは、なんか、ほむらにそこまで心配されるとさ、ちょっと変な感じ。
    でも、なんだかんだでほむらは……ずっとあたしの身を案じてくれてたんだよね」

振り向いて、引き止めるほむらのその手を掴んで握る。
少し照れくさそうに、どこか嬉しそうに笑ってさやかは話す。

さやか「さっき言おうとしてたこと。本当はさ、あたし、ほむらに謝ろうと思ってたんだ。
    いっぱい酷いこと言ったし、ずっとほむらのこと、責めてたし、避けてた」

ほむら「さやか……何を、言ってるの?」

さやか「マミさんのことはやっぱり引っかかってたけど、さっきの言葉聞いたらさ
    なんか、わかっちゃったんだ。あそこで戦えなかった気持ちとか。
    だからそのことも全部ひっくるめて、一回しっかりしっかり謝りたかったんだ」

困惑の表情を浮かべて目を瞬かせるほむらに
あくまで笑顔は崩さぬまま、明るい調子でさやかは続ける。

さやか「ごめんね、ほむら。今までありがとう。それと頼りない魔法少女で、ごめん。
    ……あたし、行ってくるよ」

ぎゅ、っとほむらの手を強く握って。それから離す。
その手に残った温もりを少しだけ噛み締めて、さやかは再びモニターに向かい合う。

ほむら「どうして……そんなこと、言うの。こんな時にっ!
    まるで、まるで最後の言葉みたいじゃない。……いや、嫌だよ、さやかぁっ!」

その背に縋ることも出来ずに、その場に崩れ落ちるほむら。
可愛いところもあるじゃん、なんて内心で小さく呟いてから、さやかは。

さやか「あたしは行くよ。地球に。あそこにはお父さんやお母さんが
    そして、まどかや仁美もいるんだ。助けに行かなきゃ」

??「……では、我々の元に来る、ということでいいのかね」

きっ、とさやかの目元が鋭く引き締められて。

さやか「えぇえぇ!こうなりゃもう地球だろうと地獄だろうと、どこでも行ってやろうじゃないの!
    だからあんたは、さっさと最高の機体を用意して、このさやかちゃんを待ってなさいよっ!!」

軽く首を傾けて、とびきりの笑顔を貼り付けて。
声を張り上げ向かい合う。きっと、一番格好いい自分をやれてるはずだ。
満足げに決意を決めて、さやかはモニターに指を突きつけていた。
210 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/13(日) 00:04:04.06 ID:EuAbih2j0
本日はここまでです、気がついたらさやほむになってました。
もともとがRなもんで、そういうキャラ同士の関係は書きながら考えてたんですよね。
その結果がさやほむです、そりゃ他に誰もいなかったらそうなりますよね。

……そろそろキャラ増やさないとまずいかな。
でも正直一番書きやすくて書いてて楽しいのはさやかちゃんです。
今のところマジさやかちゃん主人公。

>>201
先ほどの幕間はあまりにネタが古すぎてアレでしたが
キボウ分をある程度希釈できる程度にはちょくちょく挟んでいけたらな、と思います。

そんでもってSTGとのクロスですか……機体を出す、というのならともかく。
余りSTG自体設定がきっちりとしているものが少ないのですよね。
間違いなくR-TYPEはトップクラスの設定の量だと思いますし。
まあうっかり間違えてシルバーホークとかビッグバイパーで出撃
なんてネタくらいはあるかもしれませんが。
211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/13(日) 00:13:29.78 ID:EZlBqbuCo

カプじゃなくあくまで戦友って感じのさやほむの関係が好き

設定に救いがないSTGっていうとレイディアントシルバーガンとか
212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/11/13(日) 00:15:05.81 ID:lhu9O1Kdo
さやかに濃厚な死亡フラグが立ったな・・・。
213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(滋賀県) [sage]:2011/11/13(日) 00:17:46.54 ID:4gZvnbMxo
寧ろ生存フラグだろ
戦い終わったら海鳥たちが優しく迎えてくれるさ
214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/13(日) 00:19:15.22 ID:vm/9osDB0
ほむらは整形とかしているんでしょうか?
TEAM R-TYPEに写真ぐらい残っていそうなものですが……
215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/13(日) 00:40:28.98 ID:UvEPiILDO
投下感謝っ!
次の相手はエバー・グリーンか。さやほむの関係が改善されたのは良いが、さやかはキチガイ集団側へ…ううむ。

>>211
フィロソマもありますぜ?
216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/13(日) 00:41:42.81 ID:vm/9osDB0
さやかの出撃機体って、やたら頑丈なR-9Aとかじゃないよな……
217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/13(日) 13:27:40.95 ID:nfHu5MI/0
>>211
むしろハッピーエンドの方が珍しいのがSTGだ
218 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/11/14(月) 01:54:42.57 ID:jpBxehfn0
なんとか書きあがりました。
ちょっと今日は難産気味でしたね。
219 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/14(月) 01:55:42.90 ID:jpBxehfn0
小さなシャトルに乗り込み、さやかは一人宙を往く。
自動操縦で動くシャトルなものだから、することなんて何もない。
指定された座標に到達するまでの60分、何かを考えるには十分すぎるくらいの時間があった。

さやか「思いっきり啖呵切ったはいいものの、あたし一体どうなっちゃうんだろうね」

頭の中に浮ぶのは、TEAM R-TYPEにまつわる無数の黒い噂。
そして、キリカと織莉子の姿。苦しむように機体を震わせ、声もなくしたその姿。

さやか「ああ……まいったなぁ。こんなんじゃ格好つかないってのに。
    でも、怖いな。……怖いよ、やっぱり。戦うのも、自分が自分じゃなくなるのも」

誰もいない、誰も聞いてなんていない。だからこそ言える。
バイドへの憎悪と、宇宙の平和を守る、という大義名分。それに寄るところの大きい正義感。
それに突き動かされるように、さやかは戦い抜いてきた。
けれど、そこで気付く。それだけではなかった、と。
常に憎まれ役を演じてきたほむらの存在。そのほむらへの敵愾心と対抗心。
それもまた、さやかを突き動かしていた。そしてそれが、なくなってしまった。

その心の穴に、すっぽりと納まったのが……恐怖。
戦うことへの、死ぬことへの、そして非情な実験によって自分が自分でなくなることへの恐怖。
それがゆっくりと身体に染み渡っていくにつれ、指先や足先から身体が冷えていくような気がして。
まるで凍えたように、さやかは自分の身体を抱きしめた。

さやか「はは……っ、おかしいな。あんなに、大見得切って出てきたはずなのに……。
    怖いよ。怖いよぉ………まどか、仁美。……ほむらぁ」

座席に深く背を預けて、その眼からぽろぽろと涙を零しながら。
それでも、ほむらの名前を出していたことに驚き、そして小さく笑う。
自分でも気付かないうちに、随分とほむらのことを頼りにしていたらしい。
ほむらに対する敵愾心は消えた。けれど今度は、生来の負けん気が顔を出してきた。

さやか「あはは……ほむら。ほむら……か。あいつはどんな気持ちで戦ってたんだろう。
    あたしよりもずっと長く、多分マミさんよりも長く戦ってきたんだよね」

もう一度会いたい、と思った。そして、今度こそしっかり話がしたい。

さやか「だったら、さ。ちゃんと無事に帰って、聞いてやらなくちゃ。
    バイドなんてやっつけて、またティー・パーティーに戻って。聞いてやろう。
    どうして戦ってるんだ、って。教えてもらおう」

深く吸い込んだ息を、ゆっくりと吐き出した。
身体の震えはまだ止まらない。零れる涙も止められない。
それでも、心は折れなかった。その身に降りかかる脅威とその恐怖に
まだ、負けてはいない。

さやか「ここまで来たんだ、躊躇うことなんて何もない。
    バイドを倒して、あの船に帰ろう。――さあ、行くとしますかっ!」

胃袋の奥から湧き上がってくるような恐怖を、威勢と虚勢で飲み込んで。
臨むは蒼き母の星、其処には在る。家族が、友が、故郷が。
胸に抱えた正義と怒り、ほんのちょっとの見得も加えて、それを心の芯として。
少女は立ち向かう。深淵たる闇の、その城門へと。
220 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/14(月) 01:57:13.11 ID:jpBxehfn0
QB「困るな、ほむら。余り正体がばれるようなことはして欲しくないな」

再びティー・パーティー内。さやかの見送りを終えて、キュゥべえとほむらが並び立つ。
ほむらは未だ、立ち直れてはいないようで。

ほむら「じゃあ、あのままさやかを見捨てていればよかったって言うの。
    それじゃまた同じでしょう。マミの時と同じ……私はもう、いやなのよ」

QB「随分と、キミはそのことを気にかけているようだね。だけどキミは、マミ以上の働きをしてくれている。
   損失を気にしているというのなら、キミの働きは十分にそれを補っているよ」

ほむら「っ!……お前は、どうして。そういう考え方しかできないの。さやかは……仲間なのよ」

QB「仲間を失ったら、キミは憎しみを感じるのかい?それは仲間を奪った相手に対してかい。
   ……それとも、それは自分自身になのかな」

興味深い、とでも言うようにキュゥべえが尋ねる。
その姿がまた腹立たしくて、ぎり、と小さく歯噛みして。

ほむら「お前には、絶対に理解できない。理解なんて……してほしくない」

言い捨てて、部屋を後にする。その背中を目線だけで追ってから
溜息を一つ、小さく漏らして。

QB「憎しみ、憎悪、怨恨。ところによればオディオ、なんて言葉でも表される。
   人が持つその感情は、バイドに通用しうる強力な武器だ。……そしてその感情は、もしかしたら」

一人呟いて、小さな煌きとともにその姿が掻き消えた。
221 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/14(月) 01:57:40.42 ID:jpBxehfn0
さやかは現在、R戦闘機のコクピットである、ラウンドキャノピーを模した装置の中にいる。
これ自体はティー・パーティーにも設置されていた。もっともその頃さやかは
それに乗り込んでから、このパイロットブロックをR戦闘機に装着するのだろうと考えていた。
事実、そう錯覚させるのがこのラウンドキャノピーを模した生命維持装置の実態なのだった。


指定座標に到着したさやかを待っていたのは、ティー・パーティーとほぼ規模の変わらない
しかし、宇宙の闇に溶けるような、黒い彩色を施された輸送艦だった。
其処はまさしく軍艦というべきところで、中にいたのは皆軍人。
その誰もが、さやかに哀れむような視線を送っていた。それがどうにも居た堪れなくて。

そして、そこで初めてさやかは自分が軍という組織に属していることを知る。
その名前に課せられた、軍曹という役割と共に。
どこかのライトノベルの主人公も、そういえば軍曹だったっけ。なんて考えていたりもした。

“彼”は結局、直接さやかの前に姿を見せることもなく、相変わらずの猫のマスコットから説明をうけ。
そしてついに彼女は、新たな翼の前に立つ。


??「その機体は、新型ビットの運用試験のために設計された機体だ。
   あの二人はあの機体以外では運用できなくて持て余していたのでね。キミに乗ってもらおう」

そして取り外されたソウルジェムが、その機体のコクピットに納まった。
すぐさま、サイバーコネクトがソウルジェムと機体を繋ぎ、その擬似神経に命を捧ぐ。
そして、新たなR戦闘機がさやかの身体となった。

??「具合はどうかね、美樹さやか」

さやか「……悪くない、具合もそこまで今までのとは変わらないみたい。
    これなら、すぐにでも飛べるよ」

??「頼もしい限りだ、ではすぐにでも地球へ飛んでもらおう。操作は途中で慣らすといい」

さやか「随分あっさりだね。……まあ、そういうことならさっさと行かせてもらうよ」

??「ただ一つ。今回エバー・グリーン内部に現れたバイドは非常に興味深い。
   出来れば中に入ってデータを持ってきて欲しい。バイドを倒すのなら、ついでにこなせる仕事だ。
   その機体ならば、間違いなくやり遂げられるはずだ」

さやか「そりゃ本当に頼もしいな。それで、この子の名前は?」

??「R-9Leo、レオと呼ぶといい」

さやか「わかった。じゃあレオ、行くよ」

そして、その黒い船から一機のR戦闘機が飛び出した。
進路は地球。目指すは太平洋、インドネシア近海に墜落したコロニー、エバー・グリーン。
新たな翼をその身に纏い、さやかが、レオが往く。
222 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/14(月) 01:58:08.29 ID:jpBxehfn0
エバー・グリーンを遠巻きに囲むように、何隻もの戦艦が浮んでいる。
その周りを取り囲む、無数のR戦闘機。正式採用されたR-9Wの他にも、いくつかの機種が見られている。
その包囲網の少し後ろに、一つ小さな輸送艦。そのブリッジで、まだ歳若い男が座っていた。

??「さて、状況はどうなっているかな」

その男の言葉に、モニターを見つめていた女性が顔を上げ。

女性「はい、提督っ。敵バイド群の攻勢は地球連合軍の反撃により停滞。
   しかしコロニー内部より散発的に敵増援が出現しており、攻めあぐねているようです」

提督、と呼ばれた男は戦場の概略図をモニターに映し、小さく唸る。

提督「なるほど、確かにこれは攻めあぐねているのもわかる。
   戦艦をそのまま突入させられるほど内部に広いスペースはないだろうし
   R戦闘機を突入させるにしても、中にどれだけのバイドが巣食っているのかも未知数だ」

女性「となると、しばらくはこのままバイドの攻勢を抑えつつ内部状況の把握。
   その後、小回りの効く輸送艦を旗艦に突入を行う……といった感じでしょうね、きっと」

提督「でしょうね、って……それではまるで、私たちがあの中に突入するかのような口ぶりだな」

女性「へ?あっ、す、すいませんっ。ですがコロニーの内部構造や破損の具合を考えると
   駆逐艦や巡航艦でも突入は難しいと思います」

提督「何となく、結局私たちにお鉢が回ってくる気がするよ。
   流石にこんな戦場に、輸送艦一つ引き連れてやってくるような部隊が他に居るとも思えない。
   一応各員に突入と戦闘の用意をさせておこう……中尉、ブリッジの方は任せるよ」

女性「はい、任せてください提督っ!」

元気よく、中尉と呼ばれたその女性は答えた。
223 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/14(月) 01:58:44.02 ID:jpBxehfn0
散発的なバイドの攻撃は未だ止まない。
金属生命体で構成された、R戦闘機を模した無数の敵バイド体。
ただ弾幕を張ることしかできないそれは、R戦闘機にとってはさしたる脅威ではなかったが。とかく数が多い。
戦艦とは言え、何機も纏めて張り付かれては汚染が進む。最悪艦を破棄する羽目にもなる。
そのため確実な迎撃が必要とされ、戦況は硬直していた。


そして、そんな戦況を遠くから眺める機影が一つ。
白をベースに塗られた機体。真っ赤な色のラウンドキャノピー。
機体前面の盾のような装甲と、キャノピー下部から突き出た鏃のような部分が特徴的である。

??「ったく、軍の連中は何やってんだか。あんなにスカスカならさっさと突っ込んじまえばいいのにさ。
   突入のドサクサにまぎれてあたしも突入してやろーと思ったのにさ。これじゃ立ち往生だ」

キャノピーの中で、腕組みしながら戦況を睨む。
そこへ迫る機影が二つ。銀色の光沢を放つバイド体。メルトクラフトと呼ばれたそれは
どうやら戦場を抜けてきたらしい。

??「おまけに、こんなもんの後始末までしなけりゃなんないなんてね、やってらんないよ」

そのバイドが放つ弾丸を、ひょいと僅かに機首を廻らせ避ける。
まるで遊んでいるかのように、巧みな機動を見せ、迫る二機を翻弄していく。
そしてその機影が一直線に並んだ瞬間。打ち放たれたフォースが、二機をまとめて打ち砕いた。

??「こーなりゃしかたない、さっさとあたしが突っ込んで、バイドの親玉を蹴散らしてやるよ!」

二つまとめて湧き上がる爆発をバックに、少女は一つ意気込んで。
閃光がちらつく戦場へ、更にその奥を目指して機体を走らせた。
224 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/14(月) 01:59:12.96 ID:jpBxehfn0
女性「提督っ!コロニーに近づく所属不明のR戦闘機がありますっ!
   それも反応が……ふ、二つですっ!」

提督「所属不明機?バイドではないのかな?」

女性「はい、R戦闘機のようですが、どの部隊の所属マークもついていません。
   もしかしたら、そこかで単独で作戦についていた機体が向かってきたのかもしれませんね」

女性の言葉に僅かに提督は考える、そして。

提督「ということは、あの二機は現在の我々の状況を把握していないはずだ。
   そして敵の攻撃は散発的。……もしかすると、内部に突入してしまうかもしれないな。
   それは流石にまずい。中尉、あの二機に連絡を取ってくれ」

宇宙から飛来、そのままコロニー直上からの突撃を試みる機体。
戦場の後方から突撃、そのままコロニー内部へと侵攻しようとする機体。
バイドの部隊とぶつかる前に、まずはその二機の進路が交差した。

さやか「っとと、危ないなー!何のつもりさいきなりっ!危うくぶつかるとこだったじゃん!」

??「あんたこそ何なんだよ、いきなり人の進路に割り込んできやがって。あたしは急いでるんだ!」

さやか「あたしだって急いでるっての!ああもう!こんなことしてるから囲まれちゃったじゃないの!」

気付けば、二機の周りを取り囲むのメルトクラフトの群れ、群れ。

??「チィッ、流石にコロニーの周りは守りが厚いか。こいつを抜けるのは、ちょっと骨だな」

さやか「こりゃちょっと面倒かも……でもこういうときこそ、レオの出番だねっ!」
225 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/14(月) 01:59:59.44 ID:jpBxehfn0
迫る敵弾を割と余裕のある動きで避けながら、レオの波動砲をチャージする。
この波動砲自体は、通常の物と大差ない。むしろそれに劣る試作型のもの。
しかし、この機体の真価は波動砲ではない。それはビットにある。
サイ・ビットと呼ばれるそれは、異世界の技術を元に作られたとも言われる。

そのサイ・ビットは、フォースと連動した攻撃能力の強化だけでなく、波動砲の発射と同時に
フォース自体がバイドを追尾し破壊する、サイ・ビット・サイファという、強力な攻撃手段を持ち合わせていた。

さやか「行けっ!サイ・ビット!!」

そして放たれた波動砲が、敵を飲み込むと同時に
縦横無尽に駆け巡るサイ・ビットが、次々に敵を飲み込み砕いていった。
まさに旋風のように駆け抜けた後には、群がるメルトクラフトは全て打ち砕かれていて。

さやか「……改めて思うけど、すごいね、この子」

??「一体今のは……また連中の新兵器かい?まあいいや、これでうざったい敵は蹴散らした。
   突入するなら、今だっ!」

さやか「あ、ちょっと待ちなさいっての!あたしも行くっ!!」

そうして二機が、競い合うようにコロニー内部へと突入した、それと同時に。
コロニーの内壁を覆っていた銀色の金属が蠢いて、コロニーの入り口を壁のように塞ぐ。

??「何っ!?……何だってんだこりゃあ」

さやか「まさか、閉じ込められたっ!?」

それと同時に、その銀色の壁から無数のメルトクラフトが溢れ出た。

女性「っ!?提督、あの二機がコロニー内部に突入したと同時に
   コロニー入り口から、大量のバイド反応が出現しましたっ!」

提督「何っ!?敵もいよいよ本腰を入れてきたか。
   我々も戦闘の準備だ。中尉、君はコロニー内部の二機に連絡を続けてくれ」

女性「わ、わかりましたっ!」
226 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/14(月) 02:08:17.40 ID:jpBxehfn0
というわけで本日はここまでです。
ようやく色んなキャラが動いてきたようで、私としてもちょっと楽しみになってきました。
さやかちゃんは相変わらず主人公してます。

>>211
そう言っていただけると嬉しいです。
余り恋愛要素を表に出しにくい題材ですし、そういう方面でキャラの関係性を作っていくのが
私にとっても目標だったりします。

レイディアントシルバーガン、これもまたなかなかきつい設定ですね。
ちょっとやってみたくなりました。探してみるかな。

>>212
世の中には、フラグを立ててきっちり回収する人と
フラグを立ててきっちり折ってくれる人の二種類がいます。
はたしてさやかちゃんはどちらなのでしょうね。

>>213
地球上での戦いですからね、海鳥くらいはいるかもしれません。
まあまだ1ステージ目なので、最初にすれ違う機体の主が誰かはわかりませんね。

>>214
基本的にそのままですが、TEAM R-TYPEは基本自分の研究のことしか頭にないような
ちょっとイっちゃってる連中揃いです。そうそうバレることもないでしょう。
とはいえ、まずいことに変わりはありません。

>>215
今はまだ戦うための手立てを借りるだけですが、果たしてこれからどうなることやら、です。
そしてさやかちゃんが挑む永眠の都市、いったいどんな戦いが待ち受けているのでしょうか。

>>216
あれ一体なんなんでしょうね、レーザー三種撃ち分け可能に加えて
明らかにハイパードライブと思しき波動砲を搭載、それに圧倒的な耐久力。
アレに乗せてくれたらバイドなんていちころでしょうに、ね?

>>217
そもそも単機で大量の敵と戦う、という状況ですからね。
そりゃあ不利な状況からのスタートでしょうし、割ともう取り返しのつかない状況からのスタート
というのも、なかなかに多そうです。
227 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/14(月) 02:11:24.66 ID:K0dgR6R5o

銀銃はプレミアついてたけど最近箱○で配信されたおかげでやりやすくなったよね
228 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/14(月) 02:18:56.64 ID:ZcIO/1ilo
やはりあんこはパイルバンカーかww
サードライトニングのすぐ後だからまだ完成してない機体が山ほどあるんだよな。
てっきりR-9Leoなんて旧世代機だろとか思ってしまった。
229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(滋賀県) [sage]:2011/11/14(月) 02:46:46.85 ID:krCqblpvo
そういやさやかの魔法は自己治癒能力だからB-1C系列とは非常に相性が良いのではないか
形も海産物っぽいしな
230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/14(月) 08:15:20.76 ID:VQU2x0fDO
続き来てたー!
突入したお二人はどうなるのか。提督はどう動くのか?みんなの活躍が楽しみでならない。

銀銃の続編である斑鳩もやっぱり救われて無い感じ。

以前レスしたSTGクロスの話なんですけど、このSSとは別にスレを立てるのかな?と、勝手に勘違いしてました。済みません。
231 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/11/14(月) 18:58:53.55 ID:jpBxehfn0
やっぱり杏さやが絡むと話が進みます。
というわけで本日の投下です。
232 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/14(月) 18:59:40.39 ID:jpBxehfn0
さやか「まずいな、この状況。完全に閉じ込められたよ」

退路を塞ぐ銀の壁、レーザーも波動砲もその壁を破ることはできなかった。
サイ・ビットも打ち出されて後、膨大なバイド反応を食い破るように壁の中へと潜り込み
そのまま戻ってきてしまった。レオの最強の武器ですら、通用しなかったのだ。

??「どうにもこの分だと、外に出るのは無理みたいだね。
   まあいいさ、一人でもバイドをぶっ潰すつもりだったしね」

同じく、随分色々と脱出のために奮闘していたもう一機の機体が機首を翻し。
そのままコロニーの奥へと進んでいく。

さやか「ちょっと、待ちなさいっての!まさか本当に一人で行くつもり?」

??「ああ、あんたが余計な邪魔しなけりゃ、今頃とっくにコロニーの奥に突っ込んでるさ」

さやか「どう見ても自殺行為でしょ、そんなの……わかった。あたしも行くよ。
    一人じゃきついかもしれないけど、二人ならなんとかなるでしょ!」

??「いらねぇよ、足手まといは必要ない。あたし一人でやっつけるさ」

さやか「んなっ!?だ、誰が足手まといですってぇ?」

たちまち声には怒気が混じる。

??「助けなんか借りない。あんたはそこで待ってりゃいいさ。
   ――死ぬなら、一人で十分だろ」

子供じみた言い争いはばっさりと打ち切って、ぽつりと一言言葉を残して。
そのまま白い機体はコロニーの奥へと向かっていった。

さやか「……っくぁ〜!むっかつく!おまけに……なんだよアイツ。
    あれじゃまるで、死にたがってるみたいじゃん。それにどう聞いたって、あの声は女の子だったし」

その後姿をじっと見つめて、考える。
もしかすると、あのR戦闘機に乗っているのも魔法少女なのかもしれない、と。

さやか「だとしたら。っていうかそうじゃなくても、見捨てるなんてできないっての」
233 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/14(月) 19:00:27.43 ID:jpBxehfn0
??(それにしても、さっきのアイツはなんだったんだ?どう見ても乗ってるの子供だろ。
   そんな子供をこんなとこに送り込むってのか……っくそ、イカれてんだろそんなの)

コロニーを奥へと進むその目前に、迫る無数の銀の影。
やはりコロニー内にもまだ、無数のメルトクラフトが存在しているようだ。

??「さーて、一人でどこまで足掻けるかな……ただでやられちゃやれないね。
   ……やってやろうじゃ「行っけぇぇ!サイ・ビット!!」……ってぇ!?」

その機体を追い越すように放たれた、波動の光とサイ・ビット。
迫るメルトクラフトを撃ち払い、その数を半減させる。

さやか「あっちゃー、流石にあんだけ数居ると討ち漏らすかー」

??「何で来た!お前っ!!」

さやか「ほっとけるわけないじゃん。それに言ったよね。一人じゃきついかもしれないけど
    二人ならなんとかなる、ってさ」

一気に戦力を半減されて、浮き足立って敵の動きが乱れる。
突っ切るなら、今だ。

??「……おい、あんた。ちょいと面貸しな」

言葉と同時に開かれる、映像付きの通信回線。
ソウルジェム搭載機からは、本人の顔や表情まで模すことができ映像が流される。
恐らく向こうの機体にも、さやかの顔が映っていることだろう。
そこに映っていたのは、気の強そうな面持ちに赤い髪を携えた……やはり、少女の姿があった。


??「へっ、何だやっぱりガキじゃん」

どうやら向こうも、思っていたことは同じだったようで。

さやか「あ、あんただって子供でしょーが、ふつー、子供がこんなことしないでしょ。
    もしかしてあんた……魔法少女なわけ?」

半ば確信めいた予感を載せて、さやかは尋ねた。
帰ってきた答えは、幾分か呆れを含んだもので。

??「は?……魔法少女ぉ?何寝ぼけたこと言ってんだよ」

さやか「えっ……?」

杏子「あたしは佐倉杏子、あんたがあたしについて来れるってなら
   ……ここの奥まで、着いて来させてやってもいいよ」

疑問を感じる余裕もない。敵は目の前まで迫っている。

さやか「……可愛くないの、素直に手を貸してって言えばいいのにさ」

杏子「へっ、死んでも助けないからね。死ぬ気で着いて来なっ!!」

さやか「死んだら助からないっての!んじゃ、行っくよーっ!!」
234 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/14(月) 19:01:03.45 ID:jpBxehfn0
アサノガワ、と呼ばれた機体を杏子は駆って。それに続いてさやかのレオが駆け抜ける。
二機は競い合うように波動の炎を巻き上げて、銀の機体の海へと立ち向かう。その刹那。

杏子「ん……今、何か」

さやか「見えた……ような、って、ンなこと言ってる場合じゃないっ!
    行っちゃえ、サイ・ビットぉーっ!!」

視界の端に映った、何か。まるで機影のようにも見えたが。
それを確認する間すらもなく、二機の姿が銀の波の中へと飲まれていった。
交錯するサイ・ビット。そしてレーザーの軌跡。後を追うように数珠状の爆発が巻き起こる。

そして、その中心を突っ切って駆け抜ける二機。
堅牢かつ汚染に対する抵抗力も高いシールドをもつアサノガワが、半ばごり押しするかのように道を拓き
拓かれたその道を、レオのサイ・ビットが押し広げる。
メルトクラフトの群れを抜けたと同時にフォースを背後に回し、レーザーで追撃を阻む。
特に示し合わせた訳でもなく、自然と機体がそう動いていた。

さやか(乗ってる奴は気に入らないけど、一緒に戦う分には頼りになるじゃん、あいつ)

杏子(武装だけかと思ったら、思ったよりやるみたいだね。……へへ、こういうのも悪くないな)


メルトクラフトの群れを抜けた二人の前に、立ちはだかるのはストロバルトの小部隊。
コンテナを開いて、バイドに汚染された廃棄物を撒き散らしてくる。迂闊に当たれば即汚染、である。

杏さや「邪魔だ、どっけぇぇぇっ!!」

同時にフォースシュート、撒き散らされた廃棄物を飲み込みながらストロバルトのコンテナに直撃。
そのままコンテナを食い破り、機体も纏めて爆散させる。そうして出来た隙間を同時にすり抜ける。
ある程度の機動性はあれど、R戦闘機には及ばないストロバルトにはそれを追う手段はもはやない。


さやか「思ってたよりは、中の敵も大したことないね。この分ならすぐに奥まで行っちゃうんじゃない?」

杏子「油断すんなってーの。……ほら、来るよっ!」

アラート、上方より迫る高エネルギー反応。
咄嗟に左右に展開した二機が居た空間を、赤い光が薙いで行った。
その元を辿れば、コロニーの外壁から突き出た砲身。それを抱えた赤い機影。
235 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/14(月) 19:01:43.16 ID:jpBxehfn0
杏子「ゲインズかっ!……それも何か妙に赤いね」

さやか「バイドの人型兵器!やっつけ方は……一発撃った所に、突っ込む!!」

その姿を確認するや否や、レオの機首を廻らせ突撃する。
波動砲のチャージを開始、一発撃たせてそいつを避けて、そのまま一気に反撃に転じる。
いつでも来いと身を引き締めて、さやかはレオを走らせる。

そして赤いゲインズが抱えた砲身から、凝縮波動砲の赤い光が放たれる。
軸をずらして見事に避けて、更に速度を上げようとしたレオの目前に
第二、第三の光が迫っていた。

さやか「んなっ!?う、うそでしょぉーっ!」

機体に急制動をかけ、そのまま半ば墜落するように距離を取る。
これが生身のパイロットであれば、身体に少なくない負担がかかっていただろう。
更にそんなレオを追いかけて、続けざまに赤い光が飛来する。

杏子「連射式……改良型ってわけか。だけどね、そいつにばっかり構ってて。
   背中がお留守だ……よぉっ!!」

大きく外回りでゲインズの背後にアサノガワが回りこむ。
そして放たれた赤色のレーザー。一発当てれば動きを止めるくらいはできる。
しかしそのレーザーを、ゲインズは機体を半回転させて回避する。
それだけではなく、回避と同時に今度は杏子に波動砲の赤い光が迫る。

杏子「なんだとっ!?……っ、こいつ、エース仕様かっ!」

赤い色は伊達ではないようだ。
機体を掠めるようにして辛うじてかわす、流石に真正面からの撃ち合いは分が悪い。
溜まらず背を向け距離を取るが、執拗に追いかけ波動砲を浴びせかけてくる。

杏子「くっ、後ろを取られた。このあたしが……」

高機動型ゲインズの機動性は、R戦闘機ですらも振り切るのは容易ではない。
しかもこれだけ撃たれながらでは、回避すらも危うくなってくる。

さやか「そいつから離れろ、サイ・ビットぉーッ!!」

波動砲とサイ・ビット・サイファの同時攻撃。
波動砲を避けたゲインズに、サイ・ビットが襲い来る。
しかしその攻撃は、強固な装甲に阻まれ十分な打撃とはならなかった。

さやか「サイ・ビットでも全然ひるまないっての?こりゃ強敵だな」

杏子「おい、お前。アイツをちょっとでも足止めできるかい?」

さやか「……何かやる気?まさか特攻なんてバカなことしないでしょうね?」

“――死ぬなら、一人で十分だろ”
あの時杏子が見せた、どこか投げやりな言葉がさやかの中で引っかかっていた。
236 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/14(月) 19:02:10.80 ID:jpBxehfn0
杏子「安心しな。とっておきがあるのさ。ただこいつは相手が足を止めてくれないと当てにくくてね」

さやか「なるほどね、そーゆーことなら、このさやかちゃんに任せなさいっ!」

レオは機体を巡らせて、ゲインズへと肉薄する。
ビットもいまいち効果が薄い、牽制気味にレーザーを放つ。
フォースとサイ・ビットの両方から青いレーザーが放たれ、コロニーの外壁や建造物の残骸に反射。
複雑な軌道を描いてゲインズへと迫る。それは高機動型でもかわしきれるものではなく
身体をかばうように腕を構えたゲインズに、幾筋ものレーザーが直撃、小規模な爆発を巻き起こす。

さやか「お、結構いい感じ。この子レーザーもいけるじゃない」

そう、レオが搭載するフォースはサイ・ビットにあわせて調整されたもの。
サイ・ビットの影に隠れはするが、その攻撃性能は既存のフォースよりも更に頭一つ抜けている。

その爆発の中から、まるでショルダータックルでもするかのような体勢でゲインズが突っ込んできた。

さやか「うへ、まだ動くのかっ……ああもう、いい加減に……止まれっ!」

慌てず騒がず波動砲、サイ・ビット・サイファのおまけもつけて。
波動に焼かれ、サイ。ビットに砕かれゲインズの動きが鈍る。

さやか「今だよ、杏子っ!」

杏子「待ってたよっ、粉微塵に……吹き飛びなっ!!」

そして突撃アサノガワ。一気にゲインズに肉薄し、そしてその力を解き放つ。
轟音と衝撃。少し離れたさやかの機体にさえ空気の震える振動が伝わってくる。

そして絶望的な破壊力も誇る破壊力を叩きつけられたゲイんズはアワレにもバラバラに引き裂かるることとなった。
237 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/14(月) 19:03:15.49 ID:jpBxehfn0
さやか「うわ、すっご……何、今の」

杏子「何、って。パイルバンカー」

所謂杭打ち機である。どう考えても戦闘機に搭載するような代物ではない。

さやか「えぇぇ………」

杏子「な、なんだよその冷たい声はよ。いいだろ、勝てたんだからっ。
   ……仕方ないだろ、これしか空いてる機体がなかったんだから」

さやか「ま、まあ……威力は抜群みたいだけどさ。と、とにかく先行こうかっ」

そこへ、唐突に通信が入る。

女性「やっと、やぁぁぁっと繋がりましたよっ!二人とも、聞こえていますかっ?」

その声は、さやかにとってはなぜか聞き覚えのある声だった。

さやか「えっ……仁美っ!?」

ヒロコ「仁美?一体誰のことですか。私は地球連合軍、ヒロコ・F・ガザロフ中尉ですっ」
238 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/14(月) 19:11:55.16 ID:jpBxehfn0
では今回はここまでということで。
色々出したいキャラクターが出てきました。そういやガザロフ中尉も仁美さんも中の人が……。
なんてことを思いついたら、いつの間にか出てきてました。

そしてついに杏さやです。やっぱりこの二人が絡みだすと話が進む進む。
もともと戦闘シーンは尺が長くなりがちですが、このまま結構行っちゃいそうです。
そしてこのお話での杏子ちゃんは、魔法少女ではありません。
設定が全編に渡って大幅に変更されちゃってます。流石に其処まで設定練れませんでした。

>>227
箱○……EDF3のために買ってそれきりですね。
R-TYPEも確か配信してるようですので、ちょっとまた引っ張り出してみましょうか。

>>228
杏子ちゃんには設定上日の目を見ることがなかった機体に乗ってもらおうと思います。
アレとかアレとか。パイルバンカーは途中で言い当てられてしまいましたが。
とはいえカロンやノー・チェイサー、アンチェインド・サイレンスなど各系統の
最終機体は出始めているので、機体開発自体はかなり末期、相当に詰まっている時期です。
Leoは普通に強い子です、ただ2が信じられないチート機なだけで。

>>229
残念、魔法が使えないさやかちゃんでした!
っていうかもうアンフィビアンさんはバイド軍にお帰りください。
もしくはダライアス。

>>230
まだまだいがみ合いながらも協力する、って感じですね。
永眠の都市もまだまだ始まったばかり、これからどうなることやら、です。

斑鳩は名前を聞いたことがあるくらいで、実際の画面を見たことがないのですよね。
こっちもそんなに救いようがないとは、やはりシューティングですねぇ。

一応今のペースを意地できれば後一月くらいで終わるかな?という感じではあります。
終わったらまた何か次のネタを考えましょうかね。多分マイナーネタとのクロスでしょうが。
239 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/14(月) 19:32:17.22 ID:zCdflRaV0
そのうちTEAM R-TYPEはコクピットつき魔女とか作りそうだな……
240 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(愛知県) [sage]:2011/11/14(月) 20:31:40.91 ID:GjboDB0jo
さりげなくブロント語をまぜるとはさりげない
ジュースをおごってやろう
241 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/15(火) 01:18:24.56 ID:9v+yO+ADO
お疲れ様です。
まずは見事なコンビネーションでシ○ア専用ゲインズさんを撃墜しましたね。格好良いです!

通信は来たけど、喋ってる暇あるのか?

後ここのボスって、見た目短○包○のアレですよね…。
242 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage]:2011/11/15(火) 02:04:49.63 ID:dPdHPkpt0
やっぱりあの二人が絡むと筆が走ります。
第5話、完成です。
243 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage]:2011/11/15(火) 02:06:19.71 ID:dPdHPkpt0
※やっぱり訂正、ガザロフ中尉はガザロフ「で通すことにします。

ガザロフ「提督、コロニー内部の二機との連絡が繋がりました」

提督「そうか、ではこちらに通信をまわしてくれるかな。
   あー、こほん。私はこの艦の指揮官、カズマ・ナインライブス大佐だ。そちらの所属と、現在の状況が知りたい」

さやか「ちょっと杏子。これってどういうこと?大佐、って……偉い人、だよね?」

杏子「いや、あたしに聞かれても困るんだけど。……そりゃ、多分偉いんだろう。何せ大佐だし」

さやか「多分って何よ多分って、っていうか通信届いてるよ!杏子に何か用があったんじゃない?」

杏子「あたしだって知らないっての、元の部隊を勝手に飛び出してきたんだか……ぁ」

失言である。この発言だけでも尋問にかける価値はある。
というよりも、回線を開いて聞こえてきたのがどう見ても少女の声二つ。
一体どういうことなんだ、とナインライブス大佐、面倒なので九条大佐は困り果てた。

九条「中尉……流石にこれは繋ぐところ間違えたんじゃないかな。
   ……ほら、あれだ。君はたま〜に、うっかりするじゃないか」

ガザロフ「そ、それはそうですけど、今回は間違いありませんっ!
     ちゃんとコロニー内のまだ生きている通信設備を経由して、コロニー内部の機体と通信が繋がっています」

九条「だけど、いくらなんでもこれは……もう一回呼びかけてみるか。
   二人とも、まずは落ち着いてくれないかな。もう一度聞くよ。所属と現在の状況を教えてくれ」

少し疲れたその声に、ようやく二人は言い争いをやめて。

さやか「あ、え……っと。試験艦ティー・パーティー所属の、美樹さやか……軍曹?です、多分?」

どうにも自信も実感もない声、ちょっと頼りない。

杏子「なんだよその頼りない声はさ。あたしはデルタ試験小隊所属、佐倉杏子特務曹長だ。
   バイド殲滅のためコロニー内に侵入、その後退路が絶たれたんでね
   仕方なくバイドを蹴散らしながら、コロニーの奥に進んでるよ」

対して杏子の声は落ち着いている。
このことだけでも、杏子が軍という組織に慣れているのだということがわかる。
恐らく、長らくその中に属しているのであろうということが。
244 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/11/15(火) 02:07:10.95 ID:dPdHPkpt0
九条「バイドを蹴散らしながら奥へ……。ふむ、ちょっとおかしな話だな」

九条が口元に手を当て、考える。
外では未だ、大量のメルトクラフト群との大規模な戦闘が続けられている。
敵が単一で、数で押すしか出来ないために、今のところ大きな被害は出ていない。
それでも、完全に攻めあぐねているのは事実なのだ。

九条「なるほど、そういうことか。美樹軍曹、佐倉特務曹長。まだ聞こえているかい?」

杏子「いちいち階級を付けんな。まだるっこしいだろ」

さやか「あー……あたしもそっちのほうがいいです。ちょっとまだ軍曹なんて呼ばれるの、慣れないし」

九条「……まあいいか。では美樹くん、佐倉くん。これからこちらの状況を説明する」

コロニーの入り口が液体金属の壁により閉ざされて以降、そこから大量のメルトクラフトが出現している。
現在地球連合軍はその対応に手一杯、コロニー内部に侵攻する余裕はない。
そんなことを手短に九条は告げる。

杏子「ってことは、やっぱりあたしらがやるしかないってことだね。
   偶然って言や偶然だけど、中に入りこめたのは幸運だったね」

さやか「でも、増援なしってのはちょっときついな。今までだって結構沢山バイドが居たし」

九条「そうだろうね、試験部隊なんてのにいるくらいだ、二人の実力は問題ないだろう。
   とはいえ、バイドの巣のような場所でいつまでも戦えるかといえば難しい
   だが、状況はそこまで悪くないんだ」

杏子「どういうことだい?」

九条「外に居る敵の数に比べて、中の敵の数は圧倒的に少ない。
   つまりバイドは、外に居る我々をより脅威としてみているということだ」

さやか「つまり、そっちに敵が沢山いるからコロニーの中には敵がそんなにいない、ってことですか?」

九条「その通り。そしてこの状況は、我々外でバイドを撃破するばするほど続くだろう。
   それだけ中は手薄になるはずだ。君たちには、その隙を突いてもらいたい」

杏子「悪くないね。でもさすがのあたしだってそれまでずっとコロニーの中を逃げ回ってるわけには行かない。
   せめてどこかでバイドをやり過ごして隠れられれば、まだ目はあるんだろうけどさ」

九条「それについては心配ないよ、ガザロフ中尉」

そしてまた、通信の音声が切り替わる。
245 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/15(火) 02:08:46.79 ID:dPdHPkpt0
ガザロフ「はい!時間がないので手短に説明しますね。そのコロニーエバー・グリーンは
     現在バイドに占拠されるまで、長らく地球連合軍の監視下にありました。
     つまりバイドは、極めて短時間でこのコロニーを占拠したようなんです」

手元のコンソールのデータをあれこれと弄りながら、ガザロフ中尉が言葉を続ける。

ガザロフ「つまり、コロニー内部にはまだバイド汚染が見られていない区画も沢山あるんです。
     その中のどこかに機体を隠すことが出来れば、中の敵をほとんど外におびき出すまで
     隠れとおすことだってできるはずですっ」

コンソールを這う指の動きが早くなる。コロニー内部の見取り図と、現在のコロニー内部の状況を比較。
それと同時にコロニー内部のまだ生きているシステムにアクセスし、内部の汚染状況を確認。
そのほかいくつかの作業を経て、R戦闘機を隠すことができるほどのスペースがあると思しき場所
その候補がいくつかに絞られた。

ガザロフ「座標でました!データをそちらに転送します。指定座標に到達後、無事R戦闘機を隠すことが出来たら
     そのまま通信を維持した状態で待機してください、こちらで状況が整い次第、再度通信を送ります」

杏子「よくわからないけど、随分優秀だね。……こりゃあ、ひょっとするとひょっとするかもだ。
   了解、座標データは受け取ったよ。ひとまずこの地点を片っ端から当たってみるかねッ!」

さやか「ちょ、ちょっと待ちなさいよ杏子っ!あたしも行くってば!!」

そして通信経路だけは確保したまま、音声が打ち切られる。



九条「しかし、あんな年端も行かなさそうな少女がR戦闘機に乗っているとは……世も末だな。
   間違いなく関わっているのはあの連中、か。ああやだやだ、出来ることなら関わりたくないね」

ガザロフ「提督、変な事言ってると、うっかりどこで目を付けられるかわかりませんよ」

九条「おぉ、怖い怖い。……さて、それじゃああの二人を無駄死にさせないためにも
   私たちも、そろそろ頑張るとしようか」

まだ歳若い司令官の、深い色の輝きを放つ瞳が見開かれ。

九条「さあ、行こうか」

その声は、艦を動かす号令。その声に突き動かされるように
各員がそれぞれの役目を果たし、その艦を一つの兵器に変えていく。
バイドを撃つための力、として。
246 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/15(火) 02:09:34.17 ID:dPdHPkpt0
さやか「で、結局どこ行けばいいわけ?地図っぽいのは送られてきたけど
    このままじゃ全然わからないっての」

杏子「ったく、地図の見方も習ってこなかったのかい。このトーシロは。
   ……とりあえずこのまま都市ユニットのとこまで前進。後はどこかに穴を見つけて内部に入るよ」

たちまち気色ばむさやかの声を受け流して、一足先にアサノガワが走り出す。
不平不満は零しながらも、レオが続いて後を追う。
今のところバイドの攻撃も散発的で、現れるのはメルトクラフトやストロバルトといった小型のみ。
さほど労せず、都市ユニットの外壁へと辿りついた。

杏子「後は、どっかに穴を見つけるだけだけどね……っ、壁面にバイド反応があるね。
   ありゃあ何だい?……自走砲台?」

反り返った壁面に張り付き、もぞもぞと動く謎の機械。
どうやらこちらを認識したらしく、砲弾を雨あられと打ち出してきた。

杏子「こんなもんまでいやがんのか。こりゃ中も危ないんじゃないかねェ」

さやか「とにかく行くんでしょ、さっさと蹴散らすよっ!」

次々に降り注ぐ砲弾をフォースで受け止め、レーザーで砲台を破壊する。
それほど数も多くなく、すぐに周囲の反応は完全に沈黙した。

さやか「確か、後は中に入れそうなところを探せばいいんだよね。
    どうする、少し手分けして探してみる?……と、こりゃそれどころじゃないかな?」

壁面、いや。その中から生じるバイド反応。かなり大きい。

杏子「さーて、何が出てくるかね?」

それは、壁面をぶち破って現れた。
機械のフレームに有機的な甲羅のような装甲を纏った、甲殻類のような巨体。
壁面を食い破った爪を、そのまま壁面に食い込ませて残りの身体を引っ張り出した。
247 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/15(火) 02:10:04.74 ID:dPdHPkpt0

さやか「何あれ?蟹?」

杏子「海の上だしね、あーゆー生き物が生きててもおかしくないんじゃねーの?」

さやか「いや、どう見てもそれはおかしい。まあいいや、丁度穴も開けてくれたし。
    あいつを倒して、中に突入しよう!」

それはギロニカと呼ばれる、地球連合軍が生み出した生物兵器。
バイドの浸食を受けて暴走したそれは、壁面を這い回りながら敵の姿を捉えた。

さやか「それじゃまずはお約束っ!波動砲!アーンド、サイ・ビット!!」

お約束染みた波動砲とサイ・ビットの波状攻撃。
しかしギロニカの甲羅は堅固、ダメージはあるようだがひるんだ気配も見られない。

さやか「また硬いなぁ。でも動きは全然遅いよ。これならおそるるに足らずってなもんよ!」

杏子「気をつけなよ、何してくるかまだわかんないんだ。光線でも吐き出してくるかもよ」

さやか「蟹が光線、だなんて。どっかの文学作品でもあるまいしっ!」

さらに追撃、波動砲を放つ。その光に照らされた甲羅から、オレンジ色の球体が放たれた。
どうやら蟹光線ではないようだ。

杏子「撃ってきた……けど、なんだろうねこりゃ。風船?」

その弾はふわふわと浮んで、まさしく風船のように宙に漂い浮んでいく。
その正体はギロニカの体液である。この体液は、空気に触れると泡のように丸く固まり
化学反応で熱が発生、内部の空気が熱せられることで風船のように飛んでいくのだという。
これが兵器ではなく、子供向けのアミューズメント器具として開発されていたら
それなりの人気を博していたのではないか、などとも考えてしまう。

杏子「ま、大した相手じゃないってことだけは確かそうだ。これでネタ切れみたいだしね。
   さやかっ!後はあたしに任せな。一発デカいのブチ込んでやるよっ!」

さやか「おっ、またアレだね?よっしゃー、やっちゃえーっ!」

泡弾をサイ・ビットで弾き飛ばしてその隙に、再び突撃アサノガワ。
極限までエネルギーが充填されたパイルバンカーの一撃が、ギロニカの甲羅に叩きつけられた。
いかな超硬度を誇るギロニカの甲殻と言えど、圧倒的な質量と速度で打ち出された金属杭には敵わない。
貫かれ、打ち砕かれ。悶えるような悲鳴を上げながら砕け散っていく。
後に残されたのは、ギロニカが開けた大穴一つ。
248 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/15(火) 02:10:49.86 ID:dPdHPkpt0
ガザロフ「提督!コロニー内部の二人から連絡が入りましたっ!」

九条「やってくれたか!よし、こっちに回してくれ」

杏子「こちら杏子。指定座標に到着。今のところ周囲にバイドの反応なし。汚染の兆候もないよ。
   この分なら、しばらくここでやり過ごせそうだ」

九条「よくやってくれた。しばらくそこで待機していてくれ。くれぐれも連中に尻尾をつかませないでくれよ」

杏子「任せときな。いい具合になったらちゃんと連絡しとくれよ」

九条「ああ、では幸運を祈る」



通信が打ち切られた。杏子は計器を確認し、周囲にバイド汚染がないことを改めて確認する。
そして、キャノピーを開いた。

杏子「ん……ん〜っ!流石にずっと飛びっぱなしだったからね。少しは身体伸ばさないと……っと」

ヘルメットを外して大きく深呼吸。海に沈んだコロニーだけに、潮の匂いが濃厚に混じる。
久々に吸い込んだ新鮮……なはずの空気に、少し身体が軽くなったような気もして。

杏子「今の内に、腹ごなしもすませとくか」

パイロットブロック内の収納スペースから取り出したのは、お菓子。
どんな不景気や戦時にあっても一本十円を頑なに守り続ける、やお○んのうま○棒である。
普通は携帯食料の類が入っているようなものだが、あえてこんなものを詰め込んでいる。
携帯食料なんて不味いだろ、ってのが理由であるようだ。

さくさくと小気味いい音を立ててう○い棒を頬張りながら、杏子は隣の機体を眺める。
キャノピーの下には何も見えない。安全だってことはわかっているだろうに、出てくる気配さえ見せない。

杏子「休める時にゃ休んどかないと、身体持たなくなるぞ。
   ――食うかい?お菓子の類しかないけど、結構旨いぜ」

さやか「ぁ……っ、はは。うん、美味しそうだね。あたしも食べたいとこだけど。
    遠慮しとくよ……っていうか、あたし降りられないんだよね、この機体から」

改めて、魔法少女という我が身を思い知らされるさやか。
暗くなりそうな気分を堪えて、必死に明るい声で答えて。
249 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/15(火) 02:11:16.64 ID:dPdHPkpt0
杏子「降りられない、って……ああ、そうかよ。そういうことか。
   許せねぇ。いくらなんだって、許せることじゃねぇよ、こんなの」

がん、と握ったヘルメットでキャノピーを叩く。

さやか「ちょ、ちょっと杏子?何そんな荒れてんのさ!?」

杏子「何って、どう考えたっておかしいだろ、狂ってンだろ。
   一体さやかは何されたんだよ、両手両脚ちょん切られたのか?
   それともまさか……脳味噌だけ引っ張り出されて、接続されてるとかなのか?」

さやか「うぁ……いや、そういう話は聞いてるだけでやっぱり引くわ」

扱いとしてはそれらと変わらない気はするけれど、ソウルジェムであるということは。
少なくとも、精神衛生上の問題は少ないよね、なんて考えていたりもした。

さやか「あたしはそこまでやばいことはされてないよ。ちゃんと身体だってある。
    ただ、これに乗ってる間だけはね、降りられないってだけなんだ」

杏子「……なら、いいけどさ」

そして沈黙。杏子が黙々とお菓子を平らげる音だけが聞こえる。

さやか「そういえばさ」

そんな沈黙に耐えかねて、さやかが口を開く。

杏子「ん?何だよ」

さやか「杏子は、何でこんなとこまで来たの?どう考えたって一人で突っ込むのは自殺行為だ。
    それでも杏子はたぶん、一人で突っ込んでたでしょ?……なんか、死にたがってるように見えた」

杏子「ぁ……それ、は」

お菓子の手が止まる。杏子の言葉も一瞬途切れて。

杏子「まあ、確かに間違っちゃいないかも、ね」

さやか「何でそんなこと。そりゃ最初はあんたのこと気に入らなかったけど。
    なんだかんだで色々協力できたし、仲間……みたいなもんかなって思い始めてる。
    なのにそのあんたが、何で死にたがりの真似なんてするのさ!」

杏子「……説明、してもいいけどさ。ちょいとばかり長い話になるよ」

さやか「いいよ、どうせ時間はあるんだ。聞かせてよ」

杏子「しょうがねーな。あれはさ――」

そして杏子は語りだす。
ある少女の、戦いと別れの物語を。

魔法少女隊R-TYPEs 第5話『METALLIC DAWN』
        
         ―終―
250 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/15(火) 02:11:49.22 ID:dPdHPkpt0
【次回予告】

「あの事故が、全ての始まりだったんだ」

少女が語る過去。
それは、少女の戦いの物語。

「私……戦いたい!お願い、戦わせてっ!」

そしてそれは、英雄になった男の物語。

「今日からここが君の家だ、そして我々が、君の家族だ」

そして……離別の物語。

「何でだよ!家族じゃなかったのかよ、ばかやろーッ!!」



「決めた。あたしはあんたと一緒に行くことにするよ」

「よろしくね、相棒」

次回、魔法少女隊R-TYPEs 第6話
          『SWEET MEMORIES』
251 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/15(火) 02:21:10.79 ID:dPdHPkpt0
というわけで、杏子ちゃん&TAC2組み登場回は終了となります。
あ、マッケラン中尉は2組なので居ません。
永眠の都市前半戦が終了、といった感じでしょうか。
この辺の流れは完全にゲームに忠実になっています。うまいこと構成もできましたしね。

そして次はいよいよ杏子ちゃんメインのお話です。
根幹からして違うスゥちゃんに続いて、間違いなくトップクラスに改変されているキャラです。
うまいことやれればいいのですが、さてどうなりますやら。

>>239
コントロールロッド差し込んでやれば案外いけるかもしれませんね。
そのためにはまず魔女の実物を見てみないことには……となるでしょうけどね
TEAM R-TYPEの腐れ外道共なら普通に魔女化実験とかやらかしそうなのが怖いです。

>>240
9杯でいい(謙虚
アイれムが生み出したどきどきすいィ?こでんというゲームに
佐保志 騎士(さぽし きし)という余り謙虚じゃないナイトが出てくるという話は
あもりにも有名(リアル話

>>241
まさにパイルバンカーの見せ場のようなバトルでした。
でも多分このステージ全体を通してパイルバンカーゲーになる予感がします。
アサノガワ先生の次回作にご期待ください。

まあその辺は機体を走らせながら喋っているということで。

形状は自由自在ですから、短いかどうかはわかりませんね。間違いなく被ってはいますけど。
252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(滋賀県) [sage]:2011/11/15(火) 02:30:51.35 ID:86dsz6Mio
なるほどあの子がわんこになってあんこちゃんが硬くてぶっといの入れてイかせるわけか・・・
アグネスが来るな

まあ実際はクロス・ザ・ルビコンになるんだろうけど
253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/15(火) 05:46:26.86 ID:LB8kVgIjo
蟹光線吹いたww
>>1は卓ゲ者でもあったのか
254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/15(火) 06:48:03.12 ID:9v+yO+ADO
連続投下感謝!
お二人の関係がほの暖かなのが、ほんわかしててありがたいですね。お菓子のくだりはちょっと切ないですが。

ギロニカって、やろうと思えば足の装甲も壊せるんだよな。

しかし次回のタイトルが不吉ww
255 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/11/15(火) 19:09:44.77 ID:dPdHPkpt0
本日は第6話を投下する予定でしたが、予定を変更して特別番組を行います。
今回は今までにないほどキボウが増量されています、お気をつけください。

タイトル『比翼連理の翼』
始めます。
256 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/15(火) 19:11:15.15 ID:dPdHPkpt0
「――皆さんには、愛する人がいますか?」

宇宙の只中を、編隊を組んでR戦闘機が往く。
その先陣を切って飛ぶ、純白のR戦闘機。

「家族、恋人、友人。心から慈しみ、自らを投げ打ってでも守りたい人がいますか?」

そのキャノピーは濃い蒼に包まれて、中の様子は覗けない。
それでも声は、高く強くと響き渡る。

「そして、その人達を守るに至らぬ自分の無力を嘆いたことはありますか?」

その向かう先には、同じく隊列を組むR戦闘機。
その背後に艦隊を抱えているのはどちらも同じ。一触即発。

「確かに人類は、一つの大きな危機を乗り越えました。ですが、その危機は未だ
 完全に払拭されたわけではありません。私たちには、力が必要なのです」

向かい合う機体群。どちらの機体にも波動の火が灯る。

「だから、私は戦う」

その光が互いに放たれて。それを合図に激しい戦闘が始まった。




ジェイド・ロス少将の働きにより、バイドは太陽系から駆逐されてより幾許かの時が過ぎていた。
バイドとの戦争は終わったのだと、多くの人間が思っていた。
そして安寧を求める人々の声は、ついにバイドを討つべき兵器の、その意義を問うようになっていた。
特に、バイドを利用して作られた“悪魔の兵器”フォースの存在は、多くの人の反感を買うこととなる。
その開発を軍が継続していたこともまた、民衆の感情を煽る結果となっていた。

そうして鬱積した不満が原因となったのか、火星の一都市が独立し、太陽系解放同盟を組織。
地球連合軍に対してバイド兵器の即時撤廃を求め、武力の行使も辞さないという強硬な姿勢を見せていた。
バイド軍との戦いで疲弊し、戦力が不足していた地球軍は、これに迅速に対応することが出来なかった。
257 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/15(火) 19:12:26.94 ID:dPdHPkpt0
「しかし、流石は美国参謀次官のお嬢様ですな。あれならばプロバガンダとしても申し分ない」

そうしてついに開かれた、本格的な地球軍と太陽系開放同盟との戦闘。
その中でも一際激しく立ち回る白い機体をモニターに映して、二人の男が眺めている。

「眉目秀麗、聡明叡智にしてパイロットとしても一流。まさに現代のヴァルキュリア。
 とでも言った所でしょうかな。……素晴らしい逸材だ」

太陽系開放同盟の艦隊を攻撃する任務を受け、派遣された艦隊の司令官。
そしてその副官であった。どちらもその白い機体の動きに見入っていたようで。
その機体に率いられた部隊が、太陽系解放同盟の部隊を概ね蹴散らしたのを確認してから。

「これでは我々の仕事もなさそうだな。では、後始末をしに行くとしよう」

後詰めの艦隊が動き出す、総崩れになって逃げ出した太陽系開放同盟の部隊の追討を開始した。



結局、太陽系解放同盟は局地的な勝利や成果は収めたものの。
フォースに対抗する十分な兵器体系を確立するには至らず、早期に地球連合軍に鎮圧されることとなる。
後もう何年か、じっくりと力を蓄えていれば恐らく、地球連合軍に対応できる戦力となっていたことだろう。
とにかく、彼らは急ぎすぎたのだ。
そしてその戦闘の中で目覚しい活躍を見せ、年若いながら将来を嘱望された少女。

――それが、彼女。美国織莉子であった。
258 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/15(火) 19:13:33.92 ID:dPdHPkpt0
ほら、あの人だ。解同との紛争で大活躍したっていう英雄。
 参謀次官の娘さんの、美国織莉子さん」

誰もが彼女を、憧れと賞賛の目で見つめていた。

「素晴らしい女性だ。あの方ならきっと将来は、お父上の後を継がれることだろう」

誰もが、輝かしいであろう彼女の将来を祝福した。

「あの若さであれほどの戦果、まさに我が軍の誇りというべき人物だろうね」

人々の羨む声を耳に挟みながら、織莉子は一人道を歩く。
その指には輝く指輪が一つ。それはソウルジェムが変化したもので。
そう――彼女は、魔法少女だった。

「お父様、織莉子です……失礼します」

セキュリティチェックを顔パスで通過して、辿りついたのは父である
地球連合宇宙軍参謀次官、美国久臣の執務室であった。

「……ああ、入りなさい」

輝かしい、栄光を手にしたはずの親子の会話はなぜか、冷たい。
久臣は知っていた。自分の娘が既に、人間ではなくなってしまったということに。
それでも、娘への愛は変わらないと信じていた。しかし、どうしても拭えなかった。
目の前に居る娘の身体は、魂のないただの肉の塊。その本体は指に煌く小さな指輪。
その事実が彼の心を苛んでいた。それでも表向きは、仲睦まじい親子を演じるだけの分別はあった。
それが更に、彼の心を荒ませていた。いつしか親子の会話などというものは、冷たく事務的なものに変わってしまって。

「今回はご苦労だった、織莉子。今後はどうするのだね?」

「はい、ありがとうございます。……当分は実戦に出ることはないと思います。
 これからはしばらく、いつもどおりの任務をこなすこととなるでしょう」

「そうか。話は変わるが、近々お前に勲章を授与しようという話も上がってきている。私としても鼻が高いよ」

そう言いながらも、久臣は娘に背を向ける。
向き合っているとそれだけ辛くなる。堪えられなくなる。
出世のため、自らの地位のための生贄として、娘を捧げてしまった事への自責の念も
きっとそこにはあったのだろう。

「ありがとうございます、お父様。……お母様も、喜んでくださるでしょうか」

呟いた織莉子の言葉に、久臣はぎり、と歯噛みし、目を固く伏せて身を震わせる。
自分の娘のようなナニカが、自分の娘のようなことを話すたび、堪えきれない何かを抱えた自分を自覚する。
もう、たくさんだ。

「……織莉子。もう下がっていい」

「っ……お父、様。……わかりました、失礼します」

織莉子が部屋を出て行く。その足音が遠ざかるのを確認して。
久臣は、その拳を壁に打ちつけた。その余りの勢いに、壁にかかった額が外れてがたりと落ちた。

「何故、何故私はあんな事を……っ、織莉子」

あまりにも深すぎる、Rという名が抱える闇。そこに踏み込んでしまった代償がこれなのか。
久臣は、自分がその闇と狂気に飲み込まれていくのを感じていた。
それでも戻ることは出来ない。いつか全てが飲み込まれ、自分がなくなるその日まで。
最早止まることすらできないということも、彼は理解してしまっていた。
259 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/15(火) 19:14:23.51 ID:dPdHPkpt0
父親と話すたび、織莉子の心は凍りつくように冷たくなる。
父が自分を拒むようになった原因はわかる。けれどもその理由がわからなくて。
気持ちはどんよりと沈みこむ。また母親の墓参りのことを切り出せなかった。

けれども、そんな彼女の気持ちを晴らしてくれるものが現れた。
それは、通路の端に所在無さげに立ち尽くしている少女の姿。

「あら、待っていてくれたの?キリカ」

織莉子は沈んだ顔を振り払って、柔らかい笑みを浮かべてその少女に話しかけた。

「あ……織莉子っ。うん、こっちに来るのが見えたから。私じゃここまでしか入れなかったし」

キリカと呼ばれたその少女は、織莉子の姿を見つけるとそれまで浮かべていた不安げな顔を
ぱぁぁ、と明るく輝かせて、織莉子の傍へと駆け寄った。

「くす、ありがとう。キリカ。ずっと待っていて疲れたでしょう?
 どこかに座って、お茶でも飲みましょう?」

「うんっ、行くよ。私、織莉子と一緒ならどこだって行く」

そして二人は手を取り合って歩き出す。
彼女――呉キリカもまた、魔法少女。二人は共に戦う仲間であり、友人でもあった。


約束された将来。充実した生活。そして傍には一番の友人が居る。
父のことは気がかりだが、それもいつか時が解決してくれるだろう。
最早バイドの脅威はなく、太陽系解放同盟も潰えた。戦う必要もないはずだから。
胸の奥に一抹の不安は抱えつつも、織莉子は今の生活に幸せを感じていた。


それが、脆くも崩れ去ってしまうものであると知らずに。



「本日未明、地球連合宇宙軍参謀次官、美国久臣氏が自室で亡くなっているのが発見されました。
 美国氏には銃撃を受けた痕跡があり、太陽系解放同盟によるテロ行為の可能性が高いと見られています」

そう、崩れ去っていくのだ。美しく幸せな日常は。
醜悪で辛辣な暴力は、容易くそれを消し去ってしまったのだ。
260 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/15(火) 19:15:07.70 ID:dPdHPkpt0
暗い闇の中、そこには立体映像で映された男の姿が、円卓を囲んで映されていた。

「それで、美国参謀次官の件については処理できたのかね?」

上座に映された男が、低くよく通る声で尋ねる。

「はい、問題はありません。解同の連中の仕業に仕立て上げました。根回しも済んでおります」

「よろしい。彼はもとより解同の殲滅に積極的だった。娘のこともある。
 そのことを考えても、下手人に仕立て上げるには連中はうってつけだろう」

自分たちの成果に納得するように、映し出された男たちが小さく頷く。

「そして、後は彼の娘の件だ。彼女はある意味父親以上に存在感のある女性だ。
 現場の兵士からの支持も高い。あまり捨て置くのは得策とは思えないな」

その言葉に、一人の男が小さく声を上げる。
柔和な顔立ちに紳士然とした格好の、初老の男である。

「あのー、でしたら彼女の身柄、よければ私に預けていただけませんか?」

その言葉に、男たちがざわめく。

「Mr.K。貴方が興味を示されるとは……珍しい。いや、ですが彼女の素質を考えると。
 確かに、貴方の所に預けるには相応しいかもしれませんな」

K、と呼ばれたその男性。
彼はあの狂気の科学者集団、TEAM R-TYPEの主任。
彼は既に軍の中でも大きな権限を持っており、このような秘密裏の集まりにも顔を出していた。
研究を進めることには余念がないが、政治的なことにはほとんど口を出さない。
このような集まりで発言すること事態、滅多に無いことではあった。

「ええ、彼女の素質はとても素晴らしい。魔法少女というのも、それはそれで素晴らしい。
 私のチームの若者たちが、その新たな可能性を見出したようで、出来れば彼女にはそれに協力して欲しいのです」

その声色は穏やかで、TEAM R-TYPEに属するものには必ず見て取れる
何らかの狂気は、まるで感じられはしない。それが逆に底冷えのする恐ろしさを醸し出している。

「……私は、構わないと思うが。優秀なパイロットとして出向、という形ならば兵士たちからも不平は出にくいだろう」

「私も賛成だ。最悪試験機にでも乗せておけばいいだろう」

彼らの言葉には、言外に織莉子の死を望む意図が見え隠れしている。
政敵の暗殺、そしてその後始末。今も昔もどこの世でも、変わらず行われている政争の一幕であった。
261 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/15(火) 19:15:55.30 ID:dPdHPkpt0
「はぁ、はっ、はっ……はぁっ」

キリカは走っていた。気がついたら走り出していた。
織莉子の父の悲報を聞いて、すぐに。

「織莉子、織莉子……織莉子、織莉子織莉子織莉子っ!」

きっと悲しんでいるはずだ。もしかしたら泣いているかもしれない。
放ってなんておけない。おけるはずがない。行って助けなくては。
そうでなければ、何が友達か。

息を切らせてキリカは走る。
そして、織莉子の部屋へと辿りついた。

「織莉子っ!開けて!私……キリカだよっ!開けて……っ」

扉を叩いて呼びかける。さほど間を置かずに織莉子の部屋の扉は開いて。

「キリカ……どう、したの?」

キリカを出迎えた織莉子の表情は青ざめていて、目は大きく見開かれたままで。
あまりにも痛々しいその姿を見るに堪えかねて、キリカは織莉子を抱きしめた。

「ニュースを見て、それで心配になって……駆けつけた。こんな姿の織莉子、放っておけないよ」

抱きしめたその身体はやはり冷え切っていた。
そんな織莉子を暖めるように、織莉子まで冷え切ってしまわないように。
キリカは強く強く織莉子を抱きしめた。

「キリカ……ありがとう。私、私……っ、う、ぅぅ……っ」

キリカの肩に顔を埋めて、声を殺して咽び泣く。
そんな織莉子が泣き疲れて眠るまで、そして眠って夜が明けても
ずっとキリカは、織莉子を抱きしめたままだった。


一度崩れてしまった日常は、平穏は容易く戻りはしない。
友人の支えで、どうにか心の平静を保っていた織莉子の元に、更なる絶望への誘いが訪れる。
それは、TEAM R-TYPE付きの試験小隊への配属だった。
262 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/15(火) 19:16:48.04 ID:dPdHPkpt0
「行っちゃ駄目だ、織莉子。………嫌だよ、行かないでよ」

転属の前日。荷物はもう全て運んでしまったがらんとした部屋の中。
キリカは最後の望みをかけて、織莉子に詰め寄っていた。

「……それでも、行かなければならないわ。そういう命令なのだから。
 それに、もうなんだかどうでもよくなってしまったの」

それに対して、織莉子は全てを諦めたような冷たい瞳でキリカを見据えていた。
その表情は笑んでいるけれど、その奥には感情らしきものは一切見られない。
きっと織莉子は、全て凍りついてしまったのだ。
あまりにも悲しいことが多すぎて、辛いことが多すぎて。自分の心を凍りつかせて
何も感じないようにする以外、逃れる術がなかったのだろう。

「そんな……嫌だっ!嫌だ嫌だ嫌だイヤだっ!!織莉子が死んじゃう!
 あんなところに行ったら、織莉子……死んじゃうよぉっ!」

泣きながら織莉子に縋り、必死に引き止めるキリカ。
織莉子はそんな姿にほんの僅かでも心を揺らされたのか、少しだけ彼女本来の笑みを浮かべて
キリカの頭を優しく撫でた。

「ありがとうキリカ。私は、貴女に会えて良かった。貴女が居なければ、私はとっくに壊れていたでしょうね。
 ずっと一緒にいられたら、きっと幸せだったのでしょうけれど」

「ひぐ……えぐっ。やぁ、やだよぉ、おりこぉ……」

「こんなものしか貴女に残して行けないけれど、どうか……これを私だと思って」

キリカの頭を撫でながら、一つだけ残した小さな包みを手渡して。
そして、織莉子は立ち上がる。

「本当にありがとう。キリカ。……さようなら」

別れの言葉を告げたその表情には、最早感情といえるものはなく。
織莉子は、静かに狂気の地への歩を進めていくのであった。




そして、響き渡る慟哭。
263 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/15(火) 19:17:43.92 ID:dPdHPkpt0
「喜んでください皆さん。本日、新しい魔法少女が、私たちの元に訪れます」

Kが、彼のチームの仲間達に告げる。
そこはTEAM R-TYPEの研究所。その中でも最高の機密レベルをもつ区画。
最早人知の及ぶ場所ではない。その最奥で。

「彼女の力を借りて、今度こそ新たな可能性を実現させましょう」

その狂気の最中にあって、Kの声は似合わぬほどに穏やかに響いていた。

「私たちの夢のため。ひいては、人類と宇宙の未来のためにです」

そしてそこに集った狂気の科学者たちは、彼の演説に狂喜の声をあげた。


「主任、一つお耳に入れたいことがあるのですが」

「ええ、いいですとも。是非聞かせてください」

皆が歓喜に沸く中、一人の研究員がKに話しかけてきた。

「実は私のチームで、サイバーコネクトの新たな活用法を見出しました。
 そのテストヘッドとして、一組の魔法少女が必要なのですが……」

「なるほど、それは素晴らしいことです。是非データを見せてください」

「はい、ここに」

小型のモニターに流れるように映し出される情報の羅列。
一見するだけでは内容などさっぱり理解できないようなそれを、Kは瞬時に理解して。

「素晴らしい!君の技術は、間違いなく人類に新たな可能性をもたらしてくれるでしょう!」

感極まったように震え、その研究員を抱きしめるK。
研究員の肩口を、その手で深く抱きしめるようにして。

「ああ、すいません。ついいつもの癖が出てしまいました。それで魔法少女の件でしたね。
 いいですとも、私の方で心当たりをあたって見ましょう」

「ありがとうございます、主任」


それからの日々は、キリカにとって暗黒だった。
織莉子という太陽のない、一片の光も差さぬ日々。
息絶えればその暗闇からも逃れられるのだろうかと、一心不乱に戦いに明け暮れた。
それが彼女の素質を目覚めさせることとなる。
そしてそれは、狂気の科学者たちの目に留まることとなる。

「美国織莉子に、会いたくはないかね?」

あるとき、キリカの元を訪れた男はそう告げた。

「おり……こ?」

一瞬、その言葉の意味が理解できずに呆然とする。
しかしすぐに、キリカの頭でその言葉が形のあるものとして成り立って。

「会えるのか、織莉子に!?」

「君が望めば、すぐにでも会える」

男の言葉に、キリカは二つ返事で答えていた。

「勿論、望むとも」

そしてキリカは、織莉子と同じく狂気の地へと道を往く。
264 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/15(火) 19:18:36.15 ID:dPdHPkpt0
「やあ君、例の件の経過はどうなっているかな」

「主任。ええ、素晴らしい経過ですよ。あの二人は実に素晴らしい」

再び狂気の中心地、狂気の住人同士が言葉を交わす。

「パイロットとしての腕もさることながら、あの二人は調整を施さなくとも重度の共依存状態にあります。
 まさに、サイバーリンクシステムのテストヘッドとしては理想的な固体ですよ」

「あぁ、それは素晴らしいことです。では私からも一つ、お願いしてもいいでしょうか?」

「なんでしょうか?」

「ええ、実は私たちの研究も大詰めを迎えました。いよいよ魔法少女を新たなステージに引き上げることができる。
 その第一号として、あの二人に協力してもらいたいのです」

Kはとても嬉しそうに、その柔和な顔を更に柔らかにほころばせて言う。

「そういうことでしたらお任せください、同時に処置を行いましょう」

「ええ、よろしくお願いしますね」



「織莉子はここに居る。確かに見かけた。でもまだ会えない。会えてない。
 ……会いたい、織莉子。織莉子……」

宛がわれた自室、明かりの一つもない漆黒の部屋の中にキリカは居た。

「……溢れてしまうんだ、止まらないんだ。会いたい気持ちが。
 織莉子に会いたい、織莉子と話がしたい。織莉子に触れたい……あぁ、織莉子」

がくがくと触れる身体を抱きしめて、溢れ出そうな何かを必死に押さえつけている。
その時、不意に扉が開かれた。

「相変わらず暗い部屋だ。キリカ、いい知らせがあるぞ」

「……何だ?」

「織莉子に会えるぞ、これからある処置を受けたらな」

「本当か、それは」

ぎろりと闇の中で光っていたのは、眼。
見開かれたキリカの瞳が、射抜くような視線を送り続けていた。

「ああ、約束しよう」
265 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/15(火) 19:21:36.23 ID:dPdHPkpt0

「ではこれより、美国織莉子及び呉キリカへのサイバーリンク埋め込み術、及びN式固定術を施行する」

そして、狂気の科学者による悪夢の実験は始まった。
全身の感覚を奪われてもわかる、頭蓋を割かれ、脳の中身を弄られる感触。
そして何より強く感じる、魂を攪拌され、どろどろとした何かを注がれていくような感覚。
とてもイヤだ。全身に感じる掻痒感。魂さえも掻き毟りたいほどに疼いている。
そしてそんな感覚さえも意識から遠ざかっていき
気がつけば、いしキが、キエ―――――。






「織莉子?」

キリカは目覚めた。真っ白な部屋の中、真っ白な服を着て。

「居ない、織莉子」

胸にはぽっかりと穴が空いたような喪失感。
まるで、自分そのものを失ってしまったかのような。

「どこ、織莉子、織莉子」

身体が上手く動かなくて、それでも必死に織莉子を探す。
手探りで、あちこちを這い回る。

「いない、居ない。いないぞ、織莉子、織莉子織莉子織莉子」

その手が、何かに触れた。

「ぁ……」

その手に触れたのは、別離の際におりこがくれたもの。
小さな、動物のぬいぐるみ。ここまで大切に持ってきたのだ。

「見つけた、織莉子」

それはキリカにとって、唯一織莉子を思い出させるものだった。
そしてそれを握った瞬間、弾けた。

織莉子と過ごした日々の記憶が、織莉子を抱きしめたときの柔らかさが。
耳に心地よい織莉子の声が、織莉子と飲んだ紅茶の味が。
記憶も意識も全てが織莉子で埋め尽くされて、キリカは気付いてしまった。

それが、恋だということに。
266 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/15(火) 19:22:46.44 ID:dPdHPkpt0
「うあぁっ!あぁぁっ!!あぁぁぁぁぁーっ!!!織莉子、愛してるっ!きみに夢中だーっ!!織莉子ぉぉぉぉっ!!!

蟠り続けた感情は、出口を見つけて迸る。
澱みなく迸るその感情の圧倒的なエネルギーは、彼女の新たな力を引き出した。

「会いに行くよ、織莉子。今からきみのところに行く」

その手に黒い爪を携え、キリカは部屋のドアを切り裂いた。



施設中に鳴り響くアラート。それは最大の危機よりワンランク下の危機的状況であることを示していた。

「何だ、何が起こった!?」

「被験体Bが部屋を破壊し脱走!その後も施設を破壊しながら逃走中!現在警備隊が交戦中です!」

「早速暴走か……とにかく早急に鎮圧したまえ。ただし殺すな、麻酔弾を使え」



立ち塞がるものを、全てその爪で切り裂きながらキリカは進む。

「ははは、あはははははッ!止められない、止まるわけがない!私の愛は止まらないっ!!」

しかし、その行く手を阻む武装した警備兵たち。
これだけの重要施設を守るのだ、彼らは正規の軍人以上の錬度を持っていた。

「そこで止まれ!それ以上施設を破壊するつもりなら我々は発砲も辞さない」

その姿を睨みつけ、にぃと口元を歪めてゆっくり首を廻らせ、キリカは。

「ああ、好きにすればいい。撃ちたければ撃て。殺したければ殺せばいい。
 でもね、キミたちには無理だ。誰にも出来ない。私と織莉子を離すことだけは!」

高らかに、誇らしげにそう言い放つ。

「……撃て、捕獲しろ」

言葉と同時に、無数の麻酔弾が撃ち放たれた。
しかし、それは一発として当たらない。

「これだ!わかった!愛に理由なんて要らない!考える必要さえもないっ!愛は無敵だっ!愛は――全てを凌駕する」

時間遅延という、自分の力の本質をキリカは理解した。
晴れ晴れとした顔で次々に迫る麻酔弾をすり抜け、迫る。

「当たらないだと……これが次世代魔法少女の、“魔法”の力だとでも言うのかっ!」

警備兵たちにも緊張が走る。
未知の相手との遭遇。それはまるで、新種のバイドに退治したときのそれにも似て。

「へえ、この力は魔法だったんだ。……教えてくれてありがとう。キミは案外、いい奴なのかもね」

「茶化すな、餓鬼がっ!!」

銃声と何かが切り裂かれるような音、そして小規模な爆発音が立て続けに響く。
それが納まると、白かったキリカの服は真っ赤な血の色に染まっていた。

「さあ、織莉子に会いに行こう。……どこかな、織莉子」
267 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/15(火) 19:25:02.63 ID:dPdHPkpt0
「警備兵、全滅です。……は、早く応援を呼ばないとっ!」

恐るべきその力に、彼らの中にも戦慄が走る。
しかしそれは、恐怖の類ではなく。己が生み出した力の大きさに喜び、打ち震えるものだった。

「素晴らしい!これは実に素晴らしい力だ!生身のままでもあれだけの戦闘力
 あれをR戦闘機に転用できれば、どれだけ強力な力となる……がぺっ?」

狂喜と歓喜に打ち震えていた男の、口から上が吹き飛んでいた。
飛び散る血飛沫に脳漿、そしてそれ以外のナニカ。その凶弾の先を見据えると。



―sanctions charge―
「制  裁  突  撃」



氷の微笑を張り付かせ、大型の銃を抱えるようにして持つ織莉子の姿があった。

「被験体W……どうしてここに、どうやって監視を抜け…ぎゃっ!」

狙いをよく定めて、発砲。

「まさかこれが、被験体Wの能力だと…ぐぶ」

続けて狙いを定めて、発砲。

「ま、まずい……た、退避を……」

もういちいち狙いを定める必要もない。
フルオートで銃弾をばら撒いた。バイドすらも研究する彼らとて
その身体はただの人間。撃ち抜かれれば息絶える。

「許さない。……貴方たちはキリカを巻き込んだ。絶対に、許さない」

その服が真っ赤に濡れても、顔面に血潮を被ってもその表情は何一つ変わらない。
ただただ冷たい微笑を浮かべて、残酷な女神のようにひたすらに、ひたむきに死をばら撒き続けた。

そして誰一人、何一つ動くもののなくなったその部屋に、一面の赤で染められたその部屋に
ついに、キリカが辿りついた。

「………………」

何も言わず、声もなく駆け寄る二人。
どちらも身体中が赤いナニカで汚れきっていたが、それでも固く抱き合って。

「やっと出会えた。やっと触れられた。織莉子。私はもう、きみを離さない」

「ええ、ずっと捉まえていて。キリカ。もう絶対に離さない、離れないわ」

抱きしめあい、再開を喜び合い。そのまま口づけを交わす。
鉄の味しかしないそれは、それでも甘く切なく胸を焼いた。



12時間後、脱出した研究員によって要請された部隊がその施設を訪れたとき。
そこには血と死肉のベッドの上で、一糸纏わぬ姿で眠る二人の姿があった。
赤く汚れたその顔は、幸せそうに微笑んでいたのだという。
268 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/15(火) 19:26:05.92 ID:dPdHPkpt0
12時間後、脱出した研究員によって要請された部隊がその施設を訪れたとき。
そこには血と死肉のベッドの上で、一糸纏わぬ姿で眠る二人の姿があった。
赤く汚れたその顔は、幸せそうに微笑んでいたのだという。

この事件で、多くの貴重な頭脳が失われた。
これにより、R戦闘機の開発にどれだけの遅延が出るのだろうか。
それでも、そんな痛ましい事件さえも飲み込んで、彼らの狂気は進化を続けていく。
施設に残されたデータから、次世代魔法少女のことを知り。
二人を秘密裏に回収、入念な調整を施して、ついに二人を兵器として従えることに成功した。

「今日はキミたち二人での初めての作戦となる。その内容は……古い魔法少女の粛清だ。
 キミたちならば難なくやってのけるはずだ。しっかりやってくれたまえ」



「ああ、私たちが負けるはずがない。そうだろう、織莉子」

「ええ、私と貴女が負けることなんて、ありえる筈がないわ。キリカ」

「じゃあ、行こう」

「ええ、一緒に行きましょう」

「「ずっと、ずっと一緒に」」


――そうして、魔法少女たちは出会った。
269 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/15(火) 19:32:15.28 ID:dPdHPkpt0
おっとと、最後の最後で一部文が被ってましたね。
さて、ついうっかり思いついて3時間くらいでばーっと書いたお話はこれで終了です。
今回のお話はかなりスムーズに頭の中から流れ出てきました。
やっぱりキボウのお陰だと思います。

とりあえず今回はモブが沢山出るし、名前つきは少ないしで
試験的に台本形式を取りやめてみました。読みにくいところなどあれば教えていただければ幸いかと。

>>252
まあお話とか開発時期の都合上、もしかしたら別の子が迎えにいくことになるのかもしれませんけどね。
果たしてあの子は一体誰なのでしょう、迷子のわんちゃんを連れ戻すことはできるのでしょうか。

>>253
あまりプレイ経験はありませんが、リプレイは大分読んでました。
蟹光線といえばやはり井伏鱒二ですね。

>>254
あの二人は気がついたら原作よりもいい感じの関係になっていました。
多分ほむらといろいろやり合わせたせいだと思います。
つんつんばっかりしてたらさやかちゃんも可哀想ですし。

次のお話はもう少しお待ちください、今日は書きたくなって書いちゃったので。
270 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/15(火) 20:09:28.08 ID:zzgJPvnz0
エンジェルパックと比較すると魂を抜くのが人道的に思えてきますね。
エンジェルパックも「戦闘機型サイボーグ」と思ってしまえば非人道的には感じない気もしますけど。
271 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/15(火) 22:16:47.84 ID:9v+yO+ADO
番外編感謝です!
あのペアには、こんないきさつがあったんですね…。しかも自力で能力を得るなんて、凄まじい魂力だ。
272 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/11/16(水) 00:12:48.99 ID:BlLwVZQX0
書き上げてみると、後から後からこうしておけばよかったという思いが出てきます。
書きたいシチュエーションを先に考えてから、そこにどうにかこうにかもって行く
そんな書き方をしていると、やっぱり途中で詰まることもありますね。

今日は夜の投下はちょっと無理なようでした。お返事だけ返していきますね。

>>270
実際人道的だと思います。インキュベーターに人の道を説くのもどうかと思いますが。
エンジェルパックは、バイドを倒した後に帰還することを考えているとはとても思えないコンセプトですし。
一度あんな風にパッケージングされたら、もう普通の生活すらできるような気がしません。
流石に義体みたいなものは……まだなさそうですし。

>>271
いつも感想ありがとうございます。
これは完全に描写不足のせいではありますが、TEAM R-TYPEに施された処置により
彼女たちは魔法を使える魔法少女にさせられていました。
ただ目覚めたばかりでいきなり力を使いこなせたのは、彼女たちの素質があったのだと思います。

割とキリカ重視のお話でしたが、ちゃんと織莉子の話も書いておくべきだったかな
なんて今更ながらに考えています。
多分、彼女たちにはまだ出番があると思います。


ちょっと頑張りすぎましたが、今回の話もある意味幕間のようなものでしょうか。
引き続き幕間のネタ自体は募集してます。たとえば日常パートのネタとか
地球に帰還できた後のネタとかでもよいので、気になるものがあれば一声ください。
多分それが私のエネルギーになります。
273 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/16(水) 17:49:37.28 ID:RVNiUE6DO
魔法の取得は弄られてからでしたか、やっちゃったなー。

ほむらちゃんは今何してるのかな…多分いつまでも気落ちしてはいないだろうから、料理とか作ってさやかの帰りを待ってたりするのかな?

日常編には、最近の寒さから思い付いた鍋パーティーなんてどうですか?ただし闇鍋にするなら覚悟が必要。
274 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/11/17(木) 02:14:14.00 ID:pYNtJtt20
色々考えましたが、これからは台本形式は廃して物語を綴って行きたいと思います。
今日は短いですが、少しだけ投下していきます。

275 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/17(木) 02:15:11.86 ID:pYNtJtt20
彼女――佐倉杏子は、どこにでも居る普通の女の子だった。
豊かではなく、だが決して貧しているわけでもない。
慎ましく穏やかな母と、厳格だが優しい父と、そして可愛い妹と共に、何不自由なく過ごしていた。

彼女が生まれた時代には、既に人類はバイドの存在を確認していた。
だがそれは遠い星の海の向こうの話で、それを現実的な脅威として捉えていた人間など
軍や研究施設の一部の人間だけで、ほとんどの人間は今の平和がずっと続くものだと考えていた。

人類がそれを脅威として認識したのは、2163年。
バイドに対して放たれた最初の矢、第1次バイドミッションの最中。
バイドによって占拠されたコロニー、エバー・グリーンが南太平洋に墜落したことがきっかけだった。

その被害は甚大で、多くの島が、国が沈み、数え切れないほどのの命が水底へと潰えた。
そして彼女の全ても……また。
276 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/17(木) 02:15:55.39 ID:pYNtJtt20
「……酷いな、これは」

まだ歳若い軍人然とした格好のその男性は、目の前に広がる惨状に思わず声を漏らした。
エバーグリーンの墜落により生じた津波が全てを飲み込んで行った後。
倒され、崩れ、流されて、ありとあらゆるものが大地に散らばる、まさに地獄絵図。
一体この廃墟の下にどれだけの命が沈んでいるのか、それを考えるだけで気分が悪くなる。

「これが、バイドの脅威だというのか」

そこは、小さな輸送艦のブリッジ。
同じように外を眺める艦内の者達もみな、その凄惨な光景を目の当たりにしていた。
ある者はその被害の大きさに絶句し。またある者はバイドへの憎悪に燃えた。

「艦長、やはりこの様子では、生存者の存在は絶望的かと……」

隣に控える副官が、沈痛な面持ちで男に告げた。
男は苦々しく顔を顰め、それでも迷いを振り切って。

「それでも、探すんだ。それが我々のやるべきことだ」

この時人類は、バイドとの最初の大規模戦闘である第1次バイドミッションのため
その戦力の大部分を宇宙へと向けていた。その隙を縫う形でのこの事件であった。
被災者の救出にまわす人員さえも地球にはろくに残されていない。
彼らは丁度この時、大気圏内での輸送任務からの帰路についていた。
そして事件に直面し、居ても立ってもいられずに駆けつけたのだった。
少しでも被災者を救出するために。たとえ一人でも、助けるために。

「各員は作業艇に乗り込み、生存者の発見と救出に向かってくれ。
 もしかしたら、まだ誰か生きているかもしれない。……頼む」

艦内放送で呼びかける男の声も、やはり深く沈んだもので。
それでも艦内の者達は皆、命令に従い作業艇へと乗り込んでいく。
見つかるはずなどないとは、誰もいえなかった。
皆が皆、一握りでもいいからと、希望を求めていた。
277 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/17(木) 02:16:34.23 ID:pYNtJtt20
「こちらD-3ブロック、生存者の姿は確認できない。引き続きD-6ブロックの捜索に移る」

都市部の捜索が始まって、既に5時間が経過していた。
誰の声にも疲労の色が濃い。これ以上続ければ、こちらの身も精神ももたなくなる。

「艦長、これ以上はやはり……」

付き従う副官が、あくまでも冷静な意見を告げる。
それが自分の仕事だとわかっているから。例え辛くとも、誰かが言わなければならないことを知っているから。

「わかっている。だが、もう少しだ。もう少しだけ……頼むよ」

副官は、士官学校からの同期であり、友人でもあるこの男のこの言葉に弱かった。
不思議と人を惹きつける、自分にはない魅力を持ったこの男がである。
その魅力を最も発揮するのが、人に何かを頼むときだった。

副官は10秒ほど沈思して、顔を上げ。

「後30分だ。それ以上は伸ばせないぞ。ロス」

軍人ではなく、友人としての言葉に男こと若き新米司令官――ジェイド・ロスは、その言葉に顔を上げ、目を見開いて。

「すまないアーサー。……では捜索に戻ろう」

彼もまた、自ら作業艇を率いて都市部の捜索に赴いていたのだ。
その顔は疲労と絶望で歪んでいる。副官ことアーサーは、それが何より心配だったのだ。
278 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/17(木) 02:17:02.94 ID:pYNtJtt20
時は無情に過ぎ行く。
生存者は今のところ見つかっていない。そして時の針は無情に半円を描こうとしたその時。

「生命反応だ!かなり弱いが……この瓦礫の下だっ!」

生命反応を示すモニターの画面を食い入るように見つめていたロスが、声を張り合げ叫ぶ。
その声は、別のモニターを見つめていたアーサーの耳に届く。彼の行動は早かった。

「全作業艇に告ぐ。H-2ブロックにて生命反応あり。救助したいが手が足りない。
 周囲の作業艇は、至急H-2ブロックに集まれ」

作業艇が、そのアームで瓦礫をどかしていく。
内部の生命反応をスキャンしつつ、別の作業艇が瓦礫内部の圧力が増さないように支えている。
既にその場所では、作業艇以外にも複数の人間が各々の役目を果たすため走り回っていた。
そして彼らの働きにより、ようやく全ての瓦礫が撤去される。

誰よりも早く、その中へと駆けて行くロス。慌ててそれを追う部下たちがそこで見たものは。
押しつぶされた建物の中で、最早肉塊としか呼べないほどに損壊した、男女の姿。
そしてそれに守られるように抱きしめられていた、一人の少女。
その少女も損傷は激しく、今にも途切れそうに苦しげな吐息を漏らしていた。

「救護班!救護班ーッ!!」



――それが、佐倉杏子とジェイド・ロス。二人の出会いだった。
279 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/17(木) 02:19:08.31 ID:pYNtJtt20
ひとまずここまで、ということで。
英雄と少女のお話は、もうしばらく続きます。

>>273
ほむらちゃんはほむらちゃんで、あることを確かめようとしているようです。

鍋、この寒い時期にはいいですねー。
いずれ地球に戻れた折には、もしくはティー・パーティーでやってみるのもいいでしょう。
闇鍋になると、多分どっかのアイレムバーガーとかが協賛になる気がしますが。
280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/17(木) 05:21:49.93 ID:YtE3vhCDO
お疲れ様!ロス提督格好良いなぁ。短くても、ちょっとウルッときました。

アイレムバーガーなんて入れちゃったら、闇鍋所じゃないディスパイア鍋だかキボウ鍋だかになっちゃうww
281 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/11/18(金) 01:13:52.50 ID:UDKoOSSJ0
気がついたらRともまどマギとも言いがたいところに話が流れていきました。
杏子ちゃんの過去はもう少しだけお待ちください。今日も少しですが投下します。
282 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/18(金) 01:15:20.25 ID:UDKoOSSJ0

「あの事故が、全ての始まりだったんだ」

時折小規模な爆発音が響いてくる。
それをバックに、佐倉杏子は語っていた。
自らの過去、戦う理由。生き急ぐその訳を。

「そんなことが……あったなんて。
 じゃああんたは、その時の復讐のために戦ってるってこと?」

若干暗い声色で、さやかが問いかける。

「まあ……概ね間違っちゃいないよ。でも、あたしがバイドとやりあおうって思ったのは
 その時じゃなかった、もうちょっと先の話になるよ」

一度静かに息を吸い込んで、再び杏子は話を続けた。
283 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/18(金) 01:16:07.09 ID:UDKoOSSJ0
佐倉杏子がジェイド・ロスの手によって救い出されてより、二月。
ほぼ全ての部位に致命的な損傷を負っていた杏子の体は、そのほとんどを生体義肢で補うことが余儀なくされた。
技術自体は確立している、間違いなく杏子の体は元の通りに治る……はずであった。

「それは一体、どういうことなんです?」

ロスは、目の前の白衣の男に問いかけた。
杏子には他に身寄りがない。病院に預けることが出来たはいいが、その後のことがどうにも気がかりで。
彼はこうして、軍務の合間を縫って面会に訪れていた。
それを見止めた医者が、彼に話しかけたのだ。

「彼女の体は、そのほとんどが生体義肢によって補われています。
 手術自体は問題なく成功しましたが、どうやら問題は彼女の精神にあるようなのです」

医者は手元の資料を見つめながら、沈痛な面持ちで言葉を続ける。

「本来生体義肢は、術式終了後すぐに神経系が再結合を始めるのです。
 そして、一ヶ月程度で元の体と同じように動かせるようになる。しかし彼女は
 もう二ヶ月が経過したというのに、いまだに神経系に不調が見られています」

話の意図がいまいち読めない。ただそれが、杏子にとってよいことではないのだろう。
それだけは、彼にも理解できた。

「体を動かすことが出来ないどころか、臓器の働きにも異常が見られている。
 我々も必死のサポートを続けていますが……このままでは」

「遠からず死に至る……と」

「ええ、原因が彼女自身にある以上、これ以上は我々にもどうにも……」

そして互いに押し黙る。
それでも、ロスは考える。何故この医者はそんなことを聞かせるのだろうか。
多少面識があるといっても、所詮自分は彼女にとって他人である。
そんな他人に、わざわざ絶望的な状況を報せる訳は。

「……それで、私は何をしたら?」

「っ?ああ……そうですね。そのお話をしようと思っていたのでした。
 彼女の問題は、彼女の精神にあります。彼女に生きる意志が見られない、生きようとしていない。
 それが、神経系の再結合に重大な障害を与える原因になっている」

「そんなことで、それだけの影響が出ていると?」

俄かには信じられないが、それでもある程度の説得力はある。

「精神医療も、ここ数十年で飛躍的な進歩を遂げました。
 単に優れた技術だけでは人は救えない。それが、我々の結論でした」

医者の男は資料から視線を外し、ロスを真っ直ぐ見据えて告げた。

「彼女は、貴方にだけは心を開いているようだ。どうか彼女を救ってくれませんか。
 彼女に生きる意志を、取り戻してあげてはもらえませんか」

「……少し、考える時間をもらっても?」

「出来ればすぐにでも。彼女の状態は、見た目以上に深刻です」
284 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/18(金) 01:16:57.70 ID:UDKoOSSJ0
輸送艦の司令室。ジェイド・ロスは考えていた。
実際問題、杏子の下へ足繁く通うような余裕はない。
第1次バイドミッションは成功に終わったが、それでも尚バイドの脅威は健在。
やるべきことは山ほどもあった。
一人の少女のためと、全人類のため。秤にかけるまでもないことは明白。だが、しかし。

「――、艦長。艦長っ……おい、ロスっ!聞こえているのかっ!」

声に気付いてはっとする。顔を上げれば、そこには副官であり友の姿が。

「ああ、すまないアーサー。少し考え事をしていたよ」

「また考え事か。……何かと物事を考え込むのは、お前のよくない癖だ」

それは暗に、色々考え込むのは自分に任せておけばいいと言っているようで。
そんなアーサーを、ロスは頼りにしていたし信頼もしていた。
……いっそのこと、本当に任せてしまおうか。

「実はな、アーサー。ちょっと悩んでいることがあってな」

そうと決まれば後は早い。この思案の種を打ち明けた。
話が進むにつれて、アーサーの顔が苦しげに歪んでいって、終いには呆れたような顔へと変わる。

「つまり何だ、お前はあの時の女の子を助けたいと言う訳だ。
 ああわかった、よくわかったからもう一回お前の肩書きを言ってみろ」

「地球連合宇宙軍、ジェイド・ロス少佐だ」

澱みなく、迷いなくそう言ってのける。

「そう、曲がりなりにも左官だ。俺達皆を指揮、統率する必要がある。
 お前がいなけりゃこの船は動かん。……わからんわけでもないだろ」

そんな事は百も承知。どう考えたって無理なのはわかっている。
だからこそあえて打ち明けているのだ。
最早それは、開き直りとも言えるような体である。

「だが、助けたいんだ」

「無茶を言うなこのバカっ!」

すぱん、とやけにいい音がした。平手を一発頭にもらったようだ。
285 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/18(金) 01:17:49.06 ID:UDKoOSSJ0
「……なんだってあんな子供に拘る。気持ちはわからないでもないが。
 だからって、軍人としての地位と責務を秤にかけることじゃないだろ」

「わかっているさ、そんなこと。だけど……あの子は私にとっては大事な証拠なんだよ。
 バイドが起こした大破壊。それにたった一つの命でも、私たちが抗うことが出来たという、ね」

アーサーの顔が僅かに歪む。
杏子を救いえたその時は、その場に駆けつけた誰もが祈り、喜んだ。
それは確かに、あの大破壊に対してほんの僅かでも抗いえた。その象徴とも言えた。

「それに、そこまでして助けた命だというのにだ。あの子はそれを自分で捨てようとしている。
 ……ちょっとばかり、それは許せないと思わないか?」

「あぁ、それは……」

呆れたように、諦めたように力の抜けた笑みを漏らすアーサー。
気付けばロスも、同じような表情を浮かべていて。

「「許せない、な(だろ?)」」

同時に声が重なって、それからなにやらおかしくなって。
大の男が司令室の中、声を殺して笑い転げた。

「わかったわかった、じゃあちょっと怪我でもして、軽く半月くらい入院してこい。
 船の連中は、俺の方から説明しといてやるよ」

「いつも世話をかけるな、アーサー」

「いいからさっさと支度しろ。本当に腕の一本くらい折るぞ」

どうやらこれから先の面倒を考え始めたらしい。
普段は随分理性的で落ち着いた雰囲気のアーサーも、抱え込んだ厄介事にやられているようだ。

「じゃあ、行ってくる」

そうして、歳若き司令官は己が職務をほっぽりだして
一路、杏子の下へと向かうのであった。
286 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/18(金) 01:18:36.34 ID:UDKoOSSJ0
暗い部屋の中、モニターには赤々と光るRの文字。
その画面に向かって話している男。それはロスに杏子の状況を説明した、あの医者で。

「……はい、確かに彼は佐倉杏子の元に向かいました」

「そうかそうか、これで彼女が立ち直ってくれれば言うことはないのだがね」

モニターから返ってくるのは、しわがれた男の声。

「しかし、何故このようなことを?あんな子供一人、放っておいてもよさそうなものですが」

「君がそれを知る必要はない、が。……後輩の知的好奇心を満たしてやるのも先達の役目。
 いいとも、教えてあげよう。あの子供には素質があるのだそうだ。我々の研究に必要な
 ……なんと言ったかな。魔法少女、とか言うらしい」

いきなりかつての恩師に頼まれ、なんとしても佐倉杏子を回復させて欲しいと頼まれた。
無茶な願いだが断りきれず、ひとまずあたってみたあの男はこちらの目論見どおりに動いてくれた。
とはいえ、その結果がこれである。

(ついに耄碌したのか……この爺さんは)

この時代でも、痴呆につける薬はない。
恩の一つも売れるかと思ったが、あてが外れたな……とその男は内心で考えていた。

「まあ、どうなるかはわかりませんが。回復の兆しが見えたら連絡しますよ、先生」

投げやりにそう言って、男は通信を打ち切った。
287 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/18(金) 01:22:52.48 ID:UDKoOSSJ0
投下量が少ないのは単純に時間がないからなのです。
決してやる気がないわけではありません。これはこれで書いてて楽しいものです。

>>280
そして今度はロス提督がちょっとコミカルになってしまいました。
TAC見てる分だと、あんまり人柄が透けてこないのが悩みの種で。
結局自分の好きな艦長キャラが色々混ざってしまっています。

ではふぉーす入り水饅頭あいれ夢とか、絶体絶命カレー鍋とかにしましょうか。
それならまだ救いは……救いはあるんですよねー、やったー!
288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/18(金) 01:58:44.69 ID:W451NYJDO
押ッス!お疲れ様です!
ロス提督は人情派な人なんだな〜とは思ったけど、個人的にはそんなにコミカルには思わなかったかな。

しかしそんなヤバイ食べ物シリーズで喜べるなんて、>>1さん流石っすww
289 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/11/18(金) 20:39:58.31 ID:UDKoOSSJ0
正直この辺りは、書いてて誰得なんだろうと思いました。
提得なので別に問題はありませんでした。

では今日も投下です。
290 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/18(金) 20:41:13.65 ID:UDKoOSSJ0
殺風景な部屋、たった一人の病室の中で、呆然と真っ白な壁を見つめる少女。
腕には何本も点滴が繋がれ、それでもなお顔色は悪い。
まるで魂がどこかに抜けていってしまったかのように、虚ろに佇んでいる。
彼女――佐倉杏子は、あの痛ましい事故から二ヶ月が過ぎた今でも
一歩として、ベッドの外へ出ることはなかった。

(どうして、あたしは生きているんだろう)

眠れない夜はいつも思う。誰も何も教えてくれない。
気を遣っているのはわかっていた。聞けばきっとショックを受ける、と。
……それが逆に辛い。わかっているのだ。何かとても大変なことが起きた。
きっとそれに巻き込まれて、大切な家族も、それまでの生活もすべてが消え去ったのだと。

(なのにどうして、あたしだけが生き残ってしまったんだろう)

生き残ってしまったからには、生きようとしなくてはならない。
わかっているのに体は動かない。動いてくれない。……動きたくない。
回りの優しい勘違いを訂正する気にもなれずに、ただ毎日を無為に過ごしていた。

(そろそろ、いつもの看護師が来る時間だ)

誰もが優しい言葉を、気遣いを見せてくれる。
けれど、本当のことは何も教えてくれない。待っているのだろうか。
時間が自分の傷を癒して、真実に耐えうるようになる日を。
……だとしたら、それはひどく残酷なことだ。

扉が開く音、陰鬱な気分でそちらに振り向くと、そこにいたのは。
いつもの看護師の姿――ではなく、頭に包帯を巻きつけた男の姿だった。
291 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/18(金) 20:41:58.03 ID:UDKoOSSJ0
「やあ、お邪魔するよ」

それは、杏子が消え行く意識の中で見たもの。
死と瓦礫に塗れていた自分を、掬い上げた男の姿だった。

「………ぐんじん、さん」

声を出そうとして、喉がかすれて出なくって。
やっとのことで話した声は、か細く弱々しいものだった。


(まさか、ここまで衰えているとは……)

ロスは絶句していた。だがそれを決して表情に出さない程度の理性はあった。
驚いたような顔は真っ白にやつれて、血の気が一切感じられない。
何度か失敗してからようやく出たその声は、あまりにも弱々しくて。

(やはり、ここに来てよかった。……これは、あまりにもひどい)

「けが……したの?」

「っ……ああ、ちょっとお仕事で失敗してね。検査とかいろいろで、二週間くらいはこっちにいることになると思う」

短い時間だ。彼女を救うのに、こんな短い時間で足りるのだろうか。

「だい、じょうぶ……っぐ、けほ、けふ…っ」

苦しげに言葉をかけていた杏子が、突然苦しんで噎せはじめた。

「無理して話そうとするからだ。言わんこっちゃない。
 水くらいは飲めるかい?」

苦しげなまま、それでもかすかに頷いた。
極力深刻そうな顔は見せずに、ロスは水差しを手に取った。
292 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/18(金) 20:42:51.07 ID:UDKoOSSJ0
「少しは、落ち着いたかな?」

「……うん」

相変わらず力のない声。けれども幾分か掠れた調子は収まった。

「体の調子は、まだあまりよくないようだね」

「しゅじゅつ、は、うまくいったって」

それでもまだ、どうにも声は覚束ない。口が上手く動いていないのだろう。
まあ、話を聞く分にはこれでも構わないだろう。

「なら、きっとよくなるだろうと思うよ。むしろ私の方が危ないかもね。
 何せやられたのが頭だ、しっかり検査してもらってくるとするよ」

「……ぐんじんさんも、しぬの?」

感情が何も見えない、凍りついたような表情で杏子は問いかける。

「死ぬかも知れないし、そうでないかもしれない。誰だって、死ぬときは死んでしまうものさ。
 こういう仕事をしていると、それを嫌というほど思い知らされるよ」

あの事故が巻き散らかした死は、目に見えない形で杏子に纏わりついている。
果たしてどう払ったらいいものか。皆目検討もつかない。

「それとね、私はロスだ。ジェイド・ロス。少し長い付き合いになるかも知れない。
 まずは、自己紹介をしておこうと思ってね」

「ろす」

小さく、口の中でその言葉を転がすように杏子は呟いた。

「ああ、ロスだ。よろしく頼むよ、佐倉くん」

杏子は小さく頷くだけで。
その後は取りとめもないような話……もろくに出来ずに
ようやくやってきた看護師に追い出されてしまったロスであった。
293 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/18(金) 20:43:25.82 ID:UDKoOSSJ0
「なかなか強敵だ、参った」

健康な体で病院なんてところにいるのである。
とかく退屈でたまらない。一通り事情は説明されているらしく
表向きは患者、という扱いがされているようだが。
とにかく考える時間だけは山ほどもある、ロスはこれからのことを考える。

「考えていても仕方がない。とりあえず、色々話を聞かせてもらうことにしよう」

思考は回れど答えは出ない。こういう時は、別のことをしてみるのもいい。
なかなか大変な仕事になりそうだが、ここまで来たからにはやるしかないのだ。


聞き込み、というか世間話というか、そういった類の話を一通り終えて。
再び、ロスは考える。彼ら、彼女らの話から透けてきたもの。
佐倉杏子を、どう扱っているかということ。

「本当にかわいそうな子よね、あんな小さいのに」

「事故のことを聞いたら、きっとショックを受けるでしょうね」

「一体あの子、これからどうなるんだろうね」

……等々と、色んな話を聞いてきた。
お陰で、どうやら少しだけ見えてきたものもあるようだ。
準備はできた。

「さあ、行こうか」
294 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/18(金) 20:44:22.50 ID:UDKoOSSJ0
体はほとんど動かない。
そのままずっと寝ていては、体がおかしくなってしまう。
だから、いつも誰かが定期的に体の向きを変えに来る。
慣れはした、けれどそんなことすら誰かに頼らなければならない自分が情けなくて。
そのたびに、杏子の気分は沈んでいった。

(あの人は、あたしを助けてくれた人だ。覚えてる)

ロスのことを思い出す。頭の怪我だと言っていた。心配だった。

(死んじゃうのかな……あの人も。嫌だな、そんなの)

断片的に蘇る、死のイメージ。
崩れて降りかかる重たい衝撃、体が押しつぶされる痛み。視界を赤く染めるナニカ……。

(あたしが、代わりに死ねたらいいのに。こんなになって、生きてたってしょうがないよ)


杏子が暗い思考に沈みかけていたその時に、再びロスが部屋を訪れた。

「やあ、お邪魔だったかな?」

「……ろす」

相変わらず、声は上手く出なかった。
295 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/18(金) 20:45:34.82 ID:UDKoOSSJ0
「今度は君に話があってきた。とはいえ、聞くかどうかは君に任せる」

声の調子が変わった。それは子供に言って聞かすような口ぶりではなく。
どちらかと言えば、同じ部隊の人間と話すような声色で。

「君の身に起こったこと。何故、君の家族が、君がこんなことになってしまったのか。
 ……誰も、君をそれを話そうとはしなかっただろう?」

驚愕する。
その言葉に弾かれたように、目を見開いて杏子は顔を上げる。
誰もが自分を子ども扱いする。誰もが自分を腫れ物の用に扱う。
可哀想だと言う、何も教えてはくれない。……そう、それは確かに不満だったのだ。

「ほんとう、に。おしえてくれる……の?」

「君が望むのならね。あらかじめ言っておくが、気分のいい話じゃない。聞けば後悔するかもしれない。
 選ぶのは、君だ。佐倉杏子」

真っ直ぐに、真摯に。ただ答えを待つ。
佐倉杏子はまだ幼い子供だ。そんな子供が受け止めるには、これは重すぎる事実だ。
だが、しかし、それでも。それを笠に着て、意志を示す機会さえ奪っている。
いつか話しもするのだろう。だが、自分が関わる事ができるのは今しかないのだ。

残酷な選択を強いる。心は痛む。ひょっとするとこれは、部下に危険な任務を命ずる時の
その心境にも似ているのではないかと、若き司令官は思った。

「……きかせて。ろす。あたし、しりたい。だれも、おしえて……くれない。
 だから、おねがい。ろす」

その視線を受け止めて、杏子も真っ直ぐロスを見据える。
その瞳にはもう空虚はない。どんなもの、と判別のつくようなものではないが
確かにその瞳には、意志と呼べるものが宿っていた。
296 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/18(金) 20:49:40.22 ID:UDKoOSSJ0
ひとまずここまで、また手が動けば深夜辺りに。
9速眼球アクティヴスリープが面白いです。漫画もいいなぁ。

>>288
まだ歳若い司令官ですから、何かと未熟で人間的なところがあるようです。
そういう言い方をすると熟練の司令官はまるでニンゲンじゃアないヨウな感ジですガ
そんナこトは決シテありまセん。タブン。

絶体絶命カレーは普通のカレーだったらしいですけどね。
後食べ物ネタといえば、あいれむ動物園の食堂も大概だった記憶が。
……あのエイプリルフールのネタ、ギャラリーから見れなくなっちゃったんですよね、もう。
297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/19(土) 01:40:15.36 ID:AwYNpU9DO
続き乙!
杏子の心が戻りかけてきた…何とか絆を紡いでくれ!

