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翼「これも、また、戯言かな」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) :2011/11/24(木) 01:02:50.94 ID:uFOG1DQZo
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諸君、狂いたまえ。 @ 2024/04/26(金) 22:00:04.52 ID:pApquyFx0
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少し暑くて少し寒くて @ 2024/04/25(木) 23:19:25.34 ID:dTqYP2V2O
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渾沌ゴア「それでもボクはアイツを殺す」 @ 2024/04/25(木) 22:46:29.10 ID:7GVnel7qo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714052788/

二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714049241/

佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713966248/

全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/

君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/

笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) :2011/11/24(木) 01:13:54.29 ID:uFOG1DQZo
戯言シリーズと物語シリーズをクロスさせるssです。
よかったら見ていってください。

カレンダー

十一月  (戯)       
 
一日 いーちゃん玖渚に振られる。
    共同生活開始。
二日 時宮時刻を拘束。操想術について聞く。
十二日面影真心を発見。
    狐さんと賭けをする。
十三日十三階段解散。
    小唄さんから弾丸を受け取る。
十四日赤き制裁vs橙なる種


十一月   (化)

一日 撫子くちなわさんの神体探しをする。
二日 撫子が髪を切られる。
    撫子がキレ子になる。
    撫子が神になる。
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) :2011/11/24(木) 01:14:57.03 ID:uFOG1DQZo
戯言×猫物語 アタシノプロフェッショナル


         パーフェクトライアー
つばさキャット 完壁委員長 の戯言
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) :2011/11/24(木) 01:15:23.09 ID:uFOG1DQZo
  登場人物紹介


戦場ヶ原ひたぎ (せんじょうがはら・ひたぎ)――――――――――蟹。
八九寺真宵 (はちくじ・まよい)―――――――――――――――蝸牛。
神原駿河 (かんばる・するが)―――――――――――――――――猿。
千石撫子 (せんごく・なでこ)―――――――――――――――――蛇。
羽川翼 (はねかわ・つばさ)――――――――――――――――――猫。
キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード ????
(きすしょっと・あせろらおりおん・はーとあんだーぶれーど)
阿良々木火憐 (あららぎ・かれん)――――――――――――????
阿良々木月火 (あららぎ・つきひ)――――――――――――????


ドラマツルギー (どらまつるぎー)――――――――――――????
エピソード (えぴそーど)――――――――――――――――????
ギロチンカッター (ぎろちんかったー)――――――――――????

忍野メメ (おしの・めめ)――――――――――――――――――平等。
忍野忍 (おしの・しのぶ)―――――――――――――――なれの果て。
忍野扇 (おしの・おうぎ)――――――――――――――――????
貝木泥舟 (かいき・でいしゅう)―――――――――――――????
影縫余弦 (かげぬい・よづる)――――――――――――――????
斧乃木余接 (おののき・よつぎ)―――――――――――――????
臥煙伊豆湖 (がえん・いずこ)――――――――――――――????
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) :2011/11/24(木) 01:16:31.88 ID:uFOG1DQZo
                   ―――――――――――――????
沼地蝋花 (ぬまち・ろうか)―――――――――――――――????


                   ―――――――――――――????


井伊遥菜 (いい・はるかな)―――――――――――――――????
玖渚友 (くなぎさ・とも)――――――――――――――――????
想影真心 (おもかげ・まごころ)―――――――――――――????
西東天 (さいとう・たかし)―――――――――――――――????
哀川潤 (あいかわ・じゅん)―――――――――――――――????


零崎人識 (ぜろざき・ひとしき)―――――――――――――????

阿良々木伊荷親 (あららぎ・いにちか)――――――――――戯言遣い。
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) :2011/11/24(木) 01:17:14.65 ID:uFOG1DQZo
 暴力が障害物を速やかに一掃してしまうことはある。
 しかし、暴力そのものが創造的であると証明されたことは一度もない。――アルベルト・アインシュタイン

7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) :2011/11/24(木) 01:17:41.19 ID:uFOG1DQZo
 羽川翼は、僕にとってとてもとても大事な人間である。他の誰にもかえがたい、かけが

えのない人間である、いや、それどころか大恩ある相手だ。多分僕は彼女に対して何をし

たところで、これで恩を返すことができたと、思うことはないだろう。春休み、僕がどん

底を全身全霊で経験しているところに出会い、どん底のどん底を全身全霊で体験している

ところにその手を差し伸べてくれた少女。今でも僕は、およそ二ヶ月前のあの経験を思い

出すだけで、ぐっと、胸の奥に熱いものがこみ上げてくる。人が人を救うだなんて言葉、

考えてみればとても嘘臭いのだけれど、そして、僕はそれを最近まで嘘だと思っていたの

だけれど、僕はあの春休みに、確かに、翼ちゃんに救われたのだと思っている。その想い

だけは、何があっても揺らぐことはないだろう。だから――だから僕は、地獄のような春

休みが終わり、この高校に無事編入(無事、というのは僕の身体的なものではない、手続

きの期限がぎりぎりだったのだ)し、彼女と同じ組になったとき、正直言って、とても嬉

しかったものだ。ちょっとした誤解で、学級委員長になった彼女から副委員長の職を押し

付けられるに至っても、そこまで抵抗なくそれを受け入れることができたのも翼ちゃんが

僕にとって大事な人間であったからに他ならない。

8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) :2011/11/24(木) 01:18:07.34 ID:uFOG1DQZo
 僕は翼ちゃんを最初、あのいけ好かない連中と同じ種類の人間だと、勉強以外にはまっ

たく興味がない、頭の悪い者を見下す、お高く止まった女生徒なのだと思っていたのだが、

実際のところ、そんなことはない。むしろ逆だ。彼女は誰に対しても、過剰なくらいに公

平である。公平であり、公明正大だった。委員長の中の委員長。学校側からの受けもよく、

そして、クラス内部での人望もある。真面目である以上に、面倒見のいい性格だった。そ

れが講じて僕を副委員長に就任させてしまうような、思い込みの激しさくらいしか、あげ

つらえる欠点が思いつかない。確かに委員長副委員長の関係でいっしょに作業をしている

と、鬱陶しいと思わされることもしばしばだけれど、それ以上に彼女の人間性には感心さ

せられることの方が多かった。

 語弊がある言い方になるかもしれないが、それは、僕がゴールデンウィークに知った、

彼女の家庭の背景を思えば、信じられないことだった。僕にとって春休みを地獄とするな

ら、ゴールデンウィークは悪夢である。当の翼ちゃんも既に忘れ去っている記憶である。

夢とは大概忘れてしまうものだという意味でいうなら、やはりそれは悪夢というべきなの

かもしれない。
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) :2011/11/24(木) 01:18:55.05 ID:uFOG1DQZo
 怪異にはそれに相応しい理由がある――この場合、彼女が抱えていた家庭の不和と歪み

こそが、それに相応しい理由だったというわけだ。そう、誤解というなら、それこそが完

全な誤解だった。いい人間は不幸せな人間で、悪い人間は不幸せな人間だなんて、僕はそ

れまで、それをわかった振りをして生きてきたのだけれど、でも、やっぱりそれは、ただ

の振りだったのだ。本当の意味で、わかってはいなかったのだ。いいから不幸せなのでは

なく、不幸せだからこそ、善良にならざるを得なかった人間もいるだなんて――僕には及

びもつかなかったのだ。

 そんな、そんな僕に。

 羽川翼は僕に手を差し伸べてくれた。

 あの春休みだって、彼女には、僕を助けている余裕なんてなかったはずなのに――それ

なのに彼女は、僕をどん底の中から、どん底のどん底の中から、引き上げてくれた。

 僕はそれを忘れない。

 この先、たとえなにがあっても。

 忘れたく――ない。

 突然だが、僕はこれから、苦い思い出であり、渋い思い出であり、しかしどこか甘酸っ

ぱい翼ちゃんとの思い出について語ろうと思う。

 別にこれと言った意味はない。ただ、それを目の前の彼女が欲しているという、ただそ

れだけの理由だ。

 では、

 それでは、
             タワム
 羽川翼と想いの限り 戯 れた、あのゴールデンウィークのことを、あの黄金色に輝く九日

間の悪夢のような戯言を、語ろう。
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) :2011/11/24(木) 01:19:22.57 ID:uFOG1DQZo
000

 人生に関して僕は真に驚くべき証明を見つけたが、この僕の心はそれを書くには狭すぎる。

11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 01:19:57.93 ID:uFOG1DQZo
001

 羽川翼と聞いて思い浮かぶあれこれ。

 十七歳。性別女。高校三年生。優等生。クラスの委員長。委員長の中の委員長。神に選

ばれし委員長。前髪を揃えた三つ編み。眼鏡。常に来ている制服。常に乱れることのない

制服。常に変わらない制服。真面目。生真面目。善良。とても頭がいい。常に正しい。誰

にでも公平に優しい。思い込みが激しい。僕を気にかけてくれる。何でも知っている。僕

の恩人。

 これから、そんな彼女について語ることに、僕はいささか緊張している。

 そもそも彼女について説明、あるいは表現ができるとは僕は毛ほども思っていない。

 あの青色や橙色までとはいかないが、しかし、あいつ並には例外である翼ちゃんについ

て言い伝えさせるなど、この脆弱な戯言にはあまりにも過ぎた話だ。

 僕は半ば語り部として失格しているようなものなので、あまり期待しないでもらいたい。

あいつといい、翼ちゃんといい、そしてこの赤色といい、僕に一体何を期待しているとい

うのだろう。

 僕はこの物語において、主人公じゃなく、ましてやスターでもヒーローでもなかったと

いうのに。
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 01:20:39.63 ID:uFOG1DQZo
 おっと、話が逸れてしまったか。やはり、僕に語り部は向かない。

 話を元に戻そう。これは僕の話ではない。翼ちゃんの話。

 本当に、心の底から申し訳のない限りではあるのだけれど、たとえゴールデンウィーク

のことをこれから詳細に、微に入り細を穿って隅から隅まで漏れなく語り尽くしたところ

で、あの悪夢のような九日間の真実は、あるいはあの悪夢のような九日間の真実に限りな

く近いまがい物は、まったくもって誰にも伝わらないだろうと、僕は端から諦めている。

伝達を完全に放棄した僕は諦めの権化であり、諦めの化身である。

 大体僕は、決してこの話を伝えたいわけではないのだ。

 頼まれたからやっているだけ。

 ただそれだけの話。

 ただそれだけの物語。

 本来ならばこんなこと語るまでもない。おのおので補完ができる話だ。

 だから、本質的にこの話は必要のない、無駄な物語。

 忘れても構わない、そんな物語だということを念頭において聞いてもらいたい。

13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 01:21:12.36 ID:uFOG1DQZo
002

 なんでいきなりやめるなんていいだしたんだ?

 きまっているだろういやになったんだよこのぷろぐらむがさ

 なにがいやだっていうんだい?ここにはなんだってそろっているしなによりきみのだい

すきなべんきょうってやつができるんだぜ?

 しかしおまえのだいすきなじゆうというものがないだろう?

 ぼくがじゆうをほっしているようにみえる?

 みえるといったら?

 めがねをかえといいたいね

 みえないといったら?

 めがねをかえといいたいね

 けっきょくおなじこたえじゃないか

 まあそうだね

 けっきょくおなじことじゃないか

 まあそうだね

 だったらそれはそれでかまわないだろう?そうおもわないか?
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 01:22:09.21 ID:uFOG1DQZo
「兄さん!」

「お兄さん!」

「大丈夫か?」

「大丈夫?」

「…………大丈夫」

 「それならいい」と、最後は二人揃って火憐ちゃんと月火ちゃんは僕の布団から離れた。

 四月二十九日。ゴールデンウィーク初日。

 彼の妹達が休日にも起こしてくれるのはいつものことなのだが、しかし、今日はどうい

うことだろう?いつもとは違う。少々荒い起こし方だった。というか、僕は常にこの二人

が来るよりも前に本当は目覚めていて、彼女達に起こされるまで寝たふりをして待ってい

るのだが……。

「ああ、それはだな」と、火憐ちゃんは口を開いた。

「兄さんなんかうなされていたからさ。これはとっとと起こしてやんなきゃいけないなっ

て思ってさ。んでちょっと大声を出させてもらった」

「気分悪いかも知れないけどさ。でも、悪夢覚えてて気分悪くなるくらいだったら、こっ

ちの方がいいでしょ?」と、月火ちゃんのフォローも入る。
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 01:22:37.15 ID:uFOG1DQZo
 ふうむ……そうかうなされていたのか……一体どんな悪夢を見たのだろう……。

 四ヶ月前のことだろうか、一ヶ月前のことだろうか。

 それとも――青髪の少女を――壊したときだろうか。

 どれにしたって思い出したくもない気がする。

 いや、これらの場合は、忘れられないし、忘れちゃいけないんだけれど。

「戯言だな」

 そこで僕は思考を断ち切り、ゆっくりと体を起こす。

 二人の前で、「起きます」と、言うのもなんだか恥ずかしかったので(一回変な空気に

なったことがある)、僕はそれを心の中で唱え、ベッドから降りようとする。心……心か

……。まったく笑わせる。いまや僕は、心なき鬼だというのに……。

16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 01:23:04.14 ID:uFOG1DQZo
「あ。だめだよ。お兄さん」と、ベッドから降りようとしたところで、月火ちゃんは僕を

押し倒すように、布団に再度寝かす。

「体調悪そうだよ?もう少し、休んでからでいいんじゃない?」

 ……僕は今、体調が悪くならない身体になっているんだけれども。

 「いや、やらなきゃいけないこともあるから」と、僕は月火ちゃんを振り切って起きよ

うとしたが、火憐ちゃんにも組み伏せられてしまい、僕は布団から動けなくなってしまっ

た。月火ちゃんと火憐ちゃんで二対一、そこは問題ないのだが、今の僕は加減の仕方とい

うものがまだよくわかっていないので、彼女達に怪我をさせないためにも、僕はここで動

くわけには行かなかった。

「大丈夫だよ。兄さん」

「大丈夫だよ。お兄さん」

 と、火憐ちゃんと月火ちゃんはまた、ステレオで喋る。
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 01:24:03.49 ID:uFOG1DQZo
「何があっても、兄さんは、あたし達が面倒見てやるからさ」

「何があっても、お兄さんは、あたし達が養ってあげるからね」

「…………」

 ……………………………戯言ですよね?お二方。

 うん、どうやら、僕の口調が少々移ってしまったらしい。早く直さないとまずいことに

なりそうだ。妹が戯言を遣うようになってしまったなんて、彼が聞いてしまったら、問答

無用で、殺されることだろう。

 まあ、彼がこの情報を手に入れることもないのだろうけれど。

 どころか、最早今生で会うことすらもないのかもしれない。

「結局、どれもこれも戯言か」

 しかし、そんな僕の呟きは間違いだったようで、可愛い妹達のその言葉は、戯言ではな

かった。僕は午前中いっぱいまで看病という名の拘束に遭うこととなり、いつも朝はあま

り食べないのだが(というか、食べなくてもいいように訓練されていたのだが)、今朝は

おかゆやらりんごやらをたらふく食べさせられてしまった。
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 01:24:41.55 ID:uFOG1DQZo
003

 午後一時。なんとか正常な肉体、及び精神であることを必死に説き、僕はなんとか阿良

々木家から脱出することに成功した。特に精神面においての説得がかなり難しかったが、

しかし、さすがに今日一日中、下手すれば、ゴールデンウィーク中「看病」をされるのは

僕にとってかなり恥ずかしいことであった。「ゴールデンウィークの悪夢は妹に看病され

つづけていたことでした」なんて、オチの物語は僕だって読みたくはない。

 それにしても、まったく、阿良々木家の「看病」は恐ろしい。

 体調の悪い者は一切動くな。という、教えでも施されているのだろうか、りんごは「ミ

キサーなどという不衛生な機械で、兄さんに飲ませるわけにはいかない」と、火憐ちゃん

の手によって細かくすりつぶされたジュースとなり(それは不衛生ではないのかと突っ込

んではいけない。その分彼女の優しさが入っていると思えばいい)、おかゆは「スプーン

なんて重たいものをお兄さんに持たせるわけにはいけない」と、月火ちゃんが甲斐甲斐し

く、一口一口僕に食べさせてくれた(その際、毎回月火ちゃんは馬乗りになるのだが、

そっちの方が重いのではないかと、突っ込んではいけない。その身体には彼女の優しさが

詰まっていると思えばいい)。

 さすがに、この僕もこれは恥ずかしいと思い、少々食べてその場は済まそうと思ったの

だが、彼女らの手によって作成されたおかゆとりんごジュースは芸術品といっても大差な

い。いや、むしろこれこそが芸術なのだとでも言わんばかりに美味だったので、少々食べ

るという計画は頓挫、少々食べ過ぎるという結果になってしまった。
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 01:25:35.58 ID:uFOG1DQZo
 まあ、それを健康である状況証拠(?)にできたので、結果オーライと言ったところか。

