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魔法少女隊R-TYPEs FINAL - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga ]:2012/01/09(月) 15:49:52.36 ID:R8B3cCk30
注意書き

・これはR-TYPEシリーズ(STG、SLG設定含む)と魔法少女まどか☆マギカのクロスSSとなります。
・かなりオリジナル設定の塊で、そもそも年代自体がR寄りになってます。
・Rなだけに割とキボウ(狂気と暴挙と欝設定)に満ち溢れているかも知れません。
・さやかちゃんマジ主人公。
・バイド注意報発令中です。
・このスレで終わり切らなかったら、次は『魔法少女隊R-TYPEs FINAL2〜ティロ・フィナーレの野望〜』
 となるかもしれません。

前スレ
魔法少女隊R-TYPEs
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1320055251/

SS-wiki
http://ss.vip2ch.com/ss/%E9%AD%94%E6%B3%95%E5%B0%91%E5%A5%B3%E9%9A%8AR-TYPEs

キガ ツク トイ チス レガ オワ ツテ イタ
ケレ ドマ ダマ ダオ ハナ シハ ツヅ クゾ

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1326091792(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)
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暇人の集い @ 2024/04/12(金) 14:35:10.76 ID:lRf80QOL0
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2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/09(月) 15:57:14.26 ID:07dcSB7Q0
>魔法少女隊R-TYPEs FINAL2〜ティロ・フィナーレの野望〜
終わるのか終わらないのかはっきりしろww
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/09(月) 17:13:35.23 ID:aocLlnoDO
前スレ終了お疲れ様です! でも、終わってもきっと、星のように輝き続けるだろうと思います。

マミさん。貴女はやはり出来る女だ。

杏子ちゃん。ナイスアドバイス!

ほむらちゃんは“作られた生命”などと言うが、作られずに生まれた生命なんて、一番最初の動くたんぱく質くらいなもんだ。機械で作られようと、お腹で作られようと、作られた生命なんだ。他の人と、なんら変わりない。
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/09(月) 22:14:53.09 ID:07dcSB7Q0
ん、QBの星はすでにバイド化している。
つまり、バイド化したインキュベーターとバイド化した少女が契約して、バイド化した魔法少女や、バイド化した魔女が生まれるかもしれないのか。

バイド化した人間の魂がどんなものかわからないし、バイド化した状態で契約できるのかもわからないけど、そのあたりの問題はバイド化したTEAM R-TYPEあたりが解決しそうな気も……
5 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga ]:2012/01/10(火) 00:44:50.96 ID:RNued9He0
ではでは、新スレ最初の投下と行きましょう。
今日は随分沢山書いちゃった気がします。
基本的に書いたその日に投下するので、割と即興な感じです。

さあ、行こうか。
6 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/10(火) 00:49:23.79 ID:RNued9He0
「オリジナルのことを知りたい、か。何を言い出すかと思えば……まあ、いいだろう。
 こちらも機体の修理にはまだしばらくかかる。そうすることで8号のコンディションが回復するというのなら
 私が拒む理由は無い、彼女が保管されている場所の座標を送る。8号を1人でそこに向かわせるといい」

「――と、言うわけだ。スゥ=スラスターのオリジナルの方は話がついたよ」

「――言ってくるわ」

そして、ほむらは1人歩き出す。
あの口ぶりからするに、オリジナルのスゥ=スラスターは生きているのだろうか。
だとしても、恐らく戦える身体ではないのだろう。
それでも会いたかった。会って、話がしてみたかった。
一体彼女は何のために戦ったのか、知りたかった。

シャトルに乗り込み、宇宙の海を泳いで渡る。
指定された座標は、火星の衛星、フォボスに建築された研究施設。。
その研究施設の最奥部に、スゥ=スラスターのオリジナルは居るのだという。

オートパイロットで約半日、それまでは、特に何をするでもない。
仮眠を取るためのスペースもあることだから、少し眠ることにした。
仮設のベッドに身を預け、目を閉ざす。寝つきは悪い方ではないのだが
今日だけは、どうにも眠気がやってこなかった。代わりに現れたのは、いくつもの苦悩。

自分の存在が徹底的に破壊されて、自分が何なのか分からなくなった。
仲間に支えられて、それを見つけるために動き出した。
けれど、だとしたら。今の自分が持っている記憶は、スゥ=スラスターとしての記憶はなんだったのだろう。
全てが作り物なのだとしたら、何故その記憶の中の英雄は、ああも必死に戦っていたのだろう。
その記憶は、やはりどうしてもリアルで、思い出すたび原始的な恐怖を抱かせるものだった。

記憶は、思考は更に遡る。
幼体固定を受ける以前の記憶はどうだったのだろう。
今まで考えたことも無かった。考える必要も無かったのだけれど、そこに思考を向けた途端。
……意識が、ぽっかりと抜け落ちた。
7 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/10(火) 00:50:22.86 ID:RNued9He0
「……そう、か」

そんな記憶は、どこにもありはしないのだ。
与えられていないのだろう。
きっと以前の自分であれば、それを不思議に思うことすらできなかった。
そういう風に、作られていたのだ。

「本当、愕然とするわね。……だからこそ、確かめないと」

静かに、自分の心の中を打ちのめしていったその記憶の欠落。
それを静かに受け止めて、ひび割れた心を繋ぎとめて、ほむらは目を閉じた。
今度は、静かに眠ることが出来た。



「ん……」

電子音声が、目的地に到着したことを告げる。
その声に目を覚まし、軽く寝癖のついた髪を払う。
そして、操縦室へと入る。

そこからは主導で機体を走らせ、管制官の誘導に従って機体を着陸させた。
待っていたのは、研究者然とした男の姿。
その男に促されるまま、施設の奥へと導かれていく。
何重にも張り巡らされた通路を抜けて、厳重なロックをいくつも超えて。
たどり着いたのは、壁一面に巨大な水槽が作られた部屋の中。

不思議な色をした液体に浸かり、その全身にいくつも管を通されて。
たゆとうように浮んでいたのは、1人の少女だった。
8 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/10(火) 00:51:00.32 ID:RNued9He0
「スゥ=スラスターのオリジナルは、電界25次元においてマザーバイドを撃破した後、地球へ帰還した。
 ここまでは、お前も知っている事実だ。その後、帰還を果たしたスゥ=スラスターはこの基地へと収容され
 そこで、戦闘データの解析を行っていた。その時はまだ元気だったのだがね」

目を見開いたまま、溶液の中にたゆとうスゥ=スラスターの姿を眺めるほむら。
聞こえているのか居ないのか、構うことなく男は言葉を続けた。

「人知を超えた異層次元での戦闘と、幼体固定手術の副作用が重なったんだろう。
 彼女の身体は、急激に崩壊を始めた。それを防ぐためにさまざまな処置を施した結果、これだけ大き入れ物が必要になった。
 今の彼女は、少しでも身体が外気に触れれば崩壊してしまう。それほどに不安定な状態だ」


意識などとうになくなっているのだろう。
縦しんばあったとして、自分の身体がこんな有様になることに、耐えられるはずが無い。
人類の未来のために戦って、戦って、戦い続けた英雄の末路がこれか。
余りの事実に愕然として、ほむらはその場に崩れ落ちるように膝を付いてしまった。

「そして、崩壊する前の彼女の体細胞をベースにお前たちは作られたんだ。
 この事実は、極々一部の人間にしか知らされていない。知らせられるはずもない」

「なんて……むごい、ことを」

生きていれば、もしかしたら話くらいはできるのではないかと思っていた。
死んでいたのならそれはそれで、その生きてきた軌跡を知るくらいはできるのではないかと考えていた。
けれどこれは、余りにも惨かった。自分の意志で生きることも出来ず、死ぬことも許されず。
肥大した生命維持装置に繋がれて、今なお実験台としてその命を弄ばれている。

男は、呆然と佇むほむらを一瞥してから、踵を返し。

「この部屋には、知りうる限りの彼女に関するデータも蓄積されている。
 見たければ閲覧しても構わない。……くれぐれも壊すことだけはないように」

言い残して、部屋を出て行った。
そして取り残されたほむらが、1人。
9 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/10(火) 00:51:41.83 ID:RNued9He0
打ちひしがれたまま佇んで、けれどいつまでもそうしても居られない。
向き合うと決めたのだから。余りにむごい事実からも、目を背けてはいけないのだ、と。

水槽に浮ぶ英雄の姿を一瞥。
確かに、同じ姿形をしていた。
本当に自分がスゥ=スラスターのクローン体なのだということを実感させられた。

水槽から視線を外して、並んだ端末の一つに触れる。
いくつも積み重ねられた、スゥ=スラスターに関するデータを一つ一つ閲覧していく。


スゥ=スラスター。A.D.2146生。
学生時代にパイロットとしての素質を見出され、16歳の時に地球連合空軍に入隊。
その後、R戦闘機のテストパイロットを経て太陽系外周防衛部隊に配属となる。
5年の任期を経て地球圏へと帰還、その直後、バイドの襲来によって太陽系外周防衛部隊は壊滅。
彼女の強い希望もあり、第3次バイドミッション、作戦名-THE THIRD LIGHTNING-のメインパイロットとして選定され
R-9Ø―ラグナロック―を駆り、空間座標――3681119:銀河系中心域、マザーバイド・セントラルボディの破壊に成功した。

その後、漂流していたところを回収され当基地に収容され、データ回収と研究を行っていたが
高々次元における異層次元航行による影響と、幼体固定処置の副作用によって身体の崩壊が始まる。
崩壊は精神領域にも及び、被験体の生命が危ぶまれるため生命維持装置に接続。
これ以上の実験の続行は困難と推測されたため、クローン体を作成しこれを用いて実験を継続する。


A.D.2170/01/14追記
作成したクローン体にパイロット適性が確認された。
中でも特に能力の高かったクローン体8号及び13号を、オペレーション・ラストダンスのパイロット候補として推薦する。


A.D.2170/02/02追記
最終候補選定に際し、クローン体における自由意志の必要性の有無が再検討されることとなった。
その事例を検討するため、8号にオリジナルの記憶を一部与え、自由意志による行動を一定期間観察することとする。
期間についてはオペレーション・ラストダンスの進行状況に合わせ、期間経過後に8号と13号による戦闘を行う。
勝利したものをオペレーション・ラストダンスの候補として推薦することとする。
10 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/10(火) 00:52:14.13 ID:RNued9He0
「……そういうこと、だったのね」

ある程度予想は出来ていた。
そして示されたデータは、それを確信へと変えるものだった。

「そう、それがお前と私の全てよ。8号」

もう一つの声。聞き覚えのある声。それは自分と同じ声。
弾かれるように振り向くと、そこにはもう1人の同じ顔が立っていた。
思わず身構えるほむらを手で制して、彼女――13号は告げる。

「ここでお前と戦うつもりはない。私達の戦いは、空でつけなくてはいけないものだから」

「……そう」

信用はできないが、それでもここは間違いなく監視下。
何かあればすぐに止めに来るはずだろうと、一応の警戒は解いた。

「それで、貴女は何をしに来たの?……13号?」

資料で見たとおりならそれであっているはずだと、皮肉交じりに呼びかけた。
その言葉に、目を見開いて怒りを顕わにする、彼女。

「その名前で呼ばないで。お前に呼ばれると……イラつきが抑えきれなくなる」

「なら、他に名前は無いの?」

更に目を見開いて、歯を食いしばる彼女。
どうやらほむらの言葉は、更に彼女の怒りを増してしまったようだ。


「あるわけがないじゃない。お前が名前を身分を与えられて、仲間とぬくぬく過ごしている間も
 私はこの場所で、イカれた実験の毎日だったんだ。物扱いされて、名前すら与えられずにッ!」

怒りを顕わに歩み寄り、ぐいと胸倉を掴んで引き寄せた。
怒りに震える自分の顔、初めて見たその姿にほむらは半ば圧倒されていた。

「お前を殺せば私は英雄になれる。もう物扱いされることだって無くなる。
 ……だから、私はお前にだけは絶対に負けない」

ぎらぎらと、怒りと恨みに燃える瞳を近づけて睨みつける。
澱み、濁り、それでもなお真っ直ぐで力強いその瞳。
その圧力に耐えかねて、ほむらは目を逸らしてしまった。
11 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/10(火) 00:52:42.96 ID:RNued9He0
「……ふん」

そんな弱弱しいほむらの姿に気勢を削がれたのか、掴みあげたほむらを投げ捨てるように突き放して。

「それでも、お前の状況にも一応同情はできる。……今の今まで、何も知らされなかったんだもの」

突き放されて、膝を突いて座り込むほむらの耳元で、彼女が囁いた。

「聞くところによると、お前は戦うのが嫌で逃げ出したそうね。それがどこまで本心かは分からないけど。
 そして私は英雄になりたい。お前を倒して、英雄になりたいの」

彼女は更に顔をほむらの耳元に近づけて、声を潜めて囁いた。

「……わざと負けるつもりはない?そうすれば、貴女を生かしてあげる。
 貴女は仲間と一緒に戦い続けることができる。私は英雄になれる。……どちらにとっても、いい取引のはずよ」

囁かれた言葉に、ほむらは目を見開いた。
確かにそれは魅力的な提案だった。
ここで負けて、そして生還することができたのならば。
英雄の身代わりとして過酷な戦いに借り出されることは無いだろう。


「答えは空で聞く。……これ以上お前と一緒にいると、うっかり殺してしまいそうだから」

再び彼女は冷たい口調でそう告げて、足早に部屋を後にした。
残されたほむらは、何も答えることが出来なかった。
心の中で渦巻く迷いに、答えを見つけることが出来なかった。
12 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/10(火) 01:03:00.66 ID:RNued9He0
というわけで最初の投下となります。
ほむらちゃんも13号ちゃんも、ベースとなる人格はさほど変わらなかったりします。

>>2
多分このスレで終わるはずですが、四月まで終わらなかったらそういうタイトルになりそうです。
主に四月馬鹿的な意味で。

>>3
ひとまず向こうは埋まりましたが、これからも誰かの目に留まってくれれば幸いです。

そしてマミさんの狙撃技術がついに神がかり的なレベルに……。
きっと監視衛星とかと強制的にリンクできる機能か何かが付いているのだと思います。
ガンナーズ・ブルームには。

そして皆ここに来るまでいろいろな経験を積み重ねてきました。
いよいよ、それが一つの形になる時期が来ているのかもしれませんね。


>>4
恐らくインキュベーターの生き残りはここにいるものだけでしょう。
そして感情を持たず、個としての意識が希薄なインキュベーターでは
バイドという大きな群体に取り込まれ、個を保つことは出来なかったのでしょう。

まあうっかりバイドに魔法の技術を使われちゃったりしたら大変そうですが
バイドの魂ってどうなってるんでしょうね、まったく。
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/10(火) 01:12:35.24 ID:6nW8QJ5k0
13号はカイン・コンプレックスに近いものを持っているのでしょうかね。
のうのうとしているという意味では、それこそ一般市民の方がよっぽどのうのうとしているでしょうし。
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府) [sage]:2012/01/10(火) 04:13:25.70 ID:9E8xwQOVo
生き別れの双子の片割れみたいなもんだろ。
なんで自分は、なんであいつは、ってのは他人よりも強くなると思うがね。
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/10(火) 07:28:35.62 ID:4gE9kLbDO
連続投下感謝!
スゥさん…流石に心が壊れてしまっては、まどかと言えど交信は不可能か?

英雄って…生け贄って事らしいですよ、13号さん…。
16 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/01/10(火) 22:51:47.33 ID:RNued9He0
今日はちょっとだけ更新です。
ちなみに、物書きの合間にちょっと機体のロゴマークを作ってみました。
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=24193112
この辺りで公開してます。
イラレとフォトショくらいしか使えないので、クオリティはなんとも残念な代物ですが
よければ見てやってくださいませ。

んでは、ちょこっとだけ投下です。
17 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/10(火) 22:52:36.39 ID:RNued9He0
「やあ、ほむら。オリジナルには会えたかい?」

研究施設を発ち、シャトルで宇宙空間を駆けていたほむらに通信が入る。
声の主はキュゥべえで。

「……ええ、一応は」

「歯切れの悪い返事だね。まあいいや、暁美ほむらの親族の住所がわかった。
 そちらに転送するから、そのまま向かってくれても構わないよ」

送られてきたのは、地球上の座標。
都市部から離れた、今尚自然が多く残る地域であった。
それを眺めて、ほむらは軽く目を伏せて。

「行ってくるわ。……長くなるかもしれないと伝えておいて」

「……分かったよ」

そしてシャトルは火星を発ち、地球へと舞い戻る。
その帰路の最中、ほむらはずっと考えていた。
スゥ=スラスターは、何を思って戦っていたのだろう。
順当に考えれば、太陽系外周防衛部隊の仲間を殺された復讐なのだろう、とは思う。
もしそれだけが理由なら、きっと自分はそうはあれないだろうと思う。
激しく身を焦がす憎悪、それが最大の力になるというのなら、それをきっと持ち得ないものだろう、と。

そもそも死んでしまった人間が何を思っていたのかなど、分かるわけがないのだが。
ただそれでも分かったことは、得られたことは多かった。
まず第一に、自分の記憶はオリジナルのものであるということ。
きっと、妙な記憶を植えつけられたりはしていないのだろう。
それはすなわち、戦うことを拒んだのも、それでも戦おうと思ったのも全て自分の意志であるということ。

それが分かっただけでも、少し胸のつかえが取れたような気分だった。
18 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/10(火) 22:53:15.87 ID:RNued9He0
シャトルは空港に着陸し、そこから目的地へと向かう。
都市部からは外れた場所で、まずは空港に併設された駅から列車に乗って最寄の駅へ。
更にそこから歩いて30分程はかかるのだという。
この時勢に、随分と不便な場所に居を構えているものだ。

エア・ランナーを借りていこうかと思ったが、返すのが面倒なので止めておいた。
外を眺めると、雪が降っていた。
寒い盛りは過ぎたはずだが、雪の勢いはかなり強い。
日もまだ短い時分、夕暮れ時はすぐに夜へと変わるだろう。

「……宇宙には、季節はなかったものね」

空港の中はまだ暖かいが、この薄着では外に出るのは堪えるだろう。
手近なところで、コートの一着も用立てることにしよう。

荷物らしい荷物なんて、初めから持っては居ない。
買い物もクレジット一つで事足りる。それだけをポケットの中に突っ込んで。
そそくさとほむらは用意を始めた。急がなければ、着く頃には夜になってしまう。


白い厚手のコートを着込んで、ついでに暖かな手袋と帽子も一緒につけて。
口の上手い店員に押し切られて、うっかりとマフラーまで巻いてしまって。
まさしく防寒具の完全装備といった出で立ちで、ほむらは列車に揺られていた。
列車自体が、この時代の移動手段としては既に時代遅れなものとなっていたこともあり乗客はまばら。
ほむらは1人、静かに窓の外を流れる雪景色を眺めていた。

ガタンゴトン、なんて音を立ててレールを走る列車はもう一世紀以上も前の遺物でしかない。
この時代の列車は全て、とっくにリニアカーへと挿げ替えられてた。
もっとも、本当に急ぐというのであれば高高度旅客機がある。
太陽系全域に生活圏を広げた人類にとっては、本当に世界は狭いものとなってしまっていたのだ。
19 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/10(火) 22:53:57.40 ID:RNued9He0
「それでも、人の足にはまだ世界は……広い」

足元に積もった雪に足を取られそうになりながら、白く染まる空の下をほむらは歩く。
30分程といったが、この悪路ではもう少しかかってしまいそうだ。
大自然の驚異すら克服したはずの超科学も、人々の生活の場に下りてくるまでは今しばらくの時間を必要とするようで。
都市部に設置されている、波動エンジン直結の融雪用ヒーターや、無人稼動式除雪装置などはまだこの辺りには無いらしい。
だからきっと、こうして辛うじて用意されている道は、誰かが雪を退けて作ってくれたものなのだろう。

どこまで歩いても、真っ白な景色は終わらないように見える。
普段広い宇宙を縦横無尽に駆けているはずなのに、こうして自分の足で地球を歩いてみると。
やはり、地球は広いと感じてしまう。
宇宙で生まれ、宇宙しか知らない人々はこんな景色を見ることなく、地球の広さを知ることもないのだろうか。
なんだか、それはとても勿体無いことのようにほむらは感じた。

きっと、こうして仮初にでも身分と存在を与えられなければ
自分も一生それを知ることはなかったのだろう、と。そう思えば尚のことだった。
20 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/10(火) 22:54:36.28 ID:RNued9He0
「……ここ、ね」

日本様式の建物の前で、指定された住所と間違いが無いことを確認してほむらは呟いた。
このような建築物はこの時代では珍しい、とはいえ存在しないわけではない。
技術継承はしっかりと行われ、おまけに最新の技術さえ貪欲に取り込んだ結果。
古来よりの景観を損なうことはなく、居住性を高めた新古式住宅などというよくわからないものが
今も建築されており、そこそこの人気を誇っているのだという。

「緊張するわ。……まったく、参ったものね」

はぁ、と白い溜息を一つ吐き出した。
表札には、確かに暁美と書かれている。
事前に渡された資料によれば、この家には暁美ほむらの母親が1人で住んでいるのだという。

呼び鈴を鳴らすと、インターフォン越しに女性の声が聞こえてきた。
見慣れない来訪者に訝しげに尋ねる調子のその声に、ほむらは静かに脈打つ胸を押さえて。
静かに、言葉を告げた。
21 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/10(火) 22:58:04.59 ID:RNued9He0
今日はここまでです、どうも余り筆が乗りませんで。

>>13
同属嫌悪に近いものもあるのかなー、という気がします。
同じ境遇のはずなのに、ほむらだけが人として生きることを許された。
それが、13号ちゃんにとってはどうしても許せないのでしょう。

>>14
概ねそんな感じだと思います。
そしてなにより、これだけが13号ちゃんにとって自分を認めさせる機会な訳ですから。
そりゃあ必死になるというものです。

>>15
あそこまでなってしまえばもう死人も同様です。
生命活動も自力では行えず、人らしい精神活動もない。
むしろああなってまで死なせてくれないのだから恐ろしいものです。

生贄でもなんでも、13号ちゃんにはそれしか道はありませんでした。
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県) [sage]:2012/01/11(水) 02:08:35.63 ID:C92gausSo
「私は十三人目の妹ではない!暁美ほむらという名前を与えられた無二の存在だ!」
って台詞が出てくると思ったがほむらちゃんは八号だったでござる
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/11(水) 07:44:44.58 ID:Uk9/TYmDO
乙でございやす!
ほむらちゃんのお母さん…旦那さんはどしたんすか?

水槽スゥさんは、さやかの魔法という奇跡でも治らないのだろうか?

また番外用のネタを思い付きました。それはこのSSの5人とアニメの5人を入れ替えてみる。というものなのですが、如何でしょうか?
24 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/01/11(水) 17:11:26.65 ID:AYhvzrv60
この話も9話に並んで相当長くなりました。
というか、この先の話は皆なかなか長くなっちゃいそうな気がします。
恐らくこの話が終わった辺りでまた何か幕間をやるのではないかと。

では、投下していきます。
25 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/11(水) 17:12:30.16 ID:AYhvzrv60
暁美ほむらと病院で親しくしていたのだが、彼女が亡くなったと聞いてやってきた。
せめて、お参りだけでもさせてもらいたい、と。
そんなほむらの言葉を信じて、その女性はほむらを家に招き入れた。
出てきたのは、線の細く、どこか弱弱しい印象を受けるような女性の姿だった。

「……お邪魔します」

こんな寒い中、大変だったでしょうと言うその女性に小さく頷いて
ほむらは家の中へと足を踏み入れた。
広い家だった。たった一人で暮らすには、あまりにも広すぎる家だった。
掃除は行き届いているようだが、あまり物もなく、どこか殺風景な印象も受けた。

「まさか、あの子にこんな可愛いお友達がいたなんて。
 きっと、ほむらも喜んでくれていると思うわ。……お名前は、なんて言ったかしら」

言葉に詰まる。その女性の言葉が胸に突き刺さる。
死んでしまった暁美ほむらと、今ここにいる暁美ほむらは本来何の関係もないのだ。
ただ、その名を騙って存在しているというだけで。

「……スゥ。スゥ=スラスターです」

その名を名乗るわけにも行かず、ほむらはその名を名乗った。
自分がそうだと思い込んでいた者の名前を。
胸の奥が、ズキリと痛んだ。
26 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/11(水) 17:13:18.29 ID:AYhvzrv60
「そう、スゥちゃん。どうぞ、上がってちょうだい」

促されるまま、家の奥へと進んでいった。

「失礼……します」

暗澹たる気持ちを心の底に抱えたまま、ほむらは進んでいく。
自分を、理由を、すべてを偽ってここに居るのだ。
果たしてそれが、本当に暁美ほむらに向き合うことになるのだろうか。

「ほむら、お友達が来てくれたわよ」

案内された一室は、しんとした静けさと冷たさが同居する部屋だった。
子供用の学習机や、教科書の収められた本棚。小さな箪笥が壁に二段に積み重ねられていた。
おそらくそこが、暁美ほむらの部屋だったのだろうとわかる。
丁寧に掃除がされていたのだろう。埃や汚れの類は見られない。
もとより病床にあったこの部屋の主がここ居たことは少なかったのだろう。
更に部屋の主を失って久しく、その部屋は人が存在することが似つかわしくないほどに冷え切っていた。

その部屋の中に、ゆっくりと足を踏み入れた。
もはや用を為すこともないのであろう机の上には、小さな仏壇が置かれていた。
額に映し出されていた映像は、おそらく生前の暁美ほむらのものだったのだろう。
おそらく中学校のものなのであろう制服を着て、嬉しそうに笑う少女の姿だった。
黒い髪を肩ほどまで伸ばして、その肌はまさしく病的に青白かった。
目元に刻まれた小さな皺は、彼女が長きに渡って苦痛と戦い続けたのであろうことを暗に示していた。
やはりそれは、ほむらとは似ても似つかぬ少女の姿だった。
27 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/11(水) 17:13:45.57 ID:AYhvzrv60
「ここは、ほむらさんの部屋……だったんですね」

「そうよ。あの子は生まれつき体が弱くて、ほとんどここに居ることはなかったのだけれど」

女性の声は懐かしむようで。
それでいて、まるで瘡蓋を剥がすようなひりつく痛みを堪えているような
そんな、声だった。

「私は奥にいるから、あの子との話が終わったら呼んでちょうだいね」

「……はい」

静かに、どこまでも静かに言葉を告げて、扉は閉ざされた。
明かりに照らされた部屋の中。線香の匂いが静かに漂っていた。


机の椅子を引いて、そこに腰掛ける。
目の前の仏壇には、この世を去った暁美ほむらの名と姿が映し出されていた。
線香を焚き上げ、鉢をそっと鳴らして手を合わせ、黙礼。

「ごめんなさい、暁美ほむら」

伏していた目を開き、ほむらは本当のほむらに向けて静かに口を開いた。

「私は、死んでしまった貴女の名前を、身分を借りて存在している。
 そんな私がのうのうとこんなところに来るなんて、貴女からすればひどく不愉快かもしれないわ」

映し出された暁美ほむらは何も言わない、その姿は何も変わらない。

「貴女と向き合えば何かが変わるかも知れないって思ったわ。
 けれど、全然ダメね。単に自分の罪深さを改めて認識してしまっただけ。
 ……それでも、貴女には謝っておきたかったの。本当に、ごめんなさい」

死者は、何も答えない。
いっそ責め立ててくれでもしたら、少しでもその罪と向き合ったことになるのかもしれないけれど。
やはり、死者は何も答えてはくれなかった。
それが自分の罪と向き合うことになるのかどうかすら、ほむらにはわからなかった。
28 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/11(水) 17:14:34.15 ID:AYhvzrv60
仏壇から視線を移すと、机の上に置かれた一冊のノートが目に留まった。
花柄の描かれた、女の子が使うようなノート。
暁美ほむらの持ち物だったのだろうか。手にとって、それを眺めてみた。
小さな、丸い文字で綴られていたそれは、暁美ほむらが遺した日記だった。

「………」

知りたい。そう思った。
暁美ほむらという人間がどういう人物であったのか。
病に冒され病床で過ごす日々に、何を思って生き、そして自らの死に何を思ったのか。
気がつけば、ほむらは静かに頁を捲り始めていた。
29 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/11(水) 17:15:05.85 ID:AYhvzrv60
「スゥ……ちゃん?」

部屋から出てこないほむらを案じて部屋を覗き込んだ女性が見たものは。
ノートの頁を開いたまま、嗚咽とともにぽろぽろと、涙をこぼすほむらの姿だった。

「っ……どうしたの、スゥちゃん」

駆け寄って肩を抱く女性に、ほむらは涙を流しながら振り向いて。

「ごめ……なさい。っぐ。……っぅ、ぁぁ。私、私っ……」

「落ち着いて、スゥちゃん。何があったの。落ち着いて話してごらんなさい」

堪えようとしても涙は止まらない。
そんなほむらの背をそっと支えて、優しく女性は言葉をかけた。
そんな言葉がまた、ほむらの胸に突き刺さっていく。

「私は……っ、ひく、っ。謝らなく……っちゃ。いけないんです。私は」

胸の痛みはますます強くなって。
まるで、きりきりと締め付けられているようで。
立っていられなくなって、体を丸めて蹲る。

口を開けば嗚咽ばかりが漏れてしまう。
必死に言葉を繋いだ。

「違うんです。……私は、ほむらさんの友達なんかじゃなかったんです。
 っ……私、は。……私は、ほむらさんの名前を、借りていただけ……それだけ、なんです」

途切れ途切れに語る言葉。
見るからにおかしいほむらの様子に、女性も戸惑っているようだったが。

「……とにかく落ち着いて。ここに居たら体が冷えてしまうわ。
 暖かい部屋で、少し落ち着いてから……ゆっくり話を聞かせてくれないかしら?」

あくまで声色は優しくて。
ほむらは、静かにそれに頷いた。
30 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/11(水) 17:16:16.30 ID:AYhvzrv60
そのノートは、暁美ほむらの日記だった。
小学校の中学年頃、病状が悪化しほとんどの時間を病院で過ごすようになってからの
病気と闘う日々を綴った、日記だった。

ひらがな交じりの丸文字で、書かれていたのは不平や不満。
普通の子供と同じように生きられないことへの鬱屈とした感情が、切々と綴られていた。

それが変わり始めたのは、暁美ほむらが中学校へと入学する頃だった。
おそらく何かのきっかけで、自分の体が不治の病に侵されていることを知ったのだろう。
その命が、それほど長くは持たないであろうということも。

だんだんと字が綺麗になり、漢字も多く使われるようになり始め。
この頃から、日記自体も大分長くなっていた。
検査や治療の事の合間に、こっそりと書かれていたのは絶望と、死への恐怖。
涙らしきものが滲んだ頁もいくつもあった。

あくる日、ついに暁美ほむらはその余命を宣告された。
そして厳正で残酷な医療は、彼女に一つの選択を強いたのだった。
曰く、出来る限りの延命を行い、病魔と闘い続けていくか。
それとも、本人が望むところまで生き、そのまま苦しまぬよう命を絶つか。
それは中学生の子供が背負うには、あまりにも重い。重すぎる選択だった。







その日からしばらく、日記は書かれることはなかった。
ようやく次に書かれた日記が、彼女の最後の日記となった。
31 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/11(水) 17:17:00.35 ID:AYhvzrv60
11月21日。

今日、主治医の先生とお話をした。
延命はしないで欲しいと、先生にそう言った。

理由を聞かれた。
先生は、ずっと私のことを診てきてくれたから、話そうと思った。

私は生まれつき体が弱くて、お父さんもお母さんも、すごく苦労したって言ってた。
お父さんは、そんな私を育てながら生活していくことは出来ないって言って
家を出て行ってしまったって聞いた。
学校でも、病院でも、たくさんの人のお世話になりながら、私はなんとか生きてこられた。

それはつまり、同じだけたくさんの人に迷惑をかけながら生きてきたってことで。
何よりも、お見舞いに来るたびに疲れた顔で笑うお母さんが、つらそうで
そんな顔は見たくなかったから、早く楽にしてあげたいって思った。
お母さんが、お父さんが、病院や学校の人たちが、みんなが大好きだから。
だから、これ以上私のことでみんなを悲しませたり、苦しませたくなかったから。
だから、私は無理に生き延びようとしないことにした。

先生は泣いていた。
きっとお母さんも泣くと思うから、このことは秘密にしておいて欲しいと言った。



どうか、私のことを心配してくれた優しい人たちが幸せになりますように。
お母さんが、いつか心から笑ってくれますように。
世界中のみんなが幸せになってくれたらいいなって思うけど、きっとそれはとても難しいから。
だから、私がこれから背負う分の苦しみは全部、私が向こうへもって行きます。
その分くらいは、みんなが幸せになってくれますように。

大好きなみんなへ、さようなら。
32 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/11(水) 17:17:42.24 ID:AYhvzrv60
その前の頁は破り捨てられていた。
けれど、おそらくよほど筆圧をかけてその頁には何かが書かれていたのだろう。
後ろの頁にも、その文字の跡が残っていた。

『死にたくない』

――と。
33 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/11(水) 17:18:24.54 ID:AYhvzrv60
そして、とにかくほむらは涙をこぼし続けた。
優しく背をさする女性の手が暖かで、心の中に染み入っていくようで。
涙が止まらず、いつしか嗚咽は慟哭へと変わって。
その、激しい感情が通り過ぎてしまってから、ほむらは赤く腫れた目元を擦って。

溢れ出した、言葉にならない感情に押し流されるままに
静かに、ほむらは話し始めた。

心に被せた鎧は剥がれて、剥き出しの心はとても柔くて脆かった。隠すことなどできなかった。
理解されようはずもない、暁美ほむらとスゥ=スラスター。
そしてそこから生み出されたモノ達の事を、ほむらは静かに語り終えた。

「……すごい話ね。本当に、信じられないくらい」

その全てを受け止めて、女性は呆然と息を吐き出した。

「信じられないのは、当然だと思います。……でも、それでも私は自分の罪に向き合いたかった。
 そして、貴女達に謝らなければならないと思って……それで」

「大変だったのね、貴女は」

優しい声は変わらなくて。
その女性は、ほむらの言葉を受け入れた。
確かに信じられない上に、理解もできないことばかりだけれど。
それでも、ほむらが自分の過去と向き合おうとしていることを知り
そして、暁美ほむらの最期の願いを知ったのだということを聞いて、優しく言葉を告げた。
34 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/11(水) 17:19:03.26 ID:AYhvzrv60
「……あの子は、誰かに助けられてばかりだったから。
 だからきっと、誰かを助けてあげたかったんだと、そう思うの」

ほむらの肩にそっと手を触れ、静かに説く。

「だからきっと、あの子は喜んでいるんじゃないかしら。
 あの子の名前を使うことで、助かっている人がいるということに」

間近で合わせた視線は、瞳は。
潤んで揺らいでいるようだった。

「死んでしまった人の気持ちなんて、きっと誰にもわかりはしないわ。
 だからこそ、そう考えて少しでも、前向きに生きてくれたほうがいいと思うもの」

ぎゅっと、肩に触れる手に力が篭った。

「けれど、もし貴女があの子の名前を名乗るなら、一つだけ約束してくれないかしら。
 貴女は、あの子の分まで生きてください。そして、人生を楽しんでください」
 戦えなんて言わない。もしも貴女が普通の人のように暮らしていけるのなら。
 あの子が生きられなかった分まで、どうか平和に生きていてください」

その言葉に、跳ね上がるようにほむらは顔を上げて。
再びその瞳が潤んで、涙がぽろぽろとこぼれてくる。

「うぐ……っ、うぁ、ぁぁ……うあああぁぁぁぁーーーっっっ!!!」


そしてまた、慟哭の音が響いた。
35 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/11(水) 17:19:34.16 ID:AYhvzrv60
そして、少女は再び空に舞う。

眼下に海を眺める決戦場。
空を翔る、白い機体は彼女の身体。
日の光に輝く機体。そこに己が魂を載せて、少女は一つの機械となった。


「答えは見つかった?No.8」

再び向かい合う、黒と白の力。

「……ええ、見つかったわ」

それが、開戦の合図となった。
36 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/01/11(水) 17:23:31.98 ID:AYhvzrv60
では、本日はここまでということで。

>>22
どうも元ネタが分かりませんが、妹で13人ってことはシスプリ辺りでしょうか。

>>23
旦那様はお逃げになってしまわれました。

そして魔法ならば肉体的にはどうにかなるかもしれませんが
問題は精神とか魂とかその辺りだと思います。
それこそそこまで回復させようとなると、無から有を生み出すようなものですし。

幕間についてはまたその時にでもネタを考えることにしますが
恐らく次はまど神と提督に頑張っていただくことにしようと思います。
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/11(水) 18:34:19.41 ID:Uk9/TYmDO
お疲れ様です!
病床のほむらちゃん…本音を捨てて、全てへの幸せを願って逝くなんて…まるで聖女のようだ。来世では、幸せでなければ嘘だ。

それにしても、生命を産み出させた責任もとらないとは、その旦那は許しがたい野郎だな。怒りが込み上げるぜ。
38 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/01/12(木) 20:43:25.77 ID:+2vBMPEA0
流石にこの辺りの話は好き勝手やっちゃってます。
ここから先はもっとえらいことになっていくわけではありますが
そんなものでも読んでくださる方が居るのは、非常に励みになりますね。

では、投下します。
39 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/12(木) 20:44:02.03 ID:+2vBMPEA0
「そうか、それがお前の答えか……くく、くくっ」

言葉の端に隠しきれない狂気と狂喜を滲ませて
黒の機体を駆る少女、13号が微かに笑う。

激しい機動を交差させ、互いが互いを振り切ろうと、そして追い縋ろうと機体を走らせる。
その様は、まるで踊っているかのようで。
様子を伺っているのか、まだどちらも本格的な攻撃は仕掛けていないようだ。
40 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/12(木) 20:44:35.95 ID:+2vBMPEA0
そしてこれから始まるであろう激しい戦闘を、さやか達は固唾を飲んで見守っていた。

「……どうなるんだろうね、ほむらは」

一時もモニターから目を離さずに、静かにさやかは呟いた。

「さあな。でも、帰ってきたあいつはやけに吹っ切れてた様子だったぜ」

やはり同じように、視線はモニターから移さないまま杏子が答え。

「負けて欲しくはないけれど、勝てば暁美さんは……きっと、ここには居られなくなってしまうのよね」

複雑な心境を抱えたまま、宇宙から戻ったマミが言った。
勝てば英雄。その言葉の意味はすなわち、バイドと戦うための旗印となるということ。
まず間違いなく、今までのままではいられなくなってしまうということで。
そこはティー・パーティーの作戦室、今はもう、一人戦うほむらを見守ることしか出来なくて。

「……ほむらは、もしかしたらわざと負けるつもりなのかもしれないね」

椅子の上にちょんと座って、同じように戦闘の様子を見守っていたキュゥべえがそう切り出した。


「なんでそう思うわけ、キュゥべえ」

視線は逸らさないまま、さやかは尋ねる。

「ほむらは今回選択したフォースは、ただのスタンダード・フォースだ。
 戦闘力に特化するなら当然サイクロン・フォースを選ぶだろうし、そうでないにしても
 意表を突く、という意味でならシャドウ・フォースを選ぶだろう」

そう、モニターに移る白い機体が携えたフォース、それは。
ラグナロックが装着しうる3種のフォースの内、最も古いもの、
全てのフォースの祖である、スタンダード・フォースであった。
バイド係数も、放たれるレーザーの威力もまだ低いもので、この戦闘に持ち込むには
あまりにも力不足としか言いようのない代物だった。

「ほむらが何を思ってそれを選択したのかはわからない。
 けれど、わざと負けようとしていると考えるのが自然なんじゃないかな。
 彼女は元々、戦うことを望んでいなかったわけだからね」
41 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/12(木) 20:45:10.57 ID:+2vBMPEA0
「お前の選択はわかった。なら、たっぷりと付き合ってあげる」

一見寄り添うようにすら見える機動を描いて飛び交っていた二機が、急にその機動を変える。
機首を突き合い、ついに相手を撃ち落すための攻撃を開始した。

「存分に抵抗しなさい。そうでなければ、連中も納得しないだろうから。
 抵抗して、抗って、足掻いて、それで万策尽きた後に……撃ち落してあげるわ」

黒い機体がサイクロン・フォースを携え、鏃のようなスルーレーザーを放つ。
対する白い機体は、スタンダード・フォースからリング状の対空レーザーを放つ。
互いに、正面への威力と突破力に優れたレーザー同士がぶつかり合って。

それは、間違いなく当然の結果だった。
対空レーザーのリングは、鋭く強いスルーレーザーに切り裂かれ、空間にエネルギーを放出して消失。
更に勢いを消さぬまま、スルーレーザーがほむらの機体に迫る。
フォースで受け止めるも、相殺しきれなかったレーザーが機体の下部を掠めて火花を散らした。

「約束は守る。殺しはしない。……だけど、お前には山ほど恨みがある。
 それをたっぷりと晴らさせてもらうわ、No.8ッ!!」


執拗に追い縋り、その背中にレーザーを叩き付けながら黒の機体が駆ける。
ほむらはそれを交わしながら逃げ惑い、背後につけたフォースでそれを迎撃する。
しかしそれはいずれも有効な攻撃にはならず、ほむらの機体は小さなダメージをいくつも蓄積していった。

「ほら、どうしたのNo.8、仮にも私と同じなのならもう少し抵抗して欲しいわ。
 そんなことじゃあ物足りないもの、あまりにもつまらなさ過ぎて、本当に殺してしまいそうよ?」

ほむらは何も答えない。
ただ黙って、静かに機体を巡らせるだけで。
42 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/12(木) 20:45:47.61 ID:+2vBMPEA0
「やはり一方的な展開だね、無理もない。ほとんど同じ力量を持つ者同士で戦えば
 それは装備で上回るほうが勝つに決まってる。やはりほむらは……」

戦況は決した、とばかりにモニターから視線を外したキュゥべえに向かって、さやかは。

「いいや、絶対にそんなことない。だから、あんたも最後まで見てなさいよ」

疑いも揺るぎもない言葉で、まっすぐにモニターを見つめてそう言った。

「……なぜそう言い切れるんだい?客観的に見て、今のほむらに勝機があるとは思えないよ」

「なぜって、そりゃあ……なぁ?」

「そりゃー、ねぇ?」

呆れたように問うキュゥべえに、ちらりと互いの顔を見合わせて
そしてなにやら目配せしあうさやかと杏子。

「まったく、わけがわからないよ」

なにやら勝手に得心している二人。
ますますもって呆れるように、肩らしきものを竦めたキュゥべえに。

「信じているのよ、暁美さんのことをね」

隣に座っていたマミが、そう答えた。
43 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/12(木) 20:46:19.42 ID:+2vBMPEA0
「出撃するときの暁美さんの顔、見なかったのかしら?」

「出撃前のメディカルチェックでは、特に問題は見られなかったはずだよ」

これだから、とさすがにマミも呆れ気味に眉を顰めて。

「もう、どうして貴方はそう無粋なのかしら。……暁美さんは、すごく真剣な顔をしていたわ。
 きっと悩んで悩んで悩みぬいて、その末に何かを見つけたんだと思う。
 ……もしも単に負けるだけのつもりなら、きっとあんな表情はしていないわ」

「表情なんて、単なる筋肉と皮膚の動きで出来たものに過ぎないじゃないか。
 そんなものが、一体どこまで信用できるっていうんだい?」

「できるんだよ、特にあいつの場合はな」

そこに杏子が割り込んで、言葉を次いで。

「あいつはな、隠し事なんて向いてる奴じゃないんだよ。
 特に、自分の気持ちを覆い隠そうとするってことには、徹底的に向いてない」

とても楽しいものを見るかのように、くすくすと笑いながら。

「だからきっと、ほむらは何かを見つけたんだ。……あたしがそうだったみたいに」

そして最後に、さやかが静かに呟いて。
44 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/12(木) 20:46:50.12 ID:+2vBMPEA0
「やっぱりボクにはわけがわからないよ。ほむらが勝てるわけがないとも思うしね」

不可解だ、と言わんばかりに小さく首を振りながら。

「ならせめて、ここで一緒に信じて祈ってなさい。……ほむらは、必ず帰ってくるよ」

モニターを見つめたまま、さやかは自然に手を合わせていた。
祈るように、必ず勝って戻ってくるように。

「……ああ、どうせ今のあたしらに出来ることなんて、祈って待つくらいしかないんだからな」

杏子も、同じく手を合わせ、祈る。

「ほら、キュゥべえ。貴方も」

マミも、また。

「………祈ってどうにかなるものじゃない、現実はずっと非情だよ。
 キミ達だってわかっているはずじゃないか。……本当に、わけがわからないよ」

未だ理解できないという姿勢は崩さないものの、それに倣ってキュゥべえも
その半透明の手を合わせて、モニターへと視線を移した。
45 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/12(木) 20:47:17.53 ID:+2vBMPEA0
「……一つ、聞いてもいいかしら」

「戦いながら口を開くなんて、随分と余裕ね」

海上を舞台に激しくぶつかり合う二機。
レーザーが飛び交い、再び戦いの色に海を染め、湧き上がらせていく。
やはりほむらは劣勢。大きな損傷はないものの、機体へのダメージは蓄積している。

そんな戦いの最中、ほむらはようやく口を開いて尋ねた。



「スゥ=スラスターは、何故戦っていたのだと思う?」

「っ……何故、そんなことを聞く」



自分達のオリジナルである英雄、スゥ=スラスターの事について尋ねた。
13号は、わずかに困惑の混じった声で返した。

「貴女はきっと、私よりもずっと彼女のことを知っているはず。
 貴女が彼女に対して、何の感情も持たなかったはずはないから。
 ……だから、聞いてみたかった」

攻撃の手は一切緩めないまま、攻撃の意思も、剥き出しの牙も逸らさぬままに。
13号はその問いかけに答えた。

「復讐よ。仲間をバイドに殺された事への復讐。きっとそれが彼女を戦いに駆り立てたはず。
 力を与えたはずなのよ。だから私も復讐してやる……見せ付けてやるわ。
 私を道具として扱ってきた連中に、私の事を見ようともしなかった連中にッ!」

激しい怒りと憎しみが込められた言葉は、まるでそれ自体が刃のように降り注ぐ。

「……本当に、それだけだと思う?」

「他に何があると言うの。そもそも、そんな事を考えて何の意味がある」

激しい怒りに煽られて、攻め手が更に加速する。
カプセルレーザーとスプラッシュレーザーを交互に使い分け、まさしく弾幕としか言いようのない程に
恐ろしい攻撃を仕掛け続ける13号。
ほむらはひたすらに回避に徹する。対空レーザーも反射レーザーも
この状況では有効打にはなり得ない。
46 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/12(木) 20:47:48.70 ID:+2vBMPEA0
「私は、そうは思わない」

機体を急降下させ、そのまま水面ぎりぎりを走らせる。
水面ごと吹き飛ばそうと打ち放たれるスプラッシュレーザーを、最大加速で振り切って。

「私は見てきた。スゥ=スラスターがどう生きたのか、私達がどう生まれたのか」

「私もそうよ。お前よりもずっと前から、ずっと長く、私はその事実と直面していたのよ!」
 お前を倒せば英雄になれる。それが、私に残された最後の道しるべなんだっ!」

激しい感情が叩き付けられる。
それがそのまま攻撃に転じたかのように、破壊の意思を込められたレーザーが執拗に降り注ぐ。
スプラッシュレーザーの爆風が機体を煽る。表面を焼き焦がし、機体が一瞬浮かび上がる。

「私は、オリジナルの記憶を一部だけれど与えられている。だとしたら、もしかしたら
 私が考えていることと同じ事を、彼女も考えていたのかもしれない」

浮かび上がった機体に更に迫る追撃を冷静にかわし。
反射レーザーを放つ。海面を透過するのではなく反射し、13号の機体へと迫る。

「だから私は、彼女がただの復讐のためだけに戦ったとは思わない。
 そう信じることにするわ。……死んでしまった人の気持ちは、もう誰にもわかりはしないから」

相手もそれをやすやすと受けはしない。
レーザーの間をすり抜けるようにかわし、そして迫る。


「だとしたら、それが何だと言うの。……他に、一体何の理由がある」

「……守りたかったんじゃないかしら」

双方の機体の動きが止まった。
47 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/12(木) 20:48:23.44 ID:+2vBMPEA0
「そう、守りたかったのよ。そして守るための力があった。だから、守るために戦ったのよ」

「守るものなんて、ある訳がないじゃない。
 それまでの生活も、自分の身体も全て塗り替えられて。
 まるで戦うための機械のようなものにされてしまったのよ!」

いつしか、撃ち合うその手も止まっていた。
聞くべきだと、話すべきだと思ったのだろうか。交わされるのはただ、言葉だけで。

「見知らぬどこかの誰かを、その営みを、小さな幸せを……守ることは、できるわ」
 ――暁美ほむらが、そう願っていたように」

「何を、ふざけたことを……っ」

再び満ち満ちる激情。
それに身を任せて機体を突撃させる。
これ以上、そんな言葉を聞いていたくなかったのかもしれない。


「暁美ほむらも、いずれ死ぬ運命にあったわ。
 けれど彼女はその運命に向き合った。きっと沢山苦しんで、嘆いたのだと思うわ」

再び激しく交錯する二機。
やはり追い詰められていくほむら。
またしても被弾し、ついに機体が黒煙を上げはじめる。
それでも、声は途切れない。

「そしてその末に、死すべき自分の運命さえも、誰かの為に使いたいと願った。
 そして私も願われたのよ。彼女の分も生きて欲しいと」

その願いは、ほむらが戦う運命を背負う事を望まなかった。
それでも、ほむらは戦うことを選ぶ。
その戦いが、多くの人を救い得るものだと知っているから。
きっとかつての英雄達も、それを望んで戦っていったと信じているから。
それがきっと、暁美ほむらの願いを叶えることになるはずだから。
48 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/12(木) 20:49:05.84 ID:+2vBMPEA0
「仲間を、大切な人を、そして見知らぬどこかの誰かを。一人一人の営みを。その小さな幸せを。
 全てを、私は守ってみせる。そのために戦う。そのために……私は英雄になる」

それは、ありふれた結論なのかもしれない。
英雄と呼ばれるものが背負った役割としては、ありきたりなものだったのかもしれない。
けれど、それはその意思が、言葉が軽んじめられる理由には足りるはずもない。

「だからこそ、自分の為にしか戦えない貴女には……負けない」

そしてほむらもまた、覚悟を決めた。



「……ふざけるな。英雄になるのは、私だ。私が、私こそがっ!
 もういい、お前はここで死ね。殺してやる、私が、今すぐにっ!!」

「負けない。絶対に」

そして、双方の機体に火が灯る。
ハイパードライブで、最後の決着を付けようというのだ。

「そんなぼろぼろの機体で、ハイパードライブの負荷に耐えられるかどうか。
 それに縦しんば耐えたと言え、お前は絶対に私には勝てないのよ!」

「勝つわ。……その為に、私はここに来たのだから」

双方の機体に、溢れんばかりの力が満ちる。
損傷を受けたほむらの機体は、ハイパードライブの発射に際して警告を伝えてくる。
機体耐久度の低下、機体温度上昇、ハイパードライブモードに移行すれば、オーバーロードすることさえ危ぶまれる。
機体の内で、見る間に膨れ上がっていく熱量。
圧倒的な波動の奔流を溜め込んで、ほむらの機体は今にも弾け飛びそうになっていた。
49 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/12(木) 20:49:26.96 ID:+2vBMPEA0
「話にならない。そのまま爆散して……終わりよ」

「問題は、ない……わ」

機体表面が赤熱する。
当然内部も灼熱に震え、コクピット内部の温度も急上昇する。
恐らく、ほむらが常人のままであれば耐えられなかっただろう。
こんな身体にされてしまったが、だからこそまだ戦うことができるのだ。

垂直降下。機体下部を海に沈めた。
膨大な熱量を受け渡された海水が、驚いたように悲鳴を上げる。
そしてその身を沸き立たせて、膨大な水蒸気となって舞い上がる。

「海水による強制冷却……愚かね。そんなことをして、無事で済むと思っているの?」

「問題ない。そう言ったはずよ」

海水による強制冷却、確かにそれならば内部の熱を逃がすこともできる。
ハイパードライブを放つこともできるだろう。
だが、それはすなわち内部機関への海水の流入を意味する。
万全の状態であればともかく、傷ついた機体では海水の流入を阻むことは出来ない。
間違いなく、遠からずほむらの機体は潰れるだろう。

それでも、その一撃に懸けたのだ。



「今度こそ、終わりにしてやる。No.8ッ!!」

「……ええ、これで終わりよ」




「「ハイパードライブッ!!」
50 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/12(木) 20:49:52.35 ID:+2vBMPEA0
水蒸気の中から飛び出して、白い機体が波動の光をブチ撒いた。
それを待ち構えていたかのように、黒い機体も迎え撃つ。
機首を向け合い、円環を描いて波動を放つ。
前回と同じ光景。唯一つ違うことは、ほむらの機体が黒煙を上げ続けていることだけ。
チャージを終え、オーバーロードの危険性はなくなったとはいえ、ほむらの機体は既に限界だった。
今もこうして飛んでいることが、ほとんど奇跡と思えるほどに。

円環の中央で、幾度も弾けるエネルギーの奔流。
その余波もまた、傷ついた機体に追い討ちをかけていく。
ザイオングスタビライザーに損傷、制動を失った機体が激しく揺れる。
それを純粋な操縦技術で立て直しながら、円環を保ち波動を放ち続ける。

しかし、やはりそれだけでは決着には至らない。
波動の光は相殺しあうばかりで、決定的な一撃は届かないのだ。

「結果は同じ。もうすぐハイパードライブも終わる。
 その後で、ゆっくりお前を始末してあげる。No.8」


「……違う」

「何……?」

ハイパードライブが終わる、ぶつかり合う膨大なエネルギーの奔流がいまだに視界を白く染め続ける。
このまま終わらせようと、その奔流が収まると同時に突撃していく黒の機体。
その音声回線を震わせて、声は轟いた。




「私は、No.8でも、8号でもない。私は――暁美ほむらだっ!」





光の壁を乗り越えた黒い機体の眼前に、立て続けに放たれる波動の光が迫っていた。
51 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/12(木) 20:50:26.71 ID:+2vBMPEA0
「なっ……何故、ハイパードライブが、まだっ!?」

チャージされたエネルギーは全て吐き出したはず。
最早これ以上、ハイパードライブを継続することなど不可能なはずなのに。
だというのに、目の前に迫る光は本物で。
回避することすら能わず、光の中に黒い機体は飲み込まれていった。

「仕様書にも存在しない、バグのようなものよ。
 これを知っていたのはきっと……スゥ=スラスターだけでしょうね」

爆発、そして火の玉になりながら海面へと墜落していく機体を眺めながら、ほむらは呟いた。

そう、それはラグナロックに隠されたバグのようなものなのかもしれない。
スタンダードフォースを装着した時にのみ現れる、ハイパードライブ時間が遅延するという現象。
それを、ほむらはオリジナルの知識から知っていた。
それゆえに、スタンダードフォースを選んだのだった。

「たった、それだけの差だったのよ。貴女と私を分けたものは。
 おやすみなさい……13号」

燃え盛る火の玉を、その中に居るであろうもう1人の自分を想い、ほむらは呟いた。
52 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/12(木) 20:50:47.77 ID:+2vBMPEA0
ほむらの機体も限界だった。
ハイパードライブを終えた途端、高度を維持することすら困難になる。
制御を失い、激しく揺さぶられながら海面へと落ちていく。
それでも勝ちは勝ち。ティー・パーティーに回収を頼むことにしよう。

ほむらが、一つ安堵の吐息を漏らしたその時。

「まだよ。お前だけは……お前だけはぁぁぁっ!!!」

火達磨となり、墜落していたはずの黒い機体が唸りを上げる。
推進部からも炎を吹き上げながら、その勢いを持ってほむらの機体へと迫っていた。

最早心中としか言いようのないその突攻に、ほむらは為す術がなかった。
炎を纏って迫る機体が、やけにゆっくりに見えた。

「死ぃぃねぇぇぇぇぇっッ!!」

(何か、何か回避する術は………っ!)

死ぬわけにはいかない。
まるで遅延しているかのような時間の中、ほむらは必死に思考を廻らせる。

(駄目なの?そんな……みんな。――っ!?)

どうにもならず、ただ眼前まで迫った炎を見つめることしかできないほむら。
死に瀕し、引き伸ばされた感覚はその動きをどんどんと遅延させていく。


そして、世界は静止した――。
53 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/12(木) 20:51:48.03 ID:+2vBMPEA0
ほむらは、まるで色を失ったような世界の中でゆっくりと自分の身体が落ちていくのを感じた。
見上げれば、微動だにしない炎を纏った機体。
見下ろせば、波の一つ一つに至るまでもが静止した、まさしく静寂の海。
重力に絡め取られるがままにほむらの身体は落下していき、そして海面に打ち付けられた。

世界は色を取り戻し、海は騒がしい波音を取り戻す。
空を駆ける炎は、喰らうべき対象を見失い。

「な……にが、っ、ぎああああぁァァぁぁっっッ!!!」

断末魔の叫びと共に、その身を炎に焼き尽くされて消えていった。
ばらばらと、その破片が海に降り注ぐ、そして。

「……まったく、訳のわからないことばかりね」

今度こそ、ほむらはその勝利を確信した。
54 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/12(木) 20:54:36.43 ID:+2vBMPEA0
そういうわけで、決着です。
ここまで書いてきて想うことは、本当に皆随分変わってしまったなぁということくらいです。

>>37
その願いは、今の暁美ほむらが受け継ぐこととなりました。
それで彼女が喜ぶかどうかは分かりませんが、ほむら自信がそう納得したようです。

そして旦那さんのことも明らかになりました。
彼はきっとその後一生、その罪を背負って生きていくことでしょう。
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県) [sage]:2012/01/12(木) 20:56:38.36 ID:W6UxfgGdo
乙。
お、ほむほむ魔法に目覚めたのか?
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/12(木) 22:49:18.11 ID:lDdBnMjDO
お疲れ様ですっ!
一子相伝のバグ技でほむらちゃんが辛くも勝利!13号さん…ご冥福を、心の底から祈ります。天国で、ゆっくりしていてくれ。ところで、ほむらちゃんは英雄として離脱させられちゃうの…?

しかし、5人の心境の変化だけを見てると、人情系SF物語って感じに思えますな。
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県) [sage]:2012/01/12(木) 22:58:10.08 ID:W6JSTJbyo
ちなみに十三人目の妹云々の元ネタはプルシリーズの改変でした
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/01/13(金) 00:38:22.37 ID:19mjXrQR0
乙。

まさか13号を[ピーーー]とは思わなかった。
だけど、憎悪に満ちたモルモットとして過ごす日々に引導を渡したようにも見える。
ほむらはどんな思いで撃ち落したのだろう
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/01/13(金) 00:59:10.81 ID:7zxAahNto
おつ

奇跡的に生き残るも場末の売春宿に売り飛ばされた13番が“球無し”ことグランゼーラ残党に拾われる展開マダー
60 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/01/13(金) 12:35:29.94 ID:UpdDWk7U0
久々のお昼投下です。

これで12話もおしまいですね。
61 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/13(金) 12:36:31.95 ID:UpdDWk7U0
では、暁美ほむら。君をオペレーション・ラストダンスのパイロットとして推薦させてもらう。
 上も他に優秀なパイロットのあてが無いようだからね、恐らく君が選ばれるだろう」

ティー・パーティーに戻ったほむらを待っていたのは、モニター越しに言葉をかける
科学者然とした男の姿だった。

「わかったわ。それで、私はこの後どうなるのかしら?」

その視線をまっすぐに受け止めて、ほむらは問う。

「……機密情報なのだがね、もうじき、オペレーション・ラストダンス遂行のため
 第二次バイド討伐艦隊が編成される予定だ。これには、太陽系内の全戦力の約30%が投入される。
 君にはその艦隊に随行してもらい、我々が開発した究極互換機をもって作戦目標の破壊を行ってもらう」

第二次バイド討伐艦隊。その言葉に、その場に居合わせた全ての者の表情が硬くなる。
いよいよ近づくバイドとの最終決戦。それを実感し身震いしているさやか。
そして、ジェイド・ロスが指揮を執った先のバイド討伐艦隊のことを思い出す杏子。
全戦力の約3割。その途方も無い数字に戦慄するマミ。そして。

「それだけの戦力を投入して、太陽系内の守りに支障が出るのではないの?」

揺るがない表情で、既に覚悟を決めたほむら。


「それについては既に手を打ってあるそうだ。グリトニル及びゲイルロズ両基地の戦力増強、
 ウートガルザ・ロキ、アテナイエなどの広域殲滅兵器の改修及び建設が既に秘密裏に完了している。
 オペレーション・ラストダンスが完了するまでの間くらいは、バイドの侵攻を抑えることが出来るだろう」

さすがにこれにはほむらも驚いた。
今まで地球圏で戦いを続けてきた間にも、太陽系内部では着々と最終決戦の準備が進められていたのだ。
62 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/13(金) 12:37:40.48 ID:UpdDWk7U0
太陽系最外周に位置し、準惑星である冥王星に建築された長距離ワープ施設を備えた軍事基地グリトニル。
木星−土星間に存在し、強固な外壁と大量の人員や資材、戦力を保持する要塞ゲイルロズ。
海王星外側、カイパーベルト宙域に存在する、1天文単位の射程距離を誇る光線兵器、ウートガルザ・ロキ。
そして木星の公転軌道上に秘密裏に建造された、全身に無数の武器を構える人工天体アテナイエ。

いずれも常軌を逸する規模の軍事施設であり、超兵器でもある。
これだけのものを用意したからには、間違いなく今度こそ地球連合軍は本気でバイドを掃討するつもりなのだろう。
そして何よりも、これだけの兵器をもってしても防衛ラインを維持するのがやっとであろうと推測されている。
その事実が重くもあり、恐ろしくもある。
そして何より、負けるわけには行かないという使命感が胸中に渦巻いた。

これだけの大規模作戦。失敗すれば間違いなく、太陽系に未来はない。
63 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/13(金) 12:38:10.95 ID:UpdDWk7U0
「究極互換機の完成を持って、全ての装備試験艦の任務は完了となる。
 恐らくこの艦も解散となり、その人員はバイド討伐艦隊もしくは太陽系防衛部隊へと振り分けられ

ることだろう」

「……それは、後どれくらいで完成するの」

「さてね、開発は順調に進んでいるはずだ、後はいくつか残った武装の運用試験が終われば
 恐らくすぐにでも生産が開始されるだろう」

つまりそれは、この部隊に残された時間はそう多くはないということ。
時が来ればほむらは英雄として、スゥ=スラスターとしてオペレーション・ラストダンスに駆り出さ

れることとなる。
他の者達も皆、それぞれの場所でバイドとの戦いに身を投じていくことになる。
もう、一緒に戦うことはなくなってしまうのだ。

「さしあたり君達に伝えられる事項はこのくらいだな。
 もちろんこれは機密情報だ、漏洩があれば我々としてもそれ相応の処置をとらなければならない。
 ……では、作戦の詳細などについてはまた追って連絡があることだろう」

そして、通信は打ち切られた。
64 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/13(金) 12:38:38.57 ID:UpdDWk7U0
「ほむら……また、戦いに行くんだね」

通信の終了を確認してから、さやかは静かに呼びかけた。
ほむらは振り向いて、うっすらと笑みを浮かべて。

「ええ、戦うわ。……そう決めたの」

「戦う理由は見つかったか、英雄?」

冗談交じりに、ほむらに軽く拳を押し当て杏子が問う。
静かに視線を向けて、ほむらは小さく頷いて。

「守りたいなって思ったのよ。仲間を、友達を、そして見知らぬ何処かの誰かの幸せを。
 暁美ほむらは、それを願ったの。……ちょっと、青臭いかしら?」

何処か誇らしげに、少しだけ恥ずかしそうにそう笑っていた。

「青臭くて何が悪いんだよ。いいじゃんか、格好いいよ」

少し眩しそうにそんなほむらを見つめて、八重歯を見せて杏子は笑った。


「なんだか、長いようで短い付き合いだったわね。
 ……やっぱり寂しいものね。でも、これが最後のお別れって訳じゃないものね」

仲間と戦えることの心強さ、心地よさを知ったマミは少し寂しげで
それでも、そんな寂しさを振り払って強く笑う。

「全部綺麗に片付けて、また会いましょう。
 そして素敵なティーパーティーをしましょう。……どうかしら?」

「……楽しみにしてるわ、マミ」

生きて帰れる保障なんて、あるはずがない。
オリジナルでさえ、まともな身体で戻ることは出来なかったのだ。
それでも力強く頷いて、ほむらはマミの手をとって。
その手に、さやかと杏子の手も重なって。
65 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/13(金) 12:39:09.21 ID:UpdDWk7U0
「ここまで来たんだ、ためらうことなんてあるわけない」

力強く杏子が宣誓する。

「ただ、みんなのために進み、目の前にバイドがいれば破壊するだけよ」

戦う意思を、守る意思をマミが継いで。

「バイドを倒して、世界を救うわ」

握ったその手に力を込めて、ほむらが言う。

「さあ――行ってやろうじゃない!」

さやかが一際高く声をあげ、ぐっと握り合った手を押し込んで。
皆の手に、確かな力と暖かさが伝わってきた。




「さあ、そうと決まればパーティーの準備をしましょうか。
 ティー・パーティーのお別れ会と、必ずいつか再会することを誓って、ね」

「いいですねーそれっ!あたしも手伝っちゃいますよーっ!」

「こんな時だしね、派手に騒ぐのも悪くないさ。ほむら、お前も手伝えよな?」

「ええ、当然よ」

これが最後、そう口に出せば何かが溢れてしまいそうだから。
誓うのは再会で、考えるのは目先のパーティーのことだけで。
66 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/13(金) 12:39:36.99 ID:UpdDWk7U0
姦しく騒ぎながら部屋を後にする四人、その背中を見つめる視線が一つ。
押し黙ったまま、ずっと通信や彼女達の話に耳を傾けていたキュゥべえが。


「……順調だね。ああ、これ以上ないほどに順調だ」

その唇の端を吊り上げて、とても嬉しそうに笑っていた。
その姿を見たものは、誰も居なかった。
67 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/13(金) 12:40:08.84 ID:UpdDWk7U0
地球軍の新型艦が此方に接近していた。
護衛の機体を叩き落され、その全身に無数の損傷を刻み込まれながらも
尚もその艦体を保持し、最後の突撃と言わんばかりの攻撃を仕掛けてきた。
その重量と速度、そしてばら撒かれる光学兵器やミサイル砲の前に
その進路を阻もうとした味方の機体群が押しつぶされていく。

だが、此方も迎撃の準備は既に整っている。
最大の脅威である敵艦艦首の陽電子砲は既に沈黙しており、此方の艦首砲は既にチャージを終えてい

る。
爆炎を巻き上げながら迫る敵艦に向けて、私は艦主砲の発射を指示した。

放たれたフラガラッハ砲は確実に敵艦の中枢部を貫き、敵艦はようやくその機能を停止した。
爆散し、エネルギー反応が消失していくのを確認してから
私は残存する敵部隊を追討するよう指示を出した。


冥王星周辺の艦隊に勝利した。
現れた艦隊は歓迎するわけでなく、我々に対して攻撃を仕掛けてきた。

確かに我々は、バイドの本拠地へ乗り込み、バイドの息の根を止めたはずなのに。
それなのに地球の人々は我々を認めてくれない。
それに地球軍の中心に居たのは新型の宇宙船間のようだった。

しかしなぜか、今までの地球軍の艦艇としては違和感を感じる。


いずれにしろ、我々は太陽系に足を踏み入れたのだ。

地球に向かって出発しよう。

→帰還する
68 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/13(金) 12:40:36.64 ID:UpdDWk7U0
「こちら地球連合宇宙軍、第三方面軍旗艦、エンケラドス。
 グリトニル基地、応答せよ。繰り返す、グリトニル基地、応答せよっ!!」


魔法少女隊R-TYPEs 第12話
    『本当の自分と向き合えますか?』
          ―終―
69 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/13(金) 12:41:04.81 ID:UpdDWk7U0
【次回予告】

「グリトニルに続き、ウートガルザ・ロキまでも……」

英雄はついに現れた。

「そんな……それじゃああの人は、まさかっ!」

バイドとの最終決戦、オペレーション・ラストダンス。
その火蓋が、ついに切って落とされようとしていた。

――我々は、帰ってきたのだ。

だが、その前に。

「後は任せて。大丈夫、必ず戻るから」




“彼”は、我々の元へと帰還した。

「ごめんなさい。……さよなら」


次回、魔法少女隊R-TYPEs 第13話
           『英雄は再び』
70 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/13(金) 12:54:27.36 ID:UpdDWk7U0
以上となります。
今回もまた長いお話でしたね。


>>55
どうやらそのようです。
それを含めて名実共に、ほむらは最強のパイロットにして英雄となったわけであります。

>>56
いよいよ全員分のお話が終わった感があります。
後は、いよいよ最後の彼の話、そして最終決戦を待つだけです。
ちなみにあのバグは、ちゃんとR-TYPEVの仕様に則ったものになってます。

そんな風に言っていただけると、がんばってきた甲斐があるというものです。
みんなしっかり成長して、かなり元のキャラとは離れるところもありますが
まあそのあたりは元からなのでご容赦を。

>>57
なるほど、ユニコーンでしたか。
ちなみに私はユニコーンよりも逆襲のギガンティス派でs(ただの長谷川信者である)

>>58
殺さなければ自分が殺されていたでしょう。
そういうこともありますし、英雄であるということは非情にならなければならないことだとも思います。
きっとほむらちゃんは心のどこかで彼女のことを思い続けるでしょう。
暁美ほむらと同じ、もう一人の自分のことを。

>>59
残念ながらジンネマンさんはいません。
この世界にそういうR-18なもんが存在するとしたら
それはゴマンダーちゃんかバラカス様、ダストネイト夫妻くらいのものだと思います。
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/13(金) 14:18:01.06 ID:8L9hdr/DO
12話終了、ありがとうございます!
深淵を覗いてしまった提督は、深淵と同じものになって帰って来た。凱旋パレードなどある筈もなく、殲滅の光を向けられるのみ…。提督、前世はオルステッドかなんかだったりするんじゃなかろうか?

流石に決戦前夜パーティーを楽しむ余裕くらいは与えてあげて欲しいところです。

提督の話で、ESPは活躍するのだろうか?そしてニヤリQBの思惑とは一体…?
72 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/01/16(月) 02:46:19.19 ID:vWV+020C0
ネタが思いついたのでがーっと書いてみました。

まど神とU提督のお話?です。
73 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/16(月) 02:46:58.56 ID:vWV+020C0
『HOMUBIS ZONE OF EPHEMERALS』

BGM:beyond the bound〜ANUBIS Z.O.Eより〜

QB「有史以来、ボク達は人類にさまざまな力を与え、人類はその力に導かれて歩んできた。
   では、鹿目まどかほどの力の持ち主が導く人類の行き先は何だと思う?」

――TIME

――――FOR CONTRACTING


ほむら「ソウルジェムの反応があるわ。……随分近いわね。それもやけに強い」


――PUELLA MAGI――

ほむら「止まれぇぇぇっ!!」

YUMA「独立型戦闘支援ユニット、YUMAだよ。操作説明が必要かな?」


――ZONE OF EPHEMERALS――
74 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/16(月) 02:47:37.92 ID:vWV+020C0
杏子「ここ半年で、風見野の状況は大きく変わった。魔女達の戦力は圧倒的だ。
   魔法少女達は必死の抵抗をしたが、戦闘と呼べるほどのものさえ起こらなかった。
   ワルプルギスはもう起動準備に入ってる。アレを起動させるのも止めるのも、まどかにしかできない。
   つまり、あいつを手に入れた奴が世界で最高の力を手に入れるってわけだ」

ほむら「目的は彼女の身柄ね?」

杏子「さあ?」

ほむら「魔法少女にしたってやり方が荒すぎるわ。誰の差し金かしら?」



――「恩人……」

ほむら「貴女、キリカなのっ!?」



さやか「ワルプルギスのとこに行くんだよね、まどか。答えてよ。ワルプルギスのとこに行くんでしょ!」

ほむら「だったらなんだと言うの?」

さやか「まどかは、ワルプルギスを道連れに心中するつもりなんだぞっ!」


杏子「なんでこの街に戻ってきたっ!」

ほむら「鹿目まどかの家族に何かあったら許さない」

杏子「殺しちゃいないさ」

ほむら「……信用できないわ」

杏子「ッ!」
75 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/16(月) 02:48:29.60 ID:vWV+020C0
ほむら「どうせ、もう死んでる身よ。私は、自分でケリをつけるわ」

QB「見届けるといい、完全なる願いの成就。全てを救う救済をね」

ほむら「駄目ぇぇぇぇっ!!」


杏子「あんたは今、失った心機能を魔法で補っているんだ。
   その魔力はソウルジェムから供給されている。……つまりあんたは、ソウルジェムを手放したら死ぬんだよ」

知久「あの二機の性能は互角、でも、ほむビスには一つ欠けているものがあるんだ。
   スペックを最大限に引き出す為の“盾”だ。――勝てるかどうかは、あの子しだいだね」


ほむら「邪魔よっ!!」


知久「ワルプルギスの夜の本当の目的は破壊じゃない……救済だ
   ――来た」


杏子「あたしが居なくなっても……なあ、必ず、ワルプルギスを止めてくれ」


さやか「まどかぁぁーっ!!」

ほむら「さやか、待ちなさいっ!」


QB「まどかはボクを選んだ。彼女の願いが、魔法少女達の無意識が、救済を望んでいるんだ!」

ほむら「魔法少女が、何人死んだと思っているの!!」

杏子「ほむらっ!」


QB「キミもワルプルギスの夜の一翼を担っているんだよ?」

MAMI「戦闘終了、ジェフティロの勝利よ」


QB「キミは円環の理に還ってきたんだ」


MAMI「お疲れ様でした」
76 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/16(月) 02:49:16.01 ID:vWV+020C0
まど神「OPを見ただけだけど、やっぱりすごいなぁ、HOMUBISは。って、え。
    もしかしてもう本番?わわ、まずいよ何も準備してないよーっ!!」

U提督「リメイク版が出るそうだな、箱○ユーザーとしては見逃せないところだ。
    何、もう始まっているだと?うむっ、緊急連絡だ!」




『さて、気を取り直して』


まど神「やっほーみんな、毎度おなじみ日夜魔女と戦う魔法少女の救世主、まど神さんだよーっ!」

U提督「諸君、実にトロンベ。提督だ。まさかこれに二回目があるとは本気で思っていなかったよ」

まど神「なんだかんだで皆、私達の活躍をちゃんと見てくれてたってことだよね」

U提督「活躍……というほどのことをしたつもりではないのだが」

まど神「大活躍だよ、本編なんてこれから先はずっとくらーくてつらーい戦いばっかりなんだから。
    こういう軽くてゆるーいノリは必要なんだよ。私達の話も2クールだったらそういう話もあったんだろうけどな」

U提督「さて、それではそろそろ本題に入るとしよう。今回の議題はなんだったかな」

まど神「議題っていうか、安価なんだけどね。えっと、今回の安価は……」


932 :以下、あけまして [sage]:2012/01/04(水) 03:20:53.50 ID:Uf78P+l70
R-TYPE TRPGなるものが製作中されてるみたいですよー。
面白くなっていきそうだったので興味がある方は検索をば。
安価ならジェイド・ロス提督とこっちのまどかかな。ESPについても彼らに少し聞きたいです。


U提督「……と、言うことだそうだ」

まど神「R-TYPE TRPGっていうのも面白そうだよね。魔法少女の皆を誘ってやってみようかな」

U提督「あー……そういうわけだから、我々はそろそろ引っ込むべきではないのかな」

まど神「でも、ちょっとルールが難しそうなんだよね。それだけ凝ってるってことなんだろうけど。
    バイド化して敵になっちゃうって言うのは、ジャームになったりするような感じなのかな」

U提督「……連行だ、とにかく強制連行だ」

まど神「折角の出番がーっ!まだほんのちょっとしか話に出てないんだよ。
    酷いよ、こんなのってないよーッ!」
77 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/16(月) 02:49:42.64 ID:vWV+020C0
『ここでも話すことになるなんて』


ロス「というわけで、そろそろ念願の帰還が叶いそうな私がバイド討伐艦隊提督、ジェイド・ロス少将だ」

まどか「えっと……魔法少女、なのかな?あんまり実感湧かないや。鹿目まどかです。こんばんは」

ロス「向こうでは声だけだったからね、こうして顔を合わせて話すというのはちょっと不思議な感じだ」

まどか「私もです、夢の中でしか会えなかった人と、こうして直接お話ができるなんて。ちょっと嬉しいな」

ロス「向こうで直接顔を合わせるのは、もう少し先の事になりそうだからね。
   地球に戻れるのは一体いつになることやら」

まどか「大変なんだね、ロスさんも」

ロス「まったく、バイドの中枢を倒して堂々の帰還を果たしたと思ったら
   なぜか身内から総攻撃を受けているんだ、訳が分からないな」

まどか「でも、次の話ではきっと会えるんですよね。私、楽しみにしてますから」



ほむら「まどかがあんなに楽しそうに男の人と話をしている……」ホムホムホムホム

※このスレはほむほむに監視されています。
78 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/16(月) 02:50:12.47 ID:vWV+020C0
『では、本題です』


ロス「それで、今回の安価は君の持つ能力のことについてだったな」

まどか「私も、夢の中で無意識に使ってるだけであんまりよく分からないんです。
    ロスさんは、何かそういう話を聞いたことはないのかな?」

ロス「……思念誘導兵器とか、その類の話なら聞いたことがあるけど。
   あの悪名高い試験管シリンダー絡みの話でね。残念ながらそれ以外は門外漢だね」

まどか「困っちゃったな」

ロス「うむ、大いに困った」


QB「まったく、二人ともしょうがないな。これじゃあボクが説明するしかないじゃないか」キュップイ

まどか「わ、キュゥべえ」

ロス「何だ、この出来の悪いマスコットみたいな生き物は」

QB「随分な言い草だね、ジェイド・ロス少将。ボクの名前はキュゥべえ。
   本当は宇宙のエントロピー問題を解決したいんだけど、バイドに全部滅茶苦茶にされちゃって。
   腹が立ったから魔法少女を使ってバイドを殲滅しようとしてるだけのマスコットキャラだよ」

ロス「……なんだかとてつもない問題発言を聞いた気がするんだが。
   それ以上に、そんな少女達を戦わせるところまで追い詰められてる地球軍にまず頭を抱えたくなるね」

まどか「それに理由が腹が立ったって、そんなむしゃくしゃしてやった、みたいな理由だね」

QB「仕方ないじゃないか、バイドを倒さないことにはエントロピーどころの問題じゃないんだからね。
   ……バイドの異常な増殖力を使ってエントロピーとかどうにかできないかな、って
   そんなことを思ったわけじゃないよ、そこは信じて欲しいな」

ロス「語るに落ちてる気がするな、無性に」
79 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/16(月) 02:50:39.28 ID:vWV+020C0
『キュゥべえ先生のテレパシー講座・前編』

BGM:なぜなにナデシコ〜機動戦艦ナデシコより〜

QB「それじゃあさくさくと解説をすることにしようか。鹿目まどか」

まどか「うん、やっぱり気になっちゃうし、ちゃんと聞かせてくれたら嬉しいなって」

QB「本編でも軽く説明はしたんだけどね、キミの持つ能力は、簡単に言えばテレパシーだ」

まどか「うん、それで色々夢で見ちゃったり、ロスさんとお話したり出来たんだよね」

QB「そんな感じだね。アニメ本編でボクや魔法少女達が使っているのと同じと考えてもらってもいい。
   ただ、キミの持つ能力は非常に強力だ。素質の無い人間とも普通に会話ができるし、距離の制約もない。
   しっかりと能力が開発されれば、一方的に人の心を読むことだってできる」

まどか「そう言われると、なんだか本当に凄い能力みたいだね」

QB「実際凄いのさ、これ程の能力を持った人間は、今まで地球を観察してきた中でもほとんど居ない。
   産まれてくる時代が時代なら、人々の信仰の対象。所謂神と呼ばれるものになっていても不思議は無いくらいだ」


まど神「神と聞いて」ヒョッコリ

U提督「神は死んだっ!」デュゥン(撃墜SE)



まどか「……あはは、そっか、本当に神様になっちゃってるんだもんね、私ってば」

QB「アレを神と呼ぶのは適切ではないけどね」

ロス「まあ、その能力とやらのお陰で私の退屈な宇宙旅行にも、一つは楽しみが増えたというわけだ。
   しかし、なんだってまた彼女みたいな普通の少女に、そんな能力が備わっていたのだろうね」

QB「それはボクにも分からない。舞台そのものが違う以上、鹿目まどかにそこまでの因果が集中しているとは思えない。
   彼女の生い立ちに何か秘密があったのかもしれないし、誰かの仕業なのかもしれないね。
   それか、このままだと彼女が話に参加できないと思った作者が急遽付け加えたのかもしれない」

まどか「さすがにそんな事はないと思いたいけど……ね?」
80 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/16(月) 02:51:10.94 ID:vWV+020C0
『キュゥべえ先生のテレパシー講座・後編』


QB「そんな事はどうでもいいんだよ。鹿目まどかの持つ能力は、非常に稀有で有為なものだ。
   軽く銀河系一つを越えるほどの距離、そして恐らくその全域全てに干渉し得る範囲。
   どちらをとっても、ボクにとってはとても大切なものなんだよ」

まどか「な、なんか難しいことを言われるとよく分からないよ、キュゥべえ」

ロス「……つまり、太陽系全域の全ての人間の精神に干渉できる、ということかな」

QB「その考え方で間違いはないね」

ロス「うわぁ、それは本当に大変だ。間違ってもTEAM R-TYPEには報せたくないね」

QB「ボクも一応その一員なんだけどね」

ロス「」

まどか「」


QB「まあ、鹿目まどかを実験材料にするようなつもりはボクにはないよ。彼らに引き渡すつもりもない。
   キミは大切な魔法少女だからね、安心してくれ」

まどか「……信用、していいのかなあ」
81 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/16(月) 02:51:37.06 ID:vWV+020C0
『次の予定は?』


QB「流石にキミ達だけじゃ埒が明かないと思ったからね、ボクがこうして出てきたわけだけど。
   多分次はこうは行かない、キミ達だけでこの楽屋裏を何とかしなければいけないんだ」

まどか「多分、私達もこれっきりだと思うけどね」

ロス「次に出ることがあるとすれば、カーテンコールくらいだと思うよ。
   そもそも、次があるのかも怪しいんじゃないか?もともと正月企画だろう?」

QB「ところが、どうやらまだ作者は何かをやらかすつもりらしい、ネタがあるようだね。
   所謂ライナーノーツ的なものを、舞台裏を借りてつらつらと話したいようだ」

まどか「らいなーのーつ?」

ロス「要するに解説文だ。既に投下し終えた話の裏話とかプロットをつらつらと公開したいのだろう。
   まあ、多分にどうしてこうなった的な要素が含まれているらしいがね」

QB「そういうわけだから、多分次は安価にはならないだろうと思っているらしいね。
   一応、こういう話が聞いてみたいとかがあったら参考にはするらしいよ」





ロス「なるほど、それじゃあそろそろ頃合かな?私は地球への帰路に戻ることにするよ。
   また夢で会おう、カナメマドカ」

まどか「はい、ロス提督っ」

QB「ボク達の活躍も、見ていてくれると嬉しいね」
82 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/16(月) 02:52:16.46 ID:vWV+020C0
『軍事要塞ワルプルギス内部にて』


QB「有史以来、ボク達は人類にさまざまな力を与え、人類はその力に導かれて歩んできた。
   では、鹿目まどかほどの力の持ち主が導く人類の行き先は何だと思う?
   救済だよ。全てを塗り替えるほどの救済だ。
   彼女の意思が、魔法少女達の無意識が、再生を望んでいるんだ!」

ほむら「キュゥベエえぇっ!!」

ドガァァァァァッ!


YUMA「今の攻撃で、本体数箇所と盾に損傷を受けちゃった」

ほむら「まだ動けるの?」

YUMA「使える装備は、ダッシュ、バースト、ゴルフクラブ、時間停止だけだよ」

ほむら「……奴を倒すには十分ね」








まど神「さあ、いよいよほむビスとジェフティロの決戦だよ……盛り上がってきちゃった。
    ……え?もしかして、もうカメラ戻って来てる!?わ、わわっ!ちょっと待っててね!」

U提督「このネタを作ってる間に、本当にこの話で書いてみたくなったのはここだけの話らしい。
    ちなみにANUBISの年代が2174年、R-TYPE FINALが2170年。年代的には普通に組み合うレベルなのだね」

まど神「いっそこの二作品のクロスも面白そうだなって思っちゃった。
    でも、それじゃ私の出番がなくなっちゃうんだよね」

U提督「とまあ、今回は完全にこんな感じで終わるわけだ。
    次回があれば、その時こそは私にも出番があると信じておくことにしよう」

まど神「私だって、出番がアレで終わりじゃ流石に寂しいもん。
    かならずまたみんなに会いに来るから、それまで待っててね!」


まど神・U提督「それでは最後に」



「「愛してるぜ、ベイビーっ!!」」
83 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/16(月) 02:55:21.71 ID:vWV+020C0
というわけで、趣味全開の回でありました。
まあ楽屋裏でかつフリーダムなノリでやるとこのザマです。

多分次回は設定に関することを喋ってもらうと思いますが
その前に杏子ちゃんがいろいろ乗り回す話を先にやると思います。


>>71
ロス提督が如何様にして地球に帰還するのかは分かりませんが
きっとさぞかし派手なご帰還となることでしょう。盛大に出迎えてくれるはずです。

そしてR世界の武装とか艦名的には、FE聖戦のシグルドさんのがしっくりくるかもしれません。

まだその辺は謎ですね。いつか明らかになればいいのですが。
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/01/16(月) 14:38:33.56 ID:WALm0Z9d0
今回安価取ったものです。
まどかのESPってそんなにすげえ代物だったとは。…あれ?TACUのBBSに使えそうな…。
そうじゃなくても異相次元とかでも繋がるなら最高の通信・指揮・無人機運用ユニットになっちゃいそうですな。
そして彼女がバイド化でもしたら…。

まあこんなヤバいことは置いといて、リクエストに答えていただきありがとうございました。
TRPG経験は1回しかないですが誰かとぜひプレイしたいものです。次回作も楽しみにしてますね!
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/16(月) 17:33:15.00 ID:KK+/ieIDO
乙!おまけ感謝です!
ほむビスとか名前可愛いなwwそれにあんな可愛い独立戦闘支援ユニットだったら是非支援して欲しいわ〜。時間停止はゼロシフト扱いなのかな?しかしジェフティロww

ここのまどかには、マザー2ギーグ戦での いのる みたいな事が出来そうだな。単なるバイドと違って心が残っているロス少将になら、少しは効果があるかも知れん。

そして!遂に杏子ちゃんがイロモノマシンでブイブイ言わせるターンが来るのか!
86 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/01/17(火) 00:47:44.84 ID:hOl00YaK0
13話、開幕です。
87 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/17(火) 00:48:41.14 ID:hOl00YaK0
ノーザリー及びデコイ機をフル動員し、デコイ群を目標宙域へと侵攻させた。
恐らく敵の偵察機も、その動きに気付いたことだろう。
この宙域には、かつて太陽系を旅立つ前に使用した脅威の太陽兵器、ウートガルザ・ロキがある。
まともに喰らえば助かる余地はないだろう、とはいえそれ以外のコースは敵軍によって封鎖されている。

ウートガルザ・ロキの射線から離れるように高度を下げた我々の前に、地球軍の艦隊が迫っている。
適度に牽制を行いつつ、じりじりと後退する。
敵は完全に形勢はこちらにありと踏んだのだろう。後方の部隊も引き連れ一気呵成に追いかけてくる。



機は熟した。



予め氷塊群を破壊して作っておいたルートへと、一気に艦隊を走らせた。
それと同時に、デコイ部隊をウートガルザ・ロキへ向けて発進させる。
以前のデータと変わらなければ、恐らくもうチャージは完了しているだろう。


道を塞ぐ氷塊を、無理やり艦体でこじ開けながら突き進む。
追討しようと迫る地球軍の部隊が、氷塊の無数に散らばる地帯へと踏み込もうとしたその時に
まさしく太陽の如く眩い閃光が、その空間にある全てを薙ぎ払っていった。

発生する熱だけでも、周囲の氷塊が一瞬で蒸発していく。
直撃は避けたとは言え、膨大な熱量の余波は我々の機体にまで少なからずダメージを与えていた。
しかし、それでも今の一撃で我々の進路を塞ぐ敵は全て消滅した。
後は、ウートガルザ・ロキが再度チャージを完了させる前に、砲身もしくは集光ミラーを破壊する。

全機に号令をかけ、私も同じく艦を急がせるよう指示を出した。
88 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/17(火) 00:49:06.30 ID:hOl00YaK0
どうやら、先行していたアーサーの部隊がウートガルザ・ロキの破壊に成功したようだ。
戦力の大半を失った敵軍はそのまま後退を始めた。どうやらひとまず戦闘は終わりのようだ。
撤退した地球軍が更なる増援を引き連れてやってくる前に、ここを離れたほうがいいだろう。

戦闘機を回収し、我々はカイパーベルトを抜けるために艦を走らせた。


『……また、戦ってたんですか?』

意識が戦闘から戻ってくると、またあの少女の声が聞こえてきた。
逆流空間を抜けた頃から、この妙な少女の声は私に付きまとっている。
幻聴なのだろうかと思うが、それにしてはやけにこの少女は女の子らしい言動をしている。
そんな言葉を生み出せるような思考回路が、私に備わっているとは思えない。
もしかしたら本当に、その少女――カナメマドカの言うように、テレパシーという奴なのかもしれない。

我ながらおかしなことを考えると思う。
だが、私は嬉しかったのだ。こうして敵意と戦意ばかりを向けられる日々の中。
唯一マドカだけが、戸惑いながらも親しげに言葉をかけてくれる。
ただそれだけで、もっとマドカと話をしたいと思ってしまう。

――ああ、だが大丈夫だ。戦いは今終わったところだからね。

『そう……ですか。よかった。怪我とかしてませんか?』

――心配はいらない。我々は今、海王星の近くを航行している。
  早く地球に戻りたいものだが、なかなか敵が多くてね。まだしばらくかかりそうだ。

『バイドは……倒したんですよね?なのに、まだ敵がいるなんて』

マドカには、我々の戦っている相手が地球軍であるということは伏せてある。
どういう理由で彼らが攻撃を仕掛けてくるのかはわからないが、それをマドカに知らせる必要は無いだろう。
無意味に不安にさせることはない、折角の話し相手なのだから、仲良くしたいものだ。

いつか地球に戻れたら、マドカに会いに行くのもいいかも知れない。
土産話を聞かせる相手位は欲しいものだ。それにマドカは、キョーコのことを知っていると言う。
キョーコも交えて、三人で話が出来たらいいだろうと思う。
89 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/17(火) 00:49:32.84 ID:hOl00YaK0
――中枢を倒したといっても、まだ太陽系内にはバイドが残っているようだ。
  その後始末をしながら、地球へ戻ることにするさ。

『わかりました。じゃあ、地球で待ってますね。ロスさん』

――ああ、地球で会える日を楽しみにしているよ。できれば、キョーコにもまた会いたいからね。

『きっと、杏子ちゃんも喜ぶと思います。杏子ちゃんのお話の続き、しますね』

――頼むよ、マドカ。

どうやら私と話をしている間、マドカの身体は眠っているのだという。
だから、目が覚めてしまえば唐突にこの対話は打ち切られてしまう。
せめてそれまでは、こうしてゆっくりと誰かと話していられる時間を大切にしたかった。

マドカは、キョーコのことを色々と話してくれた。
我々と別れてからの数年間、一体何があったのかということまではマドカも知らないようだったが
それでも杏子は尚、R戦闘機に乗って戦っているということを聞いた。
何よりも嬉しかったのは、キョーコが既に仲間を得ていたということだ。
それも、R戦闘機のパイロットである同年代の少女達なのだという。

俄かには信じられない事実ではあるが、マドカの言葉ではキョーコは今も力強く生きているようだ。
嬉しくもあるが、親代わりとしては少し複雑な気分もあったのかもしれない。
だが、間違いなく概ねそれは喜ぶべきことだ。きっとアーサーや他のクルー達もそれを聞けば喜ぶことだろう。


そして、しばらく話をしていると唐突にマドカの返事が途切れた。
恐らく地球でマドカが目覚めたのだろう。またしばらくは、孤独の旅路が続くようだ。
そうと決まれば、早く地球へ還ろう。


カイパーベルトの出口はすぐそこに迫っていた。
恐らく、次に地球軍が仕掛けてくるとすればこの位置だろう。
私はゆっくりと意識を戦闘に沈めてゆく、ここで負けるわけには行かない。

さあ、とにかく行こうか。
90 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/17(火) 00:50:01.43 ID:hOl00YaK0
「ロスさん……もうすぐ、地球にやってくるんだ」

夢の中の会話の余韻を確かめながら、まどかは静かに目を開けた。
どこか胸が躍るような、そんな気分だった。

「早く会いたいな。そうしたら、杏子ちゃんにも教えてあげなくちゃ」

指にはまった指輪を眺めて、にっこりとまどかは微笑んだ。
その指輪には、淡い桃色の宝石のようなものが埋め込まれている。
朝の日差しを受けて小さく煌くそれを見て、まどかはそれを宝物のように大事に握りこんだ。

キュゥべえは、できるだけ肌身離さず持っているようにと言っていた。
流石に学校に持っていくことは出来ないけれど、それ以外の時は常にこうして身に着けているのだ。

そんな指輪をゆるく握り締めながら、まどかは伏せた瞼の裏に、夢で見た最後の光景を思い浮かべていた。
無数の氷塊が散らばる宇宙空間の中を、青い光をたなびかせて走る戦艦の姿。
赤い巨躯から無数の突起を生やし、ぼんやりと緑の光が機体前方に浮んでいた。

素人目に見ても、格好いい艦なんじゃないかとまどかは思う。
けれど何故だろう。その姿はどこか、物悲しげにも見えてしまっていた。
91 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/17(火) 00:50:28.97 ID:hOl00YaK0
「グリトニルに続き、ウートガルザ・ロキまでも……」

中空に浮ぶ無数のモニター、そこに描かれたさまざまな映像を眺めながら。
円卓を囲む者達の一人が、静かに呟いた。
言葉は静かでも、その表情にはありありと驚愕の色が見て取れた。

地球連合軍の高官達による緊急会議が行われていた。
その議題は、逆流空間を抜け太陽系に進入。グリトニル及びウートガルザ・ロキを破壊し
尚も地球に迫る、正体不明のバイドの艦隊のことであった。

「まさか、バイドにここまでしてやられるとは……オペレーション・ラストダンスへの影響は大きいですな」

オペレーション・ラストダンス。今まで行われてきた数多くの対バイド作戦。
第二次バイド討伐艦隊及び究極互換機を投入してのバイドとの最終決戦。
その間、地球を守るための盾であり矛である重要拠点が、既に二つも破壊されているのだ。

尚もバイドの艦隊は地球へ向けて侵攻を続けている。
これ以上の被害を出す前に、どうにかこれを掃討しなければならない。


「しかし、グリトニルとウートガルザ・ロキを陥落せしむるとは……。
 敵艦隊の勢力はそれほどまでに大きいということか。そうなると対応も難しくなるが」

「いえ、偵察機が持ち帰ったデータによると、敵艦隊の規模はそれほど大きくはないとのことです。
 今までの交戦データと比べてみても、恐らく一個艦隊程度の戦力かと」

そう、数は決して多くはない。
その事実がまた、会議を紛糾させる原因となっていた。

「では何故ここまでの侵攻を許しているというのだ!
 いつの間に外周防衛部隊は質ですらもバイドに劣るようになっていたんだ?」

嫌味っぽい口調で噛み付く男。

「太陽系外周の防衛部隊は、各地から選別された精鋭揃いであることは貴方も知っているはずでしょう?」

不快さを隠そうともせず、返す言葉を投げかける女。

「だとして、それこそ納得のいかないことばかりだ。何故数で遅れを取っているわけでもない敵を相手に
 あの太陽系外周防衛部隊が破れたのか、何故ここまでの侵攻を許しているのか」

皆、薄々は感じづいているのだ。
ただ、その事実を認めたくないというだけで。
きっと何か、不幸な事故が重なったのだと信じたいのだ。
92 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/17(火) 00:50:56.13 ID:hOl00YaK0
「……先のカイパーベルト宙域での戦闘データを見させてもらった」

一同の中で、一際豪華な椅子に座った男が静かに言葉を放つ。
地球連合軍総司令官の言葉に、皆が一様に静まり返る。

「データを見る限り、敵部隊を追い詰めていた我が軍は敵を深追いする余り
 ウートガルザ・ロキの射線へと進入してしまい、纏めて消滅の憂き目を見ることとなった」

味方機の航行記録を見る限り、恐らくそうであったのだろうと推測はできる。

「だが、我が軍が敵の追撃を開始したのと時を同じくして敵軍がウートガルザ・ロキの射線内に部隊を移動させている。
 ……偶然にしては、余りにも出来すぎているな」

重い沈黙が、その場を支配した。
次に放たれるであろう言葉を、誰もが固唾を飲んで待っていた。

「認めようじゃないか。今回のバイドは、今までのものとは違う。
 生態としての擬態や侵食、単純な奇襲を行ってくるような敵とは違う。
 確たる意思と戦術を持ち、部隊の運用を行っている。我々と同様、いや、それ以上に巧みにだ」

それは誰にとっても信じられない言葉で。
特に今尚バイドとの戦いにおいて指揮を執る者にとっては、最早屈辱的とすらもいえるような言葉だった。
攻撃本能のままに、全てを侵食するだけのはずのバイドが戦術を習得している。
それも、自分たちよりも上手なのだという。そんなことがあっていいはずがない。
93 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/17(火) 00:51:50.62 ID:hOl00YaK0
「それが事実であるならば、我々は戦い方を変えなければならない。
 それぞれ独自の裁量で運用されてきた各方面軍の指令系統を一新し、全部隊が身軽に動けるようにする必要もある。
 優れた戦術を持つ敵に対抗するためには、こちらも優れた指揮官を用意する必要がある」

暗に、現在の指揮官達が無能であるかのような言い草に
主に若い将校からは不満げな視線も向けられていた。
それを意にも介さず受け流しながら、総司令官は言葉を続ける。

「いずれにせよ、これ以上奴らに太陽系を荒らされる訳にも行かん。
 敵は海王星方面から地球へと向かっている。第三から第五までの全方面軍の力をもって、これを撃滅する!」

それはすなわち、各方面軍が常時行っている多方面からのバイドの侵入に対する警戒。
それを緩めてまで、今迫りつつある敵への対処に充てるということで。
それほどまでに、地球連合軍はそのバイドの艦隊を脅威であると捉えているということだった。

「人員の選別は現場に一任する。とにかく戦力をかき集めることだ。……他に、何か意見はあるかね」

そして会議は終わり、人類はその敵を認識した。
幾重にも張り巡らされた地球軍の防衛網を突き破り、地球へ迫るその敵の存在を。
94 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/17(火) 00:59:00.22 ID:hOl00YaK0
というわけで、13話が開始となりました。
オペレーション・ラストダンスが迫る中、地球圏に最大の敵が現れようとしています。
果たして、彼らは勝利し得るのでしょうか。
果たして、彼らは帰還することができるのでしょうか。

乞う、ご期待。

>>84
まど神さんほどではありませんが、途方もない能力であることは確かです。
BBSはどう足掻いても絶望な未来しか見えないのでできれば遠慮したいところですが。
もっとも、まだ意識的にその力を使いこなせるというわけでもないので
これからの成長に期待、といったところでしょうか。

そして幕間でしたが、ほとんどほむビスに持っていかれたような気もします。
多分またどこかでANUBISネタはやるんではないかと。
R-TYPE TRPGは設定を見るだけでもうやってみたくてしかたがありませんね。

>>85
語感重視でジェフティとアヌビスの立場が逆になりました。
まあ、ぶっちゃけあの二機立場逆でも何も変わりませんからね。
そして時間停止はゼロシフト扱いです、ただショットが撃てないので殴ると殴り返されちゃいますが。

確かに、意図的に使えるようになればそういうことも出来ちゃいそうです。
果たしてバイド相手にそれがどこまで意味のあることかはわかりませんが
もしかしたら、何かの役に立ってくれるかもしれませんね。

すでにそっちもネタは出来ております、13話が終了した暁には、きっと。
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/17(火) 20:14:34.43 ID:MmNEJQlDO
お疲れ様!
まどかとロス提督の見る夢は、文字通り甘い夢でしかないのか…。
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/01/17(火) 21:05:05.25 ID:cZd58sts0
作者はバイド
97 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/01/17(火) 21:57:15.59 ID:hOl00YaK0
では、今日はちょっと余裕を持って投下していきましょう。

完全に話がTAC寄りになっていますね。
TACは自分でプレイをしたわけではない部類なので、色々と気になるところもあるかもしれませんが
その辺りは、どうか多めに見ていただけると助かります。
98 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/17(火) 21:58:32.70 ID:hOl00YaK0
ティー・パーティーへと、新たな機体が搬入されてきた。
オペレーション・ラストダンスのパイロット候補を抱え、それ以外にも優秀な乗り手を擁するこの艦を
軍上層部や研究者達も、優秀な部隊であると認識したのだろう。
今回搬入された機体達は、そんな期待を裏付けるようなものだった。

「……どうにも、私とこの機体は切っても切れない関係のようね」

ほむらの眼前で、格納庫に眠るその機体。
外観はラグナロックと変わらない。
仕様書によれば、ラグナロック・ダッシュの運用データを元に、更なる波動砲の威力の追求
及び機体の安定性の向上を図って開発された機体なのだという。

現存するすべての波動砲の中でも最大の威力と攻撃範囲、そしてチャージ容量を備え持つギガ波動砲を搭載。
機体の安定性を向上させるため、ハイパードライブはオミットされ、フォースもサイクロン・フォースのみとなっている。
そう言うと波動砲以外さして変わっていないようだが、この機体は正真正銘のエース仕様であり
安定性を可能な限り高めた上で、機体性能も従来の機体とは一線を画すものとなっていた。

その機体に与えられた名前はR-9O2――ラグナロックU。
アローヘッドより連なるR-9直系機の、まさしく最終最後、そして最強の機体であった。
99 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/17(火) 21:59:07.18 ID:hOl00YaK0
「やっと、あたしにもまともな機体が回ってきたって感じだな」

にっ、と満足そうな笑みを浮かべて杏子はその機体を眺めた。
もともとは青かったはずの機体は、彼女のパーソナルカラーである赤に塗りなおされている。
それがまたちょっと嬉しくて、まだぴかぴかの機体の表面に軽く触れて。

それはR-9AD3――キングス・マインド。
デコイユニット装備型機体の最終機であり、最大6機ものデコイ生成を可能とする。
デコイ波動砲により高い制圧力を持つだけでなく、機体の基本性能も決して低くはない。
その性能から、牙持つ影を操る狂王、ドンマイ(笑)などと揶揄……ではなく一応呼び名は高いらしい。

今まで癖の強い期待ばかりが回ってきた杏子からすれば、それは相当にマシな機体であるように思えた。

「さっさと慣らしてやりたいもんだね。楽しみだ」

機体を胸に、杏子はそう呟いた。
100 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/17(火) 21:59:59.55 ID:hOl00YaK0
「あたしはあの子のままでいいんだけどなー」

ちょぴり憮然とした表情で、搬送されてきた機体を見つめるさやか。
鮮やかな青に染め上げられた機体に濃紺のキャノピー。
機体の形状自体はラグナロックに似通っている。

「……まあ、でもこの子も強かったから、いいかな」

手元の仕様書に書かれた名前に目を通して、自分を納得させるように笑った。
その機体は、かつてエバーグリーンを攻略する際にさやかが使用した機体。
R-9Leoことレオの発展進化機、R-9Leo2――レオUであった。

レオの特徴であるサイビットの強化による、サイビット・サイファの持続時間の増加。
さらに専用フォースであるLeo・フォースもLeo・フォース改となり、各種レーザーの威力も飛躍的に上昇している。
唯一の弱点であった波動砲の容量不足についても解決しており、標準的なスタンダード波動砲を搭載可能となっていた。

まさしく攻防の双方において最強クラスの能力を持つ、光学兵器を主とするタイプのR戦闘機としては
一つの完成系と言ってもよいほどの名機であった。
101 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/17(火) 22:00:30.70 ID:hOl00YaK0
「ふふ……ついに、ついにやってきたわね」

ひときわ大きく物々しい、そして見覚えのある機体を、マミは溢れんばかりの喜びを持って迎え入れた。
その機体は二つの部位からなり、R戦闘機としての機能を集約した部位と、巨大な砲身とに分かれて搬入された。
R-9DX、ガンナーズブルームのコンセプトである単機による戦略級砲撃と、戦闘機としての戦闘能力の両立を図り開発された。
長大な砲身から放たれる超絶圧縮波動砲によるの戦略級攻撃と、それをパージしての通常戦闘。
その通常戦闘においても、通常の圧縮波動砲を発射可能であり、超絶圧縮波動砲の反動を支えるブースター出力を持って
高い突破力を誇っていた。

R-9DX2――ババ・ヤガー。
古い伝承の魔女の名を持つ機体が、マミに授けられたのだった。

「流石に、随分と場所を食ってしまうわね」

苦笑交じりにマミが言う。
その言葉の通り、その長大な砲身はそれだけで優に二機分の搭載スペースを必要としていた。
それに加えてR戦闘機が4機である。
ティー・パーティーの格納庫は、完全にバイドを滅ぼすための力で埋め尽くされていた。
102 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/17(火) 22:01:14.49 ID:hOl00YaK0
「受領の手続きが終わったら、早速試運転と行こう。
 太陽系内に侵攻してきたバイドのこともある、もしかしたら、ボク達の出番が来るかもしれないからね」

新しい機体、恐らくティー・パーティーで運用される最後の機体になるであろうそれらを眺めて
なんだかんでで少しはしゃいでいる様子の少女達。
そんな彼女達の様子を一通り眺めて、キュゥべえが口を開いた。


「やっぱり、大分攻め込まれてるの?」

キュゥべえの言葉に、皆の表情が一様に固くなる。
さやかが、確認するように尋ねた。

「第三方面軍は壊滅、ゲイルロズも陥落したようだ。
 現在第四及び第五方面軍が、アテナイエを擁して木星軌道上での決戦に備えているようだね」

敵の勢いは止まらず、尚も地球を目指して侵攻を続けている。
堅牢を誇っていたはずの要塞ゲイルロズは既に陥落。事実上、アテナイエが地球を守る最終防衛ラインとなっていた。
万が一ここを抜けられたのならば、最早地球へ迫る敵を阻むものは何もなくなってしまう。

「しかし、信じられないよな。戦術を駆使するバイドだなんて」

認めたくはない。けれど認めるしかない事実を苦々しげに杏子が語る。
もしもこれから遭遇する全てのバイドがこれだけの戦術を持ちうるというのならば
それはもう、人類がバイドに対して持ちうる数少ない優位が失われてしまうことになる。
そうなれば、量で劣る人類にバイドに抗し得る手段はなくなってしまう。

「……木星宙域には、優秀なパイロットも集められているわ。
 それに、第四、第五方面部隊も含めれば戦力比は5倍相当と推定されているはず。
 たとえ敵がどれほどの優秀だとしても、ここで終わるはずよ」

努めて冷静にほむらが言う。
けれどそれだけ性格に事態を把握しているということは、それだけ情報を入手しているということで。
それはすなわち、それだけ敵を警戒しているということでもある。
103 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/17(火) 22:01:42.71 ID:hOl00YaK0
「……大丈夫よ。それに、もしここまで近づいてくるようなことがあったら。
 そうなる前に、私が残らず撃ち落としてあげるわ」

自信げに、それでもどこか余裕を持って、冗談まで交えてマミが言う。
確かにあのババ・ヤガーの異貌とマミの能力があれば、本当にそれが出来てしまいそうだから恐ろしい。
R戦闘機同士のドックファイトでは遅れを取るマミではあるが、その狙撃の素質は群を抜いていた。
本来は監視衛星などのバックアップを受けなければ、とても運用することが出来ないはずの最大射程での狙撃を
純粋に機体に搭載された光学望遠のみでやってのける。

それは最早、魔弾の射手としか言いようのないほどで。

「ええ、頼りにしてるわ。マミ」

そんな様子に、内心張り詰めていたものが少し薄れたように
くす、と小さくほむらは笑った。
104 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/17(火) 22:02:11.98 ID:hOl00YaK0
どれくらい眠っていたのだろう。
目を覚ますと、そこには激しい戦闘によって傷ついた機体と、同様に激しく傷ついた宇宙が広がっていた。
視線を巡らせれば、巨大な木星の姿がすぐそこに見える。

そうだ、思い出した。
要塞ゲイルロズを攻略した後、木星へ向けて出発した我々の前に見たことのない巨大な人工天体が現れたのだ。
無数の攻撃衛星と大量の艦隊を率いるその人工天体に、我々はかつてないほどの苦戦を強いられた。
攻撃衛星のコントロールを奪うことに成功していなければ、今頃我々は宇宙の藻屑となっていただろう。

攻撃衛星との挟撃により敵艦隊を撃破し、人工天体への攻撃を開始した。
しかし、敵艦隊の戦力はこちらの予想をはるかに上回っていた。
艦隊を撃破して穴を開けた防衛ラインは、すぐさま増援の艦隊によって塞がれて
我々は、人工天体の攻略と同時に敵増援の迎撃も行う必要に迫られた。
どちらか片方だけでも総力戦、間違いなくまともにぶつかれば全滅は必須だった。

苦しい選択を強いられることになった。
最低限の部隊を足止めに残し、総力を挙げて人工天体の攻略へと乗り出したのだ。
人工天体の中枢部さえ押さえることが出来れば、ここを拠点に敵の増援に立ち向かうこともできる。
足止めに残った部隊は、間違いなく全滅することだろう。
彼らの死を無駄にしないためにも、こんなところで負けるわけにはいかなかった。
105 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/17(火) 22:02:39.05 ID:hOl00YaK0
そして、足止めの部隊が全滅し、追撃する艦隊が我々のすぐ後方にまで迫ったその時に。
我々はどうにか、人工天体の中枢を押さえることに成功した。
すぐさま人工天体内部へ負傷した艦隊を収容し、その火力を持って地球軍を迎撃する。
当初は浮き足立っていた地球軍も、すぐに人工天体を攻撃目標と設定し熾烈な艦砲射撃を浴びせかけてきた。

このままでは長くは持ちはしないだろう。
負傷した部隊の修理ももうしばらくかかる、しかし敵はそんな余裕すらも与えてはくれないようだった。
打って出るより他に、術はなかった。

人工天体を盾にするかのように前進、持ちうる全ての火力を持って、敵陣の中央へと突攻を仕掛けた。
敵陣深くまで食い込み、宇宙を光の色に染めるほどの砲撃を叩き込まれ、ついに人工天体が沈黙する。
巨大な爆発。肉薄していた地球軍の部隊が煽りを受けて撃沈していく。
その隙を突いて、私は全部隊に総攻撃の命令をかけた。

隊列を乱した地球軍の艦隊と、我々の艦隊がついに真正面から撃ち合うこととなったのだ。
人工天体を犠牲にしたことで、数の上での不利こそは解消されたものの
艦隊の損傷具合は激しく、次々に味方が墜とされていく。
まさしくそれは乱戦としか言いようのないもので、私も旗艦を手ずから前進させ、敵艦への砲撃を開始した。

どれほど戦っていたのか、分からないほどに長い時間が過ぎていた。
ここまでとにかく戦い続けていたから、もう休みたかった。
気がつけば、遥か彼方に撤退していく敵の部隊の姿があった。
敵の旗艦も、どうやら不利を悟って部隊を引き上げさせたようだ。

なかなかに見事な引き際だった。
地球軍の中にも、まだまだ優秀な士官は居るということなのだろう。
とはいえ、それはすなわち我々の前に強敵として現れるということなのだから、喜んでも居られないのだが。
106 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/17(火) 22:03:16.22 ID:hOl00YaK0
そうだ、私は戦闘の終了を確認して、そのまま倒れるように眠ってしまっていたのだ。
一体どれくらいそうしていたのか、最早時間の感覚すらも曖昧になってしまった。
ようやく状況が飲み込めてきた、まずは部隊の被害を確認しなければ。
余りにも被害が大きいようなら、どこかで修理を済ませなければならない。

………どうやら、思いの外被害は少なかったようだ。
まさか、勝手に機体が損傷を修復するはずもないのだから、きっとそれほど被害は多くなかったいうことなのだろう。
もうじき地球が見えてくるかもしれない。そう思うと、自然に胸の鼓動が早くなるのを感じた。


地球軍の防衛施設を破壊した。

次はいよいよ火星だ。


→帰還する
107 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/17(火) 22:03:42.72 ID:hOl00YaK0
「ふぅ、まったく。なんてザマだ」

テュール級5番艦、スキタリスのブリッジで、その男は静かに毒づいた。

「あれだけの大部隊に加え、アテナイエまでもが陥落するとは。
 ……まったく、バイドにしておくには惜しいほどに優秀だな、敵の指揮官は」

万全は尽くした。それでもあの敗戦である。
それはどういうことかといえば、敵の戦術がこちらのそれを上回っていたということ。
アイギスに加え、方面軍の半数を囮にして敵を懐深くまで引き寄せた。
そして残りの部隊で敵を包囲し、アテナイエとの挟撃で敵を撃破するという作戦自体は成功していた。

ただ予想外だったのは、敵があれほど早急にアテナイエを陥落せしめたことだけだろう。
改めて実感する。敵は、かつてないほどに手強い。
敵の損害も少なくはないだろうが、かといってあの程度で止まってくれるほど容易い相手ではないだろう。
今度こそ、負けるわけには行かない。


「提督、地球連合軍本部より通信が入っています」

副官の女性が、思索に耽る男に呼びかける。

「ああ、繋いでくれ。ガザロフ中尉」

深刻な表情でガザロフ中尉に言葉を告げたその男は、そう。
かつてエバーグリーン攻略戦においてさやか、杏子の両名と協力し、バイドの掃討に尽力した九条提督であった。
108 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/17(火) 22:06:29.25 ID:hOl00YaK0
というわけで提得とチート機体+ドンマイさんの登場回でした。

>>95
果たしてそれがいつまで夢のままで居られるのでしょうか。
夢が過ぎ去った後には、いつも大変な現実だけが残されています。

>>96
ははは、そんなわケないジャないでスか。
109 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/18(水) 00:03:30.60 ID:dBaSvP4S0
いよいよ再会のときが近づいていますね。
しかし、杏子は提督に気づけるだろうか……
110 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/18(水) 16:27:34.92 ID:leK5MqKDO
乙!
遂に…遂にギガ波動砲が解禁された!
にしても、みんなそれぞれ喜んでますね。
111 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/01/18(水) 19:33:27.48 ID:vVtldTfj0
最強のチート機体ラグナロックUが来たかwwwwwwwwwwww
ギガ波動砲を戦艦にたくさん積めばバイド殲滅できるんじゃなかろうか
112 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/01/18(水) 19:55:10.44 ID:s24fdRNG0
近づく決戦の刻、けれど今しばらくは彼女達に目を向けていただきましょう。
投下です。
113 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/18(水) 19:55:42.00 ID:s24fdRNG0
地球圏は、いまだかつて無い未曾有の危機に直面していた。
太陽系内部へのバイドの侵攻自体は今までに例が無かったわけではない。
しかし、それはいずれも奇襲の類に分類されるものであった。
今回は、今までとはまるで状況が違う。

真正面から攻め込んできたバイドの艦隊は、十重二十重に張り巡らされた防衛ラインを
すべてその力で捻じ伏せ、いまや火星基地をも突破しているのだ。
この状況に焦り、地球連合軍は全方面軍の投入を決定。
しかし、太陽系内の各所に展開している各方面軍が地球に集結する前に
敵が地球に到達するであろうことは確実とされていた。

木星軌道上での決戦から逃げ延びた艦隊を再編成し、月軌道上において
地球圏最終防衛ラインの配備が進められている。
もしこれで敵を止めることが出来なければ、そうなれば。
後はもはや、地球上での本土決戦を余儀なくされていた。


そんな慌しい軍の動きは、自然と人々の知るところとなっていた。
木星決戦での敗北以降、地球連合軍は民間人の地球外への渡航を制限した。
さらに民間用星間ネットワークの一時凍結を宣言。
徹底的な情報封鎖により、地球住民のパニックの発生を防ごうとしていた。

けれど、その急な動きが逆に人々の不安を煽っていく。
既に多くの人間は感じ取っていた。地球は、かつて無いほどの危機に直面しているのではないか、と。
一般放送されるようなニュースでは、軍の情報統制は行き届いているようだったが
アングラでは既に、さまざまな憶測が飛び交っていた。
何しろ、バイドの艦隊は既に火星を通過しているのだ。下手をすれば望遠鏡でも覗ける距離である。
事実、ちらほらとそういう話も出てきてはいた。