ところで、他にレスしてくれてた人達はどこに行ってしまったんだ?
298 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/19(土) 01:46:25.52 ID:DhhjWcp7o
読んでるよ
でもレスしないと読んでるって伝わらないよね、ごめんね

過去話だからあんこちゃん助かるはずって思ってても
不安になるのはキボウが満ちすぎてるせいだ
299 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(滋賀県) [sage]:2011/11/19(土) 02:11:35.10 ID:xTLxtVHPo
しかしマミさんが不憫だな
あそこで死んでなかったらこのSSならどんな形であれもう少し活躍出来ただろうに
300 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/11/19(土) 03:29:55.40 ID:kwVJvJi90
ちまちまと書いていたらみんなのレスが力をくれました。

久々の深夜投下、行きます。
301 :sage :2011/11/19(土) 03:30:57.21 ID:bVEXn1h80
寝る前に発見して一気読みしたら寝付けなくなった、あたしってほんとバカ……
このQBさんは人道的だなぁ
302 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/19(土) 03:32:16.68 ID:kwVJvJi90
ロスの口から語られる、バイドという敵の存在。
それが引き起こした大破壊、エバーグリーンの墜落。
それでも尚続く戦い。一気に話し過ぎたようで、杏子はかなり疲れた様子だった。

「……随分とざっくりだが、これが今の人類を取り巻く現状だよ」

理解が追いついていないのだろうか、杏子はどこか呆然とした顔をしていたが。
それでも一つずつ、投げかけられた言葉を飲み込んで。

「どうして、どうして……そんなことをするの、ばいどは」

「それがわかれば、こんな苦労はしてのだろうけどね。……あいつらはただ、全てを攻撃している。
 そのために進化し、増殖している。それだけの存在だ」

だからこそ、ありとあらゆる手を尽くして抗わなければならない。
でなければその先にあるのは、飲み込まれて果てる未来だけなのだから。

「どうして、それをおしえてくれたの?」

杏子の声には、いつしか力が篭り始めて。

「敵を知っておくことは、戦う上でも生きる上でも重要なことだからね。
 それに君のこれからの人生は、辛いものになるかもしれない。
 その時に誰かを恨むくらいなら、バイド連中を山ほど恨ませてやろう、ってね」

最後のところは冗談っぽく、笑みを混ぜて話していた。
生きるための力というのは、必ずしも前向きなものばかりではない。
何かを恨む、憎む。そういうものも人を突き動かす力になる。
出来ればこんな子供には、そんなものは背負って欲しくはないのだが……と、内心の考えはおくびにも出さずに。

「たたかっているんだよね、ろすは。ばいどと」

「………まあ、ね」

実際のところ彼の部隊はただの輸送部隊。
今のところほぼ実戦経験はない。というのはここだけの秘密。
とはいえ、今後も戦況が激化の一途を辿ればそうも言ってはいられないだろう。

「あたしも、たたかえないかな」

固くこわばった手を、無理やりぎゅっと握り締めて。
引き攣れるような痛みに顔を顰めながら、搾り出すように呟いた。
その言葉は、確かにロスにも届いている。
子供の言う事ではある、現実を知れば、恐らくそんな意識は吹き飛んでしまうだろう。
だがそれでも、ロスは今、一人の人間として杏子と向き合っている。

「人に、特に子供になんてお勧めできる生き方じゃない。
 でもそれだけだ。その意志が本物で、どこまでも貫き通せるなら。不可能ではない」

ロスの言葉に杏子は押し黙る。
何を考えているのか、その表情からは推し量れない。
それほどに、多くの複雑な感情が渦巻いていたから。

「ろす、またきて。もっと、おはなしして。あたしは、しりたいんだ。
 あたしの、あたしたちの、てきのこと」

杏子の心には、確かに火がついたようだ。
この日初めて、ロスはバイドという厄介者の存在に感謝した。
絶対的な敵。その存在が、どうやら杏子を立ち直らせたようだから。
303 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/19(土) 03:33:02.49 ID:kwVJvJi90
それから二週間、ロスは杏子と多くの時間を過ごした。
バイドへの敵愾心が、死に掛けた杏子の心に再び火をつけたようで
杏子は劇的な回復を遂げていった。もともと肉体的にはほとんど健常者だったのだから
それはある意味当然、とも言えるのだが。

「しかし、たった二週間だ。びっくりするくらい元気になったものだね、キョーコ」

「そりゃー当然だろ、あんな話聞かされ続けてたら、いつまでも寝てなんかいられるかっての」

ベッドに腰掛け、楽しそうに話す二人である。
杏子なんかは随分キャラも変わった。というか、恐らくロスの影響だ。
幾分か……というか随分と、彼はフランク過ぎた。
結果として、杏子はロスと対等に話し続けたばかりか、回りの大人にまでこの調子で接しているのである。
あんまりにもあんまりな急変に、周囲の人間は皆戸惑っていたのだとか。

「しっかし、ロスも明日で退院かー。つまんなくなるよなー」

「もともとはただの検査だからね、どうやらたいしたこともなかったようだし」

「あたしもさ、体はもう大分よくなってきたし、もうそろそろ退院ってのが見えてきそうなんだ」

「それは本当に何よりだ、私も色々話を聞かせた甲斐があったよ」

ここに来た目的は達成できた。十分満足できる成果だ。
これなら、帰った後しこたま聞かされるであろうアーサーの愚痴にも耐えられる。

「なあ、ロス。……あたしも、一緒に行っちゃだめかな?
 そりゃ今はこんなナリだけど、体は鍛える、勉強だってする。どんな事だってするからさ
 ……一緒に、ついて行っちゃだめかな?」

それでもまだ、杏子は時折歳相応の子供のような顔を見せることがある。
どうやら杏子は、ロスに依存している部分も大きいようだ。
そこがまだ少しだけ不安ではある、ただもうこれ以上時間は割けない。

「無理だ。第一私には、部隊の戦力増強に関する裁量権は持ち合わせていない。
 つまり、勝手に人を増やせないということだ」

杏子の自尊心のことも考えて、あえて杏子が子供であるという理由は使わない。
勿論今言ったことは事実。今後の状況を鑑みると、ある程度の戦力増強は急務なのだが
それをするための権限がないというのが、目下一つの悩み事ではあった。
304 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/19(土) 03:33:52.61 ID:kwVJvJi90
「そっか……残念だなー。ロスとだったら一緒にバイドと戦えたかもしれないのにさ」

「なら、ちゃんと体を鍛えて勉強することだ。一見遠回りだが、それが一番の近道だ」

「面倒なこと言ってくれるよね。一体何年かかると思ってんのさ」

「早くて10年、といったところかな」

「10年だろ?そんなに過ぎたら、ロスなんかもうおじさんじゃないかよ。
 ……でも、本当に10年頑張ったら、ロスに追いつけるんだね?」

「私の地位まで上ってくるなら、そこから更に10年だな」

「そういうことじゃないっ!……一緒に、戦えるんだよな?」

「……その頃まで、戦うような相手が残っていればね」

バイドとの戦いが後10年続くだろうか、と考える。
人類は、未だかつてないほどの総力戦を強いられている。そうでもしなければ、バイドに抗い得ないのだから。
バイドを根絶しない限り、そんな戦いを10年以上にわたって続けられるかといえば、厳しい。
だからこそバイド中枢の破壊を持ってバイドの根絶を為す、対バイドミッションが行われているのだ。

恐らく杏子がまっとうな手段で戦場に出るような時には
人類は既に潰えているか、もしくはバイドが潰えていることだろう。そんな考えは思考の端にあったのは事実。

「わかった。なら、絶対に追いかけてやる。どんだけつらくたってきつくたって、あたしは絶対諦めないからね」

「まったく、二週間前のしおらしさが噓みたいだ。だが、頼もしいね。
 そろそろ行くよ。キョーコが退院する時には、また顔を出すとするさ」

「約束、だかんな」

言葉と心を交わした短い時間。それでもそれは、杏子に新たな人生を与えることになった。
そしてロスは再び、軍人の名前をその身に纏って艦へと戻る。
305 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/19(土) 03:34:33.79 ID:kwVJvJi90
「その顔を見るに、どうやらうまくやったらしいな、ロス」

「そんなに顔に出てたかな、アーサー?」

「長い付き合いだからな、それくらいはわかるさ。……さて、俺からお前に渡しておくものがある」

ぱさり、と机の上に投げ出されたのは数枚の記憶ディスク。

「代理じゃ話にならん、っていう案件がいくつかあってな。どうにもならんから俺の手元で留めておいた。
 さっさと処理しといてくれよ、艦長」

「んなっ……こ、これは」

ざっと見る限り、一日二日でどうにかなる量ではない。
まあ、人一人助けた対価としては安いか、とロスも気合を入れなおす。

「片付けておくよ。本当に助かったよ、アーサー」

「こういうのは、もうこれっきりにしてくれ。色々と心臓に悪い」

今回のことで、やはりもつべきものは友だと実感したロスなのであった。
……多分、同じこともう一回やったらただじゃ済まないだろうけど。
306 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/19(土) 03:35:05.33 ID:kwVJvJi90
そして、年が変わって2164年。
第1次バイドミッションの英雄、その帰還に端を発した事件。
後にサタニック・ラプソディ、デモンシード・クライシスとも呼ばれる事件が起きたのは、その年の初頭のことである。
その被害の規模自体は先のエバーグリーンと比して小さく、比較的早期に事件は鎮圧された。
しかしそれは、地球圏へのバイドが侵攻したという事例であり。それを重く見た軍は
ついに、各部隊の隊長に戦力増強の裁量権を与えることを決意したのである。

そしてそれは、ロスの部隊においても例外ではなく。
ロスは中空に浮かび上がったその書類を見ながら、ぼんやりと部隊の編成のことなどを考えていた。
今この部隊にあるのは、三機の戦闘機に早期警戒機と補給機が一機ずつ。
戦力としては心もとない。工作機の一機は欲しいし、もう少し射程のある機体も欲しいところである。
とはいえ、戦力増強は全て自分の部隊の裁量で行わなければならない。
それはつまり、機体の調達からパイロットの徴用まで、全て自分で行わなければならないということで。
まだ年若く、コネやツテの少ないロスには、非常に頭痛の種だった。

「同期はあらかた当たって見たが全滅だ。それはそうだろうな。
 あの号令が出てからどこの部隊も戦力増強に躍起になっている、他所に回す分などありはしないか」

「またその話題か。ロス。別にそこまで急いで戦力を増強する必要もないんじゃないのか?
 今のところ、うちの部隊はこの人数で回せてる。無理に増やすといってもなぁ」

「わかってはいるのだがね、この命令はかなり歪だ。裁量権だけ与えられてもね、それで部隊が強くなるわけじゃない。
 本来だったら待っていれば上から設備や人員は降りてくる。だが今後はそれも望み薄だ」

「つまり、篩ってことか?」

「可能性としてはある、ってところかな。この命令を機に部隊戦力を伸ばすことができれば
 それはつまり、その部隊が少なくとも使える部隊であることの証明にはなる。
 優秀な戦力が欲しいのはどこも同じだろうからな」

「って言ってもなぁ。質を無視して数だけ増してもしかたないと思うんだが」

「それは私も思う。……これが篩なのだとしたら、多分それはもう一段くらいあるのだと思うよ」

「数の次は質を問う、ってことか……上は何を考えているんだかな」

「流石に、そこまでは私もわからないよ。とにかく今は、少しでも戦力増強に努めることだ」

一通り話題も煮詰まった。少し気分転換でもしようかと思っていたところに。

「ああそうだ、お前宛に手紙が届いてたぞ。もしかしたらどこかからのいい返事かも知れんな」

手渡されたのは手紙。この時代にしては、手書きというのも珍しい。
宛名を見ると……どうやら、杏子の入院している病院のようだ。
何かあったのかと、早速封を切ってみた。

それは杏子からの手紙だった。
どうやら近々退院するとのこと、その後の行き先もどうやら決まりそうなのだという。
その字面や、貼り付けられた写真からはとても嬉しそうな杏子の様子が伝わってくる。
そういえば、見送りに行く約束もしていたことを思い出す。

「アーサー、私は有給を取る」

「は?」
307 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/19(土) 03:35:46.78 ID:kwVJvJi90
「ここ数日というか丸一週間、あちこち駆けずり回って頭と体を酷使しすぎた。
 この辺りで一日くらい休暇を入れないとそろそろ仕事に支障を来たす。だから休む」

「……で、その手紙の中身は何だ」

アーサーはあくまで冷たく言い放つ。
自分でなくともそうするだろう。腐れ縁の仲なら尚更遠慮はいらなくなって。

「いや、あの子が近々退院するらしくてね。見送りに行こうと思って」

「んなこったろうと思ったよ。……まあいい、ここ数日、お前の焦燥ぶりは見てるこっちが不安になる。
 陸に下りて、向こうの空気でも吸ってこい」

甘いとは思いつつも、この部隊が最大効率を発揮するためには
結局、ロスの存在は欠かせない。そのロスがここまで参っているのだから
多少の融通くらいは利かせてもいいか、なんて本人の前では絶対にいえないことを考えて。

「三日くらいで済ませる。ついでに母校の教官殿にあての一つもないかどうかを聞いてくるさ」

「そういうとこだけそつがないのな、お前」

かくしてロスは再び地球へ。まずは一路病院へ。
308 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/19(土) 03:36:19.29 ID:kwVJvJi90
「本当に、本当にあんたと一緒に行けば、あたしは戦えるんだな?」

すっかり退院の支度を整えた杏子は、やや興奮気味に詰め寄った。

「ええ、そうですとも。我々の研究が形になれば、戦う意志と資質のある者は
 歳など関係なく、戦うことができるようになるのです」

その声に応えたのは、柔和な顔立ちをした初老の男性。
後にKと呼ばれ、狂気の科学者集団の長となる男、その微妙に若かりし日の姿である。

「そのけんきゅー、ってのにあたしが協力すればいいんだろ?そうすりゃあたしは戦えるようになる」
(そうすれば、ロスと一緒にだって戦える)

「ええ、そうですとも。その戦おうとする強い意志、そしてあなたには資質もある。
 まさに我々の研究にとって、最高の協力者となってくれることでしょうとも」

Kもまた、感極まったような声で答えた。



「ちょっと待ったぁっ!!」



ドアを蹴破るような勢いで押し開けて、ロスがその場に現れたのだった。

「おや、君はどなたですか?」

「ロスっ!なんでここに!?」

同時に驚いたような声を上げる二人。

「いえ、何。ちょっと聞き捨てならない話を聞いたもので。ちょっと乱暴ですがお邪魔させてもらいましたよ」

乱れた服を軽く整え、ついでに息も整えながら。
ロスは杏子とKを交互に見据えて。

「彼女の身柄は、私が引き受けることになっているんですよ。
 勝手に連れて行かれては、困りますよ」

あえて軽妙な調子をつけて言う。Kは不思議そうに首をかしげ
杏子は驚き眼を見開いた。

「それはおかしいじゃないですか。私は彼女にちゃんとお願いして、納得もしてもらっているんですよ。
 彼女の意志も固いのですから、それを無理やり曲げるのは感心できません」

Kの声はあくまでも穏やかで。

「そもそも、そのような話は何も届いてませんよ?
 一体どのような権限で、彼女の身柄を引き受けようというのですか」

杏子は不安げに、二人を交互に見つめるだけで。
309 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/19(土) 03:36:58.77 ID:kwVJvJi90
「これですよ、部隊裁量権の譲渡。私はゲルトルート特別連隊隊長、ジェイド・ロス中佐です。
 私の権限で、佐倉杏子を私の部隊に配属させてもらいます」

言葉と同時に突き出された電子書類。どうやら地味に出世していたらしい。
流石のKも、それを見ては表情を変える。

「どうして、彼女にそこまで肩入れするのです。あなたは。……まあ、いいでしょう。しかたありません」

小さく肩を落として溜息をつくK、そのまま部屋を出て行こうとするが。

「ああ、ですか杏子さん。あなたがもし我々に協力する気になってくれるのでしたら
 いつでも連絡してください、私にはあなたの力が必要なのですから」

そんな言葉を残して、Kは去っていった。

「ロス、今の……あ?」

杏子はまたしても驚愕した。
恐る恐る覗き込んだロスの表情は、ものすごく苦悶に歪んでいたからだ。

(やってしまったー……つい勢いで言ってしまった。まずい、まずいったらまずいぞ)

普段は優秀なはずのロスの頭脳も、ことこの場においては何の意味もなさない。
とにかくロスの頭の中には、やっちまったーという言葉が散乱していた。




「あのまま連れ去られていたら、恐らく実験動物扱いされていたと思うよ。
 あれはTEAM R-TYPE。最強最悪の科学者集団だ」

ようやく衝撃から立ち直ったロスが、酷く疲れた顔で杏子に事情を説明した。

「……じゃあ、あたしはどうなるのさ」

「どうするかなー、あいつらの手の届かないところに逃げてもらうのが一番なんだが。
 流石にそんなあてはないしなぁ……」

「じゃあ本当に一緒につれてってくれればいいじゃん。それなら問題ないんでしょ」

「……子供の遊びじゃないんだ。いくらなんでも、そんなことさせられるわけがないだろう、キョーコ」

言ってしまってから、しまった、と気づく。
杏子にとって、いつか一緒に戦えるということが希望だったのだ。
それを自ら踏みにじるような言ってしまった。明らかな失敗だ。
310 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/19(土) 03:37:56.35 ID:kwVJvJi90
「それでも、あたし……戦いたいんだ!お願いだよ、戦わせてよっ!ロスっ!」
 
それでも、杏子は訴えた。その瞳に涙を浮かべて。

「何でそんなに……普通に生きる道を選ぶことだってできるんだぞ。
 わざわざ苦しい生き方をする必要なんて……」



「あんたと一緒に居たいんだよ!あたしにはもう、あんたしかいないんだ!
 ……だから、お願いだよ。一人に……しないでよ、ロス」



声を顕わに叫んで、必死に縋って、泣きじゃくって。
そこには、いつも見せていた気丈な表情はなく。
初めてであったときの、消え去りそうな空虚さもない。
本当の佐倉杏子の姿が、その想いがあるだけだった。




「とても、つらいことばかりだ」

「それでも、あんたがいれば、我慢できる」

「死ぬかもしれない」

「怖いよ、でも、もう会えないほうがもっと怖い」

「……人を、殺すかもしれない」

「あたしは……それでも、ロスと一緒にいたい」




「私の負けだ。本当に……とんでもないものを拾ってしまったよ、私は」

苦悶の顔が、諦めと呆れの混じった顔へと変わった。

「こうなったら仕方ない。一緒に行こう。キョーコ」

「……うん、ロスっ!」

涙を拭って、飛び切りの笑顔で杏子は応えたのだった。
311 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/19(土) 03:45:19.43 ID:kwVJvJi90
なんだかここまで一気に書き上げてしまいました。
思いの外あんこちゃんのお話が長引いております。
というか提督と副官を書くのがどうも面白くて困りますね。


>>297
なんとか絆は繋がりました。
微妙に危ない匂いのするものではありますが。

>>298
ありがとうございます。その言葉が私にとってのバイドルゲンになりマス。

まあ、なんとかあんこちゃんは助かりましたが
まだまだお話は続くわけであります。

>>299
マミさんにはホットコンダクターあたりにのっけてあげたかったですね。
間違ってもマミー・ヘッドとかいう特注機に載せたりなんかはしないはずです。

>>301
ちゃんと寝てください。睡眠は大事です。
ですがそこまで読んでくれるのは嬉しいです、とても。

QBさん以上に容赦のない外道集団がおりますので
比較してQBさんが人道的になっているのかもしれません。
まあ、QBさんにもQBさんなりの事情がおありなようです。
312 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/19(土) 08:09:44.33 ID:AwYNpU9DO
深夜の投下、ありがとうございます!でも>>1さんの睡眠量が心配です。

感情を読み取れる様にしっかり読むから、涙が溢れちゃいました。
313 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/19(土) 16:06:59.71 ID:DoLb6Cu4o
>>297
パソコンがご機嫌斜めで修理出そうと思って試行錯誤。朝やっと動かせるようになったんだ・・・。

史実道理ならどこでジェイド・ロスと別れるのか・・・。
314 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/11/20(日) 00:59:15.43 ID:DucUb8EQ0
ようやく過去話も終わりが見えてきそう……なのではないかと。
30分ほど後に投下します。
315 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/20(日) 01:21:51.19 ID:DucUb8EQ0
「大変だったんだね、あんたも」

エバーグリーン、その名前は誰もが知っている。
それが引き起こした事件が、恐ろしいものであることもまたそうだ。
ただ、さやかには実感が湧かなかったのだ。
自分の知らないどこかで、何か恐ろしいことが起こっている。
そのくらいにしか思っていなかった。

それが今では、バイドという敵の仕業であることを知った。
その傷痕を身に刻んで生きている、杏子のことを知った。
同情もある。それ以上にさやかは考える。
それが、杏子の戦う理由なのだろうか、と。

「まあ、この体は半分以上がもう作り物だからね。
 それでも何の問題もなく動ける、生きてる。最近の医療技術ってーのは恐ろしいよ。
 それこそ、魔法みたいだ」

(作り物の、体……アイツも、これくらい大変だったのかな)

そんな杏子の言葉に、さやかの脳裏に思いがよぎる。
幼馴染だった少年のこと。かつて不幸な事故があった、その少年のことを。
けれども、すぐにまた杏子が話を続けたので、ひとまずそれは打ち切ることにして。

「ま、そーゆーわけであたしは軍に入った。って言ってもまだガキでさ。
 出来ることなんて、それこそ雑用みたいなもんだったけどさ」
316 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/20(日) 01:22:46.36 ID:DucUb8EQ0
「まあ、何というか。諸君らにとっては非常に理解しがたいことだと思うのだが」

輸送艦の中の格納庫、クルーが一同集まるその前で。
杏子とロスが並び立ち、少し離れてアーサーが非常に渋い顔をして声を放った。
こんな態度を取っていては、周りに示しがつかなくなるとも思いはするが、この状況ではどうにもならない。

「本日より、この部隊に新たな人員が配属されることとなった。
 なんとも驚くべきことに、かつてエバーグリーンが堕ちたときに、我々が救った少女が帰ってきた。
 ……佐倉杏子二等兵だ」

クルー達は言葉もなく、押し黙ってその様子を見つめている。
正直に言って、信じられないといった風だ。
そんな視線の真っ只中において、杏子は少し緊張した面持ちで立っている。

ロスは何も言わない。杏子の意志が本物であることはわかっていた。
ならば、納得のいくまでぶつからせてみよう。きっとどこかで挫折もするだろう。
そこで終わるようならそれでいい、今度こそ、平穏な日常へ戻してあげよう。
もしも戦い続けることが出来たというのなら、その時は……。

「何か、言うことはあるかね?佐倉二等兵」

アーサーは、さっさとこんなことは切り上げたいと内心考えながら
それでも一応通例どおりに杏子に尋ねた。
その言葉に、杏子は頷き前に出る。そして、大きく息を吸い込んで。


「あたしは、ここにいる皆に命を救われた」

子供そのものの、まだ少し高い声で話し始めた。
317 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/20(日) 01:23:55.69 ID:DucUb8EQ0
「最初は、どうして自分だけが助かったんだなんて思った。でもロス艦長は教えてくれた。
 あたしが巻き込まれた事故のこと、皆が戦っている敵のこと」

それを聞くクルー達の間に、静かなどよめきが起こり始める。
普段ならそれをとどめる立場のアーサーは、黙って耳を傾けている。

「だからあたしは、皆から助けてもらった命を皆のために使いたい。
 もっと、多くの人を助けるために使いたいんだ!」

軍人とは、必要があれば命を奪うことも辞さない職業だ。
それが多くの命を守るためとは言え、命を守ったのだということを直接実感する機会など、そうはない。
けれど今、彼らが救った命が目の前にある。彼らと同じ志を持って。

「あたしは子供で、すぐに大人になんかなれないけど。それでも出来ることはなんだってする。
 だから、皆と一緒に……一緒に、戦わせてください。お願いしますっ!!」

声を張り上げ、深く頭を下げる。
子供がするには、それはあまりにも壮絶な覚悟だろうと思う。
いつしか、どよめきは納まっていて。

ぱちぱち、と。乾いた音が一つ。
それに続いてもう一つ、また一つ。
それは誰かが手を打つ音で、次々に広がっていく。


「俺達が救った命だ、俺達がちゃーんと面倒見てやりますよ」

拍手をしながら、列に並んだ男が言う。
その言葉に顔を上げ、きっとその男を睨んで杏子は。

「あたしは面倒を見てもらいに来たんじゃない、皆と一緒に戦うために来たんだっ!」

と、やや興奮気味に食って掛かった。
その剣幕が、大人たちには微笑ましい。

「はっはっは、こりゃ頼りになりそうだ」

「期待してるぞー、二等兵殿ー」

「気の強さだけは一人前じゃない?」

なんて、随分と賑やかになってきた。
ぱん、と一つ手を打つ音。見れば少し怖い顔をしたアーサーが。

「静粛にしろ、お前達。それと佐倉二等兵。お前ももう軍と組織の一員だ。
 言動には気をつけるように。……では解散だ、各自持ち場に戻れ」

「じゃあ、最後に一つ」

そんな様子を黙って見つめていたロスが、静かに声を上げて。

「佐倉二等兵、どんな事情があったにせよ君はもうこの艦の一員だ。この艦は私たちにとって家であり
 私たちは皆家族とも言える。だから今日からここが君の家だ、そして我々が、君の家族だ」

それが、杏子の新たな人生の始まりだった。
318 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/20(日) 01:24:32.92 ID:DucUb8EQ0
結論から言ってしまえば、軍隊なんていう組織は子供のいられる場所ではない。
ロスも極力、彼女を特別扱いはしないようにしてはいた。
ただ、問題はその他のクルー達だった。自分たちが救った命ということで、気にかけることも多かった。
そしてそれは幼い少女で、まるで自分や親戚の子供のようにも見えた。
おまけに杏子は、非常に努力家だったのである。周囲が驚くほどに。

その結果どうなったかといえば、所謂一種の偶像、アイドル的なものとして杏子は受け入れられていた。
勿論そんな扱いは大いに不服、と杏子は対抗心を顕わにし、更に職務に励む。
そんな姿を見て、周りの大人たちも触発されて頑張り始めた。
なんだかどうも、当初の予想とは違った具合になってきて。これにはロスも困惑するのであった。
それでもこの時期のゲルトルート特別連隊は、かつてないほどの士気の高さであったのは事実である。

もう一つ周りの誰もが驚いたのは、杏子がR戦闘機乗りとなることを望んだことである。
事実として、R戦闘機のパイロットは小柄であることが望ましいとされる。
急激な機動によるGに耐えるためにも、コクピットブロックの容量を圧迫するためにも、である。
そのため、パイロットの四肢の切断やパッケージ化、幼体固定といった黒い噂も絶えない。
それをどこから聞きつけたのか、ともかく杏子はそれを望んだ。

最早この時期になると、杏子の無茶を止めることのできる人間はロスかアーサーくらいのもので。
挙句、止めるつもりもなかったようで。結局杏子はR戦闘機乗りとしての訓練も受けることとなる。
そこまでで、二年である。

バイドとの戦闘は熾烈を極め、第2次バイドミッションが発令された。
ただの輸送部隊であったはずのロス率いるゲルトルート特別連隊もそして杏子もまた、その中で戦っていくこととなる。

死と隣合わせの戦いが続く日々。杏子自身も死に掛けたことは何度もあった。
それでも、幸せだったのだ。皆と助け合って、戦い抜いていける。
ロスと一緒にいられる。これからもずっと。……ただそれだけが、純粋に幸せだったのだ
319 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/20(日) 01:25:35.67 ID:DucUb8EQ0
「篩、ってのはこういうことか、艦長?」

「だろうね、地球圏の全部隊による合同演習、それも実戦にかなり近い模擬戦形式と来た。
 ……果たして、お偉いさんはそうまでして何をしたいんだろうか」

ロスとアーサーの二人が眺めるモニターの中で、閃光をばら撒きながら交錯する二機のR戦闘機。
方や、杏子が駆る赤いカラーリングのアロー・ヘッド。
対峙するのは、模擬戦の相手となる部隊のエース、ピンクのキャノピーやハートのマークが目に残る。
そんなエースが駆る機体、レディ・ラヴ。
機体性能でも、パイロットとしての技量でも追いつけない。それでも必死に杏子は敵機に喰らいつく。

そうすれば、必ずロスがどうにかしてくれる。そう信じていたから。


「しかし本当に、杏子も成長したもんだな。背も随分伸びた」

「まさか彼女に、パイロットとしての適性があるなんて思わなかったよ。
 ……ひどい話だとは思うが、彼女ももう立派な戦力だ」

艦を進ませながら、杏子の成長振りを改めて噛み締める。
最早ロスも新米の肩書きは取れている。いっぱしの指揮官として艦の指揮を執る。
320 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/20(日) 01:27:19.87 ID:DucUb8EQ0
「艦長。敵艦との距離、8000まで近づきました」

オペレーターからの声が届く。

「よし、いい距離だ。ここまで邪魔されずに来られるとはね。
 パイロット達も皆、いい仕事をしてくれたようだ」

その言葉に、満足そうにロスはほくそ笑み。

「では船速そのまま!シューティング・スターを発進させろ!」

R戦闘機同士の戦闘で敵の目を惹き、その間に敵旗艦に接近。
超射程の波動砲をもつ狙撃機、シューティング・スターの突撃で一気に敵艦を沈める。
たとえ護衛の機体がいたとしても、それが駆けつける前にシューティングスターの波動砲は敵へと届く。

敵と比べて戦力に劣るロスの部隊が、勝利の為に考えた作戦だった。
そしてそれは間違いなく成功し、敵艦は行動不能と判定、模擬戦はロスの勝利に終わった。

「やったぜ!ロスが勝った!……でも、パイロットとしちゃああたしの負けだ。
 もっと、強くならなくちゃね」

杏子もまた、その模擬戦の結果に満足すると同時に、超えるべき壁に対して意欲を燃やした。
こんな模擬戦が何度も繰り返され、驚くべきことに。
ロスの部隊は、寡兵ながら兵員の質と見事な戦略によって次々に勝利を収めていく。

恐らく、それが当初からの軍の目的だったのだろう。
そうして勝利を収め続けたロスの元に、新たな命令が下された。
木星軌道上にある軍事施設――ミーミル。
バイドに占拠されたその施設を奪還する。それがロスに課せられた任務であった。
321 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/20(日) 01:32:53.71 ID:DucUb8EQ0
本日はここまでです。
こう、毎日毎日ちまちま投下するのと、ある程度の区切りをつけてどかん、と投下するのと。
果たしてどっちがいいのでしょうね。私は書けたら投下したくなっちゃう派ですが。

>>312
寝るときは寝ているので大丈夫です。多分。

そこまでしっかり読み込んでいただけると本当に嬉しいです。
しっかり読み込まなくても自然に登場人物の心情がしみこんでくるような
そんな作品に出来たらもっと素晴らしいのだろうな、と描写不足とか色んなものも実感しちゃいます。

>>313
無事復帰できたようでなによりです。

ロス提督は今は星の海の彼方ですから、きっとどこかで分かれてしまうのでしょう。
そして多分、いつかどこかでまためぐり合うこともあるのでしょう。
322 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/20(日) 01:37:48.82 ID:IDqymLSBo

ちまちまとでいいんじゃないかな?
少しずつでも毎日更新あれば毎日の楽しみになるし。

さりげなくへきる専用機が登場してらww
323 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/20(日) 02:45:27.73 ID:Gbz0gF7V0
やはり沈む夕日をバックに再会するんですか……

杏子はロス提督に気づくだろうか?

そもそもバイドが元人間ということは知っているんでしょうか?
ほむらも知らないみたいでたが……
324 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/20(日) 05:42:02.56 ID:Qpl4vacDO
投下お疲れ様です。
杏子ちゃん…随分無茶な努力をしてきたんだな。

>>1さんの文力は低くなんかありませんよ。
325 : ◆HvWr2kWl99Dz :2011/11/21(月) 02:41:28.32 ID:Dra8keHS0
そしてまた投下です。
326 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/21(月) 02:43:01.42 ID:Dra8keHS0
「じゃあ、あんたは木星までいって戦ってたんだ」

もう随分長いこと話を聞いていた。
外から流れる戦闘の音は未だ止まない。九条からの通信もない。
内心の焦りは抱えつつ、さやかは杏子に尋ねた。

「途中であちこち寄りはしたけど、あたしの知る限り、一番規模のでかい戦いだったと思うよ」

「それで……まさか、みんなやられちゃって、一人だけ生き残った……とか、そういう話?」

恐る恐る、といった感じでさやかが尋ねる。

「ははっ、んなわけねーだろっ。ロスがバイドなんかに負けるもんかよ。
 っつーか、あんたも軍にいるなら知ってるんじゃないのかよ、ロスのこと」

「いや……あたしは軍人……なのかなこれって。全然実感湧かないってゆーか。
 そもそもバイドと戦ってるだけで、軍人っぽいことなんて何も知らないしさ」

がん、とまた杏子が何かをぶつけるような音。
苛立ちを紛らわすように、機体の外壁を蹴飛ばしていた。

「ンだよ、それ。ますますもっておかしいじゃんかよ。あんたみたいな子供がさ
 何も知らされずに戦わされてるってのかよ……機体から降りられないような体にされてさ」

「まあ、おかしいのはわかってるよ。でもさ、あたしはあんたみたいにずっと戦ってきたわけじゃない。
 そんなあたしが戦うためには、そうなる必要があった。そういうことなんだよ」

杏子の人生を聞けばそれだけ、今の自分が恵まれていることがわかる。
どれほどの努力と苦労を重ねて、今の戦う術を得たのだろう。
それとほとんど同じような力を、こんな僅かな時間で得てしまっている。
それがなんだか、さやかには恥ずべきことのような気もしていた。

「案外割り切ってんのな。あんたの話も、もうちょっといろいろ聞いてみたい気がするよ」

「じゃあ、杏子の話が終わったら、ね」

「……わーったよ。続きだ。……命令を受けて、そりゃあ戸惑いもしたし驚きもした。
 それでもあたしらはミーミルに向かったよ。途中で戦力も補充しながらね」

そして、杏子は再び語りだす。
彼女の最大の戦いの記憶。そして、ロスとの最後の戦いの記憶を。

「――本当に、地獄みたいなとこだったよ」
327 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/21(月) 02:43:49.14 ID:Dra8keHS0
「周囲のバイド体の殲滅を確認、この調子ならこのまま奥へ向かえそうだな」

ミーミルの内部は、まだ比較的施設としての機能を残していた。
中でもまだ使えそうなドッグを急遽改修して、前線基地として仕立て上げ
ミーミル攻略戦は、比較的順調に進んでいるようだった。

「とはいえ油断は禁物だ、アーサー。最奥にある巨大なバイド反応。あれはまだ不気味に沈黙を保っている。
 奇襲でも仕掛けられたら大変だ。早く偵察機からの報告が欲しいところだね」

ロスの声にも緊張の色が混じる。
指揮官となってより初めてのバイドとの大規模戦闘である。
今のところは上手く行っているが、この先どうなるか。

「っ!通信です。先行したミッドナイト・アイからですっ!」

オペレーターの声も、緊張と興奮で震えている。

「すぐモニターへ。さあ本番だぞ。皆、気を引き締めろ!」

映し出されたモニター。カメラ・ビットからの映像が映し出されて、そこに映っていたものは。

「提督っ!とんでもないのが潜んでいやがった!ドプケラドプスですっ!
 くそっ、撃ってきやがった……これ以上は近づけない、このまま後退しますっ」

バイドの象徴たるその異形。四肢をもがれた異星人のようなその姿。
そして胸部から突き出た、もう一つのバイド体。ドプケラドプスはまたしても
人類の前に立ちはだかるのであった。
328 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/21(月) 02:44:39.70 ID:Dra8keHS0
「ドプケラ……ドプス」

その名を聞いて、さやかの声が一気に曇る。
思い出すのは、マミの最後。あんなに綺麗で強かったマミを、いともあっけなく喰らって。
目にした時間は僅かでも、その異形はあまりにも強くさやかの脳裏に焼き付けられていた。

「ああ、ドプケラドプスさ。ミーミルの奥にはとんでもないのが巣食ってやがった。
 あの時初めて実感した。バイドってのがどういうものか。初めて怖いと思った」

「でも……倒したんだ。あのドプケラドプスを。すごいな、杏子は」

「あたしだけの力じゃない。っていうか、あたしの力なんて全然役に立たなかったさ」
329 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/21(月) 02:45:21.12 ID:Dra8keHS0
「さて、状況を整理しようか」

絶望的な状況下、それでも勤めて落ち着いた声を出してロスが言う。
クルー達の表情にも絶望の色が見て取れる。けれども彼らはまだ諦めていない。
それが、ロスの落ち着いた様子と、ロスが今まで見せてきた実力によるものである、と
ロスは知っている。だから誰よりも自分がまず絶望してはならないことも、知っていた。

「ミーミル最奥に潜むドプケラドプス。一応ここは射程外だが、これ以上近づけば
 容赦なく攻撃が仕掛けられるだろう。まともにもらえばR戦闘機では耐えられない」

考えれば考えるだけ、状況は絶望的だ。

「この艦なら何発かは耐えられるだろう。艦を囮にR戦闘機を突入させて
 敵胸部に潜むコアを破壊できれば私たちの勝利。しかしそうやすやすとも行かせてはくれない」

奥に潜むはドプケラドプス。そしてそれを守るゲインズにタブロック。
今までの交戦で相当数は減らしたが、まだ特に厄介な敵が残っている。

「この艦も、ドプケラドプスに加えてゲインズとタブロックを同時に相手にすれば流石に持たない。
 つまり、何とか先にこいつらを始末する必要がある。……参ったね、どうも」

距離を置いての撃ち合いでは、どうしても敵に分がある。
こちらにも射程の長い機体はいたのだ、だが。

「シューティング・スターが落とされたのは痛かったね。このままだと撃ち合いにすらならない」

そう、こちらの長距離射程をもつ機体はすでに、最初の交戦において落とされていた。
パイロットのことを悼む気持ちはあるが、今はそれに足を取られている暇はない。
皆それがわかっているからこそ、動きを止めるつもりはない。

「……よし、となればこれしかないな。総員、再突入に備えろっ!」
330 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/21(月) 02:46:34.29 ID:Dra8keHS0
バイドに汚染され、澱む空間の中を艦が往く。それを盾にするかのように、後ろに続くR戦闘機。
すぐに敵は接近を察知し、バイドが攻撃を開始する。ドプケラドプスより吐き出された体液が。
ゲインズの凝縮波動砲が、タブロックのミサイルが艦を直撃する。
それでも艦の足は止まらず、ぼろぼろになりながらも敵へと接近していく。

「今だ!各機散開っ!!」

合図と同時にR戦闘機たちが各方向に散開していく。その直後。

「デコイ爆破っ!」

デコイ。一部の機体や補給機に搭載されている機能である。
それは波動エネルギーを特殊な力場に納め、自機と同じ形の物体を生成する。
文字通りの囮である。ただしそれは波動エネルギーの塊である。
力場を開放すれば、それこそ波動砲と同等のエネルギーを発生させることとなるのである。
そしてその機能は、この輸送艦にも搭載されていた。

激しい爆発、それにゲインズやタブロック、ドプケラドプスでさえも巻き込まれていく。
だがその閃光の中から現れた敵は、どれもまだ健在。
そこに、爆発の範囲から逃れていたR戦闘機たちが飛来する。

「タブロック撃破だっ!道は開けたよっ」

杏子のアロー・ヘッドが波動砲を放ち、タブロックを撃破する。
さらに続いて波動砲が斉射され、ほかのゲインズたちも次々に撃ち落されていく。
だが、それでも尚ドプケラドプスは健在。デコイの爆発も有効打とは言いがたい。

「道が開いたっ!ならこれで……っ」

そこへ飛び込む機体がもう一つ。本来は航行距離を重視した機体であるが
そのペイロードの多さから、爆撃機として改修されることとなった機体。――ストライダー。
それにたった一発だけ搭載された、波動砲にも匹敵する威力を持つ、切り札。
バルムンクと呼ばれる大型ミサイルが、ドプケラドプスの胸部を直撃した。

艦の司令室に歓声で沸き立った。……しかし。

「バイド反応……健在っ!ドプケラドプスはまだ生きていますっ!!」
331 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/21(月) 02:47:38.41 ID:Dra8keHS0
爆炎の中で吼えるドプケラドプス。ミサイルの直撃を受けて尚。その凶暴性は失われていなかった。
ぶん、と力任せに振られた尾がストライダーを直撃、粉々に打ち砕く。

「そんな……ばかなっ、うわぁぁぁっ!」

放射された体液がデルタの機体を溶かし、墜落させる。

「くっ……機体のコントロールが効かない……不時着するっ」

まさに墜落といった感じで、それでもどうにか外壁に下りたデルタ。
気がつけば、その場で戦闘を続けられるのは杏子だけになっていた。

「な……み、皆が、こんな一瞬でっ!?」

改めてバイドの脅威、その異貌に立ち向かう。
一人で戦わなければならない。そう考えると恐ろしくて、操縦桿を握る手が震えていた。

「キョーコっ!今すぐ撤退しろ!それ以上は持たない、撤退するんだっ!!」

ロスが叫ぶ。仕留め切れなかった。バイドの生命力を侮っていた。
そのミスが仲間の命を奪い、今まさに杏子の命までも奪おうとしている。
声を限りに通信を伝える。届いているはずなのに。

「ぁ……あぁっ。ぅぁぁ………」
(死ぬ……あたし、死…こんな、噓……っ)

眼前に迫る、まさしく死を体言するかのような異形。
それを前に、その恐怖を前に。杏子は動くことができなかった。
逃げることも、立ち向かうことも叶わずに。最早ただ死を待つだけだった。

「ごめん、ロス。あたし、もう……」

最後まで言葉を告げる、その前に。
ドプケラドプスの凶悪なる尾が、杏子の機体に迫っていた。
332 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/21(月) 02:55:31.97 ID:Dra8keHS0
こうして書き連ねていくと、やっぱり某ゆっくりな人とか
某やる夫な人の影響を多大に受けている気がします。先達に感謝。

>>322
できる限りはこのまま毎日書き続けて行きたいものです。
継続は力になってくれるでしょうか?

まだ初期の機体で何か面白そうなのは、と考えていたらこの子が出てきました。
あんなおかしなカラーリングにペイントです、きっとエースが乗っているのでしょう。

>>323
そも、バイドが人間だという確証はないのですよね。
夏の夕暮れを見たりする人はいるようですが。それはあくまで取り込まれちゃっただけで。
バイドのルーツ自体は今でも謎のままです。
グランド(ティロ)・フィナーレさんの仕業説とかもあるようですが。

提督はきっと今も元気に宇宙の海を泳いでいることでしょう。
行きか帰りかはわかりかねますが。ええ。

>>324
それでも皆と一緒にいられるだけで、あんこちゃんはどこまでも頑張れる子だったようです。
今のところパイロットとしての腕は

ほむら>>自機の壁>>織莉子>キリカ>能力の壁>さやか=杏子>訓練の壁>マミ

てな具合になっている気がします。マミさんェ……。
333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/21(月) 07:03:06.45 ID:tha2L5lDO
続き乙です!杏子ちゃん撃墜のピンチ!どうなっちゃうの!?

マミさんはクローン体が戻ってからが勝負だろうね。まぁ帰ってすぐはほむらちゃんと少しの間ギクシャクするだろうけど。
334 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/11/21(月) 17:08:07.84 ID:Dra8keHS0
まさかの歴代最長です、過去話が長い長い。
そしてやはり提得。でも私得でもありますからきっと大丈夫、多分。

では第6話、いよいよ終了です。
335 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/21(月) 17:09:17.13 ID:Dra8keHS0
「じゃあ、あんたは木星までいって戦ってたんだ」

もう随分長いこと話を聞いていた。
外から流れる戦闘の音は未だ止まない。九条からの通信もない。
内心の焦りは抱えつつ、さやかは杏子に尋ねた。

「途中であちこち寄りはしたけど、あたしの知る限り、一番規模のでかい戦いだったと思うよ」

「それで……まさか、みんなやられちゃって、一人だけ生き残った……とか、そういう話?」

恐る恐る、といった感じでさやかが尋ねる。

「ははっ、んなわけねーだろっ。ロスがバイドなんかに負けるもんかよ。
 っつーか、あんたも軍にいるなら知ってるんじゃないのかよ、ロスのこと」

「いや……あたしは軍人……なのかなこれって。全然実感湧かないってゆーか。
 そもそもバイドと戦ってるだけで、軍人っぽいことなんて何も知らないしさ」

がん、とまた杏子が何かをぶつけるような音。
苛立ちを紛らわすように、機体の外壁を蹴飛ばしていた。

「ンだよ、それ。ますますもっておかしいじゃんかよ。あんたみたいな子供がさ
 何も知らされずに戦わされてるってのかよ……機体から降りられないような体にされてさ」

「まあ、おかしいのはわかってるよ。でもさ、あたしはあんたみたいにずっと戦ってきたわけじゃない。
 そんなあたしが戦うためには、そうなる必要があった。そういうことなんだよ」

杏子の人生を聞けばそれだけ、今の自分が恵まれていることがわかる。
どれほどの努力と苦労を重ねて、今の戦う術を得たのだろう。
それとほとんど同じような力を、こんな僅かな時間で得てしまっている。
それがなんだか、さやかには恥ずべきことのような気もしていた。

「案外割り切ってんのな。あんたの話も、もうちょっといろいろ聞いてみたい気がするよ」

「じゃあ、杏子の話が終わったら、ね」

「……わーったよ。続きだ。……命令を受けて、そりゃあ戸惑いもしたし驚きもした。
 それでもあたしらはミーミルに向かったよ。途中で戦力も補充しながらね」

そして、杏子は再び語りだす。
彼女の最大の戦いの記憶。そして、ロスとの最後の戦いの記憶を。

「――本当に、地獄みたいなとこだったよ」
336 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/21(月) 17:10:18.69 ID:Dra8keHS0
「周囲のバイド体の殲滅を確認、この調子ならこのまま奥へ向かえそうだな」

ミーミルの内部は、まだ比較的施設としての機能を残していた。
中でもまだ使えそうなドッグを急遽改修して、前線基地として仕立て上げ
ミーミル攻略戦は、比較的順調に進んでいるようだった。

「とはいえ油断は禁物だ、アーサー。最奥にある巨大なバイド反応。あれはまだ不気味に沈黙を保っている。
 奇襲でも仕掛けられたら大変だ。早く偵察機からの報告が欲しいところだね」

ロスの声にも緊張の色が混じる。
指揮官となってより初めての、バイドとの大規模戦闘である。
今のところは上手く行っているが、この先どうなるか。

「っ!通信です。先行したミッドナイト・アイからですっ!」

オペレーターの声も、緊張と興奮で震えている。

「すぐモニターへ。さあ本番だぞ。皆、気を引き締めろ!」

映し出されたモニター。カメラ・ビットからの映像が映し出されて、そこに映っていたものは。

「提督っ!とんでもないのが潜んでいやがった!ドプケラドプスですっ!
 くそっ、撃ってきやがった……これ以上は近づけない、このまま後退しますっ」

バイドの象徴たるその異形。四肢をもがれた異星人のようなその姿。
そして胸部から突き出た、もう一つのバイド体。ドプケラドプスはまたしても
人類の前に立ちはだかるのであった。
337 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/21(月) 17:10:59.64 ID:Dra8keHS0
「ドプケラ……ドプス」

その名を聞いて、さやかの声が一気に曇る。
思い出すのは、マミの最後。あんなに綺麗で強かったマミを、いともあっけなく喰らって。
目にした時間は僅かでも、その異形はあまりにも強くさやかの脳裏に焼き付けられていた。

「ああ、ドプケラドプスさ。ミーミルの奥にはとんでもないのが巣食ってやがった。
 あの時初めて実感した。バイドってのがどういうものか。初めて怖いと思った」

「でも……倒したんだ。あのドプケラドプスを。すごいな、杏子は」

「あたしだけの力じゃない。っていうか、あたしの力なんて全然役に立たなかったさ」





「さて、状況を整理しようか」

絶望的な状況下、それでも勤めて落ち着いた声を出してロスが言う。
クルー達の表情にも絶望の色が見て取れる。けれども彼らはまだ諦めていない。
それが、ロスの落ち着いた様子と、ロスが今まで見せてきた実力によるものである、と
ロスは知っている。だから誰よりも自分がまず絶望してはならないことも、知っていた。

「ミーミル最奥に潜むドプケラドプス。一応ここは射程外だが、これ以上近づけば
 容赦なく攻撃が仕掛けられるだろう。まともにもらえばR戦闘機では耐えられない」

考えれば考えるだけ、状況は絶望的だ。

「この艦なら何発かは耐えられるだろう。艦を囮にR戦闘機を突入させて
 敵胸部に潜むコアを破壊できれば私たちの勝利。しかしそうやすやすとも行かせてはくれない」

奥に潜むはドプケラドプス。そしてそれを守るゲインズにタブロック。
今までの交戦で相当数は減らしたが、まだ特に厄介な敵が残っている。

「この艦も、ドプケラドプスに加えてゲインズとタブロックを同時に相手にすれば流石に持たない。
 つまり、何とか先にこいつらを始末する必要がある。……参ったね、どうも」

距離を置いての撃ち合いでは、どうしても敵に分がある。
こちらにも射程の長い機体はいたのだ、だが。

「シューティング・スターが落とされたのは痛かったね。このままだと撃ち合いにすらならない」

そう、こちらの長距離射程をもつ機体はすでに、最初の交戦において落とされていた。
パイロットのことを悼む気持ちはあるが、今はそれに足を取られている暇はない。
皆それがわかっているからこそ、動きを止めるつもりはない。

「……よし、となればこれしかないな。総員、再突入に備えろっ!」
338 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/21(月) 17:12:05.24 ID:Dra8keHS0
とと、投下するとこミスってました。やりなおしデス。
339 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/21(月) 17:13:08.70 ID:Dra8keHS0
「ヒーローは……遅れてやってくるってなぁっ!!」

閃光が、一閃。
それは違うことなくドプケラドプスのコアを撃ち抜き、更に照射を続ける。
撃ち抜き、そして焼き払い。ドプケラドプスの動きを停止させる。

「今の攻撃は?」

「後方……距離4000!波動砲ですっ!」

その閃光に僅かに目を見開いて、続くオペレーターの言葉に小さく笑みを浮かべると。

「……間に合ったか、アーサー」

安堵の表情を浮かべて、呟いた。



それは淡いアイスグリーンのカラーリングを纏った機体。
その機体の上部には、巨大な砲身を掲げている。
その名はR-9DH―グレース・ノート―
シューティングスターの派生機であり、ほぼ同程度の長射程を持ち、長時間の照射を可能とする。
そして、その射手は。

「よう、キョーコ。危ないところだったな」

「アーサー……副長。どうしてっ?」

「こいつがドックに打ち捨てられてたんでな。まだ動かせるから借りてきた。ほかにパイロットもいなかったからな」

そう、この機体は彼らが前線基地としたドックに存在していた。
恐らくは、戦闘に備えて整備をしていたのだろう。だが、結局乗り手はいずことも知れず果てたのか。
まるで乗り手を待ち続けるかのように、整備された状態でドックの奥に佇んでいたのだ。



「副長……パイロットもできたんですね」

オペレーターが驚いたような声を上げる。無理もない。
この艦におけるアーサーの立ち位置は、艦長以上に怖い人。まさしく艦のまとめ役だった。
そこにパイロットとしての姿を重ねることはどうにも出来ずに。

「彼はもともとパイロット上がりだからね。向こうでは随分名を馳せていたらしいよ」

事も無げにそう言うと、ようやく少し表情を和らげた。

(いや、なんでそんな人を副官にしてるんですか、貴方は……)

なんていうオペレーターの疑問ももっともである。
だが、それを語る余裕も紙面も今はない。ここは戦場である。
340 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/21(月) 17:13:41.60 ID:Dra8keHS0
「……ま、無事でなによりだ。アイツもこれでぶっ潰れた」

バイド反応は消失しつつある。最早この場に脅威はない。
犠牲は大きいが、それでも勝利は勝利である。

「勝った……のか、あたしたち」

「ああ、そうだよ。……家に帰るぞ、キョーコ」

アーサーの落ち着いた声が、杏子の胸に染み入ってくる。
こわばった手で握り締めていた操縦桿から、するりと力が抜けていく。
勝ったんだ。この地獄みたいな戦場から、生きて帰ることが出来るんだ。
杏子の心が安堵で満ちていく。自然に笑みが零れて、それでも涙は零さないようにして。

「……ああっ!」



機首を翻して去っていく二機に、ソレは恨みがましい視線を向けていた。
程なく自分は尽きる。消える。それがよくわかる。それゆえに憎い。
どこまでも果てしなく沸きあがる憎悪と攻撃本能に、最後の命の全てを乗せて。
ドプケラドプスは最後の一撃を放った。自らを葬った、あの忌まわしき砲身へと。

「バイド反応……後ろから、っ!?」

「心配すんな。……“見えんだよ”バイド」

その放たれた体液を、どこから飛んでくるのかも確認すらせずに。まるで後ろに目があるかのように
グレース・ノートは機体を大きく円を描いてスライドさせる。更にその空中で機体の向きを変える。
機体性能に頼った機動ではなく、単純に卓越した技量によって為されたそれは
自然と、その砲身を敵の方へと向かせていた。

「デッドエンド……シュート!」

そして再び放たれる閃光。
それは違わず今度こそ、ドプケラドプスのコアを打ち抜きその存在を消滅させた。

「今度こそ……今度こそ、バイド反応消失。我々の勝利ですっ!!」

今度こそ、という言葉に気合を込めてオペレーターが叫ぶ。
その声に続いて、艦内に歓声が轟いた。
341 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/21(月) 17:14:13.27 ID:Dra8keHS0
「さっきのアレ、なんだったんだ。アーサー」

「アレ?デッドエンドシュートか?」

今度こそ、並び立って帰路を辿る二機。

「いや、それも気にはなるけどさ。……さっきの動き。まるで敵が見えてるみたいだった」

「ああ、そっちか。……まあ、見えてるって言えば見えてるのかもな。
 何となくだがわかるんだ、どっから敵が、攻撃が来るかってのがな。後はその方向に機体を向けて、撃つ」

信じられないような才能である。それこそ、こんな小さな部隊の副長に納まっているのがおかしい程に。

「なんだよそれ、わけわかんねぇ」

「だろうな。お前にゃ無理だ。誰にも出来ない。これは俺だけの必殺技って奴だ」

誇るような声を聞きながら、杏子はそれを羨んだ。
自分にもそんな力が、才能があれば。もっとみんなの役に立てるだろうに。

「……あたしも、そんくらい戦えるようになりたいよ。どうやったら、そんな風になれるのさ、アーサー」

その言葉に、少しだけ困ったようにアーサーは口を噤み。

「精神論ってのは好かないんだけどな。とにかく自分を、それから敵をそのまま感じてみな。
 ……あー、やっぱり自分で言ってても胡散臭ぇや」

「なんだよ、それ」

こんな説明でわかるはずがない、と杏子が食って掛かるも
アーサーはそれ以上は誤魔化してはぐらかすだけだった。


かくして、ロスは英雄となった。
寡兵ながらミーミルを奪還。ドプケラドプスの撃破を成し遂げた。
それだけの成果を上げた人間など、軍の中にもほとんどいない。
白羽の矢が立つのは、必然といえた。

―――曰く。

貴官および貴官の部隊は、帰投せずにバイド討伐艦隊を編成し
速やかにバイド中枢を討て。
健闘を祈る。
                               統合作戦本部

と―――。
342 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/21(月) 17:15:43.70 ID:Dra8keHS0
「――思い、出した」

愕然とした声で、さやかは声を上げる。
バイドとの戦いの歴史。R戦闘機の歴史を習ったときにその名前を聞いていた。
ジェイド・ロス。それは太陽系内のバイドを駆逐し、バイド討伐艦隊を率いて
外宇宙へと旅立っていった、若き英雄の名であった。

「そうだよ、ジェイド・ロス。二年だかそこら前に、バイドをやっつけたって言う英雄!
 ……そっか、杏子はそのジェイド・ロスと一緒に戦ってたんだ。あ、でもバイド討伐艦隊は今外宇宙にいるんだよね。
 杏子は……一緒に、行かなかったの?」

がご、とまた一つ大きな音。
外壁がへこむのではないかというほどの勢いで、杏子の足が外壁を蹴りつけていた。

「行けなかったのさ、あたしは。……置いていかれたんだっ!」

苛立ちも顕わに、杏子が叫ぶ。そしてまた語りだす。
最後の、別離の物語を。
343 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/21(月) 17:16:44.10 ID:Dra8keHS0
「それじゃあ、これからはパイロットでやって行くのかい?」

バイド討伐艦隊の編成が始まった。
ロスは大佐へと昇進し、更に討伐艦隊の完成をもって少将に任じられるらしい。
この輸送艦で指揮を執るのも、恐らく今日が最後だろう。
名残惜しい気持ちも抱えつつ、ロスとアーサーが司令室で話していた。

「ここから先はきつい戦いも多いだろうからな。優秀なパイロットは多いほうがいい。
 ……まあ、仕官の真似事も楽しかったけどな」

「真似事だなんて、君は優秀な副官だったよ、アーサー」

理由はそれだけではない。ここから先、艦隊は大規模なものとなるだろう。
ともなれば、今までのように一つの家族として艦を捉えることはできなくなる。
事務的に、冷徹に任務を遂行していく必要がある。それをするには、自分はロスに近すぎる。
それが理由だった。

「そりゃどうも。今後はパイロットとしてお前を支えてやるよ、ロス」

「頼むよ、アーサー。……それと、もう一つ話があるんだったね」

「ああ、こっちもまた重要な話だぞ」

一呼吸おいて、ロスのほうから切り出した。

「キョーコのこと、だね」

相変わらずの察しの早さだ、と僅かに目を細めて。
すぐにアーサーは言葉を続けた。

「ああそうだ。俺はアイツを連れて行くのは反対だ。他の隊との折り合いもある。
 ……そしてなにより、帰り道のない旅に付き合わせるには……アイツはガキ過ぎる」

「……実はね。他のクルーからも同じ意見が出てる。ほとんど全員だ」

その言葉に、アーサーも流石に驚いたようで。
目を見開いて、改めてロスを見る。

「大体理由は君と同じ。キョーコを戦わせたくない。死なせたくないってね。
 どうやら私たちは、思った以上に彼女に思い入れがあったようだね」

困ったように、呆れたようにロスが苦笑する。
それに応えるように、アーサーも同じ笑みを浮かべて。

「違いない。あんな可愛げのないガキだってのにな」

くく、と低くくぐもったような声で笑いあい。
それもいつしか堪えきれずに、弾けるような大きな笑い声に代わって。
344 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/21(月) 17:18:16.63 ID:Dra8keHS0
「で、どうするんだ?俺個人としちゃあ連れて行きたくないが、キョーコはもう、十分戦力になってると思うぜ」

ひとしきり笑って、やがてゆっくりと顔を上げてアーサーが問う。
ロスもまた、笑い疲れて顔を手で多い。そんな手でゆっくりと、髪をくしゃ、とかき上げて。

「置いていくさ。あの子を任せられる所ももう見つけてある」

その声を聞いて、部屋の外で何かが動く音が響いて。
咄嗟に二人は部屋の外へと飛び出した。見れば暗い廊下の奥へ、走って消える赤い髪が見えて。

「聞かれたな。……聞かせてたのか?」

「まさか、流石に予想外だ。……ちゃんと話をしてくるよ。これも大人の責任って奴だ」

「一緒に行こうか?」

「いいや、私がちゃんと話しておくよ」

そして、ロスも部屋を飛び出した。
345 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/21(月) 17:19:11.54 ID:Dra8keHS0
「キョーコ!待ちなさいっての、キョーコっ!」

廊下の奥で、所在無さげに佇んでいた杏子に声をかけた。
すると杏子はすぐさま走って逃げ出した。ここは止まって話を聞いてくれるところだろうに。
慌てて走って追いかける。しかし杏子の足は随分速い。
司令室や艦橋で座っていることが多く、体が鈍ってしまったのだろうか。少し鍛えた方がよさそうだ。
と、ロスは苦笑しながら杏子を追いかける。追いつけない。呼びかけても返事はない。

「ぜ……は、はぁ。いや……うん、手強い。ほんっとーに、手強いっ!」

走りつかれて、おまけにどうも脇腹の辺りが痛い。
溜まらず壁にもたれかかって、荒い息を整えようとしていたところに。



「そんなザマで、バイドに勝てんのかよ。……あたし抜きで、勝てると思ってんのかよ」

もう随分と見慣れた赤い髪を揺らして、杏子が歩み寄ってきた。

「っ、はぁ。なんとかなるし、なんとかする。それが私の仕事だよ」

隣にどさりと腰を下ろして、そっぽを向いて杏子は答える。

「それでも……あんただけは、ロスだけはわかってくれるって思ってたのに!
 ロスだけは、それでも一緒に戦おうって……言ってくれるって思ってたのに!!」

声には涙が混ざる。杏子はただ信じていたのだ。
彼女を置いていこうとする声も聞こえていた。それでもただ、信じていた。
ロスだけは、ロスだけは自分を受け入れてくれると、一緒に戦わせてくれる、と。

「それについてはすまない。だがこれはもう結論だ。キョーコ、君を連れてはいけない。
 たとえクルー達がなんと言おうと、私は君をこれ以上連れて行くつもりはない」

ようやく呼吸を整えて、一息にロスは杏子に言い放つ。
その事実は、酷く杏子を打ち据えた。
346 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/21(月) 17:19:52.56 ID:Dra8keHS0
「……嫌だ。嫌だよ、ロス。お願いだよ、あたしを連れて行って」

ぎゅっとロスの腕に縋って、泣き顔は見せないようにその顔を埋めてしまって。
杏子は必死に訴える。

「あたしには、ここしかないんだよ。他に何もないんだ。
 ここにいられなくなったら、あたしはどうやって生きていけばいいのさっ!」

「……君を預けられる場所は用意してある。信頼できる人物だ。退役して、学校にも通えるように手配してもらった。
 蓄えだってある、君は元の日常に戻れるんだ」

諭すように話しかける。それでもロスは、杏子に一人の人間として向かい合うことを忘れない。
こんなときだからこそ、一人の人間として納得して欲しい。その上で、道を選んで欲しいと思うから。

「そんなのいらないっ!あたしは、あたしはロスと一緒にいられればいいんだ!
 仲間だって家族だってどうでもいい、遠い星の彼方に行ったって構わない。
 あんたと、ロスと一緒にいられれば、あたしはそれだけでいいんだ。……だから、お願いだよ、ロス」

軍服に濡れた感触が広がる。泣いているのだろうか。
その時の杏子の声は、その雰囲気は。あの時杏子を軍に招き入れてしまったときのそれと、同じだった。

「正直に言うよ。私は今でも、あの時君を軍に入れたことを後悔している。
 たとえあの研究者達の手から救うためとはいえ、私は君の未来を奪ってしまった。
 普通の子供のように、毎日笑って、友達と一緒に遊ぶような、そんな未来を」

「いらない、いらないっ!そんな未来、考えたこともないっ!!」

「それは、君が何も知らないからだ。平和に生きる日常の価値も、その意味も。
 私たちは君に何も教えることが出来ないままに、君を戦わせてしまった。これはとても罪深いことだ」

「知らなくていい!あたしは戦える。ロスと一緒に生きていけるっ!」

いつしか杏子のその声は、嗚咽交じりになっていて。
それでもロスは根気強く、一つ一つ説いていく。

「君がちゃんと自分の人生を過ごして、その上でまだ戦いたいというのなら私は止めない。
 でも、今は駄目だ。君はまだ、自分の人生を生きていない。自分のために生きようとしていない」

「じゃあロスのために生きる!それがあたしの生き方でいい、だから、だからぁっ!!」

「……それじゃあ、だめだよ。杏子。戦闘、戦争なんてしょうもないことをやるような奴はね。
 どこかで自分の為に、利己的に生きてなくちゃいけないんだ。でなければ生き残れない」

続けて投げかけられた言葉が、杏子の胸を貫いた。



「そんな風に死ぬ奴は、必ず誰かを道連れにする。だから、君は連れて行けない」
347 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/21(月) 17:22:34.09 ID:Dra8keHS0
弾かれたように顔を上げる杏子。涙をぽろぽろと零しながらも、その顔は愕然としていた。
まるで信じられないようなものを見るような目で、ロスを見つめて。

「なんだよ、それ……。じゃああたし、まるで邪魔者じゃないかよ」

「……今の君では、ただの邪魔者だよ。例えば途中で私が死んだら、君はそこで戦えなくなるのかい?
 そんな兵士は、いくら優秀でもただの役立たずだよ。……わかるんだ、杏子」

「何でだよ……何でだよ!家族じゃなかったのかよ、ばかやろーっ!」

ロスの手を振り切って、再び弾かれたように杏子は走り出した。
それが、ロスと杏子の交わした最後の会話となった。
そしてロスは誓う。必ず彼女の元に戻ろう。そして謝ろう。
そのためならば、自分はどれだけ冷徹になっても構わない――と。

英雄は、一つの離別を経て英雄たる精神をその身に宿す。
そして、星の海の彼方へと旅立っていった。




残された少女は、岐路に立つ。日常へと回帰するか、それともこのまま戦い続けるか。
彼女は……戦った。自ら望んで選んだわけではない。それでもあらゆる希望を失って、ただ生きることは出来なかった。
離別の悲しさを、ただ胸を埋める喪失感を、バイドへの憎悪に変えて戦い続ける。
それしかもう、彼女に出来ることはなかったのだから。

だがしかし、残酷にもその願いは叶わない。
彼女は子供だった。普通の神経をしていれば、戦場になど出ることも叶わないほどに。
それでもR戦闘機のパイロットとしての腕を買われて、辺境の輸送部隊に回されることとなる。
周りからは奇異の目で見られ、戦う敵などありもせず。ただ空しく過ぎる日々。
それは、壊れかけた杏子の心に静かに皹を入れていく。いつか壊れる。

そう感じていながらも、それを変える気にもならない。自ら命を絶つほどの意志もなく
いつしか、バイドへの憎しみ自体も忘れることが多くなった。それが許せなかった。
戦うことが、憎むことが唯一、自分とロスとを繋ぐものだと考えていたから、だから。
348 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/21(月) 17:23:18.73 ID:Dra8keHS0
「だからあたしは……あのエバーグリーンからまたバイドが出てきたって聞いてさ。
 居ても立ってもいられなくなった。今戦わなかったら、あたしはもうあたしでいられなくなる。
 そうなる前に、まだあたしがあたしでいられるうちに、戦って……死のうと思ったんだ」

どこか投げやりに、杏子は全てを語り終えた。
いつしかさやかも言葉もなく、ただ聞き入ってしまっていて。

「まあ、そんなとこだよ。だからさ、別にあんたはあたしを追いかけてくる必要なんてなかったんだ。
 ただの死にたがり一人、放っときゃよかったんだよ」

「……何かさ、それってすごくずるいんじゃない?」

可哀想だな、と思う気持ちもある。
でも今はそれ以上に、放っておけない、何とかしたいという気持ちが強い。

「そうだよ、あたしはずるくて自分勝手な奴なんだよ。だから勝手に戦って、勝手に死ぬんだ」

「そういうことじゃないよ。あんたは何も自分で決めてない。状況に流されて、誰かに縋って。
 一度だって、自分で何かを決めてない。何も選ばないまま自分の命まで捨てようとしてる。ずるいよ、そんなの」

小さく歯噛み、そしてまた外壁を蹴り上げ杏子は叫ぶ。
苛立ちを感じているのは、それを自分でも自覚しているからだろうか。
それとも、それを言っているのが自分と年の変わらぬ少女だからだろうか。

「そういうテメェは、自分で覚悟して戦ってんのかよ!
 こんなガキが、何もかも全部背負って戦えるわけがないだろっ!」

「あたしは、戦ってる。バイドが憎いし、皆を守りたい。自分で選んで戦ってるんだ。
 甘いっていわれるかもしれないし、この覚悟だって揺らいじゃうかもしれない。
 それでもあたしは、自分で決めたんだ。だから、言い訳なんかしない。死ぬなら死ぬで、それまで精一杯生きる」

さやかの脳裏によぎるのは、今のさやかに生き方を示したマミの姿。
それはきっと随分と脚色されている気もするが、それは憧れで、目標で。
あんなふうに強く凛としていられたら、おまけにもうちょっとくらい大人びていれたらいい、と願う。

「あんたは選べなくて、選ばなくて。それで納得のいかない結果になって。
 嫌になって全部放り投げようとしてるだけだ。そんなの、あたしが許さない」

「じゃあどうしろってんだよ!戦えもしない。今更日常になんて戻れない。
 このままずっと、腐り続けてろとでも言うのかよ、テメェはっ!!」

わかってる。わかっている。それでもほかに何も選べなかった。
誰も道を与えてくれなかった。……でもそれはもしかしたら、自分で選ぼうとしなかった、道を探そうとしなかった。
流されるのは楽だったから、誰かに道を委ねるのは楽だったから。それだけのことだったのかもしれない。
それも薄々は気付いていたから。認めたくなくて声を張り上げる。
349 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/21(月) 17:24:17.52 ID:Dra8keHS0
「……なら、一緒に来る?一人じゃ色々煮詰まっちゃうでしょ」

「は?ってぇ、何でそーなるんだよ!バカかお前!バっカじゃねぇのか!?またはアホか!」

あまりに急な申し出に、きょとんとしてしまう杏子。
その顔からは、先ほどまでの強張りは吹き飛んでいて。

「……いや、そこまで言うことないんじゃないの。さやかちゃんもちょっと傷つくわ」

なんだかずきり、と胸が痛む気がして。
ひとまずそれは放っておいて、言葉は続く。

「だってあんた、自分じゃ道も選べないんでしょ?だったらさやかちゃんが一緒にいてあげるよ。
 自分でちゃんと選べるようになるまで、あたしが一緒に選んであげるよ。
 それが嫌なら今この場でちゃんと選びなさいよ。どう生きるか。簡単に死んで逃げようとするなんて、だめだ」

「だから、あたしは別に……自分の生き方くらい、自分で……っ」

言葉が出ない。あのときからずっと一人で生きてきた。
仲間は、家族はロスたちだけだから。もうずっと一人ぼっちだと思っていた。
そこへ差し伸べられた手。それは、同じ女の子の手で。
どうしたらいいんだろう。わからない、選べない。

「あぁもうまだるっこしい!あたしについてくるのがそんなに嫌なわけ?
 じゃあ決めた。あたしはあんたと一緒に行くことにするよ。それなら文句ないでしょ」

「大有りだっ!第一……ここを出られたってあたしにゃ帰る場所なんて、ないし」

「あ……そっか、そういやあんた勝手に出撃してるんだっけ。道理でそんな妙な機体に乗ってるわけだ。
 じゃあやっぱり、尚のこと一緒に来なよ。あたしの船さ、乗ってるの皆あたしくらいの女の子なんだ」

「……どういう船だよ、そりゃあ」

なんとなく捨て置けなくて、もしかしたらそれは興味なのかもしれなくて。
ぽつりと杏子が漏らす。

「そういう船なんだよ。とはいえ、乗ってるのはあたしを含めて二人だけ。二人きりってのはちょっと寂しくてさ。
 もう一人くらい、減らず口の減らない生意気な奴がいると……いー感じに生活色づくんじゃないか、ってさ」

冗談交じりに、からかいも混ぜて軽い口調でさやかが話す。
思わずかちんときた。大人に言われるのには慣れたが、歳の近い子供に言われるのにはまだ慣れない。
350 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/21(月) 17:25:36.95 ID:Dra8keHS0
「減らず口も生意気も、全部テメェのことじゃねぇかっ!
 ……それに、そんな簡単に逃げた奴を受け入れるなんてできねーだろ」

「あ、それはキュゥべえに任せておけばおっけー。アイツ妙に何でもやっちゃうからね」

「誰だよ、キュゥべえって」

なんだか話が一緒に行く方向でまとまっている。
けれどもそれを覆せない。次から次へと訳のわからないことが出てくるのだ。

「よくわかんないけど、あたしらの船を動かしてる変な生き物だよ。見てみればわかるって。
 ほら問題なんかないよ。とにかく一回来てみなさいな。それで嫌なら他所行けばいいじゃん?」

「……い、行くだけだかんな。ちょっとだけ見て、すぐ帰るかんな」

「よし、決まりっ!よろしくね、相棒」

「誰が相棒だ、誰がっ!」

ひとしきり話もまとまった。これ以上はしょうもない口論になりそうだ。
タイミングでも見計らっていたかのように、二人の機体に通信が入る。



「さーてと、二人ともー。まだ生きてるかね?」

九条の声。口論をしていた二人の顔が引き締まる。

「っと、どうやらその調子なら無事なようだね。こっちも概ね準備は整ったよ。
 ある程度敵の数も減ってきた、そろそろ突入できそうだ」
351 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/21(月) 17:26:11.40 ID:Dra8keHS0
「え、突入って……敵減らすだけじゃなかったっけ?」

不思議そうにさやかが尋ねる。

「ははは、いくら君達が優秀でも、二人で戦えなんて酷な事は言わないさ。
 君たちにはそのまま奥へ向かってもらい、内部構造や敵の偵察を行ってもらいたい。
 その情報を受けて、我々が奥へと突入する。合流したら敵中枢を攻撃しよう」

どうやら状況は、思った以上によい方向に傾いているようだ。

「我々もすぐに駆けつける。だから君達も、もう少しだけ頑張ってくれ。
 大丈夫、君たちは二人きりなんかじゃない」

その声を聞いていると、少しずつ体に力と気力が戻ってくるようで。
杏子は髪を束ねてヘルメットを被り、キャノピーを閉ざす。

「いいさ、こうなったらとことんどこまでも行ってやろーじゃないか。
 一緒にバイドぶったおして、あんたの船に連れて行きやがれっ!」

「おっけー、それじゃどーにかこーにか生き残ろうじゃないっ!」

さやかの声も、応えて弾む。

「……おーい、何の話だねー?」

なんだか置いてけぼりで、ちょっと空しい九条の声。

「あ、いやいやこっちの話。よーっし、そうと決まれば早速行っちゃうよーっ!」

「勝手に突っ走って死ぬんじゃねーぞ。よし、あたしも出るよっ!!」

そして再び、二機のRが空を往く。
青い軌跡を描きながら、交錯し、縦横無尽に駆けて行く。

臨むはバイドの中枢。目指すは生還。
エバーグリーンを巡る攻防は、ついに最終局面を迎えるのであった。


魔法少女隊R-TYPEs 第6話
       『SWEET MEMORIES』
         ―終―
352 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/21(月) 17:26:46.54 ID:Dra8keHS0
【次回予告】

「さやか……そんなっ!」

エバーグリーン攻防戦、最終局面。
ついに姿を見せるバイドの中枢。その脅威の力に少女たちは戦慄する。

「ヒロインは……遅れてやってくるっ!……なーんてねっ」

けれど希望は捨てはしない。負けはしない。
少女たちは希望を、未来を胸に戦い続ける。そして訪れた、ものは。




「休暇だ」

「「「は?」」」

次回、魔法少女隊R-TYPEs 第7話
         『METALLIC DAWN U』
353 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/21(月) 17:29:25.36 ID:Dra8keHS0
途中ちょっとぐだつきましたが、6話、これにて終了でございます。
マジさやかちゃん主人公。まどかさんはごめんなさい。もうすぐ出番ですからお待ちください。
なんというか半分くらいオリジナルの提督と副官との掛け合いになってしまいました。
でもそれが非常に楽しかったです、もしかしたらオリジナルもいけるかもしれませんね。

>>333
華麗にアーサーさんが助けてくれました。
このアーサーさんは多分自機になれるスペックのチートさんです。

マミさんはどうなるのでしょうね。そろそろ何かしらのお話ができればよいのですが。
354 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/21(月) 17:40:29.62 ID:3SnlePb00
はいだらー!
・・・いやうん、言いたくなってね
>>1
355 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/21(月) 18:55:43.91 ID:tha2L5lDO
お疲れサンキュー!オリジナルさん達の展開は何も間違って無いですね。いえ、むしろ良い!

しかしまさかの休暇!?まぁ女の子には必要ですか。旧世代のゲームの中にはアインハンダーとかあるかな?
あとDDRも。
356 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/11/22(火) 02:05:04.19 ID:Zqnoj16G0
投下ー、ではありませんが。
STGとTACの設定が微妙にごちゃ混ぜになってきているので、年代だけでも整理してみました。

そういうわけで、少しだけ投下です。
357 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/22(火) 02:05:48.81 ID:Zqnoj16G0
R-TYPEの世界は、実はゲームだけではわからない裏設定が非常に数多く存在しています。
その設定の豊富さや後ろ暗さも、このゲームシリーズの魅力なのではないでしょうか。

今作では、我らが主人公だけど今回は原作以上に立場のないまどかさんや
なぜか全力で主人公になってるさやかちゃん、実はスゥちゃんだったほむらちゃんなど
彼女らがR-TYPEの時代の人間になってもらって話が進んでおります。

おまけに今回、あんこちゃんのお話ではかなりTAC成分からお話を拾っております。
そもこのお話では、STGとTACを同一の世界として語っています。
ですのでR-TYPERな方にもちょっと困惑するところがあるかもしれません。
なので今日は本編の方の更新はひとまずお休みして、この世界におけるRの歴史をまとめてみたいと思います。


公式で設定されている歴史としては、1〜3までの作品での年代と、それ以降の作品での年代が食い違っています。
今作では、FINALやR-TYPEsによって新たに設定された、2163年を第1次バイドミッションの開始とする
時代系列を採用しています。その上で第3次バイドミッションが2169年。その終了直後の2170年から
お話が始まっています。FINALのストーリー的に2180年台くらいから始まってないとおかしかったりしますが
その辺はあえてばっさりと無視することにしておきます。FINAL本編もそうなっておりますし。
358 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/22(火) 02:11:17.72 ID:Zqnoj16G0
というわけで2163年に最初のバイドに対する大規模作戦、第1次バイドミッションが発令されました。
この戦いの模様は今でも初代R-TYPEとして楽しむことが出来ます。
概要だけ述べれば、この作戦に参加したR-9大隊の内の一機がバイドの中枢を破壊し地球に帰還しました。
その機体は宇宙要塞アイギスへと収容されたのですが、これが後の災いの原因となります。
今作でも大きな影響を与えているエバーグリーンの墜落は、この時期に起こっています。

時系列的には、このままUの話に行くかと思いきや一気に凾ノ行きます。
今作ではさらりと流されていましたが、サタニック・ラプソディという事件が2164年に起こっています。
地球の各都市での電子制御兵器の暴走、アイギスに封印されていた殲滅ユニット・モリッツGの地上への投下
などといった事件が起こり、その鎮圧にテスト機を含む3機のR戦闘機が出撃しました。
その内1機が未だ未帰還となっております。

それと時を同じくして、地球において巨大兵器の暴走事件が発生。
軍ではなく民間の武装警察によって鎮圧されるという事件。後のデモンシード・クライシスも発生しています。
これらの出来事については、R-TYPE刹yびGALLOPにて楽しむことが出来ます。
流石に私もGALLOPはやったことないのでなんとも言いがたいところですが。

この事件は、地球にバイドの侵攻が確認された初めての事例となっています。
エバーグリーンの事件自体はただの墜落で、そこからバイドが侵攻してきたという事実はないようです。
この事にバイドに対する警戒を強めた軍が、各隊が独自にバイドに立ち向かうことが出来るよう
裁量権の譲渡を行った、という感じのオリジナル設定が追加されています。
この辺の元ネタとしてはTACの最初のほうのミッションになりますね。

2163年
・第1次バイドミッション
・エバーグリ−ン墜落
・あんこちゃん生き残る、ロス提督との出会い

2164年
・サタニック・ラプソディ(R-TYPE凵j
・デモンシード・クライシス(GALLOP)
・あんこちゃん、ロス提督の部隊に配属される
359 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/22(火) 02:19:30.44 ID:Zqnoj16G0
そして続く2165年。今だ収まらぬバイドの侵攻に対して第2次バイドミッションが発令されました。
第2次バイドミッションでは、アロー・ヘッドの直系進化機であるR-9C
ウォー・ヘッドがバイド中枢の破壊に成功しています。
この辺りのお話はR-TYPEUにて楽しむことが出来ます。
後にSFCにリメイクされて発売されたR-TYPE SUPERでも楽しむことが出来ますが
一部設定やステージが変更されていたりします。
主に自機の設定とか。SUPERの方の戦闘機、人乗り込んでるんだもん。
まあ、Rにまつわる黒い設定が始まりだしたのもこの作品です。エンジェルパックェ……。

そしてここからが主に原作との設定の差異が生じてくる部分となります。

2165年
・第2次バイドミッション
・あんこちゃん頑張る。蝶頑張る、もしくは超☆頑張る
360 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/22(火) 02:24:14.40 ID:Zqnoj16G0
2170年を基点とし、その二年ほど前にロス提督はバイド討伐艦隊を率いて宇宙の海へと旅立っています。
つまりこの出来事が起こったのが2168年辺り。
内容は色々違いますが、ロス提督のご活躍ぶりはR-TYPE TACTICSでお楽しみいただけます。

そして我らがほむらちゃんことスゥ=スラスターが駆るR-9Ø
ラグナロックが戦う第3次バイドミッションが2169年です。
このお話はR-TYPEVでお楽しみいただけます。
R-TYPEVではスゥちゃんはバイド中枢を破壊したのち、どうやら地球へと帰還したような描写がなされています。

ここもまた、今作では異なるところとなっております。
スゥちゃんはどうやらバイド中枢を破壊したのち、密かに地球に帰還し
暁美ほむらとして第2の人生を送ろうと画策していたようです。結果はごらんの有様ですが。

2166〜2167年
・この辺りのかなり最後の方でミーミル攻略戦
・あんこちゃん、ロス提督とBYEBYE

2168年
・ジェイド・ロス少将率いるバイド討伐艦隊が出発(R-TYPE TACTICS)
・あんこちゃん、しばらく空っぽな日々

2169年
・第3次バイドミッション
・スゥことほむらちゃん、地球に(こっそり)帰還
361 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/22(火) 02:26:19.55 ID:Zqnoj16G0
そうしてロス提督の手によってバイドが太陽系から駆逐され、平和が戻ったように見える時代。
それが今の2170年となっています。実際は全然バイドの侵攻は収まっていないようで。
軍やRな方々は今もバイドに抗し得る手立てを(嬉々として)必死に作り上げているようです。

2170年←イマココ
・マミさん死亡
・ほむらちゃん、さやかちゃん、魔法少女になる
・エバーグリーンより大量のバイド出現。あんこちゃん、さやかちゃんコンビが交戦中
362 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/22(火) 02:30:06.04 ID:Zqnoj16G0
ざっくりとまとめてみました。多分色々と不備はあるとは思いますが
その辺りはまた色々尋ねていただけると嬉しかったりします。


>>354
何となく入れられそうだったので入れちゃいました。
ADAみたいな戦闘AIがあったら私も嬉々としてR戦闘機にだって乗っちゃう気がします。

>>355
そう言って頂けると本当に嬉しいです。
彼らが少しでも魅力的な人物に描けていれば、それだけお楽しみも膨らむというものです。
これで彼らの出番ももうなくなってしまうわけですからね。

休暇パートはどうしても書きたかった部分でした。主にまどかさんを登場させるために。
多分幕間的なものをいくつか書いていく形になるのではないかなと思います。
363 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/22(火) 07:59:36.36 ID:aScrdcmDO
年表グッジョブっす!
しかしほむらちゃん…平穏を微塵も楽しむ事が出来なかったのか。

休暇の話を先に出しちゃったけど、その前にまず一面ボスをなんとかしないといけないんでしたね。すっ飛ばしてすみません。
364 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/22(火) 21:17:57.40 ID:MzZIMtkLo
なるほど、わかりやすい。
365 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/11/24(木) 02:12:29.54 ID:PFz63v6S0
友人宅から投下です
366 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/24(木) 02:13:28.96 ID:PFz63v6S0
「ほむら、何をしているんだい?」

さやかを送り出し、宇宙港に寄航しているティー・パーティー。
機体の修理には専門の修理班が必要とのことで、今のところどうにも身動きがとれずにいた。
そんな中で、ほむらは静かに動き出す。絶望に打ちひしがれた心を奮い立たせて、歩き出す。
向かった先は、さやかの部屋の前。

「……ちょうどよかったわ、キュゥべえ。部屋のロックを開けてくれないかしら」

何かを考え込むように佇んでいたほむらの前に、キュゥべえが現れた。
それを一瞥して、すぐにほむらは言葉を告げる。

「どうしてそんなことを?何か欲しいものでもあるのかい」

「ええ、とても必要なものよ。……さやかは何も持たずに出て行ったから
 多分まだ、この部屋においてあるんじゃないかしら」

胸の奥には罪悪感。こんな空き巣まがいなことをしてしまっている。
それを堪えて、今はやらなければならないことをやるだけだ。

「……やれやれ、一体何をするつもりなんだろうね。
 もしこれでキミがさやかと何かあっても、ボクは責任は取れないよ」

「構わないわ。……開けてちょうだい」

「確かに、こりゃちょっと不気味なくらい敵がいないね」

扉が開かれる。部屋の間取り自体はほむらの部屋と変わらない。
壁のパネルに触れようとして、気付く。明かりの差さない暗い部屋の中。
その部屋を仄かに照らす光があった。
それは机の上にそっと置かれていた。琥珀色の輝きを放つ、マミのソウルジェムだった。

「それは……マミのソウルジェムかい。……回収していたとはね。なるほど」

それを見つめて軽く目を見開いて、納得したようにキュゥべえが頷く。

「……マミの体を出しなさい」

「言うと思ったよ。安置室のロックを開けてある。……上手くいくといいけどね」

「試す価値は、あるわ」

そしてマミのソウルジェムを手に、ほむらは部屋を後にする。
367 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/24(木) 02:14:14.89 ID:PFz63v6S0
居住ブロックの影から飛び出て、二機のR戦闘機が空を往く。
立ち塞がるのは散発的に現れるストロバルト程度なもので、道を阻むものは何もない。

「却って不気味だね。本当に全部外に追い出されっちまったのかねぇ」

不気味な沈黙、その中を切って飛んでいく。
コロニー最深部、バイドの中枢がいると思しき場所までは、もうそれほど距離もない。

「この調子なら、このままあたしらで敵の親玉やっつけちゃったりしてねー」

「だといいがね。……っ!?奥から高エネルギー反応、こいつはっ!?」

「え……っ?」

奥から湧き出てきたのは、巨大な光の柱。
それは膨大なエネルギーと、絶大な破壊を伴って全てを薙ぎ払っていく。
そしてそれは、容易くレオを飲み込んだ。

「さや、か?」

何が起こったのか、一瞬信じられなかった。
次の瞬間杏子が見たものは、火花を散らしながら墜落していくレオの姿。
着水、キャノピー部分を深く水に沈めて微動だにしない。

「さ……や、か?」

もう一度、恐る恐る呼びかけてみた。
返事は、ない。

「何だ今の攻撃はっ!美樹くん、佐倉くんっ!コロニー内部より大出力のレーザーの攻撃を受けた。
 そちらの状況はどうなっている?無事なのか、二人ともっ!」

焦りの混じる九条の声。何ということか。
レオを打ち落としたあの閃光は、あまつさえコロニーの外に届いていた。
そして、外周を取り囲む艦隊を狙っていたのである。
368 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/24(木) 02:15:23.41 ID:PFz63v6S0
「さやかが……やられた。今のを喰らっちまった」

「何、それは本当かね!?それは……気の毒に……。
 とにかく、こんな攻撃があるようならこちらも行動を考え直さないといけない」。
 すぐに突入するのは厳しい。佐倉くん、何とか脱出できるかい?」

「脱出……か」

出来ないことではないかも知れない。
今は敵の守りも薄い。一人だけ、逃げ延びるだけならば、何とかなるかもしれなかった。
さやかを見捨てて、一人で。

「……できるわけ、ねぇだろーが」

「佐倉くん?」

「できるわけねーよ。そんなこと。あいつはさやかをやりやがった。
 ……相棒だって、仲間だって言ってたのに、あいつがやりやがったんだ」

ぎち、と力を込めて操縦桿を握り締める。
頭の中がぐつぐつと煮えたぎる。また奪うのか。
人生を、家族を。そしてまた今仲間を。バイドはどこまでも奪っていくというのか。
許せない、許せるわけがない。

「佐倉くん、落ち着くんだ。奥にはまだ大型バイドの反応がある。
 このまま一人で先走ってもやられるだけだ。引き返すんだ」

わかっている、それが道理だ。
二人がかりでこのザマだ。一人で、それもさっきまで死にたがっていた奴が。
一人で、一体どれだけ戦えるというのか。
369 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/24(木) 02:16:32.90 ID:PFz63v6S0
「はは……死にたがりが生き残って、生きろって言ったあんたが死ぬのか。
 笑っちまうよな。……そんな道理があるかよ。なあ、さやか」

「落ち着くんだ。ここは引くも勇気だよ。一度戻って体勢を……」

その通信を途中で打ち切って、杏子は操縦桿を握り締め。

「ああ、知るかよそんな道理。道理を破ってくれやがったのは向こうだ。
 だったらあたしが……こんな道理に乗ってたまるかよ」

目を見開いて、向かう先を睨み付ける。
コロニー最奥まではあと少し、再び奥には大出力のエネルギー反応。
わかっていれば、避けられるかもしれない。

「元々死にたがり一人だ。教えてやる、見せてやる!
 人間が何処までやれるのかってのをさ……待ってろよ、バイドっ!!」

波動の炎を巻き上げて、アサノガワが速度を上げる。
この距離では奥からの攻撃に巻き込まれるからだろうか、その行く手を妨げる敵はもういない。
放たれる、閃光。眼が眩みそうになるそれを見据えて、機体を急旋回させる。
回避成功。光は遥か向こうへと消えていく。外の艦隊にも被害は出ているのだろう。
ならばなおのこと、すぐにでも倒さなければならない。

「見えてきた。あれが……バイドの親玉かっ!!」

コロニーの最奥に押し込められたようにとどまる液体金属の塊。
一体あの何処から、あれだけの高出力レーザーが発射されるというのか。
理解できない。もとより、バイドのことなど理解する必要もない。
一気に機体をめぐらせて、フルチャージのパイルバンカーを叩き込む。
それで終わりだ。終わらせるだけの威力はあると、そう確信していた。
370 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/24(木) 02:17:27.15 ID:PFz63v6S0
直後、液体金属の塊が瘤のように隆起する。
変化は立て続けに生じる。さらに全周囲を覆うように液体金属は広がって行き
まるで枝や根が張るように、機体の周囲を包み込んでいく。

「動き出しやがったか!こりゃあ……まるで檻だな
 逃がさない、とでも言うつもりかい?へっ、誰が逃げるかっての!」

変化自体はめまぐるしい。だがそれは攻撃と呼ぶにはあまりにも緩慢で。
故に杏子は機体を巡らせ、用意にそのその中枢と思しき瘤の前へとアサノガワを運ばせた。

「挨拶代わりだ。早速だけど、こいつで終わりだよっ!」

超硬度を誇る金属杭が、波動エネルギーによって恐るべき速度を持って射出される。
その圧倒的な射速で放たれたその杭は、周囲の物質と衝突し電気を発生させる。
それを纏って放たれる一撃必殺の一撃、パイルバンカー帯電式。
ゲインズの装甲を撃ち抜き、ギロニカの甲殻を砕いたその一撃は。


――その瘤を僅かにへこませていた、ただそれだけだった。


「な……っ」

それはXelf-16と呼ばれる、無数の極小バイド体によって構成されたバイド生命体。
その特性はまさに液体金属のそれに等しく、自由自在に姿を変える。
さらには与えられた衝撃に対して、それを分散して無効化する。
パイルバンカーによる攻撃も、その特性の前には無力であった。

そして、周囲を取り囲む檻が脈動を始める。
ところどころに突き出した突起が蠢いて、杏子めがけて伸びてくる。
一本、二本。続けてまた二本。
R戦闘機の機動性であれば労せずかわせる攻撃ではあるが、狭い檻の中では動ける範囲も限られる。

「く……っそ、邪魔だ、退けろぉぉっ!!」

パイルバンカーのチャージをキャンセル、レーザーで焼き払おうとするも。
それすらも、衝撃や熱を分散する液体金属の前には無力。

「これも駄目かっ!……負ける、かよっ!!」

逃げるという選択肢もあった。この檻はまだ退路までは塞いでいない。
だが逃げられるものか。ここまで来たのだ。たとえ刺し違えてでも、倒す。
371 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/24(木) 02:18:11.37 ID:PFz63v6S0
次々に繰り出される液体金属の枝を掻い潜り、それでもどうにか中枢と思しき瘤へと迫る。
しかし、さらにその道を阻む敵がいる。枝からこぼれた銀の雫、それがすぐさま姿を変えた。
ここまでの道中、いやと言うほどに撃墜してきたあの機体、メルトクラフトである。

「こいつがあれを生み出してやがったのか。ヤロー……これ以上、これ以上やらせるかぁっ!」

フォースを叩きつけ、レーザーで焼き払い。群がるメルトクラフトたちを撃ち払っていく。
しかし、突如としてその攻勢が止んだ。群がる機体は外へと逃げ出し、迫る枝はなりを潜める。
それと同時に、アサノガワに警告が走る。先ほどと同じ高エネルギー反応。
あのレーザーが撃たれれば、この密閉空間である。逃げる場所などありはしない。

「……ここまで、かな」

操縦桿を握るその手から力が抜けた。
思えば、初撃で仕留め切れなかった時点で勝負は付いていたのかもしれない。
有効な攻撃手段は一切ない。出来ることといえば逃げ回ることばかり。
そしてもはや、それすらも出来ない。諦念が杏子の体を支配し始める。

「元々惰性で生きてたんだ。今終わったって……っ」

手が震えた。なぜか涙がこぼれた。
死ぬのが恐いのか?負けるのが悔しいのか?……いいや、違う。

――なら、一緒に来る?一人じゃ色々煮詰まっちゃうでしょ――

           ――あたしは別に……自分の生き方くらい、自分で……っ――         

――じゃあやっぱり、尚のこと一緒に来なよ――

        ――い、行くだけだかんな。ちょっとだけ見て、すぐ帰るかんな――

――よし、決まりっ!よろしくね、相棒――



「はは……なんだ、なんだよ。あたしはさ……」
372 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/24(木) 02:19:44.75 ID:PFz63v6S0
走馬灯のようによみがえる記憶。震えて掠れる声。
理解した。けれどももう遅すぎた。

「あたしは、悲しいんだな。……あいつと、一緒に行けないってことが」

もうちょっと生きてみたら、一緒に行ってみたら。
もしかしたら今までよりももっと楽しい人生が待っていたかもしれないのに。
新しい仲間を見つけることが出来たかもしれないのに。
さやかはもういない。そして自分も、もうすぐ。
嫌だ、と思う。こんなところで終わりたくない。まだ終わりにしたくない。
……死にたくない。

放たれた極太の閃光が、その空間のすべてを焼き払っていった。
プラズマ混じりの熱風が大気を揺らし、迸り、駆け抜ける。
その後にはもう、何も残ってはいなかった。
373 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/24(木) 02:23:59.82 ID:PFz63v6S0
もしかしたら今後は微妙に投下ペースが落ちるかもしれません。
何とか年内完成を目処に頑張りたいものですが、さてどぅなることやらです。

>>363
時間にしてほんの数ヶ月でしょうか、ほむらちゃんが戦いから離れていたのは。
休息とも言えない様な短い時間です。これからも戦い続けるのでしょう。

一面のボスのはずが思わぬ大健闘です。

>>364
そう言って頂けると幸いです。
ちなみに織莉子とキリカの話は2170年の初め頃のお話になっています。
374 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/24(木) 02:27:50.96 ID:E8SVceM8o
ちょ……キボウが濃すぎる……


いや、でもほむほむが動いてたのが伏線になってるって信じてる
375 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(滋賀県) [sage]:2011/11/24(木) 02:29:24.02 ID:+5OqjhLCo
おいちょっと待てありえない、何かの間違いではないのか?
俺の予測が悉く外れていきやがるぜ
376 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/24(木) 02:49:23.44 ID:em69OrfKo
メタリックドーンもどき強すぎワロタwwwwwwワロタ・・・
377 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/24(木) 03:47:45.10 ID:xBzR5+iDO
続き乙!
杏子ちゃん…?いや、前の次回予告の台詞を信じるしか無い。こんな所で、終わって欲しくなんかない!

QBのオディオ発言に続き…今回は九条“艦長”の「それは……気の毒に……」っすか。まさかこんな所で見るとはww
378 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/24(木) 04:09:02.50 ID:3RJIxgYn0
バイド化した人間の魂……
大丈夫かな?
379 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/24(木) 12:24:16.98 ID:9Pvd4X6/o
ここで[ピーーー]るならむしろいいんだけどねぇ…もっとキボウの濃度の高い話だったら生き残っちゃうだろうな。
むしろ真実を目の当たりにする前に散っていったほうが幸せだと思う。
380 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/11/25(金) 03:07:11.48 ID:GHjatkIG0
引き続き友人宅より投下です
381 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/25(金) 03:09:11.29 ID:GHjatkIG0
「子供が戦いそして死ぬ、だなんて。……まったく、これだから戦争ってのは嫌なんだ」

さやかと杏子からの通信が途絶えた。手で目を覆って小さく首を振って。
九条はなんとも忌々しげに呟いた。

エバーグリーンを取り囲む艦隊は、コロニーからのレーザーを避けるためコロニー側面へと移動している。
そうすると必然的にコロニーの正面が空くことになる。そこを狙ってメルトクラフトが突破を仕掛けてくる。
R戦闘機がそれを阻むも、戦艦からの援護射撃は受けられない。必然的に乱戦となっていく。
そしてその乱戦の最中を、敵も味方もお構いなしにレーザーがその空域を貫いていく。

「状況は非常にまずい。このままだと、数で勝る向こうにいつかは突破される可能性が高い」

「これ以上この状態が続けば、一時間以内で彼我の戦力比が逆転する恐れがあります。
 それももちろん、バイドの増殖がいまのままのペースで居てくれれば、ですが」

副官として並び立つガザロフの声も、やはりトーンはやや低い。
ショックがないわけがない。それでもここは戦場で、自分の判断に多くの人の命が懸かっている。
それに打ちひしがれている余裕などありはしない。
死を想い、死者を悼む時間なら、生き延びてからいくらでも作ればいいのだから。

「……二人のお陰で、バイドの中枢がコロニー最奥部に存在していることはほぼ確定しました。
 それならば、コロニー底部に対しての飽和射撃で、コロニーごとバイドを破壊することは可能かもしれません」

「こうなってはもう、そうするより他に術はない……か」

飽和攻撃。コロニーごと、バイドの巣窟を破壊しようというひどく乱暴な作戦である。
あまりにもスマートとは言えないやり方。周囲への汚染の拡散も懸念される。

「とはいえ、この方法にも問題があります。ほとんどの戦艦をコロニー背後に回らせると
 それだけ正面の守りは薄くなってしまいます。突破される危険も増加すると思います」

包囲網を突破されるということは、すなわちバイドの被害が周辺地域に拡大するということ。
どちらをとっても、地球にとっては少なからず傷を残すことになる。
たとえこのバイドを倒すことができたとしても、しばらく忙しい日々が続くのだろう。
そのことを考えると、気が重くなるのを感じていた。

「……提督、どうしましょうか。指示を……お願いします」

「バイド中枢の殲滅を優先しよう。もしかしたらそれで、他のバイドの動きも鈍るかもしれない。
 各艦に通達。本艦はこのままこの場に留まり、敵バイドの突破を阻止する」

厳しい戦いになりそうだ。九条は思考を絞り込んでいく。
大局から一点へ。ただ、敵の突破を阻止することにその思考を注ぎ込む。
頭の中で何かが目まぐるしく動き始めるのを感じながら、九条は作戦の開始を号令する。
その直前に、それは訪れた。
382 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/25(金) 03:10:29.71 ID:GHjatkIG0
生きる。生きるということ。それは、もがきあがくことで勝ち取るもの。
生と死を分かつその線を、無理を抱えて貫き通す。その為の力である。
それはかつて、彼女が失ったもの。そして今、彼女が取り戻したものだった。

「はは……なんだ。案外、なんとかなるもんじゃないか」

液体金属の檻の中、その壁ぎりぎりの場所に。アサノガワが浮いていた。

「生きてるぞ。あたしはまだ……死んじゃいねぇ」

壁とレーザーとの間の、わずかな隙間に活路を見出した。
生きようと強く願わなければ、生きるためにもがかなければ、見つけることさえ叶わなかっただろう。
それでも、その代償は安くはない。

「機体温度が限界を超えてる。表面が融解してやがんのかよ……道理で暑いわけだ」

直撃は避けたとは言え、レーザーに擦過したことにより機体は異常加熱を引き起こしていた。
表面は赤く焼け爛れ、その熱は耐熱加工を施されたパイロットブロックにも容赦なく襲い来る。
瞬く間に目の前の大気が歪む、特殊素材でできたはずのパイロットシートが溶け始めている。
パイロットスーツも焦げはじめ、焦げ臭い嫌な臭いが充満していた。

「このままじゃ蒸し焼きだ。……冷却機構が生きててくれただけでも儲けものだけどさ」

それでも、重要な機関部にはなんら支障はない。
まだ動ける。まだ戦える。希望は、ある。自然と口元が吊りあがる。

「……お陰で見えたぜ、本体っ!」

いかな強固な液体金属生命体と言えど、これだけの大出力のレーザーには耐えられないのか。
その照射の瞬間だけはその防御を解かざるを得ない。
あの瘤の中に隠されたレーザーの発射装置も、その時だけは露出する。
つまり、そこを狙うことができれば……。

「あのバイドの親玉に、一発ブチかましてやれる……今度こそだ!」

機体の中で渦巻く熱は、容赦なく体力と水分を奪う。
視界が歪んでいるのは、大気が熱せられているからなのか、それとも自分の身体が限界なのか。
どちらにしても、もうそう長くは戦えない。次の一撃に、すべてを賭ける。

それを阻むかのように、襲い来る金属の枝、そしてメルトクラフト。
パイルバンカーのチャージを始めれば、後はフォースシュートによる攻撃しか行えない。
とはいえそうしてしまえば、敵弾から身を守る術が無くなってしまう。

「ったく、数だけは無駄に多いなぁ、ヤロウっ!!」
383 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/25(金) 03:11:58.25 ID:GHjatkIG0
迫る枝をかわし、メルトクラフトをフォースで焼き払う。
チャージは順調に進んではいるが、如何せん数が多い。
枝に敵弾、メルトクラフトはとにかく数で空間を押し潰し、段々と逃げ場を奪っていく。

逃げるだけでは勝てはしない。どうにか前に出なくては。
わかっているのに、ただただ圧倒的な物量が前に進むことを許さない。


「負けるか、負けられるか……死ねるか、こんなところでぇっ!
 あたしは……さやかと一緒に、帰るんだぁぁぁっ!!」

さやかはもういない。それでもせめて、一緒に帰ることが出来れば
咆哮、敵機の隙間に僅かに空いた空間。抜けるならばここしかない。
そこを抜けてもまだ敵はいる。それでも今行かなければ。これ以上は下がれない。
機体を赤熱させながら駆け抜けるアサノガワ。その背後から、二筋の光が迫っていた。


その閃光は煌く軌跡を描いて飛び交い、メルトクラフトを打ち払う。
ひとしきり敵を薙ぎ払い、戻って行ったその先には。

「ヒロインは……遅れてやってくるっ!……なーんてねっ」

エンジンの一つから黒煙を上げながら、熱で溶けたキャノピーを晒しながら
それでも宙を舞い、サイ・ビットを放ったレオの姿だった。


それは、九条の艦へと伝えられた通信だった。

「あー……こちらレオ。ちょっと一発いいのをもらって気を失ってたみたい」

艦へと入ってきたその言葉に、九条も流石に驚いて。

「美樹くん……かい?やられたと聞いていたが、無事だったのか」

「機体はかなりめちゃくちゃ。でもまだ動けるしあたしは大丈夫。
 でも状況が全然わからないんだ。計器の類がかなり派手にやられてる。
 杏子はどうしたの?脱出したならいいんだけど」

「……佐倉くんは、恐らく君が死んだと思って逆上したのだろう。
 単独で敵中枢に乗り込んで行ったよ。先程から通信も届かない」

「んなっ!?……あんのバカ、何やってんのよっ」

言葉を遮り、さやかの頭上を迸るレーザー。

「っ……レーザーがそっち行った!そっちは無事!?」

しばし間を置いて、雑音交じりの通信が帰ってくる。

「艦隊は既にコロニー後方に移動している。問題はない。
 それよりも佐倉くんが心配だ。向かってくれるかい」

「あったりまえだっての!あのバカ。勝手に死んだら承知しないんだから!」

かくして、レオは杏子の危機に駆けつけた。
384 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/25(金) 03:12:32.43 ID:GHjatkIG0
通常のパイロットであれば死んでいた。
今更ながらに、魔法少女の体に感謝する。この体も捨てたものないじゃないか、と。
体の動きは鈍いがそれでも、気分はそれほど悪くない。

「さやかっ!あんた、あんた……っ、どうして!?」

「普通の体じゃないんだよ。普通のことじゃ死なないっての。
 ……それはそうと、やっと言ってくれたね。一緒に帰るってさ」

きっと顔が見えていたなら、その表情はずいぶんとにやついていただろう。
そう思えるほどに、さやかの声は弾んでいた。

「お前っ!?あれ、聞いてた……あ、あれはだなっ!」

「はいはい、そういうツンデレ行動は後で聞いてあげるからさ。今はあいつを……でしょ?」

「うぐ……わかったよ、ったくよぉ!あいつにゃ攻撃は全然通らない。
 多分攻撃が通るのは、あのレーザーを撃つ直前だ、その時だけ本体が露出する。
 あたしはそこを狙う。露払い。任せるよっ!!」

三度突撃アサノガワ。さやかが生きていた。それがわかったそれだけで。
心の曇りが晴れていく。今なら負ける気がしない。何だって出来そうな気がする。
そこまで考えて、一度大きく深呼吸。舞い上がった心を落ち着ける。
敵は途方もない憎悪と悪意を振りまくバイド。油断も慢心もしてはいけない。

臨むならば万全に、心を機体に静かに熱く。
燃える闘志の内側に、凍てつく殲滅の意思を込めて。今こそ――。

「任されたっ!!さあ行くよレオ。最後の大盤振る舞いだっ!」

サイ・ビット。波動砲、レーザーにレールガン。
ありとあらゆるレオの武装が、群がる敵を打ち砕き、焼き尽くし、そして薙ぎ払う。
道は開けた。今にも放たれようとする高出力のレーザー砲。
液体金属の瘤の中から顔を出した、その砲身に。

「随分短い付き合いだったね。……クタバレ、バケモノ」

衝突、炸裂。そして轟音。その衝撃は砲身を砕き、枝の一つ一つにまで浸透していく。
そして、小さな光の粒子になって消えていく。統率するものを失って
極小の液体金属郡は、形を構成する力を失って散っていく。

もう油断も慢心もしない。その反応が完全に停止するまでは、殲滅の意思を絶やさない。
いつでも撃てる。そういう体制で待ち構える二機の眼前で。とうとう全ての液体金属が崩れて消えた。
385 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/25(金) 03:18:53.80 ID:GHjatkIG0
「やったね、杏子」

誇るようにさやかが呼びかける。
それに答えようとして、視界が揺らぐ。ぐらりと、機体も揺らいで。

「杏子……杏子?杏子っ!!ちょっと、返事しなさいよ、杏子っ!」

(わかってるよ。大丈夫だからさ。あたしは……無事だから)

答えようとしても声が出ない。参ったな。
これじゃあまるで死んだみたいじゃないか。

「美樹くん、佐倉くん、無事かい?バイド反応が消失したようだ。
 恐らく上手く行ったのではないかと思うのだが」

少し興奮気味の声で、九条が通信を入れてくる。

「杏子が!杏子が返事をしてないっ!生命反応があるかどうかはわかんないし。
 九条さんっ!早く収容して、杏子が、杏子がっ!!」

「何だって!?それは本当かい?わかった、医療スタッフを乗せた艦をすぐ向かわせよう」

「お願い、急いで。このままじゃ杏子が……杏子が、死んじゃうっ!!」

中枢を討たれたことで、外のバイドの動きも鈍る。
増援もない。そうなればもう掃討は容易であった。そうして空いた隙間を縫って
九条の艦がコロニーの内部へと突入した。

かくして、エバーグリーン攻略戦は終局を迎えた。
しかしこの事件は、長らくバイドの脅威を忘れていた人々に、再びその脅威を思い出させるものであった。
それでも危機は去った。地球を脅かしたバイドは滅びたのだ。



「それで、本当に戻ってもいいのかね?直接元居た艦に届けることも出来るのだよ?」

宇宙。艦を進めつつ九条がさやかに尋ねる。
もうじきTEAM R-TYPEの男の艦との合流地点である。
レオは損傷は激しいが、それでも動けないわけではなく。
ここから先はレオ単独で戻ることとなったのである。

「大丈夫、後はあたしがなんとかします。色々、ありがとうございました。
 九条提督、もう次いつ会えるかはわかりませんけど、その時にはまた、一緒に戦いましょう!」

その身を案じる九条の声に対して、さやかの声はあくまで明るい。
この艦はいい艦だった。九条提督は明らかに普通の体ではない自分に、何も聞かずにいてくれた。
副官の女性、仁美によく似た声のその人は、どうやら自分のことを案じてくれているようだった。
それがなんだか嬉しくて。守れてよかったと思う。

「じゃあ、行きます。レオ、出るよっ」

片方のエンジンがいかれている、出力が安定しない。
それでもどうにか進むことは出来るだろう。ふらつきながらも飛んでいく。
さほど飛ばない内に、岩塊の陰に黒い艦影が現れた。
386 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/25(金) 03:19:42.08 ID:GHjatkIG0
「随分ぼろぼろだが、なんとか戻ってきたようじゃないか。美樹さやか」

相変わらずの、低い嫌な感じの声。

「ええ、えぇ。戻ってきましたとも。何回も死にそうになったけどね」

死線を潜り抜けた後では、この艦に、その中身に感じていた恐怖も
幾分か和らいでいた。というか感覚が麻痺しているのかもしれない。

「あまり傷つけてくれるな、とはいったが……まあ機体の限界性能を示すという意味でも
 レオの戦闘データ取りとしても申し分ない。随分いい働きをしてくれたね、君は」

「そりゃどーも、それじゃこの機体を返して、さっさとあたしは帰るとするよ」

「……帰る?何を言っているんだね、君は」

また一段と、男の声が低くなる。

「帰る。そう言ったんだよ。あたしは戦うための機体を借りるのにこっちに来たんだ。
 用事が済んだらティー・パーティーに帰る。何か文句ある?」

応じるさやかの声は、相変わらず強い。
先ほどまで相手をしていた敵が敵である、今更こんなものが恐いものか。

「君は、本当にそれでいいのかね?君は優秀なR戦闘機乗りだ。
 我々ならば、君に最強の機体を用意することができる。バイドを殲滅するのが君の望みなのだろう?
 ならば、あそこにいるよりも我々と共に来るべきだとは思わないかね?」

「そりゃあ、確かに思わないわけじゃないよ。このレオだって凄い機体だ。
 あたしが生き延びられたのは、間違いなくレオのおかげだよ」

それは間違いない。レオの攻撃性能は今までの機体とは比較にならないほどに高い。
これよりももっと強い機体。そんなものが手に入るとするならば。それはいいのかもしれない。バイドと戦うためならば、それが最善なのかもしれない。
だけど、約束したのだ。一緒に戦う、と。

「それでも、あたしは仲間と一緒に戦いたい。それがあたしの答えだよ。
 だからあたしは戻る。絶対に戻らせてもらうよ!」

しばし、男は押し黙る。それでもやがて口を開いて。
387 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/25(金) 03:20:20.56 ID:GHjatkIG0
「そんなにあのインキュベーターの元が気に入ったのか、利用されているとも知らないで」

忌々しそうに、そう呟いた。
インキュベーター。聞きなれない名前だった。

「インキュベーター?何それ?外人?歌?」

「一体なんだと思っているのだね、君は。……あの宇宙人のことだよ。
 確か、君たちの前ではキュゥべえ。とか名乗っているようだがね」

「はぁ?キュゥべえが、宇宙人?……まあ、確かにアレが人間って言われても困るんだけどさ」

「気になるのなら自分で聞いてみろ。私はこれでも忙しいんだ。ああ、それと向こうに戻ったら
 織莉子とキリカを返すように伝えろ。……あの二人だけでも持って帰れなければ、帰るに帰れん」

「……わかったよ。一応話してみる」

「迎えを用意させる。さっさと帰るといい」

後はもう、今更語ることもない。
ふらつきながらも無事着艦。随分久しぶりな気がする本当の体。
その感覚に少し戸惑いながらも、迎えの船で再び宇宙へ。

行きはあれだけ不安だったというのに、今はこんなに落ち着いている。
不安なことはないわけではない。杏子は果たして無事なのか。
ほむらはどうしているのだろうか。キュゥべえは何者なのか。
それでも星の海の向こうに、懐かしい気さえもするティー・パーティーの姿が見えると。

「……帰って来られたんだな。本当に」

ただ嬉しそうに呟いた。
そして着艦、帰投。降り立ってまず見えたのは、ほむらとキュゥべえの姿。

「へへ……ただいま。ほむら。キュゥべえ」

「お帰りなさい、さやか」
「お帰り、さやか」

声を掛け合い、そのまま寄り合って。
キュゥべえには色々聞きたいことはあるけど、今は大分疲れた。
少し休んで、というか丸一日くらい眠って過ごして。それから聞けばいいだろう。
388 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/25(金) 03:21:12.17 ID:GHjatkIG0
「あたしがいない間、どうだった?寂しくて泣いたりしてなかった」

「っ!?……そ、そんなわけないでしょう。バカ言わないで」

冗談のつもりが、思わぬ反応が返ってきて困惑。
妙に顔まで赤くして、目元を押さえて俯いている。

「とにかく、さやか。貴女に見せたいものがあるの。……ついてきて」

そう言うと、有無を言わさずその手を取って引っ張っていく。
格納庫を出て、通路を渡って。今まで入ったことのない部屋へ。

「ちょ、ちょっとちょっと!?いきなり何なのほむらっ!?」

開かれた扉。そこにはまるで棺のように横たわったコクピットブロック。
映し出されたバイタルは、そこに入っている人物がまだ生きていることを示していた。
胸に琥珀色のソウルジェムを乗せたまま、静かに延命装置の中で眠っているのは。


「……マミ、さん」
――巴マミの姿だった。
389 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/25(金) 03:33:01.61 ID:GHjatkIG0
7話は恐らく次で終わりになるかと。
マミさんがついに肉体と魂が一つになりました。
果たしてカムバックしてくれるのでしょうか。

>>374
キボウも一つの山を越えました。
これからはしばらく平和になってくれる……はずです。多分。

そしてほむらちゃんはこのために動いておりました。

>>375
ところが間違いではありません。コレが現実ッ。
とは言えなんだかんだで助かりました。

本当のキボウはまだ先なのかもしれません。

>>376
1ボスでコレです、この先のボス相手にはどんな激戦を繰り広げるのでしょうか。

>>377
あんこちゃんも重傷ですが、生きていればきっと大丈夫でしょう。
常人ならば脳さえ、魔法少女ならソウルジェムさえ残っていればまだ戦える。
ここはそういう世界です。

そしてLALは名作でしたね。
あれはあれでキボウの篭ったいい作品でした。

>>378
今のところは未知数です。
果たしてマミさんがこれからどうなるのか、それはまだわかりません。

>>379
生き残ってしまいました。どうやらキボウはまだまだ続くようです。
ですがそれでも、今しばらくはキボウではなく希望に満ちた平和な日々を。
彼女たちには与えてあげたい(ような気がする)ものです。
390 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/25(金) 06:23:23.96 ID:v/MO45WDO
お疲れ様ですっ!
いや〜、何とか一件落着ですか、良かった良かった。彼女らには、十分羽根を伸ばしてもらいたいですね!
>>1さんのご友人にも感謝!
391 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(滋賀県) [sage]:2011/11/25(金) 12:58:51.44 ID:tuzkCKjco
よかった生きてたよ戦友が増えるよやったねあんこちゃん!