 しかし、気恥ずかしさから適当な服で、財布も持たずに家を飛び出してしまったが、ど

うしよう……。

 僕は数瞬迷い、数秒考えた挙句に、町にある唯一と言っていい大型書店に向かって、歩

くことに決めた。家に戻り、自転車を取ってくるという可能性も考えられたのだが、しか

し、もし万が一、彼の自転車、特にマウンテンバイクの方を壊してしまった場合、僕の生

存が危ぶまれるので、そのまま歩いていくことにした。なに、時間はたっぷりあるのだ。

むしろ、今日一日使って歩くぐらいの気持ちで行こう。

 そんなふうに、日本では珍しい大型連休のその初日を、無駄に豪華に消費しようと、考

えながら、歩いていたのだが――そんな道中。

 翼ちゃんを、羽川翼を見かけた。

20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 01:26:23.34 ID:uFOG1DQZo
 三つ編みに眼鏡、制服姿の彼女は、僕には気付いていないらしく、信号を渡っている最

中だった。

 ふむ。どうだろう。ここで、僕が声をかける必要はない。しかし、翼ちゃんなら僕に向

かって声をかけてくるはずだ。勿論、翼ちゃんができることを僕がすべてやらなければな

らない道理はないが、これくらいは誰だってできる、いや、できて当然だ。そう、人にな

らできて当然だし、鬼がやってもそれは問題ないはずである。

 そんな戯言めいた逡巡の後、僕は「やあ、翼ちゃん」と、翼ちゃんに声をかけた。

 まったく、本当に戯言だ。

 鬼が人に挨拶をするなど、実際そんなことがあったら、大問題である。

 そう、大問題になる。

21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 01:27:04.71 ID:uFOG1DQZo
「ああ、阿良々木くん。やっほー」

 そう言って、翼ちゃんはこちらを向いて、僕に笑いかけてくれた。

 純粋な屈託なき、まっすぐな笑顔で。

 しかし、その笑顔は、通常のものとは違い、純粋であり、屈託ないものであり、まっす

ぐなものでしかなかった。

 清廉なものでは、なかった

「――――っ!!」

 絶句する。どうしようもないくらいに、絶句する。

 翼ちゃんのその、美しき左顔面には、分厚い、ガーゼが覆われていた。

 顔の左半分がまったく見えない。ちょっと擦り剥いたとか、壁にぶつけてしまったとか、

その程度の怪我に対する治療じゃ、明らかにない――テープによって留められた白いガー

ゼは、翼ちゃんの顔の左側を、完全に隠してしまっていた。

「ん。あ」

 と。

 翼ちゃんは、そこで、失敗した――みたいな顔をした。

 とても珍しい、そんな表情を。
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 01:27:48.60 ID:uFOG1DQZo
 僕の驚きを見て取ったのだろう。そして思い至ったのだろう。そうだ、あいつ並に頭の

いいこの子ならば、今のこの状況がわからないはずがない。

「ん――えっと」

 そんな風に翼ちゃんが口ごもることも珍しい。どうしたものか、このいかんともしがた

い状況を果たしてどうクリアしたものなのか思い悩んでいる――というよりは、それは単

純に、戸惑っているだけという感じだった。

「えっと――翼ちゃん、あのさ――その――」

 翼ちゃんだけに考えさせるわけにはいけない。僕も何か――戯言でもなんでもいい、考

えろ。ええっと……そうだな。とりあえず、宮元武蔵の物真似をしながらロボットダンス

を――

「阿良々木くん。歩こっか、すこし」

 僕が暴走しかけたのを、やはりこれも見て取ったのか、翼ちゃんは僕を誘い、返事を待

たないままに、歩き始めた。

 さすがだなあ……ほんと。
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 01:28:53.59 ID:uFOG1DQZo
 戯言にもならないような感想を抱きつつ、僕はすぐに追いつき、翼ちゃんの横に並ぶ。

 勿論、男女二人で歩くときは、男性が車道側を歩くのがマナーだ。僕は翼ちゃんの左側

に並んだ。

「…………あの……阿良々木くん?」

「何?翼ちゃん」

 翼ちゃんの方を向く。

 その左頬には痛々しいガーゼ。

「あの……さ、厚意も行為も嬉しいのだけれど、ちょっと、そちら側には、回らないでく

れるかな……」

「……?」

 …………あっ!そうか。翼ちゃんは僕にこちら側にいて欲しくないのか。

 ガーゼの側に立って欲しくないのか。

「ごめんごめん」と、僕は右側に回る。まったく、何て気の利かない奴なのだろう、僕は。

 翼ちゃんと会って――こっちに来て、初めて人と仲良くなれて、もう一ヶ月以上経つの

に――どうも、僕はダメだ。

 人と仲良くすることが、苦手だ。

 彼なら、もっとうまくやるだろうか?
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 01:29:27.96 ID:uFOG1DQZo
「ところで翼ちゃん」

 並んだところで、まず僕は、当り障りのないところから、会話を切り出した。

「どこに行くところだったの?」

「ん?んん」

 翼ちゃんはそれに対して、

「別に」

 と、答えた。

「お休みの日は、散歩の日。つれづれなるままに歩き散らしているだけだよ」

「ふうん。そうか」

 まあ、そんなこともあるだろう。

 僕なんか、人生の八割を散歩に費やしているようなものだし。
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) :2011/11/24(木) 01:29:57.73 ID:uFOG1DQZo
「阿良々木くんは、どこに行くところだったの?」

「ん……えっと……」

 あれ?どこに向かっているんだったっけ?

 翼ちゃんと会って忘れてしまったのだろうか。僕の記憶の引出しには、一切何も入って

いない。頭をぐちゃぐちゃとかき回せばわかるかもしれないけれど。こんな休日の昼間に、

そんなことするわけにも行かないし。翼ちゃんの前でそんなことをして、不快な思いをさ

せても仕方がない。僕は思い出すことを諦めて、

「忘れちゃった。それを今、思い出そうとしているところなんだよ」

と、答えた。

 しかし、翼ちゃんは納得言ってないようで、「うーん……何か隠していない?人に言え

ないようなところに行こうとしていたの?それとも、私にはわからないようなところに行

こうとしているの?」と、問いただしてきた。

 うーん……そう言われても……人間よくあることなんじゃないか?自分が今何をしてい

るのかわかっていないってのは……。

 まあ、今の僕は、人間ではないのだけれど。
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 01:30:32.86 ID:uFOG1DQZo
 そんな戯言を思いながら、僕は「まあ、そんな風に思ってもらってもいいのかもしれな

いけれどもね」と、曖昧にぼかした。

 曖昧な言葉って意外に便利だ。

「ふうん」

 と、翼ちゃんは何か含みのある感じで、頷いた。

 そう言ってから翼ちゃんは、

「阿良々木くんって――確か、妹がいるんだったよね?」

 と、なにやら唐突に話題を変えた。

「春休みにそう聞いた憶えがあるけれど」

「えーっと……」

 そんなこと話したっけかな、僕。

 まったく憶えていない……。

 っていうか、どっちだ?

 火憐ちゃんと月火ちゃんのことか?それとも――

 それとも、彼女のことだろうか。
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 01:31:19.08 ID:uFOG1DQZo
「あ……阿良々木くん!?」

 ちょっと、考えている間に、翼ちゃんは、少し、青ざめたように僕を見た。

 なんだろう。また、僕はおかしくなっているのだろうか。僕は、「何?」と、訊いてみ

る。

「えっ、あっ、いや、えっと……阿良々木くん、とても悲壮そうな顔をしていたから……

ごめんね。変なこと訊いちゃったかな?」

 悲壮そうな顔、か。僕は、どれほどに惨憺たる顔をしていたのだろう。

「いやいや、そんなことはないよ」と、僕は平静を装うが、恐らく翼ちゃんには無意味だ

ろう。どんなに取り繕っても、翼ちゃんには、何もかもお見通しに違いない。

 だから、翼ちゃんが「そう、ならいいや」って、引いてくれたのも、きっと彼女の優し

さなのだと思う。
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) :2011/11/24(木) 01:31:57.89 ID:uFOG1DQZo
「兄弟って、みんなそんな感じなのかな。私の知り合いに、『あの変態兄貴め。俺がいつ

かぶっ殺してやるぜ』って言ってた人もいたし」

 ……そりゃまた、すごい人物もいたもんだ。

「そういえば、翼ちゃんは兄弟姉妹とか、いるんだっけ?」

 いそうなイメージはないのだけれど。

 しかし、いそうにもない奴にこそ、兄やらなにやらがいるのが人というものだ。

「あれ、言ってなかったっけ?私は一人っ子だよ」

「へえ」

 まあ、やはりいなかったか。

 この場合、僕は両方の場合を想像していたので、やはりもなにもないのだけれど。

「だからさ、阿良々木くん――私には家族って、いないんだよね」

「……別に、一人っ子だからって家族がいないってことにはならないだろ?」

 僕は、姉妹がいても、家族がいないようなものだけれど。
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 01:32:35.39 ID:uFOG1DQZo
 しかし、どうやら、僕のような戯言を翼ちゃんは言ったわけじゃないようだ。

 翼ちゃんは深刻な風に「ううん、いない。」と言った。

「お父さんもお母さんも誰もいないよ。私には」

「…………」

「いやいや、勘違いしないで。別に天涯孤独ってわけじゃないの。そうだね、ごめん、言

い過ぎた。言い過ぎといっても過言じゃなかったよ。私にはお父さんもお母さんもいる。

一つ屋根の下で暮らしている。三人暮らしなんだよ」

「ああ……そうなの?だったら――」

 だったら――そんな重い話でもないんじゃないのか?

 別に、生まれてから十年間、ずっと牢の中で育てられたわけでもない。

「ただ、家族じゃないだけ」

 それだけ。

 そう言う翼ちゃんの足取りは――まったくといっていいほどに変わらない。
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 01:32:56.63 ID:uFOG1DQZo
「私のお父さんとお母さんは、本当のお父さんや本当のお母さんじゃないってだけだよ」

「本当の……」

「そう、つまり嘘のってことだよね」

 翼ちゃんは妙にあっけなく言った。

「さて、と」

 翼ちゃんは足を止めない。

「何から話そうかな――とりあえずは、昔々の十七年前、一人の可愛い女の子はいました

って感じかな」

「女の子?」

「私と同じ十七歳の女の子だとお考えください」

「はあ……」

 よくわからないなりになんとなく頷いてみる。

 なんとなく頷く限りにおいては、僕の右に並ぶ者はそうそういないだろう。
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 01:34:59.54 ID:uFOG1DQZo
「ある日、その女の子は身ごもりました」

「み――身ごもる?」

 さらっと。

 とんでもないことを翼ちゃんは言う。

「うん。妊娠したってこと。ちなみに相手が誰なのかはわかりません。なにせ恋多き女の

子だったらしくって――で、生まれた子供が私なんだ」

 何を、

 何を言っているんだろう。翼ちゃんは。

「私生児ってことになるね。だから。うん」

 どういうことなんだろう。翼ちゃんは何を言いたいんだろうか。

 翼ちゃんは僕に、何を伝えたいんだろうか。

「その後、お母さんは、私を育てるために、お金目当てで結婚して――すぐに自殺してし

まったの」

「自殺……」
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 01:35:25.77 ID:uFOG1DQZo
「そう、自殺。耐えられなかったんだろうね。愛情のない結婚っていうのにさ。でも、こ

の場合、一番の被害者は、相手の男性だよね。誰とも知れない相手との子供を引き取らな

くちゃいけなくなったんだから。ああ、その人が私の最初のお父さんなんだけれど」

「最初の?」

「そう、その人も、今のお父さんとは違う人なの」

「…………」

「その最初のお父さんも、まあほとんど私は、憶えていないんだけれど。これが真面目一

本槍の、絵にかいたような仕事人間で――子育てなんてできない人だったんだって。で、

また結婚。今度は、子育て目当てってことになるのかな――だったらベビーシッターでも

雇えばいいのに」

 まあ、教育上、母親がいないのは子供にとってよくないとか考えちゃったんだろうね、

真面目だから――と、翼ちゃんは、『最初のお父さん』とやらの行動にフォローを入れる。

「で、そのお父さんは、結局働きすぎで過労死しちゃったんだ。で、残されたお母さんっ

ていうのが二番目のお母さんにして今のお母さんで、今のお父さんは、その人の再婚相手」

 以上。
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 01:36:00.19 ID:uFOG1DQZo
 と、翼ちゃんは笑顔でまとめた。

 複雑というほどでもない、図に書いてしまえば実にわかりやすい家系図ではある。

 でも、それが本当なら、一緒に暮らしているという、家族ではない父親と母親は。

「そう、今一緒に暮らしてるお父さんとお母さん、私とまったく血が繋がっていないんだ

よ。言うなら赤の他人なの。あはは、ほんと、傑作な話だよね。血が繋がっていないのに

赤の他人って――吸血鬼が聞いたら笑いそうな話だよね」

「……笑えないよ」

 僕が言うのだから――間違いない。

 勿論、あの廃墟で体育座りをしているであろう、あの金髪幼女も決してにこりともしな

いだろう。

 もっとも僕は春休み以来、あの幼女が笑うところを見たことがないけれど。

34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) :2011/11/24(木) 01:38:55.39 ID:uFOG1DQZo
「よくわからないんだけどさ。結局、どういった話なの?」

「みなしごハッチってことなんだけど。いやいや、もちろん、戸籍上はちゃーんと、父親

と母親なんだけどね。お父さんとお母さんなんだけどね。でも、お父さんらしいこともお

母さんらしいことも、あの人達は何もしてくれないし」
  ・ ・ ・ ・ ・ ・
 私はこんなに。
 ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
 娘らしくしているつもりなのに。

 そんな風に、ことのついでに付け加えたように聞こえた言葉は、聞き違い、あるいは幻

聴だったのかもしれない。

 そんな一方的な愚痴みたいなことを、翼ちゃんは言うとは思えない。

「血が繋がってなくても家族になれるって――私も昔は思っていたし、実際そんな人にも

会ったんだけれどね。いろんな家庭をたらいまわしにされた結果辿り着いた家だったから、

頑張って仲良くしようとか思ってたんだけどね。ままならないもんだよ、本当に」

 ままならないし。

 つまらないよ。
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 01:39:34.12 ID:uFOG1DQZo
 そう言ってから、翼ちゃんは僕の前に回り込んで、道を塞ぐようにして、

「ごめんね、阿良々木くん」

 と言った。

「今、私、意地悪なこと、言ったよね」

「いや、そんなことはないよ」

 この話の流れでどうして僕が翼ちゃんから謝られるのかわからず、僕は多少戸惑う。

 そう、僕に謝られる資格なんてない。

「だってこれ、八つ当たりだもん」

 と、翼ちゃんは言った。

「いきなりこんなこと言われたって、反応に困るでしょう?だからどうしたって感じだし、

そもそも阿良々木くんには関係ないし――でも、なんだか、ちょっと同情しちゃうようで、

筋違いの同情しちゃう自分に罪悪感を覚えちゃうでしょう?悪いことをしちゃったような、

そんな……嫌な気分に、なったでしょう?友達のプライベートを覗き見しちゃったみたい

で、重い気分になったでしょう?」

 まくし立てるようにそう言う翼ちゃんからは、悔恨の情が溢れていて。

 急にとても気弱な表情になっていて―― 一つ取り扱いを間違えると取り返しがつかな

いほど壊れてしまいそうで――僕に反論を許さない雰囲気があった。
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 01:40:45.50 ID:uFOG1DQZo
「だから話したんだ」

 翼ちゃんは言った。

「狙い通り。私、阿良々木くんで、憂さを晴らした」

「…………」

「阿良々木くんを嫌な気分にして、憂さ晴らしをして、すっきりしようとした――愚痴で

すらないもんね、こんなの」

 本当に申し訳なさそうにそう言う翼ちゃんの姿は静止に堪えないものだった。

「欲求不満の解消だよ、こんなの」

「欲求――不満」

 正直なことを言えば。

 この時点で――僕にはおおよそアテはついていた。
                               ・ ・ ・ ・ ・
 元々危惧していた推測の正しさを――そしてその正しさの先の、見当がついていた。

 翼ちゃんの顔面を覆うガーゼ。

 その理由。
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 01:42:44.78 ID:uFOG1DQZo
          ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
 もしもそこに、僕が考えている通りの理由がないんだったら――翼ちゃんが突然、僕に

