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女「そこまでです、タイムトラベラー!」男「またかよォッ?!」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆N1RGqRourg :2011/11/09(水) 10:19:01.97 ID:5l5SxB660
はじめに言います。
思いつきで書いています。


 「―――ッ!!―――ッ!!」

少女は走っていた。

いまだ獣の血の匂いを芳す革を身にまとい、汗水ちらして家族の血に染まった真っ赤な脚を駆り続けている。

―ガサッ……タタッ………タタタタッ―

その匂いに誘われて、ケダモノが追ってくる。

「―――ッ!!」

背中越しにその足音を確かに聞き取った少女は、
瞼をグッと閉じ、身体を前に倒しながら、血を散らす両足に更に鞭を打った。
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少し暑くて少し寒くて @ 2024/04/25(木) 23:19:25.34 ID:dTqYP2V2O
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1714054765/

渾沌ゴア「それでもボクはアイツを殺す」 @ 2024/04/25(木) 22:46:29.10 ID:7GVnel7qo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714052788/

二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714049241/

佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713966248/

全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
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2 : ◆N1RGqRourg :2011/11/09(水) 10:28:50.52 ID:5l5SxB660
 少女を追うケダモノ。
それは、少女に親の返り血を浴びせた存在そのものだった。

「―――ッ!」―ギリッ―

 少女の思考の端に、数瞬前の惨状がちらついた。

 いつもより日が暮れた時間に家族の待つ穴倉へと戻った少女は、そこで食い散らかされた親兄弟を見た。
煌々と揺らぐ焚き火に照らされ、ゆらゆらと何かを喰らっている影を見つめ、血溜りの上で目を剥いて立ち尽くしていた。

 ハッと気付いた時は、既に脚を巡らせ餌場となった穴倉から逃げ出していた。

 目の前の景色から意識を完全に飛ばしていた為か、少女は少し出張った石に躓きよろめいてしまう。
前へと倒れるその勢いを利用して、眼前の岩肌を登っていく。
3 : ◆N1RGqRourg :2011/11/09(水) 10:35:33.94 ID:5l5SxB660
 少女はまともな言語を有していない。
それは、少女の家族も同じであった。

 穴倉に住まい、昼は動物を狩り出て、夜は焚き火に照らされながら倉に篭る。
動物的自然の生活を送る少女らを襲ったのも、また、動物的自然であった。

 少女の家族は、弱肉強食の理に則る最期を迎えたのだった。

まともに知能も無い少女は、死という概念はわからない。
しかし、あのケダモノに捕まることだけはならないと、本能的に察していた。

 ただただ逃げる為に岩肌をふらふらと登りきった少女は、一寸先の崖に気が回らなかった。
4 : ◆N1RGqRourg :2011/11/09(水) 10:41:16.50 ID:5l5SxB660

「―――ッッッ!!」

 言葉ではない叫びを腹からもらし、長大なクレーターの内へと転がり落ちる少女。

ドーム状に抉れた地形の中央で、酷使した身体は限界に達し、うずくまったまま起き上がる事も出来なかった。

「ッッ―――ッ―!」

 全身の軋みに辛うじてうつ伏せから仰向けへと寝返りを打ったが・・・

「―――!!」

 クレーターの淵、ちょうど少女が落ちた場所から、あのケダモノが穴の内側を見下ろしていた。
5 : ◆N1RGqRourg :2011/11/09(水) 10:48:34.14 ID:5l5SxB660

 無理が祟って胃液を反芻するも、少女はそれすら飲み下して更なる無茶を身体にさせる。

後ろに手を突きながら、上半身だけを起こして穴から這い出んがため、
ケダモノと睨み合いながらもジリジリと後ろに体重をかけていく。

しかし、身体を引こうとしても腰から下だけは限界であった為にピクリとも動かない。

顔を強張らせ、少し少女が焦りを見せた―― その瞬間

―バッ!!―

 足元の小石を蹴り上げながら、ケダモノが少女に飛び掛った。

もう駄目だと少女の眼から光が失われた――
6 : ◆N1RGqRourg :2011/11/09(水) 10:54:42.29 ID:5l5SxB660

―ギュオォッ!!―

 -突如人影が少女とケダモノの間に立ちはだかり、
轟音と共に蒼く輝くその拳を空中で無防備なケダモノの横っ腹へと叩き込んだ。

堪らず血反吐を撒き散らしながら吹き飛ぶケダモノを見下ろし、その人影は”喋った”。

「小さい女の子を泣かせる奴は・・・っ」

「過去に飛ばされて死んでしまえっ!!」

 先ほど繰り出した殴打とは逆の拳を振り下ろす。

その拳は、やはり轟音と共に蒼い光をまとっていた。―
7 : ◆N1RGqRourg :2011/11/09(水) 11:03:13.69 ID:5l5SxB660

――――――。


男「ぶぇっくしゅんっ!!ちくしょうめぇっ!!!!―――――ふぇっ?今何時?」

友「自分のくしゃみで目覚めるとは・・・器用な奴・・・」

教師「今時だが、バケツ持って廊下に立ってくるかぁ?」

 ―あぁーっと、、、―

男「ゆ、夢?」

友「寝ている自覚無しだったのか・・・」

教師「よぉーっし、男。寝覚めの一発目だ、236Pを読め。」

男「ふぇっ?あ、はい。」

 どうやら完全な居眠りだったらしい。

―そりゃそうか、俺があんな獰猛な生き物相手に喧嘩できるわけ無いし。―

 夢だと思えば粗末なことで、
あっという間に思考を現実に引き戻し、教本を開いて立ち上がった。
8 : ◆N1RGqRourg :2011/11/09(水) 11:10:59.29 ID:5l5SxB660

男「オホン……」
男「―らめぇぇぇぇぇっ!!!そこぉっ!!そこぉっしゅごいのぉぉぉぉっ!!!あへぇっ!!!―」
男「…あれ?」

教師「よぉーし、男にまかせた私が悪かった。だから[らめぇぇっ!]なんこつを感情込めて音読しないでくれ。それと何度も言うがそんなものを学校に持ってこないでくれ。」

 教室全体が「またかこいつ・・・」と言いたげな、無言の弾圧に包まれていた。

男「センセー、これって何の授業でしたっけ。」

教師「どれだけ居眠りして授業を消化しようとも、そんなマンガは教材として取り扱わないから安心しろ。」

友「いや、むしろ危機感を持て。」
9 :まちがって書いちゃったよ・・・ ◆N1RGqRourg :2011/11/09(水) 11:19:17.13 ID:5l5SxB660
教師「この授業は保健体育です。」

男「・・・どっちも一緒じゃないの?(ボソッ」

友「お前は体育館の外観だけでコーフンしそうな奴だな。」

 失敬な奴だ、俺は変態ではない。

男「―というか、先生は保体の教科書を音読させようとしたんですかっ!!スケベィ!」

教師「お前に言われたかないわっ!私だってセクハラでお前を事案定義することだって出来るんだぞ!」

男「人を性犯罪者みたいに・・・っ!!音読ぐらい、俺以外にも出来る人はいるでしょうが!」

教室全体「むしろお前が適任だろう」

教師「・・・大体が恥ずかしがって小声だよ。」
教師「お前みたく、起き抜け一発目で青年誌熱読するやつなんざ稀だ。」

男「ぐぬぬ・・・。」
10 :書き溜めする時間をください・・・ ◆N1RGqRourg :2011/11/09(水) 11:31:25.49 ID:5l5SxB660

―キーンコーンカーンコーン…―

友「あ・・・」

教室「がっ・・・」

男「ぬ・・・」

教室全体(しら〜・・・)

 なんだこのアウェー感・・・
いつもより薄いじゃないかっ!!

男「今回はこのぐらいにして差し上げますよ!うぉっほっほ!」

教師「お前のお陰で、人としての器が大きくなってゆく気がするよ。」

 そんな事を仏の表情で言わないでほしい

友「うぉーい!男〜!購買のパン売りきれっぞぉ〜!!」

 窓の外から友の呼ぶ声がした。

男「・・・ここ何階でしたっけ?」

教師「3階さ。」

男「・・・おつかれさまでーす。」

教師「お前と友のコンビネーションはやっかいだなぁ。HAHAHA!!」
教師「まぁいいや、はい、キリー、レー、行ってこーい」

 友よ、お前の素早さはどうなっているんだ。

そんな雑念にとらわれながら、俺は教室を出た。

案の定パンは売り切れていた。
11 :お仕事行ってきます ◆N1RGqRourg :2011/11/09(水) 11:33:19.19 ID:5l5SxB660
ぽちぽちと続けていきます。

書き溜めする時間がないので、これからも時間がかかります。

次は今晩中に書く予定です。
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/09(水) 16:53:30.07 ID:o0OmQTzDO
13 :みかんの筋を必死に剥いてたら遅れた ◆N1RGqRourg :2011/11/09(水) 22:46:35.29 ID:5l5SxB660

男「いや、案の定ってなんだよ…」

 確かに俺は考え事はしていた、だがそれでも人並みの歩行速度だったのだ。

男「この学校のパン買い猛者どもはどんだけ脚が速いのか…」

友「お菓子パンみたいやね〜」

 俺の真向かいに座りミルクパンをもふもふといただいてやがるコイツは、
いつの間にか購買部にたどり着いている素早さの甲斐あってか一番乗りだったそうな。

友「んぐんぐ)んくっ、あれ?今の巧くなかった?」

男「シラネェよ」

 俺は菓子パンを買えていないのだぞっ!

友「うん、わかんなかったならいいや。そいでさ―」
友「”今日はどうするの”?」

 突然だが、俺には特別な能力がある。

ありていに言えば、身体一つでタイムトラベルできるのだ。

友「―っても決まってるか。食堂が閉まっても未練たらたらしく減っていないお昼代を持て余してるみたいだし?」

 そう、俺は未だにお昼を食べていないし買ってすらいない。

それはひとえに菓子パンに固執しているということなのだ。

そんな些細な欲望を満たすにも、俺の持つタイムトラベルは安易に役立つ。それほどにお手軽だがしかし―

男「うぅむ…」

―大きなリスクがまだみつからないのがネックだよなぁ…―

友「やっぱ悩む?」

男「うん…正直、反則過ぎるだろ?」

友「その考えは正しいと思うよ。まぁ一応、レシート渡しておく。」

 別にこいつに集られている訳ではない。

むしろ俺がこいつに集っている。
14 : ◆N1RGqRourg :2011/11/09(水) 23:02:39.60 ID:5l5SxB660

 校内でレシートの発行はいいのだろうか?と思いつつ、簡素な購買部のレシートを貰う。

友「あ、ついでに言っておくと、次の授業は”保健”をとっぱらった”保健体育”だからな。」

男「?……ホケンをとったホケンタイイク…??あ、あぁ。なるほど。」
男「―おいおい、そりゃあ益々飛んでパン買わなきゃならんじゃないか。」

 というか、昼休み前に保健体育の授業やってたの?スケベィ!

友「変な顔になってるぞ〜。」
男「フガッ!プガッフガガ~!!」

 妄想の最中だというのに、レシートをくれたこいつは俺の鼻をひっつかみやがった。

男「ハガヘッ!!ハッハハトハガフンハッ!!(離せっ、さっさと離すんだっ」
友「あぁーはいはい。(パッ」
男「プヘッ…意外と痛いな。」

男「それで、また訊くけどさ…」
男「お前はそれでいいのかよ?」

友「たはっ、またそれぇ?」

 照れ隠しのように破顔一笑してから、友は頭をぽりぽりとかいた。

俺の能力、タイムトラベル――正確には違うが――の効果を感じるのは主観のみなら俺だけのはず。


ならば、俺の能力を唯一知っているこいつは、俺が時間を飛ぶたびにその間の自分の記憶が無くなる―

つまりその間の人の記憶や感情を俺が[ピーーー]ような行為を、こいつは容認しているということになる。
15 : ◆N1RGqRourg :2011/11/09(水) 23:15:43.26 ID:5l5SxB660

友「別に構わないよ、今のボクと記憶が違うのなら、それはどうしたってボクとは言い切れないから。」

 照れくさそうに言ってるけど、それって答えになってるのか?

男「…お前がそうならいいんだけどさ。」

 クシャっと、今貰ったレシートを握り締める。

拳の中に熱を感じる。
レシートが蒼い光になってどこかへさらさらと飛んでゆくイメージを視る。

男「なら多分、今のお前とはこれでオサラバだ。」

友「いつも言ってるよね」

 ぐっ・・・正しいが正しくないぞその指摘。

友「まぁ、いつの時間だろうと、ボクがそこにいればボクはボクだと思うし。」

男「抽象的かつテキトーな奴だなぁ……」
男「それじゃあな。菓子パンはおいしくいただいてくる。」

 俺は、その時間から消えた。
16 : ◆N1RGqRourg :2011/11/09(水) 23:16:24.89 ID:5l5SxB660

友「別に構わないよ、今のボクと記憶が違うのなら、それはどうしたってボクとは言い切れないから。」

 照れくさそうに言ってるけど、それって答えになってるのか?

男「…お前がそうならいいんだけどさ。」

 クシャっと、今貰ったレシートを握り締める。

拳の中に熱を感じる。
レシートが蒼い光になってどこかへさらさらと飛んでゆくイメージを視る。

男「なら多分、今のお前とはこれでオサラバだ。」

友「いつも言ってるよね」

 ぐっ・・・正しいが正しくないぞその指摘。

友「まぁ、いつの時間だろうと、ボクがそこにいればボクはボクだと思うし。」

男「抽象的かつテキトーな奴だなぁ……」
男「それじゃあな。菓子パンはおいしくいただいてくる。」

 俺は、その時間から消えた。
17 : ◆N1RGqRourg :2011/11/09(水) 23:34:15.57 ID:5l5SxB660

―――――。

 蒼く、淡く輝く砂粒。
蒼い大きな渦がその集合体。

 俺のタイムトラベルには、いくつかの制約がある。

その内で一番大きい物が、”手元に何らかの情報がないと時間を飛べない。”ということ。

そして更に、その情報が記録された時間と場所にしか行き先は選べない。


 発掘大好きな考古学者などは重宝しそうな制約だが、
未来に帰る為にはかなりめんどくさいプロセスを踏まえなければならないので、俺は何千何万年も時を越えるつもりは無い。


 どこか遠くの渦の中から、いくつかの蒼い光が漏れ出て行き、遠いどこかの星の表面で集まる。


その光が、サラサラと握り締めたレシートの形に寄り集まってゆくイメージ。

足先から頭へと下降感が走り巡り、足元に地を踏みしめる痛みを感じるとともに、蒼い光のレシートはサラサラとまた崩れ去ってしまった。


 ゆっくりと息を吐く。

正直辛い。

時間を飛ぶことがじゃない。

飛ぶ時に椅子に座っていたので、今は完全に空気椅子なのだ。

男「フッ………フゥッ…フフゥワツ!!」

 体に限界を感じ、眼を見開いてゆきながら、思いっきり後ろへと倒れた。
18 : ◆N1RGqRourg :2011/11/10(木) 00:42:29.35 ID:lOYosIw90

 受身はカンペキにっ!

と、体を丸めてゆくが、すぐ後ろに壁があった。

男「あだっ!!っつぅ」
友「たはっ、大丈夫?」

 購買部のおばちゃんからおつりとレシートを受け取りながら、苦笑しながらも心配そうに俺に振り返る友。

心配はいらないと手を振って応えるが、正直声が出ない。

おばちゃん「おぉやまぁ、今日も巧く隠れたもんだねぇ。」
おばちゃん「友ちゃんから今日も隠れてるって聞いてたけど、いつも全然わかんないんだもんねぇ」

男「は、ハハハ…(ゲホッ」
友「ホラ、立てるか?」

 友の差し出す手をつかみ、助力と一緒に立ち上がる。

男「はぁ…はぁ…空気椅子は辛いなぁ……おばちゃん、クリームパン一つ。」

 立ち上がるときの勢いをそのまま購買部の受付にぶつかるようにしがみつく。

おばちゃん「無駄にがんばったねぇ!飲み物おまけしたげるわ!」
男「おぉ…太っ腹!」
おばちゃん「倍額取るぞ」
男「スリムウェストッ!!」

 デレデレと顔を綻ばせながら、購買のおばちゃんはカフェオレを2つくれた。

男「2つも良いと申すか…かたじけない…っ!!」

 言いながら、クリームパンの会計をすませた。

教室でゆっくり味わうか。

小銭を尻ポケットにつっこんで、友と連れ立って歩き出す。

男「おーおー、パン買い猛者があわてておるわい!」
友「お前のせいでありつけなくなる奴が一人くらい出るかもな」

男「ぐっ……それを言うなよ…」

友「でもまぁ、よかったよ。今日も来てくれて。」
男「?、なんで?」
友「「男が隠れてる」って購買のおばちゃんに嘘吐くところだった!」
男「え、いやいやいやいや!予定嘘もいいところだろ?!」

 どうころんでも嘘つきになるぞ、俺は隠れてなかったからな。

男「なんかもっとこう……友情味溢れる話かと思ったのに…」
友「友情味?たとえば、どんな?」
男「「一人で食うより百倍いいからなっ!」とかさぁ…」

友「それは今でも難しいんじゃないかな……たはは」

男「えっ…?」

 バツが悪そうに、友は俺の手元を指差した。

互いに立ち止まって、その指示の先を俺はゆっくりと眼で辿った。

そこには…――

男「なにも……ない…?!」

 そんなまさか!わざわざ昼食のために時を越えてきたというのに!

これがバタフライ・エフェクトというものなのだろうか。


男「これが…タイムトラベルのデメリット……!」
友「いやいや、違う違う。絶ぇ〜っ対に違ぁ〜う。」

友「お金払うだけ払ってパンを受け取ってなかったじゃないか。」
男「悪い、ちょっと急用を今お前に知らされた。行ってくる。」

 言い切るのもまどろっこしくて、言葉の途中から駆け出していた。

友「…走れエロスか……食欲なのにな。」
19 : ◆N1RGqRourg :2011/11/10(木) 00:53:30.30 ID:lOYosIw90

―――――。


男「ここ数十分で、この道三往復目だぞ…」

男「まぁ。主観だけだけど。」


 パン買い猛者勢が一通り購買部の在庫を片付けた直後、
震える声でおばちゃんに話しかけた今しがた。

おばちゃんの馬鹿笑いと共に忘れ物のビニール袋を贈られ、俺はまたまたこの廊下を通るのである。

男「パン買い猛者勢は凄い勢力なんだな…」
男「ラッシュが終わった途端、閑散としすぎだろうこの廊下…」


 昼休みは誰もが通る道だというのに…

などと嘆かわしく思いつつ、教室にて待たせる友のことを申し訳なく思っていると――


 「そこまでです、タイムトラベラー。」


 ―勝気な雰囲気の見知らぬ女生徒が、俺の前に立ちはだかった。
20 :眠気 ◆N1RGqRourg :2011/11/10(木) 00:56:15.76 ID:lOYosIw90
瞼が重いので、今回はこの程度です。

続きはまた時間があれば。

おやすみなさい。
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(東海・関東) [sage]:2011/11/10(木) 01:08:27.04 ID:LdnG2KCAO
次も期待してる!
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage. saga]:2011/11/10(木) 01:16:48.11 ID:wKgZNPCIO
sagaって入れると死ぬとか書けるよ

ピーってならない
23 :眠い ◆N1RGqRourg [sage]:2011/11/10(木) 01:47:37.91 ID:lOYosIw90
>>22
なるほど!

この板でsageは意味があったかどうか思い出せなかったので助かります!

ちなみに、
>>14の最後の行は
「人の記憶や感情を俺が[ピーーー]ような行為を」と書きました。
24 :眠い ◆N1RGqRourg [sage. saga]:2011/11/10(木) 01:49:16.05 ID:lOYosIw90
ミスった!

「人の記憶や感情を俺が殺すような行為を」です。

もうしわけない
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/10(木) 19:49:39.38 ID:QW9atSaTo
sageも意味はあるよ
26 :お風呂で逆上せて遅れた ◆N1RGqRourg [sage. saga]:2011/11/10(木) 23:17:50.23 ID:lOYosIw90

―――――。


女「――聞いていますか?」


 一見さんの癖に俺がタイムトラベラーだと見抜いたこの生徒 ―名前は女というそうだ― は、
「ここでは人目につきます」と、場所を変えようと薦めてきた。

 もちろん俺は二つ返事で快諾。

だって、―――こんな機会そうそうないだろうっ?!


男「モチロン!聞いてる聞いてる!」

女「でしたら、私が言った様にこの手を離して欲しいのですけれど。」

 手を離して欲しいと何度も言われたが、そんなものは却下だ。

男「どこで俺の能力知ったの?!教えて教えてっ!!(ぶんぶん」

女「なぜっ、そんなにっ、よろこんでっ、いられるのっ、ですかっ!」
女「―あぁっ!もう煩わしいっ!!」

 喜びのあまり、握り締めた彼女の両手をぶんぶんと振り回してしまったが、
そのせいか手を振り払われてしまった。

そんなことよりも、彼女の疑問に応える事を優先した。

 なにせ一番言いたかったからっ!

男「俺と同じ能力でも持ってたら嬉しいじゃないか!」

 ずるっ…と何も無い場所で女が足をくじいた。器用な奴だ。

女「貴方には、危機感というものが欠落しているのですか?」
男「危機感なんかより、孤独感が、好奇心が、ワクワクが勝っただけさ!」
女「…孤独感?」

 その一言を反芻し首をかしげる女に、バッと両手を開いて心から漏らす。

男「ん〜……ぅっと、ずぅ〜っと待ってたんだ!!」
男「俺が、"俺だけがこの時間で一人ぼっちじゃない"って教えてくれるような奴をさ!」

女「………へぇ」

 身を引き、警戒の姿勢を解かないまま、女は感心したように漏らした。

女「個人的には、同情致します。けれど、貴方には処罰を与えねばなりません。」
27 :お風呂で逆上せて遅れた ◆N1RGqRourg [sage. saga]:2011/11/10(木) 23:37:12.35 ID:lOYosIw90

男「あだ…素直に喋ってもごまかせなかったか……」

 なんとなく、ほんとになんとなくだけど、こいつからは警察のような厳かな雰囲気を感じていた。

多分、タイム○トロールとかそんな身分なんだろう。
だとしたら、毎日のように時間を飛び越えて面白おかしく過ごしている俺はなんらかの処置を施されるはずだ。


男「…危機感はあったさ、アンタが警察みたいな組織だったら、俺はただじゃ済まないんじゃないかってね。」
男「さぁ、なんでも言ってくれ。俺は単純に計算して3年分程の人の記憶を潰して過ごしてきた。」

男「今の間に覚悟は出来ている。」

 決まった!
俺の最期、カッコ良く決まったよ!!

女「…観察していた時とはずいぶん性格が違うのですね。」
男「実はこっちが素だよ。あんまりいろんな人と仲良くしたくないんでね。」
女「…口が軽いのは変わりませんが。」

 ぐっ…予想以上に容赦ないな…

男「それで…?処罰ってのは…」
女「そうですね……う〜ん―」


女「では、タイムトラベル禁止で。」


 ………

男「………」

女「………(パラパラ…」

男「えっ」

女「えっ」

 えっじゃねぇよ、
女は手に持っていた羊皮紙のようなB4サイズの分厚い本を開いていた。

男「それだけ?」

女「それだけとは?」

男「えっ、あっ、いやいや、処罰ってのだよ!」

女「えぇ。記録を見るに、使用頻度の高さからしてかなり時間渡航に依存しているものと判断し、」

 パタン…とその本を閉じ―

女「やめさせれば十分な処罰になるかと思いまして。」

 とっても精神的…

男「いやいや!上司とかに相談しないの?!」
女「上司?そんなものは居りませんが。」

 アンタも大概口が軽いねぇっ!
28 : ◆N1RGqRourg [sage. saga]:2011/11/10(木) 23:55:06.65 ID:lOYosIw90

男「そういうのってホイホイ口にしていいことなのか?!」
男「ってか、それ以前に上司が居ないって……横社会企業かよ…」

女「……?」


 眠そうな瞳で首を傾げやがった!
俺がこいつから感じた緊張感はなんだったんだ…

男「わかんないならいい…」
女「そうですか。(パラッ…」

男「………」
男「…いやちょっとまて、前者だけは答えて貰おう。そんな重要なこと、ペラペラと喋っていいのか?」

女「?…あまり重要な事ではありませんでしたが。」

 パキッ!と、頭の片隅に蒼い銀河のイメージが割り込んだ。

 「―こうすれば納得していただけますか?」

 思わず頭を抱えそうになった瞬間、後ろからいきなり声をかけられ、肩で思いっきり驚いてしまった。

 遅れて跳ね返るように振り向くと、


―そこに女が居た。


男「………あぁ、なるほど…」
女「ご理解いただけましたね?」
女「こういうことですので、並大抵の人間風情の運動神経では、私の不意を突いたり組み伏したりは出来ません。」

男「……ナチュラルスケベィ」
女「遺憾です。」
29 : ◆N1RGqRourg [sage. saga]:2011/11/11(金) 00:06:53.16 ID:UlAwgUiM0

男「…お前、今未来から来ただろ」

 俺の指摘に女は、眠たそうな半眼を真ん丸く見開いた。

女「よく理解できましたね、予想外です。」
男「言っただろ、俺はこっちが素なんだ。」
女「ご指摘の通り、私は数十秒後に突然、私に向かって飛び掛ってきた貴方から逃げる為、そして貴方を納得させる為に時間を飛びました。」
男「いつぞやの俺がご迷惑おかけいたしましたぁっ!!(ドゲザァッ」

 疑問に思うのはわかるが解決策が強引過ぎるぞ消えた時間の俺!!
誤解を与えかねないだろうがっ!!

女「構いません。観察していた時からそういう人だとは理解していましたから……」
女「でも、少し怖かったです…」

男「本当にごめんなさい。」
30 : ◆N1RGqRourg [sage. saga]:2011/11/11(金) 00:12:12.62 ID:UlAwgUiM0

男「…お前、今未来から来ただろ」

 俺の指摘に女は、眠たそうな半眼を真ん丸く見開いた。

女「よく理解できましたね、予想外です。」
男「言っただろ、俺はこっちが素なんだ。」
女「ご指摘の通り、私は数十秒後に突然、私に向かって飛び掛ってきた貴方から逃げる為、そして貴方を納得させる為に時間を飛びました。」
男「いつぞやの俺がご迷惑おかけいたしましたぁっ!!(ドゲザァッ」

 疑問に思うのはわかるが解決策が強引過ぎるぞ消えた時間の俺!!
誤解を与えかねないだろうがっ!!

女「構いません。観察していた時からそういう人だとは理解していましたから……」
女「でも、少し怖かったです…」

男「本当にごめんなさい。」
31 : ◆N1RGqRourg [sage. saga]:2011/11/11(金) 00:35:37.75 ID:UlAwgUiM0

―――――。

男「冷静に考えて、あいつが時間を越えてきたのは良かったんだろうか?」
男「……いや、なにも言うまい。」

 どう転んでも死んだ俺が悪いのだ、
いきなり飛び掛るなんて…


男「ハァ……(パラ…」
友「昼休み中に教室でペンギンク○ブを堂々と読みながら溜息を吐く君は一体なんなんだ。」
男「研究だよ…(パラッ…」

 どういった挙動がそう捉えられかねないかのな…

友「(聞きたくなかったな)」
男「俺は今、読心術を会得したのか?(パタン」
友「………(ジー…」
男「………」

 そんな大層な術はいらなかったかな。

こいつの視線の先を見たら、何を求めているのか安易に理解できた。

 手に持ったクリームパンを動かす、と、友の視線がそれを追っていく。
動かす、追う。動かす、追う。

男「……(楽しいな」
友「イジワル…」

 涙目でそんな事を言うなよ。

童顔だから変にドキリとさせられる。

男「半分やるよ。」

 クリームパンを半分に割り、食いちぎられていない方を渡そうとするが―

友「ちょっとでいいよ(パク」

 差し出し損ねたきれいな半月が俺の手元に残った。

男「へいがーる」
友「……?なんか、はじめてこういうこと成功した気がする。」
男「…………。」

 そりゃあ、お前がそんなことする度に何度も時間を越えてやりなおしてますからね。

友「ふふん、まぁ嫌われてないみたいだしどうでもいいか!」

 おまえさん幸せそうですね。

教室全体「……………」

男「………」

 これは…案外あの処罰は効くかも知れない。
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/11(金) 00:39:58.85 ID:oXZItSoQo
友女?
33 : ◆N1RGqRourg [sage. saga]:2011/11/11(金) 01:41:19.66 ID:UlAwgUiM0

―――――。

男「(右、左、前方、…)(キョロキョロ」

男「今だっ…(タタタタッ」


女「そこまでです、タイムトラベラー!」男「またかよォッ?!」


 午後に入ってからが、俺の本当の地獄だった。

女が下した俺への処罰で、友からの相次ぐアプローチを捌ききれずにメンタルダメージ。

そして、意外と心配性な女自身のダイレクトアタック。

 今日つける日記の予定は、順調にいつもより長くなっていった。


男「おまえ、いい加減にしろよ!」

女「と、いいつつ私がボロを出してもいいように、と人通りの少ないルートを選ぶ貴方は紳士気取りですか?」
男「余計な気遣いさせてんのはお前だっ!なんで現われる度に俺の正体を叫ぶ?!」
女「嘘は言っておりませんが…?」
男「それが問題なんだよぉっ!!」
 
 裏庭の清掃時に、気になる掲示物へと近寄った時。
 トイレで用足ししようと、ジャージのウェストバンド部分に付けられたネームスペースに手をかけた時。
 誰かの落し物を拾った時。
そして今―

 この女、事あるごとに「時間跳躍はさせません!!」と殴りこんでくるのだ。

男「心配しなくとも飛んだりしないからもう叫ばなんでくれ…」
女「そういいつつ、その今持っている本に記された情報を辿って過去へ飛ぶつもりですね。そうはさせません。(パラッ」

 勇ましく、あの本を開いて「かかってこい」といわんばかりの空気を醸し出す女。

男「借りてた本を返しに行くだけだっての…」
女「はっ、つまり図書室にて古い本を探すつもりですね。そうはさせません。」
男「………。」

 同じことを繰り返す女に、この話題を続けてはいけないという天啓を得た俺は、話をはぐらかそうとしてみる。


男「その本はなんなの?」
女「人の行いを、時を越えて記す書物です。」
男「(おっそろしいものを…)…それで何するつもり?」

女「貴方の恥ずかしい行為のみを抽出して音読します。」
男「えぇいっ!本の虫という名の害虫めっ!!」

 こいつは、飛ばないタイムトラベラーを社会的に抹殺するのが仕事なのだろうか。
ちっこい体躯に似合わず、こいつの声はどこでも良く通るので迷惑だ。

男「こんなことされても俺は飛んでないぞ!どうだ?!これをしばらくの信用にしてはくれないかっ!!」

女「いいでしょう。」
男「即決?!」

女「ただし、しばらくの…です。」
男「あ、あぁ!それまでに別の信用を用意しておこう…」
女「また私を襲おうとしたら、過去の貴方を叩きます。」
男「絶対しないって…」

 現にこうして距離をとり続けている。
物の本によると、ある種の男性は、女性に近づいただけで刑事事件として取り扱われるそうだ。

 こいつが延々と距離を詰め続けてくるのであまり意味は無いが…
34 :夢中で打ち込んでいたら長くなった、読みにくくてゴメンネ ◆N1RGqRourg [sage. saga]:2011/11/11(金) 01:47:16.96 ID:Bq3stNKz0

 …図書室の前でグルグルと回り続ける二人組み。
端からみれば奇妙だが、放課後の校舎には生徒は滅多にいないので心配無用だ。

女「…ですが、研究と称してあの本を読んでいたではないですか……溜息を漏らすほど熱心に…」

男「?!ま、まって?!何の話……あぁっ!!あれか!あれは真逆の勉強だ!!」
女「真逆……私にはそんな趣味はありません…ぴ、ピンヒールだなんて履きませんから…」
男「真逆のベクトルが違う!!というか意外と詳しいなお前!!」

 頭二つ分程小さなこいつを女王様と呼ぶつもりなど無い。
というか、誰にであろうとそんな敬称を使うつもりは無い。


女「”お前”ではありません。私には”女”という名前があります。」
男「?!」
女「貴方はすこし女性に対して「お前」だの「アイツ」だの「アンタ」だの言い過ぎです。」
男「えっ、あぁ、うんごめん。なさい…女さん…」
女「よろしい。貴方のそういった部分は良評価に値します。」
男「あ、え、はい。………って、違う!」

友「何騒いでんだーい?」

 あまりに声を出しすぎたせいか、図書室から友が顔を覗かせてきた。

男「あ、いや悪い。気にしないで。」
友「一人で騒いでたんかい?」
男「えっ」
友「えっ」

 周りを瞬時に見回す。

男「あ、あぁ!うん、一人なんだぁ〜ははぁ〜。すっごく胸糞悪いことから、タイムトラベルで逃げてきたからさ〜ハハハハハ」
友「?………」

 しまった、逆に怪しかったか…?

