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俺「愛している。割とマジで……」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆HtwnmY5CXc [sage saga]:2012/01/08(日) 20:32:59.85 ID:XYYdM7M4o
俺「はあ」

俺「受験生はツラいよなあ」

俺はため息をつきながら傍らの女に話かけるでもない独り言をはいた。

俺「もともと俺人混みは苦手なんだよ」

女「なんだ、勉強じゃなくて人混みの話なんだ。でもそれはみんな一緒だよね」



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諸君、狂いたまえ。 @ 2024/04/26(金) 22:00:04.52 ID:pApquyFx0
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少し暑くて少し寒くて @ 2024/04/25(木) 23:19:25.34 ID:dTqYP2V2O
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渾沌ゴア「それでもボクはアイツを殺す」 @ 2024/04/25(木) 22:46:29.10 ID:7GVnel7qo
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二次小説の面白そうなクロス設定 @ 2024/04/25(木) 21:47:22.48 ID:xRQGcEnv0
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佐久間まゆ「犬系彼女を目指しますよぉ」 @ 2024/04/24(水) 22:44:08.58 ID:gulbWFtS0
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全レスする(´;ω;`)part56 ばばあ化気味 @ 2024/04/24(水) 20:10:08.44 ID:eOA82Cc3o
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君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
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笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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2 : ◆HtwnmY5CXc [sage saga]:2012/01/08(日) 20:37:03.85 ID:XYYdM7M4o

・オリジナルSS非エロです、多分。コンセプトは「受験生がんばれ」

・毎週日曜日にだけ更新します。気長に読んでやってください

・抑揚のない展開が続くかも。その辺はご勘弁を

3 : ◆HtwnmY5CXc [sage saga]:2012/01/08(日) 20:42:10.83 ID:XYYdM7M4o

女「ま、我慢するしかないんじゃない?私たち受験生だし」

女は飄々と答えた。

12月のある日。予備校の冬季講習の校舎は、息詰まるような受験生たちの熱気で窒息しそう

だった。自習室の空気も張り詰めている。ちょっとした会話にも気を使ってしまう。

女「俺君にしては弱気だね。いつもの元気がなくなってるよ?」

俺「そうかもな。もう我慢ならんもん」

後ろの席の問題集をやってる黒縁めがねヤローに睨まれた気がしたせいもあって、俺は必要以上に声量を抑えて女に言った。

俺「女、悪いけど俺帰るわ」

女「ちょっとちょっと、A子どうすんのよ。置いてくの?」

俺「待っててやりたいのは山々だけど、俺の身がもたないや。もともとA子も先に帰っててって言っ

てたし。これ以上ここにいると大声で叫び出しそうだ」

女「……もう、しょうがないなあ」

女はかばんから携帯を取り出すとさくっとメールを打った。
4 : ◆HtwnmY5CXc [sage saga]:2012/01/08(日) 20:44:44.46 ID:XYYdM7M4o
女「A子にメールしといたから。一緒に帰ろ?」

俺「うしっ。帰るか」

俺と女は並んで予備校の校舎を出る。外はすっかり冬模様だが、予備校内が暑かったせいもあって、冷たい風が頬に心地よく感じる。今にも雪が降り出しそうな鼠色の空だが、俺の足取りは解放感で軽い。

俺「ふうっ。この解放感がいいよなあ」

女「なんか肩凝るよね」

俺「まったくだ。しかし、A子、冬期講習1日3コマも取るって信じられないよな。そんなに根を詰めなくてもいいと思うんだけど……」

女「そうなの? どっちかって言うと余裕そうに見えるけど、A子」

俺「いや、あれは余裕ない時の感じだと思うよ。余裕がある時はもっとこう、なんて言うかなあ、眉間に皺が寄ってたり無愛想になったりするんだよね。普通と逆なんだよ、あいつの場合」

女「へえ、そうなんだ。あんまり余裕のないA子って見たことないかも。俺君じゃないと分からないんじゃない?」

俺「一応幼馴染だからかな。でもA子は俺みたいな常人には理解できないレベルに行っちゃったけどね。勉強面で」

俺「それに俺とA子は全然べったりじゃないし。普段あいつが何やってんのか全然知らないもん。普通のクラスメートと差ないよ」

女「それでもいいなあ。私も幼馴染ほしかったー。私中学の時に引っ越ししたからさ」

俺「俺もベタな幼馴染ほしかったなあ。毎朝起こしに来てくれたり、お弁当作ってくれたり、他の女の子と仲良くしてたら嫉妬したりするようなさ」

女「それってさ、Hなゲームのやりすぎなんじゃない? そんな女の子今時いないよ。A子が聞いたら気悪くするよ?」
5 : ◆HtwnmY5CXc [sage saga]:2012/01/08(日) 20:46:21.00 ID:XYYdM7M4o