それでもまだ、幸か不幸かまどかはその事実を知ることなく
見滝原で、夢と現を行き来する日々を過ごしていた。
114 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/18(水) 19:56:27.01 ID:s24fdRNG0
「何であたしらは月に行っちゃだめなのよっ!!」

ティー・パーティーのブリッジで、さやかがキュゥべえに詰め寄った。
優秀なパイロットに、最強クラスの機体を抱え。
間違いなくティー・パーティーは巨大な戦力である。それこそ戦局を左右しうるほどの。

だからこそ、その自分達がこれから月での決戦が始まろうとしている時に
地球で待機せよという命令しか与えられていない事実に、さやかは憤慨していたのだ。

「こうしている間にも、あのバイドのせいでたくさんの人が死んでるんだよ?
 なのに、何であたしらは戦いに行っちゃだめなのよ、キュゥべえっ!!」

「戦死者はそれほど多くは無いよ。さやか。
 今回のバイドはなぜか市街地や都市部への直接攻撃はしていない。
 立ちふさがる軍だけを蹴散らし、ひたすら地球へ向かっているんだ」

キュゥべえは、こんな時にでも表情の読めない顔で淡々と言葉を返す。
その落ち着きぶりが、またしてもさやかを苛立たせた。

「たかだか10万人程度じゃないか、太陽系の全人口200億人と比べれば取るに足らない数字だよ」

「ふざけるな。……人が、人がこんなに沢山死んでるんだよ……なのに、どうしてよ」

今にも掴み掛からんばかりの勢いで、激しい怒りをその瞳に燃やしてさやかが迫る。
115 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/18(水) 19:56:54.41 ID:s24fdRNG0
「……それは、ボクが決定した事じゃない。連合軍上層部の決定だ。
 ボクが何を言っても、いまさら覆るものじゃない事だけは確かだね」

キュゥべえの言葉に、さやかも怒りの矛先を間違えていたことに気づく。
膨れ上がっていた怒気はひとまず静まったものの、それでも到底納得などはできるはずがない。
けれど、さやか一人が文句を言ったところでどうにもならないほどに、地球連合軍という組織は巨大だった。

「少し……頭冷やしてくる」

「それが賢明だね」

最後にそうとだけ言葉を交わして、さやかはブリッジを後にした。


向かった先は、ティー・パーティーの甲板部。
白い船体のカラーリング同様、その甲板も白く染め上げられていた。
甲板といっても、旧来の船のようにマストが必要なわけでもなく、砲台なども設置されていない輸送船である。
ただただ、何も無いだだっ広い平面が広がっていて、申し訳程度に転落防止の柵が付いているくらいだった。

その、一面の白の中に。
一つだけ、鮮やかな赤を放つものがあった。

「……杏子」

「よう」
116 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/18(水) 19:57:20.72 ID:s24fdRNG0
柵に身を預けて、その先に見える無数の艦影を眺めていた杏子は
さやかの声に振り向いて、軽くその手を上げた。
ここは、北米に存在するティアット基地。
ティー・パーティーは現在、他の艦隊とともにこの基地にて待機するよう命令を受けていたのである。
いつでも艦を出せるように準備をしろとは言われているものの。
ティー・パーティーがこの基地を出撃する予定時刻は、基地に停泊している艦隊の中でも一番最後。
まともに戦わせるつもりなどないのではないかと疑ってしまうほどだった。

「何、してんだ。わざわざこんなとこまで来て」

「……はは、そりゃこっちの台詞だっての」

いつものように交わす軽口も、どこか空回りしているようで。

「……少し、頭冷やそうと思ってさ。あのままじっとしてたら、おかしくなっちゃいそうで」

「ああ、わかるよ、その気持ち。……あたしもさ、似たような感じなんだ。
 バイドはもう地球のすぐそばにまで迫ってる。
 なのに、あたしらはこんなところでじっと待っていることしか出来ない。……正直、歯痒いよな」

隣、いい?と小さく尋ねたさやかに、杏子は静かに頷いた。
並びあって二人、杏子は、片手に持っていたボトルをさやかに投げ渡した。
無言でそれを受けとって、蓋を開けて口をつけた。
甘さと、その後にわずかな酸味を感じる。飲みなれたスポーツドリンクの味だった。
117 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/18(水) 19:57:47.32 ID:s24fdRNG0
「もうそろそろ、月では戦いが始まる頃だな」

視線を空に投げる。
まだ昼の明るさに負けて、そこにあるはずの月の姿は見て取れない。

「……勝てるの、かな」

同じように空を眺めて、さやかが静かに呟いた。
わかっているのだ。木星宙域での決戦は、間違いなく人類にとって総力戦と言うべき戦いだった。
その後の火星での戦いを経て、ついに敵は月へと迫っている。
人類は、各戦闘における敗残兵を集めて、かろうじて月軌道上に艦隊を展開しているに過ぎない。
勝てるはずなど、ないのだ。

「勝ってもらわなくちゃ、困るだろ。……でも、もしあいつらが地球にまで近づいてきたら。
 その時は……いつまでもこんなとこで燻ってるつもりはねぇさ」

それは、暗に命令を無視してでも戦いに往こうという覚悟であったのだろう。
いずれ戦いの色に染まるかもしれない、けれど今はただ青く平和な空を見上げて。

「……いいの?ばれたら営倉行きだよー?」

そんな杏子に、少しおどけた調子でさやかが答えた。
けれどさやかも心の内は同じ。
もしも地球が戦火に晒される日が来たのなら、それを黙っていて居られるはずなどなかった。

バイドの脅威を払うため、それに脅かされている人々を、一人でも多くの命を救うため。
それがさやかの信じる正義で、彼女の絶対に揺るがない戦う理由だった。
118 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/18(水) 19:58:22.56 ID:s24fdRNG0
「構うもんかよ。第一、勝手に出撃すんのはあたしの十八番だ」

うっすらと唇を歪めて、歯を見せて杏子が笑う。

「そういや、あたしらが最初に出会ったときもそうだったっけね」

答える声は、どこか懐かしげで。
エバーグリーン攻略戦の最中、二人は出会い、仲違いをしながらも共闘し。
そして、今もこうして二人一緒に戦っている。
つい最近のことなのに、さやかにも杏子にも今の関係が随分と長い付き合いであるかのように感じていた。

「……なら、あたしも行くよ。あんた一人を行かせたりしない」

「言うと思ったよ。……なら、一緒に行こうぜ。さやか」

その声はどこか嬉しげで。
杏子はそのまま、さやかに手を差し出した。
当然、さやかはその手を取った。そして気付く。
その手が、微かに震えていることに。
119 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/18(水) 19:59:02.72 ID:s24fdRNG0
「っ……はは、実はさ。……何か、震えが止まらないんだよな」

手を取り合ったまま、苦笑交じりに杏子が言う。
けれど、その笑みも静かに消えて行き。後に残ったのはどこか辛そうな杏子の表情だけで。

「……実を言うとさ、怖いんだ。笑っちゃうよな。
 死ぬのも、正直言って怖い。けど……それだけじゃないんだ」

さやかは静かに耳を傾けて、その手をぎゅっと握った。
何時もの強がりが、内心の恐れや弱さを隠すためのものであると、薄々は分かっていた。
けれど、それをこうして直に打ち明けられるのは初めてで。

「月の連中がやられたら、ついに敵の艦隊が地球にやってくる。
 あたしらがそれを倒せなかったら、地球は、人類はそれで終わりだ。
 ……今まで、考えたこともなかったんだ。自分の戦いが、本当に人類の存亡なんてとんでもないことに関わってくるなんて」

その手の震えは止まらない。
恐ろしいのだ。死ぬことよりも、その手に肩に圧し掛かる重圧が。
背中に地球を抱えて戦う、そのことの重さが、意味が、常に自分と身近な誰かのために戦い続けた杏子には
とてつもなく重く、恐ろしいものに感じられてしまうのだった。

「でも、まあ……大丈夫さ。きっと戦う時になりゃあ、そんな怖さなんてどっかにい――っ!?」

言葉の途中でその手が引き寄せられて、柵に預けたその身が揺れた。
不意のことにバランスを崩して倒れこむ身体を、何かとても柔らかで、暖かなものが支えていた。
仄かに甘い、どこか心地よさを感じるような匂いに包まれて、その背を優しい手が撫でていた。
驚く気持ちよりも先に、それを心地よいと感じてしまって吐息が漏れる。
震える手さえも、その恐怖さえも一緒に包み込まれてしまうような安らぎを感じながら。
120 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/18(水) 19:59:38.80 ID:s24fdRNG0
隠し通すことの出来なくなった弱音を吐き出す杏子の表情は、とても儚いものに見えた。
それこそ、今にも霞んで消えてしまいそうなほどに。
触れ合う手の感触は残っているのに、それだけでは足りなくて、頼りなくて。
気がつけば、その手を強く引いていた。
倒れこむようにバランスを崩した杏子の身体を、しっかりと受け止めて抱きとめる。
思っていたよりもずっとその身体は柔らかで、小さくて、そして暖かかった。

自然とその手は背中に回り、優しくその背を撫でていた。
胸元に顔を埋めるように抱きしめてしまったから、その表情は見えない。
けれど、嫌がるそぶりも跳ね除けるような様子もない。
身じろぎもせず、ただ抱きしめられて身を預けるままの杏子。
さやかもまた何もいわずにその身体を抱きしめて、ただただ互いの熱を伝え合っていた。



やがて、どちらからともなくその身を離し。

「……いきなり、何すんだよ」

俯いていた顔をゆっくりと上げて、震える声で杏子が呟く。
頬は朱に染まり、瞳の端には涙を湛えて、ほろりと零れてしまいそうに潤んでいた。
その手はまだ互いに握り合ったままで、もう片方の手は所在なさげに長い髪を弄びながら。

「……いや、なんとなく」

まさか、今にも杏子が消えてしまいそうだったから、なんて言えようはずもなく。
そして、もしかしたら照れているのかも知れないそんな杏子の姿が、どうにも可愛らしく見えて。
同じように頬に朱を差して、視線をどこかに泳がせながらさやかが答えた。

「なんだよ、そりゃあ」

呆れたように杏子が言う。
手は、もう震えていなかった。
121 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/18(水) 20:00:31.49 ID:s24fdRNG0
「正直、あたしだって怖いよ。誰だって怖いはずだよ。そんな重いものを背負わされたら」

もう一度身体を柵に預けて、再び空を見上げてさやかが言葉を紡いでいく。

「だから、それはきっと……みんなで背負うものなんだ。みんなで、一緒に。
 ……でなきゃ、立ち向かえないよ。バイドにだって勝てやしない」

倣って、杏子も再び柵に身を預け。

「みんな同じ、か。……身も蓋もない言い方だけど、それもそうかもな。
 ……なんか、気にしすぎてた自分がバカみたいだ」

「実際そうなんじゃない?さっきのあんた、まるで自分が世界を救う英雄みたいな言い方だったよ?」

ようやく少し調子が戻ってきたのか、さやかも冗談を飛ばし始めたけれど。

「……あー、くそ。らしくないこと言っちまった。ほむらじゃあるまし、な」

本当に英雄になってしまった仲間のことを想い、笑う。
自分が誰かもわからないような暗闇の中、彼女は英雄になることを選んだのだ。
その背に圧し掛かる重圧は、きっと今感じてるものとは比較にならないほど重い。
それを受け止めて、立ち向かい。人類の希望の全てを背負って。やがていつかほむらは往くのだろう。
だとしたら、その前に立ちはだかる最大の障害がこれだ。
負けるわけには行かない、負けられるはずがない。

杏子の瞳に、再び力強い光が宿る。
それを見て取って、満足そうにさやかが笑う。

「ふふ、どうやらさやかちゃんのハグは効果覿面だったみたいだね〜♪」

おどけるように言うさやかに、いつもの軽口で返してやろうかと考えたけれど、それは止めにすることにした。
きっと、さやかにはこっちの方が効果があるだろうから。
122 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/18(水) 20:01:18.58 ID:s24fdRNG0
先ほどの余韻で朱の抜けない頬と、潤む瞳をさやかに向けて。

「ああ、すごく助かった。だから……全部終わったら、もう一回……してくれないか?」

「んなっ!?」

それこそ効果は覿面で、音が聞こえてくるような勢いで顔を紅潮させてうろたえるさやか。

「……くくっ、なんてな。たまにはこういうのも効くだろ?」

十分に効果を発揮してくれた冗談を、そしてちょっとだけ混ざった本心を労って。
さもおかしそうに杏子が笑って言う。
さやかはいまだにその衝撃から立ち直れていないようで
らしくないところを見せてしまったことへの意趣返しとしては、これくらいで十分だろうと考えていた。

「あ、あんたねぇ……ったく、本当にいい性格してるんだから」

してやられた、と言った顔でさやかが返す。
頬を軽く指先で掻きながら、つま先を甲板に押し付けながら。
俯きがちに、囁くような微かな声で。

「……でも、いいよ。全部終わったら……もう一回、しよ」




押し寄せる戦いの気配を知ってか知らずか、蒼穹の空はどこまでも広く澄み渡っていた。
123 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/18(水) 20:06:45.62 ID:s24fdRNG0
やっぱりさや杏は安定感があるなぁ。
多分これはライクでしょうけれど。

>>109
果たしてどうなることでしょうか。
知らずに戦うのも大変ですが、知ってしまうととても辛い戦いとなりそうです。

>>110
間違いなく最後の乗り換えでしょう。
これ以上の機体なんて他には究極互換機しかないでしょうから。
マミさんだけがとんでもないことになってますが。

>>111
ただ、あれには長大なチャージ時間が必要となります。
それに攻撃範囲もかなりのものですし、編隊を組んでぶっ放すと僚機が消滅してしまいそうです。


それはそうと最近ダライアスバーストACEXを始めました。
シャコさんマジ強敵。イージールートですらノーコンクリアが困難です。
でもやっぱりシューティングゲームは楽しいですね。
124 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/01/18(水) 20:14:17.80 ID:IXPoyAqGo

だがそれは多分ダイオウグソクムシではなかろうか
125 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/18(水) 20:31:04.94 ID:s24fdRNG0
>>124
確かにダイオウグソクムシでしたね。
バイオレントルーラーさんマジ安定しません。
明日も挑戦してこよう。
126 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県) [sage]:2012/01/18(水) 23:20:14.83 ID:DlloEl9Co
ああ戦後の約束をしてしまったか・・・
127 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/19(木) 08:20:32.93 ID:tM613ccDO
お疲れ様です!
自然と抱き合ったりする流れに持って行けるとか凄いです。 ほむマミはどうなっているんだろうか…。

そう言えば、出撃前パーティーって結局やったんですか?やれなかったんですか?今からはやれる気がしなさそうだし。
128 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/01/19(木) 11:02:42.25 ID:sxps0Vyz0
お昼投下です、恐らく戦闘前の最後のパートとなることでしょう。
129 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/19(木) 11:04:25.96 ID:sxps0Vyz0
「何をしているの、マミ?」

機体の準備をやや丁寧すぎるほどに済ませると、いよいよ何もすることがなくなってしまった。
新たな機体であるラグナロックUは、確かに常軌を逸した性能を持っている。
そして、それを用いて立ち向かうべき相手はすぐそこにまで迫っていたはずなのに。
未だにティー・パーティーに出撃の許可は出されていない。
それどころか、本当に出撃させるつもりがあるのかすらも怪しい状況である。

そんな中、手持ち無沙汰に艦内を歩き回っていたほむらは、電算室でコンソールと向き合うマミの姿を見つけた。
真剣な面持ちでコンソールの画面を見つめて、何か呟いてはまたデータを打ち込んでいく。
そんな様子が気になって、ほむらは声をかけたのだった。

「ああ、暁美さん。いえ、大したことじゃないのよ。
 ただ、ババ・ヤガーの運用の仕方について色々と考えていたのよ」

確かに、そのコンソールの画面に映し出されていたのはババ・ヤガーの姿。
そして無数の戦況のシミュレーションが同時に表示されていた。

「少し、見せてもらってもいい?」

「もちろん構わないわ。一緒に戦うことになるんだもの、知っておいても損はないはずよ」

マミの許可を得て、ほむらはそのデータに目を通していく。
監視衛星からのリンクなしでの最大狙撃可能距離、チャージ途中での発射時の、容量と射程距離、威力の変動図。
敵の予想侵攻ルートから推測される、この機体が陣取るべき待機地点。
超絶圧縮波動砲が、どこまで連射に耐えうるか。
ガンナーズ・ブルームにおける運用実績と、ババ・ヤガーの性能を擦りあわせて作られたそのデータは
とてもではないが、中学生の少女に作成し得るレベルのものではなかった。
130 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/19(木) 11:05:02.50 ID:sxps0Vyz0
「……いつの間に、これだけのデータを」

これには、ほむらも驚くより他になく。
驚くほむらに、マミはこともなげに笑いながら言う。

「習慣だったのよ。どうしたらもっと効率よく戦えるか。
 どうしたら……いつか仲間が出来たとき、協力し合って戦っていけるか、って」

そう、マミはさやかとほむらが宇宙に上がるよりも前から一人で戦い続けていたのだ。
一人で戦い抜いていくために、そしていつか仲間と一緒に戦える日のために。
ずっと、その力と知識を磨いてきたのだ。
それは間違いなくマミの力になっていて、稀有な才能であるとも言えた。

「……でも、多分今回の戦いに、私達の出番は無いでしょうけどね」

苦笑めいて、半ば自嘲するような雰囲気さえも垣間見せて、マミが言う。

「確かに、私達の出撃は一番最後よ。でも、出番が無いとは思えないのだけど」

そんなマミの様子に、ほむらは不思議そうに尋ねる。
この艦の戦力は、恐らく一つの艦が持ちうる戦力としては最強クラスのものだと思う。
強大な敵が目の前に迫っている今、その力が使われない理由は無いと思うのだが。
131 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/19(木) 11:05:25.94 ID:sxps0Vyz0
「私達だけならそうでしょうけど、今は状況が違うのよ。
 暁美さん、貴女はきっともうすぐ英雄になる。きっと軍の上層部は思っているはずよ。
 こんなところで、うっかりその英雄に死なれでもしたら困る、とね」

座っていた椅子を回して、コンソールからほむらへと視線を移して。
マミは静かにその考えを打ち明けた。間違いなくそうだと言える訳ではないが
これだけの戦力を保有した部隊を、飼い殺しにしておく理由は他に見つからなかった。

「そんな……それじゃあ、私達はずっとここで待っているしかないっていうの!?」

考えもしなかったことを突きつけられて、ほむらは感情を顕にマミにに食って掛かる。
英雄になるということは、単にバイドと戦い続ける事だと思っていたほむらには
それはとても意外な事実だった。

「……戦況が悪化すればその限りではないと思うけれど
 それでも、私達が戦う事になるのは相当先のことになると思うわ」

「この期に及んで、戦力を出し惜しむなんて……どうかしてる」

間違いなく、今回の敵は人類が今まで遭遇してきたバイドの中でも最も手強い。
それを打倒するのにはもはや、手段など選んでいられるはずもないのに。
ほむらの心はじりじりと焦燥に焦がされる。
その手は硬く握り締められていて。
132 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/19(木) 11:06:01.49 ID:sxps0Vyz0
「……なら、勝手に出撃しちゃいましょうか」

「えっ……」

そんなほむらにマミが言う。
冗談めいた声にも聞こえるが、その瞳は静かな光を湛えたままで。

「できると思うの?たとえ出来たとして、間違いなく軍法会議ものよ。
 下手をすればそのまま撃墜されてもおかしくない」

「それは恐らくないわ。やがて英雄になる貴女は、実際人質みたいなものだもの。
 キュゥべえがどう動くかはわからないけれど、私達全員が力を合わせれば
 恐らくこの艦くらいは動かすことは出来ると思うわ」

あくまでマミの口調は軽い。
重大な規律違反を勧めているようにはとても聞こえない。
そんな腹芸までしてみせるマミが、心強くもあり恐ろしくもあった。
自分とはまた別の意味で、マミは歳不相応な才覚を持つ人間なのだと
ほむらは、それを悟った。

「マミ。……貴女の意見を聞かせて。それから判断したい」

ほむらの言葉に、マミは軽く口元に手を当てて、考えるような仕草を始める。
本当に考えているのか、それとも既に心は決まっているのかはわからない。
それでも、マミは話し始めた。
133 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/19(木) 11:06:47.89 ID:sxps0Vyz0
「そうね、ここに留まるのも勝手に出撃してしまうのも、どちらもメリットとデメリットがあるわ。
 勝手に出撃してしまうメリットとしては、ティー・パーティーの戦力を加えることで
 局地的な戦闘における有利はかなり確立できると思う。
 けれど、デメリットとしては他の地球軍の部隊との連携が取りづらいってことかしら。
 それに、間違いなく私たちの立場も悪くなる」

一頻り考えを述べてから、小さく一息ついて。
時折頷きながら聞き入っているほむらを見つめて、再び口を開く。

「ここに留まるメリットとしては、地球軍にとっての最後の切り札になることができる。
 他の方面軍が来るまで耐えることが出来れば、それと連携して戦う事も出来るはずよ。
 デメリットとしては、初動が遅れて地球や軍に被害が出るであろうこと。そして――」

そこで一度言葉を切って、困ったように、半ば呆れたようにマミは笑って。
その表情には、確かに呆れや困惑は浮かんでいたけれど、決して嫌悪の色はなく。

「間違いなく、美樹さんと佐倉さんは勝手に出撃してしまうってことかしら」

ちょっとお茶目に片目を閉ざして、冗談めかしてマミは言う。
それを聞いてほむらは、鳩が豆鉄砲食らったような顔で、目を見開いて。

「……あの二人も困ったものね」

「ええ、本当に」

そして、二人は顔を見合わせ小さく笑う。
先ほどまでの、どこか張り詰めた雰囲気は一気に消え去っていた。
確かにあの二人ならそうするだろう。そんな奇妙な確信があった。
134 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/19(木) 11:07:23.52 ID:sxps0Vyz0
「……まったく、意外といい性格してるわね、マミは」

殺しきれない笑みを唇の端に浮かべたまま、ほむらは一つ言葉を投げかけ。

「そうよ、それくらい強かじゃないと、一人でなんか生きていけなかったもの」

ふんわりと髪を揺らして、マミが軽く首を傾げて笑む。

「……決まりね」

やがて、決意したような表情でほむらが言う。

「ええ、決まりよ」

マミもそれに応えた。
互いの顔を見据えて、そして一瞬沈黙。
その後に。

「「――行きましょう」」

二つの声が、重なって。
135 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/19(木) 11:13:30.89 ID:sxps0Vyz0
時を同じくして、見滝原。
時差の都合で時間は夜。まどかは夢の中。
呼びかける。何度も何度も呼びかける。
その声は、月軌道上を舞台に激しく戦うロスの元へは届かなかった。

なんとしても届けたかった、話したかったのに。
意識の底で、喉も枯れん場仮に呼びかけ続けて、それすら返事はないと悟って
そして、まどかは目を覚ました。

「やっぱり……繋がらないよ。ロスさん。どうしてロスさんは……こんな事を」

目を覚ましたまどかの掌には、握られた携帯端末が。
そこには、ついに軍が公表した地球へと迫るバイドの艦隊の姿があった。
異形の行進その只中で、一際目を引く赤い戦艦。
コンバイラ、と呼ばれたそれは。

まどかが夢の中で見た、ロスの駆る艦と同じ形をしていたのだった。
136 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/19(木) 11:13:59.57 ID:sxps0Vyz0
ジェイド・ロスは、英雄は、確かに地球に帰ってきたのだ。
バイドを討つため地球を旅立ち、長く苦しい旅路の末に、多くの犠牲を払った末に
ついに、その中枢を破壊したのだ。けれど、その果てに何が起こったのだろう。

気が付くと、彼らはバイドになっていた。
それでも彼らは地球に帰ろうとした。
けれど、地球の人々は彼らに銃を向けるだけだった。
それでも彼らは宇宙をさまよい続けた。
いつの日にか、地球に戻れると信じて。


――そして、今。


「地球上の全部隊に通達。月軌道上の防衛艦隊が、敵バイド艦隊と交戦。
 防衛艦隊は甚大な被害を受け撤退。バイド艦隊は、現在地球へ向け侵攻中。
 総員直ちにこれを迎撃せよ。
 繰り返す、バイド艦隊が地球へ向け侵攻中、地球上の全部隊は直ちにこれを迎撃せよ!」


――我々は、帰ってきたのだ。
137 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/19(木) 11:17:35.42 ID:sxps0Vyz0
>>126
いろんな意味でフラグですが、クロス先もクロス元もこんなお話です。
フラグが立とうが立つまいがキボウに満ち溢れていることに変わりはありません。

>>127
なんだかんだであまりそういう要素を加えられなかったのはちょっと残念ではあります。
戦争中こそ盛り上がる色恋沙汰ってのもありそうなものでしたけどね。

一応パーティー自体はあの後みんなでやっていたようです。
ですが、今しばらくは解散する見通しもないようで。
本格的にティー・パーティーが解散することになれば、その時にも改めてやるのかもしれませんね。
138 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/19(木) 17:58:50.18 ID:tM613ccDO
昼投下乙!
いよいよ、決戦の時が来たのか…。未来を掴むのは、果たして人類か、バイドか。それとも何らかの奇跡によって、共生が可能となるか…?

にしてもマミさんは本当に凄いなぁ。憧れちゃうぜ!
139 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/19(木) 21:19:35.23 ID:PZ7L2LEi0
杏子の言葉はバイド化した提督に届くのか……

確か原作では父に届かなかったよな。
魔女化したさやかにも届かなかった気が……
140 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2012/01/19(木) 21:31:00.68 ID:D+3RU7K0o
投下ありがとうございます!
読んでいて、ガンダムUCのB-Birdが脳内再生された
141 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/01/20(金) 00:21:27.48 ID:kQ4PnQSk0
本当にこの一戦だけは、できる限りたっぷりと尺を取って、慎重に大切に書いていこうと思います。
つまり何が言いたいかというと、もうちょっとだけ戦いの前に済ませておくことがありました。

では、夜投下です。
142 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/20(金) 00:22:19.49 ID:kQ4PnQSk0
「始まったね。まさか、ここまで侵攻されるとは予想外だったけど」

順々に動き出す艦隊の動きを眺めつつ、キュゥべえは呟いた。
その口ぶりは、この期に及んでもどこか他人事のようで。
――否、事実他人事なのだ、この生き物にとってこの戦いは。

キュゥべえは、この戦いにティー・パーティーを駆りだすつもりはなかった。
ラストダンサーたるほむらにここで戦ってもらっては困るはずだと、出撃を迫る上層部を説き伏せた。
だから、この戦いはキュゥべえにとってはどこまでも他人事。
それに、たかだか輸送艦一つ程度の戦力があったところで、大局は決して変わりはしない。

「……上手くやってくれると良いけどね、地球軍は」

そう言って、耳をふわりと揺らす。
その姿が小さく光り、消失しようとしたその瞬間に。

「これは……こんな時に、どうしたんだろうね」

常に一つ確保しておいた緊急用の回線にその本来の用途で通信が入った。
独立した回線とはいえ、大量の通信がやり取りされている中で、ノイズ交じりの声だった。

「一体どうしたんだい、まどか?」

その声の主は、見滝原にいるはずの鹿目まどかの声だった。
143 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/20(金) 00:23:25.99 ID:kQ4PnQSk0
「よかった、キュゥべえ。繋がってくれたみたいだね」

既に見滝原にも避難警報が出されていた。
とはいえ、どこに襲ってくるかも分からないバイドが相手である。
いつでも避難を開始できる準備だけは済ませておいて、各自指示があるまで待機せよというもので。
それ故に、部屋の中からまどかはキュゥべえに呼びかけていた。
その通信を繋いでいたのは、その指に輝く小さな指輪。

そう、キュゥべえから与えられたそれはソウルジェムではなかった。
まどかはあの時、魔法少女となることを望まなかったのだ。
とはいえ、能力の暴走の危険性はやはりある。そこで、いつでもキュゥべえに連絡が取れるよう。
専用の通信装置を搭載したその指輪を、まどかに与えていたのだった。

「まさか、こんな時に連絡をしてくるなんて思わなかったよ、どうしたんだ、まどか?」

キュゥべえの声が返ってくる。やはりノイズ交じりで、音質はかなり悪い。
それでも辛うじて聞き取れるその声に、まどかは意を決して答える。

「迎えに来て欲しいんだ。できればすぐに」

「……理由を聞かせてもらってもいいかい?」

返ってきた声は、どこか不思議そうな感じを受ける声で。
まどかは一つ深呼吸をして、自分の決意を改めて確かめた。
そして、一際強くはっきりとした声で伝えた。

「今地球に攻めて来てるバイドを、止められるかもしれないんだ」
144 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/20(金) 00:23:52.89 ID:kQ4PnQSk0
「本気で言っているのかい?まどか。だとして、一体どうやって……」

「私は聞いたの。あのバイドの声を。あの人は……私達の敵じゃないんだよ」

そう、まどかももう悟っていた。
ジェイド・ロスはバイドと化した。そして恐るべき敵として地球に迫っている。
けれど、ロスの意識はまだ残っている。説得する余地は、必ずあるはずなのだ。

「まさか、あのバイド相手に能力が発動したのかい?」

「うん。最初は分からなかったけど、今なら分かる。あの人は、ジェイド・ロスは……地球に、帰りたかっただけなんだ」

「ジェイド・ロスだって?」

キュゥべえの声に、純粋な驚愕の色が混ざる。
その名前は知っている。知らないはずがない。
かつての英雄で、帰らぬ人となったと目されていた。
まさか、本当にその英雄がバイドと化していたとしたら。
その意識を、指揮能力を保ったまま戦闘を続けているのだとしたら。

「確かに、そう考えれば納得もできる」

「私は、ロスさんを止めたいんだ。きっとわかってくれる。
 こんな戦いなんて、する必要はないはずだよっ!」

決意の言葉を言い切って、まどかが大きく息を吐き出した。
僅かな沈黙、そして。

「わかった、すぐに迎えを寄越すよ。そこで待っていてくれるかい?」

根負けしたかのように、半ば諦め気味にキュゥべえは答えるのだった。

「ありがとう、キュゥべえ」
145 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/20(金) 00:24:58.31 ID:kQ4PnQSk0
「まどかっ、そろそろシェルターに避難するよ。準備はできてるかっ!」

通信を終えて、静かに目を伏せたまどか。
その部屋の中に、詢子が声と同時に飛び込んできた。
その背には、一通りの貴重品や着替えを納めたバッグを背負って。
どうやら本格的に避難が開始となったらしい。こういう時の詢子の行動の速さを、まどかはよく知っていた。

だからこそ、今言うしかない。
まどかは、詢子の顔を真っ直ぐに見つめると。

「ごめん、ママ。私……行けないよ。ここに居なくちゃいけないんだ」



「何バカなこと言ってんだっ!!」

避難の用意を済ませて、バッグとまだ幼い息子のタツヤを抱えて
まどかの父、知久はまどかと詢子を待っていた。
けれども聞こえてきたのは詢子の怒声で、何かあったのだろうかと、慌てて部屋に駆け込んだ。

「何か、あったのかい?まどか、ママ?」

知久が見たものは、まどかの両肩を掴んだ詢子の姿。

「……まどかが、ここに残るって言ったのさ」

二人とちらと一瞥して、詢子は再びまどかに視線を移して。

「ママ、ちょっと落ち着こう。まどかも、どうしてここに残りたいんだい?」

「ねーちゃ、ママー、けんかしてるー?」

問い詰めるような雰囲気ではなくて、詢子はまどかの肩から手を離して。
それから、一度顔に手を当てて、髪をがしっとかきあげて。

「向こうで話そう、まどか。今回ばかりは、ちゃんと聞かせてもらうぞ」

まどかも、小さくそれに頷いた。
146 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/20(金) 00:26:57.06 ID:kQ4PnQSk0
物も大分整理され、少し殺風景なリビングで。
テーブルを囲んで座る四人。落ち着いて話せるようにと、知久が紅茶を淹れていた。
青リンゴのような匂いがリビングを満たして、どこか気分が落ち着くような気がした。
タツヤだけは、甘めに仕立てたホットミルクを嬉しそうに飲んでいた。

「さあ、聞かせてもらうぞ。まどか。……もしかして、魔法少女とかって奴の関係なのか?」

そう、詢子だけはまどかからその存在を、まどかがそれに関わってしまったことを知らされていた。
恐らくそれが理由なのだろうとは思っていたが、それでもまどかが残ることには納得が出来なかった。

「ゆっくりで良いから、話してごらんよ。まどか」

聞きなれない、そしてどうにもこの場にはそぐわないその単語に、少し不思議そうな顔の知久。
そして、真っ直ぐまどかを見つめる詢子。そしてタツヤ。
三人の顔をかわるがわる見つめて、まどかはついに口を開いた。

「……確かに、その関係のことなんだ。
 私、行かなきゃいけないところがあるんだ。そこに行くために、もうすぐここに迎えが来るんだ」

「それは、絶対にお前じゃなくちゃ駄目なのか?危険な事なんだろ?」

「……うん、私でないと駄目なんだ。今、私が行かなきゃ駄目なんだよ」

ぎり、と歯噛みする音が聞こえたような気がした。
だん、と強くテーブルを叩いて、詢子は身を乗り出した。

「っざけんなっ!!そんな勝手やらかして、周りがどれだけ心配すると思ってんだ!」

「ママ、落ち着いて。……だけどね、まどか。今回はパパもママと同じ意見だよ。
 危険だと分かってるところに、大事な大事なまどかを送り出すことなんてできない。
 まどか一人の命じゃないんだ。……それでも、どうしても行かなくちゃいけないのかい?」

そんな詢子を制して、知久が言う。
その瞳には、何時もの優しげな光とともに、厳しげな視線も混じっていた。
147 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/20(金) 00:28:33.43 ID:kQ4PnQSk0
「わかってるよ、みんながどれだけ心配するかってことも、私一人の命じゃないってことも。
 でも、やっぱり行かなくちゃいけないんだ。もっと沢山の命を、大切な人を、守るために。
 これは……私にしか出来ないことなんだ」

二人の視線を真っ直ぐに受け止めて、それでもまどかの視線と決意は揺るがない。
そこにはもう、自分に自身を持てない、弱気な少女の顔はない。
一人の人間として、自分のできることを、やらなければならないことをしっかりと自覚して。
まどかは、言葉と同時に強い意志の光をもつ瞳で、二人をじっと見つめていた。

「今行かなかったら、行けなかったら。きっと私は一生後悔する。今じゃなくちゃ駄目なの。
 ママ、パパ。お願い……信じて」

「……なんで、そんな顔してそんなこと言うんだよ。子供の言う事じゃないだろ……そんなのっ」

詢子の声は、震えていた。

「ママ、泣いてるー……?」

タツヤの声で、詢子は自分が泣いている事に気がついた。
親として、止めなければいけないのに。行かせてはいけないのに。
止められないことを悟ってしまったから、もう逢えなくなる気がして、悲しくて。

「ママ……」

まどかも、詢子のこんな姿を見るのは初めてだった。
どこまでも、どこまでも強い人だと思っていたから。
どんなことでも受け止めて、前向きに突き進んでいける人だと思っていたから。
その詢子が、自分のために泣いてくれている。
愛されているんだと、その愛の大きさを、深さを知った。
148 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/20(金) 00:29:11.90 ID:kQ4PnQSk0
「ママ。……僕達の知らない内に、まどかは随分と大人になっていたんだね」

そんな詢子の肩に手を置いて、知久はまどかに優しく問いかける。

「誰かに、騙されたりはしていないんだね?」

まどかは、静かに頷いた。

「本当に危なくなったら、すぐに逃げるんだよ」

もう一度、小さく頷いて。

「……必ず、帰ってくるんだよ」

それは、知久もまどかの言葉を認めた瞬間で。


「うん。ありがとう。パパ、ママ、タツヤ」

まどかは、零れ出しそうになる涙を堪えて笑った。



「じゃあ、パパ達はシェルターに避難しているから。
 本当に危なくなったら、絶対にまどかも避難するんだよ」

タツヤと荷物を抱えて、知久が家の扉を開いた。
外にはもう、避難を始める人々の列が出来ていた。

「ねーちゃ、ねーちゃっ!」

縋るように呼びかけるタツヤの側に近づいて。

「大丈夫。必ずまた逢えるから」

まどかは、その小さな手をぎゅっと握った。
それがとても尊くて、守らなければいけないものだと感じた。
149 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/20(金) 00:29:37.53 ID:kQ4PnQSk0
「待ってるからな、まどか」

言葉と同時に、詢子は手を上げた。
まどかもそれに応じて手を上げて、手と手を軽く合わせて打ち鳴らす。
ハイタッチ。出かけるときの、朝のしばしの別れの時の、何時もの家族の習慣だった。
知久も、なんとか塞がった両手を上げて、まどかのその手とあわせて打った。

人ごみの雑踏の中に消えていく家族の姿を、まどかは静かに見送っていた。
150 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/20(金) 00:33:16.95 ID:kQ4PnQSk0
恐らくもう、これで戦いの前にするべきことは全てやり終えたでしょう。
後はもう、戦うだけです。

>>138
ついに提督は地球への帰還を遂げました。
その果てに何があるのか、一体誰が、彼らを迎えてくれるのでしょうか。

マミさんは本当にできる人です。
もしかしたら魔法で視力を強化してるのかもしれませんね、知らない内に。

>>139
けれど、ゆまちゃんにその言葉は届きました。
彼女は、相手がバイドでも言葉は届きうることを知っています。

>>140
聞いてみました。良い曲ですね。
なんとなく物悲しい感じで。
そういう風に聞いていて自然に曲が浮んでくるようなものを書けると
私としても非常に嬉しくあるものです。
151 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/20(金) 08:50:19.86 ID:uRMQt4MDO
お疲れ様です!
たとえ伝わらなかったとしても、伝えに行く事が大事って事なのかな。

>>1さんに愛によって作られたこのSSから、愛と悲しみのハーモニーが聞こえる。
152 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/01/20(金) 16:15:50.09 ID:kQ4PnQSk0
実際の沈む夕日あたりの流れからは、大幅に改編が為されてると思います。
そういうところとか、色々と描写が貧弱なあたりはご了承いただけると幸いです。

投下します。
153 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/20(金) 16:16:35.55 ID:kQ4PnQSk0
「キュゥべえ、ちょっといいかしら」

誰もいないブリッジへ、マミが訪れ声を放つ。
その声に応えて、キュゥべえの姿がブリッジに現れた。

「どうしたんだい、マミ」

相変わらずの無表情。それに向かって、マミはにっこりと笑うと。

「艦を出してちょうだい。今すぐによ」

「そんなこと、できるわけないじゃないか。ボク達の出撃する順番はまだまだずっと先だよ」

内心では、そんな順番は来ることはないだろうけど、と呟きながらキュゥべえは。

「無理でもなんでも、今すぐ出してもらうわよ。この状況、黙って見ているなんてできないもの」

マミの笑みは消えない。一体どこにそんな余裕があるというのか。
訝しがりながらも、半ば呆れ気味にキュゥべえは言う。

「気持ちは分かるけど、無理な話だ。マミ、キミはもっと落ち着きのある人間だと思っていたんだけどな」

「この状況で落ち着けって言うほうが、よっぽど無理な話よ?」

その笑みをより深めて、キュゥべえに顔を近づけて。

「……特に、佐倉さんにとってはね。今すぐ艦を出さないと、大変なことになるわよ」
154 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/20(金) 16:16:58.10 ID:kQ4PnQSk0
「そーゆこった、こっちはもうすぐにでも出撃したくてうずうずしてるんだ」

ブリッジへ、杏子からの通信が入ってくる。
その発信源は、格納庫内のキングス・マインド。
既に杏子は機体へ搭乗を済ませていたのだ。
魔法少女ではないが故に、その行動を抑えることもできなかった。

「あんたがこのままあたしらを閉じ込めておくつもりなら、こっちにも考えがあるぜ。
 格納庫ブチ破って、あたし一人だけでも出撃してやる」

そう、その機体はもう既に発進の準備を済ませている。
後は波動砲でも一発撃てば、格納庫の壁を食い破ることくらいは容易にできてしまうのだ。

「正気かい?杏子、そんなことをして、ただで済むわけがないじゃないか」

驚愕の表情を浮かべてキュゥべえが問う。
けれど、帰ってくる声はどこか楽しげで。

「知ってるさ。だがこのままだとあんたもただじゃ済まないぜ?
 ……お互い痛い目見たくなかったら、さっさと艦を出しな」

「バカげてるよ。たかだか輸送船一隻程度の戦力で、一体何が変わるって言うんだい」
155 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/20(金) 16:17:25.69 ID:kQ4PnQSk0
「変えるんだよ、あたし達みんなでさ」

気付けばブリッジには更に人の姿。

「それだけの力を、私達は持っている」

さやかとほむらが立っていて。

「さやかにほむらまで……なんといわれても、これだけは駄目だ。
 キミ達を今行かせる訳には行かない。杏子も、今は抑えるんだ」

存外に、キュゥべえのその意志は固い。
そんな様子に、マミは一つ諦めたように息を吐き出し、そして。

「仕方ないわね。……じゃあ、勝手にやらせてもらうわ」

言うや否や、三人はブリッジの各所へと歩いていく。
ほむらは操舵、さやかがその補助を、そしてマミが手早く遠隔操作で艦のエンジンに火を入れ
離陸シークエンスを開始し始める。

「本当に三人だけで動かすつもりかい?そもそもそんなこと、ボクが黙ってみていると――。
 なんだ――干渉、いや――妨害……っ」

途中でその声が途切れる、そしてその姿にもノイズが混じり、やがて掻き消える。
そして、それと同時に通信が入ってきた。

「指示された回線とのリンクのカットを行いました。……これでよろしいですか?」

それは、基地のオペレーターの声で。
156 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/20(金) 16:18:00.80 ID:kQ4PnQSk0
「ええ、十分よ。すぐに発進するから。出来れば進路を空けてもらいたいのだけど」

全ては予め計画されていたのだ。
秘密裏に基地と接触を図り、出撃させて欲しいという意図は伝えておいた。
どうやら基地側でも、有数の戦力を持つこの艦がこの期に及んで動かないことを不信に思っていたらしい。
割とあっさりと、その要望は聞き届けられることとなった。
当然キュゥべえはそれを止めるだろうから、一時的にでもその干渉を止める必要があった。
その為、基地の設備を使って強制的に、キュゥべえがこの艦へと干渉するための回線をカットしたのだ。
恐らくすぐに別の回線から戻っては来るだろうが、それでも出撃するまでの時間は十分に稼げる。

「了解。こちらで指示を出します。それに従い発進してください」

「……だ、そうよ。いけるかしら……さやか、ほむら」

この時、マミは初めて二人を名前で呼んだ。
マミだけが、どこかしら皆と距離を感じていたから。一人だけ、違うと考えてしまっていたから。
他の三人があれだけ仲良くしていれば、それも仕方ないのかもしれないけれど。
そんな思いすら振り切って、ようやくそう呼ぶことが出来たのだ。

「マミさん……ええ、勿論行けますよっ!」

「ええ、なんとか動かすくらいはできそうよ。マミ」

それを知って、二人も力強く答えた。

「おっと、あたしも忘れんなよ?」

一人だけ仲間外れか、と冗談めかして不服そうな杏子の声。

「ふふ、そうだったわね。……ばっちり決めるわよ、杏子っ!」

「当ったり前だっ!!」
157 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/20(金) 16:18:51.09 ID:kQ4PnQSk0
「敵の予測降下位置のデータを送信しました。それに従って進んでください。
 進路クリア。ティー・パーティー、発進どうぞ!」

オペレーターの声。三人が一度顔を見合わせて。

「座標軸固定、エンジン出力上昇、航行補助システム、正常稼働中」

ほむらが艦の発進準備が整ったことを淡々と知らせる。

「うわ、なんか今の本格的に軍人っぽい。格好いい。……こっちも、色々もろもろスタンバイ完了!
 いつでも行けるよ。艦長っ!」

そんな姿を羨みながら、自分にはそれは出来ないと理解。
あくまで自分らしく、ちょっぴり冗談を混ぜてさやかが言う。

「艦長、って。……ふふ。いいわね、それも。
 それじゃあ……ティー・パーティー、イグニッション!!」

ティー・パーティーの艦体が浮上する。
ゆっくりとその身を空に浮べ、高度を取り。そして本格的にその機関に火が入る。
波動エンジンから湧き上がる膨大な波動の粒子が、背部のブースターへと熱を伝える。
光が吐き出され、絡みつく重力を食い破るための力と変わる。


そしてティー・パーティーは動き出す。
少女達の運命を乗せて、今。
158 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/20(金) 16:19:29.12 ID:kQ4PnQSk0
南半球、オーストラリア大陸。
この大陸の南端部分へと降下したバイド艦隊は、大陸北部に位置する南半球第一基地を目指し、進軍を開始した。
地球上の各部隊はそれぞれ連携をとリあい、激しい戦闘が何度も繰り広げられていた。
戦いの度に傷つき、その戦力を損ないながら。それでもついに彼らは辿りついたのだ。

南半球における、地球軍の拠点とも言うべき南半球第一基地。
その基地を擁する、高層ビル群が立ち並ぶ湾岸都市へと。
さほどの抵抗もなく、彼らの艦隊は都市部へと侵攻することができた。
人々は皆シェルターに避難を済ませている。誰もいない街並み、そしてその営みの残骸を眺めようとする間もなく。

地球軍の部隊は、都市部を囲むように展開していた。
地球上に残存する戦力の約半数をそこに配置し、待機している。
都市部を占拠され、大量の市民がそこに居る以上。攻撃をするのは躊躇われるはずだったのだが。


「全部隊に通達。現時点を持って、敵バイド艦隊を最優先破壊対象と認定。
 ……都市部を占拠するバイド艦隊への、艦砲射撃を許可する。
 どんな犠牲を払っても構わない。……奴らを、破壊せよ」

非常な命令が、下された。
159 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/20(金) 16:20:05.24 ID:kQ4PnQSk0
一体これはどういうことなのだろう。
我々は、ついにこの地球へと帰ってきた。
どこまでも追い縋る地球軍の艦隊を打ち倒し、ついにこの基地のある都市へと戻ってくることが出来たのだ。
だというのに、我々を出迎えてくれる人は誰もいない。
都市は不気味に静まり返り、人々の営みの跡だけが残されている。

なんにせよ、地球軍も都市に砲撃を仕掛けるようなことはないだろう。
今しばらくはここで身を休め、基地の設備を使って何とか知らせることにしよう。
――我々の、帰還を。


っ!?艦が激しく揺れる。
なんということだろう。地球軍の戦艦が、こちらへ向けて砲撃を開始したのだ。
我々を、都市ごと焼き払おうというつもりなのだろうか。
許されることではない。止めなければならない。
打って出よう。これ以上ここに留まれば、都市部への被害は広がるだけだ。
160 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/20(金) 16:20:34.91 ID:kQ4PnQSk0
「……まさか、キミたちがここまで用意周到だったとはね」

三人だけのブリッジで、慌しく艦を操作している中へ。
予備の回線を使って、ようやくキュゥべえが現れた。

「あら、お帰り。キュゥべえ」

しれっとした顔で、事も無げに言うマミ。
さやかとほむらも、それを一瞥して。

「私達もそろそろ出撃の準備をしたいの。キュゥべえ。艦の操縦、代わって貰える?」

「………キミのその行動力にはびっくりだよ。本当に。
 もう何があっても知らないよ。仕方ない……後は任せるといい」

どことなく疲れたような表情で、諦め混じりの声で言う。
その言葉を聞くや否や、三人揃って艦を支える手を放り出し。

「じゃ、後よろしくっ!」

さやかは急ぎ足でブリッジを出て行く。
ほむらも無言で、けれどどこか面白そうに笑って後に続く。

「……大丈夫よ、必ず皆で戻ってくるから」

優しく笑って、マミもブリッジを後にした。
残されたキュゥべえは、再び艦にその手を巡らせた。
このままこっそりと戻るという選択もできなくはない。
けれど、向こうにはまだ杏子もいる。

「仕方ないな。まったく……頼んだよ」

そして再び、先ほどよりかは幾分か安定した調子でティー・パーティーは動き出した。
161 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/20(金) 16:21:01.58 ID:kQ4PnQSk0
戦闘は激化していた。
全方位から浴びせかけられる艦砲射撃。闇雲に前進すれば蜂の巣だ。
高層ビルを盾にして、少しずつ敵の数を減らしていく。
業を煮やして前進してきた敵の部隊に、亜空間機で奇襲をかけた。
敵に手痛い打撃を与え、撤退する敵を追討。その勢いを持って敵の包囲網の突破を図る。

巨大な生物兵器を全面に押し出し、その後ろから戦闘機群を前進させる。
ある程度まで接近してしまえば、誤射を恐れて艦砲射撃の脅威は減じる。
とにかく一点を突破し敵を分断、その後各個撃破を図った。


たちまち前方で乱戦が始まる。
だが問題はない。地球軍は統率の取れた動きは得意なのだろう。
だが、R戦闘機同士の乱戦の経験は余りないようだ。
それに引き換え、こちらはバイドとの乱戦を山ほど経験してきたのだ。
負けるはずがない。

各自の判断で戦闘を行うよう指示し、私も艦を前進させた。
162 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/20(金) 16:21:28.88 ID:kQ4PnQSk0
「っ……随分酷いね、街がめちゃくちゃだ」

機体のコクピットに、現在の都市部の状況が映し出される。
そのほとんどが地球軍の砲撃によるものであるとは知らず、さやかが歯噛みする。

「戦闘はまだ続いてる。相当押されているみたいね」

既に都市部の包囲網は破られ、各所で乱戦が始まっていた。
更に敵の中央突破を許してしまっており、後方で待機する部隊までもが攻撃に晒されている。
最早一刻の猶予もない。ほむらはそう判断した。

「戦闘経過の略歴を見たけど、それだけでも相手の手強さが分かるわ。
 ……油断せず行きましょう」

砲台を搭載し、戦闘携帯をとったババ・ヤガー。
そのコクピットの中で、マミは各機に通信を送る。

「待ちくたびれたぜ。……ああ、これ以上やらせるもんかよ」

赤い機体に力を漲らせ、杏子もまた戦場を見据えて言う。


「各機発進、そのまま後方の部隊に攻撃を仕掛けるバイドを一掃するわ。
 ティー・パーティーはそのままその部隊と合流。中央の敵部隊を押し返すわよっ!」

最早すっかり部隊のリーダーが板についたマミの声が飛ぶ。

「「「了解っ!!」」」

声が三つ、重なって返る。

「キュゥべえ、進路は?」

「問題ないよ、発進してくれ」

僅かな間が空いて、そして。




「各機出撃!」

その号令と共に、四つの光がティー・パーティーより飛び出した。
163 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/20(金) 16:24:38.95 ID:kQ4PnQSk0
>>151
初めの頃は思いついたネタを書き連ねているだけでしたが
気がつけば、そういうテーマ染みた物が見えるようになってきました。
このまま、ちゃんと最後まで書き連ねることが出来ればよいのですが。


ようやくバイオレントルーラーを倒すことが出来ました。
ADHルートは1クレクリアできたましたが、次は亀が壁になっています。
164 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/20(金) 17:41:20.80 ID:uRMQt4MDO
夕方投下感謝です!
まどかの合流前に激戦になってしまったか…。チャンスはロス提督がボコボコにされた後くらいしかないかな。

強制待機から艦乗っ取りの所で、ナデシコを思い出したなぁ。まぁ、あれはスペアキー使っただけだけど。そう言えば、おまけになぜなにナデシコのネタが使われていたような…。

マミ様の凄さを表現出来る言葉が、全く思い浮かばないよ。
165 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/20(金) 19:50:06.79 ID:clGih0GE0
立ちふさがるのは「自軍」ですか。
壁は厚いでしょうね。
166 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/01/21(土) 16:50:05.62 ID:BS5MWCno0
真面目に大規模戦闘を書ける頭がありませんので
局地戦を沢山書いていくとそれっぽくなるんじゃないかと思いました。

いよいよ本格的に衝突です。投下します。
167 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/21(土) 16:51:04.64 ID:BS5MWCno0
ラグナロックU、レオU、キングス・マインド。
その三機が、前方に広がる戦場。その光の渦の中へと飛び込んでいく。
敵も味方もあちこちに散らばって、迂闊な攻撃は誤射にも繋がる。

後方の艦隊に群がる敵を早々に排除した三人は、更に奥。
乱戦の広がる前線までも到達した。

「こっちは前線に到着した、後は手はず通り頼むぜ、マミっ!」

杏子が言葉と共に編隊を離脱。
同時にデコイ波動砲のチャージを開始する。

「任せておいて。杏子、そっちも頼むわよっ!」

その通信を受け取ったマミのババ・ヤガーは遥か後方。
水平線の上に辛うじて戦場を捉えるような位置で待機していた。

「私達も、このまま前線を押し返すわ。各機、誤射には気をつけて」

新たに迫る敵機に反応し、その機首をこちらに向けた異形の戦闘機。
ジギタリウスと呼ばれたそれを、迷うことなくスルーレーザーで引き千切り。
ほむらは戦場の最中へと飛び込んで行った。
168 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/21(土) 16:51:31.40 ID:BS5MWCno0
「レオUは攻撃範囲が広いから、誤射には気をつけないとっ」

レオUの持つ光学兵器は圧倒的な制圧力を誇る。
それはすなわち誤射の危険性も高いということ。
すなわち、乱戦向きの機体ではないのかもしれない。
だが、レオの武装はそれだけではない。

「行けっ!サイビットっ!!」

前方に迫る敵機に向けて、すれ違いざまに波動砲を叩き込む。
それと同時に打ち出されたサイ・ビットが、友軍機を追い回していた敵機を叩き落した。
サイビット・サイファには、敵を識別する能力があった。
それ故に、乱戦においてもレオUはその威力を損ねることはなかったのだ。

「何だ…今のは。誰が撃った!?」

背後に付かれた敵を振り切れず、このまま撃墜を待つばかりであったそのR戦闘機のパイロットは
突然撃墜された敵機と、それを撃ち落した謎の攻撃に対する疑問を回線上にぶちまけた。
169 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/21(土) 16:52:13.85 ID:BS5MWCno0
「――援軍、よ」

「何……たった三機で、か?」

「ええ、奴らを倒すには……十分すぎる数よ
 ――それに、三機じゃないわ」

通信を交わしながら、ほむらは接近する敵機に意識を向ける。
三機。こちらを取り囲むように接近してくる。
やはりこの乱戦の最中にあっても、敵は組織だった、そして明確な戦術を持って攻撃を仕掛けてくる。
厄介ではあるが、所詮はそれだけだ。

三機の敵が同時に放ったレーザーの隙間をすり抜けながら、フォースを背後に付け替える。
そして敵機とすれ違うと同時に、スプラッシュレーザーを叩き込んだ。
光と同時に炸裂が巻き起こり、三機の内二機を撃墜する。
もう一機も被弾し、高度が落ちる。それを打ち出されたサイクロン・フォースが叩き落した。

僅か一瞬の間に三機。
さやかもサイビットを駆使し、広域の敵に同時に打撃を与えていく。

杏子は六機のデコイ全てを散開させ、敵陣の奥へと侵攻させる。
デコイの機動はオートパイロット、敵に敵うはずもなく、次々に撃ち落されていく。
しかし、その散り際の炸裂が敵を巻き込み消滅させる。
それでも六機の内の一機は、後方に位置する前線部隊の旗艦。
無数の肉塊で構成された生物兵器である、ベルメイトの姿を捉えた。
170 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/21(土) 16:53:17.26 ID:BS5MWCno0
「見つけた、敵のデカブツだっ!……座標を送る、後頼むっ、マミっ!」

ベルメイトが打ち出す衝撃波が、デコイの最後の一機を破壊する。
その直前に、ベルメイトの位置座標が後方で待機するババ・ヤガーへと送信された。

「データリンク完了。光学望遠起動。――ターゲット、ロックオン」

すぐさま指定座標を光学望遠で捉え、その敵の姿を確認する。
位置を知られたとあって、すぐさま場所を変えるつもりなのだろう。
移動を始めるベルメイトだったが。既にその姿はババ・ヤガーのサイトの中であった。

すでに、超絶圧縮波動砲には限界までエネルギーがチャージされていた。
ババ・ヤガーがガンナーズ・ブルームと比して改良された点。
それは、従来の機体同様。波動エネルギーの最大チャージでの保持が可能となったことである。
煩雑な発射シークエンスを必要としていたガンナーズ・ブルームと異なり、ババ・ヤガーは予めチャージを済ませておけば
後は即座に発射することができる。浪漫的要素と引き換えに、兵器としての有効性は更に高まったといってもいい。

「射線上の全友軍機に退避命令。……全友軍機の退避を確認。
 さあ、切り開かせて貰うわよ。――ティロ・フィナーレっ!」

そして、閃光が放たれる。
空を切り裂き海を灼き、破壊が散らばる戦場を、更に圧倒的な破壊と光で食い破り。
避難する間もなく射線上の敵機が蒸発。避難が遅れた友軍機が、光に煽られ吹き飛ばされた。

そして超絶圧縮波動砲の光が、後方で待機したベルメイトを貫いた。
全身を盾の様に覆う肉塊を一瞬で炭化させ、その奥にある本体さえも貫き、焼き払った。

駆け抜ける閃光と、それに一瞬遅れて巻き起こる数珠状の炸裂。
ベルメイトもまた消失し、前線の拠点たる旗艦を失い、敵軍の動きに乱れが生じた。
171 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/21(土) 16:53:51.67 ID:BS5MWCno0
「……敵艦の撃墜を確認。砲身を冷却しつつ、次の狙撃ポイントへ移るわ。
 後始末を、お願いね」

随伴する戦艦にそう告げて、蒸気を吐き出す砲身を抱えてマミは移動を開始する。
今の一撃で、恐らくこちらの位置は知られたことだろう。
だからこそ、後始末はしっかりとすませなければならないのだ。




両翼の部隊は敵の艦隊を適度に相手にしつつ、じりじりと後退していく。
その隙に敵陣の中央を突破し、敵両翼部隊を挟撃。更に後方の艦隊も同時に攻撃する。
予想したとおりに戦況は進み、後方の艦隊への攻撃も開始され、敵陣の中央もほぼ総崩れとなった。

このまま押し切れるかと思っていた、だが、唐突に戦況は一変する。
後方の艦隊を攻撃していた部隊が、一瞬で全滅させられたのだ。
何が起こったというのか。更にこちらが優勢であったはずの前線までもが押し返されようかとしている。
仕方なく、こちらも攻撃を支援させるため、前線部隊の旗艦を前進させようとした。
その時だ。眩い光が空を貫き、こちらの艦を一撃で撃沈させたのだ。

一体何が起こったのか。敵の新兵器だろうか。
完全に索敵範囲外からの、更に戦艦を一撃で撃沈しうるほどの威力の兵器。
周囲に波動粒子が残留していることから、恐らく波動砲の類であろうことは予測できた。
こんなものを撃ち続けられれば、戦線を維持することなどできようはずもない。

まずは敵の正体を確かめなければならない。
私は艦を護衛していた一部隊を亜空間へと突入させ、敵波動兵器の索敵及び破壊を命じた。
172 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/21(土) 16:54:28.76 ID:BS5MWCno0

「……再度発射可能になるまで3分。そろそろ、敵も来る頃かしら」

次の狙撃ポイントへと移動を済ませ、後始末を任せた戦艦が待機しているであろう空域へと視線を廻らせる。
上手く行くはずだ。と自分に言い聞かせて、マミは次の攻撃目標の報告を待ち続けた。



亜空間に突入した敵機は、高度を取り戦場を迂回した。
そうして敵に気取られることなく、敵波動兵器があるであろう空域へと接近していた。
だが、突如としてその空間が炸裂する。
通常空間での攻撃は、亜空間に影響を及ぼすことは一切ない。
けれどその一撃は、通常空間に一切影響を及ぼすことなく、亜空間に存在するもののみを打ち砕いた。



マミが後始末のために残した戦艦、フレースヴェルグ級と呼ばれるその戦艦は
亜空間バスターが的確に効果を発揮し、迫る敵が全滅したことを確認した。

亜空間バスター。それは通常兵器、波動兵器すらも一切影響を及ぼすことの出来ない亜空間に対して
唯一影響を及ぼすことのできる兵器であった。
ただそれも、亜空間に存在する敵を認識することが出来ない以上
ある程度当たりをつけて放つか、数を集めて薙ぎ払う用途でしか使用出来ないものだった。

それを変えたのが、この艦に随伴する機体。
早期警戒機の発展系である、R-9E2――アウル・ライトだった。
常時展開できるものではないが、広域に亜空間潜行している機体を索敵可能な亜空間ソナーを備えるこの機体は
亜空間バスターと相まって、亜空間から攻め寄る敵に対して十分に有効な対抗手段となっていた。
173 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/21(土) 16:55:06.83 ID:BS5MWCno0
前線を掻い潜りこちらの動きを探るには、亜空間機を使うより他に術はない。
亜空間機といえど、場所と座標さえ分かってしまえば、最早亜空間機の迎撃は困難ではなくなっていたのだ。
ババ・ヤガーに亜空間バスター及び亜空間ソナー。
この三つの兵器の連携によって、前線が崩壊しない限りは超絶圧縮波動砲による狙撃を続けることができる。
マミはこの連携に、ピットアンブッシュという作戦名をつけていた。

「さあ、この調子で一気に押し返すわよっ!」

超絶圧縮波動砲のチャージを再開し、マミは尚続く戦場に意識を集中させた。




亜空間に突入させた機体からの信号が途絶えた。
亜空間より出ることなくそれが消失したところを見るに、亜空間バスターによる攻撃だろう。
厄介なことになった。
遥か後方から攻撃可能な波動兵器に、それを守る亜空間バスター。
亜空間を経由しなければ前線を通過することは出来ないが、亜空間に留まっていては狙い撃ちにされる。
途中で亜空間を脱出したところで、敵の制空権下でどれだけこちらの機体が動けるだろうか。

こちらも切り札を切ることにしよう。
後方で待機させていたアーサーの部隊を出撃させる。
同じく亜空間を経由して、敵後方の兵器の索敵と攻撃を任せた。
きっと、アーサーならば上手くやってくれることだろう。
174 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/21(土) 16:55:36.88 ID:BS5MWCno0
前線における乱戦は、ほぼ決着が着きつつあった。
旗艦を失い、浮き足立った敵の部隊を数で勝る地球軍がじりじりと追い詰めていく。
中でもやはり、さやか達三人の活躍は目覚しかった。

無数の機体と攻撃が行き交う戦場で、まるで何の制約もないかのように自由に飛び交い
すれ違う敵を叩き落していくほむら。
デコイの編隊で敵を翻弄し、ある程度まとまったところで一斉射撃。
そして撃破、ある程度前線の敵の密度が低下したことを確認し、杏子は前線を離れる。
後方で待機する敵艦を索敵するため、再びデコイ波動砲のチャージを開始した。

レオUが一気に前線を突き抜ける。
降り来る大量のレーザーを掻い潜り、追い縋るのは敵ばかり。
宙返りするかのように機体を廻らせ、背後の敵へと機首を向け。
ついにレオUが誇る光学兵器、リフレクトレーザー改がその本領を発揮した。
一筋放たれる大型レーザーに加え、同時に放たれる反射レーザー。
陸に敵に、そして建築物にも反射して、その軌道上に数珠状に爆発を巻き起こしていく。
その性質自体は通常の反射レーザーと大差ないものの、圧倒的出力を持つリフレクトレーザー改は
圧倒的名破壊を、その空間へとばら撒いていた。


「このままなら、いける……勝てるよ、あたし達っ!」

もうじき敵の前線は崩壊するだろう。
そうすればこの戦いの大勢はほぼ決する。
勝利は目前、そう思われた。
175 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/21(土) 16:56:07.53 ID:BS5MWCno0
「マミ、敵のボルド級を見つけた。やけにでかい。撃てるか?
 ……マミ、おい、マミっ!?」

敵の戦艦であるボルド、それもやけに巨大なそれを発見し、杏子がマミへと通信を送る。
しかし、その返事はなかった。


「……っ、何なの、あれは」

狙撃ポイント付近の建築物の陰に身を隠し、マミはそれを見ていた。
それは、亜空間から現れた。
亜空間バスターが放たれる直前に現れたその機体は、一瞬でアウル・ライトを撃破。
フレースヴェルグ級から放たれた迎撃用のミサイルをこともなく掻い潜り
そのブリッジを、機体から生えた植物の蔦の様なもので串刺しにした。
主要部を潰され、艦としての戦闘力を失ったフレースヴェルグ級には目もくれず
その機体は周囲を探るかの様に飛び交い、やがて再び亜空間へと消えていった。

恐らく、杏子との通信を繋いでいればそれを察知されて居ただろう。
余りに迅速で、余りに的確な一撃。まさしく亜空間からの強襲とでも言うべき一撃だった。

「あんなのをまともに相手にしていたら……とてもじゃないけど太刀打ちできないわね」

声が震えた。あの一瞬だけでも、勝てないと悟る。
この鈍重な機体では無理だ。否、たとえ砲身をパージしたとしても無理だろう。

そんな敵が、これからもこちらに追い縋ってくるというのか。
そう考えると、恐怖で身が震えるのをマミは感じた。

「……なんて、何を恐れていたのかしらね。一度死んだ身よ。
 恐れる必要なんて、ない。私は……やるべきことをやるだけだもの」

少なくとも今は、先ほどの敵の気配ない。
それを確認して、マミは杏子の通信に答えた。
176 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/21(土) 16:56:43.08 ID:BS5MWCno0
「ごめんなさい、杏子。遅れたわね」

「っ、マミ……無事なのか?」

「随行していた艦はやられたけど、私はまだ大丈夫よ。
 ボルド級……は多分もう移動してるでしょうね。次の目標を教えて」

ひとまず、マミが無事だったことに安堵した。
そして再び、杏子は敵艦の索敵へと動き出すのだった。
177 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/21(土) 17:14:11.13 ID:BS5MWCno0
続きが書きたくてしょうがないけど、なかなか筆が追いついてくれません。


>>164
さてどうでしょう、ロス提督もそこまで容易くやられてはくれないでしょうが。
恐らくまどかも今頃、戦場へと向かってきていることでしょう。

実はナデシコの方はあんまり詳しくなかったり。
まあ実際待機命令はそこまで厳命だったわけでもありません。
キュゥべえの思惑が敗れてしまったくらいですし、たいしたことではなかったのでしょう。
個人的にはそういうシチュエーションだとガオガイガーFINALのタイガーウッドを思い出してしまいます。

>>165
実際、バイドから見ると身内争いですからね。
この戦いで、人類は余りに多くの戦力を失っています。
そしてまだ、その戦いは終わっていないわけです。
178 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/21(土) 20:52:07.82 ID:3dliFELDO
お疲れ様です!
4人の勢い止まらずかと思いきや、アーサーさん…。こんな凄腕、どうやったら下せるんだ?
179 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/01/22(日) 00:56:00.57 ID:xvFeTuPz0
ここで一回切ることしか出来ませんでした。
ある意味、力不足を実感しております。

とはいえ、書き続けてまいります。
180 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/22(日) 00:56:52.01 ID:xvFeTuPz0
アーサーが敵艦の破壊に成功したようだ。
しかし、敵の波動兵器らしきものは確認できなかったという。
どういうことなのだろうか。

引き続きアーサーには亜空間から周辺空域の索敵を命じた。

いよいよ敵軍は前線を突破し、都市内部へと迫っていた。
都市内部は無数の高層ビルやその残骸で入り組んでおり、どちらの部隊も大型艦を自由に動かすことは困難だった。
自然と、都市内部での戦いはR戦闘機同士の空戦となる。
そうなれば、こちらにもまだ分はあると思っていたのだが。
敵戦闘機部隊の中に、どうやらかなり腕のいいパイロットが混ざっているようだ。

こちらの部隊は押されに押されている。
気がつけば、敵部隊は都市部中央、我々の本隊のある位置にまで迫っていた。
……頃合だろう。私は、もう一つの部隊へと攻撃開始の指示を出した。
181 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/22(日) 00:57:54.92 ID:xvFeTuPz0
都市部を大きく離れて後方、地球軍の艦隊が待機している。
ティー・パーティーもその隊列に加わり、その白い艦隊を晒していた。
そしてその只中に、もっとも大きく見える戦艦。
地球軍の旗艦にして最強の新造艦、ニブルヘイム級の姿があった。

「多少てこずった様だが、これで終わりだろうな。
 流石に奴らもこれ以上の抵抗は出来まい」

戦局は完全に地球軍へと傾いている。
局地的には苦戦を強いられているところもあるが、それも直に数で押し切ることができるだろう。
ようやく、この苦しい戦いにも終止符が打てる、と。
わずかばかりの安堵と、その先の事を思うと感じる暗澹たる不安。
その二つが混ぜ合わさったような思いを抱きながら、ニブルヘイム級の艦長はそう言葉を放った。

だが、その直後。

「高エネルギー反応、急速接近っ!方角は……なっ!?」

オペレーターからの報告が、驚愕によって打ち切られる。
勿論それはすぐさま告げられる。絶望を持って。

「真下ですっ!!」

「何ぃっ!?」

直後、艦隊の真下から無数の閃光が迸る。
地中より放たれたそれは、地表を食い破り、待機していた艦隊を襲った。


艦が激しく揺れる。どうやら撃沈の憂き目は避けたようだが。
一体何が起こったというのだ。各部に通達し、ダメージコントロールと状況確認を急がせる。
並び立っていた艦もまた大きなダメージを受け、その内一機は完全に機関部をやられて轟沈。
爆炎を巻き上げながら沈んでいった。
182 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/22(日) 01:01:27.17 ID:xvFeTuPz0
ゲインズ隊による敵部隊への奇襲は成功したようだ。
この湾岸都市には、広大な地下空間が広がっている。
都市の一部として活用されるのみならず、軍事施設として使われていた区画もあるのだという。
都市部を占拠した最中、その構造図を入手できたのは僥倖だった。

敵艦隊が待機している地点まで、地下道を通って機動兵器部隊を侵攻させたのだ。
まともに戦えば勝ち目は薄い。こういう奇襲に頼らざるを得ないのは心苦しいが、仕方のないことだろう。
現にゲインズ隊の一斉射撃で、敵の艦隊は甚大な被害を受けたようだ。
この機を逃す手はない。引き続き機動兵器部隊に敵艦隊を攻撃するよう指示を出した。



都市部を駆けるR戦闘機部隊。
敵の抵抗は最早ほとんど存在しない。
このまま、敵の旗艦が居ると思われる都市中心部へと侵攻し、敵旗艦を撃墜する。
そうすれば恐らくこの戦いは終わる。
敵に優秀な指揮官がいるというのであれば、それさえ討てば終わるはずなのだ。

――だが、しかし。
183 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/22(日) 01:01:54.15 ID:xvFeTuPz0
「さやか、杏子、ほむら。聞こえるかい」

ノイズ交じりに、焦りを孕んだキュゥべえの声が聞こえてくる。

「こんな時になんだってんだ、キュゥべえっ!」

こんな時になんだ、と半ば叫ぶように杏子が答えた。

「今すぐ戻ってくれ。大変なんだ」

続けて伝えられた言葉は、やはり驚愕するに値する言葉で。
今まで見たこともないほど焦りを浮かべたキュゥべえの声も、またその焦燥を煽るものだった。

「後方の艦隊が奇襲を受けた。このままじゃ全滅するかもしれない。
 そうなったら、艦と一緒にキミたちの身体まで消滅してしまう。
 マミにも知らせてある。キミ達もすぐに戻って。でないと……」

声は途中で雑音にかき消された。
まさか、と嫌な想像が三人の胸に去来する。
184 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/22(日) 01:02:29.13 ID:xvFeTuPz0
「戻らないと、やばいな。こりゃあ」

すぐさま機体を翻す杏子。

「一体何だって後ろの艦隊が奇襲されてんのよ!
 ったく、あたしの身体に何かあったら、承知しないからねっ!!」

それに続き、機体を走らせるさやか。
共に続いた機体達も、自軍の旗艦に迫る危機を悟ったのだろう。
すぐさま踵を返して救援に向かう。

だが、その退路を断つかのように敵の部隊は迫っていた。

「くそ……こんな時にっ!!」

「邪魔、するなぁぁぁっ!!」

杏子とさやかが同時に吼える。
そして敵に向かおうとしたその時に。


「各機、高度を限界まで下げてっ!」

ほむらの声が飛ぶ。
半ば反射的に、続く全機が高度を下げた。
そうして開けた空間を。ギガ波動砲がなぎ払っていった。

フルチャージには程遠い。それでも未だかつてないほどの威力を伴って放たれた一撃は
立ち塞がる敵軍を薙ぎ払い、障害物として立ちはだかるビル群さえもぶち抜いていた。

「道は出来た。敵も払った。……駆け抜けるなら今、ね」

その威力に、驚くように動きを止めていた機体が動き出す。
先を急ぎ、争うように駆け出していった。
185 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/22(日) 01:03:25.92 ID:xvFeTuPz0
「ほむら、あんたも早くっ!」

「……いいえ、私は残る」

脱出を急かすさやかに、ほむらは静かに答えた。

「な、何言ってんのほむらっ!急がないと……」

「急いでいるからこそよ。……殿は必要だもの」

そう、脱出途中での敵の追撃を防ぐために、ほむらは一人ここに踏みとどまろうというのだ。
そして、追い縋る敵を討とうというのだ。

「いくらなんでも無茶だ。まだどれだけ敵が残ってるかわからないんだぞ!」

続けて杏子も叫ぶが、ほむらの意思は変わらない。

「……後は任せて。大丈夫、必ず戻るから」




「分かってんだろうな。……こんなとこで死にやがったら、全人類から恨まれるんだぜ」

「上等よ。これくらいできなくて、何が英雄かしら」

「ちゃっちゃと後ろの敵を片付けて、すぐ迎えに行くから。待ってなさいよ」

「それまで、敵が残っていてくれればいいけれどね」






「……行こう」

「ああ」

そして、二つの光が去っていく。
186 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/22(日) 01:04:43.83 ID:xvFeTuPz0
それを追おうと、無数の気配が忍び寄る。
追わせる訳にはいかない。ここを通させる訳にはいかない。

機体を廻らせ、立ちはだかるようにそこに立ち。

「通さない。この先へは……誰もっ!」

叫びと共に、ラグナロックUは波動の光を唸らせた。
187 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/22(日) 01:06:10.61 ID:xvFeTuPz0

そして空で、マミはついにそれと対峙していた。

後方の艦隊が
地中からの攻撃を受けている。
その報せを受けて、マミはババ・ヤガーの砲身を地中へと向けた。
艦隊に被害を与えることなく、地中の敵を超絶圧縮波動砲で焼き払う。
難しい仕事だが、出来ないはずはない。

波動兵器に加えて、タブロックによるミサイル攻撃までもが地中より始まっていた。
艦隊には可能な限り高度を取るように伝え、超絶圧縮波動砲の照準を合わせた。

そこに、それは現れたのだった。
亜空間から現れたその異形の機体は、先ほどアウル・ライトとフレースヴェルグ級を撃沈させたもの。
超絶圧縮波動砲のトリガーを引くよりも僅かに早く、その機体から放たれた蔦がババ・ヤガーの砲身を貫いた。
砲身に溜め込まれた膨大なエネルギーが奔流となって溢れ出す。
エネルギーが逆流し、ババ・ヤガーの機体そのものが弾け飛びそうになっていた。


「っ……砲身解放っ!!」

その敵機へ向けて撃ち放つように、砲身をパージし全力で離脱。
その直後、内部で膨れ上がるエネルギーの圧力に耐え切れず、砲身が炸裂する。
膨大な熱を辺りにばら撒き、大気さえも歪める熱気の中から

再び、その敵機は襲い掛かってきた。
188 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/22(日) 01:07:04.15 ID:xvFeTuPz0
明確な死のイメージが、マミの脳裏に纏わり付く。
乗り越えたはずの恐れが、堰を切った様にあふれ出てくる。
それを振り払うように、機体を突き動かして敵を撃つ。
けれど、何一つとして届かない。
まるで自分がどこに撃つのかが分かっているのかのように、ことごとく敵はこちらの攻撃を回避してくるのだ。

そして、回避と同時に痛烈な反撃を叩き込んでくる。
撃てば撃つほど自分の機体が傷ついていく。それが何より、マミには恐ろしかった。

「このままじゃ、あいつには勝てない……わね」

こうしている間にも、今にもティー・パーティーが撃墜されるかもしれないのだ。
そうなってしまえば、自分の身体を失ってしまうことになる。死ぬのも同じだ。
なによりも、あの場所を失いたくない。そんな思いが強かった。
けれど、それだけに焦燥が身を焦がす。意識がぶれる。

それでもマミは、迫る敵機へ照準を合わせた。
189 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/22(日) 01:07:59.01 ID:xvFeTuPz0
「……そろそろ、足止めも十分かしらね」

高層ビルの陰に身を寄せて、ほむらは呟いた。
たった一機でどれだけの敵を相手にしてきたのだろうか。
守るために、敵を一匹残らず掃討するという戦いは、ほむらにとって思いがけず大きな負担となっていた。

それを証明するかのように、ほむらのラグナロックUには無数の損傷が刻まれている。
まだ致命的なものではないが、それでも決して軽くはないダメージが。

恐らく敵も、脱出した部隊の追討よりもほむらの方を脅威として認識したのだろう。
やはり組織立った動きで包囲し攻撃を仕掛けてきた。
それでもその包囲を破り、数十機以上の敵を打ち倒し。ようやく敵の攻撃を退けたのだった。

「普通に考えれば、ここで退くべきだけれど」

逆に考えれば、これは好機なのだ。
これだけの部隊を送ってきたということは、敵本陣の守りは手薄になっているはず。
今このまま進み、敵旗艦を打ち倒す。敵の司令部さえ落とせば、これほど苦戦するはずもないのだ。

「今が好機、と見るべきね。これは」

元来、単機で敵の中枢に突入しそれを討つ。
これが、R戦闘機の本来の戦い方なのだ。
そして、それができるだけの性能をラグナロックUは、暁美ほむらは持っている。

切り札はこの手の中にある。
やれる。いや、やらなければならない。
ほむらは、傷だらけの機体を駆って、都市中枢部へと向かった。
190 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/22(日) 01:08:28.28 ID:xvFeTuPz0
英雄は帰還した。
けれど、誰もそれを迎えてはくれない。
向けられたのは敵意、そして無慈悲な波動の光。
戦い、戦い。そして戦い。
その果てに、今、英雄達は出会った。


魔法少女隊R-TYPEs 第13話
          『英雄は再び』
          ―終―
191 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/22(日) 01:09:01.02 ID:xvFeTuPz0
【次回予告】

命を賭して、大切なものを守り抜こうとした少女達がいた。

「あたし達……勝ったんだよね?」

「……知るかよ」

そして、守られ、遺された少女達がいた。

それは勝利と言えるのだろうか。


「なんだ、これは。……どういうことだっ!?」

失ったものは、余りにも大きすぎた。


「なんとなく、そんな気はしてたんだ」

真実を知った者。


「私は、行くよ」

為すべきことを為す者。


「大丈夫、何があっても、絶対に送り届けるから」

そして、覚悟を決めた者。

生きるため、守るため、戦うために、遺された者達は再びその命を燃やす。


「……なんだ。結局、こうなっちゃうんだ」

そして――審判の時が来る。


次回、魔法少女隊R-TYPEs 第14話
             『沈む夕日』
192 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/22(日) 01:09:37.88 ID:xvFeTuPz0




















全人類の悪夢は、まだ終わらない。
















193 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/22(日) 01:17:56.88 ID:xvFeTuPz0
限界です。
が、更にここからもう一つ駆け上がらないといけないのですよね。

……頑張ろうと思います。

>>178
アーサーさんは冗談抜きで最強クラスのエースに仕上がっています。
それを討つのは果たして誰か、そして彼女達は提督の悪夢を終わらせることができるのでしょうか。
194 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県) [sage]:2012/01/22(日) 01:25:29.93 ID:Yrl5CfnEo
マミ「狙撃手を務めると言ったが別にアレ(アーサー機)を倒してしまってもかまわんのだろう」
ほむら「殿を務めると言ったが別にアレ(コンバイラ)を倒してしまってもかまわんのだろう」

これで勝つるwwwwwwwwwwwwwwww
そのあと主人公の覚醒フラグもONになるし良いことづくしだな!
195 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県) [sage]:2012/01/22(日) 02:19:43.40 ID:ZAol9lWfo
確かに覚醒するだろうけど前2人が死んじゃうじゃないですかーやだー!
196 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/22(日) 08:13:08.16 ID:OYVFKlFDO
連続投下、お疲れ様です!
いくら強くても、やはり4人では厳しかったか。今を駆ける英雄と、変質したかつての英雄との、虚しきぶつかり合い。出来れば、少女達には生き残って欲しいが、どうなるか…。
197 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/22(日) 20:15:17.80 ID:xvFeTuPz0
業務連絡

杏子ちゃん×イロモノ機の話ですが
正直今はこのまま続きを書きたいので、一旦見送りというか、中止にすることにします。

一応当初の予定としては、Mr.HELIに乗ってもらって木星の衛星にある鉱窟の調査をしてもらうという
それこそMr.ヘリの大冒険なノリで書こうかと思ってました。
特殊な磁場の発生する洞窟で、ザイオング慣性制御機構が正常に作動しないとかで
前時代的なプロペラ機に乗ってもらおうかな、なんて。

エーテリウムの鉱脈を見つけて喜んでいたら、あれまだ何かあるよ
→バイドルゲンじゃね?
→あ、バイドもいた。
ってな感じのノリでバイドと一戦やらかして脱出、な感じにしようかと思ってました。

採掘工ということで、ディンゴさんにゲスト出演してもらおうかな、とも考えてました。
またしてもANUBISネタですが。

まあそんな具合で、書こうとは思ったのですが、今は先に続きが書きたいというところを優先することにしました。
更新は明日以降になると思いますが、見ていただければ幸いです。


>>194
マミさんの場合は「狙い打つぜ!」がよろしいかと。
その場合はCVがどっかの三木さんになりそうですが。
まさにザ・死亡フラグ。

>>195
というかさやかちゃんはもう覚醒してるんですよね。次は杏子ちゃんかな。
オリジナルのさやかちゃんもちゃんと覚醒してくれたらUBWくらい出来そうだったので
非常に残念だなぁと思ったのを思い出しました。

>>196
ついに両雄がぶつかり合うときが来ました。
ロス提督も多くの戦力を失いましたが、地球軍も、ひいては魔法少女達もかなり追い詰められています。
果たして勝利するのは誰なのでしょうか、まだ最後の戦いではないというのに、酷いことになっていますね。
198 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/01/23(月) 12:47:49.95 ID:z8GCXjtE0
昼投下、行きます。
199 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/23(月) 12:48:32.02 ID:z8GCXjtE0
「あたし達……勝ったんだよね」

ティー・パーティー内、格納庫。
戦いに傷つき、そして収容された機体を眺めながら。

「……知るかよ」

呆然と呟いたさやかの言葉に、どこか投げやりに杏子は答えた。

「なんにせよ、これで終わりだよ。……こんな馬鹿げたことはもう終わりだ」

下手に口を開けば、そのまま嗚咽になってしまいそうで。
ぎゅっと口許を引き締めたまま、漏らすようにそう言った。

ティー・パーティーの格納庫に並んでいるのは、レオUにキングス・マインド。
その二機だけで、他には何も存在していない。


激しい戦場となっていた都市は既に遠く、ティー・パーティーは損傷の激しい艦と共に
後方で待機することを余儀なくされていた。
ニブルヘイム級を筆頭に、損傷の少ない艦を率いて、艦隊は都市中枢部へと向かっている。
最早、敵部隊に脅威はない。そう判断して、一気に掃討を始めたのだ。

そう。敵部隊は既に組織的な抵抗力を失っている。
戦いは、既に終わっていたのだ。
200 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/23(月) 12:49:06.21 ID:z8GCXjtE0
ティー・パーティーの格納庫に、もう一つ新たな機影が現れた。
そこに居た二人は、一瞬だけ何かを期待するような目で見つめて、それがただのシャトルだと分かると
途端に、その表情を落胆の色に染めた。

けれど、そのシャトルから降りてきたのは、二人にとって予想外の人物だった。

「……まど、か?」

さやかが、まるで信じられないものを見ているかのように、掠れた声を漏らす。

「お前、どうして……」

杏子もまた、その姿そこにあることが信じられない。
いくら戦局は決したといえ、ここはまだ戦場なのだ。

「さやかちゃん、杏子ちゃんっ!!」

二人の姿を見るや否や、まどかは駆け寄り抱きついた。
その手を大きく広げて、二人纏めて抱きかかえるように飛びついたのだ。

「よかった!二人とも……無事だったんだ。よかった……よかったよ……」

そのまま今にも泣き崩れそうになってしまうまどか。
それを制して、身体を引き離して。杏子は問いかける。

「お前、何でこんなとこに来たんだ。ここはまだ戦場なんだぞ」

どちらかといえば、咎めるような色も強いその杏子の言葉を、まどかは真っ直ぐ受け止めて。
決意を固めた、ともすれば気負いすぎているような表情で答える。

「分かってる。でも、私にもできることがあったから、ここに来たんだ」

「出来ること、って。……まどか、何するつもり?それに……それに」

戦いは、もう終わったのだと。
その事実を告げることは、その事実を受け入れてしまうことは、さやかにはどうしてもできず
結局、言葉を濁してしまうのだった。
201 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/23(月) 12:50:00.92 ID:z8GCXjtE0
「……戦いはもう、終わったんだ。敵の旗艦が墜ちた。
 これでもう敵はまともに抵抗できない。後はそれを掃討して終わりさ」

そんなさやかの苦悩を次いで、杏子がその事実を告げた。

「え……終わり、って?……嘘、そんな……っ」

「……一応、あたし達の勝ちってことだよ。まどか。
 正直、ちっともそんな気はしないんだけどさ」

力無く笑みを零して、さやかがまどかに声をかけた。
けれどまどかは、そんな声すら耳に入っていないようで、目を見開いてその身を震わせて。

「まどか。どうしたのさ。……何か、やることがあるんでしょ。
 言ってごらんよ。……何か、力になれるかも知れないしさ」

さやかがまどかの手を取ると、まどかはその手に手を重ねて、縋るように握る。
震える視線でさやかを捉え、どうにかこうにか、掠れた声を口にした。

「私……止めに来たんだ。戦うのを、ロスさんを止めに来たんだよ。
 なのに、なのに……間に合わなかった、なんて…っ」

そのまま、声は嗚咽に変わっていった。
けれど、それよりもそのまどかの言葉が引っかかった。
ロスという名前は、当然気にならないわけが無い。

「まどか……あんた、何言ってんだ……?」
202 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/23(月) 12:50:27.51 ID:z8GCXjtE0



聞いてはいけない。
胸の奥に、何かとても嫌なものがよぎった。
それでも、その疑問を押さえきれずに、杏子は尋ねた。
尋ねてしまった。


「あのバイドは、あの艦は……敵なんかじゃなかったんだよ。あれに乗っていたのは……」

喉元まで出かかって、それでもそこから先へが出てこない。
言葉にしようとするだけで、胸の奥が締め付けられるように痛くなる。
喉がからからにかれているみたいで、声が声になってくれない。
頭の奥が冷たくなって、踏みしめているはずの地面が、急に頼りなく歪んでいるようにも感じた。
それでもありったけの力を振り絞って、まどかは、その名前を口にした。



――ジェイド・ロス。
203 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/23(月) 12:50:59.91 ID:z8GCXjtE0
「っ……ッざ、けんなァァッ!!」

その言葉が聞こえた瞬間に、杏子の頭の中は真っ赤に染まった。
認めない、信じない。ありえない、ありえるわけが無い。
朱一面の頭の中を、思いつく限りの否定の言葉が駆け巡っていく。


「くぁ……っ、ぁ、ぎ……ぎぁ……っ」

半ば反射的に杏子をまどかの首下を掴んだ。
そして、そのままぎりぎりと片手でその身体を持ち上げる。
激しすぎる怒りが、肉体の限界をも超えさせているのか、その手は揺るがず、ひたすらにまどかの首を締め上げている。
気道を塞がれ、苦しげに声をあげるまどか。全ては一瞬の出来事で。

「……っ!?な、何やってんのさ!杏子っ!!」

呆気に取られ、一瞬だけ反応が遅れたさやか。
すぐさま杏子に呼びかけて、その手を無理やり引き剥がす。

「げほっ……う、っぐ。ごほ……ぅぅ」

解放されて、そのまま床に横たわるまどか。
その首筋には、赤々と手の跡が残っていた。
そんなまどかと杏子の間に、立ち塞がるようにさやかが割り込んで。
204 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/23(月) 12:51:35.28 ID:z8GCXjtE0
「まどかを殺す気?」

「……そいつが、イカれた事を言うからだろ。それも、こんな時にッ!」

それでも尚、収まることを知らない怒りと。
そして、少なからぬ悲しみの色で、その瞳を心を染め上げて。
今にも再び掴みかかりそうな形相で、杏子はまどかを睨み続けている。

「お前は、わざわざそんな事を言うためにここに来たのか?どこまであたしらを追い詰めりゃ気が済むんだ、お前はっ!!」

「杏子っ!……気持ちは分かるけど、落ち着きなさいって」

そんな杏子を制して、さやかはまどかに向き直り。

「でもさ、まどか。何で?何でまどかがそんなことを言うわけ?」

そんなさやかの言葉にも、深い悲しみと共にどこかまどかを責めるような声色が混ざっていた。

「……例えそれが事実だとしても、そんなの聞きたくないよ。
 それじゃ杏子は、仲間と一緒に家族まで失ったことになっちゃうじゃない」

込み上げるものを堪えることが出来なくて、さやかがその場に崩れ落ちる。
ぽろぽろと、とめどなく涙を零しながら、床に手を付き嗚咽を漏らす。
205 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/23(月) 12:52:06.45 ID:z8GCXjtE0
「え……仲間、って」

その言葉に、血が上っていたまどかの顔から一気に血の気が引いていく。
そして気付く。格納庫にある機体は二機のみ。
本来そこにあるはずの機体はない。そして、共に戦っているはずの仲間の姿もまた、なかった。

「さやかちゃん。杏子ちゃん」

きっと、二人はまだ戦っているだけなんだ。
もうすぐ戻ってくるに決まってる。
そんなはずは、ない。

「……何処に、行ったの」

けれどどうして、どうしてこんなに涙が零れるのだろう。
こんなに、胸が痛くなるのだろう。目の奥が熱くなるのだろう。



「マミさんと、ほむらちゃんは」

言ってしまった。
びくり、と小さく嗚咽を漏らしていたさやかの身体が震えた。
いつの間にやら、杏子の顔からも怒りの色が消えていて。

沈黙が、余りにも重く痛々しい沈黙が、その場を支配した。
口を開くものは誰もいない。






それでも、たっぷり秒針の一回りの半分ほどの時間をかけて、杏子がその口を開いた。

「……死んじまったよ。ほむらも、マミも」

そして杏子もまた、全ての力を使い果たしたかのようにその場に崩れ落ちてしまった。
206 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/23(月) 12:52:41.13 ID:z8GCXjtE0
その時さやかと杏子が見たものは、異形の機体から伸びた蔦に貫かれた、マミの機体だった。
ほむらに殿を任せ、都市部から脱出し、まっすぐに後方の艦隊へと戻るその道の途中のことだった。

「な……マミっ!?」

「マミさんっ!?」

二人が驚愕の声を上げる間にも、貫かれた機体は火花を散らす。
そしてそのまま、撃ち捨てられて地上へと落ちていく。
新たな敵を認識したのだろう。異形の機体が、その機首を二人に向けていた。

「おい、さやか。……あいつは、あたしらで仕留めるぞ」

怒りに満ち、微かに震える低い声で杏子が言う。
さやかは即応し、すぐさま機体を巡らせ突っ込んでいく。
波動の光とサイビットの軌道が交差していく。

「あいつはあたしらで引き受ける。そっちは艦隊の援護を頼むっ!!」

後続のR戦闘機部隊にそういい残し、杏子もまたデコイを駆って敵機に挑む。
墜落したマミの機体を一瞥。コクピットブロックへの直撃は避けている。
今すぐ機体が爆発するような様子もない、ソウルジェムさえ回収できれば、きっと大丈夫だ。

自分に言い聞かせるように願い、デコイを全機散開させる。
デコイ及び自機による包囲網で敵の動きを塞ぎ、レオUの広域攻撃で殲滅する。
二人のコンビネーション攻撃。かわせるはずなどない。
そう思っていた。
207 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/23(月) 12:53:14.41 ID:z8GCXjtE0
その敵機の中に潜む意志は、新たに迫る敵の姿を捉えていた。
数はそこそこに多い。どうにかこの敵を仕留めるのが間に合ってよかった。
恐らく砲手と思われるこの敵は、なかなかに強敵だったのだ。

新たに迫る敵軍の中から、抜きん出て迫る赤と青の二機。
新型だ。どうやら自分の相手をしようというのだろう。
他の機体が、敵の艦隊の元へと戻っていく。
艦隊を攻撃中の機動兵器部隊が攻撃を受ける恐れがある。
さっさとそちらも止めなければならないと、そう思うのだが。

――手強い、な。

無数に放たれる光。執拗に追い縋る新型ビット。
そしてこちらの進路を塞ぐようにじりじりと包囲を狭めてくる敵のデコイ群。
これは他の事を気にして立ち向かえる相手ではない。
だからこそ、まずはその二機を叩き落すことを優先させることにした。
208 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/23(月) 12:54:01.76 ID:z8GCXjtE0
「何なのよ、こいつはっ!」

背後から迫るサイビットを、敵機はわずかに機体をずらして回避する。
それと同時にその蔦でサイビットを絡め取り、そのまま破壊してしまった。
フォースもビットも、どちらも基本的には堅牢を誇る無敵の盾である。
だがしかし、それも物質である以上、破壊できないものではなかった。

特に強力なバイドならば、単体でもフォースに干渉し、それを破壊し得る。
そうでなくとも、フォースやビットをコントロールするデバイス部分は、破壊することは不可能ではないのだ。
ただ、超高速で展開する戦闘の中、それを狙えるようなものなどほとんど存在し得ないというだけで。

自動で敵を追尾するサイビット。
それは兵器としては優秀だが、動きが読まれやすいという欠点も存在した。
それを的確に突いて、さらにサイビットを破壊し得るようなものなどほとんど存在せず
今まで欠点としては認識されていなかっただけなのだ。

かくして、レオUはその最大の武器であるサイビットを早々に失ってしまっていた。


「ちょこまかと……逃げるな、野郎ッ!!」

苦戦を強いられているのは杏子も同様だった。
まるでこちらの動きが読まれているかのように、デコイ達の攻撃は掠りもしない。
それどころか、僅かでも隙を見せれば敵機からの攻撃を撃ち込まれ撃墜される。
前方に構えたフォースから放たれる、鞭のようにしなるレーザー。
その独特の動きに、AI操作のデコイでは対応しきれていないのだ。

隙を突き、背後から迫るデコイさえ、青い光が貫いた。
誘導性があるわけでもない、ただそのレーザーは、発射と同時に緩やかなカーブを描き
そのまま後方へと向かい、デコイを撃破していた。

機体性能もさることながら、まるで後ろにも目があるのかのように自由自在の攻撃を仕掛けてくる。
恐ろしい強敵だった。それこそ、ほむらに並ぶほどに。
209 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/23(月) 12:54:28.36 ID:z8GCXjtE0
散らば諸共、とばかりにデコイによる突攻を仕掛けさせる。
とにかく近づいてさえしまえば、デコイ内部に蓄えられた波動エネルギーを開放することで
周囲にダメージを与えることもできるのだ。

そのデコイを、敵機はその蔦を、波動兵器であるスパイクアイビーを突き出し迎え撃つ。
接触するかと思われたその直前に、敵機はその機首を大きく振った。

「何やろうってんだ……とにかく、一緒に弾け飛べっ!」

不可解な動作。けれどそんなものは関係ないとばかりに、杏子はデコイに自爆命令を送った。
デコイが波動エネルギーを開放しようとした、その瞬間に。
大きく横に一回転した敵機が、その機首に据えた波動の蔦が、まるで野球でもしているかのように
デコイを激しく打ち返したのだった。

「んなっ、馬鹿なっ!?」

驚く間もなく、デコイは打ち返された勢いのままこちらに迫る。
自爆命令を取り消すこともかなわずに、そのままデコイは空中で激しい光を放って四散する。
その光の中から、再び波動の蔦を携え敵機が迫る。

「なめるなぁぁっ!!」

杏子もそれに立ち向かい、波動砲の狙いを定める。
波動の光が放たれ、そして二機は交差した。



「……嘘だろ、おい」

交差して直後。機体を切り返して互いに向かい合おうとする二機。
その瞬間、キングス・マインドの機体が火花を散らして火を吹いた。
210 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/23(月) 12:54:55.28 ID:z8GCXjtE0
「相打ちすら、取れないってのかよ」

まさしく相打ち覚悟の一撃は、敵機の表面を僅かに焦がしたに過ぎず。
キングス・マインドは、ブースターの一つが完全にその機能を失っていた。
機動性の低下。この状況下におけるそれは、まさしく致命的な損傷だった。

バランスを崩し、ふら付きながら高度を落とすキングス・マインド。
追撃しようとした敵機の進路を、レオUが阻んでいた。

「杏子っ!……くっ。お前なんかにやられるもんか、やらせるもんかぁぁっ!!」

恐ろしい威力と攻撃範囲を持つ、その光学兵器を容赦なく放ちながら
杏子を守るかのように、さやかの機体が敵機に迫る。
それでもなお、敵は視界一面を埋め尽くす光を悠々と回避し、的確に攻撃を仕掛けてくる。
下手に避ければ隙が出来る。隙が出来れば、あの敵は決して杏子を見逃さないだろう。

退くわけには行かない。どれだけ傷ついたとしても。
どれだけの犠牲を伴うとしても、ここで倒さなければならない。
覚悟を決めたさやか。その機体の輪郭を、青い光が覆い始めた。

「さやか、お前っ……駄目だ、やめろーッ!!」

必死に機体を建て直しながら、青く輝くレオUに向けて、杏子は叫んでいた。
211 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/23(月) 12:55:21.91 ID:z8GCXjtE0
「ん……っ。どうやら、まだ生きているみたいね」

墜落した機体の中、マミは途切れた意識が目覚めたのを感じた。
結局、あの敵機にはまるで歯が立たなかった。
それでもどうにか追い縋り、喰らい付いて。きっと来るであろうはずの援軍を待ち続けた。
それがどうだろう。やっとその援軍が来たと思ったその瞬間に、一瞬の気の緩みに付け入られた結果がこれだ。
自分の未熟さを見せ付けられて、気が沈む。

どうやら機体の損傷は特に駆動部にひどいようだ。
機体はほとんど動かせないが、それでもその他の各機関は生きている。
今すぐ機体が爆発するような危険もない。
ならば、このまま待っていればいつかは回収してもらえるだろう。

「これは……さやかと杏子ね。まだ、二人が戦っている」

ババ・ヤガーのセンサーには、未だ激しくぶつかり合う二機と
それを少し離れた場所から見ている機体の姿が捉えられていた。

「苦戦しているわね。………きっと、このままじゃ勝てない」

直接ぶつかり合ったからこそ分かる。
恐らく、あの二人が同時にかかって行ったとしても勝てはしない。
既に恐らく杏子は戦闘力を奪われたのだろう、機体の動きは鈍い。

「なんとか、しないと……っ」

このままでは間違いなく、二人とも自分と同じ末路を辿ってしまう。
何か出来ることはないだろうかと、機体にまだ残された機能を片っ端から漁っていく。
程なくして、それは見つかった。
212 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/23(月) 12:55:55.45 ID:z8GCXjtE0
「波動砲ユニットが、まだ生きてる……でも、これは」

通常の圧縮波動砲は放てる状態ではなかった。
けれど、まだ超絶圧縮波動砲用の波動砲ユニットは残されている。
二つの波動砲を運用するために造られたシステムが、思いがけないところで役に立っていた。

「……こんなものを撃ったら、砲身どころか機体まで一緒に潰れてしまうわ」

そう、それはあくまで超絶圧縮波動砲を撃つためのもので。
それを通常の砲身から放つということは、拳銃から大砲の弾を放つような行為だった。
間違いなく、砲身も機体ももたないだろう。

「奴の不意をつけるとしたら、これしかない。でも、これを撃ったら……私は」

ずしりと、体が重くなったような気がした。
何か、とても重たい嫌なものが体に絡み付いてくるような。
それはまさしく、純粋な死への恐怖というものだった。
213 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/23(月) 12:56:33.97 ID:z8GCXjtE0
「……嫌。嫌よ。もう、死ぬのは嫌」

怖くないはずがない。
死を乗り越えたということは、即ち一度死に瀕しているということ。
その恐怖を、誰よりもよく知っていることに他ならないのだ。

「無理よ、こんなの……できっこない。死にたくない。
 死にたくないのよ、私はっ!……当然じゃない、仕方ないじゃない!
 死にたく……ない、っ」

機体の中で、さらに狭いコクピットの中で。
そこに収まるソウルジェムの中に、マミの叫びがこだまする。
それは間違いなく、彼女の偽らざる感情だった。

思い出されるのは、自分が死んでいくあの感触。
そこに存在していないはずの体さえ、ばらばらに引き千切られて消えていく。
自己が散逸し、自我が虚空に溶けていく。
ただそこにあるのは純粋な恐怖だけで、それは物理的な死よりも先に
完全にマミの心の全てを殺しきっていたのだ。

「このままこうしていれば、私は死ななくて済む。生きていられる。
 きっと、誰かが助けてくれるわ。ごめんなさい、さやか、杏子。
 でも、でも私は……もう、嫌なのよ。生きたい。生きていたい……ぁぁ」

恐怖と罪悪感が鬩ぎ合う。けれど、そんなものは勝負にもならない。
圧倒的な死の恐怖、そして生きたいと願う意志が、マミの思考の全てを埋め尽くした。





そして、ババ・ヤガーは再びその身に破壊の力を蓄え始めた。
214 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/23(月) 12:57:16.68 ID:z8GCXjtE0
「……ふふ、なんだか凄く、不思議な気持ちね」

なんとか通信を繋ごうとした。
回線が完全に断線している。ならばそれを繋ごう。
途切れた回線に、鮮やかな黄色のリボンが巻きつくイメージ。
回線が復旧。不安定ながらも、通信が回復した。

「さや――、杏――。聞――える?」

「マミ!?」

「マミさんっ!?」

たちまち、驚愕と安堵に満ちた二人の声が聞こえてくる。




私の、大切な大好きな仲間達。
お願いだから、最期まで見守っていてね。
最期まで、格好をつけさせてね。
215 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/23(月) 12:57:44.98 ID:z8GCXjtE0
回線が不安定だ。ノイズがひどい。
安定させるにはどうしたらいいだろう。
直接伝えるのが、きっと一番いいはずだ。
解いたリボンを二人の機体へと伸ばす。届いた。
これできっと、声は伝わってくれるはず。

――二人とも、よく聞いて。私が何とかして、奴の隙を作るわ。

「何だ、マミの声が……頭の中」

「なんでこんな……マミ、さん?」

――だから、その隙に必ず奴を倒して。お願い、さやか、杏子。

声を繋げるイメージ。結んだリボンは早くも解けてしまいそうで。
特に、激しく動き回るさやかの機体に声を届け続けるのは、思いがけなく力を使ってしまう。

「なんだかわかんないけど……とにかくわかった!マミさん、期待してますよっ!」

「……あんまり、無茶すんなよ。でも、頼むっ!」

――ええ、任せ――っ。

限界が来たらしい。
結んだリボンは解けてしまった。
でも、もういい。伝えなければならないことは伝えられたから。
216 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/23(月) 12:58:24.19 ID:z8GCXjtE0
機体が異常を伝えてくる。
それをなんとかなだめて、超絶圧縮波動砲の発射シークエンスを遂行していく。
砲身がなければ撃てないと、機体のコンピューターがひどく文句をつけてきて
仕方がないので、見せ掛けだけでもそこに立派な砲身を拵えた。

不機嫌な機体のご機嫌を取ることはできた。
発射手順も完了。後は、狙いをつけて放つだけ。


「……これを撃てば、全てがお終い。本当に、震えてしまうわ。怖くて仕方がない。
 私は生きたい。……けれど、何も持たずに生きるのは空しいだけよね。だから」

敵を狙うには角度が足りない。
これ以上は、どうにか機体を動かす必要がある。
潰れかけた駆動系が悲鳴を上げた。がんばってと声をかけて、何とか機体の向きを変えた。

「さやか、杏子、ほむら。……まどか。貴女達を、私に護らせてね」

どうやら、敵もその動きに気づいたらしい。
この機体に蓄えられた、そのエネルギーにも気づいたようだ。
けれど、もう遅い。どれだけ逃げ回ろうとこの一撃だけは、決して外さない。

「恐怖も、怒りも、憎しみも全て。私が一緒に持っていくから。
 ……あなたたちはどうか……生きて」

心の中の引き金を、引き絞るイメージ。
私の孤独、私の不安、私の後悔、私の苦痛。
そして、幸せだった思い出も全て、その引き金の上に乗せて。


「これが、本当に最期の――」










“ティロ・フィナーレ”








217 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/23(月) 12:58:57.67 ID:z8GCXjtE0
ババ・ヤガーの砲身が内側から弾け飛ぶ。
機体すらも一瞬で消滅させるほどの、膨大なエネルギーがその内側から漏れ出した。
それは途方もない規模の波動粒子の本流で、砲撃としての用を為してはいなかった。

「マミ……さん。そんなっ!?」

「暴発……か。ちきしょうっ!!」

それは、無駄死にだったのだろうか。
決して、違う。

迸る光が、一瞬で黄色く染め上げられる。
無秩序にばら撒かれていた光の渦が、一つの形を取り始める。
まるで、その光そのものが意志を持っているかのように。

そして、敵機へ向けて撃ち放たれた。
光の尾を引き突き進み、無数に枝分かれしながらなお迫る。
それは通常の光学兵器のような無機質な分岐ではなく
まるで木々が芽吹き、枝分かれしていく様を早送りで見ているような
とても有機的で、それゆえに予測困難な軌道を描いて敵へと迫った。
218 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/23(月) 12:59:23.33 ID:z8GCXjtE0
「どう、なってるの……これ」

呆気に取られて呆然と、それを見守るさやかと杏子。
けれど、いち早くその衝撃から立ち直り、杏子が吼える。

「マミだ!マミが……命を懸けてまで、あいつを倒そうとしてるんだ!
 さやか、行けっ!!マミを無駄死にさせるなっ!!」

その檄を受けて、さやかははっと我に返る。
見れば、無数の光に取り囲まれながらも、敵は執拗に回避軌道を取り続けている。
あの光がマミそのものだというのなら、その意志を、この力を無駄にすることなんてできない。

全身に纏う青い光をさらに強めて、さやかはその光の渦の中へとレオUを走らせた。
逃げるように軌道を取り続ける敵機を、同じく光の渦の中で追いかける。
レオUの通る先全て、光の枝は道を開けていた。

「……やっぱり、これはマミさんなんだ。……マミさん、マミさんっ!!」

涙がこぼれそうになる。
涙をこぼす体なんてないはずなのに、視界がぼやけそうになる。
それを必死に堪えて、ついに敵機がレオUの射程に入った。
ゆっくりと照準を合わせ、そして。

「行っ……けぇぇぇぇッ!!!」

リフレクトレーザー改をばら撒きながら、レオUがついに敵機へと迫る。
けれど、敵はそれを待っていたのだろう。
光の枝が、レオUを避けている事を悟っていた。そしてそれが接近するこの時こそが
反撃にも脱出にも、最大の好機であると。

突如として敵機が反転。レオUへと突撃を仕掛けた。
閉所でこそ最大の力を発揮するリフレクトレーザー改が、幾度も枝分かれし、敵機を貫いていく。
どれほどの神がかった技量でも、この閉塞空間内での斉射に耐えられるはずもない。
それを分かっているからこそ、敵もその一撃に懸けたのだ。

降り注ぐレーザーの雨を受けながら、敵はレオUを真正面に捉え。
その機首から、スパイクアイビーを突き出した。
その一撃は、僅かに機体を逸らすことによりキャノピー部への直撃は避けられた。
けれど、深々とレオUの機体を貫いていた。
219 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/23(月) 12:59:53.88 ID:z8GCXjtE0
「さやかっ!!」

激しい光の彼方に透けるその姿に、杏子が悲鳴交じりの声を上げた。
これでもまだ届かないというのか。
マミに加え、さやかを犠牲にしてもなお、勝てないというのか。
絶望と、それを超えるほどの怒りが心の中に満ちた。

「……まだだ、まだ。終っちゃいない」

けれど、さやかの声は尚強く響き渡る。
レオUが纏う青い光が、さらにその強さを増して。機体全てを包み込む。



彼女が望んだ願い。それは不朽の正義。
ソウルジェムはその願いに反応し、彼女に不朽の力を授けた。
即ちそれは、バイドの持つそれを遥かに超える自己修復能力。
波動の蔦が虚空に消えると。その下にはもう、真新しい装甲が再生されていた。



理解不能な出来事に、敵の動きが一瞬止まる。
それを、さやかは見逃さなかった。

「い・ま・だぁぁぁぁっ!!!」

フォースのデバイスを切り替え、レオUの武装の中でも最大の威力を誇るクロスレーザー改が放たれた。
それは、確実に敵機を捉え。打ち抜き、その身の全てを焼き尽くしていく。
爆炎を上げて弾き飛ばされ。そのまま光の渦に巻き込まれていく敵機。



そして、全ての光が弾けた。
220 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/23(月) 13:00:22.18 ID:z8GCXjtE0
「……それで、気が付いたときには敵の姿はどこにもなかった。
 多分、やっつけたんだと思いたいな」

さやかは、隣に座ったまどかにそう呟いた。
結局、敵機がどうなったのかは分からずじまい。
マミの機体も、完全に消滅しておりその残骸すらも見つけることは出来なかった。

そんな悲しみを胸の内に押し込めて、二人が後方の艦隊の援護に向かおうとしたその時に。
敵機動兵器部隊の撤退と、敵旗艦の撃沈の報せが届けられたのだった。
――暁美ほむらが死亡したという、事実と共に。

「そんな……マミさんが。ほむらちゃんも」

茫然自失といった表情のまま、さやかの言葉に虚ろに答えるまどか。
さやかも杏子も、同じくただ身を打ち据える悲しみに、呆然とたたずむことしか出来ずにいたのだった。
221 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/01/23(月) 13:01:23.90 ID:z8GCXjtE0
以上で第14話『沈む夕日』の開幕となります。

さようなら、マミさん。
222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/23(月) 15:40:50.43 ID:l7fkFfnDO
お疲れ…様、ですっ!
数多の奇跡を起こし、生も死も超越し、マナの大樹を生み出すに至っても尚…簡単にはいかないなんて。

さよならが、マミさんだけって事は…ほむらちゃんには、まだ希望が、残されているのか…?
223 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県) [sage]:2012/01/23(月) 15:59:42.36 ID:sUDNeeG7o
マミさんはここでみんなの未来を紡いで死んで行けたからまだ幸せだろうな
生き残っている人達が逆にもう楽にしてやれよ状態に陥ったり救いはないんですか!状態に陥ったりしかねない
224 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/23(月) 19:15:35.09 ID:YY8dEd2Qo
マミさんはちゃんと[ピーーー]ただけで充分。
バイド化するよりはね
225 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/01/24(火) 18:28:37.98 ID:34+OuGlD0
続けて投下します。
226 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/24(火) 18:29:34.27 ID:34+OuGlD0
「敵の抵抗が思ったよりも少ない。……それだけ、攻め手に軍を裂いているということね」

立ちふさがる敵軍を薙ぎ倒し、時にやり過ごしてからまた薙ぎ倒し。
目の前に現れる敵には一切の容赦をすることもなく、ほむらはひたすら機体を進めていた。
敵を先に進ませない為の戦いはもう必要ない。
今必要なのは、ただ進み、全ての敵を殲滅することだけだった。
それは、ほむらがもっとも得意とする戦闘で。

「……このまま、敵旗艦を墜とす」

崩れかけのビル街を駆けていくラグナロックU。
崩落したビルの上を通過した時、その中からバイド軍の自走砲台、ピスタフが現れた。
立て続けに誘導ミサイルが放たれる。数をそろえて待ち伏せしていたのだろう。
弾幕はそこそこに厚く。各自に誘導性を持ちこちらに迫る。

「無駄よ」

ぎりぎりまで迫るミサイルを引き付け、そのまま機体をビルの陰に隠す。
誘導しきれずに、次々にミサイルがビルを直撃し、小規模の爆発が巻き起こる。
その爆炎を貫いて迸る、低チャージのギガ波動砲。
高い貫通力を持つそれは、ビルを貫き、ピスタフ達を焼き払った。
227 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/24(火) 18:30:07.25 ID:34+OuGlD0
「……やはり、これは」

敵性反応の消失を確認し、ラグナロックUは再び都市部を駆ける。
その中で、ほむらは半ば確信を抱きつつあった。
今回の敵バイドは、非常に高度な戦術を持っている。
けれど、それにしても不自然だったのだ。

このバイドが駆使する戦術は、あまりにも人のそれに近い。
部隊としての思考を、行動を熟知して、巧みにその裏をかいてくる。
敵の配置にも、バイドらしい数を持っての力押しではなく
人の油断をミスを誘い、一瞬の隙すらも見逃さないという明確な意志が見て取れた。

これは、単なるバイドではない。
あまりにもそれは、人間らしさに溢れていた。

「人がバイドを操るなんて、考えたくはないけれど」

恐らく今立ちふさがっているであろう敵の指揮官は、たまたま戦術を持ったバイドなどではない。
明確な意思と、それを行使する力と知識を持った、人間に違いない。
ほむらの脳裏を、そんな思考が占めていった。
228 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/24(火) 18:30:37.76 ID:34+OuGlD0
「だとしたら、何故」

何故、人がその意志を保ったまま、バイドを操るようなことが出来るのだろうか。
バイドを操る新兵器が完成したのかもしれない。だとしても、この部隊は太陽系外からやってきたのだ。
そもそも、それが何かしらの技術の産物であると言うのなら、それをもってここまで地球を侵攻する理由がない。

これが外宇宙からの侵略者だとでも言うのなら、それにしてはあまりに人間を熟知しすぎている。
あまりにも、その事実は不可解だった。
やは、人がその意思や知識を保ったまま、バイドを率いて人類に立ち向かっている。
そういう風にしか考えられなかった。
けれど、何をどうすればそうなるのかが、ほむらには想像もできずにいた。

「……考えるのは、あれを片付けてからで十分ね」

都市中心部が近づいてきた。
恐らく、近くに敵の旗艦がいるはずだ。


けれど、唐突に機体が警報を鳴らす。

「熱源……真下から!?」

直下より熱源が急速に接近していることを告げられる。
反射的に機体を旋回させ、地下から突き出したその光の柱を回避する。
地表を貫き、薙ぎ払うようにして光の柱はほむらへ迫る。
それを十分に引き付けて回避、反撃とばかりに波動砲のチャージを開始する。

地下から湧き出た破壊の光が、倒壊し、ビルとビルの間にかかったビルを打ち砕く。
無数の破片が、さらに頭上より降り注ぎ、ほむらへと襲い掛かった。

ほむらは即座に機首を地表に向けて急降下。
光の柱を、錐揉みするように回転しながらすりぬけて。
地下に潜む敵をめがけてギガ波動砲を叩き込んだ。
光の柱を飲み込んで、さらに強い光が地表を灼いた。

その攻撃の成果を確認することもなく、機首を地表に水平に向け
無理やり機体に制動をかける。そして、一直線に駆け抜けていったラグナロックUの頭上を
無数のビルの破片が通りすぎていった。


並み居る敵を捻じ伏せて、幾重にも仕掛けられた罠をかいくぐり。
もはや、それを阻むものはない。
229 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/24(火) 18:31:05.72 ID:34+OuGlD0
敵がこちらに接近している。
単機とは言え油断をしたつもりはなかった。
出来うる限りの兵員を割いて、迎撃は十分可能なはずだった。
だが、突破された。

認めるしかないのだろう。
今こちらに迫ってきている敵は、間違いなく一騎当千の技量の持ち主だと。
そんなものがいるのかと、疑わしく思う気持ちもないこともないが
こちらの軍にも同様に、アーサーという切り札がいるのだ。敵にそれがいない道理はないだろう。

これほどの力は恐らく、過去の対バイドミッションを遂行した英雄たちにも引けを取らないほどのもの。
そんなものが、こうして我々を倒すために向けられているという事実がとても悲しかった。
バイドの脅威が去ったというのに、尚も人類はこうして同士討ちを続けるしかないのだろうか、と。

そもそも、何故彼らは我々をこうも目の仇にしてくるのだろう。
それこそ最初は、地球軍内での権力争いの末、英雄として帰還する我々が邪魔なのではないかとも考えた。
けれど、それでも我々は戦い抜き、勝利し。こうして地球までやってきたというのに。
それでも彼らはこちらを攻撃するのをやめようとはしない。あまつさえ、都市ごと我々に砲撃を仕掛けてきたのだ。
もはや、市街や市民への被害すらも構わずに我々を撃破しようとしているのだ。

何故なのだろう。思考は巡る。


戦いの最中だというのに、そんな思考が頭の中に纏わりついて離れない。
230 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/24(火) 18:31:44.60 ID:34+OuGlD0
我々は確かにバイドの中枢を討った。
だから、もうバイドはいないはずなのだ。
だとしたら、今の地球軍にとっての敵とはなんなのだろう。

もしかすると、人類は非常に重大な決断をしてしまったのではないだろうか。
バイドという、外宇宙からの恐るべき脅威。
それを恐れ、そしてまたバイドに変わる脅威の出現を恐れ。
ついに人類は、完全に太陽系の中に篭る事を決めてしまったのではないだろうか。
外より来る物を、全て敵と認識してしまうようになってしまったのではないだろうか。

馬鹿げた考えだとは思う。けれど、逆にそれでいいのではないかとも思う。
かつて、ワープ空間を行く最中、人類について考えていたことを思い出す。

非常に好戦的でありながら、被害者意識を持つ人類。
戦いの歴史の中でその文明を発展させ、そして今、バイドという未知なる敵を
侵食されることを恐れながらも、それを利用し兵器へと変えている。
その恐ろしい所業を、かつて私は身勝手と断じたことを思い出す。


もしもその考えが、人類の中で共通のものとなったのだとしたら。
そしてそれ故に、人類はその版図を星の海の向こうへ広げることなく
太陽系に閉じこもり、外から来るもの全てを拒むことを決めたのだとしたら。

鎖国という、昔の歴史書か何かで見たような言葉が私の脳裏に去来した。
そして、それは案外悪い考えではないようにも思えた。
人類がその好戦的な本能を制御することが出来ない生き物なのだとしたら
それを太陽系という十分な広さの箱庭に納めることは、理に適っているのではないだろうかと。

我ながら行き過ぎた考えだと思う。
けれど、そう考えれば様々なことに合点が行くのだ。
一度太陽系を出てしまった我々も、もはや彼らにとっては敵なのだ。
理不尽さを感じないでもないが、それが人類の答えだと言うのなら、受け入れるべきなのだろうか。






だからこそ、ふざけるなと言ってやろう。
我々もまた、好戦的で傲慢な人類の一員なのだ。
231 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/24(火) 18:32:54.30 ID:34+OuGlD0
我々は、バイド中枢の討伐などという無理難題をいきなり押し付けられたのだ。
そしてそのまま、半ば追い立てられるようにして太陽系を旅立つことを余儀なくされた。
そして長い戦いの果てに、ようやくバイドの中枢を討ったのだ。
そうして長い時間をかけて帰ってきた太陽系に、地球に、帰還を拒まれる謂れなどはない。

我々には帰るべき場所があるのだ。
そして今、万難を排してここに帰ってきたのだ。
それを、たとえそれが全人類の意思だとしても、否定などさせてたまるものか。

改めて今、私は覚悟を決めた。
たとえこの先、どれほど多くの犠牲と被害を生むとしても。
我々は、必ず帰還を果たしてみせよう。


そして、会いに行くのだ。キョーコとマドカに。



長い長い戦いに疲れ果て、萎えかけた闘志が再び蘇る。
思考が再び戦闘へと没入していく。
敵は一機。たとえどれだけ強力とは言え、一機なのだ。持ちうる限りの力を持って、これを撃滅しよう。
232 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/24(火) 18:33:19.23 ID:34+OuGlD0
ビルの陰に隠れて、都市の概略図を開く。
都市中心部はビルに囲まれ、そこには公園が広がっている。
敵旗艦はそこそこに大きい。恐らくビル街に陣取ることは難しいだろう。
そうなれば、この公園に敵旗艦がいると推測できる。
そして、残る敵艦も全てそこにいるのだろうも。

間違いなく激戦が予想される。
だが、スウ=スラスターは間違いなくこれ以上の数の敵を相手に戦っていたはずなのだ。
だとしたら、その名を受け継ぐ自分がこの程度の敵に遅れを取るはずがない。
遅れをとってよいはずがないのだ。

敵旗艦の発見、及び撃破を最優先。
目的を新たに再確認し、ほむらのラグナロックUは都市中心部への侵攻を開始した。








敵の反応が近づいている。
恐らく敵はまだこちらの位置には気がついていないはずだ。
どれだけ性能が強化されたとはいえ、戦艦ほどの索敵能力があるとも思えない。
こちらで戦力になるのは、私自身の旗艦とその艦載機、そして随行している戦艦が一機のみ。
あの恐るべき敵を相手取るにはやはり不十分。
とにかく一瞬でも、相手の虚を突き隙を作ることが出来ればいいのだが。

一つ、危険な賭けではあるが策がある。
あれほどの相手にどれだけ通用するかは分からないが、今はそれに懸けるより他ないだろう。
233 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/24(火) 18:33:48.94 ID:34+OuGlD0
ラグナロックUは、破壊されたビル街を抜け、空の広く見える公園区画へと突入した。
公園区画に突入したほむらが最初に見たものは、視界一面を埋めるレーザーとミサイルの群れだった。
完全な待ち伏せ。けれどそれは、ほむらにとっても予想通りなものだった。
公園区画は空が広い。空間を制限されたビル街と比べ、遥かに自由に戦うことが出来る。
わざわざそんなところを主戦場には、自分ならしない。

「やはり、貴方は優秀ね」

逃げ場などないほどの飽和射撃。
後方のビル街に戻ろうにも、間違いなくその前に撃墜されるだろう。
恐らく敵は、こちらの動きを早々に察していたのだろう。
目の良さでは、R戦闘機といえど戦艦には敵わない。

侵攻ルートを察知して、その姿が現れた瞬間に持ちうる全ての火力を叩き込む。
実に優秀な作戦で、いかなほむらと言えど、それが放たれてしまえば抗し得る手立ては持ち得なかった。

「……けれど、貴方には一つだけ誤算がある」

ほむらの機体が、淡い光に包まれた。
それは、さやかの機体と同じように。

「私が……魔法少女だということよっ!」

そして、再び世界は静止した。
234 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/24(火) 18:34:14.41 ID:34+OuGlD0
「……自分で使って何だけれど、冗談のような力よね。これって」

レーザーもミサイルも、奥でそれを放っている敵機も敵艦も。
その全てが静止していた。それどころか、背後で崩れるビル郡も
街を流れる熱気混じりの風さえも、ありとあらゆる全てのものが停止していた。

「時間停止。……これが、魔法少女の本当の力、なのかしら」

使いこなせるかどうかは不安もあった。
けれど、現にこうしてその力は発現していた。
それどころか、体に更なる力が沸いてくるような気までしてくる。
どんなことでも出来てしまいそうな全能感が、体中を駆け巡っている。

それは、ほむらの願いが生み出した魔法。
その願いは全人類の守護。その身を賭して、全てを護ろうとする覚悟。
与えられた力は、時を操ることの出来る力。
たとえそれがほんの数秒であったとしても、超高速の戦闘の中ではそれは絶対的なアドバンテージと言えた。

「この力で……決着を付けてやる!」

ラグナロックUは、止まった時の中を駆け抜ける。
視界を埋め尽くす死と破壊の光の中、落ち着いて道を見つけてすり抜けた。
次の瞬間、時が再び動き出す。
235 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/24(火) 18:35:02.25 ID:34+OuGlD0
直前までラグナロックUがいたはずの空間を、無数の光と爆発が薙いで行く。
巻き起こる熱と、エネルギーの余波を背中に感じながら、ほむらは敵軍の中へと突入していった。
たちまち無数の光と炸裂が湧き上がり、都市中央部を舞台に乱戦が巻き起こる。

立ち向かうはラグナロックU。
迎え撃つは、ボルド級の大型艦、ボルドガング。
そして周囲に展開している旗艦直属の護衛部隊。数の上での差は圧倒的。
けれども、英雄を止めるには明らかに不十分。

更なる力を手に入れた英雄が相手とあれば尚の事である。
既に艦載機部隊はその半数を叩き落され、ボルドガングもレーザー砲台を破壊されている。
艦首砲を受けるような位置取りをするはずもなく、フォースを備えたラグナロックUの前に
小型機であるファットを無数に発射するファットミサイル砲は、ほとんど威力を発揮しない。

もはやラグナロックUにとっての脅威はほとんど存在していない。
戦線をそのまま突破し、敵軍旗艦、コンバイラの姿を探す。
追い縋ろうとする敵を、秒針の一つも動かすことなく叩き落して高度を取った。
哀れにもボルドガングはその巨体が仇となり、満足に艦体を動かすことも出来ないようで。
もはや、邪魔をするものは何もない。

ギガ波動砲のチャージを開始。高空より公園区画の索敵を続行した。
コンバイラの姿は見つからない。
敵の方が広い索敵範囲を持つ以上、こちらの動きは常に筒抜けと思うべきだろう。
とはいえ、機動性と攻撃力でならば間違いなくこちらが上なのだ。
最初の一撃さえ防ぐことが出来たのならば、負けはしない。
236 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/24(火) 18:35:25.72 ID:34+OuGlD0
「見つけた」

ビルの陰に、日の光を受けて赤く輝く色が見えた。
それは、公園の花々の色ともビル街の装飾とも似つかない。
派手やかで、どこか美しさすらも感じる赤だった。
間違いなく、コンバイラの装甲だ。

さらに高度を取り、上空からの雷撃でし止める。
ギガ波動砲、フルチャージ。
R戦闘機が誇る、まさしく最強の威力を持つ波動砲。
その照準を、コンバイラが潜むビルへと合わせて、そして。

「消し……飛べぇぇぇッ!!」

撃ち放つ。
視界一面を青い光が染め上げ、コンバイラが潜むビルのみならず
周囲の空間に存在するもの全てを削り取り、分解し、無へと還していく。
射程距離を加味すれば、ババ・ヤガーのそれと並び立つであろうが
純粋な威力と攻撃範囲で言えば、並ぶもののない最強最後の波動砲。

その膨大な威力の奔流が、一瞬ほむらの視界を奪う。
その、瞬間に。
二股に分かれた巨大な光線が、ラグナロックUへと向けて放たれた。
237 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/24(火) 18:35:53.72 ID:34+OuGlD0
――かかった!

