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オーフェン「クリスマスぅ……?」 -
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1 :
SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)
[saga]:2011/12/30(金) 20:20:51.57 ID:Xa2Y3PMdo
キエサルヒマ大陸に四季はない。
いや、そう言いきってしまうと多少の語弊が生じるだろうか。大陸には明確にその概念が存在するからだ。
正確には、四季を実感できる程の気候的変化に乏しいと言うのが適切だろう。
うだるように暑くなることも凍えるほど冷えることもない。場所にもよるが、その気になれば一年を通して同じ格好で過ごすこともできる。
もちろん極寒の地マスマテュリアといった例外はあるものの、大陸全体がそんなものだった。
だから、というわけでもなかったが、彼はいつもの格好でいつもの安宿のテーブルに、いつものように突っ伏していた。
黒髪に黒目、季節は一応冬だが半袖の黒シャツに黒いジャケットの黒ずくめ。
胸元には剣に巻きつく一本足のドラゴンをかたどった紋章が揺れており、彼がいわゆる一般人ではないことを示している。
魔術士。しかも≪牙の塔≫と呼ばれる大陸黒魔術の最高峰で学んだ者の証。力ある者の象徴。
だが、そんなペンダントと裏腹に、彼――オーフェンには活力の片鱗すら見えなかった。
「死ぬ……」
1.5 :
荒巻@管理人★
(お知らせ)
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諸君、狂いたまえ。 @ 2024/04/26(金) 22:00:04.52 ID:pApquyFx0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1714136403/
少し暑くて少し寒くて @ 2024/04/25(木) 23:19:25.34 ID:dTqYP2V2O
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1714054765/
渾沌ゴア「それでもボクはアイツを殺す」 @ 2024/04/25(木) 22:46:29.10 ID:7GVnel7qo
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714052788/
二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1714049241/
佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1713966248/
全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1713957007/
君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713885444/
笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1713869982/
2 :
SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)
[saga]:2011/12/30(金) 20:22:33.49 ID:Xa2Y3PMdo
確か、とぼんやりオーフェンは記憶を探った。最後に食事を取ったのが三日前の夜だった気がする。あれから何も口にしていない。
内臓は既に抗議の声すらなく静かに沈黙していた。
人間はどれくらい食べなかったら死ぬのだったか。朦朧とする頭では思い出せなかった。
ただ、明日死にますよと言われても問題なく信じることができそうなほどには衰弱していることは分かる。
「悲惨ですねー」
そんな彼とは対照的な、気楽な声が降ってきた。
顔を上げる気力すらなかったが、この安宿の主の息子、マジクであることはわかった。
金髪碧眼の童顔が覗きこんでいる気配がある。
「……言うことはそれだけか?」
囁くようにしか声が出ない。弱り切った体ではそれが限界だった。
3 :
SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)
[saga]:2011/12/30(金) 20:27:22.78 ID:Xa2Y3PMdo
「と言われても……」
言って、マジクはしばらく間をはさんだ。
「いつも通りのオーフェンさん過ぎてコメントのしようが」
「喧嘩売ってんのか!?」
がばりと跳ね起きる。
「こちとらもう六十時間強食ってねえんだ! もうそろそろ本気で死ぬぞ!」
「その様子ならまだあと四十時間は余裕ですね」
「お前には貧しき者に対する慈悲はないのか!?」
「代金を払ってくれるなら何か作れないこともないですけど」
「対価を求める慈悲は慈悲とはいわん!」
「堂々とたからないでください」
4 :
SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)
[saga]:2011/12/30(金) 20:31:31.98 ID:Xa2Y3PMdo
マジクは苦笑して続けた。
「実はですね、こっちも余裕がないんですよ」
「は?」
「年末ですから色々やりくりきついんです」
もう一年の終わりが近い今日この頃、節目を目の前にして確かにやりくりが厳しいところも多いだろう。
とはいえ。
「……客も来ないのに、やりくり?」
「オーフェンさんたちがちゃんと払ってくれれば違うんですけどねー」
「空腹で目眩が……死ぬ」
テーブルに突っ伏して視線から逃れると、マジクのため息が聞こえた。
5 :
SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)
[saga]:2011/12/30(金) 20:35:54.17 ID:Xa2Y3PMdo
「オーフェーン!」
どばたん!
唐突に上がる女の声の後、宿の扉が勢いよく開いた。
「今日も楽しい楽しい楽しいお仕事の時間よ!」
「迅速に帰れ」
「驕ったげる!」
「速やかに座れ」
許可を得たスーツの女――コンスタンス・マギーがマジクに注文を飛ばし、鼻歌交じりにオーフェンの向かいの席に着いた。
派遣警察官の彼女は、ぐったりとしたオーフェンを見て機嫌よさげに言う。
「いつも通り飢えてるわね」
「……俺がいつも飢えてるのは認めるとして、そんなにうれしげにする理由もないと思うが」
「あんたが飢えてると、それだけで何だか幸せな気分になるの」
「どこまで性格悪いんだおのれは!」
「適当パスタ、できましたよ」
6 :
SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)
[saga]:2011/12/30(金) 20:37:29.01 ID:Xa2Y3PMdo
見測ったようなタイミングでテーブルに皿を置いたマジクは、不思議そうにコンスタンスに目をやった。
「それにしても珍しいですねコギーさん。お仕事のためとはいえオーフェンさんに驕るなんて」
「まあそういう日もあるわよ。それでね、今回の仕事はね」
言いながら、持ってきた鞄の中から書類を取り出してみせた。
「怪人サンタクロースの怪についてなんだけど」
「寝る」
早々に食べ終わったオーフェンは、テーブルを立って客室のある二階へ続く階段に足を向けていた。
「ちょっとー!」
行く手に回り込んで抗議の声を上げる。
「驕ってあげたのにその態度はどーゆーこと!?」
「やかましい! また訳のわからん都市伝説に付き合わされるのはごめんこうむる!」
「ポチョムキンは実在したじゃない!」
「なおさら悪いわ!」
7 :
SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)
[saga]:2011/12/30(金) 20:38:45.28 ID:Xa2Y3PMdo
「大体前から思ってたが、なんでそんなみょうちきりんな仕事まで派遣警察が受け持ってるんだよ!」
「仕方ないじゃない! 他にやってくれるとこなんてないし、わたしぐらいしかこんな面倒くさいことこなせる有能な人材がいないのよ!」
「押し付けられたんですね……」
と、これは厨房に引っ込み際のマジク。そちらを半眼で見やってからオーフェンは視線を戻した。
彼女は幾分かくじけたようだが、気を取り直してこちらをにらんだ。
「……とにかく、驕ってあげたんだから意地でも手伝ってもらうわよ!」
「断固お断りだ!」
がこん!
叫んだ瞬間に何か大きな音が地の底から響いた。
何かの機構が作動するようながちゃがちゃと耳障りな音。揺れる宿の薄壁。
そして聞こえてくる声。
「くろーまじゅーつしー殿ー!」
そして、宿の床が"開いた"。ファンファーレが響き、空間一杯に轟くなにがしかの音楽。
それとともにせりあがってくる人影。
8 :
SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)
[saga]:2011/12/30(金) 20:40:45.12 ID:Xa2Y3PMdo
オーフェンは静かにそれを見つめていた。心もち瞼を下ろし気味に。隣のコギーも似たようなものだった。
完全にせり上がりきったタキシード姿のその男は、両手を天に広げて叫んだ。
「メリークリスマス!」
「我は放つ光の白刃」
呪文の声とともに生じた白い輝きがタキシード男を呑み込んだ。轟音がみしみしと宿を揺らした。
「と、言うわけで」
しかし何事もなく、背後から声が続く。
半眼で振り向くと埃一つついてないタキシードが見えた。
「黒魔術士殿にプレゼントを」
「毎回無駄だと分かっていてもやっちまうんだよな……」
タキシード姿の男――キース・ロイヤルは、妙にこぎれいな小さな箱を差し出したまま、うずくまったこちらを見下ろした。
「おや黒魔術士殿。めでたい日になぜそのような不景気な顔を?」
「何も言うな。俺はもう諦めがつき始めた」
「気持ちはわかるわ」
「お二方は異なことを申されますな」
9 :
SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)
[saga]:2011/12/30(金) 20:41:33.66 ID:Xa2Y3PMdo
一息吐いて顔を上げる。キースの無表情が目に入った。
「で、なんだそれは」
綺麗にラッピングされた小箱を指さす。
「プレゼントと申し上げたはずですが」
「プレゼントぉ?」
「ええ。うれし恥ずかしどっきりげんなり、心のゆとりを測る物差しです」
「……中身は?」
「黒魔術士殿に今最も欲しがっているものかと」
「それよ!」
唐突にコギーが声を上げる。そちらを怪訝な目で見やると、彼女は真剣そのものの目で書類を掲げた。
「それが"怪人サンタクロースの怪"なのよ!」
10 :
SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)
[saga]:2011/12/30(金) 20:42:09.53 ID:Xa2Y3PMdo
◆◇◆◇◆
「プレゼント爆撃?」
「そう」
数分後、オーフェンとコギーは大通りを歩いていた。
「クリスマスに現れる怪人による、大規模不法侵入なの!」
こういうことらしい。
毎年年末の決まった日にそれは起こる。
しっかり戸締まりしていたはずの家に何者かが忍び込み、不審物を置いていくのだそうだ。
それは何故か各人が欲しがっていたものをぴたりと当てたもので、しかも配られた人間が異常に多い。
派遣警察の調査によると数年前に始まり、かつトトカンタ市だけで起きている事態ではないとか。
その事件は今年も数日前に恒例行事のように起きたそうだ。
今大通りを歩いているのはその事件に関して詳しい人間に会うためだ。
「……それって事件か?」
「確かに実害はないそうよ。でも不法侵入は不法侵入だし、不安に思う人とかもいるの」
彼女は歩きながら兎のメモ帳をめくっていた。
11 :
SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)
[saga]:2011/12/30(金) 20:42:43.50 ID:Xa2Y3PMdo
「配られる人間は、本当に無差別なのか?」
「明確な共通点はないそうよ。でも、前の年に配られた人はその次の年ももらえることが多いみたい」
「つまり明確ではないが何かしらの法則性はあると」
「そういうこと。聞き込みをしたところ、周りの人間に評判のいい人がもらえる傾向があるらしいの」
「それはおかしいだろ」
うめくようにオーフェンが言うと、コギーは訝しげにこちらを見た。
「どういうこと?」
「なら俺がもらっていてもいいはずだし」
「本気で言ってないことを祈るわ」
ため息をついて、コギーが前方に視線を移す。
「とにかく、訳のわからない事件なのよ」
「そもそもクリスマスってなんなんだよ」
少なくともオーフェンの記憶にはそのような単語は存在しなかった。
「それは――」
「それはですな!」
唐突に行く手から声が上がった。人混みが二つに割れた。進み出てくる一人の影。
「拙者がお話しいたしましょう!」
12 :
SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)
[sage]:2011/12/30(金) 20:43:10.37 ID:Xa2Y3PMdo
一休み
13 :
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[sage]:2011/12/30(金) 21:03:19.45 ID:EhzdCG2SO
オーフェンときいて多分お前だろうと思ったよ
お前だよな?