マミさんが復活してファイナルティロ・フィナーレ波動砲をぶっ放す姿は見られるのか
392 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/11/26(土) 00:24:20.84 ID:1Ft0UTh10
ひとまず戦いも一件落着。これからはしばらく日常パートでしょうか。
ではでは、投下を始めます。
393 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/26(土) 00:25:20.29 ID:1Ft0UTh10
「どういうこと、なの。……ほむら。何で、マミさんが」

震える手で、マミの眠る装置に触れるさやか。
その中でマミは昏々と眠っている。装置の明かりと、ソウルジェムの灯りに照らされて。

「マミもまた、ソウルジェムだけを機体に接続して戦っていた。
 まだ彼女の肉体は保存されていたのよ。仮死状態のまま。……だから、もしかしたらと思って」

「じゃあ……どういうこと?マミさんは、まだ……生きてる?」

すとん、と足から力が抜けた。張り詰めていたものが緩んでしまったように。
そのままその場に膝を突いて、マミが眠る装置にすがるように身を預ける。

「……ええ、生きてはいるわ。少なくとも肉体は」

「どういうことよ、ほむら」

「マミの意識が戻らない、ということさ」

キュゥべえが現れた。恐らくは何かしらの事情は知っているはずだ。
マミは本当に生きているのか、何故意識が戻らないのか。

「少なくともマミの肉体も魂も無事だ。だが意識は戻らない。
 バイドの精神汚染を受けている可能性もある。……専門の医療機関で調べないことには
 今のところ、ボクにはなんとも言えないけどね」

「じゃあ、すぐにでもそうしなくちゃ。マミさんが助かるかも知れないんだ!
 キュゥべえ。艦を病院に向けてっ!」

萎え掛けた足に力を篭めて立ち上がる。
そのままキュゥべえに詰め寄って、一気呵成に言いつける。

「そのつもりだよ。準備を済ませればすぐにでもマミを搬送するよ」

その言葉で、とうとう張り詰めていたものが全て解けてしまったのだろう。
さやかから、魔法少女の、戦士としての表情は消えた。
後に残っているのは、ただの一人の女の子だけで。
394 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/26(土) 00:26:05.96 ID:1Ft0UTh10
「よかった……マミさん。生きてたんだよね。本当に、よかった」

そしてまた、すがるように装置に身を預けて。

「よかっ……た。っぐ、ぅぁ。っ……ひぐ、ぅぁぁ」

そのままキャノピーに額を預けるようにして、静かに嗚咽を漏らす。
本当によかった。生きていてくれてよかった。そして思っていた。
これで今度は、マミと一緒に戦えるのかもしれない、と。

それが身勝手な願いだということはわかっていた。
そもそも助かるのかさえわからない。マミがまた戦おうなんて思うかどうかもわからない。
ただ今は、とにかく助かってくれてよかったと思う。
そう思うことで、いろんな後ろ暗さからも逃れられた。ただただ溢れる感情を嗚咽に変えて
声を堪えることも出来ずに、泣き続けているだけで。

「……さやか」

そんなさやかの姿を見ると、彼女がまだ少女なのだということを改めて思い知らされる。
ほむらは思う。これで少しは救われたのだろうか、と。
さやかが、そして自分自身が。マミを失った、失わせてしまったという重責から。

その肩に触れようとして、思いとどまる。何かを伝えたいと思う。
けれども、何を伝えればいいのだろうかと思う。
そんな風に逡巡している内に、さやかがそっと振り向いて。

「ねえ、ほむら。……やっぱり、辛いね。悲しいね。戦うのってさ」

「……そうね」

思い出しそうになる。辛く長い戦いの記憶。
ほむらは軽く目を伏せて、そのまま伏し目がちにさやかを見つめて。

「マミさんが死んじゃったと思って、それが辛くて、悔しくてあたしは戦ってきた。
 マミさんに負けないようにって、頑張った。……でもさ、これからはそうじゃないんだよね。
 あたしが守りたいもののために、戦っていかなくちゃいけないんだよね」

わかりやすい理由があれば、それが動機になってくれる。
ただ、さやかにとって一番大きな戦う理由。バイドへの復讐。
それはもしかしたら、このまま消えてしまうのかもしれない。そうなれば後はもう
戦う理由は、自分で見つけていくしかない。少しだけ不安だった。
395 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/26(土) 00:26:55.56 ID:1Ft0UTh10
「戦う理由なんて、どんなものでもいいと思うわ。……さやか。
 私はあなたを死なせたくない。あなたと一緒に戦いたい。今はそれが、私の戦う理由よ」

きっとそれは、さやかのような子供が背負い込むには重過ぎる悩みで。
それを思い悩むさやかの姿は、いつもよりも小さく見えたから。
思わずその肩に手を乗せていた。先ほどまでの逡巡も頭のどこかに消えていて。

「ほむら……うん、ありがと。そうだね、あたしには仲間がいるんだ。
 それに、もしかしたらもう一人仲間が増えるかもしれないんだよね。仲間と一緒に戦いたい。
 そんなのが理由でいいのかな、もしかしたら」

「仲間が……増える?」

誰か新しい魔法少女がいるのだろうか。
それはそれで、まだこんな戦う運命を課せられた少女がいるのか。
そう思うと、ほむらは少しだけ気が重くなった。

「エバーグリーンで戦ってる時にさ、一緒に戦ったやつがいるんだよ。
 なんか、ほっとけない奴でさ。……多分、一緒に来てくれると思うんだよね」

「それは、魔法少女が増えるということかい?それならボクは歓迎だけどね」

今まで沈黙を保っていたキュゥべえは、こんなときばかり口を突っ込んでくる。
ぴょん、と装置の上に飛び乗ってさやかと目線を合わせて問いかけた。

「って、キュゥべえっ!そこはマミさんが寝てるんだから、足乗せるんじゃないわよっ。
 ああ、そうだった。そのこともキュゥべえに頼もうと思ってたんだ。もしかしたらだけどさ。
 佐倉杏子、ってのがあたしらの仲間に加わるかもしれない。魔法少女じゃないけどね」

「佐倉……杏子?ああ、そうか、そういうことか」

「知ってるの?キュゥべえ」

キュゥべえの声はどこか意外そうで、それでも僅かに楽しげで。
そんな言葉がとても意外で、驚いたようにさやかも声を上げる。

「ああ、彼女も魔法少女としての素質を持っていたからね。前に誘ったことがあるようだ。
 ……随分前のことだし、そのときには断られたようだけどね」

「じゃあ、杏子は……」

「もし彼女が望むなら、ボクはすぐにでも受け入れるつもりだよ。
 マミが戻ってきてくれれば、これでいよいよ魔法少女が4人。これは楽しくなりそうだね」

気分は少し複雑だった。
杏子が仲間になってくれるのは嬉しい。
だがそれでも、魔法少女という運命に、人ではない体にしてしまうのは少し気が引ける。

「……だが、それはもう少し先になるだろうね」

少し残念そうに、キュゥべえが言葉を続けた。
396 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/26(土) 00:27:36.66 ID:1Ft0UTh10
「何か問題でもあったの、キュゥべえ?」

「問題は山積みよ、魔法少女が増えたとしても、乗る機体がないんだもの」

「あ、そっか」

ほむらに言われて今更気付く。今この艦にあるR戦闘機はほむらのカロン
そしてさやかのフォルセティのみ。予備の機体なんてありもしない。そしてどちらも大破している。
新調するにしても修理をするにしても、どちらも魔法少女仕様の特注品。すぐに直せるものでもない。
少なくとも今しばらくは、身動きが取れなくなるようだ。

「まあ、今後の事は追って通達するよ。さやか、君は特に戦い詰めで疲れただろう。
 今日はもう休むといい。大丈夫、マミのことはボクに任せておいて」

「いや、微妙に不安なんだけど。……しょうがないか、任せたよ。キュゥべえ」

ひらひら、と軽く手を振って。もう一度だけ眠るマミを見つめて。

「マミさん。あなたとはもっとたくさん話がしたかったんだ。
 ……だから、さ。お願いだよ、戻ってきて、マミさん。じゃああたしは部屋に戻るよ。
 お休み、ほむら、キュゥべえ」

今度こそ、さやかは部屋を出て行った。

「お休み、さやか。……後は任せるわ。キュゥべえ」

ほむらもそれに続いて部屋を出る。
長い一日だったな、と思う。それでも今度こそ終わりだ。
これ以上何かあってたまるものか、と。





「ボクと契約して魔法少女になってよ!」

「あぁ?んなもんするわけねーだろ」

すぐ翌日のことである。杏子がティー・パーティーへとやってきた。
どうやら脱水や熱中症、後は軽い火傷程度でしかなかったらしい。
397 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/26(土) 00:28:12.19 ID:1Ft0UTh10
「まあ、約束しちまったしな。一緒に戦おうぜ」

なんて言って、少し照れくさそうに杏子は笑っていた。
さやかは抱きつくように飛びついて、嬉しそうに話しかけ。
ほむらは少しだけ引いた場所から、簡単に自己紹介をした。

「だーからっ!これからあたしらは一緒に戦う仲間、なんだから!
 もっと仲良くしなくちゃダメでしょっ!ほらほむら、こっち来るっ!」

なんて言って、一緒にほむらまで引き込んで抱きしめた。

「ちょ、ちょっとさやか」「おい、さやかっ!?……ま、まあ。よろしくたのむぜ、ほむら」

「……ええ、一緒に戦いましょう。杏子」

まるで円陣でも組むかのように、手を取り合って輪になって。
触れ合う手や肩の暖かさが、一緒に戦えることが嬉しくて、頼もしくて。
きっとこれなら、どれだけだって戦える。そう信じられた。

そんな和やかな雰囲気に割って入ったのがキュゥべえであった。
最初は驚いていたようだが、杏子もすぐにそれにも慣れて。
そしていよいよキュゥべえが、杏子に告げた魔法少女への勧誘。
それを受けての杏子の言葉が、これである。


「え?キミはここで一緒に戦うんだろう?なら魔法少女にならなくちゃいけない。
 ここは魔法少女のための船、なんだよ?」

一瞬呆気に取られたようで。すぐにいつもの調子を取り戻してキュゥべえが詰め寄る。
それに対して、杏子は不敵に微笑んで。

「それでも嫌だ。魂をこんなわけのわからないものに変えられるなんて、あたしは御免だ。
 でもさ、別に魔法少女じゃなくてもバイドとは戦えるだろ?少なくともあたしはそうだ」

理由はともかく、とにかく嫌だった。
面倒だから、理由は今はあまり考えるのはやめておいた。

「あたしはさやかに誘われてここに来たんだ。さやかと一緒に戦いたい。
 パイロットの仕事はしっかりやってやる。どんな機体だって乗りこなしてやる。
 ……あんたにとっても、悪い話じゃあないだろう?」

どうする、と挑発的な目つきでキュゥべえを見つめる。
断られたって行くところなんてありはしない。最悪さやかを抱きこんで立て籠もるかな
なんてちょっと物騒なことまで考えていたようで。
398 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/26(土) 00:28:57.48 ID:1Ft0UTh10
「……やれやれ、キミは随分とイイ性格に育ったようだね、佐倉杏子。
 わかったよ、確かに通常のR戦闘機と組んでの運用試験もできれば申し分ない。
 ついでに他所から試験機を回してもらうことも出来そうだしね」

やがて、観念したかのようにキュゥべえがため息を吐き出して。
そして小さく首をかしげて、杏子を見つめて目を細め。

「いいだろう。佐倉杏子。キミを受け入れよう。魔法少女ではないけどね
 キミも今日から、このティー・パーティーの一員だ」

その言葉を聞くや否や、再びさやかが飛びついた。

「やったね杏子っ!これであたしたち、本当に仲間だっ!」

「っとと、おい、さやかっ!あんまりべたべたひっつくなっての……ん、まあ、よろしくな」



「さて、それじゃあ早速キミたち三人の次の予定を伝えるよ」

ひとしきり歓迎ムードも落ち着いたところでキュゥべえが切り出した。
その言葉に、途端に三人の顔も固くなる。

「休暇だ」

「「「は?」」」

緊張した様子から一変、どうも気の抜けたような声が三つ続いて。
さやかなんかはずっこけかけている。

「どういうことだよ、やってきていきなり休暇ってのはさ」

流石に杏子もくってかかる。
対するキュゥべえはさも当然、といった顔で。

「仕方ないだろう。新しい機体を用意するにも機体の修理を行うにも時間がかかる。
 それにボクにも何かと用事があるからね、しばらくはまともに行動できなくなるんだ。
 この艦自体も色々手を加えるからね、ざっと見積もって半月くらいは何もすることがないんだよ」

キュゥべえの言葉を聴くにつれ、さやかの表情が活き活きとしはじめた。
休暇、長いお休み。そんな言葉がだんだんと現実味を帯びてきたようで。

「ってことはなになに?この後半月くらいはずっとお休み、ってこと!?」

「その通りさ、休暇だよ。とはいえここにはいられないからね。どこかで過ごしてもらうことになる。
 場所さえ決めてくれれば、宿泊先くらいはボクの方で手配を済ませておくよ」

言い切るかどうかの内に、さやかがキュゥべえに詰め寄った。

「ねえねえキュゥべえ。ってことは、地球に戻ってもいいってこと!?
 うわー、楽しみだなっ!最近ずっと訓練とか戦闘ばっかりだったし、休暇さまさま、さいっこーじゃないのっ!」

「って言われても、あたしは行くとこなんかねーっての」

「私も……どうしようかしら」
399 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/26(土) 00:29:35.29 ID:1Ft0UTh10
対して、ちょっと渋い様子の二人である。
肩透かし、といった様子の杏子。内心すでにいくつかあてを探し始めていた。
問題は、完全に困惑しているほむらである。地球に知り合いがいるでもなし。
いたとして、今の姿でわかってもらえるはずもなく。どうやって時間を潰したものかと考えていたが。

「ありゃりゃ、二人とも行く所ないわけ?……あ」

それを見かねてさやかが割って入ったとたんである。
なにやら思いついたようで、にんまりとその頬を緩めて。

「じゃあさ、こうしようよ――」




空は何処までも青かった。久々に吸い込む街の空気を、肺一杯に吸い込んで。
遠くに見える町並みを手で透かして眺めて、変わってないなと安堵する。
そして。

「ただいま、見滝原――」

一人にとっては故郷、一人にとっては異郷、一人にとっては新たな住処であった場所。
見滝原の街外れに、三人の魔法少女が立っていた。


魔法少女隊R-TYPEs 第7話
         『METALLIC DAWN U』
         ―終―
400 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/26(土) 00:31:01.30 ID:1Ft0UTh10
【次回予告】

「やっぱりまどかはあたしの嫁だねーっ!」

「さやかちゃんってば……ふふっ」

兎にも角にも休暇は休暇、キボウも今回ばかりはお休みで
少女たちは、ひと時の安らぎを謳歌する。


「あなたは……さやかのそばにいてあげて」

「何バカ言ってんだよ。……あんたも、一緒に来るんだよ」

懐かしい友との出会い、新たな友との出会い。
楽しい出来事におかしな出来事、短い休みは楽しさで満ちていた。





―――多分。

「やあ、まさかキミがボクを呼ぶなんてね」

「――さあ、これでキミも今日から魔法少女の一員だ」
401 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/26(土) 00:33:01.27 ID:1Ft0UTh10
魔法少女隊R-TYPEs 第8話
          『HAPPY DAYS』
402 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/26(土) 00:37:39.92 ID:1Ft0UTh10
だんだんとお話がにぎやかになってまいりました。
その分何かととっちらかりやすくなるかもしれません。
そうならないように、なるべく気をつけて行きたいものです。

とりあえず次回はキボウはお休みです。

いろいろ小ネタ的なものをやれたらいいなと思うので
もし何かこういうものが見たいなというのがあれば、今こそご意見をくださいませ。

>>390
ここ数日というもの、ずっと友人宅で書いてそこで投下という流れが続いております。
まあ、何処でも文は書けるものですね。

ひとまずキボウ溢れる宇宙空間はここまでです。
これからしばらくは、地球の空気を吸って、美味しいものを食べて、友達と仲良く遊んで
楽しい時間を過ごしてもらいたいものですね。

>>391
あんこちゃんにとっても、マミさんにとってもきっと幸せなことのはずです。

マミさんは果たして復帰することができるのか。
彼女が負った傷跡は、きっと根深いものだろうと思います。
403 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/26(土) 00:46:32.53 ID:s7X/BvEa0
>見滝原の街外れに、三人の魔法少女が立っていた。

杏子は魔法少女になっていないんじゃ……
404 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/26(土) 00:49:52.48 ID:1Ft0UTh10
>>403
おおぅ、その通りです、早速ミスでしたね。

正しくは、二人の魔法少女と一人の少女、ですね。
こんなところをいきなり間違うとは、ちゃんとチェックしなくてはですね。
405 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(滋賀県) [sage]:2011/11/26(土) 00:57:12.56 ID:edNdoLVBo
マミさんは精神的に殺されてるからなあ
目が覚める理由を考えるのが大変そうだ
406 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/26(土) 06:29:24.83 ID:vgqy4rhDO
7話終了お疲れです!
地球でしか出来ない事って言うと、やっぱりレジャー系かなぁ?後はお買い物にスイーツを味わう位?小動物ふれあい広場なんてのも(そんなのがあれば)、以外と心が癒されるかも?

>>405
ちょっと心苦しいけど、強い痛みや刺激を錯覚させれば起きるかも知れないね。他には音楽療法なんかどうだろうか?
407 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/26(土) 08:37:52.34 ID:N8u9xqz6o
次回タイトルがHAPPY DAYSの時点で不安しかない・・・。
408 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/11/28(月) 09:21:09.02 ID:CKvpwjyc0
朝っぱらから投下です。
409 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/28(月) 09:21:43.99 ID:CKvpwjyc0
「で――。どうすんのさ、これから?」

遠目に街を眺めて杏子が尋ねる。

「そーだね、まずは宿に向かって荷物を置いて、それから街でも案内しよっか。
 その後はちょっと自由行動、ってことで。あたしも家に顔出しときたいし」

そう言うさやかの胸中は少しだけ複雑であった。
家族にだけはしっかりと事情は話した。納得はしてもらえた……と思いたい。
それでも、こうしてまた顔を合わせるのはちょっと気まずいな、なんて思っていたりもしたのだった。

「そういうことなら、早く宿へ向かいましょう。このままじゃちょっと寒いわ。
 ……もうこんなに寒かったのね。やはりずっと宙にいると季節感がなくなるわ」

掌に息を吐きかけながらほむらが言う。吐き出す息は白い。
2170年ももう残り僅か。まだ雪は降っていないようだけど。
それでもその季節に似合った服はどうやら、持ち合わせがなかったようで。
急揃えのコートの下は、流石に半袖ではないが冬には辛いもので。

「それもそうだね。よく考えたらあたしら、ちゃんと地球に降りるのなんて三ヶ月ぶりくらいじゃない
 そりゃあ季節も巡るってもんだよね。よし!それじゃー荷物置いたらさ、服買いに行こうよ!」

「賛成よ、何せ給料だけはいいものね、この仕事は」

ちょっとおどけた様子のさやかに、冗談交じりにほむらが答え。

「そういや試験小隊、ってゆーくらいだもんな。そりゃ実入りもいいってもんか。
 それでなくともあたしは、特に使うあてもなかったから随分溜め込んでるんだ。
 この機会に、ぱーっと買い物……ってのも、悪かないね」

大きなバッグを背負いなおして、杏子がにやりと笑って言った。
そんな話をしていると、バスが空からやってきた。
410 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/28(月) 09:22:32.97 ID:CKvpwjyc0
「え……何これ?」

「R-9……よね、これは」

「アロー・ヘッド、だよな」

三者三様に唖然として。彼女らの前に降り立ったそれは、まさに初代R-9
アロー・ヘッドの外観をしていたのだから。
本当にこれがバスなのか、と呆気に取られている三人の前で壁面のハッチが開き、さらに階段がせり出してきて。
どうやら内装をほとんど取り払って、座るスペースを取り付けているようだ。
通常席は市内200円、外が見えるラウンドキャノピー席は+100円也、だそうだ。

「……型落ちしたR戦闘機が民間で使われてるって話は聞くけどよ。
 流石にこりゃ予想外だろ。……まあ、ある意味落ち着けそうだけどさ」

「おーい、乗らないのかい?」

呆気に取られている三人に、運転手が声をかけてきた。
慌てて乗り込む三人。折角だからとキャノピー席に座ることにして。




「なんていうか、こうやってゆっくりキャノピーから外眺めるのって、ちょっと新鮮だね」

懐かしい街並みを、キャノピー越しに眺めながらさやかが嬉しそうに言う。
流れる街並み。ビル街や商店、公園なんかも通り過ぎていく。
2170年、さぞや近未来的な街並みなのであろうと思われたそれは
概ね21世紀初頭のそれと変化は見られなかったのである。

理由としてはいくつか挙げられる。一つに21世紀初頭の建築技術、建築様式が非常に利便性が高かったこと。
それ以降の年代は、とかく手間や技巧を凝らす建築様式が増え、いつ壊れるかもわからない。
まさに戦時といえるこの時代にはそぐわなかった。
そして恐らくもう一つは、回顧主義的なものもあったのだろう。
発展と栄華を極めた人類の街並みは、酷く明るく派手な、所謂サイバーチックな物へと姿を変えていた。
予想以上に、そういう街並みに拒否感を抱く市民は多かったのだろう。
災害を想定した都市設計を行う際に、以外にも21世紀初頭の建築様式を望む声は多かったのである。

長々と色々理由は並べたが、そうしなければ非常にイメージし辛くてしかたないのだからしょうがない。
漫画の神様だって似たようなことをやっている。名も無い物書きの仕業一つ、ご容赦いただきたいところである。
411 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/28(月) 09:23:35.25 ID:CKvpwjyc0
「……なんか今、話が飛んでいたわね。何の話だったかしら?」

と、何事も無いかのようにほむらが言う。

「景色のことだろ。あたしは割りと地球の景色は見慣れてたけどな。
 でもこういう日本風の街並みってのはちょっと久々かもね」

包み紙を外したチョコレートを口の中に放り込んで杏子が応える。
これもまた随分歴史が長い。チロルチョコレートは未だ健在であった。

「そうそう、景色だよ景色。あ、あそこ見てよほむらっ!あたしらの学校だ」

「ええ、本当ね。って言ってもあそこにいた時間なんてほんの僅かだったけど」

さやかは懐かしさと嬉しさを覗かせて、対してほむらはわずかな寂寥感も抱えたままで。

「あー……そういえばそっか。でも、全部終わったら学校にだって通えるでしょ!
 でも、その時はもしかしたらまどかや仁美と一緒には居られないのかなー」

「そもそも、もしかしたらもう退学扱いかもしれないわ。せめて休学ってことにしてくれていればいいけど」

「うへ……それじゃなに、あたしの最終学歴中学校になっちゃうわけ?そりゃちょっとやーな感じ」

と、思いっきりしかめっ面をしているさやかの横で。
もっと居た堪れなさそうな表情で杏子が遠くを見つめていた。

(それ言ったらあたしはどうなるんだっての。小学中退レベルだぜ。笑えねぇ……)


学校前のバス停でバスが止まる。しばらく学校の中の景色を覗くことが出来た。

「……平和そうだね。守れたんだよね、あたしたち」

教室の中で座っている、校庭を走っている生徒達。
そんな姿を感慨深げに眺めながら、さやかが呟いた。
その言葉を杏子が繋いで。

「エバーグリーンがあのままだったら、今頃学校なんて言ってられなかっただろうさ。
 あたしらが守った日常がアレだ。ちったぁ誇ってもいいと思うけどね」

さやかにとっては、かつて自分もそこにあった場所。
杏子にとっては、今ではもうはるかに遠い場所。見つめる視線はどこか違って。

「しかし、まどかも仁美も見えないや。後でちゃんと連絡……しても、いいんだよね?」

「……守秘義務はあるけれど、面会の自由がないわけじゃないわ。
 そうでなければ、私たちがここに来るなんて許されるわけがないもの」

「そっか、うんうん。なら俄然楽しくなってきちゃったね」

ぎゅっと両の拳を握って、意気込みも新たににやりと笑うさやか。
そんな様子に、ほむらも顔をほころばせる。ほんのわずかな時間でも、休息といえる時間がここにある。
今はそれを楽しもう、そう心に決めていた。
412 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/28(月) 09:24:01.27 ID:CKvpwjyc0
そしてバスが動き出す。二つ先のバス停で降りて、5分も歩けば宿泊先が見えてくる。
程なくバスは目的地に到着する。後はしばらく歩くだけ。
人工重力の発達した今でこそ、宇宙暮らしの長い今でも地球の重力に悩まされることはないのだが。

「しっかしまー。またこの重い荷物担いで行かなきゃならないとはね、うんざりだよ」

肩にずしりと圧し掛かる重荷をまた背負いなおして、忌々しげに杏子が呟く。
その視線はさやかとほむらに送られていた。どちらも変わらず重荷を背負っているはずである。
その割には、二人ともさほど堪えている風ではなかった。

「にしても、あんたら随分平気そうな顔してんのな。重くねーのかよ」

「いや、別にそうでもないけど?ほむらは?」

「……特に、重いとは感じないわね」

二人して不思議そうに荷物を背負いなおして、やはり重さはそれほどでもない。
そう再確認する、直ぐにさやかがにやりと口元を歪めて。

「ふふーん?杏子、もしかして体、鈍ってるんじゃなーい?そんなんじゃこの先やってけないぞー」

「うぐ……負けるかっての、こんな重さがなんだぁっ!」

「そんなに張り切って、後でばててもしらないぞー」

荷物を抱えなおして、足早に歩いていく杏子。
くすくすと笑いながらそれを負うさやか。ほむらも後に続いた。

そんな三人の背後に迫る影。その主は、信じられないものを見るかのように息を詰まらせて。
仲良さげに歩いていく三人を見送って一度、地面に視線を下ろす。
躊躇うように視線を地面と三人へと交互に移して、やがて意を決したようだ。

「さやかちゃ……ひゃぅっ!?」

走り出す。するとどうやら随分体は強張っていたようで、足がもつれて転んでしまった。
咄嗟に顔を庇って倒れ込む、腕にじんじんとする痛み。少しすりむいたかもしれない。
折角の服もちょっと汚れてしまったかもしれない。じんわり涙がこみ上げてきた。
立ち上がろうと伸ばした手を、誰がそっと掴んだようで。

「大丈夫?……って、まどかっ!?」

その手を取ったのは、さやか。手を取られたのは、まどか。
まったくの偶然に、こんな昼間の街中で、彼女たちは出会ったのであった。
413 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/28(月) 09:24:32.34 ID:CKvpwjyc0
「ほんと、すっごい偶然だよね。まさか帰ってきた矢先にまどかに会えるなんてさ」

「うん、私も驚いちゃった。でもさやかちゃん、帰ってきたんだ。お帰り、さやかちゃん」

再会からほんの数分、手を取り合って今にも飛び上がりそうにはしゃいでいる二人である。
三ヶ月、それよりもうちょっと時間は過ぎているが。随分と久しぶりの再会であれば無理もない。
さやかは、久々に聞くまどかの声が、触れ合う手の暖かさがとにかく嬉しかったのだ。

「ただいま、まどか。でもまあ、今はただの休暇なんだけどね。
 ……あ、で、でもほら。半月くらいはこっちにいるから。その間、ずっとまどかと一緒に居られるよ」

再会もほんのひと時のことだと知らされて、まどかの顔が僅かに曇る。
それにあわてて取り繕うように、さやかが続けて言葉を告げた。

「………さやかー、誰なんだこいつ。友達?」

なぜだかそんな様子を見ていると、ちょっと面白くない。
自然と目つきが睨むようなそれになって、まどかを見据えて問いかけた。
そんな視線を向けられて、萎縮してしまうまどかを庇ってさやかが割って入って。

「鹿目まどか。あたしの親友。むしろもう嫁って言ってもいいくらいだね!」

ぎゅっとまどかの肩を抱き寄せながら。再会にテンションもすこぶる鰻上りのようで。
……どうも、なんだか面白くない。でもそんなことを顕わにするのも子供染みている。
実際子供なのだけど、それは認めたくなくて。

「……そうかい。あたしは佐倉杏子だ。さやかの……一応相棒ってのになるのかね?
 まあよろしく頼むよ、多分短い付き合いだろうけどね、まどか」

ずい、と無造作に手を突き出した。
少しだけ躊躇って、おずおずとまどかも手を差し出した。

「うん、よろしくね。えっと……佐倉さん、でいいのかな」

「めんどくせぇ、杏子でいいよ」

「そっか。それじゃあ杏子ちゃん。よろしくね」

ん、と小さく応えて交わした手をきゅっと握る。
その手は女の子らしい、小さくて柔らかなそれで。自分の手とは大違いだった。
度重なる戦いで、女の子らしい柔らかさなんてとうに失ってしまった手とはやはり違う。
何となくそこに相容れないものを感じて、適当に握手も打ち切ってしまった。
414 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/28(月) 09:25:26.72 ID:CKvpwjyc0
「ほむらちゃんも久しぶりだね。元気そうでよかったな」

「ええ、あなたも変わりはないようね。鹿目さん。
 ……そういえば、今日は学校ではなかったかしら?」

思い出したように、ほむらがまどかに尋ねる。
その言葉に、僅かに目を見開くようにして、なにやら戸惑う仕草を見せて。

「えと……今日は、お休みなんだ。学校。だからちょっと街を来ようって思ったんだ」

まどかの言葉に、三人の表情がぴくりと動く。
誰かが、何かを口に出そうとしたその前に。さやかがぴたりと口元に指を寄せていた。

「そっか、じゃあ今日はこの後目いっぱい一緒に遊んじゃえるわけだね?
 あたしらも今こっちばっかりだからさ、荷物だけ預けたら、一緒に街に行こうよ。
 二人にも街を案内したいんだ。ね、いいでしょまどかっ」

そのまま追求の言葉は告げさせない。誰より先に言葉を放って
さやかがまどかの手を取った。まどかは、酷く困惑したような表情を浮かべていた。

「そう、だね……あ、えっと。でも、ごめんっ。私、用事思い出したから。
 だから、これで。さやかちゃん、また後で会おうね、絶対だよっ!」

辛い何かを押し込めているような、そんな切なげな表情を浮かべて。
それでも必死に笑うようにして、まどかは走り去っていく。
道の向こうで手を振って。そのまま姿が消えていった。


「さやか」

ほむらが声をかける。

「わかってる。二人とも、荷物お願いしていいかな。場所はわかるよね」

どさりと、さやかは重荷をその場において。

「……追いかけんのかよ」

渋々とその荷物の一つを背負って杏子が。
やはり荷物は重い。二つともなるとかなりぎりぎりだった。

「行くよ。明らかにまどかの様子はおかしかった。きっと何かあったんだ。
 まどかはあたしの親友だから、放ってなんか置けないよ」

「部屋に荷物を入れて待ってるわ。長くなるようなら、連絡をちょうだい」

もう一つの荷物をほむらが背負う。
恐らくこの問題は、自分よりもさやかの方が適任だろう。
友達を見捨てて置けない、そんなさやかの性格を好ましく思っているところもある。
できる限りは協力してあげたかった。

「ありがと、ほむら。杏子。……じゃあ行ってくる」

ぎゅっとコートの裾を掴んで引き締めて、まどかの走り去っていった方を目掛けて
さやかは走り出したのであった。
415 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/28(月) 09:44:16.88 ID:CKvpwjyc0
日常編第一幕です、ここからはしばらく平和な日々が続きそうです。
ええ、きっと。

>>405
さてはて、マミさんはちゃんと復帰することができるのでしょうか。
きっとマミさんが帰ってくれば、キボウも少しは薄れるのではないでしょうか。

>>406
せめてここに居る間は、目一杯休暇を堪能していただきたいものです。
ちょっと不思議で可愛い動物がたくさん居る、あいれむ動物園とかはどうでしょうか。
……あ、もう閉園してましたorz

>>407
どうしてこうR戦闘機はえげつないものほど幸せな名前をつけたがるんでしょうね。
製作者の悪意と遊び心が透けて見えるようです。マジで。
416 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/28(月) 12:42:39.15 ID:La1CUGkDO
お疲れ様でございます。
みんな、地球にお帰りなさい!しかしR戦闘機型バスとかwwやっぱり未来なんだなぁ。

これから彼女らは、どこに向かって、何を楽しむのかな?そしてそれを見るのは俺らの楽しみ。
417 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/28(月) 21:24:40.07 ID:BtigYz8Z0
うーん、マミさんが戻ってきたら戻ってきたらで、新たなキボウがあらわれそうだ。

「魔法少女なら、バイドに取り込まれても戻ってこれる」なら「意図的にバイドに魔法少女を取り込ませて、バイドについて探る」とか、「バイドそのものを武器にするためにバイドにソウルジェムを埋め込んで『人間の思考を持ったバイド』を作れないかという実験」とか。
418 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(愛知県) [sage]:2011/11/29(火) 08:54:49.18 ID:GhGClmrPo
R戦闘機型バスってPShomeに一時期あったんだっけ?
419 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/11/30(水) 08:46:14.80 ID:6dsNOoU80
気がついたらwikiに項目ができてました。
作ってくれた方には感謝とともに、一部加筆させていただきました。

ネタを仕入れがてらFINALを最初からやり始めたのですが
ファイン・モーションさんにボドボドにされまくっています。
発狂レーザーの安置が見つかりませんorz

では、投下します。
420 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/30(水) 08:47:19.03 ID:6dsNOoU80
走って、走って、走って。息が続かなくなるまで走ってから。
まどかはその足を止めて、壁によりかかった。

「はぁ、はぁ……っ、はぁ」

思いがけない偶然で、さやか達と出会えたのは嬉しかった。
けれども、ほむらや杏子と話している姿を見ていると、なぜか胸がぎゅっと痛くなって。
学校のことを聞かれると、もうどうしていいのかわからないくらいに、居た堪れなさに襲われて。
思わずこうして逃げ出してしまった。いまさらながらに、後悔が押し寄せてくる。

「どうしよう……さやかちゃん、しばらく居るって言ってたよね。
 でも、どうしたらいいんだろう。こんなんじゃあ、話をすることだってできないよ」

会いたくて会いたくて仕方がなかった。話がしたくて仕方がなかった。
そのはずなのに、いざこうして出会ってみると言葉が何も出てこない。
あんな風に逃げ出してしまって、明日から普通に顔をあわせることなんてできるんだろうか。

そんなことを考えながらとぼとぼと歩いていると、急に現れた人影とぶつかって。

「きゃっ……」

「うぁっ…っ痛てーなぁ。気をつけろよーっ!」

帰ってきたのは、無理やり低くしたような感じの少女の声。
わずかばかりに怒気を孕んだようなその声に、まどかは相手の顔を確認する間もなく頭を下げた。

「ご、ごめんなさいっ。ちゃんと前見てなかったみたいで……」

最悪だ、と思う。頭を下げたそのままで、じんわりと胸の中に悲しさが広がってくる。
こぼれそうになる涙を、ぎゅっと目を瞑って堪えていると、不意に。
ぽん、とまどかの頭に手が載せられて。驚いてまどかが顔を上げると、そこには。

「なーんてね、怖い人かと思った?さやかちゃんでしたー」

いつもと変わらない、友人の笑顔があった。
421 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/30(水) 08:47:46.33 ID:6dsNOoU80
そしてそれが、まどかの堪えていたものを断ち切ってしまった。

「さや……か、ちゃ……ぁ、ぁぁ、うぁぁぁぁあぁっ!!」

「え、ちょ、ちょっと。まどかぁーっ!?」

さやかに縋るように抱きついて、そのまま声を抑えようともせずに泣き出した。
平日昼間、人通りなんてほとんどないとは言え、である。
さすがにこの往来でこうしているのは恥ずかしい。

「一体どうしちゃったのさ、まどか……と、とにかくちょっと場所変えよっ!
 ほら、こっち行くよ」

半ばしがみつかれたような格好のまま、路地へと何とか移動して。

「ほら、ここならそうそう人も来ないからさ。……何があったのか、聞かせてよ」

「……ぁ、うん。ごめん、ね。さやかちゃん」

そんないつもと変わらない様子のさやかで居てくれるのが嬉しくて。
それなのに、自分はこんなに弱くって。それがまた情けなくて。
涙がずっととまらなくて、とめられなくて。ぽろぽろと涙がこぼれ続けていた。
422 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/30(水) 08:48:52.28 ID:6dsNOoU80
「あー、くっそ。一つでも重いってのに二つだぞ。そりゃ疲れもするってーの」

どすん、と荷物を降ろして杏子が愚痴っていた。
ようやくたどり着いた宿泊先。そこは大きな一軒家のようなもので。
どうやら新築らしく、外観や周囲も綺麗なものだ。

「それにしても、なぜさやかはこんな場所を選んだのかしら。
 半月くらい、ホテル暮らしでもよさそうなものだけど」

住む分にはここも悪いところではなさそうだが、と荷物を降ろしながらほむらが言う。
にぃ、と小さく口元をほころばせて振り向くと、杏子が。

「さてね、それはさやかの奴に聞いてみなけりゃわからねーけどさ。
 みんなで一つ屋根の下、同じ釜の飯を食ったりして仲良くなろう。とか、そんなところじゃねーの?」

それはそれで悪くないな、なんて考えながら。 

「それはそれで悪くないわね。となるとなにをするか考えないといけないわ」

「………。くくっ」

軽く目をぱちくりとやってから、小さく笑いを漏らした杏子。
怪訝な顔でほむらが尋ねると。

「いや何、あたしもあんたと似たようなこと考えてたから、おかしくってね」

「そう、あなたもそんなことを考えてたのね。……じゃあ、目いっぱい楽しまなくちゃ。
 こんな休み、次はいつ取れるかわかったものではないもの」

「……だな、折角拾った命だ。たまにゃぱーっと遊んでみるのも悪くねぇ」

荷物をひとまず居間に並べて、家の中を見て回る。
家具もしっかり揃っているし、部屋も沢山ある。中も綺麗なものだ。
3人で住むには、ちょっとばかり広すぎる気もするくらいのものだった。
423 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/30(水) 08:49:31.92 ID:6dsNOoU80
「ふー、やっと一息つけるな。って言ってもさやかが帰ってくるまで下手に動けないし。
 しばらくこのまま休んでよーぜ?あんたも疲れただろ」

勝手知ったるなんとやら、早速居間のソファーに飛びついて。
片手にリモコン片手にお菓子、完全にくつろぎモードの杏子である。

「そうするわ。隣、いいかしら?」

「おう、そーしろそーしろ」

伸ばした脚をひょいと組ませて、空いた隙間にほむらが腰掛けた。
テレビはよくわからないドラマを映し出していた。
如何せん平日の昼間である、そういうものが流れるのは今も昔も変わらないようで。


「そういえば……ええと、杏子」

「ん、どーしたんだよ?」

さやかは未だ戻らず、10分かそこらは過ぎただろうか。
おもむろにほむらが杏子に呼びかけて。

「一つ、聞いてもいいかしら。……あなたがなぜさやかと一緒に戦うことを決めたのか。
 エバーグリーンにいたというのは聞いていたけど、そこで何が起こったの?」

「あー……そのことか。単に向こうで一緒に戦っただけ……ってのでもないか、あれは」

思い出しては小さく苦笑して、なんとも照れくさそうに軽く頬を?き。
少しだけ迷う。それから真っ直ぐほむらを見つめて。

「あたしらはさ、これから仲間になるわけだ。……あんまり面白い話でもないけどさ。
 でも、仲間ってならやっぱりこういうことも話すべきだと思う。ちょっと長い話だけど、聞いてくれる?」

「さやかが戻るまでは何もすることなんてないもの、是非聞かせて欲しいわ」

そんなほむらの言葉に、一体さやかは何をやってるんだか、なんて小さく愚痴ってから。
杏子は静かに話し出す。エバーグリーンとの因縁を、ロス提督との出会いと別れを。
そして一度捨てた命を、さやかに拾われてしまったことを。

「――ま、んなとこさ。ほんとにあいつは面倒で、おまけに大した奴だよ。
 お陰でうっかり命まで拾われっちまった。……今はまあ、あいつと一緒に戦えたら、楽しいんじゃないかなって
 そう思ってるよ。出来ればほむら、あんたともそんな感じでうまくやりたいもんだ」

話しつかれた、といった様子でソファーに深く背を預けた。
424 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/30(水) 08:50:30.20 ID:6dsNOoU80
ほむらも、杏子の言葉を受け止めて。

「私も、そうできればいいと思う。……でも驚いたわ。まさかあのロス提督と一緒にいただなんて」

「結局、ロス達が旅立ってからもうすぐ3年だ。ダメ押しの第3次バイドミッションがあってもまだ
 さっきみたいなバイドの大量発生が起きるんだ。……それでもさ、あたしはいつか帰ってきてくれるって信じてるんだ」

第3次バイドミッション。人類がバイドに対するために放った三度目の矢。
このころになると、人類のバイドに対する術もさまざまなノウハウを溜め込んでいた。
さまざまな手段の中で、バイドに対して如何なる戦闘形態が有効なのか。
それを確かめたのがバイド討伐艦隊と、それに続いて行われた第3次バイドミッションであった。

曰く、ワンオフ機とエースパイロットにおける敵中枢への電撃戦。
そしてもう一つが、従来通りの部隊を率いてバイド中枢への道筋を立て、侵攻して行くという作戦。
前者はバイド中枢の撃破を成し遂げたという記録が残されており
後者には太陽系からバイドを駆逐したという実績があった。結局どちらと絞れたわけではないのが現状である。

「……杏子。あなたが私を信じて話してくれたのなら、私もあなたを信じて話したいことがある」

知らせるべきだ、と考えた。
杏子はさやかと違い、軍やTEAM R-TYPEがどういうものかを知っている。
ならば知らせたとしてもきっと、悪いことにはならないはずだ、と。

「なんだよ、今度はほむらの身の上話でも聞かせてくれるっての?」

「それに近いものだと思うわ。でもお願い、絶対にこのことは口外しないで」

「随分深刻そうだな。そんなに話したらまずいことなら、別に話さなくてもいいんだぜ?」

そういう気遣いは嬉しいと思う。
きっと彼女は、仲間を思える人だ。任せられると思った。

「……いいえ、それでもやはりあなたには知っていてもらうべき事だと思うの。
 杏子、あなたは第3次バイドミッションでバイド中枢を撃ったパイロットの名前を知っているかしら?」

「パイロット……って、確かスゥ=スラスターだっけ。幼体固定されたとか危ない噂も聞くけどよ。
 結局、バイド中枢を討った後は未帰還だ、って話だと思ったけど?」

「ええ、その噂は本当だったのよ。……スゥ=スラスターは幼体固定を受け、14歳の少女の体に加工された。
 そして彼女はバイドを倒し、地球へと帰還したのよ。誰にも気付かれないように」

杏子が怪訝そうな表情を浮かべる。
けれどもその表情は、ほむらの言葉が続くに連れてだんだんと変わっていく。

「彼女は、あの肉体や精神を、正気すら削り取られるような戦いはもう嫌だったのよ。
 だから密かに地球圏に戻り、機体を隠して普通の少女としての生活を送っていたの」

――驚愕する。



「ほとんど今の彼女の姿を知るものは居なかったから、そのまま彼女は軍から逃げることにしたの。
 心臓病で亡くなった少女――暁美ほむらに成り代わって、ね」
425 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/30(水) 08:52:30.08 ID:6dsNOoU80
「は……ははっ、冗談にしちゃ笑えねーし、第一おかしいだろ。
 じゃあどうして戦うのが嫌になった英雄が、あんなところで試験機のパイロットなんかやってんだよ」

信じられない、けれどもその言葉には妙な真実味もあって。
掠れたように笑って、軽く肩をすくめた。
対するほむらは自嘲気味に笑って、天井を見上げながら。

「あのキュゥべえに正体が露見したのよ。それで軍に知らされたくなければ……という訳よ。
 実際、軍やTEAM R-TYPEの元に居るよりは随分と人間らしい暮らしはしてると思うわ」

ほむらは言葉を告げてから、少しだけ頬を緩ませて。

「それに、さやかが戦うと言ったから。あの子を放っておけない。守りたい。
 ……そう思っていたのだけどね。今では素直に、一緒に戦いたいと思うわ」

大切なもの、守りたいものはどうやら同じだったらしい。
杏子が何となくほむらに感じていた壁、その原因がわかったと同時に
目的は同じなんだと思うと、そんな壁も消え去ってしまったような気がして。

「なら、やっぱりあたしらは仲間だ。目的が一緒で、倒す敵も同じ。これが仲間じゃねぇってなら何なんだ。
 ……で、なんだってそんなことを話すつもりになったんだよ」

そんな壁がなくなると、実際の距離も少し近づいてしまうのか
ずい、と身を乗り出してほむらに迫る。ついでに食べていたお菓子の袋も一緒に差し出して。

「食うかい?」

嬉しそうに笑って言うのである。

「ええ、頂くわ。……こんなことを話したのはね、杏子。あなたにさやかを任せたいからよ」

「どういうことだよそりゃあ。そもそもいきなり任せられても困るっての。
 それにあいつは、誰かに助けてもらわなけりゃ何も出来ないような奴じゃないと思うぜ?」

思わずきょとんとした顔で杏子が尋ねる。
なんだかんだでさやかのことを評価しているのは二人とも同じであった。
それはほむらもわかっているのだ、それでも。

「私もそう思うわ。でもほんの三ヶ月前まではさやかは普通の女の子だったのよ。
 バイドと戦うなんてことがそう簡単に割り切れるとは思えない。いざというときには支えてあげて欲しい」

「三ヶ月、って……改めて聞くとやっぱり信じられねぇよ。魔法少女ってのは、皆そうなのか?」

流石の杏子もこればかりは訝しげに首を傾げるばかりで。
無理もないことである。今まで短くない時間をかけて、必死になって覚えてきた戦い方を。
魔法少女はほんの僅かな時間で覚えてしまうことになる。多少なりとも気持ちは複雑だった。

「私の見る限り、魔法少女は皆そうだったわ」

とはいえ、それもさやかとマミに限ってのことではあったのだが。

「っつーか何?あんなこと言っといて、あたしに全部押し付けるつもりかい?」

「そのつもりは無いわ。でも私はこんな体だから、さやかとは違う時間を生きているようなものよ。
 ならきっと、さやかのそばに居るのはあなたのほうが似合っていると思う。
 だから杏子、あなたは……さやかのそばにいてあげて」

そう言われると言葉に詰まる。
そもそもにして、まだ目の前のほむらと第3次バイドミッションの英雄の姿が結びつかない。
むしろ、そんなことを気にしているのかとすら思う。
426 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/30(水) 08:53:12.95 ID:6dsNOoU80
対してほむらは、これでいいのだと考えていた。
なんだかんだで自分はさやかとは違うのだと、一緒に戦うのならきっと
杏子との方が何かと気が合うだろう、と。

さて、どうしたものかと杏子が考えていたその時に、丁度。

「ほむらー、杏子ーっ!どっちでもいいから手を貸してーっ!ちょっと手が塞がってるんだーっ!」

元気よく、でもどこか戸惑いがちなさやかの声が聞こえてきたのだった。

「何かあったのかしら。……杏子、早速だけどお願いする…っ!?」

最後まで言葉を言いきる前に、杏子がほむらの手を掴んで立ち上がらせて。
そのまま出入り口の方に親指を突き立てた。

「あたしはあんたが何もんだろうと関係ない。それが仲間だろ。
 きっとさやかだって、同じ事を言うと思うぜ。ったく、何バカなこと言ってんのさ……あんたも、一緒に来るんだよ」

「っ……でも、私は」

「あー面倒くせーな。もう。今はとにかくさやかのとこに行くのが先だろ。
 ほら、行くぞ行くぞーっ」

「あ、杏子……っ、まったく」

ぐいぐいと引かれるその手に抗い切れず、ほむらもさやかの元へと向かうのであった。
427 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/30(水) 08:53:54.13 ID:6dsNOoU80
「……そろそろ落ち着いた、まどか?」

「うん……ありがと。ごめんね、さやかちゃん」

時は少々遡る。
路地裏、人通りの少ない場所で。
それでもまださやかに抱きついたまま離さずに、まどかは申し訳なさそうに謝った。

「それで、まどかは一体どうしちゃったのさ……まさか、あたしに会えないのが寂しかったとか?」

おどけた調子で話してみると、涙の潤んだ瞳でさやかを見上げて
そのまま、ぎゅっと抱きつく腕に力を込めた。
そんな仕草が可愛らしくて、思わずふらっときてしまいそうなのをぐっと堪えて。

「あはは……もしかして大正解って奴?もー、まどかは本っ当に可愛いんだからさ。
 やっぱり、まどかはあたしの嫁だねーっ!」

「さやかちゃんってば……ふふっ。……でも、本当にそうだったらずっと一緒にいられる、かな」

やはりどうにも様子がおかしい。
いくらなんでもここまで甘えてくるような子ではなかったはずだ。
困惑半分、実はちょっぴり嬉しい気持ちも混ぜ込んで。
それでもなんとか、そっとまどかの体を押しのけて。

「……ね、まどか。そろそろ聞かせてよ。何があったのか。学校、休みなんかじゃないよね」

びくりと、まどかの体が震えた。

「あ、別に怒ろうとかそういうんじゃないんだよ。そもそもあたしだって
 今は学校なんて行ける状況じゃあないし、まどかのことなんて全然言えない。だから心配しないで……」

「やっぱり、まだ戦ってるんだね。さやかちゃんは」

その言葉が、どうやらまどかの傷に触れてしまったらしい。
震える身体を自分で抱きしめるようにして、か細い声を放って。

「そりゃ……まあ、ね。だってあたしが戦わないと、誰かがバイドの犠牲になる。
 でも、大丈夫だよ。一人で戦ってるわけじゃない。ほむらもあの杏子も一緒だから」

「……そっか。仲直りできたんだね。ほむらちゃんと」

「仲直りっていうか、あたしが勝手にムキになってただけなんだけどね。
 そうだ!そうそう忘れてた!マミさんが生きてたんだよ!」
428 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/30(水) 08:55:08.57 ID:6dsNOoU80
「本当に!?……マミさんが、よかった。……よかったよぉ」

またしても泣き崩れそうになってしまって、慌ててさやかがまどかの体を支えた。
どうやらまどかはあまり話したくないようで、ひとまず今は別の話をしよう、と。
さやかはこの三ヶ月間のことを、ほむらのことや杏子のこと、バイドとの戦いのことを話し続けた。

「――でさ、そういうわけで今は休暇ってわけ。しばらくこっちに居るからさ、沢山遊ぼうよ。
 あ……でも、まどかは普通に学校か。それじゃ学校終わってから、いいよねっ!」

「うん。……なんかさやかちゃん、生き生きしてるね」

「そう、かな?こう見えても結構危なかったんだけど……でも、確かに充実してるといえばそうかも」

思いがけない言葉に、ふと首を傾げて考え込んで。
そんな合間に、まどかの呟きが耳に届いた。

「あの時私も戦うって言ってたら。そしたら、私も一緒だったのかな……」
「っ!まどかっ!!」

聞き逃すことは出来ないその言葉。
すかさず手が出て、まどかの手を掴んでしまって。

「何言い出すの、まどか……ダメだよ。そんなの絶対にダメだっ!」

思わず語勢が強くなる、手を握る力も少し強かったのか
顔を顰めてまどかが手を振り払い、そして。

「どうして?どうして私だけなの?……さやかちゃんだって、戦ってるんでしょ。
 私だって戦えるんでしょ?そうしたら、さやかちゃんやほむらちゃんと一緒に……」

きっとまどかは、受け入れてもらえると思っていたのだろう。
驚いたように顔を上げて、胸元に手を当てて必死に訴える。

「どうしてそんなこと言うのさ、まどか。やっぱりおかしいよまどかっ!」
 
「おかしいよ、おかしくもなるよっ!だって私、私……っ」

さやかを見つめる瞳からは、とめどなく涙が零れて服に染みを残していって。
震える声で、やっとの思いで打ち明けた言葉は。

「私……ずっと一人なんだよ。嫌だよ、そんなの……っ」

「一人、って。……どういう、こと?」

「さやかちゃんとほむらちゃんが居なくなって、私だけが戻ったんだよ。
 みんな不思議そうにしてた、私も、誰にも打ち明けられなかったから……誰とも話せなくなっちゃって。
 それに、さやかちゃんやほむらちゃんが死んじゃうんじゃないかって思ったら、私……どうしたらいいかわからなくなって。
 怖くて、怖くて……もう、嫌だよこんなの。耐えられないよ……」

足の力がするりと抜けて、辛うじてさやかに支えられながら
まどかは思いの丈を打ち明けた。巻き込まれてしまった時から三ヶ月余り。
決して短くはない時間、友達にも親にも打ち明けられず、ずっと心の奥底で閉じ込めてきた
秘密と、恐怖。それが溢れ出していた。
429 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/30(水) 08:55:55.52 ID:6dsNOoU80
さやかもそれを理解した。
どれだけの苦悩か、そしてそれはきっとこれからも続くのだ。
確かにそれは辛いだろう、でも。

「……でも、ダメだよまどか。そんな気持ちで魔法少女になんてなっちゃダメだ。
 まどかは今、辛い状況から逃げるために戦おうとしてる。そんなんじゃ、いい方向になんて行きっこないよ」

戦うのなら、自分の意志で道を決めなくてはならない。
周りの状況に流されて決断してしまえば、いつか必ず後悔する。
その時にはもう、誰も、何も恨むことすらできないのだから。

それでも親友であるまどかにそんな事実を告げるということは
さやかの心をきりきりと痛ませていた。

「そんなの嫌だよ。お願い、さやかちゃん。一緒に居させて。
 さやかちゃんと……一緒に、居させてよ」

決心が揺らぐ。まどかが一緒に来てくれたら。まどかと一緒に戦えたら。
戦いの重圧が、死への恐怖がどれだけ和らぐことだろう。
まどかがさやかを必要としているように、さやかにとってもまどかは大切な親友なのだ。

「じゃあ、まどかは……死人になる覚悟、ある?」

「っ……死ぬのは、怖いけど……頑張るから、だからっ!」

「違うよ、死ぬんじゃない。死人になるんだ。……まどか、これを見て」

指から引き抜いた指輪は、青い煌きと共にソウルジェムへと変わる。
かつて見たその輝きは、今はどこかくすんでいるようにも見えた。

そしてさやかは語る。魔法少女の真実。ソウルジェムの正体を。
魔法少女のこの体はもう人のそれではなく、ただの抜け殻でしかないということを。

「人間じゃなくなって、こんな宝石が本体になって。それでも戦える、まどかは?」

完全に足が萎えてしまったまどかを、ゆっくりと床に座らせて。
隣に座って、ソウルジェムを掌に載せたままもう一度尋ねた。

まどかはしばらく、ソウルジェムとさやかを、そして自分を互い違いに眺めてから。
随分と長い時間を空けて。静かに首を横に振った。
430 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/30(水) 08:56:48.03 ID:6dsNOoU80
「……私、ダメだね。戦いたいって言ったのに、そんな風になるって考えたら。
 どんどん怖くなってきちゃって、マミさんがやられた時のこと、思い出しちゃって」

膝を抱えてそのまま蹲る。
そんなまどかの肩にそっと手を乗せて。

「大丈夫だよ、まどか。あたしは絶対に死なない。ほむらや杏子もいるんだ。
 ……学校とかのことは、さ。ここにいる内になんとか考えようよ。協力するからさ」

俯いたまま、小さく頷くまどか。

「よし、じゃあそういうことだよ。……流石にまどかをこのままにしとけないよね。
 まどか、あたしら近くに泊まるとこがあるんだ。一緒に行こうよ」

「私なんかが行っても、いいのかな……」

「だいじょーぶですっての。あたしは今お休みでこっちに来てるんだもん。
 まどかが来るなら大歓迎、だよっ!」

「そっか、ありがと……さやかちゃ…っ?」

立ち上がろうと地面に手をついて、けれども体が持ち上がらない。
仕方ないな、とその体を抱き上げて背負う。

「さ、さやかちゃっ!?……これはちょっと恥ずかしいよ」

「大丈夫大丈夫、それにしてもまどか、ちょっと痩せたんじゃないの?すごい軽いよ?」

「……最近、あんまりご飯食べてなかったから、かな」

「あー、やっぱり。じゃあ今日からはしっかり食べなよ。具合でも悪くしたら大変でしょ。
 じゃあ行くよ、まどかっ!」

そうして歩き出し、やがてたどり着く。
しかし両手は塞がっていて、ドアを開けるに開けられない。
そうしてさやかが呼びかけたのであった。
431 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/11/30(水) 09:03:04.37 ID:6dsNOoU80
では、本日投下分は以上となります。

>>416
帰ってきたら帰ってきたで、今度は人間関係の清算が待っておりました。
楽しい休暇はまだもうちょっとだけお預けのようです。

>>417
ソウルジェムはバイド汚染に対して非常に高い抵抗力を持っています。
物理的にも、精神的にもです。
………まあ、世の中悪いことを考える人もいるものですよね。

>>418
元ネタがそれです。
確か日本ではやってなかったとかいう話も聞いたりしてます。
多分今はもうないのでしょうね。
432 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/30(水) 10:58:11.94 ID:KNkD3CTDO
続き来たっ!お疲れ様!
うんうん。やっぱそうだよね、ほむらちゃんみたいな素敵な女の子と、歴戦の勇士じゃあ重なりにくいよね。

そして密かな孤独に悩まされる優しきまどか。ほむらちゃんは良いとしても、杏子ちゃんには少しの間、大きい心の器で我慢してもらうしかないかな…。
433 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(不明なsoftbank) [sage]:2011/11/30(水) 19:56:29.79 ID:pFI7869ho
まどかが行ったら今度は仁美が置き去りにされちゃうんだがなぁ

乙です
434 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/01(木) 21:51:19.90 ID:QH08gZZt0
跳躍26次元を越えたら、宇宙墓標群はもっと地獄でした。
ゴマンダーちゃんに会える日は遠そうです。

では本日の投下です。
435 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/01(木) 21:52:06.03 ID:QH08gZZt0
「しかし、結局ロクに街も見ない内に暗くなっちまったな。
 この分だと、外に出るのは明日から、ってことになるかね」

この時期はもう日が落ちるのも早い。
気がつけばもう夕暮れ時。今から動くとなれば、きっと相当冷えることだろう。

「まあいいじゃないの。結構長旅だったんだしさ、今日一日くらいはゆっくり休んで
 明日はまず、冬服の用意を済ませちゃわないとね。それから街を案内して……と」

「ごめんね、さやかちゃん……ほむらちゃん、杏子ちゃんも」

「別に気にすることではないわ。久しぶりの再会だもの。
 話が弾んでしまうのは無理もないわ。……とはいえ、担ぎ込まれてきた時は
 さすがに何事かと思ってしまったけれど」

「まあ、その辺は気にしないってことで。ね?」

「詮索するつもりはねーけどさ。もし何か困ってるってなら言えよ。
 仲間なんだ。助け合わなきゃな?」

窓から外を眺めていた杏子が振り向いて、にっと笑って呼びかけた。
そんな気持ちは嬉しいけれど、ことこの問題だけはちょっと頼りづらい。
何より、まどかが杏子に頼れないだろう。

「大丈夫だよ、まどかのことはあたしが何とかするから」

「まあ、そういうことならいいけどさ。じゃあとりあえず飯にしようぜ。
 腹も減ったし、飯食いながら話すってのも悪かないだろ?」
 
確かに、言われてみると今日は昼に軽く食べたきり。
いろいろあって、少しお腹も空いていた。久々の地球は寒かったし
なにか温かいものを、お腹一杯食べたいものだな、と。

「そーだね。……よし、じゃあこうしようじゃない!鍋しようよ鍋!
 みんなで食材買い込んでさ、きっと暖かくて美味しいと思うしさ」

「そりゃ悪くないね。となると食材の買出しに行かないとな。
 さやか、この辺によさそうな店ってあんのか?」

「まっかせなさい!ちゃーんと案内するから、準備して行こうよ。
 まどかもほむらも一緒に来なよ。自分の食べたいものは自分で選ぶんだよ」

こうやって話していると、だんだん乗り気になってくる。
ただ一つだけ気がかりなこと、それは。

「だからさ、まどか。その前に一回ちゃんと家に電話しなよ。
 きっとみんな心配してると思うしさ。あたしも一緒に説明するからさ」

「……うん」

やはりどうしても、まどかはどこか元気がない。
それが気がかりで、でもどうすればいいのかが分からなくて。
まずは今できることを、問題に一つ一つあたって解決していくしかないのだろうか。
そんな風にしか、考えることができなかった。
436 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/01(木) 21:53:08.75 ID:QH08gZZt0
「しかし驚いちゃったね。まさかまどかがあんなことを言うなんてさ」

暗い夜道を四人そろって歩いていく。
電灯に照らされた道を、白い息を吐きながら。
両手に袋をぶら下げて歩く。空気はひんやりと冷たくて
そろそろ雪でも降りそうな感じだ。

あのすぐ後に、まどかは家に連絡をとった。
まだ詢子は帰ってきていなかったようで、電話に出たのは知久だった。
学校から登校していないと連絡を受けていたらしく、電話に出た知久の声は心配そうなもので。
そんな知久に、まどかは言い放ったのである。

さやかと一緒にいるのだと、今はまだ帰れない、帰らないのだ、と。
帰ったら必ず説明するから、とさらに語勢を強めて詰め寄ったのだ。
今までに見たこともないまどかの様子に知久も、戸惑いながらもそれを認めた。
なんとか詢子を説得してみると、だから必ず帰ってくるんだよ、と。
胸中は複雑だったのだろうけれど、直接さやかが話をしたのが決め手となったのだろう。

さやかにも、相変わらずの優しげな声でまどかをお願いするよと頼まれた。
こうなってしまうと、さやかとしても無理にまどかを帰すわけにも行かなくなって。
結局こうして、4人並んで買出しへと出かけてしまったわけである。
437 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/01(木) 21:54:01.92 ID:QH08gZZt0
携帯用波動コンロが青い炎を吹き上げる。調理器具に流用されるほど波動科学は普及しているようで。
そんな炎に煽られて、ぐつぐつと煮える鍋。
どうにもこの時期は冷えるから、野菜をふんだんに盛り込んで。
味付けは少し濃い目塩味ベース、野菜から出た水分でちょうどいい味になることだろう。

「んー、いい匂いっ!やっぱ鍋はこうでなくちゃね」

箸とお茶碗完全装備で、すちゃっと自分の席を確保して。
さやかが嬉しそうにはしゃいでいる。

「そろそろいい具合に煮えてきたんじゃねーか?もうそろそろ食おうぜ」

と、こちらはちょっとそわそわしている感じの杏子。
もう待ち切れないといった様子である。

「おおっと!まだまだだよ。大根にしっかり味が染みるまでぐつぐつするのがあたしの正義だからね!」
 っていうかほむらとまどかがまだなんだから、せめてそれくらいは待ちなさいっての」

「ええい、これ以上待ってられるか。あたしは腹が減ってるんだーっ!」

鍋の前での取っ組み合い、実に危険なことこの上ない。
そんなところへ、エプロン姿のまどかとほむらが現れた。

「お野菜用意できたよ。でも、ちょっと多すぎる気もするんだけどな」

その手に抱えた大きめのボール、中にはハクサn、否、白菜だとか牛蒡だとか
大根人参もやしに白滝豆腐、お鍋の定番野菜がどっさりと。
既に一つ鍋が出来上がりそうだというのに、まだこれだけ食べるのか。
ちょっと苦笑がこみ上げてくるのを堪えきれずに。

「多ければその分は二人に食べてもらえばいいわ。
 ……そろそろいいわね」

今度は肉を用意してきたほむらが席に着く。
鍋の蓋を開けると湯気が沸き立ち、視界がほんのり白く染まった。

「っしゃ!それじゃ食おうぜ食おうぜっ!」

「よーっし、それじゃ食べちゃいますかーっ。まどかも、ちゃんと食べるんだぞーっ」

「あはは、大丈夫だよさやかちゃん。……じゃあ、いただきますっ」

「「「いただきます」」」
438 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/01(木) 21:54:58.00 ID:QH08gZZt0
モノを食べる時は、独りで静かで豊かであれ。
なんていうか、救われていなければならない。
そういうのはとある男の言である。けれどもそれはきっと男の食事なのだろう。
女の子達の食事時、箸は動くが口はもっと動く。

普通の女の子が二人、ちょっと普通ではない女の子が二人。
見方を変えれば人二人、魔法少女が二人である。それでもにぎやかなことには変わりはない。
まどかも、ずいぶん元気を取り戻していたようで。

「なんか、よーやく休暇って感じがしてきたよ。明日から何しようかなー」

鍋の中身はほぼ空っぽ。
新たに肉や具材を投入してまた一煮立ち。
腹具合もだいぶ落ち着いて、後はゆっくり話でもしながら食べるだけである。

「とりあえず冬服は新調しなくてはね。さっきだってかなり寒かったもの」

「ってかほむら、結構寒がりだったんだね。あんまりそうは見えなかったけど」

「ははっ、そんなひょろい身体してっからだろ。もっとしっかり食って、身体を丈夫にしねーとな」

「そうね、これからは気をつけることにするわ」



「まどかはどうする?本当は学校とかもあるんだろうけどさ。
 さすがにこうなっちゃったらしょうがないし、一緒に来るよね、まどかも」

「私はさやかちゃんと一緒に行くよ。ほむらちゃんと杏子ちゃんにも街を案内してあげたいし」

「そっか、じゃあそうだねー、明日は見滝原の名所紹介、ってな具合にしてさ
 明後日はそれぞれ自由行動、ってことにしよう。その後のことは、また明日にでも考えるとしてね」

「ん、いいんじゃねーかな。あたしも久々に色々遊んできたいし」

「ええ、私も構わないわ。でも普通に街に出るのなんて久しぶりだから。
 もしかしたら、色々迷惑をかけてしまうかもしれないわね」

「そんなの気にしなさんなっての。ここにいる間くらいはゆっくり羽を伸ばそうじゃないの」

話は弾む、これからの楽しい日々を色々と考えてはそれを話し合い。
そんな楽しい気分を、鍋から漂ういい匂いが後押ししてくれた。
これで酒でも入れば本当にいい気分になってしまいそうだが、彼女達はまだ未成年である。
一応。
439 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/01(木) 21:56:09.06 ID:QH08gZZt0
「やあ、みんな休暇を楽しんでいるようだね」

「ぎゃーっ!?」

突然である。鍋の中からキュゥべえが現れた。
実体のない半透明生物である、まあ問題があるわけではないのだが。

「っ!?テメェっ!一体どこから出てきやがるんだっ!」

「どこからって?この家の中ならどこにだってボクは出られるようになっているんだよ」

「そういうこと聞いてるんじゃないんだってば、鍋の中からにゅっと出てきたら誰だって驚くって」

さやかの言葉にキュゥべえは改めて自分の姿を眺める。
鍋に半ば埋まっていて、鍋から顔と尻尾が突き出ているだけの状態。
はっきり言ってしまえば、気味が悪い。

「……別に今のボクは実体があるわけでもないから、構わないとは思うんだけどな」

「いいから出ろっての、食欲が失せる」

「やれやれ、しかたないな」

ぴょん、と鍋から躍り出た。
所詮はただのホログラム、いい感じで煮えていたり色づいていたりはしなかった。

「キミもここに居たんだね。やあ、久しぶり。鹿目まどか」

「あ……うん、久しぶりだね、キュゥべえ」

あまりの衝撃に面食らっていたまどかも、ようやく正気を取り戻したようで。
キュゥべえに向かってなんとも曖昧に微笑んで。

「それにしても、こうしてみんなで食卓を囲んでいるというのもなかなかによさそうなものだね」

「あんたも参加すりゃいいんじゃねーの?まあ、その身体で飯が食えるとは思わないけどさ」

「そうでもないよ、さすがにこの身体では食べられないけどね。
 職場で一緒に食事を取るときなんかは、色々食べたりしているよ」

やけに所帯染みた言葉が飛び出して、キュゥべえの正体を知るほむらは噴出してしまった。
どう見ても怪しい白衣集団と、どうみても只者ではない白い半透明生物が一緒に食卓を囲んでいる。
なんとも奇妙でシュールな光景である。想像するだけで疲れてきそうだ。

「職場って、キュゥべえはずっとティー・パーティーにいるんじゃないの?」

「ここやティー・パーティーにいるボクはあくまでもプログラム、本体から切り離された一部分なんだ。
 ボクの本体は、もっと別の場所でR戦闘機の開発に携わっているよ」

「へー、そうだったんだ。っていうか今更なんだけどさ。キュゥべえって一体何なの?
 ただのプログラムじゃない、ってことはわかったけど」

そこそこ付き合いも長いこの生き物に、今更ながらに疑問が湧いてくる。
そうすると、先日TEAM R-TYPEの男が言っていた言葉が蘇ってくる。
曰く、インキュベーター、宇宙人。宇宙人ならインベーダーじゃないのかな、なんてレトロな考えは放り投げて。

「ボクはボクだ、魔法少女をサポートするための存在だよ。それじゃ不満かい?」

「大いに不満ね、それだけじゃ説明のつかないことが多すぎるわ」

「おう、あたしも気になるぞ。いまだにこんな妙な生き物が目の前で動いてるのが不思議なくらいだし」

矢継ぎ早に二人が言葉を放つ。
気になっているのはどうやら二人も同じようで。
流石に、こんなキュゥべえの言葉一つで誤魔化されるわけにもいかない。
440 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/01(木) 21:56:54.12 ID:QH08gZZt0
「ほらほら、みんな気になってるんだよ。キュゥべえ。そろそろ正体を白状しちゃってもいいんじゃない?
 実は宇宙人だった、とかさ」

ぴく、とキュゥべえの耳が跳ねた。

「……まさか、そんなわけがないじゃないか」

「そうだよさやかちゃん、いくらキュゥべえが不思議な生き物だからって、宇宙人はないと思うよ」

「そーだよなぁ、いくらなんでも宇宙人はねーよ。まだ生物兵器って方が納得できるぜ」

「でも……あたしは聞いたんだ。キュゥべえ。あんたが宇宙人だって。
 インキュベーターって呼ばれてたのも、聞いたんだ」

さやかの言葉に、沈黙が部屋に満ちる。
ぐつぐつと煮える鍋の音だけが聞こえて……。

「あっ!?鍋、吹き零れてるよっ!」

「うわととっ!……ふぅ、危ない危ない」

慌てて鍋の火を止めた。
このまま食事を再開するには、ちょっと空気が深刻すぎる。



「……一体、どこでそれを聞いたんだい、さやか。
 いや、大体想像はつくか。あの男から聞いたんだね」

キュゥべえは軽く目を伏せて、少しだけ思考を廻らせ言葉を告げる。
少なくとも今のところ、さやかの行動のほぼ全ては監視下にある。
わからないことがあるとすれば、ティー・パーティーを離れていた時のことだけだ。

「その通り、このまま向こうで戦わないかって誘われてさ。
 流石に断ったんだけど、その時にね。……さっき思い出した。
 キュゥべえ。そろそろ聞かせてくれない?今更どんなこと言われたってあたしは驚かないよ。……た、多分」

いまいち最後が締まらないのはご愛嬌、といったところであろうか。
キュゥべえはぐるりと部屋の中を見渡して、それからまどかに目を留めた。

「そこまで知っているのなら、ボクとしては話をするのも吝かじゃない。
 でも、キミはいいのかい、鹿目まどか。ボクとしてはキミはこれ以上秘密を抱え込むべきではない、と思うけど」

胸中の悩みを見透かすようなキュゥべえの言葉。
まどかは思わず息を詰まらせた。

「あー……確かに、今のままでもまどかにはかなり負担になってるもんね。
 となると、まどかはあんまり知らないほうがいいのかな」

申し訳なさそうにさやかが言う。
けれども仕方ないことだと思う。今のままでさえまどかは抱えた秘密に押しつぶされそうになっている。
これ以上の何かを押し付けるのは、流石に酷だと思ってしまう。

「わ、私……知りたい。秘密を抱え込むのは辛いけど、でも……。
 私だけが何も知らないのは、もっと嫌だから」

胸元をぎゅっと押さえて、痛みを堪えるような顔でまどかが告げる。
でも、知ってどうするというのだろう。さやかの脳裏には先ほどのまどかの言葉が蘇っていた。
一緒に戦いたい――と。その気持ちは本当なのだろう。
けれど、魔法少女の真実を知って思いとどまった。そう思いたい。
それでも、まるで今にもまどかがキュゥべえと契約を交わしてしまいそうで、どうしようもなく不安だった。


その時は、止めようとも思った。
441 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/01(木) 21:57:24.20 ID:QH08gZZt0
「わかったよまどか。じゃあキミにも話そう。もちろんこれは重大な秘密だ、口外はしないで欲しい」

キュゥべえの言葉に、皆が静かに頷いた。
それを確認して、キュゥべえがぴょんとテーブルに飛び乗った。

「だーかーらー、飯食うところに足乗っけるんじゃねーっての」

……払いのけられた。

「だからボクには実体がないって言っているのに。わけがわからないよ」

仕方なく、食卓からは少し離れた床に座って。


「まず最初に、ボクが宇宙人だというのは間違いじゃない。インキュベーターというのも、ボク達の本当の名前だ。
 ボク達インキュベーターはね、ずっと昔からキミ達人類と関わってきたんだ。
 それこそ、キミ達がまだ文明というものをもたなかったような時代からね」

なにやら、にわかに話のスケールが大きくなってきた。
そしてキュゥべえは静かに話し始める。

曰く、この宇宙はエントロピーの問題に直面している。

「だからボク達は、エントロピーに囚われないエネルギーを探していたんだ」

そしてそれを解決する術が、人の感情をエネルギーに変える技術。すなわち魔法少女のことである、と。

「魔法少女が魔女を倒す。そうすることで生み出されたエネルギーが、ボク達の宇宙を救っていたんだ」

その為に彼らインキュベーターは、遥か昔から人類と共に寄り添ってきたのだ、と。

「だからボク達は、人類がより発展するように陰ながら力を貸してきたんだ。
 それがボク達にとっても、エネルギー問題を解決する手段になっていたからね」

だが、その関係はあっけなく壊滅した。
悪夢の存在によって、とてもあっけなく。

「そんなボク達の前に、バイドは容赦なく襲い掛かってきたんだ。
 ちょうどあれは、こちらの年代で21世紀世紀の初頭のことだと思う。
 それ以降、それにかかりきりになってね。ボク達は地球に干渉することができなくなってしまった」

彼らインキュベーターは感情を持たない文化を形成していた。
そしてそれは、個というものを必要としない文化であった。だからこそ彼らは、全員が意識を共有する群体として存在し

ていた。
それが、対バイドにおける最大の弱点となったのだ。

「最初はね、ボク達の内のほんの僅かな部分だけが取り込まれただけだった。
 でも彼らは、その僅かな部分を通して、ボク達全体の精神を蝕み始めたんだ。
 個を持たないボクらは、皆まとめて浸食されてしまうところだった」

それでも彼らは、その進んだ技術力をもってバイドに抗った。
汚染された精神領域を排除し、さまざまな兵器を、時には魔法少女の力さえ使って
バイドの根絶を図ったのだ。

「結果は惨敗だ。技術的に劣っていたのかもしれないが、問題はもっと深刻なところにあったんだよ」

感情を持たない彼らが持ち得なかったもの。
バイドを、全生命の天敵たらしめているもの。

「奴らが持つ底知れないほどの憎悪と悪意。それが奴らをどこまでも進化させ、次第にボク達は追い詰められていった」

そして、宇宙を救うという使命を果たすこともままならず
インキュベーターという種は、バイドに飲まれて果てることとなる。

「……ボクは、僅かに残った最後の精神領域をかき集めて、母星を脱出した。
 そして、随分長い旅路の果てにかつて交流のあった星、地球へとたどり着いたんだ」

そこで、彼は驚愕することになる。
442 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/01(木) 21:58:34.54 ID:QH08gZZt0
「驚いたよ。ボク達がまるで敵わなかったバイドに対して、彼らは抗う術を持ち得ていたんだ。
 だからボクは、何とか星から持ち出した技術を彼らに、TEAM R-TYPEに提供した。
 それが今キミ達を魔法少女として戦わせている、ソウルジェムシステムというわけさ」


一通り話も終えて、あまりに壮大な話に、まだ理解が追いつかない。
誰もが黙っている中で、ようやくほむらが口を開いた。

「もしその話が本当だとするのなら……私は、あなたへの接し方を改めなければならないわ。
 今までは、あの連中が少女をパイロットに引き込むためのマスコットか何かだと思っていたから」

そういう側面があるのは間違っては居ないのだろうが、それでも随分と酷いことを言うものである。

「今でも、子供を魔法少女に仕立てて戦わせるなんてことが、正しいとは思えない。
 それでも、理解はできる……と思うわ」

もしかしたらこのインキュベーターという得体の知れない生き物も
油断ならない相手として、ではなく、仲間として接することができるかもしれない。

「……まあ、大体はわかったけどさ、一つだけ不思議なんだよな」

長い話に、うっかり気が鍋の方に向いたりもしながらも、杏子が言葉を次いでいく。

「何であんたは、バイドと戦おうって、人類に協力しようって思ったんだ?
 逃げるつもりなら、バイドの相手なんて人類に任せちまえばよかったのにさ」

そんな言葉に、意外そうにキュゥべえが目を見開いて。すぐにそれは、自嘲気味な笑みへと変わった。
そんな表情を見るのは初めてで、皆が驚いてキュゥべえを見つめた。

「……ボクはきっと、欠陥品なんだと思うよ。ボク達にとって、感情とは特殊な精神疾患に過ぎない。
 でも、バイドとの遭遇は非常に原始的な感情をボクに抱かせた」

すぅ、とその目が細められ、深い赤を湛えた瞳が小さく光る。

「憎いのさ、バイドが。ボク達の使命を、そして全てを奪ったバイドがね、憎くてたまらないんだ。
 ……復讐してやりたい。ボクが奴らと戦うことを選んだ理由は、それだけだよ」

「……なんか納得したわ。まだ微妙にわかんないとこはあるけど、一応信じといてやるよ、キュゥべえ」

バイドへの憎しみ。それはきっとこの場にいるほとんどのものが共有している感情だろう。
少なくともそれは理解できた。同じ敵を持っている。分かり合う、協力しあう余地はある。


「なーんか、スケールが大きすぎていまいち実感湧かないや」

「あはは、私もそうかな。……秘密っていうけど、こんな秘密、誰も信じてくれないよね」

そして、微妙に蚊帳の外な二人であった。
443 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/01(木) 21:59:20.61 ID:QH08gZZt0
「よし、話も終わったし食おうぜ。冷めちまってるだろうし、火ぃつけるぞ」

「それもそーだね、よっしゃ、じゃあ食べようっ!」

そして始まる楽しい鍋祭り。
そんな光景をじっと見ていたキュゥべえが。

「そういえば、職場でよく食べていた鍋の道具があるんだ。もしよかったら、キミ達も使ってみるかい?」

「……あんたって、普通に鍋も食べるの?」

「人間が食べるようなものなら大体食べられるよ。別に食事を取らなくても問題はないけどね」

「というか、あなたの職場ってTEAM R-TYPEでしょう?……恐ろしく嫌な予感がするのだけど」

「まーいいじゃねーか。一体何食ってりゃあんな外道集団が生まれるのか、ちょっと見てみたい気もするしさ」

「いくらなんでも、鍋っていうくらいだしそんなにおかしなものはないと……思うんだけど、な」

「うん、じゃあ映像を出すよ。なかなか興味深いものだったよ」

ぴん、と小さな音と共に映し出された、それは。

「ひぃっ!?」

「うへぇっ!?」

「な、なんじゃこりゃーっ!?」

「……卑猥」


なんというかもうゴマンダーだった。
鍋に入ったゴマンダー、汁に浸かってぐらぐらと煮立てられてる。
どう見ても正気を疑う光景である。

「おい、こら腐れ小動物。アレは食いもんじゃねーだろ。どういう神経してたらアレを煮詰められるんだよ」

流石に杏子もツッコんだ。

「何を言っているんだい?あれはゴマンダーじゃない。似たような形をした鍋の道具だよ」

キュゥべえ曰く、そのゴマンダーの上の口、というかコアっぽい部分に肉や何かを大雑把に投入するらしい。
その後、くぱぁ、と空いた口の中にぐにゅぐにゅと箸を突っ込むと、ずるずるとインスルーのような何かが出てくるらしい。
その体に、肉塊よろしく大量のつみれをくっつけて。
それが尽きればまた自動で中に戻り、引っ張り出せばまた出来ている。そういう道具らしい。
おまけによく火が通れば本体自身も食べられる素敵仕様だそうな。

「何でも食材研究科の新商品らしいね。彼らはこれを量販店とかで販売しようともくろんでいるらしいよ」

「oh……」

なんというか、常軌を全力で逸している。
衝撃もあまりに大きすぎると、最早リアクションを取ることもできないらしい。

「まあ、古来からこの星には、敵を食べ物に見立てて食べることで願掛けをするようなものもあると聞く。
 これもある意味、そういった類の儀式には使えるのかも知れないね」

「……いや、頼む。もういいから消してくれ。あたしが悪かった」

流石に食事の最中に拝むにはあまりにショッキングな内容過ぎた。
気付けば皆、箸が止まっている。

「そうか、あまり好評ではないようだね。彼らにもそう伝えておくよ。
 ……それじゃあ本題に移ろうか。マミのことだ」

その言葉に、杏子以外の全員の顔が強張った。
444 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/01(木) 22:06:27.24 ID:QH08gZZt0
本当は闇鍋にしてこのゴマンダーちゃんを投入する予定でした。
多分約一名くらいが立ち直れなくなるのでやむなく採用は見送られました。

というわけでなかなかお休みできませんね。
次はいよいよマミさん復帰に向けてのお話に、なるのでしょうか。
後は何となく思い立ってRっぽく主題歌を替え歌してみました。
magiRみたいな感じです。

>>432
実際噂はまことしやかに流れているものの、スゥ=スラスターの実情を知るものは
ほとんど存在していません。TEAM R-TYPEと軍の一部の人間が知っているくらいでしょうか。

そしてまどかさんが普通の女の子しています。
きっと地球と宇宙の隔たりは、原作の彼女たちの距離よりも遠く、そして重いのでしょう。

>>433
仁美ちゃんは何も知りません。
不思議がりはするし寂しくもなるでしょうが、秘密に心を割かれることは無いはずです。
445 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/01(木) 22:07:35.55 ID:QH08gZZt0
magiR

いつか君が機体に灯す蒼い光が
時空(とき)を超えて
喰らい哂う悪魔の夢を
確かに一つ砕くだろう

倫理さえ打ち捨てて
君が願う力はナニ?
こんな罪深い戦いの向こうに
尊い未来はあるの?

思い出を重ねていた
かつての英雄のように
悪夢を払う力で
微笑む君と在りたい
怯える胸の中には
貴女が残した勇気
想いだけが頼る全て
刃を呼び覚ます
願い

いつか君も誰かの為に
強い力を望むのだろう
愛が胸を捉えた夜に
未知のココロが生まれてくる

迷わずに行けるなら
ココろが壊レてもいいワ
いつカ目の前ノ暗闇に
立ち向カう為ノ
力が欲シイ

君はもう帰らぬ記憶
私は抗う明日
二人が願う奇跡を
無くさぬ為に進むわ
震えるこの手の中には
溢れる波動の粒子
時の果てに巣食う全て
悪意を焼き払う


囚われた円環の輝く
悪夢さえ和らぐ光の中で
願いはきっと叶うと
帰るべき場所を
願ッタ

静カニ聞コエテイタ
海鳥ノ声優シク
懐カシイ場所仲間ガ
ソコニアルト囁ク
終ワラナイ悪夢(ユメ)ヲ見ヨウ
君が撃ツヒカリノ中デ
琥珀色ニ染マル全テ
ワタ シヲ オワ ラセ ル
ネガ イ
446 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(不明なsoftbank) [sage]:2011/12/01(木) 22:45:56.46 ID:QYlMuq6Io
>>444
いやね仁美と特に親しい関係にあるのがまどかとさやかの二人だからってことで
447 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(不明なsoftbank) [sage]:2011/12/01(木) 22:47:36.44 ID:QYlMuq6Io
乙忘れてた
乙です
448 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/12/01(木) 23:15:39.58 ID:GloPj1jDo

ゴマンダー鍋ってwwwwwwww常軌を逸しすぎててびっくりするわ
449 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/02(金) 00:03:36.11 ID:yOpVKq5DO
お疲れ様です!
鍋ネタの採用ありがとうございます!今日はなんだか異様に寒かったので想像でもあったまれました。波動コンロとか、炎の部分見てみたいな〜。

鍋ゴマンダーを実際に売るなら、商品名はこんな感じだろうか。
ナベンダー&ツミレデルー

ちょww替え歌の終盤wwww
450 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東海) [sage]:2011/12/02(金) 10:20:21.99 ID:Kw7YXqbAO
まあ、膀胱を使った調理法もあるというし……
451 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/02(金) 17:32:03.65 ID:+QAaZh/D0
インキュベーターさえも狂わせるとは、恐るべし、R世界の狂気
452 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/03(土) 01:01:52.09 ID:+OvBDJXH0
悪戦苦闘しながら、ようやくストライク・ボマーが完成しました。
やはりメガ波動砲はチートっぽい性能ですね。

ではいよいよ第8話も終了です。
そろそろ折り返しに入ってきたのではないでしょうか。

453 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/12/03(土) 01:03:07.89 ID:+OvBDJXH0
「マミさん……そうだよ、マミさん、生きてるんだよね」

まどかがはっとしたように顔を上げて、キュゥべえに縋るような視線を向ける。
生きてはいる。生きてはいるのだ。問題は意識が戻らないということだけで。

「……で、結局マミさんは今どういう状態なの?詳しく調べてもらったんでしょ?」

目覚めて欲しいと願う。今度は一緒に戦いたいと、祈る。

「っつーか、そのマミってのは誰なんだよ?昔の仲間か何かか?」

げんなりした気持ちも多少は回復したようで。
鍋をちょいちょいとつまみながら、杏子が尋ねた。

「マミさんは、あたしらがバイドに襲われた時に助けてくれたんだ。
 そしてあたしらに、魔法少女のことを教えてくれた。……そして、バイドに殺された」

「……その、はずだったのだけど。マミは生きていたのよ。少なくともその身体は」

発見されたソウルジェム自体は、バイドによる汚染は見られなかった。
ファントム・セルに撃墜され、その中に取り込まれていたというのに、である。
おそらくかなり強力なバイドに対する耐性を持っていたのだろう。
けれども問題は、その中に宿る魂、精神だった。

バイドは全てに侵食する。生物も、機械も、プログラムでさえ。
そして、精神にさえも侵食するのである。バイドに精神を冒されれば、もはやそれはバイドも同じである。
魂そのものであるソウルジェムを取り込まれたマミが、バイドによる汚染を受けていないとは考えにくかった。

「ああ、マミは今も生きているよ。バイドによる精神汚染の兆候は見られるようだけど
 それもほとんど影響はないようだ……今のところはね」

それ自体は喜ばしいことだ、だが最後の言葉が引っかかる。

「これはキミ達人類の概念では説明が難しいことだ、それでもどうにか説明するとなると
 マミの精神は現在活動性を失っている。精神領域の一番奥の部分に癒着してしまっている。
 それを剥離して回収するために、ボク達も干渉してみたんだけどね、効果はほとんどなかった」

どうもさっきから、理解の範疇を超えるような難しいことばかり説明されている。
お腹も膨れて頭の回転も鈍っている状態では、なかなか理解が捗らない。

「……ねえほむら。今の話、わかった?」

「なんとなく、分かったような分からないような……ってところね。杏子、あなたは?」

「いや、ぜんっぜんわかんねぇ。なあまどか、あんたはわかるか?」

「私も、よく分かんないや。……あはは」

このざまである。
そもそもソウルジェムだの魂だのという事自体、非現実的な代物なのだ。
それに直面し、実感しているとは言え、いまだに理解したとは言いがたい。
454 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/12/03(土) 01:05:56.98 ID:+OvBDJXH0
そんな彼女らの様子に、困ったようにキュゥべえは一つため息をついて。

「仕方ないね、そういうことならもっと分かりやすくしようか。正確には違うんだけどね。
 マミの意識はソウルジェムの中に閉じ込められていて、彼女の中に戻っていない。
 マミのソウルジェムに干渉して、意識を目覚めさせる必要があるんだ」

「あ、それならなんとかわかるかも。要するにアレでしょ」

ぽん、とさやかが軽く手を打って。

「要するにマミさんは眠り姫ってことよ。わるーい魔女に眠らされちゃった。
 でもって助けるためには王子様のキス、みたいなものが必要だってことでしょ」

やけに得意げな顔でさやかが言う。
戦いに染まっていても少女は少女、こういう話は食いつきもいいようだ。

「なるほどな、それなら確かに納得だ」

「それなら差し詰め私達は、バイドと言う名の魔女と戦う騎兵隊、ね」

「なんか、ちょっとそういうのも格好いいかもね。
 でも……王子様のキスなんて言っても、一体どうしたらいいんだろう」

「その方法は、あんたが知ってるんだろ?な、キュゥべえ?」

4人の視線がキュゥべえに向かう。
ようやく話もまとまったかな、と少し澄ました顔をして。

「ソウルジェムを介して、直接マミの精神世界に干渉する。
 ボク達の干渉は拒絶されたが、もしかしたらキミ達ならばマミも心を開いてくれるかもしれないからね」

「ってことはやっぱり、あたしとほむらの出番ってわけだね」

ばしっと拳を掌に撃ち付けて、さやかが気合を入れなおす。
ほむらも口には出さないけれど、幾分か顔を引き締めて。

「そのための準備を、今ボク達で進めている。準備が出来たら知らせに来るよ。
 今日はそれを伝えに来たんだ」

「よっしゃ!燃えて来たよーっ!絶対、マミさんを助けて見せるんだ。
 あ、何か準備することとかってあるかな?」

「いや、準備は全てこっちで済ませるよ。キミ達はこちらの整うまで、休暇を楽しんでいてくれればいい」
455 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/12/03(土) 01:06:38.46 ID:+OvBDJXH0
そうと決まれば、今は休暇を楽しむだけである。
マミのことは気がかりだが、それでもキュゥべえに任せるよりほかに術もない。
なんとかなると自信を胸に、目の前のロングバケーションをどうするか、ということに意識を向けた。

「明日はとりあえず街を案内しなくちゃね。あー、でもさ、あたしちょっと行きたい場所があるんだ。
 だから、案内は午前中で済ませることにしてさ、午後からは自由行動ってことでいい?」

「別に、行きたい場所があるのなら一緒に行っても構わないのだけど」

「あはは……いや、さ。一回実家に顔出しておこうと思って。
 多分長くなりそうだし、一人で行っておきたいから。……だから、ごめんほむら」

一応両親とは話をつけている。
とは言えそれは、電話越しに会話を交わしただけのことで。
実際に会うのは修学旅行の時以来。何を言われるのかと考えると、少し怖い。
それでも顔は見せておきたい。考えたくもないけれど、いつ死んでもおかしくない戦いだから。

「まあ、そーゆーことならしかたねーだろ。家族は大事だからな、しっかり顔出してこいよ」

二度も家族を失って、家族というものには憧れと同時に複雑な感情を抱かざるを得ない。
そんな杏子は、帰る場所のあるさやかが少しだけ羨ましかった。

「それじゃあ、午後からは私が皆を案内するね。それでいいかな、ほむらちゃん、杏子ちゃん」

「ええ、お願いするわ。鹿目さん」

「おう、頼むぜまどかー」

概ね話もまとまった、実はこっそり鍋の中身も概ね片付いていたりして。

「しかし、さすがに食いすぎたー」

なんだか少しだけ膨らんでいる……ような気もするお腹を擦りながら
杏子はソファーに身を横たえた。なんとも横着なものではあるが。

「食べてすぐ寝たら牛になるぞー」

「いーんだよ、あたしは太らない体質だから」

「うぐっ、いいなぁ杏子は……艦の中だとなかなか運動とかしないからさ
 あたしなんて体重がえらいことに……うぅぅ」

思い出してはよよよ、と手で目を覆って泣く様な仕草を見せる。

「っつーか、パイロットってのは体も鍛えて何ぼだと思うんだけどな。
 結構激務だろ、あれ」

「普通は鍛えなければやっていけないわ。体にかかるGだけでも相当だもの。
 ……そういう面では魔法少女は便利ね、そういうことを考慮しなくてもいいから」

「……ああ、なるほど。そりゃあ便利だろうな」

やはりそういう、人ではないものという魔法少女の側面を見せつけられると
いやな気分になってしまう。どうしても言葉が荒くなるのを、杏子は止められなかった。
456 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/12/03(土) 01:08:18.25 ID:+OvBDJXH0
「気になる気持ちもわかるけどさ、そのお陰で私なんかでも戦えてるんだもん。
 これで文句なんて言ったら、それこそ罰が当たっちゃうよ。別に特に何か体がおかしいってこともないしさ」

ちょっとおどけたさやかの言葉に、渋々矛を収めた杏子。
けれどもその言葉を聞いて、まどかの胸中は複雑であった。
魔法少女だからこそ戦える。さやかがそうなら、自分もそうなのではないか、と。
けれどもそう考えてまた、あの時さやかが告げた魔法少女の真実が圧し掛かる。
死人になって、それでも戦う覚悟はあるか。……考えてしまうと、胸の奥がずきりと痛む。
手足の感覚が消えて、冷たくなっていくような錯覚さえも覚えてしまう。

「……やっぱり、ダメだな、私」

小さく首を振って、呟いた。その言葉は誰の耳にも届くことはなくて。
457 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/12/03(土) 01:09:04.39 ID:+OvBDJXH0
片付けも終えて、お風呂も済ませて時間は夜ももう遅い。
部屋の割り振りも決めて、荷物もあらかた仕舞い終えた。
着替えも持たずにやってきてしまったまどかは、さやかのパジャマを貸してもらって。
ちょっと大きいね、なんて袖の余った手を振りながら、浮かれた様子だった。

そんな夜である。さやかの部屋に、ほむらと杏子が集まっていた。

「ん、まどかはいいのか?」

後で話がある、と呼び出されてきてみれば、まどかの姿だけがない。
訝しがって杏子が尋ねた。

「うん、いいんだ。まどかのことで話がしたかったからさ」

「鹿目さん……何かあったの?」

「あったも何も、もうとっくに何かある気はするんだけどな、あいつは」

流石に気付くよね、とさやかも苦笑して。一度目を伏せる。
瞼の裏に映るのは、一緒に戦いたいと願った親友の姿。
嬉しい、と思う。けど巻き込みたくない。きっとまどかには戦いなんて似合わないと思うから。

「実は、さ。今日、まどかが言ったんだ。一緒に戦いたい、魔法少女になりたいってさ」

ほむらも杏子も、その言葉に表情を変える。
忌々しげに顔を歪めて、やりきれないような表情で。。

「……それで、どうしたんだよ」

「もちろん止めたよ。まどかには戦いは似合わないし、きっと耐えられない。
 一応納得もしてくれたと思うんだけど、多分まだ、まどかの中で整理がついてないんだと思う」

「大人しそうで、優しそうな奴なのにな。何で戦おうだなんて言ったんだか」

バイドと、そしてそれに抗う人類の狂気。それはあんな少女までもを衝き動かすのか。
我が事でもある、だからこそその業の深さに気が滅入る。

「あー……それは、さ。あたしのせいってのもあるんだよね。実はさ……」

話しづらいことではある。それでも話さなければ始まらない。
そしてさやかは話し始めた。まどかの抱える孤独を。
ただ一緒にありたいというだけで、戦いにさえ身を投じようとした、その孤独を。

「……鹿目さんが、そんなことに」

「あたしも、まどかに言われるまで考えもしなかったんだ。残されたまどかが、どんな気持ちだったのかってさ。
 友達失格だよね、こんなんじゃあさ」

勤めて明るく振舞ってきた。周りが不安にならないように。
自分自身が、押しつぶされてしまわぬように。でもその結果がこれである。
巡り巡って、大切な友達を苦しめてしまった。
それが辛くて、悲しくて。乾いた笑みがただ零れていって。
458 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/12/03(土) 01:09:32.90 ID:+OvBDJXH0
そんな無情に打ちひしがれていたさやかの肩に、そっとほむらの手が触れた。

「さやかは、間違ってない。間違ってなんかいない。だから、そんなに自分を責めないで」

小さく鼻を鳴らして、反対側の肩に杏子が手を置いた。

「どんだけ頑張ったってさ、人と人との間なんてのはなかなか上手くいかねーんだよ。
 辛いなら頼れよ。仲間だろ?……っつーか、頼りたくて呼んだんじゃないのかよ」

その手はとても頼もしく、暖かかった。
ひび割れていく心に、そんな優しさが染み入っていくようで。

「ほんとありがと、二人とも。……うん。実を言うとさ、まどかのこと、二人にも見ててもらいたいんだ。
 もしかしたら何かのきっかけでまた魔法少女になる、なんて言い出しちゃうかもしれない。
 あたしだけじゃどうにもできないかもしれない、出来たら二人にも、まどかを説得して欲しいんだ」

「そーゆーことなら任せろよ。あたしも、まどかの奴に言ってやりたいことが出来たからね」

「私も、出来るだけ鹿目さんのことは気にかけるようにするわ。
 ……大丈夫よ、鹿目さんは私にとっても友達だもの。友達を戦わせるようなことは、もうたくさんだもの」

「……あはは、そうだね。じゃあ頼んだよ、二人とも」

「なんだかんだで、ゆっくり休むって感じじゃねーよな、これ」

「っはは、ほんとだよもう。バイドと戦うより疲れちゃうっての、精神的にさ」

ようやく調子も取り戻せたようで、冗談交じりに笑いあう。
宇宙に居る間は、敵と仲間だけを見ていられた。けれども今、地球に降り立てば。
どうしてもさまざまなしがらみが、重く圧し掛かってくるのであった。

「じゃあ、そろそろ今日は寝よっか。明日からまた、よろしく頼むよっ!」

「ああ、じゃあまた明日な、お休み、さやか」

「お休みなさい、さやか」
459 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/12/03(土) 01:10:15.07 ID:+OvBDJXH0
そうして、少女達の夜は過ぎていく。
彼女達に、せめてひと時の安息を。ひと時の休息を。
その翼と、心を休めるための時間を。






最早この先、彼女らに安息が訪れることは――ない。


魔法少女隊R-TYPEs 第8話
       『HAPPY DAYS』
         ―終―
460 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/12/03(土) 01:10:47.79 ID:+OvBDJXH0
【次回予告】

「だからさ……練習、しようぜ」

訪れたひと時の安息。

「会いに来たのでしょう?上条くんに」

それはきっと、とても幸せな時間。

「戻ってきてよ、マミさんっ!」

戦いの予感を感じつつも、その日々を少女たちは謳歌していた。
それはきっとほろ苦くて、甘酸っぱい思い出。


「――あたしさ、あんたの事、好きだったんだ」


そして号砲は鳴り響き、最後の舞踏の開幕を――告げた。


次回、魔法少女隊R-TYPEs 第9話
           『PLATONIC LOVE』
461 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/12/03(土) 01:21:16.26 ID:+OvBDJXH0
日常編、前編が終了と言った感じでしょうか。
恐らく次が最後の休息になるのではないかな、と思います。
とりあえずプロットをまとめてみたら、どう見ても1クールでは終わらなさそうです。

>>446
そういわれると、やはり改めて考えてしまいます。
友人が皆居なくなるのは、確かに辛いだろうと思います。
ですが、友人が死地に赴くと知って見送るのとでは大分心情も違うのではないでしょうか。
おまけにそれを誰にも話せないとあっては、です。

私の表現力の問題もあり、そこをしっかりと表現できていなかったのかもしれませんね。

>>448
多分あの連中ならバイドバーガーも素でやらかすはずです。
バイドっていくらでも増えるし、食えるようにしたら食糧問題解決じゃね?

やっべ俺天才だった、ちょっと試してみよう。

こんな様子が浮んできます。ええ。

>>449
本当に、先日は非常に冷え込みましたね。
そうでなくとも最近は冷える日が続きます。皆さん体調にはお気をつけください。

きっと波動コンロの名前はプリンシパリティーズとかドミニオンなんだと思います。
そしてゴマンダー鍋は好評で何よりです。

なお、このED曲は本編の今後の展開とは一切関係ありません。多分。

>>450
うへぇ、やはり人類は恐ろしいことを考えますな。
妙に生々しくて嫌になりそうです。

>>451
実はキュゥべえさんもその成り立ちに大幅な変更を加えられたキャラでした。
今後はもっと色々と動いてくれるのではないかと思います。
462 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 06:40:48.80 ID:EiRC+/XDO
続きありがとうございますっ!

なんですと!1クールじゃ終わらないって!?それは嬉しい(>>1さんの)誤算ですね。それにしても、まどかのメンタルケアにマミさんのマインドサルベージと、魔法少女達は本当に忙しいなぁ…。お疲れ様だ!!

精神世界に直接干渉…なんかゼノサーガのモモ救出編を思い出しました。

ところでQBって、もう一匹だけしか居ないんですか?母星のは…全員バインキュベーダーに…?

       ∩
  Σ>早ィ_×_
463 : ◆HvWr2kWl99Dz [GO GO IREM]:2011/12/04(日) 03:04:10.31 ID:eOeKnsjk0
本編の続きはまた後ほど、ちょっとだけ幕間の投下です。

タイトル『Tiny dog』
464 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/12/04(日) 03:06:41.13 ID:eOeKnsjk0
わたし、千歳ゆま。
ゆまは今、宇宙でくらしてるの。

お父さんもお母さんもいないけど、みんなやさしくしてくれるから、大丈夫。
でも、ゆまにはみんなにはいっちゃいけない大事な秘密があるんだ。

ゆまは……魔法少女なんだ。
465 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/12/04(日) 03:07:16.19 ID:eOeKnsjk0
「ゆま、今日もお疲れ様。もう戻ってもいいよ」

ゆまは宇宙を飛んでいたんだ。流れる星がきれいで、ずっと飛んでいたいなって思ったけど
通信でエバが呼んでいるので、基地へと戻ることにした。
エバは、ゆまの今の親代わりみたいな人。
ご飯も作ってくれるし、一緒に遊んでくれる。それにゆまが宇宙に居るときは、色々助けてくれるんだ。
前のお父さんやお母さんとは全然違う、とても優しいいい人なんだ。

「はーい、それじゃ千歳ゆま!これからきとーしますっ!」

エバに会うのが楽しみで、ゆまは機体を基地へと向けた。
アロー・ヘッドってみんなが呼んでいるこの機体は、とっても格好良くて速いんだ。
だからちょっとだけ急いだら、すぐに基地の姿が見えてきちゃった。
今日のおしごとはこれでお終い。ちょっと疲れたな。お腹もすいちゃったしお風呂も入りたい。

秘密はもう一つあってね。
ゆまは魔法少女で。このR戦闘機っていう乗り物の、パイロットなんだ。


ゆまのお父さんとお母さんは、バイドっていう悪い生き物にやられて死んじゃった。
そのままだったらゆまも、きっと家も全部なくなっちゃって、すごく困ったんだと思う。
でも、ゆまには才能があったんだって。魔法少女になって、R戦闘機に乗る才能が。

だからゆまは今こうして、R戦闘機に乗るおしごとをしているの。
おしごとは疲れるし、戦うのは大変だけど。みんなゆまに優しくしてくれる。
頑張ったら、いっぱいほめてくれる。悪いバイドを全部やっつけたら、もっとほめてくれるのかな?

とにかく私は、そんな風に過ごしてるんだ。
お昼は学校に行って、夜はR戦闘機に乗って。忙しいけど、とっても楽しい毎日だよ。
466 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/12/04(日) 03:08:06.84 ID:eOeKnsjk0
「それで、エバンス君。サイバーコネクタの試験運用の状況はどうだね?」

「……今のところ、被験者にさしたる身体的影響は無いようです。
 それに、機体の操作性も30%程度の向上が見られています。開発を続ければ、40%程度までは底上げができるかと」

「悪くない成果だ。この分ならば、サイバーコネクタを搭載した次世代機の開発も、順調に進むことだろう。
 ……む?一つだけ、違うデータが混ざっているようだが、これはなんだね?」

「これは今こちらで受け持っている例の少女のデータです。M型被験体、魔法少女と呼んでいるものです」

「なるほど、そのM型に対しては、サイバーコネクタは常人以上の効果を発揮しているようだな」

「とはいえ彼女はまだ子供です。試験機ならともかく、実戦に耐えうるかどうかは未知数ですね」

「我々は、結果さえ出ていればなんであろうと構わない。……このデータは持ち帰らせてもらうよ。
 何を採用するかは、上が決めることだ」
467 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/12/04(日) 03:09:01.51 ID:eOeKnsjk0
「たっだいまー、エバっ!」

仕事を終えて、きゅうくつなパイロットスーツって奴も脱いじゃって。
部屋に飛び込んだら、そこには知らない大人の人がいた。

「あれ、エバ?この人だれ?」

「こんなところに子供?もしや彼女が、例のM型かな?」

「ゆまはM型なんて名前じゃないよ!ゆまだよ」

「……ああ、それは失礼、ゆま」

その大人の人は、なんだかいやな感じに笑ってゆまを見た。
じーっと、まるで値段でもつけるみたいな見方、ちょっと気持ち悪い。

「ああ、ゆま。お帰り。この人とは今仕事の話をしていたんだ。
 すぐ戻るから、ちょっとだけ外で待っててくれないかな?」

エバもなんだか慌ててる。この人はなんなんだろ。なんかいやな感じ。
きっとエバを困らせているんだ。そうに違いない。
だからゆまは、その人の足をけっとばして、それからいーって舌を出してやった。
痛がってる痛がってる。でも仕事の人って言ってたし、もしかしたらエバは怒るかも。
怒られるのがいやだから、ゆまはすぐに走って部屋から逃げ出したんだ。
468 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/12/04(日) 03:09:29.68 ID:eOeKnsjk0
「いや……まったく、子供というのはわからん」

「すいません、後で言って聞かせますよ」

「……しかし、あんな子供が最先端技術の塊のようなR戦闘機を乗り回しているとはどうも思えん。
 本当にアレがM型なのか?」

「ええ、彼女はテストパイロットとしては申し分ない働きをしていますよ。
 子供の順応力なのか、それともサイバーコネクタの為せる業かはわかりませんが」

「俄かには信じられんが、一応データはもらっていく。子供の世話は大変だな。エバンス君」

「いいえ、私も娘が出来たような気分で新鮮ですよ」

「はははは、その娘を戦場に借り出しておいてよくも言う」

「そこに可能性があるのです、仕方ないでしょう?貴方ならよくお分かりのはずだ」
469 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/12/04(日) 03:10:13.16 ID:eOeKnsjk0
部屋の前で待っていると、急に部屋のドアが開いた。
エバが出てくるかな、と思ってたのに、出てきたのはさっきの大人の人だった。
その人がまたゆまのほうを見てたから、いーって顔をしてやった。

でも、すぐにエバが出てきたから、ゆまは駆け出した。
そしてそのまま、エバにぴょんと飛びついたんだ。

「エバっ!お仕事はもうお終い?」

「ああ、もうお終いだよ。帰ってご飯にしようか、ゆま。今日は何が食べたい?」

エバがやさしく話しかけてきてくれて、ちょっとだけ考えてから。

「オムライスっ!」



これが、ゆまの日常。
普通の人とは違うみたいだけど、ゆまは毎日頑張ってるよ。
学校でみんなと一緒に遊ぶのは楽しいし、宇宙をR戦闘機で泳ぐのも楽しい。
だからゆまは、こんな毎日がずっと続いてくれたらいいな、って思ってたんだ。
470 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/12/04(日) 03:13:44.27 ID:eOeKnsjk0
短いですが本日はここまで、いよいよもっと小さな子も登場です。
もしかしたら今日の内容だけで彼女の行く末がわかる方もいらっしゃるかもしれません。
まあ、その辺りはわかっても心のうちに秘めておいてくださいませ。

>>462
本当に彼女たちは大変です。
戦ったら戦ったで大変だし、戦わなかったら戦わなかったで大変なのです。
何せ戦闘はR-TYPE、人間関係はまどマギっていう非常に大変な取り合わせなのですから。

QBさんは本体は一体しかいないようです。
プログラムとしては複数同時に存在することはできるようではありますが。
471 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/04(日) 08:03:50.89 ID:LU9o1s/DO
凄く…乙です。
ゆまは可愛いなぁ。可愛いけど、こんな可愛い子が…辛い目に遭わなきゃいけないのか?なんてことだ。

そうか、べぇさんもまた孤独…統合知的生命体が孤独とか、皮肉でしかないね…。

もしかしてこのSSのR戦闘機って、魔法少女の祈りによって開発されたのか…?「バイドを倒す知恵を人類に授けて」とかって感じで。いくら未来とは言え、あんな物をすぐに作れる筈がないよね。しかもバイドの進攻速度の方が早そうだし。
472 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/04(日) 22:13:20.17 ID:eOeKnsjk0
幕間の続きはまたちょくちょくと挟んでいく予定ですが、今日は普通に9話を開始します。

それはそれとして、ロボット魂のヴォルケインを買ってきました。
あの無骨なスタイルと圧倒的な巨砲がたまりません。ぐりぐり動かして遊んであげたいものです。

では、投下します。
473 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/04(日) 22:13:59.11 ID:eOeKnsjk0
淡い光があちこちから漏れている。
静かに、雪のようにその光は漂い、降り積もっていく。
幻想的な光景、戦いに疲れた心さえ、和ませてくれるような。


――どれくらい眠っていたのか…?

眠さを堪えて顔を上げる。
美しい光が織り成す光景が、一面に広がっていた。


――いつからここにいるのか?

辺りを見渡せば、そこにはここまで共に戦ってきた仲間が居る。
そのことに、私はとても安堵した。


――そして………私は誰なのか…?

そうだ、私は―――だ。
長い戦いの果てに、私はここまで来たのだ。


――ひどく眠いが、そろそろ帰ろうじゃないか。






       我々の故郷、地球へ…。
474 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/04(日) 22:14:42.01 ID:eOeKnsjk0
「っ!?」

あてがわれた部屋のなか、眠っていたまどかは飛び起きた。

「……また、変な夢。何だったんだろう」

目が覚めると、夢の内容は休息にぼやけて消えていく。
目が冴えてしまって、まどかはカーテンを開けた。
差し込んでくる朝の光。まだ早朝と言えるような時間帯で、少し外は暗い。

「目が冴えちゃったし、朝ごはんでも作ってようかな」

今日は休日。それでなくともまだゆっくり寝ていてもいいような時間だけれど。
どうやら皆まだ寝ているのだろうか、物音一つ無い家の中。
朝の空気はまだひんやりと冷たくて。パジャマ姿のまま上着を一枚羽織って、まどかは部屋を出た。


この共同生活ももう3日目。昨日はみんなで街をあちこち回って。
そして午後からは、さやかは自分の家へ向かった。そしてまだ、そのまま帰ってきていない。
きっといろいろと揉めているのだろう。心配はいらないと連絡はきていたから、きっと大丈夫なはずだ。

はやく帰ってこないかな、だとか。やっぱり大変なのかな、だとか。
今日は何をするんだろう、だとか色々考えながら、まどかは一階へと降りていった。
一階はみんなの共有空間、二階はそれぞれの部屋となっていた。

「やっぱり、朝は寒いな。もう暖房が必要な時期だね」

部屋の暖房を入れて、冷蔵庫の中を覗き込む。
食材は色々買い込んできたから、まだしばらくは余裕がありそうだ。
あまり悠長にしていると二人が起きてくるかもしれないから、手早く作ってしまおう、と。

誰が言い出したわけでも、決めたわけでもないのだが。
いつしかまどかが家事全般を担当し始めていた。
もしかしたら、自分だけ何も出来ないことへの引け目があったのかもしれない。
さやかやほむらは何かとそれを気にかけているようだが、杏子なんかは割と快適そうだった。

「できあがり、っと。うん、いい感じ」

ハムエッグにサラダを添えて。後は皆が起きてきたら、ご飯かトーストを選んでもらえばいいだろう。
割と上手くできたかな、なんて考えていると、誰かが降りてくる気配がした。

「ん……ぁふ。よー、相変わらず早いな。まどか」

欠伸をかみ殺しながら階段を下りてきたのは、杏子だった。

「あ、おはよう杏子ちゃん。ご飯できてるよ」

「おー、食う食う。でも、その前に顔洗ってくるわ」
475 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/04(日) 22:15:17.67 ID:eOeKnsjk0
二人で向かい合っての朝食、ほむらはまだ起きていない。
二人揃ってトーストを齧りながら、何となく静かな朝食の時間が流れていく。
なんだかんだで、二人きりでこうして向き合ったことは無い。
いつも間にさやかやほむらが入っていたのだから。
だから何となく話すきっかけを見つけられなくて、まどかは静かに食事を続けていた。

「……なあ、まどか?」

「えっ?どうしたの、杏子ちゃん?」

だから、こうして急に話しかけられてしまうと、少し慌ててしまった。

「あんた、今日は暇か?」

「あ……うん、特に用事は無いけど、どうしたの?」

「ふーん、そっか。じゃあさ、まどか。今日はあたしに付き合いな」

「いいけど、どうかしたのかな?」

「ちょっとあんたと話がしたくてね。いいだろ、今までちゃんと話してなかったしさ」

そんな言葉に、杏子もやっぱり同じように感じていたのかと
そして、それでも歩み寄ろうとしてくれているのだと感じて、まどかは嬉しくなって微笑んだ。

「そうだね、じゃあ今日は一緒にお出かけしようね、杏子ちゃんっ!」

「おう、今日はしっかり付き合ってもらうぜ?」



「それじゃあ私がまるでのけ者みたいね」

いつの間にか目を覚ましていたのだろうか、ほむらが降りてきてそう言った。
椅子に背を預けたまま、杏子が背を反らすようにほむらの方を向いて。

「よー、ほむら。別に来たけりゃ来てもいいんだぜ?どーする」

「あ、おはようほむらちゃん。ほむらちゃんも一緒に行こうよ、ね?」

肩にかかった髪を払いながら、食事の用意された席へつく。
そして小さく笑って。

「ええ、それじゃあ私も一緒に行かせてもらうわ。よろしく」

「ん、そうと決まればさっさと食っちまおうぜ」

言うやいなや、醤油を溶いた黄身をご飯に流し込んで。
そのままがつがつと掻き込みはじめた。あまりお行儀はよくない気もするが。
確かにこういう食べ方も悪くは無い物だ。
476 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/04(日) 22:16:18.78 ID:eOeKnsjk0
「さーって、んじゃ行くか」

空は晴れて澄み渡っていた。
途切れ途切れの雲が漂う、どこまでも青い空。
悲しみや絶望の色にも、燃える炎の赤にも染まっていない色。
それはつまり、戦って勝ち得たひと時の平穏。その証明たるもので。
それを存分に噛み締めるように、大きく息を吸い込んで。

少女たちは歩き始めたのだった。
477 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/04(日) 22:17:22.17 ID:eOeKnsjk0
「はぁ〜、まさか泊り掛けになっちゃうなんてなぁ。まあ、それでも何とか納得してもらえたから、いいかな」

そんな澄み渡った空の下、さやかが一人で歩いていた。
昨日のこと、家に帰ってまず出迎えてくれたのは、ちょっときついくらいの抱擁と、溢れんばかりの涙だった。
さやかの家族は、全てではないがある程度の真実は知っている。
曰く、彼女は自ら望んでバイドとの戦いに身を投じたのだ、と。その程度ではあるが。

だからこそ、無事に戻ったさやかを見て、両親は酷く安堵した。
そしていよいよ、このままずっとここにいてほしいとまで言い出した。
正直心は惹かれたけれど、さやかの意識はもう既に宙を、その先に見据える敵に向いていた。
だから何度も何度も、根気強く説き伏せた。その結果、丸々一晩使い切ってしまったというわけである。

それでもどうにかさやかの両親も納得したようで、涙は未だに消えないけれど、それでも。
最後は笑顔で、彼女を送り出してくれたのだった。一つ大きな仕事を成し遂げたような達成感。
自然と、足取りも軽くなっていた、そんな矢先にである。


「あら……あの方は。っ!さやかさん、さやかさーんっ!」

呼びかけられた、聞き覚えのある声。
振り向くとそこには、最早懐かしさすら感じる友人の姿があった。

「仁美……うっわー、久しぶりー、仁美ーっ!!」

道の向こうから、呼びかけながら駆けてくる。
それに応えて手を振って、こちらからも駆け寄った。

「ほんと、久しぶりだねー、仁美っ。元気してた?」

「さやかさんこそ、お久しぶりです。私は相変わらずですわ」

道の真ん中で手を取り合って、ただただ再会を喜び合うのであった。
478 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/04(日) 22:19:18.32 ID:eOeKnsjk0
「見滝原に帰ってきていたのですね、さやかさん」

少し小洒落た喫茶店。紅茶とケーキを並べて向かいあう二人。
折角だから、と少し話し込んでいくことにしたようだ。

「そうなんだ、しばらくゆっくりできそうでさ。多分あと半月くらいはこっちに居ると思う」

「まあ、そうでしたの。……ふふ、もしかしたらと思っていましたが、やっぱり戻ってきたのですね」

と、なにやらしたり顔で微笑む仁美。
意図が読めずに首をかしげるさやか。

「何かあったっけ、この時期?」

「またまた、そんな風に隠さなくてもよろしいんですのよ。会いに来たのでしょう?上条くんに」

「ぶっ!?な、なんで恭介がそこで出てくるのさっ!?第一恭介は……今外国でしょ?」

上条恭介。さやかの幼馴染で、今は天才少年バイオリニストとして世界中を駆け回っている。
まさに時の人である。とある事件があってから、さやかと恭介の間は疎遠になっていた。

それは、さやかが中学二年生になった直後に起こったことだった。
一言で言えば交通事故。一命は取り留めたが、既にバイオリニストとして知られていた彼の腕は
最早使い物にならないほどに、酷い損傷を受けていた。

勿論この時代である、生体義肢の技術で腕は問題なく動くようにはなった。
生体義肢は日常生活を送る程度の動作であれば、問題なく保障はできた。
しかし、天才バイオリニストの指、その繊細な動きを全て元通りに治すことは出来なかったのだ。
その事実は、彼を酷く打ちのめした。それでも負けずに訓練を続ける日々。
そんな彼を放って置けなくて、一時期さやかは足繁く彼の元へと通い、励ます日々を送っていたのだった。

けれどもそれは、他ならぬ彼の言葉によって断ち切られることとなる。
一向に戻らない自分の腕が、指が腹立たしくて。その怒りの矛先がただ向いてしまっただけであった。
そのはずなのに、その日彼が放った言葉は、さやかの胸を深く抉った。
そしてそれ以来、さやかは恭介に会うことが出来ずにいたのだ。

それからしばらくして、奇跡的な復活を遂げた天才少年という触れ込みで
ニュースが取り上げた彼の姿を見たきりで、それもここしばらくは、魔法少女のことにかかりきりで忘れていた。
479 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/04(日) 22:19:53.31 ID:eOeKnsjk0
「まあ、本当にご存じないんですの?……あれを見てくださいな」

仁美が指差したのは、喫茶店の壁に張ってあったポスター。
そこに書かれていた内容は。

――見滝原が生んだ天才少年、上条恭介。堂々の凱旋公演――

そんな見出しが、バイオリンを携えた恭介の画とともに並べられていた。

「恭介……見滝原に来るんだ」

「来週の日曜日ですわ。てっきり私はこのために、さやかさんが帰ってきたのだと思っていたのですけど」

さも意外、といった風な表情の仁美。
さやかの気持ちは複雑だった。会いたいとは思う。でも、どんな顔をして会えばいいのかわからない。
そもそも、それ以前の問題もまだあるのだ。

「見に行きたいとは思うけどさ、多分もうチケット取れないでしょ。
 ……それに、やっぱり今更どんな顔して会えばいいのかわからないよ」

「けれど、今会えなかったらもう、なかなか上条くんに会う機会はなくなってしまうのではありませんか?
 さやかさんは、遠いところに引っ越されてしまったのでしょう?」

「……そりゃあ、そうだけどさぁ。無理なものは無理じゃん。
 いつまでも気にしてたってしょうがないよ、だからこの休みの間は、みんなと一杯遊んで過ごせればいいんだよ」

不意に、仁美の表情が変わった。
真っ直ぐにさやかの顔を見つめて、声のトーンもやや落として。

「それが、本当のさやかさんの気持ちですの?
 私はずっと、さやかさんが上条くんの心配をしているところを見ていましたわ。
 その気持ちを、そう簡単に諦めてしまっていいんですの?喧嘩別れのままで、本当に?」

「ひ、仁美?でもそんなこと言われたって、あたしはもう……」

「まだ、間に合いますわ」

毅然とした表情で、仁美は一つの封筒を取り出した。
その中から取り出したのは、一枚のチケット。

「これって、もしかして……」

「ええ、家の伝手で一枚だけ分けてもらいましたの。上条くんの公演のチケットです。
 そしてこれは、公演の後の懇談会の入場パスにもなっていますわ。
 これがあれば、上条くんとお話をする機会もできるはずですの」

もう一度会える、話ができる。その事実にさやかの心が揺らぐ。
会いたい、会えるわけがない。会って何を話せばいい。そもそももう、自分の体は普通の人間じゃない。
ぐるぐると巡る思いで、差し出されたチケットを眺めていた。
480 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/04(日) 22:20:50.85 ID:eOeKnsjk0
「でもこれは、仁美がもらったもの。だったら、仁美が行くのが筋ってもんでしょ。
 第一あたしは……」

それでもやはり、諦めが心を支配する。少しだけ寂しげな表情で、チケットをつき返そうとして。
その手を仁美が掴んで止めた。真っ直ぐに見つめる視線はそのままで。

「それが本当の貴女の気持ちですの?さやかさん。もう会えないかもしれないのでしょう?
 さやかさんだって、どこか遠くへ行ってしまう。会えなくなるのは、とても寂しいのですのよ」

「仁美……」

言葉を告げる仁美の目には、じんわりと涙も滲んでいて。
そんな姿に胸を打たれて、さやかは何もいえなくなってしまった。

「何も言えないまま、もう会えなくなってしまうのなんて辛すぎますわ。
 お別れをしてしまうにしても、きちんと自分の思いと向き合って、しっかりと伝えるべきですわ。
 さやかさん。どうかもう一度、しっかりと自分の気持ちと向かいってください」

チケットの入った封筒はそのままに、代金を置いて仁美は席を立つ。

「考えて考えて、それでも会えないと思うのでしたら返してくだされば結構です。
 まだ時間はあるのですから、それまでよく考えて結論を出してくださいな、さやかさん」

「ちょっと、待ってよ仁美!何で、何でこんなことするのさっ!
 ……恭介のこと好きなのは、仁美も同じだったじゃない!」

そう、二人は共に同じ人に恋心を抱いてしまっていた。
お互いに打ち明けあって、それでも友達でいようと約束しあって。
結局はその恋心が何らかの形となる前に、恭介は異国へと旅立って行ってしまったのだが。

少しだけ振り向いて、仁美は。

「友人からの、せめてものおせっかいですわ。
 ……きっと、上条くんもさやかさんに辛く当たってしまったこと、後悔していると思いますもの
 それではまた、さやかさん」

最後に一つ、深くお辞儀をして。仁美は店を出て行った。
後に残されたのは、悩める少女が一人、いるだけで。

「どうすればいいのよ……こんなの」

頭を抱えて、しばらく一人思い悩んでいるのであった。
481 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/04(日) 22:27:21.89 ID:eOeKnsjk0
上条くん周りのお話は、やるかやらないかを微妙に悩んだところです。
ですが、さやかちゃんの話をやるならやらねばなー、といった感じでこのたび始まる運びになりました。
ますます人間関係がこんがらがっていく第9話、開幕です。

>>471
ゆまちゃんにはある役割があるので、この先もちょくちょく頑張ってもらいます。
可愛いと言っていただければこれまた幸いなことです。

そも、あのQBさんに孤独という感情が理解できるかどうかも微妙なところです。
とはいえ世界に同じ種が自分きり、というのはやはり堪えるのではないでしょうか。

そしてR戦闘機はキボウと憎悪と好奇心の塊です。
魔導工学を使っているとかなんとかいう話も聞きますが、基本ほぼ人類のお手製です。
そもR戦闘機は汎用作業艇として作られていたものですからね
意外と歴史は長いのです、ただ戦闘機になってからの開発スピードが常軌を逸しているだけで。
482 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/05(月) 00:57:39.64 ID:6mQNH5YDO
今日も乙っす!
まどかさんの夢が…とっても不吉です。

この世界のさやかちゃんの精神は否応なしに鍛えられているみたいだから、そう簡単にはねじ曲がらなそうですね。良い事だとは思うんですが、やっぱり女の子には重いのかな…?
483 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/05(月) 15:48:28.67 ID:Ww9l84db0
なんだか久々、昼投下でござーいー。
書きたくてしょうがなかったところなので、この先は思いがけなく長くなりそうです。

というわけで投下します。
484 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/05(月) 15:49:02.89 ID:Ww9l84db0
「さぁーて、到着だ」

他愛ないお喋りをしながら冬の道を行く。
街中、人通りも多いアーケード街を抜けてまだ歩く。
そうしてようやく辿りついた、その場所は。

「ここって……」

「ゲームセンター、よね」

今も昔も、子供や暇な大人たちの遊び場として知られる場所である。
休日ということもあり、なかなかの賑わいを見せている。

「もしかして、みんなで遊ぼうってことなのかな?」

「ま、それもあるけどな。……こっち来いよ」

「わわ、あんまり引っ張らないでよ、てへへ」

手を引かれて、まどかが杏子と店の中へと消えていく。
そんな様子に目を寄せて、軽く目を伏せてから。

「一体何をするつもりなのかしら。……見せてもらうわ」

長い髪を軽く払って、ほむらもその後を追った。
485 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/05(月) 15:50:11.82 ID:Ww9l84db0
「杏子ちゃんは、よくこういうところに来るのかな。私、あんまり来ないからよくわからないんだ」

「陸のこういう場所にはあんまり来なかったけどな、宙じゃあ結構な」

華々しいイルミネーションに照らされているゲームや、光学チェーンでコンテナを絡め取るクレーンゲーム。
全世界で1000人以上が同時に参加可能な、主人公の弱さに定評のある洞窟探索ゲーム、そんな筐体の間をすり抜けて。
やってきたのは、ラウンドキャノピーがいくつも並んでいる場所だった。

「これは……R戦闘機のコクピットよね。なんでこんなところに」

二人の後ろを歩いていたほむらが、少し驚いたように声を上げる。

「なんだほむら、あんたも知らなかったのか?こいつはR-Type dimensions。
 R戦闘機での戦闘を体感できるゲーム、ってわけだ。多人数プレイもできるんだぜ」

「そんなものがいつの間に……でも、何故そんなところに連れてきたの?」

ほむらの視線はまどかに向いて、それから杏子へと移る。
その目は何故、と。何故まどかを連れてきたのかと問いかけていた。
そんな視線に応えるように、まどかへ視線を向けて杏子は。

「一緒に戦いたいんだろ。さやかから聞いたよ。単に話を聞くだけじゃわかんねぇこともあるさ。
 だからさ……練習、しようぜ?」

片目を軽く伏せて、まどかに向けて手を差し伸べた。
まどかも目を輝かせてその手を取るのだった。
486 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/05(月) 15:51:03.26 ID:Ww9l84db0
「杏子っ!あなたは……っ!」

「わかってる。でも、もし本気で戦いたいってならあたしは止める気は無い。
 そのためにも、まずは一回体験してもらわなけりゃならない。どれだけ大変かってことをさ」

「それは確かに、間違ってはいないかもしれないけれど……でも、さやかは
 さやかは鹿目さんに戦って欲しくないって言ってたじゃない。なのになんでこんなこと……っ!」

思わず口をついて言葉が出てきた。
そしてすぐに、自分の過ちに気付いてしまう。まどかがすぐ側で聞いている。

「さやかちゃん……ほむらちゃんや杏子ちゃんにまでそんなこと、言ってたんだね。
 ……どうして、どうしてそんなこと言うのかな。私はただ、みんなと一緒に居たいだけなのに」

服の裾をぎゅっと握って立ち尽くすまどか。
気分はどんよりと沈んでしまって、今にも涙すら零れてしまいそう。
ほむらはしまったというような表情で、なんとか声をかけようとするけれど、かける言葉が見つからない。

「だからだよ。そんなんだから、さやかはあんたを連れて行くことはできないんだ。

「どういう……こと?」

「……誰かのためにしか戦えない、そんな奴は生き残れないんだよ。
 いつか必ず死んじまう。それも、誰かを道連れにしてな」

自重めいた笑みと共に投げかけた言葉は、かつての杏子自身に投げかけられた言葉。
ロス提督が、杏子に残した言葉だった。
その言葉に対する答えは、未だに自分の中では固まっていない。
同じ悩みを抱えたまどかを放っておけなかった。それにもしかしたら、何かの答えを見せてくれるかもしれない。
そんな気持ちは確かにあった。未だに杏子自身、その言葉への答えを出せていないのだ。
ただ今は仲間と共に、仲間の為に戦うだけで。
487 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/05(月) 15:51:47.30 ID:Ww9l84db0
「そんな……じゃあ、どうしたらいいのかな、私」

「さあね、そう簡単に答えが見つかるようなことじゃねーよ。これは。
 でも戦いたいってなら、まずそれがどういうことなのかを知っておく必要はあるだろ?だから練習だ」

「……うん、私、やってみるよ!」

「よっしゃ、じゃあやろうぜ。ほむら、あんたも一緒にやろうよ?腕を見せてくれよ、英雄さん?」

「ばっ……馬鹿っ!まどかがいるのよ!?」

からかうような言葉に、ほむらの表情が一変した。
実際杏子もまだ半信半疑なのだ、ほむらの話は。だからこそ確かめたい。
もし本物なら、見てみたくもあった。第3次バイドミッションを戦い抜いた、英雄の腕というものを。

「英雄?」

「はは、気にすんなよ。ほら、最初はあたしが手伝ってやるから」

訝しがるまどかをキャノピーの中へと押し込んで、杏子もそれに続いた。
キャノピー内部はタンデムとなっていた。これは本来のR戦闘機も同じである。
流石に最近の機体はインターフェーズの進化やパイロットスペースの圧縮もあり、その限りではないが。
初期の機体や、それ以前の作業艇として使われていたR機は皆、タンデム式だったのだ。
この筐体もそれが流用されており、二人乗りで行うモードも実装されていた。

「……しかたないわね、そこまで言うのならば」

小さく吐息を漏らして、まさかこんなところでまでR戦闘機に乗ることになるとは、と。
ほんのわずかにうんざりしながら、ほむらもまたキャノピーの中に身を滑らした。

「さて、それじゃまずは登録からだな。あたしはもう登録してあるから、あんたも登録しときな」

「杏子ちゃん……なんか、すごい慣れてるね」

「……まあ、輸送艦ってのは割と暇だからね。こっそり筐体を持ち込んでる奴がいたのさ」

なんて言葉を交わしながら、まどかは目の前のコンソールに情報を打ち込んでいく。
パイロットネーム。何にしようかと迷う。
488 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/05(月) 15:52:52.70 ID:Ww9l84db0
「杏子ちゃんはなんて名前にしたのかな?」

「ん?あたしか、あたしはこれ」

まどかのコンソールの端を示す。
そこには“パートナー:ROSSO PHANTASMA”と示されていた。

「ろっそ……ふぁんたずま?なんだか格好よさそうな名前だね」

「……ま、若気の至りって奴だよ」

「?何言ってるの杏子ちゃん?」

流石に、こんな名前を人に見せるのはちょっと恥ずかしかったらしい。

「いいから、さっさと登録しちまえよ。出撃できねーだろ?」

「あ、うん。ごめんね」

さてどうしよう、と悩む。
そんな時、ふと頭をよぎったのはいつかの夢。
美しい夕暮れの海を、海鳥たちと駆け抜けていく夢。
とても綺麗で、どこか悲しい夢。

「……うん、これでいいかな」

ぴっぴっとコンソールに指を走らせて、入力を終える。
映し出されたその名前は――夏の夕暮れ。

「今は冬だろ?なのになんだってこんな名前?」

「あはは……ちょっと、気になっちゃってさ」

「ふーん、まあいいけど。んじゃとりあえず練習ミッション行くぞ!」

このゲームには、いくつかのモードが搭載されている。
一人、もしくはパートナーと一緒に戦うシングルモード。
店内や全世界の人と、協力しあい、時に敵対しあうコンバットモード
そして、初心者向けのトレイラーモード。

杏子にとっては最早手ぬるいものではあるが、まどかにとっては相当辛いものとなるだろう。
慣れない仕草で操縦桿を握るまどかの表情は、固く緊張しきっている。
489 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/05(月) 15:53:45.21 ID:Ww9l84db0
「まあ、ミスったって死ぬこたないんだ。ちったぁ気ぃ抜けよ」

「う……うん。わかってるんだけど……」

「大丈夫よ、鹿目さん。私も一緒についていくから」

突然、視界の端にモニターが現れた。そこに移るのはほむらの姿。
一緒に言葉も聞こえてきて。

「お、さすがほむら。もう通信も使いこなしてんのな」

通信機能も完備である。あくまでお互いの認証あってのことではあるが。

「当然よ……というよりも、再現度の高さに驚かざるを得ないわ。
 確かにこれなら、本当に乗っているのに近い感覚で戦える」

「だろ?現役パイロットからの人気も高いんだぜ、こいつは。
 ……さて、そろそろ出発だ、行くぜっ!」

一度画面が暗転、そして暗い画面に眩く映し出されたその文字は






――BLAST OFF AND STRIKE THE EVIL BYDO EMPIRE!――

           ――READY――





そして、電子の宙へとR-9A、アロー・ヘッドが飛び出していった。
まずは操作に慣れるための演習。それが終われば、いよいよバイドとの実戦である。
490 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/05(月) 15:54:38.95 ID:Ww9l84db0
その、結果はどうかというと。

「はぅぅ……」

「おいおい、大丈夫かよ……まさか最初の練習でへばっちまうなんてな」

R戦闘機は元来、ザイオング完成制御装置によって高い機体の制御能力を持つ。
それでも、被弾時の衝撃や急な機動を取ったときにかかるGなどは精密に再現されていた。
そんな衝撃で、ただでさえ慣れない動きに揺さぶられ続けて。どうやら酔ってしまったらしい。

すっかりやられて、側のベンチで横になるまどか。


「……こんなに、辛かったんだね。杏子ちゃんもほむらちゃんも。……さやかちゃんも」

青い顔で、か細い声で呟くまどか。
心配そうに、杏子もほむらをそれを見つめていた。

「まあ、慣れりゃこんくらい大したこたないよ。……でも、流石にきつそうだな、大丈夫か?」

実際のところ、その手の問題はソウルジェムが全て解決してくれる。
けれどもそんな事は言い出せるはずもなく、ほむらは押し黙ったままで。

「……ちょっと、だめみたい。少しだけ休んでいいかな。ごめんね、杏子ちゃん、ほむらちゃん」

「しゃーねぇ。じゃああたしはもう少し乗ってくるぜ。ほむら、あんたはどうする?」

「私はまどかの側にいるわ」

「そーかい。折角あんたとやりあえると思ったんだがね」


ちょっとだけ残念そうに、ほむらを一瞥して筐体へと向かう杏子。
そんなほむらに、よろよろと身を起こしてまどかが言った。

「私は大丈夫だから……ほむらちゃんも行ってきてよ」

「でも、放っておけないわ」

「……大丈夫だよ、少し休んだらよくなるから。
 それに、ほむらちゃんや杏子ちゃんの戦ってるところ、見てみたいから」

戦闘の様子が映し出される大型スクリーン、それに軽く視線をやって。

「……わかったわ。でも、辛いようならすぐに呼ぶのよ、まどか」

そっとその手に触れて。まだ血の気の戻らない冷たい手。
それを暖めるようにそっと握りこんでから、ほむらも筐体へと向かった。
491 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/05(月) 15:55:41.65 ID:Ww9l84db0
「お、きやがったなほむらの奴。へへっ、こりゃ楽しくなりそうだぜ」

エントリー欄にほむらのパイロットネーム“ELIMINATE DEVICE”が表示されたのを見て
杏子が好戦的な笑みを浮かべる。
いよいよ英雄の腕前が拝める。なんならその仮面も剥がしてやってもいい。
久々に、気の向くままに暴れてやろう。

あえて選んだ機体はアロー・ヘッド。
戦果を上げ、階級を上げれば使える機体の増えるこのゲーム。
機体性能の差で勝負がつくのは面白くないと、初期配備のアロー・ヘッドで挑むのであった。

全機体が敵となるクロスコンバットモード。
その開幕を告げる、オペレーターの声が響いた。



――所属不明の機体が接近中。Destroy Them All!!――



そして再び、総勢8機のR戦闘機たちが電子の宙へと飛び出した。
492 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/05(月) 15:58:14.01 ID:Ww9l84db0
ようするに戦場の○見たいなもんです、あ、中に入るのは狼じゃないです。
こんなゲームセンターがあったら行ってみたいものです、割とマジで。

>>482
何故そんな夢を見るのか、それは一体なんなのか。
それはまた別のお話で語られる日も来るでしょう。

戦う心構えは身に付けたので、次は心の迷いを振り切ってもらうことにしました。
きっと全て終わったときには、明鏡止水さやかちゃんモードが拝める(ような気がする)はずです。
493 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(滋賀県) [sage]:2011/12/05(月) 16:10:47.25 ID:wnUHP2Dlo
愛と怒りと悲しみのシャイニングフィンガーソードじゃないなら安心だな
494 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/05(月) 17:15:39.62 ID:6mQNH5YDO
投下乙!
R-type dimensionsって、PS2のリモコンでやるやつでしたっけ?見た時はスゲー!ってなりましたね〜。

しかし、意外な所でロッソ・ファンタズマが出て来ましたなww。ほむらちゃんの登録名は、最初の方でラグナロックを呼んでた呪文(?)ですかね。あのシーンは結構格好良いと思ってます。

そして、デストロイゼモー。クロスコンバットとやらでは、2人以外の機体の活躍にも期待したいところですね!
495 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/05(月) 18:11:18.80 ID:fz9EpCJE0
提督の夢に夏の夕暮れの夢……次はケルベロスの夢でも見るのだろうか……
496 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(茨城県) :2011/12/05(月) 19:42:36.60 ID:ovamiFTn0
>>495
二代目提督さんの夢という可能性もある
497 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/05(月) 23:30:10.99 ID:Ww9l84db0
ついげきの投下で勢いはさらに加速した

カカッと投下するます
498 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/05(月) 23:31:12.07 ID:Ww9l84db0
「おいおい、冗談じゃねぇぞ……」

電脳空間、そこに広がる小惑星帯。
障害物が多いだけに、自由自在なドッグファイトは難しい。
上手く物陰に隠れながら、もしくは敵の逃げ場を奪いながら攻撃を加える。
それが定石のはずだった。少なくともこのフィールドにおいては。

杏子の機体は黒煙を上げ、今にも機能を停止してしまいそうなほどに損傷が激しい。
ここで落とされればもう残機は0、ゲームオーバーである。
そして他の敵機は既に沈黙している。小惑星帯を利用して何機かは撃墜することができた。

だというのに、である。
ほむらは未だ一度として撃墜されることなく戦闘を続けていた。
機動を制限されるはずの小惑星帯を、まるで何も無いかのようにすいすいと飛び回る。
そして最大加速で肉薄、すれ違いざまにフォースを切り替え後方射撃で次々に敵機を撃破していった。
圧倒的過ぎる。これが英雄の力だとでもいうのか。

「このまま負けたらとんだ晒し者だろ……せめて一発かましてやるぜ」

波動砲のチャージを開始。どこからでも来いと言わんばかりに周囲へと目を配る。
まだ索敵範囲内に反応は……来た!

