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女勇者「頼む、仲間になってくれ!」黒騎士「報酬はいか程で?」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [age]:2011/12/13(火) 22:24:01.83 ID:AxU752QU0


その日、『西の王国』の都は、各地から訪れた数多くの騎士たちの為にごった返し、常以上のにぎやかさを見せていた。
騎士たちは皆、綺麗に着飾って、自身の従者、従僕にも、いつもとは違うとっておきの一張羅を着させていた。
宿という宿はこうした騎士たちや、その従者達で悉く満員であり、酒場は昼からこうした来客達の宴で盛り上がっていた。

明日、「馬上槍試合(トーナメント)」が、この都にて開催されるのである。

「馬上槍試合」とは、その名の通り、騎乗し、武装した騎士たちによる武芸試合の事である。
その形式には幾つかの種類が存在するが、だいたいは以下の様な代物である。

出場する騎士たちは規定時間内、特定の試合場で、2つ、あるいは幾つかのチームに別れて対戦し、
時間が終了した時にチームの残り数が多かったチームを勝者とする。
勝者は、主催者――多くの場合は王より褒美を賜り、名誉を得、時には麗しきご婦人がたの寵愛を得る事も出来るのである。

尚、名前には「馬上槍試合」とあるが、武器は槍とは限定されず、剣やこん棒が使われる事も多かった。
そして、使われる武器は、必ず殺傷力が無い様に特別に作られた物が使用された。
それでも、怪我人は数多く、時には死者すら出る事もあったが、血気盛んな騎士の祭典である、さほど気には留められてはいなかった。

諸侯同士のいさかいを平和的に解決する手段として、あるいは祝祭の一環として、
はたまた戦争の大規模な演習として開催され、今回の場合は祝祭の一環であり、
飛び入り歓迎、乱入者歓迎の、実に自由で大規模な「馬上槍試合」で、
名のある諸侯や騎士のみならず、所領を失った牢人騎士、武者修行中の遍歴の騎士、
特定の主に仕え無いフリーランスの傭兵騎士と言った、海千山千有象無象の騎士たちが参加する、
数ある「馬上槍試合」の中でも特に大きく、そして名誉ある代物であった。
騎士たちは、名誉、報酬、を求め、あるいは単純に自身の名を挙げる為に都の集っていた。

さて、そんな街の賑やかな様子を尖塔の上より眺める一人の男が居た。
この『西の王国』の王である。その傍らには、彼の側近である大臣が控えている。

西の王「フフフ……中々の盛況ぶりではないか」
大臣「はは。真に。これだけの騎士が集うとは。王の威名の為せる技でしょう」
西の王「当然だ。わし自らの主宰した馬上槍試合よ。人の集まらいでか」
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ミカオだよ。 @ 2024/04/11(木) 20:08:45.26 ID:E3f+23FY0
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アルミン「どうやら僕達は遭難したらしい」ミカサ「そうなんだ」 @ 2024/04/10(水) 07:39:32.62 ID:Xq6cGJEyO
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2 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [age]:2011/12/13(火) 22:25:31.37 ID:AxU752QU0

王は得意そうに街の盛況を眺め、大臣はそれに追従する。
この『西の王国』はこの『大陸』でも有数の強国である。
その王の名のもとに開催された「馬上槍試合」には通常の「馬上槍試合」よりも遥かに多い数の騎士たちが集っている。
開催者の権力の大きさは、勝利より得られる名誉、褒賞の大きさとそのまま比例するからだ。
街を満たす熱気を見て、王は、始まる前から「馬上槍試合」の大成功を確信し、王は満面の笑みを浮かべている。

しかし、その笑みに、不意に影が一つ差す。
王は、傍らの大臣に問うた。

西の王「してだ、大臣。『例の男』の姿は真に見えぬのだな?」
大臣「ハッ。それは間違い御座いません」

王の問いに、大臣は間髪いれずに答える。

大臣「出場希望者の受付を任せた祭司長に聞きました所、彼奴の名は登録簿に無いとの事」
大臣「また、人を遣って城下の宿という宿を見張らせておりますが、彼奴らしい姿は見えておりません」

西の王「……真だな?」

大臣「然り」

西の王「ならば、良いが……」

大臣の返答の内容に安心した様子を見せた王であったが、
しかしその顔に差した影が完全に消えたわけでは無かった。

彼らの懸念する『例の男/彼奴』は、「馬上槍試合」とくれば必ずといって良い程姿を現す相手だ。
用心するにこした事はなかった。

――しかし彼らの用心と苦労は無駄になった

――『例の男』は既に、人知れず城下へと現れていたのだ

3 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [age]:2011/12/13(火) 22:25:59.91 ID:AxU752QU0


――翌日


城下町の広場に特設された試合場には、観客席用の桟敷が設置され、
そこは観客の貴婦人や、貴族騎士の子弟達に満たされていた。
その中でも特に眺めの良い席には、王と王妃その家族、そして王の側近たち、王妃の侍女たちが陣取っていた。

試合場とその外とを仕切る柵が何重にも敷かれ、
その外には「馬上槍試合」を観戦せんと街の市民、町人、旅人が鮨詰め状態の大群衆で押し掛けている。

そんな群衆の間に強制的に開かされた道を、色取り取りの紋章入り軍旗を掲げて、騎士たちが試合場へと行進してきた。
観衆が、歓声でそれを迎え入れた。

行列は身分の順番である。
まず最初の方には爵位を持った貴族、あるいは位の低い王が馬を進め、それに騎士達が続く。
それらに続くのは、自由参加の騎士達、遍歴の騎士や、傭兵の騎士、
さらには遠く『絹の国』や『黄金の島』からやってきた武芸者達である。

参加者の騎士達は、それぞれが武芸上覧様の煌びやかな装飾付き武器甲冑に身を固め、
その華々しさ、その色彩の豊かさ、醸し出される戦いへの意気込みに、観衆の熱狂はいよいよ強まる。

バリエーションと個性に富んだ騎士の行列……

その最中にあっても尚、一目を引く騎士が、一人いた。
4 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [age]:2011/12/13(火) 22:28:05.03 ID:AxU752QU0

その騎士を見た観衆達の間にはどよめきが走り、
桟敷の上の貴婦人達、王族たちには動揺と、苦虫を噛み潰した様な苦渋が広がる。

自由参加の騎士達の列の中にいたその騎士の印象を、一言で説明するならば、この一語しかそれに相応しい言葉は無いだろう。

すなわち――『黒』、である。

その容貌をすっぽり覆う円筒形のグレートヘルムも黒ならば、
身に纏ったチェインメイルも黒、その上に着たサーコートもまた黒、
籠手も黒ならば、脛当ても黒、腰に帯びた剣も黒で、それを留めるベルトも黒、
跨る馬も黒、手にした槍も黒く染められ、さらには、騎士達にとっては非常に重要な、
自身の『家』を示す紋章を記す場所である盾、軍旗も、黒一色に塗り潰されているのである。
加えて言うならば、その傍らに付き従った、従者の衣服も黒尽くめなのである。

観衆の間に、ざわめかがさらに広がり、皆口々に、騎士の事をこう呼んだ。

市民A「……『黒騎士』だ」
市民B「ひょっとして……“あの”『黒騎士』か?」
市民C「噂の『黒騎士』が……この『西の王国』に?」
5 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [age]:2011/12/13(火) 22:30:04.80 ID:AxU752QU0

通常、騎士とは『叙任』を受けて騎士となり、
その盾と軍旗、場合によってはサーコートにも、
自身の『家』を現す『紋章』が刻印され、『紋章』は王家によって厳重に管理されている。

紋章とは騎士にとっては『命』と等しく大事なモノであり、軍旗は我が身の分身でもある。

その騎士が紋章を黒く塗りつぶす……それはまともな騎士では無いと言う事だ。
何らかの理由で位をはく奪された者、そもそも叙任を受けていない下賤の傭兵だと言う事なのだ。

そういう騎士の事を、人は一般的に『黒騎士』と言うのであり、
つまりは『黒騎士』と言う言葉は一般名詞であって、この騎士だけを指す言葉では無い。

しかし、今やこの『西の王国』において、
否、この『大陸』において『黒騎士』と言えば、
今この場に居る、この黒い怪人物を指す言葉になりつつあった。

西の王「(……『黒騎士』めっ!!)」
大臣「(薄汚い野良犬の分際で……)」

王と大臣は黒騎士の姿に、顔にはそれを御くびにも出さず、しかし胸中にて毒づいた。
6 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [age]:2011/12/13(火) 22:32:38.99 ID:AxU752QU0

――『黒騎士』

王にとっても、大臣にとっても、馬上槍試合には、決して出場させたくは無かった男である。
しかし、この伝統ある『太陽祭』の馬上槍試合においては、参加において如何なる制約を設けないのが『しきたり』である。
故に、その参加を阻止すべく網を張っていたのだが……

『黒騎士』は参加者受付の期限ギリギリに、まるで幽霊の様に突然、受付所であった神殿へとフラリとその姿を現したのである。
王にも大臣にも、完全なる不意打ちであった。

西の王「(ここまでくれば……参加者の騎士達、王達の実力を恃む他あるまい……)」

この『黒騎士』は、各地で開催されている「集団馬上槍試合(トーナメント)」、「個人馬上槍試合(ジャウスティング)」に顔を見せては、
それを散々に荒らして行く『トーナメント荒らし』の様な存在であるのだ。
その圧倒的な実力で試合を荒らしまわっては、褒賞を根こそぎ分捕って行く、賞金稼ぎなのである。

「馬上槍試合」において、敗者が試合場の地面に落して行ったモノは、その全てを勝者が獲得する権利を持ち、
「集団馬上槍試合(トーナメント)」の場合は、自分の倒した相手を「捕虜」とし、「身代金」を獲ることも出来る。

『黒騎士』が「馬上槍試合」おいて望むのはこれらであり、彼は名誉や武名には一切興味が無い。
彼が「馬上槍試合」に参加するのは、全て、これらの「役得」が目当てなのである。
7 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [age]:2011/12/13(火) 22:34:35.00 ID:AxU752QU0

――しかし、この『太陽祭』の『馬上槍試合』は、諸国より実力者の集う武闘大会

実力者は『黒騎士』だけでは無いのだ。
このハイエナの様な傭兵騎士に荒らされる様な、地方のモノとは違うのだ。

――『白い島』の『獅子心王』

――『森の国』の『赤髯王』

と言った、武名で鳴らした諸国の王族達が本馬上槍試合には参加しており、
『西の王国』からも、

――『鉄槌の騎士』

――『鏡の騎士』

――『銀月の騎士』


と言った名だたる勇者達が参戦しているのだ。
下賤な黒騎士如き、どうして気にする必要があるものか。

西の王「(いや、よくよく考えれば杞憂よな)」

と、西の王は余裕を取り戻し、
騎士達に『太陽神教』の祭司長が、ルールの説明をするのに耳を傾けたのだった。

8 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [age]:2011/12/13(火) 22:38:39.56 ID:AxU752QU0





黒騎士「グフフ……グハハハハハハ……」
黒騎士従者「黒騎士さま、今回も大漁で御座いましたね」
黒騎士「いやぁ…最高だった最高だった。あの王様の悔しそうな顔ときたら……ククク……」

西の王国の都より少しばかり離れた森の中。
そこにキャンプを張り、火の起きた薪を従者と囲むのは、件の黒騎士である。
時刻は夜で、月は既に夜空に登っている時分である。

黒騎士の手の中には、今回の「馬上槍試合」の戦利品の数々があり、
それらは、薪の火の光に当てられて、きらびやかに輝いている。

例えばそれは、兜の前立てであったり、マントの留め金であったり、
立派な拵えの剣であったり、と、要するに、先程の「馬上槍試合」に参加していた連中からはぎ取った品々である。
兜だとか鎧だとか、馬だとか、旅に嵩張る代物は城下で既に売って金貨銀貨銅貨に換えていた。

今度のトーナメントも、彼の独壇場であった。
数々のトーナメントを荒らしまわり、戦利品の数々をもぎ取って行った彼の獲物に、新たに『西の王国/太陽祭の馬上槍試合』が加わったのである。

トーナメントは最初こそチーム同士の戦闘であるが、途中からは入り乱れての乱戦になる。
味方を敵と上手く潰し合わせ、その上で、自分はそつなく生き残り、そして彼は勝者となった。
闘う際も、敵の武具甲冑の装飾品を、わざとこそぎ落として、地面に落とすのも忘れない。

地に落ちた代物は、全て勝者の獲得物である。

9 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [age]:2011/12/13(火) 22:46:46.08 ID:AxU752QU0

薪を囲み、酒杯を仰ぐ彼ら2人の背後には、
先程挙げた以外の戦利品の数々、馬の装飾用のビロードだとか、
色取り取りのサーコートだとか、それほど重量になりにくい、布系の戦利品や、
報奨金の金貨の袋、身代金の金貨の袋が、黒騎士の乗る馬とは別の、従者の乗る荷馬車の上で積みあがっていた。

本来ならば、トーナメントの終わった後は、大々的に城などで宴をやる物だが、
黒騎士は主を持たぬ一匹狼である、宴もそこそこに、さっさと都から引き上げて、
こうして森の中で気心のしれた従者とこっそり祝宴を開いているのである。

あまり都に長居すれば、後ろ盾を持たぬ黒騎士に、『逆恨み』の連中が数を恃んで襲い掛らないとも限らない。
祝うのは、安心できる場所に逃げてからであった。

黒騎士従者「しかし……トーナメント荒らしも、これぐらいで打ち止めで御座いましょうなぁ…」
黒騎士「そうさな。少しばかり派手にやりすぎた。いい加減、出禁になっても仕様があるまいて」

2人は、安物の葡萄酒をあおりながら、しみじみと言う。
10 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [age]:2011/12/13(火) 22:53:13.24 ID:AxU752QU0

今回のトーナメント荒らしは戦果も大きかったが、対価も大きい。
何せ、この国の実力者の顔に、泥を塗ってしまったのだ。
次からは、最早なりふり構わず、彼の試合への出場を止めて来るに違いない。

何事も、やりすぎは『命』の関わる。
ここらが潮時だろう。

黒騎士従者「しかし、次はいかがいたしましょうや」
黒騎士「ここいらは大きな戦が無くて平和だからなぁ〜〜せいぜいあるのは小競り合い」
黒騎士「しかしそれじゃぁ、仕事のし甲斐もあるまい」
黒騎士「けれども今更、どこぞの王に仕える気も起きん」
黒騎士「東にでも行くかな……『絹の国』や『黄金の島』…『砂の国』では大きな仕事があるかもしれん」
黒騎士従者「……」

2人は根なし草の傭兵である。
身に纏う武具は、一応『騎士』とその『従者』の範疇に収まるとは言え、
所詮は傭兵、下賤のハイエナである。
求めるのは戦場だ。
11 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [age]:2011/12/13(火) 23:01:02.20 ID:AxU752QU0


黒騎士従者「……」
黒騎士「ん?どうした従者よ。何だ暗い顔をして、酒が進んでおらんぞ。」

急に黙りこくってしまった従者に、黒騎士は自身の杯と従者へと突き出すが、
彼はそれを受け取る事無く、不意に真剣な表情で黒騎士を見ると、

黒騎士従者「……そろそろ……」
黒騎士「ん?」
黒騎士従者「身を固める時ではございませんか……『王――」

黒騎士「それ以上言うな」
黒騎士従者「し…しか……」

黒騎士「 言 う な 」
黒騎士「と、言った、ぞ」

急に口調を改めて何かを言おうとした従者の言葉を、黒騎士は遮った。
2人だけの楽しげな宴は一転、何やら妙な空気が流れだすが……

黒騎士「――」

黒騎士が、不意に立ち上がる。

12 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [age]:2011/12/13(火) 23:11:52.16 ID:AxU752QU0

黒騎士従者「……どうされました?」
黒騎士「聞こえぬか?」
黒騎士従者「?」

言われて従者が耳を澄ませば……微かであるが、確かに微かな、何かの音が聞こえる。
これは……馬の蹄は、地を蹴る音だ。

黒騎士従者「追手でしょうか?」
黒騎士「かもな……面倒な」

黒騎士は傍らに置いていたグレートヘルムを取ろうとして、止めて、
左手で無精ひげを撫でながら、右手で腰のロングソードを抜いた。

グレートヘルムは視界が良くない。
こんな夜にそんな物を被れば前も録に見えなくなるだろう。

従者は従者で、愛用の手斧を馬車より取り出すと、黒騎士の後に続いた。

2人がキャンプを張っていた所は、街道からそれほど遠くない場所であり、
直ぐに彼らは街道に戻る事が出来た。

手近な木の陰に隠れて、2人は、その近づく足音を徐々に大きくする『誰か』を待ちかまえる。
13 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [age]:2011/12/13(火) 23:18:28.35 ID:AxU752QU0


足音の主は、程なく姿を現した。
どうやら、騎士のようである。それも単騎。追手ではなさそうだ。

馬は懸命に走っている様で、しかしその速度は思いの外遅い。疲れているらしい。

騎手はさらに疲れているらしく、その体は必要以上に馬上で揺れて、遂には――

黒騎士「お」
黒騎士従者「これは」

2人の隠れる木の側へと到達する前に、騎手は落馬してしまったのである。
それも、尋常の落馬ではなくて、ドサリと、まさに落ちる様に落ちたのである。

2人は、落ちた騎手へと近づいた。
暗闇で良く見えなかったが、怪我が酷い惨憺たる有り様の騎士だった。
背中には幾本かの矢が突き立ったままで、鎧は所々破損しており、兜は何処かに打ち捨てられてしまっているようだった。

謎の騎士「ハァ……ハァ……ハァ……」

瀕死の重傷である。
黒騎士の見立てでは、腕のある『魔術』や『神術』の使い手に診てもらわなければ、助からないだろう怪我であった。
14 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [age]:2011/12/13(火) 23:24:18.40 ID:AxU752QU0

