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まどか「正義の味方になりたいの!」ほむら「まどか……」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/29(火) 10:31:52.35 ID:h5J3eyyIo

ワルプルギスの夜「アハハハハハハハハハハ――――!!!!!」

ほむら「はぁ……く……っ!」

攻撃を受けたビルが、ガラスの雨をまき散らしながら崩れ落ちて行く。
その雨粒が燃え盛る焔の影を映し、災厄の魔女の行く道を彩る様は、
深海に降る雪よりも神秘的で、そして、滴る血涙より残酷な現実だった。

倒壊したビルの残骸は互いに衝突し削り合い、粉塵を纏い落下する。
幾度とない攻撃により、地表は目視できないほど瓦礫で埋もれていった。

木々も、学校も、町並みも、この街の全てが魔女により塗り潰されていく。
この土地に刻まれた人々の営みの痕跡を―――思い出を、全て。

けれど、私には、それを止める事は出来ない。

大量に備蓄していた重火器とグリーフシードは既に使い尽くした。
例え残っていたとしても、私の火力と魔法では『アレ』に通用しない事は、
今の戦いからも、これまで過ぎてきた時間からも、自明な事だった。

その上息はとっくに切れ、服は破れ、額から流れる血が沁み左目は使えず、
何よりも、倒壊したビルに足を挿まれたせいで身動きが取れない。

満身創痍で、有効な攻撃手段の無い私。
攻撃するどころか、動くことさえできない。
そう。つまり……、

(また、駄目だった……)

巴マミ、美樹さやか、佐倉杏子。
彼女らは魔法少女の運命から逃れられず、全員が死んでいった。

しかるべく迎えた、私だけの戦い。
私だけでは倒せないことは分かっている。
今回だって同じ繰り返しになる事も、分かっていた。

それなら、これから起こることも必然で……。
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君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
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笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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【GANTZ】俺「安価で星人達と戦う」part10 @ 2024/04/23(火) 17:32:44.44 ID:ScfdjHEC0
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トーチャーさん「超A級スナイパーが魔王様を狙ってる?」〈ゴルゴ13inひめごう〉 @ 2024/04/23(火) 00:13:09.65 ID:NAWvVgn00
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【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
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ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
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【安価】少女だらけのゾンビパニック @ 2024/04/20(土) 20:42:14.43 ID:wSnpVNpyo
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ぶらじる @ 2024/04/19(金) 19:24:04.53 ID:SNmmhSOho
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(千葉県) [saga]:2011/11/29(火) 10:36:01.93 ID:h5J3eyyIo

まどか「わたし、魔法少女になる」

倒れた私を魔女から庇うように立ち塞がるまどかと、
相対しまどかを見つめる白い獣、インキュベーター。
この光景を見るのも、果たして幾度目なのだろう……。

                                 ネガ
QB「さぁ、鹿目まどか。その魂を対価として、君は何を希う?」

まどか「わたしは――――!」

優しいまどかは、魔法少女になる事を望んでしまう。
街を救うために自ら過酷な運命を背負おうする。
私の無力さが、破滅の宿命をまどかにいざなう……。

まどかを、まどかとの約束を守れなかった。

……だったら、せめて。
まどかを魔法少女にさせてしまう、その前に。
私の、私だけの戦場に戻ろう。
だから……!



(―――まどか。今度こそ、あなたを救って見せる!)



私が、まどかを救わなければならないのだから。

ピカッ―――、………カシャンッ!


3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/29(火) 10:37:20.86 ID:h5J3eyyIo

〜〜〜〜〜
〜〜〜


 第1話 ここに彼女はいない。


「………」

病院で目を覚める、この瞬間が、私は一番嫌いだ。

カーテンの開け放たれた窓から差し込んでくる柔かな日差しが、
ヒリヒリと白痩せた肌を焼き、
窓の外に沿い立つ大きな木の枝先にとまる小鳥のさえずりが、
頭の中でジンジンと反芻する。
この朝は、毎回その痛みで起こされる。

廃墟と化した建築物、なぎ倒された草木、そしてまどか。
意識が落ちる前の、ほんの数秒前まで広がっていたはずの光景が、
まるで夢だとあざ笑うかのように消え去り、
純白の埃一つない衛生的な病室の空気と自然のもたらす初夏の兆候は、
私が救えなかった『平和』を私に見せびらかす。

また私だけがのうのうと生き残っていること。
この瞬間、それを強く実感させられるからだ。
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/29(火) 10:38:43.30 ID:h5J3eyyIo

けれど、それを拒絶する権利は私には無い。

これは私への戒めなのだ。
まどかを助けることの出来なかった私への罰。

それに、この感覚があるおかげで、私は『私』でいられる。
『まどかを救う』という、私が魔法少女になった理由、
そして、私が今こうして生きている理由だから。

魔法を使ってこの朝を迎える限り、それを忘れることはない。
そう、それだけが私の使命。


ほむら「……今度こそ、まどかを救うのよ」
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/29(火) 10:40:29.91 ID:h5J3eyyIo

『私のここにいる理由』を再確認したら、次の行動に移る。

私が転校するまで、一週間もの時間が空いてしまう。
この期間中は、ずっとまどかをピーピングし、危険から守る。
同時に、インキュベーターの『処理』も行わなければいけない。

学校が始まればまどかをアイツから守る事は容易になるのだけれど、
この時点で契約をされてしまったら、丸々一ヶ月を棒に振ってしまう。

インキュベーターの接触と、まどかが魔法少女になる理由の排除。
これが転校するまでの最優先課題となる。

……ぐずぐずはしていられない。
今だって、インキュベーターの魔の手が近づいているのだ。

それに、私にこんな平和な空間にいる権利なんてないもの。

早くまどかの護衛をしなければ。
着ていた『病院服』すぐさま脱ぎ捨て、代わりに着る学校の制服を探した。
けれど、何故か視界が薄ぼんやりとしていてピントが合っていなかった。

ほむら「あぁ、視力を戻すのを忘れていたのね」

左手の中指から具現化させたソウルジェムを額にかざし、農紫の魔法を灯す。
魔法の色からすれば、どうやら随分と穢れがと溜まっているように見える。
とりあえず、使いきったグリーフシードの補給から始めよう。
そう思いながら、ソウルジェムをしまい回復した瞳を開くと……、

ほむら「……なっ!?」

……息を呑んだ。
そこに在ったのは、見知らぬ天井だった。
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/29(火) 10:43:21.58 ID:h5J3eyyIo

ほむら「なんなのよ、これ……」

眼鏡も魔法も使ってなかったから気付かなかったの?
仮にそうだとしても、今まで違和感を覚えない方がおかしいほど、
この病室と、元の見慣れた私の部屋とは似通っていない。
むしろ共通点は白色を基調にしていることだけだ。

壁も床も、壁紙やカーペットなどで覆われずに剥き出しのままで、
無機質的でメカニカルな素材で統一されていた。
それはベットの傍に在る机やいす、サイドデスクも同じだった。

薬品臭さや硬いシーツの触感も、何より雰囲気に病院らしさがない。
申し訳程度に枕元に置かれたバイタルチェック用の医療機器がなければ、
ここが病室かどうかも分からなかった。

ほむら「ど、どういうことよ……ッ!!!」

とっさに周りを見渡すと、私物が一切なくなっていた。
サイドデスクに置かれていたはずの眼鏡、壁に貼られていたカレンダー、

そして、……見滝原中の制服も。
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/29(火) 10:44:15.08 ID:h5J3eyyIo

ほむら「………」

……絶句、するしかなかった。

私のいた痕跡が、何一つない。
それは、物がないなんてものではない。

存在していたという事実そのものが元から存在しないかのように、
私が違和感しか感じない部屋に、私は"違和感"を感じられなかった。
さも、それが当然だと言わんばかりに、目の前に広がる光景……。

ほむら「何、これ……?」

ようやく絞りだした言葉は、驚くほどひ弱だった。

なんで?
どうして? 
どういうこと?
この部屋は一体なに?

頭が痛い。目眩がする。吐き気がこみ上げる……。

抑えきれない疑問と不安が、開けてしまった口から溢れだそうとする。
ふらつく頭も支えきれず、ベットに手をつき耐えようとするが、
四つん這いの形になったせいで、思わず嘔吐きそうになった。
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/29(火) 10:47:31.81 ID:h5J3eyyIo

ほむら「……うっ、おう、ぐふっ……」

慌てて、手で口を押さえ込む。
そうでもしないと、今にも吐き出してしまいそうだからだ。

歯を食いしばり、必死になって吐瀉物を胃に押し返そうとする。
しかし、呑みこもうとすればするほど、鼻腔に広がる臭気や酸味に当てられ、
次から次へと腹から気持ち悪い嘔吐感がこみ上げてくきた。

激しい反応を形となって示す身体に対し、私はすっかり思考停止していた。

なんで?
どうして?
どういうこと?
なぜあの部屋じゃないの?

処理しきれない感情と疑問を、気が違ったように頭の中で繰り返す。
思考が堂々巡りする中、吐き気と頭痛をひたすらに耐えるばかりだった。


……その時。
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/29(火) 10:50:19.71 ID:h5J3eyyIo

バシュンっ。空気の抜けるような音が部屋に響いた。

同時に、明らかに自然光ではない眩しい光が差し込み、
光と一緒に吹き込んできた風が、部屋の空気を動かした。

ズキズキする頭を動かし、なんとか差し込む光源を見る。
すると、       ・ ・ ・
黒いハイカラーのスーツを着た女性が……、

「おはよう。目が覚めたみたい……って、あら?」

入口に立った女性は、そう言ったきりそれ以上は入ることはなく、
じっと私のことを上から下までじっと見つめ続けていた。

ただでさえ現状の理解が出来ていなかった私は、
身体の不調に意識を割かれていたこともあり、
ぼんやりとしか眺めることが出来なかった。
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/29(火) 10:51:27.90 ID:h5J3eyyIo

茫然とその女性を見ると、視線があい、

「あら〜〜///」

赤らめた頬にを当てて、一言。
そして上から下まで私の身体をもう一度を眺め、

「ご、ごめんなさいねぇ。これが着替えだから、着たら出てきてね?」

持っていた物をポンッとベットの端に置き、すぐさま部屋から出て行った。
ふと自分の手の内を見ると、脱いだばかりの病院服と下着が……。

ほむら「……あ、あぁぁ……いっ!」


い、イヤアアアアアァァァァァァァァァッ!!!!!
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/29(火) 10:52:53.76 ID:h5J3eyyIo

〜〜〜〜〜
〜〜〜

受付嬢「それでは、こちらが退院に関する書類になります」

ほむら「はい……」

……まどか以外の人に肌を晒した。
もう、まどかのお嫁さんにいけない……。
うぅぅ……。

受付嬢「……大丈夫? 具合悪そうよ?」

ほむら「あ、いえ。だ、大丈夫です……。はい……」

受付嬢「……???」


……訳が分からない。

あの後。
なんとか、裸を見られたショックから立ち直り服を着ると、
すぐに部屋へ、医者と看護師がやってきた。
見るからに若い彼らは、私の担当医ではなかった。
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/29(火) 10:53:52.31 ID:h5J3eyyIo

来て早々、彼らは私に精密検査をすると言い出した。
検査や診療は退院の数日前に終わっているはず。
今日は退院するだけのはずなのに。

検査を宣言した後、医者たちはひたすら無言だった。
私も周りを見渡すゆとりができ、建物や検査室内部を見渡すが、
部屋同様の造りになっているだけで、ここが何かは分からない。
診察している医師と看護師に尋ねても、返答はない。

ここがどこなのか、何が起こったかよりも、純粋に気味が悪くなってきた。
だが一般人の目もある上、時間遡行によりソウルジェムに穢れが溜まっている。
正午過ぎに検査が終わるまで、耐え続けた。

でもこの受付の人ならさっきの人達とは違い、話をしてくれそうだ。
まず、この施設がどこで、何故私がここにいるのかを聞かなくては。

ほむら「あの……」

「あぁー、やっと見つけたわ!」
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/29(火) 10:58:11.74 ID:h5J3eyyIo

質問しようとした所で、後ろから声をかけられた。
振り向くと、さっき病室に来たOLルックの女性だ。
右手にカルテらしき書類の束と紙袋を持っている。

「終わったら部屋で待機するよう言っておくのを指示したのに」

「あの人達勝手だから、おかげで探し回っちゃったわ。全く……」

息を若干切らせながら、カラカラという音と共に近づいてきた。
どうやら女性は、後ろ手でスーツケースを引いているようだ。

「ごめんなさい、待たせちゃったかしら?」

ほむら「いえ、大丈夫です……」

待つも何も、待ち合わせもしてない人を待ってはいない。
けれど女性は、私の曇った表情を気にすることはなく、

「そう。ならよかったわ」

「ええっと、『暁美ほむら』さん……で、間違いないわよね?」
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/29(火) 10:59:12.90 ID:h5J3eyyIo

ほむら「そうですが……」

何故か手にした書類をちらちらと見てから、不安げに私に尋ねる。
病院の看護師さんなら、名前くらいは知っていると思うのに……。

「そうよかった♪ それじゃあ、これに着替えてもらえるかしら?」

「あ、もちろんここでじゃないわよ。別室を用意してあるから安心してね?」

その女性は、手にしていた茶色い紙袋を私に差し出してきた。
入っていたのは、またもや衣服だった。

ただ今回の服はさっき渡された診察用の病院着ではなく、
ビニールでパックされた新品と思わしきものだ。

ワインレッドのブラウスに真っ黒のタイ、同色の二―ソックス、
そして、少し厚手の純白のワンピース。
どれもこれも、病院とは関係ない物ばかり。

ほむら「これは……?」

「貴女の新しい制服よ。それとこれが転入届、こっちが貴女の荷物ね」

カルテ類の入ったフォルダからプリントを差し出し、
左手で押していた黒いスーツケースを私に渡した。
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/29(火) 11:01:11.83 ID:h5J3eyyIo

ほむら「ま、待って! 制服!?」

制服? これが制服ですって? 私の?
私の着なれた見滝原中の制服のデザインは、こんな物ではない。
ベージュのブレザーに白いブラウスと赤のリボンだったはずだ。

「見滝原? 何を言っているの?」

その女性は不思議そうに首をかしげると、
今度は持っていた書類の束を差し出し、

「貴女の転入する学校は、東京の学校よ?」

ほむら「と、東京……?」

「えぇ。詳細はそのフォルダの中にある『転入届』に書いてあるわ」

「それ確認したら、この後会って貰いたい人がいるのだけど……って、聞いてる?」

女性は以前私に向かって何か喋りかけているようだが、私の耳には、届かない。
それどころの話じゃなかった。
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/29(火) 11:02:32.15 ID:h5J3eyyIo

……な、何を言っているの、この人は?

東京は私が前に住んでいた場所だけど、
私が転校するのは、見滝原中のはずじゃないの。

それでも、私を覗きこんでくる女性の訝しげな表情を見ていると、
まるで私がおかしいと言われているようにしか思えなかった。
再び混乱した頭を抑え、渡された紙束を慌ててめくる。

大丈夫、本当に転入届にならちゃんと『見滝原』と書かれているはず。
胸に生じていた不安を打ち消すように、そう信じて書類に目を通して行く。

でも同時に。

見憶えの無い病室、消えた私物、見知らぬ医師、突き付けられた制服。
ここに来るまでに目に掲示された『違和感』が蘇り、身体を炙っていく。

―――おかしいとは、ずっと気づいてはいた。分かってはいたのだ。

それでも私が知っている現実を求めて、思い浮かぶ『最悪』の予想を押し殺し、
一縷の望みを託して転入届を探した。
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/29(火) 11:05:13.96 ID:h5J3eyyIo

……それはすぐに見つかった。
コピー紙に印字された文字列に、急ぎ目を走らせる。
「転入届」、担任名、所属クラス、そして学校名。
そこに書いてあるものは、記憶に在るそれとは全く違うものだった。

だが、そんなもの以上に。
再生紙の上に羅列してある、一列の、黒い染みは、

ほむら「……うそ、よ……」

また頭が痛みだす。
視界が揺れる。
胃が絞られる。
膝が笑う。

頭と腹部から押し寄せる不快感のあまり、体のバランスが消失し、
膝から崩れ落ちた私の上に、手元から離れた紙がハラハラと降ってきた。

私の目の前にも数枚の書類が落ちてくる。
その内の一枚は、少し前に受付で渡された『退院証明書』だった。
さっきは目を通す事も無かったそれが掲示する『現実』は……。

ほむら「あり得ない……なんで? ……なんでなのよッ!!!」



そこに記されていた退院日――今日の日付は、
                                     2019年 10月 12日。



―――なんで私は、『未来』にいるの?
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/29(火) 11:12:52.99 ID:h5J3eyyIo
まどかマギカの世界は2011年である事が公式設定です。

この時点で何かに気が付いた人がいたとしても、
第2話が終わるまで明かさないでもらえるとありがたいです。
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/29(火) 11:17:09.68 ID:VU4iw1oDO
投下乙……しても良いんだよね?