私は思わず叫びだしていた。
敵がこちらの仕掛けた罠にかかったのだ。
それはすなわち、攻撃の最大の好機というわけだ。

あの敵機の持つ波動砲は、その威力も攻撃範囲も恐ろしいものがあった。
あれとまともに打ち合えば、この艦といえど消滅は免れない。
何らかの策を考える必要があったのだ。

どれほど強力とは言え敵は単機。
狙うとすれば、敵の旗艦となるはずだ。
その障害となっている、鈍重だが堅牢なこの戦艦。
それを、わざわざ破壊していくとは思えない。
その目論見が、見事に当たったのだ。

艦を分離させ、艦下部のみをビルの陰に隠した。
そして武装の集中している艦上部は、戦艦内部に無理やりに押し込めたのだ。
そして敵は、その分離した艦下部へと向けて波動砲を放とうとしている。

あれだけの威力と攻撃範囲をもつ波動砲、そう易々と連射はできまい。
それにあの広大な攻撃範囲はそのまま、敵の視界を塞ぐことにも繋がる。
発射の瞬間は、こちらにとってまさしく最高の好機だった。


――緊急発進!各機関最大出力っ!

戦艦の内部から、その甲板を半ば食い破るように飛び出した。
照準は既に合わせてある。艦首砲のチャージも完了している。
最早、躊躇うことなど何もない。

――艦首フラガラッハ砲、放てっ!!

指示と同時に閃光が走る。
直進し、そのすぐ先で二股に分かれ、フラガラッハ砲の光は確実に敵機を捉えた。
そうしてようやく、私は勝利を確信した。
238 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/24(火) 18:36:25.66 ID:34+OuGlD0
そして、再び世界は止まる。

「……っ。は、はぁっ。……危な、かった。一秒遅れていたら……消滅ね」

フラガラッハ砲は、ラグナロックUに触れるか否かというところで止まっていた。
安堵の声が、小さく漏れた。

「まさか、こんな罠を仕掛けてくるなんて……本当に、恐ろしい相手だった」

機体を廻らせ、フラガラッハ砲の射線より離れる。
そして同時に、波動砲のチャージを開始した。
砲身が必要なものとは異なり、力場解放式の波動砲には冷却時間は必要ない。
すぐさま内部機関が波動の粒子を震わせて、その身の内に圧倒的な力を蓄えていく。

「今度こそ、これで終わりよ」

確信を篭めて、ほむらはそう告げた。
そして世界は動き出す。
239 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/24(火) 18:36:52.21 ID:34+OuGlD0
――な、ん……だと。

確かに直撃したはずだった。
だというのに、敵機は健在。
一瞬で離れた場所へと移動し、フラガラッハ砲を回避していたのだ。
何が起こったというのか、理解が出来ない。
ただ一つだけ分かること、それは。

戦いはまダ、終わっテはいなイというコとだけダ。

敵機は再ビ波動砲のチャージを開始シている。
それガどれだけノ時間ヲ要すルのかはわかラなイ。
だガ、それが放たレれば終ワりだ。その前ニ、奴ヲ倒サなけれバ。

艦ヲ前進さセる。全武装を解放シ、敵機を捕捉スル。
撃つ、撃ツ、ウツ。当たラなイ。マダ遠いのダ。
モット近くヘ。モット、モット。
死ぬワケにはイカナイ。負ケるワケにハいカナイ。
帰ルのダ。帰る。カエ、る……ル。
240 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/24(火) 18:37:21.09 ID:34+OuGlD0




――ヒーローは……遅れてやってくるってなぁっ!!

その声が、戦いの狂気に堕ちかけていた私の心を救い上げた。
アーサーだ。だが様子がおかしい。
明らかに機体限界を超える速度で、更にその全身に白い光を纏わせている。
R戦闘機としても異常で変則的なジグザク軌道を描きながら、敵機へと向かっていく。

――何をする気だ、アーサーっ!?

――生きて、そして帰るんだろ。まあ、任せろ。

その軽妙な声も、こうして聞いたのは随分と久しぶりな気がした。
ちょっと買い物にでも出てくるとでも言うような、相変わらずの軽口で。
その光が、敵機を貫いた。
241 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/24(火) 18:37:48.49 ID:34+OuGlD0
狂ったかのように敵艦からばら撒かれるレーザーとミサイルを辛うじてかわす。
そして、波動砲のチャージを続けていた。
機体の損傷も無視できないレベルまで深刻化しており、長時間の戦闘は困難。
次の一撃で、確実に決める。

そう思ったその瞬間に、横合いから白い光が駆け抜けてきた。
それは余りにも疾く、こちらに対する攻撃の意図があると知り、時を止めようとした時にはもう
その光は、ラグナロックUを貫き後方へと駆け抜けていった。

「なっ!?……これは、一体」

それは一体なんだったというのか、後方で小規模な爆発が巻き起こる。
その直後に機体が警報を告げた。
機体各部に、一気に無数の損傷が生じていた。
間違いなくそれは、先ほどの光の影響なのだろう。

「そん、な。何で……こんな」

波動砲ユニットへのエネルギー供給も途絶え、蓄積されたエネルギーが解放されていく。
何が起こったというのか、理解が出来ない。
ただ一つだけ分かること、それは。

まだ、戦いは終わっていないということだけだ。
242 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/24(火) 18:38:16.64 ID:34+OuGlD0
まだこの機体には、今まで蓄積された波動エネルギーが詰まっている。
それを蓄えた機体ごと弾丸に変えて、敵へぶつけてやろう。

「そうよ。このまま死んでたまるものか。
 それじゃ、ただの犬死じゃない?……負けない、私は、絶対に」

再び機体が光を放つ。
機体各所に、魔法の力が浸透していく。
それは解放され、拡散していく波動粒子の活動を停止させ。
機体各部で、今も広がり続ける損傷の全てを停止させた。
各機関部の働きを一切損ねることなく成し遂げられたそれは、ほんの一瞬だけその機体に時間を与えた。

「さやか、杏子。マミ……後を、頼むわね」

祈るように、機械仕掛けの唇は静かに言葉を紡いだ。
そして、激しく機体を輝かせ。その光を纏ったまま。
ラグナロックUは、コンバイラにその存在の全てを叩き付けた。


その直前、電脳に直結されたほむらの脳裏によぎったもの、それは。



――――F-W-C mode Activate―――







激しい光が吹き荒れ、湧き上がり。
そして、そして――彼も、彼女も。何も分からなくなった。


ただ、その後には砕け散り、焼け焦げ、溶けてひしゃげた赤い装甲が無数に散らばっているだけだった。
243 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/24(火) 18:38:44.84 ID:34+OuGlD0
「実際のとこ、何があったのかはわからねぇ。
 でも、ほむらの機体と敵艦の反応が一緒に消失した。
 それと同時に、敵部隊は撤退を始めた。それだけは、事実だ」

苦々しげな表情を隠すこともなく、杏子はそう告げた。

「あの馬鹿野郎っ!……言ったじゃねぇかよ。死んだら恨む、ってよ」

戦友の死と、そしてまどかが告げた衝撃的な言葉。
それは酷く杏子を打ちのめし、込み上げる涙と嗚咽を隠すように
杏子はそのまま、壁に身を預けて蹲ってしまった。

「そん、な。……じゃあ、どうなっちゃうの、これから」

力なく、茫然自失とした表情のまどかが呟いた。
その声に応えたのは、そこに唐突に現れたキュゥべえだった。

「……残念ながら、遅かったようだね、まどか。
 これから残存部隊の掃討のため、防衛艦隊を再編成して市街地へ侵攻するとのことだよ。
 ボクらは艦も機体も損傷が激しいからね、他の負傷した艦隊と一緒に後方で待機だ」

「ぁ……ぁぁ」

そのキュゥべえの、いつもとまるで変わらぬ調子の声が、ついにまどかを追い落とした。
目の前が真っ暗になるような感覚。足元の地面がなくなるような感覚。
そして、ぷつりとまどかの意識は途絶えてしまった。
244 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/01/24(火) 18:43:22.97 ID:34+OuGlD0
本日の投下分は以上となります。

ほむらちゃん、さようなら。

>>222
希望はありませんでした。
二人の英雄を失った世界の中で、悪夢は尚も続いています。

>>223
それでも人類は、生き延びるためありとあらゆる手を尽くさなければなりません。
あきらめたら、皆仲良くバイドの仲間入りです。

>>224
みんながみんな提督みたいにバイド化できたらよかったんでしょうけどねぇ。
死者を悼む間もなく、戦いは続いていくのです。
245 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県) [sage]:2012/01/24(火) 19:02:29.85 ID:6HHqOMF4o
oi
みうs
おい
ほむらちゃんが普通に死んだぞ
おい
紀伊店のか
おい
おい
時間旅行するのはキャラ的にほむらちゃんの役割だと信じてたのにこんなのってないよ!
246 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/01/24(火) 21:04:33.15 ID:Zn4R94dx0
いやあ、出撃した時点でまどかが間に合わないとは予想してましたけど…。
まさかほむらと提督が相打ちとは。ぶっちゃけまどか以外全滅か撃墜済みでそれから提督と対談かなと思ってました。

提督のモノローグが哀しい。無惨な境遇とさえ言えない、悲劇的すぎて逆に喜劇的でさえあるなあこの人(?)。
…あレ?にんゲンよりばイどに共感しテいるノカ?
決意が無為となったまどかのこれからも気になるところ。次回も楽しみにしています。
247 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/24(火) 21:25:10.30 ID:bbijg9oDO
マミさん。ほむらちゃん。君達が命を燃やし、地球を取り戻した事は、決して忘れないからな!!

アーサーさんは…マミさんの魂の一部を喰らって、自分の力にしたとでも言うのか…!?

>>245 あれだけのエネルギー量が放出されたんだ…もしかしたら、どこかのパラレルで、魂だけ過去の自分に移動したなんて世界もあるかも知れない。そんな世界を想えば、そこに存在しているように思えないかい?
248 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/24(火) 21:38:22.09 ID:X/ELYFYz0
欝なときに欝な話読むもんじゃないな……

欝な話と欝な話がクロスしても超欝にしかならないのか……
249 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/24(火) 22:05:54.78 ID:0jeFeazIo
ほむらが死んでも第二第三の……
ほむらちゃん…
250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/24(火) 22:41:50.73 ID:q2NaCLPDO
乙です。
これ程の犠牲を払っても悪意は未だに蠢いているのか…
まどか達には辛すぎる現実ですな。

>>246
IDがR9!!
救世主が来た!!
251 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/01/24(火) 23:27:41.38 ID:34+OuGlD0
さすがにこういうことが起こると反響が違いますね。
というわけで本日二度目の投下です。
252 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/24(火) 23:29:09.36 ID:34+OuGlD0
ニヴルヘイム級は、高空より都市を見下ろしていた。
敵機動兵器部隊による奇襲を受け、艦底部にはぽっかりと大きな空洞が出来ていた。
今も艦内部では、クルー達がダメージコントロールに追われている。
本来であれば、とても前線に出られるような状態ではなかった。

それでも、この艦は地球軍の旗艦にして最新鋭の艦。
いわば、地球軍が掲げる力と正義の象徴だった。
だからこそ、敵を掃討するこの戦いの場に、それは存在していなければならなかったのだ。

「実に大変な戦いだった。まさか、ここまでの苦戦を強いられるとは」

艦長は静かにそう言った。
その表情には、拭いきれない安堵の表情。
けれど、油断と言えるようなものは一切見て取れなかった。

彼はよく知っている。敵の手並みは、完全にこちらを上回っていたことを。
多くの人員と装備、そして一人の英雄の命をもってようやく、それを討つ事ができたのだということを。
その重大な犠牲を、自分の下らない慢心でふいになどしてはいけない。
そのことを、彼は身をもって実感していた。
253 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/24(火) 23:30:36.91 ID:34+OuGlD0
「状況を報告せよ」

眼下にいるであろう敵軍を見つめて、艦長はクルーに命じる。
オペレーターの一人が、コンソールに手を這わせ。すぐに報告を返す。

「敵部隊は、残されたボルド級の大型戦艦を中心に集結しているようです。
 数は戦闘機が10機前後、それ以外にも機動兵器が多少存在しているようですが、詳細は不明です」

「……ふむ。それで、こちらの残存戦力は?」

その言葉に、またすぐに別のオペレーターが答えた。

「ほとんどの艦船及び戦闘機に負傷は見られますが、それでも巡航艦3、駆逐艦2、戦艦1
 R戦闘機は52機が既に臨戦態勢で待機中です」

この艦が動けないことを差し引いても、純粋な戦力比は5倍。
敵もまた手負いで、指揮官は既にない。……負けはすまい。
それでも十分な警戒を保ち、思考を廻らせ艦長はついに指示を出す。

「本艦は上空にて待機、艦砲射撃で敵ボルド級を狙う。
 それ以外の艦は降下を開始。一斉射撃の後、艦載機を発進させろ」


そしてついに、敵軍の掃討を開始するよう支持を出した。


「敵は乱戦に慣れている。必ず五機編成を保ち、一機ずつ確実に仕留めていけ」

「了解だ。隊長。さあ、敗残兵どものお出ましだぜっ!」

艦砲射撃が降り注ぎ、街に破壊の雨を降らせた。
そしてその雨が上がると、虹の代わりに戦闘機部隊が降下を開始した。
パイロット達の間では、既に戦勝ムードは流れているようだ。
それでもこれだけの苦戦を強いられてきた相手、油断だけはしてはならないと
気を引き締めて、最初の敵に照準を合わせた。
254 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/24(火) 23:31:32.24 ID:34+OuGlD0
『ロスさん。返事をしてください、ロスさん』

気がつけば、というのはおかしいのかもしれません。
気を失って、目が覚めたのはこの夢の中だったのだから。
何もない、何も見えない、何も聞こえない。どこまでも広がる真っ暗闇で
私は、ロスさんの名前を呼んでいました。

『本当に、死んじゃったんですか。ロスさん』

地球のみんなを守るために戦って、遠い遠い宇宙の果てで、バイドの中枢を倒したはずなのに。
なのに、帰ってきたロスさんはバイドになってしまっていて、けれどロスさんはそれに気付いていなくて
ただ、地球に帰りたかっただけなのに。
ただ、故郷に帰りたかっただけなのに。
バイドになってしまったロスさんを迎えたのは、地球軍の容赦のない攻撃だけで。

『ひどいよね、こんなのって、あんまりだよね……』

自分がバイドになってしまったことに気付けないまま、仲間だったはずの人達と戦い続けていたなんて。
ようやく地球に戻ってきても、誰に迎えられることもなく、戦うしかないなんて。
そして、その戦いの果てに大切な友達が、マミさんが、ほむらが死んでしまっただなんて。
その事実の全てが、私の心に重たくのしかかってきたのでした。

悲しくて、辛くて、苦しくて。
心の中がとにかくぐしゃぐしゃになってしまったみたいで、頭の中は真っ白でした。
私は、夢の中でずっと泣いていました。
もうロスさんはいないから、この声を聞いている人なんて誰もいないはずだから。
だから、声を押さえようともせずにわんわんと、子供のように泣きじゃくっていました。



『うくっ……えく、ひぐっ……ぅ。ごめ…っ、なさい。ロスさん、マミさん、ほむらちゃん。
 私、誰も助けられなくって……こんなとこまで来たのに、何も、何もできないよっ』

私の瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれ続けていました。
涙が枯れてしまうんじゃないかと思ったけれど、夢の中だからなのか
それとも、あまりにも悲しすぎて、涙の蛇口が壊れてしまったんでしょうか。
涙は、ずっとずっと収まりませんでした。

泣いて泣いて、泣き疲れてしまって。
いつしか私は、夢の中だというのに、疲れて眠ってしまっていたのでした。
255 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/24(火) 23:32:28.40 ID:34+OuGlD0
泣いている。
カナメマドカが、泣いている。
私の死を悼んで、泣いていてくれているのだろうか。
私の事を悼んでくれる人が、まだこの世界にいたのだと思うと何か安らぐような気持ちを感じる。
戦いの日々の中では、感じることのなかった幸せな感情だった。

私は、とにかく寂しかったのだ。
とにかく、寂しくて仕方がなかった。
それを埋めてくれる彼女が、尊く思えて仕方がなかった。
何処に行っても敵意を向けられ、宇宙を追われ彷徨う日々。
ただ彼女だけが、私の言葉を聞いてくれた。
私に言葉をかけてくれた。
彼女は、もしかしたらこの宇宙でただ一人の、私の味方になってくれる人だったのかもしれない。

会いたい。会って、心行くまで話がしたい。
誰かに思いを伝えたい。誰かの言葉を聞きたい。
誤解を恐れずに正直に言おう。
私は、カナメマドカに狂おしい程の慕情を抱いている。
彼女の声を聞くと、長旅の疲れも癒されるような気がしていたのだ。


会いたい、会いたい、会いたい。
その思いはどんどんと膨らんでいく。
膨らんでいく。何処までも膨らんでいく。
その思いはついに私の身体よりも大きく膨れ上がり、私の身体もそれに応じて膨れ上がっていった。
256 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/24(火) 23:35:15.22 ID:34+OuGlD0















身体が――動く。














257 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/24(火) 23:39:00.32 ID:34+OuGlD0
それに最初に気付いたのは、逃げるようにビル街へと飛び込んでいった敵機を撃破した、R戦闘機の部隊だった。

「なあ、あれは……敵旗艦の破片、だよな」

「だろうな。色彩や組成データからも、コンバイラのもので間違いないだろう」

「……今、動かなかったか、あれ」

「何バカなことを言ってる。あそこまでバラバラに破壊されて、今更動くわけがないだろう。
 ……敵の掃討に移るぞ」

「了解。……気のせい、だったのか?」

再度編隊を組みなおし、R戦闘機が再び戦場へと舞い戻る。
その背後で、眼下で。確かにそれは蠢いていた。

砕け散ったはずのコンバイラ、その破片が、まるで意志をもつかのように集まり始めた。
そして、一つの大きな塊へと変わる。
そのままゆっくりと、空へと浮んでいった。


次に気付いたのは、ガルム級巡航艦のオペレーターだった。

「艦長、戦闘エリア後方に、新たなバイド反応が出現しました」

「敵の伏兵か。向こうの戦線も大分落ち着いてきた頃だろう。
 R戦闘機部隊を回せ、バイド共を根絶やしにしろ」

「了解。プロコ、リーガの両隊は指定座標へ前進、出現したバイド体を撃破してください」

命令を受け、R戦闘機部隊が指定されたエリアへと向かう。
そこにあるのは、集結し融合したコンバイラの破片。
それは球状を取り、静かに宙に浮んでいた。
258 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/24(火) 23:42:08.79 ID:34+OuGlD0
それは、進化というには余りにもいびつすぎた。
R戦闘機ほどの大きさの塊でしかなかったそれは、内側から弾け飛ぶように膨れ上がった。
それは、人類の希望を打ち砕くように。
それは、質量保存と呼ばれた法則を否定するように。
何処までも大きく膨れ上がり、新たな形を取ったのだった。

まるで、人の上半身のような形状。
顔に相当するであろう部位には、牙状の突起物が無数に連なり。
その胸部には、更に進化した破壊の力を備えた砲台が鎮座している。
両肩からは鋭い棘が突き出し、腕のような巨大な両翼を備えていた。







コンバイラベーラ。







彼の悲しみが、彼の妄執が、そして彼の願いが。
その身体に、異形の進化をもたらしたのだった。
259 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/24(火) 23:42:48.07 ID:34+OuGlD0
その機体の頭部に近づく機影。
それは、まるで影のようなおぼろげな姿をしていたが、彼に近づくにつれ一つの形を取り始めた。
最早、人の言葉では形容もし難い異形。
植物を模したその姿は、かつてそうであった姿よりも更に禍々しく変貌を遂げていた。
B-1B――マッド・フォレスト。そう呼ばれた機体が、ついに究極的な進化を遂げたその姿。
形式通りに名づけるのならば、B-1B3――マッド・フォレストVとでも言うべきか。


――よう、随分早いお目覚めだな、ロス。

――お前こそ、もうとっくに眠ったのかと思ったよ、アーサー。

見た目がどれだけ変わっても、二人の関係は変わらない。
稀代の指揮官、そして稀代のパイロット。
もっと簡単に言ってしまえば、こんなときでも二人は仲間で、親友で、悪友だった。


――仲間達が攻撃されている。アーサー。ちょっと行って蹴散らしてきてくれ。

――あの数をか?相変わらず、無茶を言うのは変わらないな。

――はは、流石に数が多すぎるか。

そんなロスの言葉に、アーサーは少しだけ笑って答えた。

――お前がやれと言うことなら、俺はなんだってやってみせるよ。

いつものアーサーだった。
それが、ロスには頼もしい。

――味方の援護を、そして道を開いてくれ。

――後ろの艦隊はどうする?

――私が相手をする。……頼む、アーサー。

――了解だ、提督。


そして、新たな力を宿した悪夢が――動き出す。
260 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/24(火) 23:44:01.47 ID:34+OuGlD0
「敵旗艦が復活しただと!?」

その報告を受け、ニヴルヘイム級のブリッジは混乱に包まれた。

「信じられません!バイド反応が出現後、急速に増大。新たな艦の形状を取りました。
 該当データなし、新型ですっ!!」

オペレーターの声にも、純粋な驚愕が混じる。

「うろたえるなっ!数の上での有利は我々にある。
 それにいくら復活したとて、あそこまで破壊されたのだ。無事であるはずがない。
 全艦砲撃用意!本艦も降下を開始しろ。全艦による一斉砲撃で、敵艦を破壊せよ!」

内心の驚愕を抑えて、男は攻撃の指令を出した。
どちらにせよ、ここまで距離を詰めてしまえば最早小細工は通用しない。
戦闘機による白兵戦と、艦砲射撃の打ち合い。
純粋な戦闘力をもって勝負をつけるより、他に術はないのだ。
そうなれば、戦力で勝るものが勝つのが道理。その男も、その道理を信じた。

唯一誤算があるとすれば、その道理を曲げ得るものがいることを知らなかっただけで。
道理を曲げ得るに足る者を、人は“英雄”と呼ぶことを知らなかっただけで。
261 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/24(火) 23:55:50.90 ID:34+OuGlD0
以上、本日の投下はここまでとなります。
コンバイラベーラのAAでもはっつけようかと思いましたがそんなものはありませんでした。

二段底です。

>>245
英雄のいない人類に未来はにぃ;;
そんな具合で人類的にも展開的にも大ピンチな状況です。

>>246
相打ち、しかし復活。
そして何かぶっちゃけました、提督。
実年齢考えると実にロリコンですが、提督の状況を考えると仕方ないのかもしれません。

彼らも、恐らくどこか意識の奥の奥では自分が違う存在になってしまったことを分かっているのだと思います。

>>247
どうやらそれだけの犠牲を払ってもまだ、戦いは終わらないようです。
そしてアーサー最後の突撃(仮)は、TAC2後編、ミッションNo.16にて
撃破されたはずのコンバイラが不思議な光と共に急速に離脱する。
それを移動に使ったような感じのイメージでした。

流石にこの辺りは説明がないと分かりづらかったかなと思います。

>>248
胸にキボウ(狂気と暴挙と欝設定)を抱えてご覧ください。
まだまだ二段底の蓋が開いただけですから。

>>249
一応クローンはいるにはいるのでしょうが
彼女ほどの素質の持ち主は、果たして生まれてくるのでしょうか。

>>250
本当の悪夢は、まだまだこれからなのかも知れません。
悪夢だけではないかもしれませんが。


そして確かにいいID、おまけに後ろについてる4を無視すればR9dx
R-9DXといえば、ガンナーズ・ブルームじゃあないですか。
是非>>246さんにはこれに乗っていただきましょう。
超絶圧縮波動砲を撃つと、常人なら機体内部で蒸し焼きですが、まあ物は試しです。
どうぞ。
262 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/25(水) 00:39:18.49 ID:WdSbnmE00
これはロスを追いかけていくルートだろうか……
いった先にあるのは琥珀色の瞳孔ですよね。

たとえロスを説得できても嫌な予感しかしない。
263 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県) [sage]:2012/01/25(水) 00:45:18.27 ID:xHVLWhFlo
まさかの13号が魔法少女になっていて再登場にかけるしかない!
264 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/25(水) 00:53:43.62 ID:RmKTXtqDO
連続投下…感謝っ!
ロスさん復活に一役買っちゃうとか…流れ次第では、まどかは全く良いとこ無しだな。
265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/01/25(水) 18:15:22.59 ID:CWEbB/sa0
>>246ですがIDには気づかんかった!wwい、いやだ、新型機のテストはいやだ!

まどかは実にモテますね。QBとか提督とか。チームRタイプも垂涎ですし。…全く羨ましくない。
乙女の涙に覚醒しちゃう提督も、実に主人公しちゃってますし。流石は英雄といった所ですね!今バイドだけど!
提督の想いは恋というより、暖かく迎えてくれる故郷という幻想を体現しちゃった子が現れたからという感じがしました。
ノベルゲームとかならここでまどかが提督と一緒になっちゃうルートがありそう。あれ?意外に幸せそうじゃ…。

まどかは原作からして巻き込まれ型だったけどここだとよりその傾向が強いなぁ。いや、そんな彼女が大好きですけど。
今回も楽しませていただきました。スマホアプリで初代R体験版をやりつつ、次回も楽しみにしております。
266 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/01/25(水) 20:23:05.30 ID:bxIVIEAT0
では、二段底の底を覗き込んで行くことにしましょう。
個人的にもかなり盛り上がり、筆もなかなかに乗ってきております。
皆さんの応援も、私の力となってくれています。

では、投下します。
267 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/25(水) 20:23:58.99 ID:bxIVIEAT0
「っはは。……ははは。どういうことだよ、こりゃあ」

思わず、杏子の口から乾いた笑みが漏れた。
ティー・パーティーのブリッジで、そのモニターに写された映像は。

「なんで、まだあいつが生きてやがるんだ」

その艦首砲であるフラガラッハ砲Uで、ニヴルヘイム級を撃沈させた
コンバイラベーラの、禍々しい姿だった。
敵の残存部隊を掃討するはずだった艦隊はすでに壊滅し、最後まで抵抗を続けていた
ニヴルヘイム級もついに爆炎と光の中へ没していった。

そして、敵の全滅を確認したコンバイラベーラの禍々しい異貌が、その顔が。
確かにこちらを捉えていた。




敵旗艦の撃沈を確認した。
策を弄する余裕もないほどの、真正面からの潰しあい。
非常に苦しい戦いではあったが、この新たな艦の力は予想以上だった。

こちらの受けた被害も大きい。
致命傷とまではいかないが、今しばらくは艦を動かすことは出来ないだろう。
後方に敵の部隊が確認できる。
恐らくは負傷した艦や機体を後方で待機させていたのだろう。
放置しても、戦局に影響はないとは思うのだが……。

いや、やはりここは奴らを追討しよう。
とにかくこちらは戦力も資材も残り少ない。
ひとまず迫る脅威を打ち払い、敵の増援が来る前に再度部隊を編成しなおすべきだろう。
とはいえ、今はこの艦は動けない。

私は、残存する部隊に後方の敵艦隊を攻撃するよう命じた。
ああして後方に待機しているといいうことは、恐らく戦力にはなり得ないほどに損傷は大きいはず。
残された戦力でも、十分に打倒しうるはずだ。
268 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/25(水) 20:24:53.76 ID:bxIVIEAT0
「……敵部隊が動き出しました。こちらへ向かってきます」

ついに推進部にまで損傷は拡大し、そのまま地表に身を寄せていた戦艦が
その索敵範囲に、新たな敵影を感知したことを伝えた。

それこそ後方の艦隊は、どれもが皆損傷が激しく、戦闘には耐え得ないものばかり。
たとえ敵は少数とは言え、戦況は絶望的と言えた。


「もう一働き、しないと……ね」

それを見て、オペレーターシートに座っていたさやかがゆっくりと立ち上がった。
その動きはひどく気だるげで、よろよろとふらついていた。

「……そうだな、行こうぜ。さやか」

その肩を支えて、杏子も共に立ち上がる。
敵が迫っている。恐らくこの艦隊で、まともに戦えるのは自分たちだけだ。
そんな杏子を、さやかはまるで全てを諦めてしまったような、とても虚ろな目で見つめて。

「あたし一人でいい。……それに、あんたの機体も、もうボロボロじゃない。
 ……一人で、全部やれるよ。大丈夫」

そう言って、さやかは虚ろに、儚げに笑った。
そしてその掌を広げ、小さな光と共にソウルジェムが現れた。

「おい、さやか……なんだよ、それはっ!?」

驚くのも無理はない。
その手に乗せられていたソウルジェムは、本来の澄んだ青い色ではなかった。
ともすれば黒とも見えてしまうような、深く澱んだ紺色だった。

「……さやか、キミはまた魔法の力を使ってしまったんだね」

いつしかそこにいたキュゥべえが、どこか咎めるような口調でさやかに告げた。
269 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/25(水) 20:25:20.33 ID:bxIVIEAT0
「やっぱり、そういうことかよ……おかしいと思ったんだ。
 あれだけ激しく戦ったのに、傷一つない機体。いつのまにか復活してたサイビット。
 さやか。お前これ以上こんなこと続けたら、どうなるか分かってるんだろ!?」

さやかが知らないはずもない、さやかは全てを告げられていたのだ。
そして杏子もそれを知っている。ソウルジェムが濁ることの、その先にある死という末路を。

「ボクからも止めさせてもらうよ。今のキミの状態では、とてもじゃないが戦わせることはできない。
 これ以上力を使えば、ソウルジェムの穢れは取り返しのつかないことになってしまう」

「なら、さっさとそんな穢れは取っちゃってよ。……できるんでしょ、キュゥべえ」

もうこんな話は沢山だ、とばかりにさやかがキュゥべえに言い捨てる。
これだけの犠牲を生んで、尚足りないと言わんばかりに迫る敵。
倒さなければ、この犠牲は広がるばかり。ここで止められなければ、誰も守れない。
さやかは、既に半ば覚悟を決めているようだった。

「……できるのなら、とっくにやっているよ。艦の設備が損傷を受けている。
 その影響で、ソウルジェムの浄化が進まない」

そんな答えすらも、半ば予想していたのかもしれない。
いつも機体を降りて目覚めた時には、ソウルジェムは綺麗な輝きを放っていた。
それが今は違う。それがどういうことかを推測するのは、そう難しくなかった。

「だから、今出撃するのは自殺行為だ。さやか」

「……じゃあ、どうしろって言うのよ。
 この艦が落とされたら、どっちみちあたしら死ぬんだよ?」

さやかが告げた厳然たる事実には、誰一人、キュゥべえでさえも反論を述べることができなかった。

「大丈夫、さやかちゃんにまっかせなさい!
 ……必ず、無事に戻ってくるから」

どう見ても空元気。それでもにっ、と顔に笑みを張り付かせてさやかは駆け出した。
けれど駆け出したその一歩目を、杏子はさやかの腕を掴んで止めていた。
270 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/25(水) 20:26:05.41 ID:bxIVIEAT0
「……行くな、さやか」

腕を掴む手は小さく震えていて。
軽く払えば、それで離れてしまいそうなほどに弱弱しかった。

「大丈夫だって。あたしを信じなさいよ、杏子」

その手に自分の手を重ねて、杏子を見つめてさやかが言う。
その姿があまりに痛々しくて、杏子はぎり、と小さく歯噛みして。

「マミも、ほむらも……そう言って死んだんだぞ。
 あたしは、これ以上仲間に死なれるのは……嫌なんだ」

腕を掴んだまま、杏子は俯いた。
その表情は分からない。けれど頬には、涙の雫がつぅと伝っていた。
杏子の気持ちは痛いほどよくわかった。
それが分かるからこそ、そんな思いをする人をこれ以上増やさないために。
それを願って、さやかは。

「杏子、ちょっと顔上げてよ」

「ん……っ、なんだ、よ。さやか――ぬぁっ!?」

顔を上げた杏子が見たのは、突き出された手。
折り曲げた中指の爪先に引っかかった親指。そして、それが杏子の額目掛けて撃ち放たれた。
――要するに、デコピンという奴だった。
271 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/25(水) 20:26:59.78 ID:bxIVIEAT0
「な……何、すんだよっ」

思いがけず痛い。
額を押さえて、杏子は半歩後ろに下がった。

「泣き言言ってる暇があったら、どうにかこうにか生き残る方法を探しなさいっての!
 あたしは諦めたりしない。最後の最後まで、絶対に足掻いて足掻いて生き延びて見せる!!」

その力強い瞳に見据えられ、射止められ。
杏子は息が詰まったように、返す言葉も紡げなくなってしまった。

「だから、一緒に足掻こう。こんなふざけた運命なんて、思いっきりぶん殴ってぶっ壊してやろうよ」

相変わらずの調子の言葉。
その言葉は共に戦う仲間達を、そして何より自分自身を鼓舞し続けてきた。
そしてその言葉は、また。萎えかけた杏子の闘志を蘇らせるのだった。
まるで、その言葉自体が魔法のようだった。

「……ったくよ。何も考えないでぽんぽんと軽口叩きやがって。
 危なっかしくて、おちおち落ち込んでも居られないっての」

額を押さえていた手で、そのままぐい、と目元を拭う。
額も、そして目の周りも少し赤くなっていた。
そんな事は気にもせず、意にも介さず杏子は笑う。不敵に、力強く。

「とにかく、あたしはなんとか機体を動かす方法を探してみるさ。
 あいつが動いてくれなきゃ、どうしようもないからな」

「じゃあ、その間はあたしに任せて。でも、早く来ないとあんたの分の敵までやっつけちゃうからね」


「無茶だけは…・・・するんじゃねーぞ」

「……行ってくる」

その手にソウルジェムを握り締め、今度こそさやかは駆け出した。
濁った光は変わらない。けれど、放たれる光の明るさだけは、少し明るくなっていたような気がした。
272 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/25(水) 20:27:42.27 ID:bxIVIEAT0
やはりこの艦隊には、もう戦力といえるものは何も残されていないようだった。
故にレオUは、たった一機で迫る敵を迎え撃たなければならない。
青い空の向こうから、後ほんの数分で敵の戦闘機部隊はやってくるだろう。
俄かにざわめき始めた空に、さやかは唯一人立ちはだかった。


ゆっくりと、一つ大きく深呼吸。
機械の身体のその肺に、澄んだ空の空気が染み渡ってきた。

「さあ……かかってきなさいっ!!」

地平線の彼方に、敵機の姿が見えた。
それを見据えてさやかが叫ぶ。その声と同時に。

遥か頭上から、地平線の彼方へと幾筋もの閃光が走った。
直後、地平線に重なるように巻き起こる爆発。

「えっ!?艦砲射撃?でも、どこから……っ」
273 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/25(水) 20:28:22.80 ID:bxIVIEAT0
「どうやら、ささやかな援軍は間に合ったようだね」

さやかの機体に繋がる通信。
聞き覚えのある声、その主は。

「九条提督っ!?でも、一体どうして」

「やあ、久しぶりだね、美樹くん。
 月面での戦闘の後、部隊を再編成して駆けつけたんだ。
 戦いは終わったのかと思ったが、状況を見るに……そうでもないようだね」

アテナイエにおける決戦に敗れ、月面上での戦闘にも敗れ。
それでも九条は、敗残兵をかき集めどうにか部隊を再編。
乗艦であるスキタリスを旗艦に、戦場へと部隊を降下させていたのだ。


はるか上空より降下を始めるスキタリス。
そのドックから、R戦闘機が出撃した。

「まだ敵は残っている。こちらもR戦闘機部隊を出して敵を迎撃する。
 美樹くん、君も手を貸してくれるかな?」

その声に、さやかは力強く答えた。

「もちろんっ!美樹さやか、先行するよっ!!」

どうやら無事に帰れそうだ、そう胸中で呟いて。
さやかは迫る敵機へと、レオUを突入させた。
274 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/25(水) 20:28:52.25 ID:bxIVIEAT0
ティー・パーティー内、さやかの自室のベッドの上で、まどかは目覚めた。

「……ん、ぅ。あ…れ?私、どうしてこんなところに」

寝ぼけた頭が自分の置かれた状況を理解するまでに、かかった時間は十数秒程度。
その位の時間を置いて、衝撃的な事実は再びまどかを打ちのめした。
マミの、ほむらの、そしてロスの死。
夢であってくれたらどれだけよかっただろうか。
けれどまどかが今こうしてティー・パーティー内にいるというその事実が
何よりも鮮明に、それが夢などではないことを物語っていた。

「どうしたらいいんだろう、私……」

その事実が、改めて心を打ちのめす。
自分がしようとしていたことが、守ろうとしていたものが根こそぎ失われてしまった。
ここにいる理由も、目的も何も存在しなくなってしまった。

「このまま、帰ったほうがいいのかな。
 ここに居たって、邪魔になっちゃうだけだよね」

ここに来た時の決意も、覚悟も。
大切な人の死が。その衝撃が全て奪い去っていった。
できることがあるはずだと、そう思い込んでここへ来た。
もしかしたらそれは、自分の勝手な思い込みすぎなかったのではないだろうか。

自分を責める思いがあった。
もっと早く駆けつけていれば、もしかしたらどうにかなっていたのかもしれないと。
そうすれば、マミもほむらも死ななかったのではないかと。

仕方なかったんだという思いもあった。
できる限りのことはした。それで間に合わなかったのだ。
きっと誰もそれを責めはしない。気に病む必要なんて、ないはずだと。
275 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/25(水) 20:29:18.27 ID:bxIVIEAT0
「……さやかちゃんと杏子ちゃんは、どうしてるかな」

ここに残るにせよ、ここを去るにせよ
ちゃんと二人と話をしなければならないだろう。
まどかはそう考えて、部屋を出た。

ブリッジに出たまどかを迎えたものは。
真剣な表情でモニターを眺める杏子とキュゥべえ。
モニターには戦うさやかのレオUの姿。

そしてもう一つ、恐らく撮影された映像なのだろう。遠く離れてぼやけているが
以前よりも倍以上もの大きさに膨れ上がり、完全にビル街からその身を突き出した巨大な戦艦。
コンバイラベーラの姿が、映し出されていた。


「あれは……ロス、さん」

半ば直感的に、まどかはそれがそうなのだと気付いた。
そんなまどかの姿を、呟きを捉えて杏子が振り向くと。

「まどか……目が覚めたのか。見ろよ、あの敵艦だ。ほむらが命がけで倒したってのにさ。
 ……あんなに膨れ上がって、蘇りやがった。今はさやかがこっちに迫ってる敵と戦ってる」

未だまどかに対して抱いた複雑な感情は拭いきれない。
僅かに顔を顰めたままで、杏子が低い声でそう言った。

「ロスさん……生きてたんだ」

まどかはそのモニターから目を離すことが出来なかった。
それを見つめたまま、呆然と呟いた。
276 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/25(水) 20:30:14.53 ID:bxIVIEAT0
「なあ、まどか。……あれは、本当にロスなのか?」

そんなまどかを一度睨むように見つめて、それから大きく息を吐き出して。
意を決したように、杏子はそう尋ねた。

「……うん。あれは、ロスさんなんだ」

その事実を告げた時の、怒り狂った杏子の姿。
それがまだ忘れられなくて、僅かに怯えた様子でまどかは言った。

やはり、改めてそれを告げられると頭の中が赤く染まっていく。
怒りが満ちる。それをぶつけてやりたくなる。
そんな暴力的な衝動をどうにか押さえつけて、杏子は続く言葉を口ずさむ。

「なんで、お前にそんなことが分かるんだ」

「……話したから。見たからだよ。ロスさんと、ロスさんを」

「どういうことだよ、訳がわかんねぇよ!」

握った拳を壁に打ちつけ、杏子は叫ぶ。
叫ばなければ、何かにその衝動をぶつけなければ、自分が内側から弾け飛んでしまいそうだったから。
277 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/25(水) 20:30:45.26 ID:bxIVIEAT0
「その説明で理解しろというのは、流石に無理があるんじゃないかな、まどか」

そこに助け舟を出したのはキュゥべえだった。
ふわりと耳を揺らしながら、二人の前に歩み寄り。

「このままじゃ埒が明かない。仕方がないからね、ボクの方から説明してあげるよ」

そして、キュゥべえは語り始めた。
まどかの持つ能力のこと、それがロスとまどかを繋げたのだろうこと。
そして、その能力が死に瀕したマミを救っていたのだということ。
余りに突拍子もない話で、最初は杏子もそれを信じられずにいた。
それでも根気強く話すキュゥべえの言葉を、どうにか噛み砕きながら理解はしていったようで。

「……じゃあ、あれは本当にロスなのか」

その全てを聞き終えて、もう一度確かめるようにまどかに向けて言葉を放った。


まどかは、静かに頷いた。
278 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/25(水) 20:31:27.77 ID:bxIVIEAT0
「まったく、冗談じゃねぇよな。……じゃあ、何だよ。
 今まであたしらは、身内同士で殺し合いをやってたってのか」

手で目を覆って、杏子はそのまま壁に身を預けた。
自嘲めいた笑みが、くつくつと零れていた。


「なんとなく、そんな気はしてたんだ」

やがて、それは静かに呟きに変わっていって。

「なんだか知らないけど、あいつらと戦ってる間中、ずっと胸がざわめいてたんだ。
 そっか。きっと……そういうことなんだろうな」

胸元に手を当てて、そのままぐっと手を握りこんで。
ぎゅっと目を伏せ、何かを堪えるようにして。
たっぷりと十秒ほどそうしてから、杏子は静かに目を開いた。


「それで、まどかはどうするんだ?あれがロスだって分かって、あんたは何をしに来たんだ?」

吹き荒れていた怒りは、どこかに消え去っていた。
ただ静かに、まどかを見つめて杏子は問いかけた。

「……止めようと思ったんだ、説得して、何とか分かってもらおうと思ったんだ。
 そうすれば、もしかしたら戦わなくて済むんじゃないかって思ったから。
 直接呼びかけたら、伝わるんじゃないかなって……思ってたんだ」

その言葉に、杏子ははっとしたように目を見開いた。
それから、少しだけ何かを考え込むような顔をして、やがて。

「なあ、まどか。……今からでも、伝えてみる気はあるか?」

もう一度、まどかに問いかけた。
279 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/25(水) 20:31:57.49 ID:bxIVIEAT0
杏子は知っていたのだ。
たとえバイドであれど、人の意志をもったものがいることを。
どうにか意志を伝える方法さえあれば、それを交わすこともできるのだということを。
千歳ゆまとの出会いが、杏子にそれを教えてくれたのだ。

だからこそ伝わると、止められると杏子は信じた。
今度こそ、助けてみせると杏子は決めた。


まどかは一度杏子の顔を見て、それからモニターへと視線を移す。
そこにおぼろげに写る、コンバイラベーラの姿を見つめて、それからもう一度杏子へと視線を移して。

「私は、行くよ」

まだ、できることがある。
まだ、助けられる人がいる。
それは、まどかにとって十分な理由だった。


「わかった。じゃあまどか、力を貸してくれ。あたしは……ロスに会いに行く」

言葉と共に、杏子はその手を差し出して。

「うんっ!」

まどかもまた、力強く答えてその手を取るのだった。
280 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/01/25(水) 20:39:11.32 ID:bxIVIEAT0
割と好き勝手に書き散らかしている割には、原作と似たような展開になることもあります。
果たしてその結末はどうなるのでしょうか。

>>262
とにかくロス提督の下へは向かうようです。
そして向こうも、対話の意思はあるようですが。果たしてどうなることやら。

>>263
とはいえ、彼女が仮に出てきたとしても、暁美ほむらとしての記憶は何一つないのですよね
残念なことに。

>>264
ここから汚名を返上してくれるといいのですが。
今のままでは、何のために来たのかわかりませんからね。

>>265
大丈夫ですよ、最大出力でぶっぱなさなければ焼けたりしませんから。

それはそうと、唯一戦わないまどかちゃんがやけにあちこちから狙われております。
その素質の為せる業なのか、やはり主人公補正なのか。
でもこの話の主人公はどう見てもさやかちゃんです、本当にありがとうございました。
その場合、提督はまどかちゃんを連れて地球を脱出、新天地を求めて果てない宇宙の旅が始まる……ってな具合でしょうか。
それはそれで、いい意味で希望に満ちた話になりそうです。ソウダッタラヨカッタノニナー。

そういえばスマホでもあるんでしたっけね。流石にタッチパッドでの操作は大変そうですが。
281 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/25(水) 22:22:47.52 ID:RmKTXtqDO
お疲れ様です!
行くまでも大変、ふれあい通信をロスさんが許させるか?何とか伝わったとして、頭の固い地球軍がそれを認められるのか…? これこそ正に前途多難。
282 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/01/26(木) 13:29:10.52 ID:L4Cv+CvA0
昼投下でござい。
いよいよ近づくクライマックス。
283 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/26(木) 13:30:14.03 ID:L4Cv+CvA0
「敵部隊の撤退を確認。提督、我々の勝利です」

「よし、負傷したR戦闘機部隊を収容し、後方の艦隊と合流する」

敵の部隊を何とか撃退し、九条提督はようやく安堵の吐息を漏らした。
敵の数はそれほど多くはなかったとは言え、こちらも連れてくることが出来た戦力は
九条提督の乗艦であるテュール級が一隻、そしてそれに搭載できる限りのR戦闘機部隊のみだった。
元々が月面戦の生き残りを集めた部隊、戦力的には敵とほぼ差は無い。
ほとんど被害を出さずに撃退することが出来たのは、やはり。

「美樹くん、ご苦労だった。機体を収容するかい?」

そう、さやかの活躍の占めるところは少なくなかった。


「なんとかなったー、かな。大丈夫ですよ、このまま自分の艦に戻っちゃいますからっ」

戦闘の終了を確認し、さやかは機体を巡らせた。
思わぬ援軍もあって、魔法の力に頼ることなく勝利することが出来た。
それには素直に安堵を覚える、けれどまだ終わりではない。

コンバイラベーラはまだ健在。
敵戦闘機部隊も全滅させた訳ではない。

「でも、あいつは来なかった。……よかった、ちゃんと倒せてたんだ」

何より気がかりだったのが、先の戦闘でさやかと杏子を追い詰め
マミが犠牲になることでようやく撃破した、あの敵機のことだった。
あの攻撃で、撃破することが出来たのだろう。
となれば、残る敵はあと僅か。決着の時は近い。
さやかはそれを確信し、ティー・パーティーへと機体を走らせた。
284 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/26(木) 13:30:41.93 ID:L4Cv+CvA0
「美樹くん、我々もすぐそちらに合流する。その後今後の行動を協議する予定だ。
 直接敵と戦った君たちの意見も聞きたい、出来れば考えておいてくれ」

「了解です、あたしはまだまだいくらでも戦えちゃいますから。手が必要なら言ってください」

ティー・パーティーへと向かう途中。
通信で交わす声は、出来るだけ力強く元気に。

「わかった、期待しているよ、美樹くん」



「さやかちゃんっ!」

「さやかっ!……よかった、無事に戻ってきたか」

ティー・パーティーに戻ったさやかを、まどかと杏子が出迎えた。

「まどか、起きてたんだね。よかったよかった。……それと、ただいま、杏子」

そんな二人に嬉しそうに笑みかけ、さやかは軽く手を上げた。

「とりあえずこっちに近づいてきた敵は撃退することが出来たよ。
 でも、まだあのデカブツが残ってる。これから九条提督が作戦会議をするんだってさ」

「九条って、あの時の九条か?」

同じくエバーグリーンの戦いを超えた杏子が、驚いたように答えた。
まさかこんなところで再会することになるとは、思ってもいなかっただろう。

「月での戦闘に参加してたんだってさ。
 それで、残った部隊を引き連れて援軍に駆けつけてくれたんだ。」

「そうか。……おかげで助かったな」

「ほんとだよ、さすがのあたしもあの数相手じゃ危なかったかも知れないからね」

実際のところ、一人でも負ける気はしなかった。
けれど、魔法に頼らず戦える気もまたしていなかったのは事実で。
冗談めかして言いながらも、その表情は確かに安堵を感じていた。
285 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/26(木) 13:31:09.61 ID:L4Cv+CvA0
「で、九条の奴は何か言ってたのか?これからどうする、とか」

「いや、特にそういうことは言ってないね。まずは作戦会議からなんじゃないかな」

それを聞いて、なにやら杏子とまどかは考え込むような仕草をして。

「そういうことなら、今のうちに話しちまうのが得策かもな。
 本格的に攻撃が始まったら、こんなことしてる場合じゃなくなっちまう」

「そうだね、どっちにしろ協力してもらわないと、難しそうだし」

互いに顔を見合わせて、小さく頷く杏子とまどか。
その意図が読めずに、さやかは思わず首を傾げて。

「ちょっとちょっとー、二人とも、あたしそっちのけで何話してるのさー?」

なんて突っ込むのだった。


「もちろんさやかちゃんにも説明するよ。……でも、ちょっと大変な話になっちゃうかな」

「この状況以上に大変な話なんて、ありゃしないでしょーよ。
 ほらほら、さやかちゃんに話してみなさいなー」

「……いや、これはあたしから話す。さやか、信じられないかも知れないけど、よく聞け」

「なによ、そんな急に改まった顔しちゃってさ」

そうして、杏子は静かに口火を切った。
ジェイド・ロスの帰還を。口に出すだけで、それこそ身を切られるほどに痛む。
古傷を改めて抉りなおすようなその行為を、ただただ切々と杏子は遂行していったのだ。
286 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/26(木) 13:31:36.27 ID:L4Cv+CvA0
「信じられる訳ないとは、自分でも思うさ。でも、あたしは信じる。
 ロスは、どんな風になっても地球へ帰ろうとしたはずだ。そして、こうして帰ってきたんだ」

手の色が白く見えるほど硬く拳を握り締めて、杏子はさやかに言葉を告げた。
隣では、まどかも同じように深刻な眼差しでさやかを見つめていた。

「もし、もしだよ。仮にあれがジェイド・ロスだったとして、一体どうしろってのさ。
 あれは、もうバイドなんだよ。それに、ほむらとマミが死んだのはあれのせいだっ!
 ……倒さないわけには、行かないでしょうが」

たとえかつての英雄と言えど、今はただの人類の敵なのだ。
杏子には悪いが、倒すより他に術はない。
これほど多くの犠牲を生み出した敵を、いまさら見逃すことなんて出来るはずが無かった。
さやかの掲げた正義は、それを決して許そうとはしなかった。


「それでも、あたしはあいつを、ロスを止めに行く。
 ……まだ意識は残ってる。呼びかければ、届くかもしれない」

「届いたからって、一体どうするってのさ!
 止まるわけないじゃない。だって、だってバイドなんだよ!?」

さやかにとって、バイドはどこまでも敵だった。
けれど、杏子にとってはそうではない。
バイドに侵されたとしても、意思が通じ合えないわけじゃない。
止められないと、完全に決まったわけじゃない。
287 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/26(木) 13:32:22.66 ID:L4Cv+CvA0
「……教えてやるんだ、ロスに。もう、あんたはバイドなんだってさ」

それは、恐らく引導を渡すにも等しい行為だった。
耐えられるわけが無い、耐えられるはずが無い。
自分がバイドであるなどと、そんな事実を受け入れられるとはさやかにはとても思えなかった。

「いくらなんでも無茶ってもんでしょ。そんなの……残酷すぎるじゃない」

もし仮に、彼が自分がバイドであると知らずにここまで来たのだとしたら。
それを教えるということは、今までの戦いが、地球へと戻るための戦い全てが
バイドの本能のままに行われたことに他ならないということで。
例え彼がどのような人物であろうと、その事実に耐えることなどできるわけがない。
そう、さやかは考えた。


「それでも、ほんの僅かでも望みがあるかもしれない。
 だからさ、さやか。あんたも協力してくれないか?」

「お願い、さやかちゃん。私たちをロスさんの所へ行かせて」

二人に詰め寄られ、さやかは言葉に詰まる。
助けられるものなら助けたいとも思う。けれど、それはどう見ても自殺行為に他ならない。

「今度こそ助けたいんだ。もう一度会いたい。話が出来るならしてみたいんだ。
 ロスは、ロスはあたしの……家族なんだよ」
288 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/26(木) 13:32:49.69 ID:L4Cv+CvA0
ずっと、押し殺してきた思いを。
杏子は打ち明け、そして静かに俯いた。
らしくないと思うけれど、一度吐き出してしまえばもう止められなかった。
ただただ、胸の中には会いたいと、助けたいという気持ちだけが渦巻いていた。

「誰がなんと言おうと、あたしはロスを助けに行く。
 今行かないと、あたしは一生後悔する。たとえ無駄でも、死んじまうとしてもだ」

歯を食いしばって顔を上げる。
少しでも気が緩んでしまえば、泣き出してしまいそうだったから。


杏子の意思は、もはやどうあっても揺るがないほどに硬い。
きっといつもの自分は、杏子にとってこんな風に見えていたんだろうな、と。
さやかはそんな杏子の姿を見て、思う。
そしてまどかの方へと向き直ると。

「まどかはいいの?ジェイド・ロスの所に行くってことは、あの戦艦に突っ込むってことだよ。
 凄く危険だし。死んじゃうかもしれないんだよ?」

そう問いかけた。
まどかは、その言葉に小さく身を振るわせた。
死という言葉がひどく身近にあるこの戦場で、その真っ只中へと飛び込もうというのだ。
恐怖を抱かないはずがなかった。

それでもまどかは、まっすぐにさやかを見つめて、そして言う。
289 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/26(木) 13:33:16.81 ID:L4Cv+CvA0
「さやかちゃん。……私ね、思うんだ。
 どんなに危なくたって、怖くたって。人にはどうしてもやらなくちゃいけない事と
 それをどうしてもやらなくちゃいけない時があるんだって」

「まどか……」

途切れてしまいそうになる声を必死に繋いで。
胸に手を当て、必死に声を絞り出して。

「やらなくちゃいけないことが、ロスさんを助けることなんだ。
 そして、その時が今なんだ。だから……私は、行くよ」





「まったく、杏子だけじゃなくまどかにまでそんな顔をさせちゃうなんてさ。
 ジェイド・ロスって人は、随分モテモテみたいだね〜」

不意に、その重苦しい雰囲気を吹き飛ばすようにさやかは笑って言う。
けれどその瞳には、どこか落ち着き払った光が宿っていて。

「わかったよ。その話、あたしも乗った!
 っていうか、あたしも会ってみたくなっちゃったし、ジェイド・ロスにさ」

にっこりと笑って親指を立てた。
まどかも、杏子も、その仕草を見て嬉しそうに笑ったのだ。
290 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/26(木) 13:33:48.97 ID:L4Cv+CvA0
「九条提督にも、協力してもらえないかどうか聞いてみるよ。
 さすがにこんな突拍子もない話、そうそう信じてもらえないとは思うけどさ」

作戦会議が、もうじき始まろうとしていた。
その前に、さやかは九条提督の下を尋ねるつもりだった。
最後の攻撃へと移る前に、ジェイド・ロスへの接触を図るために
どうにか、九条提督の力を借りようとしたのだ。

「あたしも行くぞ。ついでに工作機の無心でもしてみるさ」

十分な設備を持たないティー・パーティーでは
キングス・マインドの負った損傷を修復することは困難だった。
せめてそれが修理できれば、杏子とさやかの二人で乗り込んでいくことが出来る。
少しでも成功の可能性を高めるためには、どうしてもそれが必要だった。
そのための工作機を、どうにか調達しようとしていたのだ。

「私も、一緒に行くよ。……何の役にも立てないかも知れないけど
 もう待ってるだけなのは嫌だから。お願い、一緒に行かせて、さやかちゃん」

「まったく、しっかたないな二人とも。
 いいよ、みんなで行こう。三人分の力で、どうにか九条提督を説き伏せてやるのだーっ!」

ぐっと握り拳を高く掲げるさやか。
続いてまどかも、杏子も。


かくして、英雄の帰還を巡る戦いは。
それが生み出す大きなうねりは、多くの命を飲み込みながら
少女たちの運命さえも飲み込んで、ついに最終局面へと突入していくのであった。
291 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/26(木) 13:38:37.42 ID:L4Cv+CvA0
後二回くらいでこの話も終わりですかね。
長らくお付き合いして下さっている方々には、感謝を。

もちろんバイドとの戦いはまだまだ終りませんよ。

>>281
嗚呼、少女達が行く……
受け入れられることなく、現世から
捨てられし彼等を救うもの。
それは、救いを願う者達の
意地に他ならない。

斑鳩風に一つやってみました。
292 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県) [sage]:2012/01/26(木) 13:45:14.25 ID:oj5BSGvto
バイドのショットを吸収して波動エネルギーに変換する代わりにパイロットが徐々にバイド化していくR戦闘機と聞いて
バイド化に強い耐性を持つソウルジェムとは相性ばつ牛ンやなそんな機体があれば
293 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/26(木) 14:44:23.46 ID:qvrH/djDO
昼投下乙です!
一見何事も無く進んでいるが、さてここからが問題。アーサーさんとか…。

斑鳩風カッケー! そう言えば、ほむらちゃんの自爆特攻と森羅さんの捨て身突撃…なんか似てますね。
294 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/01/26(木) 18:13:33.70 ID:ZeyfmgpQ0
反撃開始、といったお話でしたね。さて、提督に声は届くのか。そして届いたとしてもどうなるやら。
事の成否に関わらずまどかの能力も明かされるから、彼女ももう穏やかな生活は出来ないでしょうし。

スマホアプリは体験版だと1面だけなんで結構独特な操作感覚に少し慣れればさくっとクリアできます。
とはいえ、これで後半のあの地獄を抜けれるかと言うと…。ああ、アーカイブスで再度配信して欲しい…。
295 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/01/26(木) 19:08:23.47 ID:wG5wN7IWo
今がその時だ!
296 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/01/27(金) 00:53:32.42 ID:5BeMXVil0
夜投下を、明日はいよいよ勝負の日かな。
297 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/27(金) 00:54:26.06 ID:5BeMXVil0
「さて、彼女達は上手くやってくれるかな」

スキタリスのブリッジで、モニターに表示された地図の光点が移動するのを眺めながら
九条提督は、どこか面白がっているような風にそう呟いた。

「……大丈夫ですよ、提督。あの子達なら、きっと」

副官であるガザロフ中尉も、どこか柔らかな声でそれに答えた。

「そう……だな、信じることにしよう。彼女達を。
 では、我々もそろそろ任された仕事を果たすとしようか」

九条提督は、目深に被った帽子をくい、と被りなおして。
視線を前方へと向ける。都市部と、その奥に陣取る敵の姿が霞んで見える。

「艦を前進させろ!そのまま敵艦の射程範囲外で待機。
 R戦闘機部隊は、配置に付き次第出撃。敵を誘き寄せろ!」

力強く放たれた九条提督の声に、すぐさまガザロフ中尉の復唱が並んだ。
“英雄”との最後の決戦の火蓋が、ついに下ろされたのであった。
298 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/27(金) 00:54:51.80 ID:5BeMXVil0
「こちらさやか、ポイントJ-102を通過。敵影なし、進んでもおっけーだよ」

「了解だ、このまま前進する」

やけにノイズ交じりで音質の悪い通信が、さやかと杏子の機体の間で交わされていた。
それは、この時代ではほとんど使われることのない極超短波による通信だった。
交信を行える距離も短く、その質もあまりよくはない。
それでも、あえてそれを使っているのには理由があった。


「まどか、次はどっちだ?」

「えっと……うん、次はそのまま直進、突き当たりを右に曲がって」

タンデム仕様のコクピットの中、後ろに座るまどかに杏子は尋ねた。
まどかは画面に表示されているマップを頼りに、何とか杏子とさやかに指示を送った。

そこは、都市部の地下に広がる広大な地下空間。
その中を、二機のR戦闘機がゆっくりと進んでいた。
299 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/27(金) 00:55:48.25 ID:5BeMXVil0
さやか達が九条提督に協力を求めたその時に、既に彼は半ば今後の方針を決めていた。
現在の戦力では、敵戦闘機群はともかく敵戦艦の撃墜は困難だと推測された。
なにせ、真正面からの撃ち合いで6対1のハンデをひっくり返した相手である。
いかなテュール級戦艦と言えど、単機での撃破は難しい。

とはいえ、敵の戦力は最早ほとんど残っていないのも事実。
だからこそ、彼は待とうとしていたのだ。
今はともかく、もうじき地球の各方面から援軍が到着するはずだった。
今無理に攻めるよりも、援軍を待った方が勝利は確実なものとなる。
それまでの間、敵が逃走しないように適度にプレッシャーをかけていけばいい。
そう、彼は考えていたのだ。

そこにもたらされた衝撃的な事実、なんと敵はかつての英雄、ジェイド・ロスの成れの果てだと言うのである。
成れの果て、なんて言い方には杏子は渋い顔をしていたが、それは今は問題ではない。
俄かには信じがたいが、敵の手並みを見るとそれも納得はできる。
少なくとも、その突拍子もない言葉に説得力を持たせる程に、敵の指揮能力はずば抜けていた。

だとすれば、待ちなどという生ぬるい手を使うわけにはいかなかった。
英雄と称され、望むがままに戦局を塗り替えたとまで言われ
ついには戦慄の魔術師、などという大仰な呼び名まで付いてしまった男が立ちはだかっているのだ。
時間を与えれば、間違いなくこちらに不利になる。
300 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/27(金) 00:56:28.67 ID:5BeMXVil0
すぐさま何らかの手を打つ必要があると、九条提督がその知能を廻らせるよりも一瞬早く
さやかが、やけに大仰な様子で言い出した。
曰く――我に策有り、と。
まんまその調子で言ったものだから、辺り一同脱力したのは言うまでもない。

当初、九条提督はバイドに意思疎通を図るなどという自殺行為を、決して認めようとはしなかった。
それでもさやか達は食い下がり、ついには魔法少女のことも、まどかの能力のことまでもを明かしてしまった。
それこそ信じられない話だと、取り付く島もない九条提督。
助け舟を出したのは、傍らに立つガザロフ中尉だった。

一体どういう情報網によるものか、彼女は魔法少女というものが存在することを知っていた。
噂の範疇を出ず、随分と誇張された風もある魔法少女の能力を述べた上で、改めて彼女は提案した。
その提案こそが、今行われている作戦である。

九条提督の部隊が、真正面から敵の注意をひきつけている間に
さやかと杏子が秘密裏に接近。敵艦に肉薄しこれを撃破する。
その際に何かしらの出来事があったとしても、その対処は現場に一任する。
縦しんば説得できればよし、例え無理でも、十分にそれは奇襲足りえる。
双方にとって、最善の落とし所と言えた。
301 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/27(金) 00:57:01.91 ID:5BeMXVil0
問題はいかにして彼の元へと接近するか。
その方法は、彼自身が示してくれていた。
都市部の地下に広がる広大な空間。これは郊外から都市中心部までにかけて
ありとあらゆる場所に、迷路のように広がっていた。

先の戦闘で彼がそうしたように、今度はこちらがそれを利用してやろうと言うのだ。
かくして、今に至るというわけである。

至急工作機を総動員し、杏子の機体の修復を済ませ。
さらにはまどかが同乗できるように、パイロットユニットをタンデム仕様に換装した。
かくして三人は地下に潜り、敵から察知されるのを防ぐため、極超短波による短距離通信に頼って
広大な地下空間を突き進んでいたのであった。



「敵、戦闘機部隊、来ます!」

ガザロフ中尉の声に、九条提督は意識を思考から戦闘へとシフトさせた。
ビル街に迫るR戦闘機部隊を迎撃するかのように、敵の戦闘機部隊が現れたのだった。

「まずは敵の出鼻を挫く、射線上のR戦闘機部隊を退避させろ!退避確認後、主砲及びグレイプニル砲発射!」

撃ち放たれた陽電子砲が、開戦を告げる合図となった。
302 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/27(金) 00:57:29.76 ID:5BeMXVil0
「上じゃどうやら始まったようだな」

艦砲射撃の轟音が、地響きとなって地下に伝わってくる。

「そうだね、あたしらも急がないとまずいね」

敵が一度使った経路である。
何処にバイドの残党が居てもおかしくない。
慎重に、かつ可能な限り迅速に、さやか達三人は地下を突き進んでいた。

自由に動けるさやかが偵察を行い、まどかがタンデムシートからナビゲートを行った。
地下空間のマップは入手しているが、バイド軍の侵攻の際に破壊されたり、R戦闘機では通れないような区画もある。
通れる場所を探すだけでも、随分と手間のかかる仕事だった。

「次は左かな。その先は道が狭くなってるから、一旦もう一つ下のエリアに降りてから進んでね、さやかちゃん」

「おっけー、まどか。杏子、先に行ってるけど、遅れないように付いてきなさいよっ」

「任せとけ。さやかこそ、うっかりぶつけて機体をダメにするんじゃねぇぞ」

救いを求めて、少女達が地の底を行く。
その行軍は、どこか楽しげにさえ見えた。
そんな風に振舞わなければ、この場に立ってもいられない。
ただそれだけのことなのだけれど。
303 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/27(金) 00:58:04.39 ID:5BeMXVil0
「っ……ストップ!杏子……やっぱりいたよ、しかも、ゲインズだ」

レオUのセンサーが、前方のバイド反応を捉えていた。
その反応は、ゲインズの存在を示している。
動いている様子はない、既に戦闘不能ならばいいが、そうでないとすれば拙い。

「どうする、仕留めるか?」

「いや、下手に暴れられたらあたしら生き埋めになっちゃうっての。
 ……なんとかやり過ごすなり、上手く撒いてやるなりしたいところだけど」

こんなところに居ることを知られては、折角の奇襲が台無しになってしまう。
接近するチャンスも失われるだろう。

「まどか、この先のルートってどうなってる?」

「この先は……十字路を右に、それから上のエリアに出れば、あとはしばらく真っ直ぐかな」

マップの扱いにも大分慣れたようで、まどかの声にももう迷いは見られない。
その声を受けて、杏子とさやかは考え込んだ。

「十字路ってことは、別の場所から道が繋がってる、ってことだよね」

「……だろうな。上手いこと迂回路を見つければ、あいつに引っかからずに進める、か」

「そうだね、道がないかどうか探してみるよ」

その間は、前方の敵を刺激しないよう待機。
緊迫した時間。張り詰めた空気と沈黙の中に、R戦闘機の駆動音とモニターを操作する音だけが響いていた。
304 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/27(金) 00:58:38.75 ID:5BeMXVil0
「……見つけたよっ!一旦戻って、さっきの通路を左!」

「よっしゃあ!それじゃあ急いで行っちゃうよぉーっ!!」

「わっ、バカ、さやか、急に動くんじゃ……っ」

一気に通路へ向けて駆け出そうとしたさやか。
まずは一度機体の向きを変えようとした杏子。
なんとも運の悪いことに、その二機の軌道は交差してしまった。

「きゃぁっ!?」

「うっわわわっ!」

「くっ……こんの、バカさやかっ!!」

機体同士が軽く接触。
そのまま弾かれ、あわや壁に衝突するかというところで。
辛うじて、機体に制動をかけることに成功した。

したの、だが。

「……げげ、やばいよ。今のでゲインズが動き出した!」

「んな……ったく、何やってんだこんな時に。とにかく、見つかったら終わりだ。
 さっさと、その迂回路を抜けるぞ。まどか、ナビを続けろっ!」

「う、うんっ!」

先ほどまでの、張り詰めていながらもどこか余裕のある雰囲気が一変。
死と隣合わせの戦場が、ついにこの地下空間にまでも押し寄せてきた。

後方より迫る敵の反応を感じつつ、二人はできる限りの速度で地下空間を駆け抜けていくのだった。
305 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/27(金) 00:59:09.14 ID:5BeMXVil0
「戦況はほぼ硬直状態……いや、こちらがやや不利か」

前線の戦況を眺めて、重々しく九条提督は呟いた。
R戦闘機部隊には、敵の撃破よりも戦線の維持と撃墜されないことを優先して命じてある。
そのお陰か、今のところ多少の被弾はあれど、撃墜されたものは居ない。
それは敵も同じことで、戦況は一進一退。
向こうにはまだ切り札たる戦艦があるだけに、戦況はやはり不利と言わざるを得なかった。

ただ、時間が稼げればいい。
その方面から考えれば、この結果はまずまずと言えた。

「敵艦の動きは?」

「今のところ静観しているようです。彼女達も、まだ到着してはいないようです」

即座に帰ってきた報告に、九条提督は帽子を目深に被りなおして。

「……急いでくれよ。持たせるのにも限度がある」

再び戦場へと意識を向ける。
散発的に巻き起こる閃光と爆発。
傷つけられていく都市。避難は済んでいるとは言うが、これでは被害は出ないはずも無い。
ましてや、これが実は人類同士の争いなのだと言う。
そう考えると、えもいわれぬような空しさを、九条提督は感じていた。

何処までも孤独に戦い抜き、そして今尚ああして立っている彼が
どうしようもなく、憐れに思えてしかたがなかった。
306 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/27(金) 01:00:37.33 ID:5BeMXVil0
「敵艦に動きあり!こちらへ向かってきますっ!!」

そして、ついに彼は動き始めた。
もしや彼女達が気取られたかと、不安を抱いた九条提督だったが
敵が直接こちらを目指していると知り、まずは一つ安堵した。

「R戦闘機部隊を後退させろ、敵の艦砲射撃の範囲に入れさせるなっ!
 間に合ってくれよ……」

敵が動き出した以上、こちらも動かなければならない。
恐らくこのタイミングで仕掛けることが出来なければ、最早彼女達は地下で立ち往生するしかない。

「敵、艦首砲に高エネルギー反応。撃ってきます!」

後退が遅れた部隊が、敵艦の攻撃範囲内から逃れることに失敗したようだ。
それに狙いを定め、コンバイラベーラの艦首砲、フラガラッハ砲Uが放たれようとしていた。

「く……敵艦首砲の発射と同時に前進!グレイプニル砲で敵艦を直接叩くっ!」

こうなれば、後は艦砲射撃の撃ち合いに任せるしかないと九条提督は判断した。
少なくとも一度撃ってしまえば、艦首砲の再度発射まではチャージが必要となる。
先手は取れるはずだと、九条提督は前進を命じながら考えていた。

そして、ビル街を薙ぎ払って放たれるフラガラッハ砲U。
二股に分かれ、広い範囲を焼き払っていった。
回避をし損ねた味方機が、光に飲み込まれて潰えていく。


その、激しい光の炸裂と同時に。

「行くぞ、さやか、まどかぁっ!!」

「おっけー!任せなさいっ!!」

「うん、行こうっ!!」

地表を吹き飛ばし、放たれた波動砲の一撃。
そしてそれが穿った穴の奥底から、赤と青の機体が飛び出した。
307 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/27(金) 01:01:11.98 ID:5BeMXVil0
「来たかっ!!」

その反応を察知して、スキタリスのブリッジで九条提督が声を上げる。

「確かにレオUとキングス・マインドの反応です。
 二機は健在ですっ!敵艦に向けて接近中っ!」

奇襲は成功した。
ついにあの英雄に、一矢報いることが出来たのだ。
後は彼女達が上手くやってくれるのを祈るだけだ、と
九条提督は、湧き上がる笑みを隠そうともせずに考えていた。


ちょうど彼女達が地下を駆け抜けていた頃。
それはコンバイラベーラが移動を開始した、その時で。
頭上を移動するコンバイラベーラの反応を、二人の機体は確かに捉えていた。
すぐさま波動砲をチャージ、直上へ向けて放つと共に、降り注ぐ破片や土砂を振り切って
赤と青の光が、地表へと駆け上がっていった。

場所はほぼコンバイラベーラの直下。
呼びかけるにも、接触通信を図るにも絶好のポジションだった。

「行くぞ、外部通信チャンネル解放。届けるぞ、あたしらの声をっ!まどかっ!!」

「うんっ!全力で、思いっきり呼ぶよ、ロスさんをっ!!」

二人が息を吸い込んだ。
目前に迫る、禍々しくも美しい、紅。
その紅に触れようとして、声を放とうとして。
その、直前に。

激しい光を巻き上げながら、それは割り込んできた。
308 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/27(金) 01:02:17.94 ID:5BeMXVil0
「ロス……っぐあぁぁっ!」

「ロスさ……きゃぁぁっ」

呼びかけようとした声は、途中で悲鳴に変わっていた。
割り込んだのは、禍々しい異形の機体。マッド・フォレストV。
先の戦闘でさやかと杏子を苦しめ、マミが命がけで撃退したその姿を
どうしても連想させる、禍々しい姿だった。

割り込んだ光と交差して、弾き飛ばされ進路がずれる。
さらには火花と爆発を巻き起こすキングス・マインド。
あの一瞬の間に、敵はしっかりと攻撃を入れていたらしい。

「間違いない、こいつは……」

その恐ろしいまでの技量を、容赦ない攻撃を目の当たりにして、理解する。
さやかはその敵機へと機体を走らせながら。

「やっぱりそうかよ、あんたならここに居ると思ったよ」

杏子は、錐揉みする機体に制動をかけ、更に迫る敵機に迎撃の意思を向けながら。



「マミさんの、仇ぃぃィっ!!」

「アーサァァァァっッ!!!」

二人の怒号が、戦いの空に交差した。
309 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/01/27(金) 01:08:24.98 ID:5BeMXVil0
彼女達の声は“英雄”に届くのか!
次号、激突必至!

と、それっぽい煽りを入れたところで。

>>292
下手したらワイズマン以上にパイロット使い捨てじゃないですかー、やだー。
まあそんなものが出るとしたら、機械系バイドとか生物系バイドとかで属性分けがされそうですね。

>>293
というわけで最後の問題です。
最大の試練とも言えるでしょうか。

突撃特攻はいろんな意味で浪漫ですからね。
パイルバンカーがある時点でもう色々とお察しですが、この世界は。

>>294
いずれにせよ、最早どちらも残る戦力はそう多くはありません。
これが本当に最後の最後の戦いです。最後に勝利するのは誰なのでしょうね。
まどかもいよいよ、本格的に戦いの運命の中に投げ出されていきましたし。

やっぱり買っててよかったR-TYPEsってなとこでしょうか。
後はVさえどうにか手に入れば……なんですけどね。

>>295
時は来ました。
全てを知り、覚悟を決めて。
ついに彼と対峙する時が来たのです。
310 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/27(金) 03:19:27.24 ID:N0qDNR/Eo
この話ももう終わりが近いのか・・・
少し気が早いけど次回作の構想ってあるのかな?
311 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/27(金) 08:35:49.01 ID:H3PVcVcDO
連投お疲れ様です!
アーサーさんはロス提督の言葉でしか止まってくれそうにないよなぁ。それにまどか達は救いに行くと言うが、バイドだと気付かせる事が救いとは思いづらい。そんなの聞かされたら普通は逆上しそうだ。
312 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/01/27(金) 14:27:44.19 ID:uYg7f5iv0
では、投下を始めます。
313 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/27(金) 14:28:34.02 ID:uYg7f5iv0
「さやか、こっちにゃまどかが居る、あんまり無茶はできねえ。
 あいつの……アーサーの相手を頼むっ!」

「任されたっ!やっつけちゃっても、恨むんじゃないわよっ!!」

奇襲は防がれた。
けれど、まだ終わりと決まったわけではない。
再び機首をこちらに向けて、突撃してくるアーサー機。
それを真正面から迎え撃ち、立ち向かうさやか。

「今度こそ、行くぞ。まどかっ!!」

「今度こそ、伝えるよ。杏子ちゃんっ!!」

そして、杏子とまどかは再びコンバイラベーラへと接近する。
しかしもはやそれは奇襲ではない。
その進路を、無数の追尾レーザーとファットミサイルが塞いでいる。

「ったく、下にも死角なしかよ。……掻い潜って接近する。
 舌ァ噛むんじゃねーぞっ!!」

「うんっ!お願い……気づいて、ロスさんっ!!」

迫る追尾レーザーを、十分に引き寄せてから回避。
そこへ殺到するファットミサイルを、レーザーで打ち砕き、フォースで受け止め接近する。
再び外部通信をオンに、そして叫ぶ。
314 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/27(金) 14:29:00.75 ID:uYg7f5iv0
「ロス、私だ。杏子だっ!気づけよっ!ここまで、会いに来たんだぞッ!!」

「ロスさん、私だよ、まどかだよっ。お願い、話を聞いて……ロスさんっ!!」

外部スピーカーで拡大された声が、戦場に響く。
降り注ぐ攻撃の雨と、巻き起こる爆発の嵐の中でも、それは確かに響いた。
そして、僅かな間をおいて。

コンバイラベーラは再び、追尾レーザーによる攻撃を開始した。

「駄目かっ!こうなりゃ仕方ねぇ。あいつに接触して、直接伝えに行く。
 ……お前はそのまま呼び続けろ、まどかっ!!」

「分かってる。お願い、答えて!もう一度私の話を聞いて!ロスさんっ!!」

帰ってくるのは、無慈悲な破壊の光だけだった。
315 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/27(金) 14:29:29.80 ID:uYg7f5iv0
「杏子とまどかがうまくやってくれれば、それで戦いは終る。
 ……でも、その前に。お前だけは、お前だけはあたしが倒してやるっ!!」

青い光を纏ったまま、アーサー機へと突撃を仕掛けるさやかのレオU。
レオUリフレクトレーザー改を掻い潜り、そのままアーサー機が接近。そして交錯。
すれ違いざまに一撃を叩き込まれ、レオUの機体から火花が散った。

「まだだっ!負けるもんか、負ける……もんかぁぁぁっ!!!」

それを即座に、さやかの魔法が修復していく。
即座に機体を旋回。再びアーサー機へと向かっていく。
アウトレンジからの撃ち合いでは決着はつかない。
どれだけ攻撃を受けてもいい、白兵戦で確実に一撃を叩き込む。

アーサー機もそれに応じ、再び二機が交錯する。
次の瞬間には、互いの機体が同時に火花を上げていた。
空に輝くは電流火花、激しくぶつかり合う度に
どちらの機体からも、それが何度も散りばめられた。
316 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/27(金) 14:29:59.70 ID:uYg7f5iv0
「もう少し……もう少しだけ頑張れ、あたしの体……ッ」

ソウルジェムの穢れは恐らくもう限界に近い。
体の奥に、じくじくとした疼きが芽生えていた。
そしてそれが、じわじわと全体に広がっていくような嫌な感触。
それが全身に広まったときどうなるか、それは考えるまでもないことだった。

そんな恐れも全て飲み込んで、さやかはさらに戦いへと没入していく。
壊されたサイビットを即座に再構成、機体をそのままぶつけるような勢いで接近し
サイビット・サイファとレーザーによる波状攻撃を展開する。

サイビットが、アーサー機の前方より生える蔦状組織をへし折った。
回転しながら後方へ吹き飛ばされるも、すぐさま機体を制御し迫るアーサー機。
その先端から生じた蔦状のエネルギーが、さやかの機体を掠めた。

「いい加減それも見飽きたっての、そうそういつまでも、当たってなんか……っ!?」

その発射の瞬間を見切り、回避に成功したさやかだったが。
伸ばされた蔦からさらに生じたその花が、レオUの装甲を食い破っていた。
317 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/27(金) 14:30:34.55 ID:uYg7f5iv0
「こんな……ことで…やられて、たまるもんですかぁぁーっ!!!」

直後、まるで吹き上げるかのようにレオUから奔流する青い光。
その光は、装甲を食い破る花弁を吹き飛ばし、さらにその機体を修復させる。
バイドすらも超える異様な再生能力、そしてその恐ろしいまでの気迫。
それに圧されて、ついにアーサー機が背を向けた。

敵の正体が分からない以上、単独で立ち向かうのは危険だと考えたのかもしれない。
だが、とにかく彼は背を向けたのだ。急速に離れ、距離をとる。
そのアーサー機に、直下から現れたサイビットが強烈な一撃を叩き込んだ。

「かかった!今度こそ、今度こそ……これで、終わりだぁぁぁっ!!」

それは先に破壊され、そのまま破棄されたはずのサイビット。
さやかはなんとそれを遠隔で再生させ、三つ目のサイビットとして起動させたのだ。
デバイスのオーバーロードと、機体の吐き出すエラーを強制的に黙らせて。
そして今、ついに最高のチャンスが訪れた。

明確な撃墜の意思を持って、最後の一撃が放たれようとしていた。
318 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/27(金) 14:31:01.71 ID:uYg7f5iv0
「ったく、厄介な弾幕だ。ちったぁ休めっての!」

敵の砲台は実に勤勉で有能だった。
休む暇も与えずに迫り来る追尾レーザーとファットミサイル。
それを回避するのが精一杯。これ以上距離を詰めれば、それすらも敵わなくなる。
とはいえこれ以上時間をかけ続ければ、前線の部隊もさやかのことも心配だ。

「覚悟決めるか……まどか、とにかく体を固定しとけ。相当暴れるぜ」

「っ……うんっ!」

既に今までの機動ですらも、激しく機体は揺さぶられ続けて。
なれないまどかにとっては、もはや酔うどころの話ではなかった。
それでも今だけは、と必死にシートにしがみついた。

(ロスさん、ロスさん……ロスさんっ!!)

言葉を放つ余裕がなくなっても、それでも必死に心の中で呼びかけながら。
319 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/27(金) 14:31:28.17 ID:uYg7f5iv0
敵機の地中からの奇襲。
それを予想していないわけではなかった。
こちらが取った手を、敵が取れない訳はないからだ。
とは言え、敵には先ほど我々がそうしたように、地下からの奇襲部隊に多くの戦力を割く余裕はないだろう。
だからこそ、恐らく少数精鋭で向かってくるであろう敵の奇襲に備えて
アーサーを艦の護衛につかせていた。

その読みは当たり、敵機の地中からの奇襲を見事にアーサーは阻んでくれた。
だが、状況はまだ決していない。
どうやら突入してきた敵は相当の手練のようだった。
一機はアーサーと激しい空戦に突入し、未だにそれを続けている。
そして艦に迫ったもう一機。接近は阻んでいるが、撃破には至らない。

前方の戦線も気にはなるが、どうやらこちらを先にどうにかしなければ
そちらを気にしている余裕もなさそうだ。
まずは艦に接近しようとする敵機を叩き落すため、私は艦を旋回させた。
既にフラガラッハ砲Uのチャージは完了している。
全砲座による一斉射撃で、敵を叩き落してやろう。


いよいよ突撃しようと意思を固めた杏子の前に、コンバイラベーラはその艦首を向けた。
既にチャージを完了させた艦首砲が、その照準をキングス・マインドに合わせていた。
進化し、より広域を攻撃可能となったフラガラッハ砲U。
そして今尚降り注ぐ砲撃と合わせて、もはや杏子に逃げ場と言えるものは何一つ存在していなかった。


――これで、終わりだ。

フラガラッハ砲Uの照準が敵を捉え、後は発射の命を出すだけだった。
この位置ならば外しはしない。十分な確信を持って、私はその命令を出した。

――フラガラッハ砲U、発『やめて、ロスさんっ!!』

――っ!?緊急回頭っ!!
320 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/27(金) 14:32:03.54 ID:uYg7f5iv0
艦首砲が放たれる直前、突如としてコンバイラベーラの艦体が錐揉みするかのように旋回した。
艦体の制動などまったく考えないその動きは、艦のコントロールを一時的に失わせ。
コンバイラベーラは、明後日の方向にその艦首砲を撃ち放ちながら
並び立つビルの残骸に、その身を強く撃ちつけていた。


「な……っ」

放たれようとした艦首砲、それをどうにか回避しようとしていた杏子は
その突然の挙動に、思わず驚愕の声を上げていた。
艦首砲は明後日の方角を貫き、敵の迎撃兵器もその一切の攻撃を止めていた。
ビルの残骸に身を預けたコンバイラベーラは、まるでこちらを見つめているようで。
どこか、戸惑っているようにも見えた。

一瞬、呆けたように動けずに居た杏子は。

「杏子ちゃんっ!今だよ、届いたんだよ!ロスさんに、私達の声がっ!!」

まどかの声に、我に返ったように目を見開いて。

「……そう、だな。何だっていい、ロスに接触するチャンスだっ!」

そして杏子はキングス・マインドを走らせ
動きを止めたコンバイラベーラの艦首部分に、自らの機体を接触させた。
321 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/27(金) 14:32:30.29 ID:uYg7f5iv0
「終わりだぁぁぁぁぁ……あ、あれっ?」

気がついた時には、さやかは奇妙な空間に立っていた。
足元には奇妙な靄のようなものが垂れ込んでいて、見える空はどこまでも琥珀色に美しくて。
どこまでもただ広いその場所は、靄の向こうの地平線の彼方まで、その視線を遮るものは何も無かった。

「え、ちょっと。どーなっちゃってるわけ?これは」

その荘厳ともいえる景色に、半ば圧倒されながら。
それでもさやかは、自分が置かれている状況を思い出して騒ぎ出した。
そう、つい先ほどまで自分は戦っていたはずなのだ。
我が身を省みないほどの猛攻で、ついにあの敵機を追い詰めたはずだったのだ。
なのに、なぜか今こんなところでこうしている。
さっぱり訳が分からなかった。



「いつのまにやら天国行き……なんてわけ、ないよねぇ?
 いくらなんでも天国にしちゃ殺風景過ぎるし」

「そうだな、そもそも本当に天国なら、そんなところに俺は居ないはずだ」

「え?」

そんなさやかの声に答えて、一つ、男の声がした。
気がつくとさやかの隣には、長身の男性の姿があった。
軍服姿で銀髪の、随分整った容姿の男性だった。
322 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/27(金) 14:32:57.59 ID:uYg7f5iv0
「だ、だだっ!?誰なのよあんたはーっ!?」

余りの動揺に口調を取り繕うことも忘れて叫ぶさやか。
そんなさやかに、男はやかましいな、とでも言うかのように顔を顰めて。

「やかましいっ!」

と、まさにそのまま一喝した。
それから、一つ小さな咳払いをして。

「状況が分からないのは俺も同じだ。まあ、まずはそこから確認していくことにしよう。
 地球連合軍バイド討伐艦隊所属、第一機動部隊隊長の、アーサー・ライアット中佐だ。
 お前の所属と階級は?」

一気に、そう捲くし立てるのだった。
323 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/27(金) 14:33:28.59 ID:uYg7f5iv0
「ん……あ、れ。どうなってんだ、こりゃあ」

杏子も同じく、その不思議な空間で目を覚ました。
コンバイラベーラに接触した瞬間に、急に意識が途絶えてしまった。
そして目が覚めると、こんな場所にいた。
やはりその場所の荘厳さに、半ば心を奪われつつも杏子は辺りを見渡した。
まどかは、さやかは、そしてロスはどうなったのだろうか。

人影を見つけた。
とにかく何かが分かるかもしれないと、杏子はそれをめがけて駆け出した。
だんだんと、その人影がはっきりと見えてくる。
どうやら一人ではないようだ。
さらに駆け寄る、ついに見えたその姿は。


「…………お前ら、何やってんだ」

まどかをその両手で抱きしめる英雄、ジェイド・ロスの姿と。
思いっきり困惑した表情で、抱きしめられているまどかの姿だった。

色々な感情が一気に去来して。
まず最初に口火を切って出たのは、そんな言葉だった。
なんだか、途方も無く脱力感を感じて杏子はその場にへたり込んでしまった。


「っ、杏子ちゃんっ!違うんだよ、これは……ちょっと、離してくださいっ!」

途端に大慌てでそれを振りほどいて、まどかは杏子の元へと駆け寄った。

「ああっ!?待ってくれマドカ、もうちょっと話を……って、キョーコ?」

追い縋ろうとしたロスは、そこでようやく杏子のことに気づいたようで。
何とか衝撃から立ち直った杏子は、ゆっくりと立ち上がる。
そして、完全に目の据わった様子でロスを睨み付けた。
324 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/27(金) 14:34:01.31 ID:uYg7f5iv0
「もしかして、本当にキョーコなのか?……まさかまた会えるなんて。
 随分背も伸び…っげひゃぁっ!?」

途端にその表情を輝かせて、杏子に歩み寄るロス。
杏子は、その嬉しそうな笑みを湛える頬に、全体重を乗せた渾身の拳を打ち放った。
驚いて目を見開いたまどかの前で、ロスの体がぐるんと回る。
そしてそのまま、ばたりと倒れた。

「な……いきなり、何をするんだキョー、げふぁっ!」

起き上がろうとしたロスに、杏子はさらに容赦の無い前蹴りを叩き込む。

「今のは……あたしを置き去りにしてくれやがった分だ」

燃え上がるような怒気を孕んだ声で、杏子はそう言うと
そのまま再び倒れこんだロスの上に馬乗りになって、更なる殴打を続けた。

「これは散々あたしを子ども扱いしてくれた分っ!
 これは、こんなふざけた騒ぎを巻き起こしてくれた分っ!!」

思いがけなく思い拳がロスのレバーを捉えて、鈍い痛みにロスは顔を顰める。

「そしてこれは、まどかにセクハラしやがった分だぁぁぁっ!!」

「まて、それは誤か……ぎゃっはぁ!?」

問答無用の一撃で、またしてもロスは悶絶し。

「そしてこれは、これは……」

それでも尚止まらず、杏子は拳を撃ち付ける。
けれど、だんだんとその力は弱くなっていき、だんだんと声も弱弱しくなっていき。


ようやくお互いの状況をそれなりに把握し、人影を見つけて駆けつけたさやかとアーサー。
その二人が見たものは。

声を限りに泣きながら、横たわったロスに抱きつく杏子の姿。
そしてそんな杏子を受け止め、そっと髪を撫でるロスの姿。
そんな二人を、優しい笑みを浮かべて見つめるまどかの姿だった。
325 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/27(金) 14:34:27.57 ID:uYg7f5iv0
「――で、結局そっちでも、ここがどこなのかはわからなかったわけだ」

座り込んで、さやかとまどか、そしてアーサーが顔を見合わせている。
口火を切ったのはアーサーだった。
未だにこの場所がどういう場所なのかは分からない。
足元の靄をかきわけてみたが、どこまでもそれは広がっているようで。
けれど足元はしっかりしていて、どうにもおかしな感じだった。

「あたしらは、ついさっきまで戦ってたはずなのにさ。なんでこうなってるんだろ」

その言葉を次いで、さやかが言う。
アーサーが先ほどまで戦っていた相手だと言うことはわかっていた。
それが人類に多大な破壊をもたらしたことも、マミを殺したのだということも分かっていた。
けれど、どうしてもその責をアーサーに問うことはできなかった。
このどこまでも綺麗な琥珀色の世界を見ていると、そんな怒りさえもが薄れていくような気がした。

「これも、もしかしたら誰かの魔法なのかもしれないね。
 話がしたいって、分かり合いたいって。そんな願いが叶ったのかも」

視線の向こうに、今尚何かを話し込んでる杏子とロスを見据えて。
柔らかな笑みを浮かべて、まどかはそう言った。
本当の所は何もわからない。
けれど今は、今だけはこうして、戦いの狂気や脅威から逃れることができている。
そして、ずっと会いたかった人とこうして言葉を交わすことが出来ているのだ。
326 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/27(金) 14:34:54.39 ID:uYg7f5iv0
「そもそも、俺はその魔法とかいうものがまず信じられん。
 ……まあ、ここの所戦い詰めで、こんな穏やかな気分を感じたのは久々だけどな」

理解できない。そんな様子ではあるが、満更でもなさそうなアーサーが。

「あんたは、さ。自分が今まで何をしてたのか、わかってるの?」

そんなアーサーを横目で見ながら、複雑な心境を抱えてさやかが問いかけた。
彼らはまだ、自らがバイドであることを知らずに居る。
だからこそ聞きたかった。何故彼らは、仲間であるはずの地球軍と戦いを続けていたのかを。

「ずっと戦っていたな。何せ地球軍の連中がどこまでも俺たちに立ちふさがってくるんだ。
 ただ、俺たちは地球に帰ろうとしただけなのにな。……正直、訳がわからなかった」

それでも不思議と、今は落ち着いているな、と付け加えて。

「本当に、何も思いつかないの?自分が攻撃される理由」

「……さて、ね。そこそこ恨みは買ってたはずだが。
 それでもここまでこっ酷く歓迎される謂れはないな」

お手上げだ、といった様子のアーサー。

「じゃあ、あたしが教えてあげるよ」

そんなアーサーに、さやかはどこか底冷えのする声で言い放つ。

「さやかちゃんっ!」

「……言わなきゃ、しょうがないでしょ。あたしらはそのために来たんだから」
327 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/27(金) 14:35:29.35 ID:uYg7f5iv0
「何の話をしているのかね。出来れば私にも聞かせてもらいたいな」

そんな話を遮ったのは、ロスの声だった。
いつの間にやらこちらまで来ていたようで、隣には泣きはらして俯き顔の杏子の姿も。

「いいよ、まとめて聞かせてあげるよ。あんた達が追われていた理由をさ」

「さやかちゃん、お願いだから待ってよ!……今は、今だけは、ね?」

ロスの前に立つさやか、それを止めようとするまどか。
その二人を制したのは、突き出された杏子の手だった。

「……あたしが、伝えるよ。これは、あたしが言わなきゃならねぇ事だ」

「杏子ちゃん……」

「できるの、杏子?」

気忙しげに杏子を見つめる二人。
杏子は顔を上げて、今にもまた泣いてしまいそうな顔をして。

「……ここで言えなきゃ、何のために来たんだかわからねぇだろ」

いつしか、琥珀色の世界に風が吹き込んでいた。
328 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/27(金) 14:35:58.65 ID:uYg7f5iv0
杏子は、ロスとアーサー、二人の前に立つ。


「ロス、アーサー。あんた達は、もう地球には居られない」

静かに、その言葉を紡いでいく。

「折角帰ってきたってのに、キョーコまでそれを言うのかよ。
 ったく、どうなってやがる」

アーサーは一つ悪態をつく。
ロスは、黙して何も答えない。

「あたしだって、あんたらとずっと一緒に居たいよ。
 できることなら、ここでずっとこうしてたいって思う。
 っていうか、前のあたしなら間違いなくそうしてた。
 他の事なんか気にしないで、あんたらと居ることを選んだと思う」

声が震える。
泣くな、ここは絶対に泣いちゃいけないんだと、杏子は自分に言い聞かせる。

「でも、今のあたしには仲間が居るんだ。一緒に戦いたい、生きていきたいって思える仲間がいる。
 あたしはもう、一人ぼっちの子供じゃない。だから、あんたらと一緒には居られない」

さやかが、まどかが。
その言葉に小さくその身を震わせた。
329 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/27(金) 14:37:00.27 ID:uYg7f5iv0
「そして、この星を、太陽系を守ってやりたいって気もする。
 あんたらがそう願ったみたいに、あたしも守ってみせる。……だから、そのためにも、駄目なんだ。
 だって……だって」

嗚呼、とロスの口から小さな声が漏れた。
必死に言葉を紡ごうとする姿は、やはりまだ震える子供のそれで。
今すぐにでも駆け寄って、その肩を抱いてあげたくなる。
けれど、それは出来ないのだと知っていた。

自分と杏子との関係を、親子と言うことが許されるのならば。
どんな子にも、どんな親にも、決別の時がなければならないのだ。
それを、ロスは知っていた。


「――あんたらは、もう……バイドになっちまったんだからさ」

風が、一際強く吹き荒れる。
足元の靄が吹き消され、そして消えていく。
靄の下に、一面に広がっていたものは。まるで澄んだ鏡のような水面で。
各々の足元からは、どこかの光に照らされて、その姿を映し出していた。。

ロスとアーサーの足元から伸びるそれが映していた姿は。







――コンバイラベーラと、マッド・フォレストVのそれだった。
330 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/27(金) 14:37:51.32 ID:uYg7f5iv0
「な……んだ、これは。何だ、これはぁぁァッ!!?」

アーサーの絶叫が響く。
それを、まるで身を切られるかの様な悲痛な表情で杏子は見つめていた。
それ以上、声をかけることも出来なかった。

「そうか、もう。既に我々は……」

震える手を、じっと見つめてロスは呟く。
足元に伸びる異形の戦艦は、まるでこちらを見ているようで。

「我々はもう、人間ではなくなっていたのか」

さほど取り乱すこともなく、ただ淡々と事実を受け止めていた。

「何を落ち着いてやがる、ロスっ!!」

アーサーが、そんなロスの胸倉を掴んで。

「俺達は人間じゃなくなっちまった、バイドになっちまったんだぞ!
 もう誰も俺達を迎えてくれない、どこにも俺達の帰る場所なんてない!
 なのに、なのになんだってお前はそんなに落ち着いやがるんだっ!!」

「落ち着いているわけじゃないさ。アーサー。……ただ、ようやく納得がいっただけさ。
 我々が拒まれ続けた理由。我々が攻撃を受け続けてきた理由。全て、全てに納得がいった。
 すっきりしたような気分だよ」

ぎりぎりと締め上げられて、その体が僅かに浮いた。
それでもロスは構わずに、静かに言葉を続けるばかりで。
331 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/27(金) 14:38:26.27 ID:uYg7f5iv0
「……地球を発とう。アーサー。これが分かった以上、我々はもうこの星には居られない」

「っ……何を、言ってやがる。俺は御免だっ!行くならお前一人で行け!
 俺は、俺は帰るんだ!でなけりゃ、何のためにここまで来たんだか分からないだろうがっ!
 お前は、お前は本当にそれでいいのかよ、ロスっ!!」

いつしか締め上げるその手は、縋るように掴むだけになっていて。
悲痛なアーサーの声は、涙すら混じるようになっていた。

大の大人が、こうして涙を流して叫ぶ姿。
少女達にとって、それは生まれて初めて見る光景だった。

「……頼むよ、アーサー。私も一人で旅をするのは御免だ。
 お前が居てくれると、私もすごく助かるんだ」

そんなアーサーに、ロスはそう頼んだ。
アーサーは、ゆっくりとロスの服から手を離す。
体が震えて、それでもやがてゆっくりと、アーサーも顔を上げた。

「いまさらだけどな、士官学校を出る時の、お前の頼みなんて聞かなければいいと思ったよ。
 でもな、そいつを飲んじまったんだよな、俺は。……ったく、わかったよ。付き合ってやる。
 地獄の底だろうと、宇宙の果てだろうとな」

そう言って、少年のように服の裾で目元を拭って。
アーサーは、どこか不貞腐れたようにそう言った。
“この先も、私についてきてくれないか?”と、かつてのロスの頼みを思い出していた。

「すまない、アーサー」

そしてロスも、いつかのようにそう答えるのだった。
332 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/27(金) 14:38:58.65 ID:uYg7f5iv0
「行くのか、ロス」

おもむろに、杏子がロスに声をかけた。

「ああ、この星には我々の居場所はない。
 だから、どこかに探しに行くことにするよ。
 我々が、安心して暮らすことの出来る星をね」

ロスは、そう言って小さく笑った。

「……こいつ一人じゃ不安だからな、俺もついていってやることにするさ」

アーサーも、とうとう覚悟を決めたようで。
どちらかといえば開き直ったような調子で、そう答えた。

「ロスさん……行っちゃうんですね」

まどかもまた、静かにロスに言う。

「ああ、正直君とはもうちょっとゆっくり話がしたかったのだけどね。
 まあ、もしまた前のように話すことが出来るのなら
 落ち着いた頃にでも、また連絡をくれると助かるよ」

そんなまどかに、ロスはやわらかく笑みを向けて。

「あたしは、あんたらのしたことを許すつもりも忘れるつもりもない。
 ……だから、あんたらが戦い抜いたことも、ここに帰ってきたことも
 そして、宇宙のどこかにあんたらがいることも、絶対に忘れないよ」

泣きたいような、怒り出したいような不思議な感情。
それを押し殺して、なんとかさやかが口を開いた。

「まあ、誰にも見送られないまま行くよりはマシか。
 ……ありがとな、それと。すまない。さやか」

アーサーは一度、深く頭を下げた。
333 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/27(金) 14:39:33.08 ID:uYg7f5iv0
「じゃあ、そろそろ行こうか」

琥珀色の世界が崩れていく。
この世界が何故生まれたのか、誰が望んだのか
そんなことは誰にもわからなかった。
そして、知る必要すらもないことだった。

崩れ往く世界の中で、二人は最後に少女達の方を向き。



「……達者でな」

「いつか……星の海で」





――世界は、消失した。
334 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/27(金) 14:40:14.49 ID:uYg7f5iv0
気がつけば、さやかはレオUを駆って空を飛んでいた。
隣には、併走するマッド・フォレストV。
どれだけの時間が過ぎていたのだろうと思ったが
時計の上ではほんの一分に満たないような時間だったらしい。
その事実が、さやかにとってはまた不可解だった。

アーサーにも、さやかにも、もはや戦意は欠片もなく。
アーサーは、そのままコンバイラベーラへと戻っていった。


キングス・マインドの中で、杏子とまどかは目を覚ました。
眼前には、巨大なコンバイラベーラの姿があって。
それはまるで眠っているかのように佇んでいたが、急に光を放ち、飛び起きるかのように浮かび上がった。
そんな姿が妙におかしくて、二人は笑う。

そこへアーサーが戻ってきた。
そしてまたしばらくすると、残りの戦闘機部隊もまた、コンバイラベーラの中へと収容されていった。


「……やった、のか」

突如として抵抗をやめ、まるで逃げるように撤退していく敵部隊。
R戦闘機部隊に、それ以上の追討はしないよう命じ、九条提督はその姿を見つめていた。
戦闘機部隊を収容し、都市部を離脱。
都市上空でゆっくりと機体を巡らせて、まるでその姿を目に焼き付けるようにする
コンバイラベーラの、英雄の姿を。九条提督は目に焼き付けるようにして見つめていた。

その、悲しくも美しい姿に
自然と、彼は敬礼をしていた。
335 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/27(金) 14:40:55.70 ID:uYg7f5iv0
無残に破壊された都市。
これも全て、我々がここに来てしまったからなのだ。
それを考えると、胸が痛くなる。
それでも、この地球の、人々の営みをしっかりと私は目に焼き付けた。
これが最後となるであろう、美しい地球の光景を。

視線を空へ移す。
そこには、もう夜の帳が迫っていた。
夕日がゆっくりと沈んで行き、その背を追うように夜が来る。

――さあ、行こうか。

自分に言い聞かせるようにしてそう言うと、私は自らの機関に火を入れた。




沈む夕日を見ながら思う。
よかった、と。
かつて私が考えたような、人類が星の海への扉を自ら閉ざしてしまうようなことが
それが杞憂に終ったことに、私はとにかく安堵を感じていた。

いつか人がその版図を星の海の向こうにまで広げていけば。
もしかしたら、どこか安住の地を見つけることに成功した我々と、また出会うことが出来るかもしれない。
そう思ったからだ。
その時にはきっと、我々は彼らの同胞としてではなく、星の海を越えた友人として
また、触れ合うことが出来るのかもしれないと思ったからだ。

遥かな未来への、一欠けらの期待。
それがあるだけでも、私達はどこまでも、この星の海を渡っていける。
エーテルの海を越えて、どこまでも、いつまでも……。
336 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/27(金) 14:41:22.14 ID:uYg7f5iv0
「全艦、一斉射撃!!」

浮上する敵艦を眺めて、ニヴルヘイム級二番艦、アルキオネスのブリッジで
第一方面軍を率いる提督は指示を出した。
20を超える軍艦が、その艦首砲の照準を一点に定め、そして撃ち放った。
暗がりに沈む空を、真昼より明るく染め上げる閃光。

それは、遥かな旅への第一歩を踏み出そうとした彼の体に突き刺さり。
圧倒的な光が、その場にある全てのものを蒸発させ、焼き尽くしていった。
そこにはもう何も、本当に、何も。



残されては、いなかった。
337 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/27(金) 14:42:00.52 ID:uYg7f5iv0
「……なんだ。結局、こうなっちゃうんだ」

人類の為に戦い、バイドと化し。
それでも尚、地球へと還ろうとした。ただ還ろうとしただけの英雄。
その末路を、誰からも受け入れられず、最後の希望を手にした瞬間の終末を見届けて。

さやかは、そう呟いた。


人類の為に戦ったものの結末。
その存在を受け入れようともせずに、ただ滅ぼすことしかできない人間達。
誰のための正義、何のための正義。
不朽のはずの正義は、潰えて消えた。

「あはは……みんなの為に戦って、誰にも理解されずに死んで。
 ……バカみたい。あたしって、ほんとバカ」

さやかの機体が、内側から膨れ上がるように弾け飛んだ。
それを間近で見ていた杏子とまどかは、そこに現れた異形を見た。

それは、まるで甲冑を着込んだ騎士のようで。
異形の頭部と、無数の手を携えて。その手には剣、そして盾。
バイドとも違う、それは、明らかに異質な存在だった。
338 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/27(金) 14:43:12.75 ID:uYg7f5iv0





Oktavia von Seckendorff





その性質は正義。
決して尽きぬ不朽の正義を求め、それを折られ、尽きる。
それでも尚彼女は正義を求め、それに至らぬ全てを断罪する。
力なき正義を、正義なき力を、戦うことしか知らぬ者を、戦うことを知らぬ者を。
怯懦を、怠慢を、不正を、不義を。
ありとあらゆるものを断罪し、彼女は、常に一人。




――それは、実に百余年ぶりに人類が直面した。
“魔女”という名の、魔法少女の本当の敵、だった。




「さやかぁぁぁァッ!!!」

杏子は叫ぶ。
それは、新たな戦いの開始を告げるだけだった。
339 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/27(金) 14:44:02.22 ID:uYg7f5iv0
魔法少女隊R-TYPEs 第14話
          『沈む夕日』
          ―終―
340 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/27(金) 14:44:37.87 ID:uYg7f5iv0
【次回予告】

魔法少女とは、

「なんなんだよ、あれは一体!!」

彼らが生み出した悪夢

「もう、何もかもお終いだね」

やがて魔女に至る悪夢

「全て、彼女の責任さ」

……魔法少女とは……


「――私を、魔法少女にしてっ!」


次回、魔法少女隊R-TYPEs 第15話
             『魔法少女とは……』
341 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/27(金) 14:46:56.21 ID:uYg7f5iv0
二段底かと思った?残念、三段底でしたっ!