謎の騎士「……き……君に……」

謎の騎士には、どうやらまだ意識があるらしい。
黒騎士は、謎の騎士の上体を抱え上げてやると、その言う事を聞いた。

謎の騎士「王に…西の王国の王に……伝えて……欲しい……」
黒騎士「ああ。何を伝えて欲しい?」

謎の騎士は、以下の言葉を、黒騎士に託した。

謎の騎士「私は……『長城(リメス)』を護る……」
謎の騎士「『辺境伯』の……配下の騎士……」
謎の騎士「『長城』が墜ちました……相手は……相手は……」

謎の騎士「ま……『魔王軍』……」
謎の騎士「『魔王』が……百年……ぶりに……」

そこまで言って、騎士は事切れた。
15 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [age]:2011/12/13(火) 23:31:52.71 ID:AxU752QU0

黒騎士「……」
黒騎士従者「……」

2人は、騎士より託された言葉を噛み砕き、その意味を考える。
騎士のサーコートに描かれたその紋章……それは確かに、『辺境伯』が率い、『長城』を守護する、『聖堂騎士団』の紋章である。
つまり、確かにこの男は、『聖堂騎士団』の団員であり――

黒騎士「(『長城』が墜ちた……『魔王』の手によって……)」

彼の言っている事は、百年前、『長城』の向こうへと追いやった『魔王軍』が、

黒騎士従者「戻ってきた……と言う事ですか……『魔王』が……」

つまりはそう言う事であった。

黒騎士「……」

黒騎士は、無言で我が愛馬の元へと戻り、従者もそれに続く。
馬にまたがい、従者へと黒騎士は言った。

黒騎士「戻るぞ」

西の王国の都へとである。

黒騎士従者「伝えるのですか?」
黒騎士「応よ。しかし、それにしても従者よ!!」

黒騎士は馬上で白い歯を月光に光らせ、にやりと野獣の様に笑い、言った。

黒騎士「俺は良い時代に生まれたもんだ!!」
黒騎士「戦争が始まるぞ!!」

嬉しそうに、そう言った。

16 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [age]:2011/12/13(火) 23:32:51.13 ID:AxU752QU0

そう、黒騎士の言うとおり、戦争が始まるのだ。

魔王軍と、人間の、百年ぶりの戦争が――





――続く


17 : [age]:2011/12/13(火) 23:34:30.25 ID:AxU752QU0
という感じのオリSSを始めていきたく思います。
表題の女勇者は、次の話からの登場です。

投下速度は、それほど速くは出来ません。ゆっくり進行になると思います。

それではまた次回も、読んで頂けると幸いです
18 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 23:34:54.91 ID:y2gk3b+Zo
おつ
期待してるぞ
19 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/13(火) 23:41:15.78 ID:06qLsXdvo
とりあえず期待
20 : [age]:2011/12/14(水) 00:07:42.65 ID:/WlRUQiq0
少しだけ続きを投下
21 : [age]:2011/12/14(水) 00:08:31.67 ID:/WlRUQiq0

――『人間』と『魔族』

――かたや『太陽の神』を奉じ

――かたや『闇の魔神』を奉じる、二つの種族

――この二つの種族は、永い永い年月

――合い争い、殺し合い

――終わりの見えない戦いを続けていた


――そして百年前、一つの決着がついた

――太陽神の加護を一身に受けた選ばれし『勇者』が

――魔族の王、『魔王』を斃し

――勇者に続いた人間の軍勢が

――魔族を北の荒涼たる大地に追いやったのだ

――人間は北に長大な『長城』を建設し

――そこを一つの騎士団に守護させた


――それより百年の月日が流れ……

――新たな『魔王』に率いられた、魔王軍が動き出す

――そして人間にもまた

――新たな『勇者』が……


22 : [age]:2011/12/14(水) 00:15:28.46 ID:/WlRUQiq0


『西の王国』の西南部に、その小王国は存在する。
人々からは『太陽の王国』と呼ばれるその国は、その名の通りに、
この世界の人間の中心的宗教である『太陽神信仰』の中心的な聖地であった。

数々の神殿が立ち並び、国は僅かな武人と、数多くの聖職者におって治められている。
国土は小さく、耕作地もそれに比例して小さく、それ故に税収は少なかったが、
聖地へと巡礼する熱心な太陽神信者達の落とす喜捨やお布施の為に、この国は豊かであった。

――この国には一つの王家があった

百年ほどの歴史を有する、比較的新しい歴史を持つこの王家は、
この国の数少ない武人達の長にして、聖職者達の長でもあった。

何故か、その理由は簡単である。

この王家の祖、こそが

――太陽神の恩寵をその身に受けた、『勇者』その人に他ならないからである
23 : [age]:2011/12/14(水) 00:21:38.79 ID:/WlRUQiq0


『勇者』には、太陽神よりの溢れる恩寵が注がれたが為に、
彼は、人を遥かに超越した力を持ち、人よりも往々にして強い力を持つ魔族すら、容易く斃したと、
史書には伝えられているが、その受けた恩寵は、『勇者』の肉体に『聖痕』として刻まれたと言う。

『勇者』は背中に刺青上状の『聖痕』を持っていたのだ。
十字に円を重ねた『太陽十字』。『太陽神信仰』の、最も尊い宗教的シンボルを象った『聖痕』を。

そしてその『聖痕』は、代々その子へと受け継がれたのだ。

ただし、如何に勇者の血族がどれ程の子を為そうとも、力が受け継がれる子供は一人だけ……

そして今代、その力を受け継いだのは――

――未だ、十と半ば程の齢の、一人の少女
24 : [age]:2011/12/14(水) 00:22:16.65 ID:/WlRUQiq0
取り敢えずこれだけ。続きはまた
25 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/14(水) 02:43:56.56 ID:7BT4dAovo
期待あんどおつ
26 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/14(水) 02:47:43.11 ID:VbdN0BQR0
期待乙
27 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/14(水) 07:41:48.66 ID:AgslUnKIO
追いついた!乙
28 : [age]:2011/12/14(水) 22:39:03.76 ID:/WlRUQiq0
再開します
29 : [age]:2011/12/14(水) 22:40:50.78 ID:/WlRUQiq0

山と切り立った崖に囲まれた窪地にある『太陽の王国』の都、通称『太陽の都』。

この都には王城は存在せず、その代わりに、王城を兼ねた巨大な『太陽神殿』がその威容を湛えている。

『太陽神殿』は神殿にある程度の防御機能と、王族、高位聖職者の為の居住機能を備えた巨大神殿で、
その白亜の姿は、この大陸の中で最も美しい建物の一つと言われている。

聖地たる『太陽の王国』の中でも最も聖なる聖地が、この『太陽神殿』なのである。

この『太陽神殿』は都を囲む崖の一つに生じた裂け目の直ぐ側、崖にへばりつく様な形で建設されているが、
何故そんな不安定な場所に建設されているかと言うと、それには理由があった。

この崖の裂け目に強い風が吹き込むと、裂け目の持つ奇妙な地形の効果により、
裂け目は一種の楽器となって、風に、唸る様な、奇妙な音色を奏でさせるのである。

この奇妙な風の音に乗せて古来より、『太陽神』は人々に『神託』を与え続けてきたのである。

そしてつい先日、古来よりそうしてきた様に、新たな神託が、神殿の聖職者達に下された。
それは、一人の少女の運命が動き出す事を告げる、始まりの鐘であった。

30 : [age]:2011/12/14(水) 22:41:23.52 ID:/WlRUQiq0


――『太陽神殿』
――『至神所』


『至神所』とは、神殿や教会などにおける最も神聖であるとされる場所であるが、
『太陽神殿』にも当然のことながら『至神所』が存在している。

その『至神所』は、その神聖さ故に普段人が寄りつく事は無く、
僅かにその管理を任された神官達が掃除や点検をするだけである。

しかし今日は違った。
普段であればまず見られない程の大勢の人間で、『至神所』は満たされていた。
それらの人々はいずれも礼服を身に纏った、高位の騎士や聖職者、そして巫女達であった。

その煌びやかな礼服の群れに包まれて尚、一目を惹く一人の少女が、人々の輪の中心にいた。

赤いビロードで出来た男性用の礼服に身を包み、金色の髪を短く切った少女である。
しかし男装はしていても、その胸部に備わった双丘は実に豊かであり、
一本芯の入った凛々しい表情をもった顔も男を惹きつけるまだ幼さの混ざった美貌である。

少女は、ゆっくりと、背筋をスラリと伸ばして、至神所の最奥、
そこに設けられた御影石の台座へと歩み寄って行く。

その背後では、巫女達が、『太陽への賛歌』という名の聖歌を、麗しき声で合唱していた。
31 : [age]:2011/12/14(水) 22:43:56.32 ID:/WlRUQiq0

少女「……」

少女が台座へと到達した。
台座の上には、シンプルなデザインの放射形状の金の王冠が置かれていた。
放射状の冠は、古来より『太陽』の象徴である。

少女は、台座の前に跪くと、静かに聖句を、
鈴の鳴る様な綺麗な声で述べはじめる。

――天にまいす我等が太陽

――なんじの名は聖なりて

――なんじの光は天を遍く照らし

――地をも照らすなり

――願わくば、我にその御力を授け給へ

――我、なんじの剣となり、盾となりて

――なんじが敵を討ち、その血をなんじに捧げん

――とがびとよ地より消え

――悪しき闇、滅ばされるよう

――我が魂、日を讃えん

――かしこみかしこみ、我申し上げ奉る……
32 : [age]:2011/12/14(水) 22:47:56.69 ID:/WlRUQiq0

聖句を一通り唱え終われば、少女は立ち上がり、
台座の王冠を手に取ると、厳かな仕草で、それを自ら被ったのである。

王冠を被り終えた少女は、振り返り、
一様に立て膝を突く形で跪いた人々を見渡し、
腰の剣を鞘より抜いて、それを掲げ、宣言した。

少女「ここに…私が栄えある『太陽の戦士』として」
少女「当代の『勇者』を継ぐ事を、ここに宣言するッ!!」

人々は一斉に立ち上がり、武人は腰の剣を抜き、神官は手にした杖を掲げ、それに歓声を以て応えた。

――ここに、百年続いた『勇者』の系譜の

――その『当代』が誕生した

――人々はそれを歓声で迎えつつも

――内心では不安と苦渋、そして煩悶を渦巻かせる

――なぜならば当代の『勇者』は未だその齢、十代の半ば

――加えて、『少女』だからであった

33 : [age]:2011/12/14(水) 22:57:29.07 ID:/WlRUQiq0


――少し時間を巻き戻せば

――事の始まりは、この儀式の日より数日前

――ひとつの『神託』が、『太陽神殿』に齎された事である


神官長「……それは真か」
巫女「はい、確かに、今朝の神託で、そうと……」
神官長「ぬぬぬ」

巫女より告げられた神託の内容に、神官長は顔を顰めた。
その神託は短く、以下の様なものであった。


再び夜が来たりて、月ぞ昇らん

勇者よ、それに備うべし


短いながらも、その神託の意味する所は、神官長には容易く理解できた。
『再び夜が来たりて、月ぞ昇らん』と神が言うのならば、その意味する所は一つ。
――『魔王』の再び動き出す可能性が高いと言う事である
34 : [age]:2011/12/14(水) 23:02:41.62 ID:/WlRUQiq0
ちょいと中断します
35 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/14(水) 23:45:47.32 ID:GIDxoY/Fo
太陽万歳! 久しぶりに読みたいものができた。続きが楽しみ
36 : [age]:2011/12/14(水) 23:50:11.03 ID:/WlRUQiq0


これまでもの百年の間にも類似した神託が来る事は幾度かあって、
その度に、規模の大小の差はあれ、『長城』へと北より魔族の軍勢が押し寄せたものであった。

幸い、それらの規模は決して大きく無く、『長城』を護る『聖堂騎士団』に悉く撃退されてきたのであるが、
今回の神託では、『勇者』へも警告を発している事から、より大規模な侵攻が予想された。

故に、『太陽の王国』では直ちに実力者達が招集され、会議が開かれた。
今度の神託の内容は由々しき内容である為に、それを諸国へと伝達する必要が有りや無しやを、人々に問う必要があった為である。

これまでの百年では全て『長城』と『聖堂騎士団』に任せておくだけで、一切問題は無かったのである。
諸国にわざわざ早馬の伝令を出して、無駄に事を荒立てる必要も無い、と言う考えもあったのだ。

会議の結果、伝令はわざわざせずとも良いが、念のため、
当代において『聖痕』を持つ者に、『勇者』の継承の儀式だけは済ませておくことに決まった。

『勇者』になれるのは『初代勇者』の血を引く者で、その背に『聖痕』を宿したもののみ。
故にこれまでの百年は、『聖痕持ち』が十歳になるころには、『勇者継承』の儀式は済ませておくのが慣例であったが、
当代に限っては、『聖痕持ち』が十代も半ばになろうというのに、未だ儀式は執り行われていなかった。

――当代の『聖痕持ち』が、『少女』であったからだ

37 : [age]:2011/12/14(水) 23:57:29.53 ID:/WlRUQiq0

これまでの『聖痕持ち』は全て『男子』であり、
故にこれまでの百年間、『勇者』は全て男であった。

また、『太陽神』は男性格の神であり、故に、太陽は男性を象徴すると、この大陸では考えられてきた。
では、その『太陽神』の恩寵を最も深く受けている筈の『勇者』が『女』であると言う事は、一体何を意味するのであろう。

この世界は、おおよそ『男尊女卑』である。
特に、身分の高い者達の間では強くそうである。

それ故に、当代『勇者』たる『少女』が、最初に『聖痕』を持って生まれた時は、『太陽の王国』は上に下にの大騒ぎであった。

しかし、如何に騒ごうとも事実は変わらず。
『勇者』を継げる者は『聖痕持ち』のみ。
例え『女子』でも、それが『聖痕持ち』ならば、彼女が『勇者』にならねばならぬ。

例え、彼女以外の兄弟が全て男で、その悉くが武芸、あるいは学識、はたまた神術に優れた騎士・僧侶であってもだ。
38 : [age]:2011/12/15(木) 00:08:01.04 ID:yn6TA32W0


2人共に幼少より利発さを見せ、2人共にそれぞれの道で優れた能力を見せたが、
彼らの背に浮かんでいるのは、所々欠けた、『不完全な聖痕』である。

『勇者』の血は、その血族全てに流れる為、その血に宿った『太陽の力』は、全ての一族に宿り、それは『痕』となる。
しかし、如何なる場合も完全なる『聖痕』を持つのは一人……つまりは『少女』だ。

兄2人のその才能と、才あるにも関わらず、決して『勇者』になる事の出来ぬ哀れさ、
そして継承者が女であることから、これまで様々な理由を付けて、『彼女』の『勇者継承』は延期されてきた。

だが、あの様な神託が下った今、もはやそれは叶うまい。
よって、『少女』は『勇者』を継いだ。

――しかし、望まれず『勇者』を継ぐ『少女』の胸中こそ、いかばかりか……



果たして、『長城の陥落』と『魔王軍侵攻』の知らせが『太陽の王国』に届くのは、
『少女』が『勇者』を継いで、僅か二日後の事であった。

39 : [age]:2011/12/15(木) 00:08:47.65 ID:yn6TA32W0
今日はここまでです。
続きは出来るだけ早くに

>>35
太陽万歳!!そしてアンバサ!!
40 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 00:18:56.99 ID:kxOubpG6o
おつおつ!
41 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 00:59:29.27 ID:qnsaLGMDO
乙!!続きが気になるぜ
42 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 01:52:03.90 ID:AFLhc+QSo
>>39
乙!
太陽ぉぉぉ!ってするとGBAの某ゲームっぽいな
43 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 01:58:00.97 ID:Tj/jYpxRo
>>42 それだとソーラーガンのスネークしか思い浮かばなかった
44 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 02:14:20.48 ID:AFLhc+QSo
>>43
太陽センサー(笑)なるものが搭載された奴があるじゃん…

面白かったけどさ、あれ
45 : [age]:2011/12/15(木) 21:56:48.51 ID:yn6TA32W0
続きを投下します
46 : [age]:2011/12/15(木) 21:57:52.13 ID:yn6TA32W0


大陸の北には、『人間の大地』と『魔族の大地』の丁度境界線に設けられた、
驚くほど長大な『防壁』が存在している。

これこそが『長城(リメス)』である。
『リメス』とは大陸西方の人間の古語で、『境界』を意味する言葉であり、
現在では、北方の『長城』を指す固有名詞となっている。

『長城』は『人間世界』と『魔族世界』の境界であり、
北方からの魔族の侵攻を防ぐ人類の盾でもあった。

『長城』は石作りの長い長い防壁と、それに附属する土塁、空堀、柵代わりの茨の生け垣、
そして一定距離ごとに設置された物見櫓と、それよりも広い間隔を置いて設けられた城塞によって構成されている。

城塞部分にはある程度の規模の市街が付属し、それはこの『長城』を守護する『聖堂騎士団』の騎士達へと、
食糧などの物資供給、武具甲冑に整備、製造などを請け負っているのだ。

47 : [age]:2011/12/15(木) 21:59:34.32 ID:yn6TA32W0

百年前、魔王率いる魔族軍と戦争に劣勢にあった人間軍を、
魔王を討ちとる事で救った『初代勇者』には、『八人』の共に闘う戦友が居た。

勇者を含めて『九人の仲間(パーティー)』と呼ばれた彼らの中に、
『太陽神』に仕える神官にして騎士である一人の『聖騎士』がいたのである。

彼は、初代勇者と共に魔王軍を北の荒野へと追いやった後に、
『辺境伯』に任じられ、北の魔族達を監視し、彼らの再侵攻を阻む役に着いた。

その彼が造り上げたのが、『長城』と『聖堂騎士団』である。

『聖堂騎士団』とは、『長城』の防備を担当する軍勢として結成され、
代々『辺境伯』をその騎士団長とし、唯一世襲の団長を除けば、その団員は志願制かつ、完全実力主義の騎士団であった。

その一員となる事は、魔族より人の世を護る『防人』としての役に身を奉じると言う事である。
その任務の重要さと、過酷な入団試験を突破したという事実は、その一員たる騎士達に、大いなる名誉を及ぼし、
それ故に、年々、志願者が途絶える事は決して無かった。

