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食蜂「本っ当に退屈ね、この街は」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 20:36:13.52 ID:c1MFS++20
このSSはhttp://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1311/13118/1311854882.htmlの続きです

注意点
オリジナル・独自設定のオンパレード
清々しい程の厨二・超展開
一部登場人物が、前スレよりさらにパワーアップ

いろいろおかしいところはあると思いますが、ご都合主義ってことで見逃してくれるとありがたいです
【 このスレッドはHTML化(過去ログ化)されています 】

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もし、探しているスレッドがパートスレッドの場合は次スレが建ってるかもしれないですよ。

こんな恋愛がしたい  安部菜々編 @ 2024/04/15(月) 21:12:49.25 ID:HdnryJIo0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713183168/

【安価・コンマ】力と魔法の支配する世界で【ファンタジー】Part2 @ 2024/04/14(日) 19:38:35.87 ID:kch9tJed0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713091115/

アテム「実践レベルのデッキ?」 @ 2024/04/14(日) 19:11:43.81 ID:Ix0pR4FB0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713089503/

エルヴィン「ボーナスを支給する!」 @ 2024/04/14(日) 11:41:07.59 ID:o/ZidldvO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713062467/

さくらみこ「インターネッツのピクルス百科辞典で」大空スバル「ピクシブだろ」 @ 2024/04/13(土) 20:47:58.38 ID:5L1jDbEvo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713008877/

暇人の集い @ 2024/04/12(金) 14:35:10.76 ID:lRf80QOL0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1712900110/

ミカオだよ。 @ 2024/04/11(木) 20:08:45.26 ID:E3f+23FY0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1712833724/

アルミン「どうやら僕達は遭難したらしい」ミカサ「そうなんだ」 @ 2024/04/10(水) 07:39:32.62 ID:Xq6cGJEyO
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1712702372/

2 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 20:37:02.15 ID:c1MFS++20
4月

第三次世界大戦終結から約半年が経過した。
大戦直後は平和以外の何物でもなかったが、これまでに様々なことがあった。
『新入生』たちによる学園都市への大規模クーデター。
そのことにより弱った学園都市へ、魔術サイドが総攻撃を仕掛けてきたりもした。
だがそれらのことは、主にとある少年達の活躍によって事なきを得てきた。

その少年達とは、上条当麻、一方通行である。
彼らはこれまでの戦いを通して、ついに平和を手に入れる事が出来た。
その代償は決して少なくなかったが。

しかしその平和も崩壊することとなる。
とある少女の、とあるプロジェクトによって。
3 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/25(日) 20:38:01.01 ID:ZLAaAGfAO

続ききたァァァァァァァァ!!!
4 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 20:39:16.39 ID:c1MFS++20
とあるSSの人物紹介

上条当麻

『幻想殺し』(イマジンブレイカー)という、異能の力を打ち消す右手を持つ少年。
性質上弱点も多く、どちらかと言えば不便な能力。
その『幻想殺し』の正体は、体に宿している『竜王』(ドラゴン)の副産物。
とある高校に通っている。年度も変わったので2年生。学生寮で五和と同棲している。

夏休みの初日に禁書目録(インデックス)と言う少女との出会いをきっかけに数奇な運命を辿ることとなった。

一方通行

その名の通り『一方通行』(アクセラレータ)、簡単に言うと『ベクトル操作』能力の少年。
8月31日の出来事で脳にダメージを負い、演算能力が大幅に劣化したが、
垣根と結標の協力により能力を取り戻すどころか、以前より強化された。
『絶対能力者』(レベル6)であり、学園都市第1位でもある。
学園都市で一番の名門校と言われている長点上機学園に、2年生として通うことになった。

かつては最強であるが故に、他者との関わりを避けてきたが
上条当麻と、今は亡き打ち止め(ラストオーダー)との出会いをきっかけに変わった。

禁書目録

正式名称はIndex-Librorum-Prohibitorum。
魔法名は『dedicatus545(献身的な子羊は強者の知識を守る)』。

完全記憶能力を持つ少女で、かつては10万3000冊の魔道書を記憶していたが
上条当麻に宿る真の力『竜王』によって、魔道書の知識とエピソード記憶を喰われた。
完全記憶の能力自体は健在。魔術サイドが滅亡して身寄りのない彼女は現在、月詠小萌のところに居候中である。

御坂美琴

『超能力者』(レベル5)第3位の『電撃使い』(エレクトロマスター)で
『超電磁砲』(レールガン)の異名を持つ。名門常盤台中学の3年生。

学園都市の重要人物だったためか、これまでに数々の困難にぶつかるが、
持ち前の明るさと負けん気と上条当麻との出会いにより、それら全てを乗り越えてきた。
しかし12月に起こった魔術vs科学の戦争により、
20002体のクローン『妹達』(シスターズ)を全て失い、真の絶望を味わう。

五和

天草式十字凄教の一員だった少女。数少ない魔術サイドの生き残り。武器は槍。
年齢は17歳。上条と同じとある高校に3年生として通うことになった。
様々な免許を持っており(年齢を詐称して取ったものもある)、料理の腕も達者。
学生寮で上条と同棲している。
5 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 20:40:53.26 ID:c1MFS++20
土御門元春

上条と同じ高校の2年生。義妹である土御門舞夏を溺愛している。
一見ただのチャラい男だが、その正体は多角スパイ。
というのは昔の話で、魔術サイドという大きい規模の勢力が滅んだので、
現在では普通に学園都市の住人として暮らしている。

『無能力者』(レベル0)の『肉体再生』(オートリバース)という能力があったが、
あえてその能力を失うことにより、本来の陰陽博士としての実力を取り戻した。
魔法名は『Fallere825(背中刺す刃)』。

青髪ピアス

上条と同じ高校の2年生。レベル5第6位の『水流操作』(ハイドロハンド)なのだが、
本人はカッコつけて『蒼竜激流』(ブルーストリーム)と名乗っている。

青色の髪の毛で、耳にピアスをつけているという見た目から、こう呼ばれている。
パン屋で下宿する日々を送っている。結標と交際中。

姫神秋沙

巫女服が似合う少女。『吸血殺し』(ディ−プブラッド)という能力を持って生まれた、
いわゆる『原石』だったが、上条の『竜王』の力によって能力を失うことに成功。

吹寄制理

上条と同じ高校の2年生。頭はもちろん、実は運動神経もなかなか良い。
黒髪巨乳おでこDXで健康志向の少女。

月詠小萌

上条のクラスの担任の先生。
身長135cmで、見た目は小学6年生程度だが、れっきとした大人。
インデックスを居候させている。酒と煙草が大好きだったが、健康の為にどちらもやめた。
6 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 20:42:32.90 ID:c1MFS++20
黄泉川愛穂

上条の通う高校の体育教師でもあり『警備員』(アンチスキル)でもある爆乳の女性。
一方通行の母親的役割を担っており、一方通行とフレメアと芳川と一緒に暮らしている。

芳川桔梗

黄泉川愛穂とは旧知の仲で、研究員だった女性。
念願叶って上条の通う高校の物理教師になったのだが、相変わらず黄泉川の家に居候している。

絹旗最愛

『窒素装甲』(オフェンスアーマー)の能力を宿す少女。
努力の末、レベル5の第4位までになる。

常盤台中学に2年生として編入予定。
白井や初春と同じ第177支部で『風紀委員』(ジャッジメント)も務めている。

フレメア=セイヴェルン

かつてその立場から、何の罪もないのに暗部に狙われ続けていたが、今は亡き浜面仕上と一方通行に助けられた。
現在では一方通行に引きとられ、黄泉川の家で暮らしている。

白井黒子

『大能力者』(レベル4)の『空間移動』(テレポート)の能力を宿す常盤台中学の2年生。
御坂美琴を『お姉様』と呼び慕っている。絹旗や初春と共にジャッジメントも務めている。
絹旗と初春とは大の仲良し。

初春飾利

『低能力者』(レベル1)の『定温保存』(サーマルハンド)の能力を宿す柵川中学の2年生。
ハッカーの間では『守護神』(ゴールキーパー)と呼ばれるほど情報処理が得意で、
ほぼこの一点突破でジャッジメントになった。
7 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 20:44:19.71 ID:c1MFS++20
結標淡希

『座標移動』(ムーブポイント)の能力を宿す少女。レベル5第1位。

霧ヶ丘女学院を退学し、上条らがいるとある高校に3年生として転入する事に決めた。
料理の腕が多少上がった。とある高校の学生寮に住み始める。

垣根帝督

『未元物質』(ダークマター)の能力を宿す少年。
一方通行に敗れ一時期は瀕死の重体だったが、魔術vs科学の戦争で復活を遂げたのち覚醒、レベル6に辿り着く。
学園都市第2位。長点上機学園に3年として通うこととなった。『心理定規』(メジャーハート)と交際中。

心理定規

常盤台中学に2年生として編入予定。能力は『強能力者』(レベル3)の『心理定規』。
寮では絹旗と同室(の予定)。垣根と交際中。

削板軍覇

世界最高の『原石』だった少年。上条の『竜王』の力によって能力を失う。
その後あえて能力開発も行っていない為、完全無欠の一般人。
上条らがいる、とある高校に3年生として通うこととなった。雲川とは幼馴染で恋人。

雲川芹亜

今は亡き学園都市前統括理事長アレイスター=クロウリーに代わり新統括理事長となった少女。
ブレインと呼ばれるほどの天才。

今まで閉鎖的だった学園都市の技術を世界に拡大するなどして、学園都市の繁栄と世界平和のために尽力している。
上条らのとある高校にも、3年生として普通に通っている。削板とは幼馴染で恋人。
長年の恋がようやく実った反動からなのか、普段の冷静沈着ぶりからは考えられないほど、削板と2人きりだと甘える。
8 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 20:45:53.12 ID:c1MFS++20
フィアンマ

特異な右腕を持つ魔術師。数少ない魔術サイドの生き残り。得意魔術は炎。
体の内に『神の如き者』(ミカエル)の『天使の力』(テレズマ)25%を宿している。
ミラノでヴェントと、今は亡きオッレルスらが保護した子供達と一緒に暮らしている。

ヴェント

風使いの魔術師。数少ない魔術サイドの生き残り。
体の内に『神の火』(ウリエル)のテレズマを10%宿している。
ミラノでフィアンマと保護された子供達と一緒に暮らしている。

闇咲逢魔

梓弓を用いた風の魔術と縛縄術が得意な流れの魔術師。
魔術vs科学の戦争には参加していない。かつて上条当麻に救われた事がある。

食蜂操祈

『心理掌握』(メンタルアウト)の能力を持つレベル5第5位の少女。
よからぬ野望を抱いている。

服部半蔵

今は凋落した忍者の末裔である服部家の子孫で、有名な忍者である『服部半蔵』の名を継ぐもの。
『武装無能力者集団』(スキルアウト)のリーダーを務めていた事もあったが、
今はスキルアウトも解散し、各々の道を歩んでいる。

郭の熱烈なアプローチに負けて、現在は交際中。
学園都市からは抜け、修行の日々を送っている。



伊賀出身の、くの一の末裔。現在は半蔵と交際しており、共に修行の日々を送っている。

土御門舞夏

土御門元春の義妹。メイド養成の為の繚乱家政女学校に在学している。
一定の試験を突破し、実地研修を許されているエリートメイド見習い。
彼女の作る料理はそこらの料理店に匹敵するレベル。中学生。
9 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 20:47:47.39 ID:c1MFS++20
学生約200万人、大人約30万人、合計約230万人で構成されている新生学園都市の新統括理事長となった雲川芹亜は、
以前のような『縛り』(学園都市を出る際に極小のチップを注射するなど)は緩くし、学園都市に入学しても、
能力開発は強制ではなく任意にするなどして自由度を上げた。
また、能力開発のイメージアップを試み、世界をよりよくするために尽力した。

しかし、今までに学園都市で起こった事件や能力開発の悪いイメージを完全に払拭する事は出来ず、
世界中から入学者が殺到するという事は無かった。

能力をあえて消去する音声プログラムが出回ってからは、主にスキルアウトがそれを使いコンプレックスから脱出。
各々の道を歩み始めた。学園都市の治安や風紀を主に乱していたのはスキルアウトだったが、
彼らが消えたあとも風紀や治安が完璧に良くなるということはなかった。
10 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 20:49:17.98 ID:c1MFS++20
4月1日 18:50 ジャッジメント177支部

「ただいま戻りましたの」

完全下校時刻の18:30まで、そこら辺を巡回していた白井黒子は、ようやく支部へと戻ってきた。

「おかえりなさい。あのー、今更ですけど今日の出勤時、支部の前にこんなものが」

頭に造花の花飾りを乗せている(理由は不明)初春飾利は、支部の前で拾ったという封筒らしきものを白井に渡した。

白井「一体何ですの?」

初春「中身、見てください」

白井「これは……」

封筒の中には1通の手紙があった。
そこには地図とともに、おどろおどろしい文字でこう書かれていた。

『風紀委員の白井黒子へ。19時までに第22学区まで来られたし』

白井「いわゆる果たし状というものでしょうか?それにしても、何でもっと早くに見せてくれなかったんですの?」

初春「だって今日はエイプリルフールですし、ひょっとしたらただの悪戯かもしれないと思って、
   無視しようか迷ったんですもん」

白井「初春は『ホウレンソウ』を忘れましたの?」

初春「すいません」

テヘッ。と舌を出す初春に、白井は若干の殺意を覚える。

白井「もう良いですわ。にしても、悪戯でもこんな事をするのはいただけませんわね。
   待ち構えているかは分かりませんが、ちょっと指定された場所に行ってきますの」
11 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 20:51:20.23 ID:c1MFS++20
19:03 第22学区 上条・五和ペアとアックアが激突した鉄橋の上

白井「ここですわね」

「ようやく来たか。3分遅刻だ」

白井「あなたは……」

完全下校時刻を過ぎている為か、前歯が1本ない男しかいなかった。

男「俺の事、覚えているか?」

白井「え〜っと、わたくしには前歯が欠けた知り合いはいなかったと思うのですが」

男「お前のせいで、俺は死にかけたんだぜ?俺はあの時からお前を忘れた事はねぇ。
  徹底的にお前の事を調べ上げ、ぶっ潰す為にわざわざ挑戦状まで書いたんだ」

白井「随分熱烈に思ってもらえているみたいですが、生憎わたくし、殿方には興味がありませんので」

男「その減らず口、今すぐ叩けなくしてやるぜ!」

男が地面を蹴って駆け出した。と同時、グニャリと男の姿が歪む。

白井「!」

思わずテレポートで一旦後退する。
12 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 20:56:46.01 ID:c1MFS++20
男「思い出したか?」

そう言った男は、3人に増えていた。

白井「『幻想御手』(レベルアッパー)事件の時に、佐天さんを襲った方ですの?」

男「あれは襲ったんじゃなくて、あの女が勝手に割り込んできただけだっての。
  この『偏光能力』(トリックアート)様に喧嘩を売りやがって、あのビッチが」

白井「全く反省していませんのね」

男「ふん!」

男が再び駆け出す。
実際には1人なのだが、3人の男が襲いかかってくるように見える。

白井(わたくしとは少し相性が悪いですわね。さて、どうしましょうか?)

誤った位置に像を結ばせ周囲の目を誑かす『偏光能力』の前では、もはや距離感が正確とは限らない。
その上どれが本物か分からないため、カウンターを仕掛けるのにも無理がある。
ただ1つ、この男は白井が立っている地点へ突っ込んでくる事は確定している。
だから白井は真上2mにテレポートし、真下に向かってドロップキックをかました。

男「なるほど。狙いは良い。が」

ガシィ!と男の手が白井の右足をあっさりと受け止めた。

男「おらよ!」

そして地面に叩きつけようと、腕を振り抜く。

白井「くっ!」

叩きつけられる寸前で何とかテレポートを実行し、男から(多分)数mの距離を取った。
13 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 20:57:57.29 ID:c1MFS++20
白井(なるほど。これは一筋縄ではいきませんの。ならば)

白井はスカートの下の太腿のホルダーから、金属矢をいくつかテレポートする。
それは1本も男に刺さる事は無く、カランカランと地面に落ちただけだった。

男「どうした?動揺で演算に集中できなくなったのかな!?」

三度男が駆け出す。周囲に散らばっている金属矢を踏みながら。

白井「そこですの!」

ゴッ!と白井の右手の掌底が男に直撃した。
同時、痛みで演算に集中できなくなった男が1人に戻る。

男「がはっ!なん、で……」

白井「これで、終わりですの!」

続いて左手の掌底、最後に右手で男の手首を掴み、バランスを崩して転ばせた。
さらに残りの金属矢をテレポートして、男を地面に縫い付ける。
14 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 20:59:58.82 ID:c1MFS++20
白井「勝負アリですわね」

男「ちくしょう。何で俺に正確に攻撃を当てる事が出来た?」

白井「わたくしが最初にテレポートした金属矢。
   あれは最初からあなた狙いではなく、周囲にばらまく為にしましたの。その後はあなたの足元に集中。
   あなたがここに来るまでの間に踏んで動いた金属矢と、その音であなたの大体の位置を判断して、
   カウンターを仕掛けたまでですの」

男「ちっ。そんなこと、分かっていても出来るかよ」

白井「実際できましたの」

男「口の減らねぇガキだ。だが、まだ終わりじゃねぇぜ」

白井「何を言っていますの?あなたはもう動けない筈ですわよ」

男「ああ、動けないぜ。“俺はな”」

瞬間。ゴッ!と白井の後頭部に何かがぶつかった。

白井「ぐっ!」

不意の一撃にふらつく白井。後ろから誰かが走ってきている音が聞こえる。
なるほど、男がヤケに強気だったのは味方がいたからなのか。

白井は痛みの中演算に集中して何とかテレポートを実行し、男から数m離れる。

直後、ゴガァ!と男付近の地面が捲り上げられた。煙の中に見えるのは2つの影。

白井「協力者がいらっしゃったのですわね?」

男「まあな。俺の力だけで倒そうと思っていたんだが仕方ねぇ。
  最終的にお前をボコれりゃそれでいい。第2ラウンド開始と行こうぜ」

白井(まずいですわね。金属矢のトリックはもう通用しませんし、あそこに居るもう1人の女。
   どんな能力か分からない以上、迂闊に近付く訳にもいきませんし)

男「来ないならこっちから行くぜ!」

男は再び3人に分身して地面を蹴った。

白井(何の連絡もしていませんし、今からも出来ませんが、ここは増援が来るのを願って粘るしかありませんわね)
15 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 21:01:25.13 ID:c1MFS++20
それから5分の時間が経過した。連続でテレポートを実行して逃げるだけの白井も、
テレポートで逃げられ続け、攻撃が一切当たらないどころかそれなりの距離を走らされた男の方も、肩で息をし始めていた。

白井(あの女性、全く手を出してきませんが……この男がわたくしに執着しているのを分かっていて、
   あえて1対1にさせているのでしょうか?)

男「はぁ……はぁ……ちょこまかしやがって……」

白井(この調子なら、先に体力が尽きるのはこの男の方ですわね。何とかなるかもしれませんの)

そんな事を考えていた時だった。
男の体をすり抜けて、野球ボールほどの大きさのアスファルトの塊が飛んできた。

白井(――っ!)

それを白井は、何とか身を捻り回避した。

男「おい、邪魔すんじゃねぇよ!」

女「時間がかかりすぎ。増援が来ると面倒だ。これ以上やるのなら私も喧嘩に加わる」

アスファルトの塊は、どうやら女が投げたようだった。

女「かかってこいよ、ツインテール。昔からお前みたいなお嬢様、大っ嫌いなんだよね」

白井(あとでお相手する予定でしたが、そこまで言うのならお望みどおりですの!)

この後、白井は後悔することとなる。
安い挑発に乗り、どんな能力を宿しているかも分からない女のもとへ、
ドロップキックをお見舞いする為にテレポートを実行した事を。
16 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 21:02:19.76 ID:c1MFS++20
ヒュン!と女の後頭部付近にテレポートした白井は、ドロップキックを直撃させた。
にもかかわらず、

ゴン!と鈍い音が響いただけで、女は全く揺らがなかった。

白井「んな!?」

驚いたのも束の間、女がとんでもない握力で白井の足を掴み、そのまま地面に叩きつけた。
悶絶する白井に、女は容赦なく追撃の肘を喰らわせた。
その威力は、白井を中心にして半径1mの地面にヒビを入れるほどだった。

女「あっはっは。ジャッジメントって言っても、所詮小娘だったねぇ」

意識はあるが、言い返す気力もない白井の腹部に、女はさらに拳を振り下ろした。
ごはっ!と血を吐き悶絶する白井を見て、黙っていなかったのは男だった。

男「おいおい。そりゃあ俺の獲物だぞ。これ以上手を出すのは許さねぇ」

女「お前がチンタラしていたのが悪いんだろ。つーかこの女が絡んできただけだし」

男「うるせぇやんのかコラ!」

女「あぁ!?やってみろよ!視覚を騙すだけのトリック野郎が!」

一触即発の空気が漂い始めたが、その空気はすぐに破られた。

「超仲間割れですか?だったらそのツインテール、返していただけませんかね?」

ジャッジメント、絹旗最愛の登場によって。
17 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 21:04:20.56 ID:c1MFS++20
女「嬢ちゃんも常盤台でジャッジメントか」

常盤台の冬服であるベージュ色のブレザーに、紺色チェックのプリーツスカート、
右肩の下あたりについているジャッジメントの腕章を見て、そう判断した。

白井「きぬ……はた……さん……」

絹旗「白井さんを傷つけた落とし前、超つけさせてもらいますよ」

男「お前はツインテールをボコったんだ。こいつは俺がやらせてもらう!」

そう言うと男は3人に分身して絹旗を襲う為に肉迫する。

絹旗(分身!?――いや、男が3人になる一瞬、その姿が超歪んだように見えた。
   という事は多分、光を操るか何かで見せかけているだけ!どの道私に出来る事は――)

絹旗はジタバタせず、その場に仁王立ちする。
その間に肉迫した男の蹴りが絹旗の右脇腹に直撃したが、彼女は揺るがなかった。

絹旗「貧弱な蹴りです、ね!」

動揺する男の右足を掴み、そのまま女の方に投げ飛ばした。

女「ふん」

投げ飛ばされて来た男を、虫を振り払うかのように裏拳を振るう事で横合いにぶっ飛ばした。
その腕は銀色に鈍く光っている。

絹旗「仲間を超ぶっ飛ばすなんて、白状にも程がありますね」

女「仲間?冗談はよせ。ジャッジメントに復讐したいって言うから、ちょっと付き合ってやっただけさ。
  私もジャッジメントは嫌いだからさ」

絹旗「そうです、か」

地面を蹴って絹旗は駆け出す。
窒素を纏っている彼女は、3秒かからずに10mの距離を埋め、拳を繰り出していた。

ガキン!と右拳が受け止められた。構わず左拳を繰り出す。
しかしそれも同様に受け止められた。
ならばと、頭1つ分は高い女の顎目がけ頭突きを繰り出す。
対して女の方も、銀色に光る額で頭突きを繰り出した。

ゴォン!と、額と額がぶつかって鈍い音が響いた。それで揺らいだのは絹旗。
女はその隙を逃さず、銀色の拳で絹旗の顔面を殴り飛ばした。

殴られた勢いでゴロゴロと転がる絹旗だったが、すぐに起き上がった。
頭突きに拳をもらい地面を転がったと言うのに、目立った外傷はない。
18 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 21:05:42.15 ID:c1MFS++20
絹旗「超痛って〜。嫁入り前の淑女(レディー)の顔面を躊躇なく殴るとは、神経を疑いますね」

女「大丈夫だ。お前みたいなちんちくりんは一生結婚できないし、そもそもレディーでもないただのクソガキだからな」

絹旗「かっちーん。超優しい私は、あなた達のような不良もなるべく傷つけないつもりでしたが、今のでキレました。
   ちょっとだけ本気出します」

女「小娘が。私も本気を出してやるよ」

女の体の皮膚の部分が、みるみるうちに銀色に変化していく。

絹旗「その体……」

女「『肉体鋼化』(フルメタル)。体を鉄にする事が出来る」

絹旗「いえ、そんなことどうでも良くて……超気持ち悪いですね」

ブチッ!と女の中で何かが弾けた。地面を蹴って駆け出す。
肉体は鋼と化している癖に、その速度は全く遅くなく、寧ろ速いぐらいだった。
その拳の威力はアスファルトの地面を粉砕するほどであろう。

絹旗「その程度では、この私に超勝つことは出来ません」

2人の距離はまだ数mあるにもかかわらず、絹旗は右拳を繰り出した。
馬鹿が!と女は思ったが、ゴシャア!と真正面から何かが叩きつけられ、吹き飛ばされた。

普通ならその一撃で昏倒してもおかしくないのだが、肉体を鋼鉄化していた女は地面を数mスライドして何とか踏ん張った。
19 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 21:07:06.54 ID:c1MFS++20
女「何が……起こった……」

絹旗「まだやりますか?おばさん?」

女「クッソガキがぁ!私はまだピチピチの高2だ!」

女は再び駆け出した。今度は何事も無く絹旗に肉迫し、その右拳を繰り出す。
対して絹旗は左拳を繰り出した。拳と拳が激突し、女の拳の方だけから血が噴き出した。

女「ぐ……ああ……!」

絹旗「私の能力は『窒素装甲』。超簡単に言うと窒素を纏う能力です。
   窒素の密度と厚さを、先程殴られた時の3倍にしました。最大、先程の10倍にまで出来ます」

また、ある程度なら大気中の窒素を操る事も出来ます、と絹旗は付け加える。

絹旗「さて、超良い子である私は、もう一度だけ選択肢(チャンス)をあげます。
   このまま大人しく拘束されるか、もう少しだけ痛めつけてほしいか」

女「『窒素装甲』……お前、もしかして元『暗部』の絹旗最愛……?」

絹旗「そんな昔の事は超どうでもいいです。どうしますか?」

女「……参った。そんな化け者に勝てる訳ない」

絹旗「超賢い選択です」

右拳を痛めてその場に跪いていた女の手首に手錠がかけられた。
絹旗はその後男にも手錠をかけ、初春に連絡したのちに白井のもとへ。

絹旗「超大丈夫ですか?白井さん」

白井「不覚でしたの。わたくしもまだまだ精進が足りませんわね」

絹旗「今初春さんに連絡してアンチスキルを呼んでもらっていますから。
   奴らを連行する10分後くらいまで見張った後、病院へ超急ぎましょう」

白井「大袈裟ですわ。支部の応急処置で充分ですの」

絹旗「本当に超大丈夫ですか?」

白井「絹旗さんは心配性なのですわね。大丈夫ですわ。こう見えて黒子は、結構丈夫ですのよ」

絹旗「そうですか。まあ、それだけ元気なら問題ないみたいですね。でも、超無茶だけはしないで下さいね」

白井「はい」

10分後、ようやく来たアンチスキルに男と女は連行され、白井と絹旗は一旦支部へ戻った。
20 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 21:09:22.40 ID:c1MFS++20
19:24 177支部

初春「白井さんほどの実力者がここまでやられるなんて、学園都市もまだまだ物騒ですね」

白井の脇腹などに包帯を巻きながら初春は呟く。

白井「ジャッジメントに入ろうと思った時から、このくらいの怪我は想定済みですの。
   今更どうこう言う事ほどではありませんわ」

初春「さすがです白井さん!ジャッジメントの鑑ですね。
   でも怪我とか本当に気を付けてくださいね。入院とかしないでくださいね」

絹旗「初春さんと白井さんの友情、超美しいです!」

白井「絹旗さん。初春はわたくしが傷ついて可哀想だとかは思っていませんのよ?
   わたくしが怪我や入院した場合、自分の仕事が増える事が嫌で言っていますのよ」

初春「ちょっと白井さん。私が自分の事だけしか考えていないみたいな言い方は止めてください」

白井「事実ですの」

初春「酷いです!」

白井「初春の腹黒さに比べれば、わたくしは天使みたいなものですの」

絹旗「あはははは。2人とも超仲良いですね」

初春・白井「「どこがですか(の)!」」

絹旗「息も超ピッタリですし」

あはははは!と絹旗は堪え切れずにまた笑った。


白井「絹旗さんはどこか楽観的と言うか、そんなに面白いことでしょうか?」

初春「そんなことより思ったんですけど、明日午後からいつもの4人に絹旗さん加えて遊びません?」

この空気が微妙にくすぐったかった初春は、強引に話題を変更した。

白井「いいですわね、それ。お姉様を元気づけるいい機会かもしれませんし。大丈夫ですわよね、絹旗さん?」

絹旗「私、超人見知りなんですが……いつもの4人って?」

初春「白井さんと御坂さんと私、私の中学の同級生、佐天さんの事です。
   佐天さんは超絶フレンドリーですから、全然問題ないですよ。寧ろ馴れ馴れしいぐらいです」

絹旗「……前から思っていましたが、初春さんって超甘ったるい声で毒を吐きますよね」

初春「そんなことないですよー」

ニコニコの笑顔が何か怖い。

初春「とりあえず、佐天さんには私から声かけときます。白井さんは御坂さんを誘っておいてくださいよ」

白井「誰に向かって言っていますの?わたくしがお姉様を誘惑しない日なんてありませんの」

初春「では明日13:00、いつものファミレス前に集合ってことで」

白井「分かりましたの」

絹旗「あの、いつものとか言われても、超分からないんですけど」

白井「わたくしとお姉様と一緒に行けばオールオッケーですの」
21 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 21:10:44.48 ID:c1MFS++20
4月2日 9:20 柵川中学 とある教室

(早く補習終わんないかなー)

頭に白い花のヘアピン、黒髪ロングで窓側の席に座っている佐天涙子は、そんな事を考えながら窓の外を眺めていた。
ちなみに補習は9:00〜12:00なので、休憩を入れて、あと2時間40分ある。

佐天(ううー。そりゃあ私の頭が悪いのがいけないけどさ。一体何日に亘って補習を続けるわけーーーーー!?)

心の中で不満を叫ぶ佐天だったが、当然補習は終わらない。

佐天(早く遊びたいよー)

昨晩初春から遊びの誘いがあって、久々に御坂達と遊ぶことになった。
しかも今回は『きぬはた』なる人もいるらしい。
初春曰く、真面目で雰囲気が優しくて可愛くて佐天さんとは真逆の人です。とのことだ。
さらにレベル5の第4位でもあるらしい。

佐天(つまり、私はレベル0でありながら、レベル5の知り合いが2人いる事になる。これってすごくね?)

教師の話など少しも聞いていなかった。
22 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 21:13:23.77 ID:c1MFS++20
佐天はその後も退屈な補習を、楽しい妄想をして乗り切った。時刻は12:00。
初春と12:20に、この中学校の前で待ち合わせしているが、まだ少し時間がある。

佐天(あー、あと20分暇だー)

佐天は携帯を取り出し、何か面白いことないかなーと検索をかける。とそこに、

「ねぇ涙子、今日遊べる?」

アケミが目の前に来てそんな事を言った。

佐天「ごめん。今日は13:00から約束があるんだー」

「そっかー。残念」

「まーた飾利とデートですか?ラブラブですなぁ〜」

アケミの隣にいたむーちゃんは少し残念がり、マコちんはからかった。

佐天「ち、違うよ。初春は好きだけど、それは友達としてであって、別に恋愛感情は///」

マコちん「何でそんなに必死になってるのー?そんな事分かっているよー」

佐天「もう!マコちんの馬鹿!」

むーちゃん「涙子はすぐムキになるからねー」

佐天「うるさいよ!」

アケミ「まあまあ落ち着いて。じゃあじゃあ、新しい都市伝説聞いたんだけど、聞かない?話のネタにもなるしさ」

佐天「マジで!?聞く聞く」

アケミ「じゃあいくよ。これは、とあるレベル4の『電撃使い』の実体験らしいんだけど」

佐天「う、うん」

アケミ「その人はね。ふと思い立ったの。夜の遊園地に入ってみたら、面白そうじゃね?って。
    で、ある夜それを実行したの。レベル4の『電撃使い』だから電子系のセキュリティは余裕で突破して、
    楽に侵入できたらしいの」

佐天はゴクリと生唾を飲む。

アケミ「それで、メリーゴーランド前に行くと、なんとメリーゴーランドの柱から人が出てきたの!」

佐天「え?もしかして、お化け?」

アケミ「違うよ。それは紛れもなく人間。で、その『電撃使い』は柱に近付いて、人が出てきた辺りを調べたの」

佐天「で、で?」

アケミ「すると柱の一部が襖みたいに開いたの。そう。その正体はエレベータだったの!」

佐天「え?意味わかんない」

アケミ「初めて聞くと、分かんないよね。それでその『電撃使い』は怖気づいて、そのまま帰ったらしいわ」

佐天「え?終わり?いや、確かにミステリアスな話ではあるけど」

アケミ「よーく考えて涙子。エレベータがあるってことは、どう言う事だと思う?」

佐天「……あー!」

アケミ「そう。エレベータがあるってことは、地下に何かあるってこと。
    これが都市伝説『学園都市に眠る!?超古代都市アトランティス!!!』だよ」

佐天「す、凄いよ!今までの『脱ぎ女』とか『どんな能力も効かない男』とは規模が違う!」

アケミ「でも規模が大きすぎて、逆に嘘臭いけどね」

佐天「でもインパクトはすごかった!いい話のネタになりそうだよ」

と佐天が感謝を表明していた時、彼女の携帯が震えた。
メールが届いたのだ。初春から『もう12:30ですよ!何やっているんですか!』と。
23 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 21:13:56.18 ID:c1MFS++20
佐天「やば!ごめん皆。もう行かなきゃ」

むーちゃん「待ち合わせは1時じゃなかったっけ?」

マコちん「でも場所までは聞いてないから、遠い所なんじゃない?」

佐天「そうじゃないんだ。初春と待ち合わせして行く予定だったからさ!」

アケミ「そうとは知らずに話しこんじゃった。ごめん涙子」

佐天「いいっていいって。じゃあね皆!」

そう言って、佐天は教室を後にした。
24 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 21:15:22.65 ID:c1MFS++20
12:50 とあるファミレス前

「皆で遊ぶのなんて久々じゃない?楽しみだなー。黒子本当に大丈夫?昨日結構やられたんでしょ?」

白井を労わったのは、御坂美琴だ。

白井「ジャッジメントを務めていると怪我なんて日常茶飯事。
   この程度の怪我でダウンしていては、ジャッジメントは務まりませんの」

御坂「そう。大丈夫なら良いけどさ」

絹旗「うぅー、超緊張しますー」

御坂「大丈夫よ。佐天さんは気さくな人だから、すぐ馴染めるわ」

御坂が呟いた、その直後だった。

初春・佐天「「遅れてごめんなさーい」」

柵川中学の冬服である、紺色のセーラー服を纏った佐天と、私服の初春が息を切らしながら走ってきた。

御坂「別に大丈夫よ。約束まであと10分あったし」

白井「休日に佐天さんが制服なんて珍しいですわね」

初春「佐天さんは午前中に補習があったので、制服のままなんですよ」

佐天「あの、そちらの方が、噂の絹旗さん?」

絹旗「は、はい!絹旗最愛と言います!超よろしくお願いします!」

絹旗はガチガチに緊張しながら、手を差し伸べる。

佐天「ぷっ、あはははは!」

初春「さ、佐天さん!失礼ですよ」

佐天「い、いやだってさ、レベル5ならもっと堂々としてればいいのにさ。
   なんか可愛いなーって思って。佐天涙子です。こちらこそよろしくお願いします」

2人はガッチリと固い握手を交わした。
25 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 21:16:50.55 ID:c1MFS++20
初春「気を悪くしないでくださいね。佐天さんはこれがデフォなんで」

絹旗「い、いえいえ。可愛いって言われて超嬉しかったです///」

白井「では、ファミレスで昼食を摂りながら予定を決めていきましょうか。
   というか、その為にファミレス前集合にしたんですのよね?」

初春「はい。まずは腹ごしらえからです」

佐天「コラ初春!『腹ごしらえ』なんて言い方して女を捨てない!もっと上品に『おなかを満たす』って言わないと」

絹旗「それも特別上品な言い方って訳じゃないと思いますけど」

初春「ナイスツッコミです!」

白井「早速いいコンビネーションじゃありませんか」

あはははは!と笑いあう5人。

御坂「じゃあ、入りましょうか」

5人はファミレスに入り店員に案内されている途中で、御坂と白井の目は捉えてしまった。
紺色のパーカーに、カーキ色のズボンのツンツン頭の少年と、フワフワしたトレーナーの上に
ピンク色のタンクトップを着た、濃い色のパンツの黒髪少女を。

御坂「……ごめん。私帰るね」

御坂は脇目も振らずに店を飛び出した。

佐天「み、御坂さん!?」

白井「わたくしが連れ戻します。皆さんは先に昼食をいただいて構いませんの!」

そう言うと、白井もテレポートしていなくなった。

佐天「御坂さん、どうしたんだろう?」

初春「と、とりあえず黙って待っていましょう。白井さんを信じて」
26 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 21:17:36.18 ID:c1MFS++20
白井「お待ちくださいお姉様」

ガシッ!と、御坂の腕を掴んだ。
今や333m、333kgまでテレポートできる白井にとって、御坂に追いつくのは容易だった。

白井「お気持ちは分かります。ですがお姉様の勝手な行動は、集まってくれた皆さんに失礼だと思いますの」

御坂「……そんなことぐらい自覚しているわ。けど、どうしても辛いの。ごめんね。今日はもうパスしたいの。お願い」

今にも泣き出しそうな声で訴えかける御坂を、白井は止める事が出来なかった。
27 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 21:19:15.56 ID:c1MFS++20
初春「御坂さん、本当にどうしたんでしょうか?
   最近元気がなく、何かに悩んでいる事は、白井さんから聞いていたんですが……」

佐天「何に悩んでいるかは、白井さんは知らないの?」

初春「いえ、何かを知っているみたいなんですけど、教えてくれなくて。
   プライバシーの問題なので、深く切り込めませんし」

佐天「絹旗さんは、何か知らないですか?」

絹旗「え?ええ、そうですね。御坂さんとは顔見知りではありますが、学園生活はまだ超始まっていませんし、
   寮でもそんなに会わないので、よく分からないですね」

佐天「ううむ、これは難事件だ」

初春「難事件って……」

佐天「御坂さんは、さっきまでは普通だった。様子がおかしくなったのはファミレスに入ってから……」

絹旗(そこが超疑問ですね。落ち込んでいる理由は『妹達』の件だと思ったんですが……
   ファミレスを飛び出す理由にはならないはず……何か別の原因があるのでしょうか……?)

佐天「となると、このファミレスに気まずい人物がいて、それを見つけたから飛び出した……と考えるのが妥当かな」

初春「そ、その可能性はあるかもしれません」

絹旗「超なるほどです。ですが、だとしたらそれは誰なのでしょうか?」

佐天「ううむ。さすがにそこまでは分かりませんね」

とその時、白井がファミレスの扉を開けて帰ってきた。
28 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 21:20:28.33 ID:c1MFS++20
初春「あの、御坂さんは……?」

白井「どうやら急に具合が悪くなったらしくて……今日はもう無理そうですの。皆さんに、ごめんなさいと言う事ですの」

佐天「そうですか。残念ですね(絶対嘘だろうけど、深く突っ込めない)」

絹旗「ま、まあ超気を取り直して、白井さんも何か注文して!4人で楽しみましょう!」

初春「そ、そうですよ!」

白井「……ええ。早く注文して、早く食べてここを出ないと」

佐天(やはりこのファミレスに何かある……!)

とその時白井は、食事を終え会計に向かう少年と少女と目が合ってしまった。
知り合いではあるが、別段親しい訳でもない為か、少年と少女は会釈だけして白井達のテーブルの横を通り過ぎた。

絹旗「あの人達は……」

佐天「何か知っているんですか!?」

絹旗「ええ。戦争の時に一緒にいました」

佐天「じゃ、じゃあ、あの人達が何か関係しているのかも!?」

初春「これ以上の詮索は止めましょうよ」

白井「いえ」

初春の制止を、白井が遮った。

白井「お姉様のプライバシーの問題ですからと、皆さんには隠していましたが……ここはやはり言っておきますの」
29 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 21:23:37.91 ID:c1MFS++20
そうして白井は説明した。御坂は多分あの少年に惹かれていることを。
そしてその少年の詳細の知る限りを。妹達の件は何も言わなかったが。

白井「まだはっきりと聞いた訳ではないので確証はありませんが……ずーっとお姉様を見て来たわたくしには分かりますの」

佐天「そうですね。御坂さんはレベル5であるが故に特別扱いされてきた。
   そんな時、自分を対等な1人の人間として、ただの女の子として接してくれる上条さんとやらに惚れるのは、
   十分あり得る事ですね」

初春「それで御坂さんは気まずくなって、思わず飛び出したんですね。でも私達に出来る事なんて」

絹旗「超励ますぐらいですよね。(加えて妹達の件、そりゃあ超元気も出ないってもんです)」

白井「そうなんですのよ。それで最近まで元気がなかったのに、こうして鉢合わせしたばっかりに、
   追い討ちをかけるような事になってしまって」

佐天「でもそれって、おかしくないですか?」

白井・初春・絹旗「「「え???」」」

佐天「だって、好きな人に彼女が出来たから気まずくて会えないなんておかしいですよ。直接フラれたわけでもないのに」

白井「目の前で好きだった人にイチャつかれたら、誰だって辛いと思いません?」

佐天「じゃあ聞きますけど、仮に上条さんと御坂さんがくっついたとき、
   白井さんは御坂さんに会いたくないと思いますか?」

白井「会いたくないなどとは思いませんが……きっと辛いと思いますの。お姉様を避けるかもしれません」

佐天「でももし避けられた場合、御坂さんは嫌われたと思って悲しみますよ。それにです。
   恋人とか、どうでもよくありません?大切な人が生きている。会話だって、遊んだり触れ合ったりする事も出来る。
   それって幸せな事ですよね。それでいいじゃないですか。大切な人も幸せで、自分も幸せならば」

白井「ですが、好きな人がいるなら、誰だってその人の1番になりたいはずですの」

佐天「それは傲慢ってものですよ。世の中何でも思い通りに行く訳じゃありません。
   レベル0の私が言うんだから間違いないです。それと、こんな事言うと不謹慎かもしれませんが、
   2人はいつか別れるかもしれませんし、最悪略奪という手もありますよ」

初春「りゃ、略奪って、そんな///」

なぜか頬を染め照れる初春。

佐天「とにかく!私が言いたいことは、人生山あり谷あり。七転び八起き。いい加減元気出そうぜ!ってことです!」

絹旗「あれれー?そんな話でしたっけ?」

白井「……そうですわね。まあ一部納得しましたわ。では後でそれを、お姉様に直接言いに行ってみましょう」

佐天「いや、それはちょっとハードルが高いかな〜」

白井「何を言っていますの。あれだけ語っておいて、出来ないとは言わせませんわよ?」

その後注文した料理を食べ終わった4人は、遊ぶことなどほったらかしにして御坂を励ましに行った。
30 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 21:26:03.20 ID:c1MFS++20
4月3日 9:30 黄泉川の部屋

「一方通行、買い物に行ってくるじゃんよ」

8:00に一度起きたのに、結局この時間までソファーでだらけていただけの一方通行の腹部のあたりに、
黄泉川愛穂によってメモが置かれた。

「あのさァ、日常に溶け込めとかいちいち理由つけてよォ、いい加減俺の事パシりすぎだろ。たまには自分で行け」

黄泉川「いいじゃん。アンチスキルは春休みないんだから、それぐらい協力してほしいじゃんよ」

一方通行「今まで1人でやってきたンだろ?甘えンな」

黄泉川「だってー、1人分ならともかくー、今は4人分の食糧とか買うから大変だしぃー。
    大体、だらけてばっかりはよくないじゃんよー」

一方通行「チッ。分かったよ、分かりましたよ」

割と痛いところを突かれた一方通行は、そこで反論するのを止めた。
そうして一方通行が億劫そうにソファーから立ち立がった時だった。

「大体私も行く!」

今の今まで芳川桔梗とブラッド&デストロイを興じていたフレメア=セイヴェルンが、
ゲームのコントローラーを投げ捨て元気よく立ち上がった。

「はあ〜。ようやく解放されたわ」

芳川は声を上げた。ゲーム開始からまだ1時間ほどしか経過していないが、よほどハードだったのか。
かなり疲れているように見える。

フレメア「大体芳川弱すぎてつまらない。一方通行と買い物行った方がマシだもん。にゃあ」

一方通行「ンじゃあ、さっさと支度していくぞ」

フレメア「はーい」

一方通行は灰色と白のボーダーの長袖の上に、黒い革のジャケットを羽織った。ズボンも同じ革のものだ。
一方フレメアは、ピンクの可愛らしいパジャマを脱いで『新入生』に初めて襲われた時の、
白ゴスロリ+赤タイツのRPGの姫キャラ風の装いになった。

一方通行「さっさと終わらせるぞ」

フレメア「うん。いってきまーす」

黄泉川「いってらっしゃいじゃん」
31 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 21:27:29.67 ID:c1MFS++20
黄泉川の隣の部屋

「ねぇねぇどう?似合う?」

常盤台の冬服を着た心理定規が、ソファーに寝そべる垣根帝督にアピールしていた。

「あー、似合うわー、可愛いわー」

心理定規「何でそんな棒読みなのよ!なんかもっと言う事ないの!?」

垣根「うるせぇな。どうせ何着たって似合うんだから、いちいち聞いてくるんじゃねぇよ」

心理定規「え?今何て言ったの?もう1回」

垣根「馬子にも衣装だって言ったんだよ」

心理定規「え、嘘!?そんなこと言ってなかったよ。確か、何着ても似合うとか言っていた気がするなー」

垣根「聞こえてたんじゃねぇか。ぶっとばすぞ」

心理定規「んもう、帝督ったら素直じゃないんだから」

垣根「そんなことよりさ……いいだろ?」

心理定規「きゃ」

ソファーから起き上がったと思えば、いきなり心理定規を押し倒した垣根。

心理定規「駄目よ。そういうことは結婚し・て・か・ら」

垣根「目の前にこんな極上の女がいて、あと2年も待てるかよ」

心理定規「っ……ど、どんなに褒めても駄目なものは駄目///」

垣根「ちっ」

これ以上は無駄だと思ったのか、垣根は大人しく引き下がった。

垣根「……なあ、お前、本当に俺の事好きなのか?」

心理定規「好きと言うより、愛しているわ」

垣根「んじゃあさ、何で俺が求めている事に応えてくれないんだよ。結婚してから。とか理由になってねぇよ……」

言いながら俯く垣根。こんなに落ち込んでいる彼は初めて見る。

心理定規「だって、そういうことは軽率にしちゃいけないというか……ごめんね。
     まさか、そんなに不安にさせているとは思ってなかった……」

垣根「お前、浮気とかしてないよな……?」

心理定規「神に誓って言える。ないわ。今までも、そしてこれからも」

垣根「そっか。なんか空気重くしちまった。悪かったな」

そうして垣根が、無言で寝室に向かって行こうとしたところで、

心理定規「待って!キスぐらいなら――」

引きとめた心理定規だったが、

垣根「やめろ。そんなことされると、止まらなくなる」

心理定規「あ……」

スタスタ歩いて行く垣根を引きとめる事が出来なかった。
32 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 21:28:25.75 ID:c1MFS++20
9:50

とあるスーパーで買い物を終えた一方通行とフレメアは帰路についていた。

フレメア「ねーねー、このまま帰っても暇なだけだから、大体どっか行こうよ。にゃあ」

一方通行「クソだりィンだけど。お子様は勉強しろ、勉強」

フレメア「一方通行だって長点上機に通う事になったのに、大体勉強してないじゃん」

一方通行「あのなァ、この俺は学園都市で第1位なンだ。つまり、学園都市で1番頭がいいと言う事だ。
     本来なら学校なンて通う必要ねェけど、黄泉川がうるせェから通うことにしただけだ」

フレメア「一方通行の自慢なんてどうでもいい。そんなことより、大体どっか行こうよー」

一方通行「無理。疲れる」

フレメア「……どうしても、駄目?」

必殺涙目上目遣いを繰り出すフレメア。

一方通行「駄目なもンは駄目だ。さっさと帰るぞ」

フレメア「にゃあ」

あえなく撃沈。
33 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 21:29:10.56 ID:c1MFS++20
それから5分ほど経ったころ。

一方通行「……」

フレメア「……」

フレメアは私利私欲の為にどこかへ行きたいと言った訳ではなかった。
平然としているが、一方通行の心に、いまだに深い悲しみが残っていることぐらい分かる。
だから、それが少しでも紛れればと考えての発言だった。
でも、一方通行が早く帰って休みたいと言うのなら、仕方ないかなとも思った。
そんなこんな考えているうちに、部屋の前に辿り着いていた。

一方通行「あー、疲れた」

フレメア「……ただいま」

芳川「お帰りなさい。ちゃんと手洗いうがいするのよ」

一方通行「はいはい」

芳川「フレメアに言ったの」

フレメア「……大体言われなくても大丈夫」
34 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 21:30:15.90 ID:c1MFS++20
それからさらに2時間ほど経過し、12:00。
芳川は何か資料のようなものを眺め、一方通行はソファーで寝そべって、
フレメアは特になにをする訳でもなく、カーペットの上に座ってぼっーっとしていた。
そんな静かすぎる空間で、一方通行が呟く。

一方通行「仕方ねェから、昼飯食ったらどっか行くかァ?」

フレメア「え!?大体良いの!?」

一方通行「ここにずっと居るだけってのも、退屈だしなァ」

フレメア「やったー!じゃあさ、大体どこ行きたい?」

一方通行「オマエが決めろよ。オマエのためにどっか行くンだから」

フレメア「私はー、一方通行が大体行きたいところに行きたいの。にゃあ」

一方通行「(行きたいところなンて、ねェンだが……)ンじゃあ第6学区にでも行くかァ」

フレメア「本当にそこに行きたいの?」

一方通行「……あァ」

フレメア「……嘘だ」

一方通行「……嘘だけどよォ。どこでもいいだろォが。遊べれば」

フレメア「一方通行の馬鹿!もういい!大体今日はどこにもいかない!」

フレメアは憤慨しながら、ブラッド&デストロイをソロプレイし始めた。

芳川(子供心が分かってないわね……)

一方通行(何だってンだ……ガキの考えってのはァ、よく分からねェ)
35 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 21:31:47.61 ID:c1MFS++20
14:00 月詠小萌のアパート

「こもえさん、今日はとうま君来てくれないのかな?」

昼御飯を食べ終わって、くつろいでいたインデックスは唐突にそんな事を言い出した。

「そうですねー。上条ちゃんも暇ではないのですよ。きっとー」

適当に返事をしているように聞こえなくもないが、月詠小萌にとっては、これがデフォの喋り方である。

インデックス「そうなのかな。私、とうま君が遊びに来るの、結構楽しみなのに」

小萌「上条ちゃんは結構な頻度で遊びに来てくれていると思いますけどねー。
   シスターちゃんも意固地にならないで、そろそろ記憶を取り戻すべきなのですよ」

インデックス「私の名前はシスターちゃんじゃないよ。今はレイチェルって名前があるんだから、そう呼んでよ。
       それに、記憶を取り戻すのは怖いよ。今は幸せだし、無理に取り戻す必要ないと思う」

小萌「そんな悲しい事言わないでくださいなのですよ。どんなにつらい記憶だってシスターちゃんのものなのですよ?
   そう簡単に取り戻す事を拒んでしまっていいのですか?それにきっと、辛い記憶だけじゃないです。
   楽しい記憶だってあるはずなのですよ」

インデックス「むー、こもえさんは、そうやってすぐに説教してくる!とうま君もそう!
       ひとしきり遊んだ後は説教してくる!2人のそういうところは嫌いかも!」

いじけてしまったインデックス改めレイチェル。
こうなってはしばらく口をきいてくれない。これでも大分マシになったほうだ。退院したての頃とか、もっと酷かった。

小萌(ま、あせらずじっくりとですよね……)
36 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 21:34:30.67 ID:c1MFS++20
15:00 とある学生寮

『でさー、最近寂しいなあって』

「ふーん」

電話口の結標淡希に対して、土御門元春は適当に答える。

結標『ねぇ、何でさっきから素っ気ないの?』

土御門「だってなー。彼氏が最近構ってくれないとか言われても……俺にどうしろって言うんだ」

結標『だから言っているじゃない?どうしたら構ってくれると思う?』

土御門「いやだから、俺に相談されても……」

結標『だって私友達少ないし、ダーリンの親友である、あなたしか相談できる人がいないんだもの』

土御門「そ、そうか。(自分で友達少ないとか言って、悲しくねーのか?)」

結標『ねぇ、どうしたら私に構ってくれるの?』

土御門「知らねーよ。構ってくれる方法とか自分で考えろよ」

結標『うっ、そんな、冷たい。どうしてそんなに冷たいの?あなたしかいないのよ。お願いだから、一緒に考えてよ……』

本来の結標らしく、無駄に強気な感じで『はぁ?話しぐらい聞いてよ。だからあなたは〜』とか言われるなら
電話も切りやすいが、こうも弱気で儚げな様子の結標を放っておくのは、さすがに少し罪悪感がある。

土御門「そ、そうだな。アレだよ。
    プロポーズするための指輪を買うお金を貯めるために、パン屋のバイト頑張っているとかじゃねーの?」

面倒くさくなったので、適当にそれっぽい事を言ってみる。

結標『え、ほんと?でも彼レベル5だから、奨学金でお金には困らないはずよ。やっぱり浮気!?』

土御門「おいおい、彼女のくせに聞いてねーのか?
    実際、手続き上はまだレベル0だから、奨学金も相応の額しかもらえない。
    これからもレベル5である事は隠していくらしいから、極貧のままな。
    あと能力名は正式に申請したとか言っているけど、実際はされてないから。あいつがほざいているだけだから」

結標『な、なんで私が知らない事まで知っているのよ!それに何でレベル5である事を明かさないのよ!』

土御門「その理由までは知らねーよ。とりあえず言える事は、あいつは彼女を裏切るような真似はしない。
    そういうことだから、じゃ」

『ちょっと待って』と聞こえた気がしたが、これ以上は知ったことではないと、通話を終了した。

土御門「ふぅ。結標は少しヤンデレの気があるな。まあ青髪なら、それも大歓迎なんだろうが」




概ねこんな感じで、それぞれの平和な春休みが過ぎ去っていった。
37 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 21:36:09.04 ID:c1MFS++20
4月6日 長点上機学園 始業式の日 

教師「えー、本日からこのクラスで一緒に勉強をする事になる、垣根帝督君だ。
   彼は学園都市で2人しかいないレベル6のうちの1人だ。先の戦争でも、学園都市を守るために大活躍だったそうだ」

垣根「よろしく」

長点上機の生徒とは言え、暗部がどうのこうのとか知る人は極めて少ない。
つまり、生徒達から見れば、とんでもなく凄い奴が転入してきたとしか思わない。
男子はともかく、女子からの黄色い声援に教室は包まれた。

教師「じゃあ、そこの席に座ってくれ」

垣根「うぃーす」

教師に指で示された席、肩よりちょっと長い茶髪に、綺麗な顔立ちの女子の横に座った。
瞬間、その女子が話しかけてきた。

「はじめまして。東城瑠璃(とうじょうるり)です。よろしくね」

垣根「よろしく」

近くで見ると、やはり整った顔をしている。加えて(長点に居る時点で当然ではあるが)頭も良さそうだ。

東城「ねーねー。今日は午前中で学校が終わる訳だけど、一緒にどっか遊びに行かない?」

垣根「予定あるし、パス」

東城「じゃあ、その予定が済んだ後で良いからさー。遊ぼう?」

垣根「今の内にはっきり言っとくけどな。予定がなくても、お前みたいな完璧そうな女には興味無いから遊ばない。
   ある程度欠点があった方が、可愛げがあるってもんだ」

東城「えー。私だって欠点ぐらいあるよ。たとえば、1つのモノに夢中になると、それしか見えなくなるところとかね♡」

教師「おいそこ!早速仲良くなるのは良いが、俺の話はちゃんと聞け」

東城「はーい」

垣根「へーい」

東城「(注意されちゃったね)」

垣根「(何で笑顔なんだよ。お前のせいで注意されたんだぞ)」

東城「(私達、仲良さそうに見えたんだよ?私はそれが嬉しかったの)」

垣根「(あっそ)」

概ねこんな感じで、垣根の学校生活初日は過ぎていった。
38 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 21:37:29.93 ID:c1MFS++20
放課後

東城「垣根君。遊びに行こ♪」

断りも無く、東城は垣根の腕に抱きついた。

垣根「予定があるって言ったよな?分かったら離れろ」

東城「イヤ」

垣根「暑苦しいんだよ」

東城「まだ春だよ。私はあなたとくっついて丁度いい暖かさだな」

垣根「俺は暑いの。いい加減離れないとぶっ殺すぞ」

東城「なんでそんなに意地悪な事言うの?」

垣根「別に意地悪でもなんでもねーだろ。お前が馴れ馴れしすぎるんだよ」

東城「……だって、仕方ないじゃん。あなたに一目惚れしちゃったんだもん」

東城の突然の告白に、健全な男子高校生である垣根は少し揺らいでしまった。
無理もない。東城瑠璃という人間は、アイドル並の顔立ちをしていて
身長は推定170cm弱、体重は55kg弱というモデル並のスタイルを有している。
容姿端麗という言葉がふさわしい人間なのだから。
そんな人間の、大きすぎず小さすぎない胸が、現在進行形で腕に当たっている。
とても心地いい柔らかさだ。これで興奮しない男子はいないだろう。

垣根(……俺は馬鹿か……)

垣根は今まで生きてきた中で、断トツの容姿の東城に告白され、理性が一瞬でも弾き飛びかけた自分にイラだった。

垣根「離れろ。ビッチ」

東城「きゃ」

抱きつかれている左腕を思い切り振る。振り払われた東城は、その勢いで尻餅をついた。

垣根「ふん」

そんな彼女になど目もくれず、垣根は歩き出した。
39 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 21:39:08.56 ID:c1MFS++20
12:00 学舎の園前

心理定規(帝督のほうから誘ってくれるなんて……///)

4月3日に軋轢的なものが生じたが、翌日からは何事もなかったように垣根は普通だった。
何度かデートもしたし、寮に入る今日まで、本当に充実した日々を送れたと思う。
だがデートも会話も、全て自分からのアプローチだった。別にそれは苦ではない。
愛する人と一緒に居ることができるだけで充分幸せだった。
だって言うのに、今回は嬉しい事に垣根の方から初めてアプローチをされたのだ。

心理定規(早く来ないかなー)

待ち合わせ時刻は12:00。そろそろ来ても良いころなのだが……と、視界にようやく垣根を捉えた。

心理定規「早くこっちきてよ!」

ここで嬉しそうに走ってきてくれたりしたら嬉しいものだが、垣根はあくまでクールに徹して歩いてくる。
それが垣根らしいと言えばらしいが。

視界に捉えてから40秒後、ようやく垣根が目の前まで来た。

心理定規「お・そ・いー。待ち合わせにはせめて5〜10分前には来てよね」

垣根「ああ、すまん」

心理定規「分かればよろしい。んで、今日はどこへ行くの?」

言いながら、垣根の左腕に抱きつく。同時、何か甘い匂いがする事に気付いた。

心理定規(え?この匂いは……)

垣根「今日は大事な話がある」

心理定規「な、何?」

垣根「俺達、一旦別れよう。できれば、連絡も少なめにしてな」

心理定規「え!?な、何で、そんな事……」

垣根「じっくり考えたんだけどよ。このままだと、俺はお前を襲っちまう。お前の意思なんて無視してな。
   でも俺は、彼女の意思を無視してレイプまがいの事をする訳にはいかねぇ。だから、一旦距離を置こう。
   2年後に、絶対迎えに行くから」
40 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 21:41:15.76 ID:c1MFS++20
心理定規「な……なんで……そんなこと……突然……言われても……」

垣根「わがままなのは承知の上だ。けど、俺とお前の事を考えたら――」

心理定規「あなた、浮気しているんでしょ!」

あまりに大きい声だった為に、通行人から注目が集まる。

垣根「どうしてそう言う結論に至るんだよ。俺は浮気なんてしない。そんな軽い男じゃねぇ」

心理定規「じゃあ……その左腕にまとわりついている甘い匂いは何?」

垣根(左腕の匂い?……まさかあの女の……なんて説明すればいい……)

何の脚色もなしに説明するとしたら「同級生に一目惚れされて、ここに来る前に左腕に抱きつかれた」
としか言いようがない。だがこんな説明をして、今の疑心暗鬼な心理定規が素直に「そうだったの安心したわ」
となるとは思えない。

心理定規「その顔は何か心当たりがあるみたいね」

嘘をついても仕方ない。ここは正直に言うしかなかった。

垣根「えっと、アレだ。
   なんか変な女に一目惚れされて、一方的に左腕に抱きつかれたりしたから、たまたま匂いがついちゃっただけだ。
   神に誓って言えるぜ。断じて浮気なんかじゃねぇ」

一方的に、の部分を強調して言った。神に誓って、とか非科学的な事まで言ってやった。
まあ先の戦争で魔術を垣間見ている2人は、オカルトが全く信じられない訳ではないが。
だがそれらがわざとらしく聞こえたのか、

心理定規「嘘ね。漫画やアニメやゲームじゃあるまいし、そんなことありえない。
     私は信じていたのに……信じていたのに!」

ヒステリックに叫ぶ心理定規。通行人の注目が一層高まる。
どうすりゃいい!?と垣根が悩んでいたところで、

「ちょっとぉ、見世物じゃないんだからぁ!」

星が入った(ように見える)瞳に、背まで伸びている長い金髪。
常盤台を卒業したのにもかかわらず、常盤台中学の冬服を纏い、蜘蛛の巣を連想させるような模様が入った、
レース入りのハイソックスと手袋を着用した『心理掌握』こと食蜂操祈が、いつの間にか君臨していた。
そして垣根達への人々の注目が逸れていく。心理定規も大人しくなっていた。
41 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 21:43:15.93 ID:c1MFS++20
垣根「テ、メェ、あれだけの数の人間を一瞬にして操ったのか……!」

食蜂「さぁ、どうでしょう?」

垣根「俺の女が静かになっているようだが、洗脳をしているなら今すぐ解け」

食蜂「何言っているの?私の超能力のおかげで、この子は大人しくなったのよぉ。
   能力を解けば、また騒ぎだすと思うケドぉ」

垣根「俺が自力で大人しくさせる。分かったら能力を解け。これが最後通告だ。言う事を聞かないなら殺す」

食蜂「私を殺せば、あなたはただの殺人者だよぉ」

垣根「お前は『俺の女を操る』と言う罪を犯した。お前を裁く権利ぐらいあるんだよ」

食蜂「あら、意外とおバカさんなのかしらねぇ。証拠がないじゃない?
   私が洗脳したっていう証拠がぁ。それに周囲の人達はみーんな、私の味方だよぉ」

垣根「証拠?周囲の人達?そんなもんいらねぇんだよ。
   俺が『お前は俺の女を洗脳した』って事実を観測した時点で、殺すには充分だ」

食蜂「言っておくケドぉ、私の洗脳は、私が死んでも続くのよぉ。
   つまり私が死んでも洗脳は完全には解けずに、あなたは犯罪者になる訳だけどぉ、
   そこんところ分かっているワケぇ?」

垣根「ハッ、めでてぇやつだ。そんなことで俺が止まると思うか?」

食蜂「理解力がないのかなぁ?私を殺しても、この子の洗脳も解けない訳でぇ」

口調こそ変わっていないが、声のトーンが一段階下がった。明らかにイラついている。

垣根「関係ねぇ。洗脳なんて意地でも解く。お前を殺した方がこの世の為だ」

これは冗談ではない。垣根帝督と言う男は決して善人ではない。
寧ろ長い間を『暗部』で過ごしてきた、どちらかと言えば悪人の部類である。殺すことに躊躇いなどない。

食蜂「本っ当に、君みたいな無駄に強気な男って、プチッと捻り潰したくなるわねぇ」

垣根「これ以上の問答は必要ねぇ。死ね」

直後、垣根は食蜂の後ろに回り込んで『未元物質』で生み出した刀を振るっていた。
と同時に、

垣根(――何か来る!)

背筋に冷たいものが走った。
生やしていた翼を器用に操り、その『何か』を防ぎ、食蜂から距離を取る。
42 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 21:44:49.84 ID:c1MFS++20
垣根(今のは一体……)

垣根自身にダメージは無いが、ガードを実行した翼がバラバラになってしまった。

「まだやりますか?」

いつの間にか、常盤台の冬服を纏った1人の少女が食蜂の側にいた。
身長は推定130cmほどでかなり小さく、痩せ細っている。
手入れされていない感じの紫色の髪の毛は肩ぐらいまであり、目は虚ろだ。

垣根「なんだテメェ」

少女「その質問に答えたところで、垣根様にメリットは無いと思われますが」

垣根「俺の名前を知っているのか。食蜂の味方をするのなら殺すが」

少女「あなたごときに、それが出来ますかね」

レベル6であり学園都市第2位でもある垣根に対して、少女がやたらと強気なのは、
先程の得体のしれない『何か』をして、彼の翼を破壊した超本人だからだろう。

垣根「俺も随分となめられたもんだなぁ」

少女「一度死にかけていますしね」

垣根「うざいな。死ね」

少女の後ろに一瞬で回り込んで『未元物質』の刀を左から右に水平に振るう。
強度は核シェルター以上、切れ味は500年もの業物を超えるレベルの一閃。それを少女は左の裏拳で迎え撃つ。

垣根(もらった!)

しかし垣根の考えとは裏腹に、何の変哲もない少女の左裏拳は『未元物質』の刀を易々と打ち砕いた。

垣根(なに!?)

少女は左裏拳からの回転の勢いのまま、右拳を繰り出す。
それは傍から見れば、何の変哲もないただの拳。しかし垣根には“視えて”いた。
少女の腕に渦巻いている、紫色のエネルギーを。

垣根(――!)

相殺――できない!本能的にそう感じ取った垣根は、迷わず後退した。
43 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 21:46:54.66 ID:c1MFS++20
少女「ガードでも反撃でもなく、避ける事を選択したのはさすがです。その“眼”のおかげでしょうか」

淡々とした口調で少女は喋る。なんというか、感情が無い感じがする。

垣根「一体何の能力だ?」

少女「その眼で見切ったのではないのですか?だとすれば、わざわざ説明する訳にはいきません」

垣根「生意気な女だ。どうせお前は俺に殺される。その前に話を聞いてやるって言っているんだよ」

少女「無理だと思います。レベル6とは言え、その力を使役できる時間はせいぜい5分と言ったところでしょう。
   5分間程度なら耐えきる自信はありますし、抑えてレベル5の力で来たとしても、真正面から叩き潰せる
   自信があります」

相変わらず抑揚のない喋り方だが、内容を聞く限り相手は自分の事を知り尽くしているし、自信が感じ取れる。
実際攻撃は通用しなかったし、ブラフ(はったり)とは思えない。

垣根(けどよ……)

浮気をしたと勘違いされたまま、食蜂に操られた最愛の人を放っておけるわけがない。
そんな垣根の心を読み取ったのか、食蜂が口を開く。

食蜂「大丈夫よぉ。別にこの子に何かするって訳じゃないし。あなたは後で相手してあげるわぁ。じゃぁ、帰るわよぉ」

少女「はい」

踵を返し、歩き出す2人。

垣根「ま、てよおおおおお!」

『未元物質』で即座に槍を生み出し、投げつけた。

食蜂「綾香」

少女「はい」

少女は手だけを後ろにやる。直後『未元物質』の槍は捻じ切られた。

少女「……やはり両腕ぐらいは千切っておいた方がよろしいのでしょうか?」

食蜂「そうねぇ。学習能力が無い子は、一度痛い目見ないと分からないみたいねぇ。いいわぁ。やっちゃってぇ」

少女「はい」

少女は振り返り、両手を前に出す。それで垣根の両腕は千切れるはずだった。

一方通行「なァンか楽しそうな事やってンじゃねェか、おい」

一方通行が垣根を押し退け割り込み、攻撃を反射しなければ。
44 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 21:48:37.55 ID:c1MFS++20
少女「くっ」

少女は後ろに飛び退き、反射された自身の攻撃をかわす。

垣根「邪魔すんじゃねぇよ」

一方通行「別に邪魔なンかしてねェよ。散歩していただけだ。
     それよりなンだよ、そのオッドアイもどき。カラコン?」

今の垣根は右目がオレンジ色に、左目が青く光っている。

垣根「んなわけねーだろ。この眼でようやく見切ったぜ。あいつの攻撃の正体」

一方通行「あァ、反射した感じ、オマエじゃあ勝ち目はないな。俺なら一捻りだが」

垣根「チッ。悔しいがそうだろうな。ここは大人しく引き下がっとくか」

一方通行「意外と物分かりが良いじゃねェか」

垣根「本当に大切な人を救うためだからな。無理して手負いになるわけにはいかねぇ。
   あとよ、土御門って奴の連絡先よこせ」

一方通行「面倒臭ェから、オマエで操作しろ」

ポケットから携帯を取り出し、垣根に投げる。

垣根「サンキュー」

少女「(さすがに一方通行様相手では分が悪いですね。)一方通行様はどうするのですか?」

一方通行「帰るよ。ガキを待たせているンでね」

少女「そうですか」

と、そこで操作を終えた垣根が一方通行に携帯を返し、帰りだした。

一方通行「女、最後に名前だけ教えろ」

少女「どうしましょうか?」

食蜂「いいわ。名前ぐらい教えてあげなさい」

少女「折原綾香(おりはらあやか)と申します」

一方通行「オッケー」

一方通行は徐に携帯を操作し、あるところに電話をかける。

一方通行「大至急“オリハラアヤカ”について調べろ。
     能力は多分、“歪曲”ってところだろうなァ。こンだけ情報ありゃ充分だろ。ンじゃあ頼むぜ」

一方的に喋るだけ喋って電話を切り、垣根と同じく、まるで何事もなかったように歩き出した。
45 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 21:49:56.50 ID:c1MFS++20
折原「何とか一方通行様との戦闘を回避できましたね」

食蜂「幼女が私に洗脳されないか心配だったんでしょう。ぐっ」

折原「どうしたのですか?」

よろめく食蜂を、支えながら尋ねた。

食蜂「……そこにいる垣根君の恋人いるじゃない?その子を操る時に、アレイスターが見えたの。
   そして精神攻撃的なのを喰らったの。
   それでも、精神状態がかなりブレていたから何とか洗脳出来たけど、万全状態だったら出来なかったわねぇ」

折原「……はあ」

食蜂「ちょっとぉ、理解できないなら、最初から尋ねないでくれる?」

折原「申し訳ございません」

食蜂「もういいわぁ。帰るわよぉ」

折原「はい」
46 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 21:52:04.03 ID:c1MFS++20
4月7日 とある高校始業式の日の朝 通学路

土御門「つーことで、昨日カッキーと一方通行から連絡があった訳だが、予想以上に俺達は追いつめられていることになる」

「やはり、拘束ぐらいは出来ないものなのでしょうか?」

土御門に疑問を呈したのは五和。

土御門「出来ないだろうにゃー。この街にいる大半の生徒は、食蜂に為す術もなく操られるだろう。
    食蜂の都合よくな。これがどう言う事か分かるか?操られていない俺達の方が“異常”になるんだ」

「俺達に為す術はないってことか」

まあ、分かってはいたけど。と言う調子で呟いたのは上条当麻。

土御門「食蜂が行動を起こすその時まで、何も出来ないだろうにゃー。
    ま、我慢するしかないんだよ。食蜂みたいな人間は、仮に拘束できたとしても反省しない。
    殺すか、真正面から説得するしかない」

上条「殺す訳にはいかないから、説得するしかないって訳だな」

土御門「そう言う訳だにゃー」

五和「でも、何かアクションを起こされるまで、こちら側は何も出来ないなんて……歯痒すぎます」

土御門「そう悲観することはねーにゃー。こっちにはレベル6が2人、『神浄』が1人いるんだからな」

上条「けど垣根でも勝てないような能力者があっち側にいるんだろ?
   しかも……『心理定規』だっけ?そいつも結局操られたんだろ?」

土御門「その2つが予想外だよなー。まあでも、1つ目については一方通行とカミやんがいるから大丈夫だ。
    問題は2つ目だ。これは多分『心理定規』の精神が揺らいでいたのもあるんだろうが、
    洗脳力が予想以上に高いという事。しかも垣根にとっては人質取られたもんだからなー」

上条「俺達だって、五和やインデックスや舞夏がセーフでも、吹寄や姫神が人質に成り得るじゃねーか」

土御門「そうなんだけど、食蜂は人質を盾にするような奴じゃない。
    基本的には叩いてつぶす、どちらかと言えばサディスティックな人間だからな。人質はあくまで保険さ」

あと舞夏って呼び捨てにすんじゃねーよ、と土御門は憤慨する。

五和「結局、私達に出来る事って何なのでしょうか?」

土御門「来たるべき時に備えて、力を蓄えておく事かな」
47 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 21:53:46.73 ID:c1MFS++20
とある高校 上条のクラスの教室

小萌「はーい。入学式の日にも言いましたが、我が校ではクラス替えを行っていません。
   よって1年の時と変わらないメンツ、変わらない担任なのです。これからもよろしくお願いしますねー」

「相変わらず小萌先生は可愛いなぁ。ホンマ天使やで」

と、変態丸出しの似非関西弁を話すのは、本名不明の青髪ピアスだ。

上条「はいはい。ロリコンロリコン」

青ピ「可愛いものを可愛いて言うて何が悪いんや。大体小萌先生は、年齢的には――」

その時だった。教卓の小萌から白いチョークが投擲され、青髪のこめかみを横切った。

小萌「はいそこー。早速うるさいので黙りやがれなのですよー。
   あと青髪ちゃん、調子に乗っていると『すけすけみるみる』の刑なのですよー」

上条「(こ、怖えー。つーか早速注意されちまったじゃねーか)」

青ピ「(ええやんええやん。あないなお子様に叱られるのも、また一興やで。
   ああ、小萌先生と朝まで個人授業したいわぁ)」

上条(……もう手遅れか)

そんな上条たちなどお構いなく、小萌は続ける。

小萌「ではではー、既に知っている人もいるかもしれませんが、始業式の前に、新たなクラスメイトを紹介するのです」

上条「新たなクラスメイト?(五和は3年だから、違うし)土御門、何か知っているか?」

土御門「……2年生での編入生は知らんな」

小萌「おめでとう野郎どもー。残念でした子猫ちゃん達ー。どうぞ、入ってきて下さーい」

ガラ、と扉が開かれ、入ってきたのは。

食蜂「今日から皆さんとお勉強することになった、食蜂操祈でぇ〜す。よろしくねぇ☆」

土御門「な――」

上条「――に」

小萌「えーっと、食蜂ちゃんは今年、あの常盤台を卒業しました。
   よって本来は高校1年生なのですが、特例で2年生の皆さんと一緒に勉強することになったのです」

土御門「ちょ、先生、そんなのアリかにゃー!?」

小萌「食蜂ちゃんほどのエリートが、霧ヶ丘などの名門校を蹴って、我が校に来てくれたのですよ?
   これぐらいの待遇は当然なのです」

食蜂「そういうことでぇ〜す☆」

上条「何だよそれ!いくら頭が良いからって、そんなVIP扱いみたいな……」

男子「いちいちうるせーぞ馬鹿2人。可愛い子が来てくれたんだからそれでいいじゃねーか。何が不満なんだよ?」

そーだ、そーだ!と次々と男子に賛同する意見で教室はざわめく。
48 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 21:55:21.36 ID:c1MFS++20
小萌「はいはーい。皆さん落ち着いてくださーい。レベル5ですし多少の優遇は当然なのですよ。
   それに食蜂ちゃんの学力なら、我が校の勉強についていく事は容易ですし、何も問題はありません」

上条「そう言う問題じゃなくて、頭が良いからとか、エリートだから2年生からとかじゃなくて、
   これ、逆差別なんじゃないですか?」

男子「逆差別って何だよ。この場合、区別だろ」

小萌「上条ちゃん……一体どうしちゃったのですか……先生は悲しいのです……」

上条「俺は正常ですよ。先生こそ」

青ピ「ええ加減にせぇよカミやん。食蜂ちゃんも、小萌先生も困っとるやないか」

上条「青髪……!」

小萌「もういいです!分からず屋の上条ちゃんは放っておきます!
   とりあえず食蜂ちゃんは、上条ちゃんの前の席に座ってください」

食蜂「はぁ〜い」

上条「え?」

さも当然のように上条の前の席に座る事になったが、それはおかしい。
上条の席は窓側の一番後ろ。目の前には普通に女子が座っている。
空いているのは、上条の隣に座っている土御門の隣の席だ。
にもかかわらず、食蜂は女子を押し退け上条の前に座ろうとしている。
指示する小萌も小萌だ。

食蜂「どいてくれる?」

女子「はい」

上条の目の前で、そんなやりとりがごく自然に行われた。
そして当然のように、女子は席を立ち、空いている席に座った。
そして当然のように、食蜂は上条の前の席に座った。
そして当然のように、そんな異常を誰も咎めない。
そこまできて、上条はようやく悟った。

食蜂「よろしくね☆上条君」

上条「ああ、よろしくな。クソッタレ」

小萌「では、SHR後に始業式ですからねー」
49 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 21:57:30.06 ID:c1MFS++20
12:00

始業式やその後のHRもつつがなく終了し、上条と土御門は学校の屋上に居た。

土御門「いやいや、大胆にも乗り込んできましたねー。
    あの様子だと、ウチのクラスで正常なのは、俺とカミやんぐらいかな。いや、俺達の方が“異常”になるのか」

上条「お前はよく洗脳されなかったな。お前もアレイスターの加護的なのがあんのか?」

土御門「いや、俺は万が一の為に仕込んでおいた魔術で、自力で防いだのさ。
    ちょっと頭痛がしたけどな。多分食蜂も、驚いていたと思うぜい」

上条「ここまでされて何も出来ねーのかよ……」

と、上条が呟いた直後だった。

食蜂「そうねぇ。何も出来ないわねぇ。何せ、異常なのはあなた達の方なんだから」

突如エコーがかかった食蜂の声が聞こえてきた。そして屋上の扉が開かれる。
そこから現れたのは、やはり食蜂。

食蜂「そっかぁ。土御門君の事を操れないのは“魔術”って言うのが原因だったんだぁ。
   世の中には、操祈の知らない事がまだまだ一杯あるんだねぇ☆」

土御門「嘘つけ。詳細までは知らなくとも、盗聴か何かで聞いたことぐらいはあるだろ。
    戦争のときだって、1人ほくそ笑んで傍観者を決め込んでいたくせに」

食蜂「そんなぁ。操祈は何も知らずに避難所に避難していただけだよぉ」

土御門「そうやってどこまでも余裕かましてればいいさ」

食蜂「土御門君、何だか怖いよぉ」

上条「お前、さっきからふざけてんのか?黒い部分を見せておきながら、今更ブリッ娘に何の意味がある?」

食蜂「ブリッ娘じゃないよぉ。これが操祈の素だよぉ」

上条「皆の洗脳を解け。解かなきゃ1発ぶん殴る」

食蜂「洗脳って何のことぉ?何だか上条君も怖いよぉ」

上条「清々しいくらいのとぼけ方だな。オーケー。1発ぶん殴る」

そうして上条は駆け出そうとしたが、ガシッ!と土御門に腕を掴まれる。

上条「放せよ!ぶん殴らないと気が済まねぇ!」

土御門「駄目だ。今ここで食蜂を殴ったら、傷害か何かで俺達が悪者になって終了だ」

上条「こんな茶番が、まかり通るってのかよ……」

土御門「んで、わざわざここに来た理由は何かにゃー?」

食蜂「HRが終了した直後に、2人が屋上へ行くのを見たから付いてきただけだよぉ」

土御門「会話になんねーな。もういいわ。帰ろうぜ、カミやん」

上条「くっそ……」

2人は食蜂の横を通って屋上を後にした。
50 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 21:58:39.44 ID:c1MFS++20
13:00 とある高校学生寮

土御門の部屋に、上条と土御門、そして五和がいた。
今は五和が作った料理を3人で頂いているところである。

土御門「五和さんの料理はおいしいにゃー。これは舞夏に匹敵するレベルだぜい」

五和「ありがとうございます」

上条「で、わざわざ五和に料理作らせてまで、ここに呼んだ理由は何だ?」

土御門「実は食蜂についてなんだが、奴を止める方法が無い訳じゃない」

五和「ほ、本当ですか?」

土御門「かなり強引な手だが」

上条「もったいぶらずに早く言えよ」

土御門「能力消去音声プログラムを、食蜂に聞かせる事だ」

五和「ほ、本当にそれで解決できるじゃないですか!」

上条「何でその方法を今まで言わなかったんだよ?食蜂がいずれ何かする事は分かっていたんだろ?」

土御門「アレイスターの巻物に書かれていただけであって、食蜂が具体的に何かした訳でもないのに、
    能力を奪うなんてさすがに酷いな。と思っていたから何もできなかった。
    だが垣根の報告に今日の朝の出来事で、そんな気持ちは微塵もなくなったよ」

五和「で、では」

土御門「ああ。プログラムは既に持っている。明日にでも食蜂の能力を奪う。協力してくれるか?カミやん、五和」

上条・五和「「もちろん(です)」」

3人は決意を固めた。
51 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 22:00:24.83 ID:c1MFS++20
19:00 第22学区 上条・五和ペアとアックアが激突した橋の上

御坂「ここね」

人っ子1人いなかった。完全下校時刻から30分も過ぎているのだから、別段おかしい事ではない。
そもそもなぜ御坂がこんな時間にこんなところに居るのかと言うと。

御坂「何なの!?呼び出しといて誰もいないとか……」

13:00過ぎ辺りだっただろうか。寮監から一通の手紙をもらった。
内容は食蜂からの挑戦状のようなものだった。無視しても良かったのだが、上条君が云々と書かれていたので来てやった。

御坂「今まで我慢してきたけど、人のトラウマつついてきたんだし、少しぐらい黒焦げにしても良いわよね……!」

御坂の中に黒い感情が渦巻いていた。と、前方から足音。

食蜂「ごきげんよう☆御坂さん」

御坂「ようやく来やがったわね」

バチバチ、と前髪から電撃が漏れ出す。

食蜂「焦らないでぇ。あなたの相手は私じゃないよぉ☆」

青ピ「恨みは無いけど……少しだけ痛い目見てもらうで」

野太い声は後ろから。
振り返ると、戦争の時にあの馬鹿の友達だと言った、青髪の少年がいた。

御坂「な、なんでアンタが……!」

青ピ「アカンでー御坂ちゃん。僕やから良いけど、目上の人に対しては敬語を使わへんと」

御坂「……そっか。操られているのね。大丈夫。だったらすぐに正常に戻してあげるから。
   ちょっと痛いかもしれないけどね」

御坂は電撃を纏う。
それは鎧となり、同時に反射神経や移動速度なども飛躍的に上昇させる。

青ピ「僕を馬鹿にしたらアカンで。レベル5の序列って、強さだけで決める訳じゃないからね」

御坂「そんなこと分かっているわよ。それでも――」

シュン!と御坂が青髪の視界から消え去り、顔面に回し蹴りを喰らわせるまでに1秒もかからなかった。
蹴られた青髪は、ノーバウンドで橋の欄干までぶっ飛んだ。

御坂「アンタに負ける気はしないけどね」

終わった。と思った。が、それは幻想にすぎなかった。

青ピ「御坂ちゃんが蹴ったのは水分身。本物はこっちやで」

御坂の後方10mほどの位置に、青髪が平然と立っていたからだ。思わず、欄干の方を見た。
そこには確かに、水分身が崩れて出来たと思われる水たまりしかなかった。
52 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 22:02:05.98 ID:c1MFS++20
御坂「はは。嬉しいわね。まだ戦えるんだ。自慢じゃないけど、私と戦える人ってあんまりいないからさー。
   ストレスとか溜め込む一方だったんだけど……これなら良い感じに発散できるかも……!」

青ピ「……まだ僕の事馬鹿にしているようやな。そもそもストレスを喧嘩で発散ってどうなん?
   レベル5は人格破綻者の集まり言うけど、まさにその通りやな」

食蜂「ちょっとぉ、私はまっとうな人格しているわよぉ」

青ピ「つまらん冗談やな。あなたがレベル5で一番酷いやないか」

御坂「……」

さっきから若干の違和感がある。操られている割にはよく喋ると言うか、今も食蜂に対して毒舌だった。
だがまあ、そんなことはどうでもいいか。

御坂「ゴチャゴチャ言っているけど、その法則を当て嵌めるなら、アンタも人格破綻者ってことでしょーが」

青ピ「何言うてん。僕は正常な人間やで」

御坂「ふん!」

この男と話しているとイラつく。そう思った御坂は、割と強めの雷撃の槍を放つ。

青ピ「あまいで」

ドッパァァァン!と轟音が周囲に響く。
青髪の周囲に渦巻いた水が、雷撃の槍を防いだ音だった。

御坂「そうでなくっちゃ!」

必殺技の1つを防がれたというのに、御坂は歓喜に震えていた。
理由は1つ。久々の熱い勝負が、あっさりと終わらずに済んだからだ。
御坂はポケットからコインを取り出し、上に弾く。

青ピ「『超電磁砲』か。させへんで」

『超電磁砲』が発射されるまでの、わずかのタイムラグを狙って、青髪の周囲の水が鞭となって御坂に襲い掛かる。

御坂「ちっ!」

コインなど無視して、御坂は回避行動をとった。
その後も水の鞭の連撃が続いたが、それらを避けながら青髪に肉迫する。

御坂「こらーっ!」

御坂は精一杯のタックルをぶちかました。同時、バシャ!と青髪の体がただの水に戻る。
53 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 22:03:25.26 ID:c1MFS++20
御坂「これも分身!?」

驚愕した直後、弾けた水は御坂の体を球体状に覆い尽くした。

御坂(閉じ込められた!?)

青ピ「早う脱出せんと、溺死してしまうで。ま、その前に――」

青髪が何か言っていたが、御坂には聞こえていなかった。

御坂(落ち着け。大丈夫だ。こんなもの、冷静に対処すれば!)

前髪から精一杯の放電。御坂を球体上に覆い尽くしていた水が弾け飛ぶ。

御坂「っ!」

追撃の水が迫っていたが、それらもジャンプして何とか避ける。

御坂(あそこね!)

位置は既に電磁波からの反射波で分かっている。

青ピ「これはまずいかもな」

危険を感じ取った青髪は、水の鞭10本を目の前に重ねて配置する。

御坂「そんな水如き!ぶっち抜けぇぇぇえええ!」

空中を舞っていた御坂は、デコピンでコインを弾く。
音速の3倍以上で放たれたコインは、水の鞭の盾を次々と貫き――最終的に青髪の手の中におさまった。

青ピ「僕の水の密度をなめたらアカンで」

御坂「マジでか……!」

どうやら水の盾を貫くたびに威力が落ちて、青髪に届くころには、ただの溶けかけのコインになったみたいだ。

御坂「なら、これはどうよ!?」

地面に着地していた御坂の前髪から大量の電撃が溢れだす。
それは1点に集まり龍の頭蓋を象った。言うならば、雷撃の龍というところか。

御坂「喰っらぇぇぇえええ!」

青ピ「甘いで!」

青髪にも必殺技がある。それは水の竜。即座に水の竜を生み出し、放つ。

0.3秒で、竜と龍がぶつかり合った。
ドッパァァァン!という轟音と共に竜と龍は消え去った。つまりは相殺。
54 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 22:04:40.03 ID:c1MFS++20
御坂(これも駄目か……!)

必殺技を悉く防がれ、いよいよ楽しんでもいられなくなってきた。
しかも相手は、まだまだ余力がありそうだ。

青ピ「ようやく僕の強さが分かってきたようやな。でも、今更危機感抱き始めたところで、遅いで」

御坂(まずい!)

咄嗟に後ろを向き、雷撃の槍を放った。
それは御坂の後ろから迫っていた水の竜に見事に直撃したが、

御坂(止まらない!?)

水の竜は勢いを落とすことなく御坂に向かって、彼女を咥えた。
と言っても、全てが水で構成されている竜のため、噛みちぎられるということはない。

御坂(こんなの……!)

放電して抜け出してやる!と御坂は思ったが、

青ピ「そんな時間は与えへんで」

御坂を咥えた水の竜が、恐るべき速度で上昇し、橋の下の川面に向かって一直線に下降していく。

御坂(ヤバ――)

ドッバァァァン!と御坂は水の竜ごと川面に叩きつけられた。勝負は、決した。

青ピ「殺さないようにって言うのが難儀やったけど、任務完了やなぁ」

食蜂「何言っているのよぉ。レベル5の中でも穏便な能力じゃない。あなたほど捕獲に適した能力はいないわぁ」

青ピ「そりゃどうも」

食蜂「お疲れ様。じゃぁ次は、あの子ね」

青ピ「……分かっとるわ」
55 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 22:06:06.04 ID:c1MFS++20
4月8日 8:20 上条のクラスの教室

食蜂「おはよう☆上条君」

既に座っていた上条の前の席に座りながら、挨拶する。

上条「……」

食蜂「何で無視するの?操祈、悲しいよぉ」

上条「俺の右手には、異能の力なら神様の奇跡(システム)だって打ち消せる『幻想殺し』が宿っている」

上条は突然語りだした。

上条「けど効果範囲は右手のみだ。つまり、お前には俺の心が読めない事は無いはずだ。
   分かるだろ?俺が考えている事」

食蜂「ふぅん。そう言う事かぁ。で、操祈が素直に言う事聞くと思うのカナぁ?」

上条「お前さ、人を操って世界を崩壊させようなんて、ゲームの悪役みたいな野望を抱いて、何か楽しいのかよ?」

食蜂「説教?ていうかぁ、私の野望まで知っているんだぁ。こわーい」

上条「もうさ、やめにしようぜ。そんな馬鹿な野望は捨てて、普通の学園生活を送ろうぜ」

食蜂「あなたに私の何が分かるの?知ったような口を聞かないでほしいなぁ」

上条「分かんねぇよ。そんな馬鹿な野望に至る経緯なんて分かりたくもねぇ。けど、これだけは言える。
   人を洗脳して、世界を崩壊させる事が間違っているってことだけは」

食蜂「何を言われたって、私は止まらないわぁ」
56 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 22:08:29.89 ID:c1MFS++20
上条「そっか。なら仕方ねぇな」

ガタッ、と音を立てて上条は椅子から立ちあがる。

上条「強引に行かせてもらうぜ。
   俺の心読んだら分かると思うけど、まだ来てない青髪を除くクラス全員の洗脳は解いた。ここにお前の味方はいない」

食蜂「作戦も何も無く、ド直球で来たわねぇ。でも、1つだけ間違っている事があるわぁ」

上条「……」

どんな事を言われようが、上条含むクラスメイト全員は食蜂を取り押さえ、能力を消去するつもりだった。

食蜂「私の能力を消せば、洗脳されている人達の精神は崩壊するわぁ」

こんな事を、言われなければ。

クラスメイト達「嘘……だろ……」

上条「土御門!能力が消えても、洗脳が自然には解けないだけだよな!?」

土御門「……」

ブラフだ。と言いたい。が、そんな保証はどこにもない。
万が一言っている事が本当だったとしたら、青髪や小萌先生、他に洗脳されている人達はどうなる?

だが、もし言っている事が本当だとしても、異能の力で精神崩壊するのならば、上条の『幻想殺し』で戻るのではないか。

いや、洗脳という現在進行形ならばともかく、精神崩壊と言う完了した事象に『幻想殺し』は効くのだろうか。
『女王艦隊』には効果が無かったみたいだが。

けれども、アウレオルスの忘却は右手をあてただけで元に戻った。つまり、精神崩壊を戻せる可能性もゼロじゃないはずだ。

だがやはり、リスクが高い。
可能性という話だけで能力をあっさり消去して、取り返しがつかないほどの精神崩壊をしてしまったら。

冷静に考えれば焦る事は無い。能力消去と言う手が無くなっただけだ。
こんな危険な賭けに出る必要はない。もしかしたら他に方法があるかもしれない。
結論を言うと“とりあえず”は何もしないのがベストな選択と思える。

と、そこまで考えた土御門の心を読んだのか、食蜂が再び口を開く。

食蜂「土御門君は頭が良いなぁ。操祈も、それがベストな選択だと思うよ☆」

土御門「クソが……」

これが心理を知り尽くしたレベル5のやり口か。と、土御門は驚嘆した。食蜂の反撃は終わらない。

食蜂「そ〜れっ☆」

一瞬にして、クラスメイト達は再び洗脳された。続けて鞄からリモコンを取り出し、先端を土御門に向ける。

土御門「リモコンで能力を補正するのか。そんなもの効かないぞ」

食蜂「洗脳が無理でもぉ、それより圧倒的に簡単な、記憶消去ならどうかなぁ?」

土御門「――くっ!」

どう言う訳か、土御門はぐらりと揺れ、床に倒れた。
57 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 22:10:35.25 ID:c1MFS++20
上条「テ、ンメェェェ!」

思わず食蜂に殴りかかるが、ガシィ!と拳は横から出てきた手に止められた。

青ピ「何やっとるんや。カミやん」

遅れてきた青髪の手だった。

上条「青髪……!」

女子「小萌先生!黄泉川先生!上条くんが暴れています!」

女子がドアから上半身だけを出して、歩いてきていた2人の先生を呼びとめる。
それを聞いた2人の先生は上条のもとへ走ってきた。

小萌「上条ちゃん!一体どうしたと言うのですか!」

上条「違う!俺はただ――」

「先生。上条は突然暴れ出して食蜂さんに殴りかかろうとしました。
 それを止めようとした土御門が、上条に突き飛ばされて、後頭部を強打しました。ここに居る全員が目撃しています」

ハキハキと、吹寄制理が嘘を言う。

黄泉川「うーん。強打したような跡はないじゃん」

「でも。私達は。目撃した」

地味目な少女、姫神秋沙も吹寄に続く。

小萌「黄泉川先生、私の生徒達は、嘘だけはつかないのですよ……」

黄泉川「分かっているじゃんよ。じゃあ保健委員は、土御門を保健室へ。
    上条は私についてくるじゃん。いいよね?月詠センセ」

小萌「はい……」

上条(なん……だよ……!)

あれよあれよという内に、上条は悪者にされてしまった。全てが食蜂の都合の良いようにできている空間。

黄泉川「いくぞ。上条」

上条「……はい」
58 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 22:12:04.47 ID:c1MFS++20
8:35 とある空き教室

黄泉川「正直言うと、私はお前が理由もなしに人を殴ろうとするとは思えないじゃん」

上条「え?」

黄泉川「月詠センセから、お前は不器用で不真面目だけど嘘だけは吐かない正直者だって聞いているし、
    去年の9月1日にお前と共闘したが、やっぱりお前は良い奴だと思うじゃん」

上条(黄泉川先生は、操られていないのか?)

黄泉川「何があった?正直に言うじゃん」

上条「……」

上条は迷っていた。多分、言えば信じてもらえる。
でも分かったところで何も出来ないと思うし、巻き込みたくない。

黄泉川「……正直に言わなきゃ、私はお前に罰を与えることになるじゃん。それでも、黙ったままで良いのか?」

上条「……今は言えません。ただ、殴ろうとした事に、俺なりの理由はあります」

黄泉川「……私に迷惑をかけたくないとか、そういう余計な事は考えなくて良いじゃんよ?子供は大人に頼るべきじゃん」

上条「違います。そう言う問題じゃないです。これは俺の問題ですから、俺だけで解決します」

黄泉川「どうしても言えないじゃんよ?」

上条「はい」

黄泉川「……分かった。どうしてもって時は相談してくれじゃん。私は、お前の味方だからな」

上条「はい」
59 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 22:13:17.72 ID:c1MFS++20
8:50 上条のクラスの教室 1時間目の授業

食蜂(特定の数人だけ、アレイスターが見えるのは何なのかしらねぇ。アレイスターの奴は、何をしたのか……)

黄泉川さえ操れれば、上条を徹底的に陥れる事が出来たのだが、アレイスターが見えて洗脳出来なかった。

食蜂(……まぁいいわぁ。別に計画自体が潰れる訳じゃないし、計画がうまくいきすぎてもつまらないものねぇ。
   多少のイレギュラーは、娯楽として受け止めないと)

よく考えるとアレイスターの洗脳妨害工作?は、
自分の計画を完璧にさせないためのものかもしれない(その意図は不明だが)。
だったら学園都市全生徒に妨害工作を仕込んでおけばいいのに。と思うが、さすがにそこまでは出来なかったのか。

食蜂(それとも、わざと特定の人物だけ妨害工作がなされているのか……)

よくよく思い出してみると、登校初日、職員室で出会った上条の恋人の五和とか言う少女、
一方通行の親代わりの黄泉川、垣根の恋人である『心理定規』、今のところ自分に対抗できる可能性のある者の
親しい人のみ、妨害工作がなされている。と、ここまで考えて、

食蜂(……はぁ、下らない。『心理定規』を操れた以上、妨害は完璧ではなかったようだし、どの道全てを掌握するし)

思考を止めた。
60 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 22:15:32.07 ID:c1MFS++20
一方で、特にお咎めなしで教室に戻ってきて授業を受けていた上条も深く思考していた。

上条(土御門は大丈夫なのか……?食蜂の奴は記憶消去とか言っていたが……)

土御門の頭を右手で触れば、消去された記憶は戻るのだろうか?
仮に戻ったところで、再びやられれば同じではないか?

上条(それでも、やらないよりはマシか……?)

しかし効率が悪すぎる。
1人1人頭を触って解除していく自分に対して、食蜂はノーモーションで一斉に洗脳を実行できる。
クラスメイトを戻したって、土御門を戻したって。一瞬で全てがゼロに還る。

上条(結局、俺はどうすりゃいいんだ……)

能力を強制的に消去する方法は、洗脳されている人が精神崩壊しない確証がない限り実行できない。
殺しても駄目かもしれない。一時的な拘束も駄目だ。

上条(もう……手は無いのか……)

……永久的に拘束したのち『幻想殺し』で洗脳された人々を救えばいいのではないか?
人権が云々と言われそうだが、ここまでやりたい放題の彼女には、永久に拘束しても問題ないのではないだろうか?
そんな事を考えているところに、

食蜂『物騒な事を考えているね。上条君』

食蜂の声が、脳内に直接届いた。

食蜂『君が右手で頭を触らない限りは、少しの間私と念話出来るよ。レッツ☆トライ!』

上条『一体何の用だ?人の心を見透かすなんて、趣味悪ぃぞ』

食蜂『だってぇ、授業中に私語はいけないでしょ?だから、こんな形でしか話せない訳ぇ』

上条『確かに私語はいけないな。でもそれなら、休み時間とかでもいいはずだ』

食蜂『それだと、周りの人に聞こえてしまうかもしれないでしょ?」

上条『別に聞こえたっていいだろーが。仮に聞こえてはいけない内容でも記憶を操作すればいいじゃねーか』

食蜂『あらぁ。君の口からそんな言葉が聞けるなんて意外だわぁ』

上条『何がどう意外なんだよ』

食蜂『だってぇ、君みたいな熱血漢は、記憶の操作とかダメ!ゼッタイ!とか言いそうだったからぁ』

上条『……んで、用は何だ?』

食蜂『そうねぇ。永久的に拘束した場合はぁ、洗脳している人達の精神を私の意思で壊しちゃうからぁ、
   その手段も無理だよってコトを伝えたかったの』

上条『何でわざわざ教えた?』

食蜂『君が間違った手段に走らない為だよぉ。あとぉ、今日の午後には、楽しいアトラクションが待っているかもねぇ』

後半部分が何を言っているのかが分からなかったが、面倒くさくなった上条はこう締めくくった。

上条『……そっか。じゃあやっぱり、真正面から説得するしかないな』

食蜂の返答も待たずに、右手で頭を触った。
ガラスが割れるような甲高い音が教室中に響いたが、まるで何事もなかったかのように授業は進む。
61 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 22:16:45.59 ID:c1MFS++20
10:00 とある高校体育館 2時間目の授業

土御門が戻ってきた。目立った外傷はなかったが、食蜂が悪い奴だと言う記憶は無くなっていた。

上条は土御門の頭を触って(正常に戻るかは分からなかったが)記憶を戻そうとしたが、
他の男子に羽交い絞めにされて止められた。食蜂の命令だろう。

食蜂『そう言うことしちゃダメぇ☆』

食蜂が再び念話をしてきた。右手で頭を触って念話を断ち切ろうとするが、それすらも男子に止められる。
異常な状況なのに、男子の体育教師、災誤は何も言わない。
女子の体育教師の黄泉川は男子の異常に気付き、上条の下へ行こうとするも他の女子に止められ、上条を助けに行けない。

食蜂『そんなに暴れないで』

上条『一体何の用だ』

食蜂『あなたさっき、私の事説得してくれるって言ったよね?』

上条『……言ったけど』

食蜂『……どうして赤の他人である私にそこまでつっかかってくるの?』

上条『お前が皆を操っているからだろうが。解放してくれるんなら、お前の事なんか知らねーよ』

食蜂『そう言う意味じゃなくて、もっと他に止める方法があると思わない?何で説得なの?』

上条『……』

一体何が言いたいのか、さっぱりわからない。

上条『拘束も駄目、能力消去も駄目、殺すなんてもっての外。じゃあ説得しかないだろ』

食蜂『……そう。ところで話題は変わるけど、実は私、こんな事をやりたくてやっているんじゃないの』

上条『は?』

またしても、言っている意味が分からなかった。
62 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 22:18:52.36 ID:c1MFS++20
食蜂『あのね。実は今までの事全部、御坂さんに命令された事なの』

上条『……意味が分からねぇ。御坂は関係ないだろ』

食蜂『それがあるのよ。あんまり言いたくなかったけど、御坂さんはあなたの事が好きだった』

上条『……え?』

ここで上条は、若干冷静さを失った。

食蜂『加えて、妹達を失った。分かる?好きな人とクローンを失ったのよ。
   彼女の悲しみは計り知れない。学園都市を崩壊させて、世界なんて滅んじゃえば良いって考えるのも無理はないの。
   私は御坂さんに脅されて、こんな事をやっているの』

上条『……嘘だな。御坂はそんなこと考えない。そもそも御坂が俺の事好きだなんて、そんな事ありえない。
   好きな人に電撃飛ばすか?』

食蜂『あなたって鈍感なのね。電撃を飛ばしたりするのは、彼女なりの照れ隠しに決まっているじゃない』

上条『……じゃあ好きってことでもいいさ。でも、御坂は世界滅亡なんて馬鹿なこと考えるはずがない。
   そもそもお前なら、脅されても操って黙らせられるだろうが』

食蜂『それがそう簡単にはいかないのよ。御坂さんに対しては、電磁バリアで能力が妨げられるから干渉出来ないの』

上条『お前さっき言ったよな?御坂は相当悲しんでいるって。精神が揺らぎまくっているなら、操ることも可能だろうが』

食蜂『そんな事もないわ。一方通行だって、打ち止めや番外個体(ミサカワースト)を失って悲しんでいるけど、操れない。
   相性って言うのもある。あと、黄泉川先生が何か言っているでしょう?あの人操れないのよ。
   アレイスターの加護的なものがあってね。所詮その程度の洗脳力なの』

上条『……嘘だ。信じられねーよ。百歩譲ってお前が御坂に脅されていたとしても、
   無意味にクラスメイトを洗脳し、いけすかない態度をとる理由にはならない』

食蜂『私はさっき言ったはずよ。御坂さんはあなたの事が好きだったの。
   でも、あなたはそれに応えなかった。じゃあ御坂さんの悲しみの矛先は、どこへ行くと思う?』

上条『……五和か!?』

食蜂『それもあるかもしれないわね。それと、あなた自身を苦しめるとか。
   クラスメイトを操って、とかね。あとはそう、もう1人いるわよね』

上条『……インデックスか!?』

思わず頭に血が上る。
63 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 22:20:20.12 ID:c1MFS++20
食蜂『分かったでしょ?私は被害者なの』

上条『……違う。どんな形であれ、お前は洗脳を実行した時点で共犯者だ。被害者面すんな』

食蜂『……ごめんなさい』

上条『っ』

意外と素直な食蜂に、上条は面食らう。

上条『でもやっぱり信じられない。御坂は、そんな奴じゃない!』

食蜂『……どうかしら?あなたもインデックスちゃんの記憶を奪ってしまった時、何もかもがどうでもよくなったでしょう?
   それが御坂さんの場合は、逆恨みの復讐だっただけ』

人の記憶やその時の心情を勝手に読み取りやがって、と思う上条だったが、言われてみれば確かにそうだ。

上条『……本当に、御坂は……』

食蜂『放課後、確かめてみれば良いじゃない。彼女に直接会って』

食蜂の嘘かもしれない。というか食蜂の嘘だろう。理性はそう歌っている。
けれども、限りなく低い可能性ではあるが、全くあり得ないと言う訳じゃない。
言葉づかいも、ブリッ娘から普通になっているところがまた真実味がある気がする。

上条『分かった。仮に御坂が黒幕だとする。けど俺はともかく、クラスメイトは関係ない。
   解放しろ。御坂の説得は俺がするから』

食蜂『駄目。そんなことしたら、私はクラスメイト達から非難される。
   それに御坂さんにも……わがままなのは分かっているけど、怖いの……』

直後に、その場で蹲りガタガタと震え出す食蜂。しかも涙目になっているように見える。
あれは演技で出来る事なのか?というかもうこっちも駄目だ。色々衝撃的な情報を聞いて、頭がパンクしそうだ。

上条『……分かった。とりあえず御坂と会ってみる。だからもう、一切余計なことすんなよ』

食蜂『……分か……った……』

その後食蜂は、他の女子生徒の手によって保健室へ連れて行かれた。

上条(食蜂の嘘だとは思うが、最近会ってないし、久々に御坂に会ってみるか……)

その後は普通に体育の授業をした。
授業終了後黄泉川に呼び出され、いろいろ聞かれたが、今は何も言えないと誤魔化した。
64 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 22:22:43.88 ID:c1MFS++20
15:48 学舎の園前

上条「御坂の奴遅いな」

昼休みに電話をして、15:40分にここで待ち合わせる約束を取り付けた。
電話口の御坂は、別段ご機嫌と言う訳でも不機嫌と言う訳でもなく、至って普通だった。
とても世界の滅亡を願っているようには思えなかった。

上条(……でも、もし御坂が、本当に食蜂を脅しているのなら――)

どうするべきか?と上条は考える。とそこで、ポケットの中のマナーモードの携帯が震え出した。
当然御坂からの電話だと思いディスプレイを見てみると、そこには『小萌先生』の文字が表示されていた。

上条(一体何の用だ……?)

月詠小萌も食蜂に洗脳されているが、彼女のピンチ時に、彼女に都合がよくなるように行動するだけで、
根本的な性格や行動などは変わっていない。上条が食蜂の邪魔になるような事をせず普通に過ごしていれば、
いつも通りの小萌先生なのだ。他の生徒達も同様である。

上条(まだ御坂も来てないし、とりあえず出るか)

そんな風に割と軽い気持ちで通話ボタンを押して、右耳に当てる。

上条「もしもし」

小萌『上……ちゃん!助……て……い……すよ……』

上条「もしもし?」

何かノイズのような音で小萌先生の声が聞こえにくい。とそこに、

インデックス『助けて!とうまくん!』

はっきりと、インデックスの切羽詰まった声が聞こえてきた。

上条「もしもし!?どうしたんだ、インデックス!?」

直後、キャアアア!と、インデックスと小萌先生の悲鳴が聞こえてきた。

上条「もしもし!?くっそ!」

御坂には悪いが、呑気に待っている暇などない。
今すぐにでも小萌先生のアパートに行かなければと思い通話を終了しようとした、その時だった。

御坂『もしもし当麻?御坂だけど』

上条「何でお前が……?」

御坂『何でって……そんなの、私がこのロリ教師のアパート襲って、携帯を拝借しているからじゃないの』

さも当然のことのように御坂は言い放った。

上条「お前……自分が何言っているのか分かってんのか!?」

御坂『もちろん。それより、シスターは預かったから。返してほしければ、今から送る地図の場所に来てね』

上条「ちょ、待て!」

しかし上条の制止などスルーされ、通話は終了した。直後に、URLしか載っていない一通のメールが送られて来た。
上条は一切の躊躇いなくURLを開いた。そこに表示された場所は。
65 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 22:25:36.38 ID:c1MFS++20
16:03 上条と一方通行が激突した操車場

急いで操車場にやってきた上条の目に飛び込んできたのは、
この季節にはまだ少し早い、Tシャツにホットパンツで帽子を被っている人間だった。
腰にはウエストポーチらしきものが巻いてある。顔は見えないが、束ねられている栗色の髪は見えていた。

上条「御坂……か?」

御坂「そうよ。待っていたわ」

上条「……インデックスはどこだ!?」

御坂「ああ、それなら大丈夫。アンタを呼び出すための口実にすぎないから、さらってはいないわよ。
   アパートを襲ったのは事実だから、気絶ぐらいはしているけどね」

上条「お前、本当に――」

御坂「私はアンタが好きだった。でもアンタは応えてくれなかった。
   だから――私の手でアンタを殺す。そして私も死ぬ。行くわよ」

ダン!と地面を蹴って御坂が駆け出す。右手には、刃渡り8cmほどのナイフが握られている。
御坂は本気で上条を殺すつもりだ。だが今更ナイフごときで、臆する上条ではない。

上条「いいぜ、御坂。そんなふざけた幻想(かんがえ)はこの俺がぶち殺して、目ぇ覚まさせてやる!」

御坂「うざい、死ね!」

右手のナイフを左から右に一閃した。
上条はそれを屈んで回避したが、それが仇となった。

御坂「ビンゴ!」

図ったように御坂の左の膝蹴りが放たれた。
上条は咄嗟に両腕をクロスしてガードしたが、地面を数m転がる。

上条(くっそ――)

立ち上がった上条の目に飛び込んで来たのは、
左手でポーチからナイフを取り出し、投げた御坂だった。

上条「っ!」

左目を狙って放たれたナイフを、上条は右に数歩移動して回避。
その間に御坂は、上条の右斜め後ろに移動していた。

御坂「ちぇいさーっ!」

御坂の回し蹴りが繰り出されたが、上条は右手の甲で受け止める。
瞬間、ガラスの割れるような音と共に、御坂の体を覆っていた電撃が解除された。
御坂の運動神経が元に戻る。

御坂「まだまだ!」

御坂は逆回転をして、既に逆手に持ちかえていた右手のナイフを、上条の側頭部目がけて一閃する。

上条はそれを再び屈んで回避。反撃の左肘を御坂の脇腹狙って繰り出すが、
それより速く、回転した勢いのままの御坂の左足の蹴りが、上条の顔面にクリーンヒットした。

上条「がは!」

またしても地面を数m転がる。立ち上がるどころか受け身も取れなかった。
そこへ御坂は、容赦なく右手のナイフを投擲した。

上条「ぐ、おお!」

顔面を蹴られて頭がまだグラグラしている。避けられない!
――ブシュ!と肉が裂け、鮮血が流れた。
66 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 22:27:34.18 ID:c1MFS++20
御坂「しぶといわね。伊達に不幸を味わってきたわけじゃないってことかしら」

上条の左手からは、それほど多くない鮮血が流れていた。投擲されたナイフを咄嗟にキャッチしたからだ。

御坂「さあ、まだまだこれからよ」

上条「っ!?」

グリグリと、上条の左手に掴まれているナイフが動き出した。上条は痛みに耐えかね、ナイフを手放す。
するとナイフは、御坂の手元に吸い寄せられていった。

御坂「このナイフね。柄の部分に鉄が仕込んであるの。
   だから、私の電磁力で引き寄せたり、浮かばせたり、まあいろいろできるわけ」

上条「クソッタレが……!」

これがレベル5第3位『超電磁砲』御坂美琴の本領。彼女の能力の強みは、その応用性にこそある。
それと元々持っている運動能力を最大限に活かされただけで、手も足も出ない。

上条「――でも、負けられねぇよ」

上条は立ち上がり『幻想殺し』の蓋を解放する。
御坂の周囲には10本のナイフに、操車場のレールが12本浮いていた。御坂自身も再び電撃を纏っている。

御坂「ぐっちゃぐちゃに潰してあげるからね」

ナイフとレールが、上条目がけて一斉に放たれた。上条は臆せず駆けだす。

上条「おおおおおおおおおおおおお!」

思い切りジャンプした。
迫っていたレールの1つを一瞬だけ足場にして、さらに跳ぶ。それで全ての攻撃を避けきった。
そして空中から御坂を狙って落下し、拳を繰り出す。

上条「ちょっと痛ぇぞ!」

ゴッ!と上条の拳は御坂には当たらず、地面に直撃した。
直後、上条の少し上で頭頂部目がけ繰り出された、御坂の回し蹴りがクリーンヒットした。

上条「がっ!」

グラリと揺らぎ、頭から倒れそうになる上条に追い討ちをかけるように、御坂の左足が上条の頭を踏み、跳んだ。
それで御坂は、上条を完全に伏せさせ、真上に跳んだ事になる。

御坂「チェックメイト!」

空中で一切の躊躇いなく、既に引き寄せておいたレールの1本を殴り『超電磁砲』として放った。
長さ10mほどのレールは0.00000001秒で地面に直撃し、周囲の地面を抉った。
溶けかけたレールは深さ100mほどのところまで埋もれていた。
67 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 22:29:22.54 ID:c1MFS++20
御坂「やったかな?」

地面に着地した御坂は呟く。周囲に上条の姿は見当たらない。

御坂「……案外、呆気なかったわね」

と御坂が纏っていた電撃を解除しようとしたその時だった。
ゴッ!と上条が地面を突き破り、御坂の顎目がけアッパーを繰り出した。

御坂「ちっ!」

体を仰け反らせ、ギリギリでアッパーを回避した御坂は、飛び出した上条の右足を掴み地面に叩きつけようとする。

上条「おお!」

上条は体を捻り、両手を地面にめり込ませ、叩きつけられるのを回避。
同時に掴まれている右足を振るい、御坂を飛ばす。

それなりの勢いで飛ばされた御坂は、しかし電磁力を器用に操り、コンテナの1つに蜘蛛のように貼り付いた。

御坂「まだ生きていたんだ。アハッ!嬉しいわ。
   私が今まで味わってきた屈辱の清算を、まだ続けられるんだもの!」

アハハハハハ!と狂気じみた笑い声を上げる御坂。

上条「御坂、お前どうしちまったんだよ……?こんなこと、やめにしようぜ」

御坂「……じゃあ、あの五和とか言う女と別れて、あのシスターとも一生関わらない事。
   そして私と一緒に居てくれるなら、もうこんなことはしないわよ」

上条「……それは、出来ない」

御坂「……交渉決裂ね。それと、気が変わったわ。五和とあのシスターも殺す。
   大丈夫。アンタを最初に殺してあげるから、2人の死に様は見なくて済むわ」

上条「……それ、本気で言ってんのか?」

御坂「本気よ。さっきまでの私を見れば分かるでしょ?私を止めたければ、本気で私を殺しに来なさい」
68 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 22:32:40.34 ID:c1MFS++20
上条「どうしても……戦わなきゃ駄目なのか?」

御坂「別に戦わなくても良いわよ。大切な人と、アンタ自身が死ぬのをよしとするのなら、ね!」

ナイフ10本、レール11本、コンテナ4個が宙を舞い、一斉に上条へ向かって行く。

上条「くっそがああああああああああああああああああああああああ!」

右手に『竜王の顎』(ドラゴンストライク)が顕現する。
それは大きく開き『竜王の殺息』(ドラゴンブレス)が砲弾のように発射された。

砲弾と言っても、直径10mはあろうかという巨大な球体状の塊は、ナイフ、レール、コンテナの全てを爆発で吹き飛ばした。

御坂「へぇ、やるじゃない」

煙のカーテンの向こうから声がした直後、ゴッ!と立ち込める莫大な煙を切り裂いて、
レールを媒体にした『超電磁砲』が飛んできたが『竜王の顎』で何とか受け止めた。

御坂「その竜の頭みたいなのは何なのかしら?地面から出てきたりもしたし、アンタ本当に人間?」

怒涛の攻撃と必殺技を防がれたにもかかわらず、随分と余裕綽々なように見える。

御坂「手加減しているとは思っていたけど、まさかここまで力を隠しているなんてね。
   本当、どこまで私をコケにしてくれるのかしら!」

バリバリィ!と御坂の前髪から電撃が迸る。
しかしそれは、上条本人ではなく彼の周囲の地面に向けて放たれた。
それにより莫大な煙が立ち込める。これが意味する事は。

上条(目眩ましか!?)