そんな身の上話を始めるはずがないのだから。

 そうでもない限り、翼ちゃんが僕で憂さ晴らしなんてするはずがないのだから。

「……翼ちゃん」

 意を決して――僕は訊く。なあなあにできない。そうすることが、はっきり答えを出さ

ず、答え合わせもしないことが、きっとこの場合のベストなんだろうとは思うけれど――

 もう手遅れ。

 僕は翼ちゃんの物語に、羽川翼の物語に深入りしてしまっていた。干渉してしまってい

た。

 いくらなんでも、これは戯言なんかでは済ませられない。

 彼女の心に。

 彼女の家庭に。

 僕は土足で踏み入った。

「その顔は――誰にやられたんだ?」
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 01:43:10.86 ID:uFOG1DQZo
 確証なんてない。

 誰かにやられただなんて、とんだ決め付けだ。

 だけど。

「どうして、そんなことを訊くのかな?」

 翼ちゃんは言った。

「どうして阿良々木くんが、そんなことを」

 今から思えば、これは、翼ちゃんがくれたチャンスだったのかもしれない――いや、チ

ャンスなんて前向きなものではなく。

 引くならここだと。

 警告文を――最後通牒を提示してくれたのかもしれない。

 あるいは、威嚇射撃のように。

 だけど――僕は引かなかった。

 多分、僕は僕の意思で引かなかったわけではない。

 それはきっと、遺志。
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 01:43:51.96 ID:uFOG1DQZo
「それは……それは多分、僕が僕だからだ」

「は?」

「こんなところで引くような僕じゃない。僕はこんなところで引いちゃいけないんだ」

 戯言のようにも聞こえるかもしれないが、この場合は戯言というわけじゃない。

 曖昧は便利だけれど、便利だからって使い続けていいわけじゃない。

 戯言だってそうだ。

 これが、これこそが僕の偽りのない言葉。

「んー、そっか。そうだね。そうかも」

 翼ちゃんは、僕の言葉に、頷いた。それ以上僕を問い詰めようとはせずに、頷いた。

「そうだね。ここで話をやめちゃったら、本当に阿良々木くんで憂さを晴らしただけにな

っちゃうしね」

「…………」

「誰にも言わないって、約束してくれる?」

「うん、そりゃ」

「誰にもだよ。本当に、誰にも。妹さん達にも――家族にも、秘密」

 念を押すような言い方は、ふざけ半分のようにも思えたし――しかし、真剣そのものと

も受け取れるものだった。
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 01:44:44.62 ID:uFOG1DQZo
 穿った見方をすれば。

 言質を取ろうとしているようにも思える。

 そんな語調だった。

 それに気圧されつつも――僕は頷いた。

「約束するよ。絶対に誰にも言わない。そりゃ、もう、睨まれようが、凄まれようが、拷

問を受けたって何も言わないね」

「今朝、お父さんに殴られたの」

 翼ちゃんの返事は、僕の承諾とほぼ同時だった。

 あっけなく、笑顔で。

 にっこりと。

 彼女は――それがごく当然の、どこの家庭でもよくある出来事であったかのように、そ

う語ったのだった。

「それは」

 僕の声は――震える。

 怒りで。恐怖で。
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/24(木) 01:45:38.69 ID:uFOG1DQZo
 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「それは駄目だろう――!」

「親らしいことなんて何もしてくれない人達だったけれど――まさか親らしくないことを

されるだなんて思わなかった。驚いちゃったですよ」

「驚いちゃったって……」

 僕は戸惑いを隠せない。

 理解できない。

「大体、何でお父さんが君を殴るんだ」

「なんてことはないよ。うっかり、お父さんが家に持ち帰った仕事に口を出しちゃったか

ら、殴られました。お母さんはそれを黙って見てました。そんだけ」

「そんだけ――って」

 そんだけなんて――そんだけで済まされる問題じゃないだろう。

 理解できない。理解できない。
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 01:48:11.66 ID:uFOG1DQZo
「そんな何てことのないことで、どうして、父親が娘を――殴るんだ?」

 理解できない。理解できない。理解できない。

「ほら、だって、考えてみてよ阿良々木くん。もしも、阿良々木くんは四十歳くらいでさ

――見も知らぬ十七歳の子供から、知ったような口を利かれたとして?ちょっと腹が立っ

ちゃっても、かちーんときちゃっても、それは仕方がないと思わない?」

「――――」
  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
 見も知らぬ十七歳の子供だって?

 なんだよ、その――自虐的な言い方は。

 理解できない。理解できない。理解できない。理解できない。

「暴力が仕方ないなんて――何言ってんだよ。そんなのきみの台詞じゃないだろう?それ

は、きみが、最も許せないことじゃ――」

「いいじゃない―― 一回くらい」

 翼ちゃんはそんなことを言った。
 ・ ・
 いや。
 ・ ・  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
 僕は、そんなことを言わせた。

43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 01:49:13.33 ID:uFOG1DQZo
「約束したよね、阿良々木くん。誰にも言わないって――約束してくれたよね」

 誰にも。

 学校にも、警察にも。
                  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
 そして、おそらく何より――翼ちゃん自身に対して、二度とこの話題を持ち出さないと

いう、約束。

「で、でも、そんなこと言ったって……約束は、破るためにあるようなものだし……」

「なんかさりげなくすごいこと言ってない!?」

「うん、まあ、戯言なんだけれど……いや、そんなことはともかく――」

「……お願い、阿良々木くん」

 翼ちゃんは言った。

 約束を平気で破ろうとする僕のような不誠実な鬼に対して、あくまで誠実であろうとす

る翼ちゃんは――頭を下げた。

 深々と。

 腰が折れるんじゃないかというくらいに、深く深く、闇に沈みこんでいくかのように、

そのお下げの頭を下げた。
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 01:49:47.58 ID:uFOG1DQZo
「このことは、誰にも言わないでください。黙っていてくれたら、私、なんでもするから」

「…………」

「お願いします」

「……ああ。わかったよ」

「お願いします」

「わかったってばさ。誰にも言わなきゃいいんだろう?」

 拒絶されてしまってはどうしようもない。

 人は勝手に助かるだけ……か。

 ふうむ。しかし、どうしたものか……。
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 01:50:21.11 ID:uFOG1DQZo
「なんでも……って、なにがいいかな……」

「え?あれ?なに、これ、化下及びアニメルートじゃないの?」

 混乱している翼ちゃん、残念、これは猫黒ルートだ。

「何がいいと思う?っていうか、どこまでならやってくれるの?」

「直接的に、直截的に来るねー。うーん、そうだねー、缶ジュース一杯おごるとか?」

「よし、では、今から体育倉庫に行こう」

「えっ……」
          チキン
「いや、そろそろ臆病者の汚名を返上させていただこうかと思ってね。うん、春休みのこ

とは本当に悪かったと思ってるよ」

「」

「じゃあ、行こうか」
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 01:50:47.12 ID:uFOG1DQZo
004

 後日談というか、今回のオチ。

 翌日。今日はいつものように火憐ちゃんと月火ちゃんは起こしてくれなかった。

 というか、これから先、火憐ちゃんと月火ちゃんに起こされることはない。

 これからは、僕が彼女を起こすのだ。ルンバじゃない。この僕が。

 僕は横で寝ている彼女を起こす。

「起きてくれ、翼」

《Tsubasa Cat》is THE END.
《Atashino Professional》is THE END.
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 01:54:56.54 ID:uFOG1DQZo
「何が『THE END』だ、こら!」

 そう言うと、一瞬で哀川さんは僕の背後に回りこみ、ヘッドロックを極めた。

「く、くるし……ま、ま、かはっ、って、っくかさい。ざれ、ざれごとで、っすよ」

「ええ、お兄ちゃんよ、苗字で呼ぶのは敵だけだっつったよな。あたしは。あとちゃんと

事実を教えろとも言ったよな。ええ?」

 そっちが後かよ。という、突っ込みも言えない。

 苦しい。

 どうやら、完璧に極まっているようだ。

 あ、これはまずい。

 落ちる。おちる。オチル――――――

「まあったくよう。ちゃんとしてくれよな、お兄ちゃん」

 そう言って、赤く美しき請負人は、ヘッドロックを解いた。

 僕は今までできなかった分、精一杯呼吸する。

「はあ、はあ、げほ、がほ」

「だいたい、なんでルンバの事をお兄ちゃんが知ってんだよ。それは今、あたしが教えて

やった情報じゃねえか」

「すいません、ちょっとふざけてみただけです」

「はあ、ほんとさ、これでも一応仕事なんだよ?あたしは。別に、お兄ちゃん苛めたくて、

ここにいるわけじゃねえんだよ。苛めんのはあくまで、ついでに楽しんでるだけなんだからさ」

 楽しまないで欲しい。

「こういうギャグパートも合った方がいいかと思いまして……」

「で、どこからが本当なんだ?もう一度やり直せ」

「はい。えっと――」

 僕は思い出す。

 ギャグで流したいような、笑って済ますことの出来ないような、そんな記憶を。
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 01:55:40.61 ID:uFOG1DQZo
「よし、では、今から体育倉庫に行こう」

「えっ……いやいやちょっと待って」
          チキン
「いや、そろそろ臆病者の汚名を返上させていただこうかと思ってね。うん、春休みのこ

とは本当に悪かったと思ってるよ」

「ちょ、ちょっと……」

「じゃあ、行こうか」

「ごめんなさい。私が悪うございました」

 と、翼ちゃんは頭を下げた。今度は、腰ではなく、膝を折り、地面に手をつく形になる。

 つまりは土下座だった。

 …………日曜日の昼間に、命の恩人に対して何をさせているんだろう、僕は。

 鬼畜もいいとこだ。

 鬼。

「すいませんでした。調子に乗りました。ごめんなさい。僕が悪かったです」と、僕も土

下座し返す。

 ……こうだったかな……何分一ヶ月以上前の話だ。よく憶えていない。うん、たぶん、

こんな感じだったはずだ。

49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 01:56:24.74 ID:uFOG1DQZo
004

 その後、お互いに、意見を出し合い、最終的には、僕が提案した『翼ちゃんの頬を舐める』

に決定した。なぜか翼ちゃんは、僕にあだ名をつけようとしていたが、なんとなく却下。

「ありがとう、阿良々木くん」

「ん?何のことかな?もしかして翼ちゃんって舐められるの好きなの?言ってくれれば、

いつでも全身舐めまわしてあげるのに」

「うふふ、遠慮しとく」

「……………………」

 ……うん、やはり、あの様子からすると、僕の浅い企みなど、ばれているようだ。

 僕の中でいまだ残っている吸血鬼性、その能力の中に、回復能力、治癒能力というもの

がある。たとえ、ぼこぼこに殴られようが、蹴られようが、斬られようが、刺されようが

元に戻る。そのときのコンディション、つまり吸血鬼度にもよるが、完全に吸血鬼である

状態ならば、たとえ、右手一本しか残らずとも、一瞬で全回復するほどの治癒能力を誇る

そうだ。
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 01:57:55.78 ID:uFOG1DQZo
 文字通りの、人間離れした回復力――そしてこの回復力は、場合によっては他者に適用

することもできる。
                           
 血やら唾液やらの体液を相手の傷口に塗布することで――塗りたくることで、その怪我

の治療をすることが可能なのである。
 
 唾をつけておけば。
 
 舐めておけば治る――である。

 僕は一通り、傷口を舐め終えると、「一応、ガーゼ貼り直しといた方がいいよ」と、言った。

 しかし、なんだか、出来レースみたいだな……。

 全部が全部翼ちゃんの掌の上って感じ。

「いきなり怪我が治ってたらおかしいしさ。怪我をしてる振りだけはしておかないと――」

「親が不審に思う?」

 翼ちゃんが僕の台詞を先回りした。

 そして更に、

「思わないよ」

 と言った。

「そういう人達じゃないから。私が髪をばっさり切っても、あの人達は気付かないんじゃ

ないかな。多分あの人達は――私の顔も憶えてない」

「……家まで送っていこうか?」

「いや、いい」

 翼ちゃんは、あっさりと――厳しく拒絶した。
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 01:58:37.58 ID:uFOG1DQZo
 それはまったく、他人を立ち入らせようとしない態度だった――当然だ。

 翼ちゃんは別に、僕に助けを求めたわけではないのだから。

 たまたま、道中行き会っただけ。

 ただの偶然。

 彼女が頼ったのは――猫だった。

「ん?」

 僕たちはその後、それまでの会話には一切触れず、これからのクラスの予定。文化祭の

予定について話し合いながら、散歩をしていた。

 すると、道路のど真ん中に赤いような、白いようなものを見つけた。

 あれは――

「あれは――猫――か」

 視力2.0。加えて、吸血鬼能力でさらに僕の視力はよくなっている。

 別にそれほど遠い位置にあったわけじゃない。しかし、その猫は、その猫の死体は、こ

の距離では僕にしかそれが元は猫だったのだと判別できなかったと思う。

 それほどまでに酷い状態で死んでいた。
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 01:59:03.62 ID:uFOG1DQZo
 首輪がないところを見れば、野良猫だろう。尻尾のない、白い猫だった。元々尻尾のな

い種なのか、路上生活の末に千切れてしまったのか、それはわからない。白い猫――見方

によっては銀色のようにも見えるが、しかし、どちらにしたって、自身の血の色に染まっ

て、その地毛の色は台無しだった。一度轢かれた後、何度も後続車に轢かれたのだろう、

まるで、ぼろ雑巾のような、酷い有様である――翼ちゃんは迷わず、当たり前のように歩

道から車道へと出て、その猫を拾い上げた。

「手伝ってくれる?」

「ああ」

 翼ちゃんにそう聞かれて、頷かない奴はいない。

 僕たちは、近くの山にその猫を埋めてやって――こうして、四月二十九日、翼ちゃんと

僕にとって悪夢の九日間の最初の一日、プロローグとしての一日は、幕を閉じたのだった。

53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 01:59:30.99 ID:uFOG1DQZo
005

 翌日。

 つまり四月三十日。

 というより、感覚的にはまだ四月二十九日の夜中ということになるのだけれど――御両

親、そして祝日ゆえの夜更かしさんだった火憐ちゃんと月火ちゃんはようやく寝入った頃、

僕はこっそりと家を出た。ママチャリにまたがり、なるべく音を立てないよう、こっそり

と、しずしずとペダルを回す。しばらくはライトもつけない用心っぷりは、われながら行

き過ぎているきらいはあるけれども。

 夜遊び。

 というわけではない。

 そんな甲斐甲斐しい甲斐性は僕にはない――成績的には非常に落ちこぼれだけれど、僕

はこう見えて結構真面目な男子高校生なのだ。

 不良扱いなど心外である。
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 02:00:10.47 ID:uFOG1DQZo
 では眠気を押してどこに向かおうとしているのかと言うと、それは町のはずれにある廃

墟、かつては学習塾だったという廃ビルである。肝試しにだって使用されないだろうとい

う崩壊寸前の建築物だ。……まあ、真夜中にそんな場所に足を向けているというのは、決

して印象のいいことではないだろうけれど。

 非行と言われても反論できない。

 しかし理由はあるのだ。

 そんな場所に向かう理由も――時間は夜中である理由も。

 確固としてある。

 廃ビルを囲むフェンスの前に自転車を停め、後輪にチェーン上を施してから、フェンス
                    はい
とフェンスの隙間から、敷地内に這入り、そしてビルディングの中に這入る。
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 02:00:43.92 ID:uFOG1DQZo
 肝試しにだって使用されないだろうといったものの、実際、こうやって夜中に侵入して

みると、勝って知ったる他人の廃墟と言えど、そこそこ背筋の冷えるものはある――まして。

 ましてこの廃墟の中には、本物のお化けがいるというのだから――尚更だ。

 お化け。

 妖怪。

 怪異。

 外観以上に荒れ果てた建物の中、瓦礫やら廃棄物やらを避けつつ階段を、最上階である

四階まで寄り道なしで昇る。

 そして四階に三つある部屋――どの部屋もかつては教室として使われていた――のドア

のノブを、近い順に、大した意図もなく開けていく。

 一つ目の扉も、二つ目の扉も外れ。

 今日は運が悪いらしい。

 いや、運がよかったことなど一度もなかったか。

 三つ目の扉――最後の扉を開ける。

 その中には吸血鬼もどきの幼女と――

「あれ……忍野さん、こんな夜中にどこに言っちゃったんだろう?」

 どこかに隠れている可能性もあるので、一応敬語は外さずに、呟いてみる。

 が、僕の呟きがリツイートされることはなかった。
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 02:02:23.30 ID:uFOG1DQZo
 いつも通りの一人言。