友「ん〜…時間を飛んで今に着いて騒いでたって事は……」
友「もしかして、その本に落書きでもして、それを辿ってきたりした?」

 よかった!こいつ考え過ぎてる!

男「あ、あぁ!そうそう。ごめんな、図書委員なのに迷惑かけて。」
友「ん〜…バッッッカヤロ!!なんて言うほどでもないっしょ?ありふれてるし。」
男「あはは、あ、あとついでに、いつもこいつだのそいつだの言ったことも含めてゴメン!」
友「「コイツ」「ソイツ」って…本人相手にしてない時の言い方だよね」

男「あ」

友「ぷっ」
友「まぁいいや、意外と気にしてたみたいだから許してやろう。」
友「たはっ、この本の返却はボクが済ましておいてあげよう。」
男「…ありがとう」
35 :はい、友は女です。 ◆N1RGqRourg [sage. saga]:2011/11/11(金) 02:19:46.16 ID:UlAwgUiM0

―――――。

友「もしかして、さ…」
男「うん?」
友「ボクの仕事が終わるまで、いつも待っててくれてる?」

 図書室で適当な本を読みながら時間を潰していたら、
受付にいた友がローラーの付いた椅子に跨りながらスイスイとこちらに回り込んできた。

男「…どうだろうな。」
友「ふふん、寂しい奴め。」

 意外と傷つくな。

男「そういうお前……は大丈夫だな。委員仲間とも仲良いし、教室でも浮いてないし。」
友「あ…気にしてた…?」
男「そのことを今おま…友に気付かされたっす。」

 自己保身やら慈善的な判断やらで、俺はあんまり友達を作らない。
でしゃばりたがりを演じながら、その実誰よりも秘密を抱えている。

男「…真逆のものが合わさり最強に見える……」
友「そんなこと言ってるから友達が少ないんだよ。」
男「ウッセェ…ズズッ!きにしちゃいねぇやぁぃ!!」

友「大号泣じゃないか、悪かったよ…はい、君のハンカチ返すから。」
男「アリガド……ズビズバー!!って…これ探してたやつじゃねぇか。友に貸したまんまだったのか。」
友「色々助かったよ、ありがとう。……色々と」

 な、なんだ!その含みのある言い方は!

友「ふぇーっふぇっふぇっふぇっ!!」
男「俺のハンカチで何をした…?」
友「そこの受付でこぼした牛乳拭いた。」

男「クッッッッッセ!!!!!」

 友は図書委員と俺のハンカチを何だと思っているのか。

友「喜ぶかと思って」
男「喜ぶかぁっ!!」
友「だって男がよく読んでる本だと、よく女の子が牛乳被ってるじゃないが。」
男「それは教室限定での読み物だろうがっ!!」
男「それに、ビショビショの受付台と男物のハンカチを見て誰が喜ぶっ?!」

友「妄想たくましい人が…」
男「なぁ、近い内にあの本全部処分するからその考え方は辞めようよ。」

 俺が悪かったから…
36 :妄想たくましい人です。 ◆N1RGqRourg [sage. saga]:2011/11/11(金) 02:33:07.28 ID:UlAwgUiM0

友「さて!なら一緒に帰ろうやァ、あにさんよォ。」

 パンッと手を打ちながら、友はいつものセリフを言い放った。

男「あれ?仕事は?」
友「最後まで残ってたのは牛乳拭いてたボクだけだよ〜」

 自分で仕事増やしてたんじゃねぇか

男「おっし、じゃあ送ってくよ。」

 マフラーを首に巻きながら、開き放した本を片付ける。
高い場所にある窓から見上げた空は、白い画用紙に筆で水を広げたように、うっすらと曇っていた。

男「図書室のあんな位置にあんな窓があってカーテンすら閉めていないなんて…」
友「君って細かいよね。」

 よく似た柄のマフラーを口元まで巻き込んだ友が、本棚の影からそんなことを言う。

男「何を言う、アルプスのコヤリの上位の広さはあるぞ。」
友「畳一畳にも満たないのか」
男「ばか者、空がコヤリを握り締めてこの星を支えておるのだ。」
友「タイムトラベル以外だとすぐふざける〜」
男「まぁ気にするな。」

 俺は俺の悩みで精一杯みたいなんだ。
37 : ◆N1RGqRourg [sage. saga]:2011/11/11(金) 02:49:58.56 ID:UlAwgUiM0

 友が準備室の戸締りをし終わるまで、出口でぼぅっと待っていた。
家に帰れば考えなければならない事が沢山あるな。

男「まずは日記にセーブでもするかぁ?」

 俺は毎日2回以上の日記をつけている。

その理由は単純で、何かの手違いで予想以上に時をさかのぼってしまった場合、日記を辿って未来に帰るのである。
理由はわからないが、手持ちの物は過去に飛んでも未来の形のままなのだ。
 タイムリープのようで、微妙に違う。所持品のみ引き継いで過去に現われる。
だから俺は、この力を大雑把にタイムトラベルと呼んでいる。

友「うぃ〜っす」
男「うぃ〜す」

 友が、鍵を持った手を小さく掲げながら走り寄ってきた。
小さなハイタッチを交えながら、友の鞄を手渡した。

男「鍵を持ちながらするもんじゃねぇなぁ。」
友「痛かった?」
男「ちょっとだけ。」

 季節は冬だからか、肌の痛覚が敏感になっているのだ。

二人並んで図書室を出ようとしたところで、友が貸し出し受付に振り返った。

友「…下品な牛乳…ケケケケッ」
男「謝ればピュアな頃の貴女に戻っていただけますか?」
友「無理な相談だ〜」

 てっぺんがうっすら赤くなった鼻をマフラーからみせて、ススッと鼻を鳴らす友。
寒そうなので、うなじの辺りでマフラーを蝶結びにしてやった。

友「おぉー、かわいい〜?」
男「さて、帰るか。」
友「おぉいちょっとまてぇい!!」

 家に帰ったら、俺が友をどう思っているかも整理しなけりゃならんかもな。
38 : ◆N1RGqRourg [sage. saga]:2011/11/11(金) 02:51:55.88 ID:UlAwgUiM0
今回はここまで〜

次回からちょっとずつSFに寄っていきます。

書き溜めはあいも変わらずありません。
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(新潟県) [sage]:2011/11/11(金) 03:10:44.62 ID:GdfOIpX5o
乙!
40 : ◆N1RGqRourg [sage. saga]:2011/11/11(金) 15:00:36.89 ID:UlAwgUiM0

―――――。


 目の前で、小さな女の子が泣いていた。


男「どうしたの?」

 屈んで、目線の高さを合わせて話しかける。

 「友達がね…?忘れてたの……アタシのこと…」

 グズグズと鼻をすすりながら、嗚咽をこらえて言う。

男「そっかぁ、ひどい友達だなぁ…」
 「悪く、言わないで…?」

 腫れて真っ赤になった眼で見上げられて、ドキリとする。

男「あ、あぁ、ごめんごめん。」
男「…とりあえず、はいコレ。」

 ハンカチを渡す。
牛乳やら俺の鼻水やらが染み込んだアレではない。
アレを失くしてから、新たに買った同じ柄の新品だ。

 「グスッ……ありがど…、ございます…(スンスン」

 そういって受け取るも、それで涙を拭おうともしなかった。


男「――あぁ〜、まぁ知らない人に渡されたらそうだよな。」
 「ね、ねぇ…おじさん……?」

 少しだけ落ち込んで空を見上げていると、小さな女の子は俺の袖を申し訳程度にひっぱった。
ハンカチで、涙でびちゃびちゃの手を拭っていたらしい。

男「ん?どうしたの。」

 「あのね…」

 涙も嗚咽も飲み込んで、震える声でその子は言った。

 「友達に、…なってくれませんか…?」

 ワシャッとその子の頭をなでまわす。

 「わっ!わわっ?!おわわわっ!!」
男「友達くらい、なってあげるよ!」


 ―おかしい。

いつもの俺ならそんなことは言わない。
ならこれはなんなのか、―それはうっすらとわかっている。

 これは夢だ。

女「何をしているのですか、ロリコン。」
41 : ◆N1RGqRourg [sage. saga]:2011/11/11(金) 15:37:01.81 ID:UlAwgUiM0

―――――。

男「夢じゃないっ?!――あでっ」

 予想通り、夢だった。
飛び起きた反動でベッドから落ちる。

男「―っててて……今、凄い飛んだなぁ」

 ベッドの中央で寝ていたはずなのに、ノーバウンドで床に落ちた。

男「………」
男「―以外、と、俺は女を怖がってるみたいだな。」

 コンコン…と、ベランダの窓が小突かれる音。

男「……鳥か。」

 ―コンコン―

男「今何時だろう」

 ―トントコトントコトコトトンッ!!―

男「…まだ学校までは時間あるな。」

 ―キュキュキュキュキュ〜〜ッ!!―

男「?!」

 窓ガラスを爪で引っかく音が聞こえた。
飛び上がってベランダのカーテンを開ける。

男「うおっ眩しっ」
女『アホですか。』

 俺はついに、悪夢の実体化まで会得してしまったのだろうか。

女『朝早くに失礼致します。』
男「まぁ構わんが…(ガラララ…」

男「さぶっ!?」
女「貧弱ですね、お邪魔します。」
男「ガラララ…バタン)玄関から来いよな…」
女「ご家族に迷惑かと思いまして。」

 父親も母親も、仕事の関係で中々帰ってこない。そして俺には兄弟が居ない。
なので今は家に俺しかいないのだが――

 ?!、ま、まてよ……
家に若い男女が二人だけ……これは青年誌的に非常にテンプレートな展開ではないだろうか…?!

こ、このままでは、意外と心配性な女が過去の俺へ制裁を加えかねない…

 コンマ2秒でそこまで考えた俺は、パソコンデスクのキャスター付きの椅子を用意した。

男「どうぞどうぞ。」
女「ベッドに失礼します、窮屈なのは苦手なので。」

 言いながらベッドの縁に腰掛けた女。
こいつ!!誘ってやがるのか?!?!し、しかし俺には昨日心に決めた人が――

女「お訊きしますが、時間跳躍を行いませんでしたか?」
男「へ…?」

 たったひとりの大戦争中に話しかけられ、少しほうける。
が、急いで持ち直した。

男「…いや、してないけど。なに?もう免罪符は期限切れ?」
女「そういうわけでは…ありますね。えぇ。まぁ知らないならいいのです。(パラ」

 遭遇すると一分以内に本を開く奴だな。
42 : ◆N1RGqRourg [sage. saga]:2011/11/11(金) 15:47:29.03 ID:UlAwgUiM0


男「…その本、名前はあるのか?」
女「特に銘打たれておりませんが、以前”閻魔帳”と呼ぶ人が居ましたね。」

 言いえて妙だな、中身を見たことはないが。

女「ただ、だとしたら酷いシステムですよ。」
男「?…なにゆえ?」
女「いいましたよね、コレは時を越えて人の行為を記す書物。―」

女「―要は、パラレルワールドの出来事ですら記されるのです。」

女「そんな理不尽な本を読んで、覚えの無い罪で地獄に落とされたら堪りません。」
男「はぁ、まぁ確かに。」

 お前が言えた事かと思ったが口にはしない。

女「なので私は、コレを”バタフライ・サンプル”と呼んでいます。」
男「ばたふらいさんぷるぅ?」
女「バタフライエフェクトをサンプリングする本、という意味です。時間渡航者を取り締まるにはもってこいなのです。」
男「ふ〜ん、つまり俺は今、丸裸なのか。」

女「……貴方はすぐにそちらの方向に話を持っていきますね。」
男「待ちたまえ、とても遺憾だ。」

 どちらかといえばコイツが一番持っていっている気がするのだが。

男「俺のことしか書いてないの?」
女「今はそうですね。しかし、知りたい人の事ならばいくらでも表れます。」

 なんとなく、友が今どうしているかが気になった。

女「……スケベな顔をしていますね。」
男「……否定はしない。」
女「おや?今、パラレルワールドでは貴方がこの本を強奪して熱心に読みふけり始めたと書いてありますね。相手は…(バタン」
男「読まなくていい。」
女「残念です。」
43 : ◆N1RGqRourg [sage. saga]:2011/11/11(金) 16:02:55.80 ID:UlAwgUiM0

男「なんとな〜く察しはついてるんだけどさ…」
女「はい?」

男「その本で、自分のことは見たりしないの?」
女「貴方は、この本を手にしても尚そんな恐ろしいことを言えますか?」
男「…どうだろうなぁ」

 むしろ、人の事を読まないと思う。
タイムトラベル以上のズルをして、俺が更なる卑屈にならないヴィジョンは想像できない。


女「1ページ読めばわかりますが、全ての人は常に生きるか死ぬかの選択をしています。」

女「選べる行為が100以上あっても、そのうち50は死ぬ道、残り50が生きる道になっていることがわかります。」

女「過去にのこした蟠りを紐解いて、あの時あぁしていれば生活がもっとよくなったかもしれない。という勝手な目算が真実だった時―」

女「――それまで歩んできた時間を全て後悔することになるのですよ。」

女「そうなって、すぐ傍にあった死の選択をした人を、この本越しにですが、いつも見ています。」

女「自分もそんな内の一人だとは……怖くてとても思いたくありません。」


 女の独白は、時間渡航者である俺だからこそ共鳴するところがあって、
そしてその辛さはこの苦しい想像をはるかに凌駕するんだろう。

 けど―

男「女さん、貴女は昨日、学校で俺に似たようなことしようとしましたよね。」

 恥ずかしい事を抽出して叫ぶとか何とか。
44 : ◆N1RGqRourg [sage. saga]:2011/11/11(金) 16:12:27.85 ID:UlAwgUiM0

女「理屈で追い詰めようとも、私にはこの本があります。敵に回さないでください。」
男「いや、うん、悪かった。気にしないでくれ。」

 得意のはぐらかしでうやむやにした。
だって反撃が怖いじゃないか!!今さっきだって恥ずかしい項目増やしたばかりなんだし!!

女「では――」

 そういって、女は俺にその本を寄越した。

男「へっ…」
女「貴方も、この本を読めば、タイムトラベルに慎重になるかと思いまして。」
女「私が持っていますので、ご自由なページをめくって下さい。」

 突然の出来事にしどろもどろになるが、その魅力的な提案に俺は半ば折れていた。
もともとタイムトラベルには慎重なのだ、これ以上何を失う?

 ゴクリと喉を鳴らし、俺はゆっくりと本を開いた。

男「さ、索引はいずこに?」
女「そんなものはありません。適当に開いて、知りたい人を思い浮かべてください。」

 ぱらぱらと紙を送り、自分のイマジネイションに集中する。

俺が知りたいのは…―

俺が知りたいのは…―
45 : ◆N1RGqRourg [sage. saga]:2011/11/11(金) 16:14:56.47 ID:UlAwgUiM0
行動選択。

>>48

1、俺のこと。

2、女のこと。

3、友のこと。

4、その他。
46 : ◆N1RGqRourg :2011/11/11(金) 16:18:22.69 ID:UlAwgUiM0
もう家を出ないと!

すいません、じっくり思いついた設定全部書こうかと思ったのですが、
ルート選択で端折らせていただきます。

じっくり全部読みたいという奇特な方がいらっしゃれば、4番を選択していただけると幸いです。
47 :今日は凄く疲れた ◆N1RGqRourg [sage. saga]:2011/11/11(金) 22:31:11.17 ID:UlAwgUiM0
失礼、
どなたもいらっしゃらないようなので、じっくりやっていこうと思います。

完結にはかなりの時間がかかると思いますので、ゆっくりやらせていただきます。


しかし、今夜の更新はお休みです。
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/11(金) 23:04:27.62 ID:QEVvNrppo
居るが安価じゃなく自分で進めてもらいたい
駄目なら安価下
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(山口県) [sage]:2011/11/11(金) 23:21:37.02 ID:XqzHSnW00
念のため4番を選択しておく

出版社とかに応募する場合と違って、ネット上に書くなら容量や時間の制限がないのでじっくりやってください
50 :ありがとうございます、ゆっくりやらせていただきます。 ◆N1RGqRourg [sage. saga]:2011/11/12(土) 19:54:52.42 ID:gj0xhNs50


男「――……俺は、」

 次のページへとかけていた指を浮かし、本の表紙まで手を伸ばす。

―バフンッ―

女「…そうですか。」

男「本を読んでいてわかったろう。俺は弱い人間なんだ。」
男「今知らなきゃいけないと思っていても、人の事をずるして知りたくない。」

男「逆に、俺の事なんか、俺が一番わかってやれているんだ。」
男「これはどうやら俺が好意を抱いているらしい奴の話だがな…」

男「”いつ、どんな時代に居ようと、自分のことを全て理解してやれるのは自分だけ”だそうだ。」
男「だから、へたれの俺はその本で人の事を読んだりしない。ましてや自分を理解する為にそんなもの使ったりしない。」

女「逃げましたね」
男「言ってろ。」

 本音を言えば、魅力的過ぎて怖いんだよ。

女「…興味深かったのですがね、貴方がこの本を手にした時どのような反応をなさるのか。」
女「――パラレルワールドでの貴方は、この本を手にして大変な転機を迎えたそうですが。」

男「あぁーやめろやめろ!ねばらないでくれ!!誘惑に堕ちそうだ!」

 そのパラレルな俺の気持ちが痛いほどにわかってしまう…

男「……ってか、女さんはどうしてこんなに朝早くに俺の部屋に来たんだ?」

 それさえわかれば、今の誘惑にももう少ししっかり反発できたはずなのだ。

女「…たとえそうだとしても、別の誘惑からこの本の閲覧へと持ち込ませましたがね。」

 チラリ…と、第2ボタンまで離した制服の襟から健康的な肌色を覗かせる女。
いつぞやの教師の様に、きわめて仏の表情で事を流す俺。

男「お前さん、今、俺の思考まで読まなかったか?聞けば聞くほどおっかない代物だなぁ」
女「えぇ、貴方のことだけは何故か特別詳細に記されゆくのですよ。」

 「何故でしょう?」と首をかしげる。
―いやいや!かしげられても俺もわからんって!!
51 : ◆N1RGqRourg [sage. saga]:2011/11/12(土) 20:24:17.15 ID:gj0xhNs50

男「時間渡航者だからじゃねーの?他に居るのか知らないけど。」
女「そうなのでしょうか?私も貴方以外には遭った事がございませんのでよくわかりません。」

 そうか、そんなに厄介かけるのは俺相手の時だけなのか。

男「それが知りたくてこんな時間に?」

 カーテンを開けてわかったけれど、外は綺麗な朝焼けがうかがえた。
この目覚まし時計は少し速いのかもしれない。

女「いえ、目下特筆すべき質問はこちらにお邪魔した時にお訊きしたので最早構いません。」

 こいつ、わざとめんどうな言い方して煙にまこうとしてないか。

男「何が知りたかったんだ、安眠を妨害した罰として教えなさい。」
女「貴方が目覚めてから窓を叩いたと記憶してますが…(パラパラ」

 わざわざそんなことを調べる為なのか、女は本のページを手繰り戻してゆく。
…変なところが不便だな。

女「あぁ、ありました。貴方のことはいささか詳細に記されすぎている気もします。たった数分で何ページ使うつもりですか。」
男「それを聞かされた俺のみにもなってみてくれ。」

男「というより、そんなタイミング的な話を広げなくて良いんだよ。何を知りたかったのか教えてくれ。」
女「ここを読めばわかるかと思いますが―」

 そういって流れるようにある一文節を俺に指し示す女。
数瞬前の抵抗感を思い起こす間すら与えず目に焼き付けたその一文は――

男「―”昔なじみの友に会いに行った”?」
女「その直後の事象はこちらです。」
男「”なんだ夢か”……?」

 えっ、なに?夢落ちの話?
52 : ◆N1RGqRourg [sage. saga]:2011/11/12(土) 20:53:09.93 ID:gj0xhNs50

 初心者眼には、何が疑問なのかよくわからない。

女「そうですね、あまり見たくないというものを見せるのも酷でしょうし(パタン」
女「かいつまんでお話します。」


 そうして女が俺に聞かせた話は、俺の中の不確かな抵抗感を違う色に変えてしまうような話だった。


―――――。


男「……つまり、俺のこと、特に今ここにいる俺のこと以外の記録は、”ほぼ全てが第三者視点で記されている”ってことか?」
女「遠いどこかでの物分りの悪い貴方にあたらないで本当によかったです。」

 この能力を持っていたら嫌でも考えさせられると思うが…

男「……一応訊くが、それとさっきの文節がどう関係するんだ。」
女「うっすらと求める応えの輪郭が視えてきましたね?」
男「んなことはいいから、まずは俺の答え合わせをしてくれ。」
女「わかりました。―」

女「―つまり、”主観的な文章が連続しているのに、その前後が不明瞭だ”という事です。」

女「前後でなくとも不明瞭ですが。」

 確かに…昔馴染みって誰だ?

男「友…は違うよな……そんなに長い付き合いでは――」


―アレ?


女「どうなさいました?」

男「わ、悪い!その本をちょっと読ませてくれ!」
女「???」

 眉根を寄せて、首を右左とかしげる女。
それでもしっかりと本を握り締めて、俺がページを手繰れるように開いてくれた。

―パラパラ…―

 中ほどで開かれた本を、表紙へ戻るようにと一枚一枚めくってゆく。
あと少しで表紙をも捲ろうかというところで、それは記された。


男「――”ケダモノから少女を守った。認めたくは無いが、アレは最早ケダモノなのだ。”………」
53 : ◆N1RGqRourg [sage. saga]:2011/11/12(土) 21:18:49.13 ID:gj0xhNs50

女「ほんとうにどうなさいました?貴方だけ答えを得たようで不満なのですが」
男「……俺はここに記されている通りなのか…?」
女「男さん?」
男「……もしかして、この一人称で記されている奴とはよく似ているが違うパラレルの世界に居るのが今の俺なのかも…」
女「………」
男「………いや、むしろこの話自体が大嘘なのかも…よくできた嘘で、夢の話の事だって、寝言をかいつまんでまとめただけなのかも…」

男「…なぁ、でなきゃおかしいだろ?なんで俺の知らないことを知ってる奴が、俺とまったく同じ人生を歩いてんだよ…」
男「俺の事って数分で何ページも消費するほどに詳しく書かれてるんだろう?」

男「なのになんで昨日の出来事より前の記録が粗末なんだ?もう1ページ捲ったら表紙だぞ?」
男「俺の人生は昨日始まったのかよっ!!!!」

 目の前にあった椅子を蹴り飛ばす。

俺と友は結構長い付き合いなきがしていたが、それは俺の主観でしかない。

俺が単純計算で3年分にも及ぶ累計時間を無かったことにしたのは、友からの熱烈なアプローチを無かったことにする為だった。

俺の両親は仕事の都合で中々帰ってこないのは知っているが、両親がどんな仕事をしていてどんな顔なのかも知らない。

 飛ぶように本の最初のページを掴み、捲る。

――”ケダモノから逃げる少女をみかけた。”


俺のことのについて記された、本の冒頭はそう記されてあった。

男「……違う…違う違う…俺は昨日、寝不足だったんだ…」

 その理由はわからない―

男「昼休み、まで寝ていられると思ったんだ……」

 その理由はわからない―

男「そしたら案の定居眠りを見過ごしてもらえて……」

 その理由はわからない―

男「………」

 昨日のうち、覚えている記憶の最古は、それだけだ。

男「………俺って…」

男「俺って…昨日、突然学生として生まれたのか…?」


 確信的ななにかが心に根を張った。
54 : ◆N1RGqRourg [sage. saga]:2011/11/12(土) 21:21:42.03 ID:gj0xhNs50
序章終了ってことで。

今日もまだ疲れを引きずっておりますので、
早々に切り上げておきます。

ご質問があれば、応えられる範囲でお答えいたします。
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東海・関東) [sage]:2011/11/12(土) 23:53:30.42 ID:GV10NywAO
おもすれー
56 :ありがとう、励みになります ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/13(日) 19:04:46.69 ID:0MilYz6T0

―――――。

―永い、永い永い旅をした。

その旅の途中で、旅をしているという自覚を捨てた。
未だに俺は旅の途中だ。

 漫然と歩いているだけでは腹が減る。
眠気も襲ってくるし、性欲だって処理できない。

荒野の真ん中、夜の帳が空を覆おうと赤い幕を地平線の向こうに降ろしてゆく。

―困ったな―

 夜は危険だ、なんせ俺は夜目が効かない。
夜行性のやつらに囲まれたら一たまりもないだろう。
近くから、なにやら焦げ臭い臭いがした。
火が近くにあるのだろうか?ならば行幸だ。
その近くで休めば、しばらくは安心かもしれない。

 臭いに誘われ、フラフラと歩みを進める。
―と、突然足元の抵抗が無くなった。

どうやら、もう少し視線が高くないとわからなかったような段差を踏み外したらしい。

流石にあわてて、受身の姿勢もおろそかになる。
落下してゆく短い感覚の後に、強く背中を打ちつけた。

「―――ッ!!」

 一瞬、息が出来なくなった。
四つんばいの姿勢で起き上がり、視線を巡らせる。
大きな音に誘われて動物がやってきたりはしていないようだ。
小さく息を吐いて、自分の落ちた段差をふりかえる。
かなり横に広い段差だった、

―俺の背丈の2倍くらいあるんじゃないか?―

 それすらわからなかったということは、空腹も限界に来ているようだ。
偶然、段差にその穴を見つける。
人がぎりぎり入れるような隙間だが、そこから焦げるような臭いも漂ってくる。

―お邪魔するかな。―

 とりあえず一晩、その穴倉で明かすことにした。
狩りは明日に持ち越しだ。
57 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/13(日) 19:14:13.30 ID:0MilYz6T0

 穴倉に入ると、かすかな動物の臭いもしてくる。

―しめた、これで飯も心配ないかもしれない―

 奥へと進む足取りも、少し軽くなった。
ゆらゆらと、はかなくたゆたう明かりを見つけ、走り寄る。

焚き火だ、暖かい。

 生気の感じられない風を浴び続けたせいか、日中の散策で身体は冷え切っていた。
食欲が俺の中で首をもたげて荒れ狂っているが、暖かさからくる安心感には勝らない。
焚き火の傍でまるくなり、俺はそのまま眠りに誘われていく。

―帰りたいな…―

 滲みゆく景色のをみつめて、そんなことを思――

「ガッー――?!?!?!ッ―――!!!」

 突然、身体に鈍い痛みが降りかかった。
58 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/13(日) 19:39:23.31 ID:0MilYz6T0

 跳ねるように飛び起き、辺りを窺う。

「―――ッ」

 薄闇の向こう、明かりがぎりぎり届かない辺りで、4〜5人が手に手に武器を持って俺を囲んでいた。

―話の通じる相手じゃあないんだろうなっ―

 この荒野で、これまでも何人かの人間に出会ってきたが、どいつもこいつも俺の言語は通用しなかった。

―そんなに肉体言語が好きかい―

 ここでのルール、見ず知らず同士は生きるか死ぬかの戦いだ。

石槍や棍棒をさそうように振り、じわじわと俺を取り囲んでゆく野蛮人共。
歯を食いしばり、力の入らない身体を鞭打った。

「ガッ―――!!」

 腹から声を漏らしながら、集団に向かって飛び掛った。

俺めがけて振り抜かれた棍棒を、姿勢を低くして辛くも避ける。
振りぬき隙だらけのソイツのわき腹に、全力でぶつかる。

押し倒しながら、強く棍棒を握り締めたそいつの手首を爪で抉る。
耳を噛み千切る。
首元でぎゃぁぎゃあと騒がしいが、その声で他の奴らの思考を止めてくれるならありがたい。