また、その任務には、少なからぬ『役得』があり、それもまた、志願者を集らせる大きな要因であったのだが、
それの詳細については後に述べる事にしよう。

閑話休題。
48 : [age]:2011/12/15(木) 22:00:41.50 ID:yn6TA32W0

『聖堂騎士団』の本部は『長城』にだは無く、
『長城』より少しばかり南方に下った丘の上に設けられた、
『聖騎士の砦』と呼ばれる白亜の大城塞にあった。

これが、北方防備のための施設として最初に建造された施設であったが、
現在では、僅かな衛士を除けば駐留兵もおらず、儀式の際を除けば殆ど使用される事は無く、
騎士団長たる『辺境伯』もまた、『長城』内にて寝泊りし、日々の生活を送っているのであった。

さて、そんな『長城』には、そのさらに北に、
つまり、魔族側の領域へと喰い込む形で、都合二四の支城……と言う程の規模では無いが、
それに類する大きな物見塔付きの木造砦が建造されていた。

その物見砦の幾つかから、『長城』への定期報告が途絶えたのが、
百年の鉄壁を誇った『長城』の陥落の始まりであった。
49 : [age]:2011/12/15(木) 22:04:00.82 ID:yn6TA32W0


――『大陸北方/辺境』

――『長城/附属城塞』


辺境伯「……最前線の支城よりの伝令が来ておらんだと?」
側近騎士「ハッ!!それも、一つならず、現状最前線を構成する六つの支城より、定期報告の伝令が訪れておりません」

『長城』に附属する幾つかの城塞の内、最も大きく、それ故に『辺境伯』の居城として使用されている城塞の大食堂。
既に騎士団長としての白い制服に身を包んだ辺境伯は、他の騎士団員と同様の、質素で簡素な朝食をそこで口に運びながら、
側近の騎士より、朝の報告を聞いていた。

『聖堂騎士団』は過酷な『防人』である。
故に、その任務を完遂する上で重要なのは、騎士団員の結束である。

その為に、この騎士団の中においては、身分間の『距離』は世俗よりも遥かに短く、
騎士団長である『辺境伯』であっても、他の騎士団員と同じ様な食事を食し、同じ様な衣服に身を包んでいた。
『騎士団員は皆同志』が、この『聖堂騎士団』のルールであるのだ。

辺境伯「フム……連中め、『狩り』に夢中で城に戻っておらぬのではないか?」
側近騎士「はい。既定の『間引き』の時期ではありませんが、その可能性は高いかと」
辺境伯「……呆れた連中だ」

辺境伯は苦笑しながら、口髭についた卵の黄身をナプキンでふき取った。
50 : [age]:2011/12/15(木) 22:05:58.33 ID:yn6TA32W0

辺境伯の齢は三十代の半ばを過ぎ、四十へと差しかからんとする歳で、
大きな鷲鼻と、彫りの深い顔、口と顎を覆った立派な金色のヒゲが特徴的な、剽悍な相貌の男である。
背は高く、姿勢は良く、その肉体は鋼の如くである。

辺境伯という、決して高い身分では無いにも関わらず、
内外に、『北の覇“王”』と、その武威は名高かった。
たいそうな戦上手で、剛毅、勇猛果敢な猛将であった。

これまでの辺境伯は基本的に『長城』周辺域の防衛に専従していたのだが、
当代の辺境伯が騎士団長に就任して以来、『聖堂騎士団』は攻めに転じている。
魔族側の領域を次々切り取り、築かれた二十四の支城は、その証であった。

さて先程、辺境伯は『狩り』という言葉を、側近騎士は『間引き』という言葉を出していたが、
それらこそが、前述した志願者を増やす『役得』であった。
51 : [age]:2011/12/15(木) 22:08:23.01 ID:yn6TA32W0

『狩り』も『間引き』も、それは同じモノを指している。
それは……『騎行』の事である。

『騎行』とは、『略奪と放火をしながらの進軍』を指す言葉である。
『聖堂騎士団』はこの百年間、基本的には定期的に、魔族領へと侵攻し、
この『騎行』を行う事を、その任務の一環として来たのである。

その理由は大きく二つ。
一つは、慢性的に活動資金が不足しがちな騎士団の収入源として略奪をする為。
もう一つは、『間引き』……その言葉通りの『口減らし』である。

52 : [age]:2011/12/15(木) 22:11:34.07 ID:yn6TA32W0

人間は北の荒涼たる大地へと追いやった人ならざる種族達を『魔族』と呼ぶ。
しかし、実の所、『魔族』と言う単一種族がいる訳ではない。

『魔族』とは、おおよそ『「闇の女神」を信仰する、人に似た、されど人ならざる諸種族』の総称であるのだ。
おおよそ、と言ったのは、中には明らかに人型でない種族も混ざっているからである。

馬と弓の扱いを得意とし、種として何故か美貌の者の多い『黒エルフ族』。
狼に似た頭部と、毛むくじゃらの体を持った『コボルト族』。
背が小さく、灰色の肌をし、醜い容貌が特徴の『ゴブリン族』。
逆に背は高く、肌は青黒く、やはり醜い容貌の『オーク族』。
数は少ないが、一人一人が強力な力を備えた『龍人族』。
そして、毛深い人間の容姿を持ちつつも、常人の二倍以上の身長を誇る『巨人族』。

これらにその他の雑多な少数種族を加えて、人は『魔族』と呼ぶのである。
53 : [age]:2011/12/15(木) 22:15:17.94 ID:yn6TA32W0

これらの内、『コボルト族』、『ゴブリン族』は非常に多産であり、
少なく、貧しい食糧でも非常に早く良く、その人口を増やす種族である。

その為、その数が増えて来ると、食糧と新たな土地を求めて、『人間世界』へと侵入しようとするのである。
これまでの百年の、たびたびの『長城』への魔族の侵攻は、おおよそこうした連中であったのだ。

それに対する『聖堂騎士団』の対策が、『間引き』の為の『騎行』であったのだ。
54 : [age]:2011/12/15(木) 22:19:59.12 ID:yn6TA32W0

ここ百年、魔族の諸種族が連合し、人間世界へと侵攻する事は、絶えて無かった。
魔族を為す諸種族は互いに仲は良くは無く、年中抗争を繰り返していた。
また、同一種族内でも、内紛が絶えなかった。

百年前の様な、人間世界への大侵攻を為すならば、『闇の女神』の寵愛を一身に浴びた、
選ばれし指導者が必要なのであり、それこそが『魔王』であった。

その『魔王』も、百年前に『初代勇者』に討ち取られて以来、後継者は現れていなかった。

つまり、魔族世界は、一種の戦国時代が、百年続いていたと言う事である。
この混乱を、見逃す『聖堂騎士団』では無い。
55 : [age]:2011/12/15(木) 22:30:10.90 ID:yn6TA32W0

以前までの辺境伯は外征に消極的であったが、
当代になってからは、前述した通り、『聖堂騎士団』は魔族領の切り取りにかかったのである。

それに対する魔族側は内紛の為、組織的な抵抗も出来ず、
少数の種族ごとの軍勢では、精鋭の騎士団の敵では無かった。

今や、魔族領は切り取り放題であり、略奪もしほうだいである。
辺境伯は鷹揚な男で、手にした新領地や略奪品、戦利品を、惜しげも無く部下の騎士達にわけ与えた為に、
その噂を聞きつけた西国の騎士たちや、傭兵、食い詰め農民達は、こぞって北を目指したのである。

小競り合いや、小規模な紛争を除けば、大規模な戦争の無い西国では人口が増えており、
それ故に、新たな土地を求める入植者が増えているのも、この『聖堂騎士団』の北征に拍車を掛けた。

側近騎士の報告を聞いても、辺境伯がさほど慌てなかったのは、
前線の騎士達の間で、所領・戦利品の獲得競争が過熱しているのを知っていたからだ。

恐らくは、伝令を忘れる程に、騎行に精を出しているのであろう。

これまでの百年で『聖堂騎士団』には殆ど負けらしい負けは無く、それは外征を始めてからも同じであった。

故に辺境伯は、定期連絡の伝令が来ないのは、前線の支城が墜ちたからだ、などとは全く思わなかった。
余りにも重なり過ぎた勝利が、彼の目を曇らせていた。

しかし、その余裕も、その日の昼ごろには吹き飛ぶ事になる。

満身創痍の敗残兵の群れが、『長城』へと押し寄せたからであった。
56 : [age]:2011/12/15(木) 22:36:23.95 ID:yn6TA32W0


辺境伯「――」
側近騎士「――」

辺境伯も、側近騎士も、
いや、『長城』に控えていた全ての騎士、兵士達は、唖然、愕然として絶句していた。

それほどまでに、彼らの迎え入れた敗残兵達の有り様は酷かった。

騎士達は逃げる際に重しとなる武器甲冑を脱ぎ捨ててきた為、
その姿は半裸に等しく、加えて誰一人傷ついていない騎士はおらず、
これは、彼らの指揮下にあった兵士達もほぼ同様の様子であった。

彼らについて逃げて来た入植民の数は、明らかに少なかった。
そして、彼らの絶望と疲労の表情と、着の身着のまま逃げて来た様子から、
ここに来る事の出来なかった入植者達の末路は、容易に想像する事が出来た。

だがしかしである。
辺境伯達をさらに唖然とさせる報告が、敗残の騎士達から告げられたのだ。
57 : [age]:2011/12/15(木) 22:40:05.39 ID:yn6TA32W0

彼らは口を揃えて言ったのだ。

――大地を埋め尽くす、魔族の大軍勢が攻めて来た

――その軍勢は、考えうる全ての魔族が参戦していた

――その軍勢の前に、二十四の支城と入植地は、その悉くが雪崩にのまれる様にのみ込まれ、粉砕された

――そして、そんな軍勢の中において……


――『竜と三日月』の紋章が染め抜かれた軍旗が揺らめいていた、と

58 : [age]:2011/12/15(木) 22:45:46.66 ID:yn6TA32W0

辺境伯は、いや、彼の配下の全ての騎士達は、その意味する所を理解した。
その軍旗は、『魔王軍』の軍旗である。

――『魔王』が還ってきたのだ

辺境伯「『長城』に控える、全騎士、全兵士に伝令ッ!!」

意を決した表情の辺境伯の口から、素早く下知が飛んだ。

辺境伯「総員武装し、防衛戦用意ッ!!」
辺境伯「誰かッ!!ワシの具足と槍を持ていッ!!」
辺境伯「魔王が還ってきよったわっ!!」

その叫びに従い、伝令が『長城』の端から端まで飛ぶ様に駆けた。

魔王軍の軍勢が、『長城』に到達する、四時間前の事であった。
59 : [age]:2011/12/15(木) 22:47:42.34 ID:yn6TA32W0
本日は以上です。

しかし、肝心の黒騎士と女勇者の出番が来ない……
まあ、次回の『聖堂騎士団』対『魔王軍』が終われば、
主人公達の冒険も動き出すと思うので、もう少しだけお待ちください
60 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/15(木) 23:21:01.51 ID:kxOubpG6o
乙乙
失敗しないうちにメール欄にsagaをぶちこんでおくんだぞ
sageじゃないぞ、sagaぶち込まないと[ピーーー]とかフィルターに引っかかるからな
61 : [age saga]:2011/12/16(金) 00:12:14.27 ID:FuOZ1Tpy0
>>60
了解
62 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/16(金) 00:13:21.69 ID:ad9vpJeAO
なす板
63 : [age saga]:2011/12/16(金) 01:08:07.64 ID:FuOZ1Tpy0
少しだけ続きを投下します
64 : [age saga]:2011/12/16(金) 01:08:52.83 ID:FuOZ1Tpy0

『長城』において最も高い物見の塔に立った辺境伯は、
血の様に赤い夕陽の中、大地を文字通り『埋め尽くして』進む、魔族の軍勢を見、武者震いを起こしていた。

黒エルフ、コボルト、ゴブリン、オーク、龍人、巨人……
雑多な種族で構成された軍勢ではあるが、その掲げる軍旗は同じ物。

――『竜と三日月』
――『魔王軍』の軍旗である

辺境伯「……」

辺境伯は、覗きこんでいた『遠眼鏡』を、傍らに控えていた騎士団付きの『魔術師』へと返した。
『太陽神教』は『単一神教』であり、数ある神の中、『太陽神』を最も尊い、最高の主神として信仰する宗教である。
故に、その神は『太陽神』だけでは無い。

魔術師とは、その数多の神の中、『智恵の神』を信仰し、その恩恵にあずかる事で、
種々の呪術、科学技術に通じた一種の『技術者』達である。

『遠眼鏡』は、そうした彼らの技術の産物で、この時代の最先端機器の一つであった。

閑話休題。

辺境伯は振り返ると、側近騎士へと言った。

辺境伯「……よし」
辺境伯「各物見塔より、『太陽鏡』を展開」
辺境伯「まずはこれにて機先を制す」

65 : [age saga]:2011/12/16(金) 01:18:26.66 ID:FuOZ1Tpy0

辺境伯の下知を受け、側近騎士が旗手に号令を発す。
物見塔の上に赤い旗が昇り、それはその左右の塔へと伝播して行く。

全ての物見塔の一部、魔族側へと設けられた鎧戸が開き、
その内より、何かがせり出してくる。

それは、巨大な鏡とレンズ、そして白く明滅する石を組み合わせて作られた、奇怪な機械であった。
せり出したその機械の背後では、太陽神教の僧侶達が、一心不乱に、修めし神術の呪文を唱っている。

その詠唱の高まりに応じ、白い石もその光度を増していき、
果てには、小さな太陽かと思われる程の、白い光を放ち始める。
66 : [age saga]:2011/12/16(金) 01:21:40.09 ID:FuOZ1Tpy0
駄目だ…眠いので、中途半端ですが、ここで一旦区切ります
67 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/16(金) 02:52:34.87 ID:FvzCtjuLo
おつ、やっぱなんでも勇者が少数精鋭で魔王に挑むより、普通のオッサンたちのぶつかり合いのほうが燃えるな…
68 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/16(金) 11:22:31.13 ID:B/pDTFMj0
なんだろう、全部ダクソのイメージで再生される
69 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2011/12/16(金) 21:37:17.43 ID:FuOZ1Tpy0
トリをテスト

後、見ている人、いないかもしれないけど質問です

地の文を減らして、会話メインでサクサク進めた方が良いでしょうか?
それとも今のままでおk?
おしえてエロい人
70 :  :2011/12/16(金) 21:46:50.74 ID:FKB5wl6lo
やりたいように
71 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/16(金) 21:47:48.93 ID:7kFg6WIuo
さくさくで
72 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/16(金) 21:48:06.80 ID:KpA4iasTo
地の文有りでも無しでも面白ければ良いと思う

俺は地の文あったほうが好きだけど
73 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/16(金) 21:55:17.58 ID:QBAZ5H9qo
今のままで良いと思う
74 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/16(金) 22:42:51.72 ID:+VcTZ4F4o
地の文あったほうがいい
会話文だけとか勿体無い
75 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/17(土) 00:03:40.48 ID:aHwHTxMZo
ありのままの君が好き
76 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/17(土) 00:17:25.10 ID:i+V1To2q0
変わらない君が好き
77 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2011/12/17(土) 06:08:59.60 ID:diMGxRLp0
おはようございます

では、現状維持で行きたく思います
78 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/17(土) 07:45:37.03 ID:M4u/rg0Po
投下きたか
79 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [frvhtghg@vmvrihlm.com]:2011/12/17(土) 08:03:13.81 ID:6uBzP5ua0
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80 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage saga]:2011/12/17(土) 17:13:49.06 ID:ojDdQHZG0
先程しっこくハウスの脅威を乗り越えた俺にはタイムリーなスレ
81 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2011/12/17(土) 22:32:56.17 ID:diMGxRLp0
本日12時、というより明日の午前0時より、再開します
82 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2011/12/18(日) 00:00:07.06 ID:nsZ6oyxR0
始めます
83 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2011/12/18(日) 00:01:19.36 ID:nsZ6oyxR0
後、>>64>>65ですが、眠い時に書いた為か、出来に不満が在るので、
このパートは無かったモノとします

では始めます
84 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2011/12/18(日) 00:02:20.82 ID:nsZ6oyxR0

血の様に赤い夕陽の中を、黒い軍勢が『長城』へと向けてその足を進める。
それは広い大地を一面に埋め尽くす大軍勢であり、あまりの多くの人の波に、
『長城』側からは地面を見る事すら叶わなかった。

短い複合弓を背負い、騎乗した黒エルフの軍勢がいる。

粗末な鎧に身を包み、人海戦術をそのお家芸とする軍勢のゴブリン・コボルトの軍勢は、大軍勢の大半を占めている。

逆にその大きな体躯を、頑丈なラメラーアーマーに包み、人には扱えぬ大きな武具を掲げるのは、オークの精鋭部隊だ。

空には、龍人族が操る飛竜が舞う。飛竜を使いこなせるのは、竜と言葉を交わす事が出来る龍人族だけである。

そして、この大軍勢において一際目立つのが、身長三から四メートル程の、オーク以上の巨躯を誇る巨人の軍勢である。
大軍勢の中でも特に立派な甲冑に身を包んだ彼らの威容を遠目に見て、『長城』の兵士達は生唾を飲み込む。

――『魔族世界』の諸民族の一大連合軍
――その結成はこの百年、絶えて無かった事である。

内部抗争を繰り返す魔族の連合を成し遂げたのは何か。
それは大軍勢の合い間に揺れる、黒地に赤い紋章の軍旗である。

――『竜と三日月』
――その軍旗は、『魔王』の再来を意味するのだ。

85 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2011/12/18(日) 00:03:55.14 ID:nsZ6oyxR0

眼下の大軍勢とはためく軍旗を、『長城』で一番高い物見塔の上から『遠眼鏡』で覗きこんでいた辺境伯は、
それを傍らの『魔術師』へと返し、武者震いを一つ。

余談ながら、『遠眼鏡』はこの世界での、この時代の最先端機器の一つであり、
そんな物を持つ辺境伯の財力が覗える。

閑話休題。

辺境伯は、背後に控えている側近達や、
『長城』各部署への伝令兵達に、迎撃開始の号令を下す。

辺境伯「事前の取り決め通り、弩(クロスボウ)は各個、間合いに入り次第、各部署の判断で発射されたし」
辺境伯「まず『太陽鏡』にて敵の機先を制す……撃ち方、用意ッ!!」