 いつも通りの独り事。

「戯言だ」

 そうだ、今この状況において一人ではない。もう一人いる、つまり二人だ。

 もっとも、互いに人ではないので、零人というべきかも知れないが。

 見た目八歳前後の、その吸血鬼もどきの幼女は、部屋の片隅で一人、体育座りをしている。

 量の多い、しかし一本一本が薄絹のように繊細な金髪の髪、薄着の可愛らしいワンピー

スを着ている。そんな意匠の所為で、透き通るような肌の色や、肉付きの薄い生足が見える。

そして、そんな格好にもかかわらず、まったく以前の気品を失わない、威圧的な雰囲気を
・ ・
それは醸しだしながら、僕を強く睨みつけてくる。

 以前、吸血鬼だった頃には、物を爆破することすら可能だったその双眸で、強く、強く

睨みつけてくる。
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 02:02:54.96 ID:uFOG1DQZo
「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 僕は無言の圧力を注ぎつづけることをやめない、その幼女の前にどっかりと腰を下ろし、

上着をはだける。

 こんな風に描写をしてしまうと、僕が特殊なフェチズムを持っているように勘違いされ

てしまいそうではあるが、実際はそうではない。

 僕はそのような――幼女の前で上半身裸になることで性的興奮を得るような男ではない。

 むしろストイックすぎて、同い年以上の女性の肢体でも興奮することがないときもある

ほどの、紳士の鏡とも言うべき男である。

 では、僕が理由もなく、意味もなく、ここで上半身裸になるような、違うベクトルで変

態ぎりぎり、いや、ぎりぎり変態の男なのかというと、そういうわけでもない。

 確然とした理由があり、確固たる意味がある。

 四月の末という、まだ肌寒い時期であるにもかかわらず、廃墟の中で半裸になって見せ

たのは――この幼女に食事をさせるためである。
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 02:03:22.49 ID:uFOG1DQZo
そう、成れの果てといっても、彼女は吸血鬼、食事といえば、――吸血である。

 僕は彼女の小さな体躯に腕を回し、強引に持ち上げるようにしながら、僕は彼女の口を

僕の首筋へと導く。まるで抱き合うように。存在していることを、確かめるように。

 怪異のオーソリティ、忍野メメの手に掛かって体質を改造され、僕の血液以外は受けつ

けない身体にされている――裏を返せば、定期的に僕の血を与えつづけないと、彼女は、

怪異の王とまで言われた彼女は、それだけであっけなく死んでしまうのだ。

 だからこれは、彼女にしてみれば食事ともいえない、栄養点滴とでもいうべき行為なの

かもしれない。

 でも、栄養点滴だろうが、植物人間だろうが、僕には構わない。とにかく、僕は彼女に

生きてもらいたい。

 彼女がどう思おうとも。

 僕のわがままだとわかっていても。

 だから、彼女が僕の血を吸うたびに、僕がより人間らしからぬモノとなるたびに、僕は

安心してしまうのだ。

 ないはずの心が、安定するのだ。

59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 02:03:55.74 ID:uFOG1DQZo
 「……あれ?」

 と言ったところで。

 今日に限って、彼女が僕の首筋に噛み付いてこないことに気付く――抱擁しあうような

形になり、彼女は僕に完全に体重を預ける風に、その細腕だけではなく、木の棒みたいな

足までも僕の身体に巻きつけてさえいて、上半身同士を密着させているというのに、しか

し、噛みついてこない。

 まさか、僕の血を吸うことを拒否しているのか?約五百年間(正確には五百九十四年間

なので、六百年間に近いのだが、以前、それを指摘して怒られたことがある)生きてきた

彼女は、三度自殺を考えたそうだ。一度は、退屈で。残りの二度は、罪悪感から。ここに

来て彼女が退屈で死にたがるわけもない。ということは、僕への罪悪感だろうか――など

と考えていたのだが、そうではなかった。
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 02:04:28.32 ID:uFOG1DQZo
 違った。

 見てみれば――吸血鬼幼女の視線を追ってみれば。

 彼女は僕の首筋など見てはおらず。

 変わりに、僕が彼女を抱きかかえるときに脇に置いた荷物の方を見ていた。

「えっと……」

 それは、およそ豊かな生活とは縁遠い放浪者、今もこの廃ビルに住み着いている自由人

であるところの忍野メメに対して持ってきた、お土産と言うか、まあ、差し入れのような

ものだった。別に、これで借金が減らせないかとか、そんな風には思っていない、僕はそ

こまで合目的主義の人間ではない。

 ミスタードーナツの詰め合わせである。

 店頭で十個千円で売っていた奴だ。

 ゴールデンチョコレート、フレンチクルーラー、エンゼルフレンチ、ストロベリーホイ

ップフレンチ、ハニーチュロ、ココナツクルーラー、ポン・デ・リング、D−ポップ、ダ

ブルチョコレート、ココナッツチョコレート。

 甘い香りもしよう。
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) :2011/11/24(木) 02:05:12.82 ID:uFOG1DQZo
 彼女は『僕の血』よりも確実に、『ドーナツ』に魅せられていた。

 大事な栄養源よりも、ただの嗜好品に魅せられていた。

 さっきまで僕を睨みつけていたその視線は、今、甘い香りのする箱の方へと向けられて

いる。ただ、それはさっきまでと違う視線だった。なんというか、そう、おもちゃを目の

前にした子供のような、ワクワクを百倍にしたかのような視線である。

 じゅるり。

 そんな音がしたと同時に僕の肩になにやら嫌な感触が走る。

 どろっとした液体が今まさに僕の肩に垂れていっている、そんな感触が。

「……………………」
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 02:06:17.07 ID:uFOG1DQZo
 うわあ……なんというか……凹むなあ。

 文字通りの命を削る行為が、千円の十個の、小麦粉を揚げた物に負けるのか……。

 まあ、僕の値打ちなど零を下回っている可能性があるのだけれど。

 可能性。

 まったく便利な言葉だ。

 僕はビニ−ルの手提げ袋からミスタードーナツの箱を取り出し、自分の膝の上において、

吸血鬼幼女に見えるようにゆっくりと開く。

 そして一個、一番端にあったゴールデンチョコレートをつまんで取り出し、腕を伸ばし

て差し出した。

 差し出した。

 と、同時に、もう奪われていた。

 それはまるで――春休みの頃を――全盛期の頃を髣髴とさせる――見事な動きで――

「明らかに無駄遣いだろうが」
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 02:06:52.08 ID:uFOG1DQZo
 そんな突込みを入れる頃にはもう、彼女はドーナツを食べ終えていた。

 ゴールデンチョコレートも、

 フレンチクルーラーも、

 エンゼルフレンチも、

 ストロベリーホイップフレンチも、

 ハニーチュロも、

 ココナツクルーラーも、

 ポン・デ・リングも、

 D−ポップも、

 ダブルチョコレートも、

 ココナッツチョコレートも、

 十個のドーナツ全てが食べ終えられていた。

 僕は、さっきまで詰まっていた物が一瞬のうちに消え去ってしまい、急に虚しくなった

箱をじっと見つめる。

「…………」

 ……いや、パンドラの箱よろしく、希望がこの箱には残ったのかもしれない。

 もしかしたら、この吸血鬼幼女と、春休みから、半年も経たずに、和解できるかもしれ

ないという希望が。

「……いや、戯言か」

 そんなことできるわけもない。

 互いが互いを許さない。

 それが僕らの大前提なのだから。

64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 02:08:28.12 ID:uFOG1DQZo
「よお、阿良々木くん」

 と。

 いきなり後ろから声をかけられ、僕はビクッと、氷水でも浴びせられたかのようになっ

て、立ち上がった。

 振り返れば奴がいた。

 怪異のオーソリティ、忍野メメ。

 年がら年中アロハ服の、見るからに軽薄そうな、実に胡散臭い不良中年。

 アロハ服しか持っていないんじゃないかと思わせるほどに、アロハ服を着ている。どう

やら一着ではないらしく、僕は水色と、赤色の二着を確認している。

 今日は赤色のアロハ服だった。

 というか、最近のマイブームなのか。春休みがおわってからはずっと赤い色のアロハ

服しか着ていない。

「急に登場しないでほしいですね。びっくりさせないでくださいよ」

「きみが勝手にびっくりしたんだよ」
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 02:09:43.92 ID:uFOG1DQZo
 そう言ったかと思うと、あーあ、と忍野は心底残念そうに、

「察するにそのミスドは、僕に対するお土産として持ってきてくれたっぽいけれど――は

あ、食べ損なっちゃったな…………」

 と言って、がっくりとうな垂れた。

 …………甘党だったんだろうか。

「阿良々木くん、言ってなかったかもしれないけれど僕は甘いものが大好きだからねえ――

次の機会があるようだったら、ぜひとも僕の分も残しておいてくれよ。ついでに言ってお

くと、僕はオールドファッションが一番好きだ」

「はいはい、次はオールドファッションを持って来ますよ」

 「そんな風に言われると僕が催促しているみたいじゃないか」と、忍野は言った。いや、

催促してるだろ。

 オールドファッションかあ……確かにおいしいけれど、その進化系であるチョコファッ

ションの方がはるかにおいしい気がする。

 あえてチョコを一部にしかつけない辺りにセンスを感じる。

 いや、そんな議論をしたところで、ただの戯言にしかならないが。

「忍野さんが催促しているかどうかはともかくとして、いや、議論の余地はありそうな気

もしますけれど、ひとまずそれは置いといて、忍野さん。こんな夜中にどこに行ってたん

ですか?」
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/24(木) 02:11:10.46 ID:uFOG1DQZo
 雰囲気から読み取るに、他の教室で寝ていたというわけではなさそうだ。まさか、伝説

の(元)吸血鬼を放っておいて夜の町に繰り出すなんてことはこの男に限ってないだろう。
         ・ ・ ・
 だとしたら、なにかがあるのだ。

 この、例え力を失ってしまっていても、そもそも存在自体が危険な幼女を放っておかな
                ・ ・ ・
ければならないほどの、なにかが。

「んー?ああ、仕事だよ仕事」

 忍野はもったいぶるでもなく、だけどやっぱりいつも通りにとぼけるような言い草で、

僕に答えた。

 だから、その仕事について訊いてるんだっての。

「あれ?言ってなかったっけ?ああ、そうだった。阿良々木くんの海馬は完全に死滅して
                                                タン シュウ シュウ
しまってるんだったね。うん。悪かったよ――僕がこの町にいる理由はね、怪異譚の 蒐 集

なんだ。つまりだね、阿良々木くんのような人を目的としてこの町にいるんだよ。もっと

も、阿良々木くんがやったことの後始末っていうのが、今僕が抱えている一番大切な仕事

なんだけどさ」

「後始末……」

「ん、余計なこと言っちゃったかな?まあ、忘れといてよ」

 と、忍野はおどけた風に言った。
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 02:11:50.03 ID:uFOG1DQZo
 後始末――どういう意味だろうか?

 ここに吸血鬼幼女がいるのが問題なのか?

 それとも――ここに、僕がいることが問題なのだろうか。

「で、阿良々木くん。ドーナツを食べさせているところを見ると、もうこのたびの吸血当

番は終わらせちゃったのかい?」

「吸血当番って」

 給食当番みたいに言わないで欲しい。

「まだですよ。僕の血よりも、ドーナツの方に興味津々だったようでして――その事実に

今、打ちひしがれていたところです」

「ふうん。まあ、阿良々木くんの血液は、あまり甘そうじゃないからなあ。吸血鬼ちゃん

の気持ちもわかるよ」

 うんうんと、忍野は一人頷いた。

 …………血糖値を上げればいいのだろうか?

 吸血鬼の特性の所為で、たぶん、そういった類のものは、正常な人間のそれで固定なの

だけれど……。
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 02:14:33.11 ID:uFOG1DQZo
「ところで阿良々木くん。委員長ちゃんは元気かい?」

「え?」

 まるで昼間に僕と翼ちゃんが会っていたことを知っているかのような物言いで忍野は訊

いてきた。

 なんだ?いきなり唐突に。どこから翼ちゃんの名前が出てきたんだ。

 得意の見透かしだろうか?

「あの娘はね――ちょっと厄介だよ。誰にとってもね」

「はあ……よくわかりませんが」

「阿良々木くんにとっても厄介なはずだぜ――吸血鬼ちゃんの来訪はこの町の怪異事情を

随分とまあ歪めてしまったんだけれどね。その言に則って言うなら、つ……委員長ちゃん

の在住は、この町の人間事情をそれなりに歪めてしまっているだろう」

「いくらなんでも大袈裟ですよ」

「大袈裟に言っておくくらいで丁度いいのさ。大仰に、大胆に、大々的に言っておかなけ

ればならない。あの娘の場合はね。あの娘はきみが思っている以上に、そしてきみ以上に

イレギュラーだよ。あの娘はこの世界に合っていないし、あの娘にこの世界は合っていない」

「……やっぱり大袈裟だと思いますけれどね」

 あるいは、そう、戯言か。
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) :2011/11/24(木) 02:16:34.76 ID:uFOG1DQZo
「で、どうなの?委員長ちゃんは大丈夫なの?」

「いや――別に。元気ですよ」

「本当に?」

「ええ。もう元気すぎて、活発すぎて、遊んでて頬を怪我してしまうくらいですよ」

「元気じゃないじゃん」

 あう。

 何故だろう?嘘を吐いていたはずなのに、本当のことを言ってしまっていた。

「まあ、いいか。ここで僕に言わないってことは阿良々木くんが一人で解決できるような

ことなんだと思うことにしよう」

「脅迫ですか?」

「信頼だよ」

「…………」

「はっはー、まあ、いいさ。じゃあ、僕に言わなきゃならない、阿良々木くん一人じゃ解

決できないようなことを聞こうじゃないか」
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/24(木) 02:17:35.38 ID:uFOG1DQZo
「そんなことは……」

「あるんだろう」

「……はい」

「話してごらんよ。もう、全部わかりきっているんだろう?いくらなんでも、この状態で
・ ・
それに気付いてないとは言わせないぜ」

「…………」

 まったく、本当に、なんでもかんでも見透かしてくれやがって。

 僕に残された吸血鬼性、それは治癒能力が大半を占めるのだけれど、別に、それ以外の
スキル
特性全てがなくなったわけじゃあ、ない。

 僕は、忍野に、今日翼ちゃんと一緒にいるときに出遭ってしまった、怪異の話をした。

71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 02:23:44.90 ID:uFOG1DQZo
006

「障り猫」

 巡り合わせと言うのか、なんと言うのか――本当は吸血鬼幼女に血を与え、忍野にドー

ナツを渡してしまえば、僕はさっさと家に返って惰眠を貪るつもりでいたのだけれど、そ

ういうわけにはいかなくなってしまった。

 忍野の仕事を手伝う羽目になった。

 いや、違うな、羽目になった、何て被害者じみた言い方を出来る立場に僕はいない。僕

は春休みの件で、このアロハ男に五百万の借金をしてしまっているのである。

 それに、例え忍野から何も言われなくとも、僕はこの事件に首を突っ込んだだろう。何

せ――今回は、翼ちゃんが、あの羽川翼が、僕の恩人が関わっているのだから。

「食肉目猫科の哺乳類」

 忍野は――そう言った。

 猫。

72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 02:24:25.98 ID:uFOG1DQZo
「障り猫は、今僕がこの町において蒐集している怪異譚の一つさ――実はさっきまで出か
          ・ ・ ・
けていたのは、そいつを追ってのことだったんだ」

 ふうむ、とんだ偶然もあったものだ。

 それが、もしも偶然ならばの話だが。

「いやいや、これは、本当に偶然起きたもののはずだ。いや、偶然としか思えない。偶然

だよ。なにせ、委員長ちゃんやきみは、偶然というものにひどく愛されてしまっているの

だからね」

 忍野はまたも大仰に、大袈裟に言う。
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 02:25:38.44 ID:uFOG1DQZo
「『事故頻発性体質』いや、ここまでくると、『誘発性』にした方がいいかもね。そこに

いるだけで、そこに存在しているだけで、不思議と、不思議が向こうから寄ってくる。き

み達の意思に関係なく、ね。はは、そういうのは、それこそ吸血鬼とか、そう言う強い存

在が引き起こす現象なんだけれどさ。委員長ちゃんはいいとして、阿良々木くんの場合は

まったくの別ベクトル、弱いからこその変化、そして、弱いからこその停滞だ。まったく

持って恐ろしい、イレギュラーだよ」

「…………」

「考えても見てくれよ。あの春休みの終着点、吸血鬼を生かさず殺さず生殺し状態にする

あの結末は、阿良々木くんの責任もあるけれど根本的な根っこのところじゃ、委員長ちゃ

んのはからいでもあるんだぜ」

 春休み。

 僕は翼ちゃんに助けられた。誰も助けてくれなかったし、何よりも救いようのない人間

であった僕を、翼ちゃんだけが助けてくれた。その点については、どれだけ恩を感じても

感じすぎるということはない。

74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 02:31:24.45 ID:uFOG1DQZo
だけれど――しかし。
                                 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
 もしも翼ちゃんがいなければ――春休みの事件は、起こってさえいなかった。