14 :
SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)
[sage]:2011/12/30(金) 21:08:21.42 ID:q+DqBBmgo
文体もちゃんとオーフェンっぽいな
15 :
SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)
:2011/12/30(金) 22:04:09.36 ID:eEHX2/UAO
他に書いてるのがあるのか?
しかし怖いくらいに再現されててビックリ
16 :
SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)
[sage]:2011/12/31(土) 01:32:15.29 ID:LmfH0HQDO
まさかここで出会えるとは……
17 :
SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)
[sage]:2011/12/31(土) 19:27:20.49 ID:blmsQALHo
再現率たけーな
18 :
SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)
[saga]:2011/12/31(土) 21:38:26.98 ID:nE0J1qKFo
「つまりクリスマスとは数百年前に廃れた憎むべき悪習なのですよ!」
喫茶店の一角。テーブルについて、オーフェンは男の熱弁を聞いていた。
というより、正確には聞き流していた。
「こいつが情報提供者?」
「その、はずなんだけど……」
背の低いやや太り気味のその男は、野暮ったい眼鏡をかけ、チェックのシャツといったいでたち。なぜか汗を書きながら唾を飛ばしていた。
その声は妙に上機嫌というか、含み笑いの気配がある。
「貴族革命以前、ある一人の聖人が世に出たのですコポォ!」
(コポォ?)
男の口から洩れた妙な音を訝しく聞く。
19 :
SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)
[saga]:2011/12/31(土) 21:39:01.97 ID:nE0J1qKFo
「天人種族の庇護の下から離れてまだ安定していない混乱期、人々の暮らしはまだ確たるものではなく、多くの人々が貧困に苦しんでいたとか!」
言葉に続いて、ふひっ! とまたなにがしかの声。
「その中で、ある男が一つの善行を、と思い立ったのです」
「それが聖人?」
「オウフ! その通りであります!」
飛んでくる唾を嫌そうにコギーが避けた。
「その聖人が行なったこととは!」
と、席を立ってこちらを指さし、妙に身体をそり返させたポーズを決める。口からドドドドドと効果音らしきものを発しながら。
「良き人々へのプレゼントなのです!」
ふひっ!
20 :
SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)
[saga]:2011/12/31(土) 21:39:43.87 ID:nE0J1qKFo
「その男は、セント・クラウスという名でした」
「サンタクロース?」
「今はそのように名を変えているようですな。そして最初にそれが行なわれた日が! クリスマスというわけです!」
男が席に戻る。
「では行きましょう!」
いや、隣の席に置いてあったリュックサックをとりあげただけだった。
「へ?」
「どこに?」
声を上げるオーフェンとコギーに対し、男は声を上げた。
「もちろん! 憎き怪人サンタクロースをひっ捕えるためでござる!」
コポォ!
21 :
SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)
[saga]:2011/12/31(土) 21:40:18.90 ID:nE0J1qKFo
再び大通り。
先頭を歩く男の背中がリュックサックと共に揺れている。
「サンタクロースを捕まえるってどういうことだ?」
あまり気乗りもしないものの、その背中に問いを投げた。
「聞いたところ別に悪事は行なってないだろ」
男はキッとこちらを振り返った。
「コポォ!」
「いやコポォじゃわからん」
「これは失礼! ただ、サンタクロースはれっきとした悪ですぞ!」
肩越しにこちらを見、歩きつづけながら言葉をつなぐ。
「なにしろその当時、クリスマスが大きな行事になり、プレゼント交換が行われるようになったのですが」
「いいことじゃない」
コギーが口をはさむと、驚いたように男の目が見開かれた。
「いいえ! プレゼント交換の相手がいない拙者のような者はひどく迫害されましたし、セント・クラウスのプレゼント配布は配る者を上から目線で選ぶひどく傲慢な行為。
さらに言えば――」
と、男はリュックを下ろして探り始めた。
22 :
SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)
[saga]:2011/12/31(土) 21:41:05.96 ID:nE0J1qKFo
そして何やら掌ほどの大きさの包みを取り出すと、大通りの一角に目を向けた。
「?」
オーフェンもつられてそちらに目をやる。
だが、そこに何か特別なものがあるわけではない。
しいて言えば、仲のよさそうな男女が腕を組んで歩いているのみだ。
「あのように!」
唐突に眼鏡の男が動きを見せる。
包みを開いて何かをその男女に投げつけた。
「うわ!?」
男女の驚きの声に構わず眼鏡の男は"それ"を投げつけ続けた。
23 :
SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)
[saga]:2011/12/31(土) 21:41:32.85 ID:nE0J1qKFo
「……ハンバーガー?」
コギーの言うとおり、それはファストフードのそれのようだった。
「クリスマスは! あのようなリア充が! のさばる最悪にして最凶の日です!」
際限なくリュックサックからチーズバーガーを取り出しながら眼鏡の男が叫ぶ。
「イケメンにチーズバーガーをぶつけると死ぬ! これは真理! そしてリア充にもそれは有効のハズ!」
オーフェンはしばらく沈黙し。
「リア充ってなんだ?」
「わたしに訊かないでよ……」
疲れた顔でコギーが答えた。
24 :
SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)
[saga]:2011/12/31(土) 21:42:00.65 ID:nE0J1qKFo
「ゴルァッ!」
ようやく混乱から立ち直ったのか、先ほどの男女、その男の方が怒鳴り声を上げた。
「何のつもりだテメエ!」
金髪のその男は、ずかずかと眼鏡に近寄ると――ちなみにその間もチーズバーガーが絶え間なくぶつかっている――、その胸倉をつかみ上げた。
「オウフ!」
「何のつもりかって聞いてんだよ!」
しかし、眼鏡の方は動じる様子もなく、妙な笑い声と思しきものを上げている。
「ちょ、拙者、ひ弱であるからして、慈悲を、慈悲を!」
「何ニヤニヤしてんだよ! ふざけてんのか!?」
「勘違い乙」
「だからそのニヤケ顔をやめろっつってんだ!」
しばらくそのまま言い合いが続き、オーフェン達は遠巻きにそれを眺めていたが。
がっ!