俺「いいじゃん、俺の妄想なんだから。やっぱ男のロマン、ベタな幼馴染だよなー」

女「はいはい。男子高校生は受験よりもロマンなんだねー。それより、俺君。私ねえ、参考書買って行きたいんだけど。紀伊国屋寄って行っていい?」

俺「あ、付き合うよ。それじゃデートして帰ろうか。手つなぐ? 腕組む?」

女「ちょ、デートって、……やめてよね」

時期はもうすぐクリスマス。冬枯れの並木道を並んで歩きながら、ちょっと恥じらって言った女の「やめてよね」の一言が俺の心に突き刺さる。ささいな一言にどきっとして女の横顔を見つめた。

なんか、こいつかわいいな。
6 : ◆HtwnmY5CXc [sage saga]:2012/01/08(日) 20:48:33.08 ID:XYYdM7M4o

女は高校1年と3年で同じクラスだった。ちょっと天然系だけど明るくてまじめで素朴な裏表のない性格。1年の1学期にA子と女の席が近かったこともあり、A子に気安く話しかける俺とも顔見知りになった。2年では同じ委員、3年では再びクラスが一緒になり、似たような学力レベルだった俺と女は、A子を加えてなんとなく3人組で行動することが多くなっていた。

予備校の冬季講習に行こうと誘ってきたのも女だった。A子と2人じゃレベルが違いすぎて気まずかろう、と二つ返事で乗った。もちろん俺自身が受験生的に行かなきゃいけないという気がしていたのもある。

俺は女子と付き合うとかそういったことには、ほとんど無関心で、まわりにカップルが増えても「へえ、そりゃ良かったね」と言った感じであまり興味がなかった。女やA子のように恋愛抜きで仲良くできる女友達に比較的恵まれていたせいかもしれない。

俺はなんとなくマフラーを外して女の首に巻き、視線をそらして、「じゃ行こーぜ」と振り向かずに先に歩いて行った。


なんでそんなことしたのかって? マフラーを巻いてあげたのは、女が強い北風に首をすくめたから。目をそらしたのは、……自分の行動に照れたからに決まってるじゃないか!
7 : ◆HtwnmY5CXc [sage saga]:2012/01/08(日) 20:52:28.43 ID:XYYdM7M4o
今日はこれだけ

それではまた来週の日曜日に
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/01/08(日) 20:58:22.38 ID:g3k+6tgV0

機体
9 : ◆HtwnmY5CXc [sage saga]:2012/01/15(日) 21:12:47.54 ID:21D+eoI0o

高校3年生の3学期は短い。

年が明けるとばたばたと受験の本番が始まる。最終的に俺は地元の国立と少し遠いC私大、それと東京のS私大の3つを受けることにした。

東京のS私大は、まあ特攻だ。他ならぬ俺自身が受かると思っていないが、受験旅行でホテルに泊まるというのを一度やってみたかったんだ。

迎えたセンター試験の当日、俺は柄にもなく緊張して会場へ向かった。

うちの高校も結構な人数が受験していたはずだったが、会場となった大学が広大すぎて、知り合いをほとんど見つけられなかった。受験会場で馴れ合う気もないのであえて探さなかったのもあるが。

それでも終わってみれば模試と同程度の出来具合でほっとする。

2日間の試験を終えて自己採点してみると、そこそこの出来だった。初陣にしては上出来だろう。少し気持ちに余裕ができた。

10 : ◆HtwnmY5CXc [sage saga]:2012/01/15(日) 21:14:34.01 ID:21D+eoI0o

センター試験の次の登校日。登校中の俺は珍しくA子と一緒になった。

A子は幼稚園からの友人だった。ロリっぽい感じで雰囲気はかわいいし性格も悪くない。ただ、成績があまりにずば抜けていたため、好意的に思う男子が多くても、モテるのとは多少様子が違った。

俺の周囲の男子でも「A子はかわいいけどちょっとなあ」という反応が多く、そのたびに俺は「そんなことないぞ。話しかけてみ? 普通だぜ」と言ってきたが、大体の場合に「怖くてできねーよ、ちょっとパス。見てるだけでいい」というような答えが返ってくる。それももう慣れた。