―ザッ…―と、足を踏み込む音が頭上で聞こえた。

思考を挟む余地なく、俺はソイツの上から飛びのいた。
すると、そいつの首の横、俺の頭があった位置に石槍が突き立てられた。

―アレは…危ないな―

 冷静に判断し、先ほどのタックルの要領で槍の柄にぶつかった。
大きく撓りながらも、重さに負けた槍はバキバキと瞬く間に折れてくれた。

―が、俺が全力で飛びついた先では、また別の棍棒を構える男が居た。

空中でなすすべなく、振り下ろされた打撃を全身で受ける。

「――カハッ!!」

 掠れた悲鳴を漏らしながら、またも地面に叩きつけられる。

痛みと空腹とで、最早心が冷静さを保てなくなってきた。
闘争本能を滾らせて、またも棍棒を振り下ろそうとする男の足首に噛み付いた。
またも悲鳴が頭上が聞こえるが、今度は他の奴を惑わせるような物は期待できないだろう。

 遠のく思考でそう考え、ついに俺は理性を失った。


――しばらくのやり合いで、最期に立っていたのは俺だった。
59 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/13(日) 20:00:57.39 ID:0MilYz6T0

 気を失ったのか、死んだのか。辺りには4人の男が伸びていた。

俺はといえば、耳は欠けて裂傷も酷く、片目は血で見えなくなったいた。

満身創痍で辺りを見回すと、穴の端で、一人の女が藁を被って震えていた。

―あぁ、もう限界だ。―

 俺は血を滴らせながらそのうずくまる人に近寄り――


――空腹を抑えられなくなった。



―――

 甲高い悲鳴が近くで聞こえる
構わず肉を喰らう。

―――

 悲鳴は嗚咽に変わっていた
痛みに耐えられないのだろう。

―――

 押しても鳴らないほどの肉塊になったそれを
尚も貪っていると

背後でピチャリ…と音がした。

 何事かと振り向くと、小さな女の子が俺を唖然と見つめていた。

身体ごと振り向くと、少女は逃げ出した。
走りゆく薄く白い肌の体を眺め、俺は違う欲を刺激された。
眠気など飛び、痛覚などは埒外となっていた。

 追いかけて穴から飛び出す。
空には幾千の星が瞬いていたが、それよりも少女だ。
汗の臭いを追いながら、小柄な体躯を思い浮かべていた。

―真っ直ぐに、真っ直ぐに、俺の理性を惑わす人影を追いかける。
つまずきながらも大きな岩肌を駈けてゆくその背中に、必死にすがろうとする。

―なぜ、何故追いつけない―

 身体が限界であることや、効率的な走り方など忘れて、追随する。

崖のような坂を上りきった少女は突如視界から失せた。

―そんなっ!!―

 あと少しでこの手の内であったというのに、指の間をすり抜けていってしまったような寂寥感と焦りに、もたもたと崖を登りきる。

そこは、長大なクレーターの淵であった。
60 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/13(日) 20:20:55.20 ID:0MilYz6T0

 穴を見下ろすと、そこで少女はうずくまっていた。

居なくなった訳ではないと知り、安心するも、
焦りだけは拭えなかった。

―早く、早く、―

―早く奴を手にしたい―

俺を焦らせる懐かしい匂い。
その少女から漂ってきていた。

振り返った少女と視線がかち合う。

―もう構わない―

 耐え切れず、俺は飛び掛った。
これで、自分の家に帰れると信じて…―


――視界の端、蒼く輝く大量の砂が瞬く間に空から降り注いだ。


 まるで、満天の星空が、この景色を止めに入ったかのように、
砂時計のように星空から降り積もったそいつは、人の形を築き、轟音と共に俺の前に立ちはだかった。

―ギュゥォッ!!―

 足だと見て取れる位置から、蒼い光は弾けてゆき、
眼前へと迫り来る拳を残して、その体を覆っていた蒼い光は溶ける様に失せた。

―瞬間、腹に異物がめり込んでくるような違和感と衝撃に、
口の中に蓄積された胃液や血や肉の切れ端などを吐き散らして飛ばされた。

 クレーターを駆け上がるように転がり、勢いがなくなった頃にフラフラと立ち上がった。
意識朦朧で、もはや前が見えない。

―そこへ声が響いた。

「小さい女の子を泣かせる奴は・・・っ」

「過去に飛ばされて死んでしまえっ!!」

 俺の体が、蒼い光になってゆく感覚がした。
目前から、蒼い流星が迫っていた。

ぶつかると感じた時、俺の体は光となって砕けた。
61 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/13(日) 20:41:59.04 ID:0MilYz6T0

―――――。

女「……困りました。」

 昼休み、校舎の屋上で”蝶の標本(バタフライサンプル)”を開きながら、私はお弁当を食べている。
食べカス等が降りかかることは、どうせ私しか読んでいないので気にしません。

女「朝の私は少々強引過ぎたでしょうか?」

 本に記されてゆくのは、彼…男さんの事。

彼のことのみ、心情的な部分も事細かに記されてゆくので、こういったときは便利なのですが…

女「―長い…」

 自分の存在だの、世界のありようなどが延々と記されていきます。

女「今朝のショックから立ち直れないのでしょうか?」

 今朝、彼がこの蝶の標本の一部を閲覧した時、よほどショックな事が記されていたのか、
「出てってくれ」と家を追い出され、登校中に一声おかけすると「もう関わらないでくれ」と一蹴されてしまいました。

女「…そもそも男さんはどこを読まれたのでしょうか?」
女「何か仰っていましたねえ…えぇと、確か”ケダモノ”がどうのこうのと…」

 古いページへ戻っていこうとした時、最新の項目として不思議なものが記された。

―女、見ているかい?―

女「……?」

 そのすぐ後に、なんとも取り留めの無いような悩みを永い文章で記していく標本。

女「……今のは一体?」

 ページを戻そうとして本の上に置いた手をどかす。
少しして、またそれは記された。

―読んでいるみたいだね、よかった。―

女「?!」

 私がその部分に注目した事をわかっている?
聡い彼ならしそうな事ですが、どうもタイミングが噛み合い過ぎている気がします。

女「コレは…もしかして――」

 自分の中で、ある一つの仮説を立てた途端―

―そう、俺はその本を手にした世界の男だ。―

 言い知れぬ不安が、向こうからやってきた。
62 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/13(日) 21:27:10.04 ID:0MilYz6T0

―――――。

男『あんまり長いと、君も読むのはうんざりだろう?』
男『だから簡単にだけど説明していくよ。』

 そう記していくパラレルワールドの男さんは、この世界で男さんは何を知ってしまったのかを教えてくれました。

女「…つまり、この世界は彼を中心に、昨日できたばかりの世界なのですか?」
男『正確には、彼だけその世界での昨日以前の記憶が無いんだ。』
男『もっと言えば、彼を昨日作る為に、どこかで分岐した世界なんだよ。』

女「彼を作るために分岐…?」
男『正直、そっちの世界はとんでもない事になってるからね。』
女「とんでもないこと…?」
男『俺が誰かに管理されているんだ、時間すら越えて。』
女「時間を越えて管理されている…?」

 いよいよもってわからなくなってしまいました。

男『じゃあ、話を変えようか。』
男『今朝、女は俺が不思議な事を本に記すもんだから、気になって家に来たね?』
女「あ、はい。」

 そう、何故彼の場合、夢の内容まで記されるのか、それが気になったのです。
もしかしたら、眠っている間に時間渡航しているのかもと疑って家に突撃した。

男『凄い事するもんだよね…』
男『そして、彼に質問をしている時、別の世界ではその本を彼が手にして転機を迎えた。そう知って試してみた。そうだね?』
女「えぇ、その通りです。」

 私は、過去を守りたくてこの本を使役しているので、万に一つ、彼が仲間になってくれるのならと試してみたのです。

女「そもそも、貴方どうやらそちらで私の事を読んでいるみたいですが…そのような度胸、よくございましたね?」
男『前提が違うからね…』

男『きっぱり言うと、そっちの世界で彼が本を手にしていい方向に向かう事は無いよ。』
女「……どういうことです」
男『彼にとっては…いや、俺にとっても、そっちの世界の構造は受け入れがたいよ。』
男『なんというか、その世界を1から作った奴がいるみたいなんだ。』
女「この世界を…?」

 まるで神のような…

男『そう、そいつは今、自分の身勝手で神になろうとしてる。』
男『そっちの彼は、”こんな恐ろしい能力を持つ人間すら1から生み出せる存在”に、漠然と恐怖心を抱いているんだ。』
男『その神のような奴からも、彼の中の空っぽだった昨日以前の記憶を、今まさに造られていってるんだ。』
男『毎日、自分の為に日記を書いていた彼は、その思い出とのギャップとも闘っているみたいだよ。』

 だとすれば、彼は今、中にも外にも味方が居ないように感じているのでは…

男『そう、彼には、人と接した思い出が無いんだ。だからよくわからない物をその本を使って知ろうという気になれなかった。』
男『お願いだ」、どうか、彼を助けてあげて欲しい。』
男『そうすれば、彼はきっと、君の力になるはずだ。』

 彼が、力に…。

女「本当に、本当に私の思い出を守る為に、彼は力になってくれるのでしょうか…?」

男『意外と、信用してくれてるんだね。』
女「隠しても無駄だとさとりました。」
男『そうか。うん、約束しよう。』

男『たとえ世界が違っても、そこにいる俺を一番理解してやれるのは俺だけだから!』

 今朝の彼の言葉を思い出し、本当に同じ人なんだと感じた。
63 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/13(日) 21:29:40.59 ID:0MilYz6T0
はい!

今夜はここまでです〜

おつかれさまです
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(愛知県) [sage]:2011/11/13(日) 22:46:49.81 ID:Nl2ZrfuRo
哲学やね
65 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/14(月) 21:16:32.37 ID:58obPT+z0

―――――。

―わからない。

わからないわからないわからないわからないわからないわからない。

わからないわからないわからないわあらないわかあないわからないわらないわからないわからないわからないわからないわからないわからない。

男「わからない…。」

友「なに?レポート?」
男「いや、そうじゃなくて……なんでもない。」
友「むぅ…」

 友が心配そうに俺の顔を覗き込んでくるが、いい加減無視する事も疲れたので、じぃっと見返す。

友「………」

男「………」

 ………

友「……(ポッ」

 ガクッと頬杖を突いていた腕がすべる。

男「へいがーる、かおになにかついてますか(棒」
友「うん。」
男「えぇ?!」

 あわてて顔をパタパタと払うが、それらしき感触は何も無い。

男「と、とれたか?!」
友「全っ然」

 言いながら、鞄から引っ張り出した手鏡を俺に向ける友。
それを食い入るように覗き込むと、俺の頬に「考える人」と書いてあった。
器用に反転文字である。

 友を見る。
頬袋がパンパンに膨らんでいる。
睨む。

友「……ぷっ!!」
友「ぷっはっははあは!!あひー!!あひー!!」

 俺を指差しながら、腹を抱えて笑い出した。
こいつがやったのか。

男「すいません、顔洗ってきます。」
教師「お前さんら授業という事を忘れておるな。」
友「お花摘んできま〜す」
教師「古い。」

 教室を出て、廊下の先、階段の向かいにある手洗い場で蛇口をひねる。
66 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/14(月) 21:17:35.50 ID:58obPT+z0

 蛇口から流れ出る冷たい水を手で受け留めて、腰を屈めて顔を洗う。

はじめの内は冷たかったそれは、回数を重ねる毎に薄れてゆき、
やがて外気に晒している方が冷たく感じ、頭全体を蛇口の下に突っ込んだ。

 頭の先から、芯を凍えさせてゆくような波を感じる。
やがてそれは感覚を麻痺させて、空気に触れている間の方が寒く感じるようになってゆく。

 ―これは、時間を飛ぶときの感覚に似ていた。

体の先、両手足と頭から冷たさが降りかかり、
やがて体全体を凍てつかせるような鋭い痛みが全身を満遍なく駆ける。

眼を開けていると、同じ順に繰り、体が散り散りになってゆく景色を蒼い光の中で見る事になる。


―飛びたい。―

 時間を。

この、跳躍時によく似た感覚を全身で味わう為に、上着のボタンを次々と外してゆく。

この冷や水の中に飛び込めば、その先には跳躍後のあの暖かい感触が体を駆け巡るはずだ。

そう信じて、手洗い場の縁についていた手に力を込める――

友「――バッッッッカヤロウ!!」

 柔らかな感触が、腰の辺りに抱きつき、俺を引き倒した。

友「ばかやろう!!風邪引くぞ!!ばっかやろう!!」
男「……なんだ、友か。」
友「なんだとはなんだ!!やっちまった身として、後始末ぐらい手伝ってやろうと思っただけだ!!文句あっか!!」

 ねぇよんなもん。
男「……なんで止めた」
友「お、!!おまえ…っ!」

 怒り肩で仁王立ちしている友の手が、ぶるぶると震える。
ギリギリと握りこまれていくその拳を眺めながら、殴られる様を想像した。

―その方が良いのかも知れないな。―

 よくわからない。
67 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/14(月) 21:29:42.96 ID:58obPT+z0

―バサッ―

 と、伏せていた顔に何かがかけられた。
同時に、柔らかく、暖かな何かに顔を布越しにグシグシと拭われる。
息苦しい。

友「顔…墨まみれだぞ…」

 グシグシと頬を鼻をでこを擦られながら、うっすらと眼を開ける。
薄黒く滲んだ、白桃色の布を顔にかけられていた。
この色は、確か友のハンカチだったはずだ。

友「何悩んでるの。」
男「………。」

 応え難い事を訊きやがる。
お前さんには話してやりてぇなぁ。

友「…私のせいですか…?」

 ……わかんねぇよ、俺だって。
68 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/14(月) 21:49:12.24 ID:58obPT+z0

 情けないが、今飛ばされた衝撃も相まって全身がプルプルと震えてしまっている。

男「…ごめん、立たせて。」
友「グスッ)…ん。」

 肩を借りて立ち上がる。
その際、顔にかぶさったハンカチをとらなかったのは、ただ億劫だったからだ。決して情けなどではない。

男「……みっともねぇよなぁ、女の子泣かせて、そのうえ肩まで借りて。」
友「…うっせ……誰の為にボクって言ってると思ってんだ…」
男「…さぁな」

 さぁな。

男「悪い、体調悪いから帰るわ」
友「そっか、保健室行く?」
男「いいや。」
友「…ん。送ってく。」

男「悪いな、俺の為に。」
友「うっせ。ばっかやろう。」


 友と一緒に帰る間も、俺は何も喋らなかった。

一歩進むごとに、
一つ呼吸を挟むごとに、
乾きはじめた髪が冷たい風にゆれる度に、
―俺の中に不確かな記憶が産み落とされていく。

 こんな不安を、友にまで分け与えたくない。

こいつと居る時ぐらい、禍々しい事は忘れたい。

 家に帰ったら日記を見よう。

昨日より以前の記録を確かめよう。

俺が何者なのか、確かめないと…。
69 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/14(月) 22:06:30.22 ID:58obPT+z0

―――――。

友「ふぇっ……」

友「ふぇっ……!!」

友「ふぇぇぇぇぇぇっ!!」

友「っくち!」

 盛大なくしゃみを覚悟していたが、最後には友の中の女の子な部分が勝ったらしい。

男「風呂使って良いよ。」
友「ふへ?……」

 じゅるじゅると鼻をかむ友だったが、ワンテンポ遅れてそれが止まる。

友「………えぇぇぇぇぇぇえええええええええっ?!?!?!!」

男「うっるさい…」
友「あ、ごめん。」
友「で、でででもさ、あのーそのーいきなりー、ねぇ?お風呂を?お借り?するのってー…ねぇ…?」

 顔が真っ赤である。

男「……あ、」

 ハッハァ〜ン…?さてはコイツ……―

男「顔赤いぞ?やっぱ友の方が風邪引いちまったんじゃねぇの?(ピトッ」

 友のでこに、俺のでこをくっつけた。

男「おわっ!あつっ?!」
男「おまえ、風呂入らずにそのまんま寝たほうが良いんじゃないの?!」
友「へっ?へっ?へぇぇぇぇええっ?????」
友「あ、いや、お、おおおおお、お風呂いただいて行きますすすすす!!!」

 脱兎のごとき素早さで、上着やタオルを掴んで、リビングから廊下奥の浴室へと消えた友。
立ち上がり、給湯器の操作盤を押して設定温度を少し下げておいてやる。

 友が風呂に入っている間、適当に濡れた服を脱ぎ散らかしながら、2階の自分の部屋へ戻ってゆく。

ふと、階段を上りきったところで下を振り返る。

男「………」
男「……俺一人だったら、いっつも脱ぎ散らかしたまんまになるはずだよな…」
70 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/14(月) 22:07:13.65 ID:58obPT+z0
失礼、

晩餐をいただいてまいりまする。

らーめんらーめん
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(北海道) [sage]:2011/11/14(月) 22:43:37.61 ID:msDf4109o
親父!>>1のラーメンは小盛りで頼む!
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/14(月) 22:47:49.58 ID:XJSIZMdro
ついでに冷ましといてくれ
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [sage]:2011/11/14(月) 22:49:24.03 ID:Ip+8+805o
面白い
74 :冷えたラーメン子盛り4杯分食べてきました〜 ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/14(月) 23:02:37.38 ID:58obPT+z0

 せっかく2階まで上ったのだが、友がそのまま上がってくると思ったので、
甲斐甲斐しくもビショビショの制服を回収し、浴室入り口の洗濯機に放り込んでおいた。

決して、俺の見ていない間に誰かが片付けている様を想像して怖くなったわけではない。

 黙々と自室に戻り、流れるように日記を掴んでベッドにもぐりこむ。
布団で全身を隠しながら、机の引き出しの奥底で眠っていたペンライトで照らしながら日記を開く。

 読みふけろうと思ったところで、逆手に握り締めたペンライトをみつめる。

こんなものを机の中に入れた覚えは無い。

第一、机を開いた覚えが無い。

男「…今はいいか。」

 便利なものを置いておいてくれた、どこぞの誰かに感謝した。
75 :意外と人が居て感涙 ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/14(月) 23:16:12.75 ID:58obPT+z0

―――――。

 一昨日の日記に眼を通す。

何も書かれていない――ように見えたが、気のせいだった。

男「………?」

『今日、先生に本を全品没収された。』
『「後で使うんですか?」とこっそり訊いたら泣かれた。あんまり女性をいじめるもんじゃないな。』

男「………ふむ…」

 覚えが無い。
しかし、日ごろの俺からしてありえるのだろう。

なんというか、その様が容易に想像できてしまった。

男「……なんでこんな下衆野郎を作ったんだ…」

 深い溜息を吐きながら、思わず頭を抱え込むが、思い直して姿勢を直す。
もぞもぞと動いたせいか、毛布の下に日記が隠れてしまって少し探すのに手間取った。

男「意地でも外に出たくないわ。」

 顔を覗かせた鼻先で、真っ白い顔の誰かが俺を見ているかもしれない。

男「………。」

 あ、やだ。トイレいっときゃ良かった…。
76 :遅筆 ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/14(月) 23:28:56.13 ID:58obPT+z0

 急に違和感を覚えた下腹部に鞭打ち、その更に前の日記を読む。

何も書かれていない―――ように見えたが、やはり気のせいであった。

 ちらちらと、思考の端に蒼い光が写り込む。

余程、俺は過去に逃げたいのだろうか。

逃げた先でも、結局はこの未来が待っているはずだというのに。

『5日後に、友とデートする約束をした。』

男「?!」

 唖然。

思考が停止した。

その下に”化石展”だの見えたが、そんなことよりデートだ。

―俺が?!俺が誘ったわけじゃないよな、誘うか?!えっ!!誘ったの?!?!―

 事情により思い出せないとはいえ、俺が友をデートに誘ったというのは事実らしい。
しかも、日付から見て―


男「―明日じゃねぇか…」
友「そうだねぇ。」

 横から声がした。

友の声だ。

 肩に軽くもたれている。

湯上りだからか、暖かさがすぐに伝わってくる。

 バクバクと、自分の胸がうるさい。

色々な冷や汗が手からにじみ、ペンライトを滑らせ、日記を湿らせる。

―やばいじゃないですか―
77 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/14(月) 23:56:26.77 ID:58obPT+z0

 ゆっくりとペンライトを切る。

俺たちの間に漂う毛布越しの沈黙を揺るがさないように、ゆっくりと、スイッチを切る。

友からのアクションを待つが、期待に応えてくれるのだろうか。

ここはいっそ、俺から動いて――

友「―こういうの、さ……明日、するもんだと思ってた。」

男「えっ?あ、あぁうんうん!」

 こういうの?!こういうのってなんだ?!えっ!!この空気にヒントがありますか?!

俺のきょどった反応も、毛布という物理的なフィルターがこしてくれているからか、
友は特に難色を示さない。

友「明日さ…一緒に化石見て、会場でちょっとご飯食べたりしてさ。」
男「………」

 な、なんか、喋れる雰囲気じゃないな…

あ、いや、ここは情報を引き出すために聞き手に徹するか?

 そんな打算的な俺の思考を知ってか知らずか、友は初々しく語り続ける。

友「一緒に感想言い合いながら帰ってさ、途中で食べ歩いたりもして、」
友「買い物してどっちかの家に二人で行ってさ、料理食べながら一緒に夜を越すんだと思ってた。」

友「でも、今日一日の男を見てたらさ、なんか、『明日相談しよう!いや前日に相談しよう!』って限界まで先延ばしにしてた話も出来なくてさ…」
友「やっとタイムトラベルの事を話さなくなったなぁと思ったら、ずっと思い悩んだ顔して、さっきはあんなことしたっしょ?」
友「……力になれるかなぁ〜。って、ここまで来たけどさ、言葉に出来ないような悩み…なんだよね…?」

友「一回だけ…だったら、嫌な事忘れる為だけに、ボクの事―」
友「―使っても……良いよ…?」

 毛布を跳ね除け、友の方へ振り返る。

友はアンダーシャツにスパッツという、おおよそ動きやすく脱ぎやすい格好で俺の横―ベッドの上―に腰掛けていた。

俺は…友のその献身的な行為と、震える瞳を見据えて、小さな肩を掴む。

 見てわからない程だが、友は小さく震えていた。


男「友……」


男「―予定に食い物が多すぎだ、太るぞ。」

友「えっ」
78 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/15(火) 00:18:31.73 ID:C9NJm7sB0

友「ちょっ、せっかく頑張ったのに、デリカシーってモンが…っ」
男「安心しろ、明日のデートはちゃんと行くから。」

 友の肩に置いた手を、すべるように下ろして、友の手に重ねる。

男「ちょっと俺にしか解決できないような悩みだったんでな、ホラ、タイムトラベルのさ。」
男「だから、友にはあんまり背負わせたくなかったんだよ。」
友「………っ(ウルッ」
男「ちょっと!!」

 あわててハンドタオルで涙を拭おうとすると、バシンと重ねていない方の手でそのタオルを弾かれた。

友「ばかっ!グスッ…そんなもんで拭いた…ら、眼ぇ痛めちゃうだろう!」
男「あぁ〜はいはい、指で拭うぞ?すぐに泣き止まないとびっしゃびしゃになるからな。」

 そういって、ハンドタオルを持っていたほうの手で、友の頬に触れる。
親指でゆっくりと涙を拭いながら、友の言葉に耳を傾けていた。

友「ばか…ばかばかっ!ばっかやろう!!」
友「心配したんだぞっ!ひぐっ…頑張ったんだぞっ…!」

友「わたっ、じの、……ぜいっ、だっで………ずっど…」

男「あぁ〜はいはい、もう泣くな泣くな。手がべしゃべしゃじゃないか。」

友「う゛る゛っ…ざいぃっ…」

 そんなに泣いてくれるなよ。

お前を信じていたくなるじゃないか・・・。
79 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/15(火) 00:20:38.32 ID:C9NJm7sB0
あい、今夜はこんなもんで!

明日は早起きできれば朝の内にかけるかもしれません―

―が、

昼以降になっても更新されていなかったら、夜までお待ちください。

ボクにも宿題というものがございます。
80 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/15(火) 00:23:06.09 ID:C9NJm7sB0
あい、今夜はこんなもんで!

明日は早起きできれば朝の内にかけるかもしれません―

―が、

昼以降になっても更新されていなかったら、夜までお待ちください。

ボクにも宿題というものがございます。
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(千葉県) [sage]:2011/11/15(火) 02:40:14.62 ID:lX2wpxNyo
投げ出さないでね、お願いよ
82 :ハッピーエンドをご用意しておりますので、気を張らずに気楽にどうぞ ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/15(火) 12:03:05.17 ID:C9NJm7sB0

―――――。

男『―それじゃあ、今言ったとおりにお願いするよ。』

女「えぇ、わかりました。」

 彼と友さんとやらがいちゃこらいちゃこらしている間、
私は完全に暗躍しておりました。

女「不公平だよ…」
男『ぼやかないぼやかない…』

 別の世界の男さんとの順だった会話も、こちらの世界の彼のなんとも桃色な思考の断片のせいで、
かなりの滞りをみせた。

男『俺だってぼやきたいよ……』

 どうやら、彼の世界では、”友さんとやらはいない”らしい。

色恋に特出した話はめっきり無いが、学生生活をきままに楽しんでいるそうです。

男『俺の世界には、君みたいな悩みを共有できる相手も居ないんだよなァ』

 この後の、私たちのすべき行動を明確にせんと夢中に会話していたせいか、
合間合間に世間話を挟みこむ程にはお互いの事がわかってきました。

女「それは残念です。貴方となら時を越えて茶話会等を設けてみたいというのに。」
男『規模がおかしいな』

 彼いわく、こちらの世界はとんでもないけれど、話を聞くと、私からすれば彼の世界の方がとんでもなく思える。

この”蝶の標本(バタフライ・サンプル)”が、他の時間渡航者を取り締まる為に重宝されているらしく。

男『野蛮なトラベラーが紛れ込んだり、悪意ある時間跳躍を見過ごしたりしそうだ。』
女「ずいぶんと物騒な世界なのですね。」

―”蝶の標本(バタフライ・サンプル)”の出現条件とは何なのだろうか。―

男『……あのさぁ』

 あれから通しで話し続けているせいか、どんな短文でも彼のものなら見抜けるようになってしまった。

女「はい?」

 反応から見るに、彼も同じなようだ。

男『その…”蝶の標本”って一々めんどくさくないかい?』
女「なっ!」

 なっ

女「何を言うのですか無粋者!!!」

 触れてはいけない触れ方をしてしまいましたね!!

男『ごめんなさい、わるかった、許して!今こっちの本が一瞬で3Pぐらい埋まっちゃったから!!勘弁して!!』
女「ふんっ!わかればよいのです。」

 きっと今頃彼は、この表現の素晴らしさについて纏められた3P強分程の論文に喜びの涙を流しているはずです。

男『いや、ごめん。見過ごした。』
女「………」
男『ぎゃぁぁぁ!!勘弁してください!!』


 世界をまたいで、そんな他愛も無い会話を続ける。
これからに必要な会話は、あらかた済ましてしまったし、お互いに強く共感できる時間渡航者と話が出来て嬉しいのだ。

―なによりも重要なのは、その会話にも意味があるということ。
私たちは、あるタイミングへと二人同時に過去へ飛ばないといけない。
そのタイミングをずらした時に、どうなってしまうのか想像が出来ないからだ。

 いつか、こちらの世界の彼は必ず時間を飛ぶ。

その先で、私と異世界の彼とで待ち伏せる。
彼と私とで、こちらの彼を助ける。

そうしないと、こちらの世界から彼は抜け出せないそうだ。
83 :書き貯めはございませんが… ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/15(火) 12:16:20.63 ID:C9NJm7sB0

男『悪いね、そっちの俺が。』

 3P強程度に及ぶ、私の”素晴らしい表現法”と銘打った論文に眼を通しながら、彼は言う。

女「何を言うのです…こちらとそちらの貴方は前提こそ違えど、同じ人間なのでしょう?」
女「私は貴方を助けたい、貴方は彼を助けたい。だから私も彼を助けるのです。」

男『……なら、”悪いね”より、”ありがとうね”の方がいいか。』
女「謝罪も謝礼も今は結構。そういったことは結果を出してからお願いします。」

男『………。』

男『…絶対、助ける。』
女「…はい。」

 心なしか、もの悲しい沈黙を肌で感じた。
この空気は苦手なので、話を少しだけ変える。

女「…こちらの彼は、明日、デートだそうですが。」
男『だぁ〜…そうなんだよなぁ……』
男『はぁ……何が違うんだ…』
女「前提が違うのでしょう?」

 軽口を叩きあいながら、私は久々に家に帰った。

義父さんや義母さんは心配しているだろうか?

ずっと「友達の所に泊まってくる」と言い続けていたけれど…

いや、あの仲のいい夫婦の事だ、人目を気にせずいちゃつけて少し嬉しいのではないか。
こんなものは考え方だと一蹴して、足取り軽く、帰路へついた。
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/15(火) 13:12:37.64 ID:S8k0b3vDO
男キャラのが寒くてキモい
85 :すいません、汗流してきました ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/15(火) 13:29:12.99 ID:C9NJm7sB0

―――――。

男「………ん…?」

 朝、だろうか?
開け放したカーテンから眩しく真っ白い光が俺の顔に射し込んできている。

男「…カーテン開けっ放しだったか……(もぞもぞ」
男「…ん?(ぎゅっ」

 視線を真上のベランダから正面の枕と壁に戻す。
枕の上に乗せている両手が、何かを大事そうに包んでいた。

きゅっと握って、形を確かめる。

ふにふにとやわらかく、すべすべとしている。
形は複雑だ。
ところどころ出っ張っている。

男「……ふむん(むにむに」
友「たはっ、くすぐったいよ」

 手元に視線を集中させていたので、その向こうから声がして驚いた。
今のは友の声だ。聞き間違いようがない。

しかし手元のこれはなんだ?