煙を振り払うために『竜王の翼』(ドラゴンウィング)を顕現させる。
そしてはばたこうとしたところで、

御坂「させないわよ」

上条の周囲から湧いてきた砂鉄が、竜王の翼』に巻き付いた。
上条の体に眠る『竜王』の力は、異能の力に耐性はあるものの、無効化は出来ない。
その点では『幻想殺し』に劣ると言える。
というより『幻想殺し』は『竜王』の蓋なのだから、当然と言えば当然であるが。
とにかく翼は動かせない。

上条「ちっくしょう!」

砂鉄はさらに上条の体に巻きついて行く。『竜王』の力に覆われている以上、物理的なダメージはほぼ通らず、
砂鉄はただの縄としてしか機能していないようなものだが、動きを止めるには十分だ。

上条「ぐ、おお……!」

力任せで、強引に砂鉄から脱出しようとする上条の耳に、スパン!と小気味良い音が上から聞こえてきた。
直後に、ボフッ!と、大量の小麦粉が降ってきた。
この一連の出来事は、御坂が宙に浮かせたコンテナを、砂鉄で切り裂いたことによる。

御坂「今日はいい感じで無風状態だし、ひょっとすると危険な状態かもしれないわね?」

この状況を意図的に作り出したくせに。と上条は思う。
しかしそんなこと考えている場合じゃない。一刻も早くこの状況から脱出しないと――!

御坂「ぼっかーん」

アホっぽい声を合図に、小麦粉の粉末が漂っていた、上条を中心とする半径25mの空間そのものが爆発した。
それは炎と熱風を撒き散らし、周辺を火の海へと変えた。
69 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 22:34:51.75 ID:c1MFS++20
御坂「はぁ……いくらなんでもしぶとすぎ……」

爆発の中心に居ながらも、上条が生きている事を反射波から感じ取った。
案の定、瞳は澄んだ青に変わって右拳を握っている上条が、超高速で迫ってきた。

上条「どらあ!」

拳に対し、砂鉄の剣に電撃を纏わせたものを即座に2本生み出して、それをクロスしてガードを試みる。
ゴキィン!と拳と剣は一瞬だけ拮抗したが、すぐに拳が剣を突き破り、顔面に迫る。

御坂「ちっ!」

しかし御坂は、首を左に動かしてギリギリで拳を避けた。
すかさず反撃の蹴りを上条の股間目がけ繰り出すが、上条の左手がそれを阻む。

御坂「ちっ!」

上条「おらよ!」

投げつけるだけじゃ、どうせ電磁力で勢いを殺される。そう考えた上条は、御坂を地面に叩きつけた。

御坂「がはっ!……このっ!」

ポーチの中からコインを取り出し、わざわざ弾かず直接放つ。
それを上条は後ろに飛び退く事でギリギリ回避。同時に、御坂の足を手放してしまった。

御坂「ごらぁぁぁあああああ!」

一度ダメージを受けたからか、激昂した御坂は実に30本のレールで上条を狙う!

上条「うおぉぉぉおおおおお!」

四方八方から来るレール攻撃を、時には避け、時には殴り蹴り、全て防いで御坂に近付いて行く。
そして御坂まであと1mというところで、

御坂「かかったわね!」

上条の左右からコンテナが迫ってくる。
このままでは挟まれてサンドイッチになってしまう。

上条「甘いんだよ!」

一度は消していた『竜王の翼』を再び顕現させ、左右から来るコンテナを弾き飛ばす。

御坂「んなっ!」

上条「終わりだぁぁぁあああ!」

射程圏内に入った上条の右拳が、御坂の顔面目がけ放たれる。

御坂「なんて、ね♡」

御坂の左足が右拳を蹴りあげる。
それに連続して繰り出された右足が、上条の顎を跳ね上げた。

上条「ぐおっ!」

5mほど宙に跳ねあげられた上条に追い討ちをかけるように、縦ではなく横になったレールが上条を叩き落とした。

強かに地面に叩きつけられた上条の下へ、更にレールが2、3本襲い掛かるが、
彼は即座に起き上がって、バク転により回避した。
70 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 22:35:57.72 ID:c1MFS++20
御坂「はぁ……はぁ……」

能力を全開で行使してきた御坂の体力に、限界が近づいていた。

御坂(何なのあの馬鹿。あれだけ動きまわってボコボコにされて、未だに息一つ乱してない)

一方で上条は、分身や幻と言ったまやかしの類の力を見抜く事が出来る青い瞳で真実を知った。
やはり御坂は、食蜂に操られているだけだったと言う事を。戦う理由は変わった。

上条(『竜王』の力のままじゃ、洗脳は解けない。どうにかして隙を作って『幻想殺し』で頭を触らないと……!)

御坂(もう電池切れも近い。一気に決める!)

操車場に未だ残っているコンテナやレール、あらゆる金属類が御坂の眼前に集められる。
その金属類の集まりを、大量の砂鉄で包み込み、圧縮。結果、直径30mほどの砂鉄の球体が出来あがる。

御坂「最後の勝負よ」

上条「やるしかねぇか」

右手に『竜王の顎』を顕現させる。そして大きく口を開かせ、力を溜める。

御坂「うぅぅぅぅぅらぁぁぁぁぁあ!」

ドゴン!と砂鉄の球体が『超電磁砲』として放たれる。
対して上条も『竜王の顎』から超巨大な翡翠色のエネルギー弾を発射する。

0.0000001秒で2つの大砲は激突し、爆発し、操車場から全ての音が消えた。
71 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 22:38:03.05 ID:c1MFS++20
上条「ふぅ……ふぅ……」

上条は息を切らしながらも、仰向けに倒れている御坂のもとに辿り着いた。

上条「あとは……頭を触れば……」

既に『竜王』の力は抑え込み『幻想殺し』を復活させている。
あとは右手で頭を触れば、洗脳は解ける。上条は少し屈んで、御坂の頭を触ろうとしたその時だった。

御坂「んぐっ!」

上条「ごは……!」

鋭く尖った砂鉄が、御坂の右脇腹と、上条の左脇腹を貫いた。

上条(砂鉄を体で隠して自分の脇腹ごと貫きやがった……!)

思わず2、3歩後退する上条に追い討ちをかけるように、起き上がった御坂は砂鉄を鞭のように振るう。

上条「くっ」

左側から来る鞭を右手の『幻想殺し』で防ぐ。

御坂「右側が隙だらけよ」

ゴッ!と御坂の左足の蹴りが、上条の鳩尾を捉えた。

上条「ご……ぉ……」

御坂「とどめよ!」

よろめき、ついには地面に片膝をつく上条の顔面に、御坂の右足飛び蹴りがクリーンヒットした。
ゴロゴロと地面を数m転がった上条には、もはや起き上がる力は残っていなかった。
72 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 22:40:03.62 ID:c1MFS++20
御坂「形勢逆転……ね」

仰向けに倒れている上条の体を、御坂は連続で踏みつける。
腕、脚、腹に胸に顔に――御坂の足が縦横無尽に上条の体を蹂躙していく。
貫かれた左脇腹からは、血が溢れる。

御坂「全く、さ、綺麗事、ばっか、言って、さ、何なの、かなぁ、あなたは、さぁ」

御坂の足は止まらなかったが、上条は力を振り絞って何度目かに来た足を掴んだ。

上条「お前……食蜂だな……御坂の体を……返しやがれ……」

御坂「気付かれちゃった?バレたらもうこのゲームは終了ね。なかなか楽しかったわぁ」

上条「お前が……今まで……御坂を……操って……たんだな……ゲームの……キャラみたい……に……」

御坂「そうねぇ。格ゲーのキャラみたいに操っていたわぁ。言葉とかも私が言わなきゃだから、口癖とか苦労したけどねぇ」

上条「体育の時の……あの涙は……嘘だったのか……」

御坂「嘘と言えば嘘だし、本当と言えば本当ね。恐怖の感情を自己暗示したのよ。
   だから自作自演ではあるけど、本当に怖くて涙したのよ」

めちゃくちゃだ、と上条は思った。

御坂「さて、そろそろ終わりね。御坂さんも、もう限界みたいだしね。
   お望み通り、返してあげるわよ。助かるかどうかは分からないけど、ね」

直後、御坂の体が倒れてきた。上条はそれを受け止める。傍から見れば、抱き合っているようだ。

上条「……御坂……」

一応右手で御坂の頭を触る。異能力を解除した時の独特の音はない。どうやら御坂は本当に解放されたようだ。

御坂「ごめんね……」

上条の耳元で、御坂が消え入りそうな声で呟いた。

上条「御坂……?」

御坂「私が……弱いばっかりに……操られてしまう……どころか……アンタにまで……迷惑……かけて……」

上条「気に……すんな……そんな……ことより……この状況を……何とかしないと……」

御坂「もう……いいの……私なんか……放っておいて……五和さんや……あのシスターや……ロリ教師にまで……
   迷惑かけて……私は……ただの……犯罪者……生きている意味……なんて……ないから……」

食蜂から解放されたとは言っても、操られていた期間の記憶は残るのか。
上条は朦朧とする頭で考える。だがそんなことは、一旦置いておく。

上条「ふ……ざけんな……!」

御坂「え……?」

上条「確かに……操られて……いたとは言え……お前が……やったことは……許される事じゃないかも……しれない……」

けどな、と上条は続けて、

上条「生きる意味が……ないなんて……簡単に言うんじゃねぇ……!
   お前が死んだら……白井はどう思う!?残された人達の気持ちを考えろよ!」

叫ぶように諭す上条の腹からさらに血が溢れる。

御坂「ご……めん……私……私……!」

御坂の頬に涙が伝い、上条の首まで伝った。

上条(もう……無理……)

そこで上条の意識は中断された。
73 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 22:41:23.39 ID:c1MFS++20
御坂「とう……ま……?当麻!」

上条の体が急速に冷えていっている。息はしているようだが、このままだとマズい。

御坂「当麻……痛っ!」

御坂も右脇腹に穴があいている重傷者だ。
実際問題、男子高校生1人を背負って病院へ行くのは無理がある。

御坂(電話……電話……)

しかし御坂は携帯を持っていなかった。上条と戦う前に、ホテルに置いてきたからだ。
仕方ないので、上条の携帯を拝借したが、指が震えて上手く打てない。

御坂(なん……で……指が……動かない……)

焦れば焦るほど番号が打てない。たった4回。
1、1、9、と通話ボタンを押すだけなのに。

御坂(うぅ……)

そもそも操車場を跡形もなくする程の激しい戦いをしたって言うのに、
アンチスキルやジャッジメントがいまだに来ないのはどう言うことか。一体何をやっているのだろうか。
しかし心の中でどれだけ不満を垂れようが、来ないものは来ない。

御坂(誰でも……いい……誰でもいいから……)

腹の底から叫ぶ。

御坂「助けてよぉぉぉおおお!」

叫んだ事により傷口が広がり、御坂の意識も中断された。
74 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 22:42:15.51 ID:c1MFS++20
上条は目を覚ました。状況を把握する為に、目だけを動かして辺りを見回す。
どうやらここは病室で、時間は正午を過ぎた辺りのようだ。

上条(ん……)

布団の腹の辺りにわずかな重みを感じる。
その正体を確かめるため、ゆっくりと上半身だけを起こす。
するとそこには、御坂美琴が眠っていた。

上条(そっか。俺達、生き延びたんだな)

今更ながら実感した。

上条(……あー……)

何となく手持ち無沙汰な感じがした上条は、ナースコールのボタンを押した。
75 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 22:44:00.87 ID:c1MFS++20
1分後くらいに、ナースと『冥土帰し』(ヘブンキャンセラー)がやってきた。そして開口一番、

「君、約3日間も眠っていたんだよ?」

そんな事を言い出した。

上条「うへ。マジですか」

冥土帰し「今回ばかりは本当に危険だったよ?あのまま失血死してもおかしくなかったね?」

上条「そう、ですか。御坂に感謝しないとな」

冥土帰し「ん?それはどういうことだい?」

上条「御坂が救急車呼んだりしたんでしょ?だから感謝しないとなって」

冥土帰し「ああ。そういうことか。でも残念ながら、彼女は君と一緒に運ばれてきたんだよ。一方通行にね」

上条「え?そうなんですか?」

冥土帰し「彼が血液をベクトルで調整しなければ、君達は出血多量で死んでいたね?感謝すべきは彼だよ」

上条「何で、一方通行は俺達の居場所が分かったんですか?」

冥土帰し「それは本気で聞いているのかい?あれだけ派手な戦いをやっていたら、誰だって気付くだろう?
     そこに1番に駆け付けたのが、一方通行だったってだけさ」

上条「そう、ですか」

と、今まで目が覚めたばかりで頭が働かなかった為、漠然と会話していた上条だったが、あるとんでもない事実に気付く。

上条「……あの、俺、3日間も眠っていたんですか?」

冥土帰し「うん。この3日間、そりゃあいろいろな事があったね?」

上条「えーーーーーーーー!」

冥土帰し「驚くのは分かるけど、病院だからもう少し静かにするんだね?」

上条「は、はい。すみません……」

と、その時だった。

御坂「あの、先生、コイツと2人きりでお話ししたい事があるので、外してもらえませんか?」

いつの間にか起きていた御坂が、そんな事を言い出した。

冥土帰し「うん。この3日間の出来事を説明したらね」

御坂「それも、私から説明しておきます」

冥土帰し「君も昨日目を覚ましたばかりじゃないか。しかもそれから彼に付きっきりでロクに眠っていないだろう?
     本当に説明できるかい?」

御坂「はい。大丈夫です。任せてください」

冥土帰し「そうかい。それなら頼もうかな」

そう言うと、冥土帰しとナースは病室を後にした。
76 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 22:45:17.82 ID:c1MFS++20
上条「お前、2日も眠っていたのか?しかも、その後俺に付きっきりって……」

御坂「うん。ごめんね。だからついウトウトして、アンタのお腹の上で眠っちゃった」

上条「それはいいんだけどよ……」

御坂「あの、本当にごめんなさい。アンタを傷つけるどころか、その周囲の人達まで傷つけてしまって。
   洗脳されていたとは言え、許されることじゃないわよね。そして、洗脳から救ってくれてありがとう」

俯きながら、御坂は小さい声でそう言った。

上条「もういいって。俺は、皆もお前も無事ならそれでいいんだ。
   お願いだから、そんなに気負わないでくれよ。悪いのは全部、食蜂なんだから」

御坂「ありがとう。そう言ってくれて助かるわ。……それじゃあ、本題に入るわね。この3日間の出来事を説明するわ」
77 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 22:46:29.58 ID:c1MFS++20
御坂「説明する前に言っておくけど、どんな事を言われても冷静さを保ってね」

上条(そ、そんなに凄い何かが起こったのか……?)

御坂「五和さんがね。
   アンタのボロボロの姿を見て激昂して、単身食蜂のところに向かって以来、帰ってきてないらしいわ」

上条「――な」

いきなりの衝撃の告白に、上条は動揺を隠せない。

御坂「落ち着いて聞いて。五和さんが単身食蜂のところに乗り込む。これがアンタと私が戦った日、4月8日の晩の出来事」

上条(食蜂の野郎……!)

怒りを隠しきれない上条の拳を、御坂の柔らかい手が包み込む。

御坂「お願い。落ち着いて聞いて」

上条「……ああ」

御坂「翌日、アンタの通っている高校の全生徒が行方不明になったらしいわ」

上条「は?」

衝撃を通り越して、もはや意味がわからない。

御坂「当然、ジャッジメントやアンチスキルが捜索に出たんだけど、
   捜索していたジャッジメントやアンチスキルは次々と行方不明になっていった。これが4月9日の出来事」

あまりにも意味不明な話を淡々と説明する御坂に、上条はある質問を投げかける。

上条「し、白井は!?」

御坂「黒子も、私の敵討ちとか言って、単身食蜂のもとへ向かって以来、帰ってきてないらしいわ」

上条「食蜂……!」
78 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 22:48:39.42 ID:c1MFS++20
御坂「ここからが本番よ。4月10日。学園都市が食蜂に支配されたの」

上条「……ちょっと待て。意味が分からねぇ。学園都市が支配?どう言う意味だ?」

御坂「そのまんまの意味よ。すべてが食蜂の手に堕ちたの。
   学園都市全域に、ある音声プログラムが流されたことにより、学園都市の全能力者が食蜂の手に堕ちた」

上条「ちょ、待てよ。冗談だろ?そんなふざけた話、あってたまるかよ!」

御坂「私も信じたくないけど、食蜂の演説は聞いちゃったから」

上条「演説?」

御坂「食蜂がね。学園都市のTVの回線を乗っ取って、能力者達の実演を放映したの」

上条「……全くイメージが湧かねぇ。どういうことだ?」

御坂「言葉の通りよ。TVで能力者達にただひたすら実演させる。
   そこには、黒子や淡希、他の名だたる名門校の生徒とかもいたわ」

上条「何だよ、それ……」

御坂「さらに衝撃的な事に、音声プログラムは洗脳の効果だけでなく、レベルアッパーの改良版でもあったみたいでね。
   要するに洗脳された能力者はノーリスクでレベルアップしたみたい。しかも5に」

上条「……そんな事、有り得るのか?」

御坂「TVで見たって言っているでしょ。間違いないわ。
   私の知り合いのレベル0も映っていたけど、とんでもない力を操っていた。
   それだけじゃない。脳をリンクさせることもできるらしいわ」

あまりの衝撃的な情報の数々に、上条の頭は半ば以上オーバーヒートしていたが、何とか言葉を紡ぐ。

上条「……それは、どう言う意味だ?」

御坂「ものすごく簡単に言うと『多重能力者』(デュアルスキル)の実現。
   木山春生がそうしたように、食蜂は、学園都市に居る約200万の脳を統べるつもりよ」

上条「んな事……出来ねぇだろ。脳がパンクするはずだ」

御坂「人間ってさ。脳を10%も使いこなせてないのよ。つまり、残り90%以上も空きがあるわけ」

ま、一歩通行辺りなら、50%位使っているのかもしれないけどね。なんて事を言いながら、御坂は続ける。

御坂「それを食蜂は、今までの日常生活の中で脳を使いこなせるように“慣らしといた”らしいわよ」

上条「そんなことが、出来るのか?」

御坂「多分、寿命が縮まるとか何らかのデメリットはあると思うけど、出来ない事はない……と思うわ」

レベル5第3位の頭をもってしても断言できない辺り、脳にはまだまだ謎が隠されていそうだ。
79 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 22:51:22.03 ID:c1MFS++20
上条「理屈は分かった。だけど、それで200万もの脳を操るのは無理だろ」

御坂「そうね。食蜂の方も、能力者達の方も、脳の負担を考えると無理ね。けど無視すれば、逆に出来る可能性もある」

上条「マジかよ……!」

御坂「というより、4月11日、つまり今日な訳だけど、午前中に実際に食蜂の脳とリンクした能力者によって、
   学園都市の大人達が捕獲されたわ。200万の脳とリンクした“慣らし”としてね」

上条「……」

意味が分からないなんて次元じゃない。これは夢なのかと疑いたくなるような、出来すぎた話。
だがそこで、いくつかの疑問が浮き出てくる。

上条「雲川先輩は?削板は?一方通行と垣根は何をやっていやがる!
   何で御坂は無事だったんだ!?それにこの病院の人達も無事みたいだし。
   そして食蜂は、それだけの力を持っていながら、何で何もしてこねぇ!」

御坂「落ち着いて。アンタの疑問はもっともよ。順番に回答していくから冷静になって」

先程からずっと御坂の柔らかい手が、上条の拳を包み込んでいる。
本当ならもう暴れてもおかしくないのに、御坂に手を握られていると、少しだけ気分が落ち着く気がする。

御坂「雲川先輩って言うのは、新統括理事長の事でしょ?彼女は、恋人の削板さんと共に出張中らしいわ。
   次に、一方通行と垣根さんの事だけど、彼らは修行しているの。レベル5軍団率いる食蜂に対抗する為にね」

上条「修行って……そんな……」

御坂「私も一方通行と垣根さんから大体話は聞いた。
   レベル6である垣根さんが、素で勝てないような能力者が食蜂側に居るんだってね。
   それに加え、レベル5軍団に対抗する為に修行しているのよ」

そんな理由で納得いかない。いくはずがない。
修行したところで簡単に強くなるなら、誰も苦労しない。少しでも多くの能力者を、洗脳から解き放つべきだ。

御坂「で、私が無事な理由だけど……はっきり言って、その真相は分からない」

上条「なんか理由があるんじゃないのか?」

御坂「多分だけど、食蜂は私を直接ブチのめしたいんだと思う」

上条「……」

御坂「この病院が無事なのは……この病院を私達の最後の砦として、あえて残しているのよ。
   ワンサイドゲームは嫌いな人だから」

上条「じゃあこの病院以外は、食蜂に支配されているって訳か」

御坂「そうなんだけど」

とそこで、御坂は上条にもたれかかった。
80 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 22:56:31.38 ID:c1MFS++20
上条「大丈夫か?」

御坂「うん。ごめんなさい」

無理もない。と上条は思う。
話を聞く限り、御坂もまだ病み上がりの上、こんなにも長い説明をしたのだから。

御坂「そうなんだけど、はっきり言って地上は無事なの。食蜂は地下に籠っているの」

相変わらず理解不能だが、もうちょっとやそっとのことじゃ驚かなくなってきた。

上条「それって、22学区に籠っているってことか?」

御坂「違うわ。学園都市の地下に、学園都市の面積の半分くらいの地下都市があるの。
   食蜂が地道に建設していたみたい」

上条(地下都市を建設?それって一朝一夕ではできないはずだよな……?
   つまり、かなり前から地道に建設されていた事になる。
   雲川先輩はそれに気付かなかったのか?いや、アレイスターはどうなんだ。
   待てよ。アレイスターは俺らに互角の戦いを演じてほしいだったんだっけか。
   わざと見逃していたって訳か……!)

御坂「それで、食蜂がなぜ何もしてこないのか。
   それはさっきも言った通り、今は200万の脳とリンクしている“慣らし”の段階だからよ」

上条「……じゃあ“慣らし”の段階が終われば、食蜂は――」

御坂「ええ。“慣らし”が完璧に終わる4月13日、明後日に食蜂は行動開始する。そう宣言していたわ」

上条「……じゃあ“慣らし”が終わる前に、俺達が能力者達を解放してやれば」

御坂「無理よ。アンタは病み上がりだし、そもそも食蜂には大量の人質がいる。
   大人達然り、能力者然り。食蜂は明後日より前に行動開始したら、人質を殺すって言っていたわ」

上条「……何だよそれ。食蜂は世界を滅亡させたいんだろ?ならもう“慣らし”とかいらなくないか?
   能力者操って、人質ちらつかせて、さっさと滅亡させればいい。何でこんな回りくどいんだ!?」

御坂「さっきも言ったけど、食蜂はゲームが好きで、でもワンサイドゲームは嫌いなのよ。
   分かる?明後日の決戦の日、食蜂にとっては私達をラスボスに見立てた、ただのゲームなのよ。
   ただあっさり世界を滅亡させるのもつまらないから。そんな感じじゃないかしら」

上条「完全にイカれてやがる……!」

御坂「アンタって説教が得意みたいだけど、食蜂には通用しないだろうから止めた方が良いわよ。本当に、殺すしかないわ」

上条「……駄目だ。殺せば洗脳されている能力者達の精神が崩壊する」

御坂「能力者達の命で世界を救えるのなら、それで良いでしょ」

上条「……お前、それ本気で言ってんのか?」

御坂「本気よ。だってそうでしょ?私達は“詰み”なのよ。殺すか殺されるか。もうこの2択しかないのよ」

上条「……見損なったぜ御坂。お前がそんな薄情な奴だとは思わなかったよ」

御坂「ごめんなさいね。空気悪くしたみたいだし、私は自分の病室に戻るわね」

そうして御坂は立ち上がり、上条の病室を後にした。
81 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 22:58:26.59 ID:c1MFS++20
御坂「私って、本当に駄目ね……」

御坂美琴は涙を流しながら、病院の屋上に居た。

御坂(もう……無理だわ……)

なんたってこうも自分は情けないのだろう。戦争の時は侍女に完敗した。
天使達相手にも自分だけの力では勝てず、たくさんの人を傷つけ守り切れず死なせ、挙句の果てには殺されるところだった。
自身のクローンも全て殺され、最愛の人を射止める事も叶わなかった。

そして今回の食蜂の一連の陰謀に関して、自分は青髪の少年に負けた。
その上洗脳され、シスターとロリ教師に危害を加え、あの馬鹿と対決させられ、双方とも死にかけた。

そのせいで眠っている間に学園都市の状況は一変。
大切な後輩である白井黒子を失い、初春や佐天などの友人達も失った。
何一つ守れていない。自分は今まで何をやっていたのだろうか。
レベル5の力が何だ。今回の場合はその力のせいで、寧ろ傷つけてしまった。

ここまでやられといて、結局は抗う事も出来ない。1万の脳を統べただけの木山春生にすら電池切れまで追い込まされた。
200万の脳とリンクした食蜂と200万のレベル5能力者達。どう考えたって勝ち目はない。
さっきあの馬鹿には2択と言ったが、実際はやられるだけだろう。己の無力さが恨めしい。

そう言えばあの馬鹿は、突然の報告で気が動転していたのか、シスターやロリ教師のことは聞いてこなかった。
まあでも、自分もその2人の行方は分からないし、そんなことはもうどうでもいい。

御坂(あの馬鹿は止めてくれたけど……死のう……)

電磁力を操って、フェンスをさも当然のように歩いていく。

御坂(どうせ世界は滅亡するし、いいよね……)

フェンスを越え、頭から落ちて行く。そして――
82 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 22:59:49.92 ID:c1MFS++20
ガシィ!と、御坂は空中で何者かにキャッチされた。

御坂(え?え?)

御坂が動揺している間に、その何者かは彼女を抱えたまま屋上へ舞い戻り降ろす。
降ろされた御坂の目の前に居たのは。

御坂「あ……くせられーた……?」

赤い瞳に、肌が白い少年だった。

一方通行「オマエ、何で飛び降りた?」

御坂「……何でって、自分の情けなさに嫌気がさしたからよ。
   妹達は失うし、あの馬鹿は傷つけるし、後輩や友人は守れないし、世界は滅亡するし、逆に死なない理由がないわ」

半ば以上ヤケクソ状態の御坂は、投げやり気味に言った。直後――

御坂「――ぐっ!」

一方通行に襟首を掴まれ、壁に叩きつけられた。

御坂「な……にすんのよ!」

前髪から電撃が迸りすぐ目の前に居る一方通行に当たるが『ベクトル操作』により、電撃はあらぬ方向へ弾き飛ばされた。
83 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 23:02:46.17 ID:c1MFS++20
一方通行「ふざけた事言ってンじゃねェよ。自分の情けなさに嫌気がさしたから、どうせ世界は滅亡するから、
     死ンでもいい?そンなわけねェだろうがァ!」

あまりの剣幕に、御坂は目を見開く。一方通行が昂ぶっている光景を見たことは何度かあるが、
こんなに激昂している(しかも自分の為に)一方通行は見た事がない。

一歩通行「そンなもン、ただ現実から逃げているだけだろうが。
     どンな理由を並べても、オマエが死ンで良い事には、ならねェだろうがよォ!」

御坂「うるさい!こんな辛い現実なら、逃げた方がマシなのよ!もう何もかも嫌なのよ!だから死なせてよ!」

一方通行「駄目だ。オマエは残された人の気持ちを考えた事があるのか?
     オマエが死ンで、誰が喜ぶ?オマエの後輩や友人はどう思う?あのツンツン頭のクソ野郎はどう思う!?」

御坂「その後輩や友人を守れずに、ツンツン頭のあの馬鹿は私の手で傷つけた。
   そして世界は滅亡する!だから残される人の気持ちもクソもない!
   誰がどう思うとか関係ない!私は皆より死ぬのがちょっと早いだけなのよ!」

一方通行「じゃあ今のうちに言っておく。世界を滅亡なンて、この俺がさせねェ。
     世界が滅亡しない前提でも、同じこと言えンのかよォ!」

御坂「っ……」

ついに御坂が口籠る。一方通行は構わず続ける。

一方通行「大体からして、オマエは諦めンのが早すぎる。
     後輩や友人を守り切れなかったのなら、救えばいい。
     二度と悔しい思いをしない為に強くなって、今度こそ守りきればいい。
     たったそれだけの話だろォが」

御坂「そんな事、強い人が言える理屈だわ。弱い私には、何も出来ない」

一方通行「確かに、1人じゃ出来る事は限られてくる。だが今はオマエだけじゃねェ。
     この街には、オマエ意外に3人動ける人間がいる。だったら話は簡単だ。
     4人で世界の滅亡を喰いとめ、何もかも救いだせば良い。たったそれだけの話だ」

御坂「無理よ。たった4人で、何が出来るって言うの?」

一方通行「……そこまで言うなら、賭けるか?」

御坂「え?」

一方通行「俺はこの世界を滅亡なンかさせねェし、オマエも絶対守り切る。
     ただしその賭けに失敗した場合、オマエは死ンでもいい。だから今死ぬことは許さねェ」

御坂「……何よそれ。賭けに失敗した時=私が死ぬ、世界滅亡なんだから、賭けにならないじゃない」

意味不明な論理を展開する一方通行に、御坂は思わず苦笑してしまう。
84 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 23:04:28.85 ID:c1MFS++20
一方通行「で、賭けに乗るのか、乗らないのか?まァどの道オマエは、手足の骨折ってでも死なせねェけどな」

御坂「何よそれ。どうせ死期がわずかに延びるだけ。今なら楽に死ねるのに、食蜂と戦って苦しんで死ねってこと?」

一方通行「だァーからァー、守るって言ってンだろォが」

御坂「……もういい。分かったわ。そこまで言うなら、守ってもらおうじゃない」

200万対4という絶望的な状況で、それでも目の前に居る少年は自分を守り抜き、世界を救うと言い切った。
もうなんか、今まで深刻に悩んでいた自分が少し馬鹿らしくなってきた。

御坂「……そろそろ手、放してほしいんだけど」

一方通行「あァ、すまねェな」

御坂の襟首から手が放される。
そうして一方通行は踵を返し――しかし振り返ってこう言った。

一方通行「オマエが死ねば、あのツンツン頭を始め大量の人間が悲しむだろう。勿論俺もだ。
     あと勘違いしてほしくねェのは、妹達を守り切れなかったから責任を感じてオマエを守ろうとしているとか、
     そう言うのは一切ねェ。俺は、オマエを守りたいから守るだけだ」

だから、と一旦区切って、

一方通行「もう二度と、死ぬとか考えるンじゃねェぞ」

しつこいが、絶対死なせねェけどな。と付け加えて。

一方通行「じゃあな」

次の瞬間、一方通行は御坂の視界から消え去っていた。
85 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 23:05:38.26 ID:c1MFS++20
上条の病室

上条の携帯が震えた。
携帯を取りディスプレイを見ると、『雲川先輩』の文字が表示されていた。
それを見た上条は、一刻も早く今の状況を伝えようと電話に出る。

上条「もしもし!?あのですね、今学園都市が」

『言いたい事は分かっているから、そう焦るな』

上条は雲川芹亜に予想外な事を言われ、思わずどもる。

雲川『言っておくけど、今の学園都市やお前達の状況は大体知っている。
   だから、いちいち大袈裟なリアクションは止めるべきだけど』

上条「はぁ……」

雲川『そう。そうやって大人しく聞いていれば良い。質問も面倒だから受け付けん。
   で、突然だけど明日の朝、上条の病院で作戦会議だ。
   御坂美琴や一方通行とかはこちらで呼んでおくから。じゃ、そういうことで』

雲川は一方的に喋るだけ喋って電話を切った。

上条「何なんだ一体……」
86 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 23:07:36.65 ID:c1MFS++20
4月12日 8:00 上条の病室

雲川によって招集がかけられた御坂美琴、一方通行、垣根帝督の3人。

御坂「ごめんなさい!」

御坂はいきなり謝罪した。

上条「え?どうした御坂?」

御坂「昨日、殺すか殺されるかしかないとか、能力者の命で世界が救われるなら、それで良いとか言っちゃったから……」

上条「ああ、そのことか。今でもその気持ちは変わらないのか?」

御坂「いえ、今は、横に居る白いのが何もかも救うって息巻いているから、それに便乗しようと思う」

上条「そっか」

一方通行「白いの呼ばわりはねェだろォが……」

御坂「別にいいじゃない。本当の事なんだし。嫌だったら名前教えなさいよ」

垣根「あ、それ俺も気になる」

一方通行「あァ面倒くせェ。それならもう白いのでいいわ」

御坂「はぁ!?いい訳ないでしょーが。名前教えてくれないと、モヤシって呼ぶわよ」

一方通行「それで結構。もォなンでもいいわ」

御坂「何よそれ!じゃあもうモヤシとしか呼ばないから!」

一方通行「どうぞ」

垣根「え?話まとまっちゃった感じ!?俺は普通にこのモヤシの本名知りたいんだが」

一方通行「教えるかボケ」

上条「……」

見た感じ一方通行と御坂の間に何かあったのだろう。
昨日はしんみりしていて、若干病んでいたような気がする御坂が、どこか吹っ切れたように見える。
垣根と一方通行も、かなり仲が良いように見える。

垣根「ま、どうしても教えたくないって言うなら、そこまで知りたくもないけど。ところで、作戦会議とやらはまだか?」

上条「ああ、それなら」

雲川『まだか?って……君達の雑談が終わるのを待っていたのだけど』

既に通話状態かつスピーカー状態の上条の携帯から声がした。
87 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 23:15:34.75 ID:c1MFS++20
垣根「げ。それならそうと、初めから言ってくれよ上条」

上条「そうしたいのは山々だったんだけど、いきなり御坂が謝りだしてそのまま流れで会話が続いて、
   割り込めなくなったから」

雲川『私は空気を読める女だからな』

一方通行「そンなことはどうでもいい。聞きたいことは山ほどあるンだ」

雲川『え?面倒くさいから、質問は受け付けないけど』

一方通行「ふざけンな」

雲川『ふざけてないけど。一方通行、君は何か勘違いをしていないか?
   はっきり言って、私は君より今の学園都市の事情を掌握しているつもりだ。
   つまり、私が今から話す事をちゃんと聞けば、疑問は残らない』

一方通行「ならさっさと話せ」

雲川『だから、君達の雑談を』

上条「あーあー、会話がループしているよー。もういいから。お話お願いします先輩」

雲川『そうか。まあ当麻がそう言うなら仕方ないけど』

御坂「ぶふっ!」

突然、御坂が吹き出した。

垣根「どうしたの美琴ちゃん?」

御坂「いや、だって、このバカの事を、と、当麻って呼ぶから。
   あと美琴ちゃんって呼ぶのやめてください。なんか恥ずかしいです」

垣根「えー、いいーじゃーん」

不満そうに垣根は呟いた。一方でこのバカ呼ばわりされた上条は、

上条「おいおい。俺だって一応御坂の先輩なんだぞ。
   敬語使えとまでは言わないが、せめてそろそろ、名前で呼んでくれませんかね?」

御坂「ふぇ!?そ、そうね。じゃ、じゃあアン……と、当麻も、私の事ビリビリじゃなくて名前で呼んで」

上条「おう(言うほどビリビリ呼ばわりしてないけどな)」

御坂「名前だからね!?名字じゃなくて名前だからね!?」

上条「お、おう」
88 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 23:24:22.75 ID:c1MFS++20
垣根「ちょい待ち。どうして上条は名前で呼ぶのオーケーで俺は駄目なんですかー?」

御坂「え?いや、駄目ってわけじゃないんですけど、なんか照れますし……」

垣根「そっかそっか。新密度の違いですね。分かります。まあいいや。
   ラフに接してくれた方が萌えると思ったけど、敬語も存外、萌えるじゃねぇか。いわゆるクーデレってやつだな」

上条「デレてはいないと思うのですが……」

一方通行「何だコイツ。気持ち悪ィな」

上条と一方通行のツッコミなど無視して、垣根の独り言は続く。

垣根「よし。じゃあ俺は御坂って呼ぶ事にする。御坂は俺の事、垣根先輩とでも呼んでくれ」

御坂「は、はい……」

雲川『……そろそろいいかな?』

上条「そろそろいいかなって……元はと言えば、雲川先輩がいきなり俺の事名前で呼びだしたとこから
   始まったんでしょーが。先輩が悪い」

雲川『そうだったな。いやーすまんすまん。つい、ね』

上条「じゃあ、今度こそお話を」

御坂「待って!最後にもう1つだけ」

言いながら、一方通行の事を指差して、

御坂「ア、アンタも、私の事名前で呼んでよね。能力名とかオリジナルとか止めてよ!?」

一方通行「オマエがそう言うなら、別にそれでもいいけどよォ」

御坂「よし。用はこれだけ。今度こそお話お願いします」

雲川『よし。ではこれから話す事は明日の為の作戦会議だと思ってほしい』

一方通行「ンなことは昨日の内に聞いた。さっさと話せ」

雲川『すまないな。いざ話すとなると、どこから話せばいいか分からなくてな。
   誰か1つだけ質問しろ。そこから話していくけど』

一方通行「使えねェな……作戦も何も、とにかく戦って能力者達を連れ戻すだけだろォが。
     だがそこで1つだけ問題がある。この病院が丸裸になると言う事だ。
     別に守ろうと思えば守れるが、正直こンな病院守る為に、戦力を割くのは痛いからな。
     そこをどうするかは、何か考えがあンのかァ?」

雲川『ナイスな質問だけど。そうだな。学園都市の協力機関と言うのがまだある。
   そいつらに頼んで、そこにいるナースやら医者やら、わずかにいる患者は学園都市外へ連れて行く』

一方通行「ンじゃあ」

雲川『おっと。もう質問は受け付けないけど。これからは一方的に私が話すだけだ』

何でそこまで頑ななのかと疑問に思う一方通行だったが、面倒なので黙って聞いて置く事にする。

雲川『確かに、作戦と言っても能力者とひたすら戦って、解放するだけだけど。
   攻略フローチャートがある。と言っても、細かいものではなく大まかにだけど』

垣根「フローチャートって……ゲームじゃないんだから」

雲川『ゲームだよ。こんなものは。食蜂にとってはだけど』

だから私も、ゲーム感覚で君達に話す。などと雲川は言う。
89 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 23:35:41.13 ID:c1MFS++20
雲川『本当に失望したが、まずは土御門のアホから解放するべきだけど。アイツがいれば、私の代わりは務まるだろう』

ホントにあのバカ御門め。せめて転んでもタダでは起きるなよ。と愚痴を零す。

雲川『で、土御門を戻したあとは、厄介なテレポーターを戻すべきだけど。確か約60人ほどいたはずだけど』

一方通行「58人だ。と言っても、戦争前の情報だから、ひょっとしたら増減しているかもしれねェがな」

雲川『補足ありがとう。とにかく、そのテレポーター達を優先して戻すべきだけど。
   あとは個人向けのアドバイスしかない。例えば、御坂は「電撃使い」だから同系統の能力者とは争わない方が良い。
   泥仕合になって無駄に体力を消費するだけだからな』

垣根「お、今まで本当に大まかだったけど、ようやく作戦らしくなってきた」

雲川『上条は「幻想殺し」を生かすのなら、近距離型の能力者の方がやりやすいだろうけど。
   一方通行と垣根は……まあ、好きなようにやればいいんじゃないか』

垣根「結局アバウトなアドバイスですこと」

雲川『当然だが、能力だって永遠に使える訳じゃない。セーブしながら戦うべきだけど。
   あとは、約200万の能力者がいる訳だけど、その内の約3分の1は「読心能力」(サイコメトリー)とか
   戦闘には不向きな能力者だから、そんなに気負う事はない』

一方通行「さっきから、割と当然なことばかり言ってンな。能力者を解放した後はどうする?」

雲川『出来るだけ無傷で解放すれば、逆にそのまま戦力になる。
   結構傷つけてしまった場合は……まあ頑張れ。ただ食蜂にもプライドってものがある。
   一度解放された能力者を再び洗脳することはないだろうけど。他に何か言うことあったっけ?』

御坂「約200万の脳を統べる食蜂はどうやって倒すの?」

垣根「それってさ。能力者を解放して行けば、食蜂も弱る訳だから、能力者を解放しきればいいんじゃねぇの?」

つーか直接食蜂叩けば良くね?と垣根は言い出す。その言動に溜息をついたのは一方通行だった。

一方通行「オマエ馬鹿ですか?食蜂を直接叩こうとしたって、操られた能力者達が阻むに決まってンだろ」

御坂「それに、能力者を解放しても“慣らし”終えた食蜂の脳には、
   200万の能力の情報が脳に焼き付いて、そのまま能力を使役できる。って食蜂自身が演説で言っていましたからね」

垣根「あれ?そうだっけ?あはは……」

雲川『食蜂を倒す方法なんて簡単だけど。上条の『幻想殺し』で頭を触れば一発さ。
   ま、そう簡単にいくとは思えないけど』

上条「身も蓋もないって言うか、具体的だけど、大まか過ぎて……」

雲川『私から言える事はそんなもんだけど』

一方通行「待て。オマエ、食蜂が何かやらかす事予想していたンじゃねェのか?
     だとしたら、何か対策が出来たンじゃねェのか?」

雲川『ふむ。なかなか鋭い。確かに私には食蜂が何かやらかす事は予想できたけど。
   特別な対策は出来なかった。私はレベル0ですらない、ただの一般人だ。やはり、上条の説教しかない』

一方通行「ふゥン」

一方通行は、自分から聞いたくせに大して興味もない様だった。
90 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 23:39:08.63 ID:c1MFS++20
雲川『それで、せめて君達の為に、助っ人を6人送ろうと思う』

御坂「助っ人?それって誰なの?」

雲川『秘密。だけど1人だけ教えてやろう。耳をかっぽじってよく聞け。我が旦那、軍覇だ!!!』

一方通行・垣根・御坂「「「は???」」」

上条「あちゃー」

雲川『は?じゃないけど。私の旦那だって言っているのだけど。削板軍覇。
   今はレベル0ですらない一般人な訳だけど、めっちゃ強いのよね。助っ人としては申し分ないはずだけど。
   その上イケメンだし、誰とでも分け隔てなく接する事が出来て優しいし、マッチョだし、飾り気がなくて、
   真面目で逞しくて、質実剛健という言葉がぴったりで明るいし、根性根性うるさいけど、困っている人を
   見つけたら損得感情抜きで助けるし、まさにヒーローって感じ。そうそう、軍覇って普段は激しくて
   荒ぶっているけど、夜は優しいのよね。不器用なくせに、私をリードしようとして、本当に可愛いわぁ♡
   でも体力は結構あるから、結局は私も満足するんだけどね。昨日もズッコンバッコンやったのだけど、
   おかげで腰が痛くて』

上条「あーあー」

適当に叫びながら、上条はボタンを押して通話を終了させた。

上条「……そう言う事で終わりみたいです。ハイ……」

反応は三者三様だった。一方通行は舌打ちをして「大した事も言わずに何なンだ」と病室を出て行き、
垣根はその場で笑い転げていて、御坂は顔を真っ赤にしながら俯いていた。

上条「ま、まあ、また明日会いましょう」

垣根「はぁー、笑った笑った。ところで、連絡先交換しようぜ。
   命を預け合う関係になるんだからな。一方通行には、俺が教えとくから」

垣根の提案により、連絡先を交換する事になった3人。2分後、連絡先交換が終わったところで、

垣根「それにしても、美琴ちゃんって意外とウブなのねー。顔真っ赤にしちゃってさー。
   可愛いなー。どうだ?今ならお兄さんが優しく手解きし」

垣根の言葉は最後まで続かなかった。御坂の蹴りが、垣根の鳩尾にクリーンヒットしたからだ。
蹴りをまともに受けた垣根は、その場に崩れ落ちる。

御坂「ふ、不潔です!止めてください!」

垣根「じょ、冗談、通じないのね……」

その場でピクピクして蹲っている垣根に、上条は声をかける事が出来ない。
と、上条の携帯が再び鳴った。ディスプレイを見ると『雲川先輩』と表示されている。
一瞬出ようかどうか迷ったが、一応出てみる。

雲川『……取り乱して済まなかったけど。もう一度スピーカーモードにしてくれ。
   上条と御坂に話したい事がある。垣根と一方通行には、出て行くよう言ってほしいのだけど』

上条「よく分かんないですけど、一方通行はもう出て行きましたよ。垣根はまだいますけど」

スピーカーモードにしながら、上条は言った。
91 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 23:40:15.96 ID:c1MFS++20
雲川『ふぅん。じゃあ垣根は出て行ってくれ』

御坂「よく分からないですけど、出て行って下さい。気持ち悪いし」

上条「垣根……出て行くべきだと思う。空気的に」

垣根「……なんかさっきから俺の扱い酷くね?」

雲川『いいから。早く出て行ってほしいのだけど』

垣根「へいへい。分かりましたよ」

そう言うと垣根は、愚痴を零しながらも出て行った。

雲川『これから、御坂と上条に聞いてほしい話がある。
   御坂、一応廊下に出て確かめた方が良いんじゃないか?垣根が盗み聞きしているかもだけど』

御坂「聞かれたら駄目な話なんですか?」

雲川『わざわざ2人きりにさせたことを考えたら分かると思うけど。こちらとしては、御坂が別に良いなら話すけど』

御坂「……ちょっと見てきます」

垣根(ヤベッ!)

やりとりを本当に廊下で盗み聞きしていた垣根は焦る。御坂の足音が近づく。
92 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 23:44:26.38 ID:c1MFS++20
御坂は扉を開け、左右を見る。誰も居ない。
反射波的に考えても廊下には誰もいないようだった。

御坂「いませんでした。どうぞ、お話してください」

垣根(ふぅ〜)

垣根は息を吐いた。諦めて逃げた訳ではなかった。翼で身を覆い隠し、さらに透明になったのだ。
と言っても、ただ視覚的に消えただけでは反射波でバレてしまう。
だから垣根は、本当の意味で透明になった。つまり電磁波は垣根を通り過ぎたのだ。

御坂らは、そんなことは露知らず。病室では雲川の話が始まっていた。

雲川『初めに言っておくが、上条と御坂が戦った事は知っている。
   戦闘中に行われた会話もだ。だからいちいち大きなリアクションはやめてほしい』

上条・御坂「「はい」」

雲川「よし。戦闘中における御坂の言動だが、あれは食蜂に言わされていた訳ではない。
   食蜂の洗脳・操作は心の闇を絡め取り、個はそのままに生かす。
   つまり、戦闘の最後の方以外の御坂の言動は、御坂が思っていることそのものだ』

上条「え?でも、食蜂は御坂を操っていたって……」

雲川『それは違う。食蜂のでまかせだ。食蜂は御坂がお前を踏みつけ出した、最後の方しか直接操っていないけど。
   戦闘の前半は紛れもなく、御坂の本心からの行動だった』

上条「それって、どういう意味ですか……」

雲川『「死ね」とか「私も死ぬ」とか「五和と別れて」とか「シスターやロリ教師も殺す」とか「上条が好き」とか、
   全て御坂の本心だったって訳だけど。御坂本人にも洗脳時の記憶は残っているから、本人に聞けば分かるはずだけど』

上条「そう、なのか、御坂」

御坂「……うん。その時は、本当にそう思っていたと思う。
   でも、言わなくても良かったじゃないですか!何でそれを今言うんですか!」

電話の先の雲川に向かって御坂は叫ぶ。

雲川『上条は御坂の言動や行動の“全てが”食蜂によるものだと思っていたんだけど。
   勘違いを解いてやるのは当たり前だろ?』

御坂「そ、そんな……」

上条「先輩。俺も、そんなことは望んでないです。勘違いのままで良かったです。
   世の中には知らなくていい事もあると思います」

雲川『随分生意気な口を聞く様になったじゃないか上条。
   「世の中には知らなくてもいい事もあると思います」か。
   たかが16年と4カ月しか生きていないくせに、悟った様な事を言うね』

上条「そんなつもりはないですけど。何でこんなこと言う必要があったんですか?
   御坂が傷ついただけじゃないですか!」

雲川『傷つく?当たり前だけど。君達は一度痛い目を味わっといて、まだそんな甘い事を言っているのか?
   その調子だと、食蜂から世界を守るなんて夢のまた夢だけど』

上条「さっきから何なんですか先輩!言いたい事があるなら、はっきり言ってください!」

雲川『君達は甘いと言っているのだけど。
   たとえば上条、君は食蜂に唆されて、終始洗脳されているかもと疑ってはいたが、結局は御坂と戦った。
   御坂も多分、上条を利用されれば、あっさり堕ちる。君達は精神的に甘過ぎると言っているのだけど』
93 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 23:50:17.11 ID:c1MFS++20
上条「……だったら、どうしろって言うんですか?」

雲川『上条は、御坂の気持ちに対してきちんと返事をしろ。
   半端に恋愛事情を戦場に持っていくのは危険すぎるからな』

御坂「な、何で今更そんな事……五和さんがいるんだから、もう答えは決まっているのに」

雲川『とか何とか言って、本当はまだわずかでも期待しているだろう?
   私が上条の事を名前で呼んだら敏感に反応したし、ここ最近は2人きりのシチュエーションも多いからな』

御坂「さっきから何なんですか?からかっているんですか?」

雲川『からかってなどいないけど。いいか?君達は命を預け合う仲なんだ。
   そして相手は食蜂。気持ちが少しでもブレる事があってはならない。
   ここら辺りで気持ちを清算して「食蜂を倒す」という目的のみに専念できるようにしないといけない』

上条「……そうか。なら答える。御坂、俺はお前の気持ちに答える事は出来ない。“大切な人”がいるから」

御坂「……うん」

洗脳されていた時の戦闘中にも断られたが、改めて言われるとやはり辛い。

雲川『ふむ。これで両者ともスッキリしただろ?明日、頑張れよ。
   上条は制服ボロボロだろうし、御坂も制服汚したくないだろうから、協力機関に服持って行かせるから』

上条「垣根と一方通行は?」

雲川『あいつらはいい。
   長点上機の制服は防護性も動きやすさも備わっているし、汚れたって金持っているからいいだろうし』

上条「そうじゃなくて、あいつらだって気持ちに迷いがあるかもしれないじゃないですか?
   何か忠告があってもいいんじゃないですか?」

雲川『奴らは学園都市の「闇」を生き抜いてきた訳だし、気持ちに迷いなんてないけど。
   特に今の君達より遥かにブレてきた一方通行はね。そうそう。
   御坂は妹達の件で悩んでいるみたいだが、上条に励ましてもらえ。それじゃ』

ブツッと通話が切れた。
94 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 23:53:01.95 ID:c1MFS++20
2人の間に沈黙の時間が訪れる。

上条(先輩め、最後にとんでもない爆弾投下しやがった)

心の中で雲川に毒づいている時、御坂が口を開く。

御坂「あの、ね。実は私さ」

そうして御坂は昨日の出来事を話した。
自殺しようとした事。それを一方通行に止められた事を。

上条「自分の弱さが情けなくて、か」

御坂「怒らないで聞いてほしいんだけど、五和さんや、多分ロリ教師とシスターも食蜂の手に堕ちていると思う。
   それでさ、当麻は何とも思わないの?自分が情けないとか」

上条「思うよ。けどさ、言い方悪いかもしれないけど、もう仕方ないんだよ。妹達だってそうだ。死んだ人はもう戻らない。
   だから、落ち込んでも仕方ないと思うんだよ。大事なのは、そこからどうするかだと思う」

御坂「一方通行も、似たようなこと言っていた。立ち上がることが大事だって」

上条「俺もそう思う。だからさ、妹達の事は割り切って、白井達は一緒に救いだせばいい。たったそれだけの話だ」

御坂「……うん。頑張ってみる」

垣根(軽い気持ちで盗み聞きした話が、まさかこんな重い話だとは……けどま、俺も――)

2人の気持ちは固まり、1人は気持ちを再確認した。そしていよいよ、運命の日を迎える。
95 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 23:54:19.34 ID:c1MFS++20
4月13日 6:00 病院前

冥土帰し「それじゃあ、頼んだよ」

冥土帰しはそれだけ言って、学園都市の協力機関の車に乗った。
車は猛スピードで走りだし、5秒もしないうちに上条達の視界から消えて行った。
代わりにあるのは、もぬけの殻になった病院と、協力機関が持ってきた食糧と武器、服ぐらいである。

御坂「助っ人は……?てっきりここで合流するのかと思ったけど」

上条「確かに……ひょっとしたら、あとから来るのかもな」

垣根「なんだそりゃ」

一方通行「まァどうでも良いじゃねェか。4人で世界救うぐらいの覚悟でいかねェと。
     ただ、これからどう動くのかが問題だな」

食蜂と能力者達が地下に籠っているのは分かっている(TVの演説で)のだが、どうも簡単に踏み込んでいいのか迷う。
とりあえず雲川の指示に従い土御門を取り戻すため、垣根が『未元物質』を使いこなして眼球を千里眼にして
土御門の位置を看破したが、曰く食蜂のすぐ近くに居るらしく、参謀的ポジションらしい。
要するに、土御門をいきなり取り戻すことは難しいということだ。

垣根「やっぱいきなり食蜂倒せばよくね?能力者解放しながらは回りくどいだろ」

一方通行「だから、そう簡単にいくわけねェだろォが。周りから崩して行った方が確実なンだよ」

垣根「じゃあどうすんだよ。さっきも言った通り、能力者達は地下に籠りっぱなしだ。
   俺達が動かないと、事態は動かねぇぞ」

御坂「まあまあ落ち着いて2人とも」

上条(こんな調子で大丈夫か?不安になってきたぜ)
96 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 23:58:51.70 ID:c1MFS++20
6:10

上条達は垣根が千里眼で見つけた地下へと繋がる入口がある第6学区へ、そこら辺にあった車を拝借して向かっていた。

御坂「こんなに悠長にしていて良いのかしら……」

一方通行「良いに決まってンだろ。別に何時間以内に救わないといけないなンて時間制限はねェンだから。
     来るべき時に備えて体力も能力も温存しとくべきだ」

御坂「そっか」

上条「垣根は運転出来るんだな」

垣根「男なら、車の1つくらい運転できなきゃな」

一方通行「無免許運転が偉そうに言ってンじゃねェ」

垣根「いいじゃねぇか。誰も居ないんだし」

そんな会話をしている間に、第6学区のとある遊園地の前に到着した。

垣根「この遊園地のメリーゴーランドの中心。ここから地下に入れるぜ」

4人は車から降りる。その時だった。
音もなく垣根と御坂が、上条と一方通行の側から消え去った。

上条「――な!?」

一方通行「早速仕掛けてきやがったかァ」

理由は簡単だった。能力が上がって千里眼と化した固法美偉の『透視能力』(クレアボイアンス)で上条達の位置を特定。
あとは結標の『座標移動』(ムーブポイント)により、御坂と垣根をテレポートしたのだ。
上条は『幻想殺し』により、一方通行は反射によりテレポートを免れたと言う訳だ。

一方通行「気をつけろ。来るぞ」

一方通行が注意を喚起した直後。
上条の真上に、『グングニル』の先端を上条に向けた五和がテレポートされた。

上条「――やべ」

上条が数歩後退して槍を避けたと同時、ゴギャア!と『グングニル』が深く地面に突き刺さった。

五和「全く。当麻さんが避けるから、地面に刺さっちゃったじゃないですか。抜くの大変なんですよ。これ」

随分と滅茶苦茶な事を言う。避けなきゃ死ぬのだから避けるに決まっている。
それにしても、洗脳中の行動や言動は真実と雲川は言ったが、これもそうなのだろうか。

上条(……余計なことは考えるな。真実かどうかは問題じゃない。能力者を救いだし、食蜂を倒す事だけに集中しろ)

一度目を閉じ、深呼吸。そして目を見開く。
そんな上条を見て、五和は両手で頬を覆い、うっとりした様子で言う。

五和「キリッとした顔の当麻さんかっこいい♡服も似合っていますよ♡」

今の上条は、紫色のラインが入った黒のウインドブレーカーを着ている。パンツも同じものだ。

上条「おいおい、褒めたって何も出ねーぞ」

五和「大丈夫ですよ。今から真っ赤な血と、黄色い脂肪と、汚れた臓物をまき散らせてあげますからね♡」

今ので確信した。いくら洗脳中でも、こんなことを思っているはずがない。
まあ、真実だろうがそうでなかろうが――

上条「今すぐ洗脳を解いてやるからな」
97 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/25(日) 23:59:47.28 ID:c1MFS++20
上条と五和がそんなやりとりをしている時、一方通行は、

一方通行(どこ行きやがった!?)

黄泉川が見えた気がして、走り出し、気付いたら遊園地内に入って彷徨っていた。
辺りには大量のアトラクションがあり、隠れるには困らない。

一方通行「黄泉川ァ!出てこいやァ!」

瞬間。
大声で叫んだ一方通行に返事をするかのごとく、銃声が鳴り響いた。
1秒後、銃弾が一方通行に直撃し、上空へ逸らされた。

一方通行「銃弾なンか効かねェぞ」

ただこの戦いは、殺す戦いではなく救う戦いの為、反射では駄目だ。
ベクトルを操って、どこか違う方向に弾かなければならない。
すなわち、微々たるものではあるが、デフォルトの反射に比べ演算を余計に行わなければならない。
それが長時間続けば、どうなるのか。だがそんな事は、黄泉川を速攻で見つけ、洗脳を解けば済む話。

一方通行(ふン。いいぜェ。鬼ごっこの始まりだァ)

一方通行は不敵に笑い、地面を蹴って跳んだ。
98 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 00:02:04.19 ID:HgBmFR610
御坂(ここは……)

なんとなくテレポートされたのだろうと言う事は分かった。御坂は周りを見渡す。
どうやら倉庫街みたいだ。

御坂(わざわざテレポートされたってことは、何かあるのよね……)

御坂が警戒を高めた、その時だった。
ヒュン!と空気を切り裂く音が真後ろからして、背中にわずかな柔らかさと重みを感じた。
御坂はその正体を一瞬で看破する。

御坂「黒子」

白井「ご名答ですわお姉様。きっと四六時中黒子の事を思ってくれていましたのね」

喋りながら、白井の柔らかい手が御坂の体を這っていく。脇腹に胸に太腿に。

御坂「黒子。いい加減にしないと、黒焦げにするわよ」

白井「黒子を黒焦げ。つまらないダジャレはお止めになってくださいですの」

そして白井の手が、御坂の股間に向かいそうになった時、

御坂「どらぁ!」

白井の手を掴み、一本背負いを繰り出した。
しかし白井はテレポートを実行し、御坂の手から抜け出す。

白井「焦らないでくださいお姉様。黒子はいつでも受け入れオーケーですのよ」

異様に冷静なこと以外は、清々しいくらいにいつも通りの白井だ。
なんだろう。割と容赦なく黒焦げに出来る気がする。

白井「ここは学園都市外周に面している学区の中で、物資の搬入が盛んな第11学区。 陸路最大の玄関となっていますの」

御坂「いきなりどうしたの?」

白井「何も知らないのは可哀想だと思って……教えてさしあげただけですの」

御坂「……わざわざありがと。じゃあそろそろ、黒焦げにしていいわね?」

白井「やれるものならやってみてくださいな。わたくし白井黒子と」

「「「「「私達をね」」」」」

物陰から5人の少女達が現れた。柵川中学の冬服の初春と佐天、常盤台の冬服の婚后光子、湾内絹保、泡浮万彬だった。
御坂は思った。合計6人の少女は食蜂の策略により全員レベル5。
雑魚ならともかく、レベル5が6人はどう考えても分が悪い。でも――

御坂(気持ちで負けちゃ駄目だ。自分を信じるんだ)

御坂は自分に言い聞かせる。ゆっくりと息を吸い、吐く。そして、

御坂「6対1か。いいわ。教えてあげる。あなた達偽者のレベル5と、本物のレベル5の力の違いを。そして、先輩の威厳をね」

宣言した。いよいよ戦いの幕が上がる。
99 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 00:03:57.63 ID:HgBmFR610
垣根(この俺がテレポートされちまうとは……)

垣根は目だけを動かして周囲を見る。特にこれと言った物はない。
あるのは今立っているビルの屋上へと繋がる扉くらいだ。

心理定規「帝督♪」

不意に後ろから、心理定規の楽しそうな声が聞こえてきた。
垣根は急いで振り向く。同時。

心理定規の手の中の拳銃から発射された弾丸が、垣根の右目を貫いた。

垣根「痛ってぇな」

そう言う垣根の右目からは血が流れるどころか、傷一つなかった。
それもそうだ。弾丸は右目を貫いたと言うより、通り抜けただけなのだから。

心理定規「やっぱり拳銃程度では死なないか」

言いながら拳銃を横に投げ捨て、後ろへ手を回す。
腰の辺りから取り出されたのは、40ミリの小型グレネード砲。
心理定規は容赦なくグレネードの引き金を引く。

グレネードの弾頭は垣根に直撃し爆発したが『未元物質』の翼の前では何の意味もなかった。

心理定規「まあ、そりゃあ死ぬわけないよね」

心理定規がグレネード砲もその辺に投げ捨てた瞬間、垣根は彼女の後ろに回り込み、真っ白な翼で自分ごと包み込んだ。

心理定規「ちょ、何よ。触らないで汚らわしい!」

食蜂が言わせたことだと思いたいが、昨日雲川と上条と御坂の話を盗み聞きした時、洗脳中の言動は真実だと言っていた。
中には食蜂が言わせている時もあるとも言っていたが、食蜂に洗脳される前、精神的に傷つけてしまった以上、
言動が真実である可能性は否定できない。どの道、やることは決まっている。

垣根「俺はこの数日間、ずっとお前のことだけ考えてきた。それで分かったよ。今から俺の話を聞いてほしい」

垣根の独白が始まった。
100 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 00:04:36.80 ID:HgBmFR610
地面から槍を引き抜いた五和が、上条に向かって駆け出した。

五和「ふふ」

槍の先端を上条の顔面目がけ放つ。
上条は数歩後退し、顔を少し横にそらして避ける。

五和「避けないでくださいよ。私の愛の印ですよ」

連続で突きを放つ五和だったが、上条は後退しながら、それらを全て避ける。その上、考え事をしていた。
101 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 00:05:45.07 ID:HgBmFR610
4月7日の19:30。
晩御飯を食べ終わっていた上条と五和は寄り添いながら、ただボーッとしていた。
穏やかな時間が流れて行く中、五和が口を開く。

五和「今日、食蜂さんが当麻さんのクラスに転入してきて、クラスメイト全員を洗脳したんですよね?」

上条「そうだけど、その話はやめないか?今は、この穏やかな時間を大切にしたいな」

五和「分かっています。けど、聞いてほしい事があるんです」

上条「……分かった。話してくれ」

五和「はい。その、私にはアレイスターの加護みたいなのがあるらしいですが、
   それでも万が一私が洗脳されて当麻さんと戦うことになった場合、私が首にかけている『グングニル』は
   容赦なく破壊してください」

上条「魔術には詳しくないからよく分からんけど、それ結構貴重な霊装なんだろ?
   それに、そうやってアクセサリーにもなって、五和も気に入っているんだろ?本当に良いのか?」

五和「はい。当麻さんを傷つける凶器になるぐらいなら、いりません。
   それに、アクセサリーなら買えばいいだけの話ですし、寧ろ当麻さんとペアのアクセサリーが買えたら、
   そっちの方が良いかなーなんて///」

上条「分かった。万が一そうなったら破壊させてもらうよ」

五和「はい」
102 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 00:07:17.45 ID:HgBmFR610
上条「――約束、果たすぜ」

顔面に向かって放たれた槍を、上条は右手で受け止めた。
瞬間、ガラスが割れるような甲高い音が響き『グングニル』は崩れ去った。
上条はそのまま攻撃態勢にシフト。五和の頭を触るべく肉迫する。

五和「よくも……私の大事な……」

言いながら五和は後退する。しかし上条の方が速く、後退し始めてから2秒で、上条の右手が五和の頭に触れた。
同時、独特の甲高い音と共に、五和の体が揺れ前方に倒れていく。上条は彼女を優しく受け止め、抱きしめた。
その直後だった。

吹寄「上条ぉぉぉ!」

突如上条の真上に出現した吹寄制理が、かかと落としを繰り出した。
その一撃により半径20mの地面が砕け、捲りあげられた。にもかかわらず。

上条当麻は五和を抱えながら、20m先で平然と立っていた。

上条「吹寄って『風力使い』(エアロシューター)だったんだな」

吹寄「あら、上条のくせによく分かったわね。勉強を教えた甲斐があるってものだわ」

上条「まあな」

適当に言いながら、上条は考える。
五和を抱えたこの状況で、レベル5となった吹寄と戦うのは少しきつい。

上条「悪ぃな吹寄。お前はあとで絶対救うから。今は退かせてもらうぜ」

上条はそう言うと、背中から『竜王の翼』を生やし、病院へ向かって飛んだ。
103 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 00:08:31.69 ID:HgBmFR610
上空へと跳んだ一方通行は、黄泉川の位置を確認した直後に、隕石の如く彼女の近くの地面へ突っ込み、衝突した。
落下の衝撃で地面は震え、周囲に莫大な煙がまき散らされた。

一方通行「チェックメイトだ」

地面が揺れたことにより、尻餅をついていた黄泉川に近付く。

黄泉川「近付くなじゃん!」

黄泉川が豊満な胸の隙間からスタングレネードを取り出し、投げた。
莫大な光と音が周囲にまき散らされる。

一方通行「チッ」

一方通行は舌打ちをしながら目を開いた。
彼はスタングレネードが投げられた瞬間に目を閉じていた。
音は既に“全て”遮断済みだ。よって影響は全くない訳だが。

一方通行「どこ行きやがった?」

一方通行が目を閉じていたのは、ほんの数秒だ。
そこまで遠くに逃げられるとは思えない。

一方通行(となると、テレポーターによって逃がされたか。どうしてこう回りくどいかなァ、食蜂ちゃンはよォ)

仕方ないので、もう一度地面を蹴り、跳んだ。
104 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 00:09:44.40 ID:HgBmFR610
一方通行は空中から地上を見回したが、黄泉川を発見する事はかなわなかった。
仕方ないので地上に降りる。

一方通行(あァ、どうっすかなァ……)

そんな一方通行の前に、少年が突如出現した。
と思ったら、少年はクルリと向きを変え、一方通行に背を向け飛んだ。
飛びながらも、チラチラと一方通行の方を見る。まるでついてこいと言わんばかりに。

一方通行(ありゃあ映像か?まァどうすればいいか悩ンでたところだし、ついていくかァ)
105 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 00:12:33.96 ID:HgBmFR610
電撃を纏い、運動神経や反射神経を飛躍的に上げた御坂が最初に狙ったのは初春だった。

御坂(洗脳とか操作とか、食蜂のやっていることは結局脳内電流の操作だ。
   私はそれに干渉する事が出来る。だから、頭に触れることさえできれば――)

そんな思いで初春の頭に触れに行くが、白井により初春はテレポートされた。

御坂(そう簡単にいく訳ないわよね……!)

しかし落ち込んでいる暇はない。
『水流操作』の湾内と泡浮によって生み出された水流が御坂に襲い掛かる。

御坂(くっ!)

青髪の少年にやられた時の記憶がよみがえる。

御坂(……集中しろ!)

ここは倉庫街。倉庫の中にコンテナなど盾に出来るような物は山ほどある。
よって御坂は、それらを電磁力で集め盾にした。レベル5の水流(しかも2人分の)であったが、何とか防ぎきった。

佐天「それじゃあ甘いですよ」

声は盾にしたコンテナの向こうから。一体何が甘いのか。
疑問に思った御坂だったが、すぐに答えを知ることになる。

婚后「わたくしの能力をお忘れになりましたの?それと、佐天さんの能力も」

御坂(――そう言う意味か!)

2人の『空力使い』(エアロハンド)により噴射点が作られたコンテナが、砲弾のように発射された。

御坂(危なかった……)

白井「安心するのはまだ早いのではなくて?」

上に跳んで回避した御坂を、テレポートした白井のドロップキックが襲う。

御坂「ぐっ!」

後ろからのドロップキックを、身を捻り両腕をクロスしてガードしたが、
思いのほか威力が強く、数m先の倉庫の壁までぶっ飛ばされた。

佐天「休んでいる暇はありませんよ?」

声は背にしている倉庫の向こうから。
今この状態で、噴射点を作られればどうなるか。

御坂(まさか、倉庫ごと――)

ゴバッ!とコンテナの何倍もの大きさがある倉庫が、数百m吹き飛ばされた。
106 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 00:15:36.99 ID:HgBmFR610
御坂「はぁ、はぁ」

背にしていた倉庫の一撃を何とか避けきった御坂は、大量にある別の倉庫の陰に身を潜めていた。

御坂(参ったなぁ。皆本当にレベル5級の力使うんだもんなぁ)

食蜂の演説で分かっていたが、実際に対峙してみると身に沁みてよく分かる。
しかも6対1。さすがに手も足も出ない。

御坂(さぁて、どうしたものかな……)

悩んでいると、ポツリと肩に冷たい雫が当たった。
雨……?しかし空は雲ひとつない快晴だ。ということは、

初春「みーさかさーん。どーこでーすかー?出ーてきーてくーださーい」

甘ったるい声。普段は癒されるようなその声も、今は何となく怖い。

初春「出てこないならいいです。そのまま聞いてください。レベル5の力ってすごいですよねー。
   『水流操作』と『空力使い』を合わせれば、人工的に雨を降らせることはもちろん、嵐を起こす事だって
   出来るんですから。御坂さんも、これぐらいの強力な力を持っているんですよね」

一体何が言いたいのか。御坂は疑問に思う。

初春「それだけの力を持っていたんですから、きっと心のどこかで私達低いレベルの能力者を見下していたんでしょうね!」

明らかに声のトーンが違っていた。洗脳中の言動は真実だと言う。
ただし、上条と戦った時の最後の方の言動は、食蜂に言わされたものだ。
つまり、真実ではないかもしれない。
しかし、心のどこかでコンプレックスを抱えていた可能性は否定できない。
つまり、真実かもしれない。思わず、御坂は叫んでいた。

御坂「違う!私はそんな事思っていない!」

言った後にしまった!と思った。大声を出したことにより位置がバレたかもしれない。

初春「そんなムキにならなくても大丈夫ですよー。
   こんな戯言交じりの挑発を真に受けるなんて。御坂さんは素直だなあ。皆さん、あそこですよ」

御坂(くっそ!)

まずいと思った御坂はその場から離れる。その1秒後だった。
ボガァン!と、さっきまで御坂の居た場所の倉庫がまとめて吹き飛ばされた。

初春「死んでください♪」

御坂が移動した先に、初春が待ち構えていた。初春だってレベル5のはず。
確かもともとは『室温保存』だったはずだが、どんな能力になっているのだろうか。
不用意に近付くのは危険かもしれない。けれども。

御坂(ここで退いてたまるか!)

あえて一騎討ちを挑む。御坂と初春の腕が交錯した。
107 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 00:19:27.54 ID:HgBmFR610
御坂「くっ!」

初春「チッ!」

御坂が頭を狙って伸ばした右腕は、初春が顔を左に振ることで回避。
逆に初春が御坂の右脇腹を狙って伸ばした右腕は、御坂が着ていた薄いピンク色のウインドブレーカーに
少しかすめるだけだった。

御坂「これは……」

何か焦げ臭い。
そう思い右脇腹付近を見ると、ウインドブレーカーが少し焦げていた。

御坂「初春さん、あなたの能力は……」

初春「私は『絶対温度』(ヒートハンド)と呼んでいます。見ての通り、熱ですね。
   私が触れた個所は、もれなく熱で溶けます。
   まあヒートと言っても、冷却方向での能力も使用できますし、もっと凄い事も出来ますよ。たとえば」

初春が数mは離れている御坂に向かって右手を突き出す。ただそれだけ。
それだけだったのに、ピキピキと御坂の体が氷に覆われた。

御坂「これって……!」

初春「水分を急速に冷やして凍らせただけです。どうですか?」

御坂「どうって……」

そんな能力について評価を下している場合じゃない。
電撃を迸らせて、覆われている氷を適度に砕いていく。

初春「やっちゃってください。湾内さん、泡浮さん」

言葉と同時、2人の激流が御坂に襲い掛かる。

御坂「くっ!」

まだ氷から抜け出しきっていない。電撃をぶつけることで防御するしかない。

初春「させませんよ♪」

ジッ!と能力の発生源である前髪が焦がされた。
わずかとはいえ髪の毛が溶けたのと熱さで、演算が出来ない。

御坂(――ッ!)

2トンもの激流が、御坂を飲み込んだ。
108 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 00:22:27.51 ID:HgBmFR610
垣根「俺が、わがままだったんだよ。お前が洗脳されたのは、俺のせいだ」

心理定規から全く反応がないが、垣根は続ける。

垣根「俺は本当に自分勝手だった。
   俺は、お前が求めに応えてくれないだけで勝手にいら立って、お前の気持ちも考えないで、一旦別れようなんて」

心理定規「……っ、そうよ!その上あなたは浮気した!最っ低最悪の男よ!」

垣根「それは違う。なんか変な女が勝手にまとわりついただけなんだ。
   でも、信じられないよな。その状況で別れようなんて言ったから、なおさら」

心理定規「言い訳なんて聞きたくない!」

心理定規は両手で耳をふさごうとするが、垣根の手がそれを阻む。

垣根「聞いてくれ。俺は、いつかお前の気持ちを無視しそうだったから、あえて距離を置こうと思った。
   けどそれは、言い訳だった。
   俺がお前と一緒に居たら辛いから、お互いの為に一旦別れようなんて理由付けていただけなんだ。
   お前にしたら辛いだけなのに」

心理定規「帝……督……」

垣根「本当にすまなかった。だから、こんな駄目な男だけど、もしよかったら『別れよう』宣言は撤回で。
   これからもずっと、お前の側にいたい。お前を守り続けたい」

心理定規「帝……督……!」

ビクン!と心理定規の体が震えた。

垣根「どうした!?」

心理定規「う……ああああああああああああ!」

垣根の手を振り払い、両手で頭を抱える心理定規。

垣根「まさか――ん?」

苦しむ心理定規をよそに、垣根は気配を感じていた。包み込んでいた翼を開く。

垣根「……20人か」

『Equ.DarkMatter』。
『未元物質』の力を使って製造された新物質を素材とし、ありふれた物理法則を超越した性質を持つ、
白いのっぺりとした仮面をつけた人間が、垣根達の周囲に20人ほどいた。

垣根「失せろ。じゃねぇとボコボコにすんぞ」

しかし垣根の言葉を無視して『Equ.DarkMatter』は、
仮面から『未元物質』の翼を出して垣根達を襲う。

垣根「ふん」

対して垣根は、背中から20枚の翼を出し、伸ばす。
それは『Equ.DarkMatter』の翼を切り裂き『Equ.DarkMatter』すらも切り裂いた。
刹那の内に、垣根が勝利した。
109 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 00:24:02.37 ID:HgBmFR610
垣根「殺しはしない」

垣根の翼は仮面や体の一部を切り裂いただけであり、致命傷には至らなかった。

垣根「ただし、これ以上俺に逆らうのなら――手足の切断ぐらいはするぜ」

もちろん彼らは、食蜂に洗脳されて差し向けられただけだろう。
だからこの脅しに意味はないし、ましてや彼らに罪もない。

だが垣根は善人ではない。
たとえ彼らが洗脳されている被害者だとしても、逆らうのなら容赦はしない。
脅しは、きっと今の状況を把握している食蜂に向けたものだ。
これ以上彼らを戦わせるのなら、彼らを傷つけることになるぞ。と。

当然ながら食蜂にとっては、彼らがどれだけ傷つこうが関係ない。
寧ろ使い捨てのようなものだろう。脅しを聞く必要はない。
それでも言わないよりはマシかと、垣根はあえて脅した。

そんなダメもとの脅しが効いたのか、仮面が破壊されて使い物にならなくなったからなのかは分からないが、
『Equ.DarkMatter』は、それ以上何もしてこなかった。

心理定規「帝督……!」

戦いが終わり、垣根の腕の中には正気に戻った心理定規がいた。

垣根「お前……すげぇよ。自力で洗脳を解くなんて……」

心理定規「帝督の声が、ちゃんと届いたから。私こそごめんね。こんなに迷惑かけて」

垣根「良いよ。俺は、お前がいればそれで」
110 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 00:28:47.66 ID:HgBmFR610
少年の幻に導かれ、一方通行は第20学区にある、とある野球スタジアムのホームベース上にいた。

一方通行(コイツは……)

先程から若干の違和感。この違和感の正体は知っている。

一方通行(AIMジャマーか……)

AIM拡散力場を乱反射させ、自分で自分の能力に干渉させる事によって能力使用を妨害するワイヤーが、
スタジアムの隅から隅まで張り巡らされている。能力を打ち消すというよりは『照準を狂わせて暴走を誘発させる』代物。

一方通行「くっだらねェ」

吐き捨てながら、一方通行は能力を封印した。

一方通行「能力は切った。さっさと出てこい黄泉川ァ!」

息を深く吸い、腹の底から叫んだ。スタジアムに一方通行の声が木霊する。それに応えるように、

黄泉川「よく来たなぁモヤシ!私の為に来てくれたじゃん?だとしたら、止めてほしいじゃん!気持ち悪いからさぁ!」

能力を封印した一方通行には、黄泉川のエコーのかかった声はダイレクトに聞こえていた。
111 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 00:42:30.43 ID:HgBmFR610
一方通行「やだね。オマエがいくら嫌がったとしても、連れて帰る」

黄泉川「キモいじゃん!オマエみたいな1万人以上の人間を殺した犯罪者なんて死ねばいいじゃんよ!」

一方通行「御託は良いから出てこいよ。そンなに俺に死ンでほしいンなら、オマエが殺しに来い」

黄泉川「言われなくてもそのつもりじゃん!ただし、その役目は私じゃないけどな!出てこい!」

黄泉川の命令と同時、後ろから気配を感じた。
一方通行は振り向くが、筋肉質な女性、手塩恵未は既に彼の懐に飛び込んでおり、華奢な体にタックルをかました。

ゴロゴロと天然芝の上を転がる一方通行に追い討ちをかけるように、
熊のような男佐久辰彦が数mジャンプして、一方通行に拳を振り下ろした。

「ぐ……は……!」

しかし、悶絶したのは佐久のほうだった。

「ん?」

よく見ると、佐久の手足に穴が空いている。手塩がそう視認した時、グラリと揺れ彼は倒れた。
その先には、一方通行が超然と立っていた。手には、2丁の拳銃。その銃口を、今度は手塩へ向ける。

手塩「なるほど」

一方通行にタックルをかました時、手応えは確かにあったが何か釈然としなかった。
彼を倒すつもりでタックルをかましたのは間違いない。だが彼の体が、あまりにも転がり過ぎた気がしたのだ。

手塩(あえて、転がったな)

一方通行は手塩のタックル直撃寸前に、後ろへ跳んだのだ。
そして中途半端にタックルを受け、あえて転がる事でダメージを最小限に留めた。
それにより手塩や佐久に、わずかではあるが油断を生じさせたのだ。

あとは簡単。タックルの直後で動けないと思っている佐久の拳を避け、手足を銃で撃った。
112 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 00:43:46.78 ID:HgBmFR610
手塩「だが、この私を、拳銃程度で、仕留められると、思うな」

手塩は駆け出した。
同時、一方通行は拳銃の引き金を何回も引くが、上半身を振り、低く屈むなどして弾丸を全てやり過ごす。

手塩(もらった!)

そして身を低く屈めた手塩の拳が、一方通行を仕留める射程圏内に入った時、

一方通行「馬鹿だなァ、オマエ」

ぐしゃり、と。手塩の顔面に一方通行の膝がめり込んだ。

手塩「な、んで……」

低い体勢から仰け反り、ブリッジのようになった手塩の手足に、弾丸が撃ちこまれた。
もはや身動きすら取れない手塩に一方通行は答える。

一方通行「何でって、膝の前に顔面が来るほど身を屈めていたから、丁度いいと思って膝を出しただけだ。
     拳銃ばかり気にしているから、こういうことになンだよ」

手塩「そんなはずは、ない。膝蹴りなどの、反撃は、想定してある。それでも、私の拳が、先に届く、計算だった」

一方通行「だからまァ、摺り足気味に少しだけ前へ進ンで、オマエを見誤らせた。
     そしていよいよ俺の腹か顔面に拳を叩きこむ為に低く屈めた体を起こす一瞬を狙って、
     思い切り一歩前進して膝を出した。それだけの話だ」

手塩「なるほど……完敗だ。お前、アンチスキルに、なれるよ」

どォでもいい。と一方通行は吐き捨てる。
113 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 00:45:24.73 ID:HgBmFR610
黄泉川「ちっ!どいつもこいつも役立たずじゃん!」

声をした方を見ると、完全武装の黄泉川がいた。

黄泉川「能力も使えない。その拳銃もこの装備の前には無意味。お前はこれでおしまいじゃん!」

盾を前に出しながら、黄泉川は一方通行へ特攻する。

一方通行「オマエも馬鹿だなァ」

突っ込んでくる黄泉川に対し、一方通行は左に数歩移動する。
そして盾と足のわずかな隙間に右足を滑り込ませる。

黄泉川「へっ?」

素っ頓狂な声をあげながら、黄泉川は前のめりになって転んだ。

一方通行「オマエは眠っていろ」

黄泉川「ぐっ!」

盾が仇となり、起き上がれない黄泉川のうなじにスタンガンを当て、気絶させた。
その直後だった。

一方通行「……が!」

一方通行の後頭部に衝撃が走った。
たまらず彼は、何の確認もせずに銃口を後ろに向け引き金を引く。

「どこを狙っているのですか?」

声は真上から。今度は銃口を上に向け、引き金を引く。
しかし、ヒュン!と空気を切り裂く音が聞こえただけだった。

「拳銃如きでは、この僕は倒せませんよ」

今度は一方通行の真正面にテレポートしていた。

一方通行「……『死角移動』(キルポイント)か」

査楽「何ですかそれは。僕には査楽という名前があるのですよ」

どォでもいい、と一方通行は銃口を査楽に向けて引き金を引いた。
だが弾丸は、テレポートであっさりと避けられた。
114 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 00:47:28.99 ID:HgBmFR610
ヒュンヒュンヒュンヒュンと、査楽は連続でテレポートし一方通行を翻弄。
一方通行は走りながら査楽を目で追い、やたらと撃ちまくるが全て当たらなかった。

査楽は嘲笑うかのように弾丸を避け、動いている一方通行へ、時には殴り蹴り、ナイフで切り裂いたりした。
しかし一方通行は(査楽もいたぶるつもりで本気で殺そうとしていないとはいえ)致命傷は避け、
ダメージを最小限に留めた。

査楽「どうしたのですか!?超一流の悪党さん!」

一方通行「うるせェやつだ」

言いながらも、当たるはずないのに拳銃で撃ちまくる。

査楽「無駄ですよ!そんなものは当たりません!」

何発目になるかも分からない弾丸を避けつつ、一方通行の背中に拳を叩きこむ。

査楽(まただ……)

違和感。確実に手応えはあるのに何かしっくりこない。
ギリギリのところで、クリーンヒットは避けられているような、そんな気がする。
大体だ。一方通行は劣勢なはずだ。なのに。

査楽(何なんだその笑みは!?)

あまりにもふてぶてしい態度の一方通行に対して、言葉こそ強気に振る舞っていたが、心の中では若干の動揺があった。

一方通行「終わるぞ」

パンパンパンパン!と、もはや査楽を狙っていない4発の弾丸が放たれた。
先程走りながら新たな弾丸を装填していたが、今ので尽きたのか。
拳銃を持っている両手はだらりと下がっている。

査楽「何が終わりだと言うのですか!?」

一方通行の真後ろにテレポートした査楽は、持っていたナイフを突き出す。

査楽「終わりなのはあなただ!」

ナイフが一方通行の背中に当たり、ガキィン!と反射された。

査楽「な!?」

査楽が反射の反動で腕がビリビリしている間に振り返った一方通行は、
拳銃の引き金を引き彼の手足に弾丸を叩きこんだ。
115 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 00:49:38.05 ID:HgBmFR610
査楽「ぐ!な、んで、反射が……」

一方通行「俺は無闇やたらに拳銃を撃っていた訳じゃねェ。
     確かにオマエを狙って撃ちはしたが、外れてもAIMジャマーのワイヤーを撃ち抜けるコースに撃った。
     あとは分かるな?」

査楽「なる……ほど……それで能力を復活させたと」

一方通行「AIMジャマーはまだ少し残っているが、これだけ破壊すれば、今の俺なら暴走しねェ」

査楽「そうですか……敵いませんね。超一流の悪党には……」

一方通行「悪党とかどうとかにこだわっている内は、まだまだだな」

査楽「……そうかもしれませんね。ところで、いいことを教えてあげましょうか?」

一方通行「……」

査楽「僕がこのスタジアムの中で、能力を自由に使えた理由ですよ……」

一方通行「いらねェ。
     どうせ背中にAIMジャマーから出る特殊な電磁波をジャミング出来る装置を付けていた、とかだろ」

査楽「そうです。何だ、分かっていたのですか。そこまで分かっているのなら、僕の言いたい事、分かりますよね?」

一方通行「……」

査楽「AIMジャマーをジャミング出来る装置、あなたにあげますよ。
   これからもあなたが戦うのは、AIMジャマーが張り巡らされているようなところでしょう。
   それを妨害できる装置をあげると言っているのです」

一方通行「いらねェな。その提案、罠だろ?」

査楽「……ふふ。あなたにはつくづく敵いませんね。ですが、最後まで足掻ききって見せますよ」

言うが早いか、査楽はテレポートして黄泉川の側にテレポートした。

査楽「終わりです!」

ピーという機械音。そして――

ボッガァァァン!と、査楽が背中につけていたAIMジャマージャミング装置が爆発した。
116 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 00:51:06.66 ID:HgBmFR610
一方通行「チッ」

一方通行は舌打ちした。
自分が傷ついた訳でもないし、爆発の寸前に黄泉川に覆いかぶさって彼女も守り切った。
ただ爆発によって査楽に手塩、佐久が死んでしまった。

この戦争で一方通行らは1つの約束をしていた。
無傷で救えとまでは言わない。ただし死者は出来るだけ出さないようにしようと。

しかしながら正直なところ、知り合いならまだしも、他人なら動きを封じる程度に傷つけることに躊躇いはなかったし、
最悪死んでもいいとさえ思っていた。だが実際に目の前で死なれる(自分の仲間とあわよくば自分を殺すために)と、
なかなかに後味が悪い。

一方通行(暗部に居た頃は、こンなことでいちいち何かを感じる事なンてなかったが)

だいぶ日常に馴染んで、感覚が一般人よりになってきているのかもしれない。

一方通行(まァいい。最低限守りたい者は守り切った。あとは――)

救う作業が残っている。一方通行は黄泉川の頭に手を当て、脳内電流のベクトルを操る。

一方通行「――コマンド実行――削除」

要した時間はわずか2秒。黄泉川の体がビクン!と跳ねた。その直後だった。

ドゴン!と、スタジアムの天井が破壊された。

一方通行「何だ!?」

一方通行は身構える。破られた天井からは、その残骸と1人の人間。

一方通行「オマエは……!」
117 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 00:53:12.12 ID:HgBmFR610
泡浮「やりましたわね湾内さん」

湾内「そうですね泡浮さん。わたくし達の手で、憧れの御坂さんを葬ったなんて、夢のようですわ」

初春「まだですよ2人とも。よーく見てください」

言われて2人は、激流に流されたであろう御坂のほうを向く。
するとそこには、

絹旗「超大丈夫ですか?」

御坂「ええ。助かったわ最愛」

レベル5第4位、絹旗最愛が御坂の前で両手を水平に広げて立っていた。

初春「とんだ邪魔が入りましたね」

佐天「ま、絹旗さんも一緒に殺せばいいだけっしょ」

婚后「6対2で、優勢であることに変わりはありませんからね」

白井「油断は禁物ですわ。彼女は絹旗最愛。『窒素装甲』という能力で、窒素を纏う事が出来ますの。
   さらには、大気中にある窒素もある程度は操れるみたいですの」

一方で、御坂と絹旗は、

御坂「あなたが助っ人の1人だったのね」

絹旗「助っ人?何の事でしょうか?私はたった今出張から超帰ってきただけですが。
   この状況は一体どう言う事ですか?」

御坂「え?助っ人じゃないの?出張から帰ってきた?」

絹旗「ええ、そうです。私は4月8日から超出張に行っていたんですよ。
   それで第11学区を通って帰ってきたら、この状況です。
   もう何が何だか訳が分からなかったのですが……とりあえず御坂さんを守りました」

御坂「……ここ数日の学園都市についてのニュースを見ていないの?」

絹旗「ニュース?学園都市関連のニュースは一度もやっていませんでしたよ。この数日で超何かあったんですか?」

なるほど、道理で会話が噛み合わない訳だ。

御坂「よく分からないことあると思うけど、今の状況を詳しく説明している暇はないわ。けど、協力してほしい」

絹旗「はい。私に出来る事なら、超喜んで」

御坂「あの子達ね、食蜂に操られているのよ。しかもレベル5になっているわ」

絹旗「超マジですか……!確かにあの水流の威力はレベル4以上だとは思っていましたが」

御坂「あの子達を救いたいの。力を貸して」

絹旗「もちろんですよ。そして食蜂の雌豚を、超ぶん殴ってやります!」

御坂は既に氷を砕いて抜け出している。2人は身構えた。
118 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 00:55:29.60 ID:HgBmFR610
佐天「で、どうするの初春。また凍らせて水流で流すとか?」

初春「いえ、それはもういいです。一度破られた手で倒すのは何か癪なので」

婚后「破られたと言いましても、絹旗さんが助けに入ったからですし、初春さんが本気を出せば、どうとでもなるでしょう」

初春「そうですね。ですが、私の能力で勝ったら、あの人達を本当の意味で潰した事にはなりません。
   私のような凍らせるとか、熱で溶かすとか、そんなちまちましたものじゃなく、佐天さんみたいな能力で、
   力で叩き潰さないと」

白井「わたくしなら、体内に金属矢をテレポートで一発ですの」

初春「調子に乗らないでください白井さん。白井さんの座標攻撃は、動く事によって簡単に避けられます」

白井「それは初春もじゃないですの?」

初春「私はその気になれば、空間ごといけますから」

白井「初春のくせに生意気ですの。あとでお仕置きですわね」

初春「やれるものならどうぞ♪」

一方で、身構えていた絹旗と御坂は、

絹旗「なんか超喧嘩が始まりそうな空気ですが……」

御坂「どうでもいいわ。1つだけ言っておくけど、あの子達の言動には耳を傾けないで。救う事だけに集中するのよ」

絹旗「は、はい」

御坂「そして、ちょっときついだろうけど、最愛には佐天さんと婚后さん、湾内さんと泡浮さんをお願いしたいの。
   私が黒子と初春さんを取り戻すから」

絹旗「はい!」

御坂「それじゃあ行くわよ!」

6人の少女のもとへ、御坂と絹旗が先に仕掛ける。
119 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 00:56:26.94 ID:HgBmFR610
湾内「み、御坂さんが!」

湾内が叫んだときには、御坂は既に初春の懐に潜り込んでいた。

佐天「――っ、させませんよ!」

莫大な風を手中に収め、御坂だけに当たるように放つ。

絹旗「それは超こっちの台詞です!」

大気中の窒素を操り、風から御坂を守る。

白井「させませんわ!」

御坂の手があと少しで頭に触れるところで、初春は白井によってテレポートされた。

御坂(黒子からにするべきだったかな……!)

体勢を立て直すため、御坂は高速で後退する。

絹旗「やっぱりそう簡単にはいかないですね」

御坂「そんなことないわよ。さっきまでは手も足も出なかったけど、今は防戦にさせた。いけるわ」
120 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 00:58:28.08 ID:HgBmFR610
白井「全く、危ないじゃありませんの。わたくしがテレポートしなければやられていましたわよ」

初春「いらなかったですよ?寧ろ御坂さんにカウンターを仕掛けられたのに余計な事してくれやがって。て感じです」

白井「……めちゃくちゃ殴りたいですの。大体それなら、佐天さんはどうなんですか?」

初春「佐天さんはいいですよ。白井さんのような逃げではなく、前衛的な妨害ですから。
   直撃していれば、ダメージになりましたからね」

泡浮「まあまあ、お二人とも落ち着いて」

初春「呑気に落ち着いてじゃないですよ。
   湾内さんと泡浮さんと婚后さんは、御坂さんに全く反応できていませんでしたよね?
   油断している場合じゃないですよ?これだから温室育ちは……」

婚后「その言い方はないのではなくて?元はと言えば、お二人の言いあいから隙が生まれましたのよ?」

初春「油断させる為の演技ですよ。その証拠に、佐天さんはベストなタイミングで攻撃をしてくれました」

湾内「佐天さん凄いですわ」

佐天「へ?ま、まあそうですね〜」

初春「お嬢様3人は気合入れてください。この調子だと、いくら6対2でも足を掬われますよ」

白井「偉そうに……」

初春「白井さんも、お嬢様3人ほどではないですけど、大した活躍してないですし、頑張ってくださいね」

婚后「いい加減にしてくださいません?初春さん感じ悪いですわ」

初春「それは悪かったですね。もともとこういう性格なので」

佐天「も、もういいんじゃないかな!?皆さん落ち着いて。初春もさ、もう煽るような事言うのやめようよ」

初春「佐天さんは黙っていてください」

佐天「むっ……」
121 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 00:59:49.06 ID:HgBmFR610
絹旗「また超口喧嘩です。ですが油断させる為と分かっていて、不用意には突っ込みませんよ。
   ここは遠距離から行きましょうかね?どう思います、御坂さん?」

御坂(何なのよ……)

初春と白井が喧嘩するのはまだ分かる。それぞれと2人きりでいるときに、それぞれの愚痴をよく聞いた。
ただ初春の態度が、面識がなかったはずのお嬢様3人組にも悪いのはどういうことか。
食蜂が言わせている?油断させる為?それにしたって、いくらなんでも無駄な会話が多すぎる。
というか会話自体が無駄でしかない。回りくどすぎる。

現状は6対2だ。単純に物量で攻めきればいい。現に油断作戦はお嬢様3人、いや、様子からして白井や佐天すらも
ギリギリ反応出来ただけで、作戦だとは思っていなかっただろう。訳が分からない。一体何がしたいのか。

御坂「ちっがーーーーーーーーーう!!」

御坂の突然の雄叫びに、その場に居る全員がビクついた。

絹旗「み、御坂さん!?」

御坂「ごめん最愛。もう大丈夫だから」

絹旗「は、はあ」

ゴチャゴチャ考えすぎていた。食蜂が言わせて遊んでいるのか、彼女達の本音なのか。そんな事問題じゃない。

御坂(最愛には注意しといて、私が忘れるわけにはいかないわよね)

洗脳中の敵と戦う時の鉄則。救うことに集中する事。

御坂(余計な事は一切考えるな。雑念を排除しろ)

パン!と御坂は自分の頬を両手で叩いて気合を入れ直す。

御坂「今度こそ行くわよ最愛!」

絹旗「はい!」
122 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 01:01:07.17 ID:HgBmFR610
御坂は駆けだした。今度の狙いは白井。今まではトロそうな初春を狙っていたが上手く行かないし、
まずは厄介なテレポーターを狙えと雲川に言われたのを思い出したのだ。

御坂「黒子大好き!愛しているわ!」

白井「ぬふぉおおお!?」

洗脳と言ったって、一から十まで完璧に操作している訳ではない。
ゲームで例えるなら、いつでも介入できるが、オートモードの状態。
そこを狙ってひょっとしたらと思い、ダメもとの嘘告白だったが案外効いているようだ。

御坂(チャンス!)

お嬢様3人組や佐天の妨害は絹旗が止めてくれる。ただ、もう1人いる。

初春「白井さんはほんとに!」

案の定初春が割り込んできた。
左手で白井の首根っこを掴み、右手で御坂に対抗しようとする。

御坂「初春さん調子のりすぎ!」

出来るだけ無傷で救いたかったが、やはりそれは無理そうだ。
いきなり頭を狙いに行くのでは駄目だ。確実に詰めていくほうがいい。

御坂は屈み、初春の右手を避け、逆にその腹に拳を叩きこんだ。

初春「こほっ!」

咳き込み、屈む初春の頭を触る為に、左手を伸ばす。

御坂(もらった!)

しかし正気に戻った白井がテレポートを実行し、初春と共に御坂から数m距離をとった。
123 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 01:03:46.39 ID:HgBmFR610
白井「お姉様の言うとおりですわ。初春は調子に乗り過ぎですの」

初春「そうですね。反省します。ということで、御坂さんは一旦放っておいて絹旗さんを先に潰しましょう」

御坂「筒抜けの作戦会議とか、私をなめているの?させないわよ」

初春「白井さんは絹旗さんのところへ行ってください。私もジャッジメントのはしくれです。御坂さんは私が倒します」

白井「分かりました。頼みますの」

テレポートを実行し、白井は消えた。

初春「いいんですか御坂さん?これで絹旗さんは5対1ですよ」

御坂「初春さんも行くならともかく、黒子だけなら仕方ないわ。
   私は最愛を信じている。それに、初春さんを救う絶好のチャンスだしね」

初春「思いあがらないでくださいよ。
   私はこの6人の中で、いえ、絹旗さんや御坂さんを合わせても1番強いですよ。
   加えて、御坂さんは電撃を使えません。雨に濡れた私を雷撃の槍で穿てますか?
   私を救うとしたら、無理ですよね?」

ニヤリと、不敵な笑みを浮かべる初春。対して御坂は、至って冷静だった。

御坂「初春さんこそ思いあがっているんじゃない?
   私としては最終的に救えれば、多少は黒焦げにしてもいいと思っているけど」

それに、と御坂は続けて、

御坂「電撃を使うまでもないわ。初春さん如き、体術だけで十分よ」

御坂も笑みを浮かべた。それは初春にとっては嘲笑に見えた。

初春「この人格破綻者が……男にも振られるし、友達も私達だけ。
   クローンは死なせる、駄目人間が調子こかないでください」

男に振られる。クローン。白井がバラしたか、食蜂が言わせているか。
でもそれは一旦置いておく。

御坂「その駄目人間に、あなたは救われるのよ。それにしても随分と毒を吐くけど、その調子じゃ友達なくすわよ」

初春「御坂さんには言われたくないです。変態の後輩がいるだけのくせに」

御坂「お洒落のつもりなのか知らないけど、頭に花飾り乗っけている変人になにを言われても」

初春「御坂さんのお子様センスに比べればマシですよ」

御坂「目上の人にそんなに失礼な態度とっちゃ駄目ね。人生の先輩として教育が必要なようね」

初春「御坂さんも目上の人に失礼だったりしますけどね」

ひとしきりの煽りあいが終わり、2人の眼光が鋭くなる。
そして――

御坂「いくわよ!」初春「いきます!」

同時に駆けだした。
124 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 01:06:05.80 ID:HgBmFR610
湾内「さすがレベル5第4位ですわね!」

湾内と泡浮は水流攻撃を行っているのだが、窒素を纏い操る絹旗に、まともにダメージを与えられてはいなかった。

婚后「お二人とも避けて!」

婚后と佐天の能力で、噴射点が作られた倉庫が次々と発射される。

絹旗「甘いです!」

飛んでくる倉庫に向けて、絹旗はその場で思い切り拳を前に突き出す。
それだけ。たったそれだけで、絹旗を狙って放たれたいくつもの倉庫は粉々に破壊された。

婚后「馬鹿な!?なぜ!?」

白井「狼狽している暇はありませんのよ、婚后さん!」

テレポートしてきた白井が、婚后に喝を入れつつ、太腿のホルダーから金属矢を取りだした。

それを見た絹旗はバックステップ。
直後、絹旗が先程まで居た場所に、金属矢がテレポートされていた。
そのまま突っ立っていたら、肩や心臓、ふくらはぎを貫かれていただろう。

絹旗「っつ!」

しかし、左肩と左ふくらはぎに激痛。左肩を見ると、金属矢が刺さっている。

白井「甘いですわよ絹旗さん。金属矢は、あなたの体を直接狙うモノだけではありませんのよ」

つまり、白井はバックステップするのを見越して、絹旗の後ろにも金属矢をテレポートしていたのだ。
絹旗は攻撃が来る座標に自ら跳び込んだようなものだった。

婚后・湾内・泡浮「「「今ですわ!」」」

ここぞとばかりに水流と、倉庫が襲い掛かってくる。

絹旗「さすが白井さんです……!ですが――」

絹旗は右腕を振りまわす。それだけで水流は弾かれ、倉庫は砕け散った。
125 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 01:08:31.63 ID:HgBmFR610
佐天「もう!何でなのーっ!」

佐天が叫んで攻撃を止める中、お嬢様3人は攻撃を止めない。
絹旗はそれらの攻撃を全て防ぎながら、白井のテレポート攻撃を避けるために不規則に動きまわっていた。
白井はその佐天の近くにテレポートする。

白井「簡単な事です。
   絹旗さんは周囲にあえて不安定な窒素の壁を作り、それに衝撃を加える事で窒素を遠距離まで飛ばしていますの」

つまり、絹旗は削板の『念動砲弾』(アタッククラッシュ)に近い事の窒素バーションをやっていたわけだ。
これは削板に教わったものではなく、絹旗が一人で生み出した技だ(削板自身も無自覚に感覚で行っていた技なので、
そもそも教わる事が出来ないが)。意外と絹旗と削板のセンスは似ているのかもしれない。

佐天「えっと、よく分からないです。つまりどう言う事なんですか?」

白井「遠距離攻撃じゃ、碌にダメージも与えられないと言う事ですわ」

佐天「ええ!?でも絹旗さんは窒素を纏ってもいるんですよね?
   だとすると、近距離も駄目、遠距離も駄目、絶対防御じゃないですか!」

白井「そうですわね。このままだと、いたずらに能力を消費するだけですの」

佐天「そ、それです!能力を消費させればいいんですよ!」

白井「それは無理ですの」

佐天「な、何でですか?」

白井「絹旗さんの防御力が、私達の攻撃力をはるかに上回っているからですの」

佐天「つ、つまり?」

白井「あそこの婚后さん派閥の3人組、あの人達の全力の攻撃を、絹旗さんは少しの力で難なく防ぐ事が出来ますの。
   先にバテるのは、こちらと言う事ですわ」

佐天「じゃあ、どうするんですか?あれだけ動きまわられたら、白井さんのテレポートも通じませんし」

白井「左肩と左ふくらはぎを痛めた状態で長い間動きまわるのは不可能ですの。いずれ疲れますわ。
   それにその気になれば、絹旗さんを中心にして半径5mは串刺しに出来るほどの金属矢は持っていますの」

佐天「そ、その手がありましたね!」

白井「ですが、あっさり終わらせてはつまらないですから、ここはじっくりといたぶって差し上げましょう」
126 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 01:11:19.64 ID:HgBmFR610
婚后「ああ、もう!」

もう何個目かになるか分からない倉庫を発射したが、例によって粉々に破壊された。
倉庫街とは言え、限りはある。このままだと倉庫が無くなってしまう。

絹旗(これならいけますね!)

右腕を振り回して攻撃を全て防ぎながら、左肩と左ふくらはぎの痛みを我慢して走り回る。

絹旗「ぶへっ!」

何かにつまずいて転んだ。
この私がつまずく!?一瞬動揺した絹旗だったが、答えはすぐに分かった。

金属矢が3本、地面に刺さっていたのだ。

金属矢ぐらい、つまずくどころか蹴り曲げてしまいそうだが、それは出来なかった。
絹旗は現在、窒素を20cmほど纏っているが、バランスを考えて体の随所に窒素の薄い部分が存在する。
それの一番顕著な部分が足付近。だから転んだ。

絹旗(超マズいですね!)

呑気に倒れている場合じゃない。白井が金属矢をテレポートしてくる!

絹旗(転がる!?いや――)

それじゃあ駄目だ。
白井は転がる事も予期して、金属矢を横にもテレポートしてくるかもしれない。

絹旗(ここは!)