俺とA子はいわゆる幼馴染には違いないが、実際は言葉の持つイメージほど濃密な関係ではない。家が学区の端同士でそれほど近所ではないし、加えて6・3・3の12年の間で一緒のクラスになったことが小学校2年、6年、高校1年の3回しかない。

だから、家の部屋で寝ているところを起こしに来られるとか、部屋の窓を乗り越えて互いに行き来するとか、そういうよくある幼馴染系イベントとは一切縁がなかった。

11 : ◆HtwnmY5CXc [sage saga]:2012/01/15(日) 21:16:02.69 ID:21D+eoI0o

それでも俺とA子が普通のクラスメートよりはるかに距離が近かったのは、小学校6年間同じ教室でピアノを習っていたからだ。ただ、俺はピアノを習っていること自体が恥ずかしくなって中学1年で辞めてしまった。

今から思うともう少し続けても良かったのだが、思春期の男子ってさ、そういうのに異常に敏感だろ? ピアノなんか女子が弾くもんだ、と言い放った自分が今になると恥ずかしくてしょうがない。

これは余談だが、俺は中2ぐらいから高校にかけてギターを覚えた。その際にピアノを習っていた経験が多少生きたと思っている。その点でピアノを習わせてくれたことについて両親、主に母親には感謝している。

ともかく、高校生になってどちらかというと近寄りがたい雰囲気を出すようになったA子に俺が気易く話しかけられるのは、一緒にピアノを習っていたのが大きいことは間違いない。

A子は受験生になった今でもピアノを続けているようだった。
12 : ◆HtwnmY5CXc [sage saga]:2012/01/15(日) 21:17:54.29 ID:21D+eoI0o

俺「おはようA子。今日は寒いよなー」

A子はゆっくり歩きながら「おはよう」と言ってにっこり笑った。

ふと違和感を覚えて俺はまじまじとA子の笑顔を見つめる。

こいつさては試験できなかったな、と直感した。A子は元来強がりで、他人に弱みを見せるのを極端に嫌う性癖がある。

小学校2年生の時、満面の笑みでピアノの発表会の出番を待ちながら、緊張のあまりおしっこもらしたA子を俺は目撃してしまっている。その時の、実は緊張して泣きそうになっている状態の満面の笑顔と目の前の微笑みがラップしていた。まさに完全に一致、だった。


俺「なあ、A子さ、今日帰りにケーキでも食いに行かない?」


俺はとっさに「センターどうだった?」の言葉を飲み込んで、話をつないだ。具体的なプランなどあるわけがない。とにかく受験に関係ない話題が出さえすれば良かった。



A子「え? どうしたのよ、急に」

13 : ◆HtwnmY5CXc [sage saga]:2012/01/15(日) 21:19:08.38 ID:21D+eoI0o

俺「迷惑? それとも用事でもある?」

A子「別にないよ。俺君が誘ってくるなんて珍しい」


そう言ってA子はさらにふふふと笑った。この笑い方はやばい。こいつは相当落ち込んでいる、と俺の直感が告げる。そんなにできなかったのかよ、A子。

だいたいA子は、試験後は仏頂面なことが多い。が、どんな苦戦したように見えても、確実に結果を出している、それがA子だった。当然今朝も「聞かないでよ」とぶすっとしながら高得点を取っているもんだと思っていた。



俺「じゃあ終わったらクラスに呼びに行くよ」

A子「ん。分かったよ」


さあ、困った。ケーキとか口走ったが、そんなもんどこで食べられるんだよ。
14 : ◆HtwnmY5CXc [sage saga]:2012/01/15(日) 21:20:44.28 ID:21D+eoI0o

センター試験明けの登校日は、全部自習である。HRで担任が出席を取り終わると、クラスの面々は各々図書室に行ったり、参考書を広げたり、雑談を始めたり、PSPを引っ張り出したりとフリーダムな雰囲気になった。

もちろん休んでいる奴もかなりいる。超難関大狙いの奴の中には「年明けはまったく学校行かないで自習する」と宣言して引きこもるのまでいる。そうまでしなきゃならんものなのか、俺には理解しづらい。ま、受験勉強なんてやり方は人それぞれなんだけどね。結果がすべてだし。