「来やがれ、英雄っ!!」
499 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/05(月) 23:31:55.42 ID:Ww9l84db0
「ほむらちゃん……すごい」

そんな戦いの様子は克明に映し出されたスクリーンを、まどかは呆然と眺めていた。
気分は大分落ち着いてきて、ようやく余裕を持ってみることが出来た。
次元が違う。杏子の動きだって、やはりただのゲーマーとは比べ物にならないくらい上手いとは思う。
それでも、ほむらのそれはあまりにも次元が違いすぎた。

開戦直後から一方的に攻め続け、ロクに被弾もせず黙々と敵を墜としていく。
何をしているのかすら理解できないほどに、卓越した機動だった。
その尋常ではない戦果に、いつしか人だかりができていて。

「おい……あいつ、すごくね?」

「どっかのランカー?」

「いや、全然見たことない名前だぜ。ランクも最下位だし」

「一体何者なんだ……」

スクリーンでは、真正面から最後の突撃を仕掛けた杏子の機体が
ほむらによって真正面から撃墜される様子が映し出されていた。
戦闘は終了、各筐体の動きも止まったようで。

「あ、終わったんだ……本当に、すごかったな……ほむらちゃん」

周りが歓声を上げる中、筐体が開いてほむらがその姿を現した。
謎の天才パイロット。おまけに出てきたのが美少女とあって、周りの歓声は更に一つ、ボリュームを上げた。

「え……な、何かしら、これは」

当の本人はまったく想像もしていなかったようで、困惑して目を見開いていた。
そんなほむらの背後から、杏子が軽く肩を叩いて。

「どうやら、腕は本物みたいだね。全然歯が立たなかった。流石だね、ほむら」

悔しい気持ちもあるにはあるが、あそこまで完膚なきまでにやられては
最早感心するより他に無い、間違いなくほむらは強い、桁違いに強い。
500 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/05(月) 23:32:27.57 ID:Ww9l84db0
最後まで戦い抜いた杏子にも、惜しみなく賞賛と拍手が浴びせかけられた。
ほむらと同じように、杏子もちょっとだけ驚いて。それから。

「こういうときは、素直に応えとくもんだろ。な、ほむら?」

言うや否や、ほむらの手を取りそのまま大きくその手を上げた。
みなの賞賛に応えるように。ほむらは少し恥ずかしそうにしていたけれど、それでもその顔はどこか誇らしげで。
……それと同時に、少しだけ寂しげでもあった。

(私がただの英雄だったのなら、みながこんな視線で見つめてくれていたのかしら)

それはきっと、羨望だとか憧憬だとか、そういう感情だったのだろう。


そんな喧騒を、遠めで見つめる二つの影。

「凄かったね、あいつ」

「あら、あの子のことが気になったの?」

「そんなこと無いさ、私が気にしているのはいつでもキミだけだよ。
 ただ、戦ってみたいなって思っただけさ」

「まあ、まだ戦い足りないの?あんなことがあったのに」

「足りないな、力を振るうのは気分がいい。キミと一緒ならもっといい!」

「……仕方ないわね。それじゃあお願いしてみましょうか、キリカ」

「やったあ!……大好きだよ、織莉子」

「私もよ、キリカ」
501 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/05(月) 23:34:43.77 ID:Ww9l84db0
「そこの方、ちょっといいかしら」

話しかけてきたのは、白と黒の少女。
白一色の服に白い長髪が印象的な、穏やかな印象を受ける少女と
黒を貴重にした服に黒い短髪、快活な表情を浮かべた少女。互いに寄り添ったまま歩み寄ってきた。

「ん、なんだよ?」

歓声に応えながら振り向いて、杏子が答えた。
目的は彼女ではないけれど、どうやら二人も連れ合いのようだと彼女は判断して。

「よければ、次は私達とも遊んでいただけませんか?」

白い少女の言葉は、その大人しそうな外見からは似つかない言葉ではあった。
僅かに杏子も目を丸くして、すぐに交戦的な笑みを浮かべて。

「おいほむら、挑戦者だぜ?こりゃあ受けて立たないては無い、よな?」

「でも、鹿目さんが待っているわ」

ほむらはまどかが心配なようで、気忙しそうに視線を送る。
そんな視線にまどかも気付いて、がんばって、とぎゅっと小さくガッツポーズ。
いつの間にか随分元気になっていて、あの分なら心配は要らなさそうだ。

「……わかったわ。じゃあやりましょう」

「よし決まりだ!ふふ、私と織莉子の力を見せてあげよう」

「ほー、言ったな。あたしらだって強いぜ?甘く見んなよ」

ばちばちと、黒い少女と杏子の間で火花が散っているのが見える気がする。
そんなことよりも、どうにもほむらは気がかりだった。
どうも聞き覚えのある声、織莉子という名前。

(……偶然、よね)

勿論、そんな事はないのではあるが。
お互いに気付かぬまま、再戦の火蓋は切って落とされようとしていた。
502 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/05(月) 23:35:38.91 ID:Ww9l84db0
「次はあたしとチームだ。ま……これから背中預けて戦うことになるんだ。よろしく頼むよ、ほむら」

「そうね……勝ちましょう。杏子」

機体選択。先ほどは勝負に拘っての選択だったが、今度は勝つための選択をしなければならない。
チームのパートナーは機体を共有できる、ということで。
今回ばかりはほむらも機体選びに余念がない。

「さて、どうするかね。悔しいけど腕ならほむらの方が上だ、あたしが陽動。ほむらが遊撃って感じでいいかい?」

「構わないわ。……じゃあ、私はこれで行くわ」

ほむらが選んだのは、R-9S、ストライク・ボマー。
かつての愛機、ラグナロックと同じく貫通力の高いメガ波動砲を搭載した機体。
その分レーザーの攻撃力は初期の機体と同レベルとなっているが、波動砲の性能がそれを補って余りある。
地球連合軍に正式採用されている機体の一つである。

「ふーん、じゃああたしは……こいつだな、陽動ならこれでいいだろ」

杏子が選んだのは、R-9AD、エスコート・タイム。
自機を模したデコイを生成するデコイユニットを搭載した試作機である。
デコイ自身は波動エネルギーの塊であり、接触によってダメージを与えるだけではなく
デコイそのものを波動砲として発射することも可能である。
更にある程度の遠隔操作も可能な、まさに陽動にはうってつけの機体である。


機体の選択は完了、あとは出撃を待つばかり。
そして、再び流れるオペレーターの声。だが、その前に警告が鳴り響く。

    WARNING!!
A HUGE BATTLE SHIP
  GREEN INFERNO
IS APPROACHING FAST
503 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/05(月) 23:36:41.47 ID:Ww9l84db0
「なっ……割り込みミッションだとっ!?」

割り込みミッション、このゲームの要素の一つで、特定の条件を満たすと
次のミッションが強制的に全員参加の異なるミッションへと変更されるというもので。
ほとんどのミッションは、強大な敵バイド体との戦いであった。
その難易度は非常に高く、今までにほとんどクリアできた人間はいないのだという。

「ちぇ、ついてねーな。どうするほむら?一旦やめて仕切りなおすかい?」

「……それも、悪くはないけれど。目の前にバイドがいるのよ。見逃す選択肢があるかしら」

「言うね。案外熱いとこあるじゃん」

「別に、誓っただけよ。私の目の前では、どんなバイドだって生かしてはおかない、とね」

マミを見殺しにしたことへの後悔と、さやかを見送るしかなかった苦悩。
それを踏み越えて、新たに打ち立てた誓い。目の前にバイドがいるのなら、その全てを殲滅する。
まさしくバイドの除去装置―ELIMINATE DEVICE―となろう、と。

「ちょっと律儀すぎねーか?……ま、ほむらなら本当にやっちまいそうだけどな。じゃあ、行くぜっ!」

「ええ、油断はしないでね、杏子。……行きましょう」



「なんだ、あいつらと戦えないのか。残念だなー」

「仕方ないわ、そういうことになってしまったんだもの」

「ま、これはこれで面白そうだけどね。バイドの巨大戦艦なんて、私と織莉子の手にかかればイチコロだ」

「あまり無理をしてはだめよ、キリカ。これは実戦とは違うんだから」

「違わないさ、織莉子と一緒に戦うのならいつだってどこだってなんだって、私にとっては価値ある闘いだ」

「もう、キリカったらしかたないわね。……じゃあ、行きましょう」

「ああ、行こう織莉子っ!」
504 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/05(月) 23:37:25.51 ID:Ww9l84db0
8機の機体はそれぞれに飛び立って、迫るバイドの巨大戦艦へと立ち向かっていく。
無数に開かれた砲門が一斉にその顎を開き、宙を埋め尽くさんばかりの砲火が撃ち放たれた。
宙が赤く染まる。その中をすり抜けていく機体群。対応できずに、早くも2機の機体が火ダルマになって潰えた。
割り込みミッションには残機はない。やり直しの効かない状況でこの難敵に立ち向かうことになるのだ。

それは、まるで本当の戦闘のようだった。
505 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/05(月) 23:44:40.95 ID:Ww9l84db0
なかなかクロス・ザ・ルビコンが開発できません。
エクリプスを使っていればいいんでしたっけね、どうも記憶が曖昧です。

>>493
相手がバイドなんで、怒りも憎しみも篭めちゃっても大丈夫なんですけどね。
むしろバイドになったほうが曇りのないクリアマインドが実現できルかもシれまセン。

>>494
Dimensionsは確か箱○のダウンロード販売の奴だったと思います。
3Dモードや協力プレイなどを追加して、1と2をリメイクしたような感じだったかと。
オンラインで協力プレイが可能、ということでタイトルにお借りしました。

どこかで出したいな、とは思っていました。多分ここで出さなければ他に出しようもなかったので。
そしてELIMINATE DEVICEは、ラグナロックの開発コードです。
バイドに対する除去装置となることを願って付けられたのでしょう、きっと。

そして丁度いい機会なので再登場のおりキリコンビです。
この二人は割と好きです。色々やらかせる子達なので。

>>495
きっと次もまた、不思議で悲しい夢を見るのだと思います。

>>496
実は二代目提督さんは九条さんなので、まだ夢に出るようなことはしていなかったりします。
とはいえこの設定では二代目提督が本当に提督になるかどうかはわかりませんが。
506 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/05(月) 23:58:05.01 ID:/ZSUgx6po
このゲームリアルすぎるww
きっとTeam R Typeがプレイデータを見て勧誘してるなんてことがあるんだろうなぁ
507 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/06(火) 00:19:18.38 ID:bfa0F8k00
少なくとも、R機のデータとかで、軍の協力はありそうだ。
508 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/12/06(火) 00:25:33.07 ID:2n6iiAogo
シミュレーションと思ってるけど実は……な
バーチャロン的なパターンかもしれないぞ
509 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/06(火) 04:51:41.21 ID:dclDpTSDO
連続投下乙でござい。
おりキリ再び、はてさてどうなるのか…。

あちゃー、箱○のDLのでしたか…なんで間違えちゃったかなー?
510 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/06(火) 15:32:41.73 ID:tvY7hHN60
そして今日もまたお昼投下です。

キリカって何回も書いてるとたまにキリコって間違えそうになります。
スコープ・ダック、っていうかパウ系は強いですよね。レーザーが。
ニードルフォースは切り離したほうが強いですけど。
むせる。

511 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/06(火) 15:33:49.88 ID:tvY7hHN60
「かなりやばいな、こりゃあ」

砲台を破壊して確保した安全領域。その中に二機が佇んで。
戦闘は既に終盤、砲火をかいくぐり、砲台を叩き潰し。押し寄せる敵の増援を焼き払い。
そうしていよいよ、艦首付近にまで肉薄することができた。

しかし、艦首に備え付けられた無数の砲台が濃密な弾幕を形成しており
さらにはその砲台の再生速度は極めて速い。このままではまず抜けられない。
何とか砲火の壁に穴を開けて、そこをすり抜けるしかないのだが。

「残っているのはもうあたしらとあいつらだけだ、ちょっと手数が足りないな」

早々に撃墜された二機。そして戦闘の半ばまでは粘っていたが。
急激に増え始めた敵の増援に対抗しきれず“ガンズアンドローゼス”“アイスブランド”
その二機も砲火の中に消えていった。

「おいそっちの二人っ!こっちの援護に入れないかっ!」

ここを突破すれば、後は敵のコア部分を残すのみ。
別ルートから攻略しているはずの“正義さす左指”と“自由なる右指”に呼びかけた。

「まったく、キミは無茶を言ってくれる……ねっ!!」

「残念ですが、敵増援の出現が想像以上に激しいようです。
 援護に向かうどころか、このままではこちらも持たないかもしれません」

艦尾方面からコアを目指した織莉子とキリカのチームも、大量の増援に阻まれているようで。
向こうは向こうで、状況は非常に悪いと言わざるを得ない。
512 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/06(火) 15:34:52.13 ID:tvY7hHN60
「だとさ。どうするほむら?」

「一点突破、これしかないと思うわ」

「なるほど、Rにゃ相応しいやり方だ。だがどこを抜ける?
 完全に砲撃で上を押さえられちまってる、側面から回り込むのか?」

わずかに沈黙、やがて意を決したようにほむらが言葉を放つ。

「デコイを含む波動砲の面斉射。これで敵の砲火に穴を開ける。
 その隙間に潜り込めば、後はコアまで一直線に向かっていけるはずよ」

「簡単に言ってくれるけどよ、未だに砲台は復活しやがるし、敵だってわんさか出てきやがる。
 二人揃って波動砲をチャージする余裕なんて、作れるのか?」

「作るわ。幸い私はビットを拾うことができた。これで上方からの攻撃は防ぐことができる。
 私が上になるから、できるだけ寄り添ってフォースとビットで耐える」

「まったく無茶苦茶だ、だがまあ、他にやりようもねーか。
 いいぜ、こうなったらとことん付き合ってやろうじゃねーの」

二機がそれぞれ波動砲のチャージを開始する。
それを阻もうと迫る、砲撃やレーザーの雨あられ。迫り来るリボーの群れ。放たれる敵弾。
その全てをかわしすりぬけ、フォースやビットで受け流しながら。
チャージは順調に進んでいく。蓄積された波動エネルギーによって
エスコート・タイムの隣にデコイ機が生成される。

だが、状況は尚悪化する。
こちらからの攻撃が止まったことで、破壊し続けていた砲台までもが再生を始めた。
それにより、降り注ぐ砲火はさらに勢いを増す。フォースの間を擦り抜けて機体を掠めた。
513 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/06(火) 15:35:39.84 ID:tvY7hHN60
そしてもう一機、波動エネルギーによってデコイが生成された。
チャージは完了、後は頭上の火線へ飛び込むだけ、なのだが。

(くっそ……あんなとこ、どうやって飛び込んで行けってんだよ)

「行くわ」

「っ!…ええい、こうなりゃ行ってやらぁっ!」

砲火の中を、踊るように進んでいくほむらの機体に続いて
杏子もその機体を躍らせた。たちまちその身を焦がす砲火、擦り、掠め。
それでも直撃だけは避けながら、艦首正面へと立ちはだかった。

「食らいやがれ……バケモノっ!!」

本体と、そして二機のデコイから同時に放たれる三門の波動砲。
そして続けざまに放たれたメガ波動砲が、戦艦の艦首部を直撃した。
表面を薙ぎ払われ、さらに深部までもを波動に焼かれて、一瞬だけ艦首の砲台が沈黙した。

それでもそのおぞましいほどの再生能力は、即座に焼き尽くされた内部を
破壊された砲台を再生させて砲火を放つ。けれどもそのわずかな時間で十分だった。

「穴が開いた。このまま抜ける……っ」

「案外なんとかなるもんだ。……でも、悪ぃ、こっちはここまでみたいだ」

ストライク・ボマーは無事に砲火の壁を潜り抜けた。
しかしエスコート・タイムは。破壊された砲台が最後に放った砲弾をかわしきれずに
直撃、黒煙を上げながら高度を落としていく。

「後、任せたっ!一発かましてやれほむらっ!!」

直後、降り注ぐ砲火の雨に杏子の機体が消えた。
通信もそのまま途絶する。ゲームであると分かっていてもいい気はしない。
それほどの臨場感を感じていた。
514 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/06(火) 15:36:43.06 ID:tvY7hHN60
「杏子……ええ、後はこのままコアを破壊するだけよ」

そしてストライク・ボマーが駆ける。
巨大戦艦も艦の上部、特にコア周辺には砲台を展開できないのか
他の場所と異なりここだけが、極端に砲火の密度が薄い。
悠々とそれをかいくぐり、有機的に蠢きながらピストン運動を繰り返す、戦艦のコアへとたどり着いた。

後はここに波動砲を叩き込めば、それで片は付く。
ゲームの割には、あんまりにもあんまりな強敵だった。
それこそこれだけ戦えるのならば、そのまま実戦でも通用しそうなほどに。

そこまで考えて、ほむらの表情が固まった。


そしてほむらのストライク・ボマーは、砲台からの砲撃であっけなく被弾し、撃墜していった。
その後も暫く抵抗を続けていた織莉子とキリカだが、次々に押し寄せる増援に対抗しきれず。
やがて撃墜されてしまった。かくして全機撃墜。ミッションは失敗となったのであった。
515 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/06(火) 15:37:25.85 ID:tvY7hHN60
「なんだ、結局全機撃墜かよ」

「でも、コアのとこまで行ったの初めて見たぜ、俺」

「すげーよな、やっぱりあいつどっかのランカーじゃないのか?」

「録画しといたから、後で研究しようぜ」

興奮冷めやらぬ、といった感じでギャラリー達が騒いでいた。
それでもミッションも終了ということで、三々五々に散っていく。

そうしてようやく、筐体からほむらと杏子が姿を現した。

「……一体どうしたんだよ、ほむら」

杏子の顔はやや険しい。対するほむらの表情はやや沈んだもので。

「どうもしないわ。油断して撃墜された。それだけのことよ」

「んなわけねーだろ。どれだけあたしがあんたと一緒に飛んでたと思ってる。
 あんな密度の低い弾幕で、あんたが撃墜されるもんかよ」

どうやらそれが気がかりなようだった。
わざと撃墜されたのではないか、とほむらに詰め寄っていく。
そんな杏子の様子に、少しだけ考えるような仕草をしてから
ほむらは杏子の手を引いて、筐体の影に隠れた。

「恐らくこのゲームには、軍ないしTEAM R-TYPEが絡んでいるわ。間違いなく」

「な、何言い出すんだよいきなり、頭でも打ったか?」

いきなり出てきた言葉は、陰謀論めいたもの。
さすがの杏子も驚いて、目を丸くしてしまったが。
516 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/06(火) 15:38:00.19 ID:tvY7hHN60
「考えたことはないの?あのゲームの機体達はどれもみな、本物と変わらない操作性を持っていた」

「そりゃあ、作ってる奴らがよっぽどのマニアだったんじゃねーの?」

「軍にとっては機密であるはずのR戦闘機よ。それをあれだけの数のデータを揃えるなんて
 どう考えても、直接軍やTEAM R-TYPEが開発に携わっているとしか考えられない」

そう言われると、確かに杏子にも思い当たる節はある。
このゲームに出てくる機体は、そしてバイドはあまりにもリアルなのだ。
それこそ、訓練用のシミュレーターと大差がないほどに。

「だとして、何が問題あるんだよ?単に機体のデータ取りとかかもしれないだろ?」

「いいえ。このゲームの目的はきっと、もっと別のところにあるはずよ。
 特に割り込みミッションのあれは、まさに実戦さながらだった。その中で成果を出せるということは。
 それはすなわち、優秀なパイロットになり得るということだとは思わない?」

「……つまり、このゲームは民間人からパイロットを発掘するために作られてる、ってことか?
 確かにまあ考えられない話じゃないけどよ。何か問題でもあるのか?
 そもそもあたしらはもう軍属だろ?だったらいまさら目をつけられたって……」

「あなたはそうでも、私は違う。言ったはずよ」

名を捨てた英雄。暁美ほむらにとっては確かに
軍に存在が露見する可能性のある行為は避けたいのだろう。
そう考えると、ほむらの言葉も納得できた。

「……なるほど、そういうことでしたか」

言葉は、唐突に投げ掛けられた。
はっとして振り向く二人。その視線の先には。
筐体の影に寄りかかるようにして、話に耳を傾けていた黒と白の少女達の姿があった。
517 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/06(火) 15:40:34.95 ID:tvY7hHN60
「盗み聞きたぁ、ずいぶん結構な趣味してんじゃねーか」

「何を言う、キミ達が勝手に話をしていただけだろう。場所を選ばなかったキミ達が悪い」

「んだと!?生意気言ってくれるね、なんならここで決着つけてもいいんだよ?」

「いいとも、さっきつけられなかった決着、ここでつけようか!」

勝手に一触即発になっている。杏子をほむらが、キリカを織莉子が取り押さえて。

「落ち着きなさい、杏子。こんなところで争ってもしかたないわ」

「そうよキリカ、ここではダメよ。人目があるもの」

人目がなかったら何をするつもりだったのか、ジト目で杏子が織莉子を眺めて。


「先ほどの話を聞く限り、やはりあなた方も軍属のR戦闘機乗りだったのですね」

「……その言い草からするに、あんたらも同じ手合いかよ」

まったく持って、奇妙な偶然もあるものである。

「ということは、もしかしてあなた達は」

「そして、恐らくあなた方は」

ほむらの声と、織莉子の声が重なった。

「「魔法少女」」
518 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/06(火) 15:41:31.29 ID:tvY7hHN60
お互いを見据える眼光が、より鋭い物となる。
恐らくほむらも織莉子も、確信めいたものを既に感じていたのだろう。
目の前の相手が、かつて激しい戦いを繰り広げた相手である、と。

「なんだ、こいつらも魔法少女だったんだ。道理で強いわけだね」

「ええ、それに彼女は前に宇宙で戦った相手よ、間違いなくね」

言葉と同時にキリカが駆け出した、一足飛びにほむらの懐へ。
そしてその腕を振りかざし、打ち下ろす。
咄嗟に腕を交差させそれを受け止める。骨まで響くような強い衝撃が伝わる。

さらに追撃。首を狙って掌が伸びる。締めようとでもいうのか。
否、喉笛を掻っ切ろうとしているのだ。腕をかざしてその掌を止める。
腕が強く握られて、さらに爪が突きたてられて。肉に食い込み血が滲む。
唐突に向けられた殺意と狂気。咄嗟に身を守っていなければ、今頃頭か喉をやられていただろう。

「……っ!テメェ何やってやがるっ!」

呆気にとられていたのも一瞬、目の前で繰り広げられているのが殺し合いであると悟る。
そして割って入ろうとした杏子にも、容赦なくキリカは蹴りを繰り出した。
受け止めた腕ごと吹き飛ばされて、一瞬体が浮いてそのまま筐体に叩きつけられる。

「がふ……」

その衝撃に、肺から空気が漏れて出る。
それでも懐を手で探り、護身用の銃を取り出そうとした。
騒ぎを起こすのは勘弁だが、身を守る手段を持たないほど呑気でもない。
撃ってしまった後のリスクは考えないではないが、殺しに来ている相手を迎え撃たない道理もない。
519 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/06(火) 15:42:39.89 ID:tvY7hHN60
「キミは織莉子を殺そうとした!ならばキミは今すぐ死ぬべきだ。ああ死ぬべきだ。
 織莉子を傷つけようとするやつは、誰であろうと私が殺すっ!!」

同じくキリカも懐を探り、何かを取り出そうとしている。
間違いなく武器の類だろう。正気を疑う。いや、疑うまでもない。
彼女は、キリカは狂っている。ならばそれを止めるにはもう殺すしかない。
ほむらも戦いの覚悟を決めた。騒動を聞きつけ人が集まり始めている。

長居は無用、一気に二人とも始末をつけて脱出する。
まどかも一緒に連れて行くと、何かと問題になるだろう。ひとまずは杏子だけを連れて。
後のことは、軍やキュゥべえに任せておけばいい。
まずは目の前の障害を確実に排除するだけだ。ほむらの瞳に冷酷な光が宿った。
520 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/06(火) 15:47:08.23 ID:tvY7hHN60
このSSのキリカさんは、原作よりも8割増し位でイかれておられます。
多分あんな幕間を書いたからです。きっと。

>>506-507
まさしくその通りでした。
ゲームを装ってパイロット候補を選出する。
割り込みミッションをクリアした人のところには、後日丁寧なお誘いが舞い込んでくることになります。

>>508
そんな素敵な代理戦争がやれたら、この世界ももっと綺麗だったんでしょうけどね。
現実はキボウに満ち溢れています。

>>509
キリカさん、マジでやらかしてくださっております。
ここまでめちゃくちゃやらかすつもりはありませんでしたが
なってしまったものは致し方ありません。

私もそっちはやったことないので、いまいちわからないのですよね。
521 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(滋賀県) [sage]:2011/12/06(火) 16:01:38.53 ID:O2MNVhSPo
ミス=死と知らないプレイヤーなら恐怖なんて無いな
新作ゲームのテストプレイと称してガチ実戦をやらされてそう
522 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/06(火) 17:23:39.33 ID:dclDpTSDO
おつおつ〜。
しかし本当に休暇じゃNEEee!んも〜、おりキリってば迷惑だなぁ!

名前が出た二機の人は、後で関わって来るんだろうか?
523 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/06(火) 23:48:52.07 ID:hRGOvNdu0
そして今日も夜投下です。
なんだかんだでこの話も相当長くなりそうですね

では投下します。
524 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/06(火) 23:50:09.48 ID:hRGOvNdu0
「だめよ、キリカ」

凄絶な殺し合いが始まろうとしたその寸前に、織莉子の声が駆け抜けた。
懐からぎらりと光る刃物を取り出そうとしていたキリカは、その手を止めて。

「何故だい織莉子?こいつは織莉子を殺そうとしたんだ。なら殺さなくちゃ。
 ダメじゃないか!こいつらは死んでなきゃさぁ!!」

「ダメよキリカ。今の私は彼女達と戦うつもりはないわ。
 それに彼女は、私たちの命を助けてくれた恩人でもあるのよ」

そういえばそんなこともあった。あの時はさやかに説得されてしまったが
こうなると分かっていれば、あそこで見殺しにしていたというのに。

「そうなのか?本当にキミが、私たちを助けてくれたのかい?」

先ほどまでの殺気に満ち溢れていた表情が一変。
やけに人懐っこそうな笑みを浮かべて近寄ってきた。
その急変が恐ろしい。今にもまた様子を一変させて、殺しにかかってくるのではないか。
そんな危惧から、間合いから離れるように一歩距離をとる。

「……礼ならさやかに言うことね。彼女が助けると言わなければ、私は確実に止めを刺していたわ」

「そうか、つまりキミは私たちを、織莉子を助けてくれたのか!
 つまりキミは恩人だ。さっきはすまなかった、恩人!」

深く深く頭を下げて、さらに距離を詰めてくる。
敵意が一切見られない。それが何より恐ろしいのだ。
さらにほむらは一歩退いた。
525 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/06(火) 23:51:20.80 ID:hRGOvNdu0
「何なんだよ、お前ら……訳わかんねぇことばっかり言いやがって」

懐に手を差し入れたまま、いつでも撃てるような体勢で杏子が間に割って入る。

「なあ織莉子、私は恩人に恩返しがしたいと思うんだけど、どうかな?」

そんな杏子を意にも介さず、キリカは織莉子に問いかける。
それが気に食わなくて、杏子はぎり、と歯噛みする。

「いいと思うわ。そろそろ騒がしくなってきたようだし、場所を変えた方がいいと思うもの」

これだけの事態が起きたにもかかわらず、織莉子は何事もなかったかのようにふんわりと笑みを浮かべて。

「そういう訳ですので、場所を変えてゆっくりとお話しませんか?
 大丈夫ですよ、キリカをけしかけたりはしませんから」

「ああ、私だってキミが恩人だと知っていたら、こんなことはしなかったさ」

確かに辺りを見渡すと、既に人だかりができていた。
騒ぎを聞きつけて、店員までもがこっちへ向かってきている。
これ以上ここに留まるのは得策ではない。彼女達と話をするにせよしないにせよ、である。

「……ええ、そうさせてもらうわ。杏子、私は二人を見ているから、まどかを呼んできて」

「大丈夫なのかよ、お前一人で」

「大丈夫だと思うわ、今のところは」

そんな言葉に杏子は表情を曇らせて。
織莉子とキリカをかわるがわる睨み付けていたが、やがて早足でまどかの元へと向かっていった。

「あの妙な力は、今日は使わなかったのね」

魔法、と呼ばれたその力。今使われていたら流石に打つ手がなかったろうと思う。
キュゥべえは封印した、と言っているようだったが、それもどうかは怪しいもので。

「ええ、今は使いたくても使えませんから」

「そう、それなら一応安心ね。とにかく移動しましょう。このままでは騒ぎになるわ」
526 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/06(火) 23:51:52.23 ID:hRGOvNdu0
髪を払おうとしたその手は、血でぬらりと濡れていた。
腕を掴んだその腕は、本当に喉を?き切るつもりで突き出されたのだろう。
腕に食い込んだ爪は厚手の冬服を食い破り、肉をそぎ落としていた。そこからはだらだらと赤い血が流れていて。
自覚すると、今更ながらに痛みがこみ上げてくる。どこかで治療も済ませたい。

「ほむらちゃん!……っ。手、血だらけだよ。何があったの?」

「後で説明するわ。今はまずここを離れましょう」

杏子に連れられやってきたまどかが、ほむらの怪我に声を上げる。
でも、と躊躇うまどかを半ば担ぎ上げるようにして店を抜け出した。
騒動になる前には抜け出すことが出来たようだ。
527 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/06(火) 23:52:35.89 ID:hRGOvNdu0
「これで大丈夫だよ、ほむらちゃん」

「ありがとう、鹿目さん。随分手馴れていたわね。よくこういうことをしていたの?」

少女達5人、何故だか身を潜めるようにして雪崩れ込んだ路地裏。
ちょっと窮屈なその場所で、まどかがほむらの手当てをしていた。

「うん、私、学校で保険委員だったから」

「そうだったのね。……鹿目さんには、戦いよりもこっちの方がよく似合ってると思うわ」

「ありがと、ほむらちゃん……てへへ」

一通りの手当ても済んだ、少し離れたところでは、杏子とキリカが睨みあっている。
織莉子が抑えているようだから、一触即発というわけではないが。
如何せん険悪な雰囲気は拭えない。

「杏子、少し落ち着きなさい。今のところはまだ彼女達は敵じゃないわ」

「今は、な。5秒後にはどうなってるかわかんないぜ?」

確かに、とほむらも考える。
あまりにも目の前の少女、キリカは危うい。
何の前触れも無く殺意を顕わに襲い掛かってきたかと思えば
恩人だなんだといって纏わりつこうとする。その、あまりの繋がりの無さがやはり恐ろしい。

ただ、キリカは織莉子という少女に絶対の信頼を置いている。
彼女が戦うつもりでないのなら、そうそうキリカも動かないはず。
そう推察して、今のところは停戦状態を保っている。
528 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/06(火) 23:53:27.88 ID:hRGOvNdu0
「そろそろいいでしょうか、お話しても?」

「ええ、構わないわ」

正直なところを言えば、まどかはこの場にいない方がいいのでは、と思う。
けれどもこの状況下、目を放してしまう方が不安である。
致し方なし。もしこの状況で再び戦闘となれば、最優先するべきはまどかの安全。
そしてその次に敵の殲滅。恐らく杏子は一人でも大丈夫だろう。

心構えは済ませた、後は何が出るか待ち構えるだけ、である。

「まずは自己紹介を、私は美国織莉子」

「私は呉キリカだ。よろしく頼むよ恩人!」

「佐倉杏子。別によろしくしたかないけどな」

「暁美ほむらよ。……それと、その恩人というのやめてもらえるかしら」

どうも落ち着かないのである。

「えと、私……鹿目まどかって言います。その、よろしくお願いしますっ」

最後に、どうにも殺伐とした空気に慣れないまどかが戸惑い気味に言葉を告げて
一応の自己紹介は済んだこととなる。

「それで、貴女方は一体あんなところで何をしていたのです?魔法少女のお仕事か何かかしら?」

「あたしらはただ休暇を楽しんでただけだよ。っつーか、同じ質問をそのまま返してやるぜ」

「それなら私の答えも同じだ。私は織莉子と楽しい楽しい休暇を楽しんでいたんだ。
 なのにまさかこんなことに巻き込まれるだなんてね、やはり愛の前には障害が多いものだよ」

「いや、思いっきり巻き込んだのはお前らだろ。っつーかそういう趣味かよ」

うんざり、げんなり。そんな言葉がとてもよく似合う表情を浮かべて。
杏子が軽く突っ込みを入れる。当の本人たちは意に介した様子もなく。
529 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/06(火) 23:53:57.10 ID:hRGOvNdu0
「ということは、私たちは単に偶然出会って、偶然戦うことになった。そういうことなのでしょうか。
 ……いくらなんでも話が出来すぎてるわ。こんな話を書いた脚本家は、きっと三流ね」

「誰かの意図がある、と考えたいところだけど、流石にそれもありえないわね。
 私たちが今日ここに来たのは、単なる偶然なのだから」

結局、不運なのかそうでないのかよくわからない偶然。
それが引き合わせたあまりよくない出会い。というのが、今回の出来事の概要といったところだろう。

「それで、あなた達はまだ私達を狙っているというの?」

次いで、ほむらは早速本題を切り出した。
もしもまだ彼女達の任務が古い魔法少女の粛清なるものであったとしたら。
今こうして生身で相対しているうちに始末しておくべき相手だろう。
もう一度、あの厄介な狂機を相手にはしたくない。魔法が使えないというのであれば話は別だろうが。
それでも、敵は始末できる時に始末しておくに越したことは無いのだ。

そんな意図も含んだほむらの言葉に、織莉子は軽く俯いて。

「実際のところ、私にもこれからどうなるのかはわからないのです。
 あの時だって、命令に従って貴女方と戦っただけ。そして今のところ、私達に新たに下された命令はない。
 休暇というのも、その間に私達の今後の処遇を決めようということなのでしょうね」

少なくとも、織莉子の方はまともに話が通じるようだ。
それなりに頭も切れるようにも見える。

「それなら今のところ、戦う必要はないということかしら」

「ええ、先ほどはキリカが先走ってしまったみたいで、ごめんなさい」

「すまないね、恩人」

人を殺そうとしておいて、しれっとごめんなさい、である。
美国織莉子、なかなか食わせ物でもあるようだ。
530 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/06(火) 23:54:42.89 ID:hRGOvNdu0
「……そう、ならもうこれ以上話すことは無いわ。行きましょう、杏子、鹿目さん」

これ以上この場にいるべきではない。
ほむらは踵を返してその場を後にする。

「へっ、もう二度と会いたくないもんだな」

杏子も言葉を吐き残して、ほむらの後に続いていく。
そして、まどかは一人。

「……貴女は一緒に行かないのかしら?」

訝しげに尋ねた織莉子に、少しだけ迷ってからまどかは切り出した。

「私、二人に聞きたいことがあるんです」

「何かしら。あまり私に答えられることがあるとは思わないのだけれど」

織莉子もまた、まどかを観察している。
見たところ戦えるようにはまるで見えない、普通の少女のようだ。
そんな少女が何故あの二人と一緒にいたのかというのは、少なからず気にはなる。

「二人は……魔法少女、なんだよね?それで、バイドと戦ってる」

「ああ、その通りさ。キミは違ったのかい?」

「あ……うん。私は魔法少女じゃないんだけど、魔法少女になろうかどうか迷ってて。
 でも、私の戦う理由って何なのかなって考えたら、ぐるぐるしちゃって」

ゲームセンターで皆の戦う姿を見ながら、たとえゲームでもそこで戦っている皆は真剣だった。
自分も同じように真剣になれる何かがあるのだろうか、誰かの為じゃなくて、自分だけの戦う理由。

「迷っているのですね、鹿目さんは。……それで、私達に何が聞きたいのかしら?」

「二人の戦ってる理由を、教えてもらえたら嬉しいなって思うんです。
 もしかしたら、何かの参考にできるかも知れないから」

だから、聞いてみたいと思った。
すでに戦っている人達が何を考え、何のために戦っているのか。
そうすればもしかしたら、自分にも何かがつかめるかもしれない、と。
531 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/06(火) 23:55:26.52 ID:hRGOvNdu0
「私は織莉子のためっ!織莉子が戦うから、私も戦う!私は織莉子のために生き
 織莉子のために戦い、織莉子のために死ぬんだっ!」

臆面もなく、一切の迷いもなく、キリカはそう言い放つ。
そこまで言い切れるのは純粋に凄いとまどかは思う。
けれどもそれでは、まどかの迷いへの答えとはならない。

「そうね、キリカ。貴女はいつも私のために戦ってくれる。私も、貴女のために戦うわ」

「美国さんも……同じ理由なんですか?」

戸惑い気味に尋ねたまどかの言葉に、織莉子は一度目を伏せて。
ほんの僅かに、躊躇った。

「戦えば世界がよくなると思った。誰もが私を見てくれる、認めてくれると思ったわ。
 けれどそんな事はなかった。もがけばもがくほど暗闇へと堕ちていくだけ。
 戦うことを選んだ時点で、未来なんてありはしないわ」

そうまどかに告げる織莉子の瞳には、先ほどまでのどこか冷たい輝きはなく。
思い悩み、揺らぎ続けた歳相応の少女のそれがあった。

突然の言葉に呆然と立ちすくむまどか。
キリカも、織莉子の変化に気付いて不安そうな視線を織莉子に送る。

「だから、戦わなくてもいいという選択肢のある貴女は幸せ者よ。
 それがどれだけ幸せなことか、貴女は知らないだけ。貴女は戦うべきではない」

その言葉を最後に、揺らいだ瞳は冷たい輝きへと変わる。
不安そうに見つめるキリカに微笑んで、その頭を軽く撫でて。

「行きましょうキリカ、まだまだ見たい場所は沢山あるわ」

「っ!あ、ああっ!行くよ、織莉子が行くならどこへでもっ♪」

たったそれだけで、けろりと機嫌を直してキリカは織莉子に付いて歩いていく。
そんな織莉子が、最後に一度だけ振り返って。
532 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/06(火) 23:56:07.78 ID:hRGOvNdu0
「それでももし戦うというのなら、平和だとか未来のために戦うようなことだけはやめておくべきね。
 どこまでも自分のために。そうでなければ自分よりも大切な誰かのために、そうするといいわ」

言葉を残して、後はもうまどかには一瞥もせずに。
二人の少女は路地の奥へと歩いていく。その姿がだんだんと暗がりに消えていく。
それがまるで、二人の未来を暗示しているような気がして、まどかは目を離すことが出来なかった。

「まどかーっ、何やってんだ。早く来いよーっ」

しかし、そんな感傷に浸る間もなく杏子の声が呼ぶ。

「あ、うん。今行くよっ」

声に答えて。最後に暗がりの路地を一瞥して。
まどかは二人の元へと歩き出した。

待ち構えていたのは、どこか固い表情の二人。
どうしたのかと口を開くより前に、ほむらが口火を切った。

「鹿目さん。……キュゥべえから連絡があったわ。マミの治療の準備が出来たそうよ」

とくん、と小さくまどかの鼓動が跳ねた。
533 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/06(火) 23:59:02.60 ID:hRGOvNdu0
>>521
残念ながらそこまで彼らは非効率的ではないようです。
折角手に入れた才能のあるパイロットです
逃げられないように、逆らえないようにしてしまいましょう。
何、ちょっとぷるぷるしてる機体に漬けたりするだけですよ。

>>522
あの二人、特にキリカは徹底的に掻き回すだけの子になっている気がします。
そして織莉子は正気です。それでいて戻れないことももう十分承知しているわけです。

あの二機は多分今後出ることは無いでしょう。
今回出てきたパイロットネームは色々自分の好きな名前を並べただけですので。
534 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/07(水) 01:21:22.78 ID:GgUYkJfDO
おお、二日も連続投下してもらえるなんてありがたいな!

そうですか、遂にマミさんの魂にダイブする時が…、無事に囚われのお姫様を救う事は出来るのか…?

店員さん達…ゲーセンが荒らされなくて良かったな。

しかし自虐ネタなんてものが出て来るとは思わなんだww
535 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/07(水) 01:33:45.97 ID:/A0Af+zN0
精神の中というと、Δ5面みたいに、マミさんの精神の中で戦うことになるのだろうか?
魂の中で、ドンパチされるなんて、X−∞の患者さんもびっくりですね。
536 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/07(水) 21:53:01.71 ID:2BSaJfw40
先の展開が概ね決まってきたので、早く書きたくて仕方がありません。
頭の中で渦巻いてるネタを文章に変えるのは楽しいですね、まだまだ長らく続きます
読者の皆様がたとは長い付き合いとなるやもしれませんね。

では投下します。
537 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/07(水) 21:53:39.17 ID:2BSaJfw40
「ごめん遅れたっ!マミさんはどうなったの!?」

部屋に駆け込んできたさやかは、開口一番そう言った。
空港に停泊しているティー・パーティーの中、そこには既に皆が揃っていた。

「治療はこれからだよ、さやか。キミを待っていたんだ」

ふわりと、白い尻尾を揺らしてキュゥべえが告げる。

「大体の説明はもう済んでいるわ。後はあなたの準備ができればすぐにでも始められる。
 それよりも、あなたの方は大丈夫なの、さやか?」

「家のことは大丈夫、一晩たっぷり話あってきたからさ。まあ、問題はそれだけじゃないんだけど。
 とりあえずそっちは後で考えればよし!今はマミさんを助けるのが先決でしょう!」

未だにまだ考えていた。仁美と恭介のことを。
結局自分ひとりで考えても答えは出ない。まどかに相談してみようかな、なんて考えていたのだ。


「全員集まったようだね」

そしてキュゥべえがどこからとも無く現れる。
この艦のメンバーにとっては、いい加減に見慣れた光景だ。
これで役者は全員揃った。いよいよ眠り姫の救出が始まる。

ティー・パーティーのパイロットルーム、というより戦っている間の体を安置しておく場所。
いくつか並ぶコクピットブロックを模した生命維持装置。その中の一つにマミが眠っている。
魂が自分を死んだと思い込んでいるこの状況、マミの体は刻一刻と死に向かっている。
生命維持装置は必要不可欠であった。
538 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/07(水) 21:54:16.44 ID:2BSaJfw40
「それで、あたしらはどうしたらいいんだっけ?
 どーにかこーにかマミさんの魂を起こせばいいってのはわかったんだけどさ」

「簡単に言ってしまえば、私達が直接マミの精神の中に入って、そこでマミに接触。
 自分が死んではいないということを認識させて、意識を覚醒させる。そういうことらしいわ」

「なるほどね、って。やることはわかったけど、結局どうやってマミさんの精神の中に入るのさ?
 いくらなんでもちょっとやってることがマンガチック過ぎない?これ」

「魔法少女、なんてもんがある時点でお察しだろ。もう何が起ころうと驚きゃしねーぜ」

壁にもたれて、冗談交じりに杏子が笑う。
正直なところ未だに信じ切れていないところはあるが、目の前で事が起こっているなら見届けるしかない。
どっちにせよ、ただの人間の自分には手出しの出来ないもののようだし。
割と蚊帳の外気味な様子である。

「それに関しては手はある。サイバーリンクシステムのちょっとした応用だよ」

「サイバーリンクシステム?」

聞き覚えのない名前。
また何かろくでもないものを開発したのかと、ほむらと杏子は怪訝そうな表情を浮かべた。

「人の精神を直結させ、情報、思考、記憶その他ありとあらゆるもの共有することができるシステムだ。
 開発中のそれを借りてきた。これでマミとキミ達を接続し、マミの精神に進入させる」

「……また、随分トンデモな代物が出てきたもんだぜ。どう見ても危なさそうなんだけどな、それ」

驚かないと言った矢先ではあるが、流石にこれは驚かざるを得ない。
人の精神を直結する、などと。まるで前時代的なSF物にでも出てきそうな話ではないか。
とうとう現実がフィクションに追いついたのか、と気の遠くなるような思いすらしていた。

「危険がないとは言いがたい、今のところ実際に運用されている例は三つだけ。
 それも魔法少女同士でしか運用されていないからね」

ますますもって不安になる。
これでは体のいい実験台ではないのか、とすら思ってしまう。
539 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/07(水) 21:54:43.80 ID:2BSaJfw40
「だが、悪い話ばかりじゃない。魔法少女同士での運用で、今のところ何らかの問題は見られていない。
 それどころか一部のケースでは、戦闘においての運用実績もあるようだね」

とは言うものの、それは先のキリカと織莉子のケースのみ。
結果はサイバーリンクシステムの問題ではなく、ソウルジェムシステムの暴走であったのだから
サイバーリンクに問題があるとは言えない。敢えてそれを話すことも無い。
そういう大事なところはわざわざ包み隠して、キュゥべえは告げる。

「不安って言えば不安だけど、それしかないならやるしかないよね。キュゥべえ、お願い」

「……ここまで来たからには、絶対に救って見せるわ。マミ」

それでも二人の意気込みは十分。これは二人にとっては贖いなのだ。
戦うことを選べなかった罪、そして戦うことを選ばなかった罪。
それが本当に罪なのか、それを問える人間など誰もいない。
だが彼女達がそれを罪だと思い、それに責を感じる以上、それは彼女達の罪。

贖罪の時が――来た。
540 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/07(水) 21:55:18.60 ID:2BSaJfw40
「さやか、ほむら。これからサイバーリンクの接続を開始する。キミ達がマミの精神に突入しだい
 ボクの方で感覚プログラムとサポートプログラムを展開するよ」

サイバーリンクシステムを搭載した生命維持装置の中で、ほむらとさやかが身を横たえている。
マミの精神に突入すれば、その間ほむらとさやかの魂はマミの中に移る。
その間は、それこそソウルジェムを失った状態同様、死んでいるも同じな状況である。
その状態の二人を守る。その為の装置である。

「……任せるわ、キュゥべえ」


「さやかちゃん、ほむらちゃん。……マミさんのこと、お願いね」

キャノピー越しにまどかが声をかける。
やはりここでも、自分は何も出来ない。実際キュゥべえの話している事だってほとんど理解できていない。
何も出来ないのがもどかしくて、でもそれだけでは現実は何も変わらなくて。
悔しくて、でも零れる涙だけは堪えて。必死に呼びかけた。

「任せてよ、まどか。絶対にマミさんを連れて帰るから。……だから、まどかも祈ってて」


「サイバーリンクの構築開始。さやか、ほむら。意識をしっかり持つんだ。飛ばされないように――」

言葉の途中で、さやかとほむらの意識は途切れた。
541 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/07(水) 21:55:57.44 ID:2BSaJfw40
目が覚める。目を開く。
広がっているのはどこまでも暗いだけの空間。
何も無い、誰もいない。何も聞こえない、何も感じない。
絶対の虚空。ここはどこなのか。本当にここが、マミの精神世界だというのか。

感覚など無いはずなのに、ただただ何も無い暗闇は底冷えのする寒さを感じさせる。
身が凍える。否、凍えているのは精神、魂なのかもしれない。
がたがたと震えが全身に広がる。冷たい、寒い。凍り付いてしまいそうだ――。

「接続……確保!感覚プログラム展開、マミの精神領域に突入する――」

途端、世界に光が溢れた。
展開したプログラムによって、マミの精神領域が視覚化される。
そしてその世界に、0と1の狭間に魂を宿し、身体を構成したさやかとほむらが舞い降りた。

「……ここが、マミさんの精神の中?あ、ほむら」

あたりを見回せば、すぐ隣にほむらがいた。

「きっとそんなんでしょうね。あなたも無事に来られたのね、さやか」

長い髪を払って、ほむらもさやかに並び立つ。
私服姿のほむらに対して、なぜかさやかは制服姿。

「格好が違うのは、なぜかしらね」

「恐らくそれはプログラムの都合だ」

疑問を口にした途端、いきなり聞こえてきたキュゥべえの声。
まるで直接頭の中に語りかけられているような感じである。
流石にそれには驚いた。

「うわっ!?きゅ、キュゥべえっ!?え、どこから話してんのさ?」

「プログラムを介して直接キミ達の精神に言葉を送っている。それとさっきの質問の答えだ。
 プログラムはキミ達の魂を解析してもっとも自然な姿を構成した。それがほむらにとってはその格好で
 さやかにとっては制服姿、ということだったんだろうね」

「納得したようなしないような……まあいいや、それであたしらは何をしたらいいの、キュゥべえ?」

「そうだね、本題に入ろう。ここはマミの自我境界面、簡単に言えばマミの精神への入り口みたいなところだ。
 多分近くに扉のようなものがあると思う、それを開けばマミの精神領域に突入できる。探してみてくれ」
542 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/07(水) 21:56:30.66 ID:2BSaJfw40
キュゥべえの言葉に頷いて、さやかとほむらがあたりを見渡す。
あちらこちらに光が見えるその空間、そこに浮んでいるのは、輪。
その輪はなにやら扉のようなもので覆われている。もしやするとこれがそうなのかもしれない。
そしてその巨大な扉のあちこちに、黒ずんだ鎖のようなものが巻きつき絡み付いている。
中心には、これ見よがしに仕掛けられた錠前。

「門……っぽいものはあったよ、でも、鍵がかかってる」

「鍵、か……きっとマミは自分が死んだと思って精神を閉ざしているんだろう。
 何とかこじ開けられるかい?」

「やってみるわ」

ほむらがその輪に近づいて、巻きつく鎖を掴んで引っ張る。
手に伝わるのは冷たい感触、まるで体温を失った身体のようにそれは冷たい。
鎖は、とても解けない。砕けない。やはり見た目通りには硬いようだ。

「ふんにゅ〜っ!」

さやかもなにやら奇声を上げながら、必死に鎖と格闘している。
そこまでやるか、と思わないでもないが、必死になる気持ちもわかる。

「さやか、ここは協力しましょう。キュゥべえ、流石に素手では無理だわ。
 何か道具なりを用意できないかしら?」

「やってみるよ」

僅かな間、そして光と共に現れたものは。
――斧。
小ぶりなハンドアックスである。
543 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/07(水) 21:57:04.40 ID:2BSaJfw40
「は?」

「えっ?」

「いや、確かに使えそうな道具ではあるけどさ。ここってマミさんの精神の中なんだよね?
 そこを斧でがっつんがっつんやるって、大丈夫なの?」

「……やるしか、ないわ」

ほむらは片手に斧を構えて。

「マミさん、ごめん」

さやかも同じく斧をその手に。
そして一気に振り下ろす。ガツン、と固い感触が二人の手に伝わった。



「ぜ……は、はぁっ。お、おかしいんじゃないのこれ。硬すぎでしょっ!?」

疲労困憊、と言った様子でぐったりしているさやか。
辺りには砕けた斧、ぽっきりと折れたサーベル、刃の吹き飛んだチェーンソー。

「……まさか、ゴリアスランチャーでも駄目だなんて」

なぜかあちこち煤まみれなほむら。
周りには薬莢や手榴弾のピン、携帯ロケットランチャーなんかが散らばっている。

いくら何でもやりすぎである。
何より恐ろしいのが、それでもヒビ一つ入っていないその鎖。
最初の内こそ、壊れるのではないかと戦々恐々だった二人だが
どれだけやっても鎖は無傷、だんだんと意地もムキも顔を出し始め、次々に強力な兵器を登場させたというわけである。
もっとも、用意したのは全てキュゥべえなのだが。

「ここまでやって駄目となると、何か破壊以外の方法を考える必要があるんじゃないかしら」

「あたしも賛成、さすがにこれ以上はマミさんに悪いわ」

今更な気がするのは気のせいということにしておく。

「他の方法、といっても。何かいい方法なんてあるかしら?」

「そりゃあ、こういう時は定番で攻めるのが一番じゃない?」

「定番?」

「そ、定番。王子様のキスってわけじゃないけど、熱い願いと叫びで、マミさんの心を開くんだ」

自信満々といった顔でさやかが言ってのけた。
544 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/07(水) 21:57:42.71 ID:2BSaJfw40
「……それはどうかと思うのだけど」

「いいからやるの、他に何もないでしょ、出来ること」

再びさやかが扉の前に立つ。
大きく、大きく息を吸い込んで。

「マミさぁぁぁぁぁぁーーーんっ!!迎えに来たよぉぉぉぉぉーーーっ!!!」

声も限りに、どこまでも響けとばかりに声を張り上げる。
ほむらは呆気にとられたようにそれを見つめるだけだった。

「何やってんのほむら、あんたも言うの。叫ぶの!マミさんに届けるんだよ、あたし達の声」

ほむらに呼びかけ、見つめるさやか。
その声は、その目は必死だった。そこでようやくほむらも理解する。
決してさやかは、おどけてふざけているわけではない。
他にどうすることも出来ないのだ。それでもなんとかしたくて、どうにか助けたくてもがいている。
それが、その気持ちが伝わってきたから。

「マミ……起きて。……起きなさい、マミっ!あなたはまだ死んでない、生きているのよ、マミっ!!」

ほむらも呼びかける。何度も何度も叫び続ける。
仮初の身体のはずなのに、喉が枯れる。声が掠れる。それでも、まだ。
545 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/07(水) 21:58:35.45 ID:2BSaJfw40
「マミ…げほ、ごほっ。マミさん、起きて……起きてよ」

鎖を掴んでがちゃがちゃと鳴らす。必死に叩く。
声は小さくなっていて、いつしか力も萎えてくる。諦めが足元から這い寄って、心を絡め取ろうとする。
身体が重い、力が出ない。それでも諦めずに何度も、何度でも。

「さやか……もう、やめて」

それはあまりにも痛々しい姿。
掠れた声はいつしか涙に変わっていて、縋るように鎖を掴んで扉を叩く。
諦めない。さやかは諦めない。しかしそれでも扉は開かない。
マミは本当に心を閉ざしてしまったのか、それを開かせることはできないのか。

そしていよいよ、鎖を掴んでいることも出来なくなったのか。
するりとさやかの手が離れ、その身体がぐらりと傾いた。

「っ、さやか!」

咄嗟に動いてその身体を受け止めるほむら。
さやかはほむらに身を預けたまま、悔しさに打ち震えて涙を流す。

「………悔しいな。あたし、マミさんを助けられない。何も出来ない。
 マミさん……戻ってきてよ、マミさんっ!」

「一度戻りましょう、さやか。それから何か対策を考えましょう」

対策なんて何も思いつかない。そもそも何をどうすればいいのかもわからない。
それでも今は、これ以上傷つき悲しむさやかを見ていたくない。
まるでこちらまで身を切られたような気分になってしまう。放ってはおけない。

「キュゥべえ、一旦戻るわ。どうすればいい?」

「いいや、まだ。まだ……戻らないよ」

キュゥべえに呼びかけたほむらのその手をさやかが振り払う。
けれども最早立ち上がる力もなくて、そのままその場に崩れ落ちてしまう。

「もう無理よ、さやか。こんなにぼろぼろじゃない。……一旦戻ろう。お願い、さやか。
 これ以上、あなたが傷つくところを見たくないのよ……っ」

立ち上がろうとしても立ち上がれない、そんなさやかに手を貸しながら。

「どうだっていいよ、そんなこと……あたしはマミさんを助けるんだ。
 そのためだったら、あたしの身体なんてどうなったって……」

「っ!!」

さやかの意志はあくまで固い。きっとそれは覆らない。
さやかのそういう性格をほむらもよく知っていた、どうしようもない。
思わずぎり、と歯噛みする。もう手段は選んでいられない。
546 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/07(水) 21:59:04.04 ID:2BSaJfw40
「さやか」

「何?戻るならほむら、一人で戻りなよ。あたしは……マミさんを」

半ば抱き起こすようにしてさやかの身を起こし、ほむらは少し悲しげに。

「ごめん」

さやかの首筋に、鋭く手刀を打ち込んだ。
はたしてこの状況で気絶するのかどうかは不安もあったが、疲労しきったさやかにはそれが止めとなったのか。

「な……っぁ」

信じられないものを見るような目でほむらを見つめて、そのままがくりと倒れ伏した。
その身体を抱きかかえたまま、罪の意識に胸を焼かれるほむら。


「話は済んだかい?撤退の準備は終わったよ」

「……ええ、お願いするわ」

そして二人の身体はさらさら光の粒になって消えていく。
その途中で、ほむらの意識も途切れた。無事に二人の精神は帰還した。
扉は重く冷たい鎖の向こう、今だ以って閉ざされたままであった。
547 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/07(水) 22:04:58.57 ID:2BSaJfw40
精神ダイブ前半戦、といったところです。
それとついでにwikiの方もちょっとだけ加筆しておきました。
あれってどの程度書いていいんでしょうね、各話のあらすじくらいは書いちゃってもいいのでしょうか?

>>534
最初の挑戦は失敗に終わってしまいました。
さやかちゃんは未だにマミさんを救えなかったことを負い目に感じています。
ほむらちゃんも同じでしょうが、さやかちゃんは些か度が過ぎているようです。

>>535
R戦闘機もバイドもいませんが、派手にドンパチやらかしてしまいました。
果たして扉の奥には何がいるのか、多分恐ろしいエイリアンみたいなのはいません。
548 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/07(水) 23:33:30.06 ID:GgUYkJfDO
お疲れ様です!
マミにっき、手強いな…まず扉が開かないとは。マジでどうすりゃ良いんだ?

サイバーリンクはゆまちゃんの伏線だろうか?成功してるみたいだから良いけれども。
549 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/08(木) 00:03:51.14 ID:XCEMR5Ui0
……最後の記憶がラグナロックに乗ったほむらに撃墜されるところだったとしたら、
ほむらがいるせいで心を閉ざしているんじゃないだろうか?
550 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/08(木) 16:52:13.40 ID:Wdz3DbfE0
ついに6話の文章量を突破しそうですがまだまだ終わりません。
どこかで一回区切ったほうがよかったかなぁ。

では、今日は夕方投下です。もうすっかりこの時間は暗いですけどね。
551 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/08(木) 16:52:59.34 ID:Wdz3DbfE0
「さやかちゃん……大丈夫かな」

マミの精神から戻って後、さやかは目を覚まさなかった。
とはいえ、マミのようになったというわけではなく、単に衰弱して寝込んでしまっているだけだったのだが。
ベッドで昏々と眠るさやか。その額にクールパッドを貼り付けて、まどかは心配そうに見つめていた。

「さやかの身体には何の問題もないよ。もしあったらあのままあそこに寝かせていただろうしね」

その隣で同じくさやかを見つめるキュゥべえの姿。

「けれど、心は違う。さやかの心は疲れきっているわ。今は休息が必要よ」

ほむらもまた、少し疲れた表情でさやかを見つめている。
精神領域への突入は、やはり負担が大きかったようで。さやかほどではないが、ほむらも少し顔色が悪い。

「にしても、何がいけなかったんだ?何でマミは目覚めねぇ?何でさやかがこんなになっちまうんだ」

システムに問題があったんじゃないか、とキュゥべえを睨みつける杏子。

「相当気負っていたのよ。さやかが戦う理由の一旦を担っているのがマミだから」

そしてほむら自身もまた、やはりこの罪は重く圧し掛かっている。
何しろマミを最後に手にかけてしまったのは、その精神に止めを刺してしまったのは。
――他ならぬ、ほむら自身なのだから。

「システムに問題が無かったとは言えない。とにかく問題点を改善してみるよ。マミの精神領域に突入する方法もね」

恐らくまださやかは諦めないだろう。
目が覚めればまた、マミを助けに向かうはずだ。
そのたびにまた、こんなにぼろぼろになってしまうのか。
このままではいつか、さやかが壊れてしまいそうで。ほむらはそれが心配でならなかった。

「部屋の中は弄っていないから、そのまま今日は休んでいくといいよ。
 今日のところはこれまでだね、後は明日だ」

そう言い残して、キュゥべえの姿が掻き消えた。
それを見届けてから、ほむらは身体を壁に預けて。

「……私も、今日は休むことにするわ。明日こそ、なんとかマミを救いましょう」

実はかなり体調は厳しかったようだ。壁に手をつきながらほむらは部屋を出て行った。
残されたのは、まどかと杏子。そして眠り続けるさやか。
552 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/08(木) 16:53:56.52 ID:Wdz3DbfE0
「こういうとき、何も出来ないのって……辛いね」

「ああ、そうだな。……なあ、まどか」

「どうしたの?」

「マミって、どんな奴だったんだ?よく考えたら、あたしはそいつのことを全然知らない。
 よかったら話してくれないか?まあ、話しづらいってならいいけどさ」

杏子もまた、何か力になれればと考えていた。
ただ今のままでは、何も出来ることは無い。純粋にマミのことは知りたかったし。
まどかの話相手にくらいはなってやれると思った。

「うん。マミさんはね、私達が初めてバイドに出会ったとき、助けてくれた人なんだ……」

思い出すように、一つ一つマミとの思い出を語っていく。
とはいえ、さほど長い時間を共にしたわけではないのだ。ほんの一日程度、あまりにも短すぎる時間。
それでもその出会いをまどかは忘れない。
忘れないと、覚えていると約束した。恐怖に震えていた時抱きしめてくれた、まどかと、呼んでくれた。
短い思い出を語る間に、ぽろぽろとまどかの瞳からは涙が零れ始めていた。

まだ話したいことが沢山あった。もっとマミのことを知りたかった。
友達になりたかった、仲間になれるかもしれなかった。だから、またマミに会いたい。
そんな思いが胸いっぱいに広がって、涙になって零れだしてしまったのだ。

「ひく、えぐっ……うぅ、ごめんね、杏子ちゃん。私……私っ。マミさんがあんなことになって
 さやかちゃんが、こんなにぼろぼろになるまで頑張ってるのに、私、何も出来ない。何も出来ないよ……っ」

無力さと悲しさと、きっと恐らく寂しさも。沢山の感情が混ぜこぜになってまどかの瞳から溢れてくる。
ぽたりぽたりと、涙がさやかの眠るベッドに染みていく。止まらない、止めようも無い。
553 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/08(木) 16:54:28.58 ID:Wdz3DbfE0
「そんなに気負うこたないと思うんだけどな、あたしは」

杏子は少し冷めたような感じで、軽く鼻を鳴らして言った。

「確かに、マミのことは気の毒だとは思うけどさ、自分が戦わなかったから死んだとか、そこまで気負う必要なんて無い

だろ。
 その分まで戦うとか、そいつを助けるために自分を犠牲にするとか。そこまで背負い込んだってしょうがないだろ」

「杏子ちゃん……。どうして、どうしてそんなこというの?さやかちゃんは、マミさんのために……」

「五月蝿ぇッ!死んじまった奴の為に、生きてる奴が犠牲になるなんておかしいだろ。そんな道理があるかよ」

「違うよ!マミさんはまだ生きてるっ!」

食って掛かって杏子に詰め寄ったまどか、けれども杏子はそれを振り払い。

「違わないね、死んでるようなもんじゃないか!そんなもんの為に、さやかを犠牲になんてしてたまるかよっ!」

何故こんなに怒りが込み上げてくるのだろう。
激昂する頭の片隅で杏子は考える。きっとそれは失望なのだろう。
自分に生きる道を示してくれた、死にたがりから救い上げてくれたさやかが。
結局はマミの為に、その跡を継ぐために生きているようなもので。その為に命すら投げ出そうとしている。
それがきっとこの怒りの原因で、裏切られたような気分なのだ。

それをまどかにぶつけたところでどうにもならないことはわかっていた。
だからこそ、これ以上ここにいるべきではない。
無言で立ち上がり、部屋の扉を開けて。去り際に。

「もしもさやかが、本当にマミの為に死んじまうかも知れなくなったら
 ……その時は、あたしが止めてやる。絶対に」

言葉だけを残して、杏子は部屋を後にした。
一人残されて、まどかは。

「どうしたらいいの、私……私、わからないよ……」

そして静かに時は過ぎ、日は暮れ夜も更けていく。
それぞれの思惑と、渦巻く不安を抱えたまま。
554 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/08(木) 16:55:17.95 ID:Wdz3DbfE0
次の日も、そして次の日も、さやかとほむらはマミの救出に向かう。
その度にさやかは立ち上がれなくなるほどに衰弱し、ほむらの表情にも疲労の色が濃くなっていった。
それでも未だマミは帰らない。諦めそうになる心を必死に奮い立たせていた。

杏子はそんな二人とマミを、苦々しく見つめ続けていた。
自分には何もできないという歯がゆさ、心の奥で燻り続ける失望。
それに駆られてしまわないように、自分を抑えるので必死になっていた。

そしてさらにその翌日の朝、ついにさやかは目を覚まさなかった。
あまりの疲労が祟ったのだろう。とにかく今日一日は、安静にしておくより他なかった。
ほむらも疲労が強く、今日の突入は見送られることとなった。


そしてその日の昼過ぎに、杏子は自分の部屋を出た。
さやかとほむら、それぞれの部屋を眺めて。そこで眠る二人に思いを馳せて。
痛みを堪えるように顔を歪めて、ぎゅっと胸元を手で押さえた。
やがて、何か意を決したように歩き始める。

まどかは、それを影から見つめていた。
否、最初の日からずっと杏子のことを見つめていたのだ。
別れ際の杏子の言葉が気になっていたから。あれはまるで、さやかを救うためにマミを殺す。
そんな風にも聞こえてしまっていたから。

杏子の歩みは、マミの眠るパイロットルームの前で止まった。
扉の前のパネルに触れて、扉を開けてその中へ。
一つだけ、今も煌々と明かりの灯された生命維持装置。
その中で眠るマミ。傍から見れば眠っているようにしか見えないその姿をじっと見つめて。

そして、そのキャノピーに手をかけた。
555 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/08(木) 16:55:52.79 ID:Wdz3DbfE0
「……なあ、マミ。いい加減起きろよ。さやかもほむらも、あんなにお前を助けようとしてるんだぞ」

床にぺたんと腰を落として、眠るマミと目線を合わせて呟く。

「特にさやかなんてさ、すごいんだぜ?死んでもあんたを助ける、ってさ」

マミは静かに目を伏せたまま、何も答えはしない。

「あんたに助けられた命だから、あんたを助けられなかった自分だから。だから今度は助けるんだ、って」

独白のような、杏子の言葉が静かに響く。

「笑っちゃうよな、折角助けてもらった命を、わざわざ投げ捨てようってんだぜ?」

乾いた笑い、苦しげな声。

「あたしにはどうすることもできない。あいつを止められない、助けてやることもできないんだ」

その肩を、静かに震わせて。

「それができるとしたら、多分あんただ。マミ」

縋るような、頼るような声で。

「なあ、だから頼むよ。マミ。もう一度あいつを……さやかを助けてくれよ、なぁ」

声は空しく吸い込まれていって、返る言葉は何もない。
静かで、ただ空虚で。その沈黙に耐えかねたように杏子は、一つ大きく吐息を漏らして。
おもむろに立ち上がると、足音を殺して壁に寄る、そして壁のパネルに触れた。
556 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/08(木) 16:56:36.79 ID:Wdz3DbfE0
「きゃっ!?」

扉が開くと、それまで扉に寄りかかっていたまどかが支えを失って
部屋の中へと転がり込んできた。

「盗み聞きとは感心しないね」

怒っているような表情で、まどかを見下ろしそういう杏子。
すっかり萎縮してしまって、まどかは小さく震えて。

「ご、ごめん……でも、気になっちゃって」

「あたしが、マミを殺すとでも思ったのか?」

杏子の声は、あくまで冷たい。
自分の思いを言い当てられて、まどかはどきりとしたように目を見開いて。
そんな様子に、さらに杏子の表情は険しくなる。

「だって……あんなこと言うから、私、心配で心配で。さやかちゃんはどんどん弱っているし。
 ほむらちゃんだって、ちゃんと話せるような状態じゃないし……なのに杏子ちゃんがあんなことを言って。
 私、不安で不安で……どうしようもなくなっちゃって」

またしても涙が零れてくる。堪えようとして、両手で顔を覆おうとした。
その刹那、杏子の手が伸びて、まどかの服の襟首を掴んで無理やり引き寄せた。

「いつまでも泣いてんじゃねぇ。それに、それは最後の手段だ。
 どうしようもなくなって、さやかが死ぬかもしれなくなった時の、本当に最後の最後の手段だ」

間近でまどかの顔を睨みつけながら、吐き捨てるように杏子が言う。
まどかの考えを否定はしない。それでも誰が好き好んで仲間になるかも知れない相手を手にかけるものか。
覚悟はしておく必要がある、でもその時は今じゃない。

「どんだけ泣いてたって、無力さに打ちひしがれてたって何も解決しちゃくれないんだ!
 考えろよ!あたしが、あんたがッ。マミやさやかに何をしてやれるか、どうしたら助けられるかをさ!!」
557 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/08(木) 16:57:10.47 ID:Wdz3DbfE0
少し感情的になりすぎてしまったと我に返る。
ぎりぎりと襟首を締め上げていた手を離すと、まどかはそのままふらふらと後ろに下がって
そのまま壁に背を預け、糸が切れた人形のように床にへたり込んだ。
感情をぶつけて、今更ながらに冷静さが戻ってきた。考えてみれば相手はただの女の子だ。
すこし、きつく当たりすぎたかもしれない。

「……悪い。あたしもちょっとカリカリしすぎてたよ。……ごめん」

これ以上ここにいるべきではない。少し散歩でもしてくるか、と部屋を後にしようとした。
そんな杏子の背中に、まどかのか細い声が突き刺さる。

「考えてる……考えてるよっ。でも、何も思いつかないよ……っ。
 マミさんを、さやかちゃんを助けられるようなこと、何も出来ないよぉ……う、くっ」

その言葉が、嗚咽が。またしても杏子の胸をざわめかせる。
やはりこれ以上、話を続けるべきじゃない。杏子は足早に部屋を飛び出した。

そして再び、まどかは一人取り残されて。
558 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/08(木) 17:00:38.99 ID:Wdz3DbfE0
>>548
そしてとうとうまどかと杏子の間も拗れてしまいました。
やっぱりこれ全然休まりません、休暇じゃないです。

ゆまちゃんの話はこのお話が終わった後にまた語りたいと思っております。

>>549
バイドに意識を汚染されると、仲間なのに攻撃してきた>じゃあ敵だ、殺ろう。
というふうに即座に思考が切り替わっちゃうようです。非常に恐ろしいですね。
マミさんがどうなのかはわかりませんが。
559 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/08(木) 21:17:09.23 ID:kcuCIr+DO
乙ですぜっ!
ふむ。扉は1つしかないのか?実は他にあったりとか?なければ…そうだな、押しても引いても武力でも言葉でもダメな頑なに開かない扉なら…温故知新、古来よりの神話にならって、2人だけのドンチャン騒ぎしかないな!極上の食べ物と酒と娯楽をたっぷりと用意しろ、QB!

ハッ!?まさか…表だと思っていたのは裏でした〜♪なんてオチじゃないよね?ね?
560 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/08(木) 21:21:45.59 ID:Df8xh7b+o
その扉は実はただの壁で扉の一部だけ開くようになってあったり
561 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/09(金) 00:40:28.25 ID:iUWmgDNi0
果たして今置くかどうか迷うところではありますが
書きあがったものはしかたがありません、ゆまちゃんの幕間の続きを投下させていただきます。
タイトルは【狂詩曲・序曲】
562 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/09(金) 00:41:39.46 ID:iUWmgDNi0
いつもと同じように今日のおしごとが終わって、後はエバと一緒に帰るだけ。
でも今日はなんだかいつもとちょっと違う。エバと一緒に
いつもは行かないような、基地の奥まで行くことになったんだ。

「ゆま、見てごらん。これが次にキミが乗る機体だよ」

エバがそう言って見せてくれたのは、黒くて赤くて、ぴかぴかしているR戦闘機。
ちょっと怖いかなって気もするけど、こんなカッコイイのに乗れるんだって思ったら
なんだか、すっごくわくわくしてきちゃった。

「わぁ……カッコイイ!ねえねえエバっ!これってなんていう名前なの!?」

「できたばかりだからね、まだ名前はないんだ。キミがこれに乗るようになる頃には
 きっと名前もついていることだろうとは思うけどね」

「そうなんだ。楽しみ。早く乗りたいなーっ」

「もうすぐ完成するはずさ。そうしたらきっと乗れるよ。
 今日はゆまにこれを見せたかったんだ。さあ、それじゃあ戻ろうか」

「うんっ!」

エバと手をつないで、いっしょに家に帰るんだ。
帰って一緒にご飯を食べて、お風呂に入ってぐっすり眠って。
明日も楽しい日になるといいな。

「おやすみ、エバ」

「ああ、おやすみ、ゆま」
563 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/09(金) 00:42:35.20 ID:iUWmgDNi0
「やあ、エバンス君。お姫様はもうおねむかね?」

「ええ、ぐっすりと眠っていますよ」

「それは結構。私はどうもあの子には嫌われているようだからね。
 では本題だ。彼女、千歳ゆまが残したここ数ヶ月のデータを精査した結果
 やはり彼女を、次世代機のテストパイロットに据えることが決定したよ」

「そうですか。ああ、そういえば今日はゆまにR-13を見せたのですよ。
 えらく喜んでいました。この分なら、テストパイロットの件も問題なくこなすでしょう」

「それは結構、マイナーチェンジや航空機の出来損ないを弄り回している連中に見せ付けてやろうじゃないか。
 我々が生み出した新技術。その結晶たるR-13の力をね」

「引き続きこのプロジェクトは君に任せる。是非とも成功させてくれたまえ」

「ええ、お任せください」
564 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/09(金) 00:43:22.93 ID:iUWmgDNi0
――天文台――

「これは……」

「どうした、何か見つけたのか?」

「はい、大気圏に突入する隕石群の中に、形を変えることなく落下する物体が確認されました」

「何だとっ!?落下する物体の解析及び落下予測ポイントの推定、急げっ!」

「は、はいっ!!」


――宇宙――

「こちらメリダ14、こちらメリダ14!アイギス駐留部隊応答せよ!
 アイギス駐留部隊っ!応答せよっ!!」

「駄目です、アイギスは依然としてこちらのアクセスを受け付けませんっ!」

「駐留部隊とも交信が途絶……一体何があったというんだ」

「あ……アイギス内部より、地球に向けて降下する物体を確認!これは……」

――地球――

「どうなってんだ!?いきなり兵器が暴走を……ぐあぁっ!」

「電子制御兵器が、何者かによってジャックされた模様!
 その規模は、地球上のほぼすべての都市に及んでいますっ!」

「一体どこの誰だこんなことをしやがったのは!
 R部隊に出動を要請しろっ!現地の武装警察とも協力して、このバカ騒ぎを鎮圧するんだ!」

「っ!大気圏外より飛来する物体を確認!」

「この上更にまだ何かあるってのか!一体なんだっ!?」

「監視衛星からの映像が来ました。これは……投下型局地殲滅ユニット、モリッツGです」

「なん……だと……」
565 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/09(金) 00:44:41.88 ID:iUWmgDNi0
「ふぁぁ……あれ、何だろうこの音」

なんだかとってもうるさい音で、ねむかったのに目がさめちゃった。
音もうるさいけど、外もなんだかいそがしそう。どうしたのかな。

「ゆま、ああ。もう起きていたのかい?」

エバも、なんだかすごく大変そうな顔をしてた。

「今起きたんだよ。だってこんなにうるさいんだもん。おはよう、エバ」

「ああ、おはようゆま。……ゆま、早速だけど急なお仕事が入ったんだ。
 今すぐ着替えて、基地に行くよ」

「え〜、でも今日は学校だよ。ユウリちゃんと一緒に学校に行くって約束が」

「そんなことはどうだっていい!今は重要なことじゃないっ!!」

エバの怒った顔。今まで見たことなんてない。
すごく怖い。ゆま、何かいけないことしちゃったのかな。
だからみんな、こんなにいそがしそうにしてるのかな。

「ひっ……え、エバ?」

「っ……ぁ、すまない、ゆま。とにかく緊急事態なんだ。
 とにかくすぐに出撃だ、準備をしておくんだよ、ゆま」

そして、エバは行っちゃった。

「うん……わかった、エバ」

エバはまだ何か怒ってるみたい。
怖くて、なんだかいやな感じがする。
今日は何だか、お仕事に行きたくないな。
でも、行かなかったらエバ、もっと怒るよね。きっと。
566 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/09(金) 00:45:47.92 ID:iUWmgDNi0
パイロットスーツにきがえて、いつものように基地に行ったんだ。
そしたら、そこには今まで見たことがないくらい沢山の人がいた。
みんなとってもいそがしそうで、この中に入っていってもいいのかなってちょっと怖くなった。
でも、ゆまだっておしごとなんだから。行かなくちゃ。

「ゆまちゃんが来たよ、あんたら、準備はできてるかいっ!」

ゆまを迎えてくれたのは、せいびはんちょうのクレータさん。
R戦闘機のことを色々教えてくれたり、ゆまがこわしちゃったおもちゃを直してくれたりした。
女の人なのにせいびはんちょうになるなんて、すごい人だってみんなも言ってる。
とってもやさしい人なんだよ。でも今日はなんだか、ちょっと怖い顔をしてる。

「おはようございます、クレータさん」

いつもみたいに、クレータさんに挨拶したんだ。
いっしょに働いている人たちにも、ぺこって大きくおじぎしたんだ。
そうしたら、なぜかクレータさんは泣きそうな顔をしてるの。

「どうしたのクレータさん?どこか痛いの?」

「いいや違う、違うんだよゆまちゃん……っ。なんでも、ないよ。
 さあ、機体の仕上げは済ませておいたからね、あれに乗るんだよ、ゆまちゃん」

クレータさんの声はふるえてた。本当に泣いてるのかな。
だからゆまは、そんなクレータさんを元気付けてあげたいなって思って。

「うん、ありがとクレータさん。ゆま、がんばるからねっ!」

だから、めいっぱい元気にそう言って、ぎゅってクレータさんに飛びついたんだ。
クレータさんは、優しく頭を撫でてくれた。

「頑張るんだよ。あたしらは最高の機体を仕上げたからさ。絶対に負けるんじゃないよ」

そうだ、思い出した。
今日からゆまの乗るR戦闘機は、あの黒くて赤いカッコイイのなんだ。
思い出したらうきうきしてきちゃった。
新しい服を買ってもらった時みたい。早く乗ってみたいな。

「行ってくるね!クレータさん、みんなっ!」
567 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/09(金) 00:46:25.08 ID:iUWmgDNi0
みんなに大きく手を振って、ゆまはカッコイイ機体に向かって走ったんだ。
近くで見ると、やっぱりちょっと怖いけど、それでもやっぱり格好よくて。
早速乗り込んで見ると、中は今まで乗ってたアロー・ヘッドとそんなに変わらなかった。

さいばー・こねくたっていうのが使われているから、ゆまみたいな子供でも
こんなすごい機械を動かせるんだって、クレータさんは教えてくれた。
やっぱりこの戦闘機にも、さいばー・こねくたってのがついてるのかな。

「おはよう、ゆまちゃん。準備はできてるかな?」

「あ、ココさんっ!おはようっ。ゆまはいつでも準備おーけーだよっ」

ココさん。オペレーターっていうおしごとをしてる人。
ゆまや他の人たちが宇宙に出ているとき、どうしたらいいのかを教えてくれる人。
初めてこの基地に来たとき、迷子になっていたゆまを案内してくれたりもしたんだ。
ココさんも、いつもとってもやさしくしてくれた。
だからココさんの声が聞こえてきて、ココさんの声はいつもどおりだったからちょっとほっとした。

「ふふ、そう。ゆまちゃんはいつも元気ね。……ゆまちゃん、よく聞いてね」

でも、そんなココさんの声もなんだかちょっと低くなっちゃった。
やっぱり、何かあるのかな。

「今日これからゆまちゃんにしてもらうのは、今まで見たいな訓練じゃないの。
 バイドとの実戦になるわ」

「えっ……実戦?それにバイドって、あの悪い生き物のことだよね」

「ええ、そうよ。バイドがついに地球に攻めてきたの。だからゆまちゃんには
 これから他の部隊と一緒に、バイドと戦ってもらいます」

ちょっと怖い。でも、みんなと一緒だし、新しいぴかぴかの機体だってある。
バイドのことだって、怖かったしいやだったけど、いままで沢山勉強してきたんだ。
大丈夫、きっと戦えるよ。

「きっとつらい戦いになると思うわ。ゆまちゃん、頑張れるかな」

「うん、もちろん頑張るよ!だからココさん、案内おねがいしますっ」

「っ……ええ、まかせて。ゆまちゃん。さあ、もうすぐ発進よ。
 まずはこのまま地球に降下して、暴走した兵器の鎮圧を行ってもらうわね」

「わかったよ!ゆまに任せてっ!」
568 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/09(金) 00:47:49.45 ID:iUWmgDNi0
「ゆま、聞こえているかい?」

次に聞こえてきたのはエバの声。
前と同じ優しい声だ、よかった。

「聞こえてるよ、エバ」

「そうか、こんな時に急だけれど、その機体の名前が決まったよ」

「本当に!?よかった、このままだったら名無しさん、って言わなくちゃいけなかったもん」

「本当だ、その機体の名前はR-13、ケルベロスだ」

「けるべろす?」

聞いたことない名前。でもなんだか強そう。

「とっても大きくて、とっても強い犬の名前さ」

「えー、ゆま、猫がよかったなー」

だって、猫の方が好きなんだもん。

「じゃあ、帰ってきたら今度は猫の名前をつけた機体を作ってみようかな。
 ……ゆま、しっかりやるんだよ」

「……うん、行ってくるね。エバ」

だんだん胸がドキドキしてきた。
本当にバイドと戦うなんて、うまくやれるかな。
負けたら死んじゃうのかな。

「ケルベロス、発進してください!」

考えるひまなんてなかった。ココさんの声だ。
ぎゅっとそうじゅうかんを握って、発進の用意をした。

「ケルベロス、千歳ゆまっ!出ますっ!!」

そしてケルベロスに乗って、ゆまは基地を飛び出したんだ。
ぐん、って体が押し付けられるような感じ。もう慣れたけど、いつもよりちょっと強いかも。
目の前には丸くて青くて、きれいな地球。
こんなきれいな地球をこわそうとするなんて、やっぱりバイドは悪い生き物なんだ。
退治しなくちゃ。ケルベロスを地球に向けて、一気に基地を飛び出した。
569 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/09(金) 00:51:21.56 ID:iUWmgDNi0
以上でございまする。今は特にこれ以上は語らずに参りましょうか。

>>559
果たして扉は開くのか、マミさんは返ってくるのか。
次の投下あたりで恐らく目処がつくのではないかと思います。岩戸作戦は恐らく既に実行済みです。
さやかちゃんが一晩でやってくれました。

あの扉には、輪にはちゃんとネタも用意してあります。
どうぞ楽しみに待っていてください。

>>560
実は引き戸だったり、と。
まあ鎖でがんじがらめなのでそれでもどうにもならないわけではありますが。
570 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/09(金) 01:05:21.05 ID:YYHYQhilo
やっぱりゆまちゃんはこうなる運命だったのか・・・
それはそうと何気にユウリ様の名前がある辺りそこら辺も出すつもりなのか
571 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/09(金) 01:19:44.30 ID:nNqndUoGo
キボウフラグェ……

あと扉って外のものを中に入れないだけじゃなくて
中のものを外に出さない役目もあるよね、とか考えたり
572 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/09(金) 02:05:51.51 ID:oJikAF+so
展開の予想ってのは思いつくと書かずにいられないもんなんですかね
573 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/09(金) 02:38:39.02 ID:QHgofmEAO
おつー

とんだ所で護身完成ってか……を思い出してちょっとだけ笑った

それかパロディウスのでっかいねーちゃん
574 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/09(金) 06:04:19.18 ID:3MgJe48DO
連投、乙…!!

まだ、悲惨な結末と決まった訳ではないけど。ゆまちゃん…こんなに、ごんな゙に愛ざれでるの゙に゙…グズゥッッ!;;
575 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/09(金) 08:26:42.87 ID:dtItoHWl0
ソウルジェムが汚染に強いなら、まだ救出の可能性は……
576 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/09(金) 15:51:59.74 ID:iUWmgDNi0
一週間おわったー、お昼投下です。
577 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/09(金) 15:52:33.48 ID:iUWmgDNi0
「どうしたんだい、まどか」

さやかもほむらも、昏々と眠り続けている。
ご飯くらいは食べて欲しいものだ、と食事の用意だけは済ませて部屋においてあった。
そうして夜が更けていく。日付も変わろうかというころ、静まりかえった艦内で
まどかは、キュゥべえを呼び出していた。

キュゥべえは、相変わらず感情の見えない瞳でまどかを見つめている。
本当にその瞳には感情がないのだろうか。バイドに対する憎悪はあると言っていたけれど。
本当にそれだけなのか、と。

「あのね、キュゥべえ。私……ずっと考えてたんだ。二人の為に何ができるかって」

まどかは胸元に手を寄せて、静かに語り始める。
キュゥべえはその言葉に耳を傾けて、静かにその耳を揺らした。

「それで、キミはどうすることにしたんだい、まどか?」

言葉を返そうとしても、その口から出てきたのは掠れた言葉だけ。
言葉を出すのが、決断をするのが恐ろしくて。身体が小さく震えてしまう。
指を折り、それをぎゅっと噛み締めて。無理やり震えを押さえつけて。

「……私にも、できないかな。マミさんを助けに行くこと。さやかちゃんや、ほむらちゃんみたいに」

考えて、考えて考えて。今自分に出来ること。
マミを助ける。この手で、自分の力で。できるかどうかなんてわからない。
それでもやりたい、助けたいと思った。きっとそれが、今自分にできるせめてものことだから。
578 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/09(金) 15:53:04.18 ID:iUWmgDNi0
そんなまどかの言葉を受け止めて、意外そうにキュゥべえは目を見開いて。
それからすぐに、どこか笑みのような表情を浮かべて。

「まさか、キミまで杏子と同じようなことを言うなんてね」

面白そうに、そう言った。

「え……杏子ちゃん、が?」

驚く間もなく、その声は飛び込んできた。

「まあ、そういうこった。あいつらで駄目なもんがあたしにどうにかなるとも思えないけどさ」

パイロットルームから出てきた杏子が、少しだけ疲れた表情で話す。

「それでも、あいつらが苦労してるってなら少し位はあたしが代わりに受け持ってやる。
 そうすりゃ、死ぬようなことにはならないかもしれない。……自己満足かもしれないけどな」

と、照れ隠しのように髪を弄りながら言う。

「杏子に頼まれてね、今普通の人間でも接続できるように、サイバーリンクシステムを改良していたんだ。
 とは言え前例があるわけじゃない。危険なことではあると思う。それでもやるかい、まどか?」

危険なんて百も承知。わかっていたって怖いものは怖い。
けれど、それで足を竦ませ震え、立ち止まっていい時じゃない。今だけは。

「……私、やるよ。マミさんを助けに行く。怖いけど頑張るから」

「一人で気負うんじゃねぇっての、あたしも一緒に行くよ。強情な眠り姫を叩き起こしに、ね」

まどかの肩に杏子が触れる。片目を軽くぱちりと伏せて。
杏子も考えていたのだ。考えて考えて考え抜いて、同じ答えに辿り着いた。
仲間が戦っている。自分だけ蚊帳の外で、無関係でいられるはずがなかった。
579 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/09(金) 15:53:41.32 ID:iUWmgDNi0
「準備は済んだよ、まどか、杏子」

キュゥべえが二人に告げる。
まどかも杏子も、一度お互いの顔を見遣って。
それから一度、力強く頷いた。

「じゃあ行くぜ、まどか」

「うん、行こう。杏子ちゃん」

少女が二人、並び立つ。そしてパイロットルームへと入っていく。
そこで未だその身を横たえ、眠り続けるマミを見据えて。
二人も同じく、装置の中に身を委ねた。

「二人とも、よく聞いてくれ。魂をソウルジェムに移した魔法少女と異なり
 キミ達の魂は肉体と密接に結びついている。もしキミ達の魂に何らかの損傷が生じた場合
 それはそのまま、キミ達の身体にも与えられることになるだろう」

「そういうの、入る前に言ってくれないもんかね」

いまさら決意は変わらない。けれどもその恐ろしさは理解できる。
ソウルジェムを持つ魔法少女でさえ、あれだけボロボロになって戻ってくるのだ。
それと同じようになってしまうと考えると、これはかなり深刻なことだ。

「聞かれなかったからね。とはいえ注意はしてもらわなくちゃいけない。
 ボクだって無駄にキミ達を死なせたくはないからね」

「わかったよ、キュゥべえ。気をつけて行ってくるね」

「ま、精々サポート頼むぜ」

「任せておいてくれ。それじゃあ突入を開始するよ。深く深呼吸して
 意識をしっかり保つようにするんだ、ちゃんとマミの中に入っていけるようにね」

そして装置は稼働した。
若干の不安と、恐ろしさも乗せたまま。
マミを救うため、二人の意識がマミの精神世界へと送り込まれるのだった。
580 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/09(金) 15:54:21.34 ID:iUWmgDNi0
「で、もって。ここがマミの精神世界……ってわけか。なんだか殺風景なところだな」

そして今、まどかと杏子の二人が精神世界で並び立つ。
さやかとほむらが見た景色。それと同じ景色の中に。

「そして、あれが扉なんだね。本当にがっちり閉じちゃってる」

まどかはふわりと浮いた輪を見つめて言う。
相変わらず黒い鎖が絡みついて、その戸は一向に開きはしない。

「まずは一通り試してみるか。おいキュゥべえ。何か武器を寄越しなー」

声に応えて現れたのは、一振りの突撃槍。
大振りの刃は、その平面部の中央にギザ状のラインが刻み込まれ
その刃の後部には真っ赤な飾り布。随分と凝ったデザインである。

「なんだこりゃあ、また随分と派手なものを造ったじゃないか」

「キミのデータと合わせた結果、この武器がキミには適しているということらしいよ。
 持ち主の意思に応じてエネルギー化する飾り布だとか、心臓の変わりにはならないから気をつけるんだ」

「何言ってんだよ、お前」

「そういう風な説明が書いてあるんだよ」

そんなキュゥべえの説明に、納得したようなしないような、そんな曖昧な声で答えて。
杏子はその突撃槍を手に取った。重さはそれほどでもない、割と手にはしっくりとくる。
ぶん、と一度槍を軽く振って感触を確かめて、それからその柄の部分を肩にかけ。

「まあ、いいか。でもそんなもん振り回して、マミがどうなっても知らないよ?」

「リスクは承知の上だ、どの道あの扉が開けられなければ同じことだからね」

それもそうだ、と納得したように杏子は槍を構える。

「それじゃあ、まずは一発あの扉にかましてやるとするかっ」

勢い込んで、槍を構えて扉に向かう。
ごとり、と重いものが落ちるような音がした。
581 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/09(金) 15:54:54.91 ID:iUWmgDNi0
「え……っ?」

「な……っ!?」

落ちたのは、扉に絡まる鎖を繋いでいた、錠前。
重い音を立てて、落ちたそれは、床に当たるとそのまま砕け散った。

「え……なんで、どうしてこんな……」

扉の前に立つまどか。予想だにしない出来事に困惑している。
そうしている間にも、錠前がなくなったことで緩んだ鎖が解けて落ちていく。
そして、落ちた側から砕け散っていく。

「まどか……お前、何やらかしやがった!?」

驚いて詰め寄った杏子。けれどもまどかはもっと驚いた顔をして。

「わ、わかんない……私、ちょっと扉に触ってみただけで、何もしてないのに……」

「あんだけさやかとほむらが色々やって、全然開かなかったんだぜ?
 それがなんでこんな簡単に……訳わかんねぇ」

呆れたように、お手上げだといった風に首を振る杏子。
けれども扉を縛る鎖は、全て解けて砕け散った。もはや扉を塞ぐものは何もない。

「理由は分からないけど、まあ好都合だな。このままマミを助けに行くぞっ!」

「……うんっ!」

まどかと杏子が、それぞれ左右の扉に手をかけて。
ぎしぎしと軋むような音を立てながら、ゆっくりとその大きな扉が押し開かれていく。
限界まで押し開かれた扉は、そのまま溶けるように消えていく。

その、刹那。殺風景な景色は一変した。
いつ変わったのか知覚することもできない。むしろはじめからこうだったのではないか
そんな錯覚すら抱いてしまう。
そこはおそらくその輪の中。輪切りにされた巨大な円筒の内側のような場所。
足元は、まるで上質の布のようにすべすべとした黄色い何かでできていた。
582 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/09(金) 15:58:47.84 ID:iUWmgDNi0
そしてその円筒の奥、渦巻くように回る何から、光の粒子が降り注ぐ。
幻想的で、状況が状況でなければ見入ってしまうほどに美しい。
そんな幻想的な光の雪舞う円環の中、その中心たる中空に。

マミの姿が、まるで胎児か何かのような格好で。膝を抱えて漂っていた。

「マミさんっ!……よかった、やっと見つけた」

感極まって、まどかの声が震える。

「後はあそこから引きずり下ろして、叩き起こしてやるだけだな」

今ひとつ釈然としないが、それでも助けられるのなら言うことはない。
杏子も僅かに表情を緩めて、マミを見つめた。

「ああ、何とかマミのところへ行けるようにするから、後はキミ達が直接マミと接触して……っ!?
 この反応、これは……まずい、二人ともすぐに離れるんだっ!」

キュゥべえの警告と同時に、美しく輝く黄色の円環。その端から何かが染み出してきた。
それは白い色をしたスライムのような、何か。
それは円環のあちこちから染み出して、そのまま円環の中央へと向かう。

呆気に取られ、動けずにいる二人の目の前で。
それはマミの身体を取り込んで、一つの繭のような形状をとった。

「何が……どうなってやがる」

「バイドの精神汚染だ。マミは、汚染を受けなかったわけじゃなかったんだ。
 マミの閉じた精神が開かれるまで、自分の手が届くようになるまで、バイドは待っていたんだ。
 マミの精神の中で、ずっとね」

絶望的な事実がキュゥべえの口から告げられる。
中空で蠢いていた繭は、ぼたりと円環に落ちた。そしてその場所から円環の色が変わっていく。
鮮やかな黄色は、透き通るような白へと、そしてその表面がざわめきだした。
583 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/09(金) 16:00:29.29 ID:iUWmgDNi0
「すぐに離脱するんだ、まどか、杏子。キミ達までバイドに汚染されてしまう」

「……ここまで来て、逃げろってか?ざけんなっ!あいつをぶっ潰して、マミを取り返す!」

槍を構えて、うぞうぞと蠢く繭へと向き直る杏子。

「いくらなんでも無謀すぎる、生身でバイドに立ち向かうようなものだよ、それじゃあ」

「ならさっさと、武器なりR戦闘機なりを持って来いっての。そうすりゃバイド相手だって戦えるだろ」

ざわめき、蠢く円環の表面、そこに何か文字のような模様が浮かび上がってくる。

「……ダメだ、バイドがシステムに干渉してる。こちらからのサポートが届かない。
 すぐ……を……離れ………脱を…………」

聞こえる声も途切れ途切れになってきた。

「キュゥべえ!おい、キュゥべえっ!?」

「まず……バイド………妨害を………………」

そして、声は完全に途切れてしまった。

「どうしちゃったの……まさか、キュゥべえも」

震えて、萎えそうになる足を必死に支えてまどかが言う。

「多分、通信妨害とかその辺だろう。……まどか、覚悟決めろ。
 こうなりゃ、あたしらであいつを倒して、マミを助け出すぞっ!」

蠢く繭の中には、まだ眠るマミの姿が透けて見えている。
まだ助けられる、まだ間に合うはずだ。
まどかも、大きく頭を振って恐れや竦みを追い出した。

「うん!私も……マミさんを助けるんだ、絶対に!」

それは円環を這い回るもの。それは異変と忘却の主。
波打つようにして、円環に刻まれたその文字は。
584 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/09(金) 16:01:30.81 ID:iUWmgDNi0











――NOMEMAYER――











585 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/09(金) 16:12:58.50 ID:iUWmgDNi0
以上となります。こういう場面になるとやはり割と筆が乗りますね。
なぜ扉が開いたのか、敢えてわかりづらく説明すると
あの扉はマミさんがロイスを結んでいる相手でなければ開けられなかったわけです(ダブルクロス話
まあ、それだけではないかもしれませんが。


>>570
はたしてゆまちゃんがどうなるのか、ゆまちゃんの幕間話は後1話残っております。

そしてユウリ様。こっちも単行本で追ってはいるのですが、出るかどうかは未知数かな、と。
カメオ出演みたいなものになるかもしれません。

>>571
フラグはしっかり立てる派です、私は。

そして開いた扉の中からは餃子が出てきました。

>>572
私としても色々考えさせられちゃうので、それなりにいいかなぁと思ってます。
もちろん、あんまり雑談とかが過ぎる人はとに拷ですが。

>>573
すみませぬ、バキネタはわかりません。

そしてちちびんたリカさんは初見で吹いた記憶があります。

>>574
ゆまちゃんはこういう役回りなので、可能な限り可愛く子供らしくしてあげたいな、と思いました。

>>575
そしてそれを知ったTEAM R-TYPEが実験開始ですね、わかります。
586 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/09(金) 17:46:52.92 ID:3MgJe48DO
乙です!

