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上条「行こうぜ鋼盾―――みんなで、素敵な悪あがきだ」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/10(木) 23:41:54.20 ID:6hlIUYRM0

 本作は鎌池和馬先生の「とある」シリーズの二次創作作品です
 タイトルはおこがましくも『とある端役の禁書再編(リミックス)』

 「とある科学の超電磁砲」に登場する無能力者、鋼盾掬彦を主人公に据え、
 彼を交えての「禁書目録第一巻」と「超電磁砲・幻想御手編」の再構成作品となります

 3スレ目となりますので、1〜2スレにお目を通して頂きたく存じます


 神裂「鋼盾―――鋼の盾ですか、よい真名です」
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1304150567/l50

 アレイスター「鋼盾掬彦、か……まったく、たいしたイレギュラーだよ」
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1312793068/l50


 此処に紡がれるは学園都市最下位たる少年の軌跡
 盾の名を冠するその少年が何の因果か巻き込まれた、科学と魔術が交差する破天荒な物語

 何も持たなかった彼に、守りたいものができた
 泥龜の視点より遥かな月を仰ぎて、無様にも素敵な悪あがきを


 少なからず独自設定、独自解釈、時系列の入れ替え等がございます
 苦手な方はご注意くださいますように

 では、どうぞよしなに


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ぶらじる @ 2024/04/19(金) 19:24:04.53 ID:SNmmhSOho
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旅にでんちう @ 2024/04/17(水) 20:27:26.83 ID:/EdK+WCRO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713353246/

木曜の夜には誰もダイブせず @ 2024/04/17(水) 20:05:45.21 ID:iuZC4QbfO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aaorz/1713351945/

いろは「先輩、カフェがありますよ」【俺ガイル】 @ 2024/04/16(火) 23:54:11.88 ID:aOh6YfjJ0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713279251/

【MHW】古代樹の森で人間を拾ったんだが【SS】 @ 2024/04/16(火) 23:28:13.15 ID:dNS54ToO0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713277692/

こんな恋愛がしたい  安部菜々編 @ 2024/04/15(月) 21:12:49.25 ID:HdnryJIo0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713183168/

【安価・コンマ】力と魔法の支配する世界で【ファンタジー】Part2 @ 2024/04/14(日) 19:38:35.87 ID:kch9tJed0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713091115/

アテム「実践レベルのデッキ?」 @ 2024/04/14(日) 19:11:43.81 ID:Ix0pR4FB0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713089503/

2 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/10(木) 23:45:37.36 ID:6hlIUYRM0

とある端役の禁書再編 登場人物紹介ver3 (読み飛ばし可)

 ※現時点での登場人物についてのかんたんなまとめです
 ※なにが簡単だ長えよ馬鹿! >>1の自己満足と笑わば笑え!
 ※前スレの>>2-4の改変版となります。物語の推移に従い、そこそこ更新してあります
 ※とはいえ原作読者においては既知の情報が七割を超えておりますので、やっぱり読み飛ばし可
 ※残りの三割もそんな大したことないのでどうしようもなく読み飛ばし可
 ※でも読んでくれると嬉しいな!


 鋼盾掬彦 ―――― 無能力者

  とある高校の1年7組に所属する男子生徒
  ぼっちゃり体型とビシッと決まったマッシュルームカットがチャームポイント

  なんの因果か脇役になり損ねた主人公
  名前の読みについて公式のアナウンスはなし。このスレでは「こうじゅん きくひこ」となっております
  こうたてこうしゅんはがねたて……異論は認めるけど、こちとら今更引っ込みがつかないでござる
 
  学園都市には中学校から編入。弱い自分を変えたいと意欲的に能力開発に取り組むも、まったく成果がでず、己自身に絶望する
  以後、抜け殻のように中学校生活をやり過ごすも、進学した高校でよい担任、よい友人に恵まれ、平穏な日々を送っていた
  しかし、街に蔓延る“幻想御手”の噂話と、隣室のベランダに降り立った修道女が、彼の運命を捻じ曲げてゆく

  欠片ほどの能力発現もない、本当の意味での無能力者
  学園都市的には有り得ぬはずのその検査結果が意味するものとは?  

  主人公であり、彼視点で話は進むものの、けしてヒーローではないというキャラクター
  コンプレックスで自縄自縛、この街に蔓延る歪な序列に足を捕られた仔羊ちゃん
  能力もなければ腕っ節もない、それでも彼は鋼の盾たらんと前を見据える

  なにも持っていないぼくだけど―――戦うと決めた
  科学と魔術が交差する時、学園都市最下位たる少年の物語は始まる

   

 上条当麻 ―――― 幻想殺し

  とある高校の1年7組に所属する男子生徒。学生寮では鋼盾の隣に住んでいる。デルタフォースが一角
  ツンツンに固めた髪型と不幸体質、路地裏ライフで鍛え上げられたしなやかボディが特徴。旗男

  本作では主人公ではないものの、相変わらずのヒーロー
  学園都市の人間でありながら、しかしこの街を支配する序列に収まらぬ例外中の例外
  常識外の右手を以ってあらゆる理不尽を打ち払う“幻想殺し”
  超能力でもなければ魔術でもない、そんな得体の知れぬ力に振り回される日々。不幸だ

  基本的には原作通りの立ち位置、夏休み初日、ベランダを開けるとそこにはシスター
  友人にして隣人たる鋼盾とともに、科学と魔術の交差する物語に巻き込まれることとなる

  鋼盾視点で物語が進む本作では、見せ場であるvsステイル戦、vs神裂戦をほぼスキップされてしまう。不幸だ
  でも上条ちゃんはちゃんと原作通りに頑張っているのです!

  現在は神裂さんにボコられて気絶中。不幸だ
    

 Index-Librorum-Prohibitorum ―――― 禁書目録

  イギリス清教は“必要悪の協会”に所属する修道女にして備品
  絶対防御礼装『歩く教会』たる純白の修道服を身に纏う、銀髪碧眼の美少女

  完全記憶能力と強固な意志力、信仰心、その類稀な素質故に10万3000冊の魔道書をその身に宿している
  彼女自身は魔術を使えないものの、その知識をつけ狙う魔術師に追い回される日々を送っている

  偉業にして異形、威容にして異様、万能薬たる禁書目録はその実あらゆる毒の詰め合わせ
  その在り方を受け容れた尊き聖女であるも、その決意も覚悟も己の名前すら何もかもを忘れてしまった女の子

  『献身的な仔羊は強者の知恵を守る(dedicatus545)』と嘯くも、その言葉から余人が想像するのは“犠牲の羊”以外に有り得ない

  己を追う謎の魔術結社からの逃亡中、学園都市にて上条当麻と鋼盾掬彦に出会う
  『歩く教会』を失うというハプニングなど挟みつつ、紆余曲折を経て彼らと行動を共にすることとなった

  神などいないこの街で、しかし人の強さと優しさを知る

  近く訪れる記憶破壊と、忘れてしまった過去の重さを突き付けられ
  しかし鋼盾や上条とともに、諦めずに最後まで足掻き続けることを誓った

  わけも分からず流されてばかりだった少女が、初めて為したその選択
  運命の七月二十八日に、どのような結果が導き出されるのかは―――乞うご期待

  現在は鋼盾と共に木山春生の車に同乗中
  
3 : ◆FzAyW.Rdbg [sage saga]:2011/11/10(木) 23:47:28.27 ID:6hlIUYRM0


 土御門元春 ―――― クラスメイト
 
  とある高校の1年7組に所属する男子生徒。デルタフォースが一角
  金髪とサングラスとアロハとにゃーだぜいですたいの人。腕が異様に長いと言う初期設定は劉備玄徳からなのか

  表向きは普通の男子高校生でメイドと義妹愛のオーソリティ、その正体は裏方に徹する多重スパイ且つ陰陽博士
  ヒーローにはなれそうにもないが、だからこそ見える地平もあるのかも

  能力はレベル0の肉体再生(オートリバース)
  傷口に薄い膜を張る程度の些細な回復能力を得る代償に、魔術の使用を極端に制限されるハメに

  禁書目録初代のパートナー、それは苦く切ない初恋の記憶
  彼女の献身に打たれ、恋心を押し殺しイギリス清教の闇に身を沈める覚悟を決めた

  魔法名は『背中刺す刃(Fallere825)』

  語られぬ過去、複雑すぎる立ち位置、誰より誠実な裏切り者
飄々と周囲を翻弄しつつ、その実誰よりも世界に翻弄されているのかもしれない人
  
  教会の言う「禁書目録の宿命」に疑念を抱きつつ、それすらも彼女の遺志と受け入れていた。
  だが、友人たる鋼盾と上条の決意に絆され、もう死んでしまった少女の未来を願う

  現在はひたすらに暗躍中、それはもうエスピオナージュ且つハードボイルドに
  なんかもう土御門視点の超捏造一巻再構成いけるんじゃねって気がしてきたけど絶対気のせい、無茶言うな俺
  決意の蜘蛛、計略の糸、謀略の意図、調停者の異図―――織り紡がれる模様は、果たして
    

 青髪ピアス ―――― クラスメイト

  とある高校の1年7組に所属する男子生徒。学級委員。デルタフォースが一角
  青い髪と派手なピアスな身長180pの残念イケメン、誰も本名を言わないのは世界の約束
  似非関西弁を笑ってゆるしてあげるのは日本人の約束

  能力は身体強化(インナーブースト)で、レベルは1
  発動条件がテンション次第という欠陥能力であるも、うまくハマればレベルの壁を軽々と凌駕する謎性能
  現状ギャグシーン以外での発動は皆無、多分今後もそんな感じ

  本人曰く、あらゆる萌属性を受け容れる包容力の持ち主で、愛の伝道師
  精力的に活動を続けるものの、もう夏だと言うのに未だ春がこない

  必殺技は天空X字拳
  超必殺技は超天空X字拳

  夏休みの計画を練りつつ、バイトや補習ライフを満喫中
  同僚の誘波さんへの恋心は、いろいろあって露と消える。あわれなり

4 : ◆FzAyW.Rdbg [sage saga]:2011/11/10(木) 23:49:23.16 ID:6hlIUYRM0


 吹寄制理 ―――― クラスメイト

  とある高校の1年7組に所属する女子生徒
  身長が高くスタイルにも恵まれた掛値なしの美人であるも、不思議と色っぽさを感じさせぬルックス
  秀でたおでこがチャームポイント。そして巨乳。アニメは盛り過ぎじゃねとも思うがやはり素敵

  大覇星祭、一端覧祭の運営委員を務め、クラスでも中心的な人物
  努力家で面倒見のよい姐御肌な性格。小萌が飴で制理が鞭
  愛読書は通販生活のカタログ

  無能力者はこの街でどう生きてゆけばよいのか、突きつけられたその残酷な問いに、
  誰よりも確かに答えを出し、それを体現し続ける強い女の子。俺の嫁

  夏休み中も大覇星祭の運営委員として精力的に活動中
  準備に東奔西走な、忙しくも充実の日々を送っている
  

 その他生徒 ―――― クラスメイト

  とある高校の1年7組に所属する生徒たち
  学園モノの主人公のクラスには、個性豊かでノリのよいモブが溢れてると決まっている
  特に上条や青髪を追い詰める時のチームワークのよさは異常、「鋼の楽団」事件とかヤバイ。超ヤバイ

  とある高校は全体的にランクの低い学校であり、学生の殆どはレベル0〜1程度
  誰しも少なからず挫折や劣等感を抱えているも、それでも日々を楽しく過ごしている

  みんな担任の小萌先生が大好き過ぎてヤバイ。超ヤバイ
  あの日の記念写真はみんなの宝物です

5 : ◆FzAyW.Rdbg [sage]:2011/11/10(木) 23:51:54.34 ID:6hlIUYRM0


 月詠小萌 ―――― 先生

  とある高校の1年7組の担任。担当科目は化学
  超能力の専攻分野は発火能力(パイロキネシス)であり、超能力全般への知識も深い
  また、社会心理学・環境心理学・行動心理学・交通心理学・等の心理学の専門家でもある

  大の酒好きにして無類の愛煙家であり“山盛灰皿”(ホワイトスモーカー)の異名を持つ

  入学当時の上条に、迷子に間違えられて高い高いをされた壮絶な過去の持ち主
  自己不信に凝り固まっていた鋼盾を掬い上げてくれた人物でもある

  教育熱心で生徒、同僚からの信望も厚い
  都市伝説に語られるほどの異常な若々しさであるも、御年[禁則事項です]才

  上条にインデックスの治療を依頼され、魔術なる埒外の法則に触れてしまう
  心配も焦燥も圧し殺し、朗らかな微笑みを浮かべる小萌先生マジ天使
 
  本作ではまさかのヒロインポジ(?)に!
  ロリじゃねえよアダルトだよ!

  五年後の約束が果たされるのかは―――神のみぞ知るセカイ

 
 黄泉川愛穂 ―――― 先生

  とある高校の女性教師。担当科目は保健体育
  警備員第七三活動支部所属

  いつも緑色のジャージを着ており、髪は後ろで纏めているだけと大雑把な格好をしている
  しかしその雑さすら艶っぽく、色気のないジャージ姿ですら何故かとても色っぽく見せるほどの美人

  腕利きの警備員としても名を轟かす女傑で、同僚曰く「シリアスをコミカルに始末する女」
  レベル3程度なら暴走能力者相手であっても武器は使わず、ヘルメットや盾でどつき回して捕縛する
  とある過去の出来事から“子どもには銃を向けない”がモットー

  きちんとけじめをつけられる少年である鋼盾をいたく気に入る
  生徒たちが楽しく夏休みを過ごせるよう、書類仕事と治安維持に奔走の夏休み


 雲川芹亜 ―――― 先輩

  とある高校に通う女子生徒。所属不明
  頭脳明晰容姿端麗、黒く艶やかなストレートヘアと「けど」という語尾が特徴

  一年生に聞けば「先輩」二年生に聞けば「先輩」三年生に聞けば「後輩」と答えるものの、誰も彼女のクラスを知らない
  ……断じて、ダブっているわけではない、と思う

  先日の一件以来、上条とは奇妙な距離の近さを保っているが、果たして……?
  本人曰く、鋼盾とはなかなか馬が合うが、吹寄や土御門とは合わないんだけど、とのこと

  そろそろ出てくる予定
  知恵袋にして焚付役、雲川先輩マジクール

6 : ◆FzAyW.Rdbg [sage]:2011/11/10(木) 23:54:06.74 ID:6hlIUYRM0


 御坂美琴 ―――― 超能力者

  常盤台中学校の二学年に属する女子生徒
  シャンパンゴールドの髪と短パン装備の娘さん
  ↑このシャンパンゴールドって表記って二次SSだけだよなーなんだよシャンパンゴールドって
  そんなに茶髪とは書きたくないのかお前ら……愛がたりねェぜ!

  学園都市の第三位、名門常盤台中学校のエース、超電磁砲
  報われて欲しいのに報われて欲しくない系のヒロイン。片思いと空回りを宿命付けられた少女

  学園都市の広告塔たることを余儀なくされたその苦悩、その痛みを誰が知ろう
  歳相応の少女としての己を置き去りにされ、その重圧に無自覚に喘ぐ日々を過ごしていた
  上条と出会い、自分が自分らしく居られる場所を見つけてはみたものの前途多難、旗男め

  鋼盾とは上条を通して知り合いになり、いろいろあって信頼値は既にカンスト
  恋愛値にならない辺りが鋼盾クオリティ

  迷いを断ち切り、超能力者たる覚悟を新たに花のように咲った女の子
  しかし、待ち受ける残酷な運命を彼女はしらない

  現在は幻想御手事件解決に協力中
  舞台裏で冥土帰しとか黒子とあれこれ、その後木山の追跡を開始する


 白井黒子 ―――― 風紀委員

  常盤台中学校の一学年に属する女子生にして、一七七支部の風紀委員
  ツインテールをリボンで飾った、慎ましい胸の娘さん

  能力はレベル4の“空間移動”(テレポート)
  「ジャッジメントですの!」という台詞は、実は原作では一度も使われていないというトリビア

  事件に巻き込まれた鋼盾を颯爽と救い出した男前
  一七七支部での再会、美琴への説諭を経て、鋼盾を高く評価する
  鋼盾とふたり、公園で互いのエラく難儀な恋路を知り「アレな初恋同盟」を締結

  報われぬ初恋に殉ずるこの身は、しかし誰より多くを得ている
  なればこそ、この道を歩むことになにひとつとて躊躇いはないと少女は笑う

  現在は幻想御手事件を鋭意捜査中、だが如何せん脇腹骨折の身
  舞台裏で原作通り「こんな時くらい“お姉さま”に任せなさい」とか言われ、美琴に惚れ直す

7 : ◆FzAyW.Rdbg [sage saga]:2011/11/10(木) 23:57:12.33 ID:6hlIUYRM0


 初春飾利 ―――― 風紀委員

  柵川中学校の一学年に所属する女子生徒にして、一七七支部の風紀委員
  季節によって装いを変える、その花飾りが特徴的な娘さん

  能力はレベル1の“定温保存”(サーマルハンド)
  風紀委員の仕事には役に立たない能力ながら、高い情報処理スキルで業務をこなすスーパーハカー
  機械仕掛の天眼乙女。電脳世界においての二つ名は“守護神”(ゴールキーパー)
 
  ほんわかとした雰囲気とは裏腹に、風紀委員としての意識の高さは随一
  同僚たる黒子曰く“諦めの悪い女”……私にはもうゴールしか見えません……!  

  一七七支部に黒子への謝罪に訪れた鋼盾に、風紀委員たる素質を見出す
  鋼盾掬彦風紀委員化計画をあの手この手を画策中

  佐天涙子の抱えている闇の一端に触れ、彼女のそれを和らげてあげたいと願いつつ
  多くの学生の心を弄んだ幻想御手事件解決への決意を新たにする

  木山春生が幻想御手事件の犯人であると突き止めるも、スタンガンの一撃で敢え無く昏倒
  現在、木山の研究所に乗り込んだ警備員にその身柄を保護される
 

 佐天涙子 ―――― 無能力者

  柵川中学校の一学年に所属する女子生徒
  艶やかな黒のロングヘアーとそれを引き立てるヘアピンが特徴的な娘さん

  初春とは親友と言える間柄で、彼女を通し白井、御坂とも親交を結ぶ
  充実した日々を送るものの、その笑顔の裏には無能力者故のコンプレックスを色濃く湛えている

  スキルアウトに絡まれる鋼盾を助けようとするも叶わず、己の無力を突き付けられてしまう結果に

  偶然にも幻想御手の入手に成功し、友人数名と共に使用する
  仮初の空力使い(エアロハンド)として、夢にまで見た能力の発現に耽溺した
 
  が、共に使用した友人が倒れ、幻想御手の正体を知る
  無力感と絶望を抱えつつ、あとを初春に任せ自室にてひとり意識を喪う

  現在は第七学区の病院にて意識不明中

8 : ◆FzAyW.Rdbg [sage saga]:2011/11/11(金) 00:03:33.26 ID:1KidJeSd0


 ステイル=マグヌス ―――― 魔術師

  イギリス清教は“必要悪の協会”に所属する魔術師にして神父
  二メートルを超える長身痩躯、赤く染めた髪、バーコードを模した刺青、十指に指輪、香水趣味に喫煙癖という、宗教家とは程遠い空気を纏う
  
  齢若くしてルーンを極めし天才魔術師。現存するルーン二十四文字の完全な解析に加え、新たに文字を六つも生み出した辣腕
  炎に特化した魔術を武器に、数多の魔術結社を単身で灰にした実績を持ち、また対外交渉のエージェントとしても活動する

  魔法名は『我が名が最強である理由をここに証明する(Fortis931)』
  尊敬する女性はエリザベス一世で、好みのタイプは聖女マルタ

  禁書目録の回収任務に就いているものの、上条当麻の右手に学生寮にて昏倒、鋼盾に保護される
  幻想御手の件で絶望の淵にいた鋼盾を神父として諭し導き、敵対する間柄と知らずに彼と友誼を結んだ

  現在は期限たる七月二八日に向け、禁書目録とそのパートナーらを監視中
    

   神裂火織 ―――― 聖人

  イギリス清教は“必要悪の協会”に所属する魔術師にして、世界でも二十人ほどしかいない聖人の一人
  ジーンズの片方は太腿の際どい所まで切断して露出し、Tシャツの片方の裾も絞った左右非対称の容姿。エロい

  二メートル以上の令刀と呼ばれる“七天七刀”を使った抜刀術「唯閃」とワイヤーによる攻撃「七閃」を主体とする白兵戦を得意とする
  攻撃魔術も普通に用いるが、結界のような細かい魔術は不得手。
  
  魔法名は『救われぬ者に救いの手を(Salvare000)』
  少女ひとり救えぬ己を恥じ、その名は封印中
  その魔法名を再び名乗ることはあるのか……未だ彼女は答えを見出せぬまま

  禁書目録の回収任務に就いており、彼女の行動を制限すべく上条当麻を撃破、その場に居合わせた鋼盾を圧倒する
  が、鋼盾に神裂自身の矛盾、惰弱、逃避について責め立てられ、冷徹な魔術師としての仮面や欺瞞を剥ぎ取られるハメに
 
  現在は期限たる七月二八日に向け、禁書目録とそのパートナーらを監視中だが…
  自己嫌悪と敗北感、無力感に沈みマジ凹み中

9 : ◆FzAyW.Rdbg [sage saga]:2011/11/11(金) 00:08:06.96 ID:1KidJeSd0


 土御門舞夏 ―――― メイド
    
  繚乱家政女学校二学年に所属する女子生徒

  一定の試験を突破し、実地研修を許されているエリートメイド見習い。
  無能力者だがそんなことはどうでもいいのだぞー、メイドの道は遠く厳しく近道などありえぬのだー

  土御門元春の義妹
  兄妹仲は良好、実施研修の名目で義兄の学生寮に度々訪れ、世話を焼いている
    
  上条曰く“誰にでもお兄ちゃんと言う女” 鋼盾もチラっと呼ばれた
  厨房の錬金術師。我が黄金練成(アルス=マグナ=オムレツ)に戦慄せよ!

現在は義兄の要請により、鋼盾の家に出入りしその家事一切を取り仕切っている
  存分に腕を奮う機会と新たな友人の予感に心はずませながら、現在夕食の仕込み中


 木山春生 ―――― 研究者

  大脳生理学の研究者。専攻はAIM拡散力場
  手入れのいい加減な栗色のロングヘアの女性で、目の下の濃いクマと白衣がチャームポイント
  相当な美人であるも本人にその自覚が皆無であり、更には世間ずれした行動が目立つ為「残念美人」と称されることも
  
  幻想御手(レベルアッパー)の開発者であり、それをこの街にばら撒いた張本人
  かつては木原幻生の下で研究に従事しており、その過程で被験者である「置き去り」達の担任教師を務めた
  昏倒に陥った彼らを救うべく、何もかもを巻き込んで単身この都市に牙を剥いた復讐の魔女

  出会いは偶然。幻想御手の助力を拒む鋼盾になにを見出したのか、彼に“お守り”を託す
  結果として初春飾利に己が尾を掴まれる破目になるも、小動もせず目的達成に邁進する

  愛車はランボルギーニ・レヴェントン、規格外の猛牛を駆る運転技術は熟練の域
  
  現在は警備員を警戒しつつ、鋼盾・インデックスと共にドライブ中
  破滅に至る道行きに現れた奇妙な道連れ、そんな運命の不思議に彼女は微笑む

  歩く都市伝説で、少なくとも「脱ぎ女」「レヴェントンの魔女」「幻想御手」の三件に関与
  鋼盾を三度戦慄させたその所業、いいぞ木山てんてーもっとやれ!

  当初は出演予定がなかったのに、いつのまにかプロットをのっとってくれたダークホース
  「無能力者と多才能力者」「学生と研究者」「被害者と加害者」「こどもと大人」「男と女」と、鋼盾とは尽く対となるキャラクター
 
  この物語が禁書再編ではなく超電磁砲再編だったら、ヒロインは彼女でした

10 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/11(金) 00:14:26.12 ID:1KidJeSd0




――――――――――


 とりあえずここまで!

 時間かかりすぎじゃー!
 鯖重いっつーの! 

 登場人物紹介だけとかアレですが
 もうギブです。力尽きたので、本編は明日投下します
 
 しょっぱなから愚痴っぽくなりましたが、>>1はやる気に溢れております!
 本スレでもどうぞよろしくお願いいたします

 それでは、明晩に

11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/11(金) 00:27:23.04 ID:3k0NCsWzo
乙じゃマジ乙なのじゃ>>1よ!

12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/11(金) 01:13:23.07 ID:p7tzqrRdo
>>1
新スレでも待つてる
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(新潟・東北) [sage]:2011/11/11(金) 01:16:17.45 ID:TK26TP8AO
スレ立て乙!
今夜のために既に全裸待機中
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/11(金) 01:16:55.39 ID:mEFu1R7Fo
>>1
3スレ目も頑張ってくれ
全裸で舞ってるから
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です) [sage]:2011/11/11(金) 10:26:54.85 ID:oQT5y4JRP
>>1
16 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/11(金) 17:29:17.91 ID:98OEyZd/o
どうも>>1です。乙コメ感謝
昨夜は投下もせず失礼しました

あってないような定時で上がっちゃったぜ! 
18時〜19時くらいには投下します! 予告↑age↑

前スレ>>1000はギップルさんを召喚してしまったようです
魔方陣ぐるぐると聞くとまずあのふんどしテントを思い出します
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(新潟・東北) [sage]:2011/11/11(金) 17:37:21.37 ID:X6YesOcAO
おおぅ、待ってるぜ!
…尻から出すのは止めてくれよ?
18 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/11(金) 18:49:56.26 ID:98OEyZd/o
なんか鯖移動だなんだで投下できんかったぜ
19時には間に合ったのでよし!

>>17 尻assだけに! というわけですね!←最低

今更だが、スレタイを 上条「   」 にしたら埋もれる埋もれるw
今までは神裂とかアレイスターとかだったのでパッと目についたんですが……むう

まあ、それはそれとして
投下です


そぉい!!


――――――――――
19 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/11(金) 18:51:03.43 ID:98OEyZd/o


 ランボルギーニ・レヴェントンがアスファルトを疾走する

 ブルー=ブルーの猛牛が、嘶きながらひた走る


 空気抵抗を抑えるべく低く保たれた車高から見える景色と、独特のエンジン音、鼓動感

 何より圧倒的な加速感は、車というものにさして興味がない鋼盾であっても心騒ぐものがある


 木山のハンドルさばきは見事なもので、都市伝説に讃えられたその腕前は伊達ではない

 定員オーバーな時点で道交法ブッチギリのダメドライバーなことこの上ないが、まあ、それは置いといて


 膝の上のインデックスも、ポケーとした表情でこの非日常の光景に見惚れているようだ

 車に乗るのすらはじめてというこの少女にとっては、すべてが未体験ゾーンであるといえる


 サイドミラーに映るインデックスの表情は、興奮と好奇心に輝いている

 それだけで、鋼盾は嬉しい。これが単なるドライブであれば、さぞ楽しいものだっただろう


 だが、この道行はそんなものではない

 そんな、いいものではない


 鋼盾は木山春生を見定めるために

 インデックスは鋼盾を守りたいがゆえに

 そして木山は己の目的を完遂するために

 
 各々の思惑を乗せてランボルギーニ・レヴェントンが走る

 その疾走、その道行の結末は――――きっと、碌なものではない



――――――――――――
20 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/11(金) 18:52:15.91 ID:98OEyZd/o


「……さて、このまましばらくはドライブとしゃれこむわけだが
 ―――――約束だったね、なにから、話したものかな」


 しばらくは無言でハンドルを握っていた木山が、頃合いと見てか鋼盾に話しかけてきた

 その目線は遠くに投げたままだ――木山のそんな横顔を見つめながら、鋼盾はとりあえず彼女に思うがまま語ってもらうことにする

 それでは――まずは、このあたりから始めてみよう


「……まずは幻想御手についての説明を。
 質問があれば、その都度聞かせてもらいますから」

「そうか、ならば……む」


 と、木山が説明を開始しようとしたところで、突然カーナビの画面が切り替わった

 地図が消え、代わりに「un install」なる言葉が表示された。

 ふむ、と呟くと、木山はなんでもないことのように言葉を紡いだ。


「……誰かが研究室のパソコンを無断起動したようだな。
 所定の手続きを踏まずに機材を動かすと、セキュリティが作動するようになっているんだ」


 セキリュティの作動

 アンインストール

 察するに……証拠隠滅、ということだろうか


「これで幻想御手についての証拠は完全に消えてしまったな。
 ―――花飾りの少女が目覚めたか、それとも別のルートで私に辿り着いたか」

「……どちらにせよ、警備員が動く……動いていることになりますね。
 ――どうやらピンチなんじゃないですか?」

「そうだね、困ったな。
 まあ、話の続きだ……君は幻想御手をどのようなものだと思っているかな?」

21 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/11(金) 18:54:36.06 ID:98OEyZd/o


 言葉とは裏腹に、まったく困ったような素振りを見せぬ木山。

 鋼盾はその余裕に違和感を覚えるも、聞かれたままに自説を述べる。

 それは午前中に初春に伝えた内容とほぼ同じものだが、しかし


「……使用者の聴覚から共感覚性に働きかけ五感を刺激、それにより演算能力を
 高める働きを持つ音声プログラム―――というのが現状で想像できる全てですけど……
 ――――おそらく……それだけじゃないんでしょう?」


 そう、それだけではないはずなのだ

 結果を見ろ、幻想御手が引き起こしたものは、なんだったか


 使用者の能力増大? 

 急激に力を得た能力者たちの暴走?

 ―――否、その先だ


「……ふむ、続けたまえ」


 木山は微笑む、認めたも同然の反応である

 そうだろう、なにせ幻想御手の使用者は、例外なく―――――


「初春さんの話では、使用者は個人差こそあれど、最終的に昏睡状態に陥ると聞いています。
 ―――幻想御手が失敗作ではないとするのならば、この状況こそがあなたの狙いでしょう」

「なるほど――続けて」


 出来のいい生徒を見るような眼で、木山が先を促す

 ……やっぱりこの人は先生だ、全く似てないのにどこか、小萌とダブる


 その眼差しに鋼盾は少しばかり困ってしまう

 本当に、困ってしまうのだ


 木山春生

 生徒想いの優しい先生


 だが、そんな彼女こそが幻想御手の製作者

 悪意を以って、この街に罠をばら撒いた人物に他ならない

22 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/11(金) 18:55:22.11 ID:98OEyZd/o


「レベルアップは餌、本命は数千人の学生を人質にとること。
 ……彼らを盾に、おそらくはこの街に、何らかの要求を通そうとしている。

 幻想御手は悩める学生に差し伸べられた釈迦の手じゃない。
 あなたの幻想(もくてき)をなすための御手(しゅだん)だ、違いますか?」


 蜘蛛の糸

 その残酷


 糸を垂れたのはこの女だ

 意図を巡らしたのはこの女だ


23 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/11(金) 18:57:12.47 ID:98OEyZd/o


「……八十点といったところかな。
 おそらくは君の手元にある材料から導き出せる最高点だよ」


 木山は鋼盾の解答に満足気な頷きを返す

 教えるのが性に合っているのか、それとも一度くらい自慢してみたかったのか

 その表情にはささやかながらも、どこか楽しげな色すらあった


「君の言うとおり、幻想御手は共感覚性に働きかけるプログラムだ。
 使用者のレベルアップは副次的な要素に過ぎないし、それを餌にしたのも効率よく使用者を増やすためだね。
 現時点でおおよそ一万人の人間が幻想御手を利用した、目論見通りにことは進んだよ」


 一万人

 既に五桁の大台に乗っていたか

 この学園都市の総人口の二三〇分の一が、幻想御手に囚われている

 このひとの、掌の上に囚われている


 その事実に鋼盾は溜息を吐く

 今更ながら、なかなかに大事である

 まったく、碌なものではない


「……なら、残りの二十点は?」


 正直なところ鋼盾も、さきの回答は満点ではないと思っていた

 一万人を昏倒に追い込んだその所業……だがしかし、それで終わりではあるまい

 意識を奪うだけであるのなら、もっとかんたんなプログラムでいいはずだ

 
 残り、二十点

 おそらくはもっとも大切なピースが、鋼盾の答えからは抜け落ちている

24 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/11(金) 18:59:12.71 ID:98OEyZd/o


「使用者を意識不明にしたのは、それ自体が目的ではないのさ。
 ……それは単なる結果に過ぎない」


 木山春生は気負いなく、言葉を紡ぐ

 料理の手順を説明するかのように、なんでもないことであるかのように


「人間の脳波を均一なものにするためのプログラム――それが、幻想御手の正体だ。
 複数の人間の脳波を繋げ、ネットワークを作るために、そうする必要があった。
 ――とあるシミュレーションをおこなう為にね」


 洗脳による脳構造の均一化

 それを繋げてひとつの有機コンピュータを作り上げる

 それが、木山春生の目的らしい


 幻想御手、レベルアッパー

 その名の由来でもある能力強度の上昇は、実のところ副産物に過ぎないという


 自分だけの現実

 この言葉が示す通り、ひとはぞれぞれ異なるチャンネルを持っている

 幻想御手は五感を通じて脳に干渉し、そのチャンネルを無理やり書き換えるような機能を持つのだろう

 おそらく能力が上がったのは、同系統のチャンネルを持つもの同士が互いに演算を補い合うような仕組みだ


「……可能なんですか、そんなことが……
 ――――いえ、可能なんですね、あなたはそれを、成し遂げた」

「……時間はかかったがね。難儀したものの、幸いにしてヒントがあったのさ。
 そうして形成されたネットワークにより、一万の脳が巨大な演算装置となる。
 それこそ天高くに聳える“樹形図の設計者”クラスのね……私にはそれが必要なんだ」


 幻想御手使用者の得る恩恵は大きい

 パソコンに喩えるならメモリの増設、HDDの外付け……いや、文字通りにインターネットへの接続か

 膨大なオンラインストレージ、回線強度は十全、必要なファイルをダウンロードし放題、使い放題


 ……なるほど、それならレベルも上がるに違いない

 能力開発に行き詰まった者たちにとって、それはまさしく福音ですらあっただろう

 彼らはきっと、倒れるその寸前まで――幸福な幻想の中にいた、聖女の白き御手に抱かれていたのだ

25 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/11(金) 19:02:28.90 ID:98OEyZd/o



 だが―――それは

 当然そんな美味しい話では終わらない


 ネットワークの一員であるということは、スタンドアロンたる自己の否定だ

 小萌は“あなたたちはパソコンじゃないのですから”と言ってくれたが――木山の意見は違ったようだ


 パソコンといえば、黎明期よりこれが付き物だろう

 憑き物、といってもいいかも知れない


 まっさらで無防備なネットユーザー

 さぞや、美味しい獲物であったに違いない


 ああ


 ウィルスに侵される

 ウィルスに冒される

 ウィルスに奸される


 ―――否、既におまえは犯されきっている

 蹂躙され尽くしている、陵辱され尽くしている

 幻想御手に縋り付いた、あの時から

 既に、囚われている

26 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/11(金) 19:03:28.51 ID:98OEyZd/o



 “あなたの脳(パソコン)が危険に晒されている可能性があります

  セキュリティソフトをきちんとインストールしましたか?”


  鋼盾は、していない

  きっと誰であっても、幻想御手の前には無防備だったことだろう


27 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/11(金) 19:04:44.87 ID:98OEyZd/o


「……蜘蛛の巣、というわけですか」

「上手い喩えだ、私は蜘蛛だ、悪辣な罠を張リ巡らせた蜘蛛だ。
 一万人の脳を繋いでネットワークを紡いだ蜘蛛だよ」


 ネットワーク、それは蜘蛛の仕業

 以前鋼盾は幻想御手を蜘蛛の糸に喩えたが――なんとも皮肉な符合である


 レベルアップという名の誘蛾灯

 フラフラとその光を目指して飛んでゆく蛾は、蜘蛛の餌食だろう


 結果、使用者は自我を失い意識を失い昏倒する

 他人の脳波を強要されるのだ、無理もない


 ネットワークに取り込まれ演算領域を提供するだけの、生体コンピュータ

 彼らの脳は、既に彼らのものではない


 それが、幻想御手使用者の、末路

28 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/11(金) 19:06:30.45 ID:98OEyZd/o


 おまえは、おまえを手放した

 おまえは、おまえを見限った

 おまえは、おまえを否定した

 おまえは、おまえを見捨てた


 それは“自分だけの現実”の放棄

 おまえが為した、選択だ

 
 おまえはおまえを、殺してしまった

 ――――ゆえに、もうおまえなどどこにもいない

29 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/11(金) 19:08:54.74 ID:98OEyZd/o

 
「……幻想御手で、使用者の脳を破壊したというんですか?
 壊して平らに均したまっしろな脳味噌を繋いで―――そんな」


 それは言うなれば脳の初期化

 先ほどのアンインストール同様、まっさらにしてしまうのか


 白痴の雪白、忘我の地平、抜殻の脳髄

 なにもない、故に我もない


 事が終わって残されるのは一万人の若き白痴

 そのおぞましい恐怖に、鋼盾は思わず語気を震わせる


「……人聞きの悪いコトを言う。
 私が作った幻想御手は、今君が言ったような危険なものではないよ
 そんな、人格を破壊して人形にしてしまうようなものじゃない」


 どうやら鋼盾の危惧は考え過ぎではあったらしい

 安堵しつつ、しかし彼の詰問は続く


「……ですが、大筋では間違ってないでしょう?」

「そうだね、まあ……一時的に眠ってもらうだけだ。
 私と同じ夢を見てもらうだけだよ。
 シュミレーションさえ終われば能力者達は解放するさ」


 夢から覚めるように目を覚ますよ、と

 木山は笛吹ピエロのように嘯いてみせる


「……治るんですね」

「―――いや、しまったな。
 先ほどの通信の際に説明した通り、幻想御手に関わるデータは全て喪われてしまったんだった。
 ……困ったな、私の手元にはもう治療用のプログラムがない」


 木山のその言葉に、腕の中のインデックスが息を飲んだのが解る

 彼女にはまったく理解の及ばぬ話ではあろうが、“治らない”ということの意味はわかるだろう

 一万人が昏睡から目を覚まさぬまま―――そんな最悪な事態を想像したに違いない


 鋼盾はインデックスを安心させるように腕に軽く力を込めた

 ……まったく、怖がらせないであげてほしい

30 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/11(金) 19:10:25.47 ID:98OEyZd/o


「……いらん韜晦はやめてください。
 治療用プログラム……ぼくが預っている“これ”がそうなんでしょう?
 ―――――お守りとはよく言ったものです」


 鋼盾は胸ポケットに仕舞ってあるメモリーカードを思い出す

 其処に入っていたのはありふれた動画ファイルと、もうひとつ

 曰く有りげなタイトルをした、音声ファイル

 幻想御手と同じ、音声ファイルだ


 その正体は

 木山春生が託したその“お守り”の正体は


 おそらく

 いや、間違いなく


「ふふ、そういうことだよ。
 それは『幻想御手』をアンインストールする治療用のプログラムだ。
 既にそれだけしか残っていないよ……大事にしたまえ」


 一万人を救う、唯一の手段

 それを持つのは、鋼盾掬彦ひとりだけ

31 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/11(金) 19:12:32.72 ID:98OEyZd/o


「なんつー無責任な……ぼくが捨ててたらどうするつもりだったんですか?」

「いや、捨てないだろ君」

「……sりゃ捨てませんけど。
 でも、落としたり壊したりするかもしれないでしょう」

「はは、その時はその時だ。
 気分はどうかな? それが今回の事件のキーアイテムだ。
 ほら―――やっぱり君は主人公の器だよ」


 なるほど、脇役Aが持っていていいものではない

 鋼盾としては、さっさと主人公に託してしまいたいところだ


「戯言を……どうしてこれをぼくに?」

「前にも言ったが、ただの気まぐれだよ。
 君なら―――うまくやるだろうと思ったのさ。
 理由は……内緒にしておこうかな」


 どこか悪戯に口の端を釣り上げる木山が、バックミラー越しに、鋼盾へその笑みを向けてくる

 鋼盾はその目を睨めつけ、呆れたようにため息混じりに言葉を続けた


「ド迷惑な……ていうか、そんな気まぐれのせいで大ピンチじゃないですか。
 どうするつもりかしりませんけど、確実に非常線張られますよ」


 木山が鋼盾に共感覚性の講義をしたり、“お守り”を渡したりしなければ

 己が幻想御手の真実に思い至ることはなかったかもしれない


 だが、警備員が確実に動き出した今となっては詮なきことだ

 この都市を敵に回す意味を、想像できぬ木山ではあるまい


「……昨日の時点で目標数は超えていたからね、あんな気まぐれを起こしてしまったのかな。
 ―――――ま、非常線が張られたら張られたで、なんとかするさ」

「……勝手にしろ」


 木山春生の表情は安穏としたものだ。余裕の色すらある

 ならば己などが心配をしてやることもあるまい、義理もない、勝手にしやがれ

 
 悪態を吐くように木山に言葉を投げるが、彼女はどこ吹く風と言わんばかり

 その言葉通り、勝手になんとかするのだろう

32 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/11(金) 19:13:42.96 ID:98OEyZd/o


 ……そうだ、個人的に文句を付けてやりたい点がもうひとつある

 ついでとばかりに鋼盾は、木山に問を投げつけた


「というか、なんなんですかあのタイトル。
 “幻想御手治療プログラム”とでもしとけばいいものを……

 “ImaginE BreakeR”……木山先生が付けたんですか?」


 鬼が出るか、蛇が出るか

 件のアーカイブファイルを開いた鋼盾の目に飛び込んできた文字が、それだった


 イマジンブレイカー

 幻想殺し

 上条当麻の、その右手


 正直、ドッキリを疑った

 ベッドで眠る友人が突然起き上がり「ドッキリ成功!!」なんてプラカードを出すんじゃないかと思ったほどだ

 幸か不幸か、そんな事態になりはしなかったが


 “ImaginE BreakeR”

 初春に聞いた“LeveL UppeR”なる奇妙な表記と一致するそれ

 鋼盾は七割の確信と三割の疑念を更に一割ほど確信側にシフトさせ、それでも木山のもとを訪れた


 結果は黒

 銃口を突き付けられて、結局このザマだ

 ああ、まったくもって儘ならない


33 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/11(金) 19:18:19.94 ID:98OEyZd/o


「……ふむ、確かに私が名付けたが……特に意味はない。
 強いて言うなら……なかなかにかっこいいだろう?

「…………かっこいい、ですか」


 かっこいいだろう? ときやがった

 ああもう、この街の能力名その他は少々かっこよすぎて困る

 思わせぶりな熟語に、ケレンバリバリのクール且つなルビとか振っちゃうこの風潮

 なんなんだろうかこの謎文化……まあ、今更過ぎる


「む? かっこよくないか?
 一周回って逆に新鮮な良さがあると思うのだが……」


 ブツブツとなにやら呟く木山春生

 薄々わかってはいたが、このひとはなかなかに面白いひとらしい

 ……いらん伏線がないなら、それで構わない


「そうですね。ガイガーカウンターの次くらいにかっこいいです
 …………きみはどう思う? インデックス」


 腕の中の少女に、話題を振ってみる

 なんて無茶振り、ごめんねインデックス

 だけどこの感情を分かち合える相手が、君しかいないんだよ


「…………この国独自の文化は、わたしのような異邦人にはちょっとわかりかねるかも」


 賢明なる少女はそんな無茶振りを軽やかにいなす

 その時彼女が浮かべていた表情については、鋼盾だけの秘密である


 いやはや、なかなか上手く逃げるものだ

 英語じゃねーかとは突っ込むまい


 ……では、気をとり直して


34 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/11(金) 19:19:57.75 ID:98OEyZd/o


「イマジンブレイカー……“幻想御手を破壊するもの”ってとこですね。
 張り巡らされた蜘蛛の巣を破り、あなたの幻想を打ち破る凶手。
 ―――この音声を聞かせれば、被害者たちは……」

「ああ、目覚めるよ。保証する。
 後遺症はない、全て元に戻る、誰も犠牲にはしない」

「そうなんでしょうね、あなたがそういうなら、そうなんでしょう」


 だが、目覚ましが鳴ってみんなが目を覚ましました、めでたしめでたし……というわけはいかないのだろう

 幻想(ゆめ)を見ている間はそれでいい―――――だが、何時だって起きてからが大変なのだ


「でも、たとえ解放されて昏倒から目覚めたとしても、それですべてが元通りになるわけじゃない。
 ……手に入れた力がまやかしだったと知った彼らは何を思うんでしょうね。
 心の折れてしまうひと、ねじ曲がってしまう人もすくなくないんじゃないですか」

「さて、ね」


 目覚めたあとも、彼らの人生は続く

 幻想から覚め、いつかの己に足を掴まれる

 置き去りにした無力な自分を、再度突き付けられることになる

 目を逸らしていたはずのソレと、もう過去となったはずのそれと向き合うことを強要される


 なんて、残酷

 梯子から蹴り落とすが如き残酷

 それはカンダタの絶望だ、くたばれ釈迦


 ……そして、乱痴気の酔いから覚めれば

 己のやらかした罪と向かい合わねばならぬ連中もいる

35 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/11(金) 19:25:12.90 ID:98OEyZd/o


「……自業自得ですけど、幻想御手に浮かれて能力犯罪を犯した人もいます。
 当然、その被害者もいる……先日の連続虚空爆破事件では、風紀委員が何名も怪我を負ってます」


 たとえば連続虚空爆破事件

 鋼盾が美琴や初春と出会ったきっかけでもあるあの事件


 聞けば犯人は幻想御手の使用者で、己を守ってくれなかった風紀委員を逆恨みしての犯行であったらしい

 その罪は、重い

 彼はそれをこの先ずっと背負ってゆくことになるだろう


 そして彼の爆弾によって傷ついた風紀委員たち

 もう傷は癒えただろうか、この街の技術をもってすれば大抵の傷は治療可能だ


 だが、傷跡が残ったかも知れない

 心的外傷(トラウマ)を刻まれたかもしれない


 幻想御手が巻き起こしたいくつもの事件

 偽札騒動、壁新聞事件、腐食強盗事件 飛行船暴走事件、三学区に跨る騒音騒動


 そして事件にもならなかった、おそらくは無数にあったであろうトラブル

 流れた血、涙、身体に心に刻まれた傷


 それは―――幻想御手がなければ、表出することのなかったものだ

 木山春生が居なければ、起きなかった悲劇だったはずだ 

36 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/11(金) 19:30:18.98 ID:98OEyZd/o


「それに、幻想御手(はんそく)に縋ったことを周囲の人間も知るわけですから、
 当然、蔑みや憐みの目で見られることもあるでしょう。
 たとえそんな目で見られることがなくたって、己自身の罪の意識に苛まれることになるんでしょうね。
 もしかして、この先ずっと」

「………………」


 木山は答えない

 前を向いたまま、鋼盾の言葉を噛み締めている


「誰も傷つけないなんて、ふざけたことを言わないでください。
 あなたはもう何人も傷つけた、今もまた傷つけてる。この先も、傷つける。
 一万人でしたか――今回の件で自殺者の一人や二人くらい出るかもしれませんね」

「………ああ、君の言うとおりだ。
 それでも、あがき続けると誓ったんだよ、私はあの子たちをあきらめるなんてできない」


 あの子たち。

 木山からもらった動画ファイルに写っていたあの子どもたちのことであろう


 鋼盾は修了式の日に撮った記念写真を思い出す

 小萌にパソコン上でデータを見せてもらったが、本当にいい写真だった


 鋼盾が、上条が、小萌が、青髪が、土御門が、吹寄が、笑っていた

 クラスの全員が、溢れんばかりの笑顔だった

 はっちゃけすぎた黒板のメッセージが愛おしかった

 災呉のユーモラスなポーズに笑みが零れた

 小萌のはしゃいだ声が、嬉しかった

 
 あの写真は、きっと宝物になる


 この先クラス替えがあり、卒業があり、それぞれ違う道をゆくことになっても

 きっと、あの写真を見るたびに、幸福な一五歳の夏を思い出すに違いない

 ああ、自分は恵まれている、満たされていると鋼盾はその写真をみて確信した


 そして木山のクラスの動画ファイルを見た時も、同じような感想を抱いた

 彼らは、木山春生は――きっと、誰よりも幸福な日々を過ごしていた


 幸せな生徒

 幸せな先生

 幸せな教室

 幸福な日々


 ……おそらくは、木山はそれを失ってしまった

 それを取り戻すために、この女は道を踏み外してしまった

 学園都市全てを巻き込んで、不条理の是正をがなりたてている

37 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/11(金) 19:34:18.68 ID:98OEyZd/o


「……止まることはできない、でしたか。
 ―――その道の果てなど、碌なものではないでしょうに」

「そうだね、きっと私は地獄に落ちる。
 だが、その前にもう少しだけ時間をもらう。
 ……もう私は一分一秒だって、あの子たちから時間を、未来を奪いたくはないんだ」


 木山は遠い目をして、そんなことを語る

 一万人を踏みつけて、その亡骸を積み上げて

 それでも目指したい高みがあるという


「きみの見た動画に映っていたあの子たちはね、学園都市のとある実験に巻き込まれ昏睡に追いやられた」


 あの、幸福の光景は

 もう、どこにもない


「暴走能力の法則解析用誘爆実験――詳しい説明は省くがね。
 あれは人体実験だった、モルモットを壊すことを前提に、私の所属するプロジェクトチームが、それを成した。
 私が彼らを昏倒に追いやってしまったんだ。この街の力になりたい、そう言った彼らを、使い潰した。
 まるで犠牲の羊を食らうかのように。神様気取りの下衆が、この街が、食い潰した」


 我が身の罪を噛み締めて、しかし彼女は止まらない

 彼女は知った、この都市の闇の深さを知った、そのどうしようもない罪の深さを知った

 なればこそ、彼女は止まらないし止まれない

 
「以後三年、私は子供達を目覚めさせるためだけに生きてきた。
 そのために必要な「樹形図の設計者」の使用申請を二十三回も行ったが、全て却下された。
 この街が……あの実験の元締めなんだ……許される訳がない」


 ああ、この都市は狂っている

 ああ、この世界は狂っている

 なら、それは是正されてしかるべきだ


「……認めない、認めるわけにはいかない。
 わたしはあの子たちを取り戻す、この生命に替えても」


 木山春生はを認めない

 その理不尽を、その不条理を認めない


「……あの子たちを目覚めさせることができたら、自首する。
 あと少し時間を稼げば―――繋がるんだ……だから、頼むよ、後生だ、止めないでくれ」


 止めないでくれ、止められても、止まらないんだ、止まれないんだ

 血を吐くように、言葉は覚悟は紡がれた


 それが木山春生の理由

 鋼盾掬彦が突き付けたの問への、それが答えであった


 それを受けて、鋼盾は

 静かに静かに、返答を口にした

38 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/11(金) 19:35:07.69 ID:98OEyZd/o


「わかりました、その子たちを救ってみせて下さい。
 ―――使用者たちが最後には起きるのならば、ぼくはそれでかまいません」

「……頼んでおいてなんだが……いいのか?
 きみはそんなことを是とする人間じゃないだろうに」


 心底以外だ、という表情で木山が答える

 似合わぬと、ヒーローらしからぬ台詞であると彼女は感じた

 そんな木山の表情を見て、鋼盾は苦り切った顔で言葉を紡ぐ


「……まったく、誰も彼も……買いかぶらないで下さい。
 ぼくは正義の味方じゃない―――研究室でも言いましたが、あなたを咎めるつもりは既にないんです。
 

 己は正義の味方じゃない

 己は風紀委員じゃない

 己は被害者代表じゃない


 鋼盾掬彦は、そんないいものじゃない

 どうしようもなく、利己的な人間だ

 そうあろうと決めた、もう決めてしまった

39 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/11(金) 20:36:04.80 ID:98OEyZd/0


「いろいろ言いましたが―――連中の苦悩なんて、知ったことじゃない。
 周りの皆、だれもかれもが苦しんでいることにも気づきもしないで、
 自分一人だけ救われようと、蜘蛛の糸に手を伸ばした無様な馬鹿共のことなんて」


 カンダタなど、所詮は極悪人である

 奴には地獄こそが相応しい、生前の罪を償うべきなのだ

 悪行が些細な善行で洗い流されるなんて、そんな理不尽は許さない


 罪は罪だ

 お前は咎人だ


 幻想御手なんかに縋りやがった連中なんて

 どいつもこいつも、咎人だ


 自嘲に自虐に塗れた声で、しかし毅然と
 
 一万人の幻想御手使用者を、鋼盾掬彦ははっきりと否定した


 その無知を、その無恥を、その狭窄を、その惰弱を、その欺瞞を

 見当違いの絶望に震えていた、かつての己を

 
 一切の容赦なく

 “無様な馬鹿”と切り捨てた

40 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/11(金) 20:39:15.32 ID:98OEyZd/0


「それになにより、選択肢はきちんと提示されていました。
 ……あなたは、手段を選ばなければもっと早く、もっと多くの学生を効率的に
 昏睡に追い込むこともできた筈です……だけど、それをしなかった」


 音声データ、だ

 もっと悪辣に、徹底的にやれば、それこそあっという間に彼女は目的を果たせただろう

 一万と言わず、十万でも脳味噌を集められたはずだ


「……それこそ買いかぶりだよ、ただ思いつかなかっただけだ」

「……思いつかなかったというその事実が、あなたのやさしさの証明です。
 ぼくは、今聞いただけでもっと悪どくて効率的なやりかたを……十個は思い付きますよ。
 幻想御手は使い方次第じゃ兵器にすらなりうる――思い付きもしなかったでしょう? あなたには」


 やさしいから

 やさしさ故に木山春生は、外道ではなく残酷な方法を採ることになった

 問答無用に巻き込むのではなく、使用者に真っ向から問答を仕掛けた


 “あなたはこんな得体のしれない代物を使ってでも能力を強化したいですか?”

 “今までの努力を否定して、こんなものに縋るのですか?”

 “友人や教師を裏切って、幻想の御手に手を伸ばすのですか?”

 “今の自分を肯定することはできませんか?”

 “他に道はないのですか?”

 “本当にそれでいいのですか?”


 かつて鋼盾の頭を幾度となく過ったこれらの問いかけ

 それに否と答えることも、己には出来たはずだった

 そうすれば、蜘蛛の糸に囚われることなどなかった


 だが

 鋼盾掬彦は、それらの問に是と答えた

 あらゆる煩悶逡巡苦鳴懊悩を圧し殺し、道を踏み外そうとした、ずるをしようとした、魂を売ろうとした


 結果として蜘蛛の糸を掴むことはできはしなかったが、それは結果に過ぎない

 縋ったのだ、どうしようもなく

 言い訳など、許さない


 己は、今昏睡に陥っている連中となんら変わりない

 蜘蛛の巣に絡め取られた羽虫に過ぎぬ

 矮小卑属、無様で馬鹿な男だ

41 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/11(金) 20:41:46.45 ID:98OEyZd/0


「……蜘蛛の巣にかかるのは、ぼくみたいな弱虫ばかりです。
 たとえ飛べない鳥だとしても、鳥でいられれば蜘蛛の巣などに絡め取られることはない。
 臆病者の卑怯者、弱虫で逃げ虫で泣き虫の寄生虫、あなたが捕えたのはそういうヤツらです」

 
 誇りをなくせば人は虫にも堕ちるのだろう

 まあ、一概には言えないだろうが―――被害者の三文字で片付けるには、そう


 文字通り、虫がよすぎだろう

 ―――そうだろ? この卑怯者共め


「青髪くんのように、幻想御手を拒むという選択だって出来たはずだ。
 それが出来なかったのは、彼らの、ぼくの弱さゆえですよ」


 能力なんかじゃ本当に大切なものは掴めない、と笑った青髪ピアスの言葉

 その台詞がどれほど己を揺らしたか、彼が知ることはないだろう


 痛快だった

 あの言葉で、自分は最後の迷いを吹き飛ばした


 そう

 上条当麻であれば、吹寄制理であれば、土御門元春であれば

 鋼盾の愛すべき、尊敬すべき友人たちであれば

 幻想御手など、それこそ笑い飛ばしたにちがいない


 蜘蛛の巣にかかるのは鋼盾のような弱虫だけだ

 弱者のみを狙い打ったその所業に鋼盾はかつて、底のない怒りを覚えた

 その製作者を憎んだ、使用者を―――つまりは己を、哀れんだ

 
「確かにこの街は歪です。能力弱者にはやさしくない、ぼくはそれを嫌になるほど知っています
 だけど、皆が皆この街に負けたわけじゃない、幻想の手に縋らなかったヤツらもいる」


 彼らのように在りたかった

 でも、在れなかった


 それは、なぜだ?

 ……問われるまでもない

42 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/11(金) 20:46:54.41 ID:98OEyZd/0

「幻想御手にぼくが縋ったのは、能力が無かったからじゃない。もっと単純な話です。
 ぼくの心が、ひたすらに、弱かった―――それが、すべてなんです」


 自己撞着の自家中毒

 自意識過剰な自画自蔑

 自暴自棄と自問自答

 自縄自縛で自己否定

 結局のところ、自業自得である


「あなただけに責任を押し付けて、己の弱さから目を逸らすだけで
 それで、是とするわけにもいかないでしょう――――その罪を、なかったことにしてはいけない」


 もちろん木山春生の所業を肯定するわけではない

 彼女は対価を支払わねばならないだろう


「安全の保証は頂きました、なら連中は寝かせておけばいい。
 都合のいい夢に溺れる怠け者どもの時間なんか、安いものです。
 ―――――いい薬になりますよ、ぼくらにも、この街にも」


 そして鋼盾もきっと、対価を支払居い続けることになるだろう

 かつて幻想御手に縋った己を、許してあげられるその日まで


 いつかきっと、自分を認めてあげられるように

 いつかきっと、自分を好きになれるように

43 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/11(金) 20:49:49.59 ID:98OEyZd/0


「……厳しいね、君は。……自省はともかく自虐は美徳じゃないよ。
 こないだも言ったろう、独りで抱え込むような真似はするなと。
 私を糾弾すればそれで済む話だろうに、どうしてそうも正しくあろうとするのか」


 黙って鋼盾の独白に耳を傾けていた木山が、溜息混じりに言葉を放つ

 痛ましいものを見るように、無意味な潔癖、自傷行為だと鋼盾の言を否定する


 良薬は口に苦いというが、どんな薬も過ぎれば毒以外の何者でもない

 木山の目には、鋼盾がわざわざ毒を呷っているようにしか見えなかった


「そんなかっこいいものじゃないですよ。
 ―――それに、木山先生……ぼくにも、何をおいても成したいことがあります。
 あなたがすべてを費やしたように、ぼくもすべてを費やそうと思うんです」
 

 腕のなかのインデックスが少し震えたのが解る

 鋼盾は僅かに腕の力を強め、守るべき少女の存在を確かめる


 ああ、この子を失いたくない

 ただただ、喪いたくない

44 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/11(金) 20:56:02.61 ID:98OEyZd/0


 鋼盾掬彦には、己には、徹底が足りぬと常に思っていた

 もっと唾棄すべき道を、上条当麻には歩めぬ左道をこそ、己は歩むべきだと思っていた


 結局、己は踏みとどまってしまった

 その甘えのツケを、上条やインデックスに押し付けている


 ああ、もしも

 あなたのように、戦えたなら


「あなたのその姿勢に、覚悟に―――憧れてしまった。絆されてしまった。
 ………いや、自分でもどうかとは思うんですが、本当に、本気で」


 イギリス清教の闇

 学園都市の闇


 どちらが深いかなんて知らない

 きっと土御門でも知らないだろう

 
 そんな巨大なものを相手取って、ぼくらには

 それでも諦めたくないものがある


 身の程知らずだと人は言うだろう、その通りだ

 だが、どんな手段を用いても、それを為す
 
 為さなければ、ならない


45 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/11(金) 20:58:51.22 ID:98OEyZd/0


「正直なところ、見てみたいんですよ、ぼくは。
 たったひとりの意志が、学園都市をねじ伏せるのを。

 ―――とっとと救ってみせろ、あの子たちを、この街の闇から、今すぐ」


 いやはや、ひどい話だ

 結局は、木山の事情などどうでもいいのだ、己は

 ただただ、見てみたいだけなのだ


 一人の女が、意地を張り通すのを

 学園都市の腹を食い破って、勝利を掴み取るのを

 この女が、目的を完遂して子供たちを抱きしめて泣いて笑う姿を

 見てみたい

46 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/11(金) 21:04:22.32 ID:98OEyZd/0


 そんな鋼盾の言葉を受けて、目をパチクリとさせる木山

 激励とはけして呼べぬものではあったが、己の行動が肯定されるなど思ってなかったのだろう


「ひどい男だ、君は……。
 まったく、おっかないよ、どうしようもなくその目が怖い」


 怖い、おっかない、ひどい

 散々な評価を吐き出す口は、しかし隠しきれぬ笑みの形に歪んでいる


「……本当に、何なんだ君は。
 どうしようもなく、煽られる。
 どうしようもなく、熱に浮かされる」


 煽られる、熱に浮かされる、と

 透徹でありながら情熱的で奔放で、なにより激情苛烈な色を瞳に宿して

 木山春生が、言葉を紡ぐ


「……私は、もっとクールでドライな女だと思っていたのだがな」


 自己分析の結果など、なんだかんだで大概間違っているものだ

 自分のことは自分が一番よく知っているだなんて、とんだ幻想であろう

 木山春生がクールだのドライだなど、鋼盾に言わせれば的外れもいいところである


「……そんな顔して何を言ってるんですか。あなたは誰よりホットでウェットです。
 想いひとつでこの街すべてを巻き込んだ執念の魔女が、何の冗談を」

「はは、違いない」


 木山春生が朗らかに笑う

 ああもう、いい顔で笑うんだよこのひと、実は

 こんないい女はなかなかいない

 一万人を昏睡に追い込んだ稀代の大犯罪者を眺め、しかし鋼盾は笑う

 笑いながら、焚き付ける


「―――結局、目的と覚悟のある奴が一番強い。
 被害者一万人は残らずあなたの覚悟に敗れたんだ。
 勝者の権利です、負け犬どもを使い倒して、ただ成すべきを成せばいい」

「まったく……君には才能があるよ。保証する。
 扇動者の才、風靡の才――いや、もっと性質が悪い」


 能力なんて目じゃないよ、と

 木山は笑顔のままに、鋼盾を評した

47 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/11(金) 21:07:55.51 ID:98OEyZd/0



「―――君のそれはまさに、人たらしの才だ。
 誰も彼もを巻き込んで焚き付けて突き動かす、どうしようもなく罪作りな才能だよ」


48 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/11(金) 21:11:16.70 ID:98OEyZd/0


 まさしく主人公の保有スキルだ、と木山は笑う

 あまりにそぐわぬ評価、それを受けて鋼盾は思わず吹き出しそうになる。

 人たらしというなら、己などよりずっと相応しい男がいる


「……そんな才能、ぼくにはありませんよ。
 でも……あー、友人にその天才がいまして」


 隣人で友人でクラスメイト

 お人好しの善人、どうしようもない旗男、強い眼差し、折れぬ志、芯ある言の葉

 この街の序列も格差も歪みも全て、右手ひとつで払いうる男

 鋼盾掬彦のヒーロー


 上条当麻

 人たらし、というなら彼以上の男を鋼盾は知らない


 旗男め、とぼくらは彼を妬んだが、上条は女たらしなんて枠じゃ収まらない

 ただの女たらし程度なら、アレほどの人望など勝ち得るはずもない

 なんだかんだでクラスの男どもも、あの男にたらしこまれている

 男も女もなく、アレは、どうしようもなくひとを焚き付ける

 
 ああもう

 あの人たらしめ―――罪な野郎だ、極悪人だ


 だが、どうしようもなく魅せられてしまったのだから仕方がない

 無論、鋼盾もそのひとりである、どうしてくれよう


 ここ数日など、共に歩む相棒役すら務めてしまった

 いや―――もっとずっと前から、己はきっと、いつのまにやら

49 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/11(金) 21:25:31.46 ID:98OEyZd/0


「彼から伝染ったんでしょうかね。
 その人たらしの才の、ほんの一滴しくらいは」

「……冗談。
 一滴しでその威力なら、その彼とやらは神か悪魔だ」

「人間ですよ、ぼくらとおんなじ。
 ―――まあ、神も悪魔も殴り倒してしまいそうな男ですけど」


 会いたくないな、と木山はポツリと呟いた

 ここに居るのが上条当麻だったら、また物語は違う方向に進んだだろうか

 幻想殺しなんて名前のくせに、いつだって人に夢を見せる彼

 詮なき妄想に沈みそうになる頭を、慌てて切り替える 


 まったく、旗迷惑な話である

 なんて性質の悪いウィルスだろうか、感染力MAXのそれにはワクチンすらない

 ……それを満更じゃないと思ってしまう己は、きっと手遅れだ


 胸の奥に火が灯っている

 煌々と燃える、魂レベルのひかりとねつ

 ……きっとこの熱は、この先ずっと冷めることはない

 望めば望むだけ、ここから力を引き出せる


50 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/11(金) 21:26:42.75 ID:98OEyZd/0



 鋼盾掬彦が笑う

 きっと、当人は心底真っ向言い訳がましく否定するのだろうけれど

 その目に宿る光の強さは、どうしようもなく主人公たるに相応しいものであった


 
51 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/11(金) 21:44:51.18 ID:98OEyZd/0




――――――――――――――


おわりー!
鯖移転の余波なのかなんなのかいろいろおかしくね?

さて、新鯖はともかく新スレです
ようやく始まりました、改めて皆様に感謝を


んで本編ですが、長くてすんません

てっきり説教でもカマすかと思ったら、むしろ焚き付けにいくのが鋼盾くんでした
彼は既に被害者ですらないのです

次回は一転、アレな感じになりそうです
今までどおり週一更新くらいを目処に頑張ってまいります

んでは!
また!
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/11(金) 21:49:42.64 ID:7zfAstfko
結局鯖は新しいのに限るって訳よ。

>>1乙!主人公ね…次回が嫌な予感。
しかしやっぱりタイトルが『上条「チョメチョメ」』では埋もれるなあ…その点はちと残念。
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/12(土) 00:13:54.31 ID:xF9/83+z0
>>1乙!
コウやん強くなれたのかな、本人は否定するだろうけど
というかこの真面目な話の間インデックスさんがずっとコウやんにだっこされっぱか……
なんか正直クるものがありますよねメラメラと燃えるものが
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/12(土) 09:55:35.13 ID:FD/dBITAO
コウやんー!!!!俺だー!!!!
結婚してくれー!!!!
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東海) [sage]:2011/11/12(土) 11:07:17.09 ID:OSEzvXcAO
表現、というか地の文が回を重ねるごとにくどくなっていってる。そのせいで鋼盾が自分に酔ってるように見えます。わざとそう表現してるのかもしれないけど
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(兵庫県) [sage]:2011/11/12(土) 14:39:15.70 ID:YV87kwxao
新スレ一発目から暑苦しいww
G.R.R.マーティン先生も文字数は多ければ多いほど良いと言ってるように、
言ってないかもしれませんけど、クドいのは鋼盾の頭の中を表してるんだと思うぜー。
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西・北陸) [sage]:2011/11/12(土) 18:45:26.29 ID:w63xwxKAO
あのキャラビジュアルでこの頭の中は正直とてもきもい。
文だからビジュアル見えないのが救いだわ。
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [sage]:2011/11/12(土) 20:29:33.33 ID:pg4CwJlAo
この厨二っぷりが堪らないんじゃないか
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/12(土) 22:04:37.62 ID:SurKQo7oo
>>57
男は見た目より中身なんだよ、俺らはカッコイイこうじゅんさんが見たいんだよ
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/12(土) 22:16:55.38 ID:c+vi4Ia5o
コウやんって髪型がマッシュルームなだけで普段の顔は割りとイケメンだった気が…
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/11/12(土) 22:45:11.52 ID:JlhD56HYo
だれかイケメン鋼盾を描こうぜ
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(福岡県) [sage]:2011/11/13(日) 03:51:17.85 ID:tuGL0Dx1o
イケメンなマッシュルームをイメージしたら
目が近すぎる彼が浮かんだ……なぜだ!?

それはさて置き
焚きつけると言っても
KJさんは火薬の様に爆発的、烈火で巻き上げる
キノコ頭は炭火の様で徐々に焦がしつける
そんな感じがする
やっぱりヒーローらしくはないけど
年食った参謀みたいな渋さがあると思う


63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [sage]:2011/11/13(日) 14:03:50.32 ID:jKfu0s+AO
上条も鋼盾もどっちもKJだな
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(福岡県) [sage]:2011/11/15(火) 00:26:48.96 ID:9y2cKFNC0
乙!!
最初から比べると数日?でだいぶ知力が上がったなあ。
もうこれは能力といっていいのではなかろうか。

面白いがこの作品には何かが足りない、と思っていたが、ああ、『おっぱい』が
決定的に足りてないんだと昨日気づいた。
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/15(火) 02:46:01.92 ID:OI4/kkkDO
若さと老獪さが同居してる感じがとても良いよ鋼楯
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/15(火) 06:38:44.85 ID:l8M4irhK0
>>64
それでも神裂なら……
神裂なら、きっとなんとかしてくれる……!
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/15(火) 15:58:28.02 ID:iCAwggZGP
初代スレタイの人なのにここまで原作通り発狂しただけとなると
いっそステイルに初代スレタイやらせた方が良かったとすら思えるな
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/15(火) 23:53:12.46 ID:WjF+yUz+o
そんなことより敬語で話す御坂マジぺろぺろしたいと思うんだけど変態なの俺?
69 : ◆FzAyW.Rdbg :2011/11/16(水) 07:45:19.05 ID:QbY8KhLxo
どうも>>1です!
コメント感謝感謝です

ちょいと時間がとれそうなので、今晩投下します!
八時くらいにはなんとか! 予告age!

>>55
ご指摘感謝! 読み返してみたらなるほどくどいww 
新スレ一発目ということと、鋼盾の成長を表現したいということで力が入りすぎてしまったようです。自戒!
「濃い」ではなくて「くどい」になっちゃったのは>>1の力不足ゆえ、精進します

>>56
マーティンさんならそれを言う権利があるなー
>>1は「氷と炎の歌シリーズ」が好きです、訳者変更はしかたねえけどさー、ハヤカワめ
ああいう群像劇も書いてみたいものです

>>64
この>>1に お っ ぱ い が 決 定 的 に 足 り 、な い……だ、と……? と冗談はさておき
なんという偶然、今回おっぱい分がちょっぴりだけ追加なのさ! 少しだけどな!

イケメンがスタイリッシュに大活躍、という話は素敵です
だけど、この>>1はそうじゃないものを書きたいと思っています
その意図をきちんとかたちにできていないのは>>1の未熟ゆえ、すまぬ

がんばりますので、どうかお付き合い下さい
それでは、仕事にいって参ります!

70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [sage]:2011/11/16(水) 08:21:07.56 ID:c1/td0FAO
>>1乙。おっぱい足りないのがバレてしまったか…ドンマイ。

>>68
はぁ?ペロペロしたいに決まってんだろ!!
何所有権主張してんだよ!
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/16(水) 09:07:12.87 ID:72I+kyuAO
おっぱいか
問題は誰のおっぱいなのか、だ……

@腕の中のインデックスのおっぱい
Aシートベルトで強調されてる木山のおっぱい
B颯爽と現れた御坂のおっぱい
C木山に蹂躙された黄泉川のおっぱい
D幻想猛獣に蹂躙された鉄装のおっぱい

さあ!
どれだ!
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/16(水) 12:48:05.86 ID:hnuXHn9Jo
>>71
はあぁ?このスレなら

E晴眼の>>64によってブラパッド使用がばれてしまい>>69で慌ててごまかしてる>>1のおっぱい
に決まってるだろjk
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/16(水) 18:34:49.13 ID:40FbQ6TIO
>>71-72
お前ら何わけの分からんことを……



鋼盾の肥満おっぱい以外に何があるってんだ?
多分、同世代女性陣と比べても上位に入れるぞ
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/16(水) 19:26:19.90 ID:OECg856po
待て待てコウやんは中肉中背ってレベルだから多分そこまで胸は無いぞ
そこで上やんの大胸筋はどうだろう
鍛えられていて程よく大きいんじゃ無いか?
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関東) [sage]:2011/11/16(水) 19:39:33.16 ID:ARPy/YyAO
そろそろ佐天嬢との恋愛フラグが欲しいのが正直なところ。

この状況でこれがきたら、俺的に某帝春作品に並ぶ神作となるんだが
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/16(水) 19:46:54.77 ID:3NsmkjHDO
普段コウやん素敵だの言ってる俺が言えた義理じゃないが、なんでこここんなに変態だらけなんだ。

つーか、別におっぱいだけに囚われんなよ。
うなじとか、ほつれ毛とか、あごの下のラインとか、鎖骨とか、脇の下のくぼみとか、へそとか、お腹の白さとか、腰から尻に至るカーブとか、ムッチリだったりスラッとしてたりする腿の肉付きとか、膝裏やくるぶしの無防備感とか、エロティックでたまらんパーツは他にもあるだろうがっ!!
77 : ◆FzAyW.Rdbg [sage]:2011/11/16(水) 20:00:55.03 ID:QbY8KhLxo
>>76

足指とかな
足の指とかイイよな
大事な事なので何度でもいうけど、サンダル履きの足指とかエロいよな

ごめん、ちと遅れる
それでも21時までに!


78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/16(水) 20:26:05.65 ID:3NsmkjHDO
OK脱がないで待ってる。ネクタイとソックス脱いだら風邪引くな、そろそろ。

足指もいいよな、でも俺足裏から見た指が好き。
「なんで固くなってるの」て言葉とセットだとなお。全年齢?的とR18的どっちな問いかけでも。
79 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/16(水) 21:05:06.26 ID:QbY8KhLxo
>>74
佐天さんですが、おそらく本格的な登場はエピローグになりそうかな、と
ご期待に添えるかはわかりませんが、重要な役を振ってあります。どうかお楽しみに!

んでは、投下
途中ちょっと書けてないとこがあるので滞るかもですが、ご容赦下さい

参ります
そぉい!



―――――
80 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/16(水) 21:06:24.77 ID:QbY8KhLxo


「……きくひことはるみは、なかよしなんだね」

「……突然どうしたのさインデックス」

「べっつにー、ふたりが仲良しだなって思っただけかも」


 鋼盾と木山の長い問答に一段落ついたところで、これまでずっと黙っていたインデックスがポツリと零した

 なにやらなんとも言えぬ表情をして、なんとも言いがたい台詞を口にする


 拗ねて嫉んでぶーたれて、仲間はずれがお気に召さなくて

 ……だけど、それだけではないインデックスの声音に鋼盾は少しドキリとする


 インデックスは、聡い

 きっと鋼盾が思うより、ずっと

 そんな彼女の言葉である、突き詰めねばなるまい


 ……とは言え、とは言えである


81 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/16(水) 21:08:23.49 ID:QbY8KhLxo


「……なかよし、ねえ」


 なかよし

 仲のよいこと、その間柄


 けして拳銃を突き付けたり、罪を抉ってみせたりするような間柄ではない

 じゃあ仲が悪いのかと言われるとそんなこともないかもだが、かといって仲良しというのも違う

 ……ような気がする


 なんといっても出会ってまだ一日程度だ

 いや、確かにかなり濃い時間を過ごしたとは言えそうだが

 既に己は被害者とも呼べぬと結論づけたりしてみたのだが

 割と彼女の深い部分に触れてしまった確信もあるのだが、どうなのだろう


 鋼盾は木山の覚悟に絆されてしまってはいるが、同士というわけではけしてない

 なにやら互いに随分と焚き付けあってしまったが、友人というわけでもない

 
 どういう関係なのか、と改めて問われてしまえば

 なんとも、うまい言葉がみつからない

82 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/16(水) 21:11:12.88 ID:QbY8KhLxo


 ふと、バックミラーに目をやると、運転席の木山が笑いかけてきた

 瞳に淡く、からかうような色を浮かべて


「……ふむ。どうやら私たちは仲良しらしいぞ」

「……どうリアクションとればいいんですか、それに」

「つれない反応だね。仲良しは世界三大美徳のひとつだよ」


 うちのクラスの壁にも貼ってあったな、と呟く木山

 あとのふたつはなんなのか、聞いてみたい気もしたが――まあ、どうでもいい話だ

 どうせ“りぼん”とか“ちゃお”とかだろう。“マーガレット”かもしれない

 だがこちとら少年である、跳躍で弾倉で日曜日で王者である


「……ん、考えてみれば出会って一日なのに一緒に食事を摂り、プレゼントをし、電話を交わし、自宅に招き、
 一緒にドライブを愉しんでいるわけだ……ふふ、この車の助手席に男性を乗せたのは初めてだよ」

「……そーですね、拳銃突き付けられたりもしましたけどねー」


 からかいには皮肉で、つかアレをプレゼントと抜かしやがったよこのひと

 ……だが、残念なことに相手方のほうが上手だった

 鋼盾の言葉をさらりといなし、木山はなおもからかいを重ねる


「そうだな、銃を前に一歩も退かぬ君の、その熱い視線を感じた得難い一時だったよ。
 ……このドライブもじきにお開きだ、ふふ……名残惜しいな」

「……はいはいはいはい、助手席に二人乗りですけどね」


 負け惜しみのように混ぜっ返す

 それに答えたのは、腕の中の少女の方だった


「……わたしがおじゃまだって言いたいのかなきくひこは」


 ああもう、んなわけねえだろうに

 なんだよこの流れ


「……ここぞとばかりにボケ倒すなぁ……。
 つかべつに仲良しじゃねえよきみえらふたりの方がよっぽど仲良しだよ」


 溜息混じりに鋼盾が呟く

 人懐っこいインデックスと面倒見のよい木山

 このふたりの意外な相性の良さは、鋼盾としてもけして不快なものではない

 単純に微笑ましいし、インデックスの世界が広がることは素直に嬉しく思う


 だが、どうしたって女二人に男一人では分が悪い

 ……この状況でこの空気、どうしてくれよう

83 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/16(水) 21:16:25.08 ID:QbY8KhLxo


 まるで嫁と娘に押され気味な父親のようなポジション

 己の微妙極まりない立ち位置になんとも言えぬ溜息を吐く鋼盾

 そんな彼の言葉と態度に、木山はなにやら眉根を寄せ、沈鬱な声で呟いた

 口の端が微妙に笑みのかたちに歪んでいるように見えたのは、きっと気のせいではなかった


「……おや、私の胸に触れておいてその言い草……傷つくな。
 まったく、ひどい男だね君は……起伏に乏しいとはいえ、一応私も女なんだが」


 そしてこの発言である、“おっぱい触られました”宣言である

 昨日のグーチョキパン店の前でのゲリラストリップショーをさらっとぶちまけるその所業!


 なんというぶっちゃけ、そのあまりと言えばあまりな裏切りに、鋼盾は戦慄する

 理不尽な衝撃であった、鳩尾にきた、そのダメージはすでに物理である

 なに爆弾投下してくれんだこの野郎!!


「事故だっつてんだろ脱ぎ女! あんなん八割あんたの責任だろ!
 つーか起伏に乏しくなんかなかったよ! 頂きは高かったよ! 認めろよ!
 …………すみませんでした、ぼくが軽率でした、気づかれてらっしゃったんですね」


 吠えて喚いて責めて、しかるのち速やかに謝罪へと移行する鋼盾

 仔細はどうあれ、“胸に触れられた”と責められれば、どうしようもなく男が悪い

 それは男の罪であろう、だがしかし、それを許さぬのは女の罪!

 勘弁して下さい! まじで勘弁して下さい!


 ……つーかなんなの? この人ちゃんと気づいててあの反応なのかよ!?

 いたいけな少年を弄ぶわけでもなく、まったくもって自然体に追い詰めてゆくその所業


 恐るべし、木山春生!

84 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/16(水) 21:19:46.71 ID:QbY8KhLxo


「ま、私たちの仲だ、気にすることはない……ちょっとからかってみただけさ」

「どんな仲なんだか……はいはいはいはい、ぼくらは仲良しですよこのやろう」


 なんとも、なんともだ

 ああもう認めてしまおう、仲良しだよ実際

 こんな遣り取りが楽しくて仕方ないですよほんとに

 笑ってしまう、どうしようもなく
 

「嬉しいね……さて、ではその友情に応えるべく、助言をあげよう」

「助言、ですか……なんでだろう嫌な予感しかしねえ」

「まあ、そう言わずに聞くといい……有益な助言さ、保証するよ。
 ん、“デート中は他の相手に目を向けてはならない”……鉄則だね」


 なにやらいきなりデートの心得を語りだす木山

 突然過ぎる。内容はもっともだが、そんなイベントから程遠いところにいる鋼盾としては戸惑うばかりだ


 わからない

 わからぬ事は、聞かねばなるまい

 胸中を占める嫌な予感を振り払い、鋼盾掬彦は問う


「……その心は?」


 木山はもう、“愉快で仕方がない”と言わんばかりの表情で、鋼盾の問に答えた

 すんげえ楽しそうに

85 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/16(水) 21:20:32.37 ID:QbY8KhLxo



「つまり、だ……腕の中に女の子を抱いた状態で、
 他の女と仲良くするのはどうかと思うよ―――いや、ほんとに」


86 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/16(水) 21:22:30.61 ID:QbY8KhLxo


 ……あれー?

 今朝、おんなじような遣り取りを舞夏としたような気がするぞー?


 穏やかな目覚め

 柔らかな日差し

 オムレツの匂い

 舞夏の笑顔

 右半身にかかる重み

 たとえようのないぬくもり

 フライパンとおたまのゴング

 ガチガチと

 音を立てて

 迫るは

 銀髪の

 少女

 そんな

 悪夢

 否

 現実

 あれ?

 やばくね?

87 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/16(水) 21:23:10.02 ID:QbY8KhLxo



「……………………きくひこ?」


 一切の感情を感じさせぬ声が、響いた

 鋼盾掬彦の、腕の中から



88 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/16(水) 21:24:54.51 ID:QbY8KhLxo


 恐る恐る声のした方へ目を向けると、冷え切った翠玉がふたつ

 ……うわあ、インデックスさん音もなく首だけ振り返ってやがる

 顔近い、すごく近い、めっちゃ近い、めっちゃ怖い、すごく怖い、怖い


 やべえ

 詰んだ

 これは詰んだ

 詰まされた
 

 つーか、明らかに狙ってやがっただろコラ

 インデックスの視線から逃れるように、鋼盾は木山に向き直る


 さあ糾弾だ!

 せーの


「木山ァァアア! 謀ったな!」

「ふふ、春生と呼んでくれてもかまわないが」


 なにその笑顔

 わあ素敵、ぶん殴りてえ、その横顔に男女平等パンチを今すぐ!

89 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/16(水) 21:31:40.46 ID:QbY8KhLxo


「その手にのるか! 呼ぶかバカ! 呼んだら死ぬから!
 うあああああ! やりやがったな!」

「ははは、なんのことやら」

「ごまかしてんじゃねえよ! だいたi「ごまかさないで、きくひこ」


 澄み渡る声は冷麗、沁み渡る声は玲澪

 荒げるでもなく、大声でもなく、涙を嗚咽を混ぜるでもなく

 インデックスさんの静かに冷め切った声が、鋼盾の言葉をぶち切った


 ……はい、認めます。大声でハイテンションで木山に食って掛かれば、

 なんとか有耶無耶にできるんじゃないかなできたらいいなあとか思ってました


 無理でした


「…………すみませんでした、インデックスさん」


 謝罪の言葉が転び出る

 わけもわからず、とりあえず謝っとけ的なアレだったのは否めない

 無理もない

 インデックスのその無表情には、それだけの圧力があった


 案の定インデックスは、鋼盾のそんな場当たり的な謝罪を咎めた

 容赦無く、槍のように


「どうして自分があやまってるのか、きくひこはちゃんとわかってるのかな?
 わかってて、あやまってるのかな?」

「……………………ええと、その」


 ごまかそうとしたことを?

 胸に触ったことを?

 黙っていたことを?

 まさか、インデックスのそれには触れていないことを?


 ……わからない

 恐怖で頭が働かない


 ああ、空はこんなに青いのに

 風はこんなに温かいのに

 太陽は、とっても眩しいのに

 どうして、こんなに怖いの?