俺は女の席に行った。女は3科目だけセンター試験を受けていた。


俺「女、センターどうだった?」

女「まあ、それなりに。でもやっぱり奇跡は起こらなかったねー」


女はそのセリフほどは落ち込んだ様子もなく、飄々と答えた。

15 : ◆HtwnmY5CXc [sage saga]:2012/01/15(日) 21:22:00.66 ID:21D+eoI0o

俺「実力以上の点は取れないんだから、それなりにできたってことは良くできたってことなんじゃない? それは喜んでおくべきだと思うぞ」

女「……ありがとね。俺君は?」


女は一瞬眩しそうな顔をした後、聞き返した。俺は笑って答える。


俺「上出来!」

女「そっかー。良かったね」


女はにっこり笑ってそう言ってくれた。何かに報われた気分になる。

冬期講習の時に女は地元のC私大志望だと言っていた。俺も学部は違うが第2志望で受けるつもりの大学だ。女の第2志望、地元女子大は俺の姉が通っている。そっちの方がC私大の女が受ける学部よりも難しいはずなのだが、女いわく「うちは両親ともC私大出身だからね」とのことらしい。

16 : ◆HtwnmY5CXc [sage saga]:2012/01/15(日) 21:23:35.75 ID:21D+eoI0o

俺「ま、これからが勝負だけどね。もしかしたら俺、東京のS私大通っちゃうかも」

女「俺君なら受かって東京行くことになるかもね……」

女「頑張ってね!」


女はなぜか複雑な表情を5フレームほど見せてから、爽やかに微笑んで言った。うん。いい笑顔だ。だが、その前の表情はなんなんだ?


俺「分かってていじめてんのかよ。記念受験なんだから受かるわけないじゃん。へこむぞ?」

女「自分で受からないなんて言ってどーすんのよ」

俺「いや、ぶっちゃけ本当の目的は受験旅行の方だから。ホテルにデリヘルのおねーさん呼んで童貞卒業しちゃおうかなと。おっと、これは軍事機密だからばらしちゃだめだぞ。俺が童貞なことも最高機密なんだから」

女「ば、ばかなこと言ってないで!」


俺のくそマジメくさった顔での馬鹿話に女は顔を赤くした。からかっていると楽しい。でも実はデリヘルおねーさんをホテルに召還するのはかなり本気で考えている。

17 : ◆HtwnmY5CXc [sage saga]:2012/01/15(日) 21:25:24.38 ID:21D+eoI0o

俺「そんなことよりさ」

女「何よ」


ちょっと機嫌を損ねたようだ。本来の目的を忘れていた。「どっかケーキの食える店とか知らない?」と聞こうと思って考え直す。

女からケーキ屋のことを聞き出そうとすると、必然的にA子の試験結果が芳しくないらしいことに触れないといけない。A子はあの性格から考えて女にそのことを言っていない可能性がある。というかむしろその可能性が高い。

俺の口からA子の試験の出来具合をコメントするのはさすがに良くないよな。ほとんど憶測だし。一瞬の間にそこまで考えて俺は口を開いた。


俺「あー、えーと、受験終わったらさ、どっか遊びに行かない?」

18 : ◆HtwnmY5CXc [sage saga]:2012/01/15(日) 21:26:25.08 ID:21D+eoI0o

言ってから俺は唖然とした。何言ってんだよ、俺。とっさにケーキ屋から話題をそらすためとは言え、とんでもないことを口走っている。これはやばい。なんか今日はいろいろと口が滑りすぎだ。


女「うん。行こう行こう」


よかった。女はにっこり笑って軽く応じてくれた。

え?

なんか俺デートの約束しちゃっているじゃん。いや、まて。別に二人でとは言ってないしな。

女はクラスメートに呼ばれて「それじゃあね」と言って去って行った。

俺は自席に戻ってそっと汗をぬぐった。今日は自滅の相が出ているみたいだ。
19 : ◆HtwnmY5CXc [saga]:2012/01/15(日) 21:29:14.63 ID:21D+eoI0o

今日はここまでです。

センター試験受験生のみなさん、お疲れさんでした。

また来週日曜日に更新します。

受験生のみなさんの努力が実りますように。
20 : ◆HtwnmY5CXc [saga]:2012/01/22(日) 21:14:05.98 ID:va6dojuAo