リアルタイムで読ませてもらったが、ハラハラ感がパねぇ
ほむほむとシンクロ出来るほど混乱したぜ……

次回も待ってる
20 :えびぞりV○高橋くん^p^ [saga]:2011/11/29(火) 11:50:34.80 ID:QLbWBLOz0
ktkr

>>1
がんばれ
21 :結論から ◆HotHz4tVdI [sage]:2011/11/29(火) 11:59:30.76 ID:Zq/cUXJIO
ほむまどエロありだよね?
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/11/29(火) 12:03:04.42 ID:E6KP3ErPo
何かとのクロス?
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関東・甲信越) [sage]:2011/11/29(火) 12:14:26.01 ID:wC/JndTAO
面白い、面白いのだが…
開始直後に明らかに厄介な2人に目を付けられて先行きが不安でならない
潰されなきゃいいのだけど
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/29(火) 12:29:27.13 ID:VLO10hs8o
乙乙
これは期待できそうな予感
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/11/29(火) 12:30:27.98 ID:E6KP3ErPo
クロスなのかオリジナルか見当が付かないから次回の投下は早めに頼むぜ!
とりあえず乙
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/29(火) 12:30:48.46 ID:6Xftw63Eo
これなんのマドマギと何のクロスなん?
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/29(火) 13:43:43.42 ID:ae4aX7EAO
剥き出し部屋って描写からあれのあの子を想像したけど、ちと様子が違うみたいだな
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/29(火) 16:18:01.54 ID:8gfj8goxo
俺がリクエストしたアレじゃあないですか!待ってましたよ!
ひっペがされてお姉さんに見つかってイヤーン、なシチュエーションで特定……されないもんなのね


とりあえず>>1、あなた、最高です!
29 :名無しNIPPER [sage]:2011/11/29(火) 20:26:01.21 ID:1RMRWl4AO
正義の味方だからFateかな?
と思ったが違うっぽい、一体何なんだ……。
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/29(火) 22:47:06.65 ID:utH7t2n40
鉄のラインバレルかぁ、あまり見ないクロスだな
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [saga]:2011/11/29(火) 23:25:50.04 ID:IhDkAdhQ0
>>27-30は今すぐ黙るべき
>>1はネタバレしないでくれって言ってる
俺みたいにフェイトだの鉄のなんちゃらを知らないで楽しみにしている奴もいるんだよ
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(兵庫県) [sage]:2011/11/29(火) 23:28:45.21 ID:6TjG/qYoo
タイトル言われても、ハイブリッドインセクターしか知らないので問題ない。

でも問題のある人もいるので注意だ。
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/30(水) 00:45:37.77 ID:nV5NZ3bto

〜〜〜〜〜
〜〜〜

行き交う人々。
整備された街並み。
生い茂る木々。

楽しげな人の顔には、未来への希望がある。
自然との調和と人間の活気が溢れでる、そんな街。

この街の名前は『見滝原』。

かつて私やまどかが住み、暮らしていて、
そして……


……ワルプルギスの夜に壊滅されたはずの、街だった。
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/30(水) 00:51:15.75 ID:nV5NZ3bto

ほむら「……信じられない」

口から洩れたのは、率直な私の気持ちだった。
あの直後、私は引き留める女性を無視して病院から飛び出し、
スーツケースを片手に急いで見滝原へやって来た。

それもこれも、ここが『未来』だと知ったから。
今度は、まどかを助けようとする事さえも出来なかったという
『最悪』の結末しか思い浮かばなかったからだ。

けれど現実は、私の想像を遥かに絶していた。
あるはずの無い街が、そこに存在していたのだ。

本来『災厄の魔女』による災害は想像を絶する規模に及ぶ。
住宅街、商業地区、公共施設、工業地帯、自然公園、インフラ。
そういった都市機能が完全に破壊される様を、私は何度も見ている。

その上、被害はただ街が倒壊するだけでは済まない。
かつて市街地だった場所を新たに開発しようとするのなら、
地面を覆い尽くす瓦礫の山を撤去しなければならないからだ。

これらを踏まえれば、僅か数年程度で被災以前と同程度まで
復興することが不可能であることは、明らかだった。
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/30(水) 00:57:34.23 ID:nV5NZ3bto

しかしながら目に映るのは、紛れもなく見滝原そのもので……。

駅のホームの看板や電信柱の住所表示にも『見滝原』と記載され、
尋ねた警官には当たり前とばかりに「見滝原」と答えられた。

あり得ない事が起きている。        ・ ・ ・ ・ .・ ・ ・ ・
なら、これは夢なの? 夢に違いない。夢であって欲しい。
―――そうでなくては、困る。

だけどそれが勝手な思いなのだと、私は気付いてた。
これは、幻想などではない。

明確な自意識と整合性のとれた記憶、はっきりと伝わる五感。
街の存在を知覚し、それを認識する私を自覚している。

ほむら「―――イタっ!」

手のひらには、抓った後と鈍く残るジンジンとした痛み。
夢の中では感じる事の出来るはずのない痛覚。

でも、それだけじゃない。
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/30(水) 01:03:27.78 ID:nV5NZ3bto

行き交う人々は様々な話題に華を咲かせ、様々な表情を見せる。
ある人は怒り、ある人は呆れ、そして、ある人は笑う。

私がそんなものを幻視するなんて、あり得ないことだ。

まどかを救うという、ただ一つのその目的の成就のために、
数える事もおこがましい程、私は世界を見捨ててきた。

ワルプルギスの夜を倒せず、まどかを魔女にするという事は、
その世界に生きてきた人たちを見殺しにしてきた事と同義。

何十、何百億……いや、もう何千億と他人を殺し、生き続ける。
だけど私は、それを仕方のない事と割り切り、今回も生き延びた。
もう私は、他人の死を悼むことさえ、してはいない……。

こんな人間が、今さら赤の他人の夢を見るはずがない。

見滝原の復興は、認めざるを得ない現実だった。
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/30(水) 01:07:22.57 ID:nV5NZ3bto

……いや、それでもおかしい。

仮に復興を認めたとしても、むしろ、だからこそ、
この街の存在以上に、不可解な点がある。

街の風景が、何一つ変わっていないのだ。

町並みが、災厄の魔女により破壊される前と何一つ異なる所がない。
『復興』という生易しいものではない、『再生』と言うべき再現率の高さ。
しかし、一度破壊された町並みを完全に再生することなど、不可能だ。

では何故ここまで完全な町並みを維持しているのか。
この街がワルプルギスの夜を迎えてない、としか考えられない。
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/30(水) 01:13:23.48 ID:nV5NZ3bto

それこそ、街の復興以上にあり得ないことだ。

私が巡った時間の中で、『アレ』が来ない事は一度もなかった。
時間遡行をして一ヶ月後に、必ずワルプルギスの夜は出現する。
巴マミが死んでも、美樹さやかが死んでも、まどかが魔法少女になっても、
どんな場合にであろうとも、これだけは規定事項だった。

避ける事の出来ない破滅の運命、『ワルプルギスの夜』。

それを迎えてないとしたら何がおかしい?
やはり、この街は復興した?
それは技術的にも時間的にも無理だ。

(なら、あの病院でみた『日付』が見間違っていた?)

……それも正解ではなかった。
コンビニで売っている新聞でも、街中の広告用TVでも確認した。
スーツケースの中に入っていた見知らぬ携帯電話も見てみた。
だが、ありとあらゆるものの日付が、未来を示していた。
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/30(水) 01:16:47.27 ID:nV5NZ3bto

私の魔法は、時間を止めてる事と過去に戻る事だけの筈。
未来へ遡行する事なんて、今まで一度も起きなかった。

壊滅していない見滝原。
訪れなかったワルプルギスの夜。
そして、『未来』……。

どれも、絶対に起きるはずのない事象ばかり。

そのせいだろう、私は冷静さを失っていた。
荒唐無稽な事態に次々と巻き込まれていった私は、
大切な事を見落としていたのだ。

迂闊だったなんて言い訳では済ませる事は出来ない。
もしも何か異変があったのなら一番最初に確認するべき事、
絶対に忘れてはいけない事を、忘れてしまっていた。
ようやく、私は気が付く。

ほむら「……ここが未来だというのなら……、」


―――まどかは、どこにいるの?
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/30(水) 01:27:21.04 ID:nV5NZ3bto

〜〜〜〜〜
〜〜〜

この街にも、まどかの家はあった。

私の記憶している通りの住所に、存在していた。
でも、それだけでしかなかった。

呼び鈴を押して出てきたのはまどかではなく、
それどころか、まどかの家族でさえない赤の他人。
家の表札には見憶えのない名字が記載されているだけ。
……まどかの家には、別の家族が住んでいた。

ほむら「うそ……よ……」

うそだ、嘘、嘘よ。
あり得ない。そんな筈がない。
そう、まどかがいなくなる訳ないッ!

……引っ越しか何かに違いない。きっとそうだ。

それなら、学校に行こう。
まどかの学年は既に卒業しているが、進学先は分かるはず。
その高校に行って新しい転校先を聞き出せばいい。
もしくは県外への進学のために引っ越したとも考えられる。

しかし、私は楽観的過ぎた。
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/30(水) 01:33:34.35 ID:nV5NZ3bto

事務員「―――その名前の娘がウチに在籍していたという記録はないね」

ほむら「……は?」

プライバシーの保護という観念が学校教育の現場にまで広がり、
学級連絡網にさえ電話番号が載ることのなくなった現代で、
事務からまどかの進学先を聞く事は容易いことではなかった。

正攻法で聞いても相手にされず、友人だと何度も言い続け、
一時間以上粘った私に返って来たのは、そんな答えだった。

ほむら「……ウソっ! そんな訳ないじゃないっ!」

事務員「そう言われてもね、実際に名簿には記載され……」

ほむら「ちゃんと調べて! 『しかめ』じゃなくて『かなめ』って言ってるでしょ!」

事務員「いやね、お嬢ちゃん。今度は間違いなくカ行で調べたんだよ」

この還暦は超えていそうな男性事務員は融通が利かない上、
既に痴呆症が進行しているようで、私を小学生扱いしたり、
まどかの名字の読み方を間違えていた。
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/30(水) 01:40:19.02 ID:nV5NZ3bto

ほむら「ならまどかの名前があるはずよ! 年度はあってるの!?」

事務員「お嬢ちゃんのメモの通り調べたよ? でも本当にないんだって」

ずっと「ない」の一点張り。
もはや押し問答だった。
これではらちが明かない。

ほむら「なら同じクラスの志筑仁美は!? 美樹さやかはどうなの!」

事務員「え〜と……、『シヅキヒトミ』さんと『ミキサヤカ』さんね……」

まどかの名前が見つからないなら、他の名前を調べてもらう。
美樹さやかはともかく、魔法少女に縁のない志筑仁美ならば、
未だに健全で、この街にいる可能性も高いだろう。
そう踏んでいたのだが、事務員の返答は、

事務員「う〜ん、どっちの娘もウチの卒業生にも在校生にもいないね」
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/30(水) 01:44:05.66 ID:nV5NZ3bto

慣れない手つきで受付用のノートPCを操作していた男性は、
十分近くかけても見つける事が出来ないようだった。
これ以上待つ事が出来ず、しびれを切らした私は、

ほむら「もういいから、そのパソコンを貸して!」

事務員「あっ! ちょっとそういうのは困るんだって」

そう言いつつも、事務員はパソコンを取り返そうとはしなかった。
おそらく自分で調べさせて納得させたいのだろう。

ノートPCの画面に表示されていたのは、検索ツールだった。
名前やクラスを入れる事で、個人情報を引き出せるものだろう。
すぐに私は『鹿目まどか』の名前を入れる。しかし、

【該当する候補がありません】

ほむら「なっ!……」

検索結果に出てきたのはそれだけだった。
住所や進学先どころか、検索にすら引っかからなかった。
……いや、名前の入力の仕方を間違えたのかもしれない。
改めて、『鹿目 まどか』と記入する。だが、

【該当する候補がありません】

再びこの文字列しか表示されなかった。
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/30(水) 01:53:33.17 ID:nV5NZ3bto

その後も、全角や半角、ひらがな、カタカナ、ローマ字と
考えられる限り全てのパターンを入力していく。
けれども、検索結果は全て同じだった。

ほむら「そんな……」

【該当する候補がありません】

その文字を何度と見ている内に流石に焦ってきた。
受付で肘をつく男性事務員も、目で私を催促する。

事務員は無視するとしても、私は追い詰められていた。
年度とクラスは、三年生の時の物になるから使えない。
となると残ったのは、まどかの友人を使う事だけ。

『志筑仁美』と『美樹さやか』、あと『上条恭介』など、
考え付く限り、クラスメイト達の名前を検索していく。
あらゆる可能性のあるパターンは試した。

【該当する候補がありません】

それでも、見つからない。
誰一人として、まどかを知っている人を探し当てられない。
他のクラスや、小学校の頃のまどかの友人を、私は知らない。
だから、これが限界……。

ほむら「……いえ、まだ一人だけ!」
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/30(水) 01:57:16.72 ID:nV5NZ3bto

私でも三年生の時の年度とクラスと知ってる人がいた。
唯一、私とまどかが共通している三年の知人。

『巴マミ』

彼女なら年度やクラスなど全ての条件で探せる。
私とまどかの三年生で、魔法少女の先輩。
……何時もまどかを魔法少女にしようとする人。

けれど今は私情を挿んでいる暇がない。
一時でも早くまどかに会わないと、守らないと。

私が、まどかを守らなくちゃいけないんだ。
利用できるものは、利用する。

すぐに私の知る彼女の情報全てを入力し、Enterキーに指を置く。
見つけたら土下座をしてでもまどかの居場所を聞き出そう。
だから、絶対に見つかって……、そう祈り、キーを押した。
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/30(水) 02:02:51.25 ID:nV5NZ3bto

……人が祈るのは、それが不可能だと気付いているからだ。
だからこそインキュベーターは、奇跡を売り歩く事が出来る。

ならば、この時私は気付いていたのだろう。

まどかの家にいった時も、事務員の言葉も本当は信じていた。
どれだけ検索しても誰一人として見つからなかった事だって、
それが何を指し示すのかも、心の中では理解していた。

そして、目の前に映しだされた定型文の意味する事を。

事務員「あぁ、終わったのかね? ……って、ちょっと待ちなさい、君!」

引き留める声を無視し、私は走り出していた。
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/30(水) 02:07:55.58 ID:nV5NZ3bto

〜〜〜〜〜
〜〜〜

ほむら「………」

手がかりは、なに一つとしてなかった。
巴マミの自宅も、美樹さやかの家も見に行ってはみたが、
まどかの家と同様に、別の家族がそこに住んでいた。
彼らに話を聞いても、その家は彼らが購入したものだと言う。

見滝原に隣接し、佐倉杏子が縄張りとする風見野へも行った。
警戒心の強い彼女は、街のあちこちに根城を分割しているが、
そのどこにも、彼女の姿を見つけることは出来なかった。

そして、一番可能性のあった彼女の廃教会に至っては、
数年前に行われたの区画整理によって、既に潰されていた。

この街は、すでに私の知る見滝原ではない。
いくら外見が酷似していようとも、
まどかがいないこの街を『見滝原』とは言えなかった。

……一体、何が起こっているのか?

学校でも確認した事だが、やはり、私は未来にいる。
街の住人は口を揃えて、あの日付を言う。

そしてまどかと、その知り合い全てがいないということ。
ただ街中にいないだけではない、その痕跡全てがなくなっている。
まるで、初めからこの街にはいなかったとでも言わんばかりに。

最後に、見滝原はこうして未来まで存続していること。
それはつまり、ワルプルギスの夜が来なかったという事だ。
もしくは、ワルプルギスの夜を討伐したか、どちらかだ。
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/30(水) 02:12:14.54 ID:nV5NZ3bto

前者ならば、まどかがいない事に説明が付かない。
今でもまどか達はここで暮すことは出来ていただろうし、
そうでなくても、まどか達の痕跡が消える理由がない。

後者の場合なら、前提がそもそも不可能だ。
巴マミや佐倉杏子がワルプルギスの夜を倒せたとは思えない。

それに、仮にまどかが魔法少女になり魔女を倒したのだとしたら、
魔力を使いきったまどかが魔女になり、世界を滅ぼしているはずだ。
どちらにせよ、この街が無傷であるということ自体があり得ない。

そもそも、まどかは今もインキュベーターに狙われているのか?