両腕で少しだけ上体を起こして、なりふり構わず前へ転がる。
その直後だった。先程まで絹旗の居た場所とその左右の地面に金属矢が刺さっていた。

佐天「隙だらけですよ、絹旗さん」

転がり、立ち上がったばかりの絹旗の窒素に覆われた背中に佐天の右手が触れた。
背中の窒素に、噴射点が作られる。

絹旗(しまっ――)

噴射点から莫大な空気が噴き出す。
絹旗はミサイルのごとく発射され、倉庫群を突き抜け、数百mほど吹き飛ばされた。
127 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 01:16:46.20 ID:HgBmFR610
絹旗「超痛ってーな」

倉庫をいくつも突き抜けながら数百mほど吹き飛ばされたにもかかわらず、目立った外傷はなかった。

佐天「ほ、ほんとに無事だ……」

泡浮「驚きですわ……」

湾内「ひょっとして不死身のお方なのでしょうか……」

婚后「そんな非科学的なこと、ありえませんわ……」

白井「婚后さんの言うとおりですの。彼女は不死身でも何でもありません。
   レベル5の『空力使い』の一撃を受けても、さほどダメージにならないほどの防御力を有しているだけですの」

白井がテレポートしてきたのだろう。
5人の少女は絹旗の目の前でそんなやりとりを繰り広げた。

絹旗「あなた達の攻撃が超弱すぎるだけじゃないですか?」

婚后「何ですかその言い草は!?わたくしを常盤台の婚后光子と知っての狼藉ですの!?」

絹旗「超事実を述べただけです」

婚后「もう我慢できませんわ!」

白井「お待ちください婚后さん。絹旗さんの狙いは、挑発してあなた達に能力を使わせるつもりですの」

婚后「そ、そうなんですの?」

絹旗「さすが白井さん、超冷静ですね」

白井「随分と余裕なようですが、わたくしがその気になれば、絹旗さんなど瞬殺ですのよ?」

絹旗「そう言うのは実際にやってから言って下さいよ。
   瞬殺できるとか粋がるやつに限って、逆に超あっさりやられるような噛ませ犬のキャラですよね」

白井「その減らず口、金属矢で閉じて差し上げましょうか?」

絹旗「やれるものなら」

ギリッ!と白井の歯軋りが、全員の耳にはっきりと届いた。

佐天「白井さんが挑発に乗ってどうするんですか!」

白井「分かっていますわ。わたくしは大丈夫ですの」
128 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 01:20:17.13 ID:HgBmFR610
白井「絹旗さんは私を怒らせ、能力を乱発させ、金属矢のストックを失わせると同時、疲労させるつもりかもしれませんが」

そこで一旦言葉を区切ると、開いた右手を絹旗に見せつけた。
白井が何をしたいのか分からない絹旗は、眉をひそめる。

白井「その陳腐な企みは通じませんの」

ヒュン!と白井の開いた右手の指の間に金属矢がテレポートされた。

白井「レベル5となったわたくしは、直接触れていないものもテレポートできますの。
   つまり、金属矢がなくなることはありません。
   それどころか、精度は落ちますが、転がっている金属矢を絹旗さんの体にねじこむ不意打ちも出来ますしね」

さらに言うと、金属矢ではなくその辺りの瓦礫でもいい訳ですし、
絹旗さん自体を壁や地中に埋める事も出来ますしね。と白井は饒舌に語った。

白井「とにかく、絹旗さんはそんな相手に挑発しているんですのよ?喧嘩を売る相手は選んだ方が良いですわよ」

おほほほほ。と似合わない笑い方をする白井を見て、絹旗は呆れながらこう言った。

絹旗「哀れですねぇ白井さん。本気で言っているのだとしたら、ハグしたくなるぐらい超哀れです」

呆れから、わずかな笑みを浮かべながら絹旗は続ける。

絹旗「確かに、白井さんが言った攻撃方法は極めて厄介です。ですが、超完璧ではありません」

白井「なかなか大口を叩くではありませんか。一体どうやって、わたくしの多彩な攻撃を防げると言うんですの?」

絹旗「超簡単ですよ。
   私が動きまわれば、私自身のテレポート、金属矢などの異物を体にテレポートされることもありません」

白井「ですが」

絹旗「先程のように転ばせるなどして私の動きを止める。
   もしくは私とその周囲の座標に、まとめて異物をテレポートする超力技がある。と、言いたいんですよね」

白井「そ、そうです。それをどう防ぐと言うんですの?」

絹旗「そこは超逆転の発想ですよ。周りの異物を動かせばいいんです」

佐天「そ、それってどういう……」

絹旗の発言に対して言葉を発したのは、佐天だった。
129 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 01:22:38.07 ID:HgBmFR610
絹旗「私が衝撃を超飛ばすことで、周囲の異物を絶え間なく動かし続け、テレポートを妨げるという事です」

白井「なるほど。ですがやはり、私には勝てませんわね」

言いながら白井は、人差しと中指を立て、

白井「理由は2つ。まず1つ目は、そんなことをしていたら先にバテて能力が使えなくなるのは、絹旗さんの方ですの」

絹旗「どうでしょうか?あなた達の超全力の攻撃は、それほど力を使わずに防ぎきれますが」

佐天「そ、そうですよ白井さん!絹旗さんまだまだ余裕そうだし、先にバテるのは私達じゃないですか?」

白井「落ち着きなさい佐天さん。これからは、能力は最低限にローテーションで攻撃して行きます。
   たとえば、婚后さんと湾内さんが攻撃している間、佐天さんと泡浮さんは休む。と言う風に」

佐天「なるほど!それならいけますね!」

白井「まあ本当はそんな事する必要もないですのよ。2つ目の理由。わたくしから異物をテレポートする。
   この最も基本的な、わたくしからのテレポートを防げない限り、根本的解決にはなりませんわ」

両腕を組んで、勝ち誇ったような顔をする白井。対して絹旗も、笑みを浮かべていた。

絹旗「だから、そんな事で勝ち誇っている白井さんが超哀れだって言っているんですよ」

婚后「まだ強がりますか!」

白井「なぜ婚后さんが怒りますの?これは挑発ですわ。いちいち答えなくてもいいですの」

絹旗「挑発でも何でもありません。超単純に感想を述べたまでです」

どこまでも強気な絹旗に、白井は怪訝そうな顔をする。

絹旗「白井さんの言う通り、白井さん自体をどうにかしないと根本的解決にはなりません。
   つまり、今までのテレポートの攻略が出来る出来ないとか言う会話は、ほぼ無駄なことだったんです」

佐天「じゃ、じゃあ何で!?」

絹旗「佐天さんは体力があるのか、途中から攻撃をサボっていたからかは分かりませんが、あまり疲れていないようですね。
   ですが、そこのお嬢様3人組はどうでしょう?
   もともと超温室育ちだった上に、この激しい戦闘。体力なんて保たないんですよ」

佐天「つ、つまり?」

絹旗「この無駄な会話は、彼女達の回復の為だったんですよ」

佐天「ええ!?そうなんですか白井さん!?」

白井「なぜそれに気付いていながら、会話を無駄に繰り広げたんですの?」

絹旗「私も、超疲れていたからですよ」

白井・佐天「「え?」」

この事実に佐天はもちろん、さすがの白井も驚いた。
130 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 01:24:07.64 ID:HgBmFR610
絹旗「レベル5の攻撃が3〜4人ですよ。いくら私が超防御に特化した能力とは言え、バテない訳ないですよ。
   特に最後の佐天さんの攻撃はヤバかったですね。いや〜、白井さんがお喋りなおかげで、そこそこ回復しましたよ」

佐天「そんな……じゃあ攻め続けていればよかったの?全然苦しそうじゃなかったのに……」

絹旗「ポーカーフェイス超うまいでしょ?C級映画ならヒロイン張れますね」

白井「……ですが、結局は一時凌ぎなだけ。
   これで攻め続ければ良いと言う事は分かりましたし、何よりわたくしを攻略しない限りは」

絹旗「一時凌ぎ?超違いますよ。白井さんを攻略する為、体力回復を図っていたんです」

白井「能力や体力が少し回復したところで、わたくしを」

絹旗「超攻略できますよ。『倒す』っていう、単純な方法で」

白井「だからわたくしを」

絹旗「倒せます。一瞬で。皆さんも同時に」

絹旗の一言に、5人の少女の間に動揺が走る。

白井「ぶ、ブラフですの!」

絹旗「信じる信じないは皆さんの超勝手です。
   ただ1つだけ言える事は、一瞬で決着(ケリ)つけてやる。ということだけです」
131 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 01:29:23.48 ID:HgBmFR610
結論から言うと、決着は本当に一瞬でついた。右拳を上げ、下ろす。
絹旗がこの動作をしただけで、5人の少女は地にひれ伏す形となった。

白井「これは……一体……」

今も続いている何らかの圧力で地に伏せられた白井は、当然の疑問を口にした。

絹旗「超簡単な事です。窒素で皆さんを抑えつけた。ただそれだけです」

白井「そんな……事が……」

絹旗「しかしこの技は、超集中力を使います。長くは保ちません。ですから」

言いながら伏している佐天に近付き、その首にチョップをお見舞いした。
佐天の意識はそれで断絶した。

絹旗「こう言う風に、1人1人潰していきます」

婚后、湾内、泡浮の3人を次々と気絶させていく。そしていよいよ白井の番。

絹旗「テレポーターだからって、超調子に乗りすぎましたね」

白井「完敗ですわ」

そうして絹旗のチョップが白井の首に当たる直前――

絹旗「っぐ!」

右脇腹に衝撃。絹旗は横合いに数mぶっ飛んだ。
132 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 01:30:37.45 ID:HgBmFR610
絹旗(一体何が……)

絹旗は窒素を操り、白井達を抑えている時も窒素の装甲は解いていない。
不意打ちを受けたって、問題ないはずなのに。痛む右脇腹を抑え、白井の方を見る。
その側に立っていたのは、

「調子にのってンのは、絹旗ちゃンの方じゃねェのォ!?」

肩甲骨の辺りまで伸びている黒い髪。
小柄な身体を締め付けるように、黒い革と錨で出来たパンク系の衣装で身を包んだ、黒夜海鳥だった。

絹旗「お前……超生きていたんですか……」

黒夜「誰も死ンだなンて言ってねェけどなァ」

白井「あなたは一体何ですの!?」

黒夜「あァ?うるせェな」

黒夜の脇腹から、赤子のような機械の腕が無数に飛びだし、白井を殴りつけた。
あまりに突然すぎて、絹旗はもちろん、殴られた白井ですら悲鳴を上げる事はなかった。

絹旗「何……で……」

唐突な出来ごとの連続に、絹旗の頭はパンクしかけていた。

黒夜「落ち着け。オマエが疑問に思っている事は大体分かる。今からその答えを教えてやる」
133 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 01:31:41.80 ID:HgBmFR610
圧倒的速さで初春の後ろに回り込んだ御坂は、脇腹を狙って回し蹴りを放つ。

対し初春は、思い切り屈み回し蹴りを回避しつつ、反時計回りの水面蹴りで御坂の左足を払う。
そうして前のめりになって、地面に倒れそうになった御坂の顔に肘を叩きこむ。

ぐらり、と後ろに仰け反る御坂に追い討ちをかける為、氷のメリケンサックをつけた左手で殴りかかる。

しかし御坂は、踏ん張らずにそのまま背中から倒れて行く。
結果左拳が空を切り、前のめりになった初春の顎に衝撃が走った。

御坂が地に手をつき、バク転の要領で初春の顎を蹴ったからだ。

逆にフラつく初春を見て、チャンスとばかりに頭を触る為に左手を伸ばす。

しかし今度は御坂が虚を衝かれた。
何とか踏ん張った初春が左手を避け、頭突きをかましたからだ。

御坂「いっ!?」

またしてもグラつく御坂に、初春は飛び蹴りを放つ。

今までのアクションもそうだが、さすがに飛び蹴りが来るとは思わなかった御坂はモロに飛び蹴りを腹に喰らい、
地面を転がった。
134 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 01:34:45.77 ID:HgBmFR610
御坂「初春さんのくせに、やるじゃない」

褒め称えているのか、馬鹿にしているのか分からないような事を言いながら御坂は立ち上がる。

初春「いつまで上から目線でいるんですか?もう御坂さんの負けですよ」

初春は右手を前に出す。それだけ。
それで御坂の薄ピンクのウインドブレーカーが突如燃えだした。

御坂「あつっ!」

なりふり構わずチャックを下ろしてウインドブレーカーを投げ捨てる。
真ん中にピンクのハートがプリントされたTシャツが露になる。

御坂「くそ……!」

初春「だっさいTシャツですね。大丈夫です。ぜーんぶ吹き飛ばしてあげますから」

何を言っているのかよく分からなかったが、その答えをすぐに身を持って知る。

ボンッ!と、ステンレスのシンクに熱湯をかけたような音。
御坂の背後の空間が爆発した。

御坂「あぐっ!」

不意打ちの爆発に対応できなかった御坂は前に吹き飛び、地面に膝をついた。

初春「爆発とは、気体の急速な熱膨張を指すんですよ。私の言いたい事分かりますか?
   私の能力をもってすれば、こうして擬似的爆発を起こせるんですよ。座標や範囲、威力も思いのままに、です」

手を御坂の顔面が見えないようにかざす。
もういつでも御坂を包み込むぐらいの爆発は出来る。

初春「もう分かったでしょう?温度を操作する事によって生まれる数々の座標攻撃。
   はっきり言っておくと、電撃だって氷の盾を生み出す事によって防げます。
   私には協力者がいて、御坂さんの座標は常に把握していますから、逃げるのも無理です。
   信じる信じないは自由ですけどね。詰みなんですよ。諦めて食蜂さんの傘下に入ってください」

御坂「……ふっ」

短く息を吐き、御坂はゆっくりと立ち上がる。

御坂「お断りよ。誰があんな奴の下につくもんですか。食蜂の傘下に入るぐらいなら、黒子と1日デートの方がマシよ」

初春「……状況分かってないんですか?死ぬか従うか、御坂さんにはこの2択しかないんですよ」

御坂「それは違うわ。第3の選択が残っているわよ。あなたを殺すって言う選択がね」
135 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 01:37:44.78 ID:HgBmFR610
初春「私を殺す?どうやって?」

御坂「『超電磁砲』で」

初春「そうか。そういうことですか」

初春は氷の盾を生み出し、電撃を防ぐと言った。確かにエネルギーである電撃はそれで防げるかもしれない。
だが物理的なモノを媒介にして射出する『超電磁砲』なら氷の盾を貫く事が出来る。

初春「いいんですか?本当に私を殺しちゃって。佐天さんや白井さん、上条さんは幻滅するでしょうね〜」

御坂「別に。仕方ないわよ。私は自分の命が可愛いし、食蜂に従うのもプライドが許さない。
   この2つを達成する為なら、軽蔑されても構わないと思っているわ」

初春「本気、なんですね?」

御坂「ええ」

初春「うわああああああああああああ!」

悲鳴。
同時、御坂がいた空間が爆発する。しかし御坂は避けていた。

初春(マズいマズいマズいマズい!)

初春は周囲に爆発を乱発していた。
初春の今までの戦略は、自分が絶対に殺されないという状況があったからだ。
だってそうだ。体術だって電撃だって、よほどじゃない限り喰らったって死にはしない。
相手は救うために戦っている。手加減される事は必至だったわけなのだから。

だが『超電磁砲』は違う。音速の3倍以上で放たれるそれは、喰らえばまず即死だ。

物理的なものだからこそ、氷の盾は無意味と化し、逆に爆発は通用するが、音速の3倍以上のそれを爆撃出来るはずがない。
結局、殺す気になった御坂の『超電磁砲』など止める術はない。否、この爆発の乱発すら無意味だった。

ドゴォォォン!とコンテナを媒体にした『超電磁砲』が爆発など突き抜けて、初春の目の前の地面に直撃した。

初春(くぅ!)

初春は即席で氷の盾を生み出し、地面の破片や余波をなんとか凌ぐ。
その間に、本当に居た協力者からの信号を受け取っていた。『コンテナの中に入った御坂がそっちに飛んで行く』と。

初春(ちょっと意味が分からないですが……)

協力者の信号通り、コンテナが飛んできた。
数は5個。どれに御坂が入っているのかは分からない。

初春(なら全部吹き飛ばせばいいだけ!)

バゴォン!とコンテナは爆発し火に包まれ、もろくも地面に落ちた。

初春「やった!?」

やってなどいなかった。ボフッ!と煙をかき分け御坂が手を伸ばす。ごく単純な話。
初春がコンテナを爆発させる寸前に、コンテナから飛び出ただけのことだった。

初春(――くっ!)

御坂(勝った!)

完全に意表を突かれた初春の様子を見て、御坂はそう思った。
しかしここで、御坂の予想を超える出来事が発生した。

ボンッ!と御坂と初春の間の空間が爆発した。
2人は爆発をモロに受け、吹き飛ばされた。
136 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 01:39:40.86 ID:HgBmFR610
超至近距離で爆発を喰らって、うつ伏せに倒れている御坂には立ち上がる力が残っていなかった。

御坂(くっそ……)

初春「無様ですね、御坂さん」

爆発の煽りを受けたはずの初春は、御坂を見下ろしていた。

御坂「な、んで……」

頭の花飾りはなく、柵川中学の冬服も焦げていることから、煽りを受けていない訳ではないはずだ。

初春「あの爆発と同時、咄嗟に氷の盾も生成したんですよ。
   即席だったので、おざなりなものでしたが、こうして立ち上がれるほどには防げましたよ。
   惜しかったですね〜。私を殺すつもりなら勝てたでしょうに、救うために戦ったばかりに、
   こんな結末になっちゃって」

あはははは!と初春は嘲笑いながら、御坂の頭を踏みつける。

御坂「くぅ……」

拳を固く握り締め、立ち上がろうとするが、体は動かない。動いてくれない。

初春「今の私なら、触れた個所の細胞を完璧に死滅させる事が出来ます。
   つまり、一生モノの傷をつける事が出来るんです。どうしましょうか?
   御坂さんの×××に指突っ込んで、子供を産めない体にしましょうか?
   それとも死にますか?それとも、食蜂さんの傘下に入りますか?」

御坂「……どれもお断りよ。私は死なないし、食蜂の傘下にも入らない」

初春「……状況分かっています?御坂さんには選択権はないんですよ」

御坂「そうね。私は敗者。選択権なんてない。けど、アイツがいる。
   アイツが私を死なせないって、守ってくれるって約束したから」

初春「はっ!何を言うのかと思えば、結局は他人任せですか!例の上条さんですか?
   無理ですよ。戦いはここだけで行われている訳ではありません。そんな都合よく来るはずがありません」

御坂「来るわよ……」

初春「来ないですよ!そんな少年漫画みたいな展開、あるわけないんですよ!」

言いながら初春は、御坂の腹を思い切り蹴った。
その後少し離れ、極めて小規模な爆発を、御坂の体の各部位に起こす。

ボッボッボッ!と連続で爆発を喰らった御坂は額からは血を流し、全身には火傷を負った。
もはや悲鳴をあげることすら出来なかった。

御坂(私……ここで……死ぬのかな……)

薄れゆく意識の中で、漠然とそんな事を思っていた。
やっぱり都合よく助けてくれるヒーローなんていなかったのか。

御坂(私って……ほんとバカ……)

そりゃそうだ。来る訳ない。初春の言う通り、戦いは各所で行われているだろう。
だとすると助けに来る余裕はない。仮に戦いに勝利し余裕があったとしても、この場所が分かるとは限らない。
助けに来るなんて幻想を、どうして考えてしまったのだろう。

御坂(まあ……食蜂の下につく位なら……死んだ方がマシか……)

喰らった爆発は合計5発。腹部に両手と両脚だ。多分次は顔面に来る。

初春「さよなら」

御坂は死を覚悟して目を閉じた。
そして――
137 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 01:41:20.66 ID:HgBmFR610
初春「ぐふぅ!」

初春の悶絶した声。御坂は目を開いて初春の方を見る。
そこには。

片膝をつく初春に、彼女の頭の上に右手を置いている一方通行だった。

一方通行「――コマンド実行――削除」

要した時間はやはり2秒。
初春の体は痙攣したように動いたかと思えば、そのまま地面に崩れ落ちた。

御坂「あくせ……られーた……」

一方通行「遅くなってすまなかった」

御坂「そ、れは……春上さん?」

一方通行が左手で抱えている人間を見て、御坂は尋ねる。

一方通行「名前は知らねェけど、ここに来る途中にいたから、ついでにな。オマエはもう喋ンな。一旦病院に戻るぞ」

右手に初春、左手に春上を抱え両手がふさがった為、御坂は背負うことにした。

御坂「待って。最愛が……最愛が黒子達と……」

一方通行「さすがにこの人数を抱えて戦うのは厳しい。だが大丈夫だ。
     手は打ってある。だから、オマエは安心して眠っていろ」

御坂「信じて……いいの?」

一方通行「あァ」

とても短い返事。何の根拠も説明もない。しかし、その声には力強さがあった。

御坂「分かった……」

そうして御坂は、眠りについた。
138 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 01:44:12.32 ID:HgBmFR610
黒夜「まず私が死ンでない事についてだが、オマエとの戦いの後生き延びて、こうして復活を遂げた。
   ただそれだけ。次に、何で私がこのツインテールを殴ったのか。これも簡単。私は食蜂の味方ではないからだ。
   オマエを倒すという目的の達成の邪魔になる奴は、食蜂の手駒でもぶっ潰す」

そして、と食蜂は続けて、

黒夜「オマエが最も疑問に思っているであろうこと。なぜ窒素を纏っていたのにもかかわらず、攻撃を受けたのか。
   簡単だよ。私のこの機械の腕は窒素を吸収し放出する。窒素に頼っているオマエにとっちゃあ、天敵ってワケだ」

絹旗「要するに、私に対して復讐を超遂げたいってことですか」

黒夜「そうだ。だが弱ったオマエを仕留めても意味ねェ。やるなら、万全のオマエをやらねェとな」

そう言うと黒夜は、救急箱を投げた。

黒夜「それで一通りの応急処置が出来る。学園都市製の栄養ドリンクも入っている。
   それらで体調を万全に整えろ。5分待ってやる」

絹旗「……いいでしょう」

『暗闇の五月計画』で何ヶ月か一緒に過ごした絹旗と黒夜は、互いにある程度の事は知っている。
だから黒夜は絹旗の疑問を、思考パターンを推測して答えられたのだ。

それは逆にも当てはまる。絹旗も黒夜の思考がある程度分かる。
黒夜は基本的には攻撃的で、勝つために手段を選ばない。体を改造したことからも一目瞭然だ。

しかし彼女は、基本的には小細工や戦略を好まない。とにかく力で叩き潰す。
因縁があればある相手ほど、力で叩き潰す傾向は強くなる。そんな人間だ。

だから多分、5分ぐらいなら待つし、栄養ドリンクが毒薬と言う事はない。
そして機械の腕のトリックをわざわざ教えた。機械の腕について知らなかったから負けた。
という言い訳をさせない為に。完璧に力のみで叩き潰したと言う事を証明する為に。

どの道だ。左肩とふくらはぎに金属矢は刺さっているし、結構疲れていたところだ。この状況に甘んじるしかない。
139 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 01:47:11.87 ID:HgBmFR610
3分が経過した。
絹旗は刺さっていた金属矢を抜き、応急処置を終え栄養ドリンクを飲んだ。

黒夜「思ったより早く終わったな。しかし5分と言った以上、まだやらない。
   そっちにとっても悪い話じゃないだろ?休めるンだから」

絹旗「……ええ、超そうですね」

黒夜「相変わらず無愛想だねェ。まァいいや。もう一度言っとくが、私のこの機械の腕は窒素を吸収し放出する。
   オマエの『窒素装甲』は通用しねェからな」

絹旗「ですが、お前の『窒素爆槍』(ボンバーランス)も私には超通用しません」

黒夜「そンなこと分かってンだよ。だからオマエには使わねェ。オマエにはこの腕だけで攻撃する」

絹旗「いよいよプライドまでも超捨てましたか。能力ではなく科学の力で勝って、それで満足ですか?
   だったら安心です。そんなプライドの欠片も持ち合わせていない、からくり仕掛けのお前など軽く捻ってやりますよ」

黒夜「絹旗ちゃンよォ、オマエの考えは手に取るように分かるよ。
   そうやって挑発して私の能力を使わせまくり疲弊させ、機械の腕も極力使わせないようにする。だろ?
   残念。そンな挑発には乗りませン」

絹旗(チッ)

絹旗は心の中で舌打ちをした。黒夜の言っている事が図星だからだ。

絹旗は脇腹に痛烈な一撃を喰らっている。窒素を吸収し放出する。は多分真実だ。
だから使わせたくない。が、そんな単純な思考、読まれて当然だった。

『窒素爆槍』が効かないとはいえ、明らかに劣勢だ。機械の腕は2本とかじゃない。実に数千本はあるのだ。
いくら赤子のような腕とは言え、それを一斉に喰らえばひとたまりもない。

絹旗(どうすれば……!?)

逃げるか。いや無理だ。黒夜は『窒素爆槍』を放出して空を飛べるほどだ。
機動力では相手の方が上。逃げ切れるわけがない。背を向けた時点で負ける。

そうなると、やはり真っ向勝負しかないのか。
無理だ。1対1じゃあどうしようもない。誰か助けにきてくれないものだろうか。

絹旗が悩んでいると、黒夜はそれを見透かしたかのように口を開く。

黒夜「悩ンでるねェ。でもその時間ももうお終いだ。5分経った。いくぞ」

絹旗「ちくしょう!」

黒夜の機械の腕が絹旗に伸びる。戦いが始まった。
140 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 01:50:25.06 ID:HgBmFR610
絹旗「うおりゃー!」

絹旗はとにかく逃げ回り、機械の腕を潰す為に倉庫の瓦礫やコンテナを投げまくる。

黒夜「何だそりゃ」

しかし『窒素爆槍』でそれらは粉々に砕かれた。絹旗本人に通用しなくても、瓦礫などには通用する。
そして機械の腕は絹旗に迫る。

絹旗(考えろ。考えるんだ)

懲りもせず逃げながらコンテナなどを投げ、時間稼ぎをしながら考える。
しかしながら、コンテナや倉庫にも限りがある。そこまで時間はないだろう。

絹旗(『窒素爆槍』は掌から出す……って、そんな分かり切った事何の解決策にも――いや、掌……掌だ!)

ある1つの可能性に気付いた絹旗は、転がっていたコンテナの上に跳び乗り、さらに倉庫の上に跳び乗った。
そんな絹旗を追い、機械の腕が伸びてくる。

絹旗「そこです!」

絹旗は右拳を握るという動作をした。同時、グシャア!と機械の腕約100本が潰れた。

絹旗「窒素を吸収し放出するのは、掌からだけだと思いましてね。どうやら超ビンゴのようですね」

要するに絹旗は窒素を操り機械の腕の掌ではなく、腕部分を狙って破壊したのだ。

黒夜「ほォ」

絹旗「それに自分で言っていて、超気付きましたよ。吸収し放出するってことは」

言いながら絹旗は、今できる最大限の窒素を操り黒夜に“投げた”。
当然黒夜は機械の腕を出して応戦する。

ボッシュウウウウウ!という音と共に窒素は吸収され、黒夜の脇腹から出ていた機械の腕は全て砕け散った。

絹旗「吸収しきれないほどの量の窒素をぶつければ、破壊されると言う訳です」

黒夜「大正解だ」

機械の腕全てを失ったと言うのに、黒夜は余裕そうだった。

絹旗「何余裕ぶっこいているんですか。お前の負けですよ。黒夜」

黒夜「オマエはさ、いつまで経っても短絡的だよなァ。1つの攻撃手段を潰しただけで、なぜ勝ったと言い切れるンだ?」

絹旗「何が言いたいんですか?」

黒夜「オマエを潰す手段は、まだあるンだよ」

言うが早いか、黒夜は跳び、3mの高さの倉庫の上に居る絹旗の眼前に現れ、彼女の顔面に拳を叩きこんだ。
その拳で絹旗はふらつき、倉庫から落ちた。
141 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 01:54:52.00 ID:HgBmFR610
絹旗「まさか……お前も……」

鼻っ柱を押さえながら絹旗は呟く。

黒夜「だから言ったろ?短絡的すぎンだよ。オマエは」

バゴォ!と絹旗の腹部に蹴りが叩きこまれた。
それは人間の脚力の比ではなく、絹旗は数十m地面を転がった。

絹旗「おえぇ!」

口からは血が溢れ、悶えることしか出来ない絹旗の前に黒夜は立つ。

黒夜「オマエの読みは途中までは良かったよ。掌からしか吸収できない。
   吸収しきれないほどの窒素をぶつける。正解だよ。
   掌から吸収した窒素は、別の掌から放出しなきゃいけないからな。
   それを無視して、全掌でオマエの窒素をガードした。そりゃあ壊れるってモンだ」

だがなァ、と言いながら絹旗の腹を踏みつけ、かかとでグリグリしながら続ける。

黒夜「それを私がわざとやったということに気付かずに、勝利を確信したのは間違いだったなァ。絹旗最愛ちゃン?」

絹旗「ぐ、おぉ、が、ぁ」

痛む腹を踏みつけられ、絹旗は最早返事すら出来ない。

黒夜「オマエはいつまで経っても浅墓だ。どうして私の全てを知りもしないのに、勝利を確信したンだ?
   オマエだって成長して、レベル5にまでなったンだろ?
   じゃあ私だって成長している、他のトリックがあるかもしれない。と普通は思わないか?」

黒夜は問いかけるように喋り続けるが、当然絹旗は返事が出来ない。

黒夜「私はオマエを倒す為だけに体をさらに改造した。私の全身は、窒素を吸収し放出する事が出来る。
   さらに窒素を蓄えたり、放出の強さを自由に調節できたりだ。
   私が倉庫まで跳ンだのは、これらの機能を利用したからだ。オマエ専用のカスタマイズだよ。喜べ」

絹旗「うぅ、ぐ、ぉ」

絹旗は力の入らない手で、黒夜の足を何とかどけようとする。

黒夜「知りたがりのオマエのことだ。1つの疑問が残っているだろう。
   なぜわざと窒素を吸収し腕を破壊させたのか。その答えはこうだ。
   短絡的なオマエのことだ。腕を破壊した時点で勝利を確信し油断すると思っていた。
   私はね、オマエをただ潰すだけじゃ足りないンだよ。天国から地獄に叩き落とされる感覚を味あわせたかったのさ」

それと、と黒夜は続けて、

黒夜「オマエは私の腕を破壊するために、攻撃自体はたったの2回だったが、莫大な窒素を操った。
   つまり、能力をほとンど使い切ってしまった訳だ。でもそれで問題ないとオマエは思った。
   機械の腕さえ破壊すれば『窒素爆槍』しかない私に勝てると踏ンでいたわけだからなァ」

絹旗「つまり……何が言いたいんですか……」

腹は踏まれ続けているが、何とか言葉を紡ぐ。

黒夜「私が言いたい事は、完璧に勝ちたかったってことさ。
   私が機械の腕で肉体的にオマエをフルボッコにしても、能力自体は万全だった。これじゃあ真の勝利とは呼べない。
   能力もたくさン使って、もう使えないって状態でフルボッコじゃないと駄目だったンだ」

要するにだ。黒夜は絹旗に能力をギリギリまで使わせ、絶望を味あわせる為だけに機械の腕をあえて破壊させた。
ということだ。

完璧に勝つ為とはいえ一見無駄な行為にも思えるが、黒夜は絹旗の性格や考え方を完璧に読み切った上でそれを実行し、
結果として絹旗はこうして地面に伏し、黒夜に一切の反撃が出来なくなっている訳だから、この勝負は黒夜の完全勝利と
言えるだろう。

つまるところ、絹旗は完敗だった。
142 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 01:57:09.71 ID:HgBmFR610
黒夜「さァて、どう料理しようか?まずは眼を抉ろうか?
   それとも×××に掌無理矢理ぶち込ンで、『窒素爆槍』炸裂させるか?
   それじゃあ死ンじまうモンなァ。そうだ。皮膚の3割を剥がそう。3割なら大丈夫だろ。それクリアしたら5割で――」

黒夜の声など、絹旗の耳には届いていなかった。
あるのは思考など何もかも読まれ、こうして敗北した屈辱だけだ。

絹旗「……せよ」

黒夜「あァ?」

絹旗「早く殺せよ……遊ンでるンじゃねェよ。オマエみたいな劣等生に負けた時点で、生きている価値はねェ。
   一思いにさっさとやれ」

魔術と科学の戦争で対峙した時も抑えてきた、一方通行の思考が持つ攻撃性が溢れ出てくる。
口調どころか、丁寧な言葉遣いまで失われている。

黒夜「イヤだね。オマエは簡単には殺さねェ。じっくりたっぷりいたぶってから殺す」

絹旗「クソが……」

黒夜「決ーめた。まずは両手の指を千切って、入れ替えて――」

黒夜の言葉は続かなかった。
一方通行が彼女の顔面に飛び蹴りを叩きこんで、数十mはぶっ飛ばしたからだ。

一方通行「ようドチビ」

絹旗「一方通行……どうしてここに……」

一方通行「面倒臭ェから、詳しい説明はしねェ。ただ言える事は、オマエを助けに来たってことだ」

絹旗「そうですか……って、ちょ、あの」

一方通行「ハシャぐな」

一方通行はバタバタ暴れる絹旗を左手で抱えた。

絹旗「だって、こんなモヤシに抱えられるなんて超恥ずかしいです///」

一方通行「じゃあ自分で歩くか?」

絹旗「……超すいませんでした。出来ればおんぶしてください」

一方通行「仕方ねェな」

絹旗「ちょ、そこは、お尻は触らないでください!このアクセロリータ!」

一方通行「はァ?オマエが辛そうにしてっから支えてやってンだろうが。自分で歩くか?」

絹旗「……超すいませんでした。このままでお願いします。(い、意外と大きい背中///)」

黒夜「イチャついてンじゃねェぞクソコラァ!」

一方通行と絹旗が呑気なやりとりを交わしている間に、ぶっ飛ばされた黒夜が拳を固く握り締めて、
彼らに猛スピードで突っ込む。

絹旗(超やばいです!)

一方通行「ふン」

しかし絹旗の心配は取り越し苦労だった。
一方通行は左に数歩移動しただけで、黒夜の突進をいとも容易く避けたからだ。
143 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 01:59:47.74 ID:HgBmFR610
黒夜(避けただと!?)

衝撃の事実に驚愕しながらも、ズシャアアア!と地面を数mスライドして黒夜は止まった。
何もかも『反射』で済ませてきた一方通行が『避ける』という行為ができるとは微塵も思っていなかった。
だがそれは。

黒夜「やっぱり覚えていたか。私の体に木原数多の数値が入力してある事を」

自分が脅威である事を認めているようなものだ。

一方通行「あの飛び蹴りを耐えるとは、丈夫さだけはあるよォだなァ」

黒夜の言葉などまるで無視した発言だった。

黒夜「まさか避けられるとは思わなかったが、避けるという事は私を恐れていることと同義だぞ。一方通行」

発言を無視した一方通行の発言を、さらに無視して発言した黒夜。
一方通行は呆れた様子だった。

一方通行「よくもまァ下らない事をペラペラと喋りやがる。やっぱりオマエはゴミだなァ」

黒夜「あァ!?」

一方通行「しかしだ。人間やめた粗大ゴミとは言え、俺が生み出したゴミでもある。
     ゴミは責任もって片付けないといけねェよなァ」

黒夜「その言い方だと、オマエのその背中に居るチビもゴミってことになるが。
   いや、ゴミである私に負けたンだから、ゴミ以下って訳かァ!?」

絹旗(何を!?)

一方通行「何で?コイツはただのチビだろうが」

黒夜「何でだよ。オマエの言い方だと」

一方通行「あのさァ」

黒夜の言葉にわざわざかぶせてまで、言う。

一方通行「言い方もクソも関係ねェンだわ。
     チビはチビ、ゴミはゴミって言う話に、特別な意味や理由なンてねェンだよゴミ」

黒夜「ちっくしょおォォォがァァァ!」

大気中にある窒素を吸収し、足から放出。結果先程の3倍のスピードで一方通行に迫る。
彼の顔面を木原神拳で殴り飛ばす為に。

黒夜「死ねェェェ!」

体中がサイボーグ化している黒夜の膂力は人間の比ではない。
よって一発でも当てれば勝てるのだ。そして一方通行は今度こそ避けられないだろう。

一方通行「遅ェ」

しかし一方通行は黒夜の予想に反して、屈むことによって拳を回避。
そして彼は右拳を固く握り締めていた。黒夜の腹を殴る為に。

一方通行「終わりだ」

ドゴォン!とベクトルの力が乗せられた超強力な拳が、黒夜の腹に叩きこまれた。
あまりの威力の拳を喰らって、黒夜はだらりと一方通行に寄りかかった。戦いはあっけなく終わった。
144 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 02:03:06.43 ID:HgBmFR610
一方通行「邪魔くせェ」

寄りかかる黒夜を、一方通行は容赦なく払いのける。

黒夜「な……ンで……オマエ……」

一方通行「まだ意識があンのか。本当に体だけは丈夫に出来てやがるな」

黒夜「そ……ンな……風に……」

一方通行「あァ?」

絹旗「何でモヤシだった一方通行が、攻撃を2度も避け、超カウンターを決められたのか。
   って言いたいんだと思いますよ」

一方通行「何でって、そンなモン決まってンだろ。成長した。ただそれだけだ」

今の黒夜はまさに絹旗と同じだった。
一方通行の全てを知りもしないのに、木原神拳があるからと思って勝利を確信し、慢心したことが一番の敗因だった。

一方通行「さァて……どうする?」

一方通行は黒夜に向かって問いかける。そこに絹旗は口を挟む。

絹旗「どうするってどういうことですか……超殺すべきでしょう……」

一方通行「俺もついさっきまではそうするつもりだったンだがよォ。ここまで丈夫なら、無理して殺す事もねェかなァと」

絹旗「超意味わかんないです。……まさか、奴隷にでもするつもりですか?
   無理ですよ。性格が超超ちょー歪んだやつですから」

一方通行「そンなつもりはねェよ。ゴミってのは、捨てる以外にもリサイクルって言う方法もある。
     ただ捨てるよりは、再利用した方がマシだろ」

絹旗「冷酷な一方通行が、超甘い事を言うようになりましたね」

一方通行「良い傾向だろォが」

絹旗「……そうですね。殺さずに済むなら、それはそれでいいです」

一方通行「ということで、改めてどうする?」

黒夜「どうするも……何も……敗者は……勝者に……従わなければ……ならない……」

絹旗「じゃあ」

黒夜「だが……断る!」

黒夜の体が爆発した。
145 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 02:03:58.02 ID:HgBmFR610
一方通行「自爆、流行ってンのか……?」

黒夜の自爆を、一方通行は後ろに跳んで回避していた。

絹旗「黒夜……」

一方通行「悲しいか?」

絹旗「……いえ、成績コンプレックスのストーカーが居なくなって、超嬉しいです」

一方通行「……そうか」

絹旗「……はい」

そう言った声は震えていた。明らかに泣くのを我慢している。
なぜ泣くのを我慢しているのか。それは黒夜が死んだからだ。

ここで1つ疑問が浮かぶ。
なぜ黒夜が死んだからと言って、絹旗は悲しむ必要があるのだろうか。
その答えは『暗闇の五月計画』にある。
146 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/26(月) 02:04:53.62 ID:SL7LV3exo
黒夜「だが……断る!」

黒夜の体が爆発した。

夜中なのに声出してワロタwwwwwwwwwwwwwwwwww
147 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 02:08:09.79 ID:HgBmFR610
そもそも『暗闇の五月計画』とは『置き去り』(チャイルドエラー)という、
平たく言うと学園都市に捨てられた子供達を使って行われた計画だ。
絹旗最愛、黒夜海鳥の2人もそうだった。2人はここで出会った。

学園都市の『闇』を知らない当時の2人は、純粋な少女だった。
『置き去り』という同じ境遇からか、はたまた相性が良かったのか、2人は親友となった。

そんな2人含む『置き去り』達は『暗闇の五月計画』で、能力開発をはじめとする様々な実験の実験体となった。
それはまさに、地獄と言っても過言ではなかった。
実験に耐えられず肉体的に崩壊していく者、精神的に崩壊して自殺をする者。
そんな掃き溜めの中で、絹旗と黒夜の2人は何とか生き延び、互いを励まし合った。
彼女達は強かった。並の実験なら『暗部』に堕ちることはなかったのかもしれない。

だが不幸なことに、この『暗闇の五月計画』は当時レベル5の第1位だった一方通行の演算パターンを参考に、
能力者の『自分だけの現実』を最適化、能力者の性能を向上させ『一方通行の精神性・演算方法の一部を意図的に
植え付ける』という最低最悪のものだった。

これにより彼女達は、窒素をそこそこ操れる程度だったが、一方通行の攻撃性を付与した黒夜には『窒素爆槍』が、
防護性を付与した絹旗には『窒素装甲』という特性が発現した。
さらに一方通行の思考パターンの一部を植え付けられた関係上、能力使用時に感情が高ぶると、
一方通行の思考が持つ攻撃性に本来の人格が引き摺られてしまうまでになってしまった。

それでも絹旗は、完全に抑える事はできなくともある程度は抑えてきた。
だが黒夜は、攻撃性が付与された事もあってか、暴走してしまったのだ。
暴走した黒夜によって『暗闇の五月計画』の研究者達は皆殺し。計画は一定の成果を上げたものの破綻した。

そして彼女達は同じ『暗部』という道に進む。
ほんの少しではあるが良識を持っていた絹旗も、そこで完全に『闇』に染まった。
黒夜はさらに加速度的に堕ちていった。親友だった彼女達は、お互いの事を気にもかけなくなっていった。

しかし転機は突然訪れた。第3次世界大戦直後、一方通行によって『暗部』が解体されたのだ。
その時絹旗は、今は亡き浜面・滝壺と出会い、良識を多少は取り戻していたこともあってか、素直にその事を喜んだ。
だが黒夜は違った。
詳しい事は分からないが、彼女は表の世界に戻るどころか『暗部』が解体されることすら良しとしなかった。
彼女達の道はそこで完全に違った。

その後彼女達は、大戦直後の11月初旬、争うこととなった。結果は絹旗の負け。絹旗は気付いた。
覚悟はしていたがもう黒夜は以前の黒夜じゃない。

それでも絹旗は黒夜の事を諦めきれなかった。たとえ性格が最悪でも、体をサイボーグ化し、人外に成り下がっても。

その後11月の下旬、黒夜含む『新入生』が学園都市にクーデターを起こした。
結果としては学園都市側が勝利したわけだが、絹旗と黒夜が直接出会う事はなかった。

さらにその後12月のクリスマス・イブに魔術vs科学の戦争が勃発。
その機に乗じて『新入生』の残党が、絹旗含む浜面達に牙をむいた。そこで絹旗と黒夜は、2度目の直接対決を迎えた。

絹旗は、もはや元には戻れそうもない黒夜を見て思った。もう黒夜の事は忘れようと。
今まで紆余曲折あったが、浜面と滝壺と麦野との平和を崩すのなら容赦はしないと。

いざ戦いが始まると、一時は黒夜に追い込まれるものの、最終的には逆転勝利。
常人なら即死級の必殺技をクリーンヒットさせた。これで絹旗としては完全に決着をつけたつもりだった。

しかし、今日4月13日。こうして黒夜と再び相まみえることとなった。
浜面達は死亡したが、今は白井や初春との平和がある。再び叩き潰す事を決意した。

結果は敗北。しかし一方通行に助けられ、逆に黒夜を追い詰めることに成功。
その時点で絹旗は、容赦なく叩き潰すつもりだった。だが一方通行は見逃すと言いだし、黒夜の方もかなり弱っていた。
絹旗はそこで希望を抱いてしまった。ひょっとしたら前のような関係に戻れるかもしれないと。
だがその思いは届かず、黒夜は自爆。そして今に至る。
148 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 02:10:22.27 ID:HgBmFR610
一方通行は、絹旗と黒夜について詳しい事は知らない。
でも彼女達、いや『置き去り』達は自分が存在したが為の計画に巻き込まれて狂ったのであろうことは容易に想像がつく。
だから彼は、こんな事を言った。

一方通行「記憶、失ってみるか?」

絹旗「いきなり何言いだすんですか?それに、どうやって」

一方通行「俺の力を使えば多分できる。辛い記憶を失わせる事が出来る。
     今まで辛い事だらけだっただろ?記憶を無くしても、そンなに損はねェと思うが」

絹旗「……そうかもしれません。けど、超遠慮しておきます。
   辛い記憶だって私の一部で、否定するのはいけないと思いますから。
   なかったことにしては、いけないと思いますから」

一方通行「……そうか。ならせめて、俺の思考パターンだけでも消すか?」

絹旗「……どうしましょうかね。窒素の装甲がオートじゃなくなる気がしますし、超迷いますね」

一方通行「別に良いじゃねェか。オートじゃなくても。オマエが常に集中を緩めなければ、問題ねェよ」

絹旗「そうですね。じゃあ、お願いします」

一方通行「あとでな。今はゆっくり眠っていろ」

絹旗「はい」



時刻は7:00。戦いの第一局面が終了した。
149 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga]:2011/12/26(月) 02:15:10.20 ID:HgBmFR610
とりあえず今日は眠たい気がするしここまでにしておこうかなと思います。
よっぽどの事がなければ、早ければ明日の朝から、遅くても火曜日には更新します。
150 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/26(月) 08:50:37.91 ID:HKf+pSXAO
151 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/26(月) 09:51:36.99 ID:PJHQ7meAO
すげえ量だな
152 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/26(月) 21:12:41.24 ID:rb++bdzDO
今更だから一応言っとくけど
待ってた!
153 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 09:51:25.29 ID:JDo3T/bx0
レスくれた人ありがとう。>>1です。
少しだけ投下します
154 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 09:56:33.07 ID:JDo3T/bx0
上条達は6:30に冥土帰しの病院に到着。
まず上条は、五和をとある高校の制服から学園都市の協力機関が持ってきた濃いピンクのウインドブレーカーと
濃いグレーのパンツに着替えさせた。その後今の状況を簡単に説明。ここまでで約20分経過していた。

上条「そう言う事だから、本当は巻き込みたくないんだけど、五和にも協力してほしい」

五和「分かりました。それで、その、本当にごめんなさい。操られていたとはいえ、当麻さんに攻撃するなんて……」

上条「いいよ別に。特に怪我とかないし。それよりさ、これ」

そう言って上条が五和に見せた物は、今は亡き神裂火織が使っていた『七天七刀』だった。

五和「これは、女教皇(プリエステス)の……どうして……?」

上条「よく分かんねーんだけど、学園都市の協力機関が持ってきたんだよ。
   とりあえずさ、槍も壊れちまったわけだし護身用に持っておけよ」

五和「わ、私ごときがプリエステスの得物を使いこなせるでしょうか……まして私は本来、槍使いですし……」

上条「別に使いこなせなくたっていいだろ。何もないよりはマシさ。なあに、いざとなったら俺が守ってやるからさ」

五和「当麻さん///」

上条「そう言う事だからさ、朝飯食おうぜ。協力機関が持ってきたおにぎりとかの軽食になるけど」

五和「え、そんな呑気にしていて良いんですか?」

上条「多分だけど、大丈夫だ。食蜂にとってこの戦いはゲームにすぎない。
   だから徹底的に俺らを追い詰めるとかは、まだしないはずだ。
   この病院だけは、まだあえて見逃されているはずなんだ」

五和「そ、そんな希望的観測で大丈夫ですか?」

上条「大丈夫だって。万が一能力者が攻め込んできても、俺が守るから」

五和「当麻さん///」
155 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 09:57:59.53 ID:JDo3T/bx0
そうして2人は軽い朝食を摂った。時刻は7:00になっていた。

上条「さーて、朝食も食べ終わった事だし、行きますか」

五和「あの、今更なんですけど、当麻さんは2度目の朝食だったんじゃないですか?
   もしかして、私に付き合って無理して」

上条「確かに2度目だったけど、腹減っちゃってさ。腹が減っては戦はできぬって言うし?貴重な食料食べちゃった」

五和「そ、そうですか。あはは……」

ちょっと残念だったが、食べちゃった。が、お茶目で可愛いと思ってしまった。

上条「よし。じゃあ行きますか」

五和「はい」

垣根「ちょーっと待って下さいよー」

戦場に舞い戻ろうとした2人を、病院の入口で垣根が阻んだ。
そしてその垣根の隣には、十九世紀のフランス市民に見られた格好(全身黄色)をした人物が御坂を背負って立っていた。

「はろ〜」

上条「ヴェント!?と傷だらけの御坂!?」

ヴェント「詳しい説明は病院の中でする。もうすぐダーリンと、一方通行だっけ?そいつも戻ってくるからさ」
156 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 10:01:26.80 ID:JDo3T/bx0
ヴェントの言う通り、7:10には絹旗を背負った一方通行と、真っ赤なスーツに身を包んだフィアンマが病院に戻ってきた。
傷だらけの御坂と絹旗は、五和とヴェントと一方通行によって応急処置。
フィアンマは、上条、垣根に病院のロビーで状況説明をすることになった。

上条「聞きたい事があり過ぎて、頭がパンクしそうなんだが……」

「俺様達がここに居るのは、雲川芹亜に指示されたからだ。助っ人の6人の内の2人だ」

上条「他の助っ人は?」

フィアンマ「他も各々役目を果たしているよ。削板軍覇なんかは既に戦闘を開始しているからな」

上条「本当に大丈夫なのか?雲川先輩も頼りになる強い助っ人だって言っていたけど、正直信じられない。
   だって俺の能力で『原石』の力を失って、しかも能力開発していないから完璧な一般人。
   それでレベル5に対抗できるとはとても思えない」

フィアンマ「そう思ってやつには魔術を仕込んだ。今や俺様達でも理解不能な魔術を使う。
      それと、やつは戦闘に関しては天賦の才がある。何も心配いらん」

上条「マジかよ……」

垣根「で、他の3人は?窒素のチビガキは助っ人じゃないって聞いたんだが」

フィアンマ「戦争の時に一緒に居た服部半蔵と郭とか言う忍と、闇咲逢魔だ」

垣根「ああー、忍ね。確かに居たような気もするけど。で、やみさかおうま?誰だよ」

フィアンマ「魔術師だよ。結構使える奴だ。何せ透明になる魔術を使える。今頃はどこかに侵入しているんじゃないか?」

上条「なるほど。助っ人については分かった。じゃあ次の疑問だ。
   皆戦った能力者はどうした?フィアンマとヴェントは侵入者なんだから、当然ここに来るまでに迎撃されたんだろ?
   垣根もだ。わざわざテレポートされて、誰とも戦ってないわけがない。
   御坂に至っては傷ついて帰ってきた。まさか、逃げてきただけか?」

フィアンマ「もっともな疑問だが、それは問題ない」

そう言うとフィアンマは、右手に持っていた魔道書らしきものを上条に見せる。

フィアンマ「この本の中に能力者を回収する事ができる。
      さらに言うと、準備をしておけば本の中に居る人間を好きな場所に移動させる事も出来る」

上条「よ、よく分からんけどスゲー!……って垣根はあんま驚かないのな」

垣根「助っ人の話はともかく、本の説明は黄色いねーちゃんからもう聞いたからな」

フィアンマ「要するにだ。救った能力者はこの本の中に閉じ込める。
      またはこの本を通じて、ある場所にワープさせる事も出来る。これで救った能力者達は安全だろ?」

上条「凄いな!これで能力者の心配はいらなくなった訳だ。五和も転送してもらおうかな」

フィアンマ「俺様はどっちでもいいぞ。後で話し合ってくれ。この本は俺様の他にも、助っ人全員が持っている。
      忍ペアは2人で1つだがな」

上条「そっか。じゃあ垣根や一方通行は、救った人を転送してもらったんだな」

フィアンマ「ちなみに現時点で回収したのは、合計9名。
      今も戦っている削板と俺様達が回収したのを合わせると、65名となる」

上条「お前らどんだけ回収したんだよ!」

フィアンマ「普通だ。それより俺様達はあくまで回収したにすぎず、洗脳自体は解いていない。
      だから今から、お前の『幻想殺し』で解除する」

上条「どうやって?」

フィアンマ「こうやって」

フィアンマは手に持っていた魔道書を開く。するとそこから、56人の人間が飛び出て来た。
157 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 10:03:36.44 ID:JDo3T/bx0
上条「うわっ!ちょっと、おい!」

56人の人間は乱雑にばら撒かれた。全員気絶している。

フィアンマ「こう言う風に、5冊の魔道書はリンクしていて、魔道書の中身は別の魔道書に自由に移動できる。
      距離の制限は特にない。さあ早く頭を触れ」

上条「……お、おう」

上条は56人の頭に次々と触れて行く。独特の音が56回響き渡る。

フィアンマ「よし。じゃあ転送するぞ」

フィアンマは特に何のモーションも呪文らしき事も唱えなかった。
それでも56人の人間は、開いている魔道書に吸い込まれていった。

上条「すげーな。でもその魔道書、破壊されたらどうなるんだ?」

フィアンマ「中に何かが入っているときは、その入っているモノも壊れるが壊させはしないし、
      基本的に本の中に入れっ放しにはせずに、すぐに転送するから心配はいらんよ」

上条「それ超便利なんだけど、俺らにもないのかよ?」

フィアンマ「あと1冊だけある。だがこの魔道書は『幻想殺し』を持つお前はもちろん、能力者にも使えない。
      使えるのは、何の才能もない一般人か魔術師のみだ。
      土御門の為に用意したんだが、どうやら洗脳されたらしいじゃないか。
      だから、お前の彼女に持たせるのが妥当かな」

上条「そっか」

フィアンマ「さて、女の子達の治療が終わったら、軽く作戦会議だ」
158 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 10:04:44.56 ID:JDo3T/bx0
食蜂陣営

食蜂「で、結局今の状況は?」

土御門「侵入者3名に合計56人が奪還。一方通行には3人殺され1人奪還。
    その後御坂と絹旗の救助に向かい、1人殺され6人奪還。他は垣根に20人倒され1人奪還。
    上条に1人奪還されていますね」

食蜂「合計89の手駒が減ったわけねぇ」

折原「向こうの状況は、御坂美琴と絹旗最愛が満身創痍。一方通行様にダメージ。上条様と垣根様は無傷ですね」

食蜂「なかなか楽しいゲームねぇ。さぁて、お次はどうしましょうか……」
159 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 10:08:59.05 ID:JDo3T/bx0
7:20 第14学区

「おっしゃあ!これで8人目!」

これまでに『洗脳能力』(マリオネッテ)『思念使い』(マテリアライズ)の精神系能力者2名、
肉体強化の能力者1名、テレポーター1名、『量子変速』(シンクロトロン)の釧路帷子と介旅初矢の2名、
『絶対等速』(イコールスピード)の合計7名を倒し奪還。
そしてたった今、絹旗が先日拘束した『肉体鋼化』の女を、削板軍覇は奪還した。

削板「次はどいつだぁ!」

叫ぶ削板に呼応するように、9人目の能力者が削板の目の前にテレポートされた。少しぽっちゃり気味で、おかっぱの少年。
普通の制服を着ているが、首からは派手なシルバーアクセサリーがいくつもぶらさがっていた。

削板「おおう、なんか似合ってないぞ。その首にぶら下がっている銀色の奴」

「間違った昭和の番長みたいな恰好をしている君には言われたくないね」

鋼盾掬彦は若干キレ気味で返す。

削板「何だと!?俺は怒ったぞ!」

削板は地面を蹴って駆けだした。
2人の距離は10m以上開いていたが、削板はその距離をわずか2歩で埋め、時間にして1秒強で鋼盾の懐に入った。

削板「っ!」

放たれた拳は、しかし空を切った。鋼盾が右に移動したからだ。

削板「やるじゃねぇか。ガッチリした体型の割には、動けるんだな」

鋼盾「君の今までの戦いをずっと見ていたんだ。今更その程度では倒されないよ。僕には油断も慢心もない。
   次は僕の力を見せてあげるよ」

そう言って鋼盾は、首にいくつもぶら下がっているシルバーアクセサリーの1つを触った。
すると金属はウネウネと動き出し、最終的に1.5mほどの鎌になって、彼の手に収まった。

鋼盾「『金属使い』(メタルマスター)の僕は、あらゆる金属を使いこなす事が出来る。
   さっきの体を鋼鉄化するだけの脳なしじゃないからね」

削板「なるほどな。今の発言で確信したよ。お前はただの根性無しだ」

鋼盾「何だって?どうしてさ」

削板「お前は今、あの女の事を馬鹿にした。他人の事を馬鹿にするような根性無しには、絶対負けない」

鋼盾「なんだそりゃ。お前みたいな熱血馬鹿は死ねっ!」

鋼盾が駆け出す。意外と素早い彼は削板にある程度近付き、首を刎ねる為に鎌を水平に振るった。

対して削板は、その場で思い切りジャンプ。避けた鎌の刃の部分に乗り、棒の部分に1歩踏み出す。

鋼盾(コイツ……!)

このままでは顔面を蹴られる。そう考えた鋼盾は鎌をあっさり手放し、後退する。
結果削板の蹴りは空を切り、バランスを崩す。

その隙に鋼盾は、左手でアクセサリーの1つに触れて槍にして、削板に放つ。
しかし削板は、ほんの少しだけ横に移動して槍を掴み取った。

鋼盾(尋常じゃない反射神経だな……)

だが鋼盾は別段焦っていなかった。右手でアクセサリーの1つに触れ鎖を作り、落ちている鎌と繋いだからだ。

鋼盾「おらおらおらぁ!」

鎖で繋いだ鎌をやたらめったら振りまわすが、削板は涼しい顔して避ける。

鋼盾(何で……何で当たらないんだーっ!?)

削板の戦闘は見てきた。確かに彼は、なぜか攻撃を避けるスキルが高く、テレポーターですら彼を倒せなかった。
だからと言って、これだけ避けるのは異常すぎる。

鋼盾が焦り始めたころには、避けながらも少しずつ近付いていた削板が、彼の懐に入っていた。

削板「せいっ!」

鋼盾「くそっ……!」

鋼盾はギリギリで盾を作り出して、削板の拳を防いだ。防いだが、地面を数mスライドした。
160 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 10:10:14.27 ID:JDo3T/bx0
鋼盾(なんて威力だ……!)

避けるスキルだけではなく、攻撃の威力も半端じゃない。
削板の戦いを見ているときは、なぜ攻撃を当てられず、それどころか負けてしまうのかよく分からなかったが、
実際に対峙してみるとその強さが分かった。

削板「おらぁ!」

削板は虚空から魔法陣らしきものを出し、それを掴み取って円盤投げの要領で投げた。

鋼盾(そんなもの、僕の盾の前では!)

バカ正直に真正面から来た魔法陣を、盾で防ぎ上に弾いた。が、その威力で鋼盾は盾ごと仰け反った。

削板「終わりだ」

その隙に削板は鋼盾の前に行き、落下してきた魔法陣に拳を通す。
魔法陣を通った拳は青く輝き、盾など破壊して、鋼盾の腹部に深く突き刺さった。

鋼盾「め……ちゃくちゃだ……」

腹部に強烈な一撃をもらい、地面に崩れ落ちる鋼盾を、削板は魔道書で回収した。
161 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 10:12:47.99 ID:JDo3T/bx0
7:30になって、御坂と絹旗が復活した。
御坂はオレンジ色のジャケットに黄色のスカートと茶色のブーツ、絹旗に至っては上下ともジャージという出で立ちだ。

上条「御坂……服が、明るいな……」

御坂「し、仕方ないじゃない!もう服がないのよ!」

絹旗「そうです!私なんか超ジャージですよ!」

上条「す、すまん」

一方通行「仕方ねェから、服屋行くぞ」

垣根「まあ今の地上の学園都市には俺達しかいないからな。服も盗み放題って訳だ」

御坂「服を盗むなんてダメですよ!」

上条「自販機に蹴りぶち当てて、無銭で缶ジュース飲んでいた奴がそれを言うか?」

御坂「あれは私の1万円札を飲んだんだからいーの!まだ貯金ある筈よ」

一方通行「まァどうでもいい。金は俺が払ってやるから。ドチビもだ。好きなの選べ」

絹旗「うぇ?一方通行が超優しい……だと……」

垣根「あれ?ひょっとして一方通行はロリコンなんですかー?」

一方通行「そンなンじゃねェよ。服は大事だろォが」

垣根「そもそもさー。別に美琴ちゃんや最愛ちゃんはもう戦わなくてもいいんだぜ?俺達で何とかするし」

御坂「遠慮します。一方通行が守ってくれるって言っていますし、負けたままでは終われないので」

絹旗「私も、超迷惑でなければ、皆さんと一緒に戦いたいです。一方通行、いざとなったら私の事も守ってくれますよね?」

一方通行「オマエが望むのなら、守ってやる」

絹旗「という事で、私も戦いからは降りません」

上条「一方通行、お前何ハーレム築いているんだよ。羨ましいなチックショー!」

御坂「アンタ、それ本気の発言?」

上条「本気だけど。何か変なこと言った?あと名前で呼んでくれって」

垣根「つーか彼女の前でそういう発言どうなの?」

五和「当麻さん……」

上条「え、あ、いや、その、あれですよ。男だったら、誰でも一度はハーレム築きたいって願望あるし、そうだよね?」

一方通行「ねェけど」

垣根「同じく」

五和「当麻さん……」

上条「だから、その、すいませんでしたーっ!」

上条の本気の土下座が繰り出された。
162 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 10:15:14.39 ID:JDo3T/bx0
フィアンマ「いつまでコントをやっているんだ。少し黙れ」

垣根「全くだ」

一方通行「オマエが言うな」

御坂「一方通行が言えた立場じゃないでしょ」

絹旗「超同感です」

ヴェント「あーもう!無限ループか!」

フィアンマ「もういい。まずは、服を買う組と能力者奪還組に分かれる。
      一方通行と女の子2人、ヴェントが服組、上条と俺様と垣根と五和が能力者奪還組だ」

上条「つーか思うんだけど、服を買う暇あるか?食蜂にまたテレポートされたら」

一方通行「それは多分大丈夫だ。いくら食蜂のクソアマでも、服を買う余裕ぐらい与えるはずだ」

そんな一方通行の希望的観測に呼応するように。

食蜂「うんうん。いいよいいよ。服でも食糧でも武器でも、何でも思う存分準備しちゃってぇ〜。
   やっぱりさぁ。弱りかけや不意打ちで倒してもつまらないのよねぇ。
   準備万端で『これで負けたら仕方ない』っていうレベルのあなた達を真正面から叩き潰したいからさぁ」

病院内に食蜂の声が響き渡った。

絹旗「な、なんで……」

一方通行「別に盗聴や監視されていたって不思議じゃねェ。こンなことでいちいちうろたえるなドチビ」

御坂「じゃあ何よ。着替えとかトイレとかも見られちゃうわけ?」

垣根「まだいいじゃねぇか。女の子同士なんだから。俺ら男の方が問題だっつーの」

上条「いやでも、土御門とかからも見えるんじゃないか?」

食蜂「うーん。当麻君の言う通りカナぁ。まぁ気にしないでよ」

絹旗「気にしますよ!見られるなんて、超嫌です!」

御坂「ていうか当麻って気安く呼ぶんじゃないわよ」

食蜂「なんで?当麻君の事をどう呼ぼうが私の勝手でしょ?あなたに何の権限があるの?彼女でもないくせに」

御坂「……っ」

五和「ではその彼女から言わせてもらいましょうか。不愉快です。当麻さんの事を名前で呼ぶのは止めてください」

食蜂「彼女でもないくせに。と例えで言ったのは私だけど、それを決めるのは当麻君本人だよ?」

上条「気持ち悪いから止めてくんねぇかな」

食蜂「あっそ。じゃあ止めるわ。ところで準備が完了したら『完了した』って叫んでね。
   そこから第2ラウンド開始だから。そして、これは私からのプレゼント。じゃあね〜」

ヒュン!と上条達の目の前に削板がテレポートされてきた。
163 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 10:16:33.35 ID:JDo3T/bx0
削板「おう。久しぶり」

上条「あ、ああ。なんか、いろんな意味で大丈夫か?」

削板「おう。そんなことより、能力者4人奪還したから戻してくれ」

そうして削板が魔道書から出した4人の頭を、上条が右手で触り再びそれを回収する削板。

フィアンマ「それじゃあ、お言葉に甘えていろいろ準備させてもらいますか」

上条「そうだな。一方通行組は服だったよな。俺らはどうすんの?」

フィアンマ「武器とか、装備を強化するとか。時間はあるんだ。ゆっくりじっくり考えて準備しようじゃないか」

垣根「マジで呑気にしていて良いのか?食蜂が嘘ついているかもしれねぇぜ」

ヴェント「その時はその時でしょ。でも実際、監視や盗聴はされても、この病院は襲撃されてない。
     私達をある程度泳がせてから倒すと言うのは、嘘じゃないんじゃない?」

御坂「そうね。ドSの食蜂のことだから、万全な状態の私達を叩きのめしたいって言うのは、本当の事だと思うわ」

上条「もう食蜂の考えている事なんてわかんねーよ。あれこれ考えるのはもう止めてさ、能力者が来れば奪還。
   来なければ準備を続ける。それでいいじゃねーか」

垣根「……そうだな」

フィアンマ「意見はまとまったようだな。それでは行くぞ」
164 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 10:17:49.90 ID:JDo3T/bx0
食蜂陣営

折原「本当に泳がせるのですか?特に垣根様は体力を回復させると厄介なのでは」

食蜂「いいのよ。何かね。物足りないのよ。このままじわじわといたぶるだけじゃあ駄目なの。
   もっと派手に、豪快な戦いを演じてほしいからね」

折原「はあ」

食蜂「それよりも、闇咲って人と半蔵って奴と郭って奴は見つかったの?」

土御門「まだですね。盗聴した通り、闇咲は透明になる魔術を使える。
    視覚的にはまず見つけられない。他の2名も、腐っても忍。なかなか見つからないですね」

食蜂「まぁ放っておいても所詮はネズミ3匹。問題ないか」
165 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 10:19:36.99 ID:JDo3T/bx0
時刻は9:00。上条達、一方通行達はそれぞれ準備が終わり、病院前に集合していた。
御坂は緑色のウインドブレーカーにホットパンツ、絹旗はふわふわしたニットのワンピースという出で立ちだった。
ちなみに今更ではあるが、一方通行と垣根は紺碧色の長点上機の制服を着ている。

上条「ホットパンツ……」

御坂「何か文句ある?」

上条「いくら春とはいえ、寒くないのかなって」

御坂「ちょっとだけ寒いけど、我慢できるレベルよ」

絹旗「女の子は超強いんですよ」

上条「そ、そっか」

一方通行「寒くないのかって言うのもあるが、コイツらの脚が出しっ放しなのは、危険でしかねェ」

御坂「いいのよ。こっちの方が動きやすいし」

絹旗「そうですよ。というか脚見るとか超キモいです」

一方通行「ふざけンな。オマエらの身を案じて言ってンだよ。ジャージとかで良いから着れば良かったのによォ」

御坂「ジャージはダサすぎるわ」

絹旗「それに、いざとなったら一方通行が超守ってくれるんですよね?なら大丈夫ですよ」

一方通行「はァ……分かった。じゃあ俺から離れンなよ」

御坂・絹旗「うん(ええ)」

垣根「何で一方通行ばっかりモテてるんだ……俺も女の子に好かれたいよーっ!」

上条「垣根は彼女居るだろ」

垣根「彼女がいるのとモテたいのは別。お前だってハーレム築きたいって言っていたじゃねぇか」

上条「それはもう忘れろ」

削板「お前ら何を言っているんだ!彼女一筋が普通だろうが!その根性叩き直してやろうか!」

五和「ですよね!当麻さんに鉄槌お願いします!」

削板「よっしゃ!」

上条「何で俺だけ!?五和さん、許して下さいーっ!」

フィアンマ・ヴェント「「……」」

なんかもういろいろとカオスな空気になってきた。だいぶ前から思っていた事だが、コイツらは緊張感がなさすぎる。

フィアンマ「完了だ!」

なのでフィアンマは、合言葉を叫んだ。その瞬間、上条と一方通行以外の人間がテレポートされた。
166 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 10:21:00.39 ID:JDo3T/bx0
上条「またかよ……!」

一方通行「気ィ抜くなよ」

身構える2人の目の前に、8人の人間がテレポートされた。

吹寄「さーて、今度こそ勝負してよね」

「いざ尋常に。勝負」

とある高校の制服を着ている吹寄と、巫女服の姫神。

「久しぶりですね。一方通行さん」

「殴られたお礼、今果たすわ」

「えへへ。ようやくこのロリコンを嬲れると思ったら興奮するなー、ってミサカはミサカは心中を吐露してみる」

「それ私の台詞なんだけどー。ミサカもあんなところやこんなところが勃っちゃってるぅ」

芳川「あなたは危険すぎるわ。ここで処分する」

フレメア「大体そう言う事だから、死んでよ一方通行。にゃあ」

スーツの海原に、とある高校の制服の結標、水玉のワンピースに大きめのYシャツの打ち止め、
アオザイの番外個体、アンチスキルの装備の芳川に、RPGの姫キャラ風のフレメアだ。

上条「8対2か」

一方通行「俺が6人やる。オマエは巫女服とデコをやれ」

上条「初めからそのつもりだけど。本当に6人大丈夫か?」

一方通行「誰に向かって口聞いてやがる?」

上条「オッケー」

上条は『幻想殺し』を解除。『竜王』の力を解放し、一方通行は笑みを浮かべた。
167 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 10:22:16.31 ID:JDo3T/bx0
御坂「またここか……」

御坂は再び第11学区にテレポートされていた。先程の戦闘の名残か、倉庫やコンテナが瓦礫となって大地に転がっている。

御坂「っ!」

御坂は何の前触れもなく、横に転がった。直後、上から可視出来るほどの風の刃が伸び、地面に直撃した。
横に転がっていなければ、真っ二つになっていたところだった。

佐天「さっすが御坂さん。不意打ちもあっさり避けちゃうなんて」

声は上から。佐天はふわふわと浮いていた。

御坂「佐天さん、パンツ見えちゃうわよ」

佐天「あれ?案外驚かないんですね。私がここいることを」

御坂「逃げていたんでしょ?最愛は気絶させただけだって言っていたからね」

佐天「なぁーんだ、つまんないなー。ま、いいや。楽しみましょう。2人きりで」

御坂「お断りするわ。速攻で終わらせてやる」
168 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 10:24:28.41 ID:JDo3T/bx0
垣根は第23学区、より詳しく言うと、かつてオリアナと上条・ステイルのコンビの最終決戦の場にテレポートされた。
彼の目の前には、20人の女子がいる。

垣根「可愛い子ばかりじゃん。なんだこれ、食蜂は俺にサービスしてくれているのか?
   もしかしてハーレムなのか?俺の時代到来なのか?」

「shit……勘違いも甚だしい」

ギョロ目にウェーブのかかった黒髪が特徴的な、ゴスロリ服を着用している布束砥信が、侮蔑するように言った。

「私は好きだよ。あなたみたいなイケメン」

茶髪ロング、白いブラウスにホットパンツを着用している柳迫碧美が垣根をフォローする。

「私もカッコイイから好きだな。お兄ちゃんになってほしい!」

フード付きパーカーを着ている金髪ツインテール少女、木原那由他も柳迫に続いた。

「そうかぁ?私はあんなひ弱そうな男より、もっとマッチョな男が良いと思うけど」

ポニーテールで、胸にサラシを巻いた目つきの悪いサラシ女がそんな事を言った。
他16名の少女達も、垣根に評価を下す。

垣根(何なんだこいつら……ムカついてきた)

それでも垣根は、少女達が評価を下している間は何もしなかった。そして少女達が導き出した垣根の最終評価は。

垣根がイケメン派7名、そうでもない派13名、結論、垣根は大した男じゃない。

垣根「オッケー。戦争だボケェ!」

垣根は背中に『未元物質』の翼を生やし、少女達の集団に向かっていく。
少女達は炎や電撃、水流を出したりして垣根を迎撃するが通じす、突っ込まれて四方八方に吹っ飛んだ。

垣根「へぇ。お前らはやるようだな」

先程の垣根の一撃で、吹っ飛んだ少女16人は戦闘不能になった。
しかし4人の少女は平然と突進を避けていて、垣根を取り囲むように立っていた。

布束「Of course……その程度ではやられない」

柳迫「イケメン君ともっとお話したいからね」

那由他「そうだよ。垣根お兄ちゃんが、那由他のお兄ちゃんにしてください。
    って懇願するまで、やられるわけにはいかないからね」

サラシ女「お前みたいなひ弱そうな男に負けるのは、プライドが許さねぇ」

垣根「茶髪と金髪ツインテの2人は良い。ポニーテールとギョロ目女は、ムカついた」

比喩ではなく、垣根の目の色が変わる。右がオレンジ、左が青に。4人の少女も身構える。
169 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 10:27:56.18 ID:JDo3T/bx0
絹旗「食蜂のクソアマ、超悪趣味ですね……!」

第10学区の墓地にテレポートされた絹旗の目の前には、

「久しぶりだねぇ。絹旗」

「きぬはた、可愛くなったね」

「そうか?いつも通りチビだけど」

「結局、私達は絹旗を殺す訳よ」

明るい色のトレンチコートにストッキングの麦野沈利、ピンクジャージの滝壺理后、彼女に合わせているのか、
紺色のジャージの浜面仕上、なぜかメイド服のフレンダ=セイヴェルンだった。

目の前に広がるこの異様な光景を説明するとすれば、可能性としては4つある。
1つ。『肉体変化』(メタモルフォーゼ)能力者が彼らの姿に変身している可能性。
ただし学園都市に『肉体変化』はわずか3人しかいない。つまり、1人分説明がつかない。
もっとも、それは去年のデータであるため、増減している可能性もあるが。

2つ。クローンやロボなどの『作り物』と言う可能性だ。生前の内に、何らかの手段でDNAを採取。
そこからクローンを生み出す事も、学園都市の技術なら出来なくもない気がする。または精巧なロボットなのかもしれない。
だが4人を見た感じ、無機物ではなく本当に生きている気がする。

3つ目。精神系能力者もしくは『幻術使い』(イリュージョニスト)が、自分に麦野達の幻影を見させている可能性だ。
ここは墓地。身を隠せる墓石などいくらでもある。

4つ目。彼女達に似ている人間をコーディネートして、それっぽく見せているか。

だが、どの可能性にも1つだけ言える事がある。

絹旗(こいつらは本物の麦野達ではない)

当然のことながら、死者は蘇らない。学園都市の技術がどれだけ進んでいようが、それだけは絶対に揺るがない事実だ。

麦野「なぜだ?なぜ私達が本物ではないと言い切れる?」

麦野は絹旗の心理を読みとったような発言をした。
絹旗は一瞬動揺したが『精神感応』(テレパス)を応用すれば、難しくない事にすぐ気付いた。

麦野「私達が麦野沈利や滝壺理后、浜面仕上にフレンダのDNAや細胞から出来たクローンだとすれば、
   私達はオリジナルと細胞レベルで同じなんだ」

絹旗「何が言いたいんですか?」

麦野「細胞レベルでオリジナルと一緒な私達に、絹旗と一緒に過ごした記憶があるとすれば、それは本物とどう違うんだ?」

絹旗「それは……」

麦野「私達が争う必要なんてないんだよ。絹旗もこっちにこいよ」

絹旗「……ぁ」

目の前には、かつて仲間だった人間がいる。去年の10月、暗部抗争の時に麦野に粛清されたフレンダまでいる。
暗部の時は、なんだかんだ言って楽しかった。同年代の女の子と過ごす日々。
浜面という情けないけどやる時はやる男の存在。生まれて物心ついた時には『置き去り』で、
その後計画に巻き込まれ理不尽な人生を過ごしてきた絹旗にとって、暗部での仕事仲間にすぎなかったとはいえ
麦野達とは、『アイテム』とは唯一の自分の居場所であった。

滝壺「楽になろうよ、きぬはた」

浜面「そうだぞ。戻って来いよ」

フレンダ「結局、さっきの殺すって言うのは嘘だった訳よ」

だが、違う。目の前に居るのは確かに麦野達の姿形はしている。でも所詮は作り物の体に、記憶を入れたものだ。
絹旗と共に過ごした麦野達ではない。

麦野「共に過ごしたもクソもないわよ。私達は紛れもなく『アイテム』そのものよ」

絹旗「違います。それは、あなた達が超クローンだった時の話です。あなた達がクローンとは限りませんから」
170 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 10:29:19.17 ID:JDo3T/bx0
滝壺「なかなか鋭いね」

浜面「そうだよ。俺達はクローンじゃない。でも」

フレンダ「結局、絹旗には私達が『アイテム』に見えている訳でしょ?
     そして、私達は絹旗と共に過ごしてきた記憶も持ち合わせている」

麦野「それってやっぱり、絹旗から見れば私達は『アイテム』と同義ってことじゃない?
   人格とかが違うとか言う詭弁は止めてね。そんなのはいくらでも“調整”できるから」

絹旗「いえ、やっぱり超違いますよ。お前達は『アイテム』じゃない」

きっぱりと、言い切った。

絹旗「お前ら幻影の“嘘”なんて超必要(いら)ないんですよ。“本当”ならもう知っています」

フレンダ「はぁ?」

絹旗「――どっかの、超素直になれない電撃姫を助けるために駆けつけて、さらには私まで助けて、
   200万対4という絶望的状況で立ち上がった白髪のモヤシを知っています。
   それに加えて、頭に花飾りを乗っけたハッカーに、ドSツインテール。それが今の私の“本当”の居場所なんです」

麦野「詭弁どころか、支離滅裂な感情論か」

滝壺「つまり、きぬはたが言いたいことって?」

浜面「俺達はもう必要ない。いいからやろうぜ。ってことだろ」

絹旗「超そう言う事です。なんだ、浜面にしては理解が早いですね」

麦野「分かったわよ。そこまで言うなら、お望み通り叩き潰してあげるわよ」
171 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 10:29:59.14 ID:JDo3T/bx0
削板は第1学区の広い通りにテレポートされていた。

「やあ。久しぶりだね」

ダッフルコートにジーパンの好青年を見て、削板は尋ねる。

削板「お前は……誰だっけ?」

「去年の10月、学園都市でやりあっただろう?オッレルスだよ」

削板「ああ……そんな事があったような気もするな」

オッレルスが目の前に居る事は、いろいろと異常なのだが、特になにも考えず言った。

削板「まあいいや。やろうか」

オッレルス「そうだね」

2人は同時に地面を蹴った。
172 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 10:30:37.54 ID:JDo3T/bx0
フィアンマとヴェントは、第7学区の窓のないビルの跡地にテレポートされていた。
背中合わせに立っている2人の周囲には約100の能力者。
掌から炎を出しているところを見ると『発火能力者』(パイロキネシスト)らしかった。

フィアンマ「目には目をと言うが、この俺様相手に火で勝負してくるとはな」

ヴェント「私にとっては天敵だけどね」

フィアンマ「ここは俺様だけで十分だ。ヴェントは他の奴らのところに行け」

ヴェント「逃げられそうもないんだけど」

フィアンマ「大丈夫。俺様が活路を開く」
173 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 10:31:44.68 ID:JDo3T/bx0
五和は第12学区にある施設、高崎大学の図書館にテレポートされていた。

五和「……」

周囲に怪しい気配はないが、五和は不意打ちにも対応できるように神経を研ぎ澄ませる。

「そんなに緊張しなくてもいいのよな?」

突如、建宮斎字の声が図書館内に響いた。

五和「建宮さん!?」

建宮「そうだ。五和さんに殺された建宮さんなのよな」

五和「うっ……」

自分を揺さぶる為の小細工と分かってはいるが、分かっていても辛いものがある。

建宮「あの時の痛み、一生忘れないのよな」

五和「……」

建宮「まあいい。そんなことより、ゲームの説明をするのよな」

五和(ゲーム……?)

建宮「この大学には、俺を含む天草式メンバーがいたる所に居る。
   その網を掻い潜り、大学から出たらお前さんの勝ち。それ以外はお前さんの負け。簡単だろ?」

五和「人数的にも状況的にも、私が圧倒的に不利ですね」

建宮「だがお前さんに選択肢はない。返事は『はい』か『YES』かなのよな」

五和「いいですよ。やりましょうか」

直後、五和の周囲に4人の男女がテレポートされた。4人は一斉に五和に襲い掛かる。

五和「――!」
174 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 10:38:49.47 ID:JDo3T/bx0
一旦ここまでです。続きはよっぽどの事がなければ、早ければ今日の夜、遅くても明日の朝には投下します。

ちなみに今更なのですが、一方通行が遊園地で黄泉川と対峙した時に音を全て反射していたのは、
黄泉川の発言で精神が揺さぶられないようにするためです。

175 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 20:20:06.39 ID:JDo3T/bx0
吹寄「いくわよ」

意外と綺麗な吹寄の脚に、膨大な風が集まる。

吹寄「喰っらぇぇぇえええ!」

風を纏った脚で上条に特攻し、彼の顔面目がけて蹴りを繰り出す。
レベル5級の風が渦巻いている蹴りを、しかし上条はあっさり受け止めた。

上条「吹寄、パンツ見えているぞ」

吹寄「貴様、この状況でよくもまあ……この変態!」

吹寄は一旦後退して、再び特攻するつもりだった。しかし上条はそれを許さなかった。
空いている手で吹寄の胸倉をつかみ、引き寄せ、頭突きをかました。

吹寄「いっ……たぁ……」

掴んでいた手を離すと、吹寄は地面に崩れ落ちた。

上条「次はお前だな。姫神」

姫神「私は。制理のようにはいかない」

自信ありげな姫神の背中からは、炎の翼が生えていた。
その形容は、例えるなら朱雀のようだった。手には扇子らしきものがある。
だが上条は臆せず、

上条「お前も一瞬だ。姫神」

宣言した。
176 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 20:23:32.40 ID:JDo3T/bx0
一方通行「ギャハッ!」

一方通行は一瞬で結標の懐に潜り込んだ。しかし結標はテレポートであっさり避ける。
それでも一方通行は270度方向転換して、めげずにもう一度結標の方へ行く。対して結標は再びテレポートで避ける。
けれども一方通行は諦めずに、三度結標の方へ行く。対して結標もやっぱりテレポート。

その間に番外個体は、御坂よりは弱いが『超電磁砲』を発射できるようにカスタマイズされたメタルイーターで、
擬似『超電磁砲』を連射。打ち止めとフレメアはレディースの拳銃で射撃。
海原は自身の能力『念動力』(テレキネシス)で不可視の波動を放ち、芳川もアンチスキル装備にライフルで狙撃する。

それらは高速で動く一方通行にはさほど当たらず、当たったとしてもダメージは通らなかった。
ただ一方通行は反射どころか、弾丸を弾くことすらしなかった。当たった弾丸は、一方通行の皮膚のところで止まっている。
理由はもちろん、皆を傷つけない為だ。彼は結標を追いかけながら、そんな事を平然とやってのけている。

番外個体「やってくれるじゃない?ミサカ、興奮して濡れてきちゃった☆」

打ち止め・フレメア「「早く死ねよロリコン」」

芳川「あなたなんてただの犯罪者なのよ。死んだ方が社会の為になるの。だから死んでよ」

海原「忘れたんですか?
   あなたがどれだけ頑張ろうとも、御坂さんのクローン1万人以上殺した事実は消えないんですよ!?」

結標「そうよ!その上女の顔面まで殴るなんて!鬼!クズ!サド!死んじゃえ!」

一方通行「無理」

もはや声を出すのもだるいと言った調子で、一方通行は適当に答えた。
177 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 20:27:02.23 ID:JDo3T/bx0
なおも結標と一方通行の追いかけっこ、そしてそれを横から邪魔をする海原達という構図は続いた。

結標(コイツは一体何が狙いなの?)

テレポートで悉く逃げられるのは分かっているのに、一方通行は追撃を止めない。それが不気味で仕方ない。

結標(まさか、体力切れ狙い?)

でもそれは非効率と言うか、一方通行が不利過ぎる。
だって自分は点から点の移動をするだけだが、一方通行は自分を追う間ずっと能力を使用しっぱなしだ。
加えて、海原達の攻撃を受け止め、余計に演算を行っている。
この条件で長時間戦い続ければ、どちらが先にヘバるかは明らかだ。

結標(何なの?気持ち悪い!)

一方通行「ハハッ!無様なローアングルを晒してくれてアリガトウ!」

一方通行は笑っている。この不利な状況で。周囲になど目もくれず。ただ結標だけを狙って、彼は追いかけてくる。
それはもう、結標からすれば不気味さを通り越して一種の恐怖でしかなかった。

結標(やだ……!絶対に捕まりたくない……!)

それはほんのわずかではあるが、演算に狂いを生じさせる。結果として結標のテレポートの精度はわずかに落ちる。
テレポートごとに常に20mの距離をとっていたのが、19m99cmになる。
たかが1cmではあるが、超高速の一方通行相手には油断できない演算の狂いだ。

さらにその様子は、結標だけでなく他の人間の冷静さも失わせる。

番外個体「ミサカをシカトしてんじゃねーぞゴラァァァ!」

メタルイーターを連射させる。しかし一方通行には通じない。そしてついに弾丸が切れた。一方通行はそれを見逃さない。
彼は肌に付着して止まっていた弾丸の3つを、メタルイーター目がけ投げる。
ベクトルの力を受けて投擲された3つの弾丸は、あっさりとメタルイーターを引き裂いた。

その間にフレメア・打ち止めの拳銃の弾丸も、替えも含めて尽きた。
一方通行は先程と同じように弾丸を投げ、拳銃を破壊した。

海原には付着していた弾丸をいくつか投げた。対して海原は能力で自身を分子レベルで固めて両腕をクロスしてガードする。
レベル5の『念動力』で作った鎧だ。ミサイルなら3発は耐えられるレベルである。
弾丸など何発喰らったところで、問題ない。

しかし一方通行が投げた弾丸はベクトルの力を受け『超電磁砲』以上の速度で雨となって海原の体に直撃した。
これにはさすがの海原も悶絶した。痛みで演算に集中できず、鎧が解ける。
そこへ一方通行は、残りの弾丸を彼の手足にぶち込んだ。

唯一冷静だった芳川は、だからこそ悟った。
一方通行には勝てない。そんな彼女の手足にも、一方通行は容赦なく弾丸をぶち込んだ。

これで3人が武器なし、2人が使い物にならなくなった。結標の焦りは、より加速する。

結標(どうすれば……)

一方通行は結標に余裕を与えなかった。ポケットに手を突っ込み、スタングレネードを投げる。

結標(まず――)

莫大な光と音に周囲は包まれ――
178 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 20:28:32.93 ID:JDo3T/bx0
一方通行は、正体は『肉体変化』能力者だった番外個体と打ち止め、学園都市外へ逃がしたはずのフレメアと芳川、
割とどうでもいい海原、貴重なテレポーターの結標の全てを救った。

一方通行(ったく、都市外に逃がしたフレメアと芳川をわざわざ捕まえて洗脳するたァ、
     食蜂のクソアマも、なかなかゲスな手を使うじゃねェか)

どうでもいい海原はともかく、芳川の血のベクトルを操りながら、そんな事を考えていた時だった。

上条当麻が巫女服の女を抱えて空から落ちてきた。

一方通行「オマエ……何したンだ?」

上条「別に。上空で姫神と一騎打ちで正面衝突しただけだよ」

あっさり言う上条は全くの無傷で、ダメージを受けていたのは巫女服の女だけだった。

一方通行「さすが、ヒーローは違うねェ。ギリギリで勝った俺とは大違いだ」

上条「お前もかなり余裕そうだけど。……っと、吹寄の頭に触らなくちゃ」

上条は吹寄の下に駆け寄り、頭を触った。甲高い音が響く。

一方通行「さァて、まずはコイツらを魔道書持ちのアイツらに届けねェとな」

上条「そうだな」
179 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 20:31:06.46 ID:JDo3T/bx0
佐天が瓦礫と言う瓦礫を風で拾い集め、御坂に向かって放つ。御坂はそれを、電撃を飛ばして破壊する。

佐天「だりゃあ!」

今度は可視できるほどの風の刃を連続で放つ。縦に横に十字に。
御坂はそれらを電撃で防御するまでもなく、避けながら佐天に肉迫する。

佐天「ちっ!」

肉迫された佐天は空中へ避難する。そして風の刃の連発。
対して御坂は深追いせず、一旦後退する。

佐天「御坂さんは覚えていますか?
   レベルについて悩んでいる私に『レベルなんてどうでもいい事じゃない』って言った事を」

御坂「……それがどうしたの?」

佐天「どうでもいいわけないじゃないですか。
   あの場は、御坂さんなりに私を励ましているんだって自分を納得させましたけど、
   どう考えたってレベル5の御坂さんが言うことじゃないです。説得力がなさすぎます」

御坂「じゃあ聞くけど、その台詞をレベル0の人が言ったって、ただの負け惜しみにしか聞こえないと思わない?」

佐天「そうですね。
   そうかもしれませんけど、そうやって言うってことは、私達低レベルの能力者を見下していたんですね!」

御坂「……そうね。全く見下していないと言ったら、嘘になる。それは認める」

けど、と御坂は続けて、

御坂「『レベルなんてどうでもいい事』って言うのは、あの時だけの方便じゃない。本心よ」

力強く、言い切った。

佐天「そんなわけないでしょう?嘘はいけませんよ」

御坂「嘘じゃない。私は今この瞬間、たとえレベル0になろうとも、佐天さんを救う事を止めないわ。
   それだけは絶対に言える」

佐天「何でそんな嘘を……平然と……」

御坂「私はレベル5だから戦っているんじゃない。そんな次元の話じゃない。
   私は皆を救うために戦っているんだから、それにレベルなんて関係ないことなの」

佐天「綺麗事を……!なら実際にやってみて下さいよ。御坂さんはこの戦いで能力を使わないでください」

御坂「……分かったわ」

御坂は、纏っていた電撃を解除した。
180 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 20:32:34.52 ID:JDo3T/bx0
佐天「え?まさか、本当に……」

御坂「ただし、抵抗はするわよ」

佐天「……いいでしょう。綺麗事を抜かす御坂さんに、痛い目を見てもらいます!」

風の刃の攻撃が再開される。さっきよりも速く、多くの刃で御坂を攻撃する。

御坂「くっ、おっ……」

走り、跳び、転がり、クリーンヒットはなんとか避けるが、頬や腕、剥き出しの脚にいくつか掠める。

佐天(本当の本当に能力を使わない気か……!)

佐天は加速して一気に御坂の前に躍り出る。そして右掌を前に出す。
空気の波動が発射され、御坂は数十m吹き飛ばされ、地面を何回もバウンドした。

御坂「ぅ……ぁ……」

痛む体に鞭を打って、やっとの思いで立ち上がった御坂の視界に飛び込んできたものは、
一直線にこっちに向かって飛んでくる、風に乗った大量の石つぶてだった。

御坂「……が……あ……」

大量の石つぶてが御坂の体を叩いた。
両腕をクロスして顔だけは守ったが、もはや立っていられるだけの力すら残っていなかった。

崩れ落ち、膝立ち状態になった御坂の懐に潜り込んだ佐天は、彼女の耳元で呟く。

佐天「まだ終わりませんよ」

御坂の腹に触る。人体に噴射点は作れないが、掌から膨大な空気を放出する。
結果、御坂は数百m先の倉庫の壁まで飛ばされた。
181 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 20:35:30.44 ID:JDo3T/bx0
御坂「ごほっ!」

咳き込んだ御坂の口から、鮮血が溢れる。

御坂(私って、やっぱり駄目ね……)

レベル5相手に能力なしで戦うのが無謀なのは分かっていた。
さっきはボロボロのところを一方通行に助けてもらって、五和やヴェントに治療までしてもらったのに、もうこのザマだ。

それでも証明したかった。レベルなんてどうでもいいと言う事を。大切なのは気持ちなのだと言う事を。

馬鹿な事をしているとは分かっていた。
能力を使わないフリして、不意打ちで使って怯ませて、頭を触る事も出来たかもしれない。
でもそれをしなかった。嘘だけはつきたくなかったから。

その結果がこれだ。もう仲間達に顔向けできないほど迷惑をかけていると思う。けどやってしまったのだから仕方ない。

御坂(でも……せめて……)

佐天だけは、どうにかしたい!

佐天「みーさかさん」

壁にもたれかかって、ぐったりとしている御坂を佐天は見下す。

佐天「分かりますか?今の御坂さんの状態が、私達レベルの低い人が常に感じていた事なんですよ」

御坂「……」

佐天「何か……言って下さいよ……」

御坂「どうして……泣いているの……?」

佐天「え?」

言われて両手で頬を触ると、確かに温かい滴が流れていた。

佐天「あれ……なんで私、涙なんかを……」

必死で拭う涙は、けれどもとめどなく溢れる。

御坂「佐天さん。大事なのはレベルじゃなくて気持ちなのよ」

佐天「違う!この世界は所詮、力がある者が、権力を持つ人が得するように出来ている!
   だから、幸せになる為には、力を手に入れるしかないんですよ!」

泣きながら叫ぶ佐天に、しかし御坂は冷静に、諭すように語りかける。

御坂「そんな事、ないわよ。気持ちさえしっかりしていれば、力なんてなくたって、弱くたって変われる。
   レベル0だから何も出来ないなんて事ない。佐天さんは私の事を励ましてくれたじゃない。
   私は、それで気持ちが楽になったよ?佐天さんのおかげで元気が出たんだよ?」

佐天「だから……なんだって言うんですか!?」

御坂「何度も言っているけど、レベルなんて関係ないってこと。
   レベル0だって、レベル5を元気づける事が出来る。大事なのは気持ち。だから、こんな事はもう止めよう?」

佐天「そんな……御坂さんの言っている事は感情論ですよ……だって、そんな……」

御坂「佐天さんも分かっているんでしょう?こんなことをしても虚しいって。だから、泣いているんでしょ?」

佐天「違う!私は、私は――」

佐天は右手を振り上げた。この手が振り下ろされれば、御坂は風に切り裂かれて死ぬ。

佐天「うわああああああああああ!」

御坂は最期のときも目を閉じなかった。右手が振り下ろされる。
182 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 20:36:56.75 ID:JDo3T/bx0
パシッ!と一方通行の手が、完全に振り下ろされる寸前の佐天の右手を掴んだ。

一方通行「ここら辺で勘弁してくれませンかねェ」

佐天「くっ!」

佐天は逃げようとするが、とんでもない力で掴まれている腕を振りほどけない。

佐天(ならば!)

空いている左手で、一方通行の体に触る。あとは空気を発射すれば、彼の体は吹き飛ぶ。

佐天(喰っらえ!)

佐天の左手から、膨大な空気が発射された。しかし8割方の空気は横に反らされ、2割の空気が反射された。

佐天「な!?」

2割とはいえ、反射された空気を喰らった佐天は、軽く数十mは吹き飛ばされる。
それでも彼女は地面をスライドして何とか踏ん張る。

一方通行「ご苦労さン」

声は真後ろから。佐天が振り返ろうとした時には、一方通行は後頭部に触れていて。

一方通行「――コマンド実行――削除」

毎度少しの狂いもなく、またしても2秒で終わらせた。

一方通行「まァた無茶しやがって」

佐天を抱えながら、一方通行は話しかける。

御坂「また……助けられちゃったわね……」

一方通行「それは別に良い。ただよォ、もう少し自分を大切にしろ」

御坂「うん」

緊張の糸が切れたためか、御坂はそこで気絶した。
183 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 20:38:52.41 ID:JDo3T/bx0
サラシ女の『表層融解』(フラックスコート)も、いまやレベル5。
彼女はアスファルトの粘度をコントロールして大量の針を生み出す。

垣根「くだらね」

垣根は空を飛び、針山と化した地面に一瞥をくれる。しかしこれでは、残り3人の少女もただでは済まないはずだが。

垣根「ありゃ?」

少女3人の姿が見当たらない。その事実に気付いた直後だった。

空中に居る垣根の真後ろから放たれた布束の蹴りが、彼の側頭部に直撃した。

垣根「痛ってぇな」

布束「Wow……やるじゃない」

布束は多少驚きながらそう呟いた。垣根がノーダメージだからだ。

布束「体を超硬質化して、私の一撃を凌ぐなんてね。本当に常識は通用しないのね」

言葉では垣根を褒めているが、若干小馬鹿にしたようなニュアンスも感じられる。

布束「But……彼女の攻撃はどうかしら?」

柳迫「ひゃっほーう!」

垣根の目の前に躍り出た柳迫が、彼の頭頂部目がけてかかと落としを繰り出す。

垣根「ふん」

垣根は全く焦ることなく、冷静に翼でガードする。

垣根「ぬがっ!」

とてつもない衝撃が垣根を襲った。
ただのかかと落としを喰らって、彼は針山の地面にたたき落とされた。
184 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 20:41:12.26 ID:JDo3T/bx0
垣根「マジで痛ってぇな。そして完全にムカついた」

かかと落としをまともに喰らい、針山の地面にたたき落とされたが、針山だけが砕け、垣根はやっぱりノーダメージだった。しかし疑問は残る。かかと落としごときで叩き落とされた事だ。

超硬質化した今の垣根は、殴る蹴るなどの体術は愚か、銃弾やナイフなどの凶器ですら傷一つつかず、揺るがない。
物理的ダメージは通らないと言っていい。
にもかかわらず、いくら上からの衝撃とはいえ叩き落とされる事は、明らかな異常だ。

那由他「お兄ちゃん“この俺がこんなことになるなんて”って顔をしているねー」

垣根「うぜぇなお前。可愛いから許すけど」

布束「Oh my god……あなた、ロリコンだったのね」

垣根「うるせぇ。ゴスロリ似合ってないぞ」

柳迫「ねーねー、私は私は?」

垣根「ビッチっぽい。0点」

柳迫「ふっざけんな!私は処女だっつーの!」

つい余計な事を口走りながら、柳迫は空中から垣根に肉迫する。

柳迫「ムカついたのは私の方だ!」

柳迫の蹴りを翼で防ぐが、衝撃を殺しきれず、針山を大量にぶち抜きながら吹っ飛んだ。
185 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 20:44:20.95 ID:JDo3T/bx0
垣根「なるほどね。衝撃を増幅させているわけね」

やっぱりノーダメージの垣根は平然と立ち上がる。

柳迫「そうだよ。
   『衝撃拡散』(ショックアブソーバー)って言う、受けた運動量を散らすことで衝撃を軽減する能力なんだけど、
   レベル5の今は、衝撃を増やす事も出来るんだ」

垣根「そんなんじゃあ、俺をポンポン飛ばす事は出来ても、ダメージは与えられねぇぞ」

柳迫「でも徐々に消耗はしていくよね?」

垣根「そりゃそうだけど、お前らじゃあ無理だ」

柳迫「なら、させてみせるよ!」

垣根を蹴り飛ばす為、柳迫は駆け出す。

垣根「大体、お前の能力はそうでもねぇ」

迫る柳迫を前に、垣根は会話をするような調子だ。

柳迫「強がりは、攻略してから言ってよね!」

柳迫の回し蹴りが、ガードした垣根の翼に直撃した。しかし、垣根は吹き飛ばされなかった。

柳迫「何で?」

垣根「衝撃を拡散なんてことは、俺の翼でも簡単にできるっつーの」

柳迫「くっ!」

距離を取ろうとするが柳迫を、蛇のように動く垣根の翼が掴み、包んだ。

サラシ女「敵はその女だけじゃねぇぜ!」

粘度を操られたアスファルトが針となって生え、垣根に襲い掛かる。

垣根「もちろん、そんな事は分かっているぜ」

『未元物質』に包まれ繭のような状態になっている柳迫を、サラシ女に向かって投げる。

サラシ女「うぇ!?んなのアリかよ!?」

繭の柳迫は針山など次々と砕きながら、サラシ女に向かって行く。
ゴキャア!と、サラシ女がギリギリで生み出したアスファルトの盾は砕けた。それで繭の勢いもなくなった。

サラシ女(へっ。なんだ。大した事――)

垣根「2人目――」

何とか繭を防ぎ少しだけ気の抜けたサラシ女の懐に、垣根は入った。

サラシ女(まず――)

とその時、サラシ女の体がふわっと浮き、あっという間に浮いている布束の横についた。
186 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 20:47:37.79 ID:JDo3T/bx0
垣根「ちっ。無駄な抵抗しやがって」

布束「油断するなと言ったはずだ。Really……世話が焼ける」

サラシ女「分かってる分かってる」

注意を促す布束を、サラシ女は適当に流す。

垣根「今の会話の感じだと、ギョロ目がリーダー的ポジションってところか。
   今お前らが浮いているのも、お前の仕業だろギョロ目」

布束「Exactly……私の能力は大気系『空気風船』(エアバッグ)のレベル5。
   能力の特性上、かまいたちとか、竜巻は生み出せない。
   However……空気の粘度を操ることには長けていて、普通の大気系能力者には出来ない事が出来る」

サラシ女「よく喋るなあ……ってキャ!」

垣根ではなく、仲間であるはずのサラシ女がそう呟いた直後、彼女は一直線に地面に落下していった。

サラシ女「や、やばい!」

しかしサラシ女は、ぽよん。と空気の風船の上に落ちて安全に地面に着地した。

垣根「今のが実演か……」

布束「針をいくつか作って」

サラシ女「……はいはい」

地に両手をつき、針を10本ほど生やす。

布束「それを地面から切り離して。出来るでしょ」

サラシ女「(何が狙いなんだよ……)はいはい」

プチンと、針がアスファルトから切り離された。同時、それらはフワフワと浮き始める。

布束「Example……こんな感じで、物を浮かす事が出来る」

垣根「そんなもん普通の大気系能力者でも出来るだろ」

布束「Indeed……ここまでなら普通の大気系能力者でもできる。But……ここからが違う」

布束はそう言って、指をバチンと鳴らす。するとフワフワと浮いていただけの針がくるくると回り始めた。

垣根「で、それがどうしたの?」

布束「まだ分からないの?一般的な大気系能力者でも瓦礫などは“風に乗せる”ことはできる。
   けれど、それは大雑把で直線的な攻撃にしかならない。
   その点私の能力でなら、自由自在に変則的な攻撃が出来る」

垣根「ふーん。でもそれなら、普通の大気系能力者の方がメリット大きくね?」

布束「まあ、やってみればわかる、さ」

針はドリルのように回転して、垣根に向かう。

垣根「しょっぱいねぇ」

垣根は軽く翼を振るう。だったそれだけで針など全て砕け散った。
187 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 20:48:56.95 ID:JDo3T/bx0
垣根「終わりか?」

布束「ちょっと、何でも良いから、もっと大きいのお願い」

サラシ女「はいはい」

サラシ女により、ビルのような大きさの針が大量に出来上がる。
それも先程の針と同じくフワフワと浮かび上がり、ギャルルル!とドリルのように回転して、再び垣根の下に向かう。

垣根「うっぜぇ。まずはサラシ女から仕留めないとエンドレスか……!」

飛んでくる針を、時には避け、受け流し、破壊してサラシ女に近付いて行く。

サラシ女「くっそ!もう能力は使えない!助けてくれ!」

サラシ女の救援要請に、布束は答えない。

サラシ女「なんで……」

垣根「能力が使えなくなった足手まといは要らないってことじゃねぇの?」

狼狽するサラシ女の懐に飛び込んだ垣根は『未元物質』で彼女を包み込む。
能力が使えない彼女に『未元物質』に対抗する力はなかった。
188 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 20:50:40.34 ID:JDo3T/bx0
布束「ここは一旦退くべきか……ん?どうした、なゆ――」

那由他「邪魔」

サラシ女が捕まる様を見て撤退を思案し始めた布束の胸を、那由他の腕が貫いた。

布束「な……」

那由他「弱者は要らない」

ズボッ!と那由他の腕が引き抜かれ、空中に居た布束は落下し地面にたたきつけられた。

垣根「あらら。まさか仲間殺しちゃうなんてな」

那由他「仕方ないよ。弱者は足を引っ張るだけだからね」

垣根「気持ちは分からないでもないけどな。ところで、俺が言うのもアレだけど、何でお前は今まで攻撃しなかった?」

那由他「だってー、お兄ちゃんと2人きりが良かったんだもん♡」

垣根「うぜぇなブリッ娘。可愛いから許すけど」

那由他「可愛いは正義ってね」

垣根「ま、誤魔化すならそれでいいよ。どんな意図があるかはしらねぇが、こっちのやることに変わりはないしな」

那由他「言っとくけど、3人とは格が違うからね?」

垣根「この眼で見りゃあわかる。AIM拡散力場をある程度操れるんだろ?
   ギョロ目がいないのに空中に居れるのは、AIM拡散力場で足場を作りその上に立っているからだ」

那由他「うわぁー。お兄ちゃんすっごーい!その眼ってAIM拡散力場も見えるんだー!
    でもでもー、それが勝敗まで左右するとは限らないけどねー」

垣根「そうだな。俺がAIM拡散力場を可視出来ようが出来なかろうが、
   お前がAIM拡散力場を操れようが操れなかろうが、俺の勝ちに変わりはない」

那由他「かっこいー。私、お兄ちゃんに惚れちゃいそうだよー」

垣根「お喋りはここまでだ。さっさと始めようぜ」
189 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 20:52:17.22 ID:JDo3T/bx0
先に仕掛けたのは那由他の方だった。
凄まじい速度で空中から垣根の懐に入った彼女は、右手でAIM拡散力場を掴み刀にして、彼の腹を切り裂く為に振るった。

垣根「ふん」

垣根は余裕と言った調子で『未元物質』で生み出した刀で、那由他の一閃を受け止める。

那由他「とう!てい!やあ!」

左手にもAIM拡散力場の刀を持ち、二刀流で斬りかかるが、垣根は難なくあしらう。

那由他「んもう!」

埒が明かないと思った那由他は、一旦後退して刀を捨て拳銃を生み出す。

垣根「ほう」

那由他「死んじゃえ!」

拳銃の引き金を引く。AIM拡散力場で出来ている拳銃なので弾丸も同じものであるが、威力は通常の弾丸より速く、高い。

垣根「無駄だって」

しかし垣根の翼の前では、AIM拡散力場の弾丸など無意味に等しかった。全ての弾丸を防ぎ、逆に羽毛を発射する。

那由他「それこそ無駄だもん!」

前方にAIM拡散力場の盾を展開し、羽毛を防ぎきる。那由他はさらに、周囲に設置型の大砲をいくつか生み出す。

那由他「撃てー!」

那由他の掛け声と共に、いくつもある大砲が火を吹いた。砲弾はかなりの速さで垣根やその周囲の地面に着弾し、爆発した。
190 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 20:53:39.87 ID:JDo3T/bx0
垣根「はー、すげぇな。こりゃあ、いつか戦ったピンクジャージの女より強ぇや」

周囲が火の海に包まれている中、垣根は形だけ那由他を褒め称える。

那由他「滝壺のお姉ちゃんの事だね。そうだよ。今の私は滝壺のお姉ちゃんの全盛期を超える。
    油断していると、死んじゃうよ?」

垣根「その程度では、俺の『未元物質』を暴発させることはできねぇぜ」

那由他「本当にそうかな?」

垣根「やってみろコラ」

那由他「なら、いっくよー!」

人間とは思えない速度で、那由他は垣根の懐に入る。だが垣根は既に、カウンターの右拳を放っていた。

ドゴォ!と那由他の腹部に拳が叩きこまれたが、

那由他「つーかまえた♡」

那由他は万力のような力で、左手で垣根の右腕を締め上げる。

垣根(ヤベッ。抜けねぇと――)

霊体化でもして左手から抜けだそうと試みようとした垣根より早く、那由他は右腕ごと彼の口に『体晶』を放りこんだ。

垣根「ク、ソがあああああああああああ!」

那由他が垣根から離れると同時、『未元物質』は暴発し柱となり彼の体を飲み込んだ。
191 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 20:54:59.70 ID:JDo3T/bx0
『未元物質』の柱は10秒ほどで消え去った。その後には、血まみれで倒れている垣根だけだった。

那由他「アハッ!やった。やったよ。私の力でレベル6の垣根お兄ちゃんを倒したよー!」

歓喜の声をあげて、ワナワナと震え出す那由他は興奮を抑えきれない。

那由他「えへへ。お兄ちゃん、お兄ちゃぁぁん」

倒れている垣根に近付いた那由他は、彼の頭を踏みつける。ゴッガッゴリッ!と生々しい音が続く。

那由他「アハハ、アハハ、アハ……あれ?」

足に違和感。なんだと思って那由他は自分の足を見ると、垣根の手に掴まれていた。

那由他「まだ動けるんだ?」

垣根「まあな。本当に情けねぇ。完全に油断しちまっていた」

ゴキャリ!と垣根の手が那由他の機械の足を握りつぶした。

那由他「どんな握力――」

驚愕した直後、ズバン!と那由他の機械の左腕が千切れ飛んだ。

那由他「な――」

狼狽する暇もなく、さらに那由他の右腕、左足、握りつぶした右足までもが引き裂かれた。
ゴトリと、那由他の胴体だけが無残に転がった。
192 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 20:57:33.26 ID:JDo3T/bx0
垣根「ク……ソが……」

何とか立ち上がった垣根の腹部辺りは、紺碧色の制服の上からでも分かるほど赤黒く染まっていた。

那由他「へへ。苦しそうだね、お兄ちゃん」

一方で那由他の方は、体の9割が義体だったため大した苦しみはなかった。

垣根「畜生が……全身機械の……サイボーグかよ……」

那由他「そうだよ。私は今まで様々な実験を受けてきて、体が爆発して……今では脳と心臓以外は機械で出来ているの」

垣根「なんで……そこまでして……」

那由他「お兄ちゃんにはまだファミリーネームを言っていなかったね。
    私は木原一族の木原那由他。ここまで言えば、お兄ちゃんなら大体分かるよね」

垣根「なるほどね……あの木原一族か……道理でトチ狂った奴だと……思ったぜ」

那由他「そんなことよりいいの?そのままだと、お兄ちゃん出血多量で死んじゃうよ?」

垣根「いらねぇ心配だ。能力で……傷は塞いだ……」

那由他「そんなこと出来るの?それ以前に『体晶』で能力は使えないはず……」

垣根「自分で腹に穴空けて、とった。そしてその穴も、体中の傷も、臓器の孔も『未元物質』で、塞いだ……」

那由他「そんな……有り得ないよ……」

垣根「有り得ないって、そりゃそうだ。俺の『未元物質』に、常識は通用しねぇ」

那由他「常識は通用しないなんて……そんな言葉で片付けられるレベルじゃないよ」

垣根「これが……レベル6『神ならぬ身にて天井の意志に辿り着く者』の力だ」

那由他「ふふ。そう、だね。やっぱりお兄ちゃんはカッコイイや。――けれど、私もまだ終わらないよ」

胴体だけだった那由他の四肢にAIM拡散力場が集まり、それぞれ手足を象る。
那由他はゆっくりと立ち上がった。

垣根「はは。お前も十分常識が通用しねぇよ」

那由他「まだだよ」

那由他の背中に、さらにAIM拡散力場が集まり羽を象る。色は虹。
その姿は蝶のようで幻想的だった。那由他は飛び上がり、垣根から距離をとる。

垣根「綺麗じゃねぇか」

那由他「最後の勝負だよ。お兄ちゃん」

垣根「上等じゃねぇか」

『未元物質』で応急処置的に大きな傷を塞ぎはしたが、大量の血液を失い、ダメージが残っている事に変わりはない。
無理して一騎打ちをするべきではない。それでも垣根は、あえて那由他に挑む事を選んだ。

那由他「いくよ!」

凄まじい速度で那由他は空中から垣根に突っ込んでいく。垣根も那由他へ突っ込む。

那由他「――!」

垣根「――!」

正面衝突した2人は、白い光に包まれて――
193 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 20:58:59.99 ID:JDo3T/bx0
那由他「やる、ね、お兄ちゃん」

白い光の中で、その言葉を最期に那由他は消し跳んだ。

垣根「負けるわけには、いかねぇんだよ。『絶対迎えに行く』って、約束しちまったからな」

魔術vs科学の戦争では生き延びはしたが、その約束は果たせなかった。
だから彼女を魔道書で送る時に、あえて同じ約束をした。今度こそ果たす為に。

垣根「しかし、このままだとヤベェな。もしここで敵が襲ってきたら――」

そう言う時に限って、都合の悪い事は起こるものである。垣根は後ろに人の気配を感じた。

垣根(くそっ!)

なりふり構わず、翼を振るう。
194 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 21:01:14.39 ID:JDo3T/bx0
フレンダ「結局、私達の誘いを断った事を後悔させるって訳よ!」

絹旗(体が……超動かない!)

体の自由が効かない絹旗の顔面に、フレンダの蹴りがクリーンヒットした。
絹旗は数個の墓石をぶち抜きながらぶっ飛ばされた。

絹旗「超痛ってー」

体の自由が利かなくなろうとも、窒素を纏えなくなった訳ではない。つまり、絹旗は無傷だった。

麦野「相変わらず頑丈だねぇ。『窒素装甲』」

麦野は褒め称えるが、考え事に夢中で当の本人は聞いていなかった。

絹旗(体の自由が超利かなかったのは、おそらくは『洗脳操作』の仕業……どっかに隠れているはずですが、
   いちいち探している暇はありませんし……ここら一帯を、まとめて吹き飛ばしますかね……)

滝壺「物騒な事を考えているね。きぬはた」

絹旗「心も読まれていますし、超やりづらいですね」

浜面「これで分かったろ?この状況、どう考えたってお前が不利だ。今俺達の仲間になるってんなら」

絹旗「バカ面は超黙っていてください」

浜面「なにおう!?」

フレンダ「そんなことより、私の蹴りについてはノーリアクションな訳!?」

絹旗「どうせ肉体系能力の何かでしょう。超しょぼいです。と言うか地味」

フレンダ「なにおう!?私のこの美しい脚を最大限に生かす能力、『脚色脚力』(アダプテーション)を馬鹿にする訳!?」

絹旗「結局、肉体系能力ってことでいいですか?」

フレンダ「結局そうよ!」

麦野「フレンダは確かにしょぼいよ。脚だけを強化する能力、所詮は三流の能力さ」

フレンダ「麦野まで!?」

麦野「だけど私達は違う。言っておくけど、私と滝壺は生前と同じ能力、
   『原子崩し』(メルトダウナー)と『能力追跡』(AIMストーカー)だ」

絹旗「……超浜面はどうなんですか?」

麦野「浜面は、私と滝壺の一流の能力者と違って二流かな。
   『爆裂空拳』(バーンナックル)って言って、フレンダよりは使えるぐらい」

フレンダ「麦野酷い」

麦野「そしてもう気付いていると思うけど『精神感応』と『洗脳操作』によって絹旗の心は読めるし、
   体の自由もある程度奪っている。頭の良い絹旗なら、この状況がどれだけ不利かは分かっているわよねぇ?」

絹旗「……」

麦野「もう一度だけ言う。これが最後だ。私達のところにこい」

絹旗「……超断ります」
195 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 21:02:48.45 ID:JDo3T/bx0
浜面「おいおい考え直せ。どう考えたってお前に勝ち目ねぇって!」

絹旗「どうしたんですか浜面?そこまでして私を引き込みたいなんて、もしかして私の事が超好きだったりして」

浜面「な!?そんなわけねぇだろ!俺は滝壺一筋だしぃ!」

滝壺「はまづら……?きぬはたは確かに可愛いけど、浮気は駄目だよ?」

浜面「きっぱり否定しましたが!?」

絹旗「ふふ。なるほど再現度は超高いですね。
   麦野の傍若無人っぷりに、フレンダがあしらわれる感じ、浜面の情けないオーラに、滝壺さんの嫉妬。
   本物と比べてもなんら遜色ないです」

フレンダ「いきなりどうしたの?」

絹旗「別に。ただ麦野が私に選択肢を超与えたのが気になっただけですよ。
   本来の麦野なら、容赦なく叩き潰しているのにです」

麦野「そうだよ。本来の私なら叩き潰している。けど、あえて聞いたのよ。
   私だって無闇やたらに人を殺したくはないからねぇ」

絹旗「麦野はそんな超殊勝な人じゃなかったですよ」

麦野「私も変わったのさ。けれど、もう容赦しない。ここからは本気で叩き潰す」

絹旗「そうこなくっちゃ」
196 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 21:05:13.14 ID:JDo3T/bx0
麦野「ふん」

麦野が軽く右腕を振るった。『原子崩し』の光線が放たれる。

絹旗(やっぱり体の自由が利かない!)