 
90 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/16(水) 21:40:45.85 ID:QbY8KhLxo


 結局黙りこんでしまう鋼盾の目を見ながら、インデックスは溜息を吐く

 その視線はまさに、吹寄が三馬鹿の馬鹿を見据える時のアレである


「きくひこもとうまも、男の子はみんなそうなのかな?
 ―――わたし、そういうのはよくないと思うんだよ」

「はい、その通りです。反省してます」


 もはや敬語しかでない

 インデックスさんマジインデックスさんである
 

「―――ねえ、きくひこ?」

「……なんでしょうか、インデックスさん」


 一拍おいて放たれた問い掛け

 もちろん解放ではなく、追求である


「はるみのおっぱいに触ったんだよね? 触ったのかな?
 昨日はじめて会ったんだよね? 会ったその日におっぱい触ったの?
 きくひこは誰のおっぱいでも触るのかな? それともはるみだから触ったのかな?」

「……すいませんインデックスさん、おっぱい連呼は勘弁して下さい」
 あと誓って不可抗力でした、仕方なかったんです」


 己の社会的地位を守るため、必要なことだったのです

 妙齢の女性の肌を晒すべきではないと思ったのです

 脱ぎ女は実在していたんです、マジで


「……そうなの? はるみ」


 鋼盾から一瞬足りとも視線を外さぬまま、インデックスは運転席の木山に問いかける

 待ってましたと言わんばかりに、木山は応える。

 楽しそうに
 
91 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/16(水) 21:50:35.63 ID:QbY8KhLxo


「いや、まあ、そうかな?
 わたしの行動がなにやら彼の琴線に触れてしまったようでね
 ……ふふ、彼の両手が荒々しくも私の胸元に伸びてきたんだよ」


 なんて追い打ち

 何が恐ろしいってこの女、ひとつも嘘をついてやがらないのだ


「木山ァァアア! てめえ! 大概にしとけよ!」

「なんだい掬彦、そんな大声を出さなくても聞こえるよ
 ……ふふ、こんなにも近くにいるんだから」


 なにその声

 なにそのウィスパーボイス

 なにその艶やかなアルト

 色っぽいじゃねーかこのやろう


「ムード出してんじゃねぇ! 名前で呼ぶな! 色っぽく笑うな!」
 あんたキャラ違うだろ! そんなんじゃねえだろ!?」

「まだ君の知らない私など、いくらでもいるさ。
 ――――お互い、少しずつ知ってゆけばいいだろう」

「知るかよもう。
 ……直に警備員にお世話になる人間がなに言ってやがんだ」

「……そうだね、残された時間はあまりに少ない。
 ――――いや、私ではなく、君のがね」

「わかってるよ! ちくしょう!
 ……呪われろ!」

「……ふふ、既に地獄行きが確定している身だ、今更呪いなど物の数ではない。
 ―――私も、この期に及んで蜘蛛の糸など望みはしないさ」


 救いの手も、天からの糸も、ガラスの靴もいらない

 そう言って木山は笑う


 この人がこんな風に笑えるのなら

 必然性のないドライブも、先ほどの問答も、このふざけた一幕も

 きっと、無駄ではない

 
 鋼盾も小さく笑って

 そして、呟く


「……はいはい、んじゃ、お先に」

「いい旅を」

92 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/16(水) 21:56:40.08 ID:QbY8KhLxo


 そして、視線を戻せば

 誰より大切な女の子が、そこにいる


「―――――おやすみ、きくひこ」

 
 にっこりと、白い歯をこぼしてインデックスが笑う

 笑いながら、別れを告げる

 その顎が、開いた



 あーん



 ああ、歯並び綺麗だなあ

 うん、いいことだよなあ
 
 でも、天丼はよくねえよなあ

 こういうの、上条くんのロールだと思うんだけどなあ

 さっさと起きてくれねえかなあ、あの野郎

 おやすみなさい



 がぶり




 鋼盾の絶叫と木山の忍び笑いが、狭い車中に響き渡った

 あまりにも間抜けなそんな遣り取りを載せて、車は滑らかに道を往く


 ちぐはぐな仲良し三人組が

 ドライブのように楽しげに




――――――――――
93 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/16(水) 21:58:30.26 ID:QbY8KhLxo


 さて
 
 そんな場違いに騒がしいドライブも、当然ながらあっけなく終わりを迎えた

 レヴェントンの進行方向に、遠目にもはっきりと赤い回転灯の群れが立ちはだかっている

 間違いなく警備員による非常線である、行き止まりだ


「―――警備員がバリケードを張ってますね」

「まったく、上から指示があった時ばかり仕事が早い」


 これだから教師は、と呆れたように木山が呟く

 いやはや、元教師の言葉は重い、たとえようもなく


「どうします? このままじゃ捕まりますよ」

「おや、心配してくれるのかい?」


 悪戯に笑う木山春生

 相変わらず余裕の笑みだ、ちくしょう、誰がオマエの心配などするものか


「……誰が。
 ぼくが心配してるのはこの子のことです」

「……わたし?」


 インデックスが首を傾げる

 彼女は学園都市の住人ではない、IDを持たぬ“存在しないはずの人間”だ


「きみは不法入国者なんだから、警備員に事情を聞かれたら面倒な事になる。
 ……まいったね、どうしたもんかな」

「……いやはや、訳ありだろうとは思っていたが。
 ―――――まあ、その辺りは聞かずにおこうかな」


 言いながら、木山は車を停車させた

 バリケードまで、およそ百メートルといったところか

 警備員たちも慌ただしく動き始めている

94 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/16(水) 22:10:11.93 ID:QbY8KhLxo


 直に、この車も包囲されるであろう

 今が、もしかしたら最後のチャンスかもしれない

 半ば無駄とは知りつつも、鋼盾は腕の中の少女に問う


「―――単独で逃げてくれるかい? インデックス。
 ぼくならもう大丈夫だ。」

「だめだよきくひこ、それはだめ。
 ―――逃げるなら、きくひこもいっしょに」」

「そう言うと思った。……ぼくが一緒じゃ、逃げ切れないだろうね。
 ……仕方ない。こうなったら、もう出たとこ勝負かな」


 土御門の口にした“インデックスについてもある程度まではオーケイ”

 英国清教と学園都市の間にあるというその密約、あれを信じるしかあるまい

 ある程度がどの程度かなどしらぬが、まあなんとかなるであろう


「―――とりあえず口裏をあわせましょうか
 そうですね――ぼくは昨日パン屋で出会った美人なお姉さんに一目惚れしてしまって、
 なんとかもう一度会おうと適当な理由をでっち上げて研究所を訪ねた、アホな男子高校生ということでひとつ」


 それは、木山への依頼だ

 「インデックスなる少女の完全記憶能力と記憶喪失、記憶破壊についての質問を受けた」とか正直に供述されると困る


 最低限、巻き込まれた一般人を装いたい

 読心能力者にかかれば一発だとは思うけど、まあ半ば冗談だ


 ……不用意にも程がある、先の遣り取りからなんの反省も得ていない

 精神的に向上心のないものはばかだ、というアレだ


 そんな鋼盾掬彦を

 このふたりが見逃すはずもなく 


「ふむ、美人なお姉さんとは面映いな。
 しかし一目惚れとは……いや、光栄だが、この身は既に犯罪者。
 すまないが君の気持ちには応えられない」

「きくひこ! 一目惚れってどういうことなのかな!?
 というか! わたしが“適当な理由”ってヒドすぎかも!!」

「方便だって言ってんだろ! またこのノリかよ!
 二人してここぞとばかりにボケんな! この状況で!」


 ああもう、この期に及んで

 こんなんだ、ぼくらは

95 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/16(水) 22:13:24.83 ID:QbY8KhLxo

 
「……そろそろ、シリアスにいきましょうか。
 つーか大概にしろよおまえら」

「先に緊迫感を削ぐようなことを言ったのはきくひこかも」

「というか、私が捕まるのを前提にされても困るんだが」


 ふーんだ、と言わんばかりに悪戯に笑うインデックス

 心外だ、と少し拗ねたような表情をみせる木山


「困るんだが、って言われても困りますよ。
 ――この状況、なかなかに絶体絶命でしょう?」


 “レヴェントンの魔女”によるハリウッド映画のようなカーアクションというわけにもいくまい

 警備員の声が拡声器で木山に投降を呼びかけている、直に包囲へと移行するだろう


 だが、木山は余裕を崩さない

 自棄でも開き直りでもない、確信としか呼べぬような


「そうでもないさ。幻想御手には面白い副産物があってね。
 ん……」


 そう言って、木山春生は目を伏せ

 そして開いた


「「……っ!?」」


 鋼盾とインデックスは、思わず息を呑む

 そうせずにはいられぬ程の威容が、そこにあった

96 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/16(水) 22:17:45.54 ID:QbY8KhLxo


 裏返った赤い凶眼

 木山の瞳が放つ禍々しいオーラに、ふたりは戦慄する

 ぞっとするほどの深みを湛えた、底知れぬ闇赤である、恐ろしい


「はる、み?」


 インデックスの搾り出すような問

 鋼盾に至っては、問うことすら忘れていた

 それほどまでに、彼女は違っていた


「……だいじょうぶ、私は私さ」


 だが人ならぬその眼差しには、相変わらずの理知の光

 木山は笑う、常の通りに気だるげ優しげに、ゆるいアルトの声で


「ふふ……ま、ここで見ているといい。特等席だよ。
 私とて研究者の端くれだ、勝算を積み上げずに動くことなどしないさ」


 そう言って木山は、鋼盾とインデックスを車内に残し、外に出た

 ガルウイングの扉が閉まる中、囁くような木山の声が響く

97 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/16(水) 22:18:24.15 ID:QbY8KhLxo



「一万の脳を統べる私に、敗北などありえない」

 
98 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/16(水) 22:19:39.10 ID:QbY8KhLxo


 それは宣誓、それは宣戦―――否、それは先制

 扉が閉まると同時に、音もなく木山春生の身体が掻き消えた

 呆気に取られる警備員たちや鋼盾らは、次の瞬間更にありえぬ光景を目撃する


 最初に、轟音を聞いた


 警備員らのすぐ背後で響いたそれに、彼らが慌てて目を向けると

 そこには横倒しの上で氷漬けにされた、壊れ切った警備員特殊車両があった


 その上に立つのはひとりの女

 幻想御手事件の重要参考人と目され――いや、犯人である女


 右手に豪炎、左手に雷光、背に凱嵐、両足裏からは車両を氷漬けにしたであろう冷気を放ち

 凶り切った瞳で警備員を睥睨する、白衣の女が立っていた



「警備員諸君、お役目ご苦労
 だが―――――もう、休みたまえ」



 木山春生

 埒外の多才能力者(マルチスキル)が、その唇の端を釣り上げて

 蹂躙が始まった


99 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/16(水) 22:24:27.71 ID:QbY8KhLxo







―――――


ここまで
つうわけで皆さんの期待に露ほども添えぬおっぱいネタです
インさんのおっぱい連呼は>>1的には萌えますが、おまえらどうよ

多才能力者
けっこう面白い設定ですが、幻想御手の使用に基づくためどうしたって期間限定
それゆえ、みんな軽めにしか書かない感がありますが、>>1はちょいとヒトネタいれるつもりです

木山先生がなにやら好戦的なのは、鋼盾が煽ったからです
警備員さんに敬礼!

次回は来週半ばくらいに!
んでは!
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(愛知県) [sage]:2011/11/16(水) 22:28:51.00 ID:Id2qmq2oo


多才能力者ネタをヒトネタとな
次回はいつも以上に楽しみだ
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(北陸地方) [sage]:2011/11/16(水) 22:39:14.19 ID:mXd1z3DAO


今のところは

黒子→美琴→上条→インデックス→鋼盾→小萌

でいいのだろうか……まさしく一方通行だな
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/16(水) 22:47:16.97 ID:Y++HhUoVo
インデックスはどうなんだろ
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(岩手県) [sage]:2011/11/16(水) 23:14:37.84 ID:d6UtwuZm0
>>1乙!
はるみんいいよはるみん!最高だ!
ヒロイン立候補してもいいよはるみん、俺が許す。
無いと思うけど、もしコウやんに振られたなら俺の胸に飛び込んでおいで?
あと最後のシーン、絵面的に髪の毛は(煽られて逆立つとかじゃなく)重力に逆らってふわふわ上向きになってるよねきっと!

>>インさんおっぱい連呼
ああ、いいな。実にいい。

>>101
インデックスからコウやんへは、男女云々じゃなくお兄さんにべったりの妹的な感じだと思うが。
インさん→上条さんも同様にあると思うのでそういうのを含む矢印なら上条インさん間は双方向に。
原作のとうまとうまも、恋愛感情絡んでるようにはあまり見えないんだよなー。
大好きなお兄ちゃんが他の女に目を向けてたら……噛み付くだろ?
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/16(水) 23:15:49.14 ID:72I+kyuAO


そして原作的には小萌→上条も否定できんというね

どうなることやら
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/16(水) 23:18:26.92 ID:zj4rZppKo
乙です。

ヒトネタねえ…火と風で炎の渦とかといった複合技かな?まずは期待だな。

まあ流石に「黄金錬成」ネタはしないとは思うが…アウレオルス出るなら…待ってる。
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(岩手県) [sage]:2011/11/16(水) 23:22:11.60 ID:d6UtwuZm0
>>104
しぃっ!コウやんに聞かれたらどうする。

さて、三度読み返したしそろそろネクタイ外して服着るか。
性癖暴露はともかく、はるみんが最高で実にいい夜だった!
107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sag]:2011/11/17(木) 07:02:16.75 ID:Z8Ss8Suo0


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            , イ:::::::::::::`ヽ.
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         / |   |/      ∧
          〈   |   |: : : : : : :   i  \
         \ |   |: : : : : :   ∧.   \      「一万の脳を統べる私に、敗北などありえない」
          〉|   |: : : : :   /  \    \
           / 」/  |: : /  /    \/  |
            / 「   |/   イ       |   .|
        // |   |    _.〉、     |    |
         /'  |   |  ̄ ̄   \   |    |
         |   |.|   |        \  |    |
        |  .||    |          \|   |
        |  .|    |            \ヾ/
        |  ゞ-┬'       \      `丶、
        i\ \ノ           \        \
        |;.;.;\ \         \        `丶.
        |.;.;.;.;.;.\             \         \
        ∨;.;.;.;.;.;.;\             \       :::.  \
        ∨.;.;.;.;.;.;.;.;.\             \     ::::::   \
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            |: : : : :,     | : : : : ∨  ./
           |: : : : |    l: : : : :| ∨ /
           |: : : : !      i: : : : | ∨
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [sage]:2011/11/17(木) 07:28:10.83 ID:ilJEiZgAO
>>104
ここでステイル君の参戦ですよ!

…ますます一方通行だな。
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/17(木) 08:59:49.20 ID:gs4TKDcAO
更に追加で初春に茶店に黄泉川に吹寄に雲川に神裂らサブヒロインな皆さんも絡んでくるわけだな!

胸熱
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [sage]:2011/11/17(木) 10:05:34.33 ID:ilJEiZgAO
>>109
肝心な名前抜かすなよ、誘波さんはどうしたんだよ!
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(福岡県) [sage]:2011/11/17(木) 11:21:20.17 ID:k/tdj9Nfo
>>110
メイン級のヒロインをサブに並べちゃいけねぇぜ
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(福岡県) [sage]:2011/11/17(木) 11:29:29.84 ID:O+LHCZu+0

なんでかおばちゃんか幼女とばかりフラグを立てる鋼盾
普通に考えて木山さんって30歳以上って思っててもおかしくないよね
つかインさんならロリコンだが佐天さんならOKという矛盾を感じるのは俺だけか

上条がフラグを立てて鋼盾が回収するッ!!
こういう流れで行ってもらっても全然OKです。
つかインさんは上条さんじゃなくて鋼盾お気に入りなのかね
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [sage]:2011/11/17(木) 12:01:30.25 ID:70irKcfbo
>>112
おばちゃんっておい
ふざけんなおい
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [sage]:2011/11/17(木) 12:28:35.43 ID:ilJEiZgAO
>>111
そうか、そうだったな…
すまない、俺が間違ってたぜ…
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/17(木) 12:55:23.37 ID:gs4TKDcAO
>>112
屋上な。

木山先生は20代後半くらいと見ている。おばさんだなんてとんでもないぞ。


イザナミさん、登場人物一覧になかったよな。
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [sage]:2011/11/17(木) 15:33:38.34 ID:ilJEiZgAO
二十代半ばね…
あの隈の入りっぷりはエヴァのリツコ博士より年下は信じられないけどな。
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関東) [sage]:2011/11/17(木) 19:12:24.16 ID:HeA+oYSAO
>>79 マジか!佐天さんとの絡み超期待してるぜ!
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(兵庫県) [sage]:2011/11/17(木) 20:35:14.80 ID:IB89FP8zo
木山先生まじ悪女。
合わせられるインさんも大概だけどなー。
ああ木山先生最高。

氷と炎の歌は最終的には全文暗記してしまいたいぐらい好き。
読書してて滾って「うおお」と吠えてしまったのは後にも先にもこの本だけかもしれない。
今春にHBOで放映されたドラマもすげーよかったよー来年には第二部放映だよー機会があればぜひ。
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/17(木) 22:42:11.20 ID:WN+eZz2P0
ヒトネタ、と言うと


……まさか、エターナル・フォース・ブリザード……?
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/17(木) 23:38:44.45 ID:Z8Ss8Suoo
相手は死ぬ
121 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/18(金) 07:11:02.92 ID:AfUDBXnjo

ども>>1です!
ちょっと質問を許してくれい!

>>1はアニメ版を観てないのですが、風の噂にアニメでは黄泉川先生がここに出張ってると聞きました
初春から幻想御手を預かったのは黄泉川だとか

ということはこの木山包囲網の中にも黄泉川先生がいることになるのかな?
木山先生にどんな風にやられたかとか、どこにダメージを受けたとか、台詞があったとか、幻想猛獣になんか感想言ったとか
もしご存知の方いらっしゃいましたら教えて下さい


ところでおまえら恋バナ盛り上がり杉だぜ!
>>1が書いているのはどうやら恋愛系SSだったようです。ねえよ

インさん→コウやんはどうなんでしょうか
このSSは鋼盾視点なのでハブられがちですが、上条さんも原作通りにインさんとのイベントこなしてますよー

原作ではインデックスには上条さんしかいなかったわけですが
このSSでは鋼盾がいて、ステイルや土御門、神裂らの想いも知ってしまって
舞夏や木山との交流もあって―――インデックスの世界も広がっています

インデックスの成長と変化、というのも書きたいテーマです
でもそれは別に恋愛というかたちじゃなくてもいいのかな、と思っています
関係性や感情に必ずしも名前をつけることもないのかな、と

矢印だけでシンプルに表すこともないでしょう
カップリングのみに囚われるのも物語の幅を狭めそうです

まあ、鋼上インの三人がなかよしなら、>>1はそれでいいや
もう小萌含めて四人家族でいいじゃんよ

逃げでしょうか、見逃して下され


幻想御手ひとネタはたいしたもんじゃないですゴメン
描くシーンはもうちょい先になりますよ。
合成技はいいですね! 組み合わせ次第では無限の可能性が!

多才能力のなにがいいって、彼女がどんな能力をつかってもいいという点
そのへんを活かしていこうかな、と



んで、質問レス返しだけでageるのもなんなので以下小ネタ
死ぬほど下らないですが、笑ってやって下さい


そぉい!

122 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/18(金) 07:15:22.18 ID:AfUDBXnjo

※前回のNG



 扉が閉まると同時に、轟音を立てて木山春生の身体が天高く舞い上がる

 あっけに取られる警備員たちや鋼盾らは、次の瞬間更にありえぬ光景を目撃する


 地上より凡そ五十メートル

 太陽を背負う木山春生が、頭を下にしたまま右手と左手を面前で交差させ、地上を睥睨する―――!


「ナム……技をかりるぞ」


 呟きに応える者はない、

 だが木山の脳裏で、褐色の肌をしたターバンの男が小さく微笑んだ


―――――


「あ、あれは」

「知ってるの、きくひこ!?」

「超天空×字拳……いや、あれは―――さらにその上をゆく……!」


 それは龍破の一撃

 それは天意の十字鎚


 交差する両腕、線となる身体

 あるいはそれは、祈りのかたちに似ていたかもしれない



―――――



「……喰らえ、

  真 天 空 × 字 拳 ! ! 」




 轟音

 その日、学園都市は灰燼へと帰した




―――――
123 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/18(金) 07:16:55.25 ID:AfUDBXnjo

おしまえ


木山せんせいは27歳でいいと思います!
黄泉川センセの件、ご存じの方はよろしくです

んじゃ、また次回!
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(兵庫県) [sage]:2011/11/18(金) 12:42:22.73 ID:N84A/vbH0
黄泉川&鉄装セットで出てくるよ。
メモリ自体は初春がずっと持ったまんまで上の二人が警護しながら端末のあるバンまでエスコート。
細かい部分は帰ったら幻想猛獣回を観直してレポりましょう。
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(愛知県) [sage]:2011/11/18(金) 18:24:54.82 ID:T6UqQMuMo
基本的に漫画版で指揮を取っているガタイのいいおっちゃんの立ち位置にそのまま黄泉川がいる
さらにところどころ漫画版にはないシーンが追加されていたり、鉄装単独のシーンに黄泉川が加わってたり

>木山先生にどんな風にやられたかとか、どこにダメージを受けたとか
木山との交戦は黄泉川の描写はなし
ただし警備員が全滅してるので描写外で何らかのダメージは受けてるはず
幻想猛獣との交戦(高架上)では腹を触手で殴られてふっとんだ
その時の効果音とその後へたり込んでた場所からするとたぶん壁までノーバウンドさん

>台詞があったとか、幻想猛獣になんか感想言ったとか

・木山と交戦前
黄泉川「木山春生だな」以降漫画版の警備員と同じセリフ
ただし「確保!」が「確保じゃん!」になっている

・幻想猛獣と交戦開始時
モブ警備員「おい、なんだよこりゃ」
モブ警備員「怪獣かよ」
モブ警備員「どっかの生物兵器か?」
黄泉川「動ける者だけでもやるしかないじゃんよ。実弾の使用を許可する。撃てぇ!」

・美琴が警備員に加勢した時(漫画版と異なり全て高架の上)
鉄装「とにかく、すぐにここから逃げな――」
 幻想猛獣の追撃(漫画版だと鉄装が「ひゃわ!?」って言ってるコマに相当)
美琴「逃げるのはそっち! アイツはこっちが攻撃しなきゃ寄ってこないんだから!」
黄泉川「それでも……撤退するわけにはいかないじゃん。あれがなんだかわかるか。原子力実験炉じゃん」
美琴「マジ?」

・階段を上る初春を発見した時
鉄装「何やってんのあの子!」
黄泉川「あれは! 木山の人質になっていた! クッ、この混乱で逃げ遅れてるじゃん」
美琴「違う。初春さんはもう人質でも逃げ遅れてるんでもない」
美琴「頼みがあるの」(鉄装と黄泉川に向かって)
ここでシーン終了、頼んだ時の具体的なセリフは描写されていない

・幻想猛獣から初春への攻撃を黄泉川がガードした時
鉄装「大丈夫?」
黄泉川「まったく。最近の若いのは無茶するじゃん」
鉄装「治療プログラムは?」
初春「無事です!」
黄泉川「援護するじゃん! 早く!」
 幻想猛獣が次の攻撃準備開始
黄泉川「くそ! また!」
 美琴が幻想猛獣に電撃、初春への攻撃がとまる
美琴「シカトしてんじゃないわよ。アンタの相手はこの私だって言ったでしょ」
美琴「みっともなく泣き叫んでないで真っ直ぐ私に向かってきなさい!」

・電話(漫画版では無線)で治療用プログラムを流す指示を出す時
黄泉川「ああそうじゃん! 時間がない、これから転送する音声ファイルをあらゆる手段を使って学園都市に流せ!」
初春「転送完了しました!」
黄泉川「責任は私が持つ。とにかく流すじゃん!」

・美琴が幻想猛獣にトドメを刺した時
セリフはないが気が抜けて倒れる初春を黄泉川と鉄装が支えるシーンあり

これで黄泉川が関わるシーンは全部かな?

メモリ自体は>>124の通り
情報不足あったら追加質問なり勝手に補足なり頼む
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [sage]:2011/11/18(金) 18:31:55.27 ID:/COXtnGXo
レポ乙
改めて見ると黄泉川先生ほんとかっこいいな
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [sage]:2011/11/18(金) 18:51:46.75 ID:yNg6NS1AO
これは超乙!
>>1がどう料理するか見物だな。

でも俺の記憶が確かなら、木山の謎能力 武装解除(アーマーブレイク)で黄泉川の服が弾け飛んだはず!(大嘘)
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(兵庫県) [sage]:2011/11/18(金) 20:40:56.39 ID:3EkNvJQ0o
わお。帰ってきたらすごいものが。
自分がやろうと思ってた以上のものですばらしい。
読んだら観たくなったので観るぜー。
129 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/18(金) 21:04:50.75 ID:AfUDBXnjo
うおおおおおお!
すげー! マジすげえええ! ぱねえええ!!
愛知さんマジすげええ! 兵庫さんもありがと!
欲しかった以上の情報がバッチリ過ぎる! うおおお、無精者の>>1なんかの為に、マジありがたいっす!

こりゃあ西に足向けてねられねえぜ! 今から模様替えだ!
あ、東北には足向けていいよな>>127さんアーマーブレイクって! ねぎマか! 最高!
武装解除、上条さんがマスターしてるような気もします

ほんとうに感謝です。>>1が書き続けられるのはみなさんのおかげですガチで
執筆意欲がムクムク湧いてきました! 

この御恩にはきっと本編で報います
おかげさまでかっこいい黄泉川先生とかっこいい初春さんが書けそうですぜ!
感謝!


PS、愛知さま
おすすめスレ読んだぜピンと来たぜそこに並べられるの恐れ多いぜ
姫神。この話で出せるかは未知数ですが。いつかなにかで書けるよう頑張ります。
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(愛知県) [sage]:2011/11/18(金) 21:07:18.75 ID:T6UqQMuMo
>>128
なんか役割を横取りした感じになってスマン

ついでにコウやん登場シーンも観てたけど、
実は公式でもやる気になるとけっこう粘り強く悪あがきする人なんだよな
ここのコウやんはどんな悪あがきをしてくれるんだろうか
131 : ◆FzAyW.Rdbg [sage]:2011/11/18(金) 21:12:06.15 ID:AfUDBXnjo
やべえ、ageちまった
吊ってくる



……ってんじゃダメダメ過ぎるので、明日投下します!
フライング予告ageということで許してくれい!

うぎゃああ、まだ45行しか書いてねえええ
……なんとかします、んじゃ明晩!
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(愛知県) [sage]:2011/11/18(金) 21:17:23.70 ID:T6UqQMuMo
タイミングが最悪だった

>>129
今回も、設定質問スレの時も、自分が何も書けないから
せめてこんな形ででもSSに貢献しようっていうただの自己満足ですわww
姫神は別に何か意図があって書いたわけじゃないんだが何かで書いてくれるなら歓喜
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/19(土) 12:21:02.12 ID:SXmNx5j40
>>1の書くキャラはみんなかっこいいなー
木山先生もインデックスももちろんコウやんもマジすばらしいです

>>矢印だけでシンプルに表すこともないでしょう
 カップリングのみに囚われるのも物語の幅を狭めそうです

というコメにこっそり痺れた。なにかっていうとすぐカップリングにしちゃう自分ェ・・・
鋼盾禁書って呼び方はしないほうがいいのかな?

今夜も待ってますよー
134 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/19(土) 23:11:54.23 ID:yy5ko/mYo
>>133
コメ感謝! 照れるぜ!
再構成物の〇〇禁書は、“〇〇主人公による「とある魔術の禁書目録」再構成”という意味だと思います!
だから鋼盾禁書で全然オッケーさ! 一応の表題である「とある端役の禁書再編」じゃわかりにくいしな!

よっしゃーまだ今日だ!
投下します!





――――――――――
135 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/19(土) 23:14:30.88 ID:yy5ko/mYo


 鋼盾掬彦は無能力者だ

 それは彼にとって、どうしようもないコンプレックスだった


 座学、投薬、電極、暗示、あらゆる手段を用いて行われる“脳開発”

 この街の外の人間であれば、正気じゃないと目を背けるような“時間割”


 中学校からこの街にやってきた彼は、脇目も振らずにそれに取り組んだ

 周りの誰より努力した、弱い己を変えようと、全てをソレに費やした


 全身全霊全時全財、なにもかも余すことなく注ぎ込んだ

 だけど、その努力は全く実ることはなかった


 “身体検査”の結果は無能力者、レベル0

 それも、一切の才能を示さぬ、とびっきりの最低評価

 学園都市最下位


 微力すぎて発現しないのではなく、能力そのものが存在しないという、本物のゼロ

 それが、鋼盾掬彦という人物のすべてであった

 
 ゼロはどうしたってゼロ

 逆さまにしても転がしてみても裏返してみても、ゼロ


 ゼロが無数に連なって、鎖になって

 それが体中に絡み付いて、離れなくて、どうしようもなくて

 
 彼は身動きひとつ、取れなくなった

136 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/19(土) 23:17:33.94 ID:yy5ko/mYo


 太陽が登っている間は、まだなんとかやりすごせた

 だけど、夜はどうしようもなく長かった

 眠りにつくまでの長い長い時間は、拷問のようですらあった


 心臓が動く度に、鎖の擦れる音を聞いた

 無数のゼロの環が、彼に現実を突きつけた

 
 だから彼は、妄想に逃げこんだ

 
 妄想の中の彼は、能力者だった

 とびっきりの、能力者だった

 どんな能力でも、使うことができた


 手から炎が生まれた、それは全てを焼き尽くした

 手から水が生まれた、それは全てを押し流した

 手から雷が生まれた、それは全てを打ち払った

 手から風が生まれた、それは全てを吹き飛ばした

 手から土が生まれた、それは全てを埋め尽くした

 手から氷が生まれた、それは全てを凍てつかせた

 手から刃が生まれた、それは全てを切り裂いた

 手から糸が生まれた、それは全てを縛り付けた

 手から光が生まれた、それは全てを照らし出した

 手から闇が生まれた、それは全てを塗り潰した 


 誰よりも早く走れたし、空も飛べた、水の中でも息ができた

 テレポートができた、どこにでも行けた、誰も彼を止められなかった

 誰の心でも読むことができた、皆が彼を賞賛していた、皆が彼に嫉妬していた

 テストは全て百点だった、通知表も最高評価だった、身体検査も同様だった


 ありとあらゆる能力が、彼に宿っていた
 
 学園都市とは、彼の事だった

137 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/19(土) 23:20:27.58 ID:yy5ko/mYo


 それも、今は昔

 随分と恥ずかしい思い出だ、痛々しくて愛おしくすらあると鋼盾は思う

 いやいや、リアルで中二だったわけだししょうがない、誰もが通る道だと当時の己をフォローする

 
 勿論、幼かった己も知っていた、わかっていた


 能力は、ひとりにひとつだけ、だからそんなことはありえない

 能力でなせることにも限界がある、だからそんなことはありえない
 
 なによりお前は無能力者だ、だからそんなことはありえない


 わかっていた、わかりきっていた

 鋼盾掬彦は誰よりそれを知り抜いていて、しかし繰り返し妄想に耽った


 あれはまさに自慰だった、今となってはそう思える


 性的な意味ではなく、文字通り自分を慰めるための、愚かで罪のない、破綻した妄想

 笑ってしまう程に無様で、みっともなくて、それでいてどうしようもなく真摯で真剣な一人遊び


 だけど、あんな馬鹿げた妄想に、きっとあの頃の自分は救われていた

 確かに、救われていたのだ

138 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/19(土) 23:25:45.70 ID:yy5ko/mYo


 とは言え、妄想は妄想だ

 所詮は出来の悪い己の頭脳、出てくるものも高が知れていた
 
 すぐに、どうしようもなく色褪せてしまった


 いつしかそんな自慰行為にすら痛みを感じるようになった

 妄想に耽ることをやめて、抜け殻のように日々をやり過ごす術を覚えた
 

 そうして彼の中学校生活は終わって、高校生になって

 得難い出会いがあって、様々なトラブルがあって、世界に色が戻ってきた

 コンプレックスは相も変わらず、妄想ならぬ幻想に足を取られたりもしたけど、なんとかそれも乗り越えた


 遅ればせながら初恋をした

 守りたいものができた

 叶えたい夢ができた

 やることができた



 そうして、そうして

 鋼盾掬彦は、今ここに立っている


 相変わらず無数のゼロの鎖を引きずりながら、それでもちゃんと歩いている

 おっかなびっくり、彼の物語を紡いでいる



―――――
139 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/19(土) 23:29:55.62 ID:yy5ko/mYo


 と、いきなり過去の回想をはじめてしまったのは、多分に現実逃避の為だった

 そのくらい、ありえない光景が、眼前に広がっていた


 あの日耽った妄想の産物、あらゆる能力を操る存在が、猛威を振るっている

 それはこともあろうに、木山春生の姿をしていた


 車から降りた木山は、突如としてその姿を消したかと思うと、警備員の特殊車両を横倒しにした挙句に凍りづけにした

 そして炎と雷と風を以って、二十名ばかりいた警備員のおよそ三分の一を薙ぎ払い、打ち据えた


 荒唐無稽にも程があるその異常事態

 妄想でしかありえぬ存在が、確かにそこで災厄を振りまいていた

 わけがわからない、形容する言葉が見つからない……いや、強いて言うならば、それは


「…………魔術?」


 最近知り得た、埒外の法則

 科学と常識を笑い飛ばす、世界の裏側に息づく神秘魔道

 そうとでも考えねば説明の出来ぬその異常に、鋼盾は思わずそう呟いた


「……ううん、違うかも。
 魔力の反応は皆無だもん、アレは超能力だと思うんだよ」


 だが、そんな彼の呟きは、その魔術の集大成たる少女によって否定される

 この少女自身はそれを持ち得ぬも、彼女は魔力なるものを感知する術を心得ていた

 そしてなにより鋼盾自身が、どうしようもなくそれを確信していた


 木山春生が振るう“それ”は

 間違いなく“能力”によるものであると

140 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/19(土) 23:34:47.57 ID:yy5ko/mYo


「今のは発火能力(パイロキネシス)……いや、火炎放射(ファイアスロアー)か。
 そして電撃使い(エレクトロマスター)に空力使い(エアロハンド)、身体強化(インナーブースト)、
 最初のアレは空間移動(テレポート)―――なんで学生じゃない先生が能力を……」


 木山の年齢では、能力開発を受けてはいない筈である

 だが、それでは目の前に広がる光景がひとつだって説明できない


「……いや、そもそも幻想御手なんてものを創りだすような人だ。
 己に能力開発を施すような真似もできるのかも――いや違う、そうじゃない、そんなことより」


 そう、そんなことよりも

 そんなことよりも、だ


「ありえない……能力はひとりにひとつ、それがルールだ」


 能力は“自分だけの現実”に根ざすもの

 魂がひとつ、心はひとつ、身体はひとつ、己はひとつ


 故に、能力はひとりにひとつ

 それが能力開発の根幹にある、ルールだった


 ありえない

 木山春生がたとえ能力者であったとしても、これはありえてはならない

 既に多重能力(デュアルスキル)は公式に否定されている

 よしんばソレが可能であったとしても、ああまで自在ではありえまい

 鋼盾が魔術を疑ったのも、無理のない話ではあった


 だが、魔術の専門家たる禁書目録が、それを否定した

 そして学園都市の住人たる鋼盾の直観も、アレが能力だと告げている


 だが

 そんなことは


 ありえない

 ありえない

 ありえない


 ……なら、なんなのだ?

 あれは、一体、なんなのだ?

141 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/19(土) 23:36:57.41 ID:yy5ko/mYo


「……精神系、洗脳系の能力?」


 唯一思いつくのが、このあたりだ

 己は既に彼女の術中にあり、今見ているこれは現実ではないという可能性

 それならばある程度は説明をつけることができる


 そうだとすればそれはいつから? 己は今どこにいる?

 流石に腕の中のインデックスの感触やら、窓枠に頭を叩きつけた痛みだのが催眠とは思えない

 必死に過去をなぞってみれば、思い当たるフシがひとつだけあった


「……怪しいのはやっぱり、あの眼になった瞬間か」
 

 魔眼や邪眼といえばファンタジーめいてはいるが、この街にはそんなものいくらでもある。

 目をキーにして能力を発動させる、というのは比較的ポピュラーな類といってよい。
 

 眼球は受動器だが、それだけではない

 目は口程にモノを言うなどという言葉があるように、能動的な器官でもある

 だが鋼盾の発言は、インデックスによって否定された


142 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/19(土) 23:41:22.09 ID:yy5ko/mYo


「……むぅ、わたしは超能力にはほとんど知識がないからわからないけど……
 ―――でも、これが幻術の類とは思えないんだよ。わたしの記憶に一切の断線がないし、
 空にある雲のかたちの変化も自然だし、わたしが窓ガラスに付けた指紋もそのまま」

「うん、そうなんだ……ぼくにも教科書レベルの“精神操作への対処法”は入ってるし。
 それに照らしても、やっぱりこれは異常だ。幻想にしては緻密なくせに無駄が多すぎるし、なにより全くもって、意味が無い」


 心理操作、記憶操作等については、鋼盾もそれなりの知識は蓄えてある

 思いのままに他者の記憶や意識を弄ぶことができそうな彼らだが、実は思った以上に多くの制約に囚われているのだ

 脳も記憶も、未だ解き明かされていないことばかり

 まさに大脳生理学者である木山が、昨日そんな台詞を言っていたのを思い出す
 

 そして、なにより眼前に広がるこの悪夢じみた光景
 
 そう、木山が鋼盾にこんな幻覚を見せる意味がない


 鋼盾は学園都市の人間だ、少なからずこの街の常識に囚われている

 故に鋼盾の中に無数の能力を持つ人間が暴れまわるような荒唐無稽な妄想は生まれない


 ならばソレは木山が植えたものになる

 なぜ、彼女がそんな事をする必要がある?


 能力の発動には、それなりに精神力を使うことだろう

 昏倒させれば済むだけの話なのに、このような無駄な浪費をする意味が無い

 
 ……わけがわからない

 わからぬままに、半ば呆然と鋼盾は薙ぎ倒されてゆく警備員たちを見ることしか出来ずにいた


143 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/19(土) 23:44:20.27 ID:yy5ko/mYo


 そうしている間に、百メートル先の蹂躙が終了を告げる

 戦闘とすら呼べぬそれはまさに蹂躙、この上なく一方的に事は進んでしまった


 木山の手から伸びる光の鞭が、警備員最後の一人を吹き飛ばす……やはり悪夢じみた光景だ

 地面に叩きつけられた警備員から木山に視線を戻すが―――そこには既に彼女はない

 慌てて視線を巡らそうとした、その瞬間

 
「それは違うな、この光景は現実のものだ……
 なにも私が彼の第五位、食蜂操祈ほどの能力を得ているわけではない」


 すぐ後ろから、声が響いた

 こんな時でも常通りの、落ち着いたアルトが淡々と言葉を紡ぎだす


「! ふあっ!? ……は、るみ?」」

「……空間移動、ですね」


 百メートル以上の距離を隔てていたはずの木山が、一瞬で鋼盾とインデックスの直ぐ側に居た

 黒子と出会ったこともあり、少しばかり空間移動について調べる機会があった鋼盾は、なんとか木山力を見極めんと思考する

 
 たった今木山が為したのは、先の奇襲同様に、大能力者である黒子の限界距離を超えての跳躍

 もちろん空間移動の能力評価には、距離だけではなく精密さや飛ばせる重量も関わってくるため一概には言えない

 いや、いずれにせよ自身を移動できるということは、レベル4以上ということになるだろうか


 空間移動の大能力者など、何人もいないはずだ

 黒子は己を空間能力者で五指に入る、と評したが、おそらくあれには謙遜も混じっていたのだろう

 彼女を超えるレベルの空間移動能力者など、割合から鑑みても精々ひとりふたりだ

 
 ありえぬことがまたひとつ積み上がる

 だが……木山春生曰く、これもまた現実であるという

144 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/19(土) 23:48:51.89 ID:yy5ko/mYo


「そして百メートル離れたぼくらの会話を把握しているのは、読心能力(サイコメトリー)ですか?」

「いや、五感強化(ハードセンス)だよ。……読心能力にはちょっと嫌な思い出があってね」


 トラウマ、というヤツであろうか

 無理もない、読心系・共感系の能力は他者の心に晒される類のモノだ

 トランキライザーの服用数がずば抜けているのも彼ら彼女ら、それだけ厄介な能力である

 使用者の中には、ストレスから心の病にかかる人間もいると聞く


 何があったかしらないが、ありがたいといえばありがたい

 この街に住んでいる時点で諦めねばならぬことだが、心や記憶くらいは自分だけのものにしておきたい


「……精神干渉ではない、と言いましたね」

「ああ、単純に今の私は無数の能力を使えるというだけの話だ」

「ふざけた話だ。
 ……多重能力者(デュアルスキル)とでも言うつもりですか?」


 また都市伝説かよこの女

 はいはいどうせあんたあれだろ、

 実は『猟犬部隊』の一員で『謎の音響兵器』の開発者で『クローン』だったりするんだろ

 ……そんな半ば現実逃避じみた妄想を振り払い、鋼盾は木山に問を重ねる


「いや、私のこれは理論上不可能とされているアレとは違う。
 多才能力者(マルチスキル)、とでも言っておこうか」

「……能力はひとりにひとつでしょうに。
 そんなことは、ありえない」
 

 ありえない

 ありえない

 ありえない

 
 学園都市の人間である鋼盾には受け入れぬことの出来ぬ、その言葉

 かえって外の人間であるインデックスの方が、それを素直に受け止めることができていた

145 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/19(土) 23:51:26.21 ID:yy5ko/mYo


「“一万の脳を統べる者”って言ってたね、はるみ。
 ……そういうこと、なのかな?」


 鋼盾はインデックスの言葉に、ぞっとした

 幻想御手、学園都市全域を巻き込んだ蜘蛛の巣


 そう、目の前の女はすでに、“ありえぬこと”を成し遂げた人物だ

 そもそも彼女は口にしていたではないか、“幻想御手には、面白い副作用がある”と


「幻想御手……!」

「ご名答」


 木山が微笑みながら、鋼盾の目をじっと見つめた

 車中で鋼盾に幻想御手について述べさせた時同様、その先を言ってみろと眼で語っている


「……ネットワークに取り込んだ一万人、その能力を全て使用可能ということですか」


 取り込まれた学生たち、彼らは鋼盾とは違い、能力を持っている

 ネットワークの大勢を占めるであろう無能力者たちであっても、ソレは変わらない

 片鱗程度でも彼らは紛うことなき能力者、そして幻想御手とは


「ありあまる演算領域を用いれば、
 ―――ネットワークにあるすべての能力を、大能力レベルで使用できる?」


 そのあまりにも恐ろしい推測

 だが木山は、あっさりとそれを肯定してみせた

146 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/19(土) 23:53:37.36 ID:yy5ko/mYo
「そういうことだ。
 副産物に過ぎないが、この力を持ってすれば警備員などこのとおり、ものの数ではない」
 

 既に一軍隊レベルにありそうな木山は、しかし誇るでもなく酔うでもなく

 常の通り淡々と、実験の手順を説明するかのように


「あらゆる障害は叩いて潰す。
 誰であっても―――たとえ超能力者たる君であってもね」


 鋼盾の背後に、その炯々にして透徹な眼差しを向けて

 一切の気負いなく、必勝と宣戦を歌い上げた


 その視線を追いかけ鋼盾が振り返ると、そこには

 木山春生を睨めつけるひとりの少女


「……なかなか面白そうな話をしてるじゃない。
 借り物の力で、随分と偉そうに大暴れしてくれたようね。
 ―――馬鹿にしてんじゃないわよ、この都市を」

「馬鹿になどしてないし、偉そうにもしてないさ。必要だったから用立てただけの話だ。
 鋏を買ってきて紙を切っただけのこと、それを誇るほど子どもではないよ」


 木山は少女の剣呑な気配を、柳に風と受け流す

 ……だが、柳の木にも雷は落ちるのだ

147 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/19(土) 23:56:10.64 ID:yy5ko/mYo


「笑わせないで……アンタはガキよ、木山春生。
 己の身勝手を他者に押し付けた時点で、どうしようもなく愚かなガキ確定よ」

「ふふ、これは手厳しいな。
 ……ならばどうする? お説教かい?“お姉さま”」

「拳骨よ」


 拳骨と云いつつ、少女の指は握りしめられてはいない

 指先は器用に硬貨―――ゲームセンターのコインを弄んでいる

 ……否、彼女が手にすればそれは弾丸砲丸の類に他ならない


「……痛いのは嫌だな。
 やれやれ、そこの彼といい花飾りの彼女といい
 どうしてきみたちはそうもまっすぐなのか」


 木山が鋼盾を見たことで、少女の目もこちらに向いた

 凛然たる気色はそのままに、角を丸めた柔らかな笑みがその顔に浮かぶ

 唇が開いて、明るい声が響く


「へんな所で会いますね、鋼盾さん。
 ……黒子たちが助けてもらったと聞いてます、ありがとうございました」

「………御坂さん」



 学園都市の第三位、名門常盤台中学のエース、最強の電撃姫、超電磁砲が居た

 あの日、瞳を潤ませながら花のように咲った女の子が居た


 御坂美琴が、そこに居た

 木山春生を止めるために、少女は戦場へと降り立った
 




――――――――――

148 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/19(土) 23:58:16.14 ID:yy5ko/mYo





おわり!

御坂さんの登場は一レス目ぶりかな?
久々の登場です! いえーい

なんとか今日中に投下完了です、やったね!
んでは、また一週間以内に!
149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(愛知県) [sage]:2011/11/20(日) 00:01:19.06 ID:gKLBWb5Lo
投下乙
原作やアニメじゃ電撃を誘電力場を使って回避するシーンだけど超電磁砲はどうやって防ぐんだろう
150 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/20(日) 00:22:03.98 ID:NeCKl1vFo
やっべミスった!俺の馬鹿!

>>故に鋼盾の中に無数の能力を持つ人間が暴れまわるような荒唐無稽な妄想は生まれない

とか書いてますが思いっきり妄想していた件!
うぎゃー、やっちまったぜ! 以下に差し替えといてくれい!

―――――

無数の能力を持つ人間が暴れまわるという、荒唐無稽なその光景

かつてはそのような妄想に耽っていたこともある鋼盾だが、既にそれも過去の話である

今更こんなものをわざわざ紡ぎ出してしまうとは、正直ちょっと考えたくない

―――――

いやはや、お恥ずかしい
没頭一気書き即投下で推敲が足りませんでした、反省

失礼しました!
他にも間違ってたら容赦なく突っ込んで下さい!
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/20(日) 00:54:49.10 ID:R5KnIVFW0
思わず声を上げるほど驚いてしまった
何が驚いたって、俺が適当に考えた能力を使ってくれていることに、だ……感動した

何を言ってるか分からないと(ry
152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/20(日) 17:28:58.67 ID:RDu1okfAO

コウやんの過去が重いぜ
153 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(福岡県) [sage]:2011/11/21(月) 03:37:03.45 ID:Drjymdd1o
>>152
コウやんの過去が特別重いんじゃなくて
誰にでもある身近な劣等感だからリアルなんじゃね?
他の皆さんは少なからず特殊だし
佐天さんを更に俗っぽく深く掘り下げた感じ?

そこを上手く抉る>>1
154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(埼玉県) [sage]:2011/11/21(月) 06:17:03.50 ID:0WRvhFxKo
[田島「チ○コ破裂するっ!」]は恥ずかしいことじゃないよ!
むしろ誇るべきものだよ!


マジな話自分だけの現実的に考えれば大事だよなこういう妄想。

155 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(兵庫県) [sage]:2011/11/21(月) 20:36:14.29 ID:CzjifxEMo
こっからが木山先生の本番ですなあ。
どう料理されるのか楽しみ。
156 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/23(水) 10:33:17.49 ID:79dL4LEO0
勤労感謝の日に休めるっていいよね!
どうも>>1です! 午後からスタッドレスタイヤを買いにいかねばなので、昼くらいには投下します
まだ八割だけどな! 己を追い込む予告age↑
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [sage]:2011/11/23(水) 12:04:29.73 ID:G+VdVsjAO
乙。こっちは休めないぜ…
だいたい何が「勤労感謝の日」だ、本来「新嘗祭」だろ。せめて「収穫感謝祭(サンクトギビングデー)」にしろってんだ。


本日投下の事。期待して休憩室で待機。
158 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/23(水) 12:10:13.49 ID:79dL4LEOo
>>157
祝日から宗教臭を消してくのもへんな話ですよね
このSSが一刻の慰めになれば幸いです


参ります!



――――――――――――――

159 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/23(水) 12:11:57.56 ID:79dL4LEOo


「……それで、どうしてこんなところに?
 ―――木山に、人質にされてるんですか?」


 美琴が鋼盾へ“なぜここにいるのか”と問う。

 それは当然の疑問ではあろうが、しかし人質というのは当てはまるまい。

 強いて言えば偉そうにも「見極めに付いてきた」という形なのだが、そんなことを言われても彼女も困るだろう。


「うーん、なんと言えばいいのか……とりあえず、人質ではないよ。
 率直に言えば“成り行き”というのが一番正確なんだけど」

「……どう流されればこんな所に流れ着くんですか。
 というか、あなたにそのつもりがなくたって、木山の立場からすれば人質足りえます!
 ……まったく、お人好しなんだから」


 お人好しはきみの方だろうに、と鋼盾は思う。

 ここで“鋼盾掬彦が共犯だった”と考えもしないあたり、彼女は甘すぎる。

 あるいはその甘さ、その優しさこそが彼女の強さか。


 鋼盾相手では埒が開かぬと思ったのか、美琴は視線を移す。

 その眼が一瞬インデックスを捉え、そして木山へと定まった。

 視線、無言の問いかけを受けて、木山春生がしゃべりだす。


「……ふむ、君等も知り合いか。
 花飾りの風紀委員さんに続き、常盤台の超能力者とも縁があるとは――
 いやはや、なかなかどうして顔が広いようだね」


 誂うように、木山が鋼盾を見て微笑む。

 鋼盾的には、この時点で既に嫌な予感しかしない。

160 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/23(水) 12:15:00.93 ID:79dL4LEOo


「面映いが私から説明しよう……実は、彼が私に一目惚れをしてくれたそうでね。
 なんというか、実に熱烈なアプローチを受けているところなんだ。
 いやいや、なかなか情熱的でね……正直なところ、グラっときてしまったよ」

「まったく、きくひこには困ったものかも」


 そうくると思ったよこの野郎!

 絶好調の木山とインデックスは無視する。大概にしろっつってんだろ!


「……ええっと、……そうなんですか鋼盾さん?
 その、言いにくいんですけど木山春生は、幻想御手の、その……」


 そして弱り切った顔の御坂さん超かわいい、おまえらもちょっとは見習え。


「違うからね御坂さん、それ嘘だから」


 とりあえずは誤解を解かねばなるまいと、鋼盾は言葉を紡ぐ。

 だが、既に鋼盾いじりになにやらハマっているふたりは止まらない。


「……そうだな、こんな起伏に乏しい身体の女に……きみが本気になるわけがない、か。
 遊びだったんだろう? 嘘にしたいなら構わないよ、都合のいい、ばかな女と笑ってくれ。
 ―――私は君からもらった言葉を抱いて、残りの人生を生きてゆこう」

「……女心を弄ぶなんて……ひどいんだよ、きくひこ。
 その子も騙すのかな、わたしをそうしたみたいに」


 ……一発ずつくらいブン殴っても許されるんじゃないだろうか、コレ。

 すんげえノリノリであるどうしてくれよう。


「そんな……鋼盾さん」


 そして御坂さんの視線が痛い。超痛い。もはや物理的に痛い、グサグサくる。

 うああ! なにこれ!? 一分前まで一発触発な感じだったじゃん! 空気読めよ!

 ……ああもう!!


「警備員用の口裏合わせだって言ってんだろ! 弄んでんのはそっちじゃねえかよ!
 ううう、なんだよそのチームワーク、さっきから! つーかアドリブうますぎだよ!」


 あとさっきも言ったけど! 大事なことなので何度でも言うけど!

 アンタ起伏に乏しくなんてありませんから!

 ありませんから!!

161 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/23(水) 12:19:44.19 ID:79dL4LEOo


「ふふ……冗談はさておき」


 鋼盾の狼狽にひとまず満足したのか、木山がようやく本題に入った。

 何事もなかったかのようなシリアス顔である、張り倒したい。


「……冗談? え?」


 状況に付いてこれず慌てる美琴。

 鋼盾は再度弁明を口にする。


「誓って冗談だよ、御坂さん。ぼくは無実だ。
 ……ったく、シリアスに行こうって言ってんのに」

「ふーんだ、きくひこの自業自得かも。
 わたしを“適当な理由”呼ばわりしたことは忘れないんだよ!」


 完全記憶能力者め、根に持ちやがって。

 ……いや、クールになれ、話を進めろ、と鋼盾は己に言い聞かせる。

 相も変わらず男一人である、分が悪い……助けて上条くん。


「彼とは顔見知りでね、今日はとある相談を受けていたところだ。
 ―――内容についてはプライバシーだからね、省かせてもらうよ」


 そんな鋼盾の内心とは裏腹に、木山の説明が続く。

 インデックスの脳に関して、専門家の意見を聞きたかった。

 ……そう、それが本題だったのだ。結局果たせなかったけど。

162 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/23(水) 12:21:14.60 ID:79dL4LEOo


「だが、花飾りの少女に私が犯人だと気づかれてしまってね……実はそれも彼の手柄なんだが。
 事情を話せと言われてしまったので、道すがら説明をしていたところさ。
 ああ、人質にするつもりはないから心配無用だよ」

「……鋼盾さん?」

「うん、その通りだね。こっちの子はぼくの連れだ。
 ……御坂さんは―――初春さんから連絡を受けて?」
 

 初春や黒子と縁深い彼女のことだ。

 おそらくはそのあたりから、今回の事件に関与することになったのだろう。


「いえ……使用者の脳波が木山春生のものだと風紀委員が気付いたんです。
 故に彼女を重要参考人として警備員が追っていたんですけど……この有様で」

「……なるほど、そっちからのアプローチか」

「ふむ、それは予想外だったな。
 ―――どうやら遅かれ早かれ私の企みは露見していたようだね」


 鋼盾や初春らとは、また違った方向からも捜査の手が伸びていたようだ。

 やはり学園都市の手は長い、警備員も風紀委員も大したものだ。


「そうだ…初春さんのこと、なにか聞いてる?」

「……はい、初春さんは既に警備員が確保してます。
 黒子が身柄を引き取りにいってますので、安心です」

「そっか、よかった」


 木山の研究室に置いてこざるを得なかった彼女。

 先ほどのアンインストールの時点でおそらくは大丈夫だろうと思っていたが、なによりである。

163 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/23(水) 12:26:06.26 ID:79dL4LEOo


「よかった、じゃないですよ。
 ……まったく、一般人なんですから危ないことに首を突っ込まないでください」

「……そのとおりだけどね、きみに言われるのは釈然としないな。
 きみだって一般人だろうに……白井さんに怒られるよ?」


 御坂美琴は一般人だ。

 たとえ超能力者であっても、それは変わらない。

 当り前の女の子である、風紀委員ではない。


 そんな鋼盾の物言いに、美琴の顔がなんとも言えず綻んだ。

 見てるほうがドギマギしてしまうような、柔らかな微笑である。
 

「……もう。わたしの事を一般人扱いするのなんて黒子と鋼盾さんくらいの……
 ―――ああ、アイツがいたっけ」


 アイツ、それが誰を指しているかなんて聞くまでもない。

 なんて甘やかにその代名詞を呟くのか。

 遠い目しやがって、乙女め。

 旗男め、人たらしめ。


「……ご心配ありがとうございます。
 でも、自分で言っておいてなんですが、一般人がどうこうなんて、どうでもいいんです」


 一瞬浮かべた甘やかな表情は既になく、

 強い強い意志を込めた眼差しがそこにあった。


「私は、私の意志と正義と矜持を以って動くと決めましたから。
 背負ったものに恥じぬ選択を―――鋼盾さん、あなたが示してくれた道です」


 決然と、その信念を語る美琴。

 内容など聞くまでもない。ここに居ることが、全てを物語っている。


「鋼盾さんがどんな結論を出したかは知りませんけど。
 ―――私は木山春生を許せません。邪魔はしないで下さい」

「……しないさ。しないしできないししたくない。
 どうやら、ぼくにはその資格がないようだからね」

「私はそうは思いませんけど……でも、鋼盾さんがそういうならそうなんでしょうね。
 ―――ならば、私は私の思うがままに行動します」


 そう言って、くるりと反転


「木山春生」

「……なんだい? 超電磁砲」


 御坂美琴は木山に向き直ると、宣戦を開始した

164 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/23(水) 12:30:22.02 ID:79dL4LEOo


「私は、許さない。
 佐天さんを追い込んだアンタを許さない」


 佐天涙子

 無力感に囚われ、追いつめられてしまった彼女を、お前は誑かした


「初春さんを泣かせ、裏切ったアンタを許さない」


 初春飾利

 いつだって一生懸命に他者の為に走る彼女を、お前は裏切った


「黒子にあんな顔をさせたアンタを許さない」

 
 白井黒子

 まっすぐ職務に忠実、責任感の強い健気な彼女を、お前は嘲笑った


「この街の学生を、身勝手な願いで利用したアンタを
 ―――――私は絶対に許しはしないわ」


 許さぬ、と

 御坂美琴が静かに不赦を謳い上げる


 抑えきれぬ感情の余波か、バチバチと彼女の周囲で白雷が弾け散る。

 それだけで並の電撃使いを凌駕しかねない威容。


 すう、とその右手が持ち上げられる

 その指先で弄ばれるのは何の変哲もないコインが

 鈴と、澄んだ音を立てて真上へと高く高く弾き上げられて


「……挨拶がわりよ、目に焼き付けなさい」


 超能力者が犬歯を剥き出しに

 声には依らぬ咆哮を放った

165 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/23(水) 12:31:13.47 ID:79dL4LEOo


 コイントスの結果が出ることはない。

 裏も表もないその一閃が、真上に向かって放たれた。


 光の奔流

 遅れて轟音


「邪魔するものは叩いて潰す――だったかしら
 ならばアンタが叩き潰されても文句はないわよね?」


 天を穿つ逆雷鉾、あるいは神話に名高い雷神の鉄槌が如き一撃。

 不埒者を尽く打ち払い焼き払い薙ぎ払う、そんな一撃。


 まさに雷鳴

 まさに雷明

 まさに雷名

166 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/23(水) 12:32:16.53 ID:79dL4LEOo


「超電磁砲、御坂美琴。
 ―――私が、この街の第三位が相手になるわ」


 碧天に向かって放たれた龍勢は、彼女の代名詞たる一撃。

 先ほどまで周囲を覆っていた紫電など小枝に過ぎぬ小技と知れ。

 威容を誇る大樹の如くに天を穿つ橙色の逆雷こそが、彼女の必殺。


“超電磁砲”


 それは高らかに放たれた開戦の鏑矢。

 それは誇り高き電撃姫が名告。


「かかってきなさい、木山春生。
 ――事情は警備員の詰所ででも聞いてあげるわよ」

 
 ああ、この子は、望めばきっと誰のヒロインにでもなれるだろう。

 しかしその少女は、そんな椅子を微笑みながら蹴り飛ばす。

 
 外連たっぷり威風ばっちり。

 テーマソングが鳴り響かぬことがいっそ不思議なくらいに堂々と。


 まるでヒーローのように、御坂美琴が笑った。




――――――――
167 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/23(水) 12:33:17.49 ID:79dL4LEOo


 自分はやはり脇役だ。

 鋼盾はやれやれと笑みを浮かべながら、美琴のその背を眺める。

 いつか口にした、己の言葉を思い出す。


“でも、それでも身勝手な願いを口にできるなら
 御坂さん、ぼくはきみに胸を張っていて欲しい、俯いていて欲しくない、誇りに感じていて欲しい。
 おためごかしも慰めの言葉もいらない、真っ直ぐ立っていてくれればそれでいい”

 
 ああ、その背中だ。

 鋼盾掬彦が妬み、嫉み、そして憧れたその姿。

 それでこそ、超電磁砲だ。


 先日、風紀委員第一七七支部で、彼女に鋼盾が押し付けた身勝手な願い。

 それをどこまでも完璧に、彼女は体現してくれている。


 胸を張り

 前を見据え

 誇り高く

 真っ直ぐに

 御坂美琴が立っている


 この街の象徴たる彼女が

 どこまでも凛然と揺るぎなく

168 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/23(水) 12:36:39.93 ID:79dL4LEOo


 さあ、目に焼き付けろ

 あれこそが御坂美琴だ

 学園都市第三位、超電磁砲

 名門常盤台中学校のエース

 最強無敵の電撃姫だ


「……ふおお、なんかすごくかっこいいかも」


 インデックスが、興奮を隠さずに呟く。

 未だ眼に焼き付いている光の奔流に瞳を輝かせている。


 鋼盾も超電磁砲をみるのはこれが初めてである。

 超能力者……この街の頂点、その頂きはこれほどにまで高い。


 なんて妬ましい

 なんて羨ましい

 なんて


「かっこいいね。……ほんとうに、かっこいい」


 まったく、千両役者め。

 ぼくらなんて、あっというまに蚊帳の外だ

 だが見ていろ超能力者、いつかきっとその背を追い抜いてやる

169 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/23(水) 12:40:33.48 ID:79dL4LEOo


「きくひこ、あの子の知り合いなんだよね?」

「……ああ、よーく知ってる。
 彼女は御坂美琴さん、ぼくや上条くんの友達で、

 ―――この街で、一番強い女の子だよ」


 数多くの異名を持つ彼女であるが、御坂美琴を指すに、それ以外の言葉は必要ない。

 それを聞いたインデックスは、心配そうに眉根を寄せる。

 そしてポツリと、ことばを転がした。


「はるみは……あの子と戦うんだよね、目的のために」

「そうだね、彼女もまた揺らがない……ふたりとも、強いひとだ。
 ―――ぼくらも、あんな風にならなきゃいけない。能力云々じゃなくてね」

「……うん」


 昨夜、ふたりで誓ったことがある。

 己の意志、エゴを貫ける強さが、それには必要だった。

 ……だが、それ以上に無事に帰ることが、大切だ。


「ここじゃ危険だ――少し距離を取ろう。
 場所の判断はきみに任せる……お願いできるかな?」

「! うん! こっちなんだよきくひこ!」


 駆け出す少女の後を追い、鋼盾も走りだす。

 インデックスならば、ベストな位置取りを見出してくれるだろう。

170 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/23(水) 12:41:39.28 ID:79dL4LEOo


 鋼盾とインデックスの離脱。

 ソレを合図に、ふたりの女の間を無数の超常が埋め尽くす。


 電撃、火炎、水弾、鎌鼬、砂鉄剣、閃光、電熱、石礫、氷塊、建材、瓦礫。

 互いの万能性を競うかのように、ありとあらゆるものがぶつかり合う。


 名実ともに学園都市最強の女子、御坂美琴

 対するは万脳を統べる執念の科学者、木山春生


 超能力者(レベル5)と多才能力者(マルチスキル)

 誰も見たことのないそんな戦いの火蓋が、切って落とされた


171 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/23(水) 12:45:00.45 ID:79dL4LEOo







――――――――――――――


というわけで、超電磁砲はハッタリ……否、鏑矢号砲です
幽助VS酎のアレですね。流石に人に向けては撃ちませんでした。

鋼盾に道を示され願われ、超能力者たる覚悟を固めた御坂さん。
超電磁砲の主人公たる彼女……かっこよくかわいく書いてあげたいです。
カッコカワイイ宣言!

幻想御手編なげー!
上手いこと本編ともリンクさせてゆくつもりですので、どうぞお付き合い下さい!

んじゃまた!

172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [sage]:2011/11/23(水) 18:58:38.67 ID:G+VdVsjAO
>>1乙!今拝見!休憩なんて無かったんや!

イヤッホーイ!美琴ちゃんマジヒロイン!
可愛いだけでもかっこいいだけでなく両方が同時に並び立つのは美琴ちゃんだわ。
それにしてもこのスレの美琴ちゃんは常識的で良いなぁ。アニレーしか見てない人のはエキセントリックな部分が強すぎてね…




まあこのスレでヒロイン一番は誘波タンに決まってるけどね!
173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(不明なsoftbank) :2011/11/23(水) 20:21:25.96 ID:g/K57k7Fo
うおお来てた!乙!
いらんツンデレのない肩の力の抜けた美琴さんマジいい女
そして美琴に木山先生、どっちも煽りまくったコウやんマジぱねえっす
174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(不明なsoftbank) :2011/11/23(水) 20:28:03.26 ID:g/K57k7Fo
ごめんageちゃった
sorry
175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/23(水) 21:29:47.03 ID:Z5aD95vS0


しかし美琴かっけえな
そして鋼盾をからかいまくる木山せんせいがツボ過ぎるぜー

あと出番を奪われた初春に合掌!
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/23(水) 21:50:29.41 ID:1JTmgdvW0
>>173
お前は今、全国のツンデレ好きを敵に回した


しかし、確かに素直美琴はイイネ
いちおつっ!
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/23(水) 22:06:10.78 ID:EYhnrP6AO
乙!
ここの美琴はきっと上条さんを落としうる!
でもコウやんに傾いているようにも見えるぜ!

コウやんに頼られて嬉しげなインデックスさんキュート
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(岩手県) [sage]:2011/11/23(水) 23:19:25.76 ID:d5YqSFmu0
っべー マジっべーわ
えー超電磁砲とかどこ情報よー
……カッコカワイイ宣言なんていうから、はるみんもコウやんもインさんもミコっちゃんも、全員地獄のミサワ絵で脳内に!(吐血)
しかも消えてくれねぇよチクショウ!

シリアスパートのはずなのにコウやんいじるのやめない木山せんせいマジどSですな、俺も可愛がって欲しい

心に余裕できてヒーローとなった美琴マジかっけー
そしてなにげに、コウやんが女心をもてあそんだとか言われてるのを信じちゃうあたり、美琴目線のコウやんのランクは高いことになってそうだ。
気付いたらハードルガン上げされててコウやんプレッシャーで(内心で)わめきそうww

>>173
てめぇ、ルイズだの大河だのの、ツンデレのツンデレたる魂を履き違えてるやつらの『ツンデレもどき』はともかく、美琴のツンデレをいらんだと?
たしかにツンツンしてなかったら即ヒロイン化だったろうがそしたら原作本編始まりすらしねぇww
しょうがねぇんだよあのツンデレは
気になる相手に、気恥ずかしくて素直になれずつい内心とは別のアプローチしちゃうんだ
発育の気になる同級生の女の子に、つい「デ〜ブ!」とか言っちゃうバカな男子小学生みたいなもんだよ

……小学低学年ですでに男女の性差について理解し軽いフェミニスト、高学年ではすでに枯れた男女観をもってた俺には、呆れるばかりの行動だったが
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(兵庫県) [sage]:2011/11/23(水) 23:28:03.33 ID:648aPQtgo
ここの木山先生は場を支配しすぎだろww
恐ろしい女系ヒエラルキーだぜ。
180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/24(木) 00:03:00.88 ID:D6FKeBl6o
>>1乙!
思わず「Only My Railgun」聴きながら読んだよw

美琴がかっこいいのは当然だけど、こうも素直だと原作とは違うキャラのような気高さ、凛々しさ…、ある意味美琴っぽくないかも
ちょっと達観しすぎの気もするけど、鋼盾くんの影響が色濃くでるとこうなるのは自然だと思う

それにしても鋼盾くん男前だね
ヒロイン達にいじられる姿は、もう立派な主役ですね

『禁書』と『超電磁砲』の二つの物語を紡ぐ語り部に鋼盾くんを持ってきた書き手のセンスは、マジ秀逸です!

今後も期待してます!!
181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [sage]:2011/11/24(木) 00:11:09.41 ID:FiYlm5aAO
鋼盾「僕が日村勇紀に似てるって、いつから気づいてた?」
182 : ◆FzAyW.Rdbg [sage]:2011/11/24(木) 00:36:18.92 ID:queqUZZOo
鋼盾「ぼくだって……!
    好きで日村勇紀に激似なわけじゃねぇよ!」
183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(不明なsoftbank) [sage]:2011/11/24(木) 13:04:05.89 ID:fAnShH3bo
禁書「わたしがイカ娘に似てるって、いつから気づいてたのかな?」

乙ー!

確かにみこっちゃんの雰囲気違うけど、これはアリと思わせる出来。
そもそも根底は変わってないよきっと、上条さんが絡めばいつもどおりだよ。





絶対能力真価実験が楽しみです。
184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/24(木) 21:11:37.81 ID:2wFkarqUo
>>178
ルイズと大河と美琴を並べて書いている時点で浅いねぇ…どれも全部別系統だろ。
最初の方の巻しか読んでねえだろ?
185 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/25(金) 02:22:53.27 ID:FGPX5osTo
これだから読むの止められねえんだよなあ
186 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage saga]:2011/11/25(金) 13:33:16.26 ID:Mk8P7Dch0
やめられないとまらない♪
187 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/25(金) 20:49:20.16 ID:Yetowasto
来週火水木金急遽代打沖縄出張が決まったため、仕事の調整で死にそうな>>1でござる
沖縄だ! わーい! 無茶言うな! 準備で土日潰れるわ!

つーわけで今日のうちに更新します
遅くなるかもだけど、決意のage!



188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [sage]:2011/11/25(金) 21:58:06.93 ID:zW/d64Qmo
沖縄…海…水着…

…水着っていいよね、冬だけど
189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [sage]:2011/11/25(金) 22:08:03.55 ID:C3lYzyKAO
ソーキそば食いたい
190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(兵庫県) [sage]:2011/11/25(金) 22:21:03.63 ID:khejjvo4o
なんという無茶ぶり。
沖縄のほうはあったかいから帰ってきた時に気をつけるんだぜー。
空港から家までの間に風邪ひくやつが多いww
191 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/11/25(金) 22:28:38.46 ID:oMmdrK6U0
どうでもいいけど>>1のIDが何気にすごいな。
英字だけのIDは初めて見たかも。
192 : ◆FzAyW.Rdbg [sage]:2011/11/25(金) 23:15:29.29 ID:Yetowasto
どうもいい感じのIDな>>1です
せっかく英語だけなのでなんかアナグラムとかできねえかなとおもったけど思いつかない残念な>>1です

ところで勘違いしている奴も多いが、ツンデレってのは様式美じゃねえんだ
ツンデレの真髄はツンもデレも超えたところにあるんだよ、ってウチの母が言ってた
その言葉をこれからの学校生活に活かしていきたいと思います(作文)

ともあれ美琴さんが別人に見えたなら、それは>>1の未熟ゆえですたい
原作とはまた違った人間関係、惚れた腫れたではない互いの尊敬の念的な何やらを表現したかったのですが……難しいなー

あ、投下します
ゆっくり投下なので、あとでまとめて読むといいと思います


んでは!




―――――


193 : ◆FzAyW.Rdbg [sage]:2011/11/25(金) 23:17:45.74 ID:Yetowasto


 念動力(テレキネシス)による破片礫弾

 衝撃拡散(ショックアブソーバー)による防御障壁

 水流操作(ハイドロハンド)による水弾水刃

 火炎放射(ファイアスロアー)による炎熱炎壁

 空力使い(エアロハンド)による凱嵐鎌鼬

 身体強化(インナーブースト)による全身活性

 空間移動(テレポート)による遊撃翌離脱

 量子変速(シンクロトロン)による爆撃連鎖

 表層融解(フラックスコート)による搦手拘束


 木山春生が紡ぐ数々の能力について、鋼盾が判断出来たのはそのあたりまで。

 おそらくは透視能力(クレアボイアンス)、偏光能力(トリックアート)、視覚阻害(ダミーチェック)、

 読心能力(サイコメトリー)、予知能力(ファービジョン)等、外身からはわからぬ能力も用いていよう。

 御坂美琴の電撃を回避する避雷針めいた能力など、鋼盾の知らぬ能力もいくつもあった。

 更には複数の能力を組み合わせ、その威力を跳ね上げるような真似すら見せている。


 多彩に過ぎる木山の能力使用はまさに能力の見本市。

 多才能力とは言い得て妙である。


 これほど間断なく能力を使用して、しかし彼女は未だ息切れのひとつも見せない。

 幻想御手のマシンパワー故か、それとも回復系の能力でも用いているのか。

 肉体再生(オートリバース)なら傷を癒せるし、精神系の能力で疲労を“忘れる”こともできる。

 それどころか脳内麻薬をドバドバにできるような能力もあった筈だ。


 今の彼女はまさに大能力者の一群である。

 先の警備員戦も圧巻だったが、それすら超えて凄まじい。

194 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/25(金) 23:20:29.64 ID:Yetowasto


 木山春生と御坂美琴。

 ふたりの戦いは既に高架を破壊し尽くし、空中戦を挟みつつ今は地上にて行われている。

 鋼盾とインデックスは一定の距離と遮蔽物を挟みつつ、彼女らを追っていた。


 多才能力者と超能力者が織り成す一大スペクタル。

 しばしそれに見蕩れ、言葉を失っていたふたりはようやくその口を開いた。


「……メイヴじゃないな、あれは――スカアハだね」

「スカアハ……呪術と武芸に秀でた影の国の女王―――むむ、ぴったりかも。
 ……でもどうしてメイヴなのかな?」


 財宝自慢の戦好きには見えないんだよ、とインデックスは首を傾げる。

 確かに、そんなものとは無縁のひとだろう。

 立場もキャリアも時間も富も名誉も未来すらも、目的のためにすべてを放り捨てたようなひとだ。


「仇名だよ。さっきの車、猛牛(ランボルギーニ)を駆る“コナハトの女王”ってね。
 ―――ああ、そういやメイヴは結局牛を得てないんだっけか」


 となると的はずれな仇名だった訳だ。

 走り屋どもめ……まあ、語感がかっこ良ければそれでよかったのだろう。


「ドン・クアルンゲを勝ち取ったメイヴ、って解釈もできるかも
 あるいはフィンドヴェナハをアリルから奪い取ったのかな?
 ―――うん、でもスカアハのほうがお似合いなんだよ」


 そうつぶやくと、インデックスは木山に向けていた目を鋼盾へと向けた。

 正確にはその胸ポケットに……もっと言えばその中身にだ。


「スカアハはね、きくひこ。ク・ホリンに魔槍ゲイボルグを授けた女神でもあるの」
 だから、きくひこのもらったそれはゲイボルグなのかも」

「……ぼくがク・ホリンはないだろう、似合わなすぎだよ。
 蜘蛛の巣を破るのに神さまの槍なんか必要ない……竹箒で十分だ」


 なによりこれは、眠りを覚ます魔法の歌である。

 ミューズとかアポロンとかの持ち物だろう。

195 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/25(金) 23:22:36.53 ID:Yetowasto


「むう……はるみがスカアハなら……みことはオイフェかな?
 ……オイフェはク・ホリンに負けて、子どもを産まされるんだけどね……」

「なんだよその目は……突っ込まねえからな。
 御坂さんなら……うーん、やっぱ雷だし…トール?」

「……ぴったりといえばぴったりだけど……トールは男神かも」


 ひげもじゃむきむきなんだよ、とインデックスは苦笑い。

 むむ、それは確かに頂けない、と鋼盾は他の候補を挙げる。


「ならジュピター」

「それも男神……常識なんだよ!」

「んん、ユ―ピテル…とか?」

「……それはジュピターの異読、ちなみにゼウスとも同一視されてるんだよ」


 ……まいった、うろ覚えで神話など語るものではない。

 そう言えば、魔術は神話や伝承を利用したものも多いと彼女に聞いたことがある。

 それでなくとも西洋圏の人間、まさに常識なのだろう。


 まったくきくひこは、とちょっと得意げなインデックスである。

 自分にアドバンテージがあり、且つ鋼盾や上条がついてこれるこの手の話題を、彼女はとても好む。

 基本的に饒舌な子なのだ、熱くなりすぎるとトンデモ集中講義になるけど、延々と語り始めて止まらないけど。


 まあ、この子が楽しそうなら――付き合うのは吝かではない。

 んじゃ、インデックス先生、質問です。


196 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/25(金) 23:23:31.61 ID:Yetowasto


「うーん、雷神って女性神いないの?」

「いないこともないけど……そもそも雷は男性的なイメージが強いんだよ。
 建御雷神、インドラ、九天応元雷声普化天尊、菅原道真公……有名所はいずれも男神だね。
 さっき話にでたゲイボルグも“雷の投擲”だから悪くはないけど槍――貫く物だもん……やっぱり男性的かも」

「……成程。確かにそうだね」


 ぶち撒ける雷、対象を穿ち貫く槍、それらは男性の象徴らしい。

 ……そこはかとなくエロくね? と思ってしまう己はきっと心が汚れているのだろう。

 そんなことをおくびにも出さず、鋼盾はインデックスに同意する。


 会話を交わしながらも視線の先では閃光、轟音、粉塵。

 美琴の意のままに龍のように蛇のように雷が踊っている。


 眩しく輝き、激しく響く、溢れんばかりに迸る。

 雷が男性的と評される理由がよくわかる、エロス云々は置いといて、だ。


「まあ、確かにいまのあの子を女性的とはとても言えないだろうね。
 ――――でも、恐いくらい綺麗だ」

「そうだね。
 ……あの子はわたしのイメージだと、サンダーバード、かも。
 気高き白雷翼のやさしい大鷲、ネイティブアメリカンが信仰した精霊なんだよ」


 鋼盾の脳裏に美しい神鳥のイメージが広がった。

 風と遊び、地を見据え、翼を広げ、天を往く

 心優しい雷鷲神


「へぇ―――ぴったりだ」


 そういえば先の木山との会話で、能力者を鳥に喩えたりもした。

 超能力者たる彼女には、神話の鳥神が殊の外よく似合うのも当然か。

 ……THUNDERBIRDをTHUNDEREBIRDと読んだとかいう小咄についてはノーコメントだ。

197 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/25(金) 23:51:49.23 ID:Yetowasto


「対する木山先生は、蜘蛛とか蛇とか言ってたけど。
 ―――ちょっとイメージが悪いかな」

「そうでもないかも。蛇を忌み嫌う例は十字教をはじめ枚挙に暇がないけど、逆も然り。
 その生命力の強さや繰り返される脱皮に神性を見出すこともある。蛇神信仰は世界中にあるし……
 ウロボロスの蛇とか、きくひこは見たことない?」

「尻尾を喰らう蛇だっけ、錬金術とかそのへんの」


 漫画かなにかで、見たことがある。

 己の尾を食む、蛇の円環……たしか、そんな感じだったはずだ。


「そ。死と再生、循環は永続、始原にして無限、すなわち永遠……蛇はけして、不吉なだけの存在じゃないんだよ。
 蜘蛛だってそう、罠を張る卑怯な捕食者と見る人もいれば、見事な巣を紡ぐ芸術家と見る人もいるの。
 蜘蛛を吉兆と見る文化だってあるしね、そもそもあれ、益虫なんだよ」
 
「そっか、反省」

「蛙の顔をした神様だっているんだよ。
 そもそもこの国じゃ、無機物にすら神様が宿る―――この都市は否定するかもだけど」


 科学の街、学園都市。

 たしかに此処では、そのようなオカルトが話題にのぼることは少ない。
 

「ん、どうしてもこの都市じゃ、そういうのに鈍くなっちゃうな。
 だから、きみの話はとても面白いよ、インデックス」

「うん、こんな話でいいなら、いくらだって聞かせてあげるんだよ!」


 インデックスが笑う。

 この子が蓄えた知識は、なにも毒々しい魔道書ばかりではない。

 ―――禁書目録などという名で、この子を呼ぶな。

 そんなものがなくとも、この子は―――――

198 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/26(土) 00:02:33.50 ID:PB7F7QQOo


 ああ、また思考がそちらへ行ってしまった。

 インデックスが笑うほど、その笑顔を奪わんとするものへの怒りが胸を焦がすのを、鋼盾は止められない。

 
 だが、それを表に出すべきではない。

 その熱は、胸のうちに蓄えておけ。


「……きくひこ?」


 インデックスが、小首をかしげ話しかけてくる。

 自戒自戒。


「―――ああ、ごめん。ちょっと考えてたんだ。
 ……ねえ、インデックス。きみを喩えるならなんだろうね」

「ふぇ!? わ、わかんないんだよ!」


 途端に慌てふためくインデックス。

 予想外の質問だたのだろう、軽くパニックらしい。


「おや、博覧強記のインデックスさんともあろうひとが」

「だ、だって! ……自分で自分をなんてハードル高すぎかも!」


 なるほど、確かに難しいだろう。

 まあ、本日散々からかってくれたお礼返しだ、受け取るがいい。


「自己ピーアールのできない子はこのご時世、生き辛いみたいだよ」

「うう……そんなこと言ったってぇ……ってきくひこ! なに笑ってるのかな!
 ばかにして!……ひどいんだよ!」


 むくれるインデックス。

 反省反省。

 さて、インデックスに相応しいのは……これしかあるまい。



「はは、ごめんごめん。
 ……そうだね、ぼくが喩えるなら、きみは――――」




―――――

199 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/26(土) 00:03:57.83 ID:PB7F7QQOo


 ――さて、なぜ鋼盾とインデックスがのんきに雑談に興じているのかというと。

 ぶっちゃけ、やることがなかった。

 ほんとに。


 次元の違う戦いに手など出せるわけがないし、出すつもりもない。

 なによりこの戦い、木山が勝っても美琴が勝っても、どちらでも変わらない。

 どちらでも、かまわない。


 木山春生が勝てば、鋼盾は彼女を見送る。

 もとより止めるつもりはない、子どもたちを救いにゆけばいいのだ。


 木山にチップを返して、それで終わりになるだろう。

 彼女は目的を達成すれば自首をすると言っていた……ならばそれを待てばいい。

 そのうち「謎の昏倒事件の被害者恢復」のニュースが流れる筈だ。


 仮に木山春生の身に何かあったり、あるいは我が身可愛いさに逃亡を図ったとしてもコピーは鋼盾の手にある。

 パスワードを開くのに時間がかかった、とでも言って、何食わぬ顔で初春にでも渡せばいい。

 まあ、その前にこの街がどうにかしてしまうかも知れないが。

 
200 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/26(土) 00:07:23.12 ID:PB7F7QQOo


 そして御坂美琴が勝てば、鋼盾は「巻き込まれた一般人」を演じるだけだ。

 例の「一目惚れ」でもいいし、木山に渡されたチップを解読したら幻想御手絡みのものがでてきたので問い詰めにいった正義漢、でもいい。


 手にある解除プログラム、“ImaginE BreakeR”を風紀委員あるいは警備員に渡せばOK、万事解決だ。

 インデックスのことを誤魔化しきれるかは賭けだが……警備員はあの子を捕捉しただろうか。

 木山の幻術だったことにはできないかなあ、無理かなあ。


 ダブルノックダウンの場合は……先に起き上がったほうになるのか。

 応援が駆けつければ、美琴の勝利だろうか。

201 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/26(土) 00:08:35.27 ID:PB7F7QQOo


 鋼盾はこの物語において、やはり端役に過ぎない。

 木山春生は鋼盾を主人公と言ったが、それもこのとおり的外れ。


 主人公は御坂美琴、敵役は木山春生。

 あるいは主人公が木山春生で、敵役が御坂美琴。


 とある科学の超電磁砲か。

 とある科学の多才能力者か。


 勝ったほうが主役、そうなるだろう。

 否、負けたとしても彼女らの主人公性は損なわれなどしない。


 そしていずれにせよ、鋼盾掬彦は端役である。


 当人たちにとっては最終決戦だろうが、鋼盾としては消化試合に近い。

 どうでもいいのではない、どちらでもいいのである。


 責任逃れをするつもりはない、痛ましいほどに心底真面目に、そう思うのだ。

 こうしている間も、キリキリと胃が悲鳴を上げている。

 だが、眼を背けることは許されない。

 彼女らの戦いを、見届けねばならない。


 ―――それしか、できない。

202 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/26(土) 00:09:31.38 ID:PB7F7QQOo


 どちらかに肩入れするには、己は双方の事情に通じ過ぎてしまった。

 その弱さや痛みに触れ、その強さと気高さに触れた――彼女たちの熱に、自分はあっけなく絆されてしまった。

 その上無責任に焚き付けさえした、煽りまくった。


 真っ直ぐ立ってろ、と御坂美琴に。

 取り戻してみせろ、と木山春生に。


 そんな鋼盾に、彼女たちは笑ってみせてくれた。

 そしていま、彼女らはそれを体現している。


 超能力者として、超電磁砲として、御坂美琴として、その名に恥じぬ選択を。

 友人たちを苦しめ、この街を馬鹿にしきった不埒者を許さぬと紫電を纏う気高き少女。


 止まらない、諦めない、理不尽な結末など許さない。

 生徒を救う、その目的のためにすべてを犠牲にし、なにもかもを巻き込んで邁進する強い女性。


 どちらも、気高く強く美しく―――いっそ愛おしくすら、あった。

  
203 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/26(土) 00:10:28.18 ID:PB7F7QQOo


 ああもう。

 どちらかの味方になれれば、楽だろうに。

 どちらの味方でもあると嘯ければ、楽だろうに。


 実に中途半端なスタンスで、特等席に座ってしまった己。

 しかし隣には別の少女、そして心には別の女性。


 なんとも不実な話だ、場違いにも程がある。

 だが、なんの因果か、己はここに居る。


 正誤の判断など、出来ようはずもない。

 勝者を称え、敗者を慰めることも出来る気がしない。


 なんという、半端者だろう。

 ――あるいは、そんな己こそ見届け役にふさわしいのか。

 そんなわけも、あるまいに。


 またも閃光、轟音、爆撃、噴煙、衝撃波

 木山が手数で攻めれば、美琴はそれを尽く撃ち落とす。

 美琴が出力を跳ね上げれば、木山がそれを削り尽くす。


 まさに一進一退。

 綿密な打ち合わせの末に紡がれた殺陣が如きその舞踏は、しかし八百長なしのガチンコ勝負。

 まったく、暫くはアクション映画など見れたものではない。


 せめてどちらかが致命的な傷を負ったりせぬように、祈る。

 祈る神など知らぬままに、それでも。


204 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/26(土) 00:24:54.23 ID:PB7F7QQOo


 ……そして、永遠に続くとも思えた攻防も、終わりを迎える。

 隙とも言えぬ僅かな揺らぎを、雷姫が捉えた。

 御坂美琴が木山春生を、捕えた。


「! ゼロ距離」

「……ああ、距離を置けば避雷針の餌食なら」


 雷光

 轟音

 決着


 雷精鳥の羽に抱かれ、復讐の蛇がのたうち回る。

 抱擁が如き接触状態からの放電を受け、木山春生の身体がガクガクと揺れた。

 ひとたまりも、あるまい。
 

「……直接体に電気を流しこんでやればいい、か。
 言うのは簡単だけど、よくやったもんだね」

「はるみの、負けなのかな……」

「……ああ、御坂さんの勝ち……いや―――え?」


 電撃を浴びた木山の身体が、しかしそれ以外の何かで、再び揺れた。

 異常な痙攣、絶叫、頭を抱え蹲る木山の周囲に、なにやら異様な気配が生じる。

 鋼盾がその異変を見極めんと、眼を凝らした瞬間、


 倒れ伏した木山から、“それ”は産まれた。

205 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/26(土) 00:37:58.13 ID:PB7F7QQOo


「…………は?」

「…………なに、あれ……?」


 鋼盾もインデックスも、わけがわからなかった。

 わけがわからぬまま、それを見つめることしかできなかった。


 それは胎児のような姿をした異形、そう、異形としか言えぬ何か。

 小さな手足を曲げ、大きな頭に赤い目を光らせる半透明の存在。

 その頭上には投げ輪のような光輪。


 冒涜、という言葉が脳裏に浮かんだ。

 この世全ての生物を嘲笑うかのような、根源的な忌避を感じる。


 閉じていた眼が開く。

 その人ならぬ凶眼に、一瞬木山のそれを思い出すも、すぐさまソレを否定する。

 そこに理知の艶はなく、覚悟の静謐はなく、意志の熱はなかった。


 いうなれば虚。

 底が深いのか澱みきっているのか、あるいはその両方か。

 濁り切った歪が、キロリとこちらを向いて――――眼が、合った。

 生まれ落ちたソレが、真っ先に眼を向けたのは―――――

206 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/26(土) 00:46:18.74 ID:PB7F7QQOo


 おそらくはその発生源であろう木山春生ではなく

 その木山春生を打ち破った超電磁砲・御坂美琴ではなく

 この場でもっとも常識外の存在である禁書目録ではなく


 無能力者で

 何の力もない

 端役に過ぎぬ筈の

 取るに足らぬ筈の


 鋼盾掬彦に、その歪虚闇眼が向けられた

 どうしようもなく、真っ直ぐに



“キィイィアァアアアァアアァァアァアアアアアァ!!!”



 そして、耳を劈く凶音

 咆哮というよりは悲鳴

 産声と言うよりは絶叫


 非人間的なその音には、しかしどうしようもなく心を揺さぶる響きがあった

 共感覚性に作用する音――幻想御手の根幹にあるそれが、あるいはソレにも宿っていたのかも知れない


 “LeveL UppeR”には聴いた者の脳波を木山春生のソレに同調させる作用があるという

 “ImaginE BreakeR”にはそれを解除する作用があるという


 ならば、この異質な音には、どのような作用があるのか?

 その答えを、鋼盾掬彦はその身を以って、知ることとなる

207 : ◆FzAyW.Rdbg [!red_res]:2011/11/26(土) 00:50:04.96 ID:PB7F7QQOo





  ―――――ドクン




208 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/26(土) 00:54:42.13 ID:PB7F7QQOo


 心臓が、大きく跳ね上がった

 視界が、暗転した

 虚の闇と、繋がった



 万の妄念が、彼を襲った

 万の絶望が、彼を呑み込んだ

 万の亡者が、彼に追い縋った



 幻想の御手が、鋼盾掬彦を囚えた

 かつてそれに縋ろうとし、しかしそれを乗り越え否定した少年を、囚えた




209 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/26(土) 00:57:30.81 ID:PB7F7QQOo





――――――――――



投下に時間掛かり過ぎワロタ
いろいろ即興です、リアルタイムで追ってくれたひともしいたらゴメンよ!

つうわけで、こんなんなりました!
木山対美琴のガチバトルを期待された皆様、申し訳ありません

ほら、このSS、“とある端役の禁書再編”ですけん
主人公どもは、なんというかこんな感じです……上条さんの呪いじゃー!
……あれー? まともなバトル、もしかして黒子対トリックしかやってなくね? あれー?
>>1がバトル書けねえだけじゃね?

それは置いといて、神話とかの辺りは超適当です
おまえらがツンデレ足りねえいうので、みこっちゃんをツンデレバードにしてみました
女性神の雷神がいたらどうしよう……ツッコミ歓迎です

次回は来週末になりそうでしょうか
沖縄でネタ練ってくるぜ畜生!
210 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/11/26(土) 00:59:18.74 ID:PB7F7QQOo


ここで唐突に読者への挑戦状!