突如鈍い音が響き渡った。
25 :
SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)
[saga]:2011/12/31(土) 21:42:27.50 ID:nE0J1qKFo
「イケメンを鉄アレイで殴り続けると死ぬ」
言葉の通り――というかなんというか――いつの間にか取りだした鉄アレイを手に持って、眼鏡がつぶやくのが聞こえた。
金髪の方は頭を抱えてうずくまっている。連れの女が悲鳴を上げた。
「ちょ、ちょっと!」
さすがに血相を変えてコギーが前に出る。
「手を出さないで頂きたい!」
眼鏡男が鋭くそれを制する。
ニヤケ顔をおさめ、厳しい視線でこちらに首だけ振り向く。
「拙者一人でこいつを始末するゆえ」
「いや、手を出すわよきっぱりと!」
「ふひっ!」
「ふひじゃなくて!」
26 :
SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)
[saga]:2011/12/31(土) 21:42:59.47 ID:nE0J1qKFo
オーフェンは。その時何もしていなかったわけではない。
ただ、気配だけを感じていた。近付く忌々しいそれ。
そして、考える間もなく地を蹴る。
「オーフェン?」
そしてコギーの脇を抜け、眼鏡男の脇を抜け、ついでにうずくまる金髪男の脇を抜け、拳を振りかぶった。
「うおりゃあああああ!」
「どおおおおおおおお!?」
こちらから陰になっている場所で落ちているチーズバーガーの残骸を集めていた小さい人影が、悲鳴を上げて吹き飛んだ。
27 :
SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)
[saga]:2011/12/31(土) 21:43:37.72 ID:nE0J1qKFo
「何をする極悪借金取り!」
「いやあの年末ですし、見逃して頂けると助かるんですが」
「やかましいこのクソダヌキども!」
起き上がる小さい人影と、その隣で申し訳なさそうにする同じく小さい人影に怒鳴る。
マスマテュリア以外ではなかなか見られないその珍しい種族は、しかしオーフェンには見なれたものだった。
特別丈夫な身体を持つ地人種族、ボルカンとドーチンである。
「てめえら油断してると風呂場のカビのようにぞこぞこ湧きやがって! そんなに吹き飛ばされるのが好きとは知らんかったぞ!」
「ふっ、マスマテュリアの闘犬ボルカノ・ボルカン、貴様を抹殺するためならどこでも現れる!」
「口動かしてる暇があったらチーズバーガー拾っといた方がいいと思うよ、兄さん」
剣を抜いてこちらに構えるぼさぼさ頭と、拾ったチーズバーガーが入っていると思しき袋を担いだ眼鏡の少年。
二人を見据えてオーフェンは指を鳴らした。
「ほほお、てめえら俺に黙っていいもん食おうたぁいい度胸じゃねえか」
「いや、落ちたチーズバーガーをいいもんと言えるその価値観がすごいですよ」
「笑止! 王者たるものがそれにふさわしいものを食すのは当然のことだろうが!」
「つっこまないよ兄さん」
28 :
SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)
[saga]:2011/12/31(土) 21:44:59.23 ID:nE0J1qKFo
「オーフェーン!?」
後ろからコギーの声がした。見やると、眼鏡の男をなんとか羽交い絞めにしておさえている。
「ちょっとこの人止めるの手伝って!」
「ふひっ!」
相変わらずなにやらテンションの高い眼鏡はうれしげに鉄アレイを振り上げていた。
「すぐ終わらせるからちょっと待ってろ!」
言って、ボルカンに向き直る。
「つーわけで、湧いて早々悪いが終わらせるぞ」
「貴様の惨めで微生物的なミクロン人生ならいくらでも終わらせるがいい!」
「あ、兄さん、帰りはあっちだから立ち位置はもうちょっと右だよ」
光と轟音の後には吹き飛んでいく地人兄弟以外には何も残らなかった。
29 :
SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)
[saga]:2011/12/31(土) 21:45:40.21 ID:nE0J1qKFo
「戦いはいつもむなしい……むなしいが、やっぱりこれが俺の日常だしな」
一人頷き、改めて振りかえる。
「後もう一発! もう一発で、奴を仕留められますゆえ!」
「だから、もう十分でしょうに!」
見える光景にあまり変化はなかった。変わったのは金髪男に傷が増えていることぐらいか。
オーフェンはため息をひとつついて、そちらに足を踏み出した。
声が届くところまで近付いたところで、口を開く。
「正直よく分からんが、もうそこらへんにしといたらどうだ?」
「コポォ!」
「いやもっと分からんし」
30 :
SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)
[saga]:2011/12/31(土) 21:46:10.40 ID:nE0J1qKFo
仕方なくコギーに加勢するためさらに近寄った。
その時だった。
「サンタクロース!」
突如眼鏡が大声を上げてコギーを振り払った。そして走り出す。
「ちょっと!?」
コギーまでもがその背中を追って走り出した。
オーフェンは一拍逡巡を置いて、仕方なくそれを追って地を蹴った。
31 :
SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)
[sage]:2011/12/31(土) 21:46:39.72 ID:nE0J1qKFo
一休み
32 :
SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)
[saga]:2011/12/31(土) 22:35:47.83 ID:nE0J1qKFo
「止まりなさい!」
前を走るコギーが声を上げる。だが、眼鏡の男が立ち止まる様子はない。
眼鏡の男が走る速度は大したことはないのだが、コギーの足はそれより遅い。
追いついてきたオーフェンにコギーが言う。
「さっさと捕まえて!」
「いや、追いかける意味あるのかこれ?」
「良くわからないけど、あの人を野放しにしたら厄介よ!」
「そうかぁ?」
「あとあとわたしが責任取らされるの!」
「それが本音か」
半眼で言うと、コギーはかまわず続けた。
「というわけでお願いオーフェン!」
「えー」
「追加でもう一食奢るわ」
「覚悟しろそこのクソ眼鏡ええぇぇ!」
33 :
SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)
[saga]:2011/12/31(土) 22:36:25.82 ID:nE0J1qKFo
全速力で追いすがり、その背中に手を伸ばす。しかしその手はすんでのところで避けられた。
舌打ちしてもう一度試すが、偶然ではなく眼鏡は避けた。
「この……!」
「邪魔だてしないでいただきたい!」
男はくるりと首だけ振り向くと走り続けながら言う。
「拙者にはやらなければならないことができましたので!」
「やらなければならないことだぁ?」
訝しく問いかけると、彼は前方を指さした。
「サンタクロースです!」
その方向を見ると。
(なんだ?)
道の角に猛スピードで消える赤い残像が目に入った。
34 :
SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)
[saga]:2011/12/31(土) 22:37:07.56 ID:nE0J1qKFo
「全身赤ずくめのすばやい人影! 間違いありません、あれが怪人サンタクロースです!」
「は?」
「我々の捕縛対象ですな!」
「いや、俺は手伝わんし」
「拙者のポケットマネーから三百ソケット!」
「待てやクソ怪人がああぁぁぁ!」
オーフェンはさらに加速した。
通りの角を曲がるとまた向こうの角に消える赤い影が見えた。
「うおおおおおおお!」
咆哮し、疾走する。
何度も角を曲がりもう少しで追いつけそうに思えるものの、やはり捕まらない。
いくつもの通りを抜け、残像の尾を追い続ける。
35 :
SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)
[saga]:2011/12/31(土) 22:37:36.95 ID:nE0J1qKFo
だが、角を十ほど曲がったところでその影が見えなくなった。
「くそ、どこに行った……?」
いつの間にか人気のない狭い通りに出ていたらしい。どこかうす暗い通りに、オーフェンのつぶやきだけが吸い込まれた。
周りを見回してもさびれた建物が並ぶ以外何もない。
いや。
「……?」
こちらから陰になっているところから何か角のようなものが突きでている。
「……」
ゆっくり回り込む。
次第に見えてきたそれは。角のようなというか角だった。
36 :
SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)
[saga]:2011/12/31(土) 22:38:10.90 ID:nE0J1qKFo
ぶるるるん! その生き物らが激しく鼻を鳴らす。
鹿に似ているが明らかに鹿と異なる顔つきと体つき。角の形も鹿のそれではない。
そしてさらに奇妙なことに、その生き物らは小さなそりにつながれているようだった。
「……なんだコレ?」
「トナカイという生物です黒魔術士殿」
「どぅわ!?」
唐突に耳元で聞こえる声にオーフェンは飛び退いた。
銀髪の執事がそこにいた。
「キース! てめこの驚かせやがってどういうつもりだ!」
「いえさきほど黒魔術士殿にプレゼントを渡し損ねましたので」
彼は悪びれる様子もなく涼しい顔でこちらの怒鳴り声を無視すると、両手に収まるほどの大きさの箱を取り出した。
「ではメリークリスマス」
37 :
SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)
[saga]:2011/12/31(土) 22:38:52.78 ID:nE0J1qKFo
「……明らかにさっきと大きさが違うんだが」
「黒魔術士殿」
ぴっ、とキースがその口元に人差し指を一本立てる。
「口にしてはならない疑問というのが世の中にあります」
「これは違うと思うぞ」
「黒魔術士殿も大人になりましょう」
「いや良く分からん」
「納得していただいたようで何より」
「お前っていつも勝手に話を進めるよな」
おかげで騙されそうになることもたまにある。
「ですが黒魔術士殿。これはあなたが今一番欲しいに違いないものですよ?」
「俺が欲しいもの?」
言葉につられていくつか思い浮かべてみるが、目の前に差し出された箱の大きさに結びつくものはない。
「ではご覧ください!」
38 :
SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)
[saga]:2011/12/31(土) 22:40:09.24 ID:nE0J1qKFo
ばっ! と銀髪執事が上方に手をかざす。その手の先には。
「なに!?」
オーフェンらの目の前の建物の上、そこに人影があった。
古い建物のようで煙突がある。人影はその煙突に手をついて立っていた。
気温にそぐわない赤い防寒着の上下、赤いナイトキャップに白いひげ。背は目測ではあまり高くなく、小太り気味。
老人に見えるが、老いを感じさせない妙な違和感があった。
「あれがサンタクロース!?」
オーフェンが叫ぶと同時、老人が急激な動きを見せた。
見かけによらず軽い身のこなしで煙突に飛びこむ。
建物の中から着地の気配が伝わってきた。
「待ちやがれ三百ソケット!」
即座に建物の扉に飛び付き呪文を唱える。
「我踏み入れる招かれざる門!」
39 :
SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)
[saga]:2011/12/31(土) 22:41:26.79 ID:nE0J1qKFo
開錠と当時にドアノブをひねる。
が、それと同時に向こう側から激しい力によって弾き飛ばされた。
「ぐっ……!」
受け身を取って瞬時に立ちあがる。
回復した視界には、赤い人影が――
「我は放つ光の白刃!」
手加減は必要ないと本能が告げた。
光が散り、しかしそれほど広がらず一点に収束する。
爆音と爆風、そして激震。煙が広がるがしばしもたたずにそれは吹き去った。
しかしそこには何もない。
舌打ちして飛び退いた場所を、鋭い気配が薙いだ。
続く二撃目をぎりぎりの体さばきでかわし、向き直り構える。
40 :
SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)
[saga]:2011/12/31(土) 22:41:57.60 ID:nE0J1qKFo
赤い老人は構えて"いなかった"。
ただ立ち尽くし、鋭い目でこちらを見ている。だが底冷えする何かが辺りに満ちていた。
(ちっ……)
舌打ちは胸の内にしまい、殺気だけを尖らせる。
かつて出会った怪人を思い出した。
百メートルを数秒で走りきり人一人を一撃で屠った怪物は、どこか目の前の老人と雰囲気は似ている。
人間相手に魔術を使うなど言語道断だが、この場合はどうなのか。
オーフェンは瞬時に確信した。手加減は要らない。すればこちらがやられる。
(三百ソケット!)