>>310
クライマックスは近づいてますね。
次回作ですが、落ち着いて物書きできる時間があるかどうかによりそうです。
多分次なにかやるにしても、こんなに時間のかかるものは当分御免ですね。

>>311
それを受け入れる度量あっての英雄、とそう考えました。
結果はご覧の通りです。
お疲れ様でした、ロス提督、アーサー。
342 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県) [sage]:2012/01/27(金) 14:59:48.54 ID:Sz4OoaK3o
どこかでバイド帝星が生まれるんじゃないかと思ったらこれだよ
まあ事情を知らない人が見たら仲間を殺した脅威がいきなり武器を収めてどっか行こうとしてるんだからそりゃチャンスだと思うよね
そういえば魔女は普通の人間には目視する事が出来なかった気がするんだが周りの人にはレオIIがいきなり爆発したようにしか見えないのかな
バイドの新兵器?による遠隔攻撃を疑うレベルだな
343 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/27(金) 19:02:19.98 ID:UetFDaxw0
惜しい人を亡くしましたね。

アーサーはB系機を試すのに以上なく向いている人でしたのに。
344 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/27(金) 19:09:03.33 ID:H3PVcVcDO
そんな…っ。彼らは人類を信じて、飛び立とうとしただけなのに…。さやかちゃんは、そんな人類を見限って存在を歪めてしまった…!ロスさん。アーサーさん。せめて魂だけは、自由であってくれ。
345 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) :2012/01/27(金) 19:30:34.20 ID:lfZ7L2YW0
原作Tでニヴルヘイム&ラストダンサー大軍からの砲撃から逃げ切った俺らの提督もといロス提督がこうもあっさりと

不意打ちは最強だな、どこぞのドラゴンも自衛隊もといスカーフェイスからの不意打ちであっさり死んだし
346 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/28(土) 00:20:53.46 ID:30TBMKT70
ラストダンス作戦はだれがいくんだ……

やっぱりまどかか?
技術や経験は魔法で何とかするとして……
347 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県) [sage]:2012/01/28(土) 00:21:30.68 ID:LCCvWIUUo
>>346
予想はよそう
マジで荒れるから
348 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/28(土) 00:22:57.00 ID:30TBMKT70
すみません。
349 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/28(土) 13:24:45.31 ID:DgyDW5uDO
さやかちゃんの魔女化は、このSSが…確かにまどマギとのクロスなのだと言う現実を、俺達にまざまざと再認識させた…。
350 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/01/29(日) 02:30:12.07 ID:OLxxbjrR0
業務連絡です

wikiの方に、ネタバレ情報専門ページを新設しました。
まだ未完成ですが、いろいろつらつら書いていくと思うので
もし気が向いたら見てみてください、何か書いてみてもいいかもです。

>>342
残念ながら新天地を見つけることはできませんでした。
たとえこの場を逃れられても、いつかそう遠くない未来にバイドの本能に飲み込まれていたかもしれませんから
これが、恐らく人類にとっては最良だったのだと思います。

>>343
まあ、多分中に人なんていません(物理的に)
な状態で、中に詰まってるのはゆまちゃんの時のようにドロドロした何かだと思います。

>>344
人類を信じて、その人類に討たれてしまった彼でした。
その姿は、さやかちゃんに自分自身の末路を連想させるには十分すぎるもので
結果、ソウルジェムの濁りきっていたさやかちゃんに最後の一押しを加えてしまったのでした。

>>345
あの時はまだ他の部隊もいましたからね。
今は残っているのはほんの僅かな戦闘機部隊ばかり、流石にそれでは厳しかったのでしょう。
きっとロスさんもなんだこれは、どうすればいいのだって感じだったのだと思います。

>>346-348
まあ、ある程度色々考えてくれるのは嬉しかったりします。
偶にその辺の予想とかからネタがひっぱりだされることもありますし。
そも、そうそう荒れるような場所でもないでしょうし、割と好きにやってもらっていいと思います。

やりすぎたら拷問かTEAM R-TYPE送りなのでご注意を。

>>349
今まではある意味R-TYPEの世界に彼女達がお邪魔してるだけでしたからね。
今回、ついに本当の意味での彼女達の敵が現れました。
最後の戦いを前に、あんまりにもあんまりな連戦です。
351 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/01/30(月) 01:04:59.10 ID:zVH7MFaS0
では、15話行きましょうか。
投下していきます。
352 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/01/30(月) 01:05:40.38 ID:zVH7MFaS0
「さやか……ちゃん。ねえ、杏子ちゃん、今何が起こったの?
 さやかちゃんは、どうなっちゃったの?ねえ、杏子ちゃんっ!?」

まどかの声が聞こえてきた。
その声は、未だに目の前の現実を受け入れられていないようで。

「……あたしにだって、わからねぇよ。何がどうなってるんだよ、オイっ!!」

コンバイラベーラの破壊、そして続いて起こったさやかの変容。
それはもはや、杏子にとっても理解の範疇を超えた出来事で。
何も出来ず、ただその巨大な魔女の姿を呆然と眺めているだけだった。

そう、その魔女は余りにも巨大だった。
コンバイラベーラに比肩するほどの巨躯を携え、無数の手に握った剣を、盾を掲げて。
まるで周囲を見回すように、その異形の頭部を廻らせたまま、不気味な沈黙を保っていた。

「なんなんだよ、あれは。さやかはどうなっちまったんだよ。……誰か、答えろよ。
 なあ、誰かっ!答えやがれってんだよぉぉォォっ!!」

何もかもが不可解で、それでもただ、嫌な予感だけは拭えない。
353 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/30(月) 01:06:28.14 ID:zVH7MFaS0
「佐倉くん、一体そっちで何が起こったんだ?突然美樹くんの機体が消失した!
 状況が把握できない。美樹くんは無事なのか、佐倉くんっ!?」

驚愕と焦燥に駆られた、九条提督の声が聞こえてくる。

「状況?見りゃわかんだろ。さやかが、さやかが……あいつが!
 さやかの機体を食い破って、出てきやがったんだ」

衝撃が通り過ぎると、後に湧き出てきたのは憎悪。
正体不明の化け物。バイド反応はない。
それなんなのかなど分からないが、とにかくそれが、さやかの機体を爆発させたのだ。
さやかが生きているかも分からないが、とにかくそれを許しておくことは、杏子にはできなかった。

「あいつ?何を言っているんだ、佐倉くん。我々には何もいるようには見えない。
 そちらには何かがいるのか?」

「何……あんたら、あんなデカブツが見えてないってのか?」

そう、それは本来は魔法少女の敵である、魔女。
その姿は、素質を持つ者にしか捉えることはできない。
不幸なことに、その事実を知るものは存在していなかったのだ。

「まどか、杏子!聞こえるかい、すぐに戻るんだ!」

そう、キュゥべえを覗いては。
354 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/30(月) 01:06:58.28 ID:zVH7MFaS0
「キュゥべえっ!?お前、何か知ってんのか!答えろ、さやかはどうなったんだっ!!」

「答えてキュゥべえ、さやかちゃんは、さやかちゃんはどうしちゃったの!」

たちまち二人分の追及の声が飛ぶ。
けれど、そんなものは意にも介さずキュゥべえは、焦った様子で言葉を飛ばす。

「今は説明している場合じゃない。早く艦に戻るんだ!
 早くしないと、魔女が動き出してしまうよ!」

「魔女……だと」

聞きなれない言葉、けれど魔法少女から連想はされるその言葉。
どこかで聞いたような気がする。思索を廻らせようとした。

しかし、魔女の行動はそれより更に先んじていて。
355 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/30(月) 01:07:58.89 ID:zVH7MFaS0
世界が、塗り替えられていく。
破壊されたはずの都市部が、塗り替えられて別の空間へと変わっていく。
闇に染まったはずの空は、目に痛いほどの夕焼け色で。
空かと思われたその空間は、頭上にドームのような形状をなして埋め尽くす何かだった。


それは、刃。
触れるもの全てを傷つけるほどに鋭い無数の刃が、全天球を多い尽くして煌いている。
その世界の中心で、世界の全てを照らす光を放つ魔女。
その光は夕暮れ色で、無数の刃に照り返し。世界を更に深い夕暮れに染めていた。


足元を見れば、そこに散らばっていたのは無数の残骸。
古くは錆付き折れた刀剣の類から、そして先の戦闘で潰えた戦闘機まで。
ありとあらゆる、武器と呼ばれたものの残骸が散らばっていた。





その、武器の亡骸の山の只中で美樹さやかの成れの果て。一人の魔女が佇んでいる。





「なんなんだよ、これは」

「どこなの、ここは……」

それが目の前の魔女の仕業だと推測はできても、驚愕を抑えることは出来ない二人だった。
356 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/30(月) 01:08:27.78 ID:zVH7MFaS0
「なんだこれは、突然辺りの風景が変わった……?ガザロフ中尉、周囲の状況を報告せよっ!」

「はい、提督……って、何なんですか、これはっ!?」

「何事だ、正確に報告してくれ!」

「わかりませんっ!バイド汚染反応なし、恐らく異層次元が発生したものと思われますが、原因は不明ですっ!」

その世界の中には、九条提督の部隊も含まれていた。
突然の変貌、それが魔女の結界であるなどとは思いもよらずに。

「とにかく、何が起こるかわからん。動ける機体を全て臨戦態勢で待機させておけっ!」

更なる戦いの気配を肌で感じ、油断なくそれに備えていた。
だが、その結界の範囲はそれだけに留まらない。
357 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/30(月) 01:08:56.93 ID:zVH7MFaS0
「まさか、この距離にまで結界を広げてくるなんてね。
 ……R戦闘機を核とした、魔女。やはりその能力は恐ろしいね」

その魔女の異貌を遠目に捉えて、ティー・パーティーのブリッジでキュゥべえは呟いた。
その口ぶりには、半ば諦めにも似た声が混ざっていて。
キュゥべえは、その言葉を続けた。

「魔法少女が魔女になり、その魔女を魔法少女が倒す。
 その関係が維持されるためには、魔女は魔法少女が倒し得る相手でなくてはならなかった。
 ……だからこそ、人体という不完全なデバイスを元に、魔女の能力を制限していたんだ。
 そのデバイスが、人体とは比べ物にならない力を持つR戦闘機へと変わった。
 当然、そこから産まれてくる魔女の力も桁外れのものになるのは当然だよね」

かつてこの星で行われていた、魔法少女と魔女の戦い。
それは、魔法少女が魔女となり、その魔女を魔法少女が討つという、終わりのない不毛なものだった。
そしてその戦いこそが、彼らインキュベーターの本来の目的、宇宙維持のためのエネルギー回収には必要だった。
いまや魔女の誕生は、彼らにとってすら無意味なもので。更にその打倒は恐らく容易ではない。

人体に比べてはるかに強力なR戦闘機を、自身の身体のように扱っていたさやかである。
それが魔女になった時、それはR戦闘機が持っていた力をもとにして生み出されてしまった。
その結果が、あのコンバイラベーラほどもある巨体。そしてこの広大な結界だった。

「こんな魔女が野放しにされていたら、バイドに滅ぼされる前に人類の危機が訪れるかもしれないね。
 美樹さやか。キミは本当にとんでもないことをしてくれたよ」

そう呟くキュゥべえの瞳には、ありありと落胆の色が見て取れたのだった。
358 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/30(月) 01:09:50.39 ID:zVH7MFaS0
「な、何なんですか……あれは、っ!?」

ロスを撃墜した、ニヴルヘイム級率いる第一方面軍もまた、その結界に取り込まれていた。
随行する駆逐艦のブリッジで、オペレーターの女性が声を上げた。
彼女もまた、素質のある人間だったのだろう。ただ少女といえる歳ではなかっただけで。

「レーダーに反応なし?バイド反応もない、じゃあ、じゃああれは何なの!?」

戸惑い、必死にその正体を探ろうとする彼女の視線の先で
魔女は、大きくその無数の手を振り上げた。

その手の先から、無数の黒い歯車が生じる。
そして、放たれる。

「っ!正体不明の敵から、攻撃が……え、来ない?」

その歯車は、艦隊目掛けて飛んでくることはなく。
その全てが地表へ向けて放たれた。その先に、あったものは。

「大破した機体に……攻撃をしている?何をしているの、あれは」

先の戦闘において大破した、人類の、そしてバイドの戦闘機群。
黒い歯車が、その一つ一つに潜り込み、そして埋め込まれた。
359 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/30(月) 01:10:20.64 ID:zVH7MFaS0
「何を……しやがったんだ。今のは」

正体不明の存在からの、恐らく攻撃と見られるその歯車。
回避行動を取ろうとしたキングス・マインドの横をすり抜け、地表に眠る機体へと潜り込んでいった。
その目的は、すぐに明らかになった。

「っ!?撃墜された機体が、動き出しやがった……だと?」

歯車を埋め込まれた機体が、ゆっくりと光を取り戻して宙に浮く。
辛うじて機体の形を保っているものも、キャノピー部分が完全に吹き飛んでしまったものもいる。
そしてついには、艦隊の半分を失った巡航艦さえもが浮かび上がる。
そして、その全ての機体の内側から黒い何かが噴き出した。

機体を包み込む、黒い流体のような物質。
それはまるで、エバーグリーンで遭遇した金属生命体のバイドを思い出させた。
そして、宙に浮いた機体群は全て、その欠損部分を黒い流体で補うことで
機体としての能力を、再び取り戻すことに成功していた。

モニター上に、友軍敵軍を問わず次々に出現する反応、熱源。
その無機質かつ不気味な姿は、まさしく不死の兵。神話に語られるエインヘリヤルのようで。
それを見るものに、畏怖と同時に純粋な恐怖を与えるに、十分なものだった。

「これも、全部……あいつがやりやがった、ってのか」

そうして産まれた、異形なる死兵の連合軍。
地球軍、バイド軍を問わず、死の淵より蘇った全ての機体が魔女の元へ集う。
そして、あたかも忠誠を誓うかのようにその機首を下げ、地に伏した。
その姿はまさしく、主君の号令を待つ騎士団のようで。

魔女は、剣を掲げた一本の腕を振り上げて。
忠実なる、絶対正義を掲げる彼女の騎士団へと向けて、命を下した。
曰く、正義に至らぬ全てを……断罪せよ、と。
360 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/30(月) 01:11:04.48 ID:zVH7MFaS0
「正体不明の機体群、転進。こちらへ向かってきます」

ざわめきに満ちたニヴルヘイム級のブリッジ。
一連の出来事は、あまりにも人智を、理解の範疇を超える出来事ばかりで。

「こちらの通信への反応は?」

「……ありません。というよりも、あの機体群には全て、生命反応が見られません」
 バイド反応も、ほとんど存在していません」

「どういうことだ。バイドによる攻撃ではないのか」

不可解な出来事に、艦長は部隊全体の行動を決めかねていた。
それはそのまま、致命的な遅れへと繋がってしまった。


「機体群、接近してきます!」

「……っ、呼びかけを続けろ。波動砲の射程圏内まで反応がなければ、攻撃を開始する。
 全艦第一種戦闘体勢!R戦闘機部隊は、波動砲のチャージを続行しつつ待機を……っ!!?」

言葉を遮り、巨大な閃光が駆け抜けた。
その閃光は、ニヴルヘイム級に随行していたテュール級戦艦を貫き、更に後方へと伸びる。
進路上にある全てのものを飲み込み、破壊し、その光は駆け抜けた。
それから一瞬遅れて、数珠状の爆発が連鎖する。

機関部を打ち抜かれたテュール級もまた、大きな爆発と共に墜落。
そのまま、巻き上がる爆炎の中へと没した。
361 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/30(月) 01:11:49.28 ID:zVH7MFaS0
「一体何が、状況を報告せよっ!!」

直撃は免れたものの、その一撃の余波で各所に損傷を負ったニヴルヘイム級。
その程度で沈みはしないとばかりに、どうにか艦のバランスを保ちながら。
今の一撃の射手を探る。そして見つけ出した。

「発見しました!今の砲撃は……R戦闘機です!データ照合、出ましたっ!
 あの機体は……」


「嘘だろ、どういうことだよ……ありゃあ」

杏子が、呆然と呟いた。
夕暮れの世界を貫いたその閃光、それはとても見覚えのある光。

「あれは、あの機体は……マミの」


「あの機体は、R-9DX2、超長距離射撃仕様機の、ババ・ヤガーですっ!!」

そう、マミが操るその乗機すらも。
その死兵が織り成す葬列の、その一翼を担っていたのである。
362 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/30(月) 01:13:20.77 ID:zVH7MFaS0
立ちはだかる死兵と魔女、魔法少女達の本当の戦いが、いよいよ始まったわけです。
果たして人類は、それを打倒することができるのでしょうか。
363 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/30(月) 03:25:13.90 ID:z9X6UaCio
勝ち目なさすぎ・・・
364 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/30(月) 04:19:02.44 ID:IY7ezgzDO
お疲れ様です!
ワルプルギスの夜並の超超弩級魔女となってしまったオクタさんに、まどかのESPは通用するのだろうか…?アニメ本編でも無理だったし、しなさそうだなぁ。
流石に再生M型R戦闘機の特殊能力までは再現しない…よな!?
365 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/01/30(月) 11:56:42.72 ID:jB81FB/v0
では昼投下、行きましょう。
366 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/30(月) 11:57:17.68 ID:jB81FB/v0
「どういうこと、杏子ちゃん。あれに……マミさんが乗ってるの!?」

「いや、それは……ねぇ、はずだ。マミは、あの時……死んだんだ。
 キュゥべえっ!一体どうなってんだ、これはっ!!」

まどかの戸惑い、杏子の怒り。
二つの声が飛んでいく。

「ああ、あれはマミじゃない。恐らくさやかの魔法である機体の修復。
 それが魔女になったことで、他の機体にまでその範囲を広げたんだろうね。
 そして、恐らくあれを操縦しているのはあの魔女の使い魔だ」

「使い魔、だぁ?だから、そもそもアレはなんなんだよっ!!」

「さっきも言ったじゃないか。あれは魔女だ。
 美樹さやかは魔法の力を使いすぎたんだよ。ソウルジェムが完全に濁ってしまえば、魔法少女は魔女になる。
 ……元々は、魔法少女はそういう存在だったのさ」

「それ、どういうことなの……キュゥべえ」

明かされた、魔法少女の真実。
だが、それを詳しく説明している余裕を、魔女は与えてはくれなかった。

「……まどか、一旦ティー・パーティーに戻るぞ。
 奴らがこっちにも近づいてきやがった。流石に、あんな数は相手にできねぇ。
 一旦戻って、キュゥべえの奴から全部聞き出してやるぞ!」

「う、うんっ!気をつけてね、杏子ちゃんっ!」

迫り来る異形の群れ。
そこから逃れるように機首を翻し、一目散に逃げ帰る。
その背後では、死兵達と第一方面軍の戦いが始まっていた。
367 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/30(月) 11:57:45.17 ID:jB81FB/v0
「キュゥべえっ!!戻ってきたぞ、とっとと何が起こったのか説明しやがれっ!!」

「キュゥべえ、さやかちゃんは、さやかちゃんはどうなっちゃったの!?」

無事にティー・パーティーに戻った二人を、すぐさまキュゥべえが迎えた。
怒りの色を隠すことなく、そんなキュゥべえに詰め寄る杏子。
まどかもまた、泣き出してしまいそうな表情でそれに迫っていた。

「随分といきなりだね。まあいい、改めて説明してあげるよ。
 魔女が、魔法少女の本来の敵であったことは前に説明したよね。そして、魔法少女はやがて魔女になる。
 魔法少女が魔女になるためには、そのソウルジェムに穢れを溜め込むことと、深い絶望に陥ること。その二つが必要なんだ」

杏子は、キュゥべえの言葉に目を見開いた。
さやかが魔女になったということは、すなわちさやかが深く絶望したということで。
その引き金となったものがあるとすれば、それは……。

「なんだよ、そりゃあ。なんだってんだよっ!ロスは最後まで信じて疑わなかったはずなんだぜ。
 希望を、守りたいと思ったものを。なのに……なんでお前がそんなもんに負けてんだよ、絶望しちまったんだよ」

ロスの死、英雄として、皆を守ろうとした男の余りに悲しい末路。
それはきっと、さやかの信じる正義を打ち砕いてしまったのだ。
皆のため、自分の信じる正義のために戦えば、いつか必ず報われる日が来ると
そう信じて戦い抜いてきたさやかには、同じく仲間であるはずの人類に討たれるという最後は
まるで自分の末路を暗示しているかのようで、許容できるものではなかったのだろう。
368 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/30(月) 11:58:15.08 ID:jB81FB/v0
「じゃあ、そもそも魔法少女って何なの?どうして、魔女になんてなっちゃうの?
 どうしたらさやかちゃんを助けられるの?教えてよ、キュゥべえっ!」

まどかの問いに、キュゥべえは重々しく口を開く。
魔法少女の正体。宇宙延命のためのシステム、その実態を。
魔法少女が魔女と化し、その際に生じるエネルギーが、宇宙を永らえさせていたのだと。

「かつての魔法少女達が、その事実を知って怒るのもまあ、無理はないことだと思うよ。
 見解の相違、利益と代償の等価性。それを見誤った自分の判断の甘さを
 分かりやすい敵であるボクらにぶつけていたんだろうね。……今なら、少しは理解できるよ」

バイドと出会い、敵を憎む心を知ったキュゥべえがそう言うと。
続けて、最後にもう一つ付け加えた。

「だからこそ、今の魔法少女達はバイド戦うための力としてしか運用していない。
 願いを叶えることもなければ、魔法の力を使うこともない。
 だから、魔女になることもない。……はずだったんだけどね」

「……さやかが、魔法の力に目覚めちまった。そして、それを使いすぎちまったってことか」

「そういうことだね。そうならないように言い聞かせたつもりだったんだけど。
 こんなことになってしまったのも、全て彼女の責任さ」

そのキュゥべえの言葉は、暗にこれ以上何も打つ手がないということを示していた。

「そんな……さやかちゃんを助ける方法はないの、キュゥべえ?」

「ボクの知る限り、一度魔女になってしまった魔法少女を助ける方法はない。
 美樹さやかの魂は、もう既に消滅し、魔女のそれとなってしまった。
 そしてボク達は魔女の結界に捕らわれてしまった。ここから脱出するためには、魔女を倒すしかない」
369 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/30(月) 11:58:44.06 ID:jB81FB/v0
「……なんてこった、さやか」

救う術はない。絶望的な事実に、杏子の身体が萎える。
壁に背を預けたまま、ずるずるとその身体が崩れ落ちていく。
床に腰を付き、そのままがっくりと項垂れた。

「さやか、ちゃん……嘘だよ、そんなの……そんな」

そんな杏子に手を貸すこともできずに、まどかも同じく崩れ落ち、項垂れて。
まるで全ての力を失ってしまった二人を一瞥して、キュゥべえは外の戦場へと意識を向けた。

「第一方面軍が、魔女の率いる軍勢と戦っている。勝ってくれればいいけど、望み薄だろうね」

「そんなに強いのかよ、あの魔女は」

虚ろな声で、杏子が尋ねた。

「それもある。あの魔女の能力は、ボクの予想を遥かに超えている。
 けれど、問題はもっと別のところにあるんだ。……魔女は、魔法少女とその素質のあるものにしか知覚できない。
 通常のレーダーの類でも探知はできないだろうね。知覚できない敵が相手じゃ、戦いようがないだろう?」

「なんだよそれ、ますます滅茶苦茶じゃねぇか」

「見届けようじゃないか。普通の人間達が、魔女に何処まで立ち向かえるのかをね」

その横顔に、どこか面白がっているような笑みを湛えて
キュゥべえはそう呟いた。
370 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/30(月) 11:59:14.37 ID:jB81FB/v0
ババ・ヤガーの形を模したどす黒い塊に、二筋の閃光が突き刺さる。
それは第一方面軍のR戦闘機部隊から放たれた波動砲。
違わずその閃光はババ・ヤガーを貫き、爆散させた。

「敵の超長距離射撃機を撃破、これで狙撃の心配はなくなりました。
 他方面でも、我々が敵を圧倒しています」

オペレーターからの通信に、ニヴルヘイム級の艦長は満足そうに頷いた。

「状況は不明だが、敵は恐れるに足らんな。恐らく敵はオートパイロットか何かなのだろう。
 そんなものでは、我々の敵ではないということだ。
 このまま敵部隊を掃討し、この空間からの脱出を図る」

最初の一撃、続く攻撃まではまだ浮き足立っていた第一方面軍だが
すぐに統率を取り戻し、バラバラに襲い掛かってくる敵に対して、組織的な反撃を開始した。
敵は皆ただのオートパイロットであるのかと思い込むほどに、質はそれほど高くない。
このまま行けば、直に敵の掃討は完了するはずであった。


その魔女は、その戦況を苦々しく見つめていた。
敵を殲滅することが出来ない。正義を行うことが出来ない。
ならばどうするか。自ら動くより、他に術はなかった。
371 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/30(月) 11:59:41.24 ID:jB81FB/v0
巡航艦のオペレーターは、異形の姿を為す魔女が近づいてくるのを見つめていた。

「正体不明の、巨大な敵性体が接近しています!接近しているのに……なんで、何で誰もわからないんですかっ!」

必死に呼ぶ声に応えるものは誰もなく。
それどころか、彼女の方が正気を疑われ、ブリッジを追い出されてしまった。

「どうして、どうして誰にも見えていないの……どうして……よぉ」

閉じ込められた個室の中、窓から外を眺めて彼女は嘆く。
その視線の先で、ついに魔女は艦隊のすぐ側へと近づいた。
その剣を握る手を、高々と振り上げて。

「何を……するつもり?嫌、嫌……イヤぁぁぁッ!!」

その巡航艦に、深々と突き刺した。
艦に走る衝撃。その剣は、艦の機関部を貫いた。
機関部に深刻な損傷。その剣が引き抜かれ、貫かれた機関部から波動粒子が流出していく。
艦体の異常加熱、内側から膨れ上がる熱、その内圧で艦が膨れ上がった。
一瞬遅れて、内側から炎が吹き荒れる。それは一瞬で艦内部を火焔地獄へと変え、全てを焼き払っていった。

そして、巡航艦はゆっくりと墜落し。
地表に触れると、大きな爆発を巻き起こした。
372 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/30(月) 12:00:12.03 ID:jB81FB/v0
「っ!?被害報告急げっ」

「左翼に展開していた巡航艦が、突如として炎上、墜落後爆発しました。
 恐らく何らかの攻撃を受けたものと思われますが……正体が分かりません」

「何をやってるんだっ!解析急げ、これ以上敵に好き勝手を許させるなっ!!」

未だかつて遭遇したことのない、魔女という強敵。
その正体を掴む事が出来ずに、再び艦隊が浮き足立つ。

「とにかく敵の迎撃を続けろ。敵の攻撃の正体が分かるまでは、艦を一所に留めるなっ!」

そして戦況は廻る。
魔女は、更なる攻め手を用意していた。

かざした手に、再び無数の歯車が宿る。
それが放たれ、撃墜された機体や艦体に喰らい付いていく。
そして再び、魔女の尖兵となって人類に牙を剥く。

艦体を黒く染め上げられたテュール級が、その主砲をニヴルヘイム級へと向けていた。
巡航艦もまた、頭上を飛び交う戦闘機群へ向けて、砲撃を開始した。
373 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/30(月) 12:00:41.81 ID:jB81FB/v0
「倒しても倒しても、すぐに復活しちまう。
 それどころか、こっちの機体がやられても、それもあいつに操られっちまう。
 どうすりゃいいんだ、あんなの……」

そんな戦況を遠巻きに見つめて、更に深い絶望を目の当たりにして。
呆然と杏子が呟く。
未だ第一方面軍は、魔女の姿を認識できていない。
その証拠に、何一つとして有効な打撃を、魔女に与えられていないのだ。

「もう、何もかもお終いだね。ほむらちゃんもマミさんも、さやかちゃんも死んじゃった。
 私達も、もうすぐそうなっちゃうのかな」

すっかり気力が萎え果て、まどかもすっかり絶望にその身を染めている。

「やはり、魔法少女でなければ魔女を倒すことはできないのかな」

キュゥべえも、どこか諦め顔でそれを見つめていた。
このままでは遠からず第一方面軍も、そして自分たちも全滅だろう。
そうなればこの魔女は、この広大な結界の中で解き放たれることになる。
もしそれがそのまま広がっていけば、いずれそれは人類を脅かすことになるだろう。

「魔法少女なら、あれをどうにかできるのかよ」

「本人の素質にもよるだろうし、やはりあれを打倒するにはR戦闘機クラスの力がいる。
 R戦闘機と魔法。その双方を使いこなせる魔法少女がいれば……もしかしたら」

「それに、魔法を使える魔法少女として契約すれば……一つ、どんな願いでも叶えられるんだったよな」

「その通り。その願いをもっても、もしかしたらこの状況を打破できるかもしれないね」

その言葉に、まどかは俯いていた顔を上げる。
その顔には、驚愕と何か希望を見つけたような色が浮んでいて。
374 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/30(月) 12:01:22.52 ID:jB81FB/v0
「本当に、魔法少女になったらどんな願いでも叶えてくれるの?」

「あくまで本人の素質によるよ。余りにも大きすぎる願いや、漠然とした願いを叶えようとすると
 何が起こるかは、ボクにもわからないな。それでも大抵の人が望む願いなら、何でも叶うはずだよ」

そんなキュゥべえの言葉を受け止めて、まどかは小さく頷くと。

「じゃあ、キュゥべえ。――私を、魔法少女にしてっ!」

ぎゅっと、その服の胸元を握り締めて。
まどかは、キュゥべえの姿を真っ直ぐに見つめて、そう言葉を放った。
375 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/30(月) 12:01:55.22 ID:jB81FB/v0
ゆっくりと、杏子は立ち上がった。

「……やめとけよ、まどか。お前じゃ無理だ」

「そんなことないよ、杏子ちゃん。私が契約すれば、魔法少女になれば皆を助けられる。
 ほむらちゃんやマミさん、さやかちゃんだって生き返るかもしれないんだよ!」

杏子は、静かに首を振る。

「それで、お前はどうする?魔法少女になって、生身のままであれに立ち向かうのか?
 R戦闘機での戦いは、一朝一夕にできることじゃない。例えあいつらが生き返ったとして
 戦うための機体がない。どうしようもないさ」

「じゃあ、それじゃあ私はどうしたらいいの?
 このままじゃ何も出来ないまま終わっちゃう。そんなの、私はいやだよっ!」

必死に詰め寄るまどかを、杏子は軽く手で制して。
そのままキュゥべえに向き直り、告げる。

「おい、キュゥべえ。そういうことだからさ……だから、あたしを魔法少女にしな」

「杏子ちゃん……」

「いいのかい、杏子?キミは魔法少女にならないんじゃなかったのかい?」

不思議そうにキュゥべえが問いかけた。
その言葉に、杏子は答えて不敵に笑う。

「さあな、そんなこともあった気がするが、覚えてねーな。
 ……それに、まだあたしには戦える機体がある。できることがあるんだ。
 よく考えりゃ、あのまま絶望してる暇なんざなかったのさ」

再び、杏子の瞳に強い光が宿った。
真っ直ぐにキュゥべえを見据えて、不敵な笑みは消さぬまま。
376 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/30(月) 12:02:25.39 ID:jB81FB/v0
「いいのかい?魔法を使いすぎれば、キミもさやかのようになるかもしれない」

「そうなる前に、生きて戻りゃあいいんだろ?……大丈夫さ、なんとかなる」

不安も恐怖も、全部纏めて笑い飛ばして虚勢を張って。
そんな杏子にまどかが縋りつく。そして。

「杏子ちゃん。……やっぱり、私も」

「あたしがダメだったら、その時は頼む。
 ここまでとことん絶望見せられてるんだ。こうなりゃ、徹底的に足掻いてやろうぜ、まどか。
 こんな絶望にも、バイドにも負けてやらねぇ。人間様の意地って奴をさ、見せ付けてやろうぜ」

力強く言い切って、杏子はまどかの肩を叩いた。
思いがけなく強い力で、まどかは軽く身体を揺らめかせ。

「契約だキュゥべえ。あたしの願いは……あたしの仲間を、大切な人を取り戻したい。
 さあ、叶えて見せろよ、インキュベーターっ!!」

声に応えて、キュゥべえの耳が杏子の胸元へと伸びる。
激しい光が、視界一杯を埋め尽くし、広がっていく。

光が弾ける。そして、その後に立っていたものは。


魔法少女の衣装を纏った、佐倉杏子の姿だった。
377 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/01/30(月) 12:04:29.71 ID:jB81FB/v0
>>363
人類だけでは厳しいでしょう。
だからこそ今、魔法少女が出撃しています。

>>364
敵は質では劣るようです。
ですが、圧倒的な量と何度でも復活できるという恐ろしい特性をもって
今尚牙を剥いています。
いよいよ杏子ちゃんも出撃です、果たして勝てるのでしょうか。
378 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/01/30(月) 14:07:28.09 ID:BUOk4Htmo
oh…
遂にあんこが契約しおった…
デコイ×幻影魔法とか胸熱

魔女ってGS化したSJから生まれるものであって、孵化と同時に魔法少女の肉体は不要なものとして捨て置かれるのだから、魔女の強大さは生前のハードが人間だろうがRだろうが関係なく、本人の持つ因果の大小に左右されるのでは…
とか一瞬思ったけど、さやかちゃんの因果が救世の英雄クラスだったらあんくらいオクタが強くてもおかしくはないのかな…?
まさかの、さやかちゃん=真のラストダンサー!?
お昼投稿乙ッス
379 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県) [sage]:2012/01/30(月) 14:29:26.25 ID:phUi5IEpo
しかし幻影波動砲
色んなトラウマを持つあんこちゃんなら最高クラスの幻影波動砲が発射されるはず
つまりあんこちゃんの最終機体がスウィートメモリーズであることはとっくの昔に伏線が張られていたのさ
380 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/30(月) 15:05:12.17 ID:IY7ezgzDO
昼投下感謝!
大切な仲間を取り戻したい…か。因果量は多そうだけど、どうなるやらな。魔法も幻影とは限らないかも知れないし。

素質持ちさん…可哀想だったな。QBも分体増やして説明してあげれば良かったものを…。もしかしたら成人女性の公開羞恥コスプレとか見れたかも知れんのにww
381 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/30(月) 15:19:33.32 ID:IV6LwSnw0
>>380
>成人女性の公開羞恥コスプレ
すごく見たいと思った。
382 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/01/30(月) 19:21:55.21 ID:jB81FB/v0
さあ、どんどん行きましょう。

投下です。
383 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/30(月) 19:23:34.51 ID:jB81FB/v0
「それが、キミの新しい力だ。杏子」

「杏子ちゃん……姿まで変わっちゃった」

二人の反応を受けて、改めてまじまじと自分の姿を見つめる杏子。
赤を基調にした服は、無骨なパイロットスーツとは違い
機能性と同時に、何処となく優雅ささえも感じさせる姿。
それは少なくとも、魔法少女という言葉に似つかわしいもので。

「……なるほど、確かに力が漲ってくるような感じだ。さやかの奴も、こんな感じだったのかね」

感触を確かめるかのように、杏子はぐ、と拳を握り締めた。
その手にも、全身にも、まるで内側から溢れ出てくるような強い力を感じていた。
今までにないほどの、どんなことでも出来てしまいそうなほどの全能感。
今はまだ、その力は確かな形をとっていない。けれどそうあることを望むなら
その力を振るうことを躊躇しないなら、きっとすぐにでもそれは発揮されるだろう。
そう確信できるほどに、その力は明確で、そして強大だった。

「それ以上さ、願いを引き換えにして得た力は、完全な魔法少女の力だ。
 間違いなく、さやかやほむらが得た以上の力になっているはずだ」

「なるほど、そりゃ頼もしいね。じゃあ、行ってくる」

それを確信して、すぐさま杏子は機体へ向かう。
戦いは既に始まっている。一刻の猶予も惜しいといったところだが。

「確認していかないのかい、キミの願いがもたらしたものを」

「見ちまったら、戦えなくなる気がするから……さ。まどか、あんたが見といてくれよ」

「……うん。でも、必ず帰ってきてね、杏子ちゃん」

まどかは戸惑いながら頷いて。
それを見届け、ひらひらと小さく手を振って。杏子は今度こそ歩き出した。
去り往く背中を、まどかはじっと見つめていたが。

「確かめなきゃ」

そう言って、駆け出していった。
384 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/30(月) 19:24:14.48 ID:jB81FB/v0
「じゃあ……一暴れしてこようじゃねーか」

キングス・マインドのコクピット。換装するような余裕があるわけもなく、タンデム席は空席のままで。
杏子は、魔法少女の姿のままでシートに座る。パイロットスーツは必要ない。
今のこの身体は、それくらいの性能は持ち合わせているという確信があった。

急ピッチで発進の準備を進める。鋼の心臓が脈打ち始め、波動の血液が全身へと廻っていく。
無数の機関が唸りを上げて、杏子のもう一つの身体に恐るべき破壊の力を漲らせていく。

「杏子、出撃の前にこれだけは聞いておいてくれ」

既に発進の準備を終えたキングス・マインドに、キュゥべえからの通信が届く。

「なんだ、手短にしろよ。すぐに出るんだからな」

「本来、魔法少女はソウルジェムを媒体に機体と接続している。
 それにより、機体を自分の身体のように扱うことができたし、魔法も機体に対して発動することができた。
 だけど、キミの場合は違う。調整をする余裕もなかったからね」

「それで、結局何が言いたいんだよ」

「端的に言えば……何時もと違うかもしれないけど、気にせずに自分の感覚を信じるんだ。
 そんなところだよ。頑張ってくれ、杏子」

まさかキュゥべえにそんな人間臭いことを言われるとは。
随分とおかしなこともあるものだと、杏子は薄く笑った。

「言われるまでもないね。今のあたしは、間違いなく絶好調だ。
 ……まあ、見てなって。出るぞ、ハッチを開けな」

返事の代わりに解放されるハッチ。外の冷たい風が流れ込んでくる。
機体の肌に触れる。冷たさを感じる。

「行っくぜぇぇぇっ!!!」

溢れる波動の粒子すら、彼女の赤に染まっていく。
赤い尾を引き、キングス・マインドは戦場へと飛び立っていった。
385 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/30(月) 19:24:37.57 ID:jB81FB/v0
「みんなっ!!」

まどかは、安置室の扉を開け放った。
ラウンドキャノピー型の生命維持装置、もはや魂のない、ただの亡骸となった三人が眠るその場所を。
部屋の中は、痛いほどの静寂が満ちていた。
空調は変わらないはずなのに、部屋の中からはひんやりとした空気が流れ込んでくる。
それがまた、まどかが中へと踏み入ることを躊躇させていた。

「大丈夫……みんな、無事だよ。絶対に」

足が震える。
本当に願いが叶ったのかなんて分からない。
もしかしたら、皆死んだままかも知れないのだ。
かつてマミを助けたときとは違う、本当の死人となってしまっている。
その事実と直面するのが、とにかくまどかには恐ろしかった。

それでも、恐怖を乗り越え一歩。
まどかは、部屋の中へと足を踏み入れた。

「さやかちゃん、ほむらちゃん、マミさん……聞こえます、か?」

震えそうになる歯の根を食いしばって、どうにか声を絞り出した。
返ってくる言葉は、何もない。

「……返事、してよ。ねえ、みんな……お願い」

一歩、一歩と踏みしめるように部屋の中へと歩みを進めて。
ついには、さやかの眠る装置の前に辿りついた。
そこには、眠っているかのようなさやかの姿があった。

「さやか、ちゃん……どうして、どうして目が覚めないの、ねえ?」
386 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/30(月) 19:25:06.63 ID:jB81FB/v0
「それは、まだ彼女達がコールドスリープ中だからに決まってるじゃないか」

「うわっ!?きゅ、キュゥべえっ!」

嘆くまどかの眼前に、杏子との通信を終えたキュゥべえが現れた。
咄嗟のことで、まどかも随分慌ててしまったようで。
そのまま尻餅をついてしまって、立ち上がれなくなってしまった。

「……何をしてるんだい、まどか?」

訝しげに問いかけるキュゥべえに。

「腰、抜けちゃったみたい……」

なんとも頼りない、泣きそうな様子でまどかはそう答えるしかなかった。
立ち上がろうともがくけれど、どうにも腰が萎えてしまったようで。

「なんだか知らないけど、大変なようだね。まあいいさ。
 それじゃあコールドスリープを解除するよ。彼女達が生き返ったのなら、それで目が覚めるはずだ」

それぞれの装置から、電子音が一つ鳴り響く。
そして、静かにキャノピーが開かれていく。
目覚めて欲しい。けれど、本当に死んでしまっている姿も見たくはない。
そんな思いが、まどかの目を閉ざしていた。
床に座り込んだまま、まどかは手を合わせて祈るように、彼女達の目覚めを待っていた。
387 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/30(月) 19:25:45.35 ID:jB81FB/v0
「全く、今度の敵はどうなってるんだ。いくら落としても蘇ってくるぞ」

疲れと焦り、それをどうにか表面に出すのだけは堪えて。
それでも随分とうんざりした調子で、九条提督は愚痴っていた。

押し寄せる死兵の葬列は、九条提督の部隊にも迫っていた。
ここを通せば背後にあるのは損傷の激しい艦ばかり。
第一方面軍も、向こうの敵の相手にかかりきりでこちらまでは来られない。
逃げるわけにも行かないと、踏みとどまって戦っていた。

幸いにして、敵の質は極端に低い。
数とてそれほどではない。けれど、何度となく押し寄せる。
倒したはずの敵ですら、いつの間には再び襲い掛かってくる。
戦いに戦いを重ねた九条提督の部隊もまた、既に疲弊しきっており、限界は近かった。

「提督、敵の増援です」

「まだ来るかっ!いい加減こっちも限界だぞ……とにかくR戦闘機部隊を向かわせろっ!」

勝算は薄い。仮にこの場を凌げたとしても、次はどうなるか。
英雄との雌雄を決したというのに、なぜこんなことになっているのか。
思わず九条提督は宙を仰いで手で目を覆った。
それでも、どれだけ嘆いたところで戦うしかないのだ。
その時だった。艦を発進させようとした九条提督の下に、その通信が飛び込んできたのは。
388 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/30(月) 19:26:14.78 ID:jB81FB/v0
「騎兵隊の……到着だぜっ!!」

その声の主は杏子。
そしてその機体は、真紅に塗られたキングス・マインド。
ただ違うところがあるとすれば、それは。
その数が、総勢七機であるということだけだろう。

「キングス・マインドの編隊?佐倉くんかっ!援軍は助かったが、一体どこにそんな戦力が?」

なんにせよ、これで少しは生き延びる目が出てきたかと僅かに安堵。
それにしてもこれだけの戦力。いかにして揃えたのかは疑問だった。

「編隊は編隊だな。だが操縦してるのはあたし一人だ。
 ……まあ、見てな。あいつらくらい、あたしが一人で蹴散らしてやるさ」

スキタリスの横を駆け抜ける、杏子率いるキングス・マインドの編隊。
先頭の一機だけはフォースを携え、それに六機が続いていく。
赤い光の尾を引いて、前方の戦場へと駆け抜ける。

「食い破るぜ……行っけぇぇぇッ!!」

散開。七機全てが散開し、戦場の中へとその身を躍らせていく。
直後、あちこちで巻き起こる炸裂、爆炎。
それはいずれも、真紅の機体が黒の死兵を打ち砕いたもので。

七機全てが、まるで熟練したパイロットのような機動を取り
互いに自在に連携を取り、死兵の群れを翻弄し、瞬く間に追い詰めていく。
追い詰められ、一所に押し込められた敵機の群れ。

「こいつで、終わりだよっ!!」

杏子は、共に引き連れた六機に命じた。
その命に従って、真紅の機体はその形状を失っていく。
後に残されたのは、赤く煌く純然たる波動エネルギーの塊。
それはまさしく波動砲のそれに相違なく、そのまま六条の閃光となって敵軍に降り注ぐ。
逃げ場を失った敵を撃ち抜き、徹底的に焼き払い、そして。

その光は舞い戻り、杏子の機体の側へと並び立つ。
光が再び、真紅の機体の形状へと変わって行った。
389 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/30(月) 19:26:59.81 ID:jB81FB/v0
「なんだって言うんだ、あれは。新兵器か何かなのか?」

その光景に、まさしく理解しがたいであるかのように九条提督は驚愕し。
唸り声と共に、その疑問を口にした。


そう、変幻自在の動きを見せた、波動エネルギーの塊たるあの六機。
それは確かにデコイなのだ。ただ、魔法がその性質を変容させていただけで。
まさしく自分の複製のような技量を持ち、波動エネルギーへと自在にその身を変換できる。
それはまさしく、デコイと呼ぶには余りにも強力すぎる力。

「っはは、とんでもない力だね、こいつは」

それを操る杏子をもってしても、驚愕するほどの力だった。

「一人で七人分。やりようによっちゃあそれ以上だ。
 ……待ってろよ、魔女。あたしが速攻駆けつけて、この手でぶっ殺してやる!」

それがどんな力なのかを知った。
その使い方も、行使する術も理解した。
最早、躊躇うことなど何もない。
後はただ駆けつけて、全ての元凶、あの魔女を倒すだけ。

「待つんだ、佐倉くん。一体今何が起こってるんだ、キミは、何か知っているのか?」

そんな杏子を、九条提督が呼び止めた。
杏子はほんのわずかに、機首をスキタリスの方へ向けると。

「ヤバイことが起こってるのは事実だ。でも、あたしがなんとかする。絶対になんとかしてみせる。
 だから、それまでの間。後ろの艦を守ってやってくれ。頼む」

そう言い残し、デコイを率いて再度機体を走らせた。
目指すは魔女の空域。夕暮れ色に染まりきった空を、一人で七人の杏子が駆け抜けた。
390 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/30(月) 19:27:32.36 ID:jB81FB/v0
第一方面軍は、未だ魔女という未知なる敵、その正体を捕捉できずにいた。
質は低いとは言え数で迫る敵、それもいくら叩き落しても蘇り、撃墜された味方さえ取り込む敵が相手
被害は、じわじわと増え始めていた。それはそのまま敵が増えていくということで。
どこかで一度でもパワーバランスが崩れてしまえば、そのまま総崩れになることは明白だった。

そうなる前に、どうにかしてこの異常事態を解決する必要があった。
けれど、それをなし得る者は第一方面軍には、誰一人として存在していなかったのだ。
無理もない。魔女の脅威に対抗できるのは、魔法少女のみ。
魔法少女足りえるのはまさしく少女のみ、成人のみで構成されるであろう軍には、その素質者が居ないのも無理はない。
魔女の存在を知覚し得た数少ない素質者でさえ、魔女の攻撃によって潰えたのだ。
絶体絶命。この状況を表すのに、それ以上に相応しい言葉は存在しなかった。
391 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/01/30(月) 19:28:18.47 ID:jB81FB/v0
「どうしたちゃったのさ、立てる?まどか」

祈るように組み合わせていた手。
力が篭りすぎて、血の気の失せた白い色の手に、暖かな手が重なった。

「ぁ……さやか、ちゃん?」

声が聞こえて、その手に暖かさが触れて。
ゆっくりとまどかは目を開けた。
そこに映っていたのは、とてもよく見慣れた、一番大切な友人の姿だった。

「ほんとに、どーしたってのよ。まどかは。そんな泣きそうな顔しちゃってさ」

「う………ぁ、ぁぁぁっ」

確かに生きている。暖かさを感じる。
死んでしまったことなんて、まるで嘘のようにさやかは生きている。
それだけで、ただそれだけで、まどかの心は一杯になってしまった。
とにかく嬉しくて、ずっと張り詰め続けていたものが、ぷつりと切れてしまったようで。
感情の受け皿なんて、一瞬で埋まってしまって、ひたすら零れて溢れ続けた。

「さやかちゃん、っ、ひくっ。さやっ、か、ちゃん……っ」

萎えた腰を、足を無理やり動かして。押し倒すように抱きついて。
そして泣く。その暖かさが嬉しくて、涙は止まることなく流れ続けた。

「まど、か……本当に、なにがあったってのさ」

そのただならぬ様子、そして蘇り始める記憶。
徐々にさやかの表情も曇っていく。
それでもさやかは、泣きじゃくり、縋るまどかの身体を受け止めて。
まどかが泣き止むまで、そっと抱きしめあっていたのだ。
392 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/01/30(月) 19:35:55.22 ID:jB81FB/v0
さやかちゃんが復活です、が。
さてどうなりますやら。

>>378
その辺りはオリジナルな設定ですので、突っ込まれそうなところだなぁとは思いました。
ただ、精神というか魂のあり様によって少女が魔法少女に変化したように
身体のあり様によって、その精神も変化するんじゃないかなぁと考えたり
結局QBにとっては、魔女は適度に手強いけれど倒せないわけでもないくらいじゃないといけないわけで。
そうなってくると、やっぱり人体ってのを基準にしてるんじゃないかな、なんて気もしたわけです。

ワルプルは群体っぽいし、クリームはそも規格外ですから別の話ですが。

>>379
それも考えないではありませんが、まあ今はデコイです。
デコイだけど本体と同等の技量を持ち、更に任意で波動砲になることも可能
これはこれでなかなか強力だと思います。

>>380
実際、原作とは願いの内容が違うわけですしね。
その背負う因果も、今回の杏子ちゃんはかなり重いのではないかと思います。
その分オクタもチートっぽくなってますが。
果たして、無事に魔女を倒して帰ることができるのでしょうか。

>>381
それは……詢子さんか早乙女先生あたりで我慢してもらえれば。
393 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/30(月) 20:26:29.51 ID:IY7ezgzDO
連続投下お疲れ様です!
さやかちゃんは蘇生したが…後のお二人はどうなんでしょうね?それにもしかしたら…ロスさん、アーサーさん、ゆまちゃん?も、どこかに現れているのかも?

蘇生組で通常戦闘が可能なのはほむらちゃんぐらいだろうけど、機体がないしねぇ?誰かに譲ってもらえたりしない限りは…。
394 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/01/30(月) 22:34:08.58 ID:F92kpZN0o
「誰がどれに乗るか」はさて置き、究極互換機が3機残ってるね。
395 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/31(火) 00:28:21.64 ID:3+c4/lHP0
復活したさやかは魔法少女のままなのですかね?

何か間違うと、復活したロスとまた戦うことになるなんてこともありそうですが。
396 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/01/31(火) 01:00:51.70 ID:3+c4/lHP0
魔女はTAC的には「パイロットや艦長が魔法少女のユニットでないと索敵できない」といったところでしょうか?
だとすると杏子の索敵範囲内に魔女が入った時点で全軍がその情報を共有できそうですが。

魔法少女以外の攻撃が通じるかは疑問だけど、少なくともバイドには負けているんだよな。
インキュベーターもバイドに魔女をけしかけることはしただろうし。
397 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/02/01(水) 09:26:58.23 ID:BsCZvehw0
本格的にR-TYPE TRPGで遊んでみることをケツイしました。
そんな絆地獄に巻き込めそうな友人をただいま検索中です。

では、投下してきましょうか。
398 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/01(水) 09:27:55.23 ID:BsCZvehw0
「そろそろ落ち着いた、まどか?」

「うん……うんっ」

どれほど泣き続けていたのだろうか、ようやくまどかも落ち着いたようで。
さやかは、まどかを抱き返していた手を解くと、間近でまどかの顔をじっと見つめた。

「じゃあ聞かせて、まどか。あたしは一体どうなっちゃったの?
 どうして、あたしは今ここにいるの?」

「それは……っく」

思い出すと、また涙が零れて来そうになって、まどかはぎゅっと目を閉ざして。
それでも、やがて意を決したように話し始めた。
ロスを説得した後、ロスはそのまま宇宙に出ようとしたこと。
けれど、それは地球軍の攻撃によって阻まれ、彼らは撃墜されてしまったということ。
そして、それに絶望したさやかが魔女となり、今尚地球軍に牙を剥いているということ。
そんなさやかを、そして同じく散っていった仲間を助けるために
杏子が、魔法少女になってしまったということ。

その全てを話し終えて、ようやくまどかは気づいた。
目覚めていたのはさやかだけだということに。
399 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/01(水) 09:28:23.08 ID:BsCZvehw0
「っ!そうだ、マミさん、ほむらちゃんはっ!!」

抱きしめあっていた手を振り払い、マミのキャノピーを覗き込む。
そこには、変わらぬ姿で眠るマミの姿。
装置に付属されたバイタルモニターは、残酷な事実を告げていた。
そこに眠る巴マミの体は、すでに死んでいる――と。

装置によってもたらされた仮死状態から目覚めることなく
魂を手放し、抜け殻となった体がそこにあるだけだった。

「そんな……嘘だよ、マミさん……ほむらちゃんも……っ」

ほむらの装置もまた、同じ事実を告げていた。
それを知り、再び力なく崩れ落ちるまどか。

「なんで……あたしだけなんだ」

自分だけが助けられて、マミもほむらも助けられなかった。
杏子の願いは、なぜそんな結果をもたらしてしまったのだろう。
その事実が、さやかの心を打ちのめす。だが、しかし。
400 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/01(水) 09:28:55.88 ID:BsCZvehw0
「まどか、立って。今は泣いてる場合じゃない。
 杏子が……戦ってるんでしょ。それなら、あたしだけがここで見ているわけには行かないっての」

残酷な事実、容赦なく、立て続けに襲い来る悪夢。
それでもまだ、抗う術が力があるのなら、その膝を折るわけには行かない。
血が滲むほどその唇を噛み締めて、さやかは立ち上がった。

「行こう、まどか。まだあたし達には出来ることがきっとある。
 杏子を、一人で戦わせていい訳がないじゃない。
 あいつは、あたし達の為に戦ってるんだ。あたし達だって、一緒に戦わなくちゃさぁっ!」

決意を新たに拳を握る。
まどかの話によると、あの魔女は自分の絶望が生み出したのだと言う。
なら、それを止めるのもきっと自分でなくてはならない。
さやかはそう思う。戦うための力、レオUは失われてしまったが、きっと何か術があるはずだ。
決意を胸中に滾らせて、さやかはその名を呼んだ。

「出てきなさい、キュゥべえっ!!」
401 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/01(水) 09:29:41.41 ID:BsCZvehw0
「ったく、よぉ。こいつは冗談きついぜ」

迫り来る敵を片っ端から叩き落して、ついに魔女の空域へと迫った杏子。
その杏子を待ち構えていたのは。

「この数を相手にしろってのかよ。はは……百人斬りってのはこんな感じなのかね」

無数に浮かぶ漆黒の機体。そしてその後方にそびえる艦隊。
そしてその無数の死兵に取り囲まれて、剣を掲げて佇む魔女の姿。
そこにはもはや、黒に染まった死兵以外の影はない。
第一方面軍は、壊滅していたのだ。

「魔女さえ倒せばそれで終わる。いいぜ。突っ切ってやるよ。
 そして、てめぇのとこまで辿り着いてやる」

機体に力を、赤い光を携えて、杏子が死兵の葬列に飛び込んでいく。
その、直前に。

「杏子、聞こえるっ!?聞こえてたら返事しなさいっ!」

「この声は……さやかかっ!?」

さやかの大きな声が、通信を介して飛び込んできた。
402 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/01(水) 09:30:08.04 ID:BsCZvehw0
「ボクならずっとここにいたさ、さやか」

そんな通信よりも少し前、さやかがキュゥべえを呼んだ直後。
姿が見えなかっただけで、キュゥべえはすぐ傍にいたようで、すぐに返事が返ってきた。

「ああ、そう。キュゥべえ。杏子が一人で戦ってるんだよね?
 だったら、あたしも一緒に戦わせてほしい。あんたの力でなんとかならないの?」

きっと何とかしてくれるはずだと、さやかはキュゥべえに頼む。
それだけの権限や力を持ち合わせて、今までなんだかんだで力になってくれていた。
だからこそ、表面上はともかく内心では、さやかもキュゥべえのことを信頼していたのだ。
けれど。

「……残念だけど、ボクにもどうする事も出来ない。後は杏子に任せるしかない」

静かに首を振り、キュゥべえはそう答えるだけだった。

「本当に、本当にどうにもならないの!?機体がないなら、どっかから持ってくればいいはずじゃない。
 普通の機体じゃソウルジェムは使えないけど、普通の機体を動かす練習だってしてたんだ」

そう言って、キュゥべえに食って掛かるさやか。
けれど気付く。自分の言葉で思い出す。

「確かに、戦えないことはないかもしれないね。それでも無理だよ、さやか。
 もうキミは魔法少女じゃない。ただの人間だ。ちょっと訓練を受けただけのただの少女が
 あの戦場で戦えると思うかい?死にに行きたいのなら、ボクは構わないけどね」

そう、さやかの手にはソウルジェムがない。
魔法少女の証であり本体、R戦闘機を魔法少女の手足たらしめているデバイス。
ソウルジェムは、忽然と姿を消してしまっていた。
403 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/01(水) 09:30:52.93 ID:BsCZvehw0
「何で……どうしてソウルジェムが無くなってるの?」

今まで持っていた戦うための力の喪失。
それは、ひどい喪失感をさやかにもたらした。

「杏子の願いがそうさせたんだ。さやか、キミの魂はキミが魔女と化した際にすでに消滅していた。
 杏子の願いは、そんなキミの魂を再構成し、キミの体に固定させたに過ぎないんだ。
 だからもう、キミはソウルジェムを失い、魔法少女ではなくなった」

そんなさやかの状態を見て、キュゥべえはようやく何か納得が行ったように頷いた。

「そういうことだったんだね、杏子の願いは。
 魂の再構成。それが彼女の願いだとするならば、彼女が使う魔法は……」

その確信を、静かに言葉に変えていくキュゥべえ。
その言葉を遮って、さやかはキュゥべえに詰め寄った。

「それなら、もう一度あたしを魔法少女にして!杏子と同じように
 あたしの願いを叶えてよ、キュゥべえっ!!」

迷うことなく、さやかはそう言った。
魔法少女の背負う戦いの宿命も、魔法を使い続けた末の末路さえも
全て自分の身で知って、それでも尚。
不朽の正義は折れて砕けた。けれどまだ、それでも守りたい者がいる。

深く考え込んでしまえば、そこでまた絶望してしまいそうだったから。
さやかは、自分の思いの向くままに、ただそうしたいという純粋な思いだけで
再び、戦いの運命に身を投じることを決めたのだ。
404 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/01(水) 09:31:25.05 ID:BsCZvehw0
「それは、できないよ。さやか」

けれど――
帰ってきたのは冷ややかな、キュゥべえの言葉だけだった。

「キミの魂は、杏子の願いによってその体に固定されているんだ。
 その繋がりはとても強い。もはやボクの手に負えないほどにね。
 つまり、キミの魂を取り出してソウルジェムに作り変えることが出来ない。
 だから、もうキミは魔法少女にはなれないんだ、さやか」

さやかの表情が驚愕と絶望の色に歪む。
一歩、二歩。押し下げられるようにその足が後退して。
そのまま、壁にぶつかりずるりとさやかの体が崩れ落ちた。

それを、ただ見ていることしか出来ないまどか。
さやかがもう戦えないのだという事を、頭の中でだけは理解していた。
それは、もはやこの場に杏子を助ける事が出来るものが存在しないということで。

(じゃあ……さやかちゃんはもう、戦わなくて済むんだ。……っ!?)

そんな思いがまどかの脳裏をよぎる。
それに安堵していた自分に、まどかは驚愕した。
405 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/01(水) 09:31:57.05 ID:BsCZvehw0
「なによ、それ……なんで、なんでなのよっ!
 こんな事になったのは、全部あたしのせいなのに。
 なのに……なんで、あたしは何も出来ないのよ……っ」

自分が無力だという事実を突きつけられて、心が折れそうになる。
一度折れてしまった心、再構成されたそれにもちゃんと、その折れ目は残っていて。
それは間違いなく、さやかの心の弱みとなっていた。

「今は信じるしかないね。杏子があの魔女を倒してくれることを」

「……キュゥべえ」

それでも、たとえどれだけ心の弱さを負ってでも
痛切なる状況が、彼女の胸を貫いたとしても。
さやかは再び立ち上がる。壁に手を突き、萎えそうになる足に喝を入れ。
それでもまだ、尚立ち上がるのだ。

今立ち止まれば、本当に心が死んでしまう。
絶望という、目覚めた心を蝕む致死の毒。それに絡め取られる前に。

「杏子に、通信を飛ばして」

一歩でも、前へ進むために。
406 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/01(水) 09:32:34.13 ID:BsCZvehw0
そして、さやかの言葉は杏子に届いた。

「さやか……助かったのか、よかった。本当に、よかった……」

聞こえたその声は、相変わらずの元気な声。
それは確かな願いの成果で、その結果にまず、杏子は安堵し喜んだ。

「杏子、あんた……あたし達を助けるために、魔法少女になったんだってね。
 どうして、って思うけどさ、今はそんな事は聞かない。でも一つだけ言わせてよ」

「な、なんだよ……急に改まった風によ」

音声通信のみではあるが、どこか改まった調子の口調なのはわかる。
思わず、ぎゅっと操縦桿を握る手に力が篭る。

「杏子。あんたには、山ほど言いたいことがあるんだ。
 お礼も文句も山ほどあるし、まだまだあんたと一緒にしたいことだってある。
 だから、だから……絶対に勝って、そして戻ってきなさいっ!!」

さやかはそう言い放つ。
内心の弱音も、救われなかった二人のことも、全てを覆い隠して。
伝えるのはただ、相変わらずな様子と一方的な約束だけ。
重荷ではあるのかもしれない。それでも、伝えずにはいられなかったのだ。

「……ったく。目が覚めた側からうるさい奴だぜ。
 安心しな。必ず帰るからさ。今度こそ、こんな馬鹿げた悪夢は終わりにしようぜ」

「あたし、待ってるから」

「ああ、待ってろ」

言葉は軽く、そして強く。
通信は途切れ。死兵の葬列が杏子を飲み込もうと迫る。



「来やがれ――残らず灼いてやるよ」」

不敵に笑って、杏子はそれに立ち向かう。
407 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/01(水) 09:33:16.84 ID:BsCZvehw0
「こいつら全員相手にする必要なんざねぇ。狙うは中枢。
 魔女を叩けばそれで終わるっ!」

殺到する死兵群、取り囲まれれば集中砲火で蜂の巣は免れない。
既に射程の長い波動砲がいくつか接近している。
けれど、狙いはあまりにも甘い。飄々とかわして、六機のデコイを敵陣へと突入させた。

たちまちそれに群がる敵群、全方位からの集中砲火、全神経を回避することに集中させる。
考え無しに群がりすぎて、敵は自らの攻撃で誘爆を巻き起こす。
互いが互いに傷つけあう、混沌とした火線の中を、デコイ達はかろうじて掻い潜っていく。

だが、やはり数の上での差は圧倒的で。
取り囲まれて潰されて、全方位からの波動砲で消失するもの。
方位されたその空間ごとを、戦艦の艦首砲で吹き飛ばされたもの。
圧倒的な質量に空間を制され、そのまま押しつぶされていくもの。
黒い雲のようにも見える死兵の群れの中、次々にデコイが散っていく。

だが、それも杏子の狙い通り。
少し離れた場所からデコイに群がる敵群を眺めて、唇の端を喜色に歪めて杏子が笑う。

「ちったぁ頭使えっての、馬鹿野郎ども」

直後、その黒い雲の中心で巨大な爆発が巻き起こった。
408 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/01(水) 09:33:56.02 ID:BsCZvehw0
「杏子の願いは、魂の再構成という結果を生んだ。
 それによって生じた魔法は、それもまた魂を生み出すものだったんだね」

杏子の戦いぶりをはるか後方で眺めながら、キュゥべえは静かに呟いた。

「もっとわかりやすく言いなさいっての」

当然、そんな言葉一つで全てが理解できるわけがない。
さやかはふてくされたような顔で、軽くキュゥべえの半透明な体に指を突き刺した。

「要するに、魂を複製してるんだよ。キングス・マインドの生み出したデコイに
 杏子が魔法で複製した魂が宿っている。つまり今、あのデコイはただのデコイじゃない。
 杏子と同じ技量と同じ考えをもつ、もう一人の杏子そのものだ」

「……杏子が合計七人、ってこと?まあ、頼りになりそうと言えばなりそうだけどさ」

いまいち理解しかねる、といった感じだが、それでもどうにか把握した様子のさやか。

「でも、たった七人で戦ってるってことなんだよね。
 あんなに沢山敵がいるのに……大丈夫かな、杏子ちゃんは」

心配そうに、遥か彼方の戦いを見つめるまどか。
直後、ここからでも見えるほどに巨大な爆発が巻き起こった。
409 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/01(水) 09:34:22.55 ID:BsCZvehw0
「爆発!?杏子は、杏子は無事なのっ!?」

「反応は消えていないよ。でも、これは……」

巨大な爆発、湧き上がる炎が渦を巻く。
その凄惨な状況を遠目に眺めながら、キュゥべえはその耳をぴくりと動かした。

「杏子は、本当に自分の魂の複製を作ったようだね。
 あの爆発は……恐らく、ソウルジェムに溜め込まれたエネルギーと、デコイの波動エネルギーの同時開放。
 杏子はソウルジェムそのものを複製して、あのデコイに搭載したんだろう」

それが一体どれだけの魔力を消耗する行為であるか
それを試算して、すぐにキュゥべえはその表情をしかめた。
とてもではないが、二度と出来るような芸当ではない。
恐らくあれは、一発勝負の切り札なのだろう。

「これで魔女を倒せればよし、もしもだめなら……」

果たしてどうなるのだろう。
固唾を飲んで、さやかとまどかは戦いの趨勢を見つめていた。
410 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/01(水) 09:34:53.92 ID:BsCZvehw0
「道は開けた。……さあ、行くぜ」

六つの爆発は、そこに群がっていた敵のほとんどを吹き飛ばした。
たとえ修復できるにしても、一度に全てが修復されるわけではない。
後ろからどれだけ敵が押し寄せようと、たった一つ、魔女を倒せればそれで終わる。

道は開かれた。今こそ、最後の好機。

「……っ、ぐ。流石に、無茶しすぎたかな」

だが、それは突然訪れた。
体の節々に感じる、気だるさをこれ以上ないほどに重くしたような感覚。
限界が近づいているのが分かる。
それが限界を超えた時、自分も同じ物になるのだろう。
あの、魔女と。

「まあ、ここが無茶のしどころだよ、なぁ?」

唇の端を歪めて、不敵に笑う。
何故だろう。これほど困難な状況で、追い込まれてしまったというのに
それでも、次から次へと笑みが漏れてくる。

確実に自分の限界を超える力。
それを行使することの愉悦、戦いの高揚。
そして、たった一人で戦うという逆境。その背に負うものの重さ。
全てが、杏子の精神を限界にまで引き絞らせていた。
411 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/01(水) 09:35:31.01 ID:BsCZvehw0
赤い機体が、より赤い炎の渦を駆け抜ける。
今尚荒れ狂い、収まらぬ破壊を振り撒く灼熱。
太陽とも見紛うその紅に身を焦がし、一直線に駆け抜ける。

「見えたぜ、魔女っ!!」

炎の海を突き抜けて、機体のあちこちから未だ炎を噴き出しながら。
杏子はついに、魔女の居城へと辿りついた。
無数の死兵の屍を、やがて蘇るそれを踏み越えて。

「デコイ全機スタンバイ完了。さあ、今度こそ、今度こそこれで終わりだ」

再び蘇る七機の編隊。
姿は先ほどと同じ、キングス・マインドその物の姿。
けれど今回はただのデコイ。先ほどのような仕込みをする余裕はない。
それでもそれは七門の砲門。一斉にそれを解き放ち、魔女を打ち抜く刃となる。

だが、その前に立ちはだかる二機。
砲身をパージした姿のババ・ヤガー。そして、ラグナロックU。
それは、かつての仲間の機体。
対峙していたのは一瞬。杏子は、無言。

無言のまま、互いに破壊の力を携えすれ違う。
波動の光が飛び交い、一瞬だけ空を破壊の色に染める。
デコイが二機、すれ違った直後に弾けて消える。
その背後では漆黒の二機が、かつての僚機が砕けて割れて墜ちていった。

「……本物は、もっとずっと強かったぜ」

それからようやく、自嘲気味に杏子は笑った。
412 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/01(水) 09:36:01.04 ID:BsCZvehw0
最早邪魔するものは何もない。
ついに眼前に迫った魔女。剣を携え盾を構えるその姿はまさしく異貌の騎士だろう。
その剣が届くより遠い距離で、杏子はその盾すらも容易く打ち破る、波動の一撃を解き放った。

計五発、纏めて撃ち放たれた波動砲。
明確な破壊の力と、絶望を払う人の意思をもってそれは放たれ
構えた盾を容易く打ち抜き、魔女の身体を貫いた。
その胴を、頭部を徹底的に破壊されて。
ついに絶望の化身たるその魔女は、動きを止めた。

「それで、油断すると思うかよ。こっちは嫌って程バイドの相手をしてたんだぜ。
 今更、頭を吹き飛ばした位で安心するかよっ!!」

フォースシュート。更に波動砲のチャージを開始。
フォースは魔女の体内に食い込み、青い体液を流すその身体を焼き払っていく。
更にもう一撃、放たれた波動砲は……

直下より割り込んできた、その巨大な艦体に阻まれ魔女へと届くことはなかった。

「地球軍の新造艦……?ったく、こんなもんまでポンポン落とされてんじゃねぇっ!!」

立ちはだかるは漆黒の巨艦。
それがまだ、人の手によって動かされていた頃は、ニヴルヘイム級と呼ばれていた艦。

恐らく魔女はまだ生きている。
それでも深手は負わせたはずだ。
後一撃。とどめの一撃を叩き込むことさえできれば。
だが魔女へと至るその道は、ニヴルヘイム級が塞いでいる。
413 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/01(水) 09:36:30.49 ID:BsCZvehw0
「掻い潜ってやる。ここで死んだら無駄死にじゃねぇかっ!!」

ニヴルヘイム級に備えられた、無数の武装が唸りをあげる。
レーザーにミサイル、立て続けに放たれるそれをギリギリで掻い潜り
最短コースで、ニヴルヘイム級の外壁に沿って回るように通過した。
けれど、そこで待ち構えていたものは。


十隻を越える、軍艦の姿だった。


「う……ぁ」

放たれる、隙間すら見えないほどの火線。
圧倒的物量による飽和攻撃。明確な形を持って迫るその死に。

「な、める……なぁぁぁァッッ!!!」

杏子は、立ち向かった。
退路を塞ぐように迫り、最早面を為すレーザーの群れ。
そのほんの僅かな隙間を、機体に火花を散らしながらすり抜けた。
息もつかせぬほどに迫り、互いに誘爆しあいながらもその向こうに更に迫るミサイル群。
かわしてかわして掻い潜る。

背後で爆発。機体が煽られ、一瞬その動きが止まる。
全身がレーザーの雨に打ちぬかれ、爆発の嵐が吹き荒れる。
レールガンが、スラスターが、バーニアが、砕けて割れて吹き飛ばされて。
全てが爆発の彼方に消えていく。
杏子が最後に見たものは、キャノピーから見える視界一杯に広がる大型ミサイルの姿だった。
直撃、そして衝撃、そして、熱。
そして、全てが真っ白になった。
414 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/01(水) 09:37:06.49 ID:BsCZvehw0
火だるまになった機体が、やけにゆっくり地表へと墜落していった。

「……杏子の機体の反応が消えた。どうやら、だめだったようだね」

「嘘……でしょ。そんなの、嘘だっ!!」

ゆっくりと頭を振るキュゥべえ。
さやかは、通信を開いて呼びかけた。
何度も、何度も呼びかけた。
まどかも、一緒に呼びかけた。

返事は、一つも返ってこなかった。
415 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/01(水) 09:37:33.14 ID:BsCZvehw0
「ぁ……ぅ、ぐ」

搾り出すように声を出すと、熱にまみれた喉が引き攣れて痛む。
体中が焼き尽くされていて、身じろぎするだけでも全身に激痛が走る。
それでもまだ、燃え盛る機体の中で杏子は生きていた。

ソウルジェムに本体を移し、本物の魔法少女となったことで、杏子の身体は強化されていた。
それ故に、杏子はこれほど激しい炎に包まれ、尚生きていた。

(……だめ、か)

機体は完全に炎に没した。
動かそうとしても、反応は何一つ返ってこない。
けれど、それでも不思議と気分は落ち着いていた。

(やるだけやったもんな。……あたし一人で、よくあそこまでやったもんだよ)

達成感が胸中を満たす。
確かに目的を達することは出来なかった。誰も救われない、皆このまま果てるだろう。
それでも、自分のやり遂げたことはその瞬間を、一瞬とはいえ遅らせたのだろう。

(このまま死ねば、あたしだって魔女にならずに済むさ。それでいいだろう?)

それは十分に成果と言える。
誰もそれを残すことも伝えることも出来ないが、せめて最後は誇らしげに逝ける。

(……仕方ないだろ。方面軍一個分の戦力だぞ?一体一人で何が出来たって言うんだよ)

じり、と胸の奥を嫌なものがよぎる。
焼かれる痛みとは別に、締め付けられるように胸の奥が痛くなる。

(これが、あたしの限界だよ。……恨んでくれるなよ、まどか、さやか)

誰かが耳元で囁いているような違和感。
煩い。喋るな。もういい、もう疲れた。もう沢山だ。

(……マミ、ほむら。すぐそっちに行くぜ。ロス、アーサー。案外早い再会になりそうだな)

仲間達の顔が、脳裏に浮んでいく。
その生き様を、戦う様を、その心を。
416 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/01(水) 09:38:13.35 ID:BsCZvehw0











「ふ・ざ・け・る・なぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」



激昂。そして絶叫。
焼けた喉から血の蒸気が噴き出した。
身体中を焼き尽くされる灼熱地獄の中で、杏子は全身全霊の叫び声を上げた。
諦めを殴り飛ばし、弱気を蹴飛ばし、迫り来る死に舌を突き出した。

マミは、ほむらは、そしてロス達も。
その命の最後の一片までもを燃やし尽くして戦い抜いたのだ。
そんな命の炎を継いで今を戦うこの自分が、それを勝手に諦められるわけがない。
そんなことをしてしまえば、向こうへ行っても合わせる顔があるはずがない。
戦うんだ、抗うんだ。その存在の最後の一片までも。

燃え上がる炎を吹き飛ばし、それより尚赤い光が吹き上がる。
何ができるのかなんて分からない。もしかしたら10秒後には生きていないのかもしれない。
だとして、それがどうした。
ならばその10秒の間に、全ての敵を喰らい尽くせばいい。

「この力が魔法ってなら、それ位の奇跡は起こしてみせろってんだっ!」

迸る光が、魔力が何か形を成していく。
それと同時に、何かがバキバキと砕けていく音が。
ソウルジェムの変化した胸飾り、既に黒に染まったその宝玉がひび割れ始めた。
限界なのだ。最早これ以上、魔法を行使することもままならない。
迸る光が、静かに収まっていく。
417 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/01(水) 09:38:59.19 ID:BsCZvehw0
「限界……なんてのはなァ。越えるためにあるんだよ……ッ」

再び、今まで以上の勢いで迸る光。
それは、夕暮れ色の世界を塗り替えていく。
その存在に気付いた死兵が、その光を囲むように展開していく。
まるで、これから産まれてくるものを迎えるように。
死兵達は、それが自らに敵するものではないことを知っていた。

世界が光に染め上げられていく。
そして、世界は一変した。
418 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/01(水) 09:39:41.74 ID:BsCZvehw0
「結界の中に、別の結界が発生している。……これは、恐らく杏子だろうね」

突如として出現した真紅のドーム。
それは敵軍全てを飲み込んで、九条提督や他の地球軍
そしてティー・パーティーを飲み込む直前で、その拡大を押し留めた。

「杏子?杏子は生きてるの?ねえ、キュゥべえっ!?」

「……杏子は、いや。杏子だったものは、結界を作って全てを閉じ込めた。
 結界を作り得たということは、彼女もまた、なってしまったのだろうね、魔女に」

「……そんな、そんなっ」

希望尽き。あとはいずれ訪れる死を待つしかないのだろうか。
膝を突き、床に拳を突き立てて。自らの無力を嘆く。
そんなさやかの姿を見つめて、まどかは一歩前に出た。

「キュゥべえ。私、契約するよ」

「まどか……本気、なの?」

まどかはさやかの顔を見て、それから小さく微笑んで。
すぐにその表情を引き締めて、キュゥべえの姿をじっと見つめた。

「杏子ちゃんと約束したんだ。杏子ちゃんがだめだったら、次は私だって。
 さあ、キュゥべえ。私の願いを言うよ」

「そうだね、もしかしたらキミなら、まだ少しは望みがあるのかもしれない。
 さあ、願いを言ってごらん、まどか」

目を閉じて、小さく深呼吸をして。
そしてその目を開く。

「私の、願いは――」
419 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/01(水) 09:40:14.88 ID:BsCZvehw0
――その必要はないぜ、まどか。

「っ?!杏子……ちゃんっ!?」

声は、届けられた。
まどかの心にその声は、確かに届いたのだ。

――あたしはまだ、大丈夫。だから任せろ。それと……さやかを、頼む。

「待ってよ杏子ちゃんっ!何するの、ねえ、杏子ちゃんっ!!」

それきりで、声は途切れた。
もう、何も聞こえない。

「まどか……どうしちゃったの?」

そんな様子に、不可解なものを見るようにさやかが尋ねた。
まどかは、そんなさやかに振り向いて。

「杏子ちゃん……まだ、生きてる。生きて、戦ってる」

「っ、まさか、声が聞こえたのかい?」

驚いたように、キュゥべえはまどかに声をかける。
キュゥべえにすらそれを知覚することは出来ないが、まどかの反応からはそうとしか推測できない。
事実、まどかもそれに小さく頷いた。

「杏子ちゃんは、まだ戦ってるんだ」

確信を篭めて、まどかは言った。
420 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/01(水) 09:40:56.89 ID:BsCZvehw0
復元された、キングス・マインドのコクピットの中。
赤く燃え上がるような、否。炎そのもので出来た衣を纏って、杏子はそこにいた。
その胸飾りは既に砕け散り、砕けた後には何か黒いものが覗いている。

「もう少しだけ、待ってくれるみたいだな。あたしの運命は」

その瞳にも炎を宿して、杏子は操縦桿を握り締めた。
今の杏子は最早ほとんど魔女になりかけている。
それこそ、結界を作れるほどにそちら側に引きずり込まれていたのだ。
最早、それを留める方法はない。
ならば、そうなる前に全てを終わらせるだけだ。

眼前に臨む死兵。全部纏めて結界の中に取り込んだ。
一緒に潰して、ここで全てを終わらせる。
死兵の群れも、そこにいるのが敵だと気付いたようだ。
機首を向け、震える波動を蓄え始めた。

「正真正銘、これで最後の最後だ。……行くぜ」

そんな杏子の眼前を、巨大な影が覆いつくした。

「……おいおい、あんたまで来たのかよ。死に損ない」

それはかつての悪夢の象徴。英雄が振るった力。
禍々しき赤を携え、その異貌をまざまざと見せ付ける。
コンバイラベーラ。


彼は、既にチャージを完了させていた艦首砲。フラガラッハ砲Uを
――迫る死兵の群れへと向けて、叩き込んだ。
421 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/01(水) 09:41:24.61 ID:BsCZvehw0
「な……」

二股に分かれ、更に拡散するその一撃が、無数の敵を巻き込み蹴散らしていく。
その成果に、彼は満足そうに頷いてから。

「――援軍の到着だ」

彼――ジェイド・ロスは、杏子にそう告げた。



「ロス、どうしてっ!?」

疑問が頭の中を支配する。
だが、彼は考える余裕を与えない。

「ぼーっとしている場合か、キョーコ。
 敵が来る。君のやらなければならないことは、何だ?」

「っ……そうだったな。ロス。あいつらを蹴散らす。盾になってくれ」

状況はさっぱり分からない。
けれどその力強い声は、記憶の中のロスの姿そのもので。
また共に戦える。その事実だけで、杏子は胸が一杯になっていた。

「ああ、このまま中央を突破するぞ。
 ……皆も来ている。戦力的には、十分だ」

「皆……って、っ!?」

無数の機体の反応。
その正体を確かめて、杏子の顔にはこれ以上ないほどの驚愕が張り付いた。
422 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/01(水) 09:41:58.20 ID:BsCZvehw0
「あまりもたもたしていると、置いていくわよ。杏子」

「周りの敵は任せてね。全て私が狙い打ってあげるわ。杏子」

嗚呼、その姿は。

「ま、やっぱりヒーローは遅れて、だが絶妙のタイミングでやってくる。
 そういうこった。行こうぜ、キョーコ」



「ほむら、マミっ。アーサーっ」

それだけではない。
黒と赤、凶暴なシルエット。その機体は。

「それだけじゃないよっ、私も助けに来たんだ、キョーコっ!!」

「ゆま……お前まで、どうしてっ」

更に、その後ろに次々と現れる機影。
それはどれも、かつて杏子と共に戦った仲間達。
その誰もが、口々に杏子に声をかけ、戦う力を繋いでいく。
423 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/01(水) 09:42:32.16 ID:BsCZvehw0
「なんで、どうして……こんな」

会いたかった人達が、もう会えなくなってしまった人達が。
全てが一同に会し、戦う為に力を合わせている。
R戦闘機が、バイドの戦闘機が、それは余りに異様な光景。
杏子には、それがこの世のものとは思えなかった。
実は自分は、一足先にあの世とやらへ行ってしまったのではないかと、そう思ってしまうほどに。

「迷うのも無理はないわ。杏子。……でも、これは貴女の力が生み出した現実なのよ」

戸惑う杏子に、マミが声をかける。

「貴女の魔法が、貴女の記憶が、私達の魂を作り出した。
 そしてこの世界が、私達の魂に基づく形。戦う為の力を作り出したの」

「あたしの、魔法が……?」

その言葉を、ほむらが次いだ。

「そう、杏子が私達を覚えていてくれたから、私達の事を想っていてくれたから。
 だから貴女は、私達を作ることができた。私達は、杏子と共に戦うことができる」

「要するに、お前が今まで必死に生き抜いてきた、戦い抜いてきた人生は
 無駄なんかじゃなかった。今こうして、お前の仲間を救うことができるってこった。キョーコ」

アーサーが。そして。

「ゆま達は、杏子の記憶から生み出された存在なんだ。
 でも、そんな形でも呼んでくれたから。ゆま達はもう一度杏子に会えた。
 例え今だけでも、キョーコと一緒に戦えるんだよ。だからありがとっ、キョーコ」

元気な声で、ゆまがその言葉を締めた。
424 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/01(水) 09:43:59.44 ID:BsCZvehw0
「ぁぁ……ぁぁぁっ」

その両手で目を覆って、杏子は零れ落ちる涙を隠そうともせずに嗚咽を漏らした。
嬉しかった。会いたいと思っていた人に会えた。今までの人生の全てが、この事実を持って肯定された。
それだけでも、今までの辛い戦いの日々が報われた。
嬉しい。そんな気持ちが、胸いっぱいに溢れてくる。

「キョーコ。君がもうすぐ魔女になるなら……我々は差し詰めその使い魔といったところだ。
 我々に命を下すのは君だ。――さあ、命令を」

炎を宿した杏子の機体。
それを先頭に並ぶ機体群。
その全てが、杏子の命を待っていた。

「っ……ぐずっ。あ、ああ。分かってるっ!
 全軍、敵を突破し魔女を討つっ!あたしに……続けぇぇぇっ!!!」

続くのは、怒号。
赤い炎を旗印とし、杏子の騎士団は迫る敵へと立ち向かう。
真紅に染まった世界の中で、杏子の最後の戦いが始まった。
425 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/02/01(水) 09:53:26.50 ID:BsCZvehw0
正真正銘、これが最後でしょう。

>>393
皆が帰ってきました。
杏子ちゃんが魔女になると、コレが皆使い魔になるわけです、マジで。

>>394
果たして誰が乗る事になるのでしょうか。
そも、人類はラストダンスを迎える事が出来るのでしょうかね。

>>395
こんな具合になってしまいました。
さやかちゃん、戦線離脱です。

>>396
結局策敵できたところで、そこに敵がいる事を認識できないわけです。
それでもまあ、そこにいる事に違いはないので、攻撃を当てられればどうにかなりそうではありますが。
今回の場合は他にも敵がわんさかいたので、そこまで気が回らなかったのかもしれません。
426 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/01(水) 16:10:23.87 ID:YLIgnSTDO
全く、どいつもこいつも。そろいもそろって…あっつい魂してやがるじゃねぇか!!
427 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/01(水) 19:00:14.78 ID:hnUDH5F8o
俺のほむほむは何時甦りますかね
428 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/01(水) 19:45:17.78 ID:Yn/v/Dwx0
いまさらだが、魔女の戦力がすごいな……

TEAM R-TYPEが魔女の力を使った新兵器作るフラグかこれは?
429 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/01(水) 21:32:53.97 ID:5L65H5h2o
なるほど、まさしく牙持つ影を操る狂王だな。
ドンマイさんはいなかったんだ・・・。
430 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/02(木) 01:51:37.90 ID:lWWB/3cB0
しかし杏子は魔女になる前に自[ピーーー]るか、提督のように宇宙に旅立つしかないのだろうか……
431 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/02/02(木) 08:42:16.72 ID:VWA1d9c60
朝投下、行きましょう
432 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/02(木) 08:42:54.00 ID:VWA1d9c60
「戦ってる。……杏子ちゃんが、戦ってるよ」

真紅の結界。それは戦う力を持つ者だけを受け入れ
それに能わざる者を、そして杏子が戦わせたくないと思ったものを排斥した。
その結界の外側で、その中で始まった壮絶な戦いを感じながら。
まどかは、手で目を覆って蹲った。

まどかには、わかる。
その杏子の戦いが、まさしく命を燃やしたものであると
それが、彼女の最後の戦いになるだろうということが、まどかにはよく分かった。

「驚いたな。結界が張れるほどに魔女に引き寄せられながら、それでもまだ自我を保つか。
 ……佐倉杏子。キミは本当に優秀な魔法少女だったね」

そんなまどかの様子に、杏子の現状を何となく察したのか
キュゥべえが、感心したように呟いた。
そのキュゥべえを睨みつけ、さやかが言う。

「――違う。杏子はまだ戦ってる。まだ生きてる。必死に生き抜いてるはずなんだ。
 だから……“だった”なんて。まるでもう終わっちゃったような言い方、しないでよ」

「いずれそうなるのは明らかじゃないか。やっぱり、そういう人間の感情は理解できないよ」
 それともさやか。キミはもしかして、何か不思議な奇跡が起こって杏子が帰ってくる
 ――なんて、思ってるわけじゃないだろうね?」

「っ……」

返す言葉がない。
ぎゅっと拳を握り締め、俯いて。
何かを堪えるような様子のさやか。
それでも、すぐにその顔を上げた。
433 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/02(木) 08:44:42.40 ID:VWA1d9c60
「……思ってるよ。思って何が悪いのさっ!思ってるに決まってるでしょっ!!」

その表情には、激しい怒りを漲らせて。
けれど、そのやり場を見つけることができなくて、それを振りかざしているだけで。

「今だって思ってるよ。何かもの凄く最高に都合のいい奇跡が起こって、
 杏子もほむらもマミさんも、みんな無事に帰ってきて。朝目が覚めたらバイドなんか全部いなくなってて
 まどかと仁美と一緒に学校に行って、マミさんやほむらとも一緒にお昼ご飯を食べて
 学校が終わったらみんなで一緒に遊びに行って。沢山遊んで家に帰ったら、家で家族が待っててくれる。
 今日も、明日も明後日も、ずっとずっと平和で楽しい日が続いてくれるようなそんな世界。
 それを全部叶えてくれるくらい、最ッ高に都合の奇跡が、起こって欲しいって思ってるよ、ずっと!!」

ただただ、ひたすらに言葉を思いを、そして願いをぶつけて叫ぶ。
長い言葉を告げて、荒げた息もそのままにさやかは更に続ける。

「わかってるんだよ。世界はそんなに優しくないってことくらい。
 でも、あたしはどうしたらいいのよ。みんなを助けられるって、こんな不条理な世界を変えられるって
 そう信じて戦ってたのに、みんなあたしを置いていくんだ。
 どうして、どうしてあたしだけが助かるの。どうして、あたしだけが戦えないの?ねえ、どうしてよっ!!」

ぽたぽたと、大粒の涙が落ちていく。
頬を伝い、二筋の流れが顎の先で混じって落ちる。
ぽたりと垂れた涙は、ブリッジの床に零れて広がっていく。

「戦えるなら、今すぐにでも杏子のところに行くのに……あいつを、一人ぼっちになんてさせないのに」

ただただ憎かった。
無力な自分が、戦うことを許さない状況を。
……そんなことを願った杏子にまで、その憎しみが向いてしまいそうになって。
そんな自分の心を、さやかはまるで抑えることができなかった。
434 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/02(木) 08:46:50.35 ID:VWA1d9c60
「もう一度言うよ、さやか。今のキミは無力だ。
 キミは、今の自分にも何かができると思っているのかもしれないね。
 事実、ついさっきまでキミは特別な存在だった。でも、今は違う。
 今のキミが行ったところで無駄死にするだけだ。分かるだろう、さやか」

キュゥべえの声は、どこか呆れたような様子であった。
その言葉はまさしく事実で、それが分かっているからこそ、それは酷くさやかの心を傷つけた。
そして、ぶつりと何かが切れてしまった。

「……そこまで言うなら、見せてやろうじゃない。
 本当にあたしにはもう何も出来ないのか、見せてあげようじゃないのっ!!」

涙をぐい、と袖で拭って。
さやかはブリッジを飛び出した。
まどかにも、キュゥべえにも振り向くことなく、真っ直ぐに。

「さやかちゃん……っ」

「放っておくといい。どうせ、彼女には何もできはしないんだ」

「放っておけないよ。さやかちゃんは、私の……仲間だもん」

まどかは、さやかを追いかけ駆け出した。
キュゥべえは、黙して何も答えなかった。
435 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/02(木) 08:48:02.58 ID:VWA1d9c60
さやかは走る、走る。息が切れる、足が、身体が重くなる。

「どうして、こんなに……疲れるってのよ」

壁に身を預けて、どうにか息を整えようとした。
果たしてここまで身体が衰えていたのだろうか。
以前ならば、どれだけ艦内を走り回っても疲れもしなかったというのに。

「……魔法少女じゃ、なくなったからってこと?」

肺が酸素を求めてズキズキと痛む。
口の中が粘つく。何度も何度も荒く息を吐き出して、それでもよろよろと進もうとした。
認めたくなかった。魔法少女ではなくなってしまったことが
自分から、ありとあらゆる戦う力を奪ってしまったのだということを。

けれど、それは事実。
魔法少女であれば、コールドスリープによる身体への負担も即座に修復される。
肉体も、ある程度には強化される。
それがなくなり、それでもその時の感覚のまま、コールドスリープ直後の身体を走らせた。
これは、当然の結果と言えた。

「負けるか……あたしは、あたしはっ!!」

それでも、さやかは足を進める。
歯を食いしばり、荒い呼吸を繰り返し。
その目をギラギラと血走らせ。さやかの足は、格納庫へと向かっていた。
436 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/02(木) 08:49:01.94 ID:VWA1d9c60
「さやか、ちゃん。……何してるの?」

ようやく格納庫についたまどかが見たものは。

「何、って。出撃の準備だよ。こいつはまだ動くからさ」

さやかはパイロットスーツを身に付け、工作機の起動を行っていた。
それはキングス・マインドの修理に使われ、そのまま格納庫内に放置されていたものだった。

「無茶だよ、だってそれ。R戦闘機ですらないんだよ」

それはあくまで工作機。
その仕事は補給や修理、施設の占領などで。
戦力といえるものは、大凡戦闘には役に立つとは思えない機銃が一つ。

「無茶かどうかなんて、やってみないとわからないでしょ」

まどかの方を振り向くことなく、さやかは工作機を起動させた。
その機体が僅かに振動し、後は乗り込み動かすだけの待機状態となる。

「……駄目だよ、今のさやかちゃん、見ていられないよ。
 行っちゃ駄目。死んじゃうよ。さやかちゃんっ!」

まどかにすら分かる。それは明らかに自殺行為だと。
一心不乱にそれに乗り込もうとするさやかは、まるで死に急いでいるようで。
止めなければならないと、まどかは直感的な不安を感じていた。
だからこそまどかはさやかの側に駆け寄って、その手を掴んで止めた。
437 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/02(木) 08:50:18.38 ID:VWA1d9c60
「離してよ、まどか」

まどかの顔を見ようともせず、乱暴に言い放つさやか。

「離さない。絶対に」

そんな言葉に、心の奥が冷たく震えるのを感じながら。
それでも、絶対に離さないとばかりにその手に力を篭めるまどか。

「どうして、どうして行かせてくれないの。杏子が、一人で戦ってるのに」

さやかの手は震えていて。
その手の震えは、確かにまどかにも伝わっていた。

「さやかちゃんの手、震えてるよ。……怖いんだよね。私も一緒だよ。
 今行ったって、さやかちゃんは死んじゃうだけだよ。私は、さやかちゃんに死んで欲しくないんだよ。
 何よりも、さやかちゃんが死んじゃうのが怖いんだよ」

その言葉に、さやかの手の震えは止まった。
ほんの僅かに表情を緩めて、まどかはさやかの顔を見た。
その表情は、まるで凍りついたかのように冷たくて。
碧く澄んでいたはずの、希望と力に満ちたその瞳は、深い闇色に染まっていて。

それが何処までも恐ろしくて、ぞくりと背筋に怖気が走るのをまどかは感じた。
握っていた手すらも、氷のように冷たく感じてしまった。
さやかは、その手を振り切って。
438 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/02(木) 08:51:35.90 ID:VWA1d9c60
「……あたしは、人を殺したんだ」

「っ!?」

そんな闇色で、虚ろな目をまどかに向けて
さやかは静かに言葉を始めた。

「ロスと一緒に戦ってたあの人達は、皆ロスの仲間だったんだ。
 人間だったんだよ。中には人間が乗ってたんだ。……あたしは、それを沢山殺した」

「でも、それは……」

バイドになってしまったのだから、仕方がなかった。
そうしなければ、自分が殺されていた。
それは間違いなく、納得するには十分な理由。
けれど、さやかの芯の一番大切な部分に残った高潔さが、それを許さなかった。

「無理なんだ。耐えられないんだ。そんな事実を背負って、普通の人間として生きていくなんてさ。
 魔法少女なら、戦うことが出来ればそれを償うことだってできるかもしれないのに
 もう、それもできない。この先一生、あたしはそれを背負って生きていかなくちゃいけないんだ。
 ……耐えられないよ、そんなの」

――だから、戦って死にたいんだ。
――自分がまだ、戦場にいられるうちに。

さやかの言葉は、暗にそんな心情を示唆していた。
確かにそれは、余りにも重過ぎる事実。
それは戦争だから、誰もさやかを責めはしない。
だからこそ、さやかはそれを抱えてこの先を生き続けなければならない。
誰かに打ち明けることも出来ず、一人で、誰にも理解されずに。
439 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/02(木) 08:52:44.80 ID:VWA1d9c60
かつて、抱えた秘密の重さに押しつぶされそうになったまどかには
そんなさやかの気持ちが、痛いほどによくわかった。
それでも、止めなければならない。
行かせるわけにはいかない。死なせるわけにはいかない。
まどかは半ば衝動的に、再びさやかの手をつかんでいた。

「駄目、駄目だよ、さやかちゃんっ!!」

今止めなければ、今行かせてしまえば、大切な仲間を、友達を失うことになる。
それが分かりきっていたから。まどかは止めた。
きっとそこには、さやかが行ってしまえば、またしてもまどかは一人取り残される。
それが耐えられないというのも、偽らざるまどかの気持ちではあったのだろう。

「離してよ、まどかっ!!」

さやかは、その手を力いっぱい振り払う。
その拍子に、工作機の外部操作用コンソールを強く叩いてしまった。
待機状態だった工作機は、強制的に叩き込まれた命令に飛び起き、そして従った。
全くの不本意に叩き込まれたその命令“右アーム急速旋回”を命じられるままに。

「さやかちゃん、危ないっ!?」

「え……っ」

背後で響く駆動音。
それに気付いて振り向いたさやかの眼前には
工作機のアームが、唸りを上げて迫ってくるのが映っていた。
440 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/02(木) 08:53:19.81 ID:VWA1d9c60


衝撃が、さやかの身体を貫いた。




「ぅ……っ、痛っつ……」

背中を強く打ちつけた痛みに、さやかは一瞬息が詰まった。
目の前が暗い。視界がぶれる。
それでも、自分の身体のことだけはすぐにわかる。
思ったほどは、怪我は酷くはないようだ。
というよりも、打ち付けた背中のほうがよほど痛い。

恐らく、壁にでも吹き飛ばされたのだろう。
けれど、そこでふと違和感に気付く。
工作機のアームは、かなりの速度で迫っていた。
それと衝突して、なぜこれだけの怪我で済んでいるのだろうか。
パイロットスーツは、それほどまでに優秀だっただろうか。

ゆっくりと壁から身体を起こそうとして、やけに重いことに気付く。
まるで、重たい何かが身体の上に圧し掛かっているようで。
それでも、無理やりに身体を起こすと、その重さはどさりと横にずれて落ちた。
ようやく、視界が開けた。やけに赤い。
手を付いた床は、何かでぬらぬらと濡れていた。

「ひっ!?」

さやかは、気付く。
さやかの上に圧し掛かっていたのは、まどかの身体だった。
やけに重かった理由も、視界が赤い理由もすぐにわかる。
それは、まどかの頭から流れ出る赤いナニカ。
ぴちゃぴちゃと床へと流れていく、ヘルメットさえも赤く染めて。
441 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/02(木) 08:55:40.32 ID:VWA1d9c60
「まどか、まどかっ!?どうして、なんで、なんでこんなことにっ!?」

震える手で、横たわるまどかを抱き起こす。
その手も真っ赤に染まっていて、まどかの服を更に朱に染める。
赤く染まったその顔で、まどかはうっすらと目を開けて。

「さや、か、ちゃん。……無事、だったんだ、ね。よ、かっ……た。
 頼まれ、て……たん、だ。きょ、こ…ちゃんに。さや…ちゃん、事。頼む、って」

搾り出すように、か細い声でそうとだけ言って。
まどかの首が、がくりと垂れた。

理解した。何が起こったのか。
まどかは庇ったのだ。工作機のアームに打ち据えられようとしていたさやかを。
その身を挺して庇い、そしてまどかはこれほどの重症を負ってしまったのだ。

「……あたしの、せいだ。あたしの、あたしの」

自責の念が、さやかの全てを埋め尽くす。
キュゥべえの言うことを聞いて、大人しく待っていれば。
まどかに止められた時に、その言葉を聞き入れていれば。
杏子を信じていれば、こんな衝動的な自殺願望に、身を委ねてしまわなければ。
そうすれば、まどかがこんなことにならずに済んだのに。

「あたしの、あたしの……あたし、の。ああぁぁぁぁぁぁぁ………っっ」

赤々と広がる血の池の中で、まどかの身体を抱きかかえて。
さやかは叫ぶ。自責の念に、心の全てを押し潰されて。


報せを受け、九条提督率いる部隊の医療班が、即座にまどかを搬送した。
壁の隅で、全身を血の赤に染め“あたしのせいだ”と、壊れたように呟く少女。
さやかもまた同様に搬送され、スキタリスへと収容された。
442 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/02/02(木) 09:10:19.19 ID:VWA1d9c60
これで終わりかと思ったら、実はもう一段底があったようです。

>>426
杏子ちゃんの記憶の中の彼らですから、本人ではありません。
けれど杏子ちゃん自身がなんだかんだで熱い子なので、それに引っ張られて皆熱くなっているのかもしれません。

>>427
あなたのほむほむはいつもあなたの胸の中にいますとも。

>>428
そもそもどこまでその存在を知覚できるのかという問題ではありますが。
その上それを操れるようにするためには、間違いなくかなりの試行錯誤と犠牲が必要になるでしょうし。

>>429
STGでもSLGでもあんまり扱いはよくないので、今回はがんばってもらいました。

>>430
流石にもう都合のいい奇跡も打ち止めのようです。
一体どんな最後を迎えるのでしょうかね、彼女は。
443 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/02(木) 09:57:07.35 ID:rCTOj5wDO
朝投下お疲れ様!
まぁ実際、ああでもならないとさやかちゃんは止まらなかっただろうし、妥当な所かな。まどかも一応魔法少女化してるし、案外ケロッと戻って来るかも?
444 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/02(木) 20:23:28.51 ID:lWWB/3cB0
>間違いなくかなりの試行錯誤と犠牲が必要になるでしょうし。
TEAM R-TYPEがそれぐらいでとまるとは思えないですよね。
最終的に成功するかどうかはともかく、やれるところまでやる気がします。

>>443
まどかはまだ人間ですよ。
445 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/02(木) 22:51:28.86 ID:rCTOj5wDO
>>444 あれ、そうでしたっけ。ESP暴走防止の為にソウルジェム化していたような…?あぁ、ソウルジェム化と魔法少女化は違うって事ですか?
446 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/02(木) 22:57:37.32 ID:lWWB/3cB0
>>445

>>143に指輪は通信機とあります。
447 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/02(木) 23:09:20.98 ID:rCTOj5wDO
 oh…orz
この部分、しっかり読んでいなかったのか…申し訳ございません。重ね重ね、失礼いたしました。
448 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/02/03(金) 14:47:28.30 ID:QiMmC5aj0
今日は昼過ぎ投下です、ではでは。
449 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/03(金) 14:48:03.93 ID:QiMmC5aj0
そんな悲劇も露知らず、真紅の結界内部の戦いは激化していた。

「敵左翼が崩れた。そのまま攻撃を続行しつつ中央に向け前進!。
 中央の敵がある程度薄くなったら、本艦を前面に押し出し一気に中央を突破する」

全身の武装から絶え間なく攻撃を続け、じりじりと前線を押し上げながら
コンバイラベーラは、ロスは各隊にそう告げる。

「右翼部隊の抑えは完了よ、しっかりと頭を叩いておいたから
 しばらくはあのまま留まらざるを得ないはずよ」

味方機の退避を確認し、フルチャージのギガ波動砲を敵右翼部隊に向けて叩き込む。
激しい光の奔流。物質としての限界にまで分解されて、無数の死兵が消えていく。
そうしてできた巨大な穴を、埋めさせることなく立て続けに攻撃を仕掛けながら
ほむらがその声に応えた。

「こっちも了解だ。このまま左翼の連中を蹴散らしつつ、中央の敵を誘い出すぜっ!」

戦場を激しく飛び交う機体群。
その中で一機、その軌道の先々で数珠上の爆発を巻き起こす機体。
アーサーが駆るマッド・フォレストVが、まさに自由自在に戦場を駆け
その度に、迫る敵機を引き裂き続けていた。
450 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/03(金) 14:48:39.70 ID:QiMmC5aj0
激しい戦闘。
けれどそれは、もはや一方的な蹂躙でしかなかった。
どれだけ数は多くとも、敵は一山幾らの使い魔部隊。
対するこちらに揃うのは、皆が皆歴戦の勇士たち。
この戦場においては、完全に質が物量を凌駕していた。
さらに、その大局を決定付けていたことは。

「この場所じゃあ、これ以上復活は出来ないらしいねっ。
 なら構う事なんてないさ。このまま、一気にぶっ潰してやるよっ!!」

赤い光の尾はもはや、たなびく炎そのもので。
燃え盛る火炎もそのままに、杏子の機体が宙を駆ける。
それを阻めるものなど何もなく、近づく端からその炎に焼かれ、打ち落とされていく。
ここは真紅の結界の中。もはや杏子の世界であるからか
落とされた機体は、再び蘇ることなくそのまま朽ち果てていく。

その全てが、杏子達の勝利を確たるものとさせていた。
事実、彼女達の力の前に、敵は抵抗らしい抵抗を見せることもできず
ただただ蹂躙されるのみであった。
そして、ついに中央を守る分厚い壁が破られようとしていた。
451 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/03(金) 14:49:11.15 ID:QiMmC5aj0
「敵部隊が左右の守りを固め始めた。今がチャンスだ。敵中央を突破するぞっ!」

とにかく敵は数を頼りに守りにかかっていた。
真正面からぶつかれば、負けはしないにせよその守りを貫くのは至難の業で。
だからこそ、またしてもロスは一計を案じた。

正面には少数の部隊のみを配し、防戦に徹するように仕向けた。
その分両翼への攻めを重視。敵が両翼の守りに戦力を割くのを待ったのだ。
相手が単純な思考しか持ち得ない使い魔であれば、それを気取られるわけもなく。
まんまと敵は策に嵌り、中央を守る死兵の数は極端に減じた。

「マミ!頼むっ!」

機体を転進。
炎を纏って中央に迫る杏子が、マミに通信を送る。

「待ってたわよ。こっちのチャージはとっくに完了。
 ……さあ、派手に叩き込んであげるわ」

マミのババ・ヤガーが敵陣の中央、敵が薄れたことで姿が望む
中央を守る艦隊の姿を捕捉していた。超絶圧縮波動砲のチャージは、既に完了している。


「……どうしようかしら。ティロ・フィナーレは、あれで最後って言っちゃったのよね」

発射シークエンスを迅速に済ませながら、冗談混じりにそう言ってマミは笑った。

「ならいいのがあるぞ。使ってみるか?」

その呟きに、アーサーが答えた。
なにやら二言三言言葉を交わして、それから。

「なるほど、それじゃあ今回はそれでやってみましょうか」

「ああ、ばっちりやれよ」
452 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/03(金) 14:49:41.89 ID:QiMmC5aj0
――デモリッション・モードへ移行――


――エネルギーライン、全段直結――


――波動エネルギー、圧縮率最大にて保持中――


――誤差修正、ピッチダウン0.2度――


――ライフリング回転開始――




「デッドエンド……シュートっ!!」



超絶圧縮波動砲が放たれた。
死兵の壁をそのまま飲み込み、消滅させて。
更に奥の艦を貫く。

「更に、このまま……斬……り、裂くっ!!」

ババ・ヤガーが機首を大きく振る。
尚も放たれ続ける超絶圧縮波動砲。その軌道が大きく撓み、歪む。
けれどそれは途切れずに、ひたすらに圧倒的な破壊の力を打ち放ち続けた。
それはまさしく巨大な波動の刃となって、横薙ぎに一閃。
貫き、そして駆け抜けた波動の刃が、敵陣の奥深くに並び立つ艦隊を、纏めて両断した。

まさしく超巨大な刃で一刀両断されたように、死兵の群れも二つに割れる。
圧倒的な力によって、無理やり隙間はこじ開けられた。
453 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/03(金) 14:50:18.59 ID:QiMmC5aj0
「機は熟した。ここで決めるぞ。キョーコっ!」

ロスが叫ぶ。
同時にコンバイラベーラが動き出し、その隙間に無理やり艦体を突入させる。
全武装一斉開放、レーザー、ミサイル、艦首砲。
渦巻く破壊の嵐が、閉じようとする隙間を維持させる。

「任せろっ!ほむら、アーサー。一緒に来いっ!」

「了解よ」

「了解だ」

一つの炎と二つの機体。
三つの力が、その隙間を抜けて飛ぶ。
押し留めようと追いすがる敵を押しのけ、打ち砕き。
閉じようとする壁は、コンバイラベーラの艦砲射撃が蹴散らした。

「艦隊の残りか、あいつを抜ければ……魔女はすぐ、そこだっ!!」

死兵の壁を貫いて、空白の空域を飛ぶ三機。
その行く手にはまだ、生き残りの艦隊が立ちふさがっている。
先ほど杏子の行く手を阻んだ、巨大な壁。
だが、それすらも。
454 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/03(金) 14:50:44.68 ID:QiMmC5aj0
「ここは、俺達に……」

「任せて、先に行きなさい、杏子っ!」

波動の光が艦を灼く。
波動の蔦が艦を貫く。
ラグナロックUとマッド・フォレストVが、立ちふさがる艦隊へと立ち向かっていく。

「頼むぜ、二人とも」

そうしてできた隙を縫い、杏子は一人魔女を目指す。
その、最中。

「っ……ったく、あたしも、大分向こう側に引っ張られてるってのかな」

炎を纏う機体、その内側から装甲を食い破り、何かが生えてきた。
それは、炎で出来た翼。あたかも不死鳥のそれのように雄雄しく、その翼は広げられた。
それはまさしく、杏子が魔女そのものに近づいている証に他ならなかった。

「まあ、そうなる前にケリをつければいいだけのことだよな。
 ……行くぜ」

機体が炎を巻き上げる。その翼もまた大きく開かれて、激しく空を打った。
その羽ばたきに、更に機体は速度を上げる。

幾重にも及ぶ死兵の壁。
身の内に宿した英雄の、仲間達の力を借りて、ついに杏子はその全てを突破した。
そして今、再び。魔女と対面する。
455 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/03(金) 14:51:31.26 ID:QiMmC5aj0
そこはまさしく深淵の海。
波動砲を浴び、全身に負った傷から噴出し続ける青い体液。
それは止め処なく流れ続け、まるで海のように眼下を染めていた。
赤い空間に淀み、溜まり続ける青。
そしてその中心で、一人、その身を休めている魔女の姿。

逃すわけにはいかない、見間違えるはずもない。
杏子の接近を悟り、魔女が剣を振り上げた。
だが、もう遅い。

「ぶッ……潰れろォォォっ!!」

一切速度を落とすことなく魔女へと迫る杏子の機体。
その機体が、内側から膨れ上がるようにして爆ぜていく。
その装甲の下には、膨れ上がって赤熱する熱の塊が眠っていた。
開放されたそれは、更にその熱量を増し、荒れ狂い、全てを消し去る灼熱をばら撒いた。
そして、そのまま。

二人の魔女が、激しく衝突した。

世界を消滅させんほどに、激しく、強い光が沸き上がった。
456 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/03(金) 14:52:05.63 ID:QiMmC5aj0
杏子は見た。激しい光の中、魔女がその存在を失っていく様を。
そして知る。自らも、やがてそうなると言う事を。
このまま生きていれば、すぐに本物の魔女へと変わってしまう。
それを避けるためには、そうするしかなかったのだ、と。

(今度こそ、本当に終いだな。……あたし、頑張ったよな)

熱さも、苦しさもない。
不思議な安らぎと、達成感を感じながら。

(皆を、守れたんだよな。だから、今度こそ会いにいけるよな)

ソウルジェムは、もう完全に砕けて閉まっていた。
後に残っていたのは、それと良く似た意匠の施された、黒い宝石を携えた飾りが一つ。
それが一体何なのか、そんな事は、考えもしなかった。

(ほむら、マミ、ゆま、アーサー。……ロス)

自分と言う存在が消えていく。
四肢の端から、ゆっくりと。
恐怖はない。少しずつ消失していく自分を、やけに冷静に杏子は眺めていた。
457 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/03(金) 14:52:46.74 ID:QiMmC5aj0
――ああ、そうだね。

(っ!?あ……ぁ、あんたは…っ)

――よく、頑張ったね。キョーコ。

(……っ。認めて、くれるのか?一緒に、行ってもいいのか?)

――行こう。これからは、もうずっと一緒だ。



杏子の意識が、存在が消失する。
その、直前に。






――お帰り、キョーコ。

――ただいま、ロス。







光が、溢れた。
黒の死兵を、杏子の騎士達を、光は全てを消し去っていく。
そして結界もまた、弾けて消えた。
458 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/03(金) 14:53:12.74 ID:QiMmC5aj0
「正体不明の異層次元、崩壊を始めました。内部より閃光が……っきゃぁぁっ!?」

「中尉っ!?ぐ……っ!?」

その光は崩壊した真紅の結界より,漏れ出た。
そして、スキタリスのブリッジを埋め尽くしたのだった。


「なんだ……一体、何がっ!?」

閃光に眩んだ目をどうにか開く。
まだじんじんと痛む目を眇めて、九条提督は辺りの様子を確かめた。
そこは不思議な空間だった。

魔女の結界内を埋め尽くしていた、容赦なく目に付き刺さる夕暮れ色。
それとは違う、どこか優しく、哀愁を誘うような
夜へと変わり行く、沈む夕日の色だった。

「ここは、一体…・・・」

見れば、そこにはついさっきまで一緒だったガザロフ中尉の姿も見当たらない。
バイドによる精神攻撃の類か、と。そう考え始めた瞬間に。

「やあ、まずははじめましてと言っておこうか」

そこには、軍服を纏った男の姿があった。
九条提督にとっては、見覚えのある男の顔だった。
459 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/03(金) 14:53:41.88 ID:QiMmC5aj0
「貴方は……まさか、ジェイド・ロス?
 ……だとすれば、やはりこれはバイドの精神干渉か?」

そこに立っていたのはジェイド・ロスの姿。
九条提督にとっては、先ほどまで激しく戦っていた敵である。
すぐさま警戒し、懐の銃へと手を伸ばした。

「そう警戒しなくてもいいさ。私は君には何もできやしない。
 ただ、少しだけ話がしたかったんだ。……名前を、聞いてもいいかな?」

その口ぶりからは、確かに敵意があるようには見られない。
まどか達から、和解したのだということも聞いていた。
信じられるかもしれないと、九条提督は考えた。

「第三方面軍を預かっていた九条だ。
 木星で、そして月で、二度も貴方に敗れた男だよ」

状況がさっぱり飲み込めない。
恐らく、何が起こっているのかなんて理解も出来ないだろう。
あまりにもこの戦いは、理解の範疇を超えることが起こりすぎている。
今更何が起こったところで驚くものかと、九条提督は既に腹を据えていた。
460 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/03(金) 14:54:09.76 ID:QiMmC5aj0
「……なるほど、そうか。やはり君があの時の」

そんな言葉に、ロスはなにやらしきりに頷いて。
やがて顔を上げると、その表情をまさしく軍人のそれへと切り替えて。

「九条提督。君に頼みたいことがある」

「いきなり改まって、一体何を?」

「……地球を、いや太陽系を、バイドの手から守ってくれ」

何を言い出すのかと、九条提督は顔を歪めた。
この目の前にいる英雄も、もはや今はバイドではないか。
だというのにそのバイドから、太陽系を守れと言われるとは、どういうことだろう。

「人類が必死に作り上げた防衛ラインを、全て粉々に破壊してくれた貴方が
 今更そんな事を言うとは、憤慨も通り過ぎて最早滑稽だ」

不快感を隠そうともせず、半ば怒りの混じった声で九条提督は答えた。
そもそもこの英雄が地球に帰ろうとさえしなければ、まだ人類は安泰だったはずなのだ。
バイドとの最終決戦も近かったと言うのにである。

「……それについては否定しない。私も、まさか自分がバイドだとは気付きもしなかった。
 だが、それでも託さなければならない。この戦いを生き残った者に、真実を知り得た者に」

「それに、貴方に言われなくとも必死で守るさ。これ以上負ければ、人類に後はない」

「だからこそだ。恐らく、この戦いを生き残った君は、これから大変な任に就くことだろう。
 だからこそ、今言っておく。人類の希望を背負って、絶望的な敵に立ち向かった者としてね」
461 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/03(金) 14:54:36.83 ID:QiMmC5aj0
一つ、ロスは大きく息を吸い込んだ。

「負けるな。何があっても、君はもう負けてはならない。勝ち続けるんだ。
 君の命は最早君一人の者じゃない。この太陽系の、全人類の存亡を背負った物だと自覚しろ。
 私達は駄目だった。だから、君は必ずやり遂げてくれ」

勝手な事を。無責任な事を。そう内心で毒づく気持ちもあった。
けれど、彼はジェイド・ロスなのだ。
彼もまた、絶望的な任を負い、遥か宇宙の彼方で戦い続けたのだ。
それがどれだけの苦悩だっただろうか。考えると、どこか胸が熱くなるのを感じた。

「もし今すぐ戻って、地球の皆と共に戦えるのなら私はそうもしよう。
 だが、駄目なんだ。私達はもう行かなければならない。だから、誰かに託していくしかないんだ。
 頼む……誓ってくれ。勝ち続けると、人類の未来を……守ると」

そして、ロスはその手を差し伸べた。
それはあまりにも重く苦しい苦悩が刻み込まれた、ひどく疲れた手であった。
死して尚、人類を守りたかったのだろう。
そのために、何かを残したかったのだろう。

その苦悩を、精神を、自分は受け継ぐに足りうるのだろうか。
九条提督は逡巡する。
そこまで自分に自信が持てるわけでもない、けれど。
462 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/03(金) 14:55:07.52 ID:QiMmC5aj0
「……私も、守りたいから戦っていたのだったな、そういえば」

思い出したのは戦う理由。
危機に瀕するこの世界を、自分を信じてくれる仲間を、家族を。
守りたかったのだ。もっと多くのものを守れると、そう信じてこの道を歩んできたのだ。
ならば、もう迷う事はない。

「誓おう。貴方に代わって。……いや、貴方以上に、全ての人類を守ってみせる」

九条提督は、その手を取った。
交わした手から、何かが伝わってくるような感覚。
それは冷たく重い。心の芯の外側に、枷のようにはめ込まれた。

それはきっと、英雄たる資格。

「迷うな。躊躇うな。間違えるな。君のそれは、君が守りたい物全てを傷つけると思え。
 ―――人類を、頼む」


そして、再び視界が歪む。
意識が途切れ、そしてまたどこかへ繋げられていくような
それは、不思議な感覚だった。
463 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/03(金) 14:55:51.10 ID:QiMmC5aj0
「――提督っ!九条提督っ」

「ん……ああ、すまない。ガザロフ中尉」

呼びかけられる声に、九条提督は意識を取り戻した。
どれだけ時間が過ぎていたのだろうかと思ったが、どうやらそれは一分の半分にも満たない時間だったようだ。
九条提督は、まだ僅かに眩む視界をどうにか前方へと向かわせる。
そこには、砕けて消えていく結界という名の異層次元の姿。

それを見て、改めて九条提督は実感した。
今度こそ、確実に。――戦いは、終わったのだと。
そしてそれが、次なるバイドとの激戦の前触れに過ぎないことも理解して、それでも。

「提督、周囲に敵の反応はありません。指示を」

「負傷者を後方の艦に預け、本艦は前進。内部の状況を確認する。
 反応がないとは言え、何が出てくるかわからん。敵の接近には十分警戒しろ」

そう指示を出し、もう一度深く椅子に腰掛け背を預け。
それから、隣に並ぶガザロフ中尉に視線を向けて。

「ガザロフ中尉。……これから、恐らく激しい戦いが始まるだろう。
 決して負ける事を許されない、激しく長い戦いだ。
 ……それでも、私についてきてくれるか?」

突然の言葉に、呆気に取られたような表情を向けるガザロフ中尉。
けれど、すぐにその顔には明るい笑顔が浮かんだ。

「もちろんです、提督っ!私はどこまでもお供します!」

「……そうか、じゃあ頼む」

その答えに、九条提督は満足げに小さく頷いた。
464 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/03(金) 14:56:18.62 ID:QiMmC5aj0
かくして、かつての英雄、ジェイド・ロスの帰還に端を発する一連の事件は終わりを告げた。
地球軍に、そして多くの人々に、そして魔法少女達に
その事件は、あまりにも大きな傷跡を残していった。

それすらもまだ、ラストダンスの序曲に過ぎない。
人類とバイドの戦いは、ついに最終局面を迎えようとしていた。


魔法少女隊R-TYPEs 第15話
          『魔法少女とは……』
          ―終―
465 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/03(金) 14:56:46.75 ID:QiMmC5aj0
【次回予告】

人類は、あまりに多くのものを失ってしまった。
喪失は、人類を更なる狂気へと駆り立てる。
全てそれは、人類が生き延びるため。
全てそれは、バイドを撃滅するため。
だが、それほどの狂気を帯びながら、尚。
人類は今だ取り戻せざるものがあった。


――その者の名は“英雄”。


――光を失った少女と、心を持たない少女が出会う時
――最後の希望が、目を覚ます。


次回、魔法少女隊R-TYPEs 第16話
             『わたしの、初めての友達』
466 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/03(金) 15:00:25.28 ID:QiMmC5aj0
以上、長かった英雄編もこれにて終了となります。
次の章からはいよいよ怒涛の最終章……となるかな?
ボロボロの人類、そして少女達。果たして希望はどこにあるのか。
ラストスパート、頑張って書いて行こうと思います。
これからも、どうぞよろしくお願いします。

>>443
ちょっとわかりにくかったかもしれませんね。
まどかちゃんはまだ普通の女の子です。
思いっきりアームでいいのを一発いただきました。
重体です。

>>445
間違いなくあの連中なら、魔女の能力を知れば何か良からぬ事をたくらむでしょう。
ですが、それを体系立った兵器として対バイド戦に組み込むことが出来るかどうかは微妙なものです。
時間的余裕は、実はあまり人類にはなかったりします。
467 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/02/03(金) 15:04:58.21 ID:hY0IeBt5o
マミさん、ついにライザーソードまで…
468 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/03(金) 20:41:10.44 ID:dQaMuy7DO
お疲れ様です!
次回のタイトル、良い感じですね!しかし、心を持たない少女…か、一体誰なんだろうか。

英雄の皆さん…あの世で、ゆっくり休んで下さい。
469 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/04(土) 00:53:28.40 ID:F9rYpa090
ところで、さやかだけ人間としてよみがえって、他の人たちは使い魔としてよみがえったのには何か理由があるのですか?