>>198で鋼盾がインデックスを何に喩えたか、当ててみてください!
ふふふ、わかるかなー、わっかんねーだろーなー
いひひ、この会話がラストシーンへの遠大な伏線なのだぜ?

……勿論嘘です。ぶっちゃけ>>1はなにも考えておりません、おまえらが頼りだ!
よかったらインさんになんかいいの考えてあげて下さい

んじゃ、沖縄行きの準備します!
さらば!

211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/26(土) 01:29:42.04 ID:FvkDuCJyP
暴食のベルゼブブ一択
212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(大分県) [sage]:2011/11/26(土) 02:44:50.75 ID:beYqm/mB0
>>211屋上な。
213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/26(土) 05:24:12.15 ID:LZOxjnCp0
>>1
沖縄は美味しい食べ物がいっぱいなんだよ……焼きテビチにミミガーの刺身、寒くなるとゆし豆腐も!
A&Wでルート・ビア飲みながらじっくりプロットを練って来てね!!

木山先生は鬼子母神、異論は認めません!!!
インデックスは文殊菩薩?
214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(愛知県) [sage]:2011/11/26(土) 08:40:46.01 ID:0Jq2BVb/0
コウやんどうなっちゃうんだ
幻想御手再構成でこうなる展開はみたことないので期待

インデックスはあれだ
白くてふわふわしてるし、逃げることが得意だし、
仲間といるのを好むし、食欲旺盛だし、「羊」じゃないだろうか
魔法名にもある通り十字教だと羊って敬虔な信徒のことだしな
215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/26(土) 09:15:56.01 ID:el5/wp+Ko
>>211
で出てた

216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [sage]:2011/11/26(土) 11:11:11.01 ID:0XQw89qAO
乙 !
ここのインデックスは暴食ではなく健啖というイメージ

えげれす版座敷童子ですかね
217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(不明なsoftbank) [sage]:2011/11/26(土) 14:00:37.37 ID:w5tYm7gHo
こうやんはゲイボルクよりローアイアスだな
インデックスは……図書館猫(Library Cats)でいかが?

218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/26(土) 14:14:21.26 ID:Ozb1n9xDO
おつおつ
インさんはヴァルキュリアっぽい気もしたけどあれって戦の神様だっけ?
219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [sage]:2011/11/26(土) 22:51:03.40 ID:0XQw89qAO
戦慄のビキニアーマーじゃね? 禁書のヴァルキリーは
220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(福岡県) [sage]:2011/11/27(日) 03:17:19.54 ID:Eryxk1IKo
なぜか羊より鹿のイメージが湧いたな

雪の中で堂々立つ
立派な角の鹿

オスじゃんw
221 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [sage]:2011/11/27(日) 10:01:32.85 ID:IonmwZ+AO
インさんテディベア…
222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/27(日) 10:25:56.94 ID:vmZO9h0AO
妖怪食っちゃ寝……
223 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/27(日) 11:37:33.01 ID:5+eeUuUp0
イカのイメージ
224 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/27(日) 11:59:33.95 ID:kgjMwJwY0
>>221 >>222 >>223
屋上にいこうぜ……久しぶりに……キレちまったよ……
225 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/27(日) 18:29:14.69 ID:1ggFadRyo

:::::::::::::::屋 は こ            {::::::{
:::::::::::::::上 て の      _ ,−v   、::::::、
::::::::::::::::坂 し       _/rァ  ̄ヽn  ヽ::::::ヽ
::::::::::::::::を な     -こヽ__)ヽ へフ -‐':::::::::::}
:::::::::::::::::よ く   /::::::://, 7′:::::::::::::::::::::/
::::_n  : 遠   、:::::::::ー' //-‐  ば の よ オ
:::`ニl lニ  い   ヽ::::://\   か ぼ う  レ
::::`フ \:::::::::ヽ __ ノ:::ー':::::::::::::ヽ  り  り や は
/'´|_|`ニ_::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::l  だ は く
:::::::ノ'r三7/::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::} か じ
::::::::`フ, 匸/l::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/  ら め
:::::: ̄´::: ̄´:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/   な  た
226 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/27(日) 18:58:24.60 ID:eDedlJzFo
未完だと? >>225の野郎ッ!
なんて縁起の悪いAAを貼りやがるッ!!

それはそれとしてなんかいないのか、智慧の女神とか書物の妖精とか。
紙を食べるから山羊じゃあなー・・・・。
227 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/28(月) 00:07:26.09 ID:8sviKJuY0
キングボンビー
228 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/28(月) 00:12:28.77 ID:g6OQn7H0P
インデックスさん暴食から始まって素の強欲と怠惰に上条に対する嫉妬に憤怒に傲慢に
色欲以外の七つの大罪コンプリートじゃないですかーやだー
229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [sage]:2011/11/28(月) 00:16:33.82 ID:+Ko+z9eAO
逆に考えるんだ
色欲にまみれた淫デックスさんがすべてを帳消しにすると!
230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/28(月) 06:35:22.50 ID:t+OVyNtJ0
ほう……?
231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2011/11/28(月) 18:56:07.61 ID:03s0maN50
232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [sage]:2011/11/28(月) 19:54:46.70 ID:kBO/m4EAO
なんか屋上が一杯で入れないんだが…
233 : ◆FzAyW.Rdbg [sage]:2011/11/29(火) 05:03:31.82 ID:a7B2sCQ9o
みんなサンクス! 確実にネタ盛りだくさんだろうなと思ったら想像以上だったぜ! インさん……!
季節はずれの屋上ビヤガーデンで、お風邪など召されませんように……

こういう伏線とも呼べぬ伏線をいろいろ仕込んではあるんですが、回収できるか不安だぜー
むしろ何仕込んだつもりでいたのか思い出せないあたりが不安だぜー

ちょっと執筆時間がとれそうにないので次回更新に時間がかかりそうですが、あしからず
妄想する時間は取れそうなので、いろいろ決めかねている先の展開も、一度しっかり考えてみようと思います
 
んじゃ! 沖縄! 行ってきます! 眠い!
234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/29(火) 18:08:51.36 ID:TvdTu0KIO
ようこそ九州へ!
お土産はちんすこうでいいよ!
235 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(沖縄県) [sage]:2011/11/30(水) 21:54:08.80 ID:0+PoU9IGo
>>1です!
沖縄より愛を込めて




ぬるぽ
236 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(宮城県) [sage]:2011/11/30(水) 21:58:49.72 ID:NlA3lrXFo
>>235
ガッ
237 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/03(土) 14:23:38.10 ID:hLGGYhrIO
そろそろ帰ってきてるのかな?
238 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [sage]:2011/12/03(土) 15:00:33.38 ID:XqfGr0NAO
めんそーれ!
239 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/12/04(日) 01:07:30.65 ID:MpWxouhao
帰ってきたぜ! 本土寒くてワロタ
雨に降られたりで難儀でしたが、いろいろ満喫してきましたよ

いやー、更新したくてたまらんかったぜ!
まだ書き上がらんのですが、今日は投下してから寝るぜ! 目標一時間以内!

予告age!
240 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(愛知県) [sage]:2011/12/04(日) 01:14:37.96 ID:ccXTqAhX0
おかえり
舞ってたぞ
241 : ◆FzAyW.Rdbg [sage]:2011/12/04(日) 02:09:17.57 ID:MpWxouhao
へへへ……書き上がらねえでやんの
書きながら投下するぜ! 明日にでも読んで下さい




参ります



――――――――――
242 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/04(日) 02:14:05.03 ID:MpWxouhao


 レッドアウト、グレイアウト、ブラックアウト

 そして、ホワイトアウト


 鋼盾掬彦が体験したものは、いうなればそういったものであった

 矮小な自我を擂り潰し押し流す、圧倒的な奔流だった

 

 木山春生から産まれた、その異形。

 ひとにあらざる、不気味なかたまり。


 その歪な瞳と目が合って、その歪な悲鳴を耳にして。

 心臓が軋むように鼓動を跳ね上げた刹那、鋼盾の周囲からすべてが消え去った。

 立っていた地面が消えた、空が消えた、音が消えた、隣にいたインデックスが消えた。


 五感が尽く揺らいで、用を足さなくなった。

 目耳鼻舌皮膚、それぞれに己のものではない大量の情報が注ぎ込まれてゆくような感覚


 それは蹂躙であり、侵略であり、制圧であり、略奪であった

 魔道書でも目にしたかのような、その壮絶な圧迫


 太陽を直視すれば目が潰れる、轟音を叩きつけられれば耳が潰れる

 人一人を押しつぶすには充分なほどの脳を焼くような情報螺旋


 鋼盾掬彦を襲ったのは、そういうモノだった。

243 : ◆FzAyW.Rdbg [sage]:2011/12/04(日) 02:16:28.57 ID:MpWxouhao


 ……だが、五感全てを押し潰されて塗り潰されて

 それでもなお、千千に砕けた鋼盾掬彦は己を取り戻した


 目を潰され闇に落とされて

 耳を塞がれ音を失って

 鼻を埋められ匂いを忘れて

 舌を千切られて味を殺されて

 触覚を奪われて温も冷も痛も亡くして


 それでも、なお

 感覚器すべてを潰されて、それでもなお、感じた


 どこで感じた? どこに感じた?

 ―――野暮なことを聞くなよ、言わせるな恥ずかしい

244 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/04(日) 02:19:27.18 ID:MpWxouhao


 心が、痛んだ

 一万の嘆きの奔流に、魂が軋んだ


 その痛み

 彼らの感じた痛みは、鋼盾掬彦をかつて嫌になるほど苛んだソレ

 忌々しくも懐かしく、忘れることなど出来ぬ鎖の圧迫

 幾晩も共に過ごした、慣れ親しんだその絶望


 その痛みを基点に、思考が帰ってきた

 追体験の奔流濁流から、己自身を切り取ることができた


 痛みは緯度、思考は経度

 ゆえに、己はここにいる

 たしかに


245 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/04(日) 02:28:55.04 ID:MpWxouhao


 相も変わらず五感は全滅、されど感覚器など既に要らない

 既に、繋げられてしまったのだから


 三角柱のようなモノがくるくると回転しているのが視える

 ところどころが欠落したその罅割れた三角柱こそが、かの異形そのものであるという得体の知れぬ確信

 視覚に依らぬその映像、聴覚に依らぬその音声は、鋼盾の裡に流し込まれて紡がれているものだ

 

 三角柱が回る、くるくると回る

 それは万華鏡、あるいはミラーボールのように世界を切り替えてゆく

 投射されるは、才足らぬ己を呪った弱き者達のドキュメンタリ


 “努力は才能に否定された”

 “善意も信頼も裏切られた”

 “望まぬ才を押付けられた”

 “奪う以外に道がなかった”

 “挑む事などできなかった”

 “何もかも否定したかった”

 “自分を騙しきれなかった”



 それは、幻想御手使用者たちの妄念

 学園都市に、周囲に、自分自身に裏切られた者たちの妄念


 一万人の嘆きと恨みの、その一端

 敗者で亡者な、端役たちの物語
 
246 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/04(日) 02:31:17.03 ID:MpWxouhao
―――――


“努力はしてきたつもりだった”

“毎日、日が昇る前から真っ暗になるまで、ひたむきに打ち込んだ。
 その積み重ねが自信にもつながっていた”

“でも”

“スポーツに能力の使用が認められるこの街では、
 そんなものは何の意味も為さなかった”

“幾千幾万の努力が、たったひとつの能力に打ち砕かれる現実”


『……もう、やめようぜ。
 こんなの野球じゃない、どうにもなんねえよ』


“友人の、諦めきった、疲れきった言葉”

“きっと自分も、同じような顔をしているのだろう”

“これからもずっと、こんな顔をしていきてゆくのだろう”


“ああ、残酷だ”

“重ねた努力も、流した汗も、費やした時間も”

“すべて無意味と、この都市は嗤う”



“だから―――俺は”


―――――
247 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/04(日) 02:32:53.20 ID:MpWxouhao


“後輩ができた”

“人懐っこい、かわいい女の子で、私と同じ能力の使い手だった”

“ひたむきにアドバイスを求めてくるその子に、能力について教えるのは、楽しかった”

“甘えられ、頼られ、尊敬されるのが気持ちよかった”

“楽しかった、誇らしかった”

“その言葉を、聞くまでは”


『ああ、あんなヒト、もういいのよ。
 猫かぶるのも疲れちゃったわ』

『ヒッデー、あんな先輩先輩言ってたのに』

『だってもう身体検査抜いちゃったしー。
 実際、もう教わることもないわ、用済みよ』

『はは、センパイカワイソ』

『学園都市って残酷よね。
 能力を数値化してどっちが優秀か、ハッキリさせちゃうんだもん』


“そして嘲笑が響いた。浮かれた馬鹿な女を、格下の存在を、彼女が嗤う”

“怒りと羞恥と敗北感、そして裏切られたという痛み”

“なにより、妬ましさに眼の前が真っ暗になった”



“だから―――私は”



―――――
248 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/04(日) 02:35:54.25 ID:MpWxouhao


“量子変速という能力がある”

“読み方はシンクロトロン、簡単に言えば、重力子を加速させて爆弾に変えることのできる能力である”

“わたしは、その量子変速の大能力者だ”


“学園都市に量子変速の使い手は三十名ほどしかいない”

“この能力を専攻にしている研究者も、はっきり言って少ない”

“ひどく、マイナーな能力なのだ。けしてレアではなく、マイナーである”

“わたし程度が、この能力のトップだというのだから……笑える話だ”


『……頭打ちだな』

『量子変速などどこまでいっても爆弾しか作れぬ能力であるようだ。
 その先、“重力子の操作”に至ることが出来るのではないかと信じ、研究を進めてきたが……
 この二年間、君には全く成長が見られない……どうやらそこが、限界のようだ』

『正直に言おうか。我々としては、誠に遺憾ながら――
 これ以上この能力について研究を進めても、旨みがないと言わざるを得ない』


“そこが、おまえの限界だ、そこが、量子変速の到達点だ”

“お前は用済みだ――――そんな事を、言われた”


“ああ、そんなことはわたしが一番よく知っている”

“わたしはずっと、この破壊しか生めぬ能力を恨み続けてきた”


“壊したいものなんてない、爆弾なんていらない”

“なのにどうして―――どうしてわたしにはこんな力しか宿らなかった?”

“それがわたしの『自分だけの現実』だというのか?”

“何もかもを巻き込んで壊すことしかできぬ、こんな無様な能力が?”


“そうではない、そんなはずがない”

“量子変速にはきっとこの先がある、そう信じて研鑽に努めてきた”

“光明すら見えぬ中を手探りで突き進んできた、進んでモルモットになった”

“わたしと同じ悩みを抱えているかも知れぬ三十名のためにも、わたしがそれを示さねばならなかった”


“だけど、どうやら”

“わたしはこの二年間、ずっと同じところをぐるぐる回っていただけのようだ”

“どうすればいいのか、わからなかった。とにかく突破口が欲しかった”



“だから―――わたしは”



―――――
249 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/04(日) 02:39:14.59 ID:MpWxouhao


“スキルアウトになったことに、明確な理由はない”


“勿論、無能力者であったことが一因ではあろうが、それも些細なことだ”

“強いて言えば楽な方、楽しそうな方へ、自分と似た連中たちのいる方へと進んでいっただけ”

“そうしたらいつの間にか、そう呼ばれる存在になっていただけの話だ”


“路地裏の社会もいろいろと複雑で、いろいろなヤツがいる”

“それぞれに事情や言い分があるだろうが、わざわざ聞きたいとは思わない”


“ただ、ここはクソッタレな学校などより余程居心地がいい、それは確かだ”

“だからオレは、ここにいる”


“己は下衆なのだろう、それでいい、言われるまでもない”

“恐喝に窃盗に暴行、そんなモノは日常茶飯事だ”

“罪悪感などない、弱い奴が悪いのだ”


“弱者から搾取を行うこと、それは正しい”

“弱い奴が悪い、頭の悪い奴が悪い、奪われる奴が悪い”

“だってそうだろ? 学園都市よ”

“お前たちがやってるのは、そういうことじゃねえか”


“弱肉強食を体現しながら、正義や倫理を語ってくれるな”

“反則の街が反則を咎めるな―――確かに反則だが、ハハ、これも立派な能力開発だろ?”


“力に是非などない。あるわけがない”

“―――そうとでも嘯かねば、オレはきっと身動きがとれなくなる”



“だから―――オレは”



―――――
250 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/04(日) 02:40:24.61 ID:MpWxouhao


“私は無能力者だ、忌々しい”

“ああ、本当に忌々しい”


“教師どもが忌々しい”

“超能力者が忌々しい”

“大能力者が忌々しい”

“強能力者が忌々しい”

“異能力者が忌々しい”

“低能力者が忌々しい


“ああ、忌々しい”

“学園都市が、忌々しい”


“努力ではどうしようもないテストが忌々しい”

“忌々しい担任に突き付けられた通知表が忌々しい”

“無意味に決まっている罰ゲームのような補習が忌々しい”


“隣で笑っている友人たちが忌々しい”

“どうにもならぬ愚痴をこぼすアケミが忌々しい”

“ヘラヘラと笑ってばかりのマコちんが忌々しい”

“取り繕ってばかりの涙子が忌々しい”


“忌々しい、忌々しい、忌々しい”

“なにもかもが、忌々しい”


“そしてなによりそんな自分自身が”

“何もかもを恨んでばかりの自分自身が”


“ほんとうに、忌々しい”



“だから―――私は”


―――――
251 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/04(日) 02:41:50.28 ID:MpWxouhao


“学園都市の能力開発から落ちこぼれた無気力な学生たち”

“そんな奴をを見かけると、俺はよく話しかける”


『諦めるなよ』

『頑張ればきっと、能力が上がるよ』


“そんな言葉を、繰り返す”

“いつかきっと超能力者になる。
 この街の学生の大半が思い描いてきた夢を、俺も追いかけていた”


“虚仮の一念で授業をこなし、少しずつ、本当に少しずつ、能力は上がっていった”

“だがそんなある日、本物の超能力者を目にしてしまった”


『すごいパーンチ』


“それは馬鹿馬鹿しいまでに滅茶苦茶で、悪い冗談としか思えないような出鱈目な力”

“そこに行くには突破の足がかりすら掴めない高く厚い壁があるのだということを”

“俺はようやく理解した”


“学園都市の能力開発から落ちこぼれた無気力な学生を見かけると、俺はよく話しかける”

“上を見上げず、前を見据えず”


“下を見て話す”


“腰が曲ってゆくのがわかる”

“心が淀んでゆくのがわかる”

“息苦しくて、でも、壁は高くて”



“だから―――俺は”



―――――
252 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/04(日) 02:44:01.82 ID:MpWxouhao


“自身について、語るべきことはあまりない”


“平凡でありふれた日々をすごす、普通の女の子だった”

“優しい父、優しい母、生意気けどかわいい弟――愛しい家族に囲まれて過ごす、幸せな女の子だった”


“そんなありふれた女の子はテレビで見た超能力者に憧れた“

“期待に胸をふくらませ、意気揚々と学園都市にやってきた”


“だけど、結局その夢は叶うことはなかった”

“無能力者の烙印を、押された”


“それでも強がって、見て見ぬふりをして、人生を謳歌しているかのような顔をして

 取り繕って生きてきて、笑って、わらって、だけど、辛くて”


“御坂さんが眩しくて、白井さんが眩しくて、初春が眩しくて”

“あたしは、無力で、どうしようもなくて”


『無能力者って、欠陥品なのかな』


“そんなことばかり、考えるようになって”

“取り繕ってきた仮面が、剥がれてしまって”

“それでも―――あきらめきれなくて”



“だから、あたしは”


―――――
253 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/04(日) 02:45:35.40 ID:MpWxouhao


 だから俺は

 だから私は

 だからわたしは

 だからオレは

 だから私は

 だから俺は

 だからあたしは


 だから、だから、だから、だから

 だから、だから、だから

 だから、だから

 だから


 だから

254 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/04(日) 02:46:47.34 ID:MpWxouhao


 だから、幻想御手に手を伸ばした

 それは、紛う事なき福音だった


255 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/04(日) 02:48:57.43 ID:MpWxouhao


 とある少年は、常人とは異なる目を手に入れた。

 この力はきっと、勝利への足がかりになると彼は笑った。


 とある少女は、後輩の少女を超える出力を身に付けた。

 これですべて元通りだと、地に落ちたプライドを再び拾い上げて彼女は笑った。


 とある少女は、行き詰まっていた己の能力の先を確信した。

 “量子変速”は役立たずじゃない、破壊しか産まぬものじゃないと彼女は笑った。


 とある少年は、能力という新しい牙を手に入れた。

 この力を以てすれば、己は更に多くを奪う事ができると彼は笑った。


 とある少女は、己を苛む無力感からの解放を感じた。

 世界も、己も、もう忌々しいだけの存在ではないと彼女は笑った。

 
 とある少年は、絶対に届かぬと思っていた壁に、僅かな足がかりを見出した。

 前に進むことができる、上を見上げることができると彼は笑った。


 とある少女は、己の掌より生じる息吹に目を細めた。

 自分は欠陥品じゃない、これで友人たちを妬まずに済むと彼女は笑った。




 彼らは皆、笑っていた

 満ち足りた笑顔が、そこには溢れていた

 きみもこっちにくればいいのにと、にこやかに手を招いていた



―――――――――― 
256 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/04(日) 03:03:22.89 ID:MpWxouhao





―――――

ちょっと中途半端な気もしますが、ここまで
超電磁モブキャラクターズから、何人かお借りしました

ホントはもっといっぱいいろんな奴を書きたかったぜー
一万人の中にはいろんな理由で幻想御手を使った人がいると思うんです
ただそうなると長くなりすぎるので割愛!

前半が即興気味だったのでよくわからなくなっっちゃったのですが、ノリでカバー願います

年の瀬で忙しいですが、なんとか週一くらいで頑張りたいです
んでは、また次回!
257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(愛知県) [sage]:2011/12/04(日) 03:09:21.94 ID:ccXTqAhX0
おおう、まさか釧路さんが出てくるとはビックリだぜ
258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [sage]:2011/12/04(日) 08:15:17.66 ID:FD0v/LmAO
乙。
釧路さんがアニレー設定って事は佐天さんもアニレー設定か…
色々と熱くなるな。




これがもしレベル4の小説版釧路さんだったら…シャレにならんな。
259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/12/04(日) 10:37:42.58 ID:FLCMzqcBo
こうしてみてみると上条さんがなんと言おうと
ローレベルな能力者や無能力者には救いがないよな
260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西・北陸) [sage]:2011/12/04(日) 10:53:17.71 ID:TBXA3ywAO
>>259
なんていうか、上条さんが無能力者ぶって何言ったって真の無能力者から見れば「誰よりも特別なお前に、俺たちの何がわかる!」ってなるよな。
261 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/04(日) 11:03:31.13 ID:ZkG5QdtAO
ショートカットの劣等感ブルマ先輩は俺の嫁

>>260
釧路さんアニメだと設定違うの?あと小説版じゃなく漫画版だよな?
262 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/04(日) 11:44:09.37 ID:+XrRdUdDP
すごパさん参考にしちゃうとか運が悪いな
263 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/12/04(日) 13:44:00.98 ID:W8PwOSQno
>>261
アニメ版とマンガ版は同じ、小説版は記載がなかったはず。
アニメ版でしか話無かった時は散々言われてたんだが…今となるところっと転向しやがったな。


まあ「アニレー」なんて言い方自体が俺は嫌いだなあ。「みんなちがってみんないい」だろ。
…漫画版を金科玉条にしてるんはもっと嫌いだが。漫禁は姫神にごめんなさいって謝るべき。
264 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/12/04(日) 18:53:35.30 ID:z9VlOmSbo
これは楽しみすぎる!
いい上インを!
265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/04(日) 18:58:40.96 ID:z9VlOmSbo
うわあああああああ!
誤爆した上sagaっただとう!?マジすみません!!

相変わらず鋼盾さんが素晴らしいです!
釧路さん目付きの割にモノローグがキュートで最高!

失礼しました!
266 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [sage]:2011/12/04(日) 20:02:06.31 ID:FD0v/LmAO
>>264
そげぶ。上琴に決まってんだろ。
267 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/04(日) 20:12:57.70 ID:jNIcr6iHo
>>266
何言ってんだよ
上鋼だ
268 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [sage]:2011/12/04(日) 20:17:03.36 ID:FD0v/LmAO
>>267
えっ?誘鋼だろ?
269 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/04(日) 20:35:26.87 ID:ZkG5QdtAO
初鋼かな
270 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関東) [sage]:2011/12/04(日) 21:03:43.52 ID:FeZd5YSAO
だから鋼天だと
271 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/12/04(日) 21:14:59.70 ID:VJb02Hr0o
萌鋼だけは無い。それだけは分かるんだな。
272 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西・北陸) [sage]:2011/12/04(日) 21:29:49.62 ID:TBXA3ywAO
>>271
大本命否定されるコウやんカワイソス
273 : ◆FzAyW.Rdbg [sage]:2011/12/04(日) 22:33:19.26 ID:MpWxouhao
どうも>>1です。みなさまレス感謝!
うぎゃああ、むーちゃんとマコちん逆じゃあああああ! 打ち間違ったああ!
……まあ、でも読み返してみたらべつにむーちゃんでもあんま問題なかった

>>1がこっそり書きたかったキャラその12、釧路さんはこんなんなりました。テーマは〈行き詰まったレベル4〉 
大能力者でありながら幻想御手に手を出した彼女を妄想したらこんなことに! 俺の中ではすげえ優しい子なのです
釧路&介旅師弟コンビが美琴への借りを返すべくテレスティーナに挑む『とある科学の量子変速』にご期待ください(大嘘)

>>266−272 
こ の ス レ に カ ッ プ リ ン グ な ん か が あ る と 思 っ た ら 大 間 違 い だ ぜ


さて、話変わって

ちょっと前に過去投下分をまとめてみたり気付いた誤字を直したりしたのですが、
気まぐれに文字数カウントしたらなんと三十万文字突破していた件、三十万て、なにそれこわい

まだ途半ですが、三十万字も読んでくれた皆さんに心よりの感謝を
あと何文字書けばいいのかわかりませんが、完結までよろしくお願いします
274 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/04(日) 23:09:45.61 ID:44iclbb+0
原作読んだ時から、超能力野球に関しては、むしろ虚無感抱いてるのは能力者チーム側なんじゃないかなぁ、と思った。
あの野球が高野連やらプロ野球協会やら、外の野球文化に認められることはまずあり得ないだろうし。となると学園都市という限られたコミュニティで競っていくしかなくなるわけだし。卒業後、野球に絡んだ仕事に就ける可能性も低そうだし。
公式に認められない、てのは、スポーツとしては致命的な気がする。
まあ人生をスポーツにかけるような人はまず学園都市に来ないだろうし、そもそも学園都市で能力開発を受けた人は、卒業後どうなるんだろう、という疑問もあるけど。
275 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長屋) [sage]:2011/12/04(日) 23:19:14.28 ID:O4NQdK1eo
カップリングの列挙眺めてたらシェリ盾って電波が来た
276 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(埼玉県) [sage]:2011/12/05(月) 00:13:30.62 ID:/inS4JDz0
インデックスの親権を争うローラ盾、盾&鎧の盾絹、イン→鋼盾→風斬→インのトライアングル

……電波ゆんゆん
277 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(不明なsoftbank) [sage]:2011/12/05(月) 15:51:42.07 ID:dRhqfidoo
30万オメ

鋼ステ鋼神も捨てがたい
278 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/12/05(月) 19:30:28.13 ID:ZLiWuj+p0
>>277
鋼盾×神作……?

新しいな
279 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [sage]:2011/12/06(火) 12:00:02.53 ID:kKFdlc2AO
>>278
なんという斬新な組み合わせ…本が薄くなるな。
280 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/06(火) 16:30:05.14 ID:jy/7Q8PAO
神作じゃなくて神の右席じゃね?
281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/06(火) 17:03:44.97 ID:/ZkU/nv+o
.   後方
右方鋼盾左方
.   前方     ワレラ!カミノウセキ!
282 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/12/06(火) 19:13:22.67 ID:xuoOiHRno
>>281
後ろからくるぞ!気をつけろぉ!
283 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/12/06(火) 20:29:07.84 ID:geZUgj5Fo
>>260
それ言ったら上条さんに「ばかやろうっ!っ」て鉄拳食らうんだぜ・・・
284 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/12/06(火) 21:05:48.14 ID:xuoOiHRno
 じゃあ、そう言うテメェは助けを求めてる人に手を差し伸べたのか?答えられないな
   ら、テメェも同類だよ。くだらねえ。誰にも力を貸そうとしない人間なんて、誰が助け
   ようとするモンか。自分が幸せになるのが当然だって顔で、他人が幸せになること
   を考えもしない人間になんて、誰が関わろうとするモンか!結局それらは全部テメェ
   らの問題だろうが!!もしもスキルアウトを結成するだけの力を使って、もっと弱い立場
   の人を助けていたら、それだけでテメェらの立場は変わったんだ!!強大な能力者に
    反撃するだけの力を使って、困ってる人に手を差し伸べていれば、
      テメェらは学園都市中の人達から認めてもらえたはずなんだよ!!
  おまえらが馬鹿にされてるのは決して能力の有る無しの問題じゃないということを今から教えてやる
  \お前のそんなつまらない幻想なんか自分の手でどうにかしやがれ!!!              /
    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
         _ _ _
        ゞ´   ヾ     _ _     .'  , ..             
       Z ,w'レviゞ_ - ― = ̄  ̄`:, .∴ '     (>>283>>259>>260
         , -'' ̄    __――=', ・,‘ r⌒>  _/ /
        /   -―  ̄ ̄   ̄"'" .   ’ | y'⌒  ⌒i
       /   ノ                 |  /  ノ |
      /  , イ )                 , ー'  /´ヾ_ノ
      /   _, \               / ,  ノ
      |  / \  `、            / / /
      j  /  ヽ  |           / / ,'
    / ノ   {  |          /  /|  |
   / /     | (_         !、_/ /   〉
  `、_〉      ー‐‐`            |_/


こうか。
285 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/06(火) 21:07:01.96 ID:FroL5tato
 
   てめぇらずっと待ってるんだろ!?幻想御手なんかに縋らなくてもすむ、能力なんかなくても
   自分を好きでいられる・・・そんな誰もが笑って、誰もが望む最高なハッピーエンドってやつを。
   迷ってるのも悩んでるのもお前らだけじゃねえだろうが!誰もが苦しんでるんだよ!そうだろ!?
   でも能力がなきゃ主役になれねえなんて誰が言ったんだよ!?見ろよ、そこでビシッと立ってる
   俺の親友を!鋼盾掬彦を!鋼の盾を!アイツが主人公に見えねえっつーのかよ!そげぶ!
   お前らだって主人公の方がいいだろ!?脇役なんかで満足してんじゃねえ、寝てんじゃねえ!
   そんなもんに囚われてんじゃねえよ!頼むよ、見せてくれ!信じさせてくれ!俺らの夏休みは
   始まってすらいねぇ・・・ちょ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ っとくらい長いプロローグで絶望してんじ
   ゃねぇよ!手を伸ばせば届|  ZZZZZZZZZZZ |くんだ!いい加減に始めようぜ、寝坊助!!  
   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\_______/ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                           ∨      (゚д゚ )
                          <⌒/ヽ-、__ノヽノ |
           幻想御手使用者→ /<_/____/ < <
286 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/06(火) 21:08:03.12 ID:FroL5tato
かぶっただと……死にたいorz
287 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/07(水) 08:14:57.35 ID:QXtIOVg5o
>>284-285
結婚
288 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [sage]:2011/12/07(水) 10:31:13.65 ID:xj0I6yMAO
>>284-285
これは結婚
289 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/12/07(水) 12:51:53.09 ID:TbgVOopZ0
えんだぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

290 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/12/07(水) 17:29:08.36 ID:j2mA+76P0
このスレのカプは>>284×>>285だったのか
291 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [sage]:2011/12/07(水) 17:33:54.93 ID:VnOctZnAO
>>284×>>285なのか、>>285×>>284なのか…
どちらにしても本が薄くなりますね!
292 : ◆FzAyW.Rdbg :2011/12/07(水) 20:39:33.80 ID:mSxE7k0uo

>>284さま、>>285さま、おめでとうございます。おふたりの出会いが私のスレという事実を誇らしく思います
以下このスレは「>>284×>>285の新婚生活を生暖かく祝福するスレ」となりました!
……というわけにもいかんので続き書いてきます、土日らへんには、なんとか

あ、よろしければ祝福のコメントの傍ら、アンケートにご協力を
二択が三問です。あまり深く考えず、お好きな方を選んで下さいね


@鋼の宣(ノーマルエンド) or A盾の宣(トゥルーエンド)

B佐天涙子の再会 or C土御門元春の報告

D献身的な仔羊は強者の知恵を守るんだよ! or Eもう仔羊のままじゃいられないかも!


以上です
んでは、どうぞよしなに
293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/12/07(水) 20:42:43.54 ID:qJYqu0mGo
この手のアンケは集まってから無かった事になるのが良くある事なんだが…

@、B、Eかな。
294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西・北陸) [sage]:2011/12/07(水) 20:58:33.49 ID:mLCtjspAO
俺らが読みたいもんじゃなくて自分の書きたいの書けよ……
別に馴れ合い批判はしないがこういう萎えるような事しないでほしい
295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(兵庫県) [sage]:2011/12/07(水) 21:08:11.16 ID:Iu8MQTwyo
ACEと
Fヒロインは。私 or Gグレイジョイ家は萌キャラ
のGで。
296 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [sage]:2011/12/07(水) 21:12:55.32 ID:xj0I6yMAO
躊躇いなくABD
297 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北) [sage]:2011/12/07(水) 21:22:46.47 ID:VnOctZnAO
>>294に同意。
アンケートですると裏目。よくある事だな。外野は気にせず書かれよ。

ただ聞かれたから答えればABEだな。
298 : ◆FzAyW.Rdbg :2011/12/07(水) 21:55:36.06 ID:mSxE7k0uo
いやー、我ながら甘えてるなあとは思うのですが、媚びてるわけじゃないんだぜ
なんだかんだでこの>>1、言われるまでもなく書きたいものしか書きたくないのです、ほんとに

この先の展開は大きく二つに別れるのですが、もう長いことどちらにするか決めかねてます。
ぶっちゃけ両方書きたいんだけど(つーか実はもう書いちゃいました)、そろそろ不可逆の分岐点

ここ2ヶ月ほどガチで悩んでるのですが、煮詰まった状態で選んでも後悔しそうですし
更新を滞らせたくも無いので、皆さんのお力を借りたいなと思うのです

なかったことにはしませんし、どちらをえらんでも裏目ではなく順目となりましょう
手前味噌ながら、どちらのエンディングも遜色ない出来と思います

なんと無責任な、厚顔な、と思われるかも知れません、ご不快な思いをさせてしまったなら申し訳ない
なれど、書き手としての責任は作品の完結を以って取る所存です

よろしければ、道行きを示してやって下さい
299 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/12/07(水) 21:58:04.22 ID:tLdvgIY60
とりあえず個人的意見ではABE。
だが一番はお前さんの納得のいくものだよ。
300 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/12/07(水) 22:04:44.91 ID:7Mp2XjEq0
両方書けばいい

ただ、それだけのお話
301 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/12/07(水) 22:06:55.00 ID:7Mp2XjEq0
書けば、ではなく
投下すれば、だった

そういうことやってる作者もいるわけだし
悪い事じゃないと思うよ
302 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/07(水) 22:18:34.62 ID:MY9m4U0/o
別ルートとして書けばよろし
俺妹がアニメ公式でもやったし、批判されるものでもなかろー

ぶっちゃけ両方読みたいだけ
303 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/08(木) 10:02:39.70 ID:3yOgYgnIO
ACDかな
304 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/08(木) 11:39:31.86 ID:NMrY7XeAO
246かなー
305 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/08(木) 15:42:15.54 ID:m6lsBJlyo
246
306 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/08(木) 16:16:55.69 ID:VxVy/6RBo
235かな
307 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/08(木) 18:24:41.67 ID:+EGNrzUGo
@BD。
308 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/08(木) 18:33:19.56 ID:xxBib4lRo
245で
309 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/08(木) 20:34:59.60 ID:IyNws6OAO
ABDかな。
個人的にBは必須で、あとはどちらでも美味しく頂きます
310 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/08(木) 23:08:16.56 ID:3VObGfKPo
@CE
311 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/09(金) 13:00:14.91 ID:7iVi6RGW0
@BE
312 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/09(金) 13:53:46.21 ID:kq0jYanAO
ACE
313 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/09(金) 15:18:46.78 ID:HstdAf600
ハッピーでもグッドでもバッドでもデッドでもなく

トゥルーとノーマルか、怖いな


ACE
314 : ◆FzAyW.Rdbg [sage]:2011/12/09(金) 22:06:10.22 ID:lt+wOSYRo
>>1です。たくさんの投票に感謝を
おかげさまで続きが書けそうですよ、迷わず進めそうです

さて、結果ですが

@鋼の宣……4票 A盾の宣……10票

B佐天涙子の再会……8票 C土御門元春の報告……8票

D献身的な仔羊は強者の知恵を守るんだよ!……6票 Eもう仔羊のままじゃいられないかも!……10票

と、相成りました
A、Eは決定。B、Cは同票、これについてはもう少し考えてみることにします


ED両方書けよ、とありがたい言葉も賜りましたが、それはやめておきます
ED分岐ではなくルート分岐であり、なにより結末を複数書くのは物語に対して不誠実と心得ますゆえ
それすらも演出に組み込む器量は>>1にはありません

では、ここからは一本道、さしあたっては明晩の更新から
みっともない>>1ですが、よろしければお付き合い下さい
315 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/09(金) 22:14:31.91 ID:lGNFnfLxo
なんだもう締め切りか?
とりあえずBに一票。

後は電車道との事、続き期待待機。
316 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/09(金) 22:24:28.70 ID:zjW+iXVVo
やっぱB、C選ぶのは難問だよな
選べないがゆえのアンケート不参加
317 : ◆FzAyW.Rdbg [sage]:2011/12/09(金) 23:31:31.66 ID:lt+wOSYRo
更新は明日と言ったな! あれは嘘だ!
ラピュタ見ながら書いてたらテンションが上がって進みがヤバイ

投下します






―――――――――――――――
318 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/09(金) 23:32:47.03 ID:lGNFnfLxo
素晴らしい!君は英雄だよ!期待待機!
319 : ◆FzAyW.Rdbg [sage]:2011/12/09(金) 23:33:36.23 ID:lt+wOSYRo


 鋼盾が垣間見たるは、おそらくは彼らの幸福な記憶。

 仮初の幻想、束の間の夢、しかしその笑顔は嘘ではなかった。

 真実を知った今となっては寒々しいばかりだが、彼らは確かに笑っていた。


「……そうだね、ぼくもそこに行きたかった。
 さぞかしいい気分だったろうね、想像もできないよ」


 声には依らず、言葉を紡ぐ。

 きっと伝わっているだろう、この想いは。


 今更言われるまでもない、己は彼らの同類だ。

 ほんの少し歯車が狂えば、きっと鋼盾もそこにいた。


 確信が胸に落ちる。

 あの怪物は、幻想御手使用者の思念結晶とでも言うべきものだ。


 醜悪にして無様な亡者の群体、負け犬どもが一万人。

 名付けるなら“嫉妬”か“未練”か、それとも“他力本願”か。

 ……いずれにしても、碌なものではない。


320 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/09(金) 23:36:48.19 ID:lt+wOSYRo


「……ぼくらは弱い、ほんとうに弱っちい。
 幻想御手なんかに縋ってしまう程に」


 木山にも言った通り、今回の一件は自分たちの弱さが招いたものだ。

 能力の強弱ではなく、頭の善し悪しでもない、心の問題だ。


 我が我がと炎に飛び込む蛾のごとく、光に酔って罠に嵌った。

 Phototaxis、走光性―――否、喩えるならバーゲンセールだろうか。

 重ねてきた努力を売り払い、プライドを売り払い、魂を売り払って、工面して捻り出して―――


 そして、幻想の御手を掴んだ

 福音を聞いた、確かに


 よわい自分とさようなら

 つよい自分にこんにちは


「……でも、自分だけの現実をなくしちゃったら、誰かに委ねてしまったら」
 そんなのはもう、自分じゃない――きみじゃない」


 蜘蛛は獲物を逃さない、蛇は獲物を逃さない。

 他人の脳波を押し付けられて、消される恐怖に突き動かされる。


 悲鳴、絶叫、嘆願、慟哭、苦鳴、慙愧、憤怒

 ああ、ほんとうにもう――


「――――痛い、苦しい、しんどいねまったく。
 結局、逃げられやしないらしい。……そういうふうに出来てるみたいだよ、この世界は」


 逃避の夢は醒める、覚めて冷めて褪める。

 目覚まし来たりて笛をふく、ああ、あのままズルズル行きたかったのに。


321 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/09(金) 23:41:15.26 ID:lt+wOSYRo


「周りが悪いんじゃない、ぼくらが弱いんだ。
 だけど……だから、強くならなきゃいけない」


 初春飾利という少女がいる

 能力に依らず知恵と技術のみで力を示した彼女のように、強くなりたいと願う


 白井黒子という少女がいる

 報われぬ恋と知りつつその想いに殉ずる彼女のように、強くなりたいと願う


 御坂美琴という少女がいる

 重圧も羨望も嫉妬も何もかもを背負って真っ直ぐ立った彼女のように、強くなりたいと願う

 

「たとえ報われなくても、生きていかなきゃいけない。進まなきゃいけない。
 そんなものにいつまでも囚われてくれるな、ばか」


 吹寄制理という少女がいる

 無能力者という烙印を押されても、ひとつも揺らぐことなく努力を重ねる彼女


 土御門元春という男がいる

 初恋のひとを喪って、その身を深い闇へと沈めてそれでもなお、だれかのために戦える彼


 青髪ピアスという男がいる

 軽薄を装い道化役を買って出て、しかしその実誰より先を見据える彼


「守りたいものが、あるだろう。ぼくにはあるよ、できたんだ
 ―――だからもう、弱いままでなんていられない」


 月詠小萌のように、まっすぐに前を見据える

 彼女の手の温かさを、己は知っている


 インデックスのように、喪失を力に変え未来を願う

 彼女の手が象る祈りの所作の美しさを、己は知っている


 上条当麻のように、右手を強く強く握り締める

 彼の手に宿るのは異能のみではないことを、己は知っている

322 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/09(金) 23:42:59.97 ID:lt+wOSYRo


 この身は鋼

 この身は盾


 そんなイメージを固める。

 未だ五感は帰らぬままだが、しかしそれは問題ではない。


 外ではなく、内裡。

 繋がっている、鋼盾掬彦は今確かに彼らと繋げられている。

 魂の位置など知らぬ、だけど確かにここにある。


 幻想御手の本質は、ネットワークの形成。

 この怪物もまた、同様の性質を持っているらしい。


 それを見据える、見詰める、向かい合う。

 目に依らずそれを視る、耳に依らず鼻に依らず舌に依らず触覚に依らず、それを感じる。


 相も変わらず一万人の弱虫たちが、めいめいごちゃごちゃ、言い訳を紡いでいる。

 われこそが悲劇の主人公と言わんばかりに、その傷口を自慢する。

 
 自虐と不安に苛まれる長い夜は、鋼盾とて嫌になるほど知っている。

 ああ、この都市は、この世界は間違っている、なんてかわいそうな己。

 そんな妄想や幻想に逃げて、確かに自分は救われていた。
 
323 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/09(金) 23:51:41.58 ID:lt+wOSYRo


 無能力者も、超能力者も。

 男も女も、大人も子どもも。


 きっと、誰だって孤独な夜を過ごしている。

 夜は長く、太陽は遠く、己は矮小で、どうにもならぬ夜がある。


 だけど、なんだかんだで夜は明ける。

 朝が来る、残酷にも喜ばしいことに、一日が始まる。


 この新しい一日が昨日と同じになるかは、また辛い夜を迎える破目になるか否かは。

 いつだって、今日の自分の頑張り次第だ。

 
「新しい朝だ、希望の朝だ、喜びに胸を開け、大空仰げ、ってね。
 いつまでも微睡んでいるわけにもいかない……そうだろ?」


 強がりでもいい、空元気でいい。

 紡げ、示せ、突き付けろ、嘯け、騙せ、歌え。

 ……その幻想を、ぶち殺してみせろ。


 逃げ続けるだけじゃ、きっと先へは進めない。

 囚われてくれるな、諦めてくれるな。

 ぼくらはきっと道を誤った、ひとり残らず馬鹿みたいに。


 だけど、やり直せる。

 だから、いいかげん布団から出ろ。


「いつまでも不貞寝してるな。外はいい天気だよ。
 ―――夏休みだからって、もったいないだろうに」


 ラジオ体操にでも行けばいいのだ。

 薫る風に開け、広い土に伸ばせ。


 朝がくるぞ、もう昼も回ったが、それでも朝は来る

 夜は明ける

324 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/09(金) 23:53:24.63 ID:lt+wOSYRo


 気づけば、右の拳がしっかりと握られていた。

 覺束ぬこの世界の中で、その感触だけがはっきりと。

 ああ、これは上条のご利益かもしれない。
 

 渾身の右拳を不細工な三角柱に叩きこんでやろうかと思うも、やめておく。

 己に右手は似合わない。それがおかしくて、少しだけ笑う。


 そしてなにより、今回の目覚ましは他にある。

 似非幻想殺しには変わりないが、木山謹製のそれが幕引きには相応しい。


 固く結んだ拳を緩める。

 緩く握ったそれを己の頭の横まで持ち上げて。


 笑って告げる。

 また会うために、別れを告げる。


「きみたちの帰りを待ってる人がいるだろう?
 ぼくにもいるんだよ……悪いけど、こんな所にはいられない」


 だから


325 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/09(金) 23:54:21.81 ID:lt+wOSYRo



「先に行く」
 

 ごつん


326 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/09(金) 23:57:04.45 ID:lt+wOSYRo


 右のこめかみに感じたその小さな痛み。

 それをきっかけに、五感が戻り、世界が帰ってきた。

 夢から覚めれば、そこは現実だ。

 己を呼ぶ声で、我に返った。


「――ひこ! きくひこっ!
 ねぇ! きくひこ! きこえないの!? きくひこっ!」

「……だいじょうぶ、ごめんねインデックス」
 ―――ちょっと、ぼうっとしてた」

 
 自失していた時間は僅かなものだろう。

 密度の濃すぎる白昼夢、まったくもって迷惑な話だ。


 インデックスの方に向けた目を、再び怪物へと向ける。

 何度見ても、その悍しさに肌が粟立つ。


 生まれ落ちたるは輪っかを頭上に掲げる歪な胎児。

 一万人の集合体がコレだ、誰のセンスだ気持ち悪い。

 ……胎内回帰願望ってか? 冗談じゃない。


 先ほどの絶叫などなかったかのように静かに佇む歪な胎児

 その眼差しは鋼盾に向いたままだ……こっち見んな

327 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/10(土) 00:06:52.20 ID:2h8y0HAXo


「―――さて、どうしたものかな、アレ。
 あのままじっとしててくれるといいんだけど」

「……気づいてないの? きくひこ」


 インデックスのその言葉に鋼盾は首を傾げる。

 ……なにか、見逃したか? 自問するも答えは出ず、インデックスに眼で問うた。

 そんな鋼盾に、インデックスは答えを返す。


「……泣いてたんだよ」


 それこそ涙を堪えるような顔をして、インデックスが言葉を紡ぐ。

 泣いてた、と彼女は言う、涙を流していたと言うのだ。

 それは、果たして?


「……誰が?」

「きくひこ」


 ――――ぼくが? 涙を?

 完全に予想外なその展開に、鋼盾は戸惑う。


 顔に触れてみると確かに涙が流れた跡があった、頬をなぶる風が冷たい。

 フラット極まりない心理状態だったつもりだが、どうやらそうでもなかったらしい。


 白昼夢に当てられたのか………いやはや、みっともない。

 男の涙など絵にもならない、不細工ならば尚更だ。

328 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/10(土) 00:16:35.29 ID:2h8y0HAXo


「いや、だいじょうぶ。
 ぼくのじゃない……ちょっとあくびがでただけだ」

「……うそつき」

「嘘じゃないよ」


 うそじゃない。

 あの涙は、今の鋼盾のものではない、かつての鋼盾のものだ。

 そういうことに、しておこう。


 鋼と嘯く、盾と嘯く。


 インデックスを護る盾が、この程度で歪む筈がない。

 強がりのように涙を否定する鋼盾に、呆れたように少女が吠える。


「……もう、どうして男の子は!」

「はは、男の子だから―――おや、どうやら進展だ」

329 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/10(土) 00:35:18.97 ID:2h8y0HAXo


 乾いた銃声が、遠く断続的に響いた。

 どうやら高架の上から、警備員の生き残りが胎児を狙撃したらしい。


 胎児は一瞬ぶれたように身を震わすと、視線を鋼盾から剥がし高架へと向かってゆく。

 呆気に取られていた美琴が、我を取り戻しその後を追うのが見えた。


 発生源には、へたりこんだままの木山春生の姿。

 件の怪物は彼女から産まれたように見えた、母親というよりは触媒といった風だろうか。


「木山先生のところに行こう、あれじゃ危険だ。
 そして……アレを止めなきゃ」


 彼女に話を聞く必要がある。

 責任は取る、そして取らせる。

 なにもかも不確かなこの状況でも、しかしルールは守ってもらいたい

 
「……無茶しないでね、きくひこ」


 心配でたまりませんと言いたげな顔。

 全くもって申し訳ない。


「だいじょうぶ……行こう」


 鋼盾は小さく微笑むと、木山の元へと歩き出す。

 インデックスも遅れじと、小走りに鋼盾の後へ続いた。


 涙は既に、跡形もなく消えていた。

330 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/10(土) 00:37:00.22 ID:2h8y0HAXo







――――――――――


おしまえ!
次回辺りから幻想御手編も佳境に入り始めます


んでは、また次回に!
331 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 02:05:03.11 ID:gzEv2W/T0
乙でした!
332 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 02:05:34.78 ID:gzEv2W/T0
乙でした!
333 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 09:36:30.77 ID:sJuHGwgy0
乙なんだよ!
ついにこのスレも佳境か、と一瞬思ったが、
幻想御手解決した後インデックス救わないといけないからその先もまだまだ続くんだなww
334 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 10:47:17.94 ID:Zj2ADGUAO
乙!
まあ今年度中には一巻終わるんじゃないか?
このペースだと新約まで後二十年以上かかるのか…
335 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 20:08:44.70 ID:pKZL3hcAO
20年か…禁書があと50巻くらい出てても驚かない
336 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 20:18:45.19 ID:XEisWq8io
>>335
ということは>>1が書き終わるのは70年後か…
337 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/10(土) 20:46:38.75 ID:BpFXnZWv0
>>335
その間にも新しい巻が出るからな。
永遠に終わらないな。頑張れ>>1
338 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 20:49:27.16 ID:XEisWq8io
かまちー、年三冊ペースだからな…
339 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 21:36:59.28 ID:pKZL3hcAO
新刊買わねーとなー
コウやん出た?
340 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 22:05:38.15 ID:SH9Dbz8E0
>>339
まさかコウやんの正体がグレム・・・おっと、ネタばれになる所だったな

乙でした
341 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/10(土) 23:14:46.12 ID:X0JQB2dV0
知らない間に投票が始まって終わってた……だと……?OTL

しかし初春が完全に見せ場潰されちまったな
哀れ!
342 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/11(日) 19:30:16.94 ID:eKBtFeZOo
>>340
http://www.dmm.co.jp/mono/doujin/-/detail/=/cid=d_d0009954/
まさかコウやんの正体がグレム…だったなんてなあ。色々と熱くなるな。
343 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/11(日) 20:31:01.77 ID:Non/KG7h0
>>342
ファンブルエラーのあかいあくまだと…!
熱くなるな


しかし名前欄うぜえな
344 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/11(日) 20:47:01.86 ID:QzLpkvXAO
>>342
ふぅ…これはけしからん。おのれ魔術師!



やはり誘鋼は世界の必然だったのか…
345 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/12(月) 18:04:09.87 ID:KaDu8KA+o
>>342
                   ,'⌒,ー、           _ ,,..  X
                 〈∨⌒ /\__,,..  -‐ '' " _,,. ‐''´
          〈\   _,,r'" 〉 // //     . ‐''"
           ,ゝ `く/ /  〉 /  ∧_,. r ''"
- - - -_,,.. ‐''" _,.〉 / /  . {'⌒) ∠二二> -  - - - - - -
  _,.. ‐''"  _,,,.. -{(⌒)、  r'`ー''‐‐^‐'ヾ{} +
 '-‐ '' "  _,,. ‐''"`ー‐ヘj^‐'   ;;    ‐ -‐   _- マジかよちょっと三巻買ってくる
 - ‐_+      ;'"  ,;'' ,''   ,;゙ ‐-  ー_- ‐
______,''___,;;"_;;__,,___________
///////////////////////
346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/12(月) 18:51:29.92 ID:EHz6Se/3o
まさか木山先生とのシンデレラな雑談が、サンドリヨンを打ち破る伏線になっているとは……!
347 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/12(月) 19:02:15.38 ID:Bq9LrBuAO
>>342
なるほど…>>1がカップリングについて否定してたのはこれを予想していたからか…
348 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 19:06:27.13 ID:yUEGtIeOo
>>342
やだ、コウやんに新たな属性が付いて最強に見える…
349 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/13(火) 20:51:32.25 ID:fRRIXJ1Oo
グレム凛だと……! 
エラい属性がついてしまった! ねーよw
18禁です、自重すべし!

あ、新刊読んできました
いやー、いろいろいろいろでしたね。黒夜、流石のポテンシャルでしたね
美琴と一方さんの再会はあンなもンだろと思いました

暫くしたら、投下します
意外なあの人が出てきます、誰が出るかなー

350 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/13(火) 21:26:00.07 ID:fRRIXJ1Oo

――――――――――



「……やあ、君か」

「ええ……おつかれさまです。
 強かったでしょう、御坂さんは」

「……ああ、まいったよ。完敗だ」


 瓦礫と焦土を混ぜ込んだような惨状は、超能力者対多才能力者の戦闘の凄まじさを示していた。

 へたり込む木山は正に満身創痍、服装もボロボロで、未だに立てないらしい。

 とは言え口調には、確かな意志があるようだ。

 
「で、あれですけど」

「すごいな……まさかあんなバケモノだったとは……
 学会で発表すれば表彰ものだ」


 上空を浮翌遊する異形。

 警備員による高架からの弾幕を受けて、しかし全くの無傷である。

 なにより危惧すべきは、徐々に成長をしている事実。

 既に目算で二倍以上の大きさへと変化を遂げている。

351 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/13(火) 21:27:16.46 ID:fRRIXJ1Oo


「……幻想御手のネットワークが融合して、自律運動を始めたんですね。
 先生の意図ではないんでしょうが……手綱、取れませんでしたか」

「……ふむ、随分と確信に満ちた口ぶりだな?」


 木山の表情に、疑問の色が浮かぶ。

 己が引き起こした現象についての仮説は既に幾つか思いついており、おそらくは鋼盾の言通り。

 だが目の前の少年の言葉には、推論にはあり得ぬ明確な色があった。
 

「実際“繋げられ”ましたから。
 使用者たちの怨嗟が渦を巻いてましたよ……おそらくは精神感応系の能力です。
 多才能力も引き継いでますし、なにより、あなたから生まれたのを見ましたから」

「……そうか、君を“視た”か……やはりね」


 “鋼盾が視た”のではなく“鋼盾を視た”と彼女は口にした。

 こちらから向こうが見えたなら、あちらからも向こうが見えるのは道理。

 とは言え、木山の言葉にはそれだけではない含みが感じられる。

 例えようのない違和を鋼盾は感じるも、それを尋ねる前に木山が言葉を継ぐ。

352 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/13(火) 21:28:08.11 ID:fRRIXJ1Oo


「ふむ、おそらく君の言うとおりだろう。
 使用者のAIM拡散力場の集合体……幻想猛獣(AIMバースト)とでも呼ぼうか。
 見たところ更に学園都市のAIMをも吸収し、成長を続けているようだ」

「とんでもない再生能力ですね、いや、物理攻撃が効いてないのか。
 ……あれ、どうなると思いますか」

「わからない……だが……君は幻想御手をウイルスに喩えたね、それが正しければ……
 おそらくは増殖と自己の保全があれの目的……いや、単に私の意志に引きずられて暴走しているだけかもしれないな」


 発生の原因は、美琴の雷撃により宿主に危機が迫ったが故であろう。

 ネットワークの防衛本能、己に害を成すものを排除しようとしているのか。

 
「……ほっといたら消えたりしませんかね」

「それを待っていたら学園都市が滅びるだろうね。
 ……あの建物、なんだかわかるかい?……原子力実験炉さ」

「……うわあ」


 怪獣映画かよ、と鋼盾は呟く。

 炉心融解なんて冗談ではない。


「……悠長な事は言ってられませんね。あなたの野望、悪いけど潰しますよ。」

「かまわないよ、次の手を探すだけだ」


 幻想猛獣の解体、ネットワークの破壊を唱える鋼盾に、木山は微笑む。

 三年越しの計画は、最早灰燼に帰してしまった。

 が、木山は、それでも構わないと笑う、次の手を探すと笑う。

 そこに、今一人の凛とした声が響いた。

353 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/13(火) 21:30:05.41 ID:fRRIXJ1Oo


「―――きいて、きくひこ」


 幻想猛獣から一瞬足りとも目を離さぬまま、インデックスがその口を開く。

 そこにいるのは、溢れんばかりの知識をその身に宿した英国の最終兵器。

 年端もゆかぬ少女ではなく、英国の最終兵器たる彼女の一側面。


「あれをずっと観察してたんだよ。いくつかわかったかも。
 まず、身体に見えるところは本体じゃないみたい。
 水面に映る鏡像のようなものかも―――もちろん見ての通り物理的な

「じゃあ……あの輪っかが弱点?」

「……わかんない。でも、おそらくはあれが“ねっとわーく”とつながってるんだよ。
 不定形で揺らいでいる本体と違って、あのリングだけは形を崩さないから」

「……ただ、おそらくはあのリングもアンテナに過ぎないだろうね。
 やはりネットワークそのものを破壊しなければいけない」


 鋼盾は胸ポケット―――その中の解除プログラムに手を当て、言葉を紡ぐ。

 木山春生より託されたソレが、おそらくは最後の希望。


「やはりコレが肝になりますかね。ネットワークを破壊すれば、おそろくは」

「あれも消える……ああ、ためしてみる価値は大いにあるだろう」

「このプログラムをアレに聞かせれば破壊できるということ……じゃないんですね」

「ああ、それじゃだめだろうな。
 またパソコンの例えになるが、それぞれにワクチンを入れなければ意味がない」

「……具体的な方法は?」

「被害者一万人に、直接その音声を聞かせる必要がある」


 眠る患者たちの枕元にプレイヤーを置き、再生させていくような作業を想像する。

 それを繰り返すこと一万回。……平時ならそれも可能だろうが、戦時にそんな悠長な真似はできない。

354 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/13(火) 21:31:24.92 ID:fRRIXJ1Oo


「無茶言ってくれますね。だが、それしか方法がない……か。
 ……ちなみに木山先生、どうやって被害者全員にこれ聴かせるつもりだったんですか?」

「警備員とか統括理事会あたりにぶん投げるつもりだったね」

「……人任せかよ。ん……だけどそれが一番確実ですね。
 インデックス、他にわかったことはあったかな?」


 淡々と戦場を見据える少女に、更なる問を投げかける。

 インデックスは少しばかり躊躇うように鋼盾を見たのち、意を決したように言葉を紡ぐ。


「……あれの動きなんだけど、基本的に邪魔するものを破壊するように動くみたい。
 攻撃があればそっちに行く……だけど時々、それじゃ説明のつかない動きをするんだよ」

「……それは、どういう?」

「こっちを、見てる。
 ―――幸い、“あんちすきる”が攻撃をしてるおかげでこっちには来ないけど、
 でも……多分こっちを狙ってるかも」


 幻想御手の、目的。

 邪魔をするものがなければ、あれは何を為そうとするのか。

 こっちを狙っている、とインデックスは言う。そうなれば、考えられるのは―――


「木山先生を狙ってる、そういうことかな?」

「……いや、それは違う」

「うん、違うんだよ。……多分だけど、狙いは……」


 木山とインデックスの目が、鋼盾に向く。

 戸惑いつつも、鋼盾にも思い当たる節がひとつあった。

 そう、生まれ落ちた幻想猛獣がその視線を真っ先に向けたのは、誰だったか。

355 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/12/13(火) 21:34:09.50 ID:fRRIXJ1Oo


「…………ぼく?」

「うん。あれの狙いはきくひこかも。
 正確にはきくひこが持ってるそれだと思うんだよ」


 解除プログラム“ImaginE BreakeR”

 鋼盾の手には、幻想御手を殺し尽くす限定毒があるのだ。

 その言葉に、木山も同意するように言葉を継いだ。


「……ありえるな。知識があるかは不明だが“私から産まれたもの”だし、
 それの危険性を知り得ている可能性はある―――それに」

「それに?」

「あれはAIM拡散力場の吸収を目的としている。
 ―――おそらくは、きみのそれに興味を持ったんだろうね」

「……はい? ちょっと待ってください! そりゃおかしいでしょう?
 御坂さんが、超電磁砲がいるんですよ? どうして無能力者のぼくに?」


 それはおかしい、ありえない。

 この場でもっとも尊いAIM拡散力場の所有者は、間違いなく御坂美琴その人。

 学園都市で三番目に強い、ネットワークに存在しない“超能力者”に他ならない。

 至高の宝玉たる彼女を差し置いて、路傍の石たる己に向かうなどあり得ないことだ。

 反論を張る鋼盾に、木山の言葉が投げかけられる。


「……無能力者、か。
 ならば聞こうか。無能力者とはなんだ?」


そんな、ひどく今更な、問を。

 ひどく、残酷な、問を。

356 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/13(火) 21:45:13.31 ID:fRRIXJ1Oo


 無能力者とは、何か

 無能力者とは、何か


 能力強度、あまりにも厳然と示されるその指標。

 012345、無低異強大超。単純にして明確な序列という名の差別。

 薬を血液に打ち込んで、脳に電気を打ち込んで、それでも何も出来なかった、彼ら。


「―――レベル1、未満……ですか?」


 無能力者とは、レベル1に満たぬ能力者の総称である。

 定義を問われればそうなるだろう。学園都市のおよそ六割を占める者を指す言葉だ。


 そんな鋼盾の言葉を受けて木山は、肯定しつつ、しかし否定した。


「そのとおりだが、そうじゃない。きっとそれだけじゃないよ。
 ……いや、話すと長くなりそうだ。確証もないしね、後回しでいい。
 とにかく、今となっては君の持つそれが唯一の希望だ。壊されては堪らない」

「……わかりました、聞きません。まずはあれを何とかしましょう。


 後ろ髪を引かれるも、長話をしている時間はない。

 やるべきことがある、自分たちにしか出来ぬ仕事だ。


「……とりあえず、警備員さんのところに行ってみましょう。
 彼らにこれを使ってもらうしかない―――自首してもらう形になりますが、かまいませんね」

「ああ、責任は取ろう。
 通信機器が生き残ってるかどうかは疑問だが」

「その点は大丈夫です……ぼくの方でなんとかできますよ。
 そう言えば木山先生、眼戻ってますけど―――能力の方は?」

「アレに全て持っていかれたよ、今となってはただの研究者だ」
 

 予想はしていたが、残念だ。

 移動能力や防御能力があれば、安全に事を運べたのだが、そうもいかないらしい。

 鋼盾掬彦、インデックス、木山春生。

 いずれも基本的に無力である、とは言えやらねばならない。

 配られたカードで勝負するしかないのだ、いつだって、誰だって。

357 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/13(火) 21:47:02.33 ID:fRRIXJ1Oo


「――とりあえず、ここにいても仕方ない。
 高架に登りましょうか。……といっても、危険ですかね」

「……私が暴れた場所まで戻るとしよう、意識を取り戻した警備員がいるかもしれない」

「ちょっと遠回りをしたほうがいいかも!
 ふたりとも、わたしについてくるんだよ!」


 インデックスが先導役を買って出る。

 荒事慣れした彼女なら、最善を指し示してくれるだろう。


「―――たのむよ、インデックス。
 走れますか? 木山先生」

「……キツイが、なんとか」


 三人が走りだした瞬間、警備員の側から強烈な閃光と轟音が響いた。

 それまでの銃撃とは一線を画するその圧は、粉塵を高々と巻き上げる。

 それを嫌ったのか、幻想猛獣は空間移動を用いて空高くへと飛び上がった。


 警備員は粉塵に巻かれ幻想猛獣を見失っている。

 生まれた空隙。

 幻想猛獣が、こちらを見た。

 その瞳が、凶つ碧の輝きを放った。


「……っ!?」

「……きゃ!」

「……! つぁ!」


 恐らくは念動力による。

 平たく言えば金縛り。


 言葉すら、出ない。

 幻想猛獣の身体から無数の触手が生じ、そして伸びた。


 木山春生に

 インデックスに

 鋼盾掬彦に


 歪な指が、伸びた。


358 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/13(火) 21:59:35.20 ID:fRRIXJ1Oo


 殺意の爪先、殺意の指先、殺意の掌。

 脈動する筋肉は人のものではなく、限りなく膨張し収縮する鋼の発条。


 無数の凶手は、まさに蜘蛛の糸に手を伸ばす亡者のソレ。

 幻想御手に縋った、彼らのソレ。


 一瞬が百倍に引き伸ばされる。

 迫るそれに、鋼盾は確かに死を幻視した


 嘲笑う幻想猛獣と目が合ったような気がした。

 捕食者の目をしていた。

 喰われる、そう思った。
 

 しかし、殺到する千の凶手は

 轟、と鋼盾たちを護るように広がった、赤い赤い壁に阻まれた。


 低く厳かな、声が響いた。

 聖書の一節を読み上げるかのような、乾いた確信に満ちた声音が、響いた。

359 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/13(火) 22:00:30.42 ID:fRRIXJ1Oo




「世界を構築する五大元素の一つ、偉大なる始まりの炎よ。

 それは生命を育む恵みの光にして、邪悪を罰する裁きの光なり。

 それは穏やかな幸福を満たすと同時、冷たき闇を滅する凍える不幸なり」



360 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/13(火) 22:02:50.73 ID:fRRIXJ1Oo

 声と共に、炎が走る

 世界を分かつ、赤い線が走る

 それの生んだ上昇気流に、数百枚はあるであろうカードが巻き上げられ、戦場に散った


「その名は炎、その役は防壁 」


 詠唱に呼応するように守護の炎壁がその出力を跳ね上げる。

 奔放な本来の性とはあまりにかけ離れた、整然たる炎の城壁。


「我が意に従い、不埒者を阻む盤石の城壁を成せ」


 火の本質を歪めて捻って、しかし十全にして無欠。

 それは侵略するためではなく、防御するための、火。

 防人の火。そんな芸当ができそうな人間を、鋼盾はひとりしか知らない。


「ルーン! 魔術師!? こんな時に!」


 インデックスの驚愕の声が響く、それは敵襲を警戒する焦燥の声音。

 彼女の感想はそうなるだろうが、鋼盾はまた別の意見だ。


 思わず笑みが浮かぶ。

 金縛りは、既に解けていた。

 背後に感じる気配に振り返ると、久しぶりに見る顔があった。


「……いいところで出てくるなぁ、流石だね」


 御坂美琴といい、きみといい。

 まったく、いつだってヒーローは出番を間違えない。

361 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/13(火) 22:05:51.47 ID:fRRIXJ1Oo


 相変わらずの神父服、赤髪、刺青。

 二メートルに届く長身、痩躯、シルバーで飾った十指、ブーツ。

 咥え煙草、燻る白糸。


 理外の火、魔術の火。熾した者に無二の忠誠を誓い完遂を約束する、光と熱。

 意のままにそれを操る、炎の男。


「久しぶり、ステイル」

「…………しばらくぶりだね、鋼盾」
 

 英国清教の神父にして、必要悪の教会のメンバー。

 鋼盾掬彦の友人にして、インデックスの守護者。

 目的は同じなのに敵対する立場にある、奇妙な縁。

362 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/13(火) 22:08:17.05 ID:fRRIXJ1Oo


 ステイル=マグヌス
 
 魔法名をFortis931


 最強を謳う炎の魔術師が、そこにいた。

 狂科学と能力が跋扈する戦場に、魔術の徒が降り立った。





―――――
363 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/13(火) 22:10:26.25 ID:fRRIXJ1Oo


 酉忘れたりいろいろアレでしたが、投下完了

 いえーい


 まえにも言ったかもですが、>>1は再構成物のステイル不遇をなんとかし隊ですの

 つうわけで、ステイルさんの登場でござる、かっこよく書けてればいいのですが


 敵か味方か、ステイル=マグヌス

 なにしに来たんでしょうね、一体


 ちょいとプライベートが忙しいので、しばらく更新滞りそうですがご勘弁を!

 来週末くらいには来れるでしょうか、たぶん!


 じゃあの!

 

364 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 23:24:33.40 ID:TDAUDlxJo
ヒーローは遅れてやってくる
流石14才分かってるネェw

乙です
365 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/14(水) 00:40:15.14 ID:/B9EtIfAO
ステイルー!!!俺だー!!!結婚してくれー!!!!
366 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/14(水) 02:21:06.79 ID:sqFD7PBDO
まさかの魔術側介入、ステイルさんマジヒーロー。

>>364
そうかステイルさんじゅうよんさいだったっけか。
つまり中二。
あのバーコードもタバコもルーン文字も「魔女狩りの王」も中二病だったのか!
ま、それ以前に作品自体が中二病なんですけどね。
367 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/14(水) 09:50:07.97 ID:z7AV5Kcv0
ステイルが不遇を回避した分、神裂が割を食ってる気がしなくもないww
そんな俺はどっちの不遇もなんとかし隊

次回は今週末じゃなくて来週末か、遠いなあ
368 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/14(水) 17:52:13.09 ID:VRWq4jVc0
ステ琴中二同盟とか超俺得

神裂さんはもうダメかもしれぬ
369 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 12:15:59.01 ID:Ae7LiO6Q0
>>368
神裂さん、アックア編の五和みたくなってなきゃいいけどな
370 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/18(日) 17:14:06.85 ID:rQJV3aa/o
次はいつかのう
371 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/18(日) 17:15:00.05 ID:rQJV3aa/o
来週末ってあっためんご
372 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/18(日) 19:26:27.30 ID:GcvU8zCKo
かれ
373 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/18(日) 22:04:08.22 ID:GcvU8zCKo
すまん誤爆
374 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/21(水) 19:20:18.15 ID:o2konSIAO
うがー
375 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/21(水) 19:22:15.60 ID:G0pO4wSuo
むがー
376 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/21(水) 19:50:48.75 ID:YOiQ+WLW0
ぬおー
377 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/22(木) 06:51:49.46 ID:BoYgY95Wo
にゃー

>>1です、いやー年末忙しいぜ畜生
とりあえず今夜ちょい時間が取れそうなので、なんとか書き上げて投下したい

神裂さんに関しては割り食ってる感はあるかも
とはいえ個人的に、一巻の彼女は「強すぎるくせにガタガタ」なあたりが魅力
この先、彼女メインのシーンもいくつかあるのですが、聖人性より人間性を書きたいと思ってますです

んじゃ夜に!
378 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/22(木) 21:20:40.21 ID:BoYgY95Wo


「ありがとうステイル、助かったよ」

「……これで、借りは返したよ」


 借りというと、先日のアレだろうか。

 出会いは学生寮の廊下、スプリンクラーの水溜まりと建材が焼けた異臭の中で。

 力なく倒れ伏す彼との出会い、思えばアレが分岐点だったように思う。


「義理堅いことだね。あの夜、既に返してもらった気がするけど。
 ……神裂さんは、来てるのかな」


 神裂火織。

 昨晩、壊れきった顔でポロポロと涙を流していた極東の聖人。

 彼女を追い詰めた己の所業に罪悪感がないとは言わない

 だが、今はまだ―――彼女から、答えを聞いていない。


「……もう一人の方を監視中だよ……今の彼女にこちらは任せられない。
 まったく、どんな真似をすればあの神裂をあそこまで追い詰めることができるのやら」


 糾弾、えげつなく彼女の傷口を抉った己。

 とはいえ、あれは、どちらかと言えば。


「……優しい、情の深いひとだったからね。
 アレは、彼女の自滅だ……ぼくがなにをしたってわけじゃない」

「情が深いというのは同意だが、それ以上に克己と自律の女と思っていたよ。
 抱えているモノは知っているが―――簡単に、剥がれるような鍍金じゃないんだけどね」


 声音には、パートナーを気遣う色が透けている。

 ステイルと神裂は、ともにインデックスを守る同志なのだ、当り前だろう。

 彼ら三人、家族のように睦まじく過ごしていたと、土御門も言っていた。

 そんな彼らが、どうしてこうも苦しまねばならないのだろうか。

379 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/22(木) 21:21:34.96 ID:BoYgY95Wo


「だが、そんな事はいい――アレはなんだ鋼盾」


 炎壁に氷弾を打ち込む幻想猛獣を、忌々しげに見据えるステイル。

 抑えた声音には、しかし抑え切れぬ激情を偲ばせているように見える。


「なんだあの頭の輪は―――生物兵器でも、立体映像とも違う。
 信じたくはないが、魔術師としてあの現象に名前を付けるなら……」

「天使―――ううん、擬似天使かも。
 翼がないのは救いといってもいいかも知れないけど。
 ……そうでしょ、ステイル?」


 言い淀むステイルの言葉を、凛とした声が引き継ぐ。

 この一年、己を追い詰めてきた魔術師の言に、インデックスが言葉を繋いだ。

 天使――またもオカルトメルヘンな単語が登場したが、それはどうでもいい。


 赤毛の魔術師の口から、ポロリとタバコが落ちる。

 その表情には、明らかに狼狽が見て取れた。

 ステイル、彼女にそう呼ばれたのが、心底予想外だったのだろう。


 鋼盾の角度からは、インデックスの表情は見えない。

 ……はてさて、どんな顔をしているのやら。


380 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/22(木) 21:22:07.73 ID:BoYgY95Wo

 
 昨夜、インデックスには鋼盾の知りうる全てを伝えてある。

 彼女の喪ってしまった過去、その一端も、包み隠さず。

 告げた、残酷なほどに、真っ直ぐに。

 鋼盾が、告げた。


“神裂もステイルもどうしようもなく優秀な魔術師だ……だが、あの子が絡むと途端にガキになる。
 感情の制御の利かぬガキ、視野の狭いガキ、己の悲劇に酔いしれるだけの、どうしようもない愚かなガキに、な”


 そんな事を、土御門が言っていた。

 まさに、まさにだ。


 笑ってしまう、初春から聞いた時は、まさかと思ったものだったが。

 こうしてみれば、なんということはない。


 好きな子に名前を呼ばれて、大慌ての少年。

 自分と同じ、ただのガキだ。

 十四歳め、微笑ましい。


381 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/22(木) 21:22:57.39 ID:BoYgY95Wo


 とは言え、呆けて貰っては困る。

 あれはなんだと言われたら、答えてあげるが世の情けだろう。


「あれは、一万人の能力の集合体だよ。
 幻想御手の話はしたよね、あれで結ばれた能力者たちが暴走して、あんな感じだ」
 
「……冒涜だね、やはり科学は……この都市は気に入らないな」


 すげなくクールに、魔術師の仮面を被って見せる辺りは流石の一言。

 だが、抑えきれぬ激情と狼狽を隠しきれてはいない。

 難儀な話だ、素直になればいいものを。


「あれは科学って範疇でもないと思うけどね
 ……その辺、どうなんですか製作者さん」

「私としても意図して起こしたわけではないからね。
 ……虚数学区・五行機関、おそらく、あれがそうなのだろう」


 木山の口にした“虚数学区・五行機関“なる言葉。

 意図せず生み出した埒外の現象に、木山は既に仮説を立てていたようだった。


「虚数学区って……また、都市伝説ですか?」

「五行機関、ね。この都市の深部と聞いているが」

「? なんなのかな、それ?」


 鋼盾、ステイル、インデックスは三者三様に反応する。

 唐突に転び出たその単語、それが意味するところはなにか。

 三対の目が、木山へと向けられた。

 
382 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/22(木) 21:23:36.82 ID:BoYgY95Wo


 それは学園都市内の、いわゆる都市伝説の大元とでも言うべきもの。

 この都市の最深部であり、だれも見たことのない陽炎の存在。

 まことしやかに語られる、あるはずのないもの。

 
 曰く“学園都市の『始まりの研究所』であり、関連施設の増設の結果が学園都市である”

 曰く“その研究所はいつの間にか、人知れず潰れている”

 曰く“この都市のどこか、地下深くに隠されている”

 曰く“何の変哲もない学校に偽装されている”

 曰く“特殊な能力で空間のずれた場所に隠されている”

 曰く“樹形図の設計者の演算中枢は虚数学区の架空技術で作られているため再現できない”

 曰く“AIがネットを介して世界中の倫理・軍事・経済を全て統括している”

 曰く“世界中の偉人・聖人のDNAを保管しており、
    そこからボタン一つでいくらでも天才を製造できる『才人工房』がある”

 曰く“虚数学区の探索を進める専門の捜索部隊が暗躍していて、
    謎に近づいた者は彼らに拉致られて情報収集の為に拷問を受ける”

 曰く“どこにでもあって、どこにもない”


 虚数学区・五行機関

 プライマリー=ノーリッジ


 機械仕掛けの街、科学の鎧都、ひとでなし研究の第一線。

 われらが学園都市の胡散臭い神話、そして冗句の類だろうか。

 木山が口にしたのは、そういったものだった。

383 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/22(木) 21:25:10.52 ID:BoYgY95Wo


「色々な噂があるようだね……私も調べたことがあるが。
 仮説だが……無数の能力者が発生させるAIM拡散力場の集合体こそが、虚数学区」


 唐突にすぎる発言である、なにその超推理。

 とはいえ、木山の発言は確信に満ちていた。

 専門家たる彼女がそういうなら、そうなのだろう。

 いずれにせよ、鋼盾には判断のつかぬ話だ。


「幻想御手は、一万人の能力者の脳波を私のそれと一致するように調整されている。
 それが擬似的な虚数学区となったのかもしれない。AIMバースト、か。
 ―――それが、なぜあのような形になるのかは、想像もつかないがね」

「……天使、か」


 超能力と魔術は根底に同一の物があるのでは、と以前インデックスと話したことがある。

 天使という言葉については、小萌が執り行なった回復魔術絡みの話題でチラとでてきた筈だ。

 テレズマ、偶像の理論―――「世界の力」と彼女は言っていたか。


 木山春生は幻想御手を使って一万人のネットワークを作った。

 それが偶然にも虚数学区に作用する形で、幻想猛獣が生まれた。

 たかだか一万人、それも下から数えた方が早い連中が大多数で、アレだ。


 ならば―――虚数学区が能力者全員のAIM拡散力場の集合体だというのなら。

 単身で木山を圧倒した美琴ら超能力者すら含むそれが、幻想猛獣のように実体化したとしたら。


 ……世界が滅びそうだ、冗談抜きに。

 なにそれこわい。

384 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/22(木) 21:27:02.20 ID:BoYgY95Wo


 虚数学区・五行機関。

 そもそもそんな話が生まれる時点で、キナ臭い。

 火のないところに煙は立たないのだ、実際。


 学園都市の、上層部。

 土御門の言うところの“上”とやら。

 イギリス清教、魔術師どもと密約を交わすほどに縁深いらしい、それ。


 科学と魔術は、きっと近しい。

 魔術師がなにを目指しているかなど知らないが、この街の理念は知っている。


 神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの


 それにシステムと読みを当てているのは、なぜだ。

 その理念を唱えたのは、誰だ。

385 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/22(木) 21:28:53.26 ID:BoYgY95Wo


 SYSTEM。

 システムとは機構。

 相互に影響を及ぼしあう要素から構成される、まとまりや仕組みの全体だ。


 辿り着くもの、者、物、モノ。

 能力開発の到達点、それを成すのが人でなくてはならない理由はない。

 能力者など、虚数学区をなす基板に過ぎぬ。

 人工天使を産むための胎盤、学園都市とは、ことによると―――


「……いよいよ、オカルトめいてきましたね。
 とはいえ今は、そんなことはまあ、置いときましょう」


 ……流石に妄想が過ぎる

 だが、幻想猛獣が成長を続けているのは事実だ。

 ならば今のうちに、あれを潰さねばならない。

386 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/22(木) 21:30:23.57 ID:BoYgY95Wo

「同感だね……ただの脅威だ、それでいい。……鋼盾、禁書目録を連れて逃げろ。
 まったくもって気に入らないが、そのくらいの時間は稼いでやるよ」


 やれやれ、と言いたげに炎を操るステイル。

 だが、はいそうしますと言うくらいなら、はじめからこんなところにはいない。


「悪いけど、そうもいかないよ」
 

 そうもいかない。

 そうもいかないんだ、ステイル。

 あれはこの場で叩かねばならない。

 彼らをこの場で目覚めさせなばならない。


「……戦う力のない者が、戦場に立つべきではないよ。
 身の程を知れ、ここで君になにができるというんだい?」


 ステイルが、嗜めるように言う。

 言葉は穏やかなものだが、彼の内心は推して知るべし。

 とは言え、とは言えだ。


「……耳が痛いね、確かにぼくは弱いよ。
 だけどさ、ステイル。それでもだ、ぼくにはぼくの戦いがある」


 できることがあると信じている。

 なせることがあると信じている。


 ねえ、ステイル。

 あの日の邂逅が、きみがくれた言葉が、灯火が。

 ぼくにどれだけ力をくれたか、きみは知らないだろう。


「……そして、ぼくはひとりじゃない」


 言って、鋼盾は目を細める。

 自分には、仲間がいる。それを知っている。

 あわよくばそこにステイルや神裂も含めたいと思っていたりもするのだが、今は内緒だ。


「他力本願と笑ってくれて構わないけどね。
 ぼくに力がないなら、あるところから借りるだけだよ―――ほら、援軍だ」


 鋼盾のその言葉と同時に、轟音が響き渡った。

 風切り音と、破砕音がすぐ近くで巻き起こったのだ。。


 炎壁に行軍を阻まれ悶える幻想猛獣の横っ面を、瓦礫の大群が襲った。

 膨張を続ける胎児を吹き飛ばす問答無用の怒涛撃。


 それを放ったのは言うまでもなく、頼れる雷の少女。

 御坂美琴だ。


387 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/22(木) 21:32:49.27 ID:BoYgY95Wo


「鋼盾さんッ!」

「大丈夫、みんな無事だよ。
 こっちの彼は味方だ……御坂さん、身体の方は?」

「だいじょうぶです!」


 連戦、先の戦いで擦り傷切り傷埃まみれの御坂美琴。

 しかし目は凛、声も凛。意気軒昂の元気印である。

 目まぐるしい現状に翻弄されつつ、成すべきを成すとその瞳が告げている。


「……あれは、一体?」

「幻想猛獣。幻想御手のネットワークの暴走だ。
 ――――使用者一万人、佐天さんもあれに囚われている」

「―――ッ!」


 鋼盾が口にした佐天涙子の名に、一万という数字に、美琴はその眉を顰める。

 だがそれも一瞬、決意に満ちた目で彼女は鋼盾を見た。


「放っては置けない……近くには原子力実験炉もある。
 あれを止めたいんだ。御坂さん、力を貸してくれる?」

「ええ―――やれます、行けます!」


 即座の回答。

 打てば響く、高らかに。

 ……上等だ、そうでなくては。

388 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/22(木) 21:34:59.41 ID:BoYgY95Wo


「これまでの様子を鑑みるに、幻想猛獣は成長を続ける不死身の怪物といっていい。
 本体はネットワークそのもの、アレは影に過ぎないけど――もちろん、放ってはおけない」


 鋼盾は胸ポケットから、木山に託されたチップを取り出す。

 その中には、幻想の御手を殺し尽くす逆転の一手がある。


「ここに幻想御手の解除プログラムがある。これを学園都市中に流せば、アイツを倒せる。
 ただ、厄介なことにアレもそれを理解して、こっちを狙ってる。
 ……だけど、直接危害を加えるものがあれば、そちらを優先するらしい。今のようにね」


 つまり、どういう事かといえば。

 目論見を達成するには、時間稼ぎの任を誰かに任せねばならない。

 そして、それを可能とする人間に、彼女以上の適格者はいない。

 鋼盾は美琴の目をじっと見つめると、彼女にそれを告げた。


「御坂さん―――悪いけどきみに、囮役とトドメ役を任せたい」

「わかりました」

「頼む。ぼくらは警備員の方へ向かう。
 なるべく早く、アイツから不死性を引き剥がす。
 無理はしないで、時間を稼ぐことを第一に動いて欲しい―――気をつけて」

「ええ――じゃ、行ってきます!
 ……さあて、こっち向きなさいよ化物ッ!!」


 美琴は砂鉄剣を操り、幻想猛獣の注意を惹きつける。

 秒ごとに巨大化する胎児は、距離をとりつつ攻撃を加える美琴を、どうやら敵と断じたらしい。

 削られた部位を即座に再生させながら、無数の触手をくねらせた。


 幻想猛獣の注意は美琴に向いた。

 第一段階はオーケー、続いてもうひとつ、だ。


389 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/22(木) 21:37:12.73 ID:BoYgY95Wo


「そしてステイル。悪いけど、ひとつ借りを作りたい。
 百倍にして返すよ、約束する――――お願いだ」

「……敵対する立場にある人間と、貸し借りなどつくるつもりはない。
 ―――と言いたいとこだが、聞こうか。百もいらない、こちらの条件はひとつだ。
 “しかるべき時が来たら、その子を引き渡せ”」


 しかるべき時、それはつまり。

 数日後に迫る、くそったれなタイムリミットのことだろう。

 それまでインデックスの足枷をつとめろと、彼は言っている。


「―――いいよ、約束する。
 しかるべき時とやらが来たら、この子をそちらに引き渡そう」


 鋼盾のその答えに、ステイルは訝しげに眉根を寄せた。

 当然だろう、神裂相手に啖呵を切った男の台詞とは思えまい。


「でもね、ステイル。ぼくは空約束なんて不義理な真似はしたくない。
 そんな時なんてこないよ―――その子は、もうなにひとつとして喪わない」


 それは、宣言。

 足枷で終わるつもりはない、諦めやしないと鋼盾は笑う。 


「せっかくだし、こんなのはどうだろう。
 条件は“タイムリミットまでに、インデックスを救ってみせろ”
 ――――ねえステイル、欲しくない? そういう未来」


 短い付き合いだけど、ね。

 きみの欲しいものを、ぼくは知っている。


「……戯言を」

「ふざけてなんかないよ。
 ……まあ、言い争ってる暇はないね、了解だ。
 しかる時がきたならインデックスはきみらに預ける、そのかわり頼まれてくれ」

「いいだろう……言ってみろ」

「かんたんな仕事だ。インデックスを、ぼくの家まで送り届けてくれ」 

「……正気か? 鋼盾」


 鋼盾のその願いは、ステイルにとって予想外のものだった。

 ステイルに、すなわち“敵”に、守るべき対象を預けるなど、真っ当な判断ではない。


 しかし、鋼盾の表情に迷いはない。

 まるで、ステイルを“敵”だなどとは思っていないとでも言うように。


 たじろぐほどにまっすぐ信頼の色を向けて。

 強く強く、誰より先を見据えていた。

390 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/22(木) 21:40:10.34 ID:BoYgY95Wo


「正気だよ、ステイル。心配しなくても“しかるべき時”とやらには返すと約束しただろう。
 きみらとしても、それまではぼくらに預けておいたほうが都合がいい筈だ」

「………………」

「この子を戦場に置いとくのは本意ではないだろう、きみにとっては尚更に。
 歩く教会は壊しちゃったしね、インデックスを守ってくれ。
 そして道中、きちんと話をするんだ―――きみのことは全てこの子に話してある」

「! なん、だと……鋼盾!?」

「なかった事になんて、できるわけがないだろ」
 

 そして鋼盾はインデックスの顔を見る。

 その顔に浮かぶは困惑、疑問、焦燥、予感―――そして痛みと覚悟。


 ああ、この子は強い。

 既に鋼盾の意を汲んでくれているようだ。


「さて、インデックス。
 ぼくはちょっと事情聴取とかで帰りが遅くなりそうだから、ステイルに送ってもらってくれ。
 きみのIDはないし、警備員さんに捕まると大変だから」

「……きくひこを置いて?」

「ああ、こっちの人手は充分だよ。
 それになにより、きみにはきみの戦いがある」

「……わたしの、戦い」


 そ、昨日の夜話したろ? と鋼盾はインデックスに笑いかける。

 昨晩、鋼盾はインデックスに選択を強いた。

 未来を願ってくれ、一緒に足掻いてくれと頼み込んだ。

 
 そんな鋼盾に、インデックスは。

 泣き笑いのような顔で、震える声で。

 それでも、是と言ってくれた。


 その気高き選択を、鋼盾は見届けた。

 なればこそ、つまらぬ容赦など無用だ。
391 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/22(木) 21:41:48.51 ID:BoYgY95Wo


「話した通りだ。彼はステイル=マグヌス。イギリス清教所属の魔術師で神父。
 きみと二年間家族のように過ごし、この一年、きみを守るためにきみを追った人だ。
 ――きみの命を繋ぐためだけに生きてきたような男だよ」

「……うん」

「約束したね。もうなにひとつきみから奪わせはしない。
 ―――でも、未来と現在だけじゃない、なくした過去もきみのものだ」


 彼女が奪われたたくさんのもの

 忘れてしまった、かつての絆。


 だが、絆は切れたわけではない。

 インデックスが忘れているだけで、きっとそこにある。

 涙雨に晒され、激情の風雪に煽られ、経年によって劣化してボロボロでも。


 きっと、消えたりなんかしない。

 彼女のこれまではけして無駄ではない。

 ステイルが、神裂がそれを体現している。


「取り返せ、やり直せ、怯まず、諦めるな。
 それがきみの戦いだ。……行っておいで」

「うんっ! 行くよステイル! こっち!」

「! イ、インデックス!?」


 未だ混乱の最中にあるステイルの手をとり、安全圏へと移動するインデックス。

 ……あの調子なら、きっと大丈夫だ。


 さあ、残るは二名。

 鋼盾と木山の仕事については、言うまでもないだろう。


392 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/22(木) 21:48:01.90 ID:BoYgY95Wo


「……さて、木山先生はぼくと来てください。警備員に出頭します。
 寝かしとけって言いましたが――叩き起こします、今すぐ」


 寝坊助に目覚ましを食らわせる。

 そろそろ、この茶番にも幕引きだ。

 ラスボス面の怪物など、誰も望んではいない。

 触媒たる木山春生、あなたもそう思うだろう? と鋼盾は木山を見る。

 それを受けて木山は笑う、瞳に悪戯な光を湛えて。


「了解、ヒーローさん」

「……まだ言うか、この野郎」


 もう随分と慣れてしまったが、木山のからかいに鋼盾は苦る。

 だれがヒーローだ、こんな徹頭徹尾他力本願なヒーローなどいてたまるか。


 さあ、小物臭く、いぎたなく、小賢しく立ち回ろう。

 端役は端役の仕事をしよう、みっともなくても構いやしない。


 だが、木山はそんな鋼盾に小さく溜息。

 彼女に言わせれば、この戦場を牽引しているのは鋼盾そのひとに他ならない。


「それはこちらの台詞だよ、いい加減認めるといい」


 ……まあ、得てして本人は気づかぬものか――困ったものだと彼女は笑う。

 その笑みに渋面を返し、鋼盾は次なる戦場を見据える。


 目指すは、高架の上の警備員。

 教え子を守るべく盾を構える、頼れる先生たち。

 彼らを巻き込む、彼らを抱き込む。

393 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/22(木) 21:49:20.20 ID:BoYgY95Wo


「言ってろ……行きますよ」

「はいはい」

「はいは一回」


 そう言えばあの日、小萌ともこんな遣り取りをした。

 あの時は言われる側だった、昼ではなく夜で、なにより戦場ではなかった。

 だけど。


 小萌と、木山。

 このふたり、欠片も似てないのにどこかダブるのだ、鋼盾的に。


 まったく、困らせてくれる。

 ……それが満更でもないとか思ってしまうあたり、我ながらどうかしてるが。


 そんな鋼盾の反応に、何を見たのか。

 木山はますます笑みを深くして、今度は言われて通りに、一回。


「はい……ふふ」


 掠れてなお甘い、穏やかなアルト。

 歩き出す足取りには、ひとつの迷いも見受けられない。


 満身創痍とは思えぬほど軽やかに。

 自首しにゆくとは思えぬほど、楽しそうに。

394 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/22(木) 21:59:56.28 ID:BoYgY95Wo


 勇ましく戦場を駆ける御坂美琴。

 喪った過去に立ち向かうインデックス。

 戸惑いつつも誓いを果たすステイル=マグヌス。


 それらを見送って、鋼盾掬彦と木山春生は高架を目指す。


 解放の歌を響かせるために。

 そのふざけた幻想をぶち壊すために。


 成すべきを成す、そのために。

 己の定めた戦場へと、その足を踏み出した。






――――――――――
395 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/22(木) 22:01:32.71 ID:BoYgY95Wo



ここまで

さて、ようやく逆転の狼煙
ステみこ中二炎雷コンビも熱そうですが、こんなんなりました
うちのインさんには鋼盾が全部ぶちまけちゃったので、どうなることやら

次回はやっとあのひとが登場
……一体、誰じゃんよ?