アイツは『二次性徴期の少女に生じる大きな感情の起伏』を
エネルギーへと変換することが目的と言っていた。
少なくともアイツ等は嘘だけはつく事がないから、真実なのだろう。

もし契約せずに生きていたら、今のまどかの年齢は20代だ。
既に二次性徴を過ぎたまどかが狙われることはないはずだ。
けれど、それもまどかが生きていればの話に過ぎない。

まどかが本当に生きているのか。
それを確かめる手段は、一つしかない。

……利用できるものは、利用する。

そして、私はテレパシーを使い呼び出した。

ほむら≪……インキュベーター≫

QB「僕を呼んだのは君かい?」
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/30(水) 02:17:02.60 ID:nV5NZ3bto

インキュベーターは数秒と待たずに、すぐさま現れた。
気が付いた時には、あの白い獣がベンチの隣に座っており、
いつも通り、上っ面の笑みを顔に張りつかせ、私を仰ぎ見る。

白い毛皮を被り、長い尻尾と耳の様なものを定期的に揺らす。
感情の欠落した無機質な赤い眼球で無理に笑おうとする様子は、
見ている側にとっては、得体のしれない嫌悪感しか生まない。

「何が起ころうとこいつだけは変わるまい」とは思っていた。
そんな、私の知るままのインキュベーターだった。

ほむら「あいかわらず、ゴキブリのように湧いてくるわね」

QB「この僕らを、知性を持たない無脊椎生物と同一視するとは失礼するね」

ほむら「黙りなさい!」

すかさず魔法少女になり、盾から拳銃を引き抜き、
サイレンサーを口の中に突っ込む。
こいつが原因だった時、またはコイツのせいで不快になった時、
すぐにでも打ち殺せるようにだ。

今だって、どうにか冷静な思考を保っているのがやっと。
この意味不明な現状の原因を聞くためだけに会っただけだ。
そうでなければ、とうの昔に引き金を引いている。
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/30(水) 02:24:07.80 ID:nV5NZ3bto

どうやらモガモガと喋りずらい様子だが構わない。
大体、普段からテレパシーを使うこいつ等にとっては、
口なんて器官は必要のない飾りでしかないのだから。

QB≪初対面の相手に対してこんな行動をとるなんて、どうかしてるよ≫

ほむら「関係が対等か、より上の者に対してなら、確かに非常識な態度ね」

ほむら「でも私は、お前を対等以上なんて、一度も思ったことなんかないわ」

ほむら「それに、お前等の生産能力がゴキブリ並って知っているもの」

QB≪……君はいったい何者だい? どうやら君も魔法少女のようだが……≫

QB≪僕は君と契約した覚えは全くないんだけど?≫

ほむら「黙りなさいと言っているの。お前は私の質問に答えればいい」

QB≪やれやれ……≫

どうやら不屈そうに首を振ろうとしたいようだ。
自分が今いる立場を理解させるために度殺しておこうか。
カチャリと音を立てて安全装置を外し、喉の最奥までねじ込む。

効果はてきめんで、振っていた尻尾も止め静かになる。
ようやく周到な態度になったようだ。
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/30(水) 02:32:43.40 ID:nV5NZ3bto

QB≪それで、僕に質問ってなんだい?≫

ほむら「単刀直入に聞くわ。あなた、鹿目まどかに何をした?」

QB≪『何をした』とは漠然とし過ぎているよ。それは契約の有無の事かい?≫

ほむら「それを含めた全てよ。勧誘や洗脳をしてまどかを誘拐したのか」

ほむら「それとも、お前等の母星に拉致したのかと聞いてるのよ」

QB≪………。鹿目まどかを、……かい?≫

ほむら「何度も言わせないで、次に質問したら殺すわ!」

そう脅すと、こいつは珍しいことに考え込むように俯いていた。
こいつ等は全個体と同期しているから、即答できるはずだが。

それから一分ほど経ち、そろそろ撃ち殺すかどうか考えてると、
垂れていた頭をあげ、ようやくインキュベーターは口を開いた。

QB≪僕は、"鹿目まどか"に何もしていないよ≫
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/30(水) 02:39:46.77 ID:nV5NZ3bto

ほむら「……それはお前だけという意味で? それとも他の個体も含めて?」

QB≪まさか、そこまで僕らについて知っているのかい? 一体どこ……≫

シュンッ……
微かな擦過音と右手にかかる反動を知覚すると同時に、
インキュベーターの白色のブヨブヨとした肉が激しく飛散し、
ベンチの木の板と地面に気色の悪い音を立てて張り付く。

QB「……消音機付きとはいえ、街中で発砲するなんて正気の沙汰じゃないね」

撃ち殺すと、すぐに他の個体が沸いてきた。
だからゴキブリのようだと言っているのよ。
自分の死骸を喰うなんて点を含めてね。

ほむら「次に質問したら殺すと、予告しておいたはずよ」

ほむら「いいから私の質問に答えなさい」

QB「もちろん後者さ」
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/30(水) 02:46:09.53 ID:nV5NZ3bto

……予想外の答えだった。

人間の存在を、それも大勢の人数を過去ごと抹消するなんて、
普通の人間に可能な芸当ではない。

対してインキュベーターは、自身が人類以上のテクノロジーや
文明を発達させてきた事を明かしているのだ。

書類の消去ならともかく、記憶操作までしていて、さらに、
対象がまどかとなったら、コイツ等の仕業で無い筈がないッ!
だから、

ほむら「だったらどうして、まどかはいなくなったのよ!」

QB「いなくなる……?」

インキュベーターは訝しげに首を傾げる。
その対応さえ、煩わしい。
感情もないこいつが人間の真似をするなんて!

思わずもう一度引き金に置いた指を引きかけていた。
だが、それを止めたのは、こいつの一言だった。

QB「"鹿目まどか"はいなくなってないよ? それどころか……」

ほむら「どういう事ッ!?」
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/30(水) 02:52:51.95 ID:nV5NZ3bto

それは、まどかが生きているという事!?

ほむら「本当でしょうね!?」

QB「本当さ。その様子なら君も知っているんだろ? 僕らは嘘はつかない」

QB「僕と君たちは、魔法少女の契約によって結ばれている」

QB「その契約の正当性を保つためにも、嘘偽りを言うことは出来ないのさ」

QB「当然だけど、君の言う拉致監禁で本人の意思に背く契約もしないよ」

……まどかが、生きている。
魔法少女にもなっていない。
それは私にとって最高の情報だった。

だけど。

それならどうして見滝原はワルプルギスの夜に破壊されてない?
私もまどかも抜きで、巴マミ達が倒したとでも言うの?

QB「……驚いた。本当に、君には驚いたよ……」

感情のない真っ白で無機質な顔には、驚愕の色があった。
インキュベーターのこんな表情は初めて見た。

QB「君はワルプルギスの夜を知っているのかい?」

ほむら「当然じゃない! 私は何度も何度もアイツと……ッ!!」

感情が高ぶり過ぎて思わず、自分の魔法をばらしてしまう所だった。
私が時間を操る魔法を使える事は、誰にも知られてはいけない。
これだけが、私がインキュベーターに対抗できる、唯一の手段なのだ。
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/30(水) 02:57:15.25 ID:nV5NZ3bto

QB「『何度も』……?」

……失敗した。
ほんの僅かでもインキュベーターにヒントを与えてしまった。
紛いなりにもこいつ等は高度な知性を持った生命体だ。
これだけの情報でも私について推察してくることも考えられる。

怪しむように、空虚な赤い眼が私の顔を覗き込む。
今すぐにでも撃ち殺したいが、動揺を悟らせる訳にはいかない。
精いっぱいの虚勢を張り、なんでもない風を装った。

ほむら「と、巴マミがワルプルギスの夜を倒したの?」

QB「……いいや、彼女ではあの魔女を倒すことは出来ないよ」

だけど、返ってインキュベーターは疑いの目を強めていた。
自分でも分かるほど声が裏返っていたし、
無理やり急な話題転換をした事に疑念を抱くのは当然だろう。

インキュベーターのペースにのまれては駄目だ。
私は有益な情報を聞き出すためにこいつを呼んだのに、
逆に時間操作について知られては、本末転倒になってしまう。
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/30(水) 03:11:57.71 ID:nV5NZ3bto

例え怪しまれたとしても、このまま乗り切るしかない。
しかし、今度は不意にインキュベーターが声を掛けてきた。

QB「ねぇ、そろそろ君の名前を聞かせてもらってもいいかな?」

ほむら「………」

QB「黙秘かい? 僕はそれでもいいんだけどね」

QB「それなら話を変えようか。君の言う"鹿目まどか"ついてだけど……」

ほむら「っ!」

まどかについての情報、それは私が一番欲しているものだ。
わざわざ敵対するこいつと話をしてまで手に入れたかったもの。

だけど、今こいつの話に乗ると間違いなく主導権を奪われる。
どこまで感づいているのかは分からないが、
まどかの話題を振って来たのも、私を揺さぶるために違いない。

……奴の目論見に気付いていても、耳を向けるべきか?
現状といて有効な情報源はこいつしかいない。
それは同時に、あいつに悟られる危険をはらんでいる。

私は心の中で激しく葛藤していた。
だが、そんな事すら考えている余裕はなくなった。
何故なら……、

QB「その"鹿目まどか"っていうのは、いったい誰だい?」
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/30(水) 03:22:05.20 ID:nV5NZ3bto

ほむら「……えっ?」

……ちょっと待って。
それは一体、どういうこと?

ほむら「だって、さっきお前はまどかを知っているって……」

QB「そんなことは一言も言ってはいないよ」

QB「僕は"鹿目まどか"という人物と契約などをしてないと言っただけさ」

QB「当り前だけど、知りもしない人と契約を結ぶ事なんて出来ないし」

QB「初めから存在していない人間が『いなくなる』事もないだろう?」

確かに、こいつ等は嘘は言ってはいないのだろう。
こいつの発言を私が都合のいいように解釈した。
その結果、私が勝手に勘違いしていたといいいたいのか。
でも……、

ほむら「だってお前が私に言ったんじゃない!」

ほむら「まどかには、他の誰にも勝る魔法少女の素質があるって!」

QB「僕はそんな事を言った覚えはないよ」

……当然だ。こいつとはここが初対面。
私がインキュベーターと契約したあの時の記憶も、
かつて、まどかを救えず繰り返してきた過去も、
私だけしか知りえない物なのだから。
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/30(水) 03:26:45.48 ID:nV5NZ3bto

QB「僕らも全知全能じゃない。どれほど高度な知性を備えてたとしても」

QB「これまでこの地球に誕生した人類全個体をカバーは出来ない」

QB「だからこそ、僕らインキュベーターは効率よくエネルギーを回収するため」

QB「最も感情の起伏が激しい、第二次性徴期の少女をサンプルに限定したんだ」

QB「仮にそんな娘がいるのなら、僕が契約しに行ってないと思ったのかい?」

ほむら「………」

何も言い返す事が出来ない。
確かに言っている事は正しかった。

QB「聞くところによると、どうやら"鹿目まどか"は見滝原の住人みたいだけど」

QB「そうだね……、ここ千年間の日本の関東圏に"鹿目まどか"という名前で」

QB「魔法少女の素質を持つ少女がいたなんて情報は、僕らの中には一切ないね」

ほむら「……そ、そんな、なんで……!」
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/30(水) 03:35:40.52 ID:nV5NZ3bto

……インキュベーターは嘘をつかない。
そのこいつが、まどかがこの世界にいないと言っている。

でも、こんなこと、認められない……。
認めるものか、認めるものか、認めるものかッ!!!

QB「そんなことより、僕は君自身に非常に興味があるん……」

インキュベーターが言葉を続けることはなかった。
私が、引き金を引いたからだ。

一回、二回、三回、四回、五回。
静かな銃声と手に反射する反動が生じるたびに、
それぞれの弾に肉を削がれ、身体が四散する。

六発目を引く前に新たな個体が出てきた。
……再び古い個体を喰らう。

QB「……やれやれ。僕には教えてくれないのかい?」

ほむら「消えなさい……」

QB「まあいいさ。でも、君のソウルジェムは……」

ほむら「……消えろっていってるのが聞こえないのッ!?」
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/30(水) 03:39:06.42 ID:nV5NZ3bto

QB「これ以上個体を潰されるのは、僕にとって本意ではないね。でも、」

ほむら「………」

QB「君の言う事は理解できないが、君自身には非常に興味があるよ」

QB「それじゃあ、今度グリーフシードを回収する時でもまた話せると嬉しいな」

ほむら「………」

QB「それじゃあね?」

ほむら「………」






ほむら「……うっ、うぅっ……ま、まどかぁ……」
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/11/30(水) 03:41:42.89 ID:nV5NZ3bto

……まどか。

私の、初めての友達。
怯えてばかりで何も出来なかった私を、初めて友達と呼んでくれた人。
何をしたらいいのかすら分からないグズな私に、優しく接してくれて人。
そして、私を助けるために死んでいってしまった。

私の、大切な友達。
魔法少女になった私のために、一生懸命になって色々教えてくれた人。
巴さんと一緒に街を守って、ワルプルギスの夜だって倒そうと誓った人。
それなのに、魔法を使い果たして魔女になってしまった。

私の、たった一人の友達。
美樹さんや巴さん達が私を疑っても、最後まで私を信じてくれていた人。
魔法少女の真実を知っても、それでも私と一緒に戦うと言ってくれた人。
最後には、こんな私に希望を託してくれた。

こんな価値もない私の命に光を射してくれたまどかを、
私は絶対に、不幸には、魔法少女にはさせない。

あの時、まどかと交わした大切な約束。
それだけが私にとって、最後に残った道しるべ。

幾度となく彼女を殺して生きてきた、こんな私に出来る唯一の贖罪だった。
なのに……。


(あなたがいなければ、私はどうやって生きればいいの……?)
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関東・甲信越) [sage]:2011/11/30(水) 08:50:29.73 ID:hkMBkkpAO
寝落ちか?乙
ほむほむが病んできてるな
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/30(水) 11:16:49.07 ID:nV5NZ3bt0
昨日に比べて雑じゃないか?
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/11/30(水) 11:20:02.85 ID:nV5NZ3bt0
ミス、早送りしてしまった。
昨日と比べて雑じゃないか?と思われた方がいたらごめんなさい。
ネタばれをされてしまったので路線変更をしたためです。
なので、ネタバレだけは避けてください。お願いします。
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区) [sage]:2011/11/30(水) 13:07:10.30 ID:TT5yqgowo
乙彼様です


……うむむ、あれもネタバレになるか
当たり障りない表現に留めたつもりだったんだけど、誠に申し訳ない
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関東・甲信越) [sage]:2011/11/30(水) 13:46:06.81 ID:hkMBkkpAO
>>65
いや、名前出した奴の事だろ
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(北海道) [saga sage]:2011/11/30(水) 14:11:29.09 ID:EaV6PxOG0
何はともかくお疲れ!
なんかドキドキの展開だわ。
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/01(木) 02:15:21.08 ID:5YL4QYCR0
連日で来てたのか
クロス先には気付いちまったが楽しみにしてる
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都) [sage]:2011/12/03(土) 13:16:27.46 ID:LB5m+STdo
クロス先がわからないと引っ張られたあげくに読まないほうが良かったという事もあるからなあ
出来れば早めに明かしてほしい
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) :2011/12/04(日) 23:48:14.17 ID:OGeidGBSo
むしろあれだけの情報でクロス先が分かったのが凄いわ
さっさと明かしてくれないと困るんだけど
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/05(月) 02:41:18.28 ID:XGeJzgVIO
困るwww
マジキチ様のせいで1戻ってこなそう
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西・北陸) [sage]:2011/12/05(月) 03:23:41.20 ID:x5yK7Z8AO
2019年だとさんを付けろよ(ryしか浮かばねえ…乙乙
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(奈良県) [sage]:2011/12/05(月) 20:48:49.37 ID:Gu513//w0
ここの>>1はちょっと過敏過ぎじゃね?
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2011/12/10(土) 23:59:14.26 ID:R4n//5HQo
投下が滞ってすいません
ですが、別にネタばれされたから逃げた訳ではありません
急な路線変更したことで書き溜めと辻褄が合わなくなり
現在、正規ルートに戻る方法を模索中で、少し掛かります