側近騎士「各個に伝達、『太陽鏡』、撃ち方用意っ!!」
伝令A「ハッ!撃ち方よぉい!!」
伝令B「撃ち方よぉい!」

伝令が旗を、辺境伯達が詰める物見塔の屋根の上に、赤い旗が広がった。
それを合図に、各物見塔の一部に設けられた、鎧戸が開く。
鎧戸の内側の部屋からは、何やら経文を詠い上げる太陽神教の僧侶達の叫びが漏れていた。

辺境伯「頃合いだな」

経験則から、おおよそ、全ての物見塔にて準備が整ったであろう時間を計った辺境伯は、再び号令を発した。

辺境伯「撃てぇぇい!!」

物見塔の屋根の上に青い旗が上がり、それに呼応して、
鎧戸に隠されたいた銃眼から、白い光が迸ったかと思えば……

魔族兵「ギャァァァァァァァァァァァァッ!?」

魔族軍の彼方此方で悲鳴が上がり、悲鳴の上がった場所には火の手が上がる。
燃えているのは、魔族軍の兵士達であり、短い草の生えた草原であった。
86 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2011/12/18(日) 00:05:08.04 ID:nsZ6oyxR0

各物見塔より伸びた白い光条は、
銃眼の大きさと、『太陽鏡』の可動範囲が許す限り前後左右へと動き、魔族軍を舐めまわす様に焼く。

――『太陽鏡』とは、一種の『光学兵器』である。

『太陽石』と呼ばれる、太陽神の魔力の詰まった白く輝く石は、
太陽神を奉ずる信者の聖句により、その輝きを増し、その光は、太陽の属性たる魔力を伴っている。
その光量は一時的とは言え太陽にすら匹敵し、その輝きを、特殊な配置を施した幾枚かの『鏡』によって反射集束し、
熱光線として発射、敵を焼殺する、と言うのが、『太陽鏡』の原理である。

『太陽石』は希少鉱物の上に、兵器として使える寿命が短く、幾度か使えば、その輝きは失われる。
また、その威力を真に引き出す為には、操作者たる僧侶にも、ある程度以上の実力が要求される。

故に、誰でも使える兵器では無い。
財力と人脈が不可欠な兵器なのである。

その『太陽鏡』を、かくも多く用意した『聖堂騎士団』の、略奪と征服よって成した財が覗われるだろう。

その猛威を見て、ほくそ笑む辺境伯。
しかし、その笑みは直ぐに曇る事になる。

――何処より湧き出た黒い霧が、魔族軍を覆い始めたのだ
87 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2011/12/18(日) 00:06:50.15 ID:nsZ6oyxR0

辺境伯「ぬ!?」

辺境伯のみならず、『長城』に控える全ての騎士・兵士達が驚き、どよめいた。
瞬く間に魔王軍は黒い霧で覆い隠され、『長城』からは最早、魔王軍の姿は霧に隠されて全く見えなくなる程である。

そして、霧の為した事は、ただ魔王軍を覆い隠しただけでは無い。

側近騎士「――ッ!?『太陽鏡』からの光が……」
辺境伯「……」

物見塔から発射された『太陽鏡』の光線が、黒い霧によって減衰し、霧散してしまい、その威力を失ってしまったのである。
『聖堂騎士団』自慢の火器は、最初の打撃を与えたのみで、あっという間に無効化されてしまった訳だ。

さらに、霧の猛威は続く。

護衛騎士A「き……霧がこっちに来ますっ!?」
辺境伯「何と……魔術師隊に吹き散らさせよ!」
側近騎士「無理です!間に合いません!」

恐ろし速さで霧は広がると、『長城』まで立ち昇り、
『長城』全体を、それを護る『聖堂騎士団』ごと覆い隠してしまったのである。

護衛騎士B「なんだこれは!?まるで何も見えんぞッ!!」
辺境伯「落ち着けッ!!そして密集して方陣を組むのだッ!!」

辺境伯「チイッ!……やられた……これでは使い番も出せんぞ」
88 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2011/12/18(日) 00:08:39.26 ID:nsZ6oyxR0

この黒い霧は通常の、自然現象の霧では無い。
息が詰まる程の粘質と、肩に重みを感じる程の冷たい湿気を纏い、
これに包まれる者の全身に絡み付き、その目を塞いでしまうのだ。

もはや、目の前すら満足に見えない、完全なる闇である。
『聖堂騎士団』の全ての戦士は、その両眼を潰されたも同然であった。

そして、戦士達は、『声』を聞いた。

――ウォォォォォォォォォォォォォォォッ!!
――ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!
――ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!

怒号が、鬨の声が、鼓膜を揺らし、肉体を戦慄かせ、大地すら微かに振動させる雄叫びが響いた。
魔王軍の軍勢が上げるウォークライであり、続けて、彼らが『長城』へと向けて一斉に走り始めたのだ。

ウォークライに合わせて地響きが起きる。
余りの大軍勢の一斉移動に、本当に大地が揺れているのだ。

――『聖堂騎士団』の精鋭たちが、まさかの恐慌状態に陥った。

騎士「放て!!放て放て!!」

各部署を護る騎士達の号令に従い、弩兵達が次々とボルトを発射する。
しかし、霧により視界を塞がれ、オマケに恐慌状態に陥った弩兵達の撃つ矢は、余りにあてずっぽうで、
当然狙いなどと言うモノはなく、当たったかどうかの確認すら出来ない。
加えて、機械仕掛けのクロスボウ故に、こう暗くては次の矢の装填すら出来なかった。
弩兵の中に混ざった弓兵達は、闇の中にあっても尚、何度となく繰り返された訓練に従って、
矢筒の中の矢を番え、撃ち続ける。

しかしそれもまた、迫りくる魔軍を止める事は出来ない。
89 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2011/12/18(日) 00:10:25.56 ID:nsZ6oyxR0

辺境伯「……」

この惨状の中においても尚、辺境伯は怯えも慌てもしていなかった。
彼はこの状況を打破すべく、思考を廻し、策を練る。
考える一方で、彼は出来る事を先にやるように努めた。

声の届く範囲で、彼は下知を下す。
兵士に、騎士に方陣を組ませ、密集させ、盾を構えさせる。

敵陣に大規模な攻城兵器は見えなかった。
恐らくは、梯子を使って、『長城』へと敵は登って来るだろう。
こうなれば、敵が『長城』へと登って来た所で、白兵戦に持ち込むしかない。

幸い、こちらの主力は重装備の騎士達である。
接近戦ならばこちらにもまだ分があるだろう。

それに、霧で視界が利かないのは敵も同条件の筈だ。
あるいは、敵が霧の中でも昼の様に目が見える術を持っていたとしても、
これ程の大規模な霧を起こすには、大勢の呪術師を用意し、そして、彼らに大いなる負担を掛けねばなるまい。
この霧はいつまでも続かない。霧が途切れた時。その時に――

そこまで考えた時であった。
90 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2011/12/18(日) 00:12:31.78 ID:nsZ6oyxR0

辺境伯「――!」

その時、彼は殆ど無意識で体を動かしていた。
腰のロングソードを抜き放ち、暗中にて振るう。

硬い物同士がぶつかり合う音と、何かが圧し折れる音が同時に響く。
そして、それらに被さる様に

護衛騎士A「グェッ」
護衛騎士B「ぎゃっ」

辺境伯の護衛の騎士2人の短い断末魔が上がり、2人の死骸が床に倒れる音が響く。
それより間髪いれずに、『何か』が迫る気配と、それに込められた殺気を、辺境伯は感じ取る。

辺境伯は直感に従い、空いた左手を突き出して、迫る『何か』をむんずと掴み取った。
そして、右手のロングソードを掲げ、振り下ろす。

???『ばごばっ!?』

硬いモノが砕け散る音と、液状の物が詰まった物体が弾ける音が重なって鳴る。
左手に掴んでいた『何か』に掛った力が抜けて、それは辺境伯の自由になった。

左手の『何か』――『短槍』の穂先を正面に廻しつつ、暗中にても確かに輝く右手の白刃を振りかざすと、
辺境伯は、獣の様な己の感覚に従って、駆けた。

右手のロングソードが斜めに振られれば、何かの断ち切れる音と、叫びが聞こえ、
左のショートスピアは、自分へと迫る別の攻撃をいなし、槍ながら返す刀で、その敵手を貫いた。
91 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2011/12/18(日) 00:14:29.32 ID:nsZ6oyxR0

そこで、迫る気配と殺気は消えた。
辺境伯は暗中にて点呼を取る。

辺境伯「何人生き残っておるッ!!」
側近騎士「じ…自分は生きております」
護衛騎士D「自分もです」
護衛騎士E「自分もであります」

果たして、五人程の騎士よりの返事が聞こえなかった。
彼らがどうなったかは、見えずとも解ろうモノだ。

辺境伯「――どうやら…敵には“見えて”おるようじゃな」
辺境伯「奇襲とは……片腹痛い」

周囲へと耳を向ければ、霧の向こうより聞こえるのは、先程までとは質の異なる悲鳴と怒号。
『奇襲』を受けたのは、自分達だけではないらしい。
手段は不明ながら、迫る歩兵部隊に先んじて、敵が『奇襲』を仕掛けてきたのだ。

この『奇襲』で、迎撃の為に組まれていた陣が各地で崩れ、まさにその崩れの時をねらって、

――ガツン

と、石に硬いモノがぶつかる音がする。
それは、攻城用梯子の先の鉄鉤が、城壁の石にぶつかる音であった。

――怒号は『長城』の上へと登って来た。
92 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2011/12/18(日) 00:17:02.66 ID:nsZ6oyxR0

――霧がようやく晴れた時、戦況は悪化の一途を辿っていた。

夥しい数の敵が、コボルト、ゴブリンの軽装歩兵が、『長城』へと梯子を伝って雪崩込んで来ている。
その貧弱な装備の兵士たちを、『聖堂騎士団』の戦士達は血刃を振るって次々と屠り、死骸は山を為すが、
その山を踏み越えて、来る敵の波は途切れる事が無い。

辺境伯は、自身の足元に目をやった。
そこには、頭をかち割られて死んでいる、異形の姿があった。

のっぺりとした青白い肌をして、細長い体躯を持ち、
その背には蝙蝠の様な巨大な翼を備え、口には嘴を宿した、
人に似た、しかし人にあらざる異形である。

辺境伯「――『翼人』か」

それがこの種族の名前だ。
原理は不明ながら、その背に生えた蝙蝠状の羽で、この魔族は空を飛ぶ事が出来る。
少数民族故に、幾度も魔族世界へと侵入を繰り返した辺境伯も、実物を見るのは今が初めてであった。

こいつらが、奇襲の主と言う訳だ。
93 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2011/12/18(日) 00:20:28.76 ID:nsZ6oyxR0

辺境伯「くはは……俺ともあろうものが……」
辺境伯「よくもここまでやられたモノだ」

そう言うと辺境伯は、額をポリポリ掻くと、
壁に立てかけられた自身のグレートヘルムと、
自身の祖先たる『聖騎士』よりの伝来の両手用大剣を手に取った。

辺境伯「オイ…ちょいとここは任せた」
側近騎士「え?」

側近騎士が唖然としている間に、辺境伯は兜を被り、
大剣を背負って、物見塔より駆けおり、激戦の最中へと飛び込んで行く。

大剣を抜き、彼は、跳んだ。
全身を覆うチェインメイルの重さをまるで感じられぬ、
それでいて常人を遥かに超える跳躍で、味方を跳び越え、
敵陣のど真ん中へと――

辺境伯「ちぇぇぇぇぇぇりゃぁぁぁぁぁぁぁ」

大剣の刃を振り下ろした。
その一撃に、コボルト兵の一人が真っ二つとなり、死体は勢いで左右それぞれでひしゃげる。

魔族軍兵士達の視線が、辺境伯へと向いた。
彼は血笑し、

辺境伯「せいやぁぁぁぁぁぁぁ」

大剣を横に振りぬいた。
それは幾人かの敵兵を上下に両断し、断ち切れなかった敵兵も、その勢いで横へと吹き飛ばす。
彼らは衝撃で、その肋骨が粉砕されていることだろう。

辺境伯は大剣を振り抜く最中に、左の手を柄より外していた。
左手は腰の予備の大型メイスへと伸び、それを腰帯より抜いて、敵兵へと叩きつける。

そのゴブリン兵は咄嗟に粗末な木に獣皮を張った盾を構えたが、
メイスの一撃は、その盾ごと、その矮躯を叩き潰したのであった。
94 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2011/12/18(日) 00:22:59.50 ID:nsZ6oyxR0

突然の乱入に、魔族軍も、『聖堂騎士団』の戦士達も、一様に唖然としていた。
辺境伯は良く通る大声で言った。

辺境伯「成程――苦戦であるッ!!逆境であるッ!!危機であるッ!!」
辺境伯「しかれども、未だ我らに勝機あり!!我らに賞賛ありッ!!」
辺境伯「我こそは『初代勇者』が盟友にして『九人の仲間』が一人、『聖騎士』が裔」
辺境伯「『聖堂騎士団』騎士団長、辺境伯であるッ!!」

辺境伯「この我が在る限り、我らに敗北無しッ!!我らに勝利ありッ!!」
辺境伯「我が同朋よッ!!我が戦友よッ!!」
辺境伯「恐れるなかれ!!」

辺境伯「この俺に続けぇぇぇぇッ!!」

この快活にして剛毅なる名乗りに、騎士達、兵士達も呼応した。

――うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!

鬨の声たる雄叫びが『聖堂騎士団』の戦士達の間で起こり、彼らの戦意は回復した。
そして彼らは、彼らの長に続いて、魔族軍の群れへと死を恐れずに飛び込んでいった。
95 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2011/12/18(日) 00:25:35.10 ID:nsZ6oyxR0

――『聖堂騎士団』の精鋭達は、かの劣勢の中、良く戦った

――その果敢なる戦いと、その高い指揮の理由は

――長にして貴族にも関わらず、自ら陣頭に立って血刃を振るう辺境伯の存在である

――彼の存在が、戦士達を勇気づけたのだ

――しかしそれは同時に、辺境伯が居なくなった時、それこそが

――彼らの戦意が崩れる時だと言う事を意味しているのである

――そして、その時は来たのだ
96 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2011/12/18(日) 00:31:37.51 ID:nsZ6oyxR0

辺境伯は、『長城』上の各所を駆けまわり、
敵に押されている戦線へと果敢に加わって、
敵をかき乱し、味方に勇気を与えた。

しかし、如何に辺境伯が非人間染みた優れた戦士であっても、
やはり『人』の範疇の外には出ていないのである。

つまり、疲れ、傷つき、殺されれば死ぬ運命にある『人間』だと言う事である。
続く連戦の激戦に、彼の獣の様な直感力も鈍り、ある時、敵の狙撃兵の矢が、
彼の鎧を突きぬけて刺さったのである。

幸い、それは命に関わる傷とはならなかったが、
しかし、彼の継戦を阻む程度の傷ではあった。

彼は、未だ闘うと叫びながら、側近達に背負って戦場より運び出された。

――辺境伯、矢傷により戦線離脱

この知らせは、戦場では良くあることだが、大幅に歪められて、
『聖堂騎士団』の戦士達へと伝わった。

――すなわち、『辺境伯戦死』という形でだ

この時、騎士達の戦意が崩れた。
そしてその気配を、魔族軍の指揮官、魔王は見逃さなかった。
97 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2011/12/18(日) 00:38:30.39 ID:nsZ6oyxR0

彼は温存していた精鋭たる重装オーク戦士や、重装巨人戦士に、出撃を命じた。
彼らの数は少数であったが、精鋭たる彼らの武力は、確かに『楔』となって『聖堂騎士団』に突き刺さり、

――戦線は瓦解した

辺境伯は、騎乗も叶わず、
故に荷馬車に乗って『長城』を離れたが、
しかし荷馬車の上から崩れる騎士団へと下知を下し、
何とか敗軍を纏め、『聖騎士の砦』へと撤退した。

『長城』は魔王軍にのみ込まれ、その城下町には火の手が上がり、
略奪と破壊、そして殺戮の限りが尽くされた。

――果たして『長城』は墜ちた

――人と魔の戦争の火ぶたは百年の時を経て切って落とされ

――その最初の戦闘で勝利は魔王軍のものとなった


――大陸の、動乱の時代は、いよいよこうして始まったのだ

98 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2011/12/18(日) 00:40:10.80 ID:nsZ6oyxR0
今日は以上です。

ようやく。物語の土台が整ったので、
次回より、女勇者と黒騎士の冒険が、本格的に動きだします。

続きは、出来るだけ早くに。
では
99 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/18(日) 00:56:20.82 ID:fwU3XjySO
1乙


完走祈念
100 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/18(日) 00:59:42.83 ID:8/MwovrAo
おつおつ
101 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/18(日) 02:50:26.30 ID:4t8Ff3sco


いいね、面白くなってきた、
102 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/18(日) 11:13:21.85 ID:J+6VZpgjo
追いつきワッフル。期待
103 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/21(水) 23:34:26.25 ID:pnGtaUTIO
やっぱりSSはこうでなくっちゃな!