男「むにむに)?」
友「たはっ、たはははっ!くすぐったいってば」

 ぎゅっと、両手を締め付けるやさしい感覚。
あぁ、コレは手か。

男「おはよう」
友「おはよ」

 昨日、そのまま疲れて寝てしまったんだった。
その時も友の手を掴んだままだったような気がする。

友「今日はどうしよっか?」

 日光のせいで友の顔がよく窺えないが、多分笑っているんだろう。
心なしか声が弾んでいる。

男「俺はこのまんま寝ていても構わない。」
友「ばっかやろ(ぺちん」

 そっと手を乗せるように、頬を叩かれた。

友「チケット無駄になっちゃうだろ〜」
男「あいあい、わかったわかった。」

 もぞもぞと半身を起こす。
毛布がはだけて、友の姿もそとに晒される。

友「うぅっ眩しい…やっぱりお前さんそこに一緒に寝ておいておくれ…」
男「はぁ、ばっきゃろー」

 今度は俺が友の頬をつねる。

友「あにふんだー(何すんだー」
男「とっとと起きろ〜」

 俺のなかの野生が目覚める前に。
86 :そんなストレートなw  ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/15(火) 13:30:12.63 ID:C9NJm7sB0

友「わぁかったよ〜うぃ」

 毛布を手繰り寄せて、それに包まりながら友が体を起こす。

友「………」
男「………」
友「……見んな」
男「昨日頑張った友自身に言いなさい。」

 いいながらベッドから降りて立ち上がる。
天井のタイルを剥がさんとする勢いで伸びをし、胸から声を漏らしながら姿勢を戻す。

男「俺はチケット探しとくから、その間に顔洗ったり髪セットしたりしてきなさいな。」
友「あう…そんなにボサボサ?」
男「かなり」
友「あうあうあ〜」

 もぞもぞと毛布の中でいまだごねる友

友「さぁ〜むいよぉ〜…(ガチガチ」
男「そんなに寒いか?」

 俺だけ日光を浴びていたせいか、そんなことはないのだが。
友のサイズにあいそうなセーターや上着などを適当に見繕って投げ渡す。

男「でかいけど、少しはましだと思うぞ。」
友「うぅ、わかったよぅ」

 器用に、毛布の中でもぞもぞと着替え、ずるずると外へと出てくる友。
その様をじっと眺める。

男「……」
友「どしたー?」
男「…昨日の薄着より刺激が強いわ」

 友は今、スパッツに大きめのセーター、その肩口からアンダーシャツの肩紐が見えている。
スパッツだから問題は無いはずなのだが、セーターが大きすぎてHAITENAIように見えてしまうのだ。

友「ん〜?…そっかなぁ」
男「い、いいから早く行け!非健全だ!」
友「おぉ〜おぉ〜はいは〜い」

 とっとことっとこ開け放したドアの先、階下に降りていく友。
脚寒くねぇのかな。
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(愛知県) [sage]:2011/11/15(火) 13:31:36.61 ID:Oyo5LZCno
ちょっと何言ってるのかわかんない
88 :男というのは、同姓の前ではイケメンでも、異性の前では子供なんですよ。 ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/15(火) 13:40:48.97 ID:C9NJm7sB0

―――――。

 不確かな記憶を手繰ると、例のチケットとやらはすぐにみつかった。

机の鍵つき引き出しの中に大事にしまってあったのだ。

男「素直な…」
友「おけ〜ぃじゃあ早速行きますかぁ?」

 いやいや、俺まだ顔洗ってないし。
友はと言えば、俺のセーターが気に入ってしまったのか、ボーダー柄の白黒セーターにぶかぶかの黒いジーンズを穿きこんでいる。

友「うぉい、どこ見とるか。」
男「やっぱり脚寒かった?」
友「…うむ。」

 ずずっと鼻を鳴らしながら、「スカートで晒しなれてると思ったんだけどねぇ」なんて言う。

男「顔洗ってくる。」

 言いながらチケットを両方友に渡す。
しかし友は受け取らない。

友「……」
男「あんだよぅ」
友「また、昨日みたいなことしない?…よね?」
男「………」

 確証はないけど、

男「…だいじょぶ」

友「貴様!いまの間はなんだ!」
男「さぁ?なんでしょう?」
友「ぐぐぐっ…絶対に預からんぞ!」

 そうは言っても、両手でしっかりとチケットを持っていてくれる友。
昨日はよほどおちゃらけていなかったのかな、俺。
89 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/15(火) 13:53:20.95 ID:C9NJm7sB0

 洗面所の陶器に両手をつく。

ぽたぽたと髪から鼻の頭から顎から頬からしたたる水滴を眼で追いかける。

少し顔を上げて、鏡に映った自分の顔を見る。

ふやけた乾燥ワカメを頭の上に乗っけているみたいだ。

頬を引っ張る。

でこのニキビを押してみる。

どっちも痛い。

男「…よくできてるよなぁ」
友「?なにが?」
男「いんや、なんでもない。」
友「そう?」

 はい。とタオルを手渡される。
受け取り、顔を頭を拭う。

男「いつからそこに居たんすか」
友「洗面器に溜まった水をニヒルに眺めていた辺りからかな?」

 は、恥ずかしい。

友「おんやぁ〜?顔が真っ赤ですぞぉ?」
友「風邪でも引きましたかなぁ?」

 ふと、気付いた。

友と一緒に居ると、あーだこーだ悩まなくなれる。

男「ぷっはは…」

男「うっせ、ばっきゃろー」
友「野郎じゃねぇし、」
男「お前も結構細かいよな。」
友「うっせ!」

 適当に、コイツの横に居て恥ずかしくない程度に見繕った格好に着替える。

ちょいちょいわき腹をなぞられるが、そんなものは無視だ。

男「おっし、行きますか!」
友「おぉー!」

 友と二人、ならんで家を出る。

この記憶だけは、絶対に塗り替えられたくないと思った。
90 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/15(火) 13:56:13.87 ID:C9NJm7sB0
はいっ!今回はこんなもんで!

宿題を終わらせないと、ガッコでひぃひぃ言わなきゃならんくなる!

宿題を早く終わらせられたら、夜までにまた続きを書くかもしれません。

ところで>>87さん、

どのあたりがわかりにくかったでしょうか。今後のためにお教え願います。
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(愛知県) [sage]:2011/11/15(火) 14:20:08.60 ID:Oyo5LZCno
誤爆なんですって言ったら信じる?
92 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/15(火) 15:41:51.21 ID:C9NJm7sB0
>>91
信じますw

タイムトラベルは時間設定がめんどくさいものだと思ったので、
めちゃくちゃなところがあったらどうしようかと心配なのです。

今のところ、わからない表現はそんなに目立たないようにしているつもりですが・・・う〜ん
93 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/15(火) 17:03:44.87 ID:C9NJm7sB0

―――――。

 入り口で、チケットをスタッフに渡す。
一部をむしり、半券を返してもらう。
一枚を友に渡し、もう一枚は胸ポケットになおしておいた。

男「まず何見るか」
友「ん〜…展示順にみていこうぜ〜」
男「まぁそっすね」

 ほんと、それもそうか。
床を見ると、道なりに矢印が引いてある。
土産屋を横手にそのまま進む。

男「…土産屋って、帰りによるもんだよな」
友「んん?そうかなぁ」
男「友は、真っ直ぐ寄って、饅頭とか買いそうだな。」
友「………」

 嫌な沈黙が流れた、あわてて友を見ると―

友「………」

 図星を突かれたというように、頬を赤く染めていた。

男「おまえさん…」
友「なっ、なんだ!きょ、今日は行かんぞ!!」
男「いやいや、帰りに寄ろうよ。」
友「う、うぐっ…」
男「あ、ほらほら、アンモナイト。」

 ごまかさんと、近くの小化石ブースを指差し、二人でそちらへ歩み寄る。
94 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/15(火) 17:20:00.48 ID:C9NJm7sB0

 ガラスケースの中、いくつも並べられた小さな石のなかに、
葉っぱやアンモナイトの形を見受ける。

男「古代生物の糞とか、絶対コレ持って時間飛びたくないな。」
友「うえぇ…そういうこと言うなよぉ…」
男「あぁ、ごめんごめん」

 こういうものを見ると、何故かテンションがあがる。
もしかしたら、俺を作った奴は考古学に興味あるように作りたかったのかもしれない。

男「なんでだろうなぁ…」
友「最近そればっかだね」
男「うむ、悩む事はいい事だ。」
友「そうかなぁ」

 意外と賢いこいつに言われると、なんだか不安になる。

友「ここで何分粘るつもりだーい?」
男「あぁ、悪い。次行こうか。」

 自然と、友から手を繋がれた。

男として情け無いなんて思うが、考えすぎか。
95 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/15(火) 17:21:15.58 ID:C9NJm7sB0
おっと、そろそろ家を出ないと!

それでは、続きはまた夜に更新するつもりです!
96 :ただいまもどりました ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/15(火) 22:52:50.36 ID:C9NJm7sB0

 となりのブースには、巨大なパネルが設置されていた。
そのパネルには、俺たちが回りこんできた左手から右手へ向かって、地球の年表が簡素に描かれている。

男「46億年…から結構な密度で描いてますな。」
友「そだね」

 それだけ言って、友は先へととっとことっとこ行ってしまう。
俺はといえば、年表を一つ一つ流し読みしながら、友を追いかけた。

やっと追いついた友は、地球年表のごく最近の部分、紀元前十数万年程度の辺りをじぃっと見ていた。

男「どした?親でも見つけたか?」
友「ちょっとぉ〜」

 頬を膨らませながらも、年表から眼を離さない友。
仕方なく、その横にならんで、同じ部分を見てみる。

男「ネアンデルタール人、ホモサピエンス…」
友「ねぇ、知ってる?」
男「ん?あぁ…何?」

 これから読みふけようと思ったところで、友から声がかかった。

友「古い地層から出土した化石の多くはね、大地の圧力によって急激に縮小された物だって話。」
男「…?あんまり聞いた事無いな、専門家かなんかのあれ?」
友「ううん、今考えた。」

 即興かよ…

男「…意外と、ありえる話かもな。」
友「ん…ほんと?」
男「あぁ…」
97 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/15(火) 23:00:58.88 ID:C9NJm7sB0

男「ただ、そういうことを専門家が考慮しないかってのは、別の話だと思う。」
友「……そだよね」
男「ふん…だとしたらウルトラサウルスとか、実物はすげぇ事になるかもな!」
友「人なんか勝てっこないねぇ〜」

 話している間も、友はパネルから眼を離さなかった。

男「……お嬢さん、そちらのブースは当コースの終盤にございますよ。」
友「ん…あごめん、夢中になっちゃってた。たははっ」

 申し訳無さそうに頭をかく。

友「んじゃあ、先、行こっか?」

 尚も申し訳無さそうに笑う友に、軽く頭をなでてやる。

男「おう」

 そのまま頭を少し押し、紀元前数十億年のブースへと進入した。

ようこそ46億年へ。
98 :お腹空いた ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/15(火) 23:17:24.33 ID:C9NJm7sB0

男「当時の恐竜が、今の地球上に居たらどうなるんだろうなぁ。」
友「街が大混乱になるんじゃない?」
男「はは、どうだろうな。」

 多分、解釈の仕方によると思う。

男「隕石の衝突による気象の崩壊を生き延びたとして―」
男「今もまだ原始の時代が続いていたか、恐竜がスーツを着て人間に首輪を着けているか。」

男「もしくはその逆か。」
友「うぅむ、おっそろしいなぁ。」
男「俺たちがここに居るのは、物凄い偶然なんだと思うよ。」

 ほんとうにそうか?

男「………っ」
友「…?どしたぁ〜?」
男「い、いや。なんでもない。」

 一瞬、今ここにたっていることが酷く滑稽に思えた。
99 :今夜中に中盤終わるかなぁ ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/15(火) 23:32:17.79 ID:C9NJm7sB0

―――――。

 粛々と二人で地球の誕生からを文字や文献で追いかけて、そろそろ出口に差し掛かるかというところ。
友があの地球年表で食い入るように見つめていたブースへと進もうとするとー

友「………。」

 ―友が寂しそうな表情で立ち止まった。

繋いだ手が歩につりあわず、こけそうになる。

男「どした?」
友「い、いやぁ…やっちゃったなぁ…たははっ」

 何かをごまかすように、友は笑いながら焦っていた。

友「ちょ、ちょっと思い出があれ過ぎたかな」
男「?お〜い、行くぞ。」

 体の中の誰かが、友の挙動を執拗に気にかけている気がしたが、
早いところ売店で友と軽食を嗜みたかった俺は、友の手を握り返して強く引いた。

友「お、おう……ぉぅ…」

 ごくりと喉を鳴らした友は、逆に俺の手を引いて先へ先へと進んでいった。

男「ぉ、おうぉい!」

 思わず声を漏らした俺に、周りの人たちは何事かと振り返っている。
そんな様子も気に留めず、ついに一見もせずに友は”人類ブース”を抜けて、特設の”隕石ブース”へと進んでしまった。

友「……ッ………ぃ…っ!!…ぃ…でっ……!!」

 何事かをぼそぼそと呟きながら、そのブースすらも通り抜けてしまおうという勢いで進み続ける友。

も、もしかして……催しちまったとかか…?

そ、それは大変だ。
友の手をしっかりと握り、そのペースに合わせて一緒に進もうとし――


――視界の端に、それを見た。
100 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/15(火) 23:44:13.75 ID:C9NJm7sB0

男「…あ……れ…?」

 思わず、体が固まる。

思考がぐるぐると静止できずに回り続ける。

一つ一つ、何かが形成されてゆく意識の中――

友「…ぃ…でっ…みないでっみないでみないでっみないでみないでみないでみないでっ…」

――友の囁きの断片を、理解した。

男「…こ、こって……動物のブース……だっけ、か?」

 ”恐竜を絶滅させた隕石のかけら?!”とでかでかかかげられた小石の横、

―夢の中で見た、ケダモノの偶像が立っていた。

男「あ…れ……?…い、いやいやいや、あれは夢だったし……」

 言葉と裏腹に、冷めた思考で紹介文を読み解く。

男「え、っ…いやいや……閻魔帳の俺なんて知らないし……」

――隕石のかけららしきものをDNA解析して作り上げた、当時の生物らしき2足歩行生物のモデリングフィギュア――

男「いや、っ。だって、俺、こいつ殴り飛ばして、か…過去に……」

男「過去に……」

 冷静な判断など、出来なかった。

友「みないでみないでみないでみないでっみないでみないでみないでみないで…」
101 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/15(火) 23:54:53.78 ID:C9NJm7sB0

 ―確かめよう。

男「確かめよう。」

 これがなんなのか

俺は何を見たのか。

―確かめよう。

 拳を振りかぶり、小石のようなそれ――隕石のかけらが収納されたガラスケースに殴りかかる――

女「そこまでです、タイムトラベラー!」男「………」

男「……また…か」

男「…また………か…ぉ…」

男「…またかよぉっっっ?!?!?!!!!」

 振りかぶった拳を、突然俺の前に現れた女に向かって振り下ろ――

――思考の端に、蒼い銀河のイメージが割り込む。――

――突き出したはずの拳は、体の後ろで縛り上げられ、俺は地面に組み伏されていた。

女「…痛かったですよ。」

 ペッと、視界の端に赤黒い液体が落ちた。

男「…おまえ…おまえぇっ!!」

男「知ってるんだろ!!俺は何なのか!!俺がコイツを夢で見た理由も全部わかってるんだろ!!」

男「俺の中でうじゃうじゃ増え続けてる記憶だって全部!お前の仕業なんだろうっ?!?!?!」

 俺の上にのしかかっている女に向かって叫び続ける。

その叫びに―

友「ごめんね…」

―友が謝った。
102 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/16(水) 00:06:27.26 ID:w4y02TgV0

友「ごめんね、男。ごめんなさい。」

男「……?…」

 友の突然の謝罪に、赤く染まっていた俺の思考は、少し冷静になってゆく気がした。
――しかしそんなものはまやかしだった。

友「全部…全部私のせいです……」

男「…お、おい…何を言―」

女「貴方は少し黙っていなさい。」

 うなじの辺りに、女の脚だろうか、何かを強く押さえつけられて、息が辛くなっていく。

男「……グッ……ゲホッ………ゼヒュー…」

 それでも叫ぼうとして、喉が千切れるほど声を振り絞る。

友「全部……私の勝手なんです…」

友「全部……私が作ったんです…」

友「全部……全部、全部…」

 友、お前何言って―

友「だから、男…―」

 コツコツと、カーペットに沈んだ足音と、俺の黒いジーパンが近づいてくる。

友の顔は見えない。

友「―ごめんね。」

 その言葉を聞いた直後、俺を抑えていた重さが背中から消えた。

考える余地無く飛び起きて友を見る。

男「―…い……ない…?…」

 いくら見回しても、友と女と、”隕石ブース”が見当たらなかった。

とさり―

 と、何かが俺の後ろに落ちた。

振り返って下を見る。

男「?!」


 あの、”閻魔帳”が落ちていた。
103 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/16(水) 00:12:50.83 ID:w4y02TgV0

 しがみ付くようにそれに飛びつき、ばらばらとページを捲る。

 男「友、友、友っ友っ!」

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も

紙を捲った。

 何も浮かばなかった。

男「……っ……グゥッ…!!」

 歯を食いしばる。ギリリと顎が鳴る。

男「…いやっ!まだだっ」

 逆にページを辿ってゆく。

男「女、女、女、女、女、…」

 しかしー

男「……何も…出てこない……」

 愕然とした。

―この本には、そんな特殊な力など無いのではないか?―

 そんな邪念を振り払う気力も無く、ただただ、床の矢印に沿って歩き出した。
104 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/16(水) 00:26:52.32 ID:w4y02TgV0

―家に戻れば、友が居るのではないか?―


 その予感は、ゆっくりと薄れていく友との記憶に流された。


―友の家に行けば、友の義父さん義母さんに…―


 その考えは、薄れいく友の名前という記憶に流された。


どうすることも無気力感と、着々と記憶が無くなってゆく不安感に、ただただ出口へ向かって歩を進める事しか出来なかった。


 床の矢印が消え、コースを回りきった辺りで、行きとは逆の方向に土産屋をみつけた。

男「…あぁ、大回りしたのか…」

 無気力に、そんな客観的なことをぼやいていると―

店員「おんや?あんちゃん彼女さんはぃ?」


 土産屋の店員がそんな事を言った。


男「………」

 饅頭の棚を見てみる。
アンモナイトの焼印が押されたサンプルを見つけた。

ぎゅっと、肩を掴まれる。
 漫然とそちらに振り向く。

店員「…まさか、振られたのか…?」


 え

男「え」

店員「いやいや!何も言うない!ほらっこの”餡も無いとっ!饅頭”一個くれてやるからよぅ!」

 元気だしないっ!!―
店員はそんなことを言いながら、饅頭を俺の手に握らせて恋愛遍歴を語っていたが、
―しばらく呆然とした後、俺は土産屋から駆け出した。

男「店員さんっ!ありがとう!!」
店員「おぅっ!がんばんなぃっ!!」

 俺の前から、友は消えた。


記憶も徐々に消えている。

―けど、

男「―けど、完全じゃない!」

 希望が見えた気がした。
105 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/16(水) 00:39:44.53 ID:w4y02TgV0

―――――。

 薄れゆく自分の記憶の中、必死に帰路を手繰り寄せ、バスやタクシーも煩わしく走り続けた。

バンッ!!

男「ただいまっ!!」

 玄関をこじ開け、叫びながら靴も脱がずに2階へ駆け上がる。
階下から母親の「おかえり〜!」という声が聞こえたが、そんなものに構っている暇は無い。

自室に飛び込み、日記を探す。
しかし見つからない。

男「いっつもここになおしとくのにぃぃぃぃ、むぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 イライラと、物を散らかしながらその中を探る。
記憶の中も探る。

男「えぇと…確か確か、あっ!昨日読んだ!!」

 その時、最後に置いた場所であるベッドの上を探す。
邪魔な毛布を投げ飛ばし、その下にあった日記をひっつかむ。
 開き放してあったので、そのページを覗き込む。

『男へ、』

 友の字で、そう始めに書かれた文章を見つけた。

『明日のデート(って男が言ってたんだしそれでいいよね)が、すっごく楽しみです!』

『初デート、良い思い出にしようね。』

男「あったりまえだばっきゃろー。」

 読んでいる間にも、その文章がうっすらと消えていって、俺の中の焦りを加速させた。

乱雑にページを捲り、自分の筆跡を探る。
106 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/16(水) 00:56:01.49 ID:w4y02TgV0

 しかし、みつける毎に、文字が消える。
その記録した時間へ飛ぶ間も与えられない。

男「くっそ、くっそ!くっそっ!!」

母「どうしたの〜?」

 階段を上る足音と、母の声。
近づく存在が、更に俺を焦らせる。

男「お前なんかしらねぇっつぅんだよっ!!!」

 意味も無く叫ぶ。
反感をあらわにする叫びが聞こえたが、俺の耳には届かなかった。

男「ヤバイやバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイっ!!」

男「文字が全部消えてくってことは…俺の行為が書きかえられてるんだ!!」

男「友が本当に消えちまったんだとしたら、俺の行為全部が書き換わるって、そういうことだよなっ!!」

 古い記事へ、古い記事へと捲るも、ついに最古の文字はも完全に消えてしまった。

男「くそっ!!印刷文字まで辿るか…?…いや、印刷機に巻き込まれて終わりだ…」

 ぐぐっと握りこんだ表紙越しに、自分の指圧で手が痛みを感じる。
親指で押し込んだ部分はへこみ、少し千切れて―

男「!!」

 天啓―とはこういうことを言うのかもしれない。
文字が消えても、裏につく跡はどうだ?!

 紙をすらっとなぞる。

男「サラサラ)………他に手は…」

 ふと、あの”閻魔帳”を思い出す。

母「誰がしらねぇだって?」

 がちゃりと、母親が部屋に入ってきた。
107 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/16(水) 01:06:30.69 ID:w4y02TgV0

男「あぁ!ちょうど良い所に!!」
母「えっ」

 俺の熱烈な歓迎に、少々怒り肩に見えた母親も虚を突かれたように立ち尽くす。

男「分厚い本知らないですか?!ちょうどこのくらいの!B4サイズで!!」

 手に持っていた分厚い本を母親に見せる。

母「えっと…B4ってのがよくわからないけど、…それなら今目の前に…」
男「えっ」
母「えっ」

 手の先を見る。

しっかりと掴んでいた。

男「………」
母「………」

男「ただいま」
母「おかえり」

 そういって母は、「おやつあるから手荒っておきなさい」と言って部屋を後にした。

母親を眼にした途端、頭の中に両親との記憶がぽつぽつと湧き出てきたが、気持ち悪さを誘うだけで嬉しくもなんとも無かった。

男「とにかく今はこいつだ。」

 パラパラと”閻魔帳”を捲る。

考えるのは俺のこと。
108 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/16(水) 01:24:19.12 ID:w4y02TgV0

 一般的に知られているタイムトラベルと比べると、俺の能力は制約が特色が強すぎる気がするはずなのに、女は何も指摘しなかった。
その上、俺以外のトラベラーに会ったことは無いといった。
女は、何も記録した様子は無かったのに時間を飛び越えられた。

 これらを合わせて考えて、女は俺と能力の制約は同じだと見れる。
そうすると、何を頼りに時間を飛んでいるか…

それはズバリ――

男「―”閻魔帳”か…(パラパラ」

 アイツが俺にはじめてタイムトラベルを実演して見せた時、俺はアイツの話を特に理解していない素振りはしていない。
それなのに女が俺に「納得させるため」と称して未来から飛んできてみせたのは、
俺が未来で話した、もしくはこの本に記されていたと考えるべきだ。

 やがて文字が浮かび上がってきた。
それと同時に表紙から最初のページへと戻る。

冒頭に記されていたのは、やはり”ケダモノ”のこと。

男「…俺は、恐竜の絶滅をこの眼で見たのか…?」

 博物館での、”隕石ブース”を思い出す。

男「いや…今は友だろうが。」

 1ページ2ページと捲る。

男「!!」

 みつけた。

男「ここだ…」

 指でその部分をなぞる。

消える気配は感じない。

男「…”俺の正体ばれちゃった?!”……」

男「…なんて間抜けなんだ…ぷっはははは…」


 読み上げた部分に手を重ねる。


男「じゃあな、見知らぬマザー。これでこの時間のアンタとはオサラバだ。」

 体中を、冷たい蒼い光が包んだ。――
109 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/16(水) 01:37:45.29 ID:w4y02TgV0

―――――。

 暗い世界。遠くに窺える白い粒を目指して、俺は光速を越えていた。

蒼い光。

ただ見受けることの叶わぬ光。

儚き蒼が、麗しい青の星へと降り注ぐ。――


 ――校舎と食堂をつなぐピロティ、そこへ俺は降り落ちた。

蒼い光が霧散して、体を暖かさと重力が支配する。

男「……成功…したのか…?」

 不安になり、辺りを窺うと、――


女「そこまでです、タイムトラベラー!」男「またかよォッ?!」


―背後から、最早お決まりのようなセリフが聞こえ

た気がした。

男「………」

 振り返っても、誰も居なかった。

と、言うより。

男「人の気配がしない…」

 どこか遠くから生徒の喧騒ぐらい聞こえていたものだが……

男「…もしかして、場所だけ飛んで時間は巻き戻ってなかったり……?」

―バサッ―

 目の前に、何かが落ちた。

男「?…」

 近づいて、見下ろす。

男「!!」

 ”閻魔帳”だった。
あわてて手元を見るが、元々持っていた方は無くなっていた。

男「……っ……!!(ゴクリ」

 恐る恐る、それを手にする。


表紙を開いて、1ページ目を見ると――



『パラドックスへようこそ。』



――そう記されていた。
110 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/16(水) 01:39:23.47 ID:w4y02TgV0
あい!中盤終了ってことで。


次回からは終盤、謎解きと男の冒険が始まります〜。

……多分。

書き溜めは無いのでw
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東海・関東) [sage]:2011/11/16(水) 01:42:09.06 ID:J8+t0iSAO
乙〜
面白いよ
楽しみにまってる。
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/16(水) 01:43:46.72 ID:GBZl2x/vo
乙!
続きも楽しみにしてる
俺の友は復活しませんか?
113 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/16(水) 02:27:46.61 ID:w4y02TgV0
ありがとうございますw

友の復活は気長にお待ちください。

それと、友は男の嫁だ!
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(福岡県) [sage]:2011/11/16(水) 04:45:15.69 ID:u+yMCsOfo
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115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(福岡県) :2011/11/16(水) 04:45:41.65 ID:u+yMCsOfo
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116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(福岡県) :2011/11/16(水) 04:46:17.32 ID:u+yMCsOfo
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117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/16(水) 07:47:52.92 ID:JcA6awDg0
はいはい病院行きましょうね
118 : ◆N1RGqRourg [sage, saga]:2011/11/16(水) 09:46:48.46 ID:w4y02TgV0

―――――。

 ある男は、遠い未来から捨てられた。

人間たちに望まれて、身体を作る粒一つ一つから造られた男は、

”歴史を守る組織”と教えられて加入したのは、成長を見限り、現在までの歴史の安定のみにすがる弱者の集団であった。

男は、過去を守るのはもっともだと言った。―

―しかし、同時に今から未来を変えてゆくのは大切な事だとも言った。

 仲間たちはコレに不安を覚え、歴史の調停と称した雑務を男に与え、遠い時間の中に葬り去ろうとした。

超古代の生物の終末。――氷河期の到来を視認せよとの指令に、男は静かな憤りを感じた。

 命令違反とは知りつつも、ささやかな抵抗として、飛び越える期間を刻みながら目的の時代へと向かう男。

幾多の跳躍の中、男が見たのは人々の、喪失を憂う表情だった。


 男は大層驚いた。

未来では、誰もあんなに表情豊かではない。

人はあそこまで楽しく笑い、あそこまで悲しく涙するのかと感激した。

やがて男は、時を自在に操る自らの力に恐怖する。

―この力が、人々から未来を渇望する心を奪ったのではないか。―

 自己嫌悪が膨れ上がる。

胸がつまり、頭が重く感じる。

しかしいやいやと、その考えを振り払う。

―これまで見てきた人々は、皆過去を変えたがっていた。その人々の望みの結晶が私なのだ。―

 と、男は悟りを開いた。

ならば、人々が望むように、たった一人だけ救って見せようと強く願い、

――人類の始まりを一人、救って見せたのだ。
119 : ◆N1RGqRourg [sage, saga]:2011/11/16(水) 09:59:06.61 ID:w4y02TgV0

 ある女は、原始の時代から救い出された。

遠い始まりの時代、弱肉強食の食物連鎖へと飲み込まれんとする寸でのところで、空から降り積った光に救い出された。

家族を喰われ、帰る場所も頼る当てもなくなった少女の腰に、蒼い光はやさしく腕をまわす。

光に抱かれた女は、ひんやりとした感触の中に、言葉は無くとも感じる、暖かな人の鼓動を聞いた。


 瞬く間に空へと連れ攫われる女。

こんなに美しい景色を見たことがあっただろうか。

放射状に拡大される星空の中、虹色の光の向こうの暗闇に、蒼い銀河をみる。

振り返ってはいけないという光の言葉もわからずに、女は自らの過去の姿を背後に見た。

その景色が、後の後まで女を大層狂わせてしまった。

 青い銀河を抜けた先、麗しい青い星に光とともに降り積った女は、男と永遠に切れない絆を得た。
120 : ◆N1RGqRourg [sage, saga]:2011/11/16(水) 10:03:36.77 ID:w4y02TgV0

 やがて女は、光とともに永遠の時を過ごした。

―そして、その先で共に居た光がどのような試練を迎えるかも知ってしまった。

―光はやがて、永遠の時の流れに取り込まれ、いずれ野生へと帰っていってしまうことを…。


 光の一番傍であり続けた女は、時を操る力の片鱗を得た。

――そして女は、遠い未来から一人の男を救おうと決めた。
121 : ◆N1RGqRourg [sage, saga]:2011/11/16(水) 10:08:48.14 ID:w4y02TgV0

 始祖を救いて自らを殺そうとした男と、

未来を憂いて友を失くさんとした女が、

 遠い未来から始まりの時へ―

全ての発端から悠久の時へ―


 ―互いに互いを救い合おうと心に決めた一組の番の思いは、やがて一つの時代で混ざり合う。

一つの新たな世界を築き上げた。
122 : ◆N1RGqRourg [sage, saga]:2011/11/16(水) 10:22:38.39 ID:w4y02TgV0

―――――。

『パラドックスへようこそ。』

 ”閻魔帳”にはそう記されていた。

男「…えっ……、なん、なんだよ…」

 俺はただ、過去に戻って友に目の前から消えて欲しくなかっただけだ。
パラドックスなんてこれっぽっちも望んじゃいない。

『―けれど、その為には貴方はここへ来る必要がありました。』

 ―俺の思考を読んだかのような質疑応答に、「あぁそうか」と思い直す。

”閻魔帳”はパラレルワールドの事象すら記すんだったな。

『ご名答です。』

 ―だとしたら、異世界で誰かが俺のことを読んでいるのかもしれない。

『―ご名答です。』

男「―お前は…女か?」

『無関係ではない。と、申し上げておきましょう。』

 都合が悪くなるとうやむやにされそうな答えだったが、まぁ今はいい。
―それよりも、だ。

男「パラドックスって…なんだ…?」

 タイムパラドックスの事か…?