クロスSSであることがばれてしまったようですが、
相手作品を明かした方がいいですか?
75 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/11(日) 00:41:05.41 ID:DlzOD8xIo
クロス先を知らないけど1ヶ月後に時間遡行したらどうなるのか興味があるから楽しみにしてる
76 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/11(日) 05:23:34.60 ID:Ln1AZWBJo
無理に明かす必要は無いだろうけど
引っ張りすぎると元ネタわからないままで苦痛だったりする
77 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 23:27:03.46 ID:j9w4R0ol0
なんのクロスかによって読むか読まないか決めるから明かしてほしい
78 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 14:56:57.96 ID:ymFe5S4No
知りもしない作品のキャラに出てこられても対処に困るしな
79 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 20:57:33.57 ID:fxu3o3Bwo
予想通りだとしたら、クロス先作品もえらいことになってて困ってるところだと思う
80 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/17(土) 12:30:15.03 ID:yAAY06210
ティンクルセイバー?
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/27(火) 19:56:04.69 ID:9y4rbdmqo

〜〜〜〜〜
〜〜〜

ピリリリッ、ピリリリッ。

無機質な機械音が、がらんどうの部屋に虚しく響く。
満足に家具も家電も雑貨も揃えられていず、
生活感の欠片もない区内のワンルームマンション。

私は、その部屋の中で一人うずくまっていた。

アラームの音源は、傍に横たわるスーツケースの中の携帯。
音は、堅く閉じられているはずのケースを突き抜け、耳へ届く。

もう毎朝のことなので、確かめなくても分かってしまう。
登録した覚えのない目覚ましが朝6時に必ず鳴りだすのだ。

そんなものも、ここ何日も寝ていない私には無意味なもの。
課せられた役目を果たさないのなら、ひたすらに煩いだけ。

そう思ってるなら、本来は止めようとするのだろう。
しかし私は、今までずっとそうしなかった。

スーツケースを開き、携帯を取り出し、ボタンを押す。
たったそれだけの動作で済ますことが出来る。

……だけど、その僅かな動きすら、煩わしい。

全身が脱力して、何かをする気力も湧かなかった私は、
ゴミの中で、ただ膝を抱えて横たわるばかりだった。
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/27(火) 19:58:29.02 ID:9y4rbdmqo

何もない代わりに、初めは、未使用で綺麗な部屋ではあった。

しかし今となっては、私の周囲が丸く取り残された以外、
部屋中にゴミなどが散乱し、使用前の面影はなかった。

カーテンは閉め切られ、早朝だというのに酷く薄暗い。
数少ない既設備品だった室内灯さえ点けていないからだ。

遮られているのは日光だけではなかった。
一度も開けられてない窓からは、風も入ってこない。

換気されないため、汚物が発する腐爛臭や刺激臭が満ち、
そんな淀んだ空気がこの空間に一層暗い影を落としていた。
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/27(火) 19:59:10.40 ID:9y4rbdmqo

あの後……インキュベーターと会った後も、
奴の言うことを信じられず、見滝原を必死に探し回った。

間違っていて欲しい、嘘であって欲しい。
ひたすらにそう祈りながら、まどかの痕跡を求め続けていた。

だけどそれは、突き付けられた現実を自ら裏付けただけで。

何一つとして手がかりになる物も見つけることが出来ず、
探せば探すほど、まどかがいないことを認めざるを得なくなり、
それは同時に、自分の中の大切な『何か』を突き崩していった。

探し続ける限り、まどかの存在が、否定される。
まどかとの思い出がなかったことにされる。

(……そう、ここにまどかはいない。まどかが……)

ほむら「……うッ!、むぐ―――」

思い出した瞬間、再び、吐き気がこみ上げてきた。
ゴミを踏みつぶし道を作りながら、慌てて洗面所に向かい、
手で押さえられた口に溜まったものを吐き出す。
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/27(火) 20:00:09.36 ID:9y4rbdmqo

ほむら「がふ……うげぇ、お゛ぐ……」

けれど、出るものは黄色い胃液ばかり。
既に何度も嘔吐し、ここ数日間なにも口にしていないため
吐き出すが存在しないのに、胃は無い物を締め出そうと疼く。

こんなことが、もう何度も続いていた。

『まどかがいない』という事を思い返してしまう度に、
現実を受け入れることの出来ない私は、吐き続ける。
自分の中の『何か』が流失するのを止められないでいる。

ふと、洗面台の鏡に映る自分の姿が目に入ってきた。

……かつて病院にいた時より、痩せたかもしれない。
服に包まれず露出している手足の肉が痩け落ちたことで、
元々貧相だった身体が、さらにみすぼらしく見えた。

日光に当たってない肌はより一層白くなっているのに、
目の周りを大きな隈が囲い、頬には泣き腫らした跡が刻まれて、
そんな顔を、いつの間にか目元まで届いていた髪が覆っていた。

街中を駆けまわった時に汚れてしまった、病院で来ていた服は
脱ぎ棄てられ、ゴミと混じり何処にあるかさえ分からない。
いま仮に着ている魔法少女の服も、もう皺とゴミにまみれていた。

こんな見た目な上に、ずっとシャワーさえ浴びていない。
嗅がなくても分かる、私の身体からは相当な悪臭がするのだろう。
それでも、私の臭いは周囲の異臭に紛れ、自分では気付けない。

……鏡が映していたのは、そんな無様で哀れな愚か者だった。
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/27(火) 20:02:05.78 ID:9y4rbdmqo

一週間……。あれから一週間が過ぎていた。
まどかがいない街を逃げ出し、行く当てを失った私が辿り着いたのは、
スーツケースの中にしまわれた書類に表記してあった『私の』住所。

当然のことながら、全く見憶えなんて無かったこの部屋で、
人外の、魔法少女の私は、こんな姿になっても未だに生きている。


―――そう、"魔法少女"……。


滅びの宿命を背負い込み、それでもなお自らの願いを祈る者。

『まどかとの出会いやり直したい。まどかを守れる私になりたい』
その願いが具現化した私だけの魔法は『時間を戻す』こと。

それは、無力だった私が、自分の全てと引き換えに手に入れた力。
まどかの死の運命と戦うための、たった一つの武器だった。

時の魔法を司る、銀細工と歯車の仕掛けが施された魔法の盾。
その盾に埋め込まれた砂時計の砂は、既に下へと落ち切っている。
つまり、時間を巻き戻すための条件が整っているということだ。

今まで通り、失敗したら時間を戻せばいい。
魔法さえ使えばもう一度まどかと会うことが出来る。
こんな意味不明な状況から逃げられる。

運命は、何度だってやり直せる。

……そのはずだった。

鏡の前で小盾に手を掛け、砂時計を反転させる。
中の歯車が噛み合い、カシャンと音を立てて―――、


―――……。
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/27(火) 20:03:07.58 ID:9y4rbdmqo

……音を立てて盾が回り、砂時計がひっくり返る。
これで私は、あの見なれた病室にいるはずだった。

なのに……。

薄く曇っている鏡、汚れきった洗面台、
そして、それらを呆けたように眺める私。
依然として、眼前にはそんなものが広がり、

ほむら「……また、なのね……」

紫色の砂は輝きを失い、重力に逆らい上の瓶の底に留まり続けてる。
組み合わさった歯車は錆び付いたように、二度と動くことはなかった。

どれだけ回そうと、時間を巻き戻すことは出来ない。
もう既に試していたことだから落胆はなかった。
ただ……、

ほむら「ははっ……」

鏡に映る顔は、不謹慎にも笑みを浮かべていた。
だって、もう笑うしかないんだもの。

急に未来にいると気付くと、そこにはまどかもいなくて、
しかも、過去に戻るための力さえ失っていたのだ。
こんな状況で、笑う以外に私には何が出来よう。


……もし、一つだけあるとすれば、それは"絶望"。

87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/27(火) 20:04:31.18 ID:9y4rbdmqo

魔法少女の絶望。それは即ち、私達にとって"死"そのもの。

穢れへと姿を替えたそれがソウルジェムを満たした時、
魔法少女は、災いを振り撒く魔女へと堕ちる定めにある。
私も魔法少女の端くれなら、やがてその運命を辿るだろう。

そして、それは私にとっては、今……。

私が魔法少女になるために願った祈り。
誰かを殺してまで叶えようとした約束。
だけどそれは、まどかがいなくちゃ果たせない。

まどかを救うという、生きている意味を失い、
まどかがいない事実が辛くすぎて、耐えられなくて、
だからこそ、あの狂った現実を捨てて逃げ去って、

全てが無に帰してもなお最後に残ったこの情動を、
はたして、絶望と呼ばずして、何だというのか。

(でも……)

だったらどうして、こんなにも絶望しているのに、
左手の甲のソウルジェムは紫色に輝いているのだろう。
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/27(火) 20:06:10.17 ID:9y4rbdmqo

黒い濁りは宝石内部に残ってはいた。
しかし、魔法を使えないほどではない。
むしろ……、

(……なぜ、濁りきっていないの……?) 

希望により生み出されたソウルジェムは、絶望により穢されていく。
まどかがいなくなってしまったことを知った私は、深く絶望していた。

……絶望している、はずだった。

けれども、私のソウルジェムは、病院で見た時と変わらない。
溜まっている穢れも、以前時を遡った時に魔法を使った分だけ。
それは一週間経っても、これ以上濁る事はなかった。

……もしかして私は絶望を通り越し、無感動になったのかもしれない。

そうなのだとしたら、この無気力な身体や茫然とした頭にも理由は付く。
無慈悲に他人を切り捨て続けた結果、ついに私は感情さえ失ったのか。

だけど、どちらにしても、私は。
純粋に悲しむことさえも出来なくなっていた。
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/27(火) 20:07:16.25 ID:9y4rbdmqo

ほむら「まどか……っ、……うっ……ひっく……」

気が付くと頬には、涙が伝っていた。
もう枯れた、そう思っていた。
流れつくした、そう思っていた。
なのに、こぼれ出した涙が止まらない……。

ほむら「ねぇまどか、私、どうしたらいいの……?」

一週間もだ、こんなことになってから。
暗い部屋の中で一人で、涙だって反吐だって流し尽し、
自分の命を捨ててでも守ろうとしたまどかもいない。
      マホウ        カンジョウ
そして、"希望"も奪われ、"絶望"さえ失った。

もはや魔女にならないからと、惰性で生きているだけ。
こんな私から、一体何を獲ろうというのよ……。

目に入ったのは、左手に輝く紫色の菱形の宝石。
石ころに変えられた私の魂、ソウルジェム。

つまりは―――、命。

出し抜けに、胸にある一つの答えが浮かんだ。
それはこの一週間、気が付かなかったこと。
もしかして……、

(こんなものが欲しいの……?)


―――いいわ、くれてやる。

90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/27(火) 20:08:14.40 ID:9y4rbdmqo

……どうして、今までそうしなかったのだろう?

身も心も擦り切らしてまで、外界を隔絶してまで、
こんな部屋で生きている必要なんてなかったのだ。

魔法が使えないから、過去に戻る事も出来ない。
ソウルジェムが濁らないから、魔女になれない。
そして、この世界にはまどかがいない。

まどかを救うことだけが生きる意味。
まどかと交わした約束だけが生きる指針。
それが私だったのに、まどかを守れなくなったら、

ほむら「生きる価値すら無くなっちゃって……」

魔女になって消えることも、過去へ戻ることも出来ない、
そんな永遠の牢獄に閉じ込められるくらいなら……、


ほむら「だったらもう……死ぬしかないじゃない……」

91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/27(火) 20:09:38.37 ID:9y4rbdmqo

手の平を床にかざし、ソウルジェムに銃口を向ける。
涙で滲もうと、微かに見える紫の宝石に狙いを定め、

ほむら「まどか……ごめんね……」

……不思議と、死ぬことは怖くなかった。
でも、心の中に残ったのは、まどかとの約束を守れなかった罪悪感。

やっぱり私なんかじゃ、まどかの友達になれなかったんだね。
まどかみたいにいい子じゃなかった私は、天国にはいけないと思う。

だから、ここでお別れ。
最後に別れの言葉さえ言えなかったけど、今、ここで言わせて。



ほむら「―――さようなら、まどか」



乾いた銃声が一つ、響いた。
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/27(火) 20:11:22.17 ID:9y4rbdmqo

ほむら「………」


ほむら「……………」


ほむら「…………………」


ほむら「………………………」


ほむら「………………ねぇ、どうして……」




















ほむら「どうして私は、死んでないの……?」
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/27(火) 20:12:01.67 ID:9y4rbdmqo

左手には依然として紫に輝いているソウルジェムがあり、
SIG−P226の9mmルガー弾が抉ったのは、狙っていたはずの
ジェムでなく、それから僅かに右に逸れたフローリングだった。

ほむら「………」

もう一度、引き金を引き、鉛玉が撃ち出される。
だけど、再び穴が開いたのは、手の左側の床。

ほむら「……っ!」

放たれた二弾は、手の左右を掠るように通過し、
やはり、ソウルジェムには当たらない。

ほむら「……は、」

今度は三度、引く。
右下、右、左斜め上。

ほむら「―――ははっ」

かざした左手の左にも右には、無数の穴が出来ていた。
それはジェムを撃ち抜き、私を、殺すはずだったもの。

……なのに、なんで私は、生きている?
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/27(火) 20:13:37.48 ID:9y4rbdmqo

ほむら「……どうしてなのよ、なんで、死ねないの!」

私は、生きてちゃいけなんだ。
生きてちゃいけないのに。
死のうとしたのに、死んだはずなのに。
死ななくちゃいけないのに……!!!

ほむら「ねえなんでしねないの? シんじャえ……死ねッ!!」

引き金を引くと同時に、三度の銃声。
弾は右、左、左にずれ、床には無数の銃痕が残る。

そして、弾倉に入っていた15弾全てを撃ち尽くした銃は、
虚しく空打つ音だけをリビングと洗面所に響かせていた。
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/27(火) 20:14:32.92 ID:9y4rbdmqo

ほむら「なんでどうして……ッ!」

……こんなことは、あり得ない。
ちゃんと狙ってこんな至近距離で撃ったのに、外すはずない。

更に撃とうと引き金を引いても、カチカチと音がなるばかり。
全弾が撃ち尽くされたのだ、ハンマーが空を切るばかりで
何一つ飛び出してくるわけがない。

……弾がないなら弾倉を替えればいい。そう、それだけのことだ。

取り出した新しい弾倉を銃に差し込む。
たったそれだけの動作、そのはずなのに、

ゴトッ。

しっかり握っていたはずの弾倉は手から離れて、
鈍い衝突音を響かせながら足元に転がっていた。

ほむら「ふざけないでよ……」

拳銃を握っている手を見ると、その手は痙攣するように震えていた。
拾い上げてもう一度差し込もうとしても、ぶれた銃が弾倉が弾く。

ほむら「何なのよ、止まってよ!!!」

左手で右手の震えを抑えようと強く握りしめるが収まらず、
それどころか一層激しく震え出した。

まるで、私の意志に逆らうように……。
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/27(火) 20:15:27.51 ID:9y4rbdmqo

ほむら「ちッ! だったら……っ!!」

弾を撃つないのなら、鈍器にすればいい。

左手を洗面台に押し付けて固定し銃床で打ち抜こうとする。
だが、再び軌道は逸れ、手の脇に大きな凹みを作るだけだった。
思いっきり殴ったせいで、肩までしびれていく。

ほむら「……うわあああああああああ!!!」

ならばと、裏拳で左手を壁に打ちつけようと振り被るが、
壁と衝突する寸前に、手の甲から紫色の菱形の宝石だけが
自分の意志でも持つかのように床へと転がり落ち、

ほむら「いぐぅあ―――ッ!!!」

一度振りぬいた勢いなど殺すことも出来ず、
愚直に手の甲だけを、叩きつけていた。

激しい痛いに腕から頭まで貫かれ、思わず左手を庇う。
見るとソウルジェムを繋ぎ止める金具が肉に食い込み、
真っ赤な鮮血が、とくとくと流れだしていた。
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/27(火) 20:16:39.19 ID:9y4rbdmqo

ころころと、抜け落ちたジェムは居間に向かって転がっていく。
……私の魂の癖に、死にたくないっていうの?

(そんなの、許されない―――!)

今死ななきゃいけないのに!
死ななきゃ、死ななきゃ、殺さなきゃッ!