いいのに巡り合えた
104 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2011/12/23(金) 14:05:02.93 ID:qCNQwcF40
本日、夜に(多分九時ごろ)に投下を開始したく思います
105 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) :2011/12/23(金) 18:08:08.33 ID:BRTfMrkCo
待ってたんだぜ
106 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/23(金) 18:09:05.46 ID:fcybLV0ho
待機ワッフル
107 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2011/12/23(金) 19:52:09.22 ID:qCNQwcF40
少し早いですが、投下を開始いたします
108 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2011/12/23(金) 19:53:01.94 ID:qCNQwcF40

『太陽の王国』の中枢、『太陽の神殿』には『五百人広間』と呼ばれる大広間がある。
その名の通り、五百人、実際にはそれ以上の人数を収容できる大広間であり、
普段は長椅子と演台が置かれ、主に一般信者向けの説教や、各種儀式に使用されているのだが、
非常事態、それも、人間世界全体を揺るがす様な一大事が起こった際、
諸国の王、有力諸侯、有力騎士、大商人など、いわゆるその時代の『権力者』『実力者』が集められ、
一種の国際会議が開催され、その為の議場として使用されるのである。

果たして『長城』の陥落より、一週間後。
『五百人広間』は、集まった諸国の有力者達と、その側近達によって隅から隅まで満員状態となっていた。

まだ開会の時刻ではないが、
諸侯諸王同士の議論は既に紛糾し、広間は熱気と喧騒に満たされている。

『太陽の神殿』の正面の広間にも、中に入る資格を持たない一般民衆が詰めかけ、ごった返していた。

――百年ぶりの『魔王』復活
――『長城』の陥落

この二つのビッグニュースは、驚くべき速さで人間世界全土へと広まり、
『魔王』の復活とその侵攻は、久しく忘れ去られていた魔族の恐怖を、人々の心に蘇らせたのである。

故に、それに如何にして立ち向かうか……それを決める、この会議には、
身分の上下、老若男女の区別なく、人間全ての関心が注がれていたのである。

『五百人広間』には、『長城』に近く、その為に対魔王軍の準備や、
いまだ『聖騎士の砦』で魔王軍を喰いとめている『聖堂騎士団』への援護に追われる国々の者達を除けば、
あらゆる辺境の遠国からも、王や、その使者達が集い、表の広場にも、遠国からの旅人は大勢であった。
109 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2011/12/23(金) 19:53:32.32 ID:qCNQwcF40

神官長「静粛に!!皆さま……静粛にお願いいたします!!」

その喧騒に対し、議長席として設けられた背の高い演台の上で、
『太陽の神殿』の神官長が、ガンガンと木槌を叩きながら、広間の一同へと静まる様に促した。
一同の目が、演台の神官長へと向く。

神官長は、議場内が静かになったのを確認すると、良く通る声で、一同へと話し始める。

神官長「御集りの皆さま……遠路はるばる、真に恐縮でございます」
神官長「しかして早速……件の一件、すなわち、『魔王』の問題に関しての会議を始めたく思いますが」
神官長「その前に、先日、その位を継承されました、当代『勇者』様から皆さまへと向けて」
神官長「本会議の開会のご挨拶が御座います」

そう言って神官長は演台から退き、
代わって深紅の礼服に身を包んだ、金の短髪の少女が演台へと上がる。

少女の出現に、議場内が微かにざわつき、
囁く声、耳打ちする声が、小さいながらも聞こえて来る。

人々は口々に言う。
あれが、あの少女が、『勇者』かと。
話には聞いていたが、本当に『女』であったとは――と。

そんな人々の奇異の視線を受け止めながら、『女勇者』は演台に立つ。

その口が開かれ、鈴を鳴らした様に美しく、しかし凛として一本芯の通った声が、議場に響く。

女勇者「御集りの皆さま」
女勇者「ただいま、本『公会議』の開会の挨拶の役を」
女勇者「不肖、当代『勇者』たる私が担う事となった訳で御座いますが」
女勇者「しかし、その挨拶に先立ちまして」
女勇者「私から、当代の『勇者』として、皆さまに申し上げたき儀が存じます」

女勇者の言葉に、先程とは違う感情によって議場はざわついた。
それを意に介する事無く、女勇者の言葉は続く。

これより始まるのは、女勇者による、一つの演説であった。
その全文を、以下に記載する。
110 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2011/12/23(金) 19:55:35.85 ID:qCNQwcF40


――御集りの皆さま

今、この場において私が皆さまに申し上げたいのは、我々には為さねばならない事があると言う事です。

知っての通り、今、人間世界は百年来無かった危機的状況に陥っています。

あの忌わしき闇の使徒達が、邪教を奉じる怪物達が、群れを為して、私達の世界を征服せんとしているのです。

皆さまも聞き及んでいる通り、『長城』は既に墜ち、我らの同朋にして誉れ高き勇者達である『聖堂騎士団』は、

今や『聖騎士の砦』へと追い詰められ、その敗北が明日やも知れぬ熾烈な戦いを繰り広げているのです。

それだけでは御座いません。

かの忌わしき悪鬼共は、街を焼き、無垢な人々を殺し、あるいは捕虜し、北方の国々の我ら人間の富を、欲しいままに収奪しています。

栄えある太陽の神の神殿を打ち壊し、神の王国を荒廃させたりしているのであります。

無論、皆さまががあの魔物たちを、もしこれ以上意のままにさせておく様であるならば、ヤツらははより広く神の信徒たちを踏みにじるでしょう。

それは……許されざる事であります。

かの忌わしき堕落した闇の輩どもに、太陽の神の御名のもと光り輝いている人が、
もし万が一これ以上の征服と破壊と収奪を被ったならば……そして、それを止められる力を持ちながら、
それを為さない者がいたとすれば……それは、この上無く、恥ずべきことでありましょうや!!

その様な不徳不義を、人は許しても輝ける日輪は許し給う事は無いでしょう。
111 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2011/12/23(金) 19:56:08.31 ID:qCNQwcF40

――かつて、我らが日輪は仰せられました

『 萬軍の陽、かく云い給う

  かの闇の輩の為せし事を忘るるなかれ
  
  今こそ征きて、かの忌わしき魔軍を討ち
  
  そのもてる物悉くを滅ぼしつくし、彼らを憐れむなかれ
  
  男、女、老、若、童、赤子、牛、羊、駱駝、驢馬……皆殺せ
  
  一切の慈悲無く容赦無く、一切の差異無く区別なく

  その悉く、殺せ、殺せ、殺せ ――― 』

と。

今こそ、その時は来たのです。

かつて盗賊として振る舞っていた者たちは今こ神の戦士になりなさい。

かつて自分の兄弟や血縁者たちと争い事をしていた者たちは、今こそ法に則って化け物たちと戦いなさい。

以前少しの金のために傭兵をしていた者たちは、今こそ永遠の報酬を手に入にする為に戦いなさい。

身も心も損ねて自らを疲労させていた者たちは二重の名誉のために働きなさい。

悲嘆に暮れていた者、貧しかった者たちは、かの地で、奴らが不当に蓄えた富を奪い還し、歓喜し、裕福になりなさい。

――あらゆる人は武器をとりなさい。

富める者、貧しき者、尊き者、賤しき者……そこには区別などありません。

皆一様に、等しく『太陽の戦士』として、ヤツらと戦うのです。

もう一度言いましょう。時は来たのです。
112 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2011/12/23(金) 19:56:43.09 ID:qCNQwcF40

ヤツらの領地たる、北の地が、金、銀、銅、鉄、そして玉といった、地の下の富の富んでいる事は、皆さまも知る所でしょう。

ヤツらはそれによりこの百年、本来、我ら人が、陽より賜った富を、“不当”に得ている事は、まぎれも無い事実であります。

今、ヤツらへと攻め入る事は、それを取り戻す事でもあるのです。

我らは、ヤツらから奪い返し、皆、豊かになるべきなのです。

これは、聖なる戦いに赴く我らへの、陽からの正当な報酬となることでしょう。

そう――今、私の口から述べられている事柄は、
全て、私の口を、『勇者』の口を通して、日輪が望み、仰せ給う事に他なりません。

陽がそれを望み給うたのです。

――さあ!!

今は机を囲み、議を巡らせる時ではありません。

剣を執り、槍を掲げ戦うべき事なのです。

百年前、勇者が果たせなかった宿願を、『闇の神』が信徒、魔族の撲滅を、
今こそ、今こそ、それを果たす時なのです。

――もう一度言います。

―― 陽 が そ れ を 望 み 給 う た の で す ! !
113 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2011/12/23(金) 19:57:12.68 ID:qCNQwcF40

ここで、女勇者は一旦演説を止める。
そこに生じた沈黙に対し間髪入れる事無く、
議場の一席から一人の男が立ち上がり、声を張り上げ、拳を振り上げ、言ったのだ。

太陽騎士団長「 陽 が そ れ を 望 み 給 う !! 」

『太陽の王国』、『勇者』が直属の『太陽騎士団』の騎士団長である。
その彼の叫び呼応し、議場の人々は次々と立ち上がり、皆一様に叫び始めた。

―― 陽 が そ れ を 望 み 給 う !! 

―― 陽 が そ れ を 望 み 給 う !! 

―― 陽 が そ れ を 望 み 給 う !! 

続けて、こうも叫んだ。

―― 日 輪 万 歳 !!

―― 日 輪 万 歳 !!

―― 日 輪 万 歳 !!

皆叫んだ。
声を張り上げ、目を血走らせて叫んだ。

―― 日 輪 万 歳 !!

―― 陽 が そ れ を 望 み 給 う !! 

―― 日 輪 万 歳 !!

―― 陽 が そ れ を 望 み 給 う !! 
114 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2011/12/23(金) 19:57:39.09 ID:qCNQwcF40

その熱気は、神殿外の一般民衆にまで飛び火し、彼らもまた同様に叫んだ。

―― 日 輪 万 歳 !!

―― 陽 が そ れ を 望 み 給 う !! 

―― 日 輪 万 歳 !!

―― 陽 が そ れ を 望 み 給 う !! 

かくして、この様な異様な熱気に促され、
僅か一日で会議は終了し、一つの事が、ただ一つの事が決定された。

すなわち、『征魔軍』の結成、
魔族世界を征服する為の、人間世界全体での一大連合軍により、北方遠征の開始が――

日輪の意に適う為、そして、魔族の持つ富を『奪還=収奪』する為、
宗教的熱狂に溺れながら、人々は一様に、北を目指す。

――しかし、その火付け役を演じながら
女勇者の顔は、感情の無い彫像の如しで、そこには一切の熱狂は無い。

何故か。
その理由は、以下の事情に依った。
115 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2011/12/23(金) 19:58:07.91 ID:qCNQwcF40

――『太陽の神殿』
――『至聖所』

全ての聖職者が、かの会議後の熱狂から始まった景気づけの宴に参加してしまった為に、
普段であれば最低でも一人は管理役の聖職者が詰めている至聖所には、人気が無い。

その人気が無い至聖所へと、二つの人影が密かに現れた。
一人は少女であり、一人は青年である。

少女は、年齢一五程。
短い金色の髪を持ち、翡翠色の瞳を持った凛とした印象の美少女である。
その身を深紅の男性用礼服に包んでいるが、その、年以上に豊かに育った胸の双丘が、
彼女がまぎれも無く女性であるという事実を主張している。
『女勇者』である。
しかし、今夜の宴の主役を務めている筈であろう女勇者が、この様な所で何をしているのか。

さて、その女勇者と共に至聖所へと入ってきた青年であるが、
その年齢、女勇者より五つほど上であろう。
女勇者よりも高い背を持ったその青年は、黒に近い濃い灰色の髪をしており、
その瞳は女勇者と同じ翡翠色である。
その身を包むのは、真黒な『太陽騎士団』の制服であり、その胸には、
白くその紋章である『八つの角を持った星』が染め抜かれている。
その上から、やはり『騎士団』の制服である黒いマントを纏っていた。

『太陽騎士団』は、『勇者』を代々その頭領とする騎士団であり、
『聖堂騎士団』と同じ志願制・試験制の精鋭騎士団である。
その規模は『聖堂騎士団』には遥かに及ばないが、その一員たる名誉は、決して引けを取らない。
紋章たる『八つの角を持った星』は、太陽を象徴するシンボルの一つであった。
116 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2011/12/23(金) 19:58:42.57 ID:qCNQwcF40

さて、この青年はその制服より『太陽騎士団』の一員であることは明らかである訳だが、
その黒い革製ブーツに取り付けられた拍車が『銀』である事から、
まだ『叙任』を経て騎士にはなっていない見習いの『従騎士』である事が解る。
叙任を経た騎士の拍車は『金』なのだ。

その従騎士が口を開いた。

従騎士「一体、名用で御座いますか、勇者殿?」
従騎士「宴の半ばで、この様な所に呼び出すとは」

女勇者「――ここには私達の他に人は居ないのだ」
女勇者「よって、そう畏まる必要は無いのだ、『兄上』」

女勇者が仏頂面で、何処となく慇懃無礼な響きを以て彼女に問う従騎士に言った。

従騎士「いえいえ……されど『立場』の違いというモノが御座います故」
従騎士「何せ、自分は歳五つ上の兄とは言え」
従騎士「貴方様は『勇者』。私めは一介の『従騎士』」
従騎士「それ相応の礼儀は尽くさねばならぬでしょう」
従騎士「貴方様が“妹”であらせられようとも」

と、それに対する従騎士の態度は飽くまで慇懃無礼である。
女勇者はその仏頂面の険を深めた。
117 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2011/12/23(金) 20:02:17.66 ID:qCNQwcF40

――『女勇者』と『従騎士』
この2人は腹違いの兄妹の関係である。
此処には居ないが、もう一人、女勇者には兄がおり、その兄と『従騎士』は双子の兄弟であった。

何故兄が『従騎士』で妹が『勇者』なのかと言えば、
それは以前書いた様に、『勇者』の継承資格は、その背の『聖痕』に依るからである。

これまでの百年、『勇者』の資格者は、『初代勇者』の血統に属する『男子』でありつづけた。
当然、人々は当代もまたそうなると考えていた。

しかし、当代は『女』であったのだ。
かつてない例外、イレギュラー。
しかし、以下にイレギュラーであろうと、例外であろうと、資格者は資格者である。
かくて妹は『勇者』となり、勇者の血統に属す男子であり、兄でありながら、彼は一介の『従騎士』となった。

2人の間には、実に歪な兄妹関係が構築されている。

女勇者「――まぁ良い。今はそのような事はどうでも良いのだ」
女勇者「貴方を此処に呼び出したのは、内密な話があったからだ」

従騎士「内密な話?たかが一介の従騎士に過ぎぬ自分に、如何な話が?」

女勇者「うむ。まず、最初に、改めて言うまでも無い事だが……」
女勇者「私が、この国で如何な扱いを受けているかは知っているだろう」
女勇者「私は、それをどうにかしたいと……ずっと思い続けて来た」
118 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2011/12/23(金) 20:02:43.56 ID:qCNQwcF40

女勇者は確かに『勇者』である。
それは、この世に生まれ落ちた時から決まっている事であり、運命付けられた事である。
しかし、彼女の周囲は、『太陽の王国』の神官達も、『太陽騎士団』の騎士達も、
これまでの彼女の十五年の生涯の中で一度たりとも、彼女を『勇者』としてマトモに扱った事は無かった。

通常、勇者の資格者は、生まれ落ちたその日から勇者となる為の予備訓練が始まり、
五歳になるや否や、『太陽騎士団』の最も優れた騎士、『太陽の神殿』で最も学識ある神官のそれぞれに師事し、
必要な技術・知識を詰め込まれ、それが充分であると両師匠が判断すれば、その翌日にでも、勇者を正式に継承する……という運命に身を置く事になる。

しかし、女勇者は、『貴婦人』としてのある程度の仕込みは受けたとは言え、
勇者としての、つまり戦士としての習練は、彼女がそれを求めたとしても、全く課されていなかったのだ。

この世界は、男尊女卑である。
特に、身分の高い者の間ではなおさらである。

この世界の女性とは、つまる所、『婦人/夫人』以外の存在価値を求められていなかったのだ。
嫁いだ先で立派な子を産み、家を内側から支える……それがこの世界の身分の高い者達の間での、女性の存在意義であった。

後継者が他に居ない、あるいは、後継者が幼少である、と言った特殊事情を除けば、
王族貴族騎士の家督は必ず男性が継ぐと決められているのである。

そんな社会において、如何に『勇者』の資格者とは言え、『女』である『女勇者』を、
周りがまともに彼女を『勇者』として扱う筈も無い。

周囲の意向はこうである。

女勇者には一応『勇者』を継承はさせても、
出来るだけ早く、由緒ある家系に嫁がせ、
さっさと次代の勇者を、出来うるならば『男子』で産んでもらう。
畢竟、こんな所である。
119 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2011/12/23(金) 20:03:14.08 ID:qCNQwcF40

女勇者「私は……故に『勇者』としての修練を、不完全も良い所な独学でこなす他無かった」
女勇者「今日もそうだ。私は確かに今日、演台で勇者としての役を果たしたが」
女勇者「それも今日だけだ。あの、自分の書いたモノでもない演説の原稿を読んで、人々を煽って終わりだ」
女勇者「私は、この地に留め置かれるだろう。『征魔軍』への同行は許されまい」
女勇者「私が、仮にも『勇者』であるにもかかわらず、だ」

女勇者の顔が苦渋に歪む。
その口から吐露される言葉には、彼女の苦悩と口惜しさが満たされている。
しかし、従騎士は、それに如何な反応を示す事も無く、澄ました顔でそれを静かに聞いていた。

従騎士が再び口を開いた。

従騎士「その様な事は、私も良く知っております」
従騎士「して、肝心の内密な話とは?」

女勇者はそれを受け、僅かに言い澱んだ後、以下の事を言った。

女勇者「私も……『勇者』として『征魔軍』に参加す――」
従騎士「失礼させて頂きます」
女勇者「待て!?いきなり踵を返すヤツがあるか!?話は最後まで――」
従騎士「聞くも何も――」

背中を女勇者に向けたまま、首だけ彼女へと向けた従騎士は、呆れた表情で言う。

従騎士「その様な世迷い事を聞いてる程には自分は暇ではありませんので……」
女勇者「兎も角、話は最後まで聞けッ!!」
女勇者「私だって、真っ当な方法じゃそんな事が出来ない事ぐらい解っているのだ」
女勇者「それに……兄上にとっても悪い話では無い」

従騎士の肩を掴んで無理矢理振り向かせ、女勇者は彼へと詰め寄る。
その表情の余りの真剣さに、嫉妬と憐憫の混ざり合った複雑な感情を向ける相手である妹の話を、
少しは聞いてやろうかと考えを改めた。
120 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2011/12/23(金) 20:03:48.88 ID:qCNQwcF40