1面をクリアした次が、もうノメマさんだって!?リクした手前何だが…戦闘力とかとは関係無く、ノーメマイヤーは半端じゃなくマズイっ!
587 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/10(土) 01:25:11.08 ID:cJukjuZ40
流石にこれはR-TYPEのSSなのか、と書いてて疑わしくなりました。
でも、いいんです。敵がバイドで人類がそれに抗うならば、きっとそれはR-TYPEです。

では、東亜プラn……じゃなくって、投下します。
588 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/10(土) 01:25:53.75 ID:cJukjuZ40
「ノーメ……マイヤー?」

「へっ、自己紹介でもしたつもりかよ。バイドにしちゃあ礼儀ってもんを知ってるじゃないか。
 なら、人の精神の中に勝手に入りこんで来てるんじゃねぇ!礼儀正しく出て行きやがれっ!!」

槍を一度大きく振り回し、飾り布をたなびかせて杏子が突撃する。
しかしあろうことか、ノーメマイヤーはそれから逃れるように蠢いて、円環の上を走り始めた。
それを追いかけ走り続ける杏子。まどかの目からは、円環のどんどん急になる勾配を走っていく姿が見えた。
だというのに、杏子の走りは変わらない。いつのまにやらオーバーハングな急傾斜を
留まることなく駆け抜けていく。目を疑うような光景である。

その異常さには、まどかの方を振り向いた杏子も気づいた。

「こりゃあ……どうなってやがる。重力がおかしいのか?」

杏子の目には、どれだけ走っても目の前は平坦な道にしか見えない。
おそらくそれは、コロニーの外壁と同じような感じなのだろう。
ただその円環がコロニーに比して小さすぎ、違和感を感じさせるというだけで。

「そもそも、精神世界だってんだろ。何があっても不思議じゃないって事か」

納得しておくことにして、杏子は走る速度を上げる。
まどかも今は驚いている場合じゃない、と杏子を追いかける。

蠢きながら円環を這うノーメマイヤーの姿がすぐそこに迫る。
切り裂こうと槍を振り上げた、その時。

「っ、んなっ!?」

ノーメマイヤーの中から、青色に輝く結晶体が吐き出された。
杏子目掛けて飛んできたそれを、盾のように槍の腹を掲げて防ぐ。結晶体は砕けて割れた。
けれども、その勢いと威力に圧されて杏子も吹き飛ばされていた。
槍を手放さなかったのはおそらく幸運だったのだろう。
589 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/10(土) 01:26:25.03 ID:cJukjuZ40
「っ痛……くっそ、流石にただ逃げるだけじゃねぇってことか」

「大丈夫、杏子ちゃん?」

「ああ、このくらいなんともないさ」

しかし、足を止めている間にノーメマイヤーはどんどんと円環を這っていく。
青や白の結晶体を次々に生み出しながら、その姿はもう円環の対極付近にまで到達していた。
そして生み出された結晶体は、重力に逆らって打ち上げられる。
その結晶体が、円環の中央を通り過ぎた途端、急激に加速し飛来してきた。

「うわっ、とと。危なっ!……やっぱ、問題は重力かぁ?」

「このままじゃ、潰されちゃうよっ!」

流石に落下の加速度まで加わって、次々落ちてくるのだからたまらない。
ノーメマイヤーを追いかけながら、結晶体をかわして走る。

「まどかっ!っく、とにかくあいつに向かって走れっ!真下にさえいなけりゃそうそうアレも当たらないはずだ!」

息を切らして駆け抜けながら、杏子がまどかに向かって叫ぶ。

「でも……っ、杏子ちゃんは、どうするの?」

ノーメマイヤーの動きはそれほど速くはない。だからこそ走り続けることで降り注ぐ結晶体をかわすことはできるし
それだって、常に全力で走り続けなければならないというわけではない、もうしばらくは持つだろう。

「心配すんな。……あたしにいい考えがある」

走りながら、槍を構えて杏子が言う。
一気に速度を上げて、まどかを大きく引き離す。そしてそこから一気に逆走。
やはり逆走でも、体感の勾配に変化は見られない。
590 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/10(土) 01:27:04.66 ID:cJukjuZ40
「行くぜ、マミ……うっかり当たっても、恨むんじゃねぇぞっ!」

行く手には、落下しては砕けて散りゆく結晶体。
丁度ノーメマイヤーの姿が円環の対極にあるような位置取り。上空からはいくつも飛来する結晶体。
まともに当たればただではすまない。そして走る杏子の眼前にも、青い結晶体の影が迫る。

「でぇぇぇりゃぁぁぁっ!!」

跳躍、ありったけの加速を乗せて跳ぶ。
その身体が歪んだ重力を振り切り、浮ぶ。その身体の向かう先には、降り来る結晶体。
その結晶体を、杏子は思い切り蹴飛ばして、更に跳ぶ。
バランスを崩して、空中で身体がぐらりと傾く。それでも問題はない。
少しでも、高く飛ぶことができたなら。

「い・ま・だぁぁぁぁっ!!」

槍を投擲。重さはさほどないとは言え、円環の対極まで槍を投擲するような力は杏子にはない。
それでも十分だった。槍は真っ直ぐに飛び、重力に絡め取られて速度を落としていく。
だが、円環の中央を越えた。そして、急激に加速した。
常に中から外へと重力のかかるこの円環の中、中央を越えればそれはつまり
それまで槍を地面に縛り付けようとしていたその力は、そのまま槍を大地に投げつける力へ変わる。

打ち上げられて、そして急加速したその槍は、一筋光る軌跡になってノーメマイヤーに突き刺さる。
そしてそのまま楔となって、深々と円環にその身体を縫いつけた。

「っぐぁぁ……ぁ、ぐふ、ざまーみやがれっ」

そして杏子もまた、墜落するように円環に落ちる。
咄嗟に頭だけは守るような姿勢は取ったが、それでも強かに背中を打ちつけた。
その衝撃に顔を歪めて、激しく咳き込みながら。それでも満足げに笑って言ってのける。

「杏子ちゃんっ!!」

まどかが血相を変えて呼びかける。
けれど、今は自分の心配をしている場合ではないとばかりに杏子が叫ぶ。

「行け、まどか!あいつがまた動き出す前に、マミを助け出しちまえっ!!」

その言葉に、弾かれたようにまどかが走り出した。
見ればまだノーメマイヤーは動こうとしている。身体を貫かれたショックで、一時的に動きが止まってる。
恐らくそれだけのことで、すぐに楔を引き抜いて動き出すだろう。
チャンスがあるとすれば今しかない。今の内に止めを刺して、マミを救い出す。
591 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/10(土) 01:27:36.15 ID:cJukjuZ40
痛みを堪えて杏子も立ち上がり、よろけながらも敵へ向かう。
いち早く、その場に辿りついたまどかは。

「……怖くない、怖くなんか、ない」

串刺しにされ、びくびくと震えるノーメマイヤー。
生理的嫌悪感を覚えるような光景に、竦みそうになる身体に力を篭めて。
震える腕で、槍の柄を掴む。まどかの手にでもそれはやはりそう重くは感じない。
けれどもその手に伝わる冷たい感触は、それが武器だということを認識させる。

「マミさん……お願いっ!!」

怖くて怖くて、どうしようもなくて祈る。
誰に祈る。信じる神がいるわけでもない。縋れる誰かがいるわけでもない。
だからこそ、一緒に居たいと思う人に。一緒に立ち向かう仲間に。
今まで戦ってきた友人達に、祈る。
祈りを篭めて、突き立てられた槍の刃を引き、眉を引き裂いた。
592 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/10(土) 01:28:25.04 ID:cJukjuZ40
引き裂かれた繭の中、眠るようにマミの姿が横たわっていた。

「マミさん、まだ大丈夫だよっ!バイドになんてなってないよ、杏子ちゃんっ!」

まだ助けられる、きっと助かる。声の限りに呼びかけながら、繭の中からマミを引きずり出す。
こんな繭の中に手を突っ込むのは怖くて、意識のない人の身体は重くて。
なかなかマミの身体は引きずり出せない。そんなまどかの震える手を、杏子の手が取った。

「一気に引っ張り出すぞ、いいな、まどかっ!!」

「うんっ!!」

二人がかりで引きずり出した。ブチブチとマミを絡め取る繭が引きちぎられて。
ついには二人の手の中に、マミの身体が帰ってきた。

「マミさん!マミさんっ!マミさん……っ!!」

感極まって、マミの身体にすがり付いて呼びかけるまどか。
一仕事は終えたが、本当に大変なのはこれからだとばかりに、表情を引き締める杏子。
事実、マミを救いえたとしてもまだ、ここから帰還する方法がわからない。
そもそも、あのバイドだってこれで倒れたとは思いにくい。

「とにかく一回逃げるぞ。あいつをやるにしても、マミを目覚めさせるにしても
 ここにこのまま留まってるのはやばい」

「っ、うん。わかったよ杏子ちゃん」

二人でマミの身体を抱えて、ノーメマイヤーから距離を取る。
この円環から抜け出せば、ひとまず逃れることはできるだろうか。
そう思って、そこで初めて外に意識を向けた。


「何だよ、こりゃあ」

そこには、何もありはしなかった。
この重力の歪んだ円環。それがこの精神世界の全てだったのだ。
何もない、存在しない絶対の虚空。足を踏み外しでもすれば、それだけで全てが終わってしまいそうな。
これが人の精神世界だというのなら、本気で彼女の心の狭さを疑いたくなる。

何より重要なことは、そう。
593 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/10(土) 01:29:00.99 ID:cJukjuZ40
「逃げられない、ってことかよ。冗談だろ?」

いかに現実とは違う場所とは言え、装備もなしに身一つでバイドに立ち向かうなんて。
バイドのことを知っていればいるほど、自殺行為としか思えない。

それでも、やるしかない。チャンスがあるとすれば今だけだ。

「まどか、マミのこと頼む。……ちょっと行ってくるわ」

まだ身体は痛む。それでも動く。
魂だけのはずなのに、身体が痛むってのもおかしなはなしだよな、なんて思った。
……少しだけ、痛みが和らいだような気がした。

いまだびくびくと蠢くばかりのノーメマイヤーへ向かって、走る。
突き刺さったままの槍を引き抜こうと手を伸ばした、その腕を。
繭の中から飛び出した、緑の結晶体が撃ち抜いた。

「っ!?ぐ、っ」

今までのよりも小さく、そして速いその結晶体は、伸ばした杏子の腕を撃ち抜いた。
千切れて飛んでいく、くるくると回って、そして落ちる。
まるで自分のそれだとは信じられないかのように、呆然と杏子はそれを見つめて。
最初に感じたのは衝撃。次に感じたのは、焼け付くような熱さ。
それはすぐに、激しい痛みへと転じた。

「あああああぁぁぁぁぁあッ!!!?」

吹き飛ばされた腕を、その断面を押さえながら杏子が転がりって、叫ぶ。
その断面からは血は流れない、けれども焼け付く熱さも痛みも本物で。

「そんな、杏子ちゃん……杏子ちゃんっ!」

マミの身体を抱えて、まどかが叫ぶ。
どうすればいい。どうしたら助けられる。考える。考える。
答えは、出ない。それが絶望だというのか。

「どうしたらいいの、どうしたら………助けて、助けてよぉ、誰か……」

絶望に瀕して人の出来ること。諦めるか、それとも祈るか。
全ての希望を捨てて、終わりを受け入れるか。
希望に縋り、願い、心を繋ごうとするか。
そして希望は須く裏切られ、心は砕け身は折れる。抗いがたい絶望の象徴、バイド。
それと戦う人類が、今まで嫌というほどに見せ付けられてきた末路だった。
594 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/10(土) 01:29:46.44 ID:cJukjuZ40
「っはは、はははっ。ざまぁねぇや。こんなんじゃ、さやか達に合わす顔がないな」

杏子の顔にも諦めの色が浮ぶ。
それを後押しするかのように、ノーメマイヤーが動き始めた。
その身を食い止める槍を抜き払い、勝ち誇るようにゆっくりと、円環を這い回る。
そして、杏子の真上で停止した。そして、降り注ぐ結晶体。

せめて、苦しまずに済むように。せめて痛みが一瞬で済むように。
全身の力を抜いて横たわり。諦め混じりに囁いた。

「ごめん、さやか」







須く、という言葉は全てを意味する言葉ではない。
希望が全て裏切られるなら、どうして人は命を、意志を紡いでゆけるのだ。
希望を繋ぐもの、誰かを救うもの、救いえるもの。
それは必ず存在する。ただ、望まれる数よりは酷く少ないというだけで。
それと出会えることこそが、まさに奇跡と呼べるほどの出来事だというだけで。

奇跡を起こすのは、誰か。伝説に謳われた英雄か、それとも偉大な魔法使いか。
それは恐らくどちらもフィクションの存在でしかない。それでも、魔法の名を持つものは居る。
それがたとえ唯のお飾りであったとしても、彼女たちは魔法少女なのだ。
595 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/10(土) 01:30:11.09 ID:cJukjuZ40
「っはは、はははっ。ざまぁねぇや。こんなんじゃ、さやか達に合わす顔がないな」

杏子の顔にも諦めの色が浮ぶ。
それを後押しするかのように、ノーメマイヤーが動き始めた。
その身を食い止める槍を抜き払い、勝ち誇るようにゆっくりと、円環を這い回る。
そして、杏子の真上で停止した。そして、降り注ぐ結晶体。

せめて、苦しまずに済むように。せめて痛みが一瞬で済むように。
全身の力を抜いて横たわり。諦め混じりに囁いた。

「ごめん、さやか」







須く、という言葉は全てを意味する言葉ではない。
希望が全て裏切られるなら、どうして人は命を、意志を紡いでゆけるのだ。
希望を繋ぐもの、誰かを救うもの、救いえるもの。
それは必ず存在する。ただ、望まれる数よりは酷く少ないというだけで。
それと出会えることこそが、まさに奇跡と呼べるほどの出来事だというだけで。

奇跡を起こすのは、誰か。伝説に謳われた英雄か、それとも偉大な魔法使いか。
それは恐らくどちらもフィクションの存在でしかない。それでも、魔法の名を持つものは居る。
その名がたとえ唯のお飾りであったとしても、彼女は魔法少女なのだ。
596 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/10(土) 01:30:51.75 ID:cJukjuZ40
>>594はミスですね、一部訂正があったので書き直したのが>>595です。
597 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/10(土) 01:31:36.15 ID:cJukjuZ40










だから今、今こそ声を大にして言おう。奇跡も、魔法もあるのだ、と―――。










甲高い音を立てて、降り来る結晶体が打ち砕かれる。
それを打ち砕いたのは、一発の銃弾。その射手はまどかの腕のなか。
横たわるマミが急にその手を動かして、その手に生じた銃を構え、放ったのだ。

「えっ……」

「な……っ?」

その射手は、ゆっくりと身を起こす。
結晶体はまだ降り注ぐ、それを確認してまた、放つ。
その手にあるのはマスケット銃である。本来であれば一発撃てばそれでお終い。
だがそれがどうしたというのか、尋常ならざるその魔銃には、弾切れを案じる必要などはない。

的確に、冷静に降り注ぐ結晶体を打ち抜き砕きながら、彼女は。
――巴マミは、目覚めた心を走らせた。
598 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/10(土) 01:32:44.08 ID:cJukjuZ40
「ずっと、ずっと聞こえていたのよ」

視線は敵から逸らさない。放たれた魔弾は過たない。

「美樹さんが、暁美さんが、そして……杏子さん。まどかが呼んでいてくれたこと」

降り注ぐ結晶体の量が増える。中には杏子の腕を食い破ったあの緑のものも混じっている。速い。
もう片方の手にも魔銃を生み出し、構える間もなく放つ。打ち抜かれてまた、砕け散る。

「怖かったの。私は死んだんだって思い込んでた。何も考えずに居られると思ってた。
 でも、届いたから。聞こえたから。助けてっていう声が。助けてあげたいって思ったの」

いつしか、杏子のみならずマミの頭上にも結晶体が迫る。
それを軽くステップを踏むようにかわしながら、射手は放ち続ける。

「そうしたら、身体が動いたの。もう一度戦う力が湧いてきた。
 ……だから私は、もう一度戦うわ。絶望を齎す絶対の悪意。バイド。あなた達とっ!」

マミが両手を大きく広げる。
そこから現れたのは、同じく無数のマスケット銃。
それらは誰にも触れられることなく敵の方を向き、そして。

「食らいなさいっ!!」

一斉にその魔弾を吐き出した。
斉射、次々に銃弾がノーメマイヤーを穿つ。更に2秒、次弾の装填に費やしてまた斉射。
迫る水晶体を穿ち、更にその奥の敵を撃つ。

「すっげぇ、なんだこりゃあ」

「マミさん……すごい」

その姿は、まさに言葉通り本物の魔法少女のようで。
いつしかマミの姿もまた、魔法少女のそれへと変容と遂げていた。
599 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/10(土) 01:33:21.76 ID:cJukjuZ40
穴だらけにされ、打ち抜かれ。今度こそ動きを止めたノーマメイヤー。
それを一瞥し、マミがまどかに振り向いた。

「マミさん……本当に、マミさんなんですかっ!?」

「ええ、勿論よ。なんだか久しぶりね、まどか」

かつて出会った時と変わらない、力強さと優しさを秘めた笑みを湛えて
マミはまどかに言葉をかけた。

帰ってきたのだ、マミが。本当に。
色々と理解できないことの連続、けれどそれだけは事実。
感極まって、まどかの瞳から涙が零れた。

「そんなに泣いてちゃだめじゃない、まどか。……今は、泣くより先にやることがある、でしょう?」

そっとまどかの頭を撫でて、マミは静かに、優雅にさえ見える足取りで歩きだす。
その先には、呆気にとられたような表情で、腕を押さえて横たわる杏子の姿。

「あなたも、私を助けてくれたのね。ありがとう……杏子さん、でいいのよね」

少なくとも、敵である風には見えない。
というよりも、これに縋るしか生き延びる手はなさそうだ。
杏子はまだ動くほうの腕を差し出して。

「佐倉杏子だ。まあ、助けに来たつもりで助けられてりゃ世話ないけどね」

呆れたような口ぶりに、マミも小さく笑みを零して。

「本当、手間をかけさせてしまったわね。ちょっと待っていて」

マミがその手を握る。いつの間にか黄色に戻っていた円環から、リボン状の何かがするりと零れ出て。
それは、打ち抜かれた杏子の腕を絡めとり、引き寄せた。
そのまま腕を杏子のちぎれた腕に添えて、リボンでぐるりと縛って巻いた。

「お、おいっ!何するつもり……ぁ痛っ!?!」

ぱん、と軽くリボンの上から腕に触れる。
黄色い輝きが煌いて、気がつけば腕に巻かれたリボンは消えていた。
そして、腕もまた元通り、継ぎ目すらなく繋がっていた。

「これで大丈夫のはずよ。安心して」

「あんた……神様か何かかよ」

流石にこれには驚いて、目を見開いてマミを見る杏子。
マミは、そんな視線を受けて得意げに、もともと豊かな胸を更に張って。
600 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/10(土) 01:34:11.52 ID:cJukjuZ40
「ええ、そうとも言えるわ。少なくとも今は」

大きく両手を広げて、まるで先刻でもするかのように。

「ここは私の精神世界。つまり、私が私である以上、私が私と知る以上!
 この世界の全ては私の思うまま。まさしく全知全能よ。ふふ、驚いたかしら」

つまりは、そういうことであるようだ。

「……なんか、納得いかねーけど。治してもらったのも事実だ。認めるよ」

「ふふ、ありがとう。それじゃあ速攻で片付けちゃいましょうか!」


そして再び敵を見据える。
散々に打ち抜かれ、ボロボロになったノーメマイヤー。
既にその身は黒く変色し、結晶体を生み出すことすらままならない。

最早狙いを定める必要すらもないほどに、その動きは鈍重。
それでも油断はしない。バイドとの戦いではそれは命取りとなる。
身をもって、命をもってそれを知ったマミに、最早油断も慢心もない。

無数に出現した銃を束ねて、一つの巨大な銃口と変える。
突きつけるのは殲滅の意志。放つのは必殺の一撃。
まさにそれは最終射撃。止めるものなど、止められるものなどありはしない。



「これで終わりよ。……ティロ・フィナーレっ!!」



放たれた最後の魔弾。それは波動砲とも見まごう程に眩く、力強く、バイドを打ち抜き焼き払う。
苦悶の悲鳴のような声をあげ、ノーメマイヤーが光の中に消えていく。
その姿が完全に消滅し、世界からバイドの残滓が全て消えたことを確認して、マミは銃口を下げた。

そして振り向いて、軽く首を傾げて最高の笑顔を浮かべて。

「……さあ、帰りましょうか」
601 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/10(土) 01:34:47.95 ID:cJukjuZ40
暗闇の中、ぼんやりと沈み込んでいた意識が覚醒していくのをさやかは感じていた。
意識は覚醒しても、疲れきった魂は身体を動かしてはくれない。
それでも、頭だけは回ってくれる。だから考える。どうすれば助けられるのかを。
けれどもさやかは何か違和感を感じていた。暖かいのだ。

疲れきった身体は、ベッドで布団に包まっていてもどこか底冷えのする感じを伝えていた。
だが、今は違う。暖かい。暖かな毛布にでも包まれているような感じがする。
事実、何かに包まれている。いや、抱かれている。何だろう、わからないけれど心地よい。気になる。

動かない身体に喝を入れて、何とか目だけはうっすらと開いた。
そこに居たのは、さやかを抱きしめて眠っているマミの姿だった。
これは夢だ。あんまりにもマミのことばかり考えているから、夢にまで出てきてしまったのだ。
でもせめて夢の中で位、もう一度マミと話がしたい。

「………ま、み……さん」

やっとのことで、掠れた声が一つだけ転げ出た。
夢の中でくらい、もう少しちゃんと身体が動いてほしいものだ。
するとどうしたことか、目の前で眠るマミがその目を開いて笑いかけているではないか。

「美樹さん。起きたのね?……無理はしなくていいわ。今はゆっくり休んで」

いい夢だ。こんな夢ならずっと見続けていたい。
さやかの胸が安堵で一杯になる。するとまた、疲れきった身体は休息を求めはじめる。
視界がぼんやりと霞み、意識さえ沈んでいく。
嫌だ、たとえ夢でももっと話したい。もっとマミと一緒にいたい。
願いとは裏腹に、どんどん意識は闇へ沈んでいく。

「大丈夫よ、ずっと、ずっと側にいるから」

静かに囁くマミの声を最後に、再びさやかの意識は途切れた。
602 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/10(土) 01:35:53.99 ID:cJukjuZ40
翌日、本当に隣で寝ているマミに気付いて。喉も枯れよと言わんばかりに泣きついて、縋りついたのは言うまでもない。
何はさておき、ともかく。巴マミは再び舞い戻ったのである。
603 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/10(土) 01:40:31.45 ID:cJukjuZ40
マミさん、復活!復活!!復活ッ!!!
大事なことなのでもう一回くらい言います。マミさん、復活!!!!

本当はまどかにもアーチェリーを持ってもらって、キュゥべえに御前様よろしく
「キュゥべえ、射って!」とか言わせようかとも思ってました。
杏子の槍はその名残です。武○錬金万歳。

>>586
まあこのノーメマイヤーさんはバイドの精神汚染の象徴みたいなもので
ある意味イベント戦のような感じです。本来のもののように機体をえらいことにはしてくれないはずです。

多分。
604 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 01:44:51.22 ID:GdG0PZzEo
マミさん復活!キボウが増えるよ!やったねバイドちゃん!
なんというかやっぱりこの五人が揃うのは嬉しいな本編では実際に揃ってる場面が
オクタヴィアった時点しか無かったから特に
605 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 01:56:23.14 ID:U41EX8cAO
帰ってきたぞー!帰ってきたぞー!とーもーえーまーみー!

おつです、いやぁかっこいいなぁ凄ェなぁ
606 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 05:38:24.49 ID:HKNgq8hDO
マミさん超復活!ありがとうございます!!

最後の多分ってのが気になりますが。とりあえず、マミさん…お帰りなさいっ!!
相手が相手だったから、奴を倒した後にマミさんの魂がどうにかなっちゃうんじゃないかと思ってましたが、そんなことがなくて本当に、本当に良かったです。
607 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage]:2011/12/11(日) 00:19:03.08 ID:PLcmJdpf0
続きが気になるところではありますが、1話を小説形式に書き直しました。
なので、今日はそちらを先に投下していきたいと思います。

こんな感じでちょくちょく他の話も修正を入れていこうと思います。
608 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/12/11(日) 00:20:13.77 ID:PLcmJdpf0
電界25次元。作戦目標であるセントラルボディが機能を停止し
すべてが終わったと思われた。その先で蠢く"歪み"
ワームホールの奥に潜む、ヒトを模した醜悪なる異形、すべてのバイドの親たる存在。
真に倒すべき敵――マザーバイド。

その顎から湧き出るイノチを躱し、屠り。
投げ掛けられる光弾を、その中でぎろりと目を剥く視線をすり抜け、撃ち続ける。
頭が砕け、身体が滅びても尚。高速で軌道を描く腕だけが執拗に迫る。
極彩色の世界の中で、ひたすらに無へと誘う腕を躱し、波動の光を撃ち込んでいく。

限界は唐突に訪れた。ワームホールが崩壊を始める。
極彩色に彩られた世界は崩れ、おぞましき異形を飲み込みすべてが消えていく。
終わったのか、と。ほんの僅かな安堵を抱いたその刹那。
空間を切り裂き突き出る腕、そしてその隙間から沸いて出た、砕いたはずの醜悪な頭部。
私を喰らおうと、その凶悪なる顎が迫る。
――その大きく開かれた顎に、私は容赦なくフォースを叩き込んだ。

今にも破裂せんほどにエネルギーを蓄えたフォースをその口に喰らい。飲み込み
内側から焼き尽くされていくマザーバイド。そしてついに、今度こそ。
その異形の体躯が、崩れ去っていく空間の中へと消えていった。


戦いは終わった。私は傷ついた機体を巡らせ、地球圏への岐路を辿る。
光を追い越し、時空を超えて。どこまでも、果てなく長い道を……。



以上を以って、第3次バイドミッション-THE THIRD LIGHTNING-の全行程を終了する。
本作戦においてバイドの中枢を打ち払い、そしてついに戻ることは無かった我等が英雄の冥福を祈る。
――Operation THE THIRD LIGHTNING経過報告書より引用
609 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/12/11(日) 00:21:02.43 ID:PLcmJdpf0
2170年。
度重なるバイドとの戦闘を経て尚、地球は人類の故郷として健在である。
エバーグリーンの落下による傷跡は今尚痛々しく残っているが、それでも人類の大部分は平和を享受していた。
その裏で蠢く、敵の影を感じながら。
その敵に抗する手立てを、着々と整えながら。

これはそんな時代を駆け抜けた少女たちと、彼女の物語である。
610 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/12/11(日) 00:21:40.79 ID:PLcmJdpf0
「おっはよーう、まどかー、仁美ーっ」

と、先を歩く二人目掛けて元気な挨拶を投げかけた水色の髪の少女。
彼女の名前は美樹さやか。

「あ、さやかちゃん。おはよう」

それに答えて振り向いた、桃色の髪の少女。
名前は鹿目まどか。

「おはようございます、さやかさん」

そして丁寧に頭を下げて、さやかに挨拶をした緑色の髪の少女。
名前は志筑仁美。

彼女達三人は、いずれも見滝原中学の二年生。仲良しこよしなクラスメートである。
朝の通学路、彼女たちの交わす挨拶は何時もよりどこか弾んでいる。

「いやー、いよいよ今日は修学旅行だねー。あたしは昨日はもう楽しみで楽しみでさ」

そう、今日は修学旅行。一般的な学生諸君にとってはとても楽しいイベントだろう。
さやかの声が、気分が弾みだすのも無理はない。

「さやかちゃんってば、楽しみすぎて眠れなかったりしてたりして」

そんな様子に、まどかも仁美もおかしそうに笑って。

「あ、それはないからだいじょ〜ぶ!むしろ気が急いちゃって、起きたの5時だったくらいだもん」

どん、と一つ胸を叩いてさやかが答えた。

「まあ、さやかさんったら。でしたら今日の準備は万全なのですわね」

「もちろんですとも!初めての宇宙!初めての無重力体験!
 人類最後のフロンティア、宇宙があたしを呼んでいる〜ってね」

「さやかちゃん、ちょっとはしゃぎすぎなんじゃあ……あはは」

この修学旅行の行き先は、宇宙。
国際宇宙ステーション、ISPV-5が目的地となっている。
2170年の現在においては、宇宙旅行というのは海外旅行という意味合いとほとんど変わらない。
それほどまでに、宇宙は近い場所である。そこに恐ろしい危険があるということを除いては。
611 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/12/11(日) 00:23:13.43 ID:PLcmJdpf0
「あんまりはしゃぎすぎると危ないですわよ、さやかさん。
 地球と比べて、宇宙はまだまだ危ないところなのですから」

「そんなこと言って、いいよねー仁美は、いっぱい宇宙に行けてさ
 なんだっけ、あの火星のぐ、ぐー…グランゾンだっけ?」

「グランゼーラ、ですわ。さやかさん。決して『造作もないことです』とか言い出したり
 火星かと思ったら金沢だった、何てこともありませんわ」

「そっかそっか、グランゼーラね。あたしも行ってみたいな、グランゼーラ
 っと、そろそろ急がないと遅刻しちゃうね。急ごうか!」

色々と危ない話はさておいて、さやかが道を走り出す。

「あ、待ってよさやかちゃーん」

「もう、お一人で行ってしまうのですから。待ってください、さやかさん」

それを追いかけ二人が駆けて行く通学路、22世紀も半ばを過ぎた現在でも
その営みは、21世紀のそれから劇的に変わったとはいえない。


「ええと、急なことではありますが、修学旅行の前に転校生を紹介します」

朝のホームルーム、これから楽しい旅行ということもあって
完全に空気は浮ついている。そんな空気を更にざわめかせる一言が、担任の早乙女先生の口から飛び出した。

「……あ、暁美、ほむら……です。よろしく、お願いします」

現れたのは、黒い長髪を三つ編みにして、めがねをかけた気弱そうな少女。
ほむら、となのったその少女は、クラス中から注がれる視線に耐えかね俯いてしまう。

「ほむらさんは、家の事情で転校が修学旅行の直前ということになってしまったの
 いきなりで溶け込むのは少し難しいかもしれないけど、いい機会だとも思うの
 皆さん、仲良くしてあげてくださいね」
612 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/12/11(日) 00:24:21.50 ID:PLcmJdpf0
「うーむ、素材はなかなか。でもあの様子だといきなり溶け込むってのは大変そうだな」

なんて、値踏みするようなことを言い出すさやか。

「そうだね。なんだかすっごく緊張しちゃってるみたいだし。じゃあさ、さやかちゃん」

まどかがさやかに呼びかける。

「おっと、それ以上は言いっこなし。まどかの言いたいことはわかってるんだから
 はーいせんせーいっ!暁美さん、私たちと一緒の班にしてもいいですかー?」

そんなまどかの口元に、人差し指を押し付けて。
さやかが元気に手を挙げ立ち上がり、そして大きく声を出した。

「美樹さん?えーと、確か貴女の班はまだ三人だったわね。
 じゃあお願いしようかしら。じゃあ美樹さん、暁美さんのこと、よろしくね」

「まっかされました、よろしくねっ。暁美さん」

「え……あ、は、はいっ!」

上ずった声、たちまちクラスに笑いが溢れて。またしてもほむらが俯いた。


ホームルームの終了後、皆が移動を開始した。
その中に、まどか達四人の姿もあった。ほむらを囲うように三人が寄り添って。

「まさかの転校生さん、おまけにその転校生さんと一緒の班だなんて
 これはちょっとしたサプライズですわね。なんだか楽しくなってきましたわ」

「でしょでしょ、それにあの子、なんかほっとけない感じだったし」

「本当、さやかちゃんは面倒見がいいっていうか、優しいんだね」

やいのやいのと賑やかにしている三人に、半ば面食らったような様子のほむら。

「……あの」

やっとのことで出したその声は、小さくか細い声だった。

「暁美さん!これからよろしくね。あたし、美樹さやか」

「私は、志筑仁美と申します。よろしくお願いしますね」

「私、鹿目まどか。よろしくね、暁美さん」

三者三様に挨拶を重ねて、ほむらも応えて小さく頭を下げて。

「は、はい。あの、私学校のこととか何も知らなくて、だから色々教えてください。お願いしますね」

「あー、もうっ!いじらしいなぁ。大丈夫、あたしらがしっかり面倒みちゃうからね」

「そうだよ、暁美さん。何かあったらすぐ私たちに教えてね」

優しい言葉。新しい友達。
そしてこれから待っているのは楽しい楽しい修学旅行。

(美樹さん、志筑さん、鹿目さん。……皆優しそうな人だな。お友達になれたら、いいな。こんな私でも)

ほむらの心の中に、暖かいものが込み上げていた。
613 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/12/11(日) 00:29:46.79 ID:PLcmJdpf0
新しい仲間を加えて始まった修学旅行。
いつの時代も女三人寄れば姦しいのは変わらないらしく。
さらにもう一人ともなれば、話は随分と盛り上がり、いつしかほむらも自分のことを話し始めるようになっていた。
心臓の病気でずっと入院していたこと、この街で一人暮らしを始めること。
修学旅行のこと、沢山のことを話して。

軌道エレベーターに乗り込み宇宙港へ。

「うわーっ、すごいよ見て見てっ!地球青いなーっ!!」

眼下に地球の青を見据えてさやかが叫ぶ。
感動したように、窓に顔を張り付かせるかのごとく。

「本当……宇宙から見た地球って、こんなに青かったんだ。ほら、ほむらちゃんもみてごらんよ」

「………大丈夫、ちゃんと見てるから。……よかった。まだ、こんなにも地球は青かったのね」

その声に宿るのは、郷愁。はたまた安堵か。

「ほむらさん?……何か、とても懐かしいものを見るような目で地球を見つめてらしたけれど」

「懐かしい?……そうかも、知れない、な」

そう言うと、ほむらは嬉しそうとも寂しそうとも取れるような笑みを浮かべた。
そんな様子にまどかもさやかも不思議そうに首を傾げた。

そこからステーションへは小型の客船で向かう。
衛星軌道上を少し往復するだけの、何の危険もない旅路のはずだった。
……はずだった。



「進路上に何かが、そんな話は聞いてないが……っ!?これは、バイド反応!」

悪意は、どこにでも潜んでいる。

「回避をっ!」
「間に合いません……っ!被弾しました!」

悪意が形を成した様な、その異形の生命体を

「みなさん、落ち着いてください!班毎に分かれて、救命ポッドに避難してください」

すべてを侵蝕し、取り込み、 進化するそれを

「何があったのかな…さやかちゃん」

「わからないよ……でも、何かすごくまずい感じはする」

物質でありながら波動としての性質を持ち、あらゆる存在に伝播するそれを

「まさか……これは」

「奴らに攻撃を受けているの……まさか、また奴らが。……バイドが、現れたと言うの」

『バイド』と、人は呼ぶ。
614 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/12/11(日) 00:30:36.55 ID:PLcmJdpf0
宇宙のどこかで、交差する声。

「――、バイド反応だ!やっぱりさっきの撃ち漏らしがまだ隠れていたみたいだね」

「そう、それじゃあすぐに向かうわ。場所と数は?」

「数はそう多くない。場所は……まずいよ、――。旅客機の航路のすぐそばだ!」

「なんてこと、それじゃあ急がなくちゃいけないわね。急ぐわよ!」

「ああ、すぐに出られる準備をしておいて。……マミ!」




「船長!バイドを振り切れません!このままでは私たちだけではなく、乗客までも……」

「SOSは出しているんだろう?応答は!」

「直近のR部隊の到着まで、少なくとも5分は……と」

「状況は絶望的か。……しかたない、客船部分を切り離し、本船はバイドに突攻を仕掛ける!
 無駄かも知れんが、少しでもバイドの注意を乗客から逸らすぞ!」

「船長……わかりました。私もお供します」

「いいや、君は残れ。乗員の避難を助けるんだ。これは命令だ」

「しかし……っ。わかりました。船長、どうかご無事で」

「ああ、君も故郷の恋人によろしくな」

「いや、いませんからそんなの。居たら居たでフラグじゃないですか
 はぁ……とにかく、どうかご無事で」
615 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/12/11(日) 00:31:16.71 ID:PLcmJdpf0
救命ポッドの中にいても、爆音と振動が何度も伝わってくる。その度に散発的な悲鳴があがる。
今のところはまだ、致命的な被害は出ていないもののそれもいつまで持つのだろうか。

「あはは……なんか、とんでもない修学旅行になっちゃったね」

いつも元気なさやかの声も、流石にトーンは落ち気味で。
それでも必死に気持ちを奮い立てて、いつもどおりに振舞おうとしている。

「ええ……私たち、これからどうなるのででしょう」

「……ここはまだ衛星軌道上で、軍の基地やステーションも近い。
 すぐに救援は来ると思うわ……だけど、それまでもつかどうか」

その言葉の主はほむら。気弱そうな表情はなりを潜めて
落ち着き払った、静かな表情で。

「ほむらちゃん……なんだか、すごく落ち着いてるよね
 私、もう怖くて怖くてしかたないのに……すごいな、ほむらちゃんは」

「ほんとだよ、最初はあんなにおどおどしてたのにさ。実はすごい子だったんだね、ほむらは」

「ええ、本当に。早速ほむらさんの意外な一面、発見ですわ」

仁美の言葉に、ほむらは一瞬言葉に詰まって、気まずそうに俯いた。

(っ!……つい地が出てしまったわ。気をつけないと、怪しまれてしまうかも
 でも、今はそんなことを言っている場合じゃないのよね……なんとかしないと)



そして鳴り響く警報、状況は更に悪いほうへと向かっているのか。

「何これ……何の音っ?」

怯えたようにあたりを見回しながら、まどかが言う。

(アラート!?本格的にまずいわ、こうなったらアレを呼ぶしか……)

「お客様にお知らせします。本船はただいまバイドによる攻撃を受け、ステーションへの避難軌道を取っています。
 指示があるまで、救命ポッド内にてお待ちください。繰り返します……」

繰り返されるアナウンス、いよいよ持って騒然となる船内。
不安げな声、恐怖に震える声、こんなときだからこそと、空元気を見せる声。
ひたひたと迫りくる、姿の見えない死の影を振り払うように、声はいくつも響き渡って。
616 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/12/11(日) 00:32:05.74 ID:PLcmJdpf0

「どうしよう……私たち、死んじゃうのかな」

「何バカなこと言ってるの、まどか!大丈夫……大丈夫だって」

「ええ、きっと大丈夫ですわ……これだけ地球の近くなのですから、すぐに助けは来るはずですわ」

三人揃って寄り合って、震える身体を抱きしめあって。
避けられない死の恐怖を乗り越えようと、繋がり、声を掛け合うその姿。

ほむらはそれを目に焼き付けて。

(――初めてできた友達、見捨てられるわけないじゃない)

そして、駆け出した。
けれども、その手をまどかが握って止めた。

「ほむらちゃん!?どこ行くの、今外に出たら危ないよっ!!」

「逃げ出したくなる気持ちは分かるけどさ、逃げる場所なんてほかにないんだから……じっとしてようよ」

さやかも、ほむらの肩に手を乗せて。こんなときだと言うのに気丈に笑う。
やはり、失いたくないと思う。だからほむらは小さく笑って。

「……行くわ。あなたたちは、私が守ってみせる」

引き止める手を振り払い、走り去っていく。
呆然と見送って、最初に我に帰ったのは、さやか。



「守る…って、ほむらーっ!待ちなさいよもう……あー、もうっ!……あたしも行く!追いかけて、連れ戻してくるから」

「あ……わ、私もっ……行くよっ!」

「私も……行きますわっ」

駆け出そうとするさやかに、まどかと仁美が続いて。

「まったくもー、二人とも…声、震えてるよ?」

「さやかちゃんだって……えへへ」

「ええ、みんなそろって震えてますわ……くすっ」

何故だろう、こんなに怖くて仕方ないというのに、なにやら笑えてくる。

「ふふ……あはははっ」

死と隣り合わせの状況下、震える声を抑えて笑う。
一人なら耐えられない、動けない。けれど友達が、仲間がいれば
踏み出す勇気は沸いてくる。
617 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/12/11(日) 00:32:53.48 ID:PLcmJdpf0
「じゃあ、あたしとまどかでほむらを探す。仁美は、ほむらとあたしらのこと、先生とか船の人に伝えといてよ」

「わかりましたわ。二人とも、どうかお気をつけて」

「任せなさい、って。すぐほむらを見つけて、戻ってくるから。さあ、行こうまどか!」

「……うん、さやかちゃん!」

震える膝に、指を噛み締め力を入れて
立ち上がる。走り出す。揺れる船内を走り抜ける。
だが、しかし。その足は通路の窓から見えた光景によって止められた。



星の海の向こうに、いくつも浮かんでは消える光。
その光の源には、この客船モジュールを牽引していたはずの輸送船と
それを執拗に攻撃する、異形。バイドの姿。
窓越しに、輪郭がおぼろげに見える程度でしかないというのに。
その禍々しさと恐ろしさ。そして、どうしようもないほどに捻じ曲がった悪意が
容易に彼女たちの足を止めた。

「……どうして、ねぇ。さやかちゃん。どうして、あんなところに船があるの?おかしいよね、こんなの」

「うん……これじゃ逃げられないじゃない。もしかしてあたしたち……見捨てられた……?」



「それは違うね。あの船は、バイドを引きつけようとしているんだよ」

突然の声。その正体を探ると、そこにいたのは白い小さな生き物。
半透明に透き通ったそれは、くりくりとした赤いクリスタルのような瞳で二人を見つめて。

「え……って、何この生き物、さっきまでこんなのいなかったよね」

「うん……もしかして、これが…バイド?」

驚いて声を上げる二人。
そんな二人を尻目に、その生き物はやれやれといった様子で首を振って。

「違うよ、ボクがどうしたらバイドに見えるっていうのかな。ボクの名前はキュゥべぇ。君たちを助けに来たんだ!」

そう言って、キュゥべぇと名乗った生き物は笑った。

「助ける……って、あんた。あの化け物をやっつけられるの?」

状況は未だに理解できない。それでももしかしたら助かるのかもしれない。
僅かな希望を篭めて、さやかが尋ねる。

「ボクには直接バイドをどうにかすることはできない。何せ、ボクには実体がない、ただのプログラムだからね。
 でも大丈夫。すぐに味方が来るよ。……ほら、来たよ」
618 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/12/11(日) 00:33:36.48 ID:PLcmJdpf0
キュゥべぇの言葉に振り向き、窓を覗き込んだ二人の目の前、一陣の黄色い流星が駆け抜けていった。
その流星は光の軌跡を散りばめながら、バイドの元へと飛んでいく。

それは、バイドを討つためのモノ。
人類の英知と希望、そして憎悪すらもが形を成したモノ。
放たれし矢、Rの系譜を紡ぐモノ。
――そして時として、酔狂な遊び心も混ざるモノ。
『R戦闘機』と呼ばれる、異層次元戦闘機の姿であった。



「キュゥべぇ、そっちの様子はどうかしら?」

突如空中に現れたモニター。
そこに映されていたのは、黄色い髪の少女。
まどか達よりは幾分か、いや随分と大人びているようにも見える。

「女の人……?私たちよりも、ちょっと年上くらいだけど」

「問題ないよ、特に損傷は見られないそれよりマミ、敵は少ないとは言え急だったからね。
 フォースなしでの戦闘になる十分に注意してくれ」

キュゥべえが、そのマミなる少女へ呼びかける。

「わかってるわ、キュゥべぇ。それじゃあ、船の人達をお願いねっ!」

声に応えて、そしてモニターも掻き消えた。



「あの、キュゥべぇ?今のは……?」

状況がどうにも把握できない。恐る恐るまどかが尋ねる。

「彼女は巴マミ、ボクと契約してR戦闘機のパイロットになった魔法少女だよ」
619 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/12/11(日) 00:34:35.68 ID:PLcmJdpf0
閃光煌く宇宙空間、その真っ只中をR戦闘機が往く。
巴マミが駆るその機体は、謎の技術提供者から持ち寄られた技術、ソウルジェムを搭載した試作機。
特殊な二種類の波動砲を備え持つ、バイドを縛り砕く浄化の光……とは彼女の言である。
――R-9MX“ROMANTIC SYNDROME”――
バイドを討つ意志と、そのための力を携えて。エーテルの波を受けてRが往く。

「敵影確認。小型……キャンサーが3に中型……なんてこと、ゲインズまで来ているなんて
 他所の部隊は何をしてたのかしら。……愚痴っててもしかたないわね。一気に片付けるわよ!」

機体を一気に加速させる。瞬く間に機体は速度を上げてバイドへと肉薄していく。
おぞましいまでの加速。ザイオング慣性制御システムがなければ、人体など一瞬で挽肉へと変わってしまうだろう。
宿敵の接近に気付いたバイドが、客船の追撃を止め、迎撃に移るまでの僅かな時間。
その停滞をレールガンが引き裂いた。回避さえも追いつかず、キャンサー二機が蜂の巣となり爆炎を巻き上げる。
残ったバイドもすぐさま応戦を開始する。ゲインズが搭載された凝縮波動砲を放ち、キャンサーが体当たりを敢行。
後者はともかく、前者は直撃すればR戦闘機と言えどただではすまない。それだけの威力と速射性を持つゲインズは
熟練のR戦闘機乗りにとっても恐ろしい相手なのである。
……少なくとも戦場が、何もない宇宙空間でなければ、だが。

「どんなに威力があったって、当たらなければ意味はないのよ。R戦闘機の機動性、甘く見ないで!」

縦横無尽に宙を駆けるマミに対して、ゲインズの波動砲はまったく意味を成さなかった。
むしろ、気がつけば巻き添えを食ったキャンサーが直撃を受けて爆沈している。
実に報われないキャンサーである。南無。

「とはいえあの重装甲、レールガンだけじゃ貫くのはかなり骨ね。そういうときは、こいつで勝負よ」

独特のチャージ音と共に、R戦闘機の最大の武器、波動砲がチャージされていく。
戦闘機に戦艦主砲並の火力を持たせることを念頭に開発された波動砲。
元は機体前方に形成された力場から、ベクトルを付与したエネルギーを開放するというものだった。
それが何をトチ狂ったか、なぜかバイドの形状をしていたり、パイルバンカーだったりするまで存在する始末である。
そんな英知と狂気と遊び心の詰まった波動砲、それも試作機とあらば何が出てきてもおかしくない。
620 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/12/11(日) 00:35:05.07 ID:PLcmJdpf0
「食らいなさい!リボン波動砲α……発射!!」

放たれたのは黄色の光弾、二対のそれは違わずゲインズへと向かっていく。
更にその光弾は、回避行動を取ろうとしたゲインズの目前でリボン状へと変化し、揺らめき
ゲインズの四肢に絡みついた。リボン状とはいえそれは超高エネルギーの塊である。
すぐさまゲインズの四肢は千切れて爆散し、もはやゲインズには戦闘能力は残されていない。

「私の意志で自由自在に形状を、動きを変える波動砲
 それがこのロマンチック・シンドロームのリボン波動砲αよ……覚悟はいいかしら」

四肢をもがれ、最大の武器を失ったゲインズ。もはや撃墜されるのを待つだけなのか。
否。否である。バイドの恐ろしい攻撃本能は、どのような場合でもそれが衰えることはない。
四肢を失ったその機体そのものを武器へと変えて、恐ろしい突攻をしかけてきた。
――だが、遅い。次弾のチャージは既に完了していた。

「そしてこれがもう一つ、4本のリボン波動砲を一本に束ね。破壊力と持続性を増したリボン波動砲βよ」

機体の先端に再び波動の火が灯る、バイドを焼き尽くさんとする人類の意志を、憎悪を載せて。

「ティロ・フィナーレ!!」

4本のリボン波動砲を束ねたその一撃は、違わずゲインズを貫いた。
爆発、沈黙。バイド反応も一気に収束していく。

「ふぅ、ざっとこんなものかしらね」



「……どうやら、私の出番は無かったようね」
(助かった、というべきかしら。もし戦うことになっていたら……面倒なことになっていたでしょうし)

窓の外に幾筋も走る閃光をじっと見つめて。
それが全て消え去って、唯一残った黄色の光を眺めて呟く。
その表情には安堵と僅かな後悔が滲んでいた。

「ほむらちゃん!こんなところに居たんだ……よかった、無事で」

そんなところに駆け寄ってきたまどか、驚いてほむらはまどかの方を見て。

「っ!?……鹿目さん、美樹さん?どうしてここに」

「どーしてじゃないっての!ほむらが急に居なくなっちゃうから、探しに来たのよ。
 一体どこに行ってたのさ……まあ、でも無事でよかった」

更に続いてさやかも現れた。ようやくほむらも事態を悟ったようで。

「それは……ごめんなさい。気が動転してたみたいで」
621 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/12/11(日) 00:35:31.03 ID:PLcmJdpf0
「どうやら、お友達は見つかったみたいだね」

合流と再会を喜んでいるところに、キュゥべえが現れる。

「え?……これは、何?」

流石のほむらも、その異貌には驚きを隠せない。

「これ、呼ばわりは酷いな。ボクはキュゥべえ。
 R戦闘機に乗って戦う魔法少女を助けるために造られたプログラムさ」

ほむらの表情が、驚愕に歪む。

(おかしい。こんな話は聞いたことがない。魔法少女?キュゥべえ?何がどうなっていると言うの)

しかし、思考を廻らせる間もなく再びモニターが開き、マミの声が聞こえてきた。

「こっちは片付いたわ。キュゥべえ」

それもまた、ほむらにとっては驚愕に値するもので。

(それに、何でこんな子供がR戦闘機を?まさか幼体固定……?)

「お疲れ様、マミ。相変わらずいい腕だ」

「ありがとう。だけど、あの客船は損傷が激しいからこのまま航行を続けるのは無理ね。
 船をこちらに寄越して、そのまま客船モジュールごと牽引しちゃいましょう」

「わかった。すぐに船を向かわせるよ。それと一緒に、何人か回収していきたい人員も居るんだ」

「人員、って……もしかして、魔法少女の?」

「ああ、それも素質を持った子が三人もだ。思わぬ収穫だよ」

なにやら、話の雲行きが怪しくなってきた。

「何の話をしているの……あなた達?」

ほむらが、訝しげな表情で尋ねた。
何か嫌な予感がする。なにか、大変なことに巻き込まれてしまったような
622 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/12/11(日) 00:36:25.53 ID:PLcmJdpf0
「大したことじゃない。このモジュールをボク達の母艦で牽引する
 それと、キミ達にもボク達の母艦に一緒に来てもらうよ」

「来てもらう……って、どういうこと?あたし達、修学旅行の途中なんだけど」

「それに、皆に黙って出てきちゃったから。戻らないと怒られちゃうよ」

流石にこれには反感も多い。まどかもさやかも食って掛かるが。

「そんなことはどうでもいいんだ。重要なことじゃない。キミ達にはボクと一緒に来てもらう。そして……」

キュゥべえの言葉に、にべもなく一蹴されてしまう。

(機密保持のため拘束…かしら。どうやら修学旅行を楽しむどころじゃなくなりそう……少し、残念ね)

ほむらはそう見通しを立てて、少しだけ残念そうに肩を落とした。
けれどもキュゥべえから告げられたその言葉は、ほむらにとっても予想外のものだった。

「ボクと契約して、R戦闘機のパイロットになってほしいんだ!」
623 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/12/11(日) 00:37:32.59 ID:PLcmJdpf0
宇宙の闇は尚深く、人々は何も知らずにいる。
倒すべき敵も、抗う力もその闇も。
だが、少女達は知ってしまった。巻き込まれてしまった。
最後の舞踏の繰り手を求めて、彼女達の運命は廻りだす。
――もう、戻れない。


魔法少女隊R-TYPEs 第1話
         『ESCORT TIME』
          ―終―
624 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/12/11(日) 00:38:10.76 ID:PLcmJdpf0
【次回予告】

「マミさんは、どうして戦ってるんですか」

「宇宙の平和のため、って言ったら。鹿目さんは信じてくれるかしら?」

「私は……信じるわ」

「小惑星帯に、正体不明のバイド反応が検出されたよ」

「な、なな、なななっ!なんじゃありゃぁ〜っ!?」

「……改めてみると、卑猥」


「――見せてあげるわ、R戦闘機の、本当の戦いをね!」


魔法少女隊R-TYPEs 第2話
         『SEXY DYNAMITE』
625 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage saga]:2011/12/11(日) 00:43:08.44 ID:PLcmJdpf0
というわけで、小説形式に書き直した1話となります。
少しでも読みやすくなっていてくれれば幸いです。
そしてここから新たに読み始めてくれる人が増えれば更にさいわ(ry

>>604
そうですね、ついに5人の魔法少女……ではなく3人の魔法少女と2人の少女が揃いました。
今後もこの5人で戦っていけるのか。主にまどかがどうなるのか
どうか楽しみにしていてくださいませ。

>>605
まさにマミさん。光の巨人ではありませんが。
少しでも琴線に触れるものを書くことが出来たようで何よりです。
今後もがんばっていきます。

>>606
あの多分、というのは口癖のようなものです、多分。
なのでそのほとんどが気のせいだと思います。多分。

マミさんもまた近々戦場に舞い戻るでしょう。活躍に乞うご期待です。
626 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/11(日) 01:12:28.11 ID:X6kpVqMjo
>>625
その多分わざとやってるだろwwwwwwwwwwwwww

パイルバンカーだったりするまで存在する始末である。
パイルバンカーまで存在する始末である。の方が収まりがいい気がするな
細かい事だけど気になって
627 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/11(日) 19:40:30.56 ID:CJXvmeUDO
書き直しお疲れ様です。
改めて読んでみて、最初のほむら(スゥ)ちゃんのおどおどっぷりが信じられんな。やっぱり女の子ってのは、皆女優なのかね。

ノーメマイヤー戦でのマミさんは女神化していたが、それでも一番頑張ってくれたのは杏子ちゃんだよね!

しかしミストさんの憑依は一話のQBと最近のエバンスさんの二回もあったんだなww
628 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/11(日) 23:21:56.64 ID:PLcmJdpf0
では、本日も投下です。
629 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/11(日) 23:22:41.79 ID:PLcmJdpf0
「で……えーっと、どうして私はこうなっちゃってるのかなー……なんて」

さやかは、はにかむような、ちょっと困ったような表情でそう呟いた。
椅子に座って、背をぴんと伸ばして落ち着かなさそうに。

「もう、いい加減観念しちゃいなよ、さやかちゃん」

そんなさやかの髪を梳き、前髪にすっと紺碧色の髪留めをさして、まどかが笑う。

「そうよ美樹さん、今日はとことんおめかしさせてあげちゃうんだから」

ぽんぽんとさやかの頬に軽くパフを当てながら、とても楽しそうにマミが言う。


「くっくっく、さやかの奴たじたじじゃないか。……でも、ま。満更でもなさそうか」

そんな様子を、少し離れて眺めている杏子。
思わず綻びそうになる顔を、きゅっと引き締めて。けれどもまた緩みそうになってしまって。

「いいものね、ああやっておめかしするっていうのも。きっと見違えると思う」

微笑ましげに、そんな姦しい様子を眺めているほむら。
雰囲気に当てられているだけで、どこか気分が浮かれてきてしまう。


「ほんと、参っちゃうよなー。もう」

どうしても、表情がにやけてくるのを抑えきれない。
鏡をみると、ちょっとにやけたさやかの顔が映っている。薄めのお化粧施して。
唇には、薄桃色のリップを指して。
濃紺のワンピース、胸元にはワンポイントのネックレス。

本当に何時もとは違う、しっかりばっちりおめかし決めた姿で座っていた。
630 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/11(日) 23:24:25.54 ID:PLcmJdpf0
何故こんなことになっているのかといえば、マミが目覚めた日の翌日まで遡る。
マミは目覚めた後、船の設備で検査を受けたが、後遺症らしきものは見られることなく
すぐに動き回れるようになるほどに回復した。
流石に三ヶ月以上も時間が過ぎていたということには驚いたようだったが、それもすぐに慣れた。

ほむらはその日のうちに、マミに全てを告白した。
自分の正体。助けられたのに助けなかったこと。それが結果として、さやかを戦いへと投じさせてしまったこと。
そして謝った。許してもらえるとは思えなくても、それでもやはり伝えておきたかったから。

マミは、そんなほむらに少しだけ困ったように笑って。
ほむらの正体には少しだけ驚いた、それでも必死に助けようとしてくれていたのを知っていたから。
だからいいのだと、むしろこちらこそありがとう、と静かに頭を垂れるのだった。

マミが戻ってきて、もう一ついいことがあった。
まどかが明るくなったのだ。マミを助けられたことがきっと、まどかにとっても自信となったのだろう。
何も出来ない自分じゃない、助けられた。本当に見違えるように明るくなった。
さやかも、一気に気負うものがなくなったようで。今まで見たことがないほど楽しそうに笑っていた。
そんな中、つい口が緩んで恭介のコンサートのことを話してしまったのだ。

そうなれば後は勿論、恋する乙女の話すこと、である。
もとより恭介とさやかの間のことは知っていて、心のどこかに引っかかっていたまどかは
絶対に行くべきだ、と渋るさやかに詰め寄った。
なによりさやかの心を決めさせたのはきっと、マミの言葉だったのだろう。

いつ死ぬかもわからない、そんな戦いに身を投じるのなら、そんな生き方だからこそ。
心残りは作るべきじゃない、と。自分の想いに正直になるべきだ、と。
最早尊敬に近い思いを抱いていたマミの言葉に、流石のさやかも抗い切れなかったようで。

それからは、コンサートに行くための服を用意したり、皆でおめかしを考えたりと
なかなかに忙しい休暇となった。けれども、マミを交えたその休暇の日々はとても楽しくて。
今までのなかなか心の休まらない日々とは違う、本当に心から休まることのできる日々だった。
631 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/11(日) 23:25:34.52 ID:PLcmJdpf0
そしてコンサートの当日。皆で精一杯に着飾らせて、こんな姿に至ったわけである。
会場時間はもうすぐだ、否が応でも緊張は高まってくる。
鏡に映った自分の姿に、それを改めて思い知らされる。自然とにやけた顔も緊張で強張ってくる。
そんなさやかの気持ちを察して、マミがその肩に手を置いて。

「……どんな選択をしたって、それはあなたの自由よ。美樹さん。でも、後悔だけはしちゃだめよ?」

そして最後に、しゅっと香水を一吹き。
その触れる手の感触が、改めてマミがここにいるのだということを思い知らせてくれる。
胸の中に、じんわりと暖かなものが込み上げてくるのを感じながら、さやかは小さく頷いた。


「そろそろ時間だね、さやかちゃん。……えっと、上条くんにもよろしくね」

「あはは、ちゃんと会えるかどうかもわかんないけどね。……うん、ここまで来ちゃったんだ。
 こうなったら、しっかりどうにかこうにか顔突き合わせて、話してくるよ」

沢山の友達が、仲間が力を貸してくれる。心配してくれる。
なんだかそれが嬉しくて。だからこそもう一度向き合おうと思えた。
まどかににっこりと笑いかけて、さやかは一つ大きく頷いた。

「足の準備は出来てる。さやか、さっさと行こうぜ」

掌の中の鍵をぎゅっと握って、杏子が扉の前で促す。
慌ててさやかは立ち上がり、小さなバッグを一つ携えそれに続く。

「うん、悪いね、送ってもらっちゃうなんてさ。って言うか、本当に運転できるの?」

特例だけど免許はちゃんと取っている、と言い張る杏子。
杏子の腕を疑うわけではないのだが、本当なんだろうかとちょっと不安になる。

「安心しな。ちゃんとあたしらに相応しいものを借りてきたからさ」

「……あー、もしかして」

何となく、待っているものが何かわかったような気がして苦笑。
外に出たさやかを出迎えていたものは。
632 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/11(日) 23:26:15.87 ID:PLcmJdpf0
「……ま、こんなんだよねぇ」

見るからにR戦闘機、それもどこかさやかの乗機と形が似ている。
恐らく R-11系列のフレームが流用されているのだろう。大きさ自体は非常に小さい。
概ね軽乗用車を一回り大きくした程度、だろうか。

「ちゃんと民生用の再開発もされてんのな。レンタカーの隣に並んでたよ。
 まあ専用の免許いるからね、なかなか乗る奴なんざいなかったみたいだけど」

現に、杏子がそれを借りた時にも相当揉めたのだ。
免許はある、でもいくらなんでも子供すぎる、といった感じで。

「さあ乗りな、一気に飛ばして送っていってやるぜ」

「うん、それじゃ任せちゃうとしますかね。頼むよ、杏子」

後部座席はなかなか広い、これなら同時に三人くらいは座れる気がする。
そして操縦席に杏子が乗り込んで、個人用小型飛行機、エア・ランナーは走り出した。
青く輝く尾を引いて、住宅街の空の上を。
633 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/11(日) 23:26:45.28 ID:PLcmJdpf0
「いやー、見滝原もこうして上から眺めてみると、綺麗なもんだねー」

眼下には街の明かりが、人々の営みが、流れるように走っていく。
街を空から眺めるという、滅多にない経験に少しはしゃぎ気味のさやか。
飛ばせばものの5分くらいで着いてしまいそうだが、この分ならもう少しゆっくりしていてもいいかもしれない。
街の上空を飛ばしながら、杏子は口を開いた。

「なあ、さやか……あんたは、さ。これからどうするんだ?」

「ん?これからって、そりゃあ恭介に会って……話、して。かな」

「いや、そーゆーことじゃなくてさ。この先……まだ、戦っていくのかってこと」

何となく言い辛そうに、軽く片手で髪を弄びながら杏子が言う。
何故そんなことを聞くのか、とさやかは不思議そうに首を傾げた。

「さやかは、マミを助けられなかったのが悔しくて、その代わりに戦ってやろうと思ったんだろ?
 でも、そのマミはもう助かった、あんたとほむらと、あたしとまどかが助けた」

ああ、そうか。とさやかは思い出したように顔を上げて。

「だからもしかしたら、あんたにはもう戦う理由も必要もないんじゃないかな、ってさ。
 ……いや、悪い。変なこと聞いたな」

なんだか、こういうことを言うのはらしくない。
こういうときはさっさと打ち切ってしまうに限るとばかりに言い切って、機体の速度を上げた。

「そっか、それが気になってたんだ。杏子は。……もしかして、あたしと一緒に戦えなくなるのが寂しいとか?」

冗談半分、からかい半分といった感じでさやかが言う。

「お前なー……。まあ、今は二人きりだし正直に言ってやるよ。
 あたしはあんたと一緒に戦いたい。でも、さやかが降りたいって言うなら止めるつもりはない。
 ……ま、そんなとこだよ」

機体は空を駆ける。コンサートホールはすぐそこだ。

「あたしは……どうしたいのかな。今更魔法少女止められるもわからないんだけどさ」

葛藤。確かにさやかの戦う理由はマミの存在に依存していたところが大きい。
マミを失ってしまった、助けられなかったからその代わりに戦う。それが理由だった。
けれど、そうして走り続けて、戦い続けて随分時間も過ぎた。
果たして今もまだ、その理由だけで戦い続けているのだろうか。
634 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/11(日) 23:27:25.17 ID:PLcmJdpf0
「ついたぜ、さやか。……しっかり決めてきな」

考え込む間もなく杏子の声。気付けばそこはもう、コンサートホールの駐車場。
流石にこんなもので降りてくると、周りの人々の目を引くようで。驚いたようにその機体を見上げていた。

「……ありがと、杏子。あたしもちょっと考えてみるよ。これからあたしがどうしたいのかをさ」

機体を飛び降り、地面に降り立つ。
恭介のいるであろうコンサートホールをじっと眺めて。一つ大きく深呼吸。

「さあ、行ってやろうじゃないの!」

大きく、力強く頷いて。さやかは歩き出した。
過去に置き忘れてきた、自分の想いと向き合うために。
そこからどう進むのか、自分の意思で決めるために。

決別なのか、帰還なのか。全てを決めるは自分自身。
さやかの足は、未来へ向けても歩き出していたのだ。
635 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/11(日) 23:32:16.31 ID:PLcmJdpf0
恐らく、次回でこの長かった9話も終了なのではないかと思います。
本当に長かった。でも書いてて結構面白かったです。

>>626
ええ、きっとそうでしょう。多分。

その辺りは普通に書き間違いですね。修正が必要なようです。
誤:パイルバンカーだったりするまで
正:パイルバンカーだったりするものまで

>>627
今更中学生として学校に通うのですから、おっかなびっくりにもなるものです。
それにこのほむらちゃんというかスゥちゃんは
原作に比べると大分優しい子になっていると思いたいです。

杏子ちゃんは本当に頑張ってくれました。
もちろんほむらちゃんやさやかちゃん、まどかちゃんもみんなです。
皆で助け出したマミさんの、今後の活躍にご期待ください。
636 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/12(月) 02:53:28.93 ID:K2ooz+8bo
これ絶対振られるに近いものになるよね、だってRだもの。
637 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/12(月) 05:34:10.55 ID:KfPsA6lDO
乙です!
如何な戦士と言えどもやっぱり乙女、人生は華やかに生きたいよね!ほむらちゃんのおめかし姿も、見てみたいものですなぁ。

マミさんは、復帰早々女の子として既に活躍してますね。

空飛ぶ車は無くても、R戦闘機はある…そんな時代かww
638 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/12(月) 13:10:15.61 ID:vTpVCVuG0
昼投下でござい。
639 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/12(月) 13:10:59.22 ID:vTpVCVuG0
「さやかさん、来てくださったんですね」

コンサートホールに入って、受付を済ませて会場へ。
その途中でさやかを呼び止めたのは、黒のロングドレスを身に纏った仁美だった。

「仁美!?え……あ、あれっ?どうしてっ?」

「あの時さやかさんに渡したチケット。あれは知り合いの伝手でもらったものですの。
 けれど、自分の分のチケットはちゃんと予約しておいたのですわ」

「な、なるほど……そっか」

よく考えればそれもそうか、と納得したように頷いて。
一人きりじゃないと思うと、それはそれでちょっと嬉しいさやかなのだった。

「さやかさん」

「え、どうしたの仁美?」

「まだ、始まるまではしばらく時間がありますわ。……少し、お話しませんか?」

仁美の表情は、少しだけ憂いを帯びたようなもので。
その表情を見て改めて気付く。こうしてちゃんと仁美と話ができるのは
もしかしたら、これが最後かも知れない、と。

「うん、そうだね。前は全然話してる余裕なかったし、少し話そっか」

そして長椅子に腰掛けながら、行き交う人々を眺めて二人、佇んで。
とはいえ、何から話せばいいのやらと言葉に詰まってしまって。

「さやかさん……教えてくださいませんか?」

ぽつりと、仁美が切り出した。

「教えるって、何を?」

「一体、さやかさんとほむらさんに何があったのか。あの修学旅行の日、宇宙で何を見てしまったのか」
640 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/12(月) 13:11:56.50 ID:vTpVCVuG0
さやかの目が見開かれる。
気付いていたのだ、仁美も。すべての始まりはあの日だと。
あの日あの時何かを見て、そしてさやかとほむらは帰ることができなかった。
原因は、その時見てしまった何かなのだろうと。

「……それ、は」

掠れた様な声でさやかが呟く。
言える訳がない。けれどこれだけ真剣な仁美を、誤魔化しきれるものだろうか。
ただでさえ噓なんてのは得意ではないのだ、さやかは。

「何もなければそれでいいんです。でも、お二人何かあったんじゃないかって
 何か、大変なことに巻き込まれているんじゃないかって、心配で……」

俯いて、言葉を続ける仁美の声は震えていた。
さやかが戦うことに悩んできたように、まどかが抱えた秘密に押しつぶされそうになったように。
仁美もまた、友人達の行方が気がかりでならなかったのだ。

「仁美。……ごめん。心配かけちゃって。でも、やっぱり話せないよ」

「話せないようなこと……なのですわね」

静かにさやかは仁美を見つめて。
仁美も、さやかに真っ直ぐ視線を向けて。

「うん。ごめん。仁美は大事な友達だけど……ううん。友達だからこそ、話せないんだ」

仁美は何も返さない。ただ、痛みを堪えるように目を伏せて。

「あ、でもさ。あたしは一人じゃないんだ。ほむらだって一緒だし、マミさんっていう素敵な先輩もいる。
 杏子っていう、ちょっと生意気だけどすごい仲間思いな奴だっている」

そんな仁美を安心させるように、少しおどけた調子で言葉を続ける。

「それに、今やってることだってきっといつか全部片付けて、帰ってくるから。
 だからさ、仁美。……もう少しだけ、待っててくれないかな」

そのいつかはきっと、今すぐではない。
人類が長らく続けてきたバイドとの戦いが、そう簡単に終わってくれる訳はない。
それでもさやかはそう言った。それは、いつか全てを終わらせて帰るためでもあったのかもしれない。
641 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/12(月) 13:12:40.03 ID:vTpVCVuG0
仁美も、静かにさやかの言葉に耳を傾けていたが、やがて顔を上げて。

「……信じますわよ、さやかさん。必ず、必ず帰ってきてくださいね」

静かにそう言って、にこりと小さく笑ったのだった。
聞きたいことは沢山あった。それでもさやかが話せないと言っていた。
そして、必ず帰ってくると言っていた。信じよう。仁美はそう思った。

「さあ、そろそろ始まりますわね。行きましょう、さやかさん」

仁美はさやかに手を差し出して。

「うん。……あの、さ。色々とありがと、仁美」

軽く笑って、さやかはその手をとった。



コンサートホールはやはり満員、故郷へ戻った天才少年を、誰もが迎えていた。
そんな人の山の中、客席の中列左側。さやかは一人座っていた。
仁美は少し離れて中央寄りの場所。指定席なのだから仕方ないのだけど。

もうじき開演、さやかはなにやら心臓が高鳴るのを感じていた。
一年以上。もうすぐ二年。会えない時間はそれなりに長かったのだ。
その間、恭介は何をしていたのだろう。どんな風に過ごしてきたのだろう。

思いを、戸惑いを詰め込んで、コンサートホールに開演を告げるブザーが鳴り響く。
そしてついに舞台の上に、恭介の姿が現れた。
その手に己が愛器を携えて、迎える人々の視線を真っ直ぐに受け止めて。
一つ、小さくお辞儀して。バイオリンを構えた。

流れ始めたその音楽は、静かに、優しく。けれど力強くホールを揺らしていく。
それはさやかにとっては懐かしく、それでいて新鮮な調べ。
いつも聞かせてくれていた、恭介が奏でていた曲だった。

本当に久しぶりだった。こうして恭介が奏でる曲を聴くことが出来たのは。
自分には助けてあげることができなかった。けれど、恭介は今こうして、立派に復活を遂げている。
多くの人に、その手が奏でる曲を聞かせることができた。これだけ多くの人に迎えられている。
それが嬉しかった。ただただ、嬉しかったのだ。
642 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/12(月) 13:15:31.61 ID:vTpVCVuG0
「さやかの奴。今頃よろしくやってんのかな」

街の上空に浮かべたまま、器用に足先で操縦桿を操りながら。
両手を頭の後ろで重ねて、杏子が小さく呟いた。
迎えに行く時間まではまだしばらくある。けれど何故だか家に戻る気にはなれなくて。
流れていく街の明かりを眺めながら、静かに一人考えていた。

「はぁ……ほんと、あたしはどうしたいんだろうな。さやかと一緒に戦いたい。
 それだけなんだけどさ。………もしもあいつが降りるって言ったら、もう戦わないって言ったら。
 あたしは……まだ戦えるのかな。ほむらや、マミと一緒に、か」

仲間がいるというのは、悪い気はしない。
けれども自分の今の戦う理由は、そのほとんどがさやかに依存しきっているのは事実なのだ。

「駄目だよなぁ。こんなんじゃ。……ロスに顔向けできないよ」

自分は何も変わっていない。誰かのためにしか戦えていない。
ロスの為だったのが、今はさやかの為になっているだけだ。
こんなことで、本当に見つけられるのだろうか。自分だけの、自分の為だけの戦う理由。

「何か、考えてると気が滅入ってくるね。……少し飛ばすか」

エア・ランナーは、小型なだけに性能もそれなりだ。
速度は普通の自動車程度。どれだけ飛ばしても時速100kmを少し超えるくらい。
それだけに、流れる景色も空気も、R戦闘機に乗っていた時と比べるとどこか物足りない。
あまり気は晴れない。
643 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/12(月) 13:16:35.38 ID:vTpVCVuG0
「ん……通信?」

借りてきた機体だけに、通信機能は最低限。
返却期限を告げるような時にくらいしか使われないもののはずなのだが。
一体誰が、と訝しがりながら通信のチャンネルを開く。

飛び込んで来た、声は。

「杏子、聞こえている?さやかを連れてすぐにティー・パーティーに向かって」

ほむらの声だった。切羽詰ったような声。

「……随分穏やかじゃないね。何があった?」

概ね想像はついている。
家ではなく、ティー・パーティーに戻るように告げたこと。
そして、さやかを呼び戻したこと。恐らく、それは間違いなく。

「バイドよ。こちらに接近しているわ」

「やっぱり、な。まあいいじゃんかよ。今日はさやかにとって大事な日なんだ。
 バイドくらい、あたしらで蹴散らして……」

「そんなことを言っている状況じゃないの!さやかを連れて早く戻って!!」

ほむらのあまりの剣幕に、杏子の言葉は遮られた。

「接近しているのはただのバイドじゃないわ。……バイドに乗っ取られた、巨大戦艦なのよ」

「なっ……」
644 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/12(月) 13:17:24.04 ID:vTpVCVuG0
「な、なんじゃそりゃぁぁーっ!!」

公演の途中、奏でられる曲を遮って告げられたバイド出現の警報。
一気に騒然となるホールの中で、一際大きな声が響く。

両手をわなわなと震わせながら、さやかが立ち上がり叫んだ。
何でわざわざこんな時に、どうして邪魔をするのだと。やるせない思いを篭めて叫んだ。
するとそれは思いのほか大きく響いてしまったらしく、周りの視線が集まっていた。

恭介もまた、さやかを見つめて目を見開いた。
騒然となって、人々が争いあうように外へと駆け出していく。
言葉も掻き消されてしまうような喧騒の中で、恭介とさやかは確かに見つめ合っていた。
その二人の間だけが、まるで音が消えてしまったかのように。

少しだけ躊躇うようなそぶりを見せて。恭介はその手のバイオリンを床に置いた。
そして、人ごみの中を掻き分けるようにして進み始めた。こちらへ向かってきている。

「恭介……あたし、あたしは……」

けれどもどうしても人が多い。その上に半ばパニック状態にもなっている。
なかなか進めるものではない。それでも少しずつ、少しずつこちらに向かってきている。

「あたしは、もう一度会いたい。会って、話がしたいんだ。恭介っ!!」

さやかもまた、人ごみを掻き分けて恭介のもとへと向かう。
人の海に揉まれ、流されそうになりながら。手を挙げ声を高く響かせて、互いの場所を知らせあって。
そしてそんな人々の最中で、正面からぶつかり合うようにして、二人は出会った。

決して短くない時間の果て、再会は果たされた。

「さやか、さやかっ!!」

「恭介……恭介っ!!」

勢いづいていたからか、思いがけなく互いに抱きしめるようになってしまう。
離れようにも、逃げ惑う人々はそれを許してはくれないようで。

「ご、ごめんさやか……っく、動けない、っ」

そんな風に抱きしめられて、あふれ出してしまった。
とめられなくなってしまった。今までずっと押し殺して、隠してきた本当の気持ちが。

「……ううん、恭介。お願いだから、もう少しこのままにしてて」
645 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/12(月) 13:18:02.51 ID:vTpVCVuG0
こちらからも腕を回して、抱きしめて。恭介の胸に顔を埋めてさやかは囁いた。
ずっと一緒にいたかった、もっと一杯話したいことがある。
なのに言葉は何も出てこなくて、抱きしめあう感触だけで、胸が一杯になってしまった。

今だけは、魔法少女のことも、自分の戦う理由のことも、迫り来るバイドのことも。
全てを忘れて、その感触に酔いしれていた。それはまるで甘美な夢のようで。
重く冷たい現実は、さやかの中に入り込む余地すらも与えられなかった。


「さやか……来てくれてたんだね。本当に久しぶりだね」

お互いの体温が感じられる程に身を寄せ合って、抱きしめあって。
このまま時間が止まってしまえばいいのに、とさえ思う。

「うん……ほんと久しぶりだよ、恭介。元気してた?」

「ああ、この通りさ。でもやっぱり海外は慣れなかったけどね」

かつて見たときと同じように、柔らかく恭介は笑う。
さやかも笑う。喧騒の中、かき消されそうになりながらも囁きあって。

「ずっと、さやかに謝ろうって思ってたんだ。あの時はひどいことを言っちゃったよね。
 そのままずっと謝れなくて、気になってたんだ。だから……また会えてよかった。ごめん、さやか」

「いいよ、そんなの気にしなくなって。恭介がまた演奏できるようになったんだって、わかったから。
 あたしは、それだけで凄く嬉しい……いや、そうじゃない、かな」

そう言い切ろうとして、思いとどまって言葉をとめて。
訝しげに尋ねる恭介の顔を、抱きしめる力を強めてさやかは上目遣いに見上げると。

「実は、さ。あたしもずっと言えなくて、後悔してたことがあるんだ。
 ――あたしさ、あんたの事、好きだったんだ」

「え………っ」

打ち明けた、一度打ち明けてしまった心はもう止められない。

「ずっと、ずっと好きだったんだ。でもさ、あたし達って幼馴染だったじゃん。
 ずっと、親友?みたいな感じだったじゃない。そこから更に踏み込むのが、怖くてさ」

言葉にすれば驚くほど自然に、隠してきた思いは零れ落ちて。
胸の中に痞えていた、とても大きな何かがすっと消えていくようだった。

「でも、今言えなかったらきっとあたしは後悔する。だから、もう一度言うよ。
 あたしはずっと、恭介の事が好きだったんだ。……ちゃんと伝えられて、よかった」
646 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/12(月) 13:18:58.86 ID:vTpVCVuG0
そう告げて、さやかは身を離した。
答えは聞きたくなかった。それは我侭だってわかってた。
言いたいことだけ言って、勝手にいなくなってしまう。酷いことをしているのもわかっていた。
甘い幻想は、もうお終い。
大きく息を吸い込むと、空気と一緒に重く冷たい現実が、さやかの中へと染み込んできた。

「あたし行くね、恭介。また会えたら、その時に答え、聞かせてよ」

「待って、さやか!どこへ行くんだ!避難するなら一緒に……」

「違うよ」

人ごみに消えるさやかを追いかけようとした恭介に、手を突き出して告げる。

「あたしは逃げるんじゃない。戦うんだ。友達を、好きな人を、仲間を。皆を守るために、あたしは戦うんだ」

今まで過ごしてきた日常が、一緒の時を過ごしてきた友人が、ずっと恋焦がれていた人が。
そして、これから共に戦う仲間達が、今危機に直面している。ならばどうする?助けるより他に選ぶ道などありはしない


覚悟は決まった。戦う理由も見つかった。もう、躊躇うことなど何もない。

「何言ってるんだ、さやか。……さやかッ!!」

呼び声を背中に受けて、さやかは走り出す。
人ごみを掻き分けて、シェルターへ避難する人の列から外れて。
人気のない、開けた場所に出るとそのまま通信を繋いで。

「さやかっ!……ティー・パーティーで皆待ってるとさ、機体の準備も済ませてある。
 ……戦えるのか、さやか」

不安げに、戸惑いながら問いかける杏子に向かって。
思いっきりの笑顔を浮かべて、びしっと親指を立てて。

「勿論っ!見つけたよ、あたしの戦う理由っ!」

夜空を見据える。空の彼方には迫るバイドの巨大戦艦。
ここからはまだ見えないが、戦火の音は聞こえてくるようで。

「――行こう、杏子。バイドから皆を守るんだ!」

力強く、そう叫んだ。


魔法少女隊R-TYPEs 第9話
          『PLATONIC LOVE』
          ―終―
647 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/12(月) 13:19:54.41 ID:vTpVCVuG0
【次回予告】

街を脅かす巨大な影。

「なんてもん積んでやがる、あの野郎……ッ」

かつてそれは我々を護る盾となるはずだった。

「あんなの撃たれたら、見滝原は……」

けれど今、それは我々の頭上に立ち塞がっている。

「間に合わない……っ!」

悪夢と、悪意に取り憑かれたまま。


悪夢を払うのは、そう。人の意思と力。
新たな力を手に、少女たちは強大なる悪夢に立ち向かう。

「――ティロ・フィナーレ!」


そして、悪夢を超えて尚続く、悪夢。

「ここは、一体……」


次回、魔法少女隊R-TYPEs 第10話
             『DISASTER REPORT』
648 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/12(月) 13:25:00.06 ID:vTpVCVuG0
本当に9話は長かったです、やはりどこか途中で10話に回しておけばよかったかもしれません。

>>636
振られませんが、答えも聞けませんでした。
そんな臆病さを戦う覚悟に摩り替えて、さやかちゃんは戦います。

>>637
華やかな時間はこれでお終い、後はバイドと砲火の海が彼女達を待っています。
ほむらちゃんももしかしたらおめかしして着飾ったりすることも、あったのかもしれませんね。

マミさんは女の子です、それでも戦うのです。
649 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/12(月) 13:25:20.57 ID:YtFmwoPco
キボウが見える・・・
650 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/12(月) 18:04:45.03 ID:KfPsA6lDO
9話完結ありがとうございます!
くっそぉバイドめ…不粋な邪魔して来やがって!さやかちゃんにしこたましばかれるが良いわッ!

話は変わりますが、幼体固定ってビジネス化してたりすると思います?体に寿命はあるかも知れないけど、つまりはずっと若くあれるんですよね?それって、人によっては喉から手が出る程欲しがりそうですし。
651 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/12(月) 18:56:22.92 ID:BdBkW97j0
さやか、このタイミングで告白は死亡フラグじゃないか?

そういえば地上用R戦闘機といえばキウイ・ベリィがありましたね。
652 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/12(月) 22:49:42.02 ID:K2ooz+8bo
きっと誰かがルビコンに乗ってくれるはず。
次の話だけすごくゆっくりに進むんですねわかります。
653 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/13(火) 01:56:38.95 ID:ztnNPCf+0
夜投下です。
まどマギポータブルって発売三月なんですね、もうちょっと早いかと思ってた……。
654 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/13(火) 01:58:38.97 ID:ztnNPCf+0
「それで、キュゥべえ。状況は?」

ブリーフィングルームには、三人の魔法少女と二人の少女の姿。
今更まどかを除け者にするわけにも行かず、こうして一緒にいることになったのである。
さやかはコンサートホールから戻った姿のままで、正直どうにも違和感がある。
けれども気にはしない。どうせ戦う時には、体なんてここに置いていくのだから。

「簡単に言うとかなりまずい。あの巨大戦艦は、もともとは土星周辺の基地で開発されていたものらしい。
 けれど、それがバイドに乗っ取られそのまま地球を目指して侵攻を進めている」

何故そんなことになったのか、事情はわからないが状況はやはりよくないようだ。
皆の顔にも緊張の色が濃い。

「とにかく土星というのがまずかった。あの位置じゃあ太陽系外周の防衛艦隊からも距離がある。
 火星あたりで食い止められればよかったんだけどね。向こうもバイドの研究施設がバイドに乗っ取られて
 かなりの混乱に陥っているようだ。正直救援は期待できない」

「ってことは、地球周辺の戦力だけでそいつを迎え撃たないと行けない、ってことかい」

いつの間に調達していたのか、ハンバーガー片手に杏子が尋ねる

「けれど、地球周辺にだって相当数の防衛戦力はあるはずだわ。突破されてしまったのかしら」

ほむらの表情も硬い、真正面から防衛艦隊を蹴散らすような相手なら
かなりの激戦が予想される、街への被害も大きくなることだろう。

「どうやらその巨大戦艦は、亜空間潜行が可能なようでね。それを使って地球周辺の防衛艦隊を素通りしたんだろう。
 今は成層圏を抜けて、追い縋る部隊を迎撃しながら降下中だ。直に近くのエリアに降下してくるだろう。
 地球上の戦力の多くはセントラルアイランドへ向かっているから、迎撃も難しいのだろうね」

セントラルアイランド。海洋に浮ぶ巨大な人工都市である。
しかしその構造には欠陥があり、先の大地震によってその大部分が崩壊、海中に没していた。
水没し、打ち捨てられたその人工都市に、どうやらバイドが潜んでいたらしい。
湾岸ユニットを占拠し、周辺地域の気候を操作する能力を持つバイド。
ネスグオシームと呼ばれたそれを掃討するため、秘密裏に多くの戦力がセントラルアイランドへと投入されていた。
しかしそれが仇となり、ここまでの巨大戦艦の接近を許してしまったのである。
655 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/13(火) 01:59:09.50 ID:ztnNPCf+0
「つまり、今その巨大戦艦と戦えるのはあたし達だけ、ってこと?」

状況はますますもって悪い。
その事実を噛み締めるかのように、さやかが呟いた。

「今のところはね、一応直近の部隊も少なからず向かってきてはいるようだけど。
 それもあまり期待は出来そうにない。当面の間は、ボク達で巨大戦艦の相手をするしかないみたいだね」

「まさか復帰第一戦がこんなハードな状況だなんてね。本当にバイドは容赦がないわ」

こんなときでも紅茶は欠かさず、全員分を用意してマミが言う。
とは言え、マミはまだ病み上がりのようなものである。ブランクもある。
戦場に出るのは恐らく無理だろう。そもそも乗る機体がない。


「それならセオリー通りに行きましょう。まずは私達で巨大戦艦の足を止める。
 その上で、できる限り奴の武装を剥がしていくわ。そして増援が来たら、一気に勝負をつける」

この戦力では、正面からぶつかるのは無謀。
ブースターが設置されており、武装の少ないと思われる背面から接近。
距離を保ちつつブースターを破壊し、その後は各武装の破壊に移る。

火力に勝る敵戦艦との戦闘におけるセオリーを、淡々とほむらが述べた。

「……だな、流石に三人でアレを落とそうってのは無謀だ。あたしもそれに賛成」

杏子がそれに賛同する。

「あたしも賛成。とにかくあいつが街に入る前に何とかしないとね」

さやかも、顔を引き締めて頷いた。

「ボクからは以上だ。何もなければ出撃準備に入ってくれ。
 それと、全員機体が新しくなっているからそれの確認も頼むよ。
 極端に操作性が違うことはないから、問題はないと思うけどね」

その言葉に、それぞれ頷く三人。揃って大破した三人の機体も、既に新調されているようだ。
656 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/13(火) 01:59:52.84 ID:ztnNPCf+0
「じゃあ行ってくるよ、まどか、マミさん」

「気をつけてね。……頑張って、さやかちゃん」

友達を、あんな戦火の中へと送り出すのはやはり快いものではない。
それでもさやかの決断を、戦う意志をまどかは知った。だからこそ止められない。
なら今は、自分にできることをしよう。戦場に出ることだけが全てじゃない。
まどかも、前向きに自分の置かれた状況を受け入れ始めていた。


「ちゃちゃっと片付けて戻ってくるから、旨い飯でも用意しといてくれよ」

「あら、もしかして私、ご飯係になっちゃうのかしら?
 ……まあいいわ。私の分まで、あいつらに思い知らせてきて、佐倉さん」

軽く肩を竦めて笑って、マミが杏子を送り出す。
戦えないのは歯がゆいけれど、仲間がいるというのはこんなにも嬉しい。
だからこそ、早く戦えるようになりたい。仲間と背中を預けて、一緒に戦いたい。
マミもまた、次なる戦いへの意気込みを強めていた。


「まどか。この戦いが終わったら聞かせてもらえるかしら。
 あなたがこの先どうするのか、どう生きていくのか。……もしも答えが出たのなら、ね」

ほむらがまどかに声をかける。
迷いが吹っ切れたかのように、まどかの様子は一変している。
今なら聞けるかもしれない、まどかがどう自分の道を選ぶのか。
それはさやかのためでもあるし、自分自身のためでもあるのだとほむらは思う。
もし戦うことを願うなら、仲間としてまどかを守り、育て上げていこうと。

「わかったよ、ほむらちゃん。……そうだ、じゃあさ、私も聞かせて欲しいな。
 ほむらちゃんが一体何者なのか、話せなかったら無理には聞かないけど、教えてくれたら嬉しいなって」

答えてまどかも小さく笑う。なんだかんだで気になっていたのだ。
まるでまどかとさやかを戦いの運命に導く使者のように、突然現れた暁美ほむらという少女のことを。
だからもっと知りたいと思う。そしてもっと仲良くなれたら。
そんなことを考えて、まどかは笑ったのである。
657 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/13(火) 02:00:30.54 ID:ztnNPCf+0
格納庫には、確かに新造品を思われる機体が二機、そしてどこか見覚えのある機体が一機並んでいた。

「何か、フォルセティに似てるね。でもちょっと形は格好良くなったかな」

さやかが、青い機体を眺めて言う。
確かにその姿はフォルセティのそれに似てるが、幾分かシャープになった印象を受ける。
少なくとも以前のフォルセティのように、無理やりブースターを増設したような感じは見て取れない。

その機体の名はR-11M4、フォルセティU。
機体性能を重視するあまり、外観のバランスが崩れていたフォルセティを改修。
空力学的にも優れた形状を取り戻すことに成功した機体である。
これにより、大気圏内での操作性も大幅に向上。
更に新型フォース、フレシェット・フォースを搭載することで火力の更なる増加も図られていた。

「また、一緒に戦えるね。フォルセティ」

嬉しげに、さやかはその青い装甲をそっと撫でた。
658 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/13(火) 02:01:17.64 ID:ztnNPCf+0
「で、こりゃなんだよ。……嫌な予感しかしねぇ」

杏子は半ば呆然と、目の前に並ぶ一回り大き目の機体を眺めた。
赤いカラーリングを黒くラインが縁取って、キャノピーの色は黒。
機体下部にはでかでかと、アサノガワのそれを思わせる突起のようなものがくっついている。

R-9DP3、パイルバンカー搭載型としては最終形となる機体。
まさに男の浪漫、最強最終の決戦兵器、ケンロクエンの姿であった。

「なんであたしだけこんなイロモノなんだよ、オイ」

「キミの交戦データを見た開発者がね、えらくキミを気に入ったんだよ」

呆然と呟く杏子に、キュゥべえが答えた。

「パイルバンカーでこれだけの戦果を上げたのなら、もっとすごいパイルバンカーなら
 きっともっとすごい戦果を上げてくれるはずだ、ってね」

「……いや、普通の機体をよこせよ。まあ、しょうがないか。しっかり頼むよ」

呆れたように一つ息を吐き出して、その赤い機体を軽く小突いた。
659 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/13(火) 02:02:05.64 ID:ztnNPCf+0
「これは……ラグナロック?」

ほむらの目の前に鎮座していたのは、まさしく見覚えのある機体。
ラグナロックとほぼ同じ姿の機体がそこにあった。

その機体はR-9ØX、ラグナロック・ダッシュ。
かつてほむらが乗っていたオリジナルのラグナロックをベースに
更なる波動砲の開発の為に生み出された試作機であった。
チャージ容量を増加したメガ波動砲Uが搭載された以外はベースとなったラグナロックと性能は変わらず
三種類のフォースに対応したコンダクター・ユニットを持ち、その他の全ての性能が高水準にまとめられた機体である。

「……まさか、また乗ることになんて。どういう偶然かしら」

偶然と思いたい。そういう思いを胸に、ほむらはそっと機体に触れた。



そして出撃準備は完了。
三機のR戦闘機が、迫り来る巨大戦艦を迎撃するためティー・パーティーを飛び出したのだった。
660 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/13(火) 02:09:51.86 ID:ztnNPCf+0
以上、それぞれの新機体の紹介と状況説明のための回となりました。
そしてこっそりと裏でステージ2と4の話も消化していたり。

ちなみにネスグオシームさんが暴れておられるセントラルアイランド。
これは絶体絶命都市3の舞台になった場所だったりします。

>>649
ええ、みんな希望と戦意に満ち溢れてますね。

>>650
空気を読めないバイドさんは、しこたまみんなにボコられるのだろうと思います。
特にさやかちゃんは、迷いを振り切ったので補正がかかるようになりました。

難しいところかなーという感じですね。実際一回処置をしてはいそれきり、とはならなさそうですし。
持続的なケアが必要だとか、かかる費用の問題とかもありそうですし。
実際どういう方法で固定してるのかもわかりませんしね。
まあ、本当に金持ちの道楽目的に使われるくらいで、一般向けにはならないでしょうね。

>>651
世の中にはフラグを立ててそれを達成する人と
フラグを立ててもバキバキに折ってくれる人の二種類が存在します。
さやかちゃんはどっちでしょうね。

キウイ・ベリィさんも普通に空を飛んじゃうのがR-TYPEですね。
そういえばキウイ・ベリィのペーパークラフトとかあったような気が。

>>652
果たして河を越えるのは誰なのか
そもそも越える人がいるのかどうか、今後の展開にこうご期待です。

やっとのことでケルちゃんを迎えに行けたんですが。
こうツリーにぺしゃんこにされるはアンカーフォースにぐちゃぐちゃにされるわで
軽く10回近くはコンティニューした気がします。ほんとに。
661 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 02:27:51.00 ID:FIboj5EDo
ケンロクエンのパワーなら、戦艦だって一発でやっちゃうぞ!

杏子ちゃんの色物R戦闘機ライフが始まる・・・
その内パウ・アーマーに乗せられたりしないだろうな
662 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 07:18:47.19 ID:dhAxAi8DO
お疲れ様です!
今迫っているのはゲーセンでやらされた戦艦か?finalでは結構簡単だったけど、実際に戦うとなればそうも行かないよな…。

finalで攻撃翌力が随一のフォースって、確かキウイ・ベリーのドリルフォースでしたっけ?あれもロマンだよね〜。
663 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/13(火) 18:04:08.38 ID:ztnNPCf+0
では本日も投下です。
664 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/13(火) 18:05:23.13 ID:ztnNPCf+0
「こうして近くで見ると、すごいね……これは」

3機のR戦闘機が、編隊を組んで空を往く。
さやかの声は、かなりがちがちに強張ってしまっていた。

「ああ……やっぱり、ゲームとは段違いだな」

杏子の声にも焦りの色が混じる。
眼下に望むはすでにビル街。避難は遅れに遅れているようで。
いまだに車や人の姿が見て取れる。こんなところを戦場とするなんて。
どうしようもなく心が痛む。だがここで止めなければ、次は市街地や住宅地。
被害はさらに拡大していくことだろう。多少の犠牲は目を瞑るしかない。
それこそ相手がいかに巨大とは言え、R戦闘機は単機でそれに立ち向かいうる性能はある。
ただそれは、それに要する時間や周囲への被害を度外視した場合である。
ここまで侵入を許した時点で、半ば負けているようなものなのだ。

「……これ以上進ませる訳には行かない。ここで食い止める、さやか、杏子!」

ほむらもまた、すでに思考を戦士のそれへと変えている。
後はいかに効率的に敵を殲滅するか。これ以上の侵攻を食い止めるか。それだけである。
その機体に火を灯し、一気に巨大戦艦の後方へと接近しようとしたところで
通信が入った。

「三人とも、良い報せと悪い報せがある」

「……何かしら?」

キュゥべえからの通信。
答える声も緊張の度合いが強まる。

「まずは良い報せからだ。直近のR部隊と、見滝原を訪れていた他の試験小隊が
 もうすぐこちらに到着するらしい。少なくとも三人で戦うことにはならなさそうだよ」

「……他の、って。まさかあいつらか?」

杏子とほむらが同時に思い浮かべた姿。
美国織莉子と、呉キリカの二人。特にほむらには、狂機を駆って襲い来る
あの時の姿と、その末路がありありと思い浮かんでいた。
665 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/13(火) 18:06:27.64 ID:ztnNPCf+0
「恐らくは、ね。……それでも増援があるというのはいいことよ。
 それでキュゥべえ、悪い報せというのは?」

良い報せですらこれなのだ、悪い知らせというのはきっと相当に悪いことなのだろう。
心構えだけは済ませて、ほむらが問いかける。それに答えた、声は。

「……土星基地から、巨大戦艦のデータが送られてきた。
 あの巨大戦艦の艦首には、超巨大な波動砲が搭載されているらしい」

告げるキュゥべえの声も重い。

「最大出力で発射すれば、惑星破壊級の威力を持つとも言われる強力な波動砲だ。
 ハードの都合上、最大出力での発射は不可能なようだけどね、通常発射でも街一つを消滅させるくらいは容易いだろう」

後方から接近しているだけに、敵艦前方の様子は伺い知れない。
ただ、今もその惑星破壊波動砲のチャージは進められているのだとしたら。
時間的猶予は一気に無くなってくる。

「なんてもん積んでやがる、あの野郎……ッ」

あまりにも悪い知らせに、杏子の声も戦慄に震える。

「いくらなんでも、ここまで状況が悪いとは思っていなかった。
 ……波動砲を撃たれても、市街地への侵攻を許しても。どちらにしても見滝原は壊滅よ」

あまりに状況は絶望的。
悠々とビル街の頭上を覆う敵の影。どう立ち向かえばいいと言うのか。
苦々しくほむらが言い放つ。たとえ状況が絶望的でも、戦わねばならないのだ。
当然、避難は間に合いそうも無い。かなり大きな犠牲を余儀なくされることだろう。
見滝原、まどかやさやかの家族や、学友達が今も避難を続けているはずなのだ。
それを犠牲にしろと言うのか。

「あたしは、そんなの認めない」

さやかの力強い声が、ほむらの暗く沈み込んでいく思考を掬い上げた。

「あいつの足は止めてやる。波動砲だって撃たせない。両方やって見せる。
 そして見滝原を守るんだ。あたし達の手でね!」

「でもさやか、それは……」

あまりにも無謀。足止めのためのブースターの破壊だけでも大仕事だというのに。
更に敵の砲火を掻い潜って艦首へと辿り着き、波動砲の破壊も行わなければならない。
666 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/13(火) 18:07:22.68 ID:ztnNPCf+0
「やるって言ったらやってやるのよ!そのくらいできなくて、何がR戦闘機だっ!」

実際、さやかの胸中を埋めているのはほぼ虚勢。
それでも、その虚勢を頼りに声を張り上げ戦意を保つ。
そうしなければ押しつぶされてしまいそうだから。

「やるっきゃねーだろ。こうなったらさ。あたしはどこまでも付き合ってやるさ」

さやかの強がりは相変わらずだ、と杏子も笑ってそれに答えた。
実際どれだけ無謀と言われようと、それに挑む以外に術はないのだから。


「……それもそうね。じゃあこうしましょう。私とさやかで波動砲を叩きに行く。
 杏子はその間に、ブースターの破壊をお願い。同時並行で一気に叩くわ」

「ははっ、冗談抜きで一人で立ち向かえってーのかよ。ま、上等じゃねーか。そっちこそミスんなよ?」

非情で、それでいて絶望的な提案だとは思う。
他に方法がない以上、そうするより他に術は無い。
仲間を信じて、任せるより他に無いのだ。

「あんたこそ、また死にたがりをぶり返したりしたら承知しないんだからね?
 見滝原を守る。あたしらも生き残る。それで完全勝利なんだからさ」

まったく持って、無謀なことを実に容易く言ってくれる。
上等だ、と今一度杏子の心身に気合が満ちる。

「……それじゃあ、作戦を開始するわ。各機散開、その後は打ち合わせ通りに!」

「「了解っ!」」

ほむらの声に、二つ続いて声が答えた。


「おっと、こんな楽しそうな舞台を独り占め……じゃないか。
 三人だけで楽しんでしまうつもりなのかい、恩人達は」

だが、そこに割り込んできた通信。その主は、やはり。

「昨日の敵は……などと言うつもりはありませんが、折角共通の敵が出てきてくれたのです。
 今だけでも、共同戦線を張るというのはどうかしら?」

現れたかつての敵。黒と白の狂機。
667 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/13(火) 18:08:17.06 ID:ztnNPCf+0
「あーっ!?あ、あんた達はあの時の……」

半ば予想していた二人とは違い、さやかは驚いて素っ頓狂な声を上げる。
それでもすぐに立ち直り、回線を開いてこちらからの通信を繋げた。

「……ちゃんと助かっててくれたんだ。よかった。
 っていうか、随分ひどくやられてたみたいだけど、もう戦っても大丈夫なの、あんた達?」

あまつさえ、自分を殺そうとした相手のことを心配している始末である。
危うい考えではあるが、やはりそういうところがさやからしくも好ましい。
いきなりこんなところで、R戦闘機同士が衝突する羽目にもならずに済みそうだ。

「貴女もいらしたのですね。その節は、本当にお世話になりました。
 恩返しというわけではありませんが、一緒に戦いませんか?」

「事情、後でしっかり聞かせてもらうからね」

にっと笑って、さやかが応じる。
これで戦力はR戦闘機が5機、分が悪いのは相変わらずだが
それでも、絶望的な状況とは言えなくなった。

「ええ、この戦いが終わったら存分に」

織莉子もそれに答えて、機体を一緒に横に並べた。
魔法の力は未だに使えないままだけれど、それでもパイロットとして戦えないわけではない。
織莉子は己が白き機体―スクルドを駆り、並び立って巨大戦艦へと立ち向かう。。

「私も織莉子と一緒に戦うぞ。二人きりの休暇を邪魔するバイドは実に罪深いからねっ!」

「……正直、あたしはあんたが一番不安なんだけどね」

意気込むキリカをジト目で見つめる杏子。
キリカもまた、黒の機体―クロックダウンを駆ってゆく。

ただ、ほむらだけがどうにも不安そうにその様子を見つめている。

「そういうことなら、5人であの巨大戦艦をどうにかすることを考えるのだけれど
 一つだけ聞かせて。呉キリカ、あなたは美国織莉子と離れて戦うことができる?」

そう、懸念といえばそこである。
軌道戦闘機として高い機動性を持つ織莉子の機体とは異なり
索敵機ベースのキリカの機体では、砲火を掻い潜っていくための機動性にはいささか不安が残る。
織莉子は波動砲を攻撃するチームに加え、キリカには杏子と共に敵の足を潰してもらう。
それが恐らく現時点で取りうる最善の策ではあるのだが、問題はやはり織莉子とキリカ。
途中で勝手に行動をされては、こちらの行動にまで支障が出る可能性が高い。
668 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/13(火) 18:09:36.37 ID:ztnNPCf+0
「ああ、大丈夫だとも。離れていたって私と織莉子は繋がっているからね」

自信たっぷり、ついでに余裕も上乗せされたキリカの声。
果たして本当に大丈夫なのか、と疑わしくもなるが、疑っている余裕もない。
最悪、勝手にふらふら飛んでいくようなら見捨てるだけだ。

「それじゃあ早速攻撃に移る。織莉子は私とさやかと一緒に波動砲を潰す。
 キリカ、あなたは杏子と一緒に戦艦のブースターを潰して。これ以上の侵攻を食い止めて」

「了解だ、恩人」

「ええ、任されました」

殊の外こんなところで時間を食った。
これ以上は時間は費やせない。後は各自突入するだけだ。
もうじき、巨大戦艦の砲台の射程内に入る。そんな空域で。


「それじゃあ作戦開始よ。作戦名は……そうね、オペーレーション・ホースズストンプ。とでもしておくわ」

ちょっとだけ冗談交じりの口調で、ほむらが作戦開始の宣言をした。

「馬の……踏みつけ?妙な名前を付けるのだね、恩人は」

訝しげに尋ねたキリカ。
そんなキリカの言葉になにやら思い当たるところがあったのか、したり顔で杏子が笑う。

「なーるほど、馬に蹴られろって訳だ。いいね、それ。それじゃ先に行くぜっ!!」

「何がなるほどだ、もう。じゃあ私も行くよっ!」

そのまま一気にケンロクエンを加速させ、砲火の中へと飛び込んでいく。
なにやら納得のいかない口ぶりで、キリカもそれに続いた。


「馬に蹴られろ、って……まあ、確かにぴったりではあるんだけどさぁ」

「あらあら、何か恋路の邪魔でもされたのかしら?あのバイドに」

苦笑気味にさやかが言葉を次いで。
くすりと笑って織莉子が続く。それぞれ機体を廻らせ戦艦の底部から突入を開始する。

「ええ、無粋なバイドは思い切り蹴飛ばして、退場してもらう!」

ほむらもそれに続く。頭上からは降り注ぐ砲弾と火線の雨。
その火線を、砲弾をかわし、すり抜け、時にフォースで受け止めて。
目指すは艦首、波動砲ユニット。


かくして、少女達の戦いの幕は上がった。
669 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/13(火) 18:10:19.18 ID:ztnNPCf+0
そして戦火は遠く離れて、ティー・パーティーの艦内。
戦いの行方をモニターで見守りながら、まどかとマミが寄り添って。

「わかってはいたけれど、待っているだけというのはもどかしいわね」

「マミさん……でも、信じなくちゃね。さやかちゃんやほむらちゃん、杏子ちゃんを」

その手は祈るように握られて、視線はじっとモニターに注がれて。
彼女達があの巨大戦艦を阻止できなければ、見滝原は壊滅してしまう。
まどかにとっては家族が、友達が、そして今まで過ごしてきた全てがあるあの街が。
無慈悲な戦火によって潰えてしまうのだ。冷静でなんていられるわけがない。
それでも、ただ信じて待ち続ける。かならず何とかしてくれる、と。

「……待っているだけに耐えられないのなら、せめてキミも少しでも足掻いてみるかい?」

突然聞こえたキュゥべえの声。
そして現れるその姿。いつもどおりの半透明、白く透き通ったプログラム。

「足掻く、ってどういうことかしら、キュゥべえ?」

何かまだ奥の手があるのかと、期待を込めてキュゥべえを見つめるマミ。
その視線に、揺らがない赤い瞳が応えて。

「状況があまりにも悪すぎる。このままだと、まず見滝原は壊滅するだろう。
 それを防ぐためにも、マミ。キミにも戦ってもらいたい。……やれるかい?」

キュゥべえの言葉を受けて、マミは考え込むように押し黙る。
今の状態で戦えるのかという不安、そして何より、心の奥底で蠢く死の恐怖。
まさに身をもって体感したそれに、囚われることなく戦えるのだろうか。
自然と手が震え、顔を伏せてしまう。それでもマミは、静かに呟いた。

「まどか……手を、握っていてくれないかしら」

改めて目覚めてみると、呼び捨てにするのは些か恥ずかしかったらしい。
人前でこそ鹿目さんと呼ぶけれど、二人きりの時にはまどか、とそう呼んでいた。

「はい……マミさんっ」

その手にそっと手を寄せて、そのままぎゅっと両手で握る。
震えている。マミの感じている恐怖が伝わってきて、まどかまで体が震えそうになる。
670 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/13(火) 18:10:54.14 ID:ztnNPCf+0
「怖い……ですよね、マミさん」

それがよくわかるから、少しでもそれを和らげようと手を握る。声をかける。

「ええ、怖いわ。まどか。……でもね。私、負けたくないの。バイドに、自分に」

握った手を胸元に引き寄せて、大きく一つ息を吸い。
そして吐き出す。恐怖も纏めて吐き出すように。
ゆっくりと、その手の震えは引いていった。

「もう少しだけ、このままでいさせて。なんだか手を離したら、また震えちゃいそうだから。
 格好悪いよね、私。……でも、格好悪くたっていいの。お願い、私を支えていて」

人を包み込むように優しく、大きく見えていたマミの姿も
今はとても小さく、か細く見えてしまう。そんなマミが今、必死に心を奮い立たせようとしている。
励ましてあげたくて、少しでも力になりたくて、まどかはマミに身を寄せて、囁く。

「マミさんは格好悪くなんかないです。さやかちゃんもそうだけど
 マミさんは、私にとっても憧れなんです。だから……いくらだって支えます。一緒に居ます」


気がついたときには、暖かなものに抱きしめられていた。
それが、マミの体だというのに気付いたのは数秒過ぎてからのことで。
抱きしめてきたマミの身体は、柔らかくて暖かで、すごく女の子の匂いがして。
同じ女の子だというのに、顔が紅潮してしまうのをまどかは止められなかった。

けれど、抱きしめたその腕がまだかすかに震えていたことに気付いて
そっと手を回して抱きしめて、優しくマミの背を撫でた。

「もう一度、もう一度立ち向かってみるわ。だから見守っていて、まどか」

囁くようにかすかなマミの声。
それに応えて、まどかは小さく頷いた。
671 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/13(火) 18:11:53.19 ID:ztnNPCf+0
「覚悟は決まったかい、マミ」

答えを求めて、キュゥべえが声をかける。
抱きしめていた手を離して、その暖かさには一時の離別を告げて。
伏した顔を上げて、マミが覚悟と言葉を告げた。

「ええ。戦ってみせるわ。もう一度、あの悪夢に立ち向かってみせる」

もう声は震えていない。
恐れは、心の奥底に閉じ込めた。後は戦うだけだ。

「それはよかった。丁度迎えも来たようだ」

「迎え?」

不思議そうに尋ねる声に、キュゥべえは得意げな笑みを浮ばせて。

「ああ、届いたのさ。“魔法使いの箒”がね」
672 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/13(火) 18:15:29.59 ID:ztnNPCf+0
では、今回はここまでと言う事で。
次回からはいよいよ巨大戦艦との対決になります。

>>661
杏子ちゃんにはいろいろと大変なR戦闘機に乗ってもらおうと思います。
流石にバイド系はちょっとアレですが、ちょっとしたネタも考えています。

そしてケンロクエン。砲台だらけの巨大戦艦に肉薄するのは
現実的には割りと自殺行為じゃないかと思います。頑張れ杏子ちゃん。

>>662
ゲームで戦ったのは1に出てきた巨大戦艦、グリーン・インフェルノですね。
今回のはFINALの奴なのでまた別の巨大戦艦になります。

そしてドリルフォースはなかなか強力ですが
個人的にはニードルフォースが一番のお勧めかな、と思います。
全方位攻撃はやっぱり強いですからね。
673 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 18:33:36.67 ID:FIboj5EDo
実際一撃でどんな城でも落とせる槍を持つ代わりに一人で盾だけ持って
城に肉薄しろって言ってるようなもんだからなあ
まあキリカが来たからちょっとはマシになるだろうけど
いずれにせよ杏子ちゃんの受難の日々は続きそうだ魔法少女でもないのに
674 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 18:56:51.79 ID:pTAw+gISo
魔法使いの箒はなにかなー
毎回新機体が出てくるたびに楽しくなるね!!
675 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 20:14:04.67 ID:dhAxAi8DO
乙ですっ!
マミさんの早過ぎる復帰戦…更に迫る巨大戦艦…まどかの祈りは、天に届くのか?見滝原の運命は…?

遠隔操作出来るR戦闘機があれば、まどかも戦えるだろうか?いや、訓練してないから足手纏いか。
676 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/14(水) 01:28:10.99 ID:kJXf3wq60
まどかが戦う方法。

BWX−1M Kriemhild Gretchen になって、救済波動砲を叩き込めばいいんだ。
Wは魔女のこと。つまり、バイド化した魔女を使って作った、魔法少女用R戦闘機。
グリーフ・フォースで、ソウルジェムの穢れを引き受け魔女(戦闘機)に力を与える。

TEAM R−TYPEのみなさん。こんな感じでどうでしょう?
677 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/14(水) 16:41:34.71 ID:GiFpjfPM0
最初に

今回は、かなり趣味回です。

では投下します。
678 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/14(水) 16:42:48.28 ID:GiFpjfPM0
「くっそ……これはきつい、ねっ!!」

機体を掠めるようにして襲い来る砲弾をかわして、さやかが悪態をついた。
上空から無数に降り注ぐ砲弾。それを掻い潜り、フォースで受け止め。
立ち塞がる砲台を叩き潰し、強引に道を切り開いて進む3機のR戦闘機。

「ゲームとは大違いだわ。……今ですらぎりぎりだというのに、まだ半分以上」

頭上の砲台を対地レーザーで潰しながら、織莉子もまた焦りの混じった声を放つ。
突入から10分弱。侵攻速度はあまりにも遅い。
いつ波動砲のチャージが完了するかもわからない状況、このままではまずい。
とはいえ、降り注ぐ砲火はこれ以上の侵攻を許してはくれない。

「何より厄介なのは……来たっ!」

そう、所詮はいくら数が多いとはいえ固定砲台からの砲撃、R戦闘機の機動性をもってすれば
掻い潜るのは無理な話ではない。問題は別にあった。
巨大戦艦のハッチから現れた、自走砲台である。この自走砲台の放つ迫撃砲の弾幕は厚く
さらに機動性もそれなりに高く、多少の被弾ではびくともしないほどの耐久性も持っていた。

それを確実に、一撃で破壊しうる攻撃。
それはほむらのラグナロック・ダッシュが持つメガ波動砲Uだけであって。
故に、ほむらはいつ出現するかわからない自走砲台に備え、常時波動砲のチャージを進めておく必要があった。
すなわち、通常兵器による敵弾の相殺や砲台の破壊の手が減る、ということで。

とにかく出現した自走砲台を、その奥の砲台ごと纏めてメガ波動砲Uで打ち抜いた。
射線上の敵弾も纏めて巻き込んで、一筋激しい閃光が走る。
最強最終の波動砲を開発するための試験機ではあるが、メガ波動砲ですら十分な威力を誇るのである。
チャージ容量を増加し威力を増したその一撃は、最早防ぐ術などありはしない。
閃光が駆け抜けた後には、波動の粒子が煌く空間だけが残された。
679 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/14(水) 16:43:17.07 ID:GiFpjfPM0
道は、開かれた。

「さやか、織莉子。今の内に突入を」

「おっけー、じゃあダメ押しでもう一発っ!」

開けたその空間を埋めようと押し寄せる砲火、それを遮り打ち砕く閃光。
低チャージで放たれた、フォルセティUのロックオン波動砲である。
オートで敵をロックオンする波動砲が、機体に近い砲弾を的確にロックオンして撃墜していく。
打ち落とされた砲台や砲弾は、爆散しながら眼下のビル街へと落ちていく。
ビルが砕け、押しつぶされた車が火を噴いた。間違いなくその一つ一つに、人の命が存在している。

「……ごめん」

けれど、心を痛めている余裕はない。
心の痛みに歩みが止まれば、もっと多くの人が死ぬ。
今出来ることは、ただ進むことだけだ。

わずかにこじ開けた隙間に、無理やり機体を捻じ込んで。
爆炎と焦熱に身を焦がしながら、R戦闘機が破壊と死の森を進んでいく。
身を休める暇などありはしない。まだまだ先は長く、巨大戦艦はその真価のほとんどを見せていない。

戦いはまだ、始まったばかりだ。
680 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/14(水) 16:43:59.41 ID:GiFpjfPM0
「ったく、超ウゼェ!どんだけ落とせば気が済むんだっての!」

自走砲台からの攻撃をフォースで受け止め、そのまま肉薄。
交差気味にパイルバンカーを叩き込む。強固な装甲も、パイルバンカーの前ではほぼ無力。
一撃で外装から内部にいたるまでをグシャグシャに破壊され、火だるまになって墜落していく。

しかしそれでもまだその向こうには、次の自走砲台の姿が見えていた。

「キリがないね、ったく。……キリカ、そっちはどうなってるっ!」

捕捉追尾波動砲が、巨大戦艦の後部に無数に設置されたブースターへ向けて放たれた。
分岐し、誘導を受けて飛んでいく青白い閃光。衝突と同時に炸裂、衝撃が走る。
しかしそれでも、破壊できたのはわずかに二基、今尚無数のブースターが稼動している。

「こいつら、なかなか手間取らせてくれるよっ!いやはやまったく、無駄に丈夫で困ってしまうね」

その様子を見ても、どこか面白そうにキリカが言う。
ブースターから放出される推進剤が、レーザーや波動砲ですらも遮蔽する壁として機能している。
貫通力の高いメガ波動砲でもないかぎり、一気にブースターを破壊するのは難しい。
うまいこと推進剤の放出が収まったところを的確に狙ってはいるが、それでは到底手が足りない。
ケンロクエンのパイルバンカーは、推進剤放出の間を縫って攻撃するには射程が足りず
仕方なく次々に迫る自走砲台の相手をしているのだが、それすらも絶え間なく襲い来る。
とてもではないが、ブースターの方に取り掛かる余裕は無い。

「困ってる場合かっ!何とかしろ、もう時間が無いんだぞ!」

一人では立ち向かうことすらできなかっただろう。
とはいえ、キリカの手を借りたところで状況は絶望的。
何より最大の破壊目標、巨大戦艦のメインブースターは未だ健在なのである。
あれを破壊しない限り、巨大戦艦は前進を続けるだろう。そしていずれ、市街地までも到達する。

問題は、そのメインブースターもまた恐るべき勢いで推進剤を吐き出し続けているということで。
レーザーも波動砲も、真正面からではまず通らない。
放出が弱まったわずかな隙を狙うしかないのだが、キリカのクロックダウンはそのための火力に欠いていた。

「私は私の為すべきことを為している。キミが勝手に焦りすぎてるだけじゃないのかい?」

あくまでキリカの声は涼やか。
実際問題、キリカにとっては見滝原などどうでもいいのだ。
命令だから、織莉子が戦えと言うから戦っているだけで。
そしてキリカは、織莉子が死ぬようなことは微塵も疑っていない。
心の持ちようとしてはともかく、絶望的な状況を前にしてもキリカは平静を保っていた。
681 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/14(水) 16:45:14.26 ID:GiFpjfPM0
「っ!危ない危ない、っていうかこの期に及んで炸裂弾?
 いくらなんでもトンデモすぎるでしょーっての、この弾幕の量!」

前方を飛ぶフォルセティUが、頭上から飛来する敵弾を回避した直後である。
その敵弾が炸裂し、周囲に弾をばら撒いた。咄嗟に回避軌道を取って直撃は避ける。
しかしその頭上には、続けざまに炸裂弾が投下されていた。

「かわしきれない、破壊するしか……っ!」

一筋走るメガ波動砲Uの閃光。炸裂弾も敵弾も、一気にまとめて飲み込んだ。
だがしかし、その発射のタイミングを見計らっていたかのように自走砲台が現れる。
さらに後方からも迫る、小型バイドの群れ。一気に敵の攻勢は激化した。


「弾幕が濃すぎるわ。これ以上は進めない」

後方からのバイドの攻撃、さらに頭上から降り注ぐ砲撃、炸裂弾。
前方からは自走砲台からの迫撃砲。切り開く一撃はすでに無く、次弾のチャージまではしばし時間がかかる。
進路も、もはや退路すらもない。

「Δウェポンは?」

「さっき使ったっての。ドースはまだ全然だ!」

「こちらも、後一押しと言ったところだけど……まだ足りないわ」

焦っている余裕すらもない。空間を埋め尽くすように押し寄せる弾幕。
ほむら自身も突入の際にΔウェポンは使用済み。この危機を回避するためには使えない。
客観的に見ればこれ以上の侵攻は不可能。脱出するより他に術はない。
ほむらもそれを理解している、恐らく織莉子も、そしてさやかも。

「さやか。これ以上は……もう」

諦念交じりの声でほむらが告げる。今決断しなければ、もう脱出もままならない。
さやかだってそれはわかっている。フォルセティUの機動性をもってしても、この物量差は埋めがたい。
682 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/14(水) 16:45:55.47 ID:GiFpjfPM0
「……嫌だ」

「美樹さん。無駄死にしたくなければ、ここは退くべきだと思うわ」

完全に足は止まった。もはや迫る敵に応戦する為だけにレーザーやポッドを放ちながら
織莉子がさやかに告げる。織莉子もまた、街にさほど未練があるわけではない。
だからこそ、自分達を助けた恩人を無碍に死なせたくはないという気持ちはあったのだろう。

「嫌だね」

さやかも同じく足を止め、フレシェット・フォースから針状のレーザーを続けざまに放つ。
そして尚強情に、退くことを拒む。
貫通力を高めた針状レーザーは、敵弾を貫き、その先に砲台までもを串刺しにして四散させる。
咄嗟の隙間にほむらがフォースを後ろに付け替えて後退。迫るバイドの小型兵器群を攻撃した。

「お願いだから聞いて、さやかっ!このままじゃ……本当に無駄死にになる」

残る脅威は眼前の自走砲台、いつしか数も二つに増えて。
その放つ迫撃砲自体はフォースでいくらでも受け止められるのだが。
砲撃は効果が薄いと判断したのか、その強固な機体そのものを弾丸に変えてこちらに迫ってきた。
回避している余裕はない。三機分のレールガンとレーザーがそれを迎撃する。
さすがに三機分の火線を集中すれば、いかに強固な自走砲台といえど耐えられはしない。
爆散、そして撃沈。しかしその後にはもう一機、迫撃砲を連射しながら迫る自走砲台の姿。

「嫌だっ!」

「さやかっ!!……お願いだから退いて。このままじゃ、本当に死んでしまう」

火線を自走砲台に集中させた分だけ、敵弾への対処が遅れてしまう。
ついに、頭上から降り注ぐ砲弾がフォルセティUを掠めて火花を上げた。

「っ、きゃぁぁぁっ!?」

「さやかっ!今、助けに……っ!!」

直撃ではないものの、大質量の砲弾である。その衝撃は大きい。
錐揉みするように機体は弾き飛ばされ、砲火の雨に晒される。
助けに向かおうにも、ほむらもまたろくに動ける状況ではなかった。
683 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/14(水) 16:46:43.32 ID:GiFpjfPM0
目まぐるしく急速回転する視界。
目が回りはしないけれど、機体の制動が取れない。
定まらない視界。その一面を染める敵弾。こんな状況でかわせるはずがない。

「あたし、死ぬの?……こんなところで、誰も守れないまま」

そんなことが許されるわけがない。
なぜなら、ここで自分が死ねばどうなるか、それをよく知っているからだ。
今ここで戦う自分の背中には見滝原がある。
そこには家族が、友達が、好きな人が居る。守ると誓ったはずなのだ。
その誓いを、想いを。こんなところで諦められるものか。

「生きてやる、足掻いてやるッ!こんな奴に、やらせるもんかぁぁぁっっ!!」

吼える。吼えたところで状況は変わらない。絶望的なまま。
それでも絶対に諦めない、たとえ死んでも。
否、絶対に死んでなどやるものか。こんな悪夢に、これ以上何一つ奪わせていいはずがない。

――決して諦めるな。自分の感覚を信じろ!