それでも窒素を纏い、操る事は出来る。だから絹旗は、前方に窒素の盾を展開した。
窒素の盾は光線を一瞬は受け止めたが、3秒もたずに引き裂かれ、絹旗は飲み込まれた。

フレンダ「絹旗の奴、結局あっさりと消し飛ばされた訳よ」

滝壺「まだだよ、ふれんだ」

フレンダ「え?」

滝壺が注意を喚起した直後。絹旗の方から、窒素の衝撃波が飛んできた。

フレンダ「はにゃーーーーーー!?」

ゴバッ!と、窒素の衝撃波は麦野が生み出した『原子崩し』の盾に阻まれた。

麦野「油断するなフレンダ。絹旗もレベル5。絶対防御と言っても過言ではない防御力があるんだから」

フレンダ「わ、分かった」

麦野「浜面、フレンダ、アンタらは絹旗に近付いて休みなく攻撃し続けなさい。私と滝壺が、後方から支援する」

浜面「なんだよそれ。俺は麦野の流れ弾喰らって死ぬのなんて嫌だぞ」

麦野「大丈夫だ。信じているぞ」

フレンダ「全く心がこもっていないって訳よ……」

麦野「いいから行く!」

浜面・フレンダ「「はいはい」」
197 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 21:08:27.95 ID:JDo3T/bx0
フレンダ「見よ!この脚線美!」

相変わらず体の自由が利かない絹旗は避ける動作は出来ず、
繰り出された蹴りに対して、なんとか腕を出すことしか出来なかった。

ドゴォ!とフレンダの脚と絹旗の腕がぶつかり合い凄まじい音が響くが、絹旗はぶっ飛ばされなかった。

フレンダ「おりょ?」

浜面「どけ!フレンダ!」

フレンダと入れ替わるように、浜面の右拳が飛んできた。絹旗は左拳で対抗する。
そうして拳と拳がぶつかり合った瞬間――

ボガァ!と浜面の拳が爆発し、絹旗は吹っ飛んだ。

絹旗(超浜面のくせに――爆発する拳ですか。生意気です)

心の中で毒づきながらも、絹旗は無傷だった。窒素を拳に集中する事によってダメージを最小限にとどめたのだ。
フレンダの一撃も腕に窒素を集中させることによって、ダメージどころかぶっ飛ばされることさえも防いだのだ。

麦野「なるほど、窒素一点集中か。それで私達の連携攻撃にどこまで耐えられるかねぇ。いけ。フレンダ、浜面」

麦野の命令と同時、2人は駆け出す。麦野も何かを斜め上に投擲した。
その正体を確認する暇もなく、今度は腹部を狙うフレンダの蹴りと、顔面を狙う浜面の拳が同時に突き刺さった。

絹旗「ぐおっ!」

両腕をクロスして顔面を守り、腕と腹部に窒素を集中させていたのにもかかわらず、
墓石をぶち抜きながら数m地面をバウンドした。
198 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 21:10:39.66 ID:JDo3T/bx0
麦野「まだだよ絹旗」

絹旗「……!」

ねっとりとした麦野の声に、ゾクリと背筋に冷たいモノが走る。
極太の『原子崩し』の光線が空中に放たれ、浮いているミラーボールのようなモノに直撃したかと思うと、
それは拡散して雨となって降り注いだ。

浜面「うわっ!」

フレンダ「さすがにヤバいって訳よ!」

敵味方を無視した『原子崩し』の雨は約10秒間も続き、周囲の大地は荒れ果てた。

浜面「危ねぇよ麦野!」

フレンダ「こればっかりは浜面に同意。けど浜面の爆発する拳も危ない」

先程の絹旗への同時攻撃時、浜面の爆発の煽りを受けたフレンダは、ススにまみれたかのように多少黒ずんでいた。

滝壺「はまづら、ふれんだ、油断しちゃだめだよ。きぬはたはまだ生きている」

浜面・フレンダ「「え??」」

麦野「改造型『拡散支援半導体』(シリコンバーン)を利用した私の攻撃を防ぐとはやるじゃない」

滝壺「くる。5mぐらいの大きさの窒素のブーメラン」

滝壺の予言の直後、煙を引き裂き、窒素のブーメランが飛んできた。
飛んできたと言っても、滝壺以外の3人には可視すら出来ないため、来ている事自体が分かりにくい。

麦野「どのへんだ滝壺!」

滝壺「違う。ブーメランは私達を狙っていない。これは――」

ブーメランは滝壺達から逸れ、周囲の墓石を破壊しながら乱れ飛ぶ。
するとゴリッ!と、明らかに墓石が破壊された音ではない音が2回響いた。

滝壺「『洗脳操作』と『精神感応』がやられた。残っているのは私達を『アイテム』に見せている『幻術使い』だけ」

麦野「本当にやるじゃない。絹旗」

絹旗「お前らなんかに負けてたまりますか」

麦野「言うね絹旗。でも、もう飽きちゃったし、次の攻撃で終わらせるか。滝壺」

滝壺「うん」

滝壺は返事をして両手を前に出す。ボシュウ!と絹旗の体を覆っていた窒素が失われた。

絹旗「これは――」

麦野「『能力追跡』で一時的に能力を剥奪した。やっておしまい、フレンダ、浜面」

浜面・フレンダ「「おう(うん)!」」

2人が絹旗に迫る。

絹旗(くっ……そ――!)
199 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 21:11:41.06 ID:JDo3T/bx0
爆発が起こった。という事は、浜面の拳がちゃんとぶつかった証でもある。

麦野「終わったか」

前方に広がる煙を見て、麦野は決着を確信したが、

滝壺「あぐっ!」

滝壺の喘ぐ声。麦野は思わず振り返った。彼女は地面に伏していて、既に気絶していた。

麦野(まさか……)

前方に振り向き直すと、煙は晴れていて、気絶して倒れているフレンダと浜面がいた。
比べて絹旗は超然と立っていた。勝負はまだ決していなかった。

麦野「どういうことかしら……?」

絹旗「超気合い、ですかね」

麦野「まさかとは思うが、気合いで滝壺から能力を奪い返し、さらには窒素を操り3人を一気に押し潰したとでも言うのか?
   爆発が起こったのは、絹旗の体にではなく窒素にぶつかったからか」

絹旗「そうなりますね」

麦野「随分タフになったねぇ。けど、私は野垂れている3人とは違うわよ」

絹旗「超御託は良いです。さっさとやりましょうか」

戦局は1対1。正真正銘のラストバトルが幕を開ける。
200 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 21:13:29.03 ID:JDo3T/bx0
ギュイーン!と連続で放たれる光線を、絹旗は紙一重で避けて麦野に肉迫する。

麦野「目が良いな。私の光線を見切れるとはね。だけど」

使い捨てではなく、拡散できる範囲も広がった改造型シリコンバーンを前方に投げる。
それに光線を当てて、拡散させる。全方向に拡散される為、横に跳ぼうが上に跳ぼうが完全に避ける事は出来ない。

絹旗「ぐあっ!」

ズドドドド!と絹旗は光線の雨を体中に喰らい、その勢いで地面を数m転がる。

麦野「あらぁ?もう限界なのかなぁ?」

立ち上がった絹旗の着用しているふわふわのニットのワンピースは、ところどころ溶けていた。
それは麦野の『原子崩し』が一部通ったことを表していた。

麦野(拡散された分、威力が弱くなった『原子崩し』であのザマか。なら拡散されていない一撃で終了だな)

考えてみれば、絹旗は3人を倒す為に窒素を操り、能力をかなり消耗している。このチャンスを逃さない手はない。

麦野「そりゃ!」

『原子崩し』を絹旗の両隣の大地に走らせる。つまり、絹旗の横への回避を封じた。

麦野「消し飛べ」

直径2mほどの光線が放たれる。横に跳べない絹旗はとりあえず左手を出すが、あっさりと飲み込まれた。
201 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 21:15:27.95 ID:JDo3T/bx0
麦野「意外としぶといわね」

絹旗「はぁ、はぁ」

左腕を覆っていたワンピースは肩まで消えていたが、腕は健在だった。

絹旗「くっ!」

勝てないと思ったのか、絹旗は麦野に背を向けて逃げ出した。

麦野「逃がすか!」

光線をいくつか放射するが、墓石をいくつか貫いただけで仕留められなかった。

麦野「この墓地内限定で鬼ごっこってわけね。やってやろうじゃない」

麦野は光線を撒き散らしながら、ゆっくりと闊歩していく。決着の時は近い。
202 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 21:19:11.64 ID:JDo3T/bx0
墓石が破壊される音が断続的に響く。

麦野「いつまで隠れている気だ?墓石もいつかは無くなるんだぞ」

一定の間隔で光線を全方向に放射している麦野に隙はほとんどない。
もう墓地の5割が蹂躙されている。それでも絹旗は焦らず、墓石の隙間を移動しながらチャンスを窺っていた。

絹旗(もう少し……もう少し……)

麦野が歩き出して30歩目を踏み出した瞬間、

絹旗(そこです!)

麦野「うぇ――」

突然、麦野は前のめりになって地に手をついた。理由は単純。
絹旗が窒素を操って作ったわずかな凹凸につまずいたからだ。

麦野「クッソ――」

絹旗「とりゃ!」

麦野に追い討ちをかけるかのごとく、絹旗はスタングレネードを投げた。
同時、それは激しい光と轟音を撒き散らした。

麦野「ぐあああああ!クッソガキがあああああ!」

目と耳を潰された麦野は、なりふり構わず周囲に『原子崩し』を乱発する。
それは墓石、気絶していた浜面、滝壺、フレンダまでをも消し飛ばした。

麦野「きぃぬはたぁぁぁあああああああ!」

光線の威力は一層激しさを増す。麦野の目と耳がある程度回復するまでの、ややしばらくは光線が墓地を蹂躙した。
203 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 21:22:39.00 ID:JDo3T/bx0
麦野「はぁ、はぁ」

光線を乱発し続けたせいで、さすがの麦野も疲れ始めていた。だが、これで終わっただろう。
麦野はそう思っていたのだが、

絹旗「そろそろ、超決着つけましょうか」

声は後ろから。8割の墓地が破壊され、ほとんど荒れ果てた大地のようになっているこの状況で、絹旗最愛は生きていた。

麦野「やるわねぇ。でも、私の前にノコノコ姿を現したってことは、消し飛ぶ覚悟は出来ているんだよね?」

絹旗「いいえ。私は、超勝つ為の準備が整ったから姿を現したんです」

麦野「へぇ。見せてもらおうじゃないの。その準備って奴を!」

『原子崩し』を大地に走らせる。これで絹旗は左右に回避できなくなった。
万が一上に跳んだ場合でも、跳んだところで避けられないレベルの太さの『原子崩し』を放つつもりだし、
億が一避けられたとしても空中で撃ち抜くだけだ。

つまり、麦野の勝利は確定的だった。

麦野「終わりだよ!」

最後の光線が放たれた。対して絹旗は墓石の破片なのか、とにかく塊を投げた。

麦野(ふっ!そんなのでどうにかなるとでも思ったか!)

勝った!と麦野が確信した時、光線と塊がぶつかった。瞬間――

ズバッ!と拡散された光線が跳ね返され、麦野の体と右腕を貫いた。

麦野「ぐ、ああああああ!」

かなり細かく拡散された為、右腕や体には鉛筆の直径ほどの穴がいくつか空いただけだった。
しかしながら激痛である事に変わりはない。麦野は悶絶した。

絹旗「超チェックメイトです!」

絹旗の声と、ガチャリという拳銃のトリガーを引いた音が聞こえた。
撃たれる。そう直感した麦野は半透明の『原子崩し』の盾を生み出す。今の麦野には、それぐらいしか出来なかった。

パンパンパン!と銃声が連続で木霊する。絹旗は替えの銃弾が尽きるまで撃ち続けたが、結局盾は貫けなかった。
ならもういい。と言った調子で絹旗は拳銃を横に投げ捨てた。そして駆け出す。
ほんの少しだけ回復した己の能力で、窒素を纏った拳で殴る為に。

絹旗「終わり、です!」

バリィン!と絹旗の拳は半透明の『原子崩し』の盾をぶち破り、麦野の顔面に直撃した。
殴られた麦野は、地面を数m転がった。
204 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 21:26:49.85 ID:JDo3T/bx0
絹旗「超やりました……」

緊張の糸が解け、一気に力が抜けた絹旗は尻餅をついて呟いた。

絹旗(我ながら、超あっぱれの作戦でしたね……)

最後の光線の時に対抗して投げた塊は、実は改造型シリコンバーンだった。スタングレネードを投げたと同時、
あらかじめ位置を把握しておいた空中に浮きっぱなしだったシリコンバーンを撃ち抜き、回収しておいたのだ。
光線が乱発されている中で回収するのは苦労したものだ。
以前なら到底出来なかった芸当だが、ジャッジメントになるために色々努力してきた結果がここで実を結んだ気がする。

そしてあの最後の攻防に繋がる。
砂をまぶしてカムフラージュしたシリコンバーンを投げ、光線を拡散、反射させた。
もっとも、光線が放たれた時点でリセットはできないのだから、カムフラージュは必要なかったと言えば必要なかったが。
気持ち的にやったというのもあった。

しかし改造型シリコンバーンは、一方向だけでなく全方向に拡散させる代物だったため、
シリコンバーン投げたと同時、背中を丸めて背中に窒素を集中して何とか耐えなければならなかった。

結果として直撃した部分の服は溶け、多少の火傷を負ったものの致命傷は避けた。
本当に、ここまで上手くいったのは奇跡だと思う。

絹旗(ですが、もう動けません……)

もういっそのこと仰向けになろうかと考えていた、その時だった。ザリッと音がしたかと思うと、麦野が立ち上がっていた。

絹旗「――!」

麦野「立てよ絹旗。次が本当の最後の攻撃だ」

そう言う麦野の左腕には『原子崩し』がドリルのように回転して渦巻いていた。徐々にこっちに近付いてくる。

絹旗「――ふぅ」

絹旗は覚悟を決めた。もう能力も体力も限界だが、このまま黙ってやられることだけは嫌だ。
右腕に窒素を集め、ドリルのように回転させる。そして2人は同時に駆けだす。

絹旗「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

麦野「らあああああああああああああああああああああ!」

2人の咆哮が重なり、ドリルとドリルがぶつかり合った。
3秒ほど拮抗したのち、轟音と共に2人は弾き飛ばされ地面を何回もバウンドした。
麦野も絹旗も、完全に意識を失った。
205 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 21:30:34.60 ID:JDo3T/bx0
削板「どらぁ!」

削板の右拳がオッレルスの顔面に突き刺さった。グラリと揺らぐオッレルスの腹部に、さらに左拳を叩きこむ。
極めつけにくの字に折れ曲がったオッレルスの頭に、拳骨を叩きこんだ。
思い切り地面に叩きつけられたオッレルスは、スーパーボールのように2、3回跳ねた。

削板「堅ってぇなー」

削板はじんじんと痛む己の拳を見ながら呟いた。オッレルスは平然と立ち上がる。

オッレルス「痛いなー。もう少し手加減してくれてもいいだろ?」

削板「何で?お前が『念動力』の鎧を纏っている事ぐらい、1発殴ったら分かった。そんな相手に手加減する理由はない」

オッレルス「いくら『念動力』の鎧があると言っても、全くのノーダメージって訳じゃないからね」

削板「あっそ」

直後に数mの距離を埋めて、左拳をオッレルスの腹目がけて放った。

オッレルス「甘いよ」

しかしオッレルスの右手が左拳を受け止めた。ならばと、右拳を顎目がけて放ったが、それも左手で受け止められた。

削板(――まずい!)

直感した削板は距離を取ろうとするが、両手を掴まれている為叶わない。
そして、オッレルスの掌から強力な不可視の波動が放たれた。

削板「ぐおっ!」

超至近距離で能力の波動を喰らった削板は数十mほど吹き飛ばされるが、
しっかり地に足をつき、地面を何mかスライドしただけで済んだ。
206 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 21:34:00.73 ID:JDo3T/bx0
削板「――っと!」

削板は突然、その場で高さ3mほどのバク宙をした。
直後、轟音と共に莫大な風が一直線に走ってきて、その先に居たオッレルスにぶつかった。
バク宙をしていなければ、風に引き裂かれているところだった。

オッレルス「いったいなー。ちゃんとしてくれよシルビア!」

風をまともに喰らったと言うのに、平然とオッレルスは叫んでいた。
と、それに呼応するように、

「仕方ないだろ!そこの坊やが避けるから悪いんだ!」

肩までかかる金髪に青い瞳、パッツン前髪の額の上には大きなゴーグルを掲げ、 作業着のような服に白いエプロンを纏い、動き易そうな靴、という容貌の女が叫び返しながらロケットのように飛んできた。その手には剣の柄だけが握られている。

削板「へぇ。面白いねえちゃんだ!」

まだバク宙の途中で宙を舞っている削板の右手に、青い光の刀が握られる。

シルビア「喰らいやがれ!」

シルビアは柄だけの剣を振るう。削板も青い光の刀を振るった。
ガキィン!と金属がぶつかり合ったような音がした。

シルビア「ふっ」

削板「へっ」

2人は笑みを浮かべた。そして地面に着地した削板とシルビアは、何回か斬り合いをして互いに距離をとった。
207 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 21:35:04.17 ID:JDo3T/bx0
削板「やるねぇ姉ちゃん。俺は削板軍覇って言うんだけど、姉ちゃんは?」

シルビア「シルビア。お前が今まで戦っていた男の許嫁だよ」

オッレルス「適当言うなよ」

シルビア「良いじゃん別に」

削板「ふーん。まあいいや。早くやろうぜ」

オッレルス「君から聞いといてそれはないんじゃないかな?」

シルビア「私も君に同感だよ。早くやろうじゃないか!」

削板とシルビアの2人は地面を蹴った。
208 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 21:37:49.37 ID:JDo3T/bx0
ゴキィンガキィン!と金属がぶつかりあうような音が連続で木霊する。シルビアと削板の斬り合いのせいだ。

シルビア「おい!突っ立ってないで協力しろ!」

オッレルス「俺は体術が得意じゃない。君達の戦いには割り込めないよ」

シルビア「甘えんな!私が指示を出すから、その通りに動け!」

オッレルス「あ、ああ」

シルビア「まずは、この男の後ろに回り込め!そこで波動を放て!」

オッレルス「オッケー」

シルビアに言われた通り、削板の後ろに回り込んだオッレルスの掌から波動が放たれた。

削板「ふん!」

シルビア「きゃっ」

削板は鍔迫り合い状態から一歩引いて受け流し、ジャンプした。これで波動はシルビアに直撃する。

シルビア「なーんて、ね」

しかしシルビアは弾かれなかった。オッレルスが波動を消したからだ。

シルビア「そらぁ!」

空中で身動きが取れない削板を狙って、柄しかない剣が振るわれた。それで削板は引き裂かれるはずだった。

しかし削板は、足の裏に小さな魔法陣を2つ顕現させ、それを蹴って風の刃を回避。
シルビアから大きく距離を取り、目の前に直径2mほどの魔法陣を3つ並べて顕現させる。

シルビア「あれはヤバいわね。オッレルス!」

オッレルス「はいはい」

オッレルスとシルビアは隣合わせになる。
オッレルスは両掌の間に『念動力』をチャージし、シルビアは突きを繰り出す為に柄しかない剣を引く。

削板「『三重魔法陣の衝撃』(トライスペルインパクト)!」

叫びながら、自身が顕現させた魔法陣を思い切り殴った。
その一撃で魔法陣は3枚とも壊れ、とてつもない衝撃波が生まれ飛ばされる!

シルビア「いくわよ!」

オッレルス「ああ」

シルビアの柄しかない剣は学園都市製で、周囲の大気を集めて、刀身をそれで代用する事が出来る代物だった。
そして今、限界まで集めた大気を突きで一気に放出した。
そのパワーは、レベル5の大気系能力者が生み出す突風と比べても劣っていない。

その一撃にオッレルスがチャージした『念動力』の波動が上乗せされ、核シェルターをも引き裂く、究極の衝撃波となる。

2つの衝撃波は真正面からぶつかり合い、拮抗する。

オッレルス「シルビア、追加の――」

シルビア「違う!」

シルビアはオッレルスの手を取り、柄しかない剣から大気を放出して空を飛ぶ。その直後だった。

削板「『五重魔法陣の衝撃』(ペンタスペルインパクト)!」

削板の掛け声が聞こえたと思ったら、ゴッバァ!と、とてつもない衝撃波が走った。
飛んでいなければ、間違いなくぶっ飛ばされていた。
209 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 21:40:05.45 ID:JDo3T/bx0
オッレルス「うっひゃあ。喰らっていたら『念動力』を纏っている俺でさえ再起不能になっていたかも」

シルビア「油断するな!前方に『念動力』の盾を展開しろ!私が支えるから!」

衝撃が走った後の地に足をつけながら、背中合わせになる2人。シルビアは柄しかない剣に大気を集める。
その間に削板は直径3mほどの青い魔法陣を、目の前に20個ほど顕現させる。

削板「『多重魔法陣の衝撃』(デュアルスペルインパクト)!」

掛け声と共に、その魔法陣の内の1個を殴り、壊す。
一部分が相互に重なり合っていた20個の魔法陣は、1個壊れた事によって連動して壊れていく。
つまり、連動して魔法陣20個分の広範囲衝撃波が放たれる。

オッレルス「これはヤバいな……!」

両掌を前に出し『念動力』の盾を展開する。背中に居るシルビアは、柄しかない剣から大気を放出してオッレルスを支える。

オッレルス「嘘……だろ……」

ビキリ、と全力の『念動力』の盾にヒビが入る。シルビアにも支えてもらっているのに衝撃波が抑えきれない。そして――

オッレルス・シルビア「――!」

盾が割れ、悲鳴を上げることもできず2人は吹き飛ばされた。

シルビア「くっそ……」

気絶しているオッレルスをどかしながら、シルビアは立ち上がる。すると目の前には、削板が息を切らしながら立っていた。
シルビアは削板が魔道書をかざしたのを見て、後退する。よって、オッレルスだけ魔道書に回収された。

削板「さすがに、お前までは、倒しきれなかったか」

シルビア「どうやら私1人では君に勝てないみたい。ここは退かせてもらうわ」

削板「くっ。待て!」

削板の呼びかけなどシルビアは当然無視し、柄しかない剣から大気を放出してロケットのように飛んでいった。
大技を3連続で使った削板には、追いかける力は残っていなかった。
210 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 21:43:05.65 ID:JDo3T/bx0
五和「――七閃!」

見様見真似で周囲に放った七閃は、見事に4人の人間を吹き飛ばした。

建宮「結構やるのよな。だが、能力者達は洗脳状態で痛みは感じない。その上肉体のリミッターも振り切っている。
   何が言いたいかと言うと、そいつらは完全に殺さないと止まらないのよな」

五和「そうですか。アドバイス感謝しますよ!――七閃!」

再び七閃が繰り出される。西洋剣を持っている男、野母崎ただ1人だけを狙って。

「くそっ!」

野母崎は西洋剣を振るって鋼糸(ワイヤー)を断ち切ろうとするが叶わず、まともに喰らい柱に巻きつけられた。

「どりゃあ!」

五和の後方から牛深が斧を投擲する。それはブーメランのようになって五和に向かう。

五和「甘いです!」

ガキィン!と七天七刀で斧を上に弾いた五和は、鞘に収まっている七天七刀を逆さまに持ちかえて、バットのように振った。
するとスポーン!と七天七刀が鞘から抜け出し放たれ、ブーメランのように回転して牛深に向かう。

牛深「ぬおっ!?」

牛深は面食らったが、なんとかジャンプでそれを回避。しかしそれは五和の計算通りだった。

刀が射出されたと同時に駆けだし、ジャンプしていた五和は、ジャンプした牛深の真正面で鞘を思い切り振り下ろした。

ガッ!と鞘の一撃をまともに受けた牛深は、地面にひれ伏す。それでもすぐに立ち上がろうとしたが、

五和「させません!」

フィアンマから譲り受けた魔道書で牛深を回収した。

「よくも!」

七天七刀の長さほどではないが、太刀を持っている女が五和に迫り突きを繰り出す。
五和は臆せず、刀を納める穴がある方を太刀の切っ先に向けて、鞘を突き出す。

太刀女「へっ?」

突き出された鞘の中に太刀はスライドしていき、つられて五和の懐に入ってしまう。
五和はそこへ、膝蹴りを女の腹部に叩きこんだ。さらにそのまま抱きこむように、魔道書で女を回収した。

「やるわね五和!」

最後の1人、ドレスソードを持った浦上が、五和を切り裂く為に駆けだしている。

五和「ふっ!」

短く息を吐き、先程納めた太刀で居合い斬りを繰り出す。ガッキィン!とドレスソードと太刀がぶつかり合う。

浦上「ぐっ……」

ぶつかり合った時の衝撃が大きすぎて、腕が痺れてしまった浦上はドレスソードを落とす。
一方五和は、太刀を投げ捨て鞘の先端を浦上の腹部に向けて、放った。

浦上「ぐはっ!」

五和「まだです!」

鞘が浦上の腹部にめり込んだまま、五和は走りだす。奥の柱に巻きつけられている、野母崎のもとへ。

野母崎「や、やめろおおおお!」

ドゴォ!と鞘に押された浦上が、野母崎にぶつかった。
野母崎と鞘のサンドイッチになった浦上は吐瀉物を撒き散らし、鞘と柱のサンドイッチになった野母崎も、悶絶した。

五和「回収します」

五和は魔道書をかざし、2人を一気に回収。その後放った七天七刀を拾い上げ鞘に納めたところで、建宮の放送がかかった。
211 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 21:44:22.54 ID:JDo3T/bx0
建宮「いやいや、お見事ですな五和さん。七天七刀を使いこなしているとは言い難かったが、動きは素晴らしかったのよな」

五和「馬鹿みたいに修行していた訳ではありませんが、日々の鍛錬は怠らなかったですから」

建宮「日々の鍛錬だけでは、そこまでは出来ないのよな。ひょっとしたら、センスでもあるのかもしれないのよな」

五和「それはどうも」

建宮「時に五和よ。よくもまあ、かつて仲間だった凄教徒達を容赦なく殴れるようになったもんなのよな?」

五和「何を言うんですか?こんなもの、幻覚か何かを見せているだけじゃないですか。もう皆死んでしまったんです。
   死んだ人は戻ってきません」

建宮「随分と冷たくなったのよな」

五和「何とでも言ってください。私は今の生活と、この世界を守るためなら鬼になりますよ」

建宮「威勢が良いのよな。どうやら、楽しいゲームになりそうなのよな」

4人回収した訳だが凄教徒は約50人いるため、残りは40人以上だ。ゲームはまだ始まったばかり。
212 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 21:48:19.47 ID:JDo3T/bx0
五和「――唯閃!」

見様見真似で図書館の壁に斬りかかった五和だったが、ただの居合い斬りにしかならず図書館の壁を壊す事は叶わなかった。

五和(わざわざ玄関から出なくても、壁を壊して出て行けばいいと思いましたが……さすが学園都市の施設。
   私程度の居合いでは傷をつけることすら出来ませんね)

まあいい。壁が駄目なら、図書館から出て廊下の窓から出るという方法もある。
五和はそう考え、勢いよく図書館を飛び出した。その直後だった。

初老の男、諫早が五和に跳びかかり、両手で持っていたメイスを振り下ろした。

五和「――っ!」

間一髪、七天七刀を水平に構えてメイスを受け止めた。しかし油断は出来ない。現在進行形でメイスの重圧は続いている。

「ぬおおおおおおお!」

五和(力が増した!?)

メキメキと諫早のメイスが圧してくる。初老の力とは思えない。
もっとも、幻覚か何かでそう見えているだけだろうから、実際はマッチョな人間なのかもしれないが。

五和(っ。このままだと圧し潰される……!やるしかない!)

覚悟を決めた五和は、クイッと七天七刀を傾けてメイスを左に反らす。
ゴトン!とメイスは地面に直撃した。

五和(今だ!)

鞘から七天七刀を引き抜き、峰打ちを繰り出す。

諫早「甘いわ!」

諫早は驚くほどの身軽さで峰打ちを跳んでかわし、反撃の蹴りを五和の顔面に叩きこんだ。

諫早「まだだ!」

五和の脇腹を狙って、メイスを横薙ぎにする。
五和は七天七刀を縦に構えてガードを試みたが、受け切る事は出来ず薙ぎ払われ、尻餅をついた。

五和「いたた……っ――!」

立ち上がる暇もなく追い討ちの振り下ろされたメイスを、七天七刀を水平に構えて何とか受け切ったが、

五和(どう……すれば……)

尻餅をついた状態で上からのメイスの圧力。潰されるのは時間の問題だ。
先程のように受け流して居合い斬りはもう通用しない。そもそも初めから居合い斬りを実戦で使うには無理があった。

2mほどの大きさの七天七刀は、元々は人間の膂力を遥かに上回る『聖人』であり、身長も180cmほどある神裂火織の得物だった。
それを魔術師とはいえ膂力も身長も普通の女の子でしかない五和が片手で振り回すなど、最初から無茶な話だったのだ。
ましてや五和の本来の得物は槍なのだから。

諫早は確かに身軽だった。しかしながら、神裂の一閃なら諫早は避けられなかっただろう。
五和の一閃だから避けられたのだ。

五和(私……ここで負けるのかな……)

もう腕が痛い。地面についているお尻だって痛い。峰の方とは言え、添えている左手からは血が流れるし痛い。
上条の口車に乗せられて調子に乗って七天七刀を手に取った事が――

五和(――当麻さん!)
213 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 21:50:35.25 ID:JDo3T/bx0
諫早(んん!?)

尻餅をついた状態の五和が押し返してきたので、諫早は若干動揺する。

諫早「やるじゃないか五和。ふん!」

諫早はマックスのパワーをメイスに加えた。それで今五和にかかっている負荷は優に300kgを超えている。
しかし彼女は潰れなかった。

諫早(なんだと!?)

五和「んがああああああああああああああ!」

左手がさらに深く裂け、鮮血が流れるが気にしない。
絶対に、負けるわけにはいかない!

五和「りゃああああああああああああああ!」

男勝りの雄叫びをあげながら、ついに五和が諫早を押し返した。
押し返され仰け反る諫早の顔面に、五和は上段蹴りを叩きこんだ。

諫早「ぐへっ!」

情けない声をあげながら、諫早はメイスを落として倒れた。
かけていた眼鏡は割れてしまっていて、破片がいくつか顔に突き刺さっていた。そんな諫早を、五和は魔道書で回収した。
214 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 21:53:17.09 ID:JDo3T/bx0
建宮「やるのよな。まさかあの状況から逆転するとは」

五和「当麻さんを初めとする仲間の顔を思い浮かべたら、絶対負けられないと思いましたから」

建宮「ふーん。思い一つでそこまで力が出せるとは、感心なのよな。
   ところで五和さんよ、もしかして窓からこの大学を出ようと思っているのよな?」

五和「それが何か?建宮さんはこう言いましたよ。『この大学から出れば良い』って。玄関からという指定はありません」

建宮「そっかそっか。それは俺が悪かったのよな。じゃあ今のうちに言っておく。窓には爆弾が仕掛けられている。
   窓から出ようとすれば、俺がスイッチを押して爆発させる。要するに、お前さんは玄関からしか出てはいけない」

五和「嘘……ですよね?」

建宮「仕方ないのよな」

建宮がそう呟いた直後だった。ゴォン!と上の階から地響きのような音が聞こえた。

建宮「お前さんが今いるのは1階、今のは4階の爆弾を爆発させた。これを至近距離で喰らえば、どうなるかは明白なのよな」

五和「ブラフですね。あの程度の音、能力者を使えば出せるんじゃないですか」

建宮「お前さんがそう思いたいなら、そう思えばいいさ」

五和(くっ)

こんなの冗談だ。せめて目の前で爆発を見ない限りはそう思う。そう思うが、もし本当だったら……。

建宮「悩む事はないのよな。別に玄関から出れば良いだけなのよな」

五和「そんなこと言って、玄関にも爆弾を仕掛けているんじゃないですか」

建宮「そこまではしないのよな。これはあくまで公平なゲーム。玄関からは無事に出られる。
   ただ窓からは駄目なだけなのよな。ちなみに、屋上からならアリなのよな。
   まあ無事に着地できるかは保証しないし、1階から屋上目指すより、1階にある玄関探した方が効率的だとは思うが」

五和(どうする?)

建宮「まだ悩んでいるのよな?ならもう1つだけ言っておくのよな。
   もしお前さんが無理にでも窓から脱出しようものなら、能力者の何人かを殺す」

五和「な――」

建宮「分かったら、大人しく玄関から出るのよな」

五和(くそっ……)

単なる揺さぶりなのかもしれないが、食蜂は200万人の能力者を従えている。
何人か死んだところで、大勢に影響は出ないだろう。とすると、何人かを殺すと言うのは、あながち有り得ない話ではない。
つまるところ、五和には玄関から出るという選択しかなかった。

五和(いいでしょう。やってやりますよ)

どの方向に行けば玄関があるのかも分からないが、とりあえず駆け出した。
215 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 21:55:08.69 ID:JDo3T/bx0
五和「はぁ、はぁ」

大学内を走り回り始めてから、かれこれ7分くらい経っている気がする。
廊下や講義を行う教室、ロビーなど、至る所でテレポートされてくる天草式の凄教徒数名を何とか倒し、回収してきた。
そうして疲労がたまってきた五和が次に辿り着いた場所は、体育館だった。

五和(あれは……)

割と広い体育館の中心にぽつんと、小柄な少年が1人立っていた。

「次は俺っすよ。五和さん!」

言うが早いか、両手に短剣を持った香焼が一直線にこっちに向かってくる。

五和(なかなか速いですが、スピードに溺れすぎですよ!)

一直線に向かってくる香焼に、五和は素直に突きを繰り出す。

香焼「ほんと、五和さんは単純すね!」

香焼はジャンプして突き出された七天七刀に乗り、踏み出す。五和の顔面を蹴り飛ばす為に。

五和「くっ――」

五和はギリギリで体を仰け反らせ、香焼の蹴りを回避。
さらに七天七刀を一旦手放し、香焼の足を掴み取り地面に叩きつけた。

香焼「いってぇ〜!」

五和「回収!」

悶絶する香焼に、五和は魔道書をかざす。

香焼「それは勘弁!」

香焼は自らゴロゴロ転がって、魔道書の回収を回避。そしてすぐに立ち上がった。

五和(めちゃくちゃな動き……まるで読めない……)

そして何より、圧倒的な身軽さ。今までだましだましやってきたが、香焼相手には自分の攻撃はまず当たらないだろう。

五和(それでも――)

負けるわけにはいかない。

香焼「いくっすよ!」
216 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 21:58:01.81 ID:JDo3T/bx0
2本の短剣で一切の余裕を与えないように連続で斬りつけてくる香焼の攻撃に、
五和は刀を水平に構えて後退するだけの防戦一方だった。

香焼「とうっ!ていっ!やあっ!」

五和(くぅ……)

怒涛の攻撃に何も出来ない五和は、ある疑問を抱き始めていた。
これだけ絶え間なく攻撃を続けていたらスタミナが切れるはずなのに、動きが全く衰えないのだ。

五和(なん、で……?)

香焼「そこだ!」

五和が一瞬弱気になったところを香焼は見逃さず、左手の短剣を思い切り振り下ろす。
ガキィン!とそれを七天七刀で受け止めた五和は、その衝撃で左腕が痺れてしまい左手を離してしまう。
それでも右手は離さなかった。

香焼「そりゃ!」

ガラ空きとなった五和の胸辺りを狙って、香焼は右手の短剣を振るった。
五和は何とか後退して、短剣の一閃を掠める程度に留めた。

香焼「あーあ、今の一閃、短剣じゃなければ致命傷だったのに。
   短剣って、動きやすいかわりにリーチが短いのが難点なんすよね〜」

余裕の態度を見せる香焼に、五和は無視して七閃を繰り出す。
一瞬という時間に七度殺せるレベルのワイヤー攻撃が、香焼に襲い掛かる。

香焼「そんな前時代的攻撃、喰らわないっすよ!」

しかし香焼は、短剣でワイヤーを切るのではなく受け流し、少しだけ跳び、ワイヤーを抜けかわした。

香焼「こうやって狭い隙間を抜けられるのが、小柄な体格のいいところなんすよね〜」

確かに、香焼ほど小柄じゃなければ今の攻撃は抜けられなかった。

五和(ならば、賭けですが――)

五和はさっきの一閃で多少引き裂かれたウインドブレーカーを脱ぎ、水色のタンクトップ姿になった。
ただでさえ大きめな胸が、さらに際立つ。

香焼「でかっ!」

構わず五和は香焼に向かってウインドブレーカーを投げつける。

香焼「目眩ましっすか?甘いっすよ!」

カウンターがくることを分かっていながら香焼は突っ込んだ。
217 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 21:58:45.14 ID:JDo3T/bx0
ウインドブレーカーを引き裂いた先には案の定、鞘を引いている五和がいた。

香焼(突き程度で仕留められるほど甘くはないんすよ!)

繰り出された突きを、今度は思い切り屈んで回避した香焼は、まずは足でも切ってやろうと、短剣を振るう。

香焼(獲った!)

五和「――!」

グシュ!と肉を貫く音が木霊し、体育館の床には血溜まりが広がった。
218 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 22:03:11.57 ID:JDo3T/bx0
香焼「あ……れ……?」

香焼は床に伏していた。左肩を七天七刀に貫かれて。

五和「回収します」

魔道書をかざして香焼を回収した五和は、床に刺さった七天七刀を引き抜く。

五和「ふぅ」

香焼との一戦を終え、一息つく五和。我ながらあれだけ上手くいったのは、かなりラッキーだと思う。

香焼との最後の攻防の前、ウインドブレーカーを投げた時に七天七刀も上に投げていた。
そしてそれは、香焼がいよいよ五和の足を切断しようと言う時に落ちてきて、左肩を貫いたのだ。

しかしながら、香焼にうまく当たるとは限らなかったし、気付かれてかわされたかもしれないし、
七天七刀が落ちてくるのがもう少し遅かったら先にやられる、もしくは相討ちだったかもしれない。でも上手くいった。
だからラッキー。

五和(でも……このままでは……)

やはり今の対香焼でも得物をまともには使えず、運頼りの奇策で勝利したに過ぎない。
運も実力のうちとは言うが、この先運だけで勝てるほど甘くはないと思う。
おそらくではあるが、この戦いも監視されている。打てる策もなおさら減っていく。

結局、自分はまだ七天七刀を使いこなせない。
だったらと、今回収した香焼の短剣の内の1本を拝借しようと思ったところで、

「油断しすぎじゃない?」

後ろからの声に振り返るが、グシュ!と左肩が対馬のレイピアに貫かれた。
219 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 22:04:14.99 ID:JDo3T/bx0
ポタポタと、五和の左肩から血が滴り落ちる。

五和「うぅ……」

左肩を貫通しているレイピアを、右手で掴む。

対馬「それ、貴方の血で汚れたからあげる。私はまだあるから」

対馬は腰につけているレイピアをゆっくりと引きぬく。

対馬「次は心臓を一突きにして、終わりにしてあげるからね。大丈夫。一瞬で楽になるから」

そうして最後の一突きを放ったが、

対馬「な――ぐはっ!」

思い切り屈んだ五和にあっさりと回避され、逆に掌底を腹に叩きこまれた。

五和「う……くっ!」

対馬が怯んでいる間に、五和は左肩に刺さっているレイピアを抜いて、握った。

五和「さあ、やりましょうか対馬さん」

対馬「随分タフじゃない。本来の得物ではないレイピアで、どこまでやれるかしらね」
220 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 22:06:38.22 ID:JDo3T/bx0
対馬(嘘でしょ!?この子、本来の得物じゃないのに――)

レイピアでの決闘が始まって約1分。押されているのは対馬の方だった。
徐々に壁際に追いやられていく対馬は、しかし何の対策も出来ず攻撃を防ぐので精一杯だった。

対馬(やばい。そろそろ)

壁にぶつかる。このままだと貫かれてしまうだけだ。

対馬(こうなったら、一か八かだけど)

対馬は壁際ギリギリまで後退する。そして鬼気迫る五和の胸を狙って突きを繰り出した。最低でも相討ちにする為に。

五和も突きを放つ。しかしそれは、対馬を狙ったものではない。
突き出された対馬のレイピアの先端を狙って放たれたものだ。

レイピアとレイピアの先端がぶつかった。
瞬間、刃の部分を曲げたノコギリが戻った時のような独特な音が響き、対馬のレイピアが薪のように割れた。

対馬(嘘……でしょ……)

得物を失った対馬は、五和のレイピアに右肩を貫かれ、壁に縫い付けられた。

対馬「ひょっとして、火事場の馬鹿力って奴……?」

五和「回収します」

レイピアを手放した五和は、魔道書をかざして対馬を回収した。
221 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 22:10:14.16 ID:JDo3T/bx0
五和「やっ……た……」

ぺたりと、女の子座りをした。もう戦える力は残っていない。

五和「どうしよう……」

痛む左肩を抑えながら五和は考える。今まで回収した凄教徒の合計は10名程。
あと40名ぐらい残っている。ここで凄教徒に襲われたら、やられるだけだ。

五和「……逃げなきゃ」

せめてどうにかして玄関に辿りつけば、何とかなるかもしれない。そんな希望的観測を抱き始めた時だった。

建宮「ざぁんねん。ゲームオーバーなのよな」

クワガタのような髪型に、衣類も白地に斜めの赤十字が染め抜かれた、ぶかぶかのTシャツにだぼだぼのジーンズ、
1m程もの長さの靴紐、首には小型の扇風機を4つぶらさげている建宮が、五和の真後ろに立っていた。
その手には『フランベルジェ』が握られている。

建宮「今のお前さんには、戦うどころか走り回る体力すらないのよな。ここで一思いに処刑してやるのよな」

五和は首だけを後ろに向けて建宮を見た。そして悟った。この状況、どう足掻いてもひっくり返せない。
戦闘スキルでも、気持ちでも、運でも、奇策でも、火事場の馬鹿力でも。奇跡が起こらない限りは。

建宮「お前さんはよく頑張ったよ。使いこなせない得物で、10名程の凄教徒を回収したのは、誇って良い事だと思うのよな」

言いながら、フランベルジェを持っている右手を上げる。
絶体絶命の状況で五和は、このフランベルジェはフランベルジェの形をしているだけの、ただの鈍だろうな。
なんてことを漠然と考えていた。

建宮「もしかして、助けが来るとかっていう幻想抱いているのよな?無理無理。戦いは各地で行われている。
   万が一戦いを終えたとしても、この学区にお前さんがいる事までは分からない。
   億が一分かったとしても、この学区に来るまでに妨害が入る。
   兆が一この学区に入る事が出来たとしても幻術でこの大学は視覚的には見えない。助けは絶対にないのよな」

ああ、そうか。奇跡など起こらなくとも、誰かが助けに来てくれればいいんだ。
そんな事、なぜかは分からないけど考えつかなかった。

でも、建宮の言う通りだ。この体育館に辿り着ける可能性は限りなくゼロに近い。
けれども、屁理屈だけれども、可能性が低いとはつまり、ゼロじゃない。
だから他力本願だけれども、助けは絶対に来ないなんていう建宮の幻想を完璧にぶち壊して、助けに来てほしい。

五和は、とある少年の顔を思い浮かべた。

建宮「終わりだ!」

建宮のフランベルジェが振り下ろされる。
それでも五和は、助けが来る事を信じて目を閉じなかった。そして――

ドゴォ!と体育館の天井を壊して上から降ってきた少年に、建宮は殴り飛ばされた。

上条「遅くなってすまなかった」

五和「ぁ……」

その声を聞いて安心した五和は、思わず涙ぐんだ。

上条「だけど、もう大丈夫だ。俺が来たからには、何人たりとも、指一本触れさせない」

五和を背に守るようにして立つ上条は、そう宣言した。
222 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 22:12:39.36 ID:JDo3T/bx0
建宮「ぐ……やってくれるのよな」

殴れれた頬をさすりながら、建宮は立ち上がる。

建宮「ここは俺1人では荷が重い。人海戦術でいくのよな」

パッ!と約40人の凄教徒がテレポートされた。

建宮(これには、さすがのやつも少しはビビッているはずのよな)

そう思い、上条達を見る建宮だったが、

五和「でも、わざわざ天井を破壊する事はなかったんじゃないですか?……弁償するハメになったらどうするんですか?」

上条「えー!?俺弁償する必要あるの!?だって緊急時だったのに、本当に俺が悪いの!?」

五和「でも、嬉しいです。本当に駆けつけてくれるなんて///」

上条「彼女を守るのは当然だろ。ほら、これ被っていろ」

上条はウインドブレーカーを脱ぎ、五和にかぶせた。

五和「///」

そしてこの状況の中で、頬を赤らめる五和。

建宮(やつら、緊張感がなさすぎるのよな……そして何より、ムカつく!)

少女「やっていまいましょうよ!教皇代理!」

建宮「おう!一斉にかかれ!」

建宮の号令と共に、凄教徒が一斉に上条目がけて駆けだす。

五和「当麻さん!」

上条「大丈夫。任せとけ!」

上条は右手に『竜王の顎』を顕現し、咆哮させた。
その咆哮はとてつもない衝撃波となり、体育館のライトは全て割れ、凄教徒は全て吹き飛ばされた。

五和「きゃ!」

上条「ウインドブレーカー、ちゃんと被っていろよ!」

ドン!と上条は体育館の床を蹴った。
223 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 22:14:57.65 ID:JDo3T/bx0
上条が来てから、ものの5分程度で全ての決着がついた。咆哮に吹き飛ばされ、
ライトの破片の雨にさらされた凄教徒は怯み、ロクに行動できず『竜王』の力を使役する上条の前に、
為す術なくやられていった。建宮なんかはフランベルジェを砕かれ、顔面殴られてノックアウトだった。

五和「鮮やかなお手並みですね」

上条「ありがとよ。それより、その傷をどうにかしないと」

五和「こんなの、かすり傷ですよ。そんなことより、早く皆を回収しないと……っ!」

上条「無理するなって。こいつら程度ならいつでも倒せるし、食蜂の性格上、一度倒された奴を使うとは考えにくい。
   焦らなくていい」

五和「当麻さん……」

五和は上条に寄りかかる。

上条「ちょ、ちょっと」

五和「疲れたんです。少し寄りかからせて下さい」

上条「いや、そうじゃなくて」

五和「……嫌、ですか」

五和はしゅんとして、涙目になって上条を見つめる。

上条「いやだから、そうじゃなくてだな」

五和「じゃあ何でですか?もしかして照れているんですか?いいじゃないですか。家ではこうやっていつも――」

その時だった。

ヴェント「あのさー、イチャつくのは構わないけども、時と場所を考えてって言うかー。もうちょい緊張感もとうよ」

ぐいぐい迫る五和の対応に困る上条の数m後ろにいたヴェントが、気だるそうに言った。

五和「……え?まさか、今までの全部」

上条「そうだよ。見られた」

五和「はぅ……」

思わず上条のウインドブレーカーで顔を覆う。

上条「もう回収終わったのか?終わったなら五和の傷を頼む」

ヴェント「はいはい。人使いが荒いですね」

文句を言いながらも、ヴェントは魔術で応急処置的に五和の左肩の傷を塞いだ。

上条「よし。じゃあ一旦病院に戻るか」



時刻は9:30。戦いの第二局面が終了した。
224 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 22:23:10.42 ID:JDo3T/bx0
9:40になって、上条、五和、ヴェントが病院に戻ってきた。既に他のメンバーは全員戻ってきていた。

フィアンマ「ようやく戻ったか。早速だがヴェント、重傷者が3人いる。
      ここから1番近い病室のベッドに寝かせてあるから、回復魔術を頼む」

ヴェント「分かった」

上条「ちょ、五和も頼む」

五和をおんぶしている上条が言う。

ヴェント「分かっているわよ。アンタが病室まで運びなさい。彼女も、私に運ばれるよりそれを望んでいるでしょう」

上条「そうなのか五和?」

ぎゅっ、と五和の抱きしめる力が少し強くなったので、上条は自分で運ぶことにした。
その様子を、上条の手によって正気に戻った姫神は、ぼんやりと眺めて、

姫神「あれってもしかして。上条君の彼女……」

ずーん、という効果音が聞こえてきそうな位、姫神は落ち込む。

吹寄「まあまあ姫神さん。今は落ち込んでいる場合じゃないでしょ?」

姫神「うう……」
225 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 22:27:16.92 ID:JDo3T/bx0
一方通行「そうだ。落ち込ンでる場合じゃねェ。オマエら2人も魔道書で転送してもらえ」

吹寄と姫神を睨みながら、一方通行は言った。すると言われた吹寄は急に真面目な顔になって、反論する。

吹寄「いえ、それだけは遠慮します。
   軽く説明を受けて、未だに信じられないけど実際被害者になったし、リベンジと、皆さんの力になりたいです」

姫神「むしろ淡希こそ。何でここに残るの?」

結標「私?私はあれよ。ある男にいろいろ聞きたいのと、ぶん殴りたいのと、とにかくいろいろすることがあるの」

吹寄「完全な私用ですか……」

結標「悪い?」

吹寄「いえ、別に……」

一方通行「つーかだからよォ、結標はともかく、オマエら2人には大人しく転送されてほしいンだけど。
     レベル5相手だぞ。どう考えたって、オマエらには手に余る」

吹寄「分かっています。分かっていますけど」

姫神「皆が頑張っているのに。自分は安全圏でのんびりしているだけなんて。我慢できない」

一方通行「オマエら、あのツンツン頭のクラスメイトなンだって?
     だったら分かるだろ。オマエらが危険な目に会うのを、アイツは我慢できねェだろォよ」

吹寄「分かっています。けど、じっとしていられません。上条が何を言おうとも、私達の考えは変わりません」

一方通行「あっそ。じゃあ勝手にしろ」

吹寄「はい。勝手にします」

結標「え?ちょ、ちょっと、本当にそれでいいの?彼女達、絶対ただでは済まないわよ」

一方通行「これだけ忠告しても効かない馬鹿について、これ以上は俺の知った事じゃねェ。ま、何とかなるンじゃねェ?」

結標「いや、ならないでしょ。あなた達も良く考えなさいよ。レベル5よ。勝てないどころか殺されるわよ!?」

垣根「俺も結標に同意だ」

病室から戻ってきた垣根が、結標に続いた。
226 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 22:29:08.31 ID:JDo3T/bx0
垣根「はっきり言って足手まといだ」

姫神「足手まといにならないように。頑張る」

垣根「頑張るだぁ?そんな生半可な気持ちでどうにかなるほど、この戦いは甘くねぇぞ」

垣根の言葉は、誰が聞いても分かるほどに刺々しかった。

御坂「垣根先輩、何もそこまで言う事はないんじゃないですか?」

絹旗「超そうですよ。戦力が増える事は良い事じゃないですか」

垣根と同じく病室から戻ってきていた御坂と絹旗は、姫神をフォローする。

垣根「戦力が増える?何言ってやがる。コイツらなんてマジで邪魔なだけだ。
   つーかお前らガキ2人も、最早足手まといだぜ。特に連敗続きの御坂はな」

御坂「そ、それは謝りますけど」

佐天「そ、その言い方はないんじゃないですか!御坂さんだって、必死に頑張ったんですよ!」

病室の御坂にずっと付きっきりだった佐天が垣根に噛みつく。

垣根「お前、あれだけ病室で忠告したのに、まだ転送してもらってなかったのか」

佐天「私にだって、出来る事はきっとありますから。大切なのはレベルじゃなくて気持ちですから。
   私も皆さんと一緒に戦います」

御坂「佐天さん……」

垣根「糞みたいな感情論だな。さっきから言っている通り、そんなことでどうにかなるほど、この戦いは甘くねぇ」

一方通行「まァまァ落ち着けって。自分が追い込まれたからって八つ当たりは良くねェ」

垣根「何だと」

結標「あーもう!今は喧嘩している場合じゃないでしょ!」

結標の怒号で、場が一瞬鎮まり返る。
227 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 22:31:31.74 ID:JDo3T/bx0
垣根「とにかく、ガキどもは帰れ。レベル6の俺ですらこうして追い込まれたんだ。
   お前らには絶対にどうすることもできない」

佐天「嫌です!絶対に残ります!」

垣根「じゃあ多数決だ。ガキどもは帰ったほうがいいと思う人、挙手」

その言葉に、一方通行、フィアンマ、結標、病室から戻ってきていたヴェントが手を挙げた。
しかし、少女達以外に手を挙げてない少年が1人いた。

垣根「あれ?上条、お前はガキどもが残った方が良いと言うのか?」

上条「いや、そうじゃないけど……」

垣根「何だ。はっきり言え」

上条「皆の気持ちが痛いほどよく分かるんだよ。じっとしていられない。
   誰かが頑張っているのに、自分だけ楽するなんて耐えられない。って気持ちが」

垣根「で?」

上条「だから、本当は反対だよ。皆にこれ以上傷ついてほしくないし。けど、俺は吹寄達を止められない。
   俺が吹寄達の立場だったら、皆と一緒に戦いたいって言うと思うから」

垣根「じゃあ中立ってわけか?」

上条「まあ、そんなところかな」

垣根「俺含めて反対派が5人。戦いたいとのたまう少女も5人。1人が中立。
   あとは五和、お前と病室で仮眠をとっている削板次第だが」

上条「五和は?」

五和「私も、当麻さんと同意見です」

垣根「はぁ……中立2人。決着がつかねぇな。しょうがねぇ。削板を起こしに行くか」

そうして垣根が病室に向かおうとしたところで、

一方通行「もう良いンじゃねェの?1回戦わせてあげれば」

一方通行が投げやり気味に言った。
228 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 22:33:36.77 ID:JDo3T/bx0
垣根「造反か一方通行」

一方通行「そンな大層なもンじゃねェ。もう議論がだりィって言ってンだよ。一度痛い目見れば、分かるだろ」

垣根「痛い目を見ても挫けないガキが2人いるんだが?」

一方通行「その挫けない電撃姫とチビは俺が守るよ。
     ぶっちゃけ守るの疲れたし、大人しく転送されてほしいンだけど、一度約束しちまったからなァ」

垣根「……そこまで言うなら、百歩譲って相討ちらしかった絹旗と、レベル5の第3位である御坂は良いよ。
   でも残りカス3人は」

上条「じゃあ俺が守るよ。クラスメイトだしな」

垣根「佐天とか言うガキは違うだろ」

上条「そうだけど、約束って意味では、佐天さんも守らなきゃいけないんだ。
   『御坂美琴とその周囲の世界を守る』って、今はもういないけど、気障な男と約束しちまったからな」

垣根「……もういい。勝手にしろ。俺はもう少し寝る」

垣根はそう吐き捨てて病室へ向かって行った。

フィアンマ「……結局、少女達も参戦するで良いのかな?」

上条「良いんじゃないのか?」

吹寄「上条……ありがとう」

上条「別にお礼を言われるような事はしてねーよ」

姫神(上条君が。護ってくれる///)

佐天(なるほど。素であんなこと言っちゃう人なんだ。こりゃあ御坂さんも惚れる訳だ)

フィアンマ「よし。では皆、覚悟は」

ヴェント「ちょっと待ってダーリン。実はね」
229 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 22:36:16.11 ID:JDo3T/bx0
食蜂陣営

折原「本当に良いのですか?またしても奴らを泳がせるなんて」

食蜂「勝手な行動した黒夜が言っていたでしょ?やっぱりさぁ。完膚なきまでに叩きのめしたいのよね。
   ただ潰すだけじゃなくて、何もかも吐き出した空っぽな状態の、絶望したやつらを叩きのめしたいのよ。
   その為には、まだ足りないの」

折原「ですが、やつらは魔術などという得体のしれない技術で回復してしまいますよ。時間を与えれば、能力も体力も」

食蜂「大丈夫よ。その辺りは土御門に聞いてみなさい」

折原「私、土御門はあまり好きではないのですが……」

食蜂「仕方ないわねぇ。じゃぁ、説明してあげる。感謝しなさい」

折原「はい」

食蜂「土御門曰くね、魔術発動には魔力が必要なんだって。ゲームで言えば、MPってとろこかしらぁ。
   回復魔術だって、攻撃魔術だってMPは消費するのよ。つまり、やつらの回復は無限じゃないの」

折原「ですが、それも休めば回復するのでは?」

食蜂「まぁそうなんだけどぉ。それってつまり、やつらが傷つく、魔術で回復。
   傷つく、回復。で何度も苦しみや痛みを与えられるってことでしょ?」

折原「そうかもしれませんが、じわじわ軍が減っているのは、こちらの方ですよ」

食蜂「こっちは大人も含めて約230万人の駒があるのよぉ。
   確かに、結標淡希を奪還されたとかはあるけどぉ、人数的には1万分の1もやられてないのよぉ。
   分かる?1万分の1も減らせてないのに、御坂と絹旗は2度殺されかけ、垣根ですら追い詰められ、
   一方通行はダメージを受けた。この調子で行けば、どちらが有利かなんて、火を見るより明らかじゃない?」

折原「確かにそうですね。しかしながら、上条様はノーダメージですね」

食蜂「そうなのよねぇ。上条君と赤い奴と黄色い奴、削板軍覇が忌々しい。五和とか言う女はゴミね。いつでもやれる」

折原「何気にあの本も厄介ですよね。あの本のせいで戦える能力者も、少しひるんだ程度で回収されてしまいます」

食蜂「そうなのよねぇ。五和は明らかに魔道書に助けられていたわよねぇ」

丁度その時だった。

土御門「終わりました。報告します」

これまでの戦況の確認を終えた土御門が口を開く。
230 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 22:39:21.26 ID:JDo3T/bx0
食蜂「お願い」

土御門「まずは上条・一方通行ペアにより8人が奪還。奪還した結標、吹寄、姫神は、そのまま使うみたいですね」

食蜂「へぇ。あの巨乳と地味女をねぇ」

土御門「次に、御坂が佐天と交戦。能力を使わないと言う暴挙に出るも、一方通行の助けにより奪還されました。
    ちなみに一方通行が助けにいけたのは、ヴェントが上条達の前に現れて奪還した能力者を任せる事が出来たからです」

食蜂「魔術師達うざいわね」

土御門「そうです。100人の『発火能力者』を簡単に退け、その後もフィアンマの方は能力者を何人か回収。
    機動力があるヴェントが他の奴らの救援に行く。そんな感じです」

食蜂「本当邪魔ねぇ」

土御門「垣根対少女軍団ですが、レベル6だけあってしばらくは無双していましたが、木原那由他が
    『体晶』を飲み込ませた事により、追い込むことに成功。まあ最終的には勝利されましたがね。
    ちなみにそこにも、ヴェントが駆けつけています」

食蜂「次は?」

土御門「絹旗対『アイテム』は盤石の構えでしたし、実際終始押し気味でしたが、最終的には絹旗の底力の前に相討ち。
    駆け付けたフィアンマにより回収されました」

食蜂「次」

土御門「削板対オッレルス・シルビアですが、これもまた削板の一方的な勝利でしたね。
    全く持って理解不能な魔術を使っています。
    しかしながら『予知能力』(ファービジョン)のシルビアが何とか逃げ切りました」

食蜂「ふぅん。次」

土御門「最後に、五和対天草式十字凄教徒達ですが、約50人いるメンバーの内、10人ほどしか回収できなかった訳ですが、
    上条当麻とヴェントが救援に来たことにより形勢は逆転。全員回収されました」

食蜂「成程分かったわ。邪魔なのは、やっぱり魔術師ね」

土御門「そうですね。フィアンマとヴェントがかなり暗躍しています。
    最初の戦いでも、スタジアムの天井を壊して黄泉川を回収したのはフィアンマ、
    春上や初春、『心理定規』を回収したのはヴェントです」

食蜂「どうにか魔術師を止める能力者はいないの?」

土御門「そうですね。フィアンマやヴェントは、魔術師でもトップクラスですからね。ただ、削板なら対策法ありますよ」

食蜂「それは私にも分かっている。フィアンマとヴェントをどうにかしたいの」

土御門「なら、アイツを使わせて下さい」

食蜂「誰よ?」

土御門「妃雛菊(きさきひなぎく)。彼女なら何とかなるかもしれません」

食蜂「分かった。いいわよ」
231 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 22:40:42.22 ID:JDo3T/bx0
フィアンマ「俺達に2時間の猶予を与える、か」

ヴェント「そう。その間に準備を整えてらっしゃい。て言っていたわ。そうでしょ当麻?」

上条「ん?ああ。食蜂がわざわざ目の前に出てきてそう言っていたな。つーか何で名前?」

フィアンマ「おい上条。俺の女に何吹きこんだ?」

ゆらりと、フィアンマは病院のロビーの椅子から立ち上がる。

上条「え?いや、俺は何も、つーかヴェントさんよーく見て!明らかに笑い堪えているから!
   意図的にこの状況作り出して楽しんでいるから!」

フィアンマ「何?そうなのかヴェント?」

ヴェント「う、うん、ま、まあね」

笑いを我慢しながら答えた。

一方通行「緊張感ねェなァ」

フィアンマ「お前ら科学サイドだけには言われたくないな」

一方通行「しっかし、俺達を空っぽにして絶望させたい、ねェ」

フィアンマのツッコミを無視して呟いた。

上条「そうなんだ。2時間後、あっちから指示を出すらしい」

一方通行「強引なテレポートは止めンのか」

上条「ああ。今度からは指定された場所に、指定された人が来てもらうらしい。
   指示に従わなかった場合は、能力者を殺すってよ」

一方通行「へェ」

フィアンマ「俺様達はこの2時間で十分に体を休ませ、なおかつ準備をさらに整えればいい訳か」

上条「そういうこと」

一方通行「まずはガキどもの服からだな」
232 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 22:42:03.28 ID:JDo3T/bx0
結標、五和、ヴェント以外の女性陣は、ジャージを買うことにした。比較的安価で、動きやすいからだ。
御坂と絹旗も2連敗(正確には絹旗は相討ちではあるが)で、ダサいとも言っていられなくなってきたのだ。

ヴェントは未だノーダメージなので特に着替える必要はなく、結標はかつて着用していた霧ヶ丘女学院の装いになった。
五和は普通に服を買い、組み合わせることによって、魔術的に意味のある装いになった。

一方男子勢は、武器や装備、食糧をかき集めた。
そして病院で合流し、少々早めの昼食を摂り、装備を分配したところで2時間が経過した。
余談ではあるが、上条と一方通行と御坂は、回収した能力者の洗脳を解く仕事もあった。

削板「よっしゃあ!全力全開だぜ!」

仮眠を取り、十分な食物を摂った削板は万全のようだった。

一方通行「うるせェな。約束の時間だから静かにしてろ」

鬱陶しそうに削板を注意したその時、

食蜂「はぁ〜い。皆さんお待ちかねの時間でぇ〜す☆」

食蜂の声が病院内に響き渡る。

食蜂「上条君とかには言ってあるから分かっていると思うけど、これから指示を出しまぁーす。
   一度しか言わないからよ〜く聞いてねぇ」

そして食蜂から指示が飛ばされる。
233 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/27(火) 22:48:17.69 ID:JDo3T/bx0
とりあえずここまでということで。続きはよっぽどのことがなければ明日の朝にでも投下しようと思っています
234 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/28(水) 22:28:28.54 ID:P2YbQB8q0
>>1乙だぜ
235 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 08:29:50.60 ID:BMIoR+No0
予定より遅れましたが投下しようと思います
236 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 08:32:15.07 ID:BMIoR+No0
指示通り三沢塾に入った上条と、ニットセーターにジーンズの五和ペアを待ち受けていた者は、

「ようやく君をぶちのめす事が出来そうだよ」

「魔術対科学の戦争で『聖人崩し』を喰らったリベンジです」

真っ赤な髪に、右目の下にはバーコードというトンデモ神父ステイル=マグヌスと、
長い髪をポニーテールに括り、Tシャツに片方の裾を根元までぶった切ったジーンズ、
腰のウエスタンベルトには七天七刀という格好の神裂火織だった。

五和「プリエステスに……ステイルさんですか。おそらく、幻覚か何かでしょうね」

上条「そうかもしれないけど、もう1つ可能性がある」

五和「え?」

上条「目の前に居る2人が、それっぽい恰好をしただけの能力者だって可能性だ」

五和「ど、どう言う事でしょうか?」

上条「さっき五和を助けた時、俺の目の前には建宮がいた。でもそれっておかしいんだ。
   『竜王』の力を解放した俺の瞳は、幻術の類を見抜く。だから幻術で建宮に見えるってことは、まず無いんだ」

五和「つまり、髪型をクワガタのようにして、フランベルジェを持った能力者が建宮さんのように振る舞っていただけと言う事ですか?」

上条「そう言う事。体格さえ合えば、顔は特殊メイク、髪は染めれば、よく見ない限り見分けはつかないしな」

五和「なるほど」

上条「つっても、2mの男と180cmの女なんてそうはいない。
   『竜王』の力はまだ解放してないから、目の前に居るこいつらは幻術なのかもしれないけど」

五和「しかし、200万に大人の分の+αがいるわけですし、成りすまし説もあり得ますね」

上条「どの道、俺らがやる事に変わりはないけどな」

ステイル「不毛な会話はすんだかい?」

神裂「空気を読んで待っていましたが、そろそろ行きますよ」

ステイルは掌から炎を出し、神裂は七天七刀を模した太刀をゆっくりと引き抜いた。

上条「俺はステイル。五和は神裂だ。いくぞ!」

五和「はい!」
237 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 08:34:09.32 ID:BMIoR+No0
御坂は自動車関連学校の為に用意された実験用サーキットに来ていた。典型的な『騒音の出る施設』である。

御坂(なるほどね)

もう先が読める。どう考えたってキャパシティダウンを流すつもりだ。御坂の予感は的中する。

キィィィン!と高レベルの能力者にとっては、あまりに不快な音が響いた。

御坂「うぐ……ああ!」

御坂は両手で頭を抑え、その場に蹲ってしまう。と、ズドン!と地面が揺れた。

「あっはっは!無様だねぇ。『超電磁砲』」

「このFIVE_Over.Modelcase_”RAILGUN”(ファイブオーバーモデルケースレールガン)がどこまで通用するか楽しみだよ」

5メートル前後の巨体を誇る2体の『カマキリ』が御坂の後ろに立った。
パイロットはテレスティーナ=木原=ライフライン、シルバークロース=アルファだ。

御坂「どこまで通用するかって言っといて……これはないんじゃないの?」

必死に声を絞り出し、問いかける。

シルバークロース「この女がうるさいからさ。本当は純粋な力比べをしたいのに」

テレスティーナ「この程度であっさりやられるなら、所詮その程度ってことさ」

シルバークロース「……と一点張りでね。まあ同意できる面もあるから、仕方なくさ」

テレスティーナ「さて、3秒後に発射するわよ。3」

カウントが始まったが、御坂は未だ動けない。

テレスティーナ「2」

2秒前。それでも御坂は動けない。

テレスティーナ「1」

シルバークロース「やはり駄目か」

テレスティーナ「0」

カウントが0になったと同時、束ねられた3つの銃身が回転し、
一発一発が戦車を貫き、壁に直径1メートルほどの風穴を空ける威力を持つ、分間4000発もの金属砲弾が撃ち放たれた。
238 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 08:36:22.46 ID:BMIoR+No0
一方通行は、第23学区の上条らとオリアナが激突した場所に来ていた。
彼の目の前には、よく見知っている1人の男と少女の大群。

「久しぶりだなぁ一方通行。お前をボコれるこの日をどれだけ待ち望んだことか」

「ここで会ったが100年目です。とミサカ達は喧嘩を売ります」

一方通行には精神系能力すら効かない。
よって、顔面に刺青で研究服の木原数多や、常盤台の冬服に身を包んだ大量の妹達がこの目に映るのは、心を操られてとかではない。

一方通行(可能性はいくつかあるが、まァどォでもいい事だ)

誰が相手だろうとやる事は変わらないのだから。

木原「いくぜ!マゾ太君!」

木原数多が駆けだした。
239 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 08:38:57.08 ID:BMIoR+No0
絹旗と佐天は第19学区の更地に来ていた。

佐天「何にもないですね」

絹旗「そうですね。ですが、超気を緩めてはいけませんよ」

佐天「はい」

2人は気を緩めずに周囲を見回す。誰も居ないし何もない。
一体何だと、2人が疑問を抱き始めたところで、

突如、2人の視界が真っ暗になった。

佐天「え?え?」

絹旗「超大丈夫ですか佐天さん!」

佐天「大丈夫じゃないです!真っ暗です!どうして!何で!」

佐天はパニくり、とにかく叫ぶ。

絹旗「超落ち着いてください!敵の能力ですよ!大丈夫です。私に触れれば、佐天さんも窒素に包みこめますから」

佐天「でも、どこに居るの絹旗さん!」

絹旗「横です!落ち着いて耳を澄ませれば大丈夫ですから!」

佐天「わ、分かりました!」

佐天は言われた通り耳を澄ます。確かに絹旗の声が聞こえる。
大分近いところに居る。それはそうだ。だってさっきまで隣同士だったんだから。手を伸ばせば、きっと握り返してくれる。

佐天「絹旗さん!」

絹旗「はい!」

2人の手が触れ合った。瞬間。

佐天(え?)

絹旗の手が消えた。

佐天「絹旗さん!絹旗さん!」

返事はない。まさか、テレポートされた?

佐天「嘘、でしょ?」

レベル5の仲間を唐突に失い、途端に不安が爆発する。

佐天(う、うわあああああああ!ど、どどど、どうしよう!?)

佐天は、私も戦いたいとのたまった自分を後悔しつつ、情けないと思った。

「佐天さん……佐天さん」

泣きそうになっている佐天の耳に、聞いた事のある声が届いた。

佐天「この声は……重福さん?」

重福「そうだよ。佐天さんの友達、重福省帆だよ」

佐天「な、んで……」

重福「佐天さん達の相手は、私なの……」
240 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 08:39:49.28 ID:BMIoR+No0
垣根は木原研究所の前に来ていた。
彼の目の前には、いくつもの自律型駆動鎧(パワードスーツ)が並んでいる。

垣根「ただのからくりとは、俺もなめられたもんだなぁ」

垣根はゆっくりと両手を広げる。どこからでもかかってこいと言わんばかりに。
その動作に応えるように、パワードスーツ達の腕から大量のミサイルが発射された。
241 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 08:41:07.03 ID:BMIoR+No0
吹寄と姫神は、かつて一方通行と上条が争った、そして御坂と上条が戦い荒れ地になった操車場に来ていた。

吹寄「あなたが相手ね?」

吹寄は目の前の、黒髪ストレートロングで霧ヶ丘女学院の制服を着ている女性に尋ねた。

「常識的に考えれば、質問しなくても分かると思うけど」

吹寄の質問に無愛想な回答をした彼女は、柊奈美(ひいらぎなみ)と言う。

吹寄「じゃあ遠慮なくいかせてもらおうじゃない!」

吹寄の脚に風が集まる。

柊「見た感じ、レベル3ってところね」

吹寄「『烈風迅脚』(エアロソニック)で申請しているんだけどね。
   まあそんな事はどうでもいいとして、姫神さん、準備は良い?」

姫神「いつでも。いける」

そう答えた姫神の右手には扇子があり、左の掌からは炎が灯っていた。

吹寄「いくわよ!」

姫神「うん!」
242 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 08:42:25.51 ID:BMIoR+No0
削板は再び第1学区の大きな通りにいた。
相手も先程と同じシルビア。ただし、7人ほど人間を引き連れていた。

シルビア「私には見えるよ。君が無様に地面に這いつくばっている未来が」

削板「はぁ?意味不明だぞ。頭大丈夫か?」

シルビア「頭大丈夫かはこっちの台詞よ。『予知能力』も知らないの?」

削板「ふーん。そんなのあるんだ?」

シルビア「学園都市に住んでいる癖に、分からない能力があるって恥ずかしくないの?」

削板「別に。気にしたことねぇしなぁ」

もっとも、学園都市に存在する多種多様な能力を全て言える人間の方が少ないが。

シルビア「ふーん。じゃあ親切なお姉さんが教えてあげよっか?私の能力がどういうことなのかを」

削板「いらん。いいからやろうぜ」

シルビア「まあ聞きなって。聞いといて損はないからさ」

削板「そうか?じゃあ聞くか」

単純である。
243 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 08:47:49.87 ID:BMIoR+No0
シルビア「いい?私の能力は読んで字のごとく、予知する能力。
     時系列的に見て、その時点では発生していない事柄について予め知ること」

削板「んんー?もうよく分からないぞ」

シルビア「これ以上は説明のしようがないんだけど。まあいいわ。それでね。
     私の能力の凄いところは、予め知るだけでなく、その光景を見る事が出来るの」

削板「どう凄いのか分からん」

シルビア「……まともな説明は理解できないようね。いいわ。比較して説明しましょう」

削板「助かる!……かもしれん」

シルビア「たとえば心理系能力者なら、敵の心を読んで行動を先読みするわよね。
     一見凄い事のように見えるけど、実際はいくつか弱点があるのよね」

削板「ほう」

シルビア「何でちょっと偉そうなのよ。まあいいわ。まず1つ。急な心変わりに対応できない。
     2つ。どれだけ行動を先読み出来ても、体がそれについていかない」

削板「ん?どう言う意味だ?」

シルビア「これ以上どう説明しろって言うのよ……」

削板「だからさー、早くやろうぜ」

シルビア「いやちょっと待って。説明するから」

削板「じゃあ早くしてくれよ」

何故か偉そうな削板に、シルビアはちょっといら立つ。

シルビア「だから、君は殴るつもりで敵に向かって駆け出したとします。
     で、心理系能力者は当然拳が飛んでくると思う訳だけど、
     君が攻撃の直前で、やっぱ足技にしようと蹴りを出す事に変更しました。
     そうすると心理系能力者はどうなると思う?」

削板「何とか反応して、受け止めたり、受け流したり、避けたりする」

シルビア「……超人的反応は除く」

削板「拳が来ると思っていたのに、蹴りが来たら不意打ちだよなぁ」

シルビア「つまり?」

削板「蹴られる?」

シルビア「正解(はぁー、疲れる)。じゃあ次の説明だけど」

削板「もういいよ!早くやろうぜ!」

シルビア「ああーもう分かったわよ!端折りまくるけど、私の予知はそれら心理系能力者の弱点を克服している!
     つまり君に勝ち目はないから、大人しく殺されてくれないかな!?」

削板「はぁ?それっておかしくねぇか?」

シルビア「おかしくないわよ!だって不毛な戦いじゃない!
     私には見えるわよ。このまま戦えば、君は苦しんで死ぬことになる。
     でも大人しく殺されるなら、痛みすら感じさせずに殺してあげるし、私達も楽だし、一石二鳥じゃない!」

削板「え!?予知していようが、超人的な動きには対応できなくね!?」

シルビア「2つ目の弱点について分かってたんかい!」

削板「どうなんだよ!」

シルビア「そうだけど、ただの心理系能力者と違って、色々な未来が見えるし、私には超人的動きも通用しない!」

削板「回答になってねーし、それ結局お前だからじゃねーか!」

シルビア「うっさいわね!お望み通りやってやろうじゃない!」

キレたシルビアが柄しかない剣を振るう。それが戦いの合図だった。
244 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 08:49:15.56 ID:BMIoR+No0
結標は、あすなろ園の前で立ち尽くしていた。
目の前にかつての仲間たちと、何人かの男児と、青い髪に耳にピアスをしている少年がいるからだ。

青ピ「どうしたんや淡希」

結標「どうしたじゃないわよ……殴られる覚悟は出来ているのでしょうね?」

青ピ「何で僕が殴られなきゃいけないん?」

結標「自分のやったこと、よーく思い出してみなさいよ」

青ピ「うーん、心当たりないな〜」

結標「よし。殴るわ」

言うが早いか、結標は青髪の前にテレポートする。そして固く握り締められた拳を放った。
245 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 08:51:00.47 ID:BMIoR+No0
フィアンマとヴェントは、第9学区の植物園に来ていた。
彼らの目の前には、ピンク色のミディアムヘアに桃色のパーティドレスと言うとんでもない恰好の、
おそらくは高校生くらいの少女がいた。

フィアンマ「これから一戦交える奴の恰好とは思えんな」

「はぁ?誰に向かって口聞いているの?」

一言聞いただけで、高飛車お嬢様な感じが伝わってくる。

ヴェント「この場には私達とアンタしかいないんだから、アンタ以外有り得ないでしょーが」

「アンタじゃない。妃雛菊。妃お嬢様とでも呼びなさい」

フィアンマ「お前、ひょっとして操られていないのか……?」

あまりにも生意気だったので、なんとなくそう思ったフィアンマは尋ねる。

妃「あら?愚民のくせによく分かったじゃない?そうよ。私は操祈の案に乗って、自分の意思でこの場に居る」

ヴェント「世界滅亡よ?なんでそれに賛成しているの?」

妃「この世界は、穢れている」

急に真面目な顔つきになって、彼女は語りだす。

妃「操祈はね、一口に世界滅亡と謳っているけど、それには並々ならぬ理由があるの」

フィアンマ「どんな理由があろうと、世界滅亡はぶっ飛びすぎだろう。イカれているとしか思えん」

妃「皆そう言うけどね、操祈の話を聞いたら、きっと共感できるわ」

ヴェント「じゃあそれを世界中に聞かせれば良いんじゃないの?そうすれば皆共感して、自殺するかもよ?」

冗談を言うヴェントだったが、意外な答えが返ってきた。

妃「それは無理よ。自殺なんかする訳ないでしょ」

フィアンマ「じゃあやっぱり、世界滅亡はあまりにも突飛な話と言う事じゃないか」

妃「違う。あなた達、私の言いたい事が本気で分からないの?この世界は美しくない。滅ぶべきなのよ」

ヴェント「分かるわかないでしょ。そんなふざけた思想」

妃「分かったわ。そこまで言うなら、私が美しく滅ぼしてあげるわよ」

妃が両手をゆっくりと広げる。戦いが、始まる。
246 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 08:53:41.50 ID:BMIoR+No0
ガッ!キン!と刀と槍をぶつけあいながら、神裂は五和に語りかける。

神裂「五和、その槍は何ですか?」

その問いに対し、五和も律儀に答える。

五和「すみませんプリエステス。
   これはもともと七天七刀だったんですが、フィアンマさんが熱して溶かして槍にしてくれたモノです。
   それより、プリエステスの持っている“それ”こそ、ただの鈍ですよね?」

神裂「もちろん本物の七天七刀ではありませんが、だからと言って鈍ではありませんよ」

五和「へぇ」

ガキィン!となおも刀と槍の打ち合いは続く。

一方で、ステイルと上条は、

ステイル「『魔女狩りの王』(イノケンティウス)!」

ステイルが叫ぶと同時、三沢塾のロビーの床から、彼を守るように炎の巨人が現れる。

上条「ま、レベル5の『発火能力者』なら、これぐらいの芸当出来て当然だよな」

上条は炎の巨人を殴りつける。すると独特の甲高い音が響き、炎の巨人は虚空に消えた。

ステイル「『竜王』とやらの力は解放しなくていいのかい?」

上条「『竜王』の力じゃ洗脳は解けないし、お前程度ならな!」

そして上条の右拳が、ステイルの顔面を通り抜けた。

上条「何かって言ったら蜃気楼ばっかり……馬鹿の一つ覚えかよ!」

ステイル「それに毎回騙されているのは、どこの誰だろうね」

言いながら上条の数m後ろに居たステイルは、両手に持っている拳銃の引き金を引く。
しかし上条は、顔面や心臓狙って放たれた2、3発の弾丸を、上半身を軽く振って避ける。

上条「その程度『竜王』の力なんてなくとも、素で避けられるんだよ!」

ステイル「なるほど」

肉迫する上条に、ステイルは後退しながらさらに拳銃の引き金を引く。今度は脚を狙って。

上条「いっ!」

と、弾丸が直撃して痛む様子を見せる上条だったが、その勢い自体は止まらない。

ステイル「何!?」

上条「終わりだ」

ステイルがうろたえている間に、上条はあっさりと彼の頭に触れた。
独特の甲高い音が響き、彼の体が地面に向かって倒れていく。上条はそれを受け止めた。そして五和に問いかける。

上条「こっちは終わったぞ。そっちは大丈夫か?」

五和「大丈夫です。こっちも速攻で終わらせます」

はっきりと、言い切った。
247 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 08:55:46.04 ID:BMIoR+No0
そんな上条と五和のやりとりを聞いていた神裂は、

神裂「私を馬鹿にしているのですか?七閃!」

神裂の手が一瞬だけぶれる。瞬間、変幻自在の7本のワイヤーが五和に襲い掛かる。

五和「――七教七刃!」

五和も負けじと7本のワイヤーで対抗する。弾丸よりも速い速度でワイヤーとワイヤーがぶつかって、擦れた。

五和「そこです!」

間髪入れずに槍を投擲する。それはワイヤーの隙間をすり抜け、一直線に神裂に向かう。

神裂「その程度で私を穿てるとでも!」

七天七刀を突き出し、槍を迎え撃った。
そして激突の衝撃で刀と槍、双方とも粉々に砕け散った。

神裂(馬鹿な――!いやしかし、武器がないのは五和も同じ事!)

そんな神裂の思惑は外れる。こちらに迫ってくる五和の右手には、メイスが握られている。

神裂「なぜ!?」

五和「ふっ!」

短く息を吐き、メイスを左から右に薙ぎ払う。
武器がない神裂は為す術なくメイスの一撃をまともに受け、数m先の壁に叩きつけられ、力なく地面に崩れ落ちて行った。

五和「回収します」

そんな神裂をあっさり回収して、上条の方を向き直し、言う。

五和「終わりました!」
248 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 09:03:03.40 ID:BMIoR+No0
テレスティーナとシルバークロースの2人は、多少黒焦げになって地面に転がっていた。
そうなったのは、御坂にやられたからにほかならない。

テレスティーナ「糞が……」

ぼやきながら、つい1分前ほどに自分の身に起こった事を反芻する。

ガトリングレールガンの連射が始まって5秒ほど経過したところで、
背後から御坂の電撃を受けカマキリを破壊され、おまけに直接電撃を喰らったのだ。

もちろん電撃対策はしてあったが、レベル5級の電撃をまともに受け切れるほどではなかった。ここで疑問が浮上する。
御坂美琴はキャパシティダウンで弱っていたのではないか?

テレスティーナだって、シルバークロースだってそう思っていた。
にもかかわらず、御坂は背後に回り、全力の電撃を放ってきた。
つまり、彼女にはキャパシティダウンが効いていなかったのだ。

テレスティーナ「どう言う事だよ?『超電磁砲』」

うつ伏せになりながら、荒々しい口調で御坂に尋ねる。

御坂「どう言う事って?キャパシティダウンが効かなかったこと?」

テレスティーナ「それ以外に何があるのよ?」

御坂「はいはい。何で騒音が効かなかったのか。その答えは、これ」

言いながら御坂は、ジャージのポケットから耳栓を取りだした。

御坂「騒音を耳栓で防ぐ。単純な話でしょ?」

テレスティーナ「そんなふざけた方法で……」

御坂「騒音に頼り過ぎなのよ」

そうして御坂は、テレスティーナの頭を触る。そこで違和感。彼女の脳波に乱れがないのだ。

御坂「アンタ、ひょっとして操られていない?」

テレスティーナ「今更気付いたの?」

御坂「何で……食蜂の野望を知らないの?」

テレスティーナ「ああ知らないね。私は、お前に復讐できればそれで良かった。でも負けた」

御坂「そう……まあ何となく危険な感じがしたから、電撃ぶち当てて動けなくしたんだけどね。
   その予感は的中したってことか」

テレスティーナ「私とこの男を倒した位で調子に乗らないほうがいいわよ。これからはもっと強力な刺客がお前を襲う」

御坂「あら、心配してくれているの?」

テレスティーナ「違うわよ。お前はこの私が殺す。だからそれまで死ぬなって言っているのよ」

その言葉を残して、彼女は気絶した。
御坂は久々に白星をあげ、多少の自信を取り戻し、いくつか確信したことがあった。
これからの戦い、勝機はある。

御坂「……よし!」

屈んでいた御坂は立ちあがり、気合を入れる。その時だった。

「次の相手は、この私だよ」
249 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 09:06:36.41 ID:BMIoR+No0
一方通行はこの戦いが始まる前に、垣根と修行をした。
修行と言っても、無理をしない程度に、能力アリの殴り合いをしただけだが。
だがそれは確実にお互いを成長させた。
よくモヤシとバカにされる一方通行だったが、今の彼の体術は不良程度なら余裕。
ジャッジメントやアンチスキルなど訓練を積んでいるような人間相手でも、1人までなら倒せるほどになった。

しかしながら、所詮はそこまで。たかだか数日の修行で武術の達人になれるはずもない。
よって相手が相当の体術の使い手だった場合、勝てない。

そしておそらく、一方通行に迫る木原数多は勿論本物ではないが、木原数多の技術を刷り込まれている。
もっと言えば、一方通行の対策法を叩きこまれている格闘のプロである可能性が高い。

しかし、いくら格闘のプロだろうと、木原神拳は一朝一夕で習得できるものではない。
おそらくは、一方通行にダメージを与える事が出来たとしても、攻撃した側もダメージを受けるだろう。

とここまでの話は、わざわざ接近戦を挑んだ場合だ。
近距離戦に強い相手に、近距離で挑まなけらばいけないルールなどない。
だから一方通行は素直に距離を取り、遠距離から攻撃することにした。
もっとも、風は対処されるだろうし、小石を蹴った攻撃程度なら避けられるだろう。

一方通行(これならどうだァ)

一方通行の軸足が、2回地面を踏んだ。
1度目の足踏みで地面に規則的な亀裂が入り、2度目の踏み付けでその亀裂をなぞって、
幅1m四方のアスファルトの立方体が、彼の前に3個浮き上がった。
そしてその3個のアスファルトを蹴る。ただし手加減はしてある。
直撃しても死にはしないはずだ。それがまずかった。

木原「なんだその腑抜けた攻撃は!」

手加減してあるとはつまり、スピードが抑えられているという事。
あろうことか木原数多は、それらを3mのジャンプで悠々と超え、一方通行に飛び蹴りをかました。

一方通行(ちっ……もしかして、肉体強化なのか?)

地面を数m転がった一方通行だったが、すぐに起き上がり木原を凝視する。
木原の右足からは血が出ていた。やはり完璧には木原神拳を使いこなせていないようだ。
250 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 09:09:09.85 ID:BMIoR+No0
木原「よーく見とけよ一方通行。これが俺の能力だ」

直後、木原の足がみるみるうちに元通りになっていく。

一方通行「『肉体再生』(オートリバース)か」

木原「御名答。これで俺は、不完全でも木原神拳を存分に使えるって訳だ。
   それだけじゃねぇ。脳のリミッターを意図的に外してもいる。つまり、今の俺は火事場の馬鹿力状態だ。
   これが何を意味するか、お前なら分かるよな?」

一方通行「火事場の馬鹿力って言うのは、肉体的負担が半端ねェ。
     だが『肉体再生』だから、それも気にせず戦える……って言いてェのか?」

木原「そう言う事。俺を倒すには、圧倒的な一撃で殺すしかない。
   だがお前は俺を救うために戦っている。殺せない。
   と言う事は、お前に勝ち目はないって事だ。分かってくれたかな?」

一方通行「チッ」

木原「つーわけでさー、大人しく死んでくれねーかなー?」

一方通行「断る」

木原「じゃあ殺すっきゃねーか!」

ドン!と地面を蹴り、弾丸のような速度で一方通行に肉迫する。

一方通行「面倒くせェ!」

一方通行は再び地面を2回踏んだ。
彼の目の前のアスファルトが細かい砂利と化し、ゴバッ!と木原に向かう。
上条当麻と戦った時には思い切り屈まれて回避されたが、屈んでも回避できないように砂利を飛ばした。

木原「甘いねぇ」

木原は回避行動どころか、防御姿勢も取らなかった。
数いる妹達の何人かが、一方通行と木原の間に割って入り砂利の盾になったからだ。
妹達は赤い液体を撒き散らしながら倒れて行く。

一方通行「な――」

木原「おらよ!」

動揺する一方通行の顔面に、木原の渾身の拳がクリーンヒットした。
その一撃で数m地面を転がる一方通行の下へ、木原は追撃のかかと落としを繰り出す為に脚を上げていた。

それを視界の隅に捉えた一方通行は自ら地面を転がり、かかと落としを回避して起き上がる。と同時、

――世界が、真っ白に塗りつぶされた。
251 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 09:11:32.83 ID:BMIoR+No0
一方通行「あァァァ!」

両目を抑え悶絶する一方通行の腹部に、木原の膝蹴りが叩きこまれた。
蹴られた彼の口からは血があふれ、その場で蹲る。

修行を通して耐久力が増さなかった訳ではないが、もともと貧弱な体の彼には今の木原の一撃は厳しかった。

木原は蹲る一方通行の頭を容赦なく踏みつけながら、嬉々として語りだす。

木原「テメェの能力には致命的な弱点がある。生きていく上でどうしても反射出来ないものがあるということだ。
   酸素然り、光然り、音然り」

一方通行「うるせェ!」

地に両手をつき、思い切り体を起こす。突然の出来事に木原はバランスを崩し、後退する。

木原「力で俺の足を押し返すとは、やるじゃねーか」

一方通行「チクショウが……」

未だに明滅する視界の中、一方通行は距離をとって木原を見据える。
木原はいつのまにかゴーグルを着けていた。

木原「テメェはもう勝てねーよ。さっきの一連の攻防で分かっただろ?
   俺の能力、妹達の捨て身の盾、そして妹達の出す電撃での目眩まし。
   俺は無駄に疲労したくねーんだわ。もう一度聞くぞ。大人しく殺されてくれねーかな!?」

一方通行「あァ。そうだな」

木原の言う通り、このままじゃ勝てない。
拳銃などの武器はあるが、レベル5の『肉体再生』には即回復される。
それ以前に妹達の壁に、目眩ましの強烈な光もある。
そして刺激的な光を受け続ければ、光過敏性発作で体調を崩すことにもなる。
だからと言って目を閉じて戦うのも無理がある。

木原「物分かり良いじゃねーか。じゃ、死んでもらおうか!」

木原が迫ってくる。あと3秒もあれば、一方通行の顔面に拳を叩きこめるだろう。

一方通行「確かに“今のまま”じゃ勝てねェ。だから――」

一方通行の背中から、白い翼が顕現した。頭上には、同色の輪が浮いている。

木原「その姿は――」

一方通行「あンまり使いたくなかったンだけどな」

ズバァ!と光の雨が全妹達に降り注いだ。圧倒的な光の雨の前に、全妹達は為すすべなく蒸発した。
252 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 09:13:04.63 ID:BMIoR+No0
木原「テメェ、よくもまああっさりと……」

一方通行「はァ?何殊勝な事言ってやがるンですかァ?
     オマエも俺も、今更人殺した位でゴチャゴチャ言うことねェだろ」

その間にも一方通行は羽ばたく。
それは突風とかまいたちとなり、木原数多に切り傷を加え、吹き飛ばした。

木原「ちっくしょうが……」

ベクトルによって操られた風ならば対処できるが、純粋に力によって変えられた空気の流れである風は防ぎようがない。

しかしながら『肉体再生』の前では、それすらも結局は無意味。
脳や心臓などの重要な器官を潰すか、先程の光の雨や、マグマの海に突き落とすなど、
色々方法はあるが、とにかく一気に殺すか。そうでなければ木原数多は殺せない。
そんな事は一方通行も分かっているはずなのに。

木原(なぜ決定的な一撃を放たなかった?)

ようやく傷が再生しきって立ち上がった木原の頭に、一方通行の右手が触れた。

一方通行「終わりだ」

決着はあまりにもあっさりと。一方通行が2秒で洗脳を解いたことでついた。
253 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 09:14:07.41 ID:BMIoR+No0
強烈な光は妹達が出した電撃ではなく、妹達が投げた超強力な閃光玉によるものだった。
では妹達とは何だったのか。ただ木原の盾になる為だけにいたのか。
あるいは一方通行の精神を揺さぶる為か。またはその両方か。ただ、一方通行は1つだけ確信した事があった。

蒸発した妹達は、人間じゃない。

では何か。それは一方通行にも未だに分からない。でも人間ではなかったと言い切れる。
なぜなら木原の壁になって赤い液体を撒き散らしながら吹っ飛んだ時、その赤い液体が血には見えなかったから。

一方通行(何かある……)

ここでただただ悩んでいても仕方がない。今自分がやるべき事は。
254 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 09:16:25.70 ID:BMIoR+No0
佐天「じゃあ今真っ暗闇なのは、重福さんの仕業なの……?」

重福「そうだよ。私の能力『五感支配』(センスコントロール)で、佐天さんと絹旗さんの五感を支配しているの」

佐天「『視覚阻害』(ダミーチェック)がレベル5になると、そんなことになるのか……」

重福「そうみたいだね。だから、佐天さん達に勝ち目はないよ」

確かに、重福の言う通りだろう。
五感を支配される事がどれだけ不利なことか、素人の佐天でも分かる。
絹旗はおそらく『窒素装甲』があるから、見えない、聞こえないからと言って、どうってことはないだろうが佐天は違う。
この無音と暗闇の状態で、殴る蹴るなどの暴行をされればアウトだ。
そしていくら温厚な重福だろうと、それぐらいはできる。
絹旗も肉体的には無事でも、感覚的に支配されている以上、助けに入る事は出来ない。

重福「だからさ、もう一度私達のところに戻ってきてよ」

佐天「な、なんで?食蜂って人は、世界滅亡を企んでいるんでしょ?そんなの、いけないことじゃない!」

こんな事言ったって、洗脳されている重福には意味ないかもしれない。
それでも佐天は、言わずにはいられなかった。

重福「それでも、仕方ないかなって思う。だって、食蜂さんの言い分も分かるもの」

佐天「え?食蜂って人が、何で世界滅亡を企んでいるか分かるの?」

重福「分かるよ。佐天さんの脳にも残ってない?食蜂さんの考えが」

佐天「あ……」

言われた瞬間、眠っていた洗脳中の記憶が呼び覚まされた。
255 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 09:20:55.69 ID:BMIoR+No0
佐天「そうか。だから食蜂は、こんなことを……」

重福「そうだよ。私は、どうせ世界が滅亡するなら、それまでの間、佐天さんと一緒に居たい」

佐天「重福さん……もしかして操られていないの?」

重福「うん」

佐天「そっか」

佐天は呼び覚まされた記憶で、食蜂がなぜこんな馬鹿な事をやっているのかが分かった。
そして食蜂の考えに同意できる部分もある。だけど。

佐天「私は、食蜂の考えに完全には同意できない」

重福「……私だって、そう思うよ。でも、食蜂さんに反逆したって勝てっこない!
   だったら、少しの間でも佐天さんと一緒に居たいよ!」

悲痛な叫びだった。重福も食蜂の意見がおかしいと思っているところがあるのだ。
でも勝ち目はないから、どうせ世界が終わるのなら、という逃げの考え。
それは利口な考えかもしれない。けれども。

佐天「本当にそれでいいの?世界が滅亡しちゃったら、皆と私とも会えなくなるんだよ?私は嫌だよ?
   御坂さんとも、白井さんとも、初春とも、絹旗さんとも、アケミにむーちゃんにマコちんとも、
   そして重福さんと会えなくなるなんて」

重福「……私だって、嫌だよ。出来る事なら、老衰するまで佐天さんと友達でいたいよ!
   もっと遊びたいよ!泣いたり笑ったり怒ったりしたいよ!」

佐天「だったら!反抗してみようよ!私だけじゃない!皆いる!きっと出来るから!重福さんも戻ってきてよー!」

重福「――」

今の佐天の発言は、この戦いの状況をある程度把握している重福にとってみれば、滑稽と言っても良かった。
何せ2人いるレベル6はそれなりのダメージを受け、レベル5の2人に至っては2度敗北していて、まともに戦えているのは、
上条と削板、魔術師2人だけなのだから。加えて食蜂の軍は、まだ1万分の1も減っていない。どう考えたって佐天達の方が不利だ。
頭ではそう分かっていた。

重福「……うん」

しかし重福は、佐天達と共にする事を選んだ。だってそうだ。
佐天は頑固な人間で、自分がいくら食蜂の下に引き戻そうとしたって、首を縦に振るわけがない。
でも佐天とは一緒に居たい。

だったら、自分が佐天の仲間になればいい。
佐天側についたら不利なのは分かっているし、最悪殺されるかもしれない。
けれどそれは、食蜂側に居たって同じだ。最終的には死ぬ。
どうせ死ぬのなら、敵としてではなく、仲間として死にたい。
いや、万が一ではあるが、ひょっとしたら食蜂達に勝てるかもしれない。

重福にはもう、迷いはなかった。

重福「ゴメンね佐天さん。今、能力を解くから」
256 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 09:22:55.16 ID:BMIoR+No0
そして佐天の視界と聴力は元に戻った。
同時、関所中学の冬服に身を包んだ、太くて個性的な眉毛が特徴的な重福が佐天に抱きついた。

佐天「分かって、くれたんだね?」

重福「うん。本当にごめんなさい」

重福は佐天の胸に顔を埋め、今までの行為を詫びた。

佐天「別に大丈夫だよ。こうして無傷だしね」

重福「私、もう佐天さんから一生離れませんから!」

佐天「そ、それは困るかな〜」

なんてやりとりをしながら、佐天は気付く。絹旗の声が聞こえない。

佐天「あれ?」

佐天は思わず周囲を見回す。すると絹旗は数m先で顔を伏せて突っ立っていた。

佐天「ちょっと。何突っ立っているんですか絹旗さーん」

呼びかけるが、絹旗から一切の反応が返って来ない。

佐天「あれ?ねぇ重福さん、絹旗さんの分の能力はちゃんと解除した?」

そう問いかけたが、重福からの反応もない。と、ずしりと重福の重さが増した。

佐天「え?」

佐天は力の抜けた重福の体を支える。彼女は気絶しているのだ。

佐天「なん、で……」

絹旗「それはねぇ。超私の仕業だったりするのよねぇ☆」

突如、絹旗が喋り出した。しかし彼女の発言には違和感がある。

初春から聞いて、実際に会っても実感したが、絹旗最愛と言う少女は相手が誰であっても、基本的には敬語である。

それが今は、ギャルみたいな間延びしたような喋り方だった。
ただし、会話の中で用いる単語に『超』とつける口調は健在している。

佐天「どういうこと……?」

絹旗「さぁて、超ゲームを楽しみましょう☆」
257 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 09:25:21.71 ID:BMIoR+No0
垣根「他愛ねぇ」

自律型パワードスーツなど、垣根の敵ではなかった。
吐き捨てた彼の傍らには、パワードスーツの残骸が散らばっている。

「ふむ。やはりこの程度では傷一つつける事は出来ないか」

木原研究所の中から『Equ.DarkMatter』のようなスーツを着用した木原幻生が現れた。

垣根「まさかクソジジイ、テメェ自身が戦うつもりか?」

幻生「まあね。那由他でもパワードスーツでも駄目なら、私が出るしかないだろう?」

垣根「那由他がああなったのは、やはりテメェのせいか」

幻生「何を憤っている?君には何の関係もないだろう?
   それに私は、実験を強制した覚えはない。力が欲しいとあの子から言ってきたから、協力してあげただけだよ」

垣根「ふざけんな。どうせお前らが、幼い時の那由他に力が欲しいと言わせるように仕向けたんだろ」

幻生「だったら何だと言うんだ?最終的に判断したのは那由他自身だよ」

垣根「ふっざけんな! 那由他は『木原一族』なんて狂った家系に生まれてこなければ!
   もっと普通の女の子として、幸せな人生を歩めたんだぞ!」

幻生「本当にどうしたと言うのだ?たとえそうだとして、君に何の関係がある?何をそんなに憤っている?」

垣根「……キャラじゃないこと位、自覚している。自分でも何でこんなにキレているのか分かんねぇ。
   だが、1つだけ分かった事がある。――テメェみたいな外道は、ここで殺すべきだってな」

幻生「酷い言われようだな……」

垣根「テメェ、操られてないだろ。寧ろ、貴重なデータが手に入るとかで食蜂に手を貸しているんだろ?」

幻生「ふむ。確かに貴重なデータが手に入るとは思っているが、進んで食蜂に手を貸している訳ではないよ。
   私は私のやりたいように勝手にやっているのだよ」

垣根「そっか。まあいいや。じゃあそろそろ死ね」

『未元物質』の翼を伸ばす。
それは一直線に木原幻生のもとへ向かい、直撃した。しかし。

幻生「ふふふ」

木原幻生は無傷だった。
258 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 09:27:41.81 ID:BMIoR+No0
垣根「あ?」

微笑んでいる幻生をよく見ると、黒いスーツが白に変わっていた。
厳密に言うと、黒いスーツの上を白い物質が包み込んでいた。より正確に言うと『未元物質』が、だ。

垣根「まーた小細工か」

幻生「さあ、かかってきなさい。こないならこっちから行くがね」

垣根「言われなくても『未元物質』を少しばかり使役できる程度の相手にビビる俺じゃねぇんだよ!」

翼をはためかせ、ロケットのように幻生へ突っ込んだ垣根だったが、見事に受け止められた。

幻生「何故この俺が止められた?って顔だな」

幻生の背中から『未元物質』の翼が生える。そしてそれは、垣根を包み込んだ。

幻生「その答えは『未元物質』だからだよ」

垣根「はぁ?」

幻生「簡単な道理の話さ。炎に炎をぶつけたって、元の炎は消えないだろう?
   水に水を加えたって、水の量が増えるだけで打ち消し合うわけじゃない。
   それと同じさ。『未元物質』に『未元物質』は効果がないのだよ」

垣根「俺は今日、既に『未元物質』を使う仮面20人をぶっ倒しているぜ」

幻生「あれはレベル5の時の『未元物質』を参考にした未完成のゴミだよ。
   今私が纏っているモノは、レベル6になった『未元物質』を参考にした完成形なのだよ。
   そしてだ。このまま君を取り込ませてもらうよ。その能力も、若い体も、かっこいい顔もね」

幻生の言っている事は、嘘ではないかもしれない。現に幻生の『未元物質』は、体に喰い込んできている。
痛みはないが、徐々に蝕まれていくのが分かる。その状況で垣根は、

垣根「馬鹿だなぁ、ジジイ」

あくまで余裕と言った調子で、そう呟いた。
259 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 09:29:48.86 ID:BMIoR+No0
幻生「何がだね?」

垣根「そもそも『未元物質』に『未元物質』が通じないと言う前提が間違っている。
   だってそうだろ?仮面の男には通じたんだから」

幻生「だから言っているだろう?仮面のやつらは未完成だったんだ。
   レベル5の『未元物質』とレベル6の『未元物質』は別物だよ。そりゃあ攻撃は通じるさ」

垣根「そうか。そこまで分かっていて、俺に勝てないってことは分からないんだな?」

幻生「世迷言を。君の攻撃を受け止め、あまつさえこうして取り込んでいるのだよ。
   どう考えたって君の方が圧倒的に不利じゃないか」

垣根「じゃあ説明してやっか。俺のとテメェの『未元物質』は全くの別物だ。だから俺には勝てねぇ」

幻生「何を言っている?確かに完全に同質とまでは言わないが、現に攻撃を止め、取り込み始めることができた時点で」

垣根「そこから違うんだよ。俺の2回の攻撃は本気じゃなかった」

幻生「本気じゃないだと?殺す気マンマンだったではないか」

垣根「ああ。殺す気はバリバリあったよ。だから殺す攻撃はした。
   だが本気の攻撃はしちゃいねぇ。最初っから全力を出さないで油断する。俺の悪い癖だ。改めなきゃな」

幻生「意味が分からん。殺す攻撃と本気の攻撃、どう違うと言うのだ?」

垣根「言わなきゃ分からねぇのか。まあ説明してやるけどよ。
   とりあえずこのままだと、いくら別物とはいえ取り込まれちまいそうだから抜けるわ」

軽い調子で呟いた垣根は、強引に自身の翼を広げて幻生の包み込んでいた翼をこじ開け、後退して距離を取った。
260 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 09:31:46.20 ID:BMIoR+No0
垣根「クソジジイはよぉ、人間殺すとき、どうやって殺す?」

何が言いたいのかよく分からない幻生だったが、とりあえず答える。

幻生「そりゃあいろいろあるだろうが、拳銃で、かな」

垣根「だよな。人間殺すには、拳銃の弾丸一発、ナイフのひと突きで十分だ。
   日本刀で何回も斬りつける、核兵器ぶち込む、なんてことしなくてもな」

幻生「なるほどそういうわけか」

幻生はようやく垣根の言いたい事が分かった。
垣根が今まで行ってきた攻撃は、所詮は拳銃の弾丸のような攻撃にすぎなかったのだ。
その気になれば、もっと強力な攻撃、オーバーキルが出来ると言外ににおわせている。

幻生「だが、先程の攻撃は完璧に受けとめたのだぞ。
   それより強力な攻撃が出来るからと言って、私を殺せるとは限らんぞ?」

垣根「なら試してみるか?一撃で沈めてやるよ」

幻生「出来るものならやってきなさい!」

垣根「じゃ、遠慮なく」

垣根がはばたいた。幻生がそう認識した時には、垣根は既に幻生の懐に入っていた。

幻生「――!」

ぐしゃり、と生々しい音が木霊した。

垣根「無様だなクソジジイ」

上半身だけになって転がっている幻生を見下ろしながら言った。

幻生「う……あ……」

垣根「『未元物質』に『未元物質』が効かないとか、そんな戯言を言っている時点で、テメェの負けだったんだよ」

しかし幻生に言い返す気力は当然なく、多少呻いた後に事切れた。

垣根「さて、お次はどうするべきかね」
261 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 09:34:36.36 ID:BMIoR+No0
吹寄「喰らいなさいっ!」

脚に風を集めた吹寄は2秒で柊の手前まで迫り、脇腹狙って蹴りを放った。
レベル5が当たり前の戦いでレベル3なんて、と思われるかもしれないが、何の対策もしていなければ十分致命傷となるレベルだ。

対し柊は、冷静に数歩後退することで蹴りを回避。そして自身の能力で生み出した氷の爪を飛ばす。

姫神「制理!」

吹寄「うん!」

姫神に返事をしながら、ギリギリで氷の爪を回避し後退する。
そして吹寄と入れ替わるように、人間を包む込む事が出来るほどの大きさの炎が柊に直撃した。

吹寄「やった……わけないよね」

姫神「当然。そうだろうね」

2人の予感は的中する。柊を包み込んでいた炎は消え、彼女は超然と立っていた。
その手を包み込んでいるのは氷の爪。手首から肘の間の腕には氷の刃があった。

吹寄「氷の能力?」

姫神「みたいだね」

柊「『氷刃無爪』(アイシクルクロウ)。氷の爪や刃で相手を切り裂く」

姫神「私の。能力紹介がまだだったね。私は」

柊「いらない。どうせ『発火能力者』でしょ?」

姫神「そうだけど。私は『緋色朱雀』(スカーレットヴァミリオン)で。申請している。
   ちなみに。『異能力者』(レベル2)」

柊「レベル2?さっきの炎はレベル2の大きさではなかったけど。
  ……なるほどその扇子ね。それで擬似的に風を巻き起こし、炎を大きくしているのか」

吹寄「凄い分析力ね」

姫神「そっか。制理。この勝負。勝てるよ」

吹寄「それは当たり前でしょ?この勝負、絶対に負けるわけにはいかないんだから」

柊「御託は良いから、やりましょ」
262 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 09:36:57.15 ID:BMIoR+No0
柊の疾走が始まった。その様は美しく、思わず見惚れるほどだった。

吹寄「姫神さん!」

姫神「真正面からとは。馬鹿にしすぎ!」

姫神は学園都市製の扇子を振るい、突風を生み出す。
さらにそこへ自身の炎をぶつけ、超小規模の火災旋風を正面から来る柊狙って巻き起こす。

柊「ふっ」

しかし柊は、鼻で笑って炎の中へ飛び込んだ。

姫神「え?」

目の前で起きた出来事に、鳩が豆鉄砲を食ったようになった姫神の顔が、直後に苦悶に歪んだ。

柊が伸ばした氷の爪の一本が、姫神の胸部に直撃したからだ。

しかしながら氷の爪は、あくまで直撃しただけであり、貫くどころか、刺さりすらしなかった。

だから柊は、炎を通り抜け姫神に止めを刺そうと氷の刃を振るおうとして、

吹寄「させない!」

たった今抜けてきたばかりの炎が渦巻いている真後ろから声。
柊は反射的に振り返り、氷の刃をクロスして吹寄の炎の両足飛び蹴りと拮抗した。

吹寄「おおおおおおおおおおお!」

柊(風に乗せて炎を纏う事も出来る……か!)

柊は少々力を込めて、吹寄を弾いた。と同時。

姫神「喰らえっ!」

喰らえ。この言葉が発せられた瞬間、柊は思考した。まず間違いなく、何らかの攻撃が来るだろう。
十中八九炎による攻撃だとは思うが、拳銃や爆弾などの可能性も捨てきれない。
もしも拳銃や爆弾なら、横へ跳んで回避すればいいだけの話だ。炎もレベル2なら一直線にしか出せないだろう。
ただ姫神には扇子がある。その扇子を使って炎を拡散出来るやもしれない。
よって氷の鎧を展開して横に跳べば、ノーダメージで切り抜けられる。

と一瞬の内にそう判断し、実行に移したのだが。

柊(なに!?)

一切の攻撃がないどころか、姫神は微動だにすらしなかった。
263 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 09:39:11.66 ID:BMIoR+No0
柊(何だ?ただのブラフだったのか?)

だとしても、何の意味が?一瞬ではあるが動揺した柊の下へ、吹寄が特攻する。

吹寄「おおおおおおおお!」

弾かれただけで、脚に纏っている炎が消えた訳じゃない。
吹寄は渾身の両足飛び蹴りをかますが、またしても柊にあっさりと弾かれた。

吹寄「それなら!」

弾かれ空中を舞っている吹寄は脚を振るった。
吹寄の脚に纏われていた、炎が乗った風が柊目がけて飛んでいく。

柊「ふん」

ザン!と、柊は至って冷静に氷の刃で炎を斬った。斬られた炎が、ちりちりと虚空へ消えて行く。

吹寄「まだまだ行くわよ!姫神さん、炎を頂戴!」

姫神「うん」

左手から炎を出し、吹寄に向かって放つ。吹寄はそれを脚で受け止め、纏った。

柊「またそれか。芸がないわね」

吹寄「あなただって、氷の爪と刃の一辺倒じゃない?」

柊「なら、見せてあげるわよ」

不敵に微笑んだ柊は、両手を地につけた。
瞬間、吹寄達を貫くべく、柊の方の地面から氷の針が連続で飛び出した。

吹寄「くっ!」

地上に居ては貫かれるだけ。吹寄は面食らいながらも、何とか後退し姫神を抱えて空中へ避難した。
264 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 09:41:51.15 ID:BMIoR+No0
柊「降りてきなさい」

吹寄「そう言われて、はいそうですかって言う馬鹿いると思う?」

柊「なら死ね」

言いながら柊は両手を振るった。
その軌道からいくつもの氷の礫が生み出され、吹寄達の下へ向かう。

吹寄「しっかり掴まっていてよ姫神さん!」

姫神「うん!」

姫神の力強い返事と同時、吹寄が空中を駆けだす。
なおも連続で放たれる氷の礫を、吹寄達は紙一重で避けていく。

柊「埒が明かないな……」

これ以上は能力の無駄だと悟った柊は、両腕を大きく振るった。
両腕の氷の刃がブーメランとなって発射される。

吹寄「そんなに大きいなら、わざわざ避けるまでもないわね!」

ゴッ!と、氷のブーメランを蹴り返す。
しかしながら、柊は跳ね返されたブーメランをいとも簡単に避け、両腕を大きく2回振るう。
すなわち、4枚の氷のブーメランが発射されたと言う事。

吹寄(負けてたまるか!)

吹寄は2枚のブーメランを避け、2枚を蹴り返す。当然、柊はそれを避ける。

姫神「制理!後ろ!」

吹寄「え?」

姫神が注意を喚起し、吹寄が後ろを振り返った時はもう遅かった。
2枚のブーメランが彼女らに直撃した。その一撃で昏倒しかけた吹寄と姫神は、地面へ落下していく。

柊「終わりだ」

両手を地につける。吹寄らの落下地点に氷の針山を生み出す。

吹寄「な、めるなーーーーー!」

針山まであと数cmと言うところで、吹寄が気合で持ち直し姫神と共に再び上昇した。
265 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 09:45:25.50 ID:BMIoR+No0
吹寄「はぁ、はぁ」

柊(粘るな……そもそも、ブーメランで切り裂かれていないこと自体おかしい。
  あの地味なほうの女の胸に一撃与えた時もそうだ。本来ならば貫かれていなければおかしい。
  これらから導き出せる答えは、あの女達はジャージの下に、丈夫な学園都市製のジャケットを着込んでいる)

だが決してノーダメージではない。手はいくらでもある。さて、次はどうしようかと、柊は思案し始める。
一方、姫神達はと言えば、

姫神「制理。このままじゃ。ジリ貧。ここらで一気に。攻勢に出るべき」

吹寄「そうしたいのは山々だけど。もう“いける”の?」

姫神「まだだけど。さっきの一撃で分かったはず。このままじゃ。やられる」

吹寄「そんな事言ったって、地上には氷の針山がある。私はともかく、姫神さんはどうしようも……」

姫神「大丈夫。考えならある。私をあの女のところに。投げて」

吹寄「何をする気なの?」

姫神「打ち合う。あの女の近くなら。針山攻撃は出来ない。なぜなら。あの女自身も傷つくから」

吹寄「それはそうかもしれないけど……姫神さんにあの人とまともに打ち合う事は出来ないわよ」

姫神「出来る出来ないじゃないよ。やらなきゃ。やらなきゃやられる」

吹寄「冷静になって姫神さん。そんな事ないわよ。
   主に地上戦が得意そうな相手に、無理に地上で戦わなくてもいいじゃない。
   私達が空中に居る限りは、相手だって決定打を与える事は出来ないわよ」

姫神「でも。さっきも言った通り。このままでは。ジリ貧。決定打はなくとも。
   徐々に追い詰められ。最終的には。やられる」

吹寄「でも、たとえその通りだとしても、何も無茶する事は――」

姫神「無茶せずに……無茶せずに勝てる相手じゃないよ」

吹寄の言葉を遮って、切実な調子で姫神は言った。

吹寄「でも……」

姫神「大丈夫だよ。あの女も。薄々気づいていると思うけど。私達は。かなり丈夫な。ジャケットを着ている。
   ちょっとやそっと切り裂かれた位では。死にはしない」

まあ大ダメージは。避けられないと思うけど。と姫神は真剣な調子で続ける。

姫神「だから。私を信じて」

吹寄「……分かったわ。私も、出来るだけのサポートをする」

姫神「うん」
266 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 09:46:48.46 ID:BMIoR+No0
吹寄「おおおおお!」

先にアクションを起こしたのは吹寄ら。空中から姫神を柊へ投げ飛ばす。

柊(何を考えているかは知らないけど、得意の接近戦をしてくれるのなら、こっちとしても好都合!)

左の氷の刃が、姫神の首目がけ振るわれた。それで終わる筈だった。

ガキィン!と姫神の扇子が氷の刃を受け止めなければ。

柊「へぇ。その扇子、丈夫さも兼ね備えているんだ」

姫神「正々堂々。一騎討ち!」

姫神は右手に持った扇子を振るう、振るいまくる。
柊はそれを爪と刃で払う、払いきる。

柊(わざわざ接近戦を挑みにきたから、実は相当な体術を心得ているのかと思えば、闇雲に扇子を振るうだけ。ヤケクソか!)

刃を思い切り振るって、扇子を払いのけた。それで姫神は大きく仰け反り、胴体がガラ空きとなる。

柊「死ね!」

そして首目がけて、刃を振るう。ヒュオッ!と刃は空を切った。

柊(ド素人に私の攻撃が避けられた?)

驚きで目を見開く柊をよそに、姫神は薄く微笑んで、

姫神「首狙いが。分かりやすすぎる。いくら素人の私でも。そこまであからさまだと。避けられるよ」

挑発した。
267 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 09:49:06.16 ID:BMIoR+No0
柊「なめるなよド素人が!」

柊の目の色が変わった。今まであしらうような防御姿勢だったが、一転攻撃態勢に移行。
怒涛の攻撃で、着実にダメージを与えていく。しかし姫神は、その中でも意外と冷静に分析を行っていた。

姫神(確かに。一撃一撃の。重みは増した。だけど)

攻撃はそれに比例するように大振りになり、粗も出始めていた。
そして柊が一段と大振りになったその時、

姫神(そこ!)