後、杏子の魔女としての設定と、それぞれの使い魔の解説も見てみたいです。
オクタの使い魔は歯車みたいなものでいいのでしょうか?
470 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2012/02/05(日) 23:50:07.90 ID:fdlAesld0
まだ回収してない伏線みたいなもんあったっけ?
471 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/06(月) 00:34:58.10 ID:HWEKm7GP0
>>470
最初に「少女たちと彼女の物語」とあったことですかね?

ほむらがスゥ=スラスター本人でないのなら、「彼女」にはあたらないとおもいますし。
472 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/06(月) 00:39:08.43 ID:OdI7M8wvo
私のほむらがヨミガエってないなんて許せん
473 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/02/06(月) 10:30:52.84 ID:NZAmp4830
さて週明け、それじゃ早速行きましょうか。
474 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/06(月) 10:31:22.82 ID:NZAmp4830
「では……状況を整理しようか」

重々しい沈黙が垂れ込めた円卓の中。
対バイド戦における最高の意思決定機関である、地球連合軍最高機関会議。
その会議は、開始早々に暗礁に乗り上げ、暗い沈黙に包まれてしまっていた。
その沈黙を切り裂いたのが、その議長であり地球連合軍最高指揮官でもあるこの男だった。

「……では、私の方から説明をさせていただきます」

その声に答えたのは、地球連合軍の参謀次官。
前任者を蹴落とし、その地位を磐石の物としたのはいいものの
それからさほど間を置かずしてこの一大事である。
元より政治の方面に明るかったこの男にとっては、叩き上げの軍人や狂気の科学者を相手取るこの会議は
主な胃痛の種となっているのだった。
彼は今日も胃腸薬を飲み下し、やや青白い顔で眼前の文章を読み上げるのだった。

「先のバイド艦隊襲撃により、太陽系内の対バイド防衛戦力は、その約60%を失いました。
 これだけならば、予備役の部隊やオペレーション・ラストダンス用に温存していた戦力を投入すれば
 何とか太陽系内の防衛体制を整えることはできると予測されています」

その言葉に、並び立つものたちの間から次々に嘆息が漏れる。
ジェイド・ロス率いるバイド艦隊は、寡兵ながらも太陽系に多大なる被害をもたらしていた。
勿論それがかつての英雄であるということを、彼らは知らない。
知る由もない。だからこそ、その被害の大きさに純粋に驚愕と落胆を感じていたのである。
そして、続く言葉は更に深い絶望をもたらした。

「ですが、天文台からの報告がありました。
 あのバイド艦隊が開いた道を通って、バイドの大部隊が太陽系へと接近しています。
 概算ですが、早く見積もっても三ヶ月後には太陽系に到着するかと」

余りの驚愕に、最早声を漏らす者すらもいなかった。
475 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/06(月) 10:31:51.01 ID:NZAmp4830
「……大部隊、とは。具体的にどの程度の数か把握はしているのかね」

将校の一人が、重々しく口を開いた。
その表情には、驚愕と僅かな希望に縋るような色が映されていて。

「観測の結果によれば、今回襲撃してきた敵部隊と同程度の規模かと。
 その程度の部隊が、現在確認されているもので計7つ。
 現在も、続々と地球へ向けて近づいているとのことです」

「な……っ」

まさしく絶句。二の句を継げずに、その男は深く椅子に腰を落とした。
会議の空気に、諦めの色が濃く映し出されていく。
戦力の大部分を失った人類に、かつてない規模を持ってバイドの大部隊が襲い掛かってくるのである。
絶望するには、十分すぎるほどの状況だった。

「っ!そうだ、オペレーション・ラストダンスはどうなった!?
 あれを今すぐ発令させて、敵が来る前にバイドの中枢を討てばっ!」

そんな絶望に陥りそうになる心を奮い立たせて、僅かな希望を探して政府高官が切り出した。
けれど、そんな言葉も予想通りだったのだろう、参謀次官は首を小さく振って。

「先のバイド艦隊との戦いの最中、オペレーション・ラストダンスのパイロットとして選定されていた
 暁美ほむらが死亡しました。今すぐにオペレーション・ラストダンスを遂行することは不可能です」

「だ、だが優秀なパイロットなら他にいるはずだっ!究極互換機が完成しているなら、他のパイロットを乗せて……」

尚も、諦めきれずに詰め寄る政府高官。
その言葉を、一人の老人の声が遮った。
476 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/06(月) 10:32:17.15 ID:NZAmp4830
「無理だ。究極互換機はまさしく究極のワンオフ機。
 設計の段階からパイロットとなる人物の全生体データを参照し、常にその人物にとって最適なレスポンスを返す。
 それをするためには、長期間に渡る機体とのマッチング作業が必要だ。
 既に完成した究極互換機は暁美ほむらとのマッチングを完了している。今から別の人物にするとなると
 それこそ、一から作り直すに等しい手間がかかるだろうな」

「ぐっ……なら、一体どうしろと言うのだっ!
 まさか、このまま座して人類の滅亡を待つわけでもあるまいっ!!」

激昂した政府高官が、円卓にその手を叩き付ける。
またしても、痛いほどの沈黙が場を支配する。

「本当に、アークに頼るより他無いと言うのか……」

「……そちらの作業は順調です。建造自体は一月後には完成するでしょう。
 人員の選定についても、秘密裏に遂行中です。最短で二ヶ月後には全工程が完了することでしょう」

アーク。それはまさしくその名の通りの箱舟である。
激化するバイドとの戦い。その中で、万が一人類がその種の存亡に関わるような事態に陥った時
それでも尚、その種を保つ為に作り出した種の保存策。
それが、今語られているアークだった。

アテナイエと同程度のサイズの人口天体に、地球上に存在するありとあらゆる動植物の遺伝子データを保存。
それと同時に、全人類200億人の中から10万人程度を選別し収容する。
それだけの人類を生存させ得る食料プラントや各種生産施設、コールドスリープ装置さえも搭載している。
そして遂に人類の存亡の急となった場合には、バイドの難を逃れて太陽系を脱出。
人類が生存し得る新天地を求めて、果てない宇宙の旅を始める。

アークは、その為の巨大な宇宙船だった。
その建造は、オペレーション・ラストダンスの片隅で極秘裏に行われている。
当然、そんなものの存在が知れれば途方もないパニックが生じることが予測されたため
その存在は、徹底的に秘匿されたまま現在まで経過していたのである。
477 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/06(月) 10:32:59.67 ID:NZAmp4830
「唯一の救いだな、アークが間に合いそうだというのは。
 とは言え、このまま手をこまねいているわけにも行かん。
 なんとか迫り来る敵を打破し、オペレーション・ラストダンスの遂行にこぎつけなければな」

いよいよ持って、人類には絶望的な状況が突きつけられていた。
それでもこの男、地球連合軍最高指揮官の表情は揺るがない。
絶望的な状況であろうとも、否、絶望的な状況だからこそ。
それに打ちひしがれて、足を止めるような余裕などは人類にはありはしないのだ。

「……策は、ないこともないがな」

先ほどの老人、TEAM R-TYPEの研究者が再び口を開いた。
その言葉に、俄かに会議にざわめきが蘇る。

「聞かせてもらおう」

そのざわめきを制して男が続きを促した。

「まあ、その為にはお前さん方の力も必要なんだがな。
 M型の適合者を集めてもらいたいのだよ。それこそ大量にな」

再び、ざわめきが大きくなった。

「M型、というと……確か、特殊な素質を持った少女のことだったな。
 それも、第二次性長期前後の」

「然り。ざっと3000人程度用意できれば、今地球に接近しているバイドの部隊を殲滅することも容易いだろうな」

「なっ……無茶を言うな、無茶をっ!
 今ですら、M型の調達は非常に手間がかかる仕事なんだぞ」

たちまち、一人の男が食って掛かる。
軍内部の人事を統括するその男は、M型適合者、つまるところの魔法少女を集めることの大変さをよく知っていた。
478 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/06(月) 10:33:32.15 ID:NZAmp4830
「そもそも素質のある人間を探すのだって大仕事なんだぞ。
 それにそんな少女を戦わせるようなことが表沙汰になってみろ、それこそ大問題だ。
 おおっぴらに人を集められないからこそこんなに我々は苦労していると言うのに、随分と簡単に言ってくれるなっ!」

こんな戦時にあって尚、むしろこのような戦時だからこそ
非道な実験というのは最早憚ることなく行われている。その急進こそがTEAM R-TYPEなのである。
しかしそれはいずれも秘密のベールの向こうに包まれ、余人の知る由もないところであった。
大量の魔法少女を集めるということは、最早その存在を、年端も行かない少女を戦わせているという事実を
公表するということに他ならない。間違いなく、激しい非難を受けることは避けられなかった。

「心中は察するがね。そうしなければ人類は滅亡だ。
 たかだか数千人の少女の命を取るか、それとも皆揃って仲良く滅亡するかだ。
 ……選択の余地、迷う時間があると本当に思っているのかね?」

そんな怒りを浮かべる男の言葉に、さも愉快そうに老人は笑い、そして告げる。

「期限はギリギリで二月、といったところかな。用意できた側から送ってくれればいい。
 後はこちらで処理をするでな。くく……」

「……一応聞いておくが、今度はどんな悪趣味なことをするつもりだね?」

そんな愉悦を隠そうともしない老人。
あからさまに見せ付けられる狂気に、円卓を囲む者たちは困惑や嫌悪感を隠しきれずにいた。
その中で一人、指揮官の男が問いかけた。

「リサイクル、という奴だ。魔法についての研究も進められるし、残りカスまで有効に活用できる。
 まったく、M型というのは本当に面白い玩具だよ。バイドとの戦争が終わったら、次はその研究をすることにしようか」

そう言って、老人は耳障りな声で笑った。
最早円卓の中に、それを留められるものは誰もいない。

「……では、対バイドのことはそちらに一任することにしよう。経過報告だけは欠かさぬように。
 後はオペレーション・ラストダンスに関わる新たなパイロット候補の選定だが……」

かくして、尚も会議は踊るのであった。
479 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/06(月) 10:33:55.75 ID:NZAmp4830
「鹿目まどかさん、どうぞ」

呼ばれて、まどかは立ち上がった。
その手を誰かの手が取った。そして、ゆっくりと歩き出す。

――こんな歳の子なのに、可哀想に。

手を引かれてゆっくりと歩き、扉を一つくぐる。

「さあ、ここに座ってください」

促されるまま手探りに、まどかは椅子を探り当てた。
そのまま、そこに腰を下ろした。

――一体、この子に何が起こっているのだろうな。

「それじゃあ診察しますよ、鹿目さん。目を開けてくださいね」

今まで、目を閉じていたのかとまどかは気付く。
そしてその目を、静かに開いた。
そこにある景色は、今までのものと何も変わりはしない。

病院の診察室。
看護師に身体を支えられ、医師がまどかの目を診ている。
その目は虚ろに開かれて、まるで何も映されていないよう。
480 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/06(月) 10:34:21.54 ID:NZAmp4830
ティー・パーティーのブリッジで、工作機のアームによって重症を負ったまどかは
戦闘が終わり、結界が消失してすぐに、まどかは病院へと搬送された。
幸いなことに命に別状はなく、脳などの重要器官にも目立った損傷は見られなかった。

だが、唯一つ変わってしまったもの。
それが、まどかの目だった。まどかは事故の後、目が覚めてから視力を失ってしまっていたのだ。
それを知り、すぐさま精密検査が行われた。けれどいずれも異常は見られなかった。
なぜ視力が失われてしまったのか、この時代の進んだ医療でさえも、その原因を見つけることはできなかった。

かくして、まどかは今なお光の無い、暗闇の世界の中で生き続けているのだった。

「……明るくなったような感じはするかい?」

「いいえ。……何も、見えません」

医師が開かれたその目にさっとライトを当てる。
反射的な瞳孔の変化さえ見られず、まどかもその明るさを知覚することが出来ない。

――相変わらず、か。やはり原因は精神的なものなの……か。
481 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/06(月) 10:34:48.55 ID:NZAmp4830
「それじゃあ、今日はこれでお終いだ。気をつけて部屋に戻るんだよ」

ひとしきり検査を行って、得られた結果は何も変わらない現状と
相変わらず暗闇の世界に囚われたままのまどかだけだった。
それに内心の落胆を抱えつつも、医師は勤めて明るくまどかを送り出した。

再び、看護師に手を引かれてまどかは部屋への道を辿る。

「もう今日は夕方の検査まで何も予定がないから、お散歩でもしよっか、まどかちゃん」

――ずっと部屋の中に閉じこもってばかりだもの、少しは身体を動かしてあげないと。

「いいんです。迷惑になっちゃうし。……動きたくないから」

まどかは、静かに首を振った。

――そんな顔して言われちゃったら、無理に言えないじゃない。

「……そう、わかったわ。それじゃあもし何かあったら、すぐに呼んでちょうだいね」

自分にあてがわれた部屋に着く。
誰かが用意してくれたのだろうか、広い個室にまどかが一人。
呼べばすぐにでも人は来てくれるのだろうけれど、どうにも寂しい気分を感じていた。
ベッドの上に座ると、握っていた手の感触が遠のいていく。
まどかには、それが少し心細くもあった。

扉が閉まり、まどかはまた一人きりになった。
482 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/06(月) 10:36:04.77 ID:NZAmp4830
「どんな顔、してるんだろうな。私」

まどかは静かに呟いた。
そして枕元のイヤホンに手を伸ばす。
手探りで掴んだそれを耳につけると、ラジオの音が聞こえてきた。
特に聞きたくて聞いている訳ではない。
けれど、そうしなければ静かさに、そして聞こえてくる声に耐えられなかったから。


そう、まどかに起こったもう一つの変化、それは。

「やっぱり、これって……その人の思ってること……なんだよね」

遂に、まどかの能力が本格的に目覚め始めた。
周囲の人間の心の声、思考が、無作為にまどかの中へと流れ込んできたのだ。
それはとても辛く、まどかの心に大きな枷として圧し掛かっていた。


目が覚めて、最初に感じたのは暗闇。
暗闇の世界に戸惑う内に、いつしか聞こえ始めた心の声。
そして、落ち着いて改めて振り返り感じる、余りにも大きすぎる喪失。
ほむらが、マミが、杏子が死んだ。そしてさやかはどうしているのだろう。
それを問うてみても、病院の人間からは何一つ答えは得られなかった。
今のまどかが答えを得られないということは、つまり、本当に知らないということなのだろう。

「どうなるんだろ、私、これから。
 ……どう、したのかな。さやかちゃん」

ベッドの上で膝を抱えて、そのままころんと横になる。
どうしようもなく悲しいはずなのに、どうしようもなく苦しいはずなのに。
心はほとんど動かなかった。
胸にぽっかりと、大きな穴が開いてしまったかのように
まどかの心は、途方もないほどの虚無感によってからっぽにされてしまっていた。
483 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/06(月) 10:36:33.92 ID:NZAmp4830
日は、また廻る。
人類はその種の存亡を懸け、さらなる狂気へとその身を投げ出していく。
M型適合者、つまるところの魔法少女を確保するため、若年者に対する適性調査が行われることとなった。
そしてその中で素質のあるものは、有無を言わさずTEAM R-TYPEの元へと連行されていった。
最早体裁を気にすることすらもなく、その狂気はありとあらゆる場所へと振りかざされている。
当然のように民衆の中に膨れ上がる、軍やその研究機関への不信。
それすらも無視を決め込んで、迫る決戦に、種の存亡に、人類は邁進しているのだった。

そして、それでもまどかの生活は変わることはなかった。
近くにいればそれだけで、聞きたくもない人の心を聞いてしまう。
だからこそまどかは常に孤独を好み、静かな日々を過ごしていた。
さやかの現状は杳として知れず、キュゥべえからの接触もなく
何も変わらぬ現状に、何も分からぬ現状に、まどかの精神は少しずつ追い詰められていった。

「……もう、無理だよ」

自室のベッドの上で、呆然とまどかは呟いた。
どうにもならない現状は、酷くその心を打ち砕いていた。
押し寄せる絶対の孤独。
耐えかねて誰かに接触すれば、容赦なくその本音が流れ込んでくる。
それが本音であることがよくわかるからこそ、自分が接することがほんの僅かでも相手の負担となることが
まどかには、どうしても耐えられなかった。

孤独に耐えかね誰かを求め、心の声に耐えかね距離を取る。
決して埋められない針鼠のジレンマ。
けれどまどかに針はなく、その周囲を取り囲む全てが無数の針で覆われていた。
触れようとすれば突き刺さり、心を痛め傷を深める。
まどかの精神は、限界を向かえていた。
484 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/06(月) 10:37:02.34 ID:NZAmp4830
「キュゥべえが言ってたのは、こういうことだったんだね」

まどかは立ち上がった。
手を突き出して、手探りに歩き出す。

「確かにそうだよ。こんなんじゃ、生きていけるわけないよ」

部屋の扉を開く。
病院内はそこそこに静か。けれどそこには多くの人がいる。
病に苦しみ、鬱屈とした感情を抱え続ける者。
死の恐怖に怯え、どうにかそれを内心に押し込めている者。
その全てが雑踏となって、まどかの心に突き刺さっていた。

「……静かな場所に、行かなきゃ」

まどかは、ゆっくりと歩き出した。
壁に手をつき手すりを伝い、ゆっくり、ゆっくりと。
最近ほとんど食事も摂れていない。余り動いてもいない。
萎えた身体に、足に鞭打って、無理やりどうにか歩を進める。
上へ、上へ。

「はぁ……っ、階段、上るだけなのに。こんなに……辛いなん、てっ」

このまま力尽きて座り込んでしまえたら、どれだけ楽だろうか。
そうすれば、誰かが見つけて部屋へと連れ戻されることになるだろう。
きっと、誰も嫌な顔はしないはず。けれどその心の内はどうだろう。
それまで思っていた以上に、人の心は素直だった。
いいことがあれば喜ぶし、嫌な事や面倒事があれば、少なからず嫌な言葉が混ざる。

そんな声を聞くのが、まどかには耐えられなかった。
485 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/06(月) 10:37:29.37 ID:NZAmp4830
重い扉を開くと、まだ少し肌寒い風が病衣の下の肌を撫でた。
暦の上ではもうじき春。けれど、まだまだ空気は肌寒かった。

「ここは、静かだな。……よかった」

ここには、風の吹き込む音しか聞こえてこなかった。
誰の心の声もない。誰もいないということだろう。
少しだけ、心が落ち着いた。

「ずっとここにいられたら……あはは、風邪引いちゃうよね」

手探りに、壁伝いにゆっくりと歩く。
かしゃん、とその手に金網の感触が触れた。
手を伸ばしてみるけれど、やはりかなり高い。
乗り越えられるだろうかと考えてみたけれど、萎えた手足ではとてもそんな事は叶わなかった。

「やっぱり、だめ……かな」

かしゃん、ともう一度金網を揺らしてまどかは呟いた。
限界だと、これ以上は耐えられないと、そう思ってここに来た。
自ら命を絶つということを、半ば本気で考えてしまっていた。
けれどこうしていざ事に及ぶとなると、この場所で、静かに風の音に耳を傾けていると。
そんな澱んだ感情が、少しだけ失せていくような気がした。

「……もうちょっとだけ、頑張ろう。頑張れるよね、私」

ぎゅっと、胸元を押さえて深呼吸。
冷たく澄んだ空気が、肺の中一杯に広がった。
そして息を吐き出す。澱んだ雰囲気と一緒に、大きく大きく。
486 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/06(月) 10:38:00.40 ID:NZAmp4830






「どうかしたの、貴女?」





その声は、突然横から投げかけられた。
女の子の、声だった。

「え……っ!?だ、誰っ!?」

誰もいないはずだった、声なんて何も聞こえてこなかった。
けれどもその声は聞こえてきて、まどかは酷く困惑した。
そして、その声のするほうに必死に手を突き出した。

「……貴女、目が見えないの?」

そんな様子にまどかの現状を察したのだろうか、少女が尋ねる。
そして、突き出されたまどかの手をそっと握る。
不意に手に触れた柔らかな感触、ぴくりとまどかは身を震わせた。

「落ち着いて。わたしは……ここにいる」

「ぁ……っ」

その手が、ぎゅっと両手で包まれた。
暖かで柔らかな手が、ふんわりとまどかの手を包んでいた。
それでも尚、まどかの心に声は響いてこない。
それが何を意味するのか、まどかにはわからない。
ただ、その本心を気にすることなく共にいられる人がいる。

「ぁ……貴女、は。誰なの?」

その手に、更に自分の手を重ねて、震える声でまどかは尋ねた。
487 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/06(月) 10:38:27.50 ID:NZAmp4830
「……分からないの、自分が誰なのか。何も覚えていない。
 気がついたら、この病院にいたの」

帰ってきた言葉は、どこか寂しげで。
そんな声色から人の気持ちを推し測る、それ自体がまどかには新鮮なことだった。

「そう、なんだ。……えと、私、鹿目まどか。
 その、えっと……もう少し一緒に、お話しててもいいかな?」

「……いいけれど、何も覚えていない人間と話をして、楽しいの?」

どこか、その少女は困惑していたようだった。
何も覚えていない状態で、こんなところで一人で佇んでいるのだから
もしかしたら一人で居たいのかもしれないと、まどかは思う。
けれど、その本心を知ることはできないのだ。
ならば今は、今だけは自分の判断を信じて話してみようと、まどかは考えた。

「楽しいよっ、こうやって一緒にお話できるだけで、私は楽しいんだ」

「ぁ……っ。変わってる、ね。まどかは」

その少女は、笑ったのだろうか。
まどかにはわからないけれど、それでもどこか少女の声の調子が柔らかくなるのはわかった。

「うん、そうなんだ。私、変わってるみたい」

人の心の声が聞こえるのだから、それは飛び切りおかしなことだろう。
十分に変わり者だよね、なんて自分に言い聞かせたりして、まどかは答えた。
488 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/06(月) 10:38:53.44 ID:NZAmp4830
「……ほんと、不思議な人だね。まどかは。
 でも……話し相手になってくれたら、わたしも寂しくなくて済む、かな」

声に冗談っぽさが混ざったのを感じて、まどかもにっこりと笑った。
繋いだ手を、もう一度強く結んだ。

「じゃあ、よろしくねっ!……えっと、なんて呼んだらいいんだろ」

少女は自分の名前を知らない。
まどかは少女の名前を知らない。
誰も、少女をどう呼ぶべきなのかは分からない。

「まどかが、考えてくれないかな」

少女の言葉に、まどかは一瞬きょとんとした顔をして。
それからすぐに、考え込むように首を傾げた。

「私が、かぁ。……うーん、どうしようかなぁ」

まどかは、何度も考える。まさか適当な名前なんて付けられない。
その少女の存在は、まるでまどかにとっては果ての見えない暗闇の中で見つけた、一筋の光。
見つけてしまえばそれに縋るより他なく、その光はまどかの心の支えとなる。
まどかにとってその光は、暗闇を払ってくれたもの。言うならばそれはまどかにとっての英雄だろう。
英雄。その言葉を背負った名前を、まどかは知っていた。
可愛らしい名前だし、いいよね。と。

「……スゥちゃん、って。呼んでもいいかな?」

「スゥ……?うん、わかった。じゃあ、わたしはスゥ。よろしくね、まどか」

「うん、よろしくねっ、スゥちゃんっ!」

手を取り合って、まどかは明るくそう言った。
光の差さない世界の中が、俄かに明るくなったような気がしていた。
489 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/06(月) 10:49:14.56 ID:NZAmp4830
ひとまず今回はここまで、いろいろと切羽詰ってきている中、まどかは新しい友達ができたようです。

>>467
このSSのマミさんは、とにかく強くて頼りになる先輩でしたね。

>>468
というわけで16話も開幕です。
果たしてスゥちゃんとまどかちゃんの出会いは何をもたらすのでしょうか。

死者はもうこれ以上何もすることができません。
彼ら、彼女らには、後はただ安らかに見守っていてもらいましょう。

>>469
さやかちゃんは杏子ちゃんの魔法で蘇りましたが、他の人は事情がちょっと違います。
杏子ちゃんの魔法は魂を作り出すこと。あの時現れたロスやほむら達は、杏子の記憶の中の存在が
魔法によって生み出されたものに過ぎなかったわけです。
杏子の結界が、そうして生み出された使い魔である魂に、戦うための形である機体を与えていたに過ぎなかったのです。

さやかちゃんの場合は歯車状の使い魔を操って、あらゆる武器を自由に操作し戦うといった具合でしょうかね。

一応魔女杏子ちゃんの設定もここに。
Feder der Flamme
焦熱の魔女。“記憶”の使い魔を従え、その性質は“依存”。
誰かの幸せと、その先にある自分の幸せの為に戦い、その命を燃やし尽くして魔女と化した。
それでも記憶の片隅に残る幸せな記憶。それに焦がれて身を焦がし、その熱は灼熱へと化した。
故に彼女に触れられるものはなく、彼女に近づけるものはない。
彼女は思い出の形をした使い魔に囲まれて、結界の奥で灼熱の羽ばたきを続けている。

もし本格的に魔女になれば、常に燃え盛る異形の不死鳥のような感じになったんではないかと思います。

>>470-471
そこまできっちり読み込んでいてくださるとは、私としてはうれしい限りです……が。
実はこのお話、書いてる内にかなり設定が変わってまして、その一文も実はその名残だったり……。
最初は本物のスゥ=スラスターの予定だったんです、ほむらちゃん。
けれど諸般の事情によりクローンが出ていてしまったわけで……。

>>472
それでもほむらちゃんは貴方の胸の中で生き続けております。
490 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/06(月) 16:36:40.66 ID:m7Uw78ODO
朝投下お疲れ様っす!
読心系能力はオートだとキツいわな。しかも目が見えなくなるとか。そしてスゥ(新)ちゃん登場、心の舐め合いが可能になりましたね。

しかし、なんだかこの二人の関係が東方のさとりとこいしみたいに思えてきたぞ。
491 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/02/06(月) 20:15:40.33 ID:fWAPo2EM0
投下お疲れ様です。ついに狂気が溢れ出し始めた感じですな。某クロス作品ばりの狂気へと至ってしまうのか?

まどかの能力が開花し始めましたけど、あの状況からチームRタイプとかキュゥべえが出てこない事が気になりますね。
…いや、彼女が連中の内心を覗き込んだらやばいですけど。>>490さんが挙げた東方のサトリ妖怪姉妹みたいになりそうだ…。

魔女杏子の設定もかっこいいです。もう誰も彼女に触れられないというあたりが実にまどマギっぽい。
前回ラストのロス提督は杏子の使い魔だったのか、それとも…?
次回も楽しみに待っております。
492 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/06(月) 20:35:53.83 ID:HWEKm7GP0
スゥ…… そもそも実在しているのか?
発狂したまどかの幻ではないのか?

いろいろ嫌な疑問が出てきます。何しろキボウに満ちた物語ですから。
493 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/06(月) 20:40:03.40 ID:HWEKm7GP0
>>469の質問の回答ありがとうございます。
ただ、私が聞きたかったのは、「なぜさやかだけ人間としてよみがえったのか?」ということです。

もう体のない、ロスやゆまはともかく、マミやほむらは人間としてよみがえってもおかしくないのではないか?
また、さやかも使い魔になっていてもおかしくないのではないか?

ということです。

まあ、たまたまといわれればそれまでですが……
494 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州) [sage]:2012/02/07(火) 07:31:55.28 ID:xXJGOqtAO
R-typeどころかシューティングさっぱりなんですが気付いたら一気に読んでしまっていました。
ゲームの方にも興味湧いてきたし、TACでも買ってみますか。

素晴らしい作品に出会わせてくれた1さんに感謝です。
495 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/02/07(火) 09:02:07.54 ID:TfaVmOGU0
なんとなくざっと計算してみた結果、もしかしたらこのスレでは終わりきらないかもしれません。
本格的にFINAL2が現実味を帯びてきたようです。

それはさておき投下します。
496 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/07(火) 09:02:52.63 ID:TfaVmOGU0
「ほら、こっちだよまどかっ!」

「んー……どこだろ、こっちかなー?」

まどかの右後方、少し離れたところでスゥが声をかけた。
まどかは耳を澄ませてその声を聞いて、きょろきょろと首を廻らせ、そして。

「そこだーっ!」

と、飛びついた。
その身体を、スゥは力強く受け止め、抱きしめた。

病院内、レクリエーションルーム。
他に人影はなく。二人きりの部屋の中。
まだまだ日は高く、窓から差し込む日差しは柔らかだった。

「ふふ、正解だよ、まどか」

抱きついてきたまどかの身体を受け止め、そのまま抱き返してスゥは笑った。
確かに受け止められたのを感じて、まどかも嬉しそうに笑った。
そのままぺたぺたと、スゥの顔のあちこちに手のひらを這わせた。

「くすぐったいよ、もう。……まどかってば」

まどかは目が見えない。だからこうして触れて確かめている。
それがよくわかっているから、スゥは抵抗しようともしない。
そんな風にじゃれあっていると、段々とその手が目から鼻、鼻から頬へ
頬から顎へと降りてきて、そのまま首筋にまでぺたぺたと手が迫る。

「ちょ、ちょっと、まどかっ!?」

背筋にぞくり、その手を掴んで引き剥がした。
497 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/07(火) 09:03:25.96 ID:TfaVmOGU0
「あはは、やっぱりだめかな……私は、もっと一杯スゥちゃんのこと知りたいって思うんだけどな」

手を掴まれたまま、照れたようにまどかは笑った。
触れることでしか形が分からない。それがどうにも寂しくて、ついつい手が伸びてしまう。
今まどかが確かめられる、唯一の人なのだから。確かめたくなってしまう。

「そう言われると……その、あぅ」

そして、スゥにとってのまどかもまた、たった一人の友達なのだ。
何も知らない、覚えていない自分に、そんなことなど意にも介さず接してくれる。
だからこそスゥもまた、できるだけまどかと一緒に居たいと思った。
確かめたいというのなら、そうさせてあげたい、と。

「だめ……かな?」

もう一押し、とばかりに小さく首を傾げて見るまどか。
その仕草はどうにも可愛らしくて、主に恥ずかしさで築かれた牙城が
ぐらり、と揺らぐのをスゥは感じていた。

「………ま、まどかがそうしたいなら……いぃ」

「わーいっ!ありがとっ、スゥちゃんっ!」

ぴょん、と再びまどかが飛びついてきた。
不意を突かれて、今度はスゥの体も揺らぐ。
そのまま二人、折り重なるようにしてレクリエーションルームの床に倒れこんでしまった。
498 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/07(火) 09:03:56.20 ID:TfaVmOGU0
スゥとの出会いから数日。
お互いがまるでお互いを求め合うようにして出会った二人は、すぐさま仲良くなった。
相変わらずまどかの世界は暗闇で、スゥの記憶は忘却に塗れている。
けれど、どちらもそんなことは気にしなかった。
ただ重く圧し掛かる絶望を忘れさせる術として、そしていつしか大切な、唯一無二の友達として。
お互いが、そう思いあうようになっていた。

「それじゃっ、スゥちゃんはどんな子なのかなー、確かめてみようっと」

そして再び、押し倒したような姿勢のままでまどかの手がスゥに伸びる。
もう一度目から、顔立ちに沿ってすっと手のひらでなぞっていく。
まだ少女の顔つき、艶のある頬の感触は、触れているだけでぷにぷにと心地よかった。

「うぅ……なんだかくすぐったいな」

もぞ、とスゥは小さく身を捩る。
その間にも、まどかの手はうなじをくすぐるように撫でて
そのまま短い髪をくしゃくしゃと弄り回した。
スゥが言うには黒髪なのだという。もしかしたら、元は日本人だったのかもしれない。

「スゥちゃんの髪は、短いけどさらさらなんだよね。
 これはきっと、伸ばしたりしたらすっごく綺麗になると思うな」

満足げに髪を指で梳く。
確かにその髪は短かったけれど、指の間をさらさらと流れていった。
髪を梳くだけではちょっと物足りなくなって、今度は耳元に指を這わせて。

「ひゃっ!?ま……まどかぁ」

「ふふ、逃げちゃだめだよスゥちゃ〜ん」

耳たぶに指を添え、指先でくすぐるように軽く擦る。
くすぐったくて逃げようとするスゥの体に圧し掛かって、逃げられないように押さえつけた。
499 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/07(火) 09:04:19.06 ID:TfaVmOGU0
「それじゃ、次は……っと」

再びまどかの手が首筋を這う。
これがもし何らかの疚しい気持ちの下に行われていたのだとしたら
スゥもさっくりと抜け出すこともできたのだろうが、今回ばかりは状況が違う。
まどかは純粋にスゥの姿形を確かめようとしているだけで
どちらかといえば、じゃれ付いているような雰囲気なのだ。
それに、なにやらとても楽しそう。

そんなに楽しそうにされてしまうと、スゥとしてもあまり無碍にはできないもので。
結局はくすぐったさに身悶えしながら、堪え切れずに笑い出してしまいながら
ひたすら、まどかの指の餌食とされ続けるしかなかったのだ。

首筋を通り越して肩口へ。病衣はずいぶんゆったりとしていて
まどかの手は、するりと容易に肩口へと入り込んだ。

「まど……か。まだ、続ける……の?」

「もちろん続けるよ、まだまだ始まったばかりじゃない」

まどかの手は少し冷たくて、ひんやりとした手が服の中
シャツ越しに肩に触れると、思わず飛び上がりそうになってしまった。

「う……ひぅっ!ま、まどか……やっぱり、くすぐったい…よぉ」

「ふふ、スゥちゃんってば本当に身体が細いんだねー。
 ちょっと羨ましいくらい……あ、でも結構がっしりしてるのかな」

ふにふに、と肩口から差し入れた手でスゥの二の腕を軽く揉む。
無駄な肉などは一切付いていない、細さと柔らかさを兼ね備えながらもしなやかな身体。
肉体工学的な知識が皆無なまどかからしても、ちょっと惚れ惚れしてしまうような体付きだった。

「〜っ!?ひぁ、ふゃぁっ?!ま、まどかぁ……」

そんな風に感嘆している間にも、スゥは恥ずかしいやらこそばゆいやらで
すっかり顔を紅潮させて、ひくひくと身体を震わせて
抵抗らしい抵抗も、最早全く出来なくなってしまっていた。
500 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/07(火) 09:05:09.88 ID:TfaVmOGU0
「っ、はぁ……ぁ、ふぁぁ〜……ッ」

尚もまどかの手は止まらない。
なんだか怪しげな雰囲気に、半ば暴走しているのだろうか。
脇腹のあたりに指先を細かく這わせて、スゥをくすぐったさで悶絶させてみたり。
足の先から、股の付け根の際どいところにまでゆっくりと
揉み解すように、感触を確かめるようにその手を這わせていく。

「ひゃひぃっ!?りゃ……りゃめぇ、まろかぁ〜……っ」

くすぐったさの中に混じる奇妙な感触、それをじっくり考える間もなくまどかの手は這い回る。
言葉さえ上手く出せなくなって、身体はどんどんと熱さを帯びてくる。
仰向けにされ、背筋がなぞられる。それは、ぴんと背筋からつま先までも伸びてしまうほどの刺激で。
まあ、語弊の類を恐れない言い方をするならば……骨抜きにされてしまったと言うべきか。

「はぁぁ……スゥちゃんは、本当に可愛いなぁ。
 どこを触っても、柔らかくてすべすべだし……可愛い声だし」

まどかも、すっかり雰囲気に流されてしまったのだろうか。
光を失ったはずの目をぎらぎらと輝かせて、その指をわきわきと動かしながら、尚もスゥに迫る。
次の目的は、まだ一切触れてもいないお腹。
きっと引き締まった身体をしているスゥのことだから、たるみなんて一切ないのだろう。
そして、その後はそのまま上に登って……。
501 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/07(火) 09:05:34.37 ID:TfaVmOGU0
「こほん。あー、そういう取っ組み合いは、余り感心したことではないね」

――なにこれエロい。

二つの声が、なにやら奇妙な愉悦に浸っていたまどかの精神を正気へと引き戻した。
一つは実際に放たれた声。もう一つは……心の声、要するに本音。
声をかけた人物は、病院のスタッフらしい若い男だった。

――折角いいところだったのに、空気読めよな。

更に、別の誰かの声。
誰かに、見られている。
その事実を認識した途端、まどかの顔は一気に朱に染まった。

――折角のお楽しみを邪魔するとは。拷問だ!とにかく拷問にかけろ!

――私はあの少女達に狂おしいほどの劣情を抱いている。

――そんなことよりおなかがすいたよ。

声、声、声。
今すぐにでもこの場を逃げ出したかった。
けれど、暗闇の世界の中ではそこまで自由には動けない。
何よりも、見られていたという事実がまどかの足を竦ませていた。

そんなまどかの震える手を、力強く引く手があった。

「行こう、まどかっ!」

「ぁ……スゥ、ちゃん。……うんっ!」

くすぐりの余韻から即座に立ち直り、スゥはまどかの窮地を救うために走ったのだ。
そんなスゥに手を引かれ、逃げるようにその場を後にするまどか。
手を引かれ、導かれるままに走る。いつしか手の震えは消えていて。
自分の進むべき道をスゥが導いていてくれること、それがたまらなく嬉しかった。

(やっぱり、スゥちゃんは私の英雄なのかもしれないな。……ね、スゥちゃん)

静かに微笑み、手を引かれて走りながら。
まどかは、幸せな想像を廻らせていた。
502 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/07(火) 09:06:46.89 ID:TfaVmOGU0
そして夜、二人一緒の時間も終わり、まどかは一人部屋の中。
物音も、誰かの声も聞こえないほどの静寂。
スゥがいる間は、周囲の雑踏や心の声も、そんな静寂さえも気にはしなかった。
けれどスゥがいない今、完全なる静寂が訪れる夜が、まどかは逆に恐ろしいとさえ感じてしまっていた。

思い出してしまうからだ。
失ってしまった多くのものを。
マミを、ほむらを、杏子を。

考えてしまうからだ。これから先の自分のことを。
果たしてこれから自分はどうなるのだろうか、と。
果たして、さやかは今一体どうしているのだろうか、と。

果てない夜の静寂は、耳が痛くなってしまうほどで。
夜毎、それはまどかを苦しめていた。
そんな、静かな苦痛の病室に。

「まどか、まだ……起きてる?」

救いの声は、飛び込んだ。
その声の主を、部屋の中へと招きいれて、まどかは。

「スゥちゃん。どうして、一体どうやってここに来たの?」

「……色々。でも、大丈夫。問題はないから」

力強くそう言ったスゥの顔は、笑っているような気がした。
503 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/07(火) 09:07:17.19 ID:TfaVmOGU0
たとえ目が見えていたとしても、何も見えないような暗がりの部屋の中。
孤独であることに、そして自分が背負った罪の重さに押しつぶされそうになっていたまどかには
その力強いスゥの言葉は、そしてその存在は、何よりも救いとなるものだったのだろう。

「でも、どうして……」

「今朝、まどかの目が腫れてたから。
 ……もしかしたら、夜に泣いていたんじゃないかな、って思ったの」

「スゥ……ちゃん」

そんなところまで見ていてくれたのか、と
まどかの胸に暖かなものがこみ上げてきた。
先ほどまでその胸中を埋めていた、孤独と苦痛は払拭されて。
後に残されていたのは、とても幸せなこと。
隣に、大切な友達がいてくれる。
それが何よりも、今のまどかには嬉しかったのだ。

「一人が寂しいなら、わたしはずっとまどかの側にいる。
 まどかは、わたしが守るから」

暗闇の中でもまっすぐに手を伸ばして、スゥはまどかの手をとった。
まどかにとってスゥがかけがえのない友達であるのと同じように
スゥにとっても、まどかはとても大切な友達だった。
何も覚えていない自分に、こんなにも優しくしてくれる、接してくれる、話してくれる。
けれどまどかはとてもか弱くて、孤独に震えて怯えている。

ならばどうする。記憶を持たない体でも、心は答えを知っていた。
守りたい。いや、守る。
だからそのためにずっと、まどかの側にあり続ける。
この先の事を考えると、それは果てしなくて不安になる。
だからそんなことは何一つ考えようともせずに、ただ一番大切な人と
ともにあり続けることだけを、スゥは考えていた。
504 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/07(火) 09:08:14.54 ID:TfaVmOGU0
「スゥちゃん……うん、私も、スゥちゃんとずっと一緒にいるよ」

そんなスゥの思いは、ただスゥの中を力強く渦巻くだけで
まどかの心に声となって届きはしない。
けれどその触れる手が、交わす声が、強い思いを伝えてくれていた。
だからこそまどかも、正直な気持ちを告げた。
ずっと一緒にいたい、と。

けれどもう一つ。もう二度と、友達を失いたくないと
そう思う気持ちだけは、どうしても打ち明けることができなかった。

「……そんなに悲しそうな顔をしないで、まどか」

「もしかして、明かりをつけてるのかな?」

病室の中は、お互いの顔も見えないような暗がりのはず。
なのにスゥはそう言った。間違いなく、こちらの顔が見えているのだ。

「ううん、暗いまま。でも、まどかの顔はちゃんと見えるから、大丈夫」

「……そっか、スゥちゃんは、いつも私を見ててくれるんだね」

「うん。わたしはずっとまどかを見てる。まどかの側にいる。
 まどかを……守る」

握り合う手に力が篭る。
その手を握り返して、まどかはおそらく笑顔であろう表情を浮かべた。
これでもう、一人じゃない。孤独に苛まれることもなくなる。
そんな幸せな感情が、まどかの胸を埋め尽くしていた。

「ありがとう、スゥちゃん。私、すっごい幸せだよ」

それでよかったのか、と。
心の中で呼びかける、静かな声には耳を閉ざした。
守られていれば、何もできない、無力で可哀想な子供でいれば。
きっともう、これ以上辛い目にあうこともなくなる。
きっとこの先、ずっと平和でいられるはずだから。
505 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/07(火) 09:08:42.29 ID:TfaVmOGU0
一つのベッドを分け合って、スゥとまどかが横になる。
眠気は、まだどうにもやってこないようだった。だから。

「ね、スゥちゃん。まだ起きてる?」

「うん、起きてるよ。まどか」

「なんだか、まだ眠れないんだ。……眠くなるまで、お話ししない?」

ベッドの中で囁く声。
返る言葉もまた囁きで。
スゥは、少しだけ考えてから答えた。

「わたしは構わない、けど。わたしは話せることが何もない。
 だから、まどかのことを聞かせてくれたら、嬉しい」

「……うん。じゃあ聞いて、スゥちゃん。私の話を」

まどかは、静かに話し始めた。
両親の事、優しくて、家の事は何でもこなしてくれる父のこと。
どんな仕事もバリバリこなす、働き者で厳しいけれど、よくまどかのことを理解している母のこと。
小学校のころ、見滝原へと転校してきたこと。
そこで出会った……初めての、友達。

「……さやか、ちゃん」

思い出してしまった。それだけで、胸が締め付けられるように痛くなる。
思い出してしまった。こうして身を寄せ合って夜を過ごした事を。
あの時も、こんな痛みを堪えるように、同じ痛みを共有しあうように、身を寄せ合っていたのだ。
今はもう、生きているのかすらも知れないさやかと、共に。
考えまいとしてきた。考えれば、向き合ってしまえばきっと受け止めきれない。
罪と自責と、一人残されてしまったことの重さ。それに押しつぶされてしまいそうだったから。
506 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/07(火) 09:09:22.64 ID:TfaVmOGU0
知れず、その瞳からぽろぽろと零れる涙。

「ごめんね、スゥちゃん……私。泣き虫で、弱い子で……ごめん、ね」

その姿はどこまでも儚くて。
声はただか細くて、闇にぼんやりと移るまどかの輪郭は、今にも闇に溶けて消えてしまいそうだった。
行かせるわけにはいかないと、そちら側へ、行かせてはならないと。
スゥは気づけばその手を伸ばし、まどかを強く抱きしめていた。

「まどかは悪くない。まどかは、何も悪くない。
 何があったのかなんて知らない。でも、まどかが悪いことなんてあるはずない。
 まどかは何も心配しなくてもいい。まどかの側には、いつもわたしがいるから」

耳元で、ぶつけるように投げかけられたその囁きは
無残にもまどかの心を打ち据えていた暴力を、より強力な力で打ち払った。
間近で見詰め合う顔と顔。ようやく、まどかはうっすらと笑みを浮かべた。

「私、本当にスゥちゃんに頼って、守られてばっかりだね。 
 ……私も、スゥちゃんを助けてあげられたらいいんだけどな」

「わたしは、まどかがいてくれるだけで救われてるんだよ。
 だから、まどかが元気で笑っていてくれるのが、わたしには一番の幸せ」

二人の関係。それは一見、スゥがまどかを助けてばかり。
まどかはスゥに依存している。そんな風にも見て取れる。
けれど、それと同じようにスゥもまどかを必要としていた。
ただそこにいてくれることが、笑ってくれることが、言葉を交わし、他愛ない戯れに興じることが
スゥにとっては、ただただ尊いことだったのだ。
507 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/07(火) 09:09:50.09 ID:TfaVmOGU0
それからは、ただひたすらに他愛ないおしゃべりをして。
もっぱらスゥは聞き役に回るばかりだったけれど、それでも楽しんでいたようだった。
そして気づけば、まどかは静かな寝息を立てていた。
非常に不安定な精神と、不完全な肉体を抱えて、心身共に疲弊しきっていたのだろう。
まどかはそのまま、深い眠りへと落ちていく。

寝息を立てるまどかを、しばらく優しく見つめて、そして。
スゥもまた、まどかの隣で静かに眠りにつこうとした。
けれど。

「……う、ぅぐ。っぁ」

突如として、聞こえる嗚咽。
当然、その声の主は腕の中のまどか。
困惑するスゥを尻目に、まどかはその身を激しく捩り、嗚咽を漏らし続ける。

「ぅぁぁぁ……ぁぁ、うあああぁぁあっ」

「まど、か……まどか、まどかっ!?」

そしてスゥは気付く。
夜毎、まどかはこうして泣いているのだと。
朝、目元が腫れていた理由はこれなのだと。
508 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/07(火) 09:10:17.03 ID:TfaVmOGU0
「ごめんなさい、ごめんなさいっ……私、何も、何も……うぁぁぁっ」

嗚咽の声は大きく、謝罪の言葉も混じって響く。
暴れるように、まるで駄々をこねる子供のように振り回される手足が、何度もスゥの体を打った。
一体何が、そこまでまどかを苦しめているというのか。
スゥにはそれが分からない。故に苦しく、その原因となったものが憎くもあった。

「マミさん、ほむらちゃん、杏子ちゃん……ロスさん、さやかちゃん。
 みんな、みんな……ぁぁ、あぁぁぁああぁっ」

まどかの言葉に、びくりとスゥの腕が強張った。
それが、まどかを苦しめている奴らの名前か、と確認したのだろう。
頭の奥で何かがざわめくような、ひどくぼけた映像がちらつくような、不思議な感覚だった。
そしてその感覚は、すぐさまその顔も知らない者たちへの恨みへと取って代わった。

「……大丈夫だよ、まどか。まどかを苦しめる奴は、全部わたしがやっつける。
 誰一人だって、許したりなんかしないから……まどか」

暴れようとする手足を、ぎゅっと抱きしめ押しとどめた。
間近に近づく顔と顔。いやいやというように、激しく首を振りながら嗚咽を漏らすまどか。
そんな姿を見ても尚、身の内に湧き上がるこの感情は何だろう。
たった一人の友達で、今のところ唯一の心を許せる人。
誰よりも、何よりも大切な人。

まどかの笑っている顔を見ると、それだけで心が温かくなる。
まどかの悲しんでいる顔を見ると、それだけで胸が痛くなる。
ずっと一緒にいたいと思う。ずっと笑っていてほしいと思う。
ずっと、幸せでいてほしいと思う。……その気持ちは、なんだろう。
509 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/07(火) 09:11:09.56 ID:TfaVmOGU0
ある仮説がスゥ自身の中で立てられた時、スゥは、ひどく赤面した。
記憶はなくとも知識はある。そんな不思議な彼女の頭脳は、必死にそれを払拭できる解を求めた。
友人としての好意。まだ足りない。
彼女の全人格の肯定。どうにも無機質だ。
共にありたい、一緒に幸せになりたいという思い。それがどこまでも昇華し取りうる形は。

「……恋?」

口に出すと、その言葉は不思議なほどに甘美な響きをしていた。
わけも分からず胸がどきどきとして、腕の中で嗚咽をもらし続けるまどかが
たまらなく愛しく思えてしまった。

どう見てもおかしい。女性同士だ、馬鹿げている。
スゥの中の理性が、ありったけの理性が必死に弁解の言葉を並べ立てる。

「好き、なんだ。私……まどかのことが、好き」

けれどそんなものは、口から零れる明確な真理によって排斥された。
吸い寄せられるように、顔と顔が近づいていく。
強く、硬く抱きしめたまま。
スゥは、尚頭を振り続けるまどかの額に、自分の額を触れさせた。
510 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/07(火) 09:11:38.94 ID:TfaVmOGU0
びり、と。

身体の奥よりもっと奥、心と言えるような場所で
何かが生まれたような、芽生えたような。そんな気がした。
気がつけば、まどかの手足も動きを止めて、嗚咽の声も止まっていた。
安らかに寝息をたてるまどかの顔は、殊更に輝いて見えて。
触れ合った額から伝わる熱で、身体は燃えるように熱かった。
心臓は、早鐘のように打ちなされていた。

その衝動に導かれるままに、触れ合う額同士が離されて。
代わりに近づくのは、ピンク色した小さな唇。
視線は、寝息の度に微かに動く、まどかの唇に釘付けで。
だんだんと、その距離が詰められていく。
5センチが3センチ、それが2センチになり、そして。

「……ぷしゅー」

ぷつり、と何かが切れた感触。
緊張の糸なのやら我慢の限界なのやら知れぬそれがぷつりと切れて。
もう、スゥは何も分からなくなってしまった。

ただその意識が途切れるや否やの直前に少しだけ
柔らかな何かに触れるのを、唇が伝えてきたような、そんな気がしただけで。
511 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/02/07(火) 09:26:27.22 ID:TfaVmOGU0
重くて苦しいシリアスな話ばっかり書いてると、たまにこういう風にやってみたくなります。
あんまり日常とかほのぼのな感じを書くのは得意ではありませんが、気分はなかなか変わってくれるものです。

>>490
心どころか、このままだと本気でprprしあう仲になるのも時間の問題っぽいかもしれません。

弾幕シューがアレルギーな私は、東方系は遊んだことがなかったりします
あ、奇奇怪怪はやったことあります。

>>491
身内に多くの犠牲者が出たのもそうですが
英雄の帰還は、あまりにも太陽系に多くの被害を及ぼしました。
その被害を補うために、ついに人類はなりふり構わず突き進まざるを得なくなってきたわけです。

本格的にキボウが溢れてくるのは、またこれからとなることでしょう。
そして恐らくあの連中の頭の中をうっかり覗いてしまった日には
何も理解できないか、うっかり理解しちゃって吐き気あたりをもよおすかのどちらかだと思います。
名実共にR指定ですもん、あの連中の頭の中。

>>492-493
もしそうならこの章のタイトルはさよならを教えてあたりになってると思います。
ちゃんとスゥちゃんは実体のある子なのでご安心を。

ちなみになぜさやかちゃんだけが、ということですが
要するにそれが杏子ちゃんの願いの限界だったわけです。
願いで完全な形で蘇ることができたのはさやかのみ、他は杏子の記憶と魔法の産物でしかない。
だとしてもなぜさやかちゃんだけが、という疑問は残りますが
きっと、杏子ちゃんが一番生き返らせたいと思った人がさやかちゃんだったのでしょう。

そしてあの時、杏子ちゃんと一緒に戦うことができたのは死者だけでした。

>>494
そういうレスをいただけると、非常にこちらとしても励みになります。
恐らく設定的な部分や、ジェイド・ロスにまつわる部分を押さえるのであれば、TACをやればよさそうですが
多くを語らず、その状況的な悲劇を体験してみたいというのであれば、凾ニFINALをやってみるのもお勧めです。
このお話では、一応TAC2とFINALが同時進行で起こってるような感じに進んでいます。
512 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/07(火) 13:31:49.38 ID:PPywGF3K0

まだ続くのか…頑張って下さい!
TACやってみたいけど時間があまり取れない…
暇ができるころにはまどかのゲームが出るし…。
TACシリーズのプレイ時間て何時間くらいかかる?
513 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/02/07(火) 16:12:28.18 ID:TQ9TRGKeo
TACDL販売やめちゃったんだよな
欲しかったのに気づいたら終わってて泣いた
弾幕は好み分かれるよな。時期の判定の小ささに驚く
514 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/07(火) 16:13:53.84 ID:qN8JWVKDO
お疲れ様です!
まさかの微エロwwそしてさやかちゃん危うし。

しかしあんな事で恨まれるとは、英雄の皆さんも露とも思ってなかっただろうな…。
515 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/07(火) 20:59:56.57 ID:m28E23T7o
まどかとスゥの依存関係がたまらない
516 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/02/08(水) 09:04:23.73 ID:sOxNc0fO0
どうもキボウが濃くなるのと引き換えに、どんどんと趣味に走りがちになってしまっているようです。

それはそれとして、投下行きます。
517 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/08(水) 09:05:16.44 ID:sOxNc0fO0



――成長段階、最終固定完了。


(何、これ……。夢?)




            ――全神経回路接続。インプリンティング、第五領域まで到達。


               (でも、誰の……?)




     ――精神領域に欠損、固体への影響は軽微。


       (何かを、創ってる)




     ――C-S2/013、全精製工程完了。生体電流通電開始。……起動します。


             (あれは、あれは………っ)
518 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/08(水) 09:06:10.36 ID:sOxNc0fO0
「やあ、まどか。久しぶりだね」

そんな、どこか歪な、おかしな。けれど平和で幸せな日々。
やはり今回も、その終わりを告げるのはこの声だった。
戦場から遠のき、平和と呼べるような日々を過ごしていたまどかには
それはもはや、懐かしいとすら言えるようなもので。

「……キュゥべえ」

そのキュゥべえの声は、まどかに、再び戦いの日々の訪れを予感させるに十分過ぎるものだった。
珍しく一人、病室に佇んでいたまどかの元に、遂にその声が飛び込んできたのだ。

「すまなかったね、今まで顔を見せることが出来なくて。
 本当はもう少し早く来るつもりだったんだけど、ボクも何かと忙しかったんだよ」

「そっか、そうだったんだ……でも、いいの?こんなところに来て。
 誰かに見られたりとか、しないのかな」

視覚を失ったことで鋭敏化されたまどかの感覚は、確かにそこに何かがいることに気付いていた。
けれど、それが本当にキュゥべえなのかは分からない。
今までに感じたことがないような感覚を、そこにある何かに感じていた。

「問題はないよ。今日のボクは本体で来たからね。素質のある人間以外にはボクを知覚することはできない。
 魔女の時と同じようにね」

そっか、とまどかは小さく答えた。
だとすれば、この妙な気配はキュゥべえ本体のものなのだろう。
宇宙人だとか、そんな突拍子もない話を前にしていたのを覚えている。
もしかしたら目の前にいるはずのキュゥべえは、いつも見ているあの小さな姿ではないのかもしれないな、と
そんな風に考えて、小さくまどかは笑った。
519 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/08(水) 09:06:44.10 ID:sOxNc0fO0
「……ねえ、キュゥべえ。聞かせて。さやかちゃんは、どうなったの?」

そんな小さな笑みもかき消して、どこか深刻そうな顔をして。
それから小さな深呼吸をして、ようやくまどかは問いかけた。
キュゥべえなら、その答えを知っているはずだ、と。

「キミならそれを聞いてくると思っていたよ。結論から言うと、美樹さやかは生きている。
 ただ、そうだね。敢えてキミ達の言葉に直すなら、さやかは心を病んでしまっている」

え、とまどかの口から小さな言葉が漏れた。

「どういうことなの、キュゥべえ。さやかちゃんは無事なんだよね?
 心を……って、一体、どういうことなのっ!?」

努めて考え込まないようにしてきたこと。
けれど、その事実が告げられてしまえばまどかは考えざるを得ない。
さやかの身を、その現状を案じてしまうのは、無理もないことだった。

「さやかは今は病院で療養中のようだ。
 とはいえ、あれからボクもさやかに会いに行ったわけではないからね。
 今どうなっているのかどうか、詳しくは分からないのだけどね」

そんな必死に言葉を繋ぐまどかにも、静かにキュゥべえは首を振るだけだった。

「……会わせて、キュゥべえ」

「ボクに頼まずとも、普通に面会を申し込むことはできるはずだ。
 でも、さやかがいるのは別の病院だからね。その為にはまず、キミがここを出る必要がある」

「っ……それ、は」

ただ淡々と事実を告げるキュゥべえの言葉に、まどかは言葉に詰まってしまう。
そもそもここを退院できるのだろうかという疑問。
スゥと、ここでの平和で安らかな日々と決別しなければならないことへの逡巡。
外に出るということは、もっと沢山の人の中に揉まれて行くということで
それだけの人の心の声を聞きながら、生きていけるのだろうかという、恐怖。
520 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/08(水) 09:07:22.95 ID:sOxNc0fO0
胸中に渦巻く感情を整理できず、押し黙ってしまったまどか。
そんなまどかを見かねて、キュゥべえが静かに声をかけた。

「一応、キミの現状も把握しているよ。視力の喪失。
 そして恐らくそれがきっかけなのか、それともこれがきっかけで視力が失われたのかは分からないが
 キミは他者の精神を、その思念を読み取ることが出来るようになっているはずだ、まどか」

「えっ……キュゥべえ。どうしてそれを……?」

誰にも打ち明けられない悩みの種を、いきなりキュゥべえは言い当てたのだ。
これにはまどかも驚いて、けれど何かいい対処法が見つかるのではないかという
ほんの僅かな期待も同時に抱いて、まどかはキュゥべえに尋ねた。

「当然だよ、まどか。自覚してやっていることではないのかもしれないけどね
 キミは常に、周囲に全ての知的生命体の精神領域に対して干渉を行っている状態なんだよ。
 勿論、この星の文明レベルではそれを知覚することはできないだろうけどね」

「それじゃわからないよっ!……本当に、すごく困ってるんだから。
 お願い、キュゥべえ。一体何が起こっているのか教えて」

相変わらずの分かりづらい説明。
常にその心の声に悩まされ続けてきたまどかには、それはどうにも耐え難いもので。
思わず声を荒げて、キュゥべえのいるであろう方へと詰め寄った。
521 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/08(水) 09:08:16.60 ID:sOxNc0fO0
「簡単に、というのは難しいな。前にキミの能力の話をしただろう?
 高度に発達した精神ネットワーク。それが遂に、キミの自我領域を超越したのだろうね。
 拡散する精神ネットワークは、他の人間の精神に干渉し、そこに伝達する思考をキミに伝えるに至った。
 そしてそれを、どうやらキミはまったく制御できずにいる」

無理もない、とキュゥべえは続けた。
そんな説明は、やはりまどかにはどうにも理解しがたいことではあった。
それでも一番大切なことは理解できた。
以前説明された能力、ロスや杏子と言葉を繋ぐ事ができたあの能力が、今は自分を苦しめているのだ、と。

「そうして拡大と進化を始めたキミの精神は、遂に人間の身体というハードの限界を超えたんだ。
 それほど強大な、限界を超えるような負荷に耐えるために、キミの身体は他の機能を失うことを選んだ。
 もしくは、視力が失われたことで能力がそれを補うために進化したのかもしれない」

「それじゃあ、私はずっとこのままなのかな。キュゥべえ」

「それを解決する方法を、ボクは既に示しておいたはずだよ。まどか」

そう、確かにそれは既に示されていた。
契約し、魔法少女となり、その本体をキュゥべえの言うところの
より優れたハードであるソウルジェムへと移すこと。
あの時はまだ、自分の身に降りかかる災禍は現実のものではなかったから
それを決めることはできなかった。

けれど今、能力の拡大と視力の喪失。その二重苦がまどかの心身を蝕んでいる。
そこへ差し伸べられた希望。それは、ぐらりとまどかの心を揺さぶった。
522 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/08(水) 09:08:57.13 ID:sOxNc0fO0
「一応誤解のないように言っておくよ。もし仮にキミがボクと契約したとしても
 ボクはキミを戦わせるつもりはない。今までどおりの暮らしができるようにも取り計らうつもりだ」

そんな迷いを、揺らぎをさらに助長するかのように、キュゥべえの静かな声が届く。
けれど聞こえるのは、実際に口に出された声だけで。
その本心は伺い知れない。スゥと同様に、キュゥべえの心の声は聞こえてこないのだ。

「……契約して、そうすれば治るのかもしれないんだよね。
 私も、キュゥべえの言ってる事、信じたいよ。でも……でも、私は見ちゃったんだよ」

さやかの、杏子の、魔法少女となった者の末路。
魔女と化して、そしてその身が潰えていく様を。
それはキュゥべえにとっても本意ではないのだと言うけれど
そうはならないように、本来ならばなっているとは言うけれど
それでも、まどかはそのすべてを見届けてしまったのだ。
恐れずにいられるわけがなかった。

「キュゥべえの考えてることも聞こえてきたらよかったんだけどな。
 ……どうして、キュゥべえのだけは聞こえないのかな」

確かめられたら、その本心が分かればどれだけまどかの悩みも晴れるだろう。
そう願いながらも、まどかの持つ能力はなぜかキュゥべえにだけは届かない。
思うようにならないその力が、今更にまた忌々しく思ってしまった。
523 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/08(水) 09:09:24.62 ID:sOxNc0fO0
「ボクの記憶の中には、秘匿するべき情報も多く詰まっているからね。
 一応の防衛策は取らせてもらっているんだ。
 ボクの精神ネットワークは、ボクと言う固体の中で完結している。
 だからまどか、キミの能力を持ってしても、ボクの精神を覗き見ることはできない」

やはり、キュゥべえの言っていることは難しい。
十分に理解できたとは言えないけれど、それでもキュゥべえの本心を知ることはできない。
その事実だけはよくわかった。

「ボクとしては、キミは契約するべきだと思う。
 けれど、これはボクの方から強要できることじゃない。
 まどか、キミが自分の意思で決めるしかないことなんだ」

「……そう、なんだよね」

結局、これ以上の判断材料は何も存在しない。
後はただ、まどかが自分で心を決めるしかなかった。

「少しだけ、考えさせてくれないかな」

「ボクはそれでも構わない。けれどボクも今はなかなか忙しいんだ。
 恐らく、次にここに顔を出せるのは一週間は後のことになる。それでも大丈夫かい?」

「……うん、きっと待てると思う」

少なくとも、今ここにはスゥがいる。
さやかが生きていることもわかった、助かる方法も示されている。
希望は、潰えてはいない。
524 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/08(水) 09:09:52.92 ID:sOxNc0fO0
「それじゃあ、一週間後にまた返事を聞きにくるよ」

「……じゃあ、それまでに私も考えておくね。自分がどうしたいのかを」

それだけを言い残し、キュゥべえの気配が遠ざかっていく。
その気配が遠ざかるにつれて、まどかの胸中に暗いものが立ち込めていった。
キュゥべえの言葉は、告げられた事実は、どうしてもまどかにそれを思い出させてしまう。
ここでの幸せな記憶が忘れさせていた、辛い戦いと喪失の記憶。
忘れられるものなら、そのまま忘れてしまいたかった。

「……違うよ、わかってるよ。忘れちゃだめなんだってことくらい」

心の内にこだまするのは、紛れもないまどかの本心。
口をついて出たのもまた、偽らざるまどかの思い。
夜毎まどかを苛む辛い記憶。忘れられるものなら忘れてしまいたい。
けれどそうやすやすと忘れられるほどに、その記憶は、思い出は軽いものではなかった。

今までさやかと共に過ごしてきた日々は、とても長くて楽しかった。
ほむらや杏子、マミが駆け抜けた戦場の記憶は、そして彼女達の生き様は
あまりにも鮮明にまどかの記憶に焼きついていた。
故にそれは、今なおまどかを縛り、苦しめていた。
一人で抱えて生きていくには重過ぎる、けれど、それを分かち合える人などいるはずもない。

今のまどかには、あの時さやかが死に急ぐように出撃しようとした理由が
あの時よりもさらに鮮明に、痛みすら感じるほどに理解できた。
525 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/08(水) 09:10:21.13 ID:sOxNc0fO0
「……あの様子を見る限り、まどかはもうすぐ契約するだろうね。
 まさか、この状況でまだ考えようとするとは思わなかったけど」

まどかの病室を出たキュゥべえは、我が物顔で廊下を歩く。
普通の人間にはその姿は知覚できない。
たとえそれを知覚できる人間がいたとして、特に問題があるとは思えなかった。
ここが病院であるならば、そのようなものが見える精神疾患に罹患したと
周囲の人間はそう考えることだろう。

だからこそ何も心配することはなく、悠然と闊歩していたキュゥべえであった。

「まさかあそこで暁美ほむらを失うことになるとは思わなかった。
 魔女の存在も、まさかこんなところで明らかになるとはね」

思考を言語化するという行動。
それ自体にはなんら意味はない。
けれどその言葉は、まるで誰かに聞かせるようで。

「おかげで、魔法少女の運用そのものが見直されるかもしれないところだった。
 ……けれど、彼らの狂気はそれすらも飲み込んだ。恐ろしいね、人間は」

その口調は驚愕というよりも、敬意すら見て取れるようなもので。
静かにその耳を揺らしながら、歩みを言葉を進めていく。

「大量の魔法少女を使って、魔法という感情エネルギー転用技術の研究を進める。
 そしてその副産物として生まれた魔女を、兵器として運用する。
 まったく、素晴らしい発想をするものだよ。人類は」
526 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/08(水) 09:10:50.34 ID:sOxNc0fO0
その姿を見るものは誰もいない。
だから、その唇が邪悪に歪むのを知りえたものは、誰もいない。

「ついにここまで来てしまった。腹立たしいまでに彼らは優秀だ。
 でも、もっとも望ましい形に進んできているのはとても愉快だ。
 ボクの世界改変計画は、彼らの狂気を以ってついに完遂されることとなる」

そして、また、キュゥべえは笑う。
嬉しそうに、とても楽しそうに。待ちきれないといった様子で。

そんなキュゥべえの横を、当然それを一顧だにせず駆け抜けていく少女の姿。
それはそのまま速度を落とさず、まどかの部屋へと向かっているようだった。
駆け抜けていく最中、一瞬垣間見えた顔を見て、キュゥべえの目が見開かれた。

「……まさか、あれは」

その顔に浮かぶのは、疑問。
けれどそれは、すぐに愉悦に取って代わった。
けれどもやはり、そんな姿を見ているものは、その場には誰一人としていなかったのだ。







「まどか」

「あ……スゥちゃん、いらっしゃい」

「……どうかしたの?なんだか、顔色がよくないよ」

「ちょっと、ね。考え事してただけ」

そして、また日は廻る。
527 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/08(水) 09:11:54.11 ID:sOxNc0fO0
スゥは走っていた。
まどかの部屋へと走っていた。
朝食を済ませてすぐ。どうやらスゥと出会う前のまどかは、相当に塞ぎこみ、落ち込んでいたようで。
スゥと接触することで、それが解消されている。
そしてスゥ自体も初めて他者に興味を持った。もしかしたらそれが、記憶を取り戻す手がかりになるかもしれない。
大体そんな理由で、スゥのその行動は容認されていた。

だから、今日もスゥは走る。
まどかもそれを待っていてくれる。
一緒にそこにいられる限り、二人は常に一緒だった。
そうしていることがまどかにとっては安らぎで、スゥにとっては喜びだった。

記憶を失ったからなのか、それとも今までずっとそうだったのか。
とにかく、誰にも興味を持つことが出来なかったスゥ自身。
けれど、そんな彼女にとってまさしく初めての興味の対象。純粋な好意を、それ以上の感情を向け得る相手。
それがまどかだった。

その胸に産まれた、ちょっと歪んだ恋心。
それはまるで産まれたばかりの木の芽のように、スゥの心のあちこちに根を張って
その心を、外へ外へと押し広げていったのだった。

だからこそ、変化は多く訪れる。
何故だろう。差し込む朝日がこんなにも眩しいのは。
春先の柔らかな日差しに包まれて、その息吹を芽生えさせる草木があんなに瑞々しく見えるのは。
日の光の差さない影に、冬の名残のように溶け残るあの雪が、どこか寂しげなのは。
見る物すべてが何故か新鮮で、興味が絶えない。
きっと今までも自分は、そんな些細な一つ一つの事に、まるで気付けていなかったのだと思う。

そんな世界が素晴らしい。
そして、そんな世界に気付くきっかけを与えてくれたまどかが愛おしい。
スゥの目に映る全てが、まどかを中心に広がっていく世界の全てが、まるで輝いているかのようだった。
528 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/08(水) 09:12:35.99 ID:sOxNc0fO0
それにしても、とスゥは思う。
今日はやけに人がいない。いつもならば他の入院患者や病院のスタッフが少なからず行き来しているはず。
だけどその姿は全く、今は見られない。
静まり返った病棟の中、少しだけ嫌な予感がした。
それでも、スゥはまどかの部屋へと走る。咎める者もいない様だから、速度を上げて尚走る。

辿りついたまどかの部屋の前。
それでも尚、ここに至るまで誰一人として人影はなかった。
何かあったのだろうか。けれど、そんな話は何も聞いていない。
まどかも何も言ってはいなかった。
訝しがりながらも、スゥはその部屋の扉を開けた。

「まどか……一体、どこに」

がらんどうの病室。
綺麗に整えられたベッド。
何一つ物の存在しない戸棚に床頭台。
そこに、つい昨日までまどかがいたとは信じられないほどに
この病室からは、生活感というものが一切排除されていた。

何かがあったことは、最早間違いない。
それが何かは分からないが、自分がここまで来れたという事は、人の出入りを禁じるようなことではないはず。
となればなんだろう。急に病棟ごと全ての人員を移動させるような事情とは。
兎にも角にも、誰かに事情を聞くことから始めた方がいいだろう。
そう考えて、スゥはその部屋を出た。
529 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/08(水) 09:13:18.73 ID:sOxNc0fO0
「こんなところで何をしているのかしら、貴女は」

そんなスゥを見とめて、呼び止めた声が一つ。
声に振り向いたスゥの視線の先にいたのは、一人の女性。
白衣を纏い、それに似合う知的な、けれどどこか危うげな雰囲気も湛えた女性の姿だった。
恐らくここの医師だろう。それにしては見慣れない顔ではあるけれど。

「友達に会いに来た。……でも、居なくなった」

やはりどうしても、まどか以外の人間には態度が冷たくなるスゥだった。
それでも、こうして一応会話が成立している辺りは進歩の跡が見て取れる。

「ああ、なるほど。そういうことだったのね。知らなかったのかしら。
 この病棟は、電気設備の点検でしばらく電力が落とされることになったのよ。
 作業に二日くらいかかるから、その間は全ての患者は別の病棟に移されることになったの」

そうだったのか、と納得する。
確かに、電子機器の類は一切稼動していない。
非常灯すらついていないのだから、そういうことなのだろうと思う。
けれどそれはそれでおかしな話だった。
少なくともスゥは、まどかからそんな話を一切聞いていない。
まどかは知らなかったのだろうか。

「この部屋の患者なら、恐らく別棟に移されたはずだ。
 丁度私も今は暇なんでね、よければ案内するが、どうかな?」

軽く組んでいた腕を解いて、その女性はスゥに指先を向けた。
色々と気になることはあるが、まどかに会えると言うのならそれがまずは先決だ。
気になることは、その後にでも調べてみればいい。

「お願いするわ」

だから、スゥは頷いた。

「こっちよ、付いて来て」

そう言うと、女性は思いがけないほどに足早に歩いていく。
そしてすぐさま、その姿が曲がり角の向こうに消えた。
530 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/08(水) 09:13:45.74 ID:sOxNc0fO0
一瞬だけ呆けたようになっていたが、すぐにスゥは我に帰ると
その女性の後を追い、曲がり角を曲がった。
否、曲がろうとした。視界が曲がり角の向こうを捉えた瞬間に
その視界一面に、先ほどの女性の姿が飛び込んできたからだ。


「うぁっ!?」

最初にやってきたのは衝撃。
次にやってきたのは熱さ。
それから痛みが、痺れが全身に広がって。
意識はもやがかかったかのように、急速に遠ざかっていく。


がくりと、スゥの身体が崩れ落ちたのを確認してから
その女性は、手に持っていた電気銃の安全装置を作動させた。

「……随分とあっけないわね。本当にこれが、あいつらの自信作なのかしら。
 こっちは完了よ、すぐに運び出して頂戴」

そしてどこかへと通信を取り、女性は倒れ伏すスゥへと近づいた。

「随分と整った顔してるわね。……出来損ないのくせに」

その髪をぐいと掴んで持ち上げて、値踏みするかのようにその顔を見つめる。
どこか狂気を感じさせるその視線には、酷く嗜虐的な色が宿っていた。

「抵抗されたってことにして、鼻の骨を折ってやるくらいはしてもいいわよね。
 あいつらには、五体満足のこれを引き渡しさえすればいいんだもの」

ぐぐ、と更に髪を引っ張る力を強める。
高々と、スゥの頭が持ち上げられていく。

「人を治すはずの病院で、人の顔をぐしゃぐしゃにしてあげる、だなんて。
 ……すごく背徳的で、ゾクゾクするわね♪」

その声色は、本当に、本当に楽しそうで。
それはその背徳的な行為こそを嗜好とし、それに酷く慣れ切っている者の声だった。
531 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/08(水) 09:14:13.46 ID:sOxNc0fO0
髪を無理やり引っ張られる痛み。
幸いなことに、その傷みが沈みかけていたスゥの意識を目覚めさせた。
至近距離で、更にかなり出力の電気銃である。
普通ならばそれだけで即昏倒。下手をすれば後遺症も懸念されるレベルである。
それだけの攻撃を受けて、それでもスゥは目覚めたのだ。

不鮮明な意識。その奥底で何かが叫んでいる。
敵が来る、と。
敵が来る。ならばどうしたらいい、敵はどうするべきだ。
その問いに対する答えを、為すべき手段を、スゥの記憶は知っていた。
霞む意識の向こうで、その答えは激しい衝動を伴い、スゥの身体を衝き動かした。


「はーい、これで顔面潰れ饅頭の出来上がりぃ♪」

高々と持ち上げたスゥの頭を、そのまま顔面を下にして、全力で床に叩き付けた。
床は硬質のタイル。間違いなくその顔面は悲惨なことになるだろう。
仮に視覚に障害が出たとして、より高機能なな生体義眼に取り替えればいい。
この程度では人は死なないということを、人は壊れないということを
その女性は、経験で知っていた。

「……え?」

けれど、その通りにはならない。
叩き付けようとした勢いを、スゥは床に手を付いて殺しきっていた。
女性が驚愕の表情を浮かべた一瞬の隙に、スゥはその衝撃を受け止めた両腕を解き放った。
ばねのように跳ね上がる身体。髪を掴んだ手が離れていく。
ぶちぶちと、髪の束が引き抜かれて痛む。
そんな痛みを意にも介さず、スゥはその身を跳ね上げさせた。
532 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/08(水) 09:14:49.22 ID:sOxNc0fO0
「っの……大人しく寝てろッ!!」

ワンタッチで電気銃の安全装置を解除。
至近距離、照準を合わせる必要もない。
即座に、迷いもなくトリガーを引き絞る。

「がぁぁッ!!」

けれど、それより一瞬早く。
跳ね起きようとした体勢のまま放たれた、スゥの鋭い蹴りが電気銃を弾き飛ばしていた。

「っ……このっ、出来損ないの分際でぇッ!!」

弾き飛ばされからからと、遠くへ飛んでいく電気銃。
拾いに行くには遠すぎる、そもそもそんな隙を与えれば、目の前の相手が何をしでかすかも分からない。
懐に手を差し入れ、取り出したのは手のひらサイズの小型銃。
小型でも十分な威力を誇るそのレーザーガンは、電気銃とは違い、対人においては十分な殺傷性を持ち合わせていた。

ほんの一瞬だけ、嗜虐意識と殺意に塗れた頭の中に、本来の目的がよぎる。
この少女の確保が目的なのだ、殺していいわけがない。
だとしても、ここは幸いなことに病院だ。即死しなければいくらでも命を繋ぐ手はある。
そう考えて、女性は銃を向けた。けれど、その一瞬の隙は余りにも致命的で。

銃口と同時に視線を向けた、そのすぐ先には。
唸りを上げる拳と、それを放ったスゥの姿。
抉りこむようにして放たれた、とてもよく体重の乗ったその拳は
そのまま女性の頬に突き刺さり、その頬骨にひびを入れ、小柄とは言えないようなその身体を吹き飛ばした。
533 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/08(水) 09:15:15.37 ID:sOxNc0fO0
女性の手から銃が落ちる。
倒れ伏したまま、ヒクヒクと身体を痙攣させるのみの女性。
スゥもまた、未だに電撃のショックは抜けず、そのままがくりと床に膝を付いた。

(敵は……倒し、た?)

起き上がってくるような様子はない。
朦朧とする意識の中に、僅かな安堵が入り混じる。
けれど、霞の向こうで彼女の記憶は叫び続ける。
あれは敵だ、敵は――なければならない。

(そうだ……敵だ。あれは…敵なんだ、だから)

ふらつく身体をどうにか立ち上がらせる。
気絶しているのだろうか、地に伏したまま時折身じろぎするだけの女性。
その元へ、ゆっくりと近づいていく。

(敵だ。あれは、敵だ……)

「敵は、確実に……殺す」

そして、スゥの身体が女性の身体に覆いかぶさった。
534 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/08(水) 09:16:12.00 ID:sOxNc0fO0
硬い何かを殴打するような、鈍い打撲音。
飛び散る赤い何か、混ざって流れ出る白い何か。
打撲音と共に、びちゃびちゃと、何か嫌な感じのする水音が。
何度も振り下ろす拳に、全身に、赤いものが纏わりついていく。

ぐちゃり、ぐちゃりと何かを押しつぶすような音が断続的に響く。
もう、既に彼女の生命活動は失われている。
けれど、未だ死にきらぬ身体が、その反射が女性の身体をひくひくと痙攣させていた。
故に、まだ動いている。生きていると、スゥが信じ込むには十分な理由で。

「死ね!死ねッ!死ねェェっ!!」

頭部と呼ばれていたその肉塊を、執拗に殴り続けるスゥ。
その拳は、どちらのものか分からないほどに血に塗れていた。


首筋に衝撃。
朦朧としていた意識は、一瞬で途切れた。

びしゃり、と。血の海に倒れ伏すスゥ。



「あー、こちら鳶。5階病棟にてターゲットを確保。
 死者一名有り。早急な搬送と後処理を要請する。以上」

そう言って通信を切った男は、同僚である女性の死にも、その凄惨な惨状にも
一つも動じた風もなく、静かにその状況を眺めて。

「容赦ない奴だな、こいつは。……にしても、もうちっとくらいスマートにやれないもんかね」

と、誰にいう風でもなく呟いて。
それから懐に手を差し込むと、取り出したのは今時珍しいタバコの箱で。
このご時勢、喫煙という行為自体が既に前時代的な物となりつつある中で
わざわざ個人輸入までしてそれを楽しんでいるこの男は、世間一般の価値観に比すれば
やはり、奇人変人の類としか言いようのない者だった。

静かにたなびく白煙。
完全にこのエリアの電気系統は沈黙している。
故に、普段なら即座に口うるさく怒鳴り込んでくる警報装置も今は就寝中だった。

静かに煙を楽しみながら、男は命令したスタッフの到着を待っていた。
血の海に沈む女性と少女。その姿を眺めながら。何をするでもなく。
535 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/02/08(水) 09:22:07.70 ID:sOxNc0fO0
エロスの次はバイオレンスです。
色々試しに書いてみるのは面白いもので、これはこれでなかなか筆が乗ったりします。

>>512
実は最後までちゃんとクリアしたわけではないので、なんともいえないとこなのですが。
それでもTACはステージクリア型のSLGで、一つの面自体はそこまで長くはないので
ちょくちょく時間を見つけてやるというのには、そこそこ向いているかもしれません。

個人的にはまどマギポータブルが出るまでに終わらせたかったのですが
この具合だと、ぎりぎりいけるかどうかってレベルでしょうかね。

>>513
DLCまで撤退しなくてもいいのに……とは思いましたね。
うまいことグランゼーラがなんとかしてくれるのを祈るか、UMD版を入手するしかありませんね。
まだ普通に手に入るTACはともかく、マジで見当たらないVと刄F……。

>>514
たまに書いてみたくなるんです。
でも、個人的には艦隊戦よりしんどかったです。ええ。

>>515
こういうお互いがお互いに依存しあう関係ってのは割と好きです。
だから、おりキリコンビも結構好きだったりします。
あれくらい色々病んでくれるとぐっど。
536 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/08(水) 13:27:52.37 ID:HyjtdexDO
お疲れ様ですっ!
サディストさん…噛ませ&出落ち乙wwスゥちゃんマジスゥちゃん。

それにしても、まさか魔女兵器なんて存在に本気で取り掛かろうとはね…。彼らの狂気は、本当に底無しだな。
537 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2012/02/08(水) 20:23:30.85 ID:yUpmyehso
セリフに細かいネタを仕込んでくるのが楽しみです
538 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2012/02/08(水) 22:11:01.76 ID:uyEAuJcT0
今日も>>1乙!
中古のTACと、WiiのDL販売のやつでVを買ってしまった。
TACはケースにキズありとかで一割引、安かったぜ。
539 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/02/09(木) 00:25:48.94 ID:WpE9wV3ro
そういえばアイレムの公式通販で在庫がおそらく大量にダブついていたTAC1限定版(アローヘッドbk付き)はどうなってしまったのだろうか…
540 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/02/09(木) 11:36:34.89 ID:xjJ7wSqa0
終わるかと思ったらまだ終わらなかったです。
では、投下行きましょう。
541 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/09(木) 11:41:47.76 ID:xjJ7wSqa0
「……う、ぅん」

目を覚ましたスゥが最初に見たものは、白。
真っ白な天井。辺りを見渡せば、どこか無機質な部屋の中。

意識がゆっくりと覚醒していく。
身体中に満ちる倦怠感、それに抗うように、スゥはゆっくりと身体を起こした。

「おはよう、スゥ。大した大暴れだったな」

起き抜けにかけられた、声。
その声は、どこか聞き覚えのある声で。
それがいつの記憶だったかを思い出すよりも早く、スゥは自分の置かれている状況を理解していた。
突然の襲撃。連れ去られた場所がここ。
そうなれば、ここにいるのは間違いなく……敵。

即座にベッドから飛び起き、四方に視界を廻らせようとした。
脱出経路の有無は、もしくは何か武器になるものはないかどうか。
けれど、その身体は動かなかった。
その四肢はベッドに拘束されて、動きようがなかったのだ。

「……そう、無駄にはしゃごうとするな。前のお前は、もう少し落ち着いていたぞ」

手にした本を傍らに置いて、拘束されながらももがくスゥに話しかけたのは
白髪交じりの、壮年の男の姿だった。
椅子に座った男は、スゥに静かに声をかけた。
542 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/09(木) 11:43:53.94 ID:xjJ7wSqa0
「お前は……誰だ」

何か引っかかるものはあるものの、その男は
やはりスゥの記憶の中にはない顔だった。

「うっかりショックで思い出すかと思ったが、そう都合よくも行かんか。
 まあいい、方法はいくらでもある。先に処置を済ませておくか」

傍らの本をぱたんと閉ざして、男はゆっくりと立ち上がる。

「しかし、スゥ。とはな……一部的に記憶の混濁が存在しているのか。
 一回その辺りも纏めて調べてやりたいところだが、そう時間もない。……始めろ」

男の言葉に、その部屋の中に新たな人影が現れた。
それはどれも皆、同じような白衣を着込んでいる姿で。

「一体、何を……ゃ、やめろぉっ!?」

「……すぐに思い出す。お前が何者であるのかを。
 その時、お前は我々に感謝することだろうさ。
 何せ、お前がなりたがっていたものになることができるのだからな」

淡々と。ただ淡々と男は言う。
そして、その作業が続けられるのをじっと見届けていた。
543 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/09(木) 11:44:54.64 ID:xjJ7wSqa0
それは、まるで早回しに流れる映像のように。
その映像が、記憶がまるで直接頭の中に流し込まれているようで。
その映像に映し出されていたのは、髪の長い姿のスゥ自身。
彼女は、何かの映像を熱心に見つめているようだった。
映し出されていたものは、どうやら、同じ姿をしているもので……。

目まぐるしく移り変わる映像。
そしてそれ以上に、無数の情報が直接頭の中へと流し込まれていく。
理解はしていた。それがスゥ自身の過去であるということを。
けれど、その内容はやはり信じられないものだった。
余りにも、信じがたいものだったから。

「アップロード、完了しました。記憶領域への損傷はみられません」

「精神領域再固定。……おや、これは」

映像が途切れる。
ベッドの上で、大きな機械を隣に携えて。
その頭に奇妙な装置を付けられたまま、スゥは昏々と眠り続けている。
そんなスゥを尻目に、記憶転送装置の最終行程を行っていた研究員の一人が
スゥの精神データに生じた変化に気付き、怪訝そうな声を放った。

「何か?」

「この固体の精神領域が、精製時と比べて拡大しています。
 ……この値は、M型にも適合し得るラインですね」

「なるほど、それは面白い。……成長したのかも知れないな、この固体も。
 前任者もM型だったと聞く、この固体もM型に加工した方が、アレへの搭載も楽かも知れん」
544 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/09(木) 11:46:17.21 ID:xjJ7wSqa0
「ぁ……私は、わたし……は」

「目を覚ましたか。……思い出したろう。全てを」

再び目覚めたスゥの視界に広がっていたのは、先ほどと同じ景色だけ。
先程と同じように、隣に座っている男がスゥに話しかけた。

スゥは、まだ整理のつかない頭の中をどうにか落ち着かせながら、ゆっくりと身を起こした。
今度はもう、拘束はされていなかった。

「これでようやく、落ち着いて話が出来そうだな」

「………わたし、は」

新たに叩き込まれたそれは、記憶なのか、それともただの知識なのか。
自分が本当に経験し、忘れてしまったことなのか。
それとも、単に誰かの経験を受け継いでしまっただけなのか。

スゥは静かに首を振る。
どうにもそれらは渾然一体となっていて、まだスゥの中で判別できずにいたのだった。

「本当に、これがわたしなのか」

「……まだ、足りない。か」

そんな様子のスゥに、男は静かに首を横に振る。
完全なる自我を、過去の彼女の姿を取り戻すには、過去の記憶の移植では不十分だった。
となれば、次はどうするか。
男の中で、さまざまな思考が渦巻き始めた。

スゥもまた、考える。
自分がもしそういう存在だとして、今の自分の為すべきことは何か。
今の自分に、一番大切なことはなんなのか。

それは、尋ねるまでもないことだった。
545 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/09(木) 11:46:44.39 ID:xjJ7wSqa0
「……来ないなぁ、スゥちゃん」

キュゥべえの訪れより数日。
唐突に病棟が変わったあの日から、スゥはまどかの元へと姿を見せていなかった。

「ここが、わからなくなっちゃったのかな」

まどか自身、ようやく人に尋ねてここが別棟の8階であるということを知ったくらいだ。
もしかしたら迷っているのかもしれないと思い、待ち続けた。
それが一日、二日と経つ内に、まどかの中の不安はどんどんと大きくなっていくのだった。


「スゥ……ちゃん。どうして、どうして来てくれないの」

環境の変化。そして孤独。
それは再び、まどかの心を蝕み始めた。
元より、スゥの存在に完全に依存して精神の安定を保っていたまどかである。
それが失われれば、再び不安定になってしまうのは当然と言えた。

それに、孤独と静寂はまた再びまどかの耳に声を届けてしまうのだ。
周囲の人間の、心の奥底に秘めた本音を。
優しく患者に接する看護師の、秘めて語らぬ悪態を。
明るく元気に周囲の人々と話す患者の、内心の死の恐怖や寂寥感を。

そんな心の弱さや闇は、きっと誰もが持っているもの。
それをその身の内の、一番奥に押し込めて、誰もが日々を生きている。
けれどまどかの能力は、そんな後ろ暗い感情さえ暴き出し、その知る所としてしまう。
中学生の少女が受け止めるには、それはあまりにも重過ぎる人の闇。

孤独と暗黒の世界に、再びまどかは囚われてしまっていた。
もう、耐えられないと思った。
だから

「契約したら、魔法少女になったら、こんな風に苦しまなくて済むんだよね。
 ……キュゥべえ」

日は流れ、再び現れたキュゥべえに、まどかがそう言うのは無理からぬことと言えた。
546 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/09(木) 11:47:37.07 ID:xjJ7wSqa0
「そうだね。ソウルジェムにその身を移し変えれば、キミの身体機能は正常に戻るだろう。
 そして、拡大し続けるキミの精神を十分に受け止め、コントロールできるようにもなるはずだ。
 今現在、キミが抱えている悩みは全て解消されるはずだよ」

「悩みが、全て……」

ぽつりと、まどかは呟いた。
確かにそれならば、今抱えてるこの苦しみがどれほど楽になることだろう。
けれど、だけれども。
今、一番苦しいことは何なのだろうと考えると、答えはすぐに出た。

「……じゃあ、私が契約したら、またスゥちゃんに会えるのかな」

暗黒の世界に生き続けることよりも、人の心の闇を暴き続けることよりも
まどかには、それがただただ苦痛でならなかったのだ。
互いに互いを必要としあえる、求め合える存在の喪失。
会えないというただそれだけで。そんな孤独を突きつけられることが
何よりも、まどかには苦痛だったのだ。

「それは、キミが最近よく一緒にいるという少女のことかい?」

その言葉に、キュゥべえが僅かに視線を背けて。

「そうだよ。スゥちゃんは私の大切な友達なんだ。
 いつも私を助けてくれるんだ。……でも、最近は来てくれない。
 何か、あったのかな」
547 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/09(木) 11:48:48.39 ID:xjJ7wSqa0
心配そうに、心細そうにまどかがか細く呟いた。
その呟きを聞き届けて、尚揺るがないキュゥべえの視線がまどかを捉えていた。

「もしかしたら、退院してしまったのかも知れないね。
 ここを出られるようになったら、会いに行けばいいんじゃないかな。
 行方ならボクの方で調べておくことにするよ」

「……でも、会えなくなる日の前まで、スゥちゃんは何も言わなかった。
 それがいきなり退院だなんて、やっぱりおかしいよ。そんなの」

違う、と。
まどかの頭の中をそんな言葉が埋め尽くしていた。
いなくなる筈がない、自分を置いていくはずがない、と。
信じていた。信じたかった。
まどかの心は、そんな矛盾する感情でいっぱいになってしまいそうだった。

「それに、彼女は記憶喪失だったと言うじゃないか。
 もしかしたら、記憶を取り戻してしまったのかもしれないね。
 そして、自分のいるべき場所に戻ったのかもしれない」

「どうして。どうしてキュゥべえが、そんなことを知ってるの」

「……彼女はキミと頻繁に接触を持っていた。
 彼女どういう人物であるのか、そういうことくらいは調べていたよ」

なんだか、言い知れない嫌な感じがした。
けれど、それを明確にあらわす言葉を、まどかはまだ知らなくて。

「それじゃあまどか。結論を聞こう。
 ……魔法少女に、なるつもりはあるかい?」

そして未だ迷いを抱え続けるまどかに、その声は告げられた。
548 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/09(木) 11:49:23.20 ID:xjJ7wSqa0
「私……は」

ぐるぐると、まどかの脳裏に纏わりつく迷い。
苦悩、恐怖、そして躊躇い。
契約すると言うことは、魔法少女になるということは
あの恐ろしい魔女へと、その身を変えてしまうかも知れないという事で。

キュゥべえはそれは有り得ないことだと言っていた。
けれどさやかもそうだったはずなのだ。
同じように契約して、魔法少女と化して。戦って、戦って。
そして、その果てに彼女は尽きた。
その身は魔女と化し、人に仇為す異形となった。

戦うことはないと言われた。
けれど、逆にそれが気になってしまう。
なぜ自分だけがそうなのか、と。
素質がないのは分かっていた。自分を救うためというのもあるのかもしれない。
けれど、だとしたらそれは何故なのだろうか。

戦わせるつもりもない人間を、そこまで大事に保護して、囲って。
純粋な好意という線も考えられないわけではなかった、けれど。
あのキュゥべえのどこか無機質ささえ感じさせるような佇まいは
誰かに好意を寄せるだとか、そういった感情があるようには思えなかったのだ。
549 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/09(木) 11:50:37.98 ID:xjJ7wSqa0
けれど、それでもやはり。そんな迷いを抱えながらも、尚。
この現状は、秤にかけるまでもなく重く苦しいものだった。
差し伸べられた救いの手には、もはや縋るより他に術はないほどに。

「決めたよ、キュゥべえ」

まどかは、その救いの手を掴み――



――まどかっ!!



とてもとても大きく、そして強いその声が、まどかの心を揺るがした。
その声は、ずっとまどかが待ち侘びていた声で。

「スゥ……ちゃん?」

今もまだ心の奥底で聞こえる、無数の心が放つ声。
その中でも一際力強く聞こえるそれは、その思いがとにかく強いのか。
それとも、まどかに伝えたいという意思が、それに指向性を与えていたのだろうか。
とにかく、その声は届けられたのだ。
550 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/09(木) 11:51:10.60 ID:xjJ7wSqa0
「どうしたんだい、まどか?聞かせてくれるんだろう。キミの決断を」

突如として驚いたように、そして呆けたように動きを止めるまどか。
そんな様子に、いぶかしげにキュゥべえが尋ねた。
それでもまどかは答えずに、ベッドを降りるとそのままふらふらと歩き出した。
心の中に響く声。それに導かれるように。

扉を開くと、同時に飛び込んできた何か。
それは、人の形をしていた。

「まどか、まどかっ!まどかぁっ!!」

――まどか、まどかっ!まどかぁっ!!

その声も、心の内より響く声も。
どちらも同じ。二重の声がまどかを揺らし、まどかはそれに酷く安堵した。
そして、答えた。

「うん……うん。私はここにいるよ。スゥちゃん」

何事かと、部屋を覗き込む視線をいくつか受け止めて。
それでも二人は固く強く、互いの身体を抱きしめあっていた。
551 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/09(木) 11:56:15.51 ID:xjJ7wSqa0
ひとまずこんな感じでしょーか。

>>536
スゥちゃんはマジで容赦がありません。
果たして以前は一体何をしてたんでしょうね、彼女。

そしてこういう出落ちキャラはある意味お約束的なキャラ付けをしてあげたくなります。
うっかり愛着が沸きかねないのが困りどころですが、今回は容赦なくやられてもらいました。

>>537
前回はどこかの大佐の言葉をお借りしました。
とはいえさすがにキュゥべえが最終鬼畜兵器を乗り回したりはしなさそうですが。

>>538
あ、まだWiiのVCの方は生きてるんですな。
となると私もそれでVを買ってしまいましょうか。
ぜひぜひこの調子でR-TYPEの世界にどっぷりと浸かってみてくださいませ。
多分そのうち、貴方のバイド係数もうなギ上りにナるはずデす。

>>539
公式通販も止まったってことは、恐らくそのまま塩漬けになっちゃうのかなぁ。
何かの形で再販なりしてくれればいいのですけど、本当に。
552 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/09(木) 13:52:51.47 ID:ucSIYAEDO
乙!
スゥちゃん再び!会わせてくれるとは思ってなかったけど…。まさか、QB対チームRタイプでまどか争奪戦を行う為に送り込んで来たとか!?しかし、そうだったとして…少女達の心を、そう簡単に利用できるかな…?
553 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/02/09(木) 17:56:39.13 ID:sKRKUsVko
バイドという狂気に対抗するには、それ以上の狂気を用いなければならないのか
しかし、生き延びたとしてその先がパラダイスである筈はない
554 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/02/10(金) 10:33:43.16 ID:K3NsJZef0
R-TYPE TRPGをエリア88風味にやってみたいなぁとぼんやり考えたりしてました。
でも、プロジェクト4なんてやらんでも今の太陽系の状況は末期過ぎますわな。
軍需産業は左団扇……じゃないか、下手すると滅亡だし。

てな具合に投下していきます。
555 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/10(金) 10:34:30.76 ID:K3NsJZef0
「……何故、彼女がここにいるんだ」

何か、とても不可解なものを見るような目で、キュゥべえはスゥを見ていた。

「彼らが、彼女を解放するとは思えない……一体、どうして」

まどかと抱き合っていたスゥには、その呟きが届いていた。
以前は聞こえなかった、見えなかったキュゥべえの声が、姿を捕捉する事ができるようになっていたのだ。
だからこそ、名残惜しそうにまどかの身体を離して。

「……お前が、インキュベーター」

その視線からは、明確な敵意が滲み出ていた。

「っ!ボクが見えるのかい。……そんな、ありえない。
 前にキミを見かけたときには、キミにはそんな素質はなかったはずだ。
 ……まさか、彼らが?」

「お前が……わたしを売ったんだな。インキュベーター!」

その言葉に、初めてキュゥべえの顔に焦りの色が浮んだ。
その表情に、更にスゥは怒りの色を強めて詰め寄った。
556 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/10(金) 10:35:01.04 ID:K3NsJZef0
「キュゥべえが……スゥちゃんを売った?一体、どういうことなの?」

「こいつが、わたしの存在をあの連中に報せたのよ、まどか。
 あのイカレ科学者共……TEAM R-TYPEにね!」

声を荒げるスゥ。
それと同時に、強い怒りの感情がまどかに伝わってきた。

(でも……どうして急にスゥちゃんのことが分かるようになっちゃったんだろう)

そう、それはまどかにとっては不思議なことだった。
そして、恐ろしいことだった。
これでもし、スゥの本心がまどかを拒んでいるのだとしたら。
もしそうなってしまえばきっと、まどかの心は耐えられない。
魔法少女となっていれば、それはすぐさま魔女と化してもおかしくないほどの絶望だった。

それでも、今は純粋に驚きが勝る。
TEAM R-TYPE。それがR戦闘機を開発する狂気の科学者集団であることは、まどかも既に知っていた。
だからこそ何故、と思う。
なぜそんな恐ろしい集団が、スゥに接触したのだろうか。

「でも、お陰でわたしは自分が何者かを知ることが出来たわ。
 ……正直、信じられないことだけど」

「え……じゃあ、スゥちゃん。……記憶が、もどったの?」

恐る恐る問いかけたまどかに、スゥは静かにその首を横に振った。
557 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/10(金) 10:35:27.83 ID:K3NsJZef0
「単に、過去のわたしがどういう存在だったかを知っただけ。
 今でも、それが自分の過去だなんて信じられない」

「それを知って尚、彼らがキミを手放すとは思えないな。
 ……一体、どういう風の吹き回しだい?」

訝しげに問うキュゥべえの言葉に、スゥは軽く鼻を鳴らして。

「わたしの知ったことじゃない。あいつらに聞いてみればいい。
 ただ、わたしは言ってやっただけよ。お前たちの為に戦うつもりはない、とね」

「……彼らがそこまで甘いとは思えない。
 だけど、キミが解放されているのも事実。……ラストダンサーの代役に、これほどの適任はいないというのに」

「ラストダンサー?代役?それが、一体スゥちゃんと何の関係があるのっ!
 教えてよ、ねえ。訳が分からないよっ!!」

まるで知らないところで、スゥとキュゥべえの話が続いていく。
それがまどかには耐えられなかった。
だからこそ、その言葉はすぐにまどかの心の中へと飛び込んできた。
558 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/10(金) 10:35:56.33 ID:K3NsJZef0
――まどかには、知られたくない。

「まどかは……知らないほうがいいと思う」

「ボクもそれは同意見だ。ことこのことだけに関しては、余りにも機密レベルが高すぎる。
 迂闊に知ってしまえば、まどか。キミにとってもよくないことに繋がってしまうよ」



――わたしが、スゥ=スラスターのクローン体だということは。



「っ!?」

びくり、と。
まどかの身体が大きく跳ねた。
559 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/10(金) 10:36:37.24 ID:K3NsJZef0
「まどか、大丈夫?」

心配そうに近寄るスゥ。
驚いたように強張った表情で、まどかはその顔を見つめて。

「スゥ……ちゃん。ううん。……スゥ=スラスター」

それは、奇しくもまどかの英雄として名づけられた名で。
それはそのまま、本物の英雄の名で。
彼女にとっては、自らのオリジナルの名であった。
その名前を、思いがけずまどかは口にしてしまった。

「っ……ま、どか。どうし、て?」

そんなまどかの言葉に、スゥは思わず後ずさる。

「そうか、彼女の心を読んだんだね。……迂闊だったな
 そうなると、隠しても仕方ないのかもしれないね。確かに、彼女はスゥ=スラスターのクローン体だ。
 優れたパイロットを作る。その目的で生み出されたんだ」

まどかは、ほむらが同じクローンであることをついぞ知らずにいた。
だからこそ、スゥがほむらのクローンなのだと考えてしまっていた。

「じゃあ、スゥちゃんは……」

「まどかには、知られたくなかったな。……きっと、巻き込んじゃうから。
 でも、心を読むってどういうこと?」

「それは……」

途端に口を噤むまどか。
まどかにとっても、それは知られたくないことだった。
知られれば、信じられずに白い目で見られる。
信じられたら信じられたで、まず間違いなく疎まれてしまう。
それが、まどかには恐ろしい。
スゥに拒絶されてしまうことが、恐ろしかった。
560 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/10(金) 10:37:44.95 ID:K3NsJZef0
「まどかは、人の心の声を聞くことができるようになっていたのさ。
 つまり、スゥ。キミの考えていることも筒抜けだったというわけだ」

「……本当なの、まどか」

呆然と……というよりも、なぜかどこか恥ずかしそうにスゥは尋ねた。

――それじゃあ、わたしがまどかのことが好きだってこともばれちゃう……。
――って、こうやって考えてることもばれちゃうんじゃないの!?
――まずい、これは非常にまずいわ。考えるな、考えるな、考えるな、感じろ……。

「あ……えと。スゥちゃん。全部……筒抜け」

「ひゃわぁぁっ!!」

どうにも緊迫した雰囲気が一変。
実にコミカルな雰囲気と同時に、衝撃的な告白までもがされてしまった。
561 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/10(金) 10:38:44.41 ID:K3NsJZef0
「えと、ね。スゥちゃん。……違うんだよ」

「……そう」

最早完全に開き直っている様子のスゥであった。

――違うってどういうこと、やっぱり、まどかはこんなわたしは迷惑なのかな。

「いや、そうじゃないんだってば。……その、そっちは、嬉しかったから」

どうにも調子が崩れていけない、と。
軽く頬を朱に染めて、まどかはスゥの心の声に答えた。
純粋に嬉しかったのだ。スゥが自分を好いていてくれたことを。
こんな自分でも、好いていてくれていたことを。
562 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/10(金) 10:39:53.80 ID:K3NsJZef0
「……ほんとはね、ついさっき、スゥちゃんが部屋に来てくれるまで
 私は、スゥちゃんの心だけは読めなかったんだ。他の人は読めたのに」

その言葉に、キュゥべえは何やら納得したように頷いた。

「なるほど。確かスゥ。キミには精製時に精神領域に欠損が生じていたはずだ。
 その為に、一部の精神活動が抑制されていたという事実が報告されていた。
 “他固体との精神的交流”それが……そうか」

「キュゥべえ。何度も私は言ってるよね。
 ……分かりやすく、説明して欲しいんだけどな」

だが、そんな言葉に耳を貸すことなくキュゥべえの言葉は続いた。
自分の中で生まれた仮定を証明させるように、つらつらと。

「その欠損した精神領域が、まどかの高度に発達した精神ネットワークに接触した。
 まどかにとっては、外へと溢れ出る精神干渉をスゥだけに注ぎ、外部への影響を軽減することができる。
 スゥにとっては、それを受けて損傷を負った精神領域を発達させ、修復することができる。
 ……そしてその修復が十分になされた結果。キミは魔法少女になれるほどの素質を有することとなった」

「……それは、結局どういうことなのかしら」

相変わらず要領を得ないキュゥべえの言葉。
苛立ちを隠しきれずに、スゥはキュゥべえに尋ねた。

「一言で言うと。……まどか、スゥ。キミ達二人は、出会うべくして出会った。
 お互いがお互いを必要とし、そして出会った。これはまるで運命と言ってもいい邂逅だよ」

そんなキュゥべえの言葉に、まどかとスゥはお互いを見やる。
なんとなく、恥ずかしいような嬉しいような、不思議な気持ちだった。
563 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/10(金) 10:40:23.50 ID:K3NsJZef0
「なるほど、そういうことだったのか」

もう一つ、声が飛び込んだ。
いつからそこにいたのか。一体いつからその話を聞いていたのか。
そこには、先立ってスゥが出会った壮年の男の姿があった。

「お前は……何故ここにっ!?」

その姿に、スゥは警戒を顕わにした。

「不思議はないさ。お前を監視していたら、面白い場面に出くわした。
 だからこうして、直接出向いてきたということだ」

少し、迂闊過ぎたのかもしれない。
彼らは、スゥが戦う意思はないことを告げると、それでそのままスゥを開放してしまっていた。
それは何故、と考える間もなく、スゥはまどかの元へと戻っていた。
自分の動向が、監視されているなどとは思いもしなかった。
顔を歪めて、スゥは男を睨みつけていた。

「やはり、彼女を泳がせていたわけか。……抜け目がないね。キミ達は」

「そうでなければ、この仕事は続けていられんさ。
 おかげで、色々と面白い話を聞くことができたよ」

わずかばかりに顔を顰めたキュゥべえに、くく、と男はくぐもった笑みを漏らした。
564 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/10(金) 10:42:08.54 ID:K3NsJZef0
「今度こそ、わたしを捕まえようというつもり?」

警戒心を隠そうともせず、今にも逃げ出しそうなスゥ。
そんなスゥに一瞥をくれてやると、男はさもおかしそうに話し始めた。

「いらんよ、お前なんぞ。ことオペレーション・ラストダンスだけにはな。
 記憶も、戦う意思もない。そんな奴を連れて帰ったところで、何の役に立つものか」

そう言うと、男は大仰にその肩を竦めた。

「私が用があるのはお前だ、鹿目まどか」

まどかが、スゥが、そしてキュゥべえまでもが、その言葉に身を震わせた。

「え……私?」

「まどかは関係ないだろっ!どういうつもりだ!」

驚いたように声を上げるまどか。
その前に、まどかを守るようにして立ち塞がるスゥ。

「関係なくはないさ。彼女の持つ能力には、色々と使い手がありそうだ。
 少なくとも、研究してみる価値はある。……今はいい時代だ」

唇の端を、いやな感じに歪めて男は言葉を続ける。

「今は、実にいい時代だ。どんな非道な実験も、どんな機体の開発も
 全てが人類存亡のため、そんな理屈で押し通せてしまう。無理を通せてしまう。
 つまり、それだけのことができるだけの権限が、私にはあるということなのだよ」
565 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/10(金) 10:42:36.36 ID:K3NsJZef0
この男の行動を、意思を止める術はない。
そんな意味が、男の言葉からはありありと伝わってきた。
まどかにとっては絶体絶命の危機。
もしこのまま連れ去られれば、実験動物のように扱われるのは免れない。
それを止める方法があるとすれば、それは……。

「彼女には、ボクが先に目を付けていたんだけどな」

キュゥべえが一歩、向かい合うスゥと男との間に割り込んで。

「にしては、随分と悠長なやり方をしているじゃないか、インキュベーター。
 それに、M型の運用方針が変わった時点で、キミの持つ権限は大幅に削減されている。
 今更、キミに私の邪魔ができるはずがない」

返す言葉もない、と言った風に押し黙るキュゥべえ。
その表情には、明確な焦りの色が浮かんでいた。

「キュゥべえ……どういうこと、なの?」

「TEAM R-TYPEの中にも、色々と派閥というものがあってね。
 今までは、M型、つまりは魔法少女を運用するノウハウはそのほとんどをボクが一手に握っていた。
 だからこそ、彼らに対しても強気に出ることができたし、多くの権限を有していたんだ」

「だが、事情は変わった」

話を遮って告げられる男の声。
それは、とても喜色に満ち満ちたもので。
566 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/10(金) 10:43:43.90 ID:K3NsJZef0
「ちまちまとM型の適合者を集めるのはもう終わりだ。
 今は大々的に、そして強制的に適合者を徴用し、一切の容赦なく研究を推し進めている。
 もはや、このわけの分からん異星人の力を借りる必要は、まるでなくなったというわけだ」

やはり止められないのか、とスゥは密かに歯噛みする。
となればもはやできることはただ一つ。
この男を倒して、まどかを連れて逃げだすしか……。

「下手なことは考えるな。この病室の周囲には既に私の手の者が配備されている。
 お前一人ならともかく、目の見えない病人を連れて逃げおおせるものではない」

「……っ」

それすらも見通されていた。
もはや、万策尽きてしまったのだろうか。

「そういうわけだ、さあ。行くぞ」

スゥとキュゥべえの間をすり抜けて、男はまどかに手を伸ばす。
まどかは、とにかくそれが恐ろしい。
何よりも、なぜかその男の心が読めないことが恐ろしかった。

まどかは知る由もないことだが、TEAM R-TYPEの構成員は皆、その精神や身体に特殊な処置を受けている。
敵性組織による情報の漏洩を防ぐため、精神への干渉に対しても、薬物に対しても
強固な耐性を得ることができるように、既に処置が加えられていたのだ。
それがまどかに、その心の声を伝えることを阻んでいた。

それは、恐らく幸福なことだったのだろう。
もしも直接、その男の意思を覗き込んでいたら
きっとそれは、まどかの精神には耐えられないほどに重く、凄惨な狂気に満ちていただろうから。
567 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/10(金) 10:44:17.32 ID:K3NsJZef0
「……待って」

それでも、スゥは立ち塞がった。

「退け。もうお前に用はないと言ったはずだ」

冷徹に言い放つその男に向かい、スゥは震える手で胸を押さえて、それから。

「……わたしが戦う。英雄にでも、なんでもなってやる。
 だから、お願い。……まどかには、手を出さないで」

痛切なる願いが、部屋の空気を振るわせた。
568 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/10(金) 10:49:01.47 ID:K3NsJZef0
というわけで、スゥちゃんは本当にスゥちゃん(偽)でした。

>>552
どうやらキュゥべえは、今までまどかの存在を秘匿してきたようです。
大事な魔法少女だからなのか、それとも他に何か目的があるのかは定かではありませんが。

>>553
バイドを倒した後どうなるかと考えるより先に
まずは今生き延びることが最優先ですから、彼らは。
もちろん後のことを考えている人もいるにはいそうですけどね。
569 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/10(金) 12:51:06.55 ID:jp0+ZfkDO
お疲れ様!
魔女は呪いや狂気を振り撒く…呪いの方はどうか知らないけど、TEAM R-TYPEに狂気のインフレスパイラルを起こしているのは確実だろうね…。

“他個体との精神的交流”の抑制…QBよ、それはコミュ障だって言いたいのか?スゥちゃんキレるぞ?ww

バイドと魔女と願いによる魔法の技術が融合したら…もう人類も宇宙もすっ飛ばして、異世界“魔界”とか造り出しそうじゃね?wwそしてゆくゆくはRPGの世界へ…。
570 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/02/10(金) 15:13:38.65 ID:eUDvfogDo

時間旅行するのは彼女になりそうだな・・・
人類がバイドを作ってでも対抗しなければならない外宇宙からの危機といえばやっぱりあれだろうなぁ
どんなキボウが見れるか楽しみだ
571 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/02/11(土) 20:05:08.91 ID:UjcdGkN10
uzuさんの生放送聞きながら書いてました。

さてもさておき投下しましょうか。
572 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/11(土) 20:06:24.70 ID:UjcdGkN10
「本気で、言っているのかね」

まどかに伸ばした手を止めて、男はスゥに視線を向けた。
その視線を受け止めて、身震いしてしまいそうになる身体を必死に抑えつけて。

「まどかのためなら、わたしは……戦える、だから」

「だめだよ、スゥちゃんっ!!」

まどかは叫び、手を伸ばした。
けれど手探りに伸ばしたその手は、スゥを見つけることが出来なくて。

「……ま、いいだろう。お前が本気で我々の元で戦うというのなら。
 鹿目まどか。彼女の身の安全くらいは保障してもいい」

男は満足げに、そして予想通りとでも言うかのように笑って、そして頷いた。

けれど、それも何処まで信じられるのだろう。
自らの身を挺してまで、まどかを守ろうとしたスゥの胸中には
まだ大きな不安が渦巻いていた。
それがありありと表情に見て取れて、またしてもおかしそうに男は笑って。

「確実に彼女を守りたいと思うのなら、精々力を尽くして戦い抜くことだ。
 腕が衰えていなければ、お前はラストダンサーとなるのだからな」

そう、告げた。
573 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/11(土) 20:06:50.98 ID:UjcdGkN10
その言葉を受け止めたのかそうでないのか、男にもキュゥべえにも目もくれずに
探るように伸ばされたまどかの手を、スゥはそっと掴んで。

「大丈夫、必ず戻ってくるから。待ってて。
 ……心配なんていらない。わたし、実は強かったみたいなんだ。
 今度は、本当の英雄になるんだって。……だから、大丈夫」

――必ず生きて帰るんだ。死ねない。死にたく……ないっ。

言葉が、思いが。まどかには痛いほど伝わってきた。

「だめだよ……だって、みんなそう言って死んじゃうんだよ。
 ほむらちゃんも、マミさんも、さやかちゃんも杏子ちゃんも。
 ……みんな、死にたくなんてなかった、死ねないって思ってたはずなんだよ」

ひとり、取り残されて、余りにも多くの死を見続けてきたまどかには
その言葉は、余りにも危うくて、恐ろしくて。
その手を掴んで、ぎゅっと握ってしまっていた・

「私なら、大丈夫だから。どんな酷い事されたって、頑張るから。
 ……だから、言っちゃやだよ、スゥちゃん」

離さない、とばかりに強くその手を握る。
そして、涙混じりに訴えた。
574 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/11(土) 20:07:52.83 ID:UjcdGkN10
「……と、彼女は言っているようだが、どうするね?
 別に我々はそっちでも構わない。まずはどう弄ってみようか。
 そう簡単に使い潰しても困る。まずは脳髄を引き抜いて複製するところから始めるとするか……」

楽しげに、男の声はそう告げていた。
まるで新しい玩具を前にしたような、ある意味無邪気で、それゆえに底知れない狂気を孕んだ声。
まどかの手が震える。それは間違いなく、スゥにも伝わって。

「……わたしは、行くよ。まどか」

手を離し、スゥは男に向き直り。

「条件が三つある。それを聞いてくれるなら、わたしはどうなったって構わない」

その言葉に、男は興味深いと言った様子で笑みを深くする。

「聞こう」

そして、続く言葉に耳を傾けた。

「お前達の実験で、まどかに危害を加えないこと。そしてまどかの身の安全を守ること。
 そして……まどかの目を治してあげて。それが出来れば、わたしはそれでいい」

男は、スゥの言葉に少しだけ考え込むような仕草をして。
それから、まどかに再び視線を移した。

「……大した献身ぶりだ。まったく。以前の姿からすると全く信じられん。
 だが、まあいいだろう。そういう風に取り計らっておく」
575 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/11(土) 20:08:16.36 ID:UjcdGkN10
今のスゥには、その言葉を信じるより他に術はない。
そのまま静かに頷いて。

「では行こうか。スゥ。……いや、8号」

その言葉は、ただの少女としてのスゥの終焉を告げた。
そして再び、狂気の科学の産物となって。おぞましき敵に立ち向かっていく。
そんな戦いの日々の再開を、告げていた。

「ちょっと、待ってくれないかな」

そうして行こうとする二人を遮ったのは
今まで沈黙を保ち続けてきた、キュゥべえの声だった。

「まだ何か?もう既に、これは君の口出しできる領分ではないのだが」

「止める気はないさ。でも、ボクからも一つ提案があるんだ」

そう言うと、キュゥべえはスゥの元へと歩み寄り、そして。

「今のまどかの状況は、非常に厄介だ。この星の医療技術も大分進んではいるが
 それでも、そう易々と治りはしないだろうね」

「……何が言いたいの、お前は」
576 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/11(土) 20:09:32.16 ID:UjcdGkN10
その声に、スゥはキュゥべえを睨みつける。
まどかもまた、不安げにそれを見ているだけで。

「今すぐまどかを救う手段を、ボクならキミに提供できる。そういうことさ。
 ボクと契約して、魔法少女になればいいんだ。そうすれば、キミは願いを一つかなえることができる。
 まどかを助けるという願いなら、十分叶えられる願いのはずだよ」

「まあ、我々としても手間は省けるし、もとよりM型の処置は行うつもりだった。
 ……ソウルジェムの汚染の件についても、ある程度手は打ってある。問題はなさそうだが。
 何故今、こいつにそこまで肩入れするのか、というのが気になるな」

「ボクはただ、彼女の意思を尊重しているだけさ。
 助けたいのなら、その方法を提供しているだけだ。キミ達にとっても悪い話じゃない」

言葉は回る。まるでお互いの腹の内を探り合うかのように。
けれど、そんな頭上で飛び交う言葉が、まるで自分などいないかのように
大事なことが、次々に決まっていってしまうことが、まどかには耐えられなかった。

もうこれ以上、この場所にはいたくなかった。
このままスゥを連れて、逃げ出してしまいたかった。
再び押しつぶされそうになるまどかの心に、声が響いた。


「いいわ。契約する。……私の願いはまどかを助けること。
 まどかが、無事に暮らしてくれること。ただ、それだけよ」

「嫌……だめだよ、スゥちゃんっ!!」

「契約は……成立だ」

激しい光が、部屋の中に渦巻いた。
577 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/11(土) 20:10:54.01 ID:UjcdGkN10
不意に、まどかの眼に激しい痛みが走った。
事実を言えば、それは痛みではない。突如として回復した視力。
暗闇に閉ざされ、それに慣れきっていた眼には、今部屋の中に渦巻く光は
余りにも眩しすぎ、強すぎた。

その光の中心から飛び出した、一つの影。
それはそのまま、まどかを抱きしめた。

「行ってくるね」

優しい声が、一つ。
だめだ、行かせちゃいけない。
必死に眼を開けて、眩しさに痛む視界が捉えたものは。


「……ほむら、ちゃん」


魔法少女の衣装に身を包み、短く揃えたはずの髪すらも長いものとなっていた。
まさしくその姿は、まどかがよく知る姿。




――暁美ほむらの姿だった。




おぼろげな視界の中で、スゥは小さくまどかに微笑んで。
抱きしめる手を、離した。




――もう済んだのか?