従騎士「――私にとっても悪くない、というのは?」
女勇者「兄上だって……見返してやりたい筈だ」
従騎士「はて?何の事で?」
女勇者「トボケないでくれ。兄上だってずっと口惜しい思いをしてきた筈だ」

女勇者「こんな事は私の言えた口では無いかもしれないが……」
女勇者「兄上は、男として、長兄として、勇者の家系に生まれながら」
女勇者「しかしその資格者は五つも下の妹だったが為に……」
女勇者「一介の『従騎士』の身分に甘んじなければならなかった」
女勇者「周囲からのいわれなき誹謗中傷だってあった筈だ」
女勇者「兄上だって……悔しかった筈だ。口惜しかった筈だ」

従騎士「……」

成程。たしかにそうではあった。
男でありながら勇者を継げず、それ故に一介の騎士に甘んじて来た。
実力で『太陽騎士団』に入団したにも関わらず、生まれの血統故に、
縁故だと、実力では無く家の力のお陰だと、陰口をたたかれ、
例え実力を発揮しようとも、女に勇者の位を取られた半端者と陰口を叩かれた。
――口惜しく無い筈も無い。
121 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2011/12/23(金) 20:04:17.42 ID:qCNQwcF40

女勇者「兄上は『太陽騎士団』の従騎士だ」
女勇者「黙っていても、『征魔軍』には参加できるだろう」
女勇者「しかし…この『征魔軍』には綺羅星の如き名だたる戦士達が大勢参戦するだろう」
女勇者「そうなれば…如何に兄上が勇敢で優秀な騎士であっても」
女勇者「どれ程の武勇を見せようとも」
女勇者「名も地位もある戦士達の名声の中に埋もれてしまうだろう」

女勇者「だが……私に協力してくれるならば別だ」
女勇者「勇者の兄として、当代『九人の仲間』の一員として」
女勇者「その名は百代に残り続ける……」

女勇者「私は勇者だがロクに実戦も知らぬ未熟者だ」
女勇者「それに対し兄上は、従騎ながら、武者修行で幾度も実戦に参加し」
女勇者「しかもその度に武勲を立てて来た勇士だ」

女勇者「その力が……私には必要なんだ」

従騎士「……」

従騎士は、暫し静かに逡巡していたが、
意を決した顔をすると、女勇者と真っ直ぐに見向きあい、

従騎士「ともかく……どうするつもりなのかだけは聞いておきましょう」

と言った。
女勇者はその返答に顔を喜色に綻ばせると、
しかし直ぐに顔を引き締め直して、彼女の考えを兄へと告げた。
122 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2011/12/23(金) 20:04:49.02 ID:qCNQwcF40

女勇者「私には兵も居なければ実力も無い」
女勇者「この国の実権は騎士団長と神官長が握っている」
女勇者「しかし、北方へと攻め入るならば、私の兵隊が必要になってくるが」
女勇者「有力諸侯、有力騎士の力を仰ぐ事は出来ない」
女勇者「彼らは私を『旗印』として利用はするだろうが……それだけだ」
女勇者「戦地へは赴けるかもそれないが、実質はここに留まるのと変わらない」

女勇者「ではどうするか……幸い、私には兵も実力も無いが――」
女勇者「『資金』がある」

従騎士「成程……『傭兵』ですか」

女勇者「そうだ。幸い、これまで神殿の金庫から着服…いや、拝借し、貯めてきた資金が相当にある」
女勇者「これを使って…実力をある傭兵や、世に出たくとも出れぬ貧乏騎士などを集い、私の、私の為の軍を作る」

従騎士「しかし…『傭兵』風情などに任せて大丈夫ですかね?信用的にも、実力的にも」

女勇者「大丈夫だ。私だったこの一五年間、遊んで暮らしていた訳ではない」
女勇者「いつか世に出るやもしれぬ時の為に……前もって準備していたのだ」

そう言って女勇者が取り出したのは、羊皮紙の束である。
突き出されたそれを受け取った従騎士は、紙面に目を通す。
そこに書かれていたのは――

従騎士「実力もあり、信用もある『傭兵騎士』や『傭兵隊長』のリストですか」
女勇者「いささか費用がかさんだが、情報の信用度は高い筈だ」

女勇者「既に、戦争の臭いを嗅ぎつけて、この内の何人かはこの『太陽の都』に来ている筈だ」
女勇者「それを……これより探しに行く」
女勇者「そして造り上げる……私の『九人の仲間』を、そして、私の軍隊を」

そう言って、決意の表情を見せる女勇者。
彼女にリストを返しながら、従騎士は言う。

従騎士「まぁ……現状では眉つばも良い所ですが」
従騎士「騙されたと思って……暫くは貴方に付き合いましょう、勇者様」

女勇者「こちらこそだ、私の従騎士」

そう言って、2人は笑うあった。
123 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2011/12/23(金) 20:07:13.20 ID:qCNQwcF40

――さて、女勇者の手にある傭兵達のリスト

――そこには名だたる傭兵達の名前が列記されていたが

――その筆頭には

――あの『黒騎士』の名前があったのだった……
124 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2011/12/23(金) 20:07:51.56 ID:qCNQwcF40
はい、ここまでです。

次回、いよいよ黒騎士と女勇者が邂逅します

125 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2011/12/23(金) 20:09:57.31 ID:qCNQwcF40
☆おまけ

キャラクターのイメージがわきやすい様に、参考画像を用意してみました。

『従騎士』ならびに『女勇者』、あと『太陽騎士団』の面子の恰好は大体こんな感じ
http://wktk.vip2ch.com/vipper29296.jpg
http://wktk.vip2ch.com/vipper29297.jpg

『黒騎士』はこんな感じです。ただし、画像と違ってサーコートに紋章は入っていませんが
http://wktk.vip2ch.com/vipper29298.jpg
http://wktk.vip2ch.com/vipper29299.jpg

次回が出来るだけ早めに
それでは
126 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/23(金) 21:38:24.13 ID:xHV0wf0Yo
黒騎士は漆黒さんをイメージしてたんだが・・・それかダクソの

>>1乙、太陽万歳!
127 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2011/12/23(金) 21:47:48.30 ID:qCNQwcF40
>>126
ダクソの黒騎士は格好良いよね。
ですが、後の話でも書く予定だったのですが、
この世界ではまだプレートメイルは普及してないので、残念ながら違います。
この世界の人間の戦士の間では、ソラールさんや青ニート2世みたいな鎧が主流です。

それと太陽万歳!
128 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/23(金) 23:12:49.54 ID:/Tkx4gabo
太陽万歳!
129 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/24(土) 02:07:15.94 ID:fRWxTxt50
俺もいつか、あんな風にでっかく熱くなりたいんだよ・・・
そうゆう俺はカスタムテーマソラールさん、おっぱいか迷ったけど太陽賛美が素晴らしい……
なにが言いたいかと言うと太陽万歳\(~o~)/!!!!

>>1
130 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/24(土) 07:19:25.49 ID:99HU5wTro
乙〜
131 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 00:16:45.47 ID:IVHw8yupo
くそ!これは太陽万歳と言わざるを得ない
132 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 09:49:26.13 ID:yJcs/A3SO
太陽万歳!

作者は佐藤賢一が好きな筈ww
133 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/01(日) 01:21:31.76 ID:1zZdLuGQ0
あけましておめでとうございます

出来うるならば、本日元旦夜に続きを投下したく思います

今年もよろしくおねがいします
134 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2012/01/01(日) 01:35:34.53 ID:kEBKFZ16o
明けましてアンバサー
135 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2012/01/01(日) 01:43:39.74 ID:abZ5eqLYo
明けましワッフル
136 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/01(日) 22:54:24.47 ID:1zZdLuGQ0
残念ながら無理そうです。
明日2日には投下したいですが……

それでは
137 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2012/01/01(日) 22:59:33.22 ID:abZ5eqLYo
把握ワッフル
138 :以下、あけまして [sage]:2012/01/04(水) 16:53:53.79 ID:k5hmtCUMo
FEの漆黒の騎士思い出したけどちがかった
139 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/08(日) 20:40:55.92 ID:suHRR4B40
お久しぶりです。
明日、月曜日の夜10時ごろから投下をしたく思います。
諸事情により、間が空いてしまってすみません
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank) [sage]:2012/01/08(日) 20:50:55.96 ID:ni71965vo
>>139
太陽万歳!
まってる
141 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/01/08(日) 21:05:22.12 ID:OL4H6FNZo
待機ワッフル
142 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/01/08(日) 21:31:22.91 ID:1gRUXl4do
太陽万歳!
143 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/01/08(日) 21:46:58.94 ID:uwoyAizRo
太陽ォォォォォォォォオオオオ!!!!
144 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/09(月) 21:59:45.94 ID:yywRlp/h0
では、そろそろ始めます
145 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/09(月) 22:00:55.27 ID:yywRlp/h0

――『女勇者』は『勇者』として自ら軍を起こす事を決意し
――『従騎士』はそれに加わり、『妹』を支える事を誓った

さて、2人は直ぐにリストに名前のある傭兵達に声を掛ける事を始める。
優秀で著名な傭兵隊長や傭兵騎士には、女勇者のみならず、あらゆる諸王諸侯からの勧誘が集中する。
出来るだけ早く動き、此方側へと引き込む必要があった。

傭兵の多くは、故郷を持たぬ流れ者であり、
その為、女勇者の側からその正確な所在を知る事は難しいが、しかし今回に限ってはそうではなかった。

『征魔軍』の本部は、『太陽の都』に設置されていた為に、諸王諸侯が、この都へと集う。
その彼らを求めて、傭兵達もまた、この都に集まっていたのである。

今回の『征魔軍』は人間世界総出の大遠征であり、当然、膨大な数の傭兵が動員される。
魔族世界での略奪や土地強奪による一攫千金、諸王諸侯による家臣取り立てを求めて、
あらゆる傭兵達が自分を売り込みに行ったり、募兵官の求めに応じたりして、諸王諸侯の元へと馳せ参じているというわけなのだ。

その為、既にリストの中にも名前の挙がっている様な著名な傭兵隊長、傭兵騎士達が、
『太陽の都』へとやって来ているという情報が、市中へと放っている勇者家の小者より次々と女勇者へと告げられる。

女勇者はそれを聞けば直ぐに手紙を自らしたため、それを小者に持たせて彼らの元へと送る。
その内容は実に簡単なモノであった。

『――もしも我が求めに応じ、我と契約を交わすつもりがあるならば、都の東、狩猟宮殿へと来るべし』

これに加えて、自身の名前と、約束の日付も記されている。

――果たして、その日はすぐにやって来た。

146 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/09(月) 22:01:24.41 ID:yywRlp/h0


――『狩猟宮殿』

『太陽の都』より東に数キロ行った所にある森の中に建てられた、
文字通り、勇者王家の行う狩りの為の別荘である。

王族諸侯の狩りというものは軍事訓練も兼ねているので、かなりの長期間に及んだり、大規模だったりするので、
狩りに適した土地を王領地とし、そこに滞在用の宮殿を造るのは、この大陸の有力者の間では広く行われた事であった。
この『狩猟宮殿』も、そうやって造られたモノの一つであった。

『狩猟宮殿』と名付けられているが、実際には『宮殿』と言う程の規模でもなく、煌びやかでも無い。
どちらかと言えば、『狩猟“館”』という名が相応しい様な、小さく、簡素な、小さな尖塔付きのバシリカ様式の建築物である。

先代以前の時代ならば兎も角、当代の女勇者の時代になってからは、
大規模な狩猟が催される事も無くなり、簡素な館は、一層寂れている。

事実、十人程の王命を受けた管理人一家が住んでいる以外は、辺りに人気は無く、
また、訪ねる者も殆どおらず、半ばこの宮殿は忘れ去られていた。

――その『狩猟宮殿』へと続く、半ば獣道と化している林道を、
黒騎士は従者に手綱を引かせながら、ゆっくりと進んでいた。
女勇者の出した、手紙の求めに応じたのである。

黒騎士「(さて……我らが『勇者様』からの呼び出し……かなり眉つばな話だが)」
黒騎士「(まあいいさ。モノは試しだ)」
黒騎士「(現状のままでは、手詰まりなのは確かなのだからな……)」
147 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/09(月) 22:03:42.01 ID:yywRlp/h0

意外な事ではあるが、大陸でも有数の実力を持った傭兵騎士であり、
しかも『征魔軍』を結成し、人間世界全体で北へと攻め入ろうと言う時分に在りながら、
黒騎士は未だ傭兵の契約を為す事が出来ていなかった。

彼は、『トーナメント荒らし』を余りに大々的にやりすぎたのだ。
諸王諸侯の不興を買い、この稼ぎ時に仕事を干されていたのである。

そんな彼からすれば、多少怪しい話であろうとも、今度の誘いは渡りに船であった。


黒騎士が馬を進めると、どことなくくすんだ印象の館が、緑の海の中から忽然と姿を現した。
目的地の『狩猟宮殿』であるが、そのみすぼらしい様子に、黒騎士は眉をひそめる。
市街で聞いた、長らく使われていないと言う噂話は、本当であるらしい。

馬を進めれば、『狩猟宮殿』正面の大きな扉の前に、出迎えの家令と使用人達が立っていた。
使用人の一人に従者は手綱を預け、黒騎士は下馬する。

その使用人が馬を厩へと運んで行く。
家令は黒騎士達に館に入る様に促すが、
黒騎士は手でそれを制し、厩の方へ行って様子を覗いた。

そこでは、黒騎士の馬が繋がれる様子と、
既に繋がれている幾頭かの馬が見えた。
その数から察するに、先に到着している人物が少なからず居る様子である。

黒騎士「(ふむ……)」

その様子に暫時、何か考える様な仕草をした黒騎士は、
しかし何も言葉を発する事無く、家令に従って館へと入った。
148 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/09(月) 22:05:30.17 ID:yywRlp/h0

狩猟宮殿は二階建てで、一階は使用人達のスペースであり、
勇者王家並びに来客の為のスペースは二階である。

黒騎士が通されたのは、二階に設けられた、
幾つもの大窓から日光が差し込み明るい広間である。

部屋の中央には大きな長机が置かれ、椅子も幾つも並べられている。
椅子に着いている人の姿は見えない。

???「おや?誰かと思えば黒騎士どのではないか」
???「意外だな。お前などは真っ先に仕事先が決まっているものだと思っていたが」

声のした方向へと黒騎士が目を向ければ、
壁に寄り掛かっている一人の男の姿をみとめる事が出来た。

黒く短い波打つ髪と、小麦色の肌、灰色の双眸が特徴的な美丈夫である。
青色のチュニックを纏った姿からは麝香の匂いが黒騎士の方へと漂って来る。
香水か何かだろうか。随分と洒落者である。

この男の事を、黒騎士は見知っていた。
『同業者』の間では、黒騎士と並んで著名な男である。

黒騎士「それは俺もお前に言いたいね『海賊騎士』」
黒騎士「お前さん、何でこんな所にいる?とっくに北へと行ったかと思っていたぜ」
149 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/09(月) 22:06:54.24 ID:yywRlp/h0

――『海賊騎士』
――あるいは『巌窟(いわや)の海賊騎士』

それがこの男の名前である。
その名の如く『巌窟島(いわやじま)』と言う名の、岩ばかりの痩せた島をその領地とする騎士だ。
巌窟島には耕作地に使える土地は殆ど無く、潮流の影響で、魚もそれほど豊富とは言えない、要するに貧しい島だ。
そんな島の連中が豊かになりたいと思えば、『外』へと出て行くしかない。
その方法は二通りある。海運商人となるか、あるいは海賊になるか。
この騎士と、その領民は、海賊になる道を選んだ。その方が容易であったからだ。

巌窟島は複雑な入り江と岩礁に囲まれた岩だらけの島であり、海賊の拠点としては最適である。
入り江の奥へと船を入れこんでしまえば、外部からその存在をほぼ完全に隠す事が出来るし、
その複雑な地形と無数の岩礁は、それを熟知した島の住民ならば兎も角、
外よりの船が迂闊に入り込めば、それをたちまち座礁させてしまい、敵を寄せ付けない。
また、岩だらけの島の陸地は天然の要塞で、ここに立てこもれば、余程の大兵力と根気が無ければ、これを落とす事は出来なかった。

島民は複雑な入り江と岩礁と付き合う内に、優れた航海技術を身につけ、
痩せた島の風土は、島民に忍耐と頑丈さ、そして海辺の民特有の荒々しさを身につけさせた。

今の海賊騎士が本格的な海賊を組織する以前から、副業的に島民は海賊稼業を行っていたが、
それを本格化し、巌窟島周辺の小島群の住民も巻き込んで大規模な海賊部隊を造り上げたのは、
他でも無い『巌窟の海賊騎士』である。

代々巌窟島を領地として来た一家の当代は、少年期に本土の港町へと渡り、
その地を治める騎士の傘下に入って騎士としての修行し、町の住民より航海技術を学んだ。
それらを充分に吸収した彼は、故郷に帰り、その知識と経験を生かして、海賊として一山当てる事を望んだのだ。
150 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/09(月) 22:07:32.04 ID:yywRlp/h0

――その目論見は見事に成功した。

小さな快速ガレー船に掲げられた軍旗の紋章……『翼のある蛇』を見た商船は、
ただそれだけで絶望したと言う程に、海賊騎士とその一家は猛威を振るったのだ。

貧しい巌窟島は略奪品で潤い、その財力で海賊団はその規模を一層大きくなり、
一介の海賊風情を越えた兵力を、いつしか海賊騎士は有し始める。

そしてこの海賊の優れた武力に、興味をもった諸侯がいた。
そして、それを利用する事を考えた。
彼らを雇い、敵対する諸侯や王族の保護を受けた商船を襲撃させ始めたのである。
そしていつしか、この海の傭兵稼業が、彼らの生業の専らになったのである。

