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窓際のあなたに花束を - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方) [sage]:2011/12/05(月) 15:38:35.17 ID:2KYW5uy50
彼女を初めて見かけたのがいつだったのか、今ではもう、すっかり忘れてしまった。
それくらいに私がこの場所にいる期間は長く、彼女を見ていた時間も長いから。

彼女と私。
恐らく、歳は彼女の方が一つか二つ、上だと思う。
それとももしかすれば、同い年なのかも知れなかった。私にはその辺りのことはよくわからないのだけど。

静かな館内。
たまに聞こえるこそこそ話や外からの小さな子供たちの騒ぐ声。
一枚、また一枚とページのめくられていくひそやかな音だって、この空間に至っては別世界のことのように思えてしまう。

図書館の、片隅。
大きく背の高い本棚たちに囲まれてひっそりと置かれている、二つっきりの、古びた椅子と、小さな丸机。
私だけの、場所。
私はこの場所から、少し離れた場所に立って本に読みふける彼女の姿を見るのが好きだった。
決して笑ったり泣いたり怒ったりはせずに、ただ一心に物語の世界を覗いている、その姿が好きだった。

私だけの、場所。
彼女がいて、本があり、それだけであぁと私は思うのだ。
ここはきっと私だけの世界で、外の声も、周囲の微かな物音もまったくもって関係なく、一歩外に出れば広がるはずの世界なんて
本当は存在していないのだと、私は思うのだ。

私だけの、場所。
誰にも邪魔されることのない、私たちだけの場所。
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第五十九回.知ったことのない回26日17時 @ 2024/05/10(金) 09:18:01.97 ID:r6QKpuBn0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1715300281/

ポケモンSS 安価とコンマで目指せポケモンマスター part13 @ 2024/05/09(木) 23:08:00.49 ID:0uP1dlMh0
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今際の際際で踊りましょう @ 2024/05/09(木) 22:47:24.61 ID:wmUrmXhL0
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誰かの体温と同じになりたかったんです @ 2024/05/09(木) 21:39:23.50 ID:3e68qZdU0
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A Day in the Life of Mika 1 @ 2024/05/09(木) 00:00:13.38 ID:/ef1g8CWO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1715180413/

真神煉獄刹 @ 2024/05/08(水) 10:15:05.75 ID:3H4k6c/jo
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愛が一層メロウ @ 2024/05/08(水) 03:54:20.22 ID:g+5icL7To
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方) [sage]:2011/12/05(月) 15:50:01.83 ID:2KYW5uy50
―――――
 ―――――

ああ、と小さな声を上げた。
ふと瞳を開けたそのすぐあとに、私は彼女の姿を見つける。
いつものことだ。
気が付いたら、彼女は私のすぐ近くにいたり、少し遠くで貪るように並ぶ文字を追いかけている。

私は彼女がそこにいるたびに、息をひそめて、それこそ私の座る古びた椅子や、読みかけの本が置いてある丸机のようにひっそりと、彼女を見詰めるのだ。
彼女が無心に物語に身を任せているのと同じように、彼女を見詰めるのだ。

声を掛けようとは思わない。
それはたとえば、テレビの画面をぽっかりと見詰めているような、そんな感覚なのである。
画面の中の彼女を、ただ私はひたすらに見詰めているのだ。
その理由は、きっと自分の中でもはっきりとはしていないのだろうけれど。

それにしても、と思った。
今日は、随分と久し振りなような気がした。彼女の姿を見るのは。
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方) [sage]:2011/12/05(月) 16:02:48.12 ID:2KYW5uy50
最後に彼女の姿を見たのはいったい、いつのことだっただろうか。
記憶の糸を辿るものの、よくはわからなかった。
けれども、久し振りのように感じるのは、私の感覚が決して狂っているわけなのではなく、彼女自身の醸し出すその雰囲気や、そんなものが違うように思えたからなのかもしれない。

彼女のなにが、そんなに気に入ったのかと問われれば、きっと私は真っ先に彼女の持つ純粋さだと答えるだろう。
初めてみたときから、一度汚れてしまえば二度と戻らないほどの白さを、彼女に感じた。
ただ一心にページをめくる彼女の瞳は、幼子のようにきらきらと輝いていた。
きっと、それでだ。
大人になれば大人になるにつれて、彼女は変わっていく世界に耐えられなくなりそうな、そんな危うい白を、彼女は持っていたのだ。

確かに、持っていたのだ。

4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/05(月) 17:38:41.79 ID:wEpHMSsSO
ふむ
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方) [sage]:2011/12/05(月) 17:49:49.77 ID:2NFzAnft0
>>3訂正
大人になれば大人になるにつれて、変わっていく世界に耐えられなくなりそうな、そんな危うい白を、彼女は持っていたのだ。
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方) [sage]:2011/12/05(月) 17:58:46.30 ID:2NFzAnft0
私にはもう既に失くなってしまったも同然の、その純粋さだ。
思わず惹かれてしまうほどのそれが、今の彼女には感じられなかった。