『またまたご名答です。』

 少し、こいつの文章は癇に障る。が―
―そんな事はほんとうに些細な事だ。今気にするべきとは思えない。

男「それで…俺はなんでこんなところに…パラドックスなんかにたどり着いちまったんだ?」

『失礼を承知でお訊ねします。』

『―貴方はどういうつもりで時を越えましたか?』

 …こっちが質問をしているのに質問で返すとは、宣言どおり失礼な奴だ。
……まぁ、いいか。

男「消えた友を……俺にとって必要な人を取り戻すためだ。」

 本来、この力ってそういうどうしようもない時に使うための力のはずなんだ。
ふと、考える。―こいつは友を知っているだろうか?

男「あ、友っていうのは、俺の…―」
『―惚気は結構です。』
男「あ、さいですか…。」

 親切心を一蹴された。
123 : ◆N1RGqRourg [sage, saga]:2011/11/16(水) 10:38:39.72 ID:w4y02TgV0

『そう、貴方はその”友さん”とやらを失いたくないから、時間を越えた。』
『けれど、彼女は彼女自身が自白したとおりに、貴方が先ほどまでいらっしゃった世界を作った存在だった。』
『―お答え致しますが、貴方の元居た世界のままでは彼女は救えない。』

男「っ」

 予想は出来ていた。
世界を作った本人が、俺の前から消えた。
更には俺の中の記憶まで消えていた。

 ……あれ、そういえば―

男「―い、今はおれ、俺は友のことを全部覚えてるぞ!」

 今しがた居た時間――”閻魔帳”の言い方だと元居た世界――では消えていった記憶がだ。

『残念ながら、彼女が貴方に覚えていて欲しかった記憶は、あの世界で起きた事のみには留まりません。』
男「えっ」

『はっきり言います。』
『―貴方は、彼女の思い出の中の人の模倣なのです。』

男「………」

 今の俺は、似せて作った紛い物。
友が望んだ存在に、パッと見近いが別の存在…?

男「……っ…!!」

 拳を痛いくらいに握りこむ。

男「…それがどうした。」

 ほんと、それがどうした。

男「俺が友に傍に居て欲しいだけだ、」
男「―俺が偽者だろうが関係ないっ、」
男「――伊達に2日もなやんでねぇぞぉっ!!」

 そうだ、俺が何者かなんて悩み、答えは昨日出したんだ。

男「俺が何者か!なんてどうでもいいっ!!んな哲学に興味は無いっ!!」
男「俺がどうかなんて俺が生きて決めていく!」

男「―その為に、友には一緒に居て欲しいだけだっ!」

 心の奥から、ほんとうはずっと友に言いたかった言葉を吐き出した。
たった数日前に始まったばかりの人生なのに、それよりずっと前から、友のことを大切に思っていた気がする。

『……結構。』
『今ので、あらかた条件はそろったと思います。』

男「?」

 じょ、条件?…っ、てなんぞ?
124 : ◆N1RGqRourg [sage, saga]:2011/11/16(水) 10:54:00.51 ID:w4y02TgV0

『失礼、実は話の途中だったのですよ?』
男「あ、あぁそれはどうも、もうしわけないことを…」

『貴方の元居た世界では、友さんという存在はもはや消えていった存在。』
『―しかし、世界の創造主が消えたというのに、友さんが居たという記憶を、貴方は最後まで失わなかった。』

『――…なにより、貴方の存在が消えなかった。』

『貴方を作るために造った世界なのに、―です。』
『彼女はどうやら、貴方を助けたかったのでしょう。』
『永遠の時間に閉じ込めてでも―ね。』

男「…永遠の…時間…?」

『別の世界の話をしましょう。』

『別の世界では、一人の時間渡航者が居れば、他にも数人居ると考えた方が良い。むしろ自然だ。』
『その理屈はわかりますね?』
男「ん、あ、まぁ…なんとなく…」

 それは俺も悩んでいたのだ。
些細な間と言えども、時間を繰り返したり無くしたり、未来まで変えたりして、
そこには必ず人為的なものを見て取れるはずなのだ。
それを全ての人が見過ごすのだろうか?―と。

『時間渡航者同士のいざこざは本当に恐ろしい…』
『能力者の多くは、本当に畳一畳分の機械に乗って飛び回ったり、一見するとなんの制約もないように見えたりもします。』
『―そんな中で貴方の能力の制約…これは中々に悪用されやすく、捨てられやすい…』

 な、なんか物騒な話になってきた…
125 : ◆N1RGqRourg [sage, saga]:2011/11/16(水) 11:06:43.49 ID:w4y02TgV0

『そんな貧弱の能力しか持たない人が、とても優遇された能力者に眼をつけられないはずが無い。』

『なのに、友さんはタイムトラベラーが貴方のみの世界を作ろうとした。』
『―初めは、貴方から色々搾取するつもりかと思っていましたが、こちらで調べてみると、真逆だという事実が浮かんできましてね。』
男「真逆の…事実?」
『それに関しては、ご自分で見つけて差し上げてください。それを友さんは望んでいます。』

『―つまり、弱小な限定条件を振りかざして時を越える貴方を――貴方の原作を守りたかったのでしょう。』
『外敵の居ない、かごの中で。』

男「まっ、待った!」

『なんでしょう?』

男「まるで、と、友がとんでもない存在みたいじゃないか!そんな素振りは一つも…―」

『―「いつの時間だろうと、ボクがそこにいればボクはボクだと思うし。」―』

男「っ!!」

『「今のボクと記憶が違うのなら、それはどうしたってボクとは言い切れないから。」』

『極めつけは、貴方が時間を越える度に言う誰かへの別れの挨拶に対し―』

『―「いつも言ってるよね。」』

 友のマヌケ……
隠しきれてないじゃないか…
126 : ◆N1RGqRourg [sage, saga]:2011/11/16(水) 11:18:43.67 ID:w4y02TgV0

『それを言うならば、それに感づかなかった貴方も貴方です。』
『時間渡航者なら、誰だって簡単に閉鎖された世界を作り出せるのですよ。』

『―今の貴方のようにね。』


 はっと周囲を見回す。

何も聞こえない、何も動いていない。

男「どうなっているんだ…」

『ようこそ、パラドックスへ。』

『ここは貴方だけの世界の始まりです。』
『貴方以外はまだ、時の流れを受けていません。』

『貴方がその世界を好きに作り変えてゆけるのです。』

『物事に関連する過去は変えられませんがね。』

男「…なら、なんで”閻魔帳”がここにあるんだ…」

『それは、貴方が持ち込んだものです。』

男「…だって飛ぶときはしっかりと握って…!――」

『―貴方が飛んだ先の時間では、その本は誰が持っていましたか?』

 ………

男「っ!!」

 女だ!

この時間では確かに女が、ちっこいくせに勝気な表情でこの本を持って「そこまでです、タイムトラベラー。」と俺を呼び止めたんだ。

『その本はですね、パラドックスの影響を受けにくいのです。』

男「受けにくい…?」

『難しい話になるので、割愛しますが…まぁ近い内にわかりますよ。』
127 : ◆N1RGqRourg [sage, saga]:2011/11/16(水) 11:29:59.34 ID:w4y02TgV0

『そちらの世界、貴方はどうしたいですか?』

男「………」

 そんなもの決まってる。

男「友を、女を、俺の生活を取り戻す。」

『結構!その身勝手さは、まさに”男”の名を名乗るにふさわしい!!』

『友さんがオリジナルとして慕った男は、身勝手なくせに人の為ならば何だってするような奴でした!』

『人と関わった記憶の極度に薄い貴方が”男”になれるか心配でしたが―』

『―”閻魔帳”を見るに、今の貴方は確かに全ての”男”と深いところで繋がっています!!』

『さぁ、その本を握り締めて、貴方の見た夢を辿ってください!』

『貴方の見た夢は、友さんと貴方の思い出です…。』

男「……ひどいネタバレをされた気がする。」

『愚鈍な貴方の事です。コレぐらいのサービスは特別ですよ。』

 ボロクソに言われながらも、”閻魔帳”の最初のページを開く。

―飛ぶ先は、”ケダモノ”とやらから少女を守る場面だっ!!


『―頑張れよ、俺。こっちは女ちゃんとの約束があるんだから…』

男「…まかせとけ、オリジナル。」

『そういう卑屈なところが違うのかなぁ〜…』

 情け無い異世界の俺のぼやきを視界の端に見受けながら、俺の体は再び蒼い光に包まれた。
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [sage]:2011/11/16(水) 11:31:21.91 ID:+PAcuE1Eo
乙!
楽しみにしてるわ
129 : ◆N1RGqRourg [sage, saga]:2011/11/16(水) 11:31:29.99 ID:w4y02TgV0
はい!今回はこんなもんで。


ボクはこれからお仕事です〜…

ボクアルバイトォ〜!!
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [sage]:2011/11/16(水) 11:32:29.77 ID:+PAcuE1Eo
あ、悪い
誤爆したと思ったら区切りだったww
131 : ◆N1RGqRourg [sage, saga]:2011/11/16(水) 11:34:34.52 ID:w4y02TgV0
>>128
うぇ・・・たいむとらべら〜・・・
132 : ◆N1RGqRourg [sage, saga]:2011/11/16(水) 23:14:48.03 ID:w4y02TgV0

―――――。

男「―――ッ!!」

 舞い落ちる。

降り積る。

ケダモノが少女に飛びつかんとしている様が上空から既に確認できた。

これは、俺が夢でみた景色だ。

―空気うっすいっっっ!!―

 着地と同時に踏み込み、腰だめに構えた拳を後部に半歩前へ出る。

これだけで少女に奴のまがまがしく尖った爪とか牙とかは届かないはずだ。

―後は、拳を全力で叩き込むだけ―

 だが、

―みえねぇぇぇぇぇ!!―

 蒼い光が体から外へと霧散していて、視界が確保できない。

露ほどもない、第6感に頼ろうとして、止める。


―奴の熱を感じれば、いけるんじゃないか・・・―


 違和感を察知したのだ。

いつもなら、蒼い光が体から剥離していくと同時に、外気の温度の高さに安らぎを感じるはずなのに、
今回に限ってはあたたかさなどかけらも感じない。

―状況が状況だからなのかも知れないが、使えそうだと咄嗟に思考を切り替えた。


133 : ◆N1RGqRourg [sage, saga]:2011/11/16(水) 23:32:43.95 ID:w4y02TgV0

 周囲を濃く包む蒼い光の粒子達。

それが空中で静止しているように視えた。

しかし、僅かだが、確かに流れ動いている。

一定の方向、俺から離れるように、全ての光は動いていた。


 視界前方に、違和感を覚える。


2,3粒程の光が、俺の方へと戻ってくる。


―跳ね返ってる…?そうかっ!!―

 こちらへ漂ってくる粒子を撃ち抜くように、その更に向こう側へと拳を突き出す。

繰り出す合間にも、腕から無数の蒼い光が爆発するように散ってゆく。


突き出した拳が、何か不快な暖かさを持った柔質感に包まれる。


 その時を待っていたかのように、辺りの景色が加速を始める。

体を包む薄い暖かさ。

光を吐き出し続ける拳がケダモノの腹にめり込んでいた。

 一瞬の生暖かさに眉根を吊り上げ、腕がはちきれんばかりに拳を振りぬく。


「――――ァッ!!」


 よろめきながら、小さな怒号を漏らす。

上手く重心が乗ったようで、ケダモノはおもしろいぐらいに目の前の傾斜を転がり上ってゆく。
134 : ◆N1RGqRourg [sage, saga]:2011/11/16(水) 23:49:38.07 ID:w4y02TgV0

 安定しそうに無い姿勢を、そのまま前転の勢いに使う。

肩、背中、腰と地面を転がり、脚がつくとそのまま立ち上がった。

―あー…さて……。―

 問題はここからだ。

この後、かっこつけたこと叫びながら一発お見舞いしようとしたのは覚えてるが―

―決まったか決まってないかは覚えてないんだよなぁ〜……―

 というか視ていない。

思わず前傾姿勢でガクリと肩を落とすが、あわてて姿勢を正す。

先ほど踏み出した足を、今度は半歩後ろに引く。


―確か、手が派手に蒼く光ってたよな…―

 今の、跳躍後の余韻の中かました正拳よりも派手に光が溢れていたはずだ。

だが今、跳躍時の蒼い光は完全に失せてしまっていた。

―…ということは、またどこかの時間に飛びながらかますのか…?―


 なんという4次元さっぽう。


しかし、媒介とする情報が手元に何も無い。

―”閻魔帳”は、多分、この時間にあるべき場所にとんでっちまったはずだ。―

 パラドックスの影響を受けにくい…はずだったから。
135 : ◆N1RGqRourg [sage, saga]:2011/11/16(水) 23:51:39.05 ID:w4y02TgV0
失礼、

晩餐をいただいてまいりまする。
136 : ◆N1RGqRourg [sage, saga]:2011/11/17(木) 01:24:39.90 ID:HPCLQx3M0

眼だけで、簡単に周りを見まわす。

クレーターの縁にぐるりと囲まれているが、それ以外になにかタイムトラベルの媒介になりそうなものは――


――あ、そうか。――

 数時間前まで居た、”隕石ブース”を思い出す。

こいつの再現人形みたいなものが展示されていたはずだ。

―あぁ……そうかそうか…―

 夢の中での叫びを思い出す。

そういうことか。

つい、口端がつり上がった。


―でも、そんなことできるだろうか…?―


 いや、必ず出来るんだろう。

オリジナルめ…、”貧弱な能力”だなんて大嘘こきやがって…



 蒼い光を呼ぶ。

クレーター内側の溝から噴出した光が、うねりながらも幾本もの筋となって大量に拳にまとわりつく。

男「小さい女の子を泣かせる奴は…っ」

男「過去に飛ばされて死んでしまえっ!!」

 同じく腰だめに構えた拳を、今度も全力で打ち込まんとする。

ギリッと歯を食いしばり、体中の筋をビキビキと軋ませて繰り出した殴打。

男「〜〜〜〜〜ァァーーーーーッ!!!」

 感じた事も無い痛みに、毛の先一本一本まで悲鳴を上げているようだった。


男「ガァッ!!」

 泣き言をかみ殺す。
更に全身を力ませて、蒼い光の流れを思考だけで操る。

男「―俺も一緒に行くかもなぁっ!!」

 ケダモノの体は、完全に蒼い光へと粒子化した。

前へと突き出した腕からは、まだ蒼い光は離れてくれない。

空へと吹き上がる、竜巻のような光の奔流。


足から、腕から、粉々になって巻き込まれていく感触がする。


男「おぉ…俺、このまま隕石衝突直後の時間に飛ぶのかな……」


 体の粒子化が、肘膝まで及び、覚悟をゆっくりと固める準備を――


友「だめぇっ!!!」
137 : ◆N1RGqRourg [sage, saga]:2011/11/17(木) 01:46:23.11 ID:HPCLQx3M0

 俺の体を蝕む、蒼い渦の中から、友が飛び出してきた。

男「友っ?!」

 友はそのまま俺の体にしがみつく。

―あぁ!抱きしめ返したいのに何でこういうときだけ腕が無いっ!―

 たった数時間だが何日間にも感じた間、俺が望んでいた人が、目の前にいるのに。

友「ばかっ!!ばっかやろう!!!ボクがどれだけ頑張ってお前をあの世界に作ったと思ってんだ!!」

友「お前を助けるために!どれだけガマンしたと思ってるんだ!!」

 首をがっちりと両手でホールドされて、友の顔は窺えない。
しかし―

男「へいがーる、涙声でそんなこと言わんでよ…」

友「うっさいっ…!!泣いてない!!!」

 頬や首筋に感じる冷たい感触は……俺の冷や汗なのかな。

男「悪い、友。」

友「なんだばっかやろう…」

男「正直、また会えただけで悔いは無い。」

友「…っ!!」

 首元に抱きつく力が、ぐっと強くなった。

友「ばっかやろう…ほんとにばっかやろうっ!!」

男「それしかいえんのか」

友「だまればか!また、またお前は私の前から消えるのか!!」 

友「一番最初の友達だった時も!仕事の相棒だったときも!!」

友「やっと普通の恋人になれると思ったのに、お前は消えるのか!!」

友「私の命だけ救って!そうして消えるのか!!なんどやりなおせばずっと一緒にいてくれるんだお前はぁっ!!」

友「お前はなんでいつも私を助けるんだぁっ!!」
男「………」

 俺が生まれた理由。―

―こいつが望んだから。

俺がここにいる理由は、―

男「お前と一緒に居たいからだっ!」
138 : ◆N1RGqRourg [sage, saga]:2011/11/17(木) 02:01:21.71 ID:HPCLQx3M0

男「やっと言えた…」

友「ばかっ!!こんな時に言うな!」

男「いいや!こんな時だからこそ言うね!俺はお前が居ないとだめだ!だめだめだ!」

友「あきらめるなよばかぁっ!!」

男「ばかばかいうなばか!俺だってあきらめたくねぇよ!!」

友「わかった!私が男の物で時間を未来に辿るから…っ」

男「もうほとんど残ってねぇよ!お前だって今巻き込まれてんだぞ?!とっとと離れろ!!」

友「やだっ!離れない!!一緒に居るっ!!」

 友の肩まで、粒子化しはじめている。

男「この俺のことは諦めろ!!他の俺を当たれ!」

友「なんで……なんでそんな酷い事言うんだよぉ…」

 ここは心を鬼にして、泣かしてでもこいつを引き剥がさなければならない。

俺の手足を完全に砕いてか、光の嵐は勢いを増して、明滅する巨大なすり鉢型の壁に見える。

友「私の…私の思い出を全部詰め込んで……私のかけらなのに…」

友「この男じゃなきゃ!…そうじゃなきゃ…もう立ち上がれないよ…」

友「……男…諦めないでよ…」

友「私だって、男に助けられて、パラドックスに放り込まれて、男がいない世界を知っちゃったんだよぉ……」

友「だから…だから…っ!!」

女「そこまでです、お惚気トラベラー共…」

 えっ

―――――。
139 : ◆N1RGqRourg [sage, saga]:2011/11/17(木) 02:03:11.78 ID:HPCLQx3M0
調子が出ないので、今夜はこの程度です、ごめんなさい。

次回は眠気を払拭した万全の体制で挑みたいです…

おやすみなさい、おつかれさま。
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [sage]:2011/11/17(木) 16:27:10.10 ID:BH9sSdzZo
面白い!面白いぞ!

終わったら簡単な流れとか補足もほしいな…
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/17(木) 21:13:40.61 ID:pbMxqmvxo
HAYAKUしてくれ息子がおさまらん
142 : ◆N1RGqRourg [sage, saga]:2011/11/17(木) 22:23:16.73 ID:HPCLQx3M0
ただいま戻りました!

今日はそんなに眠くないので多分昨日よりは展開が進むかと思います!

しかし書き溜めはないのでお待ちください!!
143 : ◆N1RGqRourg [sage, saga]:2011/11/17(木) 22:49:19.19 ID:HPCLQx3M0

男「―頑張れよ、俺。こっちは女ちゃんとの約束があるんだから…」

『…まかせとけ、オリジナル。』

 ったく…よく言うよ

男「そういう卑屈なところが違うのかなぁ〜…」

 ”閻魔帳”から視線を逸らして、空を見上げながら溜息を吐く。

友人A「おーい!どうした男!!らしくもなく黄昏やがって!!」

 足の上に”閻魔帳”を置きながら空き教室の窓枠に腰掛けていると、窓の外、下から声が聞こえた。

男「あぁ、気にすんなー。」

友人A「あんだぁっ!そのなめた反応はぁっ!!」
友人B「俺たち…男に追い越されたのかな…精神年齢的に…」
友人C「はっ?!まさか!!!男ォ〜〜!!貴ッ様、魔法使い見習い仲間の俺たちを裏切ったんじゃ…」

男「うっせ!馬鹿!!モテないから悩んでんだよっ!!」

友人A「そりゃそうか、男だもんな。」
友人B「馬鹿と煙と男はモテないもんな。」
友人C「良い奴過ぎてな…。」

 好き勝手言いやがって!!
気が楽だからって、男子の数が9割越えの学校を選んだのは失敗だったかな…。

男「…お前らが全員女性だったら良かったのに…」
友人A「突然怖い事言うなよ?!この高さで案外聞こえるんだからな?!!」
男「気にすんな馬鹿ども。とっとと帰れ。」
友人B「お前もなー。」

 文字通り上からの俺の忠告を素直に聞いて、馬鹿どもはわいわいと騒ぎながら帰っていく。

男「遊びの誘いがなかったって事は、全員寄り道せずに帰るんかね。」

 まぁ、流石に休校日にまで学校に来て日没まで補修受けてたら遊ぶ体力も無くなるか。
門限もあるだろうし。

男「俺も早くかえらねえと、母ちゃんうるせぇからなぁ…」

 そうぼやいて、思い出す。
この本に書かれたパラレルワールドの俺には、親が居なかったんだっけ。

男「………(スス」

 閉じた”閻魔帳”の背表紙を撫でる。

男「それは……嫌だな。」

 あこがれたりはするけれど。
144 : ◆N1RGqRourg [sage, saga]:2011/11/17(木) 23:06:29.72 ID:HPCLQx3M0

 過去に飛び立ったソイツは、最後には「俺だったらこうする!」というような事を次々とこなしていった。
常に人を見下した態度だけれど、少しでも多くの人を救えるならなんだってする矛盾も手にしてくれた。

男「…けど、俺にはパラドックスを起こす勇気なんてねぇよ…。」

 一度だけ、手違いで遠い過去まで飛んでしまい、そこで喰われかけていた一人の女の子を救ってしまったが――

男「―慌ててこの時間に連れてきて、無理矢理タイムパラドックスを押さえ込んだけど…」

 歴史では、彼女はそこで食い殺されて、人類の存続云々には関わっていないはずだと思ったから、
思わず身寄りのなくなったその子を連れ帰り、その時間から消してしまった。


女の子「あにぃちゃー!!!」


 またも、窓の外から俺を呼ぶ声。

男「…人気者は辛いぜ…(ハァ」
女の子「あはは!かっこわるー!!」

 容赦ない突っ込みに、窓から外へ落ちてしまった。

慌てずに”閻魔帳”で自分記事の最新ページを早びきして文字の先に飛ぶ。

空き教室中が蒼い光に包まれる。

 変わらず、俺は窓枠に腰掛けていた。

かすかに、遠くから誰かが近くに走り寄ってくる音が聞こえた。

 その音が止むと同時ー

女の子「―あにぃちゃー!!!!」
男「かっこ悪いって言うなァっ!!!」

―怒鳴った。
145 : ◆N1RGqRourg [sage, saga]:2011/11/17(木) 23:31:39.42 ID:HPCLQx3M0

女の子「な、なぜわかったー!!」

 ちっこい癖に大仰に体を仰け反らせて、俺のするような反応をとる女の子。

男「俺をなめるな!」

 窓枠に仁王立ちし、ソイツを見下ろす。

女の子「危ないぞー?」
男「うむ、そうだな。」

 ゆっくりと教室の床に足を下ろし、同じ姿勢で今度は安全に見下ろす。

女の子「ホッ…」

 どうやら本当に心配だったようで、無い胸を撫で下ろしていた。

”閻魔帳”でコイツの記事を開く。

―コイツの名前は”チビ”だ。俺が勝手につけた。―

 チビの最新のページを開いて、文字のすぐ横、まだ何も記されていない空白に指を添える。

そのまま両手を窓の外に突き出し、チビを見る。

女の子改めチビ「………?」

 俺を見る眼をまん丸にして、首をかしげている。
にっこりと笑いかけて、タイムトラベルした。

 一瞬の浮遊感と、地に足が着いた抵抗と重力を感じた瞬間、駆け出す。

蒼い光が濃すぎてよくわからないが、チビの向いている方向からして校舎はこのまま真っ直ぐ進めば行けるだろう。

 ―光の壁を突き抜ける。

すぐ目の前に、校舎の壁があった。
両手を突いて勢いを殺し、体を浮かせてから手の力だけで少し後ろに飛ぶ。

 見上げると、”閻魔帳”が視界を覆った。

男「ーあだっ!!つ…」
チビ「あにぃちゃんかっこ悪い…」
男「…うるせぇ」

 重々承知だっつの。

顔に被った”閻魔帳”を掴んでどける。

今のは、悪質なタイムトラベラーとの相次ぐいざこざで身に着けた4次元コンボの一端だ。
わざわざ階段で降りるのがめんどくさかったのだ。

男「さて…」

 チビの頭に”閻魔帳”を乗せるようにポフッと軽く叩く。

チビ「あうっ」
男「帰るか。」
チビ「うんっ」

 ”閻魔帳”で見えないが、こいつは満面の笑みを浮かべているだろう。

俺がロリコンに目覚めない内に、モテ期はこないものだろうか。
146 : ◆N1RGqRourg [sage, saga]:2011/11/18(金) 00:00:34.34 ID:6eGGRWjP0

―――――。

 チビを家に送り、俺も自分の家に帰った。

 そのチビをこの時代に連れ帰ってまずどうしたかというと、まず孤児として国に届け出た。

その後は完全に役人に任せて、たまに思い出してはその身を案じる程度にして数ヶ月ほど気ままに暮らしていたが―

―今思えばそれがまずかった。

 詳しくDNA検査などをすれば、コイツが時代を超えてここに来た事ぐらいすぐにわかるのだ。

そんなことが世間に知れては、大騒ぎになるが。政府にすでに未来人が紛れ込んでいたらしく、幸運にもその情報が公表される事は無かった。

―しかし、悪い事に、素行の悪いトラベラーにチビが狙われるようになってしまったのだ。


 更に数ヵ月後、TVのニュースで身元不明の幼児の惨殺事件が取り上げられ、
チビのことかもわからないのに居ても立っても居られなくなった俺は数ヶ月前へと時間渡航をした。

幾度の時間の繰り返しと、些細な情報操作により、家の近所に住む子宝に恵まれなかった老夫婦の家にチビが養子として迎えられるように仕向け、
他のタイムトラベラーからチビを守る為に、俺は影で暴れまわるようになった。

 繰り返す時間の中で、何度も政府関係者にばれたりもしたが、その記憶も最早俺にしか残っていない。

そして俺には、その長い戦いの中で、時間渡航者の組織のような奴らからかっさらった、この”閻魔帳”がある。
今は平和だが、悪意あるタイムトラベラーは影で誅して過ごしている。

男「………」

 自室のベッドに転がり、蛍光灯に手を透かしてみる。

男「…貧弱な力だった……」

 他のタイムトラベラーは、皆、俺よりも優遇された条件つきだった。
何度も過去を消されそうになったが、運命なのか、辛くも今まで生き延びてきた。

 過去を消されそうになる恐怖を、眼で見て感じてきたからこそ、最早タイムパラドックスを起こす勇気が無くなってしまったのだ。
147 : ◆N1RGqRourg [sage, saga]:2011/11/18(金) 00:26:58.20 ID:6eGGRWjP0

 ふと、異世界の俺のことを思い出す。

俺の手垢がべっとり着いた”閻魔帳”を開く。

思い馳せるは”この本の作者”という曖昧な事象。

そうして記されていくのは、俺のこと、

異世界の俺のこと、

その彼女さんとやらのこと、

女ちゃんのこと。

 パラパラとページを進めるが、学校で見た時より多く捲っても、アイツがパラドックスに到達したページには至らなかった。

男「…おぉ、そうか……過去を変えられたか…。」

 異世界の俺が、その世界の構造を知らされた時も、似たようなことがあった。

過去の事象が次々と消えていったのだ。

しかし、ソイツの思い出だけは記されたままだった。


 記事と記される人物がそのときよりも増しているということは、無かった事にされた事象を、もう一度やり直せたんだ。


なんとなく誇らしい気持ちになりながら、尚もページを捲っていると、学校で読んでいた部分の先に、いくつかの文章が増えていた。

男「ん〜と…なになに?」

女『はっ!ここはっ?!学校……くっ、あの女…一体私に何を…』

男「女ちゃんキターーーーー!!」

 俺のテンションMAXである。

女『またこの時代の”蝶の標本(バタフライ・サンプル)”を探さない……と…?』

 その呼び方は不変であった。

女『…なぜ、こんな所に……私がここに居た時間といえば……2日前ですか…』

女『……ッ!!』

女『男さん、今助太刀に向かいます…』

 女ちゃんのことはそれっきりだ。

男「女ちゃんまであいつの事追っかけて……おにいさん悔しいよ…」

 血の涙を流す。
ハンカチを差し出してくれるような人は居ない。

大人しく続きを読みふける

友『ここは…ここはどこ…?私は、私は消えたはず…ど、どうして生きてるの?!』

男「………フム」

 どうやら、彼女さんはパラドックスに産み落とされたみたいだ。

友『ここは……パラドックス?!……あぁ…そっか……はじめからやり直さなきゃいけないんだ…』

友『………?…あ…れ…?”蝶の標本”……?どうしてこんなところに落ちて…』

友『!!』

友『もう!男のばか!!余計な事してっ!!』

 その後には、先ほどの俺とチビのじゃれあいが記されていた。

男「…つまり、あちらの男さんは彼女を救えて、その彼女さんは”閻魔帳”を読んで、急いで過去に飛んだ……と。」
148 : ◆N1RGqRourg [sage, saga]:2011/11/18(金) 00:41:09.79 ID:6eGGRWjP0

男「バカップルめぇ……っ」

 唸りながら、興味本位で過去のページへ戻ってゆく。

ば、バカップルが過去で何してるのかなんて、これっぽっちも興味ないんだぜ!