左手の炎の掌底が、柊の大きめな胸の中心に叩きこまれた。
だが所詮はレベル2の一撃。とてもじゃないが致命傷には程遠い。

柊「そんな攻撃、無意味なのよ!」

ドゴォ!と、姫神の鳩尾に蹴りが叩きこまれた。思わず屈みこむ姫神の頭上で、柊は右手を振り上げる。
首を刎ねるのではなく、脳天から真っ二つに引き裂く為に。

吹寄「私も居るっつーの!」

その柊の頭上にかかと落としを叩きこむべく、吹寄が右脚を振り下ろした。
それは柊がサイドステップをして距離を取ったことで虚しく空を切ったが、その後も吹寄は果敢に柊に挑んでいく。

柊「雑魚のくせに……しつこい!」

柊は右脚を軸に、わずかではあるが駒のように回転して、吹寄を弾き飛ばした。

吹寄「くっ……これはどうだ!」

めげない吹寄は一度空中に跳んで、足のつまさきを先端としてドリルのように回転し始めた。

吹寄「おおおおおおおおお!」

回転は激しさを増して、柊へと向かって行く。

柊(毎回毎回奇声を発しながら突っ込んでくるの、気持ち悪いのよ!)

心の中で毒づきながらも、柊は吹寄に対して背を向けて逃げ出す。

柊(受けて立つ必要性はない……)

ドリルのように横回転している吹寄が、逃げ回る自分を方向転換しながら追いかければ酔うのは明らか。
無理に迎え撃たなくても、すぐに砂利だらけの地面に転がって、勝手に擦り傷だらけになってくれる。

柊(無様に自滅してしまえ!)

しかし吹寄は柊の予想を超えた。吹寄の回転は衰えず、追跡も終わらない。

柊(くそっ……かれこれ3分ぐらいは粘っているぞ……)

もう受け止めてしまおうか、という考えが一瞬頭に過ぎるが、

柊(いや、ここまできたら意地だ。逃げ切って、後でゆっくりぶち殺す)
268 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 09:51:51.41 ID:BMIoR+No0
それから2分が経過した。さすがの吹寄も酔いが回り、いよいよ軌道がフラつき地面に落下し、転がった。

吹寄「おえぇ!」

ビチャビチャ!と、吹寄は耳を抑えながら蹲まって吐瀉物を撒き散らした。その背後には、既に柊が立っていた。

柊「よく粘ったわね。でも、ここまでね」

そうして氷の刃を振り下ろそうとした時、吹寄のジャージのポケットから、スタングレネードが零れおちた。

柊「な――」

柊が氷の刃を振り下ろす前に、それは轟音と刺激的な光を撒き散らして、彼女の目と耳を潰した。

柊「うぐあああああ!」

吹寄(もらった!)

横からではなく突くような蹴りを、柊の腹部目がけて繰り出す。

柊(負けるかっ!)

目と耳を潰された柊には、吹寄の蹴りは見えないし、音も聞こえない。
でも彼女達にとってみればこの絶好のチャンス、攻撃しないわけがない。
だから柊は、棘だらけの氷の鎧を即席で纏った。

ガキャリ!と案の定やってきた蹴りを受け切った。
だがそこに違和感。蹴りとは普通、薙ぎ払うように横から来るものではないか?
真正面から来る蹴りが、奇策と言うほどおかしい事でもないが。
と、思考していた柊だったが、答えは直後に身を持って知る。

直撃した吹寄の足の裏から、槍のような風が発射され、柊は20mほど地面を転がった。
269 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 09:54:23.36 ID:BMIoR+No0
柊(くそっ……)

氷の鎧を纏っていたし、一点集中とは言え疲れきっていての一撃だったので致命傷にはならなかった。
だがそんなことは当然彼女達も分かっているはず。何らかの追撃があるに違いない。

わずかではあるが戻った視力で、砂利を飛ばす為に左脚を振るっている吹寄を捉えた。

柊(その程度で……仕留められると思うな!)

両腕を振るって氷の礫を飛ばす。ドドドドド!と礫と砂利は相殺した。

柊(まずはあの巨乳から!)

氷の刃をブーメランのように放つ。
酔いが回って擦り傷だらけで満身創痍の吹寄には、避けられるほどの体力は残っていないはずだ。

そんな柊の予想通り、吹寄は避ける素振りを見せなかった。直撃まであと1m。

柊(勝った!)

と、柊は純粋に思ったのだが、スパン!と氷のブーメランが切り裂かれた。
そして潰れているはずの耳には、しっかりと届いていた。

姫神「ありがとう制理。もう大丈夫だよ」

力強い、姫神の声が。

柊「な、にが……」

姫神「これで。終わり」

再び姫神の声が耳に届いた。
と同時、ゴバァ!と柊の体を竜巻が包み込んだ。

柊「がああ!(こ、これは)」

小規模ではあるが、竜巻に飲み込まれた柊は、そこから抜け出せない。
この状況で炎を喰らえば、いくらレベル5の氷とはいえ溶かされ致命傷は避けられない。

柊(くっ……そ)

思えば、姫神の行動にはおかしいところがいくつかあった。
最初の方の2回の攻撃以外、頑なに扇子を振るわなかった。
わざわざ弱弱しい炎で攻撃するし、接近戦を挑んだときだってそうだ。
あの近距離で扇子を振るえば、多少なりともダメージになったはずだ。
にもかかわらず、振るわなかった。

これだけ不自然な点があったのに、なぜ自分は気付かなかったのだろう。
扇子には色々な機能があって“風を溜める事が出来る”という可能性に、気付く事が出来なかったのだろう。
だが後悔したところでもう遅い。

姫神「能力を全力で使用すれば。多分。死にはしない」

姫神の左手から、人間の顔3つ分ほどの大きさの炎が放たれる。

柊「うがあああああああああああああ!」

柊が断末魔の叫びをあげたと同時、竜巻に炎が加えられた。
それは高さ30mほどの火柱となって、柊の体を炙った。
270 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 09:56:06.42 ID:BMIoR+No0
姫神「大丈夫?」

吹寄を抱えながら、尋ねる。

吹寄「大丈夫に決まっているじゃない。姫神さんが助けてくれたんだし。姫神さんこそ、大丈夫?」

姫神「うん。制理が頑張ってくれたからね」

吹寄「ふふふ」

姫神「あはは」

思わず笑みがこぼれる2人の耳に、シュウウウウウウ!と水が蒸発するような音が届いた。その音源は火柱からだ。

吹寄「まさか……」

姫神「死にはしないけど。もう戦えませんっていうのが。ベストだったんだけど」

火柱は既に鎮火されていた。2人の目に映るのは、火傷や血だらけになっていながらも、仁王立ちしている柊だった。

柊「よくも……やってくれたな……」

一歩、また一歩と柊が近付いてくる。

姫神「仕方ない。もう少しだけ。痛い目を見てもらおう」

立ち上がり、柊の顔面狙いの左手から炎を放つ。ボッ!と炎はあっさりと直撃した。

柊「殺す……」

しかし柊は止まるどころか、歩調を早めた。右腕を氷柱型の氷が包み込んでいる。

姫神(これは。まずいかも)

そうして二撃目の炎を放とうとしたところで、

柊「……死ね!」

急に駆けだした柊の右腕の氷の槍が、姫神向かって放たれた。

姫神「くっ」

不意打ちの一撃を、扇子で何とか受け止める。
が、直後にピキピキと扇子が凍りだし、挙句破壊され、胸の中心を穿たれた。
271 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 09:58:07.02 ID:BMIoR+No0
姫神(あ……ふ……凍らせて。砕いたのか……)

まだそこまでの繊細な演算が出来るとは恐れ入る。
だがここまできて、ただでやられるわけにはいかない。

姫神「お願い。辛いと思うけど。制理!」

柊を逃がさない為に、氷の槍を掴む。掌から炎を出し続ければ、凍らされる事はないはずだから。

吹寄「あああああああ!」

吹寄だって満身創痍だ。戦うどころか立ち上がるのすら辛いはずだ。それでも応えてくれた。

吹寄のわずかに風を纏った右脚が、柊の左脇腹狙って放たれる。
対し柊は、わずかに氷で覆われた左手でそれを迎え撃つ。

ゴキャリ!と右脚と左手、双方から嫌な音が鳴った。

吹寄「く、おおおおおお!」

柊「っ、あああああああ!」

吹寄は使い物にならなくなった右脚を引っ込め、左脚を繰り出そうとしたが、右足で踏みつけられて妨げられた。

柊「終わりだ!」

脛の辺りに氷の刃を生やした柊の左脚が、吹寄の右脇腹目がけ放たれる。
右足で踏みつけている以上、かわすことはできない。

グシャア!と吹寄の右脇腹に柊の左脚がクリーンヒットした。
しかし吹寄は揺るがず、しっかりと両手で左脚を掴んだ。

柊「くっ、放せっ!」

柊は体を揺らして抵抗するが、右手の槍を姫神に掴まれ、左手は潰れ、左脚を掴まれ、
そんな状態で吹寄から抜け出せない。

姫神「決めちゃって。制理」

吹寄「もちろん」

柊(決めちゃって、だと……)

もうなんか、2人とも悟ったように薄く微笑んでいた。
自分が追い込まれているのは事実であるが、それは彼女達にも当てはまる。
この状況からどう決めると言うのか。と、そんな事を思考していたら、グイッ!と左脚を引っ張られ、前につんのめり、

吹寄「両手両足使えなくなったら、これしかないでしょ」

ゴガァ!と吹寄の広めの額が柊の額にクリーンヒットした。
その痛烈な一撃で、柊は白目をむいて地面に崩れ落ちた。
272 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 09:59:26.25 ID:BMIoR+No0
姫神「やったね。制理」

吹寄「本当、やればできるものね」

と、吹寄はドサリと尻餅をついた。

吹寄「それにしても、あの火柱をどうやって耐えたのかしらね」

姫神「それは多分。耐火性のジャケットか何かを。着こんでいたんだと思う。
   それにレベル5の氷が合わされば。耐えられるのも。不思議ではない。
   もともと。ギリギリ殺さないように。ほんの少しだけど。手加減もしていたしね」

吹寄「……姫神さんって、意外と頭いいわよね」

姫神「……意外と?」

吹寄「あ、いや、そんなつもりで言ったんじゃ」

姫神「冗談だよ。冗談。それより制理。そろそろ私の事を。名前で呼んでくれても。いいのではないでしょうか」

吹寄「何で敬語?……そうね。改めてよろしく、秋沙」

姫神「うん」

「そんな呑気にしていていいんですかね」

強敵を倒して生まれた楽観的ムードを引き裂く様に、彼女達の前に新たなる刺客が現れた。
273 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 10:00:52.27 ID:BMIoR+No0
削板「『二重魔法陣の衝撃』(ダブルスペルインパクト)!」

魔法陣2枚分の衝撃波が、シルビアの衝撃波など軽々と食い破り、逆に彼女に襲い掛かる。

シルビア「それじゃあ、届かないわよ」

シルビアの前に中学生くらいの少年が躍り出る。彼女の盾になるように。

プシュウウウウウ!と削板の衝撃波が拡散された。

削板「お?」

シルビア「『衝撃拡散』で衝撃波を拡散しただけだよ。分かる?もう衝撃波攻撃、いや物理攻撃は効かないんだよ」

削板「何だそう言うことか。だったら、拡散しきれない衝撃波をぶつければ良いだけじゃねぇか」

シルビア「そう思うなら、やってみればいいじゃない?」

削板「言われなくてもいくぜ!『六重魔法陣の衝撃』(ヘキサスペルインパクト)!」

魔法陣6枚分の衝撃。単純に考えて先程の3倍の威力。

シルビア「ふふ」

余裕の笑みを崩さないシルビアの前に、今度は中学生くらいの少女が2人、彼女の前に躍り出る。
ズドゴォォ!と魔法陣の衝撃波が跳ね返された。

削板「おお?」

疑問を露にしながらも、跳ね返された衝撃波はきっちりと避けた。
274 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 10:02:11.77 ID:BMIoR+No0
シルビア「ま、魔法陣の衝撃波攻撃は直線的だものね。かわすのは比較的難しいことじゃない」

削板「仕方ねぇ。もっともっと強力な、根性ある一撃を放つっきゃねぇか」

シルビア「待って。不毛な戦いは止めましょう。これ以上は疲れるだけだよ?」

削板「俺はスタミナと根性には自信あるんだが?」

シルビア「あのさぁ、今衝撃波跳ね返されたばっかじゃん。それで分かんないの?君の衝撃波対策は万全なんだよ?」

削板「いーや、俺の衝撃波が足りなかっただけだね」

シルビア「あのね、君が魔法陣を最大8枚まで並べて顕現させる事が出来ることは分かっているんだよ?
     それを見越したうえで、準備万端だって言っているの。
     さっきオッレルスを倒した時のやつは、避けられない為の広範囲攻撃だから、一点に固まって冷静に防御すれば問題ないしね」

削板「おいおい。超能力者か?」

シルビア「超能力が当たり前の学園都市で何言っているの。私の『予知能力』のすごさ、分かったでしょ?」

削板「分かったけど、俺が退く理由にはならねぇなぁ」

シルビア「そうね。もう私の能力の凄さを説いても意味ない気がする。だから、彼らの素晴らしさを説くことにするわ」
275 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 10:04:51.89 ID:BMIoR+No0
削板「いや、必要ないん」

シルビア「まずね。あなたの攻撃を拡散させる『衝撃拡散』が3人。この人達は衝撃を増幅させる事も出来るの」

削板の言葉を遮って、シルビアは続ける。

シルビア「でね、さっきの反射した2人が『衝撃反射』(ショックリフレクト)。言葉通り、あらゆる衝撃を反射するのね」

削板「そうか。んじゃあ」

シルビア「で、極めつけは残りの2人。『衝撃吸収』(ショックドレイン)って言って、衝撃を吸収するの。
     吸収するだけじゃなくて、吸収した衝撃を放出する事も出来るの」

削板「もう分かったから、それじゃあ」

シルビア「てことはね。
     衝撃を増幅させる事も出来る『衝撃拡散』が『衝撃吸収』に攻撃して、衝撃を吸収させる事が出来る訳よ。
     つまり、永久機関の完成。そして防御は『衝撃拡散』と『衝撃反射』がやってくれる。
     この完璧な布陣、崩せるかしら?」

削板「うーん、よく分からねぇけど、根性出しきるだけだな」

シルビア「はぁ。これだけ説明しても分からないの?簡潔に、たった1つの答えを教えてあげる。
     “今の君”じゃ、どうやったって勝てやしないよ。物理攻撃は効かないからね。
     炎とか電撃とか、エネルギーでしか私達は倒せない」

削板「関係ねぇよ。根性で何とかする」

シルビア「この分からず屋が。もういい。やっちゃいなさい」

シルビアがそう命令すると高校生ぐらいの少年、『衝撃吸収』の2人が彼女の前に躍り出て、両手を前に突き出した。
同時、

ゴバッ!と壮絶な衝撃波が発射された。

削板(避け――られねぇなぁ!)

避けられる一撃を、あえて真正面から受け止めたくなったとかではない。
超強力かつ超広範囲の衝撃波が迫ってきている。迎え撃つしかない。
目の前に8枚の魔法陣を並べて顕現させ、それを殴り飛ばす。

削板「『八重魔法陣の衝撃』(オクタスペルインパクト)!」

魔法陣が壊れ、衝撃波が放たれる。魔法陣8枚分の衝撃は、一点集中型の攻撃の中では削板の最強技。
つまり、これが破られれば削板の攻撃は全て通じない事になる。

最強の衝撃波と究極の衝撃波がぶつかり3秒ほど拮抗するが、最終的には『衝撃吸収』の衝撃波が食い破り削板に向かう。

削板「ちっ!」

舌打ちをしながら、自身の身長と同じくらいの魔法陣を目の前に3枚ほど顕現させる。ガードの為だ。

しかし衝撃波はそれすらも簡単に食い破り、削板にぶつかった。

削板「ぐおっ!」

喰らった衝撃波により数十mは吹き飛ばされるが、地面をスライドする事によって倒れる事はなかった。
276 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 10:05:58.41 ID:BMIoR+No0
削板「ふぅ」

溜息をついて背中から地面に倒れ、大の字で仰向けになった。

削板(参ったなオイ。攻撃は悉く通用しねぇし、もう疲れたし)

諦めた訳じゃない。諦めた訳じゃないが、どうしても勝つ方法が分からない。
一旦退くか?いや、そんな根性のない事は出来ない。

削板「……俺1人じゃどうしようもねぇな」

一方、倒れている削板の様子を見ていたシルビア達は、

シルビア「どうやらようやく諦めたようね。最後の引導は私が渡してくる」

柄しかない剣を地面に向けて、風を放つ。
シルビアはロケットのように浮かび上がった。削板を真上から刺す為に。

削板は数十m真上にシルビアを見た。柄しかない剣は下に向けられている。このまま倒れていたら殺される。

シルビア「さようなら」

大気を放出から、刃の形へ変更。シルビアの自由落下が始まり、隕石の如く削板へ突っ込んでいく。

ゴドン!と風の刃が地面に直撃し、莫大な煙が発生した。
277 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 10:11:42.90 ID:BMIoR+No0
シルビア「……避けられた」

今のを喰らっていれば楽に死ねたのに。八方塞がりな事に変わりはないのだから、諦めてさっさと死ねよ。
そんな事を思っているシルビアの数m横で、

削板「もしもし、ちょっと根性あるアドバイスが欲しい」

呑気に携帯で電話をかけていた。

雲川『何だ?今の私は、軍覇達の行動を把握しきれていないのだけど』

削板「んーとなぁ、俺の攻撃が全て通用しない。どうやったら勝てる?」

説明もへったくれもなかった。
今の発言を聞いて常人なら「もうちょっとくわしく……」とか「逃げるしかないんじゃね?」とか、
とにかくまともなアドバイスは出来ないだろう。
しかしながら雲川芹亜という少女は、削板と幼馴染であり、恋人であり、彼を理解している彼女は、
まともな説明は期待していなかった。そして論理的な説明をしたって理解してくれないのも分かっている。
だから彼女は、簡潔に言った。

雲川『攻撃が通用しないとはつまり“今の軍覇”ではどうやったって勝てない訳だ。
   なら話は簡単だけど。強くなればいい。この戦いで進化して、新技を編み出す。
   たったそれだけのお話さ。簡単だろう?』

こんなアドバイス、常人なら「ふざけんな」となっているだろう。しかし削板軍覇という少年は、常人ではない。

削板「……そっか。ありがとう芹亜。おかげで勝てそうだ」

雲川『当たり前だけど。軍覇には私とイチャイチャして、結婚して、子供を授かって、幸せな家庭を築き、
   私と子供と孫に看取られて大往生するという義務がある。死ぬのはもちろん、負けることすら許さないけど』

削板「もちろんだ。けど、俺の方が長生きする。俺がお前を看取る。最愛の人を失う悲しみを、お前には味あわせない」

雲川『……バカ。私だって、軍覇に失う悲しみを味あわせたくない。先に死ぬのはお前だ!』

削板「いーや俺の方が根性で長生きするね。200歳まで生きるもんね!」

雲川『だ、だったら私は300歳だけど!絶対絶対ぜーったい私の方が長生きしてやるし!』

削板「いーや俺が――」

シルビア「おーまえらあー!」

通話の内容がわずかながらに聞こえていたシルビアがぶちぎれた。
理由はいろいろある。戦闘中に電話をかけていたり、呑気に会話していたり、挙句の果ての惚気。
そして進化して勝つなど、もう発言のすべてがムカつく。

シルビア「行くぞ皆!このムカつく馬鹿どもをぶちのめす!」

削板「なんかキレているみたいだから切るわ」

雲川『うん。愛している』

通話が終わり、戦いは最終局面へ。
278 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 10:15:53.34 ID:BMIoR+No0
シルビア「『衝撃拡散』は『衝撃吸収』に攻撃しまくって衝撃を溜めろ!次で確実にぶちのめす。
     『衝撃反射』と余りの『衝撃拡散』は私の周りにつけ。最大まで大気をチャージする。
     それまでお前らは防御だ」

シルビア達はあえて動かず究極の一撃の為のチャージの段階に入った。
それが意味する事は、ジタバタしなくても勝てる。というシルビアの宣戦布告。

削板(あの女を狙っても、衝撃を溜めているところを狙っても、どうしようもないか)

やはりこの状況、セオリー通りなら逃げるか、ジタバタせずに体力回復を図るか。
どの道闇雲に攻撃をする事だけは有り得ない。さすがの削板にもそれは分かる。
だからと言って、逃げる気も更々ないが。

削板(あの女も芹亜も“今の俺”じゃあ勝てないと断言している。
   勝つには進化して新技を編み出すしかない……)

無い頭を振り絞って、削板は考える。

削板(……待てよ。あの女、確か炎や電撃などのエネルギーでしか倒せない。と言っていたな)

つまり裏を返せば、炎や電撃などのエネルギーならば、倒せると言う事。

削板(だが今の俺では、そんな技は出来やしない……けど、過去の俺は)

『念動砲弾』という、まあ端的に言えば衝撃波攻撃とか、殴るなどの物理攻撃。
過去の自分も今の状況では勝てない。と思ったが、よくよく思い出してみると、

削板(あれ?確か俺、爆発も起こしてなかったっけ?)

そうだ。事あるごとに背中に七色の爆発を起こしていた。それも衝撃と言えば衝撃だが、火力も伴っている。

削板(つまり、それが起こせりゃあ――)

この勝負、勝てる!

削板(――けど、あの時は漠然と力使っていたからなぁ。まあ今もだけど)

削板はある意味天才的な人間だ。IQと言う意味では点で駄目だが、戦闘センスがずば抜けている。
故に戦闘に関しては、あまり考えた事がない。どうすれば勝てるとか、どうすれば攻撃を避ける事が出来るとか。

削板(なんとなくでは、駄目なのか)

考えるときに来ているのかもしれない。とは言えそんなに時間もない。せいぜいあと2分ぐらいではないか。

削板(そう言えばアイツら、大事なのはイメージって言っていたな)

魔術を教わったフィアンマとヴェントを思い浮かべながら、彼らに言われた事を思い出していた。
例えばフィアンマなら、炎を出すとき、頭の中で炎をイメージしていると言う。

削板(イメージか……考える余地もなく、やるっきゃねぇよなぁ)

かつて爆発を起こしていた。という事で炎をイメージしてみる。せっかくだからシルビアが言っていた電撃も。
279 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 10:19:20.19 ID:BMIoR+No0
シルビア(さっきから仁王立ちしているが、結局諦めたと言う事で良いのか?)

もうあと10秒もすれば、チャージは完了する。『衝撃吸収』の方も、もう充分だろう。

シルビア「皆、10秒後発射するからね!」

削板(10秒か……)

10、9、とシルビアのカウントが始まるが、どうせ超広範囲攻撃が来るだろうからジタバタしない事に決めた。
だからと言って正面から受け止めるのも芸がない。

削板(イメージしろ……)

魔術とは『才能の無い人間がそれでも才能ある人間と対等になる為の技術』である。
それを使役するのには、色々な手順を踏まなければいけない。
イメージする事は確かに重要ではあるが、今までできなかった(もしくはしなかった)ことを、
イメージすればいきなり出来るようになるほど、魔術は甘くない。
そんな事は、さすがの削板も理解している。だがそれでも。

削板(――やるしかない。大丈夫だ。絶対に出来る!)

削板が、頭の中にあるイメージを浮かべた、その時だった。

シルビア「3、2、1、発射ぁ!」

カウントが終わり、シルビアの柄しかない剣から膨大な風が吹き荒れ、『衝撃吸収』の両手から衝撃波が放たれ、合わさった。
超広範囲、超強力なその衝撃波は喰らえば即死だ。おそらく欠片も残らない。
先程のは自身の衝撃波とガードで大分弱っていたから耐えられたが。

削板「俺も行くぜ!空に!」

ドッゴォン!と削板の足下から爆発が起きた。その勢いで彼は100mほど真上に跳び上がる。

シルビア「えええええ!」

シルビア達の衝撃波は扇状に広がり高さは30mほどだ。到底避けられるものでも、受け止められるものでもないはずなのに。

削板「今度はこっちの番だっー!」

削板の両腕を青い炎が覆う。そしてジャブを打つように連続で突き出す。
ボボボボボ!と覆われていた青い炎の一部が連続で放たれ、流星群のようにシルビア達に降り注ぐ!

シルビア「……終わった」

たった今書き換えられた未来を予知したシルビアは悟った。
この勝負、勝てない。それどころか、逃げることすら叶わないと。

降り注ぐ青い炎が地面に直撃した煽りで、所詮は衝撃に対抗できるだけで特に動けもしない7人の男女は倒れた。
シルビアだけは足掻きで煽りを避けるが、

削板「終わりだぁぁぁ!」

いつの間にかシルビアの後ろに立っていた削板は、電撃を纏わせた右拳を繰り出した。
一応反撃は出来たが、どうせやられると分かっていたシルビアは、甘んじてその拳を喰らった。
その一撃でシルビアはノックアウト。勝負は決した。
280 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 10:20:00.04 ID:BMIoR+No0
削板「ふぅー」

滅茶苦茶疲れた。今すぐにでも休みたいところだが、そうも言っていられない。
まずは8人を回収して増援に行かないと。

削板は魔道書を持って、シルビアにかざそうとしたところで、魔道書が震えている事に気付いた。

削板「ん?……まあ、いいか」

構わず魔道書をかざす。と同時、

削板「おわぁ!」

魔道書から黒い影が飛びだした。
281 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 10:21:31.03 ID:BMIoR+No0
所詮は少女の拳。結標が放ったそれは、青髪の掌にあっさりと受け止められた。

結標「くっ!」

結標はすぐにテレポートして体勢を立て直して、もう一度アタックを仕掛けようとして、

青ピ「させへんよ」

青髪が彼女の体を引き寄せ、抱きしめた。

結標「あふ……」

恋焦がれている彼氏に抱きしめられた嬉しさで、頭が空白になった。組み上げた計算式が吹っ飛んだ。
しかしすぐさま切り替え、テレポートしようとした時には遅かった。

体が『洗脳操作』に支配され、動かせない。

結標「下衆な真似をしてくれるわね……!」

嬉しさで頭が真っ白になったその一瞬。
その一瞬で『洗脳操作』が結標の体を支配したのだ。これでテレポートもできない。
厳密に言えば使えない訳ではないのだが、使うのは得策ではない。
たとえば『窒素装甲』なら、体が動こうが動かなかろうが、窒素を纏って害はない。
しかしテレポーターには弊害が発生する。
体が動かなければ、たとえば上にテレポートすれば通常なら着地できるところを、受け身も取れずに地面に落下することになる。
他には、基本的にテレポーターは自由度の高すぎる能力に基準をつけるため、使用する際に何らかの動作をする事が多い。
結標なら、現在は行っていないが軍用懐中電灯を軽く振るっていた。
白井黒子は金属矢をテレポートする時腕を振るう。その方がイメージしやすいからだ。

青ピ「すまんな淡希。手荒な真似はしたくないから、こうするしかないんや」

結標「何が手荒な真似はしたくないよ。4月8日、私の水筒に薬を仕込んだのはどこの誰だったかしら?
   ……いつまで抱きしめているつもり?さっさとその汚い体を離しなさいよ」

思っている事と正反対の言葉で、しかも追い詰められているにもかかわらず強気で口汚く青髪を罵る結標。

青ピ「本当に悪いと思っている。これには理由があるんや」

言いながらも、青髪は結標の言う事に素直に従って、彼女から少し離れた。

結標「理由がある?理由があったら彼女を傷つけて良いと思っているの?世界を滅亡させていいと思っているの?」

ここぞとばかりにたたみ掛ける結標だったが、その返答は意外なものだった。

青ピ「いいわけ……あらへんよ」

自身にも食蜂にも否定的な返答。

結標「え?」

青ピ「だから、理由がある言うてるやろ。それを聞いてほしい」
282 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 10:24:01.35 ID:BMIoR+No0
青ピ「せやなぁ。まず僕の返事で分かったと思うけど、僕は操られていないんや」

結標「……そう」

青ピ「意外と驚ろかへんねんな」

結標「だって、洗脳されていないと初めから思っていたもの。だからこそ、食蜂に協力しているあなたに憤っていたのよ」

青ピ「その割には、僕の返答に少し困惑していたやないか」

結標「演技を続けるかと思っていたから、素直な返答に戸惑っただけよ。
   状況を打破する考えが浮かぶまでの、時間稼ぎのつもりだったのだけどね」

青ピ「どうやって、いつ気付いたん?」

結標「初めからって言っているでしょ。
   自分が洗脳されていたという事実を知覚した、つまり洗脳が解けた瞬間から。どうやっては、騙されたからよ」

青ピ「騙された?薬のことかいな?」

結標「そうよ。4月8日の朝、あなたは男子禁制の女子寮まで来て、お弁当を作ってくれた。
   でもね、かつて仮にも暗部に身を置いていた私は、一般人よりは勘が優れているつもりだし、
   人間が洗脳されているかどうかぐらい分かる。
   けれど、あなたにはそういう異常が見当たらなかった。
   だからこそ、弁当と水筒に不信感を持たず、まんまと騙された」

青ピ「つっちーから連絡来なかったん?」

結標「来なかったわよ。なぜかは知らないけど、おそらく、私を心配してなのでしょうね。
   あなたは洗脳されている。という事実を私が知れば、錯乱するとでも思ったんじゃないかしら」

青ピ「ふーん。つっちーなら、もっといい選択が出来たと思うけどなぁ」

結標「アイツだって動揺していたんでしょ。そんな事より、その理由とやらを聞かせなさいよ。
   良い訳ないと分かっていながらも、彼女を傷つけ、食蜂に協力するだけの理由を」

青ピ「言葉責めにも程があるやろ……そうやな。
   間違っていると分かっていながらも食蜂に協力する理由、
   それは、彼女の考えに同意できる部分があるのと、僕の恩人だからや」
283 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 10:27:48.05 ID:BMIoR+No0
結標「恩……人?」

青ピ「そう。恩人や。彼女のおかげで、僕は救われた」

結標「どういう……意味?」

青ピ「それを説明するには、僕の過去を紐解く必要がある。
   僕はね、実を言うと『置き去り』で5歳のころから学園都市に身を置き、
   様々な実験のたらい回しにされ、小学4年生の時点でレベル5となった」

結標「……」

青ピ「それで、僕は酷く寂しがりやでな。どうしても友達が欲しかった。
   だから能力使って研究者達と真っ向から対立した。僕を研究したかったら、学校に通わせろってね」

何となく、この時点でこの話の結末が分かった。
高位能力者なら高確率で歩む道が、容易に想像できる。

青ピ「でな。あっさりと通学の許可は下りた。そして意気揚々と登校した。
   ここまでは良かった。いざ学校生活が始まると、レベル5の僕に友達なんて1人として出来なかった。
   高位能力者の淡希なら、少しは経験したんじゃないかと思う。力があるがゆえに起こる弊害。
   僕は強力な能力によって妬まれ、疎まれ、畏れられ、避けられ、媚びられた」

そうだ。全員とは言わないが、高位能力者の大概はそうなる。
レベル4だった結標ですら、友達はなかなかできなかった。それがレベル5なら、尚更だろう。

青ピ「それだけやない。妬みが、実行に移された。つまり、いじめや。
   僕はいじめられた。でも、やり返す事は出来なかった。皆を傷つけたくなかったから」

結標「いじ、め……」

さすがの自分でも、いじめはなかった。やさぐれて刺々しかった態度を取っていた為、報復を恐れたのかもしれない。
だが彼は違ったのだろう。皆と友達になりたいがために、必要以上に優しく下手に出たのだろう。
そのせいでなめられたのだろう。レベル5が反撃すれば相手を傷つけるどころか殺してしまうかもしれない。
つまり反撃できない事をいいことに、いじめが起こったのだろう。

青ピ「それでも僕は考えたよ。でも、どうしても解決する手段は思い浮かばなかった。
   僕は、僕をこの学園都市に捨てた親と、こんな能力を生み出させた研究者と、
   何よりこんな能力を扱えるようになってしまった僕自身を恨んだ」

結標「そんな、あなたは何も悪くないじゃない……」

思わず同情してしまっていた。

青ピ「それでも諦めずに学校に通い続けたけど、結局友達は出来ず卒業した。
   僕はもう絶望していた。こんな僕には、友達は一生出来ないんやろな。って。
   レベル4ぐらいまでなら、名門中学に行けば力の差はあまりなく妬みとかも少ないはずやけど、
   奇しくも僕は、当時7人しかいないレベル5。もう、あの時は自暴自棄やった」

そう言えばと、結標は思いだす。自分も中学の頃は小学校より楽しかった記憶がある。
きっと彼の言う背景があったからだろう。
284 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 10:31:43.63 ID:BMIoR+No0
青ピ「そんな時、僕は食蜂に出会った。
   『心理掌握』の彼女は、一目見ただけで僕の気持ちを汲み取り、親身になって話まで聞いてくれた。
   同じ穴の狢だったからかもしれない。そして1つの提案が出された。嘘をつけばいい。ってな」

結標「なるほど。でも『身体検査』(システムスキャン)は誤魔化せないじゃない?」

青ピ「ところが、そうでもない。システムスキャンは大きく分けて、2つあるやろ。
   実技と機械の検査。実技に関しては、わざと手を抜けばいい。
   誰だって全力を出すシステムスキャンで、まさか手を抜いているとは思わないやろ?」

結標「それはそうかもしれないけど、機械の方はどうするのよ?」

青ピ「あれなぁ。実は拒否する事が出来る。それも、特別な理由とかは無しでなぁ」

結標「えぇ!?」

衝撃の事実に、驚きを隠せない。

青ピ「まあでも、拒否するバカはいない。誰だって今の実力を知りたいしな。
   だからこそ、頭がおかしいとは思われるけど、断る事自体は出来る。
   でも結果オーライやったで。僕には念願の友達が出来た。カミやんとつっちーも、その時友達になった」

結標「よかった……」

感情移入してしまい、思わず呟いていた。

青ピ「もうめちゃくちゃ嬉しかったね。毎日が楽しかった。
   途中カミやんがグレたりしたけども、更生できたし、寧ろその一件でカミやんとつっちーとは親友になった」

そこまで言われて、結標は多少冷静になって、

結標「……その親友を、あなたは裏切っているのよ。
   最っ低の親友を持って、彼らもあなたのことを軽蔑しているでしょうね。勿論私もだけど」

青ピ「唐突に毒舌復活やな。けれど、最後まで話は聞いてほしい。
   結局嘘をつき続けて、今までうまくやってきた。
   これができたのは、紛れもなく食蜂と出会い、アドバイスしてもらったからや。
   まあ12月の学園都市の危機には、今までひた隠しにしていたレベル5を明かしてしまったけどな。
   知っているのは一部の人間だけやし、まだ大丈夫や」

結標「何が大丈夫なのよ?あなたはこの街を守りたくて、12月わざわざ出てきたんでしょ?
   それなのに、世界滅亡の加担をしていいの?」

青ピ「よくないけども、恩人やし、考えに賛同できる部分もある言うてるやろ。
   淡希の脳にも残っているはずやで。食蜂の考えが」

結標「そんな事分かっているわよ。それでも世界滅亡なんて間違っているでしょ。
   あなただってそれが分かっているから、反対なのでしょう?だったらどうして反抗しないの!?」

青ピ「無理に決まっているやろ。200万の脳を統べる食蜂に勝てるわけないし、何度も言うけど、恩人で」

結標「恩人恩人って、嘘つくように言っただけでしょうが!あなただってその内気付く事が出来たはずよ!」

青ピ「いや、それはおそらく有り得へん。
   確かに実技の手を抜く位は思いついたかもしれんかったけど、機械検査を拒否できる事までは、案外想像できひん。
   それにや。実は万が一僕がレベル5と知れた時には、その人の記憶を消してあげるとまで言われている。
   淡希達にはその必要がないから頼まへんかったけど、姫やんとか一部の例外を除き、クラスメイトにバレたら頼むつもりや」

結標「はぁ?意味が分からないわ。記憶を消すとかどうとか、世界の滅亡と天秤にかける事じゃないわ!
   そこまでしてレベル5が露見する事が嫌なの!?」

青ピ「嫌や」

即答だった。
285 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 10:36:14.22 ID:BMIoR+No0
結標「……私を馬鹿にしているの?私も今やレベル5。私という彼女と同列な事がそんなに嫌かしら?」

青ピ「嫌やね。絶対嫌や」

結標「見損なった。本当に見損なった。あなたと同じ息すら吸いたくない」

青ピ「なら、この際言わせてもらうけど、淡希友達いないやろ?」

結標「っ!それがどうしたって言うのよ!」

青ピ「分かっているんやろ?淡希は綺麗やし、巨乳やし、実は優しい人や。
   なのに友達が出来ない理由は、たった1つ。レベルの高さや。レベル5になって、妬みとかが加速した結果や」

結標「そうかもしれないけど、そこまでしてレベル5が知れるのを恐れるのは間違っているわ!」

青ピ「それは淡希が、レベル5になって日が浅いからや。それに今となっては、ある風潮が薄れてきたからな」

結標「ある風潮?」

青ピ「レベル5は人格破綻者の集まり、ってやつや。最近はレベル5の面子も一新して、この風潮は薄れてきたけどな。
   少し前までは、わりと有名な風潮やった」

結標「それにカテゴリーされるのが嫌だから、って言いたいの?」

青ピ「そりゃそうやろ。人格破綻者言われて喜ぶ奴なんて、よっぽどのマゾくらいや」

結標「でも所詮は噂みたいなものでしょう?噂なんて関係ないじゃない。ちゃんとしていれば、皆理解してくれるはずよ」

青ピ「それはないな。
   レベル5の中で1番まともと思われる御坂美琴ですら、人の輪の中心に立つ事は出来ても、人の輪に入る事は出来ない。
   これって別に、彼女の性格とかは関係ない。レベル5だから。それだけでや」

結標「そんなの……違うでしょ……何で言い切れるのよ」

青ピ「僕だってレベル5だからや。淡希もその内実感すると思うで。
   レベル5であることの弊害を。妬みや媚びなどはレベル4の比ではないよ。
   周囲からの過剰な期待もあるし、一歩間違えればノイローゼになる。
   レベル5の皆はね、初めは普通の人間だった。それが実験や周囲の反応で狂っていった。
   僕はレベル5であることを知られるのはどうしても嫌や。トラウマなんや」

結標「そう……」

理屈は分かる。理屈は分かるが、納得は出来ない。
だって、だとしても、そんなのはおかしい。

結標「結局のところあなたは、理由を並べるだけ並べて自分の行動を正当化している愚図なのね。
   心底見損なった。もう無理。あなたがこの世に存在していることが許せなくなったわ」

辛辣な言葉に、平静を決め込んで来た青髪もさすがに声を荒げる。

青ピ「淡希はレベル5の辛さを分かっていない!強すぎるが故の孤独!嫉妬と羨望の眼差し!
   そして暗部には利用されるだけ利用されて!僕の気持ち分かるやろ!」

結標「分からないわ。あなたみたいなチキン野郎の気持ちなんて分からない。
   私は逃げなかった。負け犬にだけはならなかった」

青ピ「何やと……」

結標「レベル5だから友達が出来ない?そんなものは自分の体たらくの言い訳でしょうが!」

確かに、高位能力者が様々な背景で友達が出来にくいのは事実だ。だが、

結標「美琴は、彼女を心から尊敬している後輩がいるし、友達も居る。   
   一方通行は、今まで散々もがき苦しみながらも、彼なりの平和を築いている。垣根帝督だって、今や彼女がいる。
   元ナンバーセブン削板軍覇にも彼女がいるし、絹旗最愛にも友達がいる」

今言った事も事実だ。
286 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 10:37:57.97 ID:BMIoR+No0
結標「そして私にだって、大切な仲間達がいる。人の理解を得るのは困難だけど、不可能じゃない。
   それをレベル5だからという理由で理解を得られないと言うのは、あなたの甘えでしかない!」

かつて年下のテレポーターに言われた事を思い出す。

結標「危険な能力を持っていれば、危険に思われると本気で信じているの?
   私や美琴、レベル5の皆が楽な方法でこの場所に立っていると思っているの?
   皆努力して、頑張って、自分の持てる力で何が出来るかを必死に考えて行動して、
   それを認めてもらってようやく居場所を作れているのよ!?」

青ピ「っ……」

結標「結局あなたの言い草は、見下し精神丸出しの汚い逃げでしかないわ!そんな腐った性根、私が叩き直してやる!」

その時、結標の力強い意志が奇跡を起こした。
『洗脳操作』の支配を一時的に破り、繰り出した拳が青髪の顔面を捉えた。

青ピ「が……」

結標「目は覚めた?……まだよね。いいわ。もう一発ぶん殴って――」

しかし、結標の言葉はそこで途切れた。男児の1人が、彼女の脇腹を拳銃で撃ち抜いたからだ。

青ピ「な……何やっとるんや!彼女に手荒な真似はするなと言うたやろ!」

どうやら青髪の意思ではないらしい。そりゃそうだ。
今更になって撃ち抜く位なら『洗脳操作』で体を止めるなんて言う回りくどい事はせず、初めから撃っているだろう。
つまりこれは、男児の独断。

結標「く……そ……」

奇しくも、かつて年下のテレポーターを追い詰めた文明の利器にやられた形になった。

青ピ「くっそ!」

青髪は水流を生み出し、男児どころか結標を除く全ての人間を水流で飲み込んだ。そして結標を抱きかかえる。

青ピ「大丈夫か淡希!?」

結標「触ら……ないで。吐き気が……する」

青ピ「僕が嫌いなのは分かる。けど今はそんなこと言っている場合や――」

青髪の言葉も、最後まで続かなかった。一陣の風が吹いたかと思えば、一方通行が青髪の後ろに立っていた。
既に右手を伸ばしている。

青ピ「――くっ!」

右手が頭に触れる直前で、青髪は結標を抱えながら距離を取った。
287 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 10:39:37.52 ID:BMIoR+No0
結標「待っ、て……彼は……洗脳されて……いないの……」

一方通行「はァ?じゃあ何か。目の前に居るコイツは、自らの意思で食蜂に協力してンのか。
     まァそうか。じゃなきゃオマエを抱える理由がねェもンなァ。
     あァ?違うか。オマエもまた洗脳されてンのか結標。テレポーターは利用価値高いからなァ。
     待てよ。食蜂は一度」

結標「変な勘繰り……しないで……私はもう正常だし……彼も洗脳はされていない。
   食蜂に加担する……とてつもないアホだけど……」

青ピ「一方通行君なら分かるやろ?僕の苦しみ――」

青髪は、一方通行に簡潔に説明をした。意外にも一方通行は大人しく聞いていた。
そして聞き終わって、開口一番、

一方通行「成程ねェ。つまり、オマエは自分可愛さに彼女や親友、世界をも捨てられる、とンでもねェ薄情者って訳だ」

止めの一言を告げた。

一方通行「なァ、薄情者に抱きかかえられている結標さンよォ、もうコイツのこと軽蔑してンだろ?
     殺しはしねェけどよォ、手足バッキバキに折るぐらいはいいンだよなァ?」

結標「そうね……お願い……」

青ピ「ちょ、ちょい待てや!僕の気持ちも――」

一方通行「黙れよクソ野郎。オマエを見ているとムカつくンだよ。かつてのバカな俺を見ているようでなァ!」

ドゴン!と一方通行が地面を蹴って駆け出した。
288 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 10:41:21.50 ID:BMIoR+No0
妃「狂い咲け」

植物園の植物が蠢きだし、蔦がフィアンマ達に向かう。

ヴェント(蔦……嫌な感じ……)

かつて『神の神秘』(ラジエル)という植物を操る天使と戦い殺されかけた為、蔦や蔓などには軽いトラウマがあった。

フィアンマ(焼き払うのは簡単だが……)

ここで植物を燃焼させれば相手はもちろん、ヴェントすら巻き込んでしまう。
それにいくら洗脳されていないとはいえ、殺す訳にはいかない。

よってフィアンマは、若干足が竦んでいるヴェントを抱え、植物園から抜け出した。

妃「あらら。無様に逃げるなんて、なんて情けない……」

彼女もあっさりと植物園から抜け出し、フィアンマ達の前に立つ。

フィアンマ「操れる植物がなくなってしまったぞ。いいのか?」

妃「何を言っているのかしらあなたは。
  私の『百花繚乱』(ブルームランブル)は、植物を操るなんて事、数ある能力の1つにすぎないわ」

フィアンマ「そうか」

ヴェント「どうするフィアンマ?」

フィアンマ「どうするもこうするもな。能力の全容を把握しきれない以上は何とも言えんだろう」

妃「ねぇ。考え直さない?あなた達では私には勝てないわ。
  吸いつくされて、カラッカラに干からびて死ぬだけよ?」

フィアンマ「愚問だな。俺様達は死ぬつもりもないしな」

妃「あなたもかつては、世界を救おうとしたのでしょ?なら分かるはずよ。この世界が、どれだけ穢れているか」

フィアンマ「ああ。俺様もかつてはそう思っていた。でも、世界はちゃんと機能している。
      悪意も蔓延っているが、それ以上に善意で満ちている。
      世界に目を向けたこともないくせに滅亡滅亡と言っているのは、いささか滑稽だぞ」

妃「待ってよ。世界に目を向けた事もない?馬鹿言わないで。
  操祈も私も、世界を見た上で言っているのよ。操祈は人の深層心理すら覗ける。
  覗いたうえで、この世界を滅ぼそうと言っているの」

ヴェント「もういいよフィアンマ。結局は決裂。戦うしかない」

フィアンマ「やむを得ないな」

妃「調子に乗らないでよ愚民ども」
289 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 10:43:37.59 ID:BMIoR+No0
妃「饗宴のお時間よ」

両手を広げて、天を仰ぐ。
同時、彼女の周囲の虚空からいくつもの真っ白な花が咲き乱れる。

フィアンマ「あれは何だ」

ヴェント「まずいんじゃない」

ヴェントが危機を感じた時、真っ白な花から光線が放たれた。ズバァ!と光線はフィアンマ達の下に向かい駆け抜けた。

フィアンマ「危ないなぁ」

光線を避け妃の後ろに回り込んでいたフィアンマは、炎を纏った右拳を放つ。

妃「甘いわね愚民」

拳が来る程度、問題ないと言った調子だった。
妃の後ろの空間から咲いた赤い花が、フィアンマの拳を受け止めた。さらに纏っていた炎が吸収されていく。

フィアンマ(何だこれは?)

ズボと右手を抜き、後退して距離を取る。
それに入れ替わるようにヴェントがハンマーを振るい、風の杭を飛ばす。

妃「だからー、甘いって」

銀色の花が妃の体を包み込む。風の杭は直撃こそしたが、全く傷ついていなかった。

妃「今度はこっちの番ね」

フィアンマとヴェントの周囲に白い花が咲く。多角的に彼らを撃ち抜く為に。ズバァ!と光線が放たれる。

フィアンマ「ぐおっ!?」

ヴェント「いっ!?」

2人は無理に体を捻り光線を避けた。その為わずかに隙が生まれ、

妃「ほい!」

いつの間にかピンク色の傘を持ち、フィアンマに肉迫していた妃は、その傘を思い切り振るい彼の顔面を殴り飛ばした。

フィアンマ「がは!」

妃「まだよ」

パチン!と妃が指を鳴らす。するとフィアンマの胸の辺りに赤い花が咲き、爆発した。

フィアンマ「ぐおっ!」

いくら炎に耐性があるとはいえ、さすがに今の一撃はきつかった。

妃「まだよ」

ヴェント「させるか!」

2度目の追撃を阻むために、ヴェントが妃に突っ込んでいく。
その時フィアンマは、クス、と妃が微笑んだのを見逃さなかった。

フィアンマ「引っ込め!」

ヴェント「え?」

妃「飛んで火に入る夏の虫とは、まさにこのことね」

突っ込んでくるヴェントの目の前の空間に、彼女を包み込むぐらいの黄色い花が咲く。
それなりの速度を出していた彼女は、方向転換も出来ず黄色い花に飲み込まれた。

ヴェント「な――」

妃「ビリビリ拷問のお時間です」

ビリビリィ!と黄色い花から電撃が流れ、ヴェントを焦がした。
10秒後、花が開いて地面に落ちたヴェントは、死んではいないようだが、戦うのは無理そうだった。
290 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 10:46:20.61 ID:BMIoR+No0
フィアンマ「ヴェントぉぉぉ!」

叫びながら炎を纏った拳で妃を殴り飛ばそうとするが、やはり赤い花に阻まれる。それどころか、

妃「ぶっ、飛べっー!」

黒い花から噴き出した衝撃波が、フィアンマを襲った。

フィアンマ「くっそ」

吹き飛ばされ倒れているフィアンマの下に、青い花からウォーターカッターのような鋭い水流が放たれるが、
とび起きて避ける。

すると間髪いれずに、今度は水の鞭が飛んできた。
右腕を振るう事で軽く蒸発させ、水蒸気が発生したところで、

彼の体を、雷撃の槍が射貫いた。

フィアンマ「か……は……」

妃「まだよ」

そう言った時には、妃はフィアンマの目の前まで近づいていて、ドゴォ!と、傘の先端を彼の喉仏に食い込ませた。

それだけで終わらず、緑色の花を咲かせ、そこから蔦を出しフィアンマの体をぐるぐる巻きにして拘束した。

妃「さて、私の下僕になると言うのなら、解放してもよくってよ」

フィアンマ「喉を……潰しておいて……何を……言っている……」

かすれた声で、言葉を絞り出す。

妃「でもそうやって喋れない事はないでしょう?それに返事は、首を縦に振ればいい。私の下僕になるわよね?」

フィアンマは、何か諦めたように微笑んで、首を横に振った。

妃「はぁ?何でよ!?何でなのよ!?」

ゴッガッバキ!と、傘でフィアンマを何度も殴りつける。そんな中で彼は、漠然と考えていた。

今目の前に居る少女は、今まで戦ってきた人間の中では間違いなく最強だ。
今までのレベル5とは格が、次元が違いすぎる。
正直言って、このままでは勝てない。“救うための戦い”では、勝てない。

フィアンマ(あまり使いたくはなかったが……)

ヴェントも立ち上がっているのが見えた。その顔には覚悟の色が窺える。

フィアンマ(やるしか、ないな……)

フィアンマはまたしても笑った。

妃「何で……この状況で、笑っていられるのよ!」

両手で振り上げた傘を、思い切り振り下ろす。
が、力技で蔦から抜け出したフィアンマはそれを右手でキャッチした。
そして2秒もしない内に、傘を灰にした。

妃「な……」

フィアンマ「すまないな。少しだけ本気を出させてもらうぞ。死ぬなよ」

妃「何を……言って……」

妃が狼狽している間に、フィアンマの背中から赤いテレズマが翼のように噴出した。
ヴェントも同様に、背中から黄色いテレズマを噴出する。

フィアンマ「終わりだ」
291 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 10:47:21.09 ID:BMIoR+No0
そこからの戦いは1分もしないうちに決着した。
妃はありとあらゆる手段で攻撃防御を実行したが、大天使の力の一部を使役するフィアンマとヴェントには手も足も出なかった。
それでも生き永らえただけ称賛に値するだろう。

フィアンマ「何とか生き延びてくれたな」

ヴェント「ええ」

フィアンマ「傷は大丈夫かヴェント」

ヴェント「何とかね。多少は自己回復したし。フィアンマこそ大丈夫?」

フィアンマ「ああ。俺様は丈夫だからな。なら、もう気付いていると思うが、まだ戦えるんだな?」

ヴェント「というか、戦うしかないでしょ。さすがのあなたでも1人じゃ無理よ」

フィアンマ「そう言ってもらえて助かる。覚悟は良いか?」

ヴェント「もちろん」
292 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 10:54:35.14 ID:BMIoR+No0
とりあえずここまでです。続きは今日の夜投下します
293 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/30(金) 12:32:54.90 ID:/mDptbcho
lv.5のときでさえ別格扱いになる垣根がlv.6になってもなお押されるのが納得いかん。
未元物質の能力の使い方も変だしな。
294 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 18:36:01.76 ID:BMIoR+No0
このSSの未元物質は、原作とはもはや別物と考えてください
垣根を追いこませたのは、終始無双って言うのもどうかなと思ったからです
いや一方通行と上条無双しっぱなしじゃんって言われたらアレですけど
295 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 18:39:21.11 ID:BMIoR+No0
三沢塾の2階廊下で上条達の前に立ち塞がったのは、緑に染めたオールバックに黄金の甲冑を着こんだアウレオルス=イザードだった。

アウレオルス「死ね」

右手に持っていたの拳銃の銃口を上条達に向け、引き金を引く。
弾丸が常人では反応出来ない速度で上条の額に向かう。

五和「させません!」

ガキィン!と、上条の前に躍り出た五和のメイスによってあっさりと弾かれた。

上条「別に避けられたのに。けどありがとう」

五和「いえいえ」

アウレオルス「愕然。まさか拳銃程度では殺せないのか?」

アウレオルスはわずかに動揺する。すると上条達は、

上条「五和、逃げるぞ」

五和「え?でも」

上条「いいから」

五和の手を引き、階段を駆け下りて行く。

アウレオルス「まさか、気付いたのか?」

アウレオルスはまたしても驚愕した。
だが自分も悠長にここに留まっていられない。早く脱出しなければ。

アウレオルスは廊下の窓から飛び降りた。
296 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 18:41:09.13 ID:BMIoR+No0
三沢塾から脱出した2人の前には、手入れを怠って荒れた金色の髪に褐色の肌、
擦り切れたゴシックロリータを着用しているシェリークロムウェルに、
背中までの赤毛を鉛筆くらいの太さの細かい三つ編みに分けているアニェーゼ=サンクティス、
三つ編みそばかすのアンジェレネ、猫目のルチア、金髪で胸の豊かなオルソラ=アクィナスだった。
4人は真っ黒な修道服を着ている。さらに彼女達の周囲には、鷲などの猛禽類、狼などの猛獣がいた。

五和「こ、これは……」

目の前に広がる光景について言及したかったが、まずは一番の疑問を上条にぶつける。

五和「な、なんで逃げたんですか?」

上条「いるんだよ。能力者がもう一人」

上条がそう言った直後だった。
ドバァ!と、三沢塾の中から大量の水が溢れだした。

五和「ひゃあ!?」

上条「『水流操作』だろうな。中に留まっていたら洗い流されていた」

五和「じゃあ、あの甲冑の人も……」

上条「アウレオルスも当然グルだろう。つまり、俺達は合計7人の能力者と戦わなければいけないってことだ」

そう言った上条の空気が変わる。『幻想殺し』を解除して『竜王』の力を纏ったのだ。

上条「目の前に居る5人は俺がやる。五和はまだこっちに来ていないアウレオルスと『水流操作』を頼む。
   おそらくは、サーシャだろうがな」

五和「は、はい!」
297 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 18:42:53.79 ID:BMIoR+No0
上条「先手必勝!」

駆けだした上条がまず狙うのはシェリーだ。

アニェーゼ「シスタールチア!」

ルチア「はい!」

シュルルルと、ルチアの体に巻きついていた包帯が、修道服の腕の部分から射出される。
とはいえたかが包帯。そんな紙切れ当たったって痛くないじゃん。と思うかもしれないが、
これは改良型『発条包帯』で、軽いのに堅いと言う代物だった。ちなみに上条の体にも巻いてあり、
ステイルからの弾丸を耐えられたのもコレのおかげである。

上条「ちっ!」

舌打ちしながらも、それを左手で冷静にキャッチし引っ張って引き寄せる。
引き寄せたルチアの顔面に、右ストレートを叩きこんでぶっ飛ばした。

アニェーゼ「何やってんですかシスターアンジェレネ!
      あなたのフォローが遅いから、シスタールチアがやられちまったじゃねぇですか!」

アンジェレネ「ひいぃ!?ご、ごめんなさいぃ!?」

キレ気味のアニェーゼが『蓮の杖』(ロータスワンド)の形をした杖を振るい、
謝るアンジェレネの周囲には様々な種類の刃物が浮かび上がった。

シェリー「エリス!」

オルソラ「さあ皆さん、出番でございますよ」

シェリーがオイルパステルを振るい、オルソラが周囲の動物に命令を出す。

五和「あわわわわ……」

いくら上条とて、これはまずいのではと慌て始める五和だったが、彼女も他人の心配をしている場合ではなかった。

緩くウェーブのかかった長い金髪に、ワンピース型の下着にも似たスケスケの素材と黒いベルトで構成された拘束服の上に
赤い外套を羽織って、リード付きの首輪という格好のサーシャ=クロイツェフが、五和の脳天狙って降ってきたからだ。

五和「くっ」

ガキィン!とL字型のバールの一撃をメイスで受け止める。

サーシャ「第一の質問ですが、なぜ私の攻撃を防いだのですか?」

五和「なぜって、怪我したくないからですよ」

サーシャ「第二の質問ですが、それならば避けると言う選択も出来たはずです。なぜ受け止めたのですか?」

五和「……別に関係ないでしょう。どうでもいい会話を繰り広げるつもりはありません!」

少し力を込めて、サーシャを弾く。
298 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 18:44:48.64 ID:BMIoR+No0
アウレオルス「依然。苦戦しているようだな少女よ」

弾かれたサーシャの傍らに、いつの間にかアウレオルスがいてそんな事を言った。

サーシャ「第一の回答ですが、まだ一撃防がれただけなのに苦戦とは心外です」

アウレオルス「あの少女には武器は通用しない。そうなれば当然、能力で攻めるべきだ」

サーシャ「第二の回答ですが、そう言うあなたの手には、黄金の剣が握られていますが。
     どう見ても武器で攻撃しようとしているようにしか見えませんが」

アウレオルス「私の能力ではこれが限界なのだよ。君のように便利な能力を持ち合わせていない」

サーシャ「私見一。私の能力を使えば、向こうで戦っている人達も流してしまいます」

アウレオルス「愕然。私ごと少女達を流そうとしたのはどこの誰だ?」

サーシャ「第三の回答ですが、あなたを信じての事です」

アウレオルス「ふざけるな」

などと2人は、五和を無視して会話を続ける。

五和「そこの2人のおバカさん!私を無視しないでください!」

言いながら様々な武器が収納してある魔道書から槍を取り出し、メイスを閉まった。
そして水浸しの三沢塾の中へと逃走した。

サーシャ「第三の質問ですが、三沢塾に入って何をするつもりなのでしょうか?
     あと挑発しておいて逃げるとはどういうことでしょうか?」

アウレオルス「釈然。甚だ疑問ではあるが、追いかけてみるしかないだろう」

2人は五和を追いかけ、三沢塾の中へと消えて行った。
299 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 18:45:59.95 ID:BMIoR+No0
アンジェレネとルチアは『念動使い』(テレキネシスト)だ。
彼女達は触れていようが触れてなかろうが、認識したものを自在に操る事が出来る。
アンジェレネは能力をフルに使い、刀や剣や槍や斧や矛などのあらゆる刃物30本を浮かせて、あらゆる角度から上条を狙う。

上条「邪魔だ」

しかし上条は、それらを素手で叩き割っていき、1分もしないうちにアンジェレネに肉迫して殴り飛ばした。

アニェーゼ「ちぃ!何なんですかアンタは!」

文句を言いながら、杖を上から下に振るう。
その杖の動きに連動して、上条の上から衝撃が襲いかかった。衝撃をモロに喰らって、少しだけ揺らぐ。

アニェーゼ「へへ。どうです――」

だがすぐに上条は持ち直し、一瞬でアニェーゼの目の前まで迫る。

アニェーゼ(そんな、私の『座標衝撃』(ショックポイント)をまともに喰らって――)

ゴギャア!と上条の拳は杖を破壊しアニェーゼの腹部に叩きこまれた。

オルソラ「心優しき貴方様に、この動物達を傷つける事が出来るでございましょうか?」

『精神感応』のオルソラは、鷹や梟や隼、コンドルなどの猛禽類、ライオンやトラなどの猛獣合計30匹を上条に襲わせる。

上条「知ったこっちゃねぇ」

右手に『竜王の顎』を顕現させ、咆哮させる。
それはとてつもない衝撃波となり、動物とオルソラを吹き飛ばす。

シェリー「潰せエリス!」

修道女たちとの攻防の間に、完成したゴーレムが上条に向かって拳を放つ。
それを上条は左手で軽く受け止め、右手の『竜王の顎』を再び咆哮させ、ゴーレムとシェリーを吹き飛ばした。
5対1にもかかわらず、圧倒的な力で上条当麻が勝利した。
300 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 18:47:32.78 ID:BMIoR+No0
五和「やーいやーい!こっちですよおチビさん!」

水浸しの階段の上から、サーシャを挑発する。

サーシャ「私見二。ものすごくムカつきました。至急迎撃に移ります」

アウレオルス「待て!どう考えても、何か罠があると――」

サーシャはアウレオルスを無視して階段を駆け上がろうとして盛大にコケた。
瞬間、五和は槍を階段に突き刺し後ろに飛び退いた。直後、

バヂィ!とサーシャは感電して気を失い、階段から転げ落ちた。

アウレオルス「何が!?」

アウレオルスは思わずサーシャの下に駆け寄り階段を見た。
すると4段目辺りに、ワイヤーが張ってあった。

アウレオルス(あれで転んだのか……だが感電の理由は……)

そんな事を考えていられたのも束の間、メイスを持って階段から飛び降りる五和が視界に入った。

アウレオルス「ちっ」

サーシャなど放ってアウレオルスは飛び退いた。メイスは空を切り、地面に直撃する。

五和「大人しくやられていればいいのに……」

アウレオルスにとっては滅茶苦茶な事ををぼやきながら、五和はサーシャを回収した。

五和「さて、次はあなたの番です」

メイスを構え直しながら、予告する。

アウレオルス「超然。私もなめられたものだな」

言いながらも床に“手を突っ込んで、黄金の剣を引き抜いた”。

五和「え???」

目の前で起きた現象に、目を点にするしかない五和にアウレオルスは告げる。

アウレオルス「当然。驚くのも無理はないだろうな。私の『黄金錬成』(アルスマグナ)は、能力の中でも最高峰だからな」

五和「説明になっていないですよ……」

アウレオルス「懇切丁寧に説明するとは言っていないし、義理もないが?」

五和「ぐぅの音も出ませんね」

アウレオルス「歴然。力の差を見せてやろう」
301 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 18:49:40.62 ID:BMIoR+No0
ガンゴンギィン!と三沢塾1階ロビーで、五和とアウレオルスは打ち合っていた。

五和「このっ!」

一際大きく振るわれたメイスの一撃をアウレオルスは軽く受け流し、触れた。
するとメイスは、アウレオルスが触れた箇所から黄金へ変わっていく。

五和「な――」

思わずメイスを手放し、後退する。黄金に変わったメイスは、黄金の槍へと変化した。

アウレオルス「私の『黄金錬成』は、触れたモノを黄金に変え、自在に操る事ができる。無論、それは人体にも適用する」

五和「まさに究極の錬金術って訳ですか……!」

魔道書の中から槍を引き抜きながら呟く。

アウレオルス「そうだ。究極の錬金術。それが我が能力の正体。さらに範囲までもが自由なのだよ」

五和「……どう言う意味ですか?」

アウレオルス「こういうことだ」

答えながら、両手を地につける。
当然、そこの床は黄金に変わったのだが、それが徐々に広がり挙句の果てには三沢塾自体が黄金へと変わった。

五和「これは……」

アウレオルス「美しいだろう?最早この建造物は、私の思いのままさ」

アウレオルスが恍惚の表情を浮かべた直後だった。五和の近くの床から、黄金の針が飛び出し始めた。

五和「くっ――!」

五和もバク転を開始して、連続で飛び出してくる針を回避。
このままバク天を続ければ、出入り口からこの建物を抜け出せる。
しかしこの時、五和は三沢塾全体がアウレオルスの手足であると言う事を正しく認識していなかった。

五和(あれは――)

バク転の途中で見えた。出入り口が黄金で塞がれている。それどころかそこから針が飛びだしている。
そうだ。アウレオルスがその気になれば、三沢塾全体を針山にすることだってできる。
五和には最初から串刺しの運命しかなかった。

五和「――っ!」

それでも五和は抗った。何度目かのバク転の時に、腕に力を込めバネのように跳んだ。
わずかな滞空時間の中、アウレオルスは無慈悲だった。

天井から鎖付きの、巨大な針だらけの黄金球が五和目がけて振られていた。

五和(まだだ!)

もうそこまで迫っている死を前にして、それでも五和は諦めず槍を放った。
ガキン!と槍は弾かれ折れて、腕は痺れて、黄金球があと数cmと言うところで、

上条「五和ぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!」

ゴガァ!と上条が黄金の壁を砕いて、黄金球すら蹴り砕いた。
そのまま空中で五和を抱きかかえ、針山の一角に平然と立って見せた。
302 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 18:50:48.88 ID:BMIoR+No0
アウレオルス「少年、貴様は人間か……」

驚嘆するアウレオルスを無視して、上条は五和に話しかける。

上条「今から外に投げ飛ばす。しっかり着地しろよ」

五和「そんな、当麻さんは」

上条「大丈夫。軽く捻って終わらせるさ。じゃ、行くぞ」

五和「待――」

有無を言わさず、上条は自分が破壊した壁に向けて五和を投げ飛ばした。
アウレオルスなら塞ぐ事も出来たのだが、動揺していた彼には無理だった。

アウレオルス(焦るな……いくら人間離れしているとはいえ、ここは我が領域である事に変わりはない。必ず勝てる)

自分にそう言い聞かせ地に手をつけ、黄金を甲冑の上からさらに纏った。
今までむき出しだった頭の部分もだ。

アウレオルス(そうだ。負けるはずがない。このフル装備に、この塾の中でなら――)

ここでアウレオルスの意識は途切れることとなる。理由は簡単。
上条のボディーブローに黄金の甲冑を打ち砕かれ、さらにはアッパーを喰らったからだ。

上条「急がないと」

気絶したアウレオルスを抱え、三沢塾を後にする。
303 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 18:52:55.03 ID:BMIoR+No0

外に出た上条の前には、金髪のカールに爆乳で作業着を着用したオリアナ=トムソンに、
インデックスとは違う種類の白い修道服のリドヴィア=ロレンツェッティ、
重たく引きずりそうな法衣を纏い、首にはメノラー(数十の十字架を取り付けた四本のネックレス)をかけていて、
大剣を持っているビアージオ=ブゾーニ、何か様子がおかしい五和だった。

上条(いつまで続くんだよ。俺が今まで倒してきた敵達のバーゲンセール……)

ここまでの連戦の疲労で、上条は少し辟易していた。
そんな上条の心中など知らないリドヴィアが、五和を指差して口を開く。

リドヴィア「初めに言っておきますが、彼女は既に私の『記憶操作』(マインドハウンド)によって
      記憶が改竄されていますので。一応言っておきますが、洗脳ではなく改竄ですので。つまり――」

上条「そんなことはこの瞳で分かっている。洗脳と改竄の違いもな」

洗脳とはつまり、本人の意思に関係なく無理矢理操る事だ。だが記憶の改竄は違う。
上条当麻という存在を記憶から消して、それどころか悪者と認識させれば、五和は本心から上条を敵だと思いこむ。

ビアージオ「まあこんな小細工などしなくても、貴様のような異教の糞ザル如き、倒せるのだがなあ!」

まずはビアージオが2mほどの大剣を引きずりながら迫り、上条の目の前で振り上げ思い切り振り下ろした。

パシィン!と、上条はあっさりと白刃取りを決めた。

ビアージオ(馬鹿な!?腕を強化した私の大剣を受け止めただと!?)

驚愕するビアージオに追い討ちをかけるように、上条が大剣に力を加え砕き、さらには腹に拳を叩きこんだ。

上条「時間がないんだ」

呟きながらオリアナに一瞬で肉迫し、その顔面を殴り飛ばした。

リドヴィア「まさか、あなたにはオリアナが見えていたのですか?」

上条「当たり前だろ。何言ってんだ」

ドガァ!と、リドヴィアもオリアナと同様に殴り飛ばされた。
しかし五和の様子は変わらない。どうやらリドヴィアか五和の頭を『幻想殺し』で触らなければ戻らないらしい。

五和「うわああああああああ!」

圧倒的な敵を前にして五和は、半狂乱になりながら上条に特攻して行く。
上条はできるだけ五和を傷つけたくなかったが仕方がなかった。
放たれた槍を軽く受け止め引き寄せ、彼女の首筋に手刀を下して気絶させた。
304 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 18:55:31.57 ID:BMIoR+No0
上条「早くしないと」

一旦『竜王』の力を封印して『幻想殺し』状態になる。そして五和の頭に触れた直後だった。
ゴッ!と上条の体が真横に数m吹っ飛んだ。

上条「ぐあっ!」

一体何が?と周囲を見回す上条はある異変に気付いた。少し前にぶっ飛ばしたはずのオリアナがいない。

上条「そうか……」

オリアナは気絶などしていなかったのだ。おそらくオリアナが見えないのは何らかの能力だろう。
さっきまでは『竜王』の眼で見切っていたから何の気なしに殴り飛ばせたのだ。
透明になる能力か。認識そのものを阻害しているのか。それとも――

オリアナ「動くな!」

オリアナの声で思考が断ち切られる。上条は声がした方を見ると、五和の首筋にナイフを当てているオリアナがいた。

上条「くっそ!」

完全に油断していた。
『竜王』の力で無双して一撃で倒せると高をくくっていたら、実は倒せていなくて挙句の果て人質を取られるとは。
いくら『竜王』の力を解放したところで、自分がオリアナを殴り飛ばすのとオリアナが五和の首筋を掻っ切るのでは、
オリアナの方に軍配が上がるだろう。
吹っ飛ばされて五和から引き離された時点で、その可能性を考慮出来なかった自分が憎い。
20秒ほど前、変に考え込まず五和に駆け寄っていたら、こんなことにはならなかったかもしれない。
らしくないことはするものじゃない。と上条は後悔した。

しかし後悔したところでもう遅い。どうせオリアナは無茶な要求をするだろう。
死ねと命令するかもしれない。従わなければ五和を殺すだろう。
まあ従ったところで、その後普通に五和を殺すかもしれないが。
後者の可能性もある以上、五和を犠牲にしてでも特攻すべきかもしれない。

オリアナ「うふふ。最後の最後で油断したわねボクぅ。この子を殺されたくなかったら、お姉さんと一緒に遊びましょう?」

上条(どう……すれば……)

何かないのか。この状況を打破できる何かが。上条は周囲を見回して、

上条「……何を、すればいい?」

諦めた。特攻する気もなかった。五和を犠牲にすればオリアナには勝てる。
だがそんな勝利に意味はない。目の前の人も守れないで世界を救うなんて事は出来ない。

オリアナ「そうね。どうしようかしら……」

と、上条に何を命令しようか悩んでいるオリアナの後頭部がブレた。
と同時、彼女の腕の中から気絶している五和が解放される。

上条(何か分からねーが、チャンスだ!)

今しかない。と上条は駆け出し五和の頭に触れる。『記憶操作』の能力が無効化される。

オリアナ「ちっ!」

舌打ちと共に、再びオリアナの姿が消えた。

上条「もう好き勝手はさせねーぞ!」

上条も再び『竜王』の力を解放。
一瞬でオリアナの位置を看破した上条は、彼女を殴り飛ばし今度こそ戦闘不能にさせた。
305 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 18:56:30.25 ID:BMIoR+No0
上条「五和!起きてくれ五和!」

五和「ぅ……ん……」

上条「魔道書で皆を回収してくれ!時間がない!」

五和(時間……?)

ぼんやりする頭で起き上がった五和は、上条の言うことに疑問を持ちながらも、言われた通り能力者を回収して行く。

五和「あ、あの、ひょっとして私、当麻さんに何かしちゃいましたか?
   三沢塾から放り出された後の記憶がないんですが……」

上条「気にするな。この通り無事だから。それよりか、俺の背中に乗ってくれ。出来るだけ早く行かないと……」

五和「行かないとって、どこへですか?」

上条「フィアンマ達のところだよ」
306 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 18:58:08.39 ID:BMIoR+No0
後ろからの声に、御坂は振り返る。肩より長いボサボサの茶髪に虚ろな目、研究服の木山春生が立っていた。

御坂「また『多才能力』(マルチスキル)ってわけ?」

木山「そうだ。前回の10倍、10万の脳を統べているよ。悪い事は言わない。諦めた方が賢明だと思うよ」

確かに1万の脳相手で電池切れまで追い込まされた。その10倍となると、勝ち目は限りなく低いだろう。
だからと言って、ここで退く訳にはいかない。

御坂「先生は、操られていないのかしら?」

木山「そうだね。私は自分の意思でここに立っている」

御坂「食蜂に加担するほどの理由があるのかしら?」

木山「言ったはずだ。子供達を救うためならば、今後も手段を選ぶつもりはないと」

御坂「世界が滅亡したら、子供を救うもクソもないわよね?」

木山「可能性の話だよ。君達が私達と戦って勝つ可能性と、とりあえずは食蜂に従って他の解決策を見つける可能性。
   どっちが高いだろうか?たとえば、食蜂の気が変わるかもしれない」

御坂「そんな希望的観測が実現できるとは思えないけどなー」

木山「君達が勝利することよりは、よほど現実的だと私は思うがね」

御坂「なら、この戦いで証明してあげるわよ。私達の勝利で終わるってことを」
307 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 18:59:48.73 ID:BMIoR+No0
御坂の悪い癖。物事を楽観的に考える事だ。

1万の脳で苦戦していたのに、10万の脳に勝てるはずがない。
誰だって普通はそう考える。だが御坂は違う。正直言って今の木山にも勝てると踏んでいた。

もちろんいくら御坂と言えど、全く根拠がない訳ではない。
1万の脳と対決した時には、木山を殺さない為に手加減していた。
『幻想猛獣』(AIMバースト)という人外かつAIM拡散力場の塊が出てきてから本気を出した。
それまで10分の1の力で戦っていた訳ではないが、最初から全力を出せば、あるいはどうにかなると踏んだ。
全力を出し切って、丁度木山も死なないが戦闘不能になるぐらいだろうと踏んだ。

しかし、現実は甘くなかった。

御坂「どりゃあ!」

全力の雷撃の槍が木山に向かって放たれる。喰らえば即死どころか、5回は死ぬレベルの電撃。

木山「無駄だ」

左手を前に出す。それだけ。たったそれだけで雷撃の槍があらぬ方向に弾かれた。

御坂「んな!?」

木山「『気力絶縁』(インシュレーション)。君には天敵の能力さ」

御坂(なら『超電磁砲』で……)

と、ポケットの中からコインを取りだそうとして、

木山「遅いよ」

御坂の真後ろにテレポートした木山が、右手を振るった。ゴバァ!と強烈な風が吹き荒れる。

御坂「ぬうう!」

あまりの風力で、踏ん張り切れずに吹き飛ばされ宙を舞う。
その舞った先に木山が既にいた。右掌のなかには炎が渦巻いている。

御坂(まずい――!)

空中のため、どうにかして踏みとどまることはできない。このままだと焼き尽くされる!

木山「終わりだ」

御坂「――!」

全てを焼き尽くす炎が放たれ、地面に直撃した。
308 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 19:01:33.64 ID:BMIoR+No0
木山「逃げても無駄だと言うのに……」

木山には見えていた。炎が当たる寸前、ツインテールの少女が割り込んで御坂と共にテレポートを実行したのを。
まあそれは些事にすぎない。今の自分の感知能力なら、学園都市内ならばどこにいようが位置を把握できる。
加えてテレポートで追いつくことも可能だ。

木山「……まあ、抗う気持ちは分からなくもないがな」

呟きながら、テレポートで木山は消えた。

一方でテレポートを連続で実行して、実験用サーキットから数km離れた白井と御坂は、とあるビルの屋上にいた。

御坂「こんなところで何やっているのよ黒子。どうやってこっちにきたの?」

白井「あの魔道書はですね。転送先から逆にこっちに来ることもできますの。
   お姉様の唯一無二のパートナーであるわたくしは、お姉様のためならば例え火の中水の中」

御坂「そんな事を聞いているんじゃないの。ここは危険なのよ。帰って」

白井「ええ帰りますとも。お姉様と共に」

御坂「はぁ?何で私が帰らないといけないの」

白井「これ以上お姉様を危険な目に会わせるわけにはいきませんの。
   大丈夫ですわ。類人猿やアルビノさんが何とかしてくれますの」

御坂「嫌よ。私はまだ、何も果たせていない」

白井「何も果たせていないって、何も果たさなくていいですの!
   黒子はお姉様が心配で心配で。あの木山は、また1万の脳を統べているのでしょう?」

御坂「今回は10万だけどね」

白井「だったら尚更ですの!いくらお姉様と言えど勝てませんわ!」

御坂「けど、やらなきゃ」

白井「なぜ!?一体何がお姉様をそこまで突き動かしますの!?」

御坂「皆を、私の手で守りたいのよ!」

異様に冷静だった御坂が、ここで初めて叫んだ。
309 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 19:03:34.02 ID:BMIoR+No0
白井「だからそれは、別にお姉様じゃなくとも、類人猿やアルビノさんが」

御坂「アイツらだって、私達と同じ人間なのよ。決して神様なんかじゃなくて、完璧な存在じゃない。
   アイツらは強い。だからと言って、全てを救えるとは限らない」

白井「それはそうかもしれませんが……」

御坂「私、今回の戦いで一方通行には2回、今こうして黒子にも1回助けられた。
   助けられなければ死んでいた。一方通行と黒子が存在していなければ、私は3回も死んでいる計算になる」

白井には御坂の言いたい事がいまいちわからない。

御坂「けど私が死んだって、当麻も垣根さんも順調に勝ち進んでいたと思う。
   そして食蜂を倒すかもしれない。ね?私が死んでも、世界に対して影響はないのよ」

白井「つまり……どういうことなのでしょうか?」

御坂「私がいることで、アイツらでも救えきれない人を救えるかもしれないじゃない。だから私は、ここで退きたくないの」

白井「……そうですの」

まあ理屈も気持ちも分かる。
白井だって学園都市の平和と秩序を守る為、困っている人を助ける為にジャッジメントになったのだから。だが。

白井「納得できませんの。それでお姉様が死んでしまったら、黒子は、黒子は――」

御坂「黒子アンタ、さっきから失礼よ。何で負けて死ぬ事前提で話しているのよ。私は負けないわよ」

白井「申し訳ございませんが、10万の脳を統べる木山に勝てるとは思えませんの。
   現にわたくしに助けられたではありませんか」

御坂「うん。だからもう、一切の甘さを捨てる。自分に対しても相手に対しても鬼になる。今さらだけどね」

白井「鬼になったところで強くなって勝てるなら苦労しませんの。
   そりゃあ戦い方を変える事は出来るかもしれませんが、その程度の工夫でどうにかなるとは思えませんの」

御坂「うん。戦い方を変える気はないわよ。正々堂々進化する」

白井「へ?」

突拍子もない発言をする御坂に、思わず間抜けな声をあげてしまう。
310 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 19:05:52.68 ID:BMIoR+No0
御坂「ま、そんな感じの反応が来ると思っていたわ。けど、本気よ。今この瞬間から、私は急激に強くなる」

白井「どうやってですの?」

御坂「能力の強さってさ、パーソナルリアリティとか演算能力の高さが重要でしょ。
   じゃあ演算能力を手っ取り早く上げるにはどうすればいいと思う?」

白井「……頭をよくする?
   でも頭が良いから演算能力が高いのではなくて、演算能力が高いから頭が良いと言う気もしますの」

御坂「どっちにしろ、頭の良さと演算能力は比例しているってことよね」

白井「そうなりますわね。ですが、それが何の関係がありますの?」

御坂「結局それは、脳がカギを握っているわけでしょ。木山だって、食蜂だってそう。全てのカギは脳なのよ」

白井「そ、そんな分かり切った事を復習したところで、強くはなりませんわ」

御坂「話は最後まで聞きなさいよ。結局はさ、脳なのよ。私1人分の脳で、10万や200万の脳に勝てるわけないのよね。
   だったら、同じ境地に辿り着くしかないでしょ」

白井「つまり、他人の脳とリンクすると言う事ですか?ですがそんなこと出来る訳も、する人もいませんの」

御坂「そうね。だから私1人で無茶をする」

白井「は?それはどう言う意味ですの?」

御坂「脳って、10%も使いこなせていないじゃない?
   じゃあ100%使いこなせれば、単純に10倍以上強くなれるってことでしょ?」

白井「理屈はそうかもしれませんが、どうやってそんなことできますの!?
   と言うか出来たとしても、脳の負担を考えれば、ただではすみませんの!」

御坂「そりゃそうよ。木山も食蜂もレベル5になってしまった皆も、脳に負担を抱えて戦っているのよ。
   そんな中、私だけ正常な状態で勝てるわけない。そんな段階は通り過ぎている。
   狂った相手に勝つには、狂うしかない」

白井「そんな……よりにもよってお姉様がその役割をせずとも……黒子は、どうすればいいんですの……?」

御坂「信じて、待っていてほしいな。黒子には分かってほしい。脳に負担をかけたら、どんなことになるか分からない。
   パンクして死ぬかもしれないし、死ななくても後遺症が残るかもしれない。
   けれど、それだけのリスクを背負ってでも、護りたいの。黒子を、皆を」

白井「……全然納得はできませんけど、どうやって脳を使いこなしますの?」

御坂「脳のポートを解放する。それで周囲のAIM拡散力場と“接続”しつつ、演算能力自体も高める」

白井「……仰っている意味が分かりませんの。そんなこと出来るとは思えませんが」

御坂「出来る出来ないじゃなくて、やるしかないでしょ。
   まあ100%は間違いなく崩壊するから無理として、50%は使いたいわね」

白井「お姉様、やはり黒子は――」

白井の言葉は最後まで続かなかった。
御坂が彼女の首筋に手を当てて、わずかに電流を流し気絶させたからだ。

御坂「ごめん黒子。でも私は、絶対に死なないから」

決意する御坂美琴は、自分の頭に触れて電流を流す。微弱な電流が脳を刺激して行き――

御坂「あぐっ!」

バッギャアアアアア!と自らの能力の暴走で生まれた電撃の柱に飲み込まれた。
311 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 19:07:26.06 ID:BMIoR+No0
木山「さっきの電撃の柱は何だったのかな?」

たった今追いついた木山は、目の前に居る御坂に尋ねる。

御坂「答える義理はないわね」

木山(顔つきが変わった?何だあの悟ったような表情は――)

木山の思考はそこで断ち切られた。一瞬で木山に接近した御坂の掌底が、彼女の顎を跳ね上げたからだ。

木山(迅い――)

数m近く跳ねあげられた木山は、直後に空中で回し蹴りを喰らって地上へと落下して行く。

木山「がは……(とりあえず『空気風船』で落下の衝撃を――)」

木山の考えは甘かった。
かなりの速度で落下している最中の木山の腹部に、御坂のドロップキックが叩きこまれ地上に叩きつけられた。

御坂「終わりね」

木山(く――そ――)

このまま頭を触られでもしたら、脳波が断絶されて普通の木山春生に戻ってしまう。
それだけは避けなければいけない。

バゴォ!と周囲の地面から大量の針山を生み出した。
御坂は避けたようだが、とりあえず距離を取る事には成功した。

木山(どうにかして、反撃しないと――)

しかし御坂はそんな余裕すらも与えない。雷撃の槍で、針山ごと木山を射貫いた。

木山(馬鹿な――『気力絶縁』その他諸々で電撃は弾けるはずなのに――)

ドサリ、と木山は倒れた。御坂が一方的に勝利した。
312 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 19:16:23.42 ID:BMIoR+No0
佐天「きゃあ!」

絹旗によって生み出された窒素の衝撃波に為すすべなく吹き飛ばされる。

佐天「どう……したの……絹旗……さん……」

絹旗「まだ気付いていないのぉ?この子は、この操祈ちゃんに操られているんだよぉ」

佐天「そんな……洗脳って、遠距離からでも出来るものなの?」

絹旗「操祈ちゃんをなめないでほしいなぁ。今の私にはこれぐらい造作もないんだゾ☆」

佐天「でもさっき“超”ってつけていたような……」

絹旗「ちょーっと遊んだだけだよぉ。でも私の語彙力にはそぐわないから、やめたのぉ」

佐天「あなたの喋りかたの方がバカっぽいですけどね」

絹旗「ちょっとアンタ、誰に向かって口聞いてるのぉ?」

声のトーンが一段階下がった。バゴォ!と佐天は絹旗に殴り飛ばされる。

絹旗「レベル、0が、調子に、乗るなっ」

ゴッガッバキッ!と、佐天の体を何度も踏みつける。

重福「やめてぇ!」

レベル5の力を剥奪されて一時的に気絶していた重福が、絹旗に抱きついてとめようとするが、

絹旗「邪魔」

重福「きゃあ」

あっさりと弾かれた。
313 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 19:17:15.94 ID:BMIoR+No0
踏み飽きたのか、絹旗は佐天の髪を掴んで引っ張り上げる。

絹旗「今謝れば許してあげるけどぉ?」

佐天「世界滅亡……なんかを……企んでいる……人に……謝るつもりは……ありません」

絹旗「痛めつけが足りなかったようねぇ」

ドゴ!と絹旗の蹴りが佐天の腹に叩きこまれる。それでも佐天の目は死んでいなかった。

佐天「確かに……この世界は……理不尽だし……不条理だし……汚れているところも……あります」

ですが、と続けて、

佐天「いいことだって……たくさんあります。それらを全部否定して……世界滅亡なんて……言語道断です!」

絹旗「……世界を知らないあなたに、何が分かるのよぉ!」

キレた絹旗は佐天を叩きつけて、再び踏みつけの連続。
さすがにこれ以上は佐天の命にかかわる。そんな時だった。

削板「止めろこの根性無しがぁぁぁ!」

叫び声と同時、衝撃波が絹旗だけを吹き飛ばした。
314 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 19:18:20.73 ID:BMIoR+No0
重福「佐天さん!」

削板「大丈夫か嬢ちゃん!」

重福と削板が佐天に駆け寄る。

佐天「へへ……もう無理みたいですね……」

と言い残して、佐天は目を閉じた。

重福「嘘……佐天さん……?佐天さぁぁぁぁぁぁん!」

削板「落ち着け!気絶しただけだ!」

重福「ふぇ?そ、そうなんですか」

削板「そうだ安心しろ。とりあえず君達を安全の確保をしたい。
   そこで大人しくしていてくれ。この魔道書で回収するから」

重福「へ?」

重福がアホな声を上げたところで、魔道書がかざされ彼女達は回収された。

削板「さあやろうか」

絹旗「よくもやってくれたわね。
   ボッコボコにしてやる……と言いたいところだけど、急用が出来ちゃった☆この子は返してあげるわぁ」

削板「は?おい、どういうことだ!」

しかしながら、削板の質問に答える訳もなく、絹旗の体だけが地面に倒れた。
315 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 19:19:43.72 ID:BMIoR+No0
長い黒髪を先端の方だけ三つ編みにして束ねていて、ラクロスのユニホームのような服装に、青っぽい色のミニスカート、
野暮ったいジャケットのファスナーを首まで上げた格好の少女が吹寄達の前に現れた。
彼女がレッサーと言う少女をモデルにした能力者である事を、吹寄達は知る由もない。

レッサー「早速ですが、終幕です」

レッサーの黒髪が吹寄達へ向かう。満身創痍の彼女達は、為すすべなく髪の毛に掴まった。

吹寄「ぐ……う……」

姫神(どうにか。燃やせないか……)

掌にわずかな炎を灯し、黒髪に当てるが、

レッサー「無駄ですよ。私の髪の毛は丈夫なんです。
     燃やす事も凍らす事も切り裂く事も、よほどの力じゃないかぎりできません。レベル5クラスじゃないと」

垣根「じゃ、俺なら余裕だな」

突如現れた垣根が、レッサーの黒髪を翼で切り裂き、彼女本体も包み込んだ。
316 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 19:21:16.33 ID:BMIoR+No0
吹寄「ごほ!あなたは、垣根さん……?」

解放された吹寄は、咳き込みながら尋ねる。

垣根「ったく、どっかの誰かさんは、クラスメイトだから守るって言っていたよな。あのクソバカはどこだ?」

無視して垣根は呟く。

姫神「ありがとう。助かった」

垣根「これで分かっただろ。お前らじゃどうにもならないことがよ。
   分かったら、魔道書持ちのところへ行って転送してもらえ」

姫神「……どこにいるか分からないし。行く体力もない」

垣根「……で?」

姫神「そのメルヘンチックな翼で。送り届けてほしい」

吹寄「ちょ、秋沙それは――」

垣根「分かったよ。ただし、本当に大人しく転送されるって約束してくれるならな」

姫神「うん」

吹寄「あれ?案外優しい……?」

垣根「案外って何だ案外って。俺はいつでも紳士的だぜ?」

吹寄「だって病院では、あんなに怒っていた……」

姫神「演技だよ。私達を。諦めさせるために。わざと冷たくしていた」

垣根「分かっていたのか。
   そこまで俺の気持ちを汲み取ってくれていたのに転送されないとか、見た目のおしとやかさとは裏腹に、強情な女だ」

姫神「あなたの不器用さよりは。マシ」

垣根「言うじゃねぇか。ならお前らを諭してみるか」

背中に繭にしたレッサーと柊を、右手に吹寄、左手に姫神を抱えながら垣根は飛ぶ。

姫神「で。どうやって私達を。諦めさせる?」

吹寄「さっき約束した時点で、諦めさせるもへったくれもないと思うんだけど」

垣根「お前らはよく頑張ったよ。そんなにボロボロになるまで戦ってさ。
   お前らは他の人が頑張っているのに、自分だけが楽するのは嫌だと言っていたが、
   お前らを見て楽してたって言う奴はいねぇよ。結果も出したんだしな。だから、後は俺達に任せとけ。でどうだ?」

姫神「うん。それなら。いいかも」

吹寄(カッコつけ……秋沙も秋沙でなんか……)

垣根は飛んでいく。千里眼で見つけた削板のところへ。
317 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 19:23:06.90 ID:BMIoR+No0
パッ!と青髪だけがテレポートされ、一方通行の掌は空を切った。

一方通行「チッ」

舌打ちしながら、結標を抱え睨みつける。

結標「ち……がうわよ……私じゃ……ない……」

一方通行「じゃあ食蜂側のテレポーターの仕業か」

土御門「そうだにゃー」

聞きなれた声は後方から。青髪と一緒にスーツ姿の土御門がいる。

一方通行「ようやく出番ですかァ、参謀さンよォ」

土御門「悪いが、まだお前の相手は出来ない。緊急事態でな。とりあえずこれを受け取れ」

シュ!と一方通行に向かって何かが投げられた。一方通行は警戒してそれを避ける。

土御門「ま、そうなるか。それが当然だわな。だが信じてほしい。
    結標の応急処置には使えるモノを渡すつもりだ」

一方通行「分っかンねェなァ。なぜオマエらが敵に塩を送るようなマネをする?」

土御門「ここにいる青髪君の彼女なんだ。丁重に扱わなければいけないだろ?」

再び何かが投げられる。一方通行はとりあえずキャッチする。
見てみると、それは折り紙のようだった。

土御門「それを傷口に貼れ。血も止まるし、傷口もふさがる」

一方通行「こンな紙っ切れでか?信用できねェなァ」

土御門「陰陽博士に戻った土御門さんをなめてはいけないぜい。さすがにお前じゃあ無理だが、垣根には勝てるぜい」

一方通行「へェ」

適当に返事をしながら、結標の脇腹に折り紙を貼った。

土御門「結局貼るんだな」

一方通行「何もねェよりはマシだからな」

土御門「それじゃあ俺達はこれで。手土産として、ここにいる青髪以外の能力者はくれてやるよ」

一方通行「テレポーターもか?そうしたらオマエらはどうやって帰る?
     テレポーターがいないと、俺から逃げ切れないンじゃねェの?」

土御門「心配ご無用。俺達はこれで帰るからな」

言いながら出したのは、2枚の折り紙。その内の1枚を青髪に渡して、

土御門「じゃあな」

次の瞬間、その折り紙に彼らは吸い込まれ、折り紙自体も燃えて消えた。
同時に、何人もの能力者達が倒れて行った。
318 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 19:24:13.27 ID:BMIoR+No0
一方通行「チッ。結標、楽になったか?」

結標「……まあ、少しは」

一方通行「じゃあコイツら、テレポートして病院にでも寝かせといてくれ」

結標「……病み上がりなんですけど」

一方通行「知るかボケ。楽になったって言ったじゃねェか」

結標「じゃあ楽じゃない」

一方通行「ふざけてンですかァ?」

結標「ふざけてないわよ。病み上がりの女の子に何かさせるあなたの方がよっぽどふざけているわ」

一方通行「オマエがオンナノコなンてタマかよ。山姥の間違いだろ」

結標「だからモテないのよあなたは」

一方通行「モテたいって思った事はねェけどな」

結標「強がっちゃって」

一方通行「……結局、オマエはどうしたいンだよ」

結標「風のベクトル操って、良い感じに私達を運べるでしょう。それをやりなさいよ」

一方通行「簡単に言いますけどねェ……まァいいわ。やればいいンだろやれば」

一方通行達も動き出す。どこにいるか分からない、魔道書持ちがいる場所へ。
319 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 19:26:13.34 ID:BMIoR+No0
フィアンマ達は危機を感じ、学園都市から離れようと数ある出入り口の1つに向かう途中で、
100を超える死体と2人の『聖人』と出会ってしまった。

「待っていたぞ」

そう言ったのは、アレイスター並に長い黒い髪に、2m近い太刀を持ち、真っ黒なロングコートの男。

「あら、イイ男じゃない♡」

フィアンマを見て呟く彼女は、黒いミディアムヘアで、蛇が巻きついたような杖を持ち、
ヴェントの服装を黒くしたものを着用していた。

フィアンマ(これは……近くで見るととてつもない威圧だな……!)

ヴェント「アンタ何よ。フィアンマは渡さないわよ!」

フィアンマ(こういうとき女って、無駄に強気だから困る)

「別、彼とセックスをしたいとか、そういうのはないわよ。
 ただ研究対象としては、極上な感じがしてね。細かく切り刻むのは止めてよシルファー」

シルファー「あいつらが強ければ、そんなことにはならない。弱ければ、塵一つ残らないだろうがな」

フィアンマ「初めからテレズマ全開で行くぞヴェント」

ヴェント「うん」

フィアンマは25%、ヴェントは10%のテレズマを全開にする。

シルファー「メデューサ、あいつらは何%のテレズマを使役している?」

メデューサ「今出ているのは、男の方が25%、女の方が10%ね。全開って言っていたし、あれが全力なんじゃないかしら?」

シルファー「そうか……期待していたが、所詮は雑魚か」

ミカエルとウリエルという大天使のテレズマを前に、臆せず言ってのけた。
320 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 19:28:31.35 ID:BMIoR+No0
上条(まずい……邂逅しちまった……!)

『竜王』の力で感知能力が極限まで高まっている上条は、危機を敏感に感じ取っていた。
尚更急ぐ必要が出てきた上条に、天の声が降りかかる。

食蜂『地上に降りなさい上条当麻。降りないと、能力者達を殺す』

上条「くっそ!」

仕方なく五和と共に地上へ降りる。
そこには緑色の修道服を着ているテッラがいた。

食蜂『大丈夫よぉ。君が危惧している事は、こっちで解決しておくからぁ』

上条「無理だ!レベル5だろうが、200万の脳を統べようが、あいつらには勝てない!」

食蜂『言うわねぇ。けど別に、私が戦うとは言っていないわよぉ』

上条「まさか……」

食蜂『一方通行、垣根帝督、御坂美琴、削板軍覇、彼らをぶつけるの。そういうことだから、じゃあねぇ〜』

上条「待てよ!」

天に向かって叫ぶ上条に、

テッラ「余所見している暇あるんですかねー」

テッラが口から紫色の霧を吐いた。

五和「毒霧!?」

上条「ちっ。邪魔なんだよお!」

両腕を振るった風圧で、毒霧を霧散させる。
と同時に、上条はテッラを殴り飛ばすために、既に彼に肉迫していた。

上条「おらぁ!」

テッラ「甘いですねー」

ブニュリと、上条の拳はテッラの前に出現した緑色のスライムのようなモノに受け止められた。

上条「くっ!」

拳を抜いて、一旦後退する。拳はシューシューと音を立てて煙を出していた。
321 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 19:29:33.22 ID:BMIoR+No0
五和「大丈夫ですか当麻さん!」

上条「『竜王』の鎧がほんの少し溶けただけだ。どうやら、毒を使う能力みたいだな。
   しかもかなりの応用性も備えているっぽいな」

五和「どうすれば……」

上条「気にする事はない。次で決める」

テッラ「おやおや、調子に乗っているにも程がありますねー」

そう言うテッラの両手から、緑と紫の光線が発射された。

上条「んなもん、通用しねーよ!」

右手に顕現させた『竜王の顎』から『竜王の殺息』を出して対抗する。
緑と紫の光線など『竜王の殺息』の前では無に等しく、あっさりと押し負けテッラに直撃して爆発した。

五和「当麻さん!?あれ、大丈夫なんですか!?」

上条「大丈夫どころじゃない。奴はまだ普通に戦える」

五和「え?」

上条の言う通り、煙の中から緑色の触手のようなものが五和に襲い掛かる。
虚を突かれた五和は反応が遅れるものの、上条が『竜王の鉤爪』(ドラゴンクロウ)で切り裂いたことにより事なきを得た。
322 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 19:31:24.35 ID:BMIoR+No0
テッラ「いやいや、さすがに今のはひやっとしましたねー」

言葉ではそう言うものの、表情やトーンが余裕そうだ。

上条(手加減に手加減を加えた『竜王の殺息』とはいえ、防がれるとはな……)

五和(当麻さん……)

五和は祈ることしかできなかった。さすがにテッラとは相性が悪すぎる。おそらく武器は片っ端から溶かされるだろう。
そんな五和の心情を知ってか知らずか、上条はテッラの方を見たまま、こんな事を言った。

上条「五和、魔道書で自分自身を転送する事って出来ないのか」

五和「え?どうしてですか」

上条「これ以上は危険だ。俺は五和を危険な目にあわせたくない」

五和「……はい。分かりました。やってみます」

今までも、おそらくこれからも足手まといになる。五和は一緒に戦いたい気持ちを押し殺して、自ら魔道書に回収された。
あとには、魔道書だけがぼつりと残った。

テッラ「戦場から女性を逃がすとは、紳士的ですねー。感動しましたよ」

上条「息をするように嘘つくのやめろ。そして次で決める」

ドン!と地面を蹴って駆け出す。右拳を固く握り締めて。

テッラ「拳など、私のスライムの前では無に等しいですよー」

テッラの前のスライムが伸び、盾になるように上条を阻む。

上条「そんなもん、貫いてやるよ!」

ぐちゅり、と上条の炎を纏った拳がスライムに突き刺さり、直後に貫きテッラの腹部を捉えた。
それでテッラを昏倒させるには十分だった。
323 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 19:32:10.91 ID:BMIoR+No0
土御門「これが噂の魔道書か」

後ろからの声に素早く振り向く上条の目に映ったのは、魔道書を抱えた土御門。

上条「お前……もしかして――」

土御門「おっと。それ以上は禁句だ。だが時期が来れば、俺も参戦するさ」

そう言い残して、一方通行達の時と同じように消えた。
324 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 19:34:34.77 ID:BMIoR+No0
その代わりに、3人の少女がテレポートされた。
銀髪に、上着は長袖のスポーツ用のシャツで、ミニスカートの下に履いている青いレギンスは
足首まで覆われているベイロープに、色白の金髪碧眼で髪の長さは肩に触る程度、ラクロスのユニホームのような服装で、
スポーツ用のシャツの上からジャケットを羽織っており、ミニスカートの下はスパッツを履いているフロリス、
フロリスと同様の恰好をしたランシスだった。少女たちは全員、『鋼の手袋』(トール)まで持っていた。
おそらくパワードスーツを応用したものだろう。

上条「さっさと終わらせる!」

一瞬でフロリスの目に躍り出た上条は拳を繰り出すが、トールによって跳び上がり避けられた。

ベイロープ「いくわよ」

言葉と同時、周囲が1m先の物すら見えない位の濃霧に包まれた。
自分は眼がある為問題ないが、寧ろ彼女達の方が自分を見つけられないのではないか。

上条(ま、それなら遠慮なく!)

『竜王の翼』を顕現させ飛ぶ。まずはフロリスを殴り飛ばすために彼女に向かっていく。
が、上条の拳は空を切った。

上条(自ら濃霧を生み出して、自分は見えませんでしたってオチになるわけないよな)

このトリックはフロリスの『透視能力』を、ランシスの『精神感応』によって
3人で視界を共用しているためにできる芸当なのだが、上条には知る由もない。

ランシス「私達三位一体、魅せるわよ!」

ベイロープ・フロリス「「おう!!」」

ランシスの掛け声とともに、彼女達のチームプレイが始まる。
325 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 19:36:12.77 ID:BMIoR+No0
トールに跨る彼女達はなかなかの速度で、急な旋回が効かない上条は翻弄されていた。

フロリス「まだまだ!」

直接的な攻撃力は持たない彼女達は、科学兵器をフルに使う。
手榴弾だったり、拳銃だったり、スタングレネードだったり、火炎放射機だったり。しかし上条を倒すには至らない。
『竜王』の力は異能にはもちろん、物理にだって相当の耐性がある。
核兵器をぶつけるぐらいではないと、ダメージはほぼ通らない。

概ねそんな感じで、上条もフロリス達の戦いはしばらく続いたが、異変は突如起こった。
フロリスが突然、地面へ落下して行ったのだ。それによりランシスとベイロープは、視界が霧で遮られる。
その隙にしっかり見えている上条は、ランシスを殴り飛ばす。
追い込まれたベイロープは逃げようとするが、謎の一撃で彼女も昏倒して地上へと落ちて行った。

上条「さっきのオリアナも、お前の仕業なんだろ?」

地上へと降りた上条は、目の前の少女に尋ねる。

「はい。ようやく顕現出来ました」

長いストレートヘアから一房だけ束ねられた髪が伸びていて、知的な眼鏡を掛けているが多少ずり落ちている風斬氷華が答えた。

上条「ありがとう。本当に助かったよ」

風斬「いえ……役に立てたようで嬉しいです……」

上条「何だよ風斬。もっと自信を持てって」

風斬「はい……」

「何を言っても、所詮は人間じゃないし」

ところどころに真っ赤なレザーがあしらわれた、ボンテージっぽく見えなくもない深紅のドレスを着用しているキャーリサが、上条達の会話を遮った。
326 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 19:38:41.22 ID:BMIoR+No0
その声に上条が振り向く前に、ギュルアァァア!と上条達は、自身の影に囚われた。

キャーリサ「ちょっとー、あっちの女のほーは、細切れにするべきだし」

「御意」

上条「ぐっ!」

風斬「ああ!」

影のしめつける威力が増し、風斬氷華は細切れにされ消滅した。

上条「か、ざ、風斬りぃぃぃいいいいいい!」

キャーリサ「そんなに叫ばなくても……一時的に消滅しただけだろうし」

言う通りではあると思うが、そう言う問題ではないと上条は思う。

上条「ちっくしょう!テメェら絶対ぇ許さねー!」

影から力だけで強引に抜け出し、スーツ姿の騎士団長(ナイトリーダー)へ向かう。

騎士団長「調子に乗るなよ少年」

拳が顔面まであと数cmというところで、上条は再び自身の影に囚われた。

騎士団長「死ね」

右手の『フルンティング』を、上条の首を刎ねるために水平に振るう。
さすがの上条も、この一撃を喰らえば呼吸困難は確実だ。

上条「おおお!」

しかしフルンティングは、上条当麻の首を刎ねる事はなかった。
ゴッ!と、真横からオレンジ色の直線がフルンティングを焼きちぎったからだ。

騎士団長「なに――」

上条(今だ!)

影から再び強引に抜け出した上条は、狼狽している騎士団長の顔面に拳を叩きこんだ。

キャーリサ「ちっ。ウィリアム!コイツをやれ!」

「御意である」

青系の長袖シャツを中心にゴルフウェアを連想させるスポーティな格好の人アックアが、
キャーリサの命令を受け、上条の後ろからアスカロンを振り落ろす。
しかしそれもオレンジ色の光線に貫かれ、手から弾かれうろたえている彼の腹部に後ろ蹴りを叩きこんだ。

キャーリサ「さっきから邪魔するこのオレンジ色の光線は何なの?」

御坂「これだけど?」

キャーリサの疑問に答えるように、御坂の声と『超電磁砲』が彼女の真横を駆け抜けた。
327 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 19:41:28.65 ID:BMIoR+No0
御坂「降参するなら、痛い目見ずに済むけど?」

キャーリサ「誰が降参なんかするか!ブチのめしてやるし!」

上条を放って、御坂の下へ駆けだすキャーリサの手には『カーテナ』が握られている。
もちろんカーテナの形をした鈍だろうが、刃物である事に変わりはない。

上条「御坂!」

御坂「大丈夫よ」

そうこうしている間に、キャーリサが御坂の目の前まで辿り着いてカーテナを振り下ろした。
それでも一向に何のモーションもしない御坂に、上条は焦り、キャーリサは勝利を確信するが、

グギィィィン!と、カーテナは捻り曲がった。

キャーリサ「これは……」

御坂「私に金属は通用しないわ」

上条(御坂の奴……磁力であんな芸当を……?)