ただそれだけを願い、望むさやかの鼓膜を、力強い声が揺るがした。

信じろ、そう声は言う。だが何を信じればいい。
信じるべき感覚、それを感じる体はここにはない。
今ここにあるのは、鋼の機体と魂一つ。ただそれだけだというのに。

本当にそうなのか?
なら今感じているこの焦りは何だ。生きようともがく意志は何だ。
生と死の狭間に感じる、この激しい感情は何だ。
信じるべき感覚、それはこの機体を伝わるものではないのか。
だとすれば、血潮の代わりにオイルが流れ、神経の代わりに電気信号が這い回るこの機体。
それすらも、自分の体そのもの足りえるのではないか――
684 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/14(水) 16:48:04.23 ID:GiFpjfPM0
「うぅぅぅああぁぁぁぁぁぁっ!!!」

ロックオン波動砲をチャージ、その間にも無数に飛来する敵弾。
被弾。衝撃が走る。それでも致命傷にはまだ遠い。まだ飛べる。
発射可能ギリギリのレベルで波動砲を放つ。それでも放たれたロックオン波動砲は過たず
迫る敵弾を打ち砕く。ほんの僅か。コンマ数秒弾幕の雨に隙間ができた。

その隙間をすり抜ける。錐揉みする機体。散らばる力のベクトルを支配して。
駆け抜ける。この機体が自分の体なら、動くべき時、タイミングは自分の体が知っている。
後はただそれに身を任せるだけだった。気がついたときには、弾幕の雨は後方にあった。


「あははは、そうか、こうすればよかったんだ」

その声はまるで、機体そのものが話しているように感じる。
機体の表面を激しく吹き荒れる、熱風混じりの夜風がどこか心地よい。
冷たい鋼の塊でしかないその機体が、今ならはっきりと言える。
これが自分の姿だと、自分の体なんだと。

後方から風を切る気配。炸裂弾が飛んでくる。
わかる。機体を翻して避ける。後方で炸裂、拡散した敵弾がまた、迫る。
これもまたひらりと身をかわす。弾を見る必要なんてない。
ただ、風が流れる通りに行けばいい。

「なんだ、やり方さえ分かっちゃえば簡単なもんだね」

この体に漲る力。どこまでも飛んでいけそうな万能感はなんだろう。
とても幸せで、気分がいい。体の内側から笑みがこみ上げてくるような。


「……これなら、負ける気がしない」

さやかが辿り着いたのは、恐らくパイロットとしては一つの境地。
我は機、機は我。鋼の機体に魂を預け、その意志をもって突き動かす。
まさにそれは人機一体。ソウルジェムとサイバー・コネクタの助けがあったとはいえ
この境地に辿り着くものが、一体どれだけいるのだろうか。
685 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/14(水) 16:49:17.07 ID:GiFpjfPM0
「ここからが本当の勝負、負けないよ。バイド……って、うわわっ!?」

頭上、いきなり開いたハッチから飛び出してきた自走砲台。
流石にこれには驚いて、急遽回避機動を取ろうとした。その瞬間に。
横合いから飛び込んできた大型ミサイルが、自走砲台を直撃し爆散させた。

後方を見やれば、炸裂弾を放ち続ける砲台にもミサイルが直撃、その活動を停止させる。
更にその爆風の余波で、周囲の砲台もまた破壊されていく。
弾幕の雨に僅かな隙間が出来た。そこに割り込む二つの影が。




「どうやら、援軍には間に合ったようだ」

「急いできて正解だったぞ。どうやらパーティーには遅れずに済んだようだからな」




そして聞こえる、いずれも男の声。
その片方は、先ほど聞こえた声に似ていた。
686 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/14(水) 16:49:52.95 ID:GiFpjfPM0
二機のデザインはいずれも同じく、白と青を基調に緑のキャノピー。
そして翼の生えた赤いキツネのシンボルマークが映える。
それはR-9B3――スレイプニル。
爆撃機として運用されるストライダーの系譜を継いだ、最後の機体である。

「こちらフォックスファイア小隊、ジェームズ・マクラウドだ。キミ達を援護するっ!」

「同じく、ペッピー・ヘアだ。よく頑張ったなお嬢さん方。援護するぞっ!」

そして二機の機体はそれぞれ散開。降り注ぐ砲弾を苦もなくすり抜けながら
的確に砲台を打ち抜き、道を切り開いていく。



「あの二人。かなりの凄腕ね。なんにせよ助かったわ。このまま一気に突破する」

この機を逃す手はない。ほむらは一気に機体を走らせる。

「まさかこんな時に増援だなんて、なかなか人生捨てたものじゃありませんね」

織莉子もまた、それに続いて砲火の中をすり抜けていく。

「ありがと、ジェームズさん、ペッピーさんっ!……今度こそやっつけてる。
 覚悟しなさいよ、バイドっ!!」

さやかも、傷ついた機体に鞭を入れ、砲火の中を走り出す。
機体は既に万全とは言えない。それでも今は、まるで敵の攻撃が当たる気がしない。
今なら、勝てる。



絶望を払う。その兆しが見え始めていた。
687 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/14(水) 16:57:59.25 ID:GiFpjfPM0
本日はここまで、さやかちゃん覚醒回でした。
多分これで能力的にはほむらちゃんにちょっと遅れを取るくらいのとこまで底上げされたのではないかと。
そして64版が個人的には一番好きです。
本気で3DS版を買おうかどうか迷ったくらい。

>>673
おまけにその盾はまるで役立たずと来ています。
うん、やっぱり自殺行為なんじゃないかな。
次はもっと自殺行為にならないような機体に乗せてあげたいと思います。

>>674
箒の詳細は恐らく次回あたりで。
こちらも色々と機体のネタを考えるのは楽しいです。
今回の新機体はみんなマイナーチェンジみたいな感じになってしまってますけどね。

>>675
既に被害自体はかなり出ています。彼女達が艦尾と艦首を同時に攻略している間
側面からの砲撃をとどめるものは居ません。恐らくビル街は既に火の海でしょう。
そんなものが市街地に、あまつさえ住宅街に侵入してしまえば……。
防げるかどうかは、少女達の手にかかっています。

無人機はバイドに乗っ取られると面倒なことになりますからね。
やはり人の意志の乗った機体でなければ、バイドとは戦えないのでしょう。

>>676
バイド化した魔女とか本気で手に負える気がしません。
でも魔女は魔女でうっかりコントロールロッドか何か刺せば制御できたりしませんかね。
というよりもそれだとR戦闘機そのものが魔女っぽい感じですね。

魔法の性質によっては、補給とか修理の必要もなくなったりするかもしれないので
案外利用価値はあるかもしれません。
688 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/14(水) 17:28:24.03 ID:DZPUw6oDO
お疲れ様です!
さやかちゃんがアーサーさんみたいな状態に…やはりソウルジェムとサイバー・コネクタの合わせ技はチートだな。

なんとスターフォックスから応援が!?ローリングは使えるんだろうか?
689 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/14(水) 19:31:29.57 ID:ntJ1nKhAO
お疲れ様です


凄い所から援軍来たなぁ……これは後々にもこういうのが有るのかな?個人的にはYUKIKAZEとか来て欲しかったり(戦ってるのバイドと微妙に似てるし)
690 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 01:47:49.75 ID:RV1Gd2hNo
フォックスファイア小隊はキウイベリィとフロッグマンを使うやつがいそうだなww
691 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/15(木) 16:35:47.31 ID:VxiJnlxB0
ゆまちゃんのお話最終章となります。

タイトルは
【そして番犬は眠る】

では、投下します。
692 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/15(木) 16:36:39.30 ID:VxiJnlxB0
ずっと、ずっと戦いつづけてきたんだ。
地球のどこかの都市で、街をこわしつづける悪い機械をやっつけた。
水の中に落っこちちゃったエネルギー炉で、くっついたりはなれたりするバイドをやっつけた。
オペレーターの人は、CEROがどうとか言ってたけど、ゆまにはよくわからなかったんだ。

そして、山の中に作られた基地の中でも、ゆまはバイドと戦ったんだ。
山の中には雪が降ってて、すごくきれいだったんだよ。
でも、暴走したトレーラーはすっごく危なくて、オペレーターの人も驚いてたみたい。
こんなトレーラーがあるかー!って、すごいびっくりしてたもん。

でも、ゆまは負けなかったよ。ケルベロスといっしょに戦いぬいてきたんだ。
ケルベロスはすごく強くて、ゆまでもなんとかバイドと戦うことができたんだよ。
だけど、倒しても倒してもバイドは押し寄せてくるから、少し疲れちゃったんだ。

地球の中のバイドはみんなやっつけたって聞いて、これでおしごとも終わりなのかなって思った。
やっと帰れるのかなって、また、エバやみんなに会えるのかなって思ったんだ。
でも、まだ終わりじゃなかった。次の敵は宇宙にいたんだ。
ぐんじようさい、アイギス。この事件は、この場所から始まったんだって言ってた。
だから、ここさえ壊せばそれでおしまい。がんばらなきゃいけないな。

他の人たちもきっと、別の場所でがんばってるんだろうな。
だから、ゆまも負けてられない。とうとうアイギスが見えてきた。
きっとまた、たくさんバイドがいるんだろうな。でも、ぜったいに負けない。
そしてゆまは、ケルベロスを走らせたんだ。
693 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/15(木) 16:37:38.00 ID:VxiJnlxB0
「ケルベロスは実に優秀だね、エバンス君。いや、それとも彼女が優秀なのかな?」

「恐らく両方でしょう。まさか、初めての実戦であれだけの戦果を上げるとは」

「なんにせよ、これでサイバー・コネクタ技術の有効性は十二分に示されたと言ってもいいだろう」

「後は、ゆまが無事に戻ってきてくれれば……ですが」

「心配かね?データは逐次基地へと送信されている。最悪未帰還でも開発は続けられるだろうに」

「……もしやすると、情が移ったのかもしれませんね。あの子は優秀で、とても愛らしいから」

「くくっ、あの娘の世話をするようになってから、キミは随分と優しくなったよ、エバンス君。
 ……そうだな、事件の後始末が済んだら、しばらく休暇でも取るといいのではないかな」

「なぜそんな時期に?戦闘記録の解析にも人手が要るでしょう?」

「やれやれ、キミもわからん奴だ。あの娘を労ってやれと言っているのだよ。
 勝者には栄華と褒章を、ということさ」

「……貴方も、随分と人が変わりましたね」

「これでも人の親だった時期があったものでね。……さあ、見届けようじゃないか。私達の娘の戦いをね」
694 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/15(木) 16:38:25.33 ID:VxiJnlxB0
―――侵食―――

「R戦闘機が一機、こちらに接近してきます。着陸許可を求めているようです」

「一体どこのどいつだ?ここは開発基地だぞ、補給なら他所に頼んでもらいたいもんだがな」

「所属は不明ですが……どうやら被弾しているようです。救難信号も出ています」

「命からがら逃げてきた、ってとこか。しょうがない、3番ドックを空けておけ。あいつを回収する」



―――邪悪―――

「一体何が起こったんだ!?」

「わかりませんっ!突如として基地内の全機能が、制御不能に……」

「そんな……これはっ!?」

「今度は何だっ!!」



「基地中心部にバイド反応。この大きさ……え、A級バイドですっ!?」

「な……っ」


―――覚醒―――
695 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/15(木) 16:39:47.22 ID:VxiJnlxB0
アイギスの一番奥、ロケットみたいなバイドを倒したら、中からアロー・ヘッドが出てきたんだ。
もしかしたら、バイドにつかまってたのかなって思って、助けてあげようとしたんだ。
でも、そのアロー・ヘッドはゆまを攻撃してきたんだ。
オペレーターの人が教えてくれた。このアロー・ヘッドが、すべての事件の原因なんだ、って。
だから、やっつけなくちゃいけないんだって。

敵のアロー・ヘッドは、もうボロボロで、飛んでるのが不思議なくらいだったんだ。
オペレーターの人が言うには、初めてバイドと戦ったR戦闘機なんだって。
修理もされないまま、アイギスに置き去りにされちゃったんだって。
かわいそうだなって思ったんだ。バイドと戦って、がんばったのに
こんな風にバイドにのっとられちゃうなんて、やっぱりかわいそうだった。

だから、早く止めてあげたくて。がんばって戦ったんだけど、だめだったんだ。
後ちょっとの所まで追い詰めたのに、逃げられた。
もちろんゆまは追いかけたんだ。でも、ずっと戦い続けてたからかな。
追いかけているうちに、だんだん眠くなってきて。目を開けているのも辛くなっちゃって。


気がついたら、不思議な場所にいたんだ。
周りを見ると、まるで生きてるみたいにうぞうぞって動いてる。
そして、そのあちこちから変なバイドがどんどん湧き出してくる。
たくさん浮かんでるカプセルみたいなものの中には……人の脳みたいなものが詰まってた。

「どこなの、ここは。ねえ、誰か教えてよ」

必死に呼びかけてみるけど、通信はどこにもつながらない。
どうしてなのかな。みんな、やられちゃったのかな。

「怖い、怖いよ……誰か、助けてよっ」

今までは、ずっと誰かといっしょに戦ってたから分からなかったんだ。
一人は、怖い。一人きりは怖くて、寂しいよ。
そんな風に考えたら、泣きたくなってきちゃうけど、そんな余裕もなかったんだ。
バイドが来る。戦わなかったら本当に死んじゃう。もう誰にも会えなくなっちゃう。
だから、戦うしかないんだって。そうじゅうかんをぎゅってにぎったんだ。
押しよせてくるバイドの群れを倒して、押しつぶそうとして近づいてくるカプセルをかわして、こわして。

ブドウみたいな丸いものがいっぱい集まった敵も、すごい速さでぶつかってくるコンテナも、柱も。
全部こわした、全部かわせた。ゆまはまだ、生きてるよ。

まだ生きてる、死んでない。敵を全部たおせば、ゆまは死なない。
死ななかったらみんなに会える。基地に帰れば、クレータさんやココさん、そしてエバにまた会えるんだ。
だから、だから……全部、たおさなくちゃ。
696 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/15(木) 16:40:24.90 ID:VxiJnlxB0
「こちらミッドナイト・アイ02、こちらミッドナイト・アイ02!ケルベロス、応答しろ。ケルベロスッ!」

声が聞こえる。ケルベロスって。
ああ、そうだった。ケルベロスって、ゆまのことだ。
ってことは、誰かがゆまを呼んでいるんだ。誰かが近くにいるんだ。
生きてるんだ、ゆまは。

「……帰らなくちゃ。みんなが待ってるんだ」

「っ!?反応があった。ケルベロス!こちらミッドナイト・アイ02。無事なのか、ケルベロス?」

もう、疲れちゃった。とにかく今は、早く帰りたい。
まだ敵がいるのかもしれないけど、もう戦えない。戦いたくない。
くたくたに疲れちゃったんだから。少しくらい休ませてくれたっていいよね。

「こちらケルベロス。千歳ゆま。ゆまは無事だよ。だから、これから基地に戻るんだ」

きっとあのアロー・ヘッドだって、もうすこしでやっつけられそうだったんだから
誰かがやっつけてくれてるよ。もうきっと、戦いだって終わってるはずだよ。

「基地……R戦闘機の開発基地のことか?」

「そうだよ、ゆまは帰るんだ。みんな、待っててくれるといいな」

ここからだと、基地はそんなに遠くない。
ちょっと飛ばせばすぐに帰れる。でも疲れちゃったから、少しゆっくり帰ろうかな。

「……ケルベロス。落ち着いて聞いてほしい」

何を言ってるんだろ。なんだかすごく大変そうな感じ。
でももうゆまは気にしないんだ。だってもうすぐ家に帰れるんだもん。

「開発基地は――」

さあ、機体を基地の方へと向けて、後は飛び出すだけだ。

「――バイドの奇襲を受け、壊滅した」

「え……っ?」
697 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/15(木) 16:40:54.71 ID:VxiJnlxB0
「ウソだよ、そんなの」

うん、ウソに決まってる。きっとみんなそんなことを言って、ゆまをおどろかせようとしてるんだ。
きっと基地に帰ったら、みんな笑ってむかえてくれるに決まってるんだ。
こんなウソまでつくなんて、ちょっとひどいや。帰ったらちゃんともんく言わなくちゃ。

「ケルベロス。信じられない気持ちはわか「ウソだッ!!」」

ウソだ、ウソだ。ウソだ。そんなことあるわけない。
こうなったら自分の眼で確かめてやるんだ。基地は無事だって、みんな元気にしてるんだって。

「ウソだ、ウソだ。ウソだ……そんなの、ぜったいウソだっ!!!」

ケルベロスを一気に加速させる。
最高速度、限界なんて知らない。いっきに加速しすぎてちょっと体がいたい。
もっと速く。もっと、もっと、もっと。

「落ち着け、ケルベロスっ!一人で突っ込むのは無謀だっ!」

「う・る・さぁぁぁぁぁいッ!!」

聞きたくない。何も聞きたくない。
基地が見えてきた。ハッチは全部あいてる。
あそこに入れば、エバたちに会える。家に帰れる。戦いは終わる。
速度を落とすのも忘れて、ハッチの中へ突入したんだ。
698 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/15(木) 16:41:51.03 ID:VxiJnlxB0

「おかえり、ゆまちゃん。大活躍だったわね」

「沢山バイドをやっつけたんだって?さすがはゆまちゃんと、あたしらのケルベロスだ」

「うん、ただいま。ココさん、クレータさんっ!」


「おかえり、ゆま。いっぱい戦って疲れただろう?ゆまの大好きなオムライスを作って待ってたんだ。
 それを食べて、ゆっくりお休み。ゆま」

「へへ、ありがと。エバ。それと……ただいまっ」



















むかえてくれるはずだったのに。
待っていてくれるはずだったのに。
なのに、どうして?どうして…………



      コノセカイハ――コンナニモアカイノダロウ
699 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/15(木) 16:42:45.38 ID:VxiJnlxB0
「―――――――――ッ!!!」

それが自分の声だって、ゆまにはわからなかった。
目の前も、頭の中も、何もかもが真っ赤で。

基地のかべにはりついた、赤黒いナニカ。
そこから飛び出したのは。よく分からない肉のかたまり。

お前が、お前達がみんなを……コロシタ。
アンカー・フォースでその肉のかたまりを引きちぎった。
飛び散る赤いナニカ。見慣れた赤さ。まるで血の色みたい。

「………死ね」

道を塞ぐ敵を、全て破壊して先へ。

「死ね……死んじゃえ……」

それがナニか、ナニであったかなんて気にしない。
こいつらは、人なんかじゃない。仲間なんかじゃない。
攻撃してきた。だから仲間であるはずがない。殺すしかない。

こいつらを全部やっつけたら、きっとみんなのところに帰れるんだ。
みんな、どこかでゆまを待っててくれているはずなんだ。
だから、こいつらは違うんだ。みんなみんな敵なんだ。倒さなきゃ、殺さなくちゃいけないのに。

なのに、なのにどうしてこのバイドは、まるでヒトのような悲鳴をあげるのかな。
なのにどうして、こんなに赤い、赤い………。


「ひ、ひぐ……っ。ぅ、ぅあ……あぁぁァァぁっッ!!!」

真っ赤な世界。その何もかもがもういやで。全部吹き飛ばしてしまいたかったんだ。
だから、Δウェポンであたり一面を全部やき尽くした。

もう、動いているものは何もなくなった。
きっとこの先に、みんなが待ってるんだ。きっとそうに決まってる。
700 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/15(木) 16:43:22.25 ID:VxiJnlxB0
帰ってきた。基地のドックが見えてきた。
あそこから、今までの長くてつらい戦いは始まったんだ。
ドックの周りには、あのいやな赤い色は見えない。だからきっと、みんなあそこにいるんだ。

「何か……来る」

ドックから、何かが発進しようとしてる。
きっと、ゆまを迎えに来てくれたんだ。こっちに向かってくる。

見たことのないR戦闘機が二つ、そして、見覚えのあるのが一つ。
あれは……。

「アロー・ヘッド。………そうか、そうだったんだね」

こいつは、あの時逃がした奴だ。
それがここにいる、しかも仲間まで連れてる。
あいつが、あいつが基地にこんなひどいことをしたんだ。

――ユルサナイ。

真っ赤な頭の中が、真っ赤を通り越して真っ白になっちゃった。
何も考えられない。とにかくあいつが許せなくて、滅茶苦茶にこわしてやりたくて。
そんな真っ黒な気持ちにまかせて、ケルベロスを動かしたんだ。



そして、そして………。
701 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/15(木) 16:44:58.52 ID:VxiJnlxB0
・要確認事項、ケース6

この事件の後期、R戦闘機開発プロジェクト基地がバイドに侵食され、
多くの貴重なデータと人員が失われるという事態が発生した。
被害の詳細を求めることすら困難ではあるが、唯一形を保っていたR戦闘機の発進ドック内から
R-13“ケルベロス”の搭乗者であった、千歳ゆまの遺体が半ば炭化した状態で発見された。

しかし、ドックからはケルベロス本体の残骸は発見されておらず。
複数のパイロットから、開発基地を飛び出し異層次元に突入するケルベロスの姿が目撃されている。
異層次元に突入したR戦闘機はこのケルベロスのみであり、バイドコア消滅との関連があると推測される。
無人となったはずのケルベロスが何故動いたのか。異層次元内で何が起こったのか。
これらを要確認事項として提出する。

また、ケルベロス及びパイロットの処遇については、単独で異層次元に突入。バイドコアを撃破するも未帰還となる。
以上を公式見解とし、搭乗者のパーソナルデータ及び戦闘経過は最重要機密として扱うこととする。



―――サタニック・ラプソディ、経過報告書より引用
702 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/15(木) 16:54:10.97 ID:VxiJnlxB0
………以上です。
概ねΔの内容をそのままなぞっただけのような感じもします。
一人称視点、そしてまだ幼いゆまちゃんでとなると、なかなか戦闘描写が難しいところもありました。

今言うべきことは、これくらいでしょうか。


>>688
ソウルジェムとサイバー・コネクタ、この二つの技術が完全に融合したのが今のさやかちゃんの状態でしょう。
魂だけを切り離した状態なので、それを乗せる器はどんなものであれ自分の身体である。
それを理解して、その器が感じる感覚を受け入れる。そうすることで完成したものです。

名前だけのゲスト出演にはなりますが、その名に恥じない活躍をしてもらおうかと思います。

>>689
機会とネタさえあればぽつぽつと出していきたいなぁと。
まあお父上の名前にしたのは流石にフォックスだとあんまりにもあんまりかな、と思っただけなのですが。
そんなことしなくてもバレバレでしたね。

>>690
フォックスファイア小隊のF氏曰く
・キウイ・ベリィ
「こんな物より、俺は空のほうがいいぜ」

・フロッグマン
「こんなもん、後にも先にも一回きりだぜ」

とのことです。
703 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 17:02:35.64 ID:wqMB8R0Wo
ゆまちゃんの遺体は回収されたのか
せめて暗黒の森で囚われ続ける事はないんだなと思ったらそういえばゆまちゃん魔法少女だった
704 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 17:37:51.36 ID:m5wE1OUDO
お疲れ…様です。
ゆまちゃん…結局あんな事に。しかも逃がした事が原因になってるって言うね…。もしソウルジェムを拾えたとしても、流石に手遅れだろうなぁ。
705 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 19:16:17.56 ID:02rr5LgBo
しかしココとクレータと聞くと、司令官にはマイヤーズがいそうな…
706 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/16(金) 00:27:12.13 ID:wZ/8omF90
第2話の改変が終わったので投下しておきます。
707 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/16(金) 00:27:52.41 ID:wZ/8omF90
客船モジュールを牽引し、ステーションへと向かう一隻の輸送艦。
宇宙の闇に映える白色に覆われて、桃色のラインや黄色のリボン状の彩色がどこか少女趣味的な印象を与えている。
その船の名は、ヨルムンガンド級M型装備試験運用艦“ティー・パーティー”
魔法少女の駆るR戦闘機の試験運用を行うと同時に、彼女たちの生活空間ともなっているその船の中で。

「いらっしゃい。私たちの船。ティー・パーティーへ
 色々あって疲れたでしょうし、まずは一息ついて、それから色々とお話しましょうか」

まるで軍艦の中とは思えないような、とはいえ艦の外装に通じる感じも受けるような
可愛らしい彩りの部屋の中。先ほどまでバイドとの戦闘を繰り広げていた少女―巴マミが座っている。

「えっと…その、貴女はさっき戦ってた人……ですよね」

「確か、巴さん……って」

戸惑う二人。無理もない。
先ほどまでR戦闘機を駆ってバイドを殲滅していたその姿と、ティーポットを片手に微笑む今の姿は
まだ二人の中では繋がっていない。まるで、非現実的な何かを見るような表情で。

唯一人、ほむらだけは緊張でも理解し得ない様子でもなく、静かにマミへと視線を向けていた。

「そんなに緊張しないで、三人とも。巴マミよ。遠慮なくマミって呼んで欲しいわ
 何せ、あなた達は私の仲間になるかもしれないんだから」

「そのことです!一体何がどうなってるんですか。
 魔法少女とか、R戦闘機のパイロットとか。いきなり過ぎて訳わからないですよ」

途端にさやかが食いついた。けれどもその言葉を遮るものが。

「それについてはボクのほうから説明するよ」

三人をティー・パーティーへと導いたキュゥべえが、再びその半透明の姿を現した。
相変わらず、この生き物についてもよくわからないことばかりである。
708 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/16(金) 00:28:49.51 ID:wZ/8omF90
「長い話になると思うわ。お茶とケーキを用意したから、食べながらでも聞いて欲しいの」

紅茶とケーキを勧めながらマミが言う。
部屋の中にふんわりと漂う、リンゴのようないい香りと甘くて美味しそうなケーキの誘惑も
頑なになった心と身体を解すにはまだ、足りない。
これは長期戦になるかもしれない、とマミが考え始めたその矢先に。

「折角用意してもらったのだから……頂きます」

率先してほむらが動いた。立ちすくんでいた二人の間をすり抜けてお茶会のテーブルへついて。
まだ不安そうに見つめる二人に振り向くと。

「……大丈夫よ、ちゃんと事情は説明してくれると言っているし。まずは、一度話を聞いてみましょう?」

戸惑う二人を安心させるように、小さく笑みかけた。

「ほむらちゃんが言うなら……うん、わかったよ」

「それに、いつまでもこうしてたって仕方ない……よね」

二人も続いてお茶会の席へつく。ひとまず始まってしまえばもう
楽しげなお茶会の雰囲気は、三人を巻き込み飲み込んで、いつしか緊張も消えていた。


「〜っ♪このケーキ、メチャうまっすよー!まさか修学旅行がこんなことになるとは思わなかったけど
 これはこれで、もしかしたらすっごい経験かもね」

「ほんとだね。最初はちょっとどころじゃなく驚いちゃったけど
 それでもこんな経験、普通じゃできないだろうし。紅茶も美味しいし」

甘くて美味しいケーキの誘惑。
女の子にはなかなか抗いがたいもので、すっかりさやかはリラックスしてしまっているようだ」
まどかもかなり緊張は解れたようで、紅茶を片手に表情をほころばせている。

「とてもじゃないけど、ここが船の中だなんて思えないもの……ね」

ほむらもまた、少し釈然としない風はあるが大分寛いでいるようで。

「お茶もケーキもまだあるから、どんどん食べちゃっていいわよ」

「はーいっ。あ、それじゃケーキもう一つもらっちゃおうかなー」

「もう、さやかちゃんったら食べすぎだよー」

部屋の中に、明るい少女達の笑い声が響いていた。
709 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/16(金) 00:29:29.74 ID:wZ/8omF90
「……なんだか楽しそうだね、マミ」

そんな姦しい騒ぎの最中、キュゥべえがそっとマミに話しかける。

「ええ、実際楽しいんだもの。折角用意したお茶会の道具を無駄にせずに済んだし
 もしかしたら仲間ができるかもしれない、って考えたらね」

「そうなることを望んでいるよ、ボクも」

そう言うとキュゥべえはその耳を軽く揺らして、マミの傍らにちょんと座った。



「えーっ!?マミさんも、あたしたちと同じ学校の生徒なんですか!?」

「ええ、歳はあなた達よりも上だから、三年生になるのかしら?
 もっとも今は通えてないけど、ああ、でもちゃんと出席扱いにはなってるのよ。
 授業の内容だって、ちゃんとこっちで見られるようにしてあるし」

明かされた衝撃の事実に、思わずさやかはすっ飛んだ。
何しろとても一つ上とは思えないのである。落ち着いた態度といい
どう見ても中学生とは思えないそのボディラインといい、である。

「むむむ……魔法少女ってのは、皆マミさんみたいに大人っぽくて素敵なのかな」

なにやら思い悩むさやか。
そんな素敵になれるなら、なんて考え始めているのかもしれない。

「それじゃあマミさんは、ずっとこの船で過ごしているんですか?」

そんなさやかをさておいて、まどかが疑問を口にする。

「ええ、そうね。今はまだ何かと予定が詰まっているから。
 次に地球に戻れるのは、ひょっとしたら卒業式の頃かもしれないわね」

そう話すマミの表情には、隠し切れない寂しそうな翳りも見えた。
慌ててそれをかき消したけれど、まどかにもほむらにも、それは確かに映っていた。

「寂しくはないの……その、ずっと一人で、巴さんは」

ほむらの言葉に、マミは寂しげな笑みを浮かべる。

「……寂しくない。って言ったら、きっと嘘になるわ。
 友達とも会えないし、恋とか青春とか、全部地球に置き去りにしてきてしまった。
 キュゥべえもいるし、この船には娯楽施設や図書室なんかもあるから、退屈はしないのだけど」
 

広い宇宙の只中で、一人戦い一人生きる。それがとても辛くて、やはり寂しいことだった。。
だからこそ仲間が欲しい。そのために、彼女達を誘い入れようとしている。
そんな自分の思考が、マミはあまり快くは思えなかった。
それでもやはり、仲間ができるかも知れないという嬉しさが勝る。

そんなマミの葛藤を想像することさえかなわずに、まどかもさやかも、静かに語るマミを見つめて。
710 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/16(金) 00:30:38.97 ID:wZ/8omF90
「でも、誰かが戦わなければいけない。だから私はこのキュゥべえと契約して
 魔法少女、ひいてはR戦闘機のパイロットになったというわけ。…そろそろ、そっちの説明もしましょうか」

その言葉に、マミの膝の上で丸まっていたキュゥべえが身を起こす。
そのままぴょん、とテーブルの上に飛び乗って。

「少し長い話になるけど、まずは聞いて欲しい。魔法少女というのは、全ての生命体の敵
 バイドと戦うことができる唯一の希望、R戦闘機のパイロットのことを言うんだ」

「今までの話を聞いてると、それはなんとなくわかる。でも、何で魔法少女、なんて可愛らしいネーミングなわけ?
 それに、あたしたちはそのバイドのことも、R戦闘機っていうもののことも何も知らない。
 それなのに、いきなり戦って欲しいなんていわれても、無理だと思う」

浮かれながらも、なんだかんだでしっかりと考えていたのだろう。
まずは当然の疑問をさやかが口にした。

「そう思うのももっともだ。それについては一つ一つ説明していくよ。
 魔法少女、というネーミングについてだけど、これはボクたちの昔からの慣習みたいなものかな」

「昔からの、って……。じゃあそんな昔から、魔法少女になって戦ってる人がいたの?」

そんな事は聞いたこともなくて、驚いたようにまどかが言う。

「ああそうさ、ずっと昔からボクたちは素質のある少女と契約して、彼女たちを魔法少女にしてきたんだ。
 とは言え、そのころはまだ彼女たちの敵はバイドじゃなかった。
 人の呪いが生み出す魔女と、魔法少女たちは戦っていたんだ」

「ってことは、昔は魔女と戦っていた魔法少女が、今はバイドと戦ってる。
 それじゃあ、その魔女ってのは今は放置されてるってこと?」

「そうとも言えるし、そうでないとも言える。少なくともボクらが魔法少女をバイドと戦うためのものとしてから
 魔女は出現していない。恐らくこれからも出現することはないだろう」

さやかの問いに、妙に確信めいた言葉でキュゥべえが答える。
そこまで自信を持っていうのだから、恐らくそういうことなのだろう。

ただ、ほむらだけがなにやら怪訝そうな、考えこむような表情で。
その表情に浮んでいるのは、半ば驚愕。半ば猜疑。
711 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/16(金) 00:31:10.37 ID:wZ/8omF90
「話が逸れたね、本題に戻ろう。魔法少女の素質を持っている者は皆
 R戦闘機のパイロットとしての素質も持ち合わせているんだ。その理由が……マミ、見せてあげてくれるかい?」

「ええ、三人とも、これを見てちょうだい」

言葉と同時に、マミがつけていた指輪が光る。
次の瞬間掌の上に、卵より二周りほども大きい、黄色く煌く宝石が乗せられていた。

「これ、何なんですか。……すごく、綺麗」

その輝きに見せられるように、ふらふらと吸い寄せられるさやか。
慌ててまどかがそれを掴まえて。

「これはソウルジェムというの。キュゥべえと契約すると生み出される魔法少女の証、みたいなものかしらね」

「そう、そしてこのソウルジェムこそがあのR戦闘機を動かすのに必要なものなんだ。
 このソウルジェムを機体に接続することで、まるで自分の手足を動かすようにR戦闘機を操ることができるんだ」

キュゥべえの声は得意げだった。
ひらりと軽く尻尾を跳ねさせて。テーブルの上で薄く笑む。

「なんとなくだけど、わかった……かな?ちょっと自信ないけど」

どうにも自信なさげに、曖昧に言うまどか。

「今はそれでいいと思うわ、その気があるならこれからいくらでも理解できるから。
 本当にすぐよ。私だって随分慣れているように見えるけど、初めてR戦闘機に触れてから
 まだ3ヶ月も経っていないくらいなんだから」

「3ヶ月……ですって?」

思わずほむらが身を乗り出した。
その表情には、今度こそ驚愕が色濃く映し出されている。

「ほむらちゃん?どうかしたの?」

「あ……いえ、なんでもないの。ただ、3ヶ月であんなにすごく戦えるようになるなんて、ちょっと信じられなくて」

車の免許などとは訳が違うのだから。
ありえない、何かの間違いではないのかとすら思ってしまう。
712 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/16(金) 00:31:47.61 ID:wZ/8omF90
「その…魔法少女のこととかはわかったんですけど、これからあたしたち、どうなるんでしょうか?」

話がひと段落したところを見計らって、さやかが切り出した。
これからの自分たちの処遇について。非常に気になるところである。

「私たち、修学旅行の途中だし。ずっと戻らなかったら先生たちも心配するよね」

まどかも頷いて、そんなさやかの言葉に続く。

「少なくとも、今すぐ戻ることはできない。それに心配することはないよ
 君たちが船には事情は説明してある。キミたちは負傷していたため、こちらの船で保護してある、とね」

「そんな、勝手にそんなこと!」

随分と横暴だ、とさやかがキュゥべえに詰め寄った。

「ごめんなさい、美樹さん。でもこれは必要なことなの。貴女たちが魔法少女になるならないに関わらず、ね。
 新型のR戦闘機を目撃してしまった。それだけでも、私たちとしてはそのまま帰すことはできないのよ」

申し訳なさそうにマミが言う。

「何か……されるんですか。尋問とか軟禁とか、拷問とか」

流石に最後のは言いすぎな感が否めない。
それでも、ほむらの言葉は随分さやかとまどかにとっては衝撃的だったようで。

「ごっ、拷問!?う、うううウソですよね!ウソだと言ってよ、マミさん!」

「拷問なんて……そんな、そんなの絶対おかしいよ!」


「あー……ええと、ね。二人とも。ちょっと落ち着いて。
 それから暁美さんも、あんまり物騒なこと言わないでちょうだい」

あまりの剣幕にたじたじといった様子でマミが答えた。

「そうともさ、キミたちは魔法少女としてとても魅力的な人材だからね。
 ボクとしても出来る限りの優遇はする。今はただもうしばらくここに留まってもらって
 魔法少女やバイドのことを、もっとよく知ってもらいたいんだ。その上で判断して欲しい」

「うぅ、そこまで言うなら……仕方ないとは思うけど。っていうか、そもそも戻りようがないんでしょ、今のままだと」

この様子では、帰りの足を出してくれそうにもない。
しかたないか、といった様子でさやかは覚悟を決めたようである。

「本当にごめんなさい。お詫びというわけではないけど、後で船の中を案内するわ。
 色々なものがあるから、一日二日くらいじゃ飽きることはないと思うから」

「ほんとですかっ!?うわ、これはこれでちょっと得がたい経験って奴じゃない?
 宇宙船の中、こんなあちこち見て回れるなんて滅多にあることじゃないでしょ!」

むしろ、逆に楽しみ始めてしまった。
なんというか、流石の適応力である。
713 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/16(金) 00:32:41.88 ID:wZ/8omF90
「さやかちゃん……切り替え早すぎ」

「でも、きっとこれくらいの方が長生きできると思うわ。……私もちょっと、船の中は気になるし」


ひとまず休憩、お茶とケーキも用意しなおして。お茶会は再開された。
話題はもっぱら、魔法少女のマミのことであったり、修学旅行の行き先の話であったり
特にマミは地球を離れて久しいからか、地球の流行のことなんかに随分と執心していたようだ。

「さて、じゃあそろそろ次の話に移ろうか。今度はボクたちの敵。バイドについての説明をするよ」

そうして再びキュゥべえがテーブルの上へと飛び乗った。
今度は一緒に、モニターも空中に浮んでいて。

「バイド……それって、あの時船を襲ったあの機械みたいなもののことですよね」

「それは正しいけれど、正確にバイドのことを表しているとは言えない。
 マミ、詳しい話をする前に紅茶とケーキは、片付けておいたほうがいいと思うな」

「………そうね。少し待っていて」

マミの表情は固い。実際問題、バイドのこと話す時
あまり周りに食べ物を置いておきたくはない。食欲が失せてしまうから。

「流石に敵のことを話す、となるとやっぱり緊張しちゃうね」

「うん、マミさんもやっぱり表情が固いし……ほむらちゃん?」

一気に張り詰めていく空気の中、ほむらだけがどこか違って見えた。
恐れているようでも、緊張しているようでもない。まるでそれが聞きなれたことであるかのように。
自然と耳を傾ける、そんな姿勢が出来ていた。

「なんだか……すごく落ち着いてるんだね、ほむらちゃんは。
 私なんか、これから敵の話をするって聞いただけで、こんなにドキドキしてるのに」

「ぁ……いいえ、そんなこと、ないわ。ただちょっと、人により顔に出づらいだけだと思う」

少し困ったようにほむらが答えた。
そこへ、マミが片づけを済ませて戻ってきた。

「さあ、それじゃあ始めましょう。キュゥべえ、お願いね」

「ああ、わかったよ。じゃあ始めるよ。バイド、それは――」

キュゥべえ先生によるバイド講義、一時間目が開講した。
中空に映し出されたモニターは、バイドのその性質を、異形を、脅威を包み隠すことなく説明していく。
曰く、ありとあらゆるものに伝播し汚染する。
曰く、非常に強力な攻撃本能を持つ。
曰く、ヒトと同様の遺伝子構造を持つ。
曰く、その殲滅は容易ではない。
そして、そのバイドの姿を目の当たりにする。
機械を浸蝕し操るもの、バイドそのものが作り出した新たな生命体。
――そして、生命を蝕み異貌を象るモノ。
714 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/16(金) 00:33:13.99 ID:wZ/8omF90
「……何、何なのよ“コレ”はっ!」

バイドに汚染された兵器が、見慣れた街並みを焼き払っていく姿。
さやかはその不条理に怒り、叫ぶ。


「ぅあ、ぁ……ぃゃ、やぁ……っ、ぅぐっ」

ドプケラドプスと呼ばれるA級バイドの、その異形と凶暴性。
ついにまどかは正視に堪えず、床に蹲ってえずきはじめる。
マミがその身体を支えて背中を擦る。震えも嗚咽も収まらない。


「――バイド……っ」

そしてバイドによって引き起こされた、人類史上最悪の事件。
コロニー、エバー・グリーンの地球への墜落。
それが引き起こした圧倒的な災厄に、ほむらは密かに歯噛みする。


「わかっただろう。これがバイドだ。これを放置しておけば、人類は必ず滅亡する。
 それを防ぐために造られたのがR戦闘機で、それと戦うものが魔法少女なんだ」

「わかったよ。……よくわかった。あれが、バイド」

さやかの瞳に移る色は、怒り。圧倒的な暴虐と理不尽への、その象徴たるバイドへの、憎悪。

「ぅ……もう、大丈夫。ありがと、マミさん。でも、マミさんはあんなものと戦い続けてるんだね。
 ……すごいや。私には、とてもできないよ」

まどかの記憶に焼きついているのはのは、恐怖。人知を超える醜悪なる異形、バイドそのものへの、拒絶。

「……戦う力があるのなら、戦わなくてはいけないのかしら」

ほむらの心で揺れていたのは、迷い。バイドを斃す力。それを持ち、振るうことへの逡巡。
三者が三様に心を揺さぶられていた。バイドという、終わらない悪夢を目の当たりにして。
715 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/16(金) 00:33:52.84 ID:wZ/8omF90
「どうやらステーションについたようだ、客船はここで切り離していくとしよう」

「それで、この後はどうするのかしら、キュゥべえ?」

窓の外には宇宙ステーション。恐らく今頃、他の生徒達は無事に保護されたことだろう。
とんだ修学旅行になってしまったが、後は予定通りに進んでくれるはずだ。

「そうだね、さっきのバイドとの交戦で概ね今日の試験項目は終了したと言ってもいい。
 それに、今日はこれ以上彼女たちに事情を説明するのは難しそうだ。今日のところはここまでにしておこうか」

キュゥべえの言葉に、マミは嬉しそうに笑って。

「そう、それじゃあ私は彼女たちに船の中を案内することにするわ。禁止区画以外のロックを解除しておいてね」

「わかった。じゃあ後のことは任せるよ、マミ」

そして、小さな光の粒子と化してキュゥべえの姿が掻き消えた。


「さあ、それじゃあ行きましょうか。ティー・パーティーの中を案内するわ」

「待ってました!難しい話ばっかりでもううんざりだったけど
 いよいよ船の中を探索できるってわけですね!くぅー、楽しみだなーっ!」

「一応機密ってことになっている区画もあるけれど、それ以外ならどこだって案内してあげるわ。
 まずは見取り図を出すわね」

浮かび上がるモニター、映し出される船内図。

「さっき話した通り、娯楽施設や図書室、他には食料プラントを兼ねた庭園やプールなんてのもあるわね」

「何それ!?ちょっと豪華すぎじゃない?家なんかよりずっとすごいよ」

「とても軍艦の中とは思えないわ」

驚いた表情のさやかとほむら。
実際、この艦の設備はそんじょそこらの住宅よりもはるかに充実している。

「そうね。でも一つだけ困ったことがあるのよ。地球の電波が届かないから、テレビが見られないの」

小さく肩を竦めて、苦笑しながらマミが言う。

「あー、確かにそれは辛いかも。テレ東とかも見られないんですよね」

テレ東。正式名称テレビ極東。主に日本を中心としたアジア各地を放送圏に持つ、アジア圏最大のテレビ局である。
色んな意味でジャパンライク溢れるその番組は、この22世紀も終盤を迎えた今でも高い人気を誇っている。

「でも、それ以外概ね快適よ。この船だけで5人くらいは生活できるようになっているわ」

船内図を眺めてはしゃぐさやか、半ばあっけに取られているようなほむら。
……唯一人俯いて、まだ立ち直れていない様子のまどか。
716 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/16(金) 00:34:18.94 ID:wZ/8omF90
「……鹿目さん?まだ具合が悪いの?」

それに気付いて、ほむらが声をかけた。

「あ……ほむら、ちゃん。……うん、ちょっとさっきの、辛くて」

「無理もないわ。あんなもの、女の子が見て耐えられるものじゃないもの。
 ごめんなさいね、鹿目さん。部屋に案内するから、そこで少し横になっていたほうがいいわね」

「ごめん……なさい、そうするね」

ふらつくまどかを、マミが肩を支えて何とか立たせて。

「美樹さん、暁美さん。悪いけれど、二人で船の中を見てきてくれるかしら。私は、鹿目さんを介抱しているから」

「わかりました。……ごめんね、まどか」

ばつが悪そうな表情のさやかに、青ざめた顔に何とか笑みを浮かべてまどかが答えた。
そうして、そのまま部屋を出て行った。
残された二人、さやかは少し苦い顔をして。

「また……やっちゃったな。一人で勝手に浮かれすぎて、まどかのこと全然見てなかった。
 友達なのに。……気をつけなきゃ」

迷いと後悔を振り払うように、一度大きく頭を振って、それから。

「まどかのことはマミさんに任せることにして、行こうよ、ほむら」

「……ええ、行きましょう。美樹さん」

二人連れ立って、部屋を後にするのだった。
717 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/16(金) 00:35:09.93 ID:wZ/8omF90
ティー・パーティー内、マミの自室にて。
まどかを部屋のベッドに寝かせて、その枕元にマミが身を屈めて顔を寄せていた。

「本当はちゃんと部屋を用意できたらいいのだけど。
 急なことで、まだ整理とかが終わっていないの。ごめんなさい、鹿目さん」

「いいえ、気にしないでください。私のほうこそごめんなさい。……私、弱くて」

「それこそ気にすることないわ。あんなものを目にしたら当然よ。
 キュゥべえももう少し、配慮ってものを覚えてくれるといいのだけど」

ベッドに横たわり、マミの冗談染みた口調に力なくも笑みを浮かべるまどか。
恐らく大丈夫だろうと考えて、マミも立ち上がった。


「あの……マミさん。一つだけ、聞いてもいいですか?」

そんなマミを、まどかが呼び止めた。

「ええ、構わないわ。鹿目さんは何が聞きたいのかしら?」

振り向いて、まどかの言葉を待つマミ。

「……マミさんは、どうして戦っているんですか。
 こんなに怖いのに、あんなに危なくて、もしかしたら死んじゃうかもしれないのに」

その言葉に、弾かれたように目を見開いて、言葉に詰まるマミ。
僅かな逡巡。その顔はやがて、どこか諦観染みた笑みへと変わって。

「宇宙の平和のため、って言ったら。鹿目さんは信じてくれるかしら?」

「信じたい……信じたいんです。でも、だけどっ。
 あんなに怖くて、それだけで命を駆けられるなんて……私にはできないよ。
 マミさんも死んじゃうんじゃないかって思ったら、怖くて、怖くて……っ、ぐすっ」

またしても涙が、嗚咽が込み上げてきてしまう。
そんな顔を見せるのが嫌で、枕に顔を埋めてしまおうとしたけれど。


「鹿目さん………」

「ぁ……マミ、さ」

そんなまどかを、マミが抱きしめていた。

「私も怖いわ。戦わなくて済むのなら、戦いたくないって思うもの。
 格好つけて余裕ぶって、自分を奮い立たせて戦ってる」

その腕は震えていた。
恐れないはずもない。どれだけの力があろうと彼女はまだ年若い少女なのだから。
バイドと戦うためのモノとなることも、戦いの宿命を受け入れることも、容易である筈がない。

「それでも私は、自ら望んで戦っているの。バイドは、誰かが戦わなければいけない敵だから。
 それに私は身寄りがないから、もし何かあっても誰かを悲しませることもないもの」

そう言って、マミは少し寂しげに笑う。
広い宇宙のその只中で、孤独一つを友にして、これからも戦い続けるのだろう。
その昏く重い道の果てで、いつか……。そんな姿が、まどかの脳裏に浮んで消えた。

「だめだよマミさん。そんなの……そんなの、悲しすぎるよ。一人で戦って、一人で死んじゃうなんて。私、私……っ」

抱きしめられた身体から、マミの孤独が伝わってくるようで。
居た堪れなくて、どうにかしてあげたくて、か細い声で言葉を紡ぐ。
それをどうにかする手段が、孤独を打ち消す力がその手にある事を知っていても
どうしても、その決意は言葉にできなくて、それが悔しくて、怖くて。


「鹿目さん……貴女は優しい子ね。それこそ貴女には、戦いなんて似合わないわ。
 でも貴女がそう思ってくれるなら、覚えていてくれるなら、私はまだ戦えるわ。
 貴女に会えて良かった、鹿目さ――いいえ、まどかって呼んでいいかしら」

顔を上げればそこに映ったマミの顔には、もう孤独を憂う色は消えていた。

「はい……マミさん」

たとえ仮初でも、ほんの僅かだったとしても
自分の言葉はマミを救い得たのだろうか。それが嬉しくて、まどかの表情も和らいでいたのだった。

「ありがとう、まどか」

そして、マミは静かに微笑んだ。
718 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/16(金) 00:35:57.53 ID:wZ/8omF90
一方その頃、さやかとほむらは艦のシミュレーションルームにいた。

「すごいなー、ここ。シミュレーションルームだっけ。R戦闘機に乗って戦闘を体験できるーって言う奴でしょー?」

無数に並ぶシミュレーション装置。
R-11系列の機体のシミュレーション装置である『GALLOP』
OF系列の機体のシミュレーション装置である『イメージファイト』
R-13系列の機体のシミュレーション装置である『X-∞』
などなどと、その筋の人が見れば泣いて羨むような品揃えである。
ほかにも水中戦闘のシミュレーション装置である『海底大戦争』なども用意されていた。

「ちょっとやってみたいけど、動かないんだよねー、これ。後でマミさんに聞いてみようかな」

そんなシミュレーション装置の一つ一つを丹念に眺めているさやか。


「ねえ、美樹さん」

ひとしきり室内を眺め終えたほむらが、静かな声で話しかけた。

「ん、どうかした?」

「美樹さんは、バイドと戦うつもりなの?」

その言葉に、楽しそうに笑っていたさやかの表情も曇り。

「あー……そのこと、か。うん、正直バイドは憎いよ。
 あんな酷いことをして、その上まだ皆を苦しめようとしてる。許せない」

拳を握って、その拳を壁に撃ち付けながら。

「でも、戦えないよ。死ぬのは怖いし、もしあたしが死んだらみんな悲しむと思うから。
 悔しいけど、そこまで覚悟して立ち向かうことなんて、あたしにはできない」

悔しさに拳は震える。
けれどそれでも戦えない。未知の敵への、死への恐怖は尚強い。


「そうね、それが当然だと思う。こんな歳の子供が戦いに出るなんて、そんなの間違ってる、許されるはずがないわ」

ほむらは、少し安堵したような表情で言葉を漏らした。

「なんか……さ、ほむら。最初見たときから随分印象変わったよね。
 そっちが素なのかな?まああたしは、そういうちょっとクールなところも嫌いじゃないけどね」

「っ!?そう、かしら。……っていうか、からかわないで欲しいわ、美樹さん」

目を見開いて、すっかり取り乱しているほむら。
けれどもそんなほむらに、さやかは更に追撃を加える。

「そうそう、その言い方も気になってたんだよね。美樹さん、っての。
 あたしだってほむらって呼んでるんだからさ、ほむらも、さやかって呼んでよ」

にっ、と口元を歪めて笑う。
人懐っこい笑みが、ほむらの視線を捉えて離さなかった。

「え……でも。いいのかしら」

「あたしがいいって言ってるの!他の誰に許可取るのさ?」

びし、っと突きつけられた指先。
それを呆気にとられたように見つめて、それからくすりと笑みを零して。

「それもそうね。……ええと、さやか」

「ん、よしっ!改めてよろしく、ほむらっ!」


少女たちは手を取り笑いあう。
ここで終われば全ては、雨降って地固まる的ないいお話で済んでいたのだろう。
――だが、悪意(バイド)はそれを許しはしない。
719 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/16(金) 00:36:30.83 ID:wZ/8omF90
部屋の中に奇妙な音が鳴り響く。

「アラート?何かあったの、キュゥべえ?」

「ああ、またバイドだ。今度はこの先の小惑星帯に反応が出た。
 このまま現地へ向かうから、出撃の準備をしておいてくれ」

「やれやれ、休ませてもくれないのね。まったく、やんなっちゃうわ」

軽く肩を竦めて笑う。その表情や口ぶりからは、幾分か力が抜けているようにも見える。

「……頑張って、マミさん」

ベッドから身を起こし、手を差し伸べるまどか。

「ええ、行ってくるわ。すぐ片付けて戻ってくるから、待っててね」

手と手を合わせて、乾いた音が一つ鳴る。
そしてマミは戦士の顔を纏って部屋を出る。いつも震えていたはずの手は、もう震えていなかった。

「一人じゃない、誰かのために戦える。それだけで、こんなにも力が沸いてくるのね……知らなかったな」

閉まった扉に背を向けて、呟く。
そして彼女を想う者は一人ではない。アラートを聞きつけたさやかとほむらも駆けつけてきた。


「マミさんっ!……行くんですよね」

「ええ、バイドなんて全部やっつけてくるわ。見ていてね、美樹さん」

「はい!あたし、何もできないけど……マミさんのこと、応援してますから!」

さやかがマミの手を取り両手で握る。
想いを託して強く熱く。そこに篭っていたのは願いと敬意。
そして、隠せざるバイドへの憎悪。

「巴さん、どうか気をつけて」

「大丈夫よ、今の私はバイドになんて、負ける気がしないわ」

マミの顔に浮ぶのは自信。けれどもそれは、慢心のようにも映って。

「本当に、本当によ。お願いだから気をつけて。必ず戻ってきて」

「心配性なのね、暁美さんは。……でも大丈夫。油断はしないわ」

そして、少女たちに見送られ彼女は再び宇宙へと飛び立った。
眼前に臨む小惑星帯、そこに潜むバイドを討たんがために。
720 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/16(金) 00:37:48.36 ID:wZ/8omF90
「小惑星帯に突入したわ、キュゥべえ。通信状態はどうかしら?」

無数の岩塊が漂う小惑星帯を縫うように、マミの機体が駆け抜けていく。
ザイオング慣性制御システムによって得られた機動性は、小惑星帯での飛行さえも容易に成し遂げた。

「通信状態は良好だ。カメラ・ビットの調子も問題ない」

カメラ・ビット、それは本来索敵機に搭載されているビットである。
情報収集の役割を果たすそのビットは、入手した情報を逐次ティー・パーティーへと送信している。
それは作戦室のモニターに映し出され、さやかとほむらが息を呑んでその動向を見守っていた。

「確かにバイド反応自体はあるようだけど、小惑星なんかと反応と混ざってしまっているわね。
   どうにもわかりづらいわ。一番大きな反応があったのはどこかしら?」

「一番大きな反応は小惑星帯のほぼ中央、岩塊の密度が薄まっているあたりからだ。
 恐らく、ここに住み着いたバイドの中枢だと思うな」

「じゃあ、ひとまずそれを目指してみましょうか……っ!?」

突如、機体を掠める敵弾。
咄嗟に機首を巡らせていなければ恐らく直撃していただろう。
飛来した敵弾は、機首に装着されたフォースによって防がれていた。

フォース。それは最強の矛にして不朽の楯。
それは、R戦闘機がバイドを斃し得るモノにしているもう一つの理由。
“バイドをもってバイドを制す”その理念が形を成した姿。
このフォースを装着することで、R戦闘機はその真価を発揮する。
フォースを介した各種光学兵装や、機体後部にフォースを装着することによる後方への攻撃。
そして、フォースに蓄積されたエネルギー解放することにより、広域殲滅を可能とするΔウェポン。

そしてそれに加えて、人工的にフォースを生み出そうとした結果の副産物であるビットを装着した姿。
それこそがR戦闘機のフル装備であり、あらゆるバイドを殲滅する、究極の力の象徴なのだ。

「敵の攻撃ね。……なるほど、岩塊に偽装してたのね。道理で気付かないわけだわ」

岩塊が変貌し、リング状の機体に変わる。その中心から突き出した砲台。
岩塊に偽装したバイドの要撃生命体、リボーである。
武装も装甲も貧弱、所謂雑魚という奴である。偽装による不意打ちも敢え無く妨げられた。
そんな雑魚の辿る末路など、最早たかが知れている。

「狭いところに誘き寄せての騙まし討ち。それで勝ったつもりかしら?
 ――見せてあげるわ、R戦闘機の、本当の戦い方をね!」
721 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/16(金) 00:39:47.26 ID:wZ/8omF90
言葉と同時に放たれた、三筋の青い光線。
それはリボーを打ち砕き、焼き払う。それだけでは留まらない。
敵機や岩塊に接触、それを砕きながらも反射していく。そういう性質を持つ反射レーザーなのだ。
幾何学的な軌道を描いて放たれ続ける反射レーザーは、次々にリボーの群れを打ち砕いていく。

「負ける気はしないけど、これじゃ埒が明かないわね。このまま中心部へ突入するわ。キュゥべえ、ナビをお願いね」

「任せてよ、マミ。そのまま10時の方向だ」

「OK!それじゃあ一気に行くわよっ!!」

そしてまた、R戦闘機に火が灯る。
無数の光線をばら撒いて、無数の破壊を散りばめて。小惑星帯を駆け抜ける。
そもそも障害物の多い小惑星帯には、バイドも小型のものしか存在できなかったようで。
リボーやキャンサー程度の妨害しかなく。それは須らくR戦闘機に敵し得るものでもなかった。

「もうじき指定座標に到達するわ。……確かに比較的強いバイド反応だけど。
 本当に中枢かしら、中型程度の反応しか見られないわ」

小惑星帯中心部、比較的障害物の少ないその場所に“ソレ”はいた。
ソレは禍々しくも艶やかな色彩を持って漂っている。
そしてソレは光を放ち……姿を変えた。

「っ!?どういうこと、バイド反応が急速に増大してる。これじゃまるでA級並みの反応よ。どうなっているの!?」

「こちらでも確認した、少なくともこの先に何かがいることは間違いないようだ。
 ただA級ともなると、マミでも手に余るかもしれない。
 敵の情報を可能な限り入手して、撃破が困難なら離脱してくれ。離脱ルートを検索するよ」

「いいえ、その必要はないわ。たかがA級バイドの一匹や二匹。
 R戦闘機ならやれるはずよ。……かつての英雄たちも、そうだったんでしょう」

マミの声は強く、自信に満ち溢れていた。
今だって苦戦することなく戦ってこれたのだ、例え相手がA級バイドであったとしても
きっと通用する。通してみせる。

「……それは否定しない、そしてマミの腕が確かなのも認める。
 それでも、無理だと思ったらすぐに引き返すんだ、いいね」

「わかったわ。……小惑星帯中心部へ、突入するわ」

そして機体は、小惑星帯の中心部へと向かって走り出す。
異貌の悪夢が蠢く、その坩堝と。
722 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/16(金) 00:40:26.11 ID:wZ/8omF90
「マミさん……頑張って。お願い……勝って、帰ってきて」

モニターの前、さやかは両手を合わせて固唾を呑んで見守っている。
ほむらもまた、食い入るような視線でマミが描く戦闘の軌跡を追っている。
時折何かを呟いているが、その声は誰にも届かない。

「もうすぐ敵が視界に入るわ。……って、な、何なのよ…これはっ!!」

焦ったようなマミの声。そこに映し出されたものは。

「な、なな、なななっ!なんじゃありゃぁ〜っ!?」

生理的嫌悪感を感じさせる醜悪に蠢く肉塊。
その肉体のところどころにくぱぁ、と開いた唇のような孔。
びくんびくんと脈動するたび、その孔からは体液が流れ出し
体液でぬらぬらと濡れそぼったそこから現れる、無数の節で構成された棒状の肉の塊。
もう正直やめたいがまだ続く。

その肉塊の名は、生命要塞ゴマンダー。間違えのないようにもう一度言っておく。
ゴマンダーである。決して濁点を取ったり順番を入れ替えたりしてはならない。
そして棒状の肉の塊の名は、防衛生命体インスルー。文字通り、くぱぁと開かれたゴマンダーの孔に
ずるずると蠢きながらインしていく。そしてまたぬるりと現れる。
蠢く肉の節からは、まさしく肉そのものといった弾が全方位へと放たれている。
その膨らんだ先端は超硬質の金属で形成され、黒光りさえ感じるような恐ろしい異形を備えている。
……まだ終わらない。

そして何より目を引くのは、ゴマンダーの頭頂部に聳える瞼のような器官。
瞬きの用に開かれては閉じるその奥には、綺麗にすらも見える青色が覗いている。
そしてそれを覆い隠すように、肉厚の瞼が包み込んでいるのだ。
状況説明をこれに終わる。


「え、何、これ?へ、えええっ!?」

マミは素っ頓狂な声を上げる。完全に気が動転している。
無理もない、いきなり目の前にこんな卑猥な物体が突きつけられたのだ。
熟練のRパイロットでさえ、正気を失い飛び込んでいく事例さえあるほどの代物である。
マミが受けた精神的ショックは、計り知れないものだろう。

「何よ、何なのこれ、こんな、こんな……ものがっ!!?」

それは恐らく、最悪に卑猥なファースト・コンタクトであっただろう。
この卑猥な物体のインパクトは、それまで考えていたことなど全て忘れさせてしまった。
あまりの異貌、あまりに卑猥。こんなものに欲情するようなものがいるとすればそれは異常である。早急に入院の必要がある。
723 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/16(金) 00:41:10.15 ID:wZ/8omF90
「……改めて見ると、卑猥」

だがしかし、暁美ほむらはうろたえない。


「巴さん、しっかりして。気を取り直して。敵が来るわ。その棒状の方、インスルーは
 胴体さえ破壊してしまえば脅威ではないわ。胴体部分を破壊すれば、そいつはゴ……げほ
 その大型バイドの中に戻るはずよ。そこを狙って、あの露出している青い部分、コアに可能な限り接近して」

それどころか、これ以上なく適切な指示まで出し始めたのである。

「え?あ、暁美さんっ!?どうしてそんなことを、いきなり……?」

「いいから!死にたくなければ撃ちなさい、巴マミ!!」

語調も荒く、今まで感じたこともないような何か、覇気のようなものすら感じさせて。

「っ、は、はいっ!!」

それに気圧されてか、マミも正気を取り戻す。
インスルーが放つ肉弾をかいくぐり、反射レーザーでその胴体を焼き払う。
肉塊が焼けて崩れていくその光景は、やはり精神衛生上あまりにも悪いが、それは思考の端へと追いやって。
苛烈な攻撃に耐えかねたインスルーは、たまらずゴマンダーの中へと逃げていく。
すぐに再生されるはずだが、その隙を逃さずマミの機体がコアの直上に肉薄する。

「で、できたわっ!」

「上出来よ、もう大丈夫。ゴマ……その大型バイドの弱点は、その瞼の下のコアよ。
 そしてその周囲は、インスルーが攻撃できない絶対安全圏。そこにいる限り攻撃を受ける心配はない」

「それじゃあ、後はコアを破壊すれば……」

あまりの卑猥さ、そしてほむらの剣幕に圧倒されていたマミにも、やっと思考能力が戻ってくる。
ここは絶対安全圏。そして敵の弱点はすぐそこにある。なすべきことはただ一つ。

「そう、それで終わりよ。反射レーザーならそのままでも十分。
 だけど、その機体の波動砲ならもっと手っ取り早いと思うわ」



「……どういうことなの」

「わけがわからないよ」

そして、置いてけぼりの一人と一匹であった。
724 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/16(金) 00:41:56.96 ID:wZ/8omF90
「コアが開いたところを狙って……リボン波動砲、発射!」

くぱぁ、と開かれたその瞼に波動のリボンが突き刺さる。
閉ざすことを許されず、ぱっくりと開かれコアが曝け出されてしまい。
その青々と脈打ち、明滅するコア目掛けて。

「これで……終わりよっ!!」

ありったけの青い閃光が、放たれた。
声にならない断末魔を響かせながら、崩れ、爆散していくゴマンダー。

「やった…やったわ!A級バイドを倒したのよ!」
  
けれどそれは、ほとんどほむらの助け合ってのことである。
一体彼女は何者なのか、戻ったら尋ねてみようと考えていた。

時を同じくして、作戦室にまどかが入ってくる。
どうやらしばらく眠っていたらしい、髪に寝癖がついている。

「ごめん、さやかちゃん、ほむらちゃん。私寝ちゃってて……マミさんは?」

「マミさんなら、今丁度バイドの親玉をやっつけたところだよ!
 凄かったんだから、マミさんは勿論だけど、ほむらもさ」

興奮冷めやらぬ、といった様子のさやかである。

「ほむらちゃん?……何か、したの?」

「……それは、ええと」

やってしまったという顔で、言葉を濁すほむら。
驚きながらも、無事に終わったことを喜ぶさやか。
状況が飲み込めず、首を傾げて困惑顔のまどか。
そして一人、いや一匹、意味深げな視線をほむらに向けるキュゥべえ。

誰も気付けなかった。


マミの機体が機首を翻し、帰路を辿ろうとしたその背後。
崩れ去るゴマンダーの肉体が変貌し、禍々しくも艶やかな紫色の球体へと、姿を変えるのを。
勝利に浮かれるマミもまた、それに気付くことができなかった。

「あれは、ファントム・セル……だめよ、マミ、逃げてっ!!!」

ほむらが気付き、叫ぶ。全ては遅かった。
他のバイドに擬態する能力を持つバイド、ファントム・セル。
その肉体が発光し、姿を変えていく。
絶望の象徴たるその姿、まさに異形、まさにバイドたるその姿は。
先ほどまどかを打ちのめした、ドプケラドプスのそれだった。

そして、バイド反応の強烈な増大に気付いて機首を巡らせたマミの機体を
その胸部から生えたもう一つの頭が、その巨大な顎が。




――――飲み込んだ。




魔法少女隊R-TYPEs 第2話
         『SEXY DYNAMITE』
         ―終―
725 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/16(金) 00:42:40.78 ID:wZ/8omF90
次回予告

「私が……戦う!」

立ちふさがるは絶望。それは払わんがため
黄昏を齎すモノが再び宇宙を駆ける。

「ELIMINATE DEVICE……Wake Up!」

しかし、全ては遅すぎた。
躊躇いは犠牲を、犠牲は不和を生む。

「あんたのせいだ。あんたのせいでマミさんはっ!」

絶望は払われる。だがそれは救いではない。
絶望の向こうには、永く昏い灰色の道が広がっている、だけで。

「………戦う。もう逃げないって決めたから」

――そして少女は、己が運命を選択する。

魔法少女隊R-TYPEs 第3話
         『RAGNAROK』
726 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/16(金) 00:46:45.97 ID:wZ/8omF90
以上、これにて第2話の修正版は終了となります。
ところどころ手入れをしてあったりもしますね。

>>703
この事件は表沙汰にはなりませんでしたが、上層部はこれにソウルジェムの可能性を見出しました。
それが追求された結果が、今のソウルジェム搭載機です。

>>704
ゆまちゃんの心は完全に壊れてしまいました。
戦うためだけの存在となり、そしてその命を燃やし尽くしてしまいました。
そして今も尚、悪夢という名の鎖に繋がれています。

>>705
モロ元ネタです。大好きでした。ゲームもアニメも。
もともとロス提督のキャラを考える上で最初に出てきたのがマイヤーズ司令だったもので。
そういうわけで、提督と副官のキャラがあの二人をベースにした
妙にフランクなキャラになってしまいました。
727 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/16(金) 00:56:40.54 ID:zhXdTNK/0
ゆまちゃん……
ほむらとの自機コンビとか見てみたかったよ。
暗黒の森で、自機対決はあるかもしれないけど。

しかし、ゆまにしてもほむらにしても自機の人たちはすごいですよね。
あの初見殺しの山を突破したのですから。
728 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/16(金) 03:27:52.14 ID:uOyT3Wk1o
初見でだもんな
良いスコアラーに育ちそうだ
729 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/16(金) 03:49:01.76 ID:kzhUseyAO
これほむらレベルなら怒首領蜂の裏も行けるんじゃないか?もう全一レベルだろ……いつの日か魔法少女達が皆揃う日は来るのかなぁ……
730 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/16(金) 08:46:38.38 ID:/PAdFskDO
乙です。
ここでほむらちゃんがマミさんを助けに行ってたら、今の恐怖を乗り越えたマミさんは居なかったんだろうな…。
731 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/16(金) 23:29:10.26 ID:wZ/8omF90
対巨大戦艦もそろそろ中盤、今日もまた趣味回です。

では投下します。
732 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/16(金) 23:30:19.49 ID:wZ/8omF90
「杏子、そっちの状況はどうだい?」

今尚巨大戦艦の侵攻は止まらない。
未だメインブースターの破壊には至らない。焦燥が募る中、キュゥべえからの通信が入る。

「どうもこうもあるかっ!正直かなり悪い、ぶっ壊そうにも手が足りねぇ!」

「それは参ったな。こっちの方でも切り札は用意したんだけどね。
 どうにも、足を止めてもらわないと使えそうに無いんだ。何とか破壊してくれないかい?」

「お前なぁ、今の話聞いてたのか?」

実際問題、キュゥべえが言うのだからそれは事実なのだろう。
ここで敵の足を止めることができれば、恐らくその切り札とやらが使えるのだろう。
とはいえ、この絶望的な状況を少しは考慮してほしいものである。

「確かに、キミ達二人だけでは難しいだろうね」

「……まあ、やらなきゃまずいってなら、無理を通してみるけどさ」

とはいえ、こんな時に都合よく手が増えるようなこともない。
ならば、今あるものでどうにかするより他にない。
幸い、一撃必殺の力はこの手の中にある。問題はそれがえらく短いということと
今尚、自走砲台による迎撃が終わらないということくらいか。

可能性があるとすれば、何とか自走砲台を振り切って。
メインブースターに接近。パイルバンカーで破壊する。これだけだろう。
言うのは易いが、問題は山盛りだ。自走砲台は存外機動性がある。
それに、メインブースターは未だに多量の推進剤を吐き出し続けている。
掻い潜るとすれば、直下からの急上昇。もしくは上空からの急降下しか術はない。

一歩間違えば衝突。いつもの機体に比べてやや鈍重なこのケンロクエンで
それだけの精密機動が行えるだろうか。


「そう一人で抱える必要はないさ、杏子」

覚悟を決めた杏子に向けて、続けて告げられた言葉。

「どうやら、増援が間に合ったようだ」

その言葉と同時に、ケンロクエンに響く警告音。
高エネルギー体の接近を告げる警報に、半ば反射的に回避機動をとった。
その回避を確認し、後方より接近していたその機体は、蓄えられたエネルギーを解き放った。
733 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/16(金) 23:31:07.52 ID:wZ/8omF90
機体前方より稲妻が迸り、ブースターの噴射の間に吸い込まれていく。
そして巨大戦艦の表面を這い回り、一気に三つのブースターを叩き落した。
ライトニング波動砲。波動エネルギーを稲妻状に変換し、追尾性を持たせることに成功した兵器である。
その一撃が、戦場の中を駆け抜けたのだった。

「警告鳴らせて、無理やり射線を空けさせた。……随分無茶する奴じゃないか。どこのどいつだっ!!」

確かに熟練のパイロット同士なら、いちいち連絡で伝えるよりも早くはあるが。
それにしても随分乱暴なやり方である。悪態交じりに杏子が吼えた。


「トゥルーグレイヴ小隊、ブランドン・ヒートだ。……援護する」

漆黒の機体を縁取る紅。前方に構えた凶悪な牙たるアンカーフォース。
そして機体側面には、髑髏を描かれた棺桶のようなエンブレム。
R-13A、ケルベロス。比較的初期に開発された機体ではあるが、改修を加えられ
現在でも十分使用に足る機体となっている。
それを駆っていたのは、青年といえるような歳の男の声だった。

「援軍、というのはありがたいが、たった一機というのは少々心許ないね」

同じく波動砲を回避したキリカが言う。
一機増えたくらいでは、状況はそう簡単には覆らない。
特に早急にブースターを破壊する必要がある今は、とにかく多くの攻め手が必要だった。

愚痴っていても仕方はないと、再びブースターの破壊に取り掛かる。
如何せん巨大戦艦相手である。巨大なメインブースター以外にも、補助ブースターの数はかなり多い。

「いや、一機だけじゃないようだぜ。なるほど、これは希望が見えてきたかもな」

後方を眺めて、杏子が薄く笑む。
そこに映っていたのは、さらに接近する3機のケルベロス。
恐らくは同じ小隊の一員、といったところだろう。

「あんた一人を行かせやしませんぜ、アニキ」
「ハッ、図体だけは立派だなァ。逝きさらせっ!」
「こりゃあ熱い夜になりそうだ。いいぜ、痺れるくらい熱いギグを聞かせてやるっ!」

言葉と同時に、続く三機はメインブースターへとライトニング波動砲を発射した。
正面からの攻撃に対しては推進剤の噴射が防ぐ。しかしライトニング波動砲は違うのだ。
側面から回り込むようにしてメインブースターを捉え、一つ大きな爆発が起こる。
その煙さえ吹き飛ばして、推進剤の噴射は止まらない。しかし、その勢いは目に見えて弱った。
734 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/16(金) 23:31:43.48 ID:wZ/8omF90
「……ったく、なんだか濃そうな連中ばっかり連れてきやがって。
 でも、今がチャンスだな。おい、誰か砲台の相手を頼む!あたしはブースターを潰すっ!」

パイルバンカーのチャージは継続、迫る自走砲台から逃れるように進路を逸らす。
当然追い縋る自走砲台。しかしそれをケルベロスが阻む。

「レディの頼みとあっちゃあ断るわけには行かないな。ここは任せなっ!」

「ありがとよ、優男っ!」

通信を交し合い、そして杏子はケンロクエンを走らせる。
その軌道は、垂直上昇。重力に逆らって空に舞う、少なからず機体が揺れる。
追い縋る敵弾を振り切り、雲海の中にその身を預け。

そして、舞い降りる。
狙うは一撃、最強のパイルバンかーの力をとくと見よ。
まるでそれは曲芸飛行。成功すれば、拍手喝采雨あられ、である。
735 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/16(金) 23:32:36.80 ID:wZ/8omF90
「見えたっ!あれが波動砲だな。……チャージが始まってる、早く止めないとっ!」

砲火の雨を抜け、フォルセティUがいよいよ砲台に肉薄する。
その機動性は群を抜き、それを余すことなく発揮することに成功したさやかの前では
隙間すらないはずの砲火の海をすり抜けて、ついにここまで至ったのである。

「ええ、後は手はずどおりに。行くわ、さやか」

そしてそれに続くほむらのラグナロック・ダッシュ。
ほむらもまた優れた操縦技術で砲火の雨を潜り抜け、さやかに並んでいた。
フォックスファイア隊と織莉子は今も一丸となって、巨大戦艦の底部を進んでいる。
その歩みは先ほどまでと比べて非常に速い、恐らくそう間もなく到達するだろう。

スレイプニルが搭載する波動兵器、バリア弾がその力を惜しみなく発揮していた。
光学兵器が空いてならばいざ知らず、波動エネルギーによって生み出されたその防壁は
質量兵器に対して圧倒的な防御性能を誇っていた。
それが図らずも、今回の対巨大戦艦には非常に効果的だったのである。

それを見るに、三機でも十分進行は可能であると判断し
単独で突出できるさやかとほむらの機体が先行したというわけである。


「おっけー、じゃあまずはレーザー砲台からっ!」

波動砲の周りを埋め尽くすように配置された、大量の迎撃用のレーザー砲台。
その攻撃を掻い潜り、背部につけたフォースからのレーザーで、次々と砲台を落としていく。
敵の攻撃は単調。数は多くとも、それでは相手にもならない。すぐに砲台は沈黙するだろう。

直接艦首波動砲を攻撃できないのには理由があった。
データによると、艦首波動砲はそのチャージの間、強力な引力を発生させるのだという。
それには、いかなR戦闘機であろうと抗うのは難しい。波動砲を撃つために機首を敵艦首へ向けてしまえば
間違いなく、その引力に囚われ引き寄せられてしまうだろう。実に利に適った防衛設計と言える。

ならばどうするか。その引力を逆に利用してやればいい。
幸いこちらにはフォックスファイア隊が持参した大型ミサイル、バルムンクがある。
二発纏めて叩き込み、それで波動砲を破壊する。その為にも、道を開いておく必要があった。
736 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/16(金) 23:33:16.69 ID:wZ/8omF90
可能な限り速やかにレーザー砲台を沈黙させた。そこへ通信が入る。

「こちらジェームズ。敵艦底部を突破した、これから波動砲ユニットの攻撃に移る!」

「同じくペッピーだ。ちゃんと道は開けておいてくれただろうな?」

接近する二機のスレイプニル。爆撃機としての能力は申し分ないが
武装はそれなりである。故にそれを護衛するような形で織莉子のスクルドが付き添っていた。

「相変わらず自走砲台が追いかけてくるわ。私はこちらの相手をするから、後はよろしく頼むわね」

だが、それももう不要。織莉子は追撃する自走砲台へと向き直る。

「残念。あなたはここで行き止まりよ」



「道は開けたよっ!後はばっちり決めちゃってちょーだいなっ!」

ロックオン波動砲でレーザー砲台と同時に艦首波動砲を攻撃。
しかし、やはりその装甲は堅固。ダメージがあるとは思えない。
やはり破壊するのならば、内部。バルムンクに任せるより他にない。

「よし、行くぞペッピー!」

「ああ、しくじるんじゃないぞ、ジェームズ!」

そして二機のスレイプニルが走る。
その身を絡め取ろうとする引力に逆らって、最大出力で波動砲から離脱するような機動を取る。
そして、バルムンクを投下。わざわざ発射する必要もない。
引力に任せれば、後は勝手に波動砲の中へと吸い込まれていく。
一番奥まで飲み込まれてしまえば、波動エネルギーに焼き払われて効果は発揮しない、だが。

「今だ。バルムンク、爆破っ!!」

吸い込まれたのを見計らって、リモートでバルムンクを爆破する。
丁度波動砲の中で、膨大な熱とエネルギーが吹き荒れる。激しい閃光が溢れ、波動砲ユニットが赤熱する。

「やった……のかな?」

ああ、だがしかしその言葉は。

「いや、まだよ。艦首波動砲はまだ生きてるっ!」

やはりフラグだったようだ。
737 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/16(金) 23:33:44.04 ID:wZ/8omF90
「な……バルムンク二発でも潰れないっての!?どんだけ丈夫なのよ、その波動砲」

「でもダメージはあるはずよ。なんとか追撃を……」

「ああもう!こうなりゃフォースでもレーザーでもミサイルでも、全部くれてやろうじゃあないのっ!」

こうなれば、自分たちが果てるか敵が沈黙するかの二つに一つ。
死力を尽くして戦うのみだ。と覚悟を決めたその時に。



「さやか、ほむら。二人とも無事かい?」

キュゥべえからの通信が入る。

「キュゥべえ?悪い、ちょっと今忙しいんだ。波動砲を破壊しないとっ!」

答える声は余裕の欠片もない。
そんな様子に、大体の事情を察した様子でキュゥべえが答える。

「なるほどね。でもまずはいい報せだ。杏子達がメインブースターの破壊に成功した。
 これで市街地への侵入は防げるだろう。それと、ボクも切り札を切ることができる」

「切り札?何をするつもり?」

「というより、もう準備は済んでいる。そこは危ない、すぐに離れてくれ」

有無を言わさぬキュゥべえの声。
向こうは向こうで余裕はないのかもしれない。

「……信じるわよ。各機離脱してっ!何か……来るわ」
738 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/16(金) 23:34:24.20 ID:wZ/8omF90
――デモリッション・モードへ移行――


――エネルギーライン、全段直結――


――波動エネルギー、チャージ完了――


――誤差修正、ピッチアップ0.003度――


――ライフリング回転開始――


「撃てるよ、マミっ!」




「ええ、決めるわよ。――ティロ・フィナーレ!」









遥か彼方、地平線の向こうから、極大の閃光が飛来した。
雲を切り裂き、夜空を明るく染め上げて。その閃光は艦首波動砲を飲み込んだ。
ロックオン波動砲ではロクに損傷すら与えられないほどに堅固な装甲。
それを容易く飲み込み、融解させ。貫いて。

――艦首波動砲が、巨大な火柱を上げて爆発、墜落した。
739 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/16(金) 23:35:04.22 ID:wZ/8omF90
その一撃は遥かな彼方、太平洋上空より放たれた。
その力を宿した機体。機体の倍はあろうかという巨大な砲台を、機体上部に携えて。
さらに姿勢制御や発射の反動に抗するため、直接砲台に巨大なブースターが搭載されている。
それは、R-9D、シューティング・スターの系譜を継ぐ機体。
最大の特徴たる、異常とも言えるほどの射程距離。すなわち地球から優に月まで届くかというそれを再現したものだった


そして、戦略兵器クラスの破壊力と攻撃範囲さえも持つ、まさに最強の射手である。
ただ、それでもやはり冷却機構の不十分により、最大出力での射撃は機体の異常加熱を招く。
それに耐えうるのは、ソウルジェムのみだった。故にそれは、魔法少女専用機として運用される。

そして、その砲身とブースターの形状があたかも箒のように見えることから、この機体はこう名付けられた。
――R-9DX、ガンナーズ・ブルーム――と。

そしてそのコクピットから、その一撃が齎した成果を眺めて。


「……フフ、最高の気分ね。まるで神の雷だわ」

抱えた恐怖はどこへやら、実に上機嫌でマミが呟いた。
740 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/16(金) 23:41:52.84 ID:wZ/8omF90
ある意味正統派なチャージ兵器でしょうか
というわけで本日はここまでとなります。

>>727
ゆまちゃんは最初の魔法少女でした。
ゆまちゃんの戦いから概ね6年、今はほむらちゃん達が戦っています。

まあ、初見殺しにひっかかったら本当に死んじゃいますからね。
やはりエース、それも尋常ならざる腕前なのでしょう。

>>728
ほむらちゃんはクリアラー気質ですが、ゆまちゃんはスコアラー気質です。
デストロイゼムオールが基本精神。

>>729
バイドを倒した魔法少女達。だがその前に、新たな敵が現れた。
その敵の名は―――CAVE。

今、人類の理解を超えた弾幕が魔法少女に襲い来る。
彼女達は、果たして勝利することができるのか………。

こんな具合で、是非。

>>730
その場合は、多分さやかちゃんはは魔法少女にはならなかったでしょう。
きっとマミさんはほむらちゃんにたっぷりと扱かれていたはずです。
741 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/17(土) 00:03:37.34 ID:wlBaOCoro
おつ
性能はコンサートマスターと同等なのかな?
742 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/17(土) 00:37:35.96 ID:9f597PyDO
お疲れ様!
まさかガングレイヴからも来るとは!ネタ幅広いなぁ。

一般兵なら、ほむらちゃんみたいな可憐少女に扱かれるのは大歓喜だろうなww
743 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/17(土) 02:00:45.05 ID:GyMMtXzAO
お疲れ様

……この確認、まさかベク●ーキャノン?

QB「100%、完璧な殺戮だよ。満足したかい?」

……これ違ってたら恥ずかしいな
744 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/17(土) 18:21:27.13 ID:dmznHEWp0
もしかしたら次回の投稿は少し時間がかかるかもしれません、いろんな意味で。

では、今日の投下です。
745 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/17(土) 18:23:23.97 ID:dmznHEWp0

「……ったく、あんなとんでもないものがあるなら先に言っとけっての。キュゥべえの奴、いい性格してるぜ」

戦場を離れて低空で飛ぶケンロクエン。
特徴的なシールドは歪んでへこみ、片方はちぎれて飛んでいる。
パイルバンカーは違わず巨大戦艦のメインブースターを破壊した。
しかし、ケンロクエンが負った損傷も大きかった。砕けたブースターから溢れた推進剤に身を焼かれ
更に、巨大戦艦に強かにその身を打ちつけてしまった。

お陰でこのザマ、よく撃墜されずにもっているものだと思ってしまう。

「とはいえ、これ以上こいつで戦うのは無理だな。どっかで機体を調達しないと」

低空を飛ぶケンロクエン。その機動はふらふらと頼りない。

「お、丁度よく輸送艦があるな。通信がまだ生きてるといいけど」

レーダーの反応を頼りに進んでいく。
ようやく見えてきたその艦は、トゥルーグレイヴ小隊の母艦、センターヘッド。
その姿を確認して、杏子は通信のチャンネルを開いた。
746 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/17(土) 18:23:57.47 ID:dmznHEWp0
波動砲およびブースターを破壊され、巨大戦艦の脅威はほぼ失われたと見てもよい。
ただ、いまだに巨大戦艦内部からは無数の機動兵器が出現している。
それらを市街地へと逃さないようにする必要もある。いまだビル街を焼き続ける砲台も健在。
これらを確実に破壊する必要がある、だがそれほど急ぐ必要はない、
敵の足が止まった以上、後は確実に破壊するだけなのだから。

「んじゃ、ここからは別行動だね。助かったよ、ジェームズさん、ペッピーさん」

さやかとほむらはそのままコアを目指す。

「ああ、お嬢さん方も無理はするなよ、生きてたらまた会おうっ!」

ファイアフォックス隊は砲台の破壊に向かう。砲台だけならフォースとバリア弾で事足りる。

「では、私は戻ります。そろそろキリカが心配ですからね」

これ以上行動を共にする必要はない。
織莉子はキリカの元へと向かう。その後のことはそれから考えればいい。

それぞれが三方に分かれて飛ぶ。目標はそれぞれ同じ。
後はただ、互いの無事を祈って戦うのみだ。


「よっしゃぁっ!それじゃみんな、ぬかるんじゃないわよーっ!!」

高らかに、さやかが一つ号令をかける。
各々がその速度を上げて、なすべきことをなす為に、走る。

巨大戦艦攻略戦は、ついに最大の山場を越え、終盤戦へと突入しようとしていた。
747 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/17(土) 18:24:45.41 ID:dmznHEWp0
そこに集うは、いずれ劣らぬエース達。
そして、同じく劣らぬ魔法少女達。巨大戦艦も必死の応戦空しく、その戦力を次々に奪われていった。
さらには、天から降り注ぐガンナーズ・ブルームの波動砲が巨大戦艦を焼いていく。
戦況は一気に覆った。最早、巨大戦艦の撃沈は時間の問題かと思われた。
だが、しかし。

「この反応……まさか、異層次元に逃げるつもりね」

恐るべきはバイドの修復能力。浮上用のブースターを修復し、高度をとり始める。
さらにはその姿が揺らぎ始める。異層次元への突入の予兆である。
異層次元に逃げられれば、こちらからの干渉はできない。
もちろん、向こうからの干渉もまた不可能にはなるが、敵はそれを利用して戦場から離脱するつもりなのだろう。

「やらせるもんか、逃がすもんかっ!!」

さやかがそれに追い縋る、青い光の尾を引いて駆けるフォルセティUの姿も揺らぎ始める。

「追いかけるつもり?さやか」

それに続くほむらのラグナロック・ダッシュ。
確かにR戦闘機には異層次元での航行機能は搭載されている。
だが、異層次元での戦闘は通常空間とは勝手が違う。
バイドによって空間そのものが汚染されている可能性もある、危険はかなり大きい。

「そりゃ勿論、ここで追いかけて叩き潰さないと、またやってくるかもしれないじゃない!
 それにさ、向こうで叩き落せば、こいつを街に落とさずに済むじゃない?」

「……それもそうね。きっと他の部隊も一緒に追いかけるはずだわ。
 けれど、異層次元での戦闘は勝手が違う。無理はしないで、さやか」

「おっけー、ここまでやったんだ。お互い無事に帰ろうじゃない、ほむら」

そして二機は、同時に機首を廻らせ敵を追う。
途中でその機影が揺らぎ、そして完全に消失する。
フォックスファイア隊、トゥルーグレイヴ隊、そして織莉子とキリカもまたそれに続き、異層次元へと突入していく。
もはや人知では捉えることもかなわない異層次元の真っ只中で、巨大戦艦との最後の戦いが始まった。
748 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/17(土) 18:25:24.65 ID:dmznHEWp0
「大分遅れちまったな。まだあたしの獲物が残ってるといいけど」

センターヘッド内に、予備機として残されていた機体。
RX-12、クロス・ザ・ルビコンを駆って杏子が一人空を往く。
機体の調整に随分手間取っていたお陰で、最早敵の姿はどこにも見えない。
眼下には、戦いの傷痕が色濃く残るビル街の残骸が散らばっているだけである。

それを苦々しく眺めながら、クロス・ザ・ルビコンは上昇しはじめる。
異層次元に突入した巨大戦艦は、どうやらそのまま地球から離れる心積もりなようで。
すでにかなりの高度へと到達していた。今尚異層次元では激しい戦闘が繰り広げられているのだろう。
追いかけなくては、と杏子は機体を走らせた。

「……これは、バイド反応か?にしちゃあやけに弱いけど」

機体が伝えるその警告は、周囲にバイド反応があることを示していた。
しかし、その反応はどうにも弱い。おまけに周囲にそれらしき存在は見当たらない。

「ってことは異層次元か。撃ち漏らした奴が隠れてるのかね。
 まあいいや、あたしに見つかったのが運の尽きだね。このまま殲滅してやるよっ!」

恐らく今行ったところで、上でやっているパーティーには間に合いそうもない。
ならば今は、こんなところに隠れたバイドを潰すだけだ。
クロス・ザ・ルビコンの機体が揺らぎ、そして異層次元へと突入して行った。
749 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/17(土) 18:26:25.16 ID:dmznHEWp0
「ここは、一体……」

そこは、酷く暗い場所。
奥には、まるで木のような何か。その中で、ぼんやりとコアのようなものが輝いている。
異層次元に突入し、そこに潜む敵を討った。
しかしバイド反応は消えはしない。それをそのまま追いかけて、突き進み。
たどり着いたのが、この暗黒の森だった。

「辺り一面バイドだらけだ。……まさか、こんなとこにこんな隠れ家があるとはな」

辺りを這い回る蔦のようなものも、奥でぼんやりと光る木も、全てがバイド反応を見せている。
全て潰して、後顧の憂いを断つ。


「……こちら、………ス。………聞こえ………誰、か」

掠れながら、途切れながらも機体に入った通信。
通信のチャンネルが合っていない。一体誰の通信だろうか。

「何だ、先に侵入してる奴がいたのか?」

チャンネルを切り替え、通信を繋ぐ。
随分古い回線を使っているものだ、今時こんなものを使っているのは珍しい。
そしてチャンネルが確立されて、幾分かは鮮明になった通信が飛び込んでくる。




「こちら、ケルベロス。千歳ゆま。聞こえますか……誰か」

ひび割れて、ノイズ交じりの。けれどもそれは、幼い少女の声だった。




魔法少女隊R-TYPEs 第10話
         『DISASTER REPORT』
          ―終―
750 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/17(土) 18:26:58.54 ID:dmznHEWp0
【次回予告】

ゆまは、ずっとたたかってたんだ。
たたかって、たたかって。わるいてきはぜんぶやっつけた。
でも、つかれちゃったんだ。きっとだれかがむかえにきてくれるはずだから
それまで、すこしねむってまってることにしたんだ。

「今すぐそっちに行く。少しだけ待ってろよっ!」

キョーコは、わたしをむかえにきてくれたんだ。
キョーコは、いっしょにいてくれるっていったんだ。
だから……もうすこしだけ、がんばってみるね。キョーコ。


「あたしは……お前だったんだな」



次回、魔法少女隊R-TYPEs 第11話
            『CERBERUS』
751 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/17(土) 18:36:16.90 ID:dmznHEWp0
>>741
コンサート・マスターは4ループチャージですが
ガンナーズ・ブルームはギガ波動砲同様の7ループチャージです。
出力的にはそれくらいの代物だったりします。
完全に戦略兵器クラスの威力ですが、パイロットの体のことを考えていなかったり
こんな代物の発射試験なんてそうそうできるわけもなく
割とぶっつけ本番で運用している状態だったりします。

>>742
ゲームもなかなか面白かったですが、アニメ版は本当に名作でした。
最初はガングレ×まどマギでネタ考えようかと思ってたくらいです。

きっと一部の方々にはご褒美だと思いますが
まあ、彼女は事情が事情なので普通の教官っぽいことはできなさそうです。
よくて特殊部隊の教官とかでしょうか。

>>743
一部発射シーケンスをベクターキャノンさんからお借りしました。
パイルバンカーときたら次はやはりこういう武器でしょう。
その先に一体どういう浪漫兵器が搭乗するのか、楽しみでもあります。
752 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/17(土) 18:38:17.27 ID:dmznHEWp0
そして、いよいよあそこへと話が続きます。
正直どう書いていったらいいもんか未だにまよっております。

多少投下が遅れるかもしれませんが、ゆっくりお待ちください。
753 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/17(土) 20:18:36.34 ID:wlBaOCoro
おつ
ついに暗黒の森の番犬の登場か。
754 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/17(土) 20:20:55.50 ID:9f597PyDO
お疲れ様!
ルート分岐か…次はどっちだろうか?まぁどっちだろうと感受させてもらいますけどね。

ゆまちゃん…手遅れかと思ったけど、もしかしたらもしかするのか?そう言えば、声は普通だったな…。
755 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/18(日) 00:34:32.33 ID:vfA1FgpAO
お疲れ様です

やべぇテンション上がりすぎて最早頭痛い
756 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/18(日) 17:01:20.55 ID:od0zEZVA0
家族を失い、第二の家族も失った二人ですか。

再び仲間を手に入れた杏子と、まだ一人ぼっちのゆま。
バイド化した家族と戦ったゆまと、これから戦うことになるだろう杏子。

二人の出会いはどうなるんでしょうかね。
757 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/18(日) 19:05:07.04 ID:1d1JefJk0
ここまで比較的しっかりと二人の話を作ってきたのは、この時のためでもあります。

ちゃんと書ききれるといいな。本当に。
758 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/18(日) 19:06:26.11 ID:1d1JefJk0
「……まどか?どうしたんだい、具合でも悪いのかい?」

マミを送り出し、一人モニターで戦況を眺めていたまどかが
急にソファーにその身を横たえた。顔色がどうも青い。

「うん……なんだか、ちょっと気分が悪いのかも。……何か、変な声が聞こえるんだ」

まどかは耳元に手を当てて、その声に耳を澄ます。
一体誰の声なのか、よくわからないくらいにその声はかすかで。
けれどそれは、まだ幼い少女の声で、――助けて。
そう、言っていたような気がした。


「なるほどね、そういうことは今までにあったかい?」

興味深げに、その瞳をくりくりと輝かせてまどかに問うキュゥべえ。
まどかは、そっと額に手を乗せたまま。

「多分、ないと思うけど……変な夢を見ることはあったかな」

「どんな夢だい、それは」

「………よくわからないんだ。でも、誰かが帰ってこようとしてる。そんな夢みたいだった。
 ちょっと悲しい夢なんだ。……最近になって、見るようになったんだよね」

夢の内容は、あまりよくは覚えていない。
それでも断片的な記憶を繋いでそれを伝えた。
キュゥべえは、静かにまどかの言葉に耳を傾けて。それから耳を軽く揺らして。

「……なかなか、興味深い話だね。ボクにも思い当たる節はある。まどか、ちょっと調べてみるかい?」

「原因がわかるの、キュゥべえ?」

「もしかしたら、ね」

薄く笑って、キュゥべえはその言葉に答えた。
759 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/18(日) 19:07:03.36 ID:1d1JefJk0
(ケルベロス……さっきの連中の一員か?にしても、またガキが戦ってんのかよ)

どうしてこう行く先々で、子供が戦わされているところに出くわすのか。
あまり気分のいい話ではないな、と杏子は内心で毒づいた。

「ああ、聞こえてるよ。こちらクロス・ザ・ルビコン。佐倉杏子だ」

「じゃあキョーコだねっ!よかった……本当にゆまのこと、むかえに来てくれたんだっ!」

すぐさま聞こえてきたその声は、嬉しそうな子供の声。
それこそ戦場にいるのは似合わないほどに、無邪気な子供の声。
あまりにも不釣合い、一体どういうことなのか理解が追いつかない。
とはいえ助けを求められているのなら、助けるよりしかたがないわけで。

「別に助けに来たって訳じゃないんだけどな……まあいいや、ピックアップしてやる、場所を教えろ」

「場所……わからないんだ。真っ暗で、何も見えなくて。どうしたらいいかな、キョーコ」

確かにここは暗い。奥で灯る明かりがなければ、ほとんど何も見えないくらいに。
もしもゆまのケルベロスが機能を停止し、どこかに墜落しているのだとしたら
それこそ現在地がわからなくなっている可能性もあるだろう。

「……とりあえず、手当たり次第に探ってやる。救難信号でも出せたら出しとけよ」

言い残して、杏子は機体を走らせる。
レーダーには他の機体の反応はない。ひとまず先へ進むしかないだろう。

そうして先に進み始めた杏子の前に、迫るバイド体の反応。
光の球としか表現しようのない何かが、ゆっくりと迫っていた。


「ま、バイドの森の中だ。何が出てきたって不思議はないよな。……とりあえず、蹴散らすぜっ!」

触手装備型フォースの一つである、フレキシブル・フォース。
その最大の武器である、触手先端より生じる黄色のレーザーネイル。
ダブルスネイルレーザーが、敵の光球を焼き払い、弾けさせる。
半ばカウンター気味で撃ち放たれた敵弾。そのエネルギー量はかなりのもので
フォースで相殺するのは難しい。しかたなく放たれた弾の間をすり抜けて。

「うぁぁっ!」

「っ!?ゆま、どうした、何があった!?」

聞こえた声は苦しげで、痛みを堪えるような声。

「わかんない……でも、なんだか急に体が痛くなって……っ、でも、だいじょーぶだよ、キョーコ」
760 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/18(日) 19:07:57.26 ID:1d1JefJk0
(攻撃でも受けてるってのか?……急がねぇとまずいな。こりゃあ)

奥へと機体を進めようとしたその眼前に、更に迫る光の球。数は二つ。
波動砲のチャージは済んでいる。二つまとめて巻き込むように圧縮炸裂波動砲を放つ。
撃ち出された波動エネルギーが着弾と同時に炸裂し、二つの球を纏めて破裂させる。
そのままエネルギーの破片は飛散して、周囲の木や蔦にも食い込んでいく。

「きゃぁぁぁっ!!」

「ゆまっ!やられてんのか……くっそ、すぐ行く。もう少しだけ頑張れっ!」

杏子の顔にも焦りが浮ぶ。
このままでは、ゆまがもたないかもしれない。

「ねぇ……キョーコ」

少し苦しそうな声で、息も絶え絶えに。
ゆまからの通信が杏子の機体に届く。まだ生きているようだと、杏子も一応安堵した。

「なんだよ、無駄口叩いてる暇あったら、何とかそっちの位置を教えろっての」

「ごめん、キョーコ。……でも何もわからないんだ。本当に、全然、わからなくって……」

「あーもう、泣くなっての!とにかくすぐ駆けつけてやる。何か言いたいことがあるなら言えっ!」

奥にそびえる木が、波動砲の衝撃で折れて倒れた。
機体を押しつぶそうと迫るそれを、紙一重で回避して杏子が叫ぶ。


「ありがと、キョーコ。………あの、ね。キョーコ。なんだか、すごく眠いんだ」

今までずっと眠っていたはずなのに、なんでこんなに眠いんだろう。
絡み付いてくるような、抗いがたい眠気をこらえるようにゆまが言う。

「おい、馬鹿っ!寝るんじゃない!死んじまうぞっ!!」

ますますもって状況はよくない。
何が起こっているのかはさっぱりわからないが、ゆまの状態は間違いなく危険だ。
早く、一刻も早く助けに向かわなければ。
761 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/18(日) 19:08:42.34 ID:1d1JefJk0
「だから、キョーコ。……何か、おはなしして?そうしたら、ゆま、がんばるから」

「お話……つっても、子供に聞かせるような話なんて知らないぞ」

「じゃあ、キョーコのこと聞かせて。……キョーコのこと、教えて欲しいな」

その声はか細くて、今にも途切れてしまいそうで。
その願いに応えられなければ、それは本当に途切れてしまいそうだった。

「……わかったよ。聞かせてやるから、最後まで眠らず聞いてろよ」

(さやかの次はゆま、か。最近どうもこういう機会が多いな)

あまり思い出したくない記憶ではあるけれど、最近一度話したばかり。
口から零れ出る言葉は随分と滑らかで。全てを失った日のことを。
ロスとの出会いを、そして別れを。そしてまた、新たな仲間と出会ったことを。
暗黒の森を駆けながら、ぽつりぽつりと話し始めた。

ゆまもまた、そんな話に耳を傾けては、悲しそうに頷いたり。
嬉しそうに笑ったり、けれどもやはり時折、苦しそうに声を漏らしながら。
最後まで、眠ることなくちゃんと聞いていた。

随分時間は過ぎた。けれどまだ、ゆまのケルベロスは発見できない。
ただただ散発的に光の球による攻撃が、そして地面を這う蛇のようなバイドからの攻撃が
また、折れた倒れた木が襲い掛かってくる。それくらいのもので。


「そっか。……いいなぁ、キョーコは」

「そんな、いいもんでもないぞ。仲間って言っても、なんか妙な連中ばっかりだしさ。
 ……まあ、退屈はしないけどな」

話を終えて一息ついた。ゆまが、笑っているような声で言葉を返した。

「キョーコは、なんだかゆまと似てるね」

「……お前も、そうやって戦いに巻き込まれた口かよ」

「うん。ねえ、キョーコ。……今度は、ゆまのおはなしを聞いてくれないかな」

「ああ、聞いててやるから。勝手に話してろよ」

またしても敵が迫る。この空間はなんなのだろう。
どうして地球のすぐ側に、こんなバイドの森が存在しているのか。
今まで、誰にも気付かれてこなかったのか。
762 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/18(日) 19:09:18.72 ID:1d1JefJk0
疑問を抱えながら敵を撃つ。
苦しげな声を上げながら、ぽつりぽつりとゆまが話し始めた。

「……ゆまも、ね。パパとママがバイドにやられちゃったんだ。
 すごくかなしくて、どうしていいのかわからなくて、ひとりぼっちで、すっごくさみしかったんだ」

この世界には、少なからずある話である。
だけれども、それがありふれているからと言って、当事者にとってそれが悲劇でないはずはない。

(なるほどな、だから似てる、か)

まるでその空間そのものが迎撃の意志をもっているのか、次々に倒れ来るバイドの樹木。
その間をすり抜けながら、杏子はゆまの言葉に耳を傾ける。


「でも、ね。ゆまが入院してた病院に来た人が、教えてくれたんだ。
 ゆまにはバイドと戦えるそしつがあったんだって。魔法少女になって、バイドと戦えるんだって。
 そうすれば、もう一人じゃないんだって。だからね、ゆまは魔法少女で、R戦闘機のパイロットなんだ」

「っ……」

思わず、機体を進める手が止まる。
こんなところにも、魔法少女がいるというのか。
こんなところにまで、こんな子供にまで、Rの手先はその魔手を伸ばしたというのか。

そして、その状況はまるで……。

(まるで、ロスに出会う前のあたしじゃないかよ。
 ッてことは何だ?あの時そのまま着いて行ったら、あたしも同じく魔法少女に……っ)

思わず機体を殴りつけた。
何もかも失ってしまった子供を利用して、兵器に仕立て上げようとする。
そんな非道に、そうまでしなければならないバイドという敵の
Rという兵器の闇の深さに、怒りが込み上げてくる。

怒りに任せて、迫る光球を押しつぶす。
フォースをたたきつけ、更にそこから無数の弾丸を放って。
押しつぶされ、弾けた光球から敵弾が生じる。すり抜け、かわす。
763 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/18(日) 19:09:45.05 ID:1d1JefJk0
「っ……ぁ。それで、ね。キョーコ。ゆまは、開発基地ってところで、パイロットをしてたんだ。
 いっぱいがんばったら、エバやみんながほめてくれたんだ。ゆま、やくたたずなんかじゃなかったんだ」

「辛くなかったのかよ。戦うのは、いやじゃなかったのかよ」

またしても苦しげな声。猶予はない。急いで見つけなければ。
けれどもどうしても、ゆまの身の上は杏子自身のそれと被ってしまう。
理解者を得て、戦うことの意味や恐ろしさを知って、曲がりなりにもそれと向き合った杏子。
それに対して果たしてゆまは、どれだけ戦うことの意味を知っていたのだろう。

「こわかった、かな。つらかったかも。でも、がんばったらほめてもらえたからだいじょうぶだったの。
 ……でもね、ある日、事件がおこっちゃったんだ」

一体この空間はどこまで続いているのか。
ただただ、木々の間を抜けて突き進んでいるだけで。本当にこちらが正しいのかすらもわからない。
焦りと、怒りが杏子の心を澱ませていく。

「アイギスっていうところから、わるい機械が地球に落ちてきたんだ。
 それをやっつけるために、ゆまはケルベロスで地球にむかったんだよ。たいへんだったなぁ」

(アイギス?それに、地球に向かった……って、どういうことだ?)

何か、おかしなずれがある。ゆまはトゥルーグレイヴの一員ではないのか。
だとしたら、何故こんなところにいる。何かがおかしい。

「それでね、キョーコ。ゆまはいっぱいいっぱい戦って、アイギスの中にいる、わるい機械をやっつけたんだ。
 でもね、その中からアロー・ヘッドが出てきたんだ。……あれ、どうしたんだろう」

思い出しながら、どこか楽しそうに話をしていたゆまの言葉が止まる。

「アロー・ヘッドが出てきて、それが。一番わるいやつで。ゆまは、それを追いかけて……追いかけて……?」

呆然と、震えた声でなにか、信じられないようなものを見てしまったような様子。

「何がどうしたってんだ、ゆまっ!……っとにもう、わけがわからないことだらけだっての!」

アイギス、アロー・ヘッド。断片的な言葉は一つの記憶を蘇らせる。
少しでもバイドとの戦いの歴史を齧っていれば、忘れようもないその事件。
サタニック・ラプソディーと呼ばれた、事件のことを。
764 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/18(日) 19:10:59.75 ID:1d1JefJk0
「いやぁぁぁ……ァァぁ――ッ!!」

突然の悲鳴。ノイズも混じって、酷く聞き取りづらいけれど。

「おい、ゆま!しっかりしろっての、ゆまっ!!」

「いや、いやぁ……エバが、みんなが……ぁぁ、ァァァァァっ!!」

フラッシュバック。蘇る記憶。
あまりにも赤い、赤すぎる世界。視界。
幼い子供が受け入れるには、あまりにも辛すぎる記憶。

「キョーコ!キョーコっ!助けて、助けて……みんなが、いなくなっちゃったよぉっ!!
 イヤぁ……やだ、また、ひとりになっちゃうよぉ。だれも、いなくなって……うぐ」

その声は、泣きじゃくる様子は。あまりにも幼い子供のそのまますぎて。
それはとてもではないが、戦う力を持つものの言葉とは思えない。

「ピーチク鳴いてんじゃねぇ!……すぐ駆けつけてやる。だから、安心して待ってろ」

あまりにも引っかかることが多すぎる。
ゆまという少女が何者なのか。サタニック・ラプソディに関係があるとしても
その事件はもう6年も前の話だというのに。

「キョーコ……助けに、きてくれる?そうしたらゆま、ひとりじゃなくなる、かな」

「……ああ、さっさと助けて連れ出してやる。仲間だって待ってるはずだろ」

「いないよ、仲間なんて。……みんな、いなくなっちゃった」
765 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/18(日) 19:11:31.20 ID:1d1JefJk0
こうして、また奪われていく。
無慈悲な悪夢が、大切なものを、家族を、仲間を次々に奪っていく。
奪われた物はどうすればいい。その悲しみに頭を垂れ、足を止めて動けなくなるだけなのか。

(誰かが、救ってやらなきゃぁ……な)

その悲しみがわかるから、辛さが、寂しさがわかるから。
そんなときには、助けてくれる誰かが必要なのだ。
杏子にとってのロスや、さやかがそうであったように。

「……なら、あたしと一緒に来い。助けてやるから、こんなとこ一緒に出るぞ。
 魔法少女の仲間だっているんだ、こっちにはさ。きっとお前だってうまくやってけるさ」

「ほんと……に?」

「ああ、必ず助けに行くさ」

(ったく、さやかの真似事か。後で知られたら笑われそうだな)

けれど、その手に機体にかかる重さは確かに増した。
今のこの手は、自分のためだけのものじゃない。もう一つ、救うべき命がかけられている。
もしかしたら、それが……。







「うん。待ってるから。……ヤクソク、だよ。キョーコ」

「――約束だ」






766 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/18(日) 19:22:42.95 ID:1d1JefJk0
>>753
ここからしばらく二人の回となります。
巨大戦艦さんはもう、見滝原への脅威がなくなった時点で後は消化試合みたいなもんです。

>>754
果たしてどういう選択をするのか。
二人は無事に帰ることができるのか。

どうにかこうにか頑張ります。本当に。
意識はまだ残っているようですね、ゆまちゃんは。

>>755
ここからはもう右肩上がりです。
本当に、そうなってくれれば嬉しい限りなのですが。

>>756
だからこそのこの二人、というところもあります。
きっと杏子ちゃんにとっても大きな意味を持つ出会いになるのだろうと思います。
767 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/18(日) 19:32:57.13 ID:+qm55pP2o
なんだろう
勇者30を思い出した
768 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/18(日) 20:53:48.91 ID:od0zEZVA0
バイドの痛みがゆまに伝わっている。
それである程度正気を保っている。

これはもしゆまが戻ってきたら、乗る機体はB系列に決まりですね。
B-1D3とか、B-3C2とか、魔法少女っぽくBX-2とか。
769 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/19(月) 06:34:41.69 ID:U3Mx3V0DO
お疲れ様です。
助ける為には、まず戦わなきゃならないんだもんなぁ…やるせないぜ。

そう言えば、番犬って言われてるけど…一体何を守っているんだろうか?
770 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/19(月) 20:14:13.39 ID:s/W2/ER30
すばらしいSSを見つけた
771 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/20(火) 00:11:48.52 ID:KImAQO370
このSSは、本当に私の好きなものが一杯詰まった作品です。
あちこちにその残滓が見え隠れしていたりします。

では、本日も投下です。
772 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/20(火) 00:12:33.93 ID:KImAQO370
新たな決意を手に胸に、そして機体にクロス・ザ・ルビコンが森を往く。
森の様子は相変わらずで、折れて倒れる樹木の合間に、光の球が迫り来る。
眼下を望めば渦巻く蛇が、その節から無数の光弾を吐き出してきている。

「今さら当たるか、こんなもんっ!!」

かわし、壊し、かいくぐりんがら森を駆ける。
今もまだ、ケルベロスの反応は見つからない。

「キョーコ。私、ね。ゆまはね。ゆるせなかったんだ。
 みんなにひどいことをした、あのアロー・ヘッドが。だから、やっつけてやろうって思ったんだ」

途切れ途切れになりながら、ゆまは必死に言葉をつなぐ。
戦って戦って、戦い続けた記憶のことを。
思い出していく、尽きて、果てて。それでもなお留まらぬ戦いの記憶を。

「あいつは仲間をつれてきてたんだ。3対1で、ひっしに戦ったんだ」

「きっと、バイドに乗っ取られてたんだろうな。……嫌な話だ、ったく」

「でも、ふり切れなくって。……あれはきっと、波動砲だったのかな。すごく熱くて
 苦しくて、息もできなくなっちゃって。………そして、ゆまは、ゆまは」

声の調子が静かに沈んでいく。
認めたくない事実が、記憶として蘇ってくる。

「ねえ、キョーコ」

沈みきった声が、静かに震えて。
機体の回線を通じて、杏子の鼓膜を揺さぶった。




「ゆまは――もう、死んでるのかな」
773 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/20(火) 00:13:18.55 ID:KImAQO370
「な――っに、馬鹿なこと言ってやがるっ!死人と話す趣味はないぞ、あたしはっ!!」

呆気にとられたのは、一瞬。
すぐに気を取り直して杏子が叫ぶ。
そのゆまの声があまりに儚げで、本当に今にも消えてしまいそうで。
助けなくては、と思いが募る。

(しかし、なんだってここまで入れ込んじまうかね……さやかの奴に当てられたか?)

自嘲気味に笑う。けれど、不思議と気分は悪くない。
もしかしたら自分だったかもしれないゆま、もしかしたらゆまだったかもしれない自分。
それをもし、助けることが出来たなら。

(邪魔者だって言われたあの時の自分に、少しは顔向けできるかもしれないしな)

別離の際に、ロスに言われたあの言葉。
それは今尚杏子を縛っていた。そうじゃないと証明するために、戦った。
けれどその思いはずっと晴れずにいた。心の奥底に、澱むように積もっていたのだ。
もしかしたら、それを少しは晴らすことができるかもしれない、と。

「キョーコ……ゆまは、ゆまは……死んでないよね?生きてるよねっ!」

「生きてなけりゃ、どうやってあたしと話せるんだよ。……待ってろって、言ったろ」

こんな優しい声が出るもんだと、改めて驚いた。けれどゆまは、酷く錯乱している様子だった。
声の震えは収まらない、どうしたらいい。

「でも、でもっ!ゆま、思い出したんだよ。アロー・ヘッドの波動砲が、ケルベロスの……キャノピーを
 熱くて、苦しくて、息ができなくなって……」

確かに、それが事実だとするのなら生きている道理はない。
だからと言って、幽霊なんてものをそう簡単に信じるほど幼くもない。
とにかく今は、すぐさま駆けつけ助けるのみだ。後のことは後で考える。

「……怖いか、ゆま?」

「うん……ひくっ。怖いよ、キョーコ。わからないよ、怖いよ……」

一気に機体を加速させる。前方には迫る無数の光の球。
最早いちいち構っている余裕もない。急ごう。
774 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/20(火) 00:13:47.44 ID:KImAQO370
「怖いなら、あたしに祈りな」

「キョーコに……祈る?」

「今すぐ速攻駆けつけて、お前を助け出してやる。怖いなら、あたしを信じて祈って待ってろ」

ほんの僅かな沈黙の後、ゆっくりゆまは口を開いて。

「そうだね、キョーコ。ヤクソクしたもんね。……早く来て、お願い。キョーコ」

「――任せとけ」


機体に反応。所属も正体も不明だが、間違いなくR戦闘機の反応だ。

「見つけたぞ、ゆまっ!」

自然と笑みが浮ぶ。後は駆けつけて、助けるだけだ。


「っ!?キョーコっ!早く来てっ!敵が近くに来てるっ!!」

ゆまの声は、途端に切羽詰ったものに変わった。

「敵?近くまで来てるってのか!?わかった、すぐに行くからな!なんとか持たせろよっ!」

反応のあった方向へ、一気に機体を進ませる。
迫るは無数の光の球。どうやら敵もこの先へは行かせたくないらしい。
猛攻とでもいわんばかりの勢いで、迫る光球、吐き出される敵弾。倒れ来る木々。

「失・せ・ろぉぉぉぉッ!!!」

ドース解放、Δウェポンで一気に敵を殲滅する。
解放された破壊のエネルギーが、敵を、敵弾をかき消し消滅させていく。
道は開けた。後は突き進むだけだ。
775 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/20(火) 00:14:21.43 ID:KImAQO370
「うあぁぁっ!!」

「ゆまっ!?どうした、攻撃を受けてるのかっ!!」

「……う、ん。すごく、痛いよ……助けて、キョーコ」

「もうすぐだ、もうすぐ到着するからなっ!」

木々の間をすり抜けて、全速力で機体を飛ばす。
もうすぐだ。もうすぐ、機体の反応のある場所へと着く。

「キョーコっ!敵が……近づいて、来るよっ」



開けた場所に、一際明るく光る木が一本。
光を放つその声の中に、黒い機体が眠るように佇んでいた。
蔦のようなものが、向こうの木にまで伸びている。

「………なんだよ、こりゃあ。どうなってやがる」

呆然として、思わず声が漏れた。
それは完全に木と同化してしまっていて、どう見ても相当な時間が経過していることがわかる。

「ゆま……そこにいるのか、ゆま」

信じられない、信じたくない。まさか……そんな。
すぐに返事は返ってきた。今までよりもはっきりとした声で。
どこか、冷たい調子の声で。


「敵が来た。……ゆま、戦うよ。フォースと波動砲はまだ生きてるんだっ!」
776 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/20(火) 00:14:45.08 ID:KImAQO370
直後、閃光が走った。
絡みついた蔦が、それが伸びた先の木が。光と共に弾けとんだ。
そして、現れたものは……。

「フォースに、光学チェーン……だと!?」

そう、それはケルベロスのフォースであるアンカー・フォース。
その攻撃能力はフォースのみに留まらず、それを制御するための光学チェーンにもまた存在する。
従来のフォースに比べて。非常に攻撃的なフォースであった。


「ゆま……敵が、いるのか?一体どこに……っ!?」

更に続けて行われる、波動砲のチャージ音。
さらにはその照準は、確実にこちらに向いている。

「何考えてる、ゆまっ!あたしだ!杏子だっ!」

「キョーコ。すぐそこまで来てるんだ……うん、待ってるよ。ゆまも、敵をゼンぶやっツけるかラ」

ライトニング波動砲が、来る。

「どうなってるんだよ、本当に……っ!!」

状況は狂っていく。地獄の番犬が牙を剥く。
破壊衝動を剥き出しにした凶悪な雷撃が、河を越えて来る者へと突き刺さった。
777 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/20(火) 00:22:30.75 ID:KImAQO370
短いですが本日はこの辺りで。
一応この話でまた一つの章が終わり、いよいよ後半戦へと向かいます。

>>767
私はそれはやったことないですが
サクサク進みすぎてるってことなんでしょーか。
なかなかいい具合に溜めを作るのは難しいもんです。

>>768
バイド系列の機体に搭載するには、ソウルジェムはぴったりだと思います。
物質的にも精神的にも汚染に対して強い抵抗力がありますからね。

なんとなく女の子の方がバイドと相性よさそうな気がしますし。
いえ、何となくですが。

>>769
そういうわけで戦いが始まりました。
はたしてゆまちゃんは救われるのでしょうか。

暗黒の森そのものでしょう。きっと。
あのラスボスに成り代わり、あの空間を維持しているのかなぁなんて思ったりしました。

>>770
ありがとうございます。
これからも愛と勇気とキボウとバイドを胸に頑張っていきたいと思います。
よければ気長にご覧ください。
778 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/20(火) 00:26:32.75 ID:8gndqU7H0
そういえば、アンカー・フォースはバイドを撃破したときに壊れてしまったはずなのに、FAINALでは出てきているんですよね。
バイドが修理したんでしょうか?
779 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/20(火) 00:44:08.94 ID:MSNZzB21o
乙乙
勇者30は多分、とある話が今回のゆまと杏子の今の境遇に若干似てるって感じだと思う
呪いの靴履いてて逃げれなかった時の絶望感とともにフラッシュバックして言われてなるほどって思ったわ
今のペースはすごくいいと思う。早すぎてむしろムリしないで欲しいレベル。毎日こまめに投下があってすごく楽しく読ませていただいてます。
780 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/20(火) 00:52:13.40 ID:tj5WYLn+o
>>777
いや勇者30に呪いと勇者っていうクエストがあって
それをある条件を満たしてクリアすると称号がネタバレになるんだ
781 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/20(火) 01:14:50.09 ID:8gndqU7H0
ゆまの心が……

6面で出てきたバイドたちは、ゆまを歓迎するつもりで出てきたのだろうか?
それとも、ゆまが来るまで基地を守ろうとしたのだろうか?