 そうして眼を通した事象には、俺にとって驚愕の景色が描かれていた。


男「んな…アホな……」

男「自分以外の生物を…時間跳躍させる……?」

 そんなこと、出来たのか。

自分のためにしか使わないので、想像すら出来ていなかった。

男「俺なんか、拙い4次元コンボで化け物を伸しただけなのに……」

 クレーターという地球の記録を手繰り、ケダモノを過去に飛ばすなんて……恐ろしい事を考えるもんだ。

男「…蒼い光の嵐だってぇ……?」

男「…はは…ははは……」

 そんな広域を丸ごとタイムトラベルできるのか

男「…バケモンだろ…」

 自分の手を見る。

この能力の真価を、垣間見せられた気がした。
149 : ◆N1RGqRourg [sage, saga]:2011/11/18(金) 01:06:41.61 ID:6eGGRWjP0

―――――。

 どすんっ!

男「―――って!!」

 コンクリートの床に顔からダイブした。

 ぎゅむっ!

友「―――あたっ!」
男「―――うぐっ?!」

 友がその上に落ちてくる。

 ぎりっ―!!

女「―――ふんっ!!」
男「―――っ!!!」

 誰かの足が俺の腰にめり込んだ。
ギリギリとそのままにじられ、頭の上にも何か柔らかいものがのしかかっていて起き上がれずに身悶える。

男「―――ッ!!―――ッ!!」
友「ちょっ!!動かっ、ないでっ、ひゃっ!!」
女「こォんの変態……いい加減にしなさい…」

 俺の腰にめり込んでいる誰かの脚が、更に沈んでくる。

男「――――――ッッッッッ!!!!」

 頭を振り、苦痛を訴えるが―

友「あっ!いやっ、ちょっ、ほんっ、とにィっ!!」
女「………!!」

 ―更に痛くなるだけだった。

女「…身悶えていないで、さっさと布なり毛布なり用意してきなさい……貴方もこの方も裸同然ではないですか…(ぎりっ」

 そうおっしゃるのならまず俺の腰にめり込んでる誰かの足をどうにかしてください。

しかし、俺の頭の中には女のセリフの一部がリピートされていた。

”貴方もこの方も裸同然ではないですか。”

”この方も裸同然ではないですか。”

”この方も裸同然”

”この方も裸”

 裸って俺の頭の上のこの友ですかァッ?!

…も、もしかして、あの嵐に巻き込まれたから…ぎゅむっ!?

友「ぜ、絶対起き上がるな…っ」

 えぇ、私もそんな昨日のあれより刺激の強いものなどまだ見れる根性はありません…。
150 : ◆N1RGqRourg [sage, saga]:2011/11/18(金) 01:19:50.47 ID:6eGGRWjP0

友「……って、え?」

 頭上で、友の不思議そうな声が聞こえた。

そうして、俺の頭の上にあった重りはどこかへふわっと浮かぶ。

男「ぷへっ…?」

 息を漏らしながら見上げた先では、――


男「―――ぶっ!!」


――友が、昨日の薄着姿でそこに立ち、自分の体を不思議そうに見回していた。

女「……貴方は、こんな時でもそのような想像を致しますか…」
男「えぇっ?!いや!いやいやっしてない!してないからねぇっ?!」

女「ですが実際に、こちらの友さんはこのような格好になっているじゃあないですか!」

男「これ俺のせいなの?!?!」

 確かにさっきチラッと想像したけど!!

女「ここは貴方のパラドックスなのでしょう?!」

男「―――あ、」

 あ、そうか。

男「わ、!悪いっ!友っ、すぐに別の格好に!!」

 急いで、友のいつも着ていた服を思い出す。

友「お、おぉっ?!…―」

友「―…マジカルチェーンジっ?!(ビシッ」

 戸惑いながら、目の前の不思議現象にぴったりなセリフを即席で放つ友。
151 : ◆N1RGqRourg [sage, saga]:2011/11/18(金) 01:31:47.31 ID:6eGGRWjP0

 ふわりとスカートを翻しながら、その場で一回転する友。

友「おぉ……あ、そっか…ここは男がたどり着いたパラドックスだから、男しかこの世界は変えられないんだ。」
男「さ、流石に俺より詳しいッすね友さん…」

 だとしたら、俺も早く服を着ねば…
友にはまともな格好をさせたとはいえ、俺はまだ全身でコンクリートの感触をダイレクトに受けていた。

男「……おや?」

 これはもしや…好きな格好になれるのでは…

そう考え、いつもの冷たい蒼い光ではなく、白く暖かな光を全身に纏いながら立ち上がる。
俺がそれを着ているイメージを強く持つ。

やがてその光が四方に散り――

男「…おっしゃ!」
友「……なにそれ」

 えっ

男「『トロン』だよ、知らない?」
友「…ちっとも」

 おかしいな…

ならば!と、『レガシィ』のスタイリッシュなスーツに身を包む。

友「あぁ…そっちはうっすら知ってる。」
男「だろぉ?」
女「なぜそのようにアンリアルな格好なのですか…」

 女の無粋なつっこみに、大仰な手振りで振り返る。

男「タイムトラベラーっぽいだろう?」

 タイムトラベラー関係ないけど。
152 : ◆N1RGqRourg [sage, saga]:2011/11/18(金) 02:00:30.41 ID:6eGGRWjP0

 ずっと憧れていたスタイリッシュな自分の姿に、かなり興奮。

男「ほらほらー!ディスクもラインも光るぞー!!」

 懐からスティックを取り出し、飛び上がりながらそれを二つに切り離す。
すると、それらは一定の距離の合間を保ちながら空中で勝手に動き出し、無数の光のラインを描き出した。
両手に握り締めたそれはバイクのような起動乗車のハンドルに変わり、光のラインにそって黒光りするボディのビークルが実体化する。

男「うぉぉ!!エアバイクだっ!!」
友「…そのまま映画の世界を作っちゃいそうだね…」
女「…子供ですね…」

 ピロティ内の中空で滞空し、瞳をきらきらと輝かせていると。

友「…う〜ん」

 友が大きく唸っていた。

男「…どうした?」

 パキッとハンドルを切り離し、ビークルを先ほどのスティックの形に携帯する。
コンクリートの床に降り立ち、友へと駆け寄る。

男「さっきの嵐に巻き込まれて怪我でもしたか?」
友「うん?いや、そうじゃないんだけどさ…」

友「なんで男が、私の知らない事知ってるんだろう。って…ね?」

男「あ、ホントだ。」

友「それに、ボクも男に作られたも同然なのに、記憶が消えてるどころか、この時間で過ごした分増えてるんだよね…」

 少し落ち着いたのか、友はいつもの”ボク”に戻っていた。

友「……あ、そうだぁ〜(ニヤリ」

 いやらしい笑みを浮かべ、両手をまごつかせながら俺に近寄ってくる友。

男「な、なんだよ…」
女「その格好で仰け反るのは、結構シュールですね。」

 うるさい。

友「ボクがどうして自分のことを”ボク”って言うか……覚えてるぅ〜?」
男「なっ!お、おまえっ!忘れろって言ったろ!!」

 友が冗談で自分のことを「ボク」と言った時に、つい「その言い方かわいい」と口をついて出てしまったのを、今でも弄って来るのだ。

友「ほぉ〜!!覚えてるんだ!」
男「た、たまたまだ…たまたま………」

 ―あれ?…
…確か、昨日一昨日辺りに似たような事訊かれた時は、全然思い当たる事が無かった…のに。

友「…実はね、ボクはあんまり覚えてないんだ……」
男「えっ」
友「ただ、男の為ってのは覚えてたんだけどさ…」

 「おっかしぃ〜なぁ」と嬉しそうに呟く友。

俺は、”閻魔帳”越しに会話したオリジナルとの話を思い出していた。


―”今の貴方は確かに全ての”男”と深いところで繋がっています”―

男「あぁ、そうなのかな……」
友「あ、ひどい。今馬鹿にした?」
男「えっ?あ、いやいやそういう意味で言ったんじゃないぞ!」


女「…私だけ場違いな気がするのですが。」

 女は、”閻魔帳”に話しかけていた。
153 : ◆N1RGqRourg [sage, saga]:2011/11/18(金) 02:16:35.35 ID:6eGGRWjP0

 パンッと手を打ち合わせる。
レザー素材なのかラバー素材なのかわからないが、意外と鳴るもんだ。

男「……さて、それじゃあ、俺の知らない話をしてもらおうか。」

 そう、俺を生み出した理由と、友が消えた理由はまだ聞いていないのだ。

男「和気藹々とした雰囲気でもごまかしきれないからな?」
友「うぐっ」
女「それは私も気になりますね。貴方は何者ですか?」

 女も、いつもの眠たそうな瞳をまん丸にして友に食いかかる。
勢い余ってか、友の手を取って嬉しそうに握り締めている。

女「はっ!そうか!」
男「?なんか察しがついたのか?」
女「いえ、貴方とはじめてあった時の事を思い出しまして…。」

 そう言いながら、女は名残惜しそうに友の手を放した。

友「た、たははっ…わかっててもこの反応されると驚くな……」

 友が苦笑いを挟みながら、気になることを漏らす。

男「”わかってても”?」
友「うん、言ったでしょう?私はこの時間で過ごした分の記憶も増えてるって…」

 観念したように微笑み、両手を後ろ手に組み、何かを思い出すように、もしくはどこから話そうかと悩むように首をかしげる。

友「まず、私の正体はね、男と同じタイムトラベラーなんだ。」

 それは…なんとなく察しがついていた。

男「………」
女「………」

友「それでね…今さっき、男が助けてくれた女の子は、”私”」

男「………」
女「っ!!」

 俺は、うっすらと察しがついていたのだが、横に立っていた女が大きく身を揺らして驚く。

女「そんな……そんなはずは…」

女「そんなはずはありません!だってあれは…―」


女「――あれは私なんですからっ!!」


男「えっ」

友「………」
154 : ◆N1RGqRourg [sage, saga]:2011/11/18(金) 02:27:00.47 ID:6eGGRWjP0

 全て許容したように、何かを諦めるように、寂しそうに微笑む友。

友「うん、そうだよ。……アレは貴女であり、私でもある。」

男「まっ、待った待った!!それじゃあ何か?!お前とコイツは、同じだって言いたいのか?!」

女「そんな馬鹿な話が――」
友「うん、そうだよ。」

女「っ…!」

友「言ったでしょう?私はタイムトラベラー。」

友「私がつくった世界には、私と男以外のタイムトラベラーはいらなかったんだ…。」

友「……そのせいで失敗しちゃったんだけどね」

女「…どういう、ことですか…。」


友「……未来ではね、私と男は、どうしてもずっと一緒にはいられなかったの。」


友「…他のタイムトラベラーに離れ離れにさせられちゃったから…―」

友「―…だから私は、誰にも邪魔されない世界を作ったの。タイムパラドックスを起こして。」


友「……一番最初に男に助けられた時、”その思い出を守りたくて”、何もわからないこの時代で男を捜した、――」

友「―その思い出が、私の思い出で作った世界を壊すなんてね……たっははっ…」
155 : ◆N1RGqRourg [sage, saga]:2011/11/18(金) 02:33:15.40 ID:6eGGRWjP0

女「わ、…私は…悪者ですか…?」

友「ううん。違うよ。」

女「そう…なのですか……?」

友「貴女はあの世界に絶対必要だった。でなきゃ、私も存在できなかったかも知れないし。」

友「―それに、貴女は悪い事なんか何もしてないし、人に怒られるような事も、自分に怒られるような事もしてない。」


友「……ただ、自分を助けてくれた人の思い出を守りたくって、一生懸命だっただけだもん。」


女「………っ……!!」
156 : ◆N1RGqRourg [sage, saga]:2011/11/18(金) 02:51:39.99 ID:6eGGRWjP0

友「貴女が今泣きたいのも憶えてる。ずっと捜していた人が見つかったんだもんね。」

 友が、いざなう様に腕を広げると、女は、顔を伏せてその腕の中に飛び込んだ。


女「…っ、舐めないでください……あんな変態にっ、かんしゃなんてっ、…」

女「……貴女の憶えている通りだなんて……いくわけっ、ないじゃないですかっ……」


女「………っ…………貴女の、辛さも………少しだけ……わかります…。」



友「…?……っ」



女「私よりもずっと…っ、もっとずっと、数え切れないぐらい……いろんな時っ、間を…彷徨ったんですよね……?」

女「……あの、愚鈍の代わりに……私っ、が、褒めて……差し上げますっ。」

 女は、友の体に腕を回して、赤子をあやすように背中を撫でた。

友「…っ!!!」

 友は、嗚咽をこらえんと口元を抑えながら、女を抱きしめる腕に更に力を込めた。
首元にきつく抱きつかれ、顔を晒してピロティの天井を見上げる形になっている女の顔は、びしょ濡れだった。


女「……きっと、この言葉と、この行動は……貴女が、私の為にっ、とって置いてくれたんですよね……?」


友「っ!!……っ!!……」

 堪え切れずに、涙をもらしながら、友は深く深く何度も頷いた。
震える声で、言葉を紡ぐ。

友「…未来もっ!、私たちっ!!トラベラーにはっ……変えられるんだよ……ってね、?………教えたかっ…た……!!」

友「――…ありがどうっ!!気付いでぐれでっ!!!!」


女「…あだりま゛えでずっ!!」

女「―あ゛なだはぁっ、わだじなんでずがらぁっ!!!」
157 : ◆N1RGqRourg [sage, saga]:2011/11/18(金) 02:55:13.33 ID:6eGGRWjP0
はいっ!今夜はこんなもんで〜。

あと何回で終われるんだ…w
158 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/18(金) 10:35:06.19 ID:6eGGRWjP0
―――――。

 二人が落ち着くのを待ちながら、少しでも環境音が聞こえないか耳を澄ましていた。
まだ訊いていない事について考えても、妄想が膨らむだけで得にはならなそうだったからだ。

 やがて、先に落ち着いた女の方が口を開いた。

女「……ふぅ…申し訳ありません、私が貴女に対して言いたい事を言わずに堪えたイメージが突然浮かびまして、つい、悔しく……」
女「―それに、とても久しく、家族の温かみに包まれたような気がして。」

 女も、あの女の子だったとしたなら、俺のみた夢の通りなら、他の家族はもう…

男「ん?そういえば、女はあの世界でどうやって生活してたんだ?家とかさ。」
女「そうですね…」

女「小学校に通いながら、休み時間の合間に貴方にコンタクトを謀っていました。」

男「?!」

 しょ…小学校……?

友「たははっ、小学校時代からあんまり身長変わってないんだ…」

 友が女の横に並び、珍しくピシッと姿勢良く立つ。
確かに、紙一重程度にしか身長差が見受けられなかった。

女「シークレットシューズもはいていますからね…。」
女「家、ですが。一応養子として入れてもらっていた養親らは居ますが、―」
女「―友達の家に泊まると言い続けて、貴方の身辺調査に時間をかけていましたからね…」

 そ、それはそれは…俺が常々ご迷惑を…

女「あ、しかし、昨日はちゃんと帰りましたよ。」

女「まぁ、あの世界での話ですが。」
男「…どういうこと?」

友「言ったでしょ?この世界で過ごした分の記憶も増えてるって。…不思議と違和感は無いんだけどね。」

 横から、友の返答がくる。
ちょ、交互に喋らないでくれ!アホな俺には混乱の要因だ…。

女「…私の言うとおり、私は貴方の作ったこの世界では毎日ちゃんと養親の家に帰っていましたよ?」
友「―逆に、ボクが外泊の方が多かったかな?…君の家に、とかさ。」

 友が言葉を続ける。
なぜそこで繋いだ?

男「え、なんで片方が家に帰る事が多いと、もう片方は外泊が多いんだ…?」

 素朴な疑問を口にする。
友も女も、呆れたように見合ってから俺に説明をしてくれた。

友「ボクらはこの時代に真っ当な戸籍はないんだよ?偽造の仕方なんてのもよくわかんないし、―」
女「―そうなると、よくわからないものに手を出すより、同じ養親の元でうまく過ごす事を選びますね。」
友「こっちの世界じゃあ、ちょくちょく一緒にご飯を食べてたみたいだけどね。」
女「―お姉ちゃん、とお呼びすべきでしょうか?」

 二人が、はにかんで見合う。

友「―是非。」
女「お断りします。」

 期待し過ぎな友をきっぱり、バッサリ切り捨てた。

友「えぇ〜っ?!なんでぇ!!」
女「貴女を未来の私だと認めるには抵抗があります。姉と慕うにも同様です。」
友「ボクの時は「お姉ちゃ〜ん!」って擦り寄ったのにぃ……」
女「おや?未来も変えられるのでしょう?」
友「あっ!う、うう、嘘だよっ!それ嘘っ!!だからお姉ちゃんって―」
女「―呼びません。」

 ほくそえみながら、慌てふためく友をあしらう女を見ていると…

男「…どっちが姉なんだか…」

友「そゆこというなよなぁ〜妹からの株が下がるだろぉ〜」
女「たまに会うルームメイト程度にしか面識も無いので、元々そんなにありませんが…」

 何がどうなってこうなったんだか…
159 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/18(金) 10:55:35.98 ID:6eGGRWjP0

男「ふむ…しかしー…」

 ―戸籍の偽造か……

別の世界の俺の記憶の中に、小さな女の子の戸籍をなんども時間をやり直して少しずつ偽造してゆくヴィジョンがちらつく。
 その行為も、俺には出来るッちゃあ出来るんだろう。
でも二人にどう説明する…?

悩んだ末、この事は後回しにすることにした。

男「さてっ!友!」

友「あいっ?」

男「次の質問だ。」

 一番気なっていた事を訊ねる。多分、これが俺の生まれた理由にもなる気がする。

友「あぁ……うん…。」

 友は、観念したように女から俺に向き直り、両手を前身で組む。
ごまかしきれ無かった事が不満なのか、苦い表情をしていた。


男「あの”ケダモノ”……バケモンの正体はなんなんだ?」


 鋭く尖った爪、粘質の唾液でぬらぬらと照り返すむき出しの牙、骨と皮だけの一見貧弱そうなそうな”ケダモノ”
―だがアイツは、”アイツの形は完全に人間”のそれだった。

友「………」

 訊ねようとも、尚沈黙を深くする友。

男「なら、質問を変えよう。―」

男「――アイツは未来から来たのか…?」

 あの時代のホモサピエンスが、あんな進化を遂げるとは思えない。
―俺の中で、答えは出ていたが、答え合わせは必要だ。


友「……うん。アイツ…ボクの家族を喰ったアイツは、未来からきた人間だよ。」

友「―…いや、人間なのかな…?」

 己の呟きに、悲しそうに顔をゆがませる友。

男「アイツの正体を知ってるのか?」

友「……うん。」

男「それは――」

 友の返答に、突き詰めるように、突き崩すように、俺の中の答えをぶつける。


男「――俺のオリジナルか?」


友「……――」

 ―押し黙る友。
永い、永い永い沈黙の先、もはや答えは期待できないか、と見切りをつけようとしたところで――



友「――…うん。」



 ――友の首が、縦に振られた。
160 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/18(金) 11:05:31.38 ID:6eGGRWjP0
今回はこんなもんで…

あぁ…眠い…

おやすみなさい。
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [sage]:2011/11/18(金) 14:00:13.20 ID:Z0JmCzMho
まっこと良いところで…

乙!
162 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/18(金) 22:32:39.31 ID:6eGGRWjP0

友「…凄いね、二人とも…―」

友「―私の見てきた時間を、いとも簡単に次々塗り替えて行っちゃうんだもん……」

友「私の記憶の中じゃあ、こんなに深く話して無かったよ…」

 必死におどけようと滑稽なマネをする友に、女は独自の見解を述べる。

女「…考えようによっては、それも当然かと思いますが?」

友「…?」

女「この中で、唯一この景色を過ごしたという貴女が居るのに、未だにパラドックスは動き出しません。」

 確かに、この世界は未だに時間が止まったままだ。
この世界の未来まで知っているはずの友が居るのに、だ。

友「…ほんとだ……どうして…?」

 友が首をかしげながら俺を見る。

男「ごめん、俺もよくわかんない……」
友「…そっか。」
女「…ほんとうに不思議な人です。」

 俺だって不思議だ。
163 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/18(金) 22:43:28.54 ID:6eGGRWjP0

男「それで……?」

 それかけた話題を少し軌道修正する。

男「……どうして、オリジナルはあんなケダモノに…?」


友「…言わなきゃだめ…だよね……?」

男「俺と女は聞きたい。」
164 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/18(金) 22:45:16.05 ID:6eGGRWjP0
失礼、晩御飯食べてきます

うどんうど〜ん!!
165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [sage]:2011/11/18(金) 23:05:12.82 ID:ppjBwKMro
おいうどん、さっさと食われろ
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/18(金) 23:12:29.92 ID:0jm61wNho
ご飯かうどんかはっきりしろよ
167 :うどんおおかずにご飯はあるある ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/18(金) 23:51:39.51 ID:6eGGRWjP0

友「………えっとね…」

 辛そうな顔のまま、友はゆっくり、ゆっくりとその全てを話してくれた。

友「―…まずね、今まで経験した時間のループの中では、ボクと男は最期まで一緒に居る事が出来なかったの。…」

友「さっきも言ったけど、他のタイムトラベラーと完全に対立しちゃった時とかは、真っ先にボク達は離れ離れにされたんだ…」

友「でも、相手も自分と同じタイムトラベラーなら、こっちだってやりようはいくらでもあるんだよ。それは実は大した問題じゃない、むしろ日常茶飯事だった時もある。」


友「……一番の問題はね、男の存在自体だったんだ…」

男「俺の存在自体が問題…?」

友「うん、…覚えてるかわからないけれど、男は”生まれたときから時間跳躍の能力を持たされてた”んだよ?…」

男「…生まれたときから…」

 持たされていた……?

友「…うん、すっごく…すっごぉぉく遠い先の未来でね、遺伝子レベルから、もっと言えば成長の仕方や劣化の仕方から、男は作られたんだ。」

 よくわからない…

友「……うんとね、たとえば、未来で自分に起きる事が全てわかっていたら、時間をかければその全てに対処しきれるじゃない?」
男「お、おう…」

 数秒後にこけるって知っていれば、細心の注意を払うだろう。

友「最初の男の身体はね、遺伝子レベルで未来を予測できて、―」
友「―それぞれがどのタイミングで劣化するかわかっていたから、プラマイ0になるように、成長したり修復したりするの。」

友「――周りからみれば、一切の成長も老衰もしない、不老不死に見える存在なんだよ。」

男「そ、そんな馬鹿な。俺のオリジナルは、生まれたときからキメラだったのか?!そんなもの、何の為に生み出したんだよ!!」

 下手すれば世界がひっくり返るような存在だ。

友「…人類全員が望んじゃったんだ……男の存在を。」

男「?!」

 俺が…?…人類全員に…っ?

男「そ、そんなはずないだろ!お、俺は…あ、いやオリジナルは、そんな救世主的な存在だったのか?!それがこうなったのかっ?!」

友「うん。―」


友「―人類全員の目的と手段が逆転しちゃったんだ。」
168 :うどんおおかずにご飯はあるある ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/19(土) 00:03:16.77 ID:q/G07I5K0

 目的と、手段が…?
それはどういうことだ…?
人類全体に同一の目的があるのか…?

男「…それは、動物的本能の、”生きたい”っていう感覚…とかか…?」

友「ううん、違う。もっとわがままな事を、全員が本気で望んじゃったんだ。」

友「――後悔を失くしたい……過去を変えたい!…って。」

友「”過去を変えたい”って目的があったから、色んな人が血眼になって”時間を越える手段”を模索するでしょう…?」

友「―いつしか全ての人がその事柄にとりつかれちゃって、”時間を越える手段”をもっと明確にする為に、めちゃくちゃに”過去を変えてまわった”んだ。」


友「―そうして、遺伝子レベルまでタイムトラベラーの男が生まれた。」


男「………とんでもだな…」

 突飛過ぎて驚けない。
169 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/19(土) 00:20:43.46 ID:q/G07I5K0

友「実際、男の存在はトンデモだよ。なんてったって、機械とか使わずに、自分の身体さえあれば時間を越えられるんだから。」

男「……う」

 ま、まぁそれはそうだ…。
しばらく突飛な世界に居すぎて、自分の反則性を忘れていた。

友「…タイムトラベル理論やタイムマシンの究極的存在の男は、そこにいるだけで時間をゆがませる。―」
友「―ボクも、しばらく傍に居ただけで能力が身についちゃったしね。たははっ!」

 打って変わって、心底嬉しそうにハニカム友。

…俺には、オリジナルの犯した罪は、許せない。
友を笑わせた嫉妬もあるだろうが、何より、友の人生を狂わせたのはオリジナルだ。

…たとえそうしないと友が死んでしまうとわかっていても……

男「あ、そうだっ!ケダモノ!!」
友「たははっ、忘れてた?」
男「えっ、あ、いや……面目ない…」

 自分の恐ろしい出生の秘密の片鱗を垣間見ただけで、頭の中が一杯になってしまったのだ。
友は、得意げに人差し指を回しながら、続きを話していく。

その顔は、先ほどのように徐々に沈んでいく。

友「…でも、ボクはやっぱり後天的に能力を手にしただけだから、体の成長は人並みなんだ……」

友「―ちっこいけど…(ハァ」

友「―コホン)……まぁ、だから、男とは寿命が違いすぎるんだよ。これが、いつまでも一緒に居られない理由その1。」

 ま、まだあるのか?…あ、いや。ケダモノになる経緯をまだ聞いていないか。

友をみると、眉間に深いしわを刻みながら、唇をかみ締めていた。


友「………その2だけど、…男はね、身体全体が”超未来”から”原始”へと移り変わっていく存在なんだ…」


友「――だから、どう頑張って過ごしても、最期には結局、時間っていう概念すら忘れた野獣に変わっちゃうんだよ。」
170 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/19(土) 00:32:05.87 ID:q/G07I5K0

男「……詳しく訊いてもいいか?」

友「…ん、ちょい待ち。――」

 友は、そこでその話を区切りたがっていたが、無理をいって続きを催促する。

友「――…おっけ。」

 友は眉間をもみながら、続きを聞かせてくれた。

友「…男は遺伝子レベルで、タイムトラベラーだって言ったよね。」

男「…あぁ。」

友「…それはね、それまで蓄積された遺伝子記憶を、連続的なタイムパラドックスで忘れていくっていう事なんだ。」

友「――少しだけ簡単に言うと、子供は親に似るよね?」

友「教育の仕方もあるけど、多くは、親から受け継いだ遺伝子の記憶によって、思考パターンが決まってくるんだ。」

友「…男はね、人間の母親から生まれたのに、遺伝子記憶は猿人として生まれて、歳を重ねる毎に、ネズミ、魚、プランクトンって退化して行くような存在なの。」


友「……酷い人たちだよね…そんな奴を生み出すなんてさ…」

男「………。」

女「……貴女は、あの化け物に同情してしまうほどに知ってしまったのですね……」

女「…私、…理解する時間が欲しいです…。」
171 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/19(土) 00:46:57.27 ID:q/G07I5K0

―――――。

 女の要望により、少し休憩をかねた解散という形をとらせる。

どこかへと去りゆく女の背中に、俺はかける言葉が無かった。

俺はまだ、このパラドックスから世界を始める勇気も無く、動かぬ空、動かぬ太陽、静かな街並みをただただ歩いていた。



 ふと立ち止まり、見慣れぬ道を見回す。

交差点を抜けた先、”化石展”なる看板を見つける。

男「…こんなとこまで歩いてきちまったか……」

 疲労と時間の感覚は曖昧で、この世界でどれくらいの時間を潰しているのかわからなかった。

今一度、”隕石ブース”を眺めてみようと歩き出しながら、視線を自分の腕に落とす。

太くも無く、細くも無い。黒くも無く、白くも無いこの腕が、あの骨と皮だけで赤い肌になるのかと考える。

――パラドックスを抜ける事が、更に怖くなった。
172 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/19(土) 00:55:33.01 ID:q/G07I5K0

男「あ」
友「あ」

 ”化石展”会場内のあの土産屋で、友と出くわした。

友「お、おいっす!」
男「お、おじゃましました!」

 腰を90°曲げて、そのまま身を反転させてダッシュする。
腰ほどの高さの商品棚に激突する。

友「おわっ?!だ、だいじょぶかー!!」
男「お気になさらずーっ!!」

 荷物に埋もれながら、じたばたともがく。
抜け出せなくなっている事に気付いた。

男「………」
友「………」
男「…タスケテ」
友「…アイヨ」

 ひょいっと、手をのばされて、それにつかまる。
意外にすんなりと、荷物の山の中から抜け出せた。
173 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/19(土) 01:05:57.89 ID:q/G07I5K0

男「あぁ、えと、こいつぁどういやしょう…!」
友「落ち着いて…ここは君の世界なんだから…」

 そ、そんなこといったって……
何が原因でパラドックスから抜け出してしまうのかわからないのだ。

友「……やっぱり、怖くなっちゃった…?」
男「…正直…な。」

 こうして取り戻した友と話しているだけでも、冷や汗が止まらない。
いつ、身体が退化してしまうかもわからないのに。

 少し、視線を合わせ辛く、友から眼をそむけた。
―と、がら空きの背中に思いっきり抱きつかれた。
2、3歩前につんのめる。

男「おまえっ!危ないだろっ」
友「危なくないよ…男は危なくない。」
男「いや、今まさに床に―」
友「私の大切な思い出で生んだんだもん。男は危なくないよ。」
男「………。」

 そういうことじゃ、ねぇんだけどな。
174 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/19(土) 01:15:37.01 ID:q/G07I5K0

 商品は自分の手で積み直し、背中にしがみ付く友を引き剥がす事は諦めた。
そのまま、床の矢印に逆らって”隕石ブース”へ向かう。

ブースに一足踏み込むと、古い記憶が頭の奥底から浮かんできた。

 あの、ケダモノの偶像におびえる女を、必死にあやす俺の姿だ。

そうして、友を背中に引きずりながら入った”隕石ブース”には、またも先客がいた。

女「…おや、未来の剥製さんじゃあないですか。」

男「お、おう…」

女「それに、ルームメイトさんまで。」

友「うぃーっす、お姉ちゃんと呼んでいいよ〜」

女「お断りします。」

 そういいながら女は、視線を俺たちからあのケダモノの偶像に戻した。
175 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/19(土) 01:41:34.12 ID:q/G07I5K0