キャーリサ「あーそーですか!だったら能力を使うまでだし!」

キャーリサは御坂から距離を取り、指を噛んで血を出す。流れる血は意思を持っているかのように蠢く。

キャーリサ「ブラッディランス!」

指からさらなる血が溢れ、槍の形になって御坂へ向かう。

御坂「しょぼいわね」

前髪から青白い雷撃の槍を放ち、あっさりと相殺する。

キャーリサ「強気なこと言っといて、結局は相殺だし!」

御坂「もちろん、殺す為に戦っている訳じゃないからね」

挑発するようなキャーリサの後ろに居た御坂は、答えながら彼女の頭に触れる。
バチッと、わずかに電流が流され、キャーリサの洗脳は解除された。
328 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 19:42:54.78 ID:BMIoR+No0
上条「御坂……お前、強くなった?」

御坂「御坂じゃなくて美琴って呼んでよ。まあそうね。強くなったと言えばなったかな」

上条「……そうか。じゃあ行くか。と言いたいところだけど、コイツらをなぁ……」

御坂「それは大丈夫よ。黒子が何とかしてくれるから」

上条「白井が……どうして?」

御坂「私の事を思って、魔道書通ってきてくれたみたい」

上条「そっか。でもまだ洗脳を解いていない奴も居るんだ」

御坂「何だまだやってなかったの?なら私が今やるわよ」

パチン!と指を鳴らすと、彼女の前髪から四方八方にわずかな電流が放たれ、倒れている全員の頭に向かった。

御坂「これで大丈夫だと思う。さあ、行きましょうか」

上条「おう」

上条と御坂が合流した。そして彼らも動き出す。戦場が1つになろうとしている。
329 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [saga sage]:2011/12/30(金) 19:44:06.49 ID:BMIoR+No0
今日はここまでと言う事で
続きはいつになるか分かりません
330 :SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b) [sage]:2011/12/30(金) 20:34:51.34 ID:ospy8006o
おつ
331 :SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b) [sage]:2011/12/31(土) 09:55:02.82 ID:m/k6PL360
木山は自分の意思で食蜂に加担させちゃだめだろ…
332 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/01/07(土) 07:31:53.78 ID:i3iDcr7O0
別にいいだろ…
333 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/01/07(土) 13:14:31.30 ID:SUhCDqwt0
>>1乙、読んだ。

舞ったりと、続き舞っている。
334 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/07(土) 19:07:07.98 ID:JX1PADGq0
>>332
超電磁砲での木山を蔑ろにするんじゃないか?
335 :( ◆Lvl.4/lVGTct :2012/01/08(日) 17:41:55.84 ID:e1izktul0
乙、
続きを待つ
336 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/01/08(日) 17:49:57.11 ID:TssfQ3Or0
>>335
ageんな死ね
337 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県) [sage]:2012/01/09(月) 01:17:20.52 ID:/6fSpIzN0


>木原「いくぜ!マゾ太君!」
>木原数多が駆けだした。

ここすごい爽やかに見えた
338 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/01/09(月) 18:49:11.73 ID:5aflUOgZo
>>337
よくマゾ太って見るけど違うよね。
数多にかけて、マゾ多って呼んでるのにね。
339 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/11(水) 14:14:34.76 ID:39fl8CoDO
このスレの前作読んで
インデックス「好きだよ、あくせられーた」一方通行「…はァ?」
を思い出した
340 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/01/23(月) 12:25:26.51 ID:2YokSU+h0
>>1です
未だ書きためている途中です
次の投下は2月1日を予定しています

あと訂正があります
>>110から始まる一方通行のバトルの場所が野球スタジアムとなっていますがドームの間違いです。すみませんでした。

それと木山の動機は少々無理矢理だったかなと反省しています。
341 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/01/23(月) 17:22:36.78 ID:iIqvYJnv0
>>1乙!
2月1日が待ち遠しいな
342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/01(水) 23:47:03.93 ID:SNm5wLs00

   、、、、
   いぬねこ

343 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/01(水) 23:50:44.20 ID:SNm5wLs00
フィアンマとヴェントは大天使のテレズマを使いこなす『聖人』以上の魔術師だ。
しかしシルファーとメデューサの2人は『聖人』である上に、
悪魔である『蝿の王』(ベルゼブブ)と『神の毒』(サマエル)と融合した、とんでもない魔術師だった。

フィアンマの爆発する拳も、シルファー相手には素手で受け止められ、逆に太刀で一閃された。
ヴェントもメデューサ相手に風の杭を放つが、弾かれ、反撃の毒霧をわずかに吸いこんで再起不能になってしまった。

シルファー「弱すぎる。これが最高峰の魔術師なのか……」

メデューサ「ツチミカドっていう東洋人の方が強いかもしれないわね」

フィアンマ「く……そ……」

ヴェント「レベルが……違いすぎる……」

メデューサ「あなた達が弱すぎるのよ」

シルファー「使いこなすのではなく、融合していれば、あるいは対抗できたかもしれんがな。さよならだ」

シルファーの太刀が、容赦なく振り下ろされた。
344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/01(水) 23:52:29.40 ID:SNm5wLs00
バシュウ!とシルファーは肩を白い光線に撃ち抜かれ太刀を落とした。
光線が放たれた方を見て、

シルファー「なぜ邪魔をする小娘?」

その先に居た食蜂に問いかける。

食蜂「だってぇ、私達の遊びを邪魔するからさぁ、イラッ☆ときちゃって」

メデューサ「私はたった今邪魔されてイラッときているけどね」

音もなく食蜂の後ろに回り込んだメデューサは『アスクレピオス』の杖を振るう。

食蜂「調子に乗らないで」

振るわれたアスクレピオスを軽く受け止め握りつぶす。
それどころか逆に、膨大な空気圧を放ちメデューサを吹き飛ばす。

メデューサ「へぇ。あの黄色い女よりはやるわね」

シルファー「邪魔をするなら、殺すまでだ小娘」

今まで右手で持っていた太刀を左手に持ち替えて、食蜂に振り下ろす。

食蜂「うざい」

グッギィィィン!と太刀は磁力で曲がった。

シルファー「ほぅ」

武器を失ったというのに余裕そうなシルファーの心臓を止めるために、食蜂は電撃の掌底を浴びせた。
が、シルファーは食蜂の手を掴み、

シルファー「その程度か小娘」

ぐしゃり、と食蜂の手を握りつぶした。
345 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/01(水) 23:53:18.37 ID:SNm5wLs00
食蜂「放せ」

呟きながら、握りつぶされていない左手から炎を出して爆発を起こす。

フィアンマ「あの化け物と……互角に戦っている……?」

ヴェント「食蜂も……大概じゃないわね……」

食蜂「ちょっとぉ、聞こえているんだけどぉ」

倒れているヴェントとフィアンマの傍らにテレポートしてきた食蜂の手は再生していた。

フィアンマ「なぜ、俺達を庇う……?」

食蜂「だからぁ、遊びを邪魔されたからって言っているじゃない?」

ヴェント「そんな理由で……」

食蜂「どうして?誰だって娯楽を邪魔されたら憤るでしょ?」

シルファー「会話をしている暇があるのか?」

一瞬で食蜂の前に躍り出たシルファーは、かかと落としを繰り出そうとして、

「調子のんなクソヤロウ!」

ゴギャア!と突如現れた金髪の男に殴られ、数百m以上吹っ飛んだ。
346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/01(水) 23:54:46.60 ID:SNm5wLs00
フィアンマ「誰だ……?」

派手に逆立てた金髪に、この時期には早いTシャツに短パンの大男が食蜂を庇うように立つ。

食蜂「獅子虎玲緒(ししとられお)。私の仲間よ」

獅子虎「おい!あの男と蛇みたいな目をした女はブチのめしていいのか!?」

食蜂「良いって指示出しているでしょ。やっておしまい」

獅子虎「オッケー」

快活な返事をすると、彼の体が2倍以上の大きさになって行く。
手の爪は鋭くなり、歯は牙となる。その威容は百獣の王、ライオンのようだった。

獅子虎「グオオオオオオ!」

雄叫びをあげながら、飛ばされたシルファーの下へ向かって行く。

メデューサ「いい加減にしなさい」

ビュオッ!と、真上から直径2mの紫色の光線が食蜂達を狙って放たれた。

食蜂「いい加減にするのはそっちでしょーが!」

食蜂が右手を挙げる。
するとその真上の空間に黒い花が咲き、光線をすべて吸収し跳ね返しメデューサを返り討ちにした。

ヴェント「これが、能力者200万人分の力……」

食蜂「まだまだこんなもんじゃないわよぉ」

フィアンマ「だが、メデューサもまだ死んでいないみたいだぞ」

食蜂「それも分かっているわぁ。
   だから私はそのメデューサって言うのと集中して戦うから、あの男はあなた達で頑張ってねぇ。
   大丈夫。もうすぐ君達の仲間が来るから」

そう言い残して、食蜂はテレポートで消え去った。
347 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/01(水) 23:56:50.16 ID:SNm5wLs00
数百m先で轟音が巻き起こった。獅子虎とシルファーの方からだ。
一方でフィアンマ達のところにも、

削板「ようお前ら。ボロボロじゃねぇか」

削板軍覇が辿り着いていた。

フィアンマ「駄目だ……お前じゃあ勝てない……」

削板「何言ってんだ。誰が相手でも俺は勝つぜ」

ヴェント「いいから……逃げなさい……」

削板「あの黒い男をぶっ飛ばせばいいんだな?」

2人の注意を聞き入れる気がない削板は、獅子虎の亡骸を担いで歩いてくるシルファーを指差して尋ねる。

フィアンマ「逃げろと言っているのが……分からんのか……!」

ヴェント「あの力の大きさ……見ただけで分かるでしょーが……!」

削板「ゴチャゴチャうるせぇ!そんなもん分かってるが!逃げると言う根性無しな真似は!死んでも出来ねぇ!」

激しい剣幕で叫ぶ削板に、フィアンマ達は思わず怯む。
そんなやりとりの最中も、シルファーは左手に刀の形をした黒いエネルギーを溜めながら近付いてくる。

削板「あのエネルギー……俺も最大級の技でいくしかないな……!」

両手を突き出す削板の前に、並んだ8枚の魔法陣が2セット顕現した。つまり、合計16枚の魔法陣。

削板「いっくぜぇぇぇぇぇえええええ!『八重魔法陣の双衝撃』(オクタスペルツインインパクト)!」

16枚の魔法陣が殴られた事により壊れ、極限の衝撃波が生み出される!
シルファーも、左手の刀の形をしたエネルギーを上から下に振るった。
フィアンマがかつて振るっていた大剣並の大きさのエネルギーだ。

ズッバァァァアアアアア!と魔法陣の衝撃波と削板は黒いエネルギーに飲み込まれ、余波でフィアンマ達も吹き飛ばされた。
348 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/01(水) 23:58:12.64 ID:SNm5wLs00
そこから数百m離れたところで、食蜂とメデューサは戦っていた。
メデューサは背中や脇腹から大量の蛇を伸ばし、食蜂は蜂の形をした炎や電撃や水やらを生み出して攻撃していた。

メデューサ「どうやら、魔術師の2人よりはお強い様ね」

食蜂「お褒めにあずかり光栄だけどぉ、そろそろ死んでくれないかなぁ?」

ドドドドド!と光線やら瓦礫やら、ありとあらゆる物量でメデューサを襲うが、

メデューサ「甘いわよ」

巨大な蛇が召喚され、攻撃は飲み込まれ、その硬い皮膚に弾かれ、
とにかくメデューサに致命的なダメージは与えられなかった。

食蜂「ムッカつくわねぇ」

メデューサ「お褒めに預かり光栄ですわ」

食蜂「今のが褒め言葉に聞こえるなら、あなたは相当なアホねぇ」

メデューサ「そのアホに、あなたはこれから殺されるのよ」

なおも激しい攻防は続く。
349 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/01(水) 23:59:27.52 ID:SNm5wLs00
しかし、その戦いも打ち止めとなる。
白い翼のようなものが巨大な蛇を両断し、彼女達の戦いを遮ったからだ。

食蜂「ようやく来たわねぇ」

メデューサ「アラ、随分とイケメンじゃない♡」

翼の出所を見る2人の視線の先には、6枚の翼を掲げた垣根帝督が君臨していた。

垣根「この状況がよく分からねぇんだけど、とりあえず両方ブチのめせばいいのか?」

食蜂「ちょっと待ってよぉ。私は侵入者を迎撃していただけだよぉ」

メデューサ「聞いてくれるイケメンさん?この小娘がね、一方的に絡んで来たのよ」

垣根「アンタ、何者だ?明らかに異質な何かを感じる」

その疑問に答えたのは、メデューサではなく食蜂だった。

食蜂「彼女はねぇ、魔術師らしいわよぉ。しかも、悪魔と融合したんだってぇ」

垣根「へぇ。じゃあこっちも本気を出さなきゃな」

6枚の翼がさらに大きくなり輝く。その威容は『光を掲げる者』(ルシフェル)のようだった。

メデューサ「イケメンに磨きがかかったわね。それじゃあ私も、全力でお相手差し上げないと」

2割程度の力しか出していなかったメデューサも、100%の力を解放する。
背中には赤い翼が生え、下半身は全長100mにも及ぶ蛇となる。

垣根「せっかく綺麗だったのに、醜くなったな」

メデューサ「勝つためには手段を選んでいられないからね。メルヘンさん?」

垣根「違ぇねぇ」

化け物同士の殺し合いが始まる。
350 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 00:00:36.09 ID:mdUBX5eL0
「ここから先は、上条さんしか通せません」

オレンジ色のロングヘアに、おっとりとした雰囲気を放つ霧ヶ丘女学院の冬服に身を包んだ女子が
上条達の前に立ち塞がった。

御坂「だってさ。行きなさいよ」

上条「悪ぃ。頼んだ!」

事あるごとに頼ってくれなかった上条に、一発で信頼された事実に御坂は嬉しくなり、顔が綻ぶ。

「随分なアホ面ですが、そんな調子で大丈夫ですか?」

指摘されてムッとしながらも、割と言い返せない。

御坂「で、アンタは私が10万の脳を統べる木山を倒した事を知っていて立ち塞がっているのかしら?」

「倒した事は知っていますよ。どうやって倒したかまでは知りませんが」

御坂「ふーん。やっぱりね」

「会話はもう良いです。この六道望(ろくどうのぞみ)が、引導を渡してあげます」

御坂「へぇ。それは楽しみね」

前髪から、青白い電撃を迸らせる。
351 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 00:02:58.47 ID:mdUBX5eL0
絹旗「だ、大丈夫ですか!?」

目を覚ました後、削板に置いて行かれた絹旗は、ようやく倒れている彼に追いついた。

削板「嬢ちゃんか……見ての通り……情けない話だが……大丈夫じゃない……」

絹旗「そ、そんなに超強力な能力者が……」

削板「違う……能力者じゃない……」

絹旗「え?」

削板「逃げろ……嬢ちゃんには勝てない相手だ……」

絹旗「……くっ」

悔しいが、削板の言う通りにするしかないと思った。
絹旗は、なんだかんだ言って彼の戦いを直接は見ていないが、今まで大した傷も負わず、
それどころか自分のところにまで来てくれた彼が弱いとは思えない。
まぐれなどではなく本当に強いのだと思っている。
ひょっとしたら、自分以上なのではないかとすら思っている。
そんな彼が、息も絶え絶えになっている。勝てない。今の自分では、勝てない。

絹旗「……分かりました。超逃げましょう。ただし」

絹旗は削板を背負う。

絹旗「あなたも超一緒に、です」

削板「ふっ……肝が据わった嬢ちゃんだ……だが――」

シルファー「逃げ切れると、思っているのか?」

絹旗の目の前に、シルファーが立ち塞がった。

削板「やはりな……」

絹旗「あ、ああ……」

一目見て分かった。この男は尋常じゃない。削板もこの男に負けたのだろうと。
勝てないなんて次元じゃない。死ぬどころではない。この世に一片の肉片すら残らない。

絹旗は恐怖で動けなかった。

シルファー「貴様も、楽しませてはくれないのか……」

シルファーの手が絹旗の頭に伸びる。握りつぶされる。絹旗は思わず目を閉じて、

ゴギャア!とシルファーの体が真横に数百m吹っ飛んだ。

絹旗「ふぇ……?」

壮絶な音に、思わず声を洩らしながら目を開けると、

一方通行「気色悪ィ猫撫で声出してンじゃねェよ」

辛口ながらも、自分を庇うように立っている一方通行がそこにいた。
352 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 00:04:14.28 ID:mdUBX5eL0
絹旗「あくせられーた……」

一方通行「早くその男抱えて病院まで逃げろ」

絹旗「一方通行は、超どうするんですか……」

分かり切っている事を尋ねる。

一方通行「あのクソヤロウをブチのめす。拾ったフィアンマのヤロウに聞いた。魔術師なンだってなァ」

絹旗「超勝てるんですか……?」

ボロボロまでは行かないが、ダメージは追っている様子の一方通行を見て、正直勝てないのではないかと思い尋ねる。

一方通行「勝てるさ。これからやるのは殺し合いだからな」

ああ、そうか。
今まで彼は――というか自分達は、暗部時代に得意だった殺し合いではなく救う戦いをしてきた。
強力な能力者にとっては、なまじ殺すよりも困難な事だ。
だが初めから殺すつもりなら、100%の力を出し切れるのならどうだろうか。

絹旗「ですが、超殺しちゃっていいんですか……」

一方通行「そりゃあ俺だって、出来れば殺したくはねェよ。
     だがぶっちゃけた話、手加減して勝てる相手じゃねェだろうからな。殺すしかねェ」

絹旗「そうですか……」

一方通行「下らねェ雑談はここまでだ。早くその男と逃げろ」

絹旗「分かりました。では、超頼みましたよ」

一方通行「任せとけ」

一方通行の返事と当時、絹旗は全力で駆けだした。
353 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 00:05:11.07 ID:mdUBX5eL0
シルファー「女を逃がしたか……」

一方通行「へェ」

拾ったフィアンマ達から話を聞いて、殺すつもりの飛び蹴りをかました。
常人なら蹴られた時点で、肉体が弾け飛ぶほどの蹴りをぶちかましたのに。
シルファーは平然と一方通行の前に立っている。

シルファー「なかなか良い蹴りだった。貴様となら、楽しめるかもしれん」

一方通行「楽しめるだと?殺し合いを楽しむキチガイとやるとか、気が重くて仕方ねェな。殺す事自体、気が重ェのによ」

シルファー「殺される前提か……随分となめられているようだ……」

一方通行「なめてねェよ。本当なら殺さずに戦闘不能にさせてェのを、殺すしかなくしてンだ。寧ろ評価してンだよ」

シルファー「なるほど。確かに強者であればある程、倒すよりは殺す方が楽だな」

一方通行「だからまァ、大人しく故郷に帰ってくンねェかなァ?」

身を低く沈めながら、意味がないと知りながらも提案する。

シルファー「この世の強者をすべて倒したらな。さあ、早くやろうか」

シルファーの背中から、蝿のような羽が生える。戦いが始まる。
354 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 00:07:06.09 ID:mdUBX5eL0
垣根は翼を一度閉じて思い切り広げた。
ゴッバァ!と風速200mに達する烈風が、真正面からメデューサに叩きつけられる。

メデューサ「その程度、意味ないわよ」

言葉通り、烈風を真正面から突き破って行く。

垣根「おいおい、冗談じゃねぇぜ」

とは言うものの、突っ込んでくるメデューサを冷静に避けて、彼女の尻尾の末端まで飛んでいき、掴み取る。

メデューサ「イヤン♡エッチ♡」

垣根「うっせぇババア!気色悪い声出すんじゃねぇ!」

全長100m級のメデューサを持ちあげ、ビルを倒しながらジャイアントスイングをするかのごとく振りまわす。
そして5回転ほどしたところで、思い切り地面に叩きつけた。

垣根「まだだ」

翼を細かく鋭く無数に分裂させ、メデューサ目がけて放つ。
ズドドドド!と、翼はメデューサの下半身の蛇部分とその周囲の地面に突き刺さった。

垣根「ちっ」

だが垣根の顔には不快しかなかった。
本当は刺し貫くつもりだったのに、わずかに喰い込んだ程度でしかないからだ。
それでもメデューサは動けない。それに変わりはない。

メデューサ「痛いわぁ。レディーになんてことをするの」

しかしメデューサは垣根の常識を軽々と越えてきた。
グパァ、と大きく開かれたメデューサの口からメデューサが出てきた。
後に残ったのは彼女の脱け殻だけ。つまりは脱皮。

垣根「マジか――気持ち悪っ!」

メデューサ「レディーになんて事を言うのかしら!」

凄まじい速度でメデューサは垣根に伸びて行く。
だが垣根帝督という男は、ただ伸びてくるだけでは――その程度ではやられない。

垣根「何がレディーだ。ただの糞蛇女じゃねぇか!」

伸びてきたメデューサをあっさりと避け、翼を振るう。
瞬間、かまいたちによってメデューサの体中に切り傷が走った。
355 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 00:09:10.72 ID:mdUBX5eL0
メデューサ「器用ねぇ。でも私を仕留めるには遠く及ばないわ」

パリパリ、とメデューサの皮膚が剥がれて行く。そこから新しい皮膚が露になる。

垣根(こいつは参った。一撃で仕留めない限りは、殺せねぇじゃねぇか)

今のところメデューサの攻撃は一撃も喰らっていない。だが脱皮がある限りは、永久に勝てない。
そしてその内、こちらが体力と能力を切らして負ける。ジリ貧だ。
となると、まずは脱皮を攻略しなければいけない。方法としてはいくつかある。

1つは、脱皮すら出来ないほど貫く。だがこれは出来ないだろう。
先程の攻撃で貫けなかったし、かまいたちも切り裂くつもりで放ったのに、切り傷程度で済んでしまっている。
これが意味する事は、彼女の皮膚がよほど頑丈と言う事。

2つ目は、脱皮を限界までさせる事。
脱皮することによって、彼女の体はミリ単位で減っていくはずだ。絶対に限界はある。
もしかしたら回数制限もあるかもしれない。だが理論的には可能なこの方法も、現実的ではない。
こっちの体力が先に尽きるのがオチだろう。

3つ目は、潰す事。彼女の体を押し潰す。
これが一番現実的かつ効率的だろう。もっとも、押し潰す事が出来るとは限らないが。

垣根がパッと思いついたのは、こんなところだった。

垣根(とりあえず、やるっきゃねぇか!)

メデューサの突進を避け、翼を器用に操って彼女の胴体を締め付ける。
潰しても、捻じ切っても、とにかく致命傷を与えられれば何でもいい。
強い思いを込めて、翼に力を込めるが、

垣根(ぬおおおお……!堅ってぇぇぇえええええ……!)

メデューサ「ああん♡激しいのね♡」

わざとらしく身悶えするメデューサに、垣根は嫌悪感しか抱かなかった。

メデューサ「攻守交替。今度はこっちの番よ」

これ以上締め付けるのも意味ないと判断した垣根は、翼を解きながら猛烈な勢いで突進してくるメデューサを避ける。
356 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 00:11:39.47 ID:mdUBX5eL0
垣根(冷静になれ……奴の攻撃は単調だ……避けられない事はねぇ。絶対に何か攻略法がある筈だ……)

メデューサ「万策尽きたのかしら?そろそろこちらも手練手管で行くわよ」

グパァと、メデューサの口が有り得ないくらい大きく開く。何か来る。垣根は身構えたが、

何も来ない。

垣根(不発……?いや、そんなわけが……)

よく分からないがメデューサの口の一直線上に居るのは、あまり気分が良くない。そう考え横へ飛んだ直後、

1秒前まで居た垣根の座標の後ろのビルが溶けだした。

垣根「な――」

メデューサ「あら、よく避けたわね」

違う。避けた訳じゃない。気分の問題で横へ移動しただけだ。
謎の攻撃を避けられたのは、たまたまでしかない。

垣根(ともあれ、ラッキーだ。今度からはあの女の口の直線上に居なければいいだけの話だ)

メデューサ「小細工は通用しないか。ならば力で行くわよ」

再びメデューサの口が大きく開き、紫色の溶解液らしきものがウォーターカッターの如く噴射された。
と同時に、垣根もスタートを切っていた。

垣根(速え!)

メデューサ(逃がすか!)

超高速で飛び回る垣根を、溶解液を噴射し続けながら追いかけ回す。
周囲にある物は、溶解液が当たった個所から瞬く間に溶けていく。

垣根(一瞬でも気を抜けば溶かされる……だが――)

溶解液にだって限界はある筈。このまま逃げ続ければ反撃の機会は必ずある。
そう安易に考えていた垣根の身に悲劇が起こる。

垣根「がっ……!」

溶解液に気を取られていた垣根は、上から来る尻尾に気付けず叩き落とされた。
衝撃は出来る限り拡散させたが、筋肉は悲鳴を上げ、骨が軋んだ。

攻撃はそれで終わる筈もなく、倒れている垣根に向かって溶解液が噴射される。
垣根は無理して即座に起き上がり、横へ飛ぶが、

またしても振り下ろされた尻尾が、地面を叩いて揺らした。
357 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 00:13:17.46 ID:mdUBX5eL0
しかしながら同じ手を二度も喰らうほど、彼も愚かではなかった。

メデューサ「よく避けたわね。と褒めておきましょうか」

垣根(クソが……余裕かましやがって……)

状況は一転。垣根は先程までも優勢とは言い難かったが、圧倒的な劣勢状態に陥った。

メデューサ「うふふ。険しい顔しちゃって。可愛いんだから」

垣根(脱皮を攻略するどころか、攻撃を避けることすら怪しくなってきた……どうすりゃいい……?)

悩みに悩んでいるその時だった。ポケットに入っていた携帯が鳴り響いた。
当然、出る余裕はないし必要もないと思っていたのだが、

メデューサ「携帯、出なさいよ。今のうちに遺言でも残しておくといいわ」

垣根(なに?)

額面通りに受け取っていいのか?
実は嘘で携帯に出て隙が出来た時に攻撃を仕掛けてくるのではないか?
だがそんな小細工などしなくとも、目の前の強敵は自分と互角かそれ以上だ。
だとすると、深い意味もなく冥土の土産的な事なのだろうか?

そもそも垣根クラスなら、相手が一方通行などの強敵でなければ、電話をしながら戦うのも不可能な話ではない。
上条のような腕っ節ではなく、翼で戦う彼なら尚更だ。

垣根(たとえ不意打ちだとしても、何とかなるか……)

垣根帝督という人間は、根本的には楽観的だった。
結局携帯に出た彼の耳に届いた声は、

心理定規『帝督……』

この世界で、最も大切な人間の声だった。
358 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 00:15:38.01 ID:mdUBX5eL0
垣根「何の用だ……」

心理定規『何か……帝督の身に危険が起こっている感じがして……私、心配で心配で』

垣根(マジか……なんて偶然だよおい……)

絶体絶命、万事休すとまでは言わないが、なかなかのピンチであることは確かだ。
そんなときに身を案じる電話がかかってきたのだ。オカルト的な何かを感じざるを得ない。
厳密に言えば木原那由他にも追い込まれたが、彼がここ数時間で追い込まれたのは2回だけだ。
十分偶然と言えるだろう。

垣根「ああ、心配してくれてありがとう。でも大丈夫だ。約束しただろ?『絶対迎えに行く』って」

心理定規『ホントのホントに大丈夫?私、不安で胸が張り裂けそうだよ。
     じっとして待っているだけなんて耐えられないよ……』

垣根「何だよそれ。俺が約束を守れないとでも思うのか?お前は俺を信じて、待っていてくれよ」

心理定規『だって、そんなこと言って、あの時も帰ってきてくれなかったじゃない。
     こんな不安な気持ちになるのなら、帝督とであ――』

垣根「それ以上何も言うな。それ以上何かを言おうものなら、俺はお前を殺す」

心理定規『……ごめん』

垣根「分かってくれたらいいんだよ。……なんか、俺の方こそすまん。
   けど、俺はお前と出会えて、本当に良かったと思っている」

心理定規『帝督……』

垣根「……はっきり言ってさ。俺今ピンチだ。でも、お前の声聞いて少し元気が出た。
   だけど、もうちょい、悲しげな声じゃなくて、もうちょい元気な声聞かせてくれたら、もっと元気出せる気がする。
   だから――」

心理定規『がんばってよ帝督!帰って来なかったら、私が迎えに行ってあげるから!
     そして私に一生尽くすの!帰ってきたら、私が一生尽くすから!だから!』

泣きそうになるのを堪えているのがこちらからでも分かる。
それでも彼女は強がって最後の言葉を言い放つ。

心理定規『絶対に!何が何でも!是が非でも!帰って来ないと承知しないんだからねっ!』

と、そこで通話は終了した。

メデューサ「彼女さん、だったみたいね。随分とバカップルのご様子で」

垣根「盗み聞きかよ。趣味悪ぃな」

メデューサ「人聞きの悪いこと言わないでほしいわね。聞こえてきたのよ」

垣根「ああそう。まあどうでもいいけどよ」

条件反射で適当な軽口を叩いてしまったのはこちらからだが、盗み聞きかどうかなんて心底どうでもいい。

垣根「めっちゃ元気出たぜ。他人に分けてあげたいくらいにな」

メデューサ「元気だけで倒されるほど甘いつもりはないけど?」

垣根「攻略法も見つけちまったんだよ。本当に、何でこんな簡単な事に今まで気付かなかったんだろうって言うぐらいのな」

メデューサ「あら、それは楽しみね」

両者とも笑みを浮かべる。戦いの第二ラウンドが始まった。
359 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 00:18:25.16 ID:mdUBX5eL0
垣根「おらよ!」

垣根の翼が、メデューサの顔面目がけて伸びて行く。

メデューサ(気付いた言うのは嘘じゃない様ね……)

あらゆる角度から迫る翼を、尻尾で弾き、避け、逆に垣根に肉迫する。

垣根(わざわざ避けたり弾いたりしたってことはやっぱり……)

ある事を確信した垣根は『未元物質』の刀を生み出し、突進してくるメデューサの口を狙って特攻して行く。

メデューサ「真正面からとはいい度胸ね!喰らえ!」

服の袖から大量の蛇を垣根へ伸ばす。一匹一匹が、猛毒を持つ特殊な蛇。

垣根「受けて立ってやろうじゃねぇの!」

伸びて来る蛇の大群を、垣根は自らの体を『未元物質』にして突き抜けて行く。

垣根「おおおおおおおお!」

メデューサ「馬鹿な――!」

ザン!とメデューサの人間と蛇部分の境目が切り裂かれ、上半身の人間部分と下半身の蛇部分に分かれた。
これで終わったと垣根は純粋に思ったが、現実は甘くなかった。

下半身の蛇部分の切断面から蛇が飛び出し、上半身を咥えて合体した。

メデューサ「ふぅ。御明察の通り、私の弱点は上半身の人間部分。
      この部分の強度は『聖人』並の強度しかないから、普通の人間の拳とかならまだしも、
      あなたの翼は十分効果があるわ」

垣根「それを俺に教えちまっていいのか?」

メデューサ「だって、もう確信しているのでしょう?だとしたら、わざわざ隠す必要もないじゃない?
      弱点が知れたところで負けが確定したわけでもないし」

垣根「そうだな。じゃあ、死んでもらおうか」

胴体に近い部分の切断じゃ駄目だ。脳や心臓に近い部分を貫かなければ。
6枚の翼を絡みつけ、ドリル状にしたものをメデューサの口目がけ放つ。

メデューサ「あからさまの弱点狙いの攻撃……避けるのは簡単だけど、癪だから真っ向から潰すわね」

またしてもメデューサの口が大きく開き、大きめの蛇が飛び出す。
それはあっさりと翼のドリルを飲み込み溶かし、逆に垣根本人をも飲み込まんと翼を辿り、迫る。

垣根(くっ――)

蛇が垣根の前で大きく口を開いた。
これに飲み込まれれば一瞬で溶かされるし、避けても牙がかすりでもすれば、それが致命傷となってお陀仏だろう。

だから垣根は、さらなる翼を生やして蛇の口にあてがい、閉じるのを一瞬だけ遅らせて回避した。
360 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 00:21:18.94 ID:mdUBX5eL0
メデューサ「ふふふ。これで分かったかしら?」

口から出した巨大な蛇を収納してから、メデューサは尋ねる。

垣根「何がだよ?」

メデューサ「あからさまな弱点狙いでは、私を仕留められないってこと」

垣根「ああ、そういうことか。確かに今の攻撃は失敗に終わったが、弱点は分かっているんだ。次で決めるぜ」

メデューサ「かっこつけなくていいのよ?大人しく私のものになりなさいよ」

垣根「勝手にほざけ。それじゃあいくぜ」

そう言って垣根は、メデューサに真正面から飛んで行く。

メデューサ「正面からとは、私も随分となめられたものね!」

ならば流れに逆らわずに、正面から来る男を飲み込んでやろうと口から巨大な蛇を出して反撃するが、

垣根「甘いぜ」

・・・・ ・・・・・・・・・・・・
スゥーと、垣根は蛇の中を通り抜けた。

メデューサ「――!?」
                                  ・・・
目の前の光景に驚嘆した直後、彼女の脳天から心臓にかけて霊体化した翼が通った。

垣根「終わりだ」

宣告した次の瞬間、その翼が実体化し彼女をぶち抜いた。
それだけでは終わらず、貫いている翼を動かす。
ブッシャアアア!と大量の血液と共にメデューサの上半身部分は、内側から四方八方に散らばった。
361 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 00:23:37.19 ID:mdUBX5eL0
すみません。↑のレスは強調の点を打ちたかったのですが失敗した名残です
不自然な黒い点はスルーしてください
   、 、 、
   ごはん
362 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 00:25:03.78 ID:mdUBX5eL0
垣根「ふぅ」

地面に降り立ってから、血塗られた翼を消失させたところで、

メデューサ「なるほどね〜。霊体化までできるとは思わなかったわ」

上半身部分が健在のメデューサが、超然と君臨していた。

垣根「なん、で……手応えは、確かにあったのに……」

メデューサ「そうね。紛れもなくあなたの一撃は私を貫いたわよ」

垣根「なら、何でテメェは死んでねぇ!?」

メデューサ「私は体の中に1兆匹の蛇を飼っている。その内の100匹の魂を生贄にして、蘇った」

1兆匹の蛇を飼っている?蛇100匹の魂でこの化け物が蘇生?
等価交換どころの騒ぎじゃない。そもそも脳と心臓を失って蘇生ってどう言う事だ?

垣根「ざけやがって……ならテメェは、あと100億回は蘇られるってのか!?」

メデューサ「いいえ、そんなことはないわよ。私が攻撃に出した蛇が殺されても、蛇のストックは減るわ。
      まあ多く見積もって合計したって1万匹も死んでないから、どの道果てしない回数私を殺さなければ、
      私には勝てないけどね」

垣根「クソが……」

メデューサ「1つだけ朗報を。今の死に方だったから魂の生贄は100匹で済んだけど、
      もっと凄惨に、たとえば私の全体の半分が消し飛べば、蘇生に必要な生贄は増えるわよ」

もっとも、と意地悪そうな笑みを浮かべて、

メデューサ「あなたの力では、ちまちま殺す事は出来ても、
      私の蘇生を加速させるような、致命的な大ダメージを与える事は出来ないでしょうけどね」

図星の一言を、言われてしまった。
363 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 00:26:47.31 ID:mdUBX5eL0
メデューサ「これで私に勝てない事は分かったはず。大人しく研究材料になりなさいな」

垣根(ざけんな……殺せない訳じゃねぇんだ。殺し続ければ――)

メデューサ「ハァ……まだ諦めないのかしら」

垣根から向けられている眼差しは死んでいない。彼にとっては圧倒的な絶望的な状況なのに。

メデューサ「熱い男は嫌いじゃないけど、しつこい男は嫌いなのよね!」

右腕を蛇に変化させ伸ばした。垣根はそれを飛んで避けるが、蛇の追跡は終わらない。

垣根「俺だってしつこい女と蛇は願い下げなんだよぉ!」

殺せるかは分からなかったが、全力の翼を蛇に叩きつけた。
ぐしゃり、と蛇は意外にもあっさりと潰れた。つまり、メデューサの右腕も潰れた事になる。
もっとも、命まで蘇生できるのだから、右腕蘇生など造作もない事だろうが。

メデューサ「ステルススネーク」

ヒュン!と空気を切り裂く音が聞こえた時には、垣根の『未元物質』の翼6枚の内4枚が、透明な蛇によって噛み千切られた。
突然翼の3分の2を失いバランスを崩した垣根は、フラフラとビルの屋上に不時着する。

息つく暇もなく、垣根の不時着したビルが崩れ出した。言うまでもなくメデューサの仕業だ。
直接狙われなかった理由はおそらく――

垣根(――俺を弄んでやがる!)

静かに憤る垣根だったが、少々憤ったところで勝てるなら能力開発は要らない。既に左腕の蛇が伸びてきている。

垣根「クソッタレが!」

蛇を潰すために翼を振るう。が、蛇は突如翼を回避するように分裂した。

垣根「しまっ――」

メデューサ(仕留めた!)

垣根が焦り、メデューサが勝利を確信したその瞬間、

メデューサと伸びてきた蛇の動きが停止した。
364 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 00:28:37.74 ID:mdUBX5eL0
垣根「何が……」

動揺していたのは、垣根だけではなかった。

メデューサ(体が……動かない……!)

異変はそれだけに留まらず、体が一切の自制を受け付けず勝手にとぐろを巻いて行く。

垣根(何かよくわからねぇが――)

チャンスだ。今のうちに殺せるだけ殺しておこうと垣根は飛んでいくが、

ベギャゴギャゴギン!と、メデューサの体や顔が歪んだ。

垣根「これは――!」

メデューサ「あ……がぁ……い、やぁーーーーーーーーーー!」

驚嘆し空中に留まっていた数秒間で、とぐろを巻いて30mほどの肉塊と化していたメデューサは捻じ曲げ潰され破壊された。
肉片の1つも残らなかった。

この力は、知っている。
垣根は地上に降り立ち、目の前に居る常盤台の冬服に肩ぐらいまであるボサボサの紫色の髪、
身長は推定130cmほどしかない少女に尋ねる。

垣根「何の真似だ?」

折原「食蜂様の命令で侵入者を抹殺したまでです」

垣根(やってくれるじゃねぇか……!)

侵入者を抹殺する為なら何で今まで出てこなかったのか?それとも何か出て来られない理由があったのか?
疑問は多くあるが、今はそれらの事は些事でしかない。
自分があれほどまでに苦戦していた相手をいとも簡単に殺してしまった事。これが問題だ。
いつだったか、自分に勝てると豪語していただけはある。
あの時は勝てないと悟り自ら身を引いたが、今回はそうはいかない。

垣根「お前、操られてないだろ?何で食蜂なんかに協力する?」

折原「教える義理も必要もありませんね」

言いながら、垣根の方へ手をかざす。
それを見た垣根は横へ跳んで、本来は能力者ですら見えない歪曲の渦を回避した。

折原「その眼がある限り、私の攻撃は丸見えのようですね。
   もっとも、見えたところで勝敗まで左右される訳ではないですがね」

折原の目つきが鋭くなる。メデューサとの戦いは唐突に終わりを告げ、新たなる戦いの幕が上がる。
365 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 00:30:03.12 ID:mdUBX5eL0
御坂「はぁぁ……!」

迸らせた膨大な電撃を巨大な龍の形へ変貌させる。

六道「凄い……」

御坂「これを見てもまだ、ここを通さないと言うの?」

巨大な青白い龍に見惚れていた六道は、慌てふためきながら、

六道「も、もちろんです!ここは通せません!」

御坂「ふーん。アンタさ、操られていないでしょ?脳波に異常は見られないし、今の態度的に考えても。
   何で食蜂なんかに協力しているの?」

この距離で脳波が分かるとは一体どう言う事だ?
内心では動揺しながらも、出来るだけ平静を取り繕って返答する。

六道「知りたいですか?」

御坂「知りたいから聞いているんだけど?不毛な返答は止めてよね」

六道「教える必要性はありませんよね?」

御坂「それがあるのよね。このままだと、私はアンタを黒焦げにしちゃう。
   もしもだけど、やむにやまれぬ事情があるなら、話し合いで解決した方が良いでしょ?」

六道「不愉快ですね。なぜ私の能力も知らずに黒焦げに出来る前提なのでしょうか?
   私の能力は、あなたの能力の5割を無力化できます。油断や慢心をしている場合ではないのでは?」

御坂「油断や慢心なんてしていないわよ。ただ自信があるだけ。
   たとえアンタがどんな能力であろうとも黒焦げに出来る、絶対の自信がね」

大体、と御坂は続けて、

御坂「能力の5割しか無効化できないなら、勝ち目がないのはアンタの方よ。
   私の知人の1人は、私の能力を完全に無効化できるわよ。それに比べたら、5割なんて何の脅威にもならない」

はっきりと言い切る御坂に、六道も強気に返す。

六道「じゃあ攻撃してみれば良いじゃないですか。その龍で。ありとあらゆる手段で」

御坂「ふん」

悪い人ではなさそうだし、出来れば戦いたくなかったが仕方がない。
どんな事情があるかは知らないが、道を譲らないと言うのなら切り拓くまでだ。

御坂「後悔、しないでよね!」

雷撃の龍が、六道の真上から襲い掛かる。
366 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 00:32:06.42 ID:mdUBX5eL0
対し六道は、緩やかに右腕を挙げた。
そして右手に雷撃の龍が着弾した瞬間、

猛烈な勢いで雷撃の龍が右手へ吸収された。

御坂「あらま」

六道「今度はこっちの番です」

大したリアクションを見せない御坂に左手を向け、白い光線を発射する。
だが所詮は直線的な攻撃。御坂は至って冷静に横に数歩移動しただけでそれを回避する。

六道「と、この通りエネルギーを吸収して別のエネルギーとして放出できる。
   これが『陰陽五行』(コズミックスキル)の力です」

御坂「ふーん。じゃあ物理を伴う『超電磁砲』は吸収できないって訳ね」

六道「他にも、磁力で操られて飛ばされた金属などを吸収する事は出来ません。だから5割と言いました」

しかしながら、と六道は続けて、

六道「防ぐ手段がない訳ではありません。
   たとえば、周囲に磁力フィールドを展開すれば『超電磁砲』を始めとする金属系の攻撃は無意味と化します」

御坂「つまり、残された攻撃手段はガラスの破片などの金属系ではない物理しかない、ってことね」

六道「そ、そういうことです」

なぜだ?電撃や必殺の『超電磁砲』を無力化されるという事実を前にして、なぜ目の前の少女はあんなにも冷静なのだ?
あの異様な静けさは一体何なのだ?

六道「強がっても意味ないですよ。今のうちに降参すれば見逃してあげますよ」

御坂「降参?誰がそんな事するもんですか。食蜂の手下になるのも、死ぬのもごめんよ」

六道「ご自分の状況、理解していますか?」

御坂「ええ。圧倒的に不利なことぐらい、十二分に理解しているわよ。
   それが何?焦ったって、絶望したって事態は変わらないわ。能力だって変わらないし、技術だって変わらない。
   だったら、今持てる力でどうすれば勝てるのか?それを考えているだけよ」

六道「な……」

何だこの少女は?本当に中学3年生か?自分が圧倒的に有利なはずなのに、この圧迫感は何だ?

六道(焦る事はない……考える暇も与えずに倒す!)

決意を胸に、御坂を見据えようと瞬きした直後には、既に彼女の姿はなかった。
逃げた?と周囲をキョロキョロ見ると、視界が青白い光に塗りつぶされた。
367 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 00:35:00.07 ID:mdUBX5eL0
六道(目眩まし!?)

先程は形式的に右手を挙げて吸収したが、別にアクションを起こさずとも、体に触れた時点でエネルギーは吸収される。
磁力フィールドも既に展開しているし不意打ちは無意味だ。そんなことは説明せずとも御坂だって分かっているはずだ。

ではなぜか?その答えはこうだった。
そもそも御坂が電撃を放ったのは、目眩ましのためではなく、学園都市中の砂鉄を集めるためだった。
つまりは、六道の勘違いにすぎなかった。

彼女がその勘違いに気付いたのは、視界が回復し始め周囲がやたらと暗いと感じた時だった。
暗い理由は太陽の光が遮られているからだ。では何が光を遮っているのか。
六道が見上げたその視界に飛び込んできたものは、

真っ黒な、砂鉄の波だった。

六道「なんて量なの……」

見上げる途中で気付いたのだが、向かいのビルの屋上に御坂がいた。
壁を伝って駆けあがったのだろう。黒い縦の焦跡が残っている。

そうか。
彼女が砂鉄を集めるために放った電撃の光が眩しすぎて、勝手に目眩ましだと勘違いしていただけだったんだ。

六道(やっぱり、10万の脳を統べていた木山さんを退けただけはあります)

攻撃の意思がないアクションですら、こちらに影響を及ぼす。もうレベル5の頃の御坂美琴とは別人と言っていい。
レベル6とまでは言わないが、間違いなくレベル5は超越している。それでも、自分が圧倒的に優位なことには変わりない。

六道(どれだけ大量の砂鉄を用意したって、磁力フィールドの前では無意味!)

そうだ。自分の勝利は揺るがない。能力と磁力フィールドで御坂を完封できる。
どんな電撃だろうと、砂鉄だろうと、『超電磁砲』だろうと弾き、吸収してやる。

意気込む六道は、自分からは何もせず仁王立ちで御坂のアクションを待つ。
368 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 00:36:45.76 ID:mdUBX5eL0
御坂(何もしてこないとはありがたいわね)

まあそれも1つの選択だろう。話を聞く限り、吸収した分しか能力を放出できない。
攻撃しなくたって勝てると思っているだろうから、あまり無駄撃ちしたくないのだろう。
と御坂は勝手に推測した。

御坂「さて、行きますか!」

ジャージのポケットから、10枚1セットのコインの束を上へ放り投げた。
強力な磁力でコインの束は散らばる事なく、前に降ってきた束をデコピンの要領で弾く。

御坂「光栄に思いなさい。アンタが初披露の技よ!」

ゴバッ!と、弾かれたコインの束が散弾となって六道へ降り注ぐ。
即ち、『散弾超電磁砲』(レールショットガン)!

六道(――そうか!彼女の狙いは――)

10に分かれた『超電磁砲』の内の3つが反発の磁力フィールドに弾かれた。
しかし残りの7つは六道本人ではなく、彼女の周囲の地面に着弾した。
その余波は、それぞれが半径7mの地面を捲りあげ、莫大な煙を発生させた。

六道はその煙の中で、風のエネルギーを展開させて破片や余波を防ぎきっていた。

六道(磁力フィールドをもっと広く展開させておけばよかった……)

結果的にはノーダメージで済んだが、一瞬ヒヤッとした。
やはり待ち受けるだけでは駄目だ。自らがアクションを起こして叩きのめさないと。
決意を新たに、風を巻き起こし煙を払った六道の視界に衝撃的なものが映った。

ビルが失くなり、その代わりに超巨大な黒い直方体が目の前に浮いていた。

御坂「お願いだから死なないでよー!」

敵に向かって死ぬなとはどういうことか?普段の六道なら疑問に感じていたが今は違う。
御坂が何をしようとしているのか。それが分かった六道は黒い直方体に向かって直径30mはある光線を放つ。
同時――

黒い直方体も御坂の手によって『超電磁砲』として放たれた。

0.0000000001秒で光線と『超電磁砲』が激突。
そこから半径1kmに亘る衝撃波を撒き散らして相殺された。
369 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 00:38:48.64 ID:mdUBX5eL0
六道(なんて人――)

衝撃波に対してもエネルギーを展開して、吹き飛ばされる事はなく六道は無事だった。
しかし御坂は違うだろう。あの衝撃波を喰らって生身の人間は無事な訳がない。勝った。
彼女は純粋にそう思ったが、

御坂「次、行っくわよー!」

六道「え?」

煙のカーテンの向こうから元気そうな声。
もし2発目が来るのならば、磁力フィールドだけでは防げない。
半信半疑ながらも、彼女はオレンジ色のエネルギーの盾を展開する。
その直後だった。

ドッゴォォォオオオ!と超巨大直方体『超電磁砲』が盾に着弾した。

六道(冗……談……!)

『超電磁砲』は死んでない。
熱で溶け切るまで防ぎきらなければ、余波だけでも塵すら残らない事になる。
逆に言えば、熱で溶けきるまで防げばこちらの勝利だ。
バキッビシッゴシャ!と盾にヒビが入るが、
御坂戦前に洗脳された能力者から蓄えたエネルギーを加算して盾を回復させ、硬度も上げる。

六道(なめないでください!)

15秒後、砂鉄で包んだビルを媒体にした『超電磁砲』は完全に溶け、余波をも凌いだ。

六道「はぁ、はぁ」

かなり消耗したが防ぎきった。今度こそ勝利を確信する六道の耳に、

御坂「へばったー!?」

またしても元気そうな御坂の声が届いた。

六道「あ、ああ……」

煙は既に晴れている。
そこで砂鉄に乗って浮いている御坂と、3発目の砂鉄に包まれた超巨大直方体を見て六道は絶望した。

六道(私の……負けだ……)

能力が完全に切れた訳じゃない。だが限界は近い。
今ここでアレを撃たれれば防ぎきれない。六道は両手を挙げた。
降参の合図(サイン)だった。
370 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 00:40:34.92 ID:mdUBX5eL0
御坂「ふぅ」

賭けに近い戦い方だったが、何とか勝てた。
御坂は浮かせていたビルを落とし、自身も地上へ降り立った。
一応反逆されたないために、念には念を入れて六道を気絶させようかと考えていたところで、

「中3の少女に後れを取るとは情けないな。貴様はもう用済みだ」

御坂「――危ない!」

男の声と同時に、銃声が轟いた。
少し後に、六道の大きめな胸の中心辺りがジワリと赤黒く染まり、倒れた。

御坂「ちょっとアンタ!」

六道に駆け寄り声をかけるが、既に虫の息だ。今すぐ病院に行けなければならないが、カエル顔の医者はいないし、
何より藍色の髪のオールバックに、白いスーツ言う出で立ちの目の前の男がそれを許さないだろう。

御坂「くっそっ!」

御坂は激怒した。能力をかなり消耗して考え事をしていたとはいえ、
人間レーダーと化していたはずの自分がこの男の接近に気付けなかったのと、
おそらくは六道の仲間であるはずの男が、彼女をあっさりと殺した事に。

御坂「アンタ、覚悟は出来ているんでしょうね……!」

大分能力を使用したがまだいける。目の前の男は間違いなく黒焦げにする。
決意の御坂の前髪から、電撃が迸る。垣根と同様、戦いの第二幕が上がる。
371 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 00:43:56.07 ID:mdUBX5eL0
一方通行「いくぜ」

背中に真っ白な翼を生やし、頭上には同色の輪。
即ち天使化した一方通行は、真正面からシルファーに突っ込んでいく。

シルファー「そんな力があるのか。面白い!」

対してシルファーも真っ直ぐに突っ込んでいく。
ドゴォォオオ!と正面衝突した2人の力は拮抗していた。

一方通行・シルファー((この力で五分か……))

バキィン!と2人は同時に後退して、さらなる力を発揮させる。
一方通行の白い翼はさらに大きくなり銀色に変化。
頭上の輪も銀色になると同時少し大きくなり、背中には巨大な歯車が、
目の前には一方通行の動きに連動する巨大な手が顕現した。

一方シルファーの蝿のような羽もさらに巨大になり、目が真っ赤に充血。
ベギャア!と全身気持ちの悪い青い色の筋肉が服を突き破って隆起し、正真正銘の化け物となる。

一方通行「気持ち悪ィな。さっさと死ねェ!」

蝿を潰すように、シルファーを挟むように巨大な手を動かす。
対してシルファーは避けようともせず、それをあっさりと受け止め腐らせた。

一方通行(触れたものを腐らせる事が出来ンのか……)

顕現させた巨大な手は連動するだけであって、完全にシンクロしているわけではないため、
巨大な手に何かあったからと言って一方通行の手に異常が起こる事はない。

一方通行(手が駄目なら、翼も駄目だろうな……)

ならばエネルギーで攻撃するまで。
一方通行は直径1mほどの光線を雨のように降らせる。

しかしシルファーは、驚くベき機敏さでそれらを回避していき、どうしても避けられない一撃を拳で弾いた。
それだけにとどまらず、上空に直径100mはある黒いエネルギー弾を生み出し、隕石のように落下させる。

一方通行(でけェ、が)

背中にある歯車を前に移動し、盾の代わりとして隕石を受け切った。
その間にシルファーは、両手で持っていた剣の形をした超巨大な黒いエネルギーを一方通行の真後ろで振り下ろしていた。

そのことにギリギリ気付いた一方通行は、翼をたたんで自身を包んだ。
それにより決定的なダメージは防ぐものの、翼が破壊された。
と既に、シルファーは次の一撃のエネルギーを両手で持っていた。

一方通行(これ以上好きにさせてたまるか!)

翼を失ったからと言って飛べなくなったわけじゃない。
浮いているシルファーの両手で持っているエネルギーの下へ突っ込んでいく。

両腕が振り下ろされる直前に一方通行はエネルギーに左手で触れた。その一瞬でエネルギーを解析して暴発させた。

シルファー「がああ……!」

一方通行「まだだ!」

暴発の煽りを受け両腕が使い物にならなくなったシルファーの顔面に右拳をめりこませる。
さらにその状態のまま、叩きつけるために地面へ向かう。

一方通行「おらァ!」

ドゴン!とシルファーが叩きつけられた衝撃で地面が揺れた。
しかもそれで終わりではない。まだ一方通行の右拳は突き刺さったままだ。ベクトルの力をさらに加算させていく。
ベギンゴギャン!とシルファーを中心として地面にヒビが広がっていく。

一方通行(これだけベクトルを加えてンのに、バラバラになるどころか死にすらしねェ!)

どうやら力では殺しきれない。ならば技だ。
生体電気や血液、その他全てを解析して内側から暴発させてやる。
そう考え、解析を実行しようとしたところで、

ぽっかりと、シルファーの胸の辺りに直径10cmほどの孔が空き、濃い青色の光線が放たれた。
372 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 00:45:36.66 ID:mdUBX5eL0
一方通行(チッ!)

去年の10月ごろならともかく、今ならおそらく弾けない事はないのだが、
超至近距離で放たれた光線を思わず避けようと後退してしまった。

そしてあれだけの一撃を喰らっておきながら、シルファーは平然と起き上がり、こちらに向かってくる。

一方通行(クソが!)

轟!と、背中から黒い翼を噴出させる。
それは凄まじい速度でシルファーへ向かい、彼を飲み込んだ。
しかし一方通行の顔色が良くなる事はなかった。

黒い翼すら腐らされ、自らの手で根元から千切る羽目になったからだ。
しかしながらシルファーの両手も千切れていたため、相討ちと言ったところか。

一方通行(いろンな力を使い過ぎた。そろそろ俺の限界も近ェ。何とかしねェと……!)

打撃も効果がない訳ではないようだが、あまりにも頑丈なシルファーには効率が悪い。
よって一方通行は、直径20mほどの高電離気体(プラズマ)を生み出して放った。

シルファーは既に人外と成り果てているが理性は失っていないようで、胸の孔から光線を放ってプラズマを掻き消した。

だがそれも一方通行は織り込み済み。プラズマは囮にすぎなかった。
光線の発射終了直後のシルファーの懐に潜り込み、胸の孔に右手を突き刺す。

一方通行「――終わりだァ!」

生体電気、血液、その他あらゆるベクトルをごちゃごちゃにする。

シルファー「――!」

言葉を発する余裕も暇もなく、シルファーは内側から弾け飛んだ。決着は以外とあっさりなものだった。
373 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 00:46:49.42 ID:mdUBX5eL0
上条「一方通行!」

対シルファー戦が決着した直後に、上条当麻は一方通行の下へたどり着いた。

一方通行「遅かったじゃねェか」

上条「何言ってんだ。俺が今到着する数秒前まで戦っていたくせに」

一方通行「へェ。何もかもお見通しって訳か」

上条「何もかも分かっていたら、もう少しうまく立ち回っているさ。そんなことより、病院に向かってくれないか?」

一方通行「あン?何で?」

上条「病院の方からフィアンマとヴェントの魔力を感じる」

一方通行「あァ。そりゃあそうだ。あの2人は結標に病院まで運ばせたからな」

上条「違う。そんなこと言っているんじゃない。フィアンマとヴェントが、能力者と交戦している」

一方通行「そンな事まで分かンのか?」

上条「とにかく、詳しく説明している暇はない。俺は他に行くところがあるから」

一方通行「オーケー」

再会は束の間。2人は再び戦の中へと身を投じる。
374 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 00:48:16.50 ID:mdUBX5eL0
地上の各地で激闘が行われている中、学園都市の地下に潜入していた闇咲逢魔は、
雲川に指示されていた最低限のライン(土御門舞夏とインデックスの回収)を達成し、
いよいよ地上へ脱出しようと試みたところで、

「ようやく見つけたよ。随分と便利な力を持っているではないか」

透魔の弦で姿は見えないはずだが、目の前に居る短く刈り込んだ頭にスーツと薄い色のサングラスを着用している杉谷は、真っ直ぐにこちらを見つめている。

闇咲「バレては仕方がない。衝打の弦!」

もう隠れる必要もない。姿を現して梓弓の弦を引く。今いる場所は一直線の廊下。
発射される空気の塊を横へ跳んで避ける事は出来ない。

杉谷「ふん」

しかし杉谷は、ブリッジをするかのように上半身を思い切り反らして回避。
そしてすぐに元の姿勢に戻り、懐から取り出した拳銃の引き金を引いた。

対して闇咲は、梓弓で風魔の弦を生み出し弾丸を防ぐと同時、
弾丸が当たった事によって破裂した空気の塊の衝撃波で後ろへ大きく跳び、突きあたりを左へ曲がった。

杉谷「逃がさん」

杉谷は追いかけながらも、闇咲を追い詰めるために無線で他の仲間に連絡する。
375 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 00:49:58.45 ID:mdUBX5eL0
それから約5分。
地下を散々走り回った闇咲は、一般的な高校の教室4つ分ほどの大きさの、何もない部屋に追い詰められていた。

杉谷「チェックメイトだ」

表情を変えずそんな事を言う杉谷の横には、2人の人間がいた。

闇咲(3対1、か……)

全員見るからには大人だ。つまり、能力者ではないということ。
ならばまともに戦っても勝機は十分にある。ただ3対1はさすがに不安だ。ここは力を借りておこう。

闇咲「出でよ!」

左手で魔道書を開く。そこから飛び出したのは、

「ようやく脱出できたのか闇咲の旦那!……って、そうじゃないのか」

「まあ一度も戦闘せずに脱出できる方が難しいですよね。ここは頑張りましょう半蔵様!」

忍装束を現代の衣装に置き換えたような黒い服を身につけ、頭には針金を
メッシュベルト状に編み込んだバンダナに銀色のブーツ、背中には刀を背負っている服部半蔵と、
髪を茶色に染め、ビーズのついたカラフルなかんざしを装備、真っ黄色の太腿大胆露出ヘソ出しミニ浴衣に身を包み、
和装なのに大和撫子的雰囲気ゼロな郭だった。

闇咲「すまない2人とも。力を貸してほしいんだ」

半蔵「勿論だぜ旦那。俺はあの刀と小太刀を携えているグラサンの男とやるよ」

郭「では私はグラサンの右にいる人とやります。闇咲氏は左にいる人をお願いします」

闇咲「了解した」

杉谷と半蔵が刀を抜き、郭が懐から全長15センチ程度の極めて短い刺突用の矢、世界最小の短槍とも呼ばれる打ち根を取り出す。
忍者の末裔同士の戦いが始まる。
376 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 00:51:30.67 ID:mdUBX5eL0
闇咲、郭がそれぞれ戦闘を始める中、杉谷は小太刀を抜きながら言う。

杉谷「この小太刀には猛毒が塗ってある。かすっただけでも致命傷だ」

半蔵「そりゃあご親切に……どうも!」

両手で『正宗』を持ちながら、臆せず杉谷に向かって行く。

杉谷「いい度胸だ……!」

杉谷も右手で『村正』左手で小太刀を持って半蔵を迎え撃つ。
ガンゴンギン!と2人は刀で何度か打ち合い、ガリガリガリと鍔迫り合いをする。

半蔵(力はコイツの方が上か……!)

杉谷は決して長身ではないが、筋肉質であるし自分との体格差は10cmほどある。力では勝てない。

半蔵(だったら……)

キィン!という金属音と共に村正を弾いた。
すかさず左の小太刀が襲い掛かるが、それも冷静に弾く。

半蔵(もらった!)

峰打ちの為に正宗を一瞬で持ちかえて縦に振るう。
完全に決まったと半蔵は確信したが、

ガキィン!と杉谷の左手首に受け止められた。

半蔵(小手か――!)

反撃が来る。半蔵は一瞬で切り替えて距離を取る為に後退した。
377 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 00:53:09.66 ID:mdUBX5eL0
半蔵「おいおい参ったね。どんだけ万全な装備なんだ?」

杉谷「備えあれば憂いなしと言うだろう」

半蔵「違いないな」

両手で持っていた正宗を右手だけで持ちながら、再び杉谷へ向かって行く。

杉谷(両手持ちから片手に……何かするな)

警戒しながらも再び打ち合う。力では勝てないと悟ったのだろう。
決して鍔迫り合いに持ち込むことはせず、頑丈な小手があるのも分かっているためか、大振りもしてこない。

杉谷(慎重だな……だがそれは裏を返せば消極的と言う事。一気に攻めさせてもらう!)

杉谷が一気に攻勢に出る。村正と小太刀を縦に横に振るい、たまに突きを繰り出す。
半蔵も激しくなってきた攻撃に対して、腰につけているポーチからクナイを左手で取り出して、激しい攻撃を何とか凌いでいく。

杉谷「そんなクナイごときで、この村正を防ぎきれるとでも!」

レプリカとはいえ、仮にも妖刀と呼ばれる村正相手にクナイとはなめられたものだ。
一際力を込めて振るった村正の一閃が、クナイなど易々と砕き半蔵の左頬をかすめた。

郭「半蔵様!」

クナイが砕けた音を聞いて、郭は思わず半蔵の方を見てしまう。

半蔵「大丈夫だ郭!郭は自分の戦いに集中しろ!」

郭「は、はい!」

と言いつつも、もう半蔵の事が頭から離れない郭は、戦いながらも半蔵をチラ見する。
左頬からわずかながら血が流れているが、どうやらかすめただけのようだ。
とりあえず杉谷から距離を取れたのを見て安心したところで、

どさり、と半蔵が倒れた。
378 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 00:54:53.49 ID:mdUBX5eL0
郭「は、半蔵様ー!」

なぜだ?半蔵が喰らった攻撃は村正のかすめた一閃のみだ。
そんなのは一般人ですら致命傷には成り得ないはずなのに。

杉谷「油断していていいのかな?」

ハッ、と郭は自分も戦いの最中である事を思い出した。
が、時すでに遅し。ガン!と後頭部を殴り飛ばされた郭は力なく地面に倒れて行く。
それだけでは終わらない。うつ伏せに倒れた郭に銃口が向けられる。

杉谷(これで2人……)

しかし杉谷の思惑は外れる。
既に自分の敵は倒していた闇咲が、郭を殺そうとしていた人間をぶっとばした。

杉谷「ふん。まあいいか」

残りの2人は自分で仕留めてやろうと、闇咲に向き直し駆けだそうとしたところで、

半蔵「どこを見ている?」

杉谷「――何!?」

後ろからの声に振り向こうとしたが遅かった。
膝の裏に正宗の一閃を喰らい、力が入らなくなり後ろへ倒れて行く。
それでもせめて相討ちにしようと、右手の村正を裏拳気味に振るうが、半蔵は刀を納めクナイで杉谷の右手を刺した。
苦し紛れの追撃の小太刀も冷静に避け、右手と同様左手にもクナイを突き刺した。
これにより杉谷の両手と両足は潰れたことになった。
忍者としてはもちろん、戦うのは愚か、日常生活すら支障が出るだろう。

つまるところ、半蔵の勝利で戦いは決着した。
379 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 00:58:54.96 ID:mdUBX5eL0
杉谷「なぜだ?」

うつ伏せになりながらも、首だけを見下ろしてくる半蔵へ向け尋ねる。
     
杉谷「なぜ“猛毒が塗ってあった”村正の一閃を受けて無事なんだ?」

質問に対して、半蔵はニヤリと笑い、

半蔵「そりゃあ、喰らってないからさ。あんな三文芝居を真に受けるとは、アンタの目も節穴だなと思ったよ」

杉谷「何だと!?では、村正にも猛毒が塗ってあったのを読んでいたとでも言うのか!?」

半蔵「ああ。そう言うことになるな。もしもあれが本当にただの刀だったら、俺がアホみたいになっていたけどな。
   まあそれはそれで恥をかくだけで、負けるわけではなかったからいいけど」

杉谷「なぜだ?なぜ猛毒が塗ってあるのが分かったー!?」

半蔵「しつこいな。そんなに知りたいなら教えてやるよ。アンタ、最初俺にこう言った。
   『この小太刀には猛毒が塗ってある。かすっただけでも致命傷だ』ってね」

杉谷「それが?」

半蔵「その時俺はこう思った。なぜわざわざその情報を教えたのか?ってね。
   だってそうだろ?そんな事教えて何になる?そこが腑に落ちなかった。
   誰だって真剣相手に、かするだけならセーフだから少々かすってもオーケー。
   なんて気持ちで戦う奴はいない。だから、かすっただけでも致命傷だ。なんてことを言う必要はない」

杉谷「……」

半蔵「じゃあ何で教えたのか?俺は戦いながらも考えた。
   さっきも言った通り、真剣相手にかすってもオーケーなんて戦い方はしない。
   でも心のどこかで、かするだけなら平気だと言う心理はあると思う。
   それを完全に失くし、心理的プレッシャーを与えると言う可能性はある。
   しかも、情報により小太刀に意識を集中させる事も出来る」

杉谷(こいつ……)

半蔵「でもやっぱり、教えるメリットと教えないメリットを照らし合わせた時、教えない方が良いと俺は思った。
   少なくとも俺なら教えない。重要な手の内は隠しておくのが勝負の鉄則だからな。
   すると最初の疑問に戻る。なぜ情報を俺に与えたのか?
   考えた結果俺が導き出した答えは、あえて情報を出すことで肝心な『何か』を隠しているんじゃないか。
   ということだ」

杉谷「それで村正のほうにも何かあると睨んだ訳か。それは分かった。だが一閃を喰らった事は確かなはずだ。
   現に村正の切っ先にはわずかに血が」

半蔵「それは血糊だよ。本当はかすってすらいなかったってわけさ」

言いながら、左手で左頬を拭う。すると切り傷は消えていた。

半蔵「備えあれば憂いなしってね」

杉谷「あの戦いの中で、血糊を村正の切っ先と自分の左頬にそれっぽくつけたというのか……」

半蔵「俺も忍者のはしくれなんでね。それぐらいはできるさ。あと、忍者は裏の裏の裏を読む者だぜ」

けどまあ、と一旦区切って、

半蔵「俺の勝因は忍であったからじゃない。アンタが卑怯者だったから勝てたのさ」

杉谷「完敗だ……」
380 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 01:00:00.42 ID:mdUBX5eL0
半蔵(決まった……)

と、カッコつけていた半蔵の顎に、

郭「半蔵様のばかー!」

半蔵「ぐはっ!」

勢いよく飛びこんで来た郭の頭頂部がクリーンヒットした。

郭「私、本当に半蔵様が死んだと思って悲しかったんですからねー!」

うわぁぁぁぁああん!と胸で泣く郭の頭を撫でつつ、

半蔵「ま、まあ許してくれよ。敵を騙すにはまず味方からって言うじゃん?
   それにお前な、俺がそう簡単に死ぬわけないだろ?つーかお前こそ大丈夫か?」

郭「……じゃあ、キスしてくれたら許してあげます」

俺の発言無視かよ、と半蔵は思いつつも、

半蔵「それは無理だろ。状況考えろ」

郭「……じゃあ頭もう10回撫で撫でしてください」

半蔵「……分かったよ」

それぐらいなら仕方ないかと、頭を3回ほど撫でたところで、コホンと、闇咲のわざとらしい咳払いで半蔵の手は止まった。

闇咲「盛り上がっているところ悪いが、まずは脱出が先だ」

半蔵「も、勿論だぜ旦那」

郭「……帰ったら、撫で撫で100回ですからね!」

倒した大人3人を回収して、半蔵と郭は再び闇咲の魔道書内に待機。地下からの脱出を目指す。
381 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 01:01:29.40 ID:mdUBX5eL0
一方、病院付近では、

「弱すぎるぜ」

背中まで届くボサボサの銀髪に、番外個体のようなライフセーバーの意匠をした白いスーツを着用している男が、
フィアンマ、ヴェント、結標、白井、絹旗、削板の6人を倒していた。
佐天、重福、吹寄、姫神、他能力者は魔道書で転送したためもういない。

絹旗(私達が……超ここまで……)

何も出来ずに倒されるなんて。

フィアンマ「貴様、彼女達に手を出してみろ。消し炭にするぞ……」

額から血を流し、異形の右腕を失い倒れているフィアンマがそんな事を言っても、味方目線でも説得力がないと感じる。

「うるせーな。弱い奴は粋がんな」

ヴェント「待って!彼に手を出したら絶対に許さないわよ!」

と言う彼女も、水平に広げた両手と束ねられた足を刀でビルに縫い付けられている。
簡単に言うと、ビルの壁に十字架のように磔にされている。これは他の女性陣も同様だ。

削板は背中を真一文字に切り裂かれ気絶している。そもそもあの重傷から戦う事自体無謀だったのに。

なぜ彼らはこんな状態になっているのか。それは今からわずか5分前から始まった。
382 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 01:02:04.33 ID:mdUBX5eL0
とある病室の一室で、フィアンマ達は魔道書を用いて吹寄達を転送し終えた時だった。

絹旗「え?」

ふと窓の方を見た絹旗が、ビルぐらいの大きさの刀を振り上げている人間に気付いた。

絹旗「み、皆さん!外!超ヤバいです!」

絹旗の切羽詰まった突拍子もない発言に、全員が窓の外を見た時だった。

巨大な刀が振り下ろされ、病院が一撃で崩壊した。
383 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 01:04:08.67 ID:mdUBX5eL0
「まあ、テレポーターが2人も居るんだから、それぐらい当然だよな」

ガラガラと音を立てて崩落していく病院を見つめながら、銀髪の男は呟く。

フィアンマ「何者だ?」

結標のテレポートで病院から脱出した6人(ただし白井は自分のテレポートで脱出)をフィアンマが代表して尋ねる。

「本来は名乗る必要などないが、知りたいなら教えてやるよ。篠宮嵐(しのみやらん)だ。覚えとけ」

ビル大の刀を振りまわしていたのは目の前の男に違いない。
だが不思議な事に、巨大な刀は忽然と消えていた。

絹旗「『らん』って、超どんな漢字ですか?花の蘭?『乱れる』の乱ですか?」

結標「今そこ聞く必要ある?」

若干呆れつつ、もっともな事を言う結標。しかし篠宮は、そんなどうでもいい問いにも答えた。

篠宮「嵐だよ」

絹旗「嵐で『らん』ですか?とんだDQNネームですね」

言ってから、しまった。と顔を青ざめる絹旗。

篠宮「よく言われる」

だが絹旗の心配は取り越し苦労で、篠宮は特に怒る事はなく、ニヤニヤしていただけだった。

ヴェント「下らない雑談している場合じゃないでしょ。目の前のコイツを――」

絹旗「超待って下さい。まだ聞きたい事があります」

回復魔術で多少は回復したとはいえ、まだまだボロボロのヴェントを絹旗は制止して、

絹旗「あなた、超操られているようには見えませんが、だとしたらなぜ食蜂の肩を持つような真似をしているのでしょうか?」

篠宮「んー、なんで俺が操られていないと決めつけているんだ?まあ確かに操られてはいないけどよ」

絹旗「だったら、超質問に答えてください」

ヴェント「ちょっと、そんな事聞いて何に――」

白井「お黙り下さい。絹旗さんにだって何か考えがあるはずですの」

今度は白井が制止した。
384 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 01:06:21.40 ID:mdUBX5eL0
ヴェント「分かったわよ……」

ヴェントが渋々納得したところで、篠宮が口を開く。

篠宮「そうだな。何で食蜂に協力しているか。だろ?その答えはこうだ。食蜂の事を尊敬しているから、だよ」

その言葉に6人は驚きを隠せなかったが、絹旗は質問を続ける。

絹旗「何で、あんな超トチ狂った奴を尊敬なんて……」

篠宮「もっともな疑問だが、その答えはこうだ。狂っているから尊敬しているんだよ」

絹旗「……ますます意味が分かりません」

篠宮「言葉どおりの意味だ。俺は食蜂を心から尊敬している。だってよ。
   世界滅亡なんて馬鹿げた事を、15歳の女子高生がやろうとしているんだぜ?
   それってすごくねーか?一体どんな思考をしていたら、そんな結論に辿りつくんだ?ワケ分かんねーよ。
   俺は、そんな馬鹿なアイツが興味深くて仕方ねー」

目を輝かせながら語る彼に、絹旗は疑問と軽蔑の感情を抱く。

絹旗「あなたの発言から推測するに、あなたは食蜂が世界を超滅亡させる理由を知らないんですか?」

篠宮「知っている奴は知っているし、知らない奴は知らない。知らないのはごく少数だが、俺は知らない部類だ。
   一度洗脳された奴は、食蜂の考えも脳に残る筈だから、お前は分かってんじゃねーのか?」

絹旗「ええまあ、分かっているからこそ、理由を知らないくせに協力するあなたの神経を超疑っているんです」

篠宮「オイオイ待ってくれよ。その言い方だと、知っていて協力しているのならオーケーみたいな言い方じゃねーか。
   それは違うだろ。俺は自分が異常である事ぐらい自覚している。
   食蜂が世界を滅亡させる理由を知っていようが知らなかろうが、協力する時点で狂っている。
   知らないのに協力するから軽蔑ってのはおかしな話だ」

絹旗「そこまで自覚していて、なぜ?」

篠宮「何度も言わせんなよ。食蜂を尊敬しているからだ。さっきも言った通り、俺は自分が異常である事は自覚している。
   同感してもらうつもりもねー。ただ誰がどう思い考えようが、俺は俺の気持ちを曲げるつもりはねー」

だから、と篠宮は続けて、

篠宮「さっさとやろうぜ。話し合いなんて妥協案はナシだ」

ボゴォ!と篠宮の周囲の地面が突然凹んだ。と同時に、彼の両手に刀が握られた。

篠宮「もっとも、お前らが食蜂に協力するってーなら、戦う理由は特にねーが」

ヴェント「やるしかないようね」

フィアンマ「だな」

削板「食蜂に協力なんて真似、誰がするか!」

篠宮「交渉決裂だな。じゃあ、戦闘開始だ!」
385 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 01:08:33.45 ID:mdUBX5eL0
絹旗(くっ……)

出来れば話し合いで解決したかった。だが結局は戦うしかないのか。

フィアンマ、ヴェント、削板の3人は戦闘を開始したが、篠宮は一瞬で削板の背後に回り込み、
その背中を刀で真一文字に切り裂いた。つまり、一瞬で削板が戦闘不能にされた。

絹旗(やっぱり……)

どんな能力かは分からないが、ビルぐらいの超巨大な刀を振るっていたのは間違いなく彼だったのだ。
そんな彼が弱いはずがない。それどころか、今までのレベル5とは次元が違う、一線を画しているだろう。
だから話し合いで解決したかった。
ついつい名前に反応してしまったり、考え方に同意できず生意気な口も聞いてしまったが、彼は意外にも紳士的に返答してくれた。
でも無理だ。穏便に済ませようとしたが、彼は絶対に折れない。

絹旗(倒すしかないんですか……)

そんな事を考えている間にも、フィアンマの右腕が肩口から切り裂かれた。
その光景に悲鳴を上げる絹旗以外の女性陣。
さらにその内の1人ヴェントが、篠宮にビルの壁まで追いやられ、広げた両手と気をつけのように揃った両足に刀を突き立てられた。
つまり、ビルの壁に十字架に磔られた。

篠宮「これで3人」

呟きながら、篠宮の視線は絹旗に向けられる。

結標「ちょっと、何ぼーっとしているのよ!あなた標的(ターゲット)にされて――」

篠宮「テレポートされる前にやっときますか!」

一体どんな能力なのか。篠宮は一瞬で絹旗の背後に回り込み、刀を水平に振るった。
本来なら刀の一撃など窒素の装甲の前には無に等しいが、この男は何か違う。
避けなければならないと本能が謳っているが、刀のスイングがあまりにも速すぎた。

刀の一撃を脇腹に喰らった絹旗は、結標と白井のテレポートでの助けすら間に合わず真横に数十mぶっ飛ばされた。

白井「絹旗さん!」

絹旗「が、ああ……」

痛む脇腹からは、多少ながらも血が流れていた。それは異常なことだ。
ただの刀の一撃程度では吹き飛ばされる事はあっても、喰い込み切り傷になることなどあり得ない。
やはり自分の本能は間違っていなかった。次からは何が何でも避けなければ。
386 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 01:10:10.69 ID:mdUBX5eL0
篠宮「他人の心配している暇はないと思うぜ?」

吹き飛ばされた絹旗の方を見ていた白井に、篠宮の手に握られていた拳銃の銃口が向けられる。

絹旗(――あれは一体どこから!?)

絹旗の疑問は解決する訳もなく、拳銃の引き金が引かれた。
白井はギリギリでそれに気付いて、テレポートを実行して弾丸を避けるが、

篠宮「おせーよ」

白井「あふっ!」

テレポートが完了した直後には、篠宮に肉迫されて首筋にチョップをお見舞いされ気絶した。
それだけに留まらず、気絶した彼女を手際よくヴェントの隣に、彼女と同様に磔にする。

結標「彼女達を解放しなさい!」

結標の怒号と共に、篠宮の真上に病院の巨大な瓦礫がテレポートされるが、

篠宮「無駄だぜ」

篠宮は何のアクションもしなかったし、モーションもなかった。
にもかかわらず、巨大な瓦礫は跡形もなく消滅した。

結標「な――」

結標が驚愕している間に、篠宮は彼女に向かって鎖を投げつけた。
2人の距離は優に30mはあり、『座標移動』を駆使する結標には本来なら十分すぎる距離だが、
凄まじい速度で飛来するそれは、結標がテレポートを実行する前に彼女の体に巻き付いた。

篠宮「おらよ!」

結標「きゃっ!」

グイッと、篠宮は鎖を思い切り引っ張って磔にされている白井の隣へ叩きつける。
その衝撃で悶える結標の体の鎖を解き、ヴェント、白井と同様に刀で磔にした。
387 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 01:11:49.20 ID:mdUBX5eL0
篠宮「お前が青葉のお気に入りか。
   なるほど、こうやって改めて見ると確かに別嬪さんではあるが、いかんせん気が強そうな顔しているな」

結標「ジロジロ見ないでよ。虫酸が走るわ」

篠宮「この状況でその台詞が吐けるとはなー。気は『強そう』じゃなくて『強い』んだな。
   まあ、それぐらいのメンタルないとレベル5第1位になんてなれねーよな。
   ましてや、繊細な演算を必要とするテレポーターなら尚更だ」

結標「グチグチうっさいわよ。ていうか『青葉のお気に入り』って何よ?」

篠宮「はあ?お前――」

とそこで篠宮は振り向いて、絹旗の拳を受け止めた。

篠宮「会話の邪魔はするもんじゃねーぜ?お嬢ちゃん?」

結標(やっぱり気付かれた……!)

不快に顔を歪める結標だったが、それ以上に拳を受け止められた絹旗は焦っていた。

絹旗(纏っていた窒素が……解かれた!?)

一体全体どんな能力なのか?
ビル大の刀から、拳銃や鎖をどこからともなく出したかと思えば、気付いた時には消失している。
そして今、纏っていた窒素を解除された。いや、解除とも言い難い感じがするが、解除と言う以外の表現方法が今は思いつかない。
何より異質なのが、テレポーターですら反応出来ないほどの移動速度だ。
とまあ結局は、

絹旗(私じゃ……超勝てない)

最初から力の差は歴然だと思っていたから、今殴りかかったのも捨て身に近かったが、こうも無力だと情けなくなる。

篠宮「これで最後だな」

抵抗する気がない絹旗も、容赦なく3人の女子と同様に結標の隣に磔にされた。纏っていた窒素の装甲を解除されて、だ。

6人の男女は、1人の男に5分で壊滅させられた。
388 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 01:14:27.90 ID:mdUBX5eL0
そして磔にされてから30秒。篠宮は粋がるフィアンマとヴェントを交互に見て、

篠宮「君達の庇い合いの精神は素晴らしいな。安心しろよ。俺は別に、お前らを殺そうなんて微塵も思っちゃいねーよ」

ただ、と篠宮は絹旗の方を見ながら、

篠宮「俺も溜まっているものは溜まっているんだよねー。ほら、俺高2で思春期バリバリの性欲爆発じゃん?
   だから、お前らで発散しちゃっていいかなー?」

いいかなーって、良いわけねーだろ。つーか何が性欲爆発じゃん?だよ。
100回死ね。と絹旗は心の中で毒づく。
とは言え実際問題、磔にされている絹旗とそれ以外の女子、右腕を失ったフィアンマ、気絶している削板に彼を止める術はない。

絹旗「嫌……超止めてください……」

篠宮「あらら。元暗部の絹旗最愛ちゃんも、しおらしくするとまあ可愛い事。こりゃあもう、やるっきゃねーでしょ」

独自の理論を展開しながら、肌を傷つけないように絹旗のジャージやその下のシャツをナイフで裂いていく。
綺麗な白めの肌が露になっていく。

結標「ちょっと!能力があるでしょ!何されるがままになっているのよ!」

そう言われても、能力はさっきから解いていないのに強制解除されるのだからどうしようもない。

白井(何とか脱出して……絹旗さんを……まだ借りを返していませんの……)

白井はテレポートで脱出を試みようとするが、両手両足を刀で貫かれている。
演算に集中など出来るはずもない。結標も同様だ。

篠宮「へへ……」

絹旗(……)

もうなんか、どうでもよくなった。
絹旗は目の前のケダモノを呆然と眺めながら、諦めた。

6対1とはいえ、相手は万全。
こちら側は魔術師に敗北したと言うボロボロの3人、自分は2度敗北し疲労も蓄積。
白井も今までの疲労と黒夜に殴られたダメージが、結標も脇腹を撃たれたと聞く。
こんな6人が戦う事自体間違っていたのだ。

篠宮「ブラジャーって、胸がどれだけ小さくてもある程度の歳になるとつけるもんなのな」

呟きながら、絹旗のブラジャーを外した。そしてその小ぶりな胸を撫でまわす。
389 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 01:16:00.12 ID:mdUBX5eL0
結標「ちょっと!止めなさいよ変態!」

白井(絹旗さん……!)

ヴェント「こんの……」

フィアンマ「や……めろ……」

当然、篠宮は手を止める事もなく、絹旗も何の反応も示さない。

篠宮「んだよマグロかよ。演技でもいいから、多少は喘いでくれないと興奮しねーんだけど」

言いながら、手の動きを大きく速くする。時折揉んだりもしながら。

絹旗「……」

それでも無反応かつされるがままの絹旗は、ある事を忘れている。
この戦いは、彼らだけで行われているのではない事を。
そして、とある約束をしてくれた人間がいると言う事を。

篠宮の手の動きが止まった。それだけではない。
彼以外の5人の視線も、あるところに釘づけにされている。

篠宮「ヒーローのご到着ってか」

篠宮は引き裂くような笑みを浮かべながら、ゆっくりと振り向いた。
5人の視線が向かう先、倒れている削板の隣に立っていたのは、

絹旗「あくせられーた……」

一方通行「遅くなって済まなかったなァ」

真っ白で、赤い瞳の少年が降臨した。
390 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 01:18:05.63 ID:mdUBX5eL0
篠宮「カッコつけて登場した割には、随分とボロボロじゃねーか」

篠宮の言う通り、今の一方通行はボロボロだった。
長点上機の紺碧の制服はところどころ破け、赤いネクタイはどっかにいってしまっている。
何より、制服の左腕部分は完全に消し飛んでいて血まみれだった。おそらく動かすのも辛いだろう。

一方通行「ちょっと強敵とドンパチしたンでな」

フィアンマ「あの化け物相手に勝利したのか……」

一方通行「オマエらは、ドチビの幼児体型に欲情する変態ロリコン1人すら倒せなかったよォだな」

ヴェント「手厳しいわね。彼、意外と強くてね……」

篠宮「ちょっと待ってくれ一方通行さんよ。お前だって、フレメアとかいう幼女と暮らしているだろ。
   お前にロリコン呼ばわりされる筋合いはねーぜ?」

一方通行「俺はオマエと違って幼児体型に欲情しねェ。一緒にすンな変態クソ野郎」

篠宮「じゃあ反論二。俺はまだ高校2年生です。3、4歳年下の女の子に欲情することのどこがいけないのでしょーか?
   おっさんが欲情するのとはわけが違うと思うのですが」

一方通行「決まってンだろ。オマエが気持ち悪ィからだ。そもそも、ドチビだって嫌がってンじゃねェか」

篠宮「にゃーるほど。はは。噂通り、ムカつく野郎だ」

一方通行「よく言われる」

バゴォ!と地面を蹴って最初に動いたのは一方通行。
ベクトルの力が乗った拳を握りしめて篠宮へ特攻して行く。

絹旗(完全に不意を突きました!)

真正面からとは言え、超速度の一方通行は到底避けられも防げもしない。
いくら篠宮が詳細不明の強力な能力者と言えど、これで終わりだ。
絹旗は純粋にそう思ったが、

ヒュン!と空気を切り裂く音だけを残して、篠宮の姿が消えた。

一方通行「!」

絹旗(は――)

テレポートなどではなく、純粋にスピードで一方通行の突進を避けた。
その事実に絹旗はもちろん、一方通行もわずかに目を見開くが、彼の狙いは最初から篠宮ではなかった。

ズブリと、一方通行の右手が絹旗達の磔にされているビルの壁にめりこんだ。
直後に、ピキピキと音を立てて壁数cmが崩れ落ちた。つまり、磔にされている絹旗達の解放。
391 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 01:20:19.79 ID:mdUBX5eL0
一方通行「どうせオマエらは両手両足を潰された役立たずだ。邪魔だから、魔道書とやらで転送されろ」

ヴェント「……悔しいけど、そうするしかないみたいね」

篠宮「待てよ。野郎はどうでもいいが、女どもは逃がさない」

ストンと、上から落ちてきた刀がヴェントの腰につけていた魔道書を貫いた。貫かれた魔道書は燃えて消えた。

一方通行(どうやって上から!?)

一方通行は一時も篠宮から目を離していない。彼は怪しい動きは一切していなかった。
なのになぜ?

一方通行(考えていても仕方ねェ。どンな能力かは知らねェが倒せばお終いだ!)

ギャン!と凄まじい速度で再び突っ込む一方通行。
対して篠宮は、ロボットの拳のようなものを纏いクロスカウンターの拳を放つ。

バギャア!と、ロボットのような拳は砕け、一方通行は殴り飛ばされた。

絹旗(な!?あの一方通行が……)

篠宮「今のトリックは極めて単純」

驚愕する絹旗をよそに、篠宮が語りだす。

篠宮「木原神拳をやったまでの事。もちろん、これは常人に出来る業じゃない。
   引き戻すタイミングを少しでもミスれば、ダメージを与える事が出来たとしても、こっちもそれ以上のダメージさ」

け・れ・ど、と篠宮は嬉しそうに、

篠宮「それは生身の話。俺みたいに別のモノで代用すれば無問題(モーマンタイ)。
   消耗していくのは一方通行だけって話だ」

一方通行「へェ。何でそれをペラペラ語っちまうのかが、理解不能だがな」

一方通行は何とか立ち上がりながら、もっともな事を言う。

篠宮「いやいや、一方通行さんのことだから、そんなことすぐ看破するでしょ?
   それに、俺は無駄な戦いは嫌いなんだ。今の理論を聞いて、諦めてくれれば万々歳なんだけど」

一方通行「悪ィな。俺ァ意外と諦め悪い方なンだ」

篠宮「俺は何も殺人を犯すわけじゃねーんだ。ちょっと性欲処理したいだけなんだよ。邪魔しないでほしいな」

一方通行「嫌がる女を無理矢理犯すのも、強姦という罪だが?」

篠宮「これからメロメロにするからいいの」

一方通行「残念だが、それは叶わねェと思うぜ」

篠宮「いや、俺のテクを――」

一方通行「そうじゃねェよ。物理的にだ」

篠宮「は?」

とそこで篠宮はようやく気付いた。
フィアンマと削板が持っていた魔道書に、彼女達が回収されて行くのを。

篠宮「させるか!」

一方通行「こっちの台詞だ!」

転がっている魔道書を処理する為に、篠宮は刀を振り下ろす。
どうにかして防ごうとする一方通行は、刀と魔道書の間に割り込み白刃取りを決める。
が、どう言う訳か魔道書は燃えだした。つまり何らかの方法で魔道書が傷つけられ機能を失ったのだ。
392 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 01:21:52.46 ID:mdUBX5eL0
一方通行「クソが!」

白刃取りしていた刀を潰して右手を伸ばすが、篠宮は後退することで避ける。

篠宮「へっ。何とか2人は残しておけたか」

一方通行「クソが……」

魔道書についていくつか聞いていたことがある。
魔道書はとある場所に繋がっていて、そこに転送されると言う事。
何冊かある魔道書は別の魔道書とリンクしていて、中を自由に行き来できると言う事。
魔道書の中には、武器などを収納する事も出来ると言う事。
魔道書が壊れれば、その時中に入っているモノも壊れると言う事。

しかし、まだ分からない事もたくさんある。
たとえば、回収の最中に何らかの手段で魔道書を破壊されたらどうなるのか。

結標「救いようのない変態ね……」

絹旗「超全くです……」

絹旗と結標の2人の回収がキャンセルされた。

一方通行(まァ、死ななかっただけマシかもしれねェが……)

さすがに2人を庇いながら戦う余裕はない。彼女達でどうにかしてくれないと。

一方通行「結標。意地でもテレポートしてここから離れろ……」

結標「分かっているわよ……けれど、まだ無理みたい……」

篠宮「もう諦めたら?俺もさ、ボロボロの相手痛めつける趣味ないし、寧ろ心苦しいし」

一方通行「じゃあ死ねよ。そしたら心苦しさからも解放されるぜ」

篠宮「極論にも程があるぜ」

鋭い眼光で睨む一方通行に対して、篠宮は余裕を崩さない。
393 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 01:23:05.79 ID:mdUBX5eL0
一方通行「……」

篠宮「もう限界なんだろ一方通行?そりゃそうだ。元々お前は能力頼りの貧弱なモヤシ。
   ちょっと修行して体術と体力つけたみたいだけど、トライアスロンより過酷なこの戦いを乗り切るには不十分だよなぁ」

篠宮の言う通りだった。所詮一方通行は根本的なところではまだまだ貧弱だ。
活発な部類の上条や御坂ですら辟易しているのだから、なおさらだ。

一方通行(それでも、諦める訳には……)

ここまでどれだけ頑張っても、結果が伴わなければ意味はない。
ここまでは守ることに成功してきたとしても、ここで守り切れなければ意味はない。

篠宮「目が死んでねーな。仕方ねー」

瞬きよりも早い速度で一方通行の懐に潜り込んだ篠宮は、彼の腹部に膝蹴りを叩きこんだ。

一方通行「ごふぁ!」

篠宮「もう分かっただろ。お前じゃ俺には勝てねーんだよ。相性が悪すぎる」

絹旗「一体どんな能力なんですか!」

跪く一方通行を見下ろす篠宮に、絹旗は時間稼ぎの目的で尋ねる。

篠宮「そうだなあ。能力の詳細教えたら諦めてくれるかもしれねーし、教えてやるか」

そうして篠宮が語りだす。
394 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 01:25:22.40 ID:mdUBX5eL0
篠宮「俺の能力は、生命以外のあらゆる物質を分解、再構成する。簡単に言うと、物質を別の物質に変換させる事が出来る」

絹旗「いまいちピンときません」

篠宮「だろうな。では、今から実演してみようか。俺の足下を見てみな」

言われた通り、絹旗は篠宮の足下を見る。
すると突然、彼の足下の地面がへこみ、代わりに彼の手に刀が握られた。

篠宮「今、地面の一部を分解して刀の形に再構成した。ちなみに、分解しっぱなしって言うのも出来る」

絹旗「それで刀や拳銃や鎖を出したかと思えば、超消失させる事も出来たんですね」

篠宮「そういうこと」

結標「でもそれじゃあ、とんでもない速度で移動していた事の説明はつかない」

篠宮「それは俺が今着ているピッチリスーツによるんなーこれが。
   このスーツはノーリスクで着用している者の運動能力を飛躍的にあげる。
   科学技術の産物じゃなく、俺の能力で作られたモノだ」

結標「あなた、空中で方向転換もしていたわよ?」

篠宮「それは空中で空気を蹴っただけの話。だからまあ、いろいろ多機能なスーツなのよ。俺の最高傑作だからな」

絹旗「そんなことまで……」

にわかに信じがたい話だが、実際に篠宮は瞬速と呼べるほどの速度で移動している。

結標「この世の物理や原理では、有り得ないモノも創造できるってわけ?」

篠宮「まあ、そうだな。俺の妄想をある程度は具現化できるかな。
   もちろん制限はある。たとえば、小石から巨大な斧に変換させる事は不可能だ。
   質量が違いすぎるからな。そこは等価交換ってわけさ」

絹旗「ですが、コンクリートの地面から金属である刀に超変換したじゃないですか。それはどういうことですか?」

篠宮「だから物質を別の物質に変えられるんだから、卑金属を貴金属に換えることぐらいは出来るんだよ。
   いわゆる錬金術と同じだ」

結標「それじゃあ、貴方はどうやって倒すの?」

篠宮「大多数の能力者と同じだよ。能力切れまで粘るとかさ。
   まあ俺はそう簡単にバテねーし、言うならば、この大地全てが俺の能力の源だからな。あと他の方法と言えば――」

篠宮の言葉は最後まで続かなかった。
一方通行が生み出した突風により、数百mほど吹き飛ばされたからだ。
395 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 01:27:10.07 ID:mdUBX5eL0
篠宮「おいおい、人が話しているところを妨害するかねフツー」

にもかかわらず、篠宮はケロッとして一瞬で一方通行達の前に戻ってきた。

絹旗「超無傷……だと……」

篠宮「このスーツ、強度も半端なかったりするんだなーこれが」

結標「それじゃあ無敵じゃない……」

篠宮「随分と弱気だな。さっきまでのサドっぷりはどこいった?あるじゃねーか。お前のテレポートって言う方法も。
   もちろん、座標攻撃ごときに捉えられるつもりはねーけどな」

結標「くっ……」

歯噛みする結標をよそに、一方通行が口を開く。

一方通行「まだあるだろ。オマエ、エネルギーは変換できねェだろ」

篠宮「御名答。炎とか電気とか、エネルギーの類は変換できない」

絹旗「待って下さい。私の『窒素装甲』が解除されたのは――」

篠宮「だ・か・ら、物質を別の物質に変換できるって言っているだろ。窒素を刀に変換するのなんて訳ねーんだよ」

絹旗「ぐぬぬ……」

一方通行「要するによォ、オマエの能力は垣根帝督君の『未元物質』の下位互換って訳だ」

篠宮「ま、そこは否定しねーよ。だから、下剋上だ」

篠宮の右手に刀が握られた。
と絹旗、結標、一方通行の3人が認識した時は、一方通行の脇腹に切り傷が入っていた。
もっとも、刀も砕けたが。

篠宮「作り直せばいいだけの話なんですけどね」

再び篠宮の手に刀が握られた。このままではまずい。
かと言って、瞬速の篠宮を目で見て反応することはできない。

一方通行(ただ一つ確定している事がある)

それはこちらへ突っ込んでくる事。
ならば話は簡単。地面を思い切り踏みつけて周囲に衝撃波をぶちまける。
そしてそれを実行しようと、右足を少し上げて下ろすが、

ボゴォ!と一方通行の足下の地面が10cmほど消失した。
つまり一方通行の足は空を切り、彼は前のめりになる。

その隙に篠宮は一方通行に斬りかかった。
ベギャア!と刀は粉々に砕けたが、一方通行の左肩にも傷が入った。
396 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 01:28:14.36 ID:mdUBX5eL0
絹旗「能力を応用して、足下の地面を消失させた……」

篠宮「一気に決めるぜ」

左肩に強力な一撃をもらいフラつく一方通行に、ここぞとばかりにたたみかける。
周囲の大地を刀に変換しては斬りかかり、砕けてもまた変換して斬りかかり、徐々に一方通行にダメージを与えていく。

絹旗「このままじゃ一方通行が……」

死んでしまう。篠宮の速すぎるラッシュに、一方通行は反撃どころか避ける事も防御すらも出来ない。
一方通行を助けるためには。

絹旗「超待ってください!」

絹旗の声に、ぴたりと篠宮の刀を振る手が止まった。

絹旗「私が、超何でも言う事聞きますから……何でもしてあげますから……」

目尻に涙を溜めながら、

絹旗「これ以上一方通行を傷つけないでください!」

悲痛そうな声で、叫んだ。

結標「な、何言っているのよ!あなた、自分が何を言っているか――」

絹旗「分かっていますよ!けれど、一方通行を救うためには超仕方ないじゃないですか!」

一方通行「ふざけンな!俺はまだやれる!」

絹旗に情けをかけられた一方通行は憤慨する。

絹旗「超無理ですよ……だって、現にボロボロじゃないですか……嫌ですよ、私は……」

ポロポロと涙を流しながら、

絹旗「私のせいで……人が死ぬのは超嫌です!」

やっぱり悲痛そうな声だった。
397 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 01:29:38.58 ID:mdUBX5eL0
篠宮「だとよ一方通行さん?彼女の意思を汲んであげれば?」

結標(私がテレポートできれば……)

絹旗「もういいですよ。一方通行は、私の事を十分守ってくれました。
   だから、もう大丈夫です。別に超死ぬわけではありませんし」

声は相変わらず悲痛そうだが、表情は笑顔だった。
ただし、これ以上にないくらい切なそうな。

篠宮「何でこんなモヤシが絶大な信頼をおかれているのか……つーか、そんなに俺が嫌かねぇ。結構イケメンだと思うんだけど」

結標「心が腐っているのよ、あなたはね」

篠宮「いやはや、異常者である事は分かっていたけど、心が腐っているとは思わなんだ」

結標「あなたに良心が残っているのなら、ここは全員を見逃すことね」

篠宮「それは無理な提案だ。一方通行はどうでもいいがお前ら女を逃す訳にはいかねー」

結標「私はあなたみたいな下衆な男は嫌だけど」

篠宮「何でお前みたいなやつに、青葉は惚れたのかねぇ。逆にお前も、何で青葉なんかに惚れたんだ?」

結標「はぁ?さっきから何を言っているのか――」

結標の言葉は最後まで続かなかった。
最後の力を振り絞った一方通行が、篠宮など目もくれず結標と絹旗を抱きかかえて飛び去ったからだ。

篠宮「逃がすかよ!」

一瞬遅れて篠宮も地面を蹴って跳び、背中にハンググライダーを出現させて飛行する。

絹旗「一方通行……どうして……」

一方通行「どうしてって……今の俺じゃあ勝てねェからな。逃げるしかねェだろ」

絹旗「そっちじゃなくて、私なんか見捨ててしまえば……」

一方通行「ふざけたことぬかしてンじゃねェよ。オマエに不快な思いは絶対にさせねェ。
     オマエに不快な思いさせるぐらいなら、死ンだ方がマシだ」

絹旗「どうして……私なんかのために……」

一方通行「約束したからに決まってンだろォが」

絹旗「だから、一方通行はそれを十分に――」

篠宮「お喋りはそこまでだ」

いつの間にか、ハンググライダーの篠宮が一方通行達に追いつき、手に持っていたバットを振り下ろした。

ゴッ!と一方通行を庇い殴られた絹旗は、地へ落ちていく。
398 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 01:31:14.29 ID:mdUBX5eL0
篠宮「あーらら」

一方通行「クソが!」

気絶している絹旗は窒素の装甲を纏っていない。このまま落下すれば地面に叩きつけられて死ぬ。
一方通行は結標を抱えながら真下へ落下していく。

篠宮「競争だな!」

ハンググライダーを消失させ、空気を蹴って真下へ落下して行く。
そして一方通行と並ぶ。両者とも絹旗まであと数cm。

一方通行(届けェ!)

一方通行は必死に手を伸ばすが、篠宮の腕の方がわずかに一方通行より長かった。

篠宮「残念。俺の方が少し速かったみてーだな」

パシィ!と絹旗の手を掴んだのは、一方通行でも篠宮でもなく、結標だった。

結標「一方通行!」

一方通行「やるじゃねェか!」

ギャン!と空中で方向転換をして、一方通行は飛んでいく。

篠宮「ああうっぜーなもう!」

大気中の窒素を鎖に変換して、一方通行ではなく絹旗や結標を狙って放つ。篠宮の瞬速の攻撃は衰えていない。
2人の少女を抱え、なおかつボロボロの一方通行にそれを避ける術はなかった。

実にあっさりと、絹旗と結標に鎖が巻きついてしまった。両手が塞がっているため、鎖を引き裂く事は出来ない。
このまま引っ張り合うのは可能だが、そんな事をしては彼女達の体が引き裂かれてしまう。つまり八方塞がり。

一方通行(こうなったら一か八かだが)

彼女達と一緒に敢えて突っ込んでみるしかない。
他にも良策があったかもしれないが、今の一方通行にはそれしか思いつかなかった。

そして鎖に引っ張られると同時に、一方通行が発射された。彼は砲弾のような速度で篠宮へ向かって行く。

篠宮「そう来ると思ったよ。だから!」

鎖を手放し、両手で刀を持って振り下ろす。
バギャア!と刀は砕けるが、一方通行は地上へと落下していった。
反射はまだ死んでいない為、落下の衝撃は大したことなかったが、立ち上がる力はもはや残っていなかった。
399 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 01:33:04.52 ID:mdUBX5eL0
篠宮「天下の一方通行もこの程度か。万全なコイツと戦いたかったぜ」

絹旗と結標を抱えながら着地した篠宮は、うつ伏せで倒れている一方通行を見下ろす。

一方通行「ここまで様々な刺客差し向けといて、よく言うぜ……」

篠宮「差し向けたのは俺じゃねーし、お前が今まで戦ってきた奴なんてゴミ同然だろ」

一方通行「だがこの戦いの1つ前、黒い長髪の男とやった時には出てこなかったじゃねェか」

篠宮「そりゃあまあ、見た感じ勝ち目なかったからな。なんたって玲緒が一瞬で潰されたんだ。
   誰だって死にたくはねーだろ?」

レオ、と言う聞きなれない単語。おそらく彼の仲間だろうと一方通行ら3人は推測する。

一方通行「ゲスが……」

結標「勝てる相手には徹底的に、勝てない相手には逃げる。本当、都合のいい男ね。反吐が出るわ」

鎖で拘束されている結標は、依然強気な発言をかます。
すると篠宮は、ずんずんと結標に近づいて行き、

篠宮「あのさー、お前調子こき過ぎだろ。だったらお前はどうなんだって話だよ。
   お前は弱者と強者を相手にする時、全く同じ態度で臨めるのか?
   圧倒的な強者相手にも、逃げずに立ち向かえるのか?」

髪の毛を引っ張りながら、若干イラついた様子で尋ねる。

結標「立ち向かうわよ。決まっているじゃない。この毒舌が証拠よ」

篠宮「違うな。お前が今余裕なのは傍観者だからだ。
   俺が手を出そうとした女は絹旗だし、実際に戦闘を行ったのは一方通行だ。
   果たして俺の行動の矛先がお前に向いた時――当事者になった時、お前は同じ態度がとれるかな?」

結標の鎖を分解する。霧ヶ丘の上着を絹旗に貸していた結標はTシャツ1枚にスカートのみ。
それを破く事など、篠宮にとっては造作もなかった。

結標「きゃっ……何するのよ!」

ブラジャーとパンティーだけの状態にされたにもかかわらず、結標は相変わらず強気だった。

篠宮「なるほどね……確かに、態度を変える気はない様だな。だけどそれは勇敢なんじゃなく、馬鹿なだけかな」

そうしてブラジャーに手をかけようとした、その時だった。横から飛来してきた水の竜が篠宮だけを飲み込んだ。
400 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 01:34:14.39 ID:mdUBX5eL0
結標(これは……)

この攻撃は知っている。結標は竜が飛来してきた方向を見る。

青ピ「オイタがすぎるで。よくも僕の彼女に手出してくれたな」

本名不明の青髪ピアスが立っていた。

結標(そうか……)

考えてみれば当然のことだった。先程自分が脇腹を撃ち抜かれた時も、彼は心配していてくれていた。
彼は完全に食蜂側と言う訳ではないのだ。

篠宮「ようやくきたか青葉君。ところで食蜂の命令でもあったのか?何で仲間である俺を攻撃するのかな?」

水の竜に飲み込まれたはずの篠宮は、ケロリとした様子で青髪の前に戻ってきていた。

青ピ「君の身勝手な行動は迷惑でな。食蜂から命令があったわけではないけど、そろそろ粛清しとこうと思って」

篠宮「へー。じゃあやりますか」

仲間だと言うのに、あっさりと刀を構える篠宮。
青髪も水を周囲に渦巻かせる。とその時だった。

「その戦い、私達も混ぜて〜」

「粛清されるのはテメーのほうだよ青葉」

青髪の少し後ろ。
長い緑色の髪の毛を後ろで束ねて、左手にはスケッチブックを持つペンキで汚れたツナギの少女と、
臙脂色の短髪に、真っ赤なライダースーツの男が佇んでいた。
401 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 01:35:56.52 ID:mdUBX5eL0
青ピ「僕が?何で?」

「だってオイタがすぎるのは、大河君の方じゃない?」

「そーゆーこと。女如きに現を抜かしているオメーの方が目障りだっつーの」

言いながら、少女の方はスケッチブックを開き、男の方は掌から炎を灯らせる。

青ピ「君達2人は、人を好きになった事が無いんかな?大切な人が出来れば、僕の気持ちもわかってくれると思うけどなー」

篠宮「ちょい待ち。お前らなに勝手に話進めすぎ。青葉の相手は俺だ」

「粛清だって言っているでしょう?嵐君の言い分は聞かない方針で」

「そーゆーこと。なんなら、誰が青葉を一番に仕留められるか競争すっか!」

篠宮「黙れ野蛮人。つーかお前ら嘘ついているだろ?
   こんだけ身勝手な俺がお咎めなしなのに、青葉だけが言及されるってのは、おかしな話すぎる」

「バレちゃ仕方ねーな。そうだよ嘘だよ。けれど粛清はする」

篠宮「だからそれは俺の――」

口論はさらに激しさを増していく。
ぽかーんと、置いてきぼりにされる絹旗、結標、一方通行。
とそこで結標はハッとして、痛む足を動かしながら何とかこの戦場から絹旗と共に逃げようとする。

篠宮「あ、待ちやがれ!」

青ピ「させるか!」

「こっちの台詞だ!」

「男って本当野蛮」

結標に鎖を投げる篠宮に、その鎖を断ち切ろうとする青髪の人差し指からのウォターカッター、更にそれを妨害する男の炎。
カオスになってきた戦場と逃げる結標。そこへさらに、

土御門「にゃー。お前ら全員粛清だぜい」

突如結標達の前に土御門が現れ魔道書をかざした。
結局鎖はウォーターカッターに断ち切られ、そのウォーターカッターも炎で蒸発した。
つまり、それらの攻撃は一切結標達に届く事はなく、回収はあっさりと、滞りなく完了した。
402 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 01:37:16.38 ID:mdUBX5eL0
土御門「さーて、あとは一方通行の回収だけだが」

「何で元春君がここに居るのかしら?」

土御門「全員粛清するって言ったが?」

篠宮「そりゃどう言う意味ですかー?」

土御門「『粛清』とは、厳しく取り締まって、不純・不正なものを除き、整え清めること。
    また不正や反対者を厳しく取り締まることだが?」

「そう言う事聞いているんじゃねーよ。馬鹿ですかオメーは?」

「いや彼の場合、皮肉でそう言っているのよ。馬鹿は君よ煉児君?」

「う、うるせーな!テメーから粛清してやろうか!」

「それは勘弁♡」

「可愛くねーぞ殺されてーのか?」

「勘弁って言っているでしょう。死にたくないわ」

「さいですか」

一方通行「オイ土御門。この奇想天外なバカどもとこの状況、
     何より洗脳されているはずのオマエが正気に見える理由を簡潔に説明しろ」

未だにうつ伏せ状態の一方通行は、偉そうに土御門に説明を要求する。

土御門「えー。これから退場する奴に説明とか面倒くさいんだけどにゃー」

一方通行「良いから説明しろ。あと俺の事を治療しろ。魔術とかで出来ンだろ?」

土御門「まあ反射を解いてくれればできるけど、それじゃあ隙だらけだし、お前には退場してもらう。
    けどまあ役者もまだ揃っていない事だし、説明してやるか」

わずかな笑みを浮かべながら、土御門は語りだす。
403 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 01:38:59.90 ID:mdUBX5eL0
御坂「いっけぇぇぇえええええ!」

雷撃の龍。一撃で黒焦げにしてやるつもりで放ったそれは、

「温い」

御坂「ぐっ!?」

男が手を上から下に振り下ろした瞬間に、御坂と共に地面に叩きつけられ消滅した。

御坂(お、もい……重力を操る能力者か……?)

御坂の推測は当たっていて、彼女の前に立ち塞がった男――榊弦三郎(さかきげんざぶろう)は、
重力を操作して雷撃の龍を地面に叩きつけ、御坂をもひれ伏せさせたのだ。

榊「君ほどの頭脳ならこの状況、詰みという事実は既に理解しているね?」

御坂「くっそっ!」

うつ伏せの状態から無理矢理電撃を出すが、当然榊には届かない。

榊「見苦しいな。そのまま大人しくしていれば、そのまま放置しておこうと思っていたが、気が変わった。苦しめ」

クン、と体が軽くなった。瞬間、

御坂「かはっ!」

御坂は吐血した。理由は単純。体は急激な変化に耐えられない。
重力の負荷から突如解放されれば、体中の空気が膨らみ肺は破裂する。
それだけのお話。御坂はもはや戦うどころか、呼吸すら困難な状況に陥った。

御坂(……こんな)

こんな負け方あるか。激戦の末に力尽きた訳ではなく、一旦押し潰されて解放された。それだけ。
不完全燃焼も良いところだ。大体、自分の脳に未曾有の負荷をかけてまで自らの能力を強化したのに、
ここまで狂ったのに、食蜂以外にも届かない相手がいるというのか。

御坂(ふざけないでよ……)

まだだ。まだやれる。
この身が生命活動を完全に停止するまで、潰されるまで止まるわけにはいかない。

御坂「う、あああああ!」

ほとんど気合いだけで起き上がり、拳を固く握り締めて榊に突っ込む。

榊「ほう。そんなに死に急ぎたいなら、手向けてあげよう」

押し潰すのは簡単だったが、御坂の意気を認め、重力を集約した拳のクロスカウンターを放つ。

バッゴォン!と拳が顔面を叩いた凄まじい音が周囲に響き渡った。
404 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 01:39:54.84 ID:mdUBX5eL0
榊「がはっ!」

殴られてぶっ飛んだのは榊の方だった。しかし殴ったのは御坂ではなく、

上条「大丈夫か御坂!」

戻ってきた上条当麻だった。

御坂「情けない話だけど……大丈夫じゃ……ないわね……」

上条「そっか。なら病院に――」

榊「私はまだ倒れていないぞ」

言葉通り、榊の重力が上条を襲った。強力な重圧を前に、上条は一旦膝をつくが、

上条(その程度で、抑えられると思ってんじゃねーぞ……!)

ミシリ、と骨が軋む音がするが、上条は構わず前へ突き進む。

榊「なるほど……!ならば、最大の重圧だ!」

ズシン!と上条にかかっている重圧が10倍増した。
それは常人ならば肉体が跡形もなくなるほどに潰れるほどで、『竜王』の力を纏っている上条ですらうつ伏せにさせられる。

上条「負けるかよ……!ぬ、おおおおおお……!」

それでも上条当麻は折れなかった。最大重圧の重力を撥ね退けて起き上がる!

榊「馬鹿な!」

上条「今度こそ終わりだ!」

ゴガァ!と上条の右拳が榊の顔面に深く突き刺さった。その一撃で、榊を昏倒させるには十分だった。
405 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 01:41:05.84 ID:mdUBX5eL0
折原の周囲に紫色のエネルギーが渦巻いているのが視える。
となると、近距離戦は禁物だ。かといって遠距離戦なら良いと言う訳ではない。
おそらく彼女の能力は『歪曲』。硬度に関係なく万物を歪ませ曲げる。座標攻撃も可能だろう。
エネルギーをぶつければ何とか相殺はできるもしれないが、最低でも相殺まで。
こちらが勝る事はあり得ない。これらから導き出せる答えは、自分が不利だと言う事。

垣根「待て待て待ってくれ。お前は何で食蜂に協力しているんだ?それだけ教えろ」

折原「しつこいですね。それを知って何になると言うのですか?」

垣根「いいじゃねぇか答えろよ。お前だって蛇女殺すのに結構能力使っただろ?」

折原「確かに、先程の攻撃で私はだいぶ消耗しました。ですがそれは垣根様も同じ事。
   ここで私が話をして垣根様が回復しては本末転倒です」

垣根「それでもいいだろ。俺に素で勝てる自信があるんだろ?」

折原「……」

沈黙。垣根の頬に冷や汗が流れる。妙な緊張感が全身を駆け巡っている。
我ながら情けない話だが、ここは出来るのならば話し合いで解決したい。
必要とあらば、可能な範囲でこちらが妥協するつもりだ。
つくづく温い選択だとも思うが、食蜂戦が控えている事を考えると、そうも言っていられない。

折原「……いいでしょう。そこまで知りたいと仰るのなら、垣根様にとって益になるとは思えませんが教えます」

相変わらず抑揚のない声で折原は語りだした。
406 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 01:43:07.83 ID:mdUBX5eL0
折原「私が食蜂様に協力する理由、でしたよね。その理由は、それが食蜂様のお望みだからです」

垣根「……食蜂の望みなら、何でも聞こうと思っているのか?たとえそれが世界の滅亡であろうとも」

折原「はい。食蜂様は私にとっては大切な人ですから」

垣根「大切な人の言う事なら、世界が滅亡しようが知ったこっちゃないってか?思考停止にもほどがあるな」

折原「では逆に聞きますが、垣根様は『心理定規』に『とある男に強姦された。殺してほしい』と頼まれても、
   その男を殺さないと言いきれますか?」

垣根「……殺しはしねぇよ。然るべき手段で痛い目は見てもらうけどな」

折原「若干間がありました。嘘ですね」

垣根「嘘じゃない」

折原「まあいいでしょう。
   もう少しだけ補足しておきますと、私は食蜂様のご命令だから動いていると言うのもありますが、考えにも同感しています」

垣根「イカれてんな」

折原「イカれてなどいませんよ。垣根様は一度たりとも抱いた事がないのですか?憎い、殺したいなどの負の感情を」

垣根「あるけど、世界滅亡なんてはっちゃけたことを考えた事はねぇよ?」

折原「負の感情を抱いたのなら、結局は世界滅亡と言う結論に至りますよ。
   なぜなら地球上に居る物心ついた人間達は、少なからず負の感情を抱くからです」

垣根「つまり、地球上に居る人間全員が憎しみ合うぐらいなら、いっそのこと滅亡しちまった方が良いと、そういうわけか?」

折原「簡単に言ってしまうと、そういうことです」

垣根「トンデモ超理論だな」

折原「簡単に言うと、と言いました。詳しく言うと長くなるので、結構省いています」

垣根「どんなプレゼンされても、俺は揺るがねぇよ」

折原「ですから話しても無駄だと言ったのに。では、やりましょうか」

垣根「いやいや待ってくれ。やっぱおかしいだろ。お前にとって食蜂が大切なのは分かった。俺もだよ。
   俺にも『心理定規』っていう、わりとうざいけど大切な人がいて護りたいと思う、温かい感情がある。
   人間負の感情だけじゃなくて、正の感情だって抱いているんだぞ?お前らに、それを奪う権利があるのか?」

折原「っ……」

折原が黙った。垣根はたたみかけるように言葉を紡ぐ。

垣根「ないだろ?俺はお前のことを感情の無いロボットみたいな奴だと思っていたが、そうじゃないんだろ?
   お前はまだ、そこで悩んでくれる良心ある人間なんだろ?だったら分かる筈だ。
   この世界を滅亡させるなんて事は間違っていることぐらい。今ならまだ間に合う。やり直そうぜ」

我ながらキャラじゃないことをやっているな、と垣根は少し笑えてきた。
407 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 01:45:34.52 ID:mdUBX5eL0
折原「……無理ですよ」

しかし折原も簡単には折れない。でも見た感じ揺らいでいる。

垣根「無理じゃないさ。俺みたいなクズでもやり直せたんだ。
   お前がやり直せないわけがない。俺も協力するから」

折原「そうですか。では、世界滅亡に協力してください」

垣根「何でそうなるんだよ。世界滅亡させて何になるんだよ」

折原「世界滅亡の先がどうなるかなどどうでもいい事です。滅亡させることが大事なのですから」

垣根「……何たってお前は、そこまで強情なんだよ。どうしたら世界滅亡止めてくれる?」

折原「どうしたってやめませんよ。この世界は、滅亡するべきなのですから……」

垣根「そんなことないって。何度でも言ってやる。俺みたいなクズでもやり直せたんだ。
   この世界は、まだまだ捨てたものじゃ――」

折原「うるさいんですよ!この童貞野郎が!」

いきなり折原の感情が剥き出しになった。

折原「私の苦悩も知らないくせに、ゴチャゴチャ説教なんてしないでください!」

垣根に向かって手をかざす。攻撃の合図。
ただし先程とは違い、垣根だけでなく彼の周囲にも歪曲の渦を展開させる。
つまり、どこに跳ぼうが歪曲の力を受ける。

垣根(情緒不安定かよ……)

だから垣根は、自らの体を霊体化して歪曲の攻撃を通り抜けた。
しかし霊体化は能力を多大に消耗する為、諸刃の剣でもある。

折原「私だって頑張りましたよ!『置き去り』だった私は、実験で研究所をたらい回しにされて、死んだように生きて!」

歪曲のエネルギーを丸鋸状にして放つ。数は2個。

垣根「とりあえず落ち着けって!(あれなら霊体化せずとも普通に避けられるな……)」

霊体化を一旦解除して、丸鋸の歪曲エネルギーを避ける。
しかし避けた数秒後、その歪曲エネルギーが方向転換をして再び垣根に襲い掛かる。

垣根(追尾機能まであるのかよ……)

実は追尾機能はなく、放った攻撃を折原が操っているだけなのだが垣根には知る由もない。
追い討ちをかけるように、折原は歪曲の丸鋸をさらに4個放つ。

垣根(こうなったら――)

6枚の翼で、歪曲の丸鋸を受けて立った。ベギャア!と翼と歪曲は相殺だった。

折原「そんな中、食蜂様だけが私の苦悩を分かってくださった!
   私ごときを、食蜂様は心の中に留まらせてくれた!食蜂様は私に生きる意味を与えてくれた!」

直径30m、長さは100mの超巨大な歪曲の槍を生み出して放つ。

垣根(これは霊体化するしか……)

ゴッシャアアアアア!と歪曲の槍はあらゆるものを破壊したが、垣根だけは殺せなかった。

折原「この世界は食蜂様だけで良いんだよ!クソみたいな科学者達も!
   私を助けてくれなかった住人達も!テメェみてぇな粗チン野郎も!皆死んじまえばいい!」

右手から歪曲の竜巻を放つ。放ちながらそれを動かして、鞭のようにしならせる。

垣根(キャラ崩壊と言い、攻撃方法と言い、冗談だろ!?)