無言の叫び。それを呪文の声に変えてオーフェンは――
41 :
SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)
[saga]:2011/12/31(土) 22:42:24.52 ID:nE0J1qKFo
がしゃん。音がした。
「……」
無言で見つめるオーフェンの視線の先で怪人の腕が取れて落ちた。
それにとどまらず、あらゆる部分が分解し、破損し、落下する。胴体に残った頭が、最後に脱落した。
オーフェンは無言でそれを見送った。
「おお!」
声が上がる。見やると何やらコントローラーらしきものを持ったキースが目に入った。
「まだまだ改良が必要なようですな」
オーフェンは少し考え、そして理解した。
「お・の・れ・は!」
42 :
SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)
[saga]:2011/12/31(土) 22:42:55.17 ID:nE0J1qKFo
「おや黒魔術士殿、空恐ろしい顔ですな」
詰め寄って胸倉をつかむが、キースは無表情を崩さなかった。
「あれはなんだ!?」
「カタログ販売で購入したもっちりロボ・老人型です」
「じゃあ、サンタクロースは……」
「黒魔術士殿……」
神妙な顔で、執事が厳かに口を開く。
「サンタを信じていいのは十歳までです」
「知るか!」
もう一言怒鳴ろうとし、背後からの足音に気付いた。
「サンタクロースぅぅ!」
眼鏡の男が追いついてきたらしい。
43 :
SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)
[saga]:2011/12/31(土) 22:43:51.11 ID:nE0J1qKFo
彼はこちらの背中に飛び付くと、激しく揺さぶってきた。
「サンタは! サンタはどこに!?」
そのせいでキースを手をつかむ手が外れた。
解放された銀髪執事は、妙に軽い身のこなしでトナカイとやらが牽くそりに飛び乗ると、相変わらずの無表情でこちらに言葉を投げた。
「では黒魔術士殿、わたしはロボのさらなる改良をしなければならないので、これで」
「サンタクロースはどこですかコポォ!」
何故か石畳の上を抵抗もなく走り出すそり。こちらの服をつかんで揺さぶる眼鏡。
「この……!」
なにやらいろいろと面倒くさくなったオーフェンは。
「いい加減にしやがれええええええ!」
とりあえずここら一帯を吹き飛ばすことに決めた。
44 :
SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)
[saga]:2011/12/31(土) 22:44:25.85 ID:nE0J1qKFo
余談だが。
その夜、疲れて眠ったオーフェンは数時間後、何かの気配を感じて目を覚ました。
暗闇だが、馴染んでいたために周りのものは見えた。
周囲の気配を探ったが、しかし何者もいない。
気のせいと結論付け、再び目を閉じようとしたオーフェンの視界に何かが引っかかった。
「……?」
枕元に小さな包み。訝しく思いながら開けてみると、桃缶が入っていた。
やはり解せない気持ちのままそれを眺め。
とりあえず明日の食事は確保した、と満足することにした。
45 :
SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)
[saga]:2011/12/31(土) 22:45:29.20 ID:nE0J1qKFo
『勝手に俺を巻き込むな!』
完
46 :
SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)
[sage]:2011/12/31(土) 22:49:24.44 ID:nE0J1qKFo
お読みいただきどうもです
勢いだけで書くとこうなってしまうという例でした
一応これでいったん終わりですが、予定よりあまりに短かったので、お正月編とプレオーフェンでもやってから改めて終わろうと思います
それでは
47 :
SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)
:2011/12/31(土) 23:15:58.83 ID:ZKxywF8AO
乙!
48 :
SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)
[sage]:2012/01/01(日) 02:00:46.77 ID:logFTDuSO
乙
49 :
SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)
[sage]:2012/01/01(日) 05:15:58.00 ID:p/tpk15DO
乙
50 :
SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)
[sage]:2012/01/01(日) 10:12:40.45 ID:DG59CTzv0
乙
51 :
SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)
[sage]:2012/01/01(日) 17:05:51.92 ID:ehcZt809o
とうとうオーフェンに俺ら出演か・・・
胸が熱くなるな
52 :
SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)
[sage]:2012/01/02(月) 00:00:45.60 ID:ZLEKstlRo
乙
53 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2012/01/06(金) 11:26:58.38 ID:OKAG7JC3o
繰り返しになるがキエサルヒマに四季はない。
ただ、それは一年を通して全体的に温暖で気温の変化に乏しいため、体感としてそれを感じる機会があまりないということであり、決して四季の概念がないわけではない。
これもまた繰り返しに過ぎないが。
それと似たような話で、キエサルヒマにおいては四季の実感に乏しいものの一年という時間の区切りはある。
至極当然のことにも思えるが、そういった節目がないことには時間は流れていくものという事実すら人は忘れてしまうのではなかろうか。
オーフェンはそんなことを思いながら、ぼんやり顔でいつもの安宿のテーブルにいつも通りついていた。
新年である。だが、何が変わるわけでもない。
黒髪黒目に黒ずくめが急に色鮮やかに変化するでもなく、剣に巻きつくドラゴンをかたどった≪牙の塔≫の紋章がいきなり鶏のペンダントに変形するでもない。
魔術士であるという事実にも変わりはない。
収入がないという現実にもまた――これが最も深刻だが――全く変動はなかった。
54 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2012/01/06(金) 11:27:35.65 ID:OKAG7JC3o
「うう……」
テーブルの下から声が上がる。
そのことはいつもと多少違うことではあるが、言ってみれば例の地人兄弟が吹き飛ばされる方向が北か東かという程度の違いでしかない。
「今度は何をやらかしたんだ?」
ぼんやりとした視線を宿の壁に向けたまま、つま先の辺りでうずくまっているであろう派遣警察官の女になんとはなしに問いかける。
覗き込んだわけではないが、膝を抱える彼女――コンスタンス・マギーはいつもより子供っぽく見えるはずだった。
「……年末から新年にかけての若者の馬鹿騒ぎ」
しばしの沈黙をはさみ、ぽつりとコギーがつぶやく。
「うん?」
「派遣警察出動」
「……」
「わたしも不本意ながらも出動」
「ああ」
ここまでは特に気になるところはなかった。
55 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2012/01/06(金) 11:28:21.88 ID:OKAG7JC3o
「おかげで夜通しお仕事体制」
「ほほう」
「疲れたわ。それはもう」
テーブルの下から深いため息の気配がする。
「……仕事ってのはそんなもんだろ」
「そうよね、そういうもんよね。でも見返りがないのはどうかと思うの」
「うん?」
「何かしらの手当てが出てしかるべきだわ。わたしそう上申したけど、何にも出ないの」
「……」
「まあそのこととは関係ないんだけど、しょっ引いてきた若造が逃げ出そうとしたときに間違えてフェルテ・ベルナールダーツ使っちゃったのよね」
「おい!」
フェルテ・ベルナールは強力な毒薬である。
馬をも一撃で昏倒させ、運よく目が覚めても重い後遺症を残すという性質の悪い代物で、彼女は以前にもこれを使用したことがあった。
「不慮の事故だわ……」
「明らかにやつあたりじゃねーか!」
「なんでああいう時ばかり命中するのかしら……」