男「あぁ…女さん?多少は落ち着かれましたか…?」

 背中の重りに唸りながら、女の様子を伺う。

女「納得はしましたが、貴方たちとの距離を測りあぐねています。」
男「さ、さいですか…」

 若干とげとげしい言葉に、女の中で大きな不安がうねっている様を感じた。

女「……ここは貴方が到達し、築き始めたパラドックスです。」
男「………?」

 突然の確認に、少し戸惑うが――自己確認、または独白のようなものだと思い、何も言わずに耳を傾ける。

女「…私は、なんなのでしょうか…」

女「……ここは貴方が友さんを求めてたどり着いた世界。彼女あるならば必然的に私もそこに在る事になります…」

女「…私はお荷物のように生き返り、命の恩人に家族を食い殺されました…」

女「……私は………なんなのですか…」

女「―私は貴方にっ、何を言えばいいのですか!!」

女「ありがとうっ?!ご迷惑おかけしましたっ?!!余計な事をっ?!家族を返せっ?!?!」

女「――言いたい事がっ、言わなきゃいけない事がっ、いっぱいいっぱいグルグルグルグル……!!」

女「――私は、この世界でっ、誰の何になればいいのですかっ!!」
男「あのさ…。」

女「なんですかっ!!」

 ギロリと、鋭い視線で俺の腹を射抜く女。
臆せず、感じた事をいう。

男「言いたい事があるなら、全部言ってくれ。全部聞くから。」

男「―ただ、”死にたい”とかそういう事は絶対に言わないで欲しい。」

女「…友さんが消えるからですか…?」

男「いや多分この友なら大丈夫だよ。ただ…――」

男「――パラレルワールドの俺が、お前との茶話会を楽しみにしてるんだ。」

女「っ!!」

男「一応、ここから過去に導いてくれた俺たちの恩人だからさ、頼み事は無下にできないでしょう?」

女「………っ…。」
176 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/19(土) 01:47:19.22 ID:q/G07I5K0

女「…貴方は、ほんとに卑怯です……」

男「何とでも言ってくれ、俺がまだ理解できる内にさ。」

女「…殴られ損じゃあないですか…私……。」

男「えっ…あっ、いや!それはホラ!!気が動転してたし!無かった事になったろう?!だ、だからノーカンでっ…」

女「…そうですね。―」



女「―気が動転している時のノーカンなら、お相子ですよね。」


 そういった女は、見たことも無いぐらいのすがすがしい笑顔だった。

次の瞬間に俺が見たのは、視界いっぱい覆いつくす華奢な拳だった。――
177 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/19(土) 02:13:00.70 ID:q/G07I5K0

―――――。

男「―ほれみろ!俺よりカックイイから女ちゃんに殴られるんだ!」

 ”閻魔帳”の一文をみて、俺は興奮していた。
どうやら、向こうの俺は、新しい世界を始めるか否かで未だ悩んでいるらしかった。

男「まぁ、俺の望みを覚えていたのは感謝しよう。」

 これで、次元を超えた女ちゃんとの茶話会へと一歩近づいた。
しかし、まぁ…―

男「―女ちゃん、まさか小学生だったなんて…」

男「…俺様、真性のロリコ…―」

チビ「ガチャッ)おはよー、あにぃちゃー!!」

男「―ォールっ!!ローリコールだからなチビ!今のはローリコールと言ったのだからなっ!!」

 突然、俺の部屋に突入して来たチビ。
思わずめちゃくちゃな取り繕いをしてしまう。

チビ「?ん〜、よくわかんないけど、おはよー!」
男「あ、あぁ…おはよ。」

 俺の焦りなど露知らず、チビはモーニングコールを連発してやがる。
というかもうそんな時間か。
適当に返して、チビの頭を撫でる。

男「どしたぁ?今日は学校ねぇだろう。」

 世間様は日曜日だ。
昨日は第2土曜日だったので、脱ゆとり世代に組み込まれたチビは学校だったのだ。
そしてその際の送り迎えは俺がしている。

チビ「おぅ!遊ぼうぜぃっ!!」

 どうやら遊び相手が欲しかっただけらしい。

男「ふむ…なら、たまには外で一緒に遊ぶか!」
チビ「うぉ〜!!いつものあにぃちゃーなら外でだけは遊ばせてくれないのにっ!どうしたのかぁっ!!」
男「まぁ、たまにはな。」

 チビの頭に乗せたままの手をワシワシと動かす。
昨日から夜なべして”閻魔帳”を読んでいたのだが、なんとなく、今の自分ならチビと一緒に外で遊ぶくらいは出来る気がした。

男「うぉっし!」
チビ「うぉっし!」

 気合を入れながら、ベッドから腰を上げる。
チビも真似して声を出す。
片手に”閻魔帳”を握り締め、俺はチビを抱え上げて部屋を出た。

男「母ちゃ〜〜ん!!チビと外で遊んでくるぁ!!」
母「人ん家の子なんだから、ちゃんと見ときなさいよぉ〜〜!!」

 わかってるっつの。
178 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/19(土) 02:53:34.01 ID:q/G07I5K0

―――――。

トラベラーA「さぁ、この子がどうなっても良いのですか!はやくその本を寄越しなさい。」

 公園へと歩き始めて数分後、道の途中で早速”閻魔帳”をつけ狙う悪徳時間渡航者共に囲まれた。
すでにチビは相手に捕まってしまっている。

やべぇ、浮かれてかなり油断してた。

トラベラーB「言っておきますが、少しでもその本を捲れば、こちらのおちびちゃんは我々がいただいてゆきますよ?」

 その言葉で、”閻魔帳”に伸ばしたもう片方の手をとめる。
捕まっているチビは気を失っているのが幸いか、俺は、先刻思いついた能力を試してみる。

男「…わかりました……降伏しますので、そのこを返してくださいっ!!」
トラベラーC「まずはそちらの本が先ですよ?お兄さん。」

男「くっ…わかりました……」

 苦い表情で、”閻魔帳”を妖しげな覆面をした女性に渡す。

トラベラーC「ふむ……どうやら本物のようですね。」

男「そ、そうですか?……で、でしたらはやく!はやくそのこをこちらにっ!!」

 俺のわざとらしいお決まりのセリフに、妖しい覆面をした女性は覆面越しにもわかるほどに口端を吊り上げた。

トラベラーC「誰もお返しするとは言っておりませんが?」
男「だと思ったよ。」

 そう漏らし、”閻魔帳”を持った女性に向かって手をかざす。

すると、途端にその女性は蒼い光となって散った。

男「へぇ…ほんとにこういう使い方ができたのか…」

トラベラーA「お、お前ッ!!今一体何を…」
トラベラーB「気にするな!さっさと飛ぶぞっ!!」
トラベラーA「あっ、は、はいっ!!」

 そういって、残り二人は辺りから消えた。
流石に焦るが、落ち着いて、二人の居た場所にかけよって、蒼い光を身に纏う。

男「記録や文献を媒介に飛ぶんなら、―」

男「――常に形を変え続けている空気を媒介に飛び続ければいいんだ!」

 叫び、視界一杯を覆った蒼い光を手で弾く。

目の前には、チビを担いだ妖しい覆面の男の後姿がマヌケに突っ立っており、
その向こうでは、妖しい女性が今まさに俺が過去に飛ばしたばかりであった。

トラベラーA「き、消えた?!」
トラベラーB「!!後ろだっ!」
トラベラーA「えっ――」

 妖しい男の不思議がる声が、最後まで響く事は無かった。
なぜなら、俺が今、過去に飛ばしたからだ。

男「さて、あとは貴方だけですが。――」
179 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/19(土) 02:54:12.25 ID:q/G07I5K0


男「――どうなさいますか?」

トラベラーB「ばっ、化け物めっ!!」

 そう言い残して消えようとするが、同じ要領で背後に回る。

ソイツの首根っこを掴んで。
”閻魔帳”も拾い上げる。

男「そんなにつれないこと仰らずに……貴方も同じ穴の狢じゃないですか。」

 そいつの妖しい面を剥いで、顔を晒す。

男「!おやまぁ…」
トラベラーB「くっ……」

 可愛らしい小さな男の子が中に居た。

トラベラーB「殺せッ!」
男「あらあら、言葉遣いまでかわいらしい。」

 言動から察するに、コイツがリーダー格のようだ。
片手で、”閻魔帳”を開く。
記されていくのは、この間俺が務所にぶち込んでやった豚食いペド野郎の事。

いつぞやの世界では、幼児を惨殺して夕方のニュースで俺を大層慌てさせてくれた野郎だ。

男「殺しはしませんが、――」

 最新の記事を手でなぞる。

男「――一生立ち直れなくして差し上げますよ。」

 小さな男の子を、衣服だけここに残して、豚喰い野郎の牢獄の中へ飛ばした。
180 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/19(土) 02:59:14.98 ID:q/G07I5K0

男「チビにちょっかいかけっからだ、バーカ。」

 ポフンっと音を立てて”閻魔帳”を閉じる。
路上で気を失っているチビに駆け寄り、ゆっくり抱き上げる。

男「流石に、調子に乗りすぎたか……」

 能力の応用の利く幅を試してみたかったのだが、その為に守る対象であるチビを巻き込んでは意味が無い。

男「…次は、チビに危害が加わる前に片をつけるか……」

 次なんて無きゃいいけど。
181 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/19(土) 03:00:31.38 ID:q/G07I5K0
今晩はここまで!

おつかれさまです〜
182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(九州) [sage]:2011/11/19(土) 06:58:32.32 ID:ZTKMM/TAO
乙!
183 :『ハリーポッター』はやっぱり面白い ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/19(土) 19:58:04.04 ID:q/G07I5K0

―――――。

 公園のベンチに腰掛け、その横にチビを寝かせる。
いくら元野生児といえども、子供を椅子に座らせながら寝かせるのは体に悪い。
チビの背中をそのまま席に寝かせ、頭を俺の腿にのせる。

男「………」
チビ「すぅ……すぅ…」
男「……ははっ、(クシャ」

 意味も無く笑い、チビの頭を雑に撫でる。

チビ「……んぅ…すぅ…」

 なんとも、力の抜ける寝顔だ。

持て余した手を背もたれに回し、チビを撫でる手は”閻魔帳”にまわした。
空いた腿に”閻魔帳”を開いてのせ、パラドックスで屯している3人の様子を窺う。

男「…進展はあったのかねぇ……」

 無いと困る。

正直、読み物のつもりで途中までは読んでいた。
けれど、俺の発端―――俺自身も、あの3人の話の中に出てきた、”超未来の男の派生”なのだ。
元居た時代の記憶など無いに等しい。

…俺の発端が、そんな未来を歩んだなんて聞いたら、ただ見ている訳にもいかないだろう…。

男「………」

 チビを見る。

チビ「……すぅ…すぅ…」

 いつか家族を殺すかもしれない奴に膝枕されて、それでも安らかな顔である。

男「…なぁ、俺がお前を連れてきたのも、運命だったのかな……」

 教えてくれるなら、教えてくれ…

お前が幸せになれる道を、教えてくれ。

”閻魔帳”に視線を落とすも、一切の進展が無かった。

184 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/19(土) 20:28:47.11 ID:q/G07I5K0

チビ「………ん……?」

 もたついた手つきで、目を擦るチビ。
起こしちまったか?

チビ「……あれ…?あにぃちゃ……?」
男「おう、おはよ。」

 眠そうに「うぅ…おはよ〜…」とぼんやり返すチビ。
もそもそと起き上がり、腰掛と敷板の間にある広い隙間に足を入れて俺に向き直る。
そして俺の顔もろくすっぽ見ずに抱きついてきた。

男「おいおい…俺じゃなかったらどうすんだ…」
チビ「匂いでわかるもん……」

 背中に回した手がきつくしまる。

男「ぐぇっ」

 匂いでわかるなら、初めて会った時も警戒すべきだろうに…

胸元にある頭をぽふぽふ叩く。

男「チビよぉ・・・」
チビ「ん〜?」

 もぞもぞと首を動かし俺を見上げる。

男「もし、俺がお前の大事なものを盗ったら、どうする…?」
チビ「ん〜…そんなことは無いよ。」
男「おま…」

 ろくに考えもせずに…

チビ「だってね、あにぃちゃはいつもアタシを助けてくれるでしょ?」
チビ「――だからね、大丈夫!」
男「………」

男「…そっか。」

 チビの頭をくしゃくしゃにするまで撫でる。

お前は何で、俺がいつも助けてるって知ってんだ。
185 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/19(土) 21:38:01.15 ID:q/G07I5K0

―――――。

女「男さん…気持ちはわかりますが、いい加減世界を動かさないと……」

 女の至極最もな意見を聞き流し、俺はただうなり続ける。

友「ん〜…私はこのまんまでもいいかな……やっと男とずっと一緒に居れそうだし。」

 友のとても魅力的な提案も聞き流し、尚も俺はうなり続ける。

女「それでは未来をみれないではないですか!」
友「いいよ、未来なんて。行き着く先はどうせ死んだ目の人ばっかなんだから…」
男「う〜ん……」

女「貴方がわざとらしく悩んでいるから急かしているのに!」
友「このままでも良いけどさぁ…そこまで大仰に悩まれるとやっぱり焦っちゃうよぉ…」

男「いや、そうなんだけどさ。」

 正直どちらもとりたい。
でも…

男「…過去がこのままじゃあ、納得いかないんだ…」

 俺がいつかあぁなってしまうのは仕方ないかもしれない。
けれど、だからって女や友の家族を……

男「………っ」

 それだけじゃあないかもしれない。
ほかにも色んな人を…

女「もうっ!お二人は勝手にしていて下さい!!私一人でも世界を変えてみせますからね!!」

 そういって”閻魔帳”を開いた女は、しばらくページを捲ってから、俺に吼えた。

女「”バタフライサンプル”ですっ!!」

 やっぱりお見通しなんですね…。

女「当たり前です。これを手放すつもりなどまったくありませんから……ね………?」

 得意げに言う女の言葉は、やがて小さくしぼんでいった。

女「………?え〜と…すいません、皆さん。少し集まってください。」

男「?」
友「?」

 言われるままに、俺は女の所へ寄っていく。
友は未だに俺の背中に引きずっている。

女「いえ……あちらの世界の男さんが皆さんを集めるようにと………」

男「?!ま、まだ何かあるのか?!」
186 :ハリーポッター面白すぎて集中できないわ ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/19(土) 23:03:55.99 ID:q/G07I5K0

 駆け寄って”閻魔帳”を覗き込む。

『やぁ!』

 ずいぶんと軽快な挨拶をされた。

男「えっ…誰…?」
『失敬な。驕りでなければ、君にパラドックスの中で指針を気づかせたと思っているのだがね?』
男「いや……ほんと誰だよ…」

 想像はできるけど、キャラが違いすぎる…。

『まぁ、こないだのあれはね。初めて接する人にはあぁいうペルソナを使うんだ。』

『敬語って便利だろう?』

男「あれは敬語…だったのか?」
『お前さんは細かいな。生まれてすぐ思春期かい?』
男「ウッセー!!」

 前も思ったけど、ズバズバ物を言うよなっ!

女「あぁもう…落ち着いてくださいよ…。」

 俺一人で握り締めていた”閻魔帳”を女が引っ手繰る。

男「あっ…」
女「似たもの同士で何を言い合っているのやら…」
友「ここに居る人みんな似たり寄ったりだけどね」 
187 :だいぶ間が空きました、申し訳ない。 ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/20(日) 01:48:25.60 ID:m6idbb000

『さて!みんな集まってくれたみたいだし本題言うけれどね、』

『そろそろ、そっちの俺に答えを出してもらいたいな。』

『俺にも無関係な話じゃないし、悩んでるのはわかるけど、時間が止まってるのはそっちだけなんだ。』

『――早くしてくれないと、こっちから過去に干渉していくぞ。』

友「………」
女「………」

 そこまで読んでか、二人は俺に振り返る。

男「…えっとさ、…」

男「――そっちから干渉して、こっちに影響はあるの?」

『あるよ』

男「えっ」

 口をついて出た俺の素朴な疑問に、向こうの俺はすぐに答えた。

『必ず、とは言い切れないけれどね。』
女「…それは、どういった理屈で仰っていますか?」
『うむ、質問に質問で返して悪いけど…―』

 あ、出た。向こうの俺の得意技。

『――友さんとやらにはあって、女ちゃんには無い過去の思い出ってあるよね?』
女「……ふむ」
男「ホラっ友、ご指名だぞ。」

 背中に無気力にしかし断固としてしがみつく友を揺すって促す。

友「んも〜…わかったよぉ…」

 そういって友は、俺の背中に登り始めた。
……おい。

友「……うん、そうだね。私の記憶だと、ちょっと前の答えあわせで、私は言いたいことを言わずに我慢したって覚えてるよ。」
友「――今回の答え合わせだと、女ちゃんはちゃんと言いたいこと言ってくれたけどね。たっははっ。」

 おんぶの姿勢で”閻魔帳”を見下ろす友。
横から今の俺たちを見たら”T字”に見えるだろう。
友の照れたような笑い声を耳元で聞き、こそばゆさを覚えながら重さに唸る。

『―うん。それでね、実はその逆もあるんだ。』

『――女ちゃん、ごめん。勝手に昔のこと見させてもらった。』
女「…それは構いませんが、……そのような記憶、あるのでしょうか?」


『―俺と会った記憶があるはずだよ。』

女「?!」
男「?!」
友「…?」
188 :だいぶ間が空きました、申し訳ない。 ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/20(日) 02:26:39.54 ID:m6idbb000

 女は、異世界の俺に接触したことがあるのか?!

いや、突然俺の目の前に現れたんだから、ありえなくも無いのか…
女の過去なんて、未来の俺らしきものに喰われかけたって事しか知らないし。…

女「…私が…貴方と…?」

 しかし、当の女には心当たりが無いようだ。
これはどういうことだ…?

『…正確には、俺に会ったことがあるっていう記憶が混ざってるはずなんだ。』

『――…君は昔、友達に自分のことを忘れられていて泣き尽くした事は無いかい?』

女「!!」
男「……!!な、なぁ!それって、俺が夢で見た記憶じゃあ…」

 その話には覚えがあった。
なんせ、俺がパラドックスに突入する2日前に見た夢で、似たような景色をみたからだ。
……い、いや、でもあれはこいつよりもっとちっこい女の子だったし…

『言ったろ?今のお前は、全世界の男と深いところで繋がってるんだよ…』

『――今、お前さん単体で”閻魔帳”に情報を並べても、かなりの量になるんだ。』

 そ、そうか……俺が夢で見た景色は、全部誰かの記憶なんだ…。

『それはともかくとして、…女ちゃん、どう?』

女「あ、はっはい。昔、この時代…この世界ではないと思いますが…―」
女「――この時代で暮らしていたとき、何度か友達に私の存在を忘れられていたことが、確かにあります…。」

女「……そうして泣いている時に、見覚えのある人に慰められた記憶もあります…もしかして…」

『うん、その時声をかけたのは俺だよ。』

『こっちの世界で、俺がこの時代に連れてきちまった女の子でね…―』

『――傍に居ただけで時間跳躍の能力を身につけたってそちらの彼女さんの話を聞いて、もしやってね…。』

友「何の話をしていたのかさっぱりだったぜ」
189 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/20(日) 02:44:46.38 ID:m6idbb000

『―と、いうことは、だ。』

 もったいぶるように、そう前置きをする。
この後、俺に話を振られるのは少しわかっていた。

『そっちの世界のことは存外俺に無関係じゃない。―』

『――お前が動く気が無いっていうなら、俺だけでも過去を変えさせてもらうぞ。』

男「ま、待てよっ!なにもそこまで焦って過去を変えることは―――」

『まだそんな腑抜けたこといってんのか?』

 突然、向こうの俺の口調が、激情を抑え込んだような口調に変わる。

『お前はいつの日か、遠い過去でその友さんとやらの家族を食い殺したいのか?』

男「っ」

『そうして最後には、過去の自分に更なる過去へと飛ばされて想像もできないような苦痛を味わうんだぞ?』

 想像もできないような苦痛―

生物大絶滅の始まりである地獄の事だろう。

『下手してみろ。もしかしたら、遺伝子の記憶とやらにもその地獄が刻み込まれていて、火の海の中死ぬことも出来ずに彷徨うかも知れないんだぞ。』

『そうしてからがら生き抜いた先で、また別の人の先祖を喰らうんだ。』


『そんな化け物を、過去に放ったままでいいのか!』


男「それは……嫌だ…」

 正直、隕石の直撃を受けて生きているっていう想像はしなかった。

―でも、ありえるんだ。


自分の中の、迷い決めかねていた問題を、解決へとさそう決心がついた。

男「…新しい世界をはじめて、出来るだけ自然な世界を作ろうと思った…」

男「…もしくは、自分だけが幸せな、楽園みたいな世界を始めようとも思った……」


男「そのどちらも、…始めるにはまず過去の俺をどうにかしないといけないんだっ!!」

『ようし!よく言った!!』

『――そこで俺に考えがある。』



 こうして、俺たちの”打倒!ケダモノ作戦”が始まった。
190 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/20(日) 02:47:09.70 ID:m6idbb000
今夜はここまで!

今晩は『ハリーポッター』の上映会に気をとられてまともに書けなかった…

3作目もタイムとラベル物なんだよな……あんな巧い作品を書いてみたいわ…
191 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/20(日) 10:26:15.46 ID:m6idbb000
一番最初の男視点でクライマックスです。


―――――。

政治家「困ったな……」

 一国の主が突然、そう漏らした。

口の堅い彼にしては珍しいことだ。

そして、そんな彼が珍しく人前で弱音を吐く事態は、誰もが察知していた。

横に居た俺は、ただありていに返す。

男「左様でございますね。」
政治家「君の意見を聞かせてもらえないかね…」
男「議会を開くべきでは?」

 貴方がこの世界を実質的に統治する以前に。


遠い昔、ある民族が決起して世界中に”自由”という言葉を訴えた。

そうして数千年にも及ぶその民族の暗躍により、広義になってしまった”自由”という言葉の元、――

――歴史は破壊された。

 言語統一、思想統一、収支統一により、各地の特色に合わせて進化してきたほかの民族は死に絶え、
現存する人間は、皆、数千年前に決起した民族の血筋であった。

 民族差別開放を掲げ、世界中に散布した彼らはやがて、世界を裏から支配するようになってしまったのだ。

そうして、数人の欲深きものが、自分たちの更なる利益のみを求めて、人々の奴隷化を始めた。


教育による個性的な思想破壊だった。


一部ではじまったその教育制度は、やがて世界中に蔓延し、”人”という名の意思無き機械を何世代も生み出した。

そうした世界の上に、己が欲望を忘れることが出来なかった一人の男はよじ登った。

 高みから眺めるは、民衆の個性が死んだ世界。

政治家「…本音を言えば、私は自分の欲のためにここまできた。」

 眉間のしわはよりいっそう深く、しかしそれでも、喜怒哀楽の伺えない表情だった。

政治家「だがな…私にはこれから子供が出来るんだ…」
男「おめでとうございます」

 何がおめでたいのかはわからない。

政治家「心にも無いことを……その子供だがな、流石に自分の子とあってはかわいいものさ。甘やかしてやりたくなる。」
政治家「…けれどな、その子の瞳に光は宿るのかと心配なんだ。」
政治家「私が片棒を担いだとはいえ、政治家も国民も、すべて無個性になってしまったこの世界で、――」
政治家「――私の子は、「生まれる時代を間違えた」と、必ず考えてしまうのではないだろうか。…」
男「左様でございますね。」

政治家「………」
政治家「………頼む、君にタイムトラベラーとしてお願いがあるんだ。」

 仕事の指令だ。

男「お聞きいたします。」

政治家「…世界を、」

政治家「…救ってくれ。」

男「承知いたしました。」

 俺は世界中に核の雨を降らせてから、過去へ飛んだ。
192 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/20(日) 10:41:34.83 ID:m6idbb000

―――――。

 俺の所属する組織は、個性や何らかの大きな変化を恐れる人類を守るために作られた組織だ。

組織の活動内容は、現在以外の時や世界を恐れ、必ず現在へと通ずるように、未来から過去をサポートするというもの。

時間を越えて過去を導く際にも、幾つかの規定が存在するが、意思無きトラベラー達には、その規定をひとつとして破る勇気は無かった。


 俺の規定違反は、実質の処刑宣告が届いてから初めて犯した。

目的外の時間と場所への跳躍だ。

タイムトラベル理論の確立とタイムマシンの最縮小化を目的に、すべての意思無き人に望まれて生まれた俺の中には、
いつしか、過去に見た世界への憧れが芽生えていた。

男「我々が任務の合間に垣間見た光り輝く過去の世界の姿を、もう一度作り出そう!」

 そう、同業者の者たちに宣言したことが、人々には大層恐ろしいことだったらしく、
”未来の変革の材料として、旧世代の生命の大絶滅をその目で確認してくること。”という、実質的な死刑宣告を下された。

 生きるも死ぬもそう変わらないと感じた俺は、その指令を甘んじて受けた。

だが、どうせ死ぬなら、少しぐらい生きた心地を味わいたいと、少しずつ間隔を刻んで時を越えていった。
193 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/20(日) 10:58:32.40 ID:m6idbb000

今でも、それが正しかったのか間違っていたのかはわからない。


時を越えるごとに、人々の顔には様々な情景が見て取れて、

遠い未来でも寸分違わず守られてきた歴史的遺産も、過去ではまぶしいくらいに輝いて見えた。

芽生えるはずの無かった、憧れという感情が花咲き、

未来では何も感じえなかった人々の涙に心打たれ、悲しみの台詞に思考は何度も止められた。


 身体中が、喜怒哀楽を求めていた。

忘れ去られた生物としての本能が、遺伝子の記憶の中から呼び起こされた。


やがて、死刑執行の時期へとあと少しというところまで来たとき、俺の理性には限界が近いと察知した。


 立ち止まった時代の中で、俺の未来の姿をみた。


来る未来の俺は、野生へと還り、弱肉強食の理を肌で感じてうれしそうに駆け回っていた。


そんな彼が付け狙うは、人類の祖先の一人であった。


 今更になって、タイムパラドックスを恐れた俺は、紙一重で少女を助ける。


「小さい女の子を泣かせる奴は・・・っ」

「過去に飛ばされて死んでしまえっ!!」


 今の俺は、人の涙は見たくないんだっ!


……だから、未来で、


待っててくれ。
194 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/20(日) 11:10:49.63 ID:m6idbb000

―――――。


 永い永い旅をした。

その旅も、ようやくひと段落かもしれない。


星空から降り注ぐ、過去の俺に打ちのめされて、やっと休めるんだと感じた。


落ちてくる空を見つめて、まるで世界が俺のために喜んでくれているような、そんな錯覚までしてしまうほど、狂おしく幻想的だった。


 ―この先、生命大絶滅の火の海を、遺伝子のリカバリーで生き抜いてしまうかもしれない。

その後、先ほどの”怪しい覆面をつけたやけに未来的な装いの女性”の様に、また誰かを喰らってしまうかも知れない。

しかし、そんな事は今考えるべきではない。


禍々しくうねる指を、隕石のフレアに透かす。


ケダモノ「手が届きそうだ…」


 皮肉なものだ。

最期の瞬間に、理性が戻るだなんて…。


ゆっくりと瞳を閉じる。



――その最中、




―――そらから、蒼い光が降り注いだ。




―――――――NEXT エピローグ―――――――
195 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/20(日) 11:13:02.45 ID:m6idbb000
あい、失礼。

今回はこれまで。

一応おしまいですが、

夜に、後日談的なものと、簡単な時系列をまとめさせていただきます〜


それでは、ボクアルバイトォ〜!!
196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [sage]:2011/11/20(日) 12:27:21.47 ID:YWueSpm+o
おう

やっぱり素晴らしいな
バイトがんばれ
197 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(中部地方) [sage]:2011/11/20(日) 16:22:35.25 ID:DJVfgWqV0
おつー
198 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/21(月) 04:53:50.18 ID:wWmPzA0G0
失礼、

少し体調を崩して寝込んでしまいました。

もう少し体調がよくなってから書かせていただきます
199 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [sage]:2011/11/21(月) 17:26:07.72 ID:PmN4NxJpo
おっつー
楽しみだぜ
200 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/21(月) 22:36:40.25 ID:8tXjlbXSO
一気に見たけどなんか色々わけわからん

面白いんだけどな
201 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/21(月) 23:55:23.61 ID:wWmPzA0G0
 友と男

―――――。

店員「おぅっ!あんちゃん!」
男「やぁ、お兄さん。来ましたよ。」

 一度しか話した事の無い土産屋の店員に、会釈交じりに握手する。

男「あの時はどうも!」
店員「いやぁ…良いって事よぉ。それより、そちらのお連れさん、見た顔だねぇ、えぇ?」
男「おかげさまでねぇ」
友「知り合い?(むぐむぐ」

 ”餡も無いとっ!饅頭”という意味のわからない名前の菓子をもぐつき、俺につれれる様に店員のあんちゃんに会釈する友。
そんな友の訊ねを後ろに、店員とへらへら笑いあう。

男「このお兄さんが居なかったら、俺と友は今頃ここに居なかったかもしれないぞ…?」
友「!!そうなのっ?!そ、それはどうもありがとうです…」

 慌て過ぎて饅頭を取りこぼしながら、友は立ち上がって今度はしっかりとお辞儀をする。

店員「はっはっはっ!よせやぃ!俺ぁなんにもしてねぇやい!!」

 快活かつ豪快に笑い飛ばすあんちゃん。
やはり、この展覧会の何処か厳かな雰囲気を和らげているのは彼な気がする。
…外見年齢と口調が釣り合っていないのがとても不思議だ。

店員「今度はいい思い出になるといいねぃ!」
男「はいっ」
店員「はっはっは!そいじゃあまた帰りに寄っといで!」

 そう言ったきり、店員のあんちゃんはカウンターの中へと戻っていく。
倉庫整理の最中だったようだ。
饅頭の箱を大事そうに抱える友の手を引き、土産屋から出て集合場所に戻る。

目的の場所にたどり着くまでには、すでに友は饅頭を食いきっていた。

教師「おいお前ら、トイレ休憩中に土産屋に寄るとは何事だ。」
男「下見です。」
友「えふっ。(ですっ。」
教師「ガッツリなんか食ってんじゃねぇ!!」

 俺たちを引率するいつもの教師は、早速のペースにやたらくたびれた顔をしている。
そんなんでこれから”化石展”一周持つのか……?あ、見て回るときは自由だからいいのか。

教師「ハァ…じゃあ、これから2時間半、中のブースを見て回ってもらうぞー。」
生徒全員「はーい」
教師「うむ、今の私みたく、場内では大声で騒ぐことのないように!」
生徒全員「は、はい…」

 自覚あったのか…

教師「集合時間まではかなりあるが、じっくり見て回るには意外とキツイぞ!」
教師「―だから、没頭したい奴はまたプライベートで来い!うちの学生だと特別安くしてくれるぞ!」
友「前のデートはそういうこと?(ボソ」
男「おう(ボソ」

 友の横からのささやきに、肯定で返す。
何を隠そう、その特典を利用してこの間のチケットを手に入れた口だ。
学年通信やらは読んでおいて損は無い。

教師「さてっ!んじゃあ自由行動!集合までに遅れんなよ〜…」
教師「―どっかのバカップルみたくな…」
男「喧しゅうございます」

 教師の令に、生徒はそれぞれグループに分かれたり散り散りになったりして、入場ゲートをくぐってゆく。

何人かの友人と「またあとで」と言い合いながら、俺は友と会場に入った。
202 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/22(火) 00:30:32.76 ID:Yhmgun/E0

―――――。

 友と二人、ほとんどのブースを流し見してゆく。
俺たちの怒涛のハイペースに驚いた、先頭の男子生徒が、そそくさと先の角へと消えていったが……それは違うだろ!