霊体化に頼る以外どうしようもない。ゴギャギャギャギャ!と周囲のもの何もかもを破壊していく。
当然そんな大規模攻撃10秒と持たなかったが、折原を中心に半径1kmを更地と化すのには、十分な時間だった。
408 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 01:49:03.19 ID:mdUBX5eL0
折原「はぁ、はぁ」

垣根「ふー、ふー」

両者とも肩で息をしていた。同時に能力も切れていた。

垣根「結局は、お前の恨みが本音じゃねぇか……」

折原「うるさいです……」

能力が切れて血が上った頭が少し冷やされたのか、折原の言葉遣いは元に戻りつつあった。

垣根「お前の気持ちはよく分かるよ。
   つーか暗部に堕ちた高位能力者なら、共感できる事だろうな……けどよ、俺らは這いあがったぞ。
   お前は所詮、自分の不幸な境遇に甘えているだけじゃねぇか」

折原「そんな事分かっていますよ。でも仕方ないじゃないですか。私は私なりに頑張りましたもん。
   それでも、私は誰にも認めてもらえなかった。その時、食蜂様が甘えさせてくれた。そして仰ってくれた。
   こんな腐った世の中、滅ぼしてしまおう。と」

大体、と折原は続けて、

折原「垣根様達は私よりちょっと精神が強くて運が良かっただけです。知ったような口を利かないでほしいですね」

垣根「そうかもな……じゃあさ、俺と友達になってくれよ」

折原「は?」

言っている意味が分からない。どういう風に考えていくと、そのような結論に至るのか。

垣根「だってそうだろ?お前は誰からも認めてもらえなかった。それが悔しかったんだろ?だったら、俺が認めてやるよ。
   だから、こんな事はもう止めよう」

垣根はゆっくりと歩き出して、折原に近付いて行く。

折原「……そんな事で、私が今更止まるとでも?」

垣根「そんな事だと?お前はそのそんな事のために、世界を滅ぼそうとしているんだろうが」

折原「くっ……」

折原は言葉を詰まらせる。垣根はなおも歩きながら語り続ける。

垣根「お前の言う通り、俺らは運が良かっただけかもしれない。俺達は団体で行動していたからな。
   仕事仲間にすぎなかったとは言え、人との繋がりはあった。でもお前は何らかの理由でそれすら無かったんだろう。
   たとえば、当時はそこまで強い能力者ではなく使いものにならなかったとか、かな」

折原「まるで私の成長を見守ってきたような言い草ですね」

垣根「当たっていたのか。まあ伊達に闇にいたわけじゃねぇからな。
   それで、食蜂がお前の苦悩にいち早く気付き、地獄の底から拾い上げてくれた。って感じなのかな」

折原「そうですよ仰るとおりですよ。そこまで分かっているのだから、私を止める理由などないでしょう」

垣根「何でそうなるかな。恨むのは勝手だけど、実行に移されたら困るっつーの。お前常盤台の生徒の割には頭悪いな」

折原「頭の良し悪しなど関係ありません。私はこの理不尽な世界を――」

垣根「だから!」

喰い気味に折原の発言を遮ってまで、垣根は続ける。

垣根「俺が友達になって、お前を認める。そして見せてやるよ。この世界には、まだまだ救いがあるってことをな」

折原の前に辿り着いた垣根は、彼女の頭に手を置いて撫でまわした。
409 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 01:50:49.42 ID:mdUBX5eL0
折原「……どうして?」

垣根「あ?」

折原「どうして私にそんな優しく出来るのですか……酷い事も言ったし、殺そうともしたのに……」

垣根「……友達だからだよ。それでいいだろ」

折原「私は、食蜂様のご命令に……従わなければいけないのに……」

うわぁぁぁぁんと、折原は泣きだした。

きっと折原の頭の中はぐちゃぐちゃだったのだろう。
彼女が食蜂を尊敬しているのも本当だろうし、世界を恨んでいるのも本当だったから野望に加担したが、
心のどこかでそんな事間違っているとも思っていたのだろう。
そうでなければ、自分の発言に一々揺らいだりはしない。それでも心を鬼にして食蜂に従った。
悩むぐらいなら、いっそのこと滅んでしまえばいいとも思ったのかもしれない。

垣根(待てよ……仮に俺の考えている事が正しければ、食蜂は何でコイツを放っておいたんだ?)

食蜂の能力を持ってすれば、表面上は協力の姿勢を見せていても、深層心理では反感を持っている場合も看破できる筈だ。
だとするのなら、反逆の可能性を少しでも摘むために(折原の場合は忠誠心と反感を比べても
忠誠心の方が勝っていたからかもしれないが)完全に洗脳するべきではないか。少なくとも自分ならそうすると思う。

垣根(一体食蜂の奴は何を――)

垣根の思考はそこで途切れた。
ずぅぅぅーん、という重低音が脳内に響いたかと思えば、体から力が抜けた。
垣根と折原は膝をつかざるを得なかった。
410 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 01:55:59.69 ID:mdUBX5eL0
垣根「これは一体……」

折原「やられました。あのクソアマ……」

と言った途端に、折原は完全に崩れ落ちた。

垣根「お、おい!」

体は相変わらず動かない為に、言葉だけで折原を呼び掛けるが反応は無かった。とその時、

東城「所詮は中学1年生か。豆腐メンタルも良いところね。簡単に諭されちゃって」

垣根の後ろに、東城瑠璃が立っていた。首すら動かない垣根は、そのまま尋ねる。

垣根「お前の仕業か?」

東城「何が?」

垣根「とぼけんな。コイツを昏倒させ、俺の体の自由を奪った事だ」

東城「ああそれね。まあそうね。だって垣根君が、私をないがしろにして綾香ごときに現をぬかしているから」

垣根「お前、その様子だと洗脳されてないな。何で食蜂なんかに協力している?」

東城「うーんと、結果的には協力していることになるのかもだけど、私はただ、自分がしたい事をしているだけだよ?」

垣根「何だと?」

東城「だってさ、一生って一度しかないんだよ?今この瞬間だって一度しかないんだよ?
   だったら、後悔しないように楽しい方を選択して生きて行くべきじゃない?」

垣根「世界滅亡が、楽しくて後悔しない選択をしていると言うのか?」

東城「そうは言ってないよ。さっきも言ったけど、それは結局であって、私は世界滅亡の為に動いている訳じゃなくて、
   自分の欲求に従って動いているだけだもの」

垣根「意味が分からねぇ」

東城「分からない?じゃあ分かりやすい言葉で言ってあげようか?
   私は垣根君の事が好き。この世界で誰よりも。私が今したい事。垣根君を手に入れる事だよ」

垣根「俺を手に入れるだと……」

東城「そうだよ」

垣根「こんな事はあまり言いたくないが、だとしたら何で食蜂サイドにいるんだよ?
   俺達サイドにつけば、好感度だって上がっていたかもしれないだろうが」

東城「それはあるけど、それじゃあ2人きりになれないじゃない?それにほら、操祈といたほうが何かと便利だし〜」

何だこの女は。狂っている。食蜂の野望に共感した訳でもなく(そんな奴いるのかは定かではないが)、
折原のように忠誠心でもなく、ただ自分が楽な、楽しそうな方を選択する。どんな事を天秤にかけても、決め手は自分主体。
至極当たり前と言えば当たり前だが、世界滅亡と天秤にかけても自分優先の考え方。

垣根「そんな事の為に……食蜂サイドについたと言うのか……」

東城「そんな事の為?心外な言い方だなぁ。大好きな垣根君を手に入れるためだもの。これぐらいのことはするよ」

垣根「お前、この戦いでどれだけの人達の思いが利用され、傷つけられたと思ってんだ!
   俺を手に入れるなどと訳の分からない事をほざきやがって……」

東城「何を怒っているの?垣根君のキャラじゃないよ?
   それに私はここまで何もしていない、やったことと言えば綾香を気絶させて、垣根君の動きを止めたぐらいだよ?」

駄目だ。この女は本当に会話にならない。ただいくつか疑問がある。

垣根「だったら、俺のピンチ時はどうなんだよ。
   仮面20人とか、女どもとか、木原幻生あたりは雑魚だったが、那由他とか、蛇女とか、コイツとか。何で助けに来なかった?」

東城「それはねぇ、信じていたからだよ。垣根君が言った通り雑魚は雑魚だし、
   蛇女は綾香が仕留めるって言ってくれたし、私は出ずっぱるほどでもないかなー、って思って」

垣根「那由他とコイツの説明がなってないぞ」

東城「だから信じていたって言っているでしょ。あそこからでも那由他に勝てると思っていたし、
   綾香はいざとなったら私が止めるつもりでいたもの。それに結局垣根君は勝利した訳だしね」

垣根(とりあえずこの女が狂っている事は分かった)

だがこの状況、はっきり言ってどうしようもない。何かこの状況を打破する方法はないのか。
411 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 01:57:29.32 ID:mdUBX5eL0
東城「かーきねくんっ♪」

悩んでいる垣根をよそに、長点上機の冬服を着用した東城が、彼の前に出て視線を合わせるためにしゃがんだ。
彼の前に倒れている折原を、当然のように踏みつけながら。

垣根「おいテメェ……!」

東城「うん?なぁーに?」

垣根「なぁーにじゃねぇよ。その女から足をどきやがれ……!」

東城「あっ、いっけなーい。こんなところに人間いたんだ。
   私ったらドジなんだからーっ。てへっ。障害物は避けないとね」

言うと東城は、一旦立ち上がって折原の脇腹を蹴飛ばした。そして再びしゃがむ。

東城「ほら、私ってさ、1つのモノに夢中になると周り見えなくなるタイプだから」

垣根(この女……)

発言と言い行動と言い、狂っているどころの騒ぎじゃない。イってしまっている。
頭のネジが100本は飛んでしまっている。

東城「これから2人で楽しいコトしようね。まずは接吻から……」

垣根「ふざけんな」

ぺっ、と垣根が吐いた唾は、見事に東城の顔面にヒットした。
これで少しは何かが変わるだろうと垣根は思ったが、東城は彼の予想を超えていく。
東城は顔面についた唾を滑らかな動きの人差し指で拭いとり、舐めながら、

東城「あはっ♡垣根君の唾おいしい♡でも唾液交換なら接吻でも出来るから、そんなことしなくてもいいんだよ?」

垣根(冗談だろ……)

色々ツッコみたいが、あまりの狂気を前に一種の恐怖すら感じる。この女といれば、こちらまで狂ってしまう。

東城「じゃあそろそろ……」

垣根(誰か……助けてくれ……)

我ながら情けない。肉体的でなく精神的に追い詰められてしまうとは。とにもかくにも、このままだとヤバい。
それでもどうしようもないから、垣根は目を閉じた。接吻の為でなく諦めの意味で。
そして2人の唇が重なり合うまであと数cmというところで、

一陣の風が、東城だけを吹き飛ばした。
412 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 01:59:12.58 ID:mdUBX5eL0
東城「いったーい」

垣根(え?)

訳が分からないが、垣根は目を開けて東城の声のする方を見る。
彼女はお尻を撫でながら、ゆっくりと立ち上がるところだった。

垣根「一体何が……」

東城「人の恋路を邪魔する奴は、どうなるか分かっているのかな?」

何だ?東城は何を言っている?と戸惑う垣根の横に、折原を抱えている霧ヶ丘の冬服を纏った女子が立っていた。

風斬「人の恋路って、この男性は嫌がっているじゃないですか。
   そんな一方通行な気持ちの押し付けを邪魔して何がいけないんですか」

東城「知ったような口を利かないでくれる?これは私と垣根君の問題なの」

垣根「ちょっと待て。話が進んでいるようだけども、お前は誰だ?」

風斬「私は風斬氷華です。あなたの味方ですから安心してください」

突然現れた彼女の詳細を垣根は知らない。
だが事実として折原を抱えてくれているし、状況や東城の発言から鑑みるに、この少女が東城の魔の手から助けてくれたのだろう。
どの道体の自由が利かない垣根は、彼女に頼るしかなかった。

垣根「……そうか。じゃあ、あの女を任せてもいいか?」

風斬「はい。できることはするつもりです」

垣根「分かった。そのチビは俺に任せろ」

風斬「はい」

東城「潰す」

垣根が折原を預かり、復活の風斬が戦闘態勢に入る。
東城もどこからともなく出した神楽笛を唇にあてる。
413 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 02:02:47.49 ID:mdUBX5eL0
土御門「さて、何から知りたい?」

一方通行「オマエが正気な理由から教えろ」

土御門「俺が正気な理由か。それは簡単。俺の義妹、舞夏が人質に取られた時点で洗脳を解かれたのさ。2日前の話だ」

一方通行「何でだ?別に洗脳は持続していた方が良いンじゃねェのか?
     わざわざ解除する理由は何だ?つーかさっき会った時、何で敵のように振る舞った?」

土御門「詳しい事は分からないが、おそらく性格の問題だろう。
    あえて俺を泳がせているんだよ。裏切るのも想定内でな。
    敵のように振る舞ったつもりはないけどにゃー。あの時はまだ舞夏を回収していなかったから。
    で、回収完了したから、堂々とここにきたわけだ」

相変わらず適当な奴だ、と一方通行は結論付けて次の質問に移る。

一方通行「じゃあこの状況は一体何なンだ。ゴチャゴチャすぎてよくわかんねェが」

土御門「そうだな。途中からこっちに来た一方通行は分からないか。そこに長い銀髪いるだろ?
    篠宮って言うんだけど、そいつが勝手に、フィアンマ、ヴェント、結標、絹旗、削板、白井その他諸々がいる
    この病院を襲撃した事が事の始まり。今挙げた人物は篠宮がどうしようとどうでもよかったのに、
    そこの青髪ピアス君が彼女である結標淡希ちゃんが傷つけられたのに激昂して、ここにきたわけよ」

篠宮「ったく、彼女傷つけられたぐらいで憤るなんて心狭いよな」

全く悪びれる様子がない篠宮を、青髪は無言で睨みつける。

土御門「で、篠宮をぶっ潰そうとやってきた青髪を粛清しようと、そこにいる緑髪の橘絵梨(たちばなえり)ちゃんと、
    真っ赤な髪の毛の不知火煉児(しらぬいれんじ)君がやってきたわけ。そして俺はそんな馬鹿どもを全員粛清しに来たわけ。
    オーケー?」

不知火「オイオイ土御門君よぉ。ぶっ潰されてーんですかぁ!?」

一方通行が返答する前に、ご立腹の不知火が掌から青い炎を灯らせる。

橘「まあまあ落ち着きなさいよ。元春君には何も出来ないわよ」

確かに、と一方通行は思う。彼は元々レベル0の雑魚だったはず。
敢えて能力を失って魔術師として復活したとのたまっているが、それでもここにいる篠宮、そしてその篠宮を
粛清しようとする青髪、さらにそんな青髪を粛清しようとする不知火、橘に勝てるとは到底思えない。

土御門「そう思うのも無理ないな。俺は魔術師として返り咲いてから一度も戦闘をしていない。
    俺の実力を知らないのは当然だ。だから言っとくぞ。俺は垣根帝督より強い」

その場に居る全員が口裏を合わせている訳でもないのに「はぁ?」と漏らした。
だが土御門の顔は至って真面目だ。ハッタリとは思えないほどに。

不知火「オメーが垣根より上ってありえねーだろ。頭おかしーんじゃねーの?」

土御門「俺は『発火能力者』なのに、不知火、つまり火を知らず、のお前の名字の方がチャンチャラおかしいと思うがね」

不知火「何だと!」

橘「落ち着きなさいよ」

篠宮「まあそれは土御門の言う通りだな」

不知火「オメーから潰すか篠宮ぁ!」

篠宮「俺は一向に構わないぜ?」

橘「うまくのせられているんじゃないわよ。私達で争ってどうするの」

不知火「ちっ!」

篠宮「俺は乗せられている事を理解していて、受けて立っても良いって言っているんだけどな」

橘「煽りはよしなさいって」

もう少しで仲間割れと言うところで、橘がうまく丸めこんだ。
414 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 02:04:51.10 ID:mdUBX5eL0
篠宮「そもそも、垣根より上かどうかが真実かどうかにかかわらずよー、一方通行より上の俺よりは、どっち道弱いじゃねーか」

青ピ「そうやな。それに4対1じゃいくら垣根君より強いとしても、勝ちの目は無いんやないの?」

不知火「何で4対1なんだよ。3対1対1だろーが」

橘「私、煉児君、嵐君の連合に、大河君、元春君と言う縮図ね」

青ピ「ああ、そうやな」

土御門「違うな。3対3だ」

不知火「3対3!?何を言ってやがる!?
    もしかして使い物にならない一方通行と敵である青葉を味方に引き込むとかかぁ!?」

土御門「半分は正解で半分は間違いだ。まあ答えはいずれ分かるとして、青髪、一旦仲間になれ。
    断れば、この魔道書を破壊する」

青ピ「それが何になると言うんや?勝手に破壊すれば――」

土御門「本当に良いのか?魔道書を破壊すれば、中の結標も死ぬことになるぞ」

青ピ「――!」

一方通行(そうか。その手があったか)

十中八九ハッタリだろう。
魔道書を破壊すれば中のモノも壊れるのは事実だが、それは収納していた時のみ。
転送が完了していれば、壊れるのは魔道書だけだ。
たとえ自分達の会話を盗聴していて、魔道書の情報を知っていたとしても、
今現在の魔道書の中がどうなっているかを窺い知る事は出来ない。
土御門は元暗部であり、やる時はやる男だ。たとえ元同僚であろうと、親友の彼女であろうと、利用するときは利用する。
それらを加味すると、青髪は土御門に逆らう事は出来ない。

青ピ「分かった……」

土御門「そんな深刻な顔すんなって。お前を粛清しようとするやつらを一緒に倒すだけなんだから」

青ピ「せやな……」

橘「でもでも、それだと3対2じゃない?
  半分正解っていうのは大河君の事だとして、半分不正解な訳だから、一方通行を使う訳じゃないでしょうし」

土御門「一方通行、反射切っとけよ」

橘などまるで無視して、一方通行に忠告した。

不知火「なんだなんだぁ!?3対2でやっちゃっていいんですかぁ!?」

うるせェなと思いつつ、一方通行は反射を切った。その直後だった。
左手に御坂を抱えた上条当麻が一方通行の隣に着地し、右手で拾い上げて跳び、土御門の隣に着地した。
415 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 02:06:51.72 ID:mdUBX5eL0
土御門「これで3対3だ」

一方通行「おい待て。何でオマエは当然のように土御門の隣に立つ?」

抱えられている一方通行は、上条に尋ねる。

上条「実はさっき土御門と会っていてさ。その時に洗脳されてない事は看破していたんだけど、土御門が口止めするからさ」

一方通行「どうして看破出来た?」

上条「『竜王』の力。説明は面倒くさいから省く」

一方通行「はァ?そンなンで――」

土御門「はいはい。お前はもう退場だ」

言いながら魔道書を開き、一方通行と御坂を回収した。
そして三馬鹿(デルタフォース)の集結。

土御門「さて、カミやんはあの銀髪を、青髪は不知火を頼む。俺は橘をやる」

上条「オーケー」

青ピ「仕方ないな」

篠宮「悪いけど、こちとらヒーローに花持たせるほど人間出来てないんでね」

橘「元春君か。退屈しそう」

不知火「順位的には俺の方が下だが、それも今日までだ。潰させてもらうぜ」

不知火が両手に炎を灯らせ、青髪が水を渦巻かせ、橘がスケッチブックをめくり、土御門が背中から紅蓮の翼を生やし、篠宮が刀を握り、上条が構える。
戦いもいよいよ終盤へ。
416 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/02/02(木) 02:11:47.34 ID:mdUBX5eL0
ここまでと言う事で。妄想全開のオリキャラもこれで全てですので、どうかご容赦ください。
次回投下はいつになるかは分かりませんが、目標としては明日か明後日、それで完結させたいと思っています
417 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛媛県) [sage]:2012/02/25(土) 22:11:14.09 ID:cQzFUcHk0
まだー?
418 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/02/26(日) 02:54:58.75 ID:03dkcz/DO
畜生ッ!!レイプシーンを見たかった!!
419 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/02(金) 07:57:05.56 ID:lMclhEzIO
オリキャラ無双始まって気持ち悪さに一気に冷めたわ。
420 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2012/03/14(水) 12:28:08.64 ID:0hGl3lNF0
>>1です
>>416で目標としては、と保険をかけておいたとは言え、1ヶ月以上放置してしまってすいません
別に多忙と言う訳ではないのですが、スレ建てておいて言うのもあれですが、モチベーションが維持できなくて……
構想と言うか、展開とか終わらせ方とかは頭の中にはあるのですが、なかなか文に出来ずに3月の中旬になってしまいました。

まだ終わりまで書ききっていないのですが、これ以上放置も忍びないので、少しだけ投下します
421 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2012/03/14(水) 12:29:16.57 ID:0hGl3lNF0
土御門「ここで戦えば、カミやんと篠宮の戦いに巻き込まれてお陀仏だ。俺と橘、青髪と不知火は移動するべきだ」

青ピ「僕は構へんけど……」

不知火「俺も良いぜ」

橘「構わないわ」

土御門「じゃあいくぞ」

青髪が水の竜の乗り、不知火は両手両足から炎を噴射してロケットのように飛び、
橘はスケッチブックから鷹を召喚してそれに乗り、土御門は紅蓮の翼をはためかせ移動していった。

上条「これで存分に戦えるな」

篠宮「そうだな。俺も本気出すかな」

周囲の地面がへこみ、篠宮の体に甲冑が着用される。
顔も完全防備で、まるでグレゴリオの聖歌隊のような容貌になった。

上条「よく分からねーけど、すごい能力だな」

篠宮「今までの雑魚とは格が違うぜ」

上条「それでも負けないけどな」

ゴッ!と同時に地面を蹴った。
422 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2012/03/14(水) 12:30:43.64 ID:0hGl3lNF0
土御門と橘は、工芸や美術関連の学校が集まる第9学区の、とある学校の屋上に移動してきていた。
橘は鷹を、土御門は紅蓮の翼を消失させつつ、

土御門「知っているか?公園で似顔絵描きをお願いすると、モデル事務所からスカウトされるらしいぞ」

橘「あら、元春君ったら、都市伝説とか信じるクチなの?」

土御門「いや別に。ただ女の子はそう言うの好きだろ?」

橘「どうかしらね。少なくとも私はそんな事無いけど」

土御門「マジかにゃー。女子との会話のネタのために頑張って覚えたのに……」

橘「そんなことしなくても、元春君割とイケていると思うけど」

土御門「マジで!?それ、お世辞じゃないよな?」

橘「私、冗談は言わないわよ。けど勘違いしてほしくないのは『割と』ってところ。
  凄くイケメンだとか言っている訳じゃないからね」

土御門「はぁー。なんでそう念を押すかな」

橘「さて、無駄な会話はこれでお終い。そろそろ始めましょ」

そう言うとスケッチブックを開いて、大量の狼を召喚した。

土御門「あーらら。可愛い橘さんともっとお話ししたかったのに」

橘「お世辞がうまいのね。けど私、嘘つきって嫌い。だからブチのめすね」

土御門「お世辞じゃないにゃー。可愛いって言うのは本音。
    そうじゃなけりゃ、こんな無駄な会話はせずにさっさとドンパチやるさ」

橘「ふーん。まあ良いわ。死んで頂戴」

まずは20匹ほどの狼が土御門に向かい、襲い掛かった。
423 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2012/03/14(水) 12:32:46.34 ID:0hGl3lNF0
風斬氷華。
通称『正体不明』(カウンターストップ)の彼女は、AIM拡散力場の塊であり一時的に消滅する事はあっても、基本的に死ぬ事はなく再生する。
だがそれは、

東城「アハハハハハ!」

風斬「ああ!」

神楽笛から奏でられた音色が、風斬を吹き飛ばした。

垣根「大丈夫か!」

風斬(私の今の状態を見ても、何も言ってこない……?)

吹き飛ばされた風斬は、右腕と左脚がもげて再生している途中だった。
そんな光景を見れば、普通の人間なら動揺するものだ。
にもかかわらず、垣根は普通に心配してくれている。

風斬「あの、私――」

垣根「次の攻撃が来るぞ!」

垣根が注意を喚起した時には、追い討ちの轟音が風斬の四肢を千切り飛ばした。

風斬「あ、ああ……」

東城「うふふふ。こんなものじゃすませないよ。私と垣根君の触れ合いを邪魔した、愚行の代償はね」

垣根「ふざけんな!何調子に乗ってやがる!」

東城「なぁーにアツくなっているの垣根君。この女の事知らないでしょ?」

風斬「やめて……言わないで……」

東城「この女は人間ではないの。AIM拡散力場の塊でしかない化け者なのよ!」

風斬の制止など当然振り切り、事実を言い放った。
いずれバレることだし(と言うより先程の再生でバレているかもしれないが)、
今はこの体にも多少の誇りはあるが、そんな風な言われ方をするとやはり傷つく。
少なくとも垣根は快く思わないだろう。そう風斬は考えていたが、

垣根「だからどうした。人間かどうかなんて問題あるか。その女は俺を助けてくれた。お前みたいなクズより千倍マシだ」

東城「そっか。この化け物が垣根君を惑わしているんだね」

垣根「どういう飛躍したら、そう言う結論に至るんだよ」

風斬を助けたいが、体は依然動かない。
424 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2012/03/14(水) 12:34:17.01 ID:0hGl3lNF0
東城「まあいいわ。AIM拡散力場の塊で再生するってことは、何度でも痛めつけられるってコトだもんね」

垣根(このアマ、なんて残酷な……)

キィィィン!と不快な音色が響く。
四肢が再生して立ち上がったばかりの風斬の両手両足がまたしても千切れ飛んだ。

東城「まだよ」

神楽笛から奏でられた音色で、胴体だけになった風斬が電柱まで吹き飛ばされる。
電柱に激突した風斬は、息つく暇もなく爆発の炎に包まれた。

垣根(何だ今のは――)

音による空気の振動によって吹き飛ばす、鋭い空気の流れによって切り裂く事はまだ理解できる。
だが爆発と言うのは一体どういう原理か。

東城「凄いでしょ垣根君。音波で固有振動数の合う物質を爆破する事が出来るんだ。
   と言っても金属物質だけで、人体を直接爆破することは出来ないけどね」

垣根(なるほどね……)

風斬「あ、ああ……」

炎の中から、両腕は再生したものの両脚は依然無い風斬が飛び出した。

東城「アハハハハハ!たーのしい♪」

垣根「風だ!風で攻撃しろ!最初の一撃みたいに!」

風斬「わ……かり――」

東城「そんなことさせるわけなーいじゃーん」

這いつくばる風斬に容赦なく空気の振動を叩きつける。
上半身だけの彼女は別の電柱に叩きつけられ、音波による電柱の爆発の炎に包まれた。

垣根(くっそ!何か……何か手はないのかよ……!)

こうして風斬がただただ虐げられるのを、指を咥えて見ているしかないのか。
425 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2012/03/14(水) 12:35:29.50 ID:0hGl3lNF0
折原「(私に、任せてください)」

垣根の腕の中の折原が、力強い眼差しで囁くように呟いた。

垣根「(お前……)」

折原「(チャンスは一度だけですが、笛を破壊するだけなら何とか)」

垣根「(任せて、いいのか?)」

折原「(はい)」

座標攻撃を正確に叩きこむには、目で見る必要がある。
だが今の折原からでは、垣根が邪魔になって東城の位置が見えない。
どうにかして見える位置に東城を移動させる必要がある。

折原「(お願いできますか垣根様)」

垣根「(ま、やるしかないな……)」

垣根は意を決し、

垣根「おーい東城、お前の可愛い顔をもっと近くで見たい。ちょっとこっちに来てくれないか?」

東城「いくいく♪」

ルンルンという効果音が似合いそうなスキップで垣根に近付いて行く。

垣根「後ろ向いたままだと首が疲れるから、お前が回り込んでくれよ」

東城「うん分かった♡」

東城は特に警戒する様子もなく素直に垣根に従い回り込み、彼の目の前でしゃがみこむ。

垣根(今だ!)

トン、と人差し指で合図を送る。
それを受けて、ぐったりとして気絶しているフリをしていた折原は東城に向き直し『歪曲』を放ち、

ぐしゃり、と神楽笛は破壊された。
426 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2012/03/14(水) 12:37:20.11 ID:0hGl3lNF0
折原「やりました!」

思わず歓喜の声を上げる折原に、

垣根「は?」

何事だ!?というニュアンスの垣根。

折原「え?」

垣根「お前、気付いていたのか?」

折原「え?……まさか、しまっ――」

折原の言葉を遮るように、神楽笛からの音色。
直後、垣根の腕の中の折原が活きの良い魚のようにのたうち回った。

垣根「お、おい!どうした!?」

のたうち回った時間はわずか3秒。
しかし動きが止まった折原の顔面は腫れあがり、短い常盤台のスカートから覗かせる脚には、青痣が出来ていた。

東城「私の能力『轟音旋律』(スコアノート)は、空気の振動による攻撃もあるけど、真骨頂は音による幻術なの。
   綾香はね、幻を見ていたの。それだけじゃなくて」

垣根「催眠効果もある、だろ?」

東城「せーいかい。よく分かったね」

垣根「俺の体が動かない理由は、それしかないだろうからな。けど、1つだけ納得のいかない事がある」

東城「綾香の顔が腫れあがっている理由かしら?」

垣根「そうだ。のたうち回させるだけならお前の音で出来るだろうが……」

東城「簡単な話よ。脳に直接『命令』を与えたの。今の私は、垣根君と綾香の五感を操作できる」

垣根「……まさか、コイツの顔が腫れあがっているのは――」

東城「そう。脳に『ギッタギタに殴られる感覚』を与えれば、体はそれに準じようとする。
   なぜなら、人間は体で痛みを感じるのではなく、脳が感じた痛みを体に伝えているから」

垣根「そんな事が、本当に……」

東城「現実、出来ているでしょ?これがまあ、他の洗脳系能力者は案外出来ないのよね。
   さて、綾香の方はそろそろ止めを刺しておきましょうか」

垣根「待て!そんな事をしたら、俺はお前を嫌いになるぞ!」

苦肉の策だった。本当はこの女に媚びたくはないが、風斬も折原も救うにはこれしかない。

東城「何で?何でそんな事言うの?私はこんなに、こんなにも垣根君を愛しているのにー!」

ヒステリックに叫ぶ東城は、叫ぶだけで折原に追撃のごとく脳に命令はしなかった。
まだ辛うじて理性は残っている。何とかなる。
427 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2012/03/14(水) 12:38:33.96 ID:0hGl3lNF0
垣根「落ち着け!落ち着いたら、俺はお前の好感度上がるぞ!」

東城「え?そ、そう?なら、少し黙る……」

垣根(い、意外と素直と言うか、単純と言うか……)

いや、これは油断させる為の罠なのかもしれない。
と言っても、この動けない状況の自分に罠を仕掛けるメリットが見当たらないが。

垣根「よーしその調子だ。これで俺達サイドに寝返ってくれれば、俺もうお前の事大好きになっちゃうなー」

嘘である。

東城「わ、分かった。じゃ、じゃあ、証拠の接吻……」

垣根(そう来たか!)

それは嫌だ。口で言うだけでも辛いのに、キスは無理だ。
さっきの指を唾でなめる行為で完全に引いた。

垣根「そ、それはちょっと、頭なでてやるから……」

東城「それじゃイヤ。接吻じゃないと要求は飲み込めない」

垣根(我儘ばっか言いやがって〜)

と、その時だった。
ゴバァッ!と、光と轟音が風斬の方から噴き出した。

垣根(何だ!?)

東城「はぁ。役に立たないのねアイツら。少しだけ時間をちょうだい垣根君。
   やっぱあの化け物消滅させてからじゃないと接吻は出来ない」

頭上には白い輪、背中には翼を携えた風斬が立っていた。
428 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2012/03/14(水) 12:40:16.04 ID:0hGl3lNF0
土御門「しょっぱい攻撃だにゃー」

襲い掛かった20匹もの狼は、しかし土御門が掌から放った炎により一瞬で蒸発した。

土御門「『仮想塗料』(バーチャルペイント)。描いたモノを三次元に引っ張り出す能力。
    しかも液体(インク)で出来ているから、物理攻撃ではお前の描き出したモノを破壊する事は出来ない。
    だが火炎系攻撃であっさり蒸発するという弱点を持つ」

橘「私の能力は把握済みってわけね。いやらしいったらありゃしないわ」

土御門「こう見えても多重スパイだったりしたからな。情報収集能力には自信があってね。さて、すぐに決めるぞ」

右拳に炎を纏わせながら、橘に向かって駆け出す。
当然彼女は、残りの狼を土御門に襲い掛からせるが、左手から放たれた炎により蒸発させられた。

土御門「終わりだ」

橘まであと5歩。ガード目的で『何か』を出されても炎の拳はそれを貫ける。
もちろん、それは橘にも分かっているはずだ。
その状況下で、橘は微笑んで、

橘「残念でした」

スケッチブックから召喚された土御門舞夏が、彼の前に立ち塞がった。

土御門「んな!?」

ギリギリで炎の拳が止まった。

橘「偽物だって分かっていても攻撃できないなんてね。まあ狙ってやった私が言う事でもないかしら。
  さようなら。極度のシスコンさん」

舞夏の形をしたインクは、腕の部分を鋭い刃に変形させる。
そしてあまりにもあっさりと、土御門元春の胸部を貫いた。
429 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2012/03/14(水) 12:41:16.72 ID:0hGl3lNF0
橘「だから元春君はつまらないのよね。硬派な男気取って、実際はただのシスコンだし」

まあ、魔術とやらで出した炎の威力は確かにすごかったけど。
と心の中で、ほんの少しだけ土御門を称賛して踵を返そうとした時だった。

バヂィ!と首筋に鋭い痛みが走り、地面へ崩れ落ちた。

橘「な、んで……」

言葉を発した時には、スケッチブックは燃やされていた。
でもそんなことはもうどうでもいい。今は知りたい。

橘「何で……無事なのかしら元春君……」

土御門が生きている理由を。

土御門「簡単な事さ。あのインクが貫いたのは式神。まあ偽物ってことだ。
    その偽物を潰して浮かれているお前を後ろから襲撃した。それだけの話さ」

それだけ言って、土御門は魔道書をかざして橘を回収した。

土御門「さて、援護に行きますか」
430 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) :2012/03/14(水) 12:42:19.21 ID:0hGl3lNF0
垣根「その姿は……」

風斬「分からないです……でも『護りたい』って強く願ったら、こんなことに……」

東城「黙れ!私の垣根君と馴れ馴れしく会話しないでよ!」

神楽笛から奏でられる音色が、衝撃波となって風斬に向かう。

風斬「その程度、今の私には通用しません!」

風斬も白い翼をはためかせる。轟!と烈風が吹き荒れ、衝撃波を相殺した。
さらに返す刀で、翼から大量の羽毛を飛ばして攻撃する。

東城「小賢しい!」

神楽笛から奏でられた音色が、羽毛全てをあっさりと弾いた。

風斬(やっぱり、あんな小細工程度の攻撃じゃ駄目!)

決意の風斬は、猛スピードで東城へ突進して行く。
しかし、彼女まであと1mとうところで、音色の衝撃波に弾き飛ばされた。

東城「威力と速度だけは上がったようだけど〜、まだ私には届かないかな?」

煽る東城の言葉など、風斬には聞こえていなかった。
確かな手応えがあったからだ。

風斬(今までは、ただ一方的にやられて再生しての繰り返しだったけど、今は違う。
   攻撃を相殺出来てダメージも少ない。互角に戦える!)

相手に暇を与えなければ何とかなる。風斬は再び突進して行く。
431 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2012/03/14(水) 12:43:29.59 ID:0hGl3lNF0
風斬の感じた事は正しい。間違いなく一方的ではなくなったし互角に戦えている。
だが所詮はまだ互角。決して優位になったわけではないし、ダメージも与えていない。

風斬「ああ!」

もう何度目だろうか。突進から衝撃波で弾かれるの流れを繰り返したのは。

垣根(互角に戦えている。互角に戦えてはいるが……)

再生する風斬と能力を消耗して行く東城。冷静に考えれば、ジリ貧なのは東城の方だ。
だがそうだとしてもこの戦い、いつまで続くのだろうか。

今のところは東城に消耗している様子はない。そりゃそうだ。
彼女は今まで、能力を大量に消耗するような行為は一度もしていないだろうから。
まだまだ余力があります。というのがありありと伝わってくる。

対して風斬はどうだろう。
今でこそ消滅するどころか進化しているが、AIM拡散力場の塊なんて不安定そうな存在、いつ消滅してもおかしくないのではないか。

垣根(持久戦は、あまりにも不確定要素が多すぎる……)

あと少し。あと少しで風斬の攻撃は届く。
一撃でも決まれば、東城を間違いなくノックアウトできるのに。
逆に言えば、あと少し。あと少しがどうしても届かない。

垣根(……何だ。答えはもう出ているじゃねぇか)

あと少しの時間を、自分で作り出せばいい。
この際、こちらもわがままを言っていられない。

垣根「東城!」

東城「なーに垣根君♡」

ああ、相変わらず余裕そうだなと思いつつも、

垣根「ちょっとこっち来い!抱きしめてやるから」

東城・風斬「「え?」」

動揺した2人は、思わず動きを止めていた。
432 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2012/03/14(水) 12:45:20.19 ID:0hGl3lNF0
東城「――って、それじゃあ私が笛を吹けなくなって終わりじゃん」

風斬「あ、そうか」

垣根「そこ、妙に納得しない。いいか。俺は本気だ。
   よくよく考えたら、こんなお子様後生大事に抱えて、あんな地味眼鏡女に護られるなんて、俺のプライドが許さねぇ」

風斬「な、何を……」

垣根「『心理定規』なんていう女も、うざいだけだし。
   やっぱ東城みたいな、超絶美人と付き合った方が人生楽しそうだしな」

東城「やっと、やっとわかってくれたんだね垣根君!じゃあ綾香どけてよ。邪魔だから」

垣根「そうだな。こんな粗大ゴミ」

自由の利かない垣根の体も、腕だけは少し動く。
彼は何の躊躇もなく折原を捨て置いた。

風斬「な、何で……」

垣根「なーんかアホらしくなってきてさ。東城と付き合えば俺は楽しいし、東城も楽しいだろうし。これで誰か損するか?」

東城「損しない!垣根君スゴい!」

衝撃のあまり立ち尽くすしかない風斬をよそに、垣根と東城の会話は続く。

垣根「それよりか早く催眠を解いて俺を自由にしてくれ」

東城「それはさすがに無理だよ。抱きしめあっていたら、あの化け物に一緒に倒されちゃう。
   抱擁なら後でいくらでも出来るから、今はあの化け物を倒さなきゃ」

垣根「ばーか。あの女を倒さなきゃいけないから、催眠を解けって言っているんだ。共闘した方が早いだろ」

東城「そっか!垣根君頭いいね!」

垣根「まあな。そういうことだから、早く催眠を解除してくれ」

東城「うん分かった!」

神楽笛を口に当てて、短く音を奏でる。
直後、垣根がグルグル腕を回しながら、

垣根「おっしゃ。覚悟しろよクソアマ」

風斬「う……そ……」

トントン拍子で孤独になってしまった風斬は、絶望のあまり体を動かすどころか、息をすることすら忘れかけていた。

東城「あれ?何その悲しそうな顔は?ただの化け物のくせに感情なんてあるの?」

言葉責めはこれだけに止まらず、

東城「大体さ、何で見ず知らずの垣根君を助けたわけ?
   あなたが垣根君を助けることによって、あなたに何かメリットがあるの?
   ねぇ、何で?どうして助けちゃったの?」

風斬「そ……れは……」

言われてみれば、どうして助けたのだろう?
上条当麻を助けてから、あっさりと倒され一時的に消滅していたが、追い詰められている垣根を見つけた時には顕現出来ていた。
あの時自分は何を思っただろう。

同情?
違う。
助ける自分に酔いたかったから?
違う。
感謝されたかったから?
違う。

じゃあ何で?
自問自答する風斬に、答えは導き出せなかった。
433 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2012/03/14(水) 12:46:54.65 ID:0hGl3lNF0
東城「答えられない、か。まあどうでもいいけどね。ただ、どうしようもなく哀れだよね。
   だって助けた垣根君に倒されちゃうんだもの。助けた人に裏切られるって、これ以上の皮肉ってないよね〜」

アハハハハ!と狂ったように笑う東城に風斬は何の反論も出来ず、ついには泣きだした。

東城「え?何?泣いているの?人間じゃないくせに!?アハハ!ばっかみたーい!」

風斬は地面にへたり込み、両手で顔を覆った。
言い返せない自分が情けないやら悔しいやらで、戦意を喪失していた。

東城「じゃあ、そういうことでサヨナラ」

どこまでも冷酷な東城は、戦意がない風斬を完全に消滅させる為に神楽笛を唇に当てて、

東城「げっ!」

風斬「え?」

東城の素っ頓狂な声に、思わず彼女の方を見る。
地面を転がっている笛に、うつ伏せに倒れている東城。
それを見下す垣根と言う光景が広がっていた。

風斬「な……にが……」

目の前の状況に、最初は意味が分からなかった。
けれど垣根が神楽笛を拾い上げへし折ったところで、合点がいった。

東城の立っていたところに、転んでしまうような段差はない。
というより、笛を吹こうとしていただけで歩いてすらいないのだから、転ぶ訳がない。
にもかかわらず、東城は倒れていた。そう考えると答えは1つしかない。

垣根が彼女の後ろから殴るか蹴るなどして転ばせた。
その拍子に笛は彼女の手から離れ、転がってしまったのだろう。

となると、垣根は初めから自分にチャンスをもたらすために、裏切るフリをしていたのではないか。

この風斬の推測に対する答えはすぐに出た。

垣根「多分、このクソアマの能力は笛さえ奪えば終わりだ。
   残念ながら俺はまだ能力を使えねぇ。だからお前が決めろ」

折原を拾い抱えながら言った。

風斬「……はい!」

力強く返事をする風斬の頭上に光が集まり槍を象る。

東城「嘘……だよね垣根君……?」

涙目上目遣いで泣き落とすように垣根に尋ねるが、

垣根「何が?」

容赦なく切り捨てた。

東城「う、そ、だああああああああああああああああああああああ!」

垣根「やっちまえ!」

風斬「はい!」

東城の断末魔の叫びとともに、光の槍が発射された。
笛を失った彼女は、何もできず槍に貫かれ意識を失った。
434 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2012/03/14(水) 12:48:34.39 ID:0hGl3lNF0
垣根「騙していて悪かったな。まあ敵を欺くにはまず味方からって言うし、仕方がなかったんだ」

風斬「本当ですよ……私それでどれだけ絶望したことか……」

垣根「けど泣く事はねぇだろ。あんなクソアマの戯言でよ」

風斬「それは、その、本当に、何であなたを助けたのか、自分でも分からなくなって……」

垣根「……それで、反論できない悔しさも相まってつい泣いてしまった的な?」

風斬「はい……」

風斬が申し訳なさそうに返事をすると、垣根は「はぁ……」と溜息を吐いた。
どう答えれば良いか分からない。というものではなく『そんな事で泣いていたのか』という呆れの意味で。

それを何となく感じ取った風斬は、申し訳なさそうに尋ねる。

風斬「あの、私が泣いたのって、そんなに変ですか?」

垣根「変だよ。物凄く変だ。だって、理由なんていらねぇだろ?
   人が人を憎むのには何かしらの理由があるだろうが、人が人を助けることには理由なんていらない。
   そんな簡単な事も分からないで泣いていたお前は、滑稽と言っても良いぐらいだ」

風斬(そっか。そうですよね――)

こんな事に気付かないなんて。確かにちょっと馬鹿だったかもしれない。けれど、

風斬「滑稽は言い過ぎだと思います……」

小さい声で言い返す風斬に、垣根は微笑みながら、

垣根「そうだったか。まあ、いいじゃねぇか。こうやって勝てたんだから」

風斬「そう、ですね……」

垣根「あとの大きな問題は食蜂だな。このチビ女を魔道書持ちの連中に預けるのもあるし、やるべき事はまだまだ山積みだ」

風斬「あ、あの、私、全然状況把握していないので的外れなこと言うかもしれませんが、残りの敵はその人だけなんですか?」

垣根「いや、まだまだたくさんいるだろうよ。けどまあ、残りはそんなに脅威じゃない。
   だから『大きな問題は』って言っているんだよ」

風斬「そうですか」

垣根「とりあえず、魔道書持っている人間探しに行くぞ」

風斬「はい」
435 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2012/03/14(水) 12:49:52.85 ID:0hGl3lNF0
不知火「どうした?その刀は抜かないのか?」

不知火が言う『その刀』とは、青髪が背負っている刀の事である。

青ピ「抜いたって仕方無いやろ。君の攻撃の前では溶かされるだけやからな」

不知火「まー抜かなくても同じだけどな!」

空中に浮いている不知火は青髪に向けて手をかざす。
ゴバァ!と青髪の周囲の空間が爆発した。
しかし不知火の顔色は良くならなかった。

煙が晴れた後に、青髪の姿が無かったからだ。

不知火「隠れやがったな……」

不知火の呟き通り、青髪はビルの陰に隠れていた。

青髪(厄介やな……)

不知火は、削板に代わって新しいレベル5第7位で、オーソドックスな『発火能力』。
青髪にとっては、相性的にも序列的には勝てない相手ではないが油断は出来ない。

不知火の能力は他の『発火能力』と一線を画している。
普通『発火能力』は炎を出すのみで、レベルの指標は炎の大きさで決まる。
レベル0ならライター程度、レベル1なら人の顔の大きさ程度、といった風にだ。

だが不知火の炎は違う。彼は炎を自在に操り、座標攻撃まで出来る。
たとえば、出した炎を槍の形にし、操ることで避けようが追尾させる事も出来る。
先程のようにターゲットの周囲の空間をいきなり爆発させることだって可能だ。

だから青髪は、相性的には一応有利であっても用心で隠れている。
不知火の攻撃力と手加減を知らないことを考えれば、一撃でも喰らえばアウトだ。

青ピ(それに、不意打ちで楽に勝てる事に越した事はないしな)

そんな考えで、青髪は隠れ続けていた。
だが戦況は一瞬にして激変する。

不知火「オメー……」

土御門「よう。約束通り粛清に来たぜ」

土御門元春の参戦によって。
436 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2012/03/14(水) 12:53:23.53 ID:0hGl3lNF0
青ピ(つっちー!?)

青髪は驚嘆した。
一時的に同盟を結んでいるのだから、助けに来るのは分かる。
分かるが、あまりにも早い。

自分と不知火がここ第8学区に来てから、まだ5分と経過していない。
土御門と橘がどこに移動して戦ってきたかは分からないが、この第8学区の近くで戦ってきたとしても、ここに来るまである程度時間がかかるはずだ。
まして自分達がここで戦っている事は知らないはずなのに。

青ピ(色々驚くべき事はあるけど、一番はやっぱり、これだけ早く来たって事はおそらく、それだけ橘を素早く倒したと言う事……)

垣根を超える強さだと豪語していたのは、あながち嘘ではないかもしれない。
それを証明するかのように、土御門が強気に切り出す。

土御門「面倒だ。一撃勝負で決着をつけようぜ。ルールは至ってシンプル。
    お前の全身全霊の火炎攻撃を俺は動かずに迎え撃つ。
    それを俺が防ぎきれば俺の勝ち。防ぎきれなければ俺は死ぬわけだから、お前の勝ちだ」

不知火「ホー。実に俺好みの提案だが、その要求は飲み込めねーなー。
    そんなこと言って勝負をせずに隙を作らせ、青葉と共に俺を倒すつもりだろ?見え見えだぜ」

青ピ(不知火の言う通りや。そんなアホな提案、誰だって飲みこまへん。何か罠があると勘繰るのが普通や)

今なら不意打ちで不知火を仕留める事が出来る可能性もあるが、確実ではない。
青髪は引き続き隠れ続ける。

土御門「お前は何も分かっちゃいないな。確かに俺は天邪鬼(ウソツキ)だが、青髪と共にお前を倒す算段なんてない。
    俺と青髪は、俺が半ば脅す形でついさっき同盟を結んだばかりで、その後すぐに別々の場所で戦った。
    作戦会議をする時間なんてない」

青ピ(そうや。僕とつっちーは作戦会議なんてしていない。けども)

不知火「オメーと青葉が何の競合をしていなくとも、何かしらの罠が張っていると考えるのが普通だろーが。
    それに俺とオメーの一騎打ちに、どっかで隠れてほくそ笑んでいる青葉が勝手に割り込んでくるだろーしな」

青ピ(そうや。不知火の言う事もまた然りや。どう考えたって、つっちーの提案はむちゃくちゃや)

土御門「お前は本当に何も分かっちゃいないな。
    お前の邪推は間違いってほどではないが、少し考えればそれはないと考えるのが普通だ」

不知火「はぁ?なーに言ってやがる?」

土御門「分からないのか?
    一騎打ちを持ちかけて罠にハメるなんて回りくどい事わざわざするぐらいなら、初めから不意打ちで仕留めている」

不知火「俺が不意打ち程度で倒せるわけがないと分かっているから、こんなことしてんだろ?」

土御門「だったら、俺の要求を飲み込んでもいいだろ。
    不意打ちで倒せないなら、罠にだって引っ掛からないはずだ。それとも何か?
    お前は俺の罠にはまってしまうほど、間抜けってことか?」

ニヤけながら、馬鹿にしたように土御門は言い放った。
青髪からは土御門の表情は見えないが、声だけでも不知火を馬鹿にしているのが分かる。

青ピ(そうか。つっちーの狙いは、不知火を怒らせるためか!)

もともと不知火は酷く短気な人間だ。
こんなあからさまな挑発でも、売られたケンカは買うがモットーの不知火は、乗らずにはいられないだろう。

不知火「言うじゃねーか」

案の定、不知火の憤った声が聞こえてきた。
だがその続きの言葉で、青髪の予想は外れる。

不知火「けど、そんな挑発には乗らないぜ。お前は小技で揺さぶって倒してやるよ」

不知火は青髪が思った以上に冷静だった。
437 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2012/03/14(水) 12:55:36.86 ID:0hGl3lNF0
土御門「そうか」

不知火「そうだ。俺にそんな陳腐な挑発は通用しない」

土御門「よーく分かったよ。お前がとんでもない臆病者だってことがな」

不知火「何!?」

土御門「だってそうだろ?
    仕掛けられているかも分からない罠にビクビク怯えて一騎打ちを断るなんて、ただのチキンじゃないか」

不知火「何だとぉ!?」

土御門「それと青髪が割り込んでくるのがどうのこうのと言っていたが、お前の攻撃は青髪に割り込まれてしまうほど甘いものなのか?
    だとしたら安心だ。そんなヘナチョコな攻撃しかできないのなら、俺の勝利はなお揺るがないからな」

不知火「言わせておきゃあ良い気になりやがって!いいぜ、受けて立ってやるよ!」

不知火は青髪が思った以上に冷静ではあった。
冷静ではあったが、根本的には短気な人間であることに変わりはない。
ここまでボロクソ言われて黙っていられるほど、彼は大人ではなかったらしい。

青ピ(まあ普通は、これも挑発と受け流すものやけどなあ)

とにかく、事態は動いた。
土御門がどう考えているかは分からないが、隙あらば一騎打ちに割り込んで不知火を仕留める。
そんな意気込みで不知火の様子をうかがう為に、青髪は少し身を乗り出すが、

青ピ(あれは……!)

遥か上空。
不知火はそこで直径100mはある火球を頭上に生み出していた。

青ピ(あれはやばいで……)

一点目は、単純に威力。
あんなもの自分の全力の攻撃だってギリギリ相殺程度だろう。
どんな手段を講じるかは知らないが、土御門に何とかできるとは思えない。

二点目は、彼の居る場所だ。
あんなに上空に居ては、割り込みの一撃を放ったって対応されてしまう。

ならどうすればいいのか。
悩む青髪の思考を、土御門の呼びかける声が断ち切った。

土御門「出てこいよ青髪。2人で一緒に倒そうぜ」

青ピ(そうか……!)

一縷の望みを抱いて、青髪は土御門の言う通りビルの陰から飛び出し、彼の隣に並びたった。
438 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2012/03/14(水) 12:57:25.97 ID:0hGl3lNF0
土御門「能力の7割……いや5割で良い。水の竜を出してくれ。そこに俺のサポートを加えてアレを迎え撃つ」

アイコンタクトも何もなく、命令するように言う。

青ピ「オーケー」

それに青髪は素直に従った。
実際、天使とやらを倒すのに一度共闘してその威力を知っているからだ。
しかも能力の全てを使っても相殺できるかどうかだと思っていたのに、7割どころか5割で良いとは有り難い。

青ピ「それにしても、ええんやろか?1対1言うたのはつっちーの方なのに、結局2対1なんて」

周囲に水を渦巻かせながら、何やらボソボソ言っている土御門に尋ねる。

土御門「良いに決まっているだろ。
    戦いにルールなんてないし、あいつの性格なら『好都合だ。まとめて消してやる』とか思っているだろうからな。
    そんなことより、能力チャージに集中しろよ」

青ピ「なるほど。まあもっともな言い分やな。けど、もう1つだけ質問させて」

返事はなかった。
何かボソボソ言っているのだから当然と言えば当然なのだが、どうしても聞きたかった事の為、否定されていないので青髪は続けた。

青ピ「なんで一撃勝負に持ち込んだんや?不意打ちとかでも良かったんじゃないかと僕は思うけど」

今度もすぐには返事が来なかった。しかし約3秒後に彼は口を開いた。

土御門「そりゃそっちのほうが、こっちには好都合だからさ。
    なんだかんだ言ってもアイツは強い。その機動力と攻撃力は厄介だ。
    ぶっちゃけた話、怒涛の小技で攻められた方が、こっちにとっては分が悪い。
    だから一撃勝負に持ち込んだだけの話だ。それよりそっちは終わったのか?
    こっちの詠唱はもう終わったぞ」

青ピ「たった今終わったで。どうやら敵さんも終わったようやな」

土御門「じゃ、行くぞ!」

青ピ「おう!」

ひょっとしたら不知火の性格や彼との相性を考えに考えて、最終的に2対1の一撃勝負になるように仕向けたのかもしれない。
そんな事を考えながら、青髪は全長50m程の水の竜を放った。
439 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2012/03/14(水) 12:58:46.38 ID:0hGl3lNF0
青髪が放った水の竜に、土御門の魔力がこもった水がプラスされる。
水の竜は約80mまで大きくなるが、不知火の放った火球と比べると少し小さい。

青ピ(ちょ、大丈夫なんかいな!?)

思わず不安になる青髪だったが、それは取り越し苦労に終わった。

強化された水の竜が火球と直撃し大爆発を起こすも、10m程残ったものが不知火に直撃したからだ。

土御門「終わったな」

青ピ「いやまだや。ほとんど相殺されたあの一撃程度では、不知火は倒せへん」

土御門「終わりだよ。いくら体が動こうが能力を使い切ったことに変わりはない。
    地上に着地したら、この魔道書で回収してフィニッシュだ」

青ピ「でも、上手く能力をセーブしているかもしれへんやんか」

土御門「それはない。アイツは単純馬鹿だからな。全力と言えば全力を出し切る。
    それにあの攻撃、手加減しているように見えたか?」

青ピ「そうは見えんかったけど、8割9割かも……」

土御門「意外と慎重なんだな。まあそこで大人しく突っ立ってればいいさ。ちょっと回収してくる」

そう言って土御門は着地予想ポイントへ走りだす。
ただ突っ立っているのも癪なので、青髪も土御門の後に続く。
440 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2012/03/14(水) 13:02:49.38 ID:0hGl3lNF0
不知火「クッソヤローが……」

ビルの壁に手をつけながら、びしょ濡れの不知火が呟いた。
そんな彼の目の前には、土御門と青髪。

土御門「地上に安全に着地するのが精いっぱいだったようだな。ま、向こうでゆっくり休んでいてくれ」

言いながら魔道書を不知火にかざす。弱り切っている彼に回収に対抗する術はなかった。

青ピ「すごいなつっちー。垣根君よりは強いとは思えへんけど、確かになかなか強いと思うで」

土御門「さ、次はお前だな」

青髪の称賛など聞き流し、土御門は戦闘態勢に入る。

青ピ「え、あ、いや、本当に戦わないけないんか?」

土御門「どうした?この魔道書の中に囚われている愛しの結標淡希ちゃんを救いたくないのかな?」

青ピ「何でそんな煽る事を言うんや。僕には分かるで。つっちーは優しい人やんか。付き合いだって短くないしな」

土御門「何が言いたい?」

青ピ「嘘やろ?その魔道書とやらの中に、淡希はいない」

土御門「だとしたら何だ?結局のところ、お前は何がしたい?」

青ピ「僕とつっちーが戦う理由はないやろ?」

土御門「じゃあ聞くが、お前は恩人である食蜂に対抗する気はあるのか?」

青ピ「それは……」

土御門「俺はお前を信用できない。自分可愛さに最愛の彼女を裏切り、世界滅亡の加担をするような奴にはな」

青ピ「……返す言葉もないわ。けれど、今なら、今なら僕は、やり直して……」

土御門「信用できないな。食蜂に対抗しないだけならまだしも、俺らの邪魔をされると困る。
    はっきり言ってお前はこの戦場から離脱してもらいたい。今からお前が出来る選択は次の2つ。
    1つ目はこのまま大人しく魔道書に回収される事。
    2つ目は俺にボコボコにされて魔道書に回収される事だ」

青ピ「……どうしたら信用してもらえるんかな?」

土御門「しつこいな。ならもう面倒だから言っとくぞ。
    仮に本気で食蜂に対抗する気になったお前を俺が信用したところで、実際に食蜂に敵うわけがない。
    分かり切っている事だろ?つまり、どの道お前には戦場から離脱してもらう」

青ピ「でもそれ、つっちーにも同じ事が言えるんやないか?
   それに一方通行君や御坂ちゃんや淡希などの実力者を退場させておいて、どうやって食蜂に勝つ言うんや?
   僕みたいなのでも、いないよりはマシだと思うけど」

土御門「マシじゃねーよ。寧ろ足手まといだ。お前だけじゃなくて、俺も垣根とかもな。
    この戦いの決着は、最終的にはカミやん対食蜂の一騎打ちに委ねる予定だ」

青ピ「カミやん1人に押し付ける言うんか?それは無茶やろ」

土御門「無茶じゃない。お前、カミやんの『竜王』の力をまともには見てないだろ。
    あれと今や『全能』の食蜂の戦いに、俺らが介入する余地なんてないんだよ。
    だから言っている。お前の選択は、魔道書にどのように回収されるかだけだ」

青ピ「……そんなことあらへんやろ。僕らがいるだけで絶対に戦況は変わってくるはずや」

土御門「じゃあ交渉決裂ってことで戦うか。俺に勝てない様じゃ、食蜂には勝てないしな」

青ピ「勝ったら認めてくれるんやな」

戦闘態勢を解いていない土御門に、いよいよ青髪も身構える。
441 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2012/03/14(水) 13:04:29.98 ID:0hGl3lNF0
青髪、土御門の両者はバックステップで距離を取る。
さらに青髪の方は背中の刀『村雨』を、土御門は懐から『金剛杵』(ヴァジュラ)を取りだす。

土御門「おいおい。刀抜くとか俺を殺す気か?」

青ピ「つっちーだって、なんや仰々しいモノ出し取るやんか」

土御門「お前だけ武器アリだとフェアじゃないからな」

青ピ「戦いにルールなんて無いんやなかったっけ?」

土御門「御託は良い。さっさとかかって来い」

青ピ「なんやねん。まあ良いわ。遠慮なく行かしてもらうで!」

親友である事はこの際関係ない。
殺すつもりはないが、倒すつもりで土御門に向かって水竜を放つ。

それに対して土御門は、何のモーションもしなかった。
当然結果として、水竜は土御門を飲み込んだ。

青ピ「ムカつくやっちゃな〜」

不満そうに青髪は呟いた。土御門が平然と数秒前と同じ姿で立っているからだ。
しかしながら、1つだけ違うところがある。

亀の甲羅の形をした半透明のエネルギーのようなものが、土御門を覆っている。

青ピ「なんやねん、それ」

土御門「四聖獣の玄武の力さ。司る属性は水。ただでさえ高い防御力を誇る玄武の前に、水の攻撃なんてものは無に等しい。
    つまり、玄武の前ではお前如き、ただの男子高校生にすぎないってわけさ。悪い事は言わない。
    このまま大人しく回収されとけ」

青ピ「へぇー。ならこの村雨ならどうや?」

土御門「水よりは有効だが、そんな鈍で玄武をどうにかできるとは思わない事だな」

青ピ「そうかそうか……」

青髪は思案する。
現状、水の攻撃は無意味と化した。村雨もあまり意味がないと土御門は言う。
そうだろう。魔術なんてものは良く分からないが、力の強大さは一目見れば分かる。
せいぜい運が良くても折れないのが精一杯で、一閃も土御門には届かないだろう。

だけれども、力が強いからこそ、その維持も大変なはずだ。
あの防御を解かせないために、あえて猛攻を仕掛ける。
もしかしたら一発でも攻撃が通るかもしれないし、通らなくても維持が出来なくなり甲羅が消えてくれれば万々歳だ。
こっちの能力切れが先か、あっちの魔力切れが先か。
ギャンブルではあるが、今はこれしか思いつかない。

青ピ「いっくでー!」

青髪の水の竜による猛攻が始まった。
442 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2012/03/14(水) 13:07:13.24 ID:0hGl3lNF0
青髪の猛攻が始まってから約1分。
青髪の狙いが分かったのか、それともただ黙って突っ立っているよりは何かした方が良いと判断したのかは分からないが、
土御門は懐から拳銃を取り出して引き金を引いた。

飛来してくる弾丸に対して青髪は、村雨で弾く、避けるなどしてやり過ごした。
もちろんその間も、水の竜攻撃の手は緩めていない。

土御門「超人的反射神経だな。いやはや恐れ入ったよ」

という土御門はにやにやしていて、余裕なのが見て取れる。
魔力切れの狙いに気付いていてその態度なのか、単純に絶対防御があるからなのか。
どちらかは分からない。

青ピ「そりゃどうも」

適当に返事をしながらも、心の中ではその鼻をへし折ってやると意気込む。
が、やはり簡単にはいかない。
こっちは放たれる弾丸を弾き、避け、肉体的にも疲弊しながら水の竜を放っているのに、
あっちはただ立って、拳銃の引き金を引き、弾丸が無くなればマガジンを替えるだけ。
能力、体力的にもどっちが不利なのかは、火を見るより明らかだ。

自覚した青髪は、ここで作戦を変えた。水の竜攻撃を止める。
それで様子をうかがう。絶対防御で勝利はなくとも、倒されなければ負けはない。
痺れを切らして逆に攻撃を仕掛けてくれれば、そこから反撃できるかもしれないし、
何もしない自分を見て一旦甲羅を解き拳銃だけで仕留めに来ても、肉体的には休めずとも能力的には回復できる。
どっちに転んでも形勢を立て直すぐらいの事は出来るはずだ。

青ピ(さあ、どうする!?)

土御門の判断は早かった。青髪が水の竜攻撃を止めてからわずか5秒。
玄武の防御を解き、あろうことか拳銃まで投げ捨てた。

青ピ(な……良く分からんけど、チャンスか!?)

だが何かの罠かもしれない。青髪は逡巡する。
その間に、土御門が口を開いた。

土御門「せこせこしやがって。考えが浅墓すぎる。俺の魔力切れを狙ったんだろ?
    だが拳銃と絶対防御を前に、先に根を上げるのはテメーだと自覚して、何かしらの活路を見出す為に一旦攻撃を止めた。
    そんなところだろう」

青ピ「全部わかってたんかい。でも、拳銃を捨てる意味が分からんな」

土御門「単純な話さ。替えも含めて弾丸が全て尽きただけ。それとクソみたいな持久戦に飽きたからさ。
    ここからは短期決戦だ。見せてやるよ。俺の全力を」
443 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2012/03/14(水) 13:09:09.32 ID:0hGl3lNF0
土御門「既に配置と詠唱は終わっている。行くぞ。これが俺の全力だ」

直後だった。
土御門の背後から青い龍と白い虎、すなわち青龍と白虎が顕現し、放たれる。
それだけではない。向けられたヴァジュラの先端から黄金の光線が放たれた。

3種類の攻撃に対して青髪は、2匹の水の竜を放ち青龍と白虎を相殺。
村雨に水を纏わせ縦に振り下ろし、黄金の光線を真っ二つに引き裂いた。

土御門「これで仕上げだ」

呟く土御門は、青髪の目の前まで迫って来ていた。
右手に持っているヴァジュラで突きを繰り出している。

青髪は少々面食らったが、対抗して村雨で突きを繰り出した。
ヴァジュラと村雨。法具と刀の突きがぶつかり合った瞬間、それぞれ粉々に砕け散った。
直後だった。

青髪は唐突に口から血を噴き出した。

青ピ「え?」

地面を赤く染めた液体が、自分が吐き出したものだと自覚したときには片膝をついていた。

青ピ「な、にが……」

質問をしたわけではない。思わず本音が飛び出ただけだった。
それを知ってか知らずか、土御門が律儀に回答した。

土御門「どんな能力者にも共通の法則がある。
    科学的に作られた能力者が魔術的な術式を行使すると、副作用のようなものに襲われる」

青ピ「な、にを……」

土御門「言っている意味が理解できないだろうな。簡単に言うと、俺はお前に魔術を“使わせた”んだ」

青ピ「……そうか。それで、垣根君にも、勝てるとほざいていたんやな。
   けどそうなると、一方通行、カミやんにだって、勝てるんやないの?」

土御門「もっともな疑問だが、カミやんは超能力者じゃないからな。
    副作用はないんだ。ただし性質上、魔術も使用できないがな。
    一方通行については、アイツは既に『魔術のベクトル』すら解析している。
    自爆させる手は通用しないし、寧ろ小規模な魔術なら使用できるぐらいだ」

青ピ「そうか……けど、残念やなあ……ここでドロップアウトか……」

土御門「俺に勝てないぐらいだからな。大丈夫だ。カミやんが何とかしてくれる。
    さっきお前は、カミやんに押し付けることになるとかどうとか言っていたが、それは違う。
    押し付けるんじゃなくて、信じるんだよ」

青ピ「都合のいい、言い訳にしか聞こえへんな……」

土御門「回収」

青髪に魔道書をかざして回収した。
444 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2012/03/14(水) 13:11:18.75 ID:0hGl3lNF0
上条が地面を蹴り出してから5歩目。
突如その部分がへこみ、それによってつまずき転がっていく。

篠宮「キックオフ!」

自身が走った勢いそのままに、転がってきた上条を蹴り飛ばした。

篠宮「まーだまだぁ!」

上条が転がった先の空気中の窒素を棺に変換した。ドゴン!と上条はそこに収まる。
しかしまだ背中を打ちつけただけだ。蓋はされていない。今なら軽く脱出できる。

篠宮「アイアンメイデン」

指に巻き付いたワイヤーを引っ張って、棘だらけの蓋を閉じた。
上条の情報は“多少ではあるが”聞いている。
多分、これですら死にはしないが、重傷ぐらいにはなるのではないか。
と篠宮は考えていた。

が、それは甘かった。

ベギンゴギャア!と、ほぼ無傷の上条がアイアンメイデンをぶち破ったからだ。

篠宮「化け物が……」

いつでも強気でどこか余裕がある篠宮に、初めて陰りが見えた。

上条「化け物はアンタだよ。この状態の俺と、まともに戦えるなんてな」

篠宮(余裕見せやがって……)

篠宮が戦場に出てきた理由は、楽しそうだった、からだ。
だから先程までは少々物足りなかったが、優越感を味わえて楽しかった。
強敵なら強敵相手だとしても、それはそれで楽しめる性格だった。

だが目の前の男は、上条当麻と言う男は違う。正直言って別格だ。
自分もまだまだ全力を出し切ってはいないが、出し切ったところで勝てるとは思えなくなった。

そんな篠宮の予感は的中する。

上条「お前の能力は良く分からんが、地面が突然へこみ、空間には棺が出現する。
   今までのレベル5と別格なのは身を持って分かった。だから、“もう少しだけ”本気を出すことにするよ」

篠宮(“もう少しだけ”だと!?)

全力を出す、ではない。もう少しだけ、と言った。
現状どれだけの力で戦っているかにもよるが、どう見ても7割も出していない事は分かる。

篠宮(駄目だ……逃げるしかねー)

篠宮という男は、ここで熱血バリバリで強大な力に対抗するような人間ではない。
勝てないと分かれば、逃げる事もいとわない。

だがそれすらも甘い事に、彼はまだ気付いていない。
445 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2012/03/14(水) 13:12:56.13 ID:0hGl3lNF0
「もう少しだけ本気を出す」
この言葉を聞いて篠宮は、勝てないまでも逃げるぐらいは出来ると思っていた。
ましてや今は瞬速状態。テレポーターにですら追いつかれない。
上条相手でも逃げ切れる自信が、篠宮にはあった。

回れ右をして、地面を蹴る。
一瞬で1kmもの距離を移動した篠宮の真横に、

上条「速いな」

実に冷静な上条がいた。

篠宮(――嘘だろ!?)

篠宮が狼狽する前に、その背中に拳が叩きこまれた。
その威力もさながら、地面にめり込んだ篠宮は動かなくなった。

土御門「よーカミやん。終わったようだな」

図ったかのようなタイミングで土御門が紅蓮の翼を携えて飛んできた。
だが上条は驚かない。感知能力で土御門の魔力が分かっていたからだ。

上条「コイツ、洗脳されてないんだけど、どうするべきなんだ?」

土御門「その辺りはちゃんと考えているから気にするな。とりあえずは回収しておく」

言いながら、土御門は魔道書で回収した。

土御門「これからカミやんに説明する事がある。良く聞いてほしい」

真剣な顔つきで土御門が語り始めようとした時、彼らに近付く1つの影。
446 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2012/03/14(水) 13:14:56.23 ID:0hGl3lNF0
垣根「おーい!」

上条「あれは……」

土御門「ありゃりゃ。後で迎えに行こうと思っていたけど、そっちから来てくれるとはな」

正体は風斬に乗った垣根と気絶している折原だった。

上条「風斬、その姿は……」

風斬「へ、変ですか?」

上条「いや、そんなことねーよ。綺麗だ。」

風斬「そ、そうですか。あ、ありがとうございます///」

土御門「ところでかっきー、なんでほっぺた腫れているのかにゃー?」

垣根「そ、それはだな……」

風斬「わー!きゃー!それ以上は言わないでください!///」

真っ赤な顔の風斬が、垣根と土御門の間に割って入る。

上条「普通に敵に殴られたとかじゃねーの?垣根ですら苦戦する相手がまだいるのかと思うと、辟易するけどな」

土御門「へー、そうかねー」

垣根「にやにやしやがって……何があったか見透かされてそうだな」

風斬「えー!やめてください!///」

土御門に向かって、照れた風斬のタックルがかまされるが、

土御門「あぶねっ」

ひらりとそれをかわし、同時に魔道書で風斬を回収した。

上条「え?」

垣根「それって」

上条「大丈夫なの?」

土御門「分からん。AIM拡散力場を回収した事なんてないしな。ま、大丈夫だろ」

垣根「なんてテキトーな……」

上条「お前そんなキャラだったっけ?……いや、普段はそんな感じか」

土御門「そこにいる折原と、お前も回収するぞ垣根」

垣根「それは俺が食蜂に通用しないからなのか、俺が能力を使いきって戦えない事を分かっているのか。どっちだ?」

土御門「両方だよ」

言って土御門は垣根を回収。その後気絶している折原も回収した。
447 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2012/03/14(水) 13:18:55.73 ID:0hGl3lNF0
上条「垣根の割には物分かり良かったな」

土御門「様々な戦いを通して悟ったんだろう。
    勝てはしたものの、1人1人相手にも時たま苦戦する自分に、200万もの脳を統べる食蜂には敵わないとな」

それに、と土御門は続けて、

土御門「メデューサ、折原、東城との戦いを通して能力も切れたようだしな。
    風斬に背負われてきていたし、実際本人も能力を使い切ったって言っていたしな」

上条「あのー、半分以上何言っているか分からないのですが……」

土御門「そうだろうな。
    全部の疑問には答えてやれないが、これから説明することで大半の事は理解できると思うぜい」

上条「あ、あのさ。この会話も、食蜂に聞かれていたりするんじゃないのか?
   土御門が説明して、それを呑気に俺が聞いていていいのか?」

土御門「今までだって何度も呑気なやりとりを、お前らはしてきたじゃないか。
    それにもし襲い掛かってくるなら、風斬らと再会した時には来ているさ。
    というより、カミやんならその『竜王』の力で分かるだろ?」

上条「それがだな……俺が感知できるのは魔力とか悪意だけで、能力者は分からないんだよ」

土御門「そうなのか?
    じゃあ『超電磁砲』のところや病院に辿りつけたのは、大きい音や目で見て分かる異常を察知して駆けつけただけってことか」

上条「そんな感じ」

土御門「ふーん。ま、いいよそんなことは。もう大きな敵は食蜂ぐらいだしな」

上条「いやいや、俺達が奪還してきた能力者の合計なんて、たかが知れているだろ。どう考えたって、まだまだいる……」

土御門「ところが、そうでもねーんだにゃーこれが。
    カミやんがついさっき倒した篠宮は、実は30万もの能力者の脳波とリンクしていた。
    だから、30万もの能力者が解放されたも同然なんだ」

上条「ちょっと待ってくれ。俺は『幻想殺し』ではアイツの頭を触ってないぞ。
   そんなんでリンクって切れるものなのか?
   というかそもそも、アイツを倒したからリンクしていた30万もの能力者も解放って有り得なくないか?」

脳波のリンクとか正直全く分からない上条であったが、土御門の言っている事はむちゃくちゃな気がする。

土御門「カミやんが今まで戦ってきた能力者連中はともかく、篠宮を含む“特別な8人”は気絶するだけでリンクが切れ、
    リンクされていた能力者も能力が元のレベルまで戻るんだ。洗脳までは解けないんだけどな」

上条「そんなものなのか……」

土御門「つーか今更『幻想殺し』で頭触ってないとか言えるのか?
    前半はともかく、後半は殴り飛ばして魔道書で回収しただけだろ」

上条「やっべ、そう言えば……途中からいろいろ必死すぎて忘れていた。
   待てよ。じゃあ、転送先で能力者が暴れていたりするのか?」

土御門「それは心配ない。実は能力者達は、気絶しただけで洗脳が解けるようになっている。
    ぶっちゃけカミやん達が、“なるべく傷つけずに意識がある状態から洗脳を強引に解除していた”前半の努力は無駄だったにゃー」

上条「マジかよ!じゃあたった今、後半は殴り飛ばして云々とかのやりとり何だったんだよ!」

土御門「ちょっとした意地悪」

上条「ふざけんな!」

思わず土御門をぶん殴ろうとする上条。
448 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2012/03/14(水) 13:21:19.39 ID:0hGl3lNF0
土御門「まあまあ落ち着けって。要するに今まで奪還してきた能力者全員の洗脳は解けているし、
    今までのカミやん達の奮闘によって、200万もの能力者が解放された」

上条「ちょっと待てって。何で200万?俺が倒したのは30万人分だろ?あとの170万は?」

土御門「だから言ったろ。カミやん“達”の奮闘によって、って。カミやんが倒したのは、30万と20万人分だ」

上条「……よく分からないが、俺が今まで倒してきた奴に20万人分の脳とリンクしていた能力者がいるってことか?」

土御門「そういうことだ。
    俺“は”カミやん達の戦いをなるべく見てきたつもりだが、カミやんは常に圧倒的な強さで能力者達を薙ぎ倒していた。
    が、何人か苦戦した能力者もいるだろ」

上条「……オリアナにテッラ、あとは重力を操るっぽい能力者にはてこずったな」

土御門「それだよ。重力を操る能力者、そいつが20万もの能力者とリンクしていたやつだ」

上条「つまり、俺は50万もの能力者を解放したようなものなのか?」

土御門「そういうこと。
    他にも『超電磁砲』が30万人、フィアンマ達が20万人、垣根が40万人、俺が20万人、侵入してきた魔術師に20万人分が解放されている」

上条「侵入してきた魔術師に、だって?おい、それって……」

土御門「ああ、殺されたのさ。それだけじゃない。この戦争では既に何人もの死者が出ている」

上条「……そうか。……やっぱり、何もかも救うのは無理だって言うのか……」

魔術vs科学の戦争でも、最低限守りたいモノは守れたとは思う。
けれどインデックスの記憶を失わせ、魔術サイドの人間の多くを死なせてしまった。

あまりにも突然の出来事だったし、インデックスを囚われてしまった事で感情的になってしまったのはあるが、
魔術と科学が共存できる可能性を蔑ろにして(実現できるかどうかはともかく)自分の為だけに奔走して、
結果的に滅ぼしてしまった事は本当に悔やみきれない。無論、上条1人だけのせいではないが。

それでも、そこで腐っているだけでは駄目だと気付けた。
それはいろんな人に支えてもらったおかげだ。
後悔したって何も変わらない。泣いたって死んだ人間は生き返らない。
だから立ち上がった。そして今回の戦争では今度こそ、何もかも救いきるつもりだった。

それなのに、現実はやっぱり非常だった。
449 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2012/03/14(水) 13:24:23.20 ID:0hGl3lNF0
土御門「そう落ち込むな。死者は侵入した魔術師が殺したのが大半だ。
    あとは自爆だったり、仲間割れだったり、まあいろいろとな」

上条「自爆?仲間割れ?」

戦いが始まって何人かの能力者と相対してきて思った事がある。
この戦い、何かがおかしい。
戦い自体や食蜂の考えは最初からおかしいと思っていたが、そういうのではなく、何か引っかかるものがある。

土御門「ようやく違和感に気付いたか?」

上条「……何となく」

土御門「まあカミやんは他の奴に比べて違和感に気付きにくいのはあるだろう。
    何せほとんど圧倒的な力で勝ち進んで来たんだからな。
    でも、そんなカミやんでも気付ける要素はある。たとえば、姫神だったり、吹寄だったり、五和だったり」

上条「……そうだよ。そうだ。五和はちょっとアレだったが、吹寄や姫神には“半端に自我があった”。
   どうせ操るなら、無駄な会話や行動はさせず淡々と行動させるようにすればいいのにだ」

土御門「その通りだ。半端に自我を持たせることによって、精神を揺さぶると言う効果もあっただろうが、
    何にしたってカミやん達は必死に能力者を救うことしか考えてないんだ。どうせなら人形のように操った方が良い」

上条「じゃあ何で食蜂は半端に自我を持たせたんだ?」

土御門「その理由の1つは、単純にそこまで操るのが大変だと言うのがある。
    ゲームでも、味方を直接操る事も出来れば、作戦などでAIに任せることができるのもあるだろ?
    食蜂の現在行っている洗脳は、後者の方さ」

上条「なるほどな」

土御門「で、違和感はそれだけか?」

上条「え?」

土御門「やはり気付いていなかったか。無理もないが」

上条「何だよその言い方。もったいぶるなよ」

土御門「簡潔に言うと“能力者全員、カミやん達に何の対策もなしに挑んでいた”んだ」

上条「……えーっと、つまり?」

土御門「いいか?食蜂と幹部クラスと俺はカミやん達の戦いを見てきた。
    つまり、戦いが重なるにつれ能力の特徴が見えてきて、何らかの対策や必勝法が見つかるのさ。
    まあカミやんの場合は『竜王』の力が強すぎてそれらしきことは見つからなかったが、
    それにしたって挑む能力者全員が、ただただ力でゴリ押すような戦法しか取って来なかっただろ?」

もっとも、御坂や一方通行や垣根は暗部に関わりを持ち、それなりに研究されている部類だった為、的確に弱点を突く戦法を取った者もいたが。

上条「言われてみれば確かにそうかも」

土御門「じゃあなぜ対策や必勝法を用意せずに力で挑んでいたのか。
    その答えは単純に、食蜂が洗脳している能力者に対策や必勝法を刷り込まなかったからさ。
    無論、手間がかかると言うのはあるが、刷り込んだ方がいいと思わないか?」

上条「思う。というか刷り込む刷り込まないじゃなくて、能力者全員に戦いの様子をモニタリングしてもらえばいいんじないのか」

土御門「さすがにそこまでは設備的にも能力的にも出来なかったんだよ。
    ということで、食蜂はなぜ刷り込まなかったと思う?」

上条「……そんなことをすると、ゲーム的にはフェアじゃないからってか?」

土御門「今までの食蜂理論で言うと、そうだろうな。だが俺は別の意味があると思っている」

上条「思っているって、推測かよ」

土御門「そうだ。もしも俺の推測が正しければ、食蜂はまだ止められる」
450 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2012/03/14(水) 13:28:40.89 ID:0hGl3lNF0
上条「止めれれるって、ハナっから意地でも止めるつもりだったけど」

土御門「そうじゃない。戦わずして、さ」

上条「はあ?」

土御門「その反応は分かる。でもまずは聞いてくれ」

上条「お、おう」

土御門「まず何で食蜂が世界を滅亡させようとしているのか。これには深い理由がある」

上条「深い理由?どんな理由だろうが、世界滅亡なんて間違っているっつーの」

土御門「まあそう言うな。俺だって反対派だが、食蜂の野望にも共感できるところはある。
    いいか?食蜂が世界を滅亡させる本当の理由は、この世界の理不尽さに耐えられなくなったからさ」

上条「……は?」

土御門「オリアナ=トムソンの考えの派生って感じかな。
    彼女は誰も傷つかない為に『確かな基準点』を作ろうとしただろ?
    けどそれは、ちょっと違うがディストピアを構築しようと言っているようなものだ。
    だがディストピアは社会的には良くても人権的にはアウトだ。
    つまり、どうしたって世界を良い方向には変えられない。
    だったらいっそ、滅亡させてしまおうじゃないか。と食蜂は考えたってわけさ」

上条「何だよそれ……そんなの、おかしいだろ……」

土御門「しかしながら、おそらく食蜂は“迷っている”」

上条「え?」

土御門「よくよく考えてみろ。
    食蜂は事あるごとにこの戦いをゲームに置き換えて講釈垂れていたが、いくらなんでも度が過ぎると思わないか?」

上条「度が過ぎるって言うか、何もかもがおかしいと思っているけど」

土御門「そんな思考停止発言は止めろ」

上条「お、おう……」

土御門「たとえばだ。食蜂は200万の能力者に加えて大人まで制御下に置いていた。
    なのにだ。実際の勝負と言えば多くても8対1ぐらい。200万もいるんだ。
    100対1、1000対1、いや10000対1だって200分の1だ。
    リンチするぐらいの勢いで、今言ったように能力者を大量投入してもいいと思わないか?」

上条「だからそれは、ゲーム的に面白くないからだろ?」

土御門「それともう1つ。
    カミやんはともかく、一方通行や垣根ですら色々あって追い込まれたし、御坂美琴や絹旗最愛などに至っては完全に敗北している。
    フィアンマ達や削板軍覇もさらなる連戦が続いていたら、疲弊しきってもっと早くつぶれていただろうな。    
    にもかかわらず、食蜂は事あるごとにわざわざ休憩・準備時間を与えていた。なぜだと思う?」

上条「だからそれも、ゲーム的に云々とか言う謎理論だろ?」

土御門「確かに、初めのうちならそれで納得できなくもない。
    だが少数で攻めるが故にその悉くが結局は退けられ、休憩・準備時間を与えたが故に、
    追いつめることは出来ても仕留める事は誰一人出来なかった。
    その分失った能力者だって少ないとはいえ、連続でやられっぱなしで普通腹立つだろ?
    だと言うのに、攻撃の手は激しくならなかった」
    
上条「言われてみればそうかもしれないけど……食蜂の怒りの沸点が高いだけじゃないのか?」

土御門「確かに、失った能力者は人数的に言えば微々たるものも良いところだ。
    ゲームで食蜂の立場を例えると、難易度ベリーイージーってところだろう。
    そんな超簡単なゲームで完全にゲームオーバー(食蜂の敗北)にはならなくとも、
    味方が倒され続ければ(洗脳している人間の奪還)、ストレスが溜まるってものじゃないか?」

上条「だ・か・ら、食蜂がやたらと温厚と言うか、別にキレるほどのことじゃないと思っているんだろ。
   結局何が言いたいんだ?」

土御門「何が言いたいかって言うと、
    食蜂は“世界を滅亡させるのは間違っている。誰かに止めてほしいという気持ちもある”と思うってことだ」
451 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2012/03/14(水) 13:31:44.78 ID:0hGl3lNF0
上条「はあ?何だよその矛盾」

土御門「確かに矛盾だ。
    だが人間の感情は白か黒かとか、そんな単純な事じゃない。
    シェリー=クロムウェルも、そうだったようにな」

上条「……そっか。そういえばシェリーも信念は星の数ほどあるって言っていたな」

上条がかつて退けた魔術師シェリー=クロムウェルも、何の意味もない事を分かっていながら学園都市を襲撃してしまった。
ならば食蜂も迷い、もがきながらも、つい行動を起こしてしまったのではないか。

土御門「この戦いが始まる前も、いろいろおかしいことがあった。
    たとえば、俺達の学校に入学しクラスメイトを操ったよな。
    そして4月10日には学園都市中の生徒達を支配した。
    何で一足先にわざわざ俺達の学校に乗り込んで、クラスメイトを洗脳したんだ?」

上条「宣戦布告的な意味があったんじゃないか?」

土御門「その可能性はあるかもしれない。
    だが俺達の下に乗り込んで来た事で“止めてほしいってことに気付いてほしかった”とも考えられないか?」

なるほどその可能性もなくはない。なくはないが、

上条「有り得ない話じゃないけど、いくらなんでも食蜂の肩を持ちすぎじゃないか?」

土御門「なら言わせてもらうが、今食蜂がやっている事は回りくどいと思わないか?
    世界を滅亡させる事なんて、わざわざ学園都市中の生徒を操らなくても、
    アメリカの大統領ロベルト=カッツェでも操って、核兵器発射スイッチを押させるようにすればいい。
    そうすれば世界は混乱に陥り、第四次世界大戦が勃発して、手を下さずとも勝手に疲弊していくだろう」

上条「つまり、食蜂の一連の行動は『私を止めて』っていう救難信号だったってことか?」

土御門「俺はそう考えている。根拠はまだある。
    食蜂は俺を洗脳したが、人質の舞夏がいるとは言え4月11日には解放してくれた。
    だから俺は、密かに裏切ろうとずっと機会をうかがっていた」

上条「でもそれって」

土御門「そうだ。食蜂にとっては人の心理を読むことなど造作もない。
    つまり彼女は“俺が裏切る事を分かっていながら、あえて見逃したんだ”」

上条「それはゲーム的にそうした方が面白いじゃん。とも言えるが――」

土御門「“私を止めてほしい”というメッセージだとしたら、多少はしっくり来ないか?少なくともゲーム的に云々よりは」

上条「……」

土御門「最後に、突きつめると食蜂のせいで死人は出たが、彼女自身は誰にも手をかけていないし、
    それどころか侵入した魔術師から能力者を守ろうとした。
    さっきも言った通り、死人は自爆か仲間割れか魔術師に殺されたやつらだけだ」

上条「……本当に、迷っているって言うのか……」

土御門「まあ、あくまで推測だがな」

と、長きに亘る2人の会話がひとしきり終了した、その直後だった。

食蜂「面白い見解ねぇ。土御門君?」

ダイバースーツにも似た全身を締め付ける体型矯正用下着、所謂コルセットを纏っている食蜂操祈が、上条らの前に降臨した。
452 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2012/03/14(水) 13:33:18.77 ID:0hGl3lNF0
土御門「俺の渾身の推理だが、邪魔されなかったってことは正解ってことで良いのかな?」

食蜂「私は会話の途中に割って入るような野暮な真似はしないからねぇ。君達の想像力におまかせするわぁ」

上条「土御門の推理が正しいかどうかなんて関係ない。
   これ以上馬鹿な事を続けるって言うのなら、手足の骨バッキバキに折ってでも止める」

食蜂「いや〜ん、こわ〜い」

土御門「違うだろ。まずは食蜂の意見も聞いて戦わずして止めるんだよ」

上条「っ……」

食蜂「そうねぇ。出来れば私も、お話で済むのならそれがいいなぁ」

上条「俺が折れるとでも?」

食蜂「土御門君が言っていたでしょ?この世界はどうしたっていい方向には変化しない。
   だったら、いっそのこと滅んでしまった方がいいと思わない?」

上条「思わない。何でそうなる?」

食蜂「何でって、第三次世界大戦に魔術と科学の戦争。短期間に2回もの戦争があって世界は荒んでいる。
   逆に何でここまで荒んでしまった世界をリセットしようとは思わないのか、不思議なくらいだわぁ」

上条「そんなもん、一時の過ちにすぎないだろうが!
   たったそれだけのことで、世界が滅んじまった方が良いって言うのかよ!」

食蜂「たったそれだけって……凄く影響力のあった出来事だと思うけど。
   まぁ私が世界を滅ぼさんとする理由はそれだけじゃないけどねぇ」

上条「まだ何かあるのか?」

食蜂「ありまくりよぉ。私がこの世界に憤っている一番の理由。それは“不平等”や“格差”よ」

上条「不平等?格差?」

食蜂「この世界はねぇ、生まれた時にある程度の人生が決まってくる。
   見た目だったり、親や環境だったり、才能やセンスなどの要素によってね」

食蜂の雰囲気が、柔和なものから凛としたものに変わる。
453 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2012/03/14(水) 13:37:49.99 ID:0hGl3lNF0
上条「何が言いたい?」

食蜂「分からないの?
   たとえばイケメンや美人なら、それだけで異性から好かれやすいし、もてはやされ、可愛がられて生きて行く。
   逆にブサイクだったりブスだったりすれば、異性からは好かれにくく、周囲の人間の風当たりも強くなるでしょう。
   それ以前に、障害者と健常者の不平等さなんて目も当てられないくらい残酷」

上条「そんなことないだろ……」

食蜂「続いて親や環境の問題。お金持ちの家に生まれれば、娯楽も教育も充実でしょうね。
   裏口入学やコネだってあるでしょう。
   逆に頼るべき存在の親が屑であれば、どうしようもないこともあるし、性格はまともでも所得が低ければ、
   子供には様々な面で抑圧された生活をさせることになるわよねぇ」

上条「それは、バイトとか奨学金とかもあるし」

食蜂「最後に才能・センスの問題。最初から頭や運動神経が良かったりする人間と、その逆の人間。
   この格差は酷いと思わない?」

食蜂の言う事は分からなくはない。だが、

上条「今言った事全部、努力でどうにかなるだろうが!
   頭が悪いなら勉強すればいいし、筋トレやジョギングをすれば筋力や体力はつくだろうが!」

食蜂「確かに、努力で“ある程度”はどうにかなる。けれどどうしても埋められない差って言うのはある。
   それに秀才や天才は出来る分、いろんな事に時間を割けるけど、凡人は出来ない分、様々な事を犠牲にしないといけないでしょ。
   それでもその努力が天才達に勝るとは限らない。
   同じ位置(スタートライン)に立てるか、そこにすら辿り着けないかもしれない。
   これって凡人からすれば、物凄く馬鹿らしい事だと思わない?」

上条「思わない事もないけど……まだマシだろ。日本に生まれただけで、世界には飢餓で苦しんでいる子供だって――」

食蜂「そうやってよく発展途上国と比べるけど、それが何になるって言うの?
   比べたら私達は幸せになるの?飢餓で苦しんでいる子供達の方は幸せになるの?」

上条「物理的にはならないだろうけど、精神的にはなるだろ」

食蜂「なら聞くけど、上条君は辛い時『世界では飢餓で苦しんでいる子供がいるんだ。へこたれずに俺も頑張ろう』なんて思うのかしら?」

上条「それは……」

食蜂「ならないよね?そんな異国の地の事なんて、話を聞く位じゃ多少イメージするくらいだもの。
   せめて現地に赴いて、その現状を見るぐらいじゃないと何とも思わないでしょうねぇ。
   いいえ、それでも何とも思わないかもねぇ」

上条「っ……」

口を詰まらせる上条に、食蜂は畳み掛ける。

食蜂「それに私の野望は世界基準の話。日本のような先進国と発展途上国にはかなりの格差がある。
   その格差も私は許容できない」

上条「だから滅ぼすってのか」

食蜂「そうよ。それと最後に、これはもう仕方ない事だけれど、“不条理”や“理不尽”さも、この世界にはある。
   それは自然災害や事故。これによって尊い人命が失われる事もある。
   それがどうしようもないグズだったらまだしも、重要な人物だったらどうかしら?
   学園都市で言えば、統括理事長となった雲川芹亜とか」

上条「どうしようもないグズ?失われて良い命なんてあるわけないだろうが!」

食蜂「たとえばよ。別に失われて良いなんて言ってない。まだマシと言っているの。ねぇ思わない?
   飲酒運転などの犯罪を平気でする人間がのうのうと生きている一方で、上条君のようなヒーローが
   事故や自然災害などのしょうもない理由で死んで行く可能性があるなんて、馬鹿らしいって」

上条「だからって、そんな可能性の話で世界を滅ぼすっておかしいだろ」

食蜂「だから初めに断りを入れたでしょう。仕方ないことだけれどって」
454 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2012/03/14(水) 13:40:12.62 ID:0hGl3lNF0
上条「仕方ないで済まされるかよ。お前、自分が何言っているのか分かってんのか!?」

食蜂「分かっているに決まっているでしょ。上条君こそ、何で私の前に立ち塞がるの?
   私の考えを聞いて、それでもなお阻む大仰な理由があるとでも言うの?」

上条「大仰な理由なんてものはねぇ。けど、世界を滅ぼすって言うのは間違ってんだよ!」

食蜂「だったら、どうしたら皆が幸せになれるの!?どうすれば不幸な人がいなくなるの!?」

上条「そんなもん、分かんねぇよ!」

食蜂「……はぁ?だったら――」

上条「けど!何度も言ってっけど!世界を滅ぼすなんて間違っている!」

具体的な解決策を提示できないまま、

上条「確かにこの世の中は、不平等で理不尽かもしれない。
   だけど、だからって人を殺して、世界を滅ぼして何になるって言うんだ!
   何もかもを奪って不幸も幸福もなくすことが正しいって言うのか!
   違うだろ!そうじゃねぇだろ!」

何もかもをリセットしてゼロに還すのではない。
そんなやり方では誰も救われない。

上条「そもそも不幸とか幸福とか、お前や俺達が決める事じゃない!
   そんなもん、考え方や感性によって人それぞれだろうが!」

食蜂「でも、客観的に見たって明らかに差がある事象、先進国と発展途上国のような関係でも、
   それぞれだからって言うつもり?」

上条「ああ、もちろん」

即答だった。

上条「飢餓で苦しんでいる子供が『自分はなんて国に生まれたんだ。こんなに苦しいなら生まれてこなきゃよかった』って死んで行くのか?」

食蜂「だと思うけど?」

上条「んなわけねぇだろ!最後の最後まで生きる“希望”を持っているんだよ!」

食蜂「そんなもの、憶測にすぎないでしょ。何で断言できるのかしら?
   ……まぁ、先進国の便利さなどを知らないのだから“格差”や“不平等”などを
   あまり感じないという点では、逆に不幸度は低いと思うけれど」

上条「何だ。お前だって分かっているんじゃねぇか」

食蜂「は?」

上条「お前今自分で言ったぞ。『不幸度は低いと思うけれど』って。そうだよ。その通りだよ。
   発展途上国に生まれたら不幸。ブサイクで才能もなく貧乏な家に生まれたら不幸。そんなことはないんだよ」

食蜂「……」

上条「あまり恵まれていない環境や境遇“だからこそ”、反骨精神や希望を持って頑張っている人だっているだろうが!
   お前はそいつらからそれを奪えるって言うのかよ!」

上条の叫びに対して、食蜂は呆れたように返した。

食蜂「あのねぇ上条君、それは極論だよ。確かにそう言う人達だっているでしょう。
   でもねぇ、世の中すべての人がそんなに強い訳じゃないんだよ?
   最初からバカらしくて諦める人だっているし、足掻いてみても挫折する人だっている。
   寧ろ、そう言う人達の方が多いでしょうね」

だからね、と食蜂は続けて、

食蜂「そんなごく少数の諦めの悪い人達に合わせて、世界は滅ぼさないと言う訳にはいかない」

食蜂操祈揺るがず。
明確な敵意を剥き出しにして上条を見据える。
455 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2012/03/14(水) 13:42:56.44 ID:0hGl3lNF0
上条「ふざけんな……」

食蜂に一切臆せず、睨み返しながら、

上条「少ないとか多いとか人数の問題じゃねぇだろ!
   大体、幸せにならないからって滅ぼすって言う方がよっぽど極論だろうが!」

食蜂「綺麗事だけではどうにもならない」

上条「綺麗事だと?お前の言う事なんて、綺麗事にすらなってない暴論じゃねぇか!」

食蜂「いくらなんでも暴論は心外だなぁ。だって仕方のない事じゃない。世界には不幸な人の方が多いんだもの」

上条「だから!多いとか少ないとか!人数の問題じゃねぇって言ってんだろ!
   良いか!?現状は不幸な人が多いかもしれないし、その人達を幸福にする方法はないかもしれない!」

でもな、と上条は続けて、

上条「これから世界はいい方向に傾くかもしれねぇじゃねぇか!
   その可能性は限りなく低いかもしれないけど、滅ぼしてしまえばその低い可能性すら潰えてしまう!
   そこんところ分かってんのかよ!」

食蜂「分かっているわよ。そう。上条君の言う通り、良い方向に傾く可能性は限りなく低い。
   それどころか、悪い方向に傾く可能性だってある。上条君こそ、そこんところ分かっているのカナぁ?」

上条「悪い方向に傾く可能性に怯えて世界を滅ぼすと言うのか?
   何だよそれ。それってお前が『世界は良くならない。寧ろ悪くなる一方だ』って決めつけて逃げているだけじゃねぇか!」

食蜂「実際、良くなると思う?百歩譲って現状維持が出来たとしても、良くなる事は無いに等しいと思うけど」

上条「でも絶対にあり得ないと言う事はない」

食蜂「頑固だなぁ。しつこい男は嫌われるよ?」

上条「俺だってお前みたいな変なところで意地を張る女は願い下げだ」

食蜂「ひっどーい。私みたいな女子力溢れる女の子を願い下げだなんて贅沢なこと言った男、上条君が初めてだよ」

上条「御託は良い。土御門。やっぱり殴って止めるしかなさそうだ」

ここまで敢えて口を挟まなかった土御門は、振られた為答える。

土御門「そうするしかないみたいだな。気をつけろ。今の食蜂は比喩ではなく正真正銘の『全能』だ。
    そして着用しているコルセットは学園都市製のもので、防護性、耐久性、柔軟性、どれも最高レベルのものだ」

上条「能力も装備も万全ってことか」

土御門「そうだ。加えて奴には、油断や慢心は微塵もない。あるのは自信だ」

食蜂「はぁ。戦うことになったのは残念だけど、仕方ないよね。
   いいわぁ。私の女子力で上条君をメロメロにしてあげる♡」

土御門「最後に、俺は一緒に戦えない。居ても足手まといになるだけだからな。だから頼んだぞカミやん!」

上条「ああ!」

土御門が静かに戦場から去る。
上条当麻と食蜂操祈。
『竜王』と『全能』の戦いが始まる。
456 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2012/03/14(水) 13:49:01.88 ID:0hGl3lNF0
書きためはもう少しだけあるのですが、ここまでと言う事で。
さすがに3月中には完結させたいと思っていますが、次回投下はいつになるかは分かりません
457 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛媛県) [sage]:2012/03/18(日) 01:49:13.78 ID:hE/DlOFU0
458 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/18(日) 07:55:35.49 ID:9Jj5N8W50
結局オリキャラ無双の次は上条無双か。
借りをかえすならともかく上条が倒したんなら気持ちの悪いオリキャラを倒しても全然カタルシスが無いなぁ。
一ヶ月待って損したわ。
459 :sage :2012/04/05(木) 21:20:19.69 ID:LsEcgniD0
確かにオリキャラつえーなww
460 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/08(日) 21:47:04.00 ID:j9yIk0Oso
うん
461 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/05/06(日) 21:04:34.26 ID:ioH09dGE0
>>1です
まだ書きため終わってないです
3月どころか5月の今でもこのザマですが、完結だけはさせようと思っています
とりあえず食蜂戦終了まで投下します
462 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/05/06(日) 21:11:04.13 ID:ioH09dGE0
食蜂「塵は塵に、灰は灰に、吸血殺しの紅十字ぃ♡」

食蜂が両手をクロスして炎を十字に放ったと同時、上条はスタートを切っていた。

轟々と燃え盛る十字の炎が迫る。常人なら掠めただけでも致命傷。
だがいくつもの死線を越えてきた上条にとっては取るに足らない。

上条(大きな動きは必要ない。必要最低限の動きだけで――)

左斜め前に数歩踏み出し、わずかに頭を下げる。
たったそれだけの動作で、十字の炎は上条の右と上を通り過ぎる。
その直後、

食蜂「十閃(じっせん)♪」

楽しそうな食蜂の声と同時に、神裂火織の七閃より速く鋭い十本のワイヤーが上条に迫る。
しかし上条は退かない。たった十本のワイヤーごとき、大した事はない。

十本のワイヤーのうち二本を『竜王の鉤爪』で引き裂き、残りの八本のワイヤーを少しジャンプして体を捻って潜り抜ける。
その先に待っていたのは、居合いの構えの食蜂。

上条(退く事も出来なくはないが……ここは攻め抜く!)

上条の伸ばした拳が、食蜂の居合いの間合いに入る。

食蜂「唯閃っ」

超高速の居合い斬りが放たれ、上条の拳と激突した。
ゴギャア!と食蜂の刀は砕けるが、上条も数m弾き飛ばされた。

食蜂「刀身を持つ銃をこの手に。用途は切断。数は十」

上条(今度はアウレオルスの真似事か――!)

上条の眼は見切っていた。
食蜂が発言した瞬間、近くの地面がへこみ、へこんだ分の地面が虹色の粒子となり彼女の手に暗器銃となって収まったのを。

上条(さっきの銀髪野郎もそうだったが、何だあの能力は?)

食蜂「暗器銃、地球上に住む全ての生物の動体視力を超える速度にて、その刀身を旋回射出せよっ」

上条(ってそんなこと考えている場合じゃないか――!)

なんて事を考えながらも、究極の速度で回転しながら飛来してきた刀身を全て避けきったのは、
地球上に住むすべての生物の動体視力と運動能力を遥かに超えていたからだ。

上条(今は、食蜂を倒す事だけに集中しろ!)

バゴン!と砕く勢いで、地面を思い切り蹴って一瞬で食蜂に肉迫して拳を放つが、

食蜂「水よ、蛇となりて剣のように突き刺せぇ☆」

その一瞬後には上条の後方10mにテレポートした食蜂が、背後から八本の水蛇を放っていた。
たちが悪い事に、一方向からではなくバラバラの方向から飛来してくる。

ドッバァ!と八岐大蛇の如き激流が上条を飲み込んだ。
463 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/05/06(日) 21:13:15.85 ID:ioH09dGE0
食蜂「衝打の弦っ」

煙が晴れていないにもかかわらず、上条がこの程度で死ぬわけがないと確信している食蜂は、
即席で生み出したレプリカの梓弓から追撃の衝撃波を放つ。

それを証明するように、ドゴン!と衝撃波が何かにぶつかった音が響く。

食蜂「『神の如き者』(ミカエル)。『神の薬』(ラファエル)。『神の力』(ガブリエル)。『神の火』(ウリエル)。
   四界を示す四天象徴っ、正しき力を正しき方向へ正しく配置し正しく導けぇ☆」

などと詠唱しながら、オイルパステルを振りかざす食蜂の下に突風が吹き荒れた。

食蜂「きゃっ」

あまりの突風に梓弓が腕から、オイルパステルが指からすっぽ抜ける。
防御の為に『竜王の翼』で体を包んでいた上条が、返す刀で翼を広げて発生させた突風。

食蜂「やるなぁ」

瓦礫や土砂などを集めて、ゴーレムなど比にならない全長100mはある巨人を上条の後方に召喚する。
詠唱などは気分の問題。わざわざしなくとも、失敗しても、能力で炎や水を出し、巨人を召喚することなど訳はない。

巨人が上条を潰すために振りかぶる。
対して上条は右手に『竜王の顎』を顕現させ、巨人の方に『竜王の殺息』を砲弾状にして放つだけ。
その砲弾は直径10mもなかったが、巨人に直撃した瞬間炸裂してガラガラと崩壊させた。

上条「そんな二番煎じは通用しない」

食蜂「別に通じる通じないで魔術師とやらの真似をしている訳じゃないよ?ただ単に、楽しいからやっているだけ」

上条「……」

食蜂「でもでもぉ、上条君がそこまで言うなら良いよ?私のありのままの戦い方が見たいなら見せてあげる♡」
464 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/05/06(日) 21:15:24.02 ID:ioH09dGE0
テレポートを実行して一瞬で上条の後ろに回り込んだ食蜂が、肘を首に叩きこんだ。

上条「が……!」

油断していた訳ではなかった。単純に反応できなかった。

食蜂「上条君の大好きな近接戦闘で相手してあげる♡」

上条「――望むところだ!」

『竜王の翼』と『竜王の顎』は、純粋な近接戦闘には邪魔だ。
上条はそれらを一時的に消失させて、後ろの食蜂の顔面目がけて裏拳を振るう。

食蜂「そんなテンプレ反撃じゃ、私は捉えられないよ?」

わずかに頭を下げて裏拳を回避した食蜂は、ガラ空きになった上条の腹部に連続で拳を叩きこみ、とどめの蹴りで数十m以上ぶっ飛ばす。

食蜂「まだまだぁ!」

地面を転がっている最中の上条は、ぶっ飛んでいる方向の先に食蜂がいるのを捉えた。
おそらくまた蹴り飛ばすため。

上条(そう来るのならば――!)

転がる勢いのまま、何回目かのバウンドでわずかに空中を舞った上条は、
その刹那の時間の中で無理矢理体勢を立て直し、逆に飛び蹴りをかます。

食蜂「残念でした☆」

上条「何!?」

上条は驚愕した。
食蜂は飛び蹴りを避ける訳でも受け止める訳でもなく“通過させた”からだ。
つまりは霊体化。

食蜂「えいっ!」

食蜂の後ろ蹴りが、彼女の体をすり抜けた直後の上条にクリーンヒットした。
またしても地面を数十m転がっていく。

上条「ごはっ!」

今度は食蜂を一切捉えることすら出来ず、背中から追撃を喰らって上空に打ち上げられた。
食蜂が“地面の中からアッパーを繰り出した”ためだった。

続いて食蜂は追い討ちのかかと落としを決めるために、縦回転しながら上昇して行く。

食蜂「そりゃっ!」

轟!と繰り出されたかかと落としに対して、ある程度態勢を立て直していた上条は白刃取りの要領でそれを受け止めるが、

食蜂「それぐらいは想定済みな訳でぇ」

空気を掴み取って鉄棒代わりにしてぐるぐると回転し、脚を掴んでいた上条を遠心力で解き放つ。

上条がぶっ飛んだ先は地上。
ゴリゴリゴリゴリ!と背中で地面を何mもスライドして行き、

妖艶な笑みを浮かべた食蜂が勢いよく、スライド最中だった上条の股付近に騎乗位の如く跨った。
465 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage]:2012/05/06(日) 21:17:48.16 ID:ioH09dGE0
食蜂「さっき土御門君とさ、私が迷っているんじゃないかって会話をしていたよね?」

それがどうしたと言わんばかりに動く腕で反撃を試みる上条だったが、あっさりと掴み取られた上に捻られた。
同時に、何故か食蜂の腕から血が噴き出し、再生した。

食蜂「なるほどねぇ」

上条(何だ?)

上条の疑問をよそに、食蜂が語り始める。

食蜂「残念だけど、私は迷ってなんかいないよ。
   洗脳者に半端な自我を持たせたのは、能力の節約と君達を揺さぶる為。
   敢えて追い詰めなかったのは、簡単に勝ってしまうのがつまらないから」

どこか艶めかしい笑みを浮かべながら、

食蜂「私がなぜ上条君の得意な近接戦闘を挑んだのか分かる?それはね、そっちの方が楽しそうだから、だよ。
   ゲームの楽しみ方は人それぞれだけど、私はあえてハードモードでプレイして、スリルと程良い緊張感を味わうのが楽しいタイプの人間。
   つまり今までの行動すべて、私にとっては世界をゲームに見立てた、遊びでしかないの」

と雄弁に語った食蜂を、

上条「……嘘だな」

上条は、たった一言で切り捨てた。

食蜂「はぁ?」

上条「俺を本気で殺しに来ていない」

食蜂「あのさぁ、理解力皆無なの?私にとってこの戦いはゲームであり娯楽。それを簡単に終わらせたくないだけだよ?」

上条「お前はきっと、優しい人間だ」

食蜂「……ついに頭がおかしくなったのかなぁ?それとも口説いているの?それとも懐柔?どの道、私は止まらないよ」

上条「だってそうだろ。やり方は間違っているけど、不幸な人がいない幸せな世界を夢見ているんだろ?
   そんな事を望むお前が、根っからの悪人だとは思えない。今からでも遅くない。こんな無意味な戦いはもうやめよう」

食蜂操祈は根本的には女子高生にすぎない(もっとも、能力で年齢詐称している可能性はあるが)。
そんな年端もいかない少女が世界滅亡という深刻な事で悩み続けて狂っただけかもしれない。
彼女が今までやった事は到底許される事ではないが、そこまでの外道ではないと思う。

食蜂「やっぱり懐柔かぁ。さっきまでやる気満々だったのに、どうして今更そんな事言うの?
   実際に戦闘してみて、[ピーーー]気がない事が分かったからとでも言いたい訳?」

上条「そうだ」

食蜂「物分かり悪いなぁ。そんな上条君には、お仕置きが必要だねぇ」

捻り上げていた上条の腕を掴んだまま横に叩きつけ、前かがみになって上条と鼻先数cmの距離までに迫る。
466 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [sage saga]:2012/05/06(日) 21:20:00.53 ID:ioH09dGE0
何かされる。分かっていても食蜂の力は強く抜け出せない。

食蜂「私はこの戦いを通して、君の事をある程度観察してきた。
   で、観察すればするほど凄いな〜と感心するばかりで弱点らしきことは見つからず、
   それなりの力で殴ったり蹴ったりすれば、ダメージは少なくとも吹っ飛ぶとか、どうでもいいコトしか分からなかった。
   しかも上条君は、本気どころか半分の力も出していないでしょ?
   何が言いたいかって言うと、データなんて皆無も同然。それでも、私なりに考えて一つの可能性を見出した。
   外側からじゃ異能も物理も効果が薄い。なら内側からならどうなのかなってね」

その言葉に、上条は答えない。否、答えられなかった。
なぜならば、

食蜂「きっと上条君自身も分からないでしょうね。その力を本格的に自覚して使い始めたのは、たった4か月前。
   しかも強すぎるが故に本気は出せないし、その力での戦闘経験も十分じゃない。
   その力について全容を知らないのも無理はない」

上条(くっそ!このままじゃヤバい……!)

全身に力を込めるが、まるで動かない。

食蜂「あまりにも強くて速すぎるから、座標攻撃が当たらないと思ってテレポーターを送り込まなかったけど、実際はどうなのかな?」

上条「放せ!この――」

上条の言葉は遮られた。
食蜂の唇が上条の唇に重ねられたために。
467 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/05/06(日) 21:23:32.24 ID:ioH09dGE0
それだけでは終わらない。
食蜂の舌が上条の口腔内に挿入され、さらに舌を絡めとった。
すなわち、ディープキス。

食蜂「ん……」

上条(力が、入らねぇ……!)

そして約10秒に及ぶフレンチキスは、食蜂が顔を上げることによって終了した。

食蜂「んふ♡私のファーストキスだよ。光栄に思ってね?」

上条「ぁ……」

言葉すらまともに出せなかった。
体内に影響を及ぼす『何か』を仕込まれたのと、その手段がキスと言う驚きから来るものだった。

食蜂「その様子だと、やっぱり内側からなら、ある程度は効果あるみたいだね」

上条(ちっくしょう……)

結局のところ、上条には油断と慢心があった。
それは無理もないことだった。

上条はこの戦いが始まってからレベル5の軍団相手に無双し続けていた。
しかも手加減してだ。
かと言って力を発揮しすぎると誤って殺してしまう危険性もある。
だから食蜂相手にも、今までのレベル5よりは力を発揮しているが、本当の本気は出していなかった。

食蜂「どうしたの?私みたいな絶世の美女とキス出来て嬉しいでしょ?」

上条「ふざけんな……」

食蜂「逆切れはやめてよ。上条君が力を出し惜しみしているのがいけないんでしょ?
   あ、ファーストキス奪ったことに対してなのかな?
でも、さっきも言ったけど私みたいな美女とキス出来るのは名誉なことだと思うよ?
男子はもちろん、常盤台の女子だって卒倒ものだよ?」

後半の戯言はともかく、前半部分は全く以って正論だった。
自分が出し惜しみしていたのが悪い。だから。それは反省するから。

上条(頼む……今だけでいい。今だけで良いから俺に力を――)

神頼み。
通常、そんなことで変化は訪れない。
こんなことで状況が好転するのならば、誰も苦労しないし不幸にはならない。

しかしながら、上条当麻は通常とは違う。
彼の中には『竜王』が宿っている。
468 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/05/06(日) 21:27:23.23 ID:ioH09dGE0
上条の目が大きく見開かれた。
それを食蜂が認識した時には、突如上半身を起こした上条の頭突きを鼻っ柱に思いっきり喰らい、ぶっ飛ばされていた。

食蜂「いったーい。女子にとって顔は命だよ?
まぁ老若男女関係なく顔面殴り飛ばす上条君に言っても仕方ないかもだけど」

お尻を撫でながら適当な感じの彼女の下に、既に起き上がっていた上条の拳が、顔面目がけて放たれていた。

食蜂「あらあぶない」

などと言いながら、テレポートを実行してあっさりと上条の後方10m地点に立つ。
直後。

壮絶な勢いで上条が振り返ったと認識した時には、目の前で右手が振り下ろされていた。

食蜂(速い、けど――)

踊るように、大きい動きではなく必要最低限の動きで上条の切り裂きを避けた。

上条(ちっ!)

食蜂を追い詰めようと右手、左手、右足、左足、四肢を全力で振るう。

食蜂「いきなり積極的だねぇ〜。キスまでして与えた毒の影響なんかないみたい。浄化でもされちゃったのかな?」

軽口を叩きながら、瞬きを超える速度で襲い掛かる攻撃を全て避ける。
しかも転がるなどと無様にではなく、優雅に舞うように。

上条(まるで当たらねぇ……!)