逃げるそれを、『私』を踏み砕こうと足を振り落とす。
足裏が衝突する度に床は激しく振動し、周囲のゴミを巻き上げる。
ひたすらに、必死に、何度も、何度も、何度も。しかし、

ほむら「どうしてなのよッ!」

振り下ろされた足がソウルジェムを捉えることはなく、
癇癪を起こした子供の様だと、頭の片隅で冷静な私が嘲う。
だけど私には、それを止めることは出来ず、

ほむら「なんで逃げるの!!」

ソウルジェムは、私が起こす振動のせいでゴミと一緒に、
部屋の中を転がり逃げて、私はそれを追い続ける。

ほむら「まどかが、まどかがいないんだったら!」

跳ね返るジェムがついには部屋の隅の壁にぶつかり、
ようやく、私の前で動きを止めた。
今度こそ外さないように狙いを定めて、足を上げる。

まどかがいなければ、私に生きる価値はない。
生きる意味も、資格も、指針も、何もかもない。
だから、お願い……。

ほむら「お願いだから、私を、死なせてよ……」

これで、やっと全てが終わることが出来る。
最後に私は、ひと思いに足を振り落とした、


―――次の瞬間、にわかに宝石が煌めきだして、
                   余りの眩しさに目を瞑った私を、紫光が包みこんだ。

98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/27(火) 20:18:54.56 ID:9y4rbdmqo
遅れてすいません

ほむらのメンタルが弱すぎるって?
まどかがいなくなったら、原作でも自殺くらいしそうだと思う
99 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/27(火) 22:46:44.74 ID:XAZIjtPL0
なんでほむほむ魔法使えないの?
100 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/27(火) 22:55:39.48 ID:qi9oRKCyo
ほむ
101 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/28(水) 00:14:28.30 ID:fti9lnZO0
だからさっさとクロス先あかせっつってんだろ
102 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/28(水) 14:31:23.37 ID:eGs6naoS0
乙津……けどバレルのバの字も出てこないな
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/29(木) 23:53:21.98 ID:pe1VFTQIo
今回はほむらの精神状態を反映し、前回以上に冗長で意味不明な展開です

前回と今回の話はもっと後の予定だったけど、話を元の道筋に戻すためここで使った
正直「意味ふ」だと自分でも思う。だって伏線回収の話を伏線張りに使ってんだもの
だけど、この訳わからなさを、ほむらも感じていたと思ってください

あまり深く考えず適当に流し読みし、それでも嫌気を感じたら>>136まで飛んでください
飛ばした人のために、投下後に簡単な説明を付けています
前回と今回は、このSSが完結してから読み返すといいかと

>>99 伏線です。いずれ明かします
>>101 クロス先ね、一昨日書いたつもりだったんだけど忘れてた。投下後に書きます
104 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/29(木) 23:54:30.38 ID:pe1VFTQIo

―――――
―――

『―――ねぇ、なんで死んじゃおうとするの?』

激しい閃光から庇い目を閉じていた私が次に感受したのは、
ふいに聞こえてきた、耳慣れた懐かしい声だった。

(……だれ……?)

だけど、聞き覚えのあるというだけで、誰の声かは分からなかった。
朧げで不鮮明で、何と言っていたのかさえ理解できなかったし、
そもそも本当にそんな声がしたのも、怪しかった。

……どこからこの声は聞こえるのか?
音源を確かめようと、目を開けて周りを見渡す。
そして、私はそこで初めて気が付いた。

ほむら「……ここは?」

前も闇、右も左も闇、上下も闇ばかりが広がる、
私がいる、そこは―――漆黒の空間だった。

果てがどこにあるのかもわからない、永遠につづく領域。
自分が中学二年の、魔法少女になった少女という自意識の他、
何も確かなものが見当たらない世界……。

(……これは一体、なに?)

さっきまでの薄暗いゴミまみれの部屋じゃない、
僅かな光も塵さえも消え失せた、空虚で無期な時空間。

余りに唐突な環境の変化に戸惑いながらも、思った。
これは、この世界は、まるで……

まどかがいなくなった私の心の中みたいだ、と。
105 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/29(木) 23:57:23.25 ID:pe1VFTQIo

(……夢中夢? 明晰夢? それとも幻覚……?)

現実感があまりにも乏しくて、返って私を冷静にさせた。
だって、こんな意味不明な状況は、夢以外にあり得ないもの。

ふわふわと暗闇の中に浮かぶ私の体は、何故か裸だった。
汚れきった魔法少女の服も、役立たずな機械仕掛けの盾もない。
ただ一つ残っていたのは、左手にはめられたソウルジェムだけ。

これが夢だとしたら、何時の間に寝てしまったのだろう?
いや、寝てなどいない。さっきまでは……、そう、私は。

『ねぇ、どうして死のうとしたの?』

私の考えを遮るように、再び問いかけてきた。
今度は、何処から聞こえてきたのかもはっきりと。
優しくて、聞き馴染んだ明るい声は……。

ほむら「もしかして、まど―――」

背後から語りかける声の主へ、私は振り向く。
そこにいたのは、薄桃色の衣装を纏ったまどか―――、
106 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/29(木) 23:59:42.84 ID:pe1VFTQIo

マミ「ふふっ、驚いてるわね」

ほむら「………」

―――ではなく、黄色い魔法少女姿の巴マミだった。

ショートガードとストライプのニーソに覆われた太ももと、
ふわふわの羽根とイチョウ色のリボンをあしらった帽子、
そして、ボンテージで強調された豊かな胸を持つ、あの……。

ほむら「………………………」

マミ「……えっ? なによその顔、なんでそんな目で私を見るの!?」

ほむら「……はぁ……」

気が付くと奇怪な空間に全裸で放り出されていて、
しかも、そこで行方不明だった人物と唐突に出逢う。

こんなにも安っぽい論理的飛脚ばかりのシナリオなんて、
弱小出版社の三流ホラー小説にだって、なかなかない。

……やはり夢、なのだろうか。
いや、そんなことよりも。




なんで、よりにもよって巴マミなの?
ここは私の夢の中なんじゃないの? 
なら普通出てくるのはまどかでしょ、まどか。

マミ「私じゃ不満なの? あなた、私のことも探してくれたのに」

マミ「それとも、夢は見る人の無意識の映し出しとも言うくらいだから」

マミ「本当は私にも会いたかったんじゃない?」

夢の中の巴マミは、頬を膨らませ、そして笑っていた。
107 :>>106真ん中の空白はミス [saga]:2011/12/30(金) 00:02:41.53 ID:bmL6VHfFo

私が、巴マミに逢いたかった? ……そんなわけないじゃない。
あの時は巴マミにも利用価値があったから、仕方なく探していただけ。
まったく、寝言はちゃんと永眠してから言ってよね。

マミ「……そこまではっきり断言されちゃうと、私も傷つくわ……」

……私の夢なのだから、自分の思考も筒抜けになっているだろうか。
それともこの巴マミが言う通り、彼女が深層心理の表れだからか?

マミ「まぁ、あなたが望んだのか望んでないのかは置いておくとして」

マミ「かの有名な深層心理学の始祖フロイトは、著書でこう言ってるわ」

そんなことを私が押し黙って考えていると、
出し抜けに、巴マミは私に向かって語りだした。

マミ「『夢とは、抑圧された"心の傷"が姿を変えて表出したものである』と」

マミ「その変化を専門用語で、超自我による"夢の検閲"って言うんだけど」

マミ「だったら私は、あなたのどんな心の象徴なのかしら?」

ほむら「……知らないわよ」

マミ「そうよね。なんてったって無意識なんだもの……ふふっ」

一体なにが面白かったのかは分からないが、彼女は笑い出した。
それを見て思った。この巴マミは本当に私の深層意識なのだろうか?

私は、自分が冗談(だったのか……?)を言える性格ではないと思うし、
かといってこの巴マミも、現実の巴マミの性格とも違う気がした。

マミ「まぁ、私にはなんとなく分かるわ。それよりも……」

彼女がそう言った途端、空気が変わった。
笑顔を消し真剣な表情になった彼女の雰囲気は、刃物みたく鋭くなり、
それまでのふざけた声音は消え、私を真正面から見据えて、言った。

マミ「どうして死のうとしたのか、教えてくれない?」
108 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/30(金) 00:04:08.90 ID:bmL6VHfFo

ほむら「……私の心とか言ってる癖に、そんなことも分からないの?」

マミ「質問を質問で返すのはルール違反。会話の常識よ」

咄嗟に話の方向をずらそうとすると、正論を言われて喉に詰まった。
でも何故だろうか、彼女にはなんとなく言いたくなかったのだ。

巴マミが嫌いだとか、この巴マミが怪しいとかより、
それは、今まで誰にも言えなかったことだから。
"あの時"絶対に言わないと誓ったことだから。

だけど、もう"ここに彼女はいない"……。
どうせ言っても、現実は何も変わらない。

マミ「どうせ変わらないのなら、素直に言っちゃえばいいのよ」

マミ「なんとなく分かると思うけど、言わないと『夢』は覚めないから」

巴マミは私が言うのをじっと待ち続ける。
二人が黙ってから何分が過ぎたのか分からなかった。

周りは真っ暗で時間の経過が計れるものはないし、
実はもう何十分も過ぎていたのかもしれない。

そう、別に夢が覚めても覚めなくても変わらない。
ここにもあそこにも、まどかは存在しない。
なら……。

ほむら「……まどかがいなくなっちゃったから」

そんなことを考えている内に、口が勝手に話しだしていた。
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/30(金) 00:09:15.31 ID:bmL6VHfFo

それは、これまで誰にも言えなかった私の気持ち。

例えこれが夢の中の出来事で、相手が自分の無意識だとしても、
自分の抱えてきたものを誰かに口にするのは初めてのことだった。
だからだろうか……。

マミ「それで?」

ほむら「私は今までずっと、まどかを助けるために生きてきたの」

続きを促されると、堰を切ったように言葉が溢れ出し、
知らず知らずのうちに彼女へ思いを口走っていた。
彼女への懺悔をするように。

ほむら「まどかは、価値のなかった私の人生に意味を与えてくれたの」

思い浮かんだのは、あの保健室へ向かう廊下での会話。
そして、初めて目にした魔女の結界での魔法少女の戦い。

ほむら「まどかの存在にどれほど救われたか、まどかは知らないと思う」

ほむら「だけど、それでもいい。私の想いが伝わらなくたっていい」

ほむら「違う時間を生きる私には、まどかの傍にいる資格なんてないから」

私にとって、まどかが大切な友達だったとしても、
まどかにとって、私はただの転校生でしかない。

繰り返せば繰り返すほど、まどかとの距離は離れてしまう。
気持ちもずれ、言葉さえ通じなくなっていってしまった。

そんな『片思い』をまどかに押し付ける事なんて出来なかった。
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/30(金) 00:10:25.19 ID:bmL6VHfFo

ほむら「気持ちを伝えられないのなら、せめて、行動で示したかった」

ほむら「それが、まどかを救うこと。まどかとの約束を叶えること」

ほむら「まどかの破滅の運命を私が肩代わり出来るのなら、喜んでするわ」

ほむら「そう思っていた。なのに、まどかがいなくなってしまった……」

救うべき対象がいなくなってしまった。
約束を、果たせなくなってしまった。

ほむら「だから……」

マミ「だから、死のうとしたのね?」

否定は、しない。
その通りだったから。
しかし彼女は、


マミ「だけど、それは嘘でしょ?」
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/30(金) 00:12:01.11 ID:bmL6VHfFo

ほむら「……は?」

一瞬、巴マミが何を言ったのか分からなかった。
それが頭の中でようやく理解されると、

ほむら「なっ! そんなわけ……ッ!?」

「そんなわけない」と言いかけた口は、リボンで塞がれた。
そして、対峙していた巴マミは、不気味に私に笑いかけていた。

マミ「嘘はいけないわ。嘘をついちゃ駄目よ」

ほむら「―――ッ!!!」

その眼を見て全身に怖気が走った。
見憶えのある、トロンとした虚空な瞳……。

思わず本能的にリボンから逃れようとした。
しかし、黄色い帯は身体へも巻き付いて拘束する。

(逃げられない……!)

それは余りにも突然過ぎる事態に、頭が追い付かず、
慌てて身体を拘束するリボンを振りほどこうとする。
けど、滅茶苦茶に動くだけじゃ解けないのは経験済みで、

マミ「大丈夫、今あなたにも分からせてあげる……」

不自然に笑う巴マミは手をかざして銃を召喚し、
手に取った一丁のマスケット銃を私へ向けていた。
112 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/30(金) 00:13:11.83 ID:bmL6VHfFo

―――掠れた笑い声、拘束する黄色のリボン、銀色の銃口。

"あの時"の光景が脳裏にフラッシュバックする。
隣で崩れ落ちた佐倉杏子と、隣でショックを泣き崩れたまどか。
黄色に光る魔法のリボンに縛られた、自分の身体……。

(いや、やめて……)

カラカラに乾いた口と冷や汗が吹き出した身体。
幾ら足掻いてもリボンから逃れることが出来ず、
抑えられた口では訴えることさえも出来ない。

これが夢とか現実とか、そんな考えはもう無くなっていた。
混乱する頭に浮かんでくるのは、この後に起きること。
眼前に死が迫ってきているということだけ。

(やめて! お願い、誰か助けて……!)

心の中で叫んでも、誰からも返事はない。
巴マミと二人きりのこの空間で、助けは来ない。
身体だけを必死にねじり、左手を庇おうとするが……。

ついに……、巴マミが引き金に指をかけ、


(し、死んじゃう……ッ!!!!!)



















マミ「ばーんっ……、なんてねっ♪」
113 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/30(金) 00:14:08.22 ID:bmL6VHfFo

巴マミは擬音に合わせて、勢いよく銃を上に跳ね上げた。

それは、子供がよくする発砲のジェスチャーそのもので、
彼女の顔からあの気味の悪い笑みはすっかり消えて、
その代わりごく自然に、昔のように、ころころ笑っていた。

ほむら「……ッ! ―――はぁ、はぁあっ!」

するとすぐに、身体に纏わりついていたリボンがほどけ、
口を覆っていたものも消えて無くなった。
慌てて、空っぽになった肺を埋めるように荒い呼吸を繰り返す。

それでも硬直した喉からは息が漏れるばかりで、声は出ず、
空中に投げ出された身体は、完全に力が抜けきっていた。

(これは……なに?)

真っ白になっていた頭に、最初に浮かんだのは、そんな単純な言葉。
口から出せずに、頭の中で反芻し続けていたその疑問に答えたのは、

マミ「予想以上の反応で、なんだかすこしショック……」
                ・ ・ .・ ・ ・
でも、巴マミは私を見て、笑いながらそう言った。
その笑みは、悪戯に成功した子供みたいで……。
114 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/30(金) 00:14:59.02 ID:bmL6VHfFo

ほむら「……なによ、それ……?」

ようやく息が整い発声したのは、たったそれだけの台詞。
でも、私の気持ちを表すにはこれだけで十分だった。

困惑、戸惑い、そして、ふつふつと湧き上がる、怒り。
私の全ての感情を込めたその言葉に、臆することもせず、

マミ「分からない? 引っかかったのよ、私の悪戯に」

ほむら「ふざけないでッ!!」

マミ「いいえ、ふざけてなんてないわ。大真面目よ」

巴マミは手に持った銃をくるくる回しながら笑顔で言う。
そんな態度のどこが真面目だというのよ!

マミ「……本当にまだ気付かない?」

ほむら「何がよッ!」

マミ「ならいいわ。直接言ってあげる」

言うが早いか、もてあそんでいた銃をポンっと消し、
浮かべていた笑みを解いて、巴マミは私を見据えて、

マミ「あなた、死のうとしてたのに、なんで逃げようとしたの?」
115 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/30(金) 00:17:30.70 ID:bmL6VHfFo

ほむら「ッ! そ、それは……」

マミ「それは?」

分からない。そんなの、知らない。
……分からないわよ……。

マミ「いいえ、あなたは分かってる。それを認めていないだけ」

私を叱るように、弾劾するように、ピシャリと巴マミは言いきった。

マミ「さっき、彼女の傍にいる資格がないって言ってたけど、それは嘘」

マミ「ただ傍にいられなかっただけ。いることから逃げてただけ」

……違う、そんなつもりじゃない。
そう言いたかったけど、私の口は動こうとしなかった。
頭で考える事とは裏腹に、身体は肯定するように。

マミ「あなたは、私がどんな深層心理の映し身だか分かる?」

マミ「暁美ほむらが見た初めての死体。そして、暁美ほむらを殺そうとした人」

マミ「私は、あなたの中の"死"そのものなのよ」
116 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/30(金) 00:19:36.88 ID:bmL6VHfFo

その台詞と共に、頭の中へイメージが浮かんできた。
制服のあちこちが破れ血で染まり、力なく横たわっている巴マミ。
心が壊れたせいで涙を流しながら、私に銃を突きつけてる巴マミ。

マミ「ほんと失礼しちゃうわ。でもね、だからこそ分かる」

マミ「あなたは、死ぬつもりなんてなかったの」

そう言うと、彼女は指を弾いた。
パチンという軽い音が暗闇の中に吸い込まれると、
周囲が色付き、何かがテレビのように映し出された。


   薄暗く不衛生な洗面台の前に立っている私。
   その右手には、鈍く光る拳銃が握られている。


見えてきたのは今朝の私の光景。
これは、私の記憶……?