俺は自席で男友達としばらく猥談をして時間をつぶした。クラス全体がフリーダムなゆるい空気が流れている。外は木枯らし模様で寒そうだ。小雪がちらついているのが見える。


男友達とのバカ話にも飽きて、頬杖をついて窓の外の曇り空を見ながらぼーっと思索する。


A子はやっぱりあの性格でだいぶ損している。今日もクラスでは余裕の微笑みを浮かべているだろう。その内心は相当がっくり来ているのに、みんなその微笑みに騙されて「やっぱりA子は830点ぐらい楽勝で取れたんだろうな」とか思っているに違いない。


偽りの微笑み。あいつは、なんていうか、……脆くて危なっかしい。あいつのことをそんな風に思うのは俺だけかもしれない。というか俺が間違っているのだろうか。
21 : ◆HtwnmY5CXc [saga]:2012/01/22(日) 21:15:50.73 ID:va6dojuAo

でも、それについて俺が口を挟むのも筋違いだし、俺にできることもない。というか、これって試験の出来不出来だけの問題じゃない気がする。周囲の期待に応えることを義務付けられているA子。

端的に表現するならば、やっぱりかわいそうだという言葉が一番ぴったりのような気がする。

眉間に皺を寄せて考えていたら、何か聞きたそうな素振りで女が来た。


女「どうしたの? 難しい顔して。上出来だったんじゃなかったの?」


22 : ◆HtwnmY5CXc [saga]:2012/01/22(日) 21:20:19.06 ID:va6dojuAo


俺「いや、デリヘルのおねーさんが来てからどういう風に行動すればいいのか、童貞だから悩んでる」

女「……もう、この変態!」

俺「まて、女。この場合、変態と罵るのは正しくないぞ。俺はデリヘルおねーさんを呼ぶと言ったが、変態プレイをするとは言っていない」

俺「童貞だからあくまで通常プレイで優しくリードしてもらってだな、あ、いかん、よだれが出てきた……」

女「俺君のばか! もう、知らないっ!」


ちょっとからかいすぎたかな?

結局女が何を聞きたかったか分からないまま、教室に入ってきた教師に会話を遮られた。反省の意をこめてそっと女にメールを打つ。


「ごめん。冗談。怒るなよ!」


女の後姿が自分の席でもそもそと携帯を打つ仕草をし、すぐに返信が来た。本文にはジト目の絵文字だけが打ってあった。

23 : ◆HtwnmY5CXc [saga]:2012/01/22(日) 21:23:01.77 ID:va6dojuAo
それより問題はケーキ屋だ。

今日は午前中で終わりなので、ぼやぼやしているとすぐ放課後になってしまう。しょうがない。最後の砦、大学2年の姉にメールで聞いてみることにする。


『緊急事態発生。11時40分までに駅に近いケーキが食える店を教えろ』


姉からの返信は割とすぐに帰って来た。


『何が起こったか20字以内で答えたら教えてやる』


ちっ、めんどくせーなあ。
24 : ◆HtwnmY5CXc [saga]:2012/01/22(日) 21:27:18.96 ID:va6dojuAo

姉も昔、同じ教室でピアノを習っていた。当然A子のこともよく知っており、おもらし事件も承知しているので話が早いのが救いだ。


『A子、試験やばそう、とりあえずなだめる』とだけ書いて送ってやる。19文字だ、文句あるか。


すぐに姉から店の名前が3軒と『A子ちゃんならC店のミルフィーユで責めろ』と来た。

姉貴、それを書くなら「攻めろ」だろうが。エロく間違ってどうする。わざとかよ。

でもさすがスイーツ女子大生、即答で店名が出た上にメニューまで提案された。ここまで分かればなんとかなる。サンキュ、姉貴、助かったぜ。


『感謝感激。あとでちゅーしてやる』


メールで礼を言ったら、画面いっぱいに血濡れの骸骨が『死ね』としゃべっている画像が返って来た。

25 : ◆HtwnmY5CXc [saga]:2012/01/22(日) 21:32:42.00 ID:va6dojuAo

その日の帰り、A子と一緒に姉に教えてもらった店でケーキを食べながら、俺は話題の捻出に想像を絶する苦労をしていた。

受験の話はこっちから触れるわけにはいかない。当たり障りのないテレビの話を振っても「最近あんまり見てないんだよね」とツレない。

まあ、受験生なんだからそれは仕方ない。アメトークを欠かさず見ている俺の方が異常だと思う。

相手が女なら受験旅行のデリヘルおねーさんの話で主導権を握ることができるのになあ、と思ったが、もちろんA子相手にそういう冗談を口に出せる雰囲気はない。

気まずい……。誰かなんとかしてくれ。

だいたい俺がA子をなぐさめようとすること自体が間違いだったんじゃないかと、ひそかに後悔し始めていた。ただ、A子がケーキをフォークで刺して口に運ぶ仕草を見ているのはそれはそれでいいものだ。