今では、その実力随一の『海の傭兵隊長』として、海賊騎士の名は知れ渡っている。
とうの昔に、誰かに雇われて、北へ向かっていて、当然の男であったのである。

――海賊騎士は、黒騎士の問いに答えた

海賊騎士「何……今回の遠征で、海上経路で北へ向かう連中も多いのだがな」
海賊騎士「そういった連中の輸送は、殆ど全てが『北方海運同盟』の連中が請け負ってしまって」
海賊騎士「俺の様な海賊風情の出る幕は無い……という感じなのだよ」
海賊騎士「『海運同盟』の連中も今回の遠征にはかなり本腰を入れて参加するらしい」
海賊騎士「投資した額もかなりのモノだと言うし……他の勢力が入り込む余地は殆どあるまい」
151 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/09(月) 22:09:52.23 ID:yywRlp/h0

『北方海運同盟』とは、北の海を中心に活動する海運商人達の巨大かつ強力な商人ギルド組織である。
単なる商人ギルドでは無く、自前の軍事力を備えた、立派な『諸侯』の一角であり、
魔族世界の鉱山利権を狙って、今回の『征魔軍』への積極的な投資、諸侯諸王の軍勢の海上輸送請負、傭兵軍の派遣に精を出している。
また、その財力を縦横に使って、商売敵に、今度の『征魔軍』へと関われない様に、締め出し工作に奔走しているのである。
如何に血気盛んとは言え、所詮は一海賊風情の海賊騎士とその一派が、喧嘩の売れる相手ではなかった。

海賊騎士「ここに居るのは、諸事情により、実力はあるにも関わらず、仕事にあぶれたようなのが殆どだ」
海賊騎士「黒騎士、貴公もどうやらその様だな」
黒騎士「まあな」

海賊騎士へとそう返しながら、部屋を見渡す黒騎士。
見れば、海賊騎士と同様、椅子には着かず壁にもたれ掛かるなどしている男達が、少なくない数いるのが認められた。
どいつもこいつも、一癖も二癖もありそうな、海千山千の連中であるのが、黒騎士には一目で解った。

――その勇猛果敢さと、同じぐらいの残虐非道さで畏怖され嫌悪される
――『北方傭兵(ハスカール)』最大の傭兵軍団、『群狼団』が団長

――『白い島』の高地地方に住まう『高地戦士(ハイランダー)』で構成された
――死をも恐れぬ狂戦士傭兵部隊『大剣団』が団長

――その配下の兵員自体は凡百の極みでありなあがら、優れた指揮能力と経済感覚で
――『最も狡猾な傭兵隊長』と呼ばれる『白衣団』団長

――黒騎士と同じく決まった軍団を率いず、あちこちの諸侯と契約し、御雇歩兵隊長として活躍している
――細い専用の刺突剣を愛用する故にそうよばれる、南方の傭兵騎士『雀蜂の騎士』……

黒騎士「(……オイオイ、あんなのも居るのかよ)」
152 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/09(月) 22:10:23.53 ID:yywRlp/h0

集まった面子の顔を次々と眺めていた黒騎士の瞳に映ったのは、
緑の鱗で覆われた三角形の大きな鎌首と、細い瞳孔の双眸である。
言うまでも無く人間では無い。
『蛇人間』だ。

この世界において『人間』と『魔族』を分ける大きなファクターは外見や種族では無く、
『太陽神』を信仰するか、あるいは『闇の女神』を信仰するか、である。

『蛇人間』達はその姿こそ人間とは大きく異なるが、
しかし『太陽神』を信仰しているが為に、『人間』の範疇に入っているのである。

ただし、姿の余りの違い故に、同じ神を信仰しても、
蛇人間と人間は決して仲が良い訳では無く、
事実『南の王国』では、断続的に蛇人間勢力と人間勢力の抗争が続いているのである。

黒騎士「(そう言えば聞いた事があったな)」

黒騎士は思い出す。
蛇人間でありながら、人間の諸侯に雇われて転戦する、半ば山賊染みた荒くれの傭兵集団がいると言う事を。
その部隊名はその軍旗の色より『黄旗団』と呼ばれていた筈だ。
今ここに居るのは、その隊長か、その代理であろう。
153 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/09(月) 22:11:20.01 ID:yywRlp/h0

実に雑多な集まりである。
年齢、出身地、身分、さらには種族すら異なる雑多な人々の集まりである。
しかし、その全てが、黒騎士も良く知っているか、直接の面識は無くとも、傭兵稼業をやっていれば一度は噂話を聞く様な連中であった。

黒騎士「(コイツは中々……面白い面子だ)」
黒騎士「(しかしだ…)」

黒騎士は再度、広間を見渡す。
自分と同類の招待客以外には、隅に控えている使用人達しか見えない。

黒騎士「(肝心の招き主の姿が見えんな…)」

そんな事を考えている時であった。

――きぃぃぃぃぃぃ……

黒騎士「!」

蝶番の軋む音が聞こえ、黒騎士を始めとした傭兵一同は音のした方を向いた。
彼らが入って来たのとは違う扉が開かれ、2人の男女が姿を現す。

一人は太陽騎士団の制服を着た若い従騎士、そしてもう一人の女は……

黒騎士「――」

黒騎士は思わずその少女に見とれ、傭兵の誰かがひゅぅと口笛を吹く。
154 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/09(月) 22:12:11.43 ID:yywRlp/h0

金色の短髪に翡翠色の瞳を持った少女は、
白一色のローブを身に纏い、その上から深紅のマントを羽織っている。
体つきが豊かなのはローブの上からでも良く解ったが、
女性的な体に対し、その双眸相貌はきりりとして凛々しく、一本芯の通った印象を人に与える。

その少女の顔には、この場の全ての傭兵達も見覚えがあった。
いや、この大陸の多くの人間が、この少女の名前を知っているだろう。

――他でも無い、『女勇者』である。

そして、その傍らに控えるのは兄の『従騎士』だ。
『手紙』に書かれたその名前に半信半疑であった彼らも、それが真実であった事を理解する。

女勇者は、鈴の鳴る様な声で、言った。

女勇者「歴戦の傭兵諸君……本日は、この場に集まってもらって真に光栄である」
女勇者「さて、諸君に私が求める事は他でも無い」

女勇者「私は、私の為の『勇者軍』を編成したい」
女勇者「そしてこの中の幾人かに、その軍に加わってもらいたいと思っている」

女勇者「君達の中から、真に『欲しい』と思う戦士を、ここで選抜したいと思う」
女勇者「では――」

ここで女勇者は言葉を一旦区切り、僅かに口角を釣り上げ、不敵な表情を宿しながら、言った。

女勇者「一同、席に着いて欲しい。『交渉』を始めよう」
155 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/09(月) 22:16:14.97 ID:yywRlp/h0
はい、今日はここまでです
長らくお待たせした割に短くて申し訳ない

次回は早くしたいものです
156 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/09(月) 22:19:22.31 ID:yywRlp/h0
☆おまけ

本作のキャラクターのイメージを作りやすい様に、参考画像をば

http://wktk.vip2ch.com/vipper30586.jpg
http://wktk.vip2ch.com/vipper30587.jpg
http://wktk.vip2ch.com/vipper30589.jpg
http://wktk.vip2ch.com/vipper30590.jpg
http://wktk.vip2ch.com/vipper30591.jpg

それではまた次回に

       _人_          ┌=ニ二二ニ=┐
.     // ヽ.\        |_i┃i___.  |
    /_l__l_λ.       | ━╋━━il |
.    l_____l         |. ̄|┃| ̄ ̄ .|
    l;;;;;iヽ「_).(_フノ        |.  |┃|     : :|
    l;;;ノ  `Y´ l         l、__.l┃!   ___:_:,l
                     ̄ ̄ ̄
157 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/09(月) 23:19:02.51 ID:j7xJMpOKo
おつおつ
158 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/01/09(月) 23:45:55.51 ID:sx/bs/Ipo

太陽万歳!
159 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/10(火) 19:06:18.81 ID:DBZJ8xyoo
160 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/11(水) 22:33:12.68 ID:U7G75MhSO
「2度ある事は…」のパターンではなくて一安心。

早めに続きが読みたいけど、大人しく待ってる。
161 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/15(日) 21:29:32.36 ID:2npXBG+f0
>>1です
明日月曜日、もしくは明後日火曜日の夜には投下できるかも、です
162 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/01/15(日) 21:41:18.43 ID:79OtXPywo
待機ワッフル
163 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/17(火) 18:02:15.44 ID:KxDwY7Hp0
本日、夜11時半ごろに投下したく思います
164 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/17(火) 22:37:57.10 ID:KxDwY7Hp0
すんません。眠気が凄くて本日投下はもうむりぽ……
明日、水曜日の夜11時半に投下したく思います

では
165 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/18(水) 22:14:20.72 ID:n5Btd4uU0
AAテスト



       _人_          ┌=ニ二二ニ=┐
.     // ヽ.\        |_i┃i___.  |
    /_l__l_λ.       | ━╋━━il |
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   _人人人人人人人人人人人人人人人_
   >     Viva Il Sole!!!       <
    ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄
166 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/18(水) 22:15:25.06 ID:n5Btd4uU0
うーむ…何故か微妙にズレるなぁ…他の所の書き込みテストでは綺麗になったのに…
167 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/18(水) 22:21:18.88 ID:n5Btd4uU0
それと、ちょいと早いですが、投下を開始します
168 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/18(水) 22:21:44.40 ID:n5Btd4uU0

女勇者が広間中央の長机の上座に着き、従騎士はその右側の席に着いた。

それに続いて招待客達は手近な席に着く。
いずれもさして身分の高くない連中の為か、席順には拘らないらしい。
これが高位の貴族や諸侯、諸王の集いであれば席順を事前にちゃんと決めておかなければ、
席順を決めるだけで一日を費やしてしまう所だろう。

黒騎士は、女勇者の席の、丁度反対側の席に着く。
距離を挟んで向かい合う形である。

全員が席に着いたのを確認すれば、女勇者は席より立ち、一同に対し、良く通る声で話し始めた。

女勇者「改めて、私の為に集まってくれた歴戦に勇士達に、感謝の意を示したい」
女勇者「さて、本日、ここに集まってもらったのは、他でも無い」
女勇者「件の『征魔軍』に、この私も一軍を率いて参戦する所」
女勇者「私には満足な手勢が居ない。よって、優秀な傭兵諸君に集まってもらった訳だ」

女勇者「諸君も聞いていると思うが、今回の『征魔軍』の目的は3つ」
女勇者「一つは、現在、魔王軍に圧されている聖堂騎士団への救援」
女勇者「二つ、魔族に“奪われた”北の大地の『再征服(レコンキスタ)』」
女勇者「そして三つ目こそが最も重要だが……魔王軍の殲滅並びに魔王を討ちとる事だ」
169 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/18(水) 22:24:16.64 ID:n5Btd4uU0

『再征服』とは言うが、その実、北の大地はその殆どが古来より魔族領である。
つまりは、人間側の手前身勝手な言いがかりなのだが、戦争というものはえてしてそういうものだ。

女勇者「そのいずれも、容易ならざる難事だが、しかし、この戦い、偉大なる日輪も御照覧である」
女勇者「日輪の加護を背に、我ら『人間』が一堂に連合し、人倫の限りを尽くせば、必ずや我らは勝利するだろう」

女勇者「そしてその戦いに、この私、当代『勇者』もまた、諸君らと共に馳せ参じたいと思うのだ」

女勇者は、ここで一旦言葉を区切り、一同を見渡してから、再度言葉を紡ぐ。

女勇者「無論、払うべき報酬は約束に違わず払おう」
女勇者「魔族のモノを奪う事も、全面的に許そう」
女勇者「むしろ、それは日輪の思し召しに適う事、各々、盛大にやって頂きたい」
女勇者「“獲り返した土地”も、その武勲に応じて、諸君らのモノとしてもらうつもりだ」

女勇者「さあ、我と思う者は、名乗り出て欲しい」
女勇者「私と共に魔族を討ち、やつらの不当に溜めた富を取り上げて」
女勇者「皆、豊かになろうではないか。皆、領地を得ようではないか」

――そこまで言うと、女勇者は席へと座り、一同を再度見渡した。
それより、間を殆ど置かず、一人の男が立ちあがる。
170 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/18(水) 22:26:06.54 ID:n5Btd4uU0

青いチュニックを着た、禿頭の、ギョロリとした大きな目の男である。
鼻は高く長く、先は尖っていて、鳥の嘴を思わせる異相であった。
右腕には、金の獅子が刺繍された腕章をつけている。

男「某(それがし)、『金獅子兄弟騎士団』が団長にござる」
男「当方、騎士200騎、歩兵が1000名でござるが」
男「勇者殿よりの御報酬、真にありがたく候えど」
男「某どもには、一切無用にござる」
男「我ら一同、自費を以て、勇者軍に馳せ参じたくござる」

黒騎士「(――へぇ)」

こんな妙な事を言いだしたのは、『金獅子兄弟騎士団』の団長である。
黒騎士はこの男に面識は無かったが、その騎士団の名には聞き覚えがあった。

この大陸の人間世界には幾つもの騎士団が存在するが、その規模の大小は様々で、
この騎士団は比較的小規模な連中である。

なんでも、この団長は元々は何て事の無い一傭兵騎士であったらしいが、
さる戦争に加わった時に瀕死の重傷を負い、そこからの奇跡的回復の過程で、
なにやら『神秘的経験』とやらをしたらしい。

死に際の人間にはよくある事だが、それが切っ掛けで、男は熱狂的回心をし、
日輪に仕える道を選んだのである。

それも、自身がかつて人生に捧げた武を以て。
171 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/18(水) 22:26:46.06 ID:n5Btd4uU0

男は、自分と同じ様な狂信的な同志を集めると、
武を以て日輪に奉仕する騎士団を設立した。

――それが『金獅子兄弟騎士団』である。

設立当初は、北の大地、すなわち魔族世界へと攻め込み事を目論んでいたらしいが、
『長城』より向こう側は聖堂騎士団が全面的に管轄している。

このカルトの臭いのする闖入者は、門前払いを喰らって南へと追い返されたそうだ。
飛び入り歓迎の聖堂騎士団ではあるが、極度の狂信の輩は暴走しがちであり、ただ単に面倒な場合の方が多い為、
個人の参加であってもあまり好まれない。それが集団であればなおさらである。
さらに言えば、魔族世界の切り取りは、聖堂騎士団の一種の『特権』である。
得体の知れない新参者などに、入り込む余地など与える訳も無い。

仕方が無いので、魔族との戦争を諦めた金獅子兄弟騎士団は、傭兵騎士団と化し、
南方で蛇人間相手に戦争を繰り返していたらしいが、そのやり口の苛烈さ故に、何処でも敬遠される様になった。

しかし一方で『金獅子兄弟騎士団』の名の通り、
獅子の如く勇猛果敢で恐れ知らずであり、血の繋がった兄弟の如き鉄の結束を誇るこの騎士団は、
少数ながらも精鋭であり、また、実戦経験も豊富であった為、常に一定の需要は保っていた。
172 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/18(水) 22:27:11.68 ID:n5Btd4uU0

金獅子兄弟騎士団団長は、感極まった様子で、熱烈たる調子で語る。
(※長い為、以下から金獅子団長と略)

金獅子団長「魔族相手の聖戦こそ、我らが本懐にござれば」
金獅子団長「この征魔軍に、勇者殿と轡を並べる事が出来るだけで正に恐悦至極」
金獅子団長「兵糧、武具……全て自前で用意いたす所存」
金獅子団長「恐れながら、金銭による報酬は辞退させて頂く所存でござる」
金獅子団長「ただ――」

ここで金獅子団長、言葉を区切り、次いで出るのは、念を押す様な口調の以下の言葉。

金獅子団長「かの忌わしき魔王を討ちとった暁には」
金獅子団長「願わくば、賜らんことを望む恩賞が一つ」
金獅子団長「今現在、聖堂騎士団が占めている辺境伯が位、並びに長城守護の任務」
金獅子団長「彼奴等に代わって、この我ら金獅子兄弟騎士団にこそお任せ願いたい」

黒騎士「(ああ成程)」

金獅子団長は一傭兵としてではなく、
女勇者の為に馳せ参じた聖なる義勇の騎士として、
かつて自分を門前払いにした聖堂騎士団の後釜に座るのが狙いらしい。

現在、聖堂騎士団は『長城』を放棄し、『聖騎士の砦』に立てこもっているが、
魔王軍との初戦で手痛い打撃を受けており、仮にこの征魔軍が人間の勝利に終わったとしても、その勢力の減退は免れまい。

そこに、勇者のお墨付きを得た金獅子兄弟騎士団が参上し、連中が占めていた地位を掻っ攫うつもりなのだ。

女勇者「成程……解った。必ずや勝利の暁には、貴公らを聖騎士団と正式に認定し」
女勇者「長城守護に任ずると約束しよう」

金獅子団長「おおッ!!それはありがたき幸せ!!」
金獅子団長「されば我ら200騎、日輪と勇者殿に、この命、捧げましょうぞ!!」

――これにてまず、最初の参陣者が早速決まる

――『金獅子兄弟騎士団』、騎士200騎、歩兵1000名、勇者軍へと参陣

173 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/18(水) 22:28:58.23 ID:n5Btd4uU0
今日はここまで。
短くて申し訳ない。

一番手は、この手の戦争には必ずいるであろう宗教キ○ガイのターン
傭兵達のターンは次回からです。

次は出来るだけ早く、可能ならば22日の夜にでも

それでは日輪万歳
174 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/18(水) 23:00:47.98 ID:So8trY5Ao
おつおつ
ダイターンを思い出すな
175 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/01/18(水) 23:00:58.64 ID:VvYEC+iCo
乙〜
176 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/20(金) 11:33:17.59 ID:4uK5iSPSO
177 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/22(日) 15:05:29.50 ID:3FHvfvqV0
┌─────────────────────────────────┐
│┌───────────────────────────────┐│
││     厶                l         l                      .││
││   ヲ弌   総       l 儿      |                    ......││
││   彡            | ]「       !      イ フ弋           ..││
││.          勢        ノrミ r=ミ、   |         | E|ヨ           ..││
││  f7 十           /ハソ iLノ}    !      |   」           .││
││.   !{ Elヨ    1       l \  `¨´  ノ |                      .││
││  「 十          厶  二二  ,ィ彡ト、                   ....││
││           名  ,rfミx一-…―   ノ ト、                  ...││
││           T{ ヽ、        _浴@ ノ  ≧、               ......││
│└───────────────────────────────┘│
└─────────────────────────────────┘