――ああ、ボクに出来ることはここまでだ。

――なるほど、では行こうか。8号。

――ええ。
578 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/11(土) 20:11:21.81 ID:UjcdGkN10
まどかが全てを知ったのは、それから数日後のことだった。
退院前夜、キュゥべえから告げられた。
スゥが、かつてほむらと戦っていたということ。
そして撃墜された後、機体が流れ着き救助されたのだろうということ。

ほむらのために作られたラストダンサーは、同じ英雄を元にして作られたスゥならば
簡単な調整を行うだけで使用可能となる。だからこそ、スゥは選ばれてしまったということ。
恐らく初めから、まどかを連れ去る気などはなかったのだろう。
それは全て、スゥを戦わせるためのことでしかなかった、と。

機密だけど、今更隠しても仕方がないと。
そう言って、キュゥべえは全てを話したのだった。
そして、最後の尋ねる。


「彼女を助けたいかい、まどか?」

間髪置かずに頷くまどか。
それを見て、満足そうにキュゥべえは頷くと。

「……じゃあ、ボクに協力して欲しいんだ、まどか」

そう、告げた。



人類は、再び英雄を、その力を手に入れた。
迫るバイドの大部隊。それに対抗するために
全ての力を集めて、ついに。


バイドに対する最終作戦。
オペレーション・ラストダンスが発令された。


魔法少女隊R-TYPEs 第16話
          『わたしの、初めての友達』
          ―終―
579 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/11(土) 20:12:12.52 ID:UjcdGkN10
【次回予告】

長きに渡るバイドとの戦い。
その戦いに、遂に終止符が打たれるときが来た。
ありとあらゆる道理を撃ち捨てて、彼らは遂にここまで辿りついた。
人類の存亡を懸けた、最後の戦いが始まる。

最後の一矢。
最後の舞踊が、今。

「M式特殊弾、発射。――展開確認」

「……撃ち抜く」

「なんだこれは、空間が……歪むっ!?」

「敵艦内部に、巨大な熱源反応!……これは、巨大な機動兵器!?」

「……このまま出るわ、後をお願い」

「手こずってるようだね、手を貸そう」

次回、魔法少女隊R-TYPEs 第17話
      『オペレーション・ラストダンス(前編)』
580 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/11(土) 20:12:21.47 ID:T0j8YWoV0
8号?

ほむらとかぶるのはなぜだ?
まだ何か設定がありそうだな。
581 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/02/11(土) 20:17:17.88 ID:UjcdGkN10
やっとここまで来たかな、という感じです。
毎日ちまちまと書いてきたかいがあるというものです。

>>569
狂気に飲まれようと、人間ではなくなろうと、その方向はバイドを倒す
そういう方向からまったくぶれないので、何も問題はなさそうです。

ぶっちゃけそれと変わらない気がします。
ただ後天的な原因ではなく、先天的な原因で他者と交流を持つことが難しい状態でした。
まどかちゃんのお陰で回復したようですが。

R-TYPE RPGか……頭にTつけるだけでいいような気もしますが。

>>570
まどほむしたかった。
この章は割とそれに尽きます。

いよいよラストダンサーとなったスゥちゃん、果たしてバイドを打倒できるのでしょうか。
今度こそ本当に最終局面でしょう。是非ともご期待ください。
582 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage]:2012/02/11(土) 20:19:32.94 ID:UjcdGkN10
>>580
おおぅ……言われて気付きました。
13号の間違いですね。
自分で書いてて間違うあたりなんともいえません。
ちゃんと見返したはずなのに……というわけで、13号のほうに訂正お願いしますorz
583 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/11(土) 22:05:16.45 ID:scL+P/SDO
干<手こずっているようだな
584 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県) [sage]:2012/02/12(日) 00:39:47.24 ID:SmYLPqB8o
男達の貞操が危ぶまれるな・・・
585 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東日本) [sage]:2012/02/12(日) 01:50:37.17 ID:DqjjNtrEo
尻に平穏のあらんことを
586 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/12(日) 01:59:13.29 ID:Vd0l7c2j0
M式特殊弾……魔女兵器か。

下手したらバイド化して戻ってきそうだけど。
587 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岩手県) [sage]:2012/02/12(日) 02:58:09.27 ID:KQC0eTCHo
個人的に奴らの狂気はもっと純粋な気がするんだけどなー
腐れマッドサイエンティストとは一線を隔すレベルで
588 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/12(日) 08:53:47.19 ID:jFYPPHK7o
限りなく本物に近い贋作だがかわいい
589 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/12(日) 09:43:12.30 ID:qs1gFiTDO
乙!
来てたのに気付けなかったとは、不覚…っ!

恨みの炎は消え、ぬくもりに触れた彼女は、それを力の限り守ろうとする。スゥの血は…献身を宿命付けられてでもいるのだろうか?

13号さん…てっきり死んでたと思ってたよ。ごめんね!
590 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/02/12(日) 21:41:18.98 ID:KAfS0JkQ0
しばらく趣味全開、誰得路線で進むこととなります。
色々大変でしょうがお付き合いください。

投下します。
591 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/12(日) 21:41:50.98 ID:KAfS0JkQ0
「っ……は、ぁっ。どこから、どこから来るの……っ」

暗い宇宙を、一機のR戦闘機が飛んでいる。
恐怖と焦燥に揺れる声。それは戦場には似つかわしくない少女のそれで。

「来るな……来ないで……っ」

編隊飛行の訓練をしていた彼女の部隊は、突如強襲を仕掛けてきた敵機により
彼女一人を除き、全員が撃墜されていた。
ファーストコンタクトで二機、さらにこちらが反撃の態勢に入るより前に
更に機体を反転させて二機。残されたのは彼女だけだった。

辛うじて敵の強襲をやり過ごしたが、反撃など望むべくもない。
恐怖に駆られ、ひたすらに逃げるばかり。
レーダーに反応はない。振り切ったのだろうか。
岩塊の影に身を隠し、正体不明の敵の様子を伺った。

「どうして、どうして私が……こんなこと、しなきゃいけないのよっ」

その答えはわかりきっている。
けれど、当然納得できるような答えではなくて。
ある日突然、戦いの運命を強制させられた。
拒めば即、死。受け入れたところで、待っているのは遠からぬ死。
それでも生きたいと足掻くものだけが、ここでは生き残ることができるのだ。


「やってやる……私は生き残るんだ、絶対に」

一つ意気込み、鋼の身体に波動を満たし、戦う力を充填していく。
けれど。

「け、警報っ!?これは……きゃあぁぁぁっ!?」

彼女の機体が潜む岩塊ごと、波動の光が薙ぎ払っていった。
視界が暗転。すぐさま赤いランプが視界を満たす。
その中で一つ、『You Dead』という文字だけが煌々と照らされ、示されていた。

暗い視界に、光が満ちた。
592 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/12(日) 21:42:29.96 ID:KAfS0JkQ0
「はぁ……また死んじゃったよ」

「ほんと、隊長は容赦なさすぎだよね」

「……いつまで、こんなことしなくちゃいけないのかな」

「あ、全部終わったみたい。……やっぱり全滅かぁ」

その視界の先。シュミレーションルームの中で。
パイロットブロックを模した装置の中で彼女が見たものは。
先程まで、ともに訓練を受けていた僚機のパイロット達。
いずれもまた、歳のほとんど変わらないような少女達だった。

「お疲れ様、マコト」

開けた視界の眩しさに目を細めていた彼女に、少女の一人がそう呼びかけた。
マコトと呼ばれた少女はその声に曖昧に答えると、座席に座ったままヘルメットを脱ぎ捨てた。
ふらつく頭を押さえながら、ゆっくりと顔を上げる。そこには。
気の強そうな、けれどまだどこか幼さの残る顔つき。小柄な身体に黒の短髪。
簡単に言えば典型的な日本人の顔つきの、そんな少女の姿があった。



彼女の名前はマカゼ・マコト。
ゲルヒルデ中隊に所属する、R戦闘機のパイロット。


そして――魔法少女。
593 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/12(日) 21:43:22.03 ID:KAfS0JkQ0
「襲撃から全滅まで僅か三分。これではとてもじゃないけれど、実戦には出れないわね」

訓練を終えて、少し張り詰めていた緊張の和らいだ少女達。
そんな彼女達にかけられた声。その声もまた、同じく少女のもので。
けれどその声はどこか硬質で、冷酷とも取れるような響きを滲ませていた。

ゲルヒルデ中隊の指揮官であり、呼び名もそのままゲルヒルデ。
そんな彼女が、訓練を終えた少女達へとスピーカーを通じて言葉を告げていた。

投げられる言葉は辛辣に、彼女達の不備や失策を告げていく。
特に隊列の先頭を飛んでいたセラは、散開の判断が遅れたことについてみっちりと絞られていた。
彼女達とてほんの一月前まではただの少女だったのだ、これだけ色々言われれば
反撃の一つもしでかしたくもなる。事実、そういうこともないわけではなかった。

その時は即座にその倍近い正論という名の説教をもらって、閉口するより他になかったのではあるが。


「最後に、マコト。身を隠すなら熱源はできるだけ減らしておくことね。
 目のいい敵が相手だと、隠れることも出来ずに撃ちぬかれる羽目になるわ」

「………」

マコトは答えない。
まだ、撃墜された時のショックが残っていた。
自分が死んだという実感が身体の中に渦巻いていて、それがどうにも抜けてくれないのだ。
身体が震える。口の中がやけに粘つく、呼吸が荒くなる。
コクピットブロックを模した装置の中で、座ったままで動けずにいた。

「マコト、返事をなさいっ!」

「っ!?……ぁ、はい」

「何を呆けているのかしら。体調が悪いのなら早いうちに医務室に行っておきなさい。
 次の訓練は二時間後よ。それまでに少しでも身体を休めておきなさい」

ぶっ続けで6時間近く飛び続け、その締めくくりに奇襲染みた戦闘演習である。
すっかり参ってしまっていた少女達には、その声はまさしく救いの声だった。

「それじゃあ、各自解散よ」
594 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/12(日) 21:44:07.98 ID:KAfS0JkQ0
「ボク達、いつまでこんなことを続けるんだろうね」

シャワーを浴びて戻ったマコトに話しかけたのは、同室で過ごす少女。
マコトよりも頭一つ背の高い、褐色の肌の少女。
半ば呆然としたようにベッドに腰掛け佇む彼女に。

「……死ぬまで、かしらね。休んでなくていいの?ファリーナ」

「休んでられないわよ、こんな状況で」

こんなに疲れきっているのにね、と。
ファリーナと呼ばれた少女は、力無く笑みを浮かべた。
マコトも、それに疲れた笑みを浮かべて答えた。

ここに来てしまった以上、最早逃れる術はない。
戦い続けることしか、それしかできないのだ。
残酷な運命が、人類の狂気が、少女達をこの場所に縛り付けていた。



ここは太陽系最外周部。
準惑星冥王星宙域に浮ぶ軍事基地、ゲイルロズ。
バイドの襲撃を受けたものの、想像していた以上に基地そのものへの被害や汚染は軽微であった。

それが、人類の施設を破壊したくないというロスの心情によるものだとは誰も知らない。
だが、それでも目立った損傷のなかったゲイルロズは、再び人類の基地として使われていた。
外宇宙より続々と殺到する敵バイド軍。それに対抗するための橋頭堡として。
そして、魔法少女を利用した実験場として、魔法少女を戦場に送り込むための、養成所として。
595 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/12(日) 21:44:42.50 ID:KAfS0JkQ0
「こちらヴァシュタール。ゲルヒルデ、状況を報告せよ」

「ゲルヒルデ。状況を報告するわ。機体の受領は予定通り完了。
 配備が完了次第、実機を用いた演習へと移行する予定よ。
 ……それと、汚染限界に達した者が二名。指示通り彼らに引き渡したわ」

「なるほど、報告ご苦労。……実戦配備まであと一月だ。
 それまでに、なんとか彼女達を鍛え上げてやってくれ。以上だ」

通信が打ち切られた。
中隊を預かる少女、ゲルヒルデは重々しく息を吐き出した。
彼女の隊に預けられた魔法少女達は、どれも皆戦闘経験など無い一般人ばかり。
いかにソウルジェムというデバイスが優れていたとしても、そんな少女達を
ほんの二月程度で、一端の兵士に仕立て上げることなど、とてもじゃないができるわけが無い。

それでも、やらなければならなかった。
人類の存亡のため。
そして何より、彼女達自身がこの地獄を生き延びることが出来るようにするために。

他の隊でも、同様のことが行われているのだという。
茶番だ、と彼女は思う。
今日現在までに、この基地へと運ばれた魔法少女は3000人近くを数える。
その半数以上が戦うことを拒み、そのまま処理されていった。
生き延びるために戦うことを決意した少女達も、適性の無さや訓練についてこれずに脱落していった。

最後まで残り、実戦に耐え得るようになるものがどれだけいるだろうか。
一割も残れば上出来だろう。実際は、その半分も残るまい。
彼女はそう見立てを立てていた。
それでも構わないのだろう。少女を攫い、人体実験紛いの……否。
まさしく人体実験そのものとしか言えない、非道な実験を繰り返している。

その事実を覆い隠すために、兵士としての運用を行っているという成果が欲しいだけなのだ。
そうでもなければ、これだけの犠牲を出しながらも突き進めるわけがない。
これほどの数の少女を犠牲にして、尚もそれを続けられるはずが無い。

「……惨すぎるわ、こんなの」

声は震える。
けれど、涙は零れなかった。
彼女にはもう、涙を零すような身体もなかったのだ。
596 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/12(日) 21:46:10.49 ID:KAfS0JkQ0
人類の生活圏を遠く離れて、逃げ場など無い太陽系の最果て。
見えるのは深遠の宇宙と、間近に見える冥王星。
それは人類にとっては橋頭堡。けれど少女達にとっては牢獄、もしくは地獄。
迫るバイドの大部隊。激化していく演習。
戦い抜き、生き残ればまた帰れると。そんなか細い希望に縋り。
少女達は、若い命を次々に散らせていった。

3000人、世界各地から集められた魔法少女達。
たった二月の間に、それは295人にまで減っていた。
少女達は9つの中隊へと分けられた。そして。



――遂に、太陽系にバイドが襲来した。


それに対して配備された正規の地球軍と共に
魔法少女達は、バイドへと立ち向かうこととなる。
597 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/12(日) 21:47:28.60 ID:KAfS0JkQ0
「いよいよ実戦ね。貴女達は二ヶ月間、ここでの訓練に耐え抜いた。
 自信を持って言わせてもらうわ。今の貴女達なら、そんじょそこらのバイドになんて負けはしない。
 ……みんなで太陽系を守って、そして生きて帰りましょう」

基地の格納庫に並んだ魔法少女達。
出撃の時間までもう間はない。
そんな少女達に告げられた声は、何時もの厳しい声とは違い、どこか優しい声だった。

二ヶ月という短い間に、少女達は多くのものを失った。
家族を、友人を、人生を。そして新たに得た仲間でさえも。
多くのものを投げ捨てて、少女達は戦士と化す。
この地獄で踊るための、衣装と業を身に纏う。

ゲルヒルデの言葉を聞く彼女達も、思い思いにその声に頷いて。
その中に、その一番先頭に、マコトがいた。
あの時共に戦った少女達は、皆途中で脱落していった。
戦うことに、この地獄に耐え切れず、施設の奥。底すら見えない暗黒の中へと消えていった。

マコトは思う。きっと自分は、そんな彼女達の命を喰らって生きてきたのだろう、と。
その命と引き換えに、この力を手にしたのだと。
いつしかマコトは、中隊の中でもトップの腕前を誇るようになっていた。
五機編成の小隊を一つ、預かることができるほどに。

「出撃は30分後よ。それまでに各自装備を確認して、機内にて待機。
 マコト。貴女が先頭をお願い」

「了解」

そっけなくマコトは答える。
内心はやはり恐怖が渦巻いている。
それでも、いつもどおりの声が出せたのは、よくやったものだと思った。

「後は各自指示に従って出撃よ。初めての実戦が、こんな大規模戦闘だなんて
 滅多にあることじゃないわ。緊張するなって方が無理な話よ。
 ……生きて帰ったら、飛び切り美味しい紅茶とケーキを用意するわ。各自解散!」
598 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/12(日) 21:48:06.07 ID:KAfS0JkQ0
その言葉に、少女達は自分のもう一つの身体であるR戦闘機へ向かって歩いていく。
格納庫の中は、他の機体が巻き上げる熱気混じりの風が吹き荒れている。
その中を、吹き飛ばされないように必死に少女達は歩く。
けれどその中で、一人の少女がバランスを崩して倒れた。
マコトはすぐさまその少女の下に駆け寄って、その身体を支えた。

「グエン?どうしたの。出撃前で足が竦んだの?」

からかうような、心配交じりの口調で問いかけた。
グエンと呼ばれた少女は、どこか虚ろな調子で答える。

「変なのよ、マコト。風に煽られそうになったから、私は少し機首を下げただけなの。
 なのに、いきなり地面に接触するなんて……」

困惑気味に告げられる言葉に、驚いたようにマコトはグエンを見つめる。
それは、余りにも長期に、長時間に渡ってソウルジェムを介してR戦闘機に乗り続けたが故に起こった事だった。

「……何言ってるの、グエン。貴女はまだ地面に足をついて歩いてるじゃない。
 ほら、早く立って。出撃はこれからよ」

ソウルジェムを介して操るR戦闘機は、まさしく魔法少女の身体そのものとなる。
それを余りにも長く続けるうちに、魂に機体の動かし方が染み付いてしまったのだろう。
人間の身体の動かし方を、忘れてしまう者が出始めたのだ。
ある程度機体から離れて生活できれば、それはすぐに治るようなものだったのだろう。
けれどこの状況はそんな余裕を与えはしない。

それでも尚訓練を繰り返す内に、遂に人の身体に魂が戻らなくなる者が出始めた。
そうなった者はみなそれに絶望し、遠からず脱落していく定めにあった。
恐らく、このガエンもまた。
マコトは、そんなガエンの手を引き立ち上がらせながらそんなことを考えていた。



そして恐らく、指揮官であり教官でもあるゲルヒルデもまた
そんな風にして自分の身体を失ってしまったのだろうと、確信めいたものをマコトは感じていた。
それでも尚戦う理由は何なのだろう。何を願って、こんな仕事をしているのだろう。
無性に、それを尋ねてみたくなった。
生きて帰ることが出来たら、尋ねてみようかと思った。
599 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/12(日) 21:51:56.25 ID:qeuwjtz10
グエン?ガエン?
600 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/12(日) 21:57:17.53 ID:KAfS0JkQ0
オペレーション・ラストダンスの開幕まではもうちょっとかかっちゃったりします。
それまでは全然まどマギっぽくないお話をどうかご勘弁くださいませ。

>>583-585
ゲイブン共はACVにお帰りください。

>>586
その辺の話をここでやりたいと思ってます。
まあ制御しようにも面倒な魔女ですし、運用方法は極めて単純なのですが。

>>587
そういう連中を書けないのは純粋に私の至らなさの部分もありますが
そういう連中はあんまり表に出てこないかなーという気もします。
政治に絡んだり色々と画策するようになると、そういうドス黒さをもった人物もそれなりにいるんじゃないかな、と。

フォン・ブラウンよろしくバイドの研究ができればそれだけでいいんだ
なんていう人物を、出せるものなら出したかったなぁとも思いましたが。

>>588
もともとほむらちゃんも贋作でしたからね。
贋作の代わりに別の贋作をあてがっただけです。
そして少しでも彼女達を気に入っていただけると恐悦至極。

>>589
英雄の血を持った時点で、それは捧げられるものだったのかも知れません。
けれど全人類のために戦おうと思ったほむらちゃんと違って
スゥちゃんの戦う理由はまどかだけです。

13号自体の元あった人格は、墜落の際に完全に死んでいます。
今ここにあるのは、まどかとの接触によって新たに生まれたスゥちゃんなのです。
過去の記憶を得ても、それはどうやら変わらなかったようです。
601 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/12(日) 21:58:18.91 ID:KAfS0JkQ0
>>599
グエンです、またしても誤字がorz
多少のものはともかく人名は酷い、流石に気をつけねば。
602 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県) [sage]:2012/02/12(日) 22:04:50.22 ID:HfbxhfiEo
この世界のほむらちゃんとしては13号ちゃんの方が長いけどまどか本編のほむらちゃんの性格と近いのは8号ちゃんなんだな
いやそもそもこの世界のほむらちゃんは心臓病で死んじゃってるけどさ
603 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/02/13(月) 00:04:55.12 ID:wHEZEprTo
このスレに触発されて凾ニFinalを引っ張り出してきた。
あっという間に土日が終わってしまったぜ。

TYPESどこかに売ってないかな・・・?
604 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/13(月) 06:12:13.19 ID:9h/Leb1DO
お疲れ様です!

地獄のシステム・徴兵…少女達は、争い等求めないと言うのに。中には、大人も居たのかな?

しかし、世界中から徴兵されて3000人か…意外と少ないな。まぁ素質持ちはクローンにされてなければ、減った分自然に増えるんだろうけど。

紅茶とケーキ、か。無いよりはマシだけど、その程度で癒される苦しみじゃあないよな。
605 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/13(月) 18:26:37.40 ID:e7uAgVQ00
割とネタが広がってきたので、もしかしたら案外この話は長引くかもしれませんね。

投下していきましょう。
606 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/02/13(月) 18:27:07.56 ID:e7uAgVQ00
「ロセヴァイセからゲルヒルデまで、進路クリア、発進どうぞ!」

管制官より発進の許可が下りる。
少女達の魂を乗せた機体が、次々に発進準備を済ませていく。

「各機手筈通りに!指定宙域到達までは編隊を維持!
 ゲルヒルデ中隊!出撃よっ!」

そして、ついに少女達は戦いの宇宙へと向かう。
恐るべきバイドに、更なる狂気を以って立ち向かうために。
その業の重さを、彼女達はまだ知らずにいた。


「いやぁ、思いがけなく結構な数が残りましたねぇ」

次々に基地を発っていく少女達。
窓越しに遠ざかっていく青い光を眺めながら、この施設の研究員である若い男は
妙に感慨深げにそう、呟いた。

「一割弱、といったところかね。すごいよねぇ、見てよ。あのドミニオンに乗ってる子なんて
 まだ小学生だよ。素質がある女の子はみんな連れて来いって言ったけどさ
 まさかあんな子まで兵士に仕立て上げちゃうってんだから、あいつらの勤勉ぶりったらないね」

答えたのは女性。こちらもまだ若い。
赤みがかった茶色の長髪は、随分手入れもしていなかったのだろう。
ずいぶんとぼさぼさになってしまっていた。
目にはサングラス。その下の表情は窺い知れない。
そんな女の声には、感心すると同時に嘲るような色も見て取れた。
607 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/13(月) 18:27:34.79 ID:e7uAgVQ00
「別に、兵士にするために連れてきたわけじゃないんだけどね。
 一応体裁ってのもあるし、使い物になりそうなら鍛えてもいいって言ったけどさ。
 これでうっかり戦果でもあげようもんだったら、うっかりほんとに徴兵されちゃったりしてね」

「かもしれませんがねぇ。上も相当人手不足に悩んでいるようですし。
 こんな人買いまがいのことをしているという痛手さえ気にしなければ
 思いのほか、M型ってのは優秀な兵士なのかもしれませんねぇ」

窓の外の宇宙を、次々に飛び立っていく光を眺めながら。
男と女が面白そうに話に花を咲かせている。

「それで、弾頭処置の方はどの程度完了してるんです?」

「えーっとねぇ。凍結状態で搭載を完了したのは300発。
 後は汚染作業が完了してないのが2000発ってとこかな。残りは大分派手に実験に使っちゃったからねー。
 まあ、これだけ今回の襲撃くらいは十分でしょ。これで運用データが取れれば、あたしらもやりやすくなるし」

「そうですかぁ。早く見てみたいものですねー。M型兵器って奴を」

にこにこと、どうにも臨戦の場にはそぐわない笑みを浮かべる男に
苦笑交じりに女は

「だーかーら、普通じゃ見えないんだってば。それ」

と、言葉を投げかけた。
608 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/13(月) 18:28:18.84 ID:e7uAgVQ00
「そうでした。いいですねぇ姐さんは。見れるようにしたんでしょ?
 僕も受けてみましょうかねぇ、移植手術って奴を」

「やってやってもいいんだけど、どうも女以外にゃ定着率が悪いんだよね
 男に移植したら、どいつも半月以内に拒絶反応起こしちゃってさ。ぐずぐずの肉の塊になっちゃうわけ。
 そこんとこ承知で、やってみる?」

どうにも面白くなさそうな声色を隠そうともせずにそう言うと
男は、それは残念といった様子で肩を竦めた。
それから女は、ゆっくりとサングラスに手をかけ、それを外した。
そこに映し出された瞳は、その強膜は、まるでルビーのような紅い色に染まっていた。

それは、魔女の姿を知覚できるようにするために施された処置。
さまざまな物が考えられ、実行され、失敗し。
唯一安定して魔女を知覚させることに成功した手段。
それが、インキュベーターの遺伝子を人体に移植することだった。
今のところ、女性に移植したケースにおいて身体への影響は、強膜の変色を除いて見られていない。
男性に移植したケースは、言うに及ばずである。

「まったくー、随分と破廉恥な遺伝子ですねぇ。とはいえ、何とかもっと安定した方法を探さなくては。
 姐さんも、実験の度に視神経に出力装置を繋げられるのは面倒でしょうしねぇ」

「まぁねー。今のところ、そうするしかないんだけどさ」


呟く女。その紅に染まった瞳が映すのは、どこか赤みがかった宇宙だった。
それがまるで、戦士たちの血で出来た海のようにも見えて、女は小さく鼻を鳴らす。
何しろ、本当にこの宇宙が人とバイドの血潮に染まるのは、全てこれからなのだから。
609 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/13(月) 18:29:12.08 ID:e7uAgVQ00
自分の身体が鋼の鳥になるイメージ。
そしてそのまま、イメージの赴くままに宇宙を往く。
マコトは、戦うのはやはり好きにはなれなかった。慣れることもできない。
けれど、こうしてR戦闘機を駆って飛ぶのは好きだった。

波動を宿した鋼の翼を手足に換えて、優れたセンサーを目鼻に換えて。
自由に飛び交うその時だけは、あらゆるしがらみから自分が開放されたような、そんな気がしていた。
編隊の先頭を飛びながら、浮遊感と万能感、そして拭い難い恐怖を抱えて。
マコトの駆るOF-3、軌道戦闘機であるガルダは、波動の尾を引きながら
編隊の先頭を、指定された座標へと向けて飛んでいた。

「指定座標に到着。全機異常なしです、隊長」

移動を完了させ、まず一仕事終えたといった感じでマコトは通信を送った。

「それじゃあ作戦を第二段階に移すわ。中隊はその場に待機。
 セクションブルーに進入する敵のみを迎撃。なるべく多くの敵を
 中央のセクションレッドへと向かわせて頂戴」

グリトニルを出撃し、太陽系を出てすぐの場所。
まるで太陽系への侵入者を迎える道を作るかのように、小惑星帯が左右を塞いでいる。
敵がここを通る限り、一度に全てのバイドを相手にするような愚策を犯さずにすむ。
太陽系に迫るバイドに対して、人類が見出しておい合戦場の一つであった。

ゲルヒルデ中隊及び、他の魔法少女隊に課せられた任務は、小惑星帯外則部に部隊を展開させ
この道を通らずに地球に向かおうとするバイドを撃退する、というものだった。
ほとんどのバイドは中央を通るだろうと予測されているため、激戦区とは到底なりえない。
激戦区となる中央は、正規の地球軍がしっかりと守りを固めていた。
けれど、それでも雲霞のごとく押し寄せるバイドの大軍団を相手にするのには
どうしても力不足なのではないかと、そう思われた。
610 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/13(月) 18:30:57.40 ID:e7uAgVQ00
「本当に大丈夫なんですか?……バイドは、もの凄い数だって聞きましたよ」

やはり少しでも、正面に戦力を回すべきなのではないか。
マコトはそう思う。それを正直に告げた。

「……大丈夫よ。私たちはここで敵を撃退していればいいの」

「それは、私たちが未熟だからですか?
 正面きってバイドと戦う力が、私たちにはないから、ですか?」

通信に割り込んできたのは、TL-2B、人型変形機能を持つヘラクレスを駆る少女。
ここにいる少女達の中では年上な方で、部隊のまとめ役のような役を担っていた
ソーリャの声だった。

「そうは言ってないわ、ソーリャ。
 貴女達の腕は、正規の地球軍にも負けないくらいなのは保障する。
 ……けれど、駄目よ。私たちは中央に行ってはいけない。これは命令よ」

隊長の命令は絶対。
それが、この中隊に配属された彼女達が一番最初に学んだことだった。
それと同時に、自分の意見を告げることを躊躇ってはいけない。
矛盾を抱えたその指示を、戸惑いながらも少女達は、どうするべきかを感覚で理解しつつあった。
命令、と言う言葉が線を引くまでは、各自がその最善を尽くせばいい。
ただその言葉が出れば、その命令のために全力を尽くせばいい。

難しく考えすぎれば潰れてしまうから。
611 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/13(月) 18:31:34.46 ID:e7uAgVQ00
機体の調整に手間取り、出撃の遅れたゲルヒルデの機体がようやく中隊に合流した。
Wの文字を模した雷のパーソナルマークをつけた、巨大な砲身を掲げた機体。
R-9DH3―コンサートマスターを駆って、中隊の最前列へと躍り出た。
それと時を同じくして、ついに広域レーダーにバイド反応が検出された。
小惑星帯の左辺を任されていた、ゲルヒルデ中隊の元にもついに、バイドが迫る。

「各機、波動砲のチャージを開始。一斉射撃でまずは敵の頭を叩くわ。
 その後、アサルトチームは前進。攻撃開始よ。敵を全滅させようなんて思わなくていいわ」

言葉に続いて、無数の波動砲のチャージ音が鳴り響く。
甲高い音が、機械の鼓膜を振るわせる。

「レンジャーチームは、前衛を抜けてくる敵の相手をお願い。
 もしここでも敵に抜かされてしまったら、その時はすぐに報告するのよ」

各々の機体に警報が走る。
バイド反応の接近を告げ、それは本当の戦いの幕開けを告げる。

「ノーチェイサー部隊は私に続いて。敵を遊撃よ。
 後方に抜けそうな敵、味方を攻撃している敵を優先的に狙って。
 訓練どおりにやれば、誤射なんてしないわ」

敵味方識別可能なロックオン波動砲は、乱戦においても十分に効果を発揮してくれる。
それを備え、更に機動性に優れるノーチェイサー部隊を、そして自らを遊撃に据え。
広域に攻撃可能な機体を前線に、後方には迎撃能力に優れた人型機を据えた。

できる限り、皆が生き残れるように策は練った。
後はもはや、生きて帰れるかどうかはどこまで自らの力を、そして仲間を信じられるか次第だ。
敵機体郡が、後30秒ほどで射程距離内に接近する。
機体がそれを告げると同時に、機首を迫る敵へと向けて。

「各機!座標軸合わせ!合図と同時に発射、アサルトチームは突撃っ!」

唸りを上げる波動の光。
中隊に並び立つ全機が、一斉にその震える波動を解き放つ。
眩い光が宇宙を照らし、遥かより飛来する敵軍へと次々に突き刺さり、爆発を巻き起こしていく。
訓練でも演習でもない、これは本当の戦闘。
今放った波動の光は、間違いなく本当に敵を殲滅するための力なのだと、少女達は知った。
612 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/13(月) 18:32:50.14 ID:e7uAgVQ00
けれど、何故だろう。
最中にある全ての物を、塵も残さず消滅させるその光は。
その中で次々に巻き起こる爆発は、とても、とても美しく見えた。

(こんなに綺麗なのに、これは、敵を殺すための兵器だなんて……)


「アサルトチーム、行きなさいっ!」

「っ……アサルトチーム、攻撃開始(アタック)ッ!」

破壊の光に魅入られていたマコトは、その光の中から尚も這い出るバイドの姿を垣間見た。
すぐさま我に返ると、味方の部隊に突撃の合図を告げ、同時に機体を敵陣へ向けて発進させた。
一拍遅れて、彼女の僚機達がそれを追って発進した。
613 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/13(月) 18:33:20.11 ID:e7uAgVQ00
太陽系絶対防衛艦隊として、グリトニルに配備された地球軍。
ついにバイドとの大規模戦闘に突入した部隊を指揮しながら、旗艦のブリッジに立つ男の姿。
傍らには女性の副官。そう、それは九条提督の姿だった。

ジェイド・ロスの帰還に端を発した事件。
あの激しい戦闘で、彼の部隊のみがかろうじて戦力と言えるものを保有したまま戦闘を終えた。
その成果からも、そしてその交戦記録からも、彼に日の目が当たるのは無理からぬことだった。
ついには太陽系の絶対防衛艦隊を指揮し、オペレーション・ラストダンスの発令まで
太陽系を死守するという任に就くことになったのである。

そして九条は、もう一つ確信していることがあった。
恐らくこのまま戦い抜けば、オペレーション・ラストダンスの実行部隊である
第二次バイド討伐艦隊は、間違いなくこのグリトニルの長距離ワープ施設を使うことになる。
その時に恐らく、その艦隊の指揮権を譲渡されることになるだろう。
そうでなければ、こんな辺境にいる者にわざわざ、第二次バイド艦隊の全容を知らせはしないだろう。

今までになく長く、苦しい戦いになりそうだ。
かつての英雄との誓いを思い出し、自らを奮い立たせる。
そして九条は、戦場へと意識を移した。
614 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/13(月) 18:33:47.59 ID:e7uAgVQ00
「戦況は?」

「まだ始まったばかりですが、今のところは順調です。
 正面の部隊は敵の足止めに成功していますし、側面のM型部隊も回りこもうとする敵を、上手く撃退しています」

出だしはまずまず。だが、まともに当たれば間違いなく押し切られるレベルの物量差であることは言うまでもない。
縦しんばここを乗り切ったとして、敵はぞくぞくとやってくるのだ。
緒戦で躓いていては、この先とてもやっていけはしない。

「結構だ。それで、件の新兵器とやらはどうなっている?」

「既に特務機10機に搭載済みです。発射は、敵戦艦が宙域に侵入するまで待てとのことです」

「それまで持たせろ、ということか」

軽く目を伏せ、考える。
今のところまだ敵の侵攻もそれほどではない。
地の利もこちらにある。この場所で敵を食い止められる限り食い止め
十分に敵を引きつけた後に、新兵器とやらで敵を殲滅する。
考えるべきことは、敵の侵攻を防ぐことと、味方の被害を防ぐこと。

「補給艦を前線近くまで押し出せ。そこを負傷した機体は無理せず戻るよう伝えろ。
 後は各機、孤立しないように連携を取り合え、決して敵に囲まれるな。
 とにかく近づいてくる敵を片っ端から叩き落し続けろ!耐え続ければどうにかなる!」

九条の声に、ブリッジが俄かに騒がしくなる。
各方面での戦闘も、徐々にその激しさを増していく。
その身の内に静かな闘志を昂ぶらせ、そして。

「さあ――バイド狩りの始まりだ」

静かに、けれどよく通る声で、そう宣言した。
615 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/13(月) 18:44:13.53 ID:e7uAgVQ00
趣味全開で書いております、もう少しだけお待ちください。

>>602
正確に言うと、この世界に暁美ほむらは二人きりです。
スゥちゃんはあくまでもスゥちゃんで、ほむらちゃんではありませんからね。

>>603
凾ヘやったことないので実に羨ましいです。
TYPESがだめなら今はWiiのVCが一番現実的なんでしょうかね。
Vもあるらしいですし。

>>604
徴兵されたのは素質のある少女だけです。
実際あの連中が欲しがっていたのはソウルジェムだけなので、魔法少女は別にいらなかったりもします。
が、折角使えるなら使える奴だけ運用しようか、とかそんな感じです。

生きて帰れる保障もなく、ただその時を生き延びるためだけに彼女達は戦っています。
あの悪魔どもは、彼女達に生きろ、とすら言ってはくれませんでした。
616 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/02/13(月) 20:56:08.96 ID:iy494XjHo
ガルーダ!軌道戦闘機ダントツの使い勝手の悪さのガルーダじゃないか!
617 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/13(月) 21:27:35.22 ID:9h/Leb1DO
夕方投下お疲れ様です!
マコトちゃんはアイマス(無印)で想像させてもらってます。

“魔眼”なんてモノまで出始めたか…。と言うか、インキュベーターの遺伝子なんて混ぜて大丈夫か?QBに侵食されてヒュムインキュベーターとかになっても知らんぞ?

自在に形を変える美麗な光の装飾…場所も取らない波動イルミネーションスタンド! なんての売ってそうじゃありません?
618 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県) [sage]:2012/02/13(月) 21:32:45.92 ID:LaCCNmI6o
最終的にバイドとインキュベーターと対話してメタルまどかとして宇宙を平定する概念に昇華する事になるな
619 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/02/13(月) 22:37:55.59 ID:XEmtKYkqo
なるほど。まどかがR-101を駆って量子テレポー・・・じゃなくて時間旅行するというのもアリか。

しかし、跳んだ先の人たちは「オカエリナサイ」と迎え入れてくれるのかな?
620 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/14(火) 00:50:24.51 ID:FvliySa10
>>619
平行世界、21世紀の地球に行ったのはいいけれど、いつの間にか魔女となっていて仲間と同じ顔をした魔法少女たちに攻撃されるとか。
621 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/02/14(火) 02:01:13.03 ID:p4DZDL+k0
久々深夜投下、行きますか。
砂漠のイリュージョンをエンドレスで垂れ流しながら書いてます。
イメージソースです。
622 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/14(火) 02:02:02.83 ID:p4DZDL+k0
「はははっ!はははははっ!そうだ、これだよっ!やはり“戦う”というのはこうでなくちゃぁっ!!」

戦場を、漆黒の刃が駆け巡る。
虚無の宇宙より尚、その刃は昏く鋭く、その進む先にあるありとあらゆるものを切り刻んでいく。
武装を変更し、ショートレンジでの白兵戦に特化したその機体。
禍々しき異形、全身から敵意と殺意、そしてそれが具体化した破壊をばら撒き
視界に映るバイドを片っ端から切り刻んでいく。
鉤爪の食い込んだ時計のパーソナルマークが、その機体の一際突き出た牙に刻み込まれていた。

B-5A――クロー・クローのカスタム機であり、ダンシング・エッジと名付けられたその刃は
遂にバイド機の制御を可能とした人類の手によって、そしてそれを駆る
オルトリンデ中隊隊長、オルトリンデによって、恐るべき災禍をバイドにもたらしていた。
彼女の、人の名で呼ばれていた頃の名前は――呉キリカ。
彼女もまた、魔法少女として長らく実戦を経験してきたものであり、この中隊を預かる隊長であった。

魔法少女のみで構成されたこの9つの中隊は、それぞれに戦乙女の名を冠し
その指揮官にして教官には、魔法少女としての実戦経験を長く積んだものが任命されていた。
選ばれる条件はそれだけで、そこに一切の適性や人間性を考慮した様子はなかったのである。

「すごい、すごいすごい!どれだけ殺しても終わりがないっ!尽きないっ!
 まるで私の愛のようだ。……これは、殺しつくして見せ付けなくちゃァ。
 私の愛は、無限を越えて無限だって、ねぇ?」

その機首に掲げたフォースから、血の色の如く赤々と輝く光が
レーザーの刃が飛び出した。左右に5対、それはまさしく死神の手と化して
道を阻む全ての物を切り裂いていった。


「恐ろしい戦果だが、あれではどちらが化け物なのだかわからないな。
 ……とにかく、隊長が好き勝手に暴れてくれている。我々はその撃ち漏らしを仕留めればいい」

当然、そんな彼女に部隊の運営などがまともに勤まるわけもない。
流石にそれで部隊が立ち行かないということで、この中隊には副長として
グリトニル所属の仕官が一人、配置されていた。

気難しい思春期の少女達を纏め上げ、更に兵士としての訓練を施す。
そんな、どちらにとっても過酷過ぎる任務である。当然上手くいくはずもなく。
隊の士気はどうにも上がらず。ただただ前方で暴れるキリカを眺めているだけだった。
623 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/14(火) 02:02:54.81 ID:p4DZDL+k0
「どうやら、キリカは上手くやっているみたいね。
 ……そろそろ、こちらも動き出しましょうか」

そんな派手な騒ぎを後方に眺め、一の戦乙女の名を冠するロセヴァイセこと美国織莉子と
彼女の率いる、ロセヴァイセ中隊が戦闘を開始した。
謀略によって地位を追われるより以前は、彼女は英雄にも等しい活躍をしていた。
当然、それに見合うだけの人望もあった。
人々を統率し、指揮するに足る素質は、やはり父親譲りのものだったのかもしれない。

瞬く間に彼女は自らの中隊を統率し、高い指揮の下に効率的な訓練を実施した。
結果、一の戦乙女の名に恥じぬ、最高の錬度を誇る魔法少女隊が完成していたのである。
落伍者の数も、ロセヴァイセ中隊が飛びぬけて低かった。

「ロセヴァイセ中隊、全53名!総員所定の配置につきました!」

どこか熱に浮かされたような、戦いの狂気に駆り立てられたような声で
副官的な役割を任せていた少女が、織莉子に告げた。

「結構ね。……それじゃあ、始めるわよ」

もっとも多くの魔法少女を擁するロセヴァイセ中隊は、中央に最も近い場所にて
脇に逸れようとするバイド群の頭を叩くという、危険の多い任についている。
けれど、隊員である魔法少女達の表情に恐れはない。
その理由の半分は、美国織莉子の実力に裏付けられた信頼。
そしてもう半分は、彼女の持つカリスマ性による狂信。

兎にも角にも、ロセヴァイセ中隊は始めての実戦に臆することなく
迫るバイドへと立ち向かっていくのだった。

(早く終わらせて戻らないと、きっとキリカは拗ねてしまうわね。
 だから、早く片付けてもらわなければならないわ)

それだけの信頼を受け、それだけの想いを寄せられて尚。
彼女の頭の中を占めるのは、離れたエリアで戦うキリカのことだけだった。
624 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/14(火) 02:03:33.46 ID:p4DZDL+k0
同じような戦闘が、小惑星帯のあちこちで起こっている。
とはいえ、今のところこちらに来ているのは小型のバイドばかり。
少なくともそれは、十分に性能を発揮したR戦闘機の敵となりうるものではなかった。
迂闊な操縦ミスや、戦場の狂気に駆られた誤射など、少々の不運な事故が初期に発生した以外は
ほとんどと言っていいほど、魔法少女達に被害は見られなかった。

「……は、ははっ。こんなもの、なのね。……戦闘、実戦って言っても」

まばらに降り注ぐ敵弾を掻い潜り、時にフォースで受け止めて。
マコトは未だ被弾することなく戦場にあり続けていた。
小隊の僚機も、皆損傷は軽微もしくは皆無。
十分に戦える。今までの訓練は決して無駄ではない。
確かな戦果に裏づけされた自信がマコトの中に、そして他の魔法少女達の間にも芽生え始めていた。

それは、戦士としての目覚めに他ならない。
戦う能力を持っただけの少女から、一人の戦士へと。
柔らかな肉の蛹を破り、鋼の翅を抱えた蝶へと羽化を遂げる。
戦場に、色とりどりの鋼の蝶が舞っていく。青い粒子を振り撒きながら。
けれど彼女達は知らない。羽化したての蝶の翅は、脆く弱いものであることを。
625 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/14(火) 02:04:01.25 ID:p4DZDL+k0
「周辺の敵は征圧したね。次行くよっ!」

散開していた小隊を呼び戻し、更に敵陣深くへと突き進む。
編隊飛行も手馴れたもので、5機の機体が綺麗にデルタの形を描く。
編隊飛行の隊形の一つ一つを仕込むほどの時間はなく、習得できたのは基本となるデルタのみ。
それでも間違いなくそれは、十分に合格点といえる編隊だった。

先頭を走るマコトの機体に警報が走る。
熱源の接近警報。それもかなりの熱量を誇る熱線。

「散開(ブレイク)ッ!!」

ソウルジェムを介した機体接続は、各種警報を目視や音による認識よりも遥かに早く
乗り手へと伝達することができる。訓練で叩き込まれた危機回避のための行動が、すぐさま形となって現れた。

即座に散開する小隊。
その直後、マコトの機体が存在していた空間を機体とほぼ同じ太さのレーザーが貫いていった。

「回避成功……このまま反撃を…っ!?」

無事に攻撃を回避し、そのまま反撃のための索敵を開始しようとした小隊の背後で。
打ち抜かれ、ただ通り過ぎていくだけのはずだったレーザーが、大きく真上に薙ぎ払われた。
それは恐らく持続圧縮波動砲同様、照射時間の非常に長いレーザーだったのだろう。
回避直後の隙を突かれた僚機が、薙ぎ払われたレーザーに直撃、機体は焼き払われ、分断され。
そして、小さな爆発と共に潰えた。
626 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/14(火) 02:04:32.20 ID:p4DZDL+k0
「そん……な」

ここまで無事に戦い抜いてきたというのに。
一瞬の油断が、判断ミスが、こうも容易く命を奪う。
それは、彼女達にとって始めての、戦友を失うという体験だった。
こんな歳の少女が背負うには、余りにも重く辛い、体験だった。

「くそっ!ティナが食われたっ!誰だ、どこのどいつがやったってのよっ!!」

悲しみと同時に、マコトの胸中に湧き上がったのは激しい怒りだった。
目の前が真っ赤に染め上がるほどに、それは激しくマコトの中を駆け巡った。
その怒りに駆られるように、マコトのガルーダは速度を上げ、今の一撃の射手の下へと機体を走らせる。
恐らく僚機を駆る少女達も、心の内は同じだったのだろう。
遅れぬように速度を上げて、マコトに続いていく。

「マコトっ!先行しすぎてるわ。下がりなさいっ!」

その突出を見咎めて、ゲルヒルデの声が飛ぶ。

「ティナがやられたんだ!その敵がこの先にいる。敵を取るんだ、私はっ!!」

語勢を荒げるマコトの言葉に、ゲルヒルデの脳裏に苦い記憶が蘇る。
捨て去ろうとしても捨てきれない、懐かしい記憶が。
そんな逡巡は一瞬。すぐに彼女も我に返る。
行かせてはならない。彼女達は戦いの狂気に駆られて、正常な判断が出来ずにいる。

随行していたノーチェイサー部隊に遊撃の続行を命じると
ゲルヒルデはコンサートマスターを駆り、敵陣へと突入していく。
巨大な砲身を掲げた、比較的小回りの効かない部類のはずの機体が、滑るように敵陣に分け入っていく。
627 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/14(火) 02:05:09.78 ID:p4DZDL+k0
「危険すぎるわ。いいから戻りなさい。これは命令よっ!」

と、援護に向かいながらゲルヒルデが叫んだのと。

「見つけた。あいつだ、あいつがティナをやったんだ!」

射手を発見したマコト率いる小隊が、突撃をかけたのはほぼ同時だった。
ゲルヒルデの声は、戦場の怒号に飲まれて届くことはなく。

(さっきの一撃、チャージもなしに撃てるものじゃない。
 このまま懐に潜り込めば、一気に片付けられる!)

遂に見えた敵の姿。それは緑色の人型兵器。
その片手に巨大な銃のようなものを抱え、周囲にはなにかが浮遊している。

「散開して4方向からの同時攻撃を仕掛ける。一斉射撃で、確実に破壊するのよ!」

了解、と声が三つ重なって。
直後、四つの光が分かれて迫る。

そのバイドの名はガイダッカー。
複数の兵器が組み合わさって出来た、バイドの人型兵器。
確かにマコトの読みは当たっていた。驚異的な威力と照射時間を誇る粒子砲は
連射の効かない、チャージが必要な兵器だった。
けれど、チャージ中はほぼ無防備となるゲインズなどと違い、ガイダッカーにはもう一つの武器があった。
628 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/14(火) 02:06:02.95 ID:p4DZDL+k0
「ティナの敵……っ!」

「逃げ場はないよっ!」

「終わりですわ!」

「ぶッ…潰れろぉ!」

四方向から取り囲んだ少女達の機体のすぐ眼前に、ガイダッカーの周囲に浮遊していた物体が迫っていた。
それはアタックビット。粒子砲のチャージ中の隙を補うため、ガイダッカーが有するもう一つの武器だった。
半ば本能的に、マコトは機体を急旋回させた。
機体限界に近い急な機動が、機体をみしりと軋ませた。
そして三機のR戦闘機は、その威力を発揮することなくアタックビットの攻撃によって潰え
その命を、巻き上がる炎の中に散らしていった。




「ぁ……ぁぁっ」

セラが、フィヨンが、リョウコが、ついさっきまで共に戦っていた戦友たちが
一瞬で、その命を落としたのだ。
その事実は、今度こそマコトの心を打ちのめした。
ここに及んで初めて、彼女は自らの死と直面した。

身体は完全に死の恐怖に飲まれ、動けない。動かない。
戦わなければならないのに、敵を討たなければならないのに。
ただただ、敵が、死が恐ろしかった。

そうしてマコトが竦んでいる間に、ガイダッカーは悠々とチャージを完了させると。
再びその粒子砲の銃口を、マコトのガルーダへと向けた。

(駄目だ、私。死……)

閃光が、駆け抜けた。
629 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/14(火) 02:06:35.04 ID:p4DZDL+k0
それは、ガイダッカーの粒子砲ではない。
マコトの背後から迫り来るその閃光は、持続式圧縮波動砲のそれ。
激しい光を撒き散らしながら迫るそれは、まるで意志があるかのようにその身を曲げて
マコトの機体の横を通り過ぎ、今にも粒子砲を放とうとしていたガイダッカーを貫いた。
尚も照射は続く。ガイダッカーの装甲が、照射され続ける波動の光に赤熱し、膨れ上がっていく。
そして、一際大きな爆発ともに弾けて消えた。

「……運がよかったわね。それとも、死にそびれたというべきかしら?」

「隊……長」

その一撃。まさしく魔弾というべき閃光の射手は。
ゲルヒルデの駆る、コンサートマスターだった。

「覚えておきなさい。隊を預かる者が選択を誤れば、もっと多くの人が死ぬ。
 だからこそ、私達は慎重にならなくてはいけないの。間違ってはいけないのよ」

ゲルヒルデは戦場を一瞥し、マコト以外の機体が完全にロストしたことを確認すると。

「まだ戦いは終わっていないわ。ついてきなさい。
 貴女は自分の身勝手で四人の命を奪った。その分の働きをするまでは、死ぬことは許さないわ」

冷酷に告げられる声は、つけられたばかりのマコトの心の傷を容赦なく抉る。
死の恐怖がゆっくりと引いていくと、後に残ったは、途方もない程の後悔。
自分のミスのせいで、今まで共に戦ってきた仲間を死なせてしまった。
否、ゲルヒルデの言うとおり、この命は自分が奪ってしまったも同然ではないか。
その後悔と罪悪感で、マコトの心は押し潰されそうになっていた。

「……もう、無理だよ。隊長。こんなの、耐えられない。
 お願いです……私を、殺してください」

機首を廻らせ、味方の元へ戻ろうとしたゲルヒルデに
マコトは、涙交じりの声で訴えた。
これ以上は耐えられないと思った。戦うことにも、失うことにも。
それを背負い続けることにも、全てが。
630 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/14(火) 02:07:08.90 ID:p4DZDL+k0
「死ぬことは許さないと言ったはずよ。戦いなさい。貴女にできるのはそれだけよ。
 ……それに、貴女は本当に死にたいとは思っていないわ」

「っ……ぁ」

まるで心の奥を見透かされたような言葉に、マコトは返す言葉もなくなってしまった。
確かに、死にたくないという思いもあるのだ。生きていたい。帰りたい。
けれど、こんな重荷を背負ってまで、これから先の果てしない戦いの日々を生きていけというのか。
それは、死ぬよりも惨い仕打ちだと感じた。
……だからこそ、自分に相応しいのだろうか、と。

「どうするの?死にたければここで寝ていれば、バイドが綺麗に片付けてくれるでしょうけど。
 そうしたら、貴女の亡骸が新たなバイドになって、もっと多くの犠牲を生むでしょうね」

沈黙は一瞬。
掠れ震え、か細い声でマコトは答えた。

「……い、きます。戦い……ます」

「そう。なら遅れずについてきなさい」

まるで何の感情も見せずに、ゲルヒルデはそのまま機体を走らせた。
その姿はまさに、戦士を死地へと誘う戦乙女のそれだった。
631 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/14(火) 02:13:01.64 ID:p4DZDL+k0
>>616
実はあんまり軌道戦闘機は使っていなかったりします。
普通にレオとか使っちゃうのですよねぇ、どうも。

>>617
確かにそれで想像すると近いのかもしれませんね。
マコトの名前はどう見てもどっかの外泊証明書にサインした人なのですが。

今のところ女性にはさほど影響は出ていないようです。
今のところは。

割と何でもありそうですしね、この世界。
本当にコンサートマスター集めて演奏会とかやらかしそうですもん。
往年のアイレムエイプリルフールには、そんなノリで作り出した色んな商品がありましたっけね。

>>618
バイドと対話できるってことは、それもうバイドじゃないですかー、やだー。

>>619
「オカエリナサト」だと軽く一万年くらいは漂流する羽目になりそうですね。

>>620
それがナチュラルに起こってるのがオリジナルのまどマギ世界のわけで。
もしかしたら魔女から見ると、世界は琥珀色なのかもしれませんね。
632 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/14(火) 09:37:49.69 ID:RAW2r+iDO
深夜投下乙です!
マコちん…だから戻れって言われたのに…。おとなしく雑魚狩りしてれば、いずれ仇の方から来ただろうにな。

それにしても織莉子様カリスマ凄過ぎww
633 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage]:2012/02/15(水) 22:14:55.40 ID:8unBc4FI0
いやぁ、バレンタインデーは強敵でしたね。

何だっていい、書き溜めをするチャンスだ!

板が死んでるんじゃ、俺、書き溜めしたくなくなっちまうよ……。


なコンボでした。
投下します。
634 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/02/15(水) 22:15:55.34 ID:8unBc4FI0

「偵察機からの報告です。敵の艦隊が指定されたエリアに侵入したとのことです」

戦端が開かれてより一時間余り。
どうにか地球軍も、魔法少女隊も敵を食い止めることに成功している。
今のところ、大きな被害は出ていない。それは人類にも、バイドにも言えたことではあるのだが。
停滞した前線に、続々と敵が殺到している。今すぐ押し切られるものではないが
いつまでも耐えられるものでも勿論ない。

「連中に連絡だ。見せてもらおうじゃないか。TEAM R-TYPEの新兵器とやらの威力をね」

「……大丈夫なんでしょうか。得体の知れない新兵器頼みの作戦、だなんて」

オペレーターの一人が、不安げに言葉を漏らした。
無理もない。もしもそれがしくじれば、後はじわじわと押し潰されるのを待つしかないのだから。
だが、不思議と九条は落ち着いていた。

「いくら連中でも、この状況下でそこまで酷い博打は打たんはずさ。
 ……あの連中を信じろ、というのもおぞましい話だがね、ここまで来たんだ。
 一つ、悪魔に魂を売ってみることにしようじゃないか」

少なくとも九条は、既にそれを覚悟していた。
これから何が起こるのかはわからない。
それでも、それはこの圧倒的な戦力差を覆しうる“何か”だ。
もしそうでなければ、どの道人類は滅亡なのだ。
死ぬのが遅いか早いかの違いでしかない。

「……勿論、黙って死ぬつもりもないがね」

「提督、何かおっしゃいましたか?」

「いいや、ただの独り言さ。中尉」

こんな辺境の地にあっても、それでも副官として随行していたガザロフ中尉が
九条の言葉に、小さな疑問を投げかけた。
635 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/15(水) 22:16:37.94 ID:8unBc4FI0
「合図が出たぞ、ミッキー」

今回の作戦に備えて編成された、TEAM R-TYPE直属の特務部隊。
フォー・ループと名づけられたその部隊は、総勢10機。
皆あちこちから集められた、一騎当千の兵揃いだった。

「オッケーだ。それじゃあ一つ、地獄を届けに行くとしようか。
 ……クソったれのバイドどもにな」

ペイロードを更に増加した、特務仕様のスレイプニル。
その機体には、バルムンクよりも遥かに大型のミサイルが一基、搭載されているだけで。
そんな機体が、小惑星帯の影に隠れて三機。
同じように小惑星帯のあちこちで、機を伺って潜む者達がいる。

「ケン、ウォーレン!手はずどおりに行くぞ。
 このお姫様達を、敵陣までエスコートするぜ!」

「お姫様にしちゃ随分と寸胴じゃないかね、こいつらは?」

「違いねぇ。これならまだ酒瓶でも抱いてたほうがマシってもんだ」

男の声が三つ、冗談交じりに交差した。
たった三機で敵陣へ突入するというのに、その声には一切の緊張も恐怖も見られない。
それどころか、そんな戦いを楽しんでいる風にすらも見て取れた。

「よし、じゃあ行くぜ。こんなところで死ぬんじゃねぇぞっ!」
 フォー・ループ。出撃だっ!」
636 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/15(水) 22:17:21.97 ID:8unBc4FI0
小惑星帯の中、無数の岩塊の間を縫うように、三つの機体が飛び出した。
卓越した操縦技術を持って、複雑に行き交う宇宙の迷宮を突き抜けた。
けれど、それを抜けるとすぐそこには、次の地獄が待っていた。

「――さあ、バイドとダンスだっ!」



新たな敵の接近に気付いたバイドが、すぐさま容赦ない攻撃を浴びせかけてくる。
それをまるで舞うように掻い潜り、三機は敵陣に迫り、そして。

「よし、ここいらでいいだろう。M式特殊弾、発射だっ」

搭載していた大型ミサイル、M式特殊弾と呼ばれたそれを発射した。
それと同時にすぐさま機体を反転。迫る敵陣から逃れ、再び小惑星帯へと身を躍らせた。
追い縋ろうとするバイド達も、狭い小惑星帯の中では満足に動くことも出来ず。
岩塊に、そして機体同士で接触し、次々に爆散していった。

「はっ、ヘタクソ共がっ!」

各方面からも通信が入る。
どうやら、全機確かにやり遂げたようだ。
637 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/15(水) 22:17:52.75 ID:8unBc4FI0
「……よし、全機無事だな。ここまで離れりゃ大丈夫だろ。
 さてどうなるやらね、あけてびっくり玉手箱、って奴だ」

敵陣に向け投下されたミサイルは、無人パウアーマーにも搭載されている
レーザークリスタルが内部に充填されている。
これにより、無人パウアーマー同様、バイドの攻撃対象となることなく
敵陣の奥深くへと投下されていった。
しかし、このミサイルには通常のミサイルに期待されている物理的な破壊力というものは存在していなかった。
そう、これはただの運搬装置に過ぎなかったのだ。

そして、そのミサイルがまるで内側から弾け飛んだかのように炸裂した。
とはいえ規模は小さく、それが外のバイドに与える影響は極めて軽微。
だが、すぐに異変は起こる。
そのミサイルを中心として、まるで空間そのものが削り取られたかのように。
その場に存在していたバイド群が、消滅していたのだ。傍から見れば、それは綺麗な球状で。

「ヒューッ。ありゃぁすげぇや」

放たれた10の弾頭が全て、違うことなく球状に、バイドの群れを抉り取っていた。
限定された空間内に押し込められていただけに、それによってバイドが受けた被害は甚大。
展開した球同士の隙間に見える僅かな空間に、ほんの僅かに残っているだけで。

「とんでもねぇぜ……どん詰まりになってた敵の9割以上が壊滅だ」

この特務のために集められた精鋭達でさえ
手ずから運んだその兵器がもたらした、おぞましいほどの戦果に身震いしていた。
何よりも、その正体が一切分からないということに、である。
638 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/15(水) 22:18:24.34 ID:8unBc4FI0
「敵後方に動きあり!こ、これは……っ」

「何があった。正確に報告しろ」

当然、敵に生じたその大きな動きは、九条率いる艦にもすぐに知るところとなる。

「わかりませんっ!わかりませんが……敵が、後方で待機していた敵が、消滅しました」

「何?……ああ、なるほど。そういうことか。恐らく、それが奴らの新兵器ということだ」

すぐさまそう自分を納得させた。
後方の敵が一気に消滅したことで、前線の敵バイドも浮き足立っているようだった。
突き崩すのならば、今しかない。

「総員に通達。このまま一気に攻勢に映る。前線を押し上げろ!
 両翼に展開している部隊は、そのまま回り込んで逃げる敵を挟撃しろ!
 一匹たりともバイドを生かして帰すなっ!!」

九条の言葉に、敢えて停滞させていた前線部隊が歓喜に沸いた。
撃って出て、敵を押しつぶすのではなく。敵の侵攻を防ぎ押し留めるのみという作戦に
どうやら相当にフラストレーションだのエネルギーだのを溜め込んでいたのだろう。
撤退を始めたバイドの背中に立て続けに波動砲を浴びせかけ、それを追討するために
無数のR戦闘機が、青い尾を背負って飛び出した。
639 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/15(水) 22:18:54.07 ID:8unBc4FI0
「隊長っ!敵が……撤退していきます!」

随行していたノーチェイサーから、ゲルヒルデのホットコンダクターに通信が入った。

「どうやら、向こうが上手くやってくれたみたいね。
 ……逃げる敵を追討するわ。後衛も一緒に突撃させて。
 あらかた追い散らしたら、そのまま周囲の警戒を続けなさい」

味方機の背後を取り、今にも波動砲を発射しようとしていたバイド戦闘機を
持続式圧縮波動砲で焼き払いながら、ゲルヒルデは次なる指示を部隊に伝えた。
新兵器は間違いなくその威力を発揮し、戦いの趨勢は一気に地球軍の有利に傾いた。
だというのに、ゲルヒルデの声はどこか沈んでいた。

「……ここはもう大丈夫ね。私は中央に向かうわ。
 被弾した機体は、まとめて護衛つけて後退させなさい。
 しばらく通信を切るから、ここのことは任せるわね」

ノーチェイサー小隊の隊長で、自ら副官として選んだ少女に
ゲルヒルデはそう告げて、一人、機体を中央区画へと走らせた。
通信を切り、最早ほとんど敵のいない静かな宇宙を飛んでいく。

「成功してしまったわね。……もう、これで後戻りは出来ない。
 それでも私は……生き抜いてみせるわ。どれだけ、この手を血に染めてでも」

その呟きは、誰の耳にも届かない。
640 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/15(水) 22:19:47.89 ID:8unBc4FI0
「やあ、君も来ていたんだね」

中央に突入したゲルヒルデを待っていたのは

「そちらも無事に手が空いたようで、何よりですね」

キリカの駆るダンシング・エッジと。
織莉子の駆る純白の人型機。ヘラクレスよりも尚大きいそれは
ヘラクレスの後継機にして、人型機の最終系。
わずか二機のみが生産され、実際に運用されたのはこの一機のみと言われている。
TL-2B2――ヒュロスの姿だった。

「来ているのは貴女達だけなの?」

その二人の機体を見つけて、短距離通信を交わす。

「かも知れないね。だらしない奴らばっかりだ。
 まあ、私は織莉子に会いたかったからね。邪魔な敵を蹴散らして突き進んできただけなのだけどね」

「あらあら、キリカったら。それじゃあ、キリカの部下たちが困ったんじゃないかしら」

「構いやしないさ。君に会えるならね」

「……あまり、関心はしないわね」

どうにも二人の世界を築き上げてしまっている様子に軽く釘を刺して
ゲルヒルデは、中央へと視線を移す。
追い散らされ、包み込まれ。次々にバイドが撃破されていく。
そんな戦場の最中に、いくつも見えるちらつく影。

それを認識できるのは、魔法少女だけだった。
それは、魔女の結界だったのだから。
641 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/15(水) 22:20:35.75 ID:8unBc4FI0
「まったく、魔女を兵器に使うだなんて、すごいこと考えるよねぇ」

その様を遠目に眺めながら、どこか楽しそうにキリカが言う。

「……貴女も、いつかああなるのかもしれないのよ。
 笑ってみていられるようなことじゃないと思うのだけど」

「私も織莉子も、そんなヘマをやりはしないさ。
 それに、どんな顔してみていればいいんだい?尊い犠牲に胸を打たれて泣き叫べばいいのかな?」

どこまでも自信過剰で、おどけた調子のキリカの声に
ついにはゲルヒルデも閉口するより他になかった。


魔女の展開する結界。
そして、結界内で発揮される魔女の恐ろしいほどの戦闘力。
何よりも、それがすべて外部から完全に隔絶された空間で行われるという性質。
その魔女の性質は、そのまま兵器として転用するに十分すぎるほどに強力だった。

TEAM R-TYPEは、無数の魔法少女の犠牲の上でついに、魔女を兵器として転用することに成功していたのだ。
限界まで穢れを溜め込んだソウルジェムを凍結状態にし
エネルギー源たるレーザークリスタルと共にミサイルに格納する。
後は敵陣の只中で凍結を解除、魔女の発生に伴い生じた結界にバイドを閉じ込める。
結界の内部では、バイドと魔女との激しい戦いが始まっている。

魔女の性質そのものにも手が加えられており、展開時以外には
結界内に外部のものを取り込めないようにするのに加え、時限式で自壊するようにも加工されていた。
人類にとって未知の敵であるはずの魔女を、これほどの短期間で兵器として運用するまでに至る。
それは、TEAM R-TYPEの抱える業の深さの証明であり
魔女が、どこまでも人の産物であるが故のことでもあったのだ。

その事実を知るのは、各魔法少女隊の隊長とそして、一部の研究者のみであった。
そう、魔法少女隊を纏める戦乙女達は皆、その事実を知って尚魔法少女達を戦いへと駆り立て
そして必要なだけの落伍者を生み出し、実験台としてTEAM R-TYPEに提供していたのだ。
どれほどの狂気、少女が抱え込むには、あまりにも重過ぎる闇。
それを抱えて尚、翼の折れぬ戦士だけが、この地獄に魔法少女達を誘う戦乙女となることができたのだ。

バイドとの戦いが終結するまで生き延びることができれば
いかなる願いでも一つ、叶えられるという契約の元に。
悪魔に魂を売り渡してでも、叶えたい願いのために。
642 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/15(水) 22:24:18.58 ID:8unBc4FI0
>>632
ガイダッカーさん。所見は相当驚いた記憶があります。
マコトにはなかなかつらい初陣となってしまいましたね。

この最前線はほとんど治外法権みたいなもので
よほどのひどいことをしなければ、ちゃんとバイドを叩き潰しておけば
上から何かを言われもしません。
おりキリコンビにとっては、地球圏よりもずっと過ごしやすいのかもしれません。
643 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/15(水) 23:46:26.58 ID:9L6BWLPDO
お疲れ様です!
遂に魔女兵器の御目見えか。果たしていつまで兵器としての体裁を保っていられるか…。

願いの権利は隊長格だけですか…。QBなら暴動を巻き起こせそうだな。

ガイダッカー…ガイ“ダッカー” ダッカー…まさかね?
644 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/16(木) 00:55:24.15 ID:7bet7bLqo
フォー・ループの10人は誰だ・・・
645 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/16(木) 01:07:13.39 ID:v1Hav3gDO
それにしても、暇さえあれば見てるから、サバに落ちられると何だか落ち着かなかったな。
646 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/16(木) 08:59:42.84 ID:rAiutFol0
>>645
同じく。

悪魔と契約して願いをかなえようとするもの。
そっちこそ魔女かもしれないですね。
647 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/02/16(木) 13:57:21.69 ID:1yKSGFheo
しかしバイドもまたヒトの心や魂を弄ぶ事にかけては大したもの
ラストダンスが終わるまでに魔女を「解析」してしまう事は無いとは言えないかもしれないな…
648 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/16(木) 15:02:56.37 ID:rAiutFol0
>>647
実際、インキュベーターは魔法少女や魔女を使っても滅ぼされているしな。
649 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/16(木) 15:04:59.27 ID:rAiutFol0
>「ケン、ウォーレン!手はずどおりに行くぞ。 このお姫様達を、敵陣までエスコートするぜ!」
>「お姫様にしちゃ随分と寸胴じゃないかね、こいつらは?」

いやいや、人数が多いだけですよ。
650 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/02/16(木) 19:25:16.87 ID:MXv0Xr5i0
思えばずいぶん長々と続けてきたものだと思います。
毎日毎日よくもここまで続けたものです。

では、投下しましょうか。
651 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/16(木) 19:26:01.94 ID:MXv0Xr5i0
「……やれやれ、終わったか」

各方面より、敵の掃討が完了したという報告が上がってくる。
どんどんと色が塗り替えられていく戦局図を眺めながら、一仕事終えたといった風に
九条は呟いた。

「この調子でずっと行けるなら、存外持たせられるかもしれないがね。
 いかんせん相手はバイドだ、次も油断せずに行こう。
 掃討を完了させた部隊から、撤収するように伝えてくれ」

ひとまずはどうにか、迫るバイドの軍勢を押し返すことができた。
この調子で行けば、今後もしばらくは優位に事を進められるだろう。
その間に、第二次バイド討伐艦隊の編成を完了させ
オペレーション・ラストダンスを遂行することができれば言うことはないのだが
果たしてそこまでうまくいくのだろうか。

とにかく、大一番であった初戦は無事越えたのだ。
ひとまずは兵達を労うことにしよう。
九条は、ゆっくりと自分の思考が臨戦状態から
戦後の処理を行うための段階に切り替わっていくのを感じていた。
652 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/16(木) 19:26:41.54 ID:MXv0Xr5i0
かくして、人類とバイドの最終決戦。その火蓋は切って落とされた。
英雄の帰還によって、多大な被害をもたらされた人類が
第二次バイド討伐艦隊を再編するためには、少なく見積もっても半年以上の時間が必要とされた。
それはすなわち、魔法少女達の地獄は未だ4ヶ月以上は続くということで。
その日々は、戦いは、そして起こるであろう死は。
確実に、彼女達の精神を蝕んでいくこととなる。

だが、それでも。今この時だけは。
勝利者達に祝福を。次なる戦いの時までの、ささやかな休息を。

「皆、ご苦労様。任務完了よ。さあ、帰ってお茶にしましょう」

中央区画で猛威を振るい続けた魔女兵器。
その性能を見届け、後始末を終えて隊に戻ったゲルヒルデが
敵を蹴散らし、周囲の警戒を続けていた中隊の魔法少女達に、そう告げた。

告げられるまま、ある者は意気揚々と。そしてある者は憔悴しきった様子で
次々に、グリトニルへと帰投していく魔法少女達。
そんな彼女達の姿が、ゲルヒルデには愛おしくもあり、悲しくもあった。

手塩にかけて育て上げてきたのだ。
バイドと戦うことができるように、無事に生きて戻れるようにと。
そしてその甲斐あって、少女達はすくすくと腕を上げていった。
一人でも多く生き残ってほしいから、誰にも死んで欲しくはないから。
だからこそ厳しく、執拗に戦う術を、生き残る術を教え込んできた。

けれど、それでもどうしても死者が出る。落伍者も今後は増えていくことだろう。
それが、とても悲しかったのだ。
そんな悲しみを、できる限り負わずにいられるように。
少女達にその悲しみを、絶望を背負わせることのないように。
訓練は、尚も厳しく続けられていく。戦う業だけでなく、その心までも鍛えるために。
653 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/16(木) 19:27:15.15 ID:MXv0Xr5i0
撤収の指示を出し終え、帰投する機体達を見送って。
それからゲルヒルデもまた、コンサートマスターをグリトニルへと向かわせる。
その、最中。プライベート通信の回線を一つ開いて呼びかける。

「マコト。今、少し話をしても大丈夫かしら?」

「隊長……はい」

返ってきた声は、すっかり暗く沈みこんでしまっている。
無理もない。今回の戦闘で、一番多くの被害を出したのはマコトの小隊なのだから。
そしてその責任は、マコトの判断ミスによるところが大きい。
マコト自身も、それをよく分かっている。それを背負ってしまっている。
今回は生き延びることができたけれど、このままでは次はない。
むしろ次の出撃までの間に、絶望に飲まれて潰れてしまうかもしれない。

それだけは避けたくて、ゲルヒルデは静かに言葉をかけた。

「……中隊全40名、被撃墜者5名。その内4名が、貴女の小隊からね」

交わされる通信波の中に、僅かに息を飲むような音が混じった。

「敵陣深くまで独断で先行した挙句、小隊はほぼ全滅。
 この損失は、とても大きなものよ。その責任もとても大きい」

「……こんなことを、ずっと続けなくちゃいけないんですか。
 こんな辛い戦いを、この先も、ずっと」

帰ってきたのは、まだ震えたままの声。
その声はどこか虚ろに、問いを投げかけていた。
654 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/16(木) 19:27:50.93 ID:MXv0Xr5i0
「そうね、少なくとも後四ヶ月。
 その間に、どれだけバイドの襲撃があるかはわからないけれど。
 最低でもそれだけの期間は、ここで戦い続けなければならないわ」

ぎり、と。歯噛みするような音が聞こえてきた。
そして一拍の間を置いて。

「もう嫌だ!こんなの、もう沢山だっ!
 自分一人生き残るのでさえ必死なのに、人の命まで預かってられないよっ!
 こんなの……もう、無理だよ」

無機質な喉から溢れ出す痛切な叫び。
それはそのまま、鋼の鼓膜を振るわせた。

「……辛いでしょうね、残されてしまうというのも」

ゲルヒルデの言葉は、どこか悔いているような
何かを懐かしんでいるかのような、そんな色が混じっていた。
マコトは思い出す。尋ねてみようと思ったことを。
彼女の戦う理由、生き続けようとする理由を。

「そういう経験があるんですか……隊長は?」

ゲルヒルデは、マコトの言葉に少しだけ考え込むようにして
それから、静かに口を開いた。
655 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/16(木) 19:28:17.18 ID:MXv0Xr5i0
「私はむしろ逆ね。……取り残してしまった、先に、逝ってしまった側だもの。
 ……あまり面白い話じゃないわよ。それでも、聞きたいかしら?」

「聞かせてください。……じっとしてると、耐えられそうにないんです」

「聞くのはいいけど、うっかり他の機体とぶつからないようにね。
 ……私はね、もう二回死んでいるのよ」

静かに耳を傾けるマコトに、一つ一つ思い出すようにして
ゲルヒルデは言葉を繋いでいった。
時間的にはそれほど前のことではないはずなのに
ここに来る前の日々は、どこか記憶の彼方にぼやけてしまっていたから。

「舞い上がって、油断して。そのまま撃墜されて。
 一緒に戦えるかもしれない仲間まで、そのまま危険に晒してしまったのよ。
 それでもまだ、その時はどうにか九死に一生を得ることができた。
 ……そしてまた、戦い続けていたのだけどね」

一度言葉を切る。
脳裏に浮かぶ記憶。それももう随分おぼろげになってしまった。
このまま戦い続けていたら、いつしかそれすらも忘れ去って
完全に、戦うためだけの機械になってしまうのではないだろうか、と。
そんな不安を胸の奥底に押し込めながら、人間であった自分を確かめるように
ゲルヒルデは、言葉を続けた。

「信頼できる仲間を得た。このまま、どこまでも戦っていけると思ったわ。
 けれどある時、かつてないほど強力なバイドが私達の前に立ち塞がったの。
 後にも先にも、あれほど恐ろしい敵と対峙することはもうないと思うわ」
656 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/16(木) 19:28:47.96 ID:MXv0Xr5i0
「たった一機の敵に、完全に翻弄されて撃墜された。
 手も足も出なかったわ。……それでも、ここで倒せなければ、他の仲間が死ぬ。
 だから、命をかけてでも倒そうとした。
 ……それで、今度こそ死んでしまったと思ったのだけどね」

言葉の端に、どこか自重めいた笑みを浮かべて。

「気がついたら、奇妙な装置にソウルジェムだけが繋がれていたわ。
 そして知ったわ。私が守ろうとした人は皆、死んでしまったということを」

いつの間にか、ずいぶんと接近していたのだろう。
ガルーダとコンサートマスターが、並んで宇宙の闇を往く。
その背に、青い光の尾を引きながら。

「嘆きもした、悔やみもした。世界がひっくり返ってしまうような、ひどい喪失感だったわ。
 けれど、それに浸る間も落ち込む間もなく、私はここで戦うことを命じられた。
 ……拒む事なんてできなかったわ。私にはもう、生身の身体なんてどこにも残っていなかったから」

「だから、その復讐のために戦っているんですか?」

問いかけた言葉に、ゲルヒルデは答える。
その口ぶりには、どこか自嘲めいた笑みが見え隠れしていた。

「勿論、それもあるでしょうけどね。でも、今生きているからこそ分かるの。
 死んだ人間には、もう辛いも何もないけれど。きっと……残された人は、とても辛いんだろうな、って」

何も答えないマコトに、言い聞かせるように静かに言葉を続けた。

「だから、戦わなくちゃいけない。生き抜かなきゃいけない。
 そうしなければ、自分だけじゃなくてもっと沢山の人が死ぬ。
 そしてそれよりもっと沢山の人が、残された悲しみを背負うことになる。
 それがずっとずっと、世界中に広まってしまったらどうなるかしら」

深く考えるまでもない。悲しみの輪が広がって、それはそのまま絶望と破壊に変わる。
人類が辿るのは、そのまま滅びだけだ。でも、それを食い止める力はここにある。
後は、それをどこまでも振るい抜ける意志があるかどうかというだけで。
657 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/16(木) 19:30:19.26 ID:MXv0Xr5i0
「でも、それがなんだって言うのよ……。
 いまさら私が死んだところで、一体誰が、誰がが悲しむって言うんですかっ!」

「じゃあ貴女は、ティナを、セラを、フィヨンを、リョーコを。
 彼女達を失って今、まったく悲しくもないのかしら?」

静かに突きつけられたその言葉は、確かにマコトの胸を打つ。
そう、何も感じないはずがないのだ。激しい怒りを感じた。その理由は何だ。
それはとても簡単だった。共に戦ってきた仲間を失ったことが
自分のミスが、彼女達を死なせてしまったことが、とにかく悲しかったのだ。
それこそその重さに、マコト自身が耐え切れないほどに。

「……違うわよね。きっと、貴女が死んでもそうなると思うわ。
 私も、折角育てた貴女に死なれるのは辛いわ。
 こんなことを言うのは不本意かもしれないけれど、こうして教えた戦う術はとても貴重な技術なのよ。
 誰にでも覚えられるものでも、ましてやお金なんかで代えられるものじゃない」

「でも……私にはもう、やっていける自信がないんです。
 本当に……背負って飛ぶには、仲間の命は重すぎるんです」

一つ、小さな吐息の音が漏れた。
続けて叩き付けられたのは、ゲルヒルデの、いつも通りの強い声。

「自惚れないで頂戴。それは、貴女だけが背負っているものじゃないのよ。
 この隊の皆が、仲間の命を背中に乗せて飛んでいるの」

けれどそれから、すぐに声は優しい調子に変わる。

「……だからそれは貴女一人で背負うものでもない。重すぎるなら頼ってもいいの。
 一緒に背負って、それで戦って行けるならそれでいいのよ。だからこそ、私達はチームなんだもの」
658 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/16(木) 19:30:44.51 ID:MXv0Xr5i0
それは、生き延びるためには必要なことなのだ。
自分の力を知り、仲間の力を知り。依存することなく背負いすぎることなく。
共に背中を預けあい、常に生きるための最善策を探し続ける。
ここがどれほど地獄でも、生きて明日を見るのだという強い意志が。
その命を、意思を預けて死地へと飛べる仲間の存在が。
これほどの地獄で生き抜いていくためには、どうしても必要不可欠なのだ。

それはきっと、今までの訓練ではどうしても得られない。
戦いの中で、死に直面する戦場で、それぞれが手に入れていくしかないものだった。

「もちろん、貴女にも頼られるに足る腕前のパイロットであってほしい。
 ……その素質はあると思うの。だから……また、貴女に仲間を預けてもいいかしら?
 私の、貴女の、皆の大切な仲間を、ね?」

前方に、グリトニルの姿が見えてきた。
離れていたのは四半日ほどだというのに、マコトにはそれがやけに懐かしく見えた。
無事に帰ってくることができたのだと、少なからぬ安堵が満ちた。そして。

「全部終わるまで生き延びれば、帰れるんですよね」

「……ええ、きっと帰れるわ」

残酷だけれど、その確証はなかった。
もしやすると軍は、そしてTEAM R-TYPEは、魔法少女隊そのものの存在を消し去ろうとするかもしれない。
間違いなくこんな部隊が、これほど多くの犠牲が生まれたという事実は、明らかにできるものではない。
バイドの戦いを生き延びることができたとしても、その先に待っているのは尚暗闇で。
胸中に広がるドス黒い何かを押し殺すように、ゲルヒルデはマコトに告げた。

「じゃあ、生き抜いてみます。それまで……みんなで」

「……そう、じゃあ帰りましょう。グリトニルへ」

そして、グリトニルの灯に導かれ、二人の機体が収容された。
659 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/16(木) 19:31:13.37 ID:MXv0Xr5i0
バイドとの初戦はここに終わりを告げた。
けれど、それはまだ長い戦いの始まりに過ぎない。
人類が、バイドに抗し得る牙を育てあげるその日まで。
魔法少女隊の戦いは、この地獄は、果てしなく続いていくのだ。

宇宙という名の杯を、人とバイドの、そして魔女と魔法少女の血でひたひたと満たしながら。



INTERMISSION〜魔法少女隊〜
     ―終―
660 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/02/16(木) 19:39:18.56 ID:MXv0Xr5i0
途中でこれは完全に幕間にしようと思い立ちました。
オペレーション・ラストダンスを控えた地獄の最前線、グリトニルで生きる魔法少女達の始まりです。
本当はもっと色々詰め込みたかったけど、本編が進まなくなるのでここで打ち切りです。

>>643
正直なところ魔女に好き勝手に暴れてもらっているだけですからね。
人類の兵器、と呼ぶのはずいぶんと危うい存在だと思います。

隊長格の魔法少女だけは、すべて事実を知っています。
それでも尚、すべて自分の願いのために、あらゆる倫理をかなぐり捨てて前へ進んでいるのです。
ゲルヒルデすら、ある意味では少女達を利用しているに過ぎないのですから。

それとバクテリアンはお帰りください。
ガイダッカーさんはUとSUPERに登場するバイドさんです。

>>644
グレッグとかキムとかその辺がいると思います。
何せフォー・ループ。輪が四つでできる数字の話ですから。

>>645-646
投下したい側としてもとっても落ち着きませんでした。

自分の望みのために人の命を捧げる。
それを良しとするのなら、確かにそれはもう魔女なのかもしれませんね。

>>647
だからこそ人類が今までバイドの研究で蓄積してきたノウハウが生きるわけです。
とはいえそれでもいつまで持つかはわかりません。
だから一応兵器として完成した今でも、魔女兵器の開発はなおも続けられています。

>>648
インキュベーターの個を持たない性質が、バイドとは致命的に相性が悪かったようです。
彼らが自前で用意できる魔女というのも、きっとオリジナルと比べたら劣るものだったのでしょう。

>>649
ミサイルをお姫様になぞらえていたわけですが
中に入っていたのも、本当にお姫様だったわけです。
正確には魔女、ですが。
661 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/16(木) 20:56:01.96 ID:v1Hav3gDO
お疲れ様ですっ!
このお話しが途切れても、少女達の戦いが終わる訳じゃあないんだよね…。だから、せめて言わせてくれ。太陽系を守ってくれてありがとう、魔法少女隊…!

ゲルヒルデさんの体が、なくなっていたなんて…思ってなかったな。
662 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2012/02/17(金) 18:54:50.14 ID:TLqENCR/o
魔法少女隊って聞くとアルスを思い出す
663 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/18(土) 00:43:24.29 ID:97OeMTNp0
ソウルジェムを切断することによって、優秀な魔法少女を増やせないかな?
とか考えてしまった。

成否はともかく実験はしていそうだな。
664 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/02/18(土) 11:58:21.04 ID:v+SlK92Vo
奴等なら分割どころか複製の研究もやってそうだな。
665 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/19(日) 17:38:24.37 ID:Dbou4IMDO
なんか最近よく地震が起きるけど、>>1さんは大丈夫ですか?怪我とかされてませんか?
666 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/02/20(月) 21:24:39.75 ID:wbiPJ5tT0
ちょびっとお休みをいただいてました。
さあ、最終決戦行きますか。
667 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/20(月) 21:26:18.77 ID:wbiPJ5tT0
月日は巡る。
存亡の急を抱えた人類も、それでも尚時の流れは変わらない。
歩みを速めることも、緩めることも、留めることさえもなく続いていく。
変わらず流れる時の河は、確実に人類というなの箱舟を滅亡の坩堝へと誘っていく。
それに抗うために、人類はもはやその狂気を隠そうともせず、けれど淡々と滅亡に抗う力を作り上げていく。

そして、その為の時間を作り出している最前線。
グリトニルで、そしてそこから旅立つ太陽系の外で。
少女達の戦いは、まだ続いていた。
バイドの大部隊は、何度も何度も押し寄せてくる。

数え切れないほどの戦いがあった。
その中で、多くの別れがあった。
多くの魔法少女の、そして人の死があった。

三ヶ月。
最前線における戦いは続き、三つの月が過ぎ去った後には
魔法少女達は、その数を半減させていた。
9人の戦乙女達も、その半数以上たる5人が戦いの最中に費え
残った4人の部隊に、残る全ての魔法少女達が集められていた。

もはやそれでは、当初の通りに左右から迫るバイドを防ぎきることはできない。
故に正規軍の部隊も交え、少女達の戦いは尚も続いていた……の、だが。
668 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/20(月) 21:26:45.14 ID:wbiPJ5tT0
「まったく、こうも数が多いんじゃやってられないな」

ため息交じりに、ダンシング・エッジを駆るオルトリンデこと、呉キリカは呟いた。
どうやら今度という今度は、バイドはこちらを叩き潰すつもりなのだろう。
第一波、第二波をいつも通りに退けた。
今頃中央の戦線では魔女が暴威を振るってくれていることだろう。
改良を重ねられるたび、その威力はさらに禍々しく、精密になっていく。
留まることのないその追求が、狂気が、彼女達と人類を、未だ生き永らえさせてた。

だが、今回ばかりは状況が違う。
立て続けの第三波。おまけに左右に割り振られた数が相当に多い。
これをどうにか受け止め、中央へとなだれ込ませるためには
どうしてもこの場所に踏みとどまり、死守する必要があった。

「この分だと、織莉子の方も大変だろうなぁ」

考えるのは織莉子のことで。
士気も高く、その錬度もまた高い織莉子の部隊だけれど
それでも、この数を、立て続けの敵襲を捌き切れるかどうかは危ういものだった。

「今すぐ駆けつけて、織莉子を助けるべきだ。
 私の心はそう言ってる。私の愛はそう言ってるね。
 分かってる。そうするべき、なんだけどな」

一直線に駆け抜け、その刃で立ちふさがる敵を切り伏せながら
むしろ無謀とも思えるほどの勢いで、キリカのダンシング・エッジは突き進む。
当然のように、その背後を突いて敵が迫る。
けれど、それはさらに背後より放たれたレーザーによって打ち抜かれ、爆炎の中に没した。
669 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/20(月) 21:27:15.01 ID:wbiPJ5tT0
「後ろは任せてくださいね、隊長っ」

「隊長はいつも通り、ガンガン突っ込んでってくださいよっ!」

キリカの機体に伝わる通信が、二つ。
今の攻撃の射手と、それと並んでもう一機。

「隊長が敵を分断したら、そのまま私達で括弧撃破。
 いつも通り、しっかりやろうね、みんな」

「まっかせっなさーいっ!さぁ、悪いバイドは蹴散らしっちまうぜーっ!」

続く、いくつもの声。
そう、繰り返す戦いの中で、キリカは生き延び続けた。
そして戦い続け、その刃で立ちふさがる敵をねじ伏せ続けた。
この狂気の戦場では、力こそが、生き残る術を持っていることこそが、何者にも勝る
信頼を勝ち取るための手段だったのだ。

そして、彼女は十分にそれに足るものを見せ付けた。
慣れぬ戦いに戸惑い。生きる術を必死に探し出そうとしていた彼女達には。
それは、十分に信頼と尊敬を寄せるに足るものだったのだ。
いつしか彼女は少女達から隊長と呼ばれ、そして慕われるようになっていた。
670 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/20(月) 21:27:59.94 ID:wbiPJ5tT0
「どうしてしまったのだろうね、私は。
 ……見捨てておけないと思ってしまっているんだ。彼女達を。
 私の仲間達を、だ」

戦いの衝動に身を任せ、激しい破壊をばら撒きながら。
キリカは思い出していた。自分が戦いに身を投じようと思った理由。
魔法少女に、なろうとした理由を。

誰からも必要とされない自分。
誰にも優しくされない自分。
凡庸で、軽薄で、関わる価値の見出せない隣人達。
自分を卑下する一方で、同時に自分の周囲の全てを見下していた。
それをどうにかして変えたくて、その為の何かを探し続けて。
あてもない放浪の果てに、出会ったのが織莉子だった。

彩色に溢れ、戦う力を持ち、自らのためにそれを振るうことを躊躇しない。
そんな強さを持った彼女は、常に人々の中心にいた。
そんな彼女に惹かれた。彼女と一緒に居たいと思った。
そして、彼女との出会いは自分に教えてくれた。自分にも戦う力があることを。
だからこそ、彼女と共にあるために、キリカは戦いの運命にその身を投じたのだ。

戦いの果てに流れ着いたこの場所で、キリカは。
部下を、仲間と呼べる少女達を、得てしまったのだ。
一度深淵に転げ落ち、織莉子という光に縋って生き延びたキリカは。
長い、あまりに長い戦いの果てに、彼女が望んだ物を手に入れていたのだ。
671 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/20(月) 21:28:28.13 ID:wbiPJ5tT0
誰かに必要とされる自分、誰かのために、その力を振るうことのできる自分。
そして、そんな自分を認めてくれる、並び立って戦い得る仲間達。
皮肉なことに、明日さえ分からぬ戦いの日々が、戦火の果てに積み上げられた信頼が。
キリカにとっては、新たな安らぎとなっていたのだ。

だからこそ、迷う。
自分にとって、本当に大切なものは何なのか、と。
以前であれば、一も二もなく織莉子であると言っていただろう。
けれど自覚していた。こうして得ることのできた仲間に対して抱いたもの。
それもまた、彼女達を失いたくないという、共に戦っていきたいという気持ちだったのだろう。

決断を下すのは、今しかない。
今ならば、新たな敵が殺到する前に織莉子の側へと飛ぶことができるだろう。
けれどそうすれば、おそらくここで戦う少女達は敵の軍勢に飲み込まれてしまうだろう。
織莉子に依存しきっていた心の中に、目覚めた新たな暖かな感情。
それを、こんなところで消し去ってしまってもいいのだろうか、と。

「……行ってくださいよ、隊長」

ひとまず敵の先触れを斬り捨て、鋼の羽を休めていたキリカに
仲間である少女の一人が近づいて、そう言葉を告げた。

「行け、って。……私の戦場はここだよ、どこに行けって言うんだい?」

「恋人のとこッスよ。いるんでしょ、向こうに」

どきりと跳ねた心を抑えて、いつもの調子で告げたキリカにまた、別の少女が声をかけた。
672 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/20(月) 21:28:56.91 ID:wbiPJ5tT0
「行ってよ。ここは、私達だけで十分なんだからさ」

そしてまた、声。

「………人の恋路に投げ捨てられるほど、キミ達の命は安っぽいものだったかい?」

その言葉に素直に頷けるほど、今のキリカは単純ではなかった。
どう見ても強がりが見え見えの少女達の言葉に、そう言葉を返した。
けれどもやはり、迷いは晴れない。

「別に安っぽくもないし、死ぬつもりもないッスよ。
 でも言ったじゃないスか、隊長は。愛はすべてだ、って。
 だったら、その為に生きればいいじゃないスか。……これが、最後かもしれないんだしさ」

少女達も、それを悟っていたのだ。
恐らくこの波を、自分達は乗り切ることができないだろう、と。

「隊長は、今までに何度も私達を救ってくれました。
 最後くらい、自分の心に素直になってもいいと思いますよ。迷っているんでしょう、隊長」

参ったなぁ、という呟きが漏れた。

「まったく、そこまで心を見抜かれるような真似をしたつもりはないんだけどな」

「分かるよ。だって……あたしらだって、女の子だもん」

少しだけ寂しそうに投げかけられたその言葉は、とくんとキリカの胸を打った。
もしも表情が見えていたのだとしたら、今の自分は笑っているのだろうとキリカは思う。
673 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/20(月) 21:29:42.84 ID:wbiPJ5tT0
「そう、だね。私達はみんな、女の子なんだっけね」

微笑交じりにキリカは呟く。
今の今まで、完全にそんなことは忘れてしまっていた。
自分達は戦士なのだと、戦うことしかないのだと、そう思い込んではいたけれど。

「忘れてたんですか?ひっどいなぁ、もう」

「ほんとほんと、あんなに恋する乙女してるのに、いまさらそれを言いますかっての」

くすくすと、面白がっているような声が少女達から漏れる。
それにつられて、キリカも小さな笑い声を立てた。

「……いいさ。私はここに残るよ。心配なんていらないよ。
 織莉子は、私よりもずっとずっと強いんだ。負けやしないさ。絶対にね」

心の中で、収まりきらない何かが声をあげている。
バカなことを言うな、今すぐ織莉子のところへ行け、と。
その声を押し退け蹴り飛ばして、キリカはそう言った。

「いいんスか?ほんとに」

「ここを無事に生き延びればいいだけのことだよ。
 それとも、キミ達は私の力が信じられないのかい?」

一瞬、わずかな沈黙。
まさか本当に信用されてなかったのか、なんてちょっと不安も覚えたころに。
誰からともなく、笑い声が漏れてきた。
674 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/20(月) 21:30:22.50 ID:wbiPJ5tT0
「それもそうですよね。本当に隊長は、信じられないくらい強いんですから」

「まったく、どっちが化け物なんだかわかりゃしないくらいに、ね」

「そういうことなら、さっさと敵を蹴散らすことにしましょうかっ」

こうでなくては、とキリカは心中の笑みを深める。
これでこそ、自分の仲間達だ、と。

「それでこそ私の部下だ。そういうことなら……さっさと連中を蹴散らして
 ばっちり生き延びて帰ろうじゃないかっ!」

時を同じくして、ついに迫る敵の反応をレーダーが捉えた。
それへと向けて、無数の光が飛んでいく。
黒の機体を先頭に、後に続いて飛んでいく。




愛は無限だ。
それを捧ぐに値する相手がいるならば、その愛はその全てに捧げられるだろう。
けれど、それでも愛は有限だ。
その愛を行使する自分は、どう足掻いても有限でしかない。
願う者全てに愛を注ぎ、その形を示すには、あまりにも自分はちっぽけ過ぎた。
だけど、だからこそ。その無限に注がれ、有限にしか示されぬ愛を
今の自分が差し伸べられる者に、差し伸べるべき者に捧げよう。

「だから、愛は無限に有限なんだ。
 ……そうだろう、織莉子。そうだろう、私の愛しい仲間達」
675 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/20(月) 21:30:54.42 ID:wbiPJ5tT0
目前に迫る敵。
数は未だかつてないほど多い。
対するこちらは連戦の疲れも抜けず、戦況はかなりの不利。
それを知りつつ、それでも尚。愛と希望をその身に滾らせ、キリカは群れなす敵へと向かった。

運命の女神は、彼女達に過酷な戦いの運命を押し付けた、その残酷な女神は。
どうやら彼女達に、まだ死すべき定めを与えるつもりはないようだった。

「後方から機体が接近してくるね。……なんだい、この速さは」

接近するそれの反応に、キリカが気づいて声を上げた。
それはあまりに速すぎた。カスタム機であるこのダンシング・エッジですら
その速度には、はるか遠く及ばない程に。


敵陣へと向かう少女達を追い抜いたその機体は、そのフォルムからR-9系列の機体だと見て取れた。
けれど、その細部は今までに見たことのない形状をしたもので。

「またもや驚き新兵器、ってとこかな?」

立った一機でも、増援が来たのはありがたい。
足の速さは恐ろしいが、果たして腕はどれほどのものか。
その機体は一気に距離を詰め、キリカの隣で停止した。
そして通信が、その声を伝えた。

「ここは私に任せなさい。あいつらは、私が始末するわ」

その声は、キリカにとっては忘れようもない声だった。
ただ一度だけ、彼女に苦い敗北の味を刻み付けた敵。
今はもう、敵ではないのだろうが。それでもその声は忘れられないものだった。
676 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/20(月) 21:31:24.66 ID:wbiPJ5tT0
「暁美ほむら……まさか、キミがこっちに来ていたとはね」

声が届くと、相手の少女は、キリカがほむらと呼んだその少女は、小さく息を飲んだ。

「私はそんな名前じゃない。……私はスゥ。スゥ=スラスターだ。
 右翼の敵は私が殲滅する。貴女達は左翼の敵に向かいなさい」

スゥと名乗った少女は、そう言い残して再び機体を走らせた。
瞬く間に、その姿は宇宙の彼方へ消えていく。


「どうします、隊長?……さすがに、単騎駆けできるような数じゃないでしょ、アレ」

「……いや、大丈夫さ。私達は左翼に回ろうじゃないか」

確信を持ってそう言うと、キリカは機首を巡らせる。
色々悩む手間が省けた。この様子なら、仲間も織莉子も、どちらも救うことができそうだ。

「そんなに凄い奴なんスか?あの機体」

「そうだとも、古今無双の英雄様だよ。
 ……ということは、恐らくあの機体は噂の究極互換機。
 完成していたんだね。いよいよ、オペレーション・ラストダンスも開幕という訳だ」

少なからずの事情を知るキリカは、困惑したままの仲間に一つ声をかけ。
そのまま、未だ敵の殺到している左翼へと機体を走らせるのだった。
677 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/20(月) 21:39:14.67 ID:wbiPJ5tT0
というわけで第17話、まずはキリ回となりました。
なんか色々昇華されちゃって誰コレな感じもしますが
そんなキリカも好きです。

>>661
戦いはまだ終わりませんが、いよいよ終戦の気配が見えてきました。
それが人類の敗北か、バイドの殲滅によるものかはわかりませんが。

そしてゲルヒルデは尚も生存中です。
彼女の部隊も、人数は半減してしまいましたが。

>>662
もともとそこからネーミングしております。
面白かったなぁ、BOX出ないかしら。

>>663
もっとじっくり研究できたらもしかしたらやらかしたかもしれませんね。
けれど、今の彼らの研究対象は魔法少女ではなく、魔女です。

>>664
記憶の移植くらいはやれそうですが、魂の複製はまだ魔法の領域なのでしょうね。

>>665
北の大地は地震には滅法強くありますので、大丈夫です。
678 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/02/20(月) 22:13:24.02 ID:tgcUeYFao
乙。
さやかの話が来るかと思ったけど、こっちが先に来たのね。


なんとかTYPESが手に入った。
・・・が、ぬるゲーマーの自分にとっては正に異次元だったぜ。
679 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/20(月) 23:21:24.76 ID:T5uVbJDDO
お疲れ様です!
スゥちゃん合流!これは心強いな!

強制された様な仲間関係だとしても、道がそれしかないなら、それを救いと思い込むしかないよね…。
680 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2012/02/21(火) 23:18:13.41 ID:N2oaDFo20
乙です
そろそろFINALと同じような展開になったりするのかな?