んでは、また


396 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/22(木) 22:10:26.26 ID:NdYkADWu0
やべえコウやんかっこよすぎだろ
これで端役だったら他に舞台に上がれる人がおらんわww

で、いよいよ登場するというのが誰なのかさっぱりわからないじゃんよ
あの質問の時点でこんな先を書いてたとかすげえな
397 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/22(木) 23:29:47.01 ID:0lgpHBVP0
木山先生が魅力的すぎてヤバい
ニヤニヤしすぎて自分がキモイ

ていうかコウやんレベルアッパー&インデックス編でこれだろ
夏休み終わったらとんでもないことになってそうだ
クラスメイトからお前誰だって突っ込まれるレベル
398 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/23(金) 01:02:12.78 ID:Fmu1TRjjo
密かにステイルと美琴の共闘も期待してたけどこれはこれでアツい展開だぜ
マジでこのスレに挿絵とか描いてくれる絵師降臨しないかしら…
399 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/23(金) 01:39:52.24 ID:14/2BN9AO
>>397
クラスメイトは既にコウやんを一目おいてるから大丈夫。

なんつーか、必要なだけの戦力と人脈集めたら後はコウやんに指揮を取ってもらえば原作より遥かにいいハッピーエンドが見える気がする。
400 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/23(金) 12:39:36.46 ID:JVkHJ0KAO
しかし木山先生マジヒロインの器だな

そしてステインにも期待!カップル的な意味合いではなく
401 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/23(金) 15:13:06.30 ID:MPqVgzOjo
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402 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/23(金) 19:27:31.11 ID:/nZTMwwlo
>>397
そして浮上する童貞卒業疑惑
403 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/24(土) 03:28:30.84 ID:HWVF/Hj0o
こうやん走り回る+心労で見た目からして別人になってそうだな…
404 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/24(土) 03:39:26.11 ID:qa6K7ozAO
夏休み明け、そこには引き締まった躯で大人の余裕を漂わせるコウやんの姿が!

一同、戦慄!
405 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/24(土) 20:40:40.01 ID:QpvOjzEWo
コウやんこのハードスケジュールだと死ぬかやせるだろ
がんばってください
406 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/24(土) 22:24:13.29 ID:yOjXNT1+o
メリークリスマス!
みなさん如何お過ごしでしょうか、>>1は大掃除してました畜生

スリムなコウやんとか>>1も見てみたいです!
今やってる超電磁砲大覇星祭編にコウやん登場しねーかなー
あの補講の日からずっと走りこんでた鋼盾くんが、地味に中距離走でがんばってたりしねーかなー
……無理か、うん、知ってた


あ、あとで投下します、日付変更前後にはなんとか。
……ほんとはクリスマスイブをエンジョイしてるフリをしようと思ってたのですが、ダメでした

年内最後の投下かも知れません
よろしくです!
407 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/24(土) 23:19:25.54 ID:yOjXNT1+o


「で? なぜここにいるじゃんよ鋼盾。
 ―――木山の車にお前を見つけた時は、目を疑ったぞ」

「……いや、もうなんかいろいろありまして」


 黄泉川愛穂。

 鋼盾の通う高校の体育教師であり、腕利きの警備員である彼女。

 口ぶりによるとレヴェントンの包囲網の中に居たらしい……するとインデックスを見られているのだろうか、困った。

 木山の攻撃を受けてかその身はボロボロだが、その目には確かな意志が宿っている。

 そしてもう一人、鉄装綴里と名乗った眼鏡の警備員も同様だ。


 警備員の姿を求め高架に登った鋼盾と木山が、ようやく見つけたのがこのふたりだった。

 そのうちのひとりが黄泉川という事実が幸か不幸か、今の鋼盾には測れない。


 だが、先日職員室で会話をした際

 彼女からもらった言葉があった。


“けじめを付けに行く、そういう姿勢は悪くないと思うぞ鋼盾。
 もし面倒事があったら、私に言うといい”


 ……まさかここまでの面倒事とは、思ってなかっただろうなとは思う。

 だが、けじめはつけなくてはならない。


 贖罪でも善行でも義務でも使命でもなく、けじめだ。

 カタをつけねばなるまい、何をおいても。

 そのために周囲を巻き込んでいるあたり、まったくアレな話だが。


 ……その不手際のけじめも、いつか付けてみせる。

 だけど、今はとりあえず――できることからこつこつと。

408 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/24(土) 23:20:51.95 ID:yOjXNT1+o


「……木山先生は、自首するそうです。
 あれを止めるために、そう決断してくれました……そうですね?」

「ああ、是非もない。
 ――あの怪物は幻想猛獣、幻想御手使用者のAI……能力の塊のようなものだ。
 こちらとしても計算外の事態で、既に私の制御下にはない」

「……厄介なコトをしてくれたじゃんよ。
 ―――止める方法が、あるんだな?」

「ああ」


 黄泉川の問を首肯し、木山は鋼盾へと視線を移す。

 鋼盾は頷くと、胸ポケットからチップを取り出し、黄泉川と鉄装にそれを見せた。

 現状における唯一の打開策、キーアイテムたる解除プログラムである。


「このチップに入っているのがワクチン――幻想御手同様の、音声プログラムです。
 これを使用者に聞かせれば、あれから不死性をひっペがせます」


 その言葉に警備員ふたりは目を丸くし、まじまじとそれを見詰める。

 つい先ほど動ける警備員全員で張った弾幕も、虎の子の試作兵器も全く通じぬ化物。

 木山曰く“幻想猛獣”、それを打ち破る可能性の登場に驚きを隠せない。

409 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/24(土) 23:24:39.45 ID:yOjXNT1+o


「トドメは御坂さん――第三位、超電磁砲に頼んであります。
 彼女が時間を稼いでいてくれるうちに、なんとかこれを学園都市中に響かせたい。
 先生方には、それをお願いしたいんです」

「……解除プログラム、ね」


 鋼盾の手の中にあるメモリーカードを矯めつ眇めつ、鉄装綴里が呟くように言う。

 それが本当なら、すぐにでも対応をとらねばなるまい。

 だが、しかし。


「でも……通信装置が乗った車は氷漬けと黒焦げのスクラップよ?。
 ……まずいわね。原子力実験炉の近くだっていうのに」


 それについては打開策がある、と鋼盾が口にしようとした瞬間、黄泉川がそれを阻んだ。

 その表情は硬質で、声にも厳然とした響きを孕んでいた。


「……鋼盾、私は木山を信用出来ないじゃん。
 そのプログラムが安全だとどうして言える? ソイツは幻想御手を学園都市にばらまいた女だぞ」

「……まあ、妥当な対応だな。
 誓ってそのプログラムは安全だが―――確かに、この場で証明はできない」

「……検証作業が必要ね。早急に。
 でも、今からじゃ……だけど、いきなりは使えないし……」
 

 ……黄泉川や鉄装の判断は、正しい。

 警備員からみれば、木山は犯罪者、テロリストだ。

 そんな彼女を信用することは難しいだろう、最悪、更なる混乱を招く恐れがある。


 だが、時間がない。

 成長を続ける幻想猛獣、放っておけば悪化は確実だろう。


 美琴も長くは持たないかもしれないし、原子力実験炉は今も危険に晒されている。

 患者たちも心配だ。幻想猛獣は木山としても予想外の挙動である。

 ……どんな影響があるか、解ったものではないのだ。


 今、叩かねばならない。

 すぐに、だ。
 
410 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/24(土) 23:26:43.51 ID:yOjXNT1+o


 そして、鋼盾には確信がある。

 出会ってたった一日だが、木山春生という女を、己は知っている。

 その心根に、触れた確信がある。


「ごもっともですが―――彼女は、テロリストじゃない。
 お二人と同じく教師です。生徒のために奔走する、優しい先生ですよ。
 ……ぼくは、木山先生を信じます」


 とはいえそれは鋼盾の心情に過ぎない。

 それを警備員ふたりに押し付けるのは、無理な相談だろう。


 事態は一刻を争う。

 木山春生に全額張ったのは己だ。

 ならば、多少の無理はしなければならない。
 

「時間がありません。
 力を貸して頂けないなら、次善策に移ります」 


 そう言って鋼盾はズボンのポケットから、携帯電話を引っ張り出す。

 それを操作すると、あらかじめ作成しておいたメールを手早く送信する。

 そして、一言。


「……これからやることはぼくの独断ですから、悪しからず」


 警備員ふたりに向けて、小さくもはっきりと宣言した。



――――――――――

411 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/24(土) 23:29:39.70 ID:yOjXNT1+o


 宣する教え子の奇妙な迫力に、黄泉川愛穂は気圧された。

 敏腕警備員として数々の不良少年少女を指導してきた黄泉川をして、だ。


 鋼盾の宣言は、淡々と落ち着いた声だった。

 吠えたわけでも、睨みつけてきたわけでもない。

 その程度では黄泉川は揺るがない、子供の駄々と笑い飛ばして終わりだ。


 だが、目の前の少年には、それを許さぬ何かがあった。 


 鋼盾掬彦。

 保健体育の評定は3。

 運動神経はいまひとつだが授業態度は真面目で、無欠席。

 テストの点はまあまあよろしい、そんなあまり目立つところのない生徒だ。


 白井の連絡先を調べに己のもとを訪ねた、先日の一件を思い出す。

 思えば、一対一で話したのは、あれが初めてだっただろうか。

 謝りたい、お礼を言いたい、けじめを付けたいという真摯な態度には好感を持った。


 だが、ここまで根性入ったタイプではなかった筈だ。

 おとなしい、気弱な少年であった筈だ。

 
 ただ――そう、彼の担任である月詠小萌が言っていた。

 白井の連絡先を伝えたことを報告した際に、自慢話を聞かされた。

412 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/24(土) 23:38:34.02 ID:yOjXNT1+o


“鋼盾ちゃんは、すごーくいい子なんですよー。
 今はまだいろいろ迷ってるみたいですけど、ふふ、強い子なんです”

“へえ……まあ、確かにちゃんと挨拶の出来るヤツだったじゃん。
 月詠センセーんとこの上条なんて「うだー、はいりまーす」だったじゃんよ”

“……上条ちゃんてば、まったくもう。
 上条ちゃんもあれでやるときはやる子なんですけどねー”

“デルタフォース、か。一学期の主だったトラブルの中心は連中だったじゃん。
 まったく、月詠センセのクラスは面白いヤツばっかでうらやましいじゃんよー”

“むぅ、確かにそれぞれ個性派ですけど……
 そうそう、あの三人を一番制御できるのが、実は鋼盾ちゃんなのです”

“それは……なかなかすごい話じゃんよ? ……本当に?”

“ええ、すごいのです。ほんとうに、すごいことなのですよ。
 まあ……時々暴走させちゃうこともあるのですが……でも、それがうまく転がるのです”

“ふーん、意外じゃんよ”

“本人は気づいてないですし、クラスの子たちも、なんとなくしかわかってないでしょうけど……
 たぶん、鋼盾ちゃん――あの子には、身体検査なんかじゃ測れない種類の―――”

413 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/24(土) 23:41:14.91 ID:yOjXNT1+o

 そんな、職員室で煙草を燻らせながらの会話。

 生徒の良いところを探す名人である小萌の言うこと、と話半分に聞いていたのだが。

 小萌の眼力は、どうやら確かなものであったらしい。


 埒外の多才能力者、第三位たる超能力者、悪夢のような幻想猛獣、銃声奏でる警備員。

 気弱な者なら蹲って泣き出してもおかしくないような、そんな戦場で。

 なんの力も持たぬ筈の少年が、誰より先を見据え、真っ直ぐ立っている。


 はっきり言って、異常な事だ。


 ありえない。

 ありえないが、彼はここに居る。


 木山を説得し、第三位に渡りを付け、怪物を倒す手段を携え、黄泉川を圧倒している。

 
 戦場のど真ん中、少年を動かすものはなんなのか。

 それはきっと確信と覚悟を以って精製された人の心油、それが生み出すは不絶の心火。


 その熱を、その光を。

 絶やしたくない、と思ってしまう自分は、きっと警備員としては間違っている。


 だが、教育者としては?

 ……勿論、間違っている。子供を危険に晒すような真似が、正しい訳がない。


 だが、直接受け持っているわけではないとはいえ、彼は己の生徒だ。

 これほどの覚悟を示す教え子の成長に絆されぬ教師など、居るわけがなかった。


 見届けたい、と思ってしまった。

 ―――それが、私の敗因じゃん、と黄泉川は後に語ることになる。



―――――

 
414 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/24(土) 23:46:00.59 ID:yOjXNT1+o


 こちらを見据える警備員ふたりの眼差しはとりあえず無視する。

 まずは深呼吸、落ち着け、焦るな、整理しろ。

 そして躊躇うな、やり遂げろ。


 鋼盾はメールの送信を確認すると、そのままアドレス帳から先日登録したばかりの名前を引っ張り出した。

 作業の上から五番目。

 通話ボタンを押して、数コールで相手が応える。


「はい、白井ですの!」


 電話をかけた相手は、白井黒子。

 縁あって友人関係にある、風紀委員の少女だ。


「白井さん」

『鋼盾さん! すみませんが今ちょーっと取り込んでますの! おりか「その件で、朗報だ」


 黒子の言葉を遮り、鋼盾が言葉を差し挟む。

 取り込み中というのは、この案件、幻想猛獣絡みであろう。

 電話の向こうでは他の風紀委員のものであろうか、小さく喧騒が漏れ聞こえている。

415 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/24(土) 23:48:03.49 ID:yOjXNT1+o


「今、現場に居る。あの怪物は幻想御手使用者のネットワークそのものだ。
 ……白井さんは、今どこに?」

『へ?……え、ええ、支部に戻ってますの!
 でも鋼盾さん? 現場に居るって、それは―――?」

「聞いて。怪物はネットワークがあるかぎり無限に再生する、患者を起こしてネットワークを破壊しなきゃいけない。
 そのための解除プログラムが、ここにあるんだ。どうにか学園都市中に今すぐこれを流したい。
 ―――初春さんはそこにいるかい?」


 初春は警備員に保護され、黒子が引き取りに行ったと美琴が言っていた。

 スタンガンを浴びてしまった彼女は、果たして戻っているだろうか。


『どうして鋼盾さんが……! ……いえ、初春はここに戻っていますの!
 ですがそんな大規模な真似、上の承認抜きに行うわけには!』

「わかってる――でも、代わってくれ。
 佐天さんと御坂さんの命がかかってる、彼女らを助ける、何も言わずに代わってくれ」

『……了解ですの……初春』


 反論を飲み込み、黒子は電話を代わる。

 随分と混乱させてしまっただろう、悪い事をした。

 そして、鋼盾の作戦の核を成す、花飾の少女の声が響いた。


『代わりました、初春です』


416 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/24(土) 23:50:15.58 ID:yOjXNT1+o


 初春飾利。

 彼女の異常な情報処理スキルについては、黒子より聞き及んでいる。

 ステイルの連絡先をすっぱ抜いた件もある、あのスーパーハカーだ。


 そのスキル一本で風紀委員の座を勝ち取った、強い強い女の子。

 彼女こそが、鋼盾の選んだ逆襲の尖兵だ。


「やあ、初春さん。
 お願いがあるんだ―――この街を守るため、きみに一仕事頼みたい。
 ぼくと一緒に、罪を犯しちゃくれないかな?」


 我ながら、ほんとうに酷い台詞だ。

 風紀委員に罪を犯せと、護るために罪を犯せと持ちかける己。

 全くもって、碌なものではない。


『……ふふ、任せて下さい。
 それで―――私は何をすればいいんですか?』


 だが、初春飾利はそんな鋼盾の台詞に、力強い返事を返した。

 電話越しでもわかる、花咲くような笑みを浮かべて。





――――――――――
417 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/24(土) 23:58:48.29 ID:yOjXNT1+o


ここまで

初春の出番を奪うとか……鋼盾呪われろ、と思ってた方もいるんじゃないでしょうか
いやいや、そんなことはしませんぜ! 初春マジスーパーハカー

そして黄泉川先生
けじめをつけろと教え子に言ったらエライ爆弾抱えてきちゃいました
先生はたいへんですね

んじゃ、みなさんよいクリスマスを!



418 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 00:00:31.88 ID:846VqaP60
メリークリスマス!
419 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 00:45:39.24 ID:ObbIU+8I0
うん、ここの>>1が初春の出番をこれで終わらせるわけがないと信じてた

>>414の「作業の上から五番目」で首を傾げてしまったが、「サ行」だなww
それでシライより前が4人もいるとかコウやん友達多いなちくしょう
420 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/25(日) 01:14:07.33 ID:BlfFSE1oo
>>419
うおおお、やっちまったぜ!おっしゃるとおり、サ行の間違いです
誤字脱字誤変換が多くて困ります! 畜生!

あ、シライの前の四人ですが、どうせ「シスコン軍曹」「実家」「風紀委員一七七支部」「奨学金問い合わせ」とかでしょう
実は「坂島道端」で、コウやんの素敵な髪型は彼が手がけている、という可能性もなきにしも……ねえよ

「食蜂操祈」とかではないはずですのでご安心を
421 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 01:31:41.53 ID:ObbIU+8I0
そうだ、>>340を考えれば最低2人いることはわかってたじゃないか!
サローニャとサンドリヨンの番号があるんだな!
よしコウやんもげろ
422 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 19:31:49.75 ID:KmYKWfCg0
メリクリ乙
確かにプログラムを検証なしでバラ撒くのはあれかもしれん
423 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 21:26:34.10 ID:QuUh0leAO
乙!
424 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 22:14:41.59 ID:/xqksx99o

「サラシを巻いた人」
とかも入ってるんですねもげろ
425 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/26(月) 00:31:43.94 ID:YslRVE5eo
将来的にはこうなります

サ行
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
サーシャ=クロイツェフ
才郷良太
坂島道端
佐天涙子
査楽
サローニャ=A=イリヴィカ
山岳揚子
サンドリヨン
シェリー=クロムウェル
重福省帆
丈澤道彦
食蜂操祈
ショチトル
白井黒子
426 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/26(月) 19:28:49.73 ID:2PDkcyvAO
最終的にコウやんならとりあえずレベル5フルコンプは基本だろうな
427 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 20:17:40.24 ID:YslRVE5eo
私としたことが……
>>425に「鈴科百合子」を入れ忘れてたぜ!
428 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/27(火) 00:07:45.92 ID:laMMKV8v0
忘れる以前にこの範囲に入ってないだろww
429 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/27(火) 05:56:40.43 ID:2D98H8FAO
きっとふりがなが「じしょうさいきょう」なんだよw
430 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/27(火) 12:54:39.47 ID:wV6OTbpX0
おいおいお前ら、アドレスじゃなくこの一言こそ議題にあげるべきだろ?
「ぼくと一緒に、罪を犯しちゃくれないかな?」
…おいすげぇ口説き文句だな、運命共同体な意味で。
ちなみにそこだけ聞いたらスゲー殺し文句っていうかジゴロすぎる。
そして笑顔で受け入れる中学一年生女子パネェ。
まぁ解決策を非正規手段で行うことだとわかってるからなんだろうけど、
後々にその部分だけ抜粋する、小悪魔カザリンを幻視しました!

あ、それからコウやん、美女三人に囲まれながら別の美少女に電話するとかなんというか爆発しろ
431 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/27(火) 13:04:41.35 ID:9pF4Set9o
ふつうに聞き流したけどすげー口説き文句だよなこれ
さすがこうじゅんさんや
432 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/27(火) 20:28:00.08 ID:7c2TdZ1io
口説いてますよー
犯罪幇助ですよー

うおー、なにも考えずにクサいの書き流してたし
あれですね、こういう台詞はイケメンがいえばこそだよな自重

今日の仕事、相手の都合で出先で5時間ぽっかり開いてしまったのでずっとノートにSS書いてたぜ!
お陰で更新できそうです! 22時くらいまでに!

予告age!!
433 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/27(火) 21:45:13.30 ID:PnXrDxyw0
おお、舞ってる
434 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/27(火) 21:55:32.23 ID:wV6OTbpX0
>>1
OK待ってる、風呂前なので脱いじゃってるが我慢の子!
てかなにいってんだ、コウやん(内面)イケメンなんだからむしろOKだろぃ。
口説き文句に違和感感じずスルリと読んでしまった皆の反応がいい証拠。
私も一行の文字数少ない携帯で読んでなきゃ気付かなかったろうさ!
というわけで自重せず心の命ずるままに文章化するヨロシ。
435 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/27(火) 21:56:38.39 ID:7c2TdZ1io
サンクス!

それでは、参ります。





――――――――――
436 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/27(火) 21:58:28.37 ID:7c2TdZ1io

―――――


 初春飾利。

 普通の中学校に通う低能力者であり、風紀委員一七七支部に所属する学生。

 明るく朗らか、どことなくマイペースな、花飾りの少女。

 しかしそんな彼女を敏腕風紀委員たらしめる、ひとつのスキルがある。


 卓越した情報処理、コンピューティング技術。

 それが、初春飾利の牙だ。


 異能ではなく技能

 秘術ではなく技術


 超常蔓延るこの都市は、しかし能力開発だけの街ではない。

 情報科学の高度に発達した、電脳都市としても面も併せ持っている。

 
 能力にも体力に乏しい彼女が風紀委員になるためには、

 短所全てを補うほどの長所を示すより他にない。


 だからちからが、必要だった。

 ゆえに彼女は、それを極めた。


 種を蒔けば、芽が生える。

 懸命に根を伸ばし、懸命に葉を伸ばす。

 いつか花を咲かせる夢を見て。

 いつか実を結ぶ夢を見て。



 初春飾利という女がいる

 
 たとえ能力に恵まれずとも、腐らず拗ねず諦めず

 ただ研鑽ひとつで、我を張り続ける諦めの悪い女がいる
 

―――――
437 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/27(火) 21:58:45.11 ID:zitOwz+T0
バッチこーい!
438 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/27(火) 21:59:14.00 ID:7c2TdZ1io


 さて、先日風紀委員の詰所で美琴ら三人と交わした雑談の中に、初春飾利の武勇伝がある。

 黒子の独断専行を愚痴る初春に、反撃とばかりに黒子が暴露した形だった。


“ぶっちゃけわたくしの独断先行など、かわいいものですの。
 そこな初春なんてパソコンひとつでどれほど無茶をやらかしていることか!
 この子が捕えたハッカーとクラッカー、もう数えるのも忘れてしまいましたの!”

“……はー、初春さん、すごいんだー。
 学園都市のハッカーなんて、能力まで使ってくるような連中でしょ?”

“うん、なんか聞いたことあるよ、ホントかどうかは知らないけど。
 心を読んでパスワードを盗んだり、電源の落ちたパソコンから記憶を拾ったり……
 ……ああ、それこそ御坂さんが「最強のハッカー」だね”

“ふぇっ!? ……あ、電撃使い(エレクトロマスター)!”

“ええ、確かに電撃使いを悪用するひとは難敵ですねー。
 普通ではあり得ない挙動をしますから、厄介です”

“と言いつつ初春、ついこの間その電撃使いのレベル4を捕まえましたのよ?
 なんでも『電気鼠』とか名乗る、その筋じゃそれなりに有名な輩だったらしいのですが”

“えへへー、がんばりました!”
 
“……こりゃ、御坂さんも悪いことはできないね”

“しません! ……た、たぶん……”

“この『電気鼠』を捕えるために初春が取った手段というのが……はあ。
 とても口外できない電脳犯罪の目白押しですの。まず手始めに……”

“し、白井さん!? ストップ! ストップです!
 それ以上はダメです、ダメ、ダメですってば!!”

“……何やったのよ、初春さん”

“聞かないほうが、よさそうだね”

439 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/27(火) 22:01:00.89 ID:7c2TdZ1io


 その後「あんまりヤバくない範囲」の初春伝説を幾つか聞いた。

 それでも、鋼盾や美琴に言わせれば凄まじいの一言だった。いいのか風紀委員。

 鋼盾などはてっきりサポートタイプと思っていたこの花飾の少女は、しかしその実とんでもないスキルの持ち主だったのだ。

 黄泉川曰く「風紀委員一の腕っこき」である黒子にここまで言わせるのだ、とんでもない。


 その時鋼盾が初春に抱いた感情は、ある種の憧憬だった。
 
 能力ではなく技術によって、能力者たちを圧倒するその在り方。

 その力を治安維持のために使うことのできるその正しさ。

 
 そういう戦い方もある。

 能力に依らず、この街で望む己を実現できる。


 それを体現する彼女に痺れた、憧れた。


 だから。

 選んでしまった。

 この大一番で、彼女を。



―――――
440 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/27(火) 22:03:10.43 ID:7c2TdZ1io


『それで―――私は何をすればいいんですか?』

「幻想御手ネットワークを破壊する。蜘蛛の巣を払うだけの簡単なお仕事だよ。
 だけど、上の判断を仰いでいる隙がないんだ―――それでも、やって欲しい」

『やりましょう』


 一片の躊躇いもなく了承を告げる初春が、鋼盾にはただただ眩しい。

 この子を、いや美琴や黒子もだ、彼女たちを前にすると少し困ってしまう。

 どうしようもなく、己の弱さを突き付けられてしまうのだ。


「……初春さん。あの電話の時点で、ぼくは木山先生が犯人だとわかってた。
 だけどそれをきみに伝えられなかった」


 結果、彼女は木山に昏倒させられてしまった。

 倒れ伏す彼女を、己は放置してしまった。

 そして今、彼女に更なる重荷を背負わせようとしている。


『構いませんよ、そんなの。私、ピンピンしてますから!!
 白井さんとの通話は盗み聞きしてました。……時間、ないんですね?』


 だが、初春はそれを意にも介さない。

 ならば鋼盾も躊躇いはしない。

 やるべきことが、あるのだ。
 

「……ああ、御坂さんも連戦だ……負担はかけられない。
 なんとしても迅速にネットワークを破壊しなきゃならないんだ。
 解除音声を学園都市中に響かせる――――どんな手を使ってもね」

『了解です。幻想御手解除プログラム――それ、こちらに送って下さい。
 現場の車両からの通信は潰されてるみたいですが、そこから西へ三q先に、無人ですが警備員の出張施設があります。
 遠隔でセキュリティ黙らせてドア開けました、ナビしますから―――そこまでひとっ走りお願いします』


 鋼盾の意を汲み、迅速に策を組み立てる初春。

 能力ばかりが強さではない、刀槍ばかりが戦ではない。

 ―――そうとも、ぼくらにはぼくらの戦いがある。

441 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/27(火) 22:09:23.45 ID:7c2TdZ1io


「……運動不足のデブにまた残酷な台詞を。
 大丈夫、データは携帯にも入れてあるから……もうきみのパソコンに送ってある」


 先ほど送ったメールが、それだ。

 木山から預けられたプログラムが重要なものと判断した時点で、バックアップを兼ねて携帯とパソコンにコピーをしておいたのが功を奏した。

 備えは必要だ。己が弱さを知る身であれば、なおのこと。


「一万人のうちの何割起こせばネットワークを潰せるかはわかんないけど、きっと削っただけ御坂さんは楽になると思う。
 テレビラジオネット有線無線なんでもいい――――上手いことやってくれ」

「はい……ん、添付ファイル、確認しました!
 上位権限ぶっこ抜いて特製ウィルスばら撒いて、なるべく迅速に都市中で鳴らして見せますから!」


 鋼盾の要請は、そういうことだ。

 風紀委員の領分を超えた、非合法な手段を彼女に求めた。

 すべてが済んだあと、どのような処分を下されるかなど解ったものではない。


 それでも―――それでも。

 成すべきを成すために、成さねばならぬことがある。

 だが、


「―――悪い、巻き込んだ」


 抑えきれぬ謝罪が口をついた。

 口にすべきではない、そう思いつつも。


『謝らないで下さい、むしろ望むところです。
 ……風紀委員としては落第でしょうが――私にも戦う理由がありますから』

「落第なもんか……言わせないよ、そんなこと」


 言わせるものか。

 そんな初春だからこそ、この役を頼むのだ。

 
 この街をまもる盾、風紀委員

 初春飾利、きみなればこそ

442 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/27(火) 22:10:19.64 ID:7c2TdZ1io


 無音にて深く深くに浸透するは魂の熱。

 さあ、ここに逆転の狼煙を上げよう。


「頼むよ風紀委員さん。
 メルトダウンなんてまっぴらだ。この都市を守ってくれ。
 幻想御手に絡め取られたみんなを、助けてあげてくれ」

『―――燃えますね。ええ、最高です。
 ……ああ、鋼盾さん。私が風紀委員クビになったら、責任とって下さいね?
 代わりにあなたに盾役、お願いしますから』

「……無茶言うなよ。
 ぼくも同罪、むしろ主犯格だよ―――適性検査で弾かれる」


 先日の、そして今朝の電話での勧誘を思い出す。

 風紀委員になりませんかと求められて、嬉しかった。

 だが、いたいけな女子中学生を誑かす己のような人間には、それは無理だろう。


 されど初春飾利はあきらめない。

 花咲くように、歌うように。


『ふふ、この通話ログなんて一分で消せますよ?』

「……ぼくのとなりで警備員さんがこの会話聞いてるんだけど、ね」

『黙らせます』


 怖い怖い。

 ……だが、頼もしい。


 いいだろう、無茶はお互い様だ。

 安いものだ、お釣りが多すぎて困ってしまう。


443 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/27(火) 22:12:29.37 ID:7c2TdZ1io


「ああもう、わかったよ―――やってやる。……ただし成功したら、だ。
 そうしたら風紀委員だろうがスーパーハカーだろうが、なんにだってなってやるよ」

『もう、ハカーじゃなくてハッカーと呼んで下さいってば。
 ――――いえ、ここは『守護神(ゴールキーパー)』でお願いしましょうかね』

「………………はい?」


 守護神(ゴールキーパー)

 学園都市の治安を守る者の中に、凄腕のハッカーがいるという都市伝説。

 その知識と技術をフルに駆使して作られたセキュリティの強度は、学園都市十指に入るという。

 しかし統括理事会はその実力を信じておらず、公的なシステムに導入される事はなかった。

 おかげで、そのハッカーの所属する小さな詰め所だけが『書庫』より数段強固な防壁を築いている、という噂だ。

 電脳世界の伝説、それに挑んだハッカーたちは軒並み逮捕の憂き目にあったという。


 鋼盾が以前、学園都市中の都市伝説を集めた際に見つけた最強のハッカーの噂。

 その二つ名が己のものだと、初春飾利がそう言った。

 確かに、黒子の話とも合致するところがある……だがしかし、えーと。


「………マジすか」

『えらくマジです。
 すっっごく恥ずかしいんですけど、実はこっそり気に入ってるんですよこの名前』

「……今日だけで何回伝説と会わなきゃいけないんだよぼくは」


 ほんとに。

 なんなんだおまえらは。

 なんか知り合いがことごとく都市伝説の住人なんですけど、どうしろってんだ。

444 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/27(火) 22:13:57.76 ID:7c2TdZ1io


『……ああ、でもネットを守る側じゃなくて破る側ですか。
 今の私には相応しくないかもしれませんね、守護神っていうのは』


 鋼盾が彼女に望んだ任は、“蜘蛛の巣破り”

 なるほど、ゴールネットを守るキーパーではない。

 ネットを突き破るほどのストライカー、いや、ここはこれしかあるまい。


「んじゃ『守護神』あらため『幻想御手殺し(イマジンブレイカー)』ってことでよろしく」
 
『……えー、はてしなく微妙ですねソレ。
 なんなんですか、この解除プログラムのタイトルは』


 果てしなく微妙だってさ上条くん。

 果てしなく微妙だそうですよ木山先生。

 ……いや、ぼくはそんなこと思っちゃいませんよ?


「命名は木山先生だから、文句はそっちに言ってくれ。
 ……一旦切るよ。先生方が睨んでるから……またあとで」

『お待ちしてます。
 ……約束、忘れちゃだめですからね』

「はいはい、じゃ」

「ええ」


 通話終了。

 さあて、これでキーアイテムは主人公の手に渡った。

 ここからは初春飾利が主人公の逆転劇だ、ヒロインは佐天涙子でいいだろう。


 ……端役にしては、なかなかいいアシストじゃないか、鋼盾掬彦。

 鋼盾は小さく微笑むと、視線を上げる。


 そこには。

 
445 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/27(火) 22:15:37.51 ID:7c2TdZ1io


「……やってくれるじゃん、鋼盾。
 警備員たる私の前で犯罪幇助とは……どういうつもりだ?」


 強い眼差しで鋼盾を見据える黄泉川。

 怖い怖い、ちょっと半端ではない。

 淡々とした口ぶりだが、返答次第じゃ殺されそうだ。

 その横では鉄装がオロオロと視線を彷徨わせ、そして木山が楽しげに鋼盾を見ている。


 鋼盾は小さく息を吐くと、黄泉川の目を見据えその意を述べる。

 どういうつもりだと言われれば、こういうつもりだと言うしかない。


「けじめ、つけるべきだといってくれましたよね、先生」

「……ああ、確かに」


 あの日、コーヒーと紙束の匂いのする職員室で。

 教師と生徒が、そんな話をした。


446 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/27(火) 22:19:38.07 ID:7c2TdZ1io


「これが、ぼくのけじめです。
 他人を巻き込むなという話でしょうが―――それでも、やらなくちゃいけないことです」

「……その携帯、渡すじゃんよ」


 鋼盾の手の中にある携帯に目を向け、黄泉川が言う。

 意外な反応に鋼盾は惑う、プログラムは既に初春に送ってしまったのに。


「……送っちゃいましたよ? もう」

「わかってるじゃん、渡せ。
 ……ああ鉄装、お前は怪我人の搬送を頼む、安全なところにまとめておけ」

「……わかりました」


 同僚に指示を放ちながらも、黄泉川の視線は揺るがない。

 鋼盾は携帯を操作し、通話をスピーカーモードに切り替え黄泉川に渡した。

 抵抗と言うにはあまりにも拙い行動だ。

 再設定すれば、それでご破算になってしまう程度のものに過ぎない。


 だが黄泉川は気にした風もなく、淡々と携帯を操作し―――なにやら小さく笑った。

 ニヤニヤと鋼盾を見ながら、携帯を耳に当てる。

 ……なんだろう、すっげえ嫌な予感。


 ワンコールで、相手は出た。

 スピーカーから甘やかな声が、響いた。

447 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/27(火) 22:20:21.99 ID:7c2TdZ1io


『はーい、鋼盾ちゃん。お待ちしてましたよー』
 

 その声を、聞き間違える筈がない。

 不意打ちにも程がある、問答無用のまんまるい声。。


 鋼盾掬彦が世界で一番敵に回したくないひとの、声だった。

 月詠小萌の、声だった。





―――――
448 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/27(火) 22:29:00.77 ID:7c2TdZ1io



初春がこんなんです
>>1は初春が中1ということを忘れがちです
こんな初春はいかがでしょうか、もっとかわいいとこも書いてあげたいのですが

そして小萌が出てきましたぜ
ワンコールで出る辺りかわいらしいです

年末年始、休みが少ないですが一回くらいは更新したい
んでは、次回もよろしくです!
449 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/27(火) 22:30:20.18 ID:zitOwz+T0
乙でした!
450 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/27(火) 22:35:11.87 ID:XAZIjtPL0
乙乙!
451 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/27(火) 22:35:24.86 ID:laMMKV8v0
あれ、初春じゃなくて黒子の携帯にかけたのは、初春の携帯にメールしたからと思ってたんだが違ったのか
初春が病院にいる可能性があるから確実に支部にいる黒子にかけたと理解しとけばいいのかな?

スピーカーモードなのに耳にあてちゃった黄泉川先生の鼓膜に合掌
452 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/27(火) 22:42:36.42 ID:laMMKV8v0
いかん、重箱の隅をつつくようなレスしてしまった
まずは乙を書くべきだったよね
クライマックス楽しみにしてます
453 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/27(火) 23:01:54.49 ID:wV6OTbpX0
>>1
>>1の初春素敵可愛い、打てば響くいい女可愛い
ワンコールで出れる状態で待ってた小萌センセ可愛い
電話帳にある「小萌先生(自宅)」で小さく笑った後スピーカーモードで顔顰めたであろう巨乳先生可愛い
主人公してる少年をニヤニヤ傍観してる脱ぎ女先生可愛い

あ、そうそう。
理由はともあれ想い人がワンコールで出ちゃうとかコウやん爆発しろ
454 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/27(火) 23:54:53.03 ID:7c2TdZ1io

みなさんレス感謝です!

>>452
ご指摘大感謝。いろいろ拙い>>1ですまぬぜ!

初春のパソにまずデータを送ったのは、とりあえず解除プログラムを「風紀委員」に届けるため。
黄泉川らに感づかれる前に、ということです。取り上げられちゃ困っちゃいますので。
とはいえ携帯でよかったですよね。そして万全を期すなら黒子にも送っとくべきですね。

まず黒子にかけたのは、おっしゃるとおりの理由です。
初春がダメな場合は、黒子たちに託す予定でした。

そしてスピーカーモードは! マジすんません!
>>1はスピーカーモードとか使ったことがないのです!

スピーカーモードは「音が大きくなって、マイクの感度もよくなる」って理解でいいのかな?

使ったこともないくせに書くからこんなことになるんだよ畜生!
……いや、学園都市の技術で云々……無理だよ畜生!

失礼しました!


>>453
ホント、男いねえなw
美琴のことも忘れないでいてくれると嬉しいぜ。

あ、あと「初春=守護神」というのは一七七支部では公然の秘密、ということで。
名乗るのはアレかなと思ったけど、名乗らせたかったのです!


んでは、ながながと失礼
また次回!

455 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/28(水) 00:32:20.22 ID:b1hhajWE0
スピーカーモードは、内部構造的にはいろいろあるけど、結果だけ見ればその理解でいいと思う
音量的には着メロとかと同じくらいの音量になるから黄泉川先生涙目

>>443の最初の台詞が後日
初春「あの時成功したら風紀委員になってくれるって言いましたよね(にっこり)」
となる伏線にしか見えなくなってきた
456 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/28(水) 10:58:03.31 ID:824bvvSAO
これが後に伝説になる風紀委員コンビ「鋼の花」の誕生秘話か


なんてな
457 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/28(水) 16:00:00.70 ID:eROUl3dT0
スピーカーモードは大抵は携帯背面の着信音が鳴るスピーカーから
相手の音声を流す方式だから普通に持って耳に付けてても意外と大丈夫だよ。
てか初春いいよ初春さすが俺の嫁。
458 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/28(水) 19:16:14.77 ID:0iGDty3Uo
初春はコウやんの嫁
459 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/28(水) 20:57:44.52 ID:OeZSBKxAO
初春は帝督の嫁
コウやんは俺のダチ
460 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/29(木) 19:10:24.89 ID:sZWv/i90o
初春は佐天さんの嫁
垣根は冷蔵庫
461 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/30(金) 07:31:14.61 ID:s1fJHGX8o
レス感謝、スピーカーモードについても感謝です

やべえ!!! 前回の初春武勇伝のトコで、工山規範くんについて触れる予定だったのに!
うあー忘れてたぜ! 脇役大好き>>1としたことがあああ!

>>1は今日がようやく仕事納め、今年は土日の位置が悪いぜ畜生
今晩、本年最後の更新に来たいと思います、予告age!
前半は小萌、後半は黄泉川と初春がメインです


……年またぐとは、思ってもみなかったぜ
462 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/30(金) 08:12:00.59 ID:AXCTinwe0
おお、年内にもう一度投下があるとは
期待して舞ってる

来年末も鋼盾VSアウレオルスもしくは鋼盾VS一方通行書きながら同じ台詞を言うといいと思うんだぜ
463 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/30(金) 09:50:48.73 ID:YiNJpYcNo
来る!メインヒロイン来る!これで勝つる!!(コウやんのメンタル的な意味で)
464 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/30(金) 12:13:13.00 ID:8RB601BAO
木山黄泉川初春小萌
選べないぜ
465 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/30(金) 20:38:30.86 ID:s1fJHGX8o
レス感謝。さて、今度こそ年内ラスト更新です
コレ投下したら、俺、実家に帰るんだ……!

それでは、参ります

そぉい!!





――――――――――
466 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/30(金) 20:44:04.08 ID:s1fJHGX8o

『はーい、鋼盾ちゃん。お待ちしてましたよー』


 すとん、と心の深い所に落ちてくるその声。

 月詠小萌の声が、スピーカーから転び出る。

 ころころと、飴玉のように。


 完全に、予想外の一撃であった。

 言葉もない鋼盾を尻目に、黄泉川は会話を始める。


「ああ、月詠センセ、私じゃん、黄泉川じゃんよー」

『! 黄泉川先生? どうして鋼盾ちゃんの携帯から?
 ……なにか、あったのですかっ! 鋼盾ちゃんは!?』


 常の甘音に、疑問の酸と焦燥の苦が混じる。

 そんな小萌を宥めるように、黄泉川の説明が始まった。


「ああ、鋼盾なら大丈夫、ここにいるじゃんよ。
 ……いやいや、常々思ってたけど、月詠センセのクラスは愉快なヤツばかりじゃん。
 ―――羨ましいよ、ほんとうに」

『……ええ、わたしの自慢の生徒さんなのです。
 自慢話ならいつでも聞かせてあげるのですよー?』

「はは、こないだのでお腹いっぱいじゃんよ。
 それに今回は自慢話じゃなくて、お説教に付き合ってもらうことになるじゃん」

『……それは、どういう?』

「このバカ、とんでもなく痛快にやらかしてくれたじゃんよ。
 制御役どころか―――この弾けっぷり、デルタの馬鹿共の比じゃないぞ」

 
 いやいや、そうでもないですよ。

 上条くんは魔術師やら聖人やらと拳を交えてやがるし。

 土御門くんは英国清教は必要悪の教会に所属するエージェントさんだし。

 青髪くんは青髪くんで相も変わらず絶好調だし。


 ……なんてことは言えるはずもない。

 弾けてしまった自覚もある、小萌宅を出て一日でこれだ。

 これはヤバイ、えらくヤバイ。

 退去に際して小萌と交わした幾つかの約束を、舌の根も乾かぬうちにぶっちぎった形である。

467 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/30(金) 20:45:10.95 ID:s1fJHGX8o


『……もう、目を離した途端にこれなんですから。
 もしかしなくても警備員さんのお世話になっちゃったんですかー?』

「ああ、前代未聞の空前絶後、いっそ痛快なほどにな。
 だけど心配は無用じゃん。こいつの安全は私が請け負うじゃんよ。
 ―――厄介事を片付けたら、一緒にこのバカ野郎へのお説教を楽しむじゃん」

『……もう、心配しないわけがないじゃないですかー!
 そんなの無理なのです! ああもう、代わって下さい鋼盾ちゃんに!』

「はいはい、時間がないから今は一言だけでお願いするじゃん?」


 ほれ鋼盾、と携帯を鋼盾の方へ向けてくる黄泉川。

 すげえニヤニヤしてやがる、してやったりといった感じだちくしょうめ。


 電話の向こうには、月詠小萌。

 深呼吸をひとつ。

 さあ、難敵だ。

468 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/30(金) 20:46:16.54 ID:s1fJHGX8o


「小萌先生、鋼盾です。
 えーと、その……昨日の夜ぶりですね」

『ばかー!!“昨日の夜ぶりですね”じゃないのですよ!
 まったく、先生との約束なんてガン無視ですかー!? いい度胸なのです!
 今からそっち行きますからね! そこどこですか! キリキリ吐くのです!』


 予想通りの大攻勢、火の如しである。

 無理もない、家を出てまだ一日も経ってないのにこのザマだ。

 返す言葉もないが、しかし今はやらねばならぬことがある。


 けじめである、責任である、乗りかかった船である。

 美琴や初春を巻き込んだ以上、鋼盾はもう止まれないし止まらない。


「……今は勘弁して下さい。
 心配無用です、先生に恥じ入るような真似はひとつだってしてませんから」

『だ!か!ら! 心配なのです!
 鋼盾ちゃんがそういう子だから心配なのです!』

「……面目ないですが、大丈夫です。
 今回ばかりは、止まれません。……もう、止まれないんです」


 電話越しの鋼盾の言葉に何か感じるものがあったのか。

 小萌の声から怒気が抜け、ポロリと問いが溢れでた。


『………上条ちゃんとシスターちゃんは、一緒なのですか?』

「ふたりは大丈夫ですよ。上条くんは家ですし、インデックスは信用できる人と一緒です。
 ぼくも信用できるひとたちと行動をしているところです。黄泉川先生もいますしね」


 嘘はついていない。

 上条は(ボコボコにされて意識不明とはいえ)ちゃんと家にいるし。

 インデックスは(先程までここに居たとはいえ、今は)信用できる人と一緒だ。


「――ご心配かけてすみません、先生。
 でも、やらなきゃいけないんです。必ず無事で戻りますから、どうか」


 今だけは。

 どうか。


469 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/30(金) 20:55:10.94 ID:s1fJHGX8o


『……ああもう! わかりました!
 でも、黄泉川先生の指示には、絶対に従うのですよ!!』

「…………ええ」

『……なんなのですか、はいの前のその沈黙は』
 
「自戒のための時間です」

『うあああもうっ!! 絶対! 絶対ですからね!!
 解りましたか鋼盾ちゃん!?』

「わかりました」

『……信じますからね。
 それと、解ってるとは思いますが―――あとで本っっ気でお説教です!!』

「……お手柔らかに願います」


 いや、ほんとに。

 心配ばかりで申し訳ない。

 不孝だ。


 そろそろ愛想尽かされても文句が言えないところである。

 だが

 
470 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/30(金) 20:56:17.45 ID:s1fJHGX8o



『――――いってらっしゃい、鋼盾ちゃん』


 ……この人は、いつだってそうだ。

 夜道を照らす月のように、迷いも暗闇も躊躇いも臆病も、すべて取り去ってくれる。


「……行ってきます、先生」


471 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/30(金) 20:57:24.55 ID:s1fJHGX8o


 会話の終了を感じ取った黄泉川が、携帯を己の方に向けた。

 もうすんごいニヤニヤしてやがる、すんごい楽しそうである。

 張り倒したいがカウンターを入れられる己を幻視したので自重。


 敵は腕利き警備員、シリアスをコミカルに解決する女。

 強能力者に盾ひとつで立ち向かい、五秒で畳んだ伝説のひとである。

 そんな黄泉川はニヤニヤしたまま、小萌と会話を始める。


「……と、いうわけじゃんよ。また連絡するじゃん」

『くれぐれもくれぐれもよろしくお願いするのです……うう、胃が痛いのですよ』

「お気持ち察するじゃんよ、んじゃ、後ほど」


472 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/30(金) 20:58:19.20 ID:s1fJHGX8o


 通話終了。

 黄泉川がニヤリと笑って鋼盾を見る。

 どこか悪戯を成功させた子供のような顔で。


「……勘弁してください」

「いいザマじゃん。教師をなめるなよ鋼盾」


 いやー、本気の月詠センセーかー、おっかないじゃん。

 と言いつつ、黄泉川は携帯の操作を続けており、返す気はないらしい


「さて、通信履歴に見知った名前を見つけて思わずかけてしまったけど――ああ、履歴じゃ白井になるのか。
 ア行の……っと……さて、次が本命じゃん」


 言いながら、携帯を操作してゆく黄泉川。

 そう、通話相手はやはり彼女しかありえまい。


 応えは即時。

 緊張感に満ちてなお甘い、花飾の少女の声がスピーカーより響く。

473 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/30(金) 20:59:08.32 ID:s1fJHGX8o


『はい、初春です! あと六分で第一陣が出せます』

「優秀だな」

『!?木……いえ、警備員の方ですか』


 先の鋼盾との会話を覚えていたのだろう。

 初春の声に緊張と警戒が混じった。


「警備員第七三活動支部所属、黄泉川愛穂だ」

『……風紀委員第一七七支部所属、初春飾利です』


 警備員と風紀委員、ともに学園都市を守る義勇軍。

 しかし初春は、鋼盾の依頼でその職掌を踏み外さんとしている。

 ……ならば、それを止めるのは、黄泉川の仕事になる。

 咎めるように諭すように、黄泉川の硬い声が放たれる。


474 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/30(金) 21:05:17.05 ID:s1fJHGX8o


「初春飾利、わかっているだろうが、確認だ。
 貴様の行動は風紀委員としての権限を逸脱、それどころか歴とした犯罪だぞ」
 
『理解の上です。罰は受けます。
 でも、その前にやらなきゃいけないことがあります』
 
「その行為に一七七支部の仲間を巻き込んででもか?」

『すべては私の独断専行ですよ……白井さんのことは言えませんね。
 ああ、他の皆はパトロールにでています、今この支部は私ひとりです』

「……背後でなにやらドタバタ聞こえてるじゃんよ?」

『ラジオです。これもすぐに乗っ取りますから』


 もちろん、嘘だろう。読心能力に晒されれば二秒でバレる嘘だ。

 ――いや、これは黄泉川が初春以外を見逃してくれる可能性に賭けたのか。

 初春以外も巻き込む可能性を考慮していなかった己の浅はかさに、鋼盾は臍を噛む。


「……ふん、ラジオ、ね。まあいいじゃん。
 しかし、ラジオの占拠ときたか……そうなればもう庇い切れないじゃん、初春。
 私は警備員としてこの件を適切に処理する義務がある、が……今ならまだ忘れてやれるぞ?」


 説得、論説、諫言、甘言。

 黄泉川の言葉はきっと真実だ。

 ……ここで初春が折れたとしても、それはそれで仕方がない。


 中学一年生の女の子が背負えるようなものではないし、背負うべきでもない。

 鋼盾の要請ははっきり言って、無茶以外の何者でもない。

 たとえ成功したとしても、彼女の前途は閉ざされてしまうやも知れぬのだ。


 割りに合わない。

 正義の味方だって、算盤を弾いていけないわけがないのだ。 


 ―――だが。

 少女は折れない、曲がらない。

475 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/30(金) 21:10:53.24 ID:s1fJHGX8o


『“己の信念に従い正しいと感じた行動をとるべし”』

「……へえ、風紀委員の心得のひとつだったか。
 この状況でその台詞、どういうつもりじゃんよ?」

『言葉通りですよ。信念とは困難に立ち向かうためのもの。
 保身で信念を曲げるくらいなら、私は――私たちは最初から腕章なんか巻きやしません』
 

 なんとも小気味良い台詞である。

 つーか、“私たちは”って言いやがったな、いいのかオイ。

 ……いや、いいのか。


 彼らは風紀委員だ。

 長い研修と厳しい試験を乗り越え、幾多の誓約と制約に縛られて。

 なおも信念に殉じるこの街の守り手だ。


 仕事ではないし、趣味でもない。

 それぞれ理由は異なれど、しかしその誓の本質は似たようなものだろう。

476 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/30(金) 21:13:11.01 ID:s1fJHGX8o


『私たちはこの都市の盾たらんと誓いました。
 守るべきものが背中にあるんです。……逃げやしませんよ』

477 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/30(金) 21:14:36.32 ID:s1fJHGX8o


 謳い上げたるは盾たる誓言。

 初春飾利の誓い、第一七七支部の……否、すべての風紀委員の誓いだ。


 ―――そして、それは。

 黄泉川愛穂ら警備員、教え子を守る教師たちが掲げるものと、なんら変わりはしないのだ。



「盾か、信念か。はは、イイ啖呵じゃんよ。
 ……鋼盾、お前の選んだ相手はなかなかどうしてたいした子じゃん」


 黄泉川愛穂が、笑う。

 朗らかに、痛快に、嬉しげに、優しげに、愛おしげに。

 そして、能ある肉食獣のように、気高くも獰猛に。

 牙を打ち鳴らすかのように、笑った。


 その笑みは、咆哮よりも激しく

 その笑みは、落涙よりもとめどなく


 黄泉川愛穂という女の覚悟と正義を、高らかに謳い上げる

 腕章のモチーフこそ三叉槍なれど、警備員の本懐もまた、盾なのだ

 
 子等を守る盾、その自負こそが

 警備員の理念であり、存在意義であり、心意気と知れ

 
 大人とて、理想を語る

 教師であれば、なおさらだ

478 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/30(金) 21:16:08.64 ID:s1fJHGX8o


「―――初春、ハッキングは中止しろ。正攻法で行け」

『……正攻法、ですか?』


 黄泉川の言を測りかねたのであろう、戸惑ったような声音。

 それと同時に鋼盾と木山が微笑んだ。


 覚悟は伝染する。

 初春飾利のまっすぐな覚悟を、侵せる者などどこにもいない。

 
 燃えろよ燃えろ、炎よ燃えろ。

 蜘蛛の巣など、焼き払ってしまえ。


「鋼盾……教え子のやらかしたことの尻拭いは、教師の領分だ。
 そのファイルをあらゆる手段を用いて学園都市中に流せ、迅速にだ。
 ごちゃごちゃ抜かす輩には、黄泉川愛穂の名前を使ってくれてかまわないじゃん」
 

 現場の指揮権は黄泉川にある。

 後で関係各位に提出する無数の書類について考えなければ、何ほどのことでもない。


 鋼盾が、初春が……守るべき子どもたちがこれほどの決意を示したのだ。

 ならば教師が、警備員が、大人が、黄泉川愛穂が、それに応えぬわけにはゆくまい。


「私が責任を持つ、やってみせるじゃんよ。
 この街を守るぞ、私たちの仕事だ」


 それを受けて初春も微笑み―――そして、声高に宣を放った。

 戦場の喧騒を切り裂く喇叭もかくや、それは確信を胸に紡がれる花信。

479 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/30(金) 21:17:50.82 ID:s1fJHGX8o

 
『聞きましたね皆さん! 黄泉川大先生が味方に付きました!
 各自まっとうな方法で全速前進! 風紀委員も警備員も総員巻き込みますよ!!』

『『『『『『しゃああ(ですの)!!』』』』』』

 
 鬨の声が響き渡る。

 パトロールに出ていたはずの一七七支部な皆さんの声だ。

 ……いやはや、まったくもって頼もしいことだ。


 どうしたって最後には、あきらめない人間が強い。

 確信と覚悟のあるヤツには、着いて行くしかないのだ。


 初春飾利。

 鋼盾の無茶振りを笑って受け入れ、黄泉川の詰問になにひとつ揺るがない少女。


 ……正直、三人娘の中でこの子が一番怖いと鋼盾は思う。

 多分、似たような事を考えていたであろう黄泉川と目が合い、二人して笑う。


「やれやれ、最近の若いのは無茶するじゃん」

「……先生もお若いですよ、いやホントに」

「世辞はいらないじゃん。ホラ鋼盾、激励してやれ」


 投げ渡される携帯。

 鋼盾は慌ててそれを受け取ろうとし、落としそうになって泡を食う。

 そんな滑稽な姿に、黄泉川と木山が笑みを深める。


 さて……激励といっても、どうしたものだろうか。

 とりあえずはと、鋼盾は電話相手に声をかけてみる。

480 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/30(金) 21:18:51.50 ID:s1fJHGX8o


「初春さん?」

『鋼盾さん! もー! びっくりしちゃいましたよ!
 黄泉川先生すんごい怖いです!』


 先の勇ましさから一転、甘えるかのような初春の愚痴。

 鋼盾はそれに吹き出しそうになりながら、とりあえずは忠告をひとつ。


「これ今スピーカーモードだから、滅多なことは言わないでね。
 ……かっこいいだろ、ウチの体育教師」

『ええ! 素敵です。私が男なら拝み倒してますねー!』

「シバキ倒されるよ。
 本当にありがとう、初春さん……白井さんも、他のみなさんも」

『まだ早いですよ。それに、お礼を言うのはこちらの方です。
 ありがとうございます鋼盾さん。―――これでやっと、私達も戦える』


 その性質上後手に回らざるを得ない風紀委員たち。

 これまでずっと大小様々なトラブルの処理に走りまわっていたはずだ

 さぞや、鬱憤や無力感を抱え込み続けていたことだろう。


 そしてそれは、警備員も同様だ。

 教え子を拐かす悪意のプログラム、増え続ける昏倒者。

 その現状に、ずっと臍を噛んでいたはずだ。


 だが、時は来た。

 逆転の一手が、ここにあるのだ。

481 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/30(金) 21:20:02.33 ID:s1fJHGX8o


 風紀委員と警備員。

 初春飾利と黄泉川愛穂。

 そして、鋼盾掬彦。


 いずれも“盾”たらんと望む彼らが、線を繋いで網を成す。

 この街の隅々までを覆う、人の意志の大網だ。

 幻想御手など、物の数ではない。


 
「んじゃ、反撃の狼煙だ。
 ―――頼むよ、風紀委員さん」

「ええ、やりましょう。
 お寝坊さんたちに、キツイ目覚ましをあげちゃいます!」
 
「はは――――やっちまえ」

482 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/30(金) 21:22:39.49 ID:s1fJHGX8o



 さあ、響かせろ

 解放の歌を高らかに


483 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2011/12/30(金) 21:36:22.13 ID:s1fJHGX8o



――――――――――


ここまで。


鋼盾、鋼の盾
禁書で盾と言えば、風紀委員と黄泉川先生でしょう
幻想御手編を書くと長くなり過ぎるなーと一旦は封印した妄想でしたが、書けてよかったです

小萌が再登場フラグをぶち上げたりもしました
こんなSSですので、ヒロインと言うよりは指標めいた立ち位置の彼女ですが、かわいく書いてあげたいところ

次回で幻想猛獣編は決着となりますが、幻想御手編はもう少し続きます
よろしければお付き合い下さい


では、また来年!
484 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/30(金) 23:03:35.76 ID:7o4Dyt5C0
乙、また来年じゃんよ!
頑張れ小萌先生の胃。ストレスはお肌の天敵ですし、実年れ(撲殺)
ニヤニヤを黄泉川先生にとられてカメラフレームから外れてる木山てんてーが今なにしてるのか気になりますね?
きっと脱いでると思います、ええ確実に。
おい3カメ右向けよ!

来年もコウやんに災難と幸運と苦境と逆転、わたわたとニヤニヤとほのぼのとドキドキが降りかかりますように!
485 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/30(金) 23:09:34.21 ID:AXCTinweo
やべえ初春がかっこよすぎる
コウやんはまた端役に戻ってきたなww

>不孝だ。
で思わずニヤッとした
486 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/31(土) 00:21:35.22 ID:jfrgVebw0
みんなカッコよすぎて顔がニヤけて仕方ないです
というかコウやん風紀委員の間で名前広がっちゃうんじゃないかとか
木山先生はコウやんと小萌先生の関係に思うところがありそうだなとか
いろいろ妄想が止まらないです

来年もコウやんの成長にニヤニヤが止まらないことを楽しみにしてます
487 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/31(土) 04:34:32.03 ID:Z2+T8Qqzo
とりあえず何が面白いのか産業で
488 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2011/12/31(土) 07:17:33.28 ID:gW6rSE5AO
>>486
しゃあああ(ですの)!!! から見るに、初春の方もスピーカーモードかも。

コウやん風紀委員やるしかないな。
489 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2011/12/31(土) 17:20:44.30 ID:7bigDXx6o

ここの初春はかっこよすぎて困る


486の「木山先生はコウやんと小萌先生の関係に思うところがありそうだなとか」という部分で

木山「……なん、だと……彼に女の影が!?」

みたいなんを想像したww もちろん、教師と教え子の絆的なあれだよなww
490 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2011/12/31(土) 19:32:12.58 ID:XN3rPEBbo
乙ー
来年も楽しみにしてる
491 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/01(日) 23:15:35.08 ID:gO63IEpmo
あけましておめでとうございます
本年もどうかよろしくお願いします

さて、>>1の目標は次の三点でござる


  一、更新頻度維持

  一、脱誤字脱字

  一、円満完結


今後もがんばってまいりますので、どうぞご贔屓に

さて、今回はオマケのみ、>>486>>488のコメを受けての1レス小咄

あったかも知れない風紀委員サイドの会話



それでは、どうぞ




――――――――――
492 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/01(日) 23:20:53.71 ID:gO63IEpmo

>>479より 風紀委員第一七七支部にて


乳T「いやー、思わずしゃあああ!!!とか言っちまったし。
   おおお、初春が本気モードだアレ、手が八本に見える」

柳迫「ふふ、後輩がここまでやってくれたんじゃ、サボってなんていられないなぁ」

ハゲ「やるしかないな、いやいや普段は眠ってる俺の義侠心がムクムクと」

乳T「つーか、この電話相手の鋼盾って人、なんかすごいですね」

固法「私もよくは知らないけど、幻想御手絡みのトラブルに巻き込まれた人で……
   そうそう、なんでも初春さんが風紀委員に勧誘したらしいわよ」

ハゲ「そりゃあ頼りになりそうだな……なんか初春、すっげえ楽しそうだ」

乳T「俺にはわかる……あの声から察するに相当のイケメンと見た」

柳迫「イケメンかはともかくとして、ま、期待できそうね」

黒子(……すんげえ勢いで外堀が埋まっていますの。
   鋼盾さん風紀委員入りがいつの間にか既成事実化してますの。
   スピーカーモードに切り替えたのもこの為……全ては初春の掌の上だと……!!)
   
固法「白井さん? どうしたの、手が止まってるわよ?」

黒子「い、いえ! 医療関連施設への通知、完了ですの!!
   次のフェイズに移りますの、各方準備の方はよろしいですの?」

固法「ええ……さあ、後輩君にいいとこ見せるわよ、みんな」

全員「「「「しゃああ!!!」」」」
 
黒子「……しゃああ、ですの(すみませんですの、鋼盾さん)」

初春「計 画 通 り」ニヤリ



 作戦003「まずは歓迎ムードから」

 初春飾利の鋼盾掬彦風紀委員化計画、水面下でこっそりと推進中



――――――――――
493 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/01(日) 23:30:18.80 ID:gO63IEpmo


なんちゃって

このあと100まで延々と続くことになる、“初春飾利の鋼盾掬彦風紀委員化計画”

001は「まずは真っ向、『風紀委員に興味はありませんか?』」
002は「電話で相談&お誘い」
003は変化球でした……あきらめない女、初春飾利です

計画が実るのかどうかは、>>1も知らぬこと
はてさて、どうなることやら

本編投下は三ヶ日のあとになりますでしょうか
決着編ですね


んでは改めて、本年もよろしくです

ではまた!
 
494 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2012/01/01(日) 23:56:56.68 ID:c0KCLlxD0
お年玉ktkr
あれだろ?書いてみたかったキャラその13あたりに柳迫がいたんだろ?ww
アニメ超電磁砲見てないのに柳迫知ってるってどういうアレなんだww
495 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2012/01/02(月) 00:35:03.40 ID:eGshspuyo
柳迫さんってあの子だろ? 漫画版15話で固法さんにノーブラを強要した子
496 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2012/01/02(月) 01:21:31.23 ID:fhrlougKP

No100までに風紀委員になりそうな件について
497 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2012/01/02(月) 05:21:43.68 ID:1Yyrqgm0o
最終的に折れないこうやんに対して初春が色仕掛けするんですねわかりません
498 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2012/01/02(月) 08:14:09.64 ID:uBfrHPsAO
最終的に折れないこうやんに対して初春と黒子と固法と柳迫が色仕掛けするんですね爆発しろ
499 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/02(月) 16:18:19.58 ID:spY86cwbo
最終的に折れないこうやんに対して初春と黒子と固法と柳迫と那由多が色仕掛けするんですね超新星爆発しろ
500 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/02(月) 16:35:08.03 ID:spY86cwbo
やっべageてた!
ボケ返しのつもりがマジボケだと……!



しゃあねえ! 新年会中止になって暇なので、投下でお茶を濁すぜ!

まいります!


――――――――――
501 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/02(月) 16:36:12.59 ID:spY86cwbo
 

「だからさ、ぼくはアレだよ。偶然重要なアイテムを手にしてしまっただけの三枚目的なアレ。
 誰もが忘れてた伏線、序盤に出てきたいじめられっ子Bみたいな」

『その少年が怪物に立ち向かう……王道ですね。
 やっぱり鋼盾さんが主人公ポジですよ主人公! 燃えます!!』

「燃えねえよ、別にピンチで突然超能力に目覚める的な展開とかなかったしね。
 そもそもルックス的にアウトです……あれだ、初春さんメインで風紀委員の群像劇で行こうよ」

『いやいや、私たちはそれこそサポートタイプですって。
 犯人に踊らされてた無能な警察ポジで、探偵さんに全部持ってかれる系ですよ。
 いま現場にいない時点でダメダメです、足切りです』

「……この街じゃ探偵物なんて流行んないしなー。
 つうか、事件は現場だけで起こってるわけでもない。そここそが最前線だろうに」

『いえいえ、やっぱり事件は現場で起こってるんですって。
 パソコン越しじゃ掴めないことだらけですよ』

「あー、じゃあ主人公は御坂さんだ。
 ぼくらのこれは舞台裏でさ、やっぱりあの子のバトルが中心だ」

『ふむふむ、御坂さんが主人公なら数字取れそうですねー』

「ネームバリューは最高、華も頭も火力も満点だしね。
 タイトルは……“とある科学の超電磁砲”かな……うん、これは売れる」

『それは誰もが認めるところでしょうけど、
 ……でも、私はやっぱり鋼盾さんが主人公だと思いますよ』

「絶対コケるね、その映画」

『むぅ……いいと思うんですけどねー』

「そんな奇を衒うものじゃないって、やっぱり王道だよ王道。
 女の子四人でキャピキャピやってりゃ、馬鹿な男が食いつくさ」
 ――――そろそろかな? さっき言ってた六分」
502 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/02(月) 16:38:58.29 ID:spY86cwbo


『はい……今にも患者数の多いエリアで流れはじめます。
 そこで概算五割に届きます。残り五割にも、すぐに」

「早いね、流石―――というか今更だけど、電話しながらで大丈夫?
 なんかすんごいタイピング音聞こえるけど、ガガガガガって」

『だいじょぶです! むしろ現場の情報がリアルタイムで入ってきて助かります』

「なら、いいんだけどね……こっちも進捗状況がわからないとしんどいし」

『ええ、遠見の能力者もいますけど―――見るだけじゃ、空気までは掴めません。
 鋼盾さんなら見えるでしょう? 戦場の渦とか運気の流れとか、そんな感じの』

「見えねえよ、なんだよそれ。
 ―――見えるものしか見えないよ、ぼくには」

『十分です―――鋼盾さんなら、間違えない』

「……なんだかなあ。
 詰所でも電話でも思ったけど、きみはぼくの事を買いかぶり過ぎだ」

『ふっふ、私の目に狂いはありません。
 ……自分のことほど、見えないものですよ?』
503 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/02(月) 16:39:59.13 ID:spY86cwbo


「ならきみも、自分の目を少しは疑うことだ。
 ……ああ、そういやぼく風紀委員にならずに済みそうだね」

『えええーー! そりゃないですって!!
 もはや私たちは戦友です! いやさ共犯者! 運命共同体的な! アレですアレ!』

「知りません」

『ええい! 聞こえませんかこの一七七支部に響き渡る鋼盾コールが!!
 鋼盾! 鋼盾! 鋼盾! はーがーねーのーお、と、こ!!』

「きみの声しか聞こえねえよ馬鹿」

『あーあー! こころに、盾がなーけれーばー!
 ジャッジー、メントじゃー、ないのさー!!』

「周りがリアクションに困るよ、その替え歌」

『……もう、つれないですね。
 “ぼくと一緒に、罪を犯しちゃくれないかな?”とか言ったくせに……』

「うわあ……そこだけ聞くとひたすらに誤解を招きそうだ。
 ……なにその台詞、酔ってんのかよ、黒歴史確定だよホントに」

『あーあ、私に覚悟を決めさせておいて……用が済んだらポイとかヒドイです。
 まさに鬼の所業です。私はいたく傷つきました。責任とって下さい』

「声に笑いが透けてるぞ、電話越しなら尚更うまくやらないとね」

504 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/02(月) 16:40:38.38 ID:spY86cwbo


『……初めてだったんですけどね』

「セクハラはご遠慮ください。
 ……事件が解決したら、差し入れ奮発するからさ」

『――逃がしませんから』

「うん、郵送にしよっと。ダンボールいっぱいの感謝をお届けするよ」

『だめです。来ないつもりなら押し掛けますよ」

「……ちなみに住所は?」

『ご自分で書いたでしょうに、先日の書類に』

「……うわあ、職権濫用」

『今更どの口が言いますか、どの口が』

「もっともだね……状況は?」

『昏倒者の多いエリアで曲を粗方流し終わりました、リピートは続けます。
 目標になにか変化はありましたか?』

「まだ、再生を続けてるみたいだ。
 ―――いや、動きが多少鈍く……わからないな、気のせいかも」

505 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/02(月) 16:42:00.68 ID:spY86cwbo


『――御坂さんの様子は、どうですか?』

「獅子奮迅、闘牛士みたいだよ。動きに衰えは見えない。
 とは言え連戦の上、いい加減長丁場だからね。
 ―――応援は、期待していいのかな?」

『今、近場の警備員がフル武装で向かってます。
 ―――とは言え、最寄りの部隊はそっちで全滅、あと二十分は見ないと駄目そうです。
 高架がダメになってるんで、それがネックですね』

「……素人考えだけど、ヘリとか飛ばせないの?」

「流石にヘリは手続きとかアレみたいです。
 その辺り鑑みると陸路の方が早いですね……御坂さん、大丈夫でしょうか?」

「信じるしかない、ね――ああ、白井さん抑えといてね。けが人だろあの子。
 お姉さまの危機に暴走されたら危ない」

『ふふ、一番要の仕事を任せてますから抜けられやしませんよ。責任感、強いひとですから。
 ……なんかテンションおかしなことになってやがりますけど』

「さっさと仕留めないといろんな意味でヤバイな。
 ……ん、やっぱり少しずつアレの動きが鈍くなってる――いま何割?」

『八割四……いえ八割五分超えてます。……ここからはペース、落ちそうですね。
 ―――再生能力の方は、変わらず?』

「……いまの所外見上には……いや、やった。
 千切れた触手が再生してない。御坂さんもそれに気付いた」

『戦果確認! 引き続き全てのエリアでの配信、急いでください!
 ……どうやら、なんとかなりましたかね?』

「そうだね、あとは図体だけだ。
 ああ―――どうやらクライマックスだよ」


―――――
506 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/02(月) 16:42:47.82 ID:spY86cwbo


 木山春生曰く“幻想猛獣”

 禁書目録曰く“擬似天使”


 一万人のネットワークから成る多才能力と無類の回復力を誇る、成長の化物。

 AIM拡散力場の集合体にして、劣化版“虚数学区”の現身。


 絶望振りまく幻想猛獣は、しかしその基板たる能力者を奪われ続けている。

 木山の作成した解除プログラムは鋼盾の手を経て初春に渡り、風紀委員と警備員により拡散。

 学園都市にある全ての病院を始め、テレビ、ラジオ、街宣車、都市中のあらゆる公共電波がそれを奏でた。

 “ImaginE BreakeR”はその性能を十全に発揮し、幻想猛獣からその不死性を根刮ぎ奪う。


 残るは、ただの図体。

 しかし今なお実体を維持する、巨大な怪物。


 だが、それだけだ。

 ソレが対峙する少女たるは、稀代の電撃使い。

 不死身の化物相手に危なげなく均衡を維持してきた、この街で一番強い女の子だ。


 既に怪物の身に不死性はない。

 ならば、結果は火を見るよりも明らかである。

507 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/02(月) 16:43:21.58 ID:spY86cwbo


 御坂美琴が全霊の雷撃を幻想猛獣に食らわせる。

 撒き散らされる雷光、千の竹を纏めて圧し折ったかのような轟音。


 これまで同様、誘電力場により雷撃は無効化される。

 だが、迸る圧力と抵抗熱により、幻想猛獣は外殻を引き剥がされ、その場へと崩れ落ちた。


 剥き出しの三角錐―――あれがコアだと、鋼盾は知っている。

 一万の嘆き、その歪な結晶体だ。


 幻想猛獣の悲鳴が響く。

 対峙する御坂美琴の手には、いつの間に取り出したのか一枚のコイン。


 舞台は整った。

 さあ、お立会い――これなるは学園都市が誇る超能力者、御坂美琴の真骨頂。

508 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/02(月) 16:44:51.94 ID:spY86cwbo


「――必殺技だ」


 鋼盾の実況、とはいえ百言を用いてもその威風は伝えられないだろう。

 さあ、これより放たれるは最強の電撃姫が象徴たる一撃。

 バトルものの主人公には、やはり必殺技が必要なのだ。


 胸に去来するは、囮役とトドメ役という、己の無茶な依頼を完遂せんとする少女への賛辞。

 そして―――やはり少しばかりの嫉妬。
 

『超電磁砲、ですね』


 初春が応える。

 そう、彼女の代名詞たるその砲撃が、この戦場の締めくくり。

 思えば開戦の号砲も、空へ放たれた超電磁砲であった。


 それぞれがそれぞれの仕事を成した、そしてこれが最後の仕上げだ。

 打ち上げ花火を待つように、その瞬間を待つ。


 そしてコインが宙に踊った。

 この距離からでは聞こえる筈のない、澄んだ音が響いた気がした。


 紡がれる線

 閃光と轟音


 美琴の指先から放たれた橙色の逆雷が、先の攻撃で晒された幻想猛獣のコアを撃ち貫く。

 歪な三角柱は奔流に晒された砂城のように崩れ去り、身体の方もそれに倣った。


 決着。

 文句なしの完全勝利だ。

509 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/02(月) 16:45:35.42 ID:spY86cwbo


「……決まった、倒したよ」 
 

 快哉をあげるでもなく、誇るでもなく、鋼盾はむしろ寂しげにそう言った。

 胸中に渦巻く複雑な感情をうまく処理できない。

 とはいえ、間違いなく望んだ結果、望んだ決着である。


『皆さん!! 目標沈黙です!
 御坂さんがやってくれましたっ!!』

 
 初春が歓喜の声を上げ、その背後でも彼女の同僚たちがそれに続く。

 この街の勝利だ、誰に憚ることのない、勝利だ。


 詰まらぬ感傷は忘れ、それでよしとしよう。

 消え行く幻想猛獣を見つめていた鋼盾は、それと対峙する少女へと目をやると――まずい。

 そこにはふらつきながら膝をつき、そのまま俯せにへたり込む御坂美琴の姿があった。


「あちゃー……御坂さんもダウンだね」

『……え? あー、そりゃあお疲れですよね。
 大丈夫でしょうか、御坂さん」


 頭から落ちるような危険な倒れ方ではない。

 疲労困憊で立っていられない、そんな感じに見えた。


「……どうやら電池切れみたいだね。
 あー、ちょっと行ってくる、一旦切るよ」

『了解です。
 警備員の応援、あとしばらくで到着しますから、必要があれば病院に運んでもらって下さい』

「わかった、それじゃまた」

『ええ、おつかれさまです』

510 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/02(月) 16:48:31.41 ID:spY86cwbo


 初春との通話を終え、携帯を畳む鋼盾。

 そこに、気怠げな――それでいて穏やかなアルトの声がかかる。


「おつかれさま」


 木山春生。

 幻想御手を以って学園都市全土を巻き込んだ執念の女。

 その企みを完膚無きまでに破壊された彼女は、しかし朗らかな笑みを浮かべていた。


 もうひとりの黄泉川については、少しだけ距離をおいて、先程からずっと電話をしている。

 方方に指示を飛ばしているのだろう、相手は応援の警備員とか、そのあたりかもしれない。
 

「……どうにか、一段落ですか」


 鋼盾の声には、隠しきれぬ苦味がある。

 木山はこの後、警備員により捕らえられることになるだろう。


 それは、彼女が全てを費やした目的を成し遂げることが不可能になるということだ。

 子どもたちは目を覚まさぬまま、まだ奪われ続ける破目になる。


 わかっていたことだ。

 他ならぬ鋼盾自身が、それを彼女に問うた。


 しかし、いざその時がくるとどう反応して良いのかわからない。

 掛ける言葉など、逆さに振っても出てこない。

 だが、そんな鋼盾に木山は笑みを投げる。

 
「そんな顔をしないでくれ、最初から、覚悟の上だ。
 ―――礼を言うよ、幻想猛獣を止めてくれて、ありがとう」

「……ぼくがやったことなんて、大したことじゃないですよ」


 徹頭徹尾に他力本願だ。

 臆面も無く他者に縋り、彼ら彼女らに願いを押し付けただけだ。

 礼を言われるようなことではない。
 
511 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/02(月) 16:51:27.45 ID:spY86cwbo


「はは、君らしい……まったく、君らしいよ。
 そう言うだろうと思ったが、まあ、受け取ってくれると嬉しい。
 ―――お別れだね、奇妙な縁だが……楽しかったよ」

「はいはい、何よりです」

「はいは一回……そうだろう?」


 気のおけぬ遣り取り。

 なかよし、ね―――まったく、奇妙な間柄だ。

 だが、認めることも吝かではない。


「……はい。
 そうですね―――ぼくも、いろいろ勉強になりました、先生」

「なら、よかったよ。
 私は一旦退場だ、だが君は――そうもいかないのだろう?」

「……ええ、もうひとつ大仕事が残ってます。
 あの子のこととか、いろいろ厄介なことになってまして」

「そのことだが―――む」


 背後の気配に、木山春生が言葉を引っ込める。

 通話を終えたらしい黄泉川が、こちらに向かってきたのだ。


「やれやれ、どうやらなんとかなったじゃん。
 ―――私もお縄につかずに済みそうじゃんよ」

「ありがとうございます、黄泉川先生。
 いろいろご迷惑をおかけしましたが、なんとかなりましたね」

「は、警備員や風紀委員はこれからが忙しいじゃんよ。
 ―――特に私は……あー、比喩じゃなく書類の山と格闘じゃん」


 げんなりとしつつ、その目には強い輝きがある。

 とは言え、大変な仕事だろう。まったくもって頭が下がる。

512 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/02(月) 16:54:50.31 ID:spY86cwbo


「お疲れ様です。
 じゃあぼくへの説教は後日で―――いえ、いっそなしということで」

「馬鹿、おまえは重要参考人だ。
 説教と同時に事情聴取もやるからな、覚悟しておけ」

「……ですよねー」


 わかってはいたが、どうしたものか。

 小萌も来るのだろう、いやいや、怖い怖い。

 ……まあ、己のやらかした事だ、仕方がない。


「―――とはいえ、ひとまず病院じゃんよ
 鋼盾、お前は倒れた御坂に付いててやれ、知り合いなんだろう?」

「ええ、縁あって」


 美琴はへたり込んだまま、ピクリとも動かない。

 ……あれ、ちょっと心配になってきたぞ?


「……しかしなー、どういう知り合いじゃんよ?
 ウチの生徒が超電磁砲と知り合いっていうのは信じがたいじゃん」

「上条くん絡みです」

「納得したじゃん」


 ……納得されてしまった。

 いやはや、上条当麻、おそるべし。

513 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/02(月) 17:08:31.62 ID:spY86cwbo


「……木山先生は」

「どうせ逃げらりゃしないし……積もる話もあるようじゃん?
 これだけの事をやらかしたんだ、しばらくは会えないと思ったほうがいい。
 ……警備員の応援が駆けつけるまであと十五分ってとこじゃんよ」


 行ってこい、とその目が告げている。

 鋼盾と木山の間にある事情を、なんとなしに察してくれたのだろう。

 その懐の深さに、鋼盾は再度頭を下げた。

 ……ホント、かっこいいなあ、ウチの体育教師。


「ありがとうございます、先生」

「……けじめはつけられたか、鋼盾」

「幻想御手に関しては、一応。
 ……いえ、あとひとり、お礼を言わなきゃいけない人がいます。
 じきに目をさますでしょうから……それで、やっと決着を付けられそうです」


 佐天涙子。

 恩人たる彼女は目を覚ましただろうか。

 彼女に謝罪し、感謝を告げるまでは鋼盾にとってのこの事件は終わらない。


 黄泉川はそうか、と微笑み―――直後、ニヤニヤ笑いに移行する。

 ……まあ、そうくるだろうな。


「もうひとり、謝んなきゃいけない人がいるじゃんよ」

「忘れちゃいませんよ……はあ、本気の小萌先生か。
 ……まあ、とりあえず、御坂さんのとこに行ってきます」

「ああ、さっさと全部片付けて、普通に夏休みを満喫しろ。
 ……応援の警備員が来たら病院に同道、おまえもちゃんと診察を受けるじゃん。
 そのあとで事情をいろいろ聞かせてもらう、連絡があるまで病院で待機な」


 ニゲルナヨ、とその目が告げている。

 逃げやしない、逃げやしないが――――ああ、憂鬱だ。

514 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/02(月) 17:14:52.18 ID:spY86cwbo

 とは言えこれも、己の成した選択が生んだ展開だ。

 一番大切なひとに心配をかけてしまったのだ、ケジメなければなるまい。


 ……とりあえず、今は忘れよう。

 鋼盾は軽く頭を振って、前を向く。


 まず成すべきは、美琴の安否確認。

 そして、木山には問うておかねばならぬことが、ある。
 

「ええ、わかりました。
 ―――木山先生、いきましょうか」

「ああ」


 そして、ふたりは走りだす。

 怪物退治の立役者、電池切れの超能力者のもとへ。  




 ―――――
515 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/02(月) 17:23:59.33 ID:spY86cwbo


 そうして、駆けてゆくふたりを見送って、黄泉川は小さく息を吐く。

 先ほど鋼盾に言った通り、後始末は山積みだ。


 何日かかるか解ったものではない。

 その上、無数の打撲と擦過傷が痛い、すんごく痛い。

 木山と鋼盾、同僚の鉄装の手前やせ我慢を貫いていたが、痛いものは痛い。


「やれやれ、キツい話じゃん。
 ……だが、アイツの事情聴取は私がやんなきゃじゃんよ」


 鋼盾掬彦。

 今回の事件の限りなく中心に居た少年。

 幻想猛獣暴走を早期解決できたのは、彼の無茶によるところが大きい。


 表彰モノのお手柄にして、拘禁拘束モノの問題行動。

 それを止められなかった己の責任は真摯に受け止めるが、鋼盾は……どうしたものだろうか。

 とは言え、実際に彼を見ていないものにその仕事を任せることはしたくない。


 戦場には戦場の理がある

 その場に居なかった人間に、それを掴める道理はない


 あの混乱の中で、誰よりも先を見据えた少年

 見たものにしかわかるまい、あれは


 あれは、まさしく
516 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/02(月) 17:27:07.53 ID:spY86cwbo


「……私もまだまだじゃん。
 ――――まったく、これだから教師はやめられない」


 ただ、どうにも危なっかしい。

 ああいう命の燃やし方をする人間は――長生きできない。
 

 頭が回る、度胸がある、己の弱さを知っている。

 この苛烈な戦場で、我を張り切ったその強さは賞賛に値する。


 ……しかし、まだ子どもだ。

 ああも他人をあっさりと信頼し、勢いのままに突っ走る、視野の狭い子どもだ。

 今回はうまくいったが、次はどうだか解ったものではない。


 そう、次だ。

 先ほど電話をしながら漏れ聞こえていた、木山との会話。

 幻想御手について“は”けじめを付けた、という台詞。


 黄泉川の経験が告げている、鋼盾掬彦はきっとまた無茶をやらかすだろう。

 それは若者の特権だが―――それを抑えるのは年長者の義務である。


 彼には、支え導く存在が必要だ。

 教え諭す存在が必要だ。

517 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/02(月) 17:32:14.38 ID:spY86cwbo


「……ま、それには私なんかよりも適任がいそうじゃんよ。
 まったく、重ね重ね羨ましいなぁ……面白そうな連中ばっかりで」


 黄泉川は携帯を取り出すと、アドレス帳を捲ってゆく。

 尊敬する先輩はタ行の真ん中、今か今かと連絡を待っていることだろう。

 心配で心配で心配でしょうがないだろう、彼女の胃が限界を超えぬうちに連絡を入れておこう。


 彼女ならば、きっと。

 あの無自覚な暴走少年の、ブレーキを務めてくれるに違いない。


 ……まったく、なかなかいないぞ鋼盾、あんな素敵な担任は。

 そのあたりわかってんのかね、おまえは。

518 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/02(月) 17:36:28.58 ID:spY86cwbo


 発信→受信

 その間、秒に満たず


『月詠ですっ!! 黄泉川先生!! 鋼盾ちゃんは!!!?』


 1/4コールで、相手は出た。

 さあて、お仕事じゃんよ、月詠先生。


 この仕事、夏休みなどあってないようなもの。

 お互い難儀な職業を選んでしまったな、と電話越しの小萌に頭の中だけで語りかけて。

 
「……お待たせしたじゃん、月詠センセ。
 ――――さあて、どこから話したもんだろうか、ね」


 身体はボロボロ、課題は山積、懸念は尽きない。

 ガキどもはコチラの苦労も知らず、無茶ばかりして困らせてくれる。


 だが、なかなかどうして―――悪くない気分だ。


 黄泉川愛穂が笑う。

 降り注ぐ陽の光は、暖かだった。
 



――――――――――
519 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/02(月) 17:43:44.95 ID:spY86cwbo




ここまで!
下手なボケ入れたせいで予定外投下です!那由多は書きたいキャラその19ですね!
黄泉川の独白は完全に即興なので、時間ばかりかかって申し訳ねえ!