「知るか!」
「すぐに救命処置もしたし部長もあんなに怒らなくてもいいのに」
「やかましい!」
56 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2012/01/06(金) 11:29:02.16 ID:OKAG7JC3o
一通り叫んでから、思わず持ち上げていた腰を椅子に戻す。
多少形は違うがいつも通りのやりとり、いつも通りの気だるさ。
つまりは――
(まあ、変わり映えがしないってことなんだよな)
知らず、オーフェンはため息を漏らした。
「共感してくれてうれしいよう」
「断じて違う」
半眼で告げる。
(さて)
物思いに沈むのは、実は珍しくない。
元々考える癖が強いうえ、最近は気付けば物思いばかりしている気もしたし、言いかえればそれだけ暇を持て余しているともいえる。
(なにをするかね……)
57 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2012/01/06(金) 11:31:05.86 ID:OKAG7JC3o
「そんな黒魔術士殿に耳寄り情報が」
テーブルの下から、コギーのものとは明らかに違う声が上がった。
覗き込むと、うずくまる小さい女の横にもう一つ分膝を抱える影が増えているのが見てとれた。
オーフェンがじとりとした視線を注ぐと、テーブル下の彼は丸まった格好で顔だけを上げて無表情に口を開いた。
「あけましておめでとうございます、黒魔術士殿」
「……何してるんだ?」
「ふふ、鳥が飛ぶ理由を尋ねた者が今までいたでしょうか」
「ああ……なんかすげえ納得した」
「ありがとうございます」
つまりはこういう男だ。彼――キース・ロイヤルは。
オーフェンが椅子から立ち上がり一歩下がると、キースは膝を抱えた格好のまま器用に前進してテーブルの下から出てきた。
そのまま日光差し込む窓を見上げる。
「ああ、新年の日の光はまるで黒魔術士殿のドス黒い未来を照らしだし、そして滅却するかのようですなあ」
「新年早々喧嘩売るのか?」
「めっそうもございません黒魔術士殿!」
58 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2012/01/06(金) 11:32:25.49 ID:OKAG7JC3o
彼は急にすっくと立ち上がると、こちらにすすと近寄ってきた。
「ですから、前途洋洋まっさかさまの黒魔術士殿に耳寄り情報なのですよ」
「前途洋洋まっさかさま?」
「そこは重要ではありません!」
「そうか?」
キースは思い切り首と手を振り、こちらにさらに詰め寄った。
自然、こちらはのけぞるような体勢になる。
「黒魔術士殿。何か気付きませんか?」
「いや別に」
「なんと!」
キースは大仰に目を見開いて見せた。それらしいポーズまでとりながら。
「黒魔術士程の腹ペコ貧困薄幸逆回転きりもみバンジーマンがあの異変にお気づきにならないとは」
「……やっぱり喧嘩売ってんのか?」
「ですがまあそういうことならば仕方ありますまい」
彼はこちらをきっぱりと無視すると、宿のドアを手で示した。
「百聞は一見にしかずと言いますし、まずはご自分の目でお確かめください!」
「……」
いつもとまったく同じというわけではないが、どこか体験した覚えのある感覚。
つまりはまあ。変わり映えがしない、ということなのだろう。
オーフェンは諦めて宿のドアに向かった。
59 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/01/06(金) 11:34:43.71 ID:OKAG7JC3o
遅ればせながらあけましておめでとうございます
あまり長くはならない予定ですが、今年も勢いだけでいきます。どうかよろしく
60 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)
[sage]:2012/01/06(金) 11:58:43.00 ID:LhN9hW0Co
おつ! あけましておめでとうございます
期待しております
61 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/01/06(金) 16:40:42.19 ID:rOyUNMXuo
乙。相変わらず良い感じだ
62 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/01/07(土) 11:51:26.48 ID:/BxQOnFSO
おお来てた
乙
63 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2012/01/07(土) 22:43:12.70 ID:cmtUWFA3o
昼少し前のトトカンタ市には、特に変わった様子はなかった。
宿の立つストリートにはいつもと変わらぬ店やら住居やらが立ち並び、いつもと同じような人々が行き交っている。
それらは日々少しずつ変化はしているのだろうが、四季と同じで体感できなければあまり意味はない。
「……別に変なとこなんてねえけど」
肩越しに振り向き、キースに言う。
後ろに立つタキシード姿の彼は、しかし妙に重々しく首を振って見せた。
「黒魔術士殿、百聞は一見にしかずと言いますが、その一見に魂を込めなければ一聞にすら劣るでしょう」
「よく分からんが……」
もう一度ストリートに視線をめぐらせる。やはりいつも通りのトトカンタの風景である。
いや。
オーフェンの目が通行人の内、男女の二人組を捉えた。
「いい買い物だったよなー」
と、笑い合いながら道を行く二人の手には見なれぬ袋があった。
64 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2012/01/07(土) 22:43:51.11 ID:cmtUWFA3o
一抱えほどの全体的にピンク色の袋。男の腕の隙間から見えるその前面には、『福』と一文字書かれているのが見てとれた。
「なんだありゃ」
呟くオーフェンの前を男女が横切る。
「値段以上のものが入ってるってのがすごいわよね」
「貴金属類や衣料品、食料品まで色々だな」
「缶詰が心もち多めだけどね」
「でもいい買い物だよ」
朗らかに言葉を交わして、彼らは去っていった。
「お分かりになりましたかな?」
「……なんとなくは」
振り向いて、改めてキースに向き直る。
「あれは、ちょっとばかし水準の低い傾向にある俺の生活を救ってくれるものかもしれないわけだな?」
65 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2012/01/07(土) 22:44:33.65 ID:cmtUWFA3o
キースはゆっくりとうなずく。
「あれは福袋、といいます。トトカンタ商店街が今年から始めた画期的な販売イベントなのですよ」
「福袋、か」
「ええ。代わり映えのないこの生活に、わずかながらも刺激を与えようという試み。
これを買えば腹ペコ貧困以下略黒魔術士殿でも、ハッピーになれるという物理法則捻じ曲げ物品というわけです!」
「腹ペコ貧困以下略と物理法則云々は置いとくとして、なるほどな」
顎に手をやり数秒考える。
いや、考えるまでもなく結論は出ているのだから、ただなんとなくのしぐさにすぎない。
「問題はだ」
半眼になってオーフェンはうめいた。
「お前がまともな情報をよこすってのはとてつもなく胡散臭い事態ということだが」
「はっはっは。黒魔術士殿は時々妙なことをおっしゃいますな」
無表情で笑うと言う荒業をやってのけたキースはそのままオーフェンを先導するように前に出た。
「では行きましょう黒魔術士殿!」
66 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2012/01/07(土) 22:45:00.08 ID:cmtUWFA3o
「金、足りんよ」
店の男は無慈悲にそれだけを告げて、仕事に戻っていった。
「……」
しばらくその言葉を反芻し、仕方なく福袋の山に背を向けて宿の方向へと足を踏み出した。
「くっそー……」
悪態をつくがどうしようもない。
目の前に人参をぶら下げられた馬というのもこういった心境だろうかと夢想する。
「これは失敬、黒魔術士殿」
背後からにゅるりと生える銀髪執事をじとりと見やった。
「黒魔術士殿のお財布事情が実に崖っぷち、というより絶賛まっさかさま中であることを忘れておりました」
「……」
言い返したいがその気力もない。しっしっ、と手だけで追い払うしぐさをして、歩を進める。
67 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2012/01/07(土) 22:45:26.66 ID:cmtUWFA3o
「ですがご心配なく」
追いすがるキースを引き離すため、歩みは自然早くなる。
「黒魔術士殿に耳寄り情報パートU」