 そこに誰かの意思や意図は、まったくない。ただの偶然だ。

 でも、

 でも、春休みのときのように、翼ちゃんが偶然を、またも引き当ててしまったら――

「世の中のほぼ全てのことは偶然だ。だからこそこの人生って奴は面白い。だが、あの

委員長ちゃんは、委員長ちゃんの周りをめぐる偶然は、どうにも行き過ぎている。車に

轢かれた猫を埋めてあげたなんていう些細でありふれた、言ってしまえばハートウォー

ミングな日常のエピソードさえ、彼女の手にかかれば天地を揺るがす大事件になりかね
                           ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・    ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
ない。それに、取り立てて猫はまずいよ――あの委員長ちゃんに――障り猫はどんぴし
・ ・
ゃだ」

 忍野が今追っているという怪異、障り猫とやらについて――僕は詳しくは聞かなかっ

た。その時間がなかったというのが主な理由なのだが、それは、忍野や自分に対しての

いいわけだったのかもしれない。僕は、ただ単純に、聞きたくなかっただけなのだ。

 翼ちゃんの正しくない側面など、見たくなかったのだ。
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 02:32:12.14 ID:uFOG1DQZo
「忍野さん」

 だから――

 だから僕は――

「じゃあ僕は――どうしたらいいんですか?仮に今、何かが起きているんだとして――」

「いや、十中八九、何も起きちゃいないよ。むしろ外野がぎゃあぎゃあ騒ぎ立てる方が危

ないね。僕らはただ用心していればいい――十中八九というよりは、万が一って感じだ。

リスクのことを考えて、無駄な対処をしておくべきだろうと、そう言っているだけなんだ。

そんな不安そうな顔すんなよ」

 と、忍野は僕の問いに答えてくれた。

 応えてくれた。

 しかし、こんな言葉、気休めにもなりはしない。翼ちゃんは、それが十分の一だろうが、

万分の一だろうが、十万分の一でも、百万分の一だとして。

 そんな確率を平気で引いてのけるのが、羽川翼なのだ。

 それはおそらく、人としての強さ。
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 02:34:42.39 ID:uFOG1DQZo
「じゃ、阿良々木くん、ここは手っ取り早く二手に分かれようか。僕はきみ達が埋めたと
        ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
いう白い猫を掘り起こしに行くよ。つまりは墓荒らしだ」

「墓荒らし――ですか」

「まあ、罪深い行為だし、罰かぶりな行為じゃあるけどね――ただ、それくらいのことは

しておきたい。それで埋まっている猫がただの猫なら――阿良々木くんの吸血鬼能力が誤

作動なら――それが最良だ。安心安心。めでたしめでたし。大団円のハッピーエンド。僕

に罰があたる分には何の問題もないんだ」

「えっと……それじゃあ、僕は忍野さんに、猫を埋めた場所を教えればいいんですか?そ
                   ロール
こまでの道案内が今回の僕の役割ですか?」

「いや、そりゃもちろん、教えてもらうんだけれどさ……でも阿良々木くんの道案内は必

要ないかな。概ねの場所さえ口頭で教えてくれれば、僕はその猫のお墓には辿り着ける」
 だて
 伊達に放浪生活が長くないというわけか。

「僕もこっちに来てからまだ半年も経ってないですし、僕の行動範囲外のことだから、正

確には言い表しにくいと言うか、本当に概ねの場所しか教えることはできないのですが、

それでもいいのですか?」

「いいよ」

 と、忍野は頷く。

 
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/24(木) 02:38:37.16 ID:uFOG1DQZo
 頼りない僕に文句のひとつも皮肉の二つも言おうとしない――それが逆に、現在の状況

の逼迫した様子を、端的に表しているかのようだった。

「その代わり、阿良々木くんには別の、重要な役割を担ってもらう」

「え?」
                                                 ・ ・
「言ったろ?だから二手に分かれるんだよ――阿良々木くんには委員長ちゃんに直接、ア

プローチしてもらおうと思う」

「ちょ――直接ですか?」
     ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「そう、今から委員長ちゃんの家を訪ねるんだよ。そして家族に会って、顔を見ながら、

目を見ながら話をして、彼女の無事を確認するんだ」

78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 02:39:19.33 ID:uFOG1DQZo
「ちょ、ちょっと――無茶言わないでくださいよ。今何時だと思ってんですか?」

「夜中だと思ってるよ」

「…………………………………」

「非常事態なんだから行為は非常識でいいんだよ。大丈夫大丈夫。最悪、阿良々木くんが

委員長ちゃんに軽蔑されるだけで済むって」

「本当に最悪じゃないですか」

「もう、軽蔑されちゃってるかもしれないけどね。僕みたいに」

「本当かもしれない怖いことを言わないでください」

 そして、さりげなく僕のことを軽蔑しているとか言うな。

 僕と忍野のそんな会話を、金髪の吸血鬼幼女は、何故か少し不快そうに、聞いていたの

だった――そんな感じで。

 僕はママチャリで、夜の町を駆けていた。

 一応ライトを点けてはいるけれど、これは今の僕には必要ない。廃ビルの出がけに、忘

れずに吸血鬼幼女に血を与えてきたので(やはりというかなんというか、ドーナツの方が

お気に召すらしく、あのときの俊敏さは一切なかった。ショックだ)、僕の身体は現在、

そこそこ高い吸血鬼性を帯びているのだ。闇夜であろうと暗黒であろうと、遥か先まで見

通せる。

79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 02:39:44.49 ID:uFOG1DQZo
 まあ自転車のライトは、通行人に『自転車がここにいますよ』ということを知らせるサ

インであるという意味合いの方が強いので、やはり、点けておかなければならないのだけ

れど。

「翼ちゃん、大丈夫かな……」

 翼ちゃんにもしものことがあれば――僕は――僕は――

 そんなことを考えているうちに、目的地、羽川家に辿り着いた。

 こんなこともあろうかと、翼ちゃんの家は事前に調査済みなので、僕はその門の前まで

思いの外早く辿り着いた。
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 02:40:30.52 ID:uFOG1DQZo
 ごく普通の建売の一軒家。羽川という表札の下には、両親のものであろう名前が二つ、

その隣に少し離れて――少し離れて、『つばさ』という名前が書かれている。

 どう見ても、この二階建ての家の中で、ドメスティックバイオレンスが行われていたと

か、そんな風には――まるで見えない。

 さてと、辿り着いたはいいものの……。

「本当、どうしろっていうんだろうな」

 翼ちゃんの家、羽川家には、電気は点いていない。もう、家族はみな就寝してしまった

のだろう。当たり前だ。時間はもう真夜中。多くの人が活動していない時間帯だ。この時

間に主に活動しているモノといえば、怪異、化物の類になるだろう。

「どうしよう。まずは電話で……」

 などと考えていると、突然、

 羽川家の玄関が開いた。

 翼ちゃんが、羽川翼が出てきた。

 もしかしたら、翼ちゃんがこの状況を見越して僕のために来てくれたのだとも思ったの

だけれど、しかし、そんな戯言は一瞬で却下された。そんな、忍野みたいなまねが翼ちゃ

んにできるはずがないし、それに、その翼ちゃんはもはや翼ちゃんとは言えないモノと化

していた。
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 02:44:56.55 ID:uFOG1DQZo
 白かった。

 とにかく、白かった。

「えっと……」

 翼ちゃんは、ブラジャーにショーツ、黒い下着を穿いているだけで、靴どころか靴下さ

えも履いていない、そんな、バスルームからそのまま飛び出してきたかのような姿で、外

に出てきた。

 烏の濡れ羽のようにきれいな黒色だったあの髪が透き通るような白に――ただでさえ色

素の薄かった翼ちゃんの肌が、病的なまでの白になっていた。

 そんな髪に、その髪のある頭部に。

「――にゃおん」

 彼女の頭部に――にょっきりと、猫耳が生えていた。

 障り――猫。

「にゃおん――」

 彼女は――鳴く。

 ごろごろと――喉を鳴らす。
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 02:47:23.91 ID:uFOG1DQZo

「つ――翼ちゃん?」

「ああ?――にゃんだ、お前。にゃぜここにいるのにゃ?ご主人の友達かにゃんかにゃのか?」

 翼ちゃんは――否。

 障り猫は言った。

 その口調も声質も、いや、表情さえも――翼ちゃんとは程遠い。
                                        ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「にゃはは――そういえば見覚えがある気がしねーでもねーにゃ。俺を埋めるときに一緒
・ ・ ・ ・ ・
にいた奴か――ふん。じゃあ丁度いいにゃ」

 僕の混乱をよそに、障り猫は薄笑いと共に言う。

 ぎらりと、その眼を細めながら。

「俺にゃー全然わからにゃいが、友達同士ってのは助け合うもんにゃんだろう?つーわけ

で、こいつらのこと、あとは任せるにゃ」

 言って。
 ・ ・
 どん――と、彼女は僕の足元に、何かを投げ捨てた。
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/24(木) 02:48:39.91 ID:uFOG1DQZo
 いや、投げ捨てた物体は二つだったから、効果音はどん、どん――と二つだったか?

 だけどまるで一まとめの、一塊だった。

 人まとめの人塊だった。

「…………っ!」
                       ・ ・ ・ ・
 僕の足元に投げられたものは――人間二人だった。

 これは――どういう意味だろうか?

 いや、それより――

「この二人は――誰だ?」

 二人は今もそうでありつづけているように、まるで死んだように動かない。

「えーっと。にゃんだっけな――そうそう。そいつらはご主人の『両親』って奴らしーぜ。

よくわかんにゃいけど」

 障り猫は言う。

 にやにやと、邪悪に笑いながら。

 楽しそうではあるが――楽しそうなだけだ。

 他には何もない。

 あの青色のように――空っぽ。
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 02:53:22.85 ID:uFOG1DQZo
                ・ ・ ・ ・ ・ ・
「まあだから、要するにはいらねー奴らってことにゃ。殺す価値もにゃいし、いたぶるに

も値しにゃい。にゃんの値打ちもにゃいんだにゃ。だから友達、お前が適当に処分してく

れや――にゃんにゃらお前が殺してもいいぞ。ご主人のことを責めたり怒ったりしてして

やれよ」

 そして障り猫は、右に曲がり、庭の方へと歩く。

 猫耳が生えているのだから猫の尻尾も当然生えているはずなのだが、しかし、彼女の臀

部はそれはもうなめらかな、人間的な美しさを誇っていた。

 それはそうだ。

 障り猫は――尾のない猫なのだから。

「お――おい!ちょっと待て!」

 言って僕は、彼女に近寄っていく。

 手を伸ばし、どこかへと向かう彼女を引きとめようとする――が、それはどうやら、叶

わなかった。
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/24(木) 02:55:04.85 ID:uFOG1DQZo
 翼ちゃんは。

 障り猫は――ふっと、振り向いて。

「待て、とかよ」

 と――呟いた。

 実に憎々しげに――殺意を込めて呟いた。

 僕の軽はずみな言葉に。

 いきなりぶち切れていた。

 こめかみに血管が浮いて――瞳孔が赤く染まる。

 牙を剥き出しに。

「そうやってにゃんでもかんでもご主人に期待してんじゃねーよ、このボケが!」

 お前らがそんにゃんだから、ご主人がこんにゃんにゃんだろうが!

 言ったが早いか――障り猫は僕に飛び掛ってきた。
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 02:56:16.90 ID:uFOG1DQZo
 僕の左腕に、まるでかぶりつくように。

 食って掛かってきた。

「く、くそっ」

 僕はそれをかろうじて横っ飛びで回避する。

 しかし、予想外に彼女の動きは速く、また、予想外に力が強く、左腕の、親指を残した

四本の指が引きちぎられてしまった。

「うっ!」

 でも、でもこれくらいなら、今の僕ならすぐに治る。

 春休みほどではないが、これくらいならば、一瞬で。

「って、あれ?」

 しかし、四本の指はまったく回復しなかった。

 離れた指たちは、霧状にならずに、彼女の舌の上で、ころころと転がっている。
87 :  [sage]:2011/11/24(木) 02:59:49.23 ID:uFOG1DQZo
「ん?ああ、そうか。お前元吸血鬼だったんだっけにゃ。ご主人の記憶にあるにゃ。にゃ

ら、簡単ににゃおるじゃにゃいか。よかったにゃ。ご主人と違って、傷がにゃおるにゃん

て。にゃかったことににゃるにゃんて」

「……ご主人ってのは……翼ちゃんのこと?」

「ああそうだよ。人間。ご主人にはもう俺がいる。だからお前はいらにゃい。両親も友達
             ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・   ・ ・ ・ ・ ・
も、誰もいらにゃい。ご主人自身さえ――いらにゃい」

 そして、口の中で転がしていた僕の指を――ただの廃棄物であるかのように、元々そう

だったように、吐き捨てる。四本の指は僕の足元までころころと転がってきた。

「い――いらない――だって?」

「俺がご主人を自由にしてやるんだよ――誰よりも自由ににゃ。知っているだろう?それ
                                    ・ ・   ・   ・ ・
はお前らにはできにゃかったことだにゃ。ときにご主人を、天才と、神と、化物と呼ぶよ

うにゃお前らには」

 まずは。
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:00:21.59 ID:uFOG1DQZo
 地球にも匹敵するスケールのストレスから開放してやるところから始めよう――と。

 そう言って翼ちゃん、いや、障り猫は――跳んだ。

 いや、飛んだ、といった方が正しいだろう。それは跳躍というよりは飛翔に近かった。

 大して膝を曲げもせず、一瞬だけ体重を下方にかけ、そして軽くひとっとびで――電柱

を越え、電線を超え、そして正面にあった民家の屋根を越えて――闇夜に掻き消えていった。

「……そういえば、キスショットもこれくらい軽く飛んでいたなあ」

 それはつまり、障り猫もある程度の怪異ではあるようだ。さすがに吸血鬼ほどではない

だろうけれど……。

「まあ、どれだけの強さだったところで、あまり変わらないか」

 言うまでもない戯言だ。

 結局、また、あいつに頼ることになってしまったか。

「本当に、人は一人で勝手に助かるだけなのだろうか?」

 しばらく考えてみたが、もはや人ではない僕には、さっぱりわからなかった。


89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:02:13.55 ID:uFOG1DQZo
007

 とりあえず、障り猫に頼まれていた翼ちゃんの両親は、携帯で救急車を呼ぶことにした。

勿論、これ以上の関わり合いは避けねばならなかったので、救急車を呼んだ後、僕はすぐ

さまそこから逃げ出す。冷たい奴だと思われるかもしれないが、元々そう言う男だったっ

てことで。

 救急車を呼んでいる間に、指は元に戻ったので、帰り道にはそれほど苦労しなかった。

いや、帰り道というのは間違いだった。なぜなら、僕は、僕の帰るべき家――彼の家族が

眠る家ではなく、学習塾跡の廃ビルの方だった。

 事態は急速に悪い方向へと向かっていた。

 僕も、惰眠を貪っている場合ではない。

 廃ビルに到着し、自転車に鍵をかけた後、一段飛ばしで階段を昇り、一足飛びで四階へ

向かう。
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:03:15.21 ID:uFOG1DQZo
 さっき(と言っても、数十分も前だが)教室、一番奥の教室へ入ると、「やあやあ。阿

良々木くん、思いの外速かったねえ」などと、忍野は軽い口調で言ってきた。しかし、そ

の軽い口調にはいつもの余裕たっぷりさかげんはない、つまり、忍野が真剣そのものであ

るということだ。あの態度がないあのなど、僕は一度しかない。春休みに一度きり。そう、

ということは、あのときと同じくらい大変か――または――それ以上の危機が迫っている

ということだ。

「お――忍野さん!あ、あの」
                                              ・ ・ ・ ・ ・
「ああ、わかってるわかってる。みなまで言うなって――委員長ちゃんが猫になっていた

んだろう?予想は――予感は的中したというわけだ」

「…………そちらは、どうでした?猫の死体は――」

 忍野は、そこで数秒黙った後、「なかったよ」と、軽く、いつもの軽薄な調子で言った。

 しかし、やはり表情は頑なに固く、それが物事の重大さを表している。

 やばい、と、僕の第六感が告げている。自慢じゃないが、僕はこういう嫌な予感は絶対

に外さないので、事態はおよそ考えうる限りにおいては最悪だった。
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:03:43.72 ID:uFOG1DQZo
「……最悪、ね」