いやー、なんとか幻想猛獣編、決着です。
美琴の扱いは鋼盾目線だと、どうしてもこんな感じになっちゃうんですよね。
拳ひとつで最前線にいる上条さんとの対比、表現できてれば嬉しいのですが……。

さて、次回とその次は木山先生のターン!
いろいろ重要な回になりそうです! 気合入れてまいります!

では、次回もどうぞよろしくです!
520 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2012/01/02(月) 17:45:56.51 ID:Ce2Jwvyno
もうなんか初春からコウやんに向く矢印が見えるぜマジ粉塵爆発しろ
幻想御手編終わるとかっこいい初春はもう見られないんだろうかなぁ……

あと那由多は支部が違うからたぶん初春が色仕掛け阻止に走ると思うんだぜ
521 :以下、あけまして、おめでとうございます [sage]:2012/01/02(月) 23:21:57.73 ID:eGshspuyo
鋼春にしよう
そうしよう
522 :以下、あけまして [sage saga]:2012/01/03(火) 16:36:47.43 ID:Rgo8IGPY0
乙!
もはや会話のテンポが相棒だよ鋼盾爆縮しろ

木山てんてー、4人娘、黄泉川の出番もそろそろ終わりか…
超電磁砲メンツが去ると残るはインデックスと小萌とねーちんのみ、寂しくなるな
523 :以下、あけまして [sage]:2012/01/03(火) 17:33:25.65 ID:b3ebCK0Lo
今追いついた。燃える。
524 :以下、あけまして [sage]:2012/01/03(火) 20:26:31.60 ID:PjwNB3CF0
あーちくしょうなんだこのイケメンな日村は。燃え上がれ爆熱しろシャイニングそげぶフィンガー。
アニメは見たことないけど、これ乱雑開放事件(だっけ?)とかが起きたら鋼盾くんは首突っ込まずにいられないだろうな。時間軸ではどの辺のタイミングだったんだろう、あれ。

しかし、幻想猛獣解決で既に500越えか。
インデックスの件が終わる頃には、更に次スレかもしれん。
一巻の再構成でここまでの長編になった例は他に知らんなぁ。
525 :以下、あけまして [sage]:2012/01/03(火) 22:17:25.53 ID:+NQzVKlAO
>>522 あれだ、吹寄と誘波がいる!
526 :以下、あけまして [sage]:2012/01/03(火) 22:55:28.30 ID:nNNjQ5o30
最高だ1乙!
いいな実にいい。
某番組で日村氏を拝見した折、コウやんの名前のほうが先に脳裏に浮かぶ程にこのSSの中毒者だー!

あと1的に予定通りなんだろうけどレス拾ってもらったような気がしてわっしょいだぜ!
運命共同体発言とか!
『……もう、つれないですね。
“ぼくと一緒に、罪を犯しちゃくれないかな?”とか言ったくせに……』 とか!

>>525
超ナイスバディなのに女の子というより漢な子と、華も色気もあるけどゾウさん付な子でつか…。
527 :以下、あけまして [sage]:2012/01/04(水) 17:52:47.21 ID:FDGob2jso
>>524
ポルターガイスト事件は8月頭、自販機の後で姫神の前だな。
528 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/06(金) 08:03:09.77 ID:c7WdFVITo
どうも>>1です。渾身のキン肉マンネタに誰も突っ込んでもらえなくて落ち込んだりもしましたが私は元気です。
こんがらがってきた&いい加減長くて過去を忘れてしまいそう……なのでまた時系列の整理をしてみます。

――――――――――
■7月半ば
 ・鋼盾、幻想御手を知る

■7月18日 
 ・連続虚空爆破事件、美琴と出会う
 ・鋼盾、幻想御手の取引を決意する

■7月19日
 ・終業式 1年7組記念写真→カラオケ→ファミレス
 ・美琴の雷により周辺地域で停電や電波障害等が引き起こされる

■7月20日 夏休み初日
 ・上条鋼盾、インデックスと出会う     
 ・上条は補習へ、鋼盾は幻想御手の取引へ                     ※木山春生、招聘される→超電磁組と出会う
 ・上条ステイル戦                                       佐天さん、幻想御手使用
 ・小萌宅にて回復魔術
 ・鋼盾、ステイルと語らう

■7月21日
 ・補習
 ・小萌説教
 ・黄泉川
 ・小萌宅訪問
 ・夜の公園にて

■7月22日
 ・小萌宅でのんびり
 ・超電磁お茶会
 ・カレー
 
■7月23日
 ・補習最終日、青髪荒ぶる
 ・パン屋にて木山先生と遭遇
 ・小萌宅を辞す
 ・神裂さんマジ無双(原作だと24日)
 ・鋼盾、神裂を追い詰めるの巻
 ・土御門恋バナ、舞夏襲来、インデックス帰還

■7月24日
 ・幻想御手事件、木山春生の逆襲
 ・幻想猛獣さん死亡確認 ←NEW!


【原作における今後の展開】
                
 7月25日 美琴黒子、プール掃除
  ↓                                 ※この辺で砂皿さんがステファニーの尻拭い
 7月27日 上条さん目覚める、素敵な悪あがきを
  ↓
 7月28日 ペンデックス戦→ツリーダイアグラム破壊→上条さん記憶を喪う
  ↓
 8月01日 初春&黄泉川 テロ撲滅               ※このへんで冥土帰しが木山先生を保釈させ、子供たちを治療   
  ↓                                  ※このへんのどこかで「とある自販機の存在証明」    
 8月04日 春上さん荒ぶる                    ※上条さん入院生活中→そして退院へ……!
  ↓
 8月06日 テレス姐さん荒ぶる
  ↓     超電磁ガールズが荒ぶる
  ↓
 8月08日 <禁書2巻>三沢塾事件、アウレ戦           
  ↓
 8月09日 きやませんせー、お誕生日おめでとう!
  ↓
 8月10日 布束先輩初登場、美琴が樋口製薬・第七薬学研究センターに侵入          
  ↓  
 8月11日 美琴、心配事がなくなってハイ→クローンとか気持ち悪いぜ!    ※このあたりで姫神が
  ↓                                                ・ケルト十字ゲット
 8月15日 美琴、9982号と遭遇しデート。9982死亡、美琴対一方戦           ・無能力者判定を喰らい霧ヶ丘をクビに
  ↓                                                ・小萌の家に転がり込む
 8月16日 美琴、布束先輩と再会
  ↓     やさぐれ美琴、テロ活動を開始
  ↓                                              ※20日までに9983号〜10030号が殉職
 8月19日 美琴対アイテム 布束先輩捕縛(急所を外す見上げた志)         1日に10人強のハイペース、がんばれ一方さん

 8月20日〜21日 <禁書3巻>

――――――――――
529 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/06(金) 08:08:27.41 ID:c7WdFVITo
改めて時系列でみると全然進んでなくてワロタ
幻想御手編マジなげえ! >>1の構成力不足です

>>523
よく追いついてくれた! お前を待っていたぞ!

>>524
もっと1スレ以内でスパッとまとまった作品が書きたい……!

>>526 
初春さんのセクハラ攻撃! ふたりとも地味ながら静かにテンションが振りきれております。
皆さんのコメントを受けて少し砂糖をまぶした感じです。ふたりともあとで思い出して赤面するといい。


今晩はちょいと怪しいかもですが、できれば投下に。
無理でも明日には来ます。予告age!


4スレ目のスレタイとかどうすっぺ
530 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北陸地方) [sage]:2012/01/06(金) 08:11:53.81 ID:XgVRdBwAO
>>528
わざわざ3巻まで時系列書くということは、そこまでやると思ってて構わんのだろう?
531 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/06(金) 08:20:01.75 ID:lkPiW+HIO
バカヤロウなんのために前スレでスレタイ祭りやってたと思ってんだ

原作に追いつくまでやるに決まってるよなあ…?
532 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空) [sage]:2012/01/06(金) 08:30:05.46 ID:j79xbE4Z0
もう
鋼盾『ぼくと一緒に、罪を犯しちゃくれないかな?』
でいいよ。


なんか某『悪魔と相乗り』みたいで好きだ。
533 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) :2012/01/06(金) 11:51:06.29 ID:rWZb10IAO
>>532
そのスレタイじゃ俺らしかわかんねーよ
534 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/06(金) 12:13:43.74 ID:3dKTFQzO0
>>524
既に3スレ目にはいってる浜面ェ……
535 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/01/06(金) 13:09:35.43 ID:Co9ISgO+o
エタっちまった佐天ェ……!
536 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/01/06(金) 14:23:20.85 ID:OiEo+8Yj0
たしか以前30万字超えたとか言ってたっけ
マジで長いよな、ためしに手元で再構成書いてみたらねーちん戦でまだ4万字台にしかならんww
このスレの場合まとまってないんじゃなくてふくらませ方がうまい部類だからこの長さは誇っていいと思うぞ

ところで春上さん荒ぶるとテレス荒ぶるの日付ってどこソース?
537 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岩手県) [sage]:2012/01/06(金) 18:27:43.97 ID:E1phKsS30
>>1
砂糖はいくらまぶしてもいいよ!
仄かにビターで限りなくスイートで、どこかピリリと痺れる芯がある、そんな物語でおk

そのスレで語られるorいつか語られるかもしれない台詞でなきゃいけないのかもしれないけど、
前スレの台詞でもいいぜって可能性にかけて数点提示。

初春「……でも、私はやっぱり鋼盾さんが主人公だと思いますよ」
初春「“ぼくと一緒に、罪を犯しちゃくれないかな?”とか言ったくせに」
初春「――逃がしませんから」
とかどうだろう。
猛獣解決編からコピペっただけなので、なんの意図も偏りもありませんよ?
ここの鋼春コンビにぐっときたとかじゃないですよ。
ちなみに、さすがに『初春「責任とって下さい」』は危険すぎて提示できんww
538 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/01/06(金) 20:42:41.54 ID:0Ukkvq84o
長えよ岩木
539 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/06(金) 21:45:21.18 ID:c7WdFVITo
おおう! 皆さんコメ感謝です!
一巻以降はアレだ、まあ置いときましょう。

スレタイ案に感謝! ……最初は1スレで終わると思ってたんだぜ俺……
神裂→アレイ→上条だからなー……ローラ? ステイル? インデックス?
むむむ、どうしたものか……とりあえず初春にすると関係各位に怒られそうです!

>>ところで春上さん荒ぶるとテレス荒ぶるの日付ってどこソース?

すまんよく覚えてない、なんか個人サイトだったかも!
あ、訂正箇所があれば容赦なくどうぞ!

途中で滞るかもですが、投下開始するぜ!

まいります!



――――――――――
540 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/06(金) 21:48:44.20 ID:c7WdFVITo


「おーい、御坂さーん?
 ―――こりゃ、完全に寝てますね」


 兵どもが夢の跡、瓦礫とクレーターに彩られた一帯に、鋼盾と木山は立っていた。

 幻想御手相手に見事勝利を果たした美琴は、四肢を地面に投げ出してダウン中である。


 鋼盾は美琴の傍にしゃがむと、その顔を覗き込んだ。

 ボロボロの制服や少なくない擦り傷が痛々しいが、その表情は穏やかなものであった。
 

 成し遂げた者のみが浮かべられる笑み。

 己の仕事を全うした、そんな笑みだ。


「……すごいな、御坂さんは」

「まったくだ―――たいしたものだよ」 


 木山もまた美琴のそばへ寄ると、手を伸ばしてその額や口元に触れる。

 簡単な診察を済ませ、心配気な鋼盾に安心するようにと口にした。 


「気力も体力も振り絞ったのだろう、電池切れとはよく言ったものだね。
 ……よくもまあ、残量ゼロまで走れるものだ」

「なんにせよ無事でよかった。
 ―――しかし、無理させちゃいましたね」

「ああ、ひどい話だよ。
 こんな女の子を矢面に立たせるなど、碌なものではない」

「まったくです、信じられない。
 いたいけな女子中学生を巻き込むとか――呪われればいい」

「鬼畜の仕業だね」

「下衆の所業です」

「天罰が下るね、きっと」

「ええ、雷が落ちるでしょう」

「……アレは痛かったよ、ガチで」

「ぼくも一発くらいケジメてもらったほうがいいかもです」

「やめといたほうがいい、君が思ってるより痛いよ」

「ビリビリと?」

「いや、痺れるというより突き抜けるというか。
 もっとズギャーンと芯の方を揺るがす感じに……」


 適当な会話。

 今日一日で随分と慣れ親しんでしまった、この雰囲気。

 正直、楽しくて困ってしまう。

 
 この人との会話もこの一時が最後になる。

 彼女がどんな罪に問われるのかは不明だが、一万人を昏倒させ、学園都市全域を巻き込んだのだ。


 ……おそらく、もう会えない。

 会えたとしても、きっと今のようには行かないだろう。

541 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/06(金) 21:50:08.71 ID:c7WdFVITo


「雷神もかくやといった凄まじい戦いぶりだ。
 ―――いやはや、私は随分と手加減をしてもらったようだな」

「人間相手に全力出せるような子じゃ、ないですよ。
 ……あと、雷神は男ばかりだそうです、インデックスはサンダーバードとか喩えてましたっけ」


 多才能力者と超能力者の戦いの折、鋼盾とインデックスでそんな話をした。

 ネイティブアメリカンの信仰対象たる白雷翼の神鳥に、御坂美琴を準えたりした。


「サンダーバード、ね。ふむ……なかなかいいセンスだ
 そうだな―――地を這う蛇じゃ、空をゆく鳥には勝てぬが道理かもしれない」


 異国の神を見出さんとするかのように、空を見上げる木山春生。

 精一杯首を伸ばしても、蛇では空に届かない。


「……雷を纏う精霊鳥、か。
 その大きな翼があれば、どこまででも飛んで行けるのだろうね」


 羨望の眼差しとは、空を見上げる人間のそれである、と誰かが言っていたのを鋼盾は思い出す。

 木山の眼差しを見ていると、その言葉は正しいものだと思えた。


542 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/06(金) 21:55:17.90 ID:c7WdFVITo


 夏空はどこまでも深い。

 人の気も知らずに。


 そこは悲しみのない自由な世界だと嘯く、そんな歌がある。

 この背にもしも翼あらば、そこに行きたいと願う、そんな歌がある。


 鋼盾も歌った事がある、この国じゃ、誰もが知ってる有名な曲だ。

 実を言えば、つい数時間ほど前に耳にしたばかりだ。

 目の前にいる木山春生からの預かり物でもある。


「“翼をください”ですか――――例の、パスワードでしたね」

「……ああ、そうだったね」


 件の幻想御手解除プログラム “ImaginE BreakeR”

 それが入ったアーカイヴに掛かっていたパスワード。

 ヒントである「四曲目」とは、同梱されていた動画ファイルの内容を示す言葉だった。


 動画ファイルは、何の変哲もない授業風景を撮影したものだ。

 木山春生が担任を務めた、小さな学級の記録だ。


 音楽の授業のまとめかなにかであろうか、子どもたちが拙くも懸命に、声を合わせて歌っていた。

 木山春生の奏でるオルガンの音色が、ともに歌う伸びやかなアルトが、弾んでいた。

 
 一曲目は「きみをのせて」

 二曲目は「瑠璃色の地球」

 三曲目は「グリーングリーン」


 そして、四曲目が


「そう、翼をください、だ。
 最初の音楽の授業で、あの子たちと打ち解けるきっかけにもなってくれた曲でね」


 音楽室に響く歌声、歓声、弾ける笑顔、ハーモニー。

 みんなで歌った歌は、それだけで特別なものになる。


 ……だけどそんな笑顔は、今はもう、どこにもない。

 彼らは歌うことも笑うこともできず、今もなお奪われ続けている。


 あの日から、止まってしまっているのだ。

 女をひとり、置き去りにして。


 ひとりぼっちのその女は、三年の月日を費やしてとあるプログラムを紡ぎ上げる。

 そして、それを無効化する解除プログラムをつくり、パスワードでロックをかけた。


 TSUBASAWOKUDASAI、アルファベットで十六文字。

 木山春生は何を想い、そのパスワードを打ち込んだのだろう。
 
 
543 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/06(金) 21:59:12.37 ID:c7WdFVITo


 願いを叶えてくれ

 富などいらない

 名誉もいらない

 だから、どうか

 あの子たちを

 どうか

 この大空へ

 悲しみのない大空へ

 自由に

 鳥のように

 歌って

 羽ばたいて

 どうか

 しあわせに

544 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/06(金) 22:01:47.95 ID:c7WdFVITo


「翼をください……いえ、翼をあげたい、ですかね」

「笑うかい?」

「まさか」


 笑うわけがない。

 鋼盾もまた、とある囚われの女の子の解放を願い、ここにいる。


 翼をあげたいのである、あの子に。

 恥ずかしい台詞だが、それが今の鋼盾の望むすべてだ。


 ああ。

 もしこの願いを指差し嘲笑うものがいるならば。

 その人差し指を捩じ切って、貴様の口の中に突っ込んでやる。

545 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/06(金) 22:04:08.78 ID:c7WdFVITo


 木山は鋼盾の即答には答えず、空を見上げたまま言葉を繋げてゆく。

 独白のように、ひどくマイペースに。


「あの子たちは、何もかもを奪われた。そして、今なお奪われ続けている。
 ―――三年かけたこの計画も、結局届きはしなかったよ」

「……謝りませんよ」

「いらないさ。君とは違うルートからも手は伸びていた。
 超電磁砲が動いていた以上、結局失敗していた気がするよ」


 諦観、だろうか。

 恨み言というには、温度も湿度も低すぎた。


 全てを擲った勝負に敗れた女。

 木山春生がその手で生徒たちを救うのは、おそらくはもう、無理だ。


 ……ならば、その願いを然るべき処へと託すべきだ。

 鋼盾は木山の横顔を見つめながら、その口を開いた。

546 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/06(金) 22:10:03.06 ID:c7WdFVITo


「……ぼくは、この街の深部だか暗部だかのことは知りませんけど」


 闇を払うのは光だ。

 真っ当な手段がやはり、一番強い


「見ましたよね……初春さんを、黄泉川先生を、みんなを。
 風紀委員に警備員―――この街にだってあんなにも確かに、正義があります。
 だから、生徒さんのことだって、きっと…………っ、きっと……」


 言葉が、詰まった。

 口にした台詞は、誓って鋼盾の本音だ。

 お為ごかしや慰めの虚言を口にしたつもりはない。

 鋼盾は本気でそう思った、風紀委員ならば警備員ならば、彼らならば、きっと、と。


 だが、木山の顔を見てしまった。

 相変わらず空を見上げたままの、その横顔を。


 彼女は微笑んでいた、微笑んで、それだけだった。

 その笑みの前に、言葉など紡げるはずもなかった。


「ああ、そうだね。そうかもしれない。そうなんだろう。
 この街にも正義はある―――でもね、それじゃ届かないんだ」

「……………っ!!」


 鋼盾へと視線を移すも、表情は変わらない。

 淡い淡い微笑。


 ああ。

 インデックスについて語る土御門が、神裂が。

 丁度、こんな顔をしていただろうか。


 闇の深きを呪うように、己の無力を呪うように

 緩やかな絶望を噛み締める時、どうしてか、彼らは微笑むのだ

 その微笑に応える術など、どこにもない


 涙が出そうになる

 無様で無力な、意味のない涙が

547 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/06(金) 22:15:15.71 ID:c7WdFVITo


「大丈夫だよ。私はあの子達を諦めたりはしない。
 もう一度最初からやり直すさ……理論を組み立てる事はどこでもできるからな」


 そんな鋼盾に何を思ったのか、木山は鋼盾の頭にポン、と手を乗せる。

 わしゃわしゃと不器用に撫でると、安心させるように不敵な笑みを作った。


「刑務所の中だろうと世界の果てだろうと、関係ない。
 私は私の成すべきを成すよ、あの子達を取り戻してみせる」


 それはきっと強がりだ。

 だけど、それでも。


「私の頭脳は常に“ここ”にあるのだから」

 
 木山春生が、再起を誓う。

 次は勝つ、そう言って再登場フラグを思いっきりブチ立てた。


「今後も手段は選ばない。
 …文句があるなら、また止めにくるといいよ」


 悪役の似合わぬ女が、それでも立派に捨て台詞を口にしたのだ。

 ならば端役に過ぎぬ己も、それなりに意地を見せねばなるまい。


 鋼盾は散らかった感情を無理矢理まとめ、木山を見据える。

 気安く、気取らず、常のままに。

 最後まで、自分たちらしく。

548 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/06(金) 22:22:29.16 ID:c7WdFVITo


「……荒事は、もうゴメンですよ。
 まあ、他所様に迷惑をかけない方法なら、手伝ってあげます」

「ほう、その言葉、覚えておくよ」

「ええ……手段は選ぶべきですよ。
 ――とは言え、そういうカッコいい台詞は相手を選んで下さいよ。
 是非、こっちで電池切れ中のヒーローさんに言ってやって下さい」

「……ヒロインじゃないのかい? 女の子だろうに。
 というかアレだ………本日のヒーロー役は君にこそ与えられるべきだと私は思うね」


 それも泥に塗れるタイプで贖罪系の熱血ヒーローだ。

 こんな時代、一周回ってそんなタイプの方がニーズがあるだろう? と木山春生が微笑む。

 まったくもって木山も初春も誂いが過ぎる……誰がヒーローだ、誰が。


「……そろそろそのネタ、やめましょうよ」

「ネタとは失礼な、私は真剣だ」

「なお悪いです……あんまり時間ないんですから、もっとこうなんかイイ話を」

「無茶を言う」

「ガキの無茶くらい、聞いてみせてください。
 なんてったってあなたは―――先生、なんですから」


 ぶっちゃけ、下手すりゃ今生の別れだ。

 教師の意地を見せろ、最終話だ、贈る言葉だ。

  
549 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/06(金) 22:23:27.05 ID:c7WdFVITo


「ふむ……では、とびきり思わせぶりに行こうか。
 超電磁砲・御坂美琴についてひとつだけ……きみに教えておくのも悪くなさそうだ」

「……御坂さんについて、ですか?」

「ああ、ヒロインたるこのお嬢さんについてさ。
 ―――彼女に伝えるかどうかの判断は、君に任せるよ」


 木山は美琴のことを、殊更にヒロインと呼ぶ

 まるで何かを悼むかのように、ヒロインと呼ぶ。

 ……その口ぶりが、少し気になる。


 ヒロインとは、何だったか。

 いろいろな意味を持つ言葉だ、物語における女性主人公、あるいは恋人役だろうか。

 だが、木山の言を聞いていると、とある言葉が頭に浮かんだ。


 悲劇のヒロイン。

 運命に翻弄され、絶望を背負わされ、我が身を嘆く、かわいそうな女性。

 そんな言葉が、頭に浮かぶ。


 ……美琴には、あまりにも似合わぬ言葉だ。

 鋼盾は軽く頭を振って、そのイメージを振り払う。

550 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/06(金) 22:27:14.77 ID:c7WdFVITo


「どうする? 聞くかい?」

「聞きます……聞かせて下さい」


 聞かねばなるまい。

 黒子と交わした約束がある、初春にからかい混じりに言わされた台詞がある。


 御坂美琴。

 誰より強く、鮮やかで、優しくて、弱い、そんな少女。

 彼女の力になると、約束したのだから。


「いいだろう……幻想御手は、とある実験を下敷きにした部分がある。
 複数の脳を繋ぐ電磁的ネットワーク、『学習装置』を使って整頓された脳構造、
 ……それら全てのヒントは御坂美琴、彼女から得たものだ」

「御坂さんから、ですか?」


 ネットワーク……電撃使いたる美琴と縁の深そうな単語で……まあ、なくもない。

 しかしそこから共感覚性を利用した幻想御手の開発や、脳波の画一化による脳ネットワークの形成などはちょっと繋がらない。

 飛躍が過ぎる気がするが―――あるいはその飛躍こそが、優秀な科学者たる木山春生のセンスなのか。


 それとも、美琴がそのような論文でも書いていたのだろうか。

 常盤台生で超能力者だ、そのくらいの真似はやってのけるだろう。

551 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/06(金) 22:36:52.45 ID:c7WdFVITo


「……正確には、彼女にまつわる実験の成果のみを、掠めとったのさ。
 この子は、本当の意味では理解していないんだよ。己の価値を。
 いや、それをいうならこの街の学生全てがそうなのだろうが―――超能力者はさ、別格だ」


 今日、それを嫌になるほど思い知らされたよ、と木山は微笑む。

 美琴に叩き伏せられた木山だ、その想いはひとしおだろう。

 その時ふと、鋼盾の頭に疑問が浮かんだ―――せっかくだ、ぶつけてみようか。


「木山先生、質問です、
 ―――超能力者って、なんなんですか」

「――ふむ、幻想猛獣の時とはちょうど立場が逆になったね」


 あの時、木山は鋼盾に“無能力者とはなにか”と聞いてきた。

 “レベル1に満たぬ者”と答えた己に、木山は“それだけではない”と口にした。
 
 ――そう言えば、まだその先を聞いていなかったか。


 そして、超能力者だ。

 学園都市に七人しかいない最高レベルの能力者。

 御坂美琴は、その内のひとりだ。


 今まで、考えたこともなかった。

 石ころのような己とは比べるべくもない、天に輝く七つ星。


 木山春生は、それをどう捉えているのだろうか。

 まず、それを聞いてみたい、そう思った。 

552 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/06(金) 22:53:40.57 ID:c7WdFVITo


「超能力者というのはね、単なるラベリングだよ。
 ただの呼び名で、名称だ。レベル5ならぬラベル5だね」

 
 木山春生が、超能力者を語る。  

 多才能力者、一時は誰より超能力者に近い所にいた彼女が。
 

「能力強度とは、なにも頭の良さや腕っ節の強さを競うものじゃない。
 例外はあるが“この街にとって価値のある順番”なんだ」


 この街にとって、と口にした木山の目は嫌悪と諦年に塗れていた。

 無理もない。彼女の生徒たちをこの街は実験で使い潰したのだから。

  
「この街の価値基準には……私としても首を傾げたくなることが多々あるが、ね。
 二三〇万人の中で、上が目的達成の手元に置いておきたいと願った七人が、超能力者だ」


 この街には目的があるのだそうだ。

 犠牲を強いてまで、辿り着きたい場所が、あるのだそうだ。


「そして……これが大事なんだがね。
 彼らはまだ、梯子を登りきってはいない……第一位すらも」


 この街が掲げた、とある目標。

 未だ梯子はそこに届いていない。


 この街の目指すのは、天上の意思。

 超能力者など、それを成すための道具に過ぎないのだ、と木山は言った。

553 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/01/06(金) 23:17:57.12 ID:OiEo+8Yj0
寝落ちか?
無理はすんなよ?
554 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/06(金) 23:41:24.47 ID:c7WdFVITo


「……その目的っていうのが……SYSTEM、ですか?」

「そうだ。絶対能力者進化実験―――学園都市の闇は深いよ。星すらも飲み込む程にね。
 そして、御坂美琴は本人も知らぬまま、その闇に囚われてしまっているらしい」


 闇に囚われた女が笑う

 生贄は、なにも無能力者だけというわけではないと、笑う。 


「超能力者はね、選りすぐりの素材だと聞いている。
 第一位がメインプラン、第二位がスペアプラン、そして第三位はキャタライザーだそうだ」

「……触媒、ですか?」

「聞いたことはないかな、彼女に関する都市伝説を」

 
 都市伝説

 街談巷説

 道聴塗説


 典拠のない、無責任な噂話

 友達の友達の友達の話

 
 ああ、だけど

 鋼盾掬彦、おまえは知っているはずだ

 この数日で、一体いくつの超常と異常に触れた?


「……“才人工房”」


 学園都市は

 うんざりするほどファンタジーで

 なげだしたくなるほどメルヘンで


「……“超能力者のクローン”」

 
 信じられないくらい

 どうしようもないくらい

 

「……“妹達(シスターズ)”」

「ふふ、ほうら……知ってた。
 ―――ヒドイ話だろう?国際法もなんのその、だ」 



 救いようのないほどに

 掬いようのないほどに


 深い深い闇が、横たわっているらしい


555 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/07(土) 00:18:01.12 ID:wOmvSG8wo


「―――ありえない……そんなこと!! 許されるわけがないでしょう!
 絶対に! 許されるわけがない!!」


 全身を貫いた悪寒をねじ伏せ、鋼盾は吠える。

 倫理が、常識が、平穏が、安寧が、愛すべき日常が崩れる音を聞いた気がした。


「……だれが許さないというんだい?
 この都市の目的は、神様を追い落とすことにあるというのに」

「……そんな」

「御坂美琴はね、限りなく絶望に近い運命を背負わされている
 このまま世間知らずのお嬢さんのままで居て欲しいものだけど―――そうもいかないだろうね」


 難儀な話だ、と木山は溜息をつく。

 美琴を、鋼盾を、憐れむように。

 運命を嘆くように。


「いい子だね、この子は。
 御坂美琴、超電磁砲……こんなに真っ直ぐな子だとは思わなかった」

「……知ってますよ」


 鋼盾掬彦は知っている。

 御坂美琴の強さと弱さを、建前も本音も抱きしめて、真っ直ぐ歩く後ろ姿を。

 花咲く笑みを、不器用な恋心を、信念を、覚悟を。


 ただただ尊い、その在り方は

 鋼盾掬彦のあこがれなのだから
 


 鋼盾は木山をまっすぐに見詰める。

 木山も鋼盾をまっすぐに見詰める。

 先に折れたのは、木山の方だった。



「ああ、やっぱり君にはヒーローの素養があるね。
 守ってあげてくれ、この子を。私が言うようなことではないと思うが、それでも頼む」
 ……これは餞別だ、携帯電話を貸してくれ」


 鋼盾は、木山に黙って携帯を渡す。

 これは内緒だよ、と木山春生は笑うと 鋼盾の携帯のメモパッドに、とある符丁を打ち込んだ。

556 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/07(土) 00:43:44.70 ID:wOmvSG8wo


「……これ、は?」


 メモ欄に打ち込まれた英数字の羅列。

 十六桁のパスワードのようなものが、三つ。


「ヒント、かな。 多才能力の試運転の際に、いろいろ拾ったんだよ。
 私はここまでしか探れなかった、リスクとメリットの釣り合いが取れなかったからね」


 それは、学園都市の闇に繋がる符丁。

 ひとでなしの通行許可証、白衣の悪魔のパスポート。


「だが、きみと花飾の風紀委員さんなら、その先へ行けるだろう?
 ――――もしも今日のように君たちが理不尽に挑むなら、足がかりにはなるはずだ」


 悪戯に、木山は笑う。

 来るべき時には、それを使えと。
 

「ふふ、無論捨ててくれても構わないんだがね―――でも君は捨てないんだろう?」
 
 
 鋼盾掬彦はそういう男だ、と木山春生は知っている。

 それ故に彼に幻想御手解除プログラムを預け、いまもこの符丁を託すのだから。


「……なぜ、ぼくにこれを?」


 鋼盾が問う、なんとも無粋だ。

 ―――だがまあ、無粋も悪くない。


 さあて、意趣返しの御礼返しだ。

 散々人を煽ってくれた少年に、木山春生が逆襲の一撃を叩き込む。

557 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/07(土) 00:50:17.91 ID:wOmvSG8wo


「ふふ、正直に言おう。
 ――見てみたいのさ、私は。 きみらの意志が、学園都市をねじ伏せるのを」

「……うわ、そうきましたか……参ったな」



 “正直なところ、見てみたいんですよ、ぼくは。
  たったひとりの意志が、学園都市をねじ伏せるのを”


  それは、鋼盾掬彦が木山春生に火を付けた台詞。

  分け与えた火が、何倍にもなって返ってきやがった。


  木山春生が笑う。

  ドヤ顔も甚だしく、決め台詞をぶちかます。

558 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/07(土) 00:51:02.08 ID:wOmvSG8wo



「―――救ってみせろ鋼盾掬彦、御坂美琴を、この街の闇から、きっと」


“―――とっとと救ってみせろ、あの子たちを、この街の闇から、今すぐ”


559 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/07(土) 01:00:10.78 ID:wOmvSG8wo


「……はいはい、わかりましたよ。
 やりましょう、学園都市をねじ伏せてやる」

「いい返事だ……だが、はいは一回」

「はい……はは、ひどい女だ、あなたは」

「君ほどじゃないさ、この人たらし」


 鋼盾が笑う

 木山も笑う


 そうとも、この身は盾だ

 守りたいものを守る、それこそが本懐だ


 鋼と嘯け、鋼盾掬彦

 盾と嘯け、鋼盾掬彦


 身の程など、忘れてしまえ

 ひとりじゃないんだから、おまえは

560 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/07(土) 01:18:52.00 ID:wOmvSG8wo

「……ありがとうございます、先生。
 つーかもう、とんでもないな、あなたは」

「おや? 誰がもう終わりだと言った? 
 ―――これだけで呆けて貰っては困る。まだ半分だよ、ここからが本番だ」

「……えーと、あれ?
 半分って……え? まだあるんですか?」


 御坂美琴にまとわりつく闇。

 学園都市の壮大かつクソッタレな計画。

 それでまだ半分だと木山は笑う


「大人の女には、隠し事が多いのさ。さあて……次は、きみについての話だ。
 君に解除プログラムを預けた理由、幻想猛獣が君を追った理由、シスターさんのこと。
 そして………いやいや、盛りだくさんだな。ぶっちゃけさせてもらうよ?」

「………………マジですか」


 鋼盾の表情が引き攣る。

 正直お腹いっぱいではちきれそうなのだが、他ならぬ己の事と、そしてどうやらインデックスについての話だそうだ。

 この時を逃せばもはや聞く機会がない―――――ああもう、毒を食らわばなんとやら、だ。


 覚悟を決めろ、鋼盾掬彦

 木山春生の誠意に報いてみせろ


 情報を集め、考え続けること―――それこそがお前の戦いだ。


「全て話そう。これは恩返しで、八つ当たりで、自己満足だ。
 ――正直、腹に抱えたままじゃ耐えられそうになくてね……少しばかり酷な話になるだろうが―――聞いてくれるかい?」

「……聞かせて下さい、先生」

561 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/07(土) 01:30:34.65 ID:wOmvSG8wo

 木山春生と鋼盾掬彦

 幻想御手をばらまいた女と、それを求め後に拒んだ男

 多才能力者だった女と、無能力者の男

 研究者とモルモット


 紆余曲折を経て、今、同じ火を胸に宿したふたり


 その邂逅は、やはり宿命めいていた

 木山春生のみが知る、その数奇な物語が今明かされる




 警備員の到着まで、あと七分

 鋼盾掬彦の人生をひっくり返す七分間が、幕を開ける




――――――――――

 

 





562 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/07(土) 01:38:09.92 ID:wOmvSG8wo







ここまで!


うがががが……時間掛かり過ぎだぜ! マジ申し訳ない
途中停電があってルーターさんが機嫌を損ねたり、突然アイデアさんが降ってきたり、伏線さんを貼り忘れてたりでいろいろアレだったのです!
あ、>>553さん、心配してくれてサンクス

つうわけで鋼盾と木山の会話、前編でした
詰め込みすぎでわけわかめですがこのシーンが書きたかったのです

次回も頑張ります


んじゃ、またな!
563 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/01/07(土) 01:46:22.63 ID:BAIephwo0
無理してたんじゃなきゃよかったよかった

ついにコウやんが真の無能力者たる所以あたりが明らかになるのかね
そしてピンチで何かに目覚める的な展開になったり……は期待しすぎか

つか、1巻以降はおいとくといいつつ、しっかり乱雑開放編と妹達編をやる伏線張りまくってんじゃないすかww
木山先生再登場フラグとかブチ立ててるしww
564 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/07(土) 01:57:37.05 ID:Jol3WUvfo
おつん。
70スレくらい続いてもいいのよ?
565 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/01/07(土) 10:53:06.41 ID:dF195bzo0
乙です
566 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/01/07(土) 14:57:14.53 ID:KrVyzfdAO
ヒロインは木山先生にすべきだったかもしれんな…

567 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/07(土) 18:59:57.36 ID:mXGLIxCWo

インデックスも美琴も鋼やんに惚れちゃえばいいんだよ
568 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/01/07(土) 20:01:16.27 ID:RLDORv2lo
ついに木山先生の鞄をぶっちゃけるときが来ましたなー。
これはアニメ観ちゃって美琴を助ける前に木山先生が助かる展開を期待してもいいのかね。
いいんですよね。
ね。

ところで>>545の「擲った」は「なぐった」と「なげうった」のどちらなのか気になります。
569 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/07(土) 20:12:47.42 ID:VqXFXxTs0
乙。次回、遂に鋼盾の隠された力が明らかに……っ!!てことにはならんのだろうな。

しかし、これで鋼やんが3巻に介入するフラグが完全に立ちきったな。
1スレ目でアンケートしてた、駒場の旦那やらソギーと愉快な仲間たちやらが関わるエピソードは没ったのだろうか。
いっそ全員登場とかどうかなぁ。
上条さん、美琴、一方さんと妹たちに、鋼盾と初春、駒場の旦那、削板原谷モツ鍋が入り乱れる大混戦、とか。
……うん、すんごい見たいけどたぶん無理だな。
主役格の人間がこんだけ登場するなんて、トッププロの作家でも捌き切れるとは思えん。
570 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/07(土) 23:57:28.95 ID:wOmvSG8wo

「ふん、超惨めな抵抗ですね」

 ひどい台詞だ。
 おそらくは高位能力者であろうその少女は、冷え切った眼で駒場利徳を嘲った。
 少女の細腕にはあり得ぬ剛力で殴り飛ばされ、倒れ伏す男を見下ろして。

「惨め、惨め、惨めです。勝てると思いましたか、無能力者の分際で」

 つまらない物を見るような、その眼。
 スキルアウトであれば、誰もが味わったことのあるその視線に、痛みを超えた懐古を覚えた。。
 なればこそ、地に這いつくばりながらも笑うことが出来たのかもしれない。

「……惨めでも、いい」

「負けても?」

「……勝ったことなど、ない」

「超無様」

 無様……その言葉が、ふと、人生の大半を物語っているような気がした。
 無様で惨めで、それでも諦めきれず、もがいて足掻いて夢を見て、そんな人生だった。
 まさに木っ端のような人生だ、だけど

「利徳くんっ!!」

 初恋の女の子くらい、守ってみせる。
 ……そんな顔をするな、布束。すぐに助けてやる。
 大丈夫だ。演算銃器は未だこの腕の中にある。

 窒素装甲、と少女は言った。
 己の能力を語るなど――――ああ、これだから能力者はバカなのだ。

 精々狩人を気取っていろ、小娘。
 演算銃器の紡ぐ弾丸の種類は無数、これを使いこなすのに俺がどれほどの研鑽を積んだと思っている?
 相手が窒素だというのならば―――それなりの対処法はある。

 設定3、貫通力最大。
 それに幾つかの追加要素を打ち込めば、お前の鎧を突き破る凶弾の出来上がりだ。
 
 ……入力に三秒、弾丸精製に二秒
 五秒。たったそれだけあれば、この小娘を無力化できる。

 だが―――それをどうやって紡ぎだす?
 目の前の女は、それを見逃すほど甘くはあるまい。
 
 駒場利徳はギリ、と臍を噛む。
 なんでもいい、なにかないのか、逆転の一手が。

 駒場は祈りにも似た思いで、倒れ伏したまま方方に視線を飛ばした。
 しかし結局なにも見つけられぬまま、窒素装甲の少女へと視線を戻そうとし―――――

 一秒前まで確かに居なかった少女の背に、それを阻まれた

「お取り込み中、大変失礼致しますの」

 居なかった筈の少女が、窒素装甲相手に言葉を紡ぐ。
 歳は十五に届いてはいないだろう、目深に被ったキャップで顔は見えない。
 Tシャツにジーンズ、黒一色の服装は忍び装束めいた無個性の極み。
 艶やかな茶髪のポニーテイルが、ひどく眼を引いた。

「……新手、ですか。
 空間移動能力者ですかね……超一応聞いておきましょう、何の用ですか?」

 窒素装甲の少女が警戒も顕に問う。
 なるほど、一切の気配なく突然現れたのは、空間移動によるものか。
 降って湧いたその隙に、駒場利徳は逆転の凶弾を全力で紡ぎ上げる。

 戦局が、変わった。
 新たな勢力が、戦場の色を塗り替えてゆく。

「わたくし、そちらの女性に用がありますの」

 空間移動の少女は、その視線を拘束された布束へと向ける。
 場違いなほどに上品で、それでいて凛とした声が響いた。

「鋼……あー、人使いの荒いわたくしの仲間が、彼女の力を借りたいと申しておりますので。
 ……布束砥信、量産型能力者計画に参加した研究者で間違いありませんですの?」 
571 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/07(土) 23:59:06.99 ID:wOmvSG8wo

なんちゃって。

みたいな感じで、構想はあるんですの。いろいろと。
実際幾つかは書いちゃってるんですの、グリグリと。

黒子対絹旗とかどうよお前ら、横須賀の異常なタフネスはソギーとの同調によるものとかどうよ、演算銃器には無限の可能性があるとかどうよ、そもそも駒場×布束ってどうよ、横須賀×10031号ってどうよ、矢文くんのみせる侠気とかどうよ、キレッキレの美琴とかどうよ、それらすべてを打ち破る一方通行と、それと対峙する鋼盾掬彦とかどうよ。

面白いと思うんですよ、たぶん

でもぶっちゃけ、再構成には着地点が必要なのです。
二巻を書きたい、三巻を書も書きたい、四巻、五巻、六巻……終われないのです、一巻で締めねば。

蛇足に落とさぬ着地点。、
それを未だに見つけられずにおります。

ですのでどうか、まずは一巻のラストをお楽しみ下さい。
>>1も、いろいろやり方を模索します。全く別の物語になるやもしれませんが、それはそれで。

次回更新は、来週中。
よろしければお付き合い下さい。


>>568
なげうった、ですな
うむむ、無意味に難しい漢字は使うべきではないな、実際。

反省!
572 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/01/08(日) 00:04:04.59 ID:vBocZBLXo
いいなぁ
想像が膨らむなぁ
とりま乙
期待して待ってます
573 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/01/08(日) 00:22:38.78 ID:uaZRqAYgo
木山先生の物語としてここまでイカスものがなかったんで期待しちゃうんよねー。
でももちろん主役は鋼盾で脇役もかっこいいだけてのがこの話の筋だと思うんで鋼盾の物語として完結させてくださいませ。

擲ったはどっちの読み方かで意味合いが変わるので面白いなと思って。
なげうっただと木山先生の全てをって意味で、
なぐっただと能力開発や学園都市の在り方をって意味になるなーと。
574 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/01/08(日) 01:20:28.83 ID:kK4ZZ7KYo
いきなり絹旗が出てきてびっくりしたww
今までいなかったキャラが出てきても一発で誰かわかるのが禁書のヘンテコ口調の便利なとこですな

過去何巻分かやってからちゃんと完結したやつはどれも途中からオリジナル展開に持っていってるね
っていってもそんなに数ないけどさ……
575 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/08(日) 01:29:58.76 ID:2ao45Ta7o
>>574
一方禁書とか詐欺条さんとか…現行だと浜面禁書とかな

絹旗対黒子なら、黒子が勝つよな?
576 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/08(日) 01:54:08.23 ID:jnPfjwwIO
>横須賀×10031号

これはないです
577 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/01/08(日) 01:59:06.62 ID:kK4ZZ7KYo
>>575
原作で言及されてない以上どうやっても推論の域を出ないっていう結論にしかならんだろ
結標が駒場に負けてたのを考えると、意外とテレポーターって近接特化に相性良くないんだろうし
ま、このスレでやる話じゃないな
578 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/01/08(日) 04:03:54.18 ID:vBocZBLXo
>>575
[ピーーー]絹旗と殺さない黒子ならどっちが勝つかね
まあ>>1が魅せてくれるはずよ
579 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/01/08(日) 04:21:37.36 ID:kpaXpehAO
>>575
他のは分かるが詐欺条さんってどれの事だ?
一方禁書の人の上条(悪)であってる?
580 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/01/08(日) 05:00:33.49 ID:kK4ZZ7KYo
>>579
Arcadiaに投稿されてる作品で、書き直しのため一旦非公開になってる
581 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/01/08(日) 10:05:30.55 ID:k9xgj41AO
黒子介入
しかもポニーテールか


胸が熱くなるな
582 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/08(日) 20:31:02.14 ID:2ao45Ta7o
駒場はどうやって演算銃器とかバネ包帯とかチャフシードを手に入れたんだかな
盗品なのか、人材派遣みたいな連中から買ったのか、はたまた……
583 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage saga]:2012/01/10(火) 10:37:19.93 ID:KsEMJaih0
この絹旗のドSっぷり

駒場そこ代われ
584 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/10(火) 17:54:32.34 ID:DiEgNChRo

どうも>>1です、コメ感謝です
さらっと書いた駒場の旦那話ですが、彼の生存ルートを切り開いた場合いろいろ変わるよな

一番大きな影響として浜面の暗部落ちが無くなる可能性がありそうでしょうか
そうなるといろいろヤバイぜ、妄想がヤバイぜ!

■ヒーローとして覚醒しない浜面のキャラ(そげぶなし、ヒロインなし)
  @駒場の右腕ポジ。運転操縦お任せの機転ききまくりナイスガイ且つ三枚目
  A他の女性のためにヒーローになる(姫神? 打ち止め? 風斬? オルソラ?)
  Bモブ

■浜面がいない場合、アイテムはどうなる?
  @麦のん敗北、滝壺崩壊、絹旗生き残るもサイボーグ化、フレンダ逃亡…でアイテム瓦解
  Aもしくは浜面ポジに誰かが入って活躍する
 
選択肢が無限大ですねー、でもきっと辻褄合わねえ罠
つーか、自分で書いといてアレだがサイボーグ絹旗って燃えるよな!
新約一巻読んで速攻で思いついたんだが、誰か書いたりしてないだろうか……!

サイボーグ絹旗最愛

黒夜とペアで出てくんの! アイテム潰されて居場所なくて黒夜に誘われて!
サイボーグ化によりパワーアップした窒素装甲……否、窒素重装!!
んで二人で合体技とかやるの! 窒素槍装葬送! かかってこンかい一方通行!

コンビ名? 決まってンだろォ? 
ナイトロジェエエエン!シs(検閲削除)

失礼しました、大好きです。

寄り道してねえでさっさと続き書けやという話ですので、本日投下します。
鋼盾と木山先生の会話がやたらと長くなってしまったので、二回、もしくは三回に分けての投下になるかもです。

木山春生、最後の授業。
このへんを書きたくて幻想御手編書いてました。

んでは、諸用を片付けてまいります。
夜にまた。

585 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/10(火) 21:23:14.09 ID:I6Pewhypo
>>1もあのスレ見てんのな、俺も好きだぜ

浜面はなにかしらスキルアウトがバラバラになる事件が起きれば暗部落ちしそうだよな
ってかその設定採用すんのなww
586 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/10(火) 21:24:36.16 ID:DiEgNChRo

――――――――――――――――――――



「まずは……そう、幻想猛獣が君を狙った件についてだ。
 説明が途中だったし……この話から始めようか」


 木山春生を触媒として産まれ落ちた幻想猛獣。

 それが目覚めたとき、最初に目を向けたのは鋼盾掬彦だった。


 発生のきっかけであろう御坂美琴ではなく。

 ある意味でネットワークを縛っていた木山春生でもなく。


 鋼盾掬彦に、その目を向けた。

 それは、なぜか。


「幻想猛獣が君を狙った理由は、君が解除プログラムを持っていたから。
 それは否定できないが……だが、それだけではないと私は思っている」

「……ぼくのAIM拡散力場がどうのこうの、とか言いましたね」

「ああ、AIM拡散力場だ。
 あれがその集合体であろうことは説明したね? それを取り込んで成長していたことも」

「ええ、見てましたから」


 確かにAIM拡散力場の集合体であるそれは、貪欲に能力の吸収を図っていた。

 事実、鋼盾を狙って精神感応能力で強引に“繋げ”に来た。

 あのまま“あそこ”にいれば、きっと鋼盾はネットワークに取り込まれていただろう。


 そう、おかしな話ではあったのだ。

 なぜ敵は、鋼盾掬彦というレベル0をわざわざ取り込もうとしたのだろうか?

 それも、すぐそばにいた超能力者たる御坂美琴を差し置いて、だ。

587 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/10(火) 21:30:32.77 ID:DiEgNChRo


「An Involuntary Movement……無自覚、と言うところが肝でね。
 これを測定する事で、対象の能力の性質やら精度、果てはその“自分だけの現実“まで測りうる。
 かつて私が目指したのは、そのAIMを……すまない、脱線だ」
 

 木山の語りが熱を帯びる、やはり教え好きなのだ、この人は。

 しかも専門分野だ、饒舌になるのも無理はあるまい。


「微細な力だからね、本来は精密機器レベルじゃなければ観測できない。
 だが、多才能力のひとつに対象のAIM拡散力場を視る能力があってね、なかなか便利だったな。
 超電磁砲との戦闘中、隙を見て君のそれも視させてもらったんだ」

「……ぼくのAIM拡散力場を、ですか?」


 AIM拡散力場を観測する能力。

 相手の能力発動の予兆やらを掴めたりするのだろうか。

 美琴との高速戦闘、そのような類の能力も多用していたのだろう。

 
 その最中、目の端で鋼盾を偶然捉えた?

 否、木山春生は“隙を見て”といった。鋼盾のではない、美琴の隙だ。

 
 その口ぶりだとまるで、初めから鋼盾を狙っていたようにしか聞こえない。

 ……いや、そう言っているのだ、この女は。

588 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/10(火) 21:34:35.86 ID:DiEgNChRo


「驚いたよ……口ではうまく表現できないが、君はこの街の誰とも違う。
 わけがわからない、一体何をどうすればあんなことになるのか、わからない」


 君の脳を一度徹底的に調べてみたい、と真面目くさった顔で口にする木山。

 ……そこは気恥ずかしそうに “君の全てを知りたい” とか言って欲しいものである。

 とは言え、とは言えだ。

 
「……わからないのはぼくの方です」


 理解が及ばない。

 わけがわからない。


「ぼくとしては、自分にそのAIM拡散力場とやらがあってびっくりなくらいですよ。
 ―――今まで何度測っても、なんにも出なかったんですから」


 一切の能力がない、本物の無能力者。

 それが鋼盾掬彦だ、正直そんな“力場”とやらが己にもあることが信じられない。

 
 あり得ない、とかつて鋼盾の検査を担当した教師も言っていた。

 再検査も受けた……学校ではなく専門の施設で、何日もかけて。

 条件を変え、機械を変え、施設を変えて――幾度も繰り返した。


 そして弾き出される結果は、いつだってゼロのままで。

 繰り返し突き付けられたそのゼロに、かつて鋼盾掬彦の心は圧し折れてしまった。

589 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/10(火) 21:36:24.79 ID:DiEgNChRo

「ふむ……君へ検査がどのように進められたのかは知らないが。
 確かに君のそれは―――うん、機械で測れるような類のものじゃないね。
 大能力レベルの“能力解析(AIMリーダー)”を以ってして、ようやく視えるクラスだ」

「……なにをどう聞いても“オマエ弱すぎてどうにもならん”としか聞こえないですよ」

「強い弱いじゃない、もっとこう……あー、説明はできないな、これ」


 だが、視ただけで木山春生は確信したという。

 AIM研究の専門家、幻想御手を創り上げた鬼才、仮初の“能力解析”レベル4。

 そんな彼女に、確信めいた震えが走ったというのだ。

 願わくば、もっと踏み込んでみたかったのだが、と木山は嘆息する。


「残念ながら上位互換たる“能力追跡”は持ってはいなかったしね。
 ふむ、滝壺理后……彼女の意見を聞いてみたいところだな」

「…………わかりませんね」


 お前のAIM拡散力場は人とは違う、と言われても正直困る。

 そりゃ違うだろう、周りの皆と同じであれば、鋼盾にも能力が発現しているだろう。

 なんたって己は学園都市最下位だ、よほど奇妙な形をしているに違いない。


 歪な畸形、雁字搦めの“自分だけの現実”

 そこから漏れるものなんて、どうせ碌なものではない


 鋼盾は心底そう思う。

 かなしいほどに、そう思う。

590 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/10(火) 21:37:11.06 ID:DiEgNChRo


 そんな鋼盾を置き去りに、木山春生の話は続く。

 淡々とした声が、あの場にいた最強の能力者、御坂美琴について触れる。


「超電磁砲のAIMは、確かに凡百の電撃使いのそれとは……あらゆる点でモノが違った。
 ―――だが、それだけと言えばそれだけなんだ。段が違う、格が違う、桁が違う、それだけさ」


 確かに、電撃使い(エレクトロマスター)は自体はありふれた能力だ。

 そのありふれた能力を以って超能力者に遇されたほどの美琴の業績は、とりあえずおいておこう。


 レベル0〜4までの電撃使いと、レベル5の御坂美琴。

 これらのAIM拡散力場自体は同種のものだという。


「だが、君のそれは、ただただ“違う”」


 数多のAIMに触れ、実際にそれを視る能力すら持っていた女が言う。

 鋼盾掬彦、おまえは“違う”と。


「あの場に第一位と第二位がいても、幻想猛獣は君に向かったかもしれない。
 勿論想像に過ぎないが……そう思えるほどに、きみは違うんだ」


 ……だから、なんだというのか

 この無能力者が、どうしたというのだ

 鋼盾掬彦が、なんだといいたいのだ


 ギリ、と鋼盾が歯を鳴らす

 ゼロの鎖は、未だ彼を縛っている


「……だから、何が言いたいのかわかりませんって。
 繰り返しますがぼくには一欠片も能力がないんですよ。
 ……こんな事、何回も言わせないで下さい……!」


 既に、己の無能は飲み込んでいる。

 その痛みを抱えて、弱い己を認めて、なお前を向くと誓った。

 誓ったのだ。


 とは言え、コンプレクスはなくなりはしない、そこは今なお鋼盾掬彦の逆鱗だ。

 そこにズケズケと踏み込まれるのは、相手が木山であっても許したくない。

591 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/10(火) 21:38:38.52 ID:DiEgNChRo


「……すまない、だが、話は最後まで聞きなさい。
 この街の学生の六割は無能力者だ、でも、彼らとて微力なれど能力者なのさ」

「……いえ、すみません。
 そうですね、無能力者と言っても、いろいろです」


 知っている。

 限りなく1に近いものから文字通りの0まで、いろいろだ。

 だれよりも己はその事実を知っている。


 土御門のように「目に見える程度」には発現している者がいる。

 吹寄のように「身体検査でようやく発見できるような」非常に弱い者もいる。

 上条のように「能力の特殊性ゆえに身体検査では計測できない」という特殊なケースもあるのだろう

 
 鋼盾の場合は「一切の能力発現がみられない」というものだ。

 純然たるゼロである。

 
 学園都市最下位、本当の意味での無能力者。

 それが、鋼盾掬彦だ。


 理由など、知らない。

 だれひとりとして、教えてなどくれなかったのだから。


 ……それとも

 木山春生、教えてくれるというのか、あなたが?

 ならば聞かせてくれ、どうか聞かせてくれ


 大丈夫だ、今更折れたりしない。 
 

 もう妄想に逃げ込むことはしない

 もう無気力に日々をやり過ごすことで己を守ろうとなどしない

 もう幻想の手を追い求めることもしない


 子どものままではいられない

 不満不運を嘆くだけのガキでは、いられないのだから

592 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/10(火) 21:43:38.45 ID:DiEgNChRo


 だいたい、なんだというのだ。

 ……もとより、大袈裟に過ぎるのだ、己は。

 この街の半分以上がレベル0、そのまた半分がレベル1である。

 約八割の学生が、ほとんどまともに能力を使えていないのだ、結局のところ。


 上位二割に入れないなど、考えてみれば割合的に当然の話だ。

 そして下八割の実力差など、ドングリの背比べである。

 湿気たマッチとオイル切れかけのライターとちびた火打石の戦いだ。

 火花が飛ぶかすらも怪しい。


 対して、ステイル=マグヌスの炎は最低でも大能力者級だった。

 鋼盾が見たのは防壁だ、奔放な炎の本質とは異なるであろう運用で、あの威容。

 攻撃に転じたら、あの炎がどれほどの脅威となるかなど、想像もしたくない。


 神裂火織は、その更に上を行く。

 鋼盾が見たのは不可視の斬撃のみだが、それ以前に見せたあの殺気、あの悪寒、あの絶望。

 木山も幻想猛獣も御坂美琴すらもぶっちぎって、未だにあれがナンバーワンだ。


 あれらを相手に、凡百の能力では存在しないに等しい。

 むしろあっては邪魔になる、なまじ縋るものがあることで道を狭めかねない。


 照準の狂った、二回に一度は暴発するような糞拳銃でも、持っていれば撃ってしまうだろう。

 碌に斬れぬナマクラ刀でも、それをたのみにする者はけして手離そうとぜず荷物を抱え込む。


 不確かなものに頼るな、それは選択肢を減らす愚行と知れ。

 両手を自由にしろ、余計な荷を負うな、集中しろ、腰を落とせ、考え続けろ、備えろ。


 そのほうが絶対に強い、そのほうが絶対に逃げやすい。

 だからいらない、今更能力なんて、いらない。

 むしろ邪魔ですらある、余計な荷物だ。


 いらないのだ。

 いらねえよバカ。

 いらないってば。

593 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/10(火) 21:48:01.14 ID:DiEgNChRo

 ……はい、すみませんでした、嘘つきました

 鋼盾掬彦、今すっごく嘘つきました

 みっともない嘘をつきました


 強がりでした

 男の強がりでした



 正直に言うと、ぶっちゃけ能力超欲しい。

 当たり前だ言わせんな馬鹿野郎。


 すごく欲しい、役に立つかなんて割とどうでもいい。

 アイツらだけ持ってるのずるい、納得できない、羨ましい、妬ましい。

 欲しくて堪らない、どうしようもなく。


 欲しいのだ、それが

 なりたいのだ、能力者に


 もうずっと

 長い間


 それに囚われていた

 ひとり囚われていた

594 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/10(火) 21:50:25.48 ID:DiEgNChRo
 

 だけど。

 もっともっと欲しいものが、いろいろ出来てしまった。

 恥ずかしいので口にはしないが、それが欲しい。


 だから、そのために強くならなきゃいけない。

 なにはともあれ、やはり基本が大事

 まずは、己を知るところから、はじめよう。


「覚悟は決めたつもりです……大丈夫ですからはっきり言って下さい。
 能力の発動しない、違い過ぎるというAIM拡散力場、パーソナルリアリティ……」


 能力者に、なりたかった。

 なりたかった、夢だった。


 この想いにはもう封をしてしまおう。

 しまってしまおう。


 生まれながらに目が見えない人がいる、耳の聞こえない人がいる、足の動かない人がいる。

 ならば、能力が全く使えない人間だっていてもおかしくはない。
 

「意味するところはひとつでしょう。
 つまり―――ぼくは欠陥品だ」


 それが己だというのなら

 受け容れよう、仕方のないことだ

 ただ能力がないという、それだけのことだ


 なら、それでいい

 だが、欠陥品とて意地はある

 鋼盾は静かに、宣言をする

595 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/10(火) 21:52:23.47 ID:DiEgNChRo


「でも、そうだとしてももう諦めるつもりはありません」

 
 ステイルと理想を語った

 上条と一緒に勝利を誓った

 小萌に恥じぬ道行を定めた

 神裂へと声高に宣言した

 土御門と約束を交わした

 インデックスと一緒に覚悟を決めた


 戦うと決めたのだ

 今更、諦めるわけもない


「なにがなんでも勝たなきゃいけない喧嘩があります。
 それに勝つ。そのために――ちょとだけ、ヒドイこともするつもりです」


 ヒドイことをする、と鋼盾が微笑む。

 ステイルと神裂、おまえらにちょっとだけ、ヒドイことをすると。

596 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/10(火) 22:01:08.52 ID:DiEgNChRo


 それを受けて木山も笑う。

 知っていた、とでも言いたげに優しく強く。


「はは、女子中学生ふたりを誑かした男が言うと怖いね。
 ―――ちなみに、どれくらいヒドイことするつもりだい?」

「そうですね、ん、ちょっとだけですよ」

「具体的には」

「そうですね。まずは自尊心と自制心と自分の掲げた誓いで雁字搦めになってもらってから、
 罪悪感で足を釘刺しにしてあげて、正論で口を封じてやって、感情論でひと通りぶん殴って、
 パーフェクトな解決策でおもいっきり蹴り倒した上、泥にまみれた所でやさしく手を差し伸べてやるつもりです」

「うわあ」

「うわあ、じゃないですよ。
 ぜんぶ必要なことなんです。まだ解決策見つけてないんですけど」

「……当たりは付いてる、って顔だね。
 まさに鬼……いや、ヒーローなのかな。彼らにとっては」


 彼は助けにゆくのだ、と木山は理解した。

 おそらくはその喧嘩相手をも、救けにゆくのだと。
597 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/10(火) 22:01:48.52 ID:DiEgNChRo


「……同情するよ、君を敵に回す連中に」

「言っちゃ悪いですが、ダメダメですよ彼らは。
 三年も費やして愛する女の子ひとり救えないどうしようもない連中で」

「……すごく親近感を感じてしまうな」

「やり方が悪いんです、どうせ。
 クールなフリして内心、自分を悲劇の登場人物か何かだと思い込んでる。
 その上、テンパッて視野狭窄になってることにも気づいてないんです」

「……というか君の言い方に悪意を感じてしまうな」

「自分たちだけで助けなきゃって思い込んでるんですよ、アレ。
 馬鹿みたいですよね、助けられる方からしたら変わらないのに」

「………もう。
 わかった、わかったよ、私も次は考えるよ。そんな目でみないでくれ」

「レベルアッパーEXとか持って来られても困りますよ」

「ちゃんとするさ。
 ―――まったく、なんなんだ君は……私などより教師に向いてるよ」


 鋼盾の当てこすりめいた助言のようなもの。

 無礼を通り越していっそ痛快に、木山の弱点を啄いてゆく。

 木山はもう笑うしかないようで、肩を小さく震わせている。

598 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/10(火) 22:03:48.60 ID:DiEgNChRo
 

「……きみは強いな、ヒーローさん。
 だがね、いささか決断が早過ぎるよ」


 決断が早過ぎる、と言う、

 どういう意味だろうかと首を傾げた鋼盾に、木山は困ったような顔で言う。 


「……正直私にも、君のそれがそんなことになっている理由はわからないんだ
 だけど、これだけは保証できる……君はあらゆる意味で欠陥品なんかじゃない。」
 
「……まあ、そう言っていただけるのはありがたいですけど」

「お為ごかしでも慰めでもないよ、これは確信だ」


 確信と、木山は言う。

 つまり未知ではなく既知、知っていると言っているのだ。


「わかるんだ。私にだけはわかることがあるんだよ。
 だから私は君を選んだ。青髪の彼ではなく君を、他の誰でもなく君を選んだ。
 君だから解除プログラムを、託したんだ―――ああ、ずいぶんと前置きが、長くなったな」

「……残り半分、聞かせてくれるんでしょう?……どうして、ぼくに?」


 最後の会話、残りの半分。

 御坂美琴の宿命に、勝るとも劣らぬ内容。

 酷な内容になる、と彼女は言っていた。


「視たんだよ、私は」


 多才能力者とは、どういう存在か。

 鋼盾はそれを未だに理解してはいなかった。

 否、木山以外の何者にも、それは理解し得ないだろう。


 多才能力者。

 一万人によるネットワーク。

 幻想御手使用者すべての能力を、大能力クラスで使用できるということ。

 それこそ上条のような極端な例外を除けば、ほぼすべての能力を使用可能であるということ。


 だからそう、例えば

 こういうことも、ありえるのだ
 

599 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/10(火) 22:05:45.65 ID:DiEgNChRo




「 私は、未来を視た。

  あのパン屋で、友人と談笑を交わす少年の、未来を視た。

  数日後に訪れる、その数奇な運命と、絶望を視た 」



600 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/10(火) 22:09:46.77 ID:DiEgNChRo


 未来視の大能力者だった女が

 泣き笑いのような表情を浮かべて


 まるで罪を告白するかのように

 咎人のように、旅人のように、魔女のように


 密やかに、不躾に、迷いなく

 空白の未来にインクを垂らした







――――――――――――――――――――








601 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/10(火) 22:20:33.45 ID:DiEgNChRo


ここまで。
思いの外長くなっちゃったので分割。焦らすような形になってすみません

さて、いろいろ突っ込みどころがありますが、こんなんなっております。
まあ、展開の妙でみせるようなスタイルじゃねえよなこの>>1は、と開き直っております。
じゃあどんなスタイルなんだと言われるととても困るぜー

さて、元旦から結構飛ばしてきましたが、1月はちと出張も多いのでちょっと間が空くかもです
とか言いつつ寂しくなってすぐ来たりするかも知れませんが、よろしくです。


んでは、次回もまた!
602 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/01/10(火) 22:47:37.38 ID:KWDd4H3Mo
乙、待ってた
次回も期待

コウやん真の能力発現!は無い方がいいかなあと思う今日この頃
しかしねーちんとステイル(´・ω・)カワイソス
603 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/01/10(火) 23:09:48.98 ID:bWZEg9KR0

パン屋で談笑する少年の未来だと?
青髪と談笑してた誘波の再登場フラグか……
604 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/01/10(火) 23:21:41.03 ID:UlpoGn0AO


滝壺との交戦プラグ、頂きました
605 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/01/10(火) 23:52:29.99 ID:RC8aX80c0
>>604
オーケー、コンセントは探しといてやろう
606 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/01/11(水) 00:00:06.17 ID:+/yPc7nAO
乙!いよいよ一巻の終わりに近づいてきたな
この話も終わりかぁ、短え夢だったなぁ……

>>603
誘波と聞いてとんできました!再登場に期待!
607 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/11(水) 00:16:08.86 ID:KiaM77v+0
乙です。
鋼やん、色々覚悟を決めてんなぁ。
ある意味、真の話術サイド。確かに上条さんには出来なそうなポジションだ。

しかし、鋼盾掬彦の真の能力、か。
一介のモブキャラに鋼盾なんで仰々しい名前がつくなんてこれは絶対再登場フラグだ、てのが初期からの>>1の主張でしたけど、ここまで本作中での鋼盾の設定が固まってくると、ここで今月号の電撃大王で鋼盾掬彦再登場、てなことになったら却って困ったことになるな。
オリジナル心理掌握を登場させてたSSがみさきち登場で困ったように。
608 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/11(水) 03:57:38.98 ID:5277Vpal0
>>607
大覇星祭編の扉絵あたりで、コウやん出てこないかなぁとはちょっと思ってる
…アニメでの鋼盾押しを受けて、冬川さん悪ノリしてくれないものか
609 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/13(金) 13:02:58.54 ID:H5Gd+DKuP
>>607
みさきちや第六位はどの道登場確定ですからSS書きの方々も覚悟の上かと
でも今更(失礼)原作鋼盾君登場されても困る様な…?
まぁ取り越し苦労なんでしょうが

610 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/01/13(金) 19:08:12.23 ID:/EGydkoU0
硲舎はなんだかんだでけっこう使いまわされてるけど、鋼盾は美琴と面識ないから再登場は難しいよなあ
611 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/01/14(土) 20:53:54.61 ID:jR8Lrk8wo
硲舎って誰だよって思ったら鞄の子か
PSPまでは手がまわんねえな、畜生
612 : ◆FzAyW.Rdbg :2012/01/15(日) 12:27:07.79 ID:O6u1UWOCo
もう>>1はあれだ、名前の読み方だけ違ってなきゃいいよもう!
コウやん再登場は>>1得ではありますが、冷静に考えればアニメで叶えてもらってるのですよね

でも、鋼盾含む幻想御手使用者のその後も見たいなあ、なんて思うのですよ
それともアレかな、その役は佐天さんだけで充分と思うべきなのか、背景にチラっとでも出てこないかなー

思えばかまちーは、そういった「能力弱者の成長」みたいなの全く書かねえよな
禁書超電磁砲含め、幻想御手以外でまっとうにレベルアップをした描写って見たことない気がする
登場時からレベルは変わらぬまま……レベルは「設定」で、変わったりはしないのかなと思うとちょっと切ない

とかなんとか言いつつこの話、
鋼盾「わーい、レベルがあがったぞ! やったーヒャッホーイ」 みんな「おめでとう」
みたいな展開には絶対にはなりませんのでご了承ください

今から友人の引越し手伝いなのですが、それが終わったら投下に来ます。20時くらいにはなんとか!
よろしければお付き合い下さい
613 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/01/15(日) 12:38:09.48 ID:WuQY6wCAO
乙!
今の時期に引っ越しとは珍しいな、お疲れさま

かまちーはどっちかってえと「今あるものを遣り繰りして頑張る」なキャラが好きだからじゃね?浜面とかヘヴィーオブジェクトの二人とか
今日の夜投下との事、期待待機
614 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/15(日) 13:54:46.43 ID:Nd8hzBTr0
乙、楽しみにしてます。

原作では、能力者というのは予め予測できるという設定があるからな。
だから、ほとんどの無能力者や低能力者の能力強度は変わることができないんだろうな。

関係ない話だが、今回の木山先生とコウやんとの会話を読んでたら、某桃色髪の魔法使いを思い出した。
能力が発現しなかったりとか、他人とは違う「もの」があったりとか。

615 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/01/15(日) 18:49:42.65 ID:M+XEVxFL0
真っ当に能力あがってる人は直接描写の有無にこだわらなければ超電磁砲中心にそこそこいるよ
子供時代レベル1だった美琴は今はレベル5になってるし、半年前には自分を飛ばせなかった黒子は今自分を飛ばせるようになってる
固法も今はレベル3だけどたしか2年前はレベル2で伸び悩んでたはずだしな
幻想御手絡みではあるけど、後輩指導してた先輩は後日その経験を活かして正規の成長で後輩を抜き返してるし、
アケミか誰かも講習でレベルは変わらないけど数値が上がってるって言ってたはず

だがそんなことより投下に期待
616 : ◆FzAyW.Rdbg :2012/01/15(日) 20:42:57.76 ID:O6u1UWOCo
遅れてすまん! >>1です! コメント感謝!
ちょっと付け加えたい内容ができてしまったので、本日は二度に分けて投下させて下さい
途中ちょっと休憩タイムをいただくぜ!

んでは投下します!


そぉい!



――――――――――
617 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/15(日) 20:43:48.28 ID:O6u1UWOCo


「未来視……予知能力(ファービジョン)、ですか?」

「ご名答」


 まさに私は予知能力者だった、と木山春生は言う。

 多才能力者だった女が、咎人のように、魔女のように


 だが、しかし。

 よりにもよって、予知能力ときやがった。


「あー……“研究者としては困ったことに、一人の競馬ファンとしては喜ばしいことに。
 この都市には、未だ今日の勝ち馬を当てられる予知能力者はいない”……でしたっけ?」

「……その一文だけがひとり歩きしているというのは、あまりいい話じゃないな。
 だが、それが予知能力者の現状を端的に表しているのは確かだ」


 そこそこ有名な一文だそうだ。

 いわゆるコピペというやつで、鋼盾が知ったのは海賊ラジオからだっただろうか。

 都市伝説について情報を集めた際、幾つかバックナンバーを拾って聞いた中に、その一文があった気がする。


 それ、元ネタはとある論文の一節だ。私の先輩の仕事だよ。

 なかなか興味深い論文だから、機会があれば原文にもあたってみるといい、と木山が笑う。

618 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/15(日) 20:47:04.83 ID:O6u1UWOCo


 予知能力。

 未来視、予言、オラクル。

 ファーヴィジョン、遠い光景。

  
 外で予知能力と言えば、念力透視読心念話の次あたりには出るであろうメジャーな能力だろう。

 しかし、能力開発のメッカたるこの街において、その能力はマイナーもいいところだ。


 予知能力の研究は遅々として進んでいない。

 科学が天気すら予知してしまうこの街で、いっそ悲しいほどに。


「学園都市に予知能力者は二十人もいない、そのほとんどがレベル0だね
 最高位はギリギリオマケのレベル3だが……ものすごく微妙なチカラだね、あれも」


 木山がそう言った通り、もともと能力者数が少ない。

 そして総じてレベルが低く、研究者も少なく、まわされる予算も乏しい。

 そもそもえらく実証が難しい上、基本的に意味がない。


 そういう能力なのだ、予知能力というものは。

 少なくとも、現時点では。


「……考えてみればおかしな話です。
 歴史を紐解けば予知能力者なんて、それこそ邪馬台の昔から、いくらでも存在していたというのに」


 ……まあ、大概は眉唾物のペテンの類ではあろうが。

 予言など誰にでもできる、当たるかどうかはおいといて。


「そうだね“今日の占い”から宗教家の神託なんてものまで、枚挙に暇がないほどだ。
 だが―――どうしてか、この街にはいないんだな、不思議なことに」


 木山が口にした神託なる言葉に、鋼盾は少しばかり思う所があった。

 あるいは予知とはその神託なる言葉通り、神ないし高次の存在より託されるものなのやも知れぬ。

 ならば神に弓引くこの街に、予言者が生まれないのも―――いや、これは妄想か。


 そもそも木山が、脳科学者たる彼女がそこに至っているのと言うのだから。

 幻想御手の副作用という反則によるものではあるが。


 ああ、そう言えば―――予知能力者といえば、あれだろう。

 鋼盾がそれに思い至った瞬間、木山が計ったように口を開いた。

619 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/15(日) 20:50:21.54 ID:O6u1UWOCo


「君なら知ってるんじゃないかな?
 予知能力者についての噂話……なぜ、レベル3以上の予知能力者は存在しないのか」

「ええ……聞いたことありますよ。
 “学園都市最期の日”のヴィジョンを見てしまう……ってあれですよね?」
 

 数ある都市伝説の一。

 高位の予知能力者がいない、その理由についての荒唐無稽な噂話。

 ここ数日、さんざん都市伝説の真実を目撃しているが、流石にこれはあるまいと思うのだが。


 かつて何者かによってもたらされた予知。

 都市上層部がひた隠しにしているという、その事実。


 “学園都市最期の日”


 この街が崩壊するというその予見。

 高レベルの予知能力者は皆、どうしてかそれを見てしまうらしい。


 故にレベル4に至った予知能力者は、不自然な“転校”を余儀なくされる。

 具体的には、都市上層部から派遣された猟犬部隊の手で隔離されてしまうそうだ。

 そしてその後、彼らの行方は杳として知れないとかなんとか。

 
 ……なんとも、ふざけた話である。

 まあ確かに、予知能力者に喧伝されては困る内容ではあろうが。

620 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/15(日) 20:52:20.38 ID:O6u1UWOCo


「つーか……また都市伝説ですか……しかも随分とまた、マイナーなところを。
 もともとすべての能力がレベル4まで至れるわけじゃないでしょうに」

「はは、なかなか面白い話じゃないか。
 少なくとも書庫の中に予知能力者のレベル3までしかいなかった、私が借りた子もレベル0だ。
 ……噂では所謂“原石”の中に“未来視の少女”がいるなんて話もあるようだが」

「……その噂、ぼくは学園都市第六位の能力だって聞いたことがありますよ」

 
 この街にいる七人の超能力者。

 そのうち能力名が明言されているのは三位と五位、超電磁砲と心理掌握のみだ。


 残りの五人については、不明。

 その能力についての噂のバリエーションは、鋼盾が見つけただけでも三十はある。

 死者蘇生から完全反射まで、トンデモ妄想の目白押しだ。


 とは言え美琴をみる限り、実際トンデモなのだろう。

 超能力者め……まあ、それはいい。


「……で、先生はまたも都市伝説を体現したわけですか。
 予知能力のレベル4……視えましたか?“学園都市最期の日”とやらは」

「いや、見えなかったよ……馬券の結果すらも、ね。
 ……そもそも、予知能力がまったく発動しなかったんだな、コレが」

「……えー」


 なんだそれは。

 さっき視たっていったろうに、あなたは。

 鼻白む鋼盾の反応に、木山は同意するかのように微笑む。


「いや、わたしもワケがわからなかったよ。能力があるのは確かなんだ。
 でも、発動しないんだ。使い方がわからなかった、他の能力は直感的に解ったのだがね」

「……それは、あれですか?
 予知能力が木山先生に馴染まなかったとか」


 能力使用時の木山の頭の中など想像もできない、が、数が数だ。

 使えない能力があっても、不思議ではないかもしれないと思う。


「いや、むしろ逆さ。奇妙な確信すらあったほどだ。
 この能力は“私のものだ”という、奇妙な感覚が」


 数多の能力を得た女が唯一、己がもの、と感じたという能力。

 “自分だけの現実"、それは誰にでもあるものだ。

 能力開発の有無に関わらずに、誰にでも。


621 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/15(日) 20:56:10.60 ID:O6u1UWOCo


「妄想だがね。もし、私が能力開発を受けていたとしたらだ、
 その結果目覚めたのはこの力、予知能力だったのかもしれないな」

「……否定はできませんけど。
 ―――でも、機能しなかったんですよね?」


 その身に馴染んだというのなら、それこそおかしい。

 未来予知を連発していそうなものではあるまいか? と鋼盾は疑問に思う。

 それを受けて、木山も同意するように言葉を継いだ。


「ああ、さっぱりだったよ。動きやしない。
 ………正直、納得出来なかった、なんといっても未来予知だ
 私は知りたかった、私のやりかたであの子たちを救えるかどうかが、知りたかった」


 子どもらの救出こそが木山の目的だ。

 結果を先取りできる未来予知は、喉から手が出るほど欲しい能力だったろう。


 だが、動かなかったそうだ。

 己のものと確信しつつ、しかし機能しないその能力に木山はずいぶん悩まされたらしい。


「とは言え、動かないものはどうしようもない、と半ば諦めていたその時だ。
 昼食時、ふらりと立ち寄ったパン屋で相席を求められてね…そう、昨日のことさ」

「…………」


 青髪ピアスや誘波がバイトを務めるグーチョキパン店。

 昨日の昼、混雑するカフェスペースでひとつの邂逅があった。


 無能力者と多才能力者

 子どもと大人

 モルモットと研究者

 幻想御手に縋った少年と幻想御手を作った女


 鋼盾掬彦と木山春生が、その日出会った

622 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/15(日) 21:01:28.60 ID:O6u1UWOCo


「そこで私は、君と出会った。
 その瞬間、今まで全く動かなかった予知能力が発動したんだ」
 

 鋼盾を見た瞬間、閉じていた回路が繋がった。

 そして彼女は視たという、その少年の、鋼盾掬彦の未来を。


「視た、というのも果たして性格なのかどうか……。
 君の未来に手を浸し、両手に掬い上げた水を飲み干す、そんな感じだ。
 断片だね……まあ、一番色の濃い部分を掬ったとは思うんだが」

「……ぞっとしない話です」


 他の多くの人間がそうであるように、鋼盾もまた未来とは積み重ねであると信じている。

 予知とは未来の確定を意味するもの、人は皆運命の奴隷であると嘯くもの。

 鋼盾が抱いた感情は反発と不信、そして認めたくはないが恐怖だった。


 それは、人の営みを笑い飛ばす神の視座

 運命、天命、宿命……そんな言葉で何もかもを否定するもの 

 まったくもって、碌なものではない

623 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/15(日) 21:09:58.09 ID:O6u1UWOCo


「衝撃だったよ、実際。
 まさに一瞬の白昼夢さ、平静を取り繕うのに苦労したよ」

「……その割には平静そうに見えましたけど」


 初対面時に抱いた木山への印象は、気怠げで落ち着いた女性というもの。

 狼狽や焦燥、そういった挙動不審はまったく感じなかった。


「まあ、それは年の功だね。
 とは言え、少しばかり喋りすぎてしまった気がするよ……常の私ではありえぬことだ」


 初対面の、歳もずいぶん離れた少年たちと談笑するのなど初めてだったよ、と木山は言う。
 
 鋼盾は木山は意外と饒舌な方だと思うのだが、美琴らはまた違う意見だったりするのだろうか。 


「それに―――予知の内容もさることながら、発動したこと、それ自体に意味を感じた。
 この出会いが、なにか意味を持っているんじゃないかとそう思った。運命……と言えばアレだがね」


 あるいはそういう類の予知能力なんじゃないか、と思ったんだ、と木山は言う。

 平時に発動しなかったのはそれが理由なのではないか。

 重要な出会いを逃さぬための、そんな力だったのではないかな、と。

624 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/15(日) 21:16:11.11 ID:O6u1UWOCo

「……結婚相手でも探す旅にでればよかったのに」

「生憎、そんなヒマはない……ふむ、果たしてその予感はどうだったのかな。
 君に目的遂行を阻まれたとも言えるし、最悪の事態を防いでもらったとも言える。
 ―――あるいは……これから先にこそ、それは起こるのかも知れないね」


 木山が試すような、挑むような笑を浮かべる。

 ……はいはい、約束でしたね。ただし条件を忘れちゃいないだろうな?


「ぼくにできることなら力になりますよ、真っ当な方法ならね」

「頼もしいね……とにかく、君に連絡先やお守りを渡したのは、そういう理由だ。
 ―――まあ、実際に話してみて君を気に入ったという方が大きいかな」


 幻想御手に惹かれつつ、それを拒んだ君だから。

 完全記憶能力者の“あの子”のために、あんな顔をする君だから。

 何もかもを抱え込んだような顔をしている君だから。


 預けてみたくなった、押し付けてみたくなった、そう言って木山は笑った。
 

 あの一幕は、木山にとってそれほどの意味を持っていたと言う。

 つまりそれは、それほどまでに鋼盾の「未来」とやらが衝撃的な内容だったということになるのだろう。


 ならば、聞かねばならない。

 震えそうになる口を無理やりねじ伏せ、鋼盾は木山へと尋ねる。

 核心に、踏み込む。


「それで……何をみたんですか、あなたは」

「……いろいろ、かな。
 果たして、どこから話したものだろうかね……ふむ」


 惑うように目を伏せた木山は一転、その目に悪戯な色を浮かべる。

 とびきりのネタを思い付きましたと言わんばかりに。


 そして、口から転がりでた言葉は。

625 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/15(日) 21:23:46.59 ID:O6u1UWOCo


「ふふ、良いニュースと悪いニュース、どちらから聞きたい?」

「……なんですか、そのブラックジョーク傑作選みたいな切り出し方」
 

 欧米か。

 小粋か、小粋なのか。

 
 まったく、この状況でよくもまあ、そんな台詞を。

 あるいはあれだろうか、鋼盾の緊張をほぐそうとしてくれたのだろうか。

 ……いや、絶対言ってみたかっただけだよ、この女。

 いいだろう、付き合ってやろうじゃないか。


「……あー、やっぱりいいニュースから聞くのが、様式美なんでしょうか。
 どんな大ネタ仕込んでるのか知りませんが……ハードル上げすぎじゃないですか?」

「余裕さ」

「転ばなきゃいいですけど」

「こっちの台詞だよ、腰を抜かさないように。……じゃあ、まずはいいニュースからだ。
 それでは……ま、能力などなくてもあきらめないと言った君の決意は尊いが、それはそれとして――」
 

 予知能力者、木山春生が未来を語る。

626 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/15(日) 21:26:13.98 ID:O6u1UWOCo


「先ほどの話の答え合わせだ、君のAIM拡散力場―――あれね、咲くよ?
 鋼盾掬彦、君はどうやら―――能力に目覚めるらしいぞ?」
 
「…………え?」


 どくん

 心臓が壊れたかと思った


 
627 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/15(日) 21:28:19.66 ID:O6u1UWOCo






――――――――――

一旦ここまで!
今日はずっと木山先生のターンでござる!

という訳で続き、書いてきます!
なるたけ急ぎますのでご容赦を!
628 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/01/15(日) 21:32:21.42 ID:qd1kGGXbo
とりあえず中乙

能力ね…木山てんてーの話からして能力増幅能力とかかしらん?さてさて
629 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/01/15(日) 23:08:56.01 ID:gILc2M8AO
全裸はキツいぜ
630 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/01/15(日) 23:50:33.99 ID:FwRHzRZxo
>>628
それだと|能力増幅《PRブースター》になるな。
631 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/15(日) 23:53:37.76 ID:O6u1UWOCo
待たせてたらすまんぜ!
九割書き上がったので、あとは投下しながら書くでござる!

ゆっくり投下な上結構長くなりそうなので、明日にでもゆっくり読んでくれい!


んでは!
再開します!