マミ「だけどそれを否定しないで。誰だって死にたくないに決まってる」

マミ「あなただって、右手が震えていたでしょ?」

マミ「それはあなたも死ぬのが怖かったから。死にたくなかったから」

巴マミの声が、私の中にじわじわと沁み入ってくる。
それは耳からではなく、あたかも頭に直接響くようだった。

(そうだったの……かな……?)

そして、何処からともなく、また指を弾く音がした。
117 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/30(金) 00:21:40.00 ID:bmL6VHfFo

マミ「それは、どうしたって勝てないワルプルギスの夜との戦いも同じ」

すっと、目の前に映っていた私が消え去り、
代わりに別の光景が映し出された。


   炎上する街並み、崩れ去っていくビル群。
   そして―――黒い魔女、"ワルプルギスの夜"。


その災厄の魔女を睨みつける一人の少女がいた。
額から血を流し両足をコンクリート片に潰されて、
それでもなお、魔女と対峙しようとする、私。

しかし、その顔には必死に堪える苦痛が滲み出し、
魔女への憎しみと恐怖、戦意と諦めが見てとれた。

マミ「あんな痛いことから、怖いことから逃げようと思わなかった?」

マミ「そんな気持ちが、時間を巻き戻した時になかったって言いきれる?」

ほむら「………」

私にそんな気持ちがあるはずがない
まどかを助けるためだけにやり直してきたのだ。

……でも私は、そう断言できなかった。

そう思ったのは喉が動かないからじゃない、
傷つく自分を、見たくないと感じてしまったから、そして、
魔女の与える死の恐怖から逃げてしまいたくなったから。

―――パチンッ!
118 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/30(金) 00:24:44.69 ID:bmL6VHfFo

またもやあの音がしたと思ったら、再び風景が変わった。
崩壊した見滝原が消え、新たに浮かんできたのは、二人の少女。


   錯乱し、怯えた表情で私にマスケット銃を向ける巴マミ。
   絶望し、魔女になってからも刃を突き付ける美樹さやか。


希望の対価として失った魂に、戦いの中で滅びゆく定め。
止まらない魔法少女の負の連鎖はやがて絶望を生む。

そうして穢れを溜めた彼女らは、やがて周囲に呪いを振り撒く。
毎回毎回、それらは私の邪魔ばかりをしてくるのだ。

「だが、ここにはワルプルギスの夜も、お前が嫌いなマミやさやかもいねぇ」

突然、今まで聞こえていたのと、違う声が聞こえてきた。
慌てて振り向くと、さっきまで巴マミがいた所には……、

ほむら「杏子……」

長い赤髪を大きな黒いリボンでポニーテールにしている、
動きやすいラフな私服に身を包んだ佐倉杏子の姿があった。

私の呼びかけに肩をすくめるだけで返事をした彼女は、
手に持っていたお菓子を口へ運びながら言葉を続けた。

杏子「丁度いいじゃねぇか。厄介ものが綺麗サッパリいなくなったんだ」

杏子「これからは自分のしたい事だけすりゃいい。あたしみたいにさ」

ほむら「私の、したい事……?」
119 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/30(金) 00:27:09.36 ID:bmL6VHfFo

杏子「そっ。なんか一つくらいあるだろ? 『腹いっぱいご飯食べたい』とか」

杏子「後はそうだなぁ……、『普通の学校生活を楽しみたい』みたいな感じのやつ」

ほむら「……それってあなたがしたいことじゃないの?」

そう言うとお菓子を持ってない手をポケットにつっこみながら、
はぐらかすように、杏子は「さぁな」と笑っていて、

杏子「あたしもあんたも、他人なんざの為に一回こっきりの願いを使っちまった」

杏子「だから、これからはその釣り銭を取り戻すことだけを考えていけばいい」

ほむら「取り戻すって、どうやって……」

杏子「忘れちまえばいいんだよ。何もかも全部な」

杏子は残っていたお菓子と食べきってしまうと、
指に付いていた砂糖の滓をぺろりと舐めとり、

杏子「ほら、あたしが手伝ってやる。こうやって……」

すっと私の方へ手を伸ばし、その手を頭の上へと置いた。

それは、暖かくて優しいぬくもりに包まれた手で、
宥めるように少しずつ撫でながら、杏子は続けた。

杏子「お前を縛り、押しつぶすものを取り除けば、晴れて自由の身だ」

杏子の言葉と共に、何か頭の中から抜け出ていく感覚があったが、
それは存外に気持ち良く、代わりに何かが私の中へ入ってきた。

同時に頭が熱くなり、身体がポーっとしてきた。
……何もかも、どうでもよくなってくる。
120 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/30(金) 00:30:03.53 ID:bmL6VHfFo

杏子「大体さぁ、あんたはいろんなもんを抱え込み過ぎてたんだ」

マシュマロのように軽くなった頭を、杏子の声が跳ねまわる。
……いろいろな物を私が抱えていたって、何を……?

杏子「マミのことにしろ、さやかのことにしろ、"あいつ"のことにしろ」

杏子「人の命なんて重いもんが、たった一人で背負えるわけがねーんだよ」

……そっか、巴さんのことも、美樹さんのことも、全部。
二人とも助けられなかったけど仕方ないことだよね……?

だって二人とも、私の話なんて信じてくれなかったんだもの。
どんなに頑張っても、私の力じゃ助けられなかったんだもの。

杏子「だが、それも今日で終わりだ。これからは自分の人生を歩んでけ」

……学校に行って、友達を作って、一緒にお昼ご飯を食べたり。
そして、休みの日はみんなで遊んだりして、そんな"普通"な日常。
"あそこ"では出来なかったことを、全部してみたい……。

杏子「他人の為なんかに生きるなんて、大間違いだ」

杏子「さぁ、使命も責任も、全部ここに置いてっちまえ。そして……」


杏子「―――あんな"約束"なんか、忘れちまってさ」


―――約束……?

その言葉が聞こえた時、私の心に、ぽつりと浮かび上がり……

『キュゥべえに騙される前の、バカなわたしを……助けてあげて―――』

ほむら「………どか……?」
121 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/30(金) 00:33:03.52 ID:bmL6VHfFo

初めは微かに、けれど次第に大きくなっていったその声は、
やがて、忘れてはならない一つの台詞を紡ぎだしていく……。

『キュゥべえに騙される前の、バカなわたしを……助けてあげて―――』

『……約束するわ。絶対にあなたを救ってみせる―――』

『何度繰り返すことになっても、必ずあなたを守ってみせる―――』
          ピース
そして、最後の言葉がはまった時……、



『必ず、あなたを助け出す―――』


ほむら「―――まどかっ!!!」



まるで幻覚が解けるように、頭の中を覆っていた雲が消え、
パリンッと何かが割れてしまう音が、辺り一面へと響き渡り、
私をぐるりと取り囲んでいた、数多の記憶の映像も失せていき、

再び訪れた静寂の黒い世界の中に、一人の少女が立っていました。
122 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/30(金) 00:34:44.88 ID:bmL6VHfFo

―――――
―――

「……どうして、かな」

黒色しかないこの空間で、私に背を向けるはその少女は、
薄桃色の髪の毛を左右に揺らしながら、私に問いかけた。

「どうして、何度も何度も、ここに戻ってきちゃうの?」

後ろを向いていてその表情を窺うことは出来ませんが、
聞こえてきた声には、怒りの色がはっきりと滲んでいて、

もう一つだけ、私に分かることがあるとすれば、
彼女の怒りの矛先が、私へと向けられているということ。

「どうして、幾ら教えてあげても学ばぼうとしないの?」

間違いなく今聞こえてきている声音はまどかの声なのに、
私を糾弾する強い口調は、私の知るものではなくて、

そんな様子を見ていると、さっきの巴マミを思い出し、
彼女も、私の夢の一部なのではないかと考えてしまった。
だから私は、彼女の正体を確かめようとしたのだが、

ほむら「まど、か……?」

あまりに急な少女の糾弾に戸惑いを隠すことが出来なかった私は、
身体は竦んで動かず、掠れた声で名前を問うのでやっとだった。

しかし、やっと振り絞った私の言葉を無視し、振り向いて、


まどか「―――どうして、そんなに愚かなの?」


それは、かつて私が"彼女"に言った台詞だった。
123 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/30(金) 00:37:30.07 ID:bmL6VHfFo

ほむら「えっ……」

まどかが言い放った言葉の意味を飲む込むことが出来なかった私は、
間抜けで、返事ともいえないものを口から漏らしてしまっていた。

(……どうして、まどかがそんなことを言うの?)

私の知ってる彼女とは似ても似つかない、怒気を孕んだ口調。
だが、それ以上にショックだったのは、そう言ったまどかの心を、
かつてあの台詞を口にした私でさえ、理解できなかったからだ。

ぼんやりとまどかを見つめる私を尻目に、
まどかは再び、私に問いかけてきた。

まどか「ねぇ、なんで死んじゃおうとするの?」

それは巴マミがついさっきしてきた問いかけにも似ていて、
……いや、これは、ここに来た時の質問と全く同じ……。

さっきも聞いた問いなのに、私はすぐには答えられなかった。
それはおそらく、巴マミに言われた言葉が頭に浮かんだせい。
口ごもってしまった私に、さらにまどかは問いかける。

まどか「せっかく"わたし"も、"わたしとの約束"も、全部消えちゃったのに」

まどか「ほむらちゃんを縛りつける"鹿目まどか"は、ここにはいないのに」

まどか「どうして、自分で生きていこうとしないの?」
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/30(金) 00:39:56.46 ID:bmL6VHfFo

ほむら「……だって」

今度まどかが言ったのは、杏子が言い聞かせてきた台詞。
それに対し、今まで口つぐんでいた私は、ようやく反論した。

ほむら「だって……、まどかを助けるためだけに、私は生きてきたから」

ほむら「まどかとの約束を果たそうと、ずっと時間を繰り返してきたから」

ほむら「それだけが私の命の意味で、残された道しるべだった。なのに」

吐き出されたのは、既に巴マミに否定された言葉たち。
だけど、私には他には何も言うことは出来なかった。


ほむら「まどかがいなくちゃ、私に生きてる価値なんてないじゃないっ!!!」


だって、それしか私には残っていないのだもの……。
125 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/30(金) 00:43:54.00 ID:bmL6VHfFo

ほむら「はぁ……はぁ……」

まどか「………」

……言って、しまった……。

例え夢の中だとしても、まどかに言って良いことではなかったのに。
後悔と罪悪感から、すぐさま私は、まどかから顔を背けてしまった。

今の一言で、まどかを傷つけてしまったかもしれない。
そう思ってまどかを直視できない私の鼓膜を揺らしたのは、

まどか「……わたしのため? わたしとの約束を守る? 嘘つかないでよ」

思わず私は、視線を前へと戻してしまった。
あまりに冷徹で、私の心を抉るその一言を放ったのが、
とても、前方にいる少女だと、思いえなかったから。
しかし……、

まどか「本当は、ほむらちゃんだって気が付いてるくせに」

私の目に入って来たのは、マネキンの様に無表情な顔。
けど、それは感情がないというわけではなくて、
大きすぎる怒りが、表情を消してしまっているだけで。

まどか「ほむらちゃんは、ただ普通に生きていくことに憧れてたはずで」

まどか「普通に友達を作って、一緒に遊んで、笑い合いたかっただけなの」

言いながら、まどかがさっと右手を振るう。
すると、私の周りに再び映像が浮かび上がってきた。

さっきとは違って小さく沢山現れたそれらに映ってたのは、
ケーキを食べてるマミさん、黒ネコを抱いたまどか、一緒に戦う二人、

……そして、二人と一緒に笑いあう、メガネをかけた私の姿だった。
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/30(金) 00:45:53.67 ID:bmL6VHfFo

大昔のように思えたその風景を、事実、私は忘れていた。
でも、ここに映されている様子が何時なのかだけは分かる。

まどかと出逢ったばかりの頃、マミさんに憧れていた頃、
私の時間がまだ誰ともずれていなかった頃の、光景だった。

あまりの懐かしさに、私は見入ってしまう。
でも、写真の一枚にピシリとひびが入り、

まどか「けど、ようやく見つけた平穏が、すぐに壊されちゃったから」

それはすぐにその映像を、そして他の浮かんでいる映像をも覆い、
私が手を伸ばそうとする前に、脆くも崩れていってしまった。

まどか「これからどうしていいか、分からなっちゃったんでしょ?」

まどか「どうしようもなくて、他に頼れるものがなかった」

その後に残ったのは、星も月も消え失せた深夜のような暗闇と、
全身に傷を負い息絶えてしまったまどかの様子、そしてもう一つ、
インキュベーターと向き合い、私が契約を交わす瞬間。

まどか「だから縋っちゃったんだよね、わたしを救うなんて祈りに」
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/30(金) 00:47:10.27 ID:bmL6VHfFo

ほむら「ちがう……そんな、そんなつもりじゃない……」

そんなの違う、そんな気持ちで時間を戻したんじゃない……
私はただ、まどかが助けたくて、まどかと約束したから……。

まどか「今まで縋って来たものが急に手をすり抜けていっちゃったから」

まどか「あんなにも自暴自棄になって、あげく自殺なんてしようとして」

まどか「結局、わたしがいない現実から逃げようとしたんでしょ?」

記憶の壁を突き崩し、心の奥底に眠っている真意を掘り返し、
自身の存在の根底を揺るがすその言葉を、私は必死に否定する。

……だけど、頭の片隅では思ってしまっていた。
それが私の"本当の気持ち"なのではないか、と。

ほむら「わたし、ちがっ……!」

それでも、どうしても認めきれずに抵抗している私へと
ゆっくりと歩み寄ってきたまどかは、私の肩へと手を置き……、

まどか「違わないでしょ? だって"暁美ほむら"は……」



まどか「"鹿目まどか"と生きるために、生きているんだもの」



……私を、突き放した。
128 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/30(金) 00:48:57.16 ID:bmL6VHfFo

ほむら「あ……、あぁ……」

まどかに突き飛ばされた私は、その力に逆らうこともできず、
二歩、三歩と押されるがままに後ろへよろけていって、
最後には、ペタンとお尻から崩れ落ちていってしまった。

……まるで体に力が入らず、脚どころか、満足に喋れず、
しかし、自分の身体なんかに気を掛けてはいられなかった。

(―――まどかに、拒絶された)

肩を突き飛ばすという、あまりにも明確すぎる拒絶の意志。
今まで避けられてしまうことは幾度となくあったけれど、
これほどの負の意識をまどかに向けられたことはなかった。

そして……、

(―――私、そんな気持ちで、戦ってきたの……?)