A子「ところで俺君さ、最終的にどこ受けることにしたの?」


結局A子が受験の話を口にしてきた。ここは地雷を踏まないように慎重に言葉を選んで回答する。
26 : ◆HtwnmY5CXc [saga]:2012/01/22(日) 21:59:23.64 ID:va6dojuAo

俺「ま、順当に地元国立とC私大とあとは東京のS私大受けようかな、と」

A子「もうちょっと勉強すれば難関国立も受けられたんじゃない? 私はもったいないと思うな」

俺「御冗談を、お嬢さん。受けられるかもしれないけど受からないよ。それに自分の実力は自分が一番よく分かってるもん」

A子「受かりそうなところを受けるのと、受かるために勉強するのとは違うんじゃない? 私から言わせれば能力の出し惜しみだよね」


なんかほめられているのか叱られているのか、よく分からない。思わずたじろいでしまう。とりあえずおほめの言葉と受け取っておくか。
27 : ◆HtwnmY5CXc [saga]:2012/01/22(日) 22:02:29.40 ID:va6dojuAo
今日はここまでです。

さすがに週一更新だと誰も読んでくれない・・・・・・。けどめげずに頑張ります。

次はまた来週29日の日曜日に更新します。
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/22(日) 22:34:59.05 ID:+WDEi4tYo
さすがに最初の2週間で27レスじゃ読む気起きないな
もうちょっと頑張るなら読むかも
29 : ◆HtwnmY5CXc [saga]:2012/01/22(日) 22:53:16.25 ID:va6dojuAo
>>28
読んでくれてありがと。
ちょっと自分のペースと相談してみます。
息切れしないことが目標なので
30 : ◆HtwnmY5CXc [sage saga]:2012/01/29(日) 21:28:39.40 ID:DjvKKAr6o

俺「A子に勉強でほめてもらったのは記憶にある限り始めてじゃないか? 下手に先生からほめられるより嬉しいぞ。今日のケーキは俺のおごりだから、ガーンと食ってくれ」

A子「あ、ありがと……」


A子は短く例を言うと唐突に沈んだ顔をしてじっと黙り始めた。

滅多に他人に、いや家族にすら見せないA子の本音が来そうだ。俺は黙って次に来るA子の言葉に備えた。


A子「……私、センター失敗しちゃったんだ……」

俺「…………」



A子「……もう、だめかもしれない……」

俺「…………」


A子はぼそっとつぶやいた。
31 : ◆HtwnmY5CXc [sage saga]:2012/01/29(日) 21:29:30.37 ID:DjvKKAr6o

俺は何も言葉を発することができない。何を言っても逆効果になりそうでしゃべれない。来ると分かっていても対応できなかった。


A子「私ってメンタル弱いよね。……いっつも本番で力が出せない」

俺「…………」

A子「俺君はその点、本番になると普段よりも力を出せる。ピアノの発表会だって毎回そうだったし」

俺「…………」

A子「そういう人、うらやましいな……」

俺「…………」


A子「自然体で生きていけるしね……」


A子はそう言って言葉を切ると、………涙をこぼし始めた。


32 : ◆HtwnmY5CXc [sage saga]:2012/01/29(日) 21:30:55.71 ID:DjvKKAr6o

俺は黙って泣いているA子を見つめていた。嗚咽するでもなく、感情が高ぶるでもなく、ただ目を伏せて涙を流すA子。

俺はA子のことをかわいそうだと思った。

見た目よし、性格もいい、勉強もできる。そんなA子は、想像するに常に完璧を求められながら育ち、その要求に完璧に応えることを自らのアイデンティティにして生きて来たんだろう。

A子は、今までの人生の大部分において、彼女自身の持つ才能と人知れぬ努力によってそれを上手くこなしてきた。そんな彼女がたまたま入試で失敗したからと言って、誰が責めることができるのだろうか?