――――――――――
632 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/15(日) 23:58:18.38 ID:O6u1UWOCo


 能力

 鋼盾掬彦にとって、それは宿願と言えた

 だが、同時にそれはけして手に入らぬものでもあった


 望んで望んで、しかし届かず

 追えども追えども、影すら見えない


 外に理由を求めても意味はなく、内に理由を求めても意味はなく

 理不尽と不条理に打ちのめされ、空の深きを恨んだ、星の遠きを恨んだ

 なにより路傍の石に等しい、己の非才を恨んだ


 諦めて、それでも諦められなくて、蜘蛛の糸に手を伸ばしたりもした

 己はけして、ヒーローにはなれぬと知った

 
 主役になれぬ己、端役に過ぎぬ己

 それが彼にとっての“自分だけの現実”だった


 それでも、それでも

 ようやく、諦めをつけることができたのだ


 強がりでも、滑稽でも、愚かしくとも、無様でも

 未来を目指すために、ようやく無能力者の己を受け入れることができたのだ


 三年三ヶ月の悪足掻きの果てに、不恰好ながら答えを見出した

 能力がなくとも、成すべきを成すと決めた

 インデックスを守ると誓った


 不細工で継ぎ接ぎでみっともなくも、ようやく足場を固めた

 ここから月を目指す、その筈だった


 だが、ここに来てその足場を揺らす魔風が吹いた

 木山春生、あり得ざる予知能力者の手によって容赦のない一撃が放たれた



 故に、鋼盾掬彦は

 今一度、その覚悟を問い直される破目となる

 


――――――――――
633 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/15(日) 23:59:19.01 ID:O6u1UWOCo


「……ぼくが、能力を?」

「ああ……と言っても、どんな能力かは視えなかったがね」


 全身に震えが走る。

 その震えは、歓喜であるはずだった。


 望みが、叶うのだ。

 かつて身も世もなく求めた夢が、叶うのだ。

 能力者に、なれるのだ。

 
 だが、その能力者・鋼盾掬彦とやらは―――果たして、何者なのか。

 知らない、無能力者たる己は知らない、そんなヤツを知らない。


 歯の根が、合わない

 膝が笑う、汗が吹き出る


 信じられない

 信じられるわけが、ない


 理解しがたい感情が、身の内を駆け巡る。

 少なくともそれは、単純な歓喜に属するものではなかった。

634 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/16(月) 00:02:30.85 ID:3A5+BbnAo
 

 鋼盾の狼狽を単純な驚愕と受け取っているであろう木山は、更に言葉を紡ぐ。

 紡ぎ繋げて縄を綯い、鋼盾掬彦を雁字搦めにしてゆく。


「……君は能力を手に入れる。
 その能力は、君をきっと強くする。鋼の盾、その名に相応しい程に」


 鋼の盾、それは鋼盾掬彦の理想だ。

 鋼のように剛く靭やかで、盾のように傷つくことを厭わぬ者。

 いつかその仰々しい苗字に相応しい人間になると、彼は誓っていた。


 ああ、だけど

 先ほどまで鋼盾掬彦が思い描いていた“鋼の盾”は、けして能力者ではなかった。


 無能力者でありながらそれを嘆くことなく、まっすぐ目標へと向かう、そんな男だった。

 己の無力を受け入れて、しかし諦めずに理不尽に挑む、そんな男だった。


 理想像が、揺らいだ。

 固めた筈の足場が、揺らいだ。

 
 落ちる。

 落ちて、壊れる。


 そんな気が、した。

 
635 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/16(月) 00:08:02.92 ID:3A5+BbnAo


「保証するよ、鋼盾掬彦。君は君が望む君になれるだろう」


 木山春生が、祝福するかのように言う。

 だが、鋼盾にはそれが祝福どころか呪縛にしか聞こえない。

 積み重ねてきた答えを台無しにしてしまう、甘言弄する悪魔の誘惑にしか聞こえない。

 今更それを望むのは、歪で傷まみれでそれでも必死に紡いだ回答への裏切りとさえ思えた。
 

 だが、なにより救いがたいのは、振って湧いた幸福を是と出来ぬ己が器の小ささだ。

 喜べばいいのだ、やったー能力者だ! これでみんなを守れるぞ、とでも声高に歌えばいい。

 詰まらぬ葛藤など忘れて、能力を振るえばいいのだ。


 その権利はあるだろう、なんと言っても己は、学園都市の学生なのだ。

 座学、投薬、電極、暗示、あらゆる手段を用いて行われる“時間割”を乗り越えてきたのだ。


 誇ればいい、努力が実ったと

 笑えばいい、夢が叶ったと


 それなのに、なんだ?

 お前のそのザマは、なんなのだ?


 この程度で、揺らぐのか

 鋼盾掬彦、お前の誓いはそんな薄っぺらいものだったのか


 ちがう、と言いたかった

 だが、事実彼は揺らいでいた

 
 鋼盾掬彦にも“自分だけの現実”はある。

 今日まで彼にとってのそれは、「己はけして能力が発動しない」というものだった。

 故に彼は、無能力者である己を是と出来るように、その在り方を模索していた。


 そして見つけた、ようやく見つけた、そのはずだった。

 だが、その前提が崩れてしまったのだ。
 
 平静でいられるはずが、なかった。


 ……とは言え、そんな少年の葛藤よりも、もっと大きな問題がある。

 能力の発現、鋼盾の複雑な胸中はともかく、木山はそれを「いいニュース」だと言った。


 木山春生の予知は良いニュースと悪いニュースの二段構え。

 つまるところ、もう一方は当然ながら―――そういうことになる。

636 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/16(月) 00:11:50.86 ID:3A5+BbnAo

 
「……そして、悪いニュースだ」


 びくり、と鋼盾は震える。

 いいニュースで心折れそうな少年に、追い討ちのように悪い報せが届く。

 木山春生が、それを伝える。


「……まあ、その実いいニュースと表裏一体なんだがね。
 盾たらんと願う君にとっては皮肉なことに、その能力の発現のきっかけは、喪失だ」

 
 喪失、うしなうこと

 つまりそれは、鋼盾掬彦が。

 無能力者の鋼盾掬彦が、この己が、何かを守れなかったということだ。


「私は見てしまったんだ、君の慟哭を、涙を、そして吹き荒れるAIM拡散力場をね。
 ―――つまるところ、だ……君はもうすぐ、どうしようもない絶望に囚われる破目になる」


 能力の発現は喪失によって成されるという。

 生贄を捧げよ、そんな声が聞こえた気がした。

 その声と重なるように、木山春生の重々しい声が響く。


「君は得る、しかし喪う。
 君は死ぬ、そして生まれる」


 千千に乱れる思考、揺れる足場、悲鳴を上げっぱなしの心臓。

 だが、呆れたことに口は勝手に動いた。

 人事のように、つまらない事を言う。


「……えらく詩人ですね、意外です」

「演出さ。知っての通り散文的な女だよ、私は。
 ―――だが、予言の魔女というのは思わせぶりなものだろうと思ってね」


 鋼盾の言葉に、木山春生はそんな事を言う。

 言葉だけを聞けば、あたかも無責任に面白がっているかのように思えるかも知れない。


「いりませんよ、そんなサービス」

「受け取りたまえ、楽しくなってきたところだ」


 だが、そんな呑気な言葉とは裏腹に、木山の声は震えていた。

 演技と紛らわせねば、口にできないとでも言うように。


 そして

 木山春生の予言が、その全貌を明らかにする。

 鋼盾掬彦の未来を、その残酷な運命を審らかにする。

637 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/16(月) 00:16:30.93 ID:3A5+BbnAo


「四日後」

「七月二十八日だ」


「君はかけがえの無いものを喪い」

「しかし勝利するだろう」


「そして、君は能力者になる」

「けして砕けぬ鋼の盾へと生まれ変わる」


「つまりその日は君の命日で」

「しかし君の誕生日だ」
 
638 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/16(月) 00:20:33.07 ID:3A5+BbnAo


 かくして予言は紡がれ、鉛よりも重い沈黙が落ちる。


 遠く、サイレンの音が微かに聞こえた。

 木山春生の確保に訪れた警備員のものに相違あるまい。


 時間がない。

 タイムリミットは、近い。

 聞かねばならない。

 逃げるわけには、いかない。


 だから、鋼盾は問う。

 掠れた声が、響いた。


「……ぼくは、何を喪うんですか?」

「ふむ、そこは見えなかったな」

「財布でも落としたとか」

「それなら笑い話だね」

「……不幸だー、で済みますもんね」

「本当に不幸な人間は、そんなこと言わないものだ」

「はは、それ、聞かせてやりたい奴がいます、友人に」


 口癖のように不幸を嘆く上条当麻。

 しかしその実、あの男はそんな日々を愛しているようにも思う。

 お人好しのフラグ体質、なんだかんだでアイツは日常を謳歌している。


 鋼盾もまた、同様だ。

 デルタの三人やクラスの皆、担任の小萌、くだらなくも愛おしい、ありふれた日々。

 そして今や、そこにインデックスを含めることになんの躊躇いもない。


 そんな日々をを守りたくて、こんな似合わぬ真似をしている。

 この先にまた、あの素晴らしい日々があると信じて、戦っている。


 だが、目の前の女はそれを否定する。

 絶望がやってくると、そんなひどい事を言う。

 泣きそうな声で、そんなひどい事を言う。

 
639 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/16(月) 00:22:09.32 ID:3A5+BbnAo


「……それは、確定なんでしょうか。
 努力次第で回避できる可能性とか、ありませんかね」

「わからない、なにせ発動したのは君だけだから」

「……他は、なにか視えましたか」

「ないな、割と救いのない予知だった。
 強いて救いがあると言えば、その絶望を味わうのは君一人だけじゃないようだ」


 羨ましいね、と独りきりだった女がそんな事を言う。

 どうやら、どん底に突き落とされるのは鋼盾一人ではないらしい。


「……それ、救いじゃないですよね」

「救いだよ、独りじゃないんだから」


 嬉しいことは二倍、悲しいことは半分。

 ……美しい言葉であるが、美しいだけの言葉であるとも思う。

 苦しむのは自分一人でいい、なんてかっこいい台詞は言えそうにないが。


「誰なんですか、それは」

「君の大事な人なんだろう、そんな気がする」

「……つまり、わからないと」

「そうなるな」


 小萌か、上条か、インデックスか。

 土御門か、青髪か。

 はたまた、他の誰かなのか。

640 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/16(月) 00:24:14.79 ID:3A5+BbnAo


「まあ―――いいや。
 ぼく大事な人が、泣いてるんですね」

「ああ、だから君は泣くのをやめるべきだ。
 男の子だろ?」

「……そうですね、男の子です」


 男たるもの、張らねばならぬ意地がある。

 年上のお姉さんにそんな事を言われれば、応と答える他はない。


 だから、崩れるわけにはいかない。

 そんな無様を、赦しはしない。


 こんなところで、諦めるわけにはいかなかった。

 こんなところで、膝を抱えるわけにはいかなかった。

 
641 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/16(月) 00:38:46.24 ID:3A5+BbnAo


「しっかし……使えない能力ですね、それ
 自分の失敗も予見出来なかった預言者じゃ、ご利益がないですね」


 少しばかり、軽口を叩いてみる。

 重苦しい雰囲気は消えないが、それでもきっと意味はあるだろう。


「……辛辣だな、だがもったもだ。……私にもわけが分からないよ。
 そうだな、意味があるとすれば―――備えておくことができる」

「……備え、ですか?」


 支度、仕込、下拵え。

 予め、問題に対し構えておくこと。

 木山は鋼盾にそれをすべきだと言う。


「ああ、備えだ。
 覚悟を決めておけ、なんだかんだで準備してる奴が一番強いよ」

「……そうですね、せめて強くなっておかないと」


 強く、あらねばならない。

 能力ひとつで揺るがぬほどに、強く。

 絶望ひとつで揺るがぬほどに、強く。


 ボロボロでもいい、みっともなくてもいい。

 最後まで、折れず曲がらず最善を尽くそう。


 無能力者、鋼盾掬彦の戦いはそういうものにしよう。


 だから能力を得るという鋼盾掬彦、おまえはどうかその絶望を乗り越えろ。

 そのための下拵えは、ぼくが請け負うから。


 できないとは言わせない。

 木山春生が言ったのだ、おまえには力があると。


 信じてやる、能力者。

 おまえを信じてやる、だから応えてみせろ。 


 絶望を乗り越えて、ハッピーエンドを掴みとれ。

 隣にいる連中の笑顔ひとつ、守りぬいてみせろ。

642 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/16(月) 00:48:15.67 ID:3A5+BbnAo


「……予言、確かに受け取りました。
 ですが、ぼくやるべきことはかわりません」


 結局、そうなのだ。

 やるべきは変わらず、在り方も変わらない。


 たとえ絶望が確約されていたとしても、諦める理由には足りない。

 禍福はあざなえる縄の如し、絶望した後だって物語は続く。

 転んでしまっても、また立ち上がることが出来るはずだ。


 上条当麻も、インデックスも、きっと鋼盾掬彦も。

 諦めずに前に進むことが出来るはずだ。


 なにより、その体現者がここにいる。

 絶望の淵から這い上がり、すべてを巻き込んで我を叫んだ女がいる。

 その道も阻まれ、しかしなおも諦めぬと微笑む女がいる。


 木山春生は、そうやって生きていくそうだ。

 ならば己も、己たちもそれを目指そう。


「……ああ、それでいい。青髪の彼が言っていたっけね、能力なんてオマケだ。
 この街だけのローカルルールさ、まるでネットゲームに興じる子どものようだ」


 大人も子どもも、皆が夢中のこのゲーム。

 だが、プレイヤーはたかだか二百三十万人だ、確かにマイナーな娯楽だろう。


「……よく言いますね、さんざんチートをしておいて」

「チートを味わったからこそ、言える台詞もあるだろう。
 こんなのより麻雀でも覚えたほうが、よほど楽しめるだろうさ」

「……麻雀、されるんですか?」

「全然。正直、ルールもよくわからない。
 ―――だから私はさ、麻雀の腕でその人の良し悪しを測ることはないよ」


 下手くそな喩話だ。

 ……なのに、笑ってしまうほどにしっくりと、その言葉は鋼盾の胸に落ちた。

 立置一発回鍋肉、天和地和青椒肉絲、男は黙って杏仁豆腐。


「訂正だ。能力は君を強くするだろう。しかしきみの強さの本質は、そんなところにはない。
 忘れるな、君は無手で私の野望を打ち砕いた男だ……まったくもって忌々しい」


 忌々しいといいつつ、それとは真逆の表情を湛えて。

 具体的には国士無双十三面待ちみたいな笑みを湛えて。


「忘れるな鋼盾掬彦、君はひとりじゃない。
 ―――それさえ忘れなければ、君は大丈夫だ」


 木山春生は、かつて未来視だった女は、

 最初で最後のその予知を、そんな言葉で締め括った。

643 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/16(月) 00:53:39.73 ID:3A5+BbnAo
 
――――――――――

 
「最後に、これは予知じゃないが……シスターさんについて。
 君が私を訪ねた理由だ。力になろうと約束したね、それを果たそう」

「……インデックスのこと、ですか」


 鋼盾が、厄介ごとを覚悟で木山を頼った理由。

 それは脳科学・医学の方面からの、インデックスへのアプローチ。

 魔術師たちには知りえない、学園都市ならではの打開策を彼は願った。


「……メールで送ってくれた質問事項、あれ一応目を通しておいたが……呆れたよ。
 君が睨んでいた通り、嘘だ。脳科学をばかにするのも大概にしてほしいね」

「ああ―――やっぱり、そうですか」


 アポ取りの電話の際、木山から頼まれてメールで質問事項を送ってある。

 回答がスムーズに行くようにとの木山の配慮だったのだが、風紀委員である初春が割り込む結果になってしまい、そしてその後はあの大騒ぎだ。

 だが、最後の最後に間に合ってくれたようだ。


「……とは言え、すべてが嘘だと言うわけにもいかないようだ。
 気になるのは、彼女が“きっちり一年周期で倒れていた”という事実だね。
 あと二日だったか?……まったく、人体は時計じゃないぞ」


 アラームのように予定通りに機能を止めることなどありえない。

 ありえたとしたらそれは人為だ、そこには何者かの意図がある。

 糸がある。その先で笑う者がいるのかもな、と木山が語る。

 クソッタレな黒幕が闇の底で、ケタケタと笑っているのだろうと。

 
644 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/16(月) 00:57:25.49 ID:3A5+BbnAo


「車でね、彼女の事も少し調べさせてもらったよ。
 透視能力、生体検査、五感強化、審査診眼……有用と思えるものは粗方使った」

 
 研究所から、ここに至るまでの道行。

 あのドライブの最中、木山はそんなことをしてくれていたらしい。


 多才能力者の強みは、当り前ではあるが複数の能力を使いこなせるところにある。

 それはひとつの目的に、様々な方面からのアプローチが可能であるということだ。


 単純な出力、戦闘力においては超電磁砲に軍配が上がった。

 とはいえ多様性や応用性、そういったものに関しては、多才能力が圧倒的に上をゆく。


 喩えるなら、インデックスを助けるために街中の能力者が集まってくれたようなものだ。

 “学園都市の力でインデックスを救う算段をつける”という鋼盾の目的は、この上ない形で叶ったのである。


「喉、だ」


 木山は己の喉をトントンと叩きながら、そう言った。

 インデックスの首に、枷が嵌められているのだとでも言うかのように。


「そこに、能力ならぬ超常を見た。調べてみたまえ。
 おそらくは――――それが仕掛けだ」


 土御門が示唆した通り、そして鋼盾が思い描いていた通り。

 やはりそれは“あった”のだ、忌々しい呪いが、彼女の身体には。

 呪いが、悪意が、異能の力が――――恐らくは、魔術が。
 

「私にできたのは、そこまでだ。さすがに触れることは出来なかったよ。
 ……嫌な予感がした。予知じゃなくて、虫の報せとでもいうべきものだが」


 多才能力の女の虫の報せだ、きっとそれは真実だろう。

 呪いというのは、須らく伝染するものだ。感染るんですだ。

 うかつに触れるべきではない、専門家の仕事だろう。


 だが、鋼盾はひとり、それをものともしない男を知っている。

 神様の感傷すら撥ねのける男を、知っている。


645 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/16(月) 01:29:02.83 ID:3A5+BbnAo


 サイレンの音が徐々に大きくなる

 目を凝らせば、遠くに警告灯の赤が目に入った。

 木山もそれに気づいているようで、少しばかり口早に謝罪を寄越した。


「……すまない、肝心の所で力及ばなかった。
 あれは、科学者や医者の領分じゃない」

「いえ、大丈夫です。心配無用ですよ。
 おみそれしました、最高にいいニュースです」

「……方法があるのか? 正直私には思いつかない。
 この身に宿した多才能力でも、もちろん科学や医術でもあれは無理だ」

「―――あるんですよ、ぼくらには。
 ……まったく、これだからヒーローってやつは」

 
 まさに“持っている”というやつだ。

 木山や初春は鋼盾がヒーローだなどと言ってくれたが、やはり違う。


 本物のヒーローの出番が来た。

 グースカ寝てやがるんだろうけど……まあ、遅れてくるのもヒーローらしいってことにしてやろう。

 
「今度はぼくが紹介する番ですね。
 木山先生、聞いたことないですか? こんな都市伝説」

「……都市伝説? ……え?」


 まったく、どうしてくれよう。

 知り合いが尽く都市伝説の住人だ、なんなんだおまえら。

 ……ああもう、最高だ。


「曰く、“あらゆる能力を打ち破る右手を持つ能力者がいる”ってやつなんですけど」

「……おいおい、本当なのかい、ソレ」


 信じられない、と木山が目を丸くする。

 そう、あらゆる異能を問答無用で打ち払う男がいるのだ。


 たったひとつの冴えたやりかた

 彼の右手に宿る反則の力

 幻想殺し


 仕事だ、相棒

 やってやれ、親友

 さっさと起きろ、ヒーロー


 お前の出番だ、上条当麻!
646 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/16(月) 01:49:52.61 ID:3A5+BbnAo

 インデックスが上条当麻の家に落ちてきたのは、きっと奇跡だ。

 重い重い呪縛を背負ったヒロイン、それを解き放つヒーロー。


「勝てます」


 おそらく、この物語の骨子はここになる。

 上条当麻、インデックス、主役はきみたちだ、さあ見せてやれ。

 なんならボーイ・ミーツ・ガールでラブコメってくれてもかまわない。


 そして、端役たる己も仕事を全うしよう。
 
 鋼盾のやるべき役割は露払いだ、舞台を整えてみせよう。

 シナリオを阻むステイル=マグヌスと神裂火織、この二人を打ち破ってやる。

 
「……私の予知を忘れぬことだ、常に最悪に備えろ。
 あらゆる可能性を考慮し、常に覚悟を胸に置いておけ……きみは絶望する、それは確定だ」

「ええ、勿論です。
 それすらを乗り越えて、なくしたものを取り戻します」

「ああ、それでいい。
 欲張れ、全部もっていけ、私の予知など超えて行くといい」

「ええ、そうさせてもらいます」


  
 予言はきっと成就する。

 だが、その先はだれも知らない。


 ならば、その先を紡ぐのはぼくらの仕事だ。

 絶望を塗り潰し、無くしたものを取り戻してやろう。

647 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/16(月) 02:09:22.75 ID:3A5+BbnAo


 鋼盾と木山、ふたりで馬鹿みたいに笑っていると、鋭いエンジン音が聞こえてきた

 先ほどまで豆粒のようだった数台の警備員特殊車両がいつの間にかすぐ傍にまで来ている。

 サイレンは消えていたようだ、ありがたい話である。


「……さて、それじゃあ行ってくる。私も次に取り掛かるとしよう」

「……ありがとうございました、先生。
 でもとりあえず、そのクマ消えるまでは休んでください」

「時間が惜しいよ、走れる内に走るべきだ。
 ―――――君も、そうだろうに」

「そうですね、お互い転ばない程度にがんばりましょう」



 鋼盾らの目と鼻の先で、次々に車は停まった。

 次の瞬間、完全武装の警備員十数名が車から飛び出し、木山を遠巻きに包囲する。

 木山は両手を高く上げると、己から彼らのもとに向かっていった。


 きっと、長い別れになるだろう。

 だが、不思議と予感がある、きっとまた逢える、そんな気がする。

 予知能力者でもあるまいに……まあ、言うだけなら自由だ。


 そして、どうやらそれは木山も同意見だったようだ。

 首だけ振り返った彼女は、常通りのアルトの声で、悪戯に笑って。


「また、いつか」


 再会を願う、そんな挨拶をする。

 そう言えば彼女は“自分の脳力は予知能力だ”と言っていたか。

 なら、その言葉にはもしかしたら、力があったりするのかもしれない。


 妄想だ

 でも、そうならいいなと思う

 だから己も、この言葉を返そう。


「……はいはい」


 その言葉に木山がニヤリと笑う。

 警備員特殊車両の扉が閉まる瞬間、彼女の口が動いたのが見えた。

 扉の閉まる音できこえはしなかったが……まあ、予想は付く。


 “はいは一回”


 ぼくらのお気に入りのやりとりだ

 そうだろ? 木山春生

648 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/16(月) 02:24:28.66 ID:3A5+BbnAo


「……はい、またいつか、お会いしましょう」


 去りゆく車両に、そんな言葉をかける。
 
 ……さて、似合いもしない感傷的なシーンはここまでだ。


 美琴は既に担架に乗せられ、特殊車両へと運び込まれようとしている。

 黄泉川との約束だ、鋼盾も一緒に病院に向かわなくてはならない。

 
 鋼盾は近づいてきた警備員に名告り、黄泉川の指示を伝える。

 幸い連絡は行っていたようで、すんなりと同情は認められた。

 車に乗り込み案内された椅子に座り込むと、途端に疲労と眠気が押し寄せてきた。



 少しばかり、休ませてもらおう。なんといっても次は一番の難敵だ。

 幻想猛獣よりも、もしかしたら魔術師ふたりよりも怖い、そんなひとを相手取らねばならない。


 小萌に一体どう言い訳をしようか、そんなことを考えながら、鋼盾は眠りに落ちていった。


―――――――――― 
649 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/16(月) 02:35:06.76 ID:3A5+BbnAo







ここまで

おつかれさまでした、木山先生。

長かった幻想御手編も終り、というか長かったのは投下時間じゃー! 
なんかいろいろぐちゃぐちゃ直しまくってしまったぜ! ねみい!

さて、以前言った多才能力でヒトネタというのが、アレでした。
予知能力と、異能による診察スキル。首輪発見役は、木山先生の手柄にしてみました。
特に予知能力は、レギュラーキャラに持たせると使いにくい事この上ないアレですので。

さて、なんか鋼盾くんが能力に目覚めるらしいですよ。
あと、なんか絶望するらしいですよアイツ。

まあ、天邪鬼な>>1ですので、能力を得た鋼盾くんがペンデックスを相手取るような話には当然、なりません。
「もっとも難易度の高い敵兵、鋼盾掬彦云々とかありませんのでご安心下さい。

徹頭徹尾、無能力者のお話です。あくまでも。

次回は後始末編その1です。
誰が出てくるかは皆さん予想通りでしょうが、そんな感じの話になります。

よろしければお付き合い下さい
650 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/01/16(月) 02:41:11.85 ID:SwjXPCRZo
おつおつ
木山先生マジ先生
それにしても車で鋼盾くんの膝上にいるインデックスを透視って絶対いろいろ見られてるよねひゃっほう
651 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/01/16(月) 02:42:24.23 ID:DnsIrtEAO
いちおつ!
wktkしながらずっと張り付いてるのも乙なものだ

>「……はい、またいつか、お会いしましょう」
木山せんせぇ再登場くるか……!?
652 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/01/16(月) 03:36:27.96 ID:iaCJV7190
大量投下おつ
ヒトネタっぽいのがなかなかこないな、と思ってたらついに来たか!
天邪鬼な>>1ならこの伏線でストレートにコウやん記憶喪失ってことにはならないんだろうなあww
653 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/01/16(月) 10:45:09.44 ID:P7Tf2CjAO
乙!
木山先生おつかれ!

間に神裂と土御門が入ったとは言え、長丁場だったなレベルアッパー編

そしてこの先が本番…次スレで終わるんだろうか

654 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/01/16(月) 12:52:48.45 ID:Bw6Z5mZD0
木山先生マジ春生。
おつかれさまでした。
以前にアンケ採ってた分岐の数々が埋め込まれまくってますな。
さてさて>>1の心中や如何にー。
655 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/16(月) 18:08:36.50 ID:Lb49y0zYo
乙でした
木山せんせー、最後までナイスでした

伏線回収と思ったら更になんかいろいろ仕掛けられた気がする件
656 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/16(月) 23:33:13.95 ID:kc/ZBooh0
乙です。
妥当な流れだと上条さんが記憶を失って鋼やん絶望、てな展開だと思うんだけど、天邪鬼とか言われるとなぁ。どうなるやら。
まあ展開が読めないからこその楽しみがありますわな。

しかし、ここからが本当の正念場か。
まあ間違いなくこのスレでは終わらんな。というか次スレでも終わるのか?
657 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/01/17(火) 13:13:25.04 ID:8ZdmZwNAO
コウやんは戦力としては無力だけど真っ先に潰しとかないと仲間ユニットにバシバシブーストがかかって取り返しのつかない事になるキャラだぜペンデックス……
でも攻撃一発でも当てたら死ぬんで勘弁して殺ってください
じゃなかった、勘弁してやってください
658 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/17(火) 22:16:11.62 ID:MLjnbj/Yo
どうも>>1です
みなさんコメント感謝です

読み返してみたら前回更新誤字多過ぎで死にたい
性格→正確、感傷→干渉、同情→同乗……他にも、細かいのがチラホラ!
うがががががが! やっちまったぜー! 許してください

コウやんが何を喪うのかはお楽しみに!
とりあえず童貞喪失ではないです!もちろん処女喪失でもないです!(最低)

冗談はここらへんにして
冗談をはじめましょう

>>657のコメ読んでたら、こんなの思いついてしまったんだぜ!
イヤッホォォイ、小ネタですの!
更新もせずに小ネタですの!


そぉい!!


――――――――――
659 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/17(火) 22:18:16.14 ID:MLjnbj/Yo

こうじゅん きくひこ

しょくぎょう : こうこうせい / むのうりょくしゃ
レベル : 0  つぎのレベルまで あと※※※※

せいべつ : おとこ
ねんれい : 15さい
せいかく : おんこうとくじつ
たいけい : ぽっちゃり

ちから : よわい
すばやさ : おそい
たいりょく : ひとなみ
かしこさ : たかい
うんのよさ : なかなか

そうび  あたま : こうぜんわいせつカット
      からだ : がくせいふく
    アクセサリ : なし

アイテム   さいふ
        けいたいでんわ
        こうじゅんけのカギ
        かみじょうけのカギ

だいじなもの  クラスのきねんしゃしん
          きやまのおまもり
          じゅうまんえん

わざ :  みやぶる
      しらべる
      ききだす
      せっとく
      あおる
      ちょうはつ
      ひょうへん
      おうえん
      わるあがき
      

アビリティ : ぐんしのこころえ
         さぎしのにまいじた
         はがねのかくご
         たてのちかい
         しきしゃのゆびさき
         どろがめのまなざし
         ひとたらしのさい
         ひとつなぎのうた
         おうさのさい
         つきあかりのかご
         しゅじんこうほせい

660 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/01/17(火) 22:35:56.66 ID:77Oji1C80
投下終わり宣言がないけど1レスネタってことでいいのかな?

>しゅじんこうほせい
(小萌先生の)主人候補生か……
661 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/01/17(火) 22:38:05.77 ID:MLjnbj/Yo

――――――――――

鋼盾掬彦

隠しキャラ052
通常戦闘ではほぼ無力、しかし得体のしれないレアアビリティを多数習得し得る謎のキャラクター
イベント戦闘での会話イベント時に有用なスキルを多数取得。その数上条さんの倍以上
やりようによっては戦闘に移行せずに勝利が可能だったり、仲間をゲットできたりする
しかし選択肢を誤るとリタイア必至、素人にはお薦め出来ない

シナリオを上条当麻にし、四月の時点で路地裏でエンカウントしないと仲間にできない
路地裏では高確率で「佐天涙子」イベントが発生するが、そうなるとその時点でモブキャラ固定になるので注意

専用ルート「盾の宣」でなんと能力に目覚めるという噂も……、真実は君の眼で確かめろ!

……なんちゃって
ドラクエとかポケモンとかFFとかいろいろ混ざってエライことになってます


次回更新はちょっと遠いかも!
なんとか一週間以内に来たいです!

んでは、また!


662 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/01/17(火) 22:43:05.86 ID:77Oji1C80
ぎゃあ
時間あいてたから投下終了宣言忘れただけかと思ってわりこんでしまった、ごめんなさい

やりようによってはというか、戦闘に移行せずに勝つしかシナリオ進まなさそうだww
663 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/01/18(水) 11:07:36.36 ID:FpYHUOiAO
おや? きくひこ の ようすが…?
664 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/01/18(水) 13:22:48.04 ID:vZefoYpAO
>>662
戦闘に入っても大丈夫、大抵ハイスペックな仲間が『かばう』を使ってくれるし、一人の時もかなり高確率でお助けキャラ(しかも強い)が乱入してくるから!

戦闘メンバーに入れて無くても効果を発揮するからむしろ馬車とかパーティの後ろの方に彼を入れとけばもう何も怖くない!
665 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/18(水) 21:21:17.62 ID:UuTkmVLj0
>>663 Bボタン
666 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/19(木) 01:30:54.84 ID:CB4Abm9qo
>>663かわらずのいし
667 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/25(水) 11:07:07.32 ID:DlxTNJR6o
おや?
668 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/01/25(水) 12:04:47.25 ID:UPbtALwAO
>>1の、ようすが…?
669 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/01/25(水) 17:56:58.27 ID:yBK2hFGjo
テスト時期かあ・・・
再来週にはもどってくることを祈る
670 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/01/25(水) 18:07:59.30 ID:pupPf6Fxo
いやいやここの>>1にテストは関係無いだろww
まあ1月多忙って言ってたからなあ
無理はしないで欲しいけど待ってる
671 : ◆FzAyW.Rdbg [sage]:2012/01/25(水) 21:52:16.65 ID:4aFrsV9io
コウやんにメタルコートを持たせると通信進化をします。
ストライクがハッサムになるように、ノーマル→はがねです。当然嘘だがな!
どうも、ガキのころは誰も使わないポケモンを使ってばかりだった>>1です

どうにも投下できんで申し訳ないっす

職場で二人ほどインフルエンザなことになってしまい、そのしわ寄せががが
具体的には出張ががが、あれーこの二週間休みがないぞー? あれー?

なんか忙しいです、みんなと会話できんで寂しいぜ
これがら一週間ほど家に帰れないので、更新は難しいかも
それが終わると少しは落ち着けそうですので、忘れられる前に帰ってきます

まあ、展開を練り込むチャンスと捉え、旅先で書きためておきます
ご要望、ご指摘、ご質問、罵倒、ツッコミ、俺の嫁をもっと活躍させろや等、なにかありましたら書きこんでおいて下され

んでは、しばしのお暇を!
働いてくるぜ!
672 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/25(水) 22:40:14.84 ID:MNFfhBvFo
サブヒロインインちゃんのステイルや神裂とのあんなこんなそんなに期待してる。
疲れ溜めて自分までインフルられないように気をつけるんだぜー。
673 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/01/30(月) 04:28:22.05 ID:bWtNcD7Do
乙、追いついた
たまらんです

だれもが笑えるハッピーエンドじゃないんだろうな、と思うと心がミシシッピ川
でも期待がチョモランマ


674 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/01/31(火) 18:21:37.80 ID:7R2/lkAW0
そろそろ来ないかなあ

あ、俺の嫁活躍希望出せるならランシスとトチトリをぜひ
端役好きな>>1ならきっと番外編とかでなんとかしてくれるはず、という無茶振り
675 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/01(水) 16:53:58.61 ID:Y4XZa1zUo
まだかな
676 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/01(水) 17:40:13.61 ID:fbC6DHfAO
まなかな
677 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/01(水) 21:10:46.32 ID:7AlxourSo
マナカナの区別が付かない! そんな時ってありますよね!
そういう時はこう言えばいいんだぜ!

あれはまなじゃないかな


さておき>>1でござる、帰ってきたでござる

こんなに期間があいたのは初めてですな、500番台とか申し訳ない
待ってるぜとのコメントには感謝しきりです、嬉しいぜ

>>673 よく追いついてくれた、おまえをまっていたぞ!

>>674 魔術側のマイナーキャラは難しいよな、科学側なら想像で補えるけど魔術側は想像もつかんぜ
     だから魔術サイドのキャラの日常を書ける人はすごいよな


今日なんとか投下に漕ぎ着けたいです
久しぶりの予告age!
678 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/01(水) 21:25:03.06 ID:dpHEvUEe0
>>1 お帰り、待ってたぜ

続きを楽しみにしてたが、疲れもあるだろうから、あんまり無理しないでくれよ〜
679 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/01(水) 21:58:52.54 ID:Y4XZa1zUo
お帰り〜
680 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/01(水) 22:32:18.83 ID:7AlxourSo
久しぶり……なんちゃって
さて、投下致します


そぉい!!





――――――――――――――――
681 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/01(水) 22:34:10.12 ID:7AlxourSo

“女を捨てちゃってるわよ!
 まったく! しょーがないなー初春は!”


 扉越しに聞こえるその朗らかな声を聞き、鋼盾は安堵に溜息を吐いた。

 佐天涙子は無事に目を醒まし―――どうやら、元気そうだった。


 その声を聞き、鋼盾はようやくひとつ、肩の荷を下ろした。

 とは言え、背にはまだまだたくさんの荷があるのだけれど。

 それでも。


 七月二十四日。

 長きに渡った幻想御手事件は、解除プログラムの流布と幻想猛獣の打破、そして木山春生の逮捕で幕を閉じた。

 

――――――――
682 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/01(水) 22:37:32.35 ID:7AlxourSo


 場所は第七学区、とある大学病院。

 学園都市に来て数年、別段医者にかかるほどの病気や怪我をしたことのない鋼盾とは、縁遠い場所と言えた。

 連行される木山を見送った後、目を覚まさぬままの美琴とふたり、警備員車両に載せられここに運ばれた。

 鋼盾も道中すっかり寝入ってしまい、警備員に揺すられて目を覚ましたら病院に居たような顛末である。


 美琴が担架でスタスタ運ばれていくのを見送り、鋼盾も一応診察を受けた。

 と言っても、軽い問診と腕のかすり傷への消毒のみで、それもあっという間に終わってしまった。

 黄泉川からは待機を命じられているので帰るわけにも行かず、待合室のベンチにひとり、腰を掛けた。

 心身に蟠る疲労に、再び眠りに落ちそうになるも、それを振り払って鋼盾は思考に没入する。


 考えなくてはならないことは、山ほどあった。

 本日の一件でそれは倍となった感すらある、解決した事案も多いとは言え、課題は山積みだ。


 最重要課題であるところのインデックスを救う算段については、ほぼ道筋が付いている。

 なれば次は――――やはり、魔術師たちへの対処について考える必要がある。

 
 それは己の仕事だと、鋼盾は決めている。

 を無茶ではあるが、けして無謀ではない。

 
 謀、はかりごと

 計って測って図って量って諮って謀る、鋼盾掬彦の戦いは、そういう狡辛いものなのだから


 その、卑しさ

 それすらも是とすると、強さに変えると決めたのだから


683 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/01(水) 22:38:34.16 ID:7AlxourSo


 沈思黙考。

 約一時間、身動ぎ一つせず頭を回し続けていた鋼盾の視界の片隅に、見覚えのある姿が掠めた。


 その特徴的な花飾りは見紛うはずもない、風紀委員の初春飾利である。

 息を切らせて駆ける彼女は、鋼盾に気づく様子もなく足早に廊下を駆けていった。

 浮かべた表情は焦燥の一言、声を掛けることを躊躇わせるに足る、その様相。


 美琴への見舞いだろうかと一瞬思うも、しかし彼女の居る病室は階が違う筈で、鋼盾は首を傾げる。

 あるいは風紀委員の職務だろうか、と思った矢先、初春の体がとある病室の中に消えた。

 少し気になった鋼盾は、その病室に向かって歩き出す。

 初春にも、直接礼を言っておきたかったし――なによりひとつ、予感があった。


 そうして訪れた病室のプレートには、見知った名前があった。

 佐天涙子、そんな名前が記されていた。


 黒のロングヘアーが印象的な、どこにでも居るような中学一年生。

 理不尽な暴力に晒されていた鋼盾を助けようとしてくれた強い女の子。

 無能力者である己に耐えきれす、幻想御手に縋った弱い女の子。


 鋼盾が礼を言わねばならぬ相手だった。

 謝らなくてはいけない相手だった。

684 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/01(水) 22:40:07.73 ID:7AlxourSo


 そうして、扉越しに漏れ聞こえた会話。

 佐天涙子の独白と、それを妨げた初春飾利の間抜けなくしゃみ。

 きっとしばらくぶりの笑い声


 初春が、美琴が、黒子が、佐天が。

 彼女たちの望んだ愛すべき日常が、そこにはあった。
 

 鋼盾はノックをし扉を開こうかと少しばかり迷い、結局やめた。

 すぐにも謝罪を、礼を述べたかったが、今はその時ではなさそうだと感じたのだ。


 まだ佐天も本調子ではないだろうし、これから検査等もあるのかもしれない。 

 なにより気心のしれた同性ならばともかく、あまり親しくもない異性に起き抜けの姿を晒すのもアレだろう。

 そんな無作法は“女”たる彼女にとって、けして快いものではあるまい。


 つーか、冷静に鑑みればアポも無しに女子中学生の病室には入れない。

 初春白井経由で佐天に許可を得てから行かねばなるまい、常識的に考えて。

 上条なら躊躇なくノックを……いやあの馬鹿はノックもせずに飛び込みかねないなー、とそんなことを思う。

 そして安定のラッキースケベだ、呪われやがれ旗男。


 鋼盾は、少しだけ笑う。

 大丈夫だ、そう思う。


 既に幻想御手は払われているのだから、焦ることもない。

 無事に意識を取り戻したのが解って安心した、今はそれで十分だ。


 空元気でも強がりでも、佐天涙子は笑っていた

 そして、その隣には初春がいる

 だから、大丈夫だ。


 会う機会なんて、これからいくらでも作れるだろう。

 せっかくだからこんな病室じゃなくて、陽の下で会いたいような気もする。

 いつかの幻視のように、姦しくも和やかなお茶会の場面を思い浮かべた。

 そこに乱入するのは画的に憚られるが、まあ、四人がファミレスでダベる時にでも、ちょっと時間を貰うとしよう。


 謝罪も感謝も、その時でいい。

 鋼盾が病室に背を向け待合室に戻ろうとすると、そんな彼に声がかかった。

685 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/01(水) 22:41:45.57 ID:7AlxourSo
 

「おや? 面会はいいのかい?」


 すこしばかり、気の抜けた感じの声。

 問いかけてきたのは白衣を纏う初老の医師で、美琴の担当をしてくれた人だった。

 どことなくカエルのキャラクターめいたルックスの、不思議な雰囲気の男性である。

 ノックを取りやめた鋼盾の姿を不思議に思ったのだろうか、小さく首を傾げている。

 
「……ええ、ちょっと忙しそうですので、日を改めようと思います。
 いつでも会えますし、ぼくもこれから事情聴取が待っている身ですから」


 そう、鋼盾の側にも都合があった。

 このあと黄泉川の事情聴取、そして小萌の説教が残っている。

 どちらも開始時間は明言されてはいないものの、内容が内容だ。

 厳粛な面持ちで待機しておくべきであろう、白装束とか着とくべきかも知れない。


 それを罷り間違って女の子の病室で談笑とか、反省の色が皆無である。

 そんなヤツはちょっと死んだほうがいい、ダメダメである。


「そうかい? ああ、聞いたよ?
 君、なかなかにお手柄だったみたいだね?」


 鋼盾に向かってそう言うと、カエル顔の医師が目を細めて笑った。

 幻想御手事件で鋼盾がやったことを、どうやらこの医師はどこかで聞いてきたようだ。


 ……どんな話になっているのやら、ちょっと考えたくない。

 鋼盾は溜息をひとつ吐き、訂正を入れる。


686 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/01(水) 22:42:42.98 ID:7AlxourSo


「……いや、ぼくはたいしたことはしてないです。
 お手柄というなら、ぼくなんかより……そうだ、御坂さんの様子はどうですか?」


 御坂美琴。

 本日のMVPはやはり彼女以外にありえまい。

 美琴が“敢闘賞”なら自分は“がんばったで賞”くらいだろう、と鋼盾は思う。


 疲労困憊で倒れた彼女は、大丈夫だったろうか。

 鋼盾が付き添ったのは診察前までで、彼女の検査結果は聞いていない。


「ふむ?……ああ、先程意識を取り戻した……君のことも聞かれたよ?
 体調の方も、うん、心配しなくても充電すれば大丈夫だね?」

「……充電て」


 鋼盾も美琴が倒れた際、電池切れと称したが……いや、充電て。

 コンセントに繋がれた美琴を幻視する、一瞬、あの子ならと思ってしまったのは内緒だ。

 そんな鋼盾の反応を見て、カエル顔の医師は小さく笑う。


「君が何を想像したか教えてもらうのも楽しそうだけどね?
 ま、点滴とお昼寝で十分かな?」


 入院も必要ないよ? と笑ういながら医師は近くの自販機にコインを投入する。

 休憩なのか、コーヒーを購入しにきたようだ。廊下に缶の落ちる音が響く。

 鋼盾がそれをなんとはなしに見ていると、二本買ったうちの一本を手渡された。

 ……どうやら世間話の相手に選ばれたようだ、こちらも待つ身、否はない。


 礼を言って缶を受け取り、タブを開いて口につけ、中身を呷る。
 
 甘ったるいコーヒーが、疲れた身に心地よく染みこんでゆくようで心地よい。

 すっかり忘れていたが、のどはカラカラだ、あっという間に飲み干してしまった。


 そうして一服を付けると、鋼盾はカエル顔の医師にひとつ問うた。

 会話はどうしたって、まずはこれが中心になるだろう。

687 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/01(水) 22:44:23.22 ID:7AlxourSo


「……ぼくの知り合いは、けっこう元気そうでしたけど……
 他の幻想御手被害者さんたちの様子は、どうなんでしょうか?」

「うん、個人差はあれど続々と目覚めてるよ、脳波や身体もオールグリーンだね?
 遅ればせながら上層部も動いたし、じきに“全校生徒”の出欠確認が始まるかな?」


 木山の言うとおり、元通りのようだ。

 学園都市全域となれば、出欠確認ひとつとて大変な騒ぎだろう。

 だが、必要なことだ。人知れず自宅で倒れ、解除音声の届いていない生徒もいるかも知れない。


 とは言え、これは鋼盾の心配することでもあるまい。 

 なにより所詮は後始末、既に事件は解決とみてよいだろう。


 ふう、と鋼盾は安堵に息を吐く。

 木山の仕事を疑ってはいなかったが、やはり賭けには違いない。

 一万人の命を勝手に賭けたのだ、仮に失敗したら責任の取りようがなかった。


 ……常識的には、木山を疑った黄泉川の判断が、やはり正しい。

 とは言え、それでは遅かったというのもどうしようもなく事実ではあるのだが。


 やはり、身に余る真似をしたとは思う。

 終わりよければすべてよし、とは言え無茶には違いない。


 ……黄泉川や小萌も頭が痛いだろう。

 心底申し訳ない話だと鋼盾も思う。


 せめて説教はしっかり受けねばなるまい。

 ……だが、それでも今回ばかりは無茶をしなければいけないのだけれど。

688 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/01(水) 22:45:10.36 ID:7AlxourSo


「何よりです……やっぱり、能力は」

「喪われている――否、元通りといったところかな?」


 ……わかっては、いたことだった。

 都市を覆った幻想御手は、目覚まし時計の音で駆逐されている。

 他ならぬ鋼盾が、それを鳴らすために駆け回ったのだから。


 幻想から、叩き起こされた彼ら。

 強化された能力を、喪った彼ら。


 残ったのは、弱い己

 幻想御手に縋った、己のみ


 しんどいだろうなあ、それは。

 残酷だよなあ、きっと。

 そんなことを鋼盾は思う、どうしようもなく思ってしまう。


 木山の手前、彼らを“無様な馬鹿”とこき下ろしてみせた鋼盾ではあったが、同情心も少なからずある。

 己の罪に向い合うべきだとは思うも、罪悪感に心折られてしまう事を望むワケではなかった。


 ……ほんの少し。

 ほんの少しだけでも歯車が狂えば、鋼盾もそこにいたであろうことは疑いない。


 確かにあの日、鋼盾掬彦はそれを望んだ。

 その事実は、けして忘れてはいけないだろう。

 とは言え、不恰好でもけじめはつけてきたつもりだ。

 
 自戒は胸に。

 しかし決別を望んだ以上、囚われているわけにもゆくまい。


 なにより己には、次の戦いがある。

 ……なれど、やはりどうしようもなく胸は痛んだ。

689 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/01(水) 22:46:15.52 ID:7AlxourSo


「……だいじょうぶでしょうか、彼らは」

「なに、心配いらないね?
 ……この街の子どもたちは、いつまでも下を向いているほどヤワじゃないよ?」


 カエル顔の医師は、力強く笑ってそう口にする。

 人体の自浄作用について語るかのように、その声は確信に満ちていた。


「もちろん心のケア、カウンセリングが大切だけどね?
 心ある大人だっているし―――ウチに連れてきてくれれば絶対に治してあげられるしね?
 ……ほんとうに、心配することはないよ?」

「……ええ、そうですね。
 ―――きっと、そうです」


 自分に月詠小萌がいたように、友人たちがいたように。

 佐天涙子に初春飾利が、白井黒子が、御坂美琴がいるように。


 彼らにも、差し伸べられる手があるだろう。

 幻想の御手ではなく、実際の手が掬い上げてくれる。


 きっと。


690 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/01(水) 22:48:09.53 ID:7AlxourSo


 そうだね、と医師はひとつ頷くと、次の話題を口にした。

 それは、幻想御手事件を引き起こした張本人についての話であった。


「しかし……幻想御手か、木山春生もなかなか面白いことを考えるものだね?」


 幻想御手

 大規模演算装置、多才能力、幻想猛獣


 確かに正悪倫理の類を置いてしまえば、面白い、興味深いといっていいだろう。

 脳波の均一化によるネットワークの構築、レベルの向上、複数能力の併用、異形の召喚。

 はっきり言って、彼女がやってのけたことは学園都市の能力開発を揺るがしかねないものだと思う。


 大脳生理学者、木山春生。

 最後に見た後ろ姿を思い浮かべながら、鋼盾は医師に問う。


「木山先生のこと、ご存知なんですか?」

「ん、彼女と僕の患者が、少し縁あってね? そうそう、彼女の論文も読んだことがあるよ?
 興味深い内容だったけど、その筆者と今回の事件の首謀者像がどうも繋がらなくてね?」


 論文ってね、面白いくらい筆者の人となりがでるんだよ? と医師は微笑む。

 木山の論文なら、鋼盾としても読んでみたいところだった。


「目的の遂行のためにあらゆる手段を許容する……木原幻生の薫陶、といったところかな?」

「……きはら、げんせい、ですか?」


 唐突に出てきたその言葉を、鋼盾はオウム返しに口にする。初めて聞く名であった。

 口ぶりから察するに、木山の師に当たる人物なのだろうか。


「聞いたことはないかな? 木原幻生、幻を生きると書いて、木原幻生だね?
 木山春生がかつて務めていた研究所の所長が、彼なんだけどね?」


 まあ、あまり一般に出回る名前じゃないかもね?、と医師は呟く。

 対する鋼盾は、“木山がかつて務めていた研究所”という言葉に引っかかっていた。


 暴走能力の法則解析用誘爆実験

 昏睡に落ちた子供たち

 三年前、木山春生が背負った悪夢


 そういうこと、なのだろうか。

 ひとでなしの白衣、悪魔の科学者、この街の闇。


 置き去りを使った人体実験、木原幻生なる人物は、それを指揮した人間なのかも知れない。

 ――いや、そうと決め付けるのは早計だ、木山が研究所を移動している可能性もあるだろうし。


「……AIM解析研究所でしたっけ、木山先生の勤め先は」

「だね? もっとも既に除名されてるかもしれないね?」

691 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/01(水) 22:48:54.68 ID:7AlxourSo


 科学者、木山春生。

 幻想御手など創りだすほどのひとだ、優秀であることは間違いない。

 しかし、よくよく考えてみれば、鋼盾は木山の業績をまったく知らない。


 三年間、復讐だけを誓って生きてきたという彼女。

 しかし、自室に篭ってプログラムの開発のみを行なっていたわけではけして、ない。


 アレだけの研究室を与えられ、対幻想御手のアドバイザーのような職務にも就いていた。

 幻想御手の開発には、きっと費用も設備もコネも必要だったはずで、彼女は己の才覚でそれを掴んでいた。

 
 そうやって、科学者として立派に生きてきたのだ、あのひとは。

 しかしその裏で、ずっと牙を研ぎ、縄を綯い、罠を拵えていた。


 子供たちのことなんて忘れて、輝かしい科学者の道を往くという選択肢もあった筈なのに。

 それを是とせず、あえて破滅の道を行った女、その孤独な戦い。


 翼をあげたいと、そういった彼女。

 その願いが、いつか叶って欲しいと切に願う。 

692 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/01(水) 22:50:22.97 ID:7AlxourSo


「木原幻生という人のことは解りませんが……理由があったそうです。
 科学者じゃなくて、教師として、絶対にやりとげなくては理由と誓いが」

「……ふむ、教師として、か……なるほどね?
 ところで……君は木山春生をどう思った?

「……どう、というと?」

「難しく考えなくていいよ? ちょっと興味があってね?
 
「はぁ……えーと」


 惑いつつも、正直なところを口にする。

 難しく考えなくてもいいと言うなら、そのようにしよう。


「クールに見えて、以外に熱いひとです」


 まずは、やはりコレだろう。

 あれで大層な情の女だ、その熱、ちょっと半端ではない。


「とびきり頭がいいくせに、ちょっとずれてて、わりとお茶目で。
 意志が強くて、諦めが悪くて、我慢強くて、向こう見ずで、世間知らず」


 この二日間を思い浮かべながら、鋼盾はつらつらと彼女の印象を語る。

 ……こんな適当でいいのかと不安に思いつつも、医師はうんうんと頷きながら先を促してくる。


「……趣味はドライブでコーヒー党。
 本人は否定してましたが、面倒見がよくて子ども好き」


 都市伝説に曰く“レヴェントンの魔女”

 パン屋ではエスプレッソ、研究室で手ずから淹れてくれたコーヒーも美味だった。

 インデックスへの態度は常に柔らかで、なにより生徒達に向ける想いの深さは言い知れぬ程だ。


「綺麗好きだけど服装には無頓着、暑がり」


 シンプルな服装、無造作な髪型、トレードマークの白衣。

 自分の魅力にはまったくの無頓着、勘弁してくれ脱ぎ女。


 ふむふむ、と頷く医師の表情は、意外なほどに真剣だった。

 それに首を傾げつつ、鋼盾は更に言葉を紡ぐ。


「なにより、目的遂行のために何もかもを切り捨てられる人です。怖いくらいに。
 穿った見方ですけど、罰を受けることを望んですらいたのかもしれないと思います」

「……罰を、かい?」

「ええ……あー、いろいろあったみたいでして」
693 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/01(水) 22:52:11.30 ID:7AlxourSo


 しゃべりすぎたか、と鋼盾は慌てて言葉を濁す。

 いきなりこんなことを言われても、事情を知らぬ医師は戸惑うだけだろう。

 子供たちのことを詳細に語るのも躊躇われた、雑談のネタには重すぎる。


 カエル顔の医師も、ふむ、とひとつ頷いたのち、ソレ以上は突っ込もうとはしなかった。

 鋼盾はそれに感謝しつつ、木山春生について次のようにまとめた。


「今回はこんな事になってしまいましたけど。
 ……もしも彼女が一人じゃなかったら、もっといい方法を選べたはずです。
 ―――次は、まっとうな方法で目的を遂げて欲しいと思います」

「なるほど……ありがとうね?
 参考にさせてもらおうかな?」


 何の参考なのか、と鋼盾は疑問の眼差しを向けるも、医師は素知らぬ顔で答えない。

 どういうことだろうか……まさか出所した木山を雇おうというわけでもあるまい。


 そして廊下に落ちる沈黙。

 鋼盾はふと思いつき、カエル顔の医師にひとつ問うた。


「……あ、先生、ちょっとお聞きしたいんですが」

「ん? なにかな?」

「この病院に、脳科学や記憶に関わる病気について詳しい方、いらっしゃいますか?」


 少しばかり、詰めておきたい疑問がある。

 時間が足りず、木山から聞くことの出来なかったいくつかのこと。


 己は、それを十全に理解しておかなければならない。

 咀嚼し、嚥下し、血肉にしておかねばならない。

 自分のものにしておかなければならない。


 来るべき戦いのために。

 鋼盾掬彦の戦いのために。


 それこそ下拵え、否、包丁研ぎのようなものである。

 料理は心、とは言え準備は大切だろう。


 ネットや図書館にでも頼ろうかと思っていたが、まあダメモトで聞いてみることにした。

 すると、医師の口からは意外な返答が帰ってきた。


「ふむ、僕だね?」

「あれ?……外科のお医者さんって聞いたような」

「医者、だね? 内も外もない、人を救うのが僕の仕事だよ?
 そのためにはあらゆる知識と技術が必要だからね?」
 

 表裏一体、心身相関だね? と医師は事もなげに言う。

 全身科医(ジェネラリスト)というやつだろうか、なんでもやるとはすごい話だ。

694 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/01(水) 22:53:11.65 ID:7AlxourSo


「それで? 脳や記憶に関して、なにか知りたいことでもあるのかい?」

「あ…はい。実は知り合いに、ちょっと記憶について問題を抱えているひとがいまして」

「ふむ、じゃあ連れてくるといい。安くしとくよ?」

「……あー、実はこの街のひとじゃないんです」


 IDを持たぬ異邦の少女、インデックス。

 彼女を病院に連れて行くという選択肢は有り得ない。


 学園都市も魔術師も、それは許さないだろう。

 インデックスの記憶破壊が魔術によるものであることは既に分かっている。

 鋼盾が望むのは治療や対処法ではなく、あくまで自説を補強する材料なのだ。
 

「なるほど、じゃあ名刺を渡しておこうかな?
 僕に教えられることもあるだろうし、外にも友人は多いからね?」


 電話は出れないことが多いから、メールで送ってくれればいい。

 そう言ってカエル顔の医師は白衣の胸ポケットから、すこしシワのよった名刺を取り出し鋼盾に渡した。


「……いいんですか? お忙しいでしょうに」

「なに、かまわないよ? きみもぼくの患者だからね?
 患者が必要とするものはなんでも用意するのが、僕のモットーでね?」


 掠り傷ひとつ、診療代すら払っていない患者にずいぶんと大盤振る舞いだ。

 ……まったく、今日は周りに頼ってばかりだ、と鋼盾は少しばかり己を恥じる。


 いや、今日だけじゃない、今までだってずっとそうだったのだ。

 気づいていなかっただけだ、ガキだった、救いようがない。

 
 それを知ったからには、少しずつでも返していかねばならないだろう。

 さしあたっては小萌と黄泉川だ、とは言え粛々と説教を受けるくらいしかできそうにはないが。

695 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/01(水) 22:54:19.24 ID:7AlxourSo


「そうそう、患者である君にひとつ忠告だ……あまり無理はしないようにね?
 今日きみは紛うことなき戦場に立ったんだね? そのストレスは、思った以上に身体を蝕んでいるものだよ?」

「そうですね……そうかもしれません。
 今抱えてるもろもろにカタがついたら、ゆっくり休もうと思います」


 タイムリミットまでの時間は多くない。

 インデックスの抱える問題に決着がつくまで、鋼盾には休むつもりはない。

 木山の見解を疑うつもりはないが、それはそれとしてやるべきことはいくらでもある。


 今は走れ、走れるうちは走れ。

 その速度こそが、裡なる火を更に猛らせると信じろ。


 絶望の夜が来る、それは絶対だ。

 だから火を絶やすな、一欠片でも残っていればそこからまた炎は生まれる。

 闇を駆逐する心火を、鋼を鍛える炉に蓄えろ。

 
 夜がやってくる。

 絶望の確約された夜がやってくる。


 備えろ、己の弱きを知るならば。

 備えろ、やがて訪れる夜明けを望むために。

696 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/01(水) 22:55:27.65 ID:7AlxourSo


「……若いね、羨ましいよ?
 だが老婆心ながら忠告をさせてもらえるなら、周囲に甘えて休める時に休んでおくのも手だよ?」


 面倒事なんてなんだかんだでひっきりなしにやってくるものさ、それこそ急患のようにね?

 カエル顔の医師が、忠告を容れぬ鋼盾を諭すように言う。

 激務に追われるお医者様の言葉には、とんでもない説得力があった


 確かにまあ、倒れてしまっては元も子もない。

 寝不足や疲労で思考を鈍らすのも、鋼盾の望む所ではなかった。


「……ありがとうございます。そうですね。
 とりあえず今はすこしだけ――――ああ、そういうわけにもいかないようですね」

「ふむ?」


 鋼盾の目の端に、見覚えのある姿が掠めた。

 他ならぬ彼女を見間違えるはずがない。


「鋼盾ちゃん!!」


 息を切らせて月詠小萌が鋼盾らのもとに駆け込んできた

 浮かぶ表情は焦燥、安堵と、そしてやはり怒り、だ。


 ……どこのどいつだ、彼女にあんな顔をさせるバカは。

 まったく、ぶん殴ってやりたいものだ。


「……おや、妹さんかい?」


 カエル顔の医師が首をかしげる。

 初対面であれば、なるほどそういう反応になるだろう。欠片も似ちゃいないだろうけど。

 しかしなにを隠そう、見た目十二歳のこの女性、聞いて驚け戦慄せよ、なんと余裕の三十路超え。

 正確な年齢は鋼盾も知らないが、とりあえず大厄は乗り越えているそうな。


「えっと……ぼくの担任教師、です」

「…………え?」


 鋼盾は一歩、小萌を出迎える為に踏み出した。

 医師の驚きを背に感じつつ、まっすぐ小萌に向かい合う。


697 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/01(水) 22:57:06.87 ID:7AlxourSo


 彼我の距離は既にして五メートル

 あれよあれよと三メートル

 手が届きそうな一メートル

 吐息が触れそうな七十センチメートル

 更に踏み込んで五十センチメートル

 
 そこで彼女は足を止め、顔を伏せて数回、呼吸を整える。

 そして顔を上げると、そこには今まで一度も見たことのない表情があった。


 眦に炎と氷、声音に雷と風

 地震雷火事小萌。

 
 ……ああもう、怖いったらない。

 だけど、逃げることなど出来る筈がなかった。

698 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/01(水) 23:03:04.79 ID:7AlxourSo


「……お説教です、鋼盾ちゃん」


 本気で怒った月詠小萌が、そこにいた。

 そんな表情すら綺麗だと思ってしまう自分は、きっと救いようのない馬鹿だろう。



 半ば逃避気味に、鋼盾はそんなことを思った。

 ひどく屈折した独占欲が己の中にはある、前々からその自覚はあったが、なんともダメダメな話であった。
 



――――――――
699 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/01(水) 23:14:48.67 ID:7AlxourSo





ここまで。
冥土返しの口調、難しいぜ! クエスチョンマークがゲシュタルト崩壊するぜ!

佐天さんとの邂逅は、また別の機会となりました。
具体的にはエピローグあたりになる予定です、鋼盾掬彦が能力を得た後の再会となるでしょう。

幻想御手後始末編も、次回で〆になるでしょうか。
そうなればいよいよもって、鋼盾の戦いが幕を開けることになります。


確約された勝利、確約された絶望
いやはや、どうなることやら


んじゃ、また次回もよろしくです!
700 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/01(水) 23:20:23.14 ID:GXM+3quDO
乙。
701 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/01(水) 23:21:11.27 ID:TncZ31l70
702 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/02/02(木) 03:14:11.35 ID:ezgGjbUWo
地震雷火事小萌
恐ろしくて鼻血が出るな

乙!
703 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/02/02(木) 06:02:26.46 ID:YcKt+Vtf0


次回で〆のつもりが「小萌先生のお説教が長くなって黄泉川先生の事情聴取まで入りませんでした」となる、に3初春
704 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/02/02(木) 20:31:22.74 ID:jYgQHkKp0
3初春なんて手に入らないに30000ギル
705 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/02(木) 21:16:02.38 ID:1PsJxa0Go
3初春って何ペリカ?
706 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/02/03(金) 18:09:44.98 ID:tbm66vNAO
ペリカじゃ買えないものがある
707 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/02/04(土) 01:04:09.21 ID:hbLRWkvg0
買えるものは帝愛カードで
708 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/04(土) 01:28:59.75 ID:78zEeTXCo
乙。ワクワクして待ってる
709 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/05(日) 01:09:36.93 ID:pVgCC7ejo
焼き土下座するから初春ください
710 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/05(日) 01:25:42.07 ID:bAsYRSoDo
    r'ニニ7      
     fトロ,ロ!___      
 ハ´ ̄ヘこ/  ハ
/  〉  |少  / |      
\ \    /| |
 ┌―)))――)))‐―┐     
  ヽ ̄工二二丁 ̄
   〉 ヽ工工/ ;′∬    
  lヽ三三三∫三三\;'
  h.ヽ三∬三三';.三三\';∫   
  └ヽ ヽ三,;'三三∬三;'三\'"
    ヽ |__|烝烝烝烝烝烝|__|
      lj_」ー――――‐U_」
711 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/02/07(火) 20:20:56.09 ID:bSn+H89to
木山先生を僕に下さい。

  ブス…  ∫ ;′ ∫  ,;′
   ブス…',. -――-゙、  ;'  ジジジ…
    ;  /      へ `>、'; ∫
   _;'___{.  ,>-/、/=;´イヽ;'_  
  /三三j='rー、\_>、)_, >;;〉三'`、ジジ…
 /三三└'゙ー:;‐;;‐;;'`ー;;ヾ'`"´三'三;`、
 囮ヱヱヱヱヱヱヱヱヱヱヱヱ囮
 囮災炎災炎炙災炒炎災灸災炭囮
 ◎┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴◎
712 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/02/08(水) 19:10:46.29 ID:6ltmMeB20
前の投下から1週間経ったわけだが、まだ忙しいんだろうか
713 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/09(木) 17:18:14.28 ID:Ih2BGywDo
まぁ>>1も疲れてんだろうから休ませてやろうぜ
714 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/02/09(木) 18:10:49.68 ID:sJ1ZEVtAO
統計的に考えて、そろそろの筈だ
715 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/09(木) 20:12:11.71 ID:pkUj2Lm8o
…………ぬるぽ
716 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/09(木) 22:51:34.56 ID:nWomLth/o
>>714
ガッ

>>709 >>711 
             ___,,,,,..... -一ァ
         / ̄;;;´;;、;;;ヾ;;;, -──--、,!
.        /'´|;;;;,、;;;;;;;;;;/      ,!
.         /:.:.:.レ´:.ヾ;;;;;;i   断  だ ,!
       /:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:ヾ;i  る  が ,!
.      /:.;.イ:.:.:.:.:.:.:.:.:.:..ヽ       ,!
.       /レ' ;|:.:.:.:.:.:.:,:ィ:.:.:.:〉 __,.,!
     /-、ヽ,:|:.:.:,/ /:.:.://.:,:ィ:.:.:.,!
      /'ヽ、ヾi ゙´.:   /__;:;:-'"´ ,;|:.:.:.,!
.    /ゝ-`';:/ .:〈ニ=-=ニ二 ̄ヽレ',!
   /::::;;;;;/  ' ,, ニ`ー-,、__\〉ィ,!
.   /;:::::/ ::.    ::.,,\_ゞ;'> 〈;,!
  /i!:::::iヾ-'、::..       '';~ ,;:'/,!
. /;;;i!fi´l_、,.`        .: ,;:'  ,!
/;;;;;i' ('ー、ヽ      ..: ,;:''   ,!
ヽ、jゝ、`ヾ:、゙、   ,..:'.:'"    .: ,!
   ``ヽ.、_ ¨`  ,:'      (_r:,!
       ``ヽ.、..    ノr;ソ~,!
             ``ヾ、 / 7,!
                 ``ヽ,!

この>>1が最も好きな事のひとつは、焼き土下座程度で何かを得られると思ってるやつにNOと断ってやる事だ……
焼き土下寝を敢行するくらいの侠気をみせろ、話はそれからじゃんよ


さて>>1です、ペース落ちてて申し訳ない
ちょっと私生活がいろいろ立てこんでいるのです、ちくしょうめ

あと「打ち止めと妹達と天井亜雄のハートフルストーリー()」を思いついてしまってそれをちょっと書いてた、誰得
打ち止め、妹達って正直怖くね? あと、別に一方さんじゃなくてもよかったよね、とか通行止めファンに真っ向から喧嘩を売る問題作

タイトルは「みさかと!」
お蔵入り確定だぜ! つーかこっち書けよ馬鹿! 俺の馬鹿!

つうわけで、近日中に投下します
できれば明晩、無理でも土曜日には!

んじゃ!
717 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/02/09(木) 22:54:51.93 ID:8swiAudfo
>>716
乙、期待。だが無関係な>>714をガッしちゃだめだろ・・・
718 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/09(木) 23:05:33.45 ID:/5l/V/jH0
乙乙。待ってますよー。
「みさかと」面白そうだな。
似たような感じで木原さんちの平和な日常を描いたハートフルストーリー「きはらけ」とか考えたことあったわ。
719 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/02/10(金) 10:20:05.34 ID:HHX8pDGAO
乙!
なにを隠そう俺も、イギリス清教のハートフルストーリー「ねせさりっ!」を妄想しております!
720 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/10(金) 13:31:23.92 ID:lJ+z+A5Wo
じゃあ俺は天草式のハートフルストーリー「あまくさ!」
あるいはかんなぎをパクって「かんざき」をやらせてもらおうか
721 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/10(金) 14:16:33.58 ID:CSYcVph5o
>>720
上のは既にあるぞww
722 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/10(金) 22:28:47.04 ID:vUTUrswlo

「かみみぎ!」 神の右席とローマ正教のメンツが繰り広げるハートフルストーリー

「れべるご」 超能力者七人が織り成すハートフル以下略

「あす☆てか」 アステカ以下略

「ビブルチ」 略


あ、どうも>>1です、コメント感謝!
んじゃ投下します


そぉい!



――――――――――
723 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/10(金) 22:30:08.23 ID:vUTUrswlo





 説教は、苛烈を極めた

 ケツの毛まで抜かれて鼻血も出ねえぜ、と紅かつ豚な台詞すらも出せないほどに




724 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/10(金) 22:31:08.95 ID:vUTUrswlo


 二者面談と書いてタイマンであった。


 赤コーナー、見た目は子ども頭脳は大人、一三五センチのディープアダルト・月詠小萌。

 青コーナー、学園都市最下位の劣等生、しかし心意気は無限大・鋼盾掬彦。


 場所は変わらず病院、先ほどの医師の厚意で小さな談話スペースを借り受けての面談だ。

 赤青ふたりは向かい合い、勝敗の決まっている戦いのゴングが鳴った。

 あるいは死刑執行の鐘の音と言った方が適切かもしれない。


 そこから二時間、休みなく切れ目なく小萌の指導は続き、今に至っている。


725 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/10(金) 22:34:47.44 ID:vUTUrswlo


 説教、叱咤、喝。

 道を説くこと、叱るとこと。


 教師に求められる資質は数あれど、これは必須条項のひとつだろう。

 なめられちゃあ、ダメなのである。

 
 とは言え、月詠小萌がそのスキルを発揮することはあまりない。

 もちろん、彼女が担任を務める一年七組の生徒がいい子揃いというわけではけして、ない。

 デルタフォースを擁するこのクラス、トラブルの頻度で言えばおそらくは校内随一だ。


 だけど、七組には絶対の不文律がある。

 簡単にいえば“小萌を悲しませるような真似はしない”といったところだろうか。

 上条も、土御門も、青髪も、あれでギリギリのラインを心得ているのだ。

 
 そもそも彼女が涙目になればそれだけで罪悪感特盛、更には周囲から非難の目線が刃の如くに飛んでくる。

 それだけで、もうみんな平身低頭だ、心の底からごめんなさいだ。


 キャラクター、あるいは人徳と言っても良いだろう。

 クラスメイトの誰もが、月詠小萌を本気で怒らせることなど望まないのである。


 だから、誰も知らない。

 本気の月詠小萌の恐ろしさを、誰も知らない。

 いや、知らなかったというべきだろう、それは既に過去の話だ。

 彼女を本気で怒らせるほどの馬鹿が、ついに現れてしまったのだから。


 その馬鹿の名前を、鋼盾掬彦という。


 三馬鹿(デルタフォース)ではなく、手綱(プラスワン)だったはずの少年。

 ……これからは四馬鹿(フォースアウト)に改名すべきかもしれない。

 
 そんな栄えある第一号たる彼は、既にして死に体であった。

 グロッキーである、ボロボロである、ドクターストップはない。

726 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/10(金) 22:36:23.63 ID:vUTUrswlo


 苛烈な説教、といっても怒鳴られたり喚かれたり泣かれたりしたわけではない。

 はたまた愛ある拳を打ち込まれたりしたわけではない。


 これまでの二時間、二人の間にあったのは淡々とした言葉の応酬だけだった。

 状況説明と質疑応答が主だったもので、そこに感情的な要素が入り込む余地はなかった。


 ……だが、目は口程に物を言う。

 この二時間、小萌は鋼盾に眼を逸らすことを一切赦しはしなかった。

 そして、月詠小萌も一度足りとも眼を逸らすことをしなかった。


 それだけで、鋼盾はイチコロだった。

 指先ひとつ触れることなく、ノックアウトだった、ひでぶ。
 

 取り戻すまでもなく愛にあふれたその説教。

 視線というクサリで繋がれ、身動きすら取れない。

 微笑みは遠い、明日を見失う、鼓動が早くなる、たわば。


 ああ、愛で空が落ちてくる

 ああ、愛で月が落ちてくる




――――――――――

727 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/10(金) 22:38:06.49 ID:vUTUrswlo


「……うわあ」


 黄泉川愛穂が呻く。
 
 この一幕を引き起こした女が、一言目に口にしたのがそれだった。

 いくつもの仕事を片付けつつ、足早に駆けつけた黄泉川が見たのは泰然たる同僚。

 そして、その対面にすわる死に体の教え子だ。


「……うわあ」


 もう一回だ。

 半ば意趣返しで小萌に連絡を入れた黄泉川ですら、鋼盾のその様子には同情を禁じ得ない。


「おつかれさまなのです、黄泉川先生」


 扉を開けたまま固まった黄泉川に、小萌から労いの声が掛かった。
 
 声は常の飴甘ソプラノ、しかしその芯にあるものは氷の刃だ、怖い。


 幼げですらある容姿を裏切るその威風、尊敬すべき同僚の放つオーラに、黄泉川は軽くビビる。

 しかし後が閊えている、黙って見守っているわけにもいかなかった。

 彼女は意を決し、その口を開いた。 

728 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/10(金) 22:40:23.24 ID:vUTUrswlo


「……あー、月詠先生、お説教の方はお済みでしょう、か……」


 常のじゃん言葉すらない、尻すぼみの超敬語である。

 黄泉川をしてそうさせるほどの鬼気が、今の小萌には確かにあった。


「……そうですねー、まだもうちょっと、いやさ山ほど言いたいことはあるのですけどねー。
 最低限問うべきは問い、示すべきは示し、糾すべきは糾しましたか。
 ……ん、まあ私からはこのくらいにしておくのです」


 あとは黄泉川先生からお願いするのですよ、しっかりお説教してあげて欲しいのですと、小萌は容赦の欠片もなく口にする。

 そんな小萌に、黄泉川は軽くひきつったような笑みを浮かべながら、こう答えた。
 

「……いやー、流石に死者に鞭打つのはちょっと……。
 鋼盾? 大丈夫じゃん? えーと、事情聴取なんだが、行けるか?」


 優しげですらあるその声を受け、鋼盾がのろのろと顔を上げる。

 黄泉川の存在にようやく気づいたとでも言いたげな目で、しかし問いかけは聞いていたようだ。


「…………行け、ます。
 ありがとう、ございました、小萌先生」


 小萌の苛烈な説教、その根底にあるもの。

 それが溢れんばかりの愛情や厚情であることは、他ならぬ鋼盾が一番わかっている。


 だけど、もうちょっとだけ軽めにして欲しかったと彼は思う、死ぬ、これは死ぬ。

 愛で月が落ちてくる、哀しみを背負う彼女の言葉はまさに無想転生、回避不能だ、あべし。


 ……なれど、礼は忘れまい。

 こんなに真摯に生徒と付き合ってくれる教師を、鋼盾掬彦は他に知らない。

 己は恵まれている、心底よりそれを知る。

 知っていたけど、再確認。


 そんな鋼盾の反応に、月詠小萌もようやく相好を崩した。

 きちんとお礼のできる自慢の教え子が、可愛くて仕方のないといった類の笑みである。


「……はい。ちゃーんと反省、するんですよ鋼盾ちゃん。
 先生はこれから学校に向かうのです。あちらもいろいろてんやわんやのようですので。
 ――――黄泉川先生、後はよろしくお願いしますね?」

「ん、学校の方はお願いするじゃんよ。
 ……あー、鋼盾、事情聴取の前に休憩だ。顔でも洗って来い」

「……そう、します」


 そう言って、フラフラと席を辞す鋼盾の背をふたりで見送る。

 扉が閉じたのを見届けると、黄泉川は再び小萌に話しかけた。

729 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/10(金) 22:43:15.88 ID:vUTUrswlo


「……で、月詠センセ? 
 お説教は相当堪えてたみたいだが――あのバカ、絶対またなんかやらかすじゃんよ?」


 憔悴しきりの鋼盾、しかしその目の奥にあるものは、諾々と教師の言に従う者のそれではない。

 反抗的なわけではない、基本的に従順で、こちらの言を芯から理解して、しっかり反省していて。


 それでも

 絶対にあのバカは、またやる

 必要なことだと、けじめだと、そんなことを言いながら

 申し訳なさそうに、きっと何かをやらかすだろう

 
 鋼盾掬彦のその目に宿る火は、未だ消えていない。

 初春飾利を焚き付けたときと同様の輝きだ、キラキラのギラギラである。


 腕利き警備員の勘が、警戒せよとがなり立てている。

 あれはちょっとヤバイ、ガチでやばいじゃんよと黄泉川は断ずる。


「……そうなんでしょうねー、まったくもう、鋼盾ちゃんてば。
 とりあえず話は聞きました、電話で伺ったことは、ぜんぶ本当なのですね」

「ああ、間違いない。
 今しがた木山……幻想御手事件の犯人からも、事情を聞いてきたところじゃん」


 山積する後始末、それでも黄泉川が一番に行ったのは、木山への事情聴取だ。

 ……いや、あれは口裏合わせだな、と黄泉川は小さく溜息を吐く。
 
 本格的な聴取は同僚の鉄装に任せて、方方に指示を飛ばしつつこちらに来た。

 鋼盾への事情聴取、この役を他者に譲るつもりは、黄泉川にはない。

730 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/10(金) 22:48:05.45 ID:vUTUrswlo


「あいつは幻想御手のカラクリを看破し、犯人を説得し自首させた。
 それだけなら表彰モノじゃん。だけど……いやはや、その後がなぁ……」

「……耳を疑ったのです、そういうのは上条ちゃんの領分だと思ってたんですけどねー」


 鋼盾をよく知る小萌としても、本日のあれこれは予想外であった。

 ストッパー役であるはずの少年の大立ち回りに、正直頭を抱えてしまう。


「実際、幻想御手解除プログラムの拡散をやらかさんとしたのは風紀委員の一部。
 直接的な戦闘を行ったのは、御坂美琴―――超電磁砲じゃんよ」


 鋼盾掬彦が行ったのは、依頼。

 情報を提示し、方法を提案し、誠心誠意、頭を下げただけ。

 それを受け実際に動いたのは他の人間だ、各々がそれぞれの判断で、動いた。


「……でも、それでも引き金を引いたのは鋼盾じゃん」


 黄泉川愛穂は断じる。

 苦いものを呑み込むように、引き金に触れることすらできなかった己を咎めるように。


「御坂も、初春も、風紀委員も、木山も、そして……もちろん私もじゃん。
 誰もが皆、あいつの言葉に絆され、呑まれ、煽られ、背中を押され、走った」

731 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/10(金) 22:53:07.59 ID:vUTUrswlo


 混乱戦禍の中心で、無能力者の少年がすいと示したその指の先。

 それがきっとベストなのだと、そう確信させるに足る迷いなき一手。

 ぱちり、と小さく、されど確かに響いた駒音。


 黄泉川愛穂はそれを聞いたという。

 第三位が放つ雷鳴よりもはっきりと、幻想猛獣の悲鳴よりも強く。


 それはあたかも戦場を貫く喇叭のように

 いとたかく、いとかたく、夏空をビリビリと引き裂いた


 あいつには、鋼盾掬彦には扇動の才があるじゃん、と黄泉川愛穂は思う。

 あるいは先導か、それとも船頭か、いっそ占道かもしれぬ。


 口が紡ぐは宣と恫

 指が示すは選と導 


 カリスマなんてスマートなものじゃない

 もっと歪でえげつない、妙なる喇叭の旋と濤


 号砲だ、まさに


 本音をぶっちゃけさせてもらえるなら、黄泉川愛穂はこう口にするだろう。
 
 あんなものを戦場で放たれたら、従うしかないじゃん?、と。

 
732 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/10(金) 22:56:13.15 ID:vUTUrswlo


「……そうして、結果はこれこのとおり。
 ―――なんだかんだで、丸く収まっちまったじゃん」


 正直、私はこれよりベストな解を見つけられないじゃんよ、と。 

 黄泉川愛穂、戦場を指揮する立場にあった女はそう言って目を伏せる。

 それは、どうしようもなく敗北宣言だった


「結果オーライ、なんてワケには行かないのは百も承知じゃん。
 ……それでも、私にはアイツを叱ることはできなさそうじゃんよ」


 戦果を享受しておきながら、戦功を上げた者を非難するわけにはいかない。

 黄泉川愛穂はそう思う。……教師として、それではダメだと理解しながらも。

 それを受けて小萌もまた、黄泉川に倣うように少し目を伏せて、言った。


「……それは、私も同じなのですよ。
 枝葉は折れても、幹は折れない……なにより折りたくないのです」


 結局のところ、無茶と無謀を咎める事しかできなかった、と小萌は嘆息する。

 二時間も費やしてこの体たらく、どうしたものでしょうねーと心底から彼女は思う。


 しかし同時に、仕方がないじゃないか、と思う。

 無責任にもほどがあるが、それも間違いなく彼女の本音であった。
733 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/10(金) 23:10:24.37 ID:vUTUrswlo


 だって、彼は、誇るべき教え子は、己の罪に決着を付けに行ったのだ。

 逃げることなく、立ち向かったのだ。


 幻想御手に縋り付いた己を恥じていた鋼盾掬彦

 無能力者であることに誰より惑い、押し潰されそうになっていた彼

 あの日、震える声で小萌に罪を告白した、弱々しい少年


 この都市に蔓延る、能力という歪な指標。

 それが生み出す根深きコンプレクスが、鋼盾の根底にはあった。

 
 正直、根の深い問題だと思っていた。

 入学当初から、否、彼の中学時代の成績表を見た時から予想はしていたのだ。

 そして実際に受け持って、それは確信へとシフトした。


 鋼盾掬彦。

 この都市の歪に、足を捕られた無能力者の少年。


 彼に道を示してあげるのが、教師である己の仕事だと小萌は思った。

 進級まで、あるいは卒業までをかかるかもと知れないな、とも考えていた。


 なに、大丈夫だ。

 鋼盾掬彦は強い、本人は気づいていないけど、とても強い子だ。

 幻想御手に縋ってしまっても、こうしてちゃんと謝りにこれたのだから、きっと立ち直るだろう。

 叶うならその力になりたいと、教師たる小萌は真摯にそう考えていた。


 あの日、鋼盾と上条を引きあわせたのも、そんな考えに基づいたもの。

 上条は上条で厄介な問題を抱えた生徒だ、だが、鋼盾とセットにすればきっといい方に事は進むという確信があった。


 事実、その目論見はうまくいったと彼女は思う。

 上条と鋼盾、そしてインデックス、この三人の組み合わせはなかなかに理想的と言えた。

 互いに支え合う彼ら、その中で少しずつ育まれてゆく信頼と友情。


 シスターたる彼女にの事情については結局聞き出すことは叶わなかった。

 心配は尽きない、あの夜に触れた魔術なる神秘の感触は、紛うことなく本物であった。


 だけど、それでも。

 あの三人がいっしょなら、きっと結末は明るいだろうと小萌は思う。


 それが自信に繋がればいい、鋼盾も、上条もきっともっと強くなってくれる筈。

 月詠小萌はそう信じている、一片のほころびもなく、そう信じている。

734 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/10(金) 23:21:36.78 ID:vUTUrswlo


 ……だが、どうやら己は彼を見縊っていたらしい。

 あの日の惑える鋼盾掬彦、小萌が心配した彼は既にそこにはいなかった。

 自身の選択を是とする、誠意に満ちた眼差し、そこには確かに炎が灯っていた。


 重ねた逃避、自縄自縛の自己否定。 

 鋼盾にとってそれは既に過去なのだと、先程の問答の中で、小萌はそれを確信していた。


 その決意、その強さ、目を見張る成長。

 思えば随所に萌芽はあった、それを見抜けずにいた己を、小萌は恥じる。

 だが、それよりなにより、嬉しさと誇らしさが胸に満ちた。
 

 教え子の、成長。

 男子三日会わざれば云々を地で行くそれ。


 それを喜ばぬ教師などいない、そして月詠小萌は教師である。

 許されぬと知りつつ、笑みが浮かび溢れるのを彼女は抑えられない。

 そんなにこにこな同僚を眺めながら、黄泉川も同じような表情を浮かべ、言葉を返す。


「口ぶりの割にはまあ、嬉しそうな顔じゃんよ。いや、それは私も同じか。
 ……とは言え、次もうまくいくとは限らないじゃんよ」


 しかし教師であるが故、喜んでばかりもいられない。

 清く正しく美しく、そうあれかしと歌いつつ、しかしそれはあくまでも建前だ。

 濁ってもいい、誤りでもいい、醜くともいい、まずは無事でいて欲しいのだ。


 彼らは未成年……まだ、親の庇護にあるべき年齢だ。

 それを預かるのが、教師である。そこには責任というものが付き纏う。

 お宅の息子さんは信念に従い誇り高く戦ってその命を散らしました、なんてワケにはいかないのだ。


 だが、それでも。

 教師にできることなど、高が知れているのも事実。

 学校を出てしまえば、手などそうやすやすとは届かない、どうしようもなく。

735 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/10(金) 23:29:44.40 ID:vUTUrswlo


「……無理矢理、止めることはできないのです。
 鋼盾ちゃんも上条ちゃんも、ふたりとも覚悟を決めてしまったみたいですので」

「覚悟ねえ……まったく、男の子じゃんよ。
 それに――今回の一件、アイツの働きは表向き隠蔽することになるだろうけど、見ていたやつも少なくない。
 面倒なことにならないことを祈るじゃんよ」


 本日の台風の目は、木山でも美琴でも初春でもない。

 その事実を完全に隠蔽することは不可能だ、と黄泉川は断ずる。

 上層部は鼻が利く、彼女は嫌というほどそのことを知っている。


「……お互い、難儀な職業を選んでしまったみたいですねー、黄泉川先生?」

「まったくじゃんよ……やれやれ、こんな職業、他にないじゃん」

「せめて天職と信じましょう。
 憎ったらしいもかわいらしい、私たちの教え子のために」

「はいはい、教え子のために徹夜じゃん。
 ……夏休みなんて幻想じゃんよ、大人はつらいじゃん」


 文字通り山積する課題

 生徒たちの夏休みの宿題など、物の数ではない

 学校を卒業してからの方が、よほど難儀じゃんよと黄泉川は愚痴を零す。


「一段落ついたら、飲みに行くのですよ。
 ……頑張り屋さんの黄泉川先生には、特別にせんせーが奢っちゃうのです」

「はは、そいつは楽しみじゃん。
 ……いつになるかはわからんけどなー」

「ふふ」


 だけど、こうして笑い合えるのだから、悪くない。

 まったく、やりがいのある仕事である。

 
736 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/10(金) 23:34:20.26 ID:vUTUrswlo


 そして、ふと落ちる沈黙。

 ふたりの頭に浮かぶのは、やはりこどもたちの顔だった。

 どうしようもない職業病だ、労災は降りない類の病。


 小萌と黄泉川の目が合う

 笑う、互いに同じ事を考えているとわかる


「……はいはい、天職じゃんよ」

「ええ、天職なのです」


 笑う
 
 嘯け嘯け、今生はそれを貫こう

 来世でまた教職を選ぶか否か、そんな問には答えられそうにないが


「心配じゃん、どうしたって」

「……まったくなのです」


 ……ああもう、儘ならない

 過保護と笑わば笑え

737 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/10(金) 23:37:23.26 ID:vUTUrswlo


 溜息が、ふたつ。

 甘く苦く舌に絡みつくそれを、二人は同時に零した。

 そして目が合う、笑う、やっぱり互いに同じ事を考えているとわかる。


 逃避と知りつつ、しかしどうしようもなく求めてしまう悪癖。

 八センチの誘惑、疫学的な推計など知らない、知ったことじゃないのである。


「……煙草、吸いたいのです」

「同感じゃんよー……」


 溜息を誤魔化してくれるそれが恋しかった

 灰皿は、遠い


「……分煙なんて、クソ食らえなのですよー」

「じゃんよー……」


 そんな喫煙者のシンパシー

 ……ちょっと、生徒には聞かせられない発言であった

 


――――――――――
738 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/10(金) 23:44:37.58 ID:vUTUrswlo






ここまで

>>703さん惜しい! 説教はあっさりでしたが愚痴が長引きました!
つーわけで初春はあげられないのです

あと>>714さんごめんよ、わざとじゃないんだよ


次回は事情聴取回でしょうか、その辺が終わるといよいよ終盤が見えてきますよー
いろいろ忙しい日々なのですが、なるべく早く来れるようにします

よろしければ次回もまた、お付き合い下さい

んじゃ!