意地でも無視して進む。
「立ち止まってお聞きになった方がよろしいかと」
それも無視して進むがしかし。
「うお!?」
唐突に突きとばされてよろめいた。
体勢を立て直し慌てて振り向くと、地面から起き上がろうとしている男が目に入る。
横手からぶつかってきたのは彼らしい。
68 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2012/01/07(土) 22:46:11.47 ID:cmtUWFA3o
「おいあんた! どこ見て――」
声を上げかけたオーフェンに、男は振り向いて怯えた目を向けた。これ自体には別段妙なところはなかった。
だが、彼は次の瞬間、怒りをあからさまにむき出しているオーフェンに自ら近寄ってきた。逃げ込むようにわたわたと。
「あんたは!」
男がこちらに叫ぶ。それがあまりに必死の形相で、オーフェンは思わず次の言葉を飲み込んだ。
「あんたは……!」
三十代ほどの男に見えた。
彼は喘ぐように繰り返すと、一歩引こうとしたこちらの腕を掴みすがりついてきた。
よく見ると手や顔にすりむいた痕がある。先ほどオーフェンにぶつかって転んだときにつけたにしては、少々数が多いように思えた。
「腹ペコ貧困薄幸なんとかみたいに呼ばれてる魔術士……っ」
「いやそんなに広まってるのかそれ」
思わずうめくが、男はそれに構わず続けた。
「これ! これを受け取ってくれ!」
言葉と同時に何かを手に押し付けられた。
思わず受け取って見下ろすと、小さな板が一枚。
表面には『お年玉』という単語が印字されていた。
69 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2012/01/07(土) 22:46:36.92 ID:cmtUWFA3o
「……なんだこれ」
「あんたにも得はあるはずだ……確かに渡したからな!」
それだけわめくと、男は一目散にその場を走り去っていった。呆然と見送る。
「……なんだったんだ?」
周りの視線がこちらに刺さるのを感じつつ、もう一度手の中の板きれを見下ろす。
「おめでとうございます黒魔術士殿!」
成り行きを黙って見ていたらしいキースが唐突に声を上げた。
「ついに手に入れられましたな!」
「何をだよ」
キースはこちらの手を示した。
「お年玉を手に入れる権利を、です」
「は?」
70 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2012/01/07(土) 22:47:06.01 ID:cmtUWFA3o
上手く呑み込めずにさらに問うが、その前に激しい足音が近付いてきているのに気付いた。
それに加えて荒々しい声も。
「どこ行きやがった!?」
「多分あっちだ!」
人ごみを割って、数人の男たちが姿を現した。
背格好はそれぞれ違うが、そろって人相が悪い。
周りをぎろりと睨みながらこちらへ真っ直ぐ歩いてくる。
「ぬぁに見てんだコラァ!」
こちらにも睨みをくれて、男たちはオーフェンの横を通り抜け――
「……おんや?」
男たちの一人がこちらの手元を見て動きを止めた。
「兄貴」
その一人がこちらの手元に――つまりは板きれに視線を落したまま声を上げる。
「あん?」
兄貴と呼ばれて、先を行く別の男が足を止めた。
71 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2012/01/07(土) 22:47:47.40 ID:cmtUWFA3o
兄貴と呼ばれるからにはこの男たちの中では最も力があるのだろうが、いかんせん背が低いためあまり説得力がない。
呼びとめた舎弟と思しき男がこちらを示す。
「あれを」
"兄貴"はこちらの手元を見、わずかに目を見開いた。
「おうおう、兄ちゃん」
それからこちらに近寄ると低い位置からこちらをねめあげてくる。
「ちょっとそいつを渡しちゃもらえんかいのう」
「……これがなんだってんだ?」
訳が分からず、オーフェンはきょとんと聞き返した。
「わたしが説明いたしましょう」
「キース?」
72 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2012/01/07(土) 22:48:18.33 ID:cmtUWFA3o
こちらからきっちり六歩離れた場所で、銀髪執事はすっと人差し指を立てた。
「古く、およそ百年ほど前、キエサルヒマ大陸の人間種族はある慣習を受け継いでいたそうです」
「慣習?」
「ええ。お年玉、と呼ばれる金品を授受する儀式です。年配者から子供へ、というのが通例だったそうですな」
お年玉、と言われてオーフェンは板きれに目を落とした。
「そう、その板に書かれている単語と同じです」
キースは深くうなずいて話を続けた。
「今回トトカンタ商店街は福袋と並んでもう一つイベントを用意した様子」
そこできらりと彼の眼が光った。
「それが、お年玉バトルロワイヤルなのですよ」
73 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2012/01/07(土) 22:48:49.96 ID:cmtUWFA3o
「お年玉バトルロワイヤルぅ……?」
「その通り。町に隠されたお年玉引き換え用の板きれを探し出し、指定の場所に持っていくことで金品と引き換えてくれるそうです。
その額なんと五十万ソケット!」
「五十ま……!?」
思わず板きれを取り落としそうになる。
キースは感極まったように声に熱を込め、締めくくった。
「というわけで頑張りましょう、黒魔術士殿! 福袋を買う資金をこれで手に入れるのです!」
オーフェンは絶句して手元の板を凝視した。
何故かキースの話が終わるまで待っていてくれた男たちが、改めて何か言っているようだがよく聞こえない。
「――おい聞いてんのか兄ちゃん」
「ふ……」
口から洩れたのは小さな吐息だった。
「ふふ、ふふふふ……」
それは小さな笑い声に化けた。
74 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2012/01/07(土) 22:49:22.78 ID:cmtUWFA3o
「おい!」
いつの間にか胸倉をつかまれていた。気付かなかった。
だが、別のことに意識を向けていたので仕方ないといえば仕方ない。
ただ理想を現実化するための手段を、世界に向けて広げていた。
「兄貴!」
さらに別の男が声を上げた。
「そいつ確か腹ペコ貧困薄幸なんとかいう――!」
しかし彼の言葉は最後まで続かない。
「我は呼ぶ破裂の姉妹!」
オーフェンの声とともに衝撃がはじけた。
男たちが――ついでに近寄りすぎた野次馬も――吹き飛ばされて地面に転がる。
痙攣する男たちを尻目にオーフェンは地面を蹴り離した。
胸が無性にときめくのを感じる。
「俺は幸せになるぞおおぉぉぉ!」
それを言葉にして吐き出して、オーフェンはストリートを駆け抜けた。
75 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/01/07(土) 22:49:50.86 ID:cmtUWFA3o
つづく
あと訂正
驕る→奢る
76 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/01/08(日) 00:28:55.57 ID:ba97PyvSO
いいねぇwwwwwwww
77 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage saga]:2012/01/08(日) 13:53:40.00 ID:N8ARUVIp0
今気が付いて一気に読んでしまった
再現率高ええええええ!!!!
本人じゃないだろうなこれ・・・
78 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(神奈川県)
[sage]:2012/01/08(日) 17:18:23.36 ID:9zZrQ+3Bo
何コレおもしれぇ!
79 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2012/01/08(日) 18:12:02.89 ID:hEQb5TcHo
風を切ってストリートの真ん中を驀進する。街の風景が勢いよく後ろに遠ざかる。
季節の別が曖昧とはいえ、確かに涼しい感のある空気が顔を撫でて吹きすぎた。
数分間を全速力で疾走し、次第に速度が落ちてくる。
疲れたのもある。しかしそれよりも、五十万ソケットのインパクトから目が覚めるにつれ、ようやく気付いたのが大きかった。
「……で、どこいきゃいいんだ?」
途方に暮れてさらに速度を落とした。
"板きれを指定の場所に"とは聞いていたものの、それ以上の情報はない。
「そーんなときは」
声が聞こえてきたのはそんなときだった。
「わたしにお任せくださいぃぃぃっ!」
感覚に間違いなければ上――!