本日、夜11時ごろに投下いたします
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/01/22(日) 15:08:07.15 ID:aAYZg0D2o
待機ワッフル
179 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/01/22(日) 15:31:56.65 ID:PCqwp/Gpo
アンサラー
180 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/22(日) 22:58:08.73 ID:3FHvfvqV0
これより、投下を開始いたします
181 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/22(日) 22:58:39.99 ID:3FHvfvqV0

女勇者「さて、これにて早速、『金獅子兄弟騎士団』の我が軍への参入が決まった訳であるが」
女勇者「他にも、我こそはと思う者は名乗り出て欲しい」

この女勇者の云いに、座は暫時しんと静かになった。

黒騎士「(まぁ……無理もないわな)」

黒騎士は机に両肘をついて指を組み、その後ろの口角を僅かに釣り上げた。

黒騎士「(ここに居るのは俺も含め、銭が欲しいだけの傭兵共だ)」
黒騎士「(だが、しょっぱなから『金銭報酬はいらない』なんて野郎に名乗り出られちゃぁ)」
黒騎士「(いくら俺達が恥も外聞も知らぬ野良犬風情でも、相手も『勇者』であるし、ちょいと報酬の話は切り出しにくいしな)」
黒騎士「(切り出したとしても、いきなりふっかけるなんてのはどーもやりにくい)」
黒騎士「(そう考えて、あのハゲ頭の騎士に、最初に名乗り出させたとしたら)」
黒騎士「(かわいい顔をしているが、単なる世間知らずのお嬢様って訳でもないのかな?)」

さて、当の黒騎士はここで名乗り出るつもりはない。
この場の皆、雇われる為にここに来ている以上、誰かが必ず名乗り出るだろうが、
その最初の誰かと女勇者との交渉の趨勢をまずは様子見をするつもりであった。

果たして、一人の男が立ちあがる。
182 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/22(日) 22:59:08.05 ID:3FHvfvqV0

白衣団団長「それでは、いやしくも自分に名乗り出る事を許し給いたい」
白衣団団長「加えて、勇者殿には最初に言上することを許し給いたき儀がございます」

女勇者「何だ?」

白衣団団長「自分は傭兵隊長でございます。よって、あくまで報酬と契約の為に戦う者です」
白衣団団長「よって自分は、まず報酬の話から始めさせていただく」

女勇者「……構わない。傭兵とはそういうものであろう」

――以上の様に切り出したのは、『白衣団』が団長であった。
歴戦の傭兵隊長にして、優れた経営能力を持っており、それにより、
戦時では平時より、通常ではあり得ぬ規模の傭兵軍団『白衣団』を維持している、
最も名と器量のある傭兵隊長の一人である。

しかし一方でそのやりくちは狡猾で阿漕であり、その悪評もまた高い男である。
現在はさる商業都市国家に雇われ、その防衛軍の地位に収まっているらしいが、
その方法も、いきなり私兵を率いてその都市を包囲し、
『俺達を雇うか、それとも略奪されるか、好きな方を選べ』と、殆ど居直り強盗である。

黒騎士「(こいつが最初に立ってくれたのはありがたい)」
黒騎士「(こいつの後なら、誰でも報酬の話は出しやすかろうしな)」

黒騎士以外の者達も同様の事を考えたのか、白衣団団長の名乗り出を歓迎する空気が座に満ちる。
183 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/22(日) 23:00:02.84 ID:3FHvfvqV0

白衣団団長「それでは、まず契約期間でありますが……」
女勇者「そうだな。征魔軍が終わるまで…ではいつか判然とせんから、まずは半年としよう」
白衣団団長「半年、ですかなるほど」
白衣団団長「しかして、肝心の報酬の方で御座いますが」
白衣団団長「当方『白衣団』は現状、傭兵騎士500騎、歩兵1000名」
白衣団団長「必要ならば、さらに兵を募り、歩兵を500ほど足す事もできましょう」

白衣団団長「これに対し、半年で、騎士一騎につき金貨80、歩兵一人につき金貨25」
白衣団団長「前金として、以上の条件での総報酬の3分の1を頂きたい」

女勇者「――!」
黒騎士「(いきなりふっかけやがったなコイツ)」

眼を丸くする女勇者に、組まれた掌の後ろの笑みを深くする黒騎士。

通常の相場では、“年額”報酬で、騎士(あるいは騎兵)一騎につき金貨90、歩兵はその3分の1の金貨30である。
(歩兵の報酬は騎兵の3分の1というのが、この世界での慣習である)

さらに、これはそれなりに豊かな都市国家や王侯が雇い主の場合であり、
もっと経済力の低い雇い主であれば、それよりも当然報酬額は下になる。

今、白衣団団長の提示した条件はぼったくりも良い所の額であるのは、一目瞭然である。
184 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/22(日) 23:00:47.05 ID:3FHvfvqV0

ちなみに、この大陸で広く流通し、最も信用のある貨幣は、
『太陽の王国』が発行している『太陽金貨』であり、普通『金貨』と言えばこれを指す。

直径約2センチ、重さ約3.5グラム。純度99.7パーセントの純金の金貨であり、
これ以外にも、『太陽銀貨』、『太陽銅貨』があって、これらもまた、広く大陸に流通している。

その両替のレートは、金貨:銀貨:銅貨=1:100:100000、である。

金貨1枚の価値を、我々の世界の日本円の価値に換算するのは、
物価、社会構造の違いより非常に困難であるが、
おおよそ、金貨1枚=日本円にして6万円〜10万円と考えてくれればいいだろう。

閑話休題。

いずれにせよ、白衣団団長は壮大にふっかけた訳だが、
これは、この世界、この時代の金銭に関する交渉事では珍しくない事だ。

まず最初に一方がふっかけて、そこより互いの妥協点を探っていくのである。

女勇者も、最初の面喰いから直ぐに立ち直り、直ぐに団長のふっかけに応戦する。
185 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/22(日) 23:01:17.21 ID:3FHvfvqV0

女勇者「流石にそれは私から奪いすぎではないかな団長」
女勇者「契約半年、騎兵1騎につき金貨30、歩兵1名につき金貨10が、妥当であろう」

今度は女勇者もまた、あきらかに少ない報酬額を提示する。

こうして互いにふっかけあう、我々の世界では関西や中東などで主流のやり方である。

白衣団団長「騎兵75、歩兵25。これは譲れませんな」
女勇者「馬鹿を言うな。騎兵35、歩兵15」
白衣団団長「騎兵は70。歩兵25は譲れません」
女勇者「騎兵でも40だ。歩兵15は相場でも妥当だ」

互いに譲らぬ2人の間に、ここで、一人の男が割り込む。

黒騎士「騎兵1000騎、半年契約で一人当たり金貨35」
黒騎士「さらに必要ならば、一人につき金貨15で、長弓兵を1000、引っ張ってこられますが」
黒騎士「自分ならば、その条件で参陣いたしますが、如何?」

白衣団団長「――なに?」
女勇者「騎兵1000を、35で、だと?」

――ここで、黒騎士の登場である。

186 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/22(日) 23:02:17.16 ID:3FHvfvqV0
短いですが、今日はここまで。
次は、25日、水曜日ぐらいに

それでは日輪万歳!!
187 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/23(月) 00:25:06.64 ID:XON9+DnZo


黒騎士ちゃんと私兵いたんだな・・
188 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/01/23(月) 00:25:45.49 ID:CIRUVE1no
乙〜
189 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/23(月) 00:40:53.16 ID:lbXwNyXSO
太陽万歳!


パンツ脱いで待機してる。
190 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/01/23(月) 01:43:41.42 ID:qPuYHtX4o

赤目先生を沢山連れて来るのか…
191 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/25(水) 20:28:01.13 ID:hi2PvrQi0
本日は投下は無理そうです

ですが、明日、木曜日、夜11時ごろに投下できそうです

それでは
192 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/01/25(水) 20:28:28.15 ID:GeEEtq8Qo
把握ワッフル
193 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/01/26(木) 17:47:02.68 ID:kCcSIYPJo
期待
194 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/26(木) 22:07:20.65 ID:77RHjgqY0
本当に申し訳ない

何と言うか……全然筆が進まない……
今日の投下は無理です

次回の投下は、結局29の日曜日になりそうです。

出来うるならば週に2回ぐらいは更新したいのですが、
どうも上手くいかない……

改めて、申し訳ない
195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/26(木) 22:32:12.56 ID:FTVbrXGIO
できねーんなら宣言するな
焦らずゆっくり書いてくれ
幸い、時間ならありあまってる。いつまでも待ってるさ
196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県) [sage]:2012/01/27(金) 18:47:52.62 ID:4x+nCNhwo
きめえ
197 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/29(日) 21:19:19.74 ID:ehKHVaDa0
短いですが、これより投下を開始します。
198 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/29(日) 21:19:45.80 ID:ehKHVaDa0

女勇者は改めて黒騎士の姿をまじまじと見た。

背は高く、おそらく180センチメートル程はあるだろう。
肩口まで伸ばされた黒髪は、軽いクセがあって、波打ち膨らんでいる。
その相貌はまだ若く、30の半ば程であろうか。少なくとも、40に入っているようには思えない。

口元は無精ヒゲで覆われているが、鼻筋の通ったその顔は、
ゴロツキ同然の傭兵騎士の割には、思いの外、上品な印象を見る者に与える。

瞳は焦げ茶色で、それに対し静かな落ち着いた印象を、女勇者は受ける。

いま挙げた様な部分だけを見れば、学者と名乗っても通じそうな整った容姿だが、
右の口元と、額の左に刻まれた刀傷は、こと男がやはり戦士である事を示している。

服装は通り名に相応しい黒の長衣であり、一見、地味にも見えるが、
長く大きく造られた両袖はまくりあげられ、鮮やかな黄色の裏地を曝していた。

黒騎士は立ち上がり、先程言った内容をもう一度繰り返す。

黒騎士「騎兵が1000騎です、勇者閣下」
黒騎士「賃金は、半年契約で、1騎あたり太陽金貨で35」
黒騎士「閣下が求められるならば、さらに『白い島』出身の長弓兵を1000名」
黒騎士「一人あたり金貨15で提供する用意がある」
黒騎士「と、自分は申しておるのです」
199 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/29(日) 21:20:33.85 ID:ehKHVaDa0

ここまで言って、黒騎士は白衣団団長の方をチラリと流し見る。
団長は憮然とした表情でそれを見返す。

睨み合う2人を見つつ、女勇者は無言で算用する。

女勇者「(騎兵が1000に、長弓兵が1000か)」
女勇者「(恐らくは『軽騎兵』……あるいは『騎乗兵』)」
女勇者「(35で揃えられるのだから、恐らくは装備では正規の騎士達には劣った連中だろうが)」
女勇者「(それでも、騎兵戦力が増えるのはありがたい)」

女勇者「(『白い島』の長弓兵と言えば)」
女勇者「(噂に名高きロングボウの使い手だが)」
女勇者「(そう言えば黒騎士には『白い島』の出身者だと言う噂があったな)」

算用しつつ女勇者は、自分の知る黒騎士に関しての情報を想起する。
200 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/29(日) 21:21:39.89 ID:ehKHVaDa0

――『黒騎士』

普段は従者と2人、あるいはごく少数の仲間と諸国を遍歴し、
トーナメント荒らしなどを生業にするゴロツキであり、
しかし一たび雇われれば、確実に戦果を上げる歴戦の傭兵騎士。

この手の流れ者の大半がそうであるように、黒騎士の氏素性ははっきりとはしていないが、
どうも、その言葉のイントネーションや、そのつるんでいる連中の様相から察するに、
北の『白い島』の出身ではないかと言われている。

大陸の北に、僅かな距離の海峡をまたいで浮かぶ『白い島』は、
その名の通り島の大陸側の海岸線が、切り立った石灰岩の断崖絶壁になっており、
それ故に古来より『白い島』と呼ばれる土地である。

現在は、子の無かった先代の兄王が呼ばれていた仇名『獅子心王』の名を継いだ、
二代目『獅子心王』が治めているこの『白い島』は、
古来より人々の出入が激しく、諸民族が混ざり合いつつも完全には同化せぬ、モザイク地帯となっている。

『白い島』の王家の歴史は、そうした諸民族の興亡の歴史でもある。
ある民族が王家を作り、他の民族を支配したかと思えば、また別の民族にとって代わられる――それの繰り返しである。

そして、そうした権力の交代劇の度に、島の支配層である貴族の顔ぶれもまた代わる。
新たな王家の勃興で、土地を得る騎士貴族が一方で、土地も位も収奪される騎士貴族が居る。

そして、土地や位を奪われた貴族は、あるいは叛徒と化し、あるいは賊徒と化し、あるいは傭兵となるのである。

黒騎士も、そうした土地と位を奪われた元貴族の傭兵騎士であろう――と、人々は噂した。
201 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/29(日) 21:22:34.84 ID:ehKHVaDa0

女勇者「(元貴族ならば、かつての領民や家人にも顔が利くだろう……配下の兵はそんな連中か――)」
女勇者「(いずれにせよ)」

女勇者「(黒騎士に、本当に提示した条件を守る気があるならば……契約を結ぶ価値はある)」

ここで黒騎士の提示した比較的低価格の条件で契約を結べば、
他の連中との契約も、その価格条件を下げる事が出来る可能性があるからである。

傭兵隊長としては、熟練にしてベテランの黒騎士が提示した以上の条件を、
少なくとも彼以下の格の傭兵隊長では提示できまい。

女勇者「ふむ……黒騎士殿。今、貴公の挙げた条件は真なのだな?」
黒騎士「無論」
女勇者「ならば良し。私にとってはこの上も無く好都合だ」

女勇者「黒騎士殿。その条件で貴公を半年雇うとしよう」
女勇者「正式な契約は、後ほど、書記に文書を持ってこさせるから、その時にだ」

黒騎士「ありがたきしあわせ。閣下には、私を雇った事への後悔は決してさせませぬ」

――かくて黒騎士とその配下一同は、勇者軍へと加わる事が決まった。
202 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/29(日) 21:24:04.29 ID:ehKHVaDa0

黒騎士は席へと着く。
出し抜かれた形の白衣団団長は、依然、立ったままであった。

白衣団団長「……」
女勇者「貴公はいかがいたすか、団長」

女勇者の問いに、暫し黙して考える様子の団長は、

白衣団団長「――いや。自分はもう、これ以上は結構で」
女勇者「ふむ?」
白衣団団長「残念ながら、これ以上言葉を交わせども、閣下とは条件が合うとは思えませぬ」
白衣団団長「自分は、これぐらいで下がらせて頂きます」
女勇者「そうか……それは残念だ」

と言い残して、そのまま踵を返し、広間を去った。
バタンと扉の閉まる音を聞きながら、女勇者は、三度、一同を見渡し言う。

女勇者「残念ながら一名去る事になったが、話を続けよう」
女勇者「我こそはと思う者は、名乗り出て欲しい」
203 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/29(日) 21:25:01.63 ID:ehKHVaDa0
短いですが、今日はここまで。
その代わり、次の投下は、明日月曜日の夜になると思います

それではまた
204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/29(日) 21:50:09.76 ID:dtWN9mnXo
おつおつ
205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/01/29(日) 21:56:10.19 ID:nyNdocN7o

太陽万歳!!
206 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/01/29(日) 21:57:01.19 ID:CEkgm+uzo
乙です
207 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age saga]:2012/01/30(月) 22:04:28.16 ID:4jN6TWIQ0
申し訳ないですが、体調不良につき、
本日予定の投下は明日の夜に延期いたします。

明日に備えて今日はさっさと寝る事に致します、おやすみなさい
208 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/31(火) 00:42:19.56 ID:MVswDCt1o
>>207
最近風邪はやってるから気を付けろよ
お大事に
209 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/17(金) 12:20:08.70 ID:zP5xLDaSO
舞ってる
210 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/02/22(水) 22:09:58.10 ID:t40zWb5co
明日はいつやってくるのだろう
211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/26(日) 19:31:51.61 ID:a6PuI6kIO
やはり…か
212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/26(日) 20:20:18.85 ID:s2ieUFBIO
     ...| ̄ ̄ | < 続きはまだかね?
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\  \__(久)__/_\::::::|    |:::::::|
.||.i\        、__ノフ \|    |:::::::|
.||ヽ .i\ _ __ ____ __ _.\   |::::::|
.|| ゙ヽ i    ハ i ハ i ハ i ハ |  し'_つ
.||   ゙|i〜^~^〜^~^〜^~^〜
213 :まだかな… [sage]:2012/03/01(木) 10:08:00.11 ID:JtUt0tYIO
                |:|:.:.:.:.:.:.:.:.:...   | | |   | |:.
                |:|.:.:.:.:...      | | |   | |:.:..
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214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/05(月) 00:41:58.13 ID:CUxmQPrA0
ずっと体調がわるいのか?
215 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/16(金) 17:31:50.39 ID:iEu3KWcM0
申し訳ありません。
諸事情により更新が出来ませんでした

これより再開……と行きたいのですが、実は似た様な勇者&傭兵モノで、
別の作品の方にモチベーションが奪われてしまったので、こっちの更新は一旦休止して、
そっちの方をメインにしたいと思います。

ただ、こっちを止めるつもりは毛頭ないので、時々更新します。
進みは遅いですが……

それでは
216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/16(金) 17:43:52.80 ID:8hz2DNfoo
どっちも中途半端になる予感しかしない
217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/03/16(金) 17:44:39.42 ID:qhz0T/9Uo
待ってる
218 :1 ◆ItNEKgTFQ. [saga]:2012/03/16(金) 18:21:45.16 ID:iEu3KWcM0
ちなみに、新しいのはコレです

勇者「火と剣とを以て」傭兵剣士「我が命尽きるとも」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1331887075/
219 :1 ◆ItNEKgTFQ. [age]:2012/03/18(日) 14:00:29.61 ID:YXC0G5eJ0
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