739 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/02/11(土) 00:09:31.67 ID:nLLvoqMY0

「鋼の楽団」が着々と勢力広げてるなww

俺がベットして没収された3初春をネットワーク越しに送ったので存分にハッキングされてください

740 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/11(土) 14:50:19.05 ID:M/sPgKc1o
最近の初春ウィルスは怖いな
俺のPCのアイコンが全部お花になってたよ
741 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/11(土) 22:58:57.19 ID:BALgLNss0
乙。
先生たちは本当にいい先生だなぁ。
学園都市は果てしなく禄でもないところだけど、こういう大人がいるのは救いだろうな。
しかし、鋼盾が真・話術サイドとしてのポジションを揺ぎ無いものにしていってるなwww。
742 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/02/11(土) 23:48:23.98 ID:cnXX7Q1AO


黄泉川ルート、期待しても構わぬのだろう?
743 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/02/13(月) 23:37:28.87 ID:mqGoDeFN0
しかしこの年のコウやんのバレンタインはどうなるんかね?
女子の知り合いは増えてるし好きな人は自覚しちゃってるし楽しいことになりそうだ
744 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/15(水) 20:35:43.58 ID:EBSUQmRKo
どうも>>1です
バレンタイン投下としゃれ込もうと思ったら、鯖落ちでござった
禁書世界ってバレンタインデーとかあるんだろうか、つーか二月とかいつになったら来るのか

二十四日終了まで今回の投下で漕ぎ着けるつもりでしたが、ちょっとシナリオを修正したので途中までで勘弁して下さい
それでは、事情聴取編、ちょっと短いですがどうぞよしなに



そぉい!



――――――――――
745 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/15(水) 20:40:34.21 ID:EBSUQmRKo


「……さーて、事情聴取といこうか。
 なあ鋼盾、お前誰が本命じゃんよ?」

「おい」


 ……思わず教師に「おい」とか言ってしまった鋼盾掬彦である。

 つーか、これは仕方あるまいと彼は思う、よりにもよって何を言うのかこの女。



 黄泉川の厚意で、一息入れさせてもらった鋼盾掬彦。

 ジャブジャブと顔を洗い、なんとか心を落ち着かせ、さあ事情聴取だと覚悟を決めた。


 ある意味、こここそが正念場と言っていいかも知れない。

 そう、鋼盾掬彦は思う。


 己がいろいろとやらかしたのは、どうしようもない事実だ。

 鋼盾へのペナルティであれば受け入れる、もとより覚悟の上である。

 しかし、累がインデックスにまで及ぶことは避けねばならない。


 不法入国者。

 密約があるとは聞いているが、それは上層部においてのみかも知れない。

 黄泉川ら、現場の警備員にその効果が及んでいるかはわからない。

 彼女にIDが出ているのかどうか、もし出ていなかったら大問題になりかねない。


 時間はない。

 インデックスが拘禁などということになれば、どうなるか。
 
 考えるまでもないだろう、最後には魔術師たちが強硬策に出て、彼女の記憶を奪う。


 それだけは、避けねばならない。 
 
 
 考える、考える、考える。

 いくらシミュレートを繰り返しても、不安は拭えない。


 敵は百戦錬磨の警備員、黄泉川愛穂。

 どうにかして、彼女を誤魔化さねばならない。


 洗面所で、鏡を見据えながら自問自答を繰り返すも、結局妙案は出なかった。

 黄泉川が待っている、あまり遅くなるわけにもいかない。


746 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/15(水) 20:45:41.79 ID:EBSUQmRKo


 そして、鋼盾は黄泉川の待つ部屋に戻った。

 ノックをして扉をあければ、ニヤリと笑う黄泉川愛穂。

 彼女に促され、鋼盾は対面の椅子に腰を下ろした。


 結局は出たとこ勝負で行くしか無いのだ。
 
 最悪あと数日、時間を稼げればそれでいい。


 あとで露見したって構いやしない。

 舌先三寸、なんとしてでも取り繕ってやる。



 そして、事情聴取が始まった。

 高鳴る鼓動、震えそうになる体、それらを押し殺して状況に備える。

 勝利を掴むために、備える。


 それなのに。

 最初の一言が「誰が本命じゃんよ?」とか、ふざけてんのかこの野郎。


 ……いや、油断は禁物だ、と鋼盾は己を嗜める。

 ペースを、主導権を掴むためのジャブのようなものかも知れない。

 こちらの気を逸らし、その隙をついて必殺の一撃を仕掛けてくる可能性は否定出来ない。


 ……とりあえず、会話に乗ることにする鋼盾。

 ああもう、胃が痛いったらない。 

747 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/15(水) 20:47:23.44 ID:EBSUQmRKo


「……第一声がそれですか、女子中学生ですかアンタは」

「歳は関係ないじゃん、女たる者心はいつだって女子中学生じゃんよ」

「……木山先生といい、なんなんだ、そのノリは」

「それそれ、その木山じゃんよ。随分と仲がよかったじゃん?」


 大脳生理学者、木山春生。

 幻想御手事件の首謀者、蜘蛛の巣の紡ぎ手、数多の能力を駆使し警備員を蹂躙した魔女。

 先の事情聴取でも、随分面白い話を聞いてきた黄泉川である。 


「初春との連携も見事だった、女子中学生との連携が見事だったぞ鋼盾」

「……女子中学生を強調しないで下さい」


 風紀委員第一七七支部所属、初春飾利。

 非合法な手段で学園都市全域に解除プログラムをばら撒こうとした少女。

 既にハッキングの証拠は全て処理されているというのだから恐れ入る。

 彼女に決意を促したのも、鋼盾掬彦の仕業である。


「先日の白井の件もある、御坂についても随分と親しげな口ぶりだったな。
 常盤台のお嬢様の番号が携帯に入ってるとか、どういう事じゃん?」


 風紀委員随一の腕っこき、空間移動の白井黒子。

 そして学園都市が誇る第三位、超電磁砲の異名を冠する御坂美琴。

 どちらも大物だ。一般校に通う無能力者が指示を飛ばせる相手ではない。


 ……だが、目の前の少年はそれをやってのけた。

 黄泉川が疑問に思うのも、無理のない話であった。


「……たまたまです。つーか、お願いですから内緒にしといてください」


 鋼盾は弱り切った顔で、そう嘆願する。

 彼としても彼女らと友誼を持っていることが、正直不思議で仕方ないくらいなのだ。

 一週間前の自分に言っても絶対に信じないだろう、旗男じゃあるまいし。


 ……つーかバレたらヤバイのだ、夏休み明けに弾劾裁判とか御免被る。

 超天空×字拳のさらに上とか勘弁願いたい。

 鳥山先生に怒られる。

748 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/15(水) 20:53:04.97 ID:EBSUQmRKo


「ふむ、それはお前の態度次第だな……で、誰が本命じゃん?
 木山か? 初春か? 白井か? 御坂か? それとも……おっと」

「…………」


 “あの時一緒にいた、銀髪のシスターか?”

 黄泉川が伏せたのはその言葉、インデックスのことだと、鋼盾は直感する。

 彼女の存在は、鋼盾にとってアキレス腱に等しい。


 急所に刃を突き付けられた形だ。

 ……言わねば進まないだろう、これは。

 ニヤニヤと笑う黄泉川に、鋼盾は苦り切った顔を向ける。


 ああもう、楽しそうな顔をしやがって。

 公私混同じゃねえか、ちくしょうめ。

 
 ……とは言え、今回黄泉川に作った借りもまた大きい。

 それは否定しようのない事実である、黄泉川のお陰で乗り切れたようなものなのだ。

 初春や黒子ら風紀委員の皆がお咎めなしで澄んだのは、彼女の懐の深さ故である。


 感謝は、している。

 負い目もある、敬意も勿論だ。

 己をからかうことで彼女の溜飲が下がるなら、それも吝かではないとも思う。


 それに、どうしてか彼女にはこれ以上嘘を吐きたくはなかった。

 鋼盾は観念するように顔を伏せ、正直な所を口にする。


 多分後悔するんだろうな、と思いながら。

 それでも嘘偽りなく、正直に。

749 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/15(水) 20:54:27.95 ID:EBSUQmRKo



「……小萌先生、です」


 初恋の女性の名前を。

 ほんの数分前までこの部屋に居た、担任教師の名前を口にした。



750 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/15(水) 20:57:07.02 ID:EBSUQmRKo


「……ふむふむふむふむ! ほうほうほうほう!」


 黄泉川の眼が、爛々と輝く。じゃんじゃん輝く。

 心底意外で、それゆえに面白くて仕方がないと言わんばかりだ。

 鋼盾だって他人事であればそんな反応になるだろう、大穴に過ぎる。

 我ながら斜め上に行ったものだ、だが、本音なのだから仕方ない。


「……笑いますか? 無謀だって」

「いやいやいやいや、感心してるじゃんよ、心底から。
 ―――いや、ほんとに。だが……難儀な道だぞ鋼盾掬彦」


 黄泉川が試すように、測るように問う。

 百も承知だ。言われるまでも、ない。

 だけど、それでもいいと鋼盾は思うのだ。

 難儀な道だって、構いやしない。


「……難易度で選ぶようなものでもない、って思うんですよ。
 わかってはいるんですけど……どうにも、こればっかりは」 

「そうだな、そのとおりじゃんよ」

「……別に、告白しようとか考えてるわけじゃないですよ」

「……ほーう?」
 
751 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/15(水) 20:57:55.15 ID:EBSUQmRKo


 この恋は、きっと実るまい。

 初恋は得てしてそういうものだと聞くが、なにせ相手が悪すぎる。

 とは言え、負け戦だって構わないのだ、正直なところを言えば。


 小萌を恋人にしたいとか、そんな考えているわけではない。

 欲しくないのか、といわれれば無論欲しいが、そういう話とも少し違うのだ。

 うまく言える気がしない、もとより言葉にできるものではあるまい。


 月を目指す道行き。

 亀の歩みの己。


 歩んだ分だけ、近づける。

 辿りつけずとも、かまわない。


 目指すべき道がある、今はそれだけでいい。


 なにより既に己は報われている、彼女から貰ったものはもはや数えきれない。

 その返しきれぬ恩に少しでも報いることが出来ればいいと、そう願うのみだ。


752 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/15(水) 21:01:38.37 ID:EBSUQmRKo


「……いろいろ心配はさせちゃいましたが、誓ってあの人に恥じるようなことはしてません。
 ―――その一点だけはお約束します。……ほかは全て、些末です」


 そうでしょう? と鋼盾は黄泉川をじっと見つめてそういった。

 些末なわけねえだろ、と理性は言うが、それが鋼盾掬彦の心底から本音である。

 
 畢竟、己は道を外してなどいないのだ。

 小萌に恥じぬ道行は、すなわち誰に憚ることもない正道に他ならない。

 それを知っている、そこは胸を張れる、だから迷うことなどありえない。


 鋼盾のそんな台詞に、黄泉川は高らかに笑った。

 強い強い肯定の色を浮かべた、ひどく優しい表情を浮かべて。


「はははははっ! 大した啖呵じゃん!
 ……いいだろう、信じてやる。生徒の恋路を妨げるような野暮など私は望まないじゃんよ」


 嬉しそうに、嬉しそうに。

 ひとしきり鋼盾の肩をバシバシと叩いてから、黄泉川は端末を取り出しスイッチを入れた。

 それと同時に、黄泉川愛穂自身もお節介教師から警備員モードに切り替わる。


 鋼盾も思わず佇まいを正し、黄泉川に深と視線を向けた。

 ……ここからが、本番だろう。


753 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/15(水) 21:07:10.00 ID:EBSUQmRKo


「木山春生から、既に大体の事情は聞いてある。
 お前についての供述を聴かせるから、なにか違うところがあれば教えろ」

「……はい、お願いします」


 そして黄泉川が語った顛末は、驚くほどにうまく鋼盾の独断専行を隠してくれていた。

 その話の中では、鋼盾は巻き込まれただけのちょっぴり正義感の強い学生といった風である。


 誰だよこの鋼盾ってヤツ、なんかちょっとかっこいいぞ?

 ……いいのだろうか、それで。


 あまりに己に都合のよいその脚本に、鋼盾は惑う。

 黄泉川に眼でそれを問うも、彼女は飄々とそれを是とした、事も無げに。


 なにより、黄泉川の語った筋書きには、インデックスが登場していないのだ。

 彼女は確実にインデックスを目撃しているはずなのに。


 学園都市にはあまりにもそぐわぬ、白の修道女。

 鋼盾掬彦と共に戦場を描けた、所属不明の女の子。


 そこを突っ込まれれば、鋼盾は嘘を重ねるしかなくなる。

 未だベストの言い訳は思いつけないままだ、ボロボロの嘘しか付けないだろう。 


 なのに黄泉川はそれを、おくびにも出さないでいてくれている。


 つまりそれは、黄泉川と木山の間で既に合意が成されているということだ。

 それは鋼盾を守るため……つまりはそういうことだろう。


 腹の内に納めてやる、お前は頷くだけでいい、と彼女は言ってくれているのだ。

 本当に、ありがたい話だった。


754 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/15(水) 21:16:13.58 ID:EBSUQmRKo


「ありがとうございます、それで間違い有りません。
 ……初春さんたち、第一七七支部の皆さんについては……どうなりますか?」

「あいつらは私の指示に十二分に応えてくれた。
 誇るべきこの街の護り手じゃん、何か問題でもあったか?」

「……ええ、そのとおりです」


 盾が盾として機能した、それだけのことだと黄泉川は笑う。

 誇るように、いたずらっぽくウインクなど添えながら。


 ……まったく、敵わない。

 かっこいいなあ、うちの体育教師は。

 頭が上がらない、今日一日借りを作ってばかりだと、鋼盾は溜息を吐く。


「お前と木山の供述に齟齬はない。
 ならば……これですべてオッケーじゃんよ」

「……ありがとうございます、黄泉川先生」


 深々と頭を下げる鋼盾。

 その頭に黄泉川はこつん、と軽く、撫でるように拳骨を落とした。


「礼などいらんじゃん。
 ……おつかれさま、無茶で無謀で、それでも見事なけじめだったよ、鋼盾」


 これにて一件落着。

 じゃじゃーん、と。


 この街を守る盾の女は、そんな風に事情聴取を締め括った。

   



――――――――
755 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/15(水) 21:30:46.87 ID:EBSUQmRKo

ここまで!
ちょっと短いですが、このくらいでもいいのかな?
投下量がイマイチおぼつかなくて申し訳ないぜ

忘れてましたがレス感謝です!
初春ウイルスのせいで初春書きたい病にかかってしまったぜ!
彼女の出番はもう一回ありますので、それで勘弁してください
黄泉川はここがラストかと思います、すまねえ

鋼盾→小萌はいまのところこんな感じでしょうか
恋と慕なら後者でしょう、恋愛話など書ける気がしないぜ

五年後の約束が果たされるかどうかは解りませんし、>>1も特に決めてはおりません
皆さんが好きに想像してくれればいいなあと思っております、誰か書けよ

次回で長かった24日も終わりです
まるまる1スレ使ってしまいました、なんという無計画

次もよろしくおねがいします
756 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/02/15(水) 21:35:50.83 ID:3bbh0YK5o
乙ー
人として尊敬出来る「女性」に出会ったとき、その感情を理解するのには、男子高校生にはちと早すぎるか
757 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/15(水) 21:41:31.05 ID:BaMxKzQDO
乙。
758 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/02/15(水) 23:18:55.93 ID:sulD0K/AO
乙!
煮え切らねーなコウやん、もっと熱くなれよ!
欲しいって言えよ!
759 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/16(木) 14:05:43.22 ID:xbC/oYjlo
じゃんじゃん先生かっこいいじゃん
760 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/17(金) 20:54:58.73 ID:KyXoCP2s0
かっけーなぁこのジャージ教師。
しかしまあこういう人ばっかりってのもそれはそれで困るから、どこかに厳格にルールを守る人もいないとまずそうだけど。
761 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/17(金) 21:35:51.08 ID:1B/UUS8+o
                __
             <: : : : : : : : >: .、
          : : : : /: : : : : : : : : : : : : : :..
.        ,イ: : : : /: : : : : Z: : : : : : : : : : : 、
       /: : : : : : : : : : : {-t: : : : : \ : : : ヘ
       . : : : : : : : : : : : /  ∨: : : : : :ヽ: : : ハ
      ,: : : l: :{: : : : : : /   ∨: : :ヽ: : : : : : :
       {: : : |: :!: : : : /     W:_:_:_ゝ、: : : :
.      从: ::l: :|: 彡'_ `ヽ  ´ ニ_`ヽ: : : >=彡
       }l ∨l: :l ィTfu:}`    代u:}ヽ`: : :≧!     じゃん
      i{  Y: | `゙  ̄       ´ ̄  ´f´Y : |
      ゝ. `l: :!         }      ノ }:v :
.           |: |ヘ              __ノ !/} |
.           |: | ゝ    _ _ _,.   /:ノ ./ '´
.           |: l               .:〈
         j: :   /:ト .     イ: : ヘ
         |: :! ./: :>l  ー ´ |-ミ: ヘ
         |: :| /: / { |     ∨ノヘ{
         |: :| : /  `Y    r'´    ト
         |: :|  ゝ   !- 、 ,-!  彡   ≧・
     z ≦  |: :|      ト __/}f´         `ヽ
   /     .マ∧    / {ニニニ} ヘ           Y
    |/     ∨ヘ   } /}.、 ,.} ヘ           .|
    |     /  マ:ヘ  ヘ  Y }  | /    `ヽ   |
762 : ◆FzAyW.Rdbg :2012/02/19(日) 01:35:54.68 ID:coZE4FY4o
じゃん!
>>760さんの言う通り、ほんとはこんなんじゃ甘いよな!
まあ話の流れです、黄泉川先生の懐の深さに、>>1も甘えさせて頂きます

投下するつもりでしたが、ちょっと眠い!
昼くらいには投下しますけん、よろしくです!

ここしばらく繋ぎ回で、イマイチ変化に乏しくて申し訳ない
二十五日からはいろいろ加速して参りますので、よしなに!

んじゃ!
また後で!
763 : ◆FzAyW.Rdbg :2012/02/19(日) 11:50:28.25 ID:coZE4FY4o


「おかえりなんだぞー、鋼盾掬彦」

「ただいま、舞夏。おそくなってごめんね
 ―――待っててくれなくても良かったのに」

「主人より早くに休むメイドなど、私はメイドとは認めないんだぞ

「頭がさがるね……ありがとう」

「おー」


 家に着いた時には、既に二十一時を回っていた。

 黄泉川との事情聴取自体は簡潔なものだったが、そのあと小萌のことでいろいろと誂われたのだ。

 仕事しろ警備員と言いたいところだが、言われるまでもなく黄泉川はこれから徹夜らしい。

 頭の下がる話である、それと自分が誂われることについての因果関係はサッパリだったが。


 明日、黄泉川の詰所に出頭して書類を書く必要があるのだが、それでお咎めなし。

 一時は逮捕拘束まで覚悟していたが、どうやら丸く収まった。

 否、黄泉川が、木山が、彼女たちが丸く納めてくれたのだ。


 ……まったく、借りを作ってばかりだ。

 そのうち首も回らなくなるだろう、と鋼盾は溜息を零す。

 いつかそのケジメもつけたいところではあるが、今は甘えるしかなかった。


 病院からの帰路は、事もなく平穏。

 ステイル、あるいは神裂からの接触があるかも知れぬ、と気を張っていたが、それもなかった。

 そうして自宅の扉を開ければ、昨日同様、メイドさんがお出迎えである。

764 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/19(日) 11:57:39.15 ID:coZE4FY4o


「えっと……インデックスは、隣?」


 部屋には舞夏、そしてベッドで眠る上条のみ。

 先に帰っているはずのインデックスの姿はなかった。

 風呂やトイレにも灯りはない、となれば上条の家だろうか。


「うん、待ってるって聞かなかったが、休ませた。
 ちょっとお疲れみたいだったからなー」

「ん、助かった。
 ああ、メールも助かったよ、返信遅くなってごめんね」


 舞夏から送られてきたメール。

 鋼盾が病院に到着後、すぐに彼女へ送った「遅くなるから食事は先に食べててくれ」「インデックスが帰ったら連絡をくれ」というメールへの返信だ。

 内容は、「インデックスが無事に帰宅をした」という旨と、そして「ちゃんとお話できたかも」との伝言だった。

 
 ステイルは、きちんと彼女を送り届けてくれたらしい。

 信頼していたとはいえ、安堵の溜息が溢れたのが正直なところだった。

 
 ステイルと、インデックスの邂逅。

 それはインデックスにとってきっと深い意味を持つし、なによりも。


 きっと、ステイル=マグヌスの仮面を砕く楔となるだろう。

 絶対に、だ。

765 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/19(日) 12:01:46.04 ID:coZE4FY4o


 ちなみに、初春と黒子からもメールが届いていた。

 内容は両者とも似たようなもので、今日の件についての感謝やら小言やら愚痴やら今後の後始末やら佐天は任せろやらいろいろだ。

 加えて初春のメールには「差し入れと志願書、お待ちしています」

 黒子からは「第一七七支部にて鋼盾株高騰、注意されたし」

 末尾はどちらも「このドタバタが落ち着いたらみんなで集まりましょう」とある。


 ……佐天に謝る件もある、集まるのは望む所ではあるが……正直、ちょっと行くのが怖い。

 せめて会場は、支部以外にしてもらいたいものだ。


 既にふたりへも、メールを返してある。

 内容は感謝と謝罪、下手なことを書くとエライ目に合いそうなので、慎重に言葉を吟味した。

 最後に「二十八日まで予定が詰まっており時間がとれそうにない」という旨も添えてある。




 七月二十八日。

 それは誰かの命日で、そして誰かの誕生日だそうだ。

 そしてその日は、彼女が救われる日であるべきだ。


 インデックスが過去と決別し、未来に向けて歩き出す日であるべきだ。


 寄り道はしたが、ここからは専念する。

 が、今日はもう時間も時間だ、木山が言っていたインデックスの喉を調べるのは明日にしておこう。

 頭の中で今後のスケジュールを整理してゆく鋼盾に、舞夏から声がかかった。


766 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/19(日) 12:03:01.00 ID:coZE4FY4o

?
「ところで鋼盾掬彦ー、夕食は食べたのかー?」

「……あー、そう言えば食べ損なったな。
 別にいいよ? あとは寝るだけだし」


 忙しさにかまけ、結局は食いっぱぐれてしまった。

 とは言えあまり空腹は感じていないことだし、思い出す前に眠ってしまおうと思う。

 だが、そんな鋼盾に舞夏からお叱りの言葉が飛んだ。


「だめだぞー、食べなきゃ。
 ……ちょっと、話したいこともあるんだがー、……だめ?」


 話したいことがある。

 そう口にする舞夏の顔には、どこか改まった真剣な表情が浮かんでいた。

 鋼盾としては、もちろん否はない。


「……ん、じゃあいただこうかな。
 お願いするよ、簡単でいいからね」

「すぐ用意するぞー」


 メイド服の裾を翻し、舞夏がキッチンに立つ。

 一分と待たず、茶碗に一杯のお茶漬けと、おひたしの小鉢が供された。


 シンプルながら、滋味にあふれた優しい食卓。

 部屋いっぱいに漂う美味しそうな匂いに、忘れていた空腹がぐうと鎌首を擡げた。



―――――

767 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/19(日) 12:05:22.71 ID:coZE4FY4o


「それで、話って?」


 食事を済ませ、舞夏が用意してくれた麦茶を頂いて。

 洗い物を片付けた舞夏がテーブルの対面に腰を降ろすのを見計らい、鋼盾は話を切り出す。

 舞夏は少し躊躇うも、うん、と小さく頷いて話し始めた。


「……インデックスの、事なんだがなー?」

「うん」

「ちょっと様子が、尋常じゃなかったんだぞー。
 体調が、だいぶ優れないようだったし」

「……そっか」


 インデックス。

 鋼盾は彼女に、過去と向き合うように促した。

 戦え、取り戻せと彼女を送り出した。


 過去と、向き合うこと。

 宿命と、向き合うこと。


 それが彼女にとって、どれほど覚悟を要するものか。 

 己の半生に立ち向かうことと同意といっていいだろう。


 それでも。

 インデックスは強い子だ、あの子は絶対に折れたりしない。

 だが、あまりにも大きな喪失に向かい合うのは、けして容易いことではあるまい。

768 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/19(日) 12:07:43.04 ID:coZE4FY4o


「雰囲気もな、違った。
 ……あんな顔をする子だとは思わなかったんだぞー、うまく言えないが、あれは……」


 舞夏は何かを言いかけて、結局口にはしなかった。

 あんな顔……おそらく鋼盾や上条と初めて出会った日に見せた、あの表情だろう。


 花咲くような、それでいて諦めの混じった笑顔。

 目を離すことのできない可憐さと、目を背けたくなるような疲労の入り混じった表情。
 
 死の旅に出る殉教者のような、己を擲つ聖女のような――ひどく遠い、その眼差し。


 鋼盾や上条に沈黙を余儀なくさせた、そんな表情。

 残酷な運命に翻弄されてきた女にしか浮かべられぬ類のもの。

 あれは、十五歳の少女が浮かべるべき表情じゃ、ない。


 だから鋼盾は、それを忌った。

 きみはそんなものに煩わされるべきではない、そう思った。


 それなのに、己はまたも彼女にそんな顔をさせてしまったらしい。

 ひどい話だ、必要なことだと信じてはいるが、残酷な真似だったと鋼盾は思う。


 それでも、自分は彼女の笑顔が見たい。

 二十八日の先も、ずっと。

769 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/19(日) 12:09:23.87 ID:coZE4FY4o


「……いろいろ、あれで厄介な問題を抱えてるからね、あの子は。
 でも、昼までの笑顔だって本物だ。保証する、あっちが素だよ」

「それは、ちゃんとわかってるんだぞー?
 ……でも、びっくりした、な」

「うん、たぶん明日にはいつもどおりだと思うよ。
 今日は……あー、いろいろあったから」


 幻想御手、一万人を巻き込んだその戦い。

 無数の能力が、雷槌が、銃弾が跋扈したその戦場。

“今日きみは紛うことなき戦場に立ったんだね? 
 そのストレスは、思った以上に身体を蝕んでいるものだよ?”

 カエル顔の医師の言葉を思い出す。

 そして戦場に立ったのは、彼女とて同じ事だ。


 インデックスは、ずっと冷静な眼で戦場を見据えていた。

 能力飛び交う戦場で、常に安全地帯を探し、敵を分析するその眼差し。

 おそらくは鋼盾よりもずっと、気を張っていたに違いない。


 神裂火織が絶賛した、その才能。

 戦場を睥睨し、敵を見透かし、退路を見極めるその眼力。

 
 かなしいほどに、禁書目録の名に相応しかった彼女。

 とは言えその身は普通の少女のそれ、思った以上に疲労を溜め込んでいたのかも知れない。

 鋼盾がそんな事を考えていると、対面の舞夏がポツリと言葉を零した。


「……兄貴がなー」


 兄貴。

 そう彼女が呼ぶ人間は、世界にひとりだけしかいない。

 土御門舞夏の義兄、そして鋼盾掬彦の友人。

770 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/19(日) 12:13:40.64 ID:coZE4FY4o


「……元春も、たまにああいうふうな顔をするんだ」


 土御門元春。

 彼も、インデックスと同じような表情を浮かべることがあると舞夏が言う。

 いつもはぐらかされちゃうんだけどなー? とちょっとだけ拗ねるように微笑んで。


 そうだね、と鋼盾は舞夏に同意する。

 確かに土御門元春は色々と抱えている人間だ、その苦悩は鋼盾などには測りきれるものではない。

 舞夏も多分似たような事を思っているようだと、鋼盾はなんとなくそう思った。


「なー、鋼盾掬彦ー?
 兄貴がサングラスを外したところって、見たことあるかー?

「うん、一度だけ」

「……そっか」


 昨夜のことだ。

 土御門は素顔を、その心根を鋼盾に晒した。

 誰に何を言われても外すことのなかったサングラスを外し、真剣な表情でとある願いを口にした。


 上条も、青髪も、小萌も知らぬであろうその素顔。

 それを見たのは鋼盾と、そして眼前の少女くらいなのかもしれない。


「……兄貴がこの件を私に持ってきた時から、薄々感じてはいたんだ。
 傷だらけの上条当麻と、それを背負った鋼盾掬彦の顔をみて、その想いはますます強くなってた」


 舞夏は聡い少女だ、兄が何かを隠してることくらいお見通しらしい。

 流石に魔術云々のトンデモ話とは知り得まいが、義兄がなにやら危ない事をしてるくらいは承知なのだろう。

771 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/19(日) 12:15:41.78 ID:coZE4FY4o


「そして今日、インデックスを見て確信したんだぞー。
 今回のトラブルとやらは、兄貴が私にひた隠しにしている、そういう類のトラブルなんだろうって」


 舞夏の確信は、正しい。

 魔術、十字教、学園都市の闇。

 二重スパイたる土御門元春が身を置く、世界の裏側。

 愛しの義妹を護るために彼がひた隠しにしている、いろいろなこと。


 歪に尊いその覚悟、自己犠牲的ですらあるその在り方。

 だが、それはある意味とても傲慢で、独り善がりなものなのかも知れない。

 舞夏の表情を見て、鋼盾はそんな事を思う。


 とは言え、ここで彼女になにもかもをぶち撒けるような権利は、己にはない。

 当人同士の問題だ、他人が嘴を突っ込んで良いものではないだろう。
  

 だから、返答はどうしたってこんなものになる。

 誠実といえば誠実だし、不誠実といえば不誠実なことだ。


「ごめんね、ぼくの口からは、言えない」

「……うん、わかってる。
 私が知るべきじゃないんだろうな、私自身と、なにより元春のために」


 元春と、彼女は義兄を名前で呼ぶ。

 ……だから、気持ちが入り過ぎだっての、その名前呼びは。

 まあ、気持ちが入り過ぎといえば、兄貴の方も大概か。


 果報者め、あのシスコン軍曹

 禁断の愛でも育んでればいいのだ、勝手にしやがれ

772 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/19(日) 12:18:15.29 ID:coZE4FY4o


 しかしまあ、誰も彼も難儀な恋路を往くものだ、と鋼盾は呆れる。

 ここ数日、そういう話題もいくつか耳にしたが、みんなどうにもままならない感じだ。


 土御門の兄妹、黒子、青髪はまあ、あれとして……おそらくはステイルも。

 まっとうなのは美琴くらい、とは言え相手が相手だ。敵は旗男である、南無。

 そして、その旗男はおそらく――本人に自覚があるかは別として、インデックスを。

 インデックスは……まあ、恋愛どころではあるまい。


 近親、同性、敵対、忘失、片恋……いずれもなかなかキツそうな話だ。

 ま、一番難儀なのはぼくだけど! と、しかしそこは譲らない鋼盾である。


 ……話が逸れた、逸れ過ぎだ

 多分黄泉川のせいだ、ちくしょうめ


「あのシスコン野郎もさ、あれで結構いっぱいいっぱいみたいだよ。
 ……だからさ、今は守られてあげてほしい」

「……まったく、男はいつだって独り善がりなんだぞー」

「はは、耳が痛いね」


 守る護ると言いながら、自身こそが守られていることに気づかない。

 土御門も、上条も、ステイルもそんなところがあるように思う。


 もちろん己もそうなのだろう、小萌にも先程そんなことを言われた。

 情けない話だ、まったく、男というものはどうしようもない。

773 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/19(日) 12:20:36.99 ID:coZE4FY4o


「……なー、鋼盾掬彦。
 兄貴とインデックスのこと、よろしく頼むなー?」


 土御門舞夏は、それでも笑ってそんな事を言う。

 蚊帳の外……否、箱の中の己、それを是とすること。

 あるいは踏み込むことよりも、勇気が必要な選択かもしれない。


「……ああ、任せとけ。
 どっちも大事な友達だからね」


 躊躇わず、頷く。

 願われるまでもない、鋼盾としてもそれは望む所であった。


「それにどうやら、いまぼくは仮初とはいえきみのご主人様らしいからね。
 メイドさんのお願いとあらば、何をおいても聞かないわけにはいかない」

「……なんだそれ、そんなルールはないぞー?
 ふふ、エッチなゲームの世界のお約束だったりするのかにゃー?」


 そういうのは感心しないぞー、兄貴の影響だったら鉄拳制裁モノだなー。

 そんなことを言いながら、舞夏は悪戯っぽく微笑む。


「はは、きみの兄貴とは違って、ぼくはそういうのは疎いからね。
 ―――まあ、おいしいご飯へのお礼だ」

「……ふーん、ま、信じてやるんだぞー」

 
 鋼盾所有のパソコンに、土御門が勝手にインストールしたその手のゲームがあったりするのだが、それは秘密だ。

 いやいや、まったくもって重ね重ね、男というものはどうしようもない。

774 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/19(日) 12:22:00.38 ID:coZE4FY4o


「でも、無理はだめだぞ鋼盾掬彦。
 ……インデックス、心配してたんだからなー?」


 無理をするな、と舞夏が言う。

 木山にも、黄泉川にも、初春にも、美琴にも、黒子にも、カエル顔の医師にも、小萌にも。

 そして、インデックスにも言われた言葉だ。


 まったく、心配をかけてばかりで申し訳ない。

 似合わぬ真似をしている自覚はもちろんある、つーか無茶担当が昏倒中だから仕方が無いのだ。

 ……そろそろ起きちゃくれないかな、上条くん。


「うん、肝に銘じる。今日もいろんな人にそれを怒られてきたところだから。
 ……きみもそろそろ休んでくれ、おそくまでありがとう」

「おー、んじゃ、また明日。
 ……ちょっと、となりに寄ってから帰るからなー」

「うん、よろしく」


 そう言って、舞夏は部屋を出ていく。

 感謝と敬意とを込めて、鋼盾はその背を見送った、。

 

――――――――

775 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/19(日) 12:24:02.54 ID:coZE4FY4o


 舞夏が帰宅してから、約二時間。

 鋼盾は風呂を済ますと、ネットでいくつかの調べ物を行い、そして一通のメールを作成した。

 その送信が完了したのを確認し、パソコンのスイッチを落とす。


 続いて鋼盾は携帯電話を開き、アドレス帳から目的の人物の項目を引っ張り出した。

 サ行の上から六番目、まだ一度もかけたことのないその番号。


 発信ボタンを押そうか少しばかり迷い――結局やめてしまった。

 流石に夜が深過ぎる、非常識というのもあるが、なによりも。


「夜はきみらの時間だろうしね。
 ―――それに、流石に疲れちゃったかな」


 携帯のアラームをセットし、充電用のクレードルにセットする。

 充電は大事だ、機械も人体も、それは変わらない。


 無理をするなと方々に怒られたばかりだ、今日くらいは従っておかなくては。

 既に歯磨きも済ませてある、明日も早い、さっさと寝てしまうに限る。


 明日のために。

 勝利のために。
 
 


 押し入れから引っ張り出した冬掛けの布団を床に敷き、鋼盾は寝床を用意する。

 どうやら舞夏が干しておいてくれたようで、柔らかないい匂いがした。

 ……まったく、どこまでも気の利く娘さんである、感謝感謝だ。

 鋼盾は己のベッドを占領する上条に、就寝の挨拶を放り投げる。


「んじゃ、おやすみ上条くん。
 ……違うか。さっさと起きろ、馬鹿」


 上条からは当然応えはなく、鋼盾は少しだけ笑って電灯のスイッチを切る。

 部屋が闇に包まれ、布団に寝転がると途端に眠気が訪れる、よく眠れそうだった。


 直に日付も変わろうという時刻だ。

 明日は二十五日、期限はすぐそこにまで迫っている。


 そろそろ、本腰を入れなくてはならないだろう。

 鋼盾の狙い通りに行けば、明日はおそらく―――ちょっとした分岐点になる。


 だから、今は英気を養おう。

 眼を閉じて、鋼盾は思考を放棄する。

776 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/19(日) 12:25:31.71 ID:coZE4FY4o


 夢と現の狭間。

 何もかもが曖昧になっていく中、鋼盾の頭にある人の声が響いた。

 
“……鋼盾ちゃん、あなたは盾ですか?
 それとも、盾の担い手なのですか?”


 お前は盾か、それともその盾を担う者か、と

 その声は鋼盾にそんな事を言う


“前者を望むのは無謀なのです。
 鋼ならぬ人の身では、そんな在り方は不可能なのですよ”


 肉の身では、剣は防げない

 肉の身では、銃は防げない


 声は言う

 お前は盾にはなれやしないぞ、と


“後者であるべきなのです、盾の影に身を隠し、機会を待つ。
 まずは己の安全を守るのです、それを忘れないで欲しいのですよ、先生は”


 張り詰めてなお、甘やかな声

 それは、己が本日担任教師に食らった説教の一節

 鋼盾を誰より心配してくれる、月詠小萌の言葉


 そうなのだろう

 彼女の言葉はいつだって正しい


 だけど

 だけど



「……ぼくは盾なんて持ってないですよ、先生」


 心配かけて、ごめんなさい

 でも、それでも―――――ぼくは

 
 そこで、彼の意識は途絶え

 夢すら見ない、深い眠りへと落ちていった
 
777 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/19(日) 12:26:06.09 ID:coZE4FY4o



 鋼盾掬彦。

 持たざる少年は、それでも盾でありたいと願うことをやめない。

 だから彼は、きっと前者を選んでしまうだろう


 その先に訪れる未来に、絶望の闇黒が予言されているとしても

 その更に向こうには、きっと明るい未来があると信じるているから


778 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/19(日) 12:28:30.68 ID:coZE4FY4o



 見る者はなくとも、時計は針を刻む。

 長針と短針が真上を指し、激動の七月二十四日が終わりを告げた。



 運命の日まで、あと三日

 決着の日まで、あと三日


 七月二十五日が、その幕を開けた




――――――――――
779 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/19(日) 12:36:53.10 ID:coZE4FY4o





ここまでー!
陰陽目録編メインヒロインの舞夏さんでした

土御門再構成書かないと決めたからってブッコミ過ぎじゃないだろうか
舞夏さん、うん、口調がイマイチわかんなくなってきたんだぞー?

ようやく二五日です
次回はやっとあのひとが登場予定、ホントはもっと早くに出るはずだったのに!

んじゃ、また次回!
読んでくれて感謝です
780 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/19(日) 16:39:03.05 ID:QTR9jA4DO
乙。
781 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/02/19(日) 17:01:03.27 ID:WfImDX8p0
乙!
ここから27日まではわりと駆け足になるのか、それとも首輪の露見で一悶着あるのか
どっちにしろ楽しみだ
782 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/19(日) 21:01:39.31 ID:Vr4AwjJeo
もう一月ぐらい経ってるだろと思ったら一日の出来事でした的な。
上条さん起きたら目の前の人が誰かわからないんじゃないかww
783 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/19(日) 21:24:04.68 ID:g+MxWn6c0
乙です。
そうか、これ一日の間に起きたイベントなのか。
鋼やん覚醒し過ぎだろ。ぽっちゃり日村ヘアーの姿がもう想像できないよ。

しかし、上条さんはこのスレの間に目覚められるんだろうか。
なんかもうスレタイは回収できないのが伝統と化した気もするな。
784 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/02/19(日) 22:01:19.73 ID:35/7CfzQo

この一日でコウやんはいくつのルートを切り開いたのか
……つーか上条さん、早く起きないとインさんとられちゃうぜー
785 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/19(日) 23:26:47.59 ID:GJ5sIT3AO
786 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/21(火) 21:19:56.88 ID:nBkQuoqQo
どうも>>1です
24日はやっぱ長すぎたよなー、もっとサクッと進めればよかっただろうか
短くまとめる才能が欲しい!

投下しますよー

そぉい!





――――――――――
787 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/21(火) 21:22:52.35 ID:nBkQuoqQo

    
「……ん、オッケーだ。これで提出書類も揃った。
 おつかれさま、朝から済まなかったな」

「いえ、こちらこそご面倒をおかけしました」

「いやいや、そんなことはないよ―――やっと、俺の仕事も一段落だよ。
 ……しかしまあ、幻想御手……大変な事件だったな、ほんと」

「……おつかれさま、です」

「お互い様だな。……鋼盾君だっけ? 黄泉川から話は聞いてる。
 ……難儀だな、あのコミカル女が担任とは……いや、いいヤツなんだけどな」

「え? あー、担任ってわけじゃないですよ?
 保健体育は受け持って貰ってますけど」

「……あれ? そうなの? 
 なんだ、あんなに熱っぽく語るから、てっきり受け持ちの子かと思ってたよ」

「はは……えーと、そう言えば黄泉川先生はいないんですか?
 昨日、これから徹夜じゃんしんどいじゃんとか言ってましたけど」

「ん?……あー、朝一で上層部に状況説明というか……
 いや、ありゃあ……逆に問い詰めにいった感じだったなー」

「……あー、先生らしい」

「まったくだ。
 ……あいつに言わせりゃ、今回の事件はむしろチャンスだそうだぞ?」

「……チャンス、ですか?」

「ああ、幻想御手使用者はさ、やっぱり能力弱者が多いんだよ。
 ……この街は何と言っても能力者の街だからね、いろいろ偏ってる」

「……ええ」

「それを、是正すると言ってた。この街の偏りを、だ。
 ―――簡単な話じゃないけどさ、それが俺達の仕事だと言いやがった」

「でも、それは」

「……ああ、この街の目的とは逆行するかもしれない。
 でも、それをやらなくちゃって言ってた、俺らは研究者じゃない、教師だろってな」

「ああもう、目に浮かびます。
 ―――カッコイイですね、あの人は」

「男前過ぎてこっちは立つ瀬がねえよ、まったく、あのじゃんじゃん後輩め。
 ……ま、やるしかないらしい、何年掛かるか解らないがな」

「――お疲れ様です、先生」

「ん、なにしろこの街で、生きてかなきゃいけねえもんな。
 ―――君は、どうだい? 学園都市、楽しんでるか? 将来の夢とかさー、ある?」

「……えっと」

788 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/21(火) 21:24:44.98 ID:nBkQuoqQo


 そんな、やり取りがあったりもして。

 朝一番で警備員の詰所に出頭した鋼盾が、もろもろの書類を埋めて解放されたのは十時半を回った頃だった。


 学園都市は本日も快晴、ここしばらくずっとこんな天気だ。

 青い空を飛行船がゆったりと泳いでゆく夏の一日。


 徐々に厳しさを増してゆく日差しの中、鋼盾はとりあえず帰路につく。

 家に帰るまでにやらなくてはならないことがあり、それに合う条件の場所を探しながらの道行だ。


 ……今朝、朝食の時間になってもインデックスは鋼盾の部屋に来なかった。

 舞夏に様子を見に行かせるとまだ寝ており、怠そうだったのでそのまま寝かせておいた、とのことだ。


 肉体的、精神的な疲労によるものか、はたまた傷の治療の副作用がぶり返したのか。

 あるいは――――期限が迫っているせいなのか……いずれにせよ、心配だ。


 だが、彼女を傍で見守っているわけにもいかない。

 その役は舞夏が十二分に果たしてくれるだろうし、なにより他にやるべきことがある。


 ひとつは、警備員詰所への出頭……これは今終わったところだ。

 ひとつは、インデックスの喉に仕掛けられた“首輪”について調べること。
 

 そして―――本当は昨夜のうちにやるはずだった、とある目論見。

 逆転の狼煙になるかどうかはまあ――五分五分、といったところだろうか。


 平たく言えば、下拵えだ。

 それを今から、やらなくてはならない。

 

 鋼盾は気を引き締めて、今一度頭の中を整理する。

 思索に沈んでゆく彼の、その背中に誂うような声が掛かった。 

789 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/21(火) 21:25:57.73 ID:A8pq+8sDO
キテルー
790 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/21(火) 21:26:44.66 ID:nBkQuoqQo


「ふむ、相も変わらず冴えない顔をしているな。
 ……まったく、もっとしゃんしてほしいものだけど」

「……真面目に、考え事してたつもりなんですけどね、これでも」


 挨拶にしては手厳しい。

 だが、実に彼女らしいと鋼盾は思う。


「背筋を丸めて考えても、妙案など出るわけがないけど。
 ふんぞり返って偉そうにしているくらいがオススメだぞ、後輩」

「―――先輩、そういうのすごい似合いそうですよね」


 苦く甘く、深く染み入る独特の口調。

 含蓄に富み皮肉を効かせ好奇心を泡立たせたカプチーノのような。

 油断すると極苦のエスプレッソだったり、気まぐれに砂糖をひとつまみなんてこともあるけれど。


 いつもの彼女だ。

 とある高校のミステリアス部門ぶっちぎりの第一位。


「奇遇だな、鋼盾」
 
「……こんなとこでなにやってんですか、雲川先輩」

「挨拶が聞こえないんだけど、後輩」


 黒髪、カチューシャ、傾いだ顔は小作りで嫋やか。

 にんまりと、その口元がなんとも艶やかに笑みを象る。


「ああ、すいません。
 こんにちは、雲川先輩」

「うむ、久しぶり。
 ……ま、終業式の日に会ったばかりだけど」

791 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/21(火) 21:32:41.18 ID:nBkQuoqQo


 雲川芹亜、性別、女。

 学年不詳、クラス不明、神出鬼没の神算鬼謀。

 
 六月の“とある事件”で知り合った、鋼盾掬彦の先輩である。

 鋼盾や上条とは割と馬が合うのだが、土御門や吹寄とはイマイチ反りが合わないらしい。

 青髪については、鞭しかやらない調教師と犬のような間柄だ。

 どっちがどっちかについては、言うまでもないだろう。


「……つか、会うなり“冴えない”はやめてくださいよ。
 冴えないのは百も承知ではありますけど」

「それは努力が足りないからだ。
 私は後輩の奮起を促すべく、敢えて心を鬼にしているんだけど」

「……痛み入ります」


 そんな事を言ってのけるこの先輩、流石の冴えまくり美人さんである。

 艶やかな黒髪をカチューシャで纏め、晒したおでこは知性の証。

 今日もデフォルトでへそチラだ、エロいったらない。

 そして気づく、夏休みだというのに、彼女は制服を着用している。

792 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/21(火) 21:34:45.78 ID:nBkQuoqQo


「つーか、どうしたんですか先輩。こんなところで制服姿で。
 ……補習の帰りとかですか? あと目のやり場にこまるからおへそしまって下さい」

「私が補習? つまらん冗談だ。
 別に夏休みに制服を着ちゃいけないなんて法はないんだけど」


 あとへそチラは私のオシャレ道――譲れないんだけど、と雲川は付け加える。

 へそチラはおいておくとして、なるほど、この人が補習を受ける姿は想像できない。

 というか、そもそも授業を受けているところがイマイチ想像できないくらいだ。


 頭のいいひとなのだ、とても。

 視野が広く、理解が深く、なにより先を見透かすほどの智謀智略のリアル孔明。

 その上えらく口が上手い、更には、繰り返すが問答無用の美人である。


 まさに最強。

 泣く子も黙る先輩キャラだ。


 鋼盾がそれを思い知った六月の一件は、既に彼らの通う高校において伝説と化している。

 一年七組デルタフォースの名前を学校中に轟かせたあの事件は、いろいろな意味で衝撃的すぎた。

 そしてその事件の中心に居たのが、他ならぬ彼女であった。


 しかしそれなのに結局、雲川芹亜という人についての情報はついぞ流れることがなかった。

 情報通の土御門、そして女性徒についての情報網でなら土御門すら上回る青髪ピアスをして、雲川芹亜の情報は掴めなかったという。


 とんでもない。

 というか、明らかに異常だ。

 案外、このひとも魔術師だったりするんじゃないだろうか、などと鋼盾は思う。


 ……うわあ、ありそうで怖い。

 最近、知り合いが都市伝説の住人だったり世界の裏を駆ける魔術師だったり、そんなんばかりなのだ。

 面白すぎだろお前ら、畳め、キャラ畳め。

793 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/21(火) 21:39:11.17 ID:nBkQuoqQo


「……なんというか、先輩が本当に先輩なのかが最近疑わしくなってきました。
 そういえばクラスはどこなんでしたっけ、先輩の」

「不穏な会話だな、後輩。
 こんないい天気に相応しい会話とは思えないけど」


 あまりに適当なはぐらかし方。

 それなのに、それだけで一切の追求を許さないような空気を一瞬で作り上げてしまうのがこの人だ。

 うまく言葉にはできないが、「周囲に空気を読ませる」ことを強制するような雰囲気を、ほんの一瞬で構築する。


 能力なのか、スキルなのか。

 ―――それもすらどうでもよくなってしまうのだから、ずるい。


「……なら、上条くんの面白トークでもしましょうか。
 彼、また人助けに奔走していますよ。なんでも今度の敵は悪の魔法使いだとか」


 そんな先輩は、例によって旗男に旗を立てられていたりする。

 ……あらためて、とんでもねえなあの野郎。

 爆発しろ。


「へえ、そいつは興味深い。
 ―――そしてどうやら……お前もそれに一枚噛んでいるようだけど」


 くつくつと笑う雲川。

 ここまでの鋼盾の台詞に、関連を窺わせるようなものは一切なかったはず

 それなのに、圧倒的な確信を含むその口振り。


 驚きはない。この人ならそれぐらい知っていてもおかしくないような気さえする。

 あるいはブラフの類だろうか、それならそれで鮮やかなものだ。


 凡百な後輩としては恐れ入るしかない。

 ……だが、ほんの少しだけ意趣返しだ。

 
794 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/21(火) 21:45:03.07 ID:nBkQuoqQo


「そうですけど。巻き込まれてますけど。いつものことですけど」

「……パクんないで欲しいんだけど」


 泰然自若の正体不明。

 どこか土御門を髣髴とさせるような、ある種傍観者めいた立ち位置。 

 あるいは彼女もまた、ヒーローヒロインからは遠い位置にいる人かもしれないと鋼盾は思う。


 物語を牽引する主人公は、いつだって自分以外の誰かで。

 でも、脇役は脇役で人生を謳歌していたりする。

 鋼盾がなんとはなしに彼女に感じるシンパシーは、うまく言えないがそういう感じだ。


 上条当麻に捕まってしまったぼくら。

 英雄譚の脇役同盟である。

 まったくもって難儀な話だが、居心地がいいんだから仕方が無い。

795 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/21(火) 21:47:31.76 ID:nBkQuoqQo

「……まあ、いつもどうりに巻き込まれてますよ。
 まったく救いがたいことに今回は、自分から望んで」


 素直に認める。

 噛んだのは一枚どころじゃないけれど。


「いいことだ。若いうちの苦労は買ってでもするべきだけど。
 ……それで? おもしろい話、聞かせてくれるんだろう?」



 シニカルに笑いながら、雲川芹亜が鼻先を突っ込んできた。

 その目に名状しがたい輝きを湛えて、なんとも楽しそうに。



――――――――
796 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/21(火) 21:52:23.22 ID:nBkQuoqQo




ここまで

雲川先輩です、ずっと書きたかったキャラなのですが、それっぽく書けているでしょうか
>>1は上雲派だったりします、同士求む!

本来は「幻想御手に縋った鋼盾に説教をする役」な予定だったのですが、
小萌やステイルが思いの外喋りすぎたため、見せ場をとられてしまった御人です

ちょっと短かかったですが、今回はこの辺で
次回は雲川先輩のターンですよー

んでは、また!
797 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/21(火) 21:56:22.55 ID:A8pq+8sDO
乙。
798 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/02/21(火) 23:02:35.39 ID:7VOPgtQ00

誰が出てくるんだろうと思ったら雲川さんとは!
799 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/02/22(水) 08:18:22.82 ID:3vm05CeAO
おっぱい
800 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/22(水) 13:59:59.39 ID:PeHAeW7uo
いっぱい
801 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/02/22(水) 15:10:14.68 ID:1svN6ckGo
チェリーぱい
802 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/23(木) 00:35:54.70 ID:QI1Se0xW0
鋼盾まわりが強力で首輪とかコレどう苦戦すんのレベル
803 : ◆FzAyW.Rdbg [sage]:2012/02/23(木) 00:37:49.84 ID:73ezQ/oao
>>799−801
おまえらの今後がしんぱい

どうも>>1です、レス感謝。
雲川先輩、どうも新約二巻読む限り超巨乳なんだよな
風斬以上とかマジかよ……もうちょっと控えめだと思ってたよ

2800突破! 
それはそれとして、今晩投下に来ます! 予告!

あ、質問です
誰か舞夏と雲川先輩の身長ってわからんかな?
あと貝継さん、ルックスについて描写あったっけ?

ご存知の方いらっしゃったら、教えろください
それでは、また夜に!
804 : ◆FzAyW.Rdbg :2012/02/23(木) 00:42:24.59 ID:73ezQ/oao
あ、もうひとつ!
鞠亜ちゃんて雲川妹とは明言されてないけど、別に妹でいいよな?
ぼかしたほうがいいかな?
805 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/23(木) 01:08:12.19 ID:xCgwEm5N0
期待。
鋼盾君が根回しして下拵えしてと、なんかもう磐石過ぎるな。
上条さんは行き当たりばったりが基本だというのに。
806 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/23(木) 01:08:33.69 ID:nigdFTAQ0
やっと追いついた。
とても面白くて一気に読んじゃったぜ。
これ読んでると戦闘城塞マスラオのヒデオを思いだす。
本人弱いのに周りが強いあたりとか、眼光で相手をひるませたりするところとか。
面白くて更新速いって素敵!
807 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/02/23(木) 01:58:28.89 ID:fUwnRA9g0
乙!
身長はググったけどわからんかった
画像とかから判断するしかないんじゃないかな
舞夏はインデックスと同じくらいっぽいけど
808 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/02/23(木) 07:50:01.21 ID:MDwssABAO
鞠亜と掬彦で掬鞠コンビ
809 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/02/23(木) 14:28:54.95 ID:KYT/caAbo
俺はなんとなく進撃の巨人のアルミンを思い出した
ルックスは全然違うけど
810 : ◆FzAyW.Rdbg :2012/02/23(木) 21:27:32.20 ID:73ezQ/oao
ちょっと投下遅い時間になるかも

仕事が終わんなくて持ち帰りです
Indesignが荒ぶるぜーPhotoshopが火を噴くぜー

またあとで!
811 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/23(木) 21:49:13.34 ID:dDB1XxD40
おー、デザイン業か。同じだな。

がんばー
812 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/02/23(木) 23:07:31.28 ID:oyH5NNiuo
挿し絵付けてもいいのよ?
813 : ◆FzAyW.Rdbg :2012/02/23(木) 23:58:57.78 ID:73ezQ/oao
まだ今日だ!
今から投下します!





――――――――――
814 : ◆FzAyW.Rdbg :2012/02/24(金) 00:00:52.55 ID:6TPfwFsjo


「――理解に苦しむんだけど。なんだその理屈は。
 それともアレか、脳の容量云々は比喩かなにかなのか? たいして上手い喩えとも思えないけど」

「―――やっぱり、おかしいですよね」


 場所を近くの公園に移し、鋼盾と雲川は木陰のベンチに座る。

 鋼盾が背後関係を適当にぼかして、完全記憶能力者の少女の記憶を消そうと目論む魔術師とやらの話をしてみると、雲川は呆れたように溜息を吐いた。


「……老齢の完全記憶能力者などいくらでもいるだろうに。
 その理屈が正しいなら、彼らは十歳を待たず死んでしまいそうなものだけど。
 考え過ぎて死んだ人間はいても、記憶のし過ぎで死んだ人間なんて聞いたことがないな」


 いるなら見てみたいものだけど、記憶のし過ぎで死んだ人間とやらを。

 脳が破裂する? 沸騰する? 癌化する? いずれにしても愉快な死体になりそうだけど、と雲川は笑う。


 そう、土御門から話を聞いて、ずっと疑問に思っていたのがこの点だった。

 全体の八五パーセントが魔導書とやらに圧迫され、彼女の脳に余裕はないという。

 しかし、逆に考えれば一五パーセントの余裕があるのだ。

 それがたったの一年で埋め尽くされてしまうなんてことが、あるのだろうか。

815 : ◆FzAyW.Rdbg :2012/02/24(金) 00:03:16.94 ID:6TPfwFsjo


 一昨日、木山春生とパン屋で交わした雑談を思い出す。

 驚異的な記憶力を誇る人間などたくさんいる、と彼女は言っていたではないか。

 たとえばキム・ピーク、そしてシィー……彼らが何歳まで生きたのかは知らないが、少なくとも子どもではなかった筈だ。
 

「そもそも脳の容量なんて言葉がおかしい。人間の脳はビーカーでもバケツでもないんだけど」

「……記憶も、水じゃない、ですね」

「ああ。ニューロンを繋ぐはシナプス、そのネットワークで構成されるのが記憶というものだ。
 詰め込めば溢れるような、そんな単純な仕組みじゃない筈なんだけど」


 つーかアラキドン酸を摂れ、摂って海馬を労われ、と雲川は呟く。

 必須脂肪酸のひとつ……動物性食品に豊富、だっただろうか。

 インデックスなら喜んで食べるだろうな、と鋼盾は笑みを浮かべ、すぐに消す。


「じゃあ、やっぱり嘘っぱちですか」

「それはわからないけど。でも、突っ込みどころが多すぎる。
 そもそも“知識”と“思い出”というのは記憶される場所も違ったはずだ。
 他にも“なんでぴったり一年で症状がでるのか”とか“どうやって記憶を消すのか”とかいろいろあるけど」

「……なるほど」


 漠然とした違和を感じながら、うまく言葉に出来ずにいた鋼盾の疑問。

 それを雲川は怜悧な舌鋒で削りだしてゆく。


 やっぱり頭のいい人間というのは、違う。

 そう、やはり魔術師たちの言う事はおかしい。理屈が通らない。


 ああステイル、そして神裂

 きみたちは、きっと
 
816 : ◆FzAyW.Rdbg :2012/02/24(金) 00:04:33.41 ID:6TPfwFsjo


「上条くんの話だと、襲撃者さんは完全にそう信じてるみたいです。
 ということは、そう信じさせた奴が背後にいるんでしょうね」

「その子の頭に入ってる情報とやらは貴重なんだろう? 
 私にはわざわざ人間に記憶させる意味がわからないのだけど。
 ―――まあ、首輪だろうな。飼い主の義務と取れなくもないが」


 首輪。

 木山春生、仮初の未来予知も、そんな言葉を言っていただろうか。 

 彼女の喉にそれがある、と。


「鍵で、保険で、ともすれば時限爆弾、つまりは安全装置。十中八九そんなとこだろう。
 定期的なメンテナンスだとしておけば――ああ、同時にその襲撃者たちの離反も防げるというわけだけど」


 少女のために、そいつらは踊るわけだ。
 
 脳科学的にはともかく、なかなかよく出来た仕組みだけど、と雲川は笑う。

 まるで滑稽劇をみるような目で笑っている。


「というか、そんな重要人物が逃亡できるというのがそもそもおかしい」

「…………ですね」


 考えてみれば、そのとおりだ。

 そもそもどうしてインデックスが日本にいるのか、それすらも鋼盾にはわからない。


「背後の組織とやらがよっぽど無能なのか……いや、何らかの意図があるに決まってる。
 ぶっちゃけ、その逃亡劇自体が茶番である可能性もありそうだけど」

「……彼ら三人とも、踊らされてるだけかもしれないってことですか?」

「お前と、上条も、或いは」
 
817 : ◆FzAyW.Rdbg :2012/02/24(金) 00:07:41.37 ID:6TPfwFsjo


 人形劇のようだな、と雲川は笑う。

 その言葉に鋼盾は、糸を絡めとる長い長い指を夢想する。

 死神のそれよりも青く萎びたその指が、算盤を弾いている。


 糸の先の人形繰。

 黒幕の目的は、一体どういうことになるのか。

 そもそも黒幕とは誰のことなのか。


 土御門の言う“上”。学園都市の上層部。

 そして、イギリス清教の中枢。


 密約があると聞いている。

 その内容とは、如何なるものであろうか。

 誰にメリットがある? なんの意味がある?

 なぜ、こんな中途半端なことになっている?

 
 彼女が逃げて未だにここいるのは、その方が都合がいいからだとしたら。

 そもそも彼と彼女の出会いが、偶然じゃなかったとしたら。


(……上条くんとインデックス、“幻想殺し”と“禁書目録”
 この二人を出会わせることが、目的?)


 方や全ての異能を否定する常識外の右手

 方や十万三千冊の魔導図書館

 ……自分はまあ、オマケのようなものだろうが。


 その二人を会わせることで何が起こった? 

 例えば、歩く教会の破壊、禁書目録のガードを崩すことが狙いだとすれば?

 或いは上条当麻、埒外の幻想殺しを魔術師との戦闘に巻き込ませることが狙いだとすれば? 


 あるいは――これから何かが起こるのか? 


 インデックスを救い出すことが出来たとして、どうなる?

 彼女があらゆる枷から解き放たれたとして、どうなる?


 想像したくもないがインデックスが記憶を喪ったとして、どうなる?

 その命を落散らしたとして、どうなる?


 なにが、起こる?

818 : ◆FzAyW.Rdbg :2012/02/24(金) 00:09:51.74 ID:6TPfwFsjo


 科学と魔術の交差するこのふざけた物語は、一体どこに進もうとしているのか。


 例えば学園都市の能力開発をイギリス清教が忌い、何らかの工作を仕掛けようとしているとしたら?

 学園都市が禁書目録を手にすべく、罠を張り巡らせているとしたら?

 科学と魔術を習合し、より高き階梯へとヒトを押し上げるような試みがあるとしたら?

 鋼盾には思いつきもしないような、遠大な目的があるとしたら?


 刻限は近い。

 もう、時間はない。

 何かが起きる、あるいは既に、何かが起きている。

 そして、それが何に繋がる?

 その全てがその誰かの掌の上であるとすれば……?


(いや、これはさすがに……)


 ねえよ、と鋼盾は断じる。

 あってたまるか、そんなもの、流石にそれはない。


 荒唐無稽だ、なんだその超推理、つーか超展開過ぎる。

 根拠もないし、はっきり言って妄想としかいいようがない。

 インデックスが上条の部屋に落ちてきたのは確かに運命的だが、単なる偶然だった筈だ。


 でも――そう、例えば。

 それが予知されていたとしたら?

 幻想殺しと禁書目録、この出会いを知っていたものがいるとしたら?

 利用できると考えた、何者かが居るとしたら?


 バカ、それこそ妄想だ。

 そんなレベルの予知能力者などいない。

 しかし―――未来視の原石、第六位“天意天眼”、猟犬部隊に連れ去られた高位の未来予知……。


 ……ああもう、だからそれは都市伝説だろうに。

 だが、都市伝説が真実を含み得ることはこの数日間で嫌になるほど―――
819 : ◆FzAyW.Rdbg :2012/02/24(金) 00:11:41.59 ID:6TPfwFsjo


「…………ありえ、ない」


 ……煮詰まり過ぎだ、馬鹿が頭を回しすぎるな、妄想も大概にしろ。

 頭を振ってそれらを打ち消そうとした鋼盾は、じっと己を見据える雲川の瞳に気付いた。


 目と目が合う。

 背筋に、怖気が走った。


 それは喩えるなら樹齢千年の捻れた古木に空いた虚のような深淵。

 ぞっとするほど底の知れぬ眼差しに、鋼盾はその視線を縫い止められる。


 ああ、やはりこの先輩、美人さんである――知っていたつもりだったが、舐めてた。

 雲川芹亜という女性の美貌は、いうなれば理知の美にして調和の美。

 しかし、その瞳に宿るものはそこからもうひとつふたつ、“いって”しまっている感じの美しさだ。


 貪婪淫乱たる好奇心――ああ、この人には全てを見透かす水晶玉が異常に似合う。

 それこそ、神裂火織などよりよほど魔女に近い。

820 : ◆FzAyW.Rdbg :2012/02/24(金) 00:13:30.71 ID:6TPfwFsjo


「……今、お前が何を想像したかは知らないけど」


 たっぷり数秒ほど鋼盾の目を見据えた後、ようやく雲川がその口を開いた。

 眼を合わせたまま、毒蛇のように舌が跳ねる。


「“その程度”のこと、お前に思いつく程度のことならば、ここでは簡単に起きるぞ。
 ありえない、そんな言葉こそありえない――それが、この学園都市だけど」


 ありえないなんて、ありえない。

 確かにこの街は、この世界は、いつだって鋼盾の想像を超えてゆく。


 人の意志は、正であれ負であれ極まれば奇跡を起こしうる。

 木山春生の一件を経て、鋼盾もそれを痛感したはずだった。


 なにより他ならぬ己自身が、それを成そうと足掻いているのだ。

 常識に囚われている場合ではない、それは可能性を狭めることと同義だ。

821 : ◆FzAyW.Rdbg :2012/02/24(金) 00:15:05.46 ID:6TPfwFsjo


「……ありえないなんて、ありえない」

「そうだ、可能性を狭めるな。願望で眼を曇らせるな。
 数字で物事を捉えつつ、しかし数字だけに囚われるな」


 己の言葉を噛み締めるように呟く鋼盾に、雲川は言葉を重ねてゆく。

 この女は全てを知っているのではないか、そんなことを思わせるような口振りで。


「他の人間に思いつく程度のことなら、そいつらに任せておけ。
 時間は有限だが、それを言い訳にするな。お前が無限に加速すればいい」
 

 雲川芹亜。

 鋼盾は与り知らぬことだが、この街の深部に籍を置く才女が見てきた闇は深い。

 その闇を払うための武器を、雲川はふたつしか持っていなかった。


 ひとつはナイフの如く鋭利な舌鋒。

 そして、もうひとつは。


822 : ◆FzAyW.Rdbg :2012/02/24(金) 00:16:55.13 ID:6TPfwFsjo


「思考することをやめるな鋼盾掬彦。
 考えろ、想像しろ、突き詰めろ、疑え、悩め、迷え―――頭を使い続けろ。
 かわいい後輩、今のお前にできることはそのくらいだけど」


 考える続けること。

 それは、あきらめないこと。


「記憶のし過ぎじゃ、人は死なない。
 私に言わせれば、人類は皆脳味噌を使わなすぎだけど。
 ……そうだな、私の死因は“脳の酷使”というのも悪くないかもしれん」


 灰になるまで脳を回し続けると雲川は笑う。

 灰になるまで脳を回し続けろと雲川は笑う。 


 刀槍を執り、拳を握り、走り回るだけが戦闘ではない。

 異能を操り外法を操り、超常の力を奮うばかりが戦闘ではない。


 たとえ停滞と罵られようと、頭を回し続け、情報を集め続け、最善を目指し続けること。

 そんな戦いだってある。


 そしてそれはそのまま、鋼盾掬彦が己に任じていたことだ。


「――先輩は、そうやってずっと戦っているんですか」

「当然だけど。それが私の仕事で、在り方で、生き方で、役割だから。
 お前もそうなれ、そしてあの考え無しの不幸少年を支えてやればいい」


 あんな愉快で刺激的なバカはなかなかいない、そういって小さく笑う雲川。

 まったく同感だが、しかし上条当麻が絡むとこの人もなんだか子どもっぽくなる。

 印の旗が翻っている―――ああもう、かわいいじゃねえかちくしょうめ。


 まったく、旗男め。

 人たらしめ。

 そろそろ起きろよ、馬鹿。

823 : ◆FzAyW.Rdbg :2012/02/24(金) 00:24:09.99 ID:6TPfwFsjo


「ハ……説教など、私らしくもないことだけど」

 
 本来ならギャランティーが発生するところなんだがな、と雲川はクク、と皮肉っぽく笑う。

 似合わぬ真似が楽しくてしょうがないようだ、なによりである。


「――なあ鋼盾、お前からはよくわからないけど、ヒト化けしそうな空気を感じるんだよ。
 なんというか、孵化する前の卵を見てるような気分になる」

「……つまり、今はヒヨコ以下ってことですか」


 雲川に言わせれば、鋼盾は卵だそうだ。

 孵らずの卵、無能力者である己にはぴったりだが――鋼盾は少しばかり拗ねてしまう。


 だが――雲川は言った。“孵化する直前”と。

 それは、空恐ろしいほどに木山の予知と符合する発言だ。

 彼女は“咲く”と評した。種は芽吹き、茎を伸ばし葉を広げ蕾を付けて、花を咲かせると。


「拗ねるな莫迦……別に鶏卵に限ったつもりはないけど。
 なんなら竜でも不死鳥でも―――いや、決める必要すらないな。
 卵に入っているのはな、いつだって可能性というヤツだよ、後輩」


 嗜めるように雲川はそんな台詞を口にする。

 卵と可能性、使い古された比喩だろう――それを信じるには己は少しばかり純粋さが足りないようだ。

 そもそも――可能性の話など、無能力者には残酷に過ぎる。

824 : ◆FzAyW.Rdbg :2012/02/24(金) 00:26:22.28 ID:6TPfwFsjo


「時に後輩。私は幼稚園児の時分に冷蔵庫から取り出した無精卵を孵そうと、
 一週間ほど頑張ってみた事があるんだけど」


 生まれた時から不遜に振舞っていたかのように思える先輩にも、そんな時代があったという。

 己を母鳥に重ねて卵を大事そうに掻き抱く少女、なんとも微笑ましい姿である。


「……はあ、それはなんとも意外なエピソードですね。
 可愛らしい話です……それで、どうなりました?」

「落とした」

 
 ……まあ、そんなオチになるだろう。

 卵なんて孵るか割れるかしかない、そして無精卵が孵る筈もない。


 幼き過去の己、その失敗談。

 懐かしむように、雲川芹亜は眼を細めた。


「随分泣いたよ、ヒヨコにつける名前まで考えていたんだけど。
 鞠亜……妹に母がかかりきりな時期でな、一種の代替行為だったのかな、あれは。」

「……御愁傷さまです。で、どういう反応すればいいんですか先輩。
 卵な僕はせりあちゃん(5歳)落とされないように気をつけろみたいなことですか」


 割れた卵を前に大泣きする、せりあちゃん(5歳)が脳裏に浮かぶ。

 まあ利発そうなお嬢ちゃんだった……つーか先輩、妹さんいたんですね。


「……せりあちゃん(5歳)は勘弁してほしいんだけど。
 ああ、話はここからだ――もし、あの時、私が卵を落とさなかったら、どうなっていたと思う?」

「どうなってって……傷んじゃったんじゃないですか。孵るわけないでしょう。
 無精卵から命が生まれるなんてありえない――という言葉がありえない……でしたっけ?」

「物覚えのよい後輩でなにより。
 ……卵は孵るよ鋼盾。いつになるかは知らないけど」


 卵とは鋼盾を指していたはずだ。

 なんだろう、これは……応援?

 先輩から後輩への、なんかこう、無責任な感じの。

825 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/24(金) 00:28:49.86 ID:6TPfwFsjo

「……つまり、アレですか? 自分を信じてガンバれよ的な」

「ん、あー……そういうわけでもないんだけど。
 正直、私は己を信じるばかりが能力発現の鍵だとは思えない」

「……えー」


 やすやすと能力開発の根幹を否定する雲川。

 自分だけの現実を笑い飛ばすような口ぶりは痛快ですらあったが、理解が及ばない。

 無駄なことを滔々と喋るような人ではないはずだが、意図は読めないままだ。


「まあ、あまり深く考えてくれるな。
 お前は卵で、そんなお前を温めてくれる人たちがいる。
 それだけ覚えておけばいいんだけど」


 そんな、なんともロマンチックなセリフを口にする雲川芹亜。

 正直言って、彼女が何を言いたいのか鋼盾にはさっぱりわからない。

 ただ、ひとつだけわかるのは、なんだか、このひと……。


「……楽しそうですね、先輩」

「楽しいよ。ふふ、これでなかなか、私はこの世界を愛してるけど。
 ―――お前はどうなんだ後輩? なんだかんだで、お前は私と同じく現状肯定派だと思っていたけど」


 それは、そうだ。

 この日々がずっと続けばいい。

 小萌が担任で、デルタの三人や吹寄らクラスメイトと一緒に、そこに雲川を含めてもいい。

 
 平穏無事な学校生活。

 デルタフォースと馬鹿をやって、吹寄に怒られ、クラスメイトに囃し立てられ、小萌に窘められ、雲川に誂われる、そんな日常。

 幻想御手なんかに手を出してしまったけど、それが鋼盾の願いであることは間違いない。

 それだけで、きっと自分は幸せだった。



 ――でも


826 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/24(金) 00:29:30.06 ID:6TPfwFsjo


「それでも、現状維持だと救われない子がいるんです」


 その平穏には、あの子がいない。

 残酷な運命に囚われた少女が、そこにはいない。


 今更知らぬふりなど出来るわけがない。

 インデックスの幸福なくして、もはや鋼盾の平穏はありえない。


「ぼくは、そしてあいつも、それを良しとしないですから。
 ――先輩も僕と同じで上条くん派ですから、わかりますよね」

「! くくっ、上条派か。確かにそうだけど。
 ああ、いいなソレ。そうかそうか、私もオマエも上条派、というわけだな」


 ツボに入ったのか、笑いが止まらないといわんばかりの雲川。

 なんだよ上条派ってと思わないでもないが、判るやつには判るだろう。

 メンバーには学園都市の第三位と10万3000冊の魔導図書館もいるという豪華絢爛っぷりだ。

 雲川はひとしきりくつくつと笑うと、意外な台詞を口にした。


827 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/24(金) 00:30:32.23 ID:6TPfwFsjo


「……いいだろう、同士の誼だ。どうしようもなくなったら私を訪ねろ後輩。
 ―――知恵のひとつくらいは貸してやらんでもないけど」


雲川芹亜が微笑む。

 先程までのくつくつ笑いでも、唇の端をつりあげる皮肉な笑みでもない、ゆるゆると心の裡を透かすようなほどけた笑み。

 ……ああ、こんな顔もできるのか、このひとは。


「……ありがとうございます、先輩」


 鋼盾も素直に笑みと感謝を返す。

 夏空の下、先輩と後輩はそんな遣り取りをした。



 学園都市統括理事会の一角、貝積継敏のブレインを務める天才少女・雲川芹亜。

 この時交わしたこの約束が、後に鋼盾を救い、しかし新たな波乱を巻き起こすことになるのだが――――



 それはまた、別の話。





――――――――

828 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/24(金) 00:53:36.59 ID:6TPfwFsjo


ここまで……やべえ今ちょっと落ちてた
つうわけで、雲川先輩でした。大好きです

鋼盾の指標というか師匠なポジというか、そういう立ち位置にしたかったのですが
やっぱりその役は小萌や木山と被るので割を食って登場が遅れました

でもやっぱもっと早くに出しときゃよかったぜ!
終業式らへんであの台詞言わせときゃよかったなぁと今にして後悔
やはりプロットはきちんと組まなきゃですね

遅まきながらレス感謝です
いつも力をもらっていますぜ!

>>802 >>805
どちらかというと、行き当たりばったりで核心を掴む上条さんがすごい

>>806 >>809
よく追いついてくれた! 戦闘城塞マスラオ、読んでみようかな
アルミンいいよね、既に心臓を捧げた兵士!みたいな台詞は痺れた

>>811 >>812
専門職というわけではなく、若いからとAdobe系を押し付けられた身です
あと画像処理と絵心は違うぜ! 絵心ある人がいたら描いてくれてもいいのよ(チラッ


んじゃ、また次回!
次もよろしくです!


829 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/02/24(金) 01:08:08.59 ID:AAGjCv0o0
乙!
「コウやんは学園都市の闇に挑むようです」って感じ?
上条ちゃんの側にいると色々見えてくるから嫌でも暗いほうを認識しちゃいそう
830 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/24(金) 04:02:54.42 ID:DhlPsCY+0

これは三巻で雲川が諦めないフラグでよろしいか
831 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/25(土) 03:10:39.42 ID:9OjiMXZf0
乙。雲川先輩かっけえ。
こんな師匠がいたなら、鋼盾くん覚醒も納得がいくな。
しかし、インデックス救出の裏にある諸々にもちゃんと意識がいってるのか、鋼盾。
その辺までケアした救済は、本気で難しいと思うがなぁ。
832 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/02/25(土) 11:38:47.99 ID:4c3qMG1AO

伏線ゲットだぜ
833 : [乙]:2012/02/25(土) 15:28:58.13 ID:8dvIOjdy0
834 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/25(土) 22:26:54.86 ID:A4tDlTEx0
ようやく追いついた。
詐欺条さんとは違った角度の頭脳戦。
主人公の成長物語。
いやいやホント楽しく読ませて頂きました。
835 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/26(日) 00:34:00.75 ID:E9SPeN++o
ちょっと筆が乗ったので投下
二十五日は書きたいシーンが多くてテンション上がるぜ!

雲川との最後のシーンは、正直思わせぶりなだけですが
新約二巻で雲川先輩が妹達の件を嘆いていたのが印象的だったので、つい

雲川先輩、魅力的なキャラだと思うんだがなあ……
みんなもっと書いてくれー

詐欺条さん、さわりだけ読んであとで読もうと思ったら消えてたぜ!

んじゃ、投下


――――――――――
836 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/26(日) 00:35:32.76 ID:E9SPeN++o


 去りゆく雲川の背を見送って、鋼盾はひとりベンチで空を眺める。

 まったく、自分の周りの女性陣はみんな強くて困る。

 ……いや、どっちかといえば上条くんの周りが、なんだろうなと鋼盾は笑う。


 皆の強さの種類は実に様々だが――おいても、雲川芹亜のそれは、おそらく

 鋼盾掬彦の目指すそれに、きっと重なる部分が多い。
 
 今この時、そんな彼女と話ができたのは、僥倖だった、
 

 神様すら問い殺してしまいそうな先輩

 真似できる気はしないが――それでも、あれをやってみよう

 
 あの日から、考えることだけはやめなかった。

 腕力はなく、異能もなく、ルックスも金も足りてはいない、つまらないデブだけど。


 それでも、ずっと

 ぼくはぼくで――ずっと牙を砥いできたのだ

837 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/26(日) 00:36:15.37 ID:E9SPeN++o


 さて、と鋼盾は携帯電話を取り出す。

 最近登録数の増えたアドレス帳、サ行の上から六番目を選択し、発信ボタンを押す。


  ……一コール、二コール


 耳元でコール音が響く。

 相手が取ってくれるかは、正直五分五分と言ったところか。


  ……五コール、六コール、七コール


 無視されても仕方がない、と鋼盾は思う。

 自分が彼の立場にあったら、きっとこの電話は取らないだろう。

 ―――だが、律儀な男であることは確かだ。


  ……十コール、十一コール、十二コール


 今、彼はどんな顔をしているだろうか。

 ……多分、苦虫を噛み潰したような顔をしているんじゃないだろうか。


  ……十五コール、十六コール、十七コール


 忌々しげに携帯を睨み据え。

 忌々しげに煙を口から吐き出して。

 忌々しげに吸いかけの煙草を地面に投げ捨てて。


『…………誰だ』


 ……忌々しげに、通話ボタンを押すのだ。

 その二〇コールの葛藤、如何程のものか。


 律儀な男だ、本当に。

 ステイル=マグヌスという男は。

838 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/26(日) 00:37:55.55 ID:E9SPeN++o


「ぼくだよ、鋼盾掬彦だ」


 ……さあ、始めよう。

 インデックスのことだ、楔のひとつやふたつやみっつやよっつ、打ち込んでいることだろう。

 あの子は自然体でひとの心にするりと入り込む天才だから。


 魔術師の鉄仮面を溶かしうる、生命を燃やす少女の魂鑪。

 炎の魔術師よ、ステイル=マグヌスよ、おまえはその熱に何を見た?

 インデックスの覚悟と決意、その気炎に何も感じなかったなんて言わせはしない。


「昨日は助かったよ。
 ―――インデックスと話は弾んだかな、ステイル」

『………鋼盾。
 なんで君がぼくの電話番号を知っているか、聞いていいかい?』

「電話帳に載ってたよ」


 スーパーハカーの電話帳に、ね。

 ……やっぱり初春さんには借りができちゃったかな、これは。

 早く返さねえとヤバイな、絡め取られる。

 とは言え今はそれを置く……今はそれどころではない。


 既にして、ここは戦場。

 電話というのは実に偉大な発明だ。

 地球の裏側にだって、声を届ける事ができる。


 言葉を届けることが出来る。

 想いを届けることが出来る。
839 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/26(日) 00:40:15.38 ID:E9SPeN++o


「……まあいい。
 何の用だ、鋼盾掬彦……。馴れ合う気はないと言った筈だ」

「つれないことを言わないで欲しいね、ステイル。
 ……ちょっと話がしたいだけだよ」
 
 
 敵はステイル=マグヌス、魔術師

 神秘と外法の繰り手、常識の外にいる存在だと人は言うだろう。

 それはどうしようもない事実だ、しかしあくまでも一面に過ぎないと鋼盾は思う。


 なにせ、彼らの手の中には携帯電話がある。

 便利な便利な文明の利器を、しっかり使いこなしている。


 彼らの元にも月毎に請求書が届くのだろう、今月は使い過ぎたと反省をしたりするのかもしれない。

 プランの変更を検討したり、機種変更で最新機種に買い換えたりすることもあるだろう。

 ポチポチとメールなどを作成したり、アラームを目覚ましにしたり、アプリをインストールしたり……


 つまり、そういうことだ。

 何のことはない、彼らもぼくらと何も変わらない。

 連中はちょっと変わった学問を修めただけの、どこにでもいる現代人だ。

 絵本に出てくるような魔法使いではないのである。


 ならば、いくらだってやりようがある。


 鋼盾掬彦は笑う。

 牙を打ち鳴らすように、笑う。

 笑わずにはいられない。

 
840 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/26(日) 00:41:34.44 ID:E9SPeN++o


 隙だらけだぞステイル=マグヌス。

 偉そうに煙草なんか燻らしてるんじゃねえよ、ガキめ。 


 きみは、選択を誤った。

 その炎で、何もかもを燃やしてしまえばよかったのに。


 魔術師たらんと願うなら、きみは昨日あの子を送るべきではなかった。

 ぼくらを敵と断じるなら、この電話になぞ出るべきではなかった。

 鋼盾掬彦の口車などに、乗るべきではなかったのだ。


 ステイルだけではない、神裂も同様だ。

 彼らが問答無用で実力行使に出ていれば、間違いなく自分たちは詰んでいた。


 一昨日の晩の強襲を思い出す。

 上条にそうしたように、鋼盾も一緒にボコボコにしてしまえばよかったのだ。

 あとはインデックスが倒れるまで待っていれば、それでおしまいだったのだ。


 ―――だが、彼らはそれをしなかった。

 その炎で、その刀で何もかも終わらせることの出来るはずの彼らは、しかし対話に応えてくれる。

 何の力も持たぬ者相手に力を奮うことをよしとしない彼ら、その有り様はきっと気高い。


 それは余裕ゆえか、誇りゆえか、傲りゆえか、優しさゆえか、それとも――迷いゆえか。

 どれでもいい、いずれにしても好都合だ。


 だって、それは隙に他ならない。

 決定的な隙だ、どうしようもないほどに。 


 だから無能力者なんかに漬け込まれることになるのだ。

 呪いを浴びるはめになるのだ。

 
841 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/26(日) 00:45:31.73 ID:E9SPeN++o

 
 人の持ちうる全ての武器の中で、もっとも貫通力に優れる武器とはなにか。

 それは言葉だ、そんなことをかつて雲川が言っていた。


 己は彼女ほど弁は立たないが―――それでも一応口は付いている。
 
 問うべきを問い、示すべきを示し、糾すべきを糾す、そのくらいはやってみせよう。

 だって、ここは鋼盾掬彦が定めた、己の戦場なのだから。


 戦闘には鉄則がある、経験の浅い鋼盾すら知っている鉄則だ。


 曰く“相手が一番嫌がることをやれ”

 或いは“弱点を探し、それを躊躇わずに突け”


 至言だろう。

 ならば、それに倣うのは当然のことだ。

 己の弱さを知るものであれば、尚更に。


 ねえ。

 言うまでもないことなんだけど、さ。

 ステイル=マグヌス、そして神裂火織、ぼくはきみらの弱点を知っている。

 炎熱の魔術師、令刀の聖人、お前らふたりをただのガキにする魔法の呪文を知ってるんだ。


 能力者に魔術は使えないそうだけど、さ

 ―――魔法は、なにも魔力によってしか成し得ぬ業というわけじゃない


 鋼盾掬彦は、躊躇わずその魔法の言葉を口にする。

 とある少女を指し示す、カタカナ六文字を口にする。

 
842 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/26(日) 00:48:39.26 ID:E9SPeN++o


「インデックス」

『………………』
 

 相手は沈黙。

 だが――手応え有り、だ。


「あの子のことで、ちょっと話したいことがあるんだけど」

『…………言ってみろ』


 はい、釣れた。

 聞いちゃうんだもんなあ、いいヤツなんだよホント。

 インデックスの傍にいるのがきみたちでよかったと、鋼盾はあらゆる意味でそう思う。


 ステイル=マグヌス

 神裂火織

 
 思考を放棄しておきながら、しかし迷いを抱え続ける半端者。

 お前らには徹底が足りない、それは即ち――弱さと同義だ。


 強くあろうと誓ったのだろう、ステイル。

 ぼくらの目指すところは同じだと、きみは笑った。


 あの子を助けたいと言ったな、神裂。

 ポロポロと涙を流して、おまえは心底からの本音をぶちまけた。


 インデックスのためにいっぱいいっぱい、そんなきみらを愛おしくすら思う。

 だが――そんなザマでは守れやしないぞ、弱くなってどうするのだ。


 おまえらは、弱い。

 許しがたい為体だ、無様にも程がある。

 そのくせあたかも強者であるかのように振る舞うその驕慢、その厚顔――唾棄に値する。

 それを認めぬと言うのであれば――こちらにも考えがある。


「ありがとう、ステイル。
 ……さて、なにから話したものかな」


 と、言いつつ話す内容も順番も、とっくに決まっている。

 鋼盾は昨日からずっと、そればかりを考え続けてきたのだから。

843 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/26(日) 00:49:20.36 ID:E9SPeN++o



“思考することをやめるな鋼盾掬彦。

 考えろ、想像しろ、突き詰めろ、疑え、悩め、迷え―――頭を使い続けろ。

 かわいい後輩、今のお前にできることはそのくらいだけど”


844 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/26(日) 00:52:01.01 ID:E9SPeN++o


 先程雲川に貰った、その言葉を思い出す。

 ああもう、まったくもって、その通りだ。

 ……結局のところ、無能力者である鋼盾掬彦の戦いは、そういうものになる。


 伝説の剣も、魔法の杖も、賢者の石も持たない己。

 今更持たざるを嘆くことなどしない、そんなものがなくとも戦うと決めたのだから。


 さあ、魔術にも能力にも腕っ節にも依らぬ戦いを始めよう。

 知るがいい外法の使い手ども、持たざる者の無様な咆哮とて、貴様等に届き得るということを。


 おまえらが悲劇に酔っている間に、こっちはずっと策を練っていた。

 シチューを煮るように、大鍋いっぱいに呪を煮込んでいる。

 じっくりコトコト、かき混ぜた数だけおいしくなるだろう。


 鋼盾が歯を軋らせる、牙を打ち鳴らす。

 逃しはしない、と獰猛で酷薄な笑みを浮かべる。

 
845 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/26(日) 00:53:07.71 ID:E9SPeN++o



 さあ、話をしようステイル=マグヌス。

 ぼくらの目指すべき未来についての話をしよう。

 あの子の幸せについての、話をしよう。



846 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/02/26(日) 01:05:48.24 ID:E9SPeN++o

――――――――――



ここまで、ちょっと短いかな
二七日までは駆け足? いやー、この>>1にはそれはちょっとできなさそうでござる
間延びしないように気をつけなきゃですね、とは言えあんまり長くはなんないと思います

殴り合いはできないから電話越しに喧嘩を売ってやんぜ! 
……こんな主人公ですいません、無能力者の戦い、こういうのはいかがでしょうか

ステイルも神裂も、徹底が足りない
半端なのです、隙だらけです、その優しさ、甘さこそが鋼盾掬彦の勝機

携帯を閉じれば簡単に終わらすことのできる戦場
どうなることやら

今週は結構投下にこれましたが、来週は予定がキツめ
どうにか一回くらいは来たいものです

んじゃ、次回!
またね!
847 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県) [sage]:2012/02/26(日) 01:14:31.10 ID:G/ncT/kg0

やっぱり25日26日も盛りだくさんなのねww
848 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/02/26(日) 04:16:10.44 ID:nJ4mwDeAO

コウやん!
がんばれー!
849 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/27(月) 11:04:25.40 ID:OG7i71cJ0
ほう
850 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/27(月) 21:33:49.59 ID:s26awOKo0
乙です。
徹底が足りないってのは正にだよなぁ。
上条さん相手に一番有効なのは単純な力押しだと思うんだ。
851 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/02/29(水) 10:41:11.71 ID:AMVnGpplo
852 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/02(金) 00:22:22.68 ID:0ZwWI9oeo
ども、>>1っす
ここ数年、どうにかしねえとと思いつつ放置していた親知らずを抜いてきました
いや、まだあと三本残ってるんですけどね……先は長いぜ

明晩更新したい! まだ七割くらいだけれど!
決意の予告age!!