オーフェンは立ち止まり見上げて、絶句した。
「なっ……!」
80 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2012/01/08(日) 18:13:00.07 ID:hEQb5TcHo
上空に、太陽を背にして飛ぶ四角い影があった。
しばらく凝視して、それが凧であることに気付く。
糸や紐の類は見えない。そして大きい。人一人がそこにはりつける程に。
というより。
「はっはっはっは!」
凧にはりつき哄笑する銀髪執事がそこにいた。
「……あー」
軽くめまいを感じて、頭を抱える。
「黒魔術士殿、こちらです!」
だが、キースはこちらに構わず先導するように先行し始めた。
(もう何も考えんぞ俺は……)
いろいろ大事なものも含めて諦めて。オーフェンは改めて走りだした。
81 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2012/01/08(日) 18:13:33.89 ID:hEQb5TcHo
少なくともそれから数分間は問題なく進めていたと言える。
ここからの数分、あるいは数十分も特に障害もなく進めるはずだった。
(はずだったんだが)
「待てー!」
背後からいくつもの声が上がる。のみならず、足音がこちらを追っているのが分かる。
肩越しに振り向くと、老若男女合わせ十数人もの人間が背中に迫っていた。
「そこの黒い奴ー! 板を渡せー!」
「何のことだかわからーん!」
叫ぶ声に一応とぼけてみせる。が。
「背中ー!」
「……?」
何のことやらわからず、それでも背中に視線を落とすと。
『お年玉引き換え板保持中』
と、簡潔に書かれた貼り紙がはためいていた。
82 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2012/01/08(日) 18:14:18.10 ID:hEQb5TcHo
「んな!?」
慌てて手を後ろにまわしてはぎ取る。
いつの間に貼りつけられたのか、全くもって記憶になかった。
尋常ではない。気配すらなくそれを背に貼りつけるなどとは。
「今だ!」
背後からさらに声が上がる。
同時に正面からも数人の人影が、こちらに向かって飛び出してきた。
舌打ちし、オーフェンは魔術構成を解き放った。
「我は駆ける天の銀嶺!」
同時に地面を強く蹴り離す。
重力中和によって重みから解き放たれた身体が、空高く舞い上がった。
飛びかかってくる数人を軽々と飛び越える。
「おや」
その高度が多少高かったため、ちょうどキースの真下に来る形になった。
83 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2012/01/08(日) 18:15:01.76 ID:hEQb5TcHo
「キィィィス!」
怒りにまかせて声を吐き出す。
「あの貼り紙は――」
「ええわたしです」
銀髪執事はしれっとこちらの言葉を先取りしてみせた。
「あまりに簡単にことが運びますと、張り合いがないかと思いまして」
「そんな張り合いはいらん!」
「えー」
「いらん!」
「ですが」
キースは困ったような口ぶりで続ける。顔はあくまで無表情のまま。
「もうすでにあちらこちらに黒魔術士殿がブツを手に入れたと吉報を入れてしまいました」
「この――!」
さらに怒鳴りつけようと息を吸い込むが。
「黒魔術士殿、敵襲です」
「!?」
いくつもの鋭利な気配が、勢いよく空中のオーフェンに突き刺さった。
84 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/01/08(日) 18:15:49.19 ID:hEQb5TcHo
つづく
85 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(中部地方)
[sage]:2012/01/08(日) 18:54:03.32 ID:QmuGF2npo
乙
再現度が高いww
これは楽しみ
86 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(福岡県)
[sage]:2012/01/09(月) 00:55:26.64 ID:8aB02VjDo
いいよいいよー
87 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(愛知県)
[sage]:2012/01/10(火) 20:55:05.47 ID:om2kdrOpo
今見た。
すごい面白い。期待してます。
88 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2012/01/11(水) 20:31:21.39 ID:WL+XAuK/o
反応というよりは反射に近かった。
「我は紡ぐ光輪の鎧!」
光の輪をつなぎ合わせたような障壁がオーフェンを包み込む。その表面にいくつも衝撃が弾けた。
重力制御のための集中が途切れ、急速な落下が始まる。
「くっ!」
高度は決して低くない。が、受け身が取れずに死ぬほどでもない。
多少すりむいたり打ち身ができる可能性はあるが、それでも――
「!?」
しかし、その思惑を打ち砕くかのようにさらに地上からなにがしかの気配が迫っていた。
「我は放つ光の白刃!」
今度は反射ではなく反応だった。
つまり考える余裕はあったということだ。
89 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2012/01/11(水) 20:32:05.86 ID:WL+XAuK/o
舗装されたアスファルトに突き刺さる光熱波。
地上でこちらを狙っていたいくつかの"それ"が、無残に砕けて地面に散らばった。
(よし……!)
着地する。
爆風がオーフェンの落下の勢いをいくらか和らげていたので、大仰に受け身を取る必要もなかった。
ざっと視線をめぐらすと、いきなり空から熱衝撃波に続いて降ってきたオーフェンに、奇異の視線を注ぐ通行人がまず目に入る。
とりあえず狙ったこともあって巻き込まれた者は(そんなには)いないようだった。
だが視界に入るのはそれだけではない。
「……?」
魔術の炎によって焦げたそれは、斜めに切って先を尖らせた竹のようだった。
(竹槍?)
「ふひっ! それは門松という名で呼ばれているのですよ!」
聞き覚えのある声がした。
90 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2012/01/11(水) 20:32:46.14 ID:WL+XAuK/o
真正面。そこに彼はいた。
野暮ったい眼鏡と同じく野暮ったいチェックのシャツ。
小太りの身体を震わせて、どうやら笑っているらしい。
「久しぶりですなオーフェン氏!」
彼の名前は覚えていないが、確かに一週間ほど前、クリスマス騒動の際に一緒だったことは覚えている。
「早速ですがその板を渡して頂けませんかコポォ!」
「断る!」
どうやら彼もお年玉狙いの輩らしかった。
即座に拒絶を突き返して立ち上がる。
だが、眼鏡は特に動じた気配は見せなかった。
「そうですか。ならば受けて頂きますぞ。ふひっ!」
そう言って彼は一歩横に移動した。
91 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2012/01/11(水) 20:33:12.41 ID:WL+XAuK/o
目に入ったのは、太い竹三本を斜めに切り束ねた代物だった。
何やら飾り付けられて妙に華やかに見える。先ほどの眼鏡の言葉によると名前は"門松"。
その鋭利な先端がオーフェンを捉え――
「フヒヒ!」
破裂音と共にこちらに向かって飛んできた。
「うおお!?」
横に飛んで逃げた後の地面に、門松が凄惨な音を立てて激突する。
自重と勢いでつぶれたそれは、命中すればただでは済まない事を如実に表現していた。
(殺す気か!?)
「ご安心を!」
声の方を見やると、さらにいくつもの門松が並んでいた。
「葬式代くらいはお年玉の中から出しておきますゆえ!」
それを合図にしたのかどうなのか。
並んだ門松が一斉に発射された。
92 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/01/11(水) 20:33:48.24 ID:WL+XAuK/o
ここまで
あと一投下ほどで終わるはず
93 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(中部地方)
[sage]:2012/01/11(水) 21:40:40.62 ID:M31vGCRPo
またこいつかwwwwww
もう新しいレギュラーにしてしまえww
94 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2012/01/11(水) 22:41:40.66 ID:WL+XAuK/o
走り抜ける背後で、いくつもいくつも激突音が連なって轟く。
幸いにして通りは広く逃げる場所に苦労はしないが、野次馬を巻き込まないようにするにはあまり派手に動けない。
耳や頬をかすって飛び去る門松の破片。
数秒もしないうちに限界はきた。
「終わりですぞ!」
逃げ場を失ったオーフェンに、空飛ぶ凶器が殺到する。
オーフェンは舌打ちして呪文を叫んだ。
「我は踊る天の楼閣!」
視野が一瞬遮断された後、数歩分だけ移動した場所で視界が回復する。
転移魔術だが、そんなに退避出来たわけではない。
すぐ近くで響く着弾音に背を向け、彼は路地の一つに飛び込んだ。
「コポォ! 逃がしませんぞ!」
すぐに失敗を悟った。
路地はせまく、脇道もないまま真っ直ぐ続いていた。
(まずい――!)
95 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2012/01/11(水) 22:42:21.97 ID:WL+XAuK/o
背後から破裂音。
魔術で防御も出来ないではない。だが、それは一時的な処置にしかならない。
「く!」
伸ばした右手が壁に寄せられていたゴミ箱にぶつかって、それを倒した。
同時に聞き覚えのある声が上がった。
「ぬお!?」
それはやはり反応ではなく反射だった。ゴミ箱の陰から転がり出た"それ"を掴んで後ろに放り投げる。
凄絶な衝突音がすぐ後ろで弾けた。
ゴミ箱の後ろに飛び込み魔術の用意をするが、ちょうどそれで一度打ち止めだったらしく、とりあえずは何も飛んでは来ないようだった。
「どおおおおおお!?」
代わりに目に入ったのは、頭を抱えて痛みに転がる背の低い人影がひとつ。
しばらくそれを観察して、オーフェンはぽんと手を打った。
「おお。お前でも役に立つことってあるんだな」
「ぬぁにをぬけぬけと!」
96 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2012/01/11(水) 22:42:59.70 ID:WL+XAuK/o
子供のようなその人影は、がばりと立ちあがって、こちらに指を突き付けた。
「この極悪借金取り! ついに俺様殺害計画に乗り出したと言うところか!?」
ずんぐりとした体系。毛皮のマント。本来は極寒地帯に住む地人種族の一人である。
「だが、このマスマテュリアの闘犬ボルカノ・ボルカン! そのような計画で抹殺されるほどやわではない!」
「確かにお前の殺し方はいずれ研究したいところではあるが」
なんとなく思い至ってゴミ箱をどかすと、もう一つ同じようなシルエットの人影が現れた。
「……新年ですし、見逃してもらえませんかねえ」
「すまんがそれは厳しいなドーチン」
再び路地の入口から破裂音が響いてきた。
だが、その音が聞こえた時には既にオーフェンは行動を開始していた。
気合とともに地人二人を掴んで投げる。
重みに腕が悲鳴を上げるが正直なところかまってもいられない。