俺は何も言わずにテーブルの上のA子の手を握った。それしかできなかったから。


俺「……たまにはさ」

A子「……」



俺「たまには、失敗するのもいいんじゃないかな」



いささか無責任な、そんな言葉しかかけられなかった。
33 : ◆HtwnmY5CXc [sage saga]:2012/01/29(日) 21:34:45.87 ID:DjvKKAr6o

2月に入ると私大の入試が本番を迎える。

クラスメート達の中にも深刻な顔をしている奴らが増えてきた。俺は……、なんか今さらじたばたしてもしょうがない気がして案外平気だった。むしろ気持ちは受験旅行とデリヘルおねーさんに圧倒的に傾いていた。

C私大の入試が終わった週、さすがに欠席者が多く、ひとけの少なくなった教室で俺は女と取りとめのない話をしていた。


女「なんか私、焦ってきてだめなんだよねー」


珍しく浮かない顔で女がつぶやく。女ひとまず第一志望のC私大を終えて、後は女子大の入試を一つ残すだけの日程だった。


俺「らしくないなあ。今さらくよくよ悩んでもしょうがないじゃん。あとは結果だけだろ?」

34 : ◆HtwnmY5CXc [sage saga]:2012/01/29(日) 21:36:19.71 ID:DjvKKAr6o

女「まあ、そうなんだけどねー。受験前よりもよっぽどプレッシャーかかるよね。この発表待ちの間って。

女「なんかしなきゃいけないような、かと言って何もすることがないような」

俺「やっぱり女はまじめだね。俺だったら終わった―、ってすぐに頭が遊びモードに切り替わると思うな」

女「俺君は日に日に元気になってきているよね。その無駄にプレッシャーに強いところ分けてほしいなあ」

俺「女、なんで俺がプレッシャーに強いか分かる?」

女「分かんない。なんで?」

俺「ふっふっふ。それはだなあ、心臓に陰毛が生えてるからだよ!」

女「はあー」


女を元気づけてやろうと渾身のギャグを放ったが完全に空振りだった。むしろ事態を悪化させた気がしてならない。後悔はしていないが情けない。

35 : ◆HtwnmY5CXc [sage saga]:2012/01/29(日) 21:39:08.20 ID:DjvKKAr6o

女「明日から受験旅行で東京なんでしょ?」

俺「ふっふっふっ。そのとーり。俺が元気になってるとしたら、それが最大の原因だ。なんてったってデリヘルおねーさんで童貞卒業、おっとこれは軍事機密で……」

女「はあー」


……こういう風に話の途中でため息をつかれると傷つく。しかも思い切り呆れた、バカを見る目を伴っていると救いようがない。


俺「女ー、その反応はちょっと傷ついたぞ。割とマジで」

女「はいはい、ごめんなさいねー。まあ、デリヘルおねーさんにたっぷり慰めてもらってきなさい。何してもらうのか分かんないけど」

俺「ま、それはともかく、泣いても笑っても女は今週の地元女子大で終わりじゃん。あとひと踏ん張りだから頑張れよな」

女「ん、そだね。頑張る!」


女はやっとにっこり笑った。こいつの笑顔には含みがないからいい。他人が元気になる笑顔。ちくしょう、こっちまで気持ちが明るくなってくるよ。


36 : ◆HtwnmY5CXc [sage saga]:2012/01/29(日) 21:45:37.23 ID:DjvKKAr6o

A子は相変わらず涼しい顔で学校には来ていた。

噂によると私大を受けずに難関旧帝一本勝負にしたらしい。周囲は「さすがA子は余裕だな」と言っているが、俺は確信を持ってそれは違うと思った。

A子ならおそらくSクラスはともかくAクラス私大ぐらいまでなら、今このまま準備なしで受験しても楽々合格できるはずだ。だが、私大に受かって本命に失敗すると私大に進学せざるを得なくなる。

男ならすべり止めを蹴って浪人はありなんだろうけど、女子はそうもいかない。何よりA子本人が納得できない進学をしたくなかったに違いない。


A子はおそらく浪人を覚悟したに違いない。


俺の推測は9割方外れていない自信はあった。しかし、3年生のこの時期に正面切ってそれを確かめるほど俺は無神経ではなかった。

遠巻きにA子を目で追っていると、なんかまるで恋しているみたいだな、とか思ってしまう。今さらだけど、A子が気になる。というか心配でたまらん。

37 : ◆HtwnmY5CXc [saga]:2012/01/29(日) 21:48:25.25 ID:DjvKKAr6o

今日はここまでです。

亀の歩みですが、これが今の俺の精一杯。

また来週の日曜日の夜に更新します。
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