実のところ上条はまだ調子に乗っていた。今までは手加減していたから押されていた。
だからさらなる力を発揮すれば、いくら『全能』と言えど倒せると思っていた。

だが現実はこうだ。
よくよく考えてみれば、それは妥当な事かもしれなかった。

上条はこの戦いが始まってから、レベル5相手にもほとんど苦戦せずに勝ち続けてきた。
倒した人数も、メンバーの中では多い方だ。200万回戦ならば勝利していたかもしれない。
しかしながら、今回は200万人分の力が1つに集合したモノが相手。200万人と200万人分と戦うのではワケが違う。

そして何より、御坂美琴と戦った時――つまり、レベル5一人分の力“しかない”モノと戦った時、仲間であり動揺していたとはいえ、苦戦し追い込まれた。
だと言うのに、200万人分の力を持つ食蜂に勝つことなど出来るのだろうか。

食蜂「上条クン。そんな単調な攻め方じゃ、私を悶えさせることなんてできないよ?お手本見せてあげる♡」

食蜂の両手にレイピアが握られる。
そして上条の攻撃を避けつつ、音を超える速度の連続突きを放つ。

食蜂「蝶のように舞い、蜂のように刺す!ってね☆」

何突きかは避けるものの、7秒もしないうちに右のレイピアの先端が上条の喉を穿った。
しかし食蜂は不快そうに眉を潜めた。
逆に上条は若干の呼吸困難に陥るもレイピアを折り、わずかに笑みを浮かべた。

食蜂(気付かれたかな?とりあえず確かめてみますか)

左のレイピアを、上条のわずかに開いている口目がけて放つ。
いくら外面が堅牢であろうと、内面は人間のはず(毒は浄化されたみたいだが効き目は一時的だがあった)。
ということは口の中なら貫けるはず。

上条(狙いはおそらく――)

食蜂は体内に毒を仕込んだ。
内側から壊せる事が分かった今ならば、わざわざ効果が薄い外から攻めるより、内から攻めるだろう。
そう考えると狙いは決まってくる。口の中、鼻の孔。究極の『竜王』の力が及ばない点。
狙いが分かるという事は、無駄なく攻撃を避けられるという事。
するとその分だけ、ほんの少しではあるが大きく避けた時より時間が生まれるという事。
つまり、反撃への足がかりとなる。

上条は頭を少しだけ横に振ってレイピアを回避。
無駄なく避けられたが故に少しの時間が生まれ、ついさっきまでどうしても届かなかったカウンターの左拳が食蜂の顔面を貫いた。

そう。貫いた。比喩ではなく、本当に食蜂の顔面を通り抜けた。つまりは空振りも同然。

上条「ちっ!」

舌打ちをしながらも後退する。直後、上条が1秒前まで居た座標に雷が落ちた。
469 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/05/06(日) 21:30:59.66 ID:ioH09dGE0
食蜂「デートするならやっぱり、植物園だよねぇ♡」

猫撫で声の直後、上条を中心に半径20mから木々が生え始めた。
そして3秒で樹海を構成するが、上条は『竜王の翼』を顕現させ上空30mに避難し『竜王の顎』を右手に顕現させて、火炎球を樹海に向かって放った。

火炎球は着弾直後に、燃やすという現象を一瞬で通り越して、樹海を灰に変えた。

食蜂「プラネタリウムもいいよね♡」

時刻は夕刻。
陽が沈みきっていないがために赤い夕空が広がる中、上条の周囲に夥しい数のオーソドックスな五角形の星と三日月が出現した。

上条(プラネタリウムだと?笑わせんな!)

広がる光景は、本物のプラネタリウムとは程遠い。
赤い空に、大きさ10cmの黄色い星と三日月が浮いているのだから、風情も何もあったものではない。
上条でなくとも鼻で笑うだろう。

食蜂「発射ぁ!」

命令の直後、星と三日月から光線が一斉に発射される。
対して上条は、翼で自身を包み光線をやり過ごす。

食蜂「シンプルイズベストってことか。困るなぁ。心開いてよぉ」

と言って、翼を開く上条ではない。
だったら光線を当て続ければ良いだけの話だと思うかもしれないが、絶対防御に近い翼に光線を当て続けるのは無駄でしかない。

食蜂「ああもう良いよ!流れ星ぴゅーん!」

全ての三日月と星が高速回転して上条の下に向かい激突して爆発した。
一発の威力は一般的な地雷レベルのもの。それが何発も直撃して、上条がいる座標は黒煙に覆われて。

ビュオ!と黒煙を引き裂いて、直径2mの光線が地上の食蜂を撃ち抜いた。
470 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/05/06(日) 21:34:27.56 ID:ioH09dGE0
食蜂「降りきてよ。もうこんな不毛な争いやめよ?」

地面の中に一時的に避難していた食蜂は、あっさりと出てきてそんな提案をした。

上条「俺もそう思っていたところだ」

右手に『竜王の顎』、背中には『竜王の翼』を携えたまま地上に降り立つ。

上条「ようやく分かってくれたのか。世界を滅ぼしても何の意味もない事が」

食蜂「私が言いたい事はそんな事じゃない。このままダラダラ戦い続けても仕方ない。次で決めない?」

上条「何でそうなる。この戦いを止めて、罪を償って、やり直せばいいだろ。たったそれだけのことだろうが」

食蜂「無理だよ……」

上条「無理じゃねぇ!お前はそれだけの力があるんだろ!?それを壊す事じゃなく、変える事に使えばいいだけだろ!
   その方法が分からないなら、俺が協力してやるから!だからこんな無意味な戦いは止めるべきだ!」

食蜂を止めるための方便ではない。
本心から叫んでいたが、

食蜂「無理だよ。だってもう、世界崩壊の序曲は始まっているもの」

拒絶、というよりは諦めたような言い方。

上条「どう言う意味だ?」

食蜂「私が学園都市を完全に支配して約2日は経過している。
   この期間、私の野望に気付き学園都市を出張と言う名目で脱出していた雲川芹亜が
   現在進行形で頑張っているみたいだけど、実質学園都市の機能はストップしたようなもの。
   これが世界経済にどれだけのダメージを与えるか」

それだけじゃない、と食蜂は続けて、

食蜂「学園都市の異変に気付いた世界が、主導権を握ろうとこの機に乗り込んでくるかもしれない。
   そして第4次世界大戦の幕が上がらないとも限らない。
   要するに、上条君が勝とうが私が勝とうが、もう遅いってコト」

上条「……」

食蜂「もうこの世界は不幸に一直線なの。滅亡した方が、良いと思う。だから、私に任せてよ」

上条「……それは」

食蜂「私と上条君は、三日三晩戦ったって決着はつかないでしょう。
   だから次の一撃で雌雄を決しようって言っているの」

当然と言えば当然なのだが、衝撃の事実を前に上条は深く息を吸って吐いた。
471 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/05/06(日) 21:36:33.72 ID:ioH09dGE0
上条「……分かった」

食蜂「じゃあ――」

上条「お前をさっさと止めて、世界も良い方向に変えてやる」

食蜂「……ばかじゃないの」

上条「俺は、お前が言った事をポジティブに受け取る」

何を言っているか分からないと食蜂が怪訝な顔を浮かべる中、上条は当然のように言った。

上条「お前は、このままだと世界がヤバいなんて大げさな話を持ちだして、次で決めようと提案してくれた。
   世界が本当に混乱しきってしまう前に」

食蜂「本当に、ばかじゃないの……」

上条「お前は狂っている。でも良心はあるみたいだし、迷っているのも分かる。
   お前をその混沌の中から引きずり出す。そして償わせる。それが終わったら、世界を一緒にいい方向に変えよう」

食蜂「本当に、大バカ野郎だね上条君は。……御坂さん他多数が惚れるのも無理ないってワケだ」

ぼそぼそと呟く食蜂の背中から、黒い竜が顕現する。
御坂や青髪が出す大蛇のような竜(手は生えている)ではなく、翼や手、胴体に足がある竜。全長は100mほど。
背中にある翼はそれぞれ50m。

食蜂「さっき上条君の元気な股間の上に跨った時、その力を吸収してみたの。
   結果は失敗。拒絶反応を起こしただけだった。人間には到底合わないみたい」

食蜂に馬乗りにされた時。彼女が腕から血を噴き出したのは、そのためだったのか。
と上条は漠然と思いだす。

食蜂「でも、吸収できる事は分かった。じゃあ吸収する媒体が人間以外なら果たしてどうなるのかな?」

上条「まさか……」

食蜂「察しの悪い上条君でも、ここまで言えばさすがに分かるよね。
   この竜は特別製。“能力で出来た、能力を持つ竜”。
   ある程度の異能――上条君のその力も喰らうし、炎だって吐くし、鱗は超頑丈だし、他にも色々万能な竜」

喜怒哀楽のどれにもあたらないような顔をして食蜂は告げる。

食蜂「さあ、これが最後の勝負だよ。
   今まで何割の力で戦っていたかは知らないけど、そのままだと多分私が勝つ。
   本気出した方がいいと思う。出さないなら出さないでもいいけどね」
472 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/05/06(日) 21:37:51.52 ID:ioH09dGE0
上条は現在、7割の力を発揮している。
アレイスターと戦った時は、5割で意識を飲み込まれた。
つまり、7割の状態で意識を保ち『竜王』の力を使役している現状は、ある意味快挙だ。

そして、これ以上の力を発揮すれば、どうなるか分からない。
本気を出さないのではなく、出せない。

だが、さすがに分かる。
7割の力のままでは喰われるだけということが。

上条(俺が負ければ食蜂に世界を滅ぼされちまう。それだけは、絶対にさせる訳にはいかない……!)

迷っている時間は、なかった。

上条「――!」

上条の体から、莫大な翡翠色の光が溢れ――。
473 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/05/06(日) 21:38:31.21 ID:ioH09dGE0
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

咆哮。
全長は100mほどで翡翠色の鱗に覆われている、食蜂の黒竜と違い、翼と手はあるが脚はない竜。

食蜂「これが『竜王』とやらの全貌か……」

竜王「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

食蜂「いきなさい!」

咆哮する竜王に、自身が出した黒い竜をぶつける。
二匹の竜は互いに絡み合い、噛みつきあう。

竜王「オ、オオオ、オオオオオオオオオ!?」

食蜂(確実に効いているみたいね)

異能を喰らう竜同士の激突。
それぞれは同じペースで急激に縮んでいく。
このままいけば、フェードアウトするように二匹の竜は消えて行くだろう。
と食蜂は見立てていたが、

ゴバッ!と、二匹の竜は突如大爆発した。
その大爆発は天まで伸びる光の柱となって、半径10kmを更地に変える。
474 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/05/06(日) 21:39:51.86 ID:ioH09dGE0
はずだった。

上条・食蜂「「はぁ、はぁ」」

彼らがいなければ。

上条と食蜂の距離は約30m。
その間で竜の激突と大爆発は起こった。
当然、その間の30mはクレーターのように地面が抉れている。

しかし彼らの後方には、いつも通りの街並みが広がっている。

上条が『幻想殺し』を、食蜂が能力を巧みに使って爆発の衝撃を打ち消しきったからだ。

食蜂「タフだねぇ上条君。意識を失って倒れたくせに、すぐに起き上がって街を守るとは」

上条「お前こそ、なんだかんだ言って街を守ったんじゃないのか」

食蜂「保身しただけだよ。ところでさ、なんで『幻想殺し』が残っているのかなぁ?」

上条「『幻想殺し』は、あくまで『竜王』を閉じ込めるための『蓋』だった。
   この『蓋』は壊されたんじゃない。『竜王』は俺の意思で解放したんだ。
   だから『蓋』は残っているってだけの話だ」

食蜂「そっかそっかぁ。てことは私の負けだね」

上条「能力はもう使えないのか」

食蜂「あれだけの竜を出して、爆発から身を守るので能力は使い切ってしまった。
   まぁ、200万の能力情報はまだ脳に残っているから、少し休憩すれば使えるようになるけど、頭を『幻想殺し』で触られたら一発アウト。
   無かったら私の勝ちだったのになー。参りました」

両手を挙げて、降参のポーズを取る。

上条「オーケー。じゃあそのままじっとしてろよ」

上条は歩き出した。
食蜂の頭に触れる為に。

肉体的ダメージはそれほどなくても、疲労と精神の消耗がピークに達していた上条の足取りは重い。
それでも、一歩一歩、30mの距離を埋めて行く。

そしてついに。

食蜂「……」

上条「……ふぅ」

どこかスッキリしたような笑みを浮かべている食蜂の目の前に辿り着いた。
475 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/05/06(日) 21:41:45.91 ID:ioH09dGE0
上条「じゃあ、いくぞ」

食蜂「お願い」

そして、上条の右手が食蜂の頭まであと数cmというところで、

ヒュッと、食蜂の掌底が飛び、パシ!と、上条の右手がそれを止めた。

食蜂「……バレてたかぁ」

上条「何となく、な」

もうここまでくれば、食蜂操祈と言う人間が分かってくる。高飛車で。ゲーマーで。
狂った野望を掲げて実行してしまうほど狂った人間で、それが狂っていると自覚していながらも、手を止めない頑固者で。
でもやっぱり良心や優しさは残っていて。年相応の女の子っぽい一面もあって。

何より、負けず嫌い。

もはや何も言うまい。殴って止めて更生させる。
それだけだ。

顔面目がけて飛ぶ食蜂の左の掌底を、上条は頭を左に振って回避するが、

食蜂「ふっ」

短く息を吐いた音が聞こえたかと思ったら、右膝を腹部に叩きこまれた。
それでも上条は、叩きこまれた右脚を左手で掴み、そのまま押し倒す。

食蜂「きゃー、えっちー」

ふざけた調子の食蜂は、力に逆らわず押し倒される勢いを利用して巴投げを繰り出し、上条を投げ飛ばした。

上条「がはっ!」

地面に叩きつけられむせながらも、このままではマウントポジションを取られて圧倒的に不利になると直感し即座に起き上がる。

食蜂「能力が使えなくなったからって見くびらない方が良いよ。私、負ける気ないから」

上条「んな事……分かっているっつーの!」

こっちだって、負ける気はない。
476 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/05/06(日) 21:43:32.00 ID:ioH09dGE0
右拳がかわされ、反撃の右膝が腹部に叩きこまれ、追撃の肘を首筋に叩きこまれ、さすがに片膝をついたところに、
顔面目がけて放たれる回し蹴りを避けられずに喰らって、完全に倒れる。

食蜂「ごめんね上条君。私、嘘ついてた」

最早ボロボロの上条を見下ろしながら、食蜂は言う。

食蜂「能力使えないって言ったけど、実は使えるのがあるの。私自身の能力『心理掌握』」

ボロボロの上条はゆっくりと起き上がりつつ、

上条「それで……俺の行動が先読みできるから……勝ち目はないとでも……言いたいのか」

食蜂「それだけじゃないよ。もう分かり切っている事だけど、私の能力の真骨頂は洗脳する事。
   これが何を意味するか分かるよね?」

上条「俺の体の動きを……操っているとでも……言いたいのか」

食蜂「ある程度は、ね」

しかしながら、それならば簡単な話。
右手で頭を触れば洗脳は解ける。

上条は右手で自身の頭に触れる。ガラスが割れるような甲高い音が脳内に響く。

同時に、食蜂が引き裂くような笑みを浮かべて、

食蜂「そうだよね。そうするしかないよね。するとぉ〜」

ドゴォ!と、ガラ空きになっている右脇腹に蹴りが叩きこまれた。

上条「が……あ……」

食蜂「右側の防御が疎かになってしまう。けれども、右手は常に触れていないと私の能力が及んでしまう。
   どっちに転がっても、上条君が不利だよ」

だからと言って、負けを認めるわけにはいかない。
せめて、食蜂の脳に残っている200万人の能力だけは打ち消さなければいけない。

上条は、静かに右手を下ろした。

食蜂「そっちの方が私にとっては好都合かな!」

心理を読み切り、あまつさえ体の自由すらある程度剥奪している食蜂が牙をむく。
477 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/05/06(日) 21:45:19.42 ID:ioH09dGE0
ゴンガンドンギングシャ!と。
断続的に原始的な暴力の音が木霊する。

洗脳により左腕を封じられ、体重制御もままならないために攻撃も防御も満足にできない上条は、
食蜂にされるがままに殴られ蹴られまくっていた。

食蜂「何で、諦めないの?」

倒れている上条の腹を踏みつけつつ、

食蜂「上条君がそこまで頑張る意味が分からないよ。
   世の中には搾取する側とされる側の人間しかいない。
   簡単に世界を変えよう変えようって言うけど、上に立つ人間が変える気がないもの、どうしようもないよ」

上条「何度も、言わせるんじゃねぇよ……」

踏みつけられている食蜂の足を掴みながら、ボロボロの上条は言葉を紡ぐ。

上条「現状その通りだとしても、俺達が変わって、皆も変えて行けばいい。たったそれだけの、単純な話だろうが……」

食蜂「だから、物事そんな簡単に思い通りにはいかないって。理想論はもう止めてよ」

上条「理想論でも、滅亡よりはマシだ……というか、もういいだろ。
   こんな事議論したって仕方ない。俺が勝てばお前が諦め、お前が勝てば世界は滅亡するだけだ」

食蜂「……でもこの状況、上条君はどうやって逆転するの?」

上条「……気合いしかないだろ!」

食蜂の足を掴む上条の握力が強くなる。

食蜂(まだこれだけの力が出せるの――)

思わず足を退いて後退する食蜂へ、即座に起き上がった上条が右拳を放った。
それは食蜂の胸に直撃するも、ぽすん、と間抜けな音が出ただけだった。

食蜂「ボロボロなうえに体重も乗せられないだもん。まともな威力の拳を放てるわけないよねぇ」

あと照準もめちゃくちゃだよねぇ。
後退しながら付け加えている間に、上条は己の右手を頭にぶち当てる。
478 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/05/06(日) 21:46:26.09 ID:ioH09dGE0
食蜂「分かっていると思うけど、上条君の狙いは私に筒抜けだからね?」

上条「……それがどうした。それでも俺に出来ることは変わらない」

食蜂「そうだけどさぁ。もう上条君の体は限界を迎えている。いや、超えている。私の能力切れまで保つとは思えないなぁ」

上条の狙い。
あえて能力を及ばせて、打ち消す。すると食蜂は再び能力を使用する。
それを打ち消す。その繰り返しで能力を何十回も使わせれば、いずれ能力が使えなくなるはず。

だが食蜂の言う通り、能力が切れるまでは一方的に攻められ放題だし、体はもう限界だ。

食蜂「はっきり言っちゃおうか。狙い自体は悪くない。
   けれども、私の『心理掌握』はまだ使えるし上条君自身も限界。私の勝利は決定的だよ」

上条「……そういうのは俺を倒してから言ってくれ」

食蜂「お望みとあらば。……綺麗に決めてあげる!」

右拳を固く握り、わずか10mの距離を駆ける。
その時、上条に能力は使わなかった。

それは単純に、油断や慢心だったのかもしれない。
ここまでボロボロの男子高校生相手に、能力など最早使うまでもないと。
この一撃で終わるのだからと。仮に反撃されても対応できる自信もあると。

あるいは。
479 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) [saga sage]:2012/05/06(日) 21:47:41.95 ID:ioH09dGE0
その時上条は、霞む視界で食蜂が駆けてくるのを捉え、感じた。
彼女が何を考えているかは分からないが洗脳の能力は及んでいない。感覚で分かる。
もしかすると油断しているのかもしれない。とにかく、体重制御はできる。

しかし、心理は読まれているかもしれない。
仮に読まれていなくとも、右拳を放つなんて単純な反撃では対応されるかもしれない。
今までの戦い方では、心理を読まれていてもいなくとも勝てはしない。

だから。

食蜂「はぁ!」

顔面目がけて放たれた右拳を、左手でいなし、掴み取り、

上条「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

食蜂「ひゃあ!?」

左前隅に崩しながら前回りさばきで踏み込み体を沈め、右手でも掴み固定し、受けの体を背負い上げて投げた。

食蜂「あぅ!」

豪快な一本背負いによって思い切り地面に叩きつけられた食蜂は、それだけで意識を失った。

上条「はぁ、はぁ」

息を乱しながら、思った。
食蜂が能力を最後の最後で使わなかった理由。
油断だったのかもしれないけど。

あるいは、自身を止めてほしいが故に、無意識に能力を使わなかったのかもしれない。

上条(とにかく、俺の勝ちだ)

ゆっくりと屈んで、食蜂の頭に右手で触れる。
キュイーン!と独特の音が響き、

上条の意識も、そこで途切れた。
480 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/05(火) 00:52:17.98 ID:J/y1HyZg0
上条が目を覚ますと、そこは病院だった。

木山「目覚めたようだね」

声の主は、研究服の女性。

上条「あなたは確か……どこかで会ったような……」

木山「木山春生だ。去年の夏、駐車場の場所を訪ねた事がある」

上条「ああ、どうりで見覚えが……ところで、その木山さんが俺に何の用です?」

木山「いや何。お礼を言いに来ただけさ」

上条「お礼?」

木山「この世界を救ってくれたお礼さ。ありがとう」

上条「……なんて言ったらいいか分からないけど、どういたしまして」

木山「ああ。用はそれだけさ。この後は――」

土御門「俺が引き受けるぜい」

いつの間にか、アロハシャツに学生服の土御門元春が病室の中にいた。

木山「よろしく頼んだよ」

土御門「ああ」

短い会話の後、木山は病室を去った。
481 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/05(火) 00:58:26.42 ID:J/y1HyZg0
上条「土御門」

土御門「愛しの五和さんじゃなくてごめんだにゃー」

上条「からかいにきたのか?」

土御門「なわけないだろ」

上条「じゃあ早く要件を言えよ」

土御門「冷たいにゃー」

上条「早くしろ」

土御門「分かった分かった。まずはそう、現在時刻だが……」、

上条「外は明るいな。昼辺りか?」

土御門「4月14日の12時34分。カミやんが意識を失ってから、約18時間ってトコロかな。でだ。その間に何があったか。
    要するに食蜂はどうなったとか、生徒達はどうなったとか、その辺の話をしにきた」

上条「おう。頼むわ」

土御門「何から聞きたい?」

上条「お前の話したい順番で良いよ」

土御門「そうだな。ではまず生徒達がどうなったかについて。
    結論から言うと、生徒達のここ数日の記憶は改竄させてもらった」

上条「――!」

土御門「驚くのも無理はないだろう。だがな、生徒達は食蜂に利用されて、カミやん達と戦わされたんだ。
そんな辛い記憶、あっても仕方ないと判断した」

上条「……じゃあ、その数日の記憶はどうなっているんだ?」

土御門「大地震が発生、その影響で学園都市が一部崩壊して混乱しているところに、生き残っていた魔術師が侵攻して来た。
としている。まあ後半は一応事実だがな」

上条「それで、その記憶の改竄って言うのは食蜂がやったんだろ?
だがお前の言い方だと、食蜂が改竄したと言うより、お前達が改竄させたと聞こえる。どう言う事だ?」

土御門「その解釈で間違いないぜい。さっきも言った通り、辛い記憶が故に無い方がいいと判断した。
それに食蜂がどれだけ罪を償おうが、利用された生徒達が彼女を簡単に許すとは思えない。
彼女が迫害されて生きて行く羽目になる危険性もあった」

上条「食蜂と生徒、両方の事を考えての判断ってわけか」

土御門「許せないか?」

その問いに、上条は即答だった。

上条「いいや。許せないなんて事はないよ。
   食蜂がやったことは、客観的には簡単に許される事じゃないだろうし、記憶の改竄って言うのも、釈然としないところはある。
けれど、大切な人は救えたし世界も守れた。“俺は赦す”よ。ちょっと矛盾っぽいけど。土御門は?」

土御門「俺もカミやんと同じだよ。ちなみに、一方通行や垣根など、この戦いに深く関わった人間の記憶はある」

上条「じゃあその、一方通行達は現状と食蜂のことをどう思っているんだ?特に御坂」

土御門「その辺のアンケートは取っていないが、おそらく皆“赦している”と思うぜい。
皆食蜂の事を心から憎んでいた訳ではないし、それぞれ守りたいモノは守れただろうからな」

上条「そっか。ただそうなると、食蜂はどうなるんだ?
記憶を改竄して俺達も赦したとなると、特に何の罪もなくフリーってことになるのか?」

土御門「いいや、いくら食蜂のやったことを咎める者も憎んでいる者もいなくなってしまったとはいえ、
    このままペナルティなしというのもどうかということになって、結果、能力を消去プログラムで消去することが決まった。
    まあ食蜂自身、それが償いだと能力消去を了承しているけどな」

上条「そっか。それならやっぱり、戦いに深くかかわった皆も納得してくれるな」

土御門「そうだといいな。まあ能力を失ってもらう前に、やってもらうことがあるがな」

上条「やってもらうこと?食蜂に?」

土御門「ああ。禁書目録の記憶を取り戻してもらう」
482 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/05(火) 01:00:21.02 ID:J/y1HyZg0
その後土御門に『詳しい事は「冥土帰し」に聞いてくれ。この病院に居るから』と言われたので、ナースコールで呼び出した。

上条「先生、インデックスの記憶が戻るって、本当ですか?」

冥土帰し「彼はそんな言い方をしていたのかい?僕は『取り戻す方法が見つかった』
     と言っただけで、確実に取り戻せるとは言ってないんだけどね?」

上条「言い方なんてどうでもいいんです。取り戻す方法が見つかったなら、早くインデックスにそれを――」

冥土帰し「少し落ち着くんだね?彼女は元々、記憶を取り戻すことを怖がっているだろう?まずはその説得からだね?」

上条「……そうでしたね。少し、取り乱してしまいました」

冥土帰し「続けるよ?」

上条「はい」

冥土帰し「まず、記憶破壊の点だけど、脳細胞は垣根君の『未元物質』で代用できるから心配ない。器はすぐにできる」

上条「先生、そんな方法があったなら、もっと早くに――」

冥土帰し「だから、彼女自身が記憶をね?」

上条「……そうでした」

冥土帰し「続けるよ?でね、知っていると思うけど、記憶に関しては、と言うより脳については、まだまだ解明されてない事が多い」

上条「はい」

冥土帰し「一般的な記憶喪失は脳細胞も健在だから、喪失した記憶が突如戻る可能性もある。
     詳しいメカニズムは未だに分かってないけどね。
     それで、一度破壊された脳細胞は、再生したところで記憶が戻るとは限らない。
     脳細胞は脳細胞でも、あくまで代用にすぎない、記憶が入っていた脳細胞ではないからね」

上条「それじゃあ、戻らない可能性の方が高いんじゃ……」

冥土帰し「ここまでしか聞かないとそう思うかもしれないけど、本題は寧ろここからだよ」
483 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/05(火) 01:02:57.77 ID:J/y1HyZg0
冥土帰し「君、去年の記憶破壊の直後、私との病室でのやりとり、覚えているかい?」

上条「はい。それが何か?」

冥土帰し「高校生の戯言とも思われる君の言葉、今でも胸に刻み込まれているよ」

上条「何が言いたいんですか?」

冥土帰し「あんまり勿体ぶるような言い回しは好きじゃないけれど、分からないかい?
     どんな会話をしたのか、よくよく思い出してくれ」

じゃあさっさと教えてくれればいいのに、と思いながらも上条は答える。

上条「……先生と会話した事は、俺が実はやっぱり記憶はなくて、何で嘘ついたのかって聞かれて、
   インデックスを悲しませたくないから、って答えて。こんな感じのやりとりでした」

冥土帰し「その時、僕はこう尋ねた。『一体どこに思い出が残っていると言うんだい?』と。
     そして君はこう答えた。『どこって、そりゃあ決まっていますよ。心に、じゃないですか』と」

上条「――まさか」

冥土帰し「そう。脳細胞に記憶が戻らないと言うのなら“心にある記憶”を脳細胞に移せば良いのではないか。こう思うんだよね?」

上条「そんなことって――」

出来るんですか?と言う前に、冥土帰しが切り返す。

冥土帰し「だから確実ではないと言っているのさ。もはや医学とかの問題じゃない。
     僕達は希望的観測と科学の力で、記憶を人為的に戻すという奇跡とも呼べる出来事を引き起こそうとしているんだからね?」

上条「……」

冥土帰し「でも、やってみる価値はあると思うよ?記憶が戻るという保証はないけど、リスクもないからね?」

上条「それで精神系能力では最強の食蜂が……」

冥土帰し「そうだよ。食蜂君は学園都市の9割の人間の記憶を改竄して疲弊している。
     だから数時間後になるけど、食蜂君は頑張って記憶を取り戻させると意気込んでいるよ」

上条「任せて、良いんですかね?」

冥土帰し「その確認を取りに来たんだよ。インデックス君にも記憶の改竄は施してある。
     本人がそういう状態だから、次に一番近しいと思われる君にね」

そう言われて上条は、しばらく黙った。
冥土帰しは悩んでいるのだと思った。
が、その返答は予想外のものだった。

上条「こんな事を言ったら幻滅されるかもしれませんが、食蜂の能力でインデックスの意思を変えれば、
   説得の段階は簡単にクリアできるんじゃないですか?」

冥土帰し「言う通りだけど、君の口からそんな言葉が出てくるとはね?
     記憶の改竄の時点で憤ってもおかしくないと思っていたけど」

上条「そりゃあ、記憶の改竄は手放しで認められる事じゃないし、説得だけはちゃんとしたいですけど、
   正直、もう無理なんじゃないかなって……」

冥土帰し「ふむ。君が諦めるとはね。
     でも僕は、記憶を改竄しているからこそ説得だけは手を抜いてはいけないと思うけどね」

自らの意思で取り戻すのと、意思を捻じ曲げてまで取り戻させるのでは雲泥の差がある。

上条「そう、ですよね。どうかしていました。お願い、できますか?」

冥土帰し「それは僕ではなく、食蜂君に言うべきだよ」

上条「そうですね」

冥土帰し「では、食蜂君を呼んでくるよ。お願い以外にも、少し話をすると良い」
484 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/05(火) 01:04:14.49 ID:J/y1HyZg0
コンコン、と上条の病室のドアが叩かれた。

上条「どうぞ」

食蜂「おはよう上条君」

入ってきた食蜂は、常盤台の制服で酷く疲れた様子だった。

上条「その、インデックスの記憶を取り戻す手伝いをしてくれるんだってな。頼むよ」

食蜂「うん。任せて」

上条「……」

食蜂「……」

上条「あのさ」

食蜂「何?」

上条「お前、俺の考えを読めるんだよな。だったら、説得もお前がしてくれないか?」

食蜂「……何で?」

上条「意地悪だな。俺の今の気持ち、読めているだろ?今の俺がインデックスを説得するのは失礼だと思う。
   それに、心理に関してはスペシャリストのお前の方が上手くいくと思うし」

食蜂「失礼ってことはないと思うけど、上条君がそう言うなら別に良いよ。
   ただ、上条君が頑張って説得しても駄目だったのに、私で上手くいくかな?」

上条「いくさ。お願いするよ」

食蜂「分かった。なるべく頑張ってみる。ただ、説得と記憶の復活が成功した後は、自分で話をつけてね」

上条「もちろん、そうするつもりだ」
485 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/05(火) 01:05:59.38 ID:J/y1HyZg0
そして数時間後。

食蜂「どうも〜☆」

インデックス「……私、記憶を取り戻すつもりはありませんから」

インデックスの病室に、食蜂と冥土帰し、長点上機の制服の垣根に、とある高校制服の結標がいた。

垣根「あれ?上条のやつは?」

食蜂「説得から私がすることになった」

垣根「はぁ?何でよ?」

食蜂「説明メンドくさいし、上条君のプライバシーにもかかわるから教えられない」

垣根「ふ〜ん。あっそ」

インデックス「あのですね。堂々と会話しちゃっていますけど、記憶を取り戻す気はないです。どうして皆してそこまで……」

ベッドの上で顔を俯けるインデックスの手を、食蜂は優しく握り締め、

食蜂「『どうして皆してそこまで私の記憶の事にこだわるのか』その答えは、それだけあなたが皆に愛されているってこと」

インデックス「そんなこと、知り合ったばかりのあなたに言われても説得力無いです。
       そもそも何でとうまくんじゃないの?」

食蜂「上条君じゃなきゃダメ?」

インデックス「だめって言うか……別にとうまくんに説得されようが記憶を取り戻すつもりはないですけど」

食蜂「そっか」

食蜂は優しく微笑みながら、

食蜂「そもそも何で、記憶を取り戻す事を頑なに拒んでいるのかしら?」

インデックス「説得しに来ている割に、お医者さんなどから事情を聞いていないんですか?
       それとも、分かっていてあえて聞いているんですか?」

食蜂「後者の方よ。けれど、あなたの口から直接聞かないと」

インデックス「いやらしいですね」

食蜂「よく言われる」

インデックス「まあ、いいです。私の口から聞きたいなら、言います」
486 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/05(火) 01:09:36.01 ID:J/y1HyZg0
インデックス「私は現在、レイチェルという名前で生きていますが、かつてはインデックスと呼ばれていたらしいです。
       これって明らかにおかしいですよね?だってインデックス――禁書目録なんて人につける名前じゃありません。
       そんな名前の時代の私など、まともな人生を歩んでいたとは思えません」

食蜂「役職的なものの可能性は?部長とか課長みたいな」

インデックス「どっちにしろ同じ事ですよ。役職でもインデックスなんておかしい。ニックネームのようなものだとしてもです」

食蜂「そう言われると、そうかもしれないけどさぁ。インデックス時代のあなたも、きっと悪い事ばかりじゃないと思うよ?」

インデックス「そんなこと、分からないじゃないですか。良い事なんてひとっつもなかったかもしれないじゃないですか。
       仮にあったとしても、限りなく少なかったかもしれないじゃないですか」

食蜂「それは考え方次第よ」

インデックス「考え方次第って……私は、考え方を変えて不幸を笑い飛ばす事が出来るほど強い人間じゃありません」

垣根(なるほどこりゃあ厄介だ。上条が手を焼くのも分かる気がする)

そんな事を思いながら傍観している垣根と、何を考えているか分からない結標をよそに食蜂の説得は続く。
487 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/05(火) 01:11:52.71 ID:J/y1HyZg0
食蜂「そんなことないよ。今はそうでも、変わっていけばいい。
   今は笑えない不幸でも、いつか笑い飛ばせるようになればいいじゃない。
   それにどうしても知ってほしい事が、あなたの失われた記憶の中にあるの」

インデックス「そんなこと言われたって……」

食蜂「あなたが記憶を取り戻すことで、幸せな気持ちになる人だっているんだよ?」

インデックス「その人のために、私に不幸になれと言うんですか?」

食蜂「そうは言ってない。そもそも不幸になるとも限らないじゃない」

インデックス「なりますよきっと。
       今の生活に不満はありませんから、無理して記憶を取り戻す必要はないです。
       仮の話では、とてもじゃないけど記憶を取り戻す気にはなりません」

ここで二人の会話が止まり、沈黙が訪れた。
その沈黙に耐えられなかった結標が隣に立っている垣根に囁く。

結標「(ねぇ。これって説得失敗ってことかしら?)」

垣根「(さあな。俺としてはどっちでもいいんだけど)」

結標「(薄情者なのね)」

垣根「(うるせーよ。お前は彼氏のところにいって乳でも揉んでもらえ)」

結標「はぁ!?意味わからないんですけど!?」

垣根「(おい!少し静かにしろ!インデックスがビビってるだろ!)」

そのタイミングで、食蜂が口を開いた。
488 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2012/06/05(火) 01:13:41.73 ID:J/y1HyZg0
食蜂「あなた、上条君の事は好きかしら?」

結標(んな――)

垣根(へぇ)

インデックス「な、なななな、なんでそんな質問に答えないといけないのでしょうか!?」

食蜂「いやなら答えなくてもいいけど。ま、私はあなたの心の中を読めるんだけどね」

インデックス「ひゃああああああああああああああああああああ!?からかうつもりなら出て行って下さい!」

食蜂「ごめんごめん。そんなつもりはなかったの。ただ、上条君の事が好きなら、それはとっても素晴らしい事だと思うの」

インデックス「な、なんでですか。もう意味が分からないです……」

食蜂「記憶を取り戻せば、意味が分かるよ」

インデックス「そんなことでは釣られないですよ……」

食蜂「私ね、感情だけじゃなくて、人の記憶だって覗き見出来るの」

インデックス「さっきから何が言いたいんですか?」

食蜂「上条君から、自分達は一緒に暮らしていた、と言う話は聞いているよね?」

インデックス「私の発言は無視ですか……」

食蜂「でも“昔のあなたも上条君の事が好きだった”って事までは聞いてないよね?」

インデックス「……え?」

結標(マイペースだし、気持ちや記憶は読みとるし、説得する気あるのかしら?)
489 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/05(火) 01:17:23.70 ID:J/y1HyZg0
インデックス「それは本当のこと……?」

食蜂「あなたが昔告白した事を、上条君の記憶から覗き見たからね」

インデックス「……だから、何ですか?」

食蜂「記憶を失っても好きになってしまうくらい大好きな上条君との記憶が、失われたままでいいのかなって」

インデックス「それは……」

食蜂「知ってほしいってことはね、あなたがインデックスだったからこそ、上条君に出会えたんじゃないかなってコト」

食蜂操祈は、上条当麻と土御門元春の記憶を垣間見て思った。

インデックスという少女は、完全記憶能力を持って生まれたために、禁書目録として使えると判断され、
学園都市とは違った種類の非人道的な実験によって、魔道書の汚染に耐えうる体を作らされた。
さらには『首輪』をつけられ、1年ごとに記憶を失うという無限の地獄に陥っていた事もあった。
これは不幸以外の何物でもない。

だけれども、インデックスがインデックスでなければ、様々な思惑と偶然が重なったためとはいえ、上条当麻と出会う事はなかったのではないか。
仮に普通の少女として生まれれば、普通に学生時代を過ごし、結婚し、子供を産み、人並みに幸せな人生を歩めただろうが、上条当麻と出会う事はなかっただろう。

無論、これは憶測と結果論でしかない。
インデックスでも、上条当麻と出会えなかったかもしれないし、普通の少女だったとしても、上条当麻と出会えたかもしれない。
そもそも上条当麻が『幻想殺し』を宿していなければ、インデックスを救う事は出来なかっただろう。

しかしながら、インデックスはインデックスとして上条当麻と出会った。出会えた。
インデックスは禁書目録だったから。上条当麻に『幻想殺し』があったから。
様々な思惑が重なったから。インデックスは上条当麻と出会い、救われた。
そして上条当麻を好きになった。この点だけは揺るがない事実であり真実だ。

この点を思い出せないままのインデックスと思い出してもらえない上条は、それこそ不幸なことではないのか。

食蜂「本っ当に、どうしても記憶を取り戻したくないのならそれでもいい。
   それもあなたの人生。だけど、出来る事なら取り戻してほしい。上条君の為に。そして何より、あなた自身の為に」

インデックス「……そこまで言うなら、分かりました。でも、後悔しないとは言い切れません」

食蜂「後悔したっていいじゃない。『する後悔』と『しない後悔』なら『する後悔』のほうがいいよ」

ここで2度目の沈黙が訪れる。
それを30秒後に破ったのは、

インデックス「……お願い、出来ますか?」
490 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/05(火) 01:21:16.61 ID:J/y1HyZg0
一方その頃、第8学区のマンションの一室で、

雲川「病み上がりで申し訳ないが、君にも学園都市の復興を手伝ってもらいたいのだけど」

一方通行「聞きたい事を全部聞いたらな」

雲川「私自身も忙しい身だ。手短にしてほしいのだけど」

一方通行「なら単刀直入に言おう。このクーデターを事前に止める事が、オマエには出来たンじゃねェのか?」

雲川「そう思う根拠は?」

一方通行「土御門からようやく詳しい話を聞いた。
     オマエはブレインで現在の学園都市の統括理事長やる前からも、学園都市の闇にある程度関わり色々な事を知っているってなァ。
     だったら、分かっていたンじゃねェのか?食蜂の考えや、どういった行動を起こすとかがよォ。
     統括理事長になった今なら尚更なはずだ」

雲川「君の考えの方向性は間違っていないけど。残念ながらいくら私でも、食蜂の考えや行動を予測は出来ていなかった。
   食蜂が世界を潰そうと考えている事が分かったのは、土御門に託されたというアレイスターの巻物からだけど」

一方通行「野暮な事言ってンじゃねェ。
     1、2年前は知らなかったかもしれねェが、その巻物の内容ってのは1月には分かっていたンだろ?
     で、何で止めなかった?」

雲川「その辺の理由は分かっているだろう。
   巻物の情報が嘘かもしれなかったし、何の罪も犯していない状態の食蜂をどうこうするのは無理があるけど」

一方通行「確かに、その可能性は無きにしも非ずだ。だがそれでも疑問が残る。
     食蜂が巨大な地下都市を建設していたことは分かっていたンだよなァ?
     こンな事、無能さをひけらかすだけなンで本当は言いたくねェが、食蜂が演説するまで、
     地下都市が築かれていることに俺は気付かなかった。
     だがオマエなら、学園都市を管理しているオマエなら気付かないはずがねェンだ」

雲川「今更すぎる質問だけど」

一方通行「戦う直前の電話で聞かなかった事も、つくづくアホだと自覚している。
     自覚した上で言う。地下都市の建設をしてしまうぐらいの食蜂を、何もしないと思った。ってワケはねェよなァ?」

雲川「ならば、君はどうだ?」

一方通行「あァ?」

雲川「君だって、演説から数日の猶予はあったはずだけど」

一方通行「洗脳されている能力者が人質になっていたから手が出せなかった。自分の事を棚に上げてンじゃねェよ」

雲川「そう言うことだけど」

一方通行「……文脈が読めないンですかァ?会話が成り立ってねェぞ」

雲川「本当に分からないのか?学園都市第1位のくせに意外とバカだな」

一方通行「クソみてェな煽りはどォでもいい。早く話せ」
491 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/05(火) 01:24:08.62 ID:J/y1HyZg0
雲川「怒らないで聞いてほしいけど」

一方通行「内容による」

雲川「一言で言ってしまうと、敢えて食蜂を泳がせた」

一方通行「……」

雲川「もちろん理由はあるけど。
   地下都市建設を止めようが一時的に拘束しようが、何らかの手段で、いずれ世界へ牙をむけると確信していた。
   だからあえてクーデターを実行させた上で失敗させ、完全に諦めさせた」

一方通行「随分と酷ェ理由だな。それで失われた命だってあるのによォ」

雲川「その辺は仕方ないけど。
   食蜂が“半端に自我を持たせた”ために起こった仲間割れや魔術師の侵入というアクシデントもあったし」

一方通行「だからと言って、学園都市統括理事長には責任があるだろォが。開き直ってンじゃねェぞ」

雲川「……他に質問は?」

一方通行「……チッ。食蜂のクソアマは本当にもう何もしねェのか?
     その気になればヤツはまだ、世界を混乱させる事ぐらいは出来るはずだ」

雲川「その点に関しては問題ないはずだけど。土御門から聞いているだろう。
   彼女は世界を本気で潰す気などなかったと。それにここまで完膚なきまでに世界滅亡を阻まれたんだ。
   今更足掻く気にはならないだろうけど。そして能力は、とあるシスターの記憶を復活させたら失うことにもなっているし」

一方通行「そのシスターの記憶をいじる可能性は?」

雲川「そんなことしたってメリットがないけど」

一方通行「じゃあ最後の質問だ。土御門から聞いたが、特別な8人とやらはどうするンだ?
     ここ数日の記憶を改竄したところで、長年で培われて来た考え方は変わらねェだろ」

雲川「特別な8人、榊、六道、橘、妃、東城、獅子虎、木山、君を敗北に追い込んだ篠宮に加えて、
   レベル5の第6位と第7位は、洗脳ではなく自らの意思と脅しにより、戦っていた。
   その内獅子虎と六道が死亡。木山春生はその頭脳が必要な為不問とし、第6位も反省しているので不問とした。
   残りは反省もしていないうえに戦っていた理由も凶悪な為、記憶を剥奪し名前と顔を変えてもらっているけど」

一方通行「まァ妥当なところか。多少納得いかないところもあったが、時間を取らせて悪かったな」

そう言って一方通行は、マンションを出て行った。
492 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/05(火) 01:26:08.20 ID:J/y1HyZg0
貝積『彼を呼ぶかね?』

テーブルの上に置いてあった携帯端末の画面に、老人の顔が表示された。

雲川「何で?」

貝積『お前は背伸びしているだけの、ただの女子高生なのだろう?
   お前は悲劇を最小限にとどめたにもかかわらず、一方通行にボロクソ言われて傷ついていると思ったが?』

雲川「傷ついていないと言えば嘘になるけど」

貝積『で、どうするかね?』

雲川「大丈夫だけど。お前に以前言われた通り、最低限の役割はまっとうするさ」
493 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/05(火) 01:28:36.54 ID:J/y1HyZg0
『敢えて食蜂を泳がせた』

自宅へ帰る為の道中の一方通行の頭の中で、雲川の台詞が何度も反芻されていた。

雲川が決断した道は、手放しでは褒められるものではない。
食蜂を泳がせなければ死者は出なかったかもしれないし、侵入してきた魔術師にも、しっかりとした対策が出来た可能性もある。
しかも、世界を救えはしたが学園都市の大半の住人は記憶を改竄というオチだ。
もっと別の、誰も死なない、誰も傷つかない道があったのではないだろうか。

だけれども、これが最良の道だった可能性もある。
別の道だったら、もっと大量の人間が死んでいたかもしれないし、四度目の世界大戦に発展したかもしれない。

それに雲川は、クーデターが起こる事を見越して出張という名目で学園都市を脱出し、情報操作などで機能停止していた学園都市を陰から支えていた。
彼女は出来る限りの事はやっていた。

それは分かっていた。分かっていて責めてしまった。
だから彼は、携帯を取り出してあるところに電話をかけた。

土御門『もしもし』

一方通行「背伸びをしているだけのデコが広い女子高生を傷つけちまった。フォロー頼むわ」

それだけ言って、彼は電話を切った。
494 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/05(火) 01:30:23.19 ID:J/y1HyZg0
垣根「んでさ“心にある記憶”を脳に移すって言うのが未だにピンと来ないんだけど、具体的にどう言う理屈なワケ?
   お前はあのカエルじじいに詳しい話を聞いたんだろ?」

既に眠っているインデックスの横で、食蜂に尋ねる。

食蜂「記憶転移って、知っているかしらぁ?」

それに反応したのは結標だった。

結標「聞いたことあるかも。確か、臓器移植に伴って提供者(ドナー)の記憶の一部が受給者(レシピエント)に移る現象、だったかしら」

食蜂「そうそう。もっとも、存在するか否かを含め、科学の分野で正式に認められたものではないらしいけど」

垣根「なるほどな。記憶転移が起こるということは臓器に記憶が宿っている証拠。
   それで、このシスターの臓器に宿っているかもしれない記憶を脳に移すって訳か。
   理屈は分かったが、そんなこと本当に出来るのか?」

食蜂「分からない。臓器に宿る記憶を脳に移すなんて事やったことないし、そもそも本当に臓器に記憶が宿っているかどうかも分からない。
   そのほかにもたくさんの不確定要素がある。私達がこれからやろうとしている事は、常識を超えた奇跡だよ」

結標「それなら大丈夫かもね。このメルヘンさんに常識は通用しないらしいから」

垣根「そんなに褒めるなよ。照れるだろうが」

結標「馬鹿にしているのよ」

食蜂「その辺で漫才は止めにして、脳細胞を再現してもらえるかしら」

垣根「へいへい」
495 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/05(火) 01:32:29.86 ID:J/y1HyZg0
第7学区にある、とある高校学生寮の上条の部屋のインターホンが鳴った。

五和「な、何の用でしょうか?」

扉を開けた五和の目の前には、栗色のショートヘアーに常盤台の冬服の少女。

御坂「ちょろっと上がらせてもらうわよ」

五和「へ?いやちょっとそれは」

制止する五和など無視し、御坂は上条の部屋に上がり込む。

御坂「やっぱりね」

御坂が上条の部屋に上がったのは初めてだ。
だから部屋の模様なんて知らない。けれども一目見ただけで分かる。
同棲している割には、家具や衣服が、どこか物足りない。

御坂「アンタ、ここから出て行くつもりでしょ」

腕を組みながら仁王立ちして尋ねる。

五和「……はい」

五和も棒立ちのまま答える。

御坂「あのシスターの記憶が戻れば、彼女の“代役”でしかない自分の役割は終わりと思っているって感じかしら」

五和「……私の考えを当てた事も不思議ですが“代役”云々の話を知っているのはなぜですか?」

御坂「盗み聞きするつもりはなかったんだけど、病院の屋上での話は聞いていたから」

五和「そう、ですか。では、ここに来た理由は何ですか?」

御坂「臆病者のアンタをぶん殴りに来たのよ」

五和「……何を言っているんですか?」

御坂「ムカつくのよね。シスターの記憶が戻ったらサヨウナラって、アンタの当麻への思いは、そんなものなのかってね」

五和「……聞き捨てならないですね」

今にもとびかかりそうな五和をよそに、御坂は馬鹿にするような調子で言った。

御坂「何で?だってそうじゃない。あのシスターの記憶が戻ったとしても、当麻はアンタの事を嫌いになったりする訳じゃないのにさ。
   勝手にアンタだけで結論出して、どうせ行くアテもないのに出て行ってどうすんの?
   野垂れ死ぬの?あ、違うか。そのメロンみたいな乳で適当な男誘惑して、パラサイトして生きて――」

そこで御坂の言葉は途切れた。
怒りを抑えきれなくなった五和に押し倒されたからだ。
496 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/05(火) 01:34:55.92 ID:J/y1HyZg0
五和「いい加減にしてくれませんか……!」

言葉遣いこそまだ保たれているが、力の入り具合や睨むような目つきから、明確な憤怒を感じ取れる。

五和「あなたに何が分かるんですか!私だって本当は!当麻さんとずっと一緒にいたいですよ!」

近い距離でそんな事を叫ばれた御坂は冷静に返す。

御坂「だったら、それを伝えれば良いじゃない」

五和「伝えて、どうなるって言うんですか……!」

一旦唇を噛み締めてから、

五和「私はインデックスさんの“代役”として当麻さんに付け込んだだけです。
   インデックスさんの記憶が戻れば“恋人ごっこ”は終わりなんですよ……」

御坂「ふっ、ざけんじゃないわよ!」

五和の力がわずかに抜けたところを、ぐるん、と転がって位置を逆転しつつ、

御坂「アンタは結局“代役だから”という理由をつけて、自分の気持ちに嘘ついて逃げているだけじゃない!」

五和「そんな事言ったって仕方ないじゃないですか!私とインデックスさんじゃ違いすぎる!
   インデックスさんは自分がどれだけ苦しくても!他人に優しくできて笑顔を与えられる人!
   比べて私は、弱った心に付け込むような卑怯な女!私なんかじゃどうしたって敵わない!」

御坂「ふざけんのもいい加減にしなさいよ!アンタはそうやって勝手に自分を卑下して!
   当麻がどうのこうのじゃない!“代役”が云々じゃない!
   アンタ自身がどうしたいかでしょ!ずっと一緒に居たいんでしょ!?それを伝えろつってんのよ!
   それとも、さっきの一緒にいたい発言は嘘だったの!?」

五和「嘘じゃないです!嘘じゃないですけど……!」

煮え切らない五和に完全にぶちぎれた御坂は、彼女の胸倉をつかみながら、

御坂「甘えんなよゴラァ!当麻の事好きな人は何もアンタだけじゃない!
   “代役”とはいえ、当麻はアンタを選んだ!
   そしてアンタも精一杯尽くしたんでしょ!?だったら胸を脹りなさいよ!
   本当の気持ちを伝えないままでアンタは後悔しないの!?本当にそれでいいの!?」

五和「……け……」

御坂「なに!?」

五和「……良いわけ、ないですよ!」

御坂「良い返事ね」

胸倉をつかんでいた手を離し、五和の上から避ける。
497 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/05(火) 01:37:27.11 ID:J/y1HyZg0
御坂「当麻の場所は、分かっているわよね?」

五和「はい。おかげで目が覚めました。いってきます」

御坂「いってらっしゃい。ってのもおかしいか。ここの住人じゃないし。私も出るわ」

五和「と、その前に一つだけ、聞きたい事があるんです」

御坂「何かしら?」

五和「何でそこまで私を応援するんですか?
   こう言うとアレですが、あなたも当麻さんの事好きなんですよね?
   いわば、恋敵に塩をおくったようなものじゃないですか。
   もっとも、これから当麻さんのところには砕けに行くということですから、私に砕けてほしいっていう邪推もできますが」

御坂「そこまで性格悪くないわよ。理由は単純。臆病なアンタが気になったってだけ。
   当麻の事が好きな人間として、アンタが本当に当麻の事が好きなのは分かっていたから。
   あと恋敵って言っても、私はもうフラれた身だから」

五和「そう、ですか。でも、たったそれだけの理由で出て行く為の身支度をしていると予測して私をよく止めましたね」

御坂「女の勘って奴かしらね」

五和「随分と非科学的な事言うんですね」

御坂「悪い?まあでも理由はそれだけじゃないかな。
   アンタ、私が振られたって言葉をあまり重く受けとめてないみたいね。
   私には敵わない、という自信があるのかしら?」

五和「そんなつもりはないです」

御坂「あっそ。じゃあ勝手に語らせてもらうわよ。私はアンタが食蜂に洗脳されている間に当麻に告白したの。
   結果はもちろん玉砕。その時、なんて言ったと思う?」

五和「インデックスさんがいるから無理です。じゃないんですか」

御坂「違うわ。“大切な人がいる”って言ったの。シスターの通称、インデックスとは明言していない。
   だから、アンタにも可能性あるんじゃないかなって思った。ここまで言うのは、さすがに癪だけどね」

五和「そうだったんですか……」

御坂「でもここにきた一番の理由は、アンタが気になったから。今言った当麻の台詞とかは+αでしかない。
   それに、その大切な人がアンタとは限らないしね」

五和「分かりました。では今度こそ本当に行きます」

御坂「だから私も出るっつーの」
498 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/05(火) 01:38:57.86 ID:J/y1HyZg0
上条「インデックス」

インデックス「うん。今まで心配かけてごめんね。そしてただいま」

上条「ああ。おかえり」

インデックスの病室で、記憶を取り戻したインデックスと上条が再会を果たしていた。

インデックス「とうま、私ね、とうまのことが好きだよ」

上条「ああ。俺もだ」

インデックスの隣にある椅子に座りながら、答える。

インデックス「じゃあ――」

上条「けど、一番じゃない。だから、お前の思いには応えられない。ごめん」

インデックス「……そう。やっぱり、一番はいつわなのかな?」

記憶が戻ったからと言って、記憶喪失中の記憶がなくなる訳ではない。

上条「……ああ。そうだ」

インデックス「私がいない間に支えてくれたのはいつわだもんね」

上条「ああ。正直言っちゃうと、インデックスが戻ってくるまでの“代役”をしてもらうだけのつもりだった。
   でもいつの間にか、五和の存在が俺の中で大きくなっていったんだ」

インデックス「うん。分かったんだよ。じゃあもう出てってくれていいんだよ」

上条「……俺達はずっと友達だからな」

インデックス「……うん」

消え入りそうなインデックスの返事を聞いた後、上条はゆっくりと病室を後にした。
499 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/05(火) 01:41:22.77 ID:J/y1HyZg0
結標「で、どうしたらダーリンとの関係を良好状態に戻せるかしら?」

土御門(だりぃ。雲川先輩にもフォロー入れた後だし、めっちゃだりぃ)

二人がいるのは病院のロビーである。
少ないとはいえ人はいるし、大きな声は出してはいけないが結標は構わず追撃する。

結標「あの、何か言ってくれない?」

土御門「どうするもこうするも、悪いのは全面的にアイツのほうだ。お前は堂々としていればいいだろ」

結標「無理よ。酷い事言い過ぎたもん。『同じ空気吸いたくない』とか『存在が許せない』とか」

土御門「大丈夫だって。アイツはド変態だから、お前からの罵倒なんてご褒美にすぎないって」

結標「絶対テキトーでしょ」

確かに、どうでもいいから早く終われと思い、投げやり気味に回答した。
だが事実として青髪は相当の変態だ。罵倒がご褒美は、半ば以上は本気の意見である。

結標「なんでそうやって意地悪な回答しかしてくれないの?そんなに私達に上手く行って欲しくないの?」

と悲しそうな顔と声で言われても、青髪が変態という事実は変わらないし、
結標はそのままででいいとしか言いようがない。

しかしこのままでは、結標は納得しない。
本来なら納得させる必要はないのだが、普段強気な結標がしおらしくしているのを放っておくのは罪悪感がないわけでもない。
というか、事情を知らない第三者がこの状況を見れば、女の子をへこませている男と見えるだろう。
要するに世間体的にまずい。

よってここは、結標を納得させるべく親身になるフリをするべきだろう。

土御門「上手く行って欲しくない訳ないだろう、一応親友と元同僚のカップルだ。
    そうだな。確かにお前は言い過ぎた。さすがのアイツも傷ついているだろうから、その点については謝ればいい。
    そうすれば、お前が引け目を感じる点は一つもなくなるだろう。そしてアイツは、今でもお前の事が大好きなはずだ。
    だからお前が許せば、関係は元に戻ると思うけどな」

結標「本当に?嘘じゃない?」

土御門「あのさ、もう子供じゃないんだから、あとはお前達次第だよ。それに俺は恋愛経験豊富なわけではないんだ。
    俺なんかより、年頃の女の子に聞いた方がいいと思うけどな」

結標「私が友達少ない事知っているでしょ?こんな事相談できる人なんていないわ。
   と、そんなことは置いといて、ありがとう。少し楽になった」

土御門「どういたしまして」
500 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/05(火) 01:47:06.80 ID:J/y1HyZg0
食蜂「本っ当に退屈ね、この街は」

とある歩道橋の欄干に身を寄せながら、ぽつりと呟く。

食蜂操祈は、学園都市中の人間の記憶の改竄と、インデックスの記憶の復活を完了したところで、
その重労働を認められ復興作業は本日はもうしなくてもいい、翌日にまた。ということになった。
だからと言う訳ではないが、暇なのだ。
街は半壊状態な上、食蜂以外の学園都市の住人の多くは未だ復興作業に準じている。
状況的にも世間体(今更気にする資格はないが)から言っても、街で遊ぶと言う事は出来ない。
ならば復興作業に自ら進んで手伝うとか、寮に帰って一人で遊ぶとか、寝るなりすればいいのだが、そんな気分でもなかった。

ということで、ただただぼーっと欄干に身を預けている食蜂の下に、

御坂「あら」

御坂美琴が通りかかった。

食蜂「これはこれは御坂さん、ごきげんよう」

御坂「はいはい」

食蜂が適当に挨拶すると、御坂も適当に返す。

御坂「で、こんなところで何黄昏ちゃってるのかしら?」

食蜂と同じように欄干に身を預けながら尋ねた。

食蜂「なぁ〜んか、ものすっごく退屈だな〜って。そりゃあまぁ、この状況を生み出したのは私だよ。
   クーデターまがいの戦いを起こす前も、退屈は退屈だったけど、今考えれば良い退屈だった気がするの。
   比べて、戦いを起こして、それをあなた達に収められて、でも結局は私の能力で記憶を改竄して、今の退屈は悪い退屈の気がするの。
   ごめん。意味わからないよね。上手く説明できないな」

言って伏し目がちになる食蜂に、御坂は言った。

御坂「いや、分からない事もない気がするわ。
   私の持論と解釈だけど、退屈ってことは何のトラブルもない、平和ってことだと思う。
   アンタが戦いを起こす前から色々あったけど、なんやかんやで最後には平和になった。
   でも今の学園都市は、アンタが記憶を改竄した人間達で構成された、いわば造られた偽物の平和。
   そこじゃないかな。同じ退屈でも、良し悪しを感じるポイントは」

食蜂「そう、かも」

なるほど造られた偽物の平和とは的確な表現かもしれない。
インデックスには辛い記憶でも取り戻せと言っておきながら、自分は都合よく人間達の記憶を改竄した。
この空虚な気持ちは、そんな皮肉からも来ているのかもしれない。

御坂「何かしおらしい食蜂操祈って気持ち悪いわね」

食蜂「酷いなぁ。私だって華の女子高生。たまには感傷的になるときだってあるよぉ」

御坂「それが気持ち悪いって言ってんのよ」

食蜂「ところで、御坂さんは今まで何していたのかな?」

唐突な話題の変更に戸惑いながらも、御坂は突き放すように言った。

御坂「そんなこと、今の私からなら読み取れるでしょ」

食蜂「読み取れるけどさぁ」

御坂「けど?」

食蜂「ううん、何でもない」

食蜂は御坂の心理を読み取り、思った。彼女は強い人間だと。
501 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/05(火) 01:50:02.12 ID:J/y1HyZg0
一方通行は自身の家、すなわち黄泉川の部屋に帰ってきて最初に飛び込んできた光景は、

芳川「おかえり」

フレメア「おかえりなさい一方通行!」

絹旗「おかえりなさい。そして超お邪魔していますよ。一方通行」

テレビゲームを興じている芳川、フレメア、絹旗の異色の面子だった。

芳川「ようやく帰って来たのね。もう疲れたわ。私と交代よ一方通行」

フレメア「うん。大体それが良い。芳川は弱すぎるし」

絹旗「でも、一方通行もゲーム超弱そうですが」

突っ込みどころが多すぎて、どこから突っ込もうか迷ったが、まずは意思表示をする事にした。

一方通行「ふざけンな。こちとら病み上がりの上に、復興作業とやらに準じてヘトヘトなンだよ。
     ゲームをやるのは構わねェがオマエらだけでやれ。他人を巻き込むンじゃねェ」

芳川「と彼は言っているけど。私はこのゲームから抜けられるなら、どうでもいいのだけど」

絹旗「私も、無理にとは言いませんが。というかゲーム超弱そうだし。寧ろ願い下げですかね」

フレメア「えー。大体私は久々に一方通行とゲームしたいよー。
     あといくら絹旗お姉ちゃんでも、一方通行の事悪く言うのは許さない。にゃあ」

絹旗「超冗談ですよ(チッ)」

一方通行は確かに見た。誰にも聞こえないほどの小さな舌打ちを、絹旗がした事を。

一方通行「分かった分かりましたよ。あとでゲームはする。
     ただその前に、ちょっとそこのチビクソガキと話をさせてくれ」

絹旗「フレメアちゃんをチビクソガキだなんて!超酷いですね一方通行は!」

と適当に言ってみたが、フレメアはきょとんとして、

フレメア「え?今一方通行が言ったのは、大体絹旗お姉ちゃんの事だと思うよ?」

ナチュラルに、そう言った。

絹旗「へ?」

フレメア「だって、私のことは大体名前で呼んでくれるし。
     というか、そんなことより、今の絹旗お姉ちゃんに対する呼び方は何なのかな!?」

フレメアは一方通行の絹旗に対する呼称の仕方に憤慨したが、

一方通行「はいはい悪かった。絹旗さンを少しお借りします。……ほら行くぞ」

絹旗「ちょ、え、まっ」

一方通行によって、ずるずると別室へ引きずられていく絹旗。
呼称の仕方には憤慨してくれたのに、引きずられるのは止めてくれないの!?
ゲームは一人になっちゃうけど良いの!?などと絹旗は思った。
502 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/05(火) 01:52:44.75 ID:J/y1HyZg0
一方通行「で、ここに来た目的は何だ」

早速尋問が始まったが、絹旗はぶっきらぼうに言い放った。

絹旗「答える必要は超ないです」

一方通行「ふざけンな。あるンだよ。俺はオマエにさっさと帰ってもらいたいンだ。
     ちゃンとした用件があるなら聞いてやるから、さっさと帰れ」

絹旗「そんな殊勝な事言うなんて超意外ですね。そんなに私に帰ってほしいなら、追い出せばいいじゃないですか」

一方通行「温情判決下してやってンだよ。
     それでも、この俺の厚意を無駄にして追い出してほしいってンなら、追い出してやらねェこともねェが」

絹旗「……」

一方通行「ダンマリ決め込まれても話は進まねェぞ。
     話が進まないってことは、俺にとってもオマエにとっても良い事ではねェだろ。何か言え」

絹旗「……」

一方通行「……ジャッジメントとやらの仕事はどうした?」

絹旗「それについては、一応本日の分は超全うしました。
   こう見えても私も病み上がりなので、こうして一方通行より早くここに来る事が出来たと言うことです」

一方通行「俺より早くここにいる理由は分かった。なら、ここに来た理由は何か。そろそろ白状してもらおうか」

絹旗「……」

はァ、と一方通行は溜息をつく。
一体何の理由があって、ここまで黙秘を貫き通すのか。

一方通行「いい加減にしてくれませンかねェ。最悪白状しないならそれでもいい。とにかく帰ってくれ」

絹旗「……それは、超出来ない相談です」

一方通行(何なンですかァ、このじゃじゃ馬はァ!?)

黙秘は続けるが帰るのも無理と言う身勝手さに、いよいよ強引にいくしかないな、と思い始めたが、

一方通行(いや……違うか。もしかして)

目の前にいる絹旗最愛という少女は、元暗部である。
だから何となくだが、ここをわざわざ訪れたのも、それなりの理由――彼女だけではとても叶えられそうにないお願いか何か、があるという前提で話していた。
そしてその理由が、どんな内容でも受け入れる自信がある。
なぜなら、自分は学園都市第一位だからだ。
それは即ち、世界最強であり、世界最高の頭脳の持ち主であると言う事。
このスペックで出来ないことなど、おそらくは人間の感情を掌握することぐらいだろう。
だから、さっさと理由を教えてほしいと思っていた。

けれども、その理由が彼女だけでは叶えられないお願いなどではなく、とても単純なものだったら。
たとえば、ゆっくりと存分にゲームがしたかった。とかならばどうだろう。
絹旗最愛は元暗部だ。そんな彼女が、ゲームがしたかっただけです、などと子供みたいな事を言うのが恥ずかしいから言えないとかかもしれない。
もっとも、彼女は実際問題まだまだ子供だが、子供扱いされるのを嫌うだろうと言う事は容易に想像がつく。
とはいえ、これは仮説にすぎない。それもかなり歪んだ解釈の。
いくらなんでもこれはないなと、だからと言って、ただ高圧的に尋問しても仕方ないから、
どうにかして理由を聞きだす別の方法を思案し始めたところで、

絹旗「いえ、超すみませんでした。私がここに来た理由ですよね。
   ありますよ勿論。ただし、一方通行が考えそうな仰々しいものではないですけど」

絹旗が、静かに口を開いた。
503 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/05(火) 01:55:00.91 ID:J/y1HyZg0
絹旗「ここに来た理由はですね……」

と、そこで言葉が止まる。
30秒待っても続きの言葉がないので先を促そうかとも思ったが、もじもじしながらも何か言おうとしているのは分かるので、ここは待つ事にする。

そしてさらに30秒後、意を決したように絹旗は言った。

絹旗「……一方通行に、お礼を言いに来ました」

一方通行「……はァ?」

思わず出た発言から「なんだそれは」的な空気を察知した絹旗は、顔を真っ赤にしながら消え入るような声で言った。

絹旗「だ、だって、一方通行のおかげで『凶暴性』は超取り除かれましたし、何か気持ち悪い変態からも守ってくれたから……」

なんだそんなことかと一方通行は思う。
『凶暴性』を取り除いたと言うが、その『凶暴性』は自分のせいで植えつけられたものだ。
自分のケツを自分で拭いたに過ぎない。
それに一時的には助けたかもしれないが、守り切ることは出来なかった。
上条や土御門が来なければ、目の前にいる少女がどうなっていたかは分からない。
だから彼女がお礼を言う必要も、お礼を言われる資格もない。

当然ながら、一方通行の考えている事が分からない絹旗は、おずおずと尋ねる。

絹旗「あ、あの、超迷惑、でしたか?」

一方通行「あァ?いや、迷惑ってことはねェが……」

彼女がお礼を言う必要も、お礼を言われる資格もないが、言われて気分は悪くない。
お礼をしたいと言うのなら、わざわざ拒む事もない。
ただ気になるのは、お礼を言うだけなんて簡単な事を何度もためらったのはなぜか。

そんな一方通行の疑問を知ってか知らずか、絹旗はもじもじしながら、

絹旗「何でお礼を言うなんてことを何度もためらったのか、超疑問に思っているかもしれませんが、
   その理由は、ただ単に恥ずかしかったからです」

一方通行「あァ、そォ……」

先程の自分の邪推は、当たらずも遠からずだったということか。
絹旗は頬を赤らめて、若干はにかみながら言った。

絹旗「それで、だから、その……超ありがとうございました。一方通行には超感謝しています」

一方通行「あァ、まァ、どういたしまして」

と、直後、

フレメア「大体終わったー?なら皆でゲームしよう。にゃあ」

フレメアが、ドアを思いっきり開け放ち言った。
504 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/05(火) 01:57:11.53 ID:J/y1HyZg0
絹旗「ふ、ふふ、フレメアちゃん!?もしかして超盗み聞きしていたんですか!?」

フレメア「盗み聞きなんて、大体人聞きの悪い言い方は止めてほしい。二人の様子を温かく見守っていただけだもん」

絹旗「え?え?どういうことですか?いつからですか?」

フレメア「二人がこの部屋に入ってから大体10秒後くらい」

絹旗「超最初からじゃないですか!」

うう、と何か恥ずかしがっているようだが、フレメアが盗み聞きする事なんて容易に想像がつく。
寧ろ盗み聞きする事を想定していなかったのかと、一方通行は絹旗を少し見限った。

フレメア「なーにー?大体どうしたの絹旗お姉ちゃん。お礼を言うのは良い事だよ。何も恥ずかしがる事なんてない。にゃあ」

女子小学生に諭されている女子中学生。フレメアの方がよっぽど姉御肌なのではないだろうか。

絹旗「まあ、そうですよね。もういいや。今日はもう超帰ります」

フレメア「えー。大体もう帰っちゃうの?まだ陽も沈みきってないよ。もうちょっとだけ遊ぼうよー」

フレメアは絹旗の腕を引っ張りながらだだをこねる。
やっぱり年相応のガキのようだ。

先程までは絹旗に帰れ帰れと言ったが、まあ自分を巻き込まずにリビングでゲームをやるくらいなら構わない。

晩御飯まで、いや最悪喰わなくてもいいから、とにかく眠ろうと思いベッドに行こうとしたところで、

フレメア「大体何やってるの?一方通行もゲームするんだよ?
     さっき絹旗お姉ちゃん連れて行く時約束したよね?後でゲームするって」

そう言われれば、そんな事を言ったような気もする。だが、とにかく眠たい。
普段からゲームは特に好きでもなんでもない。今はやりたくない。
だから適当に屁理屈を言うことにした。

一方通行「後で、とは言ったが、具体的な日時は言ってねェ。
     つまり、ゲームをするのは明日でも、明後日でも、十日後でも良いって訳だ。今日は無理だ」

フレメア「それはおかしい!大体、屁理屈にも程がある!」

当然ながら憤慨するフレメア。そこに絹旗は割って入る。

絹旗「まあまあ。どうせ一方通行は超ゲーム弱いんですから。こんな雑魚とやったって、つまらないですよきっと」

フレメアの為にゲームをやらせるための挑発なのか、それとも心から貶めているだけなのか。
おそらく後者だろうが、前者の意思だとしてもゲームをする気はない。
それにしても毒舌の復活が早い。開き直ったのだろうか。まあどうでもいいことだが。

フレメア「う〜ん、大体分かった。今日は一方通行も疲れているみたいだし、特別に見逃す。
     でも、今度一方通行が暇なときは、大体ゲームに付き合ってもらう。もしくは、遊園地とか」

一方通行「分かった分かった。いずれな」

面倒だから無理と言おうかとも思ったが、ここで下手に反論すれば話は余計にこじれる。
早く眠りたいので、一方通行は二つ返事で了承した。

フレメア「絶対だからね!」

フレメアは念を押して、絹旗と共にリビングの方へ向かった。
505 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/05(火) 01:59:07.54 ID:J/y1HyZg0
それから約10分。

絹旗「(ちょ、ちょっとフレメアちゃん!?)」

一方通行が寝ている部屋に忍びこむフレメアに手をひかれる絹旗はうろたえる。

絹旗「(一体、何をするつもりですか?)」

フレメア「(何って、大体一方通行と一緒に寝るだけだよ?にゃあ)」

絹旗「え」

思わず素の声を上げる絹旗に対してフレメアは頬を膨らませながら、

フレメア「(約束守ってくれなかったから、一緒に寝るの刑だもん!)」

刑だもん!と大変可愛らしいが、それって、

絹旗「(要するに、フレメアちゃんが一方通行と一緒に超寝たいってことですか?)」

フレメア「(大体、そうとも言う)」

随分と素直だ。素直な子は好きだ。だがしかし、

絹旗「(だとしたら、私は超必要ないのでは?)」

当然の如く降って湧いた疑問を言葉にすると、フレメアはきょとんとした顔で、

フレメア「(え?絹旗お姉ちゃんって一方通行の事、大体好きなんじゃないの?)」

絹旗「はぁ!?」

思わず大声をあげる絹旗に、フレメアは慌てて、

フレメア「(あわわわわ。そんな大声出したら、一方通行起きちゃうよー)」

絹旗「(だ、だって、フレメアちゃんが突然変なこと言うから)」

フレメア「(つまり、大体私の勘違いだったってことかな。だとしたらごめんなさい。無理強いしているみたいになっちゃって)」

なんとしっかりしている子だろうか。
一方通行の事は好きでもなんでもないが、ここまで言われると怒る気にはならない。

フレメア「(でも、出来ればで良いから、絹旗お姉ちゃんも大体一緒に寝てほしいな。
     今日一日だけ私の『お姉ちゃん』になってほしいな)」

なんという可愛さだろうか。
よくもまあフレンダは、こんな出来た妹を放っといて暗部に所属して蔑ろにしていたなと思う。

それにしても、お姉ちゃんとは何と良い響きだろうか。
実は妹が欲しいと思った事がない訳でもない。
フレンダを麦野から守り切れなかった後ろめたさもある。
一方通行と一緒に寝るのは気が進まないが、今日一日ぐらいフレメアの願いを聞いても罰は当たらないだろう。

絹旗「(分かりました。フレメアちゃんの為にこの私、絹旗お姉ちゃんが超一肌脱ぎましょう!)」

フレメア「(わーい。やったー!絹旗お姉ちゃん大好き!)」

そうしてフレメアと絹旗は、一方通行の寝ているベッドに忍びこむ。
506 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/05(火) 02:01:24.92 ID:J/y1HyZg0
一方通行「ふァ〜あ。……あァ?何だこりゃあ」

一方通行が目を覚ますと、目の前にフレメアと絹旗の顔があった。

一方通行(またかよ……)

正直言ってしまうと、フレメアが自分の寝ているところに寄り添う、忍びこむなんて事は何度かあった。
その度に、忍びこむフレメアと、それをあっさり許してしまう自分の不甲斐なさに苛立っていた。
しかも今回は、なぜか絹旗までいる。一体何がどうなっているのだろうか。
気になるところではあるが、起こしてしまうのも悪い。
ここは自分だけ抜け出しておこうと、一方通行は静かに自分だけベッドから抜け出した。
507 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/06/05(火) 05:52:57.17 ID:T8gZELsIO
前のレスに上条無双ってあるけどホントだw
原作キャラがボコボコにされたオリキャラも食蜂も全員上条さんがひねってやりました、で説明がつくわwww
508 :VIPにかわりましてがNIPPERお送りします [sage]:2012/06/07(木) 07:50:05.51 ID:A/H+GdoO0

俺的には東城×垣根が見たいwww
509 :VIPにかわりましてがNIPPERお送りします [sage]:2012/06/07(木) 20:46:23.32 ID:5C5e20/50
出来れば主にはこれのほのぼの系の続編を
作って欲しいんですが(オリキャラも混ぜて)、出来ますか?
もし出来るなら、是非お願いします
510 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/24(日) 12:54:19.41 ID:nwu7Q75z0
時刻は19時38分。
結標は完全下校時刻から約1時間以上過ぎて、自分が住む寮の部屋へと戻ってきた。

その部屋のベッドでは、青髪が眠っていた。
結標はそれを見て、自分が悪いのだと一瞬で悟った。

そもそもパン屋に下宿している青髪がなぜこの部屋にいるのかと言うと、結標自らが呼び出したからに他ならない。
青髪は合鍵を持っているから、結標がいなくともこの部屋に入る事は出来る。
ではなぜ青髪は、いくら彼女のとは言え、許可なくベッドで眠っているのだろうか。
その答えはおそらくこうだ。

結標は青髪を呼び出した。19時に来いと。話したい事があると。
青髪は遊び呆けていたわけではない。
クーデターの主犯格だった彼は、病み上がりにもかかわらず、罰として他人の2倍は復興作業に尽力したのだ。
完全下校時刻の18時30分まで。
もっとも、彼はそれだけの罪を犯したのだから、当然と言えば当然のことであるし、他の主犯格のように記憶を剥奪され、顔や戸籍を変えられたりした訳ではない。
寧ろ青髪は、学園都市統括理事長の雲川芹亜の寛大な処置に感謝するべきだ。

とにかく、彼はとても疲れていた。
約束の時刻から30分も遅刻した結標を待ち切れずに眠ってしまってもおかしくはない。
律儀にベッドで寝ているところをみると、初めからがっつり寝る気マンマンだったのかもしれないが。

結標が遅れたのは、謝罪をするのに多大な緊張があったからだ。
自身の復興作業は、インデックスの記憶復活の手伝いもあって早々に終わっていたのに、あまりの緊張によって、電話で約束したのですら17時。
謝罪の言葉を考えてここまでくるのに、今までかかった。
今にして思えば、謝罪の言葉も土御門に考えてもらえば良かったかもしれない。

結標(いや、違うわね。ここは、私の言葉で謝らなきゃ)

土御門に考えてもらった言葉で謝っても意味はない。
謝罪は自分の言葉で伝えなきゃいけない。

結標(でも、どうしよう?)

自分の遅刻のせいで青髪は寝てしまった。
それなのにぐっすり寝ている彼を起こすのは気が進まない。

結標(……わ、私も一緒に寝ようかしら。ちょっとだけ)

今すぐに謝なければいけないと言う訳でもない。
でもただ彼が起きるのを待つのも退屈だから、一緒に寝てしまおう。
恋人同士だし、悪い事ではないはずだ。

ごそごそと、青髪が寝ているベッドに潜り込んだ。
511 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/24(日) 12:56:07.76 ID:nwu7Q75z0
結標「ぅ……ん」

なんだかんだで疲れていたのだろう。
緊張で眠れないなんて事はなく、ベッドに入ってからすぐに寝入ってしまった記憶がある。
あれから何分経ったのだろうか。目の前に青髪はいなかった。

結標(どこいったんだろう)

まさか約束を忘れて帰ったなんて事はさすがにあるまい。
そう思い上半身を起こすと、トイレの方から微かに彼の声が聞こえた。

結標(……電話?)

起き上がりトイレの前のドアに無言で立つと、こんな声が聞こえた。

青ピ「え?こんなところで電話して大丈夫かって?大丈夫や。淡希はぐっすり眠っているで。そんなことより――」

その先の言葉は聞きたくなかった結標は、能力で部屋の外にテレポートした。

結標(はは。何一人で緊張してたんだろう、私)

普通に考えれば分かる事だった。
いくら青髪の方が悪かったとはいえ、自分の事を棚に上げてあれだけ辛辣な言葉を浴びせて嫌われない筈がない。
とっくに謝罪するしないの問題ではなかった。浮気されたって当然だ。

結標(……小萌のところにでも行くしかないかな)

頬に一筋の涙を流しつつ、結標は虚空へと消えた。
512 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/24(日) 12:58:42.55 ID:nwu7Q75z0
小萌「大丈夫ですよー。大丈夫ですよー。落ち着いてくださーい」

月詠小萌のボロアパートを訪れた結標は、とにかく彼女の胸で泣いた。
身長135cmなので体格的には頼りなさそうだが、これでも教師であり立派な大人だ。
そのためか、どこか温もりと落ち着きがあるのを、今痛感した。

小萌「一体何があったのですか?落ち着いたら話してほしいのです」

結標「……うん」

とは言ってしまったものの、小萌となぜかいるインデックスはクーデターのことを忘れさせられている。
洗いざらい本当の事を言っても混乱を招くだけだ。

だから結標は、地震と魔術師の侵攻の間に、彼氏である青髪と喧嘩して暴言を吐いてしまった。
そしてそれが原因で浮気された、と話した。

が。

小萌「結標ちゃん、嘘はいけないのです」

あっさりと、見抜かれてしまった。

小萌「結標ちゃんはドライなところがありますが、いくらなんでもただの喧嘩で、そこまでの暴言を吐くとは思えません。
   どんな事情があるかは知りませんが本当の事を話してくれませんか?それとも、私をそこまで信頼できないですか?」

結標「そ、そんなことは」

うろたえる結標に今度はインデックスが追撃する。

インデックス「私もこもえに同意なんだよ。私はあわきのことまだよく知らないけど、私の記憶を取り戻す事を手伝ってくれた。
       そんなあわきが、理由もなしに相手を罵倒するとは思えないかも。
       それに、けじめをつけてからでないと、どんな理由があろうとも浮気はいけないと思うんだよ」

結標「ぁ……ぅ……」

二人の優しさが身に沁みる。
それでも、青髪が本当は何をしたのかと言うのは、クーデターの事を話さないといけない。
だがそれは出来ない以上、彼に辛辣な言葉を浴びせかけるに至った本当の経緯は話せない。

なおも黙りこくる結標に、

小萌「……分かりました。では、青髪ちゃんをここに呼びましょう」

小萌は強硬手段を提案した。

結標「いや、それは」

インデックス「それがいいかも。あわきを泣かせる男なんて、私が叱ってやるんだから!」

結標「いや、だから」

小萌「青髪ちゃん、電話に出ませんね」

あれよあれよと話が進んでいく。
辛うじて携帯に出ないようだが、これ以上青髪を縛る事はない。
彼はもう、恋人でもなんでもないのだから。

結標「もういいよ小萌。私が悪いところもあったの。だから、もう――」

と、結標が小萌の電話を止めさせようとした、まさにその時だった。

ガチャン!と玄関のドアが思い切り開かれた。
513 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/24(日) 13:00:53.83 ID:nwu7Q75z0
結標「ぁ、な、なんで」

青ピ「はぁ、はぁ」

ドアを開けた主は、息を切らした青髪だった。

小萌「青髪ちゃん!」

インデックス「そこに正座するべきかも!」

小萌が怒り、インデックスが指図するなか、青髪は、

青ピ「ごめん淡希!全部僕のせいや!」

その場で、土下座を繰り出した。

結標・小萌・インデックス「「「え???」」」

青ピ「小萌先生、シスターちゃん、全部、僕のせいです。淡希は何も悪くないんです」

小萌「どういうことなのですか?詳しく話してもらえますよね?」

青ピ「すみません。訳は話せないです。でも、淡希は何も悪くなくて、僕も浮気なんてしていません。
   だから、淡希と二人きりでお話しさせてほしいです」

インデックス「抽象的すぎるんだよ。自分がどれだけ勝手なことを言っているのか分かっているのかな?」

青ピ「シスターちゃんの言うとおりです。勝手な事を言っているのは重々承知しています。
   煮るなり焼くなり好きにしてくれて構わないです。でも、訳は話せませんし、淡希も返してもらいます」

どうしても頑なな青髪に、小萌は溜息をついて、

小萌「あのですね青髪ちゃん。私達は別に青髪ちゃんをどうかしようなんて思っていないのですよ。
   ただ、自分が悪いと言うのなら、結標ちゃんが悪くないと言うのなら、浮気なんてしていなくて、
   結標ちゃんのことを本気で思っているのなら、ここで詳しく話してほしいだけなのです。
   さすがにそれを話さずに、結標ちゃんと二人きりでお話は、私達も見逃せないのです。
   結標ちゃんが本当にこれ以上傷つく可能性がないのか、見極めたいのです」

諭すように言ったが、

青ピ「絶対に、淡希を傷つけずに、幸せにする事を誓います。だから、二人きりでお話しさせてください」

やはり、青髪は聞き入れなかった。

小萌「……結標ちゃんは、どうしたいですか?」

答えが決まっていた結標は即答した。

結標「彼と、お話させてもらいたい」
514 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/24(日) 13:04:45.17 ID:nwu7Q75z0
小萌とインデックスは、言葉には出さなかったが二人きりでの話は反対らしかった。
それはそうかもしれない。自分だって彼女達の立場なら反対だっただろうから。
けれども、いつも似非関西弁を話し飄々としている青髪が、拙い敬語で土下座し続けたのだ。
彼なりの誠意は伝わった。それに自分たちの行方がどう転がっていこうとも、せめて謝罪だけはしておきたかった。

二人は今、インデックスと小萌を外に出して、部屋で話している。
結標の靴がないからだ。

青ピ「ごめん淡希。不安にさせたみたいで」

結標「浮気、してないって言うの?」

青ピ「してへんよ。多分淡希は、僕がトイレで電話しているところを聞いてそう判断したんやろ?」

結標「そうだけど」

青ピ「あの電話なぁ。つっちーが相手やったんや」

結標「え?」

青ピ「僕もな、淡希のことについてつっちーに色々相談していたんや」

結標「……そう、だったんだ」

自分で言うのもアレだが、彼は自分より悪行をしてきた。
それで彼女に対して後ろめたさがあって不安になり、友人に相談するのは当然と言えば当然かもしれない。

青ピ「つっちーは本当に良い奴や。
   気を利かして『こんなところで会話を聞かれて大丈夫か?どこかの誰かさんみたいに、聞かれたくない相談なんだろ?』なーんて言ってくれて。
   大丈夫と返事したところを、まさか浮気と勘違いされるはなぁ」

結標「……つまり、私とあなたの、勘違いだったってことか」

青ピ「そうみたいやなぁ」

結標(てことは――)

その先の言葉が出なかった。
しばらくの沈黙が訪れる。

結標(――)

この沈黙は、悪くない。
けれど、それ以上に確かめたい事があった。
結標は沈黙を破って尋ねる。

結標「じゃあ結局、今でもあなたは私の事が好きってことで良いの?」

青ピ「もちろん」

即答だった。

青ピ「クーデターの時はごめん。そしてさっきの電話の件もすまんかった。
   僕は今でも、そしてこれからも、好きなのは淡希だけや」

なんと恥ずかしい台詞だろうか。
そこまで言えるのなら、沈黙を破るのもそっちからでよかったのに。
いや、さっきの自分の言い草もなかなかのものだが。

結標「わ、私もよ。それと、クーデターの時は言い過ぎたわ。ごめんなさい」

青ピ「いいや、あれは僕が悪かっただけやから。淡希は何も悪くない」

結標「ダーリン……」

そして結標は、青髪の胸に抱かれた。
515 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/24(日) 13:07:29.45 ID:nwu7Q75z0
インデックス「二人とも、幸せそうだったね」

青髪と結標がいなくなった小萌の部屋で、ぽつりとインデックスが呟いた。

小萌「気になりますよね。二人の間に何があったのか」

インデックス「そうじゃなくて、羨ましいなって」

小萌「……シスターちゃん」

小萌はそこで一旦口をつぐんだ。
これ以上はインデックスを傷つけるかもしれない。
だが、それ以上に聞きたい気持ちが勝った為、小萌は続く言葉を抑えられなかった。

小萌「あの、やっぱり、記憶を戻さなきゃよかった、なんて後悔はしていませんよね?」

最後の方は聞き取れるかどうか怪しいレベルの小声だったが、インデックスは薄く微笑んで答えた。

インデックス「正直、全く後悔してないと言えば嘘になるかも。とうまには振られるし、辛い記憶は蘇るし」

そうなのだ。
レイチェルのままならば、淡い恋心を封印したままにしておくことが出来たかもしれない。
にもかかわらずインデックスに戻ったが故に、気持ちを抑えられずに告白し振られたのだ。
加えて、彼女は禁書目録というシステムの為に散々利用されてきた辛い過去があった。
それも蘇った。インデックスが禁書目録だったと言う事を、今日初めて知った。

小萌(……っ)

何か言いたかった。
けれども、インデックスの心中や壮絶な過去(詳しくは知らない。多少聞いただけ)を考えれば、そうそう適当な事は言えない。
無論、今まで諭してきたのが適当というわけではない。
ただ、今までより言葉を慎重に選ばなければいけない。

と小萌は悩んでいたが、インデックスの言葉には続きがあった。

インデックス「でも、後悔より取り戻して良かったって気持ちの方が上だよ。
       とうまには振られるし、辛い記憶も蘇ったけど、とうまとの出会いを思い出せたし、いろんな人と過ごしてきた事も、思い出せたから」

そう言って、インデックスははにかんだ。
516 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/24(日) 13:09:26.60 ID:nwu7Q75z0
貝積には強がったことを言ったが、やっぱり吐きださずにはいられなかった。

雲川「私は、間違っていたのかな」

とあるマンションの一室のベッドで横になっている削板に向かって、雲川は呟いた。

削板「何だ。芹亜らしくないな」

雲川「だって、学園都市は半壊したし、軍覇もこんなにボロボロになって、私はただ、皆を信じることしか出来なくて……」

支離滅裂で何も伝わってないだろう。しかし削板は、即答だった。

削板「皆を信じる事が出来たんだろ?ならそれで十分だ」

全くこの男は、何も分かってないくせに、いつもいつも一言で切り捨てるように言葉を放つ。

削板「それにさ、芹亜はこの選択が最善だと思ったんだろ?じゃあそれでいいだろ。
   誰に何と言われようと、胸を張って堂々としているべきだ」

適当にしか聞こえなくもない言葉だが、いつもそれに救われて来た。

雲川(そう、だな。私が執った選択だからこそ、私だけは後悔しちゃいけない)

反省は大事だが、いつまでも後悔していたって仕方ない。
今は前に進むべきだ。

雲川「ありがとう軍覇。おかげで吹っ切れる事が出来そうだけど」

削板「そいつは良かった」

雲川「これはほんのお礼だ」

そう言って雲川は、自分の唇を削板の唇に重ねた。
517 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/24(日) 13:11:28.04 ID:nwu7Q75z0
郭「学園都市から報酬も貰いましたし、これで念願のマイホーム購入に一歩近づきましたね」

学園都市外のとある山小屋で、郭が鼻息を荒くして言った。
対して半蔵は冷めた調子で、

半蔵「それなりに危険な任務だったからな。闇咲の旦那がいなければ、生きて帰れなかったかもな」

郭「でもでも、食蜂は不平等の世界が許せなかっただけで、人を殺すつもりはなかったとかって話じゃなかったでしたっけ」

半蔵「正しくは『迷っていた』だろ。あのまま止める人間がいなけりゃ実行していただろうよ。
   それにそもそも、俺達が相手したのは“半端に自我があった”人間だ。
   そこに食蜂の意思は及びきっていなかった。一歩間違えれば死んでいた可能性は十分にある」

郭「まあ、そうかもしれないですけど」

会話が止まった。沈黙は普段は嫌いじゃないが、このタイミングの沈黙はなんとなく耐えきれないと感じた半蔵は、、

半蔵「それにしたって、これだけ危険な任務だったんだ。
   報酬という形で俺らの功績は認められたが、もう少し褒めてくれたっていいよな」

忍ぶ者と書いて『忍者』だ。自分達はそういう存在でなければならない。
しかし今の発言は、それと正反対と言っていい。
もっとも、郭はそんな事をいちいち注意するような性格ではない。
つまり、どんな反応が返ってくるかを試す発言だ。

郭「……じゃ、だめですか?」

半蔵「え?」

郭「私じゃ、だめですか?」

何が?と半蔵が問いかける前に、郭が続けた。

郭「今回の任務では、半蔵様と闇咲さんと私の少数精鋭でしたから、半蔵様の活躍を知っている人はあまりいません。
  ですが、私は知っています。私は半蔵様の活躍を目に焼きつけました。私は知っている。じゃだめですか?」

そういうことか。
だめですか?と言われれば、

半蔵「いいや、だめじゃないさ。郭が知ってくれていれば、それで良い」

我ながら、恥かしい事を言っていると思う。
でも郭も、冗談ではなく本気で言ってくれた。
それが嬉しかったから、こちらも本音で返した。

郭「そう言ってもらえると、私も嬉しいです」
518 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/24(日) 13:13:19.88 ID:nwu7Q75z0
半蔵「ところでさ」

完全に何となくだが、今まで聞きたくても聞けなかった事をこの際聞いてみようと、半蔵は郭に尋ねる。

半蔵「もうそろそろ、半蔵様って、様をつけるのは止めにしないか?」

様と言われて悪い気はしない。
でもこれは、もともと自分を懐柔する為に媚びを売るような呼び方だった気がする。
それになんだか、よそよそしい気がするからだ。

郭「それはできません」

郭はきっぱりと言い切って、

郭「正直最初は、媚びを売っていたというのはありました。
  でも今は、純粋に尊敬しているから、慕っているから半蔵様と呼んでいます。
  だから、できません。もっとも、どうしてもやめてほしいと言うのならやめますが」

そこまで言われたら、無理して止めさせる必要はない。

半蔵「いや、そういうことならいいや。寧ろ、そんな気持ちだった事を知れて良かったよ。……なんかちょっと照れるな」

郭「うふふ。照れてる半蔵様も可愛いですよ」

本当の慕っているのなら、こんな風にからかってはこないと思うところもあるが、まあそんな郭の事が嫌いではない。
519 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/24(日) 13:15:19.43 ID:nwu7Q75z0
4月15日、9:00。
今日も今日とて学園都市の復興作業とジャッジメントの仕事がある白井黒子は、常盤台の女子寮の自室の自分のベッドの上で突っ伏していた。
人一倍責任感の強い彼女が、仕事をサボってこんな状態になっているのには、深い理由がある。

御坂美琴の能力が消え去ったこと。
それによって常盤台中学からの退学を勧められたことだ。

白井「だって、やっぱりおかしいですの。
   確かに今のお姉様は、常盤台中学に在学する条件のレベル3以上を満たせなくはなりましたが、今までのお姉様の活躍などを考慮すれば……」

絹旗「白井さん、気持ちは超分かりますが、その点については寮監に散々説明されたじゃないですか。
   御坂さんの今までの功績などは認めますが、さすがに完全な無能力者を在学させ続けるのは、周りの生徒に示しがつかないって。
   それに、御坂さん自身もそれについて認めているじゃないですか」

そして御坂はあっさりと自主退学し、今日の9:30には学園都市を出る予定だ。

白井「だから、お姉様も含めて皆おかしいですの。能力がなくたってお姉様はお姉様ですの。
   それなのに能力が無くなった位で皆して……」

佐天「そんな事言ってる場合じゃないじゃないですか!このままだと御坂さんを見送る事が出来ませんよ!」

現在、こうして白井を説得しているのは絹旗と佐天の2人だけである。
絹旗はもちろん、佐天も記憶は改竄されていない。ただし初春は改竄されている。

白井「そんな事言ったって……もうどうでもいいですの。お姉様はわたくしを見捨てたんですの」

絹旗「白井さん、そんな言い方――」

とそこで絹旗の言葉は途切れる。

佐天「じゃあ、そうやってずっと腐っていれば良いじゃないですか」

佐天が強気に喧嘩を売るような調子で、卑屈になっている白井に喰ってかかったからだ。
520 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/24(日) 13:16:52.62 ID:nwu7Q75z0
絹旗「佐天さん、さすがにそれは」

佐天「だって、ムカつきますもん。自分だけが悲劇のヒロインみたいな顔して。
   悲しいのは白井さんだけじゃないんですよ。一番辛いのは御坂さんなんですよ」

白井「そんなことは、分かっていますの」

佐天「いえ、分かってないです。白井さんは何も分かってない」

白井「……佐天さんは何しに来たんですの?」

佐天「どうしても動かない白井さんを説得に来たんです。絹旗さんに頼まれてね」

白井「じゃあ絹旗さんと佐天さんだけで見送りに行って下さいな。私は結構ですの。お姉様は私を見捨てたんですの」

絹旗は二人のやりとりに最早口出しできなかった。そして佐天の返答は意外なものだった。

佐天「……そうですね。じゃあ白井さんは放っておいて二人で行きますか絹旗さん」

絹旗・白井「「え?」」

絹旗はもちろん、白井までもが思わず気の抜けた声を出す。

佐天「御坂さんだって、自分の見送りにも来ない薄情者の後輩のことなんてすぐに忘れて、学園都市外の生活を謳歌して、彼氏でも作って、幸せに過ごすでしょう。
   じゃあ行きますか絹旗さん」

絹旗「え?ちょっと、え?」

佐天は言いたいだけ言ったあと、絹旗の手を引いて白井の下を後にした。
521 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/24(日) 13:18:31.37 ID:nwu7Q75z0
絹旗「ちょっと、あれで超大丈夫なんですか!?」

佐天に手をひかれながら、絹旗は尋ねる。

佐天「白井さんって結構強情だし、月並みな事言ったって応じてくれるわけないし。
   だから、押してダメなら引いてみろの精神で、引いてみたんですけど」

絹旗「そういうことだったんですか。……いやその考え方は超悪くないと思うのですが、反応を待った方が良かったんじゃないですか?」

佐天「どうせなら、押してダメなら引いてみろ精神を貫いてみようと思って。
   あそこで反応を待ったら、負けかなって。まあ、あとは白井さん次第ですよ」

絹旗(そこまで考えて佐天さんは……)

反応を待ったら負けってことはないと思うが、精神を押してダメなら引いてみろ精神を貫く考えは悪くないだろう。

佐天「別に馬鹿にしてる訳じゃないんですけど、白井さんは案外挑発には乗るタイプと言いますか、私に色々言われて黙っている人じゃないと思いますよ。
   きっと白井さんは来てくれます。御坂さんと一緒に信じて待ちましょう」

絹旗「……そうですね」

やはり佐天を説得に呼んだのは間違いじゃなった。
佐天の言う通り、白井はきっと来てくれる。
522 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/24(日) 13:21:21.73 ID:nwu7Q75z0
御坂「やっぱり、来てくれないのかな」

学園都市の複数ある出入り口の一つの前で、御坂と絹旗と佐天は白井の到着を待っていた。

絹旗「超大丈夫ですって。白井さんはきっと来ます。まだあと7分もあります」

佐天「そうですよ。誰よりも御坂さんのことを想っている人間が、来ない訳ないですよ」

御坂「せめて一言、あの子を傷つけた事を謝りたいな」

一時的にレベル5を超える力を得た代償は大きかった。
脳がオーバーヒートして、能力が完全に消え去った。
それでも後遺症などが残らなかっただけ、寧ろ運が良かったほうだと言えるだろう。

だが能力を失った影響は、単に能力が使えなくなったというだけではなかった。
レベル3以上が在学条件の常盤台には、退学を勧められた。
それは納得のできない話ではなかったから、素直に退学した。

ここまでならきっと、白井もそこまで落ち込まなかっただろう。
しかし学園都市を出ると決めたのは、自らの意思だ。
その点で彼女を傷つけてしまった。

もちろん、何の考えもなしに学園都市を出ると決めた訳ではない。
学園都市外で特別やりたいことがあるわけでもなく、常盤台を辞めても学園都市に居れば皆といつでも会える。
そして皆と離れたくはなかった。
それでも、出ると決めたのには、一つの理由がある。

それは、母親と一緒に過ごしたいということだ。

佐天「傷つけたなんてそんな!親許で過ごしたいと思う事なんて普通ですよ!
   私から言わせれば、白井さんの落ち込みなんて甘えです!」

絹旗「超言いたい放題ですね佐天さん……」

さっきは押してダメなら云々とか言っていたが、要するにうじうじしている白井に腹が立っていただけなのかもしれないと、絹旗は若干辟易する。

佐天の発言に、御坂は苦笑いしながら、

御坂「甘えってことはないと思うけど。私も、あの馬鹿が落ち込んだときは、それはもう」

佐天「あの馬鹿?」

御坂「え?あ、いや、その……私の事はどうでもいいのよ。
   黒子も傷つけちゃったけど、初春さんの記憶が改竄されたのも私のせいだしね」

佐天「もう御坂さん!初春の改竄については、暴言を吐きあった記憶を残すのが酷だと思ったから、って決めたでしょう!
   もう湿っぽいのは止めましょう!」

御坂「ふふ。そうね」

本当に、佐天のムードメーク能力にはいつも救われて来た。
523 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/24(日) 13:23:38.37 ID:nwu7Q75z0
そして御坂見送りまであと2分と言うところで、

白井「遅れて申し訳ありませんの」

散々泣きはらした後が残っている顔で、白井黒子が参上した。

御坂「来てくれたんだ」

そう言って、御坂が優しく微笑むと白井は、

白井「おねえざばぁー」

ブワっと、大粒の涙を流して顔をぐしゃぐしゃにしながら御坂に抱きついた。

白井「おねえざばぁぁぁああああああああああああ!」

御坂「よしよし」

抱きついている白井の頭を優しく撫でる御坂の顔は安らかだった。

御坂「黒子、今までありがとう。そして実家に帰ることを突然決めてごめん。
   でも、今生の別れってわけじゃない。会おうと思えばいつでも会える。
   とりあえず今度は、ゴールデンウィーク辺りにでもね」

白井「それでいいでずのぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」

二人の様子を見て、絹旗と佐天は静かに踵を返した。
御坂の言う通り、いつでも会えるし、連絡だって取れる。
一緒に過ごしてきた期間は長い二人だけど、ここは二人きりにしてあげよう。
絹旗と佐天の考えは一緒だった。
524 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/24(日) 13:25:26.86 ID:nwu7Q75z0
一方で、イタリアのとある民家では、

少女「フィアンマお兄ちゃん右手ないけど痛くないのー?」

フィアンマ「平気だよ。俺様は痛みを感じないんだ」

少女「へー、そうなんだー」

フィアンマとヴェントが子供達と楽しく過ごしていた。

ヴェント「何バカなこと言ってんだか」

フィアンマの戯言にひとりごちつつ、二人の少年の喧嘩を止める。
喧嘩の内容は、どちらがヴェントの結婚相手にふさわしいかというものだった。

ヴェント「私、喧嘩をするような子は嫌いよ」

一言で喧嘩を止めたが、それをややこしくする男がいた。

フィアンマ「あのなお前達、ヴェントの夫は俺様なんだよ。お前達にはもっとふさわしい相手がいずれ見つかる。だからヴェントは諦めろ」

ヴェント「何言ってんのアンタは」

子供相手にムキになって大人げない発言をするフィアンマの頭を後ろから叩きつつ、今度は二人の少女の喧嘩に割って入る。
喧嘩の内容は、どちらがフィアンマのお嫁さんにふさわしいかというものだった。

ヴェント「あのね、フィアンマのお嫁さんはこの私なの。あなたたちにはいずれふさわしい相手が見つかるから。だからフィアンマは諦めなさい」

フィアンマ(大人げない奴……)

二人は似た者同士だった。
525 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/24(日) 13:27:29.13 ID:nwu7Q75z0
舞台は再び学園都市。
まだまだ学園都市の復興は終わらないが、五人の少年少女はカラオケボックスで親睦を深めていた。

土御門「よかったな結標。念願の友達が出来て」

結標「そうね。吹寄さん姫神さんを紹介してくれたのは感謝してるけど、その上から目線がムカつく」

吹寄「ごめんなさい結標さん。コイツはほんと、あとで締めときますんで」

土御門にヘッドロックをかけながら、吹寄は謝罪した。

青ピ「そんなことよりヘッドロックしたままでええのん?そのたわわに実った双丘の片方が、つっちーの頬に当たってる訳やけど」

土御門「羨ましいか?」

軽口をたたく土御門を無視して、からかう青髪に吹寄は、

吹寄「別に良いわよ。減るもんじゃないし。それにこいつ極度のシスコンだし、問題ないでしょ」

土御門「言いたい放題言ってくれちゃってま〜」

吹寄「事実でしょ」

結標がいなければ、吹寄は青髪にも毒づいていただろう。

姫神「それにしても。青髪君と淡希が。恋人関係になっていたとは驚き」

結標「それってどう言う意味かしら?彼は変態だけど、かっこいいんだからね」

その発言に、未だにヘッドロックを解かれていない土御門が口を挟む。

土御門「そんなキツイ言い方だと、せっかく出来た友達もいなくなっちゃうぞ」

結標「黙れシスコン。そんなにきつい言い方じゃないでしょ」

土御門「いやいや、まず結標さんは、雰囲気からしてサドっぽさが滲み出てるからにゃー」

結標「そんなことないわよ。ね?吹寄さんも秋沙も、私の事怖くないわよね?」

吹寄「ええもちろんですとも!ほんとこのくるくるパーのアロハ眼鏡は失礼極まりなくてすみません。
   あとでボコッとくんで、それで勘弁してください」

姫神「怖い訳ない。私達友達でしょ」

依然ヘッドロックが解かれない土御門は、もはや本当にヘッドロックがかけられているのか怪しいぐらい軽い調子で、

土御門「そんな聞かれ方して、はい怖いですなんて言えるわけないにゃー。
    特に吹寄の方なんかは、変に口数多くて、明らかに委しゅ――」

そこで土御門の言葉は途切れた。
吹寄のヘッドロックの威力がまして、口を開けなくなったからだ。
526 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/24(日) 13:28:49.06 ID:nwu7Q75z0
吹寄「委縮なんて、そんなことないですからね!」

結標(とはいっても……)

そこまでの反応をされて、さすがに不安を感じた結標は青髪に尋ねる。

結標「私ってそんなに怖いかしら?」

青ピ「怖い訳ないやろ。ただまあサドっぽいと言うか、女王様っぽいところはあるかな。
   まあそこが、淡希の魅力の一つやけどね」

結標(駄目だ。話にならない)

その様子を見かねたのか、姫神がフォローを入れた。

姫神「正直言っちゃうと。制理は怖がってるみたい。けど気にする事はない。
   制理はこう見えてシャイだから。私もすぐ打ち解けたわけじゃないしね」

吹寄「そ、そうなんですよ。あはははは……」

とそこで、ヘッドロックが緩まったのか土御門が割り込んだ。

土御門「まあ安心しろ結標。吹寄も姫神も良い奴だ。吹寄も安心しろ。結標も案外いいところあるからな」

結標「案外って何よ案外って」

土御門「そういう短気なところが駄目なんだって」

青ピ「僕は短気なところも好きやけどね」

結標「嬉しいけど、そこはフォローしなさいよ!」

姫神「もう何が何やら」

彼らのどんちゃん騒ぎはまだまだ続いていく。
527 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/24(日) 13:30:19.78 ID:nwu7Q75z0
絹旗「へぇぇ……」

完全下校時刻が過ぎてから30分ほど。
ジャッジメントと学園都市復興の作業を終えて、常盤台の寮の自室に疲れて帰ってきた絹旗の目の前に飛び込んできた光景は、

心理定規「おかえりなさい」

垣根「よーチビガキ。久しぶりだな」

心理定規のベッドの上でいちゃついている二人だった。

絹旗「あの、突っ込みたい事は超山ほどあるんですが、とりあえずぶっ殺していいですかね?」

垣根「やれるものなら、どうぞ」

心理定規「ここは私の部屋でもあるのよ。彼氏を連れ込むのも私の自由じゃない?
     それに、あなたジャッジメントでしょ?殺すなんて物騒なこと言っていいのかしら?」

本気で言っているのだろうかこの女は。
それに男の方も、よくもまあいけしゃあしゃあと軽口を叩けるものだ。

絹旗「あのですね。常盤台の学生寮は男子禁制ですし、自由ってのにも超限度があります。
   それとジャッジメントだからこそ、不純異性交遊を取り締まなければいけないでしょう。
   大体、いちゃつきたければ外でやれって話です。何なんですかあなた達は。
   何でここでいちゃつく必要があるんですか?あと似非ホスト死ね」

長々と自分の気持ちをぶちまけた絹旗だったが、

垣根「え?何?長ったらしくて半分以上聞いてなった」

心理定規「まあまあ落ち着いて。あんまり怒ると肌に悪いわよ」

二人は相変わらずマイペースだった。
528 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/24(日) 13:31:53.07 ID:nwu7Q75z0
絹旗「よし。とりあえずまあ、超追い出しますか」

絹旗が割と本気で窒素を纏い、二人に殴りかかろうとした、その時だった。
コンコン、と部屋のドアがノックされた。

絹旗(これはチャンスです!)

間違いなく寮監だ。ここで二人の不埒な様子を見てもらえば制裁が下されるだろう。
考えてみれば、心理定規がお仕置きされているところは見た事がない。
これは面白いものが見られるかもしれない。

絹旗「はい!絹旗異状なしです!」

寮監「そ、そうか」

ドアを開けて勢いよく叫んだ絹旗に、寮監は若干引きつつ、

寮監「ふむ。二人とも異状はない様だな」

絹旗「へ?」

いやいや。
どう見たって同室の心理定規さんは不純異性交遊真っ盛りなはずですが?
そう思いつつ振り返った絹旗の前には、確かに心理定規しかいなかった。

絹旗「まさか……」

『未元物質』をうまく使って、隠れたのか、逃げだしたのか。
とにかく言える事は、垣根達に制裁は下されないという事だけだ。

絹旗(ぐぬぬ……超ムカつきます!)

結局、疲れているところに不快になるいちゃいちゃを見せつけられただけか。
絹旗は怒りを抑えつつ、まだ自分が犯したミスには気付いていなかった。

寮監「ん、絹旗お前……」

絹旗「超何でしょうか?」

寮監「寮内での能力使用は禁止だが?」

絹旗「あ」

怒りで窒素を纏っていたことと解除する事を忘れてしまっていた。

寮監「覚悟は良いな?」

絹旗「い、い」

いやあああああああああああああああああああああああああああ!
と絹旗の悲鳴が響き渡った。
529 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/24(日) 13:32:59.01 ID:nwu7Q75z0
五和『当麻さんの事が好きでした!』

言いたい事はたくさんあった。
けれども、上条の病室に辿り着いて、少しの時間で息を整えてから、言葉はこれしか出てこなかった。
そして、返ってきた言葉は、

上条『「でした」って過去形か。それは困るんだけどな』

五和『……え?』

言っている事が良く分からなかった。
何か言わなければと思って、何も思いつかなかった。

上条『俺は、五和の事が好きなんだけどな』

五和『――』

御坂美琴に可能性はあるかもしれないと言われた。言われたが、

五和『え、だって、そんな、インデックスさんは……』

上条『今俺は、インデックスじゃなくて、五和が好きなんだ。インデックスとはもう、決着をつけてきた』

その一言だけで、もう幸せだった。
だったのに、上条は続けて、こう言った。

上条『だから、これからは俺と一緒にいてくれないか?』

そんなこと――返事は決まっていた。

五和『私なんかでよければ、よろしくお願いします』
530 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/24(日) 13:33:53.01 ID:nwu7Q75z0
なんてことを五和は思い出しつつ、上条と共にベランダで夜空を眺めていた。

上条「あのさ五和」

五和「はい!?」

ちょっと物思いに耽っていたところに問いかけられたものだから、少し声が上ずってしまった。
しかし上条はそこに突っ込む事はなかった。

上条「食蜂の事、どう思ってる?」

これは真剣に答えるべきなのだろう。

五和「正直に言うと、御坂さんを利用して当麻さんを病院送りにまで追い込んだときは、ぶち殺そうかと思いました」

さて、ぶち殺すなんて言葉を使って上条の反応はどうだろうか。
横目でちらっと確認するが、別にこれといって驚いた様子はないようだ。

五和「でも、洗脳されて、当麻さんに助けられて、彼女の考えを知って、本当は優しい人なのかもと思いました。
   と言っても、本当に優しい人なら世界滅亡なんて、ぶっ飛んだ考えには至らないでしょうけど」

上条「そっか。じゃあ食蜂の事は、許せるのか?」

五和「ええ」

上条「よかった」
531 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/24(日) 13:35:58.65 ID:nwu7Q75z0
とりあえず今の五和は、食蜂のことを憎んではいないようだ。

上条「じゃあさ、世界をいい方向に変えるには、どうすればいいと思う?」

五和「随分抽象的ですね」

上条「食蜂にさ、そう言って大見得切ったんだ。でも、具体的な方法が分からなくてさ」

五和「そういうことですか。……良い方向に変えると言っても、何を持って『良い』のかが問題ですよね」

上条「皆が幸せになれるのがいいよな」

と、呟いた直後、五和が即座に返答した。

五和「そういうことなら、もう大丈夫です」

上条「え?」

何が大丈夫なのか。尋ねる前に五和が続けた。

五和「『幸せの形』は人それぞれです。『これがあれば絶対的に幸せ』なんてモノはないと、私は思います」

上条「……」

五和「それに『幸せ』は、与えられるものでも決められたものでもなくて、自分で見出すものだと思うんです。
   私は食蜂さんが思うほど、世界は冷たいものじゃないと、人間は弱くないと思います。
   皆きっといつか『幸せ』を見出せます。だから、大丈夫です」

上条「……それでも『幸せ』を見出すことが出来ない人がいたら?」

五和「そういう人達には、私達が手を差し伸べて、私達の『幸せ』を少しでも分かち合えればと思います」

上条「そっか」

食蜂にごちゃごちゃ講釈を垂れた自らも、人間を侮っていたのかもしれない。

上条「じゃあ、きっと大丈夫だな。学園都市も世界中の人間も」

五和「ええ」

この世界は確かに不平等かもしれない。理不尽かもしれない。
けれどそれは、大きな問題ではないのではないか。
幸せを見出すことが出来れば、出来なくても分かち合える事が出来れば、不平等だって、理不尽だって撥ね退けていけるのではないか。

五和「私は、当麻さんと出会えたこの世界が好きです」

上条「……俺も、皆と出会えた、五和と出会えたこの世界が好きだ」

これからも辛い事や理不尽な事があるだろう。
それでも、強く生きているだけの『幸せ』を見出すことが出来たから――。

あとは、皆が『幸せ』を見出せることを祈るだけだ。

                                           <了>
532 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga sage]:2012/06/24(日) 13:40:07.15 ID:nwu7Q75z0
>>1です。これでこのSSは完結です。
色々グダグダな上にネタも思いつかないので、このSSの続きは出来ないです。

いろいろめちゃくちゃなSSでしたが、楽しんでくれた人がいれば幸いです。
533 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県) [sage]:2012/06/25(月) 23:58:59.05 ID:UDGNlnXY0
乙です
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