自分が掲げる希望の奥にあった、歪で醜悪な"本当の気持ち"、
私の真意、祈りの本質、魔法の意味に気付かされてしまった。

まどかを助けて約束を守るためだけに生きてたはずなのに。
これでは私は、自分のために過去に戻る度にまどかを殺し、
世界を見捨ててきたようなものではないか……。

まどか「だけど、今ならやり直せる。何も縛るものがない今なら!」

でも、そんな私を、まどかは励ますようにそう言った。
そこには、さっきまでの辛辣さは欠片もなくなっていて、
私の知っている、未来への希望にあふれたまどかの声。

まどか「わたしなんかに頼らない、自分だけの人生を……って」

だけど私の耳に、そんな声は届いていなかった。
なぜなら、もう私には生きていく希望は残っておらず……。

今まで生きてきたことへの絶望が、指輪を穢し始めていた。
129 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/30(金) 00:50:42.28 ID:bmL6VHfFo

首がカクンと、『糸』が切れたパペットのように前に折れると、
力なく垂れた左手に、指輪のままのソウルジェムが見えた。

白銀色に輝いていたそれがものすごい速さで黒ずんでいき、
すぐにクロムのような鈍く薄い光を反射する黒銀色へ、
そして、光さえ呑みこんでしまう純粋な黒へと近づいていく。

本来の姿へ戻さなくてもわかる。

(あぁ、私……)

……魔女になるのね。

おそらく、あと三十秒もかからない内に、私の魂は穢れ切るだろう。
そうしたらここに残るのは、たった一つのグリーフシードだけ。

でも、それでいい。

どうせ私には生きる意味も、生きる価値も、生きる資格もない。
あるのは、これまで時を戻してまで繰り返した、災厄の罪。

何度もワルプルギスの夜を呼び寄せ、まどかが魔女になる度に、
その世界の人間全てを見殺しにしてまで、生き延びてきた咎。

それら全部が自分自身のためなのに、まどかを助けるためと、
交わした約束を果たすためと、嘘を吐き続けていた心の業。

望んだ希望の割には、あまりにも膨大に膨らんでしまっていたが、
ようやく私が、それらを清算する時がやって来たということ。

ならば、甘んじて受け入れよう。そう覚悟を決めた時……、


まどか「どうして……、どうしてまたこうなっちゃうの……?」
130 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/30(金) 00:52:36.63 ID:bmL6VHfFo

上から降って来たのは、深い溜息と、諦めの声。
伝わって来たのは、抑えきれない落胆と、悲哀。

まどか「……なんで私の気持ちはいつだって伝わらないの?」

まどか「誰もほむらちゃんを責めてないよ、生きてていいんだよ!」

それでもまだ諦めきれず、説得する声が私へ掛けられる。
しかしそれは、ぼんやりと耳と意識を通過するだけ。
閉じて心へは届かずに、周りの暗闇へと消えていった。

まどか「……絡んでしまった全ての因果を断ち切ったこの世界でなら」

まどか「ほむらちゃんだって、幸せになれると思ったのに……」

やがて、そんな僅かな希望さえ消えてしまったのか、
長い沈黙の後聞こえてきた声は、失意に染まっていて、


まどか「やっぱり、こうするしかないんだね……」


まどかがぽつりと呟いたその言葉が少し気になって、
けれど、下を向く私に、まどかの表情は確認できず、

まどか「それなら、せめて……」
131 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/30(金) 00:54:09.71 ID:bmL6VHfFo

そう言うとまどかは私の前で跪き、再び白い手を伸ばし、
今度は頬へ両手を添えて力の抜けた私の顔を持ちあげた。

でも、その手にはさっきの拒絶の意志なんて全くなくて、
それどころか、私を包み込もうとする優しさを感じていた。

持ち上がった目線の先には、私に笑いかけているまどかがいて、
だけど、眼元には大きな涙粒が溜まり、やがて零れてしまう……。

―――そこで、私はようやく気付いた。

まどかは、心の奥底にある何かが溢れるのを堪えていることを。
その"何か"は、涙へと形を変えてまで流れ出してしまうほどに、
とてつもなく大きく、まどかを悲しませているものなのだと。

そして、抑えていることを私に悟らせないようにするため、
さっきまでは怒り、今、必死に笑っていようとしていることも。

……けれど、それが一体なんなのかまでは分からなくて、
どうしてそんなことをしたのかも、全然思いつかなくて、
ただ茫然と、まどかの顔を見つめることしか出来なくて。

ほむら「まどか、わたっ……!」

それでも私は、必死に何かを伝えようと口を動かしたけど、
言うべき言葉も見つからず、まどかは首を横に振って制し、
ほぼ真っ黒になった私の指輪を、右手で包みこんで、言った。

まどか「いいの。全部、わたしが終わらせてあげる。だから……」


ゆっくりと目を瞑ったまどかは、顔を私へと近づけていき、


―――その時、私は見てしまった。気が付いてしまった。
『 ご、め、ん、ね 』と、確かにまどかの口が動くのを。


やがて息が交わるほど近くに、そして、互いの唇が触れ……。


―――――
―――
132 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/30(金) 00:55:26.30 ID:bmL6VHfFo

〜〜〜〜〜
〜〜〜

ほむら「……あれ?」

……あれから、いくらほどのが経っていたのだろう。
気付くと、ゴミと汚物の中にうつ伏せで倒れていた。

―――裸で。

全裸だと分かったのは、体中があまりにも肌寒く感じ、
そして全身に纏わりつく気持ち悪い物の存在を感じたから。

身体に付着し、発酵したような臭い放っているゴミ。
それが顔にも押し付けられていることに気が付いた。

ほむら「うっ……」

その刺激臭から逃れようと両腕をつき身体を起こそうとする。
同時に、どうしてこんな状態になってるのか、考えていた。

(……いつの間に魔法少女の姿が解けたの、それに、なぜ倒れて……?)

問いに答えてくれる人はこの部屋にはいないと分かってたのに、
誰からかの返事が返ってくることを、私は期待していた。

この部屋に私しかいず、あの日からずっと他人と会ってないのに、
どうしてそんなことを考えてしまったのかは分からない。
でも何故だろう、さっきまで誰かと話をしていた気がする……。

ほむら「……夢、かしら……?」

依然としてぼんやりとした頭で、そんなことを考えていると……、
133 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/30(金) 00:57:39.56 ID:bmL6VHfFo

ほむら「―――痛っ!」

……頭の奥へ、ズキンッと、激しくて熱い痛みが走った。
慌てて頭を手を伸ばそうとすると、片手だけでは身体を支えられず、
床から手を放した左手側へ崩れ落ち、その手からも痛みを感じた。

ほむら「くぅっ……」

勢いよく床にぶつけてしまった左肩からも鈍痛がしたが構わず、
より強い痛みがする左手を身体の下から引きずり出してみる。

すると左手の甲には、菱形の、赤黒い刻印が押されていた。
……いや違う。これは肉が抉られた跡だ。

その跡には見憶えがあった。ソウルジェムを留める金色の金具の形。
おそらく魔法少女の衣装が解けた時に、金具も一緒にきえたのだろう。

深さが約1cm近くまで刻まれた傷口からは朱色の肉が覗き、
そこからは依然として赤い鮮血が流れ出し続けている。

指の方へ垂れて酸化していったそれらは血痕となって残っており、
そして、中指に嵌められた"白銀色"の指輪は、赤黒く穢されていた。
でも……。

     ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
―――どうしてこんな事になっているのか分からない。
134 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/30(金) 00:58:15.01 ID:bmL6VHfFo

裸になった記憶も、床に倒れてた理由も、怪我をしている原因も、
私には、なに一つとして、心当たりなんてないのに。
確かつい"さっき"、朝六時のアラームが鳴って、その後……。

ほむら「……う゛ぐッ!」

まただ……、また、頭が割れるような痛みが襲ってきた。
予期できない痛みに、思わず床の上でもがいてしまう。
転がり回ることで何とか痛みをまぎわらそうとすると、

ガンッ。

何か大きくて固く、とても冷たいものに右手があたった。
段々と薄れていく痛みをこらえ起き上って確認すると、
それは、病院で渡されたスーツケースだった。

私の目に留まったのは、開いていたケースの一番上に乗った物。
ポツンと置かれた真っ黒い小型のタブレット型携帯、そして、
透明なビニールに包まれている、雪のように真っ白な制服で……

ほむら「これって……」

ふらふらと、無意識に手がその服へと伸びていき、手に取った。
ゴミまみれの私が着るにはもったいない程、綺麗な新品の制服。

それを見ていると、どんどんと目が離せなくなっていき―――。


ほむら「………」

(………)

………。


―――そうだ……。


ほむら「……シャワー、浴びなきゃ……」
135 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/30(金) 00:59:55.52 ID:bmL6VHfFo
レス番ミスったから調整
136 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/30(金) 01:01:09.29 ID:bmL6VHfFo

〜〜〜〜〜
〜〜〜

担任「じゃあ、私が声を掛けたら教室に入ってきてね」

ほむら「はい……」

薄汚れた廊下を歩く女性が、後ろからついていく私に言った。
私が歩くそこはベージュの床に外の冷気が滲む薄い窓ガラスなど、
紛うことなき、一般的な中学校の廊下だった。

(……どうして私、学校なんかにいるの……?)

学校に行く気なんて、私にはこれっぽっちもなかった。
転校届だって、スーツケースの奥に突っ込んだままで、
そもそも転校日が今日だということさえ知らなかった。

なのに、気が付いたら私は白い制服を着て、ここにいた。
137 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/30(金) 01:01:53.29 ID:bmL6VHfFo

なにも全てが記憶喪失……というわけではない。

一週間前のあの日から前の思い出も、後に起きた出来事も、
全裸で目が覚めて、そのままシャワーを浴びたりしたことも、
病院で渡された新品の制服を着たことも憶えている。

その後、服と同じくパックされた学校指定らしきバックと、
ぐちゃぐちゃに丸まった転校届をスーツケースから出して、
書類に記された住所までこの足で向かったことも。

……だけど、どうして自分がそうしたのかが、分からない。
どうして裸で床に寝ていたのかが、思いだせない。
その上、気が付いたら寝ている内に時間が七時を過ぎていた。

急に学校に行こうとしたことと、どうしてそう思ったのか、
そして、目覚ましが鳴ってから目が覚めるまでの一時間が、
私の頭の中に存在する、空白部分だった。

けれど、それを思い返そうとする度に、頭の奥が激しく疼くのだ。

まるで催眠術にでもかかったてしまっていたかのように、
「思い返すな、忘れてしまえ」とでも言うかのように、
ここに至った動機と、僅かな記憶だけが思えだせなかった。

「もしかしたらそれはとても大切なことだったのではないか」と
確かに疑問に思うことも、無かったわけではなかった。
でも、それでいいと私は思う、それに、逆らえなかっのだ。

思いだそうとする度に襲う、頭が焼け爛れそうなほど鋭い痛み。

そんなのを味わうくらいなら、いっそ知らないままで良い。
だから私は、頭痛に促されるまま、それを忘れることを選んだ。
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/30(金) 01:03:19.69 ID:bmL6VHfFo

またあの痛みが襲ってくる前に、意識を反らさなくちゃ……。
そう思い、手に握る生徒証にとりあえず目を落とす。

さっき職員室の端で撮られた私の写真が貼られたカードの右隅には、
発行日、即ち今日の日付である「10月19日」が記されている。
何の因果か、転校日は"いつも"と同じ、退院の一週間後だった。

そんなことに違和感を覚えていたのは、私だけのようで、
生徒証とクラス割の他、教科書類がまだ届いてないことなど、
ごくごく自然に、転校の手続きは進められていった。

担任「……顔色が悪いわよ、緊張しているの?」

ほむら「えっ?」

急に、前を歩いていた教師が振り返ると、そう言った。
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/30(金) 01:03:55.50 ID:bmL6VHfFo

この、いかにも大学卒業したてといった風貌の若い女教師が、
私が転入することになった二年生のクラスの担任とのことだ。

担任「大丈夫、安心して。私のクラスの子はみんないい子たちだもん」

担任「荒れてる三年と違ってイジメなんて無い、自慢のクラスよ!」

突然のことで言い淀んだ私の様子を肯定と受け取ったのか、
担任教師は柔かな笑顔を作り、私を励まそうとしているみたいだ。

対して私はというと、やっぱり反応に戸惑ってしまう。
別に緊張なんてしてないし、顔色が悪いのだって数日間の
絶食と睡眠不足、心身への過度の疲労が表出しただけだろう。

これでも今朝に洗面所の鏡に映っていた姿よりかは、
シャワーを浴びたことで随分とマシになった方だと思っていた。
隈こそ残ったが、身体に染み付いてた臭いや泣き跡はなくなったし。

(まぁ、別にまどかに見られる訳じゃないから、どうでもいいけど……)

そんな事よりも、その発言はイジメを知っていながらも、
学校側が放置していると言うことなのだろうか?

……それはそれで、十分問題がある気がするのだけれど。
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/30(金) 01:04:54.45 ID:bmL6VHfFo

担任は「SHRの中で紹介するからちょっと待ってて」と言い、
私を廊下に残して、教室にすたすたと入っていった。

呼ばれるまで暇だったので、何気なく校舎を見回してみる。

ごく普通なリノリウムの床と、同素材の壁が私の前後に広がる。
背後には各クラスに出席番号ごとに割り振られた個人用ロッカーが、
目の前には明るい緑色の大きな掲示ボードが壁に設置されていた。

なんとなく、コルクボードにひたっと手をくっつけてみる。
ガサガサとした触感のそれは、冬の寒さで冷たくなっていた。
じっと見つめてみても、当然だが、その向こうは見られない。

ほむら「………」

当り前だ。これは緑のビニールと茶のコルクを合わせて作った単なる板。
透明な素材を使っているわけでもないのに、内側を覗けるはずがない。
……だけど、普通であるはずのそれに違和感しか感じられなかった。

見滝原中の、全面ガラス張りの壁の方が異質だったはずなのに、
幾度となく時を戻し続けてきた私にとっては、
あのガラスの壁でないことの方が、遥かに奇怪に感じていたのだ。

……この壁の向こうには、まどかは居ない。

壁から伝わってくる冷たさが、瞳に映る緑色の彩かさが、
私だけが、知らない世界にただ独りだけ取り残されたことを、
まどかのいないまま生きてくことを冷酷にも教唆してきて……。

(だったら、こんな学校になんて通わなくたって……ッ!!)
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/30(金) 01:06:31.27 ID:bmL6VHfFo

そんな思考が頭をかすった瞬間、ジリっと、またあの痛みが走った。
記憶のブランクを思いだそうとした時程のものではなかったが、
それでも、思わず涙が浮かぶのを抑えることがくらい、痛かった。

(……一体、なんだって言うの……)

未来に飛ばされるわ、まどかはいないわ、魔法は使えないわ、
これだけでも十分、わけの分からない状況だって言うのに……。

ほむら「もう、どうにでもしてよ……」

けれど、この脱出不能な世界に閉じ込められたことへも、
私の行動を誘導するように襲ってくる頭痛に対しても、
あまりの不条理さに怒り、そして諦めという感情を通り越し、
私は、一つの結論を導いた。

―――もしかしたら、これは私への罰なのではないか?

まどかを助けられなかった私に、多くの世界を見捨てた私に、
この世界で死ぬまで――もしかしたら永遠に――生きて償えと。
この頭痛も私を誘導し、逃げ出さないようにするための首輪で。

"あの"病院の朝に感じていた、独りよがりの贖罪ではなく、
逃げて楽になることなど許さないという、本物の神様の天罰。
そうだとしたら、私は……。

担任「暁美さん、入って来て〜……って、なにしてるの?」

教室のドアを開けてそう言った担任は、驚いたように声を上げた。
それは多分、私が掲示板に手をつき頭を垂れていたからだろう。

傍から見れば、どこかの動物園のサルが見せる"反省"のポーズ。
きっと彼女の目には、さぞかし滑稽に映っていたのだろう。
142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/30(金) 01:07:12.84 ID:bmL6VHfFo

担任「ちょっと! そんなとこで変な格好してないで早く入って!」

つかつかと私に近寄り、手をとった担任に牽かれるように、
私は俯きながら、その教室の中へとはいっていった。

視界に入るのは、下向きの視線と長くなった前髪のせいで、
廊下と同じリノリウムの床と最前列の生徒のカバンだけだった。
聞こえてくるのは、生徒たちのざわめく声、潜めき合う声、笑い声。

……なんとなく、初めて見滝原中に転校してきた時のことが浮かんできた。

日陰を生きていたあの時の私と、髪を垂らし俯き続ける今の私、
どちらも何も出来ない、地味で暗くて惨めな人間でしかない。
そして、それは二度と変わることはない。

『ほむらちゃんも、カッコよくなっちゃえばいいんだよ!』

それまでの駄目な私の価値観を変えてくれた、まどかの一言。
でも、そう言ってくれた彼女は、ここには居ないんだもの。

……だから。
143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/30(金) 01:07:52.44 ID:bmL6VHfFo

担任「はーい、それじゃあ自己紹介いってみよー!」

私にチョークを握らせた担任の声を聞きながら、
黒板に自分の名前を書いて、そして、振り返る。
クラスのざわめきが収まっていき、やがて沈黙にかわった。

ほむら「………」

けど、名前が言えない。
あの時みたいに緊張したからじゃない、
名前を言うことを、躊躇しているから。

この自己紹介は、毎回まどかとのファーストコンタクトだった。
それをこのまどかのいないこの教室でするということは、
決定的なまでに、私がこの世界を認めることと同義に他ならない。

でも……。


ほむら「暁美……ほむら、です……」


……私は、それを受け入れた。

ここで生きていくことが私への戒めなのだとしたら、
やっぱり、それを拒絶する権利は私には無いから……。

私がそう納得する一方、クラスの雰囲気は最悪になっていった。

始終ずっと俯いたままで、しかも名前しか言わない私に向ける、
生徒たちの「……それだけ?」という疑問と戸惑いの視線を感じ、

担任「えっ、えっと、暁美さんは心臓の病気でずっと入院してて……」

慌ててフォローする担任が後ろで「どうしよう」と呟くのが聞こえた。
教室中が、完全に沈黙に呑みこまれようとしていた、

―――その時、



「じゃあ"ほむらちゃん"だねっ! あたし、鹿目まどか。"まどか"って呼んで?」



…………え?
144 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/30(金) 01:08:30.57 ID:bmL6VHfFo

ガタンと椅子が押される音と共に、そんな声が聞こえてきた。

それは、溌剌としてて、それでいて春の日だまりのように優しい声。
初めて見滝原中へ転校したばかりの私を助けてくれた、奇跡の声。
でも、もう二度と聞くことは叶わないはずの、私が思い焦れてた声。

(……幻聴……?)