「僕いつの間に声出してました!?」

「いやいや、さすがにそれは聞き逃せないって思ってさ」

 と、忍野はおどけて言う。

 本当、心の声を読むことだけはやめて欲しい。

 まあ、心なんて高尚なモノ、卑しき戯言遣いが持っているわけがないのだけれど。

「戯言かな」

「だから心を読まないでくださいよ。それとそのやけに似てる僕の口真似もやめてください」

 そんなことはさておいて、本題に入ろう。

 それよりも、今は翼ちゃんの問題の方がよっぽど大事だ。

 みなまで言うなとは言われたが、しかし、さすがの忍野も僕と一緒に現場にいたわけで

はないのだから全てを把握できていないだろう。だろうと思う。僕はつい数十分前の出来

事を話した。
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:04:19.52 ID:uFOG1DQZo
 玄関から白い翼ちゃんが出てきて、その後跳んで行ったこと。

 指が持っていかれるほどの、敏捷性と、力を持っていること。

 彼女の両親は救急車に任せたこと。

 忍野は話が進むたびに顔を曇らせ、そして通常では感じられないような気迫が体中から

滲み出していた(ような気がした。僕には見えないのでわからない)。気迫。威圧感。ま

るで、自分とは所属する世界が違うのではないかと思わせるぐらいの、それは強者の気迫

だった。

「――阿良々木くん」

 一通り話し終えると、忍野はその大仏よりも重たそうにしていた唇を、そっと開いて言

った。

「御両親は、その後どうなったのかわかるかい?」

「え?ああ、いや、おそらくそのまま入院していると思います。ただの気絶って感じじゃ

なかったみたいだし」

 物のように投げられたのに、その衝撃で目覚めることはなかった。かなりの重症である

はずだ。

 それは、ただの気絶じゃあない――普通でない――非常識――怪異の仕業。
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/24(木) 03:06:32.13 ID:uFOG1DQZo
「――忍野さん」

 僕は訊いた。

「そもそも、その怪異――障り猫は、どのような体質や、能力を持っているものなんですか」

「……障り猫。あるいはしろがねこ。白銀猫、だね。猫の舞ともいうが、これは同名の妖

怪がいるからややこしいし、あまり呼ばれないかな」

「いや、そんな名前じゃなくて」

「名前は大事だよ。記号なんかじゃない」

「…………」

「まあ、でも、今は緊急事態だ。最悪ってわけでもないのだけれど、災悪ではあるだろう。

ちょっと端折ることにしよう……障り猫の際立った特長は、『エナジードレイン』。人を
                                                   ・
食べちゃうような、一般的な化け猫じゃあない。夢魔や色魔、色ボケ猫、って感じだ。障
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
り猫に触れられた人間は、体力も精力も根こそぎ吸収される」

 根こそぎ――吸収。

 ネコソギドレイン。

 猫殺ぎドレイン。
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:07:31.96 ID:uFOG1DQZo
「死に至ったって例はないらしいけれどね。だから、御両親がお亡くなりになるなんてこ

とはないだろう。吸われてしまっても、いずれは回復するさ――阿良々木くんの指のよう

にね」

「えっ!?」

「気付いていなかったのか?あの幼女に血を与えたばかりの阿良々木くんなら、吸血鬼に

近づいている阿良々木くんなら、指どころか腕の一本や二本、一瞬で元に戻るはずだぜ?」

 ……言われてみればそうだ。いつもの僕ならいざ知らず、たったの指四本。救急車を呼

ぶまで元に戻らなかったなんて、そんなことあるわけがない。
         ・ ・ ・ ・
 では、僕も、あの人達と同じように、力を吸収されてしまったのだろうか。

 体力、精力、そして吸血鬼の回復力――不死力を。

「正直言って、阿良々木くんとはとても相性の悪い怪異だよ。中途半端に人間な阿良々木

くんにはね」

 中途半端、か。

 中立でなく、中途半端。

95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:07:58.41 ID:uFOG1DQZo
「まあ、おんなじ中途半端でも、吸血鬼ちゃんなら、勝てるだろうけれどね。なんてった

って、怪異の王――吸血鬼なんだから。元吸血鬼と元人間では違ってくる」

「……じゃあ、忍野さん」

 僕は、僕は覚悟を決めて訊いた。

 どんな代償でも払うと、祓うと決めた。

「僕は……このままでは勝ち目のない障り猫に対して、どうすればいいのでしょうか?」

 どうすれば、翼ちゃんを救えるのでしょうか?

 僕の質問に対して、忍野は、一瞬きょとんとした顔になった後、次の刹那でシニカルに

死に狩るに、にやにやと皮肉っぽい嫌な笑みを浮かべた。

「じゃーねー、阿良々木くん。きみは今すぐ――」

 心底楽しそうに、心底嬉しそうに、心底愉快そうに、心底面白そうにしながら忍野は言った。

 たった一言、僕へのアドバイスを。

「帰れ」
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:08:25.67 ID:uFOG1DQZo
008

 どうもはじめまして。ぼくは×××××ともうします。

 ああ、きみのことはちゃんとこよみからきいているよ。

 ええと、その……ですね……。

 だいじょうぶ。わたしにまかせておいて。ところで、むこうではどのくらいまでべんき

ょうをおそわってたの?

 よくわかりませんが……えっと……こうそつのしかくはもっていたはずです。

 そう、ならばだいがくにいくのもいいけれど……なおえつこうこうがいいね。

 え?

 あそこならしんがくこうだし、ちょうどいいでしょう?

 いえ、ちょっとまってください。だいがくとかこうこうとかってなんのはなしですか?

 だってきみ、こよみとおないどしなんでしょう?だったら、にほんのこうこうやらだい

がくやらにかよっとくべきじゃない?

 いや、それはそうなんですが。

 じゃあ、きまりだね。ざんねんながら、なおえつこうこうのへんにゅうのおうぼがさん

ねんせいしかないけれど、まあ、それでいいよね?

 ……………………………………………はい。
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:09:17.34 ID:uFOG1DQZo
「兄さん、朝だぜ」

「お兄さん、朝だよ」

 「起きよう」と、火憐ちゃんと月火ちゃんは僕の事を起こしに来てくれた。

 昨日(日付的には今日)の事件であまりよく寝ていなかった僕としては、もう少し寝て

いたかったのだが、しかし、そのような些事は殺人級に可愛い二人に起こされて目覚める

こととは比べようもない程に、取るに足らない問題だ。それに、僕は今、あまり睡眠をと

らなくてもいい身体になっているし。

 可愛い可愛い妹――か。

「戯言だよな……本当に」

 僕は小さく呟いた。二人には聞こえなかったと思う。

 起きます、と心の中で呟いて僕は体を起こした。

「兄さん!せっかくの休みなんだし、遊ぼうぜ!」

「お兄さんは何したい?」

 と、火憐ちゃんと月火ちゃんは言ってきた。

 何がしたい――何がしたいってそりゃあ――

 翼ちゃんを、救いたい。

 翼ちゃんを、助けたい。

 けれど――けれどそれは僕にはできないことなのだ。
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:09:43.31 ID:uFOG1DQZo
 ――阿良々木くんみたいな熱血野郎は大好きだけれど委員長ちゃんのようには誰にもな

れないよ――

 ――ここから先はプロの仕事だ。きみの出張る幕なんかじゃないんだよ――

 ――強いて言うなら、僕の邪魔をしないことこそが、きみの仕事だ――

 どれも、数時間前に言われた言葉。

 僕に憑き纏い、僕を突く言葉。

 今回、僕ができることなんて何もないのかもしれない。

 けれど、でも、しかし、あるいは、だが。

「ごめんね、二人とも。今日は少し出かけなきゃいけないところがあるんだ」

 「えーっ」と、二人は口を揃えて言った。少し不満そうで、とっても悲しそうにする。

 ……こらえろ。身体のように、心を鬼にするんだ。誘惑に負けてはいけない。可愛さに

負けてはいけない!

「冗談だよ。そうだね。トランプでもしようか」

 そんなこんなで結局、二日目、四月三十日も僕は何もできずにいた。

99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:10:13.73 ID:uFOG1DQZo
009

 五月一日。月曜日。ゴールデンウィーク三日目。

 いつものように火憐ちゃんと月火ちゃんに優雅に起こされ、僕は登校する。

 そう、ゴールデンウィーク中ではあるが、月曜日は平日。登校しなければならないのだ。

 休日じゃない日が途中に挟まれているのだから、ゴールデンウィークとは言えない気が

するが、そこは気にしてはいけないのだろうか。

「………………にしても、何しているんだろう、僕は」

 何もしていない。

 いくらそれが忍野の頼みだからってこんなことでいいのだろうか。

「…………」

 僕は、ママチャリの行き先を、学校から、廃墟へと変更した。

 いくらなんでも、翼ちゃんがこんな目に遭っているというのに、のこのこ登校するわけ

にも行くまい。

 それに、それにあの吸血鬼幼女にも、食事を与えてあげねば。

 僕は精一杯の言い訳を何個も考えながら、忍野の住まう廃ビルへと到着した。
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:10:41.00 ID:uFOG1DQZo
 階段を昇り、四階、昨日と同じ教室へ向かうと、吸血鬼幼女の姿はなく、忍野しかいな

かった。昨日と同じようなアロハシャツを着ていたが、しかし、その姿はまるで別人だっ

た。

 ところどころ擦過傷があり――ただそれだけなのに――忍野は明らかに衰弱し、憔悴し

ていた。

 擦過傷。

 そう、まるでそれは、猫にやられたかのような。

「お――忍野さんっ!」

「やあ、阿良々木くん――待ちくたびれたよ」

 それもいつもの言葉だったのだが、いつもと違う点は忍野が本当にくたびれているとこ

ろだった。

「忍野さん……一体何があったんです?」

 僕は忍野のそばまで駆け寄り、混乱のままに質問する。

「何があったって?別に何もないよ――ただ、負けただけさ」

「ま――負けた?」
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:11:18.52 ID:uFOG1DQZo
「そう、障り猫に負けた。昨日から、百回ほどバトって千回ほど負けている」

 にやりと笑って、忍野は言う。

 その笑顔は、僕にはまったくわからない。

「そ、そんなに、そんなに強い怪異なんですか?触り猫は」

 専門家の忍野さえも圧倒するほどに。

「いや、そんなことはないよ」

 しかし忍野は、即答で首を振った。

「こないだもちらっと言ったけどさ。吸血鬼なんかには――及ぶべくもない――つーか、

比べること事態が不遜なくらいの低級怪異なんだよ障り猫は」

「え……?低級……って、どういうことですか?」

「そのまんまだよ。専門家ならば、朝飯前で払えるレヴェルの怪異。素人でも知恵の絞り

ようでは対処できる類の、そんな程度の怪異だ」

「で、でも、忍野さん」

 負けてるじゃないか。

 ぼろぼろになって、やられてるじゃないか。
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:11:54.79 ID:uFOG1DQZo
「もちろん、僕はだからといって手を抜いたりはしなかったよ。本気で挑んだ――委員長

ちゃんには決して返せないような借りが、僕にはあるからね。そこで変な気遣いはしなか

った」

 だけど負けた、と忍野は心底悔しそうに、失敗したという風に言った。

「障り猫は、本来取るに足らないような雑魚だ」

 改めて。

 確認するように、忍野は言った。

「そもそも触り猫は招き猫の対極の概念として考えられた怪異でさ――言うなら言葉遊び

から生まれた民間伝承だ。福を招く招き猫に対して、障りを招く障り猫――路上で死んだ

振りをして、同情して寄ってきた人間に取り憑く。入れ替わり系のお化け。身体を乗っ取

るタイプの怪異。そして貧乏神のごとく、身体の持ち主を、本体を不幸のどん底へと叩き

落す。そういう――まあ、言ってしまえばよくある、テンプレートなお化けなんだよ」

「…………」
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/24(木) 03:13:48.71 ID:uFOG1DQZo
 人の良心や同情心に付け込む怪異。

 人の心に、付け入る怪異。

 僕のような怪異。

「戯言だな」

「ん?」

「いえ、何でもないです」

「そうかい?ならいいんだが……うん、言い訳をさせてもらうとだね、この場合、障り猫

に取り付かれたのが委員長ちゃんだっていうのが、ありえないほどのイレギュラーだった。

本来雑魚に過ぎなかった障り猫を、ほとんど最強に近い――下手をすれば吸血鬼にさえ匹
             ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
敵する怪異にまで、引っ張り上げている」

「吸血鬼にまで……」

「ああ。肉体を共有していることよりも、知識を共有しているというのが非常にまずい。

僕の使う古式ゆかしい怪異対策が、手法が、方法が、ものの見事に全部はね返されちまう。

彼女は専門家ばりの専門知識を持ち合わせている――何でも知っているよ」

104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:14:22.13 ID:uFOG1DQZo
「…………」

「戦略と戦術をもって人を襲う怪異なんて、そんなの聞いたことねーや」

 いっそ捨て鉢な風に、忍野は言う。

「最初からわかっていたし、だからこそいろいろと協力してもらっていたのだけれど、や

っぱり只者じゃなかったね、委員長ちゃんは。人を襲う際の手際の良さといい――怪異の

やることじゃないよ」

 人を襲う際の手際のよさ、だって?

「ちょっと待ってください!なんですか?それは。そんな、そんな言い方ってないじゃな

いですか!そんな――まるで翼ちゃんが積極的に人を襲っているみたいな言い方は!」

「言い方も何も実際そうなんだよ」

 忍野は悪びれることもなく言った。
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/24(木) 03:16:59.17 ID:uFOG1DQZo
「今、委員長ちゃんは御両親と阿良々木くんと僕の三人以外にも。大勢の一般人を手当た

り次第に襲っている」

「っ!……でも、でもそれは、障り猫がやったことで――怪異がやったことで――翼ちゃ

んがやったことじゃありません」

「……本来、障り猫はそういう怪異じゃないんだ。逆に言えば、この強さは触り猫の中に

委員長ちゃんが残っていることの証明とも言える。少なくとも、障り猫の中に委員長ちゃ

んがおらず、肉体も知識も完全に乗っ取られているのならば、こういう展開にはならない。
              ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
多分障り猫の中には、委員長ちゃんの意識がかなり膨大に残っている――だからこそ手強

いんだ」

「…………」
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:17:26.53 ID:uFOG1DQZo
 これが、こんな状況が、翼ちゃんが望んだことだって言うのか?