前方で地人らと門松がぶつかって弾けた瞬間を狙い、オーフェンは呪文を叫んだ。
「我は放つ光の白刃!」
97 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2012/01/11(水) 22:44:18.10 ID:WL+XAuK/o
鋭い閃光は地人と門松を押し流し、そのまま眼鏡の男に殺到した。
「オウフ!?」
悲鳴かどうかも分からない一言を残して、彼は輝きの中に呑まれた。
「……戦いはいつもむなしい……むなしいが以下略」
反撃はない。
オーフェンは空に向かってなにがしかの祈りの仕草をすると、路地から歩み出た。
通りにはいくつか門松が残っているが、特に危険はなさそうだった。
「おや終わったのですかな黒魔術士殿」
声のする方に視界をめぐらすと、通りの脇に低いテーブルと布団が一体化したようなものがあり、それにキースが潜り込んでいるのが目に入った。
「これはこたつというものです」
「いや別に聞いてない」
何か他に言うべきことがあったような気もしたがそれだけ言って、オーフェンはため息をついた。
「疲れていますな黒魔術士殿」
「少しはな」
「ならば諦めますか?」
「いいや」
では、とキースが立ち上がる。
「行きましょう黒魔術士殿」
98 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/01/11(水) 22:44:54.95 ID:WL+XAuK/o
一休み
あともう一息
99 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2012/01/12(木) 00:18:48.99 ID:T/gxrC/8o
「うーむ……」
数ブロックほど歩いて到着した先は、時計塔のある中央広場だった。
過去、どうやってだかキースによってこの時計塔の上に運ばれたこともある、その広場である。
そこがお年玉の引き換え場所らしい。
のだが。
(まあ、考えてみりゃ当たり前だよな)
広場を出入りできる通路、そして入りこめそうな場所。
その全てに、何やら不自然に人が集まっていた。
まず間違いなくお年玉引き換え券狙いの輩だろう。
ここで待っていれば確実に引き換え券持ちを襲えると、そういうわけである。
「どうしたものかね……」
路地の陰から広場をうかがいながらつぶやく。
「どうしたのです黒魔術士殿」
背後からキースが問いかけてくる。
「いつもの黒魔術士殿でしたら、迷わずピアノ拳によって一人ずつ念入りに血祭りに上げるところでしょうに」
「いや、ンなことした覚えは一度もないが」
半眼になりつつ頭をひねる。
(確か、俺がブツを持ってることは、キースが言いふらしたんだよな。あの短時間でどうやってだか知らんが)
だがキースだ。疑う余地もない。
(とすると、適当にごまかして広場に入り込むのは不可能か)
もとより広場に入ろうとすればいちいちボディチェックされそうな気はしたが。
(典型的な方法を使うなら、俺を囮にして別の協力者に引き換えを行わせるのもありだがキースは信用ならんし)
「どうするのです?」
「……」
いくつか選択肢はあった。
「……こーする」
100 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2012/01/12(木) 00:19:35.78 ID:T/gxrC/8o
「我は放つ光の白刃!」
広場のフェンスの一つが衝撃によって吹き飛ぶ。
オーフェンはそれを確認し、そこに"飛びこまなかった"。
路地に身を翻し、さらに呪文を唱える。
「我は飛ぶ天の銀嶺」
重力を中和し束縛から解き放たれる。地面を蹴って、建物の一つ、その屋根に降り立った。
縁から見下ろすと、爆発したフェンスに人が集まっているのが見えた。
正常な判断力を持っているなら思うだろう。オーフェンがそこからもうすでに入り込んだのだと。
事実、しばらくもしないうちに人々は広場の中に殺到していった。
それを見届けたところで、オーフェンは移動を開始した。
屋根を伝って広場の別の入口へ。
目をつけていたそこには人気は既になかった。
(よし)
心もちそっと踏み込む。広場の地図を全て頭に入れていたわけではないが、予想通りならば、こちらには人は来ないはずだった。
このまま引き換え場所を探し当てれば――
101 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2012/01/12(木) 00:20:26.51 ID:T/gxrC/8o
そこで行く手に立ちふさがる人影を見つけて、オーフェンは視線を鋭くした。
(バレていた?)
ここであらためて隠れるのも馬鹿らしい。ゆっくり近付くにつれ、人影の全貌が明らかになる。
黒いコート。加えて帽子を深くかぶり、背丈はあまり高くない。自分よりも少し低いぐらいか、とオーフェンは目測した。
痩せてはいない。男。固太りの体躯。だが、鈍重そうには見えなかった。
オーフェンは無言で構えた。
魔術は使えない。使えばその音によって人を呼び寄せてしまう。
もちろんこの目の前のコートの男が人を呼べばそれでも終了だが、そうするそぶりはなかった。
コートの男が踏み込んできた。
半歩引くと、鼻先を鋭い気配が通り過ぎた。
その気配を追うような心持ちで、今度はこちらが踏み込む。同時に拳をその胴に叩き込み――と見せかけてさらに踏み込んで死角に潜る。
防ぐか避けるかしようとすれば、その隙につけこみ最後の一手を叩き込む準備が整うはずだった。
ひざ裏を狙い、踏みつける。しかし。
(……!)
男はこちらを見ていた。
102 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2012/01/12(木) 00:21:06.43 ID:T/gxrC/8o
オーフェンの一撃が空を切った。勢い余って地面を抉る。一瞬の隙を自覚する。
(しま――!)
破壊的な一撃が、その予感が、オーフェンの身体を硬直させた。
ごとり。
しかし次に耳に届いた音は、おおよそ致命的な打撃とは遠い何かだった。
「……」
無言で見やると、コートの男の腕が脱落して落ちていた。
がしゃん。
次にその脚が折れて、地面に転倒する。
次々に壊れて崩れ落ち、最後に胴体から頭が――
「キース」
オーフェンは静かに呟いた。
「はい、黒魔術士殿」
返事はすぐ背後から聞こえた。
103 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2012/01/12(木) 00:21:35.84 ID:T/gxrC/8o
「お・の・れ・はっ!」
激しい既視感に目眩がした。振り返って、コントローラーらしきものを持つ銀髪執事の胸倉をつかんで揺さぶる。
「そんなに俺をおちょくって楽しいか!? ええおい!?」
「黒魔術士殿」
すっ、と。どうやったのかキースはこちらの手を難なく外し、至極真面目な顔でこちらを見つめる。
「楽しいに決まってるではないですか」
「うがああああああああ!」
頭を抱えて叫ぶ。
もう一度掴みかかろうとにじり寄るが、キースは涼しい顔で告げた。
「しかしよろしいのですか黒魔術士殿」
「何がだ!?」
「そんなに叫ぶと、ほら」
彼の示す方から怒鳴り声が聞こえた。
「あっちだ!」
どうやらオーフェンの声を聞きつけた者らが集まって来たらしい。
「あのように」
「誰のせいだと思ってる!」
104 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2012/01/12(木) 00:22:12.25 ID:T/gxrC/8o
キースはまたもやこちらの手を難なく外すと、どこか自信に満ちた顔で続けた。
「ですがご心配なく。こんなときはわたしにお任せください」
「どう信用するべきか分からんぞ」
目じりが凶悪につり上がるのを自覚しつつ、オーフェンは破壊的な魔術構成を編み上げていた。
「黒魔術士の行動を参考にしつつ、こんなものを用意してみました」
言って、コントローラーらしきものをいじくった。
同時、オーフェンの背後から膨大な光が発生する。
「な!?」
「やっぱり最後は爆発で締めるべきだと思いまして」
反論が浮かばなかったわけではない。
だが、それを口に出す暇もなく、オーフェンの意識は白い輝きによって埋め尽くされた。
105 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[saga]:2012/01/12(木) 00:22:44.43 ID:T/gxrC/8o
再び余談だが。
宿の部屋で目を覚ましたオーフェンは、お年玉を逃したことを悟り、まず最初にため息をついた。
「毎回毎回、よく飽きませんねえ」
声のする方に目を向けると、部屋の入口にマジクが立っているのが見えた。
「……変わり映えがないってことなんだろうよ」
身体の節々が痛んだ。そして重い。
口はきけるが、あまり長く話していたくもない。
オーフェンは再び目を閉じた。
「あ、ところで」
マジクの声は瞼の裏の暗闇で聞いた。
「福袋っての買ってみたんですけど、こんなのあったんでオーフェンさんにあげようかと」
目を開いて見やると、マジクの手に桃缶が一つ、ちょこんと乗っていた。
(やっぱり去年と変わらねえ!:おわり)
106 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/01/12(木) 00:25:51.83 ID:T/gxrC/8o
お読みいただきどうもでした
一応百超えましたし、なんだか原作読み返すにつけ自分の力不足を痛感しましたのでこれで締めようと思います
プレオーフェンにつきましては、なんか思いついたらどこかで適当にやろうかと。それではまたいつか
107 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/01/12(木) 00:29:21.95 ID:Ol+HHIlSO
乙
108 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(長野県)
[sage]:2012/01/12(木) 00:31:09.81 ID:M5ghhLYco
機会があったら、名前忘れたけど黒髪ポニテの女魔術士も出してあげて下さい
109 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/01/12(木) 00:31:29.80 ID:T/gxrC/8o
おまけ:爆発コピペ「秋田禎信(魔術士オーフェン)、こんな風になるんじゃないかなあ編」
背後に爆発が生じた瞬間にはもう、彼の構成は完成していた。
振り返り、それを展開する。
必要なのは速度、それから自制による完璧な制御だった。
どんな時でも、それさえ理解していれば切り抜けられる――!
「我は放つ、光の白刃!」
掲げた手の先に、光が弾けた。
110 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/01/12(木) 00:38:18.52 ID:T/gxrC/8o
ラシィ・クルティ了解
111 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(中部地方)
[sage]:2012/01/12(木) 01:19:01.08 ID:7PNB1Zmfo
乙でした
久々に原作読みたくなった
112 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/01/12(木) 21:16:04.35 ID:Xk+U/ysx0
乙
面白かった
懐かしくてオーフェンまた買い直し始めちゃった
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