俺たちはすでにこの展示会のブースはほとんど見て回ったのだ。

友「…不思議だねぇ」

 てくてくと、出し物を見てゆくには速いペースで連れ立っていると、不意に友が呟いた。

男「…そうだなぁ。」

 友が言うのは、多分、今俺たちがいるこの世界の事。


あの後、パラドックスから旅立ち、ケダモノの所業をなんとかせんと過去に飛んだ先で、”閻魔帳”越しに何度も会話した”俺”と合流した。

男曰く、「どれだけ世界がどこかで分岐していようと、必ず過去ではそのどこかに繋がる」のだそうだ。

そうして、過去にて合流した俺と俺、その時代に同時に存在しているだけでとてつもないパラドックスを引き起こしているはずの俺たちは、
ケダモノに少女の家族だけは喰わせてはやらんと手を組み、様々なあれやこれやと策をめぐらした……

――が、結果的に人喰いになってしまったのは変わらなかった。

絶望に暮れんとひざを折った所で、異世界の俺は肩に手を置きながら、「少しずつ変えていこう。そうできる。」と言い、蒼い光に身をやつして未来へと消えてしまった。

”少しずつだが未来と過去を変えられる”と信じた俺も、同じく止まったままのパラドックスに戻ろうと、蒼い光を纏った。


――…しかし、その先にあったのは、動き始めた新しい世界であった。


友「…私たちの記憶はしっかり残ってて、世界は前の形に戻っちゃうなんて…どうしてだろ?」
男「…ふむ……それなんだけどな、実は答えを向こうの男から聞いてるんだよ。」
友「へっ?!ほんとにっ!!」

 目を輝かせて、「教えて教えて!」と体をゆらす友に、教えられた話を少しずつだが話していった。


――あの世界は実は俺だけが望んだものでは無かったということ。
俺が辿り着いたパラドックスは、実は友を救った時点で動き出していたという。
そうして、最後にいたパラドックスは、――俺たち4人、俺と、異世界の男、友と、女が望んで辿り着いた世界だったそうだ。

男「―だから、誰か一人だけじゃなくて、全員が望まないと、世界は動き出さなかった。」
男「…でも…過去に飛んでケダモノをどうにかするまでは、俺が、俺だけが世界の進展を望んでなかったらしくてな。」
男「――この俺に迷った先で絶望させて、また新しい希望を持たせるのが、向こうの俺の目論見だったらしい。」

友「ん〜〜…と?」

 友が、わからないと言った風に首をかしげる。

男「……まぁ、ようするに―」

男「―また向こうの俺に助けられたって事。」

 なんだか気に入らないなぁ。
203 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/22(火) 00:47:40.72 ID:Yhmgun/E0

友「ふぅ〜んそっか……そいでそいでっ?」

 鼻息荒く、興味津々の友が俺の顔を見上げる。

友「お前さんは今度は何すんだいっ?」
男「何って何を…」
友「まだ過去が気に入ってないんだろう?」
男「……ん、まぁそうだな。」

 結局、思うように過去を変えられていないしな。

男「…少しずつ変えていくよ。俺たちにはそれが出来る。」
友「………そっか。」

友「おっけ!ボクも手伝うぞ!」
男「おいおい…良いのかぁ?俺と違って友のルーツは過去にあるんだぞ〜?」

友「ボクだって、君がいつ理性を失うか心配でたまらないんだよ!動かないと落ち着かないっしょ!」

 その場で、小さくシャドーボクシングをかます友。
そのなんとも健気な宣言に、自然と、頭に手を乗せてしまう。

友「ひょっ…?なっ、なんだぁ〜い…?」
男「…いんや、ありがとよ。(ナデナデ」
友「…う、うぅ…〜っ」

 ポスポスと、俺の腹にかわいらしいジャブを入れてくる。

?「そうね、…貴方がいつ理性を失うかと、私も気が気でないわ。」

男「うぇっ?!」
友「ひょっ!!」

 背後から突然声をかけられ、思わず友と二人抱き合いながら跳ねる。
振り返り、その人物を見る。

男「あ、貴女は…」


友「お姉ちゃんっ?!」


姉「はろ〜」
204 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/22(火) 01:21:06.99 ID:Yhmgun/E0

 この人は友の義姉。つまり友のいつかの未来の姿………かも知れない人だ。
なぜか、この動き出した世界に到達してから、この人とも関わった記憶が頭の中に生まれた。
以前居た友の世界の時のような造られた記憶とは違い、その存在は違和感を伴わない。
……これからのタイムトラベルには、記憶の混線に注意しなければならないかもしれない…

姉「にしても、そんなに驚くことも無いじゃない?」
友「だ、だって…お姉ちゃん気配が…」
姉「ハァ……それは言わないで欲しいわ…」

 確かに、歴史的文献の多いこの”化石展”では、一般人もトラベラーもたくさん集まるのでここに居ることは不思議ではない。
しかし…
コイツ、歳をおうごとにキャラが安定していないな!

姉「…男クンは今、なんとも失礼な思考をしているわね?」

 俺の思考を、完全に見透かした義姉が俺へと詰め寄る。

姉「イイ……?」
姉「―貴方たちと他2人がこの世界をはじめたからって、私を仲間はずれにしないで頂戴。」

 威圧感は凄まじいのに、言っていることは寂しがりである。

姉「だって、私にはこの子みたくいい仲が居ないもの…」

 そ、それを言われましても…

この人が俺の思考を完全に読みきっているのは、今はこの人の手元に”閻魔帳”があるからだ。

姉「違うわよ?…」
姉「”腸の標本(バタフライ・サンプル)”……OK?」
男「お、おーけーおーけー…」

 登場からすでに本を開いて、なんとも腫れ物チックだ。

友「…お姉ちゃん…その常に脅すような姿勢が男君に敬遠されてるんじゃないかな…」
姉「……そう…警戒しすぎなのかしらね…」

 友が義姉さんの横に並び慰める。こうしてみると、女より少し身長が高い程度なのだが、どうしてここまで雰囲気が変わるのか。

姉「未来で、貴方を助けられなかったのよ……」

 それは、デリケートな質問だっただろうか。

姉「―まぁ、過去へ飛んで、こんな見たことも無い世界へ辿り着けたから、僥倖よね。」
姉「そういう意味では、貴方たちに感謝しているわ。」

友「………」
男「………」

 友と見合う。
少し微笑む。

男「もっといい世界にしてみせますよ!」
205 :どうしても駆け足になってしまう。 ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/22(火) 01:58:37.89 ID:Yhmgun/E0
  チビと男と女。


―――――。

 向こうの男が、過去の少女を救ったとき、そいつの辿り着いたパラドックスは、
”少女の居ない元の世界”から”少女の居る新しい世界”へと動きだした。

その新しい世界では、男はケダモノと共に死に、それによりまた新たな世界が始まるはずだった。

しかし、助けられた少女が、”少女は生きて男は死ぬ新しい世界”を拒んだ。

――そうして、彼らは新たなパラドックスへと至った。

そこには、ただの観測者……というより、ただの読者であったはずの俺の意思まで介入して、
新しい世界の始動に「待った」をかけた状態で停止した。

―世界が動かなかった理由は簡単。

創造主たちの意思が揃っていなかったから。

そこにいた男が”現状に満足してしまったから”だ。

助けたい人は助けた、それでいいじゃないか!と。


男「けれど、あのままじゃあ、俺たちは守りたいものを何も守れなかったかもしれないんだ。」

女「だから、彼に接触してきた……と?」

男「そ。」

 昼下がり。

公園のベンチにて、俺は女ちゃんと憧れの茶話会を開いていた。

男「まぁ、缶コーヒーだけど。」
女「ふふっ、私はこれでも満足していますよ?」
男「そっか、ならいいかな。」

 少し遠くの遊具で、他の子供と遊ぶチビを見る。

今は本当に平和だなぁ…。
206 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/22(火) 02:02:37.22 ID:Yhmgun/E0
もうしわけありません。

未だ書ききる集中力がございません。

ゆえに、尻切れトンボではございますが、今晩はここいらできらせていただきます……

読んでくださっている方のせっかくの勢いを殺してしまうのは忍びない…
207 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/22(火) 08:22:22.27 ID:Yhmgun/E0

女「コク)……ふぅ、では、教えていただけますか?」
男「ん?何を?」

 いじわるに、そんな風にはぐらかす。

女「…色々ですよ。過去のことや、今の状況、これからどうしていくか。などなど。」

 女ちゃんはそこまで言って、自動販売機で買ったコーンスープを小さな一口分あおる。

ふむ…そりゃあ、詳しく訊きづらい話だね。
なんてったって俺ですら全部わかってるわけじゃない。

男「んー…じゃあ、まず。女ちゃんが目下一番気にしてそうな……」
男「―君の正体について教えようか。」

女「っ――!!(ケホッ」

 いきなり確信を突かれてか、女ちゃんはコーンスープを咽る。

男「――むせる…ボト○ズか…」
女「??…ボトムスが何か……?」
男「あぁ、ごめん。話がそれた。」

男「…女ちゃんがあっちの世界に現れた理由だけどね?それは多分、俺が干渉しちまったからだと思うんだ。」
女「貴方が……干渉?今しがたもそのようなことを仰っていましたよね…」

 寒そうに服を着込んで、両手が見えないくらい袖の中に隠した手でコーンスープの缶を大事そうに包む女ちゃんを横目に、
うぅむとうなって思考をまとめる。

男「…実はね、あの友って人が新しい世界を作ったときから、俺はこの”本”でその世界を観測してたんだよ。」
女「そんなに…以前から…?」
男「…っても、そんなに昔じゃないけどね。」

 せいぜい数日前だ。
微糖のブラックを一口あおる。
ナシナシのが好きかも知れないな。

男「なんだろうな…あの世界は記憶や思い出で作られてたから、俺の、女ちゃんに関する記憶も反映されたのかもしれない。」

 組み込んでも、矛盾が少ないと、世界が独自判断したとしか思えないが…
その偶然のおかげで、今こうして女ちゃんと飲み物片手に話せるなら結構なことじゃないか。

女「貴方の、記憶…」

 悩ましく、缶の中を覗き込む女ちゃん。
その視線が俺とかち合い

女「私は、実際に貴方とは会っていない…と?」
男「どうだろうね?俺はその記憶があるし、女ちゃんだってその記憶を持ってるんだろ?」
男「――今回の件は、俺と女ちゃんは面識があったって事でいいんじゃないかな。」

女「…なんとも…煮え切らない言い方ですね。」
男「よくわからないことは言い切らなくていいんだよ。(ズズッ」
女「……フフッ…そうですね。そのような柔軟な思考は、良評価に値します。(コクッ」

 二人同時に、あたたか〜い飲み物をあおる。

男「…ほっ」
女「…ふぅ」

男「今のこの世界のこと、だけど。何を話して何を話していないかわからないなぁ。」
女「それほどまでに複雑な経緯が?」
男「うん、凄く、口で言うにはめんどくさ過ぎるね。」

男「―まぁ、俺たちは今、凄い偶然でこの世界に居る。…って認識で十分だと思うよ。」
女「ふふっ、そうですか。柔軟すぎる思考は曲者ですね。」

 口元はマフラーで隠れていてわからないが、女ちゃんの目は凄く柔和に笑っている。

今のこの世界。俺がいるここは実際はあまり歴史が変わったという部分は見当たらないが、
大きな変異といえば、女ちゃんがこっちに来れる様になったってことか。

彼らの居た向こうの世界が今の状態になってから、その世界は色々なパラレルワールドにとぶ時間渡航者にとっての”駅”のような世界になった。

あの世界なら――世界を越えたメンバーによって動き始めたあの世界からなら、パラレルワールドに飛べるようになったのだ。

そうして、女ちゃんもここに居る。
208 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/22(火) 08:35:51.69 ID:Yhmgun/E0

 向こうの世界が――ややこしいので便宜上”ターミナル”とする。(女ちゃん案)

…”ターミナル”が、今のように時間渡航者にとっての駅のようなシステムになってから、
俺は、悪質な渡航者の氾濫が起きるのでは?と気が気で無かった。

しかし、なってみれば意外なもので、逆に主観的には平和そのものになってしまった。

わざわざ同じ世界で反抗しあうトラベラーも減り、夢想したような世界を探しての当ての無い旅を始めるものまで居るほどだ。

時間渡航者にとっての制約が減り、よりいっそうの混乱が!という俺と女ちゃんの恐れは見事に外れてしまい、
この世界でほのぼのとチビを見守りつつ過ごすのが、最近のもっぱらの俺たちだ。

男「…女ちゃんは、思い出を守るために奮闘しそうだったんだけどなぁ。」

 俺の独り言に、女ちゃんはその眠たそうなまなこを不思議そうに輝かせ、俺に視線を送る。

女「今まさに思い出を守っていますが?」
男「…?そうなの?」
女「ふふっ、そうなんです。」

 そうして、またも遠くで遊ぶチビへと視線を戻す。

女「……それに、もし、私の過去が危うくなって、消えてしまうようなパラドックスが起きても…」

女「――…貴方なら、助けてくれるでしょう?」

男「……へっへへ…それは当然。」

女「ふふっ…なら、それで良いんです。」

 ずずっ

男「…ふぅ」
女「…ほっ」
209 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/22(火) 08:51:32.26 ID:Yhmgun/E0

 女ちゃんがこちらに腰を下ろすと言った時、俺の持っていた”閻魔帳”は女ちゃんに渡した。

自分の力を卑下したくないという偏った考え方もあったが、多くは、ただそうしたかったからそうしたのだ。

男「…さってぇ〜これからの話だけど。」
女「はい。」

男「…しばらくは、”ターミナル”で平和に過ごしてる俺と協力して、過去に居るケダモノの罪をなんとかしようと思うよ。」

 動物として至極当然の事をしている存在を指差して「罪」だのなんだの言うのはちゃんちゃら可笑しいが、
まぁ…こういうのは”俺”というでかいくくりの問題だ。

女ちゃんやチビの家族を食い殺させずに済んだとはいえ、
とっさに、俺が過去に飛ばした悪徳トラベラーを喰わせてしまった。

女「あぁ、そういえば、その問題が残っていましたねぇ。」
男「いやいや…お嬢さん、一番大事なところですよ?」
女「ふふっ、私にとっては、今このときのほうが大事ですので。」

 ……それは、素直に嬉しい。
…というか恥ずかしい。

女「顔、紅いですよ?」
男「っ――!!」

 手玉に取られてるぅっ?!

女「ふふっ、こちらの世界に来て正解でした。」
男「そっか、それはなによりだ。」

女「それで…」
女「―協力して過去に取り残された貴方を救うと仰いましたが、具体的にどのように…?」

男「う〜ん……そうだなぁ…」
男「―じゃあ、次は、スナック菓子でも喰わせてやるかな?」

女「何も考えていないのですね?」
男「うぐっ?!」

女「ふふっ、まぁ、貴方たちが次に行動を起こすとき、私も同行致しますよ。」
男「ど、どうして…?」
女「決まっているじゃないですか。…言いたいことが、あるからです。」

 ……それは、
やっぱり、女ちゃんの中にも、割り切れない部分はあるのかもしれない…。

そう考えを改めようとしたところで――



女「”そこまでです、タイムトラベラー!”…と。」男「またかよォッ?!」
210 :しまった、チビがぜんぜん活躍していない ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/22(火) 09:00:19.90 ID:Yhmgun/E0
 ケダモノと未来。


―――――。


 「おつかれさまです、タイムトラベラー。」


 蒼い光に包まれながら、何処か遠くにそんな言葉を聞く。


ケダモノ「誰だ…?今更俺に何のようだ……?」

 光に満たされた丸い部屋の中、カツカツとこちらに歩み寄ってくる人影をみる。

それはみるみる大きくなり、目の前で、俺を見上げるように立ち止まった。

…そして、その顔には、どこか見覚えがあった。


男「どうも、お待たせいたしました。」


ケダモノ「っ!!」


 俺だった。
211 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/22(火) 09:25:07.62 ID:Yhmgun/E0

男「遠い未来、貴方の生まれた時代より救出に参りました。」


 涼しい顔で、そんなことを言ういつかの俺に今の俺は戸惑いを隠せなかった。


ケダモノ「なぜ、なぜ今頃?!どうして今更なんだ!!こんな理性を失った化け物を……」


男「理性ならば、少しずつですが取り戻しているではありませんか。」


ケダモノ「っ」

 もっともだ。

俺はどうして今、理性で体を動かせている…?

男「…あの時代で、なつかしい匂いを嗅いだからですよ。」

ケダモノ「懐かしい……匂い…?」

男「遠い昔、貴方が自分自身で救った少女を、お忘れですか?」


ケダモノ「あぁ…」


 あの少女か。

穴倉の中、脚を血に染めながら俺を呆然と見詰めていた…

ケダモノ「俺は、結局、あの子の家族を…」

男「そのような過去はもはやございませんが?」

ケダモノ「……なに?」

男「貴方が喰らったのは、あの時代の人間ではなく、いつかの時代の悪徳結社の尖兵ですね。」

男「なぜかあの時代に一人、穴倉に閉じ込められていたようですが」


 そんなものは聞いていない。


俺は、俺はあの子の家族を奪っていないのか…?


声ならぬ声でそう訊ねると、男はただ、「はい」と答えた。

男「貴方が、あの時代で陸や空や海の生物を喰らって生きていた文献は残っていますが…」

男「――人間を喰らった痕跡は一切ございません。」


 その言葉に、


最早色々忘れて、


俺はその場に膝を折ってへたりこむ。
212 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/22(火) 09:43:35.87 ID:Yhmgun/E0

ケダモノ「そうか……そうかそうか…」

 未来が、変わったんだ。


理由はわからない。

今こうして隕石の直撃を避けたことすら予想外なのだ。

 あぁ、そうだ。まだそれが残っていた。



ケダモノ「…どうして俺を、この時代に連れ戻した…?」


男「……失礼を承知で申します。」


男「貴方に、我々を導いていただきたい。」


ケダモノ「………勝手なことを…」

 気でも狂ったのだろうか?

いや、過去の人々に比べて、元々狂っているのか。

男「無個性であることに命を懸けてきた我々ですが、…」

男「―貴方の今回の行動、発言の内容と、我々に巨大な影響を与えました。」


ケダモノ「ま!まて!!先から”我々””我々”と!お前はいったい誰だ?!さらなる未来の私なのか?!」

 その俺の問いにも、俺とまったく同じ顔をしたそいつは、淡白に答える。

男「いえ。私は、貴方の後継機として生み出されたタイムマシンです。」


ケダモノ「………」

 狂ってる。

この時代の人民は本当に狂っている……

俺と同じ存在をもう一度作り出すなんて……タイムパラドックスの恐ろしさを誰一人として主張しないのかっ!!

 静かに、怒りを震わせ、こぶしを硬く握り締める。

歪な太く鋭い爪は少し欠け、肌にはまた新たな裂傷が出来る。

ケダモノ「…本当にそっくりだよ…」

 その顔つきも、その反応も、最初の俺そっくりだ。


男「民衆が、貴方の再来を求めて、今一度と私を生産されましたが、私では力不足のようです。」

男「民衆は、貴方を連れ戻すようにと声を揚げています。」
213 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/22(火) 09:48:59.23 ID:Yhmgun/E0


ケダモノ「………」

 耳鳴りのような、ちいさなノイズが聞こえる。

この時代は静かなものだと思っていたのだが…

ケダモノ「外では何が…?」


男「民衆が、貴方の帰還を待ちわびております。」


ケダモノ「……?」

 あの、死んだ目つきの者達が…?

どういうことだ、


どうして保守的思想からかけ離れている…?


男「先も申し上げたとおり、貴方の主張が、行為が、民衆に心境の変化を与えました。」


男「最悪、パラレルワールドに逃げるという手段も見つけました。」



男「ゆえに、我々は変化を求めています。」


男「それを、貴方に導いていただきたいのです。」



ケダモノ「………」


 腐っている。


性根から腐りきっている。

そんな者たちを俺に丸投げして、導けと……?




やってやろうじゃないか。
214 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/22(火) 09:58:28.41 ID:Yhmgun/E0

ケダモノ「…案内しろ。」


男「はい。」


 つぶしてやる。

この世界は、ルート付けられた歴史に依存して、寄りかかってここまできた。


次は、パラレルワールドにまでのしかかるつもりだ。



そんなことはさせない。


俺が導いて、退路を断ってやる。


この世界を、変えてやる。



男「こちらです。」


ケダモノ「あぁ…。」



 広い、広い広いステージの上に案内される。


大きなノイズが、視界前面、横断幕の向こう側から聞こえてくる。



ケダモノ「…俺はケダモノ…欲深き者だ……」



ケダモノ「…いつかの政治家とは…違う」



ケダモノ「人民の成長こそを…求めるッ!!」


 俺の気合と共に、ステージの幕が上がる。


同時に、ノイズが止む。

その向こうに見える闇には、埋め尽くすほどの人、人、人。


その民衆の顔を見回す。


ケダモノ「………。」



 集まっている人の目にはそれぞれ、まぶしいぐらいの輝きがあった。




ケダモノ「タイムトラベルはッ!!ここまでだァッ!!!」

―――――――END―――――――
215 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/22(火) 10:00:30.58 ID:Yhmgun/E0

あいっ!終了ですー。

最後はgdgdかつ蛇足になりましたが、素直な感想を求めます。

SSスレは初めて立てたので、なかなかルールがわかっていません。
216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/22(火) 10:27:51.35 ID:O0r5ljbSO
腸の標本……か……


素直に言うと最初から最後までよくわからんかったwwwwww
何がわからんのかわからん位わけわからん

他の奴らは分かったのか?

キャラと世界が重複しまくってる上に、時間までぶっ飛んでるから整理しきれん

多分見直しても俺にはわからん
217 :時系列です。 ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/22(火) 10:51:05.82 ID:Yhmgun/E0

超未来にて、男が作られる。

仕事で時間を飛び越えるごとに、男の無個性さが薄れて、過去の世界に憧れを持つようになる。

まだ見ぬ未来に活発的に向かってゆこうと宣言するも、保守派が)99%の世界では異端扱いされ、遠い過去で死ぬように言われる。

男「じゃぁいいよ、やってやるよ」民衆「マジで?!」 ←エピローグのラスト直前

しかし男はまっすぐに言われた時代へ向かわず、少しずつ過去へと遡って行き、歴史を改変していく。

目的の時間目前で、未来の自分が野生に帰っている姿を見る。

未来の自分から少女を救い、身寄りの無い少女を少し後の未来で育てる。


〜少女――いつかの友との交流期間。〜


友が、”蝶の標本(バタフライ・サンプル)”を用いて、異世界の自分がどれだけの間男と一緒に居たのか知る。

自分が過去で襲われた未来の男について、”蝶の標本(バタフライ・サンプル)”で調べ、その正体を知る。

タイムパラドックスを起こし、未来で男が野生に帰らない世界になることを願うが、そうなると男は生まれなかった。

仕方なく、自分の思い出のみで男を作る。

〜ここから本編〜

男、授業中に目覚める。

男のタイムトラベルの酷使の影響で、異世界の男と友の思い出が混線し、両方を併せ持った女が生まれる。

男、自分の存在を知る。

友、身勝手さに思いつめて過去の自分を殺す。

女も巻き添えを食う。

男、友や女の姿を追いかけて過去へ飛ぶも、”少女が助からなかった世界”に変わりゆく途中でのタイムトラベルなので、
矛盾が発生、世界の自己修復の範囲外だったので、そのまま世界は停止。

男、異世界の自分に教えられて過去にとび、もう一度少女を救い、女と友が未来に生まれ、”男は死ぬものとして”世界は動き出した。

復活した友は、過去へ飛んでそこで死ぬはずだった男を助ける。女も男を助ける。

今度は、男と異世界の男、友と女の意思によって、もう一度パラドックスが発生し、世界が停止する。

218 :時系列です。 ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/22(火) 11:06:20.38 ID:Yhmgun/E0

男、現状に満足して、世界が動き出すことを望まなかった。

友の正体について知る。

男、自分の未来を教えられる。

異世界の男は能力を使ってあらくれを蹴散らす。

異世界の男が、”閻魔帳”を用いて新しいパラドックスを動かす人物というあやふやな検索を行い、メンバーが4人であることを知る。

異世界の男に教えられ、またも過去に飛ぶ。

未来の自分に、少女の家族を一人も殺させないようにするが、満足のいく結果にはならなかった。

男は、もっと満足のいく世界を望み、他4人と無意識に同調して、新しい世界”ターミナル”が動き始める。


〜エピローグの後〜

”ターミナル”を動かした4人が、”閻魔帳”または”蝶の標本(バタフライ・サンプル)”と呼ばれる本を製作。

全ての世界の始まり辺りに”本”を捨てるように置いておく。これによりほぼ全てのパラレルワールドに”本”が存在することに。



〜異世界の男と男の頑張りはこの波線辺りで続いていますが、ご想像にお任せします。〜



〜エピローグラスト〜

男、未来を変えるために動き出す。
219 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/22(火) 11:07:35.82 ID:Yhmgun/E0
力尽きた。
220 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/22(火) 11:12:34.04 ID:Yhmgun/E0
読んでくださった方皆さんに、まずはこの言葉を贈ります。


『バファリン』いります?

ボクはいります。

ここまで読んでくださった方は本当にお疲れ様でした!!
221 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/22(火) 11:15:51.30 ID:Yhmgun/E0
やっべぇ…ギャグ書きてぇ…

”腸の標本”くっそわらったw
222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/22(火) 12:56:32.92 ID:O0r5ljbSO
thx
ぼんやり分かった

閻魔帳は奴らが作ったのか
そんな描写あったっけ?

ってことはなんか凄い技術で作った閻魔帳を自分達で作り、時系列的過去の自分達が拾ったのか?



腸の標本(ホルモン・サンプル)
ホルマリン漬けの腸が頭に浮かんだぞwwwwww
223 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/22(火) 16:57:37.85 ID:Yhmgun/E0
実は、異世界の男が三人を同時に観測する為に>>147にて、
”本の作者”というワードで”閻魔帳”を開いています。

あいまいなイメージでも引っかかるように作られています
224 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/22(火) 17:11:11.12 ID:Yhmgun/E0
最後の蛇足。

選択肢、1

―――――。

 このスレのここまでの文章を読む男と、それをかいつまんで聞かされる女。

男「………。」

女「………。」


 俺と女は、最後の最後まで読み、黙り込む。


男「なんか…」

男「―…ひどいネタバレをされた気がする。」

女「…そうですね……。」

―――――――END?―――――――
225 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/22(火) 17:42:26.63 ID:O0r5ljbSO
>>223
マジだ書いてあるwwwwww

>>224
まるでかまいたちの夜みたいなENDだな
226 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(中部地方) [sage]:2011/11/22(火) 17:55:01.44 ID:pOPN8Kif0
おつ
227 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(山口県) [sage]:2011/11/22(火) 22:47:41.58 ID:kQuZvdLf0
乙です
228 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方) [sage]:2011/11/23(水) 02:12:32.03 ID:8NiF8H8go

ギャグ書いてほしい
229 : ◆N1RGqRourg [sage]:2011/11/30(水) 21:35:57.59 ID:PQ4zzmdH0
HTML化したいけれど、何処に依頼すればいいのかわからない
230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/30(水) 21:56:03.40 ID:RoE12Cm4o
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1319808816/
231 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/30(水) 22:11:57.88 ID:PQ4zzmdH0
感謝いたします!

また別のSSを書きたかったのですが、このスレをこのまま残していても目障りだろうと思いまして・・・。

近いうちに、新しいスレッドを立てさせていただきます。
232 : ◆N1RGqRourg [saga]:2011/11/30(水) 22:16:13.81 ID:PQ4zzmdH0
一つ宣伝するなら、―――ギャグではございません。

ボクには狙ってギャグを書くことが出来ないと重々承知いたしました・・・。

ジャンルとしては、ハートフルオカルトといったところでしょうか?

ボクのブログにてすでに公開している作品の打ち直しのようなものと、
そのブログ内にて連載中の作品を一つ書かせていただく予定です。
233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [sage]:2011/12/01(木) 19:35:31.21 ID:bafRBhr8o
>>232
そのブログとやらを教えて頂きたい
234 : ◆N1RGqRourg [saga, sage]:2011/12/02(金) 00:09:57.69 ID:/DXS7WZP0
失礼、こちらで紹介するのがまだでした。

ttp://blog.goo.ne.jp/milk-produce

です。

よろしくお願いいたします。
235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [sage]:2011/12/02(金) 18:42:50.72 ID:KtVPdAfJo
あざーっす!
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