 一般人に危害を加え、

 両親に復讐をし、

 僕を攻めることと、責めることが。

「まあ、これは今のところ、最悪の情報であると同時に、救いのある情報でもあるのだけ

れどね」

「え?」

 翼ちゃんを敵に回すだなんて考えたこともない。

 なのに、それなのに――

「どうして――それのどこに救いがあるってんですか」

 そんな僕の問いに、忍野はあっさりと答えた。

 しかし、その答えは僕の期待には応えてくれないもので、また、僕が堪えられないもの

だった。

「いや、だって、完全に乗っ取られたら、もうおしまいだからさ。殺すしかなくなっちまう」

「こ……」

 殺すしか――なくなる――

107 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:18:24.02 ID:uFOG1DQZo
「委員長ちゃんの意識が残っているうちにその意識をサルベージしないと――化け猫を退

治してしまわないと、羽川翼という阿良々木くんの大事なお友達は、この世から永遠に失

われてしまうというわけさ」

「そ……そんな……そんなことって……」

「まあ、だいぶ目処はたってきているんだけれどね。このゴールデンウィーク中に片付け

られる」

「はあ?」

 これだけ驚かしといて、何言ってんだこいつは。

「何言ってんだ。って、驚かしたくて言ったんだけれど」

「心を読まないでくださいって何度言えばわかるんですか」

「ああ悪い悪い。なんだかわかっちゃうんだよね――聞こうと思えば」

 やはり狙ってたかこの野郎。

「はあ」

 しかし、このゴールデンウィーク中に片付く……か。

 僕は場違いにも、少し哀しい気分になった。
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) :2011/11/24(木) 03:19:42.07 ID:uFOG1DQZo
010

 結局、その後、忍野はすぐに出かけてしまい――僕を待っていたと言ってはいたけれど、
                             ハザマ
それこそ軽口で真実のところは猫とのバトルの狭間、ほんの休憩に、ほんの装備の補充に、

廃ビルに寄っていただけのことらしい――僕は、今日は何故か二階で座っていた吸血鬼幼

女に血を与えて、廃ビルを出ることにした。

 吸血鬼幼女の目は。

 僕を軽蔑するように見ていた。

 僕と彼女は一心同体なので、つまりこれは、僕が、僕自身を軽蔑しているということな

のだろう。

 必要ないといわれても引き下がることのできない、往生際の悪い自分を。

 未だに諦めることのできない自分を。

 僕は、家に素直に帰ろうという気がまったく起こらず、どころか僕は、まったく逆の方

向にハンドルを向けたのだ。

 何もできないくせに、僕はママチャリを漕ぎ、羽川家に来た。

「…………」
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:20:15.86 ID:uFOG1DQZo
 何をしに、というわけでもない。

 ただ、ここに来れば何かがあるだろうと、特にアテがあるわけでもないのにふらふらっ

とここに来たのだ。

 そう、一切意味なんてない。例え、僕に何もできなくとも僕はここに来たかったのだ。

 僕は門扉を開け、導かれるように玄関へと向かい、羽川家へと這入った。

 不法侵入だとか、空き巣だとか、そんな声が聞こえてくるような気もするが、気にせず

に進む。探索する。

 が、しかし、僕の期待していたものは見つからなかった。

ふむ、特におかしなところはないか。

 特に何か有効なヒントは一切見つからない。

 でも。

「なんかおかしいんだよな……この家」

 僕は、もう一周して、二周して、三周して――ようやく気付いた。

110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:21:47.42 ID:uFOG1DQZo
「そうか……この家」

 ただの一軒家だと思ってた。実際、家の造り自体は普通だった。

 彼の家よりも大きいかもしれない、六つの部屋がある、三人暮らしには十分な一軒家。

 しかし、この家には、重大な欠陥があった。

 なくてはならないものが、なかった。
 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
 この家には翼ちゃんの部屋がなかった。

 部屋がなく、痕跡がなかった。

 ダイニングの壁に吊るされた制服。書庫らしき部屋に並べられていた教科書・参考書類。

バスルームの意匠棚に仕舞われていた下着類。廊下に畳まれていた布団。階段のコンセン

トに刺さっていた携帯電話の充電器。玄関脇に置かれていた学校鞄。

 ここで翼ちゃんが暮らしているだろうことは推測できても、ここで翼ちゃんが生活して

いるところを、一切想像できなかった。

 これは――

 これは確かに――

「僕にはどうしようもないな」

 僕にできることはない。

 僕の出番はどこにもない。

 僕はそのまま羽川家を出て、家に帰ることにした。

 彼の家へ。

 僕の帰るべき場所へ。

 この時間じゃあ、誰もいないだろうけれど、でも、この家よりはずっと落ち着けるだろ

うから。
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:23:15.98 ID:uFOG1DQZo
011

 五月二日。火曜日。ゴールデンウィーク三日目。

 今日は平日だし、昨日サボってしまったので普通に登校しなければならないのだが……。

 ただ今、午前十時。本来ならば、勉学に励むべき時間に、僕は家で、火憐ちゃんと月火

ちゃんとともにいた。

「……どうしてこうなった」

「ん?何か言ったか?兄さん」

「ん?何か言った?お兄さん」

 声を揃えて言う火憐ちゃんと月火ちゃんに、僕は「なんでもない、ただの戯言だよ」と

答える。

 本当に、なんだよこの展開は、どうしようもなく戯言だ。

 月火ちゃんの話によると、どうも、翼ちゃんは僕の予想を遥かに飛び越えた人数の人を

襲っているらしい。

 老若男女容赦なし、にだ。

 本当にとんでもない人数が襲われており、小学校によっては、生徒の安全のため、学校

を閉鎖しなければならない事態にまでなっているらしい。

 警察も動き出しているのだとか。

 そこまでの事態になったとなれば、あの正義感で体ができているようなあいつの妹が、

動かないわけがないとは思っていたのだが、彼女達の行動は僕の想像していたそれとはま

ったく違うものだった。
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/24(木) 03:23:41.46 ID:uFOG1DQZo
 今回彼女達が優先したのは、不審者の捕獲などではなく、僕の警護だった。

 彼女達はそれを監視と呼んでいるが、それはむしろ僕の役割だと思う。

「いやいやいやいや、これは確かにあたし達の任務なんだぜ」

 と、火憐ちゃんは真面目な表情をして言った。

「そうだよ」

 と、月火ちゃんも真面目も真面目、大真面目といった雰囲気で言う。

「お兄さんは気が付いたら厄介事に巻き込まれているからね。私が一緒にいてお兄さんの

身を守ってあげることこそが、私の使命なんだよ。…………火憐ちゃんはお兄さんと一緒

にいたいだけみたいだけど」

「んなっ!そ……それは月火ちゃんもだろっ!」

「はいはい、二人とも喧嘩しないで、要するに僕を守ってくれるんだろ。ありがとう」

 本当に、ありがたい。

 涙が出るほどに。

 こんな僕を――二人の兄にあたる彼に、とんでもないことをさせてしまった僕を――思

ってくれるだなんて。

 僕は、交渉は明日でも構わないだろう、と考え、火憐ちゃんと月火ちゃんの行為に大い

に甘えて、三人で遊ぶことにした。
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:26:28.28 ID:uFOG1DQZo
012

 障り猫という、忍野いわく至極ありふれた怪異譚の凡例を、ここで引いておくとしよう。

 路上で白い猫が死んでいる。

 飢えて野たれ死んだのか、それとも通行人に蹴飛ばされでもしたのか、とにかく、横向

きになって、ぴくりとも動かない。

 千切れた尾を見れば、それまで飼い猫として大事に育てられてきたという、そんな幸せ

っぽい経歴を持ってはいないだろう。

 そんな猫を可哀想に思い――道行く男の一人が、その猫を手に取り。

 触り。

 場所を変えて埋めて、供養と言うほどではないけれど、手を合わせてやった――という。

 その夜から、善良なるその男の奇行が始まる。

 人が変わったかのように、荒れに荒れ。

 暴力的になり。

 酒は喰らうわ人は殴るわの大騒ぎ――近くにいる者は、友人家族を問わず、いるだけで

ぐったりと疲れてしまうような有様だ。

 あの猫の呪いだ、と周囲は震える。

 実際、猫のような振る舞いも見せていた、とか。
                                   きとうし
 これでは手に負えないと降参した周囲の者は、たまらず 祈祷師 を呼んで、取り付いた

猫を祓おうとしたのだが――
 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
 善良なる彼には、もともと猫なんて取り付いてはいなかったのだという――
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/24(木) 03:27:34.66 ID:uFOG1DQZo
「不条理落ちというかびっくり落ちというか、これはいささか教訓じみた怪異譚でね。善

良なだけの人間なんて存在するはずがなく、優しさなんてのは、とどのつまりは上っ面の

上澄みに過ぎない。必ずその裏がある――光があれば闇があり、赤があれば青があり、白

があれば黒がある。猫はただのきっかけに過ぎない。理由が問題ではなく、きっかけこそ

が問題なのさ」

 と、忍野はそう説明した。

 猫である必要があるのかを僕は訊いたが、忍野はわかりきったことを説明するように、
             ・ ・ ・
「そりゃ、猫ってのはかぶるもんだからだろ」

 と言った。
              ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「委員長ちゃんだって、猫をかぶっていたということさ――善良で、公平なだけの人間な

んていないということだ。むしろそうであろうとし続けるからこそ――ストレスがたまっ

ていくんだ」

 黒々とね。

 忍野はそう言っていた。

 黒さ。

 僕が無意識に目を逸らしていた――翼ちゃんの、羽川翼の暗黒面。
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:28:00.12 ID:uFOG1DQZo
 そんな前置きで始まる、五月三日。ゴールデンウィーク四日目。

 午後五時。僕は学校の教室の教壇に立っていた。

 鍵がかかっていたのだが、学校の鍵などあってないような物である。ちょっとしたコツ

さえつかめば誰にでも侵入はできよう。そんなことは取るに足らない些事だ。何の問題は

ない。

 あまり学校に来ない奴がこんな休日に学校に来ようなんて何事だ。と、僕の姿を見た人

は驚くかもしれないが、幸い、僕は今のところ誰にも見られてなどいないし、何事かと聞

かれたら大事だと答えるのでこちらも何の問題はない。

 というか、何の問題もないというか、この僕の行動は、もし失敗してしまったら、何の

意味もない。真心やあいつなんかが聞いたら、とんだ間抜けだと大いに笑われるだろう、

そんな行為だ。

116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:28:30.84 ID:uFOG1DQZo
 今日、僕が火憐ちゃんと月火ちゃんとのかくれんぼの鬼となっている最中に出て行って

しまうなどという、鬼畜な所業をしてまでこの学校に来ている理由は、実験をしたいがた

めである。

 そう、実験。

 彼女が、僕の呼びかけに応じるかどうかという、実験だ。

 もし、彼女に、忍野の言うように、意識があるのだとしたら――などと考えていると、

 がらっ

 と、教室の扉が開かれた。

 そこには――僕の待ち望んでいた女の子が立っていた。

 透き通るような白い肌に、やはり同じように白い髪、そこには、飾りでない、とてつも

なくキュートな猫の耳が付いている、その意匠はその肌を見せびらかすかのように、露出

が多い、というか、下着しか身に付けていないようにも見える。端整な顔立ち。しかし、

その瞳は猫のように細く、まっすぐ僕を射抜くように見据えている。そんな、女の子が――

 羽川翼が、立っていた。

 実験は成功である。
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:29:01.60 ID:uFOG1DQZo
「やあ、よく来たね、翼ちゃん」

「…………」

 彼女は――黙っている。

 黙ったままで、ずっと、僕を見続けている。

 舐めまわすように、見続けている。

 反応がないことに若干の寂しさを憶えながら、僕は翼ちゃんに、「まあ、座れよ」と、

促した。

「…………」

 翼ちゃんは、黙ったままだったが、僕の言葉をまったく聞いていないというわけではな

いらしく、自分が普段座っている席についた。

 そういえば、以前翼ちゃんの教師姿を妄想したことがあったなあ。

 僕が不良生徒で、翼ちゃんは僕を叱っている。そんな感じの戯言。

 まあ、今はまったくの真逆なのだが。
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:29:32.37 ID:uFOG1DQZo
 右腕の時計を見る。時刻は午後五時二分二十三秒。

「おいおいおいおい、二分も遅刻だぜ?翼ちゃん。らしくないなあ。まったくもって、ら

しくない」

「…………」

「まあ、いいさ」

 僕は肩を竦めた。

 いささか演技過剰な気もするが、しかし、これくらいがいいだろう。

 あちらも、往生際悪く演技を続けているのだから。

「さてと、これから阿良々木先生の特別戯言授業を始めますので、出席を採ると致しまし

ょう。羽川翼さん」

「…………」

「羽川翼さん」

「お前、何をしているんだにゃ?」

 と、翼ちゃんは、ようやく僕に対して話し掛けてきた。

119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:30:43.84 ID:uFOG1DQZo
「俺を呼び出しておいて、何がしたいんだにゃ?お前はただの馬鹿なのかにゃ?こうやっ

て、ご主人に対して変態的なプレイをして楽しむためだけに俺を呼んだっていうのか?だ

としたら、とんだ茶番。戯言だにゃ」

 …………ふむ。まだ白を切る気か。

 僕は多少不快に思いつつも余裕を持って応える。

 余裕を見せ付けるかのように、黙る。

「まったく、時間を無駄にしたにゃ。何の意味もない。どうしようもない。本当に本当の

馬鹿なんだにゃ。お前は。ご主人はこんな奴を更生させたがっていたのか。そりゃあ、い

くらなんでも無理な話だにゃ」

 翼ちゃんは呆れた風に言う。

 僕は黙る。

 黙り続ける。
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:31:18.31 ID:uFOG1DQZo
「何とか言えよ。ずっと黙ってねーでよ。それとも、図星刺されて黙ってるしかねーって

のか?内心怒り狂っているってーのに否定できないっていうのか?」

 翼ちゃんはいらいらしたように言う。

 僕は黙る。

 黙り続ける。

「本っ当っにどうしようもねー奴だなお前は!ご主人が頑張ってるってーのにただ見てい

るだけで!ご主人が辛いってーときに何にもしねーで!傍観者気取ってんのはそんなに楽

なのか?」

 翼ちゃんは怒った風に言う。

 僕は黙る。

 黙り続ける。
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:31:44.90 ID:uFOG1DQZo
「てめえは戯言遣いじゃなかったのかよ!嘘でも何でもその場を取り繕うことができなか

ったのかよ!」

 ご主人をこんな状態にしたままでいいってのかよ!

 翼ちゃんは、翼ちゃんは、怒った。

 僕は言う。
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:32:19.33 ID:uFOG1DQZo
「……さいごに『にゃ』って付けた方が猫っぽいぜ。翼ちゃん」

 そっちの方が、萌える。

「っ!」

「大体、なんで障り猫の状態で、僕の留守電が聞けるって言うんだ?」

 僕は今朝、日本に来てすぐに買ってもらった携帯で、翼ちゃんの携帯にかけたのだが、

そのときは出てこなかった。

 ボタンを押すくらいなら猫でもできるから、その場で出るのならまだいいだろう、それ

以上先の、留守電メッセージを聞くことが障り猫にできるようには僕には思えない。

 数ヶ月以上持っている僕にだって、よくわからないのだから。

「あーあ」

 と、翼ちゃんは、声と双眸から威圧感やら敵対心やら、何から何までを抜いて、普通の

状態で、人間のときのような状態で言った。
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:32:50.51 ID:uFOG1DQZo
「そんなところからばれるだなんて、思いもしなかったな……」

「さっき言ってたことじゃないけどさ。本当、無視して来なければよかったのに」

「そんなこと、できるわけないじゃん。阿良々木くんから私に電話をかけてくるだなんて、

とても珍しいことだったんだもん」

「…………」

「私、とっても嬉しかったよ。阿良々木くん」

「……そいつはどうも。喜んでもらえて嬉しいよ」

 「はあ」と、翼ちゃんは溜息を吐いて言った。

「てっきり、私の家に阿良々木くんが侵入してきたときにばれちゃったんだと思っていたよ」

「…………というか、侵入していたこと、ばれちゃってたんだ」

「うん。一応、これでも、障り猫の状態ではあるんだもん。犬ほどじゃないけれど、人間

よりは嗅覚は優れていると思うよ」

 言って、「にゃおん」と、翼ちゃんは鳴く。

「まあ、それも判断材料ではあったんだよね。まめな翼ちゃんなら、家では常に携帯を充

電しているに違いない。って思ったからさ」

 だけれど、あの家には、充電器しかなかった。つまり、それは翼ちゃんが持っていった

ってことだ。
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:33:19.83 ID:uFOG1DQZo
「障り猫に携帯を十分に操作できるわけがない。つまり、翼ちゃんは自我を保っているん

じゃないかってね。あくまで仮説だったんだけれど……」

「当てられちゃった、ね」

 翼ちゃんは笑いながら言った。

「ふふ……あははは……なんか、すっきりしちゃった。言いたいこと言えないっていうの、

さ、結構ストレスたまっちゃうんだよね」

「ストレス……か」

「うん。ストレス」

 翼ちゃんは、ちょっと寂しそうに俯いた。

「人を襲ったのも、僕やご両親を襲ったのも、全部ストレスがたまってたから。八つ当た

りで、だよね」

「うん」

 八つ当たり。

 むしゃくしゃしてやった。反省はしている。

125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:33:49.00 ID:uFOG1DQZo
「さすがにね、どうにも我慢できなかった。いくらなんでも、どうして私だけがこんな目

に会わなきゃいけないだろうって思った」

「…………」

「わかってるよ。我慢しなきゃいけなかったんだと思う。もしくは、全部放り出して、逃

げちゃってもよかったんだと思う。でも、私にはどれもできなかった。どれも選べなかっ

た」

「…………」

「阿良々木くん。一つ、戯言を聞いてもらってもいいかな?」

 翼ちゃんは、話すべきかどうか迷っていながらも、でも、話したらどうなるだろう。と

いう、子供じみた笑顔で、僕に訊いた。

 そんな、そんなほとんどの雄生命体は陥落されるだろう。そんな笑顔に、僕が抗えるわ

けもない。「いいよ。聞くだけでいいなら」と僕は答えた。

 そして、翼ちゃんは話し出した。

126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/24(木) 03:34:40.20 ID:uFOG1DQZo
「高校二年生の冬、私は鬼に出会ったの」

「鬼?」

「そう、殺人鬼。阿良々木くんに、とっても似ている殺人鬼」

「…………」

「その殺人鬼は、最初、私を殺そうとした。自身の存在理由にのみ則って、意味もなく、
                                           ばら
意志もなく、考えもなく、感慨もなしに――私を殺そうとしたの。『殺して、 解 して、