感じられないのとは少し違うのかも知れない。
よく言えば、彼女は落ち着いていたのだ。きちんと、大人になりつつある、その過程の中に身を投じている、そんなふうなのだ。
私よりも歳上か、あるいは同じ年代であるはずの彼女についてどうしてそんなふうに言えるのか、現在自分自身がその中にいるのではないかという疑問を持たれるかもしれないが、私自身、きっと彼女に重なるものがあるからなのだろうと、そういうことにしていただこう。

ああ、と私はまた小さく声を上げた。
いったい、彼女はどうしたというのだろう。

真直ぐに突き進むほどの芯が、彼女の中にあると思っていたわけではないのだけれど。
ひどく、今の彼女はひどく、不安定なように、私の目には映った。
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方) [sage]:2011/12/05(月) 18:06:35.87 ID:2NFzAnft0
落ち着いているはずなのに、こんなにも不安定。
純粋さの欠片が、あちこちに散らばっているように、それを探し回っているのか、もしくはそこからも遠ざかろうとしているのか、ふらふら、ふらふら。

文字に落とすその視線も、こころなしかふわふわと彷徨っているように見えた。
見えるものは、見るべきものは、彼女のすぐ手元にあるというのに、ふわふわと彷徨っていて、定まらない。

ああ。ああ。
私はなんども声を上げた。
彼女がなにを迷っているのか、それとも探しているのか、わからなかった。
わからないながらも、彼女の純粋さが、大人びたふうになったのを感じ取り、理由やなにかよりまず、彼女の身のことを案じた。
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方) [saga]:2011/12/05(月) 18:14:33.26 ID:2NFzAnft0
きっと、なにかあったに違いないのだ。
彼女が私の羨望するほどの純粋さを、自ら壊したのだとしても、隠したのだとしても。
なにかあったに、違いない。

私は初めて、迷った。
声を掛けようかと、迷った。
画面の中の誰かに触れようと、手を伸ばした自分に気付き、しばしば愕然としたのだけれど。
それでも、私は迷い続けた。彼女の視線と同様に。

なんと、声を掛けようか。
こんにちは。
それともこんばんは。
時間の感覚すら、この場所にいてはわからないのだから挨拶のしようもない。

ああ、そうこうしているうちに。
ゴーン、ゴーンと。
古びた図書館の、古びた時計が錆び付いた音を響かせた。
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方) [saga]:2011/12/05(月) 19:10:56.14 ID:2NFzAnft0
次第に、私はぎこぎこと今にも音をたてて崩れそうな椅子に座ったまま、うとうととしはじめる。
ああ、ああ、ああ。
なんということだろう。

私だけの、場所。
彼女がいて、本がある、私たちだけの場所。そこがもうすぐ閉ざされようとしている。
次に彼女を見るのはいつだろうか。
そのとき彼女は、どうなっているのだろうか。このまま時間が過ぎて、彼女はもう、絶対に届かぬところへ行ってしまうのだ。そんな気がするのだ。

ああ、なんということだろう。

暗がりに、それでも私は最後まで必死に彼女を見た。
彼女はぱたんと閉じた本を、いつまでもいつまでもその手の中に置いて、彷徨う視線がまたふと、揺れた。

あ……。

初めて、彼女の声を聞いたように思った。
耳の奥の奥が、びりびりと震えた。

その日は、それだけで終わった。
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方) [saga]:2011/12/05(月) 19:38:49.79 ID:2NFzAnft0
次に気が付くと、彼女は私のすぐ傍にいて、相変わらず躊躇われるような視線を物語の入口へと落としていた。
こんなにも近くにいることに、気が付かずにいたなんて。

彼女はこの間見たときと同じく、視線だけを落ち着かせずにそこにいた。
間違い探しのようだと思った。
間違い探しのように、私は彼女の違ったところを見つけようとした。なにも変わっていないと安心したかった。けれど、彼女の着ているものは長袖であり、もう季節は秋か冬になっているのだと気付いた。いつのまに夏が終わってしまったのだろうか。

彼女はこの前とさほど変わっていなかった。
変わったところがわからないほどに、彼女はぼろぼろだったのだ。
身体が、ぼろぼろだったわけではなく、なんとなく、ぼろぼろだと感じたのだ。私の得意な、「なんとなく」である。
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方) [saga]:2011/12/05(月) 19:47:26.11 ID:2NFzAnft0
ああ、そうだ。
きっとなにかあったわけではないとしても、彼女は疲れているのだ。
私はそう、思った。思って、口に出そうとした。出そうとしたけれど、出せなかった。
ここで出してしまったら、彼女に聞こえそうな気がしたのだ。私に気付いて欲しいわけではないのだ、私は。ただ、彼女が私たちだけのこの場所に、来なくなってしまったらどうしようかと、そう案じていただけだったのだから。彼女がまたここにいるのだから、もう彼女に声を掛けるか掛けまいか、迷わずにいなくてもいいだろう。