だけど、それが本当に聞こえてきたとは、信じられなかった。
なぜならあの少女は、いなくなってしまったはずだから。
だから、彼女の声が聞こえてくるはずがない。

でも……。

もしも、もしも……。

今の声が本物だったら、と。
   .ネガ
そう、希わずにはいられなかったから。

俯いてた顔を上げて、前髪を除けて、前をみて、
そして、私の眼に映り込んで来たのは―――。


薄桃色の髪を、赤いリボンでツーサイドアップでまとめた、

赤のブラウスと真っ黒のタイに、純白のワンピースを着た、

春風のような、心に染み入る柔かい微笑みを私へ向けた、


鹿目まどかの、姿だった。
145 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/30(金) 01:09:36.78 ID:bmL6VHfFo

ほむら「……あ、あぁ……」

その笑顔を見るだけで、胸が熱くなってきて、
息と一緒に、口から言葉にならない声が漏れて。

……まどか、そう、あれはまどか。

見間違えるはずのない、本物のまどか。
私が知っているままの、鹿目まどか。

まどかと喋りたい……まどかの言葉に、答えたい。

それはかつて、私が素直に返事が出来なかった台詞、そのままで。
だからこそ、今度はちゃんと、まどかに返事をしなくちゃと思って。

でも、他にもまどかの存在を触って確かめたいとか、
もう一度でいいから私の名前を呼んでほしいとか、
まどかとしたいこと、してほしいことで頭がいっぱいで。

それらが全部、抑えきれなくなって、溢れ出して……!


ほむら「―――まどかぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!!!」


気が付くと、無我夢中でまどかへと駆けだしていた。
けれど、自分から止まるつもりなんてなかった。
まどかの元へ、まどかに会いに、まどかと……。

……ずりっ!

(えっ?)

急に足の裏に変な感触がして、それと共に擬音が頭に鳴った。
それは、未知の感触で、慌てて眼を足元に向けるとそこには、
私に踏まれた誰かの鞄と、滑っていく私の足がスローで見えて、

(あ……)

ゆっくり見えていても、頭の中もまどか一色に染まっていた私は、
危ないと思ったのが早いか否か、手をつくという発想すら浮かばず、

ほむら「ま、まど……!」

助けを求めるように伸ばされた手が空しく空を切って、
だんだん迫ってくる床を、為す術のなく見るばかりで、
そして……。

―――ガンッ!

〜〜〜〜〜
〜〜〜
146 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/30(金) 01:10:23.17 ID:bmL6VHfFo

=====
===

「―――以上が、この一週間の観察報告になります」

格式張った若い男の声が、初冬の寒々しい日差しに照らされた部屋に響いた。
スピーカーを通じたせいで機械じみていたが、まだ三十代前後のものだろう。

さらに部屋の中央には、どんな技術なのだろう、ホログラムが浮き上がり、
おそらくその声の主と思われる一人の男の顔を克明に映し出ていた。

「うん。悪いかったね、急に任務を増やしちゃって」

「いえ、これが仕事ですから」

そしてもう一人、立体映像の前に男が座わり、手にした紙束に目を落としている。
こちらは既に四十を過ぎ五十手前といった風貌であったが、座っている椅子は
メカニカルで近未来的なデザインで、他の資料が置かれた机も同様な設計だった。

「で、"彼女"は今どうしてる?」

「教室で転倒し頭部を殴打した結果、気絶。現在はそのまま保健室で眠っています」

「怪我は大事に至るようなものではなく、寝入っているのも単なる不眠が原因かと」

丁寧な物腰と裏腹に無精ひげを生やしている映像の男は、事務的に言葉を並べる。
その様子に"彼女"に対する心配や気づかいが全く感じられないわけではないが、
彼にとってはただの監視対象でしかないため、やはりどこか淡白な雰囲気だった。

「ただ、少し気になることが……」

しかし、そんな彼が眉をひそめ、報告を再開した。
147 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/30(金) 01:11:11.18 ID:bmL6VHfFo

今度は、ほんの数分程度の短い補足報告だったが、

「なるほど……、非常に興味深いね」

「社長、いかが致しますか?」

それが終わると、二人とも、複雑そうな面持ちで黙り込んでしまった。
彼らの反応がどのような理由に起因するのか、窺い知ることは出来ないが、
『社長』と呼ばれた男は少し考えるように俯き、そして、

「う〜ん。それじゃあ捜査は続けておいてよ。まだ何か分かるかもしれないし」

「それに丁度、観察対象の二人も一緒になったんだから、今までより楽でしょ?」

「まあそうなんですけど……。分かりました。では、引き続き監視を」

「よろしく頼んだよ、青沼君」

それを合図にしたように、空中のホログラムはぷつんとかき消えた。
会話の無くなった部屋の中にただ一人残された『社長』は書類を片手に立ち上がり、
幅は30メートルを優に超えるガラス張りの窓に近づいて、眼下を見おろした。

一体どれだけ高いのか、そこに広がる景色は都心の高層ビルに匹敵していた。
だが、都心と異なっているのは、見える風景が平ったいコンクリートの地面と、
それを取り囲む青い海、その向こうに現れた煩雑な都会だということだ。

その光景から、どこかの人工島なのだろうと予想することは可能であったが、
視界の右側にある平坦な埋立地が数年前に拡張されたばかりの東京国際空港で、
さらにその奥の巨大な橋が、お台場と芝浦埠頭を結ぶレインボーブリッジだと
気付ければ、ここが東京湾川崎沖合にあることまで断定するのは容易だろう。
148 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/30(金) 01:11:40.43 ID:bmL6VHfFo

この立地なら夜になれば都内でも有数の夜景を見れるに違いない。
しかし、『社長』にその絶景を楽しんでいる様子はなかった。

それどころか窓に背をもたれ、手に持つ報告書へ目を通しだした。
やがて、その中の二枚の写真が載っているページで捲る手を止めて、

「まさか"彼女"が、"彼女"を探していたとは予想外だったな」

ぽつりと、そのページを眺めながら彼は言った。
この部屋には彼一人、おそらく独り言だったのだろうが……、
                イレギュラー          チャンス
「あぁ、確かに見逃せない 奇禍 だ。だが同時に、奇価にもなりえるやもしれん」

誰もいない部屋で、次に彼が発したのは、間違いなく誰かへの返事だった。
あたかも目の前に話し相手がいるかのような、自然体に振舞われる口調。

「排除するにはまだ早い。調整なんて何時だって出来る」

だからといって、彼は通信機器を使っているようにも見えないが、
もしかすると何か特殊な機械を用いてるのかもしれない。
こうしてる間も、見えない相手との奇怪な会話は続いていった。
149 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/30(金) 01:12:14.33 ID:bmL6VHfFo

「そうだな。とりあえず、今は様子を見ようじゃないか」

彼は虚空へと言い聞かせ、相手も納得し会話は終わったのだろう。
やがて、肩の力を抜くように彼はふっと溜息をついた。

そして……。


「さあ、教えてくれ―――」


書類の束から二枚の紙を抜き取り、空へと掲げた。
その写真に映っていたのは、二人の少女。

薄桃色の髪を赤いリボンで二つに結わき、カメラへはにかんでいる少女。

漆細工のように黒い長髪と真珠みたいな白い肌の、瞼を閉じている少女。

さっきとは違う、本物の。心からの呟き、独白。
……彼は、二枚の写真を見比べながら、云った。



「―――"魔法少女"暁美ほむら。君は、世界を救うに足る存在か?」

150 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2011/12/30(金) 01:13:00.22 ID:bmL6VHfFo
・途中を飛ばしてきた人へ
ほむらは、ショックのあまり自殺しようとした上、精神分裂症になりました(笑)
あれ、一人だけ夢の中に登場してない人がいるぞ? ハブられただけか、それとも……

・教訓、なんでも慌てて行動するな。
何度読み返してみても、やっぱり無茶な持ち込み方だったなぁと反省。
急に変更したせいで変な展開になったけど、ようやく正規ルートへ復帰に成功
スレ立て直すのもあれなのでこのまま続ける。この意味不明さ、原作のまどかの気分だ

・このSSは『鉄のラインバレル』と『魔法少女まどか☆マギカ』クロスです
まぁ、ここまでほとんど全部がまどかパートで、この後もほむらサイドが続くけど
ラインバレルについては最初から始まっており、中でも詳しく解説するので、
原作を知らなくても読めます。あと、再構成に近いですが、再構成ではないです

ただ人物画については、後で公式HPのURLを張るので、それを参照にしてくださ
151 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/30(金) 01:17:33.27 ID:K0oENQS3o
乙彼さんどす


ようやくクロス先明かしてくれはりましたね……
原作通りの学年だとすれ違いになりそうだけど……まぁどうにかしてくれるのを期待します

大事なのは「お前がどうしたいか」だ とだけ
頑張ってくだしあ
152 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/30(金) 03:17:35.66 ID:fW87jx/00
乙カレー
QBって一般人に見えるんだっけ?
153 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/30(金) 07:30:13.00 ID:azQtLNp40
ラインバレルだったのか
154 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/30(金) 09:26:44.93 ID:8+3FsFTQo

なんか作者がとげとげしい
155 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/30(金) 09:29:52.18 ID:nONJeoxAO
乙乙
正直このほむらの解釈はなかったわ
そして、まど神様のご介入が割と酷い。頭に電流とか死刑囚かよ…
156 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/31(土) 00:21:47.59 ID:M5uT+ZJVo
乙ー
ラインバレルはアニメ見ただけなんだが大丈夫だろうか…
しかもほとんど覚えてないw
157 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/31(土) 12:04:14.57 ID:uEFVyqoB0
寝言は永眠って……まさかお前!
158 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2012/01/01(日) 02:25:43.03 ID:YXzObf4W0
正義の味方というから期待してたのに・・・ラインバレルとか知るかよ。
あー、損した。
159 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2012/01/01(日) 17:28:25.81 ID:6pdt+mVi0
何かここのスレ住人はお客様が多いなぁ
160 :以下、あけまして [sage]:2012/01/03(火) 21:27:01.88 ID:GZY2DTlAO
楽しみに待ってます
161 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/01/08(日) 22:05:26.16 ID:9Ixcel20o
乙乙!
楽しみに舞ってる
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/01/10(火) 22:44:35.87 ID:uQL7H/t9o
内容はわけわかめだがほむらの裸リボンには非常に興味がある
163 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県) [sage]:2012/01/15(日) 07:10:44.78 ID:sCIU5BP2o
Fateかと思ったらラインバレルか。
164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/01/16(月) 02:46:44.77 ID:GuGwTK8z0
次回は20日以降の予定。バレルの新刊がでるので微調整が必要になりそうだから

前回の投下の間違い修正
>>125の下から2行目と>>126の上から2行目 マミさん→巴さん
>>141 上から3行目 抑えることがくらい→抑えられないくらい
他にもぽつぽつ小さい間違いはあるけど一番致命的だったのが>>125

まどか「"鹿目まどか"と生きるために、生きているんだもの」
               ↓
まどか「"鹿目まどか"を理由に、生きているんだもの」

前回の投下で最も重要なセリフを改定し忘れてたなんてほんとカスだわ俺
いっそのこと全部書き直したほうがいい気がしてきた
第一なんで地の文にしたんだろ。いつも通り台本形式にすりゃよかった
書く時間とミスを減らすため次回から地の文は漸次的に減らしてきます

いいよね裸リボン。エプロンにも紐にもないミスマッチ感・背徳さ・非日常感が大好きなんだ
165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県) [sage]:2012/01/16(月) 02:48:58.94 ID:GuGwTK8z0
くっそ、>>125じゃなくて>>127だった
修正の修正するなんて馬鹿すぎる
166 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/01/20(金) 14:14:35.71 ID:c+282fce0
20日なったぞ〜
167 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/01/20(金) 14:20:30.33 ID:PVWBgKcl0
20日になったぞ〜
168 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/29(日) 21:32:12.12 ID:njpaNpxPo
>>164で「次回は20日以降」と言ったな。
つまり20日より後なら何時でもかまわないってことさ!




ごめんなさい嘘です。投下できなくて本当にすいません

かなりでかい仕事が入ったので書いてる暇が全くありません
16日には目途が付くかも…というか付けないと会社と俺の首がマミる
とりあえずこっちが片付き次第投下しますので御容赦を…
ネットにほとんど来れないので、ローカルルールで落ちそうになったら
適当にレスしておいて貰えると助かります
169 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/29(日) 23:46:16.64 ID:QmGJslzTo
生存瀬戸際報告乙
頑張れ超頑張れ
170 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/06(月) 01:22:43.64 ID:AFFk7qv0o
クロス物なら仕方ない最初にスレタイや>>1になんのクロスか書いてくかれよ
原作知らないとちっとも楽しめないんだからさ
171 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/02/17(金) 22:21:15.08 ID:ddINuKNH0
期待してる
172 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2012/02/23(木) 02:19:07.66 ID:A3QlRlWLo
>>170
ごめん。クロスだと明記すると読む前に切る人が多いだろうと思って、
あえて最初には書かず、クロス先が登場してから書くつもりだった
バレル未読者のため序盤はずっとバレル要素抜きで書く予定だったし
本当は、仕事が落ち着く3月まで書き溜めて一気に投下する予定だった
投下の早さでクロス先へ馴染んでもら嘔吐思って、その工夫もしてた

ただ、ネットサーフィンしてるうちに、似てるSSを考えてる人がいるのを知り
「先を越されたら不味い」と思って、全然書き溜めてないのに慌てて投下して
そんでテンパった結果がこのスレの大失態
伏線張り忘れたと思ったら余計な伏線は増えてるし
リクエストされたからまどほむ要素を足したけど完全に蛇足だし…
第一話だけ200レス近く喰うとかペースがおかし過ぎるし、地の文大杉

……というわけで、ここまで読んでくれた人はすいません、一度立て直します
地の文を大幅に減らして、いつも通り台本形式で、ここまでのを書きなおす

>>170
その時はちゃんとスレの初めの方にクロスのことも書く。それでいいかな?
173 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/23(木) 02:58:12.81 ID:z2oq1hX60
OK!
174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/23(木) 03:16:21.35 ID:mmXE+Wpi0
地の文がしっかりしてる方が読みやすいからあまり文を減らし過ぎない事をお勧めします
175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2012/02/23(木) 10:05:03.83 ID:gATyKEeXo
加藤機関が正義だ!
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/02/23(木) 10:43:16.75 ID:FivxktyAO
>>175
石神ィ…(泣)
177 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/11(日) 22:18:38.73 ID:eOligF990
ポメラ買ってきた。来週から本気出す
建て直したらスレリン出す
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/11(日) 22:47:46.18 ID:1Phno8UPo
なにいってだ
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/11(日) 23:03:41.14 ID:eOligF990
今季の仕事終わったと思ったら他の奴のを押し付けられたせいで
思ったよりも書く時間が取れないから、通勤中に書くためポメラを購入した
来週末には新スレたててここにスレリンを出す…ということです
180 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/11(日) 23:09:51.50 ID:1Phno8UPo
あぁ、なるほど……しかし、わざわざ立て直す必要は無いのでは?
スレタイを変更したいって事でしょうか?
181 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/11(日) 23:45:20.51 ID:eOligF990
>>172でも書いたけど、地の文が多い小説形式から地の文を減らした台本形式に変えるためです
地の文が冗長すぎて話が進まず計算したところ、このままだと完結までに5スレ分は必要になりそう
それと張りすぎて訳分からん伏線や追加要素の削除と、書き漏らした伏線の張り込みもしたい
そんなわけで、スレ頭でクロスのことも明示して新スレで一からやり直そうかと思ってます

一応>>174の意見を受けて、地の文と会話文は50:50程度にしようと考えてる
会話のない回想パートとかは地の文を多用することになるかもしれないけど
スレタイは変えません。変更しても文頭に【新スレ】とか【台本形式】とか付けるだけです
182 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/11(日) 23:56:04.33 ID:1Phno8UPo
……了解しました。
正直に言わせてもらえば、私には冗長な手段だとしか思えません。
このスレのこの時点からでも、ついて来た読者なら文体チェンジも受け入れてくれるでしょうし、一度建てたスレの建て直しって正直やっぱり印象悪いんじゃないかと思います。
新規層獲得狙いだとしたら、微妙な結果に終わると思います。

ですが、最終的に決断するのは製作者自身。杏子流に言えば
「自分で決めたんなら仕方ないじゃん、突っ走るしかない」ですし
ラインバレルでも「お前がどうしたいか」なんて言われてる通りです。

新スレに移行されても頑張ってください。1読者の差し出がましい発言ではありますが、どうかお許しを。
183 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越) [sage]:2012/03/12(月) 00:29:36.80 ID:9zM9WmfAO
>>182元々新スレ云々は、>>1の書き方に文句を言い出した事が発端だろ…
どっちでもいいから早く書いて下さいよ
ラインバレル的には物語すら始まってないし
184 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/24(火) 03:30:53.06 ID:cyfyhR1DO
てす
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