並べて、揃えて、晒してやんよ』なんて、怖いこと言ってね」

「…………」

「だけど、結局その人は私を殺そうとはしなかった。どうとでも殺せそうなものなのに。

殺さなかったの。気まぐれというか、言ってみただけというか、そんな感じ。そう言うと

ころも阿良々木くんに似てたかもね」

「そうかな?」

「そう、本当は見て見ぬ振りをしたり、逃げたっていいのに、一所懸命に頑張っちゃう阿

良々木くんとその人は似ていた」

「…………」

127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:35:21.74 ID:uFOG1DQZo
「私、訊いたんだ。その人に。その鬼に。『どうして人を殺すのか』って、そう訊いたの。

阿良々木くん、その人は、なんて答えたと思う?」

「さあね。気持ちいいから、とか、すっきりするから、とか。そんな風なことじゃないかな?」

「全然違うよ」

 翼ちゃんは笑いながら言った。

「『理由なんてのはない。必要なのはきっかけだけだ』だってさ。笑っちゃうよね。

その人の殺しにはその人の存在理由以外の理由なんてなかったんだよ」
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:35:50.41 ID:uFOG1DQZo
 理由なんてない。やりたいからやってる。

「つまり、翼ちゃん、きみはこう言いたいのかい?やりたいことができなかったから、ス

トレスがたまった。だから今は、やりたいようにやっているってそういうことなのか?」

「そうだよ」

「忍野さんを撃退しつづけているのもそういうことなのか?」

「そうだよ」

「最初、僕に襲い掛かったのも――」

「あ、それは違うかも」

「え?」

 違う……のか?
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:36:33.08 ID:uFOG1DQZo
「阿良々木くんに襲い掛かって……それでそのあとじゅ……ええーっと……十回忍野さん

と戦ったくらいで、障り猫は、一旦とれたの。だから、阿良々木くんは襲いたくて襲った

わけじゃないんだよ」

「……一旦とれたっていうのは?」

「私のストレスがある程度減った段階で、障り猫を離すことはできたんだけれどさ……で

も、こんな機会ってないじゃない?十数年間たまったストレスを、やっちゃいけなかった

ことをできるチャンスなんだよ?しばらくこのままでいたいって思っちゃったの」

「でも……だからって」
                 ワガママ
「わかってる。わかってるよ!我 儘言ってるって、無茶言ってるって!でも、でもいいじ

ゃない!今まで、我儘何て言えたことないんだもん!」

「翼ちゃん」

「阿良々木くんに何がわかるの?ねえ、わかるんなら、私に教えてよ!」

「…………」
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:37:08.49 ID:uFOG1DQZo
「阿良々木くんも自覚しているんでしょ?たとえ錯覚でも、覚えがあるんだから仕方ない

ことだよね。だったらいいじゃない!自分を嫌っても、私達、最低のままで、最弱のままで、

最悪のままで、人に迷惑をかけたまま生きていたって、人に悪影響を与えっぱなしで、そ

れでいいじゃない!」

 翼ちゃんは、叫んだ。

 全てを吐き出すように。

「う、うあ」

 そして。

「うわああああっ、くっうっうあああああん、わああああああああああああああっ」

 翼ちゃんは、泣き出した。

 これまた子供のように。

 たぶんこれも、今まで、できなかったこと。
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:37:35.89 ID:uFOG1DQZo
 僕は翼ちゃんが泣きやむのを待って。

 どうしても訊きたかったことを訊く。

「僕にできることはないかい?」

 翼ちゃんは答えてくれた。

「なにもないよ。私達にできることなんて、何も」

「忍野さんに言われたよ……僕らは、イレギュラーだってさ」

「うん。自覚している」

「僕も」

「どうしてかな。やることなすこと裏目に出るっていうか……なるようにならないんだよね」

「僕もそうだ。全てが全てうまくいかない」

 まったく――最悪だ。
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:38:13.40 ID:uFOG1DQZo
「ありがとう」

 翼ちゃんは唐突に礼を言った。

「なんだか、また少し楽になった気がする」

「でも、たぶん、それは錯覚だよ。もしくは、どうでもよかったことだ」

「かもね」

 翼ちゃんはすこし笑い、席を立った。

「あ、そうそう。翼ちゃん」

「ん?なにかな?阿良々木くん」

「忍野さんが、ゴールデンウィーク中には君を元に戻すことができる。ってさ」

「……それ、本当?」

「僕、嘘なんて吐いたことがないよ」

「そんなこと言う人嘘吐きしかいないよ……」

「……うん、まあ、でも、これは本当」

「そう……これで終わっちゃうのか……私。逃げられると思う?私」

「無理だろうね。『絶対に元に戻してみせる!ホームレスの名にかけて!』って言ってたし」

 「どこから突っ込めばいいのかわからないよ」と、翼ちゃんは笑った。

 時刻は午後六時。ちょうど、一時限終わったくらいだ。

 さて、では、そろそろお開きとしますか。

 二人で教室を出る。鍵は……まあ、誰かがかけてくれるだろう。きっと。

「じゃあ、また休み明けに」と、僕達はまったく同じタイミングで言い合い、別れた。

 なんだか少し愉快な気分になった。

 これが、錯覚じゃなかったらいいな。と、戯言気味に思った。

133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:38:57.84 ID:uFOG1DQZo
013

 後日談というか、今回のオチ。

 五月七日。ゴールデンウィーク最終日。

 いや、深夜を回っているので、もう八日になるのだろう。

 かくれんぼの最中に置いて行ったのがまずかったのか、火憐ちゃんと月火ちゃんの監視

はよりいっそう強化されてしまい、とうとうこの時まで警戒が緩むことはなかった。寝る

ときは一緒に。風呂のとき、トイレのときは扉の外で張り込むほどに厳しい監視だった。

 僕はそっと、両隣の二人を起こさないように、ベッドを出て、家を出る。

 目指すはもちろん、人が立ち入りそうもない、お化けでさえ逃げてしまいそうな、廃ビル。

学習塾跡だ。

 翼ちゃんのことも気になるし、あの吸血鬼幼女に血を与えなくてはならない。

 なんて、そんな理由をつけながら、向かう、まあ、実際は特に理由なんてない。

 重要なのは、きっかけなのだ。
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:39:25.02 ID:uFOG1DQZo
 階段を昇り四階へ。

 今日は運がよかったらしく、一つ目の教室に、吸血鬼幼女と、アロハ服のおっさん――

忍野メメがセットでいた。

「やあやあ阿良々木くん。今日はもう会えないと思っていたよ」

「僕もですよ。忍野さん」

 忍野は――あれだけあった擦過傷は一切なく、とても元気な様子だった。

「その分だと、無事に済んだみたいですね」

「ああ、うん。まあね」

 と、忍野は少し誤魔化すように言った。

 何か隠しているのだろうか?

「いや、別にそう言うわけじゃないよ。……ただ、ね」

「?」
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:39:55.12 ID:uFOG1DQZo
 何か様子がおかしい。僕は忍野を注意深く観察したのだが、どこにも違った箇所は見ら

れなかった。

 ううん、なんだろう。気になるな。

「いや、あのさ、吸血鬼ちゃんがね……」

「?……あっ!」

 忍野に言われて吸血鬼幼女の方を見ると、彼女は原チャリに乗るときにかぶるような、

謎のゴーグルつきヘルメットをかぶっていた。

「これはこれで可愛いですが……なるほど」

 そう、忍野は基本的にホームレス。金には困っているはずだ。

「買ってあげたんですか?意外と優しいんですね」

「ああ、いや、ね。これはその……お駄賃というかなんというか……うん、白状しよう。

実は委員長ちゃんの騒動はこの吸血鬼ちゃんに解決してもらったんだ……」

「…………………………………」

136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:40:51.13 ID:uFOG1DQZo
 おいおい。専門家じゃあ、なかったのかよ!

 あの妙な自信はなんだったんだ!?

「いやあ、別に全部やってもらったってわけじゃない。下準備は全部僕がやったんだから、

むしろ、僕の方が評価されてもいい話なんだよ。あの子は最後においしいところを全部持っ

ていっただけだ。だから、そんな目で僕を見ないでくれ!」

「……はあ、まあ、いいですよ。翼ちゃんが元に戻ったっていうんなら」

 僕は、これ以上情けない忍野を見るのに耐えられず、違う話題を振ることにした。

「そういえば、ご両親はどうなったんですかね?未だに病院でしょうか?」

「うん?いや、退院したよ。期間は三日間ぐらいだったかな」

「ふうん」

 自分で振った話だが、僕は翼ちゃんの両親のことを快く思っていないのでもうそれ以上

聞く気はなかった。

 もっと入院していればよかったのに。

137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:41:17.47 ID:uFOG1DQZo
「翼ちゃんは、これからどうするんですかね……」

 九日間も下着猫耳姿で外を出歩いていただなんて、軽く自殺級の話だ。

「いや、もう、彼女に記憶はないみたいだよ。障り猫の力なのかなんなのかは知らないけ

れど、もう、怪異のことは綺麗さっぱり忘れちゃったみたいだ」

 本当にこいつ専門家なんだろうか?

「……なんだか、ご都合主義的ですね」

「別にいいじゃないか。それとも、バッドエンドの方がよかったっていうのかい?」

「そんなわけがないでしょう。翼ちゃんには、幸せになってもらいたいと思います」

 しかし……どうだろうか。

 これで、翼ちゃんは幸せなのだろうか?

 彼女は言っていた。我儘を言うのは、初めてだと。なら、それなら、その経験は、憶え

ていた方がよかったのではないだろうか。

 ずっと言えなかったこと。

 ずっとできなかったこと。

138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:41:43.81 ID:uFOG1DQZo
「……戯言だ」

 本当に、全てが全て、悪夢のような戯言だ。

 いつまでも忘れられそうもない、

 いつまでも夢に出てきてしまいそうな戯言。

 いつまでも夢見てしまいそうな戯言だ。

 もし、もしも、僕が翼ちゃんを助けてあげられたら、救ってあげられたら、

 僕がヒーロー、主人公だったとしたら――

「掛け値なしに戯言だよな……」

 とても魅力的な妄想だが、ここらで終わりにしなくては。
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:42:21.90 ID:uFOG1DQZo
 僕は吸血鬼幼女に食事を与えて、廃ビルを後にする。

 忍野は『吸血鬼幼女』などと呼ぶのも億劫だから名前を付けてあげようと言っていたが、

僕は、その案には反対した。

 だって――僕の中では――あの子はいつまでも――伝説の吸血鬼。

 キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードなのだから。

140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:43:05.89 ID:uFOG1DQZo
 家に着き、僕は二人を起こさないように、もう一度、ベッドに入って眠った。

 火憐ちゃんと月火ちゃんが起こしてくれるだろうと、安心しきっていたのがいけなかっ

たのだろう。僕が目覚めたとき、ぎりぎり間に合うかどうか、という時刻になっていた。

 僕は一心不乱に自転車を漕ぎ、すんでのところで学校に到着する。
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [saga]:2011/11/24(木) 03:44:22.40 ID:uFOG1DQZo
 と、そこで、唐突に思い至った。

「遅刻なんて珍しいこともあったことだし、珍しいことでもしてみるか」

 電話をかける。唯一知っているクラスメイトの番号に。

 彼女は一コール目で出てくれた。急いでいるので、ただ、遅刻しそうな旨だけを報告し、

すぐさま電話を切る。

「さて、と」

 自転車置き場に自転車を停め、教室に向かう。

 僕は階段を昇る。


《Tsubasa Cat》is THE END.
《Sawarineko》is THE END.
《Atashino Professional》is THE END.


142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/24(木) 03:48:19.32 ID:uFOG1DQZo
そんなこんなで、今回はちょっと違う話。
アタシノプロフェッショナルでした。

そういえば、戯言っぽいタイトルは付いていますが物語っぽいタイトルは付けてませんでした。
まあ、今回はさしずめ、忘物語(わすれものがたり)といったところでしょうか。

羽川さんのメンタルが弱いと思う方もいると思いますが、あれはいーちゃんが落ち着かなくさせてる所為です。
別にキャラ崩壊とかそう言うわけではないんじゃないかなって言い訳をしときます。
143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西・北陸) [sage]:2011/11/24(木) 10:07:36.74 ID:rYPbMskAO
忍……じゃなくて吸血鬼幼女はとり憑かなかったか……

144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(北海道) [sage]:2011/11/24(木) 14:09:35.84 ID:fp5hwi8AO

今回も面白かった
145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/24(木) 15:57:50.84 ID:ZBa9PiM7o
面白かったです
前作とかあるんですか?
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/11/24(木) 18:35:07.01 ID:uFOG1DQZo
>>145
ひたぎクラブ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1311985423/
まよいマイマイ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1313459195/
するがモンキー
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1317480383/
なでこスネーク
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1318776671/

ぶっちゃけひたぎクラブは読まなくてもストーリー的には支障は出ません……おそらく。
147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/24(木) 23:05:46.96 ID:556Dzz8Wo
>>146
ありがとうございます!
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/25(金) 12:56:37.20 ID:RX/pzJjDO
乙!

あかいひととかぜろりんとか時系列とかいろいろ気になるところはあるけど完結するまで黙して待ってます
149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/25(金) 19:58:24.99 ID:HWKD+ElDO
>>143
それはまた別の話や
150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/12/06(火) 15:45:35.35 ID:RSpQteEgo
次スレあったの気づかなかった
前スレに次のリンク張ってほしい
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/07(水) 14:02:32.16 ID:KeJQeirRo
>>150
ちょ、それどこにある?
152 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/12/07(水) 16:52:13.97 ID:bfI4UlnU0
>>150
検索したけど無いぞ
153 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/08(木) 13:35:52.56 ID:gepw9BvRo
>>151-152
そういう意味じゃなくて
撫子からってことね
分かりにくくてすまん
154 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/12/08(木) 19:45:29.33 ID:wD6ydrOm0
ああ・・・
155 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/16(金) 06:57:25.04 ID:LOKbWKs0o
そろそろ次が来てもおかしくないか
156 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) [sage]:2012/01/05(木) 19:05:54.54 ID:8bLRt8/Z0
さあ早く
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/01/10(火) 19:03:15.77 ID:lOtL6/Dbo
すいません>>1です。
続きを待っている方には本当に申し訳ないのですが、二十四日までに新作を上げることが困難になりました。
本当にごめんなさい。

このままでは二ヶ月以内というルールに引っかかりそうなので、次回予告をあげておきます。
だから、運営さん、見逃してくださいね。(切実)




“片思いをずっと続けるなんて――

そんなの私、死んでもごめんだわ”
                センジョウガハラ             ザレゴトヅカ
ずっと沈黙を守っていた「 戦場ヶ原 ひたぎ」が、「僕」こと“ 戯言遣い”に牙を向く。
           カンバルスルガ                   カイキデイシュウ
ひたぎの側につく神 原 駿 河。その裏で暗躍する不吉な男、貝 木 泥 舟。そして、すべてを解決すべく真っ赤な彼女がついに現れる。
                                                    フィナーレ
「五月十三日が金曜日だったから」それだけの理由で始まったこのシリーズも、ついに大団円!

これぞ現代の新怪異エンタ!


夢物語

ひたぎシャーク


              ・ ・
青春に、夢にまで見たきみとの恋。
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) [sage]:2012/01/10(火) 20:59:23.56 ID:GifvmwHB0
おおう何これ凄そう
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) :2012/01/15(日) 18:26:10.42 ID:kZ+H5boAO
予告が本物っぽいな

宣伝兼ねて上げとくぜ
160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/15(日) 18:37:36.84 ID:YJw8s2Kbo
超期待
気長に待ってる
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2012/02/02(木) 00:57:16.07 ID:MEf/kwVlo
24日は過ぎたのだが焦らしてくるな

まだ余裕で待てるけど
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/18(土) 22:33:01.95 ID:XZti0wnGo
マダァ?(・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/27(月) 04:12:52.87 ID:qZ34lMdMo
生存報告ーー
164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/27(月) 04:13:32.83 ID:qZ34lMdMo
しなさいという意味です
165 :>>1 [sage]:2012/02/28(火) 19:15:08.64 ID:sy+GihS7o
>>164
したくありません
「失踪したと思ったのに急にキター!!!!」見たいな展開がほしいんです
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/11(日) 22:40:42.51 ID:W7uK/2wNo
>>165
ホンモノ?
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/03/11(日) 23:12:25.21 ID:0O39XSjoo
>>166
偽者だったらよかったのにね……
このときはテンションがおかしかったんです
そういうことにしてください
168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) [sage]:2012/03/12(月) 16:51:08.13 ID:t85jtgvJo
本物語 偽物語

まあそれはいいとして確かに>>165のテンションおかしいな何があったの
169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/04/09(月) 01:33:21.00 ID:Dp8kXXEAO
170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県) [sage]:2012/04/23(月) 20:52:58.90 ID:2aHARVbxo
早く書かないと死ぬぜ・・・?俺が
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