とりあえず彼女は、私のすぐ傍にいた。
何度も言うほどに、私のすぐ傍にいたのだった。

どれだけ小さな声でも、いくら彼女の耳が遠かったとしても、私の声が届いてしまいそうだと感じるくらいには、近かった。
ここまで近い場所に、彼女がいることは今までに一度だってなかった。
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方) [saga]:2011/12/05(月) 19:56:56.42 ID:2NFzAnft0
古ぼけた椅子に身を置いたまま、私は彼女を見詰めた。
それだけで、彼女はまだ物語の中に入ってすらいないのだとわかった。
彼女は真剣だった。
真剣に、じっと、本の表紙を、別世界への入口を、見ていた。
迷うような視線で、じっと、真剣に、見ていた。

はやく、はやく。
急かしたい気持ちが、突然涌いて出た。
彼女が、別世界へと飛ぶ姿を、はやく見たいのに。

なにを、迷っているというのだ。
ずんっと、入ってしまえばそれで済むことだろうに、そのことは、彼女が一番よく知っていることだろうに。
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方) [saga]:2011/12/05(月) 20:04:25.84 ID:2NFzAnft0
はやく、はやく。
心の中の声に反応するかのように、彼女の指が、ようやくのろのろとページを繰った。
彼女はそれから、迷ったような視線を、ふと、こちらに向けた。

硬直はしなかった。
ただ、私はこういうとき彼女に掛ける言葉を、いつものように持ち合わせてはいなかった。

彼女が、何か言いたげに、薄い唇を動かす。
声にならない言葉が喉の奥に詰まったかのように、彼女は苦しげに眉根を寄せて、聞こえない音を、きっと私に向けて発し続けた。

やがて、言いたいことがなくなってしまったのだろう。
もしくはもう、詰まり過ぎて言葉すら出てこなくなったのかもしれない。彼女は本のページを開けたまま、私に、歩み寄ってきた。正確には、丸机の向こうの、もう一つの古びた椅子に。
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方) [saga]:2011/12/05(月) 20:05:17.60 ID:2NFzAnft0
とりあえずここまで、一週間以内には完結させたい
ここまで見てくださった方ありがとうございます
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/05(月) 20:12:33.70 ID:wEpHMSsSO
期待
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関東・甲信越) [sage]:2011/12/05(月) 21:06:43.00 ID:Sa2dGF+AO
なんだ……このガチな感じ
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方) [saga]:2011/12/06(火) 12:09:30.16 ID:A2d0SDiX0
彼女はぎっと音をたてて、椅子に座った。
俯いた恰好でただ彼女は座っただけだった。もう私に目を向けることもなく、ただ開いたページに相変わらずの迷う視線を落としたまま、彼女は黙って、丸机を隔てた向こう側にいた。

私はそれでも、彼女を見詰めた。
ああ、ああ。
彼女は確かにそこにいた。確かに、そこにいたというのに、そこにはいない気がして、さっきよりももう少し、焦ってしまった。焦るというよりは、恐怖に近いのかもしれない。たとえるならばライオンに追いかけられるシマウマの気持ちだろう。死にもの狂いで逃げる、シマウマの気持ちだ。

いつ消えてなくなるかわからないほどに、彼女は透明に見えた。
以前のような白さが、突然色をなくしたように思えた。
それはきっと今も、彼女の一心さが見受けられないからなのだろう。
ああ、それに。
透明に見えるのに、透明ではない。まるで手垢だらけの窓ガラス。
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方) [saga]:2011/12/06(火) 12:23:20.27 ID:A2d0SDiX0
疲れてしまって、彼女はついに色までもを見落としてしまったというのだろうか。
それとも何か言いたげな言葉のかわりに、落としてしまったのだ。
私には彼女の疲れがなにを意味するのか、わかる気がした。彼女の妙に落ち着いた雰囲気と、それに見合わない落ち着かない視線と、それから透明な、彼女自身のことが、なにを意味するのかわかる気がした。

彼女は向かおうとしているのだ、きっと、暗いくらい闇の底へ、向かおうとしていて、躊躇っている途中なのだ。
それで、その躊躇いが彼女の疲れを呼び、彼女の色を失わせていっているに決まっている。

ああ、お願い。
私は思った。こっちを向いて。今ですら、彼女に掛けるべき言葉がわからないというのに、私は彼女に願った。お願いだから、こっちを向いて。そうすれば、なにかが変わるかもしれない。私が変えられなくても、ふと、なにかが変わるかもしれないというのに。