853 : ◆FzAyW.Rdbg :2012/03/02(金) 00:24:31.10 ID:0ZwWI9oeo
酉忘れのage忘れだと……
ちくしょうめ!

よければお付き合い下さい
んでは、明晩
854 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/02(金) 11:25:58.87 ID:r6gnDgBzo
855 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/03/02(金) 11:59:02.79 ID:oQ+wNAyAO
856 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/02(金) 14:32:17.18 ID:fxjqhSs3P
857 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県) [sage]:2012/03/02(金) 16:44:30.19 ID:JLor1EXAo
858 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/03/02(金) 17:06:47.09 ID:r1m/VJVUo
859 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/02(金) 17:52:08.84 ID:E1ZPvLTIO
860 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/02(金) 19:19:22.50 ID:pAJh3d7Lo
861 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/02(金) 19:20:11.73 ID:9sFoM+Pso
862 : ◆FzAyW.Rdbg :2012/03/02(金) 20:29:16.67 ID:0ZwWI9oeo






と、小萌先生な台詞を紡ぎ上げるおまえらの巧みな連携!
恐れ入るぜ! 感謝です


さて、投下といきましょう
すこしばかり長くなりそうですが、読んでいただけると嬉しいです


それでは、参ります


そぉい!


――――――――――

863 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/02(金) 20:33:08.90 ID:0ZwWI9oeo


「まずは、昨日のお礼を言わせてもらおうかな。
 ……インデックスを送ってくれて、ありがとう」

『……構わないさ。
 ―――だが、約束は守ってもらうぞ、鋼盾』


 昨日の幻想猛獣との戦いの折、鋼盾がステイルと交わしたその約束。

 “然るべき時が来たら、あの子をこちらに引き渡せ”

 その言葉に、確かに鋼盾は是と答えた。


「ああ、わかってる。
 ……でもさ、あの時も言ったと思うけど、そんな時はこないよ」

『くるさ、鋼盾。
 これまでずっと、そうだったのだから』

「これまでそうだったからといって、今回もそうなるとは限らない」


 もう、悲劇を繰り返すことは許さない。

 鋼盾が、上条が、それを許さないと決めているのだ。

 そんな鋼盾の物言いを、ステイル=マグヌスは否定する。


『不可能だ―――そんな絵空事を口にするな
 ……空約束は、主義じゃないと言っていただろうに』

「そうだね」


 主義じゃないよ、その通りだ。

 空虚な約束なんて、だから蹴飛ばしてやる。

864 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/02(金) 20:35:12.92 ID:0ZwWI9oeo


「……ねえ、ステイル。
 ぼくがさ、インデックスを助ける手立てを見つけたと言ったらどうする?」

『信用できない』


 応えは即時……全く、容赦の無い事だ。

 予想通りのその反応に、鋼盾は歯を軋らせる。

 気に入らねえよその思考停止、呪われろ魔術師。


 だが、その感情を表には出さずにおく。

 今はその時ではないのだ、貯めこんでおけ。


 吠えず喚かず、静かに深く。

 緩急が大事である、喧嘩腰では始まらないのだ。


「手厳しいね――――信用できない、か。
 ……そうだね、そうだろう。だけどステイル、それはこちらの台詞だよ」

『――何が言いたい、鋼盾』
 
「……まあ、聞いてよ。
 ずっとね、考えてたことがあるんだ」

『……………………』


 ステイルは答えない。

 沈黙は肯定と鋼盾は受け取り、言葉を紡ぐ。


 ――それでは、まずはこのあたりから始めてみようか。
865 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/02(金) 20:38:55.16 ID:0ZwWI9oeo


「“インデックスは完全記憶能力者”“脳の多くを魔道書に占められている”
 “彼女の脳には余裕がない”“一年ごとに記憶を消さねば、彼女は死んでしまう”
 ―――――そうだったね?」

『……ああ、相違ない』


 土御門から聞いた、その話。

 イギリス清教からの公式アナウンスである、その理屈。


 だが―――脳という器官ひとつとっても、様々な捉え方がある。

 きみらにとっては知識の蔵くらいの認識なのかもしれないが―――科学のメスは容赦がないぞ、魔術師。


 いまならわかる、わかってしまう。

 それは虚言だ、ステイル=マグヌス。


「そうして一年ごとに、あの子は記憶を奪われてきた。
 すべての記憶を、奪われてきた――そうだね?」

『……そうだ』


 そうかよ、魔術師。

 ならば、質問だ。

 
「それなら―――どうして、記憶を消されてしまったあの子はさ。
 未だにイギリス清教の修道女として、確固たる信仰を保ち続けることができるのかな」


 まずは、そこに行き当たるだろう。

 鋼盾は、インデックスの告白を聞くまで、彼女が記憶喪失などと全く思わなかった。


 だって少女は、あんなにも美しく手を組み、祈りを捧げていたのだから。

 型破りではあったが、あんなにも確かにシスター、修道女だったのだから。


「おかしいよ。全ての記憶が消されたなら、あの子は信仰心すら失う筈だ。
 信仰についてはぼくは物知らずだけど、あれは日々の積み重ねの上にあるものだろう?
 それなのにどうして―――それを喪ったあの子はそれを保っているんだ?」


 神への信仰は脳ではなく魂に刻まれるとでもいうのか? 笑わせるな。

 作為があるに決まってるじゃねえか、馬鹿。

866 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/02(金) 20:46:30.72 ID:0ZwWI9oeo


「ねえステイル。
 あの子はどうして、禁書目録という使命に疑問を持たない?」


    “イギリス清教が創りだした十万三千冊の魔道図書館。
     禁書目録、それがわたしなんだよ”


「どうしてあの子は、自分で決めたわけでもない魔法名を名乗るんだ?」


    “魔法名はdedicatus545
     ―――献身的な子羊は強者の知識を守るって意味だね”



「どうしてあの子は、イギリス清教を味方だと思い込んでいる?」


    “だいじょぶなんだよ。私もひとりじゃないもの。
     教会を探して匿ってもらえれば、それでオーケーなんだよ!”


「すべてを忘れてしまった筈のあの子が、どうしてああも強く在れるんだろうね」


     “あなたがたの往く道に主のご加護と幸多からんことを”


「……不自然なのさ、あの子は。
 記憶を破壊されて、異国で一人ぼっちで、正体不明の敵に追われて……
 一五歳の女の子が、そんな状況であんなに強く、聡く、健気でいられるわけがない」


                 “ばいばい”


「……でも、あの子はそれを成している。
 ―――それがどうしてなのか、わかるかな、ステイル」

867 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/02(金) 20:50:15.19 ID:0ZwWI9oeo


『……何が、言いたい』


 鋼盾による矢継ぎ早の問に、ステイルは硬い声で問いを返す。

 声に込められた感情は苛立ちが三、困惑が三、疑念が三―――そして、興味が一、といったところか。

 その一をどこまで引き上げられるかが、この問答の勘所である。


「もちろん、インデックスの記憶破壊について、だよ。
 全ての記憶を消してるわけじゃない、必要な記憶は残しているんだ。
 ―――そうだろ、ステイル?」

『…………ああ、そのようだね』


 ……よろしい、認めたな。

 そう、単純な記憶喪失ではありえない。

 まずは、そこを認識させなければ始まらない。


 話はそれからになる。

 話はこれからになる。


「随分と器用に記憶を消すじゃないか、恐れ入るよ魔術師さん。
 ……その取捨選択権は、誰にあるんだい? その術式は、誰が編んだのかな?」

「……術式は、イギリス宗教のものだ。
 最大主教から、託された―――――勿論精査は済んでいる」


 術式の精査は終わっているという、なるほど、記憶消去についてはそうなのだろう。

 一年ごとに術式の更新を行なっている、そんな可能性もあるかもしれないと思っていたが、そうでもないらしい。

 最大主教――土御門曰く“上”だっただろうか。

 禁書目録を作ったのは、そいつだと聞いている。


 ―――まあ、関係ないといえば関係ない。

 術式も目論見もまとめて潰すのだから。

 ウチの幻想殺しがやってくれますから、ね。


 その、邪魔はさせない。

 この一幕は、そのための布石なのだから。

868 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/02(金) 20:55:41.72 ID:0ZwWI9oeo


「うん……そうして、記憶を消されたあの子は眼を覚ますわけだ。
 過去を全て奪われて、ひとり重荷を背負って―――きみらは、それをずっと見てきた」

「…………ああ」
 

 その嘆息混じりの肯定に込められた感情は如何ばかりか。

 見ていることしかできなかった七月二八日、それは彼女の命日で誕生日。


 ステイル=マグヌスの悲劇。

 神裂火織の悲劇。

 土御門元春の悲劇。

 歴代のパートナーたちの悲劇。

 
 繰り返されること、実に六回。

 ―――もう、ここらでその幕を下ろそうじゃないか。


 その悲劇のサイクルに、ここで終止符を打とう。

 あの子の未来の為に、ここでその連鎖を断ち切ろう。


 鎖を千切り、首輪を外す

 そのために、鋼盾掬彦は戦うと決めたのだから

869 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/02(金) 21:00:12.06 ID:0ZwWI9oeo


「……ぼくもね、ずっとあの子を見ていたよ。
 高々一週間だけど、インデックスと共に過ごしてきた。
 それで、気付いたことがある」


 インデックス。

 禁書目録、魔道図書館という残酷な宿命を背負った、その少女。

 聖女の仮面の向こうには、稚い普通の少女がいることを鋼盾は知っている。


「……魔道書、強固な信仰、魔術についての知識、自己犠牲の精神、
 そしてイギリス清教への帰属意識、そのための類まれな危機回避能力。
 あの子を禁書目録たらしめるすべてが、全て揃っている」


 初めて会ったあの日、既に彼女は禁書目録だった。

 己の役目はそれだと、何ひとつ疑いもせずに。


 初めて会ったあの日、彼女はイギリス清教を目指していた。

 己の所属はそこだと、なにひとつ疑いもせずに。


 それが、答えだ。

 くそったれ。


「……記憶消去は苦肉の策、イギリス清教の本意ではないときみたちは言う。
 だが、あの子が記憶を失っても、イギリス清教は何一つとして困らない」

『そんな事はッ! ……っ』


 思い当たる節があったのだろう。

 そうとも、記憶とは人格であり、感情であり、柵であり、過去である。

 いずれも、禁書目録には必要のないものだ。

 
「――ううん、むしろ記憶がない状態こそが、おそらくは禁書目録のデフォルトなんだ。
 最低限の必要な記憶―――誰にとって必要な記憶かは、わかるよね」

『…………』


 問うまでもないことだ。

 イギリス清教に決まっているだろう。

 ステイル、神裂――おまえらの所属する、イギリス清教に決まってるんだよ。


「ねえ、神父さん、魔術師さん……ぼくを信用出来ないと言ったね?
 それは仕方ない……でもさ、必要悪の教会は、きみの職場は、きみの上司はさ。
 ――――ほんとうに、信用できる?」


 出来るわけがない。

 なにが必要悪だ、呪われろよ外道。

 鋼盾の言葉は、そんな色で染め抜かれていた。


 それを受けて、ステイルの苛立った声が応える。

 焼き払うように、乱暴に。

870 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/02(金) 21:02:14.70 ID:0ZwWI9oeo


『……黙れよ、素人』

「質問に答えてくれよ、玄人さん。
 ……都合が悪いからって耳塞いでんじゃねえよ、ガキ」

『……鋼盾、貴様ッ!!』


 声を荒らげたな、ステイル

 ―――ぶっちゃけ掌の上だよ、オマエ。
 

 さあ、喧嘩だ。

 科学も宗教も、能力も魔術も、素人も玄人もない、殴り合いといこうじゃないか。


 自分でもこの台詞はどうかと思うけどさ、ねえステイル

 電話越しなら多分、ぼくの方が強いぜ?

871 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/02(金) 21:03:29.33 ID:0ZwWI9oeo


「答えたくないなら答えなくていい、次の質問だ」

「どうだろう、ステイル。あの子を人間として見てるかな、必要悪の教会は」

「……禁書目録なんて名前をつける連中だ、推して知るべしだろうね」

「備品なんだ、あの子は」



 まずは足場を揺らしてやれ、まっすぐ立てないくらいに強く

 逃亡を許すな、足を奪え



「備品にはさ、定期的にメンテナンスが必要だろう? 義務だといってもいいかもね」

「年に一度のオーバーホールだ、オーバーホールって知ってるかい? ステイル」

「一度バラバラにしてさ、ピカピカに磨き上げるんだよ」



 ふらつくその背に蹴りをくれてやれ

 コカしてコケにして、平常心を奪ってしまえ



「いや……フォーマットの方が適切かな」

「大事なファイルだけ避難しておいて、初期化する」

「まっさらだね、ふりだしに戻るってヤツだ」

「ふりだしがどこかなんて、言わなくてもわかるだろう?」

「大事なファイルというのがなんなのかもさ、言うまでもないね」



 倒れた所にのしかかり、組み伏せろ

 マウントを取れ、起き上がる暇を与えるな


872 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/02(金) 21:05:31.66 ID:0ZwWI9oeo
 

「……いらない記憶、都合の悪い記憶」

「あるいは人間性、かな」

「魔道図書館の司書に、心なんていらないんだろうね」

「名前すらも、すでにない――それさ、人間性の剥奪だよ? 虐待だ」

「そこだけ見ても英国清教の意図は明確だ」

「禁書目録でしかないのさ、あの子は」


 さあ拳を握れ

 強く強く、拳を握れ


「だからもちろん、きみらとの思い出なんてものもいらない」

「いらないんだってさ、きみたちと過ごしたあの日々は」

「ぼくらと過ごした、この日々は」

「いらないんだって、だから消すんだってさ」

「……悔しいね、悔しいよ」



 握った拳を高く振り上げろ

 そしたらガードの上からでもいい、思いっきり打ち下ろせ


873 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/02(金) 21:07:01.77 ID:0ZwWI9oeo


「……年に一度、ブックカバーを掛け替えるように、あの子から記憶を奪う」

「そうすればもとどおり、まっさらの禁書目録が出来上がりだよ」

「それをこれまで六度繰り返した、六回も、だ」

「ねえ、ステイル―――あの子は何回死ねばいいんだ?」



 穿て穿け、捻り込め

 体重を乗せろ、手加減など無用だ



「ステイル、そして神裂――きみらはブックカバーだ」

「歴代のパートナーさんたち、みんながそうだね」

「貴重な禁書目録を汚さないための」

「替えの利く、ブックカバーだよ」



 殴れ殴れ

 休むな、迷うな、躊躇うな



「……いや、違うな」

「あの子に付いた汚れなんだ、ぼくらは」

「御大層な目録に付けられた手垢だよ――英国清教は、それが気に入らないんだろう」

「その手垢こそを、ぼくらは思い出と呼ぶんだけどね」

「柵だったり、恥ずかしい過去だったり―――まあ、つまりは記憶だ」



 拳を打ちおろせ、ガードも鼻柱も圧し折ってやれ

 芯の芯まで響かせろ



「それはさ、いらないものらしい」

「悔しいね、許せないよ」

「あの子を人形にしておきたいのさ、イギリス清教は」

「ふざけんじゃねえよ、なにが必要悪だ」



 刻み付けろ、この怒りを

 けして消えぬように、入念に穿ち込め


874 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/02(金) 21:09:19.23 ID:0ZwWI9oeo


「……ぼくはきみの事を信じているよ、ステイル」

「神裂さんのことも信じよう」

「―――でもね、イギリス清教や必要悪の教会のことは信じちゃいない」



 握った手の中にあるもの

 それを打ち込んでやれ、深々と、二度と取れないくらいに
 


「禁書目録なんてものを作るような組織を、信じるつもりはないよ」

「あの子に犠牲を強いるようなヤツらを」

「信じられるわけがない」

「だから」



 だから

 そのふざけた幻想を

 この拳で

 言葉で

 意志で



「否定してやる、きみらの正義を」



 ぶち壊してやる


875 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/02(金) 21:11:13.95 ID:0ZwWI9oeo


「―――答えろよステイル、きみの敵は、誰だ」

『……あの子に害を為す者すべてが、僕の敵だ』


 ……いいね、頼もしい台詞だ。

 そうとも、ぼくらは盾であることを願った。

 その為に、強くなろうと誓った。


「そうだね、ぼくも同感だ。
 ゆえに、イギリス清教はぼくの敵だよ。
 あの子に害をなすイギリス清教は、ぼくの敵だ」

『………………ッ!』
 

 それはおまえのことだ、英国の狗。

 ……でも、それはきみのことじゃない、ステイル。


 お前は誰だ、ステイル=マグヌス。

 応えてみせろ、灯台守。


「さて……それを踏まえて、もう一度聞こうか。
 ぼくらはさ―――きみらの敵かな、ステイル」

『………………』


 沈黙

 沈黙

 沈黙


 そして

876 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/02(金) 21:13:12.64 ID:0ZwWI9oeo


『……ああ、そう「遅えよ」


 遅い。

 鉈を振るうように、鋼盾はステイルの解答を叩き斬る。


「即答できない時点で、だめだよ。
 ダメダメだ、きみは。無様だよ、どうしようもない」


 遅い、遅すぎる。

 弱すぎる。

 その躊躇がなにを意味するのか、きみは知るべきだ。

 逃げずに、それに立ち向かうべきだ。


「あの子のために強くなると言ったね、ステイル。
 神裂さんもそうなんだろう、そうとも、きみらは強い、すごく強いよ。
 ―――だけど、その力を向ける相手を見定められないようじゃ、話にならない」


 強者を名乗り、それに相応しい力を保持していようとも。

 聖人と呼ばれ、それに相応しい力を保持していようとも。


 それを向ける先を知らぬなら、おまえらはただの愚者に過ぎない。


 滑稽だ、ステイル=マグヌス

 無様だ、神裂火織


 そんなことだから、おまえらは

 こうして悲劇を繰り返すのだ

877 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/02(金) 21:15:32.91 ID:0ZwWI9oeo


「ぼくらはきみらの敵じゃない、きみらもぼくらの敵じゃない。
 ……もう一度聞くぞ―――ステイル、きみの敵は、誰だ」


 ぼくらの敵は、同じだ。

 誰であろうと倒すと言ったろう? ステイル。

 あの誓いは、嘘か?

 そうじゃないと言え。

 言えよ、魔術師。


『……すべて、推測だ。証拠が、ない』

「―――――はは、テンプレだ」
 

 馬鹿野郎。

 そんな台詞しか言えないのか、ステイル。

 追いつめられて証拠をよこせと言い出すなんて、フラグ以外の何者でもないぞ。

 
 説得は届かず。

 まあ、口先だけでは駄目なのは最初から分かっている。

 これだけじゃ、流石に転びはしないだろう。
 

 だが――言質は取った。

 証拠を見せろと言ったな、ステイル。

 その言葉が聞きたかったんだよ、ぼくは。

878 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/02(金) 21:17:24.52 ID:0ZwWI9oeo


「証拠、か。まあ、きみの言うことももっともだね。
 じゃあ……その証拠とやらを持ってこようかな」


 それが、トドメの一撃となる。

 逃しはしない、と言外に告げ、鋼盾は証拠の提示を約束する。


『……昨日の別れ際、あの子に兆候が出たよ、頭痛だ。
 その頭痛は彼女を苛み続け、いずれは昏倒へと追い込むだろう」


 ステイルは鋼盾の言葉には答えず、そんなことを口にする。

 インデックスに、彼女にとうとうタイムリミットが訪れた、と。

 その言葉に、鋼盾は今朝の、舞夏とふたりきりの食卓を思い出す。


 今朝も結局、鋼盾が出かける段になってもあの子は起きてこなかった。
 
 ―――だが、それは記憶の累積によるものではない。

 おそらくは、彼女の喉に仕組まれた呪こそが、その原因だろう。

 
「……期限は七月二十八日の午前零時、あと二日、だよね」
 倒れるのは何時くらいかな?」

『……二十七日には、動けなくなるだろう』

「そっか」


 ならば、まだ時間はある。

 既に材料は揃っている、あとは上条が起きれば大丈夫だ。

 一切合切を、彼の右手が破壊してくれることだろう。


 鋼盾は、そう信じている。

 だが、ステイルは違う意見のようだった。


『……ぼくらは二十七日の夜に、そこを訪れる。
 約束は守ってもらおう。その時には無意味な抵抗はしないでくれ』


 どうか、どうかと。

 ステイルの言葉には、無自覚な嘆願の色すら混じっている。


 だが、鋼盾はそれを蹴飛ばす。

 その逃避を許すことはできない。


 それを嘆きで終わらせるな

 そんな願いを口にするな

 そこで終わるな、頼むよ最強。

879 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/02(金) 21:20:32.29 ID:0ZwWI9oeo


「諦めるなよ、ステイル=マグヌス」
 
『……知ったような口を聞くな、鋼盾掬彦』


 知ったような口じゃない、知ってるんだよステイル。

 知っていて、それでも諦めないだけだ。


「まだ時間はあるじゃないか。なにをやっているんだよ、きみは。
 足掻いてみせろよ、守るんだろ? あの子を」

『希望で事実を捻じ曲げるな。時間など、どこにもないッ!』

「……ねじ曲げているのはそっちだろう、目を逸らしてんじゃねえよ。
 時間がないなんて言う奴は、怠け者と相場が決まっているだろうに」

『……僕や神裂が、この三年間なにもしてこなかったとでも思っているのかい?
 あらゆる文献を漁り、幾多の術式を試した―――それでも、方法はなかった』

「探した? ……ハ、どこを探したか言ってみろ、魔術師」


 何があらゆる文献だ、どうせ魔術書の類であろう。

 医学書は読んだのか? 脳科学や心理学、それらの論文はどうだ?


「方法がない? そんなことはないよ、諦めることなんて、ないんだ。
 ぼくは見つけた、あの子を救う手立てを見つけたんだよ、ステイル、神裂」

『っ! だから! 信用できないと言ったはずだ!』

「手段を選ばないんじゃなかったのか? そう言っただろう、きみは、あの夜に」


 あの日、鋼盾の部屋で、ステイルは確かにそう言った。

 手段を選ぶなと、反則でも裏技でも禁忌でも、使えるものはなんだって使えばいいと。

 守るべきもののために、盾になるために。

 強くなろうと。


 きみが、そう言ってくれたのに。

 ……どうして他ならぬおまえがそこで足踏みをしてるんだよ、ステイル。

880 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/02(金) 21:22:44.67 ID:0ZwWI9oeo


「選べよ、ぼくらを。利用しろ、学園都市を。見限れよ、魔術を」


 つまんねえ意地を張るんじゃねえよ、ステイル。

 泣くぐらい悔しいならさっさと正直になれよ神裂。
 

 インデックスを、助けたいんだろう?

 助かるんだよ、あの子は。


 だから選べ、ぼくを選べよステイル、神裂。

 身を捨ててこそ浮かぶ瀬がある、それがあの子を掬い上げる。

 未来視の女の保証付きだ、それは約束された未来だ。


『もういい……二十八日零時、僕らは彼女の記憶を奪う。確定事項だ。
 君らもどうせ失敗する、どうせ絶望するんだよ、鋼盾」


 絶望。

 そう、それも予言されていた。

 だが彼女は、インデックスの首輪は外されるとも言った。


 ならば鋼盾は躊躇わない

 それが例え絶望への道行きだとしても、躊躇うはずがない


「埒が開かないね―――また、連絡するよ。
 次は証拠をくれてやる」


 お前が望んだ証拠をくれてやる。

 だから逃げるな、魔術師。

 頼むよ、ほんとに。


「明日にもまた電話を入れる。
 それまでに考えておけ、きみの敵がだれなのかを」

『………………』


 ぶつり

 別れの挨拶もなく、ステイルが通話を打ち切った

 鋼盾はやれやれと携帯を閉じ、それをポケットへとしまいこむ。


「っと、怒らせちゃったかな。
 ……でもさ、挨拶もなく切るってのはちょっと失礼だよね」


 そんな事を欠片も思っていない口振りで、鋼盾は笑う。

 笑って、眼前の女に声をかける。


881 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/02(金) 21:25:17.41 ID:0ZwWI9oeo


「ねえ、そう思わないかい?
 ―――この刀、そろそろどけてほしいんだけど、さ」


 喉元に突きつけられた日本刀。

 その先に立つ女へ、鋼盾は笑いかける。


「しばらくぶりだね、神裂さん」

「………………」


 今一人の魔術師、神裂火織

 英国清教が誇る令刀の聖人が、そこに立っていた

 張り詰めた無表情の中、その瞳に暗い炎を燃やして


882 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/02(金) 21:30:07.12 ID:0ZwWI9oeo




――――――――――


ここまで!
ステイルとのわくわくトーク、いかがだったでしょうか
そしてこのSSでもっとも割を食っていると名高い、初代スレタイの神裂さんが久しぶりの登場です
どうなることやら

読んでくれて感謝です!
次回も一週間以内になんとか!

んでは、また!
883 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/02(金) 21:41:11.47 ID:h623KN6DO
乙ー
コウやんかっけえなあ
884 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/02(金) 21:43:34.46 ID:PJWsDBNoo
いや、もしかしたら冷静を装う為にドライアイスを体中に貼り付けてるのかもしれん

クールの元
885 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/03/02(金) 22:24:51.06 ID:oQ+wNAyAO


鋼と火、そして盾。相性はいいんだろうなこの2人
886 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/03/03(土) 00:11:08.95 ID:PctuIQD5o
>>853-862
小萌「……明晩、待ってるのですよ鋼盾ちゃん」


なんというエロス!
887 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/03(土) 00:21:29.78 ID:x7m7SU9Qo
その発想は無かった
へんたい!
888 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/03/03(土) 04:55:20.99 ID:mchn4xBAO
今更だけどなんか思考と言動がキャラデザを逸脱しすぎてすげーコレジャナイ感。
初春がみさきちみたいな仕草としゃべり方してる感じ。
[ピザ]のマッシュルームなんだからもっと相応にカッコ悪くていいのに
889 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/03(土) 13:03:28.36 ID:cLTyiS3M0


そうですよね顔が悪いやつは分相応にカッコ悪くいるべきですよねww
身の程を知るべきですよねww

糞が
俺だって、イケメンに生まれたかった
890 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/03(土) 15:19:05.32 ID:mDPd/8+So
>>888
[ピザ]でもかっこいいキャラがいるだろ
某ナチスの少佐とか主に
891 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/03(土) 18:16:28.83 ID:t7g8VbNuo
>>888
[ピザ]でもかっこいいキャラがいるだろ
某ウィザード級のスーパーハカーとか主に
892 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/03/03(土) 19:05:13.95 ID:mchn4xBAO
別に[ピザ]にカッコいいキャラはいないなんて話してないんだけど
893 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/03/03(土) 19:16:26.24 ID:CkwIqSLoo
字の文のテンションが限界突破してる感はあるが
キャラクターは変化していくもんだろ
894 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/03/03(土) 19:53:25.92 ID:W04JC4DAO
初期の鬱っぷりが懐かしい
895 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/04(日) 06:55:20.24 ID:3yxi9TgN0
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                           /.::::::::::::| ::::::::::::::::|   ー=ニ二孑=≠=;;::|:::::.:.:|        あぁ、そう――
                            /.::::::::::::::| ::|:::::::::::::|      ー  _イ::::::l:::::|:::::.:.:|
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   /:::::::::/  └¬'´,   ィC¨ヽ';:::::::::!
  ./::::::::イ        / ,.  ヽ `¬┘';:::::::!
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  {::::{⌒l:!      / `   ' ヽ   V}
.  ';:::l ゝリ     l ,/ ̄¨ヽ  ',    }l
  ヾヽ__j     { {,. -−‐‐ヘ    {,l   おせぇよ
    ヾ::::|   i  ヽ ヽェェェェェノ     {
    }:::l   ヽ    ` ̄¨´   ノ   }
     ヾ;k    \_  __  ,/   }
     "|       ̄ ̄ ̄    ノ
  _,. -‐"\              フー-、_
'"´      `ヽ、          /




                             / .::::::/ .::::::::::.:/.:./:::::::::ヽ/:/::::l ::.:.:.:.|
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                           /.::::::::::::| ::::::::::::::::|   ー=ニ二孑=≠=;;::|:::::.:.:|        …………     
                            /.::::::::::::::| ::|:::::::::::::|      ー  _イ::::::l:::::|:::::.:.:|
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                          //|:::://::j |:::::|::::::|:::::|    ノ  ̄ ̄ ̄了::| :::|:::::.:.:|
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                        //  / /  |:/ ! ::|:::::|   {     _    |::::|.::::l:::::.:.:|
  
896 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/04(日) 11:25:50.30 ID:bC/iOdd8o
>>895
鼻毛と鼻水ふっとんだ
897 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/03/04(日) 11:28:00.79 ID:ArCeeZkOo
わらかすなwww
たぶん鋼盾さん初期と現在じゃ顔つきかわってるな
ついでに作画も変わってるかもしれない
898 : ◆FzAyW.Rdbg :2012/03/04(日) 13:06:42.39 ID:4mtNyaAxo
ども>>1です!

鋼盾のSSなんか書いたら、絶対に日村AAが乱舞するよな
うん、俺だったら絶対貼るもん……茨の道になるぜえ……

と、思いつつまあそれも一興と始めたこのSSですが、意外や意外
なんのかんのと、ここに至るまで貼られることは皆無でした。日村呼びすら少ない
流石はSS速報、みんな優しいなあと感心しておりました

しかし!
ついにやりやがったな>>895wwww
ちwwくwwしwwょwwうwwめww お手柔らかに頼みますぜ!!

キャラの成長、主人公補正、それ故の原作イメージとの乖離、ズレ
そのへんを説得力を持った描写ができてないのは>>1の未熟ゆえ、申し訳ない

でもさ!イケメンが熱くクールにスタイリッシュに能力バトル大恋愛もいいけどさ!
不細工でも[ピザ]でも頑張っちゃってもいいじゃない……涙ふけよ>>889

とりあえず今作に関しては、この後もこんなテンションかと思います
それでもいいと仰ってくれる方は、今後ともどうかよろしくおねがいします


話題にもしてもらえないねーちんェ……
899 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/04(日) 17:13:14.16 ID:sDQHmjAFo
ねーちんは一体どれぐらい鋼盾にシカト決められてたんだ
900 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/04(日) 18:32:39.74 ID:bC/iOdd8o
>>899
鋼盾さんだけじゃなくて俺らにもスルーされてるぞ
このシリーズの1スレ目のスレタイ張ってたのにこの扱い
901 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/04(日) 19:19:47.31 ID:w3tGJN8No
こういうのを夢想した

神裂「こ、鋼盾菊彦! これ以上ステイルを、イジメないで下さい!
    か、顔芸もできない似非日村のくせに!やーいやーい」

鋼盾「おせえよ」キリッ

神裂「無視ですか!」ガビーン


 中略


神裂(……うう、七天七刀の重さで腕がプルプルしてきました……がまん、がまんです火織!)

鋼盾「しばらくぶりだね、神裂さん」ケータイシマイ

神裂「!」パァァッ


すまん
902 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/04(日) 22:22:56.85 ID:x410fIWSo
かわいい
903 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/03/04(日) 23:31:50.91 ID:NTaaDTuro
結構メアリー・スーなスレだけど、こんだけ面白く書いてくれるんなら気にならないな
904 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/05(月) 05:27:46.86 ID:mCkB+ooLo
>>903
二次創作だしな!オリキャラオリ主なんかよりマシだろ
一応気にならなくてもメアリースーとかって発言すると空気悪くなるからやめような
前にそれが原因で荒れたスレがあったし
905 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(和歌山県) [sage]:2012/03/05(月) 07:25:23.23 ID:VtZYSQZE0
でもここまで来るともうオリキャラだよね
906 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/03/05(月) 08:55:21.96 ID:2T0JQn27o
まあ、キャラ愛が感じられるから、メアリー・スーにはなってないな
あれは原作のキャラを潰したから批判を受けてるんだし
907 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/05(月) 09:40:17.61 ID:LUSxeIFAO
まあ、二次の垣根なんかほぼオリキャラだしな
908 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/03/05(月) 18:54:24.34 ID:nBTb3SR3o
伸びてると思ったら
909 : ◆FzAyW.Rdbg :2012/03/05(月) 22:13:55.55 ID:yeVSZ0Yuo
狭義のメアリ・スー、あるいはオリキャラチート的な色
鋼盾くんがそうだというご指摘は、情けないですがきっと少なからず当たっています

このSS書いてて一番ミスったなぁと思うのは、鋼盾を否定するキャラを置けなかったこと
本来それを成すべきステイルや神裂は、どうしたってその役には足りません
そして、一応にもその役を担ったトリックアートさんじゃ弱すぎる

鋼盾の成長譚としてストーリーを組むなら、例えば木山は鋼盾に絆されるべきではなかった
黒子や初春は鋼盾にのせられず風紀委員として振る舞うべきだった
黄泉川もそう、小萌と対を成すように警備員として教育者として振る舞うべきだった

の、かもしれないなあとちょっぴり思います
今更詮なきことですが、世界がちょっと鋼盾に優しすぎたかな、と
本作がメアリー・スー的と呼ばれちゃった理由は、脇役連中をいいヤツに書いちゃった>>1の甘えです

とは言え、>>1としても優しいだけの物語で終わらせるつもりはなかったり
言うまでもないことですが、木山春生の予言は、成ります

七月二八日以降の世界は、本来とは違ったものになるでしょう
原作をなぞるだけじゃ、再構成を名乗れませんから


ですが、物語は未だ七月二五日
と、いうわけで今しばらくは、これまでのノリで参りますの


一時間以内に投下に来ます
よろしければお付き合い下さい
910 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/05(月) 22:35:16.17 ID:L4GfPHfh0
言いたかったことを>>1が全部言ってくれた感じ

鋼盾には愛着あるからこそ、渾身の力をこめて応援したくなる場面が見たい
座して待つ!
911 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/05(月) 23:08:27.52 ID:LUSxeIFAO
脱いだ
912 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/05(月) 23:12:35.62 ID:yeVSZ0Yuo
忘れてた! 901めんこい!
それでは参ります!

そぉい!


――――――――――
913 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/05(月) 23:14:22.95 ID:yeVSZ0Yuo


 鋼盾掬彦によるステイル=マグヌスへの通話。

 それは雲川と会話をしたのと同じ、公園の隅にあるベンチで行われた。


 鋼盾としても、一応人目を気にしながら電話をしていたのだ。

 第三者が聞いたら、鋼盾のアイタタタタタタな一人芝居に見えるだろう、それは死にたい。

 だから、常に周囲には気を配っていた。



 夏の午前中、気温も日差しも適度に緩い、気持ちの良い空模様。

 公園にもまばらにだが人はいて、各々思い思いに過ごしていた。

 そんな平和な世界で剣呑な話をしている自分はなんなのかなーとか思いながら、それを眺めていた。


 それが、ひとり消え、ふたり消え―――皆が足早に去っていくのを鋼盾は見た。

 彼らの表情には焦りも疑問もなく、だからこそ異常なその光景。


 遠ざかってゆく背中

 遠ざかってゆく平穏


 そうして一分と掛からず創り上げられた、無人の公園。

 そのシチュエーションに、彼は一昨日の夜を思い出していた。

914 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/05(月) 23:17:33.31 ID:yeVSZ0Yuo


 誰もいない世界

 血まみれの友人

 人払いのルーン

 眼前に立つ神憑女

 濃密な死の予感

 内蔵を吐き散らかしたくなる緊張

 震える足、回らぬ舌

 鼓動を忘れる程の恐怖

 紡がれる七条の破壊

 そして


 ステイルと会話しながら、鋼盾はそれを想起していた。

 嫌な予感どころではない、やっべーこれ絶対来るよな間違いないよどうしよう、そんな感じだった。


 だが、今更それから逃げることなど出来るわけがない。

 既に、立ち向かうと決めているのだ。

 遅いか、早いかの違いに過ぎない。

915 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/05(月) 23:19:23.41 ID:yeVSZ0Yuo


 そしてふと気づけば、なんの前触れもなく眼前に女が立っていた。

 いや、前触れはあった。音と気配がなかっただけだ。


 空間移動能力者、白井黒子も形無しのソレ。

 ……人間業じゃねえな、畜生。


 長い黒髪、息を呑む美貌、大胆にカットされたジーンズ、そして令刀。

 世界に二十人程しか居ないという聖人であり、イギリス清教所属の魔術師。


 日本刀のような女。

 鉄塊の重圧と薄刃の玲玲、世界で一番美しい武器。

 そんな風情を纏う彼女の名は、神裂火織。


 神討の炎、いやはやなんとも立派な名前である。

 己の姓である鋼盾というのも大概だが、まったく大仰なことだ。

 しかし己と違って、彼女の場合はそれに見合うだけの格があるのだから恐れ入る。


 公園のベンチに座る己を、見下ろすように立つ神裂。
 
 空の青、木々の緑、近代的な街並みの中、異物めいた存在感を持ってそこにいる聖人。


 実に昼の風景が似合わぬ女だ、と鋼盾は思う。
 
 現代の魔女なのだから、それも道理か。

 一昨日の夜のインパクトが強すぎるせいもあろう。

 彼女には夜のイメージがある。

 まるで尖った三日月のような……否、やっぱり日本刀だ。


 月になんか喩えてやるものか。

 鋼盾にとっての月は、一人だけだ。


 ……また、あのひとに怒られそうなことをしている。

 いやいや、ぼくは話し合いで解決しようとしてるんだから、悪くはないはず。


 たぶん。
 
916 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/05(月) 23:24:40.58 ID:yeVSZ0Yuo


 聖人、神裂火織。

 英国清教、必要悪の教会に所属する、魔術師。


 今回の戦いにおいて、おそらくは最大の戦力がこの女だ。

 上条当麻を無傷で制した、異能に依らぬ圧倒的なその戦闘能力。


 真っ向勝負に出れば、確実に自分たちは敗れる。

 それは、火をみるより明らかだ。


 そんな女が眼前に立っている。

 その腰に帯びた刀の鋒が、するり滑らかに引き抜かれる。


 一昨日の夜は結局見ることの叶わなかったその刀、七天七刀の妖艶ですらある刀身。

 その切っ先が、飛燕のように宙を切り裂くのが見えた。

 否、見せてもらったのだろう……彼女が本気であればそれを見ることは叶うまい。

 目では捉えられぬし、なにより首が飛ぶだろうから。


 それはぴたりと鋼盾の喉元に突き付けられた。

 電話越しにステイルを問い詰める鋼盾を、脅しつけるように。

 絶体絶命、ゲームオーバー、既に詰んでいると言っていい。


 それなのに。

 そんな状況でしかし、鋼盾掬彦はステイルとの会話をやめようとはしなかった。

 あまつさえ、ステイルへの問を同時に神裂へと眼で問うてすらいた。


 “インデックスを助ける方法があるぞ”と

 “おまえの敵は誰だ”と

 “ぼくらはきみらの敵じゃない”と

 “諦めるな”と


 刃など、ないかのように。

 躊躇わず、問いを放っていた。


 それは、ありえない光景だった。

 魔術に身を置くものなら……否、只人であってもそう断じるだろう。


 異常だった

 異界と化した公園で、異能を纏う女を前にして

 無能力者であるはずの少年が、しかし誰より異常であった

917 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/05(月) 23:32:43.37 ID:yeVSZ0Yuo

 
 その少年―――鋼盾掬彦には、確信があった。

 信頼と言い換えてもいい、敵であるその女を、彼は信じ切っていた。
 

 眼前に立つ、令刀の聖人。

 神裂火織。

 この女に怯える必要はない、と鋼盾は断じる。

 怯えても仕方がないのだ、戦えば負けるが、だからこそ怯える必要はない。


 木山の予言を信じるなら、少なくも二十八日までは、己は死なない。

 未来視の女の絶望の予言に、今は感謝する―――そうとも、己はここでは死なない。


 戦力差など、蟻と巨像だろう。

 鋼盾掬彦は無力だ、無能力者だ、なんの力もない一般人だ。


 だからこそ神裂火織は鋼盾掬彦を殺せない。

 弱いから、異能を持っていないから、ただのガキだから。

 
 誇り高いおまえは、そんな哀れな男を殺せない。

 きっと、碌に傷つけることすらできやしない。


 一昨日だって、結局はそうだった。

 あの夜を己が生き延びたのは、偶然でもなんでもない。


 必然だ。

 神裂火織が神裂火織であるかぎり、それは必然であった。

918 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/05(月) 23:34:39.89 ID:yeVSZ0Yuo


 己が上条が起きる前に死、或いは昏倒に追い込まれた時のために、一応の保険はかけてある。

 作戦の肝はあくまでも上条だ、解呪そのものに鋼盾は必要ない、作戦さえ伝えれば事は足りる。


 そのための手立ては、今朝の内に調えてある。

 備えておけ、準備している奴が一番強い―――これも、木山の台詞だったか。

 そう、チャンスの神様は、いつだって準備を怠らぬ人間に微笑む。


 だから、これはチャンスだと鋼盾は断じる、そう決める。

 暴れる心臓を止める、不随意筋を意思で制してみせる。

 恐れるな、惑うな、躊躇うな、退くな。

 思考をやめるな、鋼盾掬彦―――これは、雲川の台詞。

919 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/05(月) 23:38:53.92 ID:yeVSZ0Yuo


 ……そうとも、望むところだ神裂、手薬煉引いて待ってたぞ。

 これはおまえの奇襲じゃない、ぼくが待ち構えていたんだぜ?


 嘯け嘯け、笑ってみせろ強かに。

 もちろん強がりなんだけど、でもさ、悪いが――負ける気がしない。


 優しい優しい神裂火織、誇り高き聖人様。

 まったく難儀なことだ、常人には為し難きその生き様は尊くすらある。

 どんな魔法名を名乗っていることやら……高潔? 清廉? 栄光? どれもすこぶるよく似合う。

 かっこいいね、頭が下がるよ、大したモンだ、実際。


 皮肉でもなんでもなく、そう思う。

 ぼくじゃ百回生まれ変わっても、あなたのようにはなれそうにない。



 だが、それはやはり隙だ

 隙だらけだぞ、神裂火織



 おまえは悪役にはなれても、どうやら悪人にはなれないらしい。
 
 善人め、本当に申し訳ないけど―――そこを躊躇わずに突かせてもらう。


 神裂火織は高潔で、清廉で、気高い。

 なら、鋼盾掬彦は下衆でいい、卑怯でいい、厚顔無恥でいい。

 ヒーローじゃなくても、かまわない。



 だけど、勝利は譲らない

 譲ってやらない、絶対に

920 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/05(月) 23:40:09.06 ID:yeVSZ0Yuo


 そして、ステイル=マグヌスとの通話が終わる。

 鋼盾は神裂に改めて向き合い――ゆるゆると会話を開始する。

 恰も世間話のようなそれは、雑談めかした間合いの調整。


「――すごいねえ、人払いの魔術ってのは。
 示し合わせたようにみんないなくなっちゃった」

「……………鋼盾、掬彦」


 張り詰めた顔が、己を見据える

 怖い顔だ、だけど、その奥にある泣き顔を知っている


 張り詰めた声が、己の名を呼ぶ

 怖い声だ、だけど、その奥にある泣き声を知っている



 優しい優しい魔術師さん

 きみのことなんて―――怖くもなんともないよ

 
921 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/05(月) 23:41:09.83 ID:yeVSZ0Yuo




 楽勝だ、聖人(かんざきかおり)

 ……さあ、願ったりの第二ラウンドを始めよう




922 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/05(月) 23:52:49.70 ID:yeVSZ0Yuo





――――――――――

ここまで!

つうわけで相変わらずケレン味バリバリです!
いやー、このテンションって書いてて楽しいのなんの! うぇっへっへ!
見て!ドクターテンマ! >>1の中のモンスターがこんなにおおきくなったよ!!

と、そんなことより920突破してやがった
4スレ目とかマジか、マジなのか

神裂戦は次回で一旦終了となりますので、本スレはそこで店じまいでしょうか
スレタイどうしよう……つーか、結局このスレでもスレタイ回収できてねえ!


あ、みなさまレス感謝です! ほんとに!
よろしければ次回もお付き合い下さい!

んでは、また
923 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/06(火) 00:58:29.25 ID:9yYux1lHo
こいつはたまらねえ。いい!
このままの調子を崩さずどんどんいってくれい。乙!
924 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/03/06(火) 08:06:07.07 ID:YHkqeoFAO
ひゃっほう乙
925 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/03/06(火) 19:13:43.15 ID:IXN/BPQ0o
ステイルは燃やすだろうが、神裂には斬れないな
926 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/06(火) 20:53:14.22 ID:D6oJxJrW0
乙。
筆が乗ってる時のこういうテンションはマジで止まらなくなるくらいに楽しいですよね。
鋼やんのりのり。なんだこの日村。
ねーちんじゃ、どう転んでも鋼やんには勝てないんだろうなぁ。
逆に鋼やんは、浜面辺りには勝てなそうだな。
麦のんや垣根も無理そう。一方さんなら時と場合によっては目もあるかもだけど。
927 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/03/07(水) 01:32:19.16 ID:jWz449Ewo
何言われても書き方崩さないのが好感持てる
頑張れ>>1
928 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/03/07(水) 07:18:07.33 ID:YxbZRO47o
ステイルは上条さんに勝てない
上条さんは神崎さんに勝てない
神裂さんは鋼盾くんに勝てない
鋼盾くんはステイルに勝てない
929 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/07(水) 08:25:00.37 ID:RQ1NkjWto
じゃんけんだな
930 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/07(水) 08:26:05.46 ID:RQ1NkjWto
>>926
むぎのんや垣根はなんか言おうとする前に殺されそうだしな
931 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/07(水) 11:21:44.36 ID:7qDKVbobP
ぶっちゃけこんな展開にならない限り1巻の上条さんの如く何言っても倒されるよね
ステイル相手なら普通に最初の火球回避できず殺されるレベル
上条は犠牲になったのだ……日村の犠牲にな…
932 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/03/07(水) 13:45:41.30 ID:ML+eWN0D0
面白いけど心理描写ちょっと多いよね
頑張って
933 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/03/07(水) 14:05:41.34 ID:G/5ixhI8o
ステイルと敵味方として出会わなかったのはでかいな
あと神裂さんはおっぱいがでかいな
934 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/03/08(木) 21:26:48.84 ID:eZPY8aFAO
インデックスはおっぱいが小さいな
935 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/08(木) 21:45:35.54 ID:dGoO3X8fo
鋼盾もおっぱい大きいよな
936 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/03/08(木) 21:49:11.12 ID:Zo39PW5Oo
これより重厚な鋼盾のおっぱいスレ
937 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/08(木) 21:55:18.88 ID:YGXaVQfyo
そんな」ことより鋼盾に宿った能力を予想しようぜ!
俺の予想だと

バスト・アッパー
巨乳御手

だな!
938 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/08(木) 22:06:45.56 ID:AdUM6ByZP
いやここは論証を立てることによって相手の能力を変質させる能力だな
939 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/09(金) 03:29:10.69 ID:7a0kAh4/o
自己催眠で絶対に心が折れなくなる能力とか
940 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/09(金) 22:17:44.23 ID:mPIU4UASo
>>937 もしかして:ムサシノ牛乳

>>938 もしかして:ヨメヤソラキ

>>939 もしかして:二階堂兵法影技・憑鬼の術


……最後のは違うな、うん
つーか鋼盾のバストの話になったのこれで何度目だよ!

どうも>>1です、叱咤激励のレス、感謝いたします
未熟な私ですが、書き続けられるのはみなさまのおかげですたい
それに報いるには、やはり投下しかありますまい

つうわけで、投下します
半ぐらいから! 夜露死苦!
941 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/09(金) 22:32:51.43 ID:mPIU4UASo


「……ソフトクリームの屋台までお店畳んじゃったけどさ、
 あれ、アイス屋さんの中でどういう帳尻になってるのかな?」

「……さあ、存じません。
 人払いなど、掛けられたことなどありませんから」


 硬い声のまま、神裂は雑談に応じる。

 実に有り難いと鋼盾は思う、自分なら、その刀を以って応えるだろうな、とも。


「……掛けられたのに気づいてないだけかもしれないけどね。
 そういうものなんだろ、人払いというのは」


 認識に作用するのが、人払い。

 故に知らぬ間に掛けられていてもおかしくはない、と神裂の発言を軽く皮肉る鋼盾。


「そうかもしれませんね」


 そんな皮肉を淡々と受け流し、神裂は鋼盾を見据える。

 それは、聖人たる己には小手先の魔術など通じないという自負ゆえか。

 七天七刀の切っ先は小動もしないままだが……やはり、あまりいい気分じゃなかった。

942 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/09(金) 22:33:46.71 ID:mPIU4UASo


「で? アイス屋さんの稼ぎを邪魔してまで、なんの用かな。
 ……えーと、あとやっぱりこの刀、下ろして欲しいんだけど、怖いよ」

「……韜晦はよして下さい。よくもそんな台詞を言えるものです。
 眼前の刀に眉ひとつ動かさずステイルを問い詰め、今も私と相対しておきながら」


 電話越しにステイルへ言葉の鉈を振るった鋼盾掬彦。

 その鉈は神裂にも同時に振るわれ、そして今もぴたりと彼女の喉元に当てられている。


 これは、有形無形の差はあれど、互いに刃を突きつけ合っている状況だ。

 神裂は忌憚なくそう思う、これは戦だと、そう断じる。


 眼の前の男は警戒に値する。

 鋼盾掬彦は私を問い殺すつもりでいる、間違いなく。


 客観的に見て有利なのは自分だが、しかしそうではないと神裂は思う、思ってしまう。

 己には斬れない、それを最初から見透かされてしまっている。

 それなのにこの刃を下ろすことが出来ぬのは――きっと己に、彼と伍するだけの芯がないから。

 だから、せめて七天七刀の重みにしがみついているのだ。
 

 心は未だ折られたまま、立て直すことも出来ずにいる。

 一昨日のような無様は晒すまいと必死で平静を繕うも、心が軋んだ。

 その拍子に、この二日間ずっと彼女を苛んでいる疑問が、ポロリと零れた。


943 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/09(金) 22:35:30.72 ID:mPIU4UASo


「……なぜ、折れずにいられるのですか。
 恐怖心というものがないのですか? 貴方には」 

「そんなわけがない。すごく怖いよ。当たり前だろ?
 でもさ―――あなたは人を殺したりはしないと思うんだよね、そうだろ?」

「殺さずとも、痛めつける事はできます。
 一昨日、右手の少年にそうしたように」

「へぇ……そうなの? そいつは意外だ」

「……あの日討つべきは、彼ではなく鋼盾掬彦、貴方にするべきだった」


 悔いるように、神裂は言う。

 右手の少年、上条当麻はステイルを撃破した、優秀な戦闘技能保持者だった。

 故に葛藤はあれど、無力化を計るべく神裂はその拳を振るうことができた。


 引導……否、諦める為の理由をあげること

 それが彼らのためでもあると、そう思えたから


 上条を痛めつけ、インデックスの足枷にして、二八日に記憶消去の儀を執り行う。

 それで、すべては終わりとなる筈だった。


 そうして、また繰り返す。

 いつの日か、あの子を救うために。

 ―――傷つくのは、私たちだけでいい。


 それなのに、目の前の少年がそれを否定した。

 一昨日の夜も、そして今も。

944 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/09(金) 22:35:57.13 ID:mPIU4UASo

「……そんなことはないよ、正しい判断だ。
 上条くんの方が、ぼくよりもずっと怖いよ」


 神裂の葛藤をよそに、鋼盾はそんなことを言う。

 ヒーローだぜアイツは、と友人を誇るように、笑みすら浮かべて。


「……笑うな、鋼の盾」
 

 ギリ、と神裂は臍を噛む。

 鋼盾掬彦、鋼の盾を名乗る少年。

 瞳に確信の炎を宿し、預言者のような顔をしてみせるこの男。


 異常だ、と神裂は思う。

 危険だ、と神裂は思う。


 口だけだと断じ、ここで切り伏せるのが最適解だと本能が警告を上げる。

 矜持も誓言も投げ捨てて、目を瞑って耳を塞いで、この男を潰す。

 そうするべきだと心底から、思う。


 だが、それができない。

 どうしても、できない。


 誇りゆえか、迷いゆえか、自負ゆえか―――それとも。

 ……その先は、口が裂けても言葉にしてはいけなかった。


 それを言葉にすれば、己は敗北する。

 なにもかも全て折られてしまう、そんな確信があった。

945 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/09(金) 22:37:12.42 ID:mPIU4UASo


「……私には、貴方が悪魔に見えますよ」

「悪魔って……ひどいことを言うね。
 ……客観的に見れば、そっちが悪役だろうに」


 青少年的に考えて、ぼくらが正しいと鋼盾は言う。

 女の子の為に立ち上がったのだ、こっちがヒーローサイドだぜ、と。


「とは言え、善悪なんてどうでもいいや。
 ……聞いてたよね、ぼくとステイルの会話を」


 先の事件の時のように、携帯をスピーカーモードにしていたわけではない。

 だが、この女ならそれくらいはやってのけるだろうと鋼盾は断じる。

 それでなくとも先の会話、八割以上が鋼盾の問いかけだ。


 届いていない、ワケがない。

 ……だけどまあ、もう一回言っておこうか。


「さんざん繰り返しになるけど、もう一度言ってやる。
 ……ぼくは見つけた、インデックスを救うための方法を見つけたぞ、神裂」


 そんなことを言う鋼盾を、神裂は睨めつける。

 神裂が、ステイルが、歴代のパートナー達が見つけられなかったそれ。

 魔術の世界に身を沈めた自分たちが、どうしてもみつけることのできなかったそれ。


 インデックスを救う、その方法。


 眼前の男は、科学の街の住人は、それを見つけたという。

 それを、彼女は認めることができない。

 ――できるわけが、なかった。

946 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/09(金) 22:38:35.08 ID:mPIU4UASo


「……ハッタリ、でしょう。
 そんな簡単に……あの夜から、まだ一日そこらしか立っていないのに」

「……ま、すこーしだけ盛ったけどね。……でもね、あるんだ。見つけたよ。
 ――ねえ、神裂さん。教会なんか裏切って、こっちに付かないか?」


 報酬はさ、あの子の未来だ。欲しいだろう? 

 そんなことを鋼盾は口にする、呪い矢のように真っ直ぐに。


「……敵を説得する言葉にしては、安すぎますね」


 その鋼盾の誘いを、神裂はにべもなく拒否する。

 ありえぬと、貴様らと私たちは不倶戴天の間柄だと言う。

 そうせねば立っていられないとでも言うかのように。


「……インデックスは私達が救います。
 だから――貴方達の出る幕なんて、ない」

「二度も殺しておいて、よくもまあそんな事を言えるもんだ」

「……」


 神裂は無表情のままだ。

 だが、鋼盾の発言を聞いて一瞬震えた拍子に、その長い髪が揺れた。


 その艶やかさはヒトのそれではない、龍の鬚のようだと鋼盾は思う。

 神の似姿――とかつてインデックスが聖人と説明していたが、なるほど、然りだ。 


 とんでもない美人さんだ、文句のつけようもない。

 だが不遜にも鋼盾は、その神与の美貌にケチをつける。

947 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/09(金) 22:39:39.30 ID:mPIU4UASo


「……二晩かけて、また鉄仮面を打ち直してきたってわけだ。
 悪いんだけどさ、いまさら本音以外は聞きたくないんだけどね」


 一昨日のおまえの方がよかったよ、と鋼盾は言う。

 あの夜、神裂火織は激昂し、暴れ、怯え、喚き―――子どものように、泣いていた。


 それを見て。

 神裂が涙を流すのを見て、鋼盾は覚悟を、戦う理由をもうひとつ積み上げたのだ。


「……言えよ、インデックスを助けたいと」

「っ!……だから! 私達が救うと!」


 ああ、と鋼盾は溜息を吐く。

 方法もわからぬくせに、彼女はそんなことを言う。

 眼の前の男がその方法を見つけたと言っているのに、それを聞こうともしない。


 現実から眼を逸らし、また繰り返す。

 ステイルと同じだ。

 また、殺すのだ。

 おまえは。

 おまえらは。

 あの子を。

 インデックスを。

948 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/09(金) 22:43:11.61 ID:mPIU4UASo


「そのために、今回は殺すわけだね。
 ――おまえにはそんなものが救いに見えるのか、神裂」


 悪意で研いだ呪いの杭、そんな台詞だった。

 鋼盾のその言葉に、突き付た刀が、神裂火織が震えた。


 ……この程度で揺らいでんじゃねえよ、みっともない

 おまえがそんなザマだから、こんな状況になってるんじゃねえか


 ああ、やっぱり駄目だ

 おまえらだけじゃ、無理だよ魔術師


「……ぼくとしてはさ、あの子を救うのは誰でもいいけどね。
 でもさ、きみたちには無理だ。とても任せられないよ、あの子を託せない」


 冷ややかに、鋼盾は断じる。

 清教の狗、思考停止の甘ったれ。

 日々を重ねて三年間、それだけの時間を費やしてなにひとつ成せなかった無能。

 鋼盾が見つけた解決策を聞こうともせず、感情だけで否定するその幼さ。


「無理だ、お前らには無理だよ。
 だからぼくがやる、ぼくらがやる」


 インデックスは、ぼくが救う

 一昨日の台詞を、もう一度彼は繰り返した

 
949 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/09(金) 22:44:36.14 ID:mPIU4UASo


「……素敵な悪あがき、ですね」


 神裂火織が、血を吐くようにそう呟く。

 睨む視線には鬼気が纏わりついている、言葉には瘴気が纏わりついている。


 先に放たれた“それが救いのつもりか”という鋼盾掬彦の台詞。

 その言葉は意図せずして神裂火織のトラウマを穿った。


 逆鱗だ、そこは。

 神裂火織の、逆鱗だ。


「……自己満足の自己陶酔、どうせ助けられもしないくせに。
 いい気なものです、絶望の味も知らぬガキが」

「はは――おまえには言われたくねえよ、酔ってるのそっちの方だ」


 自縄自縛の袋小路、おまえは愚かだ神裂火織。

 しかし――流石、絶望に折れてしまった人間は言うことが違う。

 なかなか洒落た言葉を使うじゃないか、と鋼盾は笑う。


「素敵な悪あがき、ね。……いい言葉だ。
 ところできみらは―――もう、足掻くのをやめちゃったのかな」


 ステイルにも聞いた、そんな問い。

 神裂もステイル同様それには答えず、剣呑な目付きでこちらを見据えるのみ。


 ……まったく、どっちがガキなんだか。

 迷子みたいな顔しやがって、馬鹿野郎。

950 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/09(金) 22:46:26.85 ID:mPIU4UASo


「……選択肢をさ、あげるよ」
 

 迷子の迷子の神裂火織。

 おまえにひとつ、道導をくれてやる。


「ぼくらと一緒に、素敵に足掻いてみるか。
 ……それともまた、あの子を殺すか、その二択だ」


 求めよ、さらば与えられん。

 足掻けよ、さらば道は拓く。


 願わくば一緒に、素敵な悪あがきを。

 インデックスの未来のために。


 足掻いてくれよ、魔術師。

 ぼくらと足掻いてくれ、神裂火織。

951 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/09(金) 22:47:04.04 ID:mPIU4UASo



 その鋼盾の言葉に、神裂は


「……殺すのではなく、生かすのです」


 そんな台詞を、宣った



952 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/09(金) 22:50:02.79 ID:mPIU4UASo


 殺すのではなく、生かす。

 次の一年のために、この一年を消し去る。

 希望を繋ぐために、記憶を奪う。

 それしかできないから、そうする。

 
 これまで六度繰り返されてきた、その悪夢。

 喪失の輪廻、先延ばしの時間稼ぎ、立ち往かぬ袋小路。

 既に目前の女は、少女から二度、記憶を奪っているという。


 それは、どれほどの痛みなのか。

 苦悶の選択だったろう、辛かっただろう、苦しかっただろう。


 だが、その物言いは許せない。

 鋼盾掬彦は、許さない。

 絶対に許さない。


 心に満ちていた水が一瞬で蒸散するかのような激情。

 この無様な女を殺してやりたいと、そう思った。

 突き付けられた日本刀を捩じ切って、そのふざけた舌を切り取ってやる。

 不可能だと断じる理性を押しのけて、そんな思いが渦を巻いた。


 だがそれも一瞬、鋼盾は乾ききった声で問を紡ぐ。

 砂漠のような声が、響いた。

953 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/09(金) 22:52:28.32 ID:mPIU4UASo


「……生かす、ね…… それで? どうするんだ、次は。
 また一年間、あの子を追い詰めるのか? それとも家族ごっこか?」


 無為と知りつつ紡がれる無為。

 それを二度繰り返し、反省もなく三度目を迎えようとする魔術師たち。

 四度、五度、六度と繰り返すに決まってる、このバカどもは、悲劇に浸りながらそれを繰り返す。

 繰り返した数だけあの子は死ぬのに、それを認めようともしない。


 あまつさえ貴様らは、己の逃避を彼女に押し付けている。

 ――なにが“いっそ敵として振舞った方がいい”だ、臆病者。

 それで気が楽なのはおまえらだけじゃねえか、クソ野郎。


「ふざけるなよ、神裂」


 耐えられないなどと抜かすなら、おまえらはインデックスから離れるべきだった。

 彼女を忘れて、勝手に幸せになればよかったのだ、後悔だって幸福のスパイスになる。


 悪あがきすら出来ぬなら、舞台に上がるべきではないのだ。

 端役ですらない役立たずは、袖で指を咥えているがいい。


 おまえたちは、そうあるべきだった。

 なのにどうしてここに居る?

 なぜ、ぼくらの邪魔をする?


「殺すんだよ、あの子を、おまえらは。
 虫酸が走る、取り繕うな神裂、それ以上抜かしたら絶対に許さない」


 殺すぞ、と。

 罅割れたような声が、神裂を詰る。

954 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/09(金) 22:54:23.56 ID:mPIU4UASo


「……吠えるな、素人」
 
「ステイルもそんな事言ってたね、何様のつもりだ専門バカ。
 ……そろそろ帰るよ、もう昼飯時だ」


 時刻は十一時半、そろそろ家に向かわなくてはならない。

 インデックスも目が覚めていることだろう、鋼盾の帰りを待っていてくれている筈だ。


「昨日の夜も、今朝も一緒にいてあげられなかったからね、
 ―――あの子が待ってる、帰らせろ」


 お前とは違ってな、という皮肉を忍ばせて、鋼盾はそんな台詞を言う。

 その刀を下ろし、道を開けろと。

 それが今、おまえにできる唯一のことだと、そう言った。



 瞬間、神裂の目が禍った。

955 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/09(金) 22:56:10.51 ID:mPIU4UASo


 眼前で空気が歪むと同時に、キンと鍔鳴りの音を聞く。

 瞬きすら叶わぬ、それは一瞬の納刀。

 ……否。


 右頬に、ひりつくような痛み。

 伝うは、汗ではなく、血。


「……ッ」

「失礼、手が滑りました」


 斬られた、おそらくは薄皮一枚のみ

 切っ先の先の先の先、1ミリメートルにも満たぬ、斬撃。



 だが、それだけ。

 ―――それだけだ、神裂火織。

956 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/09(金) 22:58:42.64 ID:mPIU4UASo


「……そうかい、そりゃ随分と軽い刀だ」

「ええ、羽毛のようですよ、私にとっては。
 ――――貴方の命も、同様です」

「それは、嘘だね。
 だから、そんな無様を晒してるんだろうに」


 怒りに駆られた、八つ当たり。

 ……だが、鋼盾の首は未だに繋がっている。

 それが、おまえの限界だ。

 神裂火織の、限界だ。


「……ぼくは弱い、言われるまでもなく弱いよ。
 だけどそんなぼくがきみらを相手にこんな風に振る舞えるのは、どうしてだろうね?
 ―――ひとつは、きみたちが弱い者いじめのできない優しい人だから」


 きみは、ぼくを殺せない。

 だから、ぼくは死なない。

 この通り、今もヘラヘラ言葉を紡ぐ事ができる。

 信じてたよ、善人。

957 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/09(金) 22:59:37.05 ID:mPIU4UASo


「そして、もうひとつあるんけど……わかるかい?」


 ぼくが悪魔に見えたといったな、神裂火織。

 それは――言うまでもなく、おまえの願望だろう。

 たとえ魂を売ってでも、欲しい物があるんじゃないのか?

 
 もちろんぼくは悪魔じゃないけどさ
 
 きみの欲しいもの、あげられるんじゃないかと思うんだよね


「それがわからないなら、きみは馬鹿だ。
 わからないふりをしているなら、きみは卑怯だ。
 ――――どっちなのかな、神裂さん」

「……あの子に笑顔を与えてくれたこと、それは感謝します。
 残された時間は少ない――別れの挨拶は済ませておくことです」


 ……答えもしないのか、神裂火織。

 はいはい決定だ、おまえは馬鹿でしかも卑怯だ。

 だが――どうせなら徹底的に馬鹿になれ、徹底的に卑怯になれよ。

 意地を張るな、プライドを捨てろ、そしてぼくらの手を取れよ。


 ……まあ、それは次に回すか、と鋼盾はこの場での追求を諦める。

 楔は既に打ち込んである、次回は証拠を携えて行く、覚悟しやがれ。


 次こそは、逃げ場は与えない

 追い詰めて、問い落としてやる


 だから―――今回は宣戦布告でよしとしよう。 

958 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/09(金) 23:01:10.05 ID:mPIU4UASo


「それは違う、あの子は死なない。
 だから別れの挨拶もいらない――必要なのは謝罪の言葉だ。
 ――今回はチャラにはならないぞ、あの子にどう謝るのか、考えておけ」

「……頬の傷、早めに治療をしておきなさい。
 痕が残れば――鏡を見る度に救えなかった己に臍を噛む破目になりますよ」


 言い捨てて神裂は鋼盾に背を向ける。

 そして、現れた時と同様、なんの気配もなくその身を消した。


「……なんねえよ、馬鹿」


 鋼盾は、誰もいない虚空を睨みながら、そんなことを呟く。

 ジクジクと、切られた頬が痛んだ。

 だが、この程度の痛みは何程でもない、上条に比べたらそれこそ掠り傷だ。

 むしろ、傷をつけた側の方が痛いだろう―――ざまあみやがれ、善人。


 ハンカチで止血しながら、鋼盾はあたりを見回す

 水飲み場を見つけ、彼は水を借りようと席を立った。


 少しだけ、ふらついて倒れそうになる。

 ……ベンチに座っていたのは、ラッキーだったなあと思う。


 今さらながらに震える両足に力を込め、鋼盾掬彦は歩き出す。

 前に進むために、家に帰るために。

 
959 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/09(金) 23:02:05.10 ID:mPIU4UASo


 木山春生に倣い、蜘蛛となろうと思う。

 既に獲物は巣に掛かった、この糸はひどく性質が悪い。
 

 意志の伴わぬ炎では燃えない

 覚悟の伴わぬ刀では斬れない


 絡み付いて絡み付いて、おまえらから自由を奪い取る。

 そうしたら―――次は毒をくれてやる。

 
 ステイル=マグヌス

 神裂火織


 おまえら専用に調合したとっておきだ。

 高潔な人間ほど免疫を持たぬ、強力な遅効性の猛毒である。

 とびっきりの呪毒をくれてやる、ようく味わえ、魔術師共。


 逃しはしない、これは呪だ

 悪夢とは違い、毒は醒めないと知れ


 呪とはなにも、魔術師呪術師の専売特許というわけではない。

 只人とてそれを成す、渦巻く感情を言葉に乗せて。

 その鎧の隙間から、毒をたっぷり塗りつけた針を捩じ込んでやる。

 
960 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/09(金) 23:03:09.68 ID:mPIU4UASo


 解毒剤は、解呪の札は鋼盾の手の中にしかない。

 欲しければくれてやる、だが――それには条件がある。


 諦めるなよ、魔術師共。

 いっしょに足掻いてくれ、あの子の未来を選んでくれ。


 捨てろ、矜持を、過去を、自負を、自身を。

 全て擲って、この手を掴んでくれ。


 インデックスのために。

 ステイル、神裂、きみら自身のためにも。

961 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/09(金) 23:03:49.84 ID:mPIU4UASo


「……我ながらヒドイことしてるけど、ね。
 つーか、ドン引きだ、実際」


 水飲み場でハンカチを湿らせ、頬の血を拭い、傷口に当てる。

 瞬間、ピリリと痛みが走るも、それだけ。

 既に血も止まっている―――代償には、軽すぎる

 こんな八つ当たりしかできなかった、神裂の事を思う

 その相棒たる、ステイルのことも。


 正論など、役に立たぬ局面がある。

 ステイルも神裂も、きっと精一杯頑張っているのだ。


 理不尽に臍を噛みつつ、現状を必死に維持しようとしている彼ら。

 そんな彼らに、己は酷く残酷な真似をしている。

 その自覚はある。


 だけど、それでは足りないと。

 愚かだと、無様だと、無知だと、視野が狭いと。

 酷薄に、彼らの傷を暴いている。


 ああ、なんて残酷。

 ちょっとヒドイ、どうしようもないいじめっ子だ。

 ……なんて、似合わない真似をしているんだろう。


962 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/09(金) 23:05:01.81 ID:mPIU4UASo


「……しんどい、なぁ。
 つーかあのバカ、そろそろ起きてくれないかなあ……」


 所詮この身は前座であろう。

 英雄が登場するまでの場繋ぎ、主人公が登場するまでの時間稼ぎ。


 それでいい。

 手段を厭わず、それを成す。

 鋼盾が己に任じているのは、そういう類の戦いだ。

 
 こんなやり方しかできない己は、やはりヒーローにはなれそうにない。

 だけど、止まるわけにもいかないのだ。

 止まれない、止まれるわけがない。


「……つくづく、ひどい話だよ」


 下衆め、と。

 鋼盾は重く重く溜息を吐く。


 こんな己にはきっと、近いうちに罰があたるだろう。

 その雷槌が撃ちぬくのは、どうかこの身だけでありますように。


 そんな願いを夏空に放つと、鋼盾掬彦は帰路へと就いた。

 当然ながら、その願いは叶うことはなかった。

963 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/09(金) 23:10:35.79 ID:mPIU4UASo





――――――――――


ここまで!
神裂さんとの第二ラウンドでした、やったねかおりちゃん! 斬れたよ!

ともあれ宣戦布告も済みまして、二五日も半分を消化といったところでしょうか
次回は次スレ、スレタイどうしようかね

んじゃ、次回もよろしくです!
みなさま、よい週末を!
964 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東) [sage]:2012/03/09(金) 23:29:05.77 ID:FUnuFWqAO
おつ
965 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/10(土) 00:33:04.58 ID:7BosTL0ao
"禍った"は"かわった"でいいんですかね?
よい週末を!
966 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/03/10(土) 08:37:57.23 ID:BAP1coNAO

コウやんデビルかっけえ
967 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/03/10(土) 18:47:19.90 ID:+RH+7YsEo

やっぱ上条さんは記憶を喪ってしまいそうだな
悲しいな
968 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/10(土) 23:56:30.47 ID:f4w80QMIo
>>965
あまり深く考えず、まがった、と書いたつもりでした
……なんかすげーはずかしぃー!! なにこの無意識な厨二全開チョイス!
辞書にある言葉を使うべきですね、そうですね、底の浅さを露呈してますね!

>>967
ノーコメンツ!


さて、来週中には新スレを立てるつもりです

例によってスレタイは一発で分かると思います
多分インデックスあたりかなーと思っているのですが、予定は未定

このスレは適当に埋めて貰っても結構なのです
なんか埋めネタのリクエストでもあれば是非、もちろん雑談でもなんでも歓迎です

では、もろもろ準備が済みましたら参ります
なるたけ急いで来ますので、次スレにも着いて来てくれると嬉しいな!

んでは!
969 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/03/11(日) 00:53:29.81 ID:P72uIo3po
面白いけど幾ら何でも展開おせーよ・・・
少しポエム減らした方が良くないか
970 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/11(日) 01:32:27.80 ID:9WNNDXx1o
展開が遅くて更新が遅いのは幸せである、長く長く楽しめるのだから
展開が早くて更新が遅いのは幸せである、じっくりと先の展開を想像できるのだから
展開が遅くて更新が早いのは幸せである、入念に描きこまれているのだから
展開が早くて更新が早いのは幸せである、その奔流に身を任すことができるのだから

不幸なのはただひとつ、作者が道半ばで作品を投げ出してしまった時だけだ
と思わなきゃSSなんて読んでられねーよ


971 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/11(日) 01:48:20.23 ID:SjLW7to4P
ポエム減らせにポエムで返す完璧なレスにワロタ
皮肉とか煽りとか抜きで正直ワロタ、感心した
972 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/03/11(日) 02:26:18.00 ID:VXVTOxIIo
やっと追いついた乙。
973 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/03/11(日) 06:36:14.15 ID:pxzAuUnAO
>>970
もしかしたらコピペなのかもしれないけど、感心した。
974 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/03/11(日) 12:01:46.30 ID:9ihfiPPAO
つまり俺らは幸せだな
975 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/11(日) 12:14:09.42 ID:QGl/5x1ko
好みだよねえ。
俺はこういう本編と行間が逆転したようなの好きだぜ。
2行の間に2スレみたいな面白さつうかww
976 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/03/11(日) 16:32:19.63 ID:YeoGv0dso
>>970
長いしキモい
977 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/12(月) 12:05:36.83 ID:5GY2B+/do
禍ったみたいなのはどんどん出してくれ。
言葉の勉強にもなるし一石二鳥。
978 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/13(火) 22:30:52.41 ID:8gl+azNoo

どうも>>1です
本日新スレを建てます! が! その前に!
新スレ一発目で投下する予定だったエピソードがやたら膨らんで
なんかシリアスとコミカルが入り交じってえらくゴチャゴチャしてしまったのです

しょうがないのでコミカル部分は涙を飲んでカットしようかなと思ったのですが、
勿体無いのでちょいと手を入れて、埋めネタ替わりにこちらのスレに投下します


>>969 
うん、俺もそう思うんだ! でもこうなっちゃうんだよ!
もっと端正な文章をかけるようになりてえ!

>>970 
逆も然り

展開が遅くて更新が遅いのは不幸である、追いかける気力を失くしてしまうから
展開が早くて更新が遅いのは不幸である、前に読んだ内容を忘れてしまうから
展開が遅くて更新が早いのは不幸である、それは冗長であるということだから
展開が早くて更新が早いのは不幸である、その速度についていけなくなってしまうから

要は↑が気にならないほど面白いもんを書け、ということですね
道は遠いぜ、ちくしょうめ

>>975
2行の間に2スレ! そういうのは>>1も大好きです
サブキャラの多い禁書ですので、そういう本編補完は需要高いよな


んじゃ、投下だい

そぉい!


――――――――――
979 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/13(火) 22:33:47.72 ID:8gl+azNoo


 短針と長針が揃って真上を指し、飛行船が正午を告げるチャイムを鳴らす。

 それを背中で聞きながら、鋼盾は自宅の扉を開き玄関へと入る。


 その気配を聞きつけて、廊下をパタパタと駆けて来たのはインデックスだ。

 今朝は起きてこれなかった彼女の顔を見るのは、昨日ステイルに託して以来になる。


 おかえり! どこにいってたの? まってたんだよ? お昼ごはんなんだよ! お腹すいたかも!

 いかにも彼女らしい、いつもどおりのそんな台詞を口にするインデックス。

 だけどその顔色が、常よりも少しだけ白いような気がする。


 インデックスの後ろに立つ舞夏を見遣ると、彼女は真面目な表情でコクリと頷く。

 やはり、ステイルの言った通り、予兆が出ているらしい。


 彼女なりに鋼盾らに心配を掛けまいと、無理をしているのだろう。

 ……舞夏が口に出さないなら、それほど深刻な話ではなさそうだが。

980 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/13(火) 22:34:53.37 ID:8gl+azNoo


「……ただいま、インデックス、舞夏も。
 待たせてゴメンね、お昼にしようか」

「うん! わたしも手伝ったんだよ!」

「へえ、料理をかな?」

「うんにゃ、テーブルを拭いたり、食器を並べたりをおねがいしたんだぞー。
 ふふ……ん? 鋼盾掬彦、ほっぺた、どうかしたのかー?」

「ああ――公園で、猫にやられた」

「……へえ、そりゃ災難だったなー」


 神裂に斬られた傷は、予想通りに浅いものだった。

 血もすぐに止まり、既に痛みもない―――ホントに甘い、あの善人め。



 しかし猫はねえよな、と鋼盾は一瞬前の己にツッコミを入れる。

 ……なんという出任せ、つーかあんな猫がいてたまるか。

 神裂火織は虎より強く、チーターより速く、ライオンより王様な女だ、怖い怖い。


 なにより鋼盾的には、神裂は犬科のイメージだ。

 ステイルは―――なんだろう、鳥系だろうか、目付きの鋭い猛禽とか……いや

 神裂が犬なのだから、ステイルは雉というのはどうだろう、頭も赤いし。

 そうなりゃ土御門が猿だ、そして上条は当然、桃太郎である。


 刀を咥えた黒い猛犬

 眼光鋭き赤羽の大雉

 金毛逆立つ長手の猿羅

 ツンツン頭の快男児


 脳裏に浮かぶ、鬼退治御一行様

 ―――なんだこれ、ハマリ過ぎじゃねえの?

981 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/13(火) 22:35:31.32 ID:8gl+azNoo


「……はは」

「? どうしたー? 突然笑い出して」

「ちょっとね、思い出し笑いだよ」

「……引っ掻かれて思い出し笑いとはなー。
 Mなのかー、鋼盾掬彦はMだったのかー」

「違えよ」

「む……まいか? エムってなんなのかな?」

「ふむ、インデックス、それはなー、マzのわっ!」

「言わせねえよ」


 世界の真理を語るような顔をした中学二年生にチョップで制裁を入れる鋼盾。

 ぶーたれる二人の反論は無視する、つーかだれがマゾヒストだこの野郎。

982 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/13(火) 22:37:25.38 ID:8gl+azNoo


 しかし桃太郎キャスティング、我ながらなかなかに愉快な妄想だ。

 高い身体能力を誇る犬、情報収集に秀でた猿、炎の魔法を操る雉、一芸チートの桃太郎。

 何気にバランスがとれているのが余計に笑いを誘う、強いて言えば回復役が欲しいくらいか。


 ならば、残りのメンツはどうしたものか。

 己はおじいさん役が精々だろう、柴刈とかそのくらいしか出来そうにない。

 きび団子をひとりで食べちゃいそうなインデックスはナレーションに。

 んで、おばあさん役を小萌に……というのは願望入りすぎだろうか。

 それじゃあ舞夏に……うわ、猿役のバカ兄貴が暴れだした。


 皆で手を取り合って、鬼退治へ。

 もちろん、結末はハッピーエンドに決まってる。


 そんな、馬鹿みたいな妄想。

 だが、鋼盾が望む未来は、大体そのような感じだ。

 インデックスが幸せそうに「めでたしめでたし」と本を閉じるような、そんな未来だ。


 しかし、現実はなかなかに厳しい


 犬と雉は鬼に飼い慣らされており、桃太郎に牙と嘴を突きつけてくる始末。

 猿はその複雑な立場ゆえ、一行に加わることが出来ず、情報のみを置いて行った。

 んで、犬に噛まれた桃太郎は意識不明で療養中である。
 

 だから、老骨に鞭打っておじいさんが駆け回る破目になってしまった。

 愛するおばあさんにを危険に晒すわけにもいかぬ、仕方がない。

 切実に魔法のきび団子が欲しいところである。

 ……つーか桃太郎起きろ、おまえが起きなきゃ始まらないぞ主人公。

983 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/13(火) 22:39:28.85 ID:8gl+azNoo


「ところで舞夏、上条くんは変わらず?」

「……ん。一昨日に比べれば、顔色はだいぶ良くなったがなー」


 その事は、今朝にも聞いていた。

 順調に回復は進んでいるのだ、黙って待っていればいいのだが―――やはり焦れる。


 上条の声が聞きたい

 上条に話を聞いて欲しい


 ……甘えた台詞だ、なんだそのザマは。

 今日はあともう一つ、大事な仕事が残っているだろう?
 
 脇役端役の矜持を見せてみろ、鋼盾掬彦。


「土御門くんの見立てだと、そろそろ目を覚ますだろうってことだったけど」

「……だいじょうぶだよね? とうまは」

「ま、上条当麻だからなー、起きる時はあっさり起きるだろうなー」


 テーブルに昼食を運びながらの舞夏の言に、鋼盾はそうだねと同意する。

 インデックスも、同意するように笑った。


「じゃ、寝坊助はほっといてご飯にするんだぞー!
 かわいそうに上条当麻ー、我が渾身のチャーハンを食べ逃すとはなー!」

「まいかのいうとおりなんだよ!
 チャーハン、すっごく美味しそうかも!」


 初級にして再難関、中華一番至高の炒飯。

 キラキラ黄金に輝いている、黄金錬成である、土御門舞夏は厨房の錬金術師である。


「ありがと、舞夏。
 ―――んじゃ、いただこうかな」

「いただきます、なんだよ!」

「はいはい、召し上がれー」


984 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/13(火) 22:46:59.39 ID:8gl+azNoo


 待ってましたとばかりに炒飯を頬張るインデックス。

 そんな彼女を鋼盾はこっそりと盗み見る。

 その首を――否、その喉を見る。


 木山春生曰く、そこに呪があるという。

 インデックスを縛る、首輪があるという。

 それを、確認しなくてはいけない、食事が終わったら、すぐにでも。


 鋼盾の視線に気づいたインデックスは、きょとんとした顔で首を傾げる。

 よく噛んで食べなよ、と彼がそう言うと、少女は“わかったんだよ!”と笑って頷き、食事を再開した。

 この笑顔を喪わせはしないと、鋼盾掬彦は心底からそう思う。


 現在時刻は八月二十五日、十二時十五分

 タイムリミットまで、残すところおよそ六十時間


 インデックスを解放するまで、あと六十時間

 予言の成就まで、あと六十時間


 食事を取りながら、鋼盾はその六十時間の過ごし方を考え続ける

 やるべきことはけして多くないが、しかし失敗は許されない。


 だから、問い続けろ

 備え続けろ


 勝利の為にではない、それは上条が成し遂げる

 その勝利の後にこそ、きっと本当の戦いがやってくる


 とは言えさしあたっては―――やっぱり腹ごしらえからか。

 鋼盾はレンゲを手に取ると、こんもりと盛られた炒飯の山を崩しにかかった。


 
 舞夏謹製の炒飯は、もちろん絶品だった。

 それを食べ損ねた上条当麻は、間違いなく不幸だったろう。




――――――――――

985 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/13(火) 22:54:06.65 ID:8gl+azNoo
ここまでー
新スレ一発目にはちょっと微妙かなーと思って、こちらに投下してみました
向こうでは首輪発見から、ガチシリアスモードで始まります

登場人物紹介を書いたら次スレ建てます、今日中には建つでしょう
スレタイはインさんにするつもりでしたが、ネタバレかミスリードな感じがヒドイので、他の人になりました
ごめんよインデックス

さて、スレタイは誰でしょう、正解者には豪華景品が!
なんちゃって、んじゃ、新スレ準備してきます
986 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/13(火) 23:33:19.09 ID:BzMNdIteo
土御門兄妹のどっちかかなー
987 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/13(火) 23:36:57.80 ID:bAZzXGOxP
小萌先生と予想
988 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北) [sage]:2012/03/13(火) 23:43:47.56 ID:zZuVEyvAO
ステイルと見た!
989 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/03/13(火) 23:48:17.48 ID:9PRJP1ako
あえての鋼盾さんで!
990 : ◆FzAyW.Rdbg [saga]:2012/03/14(水) 00:16:47.24 ID:IlelJJkyo


吹寄「―――がんばりなさい、鋼盾掬彦」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1331650305/


正解は、まさかの吹寄さんでした、俺の嫁!
というわけで豪華景品は次回に持ち越しです

さて、このセリフがどんなシーンで紡がれるのか
立ち向かうための「がんばれ」なのか、立ち上がるための「がんばれ」なのか

楽しみにしていただけたらな、と思います

さて、このスレはもう店仕舞
>>1にとってはみっつめのスレ、感無量です

続けてこれたのはみなさまのおかげ
続けてゆけるのもみなさまのおかげ

初心を忘れず次スレでも頑張ってまいります
よろしければリンクを辿り、共に物語を紡いで参りましょう


では、後は盛大に埋めてやって下され!
よろしゅう!
991 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/14(水) 02:01:44.73 ID:4CAxSczr0
992 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/14(水) 02:02:19.24 ID:4CAxSczr0
993 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/14(水) 02:02:47.93 ID:4CAxSczr0
994 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/14(水) 02:03:44.22 ID:4CAxSczr0
995 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/14(水) 02:04:21.09 ID:4CAxSczr0
996 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/14(水) 02:05:00.67 ID:4CAxSczr0
997 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/14(水) 02:05:50.95 ID:4CAxSczr0
998 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/14(水) 02:06:20.94 ID:nPLK/6yFo
999 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/14(水) 02:06:29.14 ID:4CAxSczr0
1000 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) :2012/03/14(水) 02:07:26.85 ID:4CAxSczr0
1001 :1001 :Over 1000 Thread
 _,,..i'"':,  @    @   @
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  .\|_,..-┘                    SS速報VIP(SS・ノベル・やる夫等々)
                          http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/

1002 :最近建ったスレッドのご案内★ :Powered By VIP Service
【危険運転】ドライブレコーダー映像に意見する 19 @ 2012/03/14(水) 01:12:12.21 ID:akrG/6qso
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1331655132/

魔法少女まどか☆マギカ―運命を越える者達―66スレ目 @ 2012/03/14(水) 01:10:28.13 ID:VN/Uhhk8o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1331655027/

俺「多重世界で完堕ち二巡目か……」 @ 2012/03/14(水) 00:43:59.81 ID:UDWic1vAO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1331653439/

友だちに告白されてフったけどその後好きになってレズになった-2 @ 2012/03/14(水) 00:41:30.90 ID:G0kZFSS7o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1331653290/

【Fate】慎二「何やってるんだ、ライダー!!」 14ワカ目【コンマ安価】 @ 2012/03/14(水) 00:35:51.47 ID:EmgIzIwoo
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吹寄「―――がんばりなさい、鋼盾掬彦」 @ 2012/03/13(火) 23:51:45.98 ID:8gl+azNoo
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【艶女に】のん兵衛ゆうこの部屋※祝※二十件目【かかってきなさい】 @ 2012/03/13(火) 23:18:44.82 ID:otzzIOoZo
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暇だからみんなで安価画像うp◆40(sage進行) @ 2012/03/13(火) 22:45:36.77 ID:1qG48hlIO
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