二週間前に買ったVの一周目をようやくクリアできた…
マザーバイドの腕のところ、初見だったのにそのままクリアしてしまったあっけない
初代をやり始めたけど操作感覚違いすぎワロエナイ...
681 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/02/22(水) 02:15:20.65 ID:yJlr5Fsi0
久々ですが、4話のリメイク行きます。
おりキリ初登場回でしたね。

682 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/22(水) 02:16:55.11 ID:yJlr5Fsi0
「先日転校してきた暁美ほむらさんですが、手続き上の間違いがあったらしく
 今日から別の学校に通うこととなりました。暁美さんからは伝言を預かっています」

見滝原の朝。早乙女の声が通った教室で。
そこにざわめく喧騒は、どこかいつもと違うざわめきに満ちていた。
一日だけで、事件と一緒に去っていってしまった転校生。そして。

「それと、美樹さんがご家庭の都合で転校することとなりました。
 急なことで私も驚いています。まさか一度に二人もお友達が転校してしまうだなんて」

続く言葉に、教室のざわめきがさらに大きくなる。
そしてそれと同時に、好奇心と疑惑の入れ混じったような視線が
それでいて、どこか腫れ物に触れるような空気が彼女の――一人、地球に戻ったまどかへと突き刺さった。

結局、さやかとほむらは地球に戻ることはなく、そのまま宇宙で訓練や任務に就くのだと言う。
まどかはただ一人、この件に関して口外しないことと
しばらく監視がつけられるということを説明されて、地球へと帰還することになった。

その道中、まどかは二度泣いた。
一度目は、地球に降り立ち地面を踏みしめたとき。
そして二度目は、無事に家まで帰り着き、家族に抱きしめられたとき。

そして今もまた、居た堪れなさと寂しさや悲しさが混ざり合って
まどかは零れ落ちそうな涙を必死に堪えていた。

それまで当たり前だと思っていた平和が、日常が偽者であることを知って。
大切な親友が、新しくできた友達が、その向こうへと行ってしまったことを実感して。
まどかには、いつもの学校の景色やその喧騒が、なぜか色褪せたものに見えてしまうのだった。
683 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/22(水) 02:17:20.45 ID:yJlr5Fsi0
そして、3ヶ月が過ぎた。

3ヶ月である。時間としては短すぎる。それでも、魔法少女とかつての英雄には十分過ぎるほどの時間で。

「こちらサンデー・ストライク。リボー7、キャンサー6、タブロック2、後……なんだっけ?
 あのゴミ箱みたいなやつ。そいつを2つ撃破!周囲にバイド反応はないよ」

宇宙を駆けるR戦闘機。
サンデーストライクを駆って、さやかは飛んでいる。

「それはストロバルトだね、さやか。バイドに汚染された高機動清掃クラフトだ」

キュゥべえがその言葉に答える。
バイドによって占拠された廃プラント。そこに巣食うバイドの殲滅が
今回彼女に課せられた任務だった。

「高機動清掃クラフト……って、なんでたかだか掃除する機械にそんな性能つけるんだか」

半ば呆れ顔でさやかが言う。
ひとまず周囲のバイドを殲滅、一息ついてまた戦いへ。

「よっしゃ!それじゃこのまま、一気に奥まで殲滅しちゃうよー!」

「その必要はないわ」

突如、割り込みの通信。見ればそこにはほむらの機体が。

「その必要はない、って……どういうことさ?」

「この先の敵は全て撃破したわ。一番奥には作りかけのノーザリーもいたから
    それも一緒に破壊しておいたわ」

「な……っ」

絶句。さすがはかつての英雄というべきか。
極めて短時間に、極めて効率的にバイドの殲滅をやってのけた。
この3ヶ月というもの、さやかは常にほむらの凄さを思い知らされていた。
演習や模擬戦においても、そしてこと実戦に至っても。
さやかはほむらがかつての英雄であることを知らない。ただ凄腕のR戦闘機乗りだと考えていた。
684 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/22(水) 02:17:51.14 ID:yJlr5Fsi0
「まだまだね、美樹さやか。そんなことでは私には一生追いつけないわ」

そしてほむらも、それでいいと考えていた。
あの日、マミが死んでしまったその日からずっと、二人の関係は刺々しいままだった。
改善しようとも考えた。けれどもなかなかさやかも取り付く島を見せなくて。
だからほむらも、それでいいと考えてしまった。
それならばそれで、憎むべき、そして追い越すべき先達としてさやかを鍛える。
その目論見は見事に当たる。さやかの持つバイドへの、そしてほむらへの憎悪は。
さやかに生き抜く気力と、戦う力を与えていた。

ほむらの眼から、あえて贔屓目的な視線を外してみても。
あの時のマミと同レベルまではもってくることができただろう。
ほむらは、内心の寂寥感と満足感を同時に感じながら、現在のさやかをそう評価する。

「んなこと言ったって、あんたの機体とあたしの機体じゃ、性能が違いすぎるんだってーの」

そう、さやかの言葉にも一理ある。
ほむら現在駆る機体。それはR-13B“カロン”と呼ばれる機体。
フォースのバイド係数を極限まで高めた結果、非常に扱いづらくなってしまった機体である。
扱いには熟練が必要ということで、ほむらにテストパイロットとしての白羽の矢が立った形である。

たとえ扱いづらい機体と言えど、それはR-13A“ケルベロス”や、名機と謳われるR-13A2“ハーデス”
これらの機体の発展系、最終形とも言える機体である。
それに比べてさやかが駆るサンデー・ストライクは、R-9C“ウォーヘッド”を元に量産された低コスト機。
地球連合軍の中ですら、既に型落ちの機体として新兵の練習用くらいにしか使われない、そんな機体である。
性能の差は歴然なのは事実。むしろそんな機体でこれだけの戦果を上げるさやかを、ほむらも内心では評価している。

「機体の性能に頼るようでは3流ね。狙いも甘いしフォースの付け替えも遅い。
 そんなことではバイドに勝てはしないわ。無残に死ぬだけよ」

「ああそうですか!ったく覚えてなさいよ。戻ったらシミュレーションでボコボコにしてやるんだから!」

「そんなことを言って、一度でも私に勝てたことがあるの?貴女は」

「ぐぎぎ……」

心無い言葉を投げかけるたび、ほむらの胸がちくりと痛む。
けれども必要なのだと割り切って、心を冷たい氷の底に沈めて、ほむらは憎まれ役を演じ続けた。
685 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/22(水) 02:18:15.68 ID:yJlr5Fsi0
「……でも、そろそろあたしだって専用の機体をもらってもいい頃だと思うんだけどな。
 マミさんだって、あの時はもう……」

マミのことを思い出してしまう。あの綺麗な機体を駆って、華麗にバイドと戦っていた姿を。

(……まだ、追いつけないのかな。マミさん)

その姿は、さやかの中で一つの理想となっていた。
ほむらがさやかをマミと同等と評価していても、さやか自身はそう思っていない。
追いつこうとしても追いつけない。そんな憧れと未練をマミの姿に重ねていた。

「……実力が伴えば、嫌でもあいつらは機体を送り込んでくるわ。
 それがマトモな機体なら、いいのだけど」

ほむらの心配はそこだった。R戦闘機のテストパイロット。
それは、正常な神経をしたパイロットなら決してやりたがらないことだからだ。
理由は明快、全てはTEAM R-TYPEの仕業である。
人権や倫理を放棄した機体設計が為された試作機、日夜彼らによって生み出されている。
そんなものに乗らされるのだから、いつ命を落としても不思議ではない。

せめて、自分が守らなくても平気なくらいの実力を身につけるまでは。
そう願い、キュゥべえに掛け合った結果がこのサンデー・ストライクである。

(でも……もうこの分なら、心配いらないのかもしれない)

さやかは戦い抜いた、そして危なげなく生き残った。
それほど厄介な敵は残していなかったとは言え、あれだけの敵を撃破して、だ。

「そんなキミにいい知らせだよ、さやか。キミの専用機がもうすぐ届くらしい」

そしてその思索は、キュゥべえの嬉しそうでもあり、やはりどこか無機質な声によってかき消された。
686 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/22(水) 02:18:45.76 ID:yJlr5Fsi0
「これがキミの新しい機体。キミだけの為に造られた、専用機だよ」

格納庫には、全体に青いカラーリングの施された機体が眠っていた。
コクピットブロックの真下に一基、機体の背後二基のブースター。
それだけに留まらず、機体の左右には旋回補助と思しいブースターが三基ずつも設置されている。
異様なほどのブースターの数。それによってその機体は、一種歪とも言える形状を取っていた。

「これがあたしの、あたしだけの機体……でもこれ、なんかちょっとごつごつしてない?」

「その辺りは我慢してもらうよりほかないね、試作機だとどうしても、外観まで気を配れないことも多いんだ」

パイロットブロックのすぐ後ろに設置された砲身が特徴的なその機体。
それはかつて、パトロールスピナーと呼ばれたもの。その系譜を継ぐもの。
そして魔法少女に授けられる、新たな力の継承者。

「それでそれで、この子はなんて名前なの?」

その青に、すっかり心を奪われてしまったさやかが、興奮した声でキュゥべえに詰め寄る。

「R-11M3“フォルセティ”だ」

「フォル……セティ?」

返されたその声は、あまり聞き覚えのない名前を告げた。

「“正義”と“平和”を司る神の名前なんだ。キミの機体にはぴったりだと思うよ」

「正義と平和か、へへ。何か照れちゃうな。まあ、正義と自由、なんて言われなくてよかったかな。
 よろしくね。フォルセティ」

親しみを込めて、むしろもう愛しさにも似た気持ちを込めて、さやかの手がフォルセティの表面をなぞる。
その顔は、まださやかが友人であった頃に見た表情と、よく似ている気がした。

「……よかったね、さやか」

祝福するのが正しいことか、それはわからない。
この機体を手にしたということは、これからますます激しい戦いがさやかを待ち構えている。
それでも今は、さやかが見せたその表情が嬉しくて。
聞こえないようにこっそりと、ほむらはそう呟いた。

「よーっし!そうと決まれば早速、乗ってみなくちゃねーっ」

「その前に、今日はこれからシミュレーターでさっきの戦闘の反省と模擬戦よ。
 忘れたわけじゃないでしょう?」

それとこれとは話が別、とばかりに、はしゃぐさやかにほむらは冷たく言い放つのだった。
687 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/22(水) 02:19:22.19 ID:yJlr5Fsi0
そして、また少し時は過ぎる。
さやかは順調にフォルセティを乗りこなしていった。
フォルセティ、と名づけられたその機体。それはまさしくR-11S2“ノー・チェイサー”の正当進化系であり。
それは同時に、異常な進化を遂げてしまった機体、ということでもあった。

R-11系列の機体は、そもそもにして市街地などでの運用を想定し
機動性や旋回性能の向上を目的に開発されたものである。
その開発は、武装警察などでの運用試験を経て進められ、パイロットへの耐G機構などが指摘されながらも
ノー・チェイサーの開発をもって終了した。……はずだった。
しかし、彼らの飽くなき探究心は、ソウルジェムを手にしたことによって更に暴走することとなる。
更なる機動性を、更なる旋回性能を。……そして、殺人的な加速を。
パイロットのことなどまるで考えていない、異常なほどの機動性と加速性能。
とどのつまり、フォルセティとはそういう機体であった。

そんな機体にさやかは乗り続けてる。
今のところ、その身体に異常は見られない。
ほむらは、逆にそれが不安だった。

「あたしも、もう大分この子の扱い方に慣れたよ。ねえ、ほむら」

「……何かしら?」

それは、突然の呼びかけだった。
一通りの訓練を終えたさやかが、ほむらにそう呼びかけたのだ。

「鬼ごっこ、しようよ?」

好戦的な笑みと、どこかぎらついた瞳を添えて。
688 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/22(水) 02:19:59.11 ID:yJlr5Fsi0
「なるほど、なかなか面白いことを考えるね。
 ほむらがカロンで逃げ回り、さやかがフォルセティでそれを追いかける」

格納庫。装備変更と発進準備を進める機体を前に
キュゥべえは、どこか面白がっているかのように呟いた。

「それで、5分逃げ切ったらあんたの勝ち。あんたにペイント弾を当てられたらあたしの勝ち。
 そろそろ証明しようと思ってさ。機体性能さえ並べば、あたしはあんたになんか負けないって」

「随分とくだらないことを考えるのね。……でもいいわ。腕の違いって奴を教えてあげる」

そもそも、機動性という意味では今ではさやかの方が上なのだから、こんな勝負自体成り立たないのだが。
だからと言って、負けるつもりもない。性能だけで全てが決まるほど、この宇宙は甘くない。
それぞれが機体に乗り込んで、超高速の鬼ごっこの始まりに備えた。

「ふん、言ってろ。絶対見返してやるからねっ!」

「……じゃあ、先に行くわね」

そして、ティー・パーティーから放たれた信号弾を合図に、カロンが船を飛び出した。
それからきっかり30秒後。

「さあ行くよーっ!フォルセティっ!!」

青い炎を撒き散らし、フォルセティが宇宙を舞った。
一気に最大加速、見る間にカロンの反応が近づいてくる。
最大速度での急接近からの強襲。一撃で決める、その自信があった。
だからさやかは、キャノピー越しにカロンの姿を捉えて、最大速度で突撃していった。

「相変わらず、何も考えずに突っ込んでくるだけなのかしら」

その突撃と共に放たれたペイント弾を、機体を僅かにずらしてかわす。
そのまま機体を転進させ、すれ違いざまに今度はこちらからペイント弾を叩き込んだ。
それは違わず命中し、フォルセティの青い機体に赤い花が咲く。

「な……っ!よくもっ!!」

思いがけない反撃に、さやかの声に怒りが混じる。

「別に、私から撃たないとは一言も言っていないわ」

平静そのもののほむらの様子が、さらにさやかの怒りを駆り立てた。

「くっそー……っ」

闇雲に突っ込んでいっても、ただやたらと弾をばら撒くだけでも、ほむらには届かない。
ならどうすればいい。さやかは考える。
先ほどのほむらの機動。ほむらの機体の性能、それは自分の機体のそれよりも劣ってはいなかったか。
だとしたら、付け入る隙がないわけがない。例えどれだけ技量が劣っていても、足の速さと小回りならば負けはしない。
689 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/22(水) 02:20:21.12 ID:yJlr5Fsi0
「……なら、そうするしかないよね。体力勝負だ、行くよほむらっ!!」

再びフォルセティが加速し接近してくる。

「そんながむしゃらな突撃、何度やっても……っ!?」

最小限の動きでそれをかわすほむら。しかしフォルセティは喰らい付いてきた。
こちらが機体を廻らせるよりも早く転身し、再び狙いをつけてくる。
慌てて機体を加速させ、次の射撃から逃れる。しかし、それにも付いて来る。
単純な足の速さでなら、いかなほむらとて勝ち目はない。
故に、機動でかわしてやりすごす。それ自体は決して難しいことではないはずだった。

そんな勝負の見えているはずの追いかけっこは、意外なほどに続き。
いつしか3分が過ぎていた。ほむらはまだ、さやかを振り切れていない。

「どこまで……付いて来るっていうの?信じられない」

急旋回、急上昇、急降下。上も下もわからなくなるほどの激しい機動。
そのたびに、ついてこられずフォルセティが離れていく。
だが、次の動きに転じようとする前に既にフォルセティは背後に迫っている。
まるで息つく暇も与えないとでも言うかのように、執拗に迫ってくる。
あれだけの動きをこれだけの時間。体力的にも、身体への負担的にも普通では考えられない。
不安にも似た焦りが、ほむらの中で広がっていた。

「くそ……また追いつけない。また……でも、まだまだぁっ!!」

捉まえた!そう思った目前でカロンが急に軌道を変える。
追いきれずに逸れた機体の進行方向を無理やり捻じ曲げ、尚カロンの後を追い続ける。
我ながらがむしゃらなことをしていると思う。けれど、これくらいしか勝てる手立ては思いつかない。
少なくともこうしている間、一度もほむらに攻め手を許していないのだから。
激しい軌道を繰り返す中で、さやかは自分の意識が研ぎ澄まされていくのを感じていた。
690 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/22(水) 02:20:49.60 ID:yJlr5Fsi0
そして、そんな激しいチェイスを遠めで見つめる機影が、二つ。

「あの二人、随分と楽しそうなことをやっているじゃないか。
 なあ、そろそろ私たちも混ざってもいいだろう?」

「そうね、彼女たちの動きは見せてもらったわ。あれならば私たちの敵ではないでしょう」

「ん、決まりだね。――さあ、行こうか。織莉子」

「――ええ、行きましょう。キリカ」




「まさかさやかがほむらにああまで喰らい付くとはね、ちょっと以外だったよ」

無人のティー・パーティー。二人のチェイスを眺めてキュゥべえが呟く。
その耳が、ぴくんと小さく揺れて。

「……秘密通信?一体誰だい、今いいところなんだけどな」

モニターに映し出されたのは、なんともいえない奇妙な生き物。
人の服を着てデフォルメされた猫、とでも言えばいいのだろうか。
三毛猫のような柄に、科学者然とした白衣。それっぽい眼帯や機械風の義手まで装着している懲りようである。

「まあ、そう言うなよインキュベーター。折角この私が、面白い出し物をもってきたんだぞ」

聞こえる声は、見た目とはある意味裏腹にまだ歳若い男性の声。
やけにテンションは高い。

「その名前で呼ぶのは、出来ればやめてもらいたいな。誰が聞いているかわからない。
 それで、どういうことなんだい、出し物っていうのは」

「古い魔法少女の粛清だよ。我々TEAM R-TYPEは、ついにソウルジェムの新たなる可能性を見出した。
 この力があれば最早今までの魔法少女は必要ない。それどころか、バイドの殲滅すらも容易だろう」

どうやらこの男、あのTEAM R-TYPEの一員であるようだ。
その声からは、圧倒的な狂気と自信が滲み出している。

「まあ見ていたまえ、我々の作り出した魔法少女が、古臭い魔法少女を粉々に打ち砕く瞬間をね」

それでも、キュゥべえの表情は変わらない。
何を考えているのか、想像すらも付かないのである。

「君はもう少し驚くべきだ。君がもたらした技術が、ついに君の力を超えて進化するのだよ。
 少し位は感謝してしかるべきだと思うがねぇ?」

「……まあ、やってごらんよ」

ようやく呟いたその言葉は、なぜか酷くつまらなさそうな口調だった。
まるで、これから起こることがわかっているかのように。
691 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/22(水) 02:21:24.86 ID:yJlr5Fsi0
「ところで、その映像はなんだい?ボクとキャラが被るじゃないか」

「これかね?私の姿をそのまま映すと、君のような手合いはともかく皆がとにかく不気味がるものでね。
 仕方なくこの映像を映すことにしている。だがこの姿も悪くはないぞ。
 これはかつて日本の金沢に生息していたといわれる、ニホンカイハツヤマネコという生き物でな……」

以降、しばらくその生き物についてのまことしやかな噂が続く。
何でも高度な知能を持つ生き物で、独自にゲームを開発していた、だとか。
親会社の再編に際して住処を追われ、今では火星に住処を移している……だとか。眉唾もいいところである。
692 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/22(水) 02:21:55.81 ID:yJlr5Fsi0
超高速の鬼ごっこは続く。
追いかけ、追い縋り、その背に迫り。
追いかけられ、突き放し、また追いかけられる。
制限時間の5分はもうすぐ過ぎようとしている。
だが、ほむらはともかくさやかはそんなことにも気付けないほどに集中していた。
そして二人の機体が激しい軌道を描き、再びぶつかり合おうとした、そのときである。

「「っ!?」」

二人の機体が、それぞれ間逆の軌道を描いて急旋回。
そしてその二人の機体のすぐ横を、フォースが通り過ぎて行った。


「おやおや、避けられてしまったよ。当たったと思ったんだけどな」

「仕方ないわ、キリカ。当たらないのはわかっていたことだから」

現れたのは、二機のR戦闘機。交わされたのは、少女の声が二つ。
片やまさに戦闘機然としたシャープなフォルムを持つ純白。
機体の左右に伸びた主翼と、その横に展開する黄色のビットが印象強い。
そしてもう一機は漆黒。装甲を強化されたキャノピーに加え
機体後部に設置された球状のレドームが設置された、所謂索敵機と呼ばれる代物で。

「軌道戦闘機に……索敵機?なぜこんなところに」

「ちょっと!一体どういうつもり、いきなり攻撃してくるなんて」

いきなりの攻撃に、警戒は緩めずに。けれど戸惑い気味に声を放つほむら。
怒気の混じった声で、見知らぬ機体へと食って掛かるさやか。
その声からは、さやかが消耗しているようには見えない。
あれだけ激しく動いたというのに、たいしたものだ、とほむらは思う。
693 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/22(水) 02:22:30.64 ID:yJlr5Fsi0
「ひどいなぁ織莉子は、わかっていたのなら教えてくれればいいのに」

「あら、でもそれを言うならキリカだってわかっていたのではないかしら?」

「まあね、でもちゃんと織莉子に教えて欲しかった」

そんなさやかの声など無視して、なにやら話し込んでいる二人。
その姿が、更にさやかの怒気を煽る。

「あんたたち……人の話ちゃんと聞きなさいよ!」

「さやか、あの二人は……」

「わかってる、攻撃してきたんだ、敵って言われてもおかしくない。
 でもなんで、バイドでもないR戦闘機があたしらを攻撃してくるの?」

混乱は拭えなくとも、さやかの思考は研ぎ澄まされたままである。
だからこそ怒りに身を任せることが自殺行為であることも、この二人が敵である可能性もわかっていた。

「貴女たちのような古い魔法少女は、もう不要なのですよ」

「そうそうっ!これからはバイドは全部私たちが倒すから、キミたちは、安心してここでくたばっていってくれたまえ!」

問いかけに対する返事は与えられず、向けられたのは敵意のみ。
そんな敵意を隠そうともせず、再び二機が迫る。
フォースにポッドの完全装備。片やこっちはペイント弾。
相手になるはずもない。

「さやか、ここは一度撤退を……」

せめてフォースでもなければ、まともに戦うことすら出来もしない。
ティー・パーティーまで逃げることができれば、すぐにでも用意をしてくれるはず。
だからこそ、ここは退くべきだとほむらが言う。

「いいや……ここは、戦うっ!」

けれど、さやかは止まらない。
迫る二機に、真正面から立ち向かおうというのだ。
694 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/22(水) 02:23:05.52 ID:yJlr5Fsi0
「さやかっ!」

フォルセティに火が灯る。
圧倒的な加速が、その機体を揺るがし突き抜けた。

「っ。キリカ!」

「OK、織莉子!」

何の合図も、ろくな通信の一つもなく。
キリカの駆る黒い機体が、フォルセティの進路の前に立ちふさがっていた。

「ざんねん、キミの人生はここで終わってしまった!」

フォースを介して放たれる赤い光線。
加速に入る一瞬の隙を突いた攻撃、こちらの動きのタイミングを把握していなければ出来るはずもない。
だが、それでも。

「邪魔……するなぁぁぁっ!!!」

さやかが吼える。そしてフォルセティは加速する。迫る光線をその身に掠め、更に速く突き進む。
二機の機体が、ほぼ掠めあうように交差して、すぐさまフォルセティは機体を反転させた。


「予想以上に早い!?……“使う”暇も与えさせてくれないなんてね!」

「キリカ、来るわ」

その速度はさすがに予想外だったのか、驚くように声を上げる二人。
そして、続けざまの声が飛ぶ。

「拙い、退避するよっ!!」

フォルセティのその機体の内から、静かに聞こえる共鳴音。
波動砲のエネルギーがチャージされていく音だった。

「遅いよ。喰らえぇぇっ!!」

そして、放たれたのは波動砲。その波動砲は無数の光弾の形を成して、二人を目掛けて飛んでいく。
ロックオン波動砲。フォルセティには、ノー・チェイサーと同様の強化型が搭載されている。
市街地などでの運用を前提とし、誤射を防ぐために敵をロックオンする機能を搭載された波動砲である。

「足の速い相手には、ぴったりだね……こりゃ」

キリカの機体だけでなく、織莉子の機体も同時にロック。
無数の光弾を浴びせかけながら、その攻撃範囲に驚いたように声を漏らす。
これで相手がただのR戦闘機ならば、それで終わっていただろう。

「いやぁ、今のは危なかったよ。でも今回はちゃんと“使う”ことができた」

「ええ、そうね。キリカのお陰で助かったわ」

そう、相手がただのR戦闘機であったのならば。

「な……っ」

無傷。あの無数の光弾を全てかわしきったとでも言うのだろうか。
その事実に、さやかは驚いたように声を漏らした。
695 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/22(水) 02:23:34.13 ID:yJlr5Fsi0
「でも参ったな。もう一人には逃げられてしまったよ」

「え……ほむら?」

いち早く離脱したのだろうか。ほむらの姿はどこにもなかった。
愕然とした。そして何よりそう感じた自分に怒りがこみ上げてきた。
ここに至っても、自分はほむらに頼っていたのか、と。

「ははは!キミ、見捨てられてしまったようだね!」

「はっ、冗談。あんな奴、端からあてにしてないっての」

嘲るように笑う声を、振り絞った強がりで跳ね返した。
得体の知れない敵。そして2対1。状況は、悪いとしかいいようがなかった。

「強情で、真っ直ぐで……ですが、それだけに愚かね。
 人は一人では戦えない。その手を自ら振り払う貴女は……私たちには勝てません」

「言ってろ。あたしは……負けないっ!!」

それでも、さやかは諦めない。
機動性ではこちらが上。もう一度あの二人を振り切って。
今度こそフルチャージの波動砲をお見舞いしてやる。
劣勢さえも振り切ろうと、フォルセティが再び駆け出した。
696 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/22(水) 02:24:02.02 ID:yJlr5Fsi0
「なるほどね、つまりキミたちが作り出した魔法少女を、ボクの魔法少女にぶつけてきたというわけだ」

「そうとも、もっとも相手になるとは思わないがね。そう確信できるほどに、我々が手にした力は大きい」

ティー・パーティー内、キュゥべえとニホンカイハツヤマネコの通信は続いていた。

「確かに、あの二人の機体は普通じゃないね。一体何をしたんだい?」

「何のことはない。ソウルジェムを徹底的に解析した結果、その新たな可能性を見出しただけだよ。
 それは人の精神エネルギーを変換し、科学や理論では説明できない事象を引き起こす。
 あえてその名を使うことを恐れないならば、それは十分“魔法”と呼ぶべき力だと思うよ、私はね。
 魔法少女が扱うとすれば、随分とふさわしい名前だとは思わないかね!」

まるで自分の研究の成果を見せ付けるように捲くし立てる。
その声は狂気と狂喜に震えているようで、それすらも受け流しているキュゥべえである。

「キミが我々にもたらしてくれたソウルジェムの技術は、魂を肉体から切り離すという
   今までにまるでなかった観点を与えてくれた。お陰でサイバーコネクトも更なる進化を遂げることができた」

「それは確かに興味深いね。一体今度は何をしでかしたのかな」

キュゥべえはひたすら聞き役に回る。
この手の手合いは、適当に話を合わせていればいくらでも話を続けてくれる。
色々と情報を引き出すには、とてもよい機会だった。
そしてキュゥべえは確信していた。暁美ほむらが何者であるかを知っていたから。
こんなところで、彼女は死ぬはずがない、と。

そして、その男はずいぶんに上機嫌で、さまざまなことを告げてきた。
曰く、サイバーコネクト技術の進化によって生まれた新たなる技術。
サイバーリンクと呼ばれたそれは、パイロット同士を電子的に接続することで
互いの思考や感覚をリアルタイムで共有することができる、という確かに革新的なものだった。
とはいえ、それをそのまま用いれば搭乗者への負担が大きすぎる。
故にこの技術は、ソウルジェム同士を介するという形で実現することとなった。

そうして生まれたのがあの2機であり、そのため調整を受けたパイロットが
呉キリカ、美国織莉子の二人だった。

「あの二人が持つ魔法と、サイバーリンク。この二つが組み合わされば最早敵などはいないよ。
 まずはキミのお抱えの魔法少女を軽くひねって、その実力を証明してあげるよ」

「……なるほどね、だがそう簡単にいくかな。おや、ほむらが戻ってきたね」

もう一つ開かれたモニターに、ほむらの姿が映し出されて。

「キュゥべえ、至急フォースを出して。ほむらの分も一緒に牽引するわ」

切羽詰った声が一つ、ティー・パーティーに飛び込んできた。
697 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/22(水) 02:24:44.85 ID:yJlr5Fsi0
「どうやら彼女たちは、徹底的に抗うようだね。……わかった、フォースを射出するよ」

(すぐ戻るから、お願いだから耐えていて、さやか)

たとえ2対1とは言え、あれだけの機動を見せたさやかならそうやすやすと落とされはしない。
信じたかった。今までになく、焦りが身体を支配していた。


「随分頑張るねぇッ!でもほらほら、次行くよ。次次、次次次ぃッ!!」

「っとにもう……次次うるさいっての…ぅあっ!?」

黒い機体を駆る少女、呉キリカは次々に猛攻を繰り出し、さやかを追い詰めていく。
その猛攻をどうにかやりすごし、かいくぐっていた横合いから放たれる追撃。
機体を掠める黄色い光。それはレーザーではなく、実体を持つ物質で。
イエロー・ポッドと呼ばれる軌道戦闘機に搭載されたその武装は、それ自体を敵に体当たりさせるという
ポッドシュートと呼ばれる特殊な攻撃方法を持つものであった。

「そんなにキリカばかりに構っていると、私、拗ねてしまいますよ?」

白い機体を駆る少女、美国織莉子はその声色に余裕の笑みを消そうともせず。
けれど的確に、冷酷にさやかを追い詰めていった。

「あーあ、織莉子が拗ねた。キミのせいだ、キミがさっさとくたばっていればよかったのにさぁ」

「く……っそ」

あまりに状況は悪かった。
2対1という状況自体がよくない上に、こちらの攻撃はまるで当たらない。
まるで撃つ前から、どこから攻撃が来るのかわかっているかのように軽々と避けていく。
速さでかき回そうにもそれがなぜか上手くいかない。
あの黒の機体に近づいた時から、機体の速度が上がらない。

「どうして……動いてよ、フォルセティっ」

今のところまだ致命的な被弾は避けている。
けれどもそれも、もういつまでもつかわからない。

「チャージ完了!じゃあ、これで終わりだ」

「何を……って、ロックオンされてる!?まさか……」

フォルセティに伝わる警告。
それは、敵機からロックオンされていることを示していた。
すぐさま回避しなくては、けれど。その時間はもうなかった。

「察しの通り!私の機体の波動砲もキミのものと同じ、敵を捉えて逃がさないのさ。
 ――じゃあ、さよならだ!」

放たれようとする光、思わず目を瞑り、すぐに来るであろう衝撃に身を竦ませたさやか。
けれど、それは訪れることもなく。キリカの機体には、光学チェーンを備えたフォースが襲い掛かっていた。
698 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/22(水) 02:25:08.12 ID:yJlr5Fsi0
「っとと、危ない危ない。……なんだ、キミ。わざわざ死にに戻ってきたんだ」

不意打ち気味に放たれたフォースですらも容易くかわし。
キリカは、その新たな敵へと向き直る。

「……なんで、あんた。ほむら」

「どうやら……間に合ったようね」

そこには、ほむらの駆るカロンの姿があった。
フォースを二つ、携えた姿で。


「逃げたんじゃ、なかったの?」

意外だったが、頼もしくもあった。
少なくとも人格的にはいけ好かないが、それでもやはりほむらは強い。
悔しいけれど、この状況をどうにか切り抜けるには、その力を借りるより術はなかった。

「逃げないわ。貴女が戦うというのならね。
 フォースを引っ張ってきたから使いなさい。波動砲だけで戦える相手ではないわ」

「……ありがと」

牽引してきたフォースは、確かにフォルセティのものだった。
すぐさま信号を送り、機体を認証させ。フォースを機体前面へと呼び寄せた。

「それと、少し話しておきたいことがあるわ」

油断せず敵を見据えながら、ほむらはさやかに言葉をかける。

「話……って、今どういう状況かわかってんの?」

「わかってる。だから……そのための時間は作るわ」

一体どういうことなのか、怪訝そうにさやかは答えた。

「私たち相手に時間を作る?ははは、キミはジョークのセンスがあるね。
 ……キミたちの時間は、ここで終わるんだよっ!!」

笑い声と共に迫る黒の狂機、だがその動きは急停止する。

「……なぜ止めるんだい、織莉子?」

「だめよキリカ。……やられたわ。下がりましょう、キリカ」

迎撃のため放たれたアンカー・フォースを意にも介さず機体を翻す。
その行動に、ほむらは違和感を感じる。それでも打つ手は変わらない。

「ドース開放……刄Eェポン、起動」

「刄Eェポン、って……まさかこんなとこでっ!?」

刄Eェポン。フォース限界までエネルギーが蓄積された、ドースブレイク状態でのみ使用可能な
フォースに搭載された最後の切り札。一度に広域を殲滅することも可能であるが
あくまでそれは対バイド用の兵器である。
R戦闘機同士の戦闘では、すぐさま効果範囲から離脱されて十分な威力は発揮できない。
それでも、有無を言わさず敵を遠ざけることに成功した。
699 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/22(水) 02:25:39.39 ID:yJlr5Fsi0
「今のうちに、さやか。ついてきて」

「……わかった」

その隙に、全速力で戦線を離脱。追っては来るだろうが時間は稼げるだろう。
一目散に宇宙を駆ける二機。ほむらの機体に続いて、さやかは機体を進めていた。

「時間がないから、このまま逃げながら話すわ。落ち着いて聞いて。
 あの二人は、私たちと同じ魔法少女。……それも、どうやら本当に魔法じみた能力を持っているらしいわ」

「はぁ!?魔法って……そんなこと言われて信じると思う?」

いくら自分達が魔法少女だからといっても、それは所詮名前だけのことだと思っていた。
だからこそ、そんなほむらの言葉は到底信じられるようなものではなくて。

「思わないわ。でもあの連中ならそれぐらいはやってもおかしくない。
 ……さやか、貴女はあの二人と戦っていた。なら何か違和感を感じたんじゃない?
 普通ではありえない、起こりえないことを」

「………確かに、ある。でも、なんでいきなりそんなこと」

そう、確かに違和感は感じていた。
けれど、それが魔法だと言われると、到底信じることはできない。
ここは宇宙。R戦闘機同士が交差する、超高速の戦場なのだ。
そこにあるのは鋼の機体と交差する光。魔法なんてうわついた言葉は、あまりに似つかわしくなかった。

「キュゥべえが話しているのを聞いたわ」

その言葉には、ほむらが答えた。
少なくともキュゥべえは、それをほむらに告げてはいない。
所謂、盗聴という奴である。

「あいつ……帰ったら色々問い詰めてやらないと」

「そのためにも、あいつらを何とかしなくてはいけないわ。
 聞かせて、さやか。貴女があいつらと戦って感じたことを」

生き延びるためには、どうやらそうするしかなさそうだ。
本当に魔法使いなんてものが相手だとしても、それでもどうにか生き延びなくてはならないのだから。
さやかは、考える。
700 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/22(水) 02:26:08.28 ID:yJlr5Fsi0
「まずあの白い方だけど、あいつはまったく攻撃が当たらないんだ。
 っていうか、あたしが撃つ前にもう回避してる。そんなこと、あんたできる?」

「……無理、ね。ある程度先読みで回避することはできるけど。
 確かにあの機体のパイロットは、さっきも私が刄Eェポンを使うことを読んでいた」

それらの事実が推測させる事象。
それはどうにも、ずいぶんと性質の悪いものだった。

「ってことは……もしかして」

「ええ、ということはあいつの能力は……読心だとか予知能力の類ね」

改めて聞くと、やはりそれはずいぶんとトンデモな代物だった。

「マジですか……って、そんなのどうやって戦うっていうのさ」

「方法がないわけでもないわ。わかっていても避けられない攻撃をすればいい」

「簡単に言うね、できるのそんなこと」

「流石に私も一人では難しいわ。でも二人がかりでかかれば、十分勝機は掴めるはずよ」

「二人がかり、ね。……じゃあ、あの黒い方はどうするってのさ。
 やりあった感じ、向こうの方ががんがん攻めて来る分面倒だよ」

それは違う。あの白い機体は攻めてこないのではなく攻めていないだけだ。
攻め手を黒の方に任せているのか、それともまだ余裕があるのかわからないが。
そんな思考は今は振り切り、ほむらは言葉を続ける。

「では次よ。黒い方の機体。あっちはどうだった?」

「あっちは……よくわかんないんだよね。何か、あいつと戦ってると機体の動きが遅くなるんだ」

思い出しながらさやかは言う。
あの感触は、どうにも言葉で説明するのは難しい。
それでも、思いつく限りの言葉でそう告げた。

「機体への干渉ね……今はどうなの?」

「今は……あ、元に戻ってる。でも本当に遅くなったんだ。
 そうなる前は、フォルセティなら余裕であいつら振り切れるくらいだったのにさ」

「となると、あの機体を中心に一定範囲、ということなのかしらね。
 ……他に判断のしようもないし、そういう風に仮定しましょう」

少なくとも、今はこれ以上は考えようがない。
後は、戦いの中で見定めるしかないだろう。
そうほむらは考えた。

「これだけ聞くと、とてもじゃないけどあたしらに勝ち目は見えないんだけど。なんとかできるの、あんた」

「……」

しばし、沈黙。
けれどそれは、すぐに言葉に取って代わる。

「やれるわ。貴女と私なら」

力強い、その言葉へと。
701 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/22(水) 02:26:39.15 ID:yJlr5Fsi0
「この分ならば、もうすぐ追いつけそうね」

「まったくあいつらー、あんな派手なことしといて尻尾巻いて逃げるだけか。
 やっぱり、私達の前に敵は居ないらしいね」

追いかける、黒と白の狂機。
勝利を確信して、キリカは声に愉悦を滲ませた。

「ええ、でも油断してはだめよ、キリカ。貴女に何かあったら悲しいもの」

「わかってるよ織莉子、あんな奴らになんて一発だってもらうもんか。
 ……おや、あいつらが動きを止めたみたいだ。観念したのかな」

速度を上げて、一気に距離を詰めた。
その二機の向かう先には、確かにカロンとフォルセティが待ち構えていた。
攻撃に移ろうとしたその瞬間、両機は散開。別々の方向へと飛んでいく。

「どうやらあちらは、一対一がお望みのようですね」

「いいよ、相手してやろうじゃないか。でもあっちのすばしっこいほうはちょっと面倒だ。
 織莉子、向こうは頼んでいいかい?」

「ええ、じゃああちらの相手はキリカに任せるわ。どうか気をつけてね」

「ああ、大丈夫さ。愛は不滅だ。どれだけの距離も障害も、私たちを阻むことはできない」

織莉子とキリカもそれを追い、散開する。
データリンク機能を強化したアンチェインド・サイレンスをベースとしたこの機体ならば
おおよそレーダーで捉えきれる範囲であればサイバーリンクが途切れることはない。
そして、それを超える範囲で距離を取るというのであれば、それは放置すればいいだけのこと。
負けるはずはない、と確信を持って追跡を開始した。
702 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/22(水) 02:27:09.76 ID:yJlr5Fsi0
「やはり私を追ってきた。……どうか持ちこたえて、さやか」

祈るように呟いて、カロンの機首を巡らせ同時にフォースを放った。

「おおっと……危ないなぁ。キミはもう逃げるのはやめるのかい?」

キリカはこともなくそれをかわし、応じて赤いレーザーを放つ。
当然、それに当たるほどほむらも易くはない。

「別に私は、逃げたつもりはないわ」

「へぇ、じゃあ今度こそ楽しませてくれるんだろうね。
 でもすぐに終わらせるよ。早く済ませて織莉子のところに帰りたいんだ」

向かい合い、互いに敵意を滾らせる。
まさしくそれは、一触即発の状態で。

「ええ、じゃあ早く済ませましょう。……貴女の機体の残骸くらいは持って帰ってあげるわ」

「お前……ッ!!」

キリカの声が気色ばむ、その隙を縫うように再びフォースが放たれる。
それをかわしたところに、フォースから伸びる光学チェーンの追撃が迫る。

「くっ……このっ、いい加減にっ……」

それもかわされたと見るやフォースを引き戻し背後からの攻撃。
さらにフォースをつけてのレーザー照射、まさに怒涛の攻勢を仕掛けていく。

「まったく、喋る暇もくれないなん……って!
 キミは随分せっかちすぎる。ならば、時間は私が……創るっ!」

キリカの魔法―時間遅延―が発動する。
牙を剥いて迫るフォースが、それに繋がる光学チェーンが、全ての動きが遅延する。
幸いにも、その影響はカロン自身には及んでいない。
それを見て、ほむらは自分の推測が確信に変わるのを感じていた。
703 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/22(水) 02:27:55.29 ID:yJlr5Fsi0
「では、私のお相手は貴女ですか。あの子の手前、攻め手はあの子に任せていましたが……
 今度は私も、本気で行くわよ」

そして、織莉子と対峙するさやか。
ぞくりと、寒気にも似た感触が機体越しにも伝わってくる。
だが、気圧されてもいられない。負けられない。でもその前に。

「一つだけ、聞かせて」

「……いいでしょう。死に往く貴女への、せめてもの手向けです」

互いの間に流れる空気は、更に凍て付き凍っていく。
そんな寒気を必死にこらえて、さやかは言葉を投げかける。

「なんで、魔法少女同士が戦わなくちゃいけないの。あたしたちの敵は、バイドなんじゃないの?」

「ええ、そうです。私たちの敵はバイドです。私たちはバイドを倒すための存在です」

織莉子の声は、とても落ち着いていたもので。
    
「なら、何でこんなことっ!」

「バイドを倒すのは、私たちです。だから、貴女たちは必要ないのです」

「どうしてそうなるのよ。今だって、沢山の人がバイドと戦ってる。
 協力する事だって、できるはずじゃないっ!」

そんな織莉子の落ち着いた様子が
それと裏腹に、容赦なく迫るその敵意と殺意が
さやかには、どうしても理解することができなかった。

「いいえ、それすらも必要がないのです。私たちがいれば、私たちだけでバイドは全て殲滅できる。
 それを認めさせるためにも、中途半端で古臭い魔法少女は、消し去らなければいけないの」

望みはあるのではないかと思っていた。
敵は圧倒的な悪意、バイド。そんな敵と戦うのに、同じ魔法少女同士で争う必要なんてない。
それは正しい道理のはずだ、説得だって出来るはずだと思っていた。
けれど、彼女らは既に狂気の住人だった。ならばもう、無理やりにでも止めるしかない。
704 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/22(水) 02:28:22.97 ID:yJlr5Fsi0
「……あんたら、狂ってるよ。そんなの、あたしが許さない」

迷いは、消えた。絶対に止める。
覚悟と決意を載せて、正義と平和の神がその翼に火を灯す。

「っ……やはり、足回りでは勝てないようね」

圧倒的な加速と旋回性能を持って、まずは織莉子の背中を奪う。
だが……撃たない。

「……撃ってこない?攻撃する未来が見えない。一体どういうこと?」

あくまで撃たず、どれだけ逃げても執拗に背中に張り付いてくるばかり。
どれだけ先の未来を見ても、その景色は変わらない。
それはつまり、このままでは振り切れないということも意味していた。

「私の後ろをうろちょろと……退きなさいっ!」

R戦闘機はあらゆる角度への攻撃を可能とする性能を持っている。
それは機体の背後であろうと関係ない。だがしかし、R戦闘機は機体背後への攻撃能力の大部分を
フォースの存在に頼っている。これだけの起動をしながらでは、フォースを付け替えている余裕はない。
それでもまだ、織莉子に打つ手はあった。

イエロー・ポッドが射出され、機体後方に迫るさやかを襲う。
それこそが、さやかの待っていた瞬間だった。
その軌道と交差するように放たれる、フォルセティのロックオン波動砲。
攻撃と同時の大きな隙を突かれて、回避が一瞬遅れた。
織莉子の機体を直撃、小さな爆発とともにその機体が吹き飛ばされていく。

「当たった!……っとぉ、危ない危ないっ」

それと同時に迫り来るポッドを何とかかわして、なおも執拗に
体勢を立て直した織莉子の背後へと張り付いた。
705 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/22(水) 02:28:51.56 ID:yJlr5Fsi0
「やれる、って。何かいい作戦でも思いついたの?」

話は少し遡る。
逃げながら交わす会話。
あの二機を、魔法を操る狂機を打倒しうる手段。
それを求めて、さやかは声を投げかける。

「ええ、貴女と私の能力、機体性能を考えると、これしか方法はないと思うわ」

曰くほむらの考えた作戦はこうである。
予知、ないし読心能力を持つ織莉子に対して有効な攻撃
それは徹底的に後の先を取ること。相手の攻撃にあわせて攻撃し。
相手の機動を常に追い続ける。
そしてそれができるのは、圧倒的な機動性を持つさやかのみ。

それで倒せるならばよし、倒せなくとも時間は稼げる。
その間に、ほむらがキリカを叩く。

「ようするに、あの鬼ごっこでさやかが私にしていたことをすればいい、それだけよ」

「それだけ、って……あれがどれだけ大変だったと思ってるわけ?
 ただでさえきついのに、攻撃避けながらなんて……できると思う?」

「やれるわ、貴女なら」

ほむらの声は、揺るがず。そして力強かった。
そして僅かな沈黙。

「それでもあたしは……あたしはまだ、あんたのことを信用できない。
 あんたがあいつに勝てるかどうかだってわからないし、今度もまた見捨てるんじゃないかって思ってる
 ……マミさんの時みたいに」

「っ!?」

さやかの言葉が、ほむらの胸を貫いた。
言い返せない。マミを見捨ててしまったのは事実。
その事実が、今になって殊更に重く圧し掛かってくる。
けれど、それで思考を、機動を止めれば待っているのはマミと同じ運命だけ。
だから抗わなくてはいけない、立ち止まってはいけない。

「それでも、私は貴女を信じる。貴女なら、やれる」

「なんでそう言い切れるのさ、あんたはっ!」

怒鳴るようなさやかの声に、少しだけ笑みの混じった声で。

「知らなかった?さっきの鬼ごっこのとき、私は本気で逃げていたのよ」

敵が近い、もうこれ以上語ることもないだろう。
それだけを告げ、ほむらは機首を巡らせ、敵を待つ。

「本気で……って、じゃあ、あの時……」

あの時確かに、自分の力はほむらに並んでいた。
絶対的な壁だと思っていた、どうあがいても敵わなかった、ほむらに。

「……それ、ウソだったら承知しないからね」

なぜだか自信が満ちてきた。今なら、誰にだって負ける気がしない。
そしてさやかも、迫る敵を迎え撃つ。
706 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/22(水) 02:29:20.55 ID:yJlr5Fsi0
「何で、何で当たらないんだよっ!!」

交戦から数分。キリカの機体に被弾はない。
というのも、迫る攻撃はフォースだろうとレーザーだろうと全てが遅くなる。
そうなればかわすことなど容易にできる。
けれども、ほむらもまた被弾していない。
フォースやレーザーによる攻撃を絶え間なく浴びせかけながら、返しの一手すらも撃たせない。

「まさか……見切ったって言うのかい。たったあれだけで、私の魔法の範囲を」

時間遅延の魔法は、ことR戦闘機同士の戦闘においてはほぼ無敵とも言える。
だが、それは完璧ではない。効果範囲を過ぎればその効果は消滅してしまうものだった。
ほむらは既に、最初の交戦で光学チェーンの軌道からその範囲を見切っていた。
そしてその距離から、つかず離れずの攻撃を繰り返していた。
相手の集中力を削りミスを誘う。古典的な手ではあるが、相手の様子を見るに
どうやらそれは有効なようだった。

「大したものだよ、キミは本当に。でも、私は負けないっ!」

急加速して迫るキリカを、その範囲に入らぬように急旋回でかわす。
幾度となく繰り返されてきた光景。その中でほむらはまたしても見切る。
魔法は特異。けれども腕自体は、自分には遠く及ばない、と。

ならば負けるはずはない。確実に削り、潰す。
ただ、今もぎりぎりの戦いを続けているはずのさやかのことだけが気がかりだった。
707 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/22(水) 02:29:49.66 ID:yJlr5Fsi0
「本当に、信じられないほどのしつこさね」

うんざりしたかのように織莉子は言う。
こちらの状況は硬直していた。
撃てば撃たれるということがわかって、織莉子はそれ以降主だった攻撃を控えている。
だがさやかも、振り切られることなくとことんその背中を追い続ける。

「このままでは埒が明かないわ。……キリカのことも心配だし」

サイバーリンクは、キリカの焦りを克明に伝えてくる。
早く行って助けなければと、焦りは募る。

「焦る必要なんてない、どれだけ時間をかけたっていい。……負けない。絶対に」

さやかは慌てない。焦らず静かに敵の背を追う。
あのときほむらを追いかけたときに感じたような、精神が研ぎ澄まされていく感触。
それを今もまた、感じ始めていた。

織莉子は思う。
この機体が軌道戦闘機でよかった、と。それが可変機能を持っていることに感謝した。
機体を急減速させる。フォルセティも遅れずそれに続き、機体に制動をかける。
機体の動きが止まる。背後を取っている以上、それは絶好の好機。

だが、さやかはほんの一瞬だけ躊躇した。
あまりにもあからさま過ぎる動きを、罠ではないかと疑ったのだ。
その一瞬が、全てを決することになった。


軌道戦闘機と呼ばれる機体は、速度の変化に合わせた可変構造を持っている。
そして、その際に生じる余剰エネルギーを機体後部に放出している。
その放出されたエネルギーの炎は攻撃性を持ち、熟練パイロットの中には
それを敵への攻撃に利用したものもいる、という記録が残されている。

「え……そん、なっ?」

視界を埋め尽くす青白い炎。
反射的にそれを避けようとするも、避けきれずに炎はフォルセティのキャノピーを直撃した。

「きゃぁぁぁっ!?」

きりもみするように軌道を反らし、そして動きを止めるフォルセティ。
その姿を確認し、それがこれ以上動かないことを確認してようやく、織莉子は深く安堵の吐息を漏らした。

(バックファイア……まさか、こんなぶっつけで使用することになるとは思わなかったわ。
 貴女は強敵だったわ。あと一瞬、貴女が撃つのが早ければきっと……やられていたのは私だったでしょう)

「キリカは無事かしら……」

そして、織莉子はキリカの元へと向かう。
708 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/22(水) 02:30:17.85 ID:yJlr5Fsi0
(そろそろね……仕掛けましょう)

こちらの戦闘はいよいよ佳境。ほむらは決着をつけようと決断する。
フォースを回収。その軌道に沿うようにキリカに接近していく。

「やっと来る気になったようだね、今度こそ捉まえてあげるよっ!」

迎え撃つキリカ、それに対してほむらが切った札は。

「レールガン?今更こんなものが、通用すると思っているのかい?」

いままで使ってこなかったレールガン、しかしそれも時間遅延に掴まって。
その弾速が著しく低下する。狙い通りだった。
即座にフォースを装着、レーザーを放つ。それはキリカに届く前に、レールガンの弾丸を打ち抜いた。
炸裂、その中から零れだしたものは……。

「なんだいこれは……まさか、ペイント弾っ!?」

先の鬼ごっこの時のまま、そこに装填されていたのはペイント弾。
レーザーに炙られ、その中の特殊インクをばら撒いた。
しかもそれは、時間遅延の範囲内。ゆっくりと広がり、拡散さえも緩慢なそれは
たとえ一瞬だとしても、キリカの動きを留めるには十分過ぎた。

「なんだ、こんなものっ!!」

それを振り払うように機首を廻らせると、そこには。

「これだけ近づけば、魔法も関係ないわ」

カロンの機首と、そこから打ち出されたアンカー・フォースが迫っていた。

「ッ、うあぁぁぁっ!!?」

アンカー・フォースは、従来の弾幕を張るタイプのフォースとは異なり
敵に食いつき、直接破壊するタイプのフォースとなっている。
それはつまり、一度食いつくことさえ出来れば後は、対象を破壊するまで逃さないということで。

「終わりよ」

「終わらない、終わらないよ……こんなことで、私の愛は…っぁぁぁぁ!!」

ぎりぎりと鉤爪状のコントロールロッドが機体に食い込んでいく。
後はもう幾許もしない内に、この機体もフォースに焼かれて潰えるだろう。

(……やっかいな相手だった。さやかは持ちこたえているかしら)

勝利を確信し、ほむらはさやかの元へと機首を向ける。
その視線が凍りついた。

「その手を、離しなさい」

声と同時に、織莉子が放ったレーザーは、寸分違わずカロンを打ち抜いた。
709 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/22(水) 02:33:21.53 ID:yJlr5Fsi0
「くっ……ぅぅ」

即座に機体の状態を確認、まだ動ける。
だがそれでも、状況は絶望だった。

「ああ……織莉子、すまない。私は役に立てなくて」

「気にしなくていいのよ、キリカ。もう、これで終わりよ」

フォースの拘束から逃れ、黒煙を上げながらも敵意を向ける黒の狂機。
全ての武装をこちらに向け、今にもその殺意を開放しようとする白の狂機。

「終わりだね。キミは強かったよ」

「そんな……さやかは」

「私がここにいる、ということは……語るべくもないことでしょう?」

「あぁ……そん、な」

また、死なせてしまった。絶望が胸を支配する。
抗いようのない絶望が、死が迫る。立ち向かう気力も、もう失せていた。

「あなた方にもう未来はありません。さようなら、過去の魔法少女たち」

そして……最後の一撃が。
710 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/22(水) 02:33:53.33 ID:yJlr5Fsi0
「なかなか梃子摺りはしたが、どうやらそろそろ終わりのようだね」

ティー・パーティー内。
キリカの機体から送られてくるデータは、さやか、ほむらの機体が沈黙したことを示していた。
ソレを声高に話しながら、彼は自らの成果に満足していた。

「そうだね、もう終わりだろう。二人とも限界みたいだ」

キュゥべえの声は揺るがない。

「おいおい、折角手塩にかけた魔法少女が今まさにつぶされようとしてるのに
 キミって奴は本当に薄情な奴なのだねぇ。ああ、そもそもキミに感情なんて存在していなかったのだったね」

「勘違いしないで欲しいな。終わりだと言ったのはあの二人のことじゃない。
 キミが用意した、あの二人のことさ」


織莉子の放ったレーザーは、明後日の方向へと飛んでいった。
動けない敵を相手に外すような距離ではない。遊んでいるのだろうか。

「……?織莉子、どうしたんだ、外すなんて君らしくもない」

「ぁ……ぁぁっ。っぐ、か、ぁぁあぁっ!!」

聞こえてきたのは痛々しい苦悶の声。

「織莉子、織莉子っ!?……一体何が、っ。うぁ……っぐがぁぁぁ!!」

続けてキリカも苦しげな声を上げる。もはや機体操作すらもままならないようだ。


「何だこれは!?この反応は……一体どういうことだっ!!」

二機の状態をモニターしていた男は、そこから伝えられる異常に驚愕し
その原因が分からず、困惑した声を上げた。

「当然の結果だよ。……ボクたちは、キミが魔法と呼ぶ技術の存在を知らなかったわけじゃない。
 もともと、ソウルジェムを媒体として精神エネルギーを消費し魔法を行使する。
 それが、魔法少女の本来の姿なのだからね」

「なっ……では、なぜ最初からその技術を我々に示さなかった!
 我々には扱いきれないとでも思っていたのか、貴様はっ!!」

プライドを傷つけられたように、侮られたように感じて。
激しい怒りを露に、男はキュゥべえに食って掛かった。

「それは違う。確かにキミ達ならば、魔法と呼ばれる超常の技術でさえ自分の物にしただろう。
 事実、その結果キミたちは本物の魔法少女を作り出すことに成功しただろう?
 でもね、ソレは不安定だったのさ」

「どういう、ことだ」

「魔法を使えばそれだけソウルジェムに穢れが溜まる。
 そしてそれが限界を超えたとき、魔法少女はその存在を消失させる。
 簡単に言えば、死んでしまうんだよ」

「………そういうことか、だから貴……キミは、魔法を封印したソウルジェム技術を
 我々に提供した、と。そういうことか」

それでも、事実を知ればある程度の平静を取り戻したようで。
幾分か落ち着いた様子で、男はキュゥべえに問いかける。

「その通りだ。魔法が使えない代わりに、魔女になることもない魔法少女。
 丁度、丈夫で消耗の少ないパイロットユニットを求めていた君たちには、まさにうってつけの存在だっただろう?」

「確かに、ソウルジェムは非常に有用だよ。エンジェルパックほど面倒な手入れが必要なわけでもないからね
 それで、あの二人は回収できるのかい?まだ彼女たちからは回収したいデータが山ほどあるんだがね」

「無理だろうね。もう間に合わないだろう。そもそも彼女があの状況を放っておくとは思えないよ」

「……まったく、これでまた初めからやり直しか。あの二人はいい固体だったんだがな。
 サイバーリンクのテストベッドとしても、最高に近い出来だったんだぞ。まったく忌々しい」

忌々しい、と何度も未練がましく呟きながら通信は打ち切られた。
711 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/22(水) 02:35:27.61 ID:yJlr5Fsi0
「どういうこと……でも、この機を逃す術はないわ」

二人の機体は完全に沈黙している。
仕留めるのは容易い。……はずだったのだが。

「フォースコンダクターに損傷……撃てるのはレールガンだけ?……何の冗談かしら、これは」

そして当然、そのレールガンも中身はペイント弾である。
どうやら先ほどの織莉子の攻撃は、機体に深刻な障害を及ぼしていたらしい。
となると残る頼みの綱はフォースシュートのみ。そのフォースはと言えば。

「……本当、悪い冗談ね」

暴走である。カロンの持つアンカー・フォースはバイド係数を極限まで高められている。
そしてその弊害とも言うべきものが、この暴走である。
フォースがコントロールを失って、好き勝手に暴れまわっているのである。

どうしたものかと途方に暮れる。
微動だにしない二人の機体を一瞥。最早脅威ではないだろう。
結局、また一人だけ生き残ってしまったのか。

「さやか……」

「あたしを呼んだ、ほむら?」

所在無く呟いた声に応えたのは、すこし途切れ気味ではあるが。それは確かにさやかの声だった。

「えっ……さやか、無事、だったの?」

「キャノピーに傷入って、おまけにちょっと気絶してただけ。生きてるよ、何そんな心配そうな声出してんのよ」

元気そうな声が聞こえて、本当にほむらは安堵した。
かなりの苦戦、納得のいかない幕切れではあったが、勝ったのだ。

「それで、あの二人はどうしたの?ほむらがやっつけたの?」

「いいえ、むしろやられそうになったわ。でも突然二人とも苦しみだして、動かなくなった」

「何よそれ、一体どういうこと」

「わからない。……でも、推測はできる。
 R戦闘機は、必ずしもパイロットのことを考えて作られているわけじゃない。
 むしろあいつらなら、パイロットの生存なんて度外視した機体を作っていても不思議はないわ」

動きを止めた二機を見つめて、ほむらは自分の考えを口にした。
712 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/22(水) 02:36:10.19 ID:yJlr5Fsi0
「あいつら……って、あのTEAM R-TYPEって奴だっけ?」

さやかはまだ、Rの名を背負うその腐れ外道共の所業を知らない。
わざわざ知ることもない。健全な精神を保ちたければ知らないほうがいい。
知ってしまったものは、誰しもが口を揃えてそう言う。
それが少しだけ、さやかは気に入らなかった。

「じゃあ、あの二人はもう……」

「……まだ、一応生きてはいるようだけど」

二人の機体を見れば、まるで苦しみ悶えているかの用に不規則に機体が揺れていた。

「じゃあ、まだ生きてるんだ」

「仕留めようと思ったけど、私の機体もこのありさまよ」

武装と呼べるものはすべて失われていた。
もはや反撃があるとは思えないが、とどめは刺しておくべきだろう。

「……ああ、そう。そりゃよかったよ」

さやかの声は微妙に冷たい。
何を思ったか、さやかはフォルセティを二人の機体に近づけていく。

「あんたら、大人しくしてなさいよ。今から機体を牽引するから
 キュゥべえなら、きっと何とかする方法も知ってるはずだよ。……多分」

「さやかっ!貴女……自分が何をしてるかわかっているの?
 その二人は、私たちを殺そうとした。敵なのよ」

「何言ってんのさ、あたしの敵は……バイドだよ」

「さやかっ!貴女があの二人を哀れに思う気持ちも、助けたいと思う気持ちもわかる。
 でも、それは間違っているのよ。貴女自身を危険に晒すことにもなるわ」

「そうやって、また拾える命を見捨てるんだ」

その言葉は言外に、マミのことを言っているのは火を見るよりも明らかで。
ぎり、とほむらは歯噛みする。一体いつまで言われ続けるのか、責められ続けるのか。
だがその恨み自体は間違いではない。責めるのは、そこじゃない。
713 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/22(水) 02:36:39.39 ID:yJlr5Fsi0
「混同してはダメよ、さやか。あの二人はマミとは違う。例え今助けたところで、必ずまた貴女に牙を剥くわ」

「……あたしさ、バカだから。そういう先の難しいことまでわかんないんだよ。
 目の前に拾える命があって、あたしはそれに手を伸ばせる。だったら伸ばさない理由なんてない。
 言ったでしょ。全部守って戦い抜く、って」

静止も聞かずに、さやかは牽引の準備を進めていく。
とはいえいかなフォルセティでも、二機を同時に牽引するのは困難で。

「あたしのやってることも言ってることも、間違ってるかもしれない。
 でも、これだけは曲げたくないんだ。これを曲げたら、あたしの戦う意味がなくなっちゃう」

それでもどうにか、不恰好に二機を後ろに括りつけて。
フォルセティは動き出す。速度はなかなか上がらない。

「ああ……くそ、やっぱり過積載かなー。全然スピード上がらないや。
 でも、お願いだから頑張ってよ。フォルセティ。今度こそ、あたしに誰かを助けさせてよ。
 ………ねぇ、お願いだよ」

願うよう囁く。たとえどれだけ願ったところで、機械仕掛けの心は動かない。
それでも、その言葉は人の心を揺らすことはできた。

「……さやか、貴女は本当に、バカね」

でも、それが羨ましくもあった。
その有様は、やはり強情で、愚かではあった。
それでもその姿は、まるでその機体が名乗る神のように気高いようにも思えてしまった。
そのひたむきさを、純粋さを守りたいと思った。
でもそれは、とても難しいということもわかっていた。

「機体自体は動く。ペイロードも一機分くらいなら余裕はある。……偶には、お人好しにのってあげるわ」

勿論、そんな気持ちは素直に言えるわけもないけれど。


欠伸が出るほどのろのろと、宇宙を進むフォルセティ。
その前にカロンが割り込んで。

「何?邪魔しないでよ。今急いでるんだ」

「急いでいるなら、せめてその大きな荷物の片方は落としていきなさい」

「冗談でしょ、あたしは命の取捨選択なんてできないってば」

はぁ、と小さなため息を一つついて。

「……捨てろなんて言ってないわ。そいつを拾っていけば、魔法とかいう奴の正体もわかる。
 そう、利用できるかも知れないと思っただけよ」

「へ?……あー、えっと。何言いたいのかわかんないんだけど」

「っぐぐ……」

前言撤回。やっぱりただの愚か者かもしれない。

「片方ぐらい、私が持つと言っているのよ。いいから早く下ろしなさい。
 ……急ぐのでしょう?」

「あんた……へへ、じゃあこっち任せるよ。落とすんじゃないわよーっ」

そして、さやかが黒を、ほむらが白を背負って。二人並んで空を往く。
さやかは、なんだか少しだけほむらへのわだかまりが、憎しみが薄れていくような気がした。
……ちょっとだけ、心が軽くなった。

やはり年頃の女の子である。誰かを憎んで生き続けるのは、何かと辛かったのだろう。
714 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/22(水) 02:37:37.29 ID:yJlr5Fsi0
やがて二人はティー・パーティーに戻る。
キュゥべえは、少しだけ意外な顔をしながらもキリカと織莉子を受け入れた。
二人を救う方法も、一応ないこともないらしい。

今度こそ救えたのだと、さやかは喜んだ。
ほむらも、今回は素直に喜んでもらおうと、それ以上何かを言うことはなかった。


「……ぎりぎりのところで、魔女化は防ぐことはできた。
 とは言えどうしたものかな、このまま素直に帰すというのも考え物だ」

キャノピーの開かれた二機の間に立って、静かに呟くキュゥべえ。
その開かれたキャノピーの中には、無数に蠢く機械や配線。そしてその中央。
僅かな握り拳ほどのスペースに。
直接回路に接続された、ソウルジェムだけが煌いていた。
715 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/22(水) 02:38:17.47 ID:yJlr5Fsi0
新米指揮官 ――の航海日誌より

地球連合艦隊の少将であり、偉大な提督であるジェイド・ロスが太陽系内のバイドを駆逐し
バイド駆逐艦隊を率いて宇宙の彼方へ旅立ってより2年。
太陽系内では、バイドによる大規模な活動は今までほとんど確認されてこなかった。
人々は、若き司令官の奮戦ぶりを想像し、平和が訪れる予感を共感していた。

……しかし近頃、太陽系内、それも地球近隣でバイドの活動が報告されるケースが増えてきている。
これは何を意味しているのか、彼らはやはり、バイド中枢を討つことができなかったのだろうか。
だとすれば、バイドの攻勢はこれからますます強くなるのかもしれない。
私はそれを考えて……

 戦いを恐ろしいと感じた

 戦いを嬉しいと感じた

 バイドを倒せることを嬉しいと感じた

ニア英雄の身を案じた
 私は、誰も知らぬ異邦の地で戦っているのであろう英雄の身を案じた。
 どうか彼らが勝利することを、そしていつか、この星へと帰還することを願った。

 軍を辞めようかと思った


それはそれとして、私は太陽系内のバイドに対する対策を練らなければならない。
意識を思索に沈めようとしたその時。バイド出現を告げるアラームが鳴り響いた。

「うむっ、緊急連絡だ」


その報せは、地球圏の全ての部隊に伝えられた。
「エバー・グリーン内部に、大型バイドの反応が確認されました。
 さらにコロニー周囲に、大量のバイド反応が確認されています。
 地球圏周辺の全ての部隊は、直ちにこの鎮圧に当たってください」

人類とバイドの最終戦争、“ラストダンス”は、今まさにその幕を開けようとしていた。


魔法少女隊R-TYPEs 第4話
         『NO CHASER』
          ―終―
716 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/22(水) 02:39:53.13 ID:yJlr5Fsi0
【次回予告】

「じゃあ何?あたしら、とっくに死人だったってこと?」

少女はついに、一つの真実に辿りつく。
そしてそれは、もう一つの可能性を指し示す。


「何やってんのあいつ!あんなところでっ!!」

その可能性を噛み締める間もなく、新たな戦禍が地球を襲う。
出会ったのは、もう一人の少女。

「えっ……仁美っ!?」

「とにかく、作戦の内容を説明しますよ。よく聞いてくださいっ」

それと、彼女。 

「――食うかい?」

次回、魔法少女隊R-TYPEs 第5話
          『METALLIC DAWN』
717 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/22(水) 02:49:23.48 ID:yJlr5Fsi0
このあたりまではまだ、魔法少女機の真実は明らかになっていませんでしたが
それでもちゃんと搭乗者の表情描写はしないように気をつけていたのを覚えています。

>>678
キリカだけは主要キャラの中で唯一掘り下げてませんでしたから。
ここでさっくり掘り下げておこうかな、と思いました。

そしてTYPESはほんとに強敵です。
未だにオブロスとケブロスにぐちゃぐちゃにされ続けております。

>>679
ついにラストダンサーが出撃です。
世界を救う英雄です、まだまだこのくらいは容易い仕事でしょう。

そしてそんな非日常の世界で、背中を預けあえる仲間を得たことは。
明日をも知れぬ状況であれ、キリカにとっては幸せだったようです。

>>680
順調にTYPERの方々が増えてきているようで何より。

そしてここからは完全にFINALの話になりますね。
ずいぶんと色々寄り道した感じもありますが、ようやくここまで来ることができました。
718 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/02/22(水) 03:37:42.30 ID:kFPahstjo
100と101がどういう立ち位置の機体になるかが楽しみ
R-TYPEは基本的にラストから1つ前の面が鬼畜だよなぁ…3は個人的に例外でラストが一番アレだったけど
719 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/22(水) 16:10:46.82 ID:cFiLdr/DO
4話リメイクお疲れ様です!
たった数ヶ月前の事でしかないのに、なんだか懐かしく思えますね〜。この頃に、既にロス提督帰還の伏線が張ってあったんですね。正直、覚えてませんでしたよ。
720 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県) [sage]:2012/02/22(水) 16:29:06.18 ID:8cFXDC/Jo
昨日ゲーセンで見かけたからR−TYPEを初めてやってみたんだが
最序盤は機体スピードが遅くて辛いし敵の弾は早いし撃ち漏らすと後ろから平気で撃ってくるしボム無いし辛い
弾幕STGみたいに自機が強く無いから非常にパターン作りが重要になるゲームだなと思いましたまる
721 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) :2012/02/23(木) 15:01:12.49 ID:RVP5Q6hv0
弾幕STGの自機が強くなったのはここ最近だけどな
特に大復活の自機とか、縦横含めて最強の自機なんじゃないかと思うレベル
722 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/02/23(木) 18:26:39.48 ID:L6GekDjX0
さて、では本日の投下を行きますか。
723 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/23(木) 18:27:17.38 ID:L6GekDjX0
R-99――ラストダンサー。
全てはバイドを打ち滅ぼさんが為、人類が積み重ねてきた狂気の結晶。
すべてのR戦闘機のデータが集約されたそれは、状況に応じて、ありとあらゆる武装を選択することができる。
それゆえに、それは究極互換機と呼ばれた。
そして既存の機体を完全に凌駕する機体性能と、R-9直系機が積み上げてきた安定性をも兼ね備え
ついに今、最後の舞い手が目を覚ましたのだった。

「……小型機300、中型機が20。後は、戦艦クラスの大型バイドが2ってところね」

ラストダンサーのコクピット内、そこに自らの魂を宿し。
スゥは、今まさに本物の英雄の名を借りて戦っている。
表向きは、本物のスゥ=スラスターが出撃したということにされているらしい。
名実共に、今の自分は英雄なのだと。

ラストダンサーがもたらした敵の情報を頭に叩き込む。
数は多い。けれどやることはたった一つでいい。
――殲滅だ。

明確な破壊の意思と、その為の力を携えて。
ラストダンサーは今、迫る敵陣へと突入していくのだった。
724 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/23(木) 18:27:59.02 ID:L6GekDjX0
限界まで力を蓄えられたギガ波動砲が、敵陣の中央を薙ぎ払う。
更に同時に放たれたサイビット改が、横から回り込もうとする敵を打ち砕く。
波動砲の光が収まるよりも早く、打ち放たれたフォースが高速回転を始める。
そして、同時に全方位に放たれ始める弾幕の嵐。
最早職人技の域にまで達したフォースコントロール技術が生み出した、分離攻撃の能力に特化したフォース。
全身に無数のコントロールロッドを持つニードルフォース改が、その性能を如何なく発揮していた。

敵の中型機は、無数に降り注ぐ弾幕に動きを遮られ、その足が止まる。
それでも抜けてきた小型機は、半壊したものまでもを引き連れて次々に粒子弾を打ち込んでくる。
だが、その狙いは甘く、弾幕と呼ぶにはあまりにも密度の薄いものだった。
こともなく、ラストダンサーはその隙間を抜けていく。
そして再び、低チャージで放たれたギガ波動砲が敵陣を貫き、サイビット改が敵を打ち砕いていった。

最早戦いにすらもなりはしない。
そう言わしめるほどに、ラストダンサーの性能は圧倒的だった。
その機動性と操作性は完全にバイドの軍団を翻弄し、圧倒的な攻撃力で、瞬く間に敵を殲滅していった。
業を煮やして現れた、戦艦級の大型バイド。
それでさえも、ギガ波動砲の一撃と、艦内部に叩き込まれたニードル・フォース改の弾幕によって
瞬く間に火達磨となり、宇宙の海に潰えたのだった。

いかなバイドであれど、これほどまでに絶望的な力を見せ付けられて恐れをなしたのか
残ったバイドの群れが撤退を始めたのだった。とはいえ、それをただ黙ってみている理由は、ない。

「教えてやる。今までお前達が与えてきた痛みを、絶望をっ!!」
725 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/23(木) 18:28:28.61 ID:L6GekDjX0
ラストダンサーは再び駆ける、逃げる敵には波動の光を。
立ち向かう敵には、超高速のサイビット・サイファを。
横合いから割り込んできたタブロックが、追尾性の高いミサイルを放ち進路を塞ぐ。

「邪魔よっ!!」

応じてミサイルを発射。
六発のミサイルが同時に打ち込まれ、迫る敵のミサイルを迎撃。
更にそのままタブロックを打ち抜き、いくつも爆発を巻き起こす。
その爆発の中で、ニードルフォース改から放たれた心電図状のレーザーが
タブロックを貫き、その身体を微塵に引き裂いた。

そしてそれからほぼ間を置かずして、わずか十数分の交戦で
数百を数えるバイドの、そのすべてが宇宙の藻屑と消えたのだった。

「……まだ敵が居る。叩き潰しにいかないと」

中央はまだ正規軍がしっかりと抑えてくれているようだが
戦力の少ない左翼部分は未だ苦戦も続いているようだ。

「それに、あそこには貴女の知り合いも居るらしいから。
 ……さっさと助けに行きましょう」

誰かに伝えるようにそう言うと、それに答えるかのように
ラストダンサーは、小さな唸りを上げた。
そして光の尾を引いて、未だ敵の殺到する左翼部分へとラストダンサーは駆け出すのだった。
726 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/23(木) 18:29:16.18 ID:L6GekDjX0
「ついに来たか」

そんなラストダンサーの戦闘経過をモニターさせ、その恐ろしい程の戦果を目の当たりにして。
九条提督は、感慨深げに呟いた。
もうじき四ヶ月になろうか、随分と長い時間をバイドとの最前線で過ごし続けてきた。
数多の敵を、数多の苦境を、数多の死を。
そのすべてを乗り越えて、今。尚も九条はこの場にありて、太陽系絶対防衛艦隊の指揮を執り続けていた。

「じゃあ、あの機体が……」

「そうだとも、中尉。あれが究極互換機、という奴だろう」

その存在は、すでに軍内部でもまことしやかに噂されていた。
その実情はともかくとして、すべてのバイドを殲滅するための、究極のR戦闘機が開発されている、と。
そして今、瞬く間にバイドの大部隊を殲滅したこの機体。
これこそが、噂の究極のR戦闘機なのだということを、九条の隣に立つガザロフ中尉も実感していた。

「これからはもっと忙しくなるぞ。アレが来たということは、第二次バイド討伐艦隊の本隊も
 そう遠からずここへとやってくることだろう。部隊の再編と指揮系統の再構築、その後は実戦で慣らしつつ、だな」

九条はこの先の戦いに思いを馳せる。
第二次バイド討伐艦隊を率いて、バイドの中枢を討つ。
その為の切り札である、究極互換機をその元へと届ける。
とにかく方法などはどうでもいい、とにかくバイドの中枢を討つことができれば、それでいい。
だが、その前には課題が山積みであることもまた事実だった。
727 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/23(木) 18:29:57.68 ID:L6GekDjX0
第二次バイド討伐艦隊の指揮権を譲渡されたとして、まずは部隊の戦力と人員を把握する必要がある。
その上で、バイド中枢へ向かう侵攻方法を確認し、最適な部隊の振り分けを考えなければならない。
その間のグリトニルの防衛も必要となるだろうし、そんなところで無駄に戦力を失うわけにも行かない。
やはり、どうにも課題は多い。

「……まあ、案じてばかりでもどうにもなるまい。
 ひとまずは、目の前のバイドを倒すことに集中することにしよう」

一つ、小さく息を吐き出してから。
九条は、左翼へと向かうラストダンサーを一瞥し、こちらは問題ないだろうと確信する。
そして残るは中央、相変わらず暴威を振るう魔女兵器と、その間を縫って迫る敵を迎撃する
地球軍の部隊へと、その視線と思考を移していった。


「……周辺に敵の気配はなし、どうやら凌いだようね」

完全に敵の反応が消滅したのを確認して、スゥは戦うことで一色になっていた思考を切り替えた。

「こちらも概ね片付いたようだ。協力感謝するよ」

そんなスゥの元へ、九条からの通信が届いた。

「見たところ、オペレーション・ラストダンスに関連する機体と推測するが……間違いないかな?」

「私はスゥ=スラスター。そしてこの機体はラストダンサー。
 察しの通り、オペレーション・ラストダンス遂行の為に、そして貴方達を援護するためにここに来た。
 一人で先行してきたけれど、第二次バイド討伐艦隊も一両日中には到着するはずよ」

スゥは、九条に手短に事情を説明した。
その説明に、九条は一つなるほど、と頷いて。
728 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/23(木) 18:30:30.47 ID:L6GekDjX0
「それは結構。我々もここで耐え凌いできた甲斐があったというものだ。
 来て貰ってすぐで悪いが、どうやら正面の部隊も少なからず押されてきているようだ。
 新兵器に頼りすぎて、手勢を少なくしたのが仇となったな。……手を借りてもいいかな?」

「……ええ、すぐに向かうわ」

「期待しているよ」

そして通信は打ち切られ、スゥは一人中央へと向かう。
魔女の暴れる宙域をすり抜け、前線に襲い掛かるバイドの群れを背後から強襲した。

「乱戦状態ね。ギガ波動砲は危なっかしくて使えたものじゃない。
 ……パターンチェンジ、広域殲滅形態から乱戦形態へ」


その言葉に応じて、ラストダンサーが光を放つ。
内部では急速にその武装が作り変えられていく。
今まで開発されたすべてのR戦闘機の武装を使用可能な究極互換機、ラストダンサー。
積み上げられてきた人類の狂気と力、その結晶たるこの機体は、更に魔法の力すらもその身に取り込んでいた。
機体の根幹部に仕組まれた魔法の力は、機体の武装を自在に作り変えることに成功した。
武装データの中にある、その状況に即した武装へと。

人の生み出した兵器と、異星人よりもたらされた魔法。
その二つが今ついに完全に一つとなり、ラストダンサーを究極の機体として完成させたのである。

一瞬の発光の後、ラストダンサーは姿こそ変わらぬものの
その武装はまるで異なるものとなっていた。
乱戦においても敵を的確に撃つことのできるロックオン波動砲を携え
そのフォースもまた、接近戦用に機能特化した、ビームサーベル・フォースへと変化を遂げていた。

そして、新たな力を携えラストダンサーが戦場へと飛び込んだ。
その後に続いて、無数の爆発が巻き起こり、多くのバイドの存在が消滅していった。
この広大な戦場において、ラストダンサーはその力を十二分に発揮していた。
初陣としては、この上ないほどの成果であった。
729 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/23(木) 18:31:12.17 ID:L6GekDjX0
そして、また今日もグリトニルと魔法少女隊は大きな危機を乗り越えた。
翌日にはグリトニルに、第二次バイド討伐艦隊の本隊が到着した。
この場所には、今現在人類が保有するほぼすべての戦力が存在している。
まさしくこのすべてが、人類がバイドに放つ最後の矢であり
人類をバイドから守る、最後の盾なのだ。

「……では、本時刻を持って、第二次バイド討伐艦隊の指揮権を、貴官に譲渡します。
 人類を、頼みます。……九条提督」

ここまで第二次バイド討伐艦隊を指揮してきた将校が、九条にその指揮権を預けた。
やはり九条の読み通り、この大任は彼の手に任されることとなったようだ。
ずしりと、とても重たいものが圧し掛かってくる。
それは、全人類の存亡に他ならない。

「……謹んで拝命しよう。今後の作戦経過は、先に渡されたデータの通りでいいのだね」

「はい、ですが遂行に際しては全権を提督に一任します。
 それが地球連合軍総司令部の決定です。太陽系の、人類の未来を貴官に託すとのことです」

みしり、とまたその身に心にかかる重さが増す。
気を緩めれば、すぐにも押しつぶされてしまいそうだけれど。
それに立ち向かう力は、心はすでに彼の身の内にある。
ジェイド・ロスの遺した遺志を、散っていった多くの者達の無念を、それを力に変えて。

「この身を、力を尽くし。必ず勝利すると誓おう。
 ……そして、必ず戻ってくるさ」

そして、九条は英雄となった。
730 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/23(木) 18:32:36.34 ID:L6GekDjX0
俄かにグリトニルは慌しくなった。
ジェイド・ロスの遠征以来一度も使われなかった、グリトニルの長距離ワープ装置の再起動や
グリトニル駐留部隊と、第二次バイド討伐艦隊との混成による再編成。
この地獄を戦い抜き、生き延びたのならば間違いなくそれは一流のR戦闘機の乗り手であることの証明だった。
だからこそその力を持つ者に、共に往かんと望む者に、第二次バイド討伐艦隊への志願を募ったのだった。

「……やあ、織莉子。なんだかここも急に騒がしくなったね」

そして、そんな騒がしい日々のある夜。
敵襲もなく、隊を預かる隊長としての簡単な事務仕事を済ませて部屋で休んでいた織莉子の元へ
キリカが、いつもの調子で現れたのだった。

「あら、キリカ。来るなら知らせてくれればよかったのに。
 困ったわ。今日は何も用意していなかったもの」

突然の来客に、出迎える用意もできず。
口元に手を当てて、少し困ったような表情の織莉子。

「そんな表情をしないでくれ、織莉子。それに私はそんなことは気にはしないよ。
 ……今日は、織莉子に話があってきたんだ」

いつも通りに部屋の中、いつも通りに椅子に腰掛け
キリカは、織莉子の顔を真正面から見つめて言った。
けれどその表情はどこかいつもとは違う。落ち着いた感じのする様子だった。

「何かしら、キリカ。……そんなに思いつめた顔をしているなんて」

その表情に、織莉子の胸がちくりと痛んだ。
キリカは、その通りにどこか思いつめたようなままの顔で、一つ小さく息を吐き出した。
そして、織莉子を見つめる視線は逸らさぬまま、静かに問いかけた。
731 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/23(木) 18:34:09.35 ID:L6GekDjX0
「織莉子は、どうするのかな、と思ってさ。
 ……行くのかい。第二次バイド討伐艦隊へ。」

「………そう、そのことだったのね、キリカ」

魔法少女隊の中でも、正規の地球軍の中でも、その話題で持ちきりだった。
第二次バイド討伐艦隊へ参加するにしても、ここにとどまるにしても
どちらにせよ危険であることに変わりはない。
守るためにここに踏みとどまるか。
それとも、敵を殲滅せんがため、帰り道すら定かではない旅へと出るか。

織莉子もまた、そのことを考えていたのだった。
732 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/23(木) 18:41:01.53 ID:L6GekDjX0
登場人物が増えても、基本的に物語を動かしてくれる人
動線となるような人の数は変わらないので、それなりに今までどおりに書いています。

>>718
どちらも出る、ということだけは言っておきましょう。
宇宙墓標群もなかなか厳しかったですからね。2面が卑猥でラス前が鬼畜というのは
ある意味特徴なのかもしれません。

>>719
提督の帰還は最初から予定していました。
思いがけず色々と話が膨らんだところもありましたが
ほぼ概ね、当初の予定通りに書いているのではないかと思います。

>>720
いかなフォースがあるとは言え、プロトタイプのR-9はまだまだ力不足
的確なパターン作りと、後は気合でどうにか乗り越えていきましょう。
それでもやっぱりコンシューマーでコンティニューできないと心が折れそうですが。

>>721
ある程度自機が強くないと、爽快感とかそういうのが得られないのかもしれませんね。
ひたすらよけるだけのゲームはさすがにきつそうです。
733 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/23(木) 21:00:15.66 ID:IWtwyIxDO
お疲れ様!
即時換装式究極互換機だって!?こいつは凄ぇや!!

これは完璧にアレだな。“科学と魔法が合わさり最強に見える!”だな。いや実際最強だけどもww
734 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/02/23(木) 23:03:04.13 ID:Lxa7Gu6Ko
トンデモなチート機に仕上がったようだな・・・

ただ、これほどの魔法となれば代償も高くつきそうだねぇ。
735 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/24(金) 06:01:15.38 ID:IXCtK7WDO
装備の変更は魔導エンジンだかでなんとかしてるんじゃない?固有魔法のお披露目には、まだ早いと思うんだ。
736 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2012/02/24(金) 16:55:17.99 ID:OcDNIrMr0
魔導エンジンね…
そんなのがファイナルな波動砲打ったらどうなるのっと…
737 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/24(金) 17:22:40.22 ID:F7t6krlIO
代償は高くつくったって、クリームヒルト様もサジ投げるイカレポンチ共による研究(ジンタイジッケン)ですら代償には程遠いというのか。
もっともっとキボウを捧げろと言うのか
738 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/02/24(金) 21:28:27.16 ID:2ugGbYRh0
おりキリ回はもちっと続きます。
では、投下をば。
739 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/24(金) 21:29:13.98 ID:2ugGbYRh0
辛い決断を強いられていた。
けれど、そうすることがお互いの為だと思った。
そして、それは偽らざる自分の気持ちだった。
織莉子は、静かに口を開いた。

「私は、行くつもりよ。……私も、思い出してしまったの。
 私の戦う理由。私が、魔法少女になった理由を、ね」

ぽつり、ぽつりと零すように呟いて、そして。

「でも、キリカ。貴女はここに残っていて」

「っ!?何を言い出すんだ、織莉子は!私がきみから離れられるわけがないだろうっ!」

当然のように食って掛かるキリカ。
その反応も、織莉子にとっては予想通りのものだった。

「お願い、言うことを聞いて。キリカ。
 きっとこの戦いはかつてないほど辛いものになるわ。私は、キリカに生きていて欲しい」

「なら尚更残れるわけがないじゃないかっ!織莉子にだって、私の力が必要なはずだっ!
 絶対に嫌だ、織莉子と離れるなんて、私は、絶対にそんなことは認めないっ!
 私だって、織莉子に生きていて欲しいっ!どうせ死ぬなら、同じ場所で死ねなきゃぁ、ダメだっ!!」

駄々をこねるように、いやだいやだと首を振るキリカ。
そう、分かっているのだ。織莉子には。きっとキリカならばそういうだろうということが。
魔法の力をもってするまでもなく、彼女の洞察力は非常に優れたものだった。
もっとも、キリカが分かりやすいからというのも多分にあったのだろうが。
740 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/24(金) 21:29:46.90 ID:2ugGbYRh0
「聞いて、キリカ。……これは私の我侭なの。
 私は、守りたかったの。私の世界を、私の正義を。その為に幼い頃から父の教えを受けて来たわ。
 そして、戦う力を得るために私は魔法少女になった。……その結果どうなったかは、キリカもよく知っているわよね」

キリカは頷いた。
もちろん知らないはずがない。その裏に潜む真相を知る由もないが
それでも、織莉子の父の死を発端として起こったその事件は。
魔法少女とR戦闘機に関わる深い闇へと、織莉子とキリカを誘うこととなったその事件は。
今でも忘れることのできない記憶だった。
それは、織莉子にとっても当然同じはずだったのだが。

「あの時、私の正義は完全に折れて潰えてしまったわ。後はただ、生きているだけだったもの。
 だけど、ここで戦っている内に、彼女達を率いて共に戦っている内に、あの時の思いが蘇ってきたの。
 ……もう一度、私の正義の為に戦ってみたい、って。その場所が、きっとあの討伐艦隊の行く先にあるはずなの」

「……でも、だけど。それなら私が一緒に行ったっていいはずじゃないか!
 何の問題があるっていうんだ。織莉子は、織莉子は私が助けるんだっ!
 きみは私の全てだっ!……きみと離れ離れになりたくない」

声は高鳴る。
いやいやと何度も頭を振りながら、キリカは必死に訴えた。
そして身を乗り出して、織莉子の身体を抱きしめた。

「違うわ、キリカ。貴女はもう、私に依存しなくても生きていける。
 貴女はこの地獄のような場所で、それでも共に戦う仲間を見つけることができたじゃない」

織莉子は変わらず、優しげな表情で笑う。
そして、抱きしめたキリカの髪を優しく撫でながら。

「大丈夫。貴女はもう、一人じゃない。私に頼らなくても、きっと生きていけるわ。
 私もきっと、貴女に頼ることなく生きていける。戦っていける。
 ……別れは辛いわ。でも、私達はもう二人きりじゃないもの。
 お願いよ、キリカ。私を行かせて。そして貴女は、貴女の仲間を守って」
741 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/24(金) 21:30:12.15 ID:2ugGbYRh0
「それは……。でも、それでも私は、織莉子に側に居て欲しい。
 織莉子の側に、居たいんだ」

織莉子の言葉は、キリカの心に染みていく。
その言葉は間違いなく、キリカの本心を言い当てていた。
けれど、だけど、それでもどうしても納得できない。

愛は無限で、それを行使する自分は有限。
そして、キリカを突き動かすのはいつも愛。それが全てで
今まではただ、それを捧ぐ相手が唯一織莉子だけだったから迷わなかった。
けれど今、キリカには織莉子以外にもその愛を捧ぐべき相手が居た。
戦場で、死と隣り合わせの状況が作り上げた信頼と、絆。
それもまた、キリカが愛を捧ぐに足る、そして彼女の生きる意味となりうるものだったのだ。

言葉の端には、隠しきれない迷いが見て取れる。
迷うということは、選択肢があるということだ。
以前のキリカであれば決して迷わなかった。それは織莉子以外に選ぶものがなかったからだ。
それがよく分かっていたから、迷いを見せたキリカの様子が織莉子には嬉しかった。
きっと、もう自分がいなくとも大丈夫だろう、と。

「必ず帰ってくるとは言わない。でも、できる限り帰ってこられるように力を尽くすわ。
 ……お願いよ、キリカ。貴女はここで、私達の帰る場所を守っていて」

「………いや、だ」

「キリカ……」

どんなに説得しても、願っても、キリカは首を立てに振ろうとはしない。
どれほど選択肢が用意されていたとしても、やはり選ぶのはキリカなのだ。
そしてキリカはどうしても、織莉子と離れることができなかった。
その理由を、キリカ自身が気づけずにいた。
742 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/24(金) 21:31:26.25 ID:2ugGbYRh0
「いや、そりゃ行かないでしょうよー」

声は、扉の外から聞こえてきた。

「っ!?誰かいるの!?」

それに気づいて、織莉子が声を飛ばす。

「やばっ!?気づかれたっ!」

「だから、アンタは喋る声がでかいんスよっ。あれで気づかれないわけないっスよ!」

「とにかく逃げましょうっ!……ぁ」

そんな算段をしている間に、織莉子は手元の装置を動かしていた。
すぐさま扉が開かれると、そこに立っていたのは少女達。
キリカには見覚えのあるその姿は、まさしく彼女の部下であり仲間である少女達だった。

「……何を、しているんだい。君達は」

そんな少女達を、キリカは呆れたような顔で睨み付けていた。

「あはは……いや、その。そ、そんな怖い顔しないでくださいよ、隊長」

その剣幕に、思わずたじろぐ少女達。

「ほら、なんだか昨日から隊長、元気なかったじゃないスか。だから何かあったのかなーって」

「そ、そうですよっ!決して隊長の彼女が気になったとかそういうわけじゃなくってですね……」

慌てふためき、語るに落ちると言う様な状況で。
そんな様子を見ていた織莉子も、思わず目を丸くしていた。
そして、それからすぐにその表情は柔らかに笑みに変わった。
743 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/24(金) 21:32:21.56 ID:2ugGbYRh0
「ととっ、とにかくそういうわけなので、失礼しましたぁーっ!」

「ずらかれーぃっ!」

「後はごゆっくりどうぞッスーっ!」

まさしく脱兎、とでも言うかのような勢いで駆けていく少女達。
が、しかし。その機先を制して一つ、言葉が飛び出した。

「待ちなさい」

声を放ったのは、織莉子だった。

「見たところ……キリカの部下。……いいえ、仲間のようだけど、違ったかしら。
 ……もしそうなら、キリカの仲間は私の仲間よ。お茶でも飲んでいかないかしら」

ぴた、と音でも立てるかのように、三人の少女の動きが止まった。
きり、と踵を返すとそのまま部屋の中へと入ってきた。
何せ娯楽の少ないこの場所である。こういう浮ついた話だとか、美味しいお茶は
まさしく少女達にとっては数少ない楽しみの一つであった。
それが同時に頂けるとなれば、当然断る理由はない。
こんな場所だからこそ、そこに適応して生きることのできた少女達はとても力強く、そしてしたたかだった。

「そゆわけなんで、お邪魔しますね、隊長っ♪」

少女の一人がにぃ、っと口元を歪めてキリカにそう言った。

「むぅ……ぅ、勝手にしたまえ」

ちょっと拗ねたような口調で、キリカはそう答えた。
744 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/24(金) 21:32:58.27 ID:2ugGbYRh0
「皆さん、紅茶にお砂糖は入れますか?」

部屋の中にはなんともいえないいい香りが漂っている。
血と死の匂いがこびりついた少女達も、今ばかりは年相応にそんなお茶会を楽しんでいた。

「じゃあ、一つだけ」

「あたしはいらないです。ぁ……でも、ジャムを一杯だけ入れてもらおうかな」

「お砂糖二つにジャム一杯。へへ、私は甘党なんでスよね〜」

思い思いに希望を告げて、その通りにてきぱきと用意を進めていく織莉子。
その後ろ姿を見ながら、なにやら少女達は囁きあっていた。

「他所の隊長なんて見ることなかったけど……凄いキレイな人ですね」

「ほんとほんと、その上隊長ってんだから、めちゃくちゃ強いんでしょ?
 はぁ……天は二物を与えちゃってるよね、思いっきり」

「そして、うちの隊長とちょっとイイ仲、って訳でスもんねぇ。
 こりゃまた、なんとも面白くなってきたッスねぇ。こういう話は大好物ッスよ〜♪」

「……丸聞こえなんだよ、君達」

どうにもいたたまれない様子で、ひそひそと聞こえてくる声に耳を傾けて。
というよりは、否が応にも耳に飛び込んでくるその声に思い切り顔をしかめながら
キリカは少女達に釘を刺そうとしたのだけど、けれど。

「キリカは、お砂糖は何個にする?」

振り向いた織莉子がそう尋ねたものだから、続く言葉は言えないままで。
745 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/24(金) 21:33:36.43 ID:2ugGbYRh0
「っ、さん……」

言葉を途中で止めて。一度、じろりと少女達の方を眺めてから。
そして、キリカは唇をまるでへの字のように捻じ曲げて。

「……いらない。そんなものを入れなきゃいけないほど、私はもう子供じゃないんだ」

「え、キリカ……?」

戸惑うように目を瞬かせる織莉子。
キリカはとても甘党で、いつもであれば紅茶をまるでシロップか何かになるまで甘くしてから飲んでいた。
だからこそ、今日のキリカの様子はどうにもおかしい。
数秒考えてから、先ほどのキリカの視線の意味を察して
織莉子は、突然くすりと小さく笑みを漏らしたのだった。

「なっ、何がおかしいんだい、織莉子っ!私だって、いつまでも子供じゃないんだ!」

どうにもやり取りの意図が掴めず、少女達は不思議そうにそんなやり取りを見守っている。

「いえ、だって……ふふ。本当にキリカは貴女達の前では隊長をしているのね。
 いつもはとっても甘えんぼで甘党なキリカが、大人ぶって見せるくらいに……ね?」

面白がっているような視線を送る織莉子。
当然その視線の先には、うろたえてどこか引きつったような顔のキリカの姿。
言葉につられて、少女達の視線もキリカに注がれる。
にんまり。そんな言葉がしっくり来るかのように、少女達の表情が歪んだ。

「な、ななっ……何がおかしいんだぁーっ!!」

顔を真っ赤にさせて、手をぶんぶんと振り回して。
必死にそれを否定しようとするキリカ。
その姿は、なんと言うか。

(……可愛いなぁ、隊長)

(慌てるところも可愛いのだから、キリカ)

そんなわけで、どうにも生暖かな視線がキリカに注がれ続けていた。
それがどうにも落ち着かなくて、むずがゆくて。
すっかりキリカは大人しくなってしまった……のだとか。
746 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/24(金) 21:33:58.78 ID:2ugGbYRh0
そんな微笑ましい時も過ぎ、お茶会もいよいよ終わるかという、頃に。

「……で、えっと。ここまでご馳走になっといて何なんですけど、織莉子さん、だよね。
 あたしら、織莉子さんに言わなきゃいけないことがあるんだ」

かちりと、飲み干した紅茶のカップを下ろして少女が言う。
同じく、二人の少女も頷いて。

「聞かせてもらうわ。……何かしら」

お茶会のほのぼのとした雰囲気が、一瞬で消え去ったことを悟り。
織莉子もまた、凛とした光をその眼差しに宿らせて少女達の視線を受け止める。

「色々と、言いたいことはあるんです。でもあんまり沢山すぎると、ちゃんと伝わらない気がして」

「そういうわけだから、簡潔に一言だけ言わせてもらうッスよ」

三人が、すぅ、と大きく息を吸い込んで、そして。


「「「ふざけんなっ!!!」」」

同時に放った大声が、部屋を揺らした。
その声を叩き付けられた織莉子は、驚いたように目を見開いた。
747 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/24(金) 21:42:01.74 ID:2ugGbYRh0
>>733
まさしくそんな感じですね
けれどそんじょそこらのパイロットでは状況に応じた武装を選択できずに
そのまま骨になってしまうこともあるわけです。

>>734
代償といっても魔法を動かすエンジンが穢れるくらいですから
それに、それをどうにかする方法はもうすでに手元にあるわけです。
嫌って程魔女作ってますし、魔女を使い潰した後に出てくるものもあるわけです。

>>735
装備の変更は固有魔法ではない部類の
たとえばマスケット銃なり槍なり、剣なりを呼び出すような
そういう基本の魔法に類するあたりで処理しているような感じです。

>>736
そりゃもうとんでもないものが出てくることでしょう。
けれど機体の基本性能自体も今までと比較にならないレベルなので
そうめったなことでは遅れをとったりはしませんとも。

>>737
あの連中の場合、分かりやすい救済なんて蹴っ飛ばしてでも研究を続けそうな気がします。
彼らにとって魔法少女は、バイドに続く非常に興味深い素材のようですし。
キボウを捧げるのはこれからです、まだ最後の作戦は始まっても居ませんしね。
748 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/02/24(金) 22:53:46.17 ID:7fvKnLIJ0
死亡フラグががが
749 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/24(金) 22:53:51.53 ID:IXCtK7WDO
お疲れ様ですっ!
おぉ〜、今回は何だかコミカルチックでしたねぇ。しかし、最後の罵声の意味とは…。
750 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/02/26(日) 00:44:34.95 ID:0Gy0LNMh0
多分おりキリ回はこれで終わりなはず……。
では、投下しましょう。
751 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/26(日) 00:45:11.43 ID:0Gy0LNMh0
少女達三人は、ひとまず顔を見合わせて。

「じゃあ、まずはあたしから。
 織莉子さん。あんたとかうちの隊長とかはさ、きっとあたしらよりずっと長いこと戦ってたんだろうね。
 そこにゃ色々と事情はあるだろうし、そこまで詮索するつもりはないけどさ」

まずは一人が、驚いたままの織莉子に向けて話し始めた。

「でも、あたしらだって今までずっと戦い抜いてきた。
 もう、無理やりつれてこられて戦ってるだけの子供じゃないんだ。
 多分今帰っていいって言われたって、あたしらは戦うと思う。戦う理由も、その意味もよく分かったからさ」

うんうん、と頷く残りの二人。
一体何が言いたいのだろう、と不思議顔のキリカ。
それはさておき言葉は続いた。

「だから、あたしらはもう隊長が居なくちゃ何もできない訳じゃないんだ。
 まあ……そりゃあ、やっぱり隊長の強さは化け物染みてるけどさ、でもそれがなくたって戦える。
 あんたが言ったみたいに、この人に守って貰わなくちゃ行けない、なんて風に言われるのは心外だね」

その言葉からは、自惚れているような様子は見て取れなかった。
彼女達もまた、命がけで恐ろしいバイドと対峙し、その生と死の行き交う宇宙の中で
生きるための術を、戦うための力を勝ち得てきたのだ。
その力は、決して軽んじられていいものでは、ない。

「……でも、分かっているのでしょう?
 貴女達だけでは、今までのようにバイドの軍勢を退けるのはとても厳しいということは」

そんな少女達に、織莉子は面持ちを正し、静かにそう告げた。
分からないわけではもちろんない。つい先日の襲撃の時でさえ、英雄の助けがなければどうなっていたか。
だからこそ、隊長として彼女達をまとめ、その力でひっぱっていくことのできる
キリカの存在は、必要でないはずがないだろうと、そう推測していた。
752 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/26(日) 00:45:46.18 ID:0Gy0LNMh0
織莉子の言葉を受けて、もう一人の少女が顔を上げた。
まっすぐに、織莉子に視線を向けたまま言葉を告げる。

「確かにそうですね。でも、それは結局隊長が居たって変わらないことなんです。
 言ってしまえば、この人がここにいようがいまいが、ここに残ろうが討伐艦隊へ行こうが
 結局、私達は明日の命も知れぬ立場であることには、何の変わりもないんです」

そして、たとえ自分達が敗れたとしてもそれで終わりではない事も知っている。
思いがけず魔法少女隊が敵の侵攻を食い止め続けたおかげで
地球軍も余裕を持ってこの事態に対応することができたようで
討伐艦隊に混じって、絶対防衛艦隊への援軍もまた、このグリトニルへと送り込まれていた。
少なくともそれで、彼女達が敗れれば即、人類の危機となることはなくなった。

「もちろん、だからって死にたいわけでもわざわざ死にに行くわけでもありません。
 でも、明日をも知れぬ命なら、尚のことその身の振り方はちゃんと選ぶべきだと思うんです。
 選択肢があるなら、尚更です。……その選択肢を、私達をだしにして奪うような真似は、許せません」

どちらかといえば、この三人の中では気弱そうな方だ、と。
織莉子はその少女を見抜いていた。けれどその時向けられた言葉と眼差しは
思いがけないほどに力強く、そしてまっすぐに織莉子に向けられていた。
それこそ、ほんのわずかに言葉に詰まってしまうほどに。

「帰る場所がちゃんとあるかどうか、それが定かじゃないのは……ここにいたって一緒なんです。
 ……もしもバイドを倒すことができたって、帰れる保障なんてないじゃないですか」

「……どうして、そう思うのかしら」

流れていたのは、どこか冷ややかな空気。
思いがけないことを言い当てられて、意外そうに織莉子は言葉を返した。
753 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/26(日) 00:46:24.72 ID:0Gy0LNMh0
「少し考えれば、分かることだと思いますよ。だって、私達は無理やりここに拉致されてきたわけですし。
 そんな人達を、バイドとの戦いが終わったからって素直に帰してくれるでしょうか。
 無事に帰ってみんながそれを誰かに話したりしたら……まずいことになる人が、いますよね」

そこまで気づいていたのか、と。
彼女達の察しの良さに、内心では舌を巻いていた。
確かにこの地獄たるグリトニルにおいて、終戦後の待遇が保障されているのは隊長格の9名のみ。
願いを叶える権利と、身分の保証。そんなものと引き換えに、何百人という少女達を地獄に叩き落していた。
人類が生き残るためとはいえ、それはあまりに重い業。
以前ならば、キリカと生きるためという名目でそんな業の重さも誤魔化してしまえたのだろうけれど
今の織莉子には、自分の中に残った正義の燃え殻に気がついた彼女には、そうすることはできなかった。
だからこそ、その業は重く圧し掛かる。逃れられはしない。贖えるとしたら、それこそ世界を救って見せるしかない。
英雄ならぬこの身でも、その為にこの命を、捧げるしかない、と。

そんな葛藤をおくびにも出さず、織莉子は静かな表情で言葉を受け止めていた。
そして、キリカもそれを察していたのだろうか。どこか沈みがちな視線で少女達を見ていた。
キリカは仲間である少女達の先行きが不安で、そして気になってしまっていたのだ。
だからこそ、キリカはここに残るべきだと織莉子は考えていた。
バイドに共に立ち向かうというだけではなく、キリカの存在は少女達の身柄を保証することにもなるだろう――と。

「だから、私達のことを案じてくれるのは嬉しいです。だけど……。
 その為に、隊長をここに縛り付ける必要は……無いと思うんです。
 私達は私達で、何とか生き延びる方法を考えてみますから」

「そう簡単に逃げられるほど、甘くは無いと思うわ」

「ま、何とかなるッスよ。最悪機体を奪って逃げるとか、さ。
 ……ぁ、これ内緒なんで、チクったりとかは勘弁スよ」

織莉子の言葉を遮って、最後の少女が口を挟んできた。
754 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/26(日) 00:47:08.51 ID:0Gy0LNMh0
始終おどけたような口調の彼女は、これほどの戦場においてもその調子は変わらない。
そんな少女に、織莉子はどこかキリカに近しいものを感じていた。
恐らくその源は、性格だとか強さだとか、そういうものによるところではない。

――壊れているのだろう、きっとどこかが。

「好きにさせてやりゃあいいじゃないスか。全人類が生きるか死ぬかって時くらい
 好きな人の側で最後まで戦えたほうが、どーなったって本望だと思うッスよ、きっと」

「……好き、だとかそういう言葉で愛を表すのは嫌いだ。私にとっては、愛はすべてなのだから
 言葉で表しきれるようなものじゃないんだ」

ぶす、と小さく頬を膨らませて、キリカが横から口を挟んだ。
そんなキリカに、少女はびしっと視線を向けて。

「隊長も隊長ッスよ。そうやって気取った言葉で飾ってないで、ちゃんと想いは伝えたらいいじゃないスか。
 好きなんでしょ。大事なんでしょ。それこそ、自分の命よりも大事にしちゃうほど」

「だから、私の愛は……」

詰め寄られると、キリカも言葉に詰まってしまう。
迷いは生まれ始めているのだ、彼女自身の心の中で。

愛を注ぐべき、大事な相手が一人だけならば迷うことは無かったのだろう。
けれど今、キリカにとって大事な相手はただ一人ではない。
仲間も、織莉子も大切だった。だからこそ迷ってしまう。
愛がすべてと言うのなら、それを捧ぐべき相手が複数であるのなら
捧げられるその愛は、すべてをいくつかに分割してしまったものなのだろうか。
それは本当に、綺麗に分割されるのだろうか。
755 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/26(日) 00:47:55.50 ID:0Gy0LNMh0
「いい加減、観念しなさいよ。どう見たって今の隊長は恋する乙女なんだから。
 好きで好きでたまらなくて、だから一緒に居たくて仕方が無い。一人で行かせたくない。
 ……そんなとこでしょ、一緒に行きたいって理由は」

見るに見かねて、横から更に言葉が飛んできた。

「うぐ……ぅ」

たじたじにじりじりと、壁際に追い詰められて。
そのまま少女達と織莉子を交互に見やる。
それは確かに偽らざる本心。でも愛すべきものに愛を捧ぐなら、それをたった一人に捧げうるのか。
彼女達を守りたいという気持ちも、やはりキリカの中では渦巻いていた。
二つの思いがぶつかり合って、答えはなかなか出てはくれない。
困った、本当に困った。

「隊長が、私達のことを気にかけていてくれているのはよく分かります。
 ……でも、やっぱり好きな人を優先するべきだと思いますよ。ほら、私たちは大丈夫ですから」

ずい、と追い詰められたキリカに更に詰め寄る少女。
どちらかといえば好色そうな色をその目に宿して、じっとうろたえるキリカを覗き込み、そして。

「だから、観念して認めちゃってください。好きなんでしょう、一緒に行きたいんでしょう?
 私達よりも、織莉子さんと一緒に居たい、そうでしょう?」

一際大きく、キリカの瞳が見開かれた。
うぅ、と小さな呻きが漏れる。潤んだ瞳からは、ともすれば涙まで零れてしまいそうで。
さすがにそれはまずいとばかりに、ごしごしと目元を拭って、それから。

「……ああ、そうだね。どうして、こんな簡単なことに気づけなかったのかなぁ」

と、静かに呟いた。
756 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/26(日) 00:48:28.77 ID:0Gy0LNMh0
ここまでお膳立てして貰って、気づけなければどうかしている。
結局、愛はすべてというけれど。その中でも、やはり順位のようなものはある。
大事にしたいと思うものが一つだから、今までそれに気づけなかっただけで。
大事なものが沢山ある中、その中でも本当に大事なものを選ばなければならないということ
その為に、それ以外のものを捨てる決断をしなければならないということ。
それに、ようやくこの段に至って気付くことができたのだ。
それに伴う痛みを、知ることができたのだ。

「うん、そうだ。やっぱり私の気持ちはそうなんだ」

そうと分かれば、もう何かを偽る必要も隠す必要も無い。
自分の望むことを、望む相手に伝えるだけだ。

「織莉子」

呼びかけ、見つめる。
織莉子も応じて視線を返す。
それだけで、とくんと胸が高鳴る。
そうだ、それがきっと恋をしてるっていうことなんだ。

「私は、織莉子と一緒に行く。誰がなんと言おうと、きみの側に居る。
 離れたくない。……きみが、好きだ」

言った。言ってしまった。
言葉を終えると、急に顔が熱くなってきた。
きっと真っ赤になっていることだろう、だけど、隠す必要なんて無いはずだ。

まっすぐ視線と言葉と思い、すべてまとめて叩き付けられて、織莉子は。

「……本当に、困った子ね。キリカ」

困ったような顔をして、けれど、その表情にはどこか嬉しそうな笑みが隠しきれなくて。

「私からもお願いするわ。お願い、キリカ。私についてきて。
 一緒にバイドを倒して、帰ってきましょう。……好きよ、キリカ」

観念したように、ちょっとだけ困ったように笑いながら、織莉子は思いを告げた。
思いっきりニヤニヤとしながら眺めていた少女達の間から、歓声があがった。
757 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/26(日) 00:49:02.16 ID:0Gy0LNMh0
「……と、それじゃ後は恋人同士でごゆっくり。邪魔者は早々に退散しましょうかねー」

「ふふ、そうですね。隊長、今までありがとうございました」

「ごちそうさまでした、ッス」

とてもとても楽しそうに、口元には笑みを絶やさずに。
けれど静かに速やかに、少女達は立ち去って行った。
758 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/26(日) 00:49:44.67 ID:0Gy0LNMh0
「……ふぅ、一仕事終えたって感じだね。でも、これでオルトリンデ小隊もお開きかぁ。
 なんか、やっぱりちょっと残念って感じだな」

遠ざかっていく背中。少女達は思いを語り。
最早中隊ではなく、小隊という規模しか保つことができなかった、織莉子率いるオルトリンデ小隊。
隊長を失えば、最早隊としての形は保てまい。

「恐らく、別の隊に編入されることになるでしょうね。しばらくは、肩身の狭い日々が続きそうですね」

それまで仲間としてしっかりやっていたところに、今更飛び込んでいくのである。
状況はあまりいいとは言えない。それを覆すことができるとすれば
やはり、実力を見せ付けるしかない。

「……まあいいじゃないスか。これであの二人はうまくいってくれそうだし。
 っていうか、ロセヴァイセ中隊が離散したらそれどころじゃなくなりそうッスよ?」

「ああ、そういやそれもそっか。二人まとめて行っちまうんだもんな。
 となるの、残ってるのは二人だっけ」

実際は、討伐艦隊や増援との編成のゴタゴタで、恐らくそれどころではないだろう。
そこまで心配をしているわけではなかった。

「ええ、残りの二人が残るかどうかは微妙なとこですけれど、そればかりは知る由もありませんからね」

「結局、あたしらのやることは変わらないんスよ。気にしたってしょうがないスね」

「それもそうか。……さて、それじゃどうしようか。何か食べてく」

その提案に、賛成、と声が二つ続いて。
そのまま少女達は並び立って、食堂へと向かっていった。
759 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/26(日) 00:51:16.62 ID:0Gy0LNMh0
その中で一人が、途中で足を止めて。

「ま、これでよかったッスよね。……大事なものを持ってるのに、それをちゃんと抱えてられない奴なんて
 そんなの、見てられなかったッスからね。……大事なものが無い人間には、目に毒だったんだよねぇ」

言葉の端に、どこか冷ややかな響きを乗せて。
その眼差しには、どこまでも冷たい色を移して。
不思議そうに少女達が振り返ったときには、そこにはいつも通りのおどけた色が移っていた。
彼女がいかにしてこの地獄へと誘われ、いかにして戦い、生き延び。
そして何が、彼女の心を凍て付かせていたのか。
それはきっと、語られるまでも無い些事に過ぎないことだった――。
760 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/26(日) 00:53:36.89 ID:0Gy0LNMh0
気がついたらおりキリの話が随分膨らんでおりました。

>>748
死亡フラグかどうかは分かりかねますが
まあ、バイドとの戦いに飛び込むこと自体が地獄への片道切符のようなものです。

>>749
きちんとコミカルに見えてくだされば幸いです。
何せこれからはシリアスな話一辺倒になりそうですし。
そしてこのあたりの話も片をつけておこうかと。
原作とは違ってしまった二人には、原作とは違うところに落ち着いていただくことになりました。
761 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/26(日) 09:33:13.04 ID:H8M6+ztDO
乙です!
キリカさんは良い部下を持ちましたね。織莉子様の部下は、盲信でキリカさんの事なんて見えてないかも知れませんけど。
762 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/26(日) 10:25:18.20 ID:wCtjvbZ20
しかしどのルート行くことになるんだろうか?

どのルートでも帰ってこれないからな。
とくにBルートは……
763 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県) [sage]:2012/02/26(日) 14:11:57.33 ID:m/ZYl7F6o
バイドとの戦いに飛び込んで幾多の犠牲(6クレ程度)の末にみんな大好きゴマンダーさんを倒せたが
グリーンインフェルノさんに踏みつぶされたでござる
ゲームをやってみると改めて魔法少女達の凄さがわかるよくあんな戦場で生き延びられるものだ

>>762
Bルートの内容はノーメマイヤーさんとの戦いはマミさんの精神の中で戦ったしゆまちゃんや聖団の連中、ロス達の分で終わりじゃないかな
そうじゃないと人数的に足りなくなるさやかちゃんはもう戦えないし
764 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2012/02/26(日) 22:34:55.00 ID:VxkPAu1c0
>>763
じゃぁ最初のほうでさやかと杏子が一瞬見たのはなんだったんだって話に…
765 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/02/26(日) 23:25:28.42 ID:0Gy0LNMh0
今日はちょこっと短めです。
思えば随分長々とやってるものです
ここまでお付き合いくださった皆様方には、一層の感謝を。
話も大分複雑になってきました、色々と面倒な設定も増えました。
それでも、懲りずに最後まで書き進めていこうと思います。

では、本日も投下を。
766 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/26(日) 23:25:57.68 ID:0Gy0LNMh0
「さすがに、整備まで全自動とは行かなかったのかしらね、この機体も」

ラストダンサーのコクピット内で、うんざりしたようにスゥは呟いていた。
この機体はまさしく機密の塊のようなもので、整備にすらも特殊な設備を必要とした。
その為の設備の移動が遅れているらしく、ラストダンサーは討伐艦隊旗艦の格納庫にぽつんと安置されていた。

「……退屈ね」

憂鬱そうなため息が一つ漏れた。
スゥの身体は今地球にある。バイドを倒して生還しなければ、彼女に帰るべき身体はないのだ。
つまるところは、機体から出ることができないということでもあり、人々があわただしく動き回る格納庫の中で
好奇だとか奇異だとか、あるいは畏怖にも似た視線を一身に浴びながら
スゥは、ただただたたずんでいることしかできなかった。
何せこの身体は、機体に直結された精神は、睡眠すらも必要としないのだから。

「なら、話し相手にくらいはなってあげましょうか?」

と、声がした。

「……一般の機体から、この機体に回線をつなぐことはできないはずだったけれど」

「つまりはそういうことよ、私の機体も普通じゃないってこと。
 秘匿回線搭載機、大体意味は分かるでしょう?」

普通の機体ではないのはお互い様ということらしい。
そして、この回線を使えるということはすなわち、奴らに関わりの深い機体である、ということで。

「そういうことね。それで、何の用かしら」

「退屈なんでしょう。だったら、話し相手にくらいはなれると思うのだけど、どうかしら」

柔らかな調子の声が、スゥの機体に伝えられてきた。
その声の主は、今尚生き延びていた数少ない隊長機。
スゥと同じく、今は戻るべき身体を失った、ゲルヒルデの声だった。
767 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/26(日) 23:33:42.68 ID:0Gy0LNMh0
「その必要はないわ。別に、貴女と馴れ合う必要があるとは思わない」

けれど、そんな優しげな声に対して投げかけられたのは、冷たい拒絶の声だけで。
その言葉には、少なからず気分を害したのだろう。ゲルヒルデの声もどこか冷たいものとなる。

「……そう、それなら先に本題を済ませることにするわ」

ため息を一つ。それから、更にその口調を冷たくさせてゲルヒルデは告げた。

「貴女は誰?スゥ=スラスターは、戦うことができる状態じゃないはずよ」

一瞬、息を呑む声が聞こえた。

「……随分と事情通なのね、貴女は。確かに私はスゥ=スラスターではないわ。
 でも、何も問題は無いでしょう?バイドを倒すことが出来るならそれでいいはずよ」

それでも、声が乱れたのはほんのわずか。
すぐさま、冷たい調子の言葉が投げつけられてきた。
確かに、士気を高めるために英雄の名を借りた何者かに、バイド討伐の任を託す。
それ自体は予想できないことではないし、ありえないことでもないだろう。

「それ自体は何の問題も無いわ。でも、なぜ貴女が、という疑問は残るわ。
 そう思わせるほど、貴女の声はよく似ているのよ……暁美ほむらに」

今度こそ、はっきりと見て取れるほどにスゥの言葉は乱れていた。
なぜ、と。そんな言葉が頭の中に渦巻いてもいた。

「随分と有名だったのね、暁美ほむらは。ここでその名前を聞くのは二度目よ」

それとも、事情を知る側の人間からすれば、彼女は有名だったのだろうか、と。
もう一人の自分の、今はもういない彼女の事を、うっすらとスゥは考えていた。

「……そう、それじゃあ貴女は暁美ほむらではないのね」

その言葉は、どこか残念がっているような口調だった。
もし自分が暁美ほむらだったのならどうだというのだろう。
そう考えると、あまり面白くは無かった。
結局、自分を自分として見てくれる相手など、この世界にはいないのではないか、とスゥは思う。
ただ一人、鹿目まどかを除いては。
768 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/26(日) 23:34:34.38 ID:0Gy0LNMh0
「ええ、私と彼女は違うわ。非常によく似ているでしょうけど」

少なからぬ感傷を篭めて、スゥはそう答えると。

「……もういいでしょう。話はこれで終わりよ」

そう言って、一方的に通信を打ち切ろうとした。
けれど、その手は止まった。続けて放たれたゲルヒルデの呟きが、彼女のその手を止めたのだった。

「じゃあ、まさか……他に複製体がいたというの?」

「どこまで、知っているというの。貴女は」

ついに、スゥの声が震えた。
まるで信じられないものを目の当たりにするかのように。
驚愕と、不信と。そして隠し切れない恐怖。
言葉からは、隠しきれないそんな感情がにじみ出ていた。

「思いがけず随分と沢山の事を知る羽目になったわ、私は。
 でも、その全てを話す必要はないでしょう?貴女が話すつもりが無いのなら、私もそうさせて貰うもの」

もうこれ以上知るべきことは無い、とばかりにゲルヒルデは言い放つ。

「待って!一体貴女は……っ」

そこまで知っている相手を、捨て置けるはずも無い、と。
スゥは態度を豹変させて、必死に食い下がろうとした、けれど。

「後はお互い、生き残れるといいわね。……それじゃあ、失礼するわ」

通信は、ひどくあっさりと打ち切られた。
後にはただ、呆然と佇むスゥの言葉だけが、誰の耳も届かぬ虚空に吸い込まれて行くだけだった。

「……なんだって言うのよ、貴女は、一体……なんなのよっ!」

苛立ち紛れに何かを殴りたかった。
けれどそうするための身体を、彼女は地球に置き去りにしてしまっていたのだ。

そしてそれが、彼女達が会話を交わした最初で最後の時となるのだった。
769 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/26(日) 23:35:10.68 ID:0Gy0LNMh0
時は流れる。
決して長くは無い時が。誰にとっても、最後の安らぎたる時が。
そしてそれが変わらず過ぎ去って行った後、オペレーション・ラストダンスは、ついに発令されることとなる。

「諸君等に告ぐ。我々は、これよりバイド中枢への総攻撃を開始する」

全帯域に、非常に強力な通信波をもって、地球からの通信がグリトニルへ、そして討伐艦隊の元へと流されていた。
声の主は、地球連合軍総司令部の司令官。彼は自ら直々に、その声を届けようとしていた。

「我々は過去に3度の対バイドミッションを発令し、バイドの中枢を討ち果たしてきた。
 だが、奴らはその度により勢力を増し、復活を遂げてきた」

そう、それはバイドとの戦いの歴史そのもので。
どれだけ倒せど倒せど、いつしかバイドは復活を遂げていた。
その度に、更なる強さと禍々しさをその身に帯びて。

「だが、今回の対バイドミッション。オペレーション・ラストダンスは、今までとは違う。
 今度こそ、確実にバイドを撃滅し、根絶せしむる術を我々は手に入れたのだ!」

恐らく誰しもが、バイドとの戦いの歴史を知る誰しもが抱いていた不安。
それは、たとえ今回の作戦が成功したとしても、いずれまたバイドは復活するのではないかという不安。
完全なるバイドの根絶。それを成しうる術などあるのかと、心の奥底で感じ続けていた不安だった。

「バイドの全ての行動は、その根底に根ざした攻撃本能によって為されている。
 奴らは全て他者を攻撃するために増殖し、進化し、侵食する」

数多のバイドを研究し、その異端の研究を突き進めた先に見つけた事実だった。
攻撃本能に支配され、ありとあらゆるものを取り込み、破壊しながら増殖し続ける
異形の生命体、バイド。その性質が明らかになったことで、人類はバイドに抗する新たな術を手にしていた。

「そのバイドの攻撃本能を司る存在。それこそが、オペレーション・ラストダンスの攻撃目標。
 奴が潜むは異層次元の遥か彼方、26次元!我々は跳躍空間を越え、ありとあらゆる術をもってこれを討つ!」

今までただ名前だけを聞かされて、その真実を知ることの無かったオペレーション・ラストダンス。
ついにその真相が明らかにされた。そして自分達の倒すべき敵もまた、ついに明らかにされたのだった。

「人類の存亡はこの一戦にある。諸君らの力を、命を、その全てをこの作戦のために賭して欲しい。
 そして敵を討ち果たし、無事に太陽系に帰還してくれることを祈っている」
770 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/26(日) 23:35:52.41 ID:0Gy0LNMh0
作戦が成功したとして、それでも彼らのほとんどは無事に戻ることはできないだろう。
元より帰り道など想定されていない、遥かな地獄の深淵への片道切符である。
それでも、言わずにはいられなかった。バイドとの戦いのために、あまりにも多くの人命が
まるで物であるかのように費やされてきた。

だからこそせめて、一人でも多くの者にその犠牲の上にできた
バイドなき世界を、見せてやりたいと思っていた。
そして、それは非常に難しいであろう事も分かっていた。
それでも、せめて……と、祈る。

「今更神や仏に祈るつもりはない。我々が今まで培ってきた力が
 君達の手に委ねられた力が、その意思が。必ずやバイドを討ち果たしてくれることを信じている」

最早、言うべきことは何も無い。
後は……ただ。

「現時刻をもって、対バイド最終作戦、オペレーション・ラストダンスの発令を宣言するっ!!」

力強い声が、全ての兵に振りかざされた。
そして、ついに彼らは旅立つのだった。
遥か彼方、異層次元の旅路へと。
771 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/26(日) 23:41:02.39 ID:0Gy0LNMh0
>>761
ただし、キリカについて生き延びることができたのはあの三人だけです。
もちろん、精鋭ではあるのでしょうが。
そして織莉子の部下も、織莉子が第二次バイド討伐艦隊に加わる以上、別の隊に編入されることとなってしまうのでした。

>>762-763
Bルートに関しては大体そのあたりで話を終えているつもりではあります。
一応は、ですが。

そして恒例巨大戦艦。
GIさんはまだそこまでひどいほうじゃないかな、という気はしましたが。
後でTYPEsをまたやってみようかな。

>>764
世の中には、張ったはいいが回収できなかった複線というのも(ry
まあ、そういうこともあるかもしれない程度に考えてご覧くださいませ。
772 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県) [sage]:2012/02/26(日) 23:50:14.50 ID:m/ZYl7F6o
GIさんはそこまでひどくないけどそれまでが結構辛い
頭が切り替わってないのに遅くて弱い最序盤とか
反射レーザー手に入れられてからはかなり楽になるけど
でも魔法少女の搭乗機って最初からフォース持ちで三種レーザー打ち分けられるのか
773 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/02/27(月) 00:04:18.16 ID:08ZvDn8co
超巨大戦艦の類で一番アレなのは(4足トレーラーだけど)DELTAかなあ
GIも惑星破壊波動砲持ちもそれほど強敵と感じる事は無いね
ただ艦隊だけど2の2周目3面はマジヤバイ
774 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/27(月) 01:31:28.38 ID:NOKAUcTDO
お疲れ様です!
謎の女ゲルヒルデさん…ミステリアスな女性は素敵ですね。

そしてさやかちゃんはここの所空気ww
775 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/02/29(水) 16:32:50.41 ID:DCZOCMMH0
うっかりと話が広がっています、この話もえらく長くなりそうですね。

さて、二日ぶりくらいの投下です。
776 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/29(水) 16:34:11.89 ID:DCZOCMMH0
「グリトニル、長距離ワープ装置起動」

優に方面軍三つ分ほどの戦力に膨れ上がった、第二次バイド討伐艦隊。
その前方に、グリトニルの長距離ワープ装置によって、跳躍空間への入り口が開かれた。
ここをくぐれば、もはやこの先は人智の及ばぬ未知の空間。
恐らくバイドもまた、大軍を率いて待ち構えていることだろう。
その大軍を打ち破り、バイド中枢へとたどり着かねばならない。
勝算は、限りなく低い。

「だが、勝たなければならない。そうでなければ、人類に未来はない」

この作戦の遂行の為にたった一艦のみ建造された、第二次バイド討伐艦隊旗艦。
最先端の科学と、いまだ開発途上である魔法の力。その二つを併せ持つその戦艦は
アスガルド級という型式を与えられたそれは、今までの艦とは大きく異なるものであった。
なだらかな曲線をメインに構成された艦体に、艦首砲らしきものは見当たらない。
その代わりに、艦体両翼に接続されるように、巨大な砲台が各一門ずつ設置されていた。
グラズヘイム砲、そしてヴィンゴルブ砲と呼ばれたその砲門は、ニヴルヘイム級の艦首砲である
ギンヌンガガプ砲と同程度の威力を誇っている。
それ以外の武装も艦内部に収容された状態であり、無数の追尾ビームに誘導ミサイルを備え
更に秘密兵器と呼ばれるものまで搭載されている。

旗艦である。基本的には後方に構え、戦局を見据え指揮を飛ばす。
そういう艦である。これだけの大部隊であれば、直接戦うことなどありえないというのに。
だというのに、この艦はこれほどまでの恐ろしい戦闘能力を誇っていた。
間違いなく、旗艦でさえも手ずから敵を討たねばならない。
それほどまでに、激しい戦いが起こることを想定して建造された艦なのだ。


先行していた偵察機から、跳躍空間内部の様子が伝えられた。
バイドの反応はなし。突入直後の不意打ちの心配は無いだろう。

「よし、艦隊を順次、跳躍空間へ突入させよう。
 ……第二次バイド討伐艦隊、出陣だ」

オペレーション・ラストダンス。
その第一段階、跳躍空間の突破。
それが今、ついに始まろうとしていた。
777 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/29(水) 16:34:50.57 ID:DCZOCMMH0
「始まった。……勝つ。勝って、必ず帰る。
 ……だから、待っててね。まどか」

ラストダンサーの機中。
遠からず、激しい戦闘へと巻き込まれていくその機体の中で、一人。
スゥは呟き、思いを馳せた。
ここまでの日々でさえ、地獄のような日々だった。
自分が戦うための存在なのだということを教え込まれ、その為に戦い続ける日々。
その中で、確かに彼女は変わって行った。
ただ、戦うための存在へと。この恐ろしき力を振るうための、否、むしろその力の化身のように。

恐らくここからは、これまでの地獄すらも霞むほどに恐ろしい戦いが
筆舌に尽くしがたい地獄が、待ち受けていることだろう。
だが、それでも生きて帰らなければならない。負けるわけにはいかない。
たった一つ大切なものが、まどかが、待っているのだから。

生きて帰る。そして自分の身体を、命を、人生を、全てを取り戻す。
そして再び、まどかと共に生きる。
それが、それだけがスゥの戦う理由。
人類の未来など、太陽系の平和などどうでもいい。
酷く個人的な、身勝手な。けれどそれは、とても強い願いだった。
778 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/29(水) 16:36:53.47 ID:DCZOCMMH0
「いよいよね、キリカ」

「そうだね、織莉子。……ふふ、声が震えているね。緊張してるのかい?」

迫る戦いに備え、整備を済ませた機体を前に。
織莉子とキリカは、寄り添うように立っていた。

「どうしても、緊張してしまうわ。……こんな激しい戦いの前だもの。
 武者震いなのかしら、それとも……怖いのかしら」

どうしても震えてしまう声。
織莉子自身にも、それが恐怖なのかどうかは定かではなかった。
戸惑うように声を上げた織莉子の腰に、キリカはするりと手を回して。
そのまま、引き寄せるようにして抱き寄せた。

「ぁ……っ、キリカ」

「何も心配はいらない。私が側にいる。きみが側にいてくれる。
 一緒に戦おう。……一緒に、生き延びよう」

引き寄せられて触れ合う身体からは、柔らかさと暖かさが
そして、言い知れない安らぎが、静かに全身に満ちてくる。

「……そうね、きっと大丈夫よ。私達なら……キリカ」

織莉子も手を伸ばし、キリカの肩に手を触れた。
そのまま、うなじをそっと撫で、髪を優しく手で梳いた。

「ぁぁ……ん。織莉子……へへ、もっと……触って」

うっとりと声と吐息を漏らして、全身の力を抜いて織莉子に身を預けるキリカ。
その姿が愛おしいと、織莉子は思う。
地獄の底からこんなところまで、ずっと一緒に居てくれた。
一緒に居てくれなければ、自分はとっくに壊れていただろう。
辛すぎる現実に、戦いの定めに、たった一人では立ち向かえなかっただろう。

引き締まっているけれど、それでも女の子らしい柔らかなキリカの身体。
触れる度に、甘い声と吐息が漏れる。
もっと、聞いていたいと思う。願う。
願うことなら全てに触れたい、互いの境界が溶けて消えるほどに愛し合いたい。
衝動にも近い、そんな思いを今だけは堪えて。
キリカの額に唇を触れさせて、静かに身を離した。
779 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/29(水) 16:37:25.76 ID:DCZOCMMH0
「……や、織莉子、もっと触れて欲しい」

甘えるように擦り寄ってくるキリカ。
成長したように見えても、自分を取り繕うことを覚えても。
それでも、こうして甘える時のキリカはまるで子供で。
それが、やはり自分の知るキリカの姿で。織莉子は嬉しそうに笑う。
変わることが嬉しいと思う。変わらないことが嬉しいと思う。
相反する感情も、答えはすぐに見つかった。キリカと一緒に居られることが、ただ嬉しいのだから。

「続きは、帰ってからにしましょう」

「……じゃあ、必ず帰らなくちゃあいけないね」

にぃ、と。
そう笑うキリカの顔は、やはりどうにも子供っぽかった。
780 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/29(水) 16:38:11.42 ID:DCZOCMMH0
「流石に、これ以上隊長が減ったのでは、きっと彼女達も困るでしょうしね」

跳躍空間に消えていく艦隊を遠目に眺めながら、機体の中でゲルヒルデは呟いた。
同行しようかどうかと、迷ったのは事実だった。
けれど、これ以上魔法少女隊を率いる隊長が減るのはよろしくないだろう。

「もしも、本当にあれがほむらだったのなら……迷いもしなかったのでしょうけど」

その声には、幾分か残念そうな響きも混じっていた。
どこか、過去を懐かしむような声で。

「私達がみんな行っちゃったら、魔法少女のみんなは困っちゃうよ。
 ……大丈夫だよ、きっとみんなが、悪いバイドをやっつけてきてくれるよ」

ゲルヒルデの駆るコンサートマスター。
その隣に並んだ機体、カロンの中から声が届いた。
その声は、本当に幼い少女のそれで。
それほど幼いというのに、その少女は魔法少女隊の隊長だった。

「ジーグルーネ。……そうね、今はそう信じるしかないのよね」

幼いながらも数多の戦いを越えて。
尚も生き延びていたことからも、その実力は疑うまでもない。
幼い少女ということで、その力を疑われることは多かったが
それでも彼女は、魔法少女達からの信頼を、その実力で勝ち取っていった。
そして何より、彼女は随分と愛らしかったのだ。無邪気であったのだ。
守ってやりたいと、そう思わせるほどに。
守るためには強くなるしかなかった。守るためには、生き延びるしかなかった。
だからこそ、彼女の隊もまた多くの生存者を残していた。
781 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/29(水) 16:38:41.89 ID:DCZOCMMH0
「きっと大丈夫だよ。わたしも頑張るから、お姉ちゃんも……一緒に頑張ろうね!」

「……もう、きっと途方もなく頑張らなくてはいけないと思うわよ?
 行く人も残された人も、辛いことは一緒でしょうけどね」

あれほどの戦いを経ても、尚も彼女は少女らしく無邪気であった。
それはきっと、この地獄に首を突っ込むより以前から、この少女はそういう生き方をしてきたのだろう。
日の光の代わりに波動の光を浴びて育ち、土の代わりにバイドを踏みしめ
その身を通り抜ける風は、血と炎の匂いを纏った風だったのだろう。
過去を聞こうとは思わなかった、話そうともしなかった。
だから、それでよかった。

「突入部隊の邪魔をさせるわけにも行かないわね。……ルネちゃん」

「そうだね、お姉ちゃん。悪いバイドは、全部やっつけてやるんだ」

まるで突入を阻もうとでもするかのように、グリトニルへと迫るバイドの軍勢。
それを押し留め、撃滅するのが残された者たちの任務だった。

「魔法少女隊、全機発進!!」

「行くよみんな!討伐艦隊とグリトニルを守るんだっ!!」

号令と同時に、無数の光が飛んでいく。
彼女達が新たに率いる魔法少女達。
戦いが始まったときには総勢300を数えたそれも、今では半数ほどに減っていた。

それでも、二人の少女が率いるにはそれは随分と大部隊だった。
だからこそ、今は彼女達は一人で隊長仕事をしているわけではない。
魔法少女達の中でも優れたものを、副長として任じていた。

「隊長。私は左翼に回ります」

言葉一つ告げて、駆け抜けていったのはガルーダ。
それを駆るのは、ゲルヒルデ大隊の副長となったマコトだった。

「こっちも行くぜ、隊長。……手はずどおりにな」

火炎を用いた攻撃を行う灼熱波動砲を携えた機体、R-9Sk2――ドミニオンズが前方へ駆ける。
それを駆るのはシーグルーネ大隊の副長である少女。

「うん。頼んだよ、リョーコっ!」

言葉を掛け合い、迫る敵へと立ち向かう。
太陽系外周部、グリトニル。
これまでも、そして今も、これからも。
この場所はずっと、バイドとの戦いの最前線である。
戦いは、尚も続いていく。
782 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/29(水) 16:39:08.66 ID:DCZOCMMH0
「……参ったな。本当に参った。これがバイドの策なのだとすれば
 向こうには、随分と出来のいい参謀が居るようだな」

跳躍空間。不可思議な宇宙。
実際に目の当たりにするのは初めてで、戸惑いもしたものだったが
グリトニルを旅立ち、大よそ半月が過ぎたいまでは、星の姿も見えず、何一つ代わり映えの無いこの跳躍空間は
やはりというか当然というか、酷く退屈なものだった。
何せこの半月、跳躍空間を旅立つ彼らの前には全く、バイドはその姿を見せることが無かったからだ。

退屈ではあるが、いつ敵が出てきてもおかしくない状況ではある。
だからこそ、気を抜くわけには行かない……のだが。
あまりにも動きが無い、変化が無い。だが気を張り続けるより他にない。
それは、確実に兵員に緊張と不安を生んでいた。
一応はシフトを組み、兵を休ませながら跳躍空間の航行を続けてはいた。
しかし、いざ決戦と気勢を上げて飛び出してきたのである。
いくら身を休めることができたとは言え、張り詰めた精神は休まることは無い。
せめて前哨戦の一つもあれば、そこで一つ兵の士気を高めると共に
張り詰めた精神を落ち着けることも出来たのだが、そもそも戦いが無いのではどうにもならない。

不気味なほどの沈黙。それが彼らを、知らず知らずの内に追い詰めていた。

「休ませればどうにかなる、という話でもなし……さて、どうにか張り詰めた気を抜いてやらんとな」

それが目下唯一の、九条提督の悩みの種であった。

「何か、いい方法は無いものかね。ガザロフ少佐」

その傍らには、いつものように副官が。
第二次バイド討伐艦隊の副官となったことを機に、少佐へと特進したガザロフの姿があった。
いい加減に付き合いも長く、戦果を見れば文句なしの提督と副官である。
最早その二人には、まるで夫婦でもあるかのような雰囲気すら漂ってもいた。
783 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/29(水) 16:40:48.09 ID:DCZOCMMH0
「そうですね……普段なら、演習や模擬戦の一つもするんでしょうけど。
 今は作戦行動中ですしね。何かしらのレクリエーションができればいいんですけど」

「演習、模擬戦。レクリエーション……か。何せこの跳躍空間には、娯楽の一つも無いのだからね。
 ……いや、だがそれもそうだ。ふむ、悪くはないかも知れない」

「何か思いついたんですか、提督」

「模擬戦だ。艦隊を停止させずに、そのまま模擬戦を一つ打ち上げることにしよう」

口元に、何かを面白がっているかのような笑みを浮かべて九条は笑う。
その口元に手を添えて、これから始まる戦いの舞台を見守ろうと、九条は考えていた。

「英雄の力とやらを、確かめさせて貰うだけさ」

その笑みと、言葉が含む意味を察して、ガザロフの表情にも、何かを楽しみにしているような表情が浮かんだ。
784 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/29(水) 16:46:22.41 ID:DCZOCMMH0
というわけで、本格的な開戦はもう少し先のことになりそうです。

>>772
如何せんもう随分昔のゲームですからね。
今のゲームをやっている身からすると、やはり物足りないところはあるのかもしれません。
っていうかマジでR戦闘機にバースト機関を搭載したいです。

そのあたりは、わざわざ戦闘中にフォースを拾って育てるというゲームシステムが
話の流れ的に説明がつけられない部分もあるにはあるのですが
その辺りはTAC仕様でやらせて貰っている、という部分もあるのでご容赦を。

>>773
遊んでみたいなぁ、凵B
そして2のあの艦隊はもう普通にプレイするのでもしんどいです。
抜けたと思ったらコルベルトェ……。

>>774
ついに生き残った隊長格4名が全員出揃いました。
とはいえ、もう太陽系に視点が戻ることは当分なさそうですが。

そしてさやかちゃんは……出番あるかなぁ。
785 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/02/29(水) 18:11:51.03 ID:qrg7r764o
乙。
模擬戦か。Dimensions再び、かな?