アロー・ヘッドもひょっとしたら、地球を守るために戦っていたのかも知れないと思うと、悲しすぎる。
782 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/20(火) 07:36:37.54 ID:/YIH/gWDO
乙です!
ああ、ゆまちゃんの言葉に遂に半片言が…。それでも、俺達には…見守る事しか出来ない。
783 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/20(火) 12:02:34.50 ID:v1M574gAO
>>780

ゆま「……ウォ…ヅキィ……」
つまりこうか
784 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/20(火) 13:49:19.73 ID:yZwggTBe0
勇者30、色々気になって調べてみましたら。

………おおぅ。

では昼投下です。
785 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/20(火) 13:50:08.29 ID:yZwggTBe0
「ぐ……っ!!」

機体が激しく揺れる。とっさに回避機動は取ったものの
ライトニング波動砲は疾く、さらには追尾性能まで兼ね備えていた。
到底この距離で放たれて、かわしきれるものではない。
機体後部に直撃。小規模な爆発が起こる。
エンジン出力が低下、必死に機体を立て直す。

「まだ、生きテる。敵は、敵ハすベてたおサなくっチャあァァぁッ!!」

地獄の番犬がまた、吼える。
そしてその腕を伸ばした。敵を引き千切らんがため、アンカー・フォースが迫る。

「ゆまっ!何やってんだっ!聞こえてないのか、あたしだ、杏子だっ!!」

「聞こえてるよ、キョーコ。でも、こいツはゆまを攻撃シてきたンだ。
 だかラ、敵なンだよ。敵はゼんぶたおさなクちゃ。そシて、ほめてモらうンだ」

アンカー・フォースの軌道はあくまで直線的、機体を翻してそれをかわし
さらに続けて迫る光学チェーンを掻い潜り、杏子は叫び続ける。
声は届いているのに、なぜ撃ってくる。なぜ分からない。
786 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/20(火) 13:51:22.87 ID:yZwggTBe0
「キョーコは、ゆまを助けてくれるんだよね。でモ、こイつはゆまの敵だッ!
 だかラやっつケるっ!死ネ、死ねェェェっ!!」

その攻撃はさらに苛烈なものとなり、殺意をあらわにゆまが、地獄の番犬が吼える。
アンカー・フォースが掴んで投げ飛ばした塊を回避して、杏子は静かに覚悟を決めた。

「……ゆま」

この状況はあまりにもおかしい。
このゆまの豹変も、おそらくバイドの仕業なのだろう。
ならばまず、あの機体を絡め取るバイドを切り離す。

「少し手荒になるぞ。でも、絶対に助けてやるからなっ」

そして重なり合って響く、波動砲のチャージ音。
ライトニング波動砲が、圧縮炸裂波動砲が、明確なる破壊の意思の元、互いの機体に蓄

えられる。
R戦闘機同士の戦闘では、比較的よく見られる光景。
その膨大な破壊が振りまかれる予兆に、空気は静かに震える。
倒すため、そして救うため。力は放たれようとしていた。
787 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/20(火) 13:51:59.96 ID:yZwggTBe0
放たれたアンカー・フォースが引き戻される。
引き戻されて撓み、歪んだ光学チェーンが刃と化して迫る。
けれど、この位置から逃れるわけにはいかない。
ケルベロスの真正面。この位置でなければならない。

機首はケルベロスから逸らさないように。
先端に構えたフレキシブル・フォースは離してしまわないように。
慎重に、その刃を潜り抜ける。光学チェーンが擦過し、機体が揺れる。
出力の上がらない機体を必死で立て直す。ついに、チャージは完了した。

「こいツをタおせば、キョーコに会える……だカラ。死ぃぃィぃネぇェぇっ!」

放たれた地獄の雷。勝負するのは、今だ。
機体前方に据えたフレキシブル・フォースを回転させる。
さらに機体を急加速、ケルベロスに向けて突撃。
フレキシブル・フォースが持つ金属触手は、X-マルチプル構造を備え
テンタクル・フォースが持つそれよりも高い柔軟性を持っていた。

故に、その触手は機体の動きに合わせて揺れ動く。
急加速によって生じた慣性が、フレキシブル・フォースの触手を揺らす。
機体を覆うようにその形状を変化させ、さらに回転するその触手は
まさしく機体を覆う鎧のように、迫るライトニング波動砲を受け止めた。
だが、それだけではまだ足りない。ライトニング波動砲は追尾性を備え
さらに回り込み、迫ってくるのだ。

機体を急停止させる。するとまた触手は形状を変える。
前方に突き出されるような形状を取った触手の上を、放たれた雷撃が跳ね回る。
そのエネルギーが逃げ出す前に、さらにこちらへ迫る前に。
フレキシブル・フォースを、ケルベロスを捉えるバイドの木へとめがけて射出した。
放たれれば即座に、その触手は収納されて飛んでいく。そこに蓄えられた雷撃もまた。
雷を纏ったフォースが木の根元に喰らい付き、焼き払い、そして打ち砕く。

まさにそれは一瞬の交錯。フレキシブル・フォースの特性を最大限に利用して。
辛くもライトニング波動砲を凌ぐことに成功した。
もはやケルベロスに迎撃の手段はない。後はただ撃ち放ち、そして解き放つだけだ。
この、悪夢と言う名の鎖から。
788 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/20(火) 13:52:29.35 ID:yZwggTBe0
圧縮炸裂波動砲が、ケルベロスを捉える木をさらに打ち砕く。
もはやケルベロスを捕らえるものは何もない。
ゆっくりと、その機体がコアの中から滑り出た。

「どうだ、ちゃんと助けてやったぜ。ゆま」

「………うん、動けるようになったよ、キョーコ」

静かに、ケルベロスはその機首を傾けて。

「これで、ちゃんと戦える。今度こそ、たおセるね。敵ヲ」

「なっ……!?」

アンカー・フォースが、クロス・ザ・ルビコンのキャノピーに喰らいついた。
その爪がキャノピーを食い破り、さらにエネルギー体が全てを焼き尽くさんと迫る。
砕けたキャノピーの欠片が、コクピット内に降り注ぐ。

「っの……離れろぉぉっ!!」

咄嗟に波動砲をチャージ、即座に発射。
低チャージの波動砲ではあったが、炸裂の勢いで食い込んでいた爪は外れた。
しかし、その反動で投げ出される機体。制動をかけることもかなわずに
クロス・ザ・ルビコンは、暗黒の森の地面に撃ち捨てられてしまった。


全身に衝撃、そして、焼け付くような痛みが走る。
この衝撃で壊れたのだろうか、パイロットスーツを突き破り。
柔らかな体を食い破って、赤く濡れた何かがその腹部から突き出していた。
砕けて折れた機械の破片。見るからに痛々しいその様を前に。

「ぁ……」

半ば呆けたように、杏子は声を上げた。

(やばい、これ……死ぬ)

視界がぶれる。意識が揺らいでいく。
体が力を失って、機体を起こすことすら出来ない。
揺らぐ視界のその先で、ケルベロスはその機首を巡らせた。
789 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/20(火) 13:53:42.59 ID:yZwggTBe0
「やっつケた。……キョーコ。ゆまは、やったよ。キョーコ」

通信はまだ届いていた。
嬉しそうな、ゆまの声が聞こえてくる。

「キョーコ?どこに行ったの?キョーコ……ねえ、返事してよ」

(自分でやっといて、無茶言うなっての……)

応えようにも声が出ない。出血が止まらない。
体から力が抜けていく。死が、近い。

(今度こそ、潮時かな。ははっ、死にたがりが随分生き延びたよな)

諦めが体を、意識を絡め取る。

「キョーコ……キョーコ。やだよ、おいてかないでよ」

(助けられるかもって、思ったんだけどな……。らしくないことは、するもんじゃなか

ったな)

「キョーコ……どうして、ゆまを、ひとりにしないでよ。キョーコ……」

(あぁ、泣いてるなぁ。そうだよな。独りぼっちは、寂しいもんな……)

意識が、暗黒の森に落ちていく。
もうじき自分も、悪夢の鎖に絡め取られて、ここを漂う存在となるのだろうか。

(ごめん、ゆま、さやか。あたしは……もう)


「ヤクソク……したのに」

(約束。……ああ、そうだな。助けるって、約束した。約束……ヤク、ソ――)
790 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/20(火) 13:54:31.60 ID:yZwggTBe0
「そう――だよなぁ。げふ、ごほっ」

搾り出すようにした声、喉の奥から鉄の味がこみ上げてくる。

「約束、したんだ。助けるって」

抗いがたい眠気を捻じ伏せて、その目を見開いた。





「分かるよな……今は、死んでる場合じゃないんだよっ!!」





ダン、と機体のパネルを叩く。
飛び出したのは緊急時用の医療キット。
浸透圧式の注射を、ヘルメットの隙間から首筋に打ち込んだ。
吐き気を催す程の痛みを、強すぎる麻酔で押し殺して。
流れ続ける血液を、薄れてゆく意識を、強心剤で無理やり叩き起こして。

「動け、動け……動けっ!今動かなけりゃ、意味がないんだよっ!!」

願いが、ボロボロの体を衝き動かした。
果たして人の意思は、機械の心を揺るがしうるのか。
機械は機械、人は人。決して相入らざるものであるはずなのに。
条理はここに破られる。完全に機能を停止したはずのクロス・ザ・ルビコンに再び光が灯る。

戦いはまだこれからだ。
そして、命を張るのはここからだ。
791 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/20(火) 13:55:19.48 ID:yZwggTBe0
「キョーコ?キョーコっ!だいじょうぶなの?キョーコっ!」

「ああ、あたしがこれくらいでくたばるもんか。ピンピンしてるよ」

「よかった……でも、キョーコ。今どこにいるの?」

「すぐ近くにいる。今行くから、待ってろよ」

考える。なぜ、ゆまは攻撃を仕掛けてきたのか。
ゆまは、まるでこちらを敵だと考えているようだった。
これを何とかしなければ、ゆまを助け出すことも出来ない。
いくら呼びかけても、その声の主がこの機体だと分かっていない。

もしかしたら、機体の識別が出来ていないのかもしれない。
ただ、近づくものを敵として捉えて攻撃している。それだけなのかもしれない。
ならばどうする。どうすれば、この機体が自分なのだと伝えることができる。

「ゆま……あたしを、信じろ」

「キョーコ?どうしたの。なんだかすごく辛そうだよ?」

「いいから。五秒だけ、そこをそのまま動くな。攻撃もするな。
 そうしたら、あたしはあんたの側に駆けつけてやる」

「五秒って……あ、でも、また敵が来るよっ!敵が……まタ、動きハじめタもん」

ケルベロスも、ゆまもまたこちらの動きに気づいたようだ。
相変わらず敵として認識し、再びその牙を向けようとしている。

「いいからっ!……敵は、あたしが一緒に倒してやるから。
 だから…な、ゆま。五秒だけでいい。……そのまま、そうしてろっ!!」


クロス・ザ・ルビコンが走る。ケルベロスを目指して、ふらふらと飛ぶ。
フォースは撃ち捨てた。ゆまを、ケルベロスを撃つ必要なんてもうないのだから。
後はもう、ゆまが信じてくれることを祈るのみ。

(それで駄目なら……二人仲良くあの世行き、だなっ!)
792 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/20(火) 13:56:40.34 ID:yZwggTBe0
ゆまは、撃たなかった。
身の内から湧き上がる、攻撃しろ、敵を殺せという衝動。
撃たなければ、殺されるという恐怖。
それを、杏子の言葉にすがって押さえつけた。信じているから。
信じられるから、大丈夫なんだと。

そして、半ばぶつかるような形でケルベロスとクロス・ザ・ルビコンの機体同士が触れ合った。
届いた。通じた。そして機体に響く、声。

「――聞こえるか、ゆま。迎えに来たぞ」

通信を介した声ではなく、その声は、直接機体を振るわせた。
機体同士を接触させて行う、接触通信である。
滅多なことでは使われない。けれども空間そのものがバイドに汚染され、通信が阻害される状況下では
導線などを使った接触通信は、周囲の状況によって阻害されることのない
確かな通信手段として確立していたのだ。


「キョーコ……聞こえる、聞こえるよっ!そこにいるんだね、キョーコっ!」

そして、それは確かにゆまに届いた。
接触通信。それは間違いなく杏子がそこにいるという証拠。
793 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/20(火) 13:57:45.40 ID:yZwggTBe0
「ああ、助けに来た。さっさとこんなとこ抜け出して、地球に帰るぞ」

このまま乗せておくには、ケルベロスはさすがにバイド汚染が危ぶまれる。
このコクピットの中を見せるのは忍びないが、ゆまにさえ乗ってもらえれば
――最悪、自分が死んでもゆまは帰ることが出来る。

「……でも、今近づいてきたのは敵で、でも、敵かと思ったらキョーコで。
 キョーコは敵じゃない、敵じゃないけど、これは敵で、敵は、敵が……」

「落ち着けっ!……敵なんか、どこにもいやしない。
 お前の側にいるのは、あたしだけだ……ゆま」

錯乱している場合じゃない。一刻も早く脱出しなければならないのだから。
その声に、ゆまも驚いたように声を漏らして。それでも、助かったという安堵が
冷たく張り詰めた心を溶かしていったのか。

「……うん、そっか。敵はいなかったんだ。もう、いないんだ。
 よかった……ずっと戦ってたんだ。でも、もう敵はいないんだよね、キョーコ」

本当に、本当に安心したようなゆまの声。
今はその声が、とても尊いものだと思える。失ってはならないと。

「大変だったな、ゆま。……よし、じゃあ帰ろう。キャノピーを開けてくれ」

「うん、ちゃんと開いてくれるかな……ちょっと心配かも」

「安心しろよ、開かなかったら抉じ開けてやるからさ」









そして、悪夢の蓋が開く。
二人の少女に、本当の悪夢が襲い来る。
それは二人を打ちのめし、その意志を、全てを断ち切ろうとしている。
ここは異層次元の吹き溜まり、積もって澱んだ何かが溜まり、最後に流れ着く場所。
――暗黒の、森なのだ。
794 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/20(火) 13:58:15.00 ID:yZwggTBe0
キャノピーが開かれると、中から溢れ出てきたもの。
それは赤黒く、それは艶やかで、それはぬらぬらと濡れていた。
おおよそこの世の物とは思えぬほどに醜悪で、今なお蠢くソレは。

ヒトの言葉を以ってしても、こう表すより他に術はない。














――――肉隗、と。
795 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/20(火) 14:10:26.19 ID:yZwggTBe0
今回もキボウ山盛りでお送りしております。

こういうキボウに溢れた話を綴る時こそ、心に愛と勇気を
空には願いを、地には平和を、雨に祈りを、風に唄を
そんな精神で頑張って行きたいものです。

>>778
半ばバイドと化しながらも戦うことを望んだケルベロスが、バイドを取り込み、アンカー・フォースを再生させた。
と、そんな感じの燃え設定が頭の中で出来上がってます。

あのアンカー・フォースは自機として使えるものとは違う機動をしてますし
もしかしたら中身は別物なのかもしれません。
あれはもしかしたら、救いを求めて差し出した手だったのかなぁ、とも思ってます。

>>779
改めて調べてみてうぉぉ、となりました。
奇跡も魔法もある世界ですが、果たしてこちらはどうなることやら。

そして出来る限り毎日投下を心がけてます。
幸い今は時間に余裕のある時期なので、余裕のある今のうちに完結できればいいな、と。
今後も出来る限りこのペースで進めていきます、ぜひともお付き合いください。

>>780
果たして杏子ちゃんはは【ネタバレ】にならずにすむのでしょうか。

>>781
敵から自分たちの基地を、ゆまの帰るべき場所を守るために戦ったのでしょう。
その敵がゆまちゃん自身だったというのは、なんとも皮肉な話でもあります。

アロー・ヘッドは恐らくもう中の人はおらず、バイドの攻撃本能にのっとって動いていたのかなぁ、と
そうは思いますが。

>>782
恐らく次あたりで決着はつくのではないかと、ぜひとも最後まで見届けてくださいませ。
796 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/20(火) 16:35:05.17 ID:/YIH/gWDO
昼投下乙です!
うわああぁあぁぁ!?一体どうなっちゃうの!?どうすればいいんだよおおぉぉぉっ!!?
797 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/20(火) 21:00:35.03 ID:zm03Tg490
体はどうなろうと、ソウルジェムさえ回収できれば……

ところで、ゆまは体もケルベロスに乗っていたんですか?
それでドッグで攻撃を受けたときに体が放り出されて、ソウルジェムだけで動いたとか……
798 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/21(水) 00:58:08.10 ID:AJpVeoJAO
お疲れ様です

確か死体は見つかってたからバイドが肉体を再構成したと考えれば……だから希望は有るんだ、パンドラの箱だって希望は残ったんだ、だから……!!
799 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/21(水) 01:24:29.13 ID:JRZTosgOo
昼間に投下があったのか…乙
なんというキボウにあふれた話なんだ。
杏子ちゃんがしいては魔法少女が今後何を選ぶかが恐ろしくもあり、楽しみでもあるよ。投げられる前の賽には無限の可能性があるからなぁ
800 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/21(水) 10:34:35.61 ID:JYsopvMp0
昼ともいえない朝投下です。
きついかなぁと思ったけれど、キボウのお陰で意外と書けました。

では、投下します。
801 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/21(水) 10:35:07.16 ID:JYsopvMp0
「――んだよ、なんなんだよ、これはッ!!」



一瞬、杏子の思考が停止した。
立ち直れば、困惑が口をついて出る。
なぜケルベロスのキャノピーの中にこんなものが。
ゆまはどこへ行ってしまったんだ。それとも、まさかこれが……。

(そんなはずが、そんなはずがあるかよっ!)

「な、なぁ……ゆま、お前は本当に、本当にそこにいるのか?」

認めたくない。認められるわけがない。
震える声で尋ねた杏子に帰ってきたのは、静かなゆまの声だった。

「……そうか、そうだったんだ。全部思い出しちゃった」

確かに声は聞こえる。
接触した機体を通して、声は伝わってくる。
それはつまり、そこにゆまがいるということで。

「何を思い出したってんだ。……帰る場所か?」

「それもあるけど、全部。もう、ゆまには帰るところはないみたいなんだ」

「ないならあたしが作ってやる!いいから、一緒に帰るぞ、ゆまっ!」

そのゆまの声は、まるで全てを諦めてしまったかのような声で。
子供がそんな声を出すことが、何よりも許せなくて杏子が叫ぶ。
諦めてたまるものか、と。ゆまだって、マミのように助けることはきっとできると。

「……キョーコは、どうしてそこまでしてくれるの?ゆまは、キョーコを撃ったんだよ。ひどいこと、しちゃったんだよ?」

「っ……わかってた、のか?」

「今、わかったの。それなのに、どうしてキョーコは」

何故、なんて問われても答えはとっくに出ていたのだから。
迷う必要なんてない。ただ、それを告げるだけでよかった。……少しだけ、恥ずかしいような気もしたけれど。
802 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/21(水) 10:35:58.46 ID:JYsopvMp0
「きっと、さ。あたしは……お前だったんだな」

そして、静かに言葉を紡ぐ。

「あたしとお前はよく似てる。きっと、何かが一つ違ってたら、あたしらの境遇はまるで逆だったんじゃないかと思う。
 あたしがロスに助けられてなかったら。きっとあたしは魔法少女ってのになって、あんたの代わりに戦ってた」

「キョーコ……」

「だからあたしは、あたしがなってたかもしれないあたしを、お前を助けてやりたいって思う。
 ……初めてなんだよ。誰かを助けるために、守るために戦いたいって思えたのは」

今まではずっと誰かのために、例えばそれがロスで、さやかで。
そんな誰かのために、その誰かの目的のために戦ってきた。
自分自身の意志で戦う理由と、守るものを掲げることができた。それは初めてのことだったのだ。

「だからあたしは、どうなったってお前を助ける。あたしがそうしたいからそうするんだ。
 そんな、身勝手でどうしようもない理由さ。あたしがお前を助けたい理由なんてのは」

少しだけ、心が晴れたような気がした。
胸の奥でずっと痞えていた何かが取れたような気がした。
これが理由でもいいのかもしれない。戦う理由。自分だけの、どこか身勝手な理由。
そこに守りたい人がいるから、助けたいと思う人がいるから。
それを偽善と笑わば笑え、そう思ってしまったのだから仕方がない。
ならばまず、どんな手を使ってでも目の前の少女を、ゆまを助ける。
そこから始まるんだ、と。改めて杏子は決意を固めた。


「そんなに言ってくれるなんて、うれしいな、キョーコっ」

ゆまは笑ってそう言った。
ああ、じゃあ後は助けるだけだ。

「でも、ごめんね。キョーコ。……やっぱり、ゆまはもう死んじゃったみたい」

そしてゆまは、閉ざされていた記憶を紐解いていく。
軍の記録にすら残らない、ゆまの最期の戦いの記憶。
803 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/21(水) 10:36:41.03 ID:JYsopvMp0
「あのとき、基地でアロー・ヘッドと戦ったとき。波動砲がキャノピーをかすっちゃったんだ。
 そのしょうげきで、ゆまの身体はふり落とされちゃった。すごくボロボロになっちゃったんだ」

記憶が、心が目覚めていく。
自分が何であるのか、どうしてここにいるのか。
全てを思い出していく。暗黒の森の中で。

「ケルベロスも、ゆまといっしょに落ちていったんだ。でも、負けたくないって思った。
 やっつけてやりたいって、願ったんだ。気がついたらゆまは、ケルベロスの中でゆまの身体を見つめてた。
 きっと、そのときにはもう、ゆまは死んじゃってたんだね」

なのに、何故戦えたのか。何故機体が動いたのか。
そんなことはゆまにはわからない。サイバーコネクタとソウルジェムの可能性。
その一端がそこに示されていたこと。そしてそれが、現在の魔法少女のシステムの雛形となっていたことを。
ゆまも、杏子も知らずに居た。知る必要は、恐らくなかった。

「それがどうした。ゆま、お前は今そこにいる。あたしと話ができる。
 死んでるってなら、あたしが今話してるお前は何なんだっ!
 たとえゾンビみたいなもんだとしても、あたしはお前を連れて帰る!」

杏子の意思は固い。
きっと、連れて帰ればなんとかなるはずなのだ。
キュゥべえ辺りが何とかしてくれる、訳も理屈もわからないような、不思議な方法で。
そんな淡い希望も、そこにはあったから。
804 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/21(水) 10:37:16.36 ID:JYsopvMp0
「キョーコ、聞いて。ゆまが何をしたのか、何と戦ったのか。きっと誰も知らないと思うから、伝えて」

その声は届いていたのか、それとも。
ゆまの言葉は止まらない。今伝えなければ、きっと誰も知らないままになってしまうから。

「アロー・ヘッドをやっつけて、基地のいちばんおくまで進んだんだ。
 そこには、ドプケラドプスがいた。きっとそいつが、基地を、みんなをめちゃくちゃにしちゃったんだと思う」

絶望の象徴ともいえる、強大な敵。ドプケラドプス。
ゆまの言う事が事実なのだとしたら、かつて仲間と共に死力を尽くして立ち向かったその敵に。
ゆまは、単身で立ち向かっていったことになる。一体、どれだけの死闘だったのだろう。

「すごくこわかった。すごく強かった。でも、ゆまは勝ったんだよ。そして聞いたんだ。
 いちばんわるくて、いちばん大きいバイドがいる場所のことを。
 ……その場所が、ここ。この暗くてさむい森の中だったんだ」

そして、それを倒して尚悪夢の蹂躙は終わらないという。
バイドの中枢。それはこの暗黒の森にあって、暴威を振るい続けていたのだという。

「そこであったことは、ゆまにはよくわからなかったんだ。たくさんのこわいバイドがいた。
 全部、全部やっつけた。……でも、フォースが、敵にとられちゃって」

ゆまの声は震えている。
思い出したのだ。あの恐ろしくも荘厳な戦いを。
まさしく生命の本質そのもの。互いの存在ただそれのみをかけて、本能のままに戦った記憶を。

「帰ろうとした、もどろうとした。……でも、だめだったんだ。
 ゆまは地球に帰れなかった。そして、バイドが追いついてきて……」

杏子も、ゆまの言葉の真実を理解し始めていた。
バイドコアの謎の消滅をもって終わりを告げた、サタニック・ラプソディー。
その真実が今、それを戦い抜いたゆまの口から語られているのだ、と。

「それからは、ずっと眠ってた。とにかく眠くて、ここはずっと静かだったから。
 キョーコが来て、ゆまを起こしてくれたんだね。……でも、ゆま。ちょっと寝ぼけてたみたい」

静かに、ケルベロスの機体が離れていった。
追うことも出来ず、見守るだけの杏子。
805 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/21(水) 10:37:40.49 ID:JYsopvMp0
「だから、今ならわかる。……きっと、ゆまはもう」

聞きたくない。認めたくない。
わかっているのに、わかりきったことなのに。
今、こうして言葉を交わせる現実を否定したくないのに。

「バイドに、なっちゃったんだ、って」

その言葉と同時に、ケルベロスのあちこちから何かが湧き出した。
それは恐らく、キャノピーの中を埋めていたものと同じ、赤黒い肉のようなもので。
瞬く間に、ケルベロスの全身へと絡み付いていった。
そして脈動、ゆっくりと、まるでキャノピーの名残のような結晶体がその表面に浮ぶ。


ソレを、人類は知っていた。
それが何であるのかも、人類は知っていた。
バイドに汚染され、変貌を遂げてしまったソレを、狂気の科学者たちはこう呼んでいた。

――B-1D、バイド・システムα、と。


「そう、だったんだな。ゆま」

理解はできた。むしろよく今まで、機体の姿を保っていたものだと思う。
6年だ。それほどの長い間、ゆまはこんなところで一人で眠り続けていた。
バイドの侵食に抗いながら、待ち続けていたのだ。

「キョーコ。今なら、わかるよ」

まだ、通信は届いている。
内部まで完全にバイド化したというわけではないのだろうか。

「ゆまは、もうすぐ心までバイドになっちゃう。さっきは、そうなりかけてた」

バイドは、その圧倒的な攻撃本能に従って行動している。
攻撃するために増殖し、攻撃するために進化し、攻撃するために侵食する。
敵を見つけて、攻撃する。それがバイドの全てだというのなら
確かに今までのゆまの行動も、納得はできた。
806 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/21(水) 10:38:43.85 ID:JYsopvMp0
「……お願い、キョーコ。ゆまは、人間でいたい。バイドになんて、なりたくない。
 だから、ゆまが人間のままでいられる内に……止めて、私を」

「できるか、そんなことっ!!」

ゆまの言葉は理解できた。だからこそ力を篭めてそう答える。
助ける。そう決めたのだ。それを覆してたまるものか。
連れて帰る。そして取り戻す。絶望的なのはわかっていても、それだけは貫き通したかった。

「あたしはお前を連れて帰るって決めたんだ!助けるって決めたんだ!
 そりゃあ、今すぐってのは難しいかもしれないけど、お前を元に戻す方法だって見つかる!
 だから、あたしと一緒に帰るぞ、ゆまッ!!」

もう、声も途切れ始めた。

「キョーコは、ゆまを助けてくれたよ。眠ったまま、なにもわからないままバイドになりそうだったゆまを
 キョーコは助けてくれた。……だから、お願い。ゆまを、バイドになんてさせないで」

「諦めるなよ!今まで頑張ってきたんだろ!一緒に帰って、いつか元に戻れる日まで待ってくれよ。
 助けたいんだ。……頼むよ、ゆま」

それはきっとできはしない。わかっていた。
けれど認めたくなくて。自分の無力さを見つめるのが辛くて。
零れる涙を止められなくて、杏子は叫び続ける。

「時間なんて、もうないんだよ。いつかじゃなくて、いまなんだ。いま、キョーコがゆまを助けてくれなかったら
 とめてくれなかったら、ゆまは、もっとたくさんのものをこわしちゃう。まもりたかったものも、ぜんぶ」

バイド・システムαが、ゆっくりとその機首を巡らせた。
そこに宿っているのは、間違いなく攻撃の意思。
もはや直にそれは、ゆまの意思とは関係なく動き始めるのだろう。
……否、ゆまの意思は、もうすぐなくなってしまうのだろう。
807 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/21(水) 10:39:15.57 ID:JYsopvMp0
「まも、りた、い、ものが、たくさ、ん。たく、さん、あったん、だ。
 でも、ゆま、は、まもれ、なか、った。きょー、こ。まも、って。わたし、まもり、たかった……もの」

バイド・システムαの波動砲。優れた追尾性能を持つデビルウェーブ砲のチャージが、始まった。
もう、迷う時間はない。
このまま共に尽き果てて、悪夢の虜囚となってしまうのか。
それとも、身を切るような。文字通り自分の半身を失うような痛みを負って。
尚、戦いを続けるのか。

杏子は、気付く。
クロス・ザ・ルビコンが既に、波動砲のチャージを終えていたことを。
迷い続ける意思と言葉とは裏腹に、その手は、機体は、為すべきことを知っていた。


「わかった」

波動砲の照準を、バイド・システムαに定める。
外しはしない。避けもしないだろう。

涙で歪む視界。それでもきっと、外れはしない。
















――オヤスミ、ゆま

――アリ ガト オヤ スミ
808 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/21(水) 10:40:44.00 ID:JYsopvMp0
「あたしは、戦うよ。生きられなかったお前のために。あたしになれなかったお前のために。
 あたしが、なっていたかもしれないお前のために。……忘れない、ゆま」

それは、杏子が心を決めたとき。
コアを失い、崩れゆく暗黒の森の只中で。
炸裂する光の中で、静かに存在を失っていく機体を見送りながら。

「だから、今はちょっとだけ泣かせてくれ。休ませてくれ。ゆま、ゆま」

その光の中で、幼い少女が、うっすらと。
笑ったような、そんな気が……した。














慟哭。















5時間後、救難信号を察知したセンター・ヘッドによって、クロス・ザ・ルビコンは回収された。
パイロットは重症を負っており、すぐさま病院へと搬送された。
命に、別状はないとのことである。
809 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/21(水) 10:49:23.42 ID:JYsopvMp0
というわけで、ついにゆまちゃんの物語は終わりと相成りました。
はたしてそれが幸せな結末だったのかどうかはわかりませんが。
この先、もうこれ以上悪夢と付き合うことがないと考えれば、幸せだったのかもしれません。

>>796
現実もバイドも、とても非情でキボウに満ち溢れています。

>>797
ソウルジェムはバイドの侵食に対する高い抵抗力を持っています。
ですが、6年という時間は長すぎました。もうソウルジェムそのものは、肉の中にどろどろに溶けていってしまい
意思だけが残っていた状態だったのでしょう、きっと。

概ねそんな感じです。最初期の魔法少女であるゆまちゃんは、まだ普通にパイロットとして機体に乗り込んでいました。
バイドとの戦いによって肉体を失い、それでも戦うことを願った意思が、サイバー・コネクタに干渉したのかも知れません。


>>798
バイドによって再構成されたのなら、それはもうバイドです。
人類の敵でしかないのです。

けれど、杏子ちゃんは戦う理由を見つけました。それは希望かもしれませんね。

>>799
そしてキボウは降り注ぎ、悪夢は尚も止みません。
魔法少女達に待ち受ける運命は何なのか。
次章では、その辺りにもスポットが当たっていくのではないかと思います。
810 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/21(水) 11:06:53.98 ID:GIyMdjUco
キガ ツク トワ タシ ハユ マチ ヤン ペロ ペロ
ダケ ドア オイ フク ノヒ トタ チハ コチ ラニ テジ ヨウ ヲカ ケル

ゆまちゃんお疲れ様
いつあんこちゃんが一人ぼっちは寂しいもんな・・・とか言い出さないかと心配してたがまだ大丈夫だったよかった
811 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/21(水) 16:36:50.82 ID:Lx7otOVDO
朝だったんですね。お疲れ様です!

これが…、遺志を継ぐ。と言う事なんだな。ゆまちゃん…願わくば、天国で…みんなを見守っててあげてくれな。
812 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/21(水) 19:54:50.32 ID:CZ2gUiLU0
キャノピー壊れて、パイロットスーツも破れているみたいだけど、杏子は汚染されていないよね。
813 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/21(水) 22:59:01.46 ID:JYsopvMp0
魔法少女との出会いであった1〜3話の第一章
そしてそれぞれが戦う意志と覚悟を固めた4〜11話の第二章
そしていよいよ次からは、バイドと人類との戦いも本格的なものとなっていきます。
その前の、最後の一時。是非ともみていってくださいませ。

では、投下します。
814 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/21(水) 22:59:40.43 ID:JYsopvMp0
「なんだ、元気そうじゃん」

地球、病院。杏子の個室。
容態も安定して、ようやく面会が許可されることとなった。
寝てばかりじゃ身体が鈍ると、ベッドの上で少しずつ身体を動かしていたところに、さやかがやってきた。

「まあな、腹に一発もらっただけだ。大したことないさ、こんなもん」

「そっか。重態で病院に運び込まれたって聞いたときは、どうなることかと思ったけどさ。あ、これお見舞い」

果物の入った籠を床頭台に乗せて、椅子を引き寄せベッドの側に座る。

「へへ、丁度腹減ってたところだ。どうも病院食ってのは味気なくてさ」

さっそくその中に手を突っ込んで、赤くて大きな林檎を掴む。
そのまま、大きく一口齧り付いた。

「ちゃんと剥いて食べなさいな、汚れちゃうでしょーが」

「いーじゃんかよ、別にさ」

どうやらかなりいいものだったらしい。
齧り付けば、口の中にみずみずしい甘さが広がって、思わず顔が綻んだ。


「……それでさ、杏子。一体何があったの、あたしらが分かれた後」

巨大戦艦は、異層次元で無事に撃墜され、地球はひとまずの危機を逃れたこととなる。
それでも被害は大きい。ビル街だけとはいえ、死傷者は優に三千人を超えるほどだったらしい。
地球におけるバイドの被害としては、エバーグリーン、サタニック・ラプソディに次ぐ規模だという。
ビル街には無数の痛々しい傷痕が刻まれ、復興はしばらく先になるだろう。
あまりにも、あまりにも大きな被害。それでも、当面の危機は去ったのだ。
815 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/21(水) 23:00:09.58 ID:JYsopvMp0
「別の場所で、バイドと戦ってたんだよ。それでちょっとヘマ打ってさ、このザマだ」

「ほんとにそれだけ?」

「それだけ、って。あの状況でそれ以外に何があるんだっての」

「いや、それはそうなんだけどさ……なんか、様子変わったな、って」

妙なところで鋭い奴だ、と苦笑した。

「……まあ、色々あったよ。でも、悪い。これは、あたしの中に留めておきたいことなんだ」

穏やかに笑って、杏子はさやかに答えた。
そしてまた、しゃく、と林檎を一口。
まだ胸の中で燻っている、無念。けれど杏子の胸の中には、それとは別に燃え滾るものがある。
死にたがりの影はもうどこにもない。強く生きようとする意志が、闘志が燃えていた。
けれどそれは、口にするにはちょっと恥ずかしくて。言葉にすれば、また泣いてしまいそうだったから。
杏子は、静かに笑っていた。


「っていうかさ、さやか。あんたもなんか変わったんじゃない?
 ……なんていうかさ、前みたいな張り詰めてる感じがなくなったっていうか」

杏子の目から見るさやかは、今はとても落ち着いているように見える。
戦うことに、守ることに命を燃やして、とにかく突き進み続けていたさやかとは違う。
それはそれで確かな力強さを持っていたが、同時に危うさも感じていた。
けれど今は、そんな影はどこにもない。
こんな自然体のさやかを見たのは始めてかもしれないと、杏子も少し驚いていた。

「あー……まあ、あたしも色々あったんだよ。マミさんのこととか、恭介のこととか。
 なんかさ、悩んでたことが全部綺麗さっぱり解決しちゃって、自分がどうすればいいのかわかっちゃったんだ。
 そうしたら、そんなに急ぎ過ぎなくてもいいかなって、そう思うようになっちゃったんだよね」

そう言って笑うさやかの横顔は、思わずどきりとしてしまうほど大人びていた。

「……ま、お互い色々あって変わった、ってことかね?」

「そうだね。あたしらもしかして、ちょっと大人になったのかもね」

自信たっぷりにさやかが言った。
思わず、杏子はその顔を見合わせて、それから噴出した。

「くくっ。何を言い出すかと思えば、大人ってなぁ」

「なによ、笑うことないじゃないのさーっ」

そして、さやかも笑った。
816 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/21(水) 23:00:40.21 ID:JYsopvMp0
辛くて痛くて、大きな戦いが一つ、終わった。
戦火を越えて、少女たちは大きく成長した。
人として、戦士として。それがわかるから今は笑う。
互いを讃えるように、傷を埋め合うように、時を過ごして心を交わして、共にあるのだ。
817 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/21(水) 23:01:07.12 ID:JYsopvMp0
「ママ、具合はどうかな?」

「おう、この通りピンピンしてるよ。早く退院できないと、身体が鈍っちゃうね」

まどかは病室のドアを開けると、ベッドから身を起こして彼女の母、鹿目詢子は軽く手を上げた。

「っ、痛たた……流石にまだ無茶か」

「もう、ママ。怪我してるんだから、あんまり無茶しちゃだめだよ」

その手には巻かれた包帯。一朝一夕に直る怪我ではないようで。

「まあね、折角拾った命だ。大事にしなくちゃな」

ビル街がバイドの砲撃を受けた際、詢子は丁度そのビル街にいた。
バイドの接近を知るや否や的確に避難の指示を出し、自らも避難を開始した。
そしてなんとか、多少の怪我負ったものの生き延びることが出来ていた。

それを知るや否や、真っ先にまどかは駆けつけた。
流石の詢子も、まだバイドの襲来が終わってすぐ、情報も錯綜し放題のその時期に
まさか家を離れていた娘が、誰よりも早く駆けつけるとは思っていなかったようで、随分と驚いていた。

そして数日が過ぎた。怪我はそれほど重くないようで
数日中には退院できるだろう。詢子はむしろ、そんな怪我よりも会社のことの方が気がかりだったようだが
社屋も何もかも綺麗さっぱりなくなってしまったビル街の様子を見ると、吹っ切れたように大笑いして。

「ああ、これは帰ったら忙しくなりそうだ」

なんて言いだした。本当に、本当に強い。
そんな詢子の強さが、真っ直ぐさが、まどかにはとても頼もしかった。
818 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/21(水) 23:01:53.46 ID:JYsopvMp0
「ねえ、ママ。私……ママに話さなくちゃいけないことがあるんだ」

「ああ、やっと話す気になってくれたか。……何抱え込んでたんだい、まどか」

まどかはもう迷わない。
進むべき道は決めたのだから、後はその意思を示すだけ。

「……すごく大変な話なんだ。だから、ここじゃ話せない。外に行ってもいいかな」

「わかった。車椅子、持ってきてもらっていいかい?」

「うん、ちょっと待っててね」

まどかが部屋を出て行った。それを見送って、詢子はベッドに背を預け。

「あの子があんなに言うなんて、一体どれだけすごい秘密なんだろうね。
 ちょっと見ないうちに、すっかり大人びた顔しちゃってさ。なんか、親としては複雑な気分」

娘の成長が嬉しいと思う反面、その瞬間を見逃してしまったのが悔しい。
切羽詰ったような様子をしていたかと思えば、突然の家出紛いのことである。
正直不安もあったけれど、まどかの様子を見るに、まどかを大きく成長させたのだろう。
再び扉が開く音を聞きながら、詢子は満足げに笑みを浮かべていた。
819 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/21(水) 23:02:54.49 ID:JYsopvMp0
そして、日が暮れて。

「もういいの、鹿目さん?」

病院から出てきたまどかを、ほむらが出迎えた。
街はまだ混乱から完全に立ち直ったとは言えない。
交通機関の復興も十分ではなく、病院へと通うための足として、ほむらがエア・ランナーを飛ばしていた。

「……うん、ママともしっかり話できたし、元気だったし」

「そう、よかったわ。……ちゃんと話は出来たのかしら」

まどかの表情を見る限り、きっと悪いほうには転がりはしなかったのだろうと思う。
多少疲れた様子はあるも、前に見たときよりはずっと前向きな表情になっていた。

「……うん、ちゃんと伝えたよ。信じてくれたよ」

機密的な問題はあるけれど、誤魔化しきれることでもない。
キュゥべえにも相談をした上で、まどかは詢子に全てを打ち明けたのだった。
魔法少女のこと、バイドと戦う友達のこと。その秘密をずっと抱えていたこと。
あまりに突飛な話である。けれども詢子はそれを確かに聞き届けた。
そして、まどかを信じて信じると、そう言ったのだ。


「よかったわね、鹿目さん」

「うん、ほむらちゃんもありがと。それで、さやかちゃんは?」

さやかもまた、ほむらに送られ病院へと来ていた。
杏子の下へと行くために。

「まだ戻ってきてないわ。随分話し込んでるみたいね」

「そっか、じゃあ私もちょっと行ってこようかな」

「待って、鹿目さん」

再び病院に戻ろうとしたまどかを、ほむらが呼び止めた。

「どうかしたかな、ほむらちゃん」

「丁度いいか、今聞かせてもらってもいいかしら。あの時の答え」

これからどうするのか、どう生きるのかと、戦いに赴く前に投げかけた、問い。
聞くのなら、きっと今だろうと思う。
820 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/21(水) 23:03:32.83 ID:JYsopvMp0
「うん、そうだね。ママにも同じことを聞かれたんだ」

当然だろう。大事な娘の行き先を気にしない親がいるだろうか。

「それで、貴女はどう答えたの?」

真っ直ぐに見つめるほむらの視線を受け止めて、まどかも真っ直ぐほむらを見つめて。
小さく息を吸い込んで、それから。

「……私は、魔法少女にはならないよ」

自分の意思を、選び取った答えを、告げた。




「そう、私も、それがいいと思う」

安心なのか、それとも少し残念なのか。
軽く目を伏せて、小さく息を吐き出した。

「……私ね、前から自分には何も出来ないって思ってたんだ。何か得意なことがあるわけじゃないし。
 自分に自信も持てない。さやかちゃんみたいに戦うことを決意することもできなかった」

それが、まどかがずっと抱えていた悩みの大元。
自分に何ができるのかがわからずに、自信がもてずにずっと思い悩んでいた。

「でも、そんな私にでもマミさんを助けることができた。できることがあった。
 戦えなくても、私にはできることがある。助けることができる人がいるかもしれない。
 だから私は、ここで頑張る。この場所で、見滝原で」

もはや、まどかの表情に迷いはない。
これならきっと、大丈夫だろう。これから先、どれだけ辛いことがあっても、立ち向かっていけるだろう。
確信めいたものを抱えて、ほむらはまどかに笑みかけて。

「……それを聞けてよかった。私も安心したわ。
 鹿目さん、これからはもう離れ離れだけど、私は貴女のことを忘れない。
 さやかや杏子と一緒に戦って、必ず帰ってくるわ」

「うん、私はここで、私に出来ることをして待ってるね。ほむらちゃん」

手を取り合って、静かに言葉を交わした。
そしてまた、二人で言葉を交わす。ほむらの正体、かつての英雄ということを明かされて。
流石にまどかも驚いたけれど、それでもまどかは変わらなかった。ほむらにはそれが嬉しかった。
そして、別れの時はすぐそこまで迫っていた。
821 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/21(水) 23:04:05.56 ID:JYsopvMp0
休暇は終わった。
まどかは日常に帰り、さやかは、杏子は、ほむらは、そしてマミもまた、再び戦いの中へと身を投じていくことになる。

「まさか、マミさんがあのまま戻ってくるなんて思いませんでしたよ」

嬉しそうなさやかの声。
そこは空港。停泊しているティー・パーティーの前で。

「思い出しちゃったのよね、私も。戦う理由とか、爽快感とか。……それに、今は貴女達がいるじゃない?」

その隣で、マミもまた嬉しそうに笑う。
どうやらあのガンナーズ・ブルームの一撃は、マミの心に巣食う恐怖をも払ってしまったらしい。
どちらかといえば、トリガーハッピーに近いものかもしれないが、それはそれで戦う理由には十分で。

「けど、あんたはブランク長いんだろ?あたしらについて来られるかね」

にっ、と不敵に笑って杏子が言葉を投げかける。

「魔法少女としては先輩なのだから、負けてられないわ。もちろんあなたにもね、佐倉さん」

それに応えて、ちょっと澄ました様子のマミが。

「これは、一気に賑やかになりそうね」

そんな様子を一歩離れて、楽しそうに眺めているほむら。


「だーかーら、ほむらも来るっ!みんな仲間でしょ、一人だけ輪から外れようとしなーい」

そんなほむらの手を取って、さやかが輪の中へと招く。

「そうよ、暁美さん。むしろあなたには私達を引っ張っていってもらわないといけないんだから」

マミもまた、その手を取った。

「そーだそーだ、あんたが何でそんな強いのか、それも教えてもらいたいしな」

杏子も、また。
四人の手が、ぎゅっと固く結ばれて。
822 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/21(水) 23:04:59.67 ID:JYsopvMp0
「頑張ろうね、みんな。バイドをやっつけるその日まで」

さやかが静かに覚悟を告げる。

「ああ、あたしは絶対に死なない。バイドを全滅させるまでな」

脳裏にゆまの姿を映しながら、杏子がそれに続く。

「ええ、もうバイドに遅れを取ったりはしないわ」

苦い敗北と死の記憶。もうそれに縛られることはない。
闘志を顕わにマミが言う。

「……戦いましょう。みんなで、力を合わせて」

そしてほむらが、最後に強く頷いた。




魔法少女隊R-TYPEs 第11話
         『CERBERUS』
         ―終―
823 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/21(水) 23:05:48.48 ID:JYsopvMp0
【次回予告】

「終わりだ、No.8ッ!!」

空は彼女の戦場だった。
撃ち落されて、流れ着き、失ったものは何なのか。

「……そんな、?、?だ」

最後の舞い手を決める宴は、少女の闇を飲み込んでその姿を広げる。
闇を喰らうか、闇に喰われるか。向き合うのは――自分。

「行ってきなよ。そして確かめてきな」

「貴女は、あの子の分まで生きてください。そして、人生を楽しんでください」




「私は――暁美ほむらだっ!!」




――そして、日が沈む。



次回、魔法少女隊R-TYPEs 第12話
            『本当の自分と向き合えますか?』
824 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/21(水) 23:12:57.59 ID:JYsopvMp0
タイトルが変わりました。
このまま機体名で通してもよかったのですが、そろそろネタが切れそうに(ry

というわけで、11話もこれで終いと相成りました。

>>810
拷問だ、とにかく拷問にかけろ!

それっぽいことを言ってはいるのですけどね。
なんだかんだで結構あちこちで本編の台詞を借りている部分があります。

>>811
ゆまちゃんは生きるために戦い、守るために戦い、そして尽き果てました。
けれどその精神は、間違いなく杏子ちゃんに受け継がれたのだと思います。
ようやく、杏子ちゃんも戦う理由を見つけることが出来ました。
これで、ロス提督にも顔向けできそうです。

>>812
刺さったのは内部の機器だったようで、キャノピーも完全に割れたわけではないようで。
なんとかこうにか、杏子ちゃんは生還したようです。
こう、出撃するたび撃墜されては生還する。不運な星の下に生まれついてしまったのかもしれません。
825 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/21(水) 23:27:57.15 ID:CZ2gUiLU0
バイドの事を夢に見るまどかが、バイドの情報収集ユニットにされたりしないよね……
826 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/22(木) 01:47:53.21 ID:hz/Au4xAO
>>824

お疲れ様です

……ど、どこぞの炭酸男とか爆撃王とか異能生存体じゃないんだから(チラッ)

撃墜→新しい機体→そのうちイロモノ過ぎる機体に とかまたなんとも言えない……
827 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/22(木) 06:26:46.44 ID:z228Vk9DO
お疲れ様!
まどかと離れて宇宙へ…。次回はほむらちゃんへの追い込み回なんだろうか。
828 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/23(金) 01:41:20.41 ID:xLcDXJdw0
さて、ロス提督は今どのあたりを飛んでいるかな?
829 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/23(金) 01:47:43.74 ID:xLcDXJdw0
そういえばゆまから「伝えて」と頼まれたのに、誰にも伝えていないんだな杏子。
まあ、バイドになって6年間正気を保った魔法少女がいたなんて話、TEAM R-TYPEが知ったら、また妙な研究を始めそうだけど。
830 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/23(金) 12:48:33.04 ID:AKEZAezu0
B-1D バイド・システムα って名前が出てるからもう知ってるのかも。
てかB系列機はどう考えても『人』が乗るスペースなんてなさそうだし、すでにそっち方向で計画が…
831 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/23(金) 14:52:51.78 ID:7XPGKQZqo
いやだなぁ…βからはちゃんとサンデーストライクのを流用したコクピットブロックを埋め込んでるじゃない
832 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/23(金) 15:21:02.80 ID:3Z6RoqFy0
さて、ちょっと昨日は筆を置いてお休みしてました
次の12話に入る前に、一つ幕間みたいなのをまたやろうかなと思ってます。
案は二つあるので、よければどっちか読みたいほうを選んでもらおうかなーと思いました。


一つは杏子ちゃんが色んな機体を乗り回すお話。
もう一つは、プレイアデスの子達の話になります。
ネタが思いついたので、この子達も書いてみようかと思い立ちました。

よければどっちが見てみたいか聞かせてもらえると助かります。


>>825
今のところそういうことはないようですが、キュゥべえは何かしらまどかちゃんの正体に気付いたようです。

>>826
炭酸男なら最後は幸せになれそうですね。
爆撃王ならなんか妙な称号とかもらっちゃいそうです。
異能生存体?……いいからスコープ・ダックを用意するんだ!

本当に杏子ちゃんはイロモノ担当になってしまいそうです。

>>827
今まではそれぞれ1人ずつ問題を解決して来ましたからね。
次はいよいよほむらちゃんの番になります。一体何が起こるかはまだこれからですが。

>>828
きっと宇宙の海を元気に泳いでいるのだと思います。
凱旋の日がいつか来るのでしょうか。

>>829
伝えられる相手が居ない、というのもありますね。
開発基地の生き残りなんてのはほとんど居ませんし、かといって仲間に話せるかというとそれも微妙なところで。
勿論TEAM R-TYPEが知ったらえらいことになっちゃうでしょうしね。

>>830-831
一応R-戦闘機のバイド化自体は既に起こっていることになってます。
その経緯は概ねかつてまどかちゃんが夢見たような感じですが。

そしてαは完全に事故機で、多分回収した後に無理やりパイロットブロックとかくっつけたのでしょうが
β以降は一応コクピットは着いているようですね。
まあ最終的にはバイドに直漬けになっちゃいますが。
833 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/23(金) 15:37:45.72 ID:nIhRJ7g3o
あんこちゃんがイロモノ機に乗る話で
834 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/23(金) 15:57:39.69 ID:mdouZ9dAO
同じく色物機をお願いします。
835 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/23(金) 16:05:57.72 ID:bl8nW8dho
まさかプラチナハートさんに乗り込むあんこちゃんが見られるのか!
836 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/23(金) 16:27:11.06 ID:3Z6RoqFy0
ちなみに、杏子ちゃんの場合はいろいろとアレな機体を乗り回す
ちょっとギャグよりの短編集みたいな感じになるかと思います。

かずみチームの方は、多分バイド機が沢山でます。
こっちは割とキボウに溢れているのではないかと。

ではまた後ほど改めて確認しますねー。
837 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/23(金) 17:39:21.56 ID:lhKLQ1LDO
イロモノマスター杏子ちゃんに一票。
838 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/23(金) 22:17:02.40 ID:3Z6RoqFy0
イロモノ機が人気過ぎて困る。

では、満場一致でもう一発杏子ちゃんの話をやりましょうか。
かずみ勢はかずみ勢でやってみたいこともあったのですが、しっかり書き込むには
ちょっと彼女達のキャラは弱いような感じもしますね。
単行本派なので最近の状況がわからないってのもありますし。

では、そんな感じでゆっくり書いてみます。
ゆっくりとお待ちくださいませ、ではでは。
839 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/23(金) 22:23:05.39 ID:bl8nW8dho
かずみ勢と言えばイービルナッツはバイトと相性が良さそうだな
840 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/23(金) 23:07:21.84 ID:xLcDXJdw0
しかし満場一致過ぎるな。
841 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/23(金) 23:08:02.09 ID:xLcDXJdw0
いや、満場一致なら残念に思う人がいなくてよかったと思おう。
842 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 01:02:00.50 ID:Wn/xwYvB0
エバーグリーンの生き残りなら、まさにプラチナ・ハートふさわしい機がするな。
843 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 01:05:26.27 ID:Wn/xwYvB0
サタニック・ラプソディの追悼のために、クロス・ザ・ルビコンに付着していたゆまのバイド素子を用いて作った、
B-5C2 プラチナ・ハート・改とかかもしれないけど。
844 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/26(月) 19:34:44.23 ID:o6nWKKT80
ちょっと久々ですね。
ようやく杏子ちゃんの短編の一つ目ができあがりました。

ちなみにクリスマスはずっとタイトーコレクションでダラ外やってました。
なかなかに難しいですな。

では、投下します。
845 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/26(月) 19:39:32.74 ID:o6nWKKT80
R戦闘機。それは人類に残された最後の希望。
それはバイドに抗う唯一の力。
その設計思想、運用方法は多岐に渡り、それに伴い不可解なほどに多様な進化を遂げてきた。
しかしその中にはまるで進化の袋小路、もしくは吹き溜まりに流れ着いてしまったような
よく分からないものも数多く存在する。


これは、そんな機体ととある一人の少女の物語である。


――――Rと少女のモノガタリ――――

     第一幕 ――宣誓――
846 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/26(月) 19:40:04.52 ID:o6nWKKT80
「で、なんであたしにこんな仕事が回ってくるんだっての」

杏子は一人、機体を空に走らせながら愚痴った。
その機体は、小型移動コンテナであるTP-2――パウ・アーマーを元にした機体で
全身に追加装甲が施され、まるでぶくぶくと膨れ上がったような印象すら受けるものだった。
TP-2FA――パッチワークと名づけられたその機体は、その歪な外見から
ファットボーイ、なんていう不名誉な愛称を受けたりもしていた。


「仕方ないさ。キミに是非、っていうことだったからね。
 ボクとしても、余り向こうの要望を突っぱねることはしたくない」

その愚痴を聞き届け、キュゥべえが通信を返す。

「それがわからねぇんだっての。仕事ってのはこいつを届けるだけなんだろ?
 進路に敵が出そうな様子もないし。……何か裏でもあんのか?」

「それはボクにも分からない。とはいえ危険なことはないと思うよ。それについては確認済みさ」

「……ま、そーゆーことならいいけどさ」

そうとだけ言い残して、再び海上をパッチワークが往く。
日差しが波に反射して、きらきらと美しく輝いている。
激戦に次ぐ激戦を経ても尚、地球は美しかった。

時間まではまだ随分と余裕がある。
少し速度を落として、ゆっくりと景色を眺めながら飛ぶ。
海鳥達の編隊をそっと横切って飛ぶ。驚いたのだろうか
一瞬その編隊がふわりと膨らんで、すぐにまた元の形に戻った。
外部音声の回線を開くと、まるで警戒しているか、それとも歓迎してくれているのか
けたたましく、海鳥達の声が飛び込んでくる。

「まだまだ寒い時期だってのにな、無茶すんなよー」

コクピットの中から手を振って、海鳥達に別れを告げた。
応えるように響く鳴き声をその背に受けて、速度を上げる。
目的の場所までは、もうすぐだ。
847 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/26(月) 19:40:40.44 ID:o6nWKKT80
「――我々は、多くの犠牲を払いながらバイドとの戦いを続けてきた」

壮齢の男が、壇上から声を高らかに響かせた。
それを聞いているのは、たくさんの人。
男の背には、大きな一つのモニュメント。
布を被され、その正体は伺えない。

「中でもエバーグリーンの墜落は、我々から多くのものを奪い去って行った。それは、今尚忘れもしないことであろう」

先の戦いによって、エバーグリーン内部のバイドが殲滅された。
そのことを受け、犠牲者を弔う慰霊碑が作られることとなった。
エバーグリーンの惨劇から6年の時を経て、慰霊碑はここに完成することとなったのである。
その落成式典が、今日この日、この場所で行われていた。

「平和を、家族を、恋人を、仲間を。我々が奪われたものは、余りにも大きい」

軍の基地の一般公開エリアを使い企画されたその落成式は
遺族やあの惨劇を生き残ったもののみならず、多くの人が参加するものとなっていた。
皆静かに口を閉ざし、響くその声と、未だ姿の見えない慰霊碑に視線を送っていた。

「我々はこの痛みを忘れない。この痛みを、犠牲を決して忘れてはならない」

モニュメントを覆った布が、ゆっくりと取り払われていく。

「この慰霊碑はその象徴であり、無念の内に無くなった数多くの市民への追悼の意を示すものである。
 そして我々は、この慰霊碑に誓う。この痛みを、怒りを力に変えて、必ずやバイドを打ち倒すと!」

現れたのは、黒く大きな立方体。
黒く大きな立方体には、無数の文字のようなものが刻まれていた。
それは、把握しうる限り全てのエバーグリーンの墜落時の犠牲者の名前だった。

ざわめきが、人々の間で広がった。

「この惨劇の犠牲者達に、一同、黙祷を」

そのざわめきが、静かに収まっていく。
静かに、静かに。無数の人が集まった会場が、完全に沈黙に沈んだ。
848 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/26(月) 19:41:22.99 ID:o6nWKKT80
「しかし、こいつはどうも妙な機体なんだよなぁ」

大海原をかっ飛ばし、杏子は一人呟いた。
正直敵も脅威も無い、海は綺麗だがさすがに飽きる。
どうにも退屈が過ぎて、考え事でもしてなければやってられないのだ。

「補給用の自走コンテナだろうに、装甲を増設する意味なんてあんのか?」

一応、戦闘用に装備を増設されたパウ・アーマー系列の機体も存在はしている。
しかし外見から見るに、このパッチワークはどう見ても装甲を増しただけである。
武装の類はほとんど見当たらない。有人機として運用するなら武装は必要のはずで
無人機として運用するのなら、耐久性の向上などは意味の無いことである。
おまけに追加装甲のおかげで自重や体積は大幅に増加、機動性、機体バランスにも難がある。

「……しかも、そんなもんがなんだってあたしのとこに回ってくるかね」

どう考えても不可解で、そう思えば思うほど思考は廻る。
まともに考えれば、こんなものを開発する理由は無い。
なら何故こんなものにわざわざ人を乗せて、何処かへ向かわせようとしているのか。
運ぶだけならティー・パーティーにそのまま積んで行ってもよさそうなのだが
あえて人を乗せて移動させている。それに、わざわざ杏子を指名して、である。

「なんか、嫌な予感がするね」

危惧するのも、勘繰りたくなるのも無理はない。
一瞬たりとも油断ならない相手というのは、敵にも身内にも居るのだから。
もちろん前者はバイド、そして後者は忌まわしきTEAM R-TYPEである。

「考えててもしょうがないか、さっさと済ませっちまおう」

速度を上げて機体を走らせる。
目的地まではあと少し、さっさとこのお荷物を置いて帰ることにしよう。

「こちらヒューライム基地、佐倉少尉、応答せよ」

どうやら、迎えも来たようだ。
849 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/26(月) 19:42:24.79 ID:o6nWKKT80
「そして、我らが作り上げたのはこれだけではない!もう一つ、諸君らにお見せしたいものがある」

黙祷が終わり、俄かにざわめき始めた人々の間に、再び声が響く。

「これはバイドの脅威を根絶せんとする、我々の決意の象徴である。それが……これだ」

男は大きく手を振り上げ、そして振り下ろした。




「では、佐倉少尉。後は指示の通りに」

「……りょーかい」

基地との通信が切れた。
基地のオペレーター曰く、このまま基地へ向け直進し、指定された地点に着陸されたし。
ただし、周囲に十分に注意すること、と。

ますます持って不可解。とはいえ最早気にしている場合でもない。
パッチワークを走らせ、基地上空へと侵入した。


人々は頭上を走る影に驚き、頭上を見上げた。
頭上を飛んでいくのはパッチワーク。通常のパウ・アーマーよりも二周りは大きいかというその巨躯に、異貌に
人々は戸惑いの声をあげ、好奇と不安の目でそれを眺めていた。

そしてパッチワークは、慎重に、丁寧に指定された場所に着陸。
それは丁度、慰霊碑であるモニュメントの隣であった。

「式典の賑やかし、ってとこか。……ったく、結局下らない用事なんじゃねーか。
 で、着陸したらこのレバーを引くんだっけか?」

呆れ半分に、杏子はそのレバーを強く引いた。
850 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/26(月) 19:43:07.08 ID:o6nWKKT80
ぱしゅ、と何か空気が抜けるような音。
それに続いて、何かが剥がれていくような、音。
見れば、パッチワークの全面を覆っていた追加装甲の継ぎ目が広がって、剥がれていく。
そして剥がれた装甲が、次々に落ちていく。
当然振動は伝わるはずだ。僅かながらに振動と轟音が響き、人々の混乱は更に高まった。
しかしそれも、すぐさま歓声へと変わる。


「見るがいいっ!これが我らの力と意志の象徴、プラチナ・ハートだっ!!」


男は大きく手を広げ、機体の方へと振り向いた。
その表情に、満面の喜色を浮かべて、半ば狂喜ともとれるソレを振りかざしながら。

「うおっ、まぶしっ」

照り返す光に、思いっきり目をやられた。






それもそのはずである。その機体は、太陽の日差しを受けて眩く輝いていた。
それはまさしく、研ぎ澄まされた硬質の、金属の輝きだった。

パッチワークは文字通りただの継ぎ接ぎ、真の姿はその内にあった。
B-5C――プラチナ・ハート。
回収されたメルトクラフトのデータを元にして開発が開始された、特殊な金属をフレームに用いた機体である。
この機体に用いられた金属はまさしくその名の通り、原子番号78番、元素記号Pt、白金ことプラチナである。
貴金属としても知られるプラチナを全身の装甲にコーティングしたその機体は、よく晴れた空の下
その輝きで人々の目を眩ませ、一部の人間を魅了した。

「………どうしてこうなった」

がつん、とコクピットの壁に頭をぶつけて遠くに聞こえる人々の喧騒を聞き流しながら、呆然と杏子は呟いた。

「やっぱり面倒事じゃねーか。ったく、長引きそうだな、こいつは」

この分だと、しばらくは戻れそうにない。
勝手に出て行くわけにも行かないだろうし、随分と退屈しそうだ。
そう考えていた矢先、通信が入る。
851 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/26(月) 19:43:56.83 ID:o6nWKKT80
「やあ佐倉少尉。届け物ご苦労」

通信で届いた声は、そしてその男の顔は、先ほどまで壇上で話していた男のものだった。
そしてそれは、杏子にとっても見覚えのある男だった。

「……大佐」

「いいや、今は准将だ」

「……ああ、昇進したのか、准将」

モニター越しの視線に、僅かに表情を固くして杏子は答えた。
准将、とそう呼ばれた男性はその返事に唇の端を吊り上げて笑うと。

「その口の利き方も相変わらず。元気そうでなによりだな、佐倉少尉」

ロスの元を離れた杏子の身柄を引き受け、そしてしばらくその面倒を見ていたのがこの男だった。
杏子からすれば、そのころはまさしく全てに絶望していたころ。
別段待遇が悪かった気もしないが、いい思い出もない。
正直なところ、どんな顔をして会えばいいのかわからない相手だった。

「あんたが居るってことは、わざわざあたしを呼んだのはあんたの差し金か、准将?」

「勿論、久々に顔を見てやりたくなったんだ。あの死んだような目をした子供が、どう育ったかをな」

モニター越しにでも、まるで覗き込んでくるような視線を向けられる。
思わず、コクピットの中でじり、と僅かに身を退いてしまった。
852 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/26(月) 19:44:36.68 ID:o6nWKKT80
「で、これで満足かよ。用が済んだならあたしは帰るぞ」

昔の知り合いに会うのは、正直言って気が進まない。
あの頃の自分はあまりにも子供で、未熟で、死にたがりだったから。
正直なところ、恥ずかしさが先に来てしまった。

「それはないだろう?お前はこの式典が何のためのものかを知らないのか?」

「知るわけねーだろ、何も聞かされずに飛んできたんだからな」

その返事に男は、少し意外そうな顔をして、ふむと小さく頷いて。

「ならば教えてやる。佐倉少尉。この式典はな……エバーグリーンの墜落によって失われた人命。
 彼らを追悼するための記念式典なのだよ。だから、お前を呼んだんだ」

「……っ」

思わず目を見開いて、息が詰まったような声を上げる杏子。
そんな話は確かに聞いていた気がする。気にはなっていたが、参加できるはずもないと思っていたのに。

「お前も祈っていけ。お前を残して逝ってしまった奴らに、そしてお前を助けたロス達にな」

その男は、かつて士官学校において、ロス達相手に教鞭を取っていた男だった。
それゆえに、ロスとの交流も深く、こうして杏子の後見人を任されていたのである。
もっともそれは、ある日突然杏子が飛び出していってしまうまでのことではあったのだが。

「わかった、じゃあ……ちゃんと祈っていくことにするよ。……その、ありがと。わざわざ、呼んでくれて」

照れくささもある、恥ずかしさもある。申し訳なさもきっとある。
勝手に出て行ってしまった自分に、ここまでしてくれるだなんて。
果たしてこの男は、こんなに優しい奴だったろうか。かつての記憶ではそれほどでもなかった気はするのだが。
年月がこの男を変えたのか、それとも、自分自身がその優しさに気付けなかっただけなのか。

そんな自分を恥じて、躊躇いがちに感謝の言葉を口にした。
それを聞き届けて、男は。


「ああ、気にするな。代わりにもう一仕事やってもらうぞ」

「……まあ、それくらいならいいけどさ。こいつをまた動かせばいいのか?」

「いいや、違う。お前にはエバーグリーンの生き残りとして、皆の前で演説をしてもらう」

にたり、と意地が悪そうに男は笑って、そう告げた。
853 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/26(月) 19:45:20.14 ID:o6nWKKT80
「はぁぁぁっ!!?」

困惑である。そんな話は端からまるで聞いていない。

「ちょっと待てオイっ!?どういうこった、ふざけんじゃねぇっ!!」

「ふざけてなどいない。お前はエバーグリーンの生き残りで、おまけにバイドと戦うパイロットだ。
 演説台に立つには十分すぎる資格はあると思うのだがね」

「……まさか、このためにわざわざ呼びつけたってのか」

「もちろん、出なければ勝手に出て行った子供をわざわざ呼び寄せたりするものか」

「……ッの野郎、ふざけやがって。滅茶苦茶出鱈目言ってやろうか!」

思わずコクピットを殴りつける。
わざわざこんな偽装までして、全てはこの場に呼び寄せるためだったのだ。
きっと、困った顔を見てやろうとかそういう策略なのだろう。
前言撤回。こいつは、間違いなく性格が悪い。

「そりゃ困る。一応台本も用意してある……のだが」

途中で男は一度言葉を切って、それからまたその顔に喜色を浮かべて。

「……今日この場所には、あの事故で死んだ人達の遺族も来ている。もしお前が、本当に彼らに何かを伝えたいのなら。
 自分の言葉で、彼らに話してやっても構わん。どうする」

再び、杏子は押し黙る。
そう、この式典はあの忌まわしき事故で亡くなった人達を追悼するためのものなのだ。
あの事故で全てを失ってしまった杏子が、それを台無しにできるはずもない。
そして確かに、話してやりたい気持ちもあった。
あの事故があって、それでも自分は生きていると、戦っていると。
今ならそんな自分を、自信を持って示せるような、そんな気がした。


「………いいのか、本当に」

確認するように、静かに杏子が問いかけた。

「あの時の死んだような目をしたままだったら、すぐさま台本を渡していただろうがね。
 ……どうやら、少しはマシになったようだ。任せてもよさそうだな」

その答えに満足そうに男は笑う、そして。

「行ってこい。そして、聞かせてやれ。お前の今まで生きてきた証をな」


「――ああ」

杏子は、静かに頷いた。
854 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/26(月) 19:45:59.90 ID:o6nWKKT80
ざわめきもひとしきり収まってから、男は再び呼びかける。

「そしてもう一つ、諸君らに紹介するべき者がいる。あの大災害の中を生き残り
 そして今、バイドと戦うことを選んだ我らが敬愛なる戦友、佐倉杏子少尉を、諸君らに紹介しよう」

声と同時に、プラチナ・ハートのコクピットが開く。
せり出してきたタラップを降りて、杏子は壇上へと歩く。
ヘルメットを脱ぎ去ると、束ねられていた髪が溢れて流れ出した。
その赤い髪が流れていくのと同時に、人々のどよめきが更に強くなった。

人々の前に立ったのは、まだ子供といえるような歳の少女であったから。
そして杏子は壇上に上がり、自分に注がれる何万という視線を、きっちりと受け止めた。
それから一つ、大きく息を吐き出して。


「あたしは、エバーグリーンの墜落で全てを失った。家族を、生活を、友人を。それまでの全てを失った。
 ここにいる人の中にも、きっと同じような人がいるんじゃないかと思う」

どよめきは、杏子が放つ凛とした声に飲み込まれていく。

「全てに絶望して、死んでしまいたいと思ったことが何度もある。
 そしてその時も普通に生きている人達を、何度羨ましく思ったか」

自分でも思いがけないほどに強く、言葉は次から次へと溢れてきた。

「そんなあたしが、ここまで生きてこられたのは――バイドがいたからだ。皮肉なことにね。
 バイドが憎かったから、戦う術を、理由を教えてくれる人がいたから、あたしは戦って、生き延びてこれた」

静まり返る中、声が響く。

「一緒に戦うことの頼もしさを知ることができたけど、それは同時に別れの辛さもあたしに叩き付けてくれたよ。
 戦いの分だけ、沢山の出会いと別れがあった。助けたくても、助けられなかった人もいたさ」

ロスの顔が、ゆまの声が脳裏に蘇る。涙が零れそうになって。
それを堪えて、言葉を続けた。
855 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/26(月) 19:46:33.95 ID:o6nWKKT80
「でもあたしは、今まで戦い抜いてきてよかったと思ってる。仲間に出会えたからね」

視線は真っ直ぐ前を向いて。潤んで歪む目を、しっかりと見開いて。

「そしてあたし達は、これからもバイドと戦っていく。確かに、バイドと戦うことは誰にでもできることじゃないさ。
 でも、例え戦うことじゃなくても、誰にだって出来ることはあるはずだ」

それは、この地球に残してきた友人の言葉。
戦うことだけが全てじゃない。ここにいる1人1人にだって、できることはきっとある。

「世界を救うのは、たった1人の英雄だけじゃない。
 あたし達1人1人の思いが積み重なって世界を守るんだ。皆で一緒に守っていくんだ!」

脳裏によぎる、かつての英雄の姿。
戦うことに疲れ果て、それでもまだ仲間のために戦うことを選んだ。
そんな少女に、いつまでも英雄という枷を負わせ続けていいはずがない。

「だから生き抜こうぜ!生きてさえいれば、あたしたちにはできることがきっとある。
 無くすな!世界を!諦めるな!自分をっ!!」

大きく、一際大きく息を吸い込んで。

「――勝利は、あたし達の手にっ!!」

言葉と共に、大きな。とてもとても大きな歓声が上がった。
そして、鳴り響く拍手も共に。

汗の浮んだ顔で、髪を頬に張り付かせたまま。
すっかり紅潮した表情で、杏子はその光景を眺めていた。
なんだか、気分は悪くない。
そして、静かに頭を垂れて。杏子は壇上を後にした。

拍手は、歓声は止まない。
もしかしたらすごいことをしたのかもしれない、そんな実感が込み上げてくる。
自然と、笑みが零れた。
856 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/26(月) 19:47:00.73 ID:o6nWKKT80
「軍の仕事が終わったら、演説家で食って行けるかもな、お前は」

舞台を去った杏子の肩を叩いて、男――准将がそう言った。

「――肝が震えたよ。二度とゴメンだ」

「あれだけ言えれば大したものだよ。式典の後には人を招いて食事会もあるんだが
 どうだ、そっちにも参加してみるか?上に行こうって考えるなら、出てみるのも悪くないぞ?」

意外な申し出に目を丸くして、それから小さく苦笑して。

「いいや、今日はもう帰ることにする。仲間が待ってるんでね」

「見つかったんだな、今度こそ、仲間が」

ロス達と杏子との関係はやはり、詰まるところは保護者と子供に近かった。
その殻を脱ぎ捨てて、共に背中を預けあえる仲間を得られたのだということは
杏子のことを見てきたこの男にとっても、やはり嬉しいことだった。

「ああ、おかしな奴らだけど、最高の仲間さ」

「それは何よりだ、小型機を用立てよう、それに乗って戻るといい」

目と目が合う。お互いに、相手を認め合ったその視線が交差する。

「……色々世話になったね。ありがとう、准将」

「気にすることはない。だが、今度は行き場所が無くなっても拾ってやりはしないからな?」

「へっ、言ってろーッ!」

最後まで、まるで友人のように軽口を叩き合って。
そして二人は分かれた。まだ式典は終わらない。
しかしそれでも、杏子の役目は終わった。仲間の下へと帰ろう。
やけに晴れ晴れとした気分で、杏子は帰路を辿るのであった。
857 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/26(月) 19:52:05.60 ID:o6nWKKT80
というわけで、色々と要望もあったので一発目は戦う慰霊碑、プラチナ・ハートの話になりました。
思いっきり真面目な話になってしまいましたが、次は多分もうちょっとギャグよりになるのではないかと。
今後も本編と平行してちまちまと投下していきたいと思います。

>>839
もしもかずみ勢の話になった場合は、相当救われない話になる予定でした。
具体的には、全員バイド機と一つになっちゃう的な。

>>840-841
やはり本編と比べてかずみ勢は色々と……ゲフンゲフン
正直、いまだに彼女達の名前と容姿が一致してくれなかったりしますし。

>>842-843
流石にアレで戦ってもらうわけには行きませんが、どうにかこうにか乗ってもらいました。
実際レアメタル機はバイド機の系列にはありますが、バイド成分はないのですよね。
バイド機で培ったフレーム加工技術の転用で、フレームに貴金属を加えたとかそんな設定だった気がします。
858 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/27(火) 09:56:25.83 ID:PmbFPIGDO
お疲れ様!
杏子ちゃんの言葉は、皆さんの魂に強く響いたようですね。
859 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/27(火) 11:35:41.65 ID:/yXvDC5+0
あれこれ主人公だれだっけって思ってから章制度思い出した
最近某動画とかTacの影響もあってR-typeの知名度と人気が上がってきて嬉しいぜ
860 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/27(火) 17:27:04.22 ID:iyyeyshC0
短編の続きはまた折を見てということで、いよいよ新章突入です。

では、投下します。
861 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/27(火) 17:27:46.35 ID:iyyeyshC0
波動砲のチャージを終えた人型兵器が敵の旗艦に迫る。
護衛の部隊はそのほとんどが叩き落され、僅かに残った部隊も
おびき出され、完全に立ち往生してしまっている。

もはや、この攻撃を阻むものは何もありはしない。
私は冷酷に攻撃を告げ、まとめて3本放たれた波動の光が、敵の旗艦を直撃した。
閃光、そして爆散していく戦艦を眺めながら、私は残存する敵部隊を掃討するよう指示を出した。

線と面で構成された、幾何学的なこの逆流空間。
かつてあの星を旅立ったときも、ここを通っていたことを思い出す。
ここを抜ければ、私の故郷はもうすぐだ。
そう考えると、無機質なこの空間もどこか懐かしいものに思えてしまうから不思議なものだ。


――敵の掃討が完了したという報せが入った。

何故彼らは私達を攻撃してくるのだろう。
分からないが、攻撃してくるのならば応戦するしかない。
この先にもきっと、敵は待ち構えているのだろう。


沈みそうになる気持ちを堪えて、太陽系に向けて、移動を継続する。
862 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/27(火) 17:28:28.75 ID:iyyeyshC0
2171年。
年が明け、冬の盛りも過ぎた頃。
見滝原を襲ったバイドの脅威も、その傷跡も少しずつ癒えてきた、そんな頃。

「………また、夢かぁ」

頭の中に広がったその光景と、誰かの思考。
それを改めて噛み締めながら、まどかは呆然と呟いた。

「これは、誰かの記憶、なんだよね」

寝ぼけ眼をこすりながら、抱きかかえていたぬいぐるみをそっとベッドに寝かせて。
まどかは思い出していた。ティー・パーティーから戻る前に、キュゥべえと話していたことを。
863 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/27(火) 17:29:01.22 ID:iyyeyshC0
「まどか。キミはどうやら珍しい能力を持っているようだね」

「能力?……それってどういうこと、キュゥべえ」

少し緊張した面持ちで、巨大な円筒のような装置から身を起こしてまどかが尋ねた。
それに応えた声は、どこか興味深そうなもので。

「説明するのは難しいな。今の人類の科学では、解析できないことだろうから」

「そんなに凄いことなの、その……能力って」

そんなことを言われては、どうしたって不安にもなってしまう。
そんな不安が滲んだ顔で、まどかはキュゥべえに尋ねた。

「いや、それほどたいしたことじゃない。
 少なくとも、ボクの同僚が欲しがるようなものじゃないことだけは確かだよ」

もちろん同僚とはTEAM R-TYPEのことである。
目をつけられたら一巻の終わりと、全方位から恐れられているその集団である。

「……聞かせてよ、分からないかもしれないけど、何も知らないままなのも
 やっぱり嫌だから、聞かせて欲しいな。キュゥべえ」

「また秘密を抱え込むことになるかもしれないけど、それでもいいのかい、キミは?」

そんな言葉にも躊躇うことなく、力強くまどかは頷いた。
864 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/27(火) 17:29:27.97 ID:iyyeyshC0
「あまり知らせるべきではない、とは思うけどね。キミが望むのなら仕方ない」

相変わらずの、感情を一切見せない表情で、そして口調でキュゥべえは言う。

「鹿目まどか。キミの精神領域には、通常の人間に比べて遥かに高度な精神ネットワークが構築されている。
 キミが何処かの誰かの記憶を夢に見てしまうのも、キミだけがマミの心を開くことが出来たのも
 きっとその所為だろうね」

と、一気に捲くし立てた。
当然、まどかは何も理解できずに困惑めいた表情を浮かべたままで。

「えっと、つまり……どういうこと、なのかな?」

「これでも相当砕いた表現だったんだけどな。要約するとね、まどか。
 キミには潜在的に人の意思を感じ取り、自分の意思を人に伝える能力があるということなんだ。
 使いこなせるようになれば、従来の原始的な意思疎通手段に頼る必要なんてなくなってしまうくらいにね」

さすがにこれでも理解できなければもうお手上げだ、とばかりに
ゆっくりと頭を振って、耳と尻尾をゆらりと揺らしてキュゥべえはまどかを見やる。
当のまどかは、何度もその言葉を繰り返して、何とかその言葉を理解しようと考えているようだった。

「テレパシー……みたいなものなのかな。それがあったから、私はマミさんを助けることができて
 そして、誰かの記憶を夢に見てる。そういうこと、なんだよね」

「そういう解釈で問題ないと思うよ。今のところ、キミは無意識的にその力を使っているようだね。
 力を制御できずに、無作為に周囲の思考を集積し続けたり、周囲に思考を拡散したりはしていないようだ。
 今のところはね」

前者であれば、無尽蔵に他者の思考を集積し、自我の境界を失ってしまうだろう。
そして後者であれば、それはいわゆるサトラレという奴か。どちらにしても、普通に生活など出来るはずがない。
これだけの能力を持ちながら、それが今までほとんど発揮されてこなかったというのは
それはそれで異例なことだと、キュゥべえは考える。
865 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/27(火) 17:29:53.35 ID:iyyeyshC0
「今のところ……って、じゃあ、いつかそうなっちゃうってこと……なの、かな」

それが一体どういうことなのか、まどか自身がまだ十分に理解できていない。
けれど、それがきっとよくないことなのだろうということだけは、よくわかった。

「可能性はゼロじゃない。でも、心配することはないと思うよ」

そんなまどかに、キュゥべえは笑みを浮かべて声をかける。

「その精神ネットワークがもしも暴走したとしたら、まずキミの身体が持たないだろうからね」

事も無げに言い放ったその一言は、当然の様にまどかを打ち据えた。

「どういうことなの、キュゥべえっ!?私の身体が持たないって……どうなっちゃうの、私」

「簡単なことだよ、まどか。その高度な精神ネットワークを最大限に活用するには
 人の身体、もっと言えば人の脳というハードウェアは、あまりにも脆弱で処理能力も未熟なんだ。
 もしもキミの能力を暴走を始めたとしても、すぐに精神が焼き切れてしまうだろう」

「そんな……じゃあ、私、どうしたら」

それはまさしく死の宣告にも等しい。
装置から身を起こそうとしていた身体から、一気に力が抜けていく。
そのまますとんと、再び装置に腰を下ろしてしまって。

「今までキミは、自分の能力のことなんてまるで知らずに生きてきた。
 このままそれが目覚めることなく、後数年過ごすことが出れば問題はないと思う」

そんなまどかにあくまで淡々と、キュゥべえは事実を告げていく。

「この地球の歴史の中では、そういう能力を持った個体は少なからず散見されているんだ。
 だけど、誰もが皆精神的な揺らぎの最も大きい第二次性徴期を過ぎると、それ以降その能力は発現しなくなっている。
 最も、能力が発現した固体の最期は言うまでもないことだけどね」

ただ、事実だけなのだ。
それが尚更に、まどかを強く打ちのめす。

第二次性徴期。所謂思春期というものが終わるまで、あと何年あるだろう。
高校が終わるころには終わっているのだろうか。だとしても後3年以上はある。
そんな長い間、いつ爆発するかも知れない爆弾を抱えて生き続けなければならないのだろうか。
866 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/27(火) 17:30:32.91 ID:iyyeyshC0
「だけど、ボクならそんなキミを助けてあげることができるんだ、まどか」

暗い思いに沈んでいたまどかに、続くキュゥべえの言葉が飛び込んできた。
その言葉に、はっとしたように顔を上げてキュゥべえを見るまどか。

「助けられるって、本当、なの?キュゥべえ」

「ああ、方法は簡単だよ」

突然の絶望と、そこに齎された希望。
まるでそれに縋るように、まどかはキュゥべえを見つめた。
キュゥべえはその視線を受け止めて、うっすらと笑みを浮かべて、まどかに告げた。




               「――ボクと契約して、魔法少女になればいいんだ」




予想だにしないその言葉に、まどかは言葉を失った。
驚愕に塗りつぶされたような表情で、震える視線は辛うじて、キュゥべえの姿を捉えていた。
867 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/27(火) 17:31:02.76 ID:iyyeyshC0
「ソウルジェムは、ただ魂を手に取れる形に変えるだけじゃないんだ。
 通常の人間の身体よりも、ずっと高度な処理能力や耐久性を与えてくれる。
 彼女達は気付いていないかもしれないけど、魔法少女は少なからずその恩恵を受けているんだ」

とん、と軽く跳躍。
まどかが座ったままの装置の縁へとその身を預けて、再びキュゥべえはまどかを見定める。

「そしてそれに引きずられて、彼女達の身体能力も強化されている。
 もしかしたら、魔法少女になることでキミは、その能力を自由に操ることだってできるかもしれない」

まるで、今触れている足元がとても不確かなものになってしまって。
今にも地面に沈み込んでしまいそうな、そんな不可思議な感触に囚われて、まどかの心も視界も揺れていた。
その揺らぎの中に、静かにキュゥべえの言葉が入り込んでくる。



「……でも、私。魔法少女に、ならないって。ほむらちゃんに、言ったんだよ。
 それに、例えそうだったとしても……戦えないよ。私には」

気を抜いてしまえば泣き出してしまいそうだったから。
ぎり、と歯をかみ締めて、そんな気持ちを辛うじて堪えて、その誘いを拒む。
約束したのだから。戦えないけど、それでも出来ることをすると。
ほむらは望んでいなかったのだから、自分が戦うということを。

死の恐怖と、友との約束との間で板挟みになって悩むまどかに対して、キュゥべえは少し意外そうな顔をしていた。

「キミはそんなことを心配していたのかい?……それならそれで構わないよ。
 もし戦いたくないというのならそれでもいい。今はただ、キミを助けるために言っているんだからね」
868 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/27(火) 17:31:30.57 ID:iyyeyshC0
思いもよらない言葉、それは確かにまどかにとっては救いと言えた。

「え……っ、本当、なの?」

気が抜けてしまったのか、少し抜けた調子で漏れるようにして流れ出た声に、キュゥべえは答えて。

「ボクだって、こんなところでキミに死なれるのは本意じゃない。
 これでキミが助かるのならそれでもいいと思っているよ。……信用できないかい?」

「そういうわけじゃないよ……でも、本当にいいのかな、って。
 だってキュゥべえは、魔法少女のパイロットを見つけるのが仕事……なんだよね?」

希望は見えた。けれどそこにはまだ、得体の知れないものへの不安もあった。
魔法少女になってしまったら自分はどうなるのか。
そうなってしまったものを、随分身近で見ていたはずなのに、やはり不安は拭えなかった。

「もちろんそうさ。だけど、ボクの目的はそれだけじゃない。
 もしかしたらいつかキミの力を借りることになるかもしれない。そうなった時に、キミに死なれていたら困る。
 そう思ったんだよ。所謂保険という奴かな」

さらにキュゥべえが跳ねる。
半透明の身体が、まどかの膝の上からまどかを見上げている。





「どうするか、選ぶのはキミだ。鹿目まどか」




869 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/27(火) 17:32:13.01 ID:iyyeyshC0
思い出すと、否応なしに気が重くなってくる。
ずっと気がかりだったいろいろなことに、納得のいく結論が出たのはいいことなのだけど。
それでも、これでよかったのだろうかという後悔は残る。

「はぁ……そろそろ起きなくちゃ」

溜息一つ。ベッドから身を起こして部屋のカーテンを開ける。
カーテンの裾に触れたその指には、きらりと輝く指輪がはめられていた。
870 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/27(火) 17:38:09.83 ID:iyyeyshC0
こんな感じで、最初はまどかちゃんのお話から始まるのでした。


>>858
とある不老不死の人から言葉をお借りしました。
あれもいいお話だったなぁ、と振り返りつつ。
多分中継を見ていたさやかちゃんから後でからかわれたりしたんだと思います。

>>859
気付いたら強く生きる少女達のお話になってました。
正直今のところ、誰が主人公と確定したわけではないのですが。
それでも多分、今回はほむらちゃんが主役です。

某動画がなければ私もこうしてなかっただろうなぁ、と本当に思います。
あれのお陰で熱が再燃したようなものですから。

しかし、やっぱり再興のためには公式で何かやってもらうのが第一ですし
グランゼーラには頑張ってもらいたいものです、本当に。
871 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/27(火) 17:54:55.18 ID:TDQX2Ofdo
あれ?契約しちゃったの?
872 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/27(火) 19:21:35.36 ID:PmbFPIGDO
乙!
原作でも最後には契約しちゃったし、それにESP暴走→廃人なんて終り方はほむらちゃんも望むところじゃないんじゃないかな。
873 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/28(水) 00:32:31.41 ID:umOnLg0AO
お疲れ様です

……あれま、契約してしまったのか
でもワルプルギスも居ないし……ともかく、エスコンのゴーストアイみたいなポジになるのかしら
874 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/28(水) 21:19:23.27 ID:3P+Z7hPgo
>>873
俺はスクライドのかなみを連想した>まどかのポジション
875 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/29(木) 08:15:20.89 ID:A9OxMPtF0
恐らく今日が今年最後の更新になるかと思います。
なので、今日はできるだけ書いてみようかなぁ、とも考えています。

では、投下します。
876 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/29(木) 08:16:21.16 ID:A9OxMPtF0
「さやかっ!そっちに敵が行ったぞ」

黒を基調とした機体。悪名高いR-9W系統最終機、R-9WZ――ディザスター・レポートを駆って杏子が叫ぶ。
もはやどういう理屈で放たれているのかすらわからない、この機体が持つ波動砲
災害波動砲はが放たれ、赤熱した隕石状の波動エネルギーが、目の前のバイドを押しつぶし、爆炎が上がる。

しかしその爆発の中から現れ、さらに奥へと突き進む敵戦闘機型バイド、B-1B2――マッド・フォレストU。
禍々しくも、どこか植物のような有機的なフォルムを持つその機体が、ディザスター・レポートの隣をすり抜け駆けて行く。
どうやら辛うじて直撃は避けていたらしい。バイドの癖に、やけに腕がいい。
そして敵の数はそこそこに多い、総勢7機の戦闘機型バイドが、所狭しと宇宙の海を飛び回っている。

「まだ来るってわけ?……ああもう、なんなのさこいつらはーっ!?」

同じく二機の戦闘機型バイド、バイド・システムαの最終進化型にして、バイドらしさを追求して生まれた機体。
あまりにもその容貌は邪悪、醜悪な肉塊の中に、辛うじて機器の類が見て取れる、B-1D3――バイド・システムγ。
そしてマッド・フォレストU同様に植物様のフォルムを持つ、B-1A2――ジギタリウスU。
その二機をフォルセティUの機動性で翻弄しながら、さやかが一つ悪態をついた。
今のところ負ける気はしない。空戦の腕では負けはしない。けれど、流石に3対1では分が悪い。

「こいつら……やけに連携が取れてやがるっ!」

援護に向かおうとした杏子の前にも、さらなる敵バイド機が立ち塞がる。
緑色の霧のようなものでその身を覆っている以外は、通常のR戦闘機と違いはないようにも見える。
ただそれでも、身に纏う霧状の物体からは高度のバイド係数が検出されている。
ミスティ・レディーと名づけられたその機体は、果たして通常のR戦闘機に霧状のバイド体が取り憑いたものなのか。
それとも……元よりこういう機体として、開発を進められていたのだろうか。
877 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/29(木) 08:16:48.30 ID:A9OxMPtF0
(……嫌なこと思い出させるね)

杏子の脳裏に否応なしに思い出されるのは、ゆまのこと。
もしかするとこれらの機体にも同じ様に、元は誰かが乗っていたのかもしれない、と。

「邪魔すんな……落ちろぉっ!!」

ハニカム状の対空レーザーを放ち、立ち塞がる敵を迎撃する。
けれどもその一撃は、霧状の幕に触れた途端に乱反射し、あらぬ方向へと逸れていった。。
ミスティ・レディーの持つその霧状の物体は防護壁であり、ビーム攻撃を乱反射させる性能を持っていた。

ミスティ・レディーから高エネルギー反応。恐らく波動兵器をチャージし始めているのだろう。

「っ……なら、こいつでっ!」

誘導性能を持つ追尾ミサイル。
高機動戦闘を行うR戦闘機同士の戦闘においても十分に効果を発揮するはずのそれは
放たれた途端、まるで見当違いのあらぬ方向へと飛んでいってしまった。

「これは……ジャミングかよ、どうなってやがるんだ」

さらに、その霧状の防護壁はジャミング機能すらも備えていた。
レーザーでも、ミサイルでも破壊は困難。手があるとすれば、フォースシュートか波動砲。
波動砲のチャージを始めるも、当然向こうの方がチャージの完了は早い。

「なんとか、一発凌いでやらないとな」

機体を急旋回させる。
さやかの援護に向かいたいところだが、その前にこいつを片付けなければしょうがない。
その刹那、機体に警告が走る。その詳細を確認し、杏子はにやりと笑みを浮かべた。
878 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/29(木) 08:18:21.34 ID:A9OxMPtF0
そのまま機体下方に垂直降下。ザイオング慣性制御システムですら減殺しきれない衝撃が身体を襲う。
その衝撃に堪えながらも、視線は敵を捉えて逸らさない。
当然のように機体を制御し、それを追って波動砲を放とうとするミスティ・レディーを、飛来した閃光が貫いた。

その射手はシューティング・スター。放たれた圧縮波動砲はミスティ・レディーの防護壁を切り裂いて
さらにはその機体を貫いた。回避行動も取れずに、ミスティ・レディーが撃沈、爆散した。

「意外と便利だな、それ。……助かったぜ、マミっ!」

「ええ、本当ね。……敵はまだまだいるわ。油断せず行きましょう!」

ディザスター・レポートとシューティング・スター。二機の軌道が交差する。
杏子はさやかの援護へ、そしてマミは迫る敵を迎撃に向かう。
マミの眼前には、まるで爬虫類のような鱗を持ち、鋭い牙を剥いて迫る龍のような機体の姿が。
BX-4――アーヴァンクと呼ばれたそれは、まるで鱗の塊のようなスケイル・フォースを携えマミへと迫る。

方や最初期に生産された機体であるシューティング・スター。
波動砲の性能は今でも申し分ないが、機体性能自体はアーヴァンクに比べ、やはり劣る。
回避するので精一杯なシューティング・スターを、拡散する鱗状のレーザーが掠めていった。
機体に走る衝撃。そして、変貌。



「やっぱり、この機体ではちょっと厳しかったわね。……でも、ここからが本番よ?」

変貌を遂げたマミの機体。それは人型機であった。
そして、変貌という言葉は適切ではなかった。それはただ、元の姿に戻っただけだったのだから。

「お楽しみはここから。行くわよ、ナルキッソス!」
879 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/29(木) 08:18:56.93 ID:A9OxMPtF0
TL-3N――ナルキッソス。
既存の地球軍の機体とはまったく異なるコンセプト、バイドに頼らない兵器へ目指して作られた機体である。
それゆえにこの機体にフォースはなく、右腕のヒートロッドを介して多用なレーザー兵器を操っていた。
そしてその最大の特徴は、今まで見せていた別の機体への変形。所謂擬態である。
どうなっているのかを考えるのすら恐ろしいことに、擬態によって変化した機体は元の機体と同様の性能を持っていたのである。


方や異質なる人型兵器。方や異貌なる龍を模した生物兵器。
光の剣を掲げて、人が邪龍に挑む。それはまさしく、御伽噺のファンタジー。
どうせならそんな勇者よりも、囚われのお姫様の方がよかったな、なんて思いは飲み込んで
マミは邪龍に立ち向かう。光の剣を振りかざし。

周囲を旋回しながら放たれる、鱗状のレーザーをかわしながら距離を測る。
フォースという盾を持たないからこそ慎重に、放たれたミサイルは、ビームソードで切り払う。
やがて、業を煮やしたアーヴァンクが一気に突撃を仕掛けてきた。
それはまさに好機。人でいう上段、火の構えのように大きくその剣を掲げて、マミもまた邪龍に迫る。

「アブソリュート……リ・フュートっ!」

声と同時に一閃。機械の腕が振りぬいた刃は、強固な鱗を物ともせずに切り裂いた。
最早この距離ならば、フォースの有無は致命的な差にもなり得ない。
流石にフォースそのものは切れないが、表面を覆う鱗を切り裂き、さらにはアーヴァンク自身にも傷を刻み込んだ。
切り裂かれた鱗の下には、やはりフォースの色が見て取れる。

ナルキッソスもまた、フォースとの接触で機体を焼かれる。
それでも、動けなくなるほどのダメージではない。アーヴァンクは今のダメージで動きが鈍っている。
止めを刺すのは、今だ。
880 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/29(木) 08:19:27.00 ID:A9OxMPtF0
「続けてもう一撃……サクレッド・サンクションっ!」

横薙ぎに一閃。
鱗が切り裂かれ、有機物で構成された機体の内容物が焼け焦げ、蒸発していく。
最早アーヴァンクは脅威ではない。後は違わず止めを刺すだけだ。

「終わりよ、ニーサリー・サンクションッ!!」

縦一閃。完全に機能を失い、アーヴァンクは果てた。
ビームソードを引き抜き、アーヴァンクを蹴り飛ばす。
打ち捨てられた邪龍は、炎と光を巻き上げ爆発の中へと潰えていった。

「まさかバイドと切り結ぶなんて思わなかったけど……これはこれで、悪くないわね」

満足げに呟いて、マミは味方の援護へと向かうのだった。
881 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/29(木) 08:26:36.99 ID:A9OxMPtF0
ひとまず今はこれまでということで。
マミさん×ナルキッソスは確定してました、主に武装名で。

>>871
果たしてまどかちゃんがどうなるのかはまだわかりませんね。
ただ、キュゥべえにとってまどかちゃんはちょっと特別なようです。

>>872
そういうわけで、まどかちゃんに色々あった理由が明らかになりました。

>>873
魔女は居ないし、魔法少女が魔女になることもごく一部の例外を除いては無いはずです。
実際、そこまで魔法少女になるデメリットって無いのかもしれませんね。
そしてエスコンはあんまりやったことがなかったりします。

>>874
スクライドは見たことありませんが、映画か何かやってるんでしたっけ。
いい機会だから見てみたい気がします。

それはそうと、谷口作品ではガン×ソードとプラネテスが私の中では二強です。
882 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/29(木) 10:56:28.84 ID:GZGrv5cjo
つまりジークフリードシステムだろわからんけど
マミさんが生き生きしてるといいなあ
883 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/29(木) 13:39:20.35 ID:sOZUJAODO
お疲れ様!
7機のバイド系機体…プレイアデスか?しかし可変機格好良いな。
884 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/29(木) 13:44:16.75 ID:sOZUJAODO
ああ、肝心な事を忘れてました。

本年はこのSSを書いて下さって本当にありがとうございます。良いお年を!
885 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2011/12/29(木) 19:53:33.44 ID:A9OxMPtF0
恐らくこれが今年最後の投下となるでしょう。

では、投下していきます。
886 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/29(木) 19:54:58.46 ID:A9OxMPtF0
本来はただ、この先の宙域にあるはずの研究施設へ次の試験機を取りに行くだけの仕事だった。
その為に宇宙の海を渡っていたティー・パーティーの前に、バイド機が立ち塞がってきたのだ。
施設からの通信は途絶している。まず間違いなく、あのバイド達に落とされたのだろう。
もしくはあれが、あの機体達が本来受け取るべき機体の、成れの果てなのかもしれない。

そんな思考を廻らせる間も無く、続けざまに迫るレーザーを回避して
ほむらは、迫る二機の狂機へと意識を集中させた。
白く、硬質な三本の爪が特徴的で、さらにはアンカー・フォースを模したクロー・フォースを持つ機体。
バイド生命体の牙状部位と同様の構造のフレームで構成されたその機体、B-5A――クロー・クロー。
その攻撃的な形状に違わず、放つレーザーもフォースも、いずれも非常に攻撃的なものだった。

そしてもう一機、もっとも手強い敵が居た。
その全身をゼリー状のバイド物質で覆った機体。バイド係数は計り知れないほどに高い。
四本の触手を備えたセクシー・フォースは非常に強力で、その触手全体からレーザーを振りまいてくる。
その機体はB-3C――セクシー・ダイナマイト。名前はなんとも残念だが、その脅威は本物だった。
887 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/29(木) 19:55:51.68 ID:A9OxMPtF0
あの時編隊を組んで迫って来た7機の中で、最も手強いと踏んだこの二機を
真っ先に相手取り、残りを任せたほむらの判断は間違っては居なかった。
ただ、この二機は腕も悪くない。バイドにしておくには惜しいほどだ。
それだけに攻撃に転じる隙が見出せない。ほむらをもってしても、防戦一方であった。

とはいえ敵は数で勝る。ここで二機を同時に引きつけたとしても、まだ敵の方が多い。
援軍はそうそう期待できそうにないのなら、ここは何とか切り抜けなければならない。
交差するようにして放たれたレーザーの間をすり抜け、クロー・クローにフォースを放つ。
通常の橙色とは異なり水色のそのフォースは、バイド生命体をゲル状に加工し、制御コアを埋め込むことで制御可能とした
現在人類が誇る最強にして最高のバイド係数を持つフォース、サイクロン・フォースであった。

サイクロン・フォースはフォース自身も高い攻撃、防御能力を持つのみならず
そのレーザーも、多少の障壁をものともしないほどの出力を持ち、メガ波動砲と併せて
ラグナロックの突破性能を更に高めるものであった。

そしてその最大の武器にして盾であるフォースは、クロー・クロー目掛けて放たれた。
しかしそれは空しくかわされ空を切る。武器を失ったほむらのラグナロック・ダッシュにバイド機が迫る。
狙い通りだ、と。ほむらは勝利を確信した。

今にもその凶悪な外観そのものの攻撃を繰り出そうとしていたクロー・クローが、背後からの攻撃を受けて動きを止めた。
その背面には、先ほどやり過ごしたはずのサイクロン・フォースが喰らいついていた。
888 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/29(木) 19:56:50.87 ID:A9OxMPtF0
サイクロン・フォースの特性は、その基本性能の高さだけではない。
アクティブコントローラーを埋め込まれたことで、その操作性能が非常に向上しており
切り離しと呼び戻しを自由自在に行い、フォースを操作することが可能となっていた。
まさにありとあらゆる意味で革新的な、最強のフォースの名に恥じない性能だった。

「動きが乱れた……仕掛ける」

クロー・クローに機首を向ける。
チャージは既に完了していた。ただ、今まで放つ余裕がなかったというだけで。
なにせこの一撃は、まさしく戦況を変えるだけの力を持っている。
だがしかし、代償もそれなりに大きかったのだ。

連携を乱しても尚、攻撃の手を緩めないセクシー・ダイナマイトの乗り手は、やはり腕はいいのだろう。
けれども相手が悪かった。一瞬でも1対1で戦える状況が出来てしまえば、それで十分。

「もう一度、力を見せて。……ラグナロック」

放たれ続けるレーザーを、機体の限界ギリギリの機動で回避、更にそのまま機首を敵へと向ける。
動きを止めたクロー・クローと、尚も追い縋るセクシー・ダイナマイトが、一直線上に並んだ。

「ハイパードライブ……っ」

それはかつての乗機、オリジナルのラグナロックが持つ、連射可能な波動砲。
ラグナロック・ダッシュは、その再現すらも成し遂げていた。
現在量産されているラグナロックにも、ハイパードライブシステムは搭載されている。
しかしそれは、オリジナル機のそれがオーバーヒートによる強制冷却と、その間の波動砲使用が不可能になる
という代償を孕んでいた事を受け、威力が大幅に制限されていた。
さらに、メガ波動砲との互換機能や、三種のフォースに対応するコンダクターユニットも失われていた。
つまるところ、量産型のラグナロックは大幅なデチューンを加えられた機体であった。

だが、このラグナロック・ダッシュは違った。
波動砲が改良されている事以外、全てがオリジナルのラグナロックそのままだったのだ。
ほむらにとっては懐かしくもあり、少し複雑な気分でもあった。
889 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/29(木) 19:57:21.58 ID:A9OxMPtF0
そして放たれる波動の光。
それが明らかに脅威であると見て取ったセクシー・ダイナマイトは、すぐさま機体を翻す。
一発限りの波動砲ならば、それで十分回避可能だっただろう。
立て続けに放たれるハイパードライブからは、その程度では逃げることは出来ない。
動けないクロー・クローを叩き落し、そのままセクシー・ダイナマイトも片付ける。

だが、そのときセクシー・ダイナマイトの取った行動は、ほむらを驚愕させた。
推進部をサイクロン・フォースに破壊され、未だ再生の追いつかないクロー・クロー。
迫る波動の光に焼かれるのを待つだけであったその機体に、セクシー・ダイナマイトは向かっていった。
そして、その勢いを消さぬままに体当たり。弾き飛ばされたクロー・クローは、ハイパードライブの射線から逃れた。

けれど、そこまでだった。
立て続けに放たれる波動の光に焼かれ、セクシー・ダイナマイトのジェル状の機体が焦げていく。
そして、内部の機械部分にまでその威力は浸透し、そして爆散した。

「……バイドが、味方を……庇った?」

信じられないことだった。
確かにバイドの中には、複数のバイド体が寄り集まって活動するものや
他の固体と協力して攻撃を行うものはいた。しかしそれはあくまでも習性、本能のままに行われる行為のはずだった。
だが、今の機体が見せた行動は。我が身を呈して味方を庇うという行動は。
あまりにも、バイドのそれとはかけ離れていた。

「バイドに、感情なんてあるわけが……だとしたら、これは」

ほむらの中で、疑問は最早確信に変わりつつあった。
890 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/29(木) 19:57:58.90 ID:A9OxMPtF0
やはりこれは、この機体達に乗っているのは……否、乗っていたのは人間なのだ。
機体ごとバイドに取り込まれ、その攻撃本能のままに襲い掛かってきているだけなのだ。
けれど、まだ意識は残っている。だとしたら、今倒した敵の中にも、また。

あまりにやりきれない。そして何よりこの機体の存在が信じられなかった。
こんなところに偶然に、フォースを装着し波動砲を使いこなす、明らかにR戦闘機の成れの果てのようなバイドが
それもこれだけの数と種類が、存在するなんていうことがありえるだろうか。

そしてこの先にあるのは研究施設。
最早疑う余地はない。行き過ぎた狂気の科学は、バイドにさえもその手を伸ばしていたのだ。
バイドの性質を利用したR戦闘機、噂くらいは聞いたことがあったが、まさかこんなところで開発が進められていたとは。

通信を繋いでみようかとも考えた、けれど無駄だろう。
たとえ意志があったとして、自分は彼もしくは彼女の仲間を撃った。
バイドに思考を犯された状態で、説得などできるはずがないのだ。

「……貴方達に何があったのか、私にはわからない。できるのはただ、祈ることだけ」

推進部の修復が終わったのだろう。
恐らくは仲間を失った怒りで震える機体を駆って、クロー・クロー、そして打ち出されたクロー・フォースが迫る。

「――オヤスミ、ケダモノ」

まずは難なくフォースをかわす。アンカー・フォ−スに似てはいるが、そこに光学チェーンは存在しない。
ただ打ち出されただけならば、かわすことは容易だった。
そして呼び戻したサイクロン・フォースから、矢印状のスルーレーザーが放たれた。
貫通力を高めたそのレーザーは、硬質のクロー・クローの機体を難なく貫き、切り裂いていく。
その爪が砕かれ、翼は折れ、恐らくコクピット部の成れの果てであろう赤い水晶体もまた、打ち砕かれた。


最後まで、どこまでも真っ直ぐにその爪は迫り。
そして、決して届くことなく炎の中に消えていくのだった。

それを確認して、ゆっくりとほむらは機体を廻らせる。
まだ、皆が戦っている。早く助けに行かなくては。
891 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/29(木) 19:58:29.28 ID:A9OxMPtF0
「ああもう、このままじゃ持たないっての!」

絡みつくように迫る三機の敵、その間を掻い潜り、すり抜け。
何度も死を覚悟するような危機を迎えながらも、さやかは尚も健在だった。
フォルセティUの過剰ともいえる運動性、それを常時フル稼働させてようやくの成果である。
とはいえまさしく避けるだけが精一杯。連携を取りながら襲い来るバイドの部隊に、逃げ回るだけで必死の状況だった。

「やばっ!?またあれが来るっ」

背後から追い縋るバイド・システムγの背部に光が宿る。
バイド・システムαのデビルウェーブ砲を更に強化させ、威力や持続性を増したデビルウェーブ砲V。
その追尾性能は恐ろしく、フォルセティUでも回避は容易でない。
まともにもらえば、それこそ逃げ回ることもできなくなってしまう。

機体を加速させとにかく距離を取る。
そうするより他逃げる術はないのだが、どうやら敵はついに、その対策を立ててきたようで。
フォルセティUの進行方向に、突如として割り込んできた機体、マッド・フォレストUがその波動砲を解放した。
蔦状のエネルギー体から、更に無数の棘が伸びるスパイクアイビー。決してフリント地獄突きではない。

「っ、きゃぁぁぁッ!」

真正面から衝突するかの勢いでの突撃に加えて、スパイクアイビーでの攻撃である。
回避など取れようはずもない。それで必死に進路を逸らした結果、スパイクアイビーは
フォルセティUの機体を深く抉った程度で、その機動を止めるまでは至らなかった。
だが、それで十分だった。

デビルウェーブ砲Vが、更にフォルセティUに迫る。
衝撃に機体を激しく揺さぶられながら、それでも必死に逃れようと機体を走らせた。
だが悲しいかな、今の一撃は、フォルセティUのブースターを深く傷つけていた。速度は上がらなかった。

直撃とまでは行かなかったがそれでも被弾。フォルセティUは、完全に戦闘能力を失った。
892 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/29(木) 19:58:58.93 ID:A9OxMPtF0
(このままじゃ死んじゃうね、仕方ない。使うしか……ないよね)

後は止めを刺されるのを待つばかりの機体の中で。
それでもやけに落ち着いた風に、さやかは決意した。
火花を散らすフォルセティUの青い機体が、青い光に煌いた。



「さやか、助けに来たぞっ!」

「美樹さん、無事でいてっ!」

「さやか、どうか持ち堪えて……っ!」

各々の敵を下し、三機のR戦闘機が駆ける。
目的は一つ、単独で三機の敵を相手取っているはずのさやかを救うため。
そうして今尚交戦が続く宙域へと雪崩れ込んだ3人が見た、ものは。


「やっほーっ!あたしって、やっぱ最ッ高ーっ!!」

ロックオン波動砲が三叉に別れ、逃げるように散らばった三機の敵を纏めて撃墜した
――まるで無傷の、フォルセティUの姿だった。
893 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2011/12/29(木) 20:07:37.69 ID:A9OxMPtF0
では、今年はこれまでとなります。
まさか二ヶ月ちまちま書いても終わらないとは思いも因りませんでした。
これからもこの調子で、ちまちまと書き連ねて行きたいと思います。

>>882
バイドもフェストゥムも厄介なことに変わりはありませんね。
まだフェストゥムの方が人類を理解しようとしたりするだけ情があるのかもしれません。
うっかりくっついたりして、読心能力のあるバイドとかできたりしたらたまったもんじゃありませんが。

本来格闘機に載せるのはどうかと思いましたが
まあ擬態もあるし、なにより武装名がすばらしかったので採用です。
ちなみにマミさんが叫んでた名前は全部ナルキッソスの武装名を他言語に訳したものだったりします。
ヘクトールでもよかったかなぁ、と考えていたりもしました。

>>883-884
可変機体というか、擬態なのですけどね、ナルキッソスは。
ほかにもストライダーに化けてバルムンクをぶっ放したり
なぜか氷の塊に化けることもできるようです、流石にこれだけは意味がわかりません。
そしてあの機体群の正体は恐らく来年には明らかになるかと。


来年の更新は4日以降を予定してます。
二ヶ月間、えっちらおっちらやってきましたが、お付き合いしてくださった皆さん
本当にありがとうございます。どうかよいお年を過ごしてください。

来年こそグランゼーラの躍進とエイプリルフールが復活してくれることを祈っております。
それでは、また来年お会いしましょう。
894 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/29(木) 21:17:55.76 ID:3d9a+FEAO
お疲れ様でした、よいお年を

XEXEXで思いだし笑いしちゃった……そっか、あれバイドって言われたら見えるよなぁ、可愛いのに
895 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/29(木) 21:25:24.71 ID:BluLRrNF0
え……、魔法つかっちゃった?

穢れはどうするんだろう。QB頼りは不安だし。
896 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/31(土) 02:38:19.88 ID:Fy5AMxnJ0
忘れそうになるけど、そういえば魔法少女だったね
さやかちゃんキボウに満ちテきちゃいましタからネー?
897 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2011/12/31(土) 12:14:26.29 ID:wSnVZPlDO
>>883 やっちゃったZE☆。

しかし擬態か…まさか自分がやられたファントム・セルみたいなR戦闘機に乗ることになるとは、マミさんも因果なもんだ。

それでは今度こそ、良いお年を〜。
898 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2012/01/01(日) 08:20:25.96 ID:P/ZZYaaDO
明けまして!おめでとうございますっ!

今年も是非是非、よろしくお願いします!