けれど、終ぞ彼女がこちらを向くことはなかった。
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方) [saga]:2011/12/06(火) 12:28:49.13 ID:A2d0SDiX0
ゴーン、ゴーン。
錆び付いた音が、またしても今にも崩れそうな館内に、響いてしまった。

彼女は結局、一ページも読み進めることなく、本を閉じた。
はやく、はやく。
彼女を私ではなく、別の誰かが呼んでいるかのように、彼女は脇に本を抱えたまま、立ち上がった。さっきのように緩慢な動作ではなく、スッと立ち上がった。それなのに、私にはむしろ、それが仕方ないのだという諦めにも似た行動な気がしてならなかった。

視界が、闇へと変わっていく。
私は、じっと、動かない椅子に座ったまま、彼女を見送った。
彼女の脇に抱えた本の背表紙のタイトルが、見覚えのあるもののような気もした。

ふらふらとした足取りの彼女を、次に私が見つけるとき、彼女の姿はもうほとんど見えなくなっているんじゃないだろうか。ふと、そんなことを考えた。
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方) [saga]:2011/12/06(火) 12:29:15.67 ID:A2d0SDiX0
とりあえずここまで
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/06(火) 16:17:20.68 ID:UEWRO7bk0
ふむ。
これはまた高難易度のSSに挑戦したな。期待して見てるぞ
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/06(火) 21:45:21.31 ID:Jjxqnl3SO
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方) [saga]:2011/12/07(水) 19:46:19.01 ID:7K7PQ3aw0
需要あるなしに関わらず書き溜めなしで息抜きにのんびり書いてく
が、ここでこんなの書いていいのか少し不安
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方) [saga]:2011/12/07(水) 20:51:53.56 ID:7K7PQ3aw0
けれど、次に見た彼女は、これまでと同じように大した変化はなかった。
なぜなら、彼女を見かけたのはその数日後のことだったからだ。一日も経っていないのかもしれないが、何しろ私には時間の感覚が人とは違うようだから、よくはわからない。それでも彼女の服装や身体の変化などで、ああ、外ではこんなにも時間が経っているのだと感じることくらいはできる。そして、彼女を見かけるたびに私は時間の流れを感じた。彼女を見て、なんの時間も感じないのはこれが初めてだった。

彼女はもう、私の隣にいた。
前のときのように、私を見て、近付いてくるわけではない。いつのまにか、私の隣に、丸机を挟んだ向こう側に、彼女はいた。

ああ。
それでも。

やはり、こんなにも消えそうだ。
手を伸ばしてもすり抜けそうなほどだと、私は思った。手を伸ばして確かめたい気もしたけれど、それはやめておいた。彼女はじっと、本棚を見ていた。文字ではなく、本棚を、迷う視線で、見ていた。
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方) [saga]:2011/12/07(水) 21:31:31.25 ID:7K7PQ3aw0
今日の彼女は、異世界へと飛び立つためのものが何一つ、なかった。
いつも物語を優しく包むようなその手にも、なにもない。
ただ、丸机の上に積み上げてはまた積み上げて、その繰り返しである紙の束が、代わりのようにあった。私の読みかけの本が、一部崩れた紙切れたちに埋め隠されていた。

私は彼女を見詰めた。
いつものように、見詰めた。
それで、彼女の疲れはちっとも消えてはいないし、深まっているのだとわかった。きっと彼女は、疲れすぎて、身体に溜まりすぎて、動けないのだ。だから、いつものように、物語の中に飛び込むことができない。

本を手にとることすら、できないのだ。
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方) [saga]:2011/12/07(水) 22:08:57.91 ID:7K7PQ3aw0
気付いた私は、彼女の横顔ではなく、丸机に目を落とす。
私の、読みかけの本を覆うルーズリーフたちは、彼女の大事なものであると思っていたのに、そこには何も書かれていなかった。私はそれをそっと払っていった。その下にある本は、すぐには見付からなかった。それでも、何枚も、何枚も、丸机からひらひらと紙切れが落ちていくのを見ながら、私は読みかけの本を、手に取った。

ある物語の、始まりの始まりが刻まれたもの。

私にはもう、迷いなんてなかった。迷う暇すら、なかった。
私は彼女に言った。もしもし、この本はいかがでしょう。
彼女はぴくりとその優しい手を動かして、迷いある視線を、初めてきちんと、私に向けた。ゆらゆらと揺れているのに、ああでもその視線はとてつもなく、真直ぐには変わりなかった。この視線だけは、なにも変わっていないのだと、私はこのとき、知った。
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方) [saga]:2011/12/07(水) 22:10:25.61 ID:7K7PQ3aw0
今日は以上
ここまで見てくださった方ありがとうございました
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です) [sage]:2011/12/07(水) 22:51:33.02 ID:glNp2QfSO
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