あ、お正月スペシャル的な番外編ってありますか?もしあったら嬉しいですね〜。
899 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/01/03(火) 01:03:19.18 ID:y0DFmna20
みなさん、明けましておめでとうございます。
今年のお正月は、帰省したらうっかりとR-TYPEsを発掘したのでゲットしてきました。

スーパーやったことあるし、なんとかなるかなとUをやった結果。
二面で軽く10回以上はコンティニューを喰らいました。未だにパターンが組めません。
ああ、だけど楽しいこのゲーム。これでしばらくやっていけそうです。

思いがけなく帰省が早くなりました。
帰省中に書き溜めていたものを投下しちゃいましょう。
900 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/03(火) 01:05:23.95 ID:y0DFmna20
「オイ、さやか……無事、なのか?」

その光景に、驚いたように杏子が声を上げる。
あの巨大戦艦との戦い経て以降、確かにさやかは見違えるように強くなった。
だとしても、あれほどの敵を三機同時に相手をしてあれほど余裕で居られるのだろうか、無傷で勝利し得るのだろうか。
信じられないという気持ちは、杏子の中で強いものになりつつあった。

「当ったり前でしょ!あたしを誰だと思ってるのさ」

けれど、そんな疑問もさやかの力強い言葉にかき消されてしまった。
「本当に、すっかり置いてけぼりにされてしまったわね。すごいわ、美樹さん」
マミもこの戦果には、驚きながらも賞賛の言葉をかけるより他になく。

「……ええ、これは私もうかうかしていられないわね」

ほむらもまた、そんなさやかを頼もしく思っていた。本当にこのままでは、遠からぬ内に追いつかれてしまうかもしれない。
いや、今やりあったとして果たして勝てるだろうか、そんな風にすら思ってしまっていた。
最早一流の乗り手と言ってもまったく過言ではないさやかのそんな姿に、頼もしさと同時に少しばかりの寂しさも感じていたのだった。
901 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/03(火) 01:06:14.88 ID:y0DFmna20
「周囲に敵の反応なし……これで終わり、かな?」

こうして駆けつけてきたということは、皆もそれぞれの敵を片付けたのだろう。
確実に敵の全滅が確認できるまでは、決して気を緩めてはいけない。
バイドとの戦いでは、一瞬の油断が死に直結することを痛いほどよくさやかは知っていた。
やがて現れたティー・パーティーから敵の全滅を告げられて、ようやく皆も緊張を解いたのだった。


地球のみならず、太陽系ありとあらゆる場所に存在するR戦闘機の開発、研究のための施設。
今向かっていた場所は、その内の一つであった。
グローリアと呼ばれていたその場所は、恐らく先ほど襲撃してきたバイドによるものであろう
損傷が激しく、最早施設としての機能はほとんど残っていないようにも見えた。

「施設内部のスキャンが完了した。どうやらもう内部にはバイドの反応は無いようだね」

ティー・パーティーの会議室。戦闘を終えて戻った一同に、キュゥべえが告げた。

「なら、これでひとまずは安心ってことだな。でもどーするんだ?
 これじゃ、とても機体なんて持って帰れるような状況じゃあねーよな?」

グローリアの無残な有様をモニター越しに眺めながら、まずは杏子が切り出した。

「そうね、それに敵は倒したといっても、アレをあのまま放置しておいてもいいのかしら?」

不安げな表情でマミがそれに続く。

「……そうだね、施設の内部の状況は気になるし、調査してみることにしようか」

「しようか、って簡単に言うけどよ。結局調査するのはあたしらなんだろ?
 ……ま、いいけどさ。敵も居ないんだ、さっさと済ませちまおうぜ」

相変わらず視線はモニターへ向けたまま杏子が言う。
グローリアは崩壊も激しく、R戦闘機では内部へと進入することは難しい。
つまりは、人の手で直接調査を行わなければならないということで。
902 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/03(火) 01:06:53.27 ID:y0DFmna20
「探査艇や工作機の一つも積んでりゃ話は違うんだけどねぇ」

と、杏子が愚痴るのも当然であった。

「そもそもこの船は装備試験艦なのだから、そこまで望むのは行きすぎね。
 けれど、これだけ色々させられるのだから、確かにそれくらいは欲しいと思うわ」

ほむらもそれに同意した。
とはいえ、無い物ねだりをしたところでどうなるというものでもない。
結局はグローリアの調査を行うしかないのだ。敵は居ないのだし、そこまで心配することは無いはずなのだが。


「じゃあ、さっさと行こうぜ。四人で手分けすればそうそう時間もかからないだろ」

すぐにでも出発しようとする杏子を、マミが呼び止めて。

「待って佐倉さん。いくら敵の反応が無いからって、皆で乗り込むのは危険だわ。
 ……そうね、誰か一人がR戦闘機で待機。残りの皆で内部の調査をするっていうのはどうかしら?」

少し考えてから、マミはそう提案した。
完全に実戦能力に特化してしまったさやかや、経験に基づく考え方をする杏子やほむらと異なり
マミは一歩引いた視点から状況を判断していた。言い方を変えれば、大局的とも言えた。
まだ年若いマミである。断言できるほどのものではないが、もしやすると彼女には指揮官としての資質があるのかもしれない。
純粋な戦力の増強に加え、マミというブレインを加えたことで、ティー・パーティーはその戦力を飛躍的に向上させていた。
903 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/03(火) 01:07:41.45 ID:y0DFmna20
「相手はバイド、どれだけ警戒しても過ぎることはないわね」

と、ほむらが賛同し。

「……と、なると。残るのはあたしだな。あたしの機体なら、詰め込めば何人かは乗せられるだろ」

そう杏子が続けた。
他の機体は皆ソウルジェム搭載機、パイロットブロックの余剰スペースは限りなく削減されているのだから仕方がない。

「ってことは、あたしら三人で内部の調査だね。一体何があったんだろ、あそこで」

モニター越しの惨状を眺めて、さやかも言葉を放つ。
後はもう、出撃の準備を整えるだけだった。


「ちょっと待ってくれないかな、さやか。キミにはここに残って欲しいんだ」

それを遮ったのはキュゥべえの声。

「え、あたしっ?……何かやらかしちゃったっけ、あたし?」

驚いたように、けれどちょっとおどけた様子で笑いながら、キュゥべえを、そして皆を見渡すさやか。

「……それは、キミが一番よく知っているんじゃないかな、さやか」

そしてキュゥべえはいつも通り、揺るがない視線と口調でさやかを射抜く。
いい加減付き合いも長いのだが、この目にだけはどうにも慣れないさやかだった。
思い当たるところがあったのか、さやかの顔から笑みが消えて。

「なんだよさやか、今度は何やらかしたんだ?」

からかうような杏子の言葉にも、困った様子で微妙な表情を浮かべるしかないさやかであった。
904 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/03(火) 01:08:39.09 ID:y0DFmna20
「あー……ごめん、皆っ!向こうのこと、任せちゃってもいいかな?」

「……仕方ないわね。敵も居ないようだし、3人でもきっと大丈夫よね」

マミがそう言い、ほむらもそれに頷いて。

「ま、そーゆーことならこれは貸しにしといてやるよ」

今一つ納得は行かないものの、杏子もそれに頷いた。


「じゃあ決まりね、準備を済ませて出発しましょう」

パン、と一つマミが手を打った。作戦会議はこれにて終了。皆がそれぞれに準備を始める。
マミとほむらは船外活動用のスーツを装着し、杏子は機体の発進準備を始める。
コクピット内の機材を一部取り外し、何とか三人が入れる程度のスペースを確保して。
そしてティー・パーティーはグローリアに接舷、マミとほむらは内部への侵入を開始した。

杏子はティー・パーティー内にて待機。
いつでも出撃できるように、ディザスター・レポートに乗り込んでいる。
905 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/03(火) 01:09:34.58 ID:y0DFmna20
「さて、さやか。話というのは他でもない」

残された一人と一匹、早速キュゥべえが切り出した。
さやかも、覚悟を決めたような表情でそれを迎え撃つ。

「――キミは、魔法を使っているね、さやか」

ビクリと、一度大きく身を震わせて。さやかはキュゥべえを見据えて。

「……やっぱり、アレって魔法だったんだ」

まるで悪戯がばれた子供のような表情で、さやかは笑って見せた。
これには流石のキュゥべえも、少なからず呆れるしかないようで。

「キミのソウルジェムを見て驚いたよ。一回の出撃では考えられないほどに多くの穢れが溜まっていた」

そのまま続けてキュゥべえが語る。
たとえ魔法を使わずとも、ソウルジェムには少しずつ穢れが溜まっていく。
戦闘の度に、もしくは日々の生活を経る中で。とはいえそれは微々たるもの。
機体にソウルジェムを移す際に取り除かれて、問題になることはまずなかった。
だがしかし、そうして穢れを取り除く際に気付いてしまったのだ。
さやかのソウルジェムには、致命的な程ではないが非常に多くの穢れが溜まっていたことに。

原因があるとすれば、魔法を使ってるとしか考えられなかった。
今回の戦闘の様子を見て、それを確信したのだと言う。


「キミは、損傷を受けた機体を魔法で修復したんだね。キミがそれを魔法と認識していなかったとしても、だ」

「あはは……流石はキュゥべえ。何でもお見通しだね。……そうなんだよね、うん。これは魔法だったんだ」

微かに笑って、確かめるようにさやかは呟いた。
その脳裏に蘇るのは、魔法を操る魔法少女の姿。かつて凶機を駆って襲撃してきた二人。
織莉子とキリカ。その二人の姿、そして戦いの最中に見せたその末路までもが蘇ってきた。

「……ねえ、教えてキュゥべえ。魔法少女って何なの?何でソウルジェムがあると、こんな力が使えるようになるのよ」

そんな疑問を抱いてしまうのも当然で、切実なさやかのその声に。
キュゥべえは一度軽く目を伏せて、それから言葉を続けた。
906 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/03(火) 01:10:11.84 ID:y0DFmna20
「しかし、機内で待機ってのも随分と暇なもんだな」

いまだグローリア内部からは連絡が無い。二人の生命反応も健在。特に問題は無いのだろう。
このまま待っているのが任務なのだから、それを投げ出すつもりは無いが、どうにも退屈だった。

「そういや、さやかの奴は一体何言われてやがるんだろうな。……へへ、ちょっと聞いてやるか」

にぃ、と笑って艦内の音声を受信するようにチャンネルを設定する。
気付かれないようにこっそりと。……どうやら、上手く行ったようだ。
さやかとキュゥべえの話す声が聞こえてきた。


「魔法少女が本来、魔法を使って戦う存在だったということは、以前に話したね」

「あー……確か、聞いた気がする」

「どうにも頼りないね、キミは。……話を続けるよ。魔法少女は本来魔法を使って戦う。
 その魔法は、魔法少女の願いから生まれたものなんだ」

「願いって……どういうことなわけ?」

「本来の魔法少女というのはね、ボクと契約する時に、一つだけどんな願いでも叶える事ができたんだ」

「どんな願いでもって、じゃあ億万長者とか、不老不死とかってのでもおっけーなわけ?」

「ああ、ある程度はその人の素質も寄るけどね、そういう考え方でいいと思う」

「うわ、それは凄いな……っていうか、そういうのがあるんだったら、それでバイドをやっつけちゃえばよかったんじゃない?」

「……できないからこそ、こうやって魔法少女をバイドと戦うために作り変えたんだよ」

「……そっか、なんかごめん、キュゥべえ」
907 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/03(火) 01:11:08.33 ID:y0DFmna20
「いいさ、話を戻すよ。願いと引き換えに魔法少女は生み出される。そうして生まれた魔法少女は
 その願いに応じた魔法の力を手に入れるんだ。例えば傷や病気を治すことを願えば、癒しの魔法を扱うことができるようになる。
 キミが使っている魔法は、本来そうして生み出されるはずのものだったんだ」

「……じゃあ、なんであたしは魔法が使えちゃうわけ?願いなんて叶えてないよね、あたし」

「それはこっちが聞きたいよ。キミ達のソウルジェムはバイドと戦うために作り変えられている。
 願いと魔法はオミットされたはずなんだ。それなのにキミのソウルジェムは魔法の力を手に入れてしまっている。
 まったく、わけがわからないよ」

「ってことは、あたしがこのまま魔法を使い続けたら」

「ある程度の穢れは、ボクが何とかすることはできる。けれど限界を超えてしまえば、キミは死に至るだろうね、さやか」





「……なんて話だよ、こりゃあ」

コクピットの中で、二人の話に耳を傾けていた杏子は呆然と呟いた。

「さやかの奴、妙に調子がいいと思ったら……なんだよ、そういうことだったのかよ」

それはまさしく、命を削って戦っているようなものだ。
このままにはしておけない。止めなければならない。だがどうすればいいのだろう。
やるせない思いが、胸中に渦巻いていた。
908 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/03(火) 01:12:43.90 ID:y0DFmna20
「どういうことかしらね、これは」

マミは静かに呟いた。
グローリアに侵入し、まだ辛うじて生きていた予備電源を起動させた。
その後はほむらと別れ、それぞれ施設内の探索に当たっていたのだが。

非常灯でぼんやりと赤く照らされた通路の中には、破壊されつくした施設の残骸が散らばっている。
それに混ざって見えている、元は綺麗な色をしていたのであろう布の切れ端や、ひしゃげてしまった調理器具。
千切れて綿の飛び出たぬいぐるみ、ハートマークが表紙の本の切れ端。

「女の子でも住んでいたのかしら」

どうにも研究施設には似つかわしくない代物が、あちこちに散らばっていた。
この辺りは損傷が特に激しいようで、部屋の内部はほとんど確認できなかった。
見取り図を見るに、この辺りは居住区だったようなのだが、これではここでこれ以上の情報を入手するのは困難なようだ。
研究区域に向かったほむらと合流するべきか。マミが考え始めたその時に。
プレートのようなものが、奥から流れ着いてきた。

「何か書いてあるわね……かすれていてよく読めないけど、これは……」

そのプレートを掴んで、表面に書かれた文字を見て。

「プレイ……アデス?」

辛うじて、そう読み取ることが出来た。
909 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/03(火) 01:14:22.62 ID:y0DFmna20
「――まさか、こんなことが」

研究区画。壊れた機器の中でどうにか生きているものを見つけて、残るデータを改修した。
この手の仕事は専門外だが、キュゥべえから貸し与えられた端末と権限を駆使して
どうにか主要な情報を回収することができた。
そうして示された、この施設で行われていた研究の正体。それは、あまりにも衝撃的なものだった。


――ソウルジェムが持つ、バイドに対する強い抵抗力。
それを利用して、ソウルジェムをコアとしたバイド機体の運用を行うバイデロイド計画。
そして、その中でも特にバイドに対する抵抗力の強い者を選別し、ソウルジェムに直接バイドを配合。
更なるインターフェーズの強化を図った、恐るべき、忌むべき計画。
――バイドジェム計画。
そう、この施設はソウルジェムを、つまりは魔法少女を運用し、バイドを用いた機体の開発を行う施設だったのだ。


真実を知り、戦慄に震える視線。
全ては終わってしまったこと。……いや、違う。こうして今回収したデータによって
恐らくまた、バイデロイド計画は続行されることだろう。

「この端末を破壊してしまえば……いえ、それでも結果は変わらないでしょうね」

この施設のデータがあろうと無かろうと、あの研究者達の狂気は止まらない。
いずれ必ずこれと同じ。むしろそれ以上の悪夢を生み出し、おぞましい研究を続けるのだろう。

「そして、バイドを倒すためと言ってそれを容認している。……私も、あいつらと変わらないわ」

自重めいた言葉は、誰の耳にも届くことは無かった。
端末に映し出されたのは、少女たちの姿。

「彼女達が……バイドジェム計画の被験体」

その数は、七人。

「私達が戦っていたのは……彼女達、だったのね」
910 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/03(火) 01:15:20.88 ID:y0DFmna20
胸の内に、嫌なものが込み上げてくる。
ソウルジェム、魂そのものにバイドを植えつけられて、恐らく暴走したのだろう。
そして施設を破壊し、そこに迫る敵に攻撃を仕掛けた。それがきっと、ここで起こった真実。
それでも仲間を守るという意思だけは失わずに、最後まで戦い続けたのだろう。

「もしかしたら、私達の立場は逆だったのかもしれない」

彼らにその身体を、魂までも弄ばれて、戦いへと送り込まれて。
何が違うものか、何かが一つ変わっていれば、ここにいたのは自分だったのかもしれないのだ。
どうしようもなく、胸が締め付けられるような切なさを感じた。
911 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/03(火) 01:28:54.06 ID:y0DFmna20
本日はここまで、続きはまた明日にでも
また二面に挑むことにします。

勝負だバラカス様ー。

>>894
XEXEXとR-TYPEの間にはこう、切っても切れない微妙な関係があったりなかったり。
どう見てもフリントがフォースだったり、マッド・フォレストの波動砲がどう見てもフリント地獄突きだったりと。
まあ、本当に山ほどネタを仕込んでいたのだなぁと感心してしまいます。

>>895
今のところはキュゥべえ頼りでしょう。魔女も居ませんし。
もっとも、出撃の度にきれいにはしてくれるので、そこまで無茶をしなければ大丈夫そうですが。

>>896
今のさやかちゃんは希望に満ちてますよ。
キボウでなく希望に。
そして魔法少女としての本来の姿も取り戻しつつあるようですね。

>>897
完全に出来心です。乗せたかったんです。
神聖制裁とか絶対拒絶とか、そんな色々とクるネーミングの武装を振り回すナルキッソスさんに。
おまけにこいつ、デコイ機能まであるんですよね。
一体どういう技術で開発されたのやら。

>>898
お正月スペシャルですかぁ。
流石になかなかネタがありませんが
適当に色んなキャラとバイドを組ませて小話でもやってみるのもいいかなぁと
完全にフリーダムでカオスなノリになりそうですが。

誰をお題にするかは安価でも取りましょうか。
913と915あたりで。
912 :以下、あけまして [sage]:2012/01/03(火) 01:50:23.44 ID:wizbeqM2o
ついにバイドジェムの研究が出始めたか・・・
その内バイド機に乗せられたりしないだろうな
安価なら仁美で
913 :以下、あけまして [sage]:2012/01/03(火) 02:07:22.41 ID:T3KgTfvOo
新年初めの乙
やっぱりプレイアデスはバイド機だったかー
R-9大隊も美味しいかと思ってはいましたが…

安価ならまど神
914 :以下、あけまして [sage]:2012/01/03(火) 02:20:07.26 ID:+bai7yhOo
乙でした。
安価ならQB
915 :以下、あけまして [sage]:2012/01/03(火) 02:20:21.61 ID:RgUVT8c+0
これは、理想的には「人間の人格を保ったバイド」をつくる計画でしょうか?
バイドを手ごまにしたければBBSがありますし。

うん?
今回はマミさんのときとは違い、バイド化しても操縦技術は衰えなかったようだし、
BBSでコントロールできれば、ただバイドを使うよりも強力かもしれませんね。
916 :以下、あけまして [sage]:2012/01/03(火) 02:21:42.38 ID:RgUVT8c+0
あ、安価忘れてた……

2提督で。
917 :以下、あけまして [sage]:2012/01/03(火) 08:50:11.17 ID:ke0Om4gDO
お疲れ様です!

プレイアデスは犠牲になったのだ…。

安価は次元干渉者まど神様と、みんなのリーダー提督(+その他)か…楽しみですね!
918 :以下、あけまして [sage]:2012/01/03(火) 14:34:57.44 ID:q9aA50220
play a death・・・
さすが不憫

今年もマイペースに書き進めておくれ
919 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/01/04(水) 00:50:36.17 ID:ooXSLXlE0
まど神×U提督。あんまりにあんまりな組み合わせですが、ちょっと頑張ってみました。

正直なところ
何なのだ、これは!どうすればいいのだ?!
といった感じですが、ご覧ください。
920 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/04(水) 00:51:47.07 ID:ooXSLXlE0
『どうしてこうなった』

地球連合軍の一司令官であった私が、気付けば随分と遠くまで来てしまったものだ。
目の前に広がる琥珀色の宇宙。気が遠くなり、まどろんでしまいそうになるのを必死に堪えて指揮を執る。
不可思議な空間を、迫り来るバイドの群れを切り分けながら進軍し、いよいよその中枢へと迫る。

強烈なエネルギー攻撃を撒き散らす器官を、広域に怪光線をばら撒いてくる器官を、犠牲を出しながらもねじ伏せる。
そうしていよいよ、残るは敵バイドの中枢。琥珀色をした、蠢く瞳孔のようなモノ。
それ自体も正体不明の攻撃を仕掛けてくるが、最早それもどれほどの脅威と言えようか。


これで終わりだ。


確信をもってそう言い切り、総攻撃の指示を出した。
波動砲が、戦艦の主砲が、大型ミサイルが、そしてどうトチ狂ったのか、そんな最中へ突撃していくケンロクエンが
その瞳孔を食い破り、撃ち抜いた。

その瞳は、こちらを恨めしそうに、それで居てどこか嬉しそうに眺めていたが
やがてその動きも潰え、放たれていた琥珀色の光もゆっくりと収まっていった。


ついにバイドの中枢を倒した!
我々はバイドを生み出し続けた元凶を破壊することに成功したのだ。

今度こそやっと故郷に還ることができる。
帰ったら…人のためにいいことをしよう。

さあ、還ろう………!?

…か、艦が大きく揺れる。


何が起こったのか!?


→驚愕する
921 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/04(水) 00:52:25.04 ID:ooXSLXlE0
BGM:cosmos

そこはどこまでも琥珀色の世界。
先ほどまでいたはずの空間と同じように、気が遠くなるような感覚を覚える。
どこか安らぎに満ちた、それで居て少し悲しい世界。

目の前の空間を、ゆっくりとR戦闘機が横切っていった。
同じ部隊の仲間達なのだろうか。パイロットは無事なのだろうか。
そんな心配をよそに、ゆっくりとその機体は流れていく。

私にはその姿が、まるで水面で羽を休める鳥のように見えた。


奥には戦艦の姿も見える。
まるで柱か何かのように、真下を流れる雲にその身体を預けて直立していた。
よく見れば、バイドの戦艦の姿さえ見て取れる。
彼らもまた、ゆっくりと雲の海に身を預けて、まるで眠っているようだった。

不思議と私の気分も安らいでいく。彼らを攻撃しなければならないはずなのに。
どうにも、そんな気にはなれないのだ。


もしかしたら、ここが天国という場所なのかもしれない。

琥珀色の空間の中を漂うように流されながら、私はそんなことを考える。
この場所を流れているのは私の意識だけで、これは全て、逝ってしまった者達なのではないのだろうかと。

その証拠に、奥からゆっくりと『彼』の姿が浮かび上がってきたのだから。
幾度と無く戦った、コンバイラタイプのバイド。それが最後に取った、巨大に膨れ上がった姿さえもが
その海にゆったりと身を預けて、たゆとっているのが見えたのだ。


ここが天国だというのなら、きっと私の戦いも終わったのだろう。
『彼』もまた、こちらを攻撃するつもりなどはまるで無いようだ。

少し休もう。きっとここでなら、安らかに過ごすことができるだろう。
そう思って、私はそっと目を伏せた。いや、伏せようとしたのだが。


「やっとできたー!1/1スケール、コンバイラ・リリルっ!」

巨大なコンバイラタイプのバイドの上で、はしゃぐように飛び跳ねている少女の姿を見てしまって。
流石に、それを目にして眠っていられるほど、私は図太くはなかった。

「えっ」

「えっ」

驚いて声を漏らすと、それに気付いて少女が振り向いた。
その少女と、目が合ってしまった。白いドレスのような服に、ピンク色の髪が印象的な、可愛らしい少女だった。
922 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/04(水) 00:53:08.83 ID:ooXSLXlE0
『番外編なんてなかった』


まど神「みんなこんばんはー、魔法少女の救世主、まど神さんだよーっ」

U提督「愛してるぜ、ベイビー!私は提督だ、特に決まったデフォルトネームはない」

まど神「TACVが出たらきっと名前がつくんだろうけどね」

U提督「うむ。そういうわけなので、これで通させてもらうとしよう」


まど神「えっと、まずはみなさん、新年明けましておめでとうございます。
    新年早々だけど、一つ悲しいお知らせがあるんだ」

まど神「このお話は、R-TYPEと魔法少女まどか☆マギカのクロスオーバー設定で書かれているものなんだけど
    その過程で道に迷ったり、謎の放射線を浴びたり、怪しいバイドを混入されたり、改造手術を受けたり
    時空のゆがみに落っこちたり、変な生き物と契約しちゃったり、作者がTACUはほとんど知らなかったり
    ……と、さまざまな非常事態に遭遇したため、作品本編とは若干内容が異なるものとなっちゃったんだ」

まど神「従って、全編に渡りキャラ崩壊多め、パラレル設定炸裂、思いつきレベル強……でお送りしてるんだよ。
    そういうのが許せない時は直ちに閲覧を中止し、酒か涙か男か女に逃避してください」

U提督「それでも気が治まらない時は、とにかく拷問だ、拷問にかけよう!」


まど神「そんなわけで、多分ネタがなくなるまではこんなゆるーいノリでやっていくと思うんだ。
    みんな、よろしくねっ」

U提督「正直なところ、私は冗談抜きでキャラが安定しないと思う。
    それでもよければ、是非付き合ってくれ。では、最後にもう一度」

まど神・U提督「「愛してるぜ、ベイビー!」」
923 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/04(水) 00:53:37.50 ID:ooXSLXlE0
『あなたはだあれ?』


U提督「それで、君は一体誰なんだ」

まど神「すぐ上で自己紹介したのにそれを聞くんだ。私はまど神。魔法少女を救っちゃうすっごい概念だよ!」
    ……最近は暇だから、フルスクラッチに手を出し始めたんだ。
    それじゃあ、貴方は誰なのかな?」

U提督「ふむ、私か。私は地球連合軍の一部隊を預かる指揮官だ。皆からは提督と呼ばれている。
    人類同士ですったもんだをしていたら、気がつくとバイドと戦う羽目になっていた不運な軍人だよ」

まど神「なんだか大変そうだね」

U提督「うむ、TACUはとてつもない難易度らしいからな、非常に苦労したのだろう」

まど神「Uってつくと途端に難易度が跳ね上がるよね、R-TYPEは」

U提督「番外編をすっぽかした私が言えた義理ではないがな」
924 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/04(水) 00:54:27.70 ID:ooXSLXlE0
『今回のお題は?』


まど神「いやあ、安価は強敵だったね」

U提督「こんなに我々とR-TYPERで意識の差があるとは思わなかった……」

まど神「ミスト・フォースが飛んできた気がするけど気にしないよ。よくあることだもんね。
    でも、本当にこれはどうしたらいいんだろうって思うんだよ」

U提督「あまりにもあんまりな組み合わせだからな、適当に話をでっち上げることもできないだろう。
    そもそも本編での私は九条提督がそうなるはずだったからな、まさかそっちを絡ませるわけにも行くまい」

まど神「プロデューサーの名前を借りたのに、まったくつっこまれなくてちょっと凹んじゃったみたい」

U提督「というわけで、深刻なネタ不足だ。ここはもう一度、読者諸君の力を借りるべきではないかな?」

まど神「読者の力って……もしかして、安価?」

U提督「そう、安価だ」

まど神「また大変なことになっちゃう気がするけど……大丈夫なのかな」

U提督「大丈夫だ、問題ない」



まど神「じゃあ、安価は後でするとして、まずは今日は何をしようか」

U提督「折角の楽屋裏なのだし、本編で言えないような事でも言ってみたらどうだね」

まど神「うーん……うーん……そうだっ!」

U提督「思いついたのかね」

まど神「私達で、本編の皆を紹介したり解説したりする、ってのはどうかな。
    本編じゃ言えないようなことも、たくさん言えちゃうと思うんだ」

U提督「……まあ、とにかくやってみるとしよう。さあ、行こうか」
925 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/04(水) 00:55:09.21 ID:ooXSLXlE0
『ほんとに主人公?』


BGM:虹の彼方〜ガン×ソードより〜

さやか「まどかかと思った?残念、さやかちゃんでした!」

まど神「………」ジトー

さやか「な、何、どうしたのよその目は」

まど神「ずるい」

さやか「えっ」

まど神「さやかちゃんばっかり格好良くてずるい」

さやか「いや、そんなこと言われても……」


U提督「まあ、確かにイベントが一番多いのが君だろうね。
    人間関係の問題も解決したし、戦う覚悟も決めた。乗り換えや覚醒イベントもこなしたわけだ。
    ………ふむ」

さやか「何だか意味深げに頷いてますけど、これでもしっかりきっちり大変な目に会ってきてるんですよ、さやかちゃんは?」

U提督「いや、そろそろ役割も消化仕切った頃だろうからな。いつ死んでもおかしくないなと思っただけだ」

さやか「んがっ!?……流石にちょっと酷くないですか、それは」

まど神「………ダメだよ」ギュッ

さやか「うわわっ、ちょ、どーしちゃったのさまどかまでーっ!?」

まど神「ダメだよ、こっちに来ちゃったりなんかしたら。あんな格好いいさやかちゃんなんて
    しっかり最後まで戦い抜いて、生き残っちゃえばいいんだ。……じゃないと、許さないんだから」ギュゥゥ

さやか「まどか……」ギュッ
926 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/04(水) 00:55:36.96 ID:ooXSLXlE0
『ずいぶん丸くなりましたね』


BGM:DEEP RED〜新ゲッターロボより〜

杏子「何だよオイ、このタイトルは」ワナワナ

まど神「えー、だって杏子ちゃんってば、向こうじゃ全然甘々じゃない。
    つんつんしてるのは最初だけで、後はもうずっとさやかちゃんのことばっかり」

杏子「うわっ、止めろバカっ!……わざわざこんなとこまで呼びつけておいて、何言ってんだよ。
   あいつとはそんなんじゃねーよ。ただ、あんまり危なっかしくて見てられないって言うか……
   色々世話になってるっていうか、その……」

まど神「ティヒヒ、やっぱり甘々だね、杏子ちゃん」

杏子「///」カァッ


U提督「それにしても、君は生い立ちからして相当手が加えられているようだな。
    お陰で、随分とロス提督もキャラが立ったようだ」

杏子「まったくだ、あそこまで誰かに依存するってのは、あたしのキャラじゃないぜ。
   死にたがりってのもどうもな。おまけになぜかあたしだけ魔法少女じゃねーし」

U提督「普通の機体に乗れる人間も欲しかったらしいな。お陰でいろいろ乗り回しているそうじゃないか」

杏子「その結果がパイル機に慰霊碑なんだが?」

U提督「没案では、どこぞのスーパーロボット風の人型機に乗せるというのもあったらしいが」

杏子「マジで勘弁してください」
927 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/04(水) 00:57:22.93 ID:ooXSLXlE0
『どっこい生きてたこの身体』


BGM:Fairy Dang-Sing〜スーパーロボット対戦OGより〜

まど神「マミさ〜ん」ピョン、ギューッ

マミ「もう、まどかはこっちでも甘えんぼさんなのかしら」

まど神「よかったですよね、マミさん。あのままだったら今頃この楽屋裏メンバー入りでしたよっ」

マミ「そうね、仲間もいるし、このままずっとああして、みんなで戦って行きたいと思うわ」

まど神「向こうの私のことも、よろしくお願いしますね、マミさんっ」

マミ「また会えるかどうかは分からないけれど……何かあったらその時は、私が彼女を助けて見せるわ」

まど神「ウェヒヒ、やっぱりマミさんは凄いなー、憧れちゃうなー」

マミ「それほどでもないわ、ふふっ」


U提督「君の場合は、今回はあまり先輩といった感じではないようだな」

マミ「その辺りはちょっと残念ですけど、みんなで一緒に戦えますから、それで十分です。
   それに……ふふふ、あんな凄い波動砲まで撃てちゃいましたし」

U提督「ガンナーズ・ブルームの波動砲だな。正式名称は、超絶圧縮波動砲だったか。
    これといい今乗っているナルキッソスといい、佐倉君に負けず劣らず、君も癖の強い機体が多いようだ」

マミ「何言ってるんです、格好いいじゃないですか。そりゃああのナルキッソスは、女の子が乗るには無骨すぎるかもしれませんが。
   まるで必殺技みたいな武装名、本当はただの翻訳なんかじゃなくてもっと格好良く叫びたかったんですよ?」

U提督「……君は、本当に楽しそうだな。命を懸けて戦っているとは思えないんだが」


マミ「憧れてたんです。友達や仲間と一緒に過ごせる時間っていうのに。
   それに格好いいじゃないですか。世界の平和を守って戦う、なんて。
   ……だから、私は絶対に死にません。そして誰も死なせません。大切な仲間達ですから」

U提督「参ったな。君と話しているとどうも、子供と話をしている気がしない」
928 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/04(水) 00:59:21.13 ID:ooXSLXlE0
『割と他人事』


BGM:Wild Flowers〜ゾイドより〜

ほむら「……私がここにいるのは、酷く場違いに感じるわ」

まど神「……向こうのほむらちゃんは、ほむらちゃんじゃないからね」

U提督「幼体固定されたかつての英雄。色々事情を知っている君の役割を埋めるには、そこまで的外れではないのだろうが」

ほむら「それにしても、本当に彼女は英雄なのかしら。……実力はともかく、内面が問題よ。
    とても20を越えた大人のそれには見えないわ。精神が肉体に引っ張られているとでも言うの?」

まど神「そうだよね、でもあのくらいの方が親しみはあっていいかな。さやかちゃんともうまくやってるし。
    ……その代わり、向こうの私とは全然縁が無いけど」

ほむら「本当ね、一体これからどうするつもりなのかしら。まどかは魔法少女になってしまったみたいだし」


U提督「まあ、この先はますますバイドとの戦いは激化していくことだろう。
    その中で、彼女がいつまでかつての英雄としていられるか、難しいところだな」

ほむら「知ったことではないわね。……一人で全部解決できるのならそれでいいけど。
    そうでないのなら、せめて仲間のことくらいは信じてあげて欲しいけど」

U提督「難しいところだな。彼女はあまりにも多くを知りすぎている。
    その事実に押しつぶされるほど、弱くはないと思うのだが」

ほむら「そんなことよりおなかがすいたわ、まどか。今日はここに泊めてもらってもいい?」

まど神「ほむらちゃんなら大歓迎だよっ!それじゃご飯とパジャマと……あとお風呂も用意しとこうっと」




U提督(……仲良くじゃれあってる二人を見て、私は愛しい副官の顔を思い出していた)
   (彼女にまた会いたい、彼女に触れたい。彼女の声を聞きたい)
   (この気持ちはどうやら押さえられそうに無い、やはり発散しなければ)

U提督「あぁぁーいしてるぜ、ベイビィィッー!」

ほむまど「提督が発狂した!?」
929 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/04(水) 01:07:26.53 ID:ooXSLXlE0
色々考えてみた結果がこれだよ!

というわけで、この二人とかほかにも愉快なゲストを招いてやって欲しいことがあれば
引き続き安価でも取ってみようと思います。
多分続きもその内書くのではないかと。

>>912
キュゥべえにはそのつもりはないようですが
彼女達はなんだかんだで優秀です、いつ白羽の矢が立つかはわかったものではありませんね。

>>913
かずみ勢の幕間が選ばれていた場合、ここまでの経緯を書こうと思ってました。
なんだかんだで結局彼女達はあまり報われてくれないようです。

>>915
単純にバイド機に乗っけるのなら、普通の人間よりもソウルジェムの方が
丈夫で長持ち、しかも安定するという結果に基づいてこういうことになってしまっただけのようです。
ただ、安定するのはいいけど物足りないよね、もっとバイドらしさを追求してみようか
なんていういらない探究心が、暴走事故を招いてしまいました。

バイドバインドシステムは……多分出せないような気がします。
あれ結局原作でも失敗作でしたしね。

>>917
楽しみにしてた結果がこれです。
流石にあのノリで小説形式にはできませんでした。
でも冒頭の小説部分のが筆が乗ったのはここだけの秘密です。

>>918
はたしてplayだったのかprayだったのか、そもそもどっちでもないのかもしれませんが
彼女達の出番はこれで終わりです、後は楽屋裏でゆっくり休んでいてもらいましょう。


一応安価を932あたりで
何かあの愉快な二人組みにして欲しいことが在れば、後は出て欲しい人やバイドがいれば
安価に限らず色々書いてみてくださいまし。

では、おやすみなさい。
930 :以下、あけまして [sage]:2012/01/04(水) 01:27:11.82 ID:Vbdgy0pf0
2提督の本名が本当に『アイレムソフト』だったら……
931 :以下、あけまして [sage]:2012/01/04(水) 01:53:18.00 ID:Vbdgy0pf0
ksk
932 :以下、あけまして [sage]:2012/01/04(水) 03:20:53.50 ID:Uf78P+l70
R-TYPE TRPGなるものが製作中されてるみたいですよー。
面白くなっていきそうだったので興味がある方は検索をば。
安価ならジェイド・ロス提督とこっちのまどかかな。ESPについても彼らに少し聞きたいです。
933 :以下、あけまして [sage]:2012/01/04(水) 14:08:50.83 ID:imonD//DO
正月番外編感謝!
いや〜、まさか本当に書いて頂けるとは…リクエストってしてみるものですね!

そして再安価は提督とまどかである事は変わらないのなww
934 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/01/05(木) 02:38:46.45 ID:wqWTJRd50
バイド機との戦闘からプレイアデス勢の末路まで。
思いがけなく長丁場になりましたね。とはいえ彼女達の出番はここで終わりです。
もう少しくらいは文面を割いてあげてもよかったのかもしれません。

では、投下します。
935 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/05(木) 02:39:25.48 ID:wqWTJRd50
「暁美さん、そっちは何かわかったかしら?」

悲嘆に暮れるほむらの元に、マミからの通信が入った。

「ええ、大体のことはわかったわ。そちらはどう、マミ?」

「こっちは全然ね、損傷が酷くて何も分からないわ。……そちらに合流してもいいかしら?」

「……了解よ。気をつけてね、マミ」


この事実は、自分の中に伏しておこう。
ほむらはそう思う。
自分が倒した、否、殺してしまった相手が同じ魔法少女であると知れば、皆はきっとショックを受けるだろう。
それはきっと、バイドと戦う上では負う必要などないはずの痛みなのだ。
特に、マミとさやかはバイドと戦う魔法少女としてしかR戦闘機に、そして軍というものに関わっていない。
もしかしたら自分達がなっていたかもしれない結末を、悲しい末路を。
少なくとも今は、知らせるべきではないと思った。

けれど、ならばいつ知らせればいいというのか。

(……キュゥべえは彼女達を大切にしているはず。そこまで滅多なことはしない……はずよ)

その考えは、結局結論を放棄しているだけなのだ。知らせる必要は無いと。
ただ、ほむらはそれを認められずにいた。
この施設に来た目的と、この施設で開発が進められていたモノ。
それを考えれば、それはあまりにも甘い見通しだったのだが。
936 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/05(木) 02:39:49.49 ID:wqWTJRd50
「暁美さん、待たせたわね」

一人、思索に耽るほむらの元へとマミがやってきた。

「問題ないわ。……目的のものは回収できたはずよ。戻りましょう」

「そう、わかったわ。……それで、敵の正体は分かったのかしら?」

そのマミの言葉に、表情一つ変えずにほむらは言う。

「これを解析してみないことには、なんとも言えないところね」

「……そっか、何だかちょっと拍子抜けね。それじゃ戻りましょう。暁美さん」

そして、二人はグローリアを脱出する。
ほむらはその胸中に蠢く澱みを抱えて、マミもまた、言い知れぬ不安を抱えたままで。


「とにかく、これからはできる限り魔法は使わないほうがいいと思う。
 さやか、キミにとっても危険なことだし、ボクの同僚の目に留まったら、きっと厄介なことになるからね」

「わかった。できるだけ気をつけるようにはするけど……でもさ、もし使っちゃったときには、よろしく頼むよっ!」

ひとしきりの話を終えて、一つ念を押すように言ったキュゥべえの言葉にさえ
何時もの様に調子よく返すさやか。キュゥべえもこれには流石に呆れたようで。

「まあ、キミほどの戦力は貴重だからね。できる限りのサポートはするよ」

そう告げた側から、マミとほむらの帰還を告げる通信が送られてきたのだった。
937 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/05(木) 02:40:17.44 ID:wqWTJRd50
「それじゃあ二人はそのまま帰還してくれ。杏子ももう戻ってきても大丈夫だよ」

簡単な経過報告のやり取りを済ませ、キュゥべえは三人に指示を出す。
それを最後に通信は打ち切られ、それを確認してから杏子は、ヘルメットを外して放り投げた。
それはコクピットの壁に跳ね返って、奥のほうへと飛んでいく。

頭の中には、先ほど聞いてしまったさやかとキュゥべえの話の内容が渦巻いていた。
キュゥべえは、それを進化と呼んだ。
ソウルジェムは、人の意志や感情にとても左右されやすいものなのだという。
そしてさやかのソウルジェムは、その強い意志を受けて、進化としか言いようの無いような変化を遂げたのだという。
それが今現在推測し得る限りの、さやかが魔法を使えるようになった理由なのだ、と。

「道理でね、あんな自信たっぷりだったわけだよ。……さやかの奴、無茶しやがって」

死にたがりに生きろと言った張本人が、命を削るような戦いを進んでしているというのだ。

「許せねーな、そんなの。そんなに一人で無茶するほど、あたしらが信じられないってのか。
 こりゃあ、ちゃんと言ってやらなくちゃあな」

にぃ、と歯を見せて笑う。
投げ飛ばしたヘルメットを引っつかみ、杏子はコクピットを飛び降りた。


「もっと頼れよ、ってさ!」

938 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/05(木) 02:40:44.13 ID:wqWTJRd50
また一つ、戦いを越えて少女たちは時を重ねる。
一人の少女は禁断の力に手を伸ばし、一人の少女は秘密を抱いた。
闇は尚、深い。
939 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/05(木) 02:41:11.19 ID:wqWTJRd50
「……では、定例会議を始めようか」

闇の中、男の声を受けていくつもの映像が円卓の上に現れた。
そのほとんどが人のそれ、この会議に出席する者のほとんどが軍や政府の高官、そして研究者達。
皆一様に、纏う空気はどこか張り詰めていた。

「では最初の議題を。究極互換機の進捗状況はどうなっている?」:

言葉に応じて一つの映像が浮かび上がる。
アロー・ヘッドやラグナロックに代表される、曲線で構成された機体の外観。
現在開発されている数々の機体からすれば、一見貧弱とも取れるような機体であった。

「R-99、ラストダンサーは既に武装の試験運用段階に入っています。その工程も8割ほどは完了しており
 平行して、各種武装を運用するためのコンダクターユニットの開発も進んでおります」

主に高官達の間から感嘆の声が漏れる。
――究極互換機。バイドを根絶するための最終兵器。
その完成の時が近づいていた。

「ただ、グローリアが開発中のバイド機の暴走により壊滅しました。
 これにより、バイド系列機の試験運用はしばらく停滞することになるでしょう」

「……計画に支障は?」

「問題はありません。現在のラストダンサーの性能でも、十分にオペレーション・ラストダンスは遂行可能です。
 それよりも、むしろ問題となるのはパイロットです。パイロットの確保はどうなっていますか?」

そう切り替えされて、今度は高官達が言葉に詰まる。
940 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/05(木) 02:41:41.87 ID:wqWTJRd50
「……軍人、民間人を問わず素質のある人材を集めてはいる。だが……」

「過去の英雄たちに並び立つ実力の者はいない、と?」

言葉に対して帰ってきたのは沈黙。
それはそのまま、研究者の言葉に対して肯定の意を唱えているようなもので。

オペレーション・ラストダンス。
人類がバイドに対して放つ最後の矢。
その作戦を遂行するためには、今まで以上の実力を持ったまさしく英雄が必要だったのだ。

「だが、それを言うならあのM型とやらはどうなっている?そこから用意はできなかったのか?」

「ええ、やはりM型は年齢の問題もあり、精神的に未熟なものが多い。局所的な戦闘でなら問題はありませんが
 オペレーション・ラストダンスを遂行できるレベルのものとなると……」

重い沈黙が、再び場を閉ざす。

「ならばやはり、アレを実行するしかないか」

それまで押し黙っていた一人の研究者が、静かに口を開いた。



「私に一つ、優れたパイロットのあてがある。それを当たってみてもよろしいかな?」

その言葉に、期待の眼差しが静かに寄せられているのを研究者は感じて。

「……構わんとも。次の定例会議までに出せそうかね?」

「ええ、ですがその為には皆さんにいくつか協力してもらいたいことがあります。
 特にインキュベーター。貴方にも協力してもらいますよ」

インキュベーター。そう呼ばれて、映像に浮んだキュゥべえはその赤い瞳を輝かせた。
941 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/05(木) 02:42:11.06 ID:wqWTJRd50
逆流空間の航海を始めて、もうどれくらいになるだろうか。
ここを抜ければ太陽系なのだと思うと、どうしようもなく待ちきれない気持ちが込み上げてくる。
かつてここを抜けて、バイドの本拠地へと向かう長い旅が始まった時、私は何を思っていたのだろう。
きっと、不安と戦意を胸に燻らせていたのではないだろうか。

あの時も、逆流空間の中で幾度となくバイドと戦っていたものだと懐かしさを覚えてしまう。
その私が、今は彼らと戦っている。何故彼らは襲い掛かってくるのか。
理由は、まったく分からない。けれど黙ってやられるわけには行かない。
地球に帰るのだ。そして、地球に残してきてしまったあの子に会いに行こう。

あの時は仕方ないとは言え、酷く彼女を突き放してしまった。
きっと悲しんでただろう、苦しんでいたことだろう。
戦いは終わったのだ、きっとあの子も平和に暮らしているはずだ。
だから今度こそ、あの子の元に帰って謝ろう。


あの子は……あの子の名前は。
……なぜか記憶が曖昧だ。どこかに写真をしまってあったはずなのだが。
まさか、長く宇宙を漂う日々が、あまりに激しい戦いの日々が
そんな大切な記憶までもを奪ってしまったというのだろうか。
必死に記憶の残滓をかき集める。あの子の顔を、名前を思い出そうとする。

赤く流れる髪が印象的だった。
負けず嫌いで威勢がよくて、それでいてとても、寂しがりやだった(あの子は決してそれを認めなかったけれど)。
必死になって、私達に喰らいついてきたのだ。戦い抜いてきたのだ。

思い出してきた。あの子は……あの子は、そう。

――サクラ キョーコ。
942 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/05(木) 02:42:44.82 ID:wqWTJRd50
『杏子、ちゃん……?』

――っ!?

驚愕した。
まるで私の頭の中に直接語りかけてくるかのように、声が響いてきたのだから。

『どうして、杏子ちゃんが……』

あまりに疲れ果てて、とうとう幻聴が聞こえるようになってしまったのか。
その声は、恐らくあの子とさほど歳も変わらないであろう少女の声で。
あの子のそれよりも、随分と柔らかな印象を受けた。

そしてその声は、キョーコの名前を呼んでいる。それがどうにも気になった。
幻聴と会話をするなんて、まるで狂人の真似事だ。だがそれがどうしたというのだ。
今この場所には、私以外誰もいない。見ているものなどいないのだから。

――君は、キョーコのことを知っているのかい?

『ひぁっ!?』

できるだけ優しい声でそう呼びかけてみたのだが、どうやら酷く驚かせてしまったようだ。
おかしな声を一つ上げたきり、返事は返ってこない。


『もしかして……聞こえてるの?』

随分と長い時間を空けて、そろそろ私も諦めが混じってきたころに。
か細いそんな声が返ってきた。

――ああ、聞こえている。先ほどはいきなり話しかけてすまなかったね。

こうして誰かと話したことなど、随分と久しぶりな気がする。
いつからだろう。もうここ最近ずっと、アーサーとも話をしていない。
戦闘が忙しいのだろう。仕方ない、敵は全て倒さなければいけないのだから。

逸れかかった思考をなんとか立て直し、私は少女の言葉を待った。

『わ、本当に話ちゃってる。……ええと、貴方は誰なんですか?私は、鹿目まどかって言います』
943 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/05(木) 02:43:13.69 ID:wqWTJRd50
カナメマドカ。少女はそう名乗った。
名乗られたからには、こちらも名乗らなければならないだろう。
私は……そう、私は。

――私は地球連合軍少将、バイド討伐艦隊司令官のジェイド・ロス提督だ。

少女が息を呑むのが分かった。
無理もないかもしれない。どういう理屈かは分からないが、こんなところで会話をしている相手が
よもやこんな人物だとは思いもすまい。

『じゃあ……ロスさんで、いいですか?』

――構わないとも。私もマドカと呼ばせてもらっていいかね?

『はい、大丈夫です』

幾分かはっきりとした調子で、マドカが答えた。


『それで……その、ロスさんはバイドと戦っている……んですよね?』

マドカが恐る恐る尋ねてきた。
やはりマドカのような少女でも、バイドのことは気になるのだろうか。
だが心配することはない。バイドの中枢は既に打倒したのだ。
現に今までの旅の中で、我々の脅威になるようなバイドは存在しなかったのだから。

――ああ、だが心配することはない。バイドの中枢は我々が倒した。
――もう君たちがバイドに悩まされることはないだろう。

『……本当、なんですか?』

不安げなマドカを元気付けようと、我々の戦果を簡単に説明したのだが。
マドカの声は更にどこか張り詰めたような調子だった。

――本当だ、今バイドの本星から地球へと帰還しているところだ。
――もうすぐだ、もうすぐ、地球に帰ることができる。我々の故郷、地球に。


しかし、どれだけ待っても少女の返事が返ってくることはなかった。
やはりこれは、私の人恋しさが生み出した幻聴だったのだろうか。
あまりいい傾向ではない。このままでは、指揮に影響を来たすかもしれない。

!、その時、敵の接近を告げる警報が鳴った。
考えるのは後にするしかないだろう。

今はまず、この逆流空間に潜む敵を撃破することを考えなければ。

攻撃態勢に入る。

→出撃する
944 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/05(木) 02:43:55.29 ID:wqWTJRd50
「……夢、じゃないよね」

朝。ベッドの上で目覚めたまどかは。
妙に脈打つ胸を押さえて、頭の中に反響する声をずっと聞いていた。

バイドの中枢はもう倒れた。
もう、バイドに悩まされることはない。
だとしたら、さやかもほむらも。もしかしたらマミや杏子も、帰ってくるかもしれない。

その事実がゆっくりと現実味を持ってまどかの中に染み入ってくると。
まどかは、思わずベッドの上で飛び跳ねたくなってしまうような気分になってしまっていた。
945 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/05(木) 02:46:38.31 ID:wqWTJRd50
>>930
その場合はあえて名前をナナオあたりにしちゃいましょうか。

>>932
そっちの方も存じ上げております。
仲間内でその辺のネタを理解できるような人があまりいないので
やろうにもできない現状だったりしますが。一回はやってみたいですね。

そして早速今回でて来たロス提督。まど神さんと一体どんなことをやらかすのでしょうね。

>>933
安価は絶対ですもの。
とりあえず今の自分の力でできる限りをやってみようと思っています。

ロス提督はなんだかんだで少女と縁があるようです。
946 :以下、あけまして [sage]:2012/01/05(木) 05:32:07.63 ID:bNmGDp7DO
お疲れ様です!
異存在とも普通に話せるせいで、まどかちゃんは提督にミスリードされてぬか喜び…。

言葉と言う次元を越えて、意思だけで話せる…か。異存在コミュニケーションで、人類と異存在との架け橋たり得るだろうか?

バイド以外に存在する地球外生命体には、どんなものが居るのかな?
947 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) :2012/01/05(木) 20:37:00.49 ID:TiAFqGzt0
ニア グリーン・インフェルノを作った文明
ニア 謎文明(TACUに出てきた合体大好きな文明)
ニア 超攻撃的文明


ロクなのいねぇな・・・・
948 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) :2012/01/05(木) 22:13:26.76 ID:D0NPa36Qo
お疲れ様です!
まさかWild Flowersの文字を見ることになるとは
いい曲ですよね、聞いていると「よし!頑張ろう!」って気になります。
949 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/01/06(金) 00:18:59.74 ID:7/izRzQz0
なんだかここの板全体が大変なことになっているようですね。

あまり気にせず投下です。ではでは。
950 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/06(金) 00:20:05.55 ID:7/izRzQz0
眼下に海を眺めつつ、ラグナロック・ダッシュが駆け抜ける。
今は共にあるべき仲間の姿はない。
マミは機体との相性の良さが見出され、ガンナーズ・ブルームの運用試験に駆りだされている。

さやかと杏子はティー・パーティーにて待機中。
ほむら一人がラグナロック・ダッシュを駆り、指定された座標へと向かっていた。
そこに何があるのかは相変わらず知らされていない。
それでも機体前方にサイクロン・フォースを携え、臨戦態勢で備えていた。

「……今日は何が出てくるのかしら」

不可解なのはいつものこと。警戒は怠らない。
指定された座標に辿りついた瞬間に、ラグナロック・ダッシュのセンサーがそれを捉えた。

「っ!!」

機体を急停止させる。
するとその鼻先を掠めるように、強烈な光が駆け抜けていった。
その光はどこか懐かしく、見覚えのある光。
メガ波動砲。それもチャージ容量の増加により、着弾部のみならず周囲にも余波によるダメージを与えることを可能にした
メガ波動砲Uの光だった。
その余波は激しく機体を揺さぶる。必死に制動をかけ、機体を立て直しながらその射手を見る。

そこにあったのは、ほむらのそれと同様にサイクロン・フォースをその機首に据えた
黒いカラーリングのラグナロック・ダッシュの姿だった。


「何なの、これは。一体どういうこと?」

今の一撃は威嚇でもなんでもない。明確な敵意を持って放たれたものだった。
けれどあの機体からは、バイド反応は見られない。だとしたら、何故。
951 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/06(金) 00:21:55.94 ID:7/izRzQz0
「そうよ、それくらいはかわしてもらわなければ……面白くない」

通信が入る。少女の声。聞き覚えのある声。どこで聞いたのだったか、思い出せない。

「何のつもり?いきなり撃たれるような心当たりは無いはずだけど」

油断せずに問いかける。
だが、返ってきたのは冷笑だけで。

「銃を突きつけた相手に戦意を問う。腕は確かでも……戦士としては、未熟!」

そして黒のラグナロック・ダッシュは機首を向ける。
同時に放たれたのは、着弾と同時に炸裂するスプラッシュレーザー。
サイクロンフォースが放つレーザーの中でも、カプセルレーザーに次いで威力の高い攻撃。


小刻みに機体を上下させ、放たれ続けるレーザーを避ける。
着弾時に巻き起こる炸裂は脅威だが、それ以外は反射レーザーと変わらない。
むしろ反射をしない分、回避は容易だった。
せめてここが閉所であるならば話は違ったのだろうけど。

向こうが本気というのなら、こちらも立ち向かうより他に術はない。
相手の動きを見るに、やすやすと逃がしてくれそうな相手でもない。


「キュゥべえ、聞こえる?所属不明機から攻撃を受けているわ。状況が把握できない。
 出来れば、増援をお願い」

海洋上で激しい戦いは続く。
スルーレーザー同士がぶつかり合って、小規模な炸裂が次々に巻き起こる。
スプラッシュレーザーが空を切り、海に落ちては炸裂し、海は激しい歓声を上げる。
カプセルレーザーによって相手を遠ざけ、稼いだ時間にチャージした波動の光が空間を薙ぐ。

赤青黄色のレーザーが、波動の光が交錯していく。
海という名のキャンパスが、戦いの絵具がぶちまけられて湧きたてられていく。
決着は未だ着かない。これほどの腕のパイロットがいたのかという驚きと
それほどのエースが襲ってくるという状況への困惑もある。恐らくこのままでは、長期戦になりそうだ。

とはいえ、今のほむらは一人で戦っているわけではない。
一人ではすぐに決着が着かないというのら、仲間の力を借りるだけだ。
そう考えて送った通信は。

「残念だけどそれはできないよ、ほむら。あれにはキミが一人で立ち向かわなければならないんだ」

そんな、そっけない返事と共に打ち切られてしまった。
952 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/06(金) 00:22:45.26 ID:7/izRzQz0
誰にも出来ない。誰にもさせない。私達の戦いを邪魔することは」

そんな最中にも、黒の機体は迫り来る。
メガ波動砲が放たれる。更に情報へと逃げる道は、カプセルレーザーが塞いでいた。
道は下しかない。ほむらは機体を海中へと躍らせた。

「……逃がさない」

貫通性の高いスルーレーザーは、海中でもその威力をそれほど損ねることは無い。
続けざまに放たれたレーザーが、海中のほむらにも迫る。
機動性を削がれる海中で、それを回避し続けるのは難しい。


「……まったく、嫌な相手」

そう呟きたくもなる。あそこまであの機体を熟知していることにも驚くが
それ以上に、あの声がどうにも気になってしまう。別段不快な声という訳ではないのに。
なんとなく、生理的な嫌悪感を感じてしまうほむらであった。

幸い、この辺りの海深はそこそこに深い。
深く機体を沈めて、できる限りレーザーを減殺させる。
威力を失ったスルーレーザーを、サイクロン・フォースで受け止める。
大丈夫、機体にまでは届いていない。

今の内に、波動砲のチャージを開始する。
ハイパードライブで、一気に勝負をつける。

敵もスルーレーザーでは効果がないことに気付いたのだろう。
攻撃が止む。恐らく敵も波動砲のチャージを開始しているはずだ。
だが、それならばこちらの方が早い。
チャージが溜まり切る直前で、海中から一気に浮上する。
陽動に追尾ミサイルを放ち、機体が海中が飛び出そうとしたその瞬間に。


「させないっ!」

「何……っ、く!!」

海中から飛び出したその眼前に、サイクロン・フォースが迫っていた。
反射的にフォースシュートで迎撃。フォース同士がぶつかり合って、エネルギーの火花を散らす。

これで一手、遅れた。
953 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/06(金) 00:24:03.93 ID:7/izRzQz0
すぐさま敵の姿を捉えて、ハイパードライブの発射体勢に移る。
過剰なエネルギーが機体前方へと放出され、再び機体へと逆流する。

だが、それは敵機も同様だった。
僅かなチャージ開始の遅れを、サイクロン・フォースによる奇襲で稼ぎ
チャージの完了と同時に、それを撃ち放った。

ほぼ同時に放たれる、ハイパードライブ。
ほむらも、その敵も。続けざまに波動砲を撃ち放ちながら一気に距離を詰める。
放たれた波動の光は、互いにぶつかり合って相殺され、大気を揺るがしプラズマを煌かせて霧散していく。
このままでは、届かない。

まるで衝突するのではないかという勢いで迫った二機は、その直前で左右に分かれる。
機首は常に相手に向け、波動の光をブチ撒きながら。相殺仕切れなかった攻撃が、互いに迫る。
それをかわすように、機体を水平に移動させながら尚も撃つ。
二機の動きはまるで対照。その機動はまさしく円を描いているようで。
その円の中心では、ひたすらに高レベルのエネルギーの衝突が巻き起こる。

回避と攻撃、その二つを同時に為そうとした結果に生み出された
美しくもあるこの軌道。まさしくそれは、円環の理とも言えようか。

だが、それは永遠ではない。ハイパードライブの持続時間は約10秒。
そう、この永遠とも思えるような円環の舞踊も、ほんの10秒に満たない時間に起こった出来事に過ぎないのだ。
けれど、それを永遠と感じてしまうほどに、二人の知覚は研ぎ澄まされていた。
954 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/06(金) 00:24:29.26 ID:7/izRzQz0
「……強い」

「やはり、強い」

二人の声が交差する。

「「でもっ!」」

そして、重なる。

「「負けないっ!!」」
955 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/06(金) 00:25:02.90 ID:7/izRzQz0
「……お前に、だけは」

黒い機体を揺るがしたのは、激しい怒りの感情だった。


「お前にだけは、お前にだけは負けない、負けられないんだっ!!」

サーチレーザーの連射の合間に、低チャージの波動砲が突っ込んでくる。
サーチレーザー同士なら相殺もできるが、波動砲には蹴散らされてしまう。
それを回避し、お返しとばかりにこちらからも波動砲をお見舞いしながら、ほむらはその激しい感情に向き合った。
何故そこまで拘るのかがわからなかった。

「何も知らずに、のうのうと戦っていられるお前にだけは……っ!!」

ほむらの機体が上を取る。カプセルレーザーで敵の上昇を抑え。
さらに続けて波動砲でゴリ押しし、敵を海面近くまで押しやって。
スプラッシュレーザーを斉射、海面で炸裂する光に機体を煽られ、その余波で黒い機体が焼かれていく。
続けざまにスプラッシュレーザーを放ちながら接近する。海中に逃げたとしてもすぐに追いかけてみせる。
しかし、敵は海中へは向かわない。

光に煽られ焼かれる機体を、必死にその体勢を保ち、スプラッシュレーザーの合間を縫って急旋回。
今度は逆に、海面へと近づいていたほむらの機体が頭上を取られる結果となった。
すぐさまカプセルレーザーで牽制しながら海中へと潜る。


「貴女は……何なの。一体」

敵の怒りは、間違いなくほむら自身に向いている。
身に覚えなどあるはずも無い。だとしたら一体何故なのか。分からない。

「知りたいか、暁美ほむら」

「何故、名前を」

ますますもって疑問は深まるばかりだった。

「ならば教えてやる、お前が死ぬ時にっ!」

続けて、海中にまで敵が追いかけてきた。
舞台は海中へと移る。
956 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/06(金) 00:25:34.23 ID:7/izRzQz0
水中での戦闘を想定して調整されたのならばともかく
通常の状態で海中に潜ると、レーザーの威力は激しく減殺される。
射程も短くなり、必然的にその戦いはショートレンジでの打ち合いとなる。

互いに機首を突き合わせ、レーザーを打ち合っては離れ。
交差しながらフォースを付け替え、後方への攻撃を行うと同時に向かってくる敵の攻撃を回避する。
海中でもメガ波動砲は変わらず、その光で海中を染めていく。
ハイパードライブは、発射後の急速冷却を海中で行うのは機体への負荷が大きすぎるために使えない。


機体の性能も、搭乗者の実力にもほとんど差は見られない。
このままでは、決着は当分着きそうに無い。
そもそもにして、そんな勝負に決着を着けうるものとは何なのか。
単に運の良し悪しなのか。こんな極限の域にまで達したドッグファイトの終着を、天に委ねてしまってもいいのか。
957 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/06(金) 00:26:00.85 ID:7/izRzQz0
「お前は、本当に自分が英雄だと思っているの?」

再び戦場は空に移る。
敵の少女は、激しい戦闘の最中に不意にそう呼びかけてきた。

「……随分と、事情を知っているのね」

英雄。それは間違いなくかつての自分のことだ。
そんなことまで、よく知っているものだと思う。

「お前が、仮に本物の英雄だったとして。……いつまでかつての英雄でいられると思う?」

そして、続けて放たれた言葉がほむらの胸を抉る。
確かにそうだと考えていた。人類は、バイドに対して絶望的な戦いを続けることを強いられている。
文字通り、ありとあらゆる力を集結させなければ太刀打ちできない戦いだ。
その最中で、一体いつまで自分はただのパイロットで、魔法少女でいられるのだろうと
そう考えたことは、何度もあった。その度にきっと大丈夫だと不安な想像を振り切ってきたのだ。

「答えられない?ならいいことを教えてあげるわ。……私を倒せば、お前はまた英雄に逆戻りよ」

「っ……!」

ほむらが小さく息を呑む。まさか、そんな。
そして更に、続けざまに放たれた一言。

「TEAM R-TYPEは、既にお前の存在に気付いている」

「な……っ、ふざけないでっ!!」

「むしろ、泳がされていたと言うべきかしら?」

落ち着け、冷静になれ。相手の言葉に流されるな。
今にも弾け飛びそうなほどに張り詰めた心を必死で押し留めて飛ぶ。
間違いなく、これはこちらの集中を乱すために言っているだけだ。
そう考えようとしても、どうしても先ほどの言葉が絡み付いてくる。

ここでこの敵を倒したとして、その先に待っているのは再びバイドとの戦いの最前線なのではないか。
だとしたら、ここで勝っても負けても、行く先は地獄。
そもそもにして、あいつは何なのか。一体どれだけの事情を知っているというのか。
考えが渦を巻き、どうしようもなく機体の動きを鈍らせる。
958 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/06(金) 00:26:32.13 ID:7/izRzQz0
「見るからに動きが衰えた。こんなことではやはり、お前は英雄にはなれない」

スプラッシュレーザーが機体を掠める。そして炸裂。
激しい衝撃に揺さぶられ、機体がそのまま海面に墜ちる。
海中へと潜る間もなく、追撃のスプラッシュレーザーが海面で炸裂する。
最早、ほむらにそれを防ぐ術はない。

光線と炸裂の、破壊の雨が降り注いだその後には。
機体を酷く破壊され、最早飛ぶことすらかなわず浮んでいるだけの、ほむらのラグナロック・ダッシュの姿があった。


「終わりよ。……だから、教えてあげるわ」

映像回線。サイバーコネクタが意思を読み取りそれを受信する。
映し出されたのは、コクピットに座る少女の姿。
その少女が装着していたヘルメットが、遮光から透過へとモードを切り替える。
映し出されていた、その顔は。
959 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/06(金) 00:27:03.16 ID:7/izRzQz0















「………わた、し?」














暁美ほむらの、スゥ=スラスターの顔が、そこにあった。

「そんな……貴女、は」

呆然とした表情でそれを見つめて、掠れた様な声が零れた。

「スゥ=スラスターのクローン体。そういう存在なのよ、私も、お前もね」

その言葉は、まるでほむらから世界の全てを奪い去るように残酷に、響いた。



「終わりだ、暁美ほむら。いや……No.8ッ!!」

「……そんな、噓、噓だ」

絶望に震え、か細い声で呟くほむらへと、今、最後の一撃が放たれようとしていた。
960 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/06(金) 00:33:10.61 ID:7/izRzQz0
どうもここは書き込むたびにトリが消えちゃいますね。

というわけでいよいよ12話の本番が開幕です。
暁美ほむらに訪れた試練の時、絶体絶命の局面。

彼女はこれをどう乗り越えていくのか、乞うご期待!


>>946
少なくとも提督にとってはそれが事実なわけですからね。
どうやら提督の前には敵であるバイドは現れていないようですし。

結局私達の文明が星の高さまで届いた時に、まるで異なる星の文化と触れ合うとして
やっぱり文字や言葉に頼るコミュニケーション方法は不確かなんですよね。
その点意思をそのまま伝えられる方法はやはり適しているのではないかな、と。

もっとも精神構造そのものが違ってたりする相手がいるかもしれませんし
伝えるにはなんだかんだで頭の中で言語化しなくちゃいけなかったりすると伝わらなさそうですし。
なんて色々考えているといいSF小説のネタが出来そうです。

>>947
そこにバルサーとかバクテリアンも追加してあげましょうか。
バクテリアンは割と付き合いやすそうですがどうでしょう。
(昨今のソフト展開的な意味で)

>>948
なんだかんだで今も耳に残っているいい曲です。
あの辺のBGMは割と雰囲気で選んだものではありますが。
ちなみにさやかちゃんのBGMは2番がしっくりくるようなこないような。
961 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/01/06(金) 08:44:54.77 ID:ST+V7mvDO
お疲れ様です!
まさか、クローン体だったとは…つまり、QBにとっても最初から予定調和だったと言うのか?そうだとしたなら、ほむらちゃんはぶちギレ確定ですね。
その後はヤサグレ→戦闘にヒステリーを起こして暴走。なんて事にならなきゃ良いんだが…。

クローン設定は、サンダーフォースでも扱ってるみたいですね。殺されたら記憶を引き継がせた控えを解凍し、戦場へ送る。の繰返し…無間生き地獄じゃないか…。
962 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/08(日) 13:06:19.01 ID:VsyGUXxDO
遂に番外用小ネタを思い付きましたので、勝手ながら書かせて頂きますね。

・まどかちゃんが色んな人以外と念話をこころみる。
・もし5人の活躍がこっそり激写ボーイ(又はガール)に激写されていたら?
・5人の問題が解決した後、もし叶えたい願いがあったら、QBにどんな願いをするのか?
・ESP(と、決まってはいないけど)だけに、まどかちゃんにガルーダが憑依して覚醒したり…とか。
963 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/01/08(日) 14:43:06.62 ID:gV/yLMSk0
前回のお返事コメ、バルサーではなくベルサーでしたね。
ベルサー軍の方々には深くお詫びすると共に訂正させていただきます。

そろそろこのスレも使い切るころですね。
今日はひとまず3話のリメイクを投下したいと思います。
964 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/08(日) 15:02:11.62 ID:gV/yLMSk0
「ひぃっ……ぁ、そ、んな……」

目の前の現実を受け入れられないとでも言うかのように、目を見開いたまま何度も首を振るさやか。

「……ぁ、ぁぁ、ぁぁぁっ」

掠れた声を漏らし続けるまどか。それは間もなく悲鳴に変わるだろう。
だが、悪夢はそれさえ待ちはしない。

「嫌っ!イヤァぁぁぁぁぁァァっ!!」

絶望に染まったマミの悲鳴が、衝撃に震える二人を打ち据えた。

「どうして!――ッで!?ナんで!?誰――助―ッ……ぃ゛や゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」

音声さえも途切れ、ひび割れていく。それでもその叫びは留まることを知らず。
飲み込まれなかったカメラビットは、マミの機体がドプケラドプスに喰らいつかれ
飲み込まれていく様を克明に映し出している。

「キュゥ――!!ほ―――さん!!誰か!誰カァっ!!――ヤダ、ワタシ……シニタく、ナ――」

ぐしゃりと何かが潰れるような、とてもとても嫌な音。
バチバチと何かが爆ぜる音。………もう、マミの声は聞こえない。


「いゃ……ああぁぁァァァぁっ!!マミさんっ!マミさぁぁぁぁんっ!!!」

さやかは必死に叫ぶ。届くはずもない、声を。

「マミさん!返事をしてよ、マミさんっ!!ウソだよ、こんなの絶対おかしいよっ!!」

まどかもまた、覆しようもない絶望を前に、叫ぶ。

「そんな……マミさん。マミ……っ」

一瞬の油断が招いた惨劇。
その重さに、ほむらもまた戦慄に震えた。

「どうやら、絶望に暮れている暇もないようだ。……ファントム・セルがボクたちを探知したようだね。
 追いかけてくるよ」
965 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/08(日) 15:02:39.24 ID:gV/yLMSk0
そんな時でさえ、共に戦ってきた魔法少女の死を目の当たりにしてさえも、キュゥべえの声は揺らがない。
まだ辛うじて生きていたカメラ・ビットが映像を伝える。
マミの機体飲み込んだドプケラドプスがそのまま発光。
再びファントム・セルの本来の姿である球状へと戻っていった。そしてその映像も、機体の消失に伴って途切れた。

「この船には、バイドと戦えるような装備はない。……撤退して、近くの部隊に応援を頼めればいいんだけどな」

その様子を確認して、すぐさま艦首をめぐらせる。
戦う術がない以上、今は逃げるよりほかに術はない。


「恐らく無理よ」

けれど、ほむらは冷たく言い放つ。

「なぜそう言い切れるんだい、暁美ほむら。キミはまるで、あのバイドのことを知っているようだ」

そんなキュゥべえの言葉に、僅かに押し黙り、やがて顔を上げると。

「ええ、知っているわ。あのバイドのことならば……きっと、誰よりもよく、ね」

どこか諦観を帯びた表情で、それでも何かを決意したような口ぶりでほむらは言った。

「じゃあどうするんだい、この船に他のR戦闘機は搭載されていない。
 例えあったとして、誰がそれでバイドと戦えるっていうんだい?」

確かにこのままでは状況は絶望的だ。
未だ、二人の泣き叫ぶ声が響く作戦室を、一度静かに見渡して。

「何の問題もないわ。――私が……戦う!」

力強くほむらはそう言った。
作戦室の扉を開く、そして走り出す。
走り……出そうとしたその腕を、涙を浮かべてまどかが掴んでいた。

「どこ……行くの、ほむらちゃん?ダメだよ、ほむらちゃんも……死んじゃうよっ」

その声は涙混じりで、きっと戦おうとするほむらの姿に、マミの姿を重ねてしまったのだろう。
そんなまどかの手に自分の手を重ね、まっすぐまどかの瞳を見据えて。

「……大丈夫よ、もう誰も死なない。誰も、死なせない」

ほむらは力強くそう言うと、僅かにまどかの手が緩んだ隙に扉の向こうへと駆けていった。
966 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/08(日) 15:03:05.68 ID:gV/yLMSk0
「キュゥべえ、聞いているんでしょう」

船内を走りながら、ほむらは誰も居ない虚空に語りかける。
応えるものなど居ないはずの声。だが、その声に応えるものがいた。

「ああ、聞いているよ。……気付いていたのかい?」

少し意外そうな調子の声。
キュゥべえの姿は未だ作戦室にあるのだろうが、それでも声は届いていた。

「ええ、この規模の船を動かすのには、あまりにもこの船には人が居なさすぎる。
 そしてお前の存在。……お前がこの船を動かしているんでしょう?
 完全にプログラムに制御された船、だなんて。まるでSFね」

この時代においてすら、艦の航行にはやはりそれなりに多くの人手がいる。
まさかマミが一人でそれを行っているとも思えなかった。
そしてこのキュゥべえという謎の生物の存在。考えうるものとしてはこれくらいだろう。

「概ねキミの言っていることは正しい。ボクはこの船と魔法少女を運用するためのプログラムだ。
 ……もっとも、プログラムという言い方は適切ではないけどね」

「今はそんなことを聞いている場合じゃないわ。
 至急パイロットスーツを用意して、それから、格納庫のハッチを開けておいて」

事態は急を争う。足早に格納庫を目指しながら告げる。

「一体何をするって言うんだい、キミは。……だけどそうするより他に、この状況を乗り切る術もなさそうだ。
 用意は済ませた、後は好きにするといい」

僅かな逡巡の後、キュゥべえは艦内を操作した。
格納庫のハッチを開放。パイロットスーツもほむらのサイズにあうはずのものを用意して。

「ええ、そうさせてもらうわ」

そして、全ての用意は整った。
967 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/08(日) 15:03:31.43 ID:gV/yLMSk0
眼鏡を外して放り投げる、三つ編みに結んでいた髪飾りを解く。
ふんわりと、まるでその空間だけ重力が減じているかのようにその黒髪は広がって。
その髪飾りを握って、囁く。



――ELIMINATE DEVICE……Wake Up!――



生体及び声帯認証によって、髪飾りから発せられた信号。
その信号を辿って、それは現れた。
主の呼び声を聞きつけ、異層次元を超えて。

パイロットスーツを着込み、ハッチでそれを見つめるほむら。

「もっと早く、私が決断していれば……ごめんなさい。マミ」

祈るように小さく呟いて、放たれた矢のように駆け出した。
開かれたハッチの外に覗いた宇宙空間、そこで待ち構える力を、黄昏を齎すものを目掛けて。
968 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/08(日) 15:04:01.95 ID:gV/yLMSk0
小惑星帯を無理やりこじ開けて、鋼の巨体が押し進む。
かつて第2次バイドミッションにて遭遇した、高速起動戦車・ライオス。
それがバイドの適応能力によって、宙間戦闘にも対応した形態。
エアボーンアサルトと呼ばれるそれが、小惑星の岩塊をものともせずに押し進み、ティー・パーティーへと迫っていた。

「まずいな、あれはボクの操縦じゃとてもじゃないけど振り切れない。ほむらが間に合ってくれればいいが……」

こんな状況下にあっても、一切キュゥべえの声にも表情にも焦りは見られない。
もしやすると、端からそんなものは存在していないだろうか。

そしてそんな期待も空しく、エアボーンアサルトからの追尾ミサイルが放たれる。
R戦闘機ならばともかく、輸送艦クラスの機動性ではかわすことなど適わない。

「まどか、さやか。急いでどこかに掴まるんだ!衝撃が来るよ!」

キュゥべえが告げる声にも、二人は動かないままだった。否、動けないのだ。
絶望は未だ、二人の心と身体を縛り付けていた。
絶望は人の心を縛る。そしてそのまま時として、その命さえも奪ってしまう。
だからこそ、必要なのだ。その絶望を払うものが。



飛来したミサイルが、レールガンに打ち抜かれて炸裂する。
更に続けて撃ち放たれたレールガンが、エアボーンアサルトの動きを止めた。
青いラウンドキャノピー、なだらかな曲線で構成されたその機体。
それは――。

「ラグナロック?……なぜ、そんなものがここに?」

R-9Ø ―RAGNAROK―
第3次バイドミッションにおいて、敵中枢の破壊という多大な戦果を挙げた機体。
三種類のフォースに対応するコンダクターユニットを持ち、強力な波動砲をも備えた
まさしくバイドを完全に排除するための除去装置とも言える機体である。

現在でもデチューンを施されたものが一部量産されており、各所でバイドとの戦いを繰り広げている。
少なくともそれは、最前線にあるべき機体。
こんな辺境の宙域にあるはずのない機体が、エアボーンアサルトへと肉薄する。

「まさか…キミなのかい?暁美ほむら」

出現したその機体を見つめて、キュゥべえは小さく呟いた。
969 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/08(日) 15:04:34.77 ID:gV/yLMSk0
ラグナロックのキャノピーの下、迫る敵の巨体を睨みつけながら。
暁美ほむらはそこにいた。

「ハイパードライブシステムの損傷が激しい。下手に撃ったら、動けなくなるわね」

迎撃用レーザーをこともなく掻い潜り、エアボーンアサルトの唯一の弱点、装甲に包まれたコアの正面へと潜り込む。
波動砲ですらも防ぐその装甲の前では、攻撃するためにコアが開く瞬間を狙って攻撃を仕掛けるしかない。
だが、ラグナロックの性能の前では、それすらも無意味。

「メガ波動砲……食らいなさいっ!」

放たれた青白い波動の光、貫通力を極限まで強化したその波動砲は
コアを守る装甲も、そしてそのコアでさえも容易に貫き、焼き払う。
あれほどの巨体が、異形が、たったの一撃で撃沈したのである。


「あれに……ほむらちゃんが乗ってるの?でも、どうして?」

宇宙空間を舞うように飛び、光の矢を放つその姿。
それを呆然と眺めながら、まどかが疑問の声を漏らす。

「それはボクにもわからない。そもそも、何故今まであれのことを黙っていたのか。
 あの機体は何なのか。わからないことだらけだよ」

それでも、少なくともこれで撃沈の憂き目は避けられそうだ、と。
内心僅かな安堵を感じていたキュゥべえであった。

「何よ……それ。あいつは、最初から持ってたんじゃない。戦えたんじゃない。なのに、あんなこと……なんで」

けれど、さやかの心は穏やかではなかった。
戦える力をほむらが持っていたこと、それを今まで隠していたこと。
何故なのか、疑問と不信が降り積もっていた。
970 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/08(日) 15:06:22.88 ID:gV/yLMSk0
そして、エアボーンアサルトが再び発光し、ファントム・セルの姿に戻る。

「逃がしはしない。これで終わりよ」

再びメガ波動砲のチャージを開始する。
このまま放てば、ファントム・セルがさらに姿を変える前に撃破することもできるだろう。

――ホムラ、サン?ドウシテ、ワタシヲウツノ?

「っ!?」

通信デバイスを介して、強制的に送り込まれた声。
それは、まるで擦り切れかけたテープで再生したかのような、掠れてひび割れていて。
けれどもそれは、その声は……巴マミの、声だった。

ほむらの顔が驚愕で歪む。だがそれでも機体を操る手は止めない。
止めてはいけないことを、知っている。
だが、ほんの僅かにタイミングがずれた。フルチャージの手前で放たれた波動砲は
ファントム・セルを貫通したが、その活動を停止させるには至らずに。
再び、ファントム・セルが姿を変えた。


ラグナロックと通信をリンクさせ、ようやくモニターを再構成することに成功。
再び映像が映し出されたモニターには、対峙する二機のR戦闘機の姿が映し出されていた。
片やラグナロック。そして、もう片方は……。

「あれ……マミさんの」

愕然とした表情で、微かにまどかが声を漏らした。
その視線の先に移っていたもの、それは――マミの乗機、ロマンチック・シンドロームの姿だった。
971 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/08(日) 15:06:56.15 ID:gV/yLMSk0
「まさか、R戦闘機にまで擬態を……っ!」

驚愕の連続、そして驚いている間もなくロマンチック・シンドロームのレールガンが迫る。
回避行動を取るほむら。フォースもミサイルもないR戦闘機同士の戦闘では
基本的に、注意するのはレールガンと波動砲。
いずれも機首と直線上に並ばなければまず被弾しないようなもの、回避自体は容易ではあった。

――ホムラサン、アナタもワタシヲコろスノネ。ジャあアナたもワタシノてキ、タオスシカなイジゃナイ!

聞こえる声、耳を塞ごうにもそんな余裕すらもない。
バイドに心まで侵されたのか、攻撃本能を露に襲い掛かってくる。


「どうして……どうしてあの二人が戦ってるのさ!」

「キュゥべえ、どうにか止められないの?こんなのおかしいよ!
 マミさんが生きてたのに、なのに何で戦わなくちゃいけないのっ!」

さやかも、まどかも。
いずれも目の前で起こっていることが信じられない。
自分たちを助けてくれたはずのマミが、なぜかほむらと戦っている。

「二人を止めるのは、ボクには無理だ。そもそもマミはもう、恐らく……」  

それに応えたキュゥべえの声は、多分に諦念交じりの声だった。


宇宙を切り裂き黄色の閃光が迫る。
マミが放ったリボン波動砲、四方から囲い込むような軌道を取るそれを
急減速でやり過ごす。そのまま錐揉み状に高度を下げて、レールガンの追撃を回避する。
その回避機動には、もはや余裕さえ見て取れた。

(狙いが甘い。反応も遅い。機動も雑そのもの。……コレはもう、巴マミじゃない)

ぎり、と歯を噛み締める。激しい感情が、怒りが胸の奥からこみ上げてくる。
それは人の意思を弄ぶバイドに対するだけではなく、自分自身にも向いていて。
救えた筈なのに救わなかった、救えなかった自分自身に対しても。

「どこまで……どこまで人を弄べば気が済むの――バイドっ!!」
972 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/08(日) 15:07:34.52 ID:gV/yLMSk0
咆哮。そして回路を切り替え波動砲のチャージを開始する。
メガ波動砲とは違う、もう一つの波動砲。この機体の最強の武装。
レールガンを掻い潜り、ぎりぎりまで機体を密着させてそれを放った。

ラグナロックから再び放たれる青白い光。
それは機体周囲に展開し、ほぼ密着していたマミの機体を焼き払った。
爆発。吹き飛ばされて再びファントム・セルへと姿が戻る。

――ヤメて、ホムラさン。

「黙れ。喋るな。――ハイパードライブ」

機体周囲に展開した光が、再び機体に吸い込まれていく。
そして放たれる、数え切れないほどの波動の光。
ハイパードライブ。それは一撃必殺の威力を持つ波動砲に、連射という
決して相容れるはずのない要素を付け加えた超兵器。
立て続けに叩き込まれる波動の光に飲み込まれて、ファントム・セルの姿が焼ききれていく。

――ヤ、め――た…ケテ。―――。

微かに聞こえるその声には、今は耳も心も閉ざして。
そしてついに、数多の影持つ悪夢、ファントム・セルはその存在を失った。

――ドウ、して?

「オヤスミ、ケダモノ」

二つの声が、交差した。
973 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/08(日) 15:07:55.41 ID:gV/yLMSk0
ハイパードライブは、既存の波動砲と比べても並ぶものがないほどの威力を誇る。
だがそれは、大きな代償も伴っていた。過剰なエネルギーの発生による熱暴走である。
これを回避するため、ラグナロックには緊急冷却を行うための機関が設けられている。
だが、ほむらの機体のそれは作動していなかった。
そんな機体でハイパードライブを使用すれば、どうなるか。

「オーバーヒート。……動かなくなるくらいかと予想していたけど。このままでは、まずいわね」

機体内部に設置された計器の類はすべて、機体が異常加熱していることを示している。
そして冷却を行うことも不可能。このままでは、辿る結果は唯一つ。
内側からの熱に耐えかねて爆発。もちろん巻き込まれれば命はない。

「キュゥべえ、聞こえる?」

すぐさま回線を開き、ティー・パーティーへと通信を繋ぐ。

「ああ、見事な戦いぶりだったねほむら。後でその機体のことだとか、いろいろと詳しく話を聞かせて欲しいな」

帰ってきた声にはまともに応えるつもりはない。
こんな時ですらほとんど揺らぎを見せないその声は、どうにも不快だった。

「機体を破棄するわ。脱出するから回収して」

「えっ」

にべも無くそう告げて、ほむらは脱出の準備を始めた。
974 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/08(日) 15:08:31.91 ID:gV/yLMSk0
意外に思うことかも知れないが、R戦闘機には脱出機能が搭載されている。
第2次バイドミッションにおいて、バイド帝星を破壊したウォー・ヘッドがそれを用いて、地球に帰還したという例もある。
そんな脱出装置を使用して、ラウンドキャノピーを中心としたコクピットブロックが機体から分離した。
遠ざかっていくラグナロックを見つめるほむら。やがてその機体が、大きく膨らみ破裂した。

「……さようなら、ありがとう。ラグナロック」

静かに眼を伏せ、祈るように。彼女は呟いた。

(結局、戦うことになってしまったわね。……どうしようかしら、これから)

思案に耽るほむら。その視界の端にちかちかと煌く何かが見えた。

「あれは……」



その後、ほむらはティー・パーティーに無事回収された。
悪夢を退けて、それでも尚船内に漂う雰囲気は、暗い。
キャノピーを外してヘルメットを取り去り、束ねていた長い髪を揺らしてほむらが立ち上がる。
その姿を、じっと見つめていた影があった。それは――。

「……さやか」

「気安く呼ばないでよ」

交わす言葉は冷たく、投げ掛けられたのは、拒絶。

「何よ、アレ。ほむら、あんた戦えたんじゃない。なのに、何で戦わなかったの?」

「それは……」

答えられず、口を噤んで俯くほむらに。

「あんたはマミさんを見捨てたんだ。あんたが戦っていればマミさんは死ななかった。
 あんたのせいだ。あんたのせいでマミさんはっ!」

続けざまに放たれる言葉の楔。それが次々にほむらの胸に突き刺さる。
唇を噛み締めて、言葉の一つも返せずにただ、立ち尽くす。
975 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/08(日) 15:08:56.41 ID:gV/yLMSk0
「だめだよさやかちゃん。そんなこと言ったら……ほむらちゃん、可哀想だよ」

いつの間にやら追いついていたまどかが、さやかの手を取り制止する。
けれども、そんな手すらも振り払って。

「……わかってる。わかってるんだよそんなこと。あいつがあたしたちを助けてくれた。
 あいつがいなかったらきっと、今頃あたしたちは死んでたってことくらい」

その手も、声も震えていた。
さやかがどうしようもない葛藤を抱えているということが、まどかにもよく分かった。

「だったら、どうしてこんなひどいこと……」

「でも、だけど!それで納得できるわけないじゃない!
 マミさんは死んだんだ!助けられたかも知れないのに、あいつのせいで!!」

怒りに震える……否、それだけではない感情で、さやかの声も震えていた。
分かっているのだ、何か事情があったのであろうことくらい。
それでも納得できない。したくない。マミの命を奪ったバイドへの憎悪が
何もできない自分へのふがいなさが、行き場所をなくして暴走しているだけで。


それに気づいて、ほむらも顔を上げる。
噛み締めすぎた唇から滲んだ血を、ぐいと払って。

「ごめんなさい。本当に。本当に……っ。さやか。これを受け取って」

震えるさやかの手を取って、それを押し付けた。
すぐにその手は払われたけれど、さやかの手にはそれが握られていて。

「なんだよ……え、これ、って」

それは――
976 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/08(日) 15:09:23.35 ID:gV/yLMSk0
「それ……マミさんの」

琥珀色の輝きを放つ、マミのソウルジェムだった。

「脱出したとき、漂っていたのを見つけたの。バイド汚染の反応もなかったから……
 私が持っているより、貴女たちが持っていたほうがいいと思うわ。……本当に、ごめんなさい」

それだけを言い残し、深く一度頭を下げて、ほむらは疲れた足取りで格納庫を後にした。
後に残された、二人は。

「うぅ……本当に、本当にマミさんは……あぁ、ぁぁぁぁぁぁっ!!」

「さやかちゃん……マミさんは、あんなに優しくて、強くて。
 私たちに、いろんなことを教えてくれたのに……なのに、うぅ、うぁぁっ」

慟哭するさやか、そのさやかの肩を抱きながら、自らも嗚咽を漏らすまどか。
その声はしばらく途絶えることはなく、ただ握り合った掌の中のソウルジェムだけが
静かに、琥珀色の輝きを湛えていた。



「すごい活躍だったね、暁美ほむら」

格納庫を出て、パイロットスーツを脱ぎ捨てながら通路を歩くほむらの前にキュゥべえが現れた。

「……残念だけど、今はお前と話をしたい気分じゃないの。少し、休ませて」

それを無視して足早に通り過ぎようとしたほむらを、キュゥべえは呼び止めて。

「そうさせてあげたいのは山々なんだけど、ボクとしてもキミに話があるんだ。暁美ほむら。
 …………いいや、スゥ=スラスター」

その声に、ほむらの足は止まる。
まるでさび付いたブリキ細工のように、軋むように緩慢に彼女――スゥと呼ばれた少女の首が巡る。
その視線の先では、相変わらず感情というものが一切見えないキュゥべえの顔があった。
977 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/08(日) 15:10:20.63 ID:gV/yLMSk0
「………なぜ、その名前を」

我ながら、愚かしいことを聞くものだとほむらは思う。
Rに関わるものが、その秘密に触れるものが、その名前を知らないはずもないというのに。

「知っていて当然だろう?彼女は英雄だ。……まさか、こんなところで生き残っていたとは思わなかったがね」

やはり迂闊だった、と。
あの時戦ってしまったことを悔やむ。
だがどうすればよかったのだろうか、あそこで戦わなければ恐らく、自分は生きていなかっただろう。

「キミが乗っていたあのラグナロックは、正式に量産されていたものとは違う。
 あの波動砲を搭載していたのは、第3次バイドミッションに投入された一機だけだ」

初めから自分には、戦う運命しかなかったのだろうか。
衝撃的な言葉は、まるで足元をぐらつかせるかのようで。
スゥは壁に手をつき、もたれるように身を寄せて。


「それにあの情報が確かなら、キミのその姿にも納得がいく。ラグナロックのパイロット
 スゥ=スラスター。彼女は幼体固定を受けて、その身体を14歳の少女のそれに変えたというじゃないか」

フラッシュバック。
目が覚めてまず目に入った、やけに高い天井。
手をかざすと見えた別人のそれ。やけにか細く小さくて。
がやがやと騒ぎ立てる男たちの声がやけにうるさく感じられて。

そんな、今までに何度も味わってきた記憶の残滓を噛み締めて。
胃の奥からせり上がってくるような苦い感触を飲み込んで。

「そこまで知っている。ということは、やはりお前は……」

「御察しの通り。ボクもまたTEAM R-TYPEの一員だ。ボクの場合はゲスト、という言い方の方が正しいけどね」

スゥの顔が苦々しく歪む。
TEAM R-TYPE。それは、R戦闘機の開発全般に携わる研究チームのことである。
人類最高峰の英知と狂気と遊び心が結集したそのチームは、今まで3度の対バイドミッションを成功させている。
ただし、その闇は底知れないほどに深い。
曰く、四肢切断やパッケージ化によるパイロットブロックの圧縮。
曰く、人命すら使い捨ての消耗品として扱うその設計思想。
曰く、ドリル、パイルバンカーを戦闘機に搭載しようとすらするその呆れ果てた思考回路
そしてついに近頃では、バイドそのものを素体とした機体すら生み出している、とも噂される。
まさに、人類史上類を見ない、最強にして最凶、最悪のイカレ科学者集団である。
978 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/08(日) 15:10:50.73 ID:gV/yLMSk0
「……やはり、そうだったのね。お前は私をどうするつもり?」

「そうだね、妥当なところだと軍に引き渡すくらいだろうね。
 とは言え軍はキミの存在を公にはしていない。となるとその後はまた、彼らの管轄下ってところだろうね」

「なら、そうなるわけには行かない。もうあそこに戻るつもりはないわ」

そうなるのが嫌で、逃げ出したのだ。
戦いの終結を見届けて、自らの存在を無かったことにして。
共に戦ってきたラグナロックも、異層次元の狭間に封印して。

「随分と嫌われたものだね、彼らも。……じゃあ提案だ」

感情のない笑みを浮かべて、キュゥべえは小さく飛び跳ねて。
その拍子に、耳がふわりとスゥのほうを目掛けて揺れた。


「マミは優秀な魔法少女だった。キミが見殺しにしなければ、もっと沢山のデータをボクたちに齎してくれただろう。
 スゥ=スラスター。キミがマミの代わりに魔法少女になってくれるなら、ボクはキミを暁美ほむらとして扱おう」

それはつまり、軍に対してもTEAM R-TYPEに対しても、この生き残ってしまった英雄の存在を秘匿するということで。
それだけの権限を、この目の前の生物は持っているということだった。

「結局どちらを選んでも、戦うことに変わりはないじゃない」

「そうだね、だが彼らの元で実験動物紛いの扱いを受けるのと
 魔法少女として人間らしい生活を過ごすのでは、まるで大違いじゃないか」
   
どうにもならない状況、苛立ちを押さえきれず歯噛みすると、切れた唇から流れた血の味が口の中に広がって。

「……しかたない、か」

憧れていたもの、普通の人としてのささやかな暮らし。
子供達の中に混ざるのは気がひけたけれど、それでもそれはきっと戦いの日々を忘れさせてくれるはずだった。
そんな願いも、バイドと彼らの手によって敢え無く引き裂かれていった。

「やるわ。魔法少女、なんて柄ではないけれど」

「それじゃあ契約は成立だ。キミは今日から、この船の魔法少女だ」

そして言葉と共に、キュゥべえの耳がスゥの胸元へと吸い込まれていった。
979 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/08(日) 15:11:18.60 ID:gV/yLMSk0
声も枯れよとばかりに泣いて、疲れ果て、一つのベッドで身を寄せ合うようにして眠るさやかとまどか。
一人部屋の中で俯いて。掌の中で煌くソウルジェムを眺め、眠れぬ夜をすごす……ほむら。
それぞれがその胸中に暗澹たる感情を抱えながら、夜と呼ばれる時間は過ぎて。
そして、翌朝。


「決めたよ。あたし、魔法少女になる」

この船の食事は全て、マミが自分で用意していたらしく。
しかたなく備え付けの携帯食料を齧りながら、さやかが唐突にそう切り出した。

「驚いたね。あれだけ戦えないと言っていたキミが、一体どういう心境の変化だい?」

そう尋ねたキュゥべえに、さやかは一瞬だけ躊躇うような顔をして。
ぎゅっと、ポケットの中のソウルジェムを握り締め、それからついに、覚悟を決めた表情で。

「マミさんは、ずっと一人で戦ってたんだ。みんなのために、バイドを倒すために。
 あたしは、そんなマミさんの想いを無駄にしたくない。あたしに戦うための力があるなら。
 戦いたい。戦って、バイドを倒したい!」

キュゥべえの視線を受け止めて、その赤い瞳を真っ直ぐに見つめて
さやかは、己が思いと決意を告げたのだった。

「……キミのその覚悟は本物かい?本当に、あのバイドと戦えるのかい?」

キュゥべえは、どこまでも無機質な顔でそう問いかけるだけで。

「………戦う。もう逃げないって決めたから」

さやかの覚悟は揺らがない。視線も同じ。
そんなさやかの言葉に、まどかは隣で静かに耳を傾けながら。
980 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/08(日) 15:11:46.83 ID:gV/yLMSk0

「本当に戦うんだね。……さやかちゃんは」

「うん。ごめんまどか。あたしやっぱり、あいつらを放っておけない。
 それに悔しいんだ。このまま負けたまま、逃げたまま終わっちゃうのが」

そんな風に、迷い無く告げるさやかの姿は、今のまどかには眩しく見えた。

「さやかちゃん……私、ね。私も、戦えたらって思ってたんだ。
 マミさんみたいに、強く、格好良く戦うことが出来たら、皆を守れたらって」

ぎゅっと締め付けられるように痛む胸を押さえて、震える声でまどかの言葉は続いた。

「でも……だめだよ、できないよっ。あんな死に方なんて……私、いやだよぉ。
 怖くて怖くてどうしようもなくって。さやかちゃんが戦うって言ってるのに
 私、何の役にも立てないよ……ごめんね、さやかちゃん」

恐怖が、まどかの心を支配していた。
戦うことへの、死んでしまうことへの恐怖が。
そして、それを拭い去れない自分自身へのふがいなさも、また。

「まどか……。ううん、まどかが気に病むようなことじゃないよ。
 それにさ、あたしだってそんな立派な理由だけで覚悟、決めたわけじゃないし」

色が白くなるほど強く、自分の手を握り締めて。

「憎いんだ。バイドも、力があるのにそれを使おうとしない奴も。
 だからあたしは戦う。そんな風には絶対にならない。バイドを倒してみんなも守る。
 そういう魔法少女にあたしはなってやるんだ、そして、見返してやる」

ぎらぎらと、その目は輝いていた。
憎しみもまた、時としてとても強い力となり得る。
さやかの中には、そんなドス黒い力もまた渦巻いていた。


「キミの覚悟はどうやら本物のようだね。……わかったよ」

そして再び、ほむらにそうしたようにキュゥべえの耳がさやかの胸元へと伸びて。
光が、その中から零れ落ちるように生み出された。

「これがキミのソウルジェムだ。キミはこれを手にすると共に、戦いの宿命を受け入れることになる」

溢れ出る光は、青く煌く宝石の形となってさやかの手の中に納まった。
その小さな宝石は見た目よりもずしりと重く、その手に圧し掛かる。
それはきっと、背負った定めの重さなのだろう。
981 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/08(日) 15:12:18.73 ID:gV/yLMSk0
そこへ、結局一睡もできぬまま、疲れた表情のほむらがやってきた。

「あ……おはよう、ほむらちゃん」

「おはよう、うわ、なんか酷い顔だね。でも、あれだけ戦ったら疲れもするよね」

まどかとさやかが声をかける。
さやかも少しは落ち着いたのだろうか、随分と声は落ち着いているように見えたのだが。
ほむらは、さやかの掌に握られていたソウルジェムを見て、目を見開いた。
自分のものとも、マミのものとも違うその色は、間違いなくそれがさやかのものであることを示していた。


「さやか……貴女、まさかっ!」

「そう、そのまさかだよ。ほむら。あたしは魔法少女になった。
 ――あたしはあんたみたいにはならない。全部守って、戦い抜いてみせる」

覚悟と、そして優越感のようなものを滲ませて。
まるでほむらを見下すように、冷徹に言い放った。

魔法少女隊R-TYPE 第3話
        『RAGNAROK』
         ―終―
982 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/08(日) 15:12:59.74 ID:gV/yLMSk0
【次回予告】
そして彼女たちは魔法少女となった。
辛い訓練や学習、時に補修に苦しめられながらも、魔法少女たちは宇宙を往く。

「あたしはまだ、あんたのことを信用できない」

「それでも、私は貴女を信じる。貴女なら、やれる」

しかしまだ、彼女たちは魔法少女の持つ闇を、知らない。
その闇は、ついに形を為して襲い来る。

「愛は不滅だ。どれだけの距離も障害も、私たちを阻むことはできない」

「あなた方にもう未来はありません。さようなら、過去の魔法少女たち」

「――本物の、魔法少女?」

そして……奴らが、また。

「コロニー内部から、大量のバイド反応が!」

「うむっ、緊急連絡だ」

魔法少女隊R-TYPEs 第4話
         『NO CHASER』
983 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/08(日) 15:18:25.66 ID:gV/yLMSk0
そろそろ次スレの季節ですね。
まさか1スレ使い切れるとは、驚きです。

>>961
というわけで二人目のほむらちゃんの登場です。
こちらのほむらちゃんは随分ととげとげしているようですが。
はたして二人はどうなっていくのか、これからの展開次第という感じです。

恐ろしい話ですよね、それも。
とは言え死に覚えを設定的にカバーするには妥当な線なのでしょうね。

>>962
おお、これまた色々と面白そうなネタを。
どこまでやれるかはわかりませんが、ぽつぽつと頑張っていくことにします。
984 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/08(日) 18:51:07.07 ID:VsyGUXxDO
お疲れ様です!

クローンと知った後だと、3話の“初めから自分には、戦う運命しかなかったのだろうか。”って文がよく理解出来る重さですね…。
985 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/01/09(月) 15:33:48.04 ID:R8B3cCk30
さて、では長らく続いてきたこのスレでのお話にも幕を引くことに致しましょうか。
第三部は軒並み話が長くなりそうです、次スレで無事に終わってくれればよいのですが。

では、おっぱじめましょう
986 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/09(月) 15:34:39.32 ID:R8B3cCk30
「終わりだ、暁美ほむら。いや……No.8ッ!!」

「……そんな、嘘、嘘だ」

絶望に震え、か細い声で呟くほむらへと、今、最後の一撃が放たれようとしていた。



「では、彼女は本物のスゥ=スラスターではなかったということかい?」

ティー・パーティー内司令室。
司令室とは名ばかりで、キュゥべえの個室のようになっている場所で。
モニター越しにその会話は行われていた。

「ああ、極秘裏に進めていたことだからね、どこで拾われたのかと思っていたが
 まさか君のところで拾われて、あまつさえM型の被験体になっていたとは驚いた」

「ボクも驚いたよ。まさかクローン体が、魔法少女になれるだけの自我を確立していたなんてね。
 ……それで、一体何のために彼女は…いや、彼女達は作られたんだい?」

キュゥべえの言葉に、モニターの向こうの男は僅かに考え込むような仕草をしたが。
それでもやがて、再び声を放ち。

「まあ、君には8号が世話になっていたようだし、そろそろ公表しようと思っていた頃だ。
 前回の定例会議で、優秀なパイロットのあてがある、と話しただろう?あれがそうさ」

「確かに、スゥ=スラスターのクローン体ならば優秀なパイロットだろうね。
 けれど、あまりにも回りくどいような気がするな」

優秀なパイロットを育てるだけなら、クローン体を作ってそのまま使えばいい。
だというのに、わざわざ一度野に放つような真似をして、運よくこうして戦っているからいいものの。
もしかしたら、あのまま戦うことなく普通の人間として過ごしていたかもしれないというのに。
987 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/09(月) 15:35:48.76 ID:R8B3cCk30
「まあ、こちらが用意していたクローンはあれだけではないということだ。
 8号、と言っただろう?少なくともあれの前に7体。そしてあれの後にも何体かのクローン体を作成している」

そこで、男の顔が僅かに曇る。

「とはいえ、あのスゥ=スラスターに並ぶほどの実力を発揮できたものは極少数でね。
 それに、バイドと戦うとなれば、ただの兵器のような人間では困るのだ。
 ある程度の人間性を確立させるために、試験的に8号には戦いからの逃亡の記憶を植え付け、野へと放った」

「理解できないな。優れた兵器に人間性なんて不要だと思うけど」

キュゥべえは呆れたようにそう言った。
けれど、返ってきたのは冷笑で。

「……そんなことだから、君の文明はバイドに敗れたんだ。バイドをもってバイドを制し
 人の意志をもってバイドを討つ、それが、対バイド作戦においてとても重要なことなんだよ」

「……まったく、キミ達のすることは訳が分からないよ。だとしても、何故彼女達を戦わせるんだい?
 それだけの手間をかけたのだから、そのまま回収してもよさそうなものだけどね」

もう一つのモニターには、二人のクローン体の戦いの様子が映し出されている。
まさしく空戦の極地とも言うべき激しい戦い、見ているだけでも見ごたえは十分だった。

「選別だよ。十分な研究と調整の結果、オリジナルに近い能力を持ったクローン体を複数作成することに成功した。
 だが、結局必要なのはたった一人の英雄なんだ。それ以外は不要だ。だから選別する」

「勿体無いことをするね、たとえ選ばれなかったにせよ、十分に実力はあるんだろう?
 有効に活用するべきじゃないか」

人間という生き物は随分と非効率的だ。
それでもこのTEAM R-TYPEに属する者達は、かなり効率的な考え方をするものだと思っていた。
それこそ、どちらかといえば人間というよりも我々の側に近い、と。
ただ、その評価もやはり考え直す必要があるかと、キュゥべえは考えていた。
988 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/09(月) 15:36:18.28 ID:R8B3cCk30
「もっとも、全部が全部ぶつけ合って壊してしまうわけじゃない。失敗作でも優秀なパイロットであることに変わりはない。
 ……それこそ、有効に活用しているよ」

クローン体、何の人権も持たず、いくらでも作り出せる存在など
それこそ普通の人間と同じように扱う必要は無い、その末路は、容易に想像できた。

「だけど、あの2人は別というわけだね」

「ああ、あの2体、8号と13号は、今まで作った固体の中でも最高レベルの能力を持っている。
 それをぶつけ合い、もう1人の自分とでも言うべき存在に勝利したものだけが、英雄となる資格を得る。
 ……そういうことだ、さあ、見守ろうじゃないか」

そして、再び1人と1匹の視線が戦いの様子を眺める。
どうやら、とうとうその戦いも決着を迎えようとしていた。



ほむらの駆るラグナロック・ダッシュが攻撃を受け、海中に無力に漂った。
13号と呼ばれたクローン体は、ついにほむらに止めの一撃のためのチャージを開始する。
メガ波動砲の光が、いよいよ放たれようとした瞬間に。


遥か高空より舞い降りた光が、黒いラグナロック・ダッシュの後部を貫いた。
小規模な爆発が巻き起こり、一気に機体の高度が下がる。

「っ……何、今のはっ!一体、どこから……っ」

推進部の損傷が激しく、機体を立て直すことすらままならない。
ふらふらと揺らめきながら高度を下げる、一体どこから撃たれたというのか。
攻撃の来た方向をラグナロックのセンサーで探る。
だがしかし、敵の姿は見当たらない。遥か上空、一体どこに敵は潜んでいるというのか。
989 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/09(月) 15:37:00.83 ID:R8B3cCk30
その一撃は、戦いの様子を眺めていた1人と1匹にとっても予想外だったようで。

「なんだこれは、どういうことだ」

「ボクにも分からないな。ただ、これで勝負どころじゃなくなったようだけど。
 ……どうやら、通信が来たみたいだ」

ティー・パーティーへの直通通信。
この回線を知っているものはそう多くない。一体誰からだろうか。


「キュゥべえ、聞こえる?こちら、巴マミ」

「何だ、マミか。今宇宙に居るんじゃなかったのかい?」

聞こえてきたのはマミの声、どこか切羽詰った調子もあって。

「ええ、宇宙から通信をしているのよ。宇宙でのガンナーズ・ブルームの射撃試験中に
 正体不明の敵と交戦している暁美さんの姿を見つけたの、それも撃墜されてしまったみたい。
 その敵は、私が宇宙からの高高度射撃で撃墜したのだけど、暁美さんのことが気になるわ。
 キュゥべえ、救助に向かってくれないかしら」

どうやら、あの一撃の射手はマミだったようだ。
まさか宇宙から海洋上のR戦闘機を狙撃するとは、最早人間離れした腕前と言ってもいいだろう。

「……どうやら、とんでもない物言いがついたようだな」

その通信を聞いていた男は、呆れ半分感心半分に呟いた。

「どうやら仕切りなおしにした方がよさそうだね。機体の修理が終わったら連絡をするよ」

「ああ、頼む。生命反応は消えていないことだし、私もアレを回収することにしよう」
990 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/09(月) 15:37:28.04 ID:R8B3cCk30
「マミ、わかったよ。すぐにほむらを回収する。そちらも引き続き試験の方を頼んだよ」

戦闘は一時中断。すぐにティー・パーティーを走らせながらマミへと通信を繋いだ。

「ええ、何か分かったら後で教えてちょうだい。あの暁美さんがやられるような相手なんて
 普通じゃ考えられないけれど……」

不安げな声を残して、マミとの通信は打ち切られた。
それを確認してから、キュゥべえは艦内通信の回線を開いた。

「さやか、杏子、聞こえているかい?どうやら先ほど出撃したほむらが敵に撃墜されたらしい。
 出撃して、ほむらと機体を回収してくれ」

すぐさま、艦内は慌しく動き始めた。


「あたしらが行くまで、ちゃーんと死なずに待ってなさいよ、ほむらっ!」

「っ、さやかの奴また飛ばしやがって。あの機動性バカについていけるかっての。
 まあいいか、ったく、何がどうなってるんだかな」

青い光を棚引かせ、海を裂くような勢いで海上を駆け抜けるフォルセティU。
そのかなり後方、可能な限り速度を上げて喰らいつく、ディザスター・レポート。
撃墜されたというほむらを救出するため、二機のRが海を駆けた。

二人とも、ほむらの実力はよく分かっていた。
かつての英雄。その名に恥じない圧倒的な技量、そして操縦のセンス。
それを兼ね備えたほむらが、撃墜されたのだという。一体どんな相手が待ち構えているのか。
不安がじりじりと二人の胸を焦がす。
それでも、急がなければならない。助けなければならない。
思いを胸に、二人は機体を走らせた。
991 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/09(月) 15:37:54.69 ID:R8B3cCk30
「ほむらぁぁぁーーっ!!」

海中に浮ぶラグナロック・ダッシュ。
その姿を見つけて、半ば衝動的にさやかは機体を走らせ駆け寄った。

「ほむら、大丈夫?生きてる、返事しなさいよ、ほむらっ!」

機体を牽引しようにも、大気圏下では宇宙とは勝手が違う。
機体の損傷も激しいこともあり、万全を期して二人係で牽引するしかない。
おまけに随分と飛ばして来てしまった様で、杏子の機体はまだ遥か後方にあった。

「……さ、やか」

「っ、ほむら、大丈夫なの?聞こえる、助けに来てやったわよ!ちゃんとしなさいよっ!」

大丈夫、まだ通信は生きている。
見たところ、キャノピー部分にそれほど派手な損傷は見られない。
きっと、ソウルジェムも無事なはずだ。

「私は……わ、たしは」

震えるか細い声。
それは、今までさやかが聞いたこともない、弱弱しい声で。


「私は――ダレ?」
992 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/09(月) 15:38:23.71 ID:R8B3cCk30
「何があったんだよ、一体」

「……わかんないけど、ほむらは今、めちゃくちゃ落ち込んでる。
 まるで、マミさんがやられた時のあたしみたいだ」

その後、さやかと杏子の二人でほむらの機体を牽引し、ティー・パーティーへと回収した。
収容され、目を覚ましたほむらはそのまま虚ろな足取りで部屋へと戻っていった。
心配そうに話しかけたさやかにも、一切反応を見せぬまま。

閉ざされたほむらの部屋の前で、顔を突き合わせ、声を潜めてさやかと杏子の二人が話していた。

「あそこで何かが起こったのは間違いないんだろうけど、あいつがあそこまでやられるなんて。
 本当に……訳わかんねぇよ」

「だからこそ、こうして聞きに来たんでしょーが」

「……素直に話してくれるかねぇ、あいつが」

「どーにかこーにか聞き出すの!あのまま放ってなんて、置けるわけないじゃない」

「バカっ、ほむらに聞こえちまうだろーが」

思わず声を荒げたさやかの口許を押さえて杏子が囁く。
きっとさやかならそうするだろうな、とは分かっていた。
まだ付き合いは短いが、それでもさやかはいろんな意味で分かりやすい相手であった。
そして、そういうところを好ましく思っている杏子であった。
993 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/09(月) 15:39:06.90 ID:R8B3cCk30
「……じゃあ、ま。行ってみるとするか」

「……だね、どーにかこーにか聞き出してやりましょー」

そして、パネルの呼び出しボタンを押した。

「ほむらー、あー、えっと。中、入ってもいいか?」

杏子が尋ねるも、返事は無い。
モニターのパネルは暗いまま、声は届いているはずなのに。

「開けてよ、ほむら。……そりゃ、きっと何か色々あってしんどいんだろうなってのは分かるけど。
 そんな状態のほむら、放っておけないんだよ。……だから、お願いっ」

さやかの声にも、ほむらの反応は返ってこない。
どうする?とでも言うように、杏子がさやかに視線を向ける。
それに答えて、しっかりと一つ頷いた。当然答えは、押しの一手。

ダン、と扉に拳を打ち付けて。

「答えてよ、ほむら。あたしは仲間で、そして友達なんだ。
 だから、友達が辛そうにしてたら気になるし、心配する。でも、それだけじゃあたしには何も出来ないんだよ。
 ほむらが、あんた頼ってくれないと、あたしは何もしてあげられないんだっ」

何度も、何度も拳を打ち付けて、呼びかける。
届いていないはずは無い、響いていないはずは無いと、信じて。

そして、扉が開かれた。
994 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/09(月) 15:39:58.99 ID:R8B3cCk30
「ほむらっ。よかった、出てきてくれた……」

部屋の中は暗く、外から差し込む灯りに照らされぼんやりと、ほむらの姿が扉の前に映し出されていた。
その姿はどこか儚げで、危うげで。目元が赤く、腫れているように見えた。

「あんた……泣いてたのか?」

そんな様子を見て取って、杏子がほむらに声をかけた、しかし。

「部屋の前で、あまり騒がないで。うるさくてかなわないわ」

二人の視線から逃れるように、俯きながら。
ほむらは冷たくそう言い放った。

「あ……そりゃ、ごめんほむら。ちょっとあたしも無神経だった。
 でもさ、ほむらのこと心配して来たんだよ、そんな邪険にしなくてもいいじゃないの」

「だれも、心配してなんて頼んでない。……放っておいて。私の事は気にしないで」

本当に、一体何が起こったというのか。
ほむらの声はどこまでも冷たくて、今までのほむらの様子とはまるで違っていた。

かちん、と来た。
そんな表現がまったく持って相応しい。
そんな気持ちと同時に、さやかの胸中には何か懐かしさのようなものも込み上げてきていた。
頑なにこちらの歩み寄りを拒むその態度は、まるで少し前の自分を見ているようだったから。

マミがバイドにやられ、その責任をほむらに押し付けて。
どこまでも勝手に目の敵にして、反発して。
何となく、それと似たような感じがしていた。だからこそ尚のこと、放っておけるわけが無かった。
995 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/09(月) 15:40:31.91 ID:R8B3cCk30
「そんなこと言われて、気にしないで居られるわけないでしょうがっ!
 そのくらい、ほむらだって分かるでしょ。……あたしがそうだったんだから」

小さく、俯いたままのほむらの肩が震えた。

「そりゃそうだよな。こんなお人よしが人の皮被って歩いてるような奴が
 あんな分かりやすい態度取られて、放っておける訳がねぇ。ほむらはほむらで、自分を隠すのが下手な奴だな」

杏子もどこかニヤつきながら、そんなほむらの様子を眺めて。

「だから、観念して話しちまえよ。……でないとこのお人よしは、いつまでたってもここに居座るぞ?」

「……なんかちょっと言い方酷くない?」

あんまりにもあんまりな言い草に、ちょっとジト目なさやかであった。


「…………」

ほむらは押し黙ったまま俯いて、小さく身体を震わせていた。
何か溢れそうになるものを、必死に堪えているようにも見えた。

「分からないのよ、どうしたらいいのか……私が、何なのか」

「ほむら?……っ」

その場に崩れ落ちそうになるほむらの身体を二人で支えて、ベッドに横たわらせる。
二人で抱えていることを差し引いても、ほむらの身体はとても軽かった。

「何があったのかわからないけどさ。やっぱり今のほむらは放っておけない。
 ……話して、くれないかな」

枕元に座って、ほむらの手を握ってさやかが優しく言う。
その手を弱弱しく握り返して、ほむらは、静かに話し始めた。
996 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/09(月) 15:41:05.29 ID:R8B3cCk30
自分が英雄などではなく、ただの作られた人間でしかなかったこと。
偽りの記憶を与えられて、偽りの名前と立場に縋って、何も知らずに今まで生き続けてきたこと。
そして、もう1人の自分が去り際に残した、最後の言葉。

――必ずもう一度、私達は戦うことになる。
――そして、生き残ったほうが……英雄としてバイドと戦うことになる。

怖いと言って、弱弱しく手を握って涙を流した。
戦うのが怖い。死ぬのが怖い。そしてなにより、そう思う気持ち自体が
自分のものではないのではないかということが、怖くて仕方なかった。

さやかも、杏子も。何も言えずに立ち竦む。
あまりにも思い事実。今まで共に戦ってきた、仲間だと思ってきたほむらが
英雄でもなんでもなく、ただの作られた命でしかなかったのだと、知らされて。


「とんでもない、胸糞の悪くなるような話だな」

胸の奥に蓄積されていく鬱屈とした感情。
それを吐き出す術がわからなくて、杏子が小さく悪態を付いた。

「……それだけじゃない、私は、貴女達を信用していなかった。……信用できなかった」

「……どうして、ほむら?」

一度零れてしまった言葉は、もう自分の意志でも止められない。
ぽろぽろと涙を零しながら、静かにほむらは言葉を紡いでいく。

R戦闘機の、その開発に携わるモノ達が抱えた闇を。
明らかになってしまった、異端の実験の成果を。
その犠牲となった、プレイアデスと呼ばれた魔法少女達の末路を。
全てを自分1人で抱え込んで、知らなくてもいいと思い込んで、隠していた。

それはきっと、本当に皆のことを考えていたわけじゃない。
受け止められないだろうと、耐えられないだろうと、勝手に仲間のことを判断してしまったのだ。
仲間のことを信じられなかった、信じようとすることが出来なかったから、だから。
997 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/09(月) 15:41:40.39 ID:R8B3cCk30
「こんな私じゃ……仲間としても、失格よね。ごめんなさい。……本当に、ごめんなさい」

いつしかさやかの手に縋るように、両手でしっかりと握り締めて。
ほむらは、胸の奥に澱んだ思いの全てを吐き出した。
それは余りにも重く、辛く、衝撃的で。

戦士としてどれほど成長したといえ、魔法少女であるといえ。
それを受け止めた二人は、その精神はまだ、年若い少女のものでしかなかった。
受け止めきれないのは、致し方ないことなのだろう。

(それでも、受け止めてやらなくちゃならないじゃない。
 ここまで聞いて、打ち明けられて、今更投げ出せる訳がないじゃない)

衝撃的な事実に怯む心に鞭を入れ。
理解の範疇を超えそうな出来事を何とか頭の中に叩き込んで。
さやかは、力強くほむらの手を握った。

「ほむらは、さ。……きっと、自分が誰がか分からなくなっちゃったんだよね。
 今まで思ってた自分が偽者で、この名前だって、誰かの借り物だって言ってたっけ。
 ……それでもさ、やっぱりあたし達にとっては、ほむらはほむらなんだよ」

「例え貴女達がそう思っていても、やっぱり私には、分からないの。
 私はスゥ=スラスターじゃない。暁美ほむらでもない。何でもないただの作り物。
 そんな私が、これからどうすればいいの?何のために、生きていたらいいの?」

力なく、ほむらは首を振るばかりで。

「少なくともあたしは……ほむらでいて欲しいって思うよ。
 あたし達の仲間で、友達で。そんな暁美ほむらでいて欲しいって思う」

「そんなこと……できるわけないじゃない。私は何も知らないのよ。暁美ほむらのことを。
 もしかしたら、スゥ=スラスターのことだって分からないのかも知れない。
 私はもう、誰であることもできない……どうにも、ならない」

どうしたらいいのだろう。
今のほむらは全てを見失っている。
生きる理由も戦う理由も、自分自身でさえも。
取り戻させてあげたいと思うけれど、初めから無かったものは取り戻しようが無いのではないか。
そうとすらも思えてしまう。どうしたらいいのかわからずに、さやかは押し黙ってしまう。
998 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/09(月) 15:42:06.95 ID:R8B3cCk30
「……なら、向き合ってみりゃいいんじゃないの」

その時、今まで口を閉ざしていた杏子が口を開いた。

「あたしも、ロスと別れたときはそんな感じだったよ。
 それまでの自分を全部否定されて、生きる理由も戦う理由もなくなっちまった。
 さやかと出会うまでは、あたしもそれをずっと引きずりながら生きてた」

生きて来られた分だけ、ほむらよりはマシかもしれないと小さく付け加えて。
そして杏子は言葉を繋ぐ。

「でも、こうしてこいつらと出会って、もう一度戦う理由を取り戻せた。生きてる理由を取り戻せた。
 それでさ、ロスの事を色々と調べてみたんだ。あたしがずっと一緒に過ごしてきた奴は、一体どんな奴だったんだろうってさ。
 そうしたら、何か分かってきた。ロスが何を守ろうとしてたのか、何のために戦ってたのか」

バイドを討つための矢となって、人類全ての希望を載せて戦った男が居た。
その男が戦い抜いた軌跡を、太陽系を飛び立ち消息を絶つまでの戦いの記録を、その目で確かめて。
そうして分かったことがあった。
守ろうとしていたのだ。自分のことも、そしてどこかの誰かのことも。
この星に息づく営み全てを、守るために戦い抜いていたのだ。

その気高さを、力強さを、少しでも受け継いで戦おう。
それが、今の自分がロスにできるせめてもの事だと、杏子は信じていた。

「だから、もしかしたらあんたも向き合ってみたら、見つかるんじゃないか?
 自分が何なのかとか、生きる理由、戦う理由とか」
999 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/09(月) 15:42:33.04 ID:R8B3cCk30
「……向き合う、何と向き合えばいいの。私は、私には……何も」

「スゥ=スラスター。暁美ほむら。あんたには二人分の名前がのっかかってるんだろ?
 だったら、両方向き合って来りゃぁいいじゃないか」

少しだけ考え込むようにしてから、それでも相変わらずの調子でほむらは呟いた。

「……生きているとは、思えないわ」

「ロスだって、あたしが向き合った時には地球にゃいなかった。
 ……いくらでも手はあるさ。どうだ、一つ騙されたと思ってやってみないか?」

また、ほむらは静かに口を閉ざした。
興味は無いわけではなかった。
自分がなろうとしていた英雄が、一体どういう人物だったのか。
そして、自分がなってしまった人間が、一体どのように生き、そして死んでいったのか。
ただ純粋に、知りたい。そう思えた。


「それも、いいかも知れないわね」

「よし、じゃあ決まりだ。……聞いてんだろ、キュゥべえ。さっさと手配しな」

にぃ、と八重歯を見せて杏子が笑う。
そして呼びかける。返事はすぐさま返ってきた。

「……それが今のほむらに必要なことなら、ボクは構わないよ。どうするんだい、ほむら?」

ほむらは一度、静かに目を伏せて。
それから静かに目を開くと、口を開いた。



「――頼むわ。キュゥべえ」
1000 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga ]:2012/01/09(月) 15:52:08.89 ID:R8B3cCk30
というわけで、このスレでのお話はここまでとなります。
次回以降の更新は↓こちらになります。感想などありましたらそれもこちらにお願いします。
魔法少女隊R-TYPEs FINAL
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1326091792/

>>984
はたしてほむらちゃんはその運命を乗り越えることができるのでしょうか。
いよいよ彼女の本質に迫るお話が始まろうとしています。
1001 :1001 :Over 1000 Thread
       / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
       | アパム!アパム!次スレ建てて来い!アパーーム!
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   / ̄ ̄| ̄ ̄| ̄|  (´д`; ||┘ _ユ_II___ | ̄| ̄ ̄| ̄ ̄|
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 / ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄] \_)_)..||| | ̄| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄|     http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/


1002 :最近建ったスレッドのご案内★ :Powered By VIP Service
魔法少女隊R-TYPEs FINAL @ 2012/01/09(月) 15:49:52.36 ID:R8B3cCk30
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1326091792/

ハルヒ落ちぶれたな @ 2012/01/09(月) 15:37:48.90
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4vip/1326091068/

石原慎太郎 「 人  類  は  滅  亡  す  る  ん  だ  よ  ! @ 2012/01/09(月) 14:21:02.77
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4vip/1326086462/

切嗣「特にすることがない」アイリ「いいことじゃない」 @ 2012/01/09(月) 12:54:39.73 ID:OSn6dYpqo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1326081272/

AV買ったら中身が冬のソナタで仕方無いから白い恋人でマラソンする奴wwwwwwwwwwww @ 2012/01/09(月) 11:47:28.09
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4vip/1326077247/

探偵オペラミルキィホームズでおなじみG4の遠山咲ちゃんと話せるスレはここ                   うむすれ @ 2012/01/09(月) 09:21:06.77 ID:GaafUF8Go
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1326068466/

【クリスマス・年末・年始】連休暇ならアニソン聴こうぜ・・・【避難所】 @ 2012/01/09(月) 08:51:56.31 ID:rSsTm/bmo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1326066716/

幼女「魔法使いなのです」 @ 2012/01/09(月) 04:12:31.09 ID:MM8xmhW0o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1326049950/


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