凾ヘヤフオクとかAmazonあたりで中古品が拾えるかも。
個人的にはFinalより凾フ方が好きだな。
786 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/29(水) 19:18:43.22 ID:wFLjK7nDO
お疲れ様です!
バイドからしてみれば、ただ待ってるだけで良いんだから気楽なもんだよなー。

九条提督は、スゥちゃんに一体何をさせようと言うのか?

ジーグルーネちゃん可愛い。見た目は金髪ショートポニー(髪止めは緑の玉×2付きの輪ゴム)に碧眼ってイメージ。
787 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/02/29(水) 23:25:26.90 ID:DCZOCMMH0
わんもあせっと
788 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/29(水) 23:26:09.22 ID:DCZOCMMH0
「やれやれ、まさかこんな楽しいことになるなんて……ねぇ?」

ダンシング・エッジが。

「けれど、これでは流石に勝負にならないと思うのだけど」

ヒュロスが。

「6対1、これで負けたら俺達道化だぜ?」

「でも、相手はかの英雄だそうな。油断は禁物よ」

軽妙な男の声が、R-9Aシリーズの最終機体たるR-9A4――ウェーブ・マスターから。
そして落ち着いた感じの女性の声が、強化仕様のエクリプスから。
正式な地球軍の機体ではなく、その出所を地球軍ですら把握はしていない。
だが、パイロットを含めその実力は折り紙つきだった。
恐らくどこかの勢力が、この一大作戦に戦力を貸与したのだろう。

「……くく、こりゃあとんでもない前哨戦だ」

「英雄と手合わせできるとは、光栄だ」

なんともこの場には不似合いではあるが、有人機として戦闘に耐えうる性能と武装を施されたパウ・アーマー改が。
そして一機、あからさまに異形なる機体、アーヴァンクが。

そしてその六機に取り囲まれて、ただ一機。

「そういう趣向ね。……暇つぶしには、まあ丁度いいのかもしれないけど」

ラストダンサーが、英雄を乗せ佇んでいた。
789 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/29(水) 23:26:41.41 ID:DCZOCMMH0
「あー、兵士諸君。お楽しみのところすまないが、少しだけ話をさせてもらおう」

九条の声が、各艦に伝えられる。
その声は、やはりどこか楽しんでいるようだった。
模擬戦とは言うが、その戦いはほとんど実戦にも等しい。
艦隊の中から選りすぐられた、6人のエースパイロット達。
ラストダンサーを駆るスゥが、たった一人でそれに立ち向かう。
武装が非殺傷であるという事以外には、それは実際の戦いと変わらない。

「よく見ておいて欲しい。バイドを討つための力を。その戦いを。
 だが、我々は艦を進めることを止めるつもりは無い。つまりは、この大艦隊の只中で
 7機のR戦闘機が、激しく入り乱れて戦うこととなる。さぞや見ごたえのあることだろうな」

一歩間違えば衝突。そのまま死の危険すらもある。
だが、そんな危機すらも楽しめるほどの腕と度量の持ち主達である。
結果はどうあれ、やり遂げてくれることには間違いないだろう。

「だが覚えておいて欲しい。この力の本質は、その本当の使い方はこんなことではない。
 これは全て、バイドを討つための力なのだ。こんなお遊びに使うこと自体、褒められたことではない。
 褒められたことではない……が」

にぃ、と九条は口元を歪めて笑う。

「が!ここに我等を咎める者など何も無い!精々派手に、思いっきり楽しませて貰おうじゃないかっ!!
 さあ踊れ!精鋭達よっ!その力で、波動で。この跳躍空間を染め上げろっ!!」

九条の言葉と同時に、7機のR戦闘機が一気に速度を上げて動き出した。
艦隊の間を縫い、その姿と業を見せ付けるように飛び交っていく。
通りすぎる艦の全てから、囃し立てるような歓声が沸きあがる。
そして、一通りその飛行が終わったところで、ついに。
7筋の光が、交差した。
790 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/29(水) 23:27:15.88 ID:DCZOCMMH0
「あの時の機体も早かったが……こいつも相当だっ!」

ラストダンサーを追う機体群。
だが、やはりその速度には大きな差があった。
まるでいつかの戦いの時に出会った、あの青い機体に比肩するほどの速さだった。

「確かに速いわね。でも、速度ならこの子も負けてはいないのよ?」

追いすがる機体の中の一機、強化仕様のエクリプスがその姿を変えた。
それと同時に、機体背部で波動の光が大きく膨れ上がった。
そしてその速度が跳ね上がる。ラストダンサーに追いすがるほどに速度が上がる。

「さあ、追いかけっこは終わりよ。英雄さん。遊びましょう、たっぷりと!」

ラストダンサーが射程距離に入った。
すでに波動砲のチャージは完了している。
後はそれを叩き込むだけだ。
機械は照準を定めてくれるが、それはどうにも不確かで。
最後に大切なのは勘と腕。相手の回避運動を予測して、波動砲の照準を定めた。
だが。

「え……っ、き、消えた?っ!?」

直前まで照準に捉えていたラストダンサーの姿が、消えた。
そして背後に機体の反応。気がついて振り向いたときには、もう。
ラストダンサーが放ったライトニング波動砲が、エクリプスの背部に突き刺さっていた。
ダメージ最大、撃墜判定を確認。

「……どんな魔法を使ったのかしらね、本当に」

エクリプスのコクピットの中で、パイロットの女性は呆れたように呟いた。
何をされたのか、全く分からなかったのだ。
敵の背後を取ったはずなのに、気がつけば背後を取られていた。
魔法とでも言われなければ、到底信じられるものでもない。
791 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/29(水) 23:28:00.15 ID:DCZOCMMH0
まず、一人。
あっという間の早業に、観客からは歓声が上がる。
だが、敵を迎え撃ったことでラストダンサーの足は止まった。
そこをすかさず、残る5機がラストダンサーを囲みこもうと迫る。
囲まれてしまっては、脱出も反撃もままならない。

切り離されたパウ・アーマー改のニードル・フォース改から、無数の弾幕が放たれた。
全方位に恐ろしい密度の弾幕を放つその攻撃を、ラストダンサーはかいくぐり、機体を急旋回させた。
その背後には、マーナガルム級の艦体があった。
その外壁に擦るかのように滑り、ラストダンサーは機体を走らせる。
マーナガルム級は、流石に焦って艦体を停止させようとしたが。

「艦はそのまま進行させろ!……それで死ぬならそこまでだっ!」

九条が、激しい声を浴びせてそれを制した。
元より全ての武装が非殺傷に設定されている。
だからこそ、艦体に阻まれればその攻撃は届かない。
だが、それでもすぐに追撃の手は伸びる。同様に艦を回りこみダンシング・エッジとヒュロスが。
そして高度を取り、艦を飛び越すようにして頭上からの攻撃を目論むウェーブ・マスターとアーヴァンクが。
艦底部からは、パウ・アーマー改が迫っていた。

三方から敵が迫る。
だが、侵攻ルートが分かれたことでそれには時間差が生じた。
まず先に到着したヒュロスが、6連装の追尾ミサイルを放つ。
そしてその軌道に沿うように、刃そのもののように鋭くダンシング・エッジが迫る。
ラストダンサーは、真正面からそれに立ち向かう。
迫るミサイル、そして凶刃。臆することなく真っ直ぐに突き進む。

「私の刃と織莉子の攻撃、かわせるもんかっ!!」

展開される5対の光刃。
それに先んじて、ミサイルがラストダンサーに殺到する。
それが着弾するか否かといった瞬間に。

「な……こ、これはっ!?」

展開したバリア弾が、ミサイルを受け止め叩き落していた。
792 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/29(水) 23:28:38.40 ID:DCZOCMMH0
一瞬の驚愕。だがそれに驚く余裕も無く。
衝撃が、ダンシング・エッジを揺るがした。

「私が……撃ち負けた?」

ダンシング・エッジは撃墜判定を出していた。
非殺傷に設定されていても尚、それは機体を揺さぶるほどの威力を誇っていた。
雷を纏って放たれたパイルバンカーが、キリカの機体に突き刺さっていた。
強力な5対の光刃ですら、全てを打ち砕く鋼撃の前では無力だったのだ。

「キリカ……まったく、随分強敵ね」

ヒュロスもまた、その武装はミサイル以外は近接攻撃に特化している。
あの恐ろしい兵器を相手に、接近戦を挑むのは少々分が悪かった。
恐ろしいほどの勢いでこちらに迫るラストダンサー。
まともにぶつかれば、不利なのは否めない。
レールガンとレーザーが行き交い、機体が交差する。
けれど、どちらも無傷。

すぐさまラストダンサーは逃げる。
しかしここはもう、艦隊の密集地。自由に飛びまわれるほど広くはない。
一旦動きを止めたヒュロスに代わり、アーヴァンクとウェーブ・マスターが迫る。
堅牢で優秀な(バイド機であることを除けば)アーヴァンクと
全ての性能が最高水準で纏められ、非常に信頼性の高い機体であるウェーブ・マスター。
そしてどちらのパイロットも随一の手練。
一度に相手にするのは、やはり厳しい。

今までこそ、速さで撹乱し、障害物を用いて敵を分断し。どうにか各個撃破の体を成すことには成功してきた。
ここからはそうは行かない。尚も4対1。まともに当たれば非常に厳しい。

「……ラストダンサーの性能限界を引き出すことが出来れば。負けはしない」

狙うは乱戦。
いかな相手が一騎当千のエース揃いと言えど、即席のチームである。
訓練を積み、コンビネーションを磨いた部隊と異なり、その連携には穴がある。
乱戦に持ち込み、その中で隙を見つけて敵を落とす。
そうするより他に、ここを切り抜ける術は無いだろう。

「来いっ!!」

綺麗な三角を描くように機体を旋回させ、迫る敵を向かい撃つ。
軌道が交差し、光が走る。まさしく光に近い速さで、激しい戦闘が始まった。
そこにはすぐさまヒュロスとパウ・アーマー改が加わり、更に戦いは激化していった
793 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/29(水) 23:29:22.22 ID:DCZOCMMH0
跳躍空間の遥か彼方。歪んだ時空の只中にそれは存在した。
激しく繰り広げられた戦闘の波動は、跳躍空間を揺るがし、“ソレ”を目覚めさせた。
目覚めた“ソレ”は、迫るものが敵であると知った。敵に対して成すべきことなど
“ソレ”は、たった一つしか知らなかった。

鋼の殻を割り開き、華のようにそれは咲く。
時空に咲いた鋼の妖花。それは、静かに回り始めた。
廻る、廻る。
廻る花弁が波を生む。波は、波紋となって広がっていく。
その高さを損なうことなく、どこまでも。
その速度を損なうことなく、どこまでも。
やがてその閉ざされた空間の端で、波は打ち当たり、また返すように流れる。
次々に放たれるその波も、同じく壁に当たっては跳ね返る。
不思議なことに、行く波も跳ね返る波も、互いに干渉しあうことはなく。
ただただ、無数の波紋が空間を揺らし、埋め尽くしていく。
上にも下にも、前後左右もあらゆる場所を、波が全てを埋めていく。
揺るがし、跳ね返り、その力を増してまた揺れる。
その波の中心で、尚も妖花は廻る。
何度も、何度も、何度も、何度も。生み出された波は、ついにはちきれんばかりに膨れ上がった。

空間そのものを歪めるほどに、その力と勢力を増した、波。
妖花が生み出す波は、ついに閉ざされた空間から解き放たれようとしていた。
卵が、内圧に耐えかねて内側から弾け飛ぶように。
そして、卵の中身が撒き散らされるように、跳躍空間にそれは広がっていく。
その波を、人はバイドによる空間汚染と、そう呼んでいた。
794 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/29(水) 23:30:13.95 ID:DCZOCMMH0
乱戦は更に激化していた。
機体性能に劣るパウ・アーマー改は早々に撃墜されて戦場を離れ。
アーヴァンクもまた機体は半壊。戦闘を続けるのは困難な状況であった。
ヒュロスもその片腕は消失したと認定され、ウェーブ・マスターは推進部にダメージを受けていた。

そして、ラストダンサーは。

「機体損傷率75%オーバー。……なのに、よく動くわ」

あからさまな被弾が5、それ以外にも無数の損傷が刻み込まれている。
そしてブースター出力は既に半減。辛うじてフォースはまだ制御下にあったが、それもいつ失われるか分からない。
有り体に言えば、それはもう満身創痍。撃墜判定が出ていないのが不思議なほどだった。
既存の機体を更に上回るサバイバビリティ。その存在の、最後の一片までもを賭してバイドを討つ。
この事実は、ラストダンサーがそういう機体であることを、誰しもに知らしめていた。
ついには歓声も止み、誰もがその戦いの終結を、固唾を飲んで見守っていた。

次に機体が交錯する時、恐らく勝負はつく。
戦っている者達も、それを見守る者達も、それを感じていた。
795 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/29(水) 23:30:41.94 ID:DCZOCMMH0
「……すごいな、彼らは」

テュール級を預かる艦長は、艦をたゆまず進ませながら、その戦いに見入っていた。
今までに見たことも無いほどの、激しいR戦闘機同士の戦闘だった。
それらの力を、戦う姿を知るからこそ、彼らにはその凄さが身に染みてよくわかっていた。

「艦長、ニーズヘッグ級がこちらに接近してきます」

戦いに見入る最中、オペレーターが駆逐艦が規定のコースを外れ、こちらに接近してくるのを知らせてきた。

「何をやっているんだ。見入りすぎて舵を取り間違えたか。
 向こうに通信を入れろ。それと、こっちもコースを変更だ。道を開けてやれ」

「了解です、進路を変更します」

指示に従い、艦体がその進路を変える。
他の艦の軌道に入らぬように、ニーズヘッグ級と衝突しないように。
だが、その直後。艦に衝撃が走った。激しく艦が揺れた。


「な……何が起こったっ!?」

「これは……そんなバカなっ!?」

浮き足立つ艦内。損傷は、思わぬ程に激しかった。
艦に衝突したそれは、艦の後部を食い破り、内部にまで突き抜けていた。
艦の各所に火災が発生している。ダメージコントロールをしようにも、あまりにもそれは巨大すぎた。
そう、艦に突き刺さっていたもの、それは。

「正確に報告しろっ!」

「信じられません……本艦の右後方を航行していたガルム級が、本艦と接触!
 損傷は艦後部の広域に渡り、推進部にも重大な損傷が見られます!」

「どういうことだ!ガルム級の進路には割り込んでいなかったはずだぞ!」

「分かりません!ですが先ほどまで右後方を航行していたはずなのに
 突然本艦の背後に現れ、回避も間に合わず……うぁぁっ!?」

更にもう一つ、艦を激しい衝撃が揺さぶった。
ダメージレベル最大、最早艦を捨てて脱出せざるをえないほどに、その衝撃は大きかった。

「今度は……なんだっ」

その衝撃に揺さぶられ、したたかにその身を打ち付けてしまい。
よろめきながら、艦長は言葉を放った。

「……ニーズヘッグ級が、本艦の側面に接触、艦体に重大な損傷。
 これ以上の航行は……不可能です」

その顔面を蒼白に染め、まるで信じられない悪夢を見るかのように、オペレーターは報告を返した。

「何だ、これは……どうなっているんだ」

まるで状況がつかめぬまま、テュール級はその戦闘力を失おうとしていた。
796 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/29(水) 23:31:10.40 ID:DCZOCMMH0
時を同じくして、同様の報告が艦隊の各所から伝えられていた。

「どういうことだ、これは……」

突然に頻発しだした艦同士の衝突事故。
状況が把握できずに、九条も一瞬思考が停止する。
だが、それはほんの数秒。すぐさま事態を収拾するための指示を出した。

「全艦停止!追って指示があるまでその場で待機っ!原因を突き止めろ!解析班、急げっ!!」

九条の声が艦隊に響く。
それでも、すぐに艦隊全体の動きが止まるわけも無い。
尚も衝突事故は続き、それから数分をおいてようやく、全ての艦の動きが停止した。

「……なんとか止まってくれたか。とにかく、状況を調べないとな」

だが、落ち着くような余裕を、敵は与えてくれはしなかった。

「提督!周囲にバイド反応あり、かなりの大部隊です。……こちらに向かってきます!」

「この期に及んでバイドまでかっ!……いや、今だからこそ、か」

この異変がバイドの仕業によるものであることを、九条は直感していた。
とんでもない不意打ちを食らったものだが、それで潰えるわけにもいかない。

「バイドを迎え撃つ。R戦闘機部隊を発進させろ!とにかく、敵を近づけさせるなっ!!」

模擬戦に皆の視線は釘付けだった。
そのタイミングでこの不意打ちに加えて襲撃、最悪すぎるほどに最悪の状態だった。

「……やってくれるじゃないか、バイド。だが、負けてはやれんぞ」

それでも、負けぬと闘志を振り絞る。
知れず、九条はその口元に笑みを浮かべていた。
797 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/02/29(水) 23:35:07.27 ID:DCZOCMMH0
開戦です。

>>785
今回は普通に模擬戦でした。
そしてその最中に迫るバイド、最終決戦、開幕でしょうか。

>>786
ただ待っているだけなほど、バイドも甘くはありません。
バイドに汚染された跳躍空間で、いまだかつて無いほどに大規模のバイドとの艦隊戦が始まります。

ルネちゃんはとても可愛らしい少女なのです。
でも、彼女も自らの身体を失っております。
798 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県) [sage]:2012/02/29(水) 23:57:22.55 ID:Bd0jZm4Ao
アーヴァンクさん何やってんすかwwwwwwwwwwwwww
バイド機といえばプラチナ・ハートさんの最初で最後のパイロットはもう死んでしまったんだなとしみじみ
随分前の話だけど
799 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/01(木) 14:02:49.60 ID:Rj+x+LZDO
久々の連続投下、お疲れ様です!
模擬戦はハイスピードバトルでしたね。それにしてもバイドめ、いきなり戦艦同士をぶつけさせるとはやってくれるな…。

さやかちゃんは精神病院だっけ?まるでカミーユですな。さやかミーユですな。魂関連の話でもあるし…。
出番なんてものがあるとすれば、まどっちがお見舞いにでも行かないと無いだろうなww
800 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/02(金) 07:47:52.97 ID:0MhHxCvDO
そんな…ジーグルーネちゃんまで体を失っていたなんて。何か代りになるものは無いのだろうか?
801 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/03/02(金) 22:07:06.45 ID:cDkHzoMe0
最近はどうも投下が不定期になって困ってしまいます。
そして気がつくとおりマギキャラしか出てませんね、今回。

では、今日も行きましょう。
802 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/02(金) 22:10:38.91 ID:cDkHzoMe0
「どうやら、模擬戦のつもりがとんだ実戦になってしまったみたいね」

「全くだ、決着をつけ損なったな」

この様子では、最早模擬戦がどうのという場合ではないだろう。
バイドの襲来。それは、ついにバイドとの最終戦争。その初戦が始まったことを現していた。

「エース諸君。とまあ状況はそういうわけだ。正直未だに状況が分からん。
 艦隊はかなりの被害を受け、R戦闘機もすぐには出撃できない状況だ」

戦いの気配を察して集うエース達。そこに九条からの通信が飛んだ。

「バイドが来ているのね?」

手短に、スゥが状況を確認した。

「その通りだ、もしかすると敵も、このタイミングを見計らっていたのかもしれないな。
 ……まあそういうわけだ、偵察も兼ねて連中の相手をしてくれ」

「了解よ」

受け答えも手短に、スゥはラストダンサーを走らせた。
模擬戦モードは即座に解除。損傷認識された部分がすぐさま正常に戻る。
どうやら、敵はほぼ全周囲より接近していることが分かった。
まずは艦隊前方より迫る敵。これを片付け進路を空ける。
その為に、英雄たる矢は放たれた。
803 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/02(金) 22:11:15.60 ID:cDkHzoMe0
「また随分と頼もしいものだ。あれなら存分に埒を明けてくれそうだ」

そんな姿に九条も一つ頷いて。
続いて各方面に散るエース達の動きを捉えながら。

「引き続き解析を急がせろ。状況が分からないことには、迂闊に身動きが取れん。
 接近するバイドの詳細は?」

彼らばかりに任せておけるわけもなし、九条もまた手負いの艦隊を率いて敵を迎え撃つ。
この異変の元凶を突き止めないことには、これ以上艦隊を動かすことはできない。
足の止まった艦隊など、敵からすれば格好の標的だ。
R戦闘機部隊に敵の足止めを任せ、その間にこの異変を止め、敵を撃破する。
月並みではあるが、状況がさっぱり分からない以上は慎重にならざるを得なかった。

「はい、どうやら機動兵器を中心とした部隊のようです。ですが、大型の艦船の反応もあります。
 かなりの大部隊ですね、提督」

ふむ、と小さく唸る。
どうやら敵は、真正面から艦隊戦を仕掛けてくるようだ。
確かに奇策でこちらの出鼻を挫いたのだから、後は正攻法で叩き潰せばよいのかもしれない。
だが、逆に今はそれがありがたい。

「敵が正々堂々しかけてきてくれるなら、敵の動きからこの異変の元凶を知ることもできるだろう。
 前線の兵に通達。敵と交戦しながら、敵機や敵艦の挙動をできる限り報告せよ!」

さあ、鬼が出るか蛇が出るか。
いよいよ始まる戦いの気配に、皆の戦意は高まっていく。
張り詰めていた心は、そのまま引き絞られた弦のよう。
それが放たれる時、その矢は激しい威力を持って戦場を駆けるのだ。
その力を、バイドは思い知ることとなるだろう。
804 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/02(金) 22:12:57.63 ID:cDkHzoMe0
ラストダンサーが、敵の只中を突き抜ける。
彼女の前にあるのはバイドのみ。彼女と共に飛ぶものは無く。
彼女の後ろには、撃たれて潰えるバイドの姿のみ。
敵はキャンサーや、コンテナをミサイルキャリアーに換装した爆撃機である
ストロバルトボマーといった、小型バイドばかり。
展開される弾幕は恐ろしいものの、ラストダンサーの機動性の前ではまるで無意味。
容易く掻い潜り、フォースで受け止め。レーザーや波動砲によって叩き落されていく。

「このあたりの敵は、概ね蹴散らしたようね。……このまま敵陣へ突っ込むことにしましょう」

ラストダンサーが速度を上げる。
敵艦の反応は近い。まずは敵艦を叩き落して、後方の艦隊が艦砲射撃に晒されるのを防ぐ必要があるだろう。
見る見るうちに彼我の距離は縮まり、ついにラストダンサーは敵艦の射程距離内へと飛び込んだ。

その艦はいわゆるボルドやコンバイラといった、バイドらしい戦艦ではない。
地球軍のそれに酷似したその戦艦は、全身に無数の砲台を備えていた。
艦首砲らしきものは見て取れない。それに、砲台は小型のものばかり。

「どうやらあの戦艦は、対艦ではなくR戦闘機と戦うための艦のようね。
 ……でも、そんなものでこのラストダンサーは止められない!」

一斉に照準を合わせ、弾幕を展開する砲台。
速度を上げて、それを掻い潜ろうとした、その刹那。

「っ!?敵弾が、曲がって……」

迫り来る敵弾が、突如としてその軌道を変えたのだった。
放たれる弾幕の一つ一つが、不規則に軌道を変えて迫り来る。
機体を急停止してやり過ごすと、敵弾は元の通りの軌道を描いて後方へと消えていった。
尚も続々と迫り来る敵弾を見極めながら掻い潜る。
先ほどの敵弾、その軌道の変化は一体なんだったのか。
敵艦から距離を取り、速度を落としてよける限りには敵弾の軌道に変化は見られない。
805 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/02(金) 22:13:31.58 ID:cDkHzoMe0
スゥは考える。
恐らく、この変化こそが艦隊に起こった異変を突き止めるためのヒントとなるはずだ、と。
だが、ここでこうして回避を続けていても、一切変化は見られない。
やはりここは再び敵に肉薄し、その正体を探るしかないのだろう。

「曲がる弾でもなんでも、もってくればいい。……私を、止められるものか!」

再び速度を上げて、ラストダンサーが敵艦に肉薄する。
そうして速度を上げた途端、やはり敵弾は曲がりその軌道を変える。
否、違う。曲がっているのは――。

「これは、宇宙が。空間そのものが、歪んでいるというの?」

そう、目に映る全てが。
宇宙が、敵艦が、そして自分の機体そのものが、歪んで映っているようだった。

「空間が歪んでいる。そして、何らかのきっかけでそれが発現する。
 恐らく……速度が原因ね。でも、それさえ掴むことができればっ!」

武装変更。フォースをアンカーフォースへと切り替える。
そしてそのまま砲台の並ぶ敵艦の上を通り過ぎながら、アンカーフォースが持つ広域に攻撃可能な攻撃兵器。
ターミネイト・γがその威力を存分に発揮した。
撃ち放たれ、180度の広域を薙ぎ払った光線は、敵艦表面に立ち並ぶ砲台を焼き払う。
対空砲火を失った戦艦に、ラストダンサーを悠々を機首を向け。
R-11系列機が備えるギャロップ・フォース改へと変更させたフォースから、最大収束のビームレーザーSを叩き込んだ。
敵艦に突き刺さり、それは容易く艦中枢部を破壊し尽くした。

爆発と共に潰えていく敵艦。
やはり、その姿は歪んではいないようだった。

「……なるほどね、だいたいわかったわ」

その交錯に、推測が確信に変わったのを感じ。
スゥは、後方の艦隊へと通信を送るのだった。
806 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/02(金) 22:14:11.06 ID:cDkHzoMe0
「ラストダンサーよりアスガルド。どうやらこの異変の正体がわかったわ」

「何だって、それは本当か!?報告を頼む」

依然、遅々として進まぬ解析に頭を抱えていた九条には
それは、まさしく救いの手とも呼べるようなものだったのだろう。
彼は、すぐさまそれに飛びついた。

「どうやら、この跳躍空間そのものがバイドによる汚染を受けているようね。
 空間そのものが歪んで、真っ直ぐ進んでいるはずの機体の軌道さえもずれてしまう。
 恐らく、速度を上げるとそれに比例して歪みも大きくなるのだと思うわ」

「ふむ、確かにそれならば艦隊行動中の部隊が進路を誤るのも分からないではない。
 その結果があの追突というわけか。……ふむ、確かに筋は通る」

九条は再び戦況に目を移す。
敵の軍勢に、ついにR戦闘機部隊が接触。激しい戦いが繰り広げられていた。
その最中、兵の間からは同様の異変を知らせる報告が次々に上げられてきた。

「……どうやら間違いは無いようだ。恐らく異変の元凶がどこかにいることだろう。
 我々はこのまま元凶を探る。ラストダンサーはそのまま、敵艦を撃破してくれ」

「その必要はないわ」

九条の言葉に即座に続いて、スゥはそんな言葉を返した。

「どういうことかな?」

「敵陣の奥に、巨大なバイド反応を検知したわ。恐らく、それがこの敵部隊の中枢。
 そして、この異変を生み出した元凶のはずよ。……このまま撃破に向かうわ」

その言葉に確証はない。
しかし、今までの戦いではその多くが、最奥に潜むバイド中枢。
それを討つことで、戦況が好転してきたことも事実。
元よりラストダンサーは、単騎特攻用の決戦兵器。その力を発揮するのに、これほどうってつけの状況もないだろう。
807 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/02(金) 22:14:57.41 ID:cDkHzoMe0
「……では、任せよう。せめて護衛をつけさせようか?」

だが、あれほどの軍勢に単騎で挑む。
それが、どれほど自殺行為に等しい行為であるかを、九条もよく知っている。

「必要ないわ。どうせ、私には誰もついて来られない」

「……頼もしいな。必ずやり遂げてくれるね?」

孤高の英雄と言えば聞こえはいいが
ここまでスタンドプレーも過ぎると、流石に扱いようが無い。
結局、好きにやらせるより他にないのかと、九条は一つ嘆息し。

「こんなところで、貴方達を死なせるつもりは無いわ」

それを最後に、ラストダンサーは通信可能範囲の外へと飛び出したようで
通信は、唐突に打ち切られるのだった。

「まあ、上手いことやってくれるのを祈ろう」

一抹の不安を抱えながら、九条も意識を迫り来る敵へと向けた。
速度を上げさえしなければ、それほど空間の歪みは深刻ではないのかもしれない。
それならば、負傷艦を後方に下げ、動ける艦は前面に押し出し援護をさせたいところだが。

「まずは、状況を確認しよう。解析班。ラストダンサーからの報告を元に
 現在起こっている異変の解析を続けてくれ。どうにか艦を動かさなければ話にならん」

手短に指示を飛ばし、そして。

「解析が終了次第、艦を前進させ、艦砲射撃で敵艦隊を攻撃する。
 動ける艦は、それに備えて待機せよ!」

時を追うごとに苛烈に膨れ上がる戦場。
それをすぐ前方に眺めながら、九条は艦隊へと指示を与えた。
808 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/02(金) 22:15:47.13 ID:cDkHzoMe0
「……だ、そうだね。織莉子。どうしようか」

その通信を、密かに傍受していた機影が二つ。

「決まっているわ。倒さなくちゃいけない敵はそこにいる。
 ここの守りは、彼らに任せることにしましょう」

周囲の敵を殲滅したダンシング・エッジとヒュロス。
その二機が、ラストダンサーの向かった先へと機体を走らせる。

「そうこなくっちゃ。こんな雑魚の相手ばっかりじゃあ物足りないよ。
 やっぱり私と織莉子の相手は、大物じゃなくちゃあねっ!」

「そのバイドを倒せば、きっと皆も助かるはずよ。いくら英雄だって、一人では辛いはずだもの」

模擬戦の直後、そのままに突き進む二人である。
他の機体より先んじて、敵陣に食い込むことができていた。
恐らく、ラストダンサーを追うこともできるだろう。
だが、敵も容易く行かせはしない。
英雄を追うということは、それと同じ道を行くということで。
その前には、無数の敵がひしめく長い道があった。
809 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/02(金) 22:17:19.39 ID:cDkHzoMe0
戦況は、一進一退の様相を見せていた。
敵は機動兵器と戦艦が主。しかし敵艦は対空砲火に重点を置いたものであり
そこから放たれる弾幕は、時空の歪みと相まって次々にR戦闘機に食らいついていた。
とは言え、キャンサーやストロバルトボマーでは真正面からR戦闘機に立ち向かうには力不足。
障害物の一切無い跳躍空間においては、不意を突くような術もない。
英雄は未だ敵陣深くあり、通信さえも届かない。
敵も味方も、この状況に埒を明ける術を未だ持たずにいた。

痺れを切らしたのだろうか、敵艦の中でも一際大きなものが一隻、無数に被弾しながらも
艦隊へと向けて突撃を仕掛けてきたのだった。

「対艦装備を持たない艦が、何故……とにかく迎撃だ。敵は一隻。
 艦首砲は温存しろ。一般兵装の集中砲火で、奴を撃沈させる!」

前面にて待機していた艦隊が、その兵装を敵艦に向ける。
追尾レーザーやミサイル、そして主砲が次々に敵艦に突き刺さり、損傷を与えていく。
全身から爆炎と黒煙を巻き上げながらも、敵艦は尚も艦隊を目指し突き進んでいたが
ついに機関部に主砲が直撃、炎の中にその艦体は没した。

「流石にこれだけの艦での一斉射撃だ。耐えられるわけが無いさ」

敵陣の動きに注視しつつ、九条は沈む敵艦を眺めた。
丁度、その時に。
沈む艦のその奥から、何かが這い出してきた。
それは、それは――。
810 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/02(金) 22:18:28.95 ID:cDkHzoMe0
「敵艦内部に巨大なバイド反応!これは……巨大な機動兵器!?」

そう、まさにそれは機械でできた異形の魔人。
それはかつて、朽ちた神殿の奥で人類が邂逅した、恐るべき悪夢。
その、冷たい鎧の奥で微笑むその悪魔は。

「該当データ、有りっ!これは……ザプトムですっ!」

第二次バイドミッション当時、出撃したR-9C――ウォー・ヘッドの前に立ちふさがった最初の大型バイド。
ドプケラドプスの残骸から作られた、惑星破壊兵器と呼ばれるバイドだった。
しかも、ウォー・ヘッドが遭遇したそれは未だ未完成。四肢をもがれた姿であったのだが。
今、第二次バイド討伐艦隊の前に立ちふさがったそれは。
その禍々しき手に、死神の鎌がごとき巨大な武器を掲げ。
その下半身は、まるで蟲の腹部を思わせる無数の節に分かれた機械で構成されていた。

これがまさしく、ザプトムの完成した姿。
最早人型すらも失った、まさしく真なる異形の機械。
オージザプトム。そう呼ばれたその悪魔は、炎に潰えた鉄の子宮を食い破り
今、食らうべき敵をその眼に捉えた。

この世のものとは思えない、おぞましくも恐ろしい産声が。
跳躍空間を揺らして、響き渡った。
811 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/02(金) 22:24:06.09 ID:cDkHzoMe0
やっとオージザプトムさんを出すことができました。
リクエストしていただいたのですから、ずっと出そうと考えていましたが
上手いこと場所を見つけることができたようでよかったのです。

>>798
人類は最早完全にバイド機を操る術を確立させてしまったようです。
沢山バイド機と戦って、サンプルも回収できましたしね。

杏子ちゃんもマミさんも、ほむらちゃんも亡くなって。
いよいよ話は最終局面ですが、いささか寂しい感じもしてしまいますね。

>>799
このあたりはFINAL4面をベースにしています。
あんなぐねぐねとした場所に、大艦隊が突入すればああもなりましょう。
そしていよいよオリジナルの戦艦、アスガルド級も登場しました。
そろそろ活躍してもらわねばなりません。ふふふ。

さやかちゃんはどうなりますやら、最早彼女は戦える状態ではないことだけは確かなようです。

>>800
ルネちゃんはルネちゃんで、自分の願いの為に必死に戦っているのでしょう。
それは、ゲルヒルデさんも同じです。
どれほどの犠牲を払ってでも、願いを叶えるために戦っているのです。
812 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/03/03(土) 00:45:47.04 ID:9s40zcnZo
Finalの4面は研究所では?というツッコミはさておき
乙です。

ファインモーションはFinalのボスの中で一番嫌いだな。
813 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/03(土) 08:12:09.70 ID:J0+po37DO
お疲れ様です!
アスガルド級がどう活躍するのか楽しみですね!

織莉キリの通信傍受による行動が裏目に出なきゃ良いけど…。
814 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2012/03/03(土) 23:21:15.80 ID:oKfMkYJI0
乙です!
オージザプトムって設定だけ出てきたあれか…

ファインモーションって棒壊したらルート変わるやつだっけ?
815 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/03/04(日) 02:16:31.84 ID:y3if/Aj1o

5面の歪みは主にファインさんのレーザー的な意味で嫌いだったなぁ
アスガルド級は両翼に必殺の砲門ということでルクシオールを思いだすでござる
816 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/03/05(月) 17:53:20.51 ID:Okm/Hh310
ちょいと間が空きましたね。
では、今日も投下です。

817 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/05(月) 17:53:55.43 ID:Okm/Hh310
「まさか、艦内部にあんなデカブツが眠っていたとはな」

ビリビリと、おぞましい産声が跳躍空間を揺らし、その振動が艦にすらも伝わる。
震えているかのように、微かに揺れる艦内で。それでも動じず九条は呟いた。

「だが、出てきた場所が悪かったな。艦砲射撃で蜂の巣にしてくれるっ!
 艦首砲の使用を許可する。敵に反撃の余裕を与えるなっ!!」

おぞましい産声が止み、オージザプトムは眼前に存在する敵の姿を知覚した。
それとほぼ同時に、十数門の陽電子砲が火を噴いた。
それはあまりに眩く、あまりに力強く、オージザプトムの巨体を飲み込んだ。
あらゆる物体を消滅させる、圧倒的な破壊の波。それは間違いなく、オージザプトムの鋼の巨体を押し潰した。

「十隻以上の艦による、陽電子砲の一斉射撃だ。敵が何であれ、耐えられるはずが……」

だが、ああ。なんということだろうか。

「バイド反応は健在です!これは……何か、反応が」

オペレーターがバイドの生存を報せる。
だが、その言葉が最後まで告げられるよりも前に、艦隊の一角に無数の光の刃が突き刺さった。
その光の刃は艦の装甲をものともせずに打ち砕き、多くの艦に深刻な損傷を与えていた。
艦隊に驚愕が走る。その一撃の主は、それは。

陽電子砲の雨を物ともせずに受け止め、まるで無傷でそこにいる、オージザプトムの姿だった。

「な……っ。あれほどの陽電子砲を受けて、無傷……だと」

さしもの九条も、バイドの恐るべき堅牢さには驚愕を隠すことができなかった。
818 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/05(月) 17:54:34.04 ID:Okm/Hh310
「今の攻撃は……恐らく超振動波です。ザプトムは、その体内で超振動波を発生させ
 それを放出することで攻撃を行うことができるようです」

第二次バイドミッションのデータを参照し、アスガルド級のオペレーターが九条に告げた。

「なるほどな。それで、ウォー・ヘッドはあの化け物をどのように撃破していたんだ?」

そう、ザプトム自体は人類にとっては既知の敵。
第二次バイドミッションの際に、既に交戦データは得られており
更にその後の残骸を回収、解析することによってその行動や弱点についてのデータも既に得られていた。

「はい、敵の超振動波は敵中枢部より発生していることが確認されています。
 さらに、その発射の直前にのみ開かれる発射口を攻撃することで
 敵中枢部を撃破することができる……とのことです」

「ふむ。ではR戦闘機部隊をいくつか戻らせろ。敵をこちらに近づけさせるな!
 艦隊は艦首砲のチャージを続行しつつ待機だ。発射口が開いた瞬間に、一斉射撃を行う!」

「了解、各員に通達します」
819 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/05(月) 17:54:58.86 ID:Okm/Hh310
「見えたぜ。あれがザプトムか。……資料で見たものよりも随分デケェな」

前線を離脱し、艦隊に迫るザプトムの元に辿りついたR戦闘機。
先の模擬戦で、ラストダンサーと激しく競り合った機体である
ウェーブマスターとアーヴァンクがいち早く後方へと戻り、オージザプトムの前に立ちはだかった。

「かつて英雄が戦ったという相手。相手にとって不足は……ないっ!」

二機はそのまま絡み合うように軌道を描き、オージザプトムへと肉迫する。
オージザプトムもまた、迫り来る敵の姿を察して、迎撃体制へと移る。

背部のハッチが開き、そこから無数の球体が吐き出された。
吐き出されたその球体は、R戦闘機に匹敵するほどのサイズを持ち、ふわふわと漂うように二機へと迫る。
超高速の戦闘の最中では、追尾性能をもつ兵器を掻い潜るのはさほど難しくはない。
むしろこの球体のように、ふわふわと低速で漂う弾幕の方が、回避は困難であった。
それでも彼らはエースである。不規則に浮動する敵弾を掻い潜り、距離を詰めていく。
できる限りこちらに敵の意識を向けさせて、艦隊への攻撃を阻止するために。
まさしくそれは、死と隣り合わせの、命がけの舞だった。

「くっ……回避しきれねぇか。……だが、なめるんじゃぁ、ねェッ!!」

不規則な敵弾の動きに知らずの内に追い詰められて、周囲を敵弾に囲まれたアーヴァンク。
あわや被弾するかと思われたその直前に、アーヴァンクの放ったスケイル波動砲が敵弾を打ち砕いた。
着弾後、分離する性質を持つスケイル波動砲は、敵弾を打ち砕くと共に四散。
周囲に浮遊している敵弾を、まとめて打ち砕いた。

「さァて……そろそろかますぜ。デカブツさんよォ……」

どうやら、スケイル波動砲は都合よく、オージザプトムの元へいたる道さえも切り開いていた。
これが好機とばかりに、一気に出力を上げ、敵へと向かうアーヴァンク。
機体の調子は万全。アーヴァンクはその全身に力を漲らせ、オージザプトムへと迫る。
だが……。
820 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/05(月) 17:55:25.98 ID:Okm/Hh310
「何だ、こりゃア……出力が、どんどん上がっていきやがる……ッ!?」

そう、漲る力は天井知らずに膨れ上がっていく。
本来機体に想定されていた限界さえも超え、更に。

「どうなってやがるってんだよ……こいつはヨォ!?」

更に、機体はコントロールを失ってしまう。
驚愕を抱えながらも、必死にコントロールを取り戻すための操作を続ける最中
唐突に、鳴り響く警報。

「今度はなんだァ!?んなっ……バイド汚染が、ゾーンBだと」

アーヴァンクがバイド機である以上、少なからずバイド係数が検出されるのは当然だった。
しかし今、アーヴァンクが示しているバイド汚染は、安全圏であるゾーンS(SAFETY)を
そして戦闘を中止し、除染を受けるレベルであるゾーンC(CAUTION)さえも超えていた。
現在のアーヴァンクのバイド汚染は、即財に機体を破棄するレベルにまで深刻なゾーンB(BYDIC)にまで到達していた。

その直後、アーヴァンクは全ての機能を停止した。
モニターは一切の映像を映すこともなく、外部の様子を知る術は何一つとしてなくなってしまった。
あれほどやかましく鳴っていた警報さえも、ぷつりと途切れてしまっていた。

「クソッ!何が一体どうなってやがるんだ!誰か、誰か応答しろオッ!!」

必死に呼びかけるものの、通信すらも死んでいるのだろうか。一切応答は得られなかった。

「ハッ……ハァッ……何だよ。何だっテンダヨォォォォッ!!」

何も見えない。何も聞こえない。誰もいない。
絶対の静寂と孤独。そしてここは戦場。その最前線なのだ。
何一つ分からないまま、次の瞬間には自分が死んでいるのかも知れないという恐怖。
それは、確実に彼の精神を蝕み、破壊していった。
821 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/05(月) 17:56:08.12 ID:Okm/Hh310
傍から見ると、それは不可解な光景だった。
オージザプトムに肉迫したアーヴァンクは、一切の攻撃を放つ事もなくその横を通り過ぎ。
失速しながら、そのまま漂うように流れていったのである。
そしてアーヴァンクは、オージザプトムに攻撃を仕掛けるために後方へと戻った
R戦闘機部隊の前へと流れ着いたのだった。

「アーヴァンク。一体どうしたんだ。応答しろ、アーヴァンクっ!」

呼びかけても返事は何も帰ってこない。
何かが起こったということは確実だろう。
だが、その原因に誰一人として思い至るものはいなかったのだ。

「ステイヤーはアーヴァンクを牽引し、一旦帰投しろ。我々はザプトムへの攻撃を続行する」

それでも、アーヴァンクを捨て置くこともできずに
部隊の隊長はそう命令を残し、R戦闘機部隊は再び、オージザプトムの元へと向かうのだった。

だが、その時。
沈黙を守り続けてきたアーヴァンクが目を覚ました。

「っ!?アーヴァンク?無事なのか、応答しろ、アーヴァンクっ!」

再起動したアーヴァンクに、随行していたステイヤーが通信を送った。
だが、それを駆る、彼は。

「敵だ、敵ハドコから来ルっ!敵は、敵はブッ殺サナクッチャナァァァッ!!」

バイドの精神汚染か、それとも死の恐怖に晒され続けていたが故か。
彼の精神は既に崩壊してしまっていた。それ故に。
彼の目に映るものは全て……敵だった。
822 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/05(月) 17:56:35.75 ID:Okm/Hh310
スケイル・フォースより放たれた、鱗状のレーザー、スケイルブラスターが
すぐ側に居たステイヤーを貫き、炎の中へと消し去った。
更に彼は視線を向ける。オージザプトムの元へと向かう、R戦闘機の部隊へと。

「アソコニモ、敵ガアンナニタクサァァン!皆殺シダァァァッ!!」

最早その狂気は収まることを知らず、全てを飲み込もうと膨れ上がる。
膨れ上がった狂気につられ、その機体までもが膨れ上がっていく。
鱗が内側から弾け飛び、赤黒い肉が沸きだした。
更にその上を這うように、波打つ鱗が広がっていく。
ついにはスケイル・フォースによく似た巨大な球状となり、アーヴァンクであったモノは
今やただのバイドと成り果ててしまったモノは、R戦闘機部隊へと攻撃を開始するのだった。
823 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/05(月) 17:57:09.90 ID:Okm/Hh310
「……これだから、バイド機は信用できないんだ」

変貌、そして奇襲。そして甚大な被害を出した上の撃破。
その報告を受けて、九条は忌々しげに呟いた。

「いえいえ、あの機体は完璧ですとも。不備なんてあるはずがないでしょう」

そんな九条に、横合いからの女性の声。
その通信の主は、解析班の一員で、バイド機の開発と保守にも携わる研究者。
言わずもがな、TEAM R-TYPEの人間であった。

「信用できるか!現に、ああして暴走しているではないか」

「あれは機体に原因があるのではありませんよ。恐らく敵の攻撃によるものです」

尚も疑わしいといった態度を崩さない九条。
それを気に留めることもなく、女は言葉を続けるのだった。

「あのザプトムが放った巨大な弾は、恐らくバイド粒子の塊なんでしょうね。
 アーヴァンクがあれを破壊したことでその粒子が飛散し、機体を汚染したのだと思うわ」

「だが、R戦闘機には耐バイドコーティングが施されている。
 飛散した粒子程度でそこまで汚染されるものなのか?」

「……それだけ高濃度のバイド粒子なのでしょう。
 もしかしたら、バイドを利用した生体機なので、干渉されやすかったのかも知れませんが」

「やっぱり機体が原因じゃないか」

どうにも、疑わしさが拭いきれない九条であった。
824 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/05(月) 17:57:44.80 ID:Okm/Hh310
「と、とにかく、あの敵弾はなるべく破壊しないようにさせたほうがいいでしょう。
 通常の機体でも、もしかすると影響が出ないとも限りませんし」

「……わかった。それで、解析のほうはどうなっている?」

敵の事は気がかりだったが、それ以上に今
艦隊の足を止めているこの空間汚染もまた気がかりで、深刻なことだった。

「ええ、そうですね。その剣で連絡しようと思ったいたのです。
 やはりこの時空の歪みの原因は、バイドによる空間汚染で間違いはないようです」

「そうか。それで対処法は見つかったのか?」

「この手のものは、汚染の原因となるバイドを倒せば収まるはずです。
 それと、速度に比例して歪みが大きくなるというのも間違いはないようです」

それはそれでありがたい情報ではあるのだが、結局状況を確認できただけなのか、と。
九条は、わずかに落胆したような様子を見せた。
だが、どうやら解析にて判明したことは、それだけではないようだった。

「通常の航行速度では、進路に影響が出るほどに歪みは大きくなるでしょうが
 艦が戦闘行動を取る程度の速度ならば、歪みはほとんど影響は出ないでしょう」

「それを先に言えっ!よし、それならばこちらからも打って出ることができるぞ」

思いがけない収穫に、九条の表情が明るくなった。
どうやらこれで、いつまでも後方で縮こまっているような羽目にはならずに済みそうだ、と。

「では早速打って出よう。まずは負傷した艦を後方に下げるぞ、それから……」

矢継ぎ早に指示を飛ばす九条に、女は最後に一言を告げた。

「九条提督。あの暴走したアーヴァンクですが、どうにか残骸を回収できませんか?
 いい研究サンプルになりそうなんですが……」

「無茶を言うなっ!」

鋭く一言だけ返し、九条は通信を切った。
825 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/05(月) 17:58:21.18 ID:Okm/Hh310
「何を言い出すかと思えば、こんなときにまであんな事を。
 ……これだから科学者共は」

忌々しげに呟いて、そして。

「まあ、この戦いが終わればもうバイドの研究も必要なくなるんだ。
 早いとこ、そうしてしまわなくてはね」

小さく嘆息し、そして再び、九条は意識を戦場へと向けた。
826 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/05(月) 18:04:23.87 ID:Okm/Hh310
土日は友人宅でR-TYPE FINALしてました。

>>812
ですね、4面は研究所です。
この話の中では軽く端折っちゃったとこですね。

そして未だにメガギガ波動砲以外では安定して倒せません、ファインモーション。

>>813
まずは対オージザプトムです。
アスガルド級にもちゃんと見せ場はあると思うのですが、さてどうでしょう。
こちらは100%R-TYPEなので、魔法少女の活躍は見られなさそうです。

>>814
ですね。イリーガルミッションで一応全貌を見ることができます。
なんでか鎌持ってるんですよね、あいつ。
惑星破壊兵器……?

>>815
冗談抜きでファインモーションさえなんとかなれば
後は普通に越えられるところなんですけどね。
進みたい面を選ぶのもなかなか骨だし、ほんとに大変です。

そして即効で元ネタが(ry
というわけなので、アスガルド級の性能は概ねアレに準じる訳です。
827 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県) [sage]:2012/03/05(月) 18:15:21.51 ID:jwT75Z/Do
惑星を刈り取る・・・形をしているだろ?

こういう事だな^p^
828 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/03/05(月) 20:18:21.17 ID:0fqQr86Vo
惑星そのものを破壊と言うよりはその地表にあるものを破壊しつくす的な意味だったりして
829 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/06(火) 07:40:34.54 ID:K93g+rUDO
お疲れ様!
いつ如何なる時も全くブレないTEAM R-TYPE。 しかしバイド機ェ…。
830 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/03/06(火) 17:29:29.96 ID:VuGojVIa0
バイドきのかいはつたのしいです。

では、今日も投下しましょう。
831 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/03/06(火) 17:31:01.31 ID:VuGojVIa0
「超振動波発生の予兆を確認!発射口が露出した瞬間、艦首砲による一斉射撃を行います!」

アスガルド級より、随行する艦隊へと指示が伝えられた。
先ほどの超振動波は、陽電子砲の余波にまぎれて発射の瞬間を捉えられなかった。
だからこそ、今度は確実に。超振動波の発射に先んじて陽電子砲を叩き込む。
そうでなければ、間違いなく更に被害は広がることは容易に予想できた。
これ以上の被害を出さないためにも、一瞬の隙間に勝負をかけるしかなかったのだ。

そして何より、R戦闘機の攻撃を受け続けて尚、オージザプトムに目立った損傷は見られない。
無数のレーザーやミサイル、波動砲が叩き込まれたというのに、その動きは一切止まらなかったのだ。
やはりこれは、弱点を狙い打たなければ撃破することはできない。
そう誰しもに直感させるほどに、オージザプトムはその堅牢さを誇っていた。

「第二次バイドミッションの時のザプトムは、確か腹部に超振動波の発生器官があったのだったな」

確認するように、九条が呟いた。
今回も同じであるとは限らないが、その可能性も低くはない。
アスガルド級は未だ自陣の奥にあり、直接オージザプトムを狙うことはできないが
それでも、敵の動きを見逃さぬよう、じっと目を凝らして待っていた。

「超振動波検出!……来ますっ!」

「艦首砲の発射準備はいいか?あいつが超振動波を撃つ前に、ケリをつけるぞ!」

後はただ、その時を待つだけだった。
敵の攻撃に先んじて、最大の一撃を叩き込む。
その瞬間を、ただ待つだけだったのだ。
832 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/03/06(火) 17:31:46.46 ID:VuGojVIa0
次の瞬間。オージザプトムの巨体から光が放たれた。
けれどそれは、腹部からではなかった。
その後頭部より伸びた、いくつかの節に分かれた器官。
そこから突き出た突起の先端から、超振動波は放たれようとしていたのだ。

「撃てぇーっ!!」

多少の差異は想定の範囲内。
放たれる場所が違おうと、それを放つ際には弱点が露出するだろう。
そう踏んで、九条は艦首砲の一斉発射を支持した。

再び、無数の光が空間を焼き尽くす。
たとえ狙いが定まっていなかろうと、これだけの威力と照射面積を誇る攻撃である。
逃れる術など、何もないと思われた。
だが、彼らは見誤っていたのだ。バイドの持つ進化能力を
より効率よく敵を倒すという、よりながく生存するという本能を。

あれだけの砲火にも関わらず、超振動波は放たれた。
そしてその超振動波は、やはり無数の光の刃のように拡散し、艦首砲を放った艦隊へと次々に突き刺さっていった。

「な……にぃィっ!?」

撃沈1、大破2、中破4。
被害は更に甚大だった。そして何よりも
あれだけの陽電子砲の雨を、超振動波の発射にあわせて放たれた一撃を
完全に無傷で凌ぎきった、オージザプトムの信じられないほどの堅牢さ。
それは今度こそ完璧に、第二次バイド討伐艦隊を驚愕と恐慌に陥れていた。
833 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/06(火) 17:32:24.63 ID:VuGojVIa0
「む、無理だっ!あんなの、倒せっこねぇ!」

恐怖に駆られて。誰かが叫ぶ。

「戦艦を一撃で落とす攻撃力、陽電子砲を物ともしない防御力。
 流石にこれは、ちょっと不味いな」

九条もまた、その表情はどうにも渋い。
今のところ、オージザプトムに有効なダメージを与える術は何もないのだ。
敵が無敵だとは考えない。だが、有効打が何一つとしてないのもまた事実。

「とにかく攻撃を続けろ!どこか……どこかに必ず弱点はあるはずだ!」

今までどおりの戦い方が通用しない以上
やはり、まずは敵の弱点を探るしかない。
そしてその間、これ以上艦を敵の超振動波の脅威に晒し続ける訳には行かなかった。
さらに、状況は尚も悪化する。

「前方のR戦闘機部隊より入電!敵は対R戦闘機に特化した部隊であり
 R戦闘機部隊の被害は甚大。早急に艦砲射撃による援護を求む、とのことです!」

「なるほどな、これは一杯食わされたようだ」

報告を受け、九条の表情も青ざめる。
あまりにも、あまりにも状況は悪かった。
空間の歪みによって、小回りの利かない艦の足を止める。
その上で艦とR戦闘機を分断し、鈍重だが堅牢、そして対艦クラスの攻撃力を持つ機動兵器を後方の艦にあてる。
そして対R戦闘機用の装備を持つ艦や機動兵器を、前線に送られるR戦闘機へとぶつけさせる。

これは敵の意図するところなのかどうかはわからない。
それでも、今第二次バイド討伐艦隊は、まさしく絶体絶命とも言うべき状況であった。
状況を切り開く術があるとすれば、何とか眼前のオージザプトムを撃破するか
もしくは英雄あたりが、時空の歪みの原因を断ち切ってくれるか、であろう。
834 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/06(火) 17:34:01.44 ID:VuGojVIa0
「そして、人任せにできるほど暢気な状況では、ない」

どうにか、活路を切り開かなければ、待っているのは全滅だ。
それはそのまま、人類の黄昏をも意味する。

「第三から第六部隊までで、動ける艦はなんとかザプトムを回避して前方に向かってくれ。
 代わりに、前線からはR戦闘機を三部隊ほど戻らせろ。ザプトムの足止めに回させるんだ」

そう、たとえどんな状況であれ、あきらめるわけにはいかないのだ。
それが、かつての英雄との誓い。
人類を守るという誓いと共に、背負った重荷なのだ。

「アスガルド級も前に出すぞ。負傷艦の後退した穴を埋める」

「危険です、いくら本艦でも、あの超振動波を受けては……」

「分かっている。だが、負傷艦をそのまま留めておくわけにも行かん。
 どの道、死中に活を見出すような仕事さ、これは」

「……了解しました」

そしてついに、アスガルド級も動き出した。
交代する艦を守りながら、敵のこれ以上の侵攻を押し留めるように艦砲射撃を繰り返す。
損傷は与えられなくとも、足止め程度にはなるようだった。
835 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/06(火) 17:34:37.27 ID:VuGojVIa0
「好き放題にやってくれるな……だが、これ以上はやらせるものかっ!!」

オージザプトムに肉薄し、幾度かの交錯を経て尚健在であったウェーヴ・マスター。
超振動波の発射口は確認できた。陽電子砲の広域斉射では損傷を与えることはできなかったが
波動砲による精密射撃でなら、発射口を狙い打つことができるかもしれない。
そう考え、再びウェーヴ・マスターは砲火渦巻く空間へと飛び込んでいった。

ともすれば誤射の危険もある中を、ウェーヴ・マスターは自由自在に飛んでいく。
そして更に放たれるバイド粒子弾。巨大な弾が漂いながらウェーヴ・マスターの元へと迫る。

「これ以上は、これ以上は……っ」

ひたすらにかわし、掻い潜り。
機体性能の限界を、あからさまに一歩超えた軌道を描いて、ウェーヴ・マスターがついにオージザプトムに迫る。
ザイオング慣性制御装置ですらも軽減しきれない慣性が、機体内部のパイロットを揺さぶる。
軋む体、喉の奥に広がる血の味。
自分の体が壊れていくのを自覚しながら、それでも敵を討つために、彼は機体を突き進ませた。

「見えたぞ!こいつを、食らえぇっ!!」

そしてついに、オージザプトムの後頭部に備えられた超振動波の発射口に、ウェーヴ・マスターの波動砲が炸裂した。
全ての波動砲の、ひいてはバイドを討たんという人類の意思の、その祖となったスタンダード波動砲。
その出力を極限にまで引き上げ、威力及び弾体サイズの向上しただけではなく
放射されたエネルギーが再収束することにより、より効率的な攻撃を可能としたものが
ウェーヴ・マスター。波動をきわめた者との異名を持つ機体の放つ、スタンダード波動砲Vであった。
836 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/06(火) 17:35:06.22 ID:VuGojVIa0
「そんな……これでもまだ、無傷……なのか」

それでも、やはりオージザプトムの堅牢さの前ではそれも無力。
叩きつけられた波動砲も、そして再収束する細かな波動の粒子でさえ
オージザプトムの表面を焼くばかりで、有効打とは成り得なかったのだ。

「まだだ、まだ、もう一発……っ!?」

それでも諦めず、再度波動砲のチャージを始めたウェーヴ・マスター。
しかし、その頭上を覆う、影。
それは、オージザプトムがその手に掲げた大鎌だった。
鎌自体がブースターを備え、恐るべき速度でウェーヴ・マスターへと振り下ろされた。
それは最早、斬撃などと言う生易しいものではなかった。

振り下ろされたのは、圧倒的な破壊。
それを為す異形の大鎌はあまりに大きく、あまりに無慈悲。
その一撃は、線ではなく面を為して、ウェーヴ・マスターを寸断した。

必死に回避するもあたわず、大鎌の側面がウェーヴ・マスターを叩き切り、爆発が巻き起こる。

「そんな、そんな……っ。ならば、死なば諸共ぉぉぉっ!!」

機体の損傷は重大。だが、まだ推進部は生きている。
ならばせめて、この身を弾丸と化して。
まさしくその一撃は、突攻としか言いようのない行動だった。
そして陽電子砲ですら無傷である敵に対して、その行動はさしたる意味もない。
そう、思われた。
837 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/06(火) 17:35:37.38 ID:VuGojVIa0
「く……まっすぐ、飛んでくれよ……ぉ」

辛うじて推進部が動くとは言え、最早機体のコントロールは完全に失われている。
ウェーヴ・マスターはふらふらと漂い、超振動波の発射口へは向かわない。
湧き上がるバイド粒子弾にぶち当たり、それを突き抜ける。
バイド粒子による汚染は脅威だが、直接的な破壊力には乏しいようで。
そのままウェーヴ・マスターは、バイド粒子弾を吐き出すハッチへと吸い込まれていった。
そして、そのまま爆散する。

「……また一人、エースが逝ったか」

腕のいいパイロットといのは、非常に得がたいものなのだ。
戦いで失われるのは仕方のないことだが、それでも心苦しくはある。
九条は、苦々しい思いで未だに暴威を振るい続けるオージザプトムを睨んだ、だが。

「敵に変化あり。……これは、ウェーヴ・マスターが突入した箇所より、炎が噴き出しています!」

そう、今まで無敵の堅牢さを誇っていたオージザプトム。
だがしかし、今。ウェーヴ・マスターの突攻が状況を変えた。
彼がその機体を突入させた、バイド粒子弾を吐き出すハッチ。
そこから噴き出す炎は、ウェーヴ・マスターの爆発によるものだけではない。
それを裏付けるように、オージザプトムが苦悶の声を上げた。

「効いてます!あのハッチです!バイド粒子弾を吐き出すあのハッチが、どうやら敵の弱点のようです!」

「……流石はエースだ。ただでは死なないということか。
 敵の弱点が分かった。そこに攻撃を集中させろ!なんとしても、奴を破壊するんだっ!」

彼の死を無駄にするわけには行かない。
すぐさま九条は、各員に指示を飛ばした。
838 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/06(火) 17:36:20.11 ID:VuGojVIa0
「しかし、厳しいな……これは」

敵の弱点を知り、攻撃を開始してより数分。
既に無数のR戦闘機が、そして艦が敵弱点への攻撃を開始していた。
だが、未だオージザプトムは健在。
というのも、弱点である場所に問題があった。
バイド粒子弾を吐き出し続けるハッチは、そのバイド粒子弾そのものが防護幕となっている。
否応なくバイド粒子弾を破壊せざるを得なくもなり、バイド粒子の飛散も深刻であった。
ハッチ自体はそれほど大きくもなく、艦砲射撃で狙うのも困難だった。

「汚染を覚悟で機体を突入させるか、汚染圏外から地道に攻撃するか……でしょうか」

傍らのガザロフもまた、困ったような表情で戦況を見つめていた。

「……いや、奴には超振動波がある。持久戦となれば、こちらが不利だ。
 一つ、博打を打つとしようか」

「何か策があるんですか、提督っ」

信頼と、そして機体を込めてガザロフが問う。
それに大して、九条はにぃ、とその笑みを深めた。

「あれを使う。パターンDからP。総員に通達!3分以内に準備を済ませろっ!」

「パターンDからPって……提督。それは……」

その意図を理解すると、今まで九条と共に数多の作戦を共に潜り抜けてきた彼女も
流石に顔色を変えて、信じられないものを見るような目で九条を見つめた。

「……ああ、無茶な博打だろう?」

「無茶苦茶です。……でも、アスガルド級の性能なら、いけますよ!」

数多の戦場を経て築き上げた信頼と、その手腕への期待。
そして、まるで新しいおもちゃを使いまわす子供のような純粋な好奇。
そんな感情を込めて、その眼をきらきらと輝かせながら。
ガザロフは、九条に一つ、力強く頷いた。
839 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/06(火) 17:41:01.32 ID:VuGojVIa0
>>827
OSR師匠お疲れ様です。
そういえば、OSRTRPGなんてものもありましたね。
あれはあれでお手軽そうなので遊んでみたいな、と思いました。

>>828
なんというか、鎌よりも鍬のほうがしっくり来る気がしますね、それだと。
ああ、アストロノーカ(バイド)。

>>829
彼らのバイドに対する情熱は本物です。
たとえどんなときでも揺らぐことはないでしょう。
……が、そのバイドがいなくなったとき、彼らは何を思うのでしょう。
840 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県) [sage]:2012/03/06(火) 20:15:06.94 ID:SjXsPxSyo
追いついた!お疲れ様です。
ファインさんは、私も最初無茶苦茶苦戦したけど倒すだけならコツさえつかめば楽ですよ。
お節介とは思いますが
縦軸は画面中央、横軸は基本左端(押しっぱなしだとトラクタビームも怖くありません)、攻撃によって右に移動するだけ。
6.0:メガギガ波動砲で安定、フォースは付けっぱなし、攻撃は直進性のあるもので
6.1:戦闘開始時、パーツが分かれる時にフォースを後ろ(左)に飛ばし分かれたパーツの下(or上)にめり込ませる。
そして自機は定位置に、フォースは前(右)に行こうとするがめり込んでいるので、その内にパーツ破壊してます。
もしくは分かれて戦闘開始直後にフォースを自機の後ろに付けたまま速攻破壊か
トラクタビームが怖いので私は前者で安定してます。
6.1:戦闘開始時、パーツはわかれる時にフォースを前(右)に飛ばしてファインさんの後ろにめり込ませる。または戦闘開始後にフォースを前に飛ばせば勝手にパーツ破壊されてます。

長文乱文申し訳ありませんでした。
841 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/06(火) 22:26:48.69 ID:K93g+rUDO
乙ですっ!
どんどん死者が増えてゆく…なんだか不安になって来るな。 パターンPとは一体何なのか!?
842 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/03/06(火) 23:44:13.67 ID:C0qaKZnXo
なんかもうDとPって時点で嫌な予感しかしないww
843 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県) [sage]:2012/03/07(水) 20:25:00.26 ID:k0JxqUBno
アルススレかと思ったらまどかスレだった
844 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/03/07(水) 22:30:24.84 ID:i809oQtN0
オージザプトムは具体的な資料が全くないので
攻撃方法だとかは完全に思いつきになってしまっています。

では、今日も投下しましょう。
845 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/07(水) 22:31:00.01 ID:i809oQtN0
「っ、ちきしょう。どんだけぶち込めば止まるんだ、こいつはっ!」

オージザプトムに攻撃を仕掛けたR戦闘機部隊。
その隊長である男は、どれほど攻撃を加えても全くひるむ様子のない敵に、忌々しげに呟いた。
拡散して放射されるようになった超振動波は、R戦闘機の機動性をもってしても脅威。
そして次々に放たれ、波動砲やレーザーを受けてバイド粒子弾が破壊されることで広がるバイド汚染。
それはついに、耐バイドコーティングを施された機体でさえも無視できないレベルにまで高まっていた。

「隊長……こちらドイル4、汚染レベルがゾーンBに突入。これ以上は……戦闘不能です」

「くっ……機体を破棄して脱出しろ。こんなところで死ぬなっ!」

ゾーンB、それは最早機体がバイド化するか否かというレベル。
最早除染など望めるべくもない。
できることといえば、即座に機体を破棄して、自分が汚染されていないことを祈るばかりなのだが。

「いえ、隊長……どうやら、脱出は無理なようです。……先に行きます。御武運を!」

ボコボコと、汚染された機体の表面から赤黒い肉塊が噴き出した。
恐らく、機体のバイド化が始まりだしたのだろう。それに伴い通信さえも途切れてしまう、そして。
バイド化し始めた機体は、そのままオージザプトムの後部ハッチへ向けて突撃する。
まだ機体が動いてくれる内に、せめて一矢報いてやろう、と。

しかし高濃度の汚染を受け、コントロールを失った機体は狙った通りに飛ぶことはなく。
無残にもオージザプトムの装甲に衝突し、そのまま弾けて潰えるのだった。
846 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/07(水) 22:32:06.31 ID:i809oQtN0
「どこまで……どこまで奪えば気が済むんだ、お前らはッ!!」

これだけの犠牲を払っても尚、敵は健在。
あまりに多くの仲間が、たった一度の戦いで失われてしまった。
隊を預かるものとして、それがまず許せない。
そして共に戦ってきた仲間達がこうして、無残に散っていくことが悔しくてならない。
そして何より、何もかもを無常に奪い去っていくバイドが、憎い。

「ふざけるな、バイドっ!貴様が、貴様らがぁぁッ!!」

波動砲は既にフルチャージ。
怒りに駆られ、彼は半ば衝動的にオージザプトムの元へと突き進む。
彼の乗機であるR-9DV2――ノーザン・ライツが持つ波動兵器、光子バルカン弾Uは
対多数における戦闘においては一定の優位性を誇ってはいたが、大型バイドを相手にするには力不足だった。
だからこそ、その突撃は最早自殺行為に他ならない。
それでも止まらないのは、止められないのは、彼もまた戦いの狂気に駆られてしまったからなのだろう。

そんな彼に待ち受けていたのは、無意味なる死。
その運命を押し留めたのは、彼の機体へと伝えられた一つの通信だった。

「こちらアスガルド級。ドイル1、無駄に死ぬような真似はするな」

九条の声が、突撃しようとしていたノーザン・ライツの動きを止めた。
最早オージザプトムと交戦中のR戦闘機部隊でまともに戦えるのは、彼の率いるドイル小隊と
もう一つ、既に隊長機を失ったエドガー小隊しか残っていなかった。
これから行う大博打を成功させるには、どうしても彼らの強力が必要不可欠だったのだ。
847 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/07(水) 22:32:35.98 ID:i809oQtN0
「これからアスガルド級で直接敵を攻撃する。ドイル1、エドガー小隊と共に敵の足止めを頼む」

「旗艦自ら攻撃!?血迷ったんですか、提督?」

旗艦が自ら、それもあれほどの巨大バイドに攻撃を仕掛ける。
あまりにも危険。もし撃墜されてしまえば、そこで第二次バイド討伐艦隊は総崩れになってしまう。

「あんな敵が相手ともなれば、こちらも多少は無茶をせざるを得ないさ。
 だが、必ず成功させる。その為にも君達の援護が必要なんだ」

沈黙はわずか一瞬。答えはすぐに出た。
どうせ命を懸けるなら、無駄に死ぬよりもわずかでも可能性のある方に懸けたい。
散っていった部下達の無念を、奪われた多くの命の重さを、奴に思い知らせてやらねばならない。

「……我々は、何をしたらいいのです、提督?」

「アスガルド級を敵の背後に回らせる。 君達には、敵がこちらに向かないように敵をひきつけて貰う」

「いくらなんでも、あの大きさの艦が旋回するほどの時間を稼ぐのは無理です!
 それに背後に回ったところで、艦首砲ではハッチを狙うのは困難ですっ!」

隊長が述べたことは、まさしく道理である。
アスガルド級ほどの大きさの艦である。普通に考えればその大きさに順ずるほどに、足回りは重いはず。
それも艦を動かしながらの旋回ともなれば、どう贔屓目に見ても数分は必要となるだろう。
それほどの時間を稼ぐというのは、やはり非常に難しい仕事だった。

「必ずやれる。せめて一分でいい、時間を稼いでくれ。……頼む」

「………本当に、やれるんですね」

無条件に九条を信用できるほど、彼は九条の手腕を知らない。
グリトニルで共に戦い抜いてきたのならばともかく
彼の部隊は、第二次バイド討伐艦隊として地球で編成されたものであったから。
848 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/07(水) 22:33:39.21 ID:i809oQtN0
「君の部下達の命を、多くの者達の犠牲を、決して無駄にはしないさ」

「……分かりました。俺達の命、預けますよ。提督」

「任せて貰うっ!!」

これで必要な手は揃った。艦内の準備も全て整ったようだった。

「ではこれより、マニューバ・パターンDtoPへ移行する!
 アスガルド級を前進させるぞ、機関最大!進路上の艦は退避しろっ!!」

そしてついに、アスガルド級が動き出す。
最新の、そして未だ未知の技術でさえも精力的に取り込んだ
まさしく人類最強の艦であるアスガルド級が、立ちはだかる脅威を
オージザプトムを破壊するため、一大作戦へと乗り込むのだった。

「ザプトムまで距離5000!交戦宙域突入まで60秒!」

順調にその艦体に速度を乗せ、アスガルド級はオージザプトム目指して突き進む。
巨大な敵の接近を、オージザプトムもまた察知していた。
そして、迎撃の為の力を放つ。

「超振動波の発生を検知!撃ってきますっ!」

ここからが大勝負だ、と。
九条は一つ、ごくりと喉を鳴らした。
超振動波発生のタイミングは、今までの交戦で既に把握している。
後は、その機を逃さずやり通すのみ。

「タイミングを誤るなよ。第二艦橋、用意はいいかっ!!」

九条の傍らに常に付き従ってるガザロフの姿は、今は無い。
だが、九条の声に答えて彼女の言葉が返ってきた。

「こちら第二艦橋、いつでもいけます、提督っ!」
849 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/07(水) 22:34:12.67 ID:i809oQtN0
オージザプトムの後頭部に光が宿る。
超振動波が、直撃すればアスガルド級ですらもただではすまないその一撃が、放たれる。
改良され、広域に攻撃可能となったその超振動波はある程度の距離を直進した後
分裂し、広域に破壊をもたらす攻撃として威力を発揮する。
それは言い換えれば、発射直後はただ直進することしかできないということで。

「超振動波、来ますっ!!」

「よしっ!総員、ディバイドシーケンスへ移行っ!」

放たれる超振動波。
既にアスガルド級は、オージザプトムのすぐ側にまで近づいている。
放たれたその超振動波を、回避する術などないと思われた。
だが……。

アスガルド級が、その巨大な艦体が、上下に割れる。
そしてその後、すぐさま別々の方向に急加速。
放たれた超振動波は、その隙間をただ通り抜けていくだけだった。

アスガルド級が無数に抱える秘密兵器。その一つが、この分離、合体機能である。
両翼と武装の大半を備え、耐久性と攻撃力に優れる主翼部と
全五基の波動エンジンの内三基を持ち、機動性と加速力に優れる艦艇部。
分離と合体を自在に使い分け、より効果的に敵を攻撃する。
それが、アスガルド級の本来の戦い方なのだ。
850 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/07(水) 22:34:43.66 ID:i809oQtN0
「超振動波、回避に成功!艦艇部、主翼部共に損傷なし!」

「引き続きピンサーシーケンスへ移行!主翼部部はこのまま敵を攻撃する!
 決して敵に背を向けさせるなっ!!」

「了解っ!!」

オージザプトムの周囲は、既に高濃度のバイド粒子で汚染されている。
アスガルド級とて、長時間居座れば汚染の危険は否めない。
すぐさま汚染圏外へと離れ、艦上部はそのままオージザプトムへの攻撃を開始した。
無数の追尾レーザーとミサイルがその巨大を灼く。しかし、それもダメージを与えているとは言えなかった。

本命は主翼部である。
艦艇部とR戦闘機部隊が敵の注意を引き付けている間に、主翼部が後方から一撃を叩き込む。
グラムヘイズ砲、ヴィンゴルブ砲。それぞれが一撃必殺の威力を持つ陽電子砲であり
従来の艦首砲とはまた異なる性質を持つ兵器であった。
だが、それは本来合体状態でなければ放つことのできない代物で
予めチャージを済ませた状態であっても、双門の同時発射を行えば
一時的にではあるが、主翼部はその機関を停止してしまう。

一発勝負である。外せば最後、最早主翼部は動くこともままならない。

「主翼部180度旋回!旋回と同時に主砲の照準を合わせて。
 M式慣性制御装置、稼動開始してくださいっ!」

主翼部に備えられた第二艦橋。
九条の指揮する第一艦橋と比べて、やや砲手の数は多い。
その第二艦橋にて、ガザロフは九条の命の通りに指揮を執る。

最大船速における急旋回。
R戦闘機ならばいざ知らず、サイズの大きい戦艦である。
それによって発生する慣性は、最早艦船用のザイオング慣性制御装置でさえも制御しきれない。
急旋回に伴い発生するGに、人体も艦自体も、耐えることはできない。
だからこそ、更なる慣性制御を可能とする技術が必要だった。
851 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/07(水) 22:36:25.33 ID:i809oQtN0
それは、魔法の力によって成し遂げられた。
慣性制御を可能とする魔法を持つ魔法少女、そのソウルジェムを艦中枢部に搭載し
艦の設備でその魔力を増幅すると同時に、処理された魔女が残した物質によって発生する穢れを除去する。
それにより、アスガルド級は一時的にではあるが、R戦闘機に匹敵する機動性を持つことが可能であった。
その非人道的な装置の実情を知るものは、艦の設計者のみだった。

そして、M式慣性制御装置の力により、ついに主翼部はその巨大な艦体を旋回させた。
照準は既に、オージザプトムの背部、上下に二つ設置されたハッチを捉えている。

だが、収束する膨大なエネルギー。それがもたらす脅威に気づいたのだろう。
オージザプトムは、前方より迫る敵に構うことなく姿勢制御用のバーニアに火を入れた。

「まずいな、後ろに気づかれたか」

必死に艦艇部の武装でオージザプトムを攻撃しながら、九条が苦々しく呟く。
このまま振り向かれてしまえば、ハッチを狙うことはできなくなる。

「なんとか奴の足を止めろっ!振り向かせるなっ!!」

既に艦艇部の他にもドイル小隊、エドガー小隊がオージザプトムへの攻撃を続けている。
だが、それを意にも介さずオージザプトムは背後の主翼部へと攻撃を仕掛けようとしている。
止められない。九条の胸中にも絶望が宿った。

「……提督」

それは、ドイル小隊の隊長からの通信だった。

「どうした、何かあったのか!」

焦燥を隠し切れない九条の言葉、それを受け止めて、彼は覚悟を決めた。

「奴の足を止めます。だから、必ず奴を倒してください。俺達の無念を、どうか晴らしてください」

「っ!?何をする気だ!」

その言葉に、何か尋常ならざるものを感じて九条が叫ぶ。
だが、そのときにはもう通信は打ち切られてしまっていた。
852 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/07(水) 22:36:58.08 ID:i809oQtN0
「我らの死は無駄ではない!必ずや、人類の未来の為にっ!!」

ノーザン・ライツが、オージザプトムへ向けて突撃する。
だが、その胸に宿るのは最早怒りと衝動ではない。
人類の未来の為に、自らの為すべき事を為すのだという、誇り高き意志だった。
それに続いて、ドイル小隊とエドガー小隊の機体もオージザプトムへと向かう。
そして彼らは、放たれるバイド粒子弾を次々に打ち砕き、その身をバイド粒子に汚染されながらも
オージザプトムの機体各所に設置された、姿勢制御用のバーニア内部に突っ込んでいった。

「そうか……奴を、止めるためにっ」

その姿を、彼らの覚悟に思わず九条の声が揺れた。
零れそうになる涙と嗚咽を堪えて、九条は戦況を見据える。

姿勢制御用のバーニアは、R戦闘機の突撃でさえ壊れることはない。
だが、吐き出される推進剤がその機体を焼き尽くすまでの僅かな時間、その身の動きを留める事に成功していた。
その一瞬の時間が、全ての命運を分けたのだった。


「照準よし!グラムヘイズ砲、ヴィンゴルブ砲、撃てーっ!!」

主翼部、その双翼に先端に備え付けられた双門の砲台。
そこから、眩い光を放って二筋の閃光が放たれた。
それは、従来の艦首砲のように一撃で放たれるものではなく
あたかもシューティング・スターの圧縮波動砲のように、長時間の照射を可能とするものだった。
そして砲台自体が可動性を持ち、照射後に続けて照準を変更することが可能であった。

だからこそ放たれた二筋の閃光は、オージザプトムの装甲を焼き。
更にそのまま弱点である背部のハッチを、貫いた。
オージザプトムは、かつてないほどに大きな苦悶の声を上げる。
その堅牢な装甲の隙間から、激しい光が噴き出している。
やがて、一度その身体が膨らんだかと思うと、次の瞬間。



鋼の巨体が、異貌なる魔人が、眩い光を放って消滅した。
853 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/07(水) 22:37:23.77 ID:i809oQtN0
艦内が歓声に沸き立った。

「……こっちはどうにかなったか。後は、時空の歪みの原因だな」

機関を停止した主翼部とのドッキングを命じ、ようやく九条は一つ息をついた。
後は英雄に任せるしかない。こちらにできることはもう、残りの敵の掃討だけだ。
854 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/07(水) 22:43:16.02 ID:i809oQtN0
ああ、次はファインモーションだ……。
というわけで本当にウルトラディバイドシーケンスでした。
永劫回帰でまさかあそこまで話の舞台が広がるとは思いませんでした。
あの内容の半分でも無限回廊に回してくれたら……。

>>840
発狂レーザーさえこなければ何とかなるんですけどね、ファインモーションも
メガギガ使えるならそれはそれでいいですし。
とりあえず機体開発の方もそろそろ80機に到達しそうです。
でも、ここからが長いのがR-TYPE FINALなのですよねぇ。

>>841
最終決戦ですもの、バタバタとみんな力尽きて生きます。
ですが、彼らの死は無駄にはならないはずです、きっと。

>>842
ディバイドとピンサーでした、分離と挟撃、なんとか決まってくれましたね。
流石にパイル搭載艦とかそんな頭のおかしいことはしないと思います。
ドリル艦とかはありましたけどね。

>>843
さすがにアルススレは未だかつて見たことがありません。
自分でも書けるかと言われると、どうも微妙なところです。
そして最近はどうもまどか……?スレな感じになりつつあります、マジで。
完全にR。
855 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/08(木) 06:35:58.64 ID:SwYsRUqDO
お疲れ様です!
M式慣性制御装置とか…とんでもない爆弾を抱え込まされていたとは…!!
856 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/03/09(金) 22:38:47.50 ID:C+RKEjAh0
恐らくそろそろこの話も終わるかな、と思わないでもありません。
では投下しましょう。
857 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/09(金) 22:39:29.07 ID:C+RKEjAh0
「反応が近い、もうすぐ着くはずね」

再び立ちはだかる敵艦やゲインズを、そして宇宙の闇に混ざって迫り来る
ブラックカラーのキャンサー達を、次々に打ち砕いてラストダンサーは戦場を駆け抜ける。
その眼前に存在するのは敵のみで、その後ろにあるのもただ敵だけだった。
唯一違うこととすれば、彼女の背後に存在する全ての敵は、無残にも打ち砕かれているというだけで。

時空の歪みの原因だと思われる、一際大きなバイド反応。
それも、もうすぐ到着するだろう。このまま潰して、それで終わりだ。
だが、それを阻むように立ちはだかる敵艦。上下から挟み込むように迫り
その前進に設置された砲台から、濃密な弾幕を展開しようとしていた。

「その程度……」

ラストダンサーの前には恐るるに足らず。
すぐさま対処しようとし、フォースを変化させた。
丁度、その時に。

『頑張っているようだね、スゥ』

頭の中に響いたその声。
それは、彼女にとっては忌まわしい声。
だからこそ、何故、と。戸惑いは一瞬、彼女の動きを遅らせた。

機体を掠める敵弾。
衝撃と損傷報告を受け、すぐさまスゥは意識を戻す。
858 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/09(金) 22:40:01.51 ID:C+RKEjAh0
『どうやら、取り込み中だったようだね』

「煩い、黙れぇッ!!」

自分の声が届くのかどうかも分からない、けれど今は話している場合でもない。
一声鋭く叫んでそして、スゥは機首を翻す。
次々に放たれる弾幕。そのもっとも濃密な地点へと、フォースを掲げて突っ込んでいく。
そのフォースは、TL-1B――アスクレピオスに装着されていたもので
他のフォースにはない、唯一無二の性能を持っていた。

次々に放たれ続ける敵弾が、そのフォースによって受け止められる。
通常ならばそのままフォースに吸収され、ドースとしてフォースのエネルギーと化すはずだった。
だが、違う。
そのフォースの名はミラーシールド・フォース。
施された鏡面処理により、敵弾を跳ね返すことのできる能力を持った、非常に稀有なフォースである。
だからこそ放たれた敵弾はそのままフォースに跳ね返され、次々に敵艦へと突き刺さっていく。
まずは艦表面に無数に設置された砲台が蜂の巣となり、更には艦の装甲までもがボロボロにされていく。

砲台の多くがそれで沈黙し、ラストダンサーを囲っていた弾幕にも隙間ができる。
その隙に、ラストダンサーは一気に後退。上下から挟み込む艦の後方へと回り込む。
そして。

「沈めっ!」

フルチャージの波動砲が放たれる。
解き放たれた波動エネルギーの塊は、僅かに直進した後に弾けた。
そして無数の光へと分裂し、敵艦へと食らい突いた。
拡散波動砲。波動砲の中では極めて初期に開発されたものであるが
デルタやウォー・ヘッドという、過去に対バイドミッションに投入された機体に採用されている
非常に信頼性の高い波動砲である。

そしてその拡散波動砲は、期待された通りに上下を塞ぐ敵艦に食らいつき、それを破壊した。
859 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/09(金) 22:40:38.47 ID:C+RKEjAh0
「……なんだったの、今のは」

あの時の声は、本来こんなところで聞こえるはずのないもの。
ついに幻聴でも聞こえてきたのだろうか、と。一つため息を吐こうとして
その為の肺も、喉も口も、自分にはないことを思い出した。

こんなことが続くようでは、とてもではないが戦ってはいられない。
気をしっかり持たなければ、うっかりとこんなことで死んでしまっては笑えない。

『どうやら落ち着いたようだね、スゥ』

「っ!?……何故、お前が。インキュベーターっ!!」

そう、その声の主はキュゥべえだった。
スゥにとっては、まどかと自分を引き離した憎い相手。
いうなれば、最早敵である。
そんな奴が、何故。

『まどかの力を借りて、キミにボク達の意思を伝えているんだよ』

答えは、すぐに与えられた。
ただその答えはスゥを激昂させた。

「まどかに……まどかに、何をした、貴ッ様ァァァっ!!」

『きゃっ……お、落ち着いて。スゥちゃん。私は大丈夫だからっ』

「ま、まどかっ!?でも、どうして……」

続けて聞こえてきたのはまどかの声。
ずっと聞きたいと思っていた声。その声が直接頭の中に響いてきた。
それだけで、激しい怒りはスゥの中から消え去っていた。
そして残ったのは、純粋な疑問。
860 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/09(金) 22:41:15.08 ID:C+RKEjAh0
『キュゥべえの力を借りて、スゥちゃんとこうしてお話できるようにして貰ったんだ』

まどかの声は、どこか嬉しそうに弾んでいた。

『その通りさ、まどかの持つ能力と、それを増幅するためのハード。
 これを用意するのはなかなかの手間だったけど、おかげでこうしてキミのサポートができる。
 そういうわけだから、これからはボク達もキミのサポートに回らせてもらうよ』

『私も、何もできないかもしれないけど……一杯応援するからね、スゥちゃんっ!』

キュゥべえのサポートは、正直言って疑わしい。
けれど、頼りにならないわけではないだろう。
そして何より、まどかの声が聞こえるのが嬉しい。
あの日病室で別れて以来、一度としてまどかの声を聞くことができなかったのだから。

「うん。……すごく嬉しいよ。これで百人力だよ。ありがとう、まどか」

けれど、唯一つだけ引っかかる。

「でも、大丈夫なの?まどか……詳しいことは分からないけど、凄く大変なんじゃないかな。
 こんなところまで……声を届けるっていうのは」

能力を増幅するためのハード。
それが一体なんなのかは分からないが、それがまどかの負担になっているのではないか。
だとしたら、すぐにでも止めさせなければならない。
それでなくとも、スゥはまどかほどキュゥべえの事を信じてはいないのだから。
861 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/09(金) 22:42:00.32 ID:C+RKEjAh0
『問題はないよ。このハードの有用性とまどかの安全は保障されている。
 キミがラストダンサーとのマッチングをしていた間、ボク達もこれの調整と実験を進めていたんだからね』

まどかは柔らかなクッションの敷かれた椅子に座り、その頭に奇妙な装置をつけている。
そしてそんなまどかの隣には、生身の身体のキュゥべえが座っている。

木星の衛星であるカリスト。
その公転周期に寄り添うように存在する、巨大な人口天体。
その中で、まどかとキュゥべえはスゥに言葉を伝えていた。

それは対バイド戦が敗色濃厚となったとき、人類という種を守るため
外宇宙への逃亡を行うための箱舟。まさしくアークと呼ばれ、秘密裏に建造されたものだった。
まどかとキュゥべえは病院を退院した後、すぐにこのアークへと移動していた。
そして、オペレーション・ラストダンスを遂行するスゥを助けるため、直接彼女と通信を取る術を
その為の、まどかの能力を増幅する装置を、ずっと開発し続けていたのだ。

アークには、既に全世界から選別された10万人の人間が収容されている。
生殖可能な年齢の男女を同比率で。そして箱舟を維持するためのできる技能を持った者達が
アーク中枢部の、コールドスリープ装置の中で、目覚めの時を待ち続けていた。
バイドが討伐されればそう遠からず目覚めるだろう。だがもしそうならなければ、目覚めの時は遠い。

まどかの能力を増幅するためのハード。
それは、このアークに眠る10万人の脳そのもの。
仮死状態にある脳の領域の一部を使用し、電脳として連結している。
もちろん負担はあるだろうが、10万という数を集めることでそれは飛躍的に軽減されていた。
まどかもその事実を知り、心を痛めているようではあったが
それでもスゥを救うためと、その事実を受け入れていた。
862 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/09(金) 22:42:27.24 ID:C+RKEjAh0
「それで、サポートと言うけれど……何をするつもり?
 もちろん、私はまどかの声だけでも十分すぎるほどに十分なのだけど」

まどかの名前がこぼれ出る度、スゥの口調は優しくなった。

『キミの機体とのリンクも完了してあるからね。キミの機体が入手した敵データは
 自動でこちらにも送信される。それを解析して、キミを助けることくらいはできるだろう』

「そう、それはありがたいかもしれないわね」

そしてキュゥべえに話しかける時には、すぐにその口調は固く冷たいものとなる。
自分の心を包み隠して生きられるほど、スゥの心は大人ではない。
幼い、まさしく生まれたばかりの心が宿るのは、史上最強のR戦闘機という身体。
あまりにもちぐはぐな最終兵器。それがスゥで、偽りの英雄で、ラストダンサーだった。

「そろそろ敵の中枢が近いわ。……必ず勝つ。だから、見守っていて。まどか」

『うん、信じてるから。スゥちゃんが勝って帰ってくるって。見てるから、全部!』

どれだけ距離は離れても、異なる次元に別たれても。
心は常に共にある。それを、実感することができる。
身体が軽い。こんな気持ちで戦うのは初めてだ。

「……もう、何も怖くない」

そしてついに、時空の歪みの元凶。
巨大なバイド反応が、スゥの眼前へと現れた。
863 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/09(金) 22:43:41.18 ID:C+RKEjAh0
『……わからない。ファインモーションの武器は、内壁部に搭載された大出力のレーザー砲だ。
 それを内壁に反射させて攻撃するのが主な攻撃方法のはずなんだ。
 恐らく、空間干渉自体はバイド汚染を受けた事で備わった能力なのだろうね』

「……役立たず。っ、来るわね」

展開した花弁から、赤いレーザーが放たれた。
角度を変え、回転しながら連続して放たれるレーザー。数はかなり多い。
だが、ラストダンサーの機動性の前ではほぼ無意味。
しかし、後方へと抜けたレーザーはそのまま展開された花弁の内壁に反射し、更にラストダンサーに牙を剥く。

だが、それ自体は予想の範疇。
キュゥべえから与えられた情報だけで、十分に対処できるものだった。
だが、ファインモーションには空間干渉能力があった。
空間が歪み、そして。

「な……くぅっ?!」

その歪みによって、レーザーの軌道さえも歪む。
一面を埋め尽くすほどに放たれ、さらに不規則に歪んだレーザーには
ラストダンサーですら回避はかなわず、その背部ブースターに赤い光が食らいついていた。

小規模な爆発が起こり、ラストダンサーの機体が弾き飛ばされる。
損傷は軽微。抜群の生存能力を持つラストダンサーならば、まだ十分に戦いを続けることは可能だった。
だが、状況は極めて悪い。
攻撃は通用しない。そして敵の攻撃は、ただのレーザーの反射ならば
それはプログラムに則った攻撃で、ラストダンサーにとっては脅威とはならない。
だが不規則に生じる空間の歪みは、その攻撃を回避困難なものへと変えていた。

『このままでは勝ち目はないよ。一旦距離を取って、解析が完了するまで時間を稼ぐんだ』

「悔しいけれど、そうするしかないようね。一旦撤退するわ」

続けてレーザーが放たれる前に、ラストダンサーは離脱する。
花弁の間をすりぬけて、外へ。
864 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/09(金) 22:44:37.29 ID:C+RKEjAh0
「な……っ?!」

その直後。ラストダンサーの動きが止まる。
外へと飛び出そうとしていた機体は、まるで見えない壁に遮られるかのようにその動きを止めていた。

「どういうことなの、これは」

理解が追いつかない。
わかるのはただ、ここから逃れることすらできないということだけで。

『まずいよ、空間を封鎖された。このままじゃあ逃げることもできない』

「どうすればいい?」

流石のスゥにも、言葉の端に焦りが混じる。

『とにかく解析を急ぐよ、それまで何とか耐えてくれ』

「……やっぱり役立たず。もういいわ」

結局、どうにか耐えるしかないということか。

『大丈夫、スゥちゃんっ!』

それでも何故だろう。この声を聞くだけで、まったく負ける気がしないのだ。
きっと表情があったなら、スゥはニヤリと不敵に笑っていただろう。

「大丈夫よ、私は負けない。まどかが見守っていてくれるなら……絶対に!」

再びレーザーが放たれようとしていた。
だが、その直前に。
外から飛び込んできたミサイルが、レーザーの発射口を破壊した。
そして、その一撃に敵はたじろいだのだろうか、次なる攻撃は放たれることは無かった。
その一瞬の隙を突き、この閉鎖空間に飛び込んできた機影が、二つ。
865 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/09(金) 22:45:07.39 ID:C+RKEjAh0
「手こずっているようだね、手を貸そう」

「助けにきたわよ、英雄さん」

黒と白の機体。
ダンシング・エッジとヒュロスが。
呉キリカと、美国織莉子の姿がそこにはあった。
866 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/03/09(金) 22:49:54.61 ID:C+RKEjAh0
やっとまどかちゃんが話に出てきました。
これでこの話もまどマギ話だと言い張れそうです。

>>855
実際のところは単に魔法を拡大する装置がついてるだけなんですけどね。
艦内部に搭載しているソウルジェムが、アスガルド級の秘密兵器だったりします。
867 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/03/09(金) 23:12:32.86 ID:C+RKEjAh0
あ、あと色々wikiの方に追記しました。
868 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/10(土) 00:17:51.63 ID:QPkevc9DO
お疲れ様です!
少女達の魂の加護を得て進む船、アスガルド…か。

10万人の脳で補助…、とあるレールガンのアレみたいなもんかね。

織莉・キリ、ナイス援護だぜ!固有魔法が残ってれば更にナイス!
869 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2012/03/10(土) 13:17:49.69 ID:YCkIb8Fi0
乙でつ。
ついにファインモーションか
もしルート変わる棒出てきたらどうなるんよ…

個人的なことですが
この前買ったTACの地球軍ルートを一ヵ月かけてクリア(´;ω;`)
870 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/03/12(月) 00:01:15.51 ID:c14yIZRC0
では本日も投下をば。
871 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/12(月) 00:01:52.37 ID:c14yIZRC0
「ここまで追いかけてくるのは、随分と大変だったよ。おまけにこんなデカブツがいたなんてね」

「それに、随分苦戦しているようだもの。やっぱり、助けに来て正解だったわ」

互いに言葉を交わしながら、二機は閉鎖空間内に舞う。

「……何をしたの、どうやってここに入ってきた。どうやって奴に攻撃を当てたの?」

けれどそんなことよりも、スゥにはそれが疑問だった。
この空間はファインモーションによって閉鎖されているはずなのである。
そこに、この二人は事も無く進入を果たした。更にはギガ波動砲でさえ受け流した敵に
攻撃を当てて見せたのである。

前者については、出るのは困難だが入るのは容易い、そういう空間なのかもしれないと推測はできる。
だが、後者についてだけはどうしても説明がつかなかったのだ。

「織莉子が示してくれるんだ。いつ撃てばいいか、どう撃てばいいか!
 全部織莉子が教えてくれる、だから私達は負けないんだっ!」

「詳しい説明をしている時間はありませんが、敵を攻撃するべきタイミングは分かるわ。
 そして、敵の攻撃のタイミングも。……来るわ。キリカ、お願いね」

言葉を交わすも、事情はさっぱり分からない。
だが、確かにファインモーションも先ほどの攻撃から立ち直り、すぐさま次のレーザーを放とうとしている。
またしても、反射と時空の歪みが合わさり、回避困難なレーザー攻撃が放たれようとしている。
今度こそ回避を、と意識を絞り込んでいくスゥに、再び通信が届いた。

「座標を指定するわ。そこに移動して。……大丈夫よ、そこなら攻撃を受ける心配はないわ」

「……了解よ」
872 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/12(月) 00:02:20.93 ID:c14yIZRC0
あまりに不可解。
けれど、キュゥべえも頼りにならない今、それに縋るしかない。
指定された通りの座標に機体を移動させた。

「そのままそこを動かないでいて。そうすれば、無事にやり過ごせるわ」

言葉と同時に、ファインモーションからの攻撃が放たれる。
キリカの機体が先頭に、そしてその後方に織莉子とスゥの機体が並ぶ。
前方の花弁より放たれたレーザーは、後方に開いた花弁に反射して
さらに時空の歪みでその進路を歪め、恐るべき攻撃と化して迫り来る。
動くなといわれても、動かなければかわせるような攻撃ではない。
今度こそ見切ると、そう意気込んだ。

だが、放たれたレーザーは後方の花弁に当たることなく
そのまま遥か後方へと消えていく。
僅かに一本、花弁の端を掠めて反射したレーザーも、空間内を跳ね回るだけで
結局、誰の機体をも掠めることなく消えていった。

「ね、言ったでしょう?じっとしてれば当たりはしない、と」

少しだけ得意げな声で、織莉子がスゥにそう告げた。

「何をしたの、一体?」

あれほどの恐ろしい攻撃を、微動だにせず回避してしまう。
一体何をしたのだろうか、スゥには全く理解することができなかった。
873 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/12(月) 00:02:53.68 ID:c14yIZRC0
「魔法……なんてものがあるとしたら、キミは信じるかい?」

同じく得意げな声のキリカが、スゥに話しかける。

「魔法……まさか、お前達は」

その言葉と、戦う声は少女の声。
思い当たることなど、たった一つしかなかった。

「どうやら、心当たりはあるようね」

「察しの通り!私達は、本物の魔法の使える魔法少女だっ!」

得意げなキリカの声。
それが、スゥには面白くない。
彼女達が魔法少女なら、スゥもまた魔法少女である。
歪んだ実験の成果として魔法を得た彼女達よりも、願いと引き換えに魔法少女と化したスゥの方が
よほど真っ当な魔法少女であるとも言えた。
けれど、スゥは未だその魔法の力を使えずにいた。

TEAM R-TYPEの元でさまざまな処置を受けもしたが
それでも尚、スゥの魔法の力が目覚めることは無かったのである。
もっとも、魔法が使えるということはそのまま、魔女化の危険があるということで
結局は、優れたパイロットユニットとしてのソウルジェムだけを求めていた彼らにとって
それは好都合なことだった。

それでも、目の前にこうして魔法を駆使する本物の魔法少女が現れて
その力が、あれほど苦戦していた敵をこうも容易く御しえている。
やはり、その力が欲しいと感じてしまう。
強力無比な魔法の力さえあれば、こんな敵に遅れを取る事もないのではないかと
どんなバイドでさえ、負けはしないのではないかと思う。
だからこそ、その二人が魔法を駆使して戦う姿は不愉快で、そして羨ましくもあった。
874 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/12(月) 00:03:25.16 ID:c14yIZRC0
「あのバイドの攻撃は、発射されるレーザーとその反射。そして空間の歪みからなるわ。
 恐らく、それは寸分の誤差も無いほど精密に計算されて放たれているのでしょうね」

次なる攻撃と、更なる反撃に備えて、波動砲のチャージを進めながら織莉子が言う。

「だからこそ、私の魔法で敵のレーザーの速度を少しでも落としてやれば、もうまともな攻撃なんてできない。
 多少は跳ね返ってくるかも知れないけど、それは当たらない場所を織莉子が教えてくれるっ!」

同じく波動砲のチャージを進め、敵を狙いつつキリカが言葉を継いだ。
織莉子の持つ未来予知、そしてキリカの持つ速度低下。
その二つの力が、ファインモーションの攻撃を完全に封じ込めていた。

「……それなら、敵に撃たれる心配はなくなりそうね」

面白くは無いが、それでもこの状況は実にありがたい。

「それで、攻撃のタイミングまで教えてくれるのかしら?」

同じく波動砲のチャージを進めながら、スゥが問う。
守りはひとまずよし、となれば次は攻め手が必要となる。
先ほどのミサイルの一撃は十分に効果を与えたようだが、それ以降一切攻撃を行っていない。
攻撃のタイミングが分かると言うのなら、こちらもそれにあわせて攻撃を行うしかないのだ。

「……今のところはまだ、ね。しばらくはこのままやり過ごすしかないわ」

「そう、任せるわ」

今のところ、ファインモーションからはレーザー以外の攻撃は見られない。
それだけならば、十分にやり過ごすことは可能なのだ。
後はどうにか攻撃できるタイミングを見極めるか、キュゥべえの解析が終了するまで耐えるだけだ。
875 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/12(月) 00:03:52.49 ID:c14yIZRC0
『どうやら、状況は大分改善したようだね』

「ええ、後はそっちが頑張ってくれると助かるのだけど」

『一応解析は進んでいるよ。どうやらファインモーションは、時空の歪みを攻守に利用しているようだ。
 その威力はさっき見た通りだね。フルチャージのギガ波動砲すらも無効にする防御力は、恐ろしいものがある』

どこか感心している風もあるキュゥべえの口調、それがまたスゥの苛立ちを煽る。

「こっちは命がけで戦っているのよ。あいつを倒す術があるなら、さっさと話しなさいっ!」

どうにも募る苛立ちは、その口調の棘をより鋭くさせた。
こんなところで、止まってなどいられないと言うのに。
思うようにならない状況が、スゥには非常に苛立たしかった。

『そう言えばそうだったね。それじゃあ話すよ。ファインモーションを撃破する方法を』

言葉の途中で、再びレーザーが放たれた。
再度、織莉子とキリカの魔法がその攻撃力を奪う。

「……結構、きついな」

「ええ、確かにこれはちょっと、辛いわね」

実際なところ、この二人にもあまり余裕は無かった。
織莉子は常時予知を続けなければならない。キリカは、広域に魔法を展開させなければならない。
そのどちらも、二人にかかる負担は大きい。ソウルジェムの穢れも、直に深刻なレベルに到達することだろう。
だからこそ、早く攻め手に移らなければならないというのに。
876 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/12(月) 00:04:20.26 ID:c14yIZRC0
「織莉子っ、まだかい、まだ撃てないのかいっ!」

「ええ、駄目よ。今撃っても、あいつには届かないわ」

二人の声にも焦りが混じる。
どれだけの未来を見ても、今の二人にはファインモーションを撃破しうる未来は見えてこないのだ。

「まったく、英雄って言うのは名ばかりなのかいっ!?」

悪態交じりにキリカがスゥに言う。
けれど、スゥは何も言葉を返すことなくただ、キュゥべえの言葉を聞いていた。

状況は動かない。そう思われた。
けれど、更なる敵の攻め手が現れる。

「織莉子、次が来るっ!どうすればいい?」

「これは……機体を上昇させて、すぐに……っ!?」

言葉を遮り、機体が揺れる。
上昇しようとする機体さえ、何かに阻まれている。
その元凶は、後方に展開した花弁より放たれる謎の光。
その光を浴びた瞬間、急速に機体が花弁へ向かって引き寄せられたのである。

「な、なんだいこれはっ!?機体が、引き寄せられる……っ」

「トラクタービームよ、こんなものまで持っていたなんて……。
 レーザーも来るわ、何とか離脱して回避を……っ!」

前方に展開していたキリカは、そのまま前方に引き寄せられていく。
織莉子とスゥの機体は後方へ、必死に出力を上げて抗った。

「ラストダンサーの出力なら問題はないけれど……このままじゃ、まずい」
877 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/12(月) 00:04:52.62 ID:c14yIZRC0
動きが乱れ、回避する動きも遅れてしまう。
そしてそんな窮地にある三機を更に追い詰めるように、ファインモーションはレーザーを放った。
赤い光が跳ね返り、そして複雑に歪む。動きを制限された状態で、どこまで回避しきれるか。

「このままじゃ皆仲良く撃墜だ。やるしか……ないッ!」

「キリカ、駄目よっ!」

ダンシング・エッジが、その機体表面が光を放つ。
宇宙の闇の中ではきっと見えなかっただろう。赤い閃光に埋め尽くされた空間で
初めて見えるその光は、黒い輝きだった。

そして、時の針はその歩みを留めた。
空間を埋め尽くしながら、ゆっくりと迫る赤い光。
触れれば焼ける無数の死線が、閉鎖空間内を跳ね回り、そして外へと飛び出していった。
878 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/12(月) 00:05:19.44 ID:c14yIZRC0
「……無事、乗り切ったようだね」

「また無茶をして……大丈夫なの、キリカ」

「今のが、魔法」

スゥも、織莉子も、キリカも。その死線を潜り抜け尚健在だった。
だが、被害は0ではない。
即座にトラクタービームを抜け出したスゥは無傷であったが
抜け出すことのできなかった織莉子とキリカは、交わしきれずにいくつも被弾していた。
損傷はかなり大きい。キリカの機体などは。、キャノピーまでもが熱でひしゃげてしまっている。

「はは、普通の人間だったら死んでたね。大丈夫……まだ、“私”は保ってくれるようだ」

どこか面白がっているようなキリカの声。
速度低下の魔法を最大限に引き出し、致命的な攻撃の速度を緩めた。
その結果、どうにかまだ動ける程度の損傷で済ませることができたのだ。
もちろん代償は大きい。恐らく、ソウルジェムの限界は近い。

「よかった、キリカ……」

たとえそれがやせ我慢でも、元気そうな声が聞こえて織莉子も安堵した。
けれど、これ以上は時間は無い。そんな二人にスゥは言葉を投げかけた。

「どうやら生き延びたようね。じゃあ、反撃よ」

ファインモーションは、自分に向けられた攻撃の全てを時空を歪めて防御している。
その防御は非常に堅牢で、通常の方法で撃破することは難しい。
だが、それを貫く方法がないわけではない。空間そのものに干渉することができれば
ファインモーションの防護を破り、直接ダメージを与えることができるようになる。
その為の術は、確実にR戦闘機に存在していた。
それが、キュゥべえから告げられたファインモーションの攻略法であった。
879 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/12(月) 00:05:48.76 ID:c14yIZRC0
「Δウェポンを使う。それで敵の防御を破る。
 恐らく敵は再び空間を歪めようとするでしょうけど、あれだけのことを即座にできるとは思えない」

「でしたら、その瞬間に一斉に波動砲を浴びせれれば」

「奴を倒すことができるはずよ。必ず」

無数の敵を、そして敵弾を掻い潜ってきたことで、既にドースは最大限に溜まっている。
すぐにでもΔウェポンは打ち込める。波動砲のチャージも、直にフルチャージとなるだろう。

「それはなかなかよさそうだ。波動砲のチャージは完了してるし、いつでもいけるさ」

「私もよ、準備はできているわ」

準備は万全。後はギガ波動砲のチャージの完了を待つばかり。

「タイミングはこちらに合わせて。ギガ波動砲のチャージ完了と同時に仕掛けるわ」

「了解だ、任せるよっ」

「了解よ、こちらでもできる限り支援するわ」

まだ二人が戦える内に、敵が更なる手を打つ前に。
一気にケリをつける。ギガ波動砲のチャージを進めながら、スゥはファインモーションへとその機首を向けた。
880 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/12(月) 00:06:17.60 ID:c14yIZRC0
「仕掛けるわ。歪みが消えたら、一斉に波動砲を叩き込む!」

フォースシュート。時空の壁に衝突し、動きを止めたフォース。
そしてスゥは、フォースに蓄えられたエネルギーを開放した。

広がるエネルギーのフィールド。
フォースに蓄えられたエネルギーが、この捻じ曲げられた空間に更なる時空歪曲を発生させた。
ネガティブコリドーと呼ばれ、テンタクル・フォースに搭載されたそのΔウェポンは
跳躍空間を限界を超えて捻じ曲げ、そして破壊した。

まるでガラスが砕けるように、湾曲した時空がひび割れて砕ける。
後に残されたのは、その身を守る盾を失った、哀れな妖花ただ一つ。

「い・ま・だぁぁぁっ!!」

「砕けろ、バケモノっ!」

「退きなさいっ!」

クロー波動砲が、バウンドライトニング波動砲が。
そしてその二つの光を飲み込んで、圧倒的な破壊をばら撒くギガ波動砲が。
ファインモーションの中心に存在するコアを、貫いた。

光が止むと、その後には。
コアを失い、次々に爆発していく妖花の姿。
最早、これ以上の抵抗の術はない。

「バイド反応急速低下……これで終わりね」

『やったね、スゥちゃん!』

「ええ、貴女のおかげよ、まどか」

戦いの高揚が静かに収まっていき、その後に柔らかで、暖かなものが満ちてくるのを
スゥは感じていた。
881 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/12(月) 00:06:47.65 ID:c14yIZRC0
だが、そんなスゥの機体に。
同じく並ぶ織莉子とキリカの機体にも、警報が走った。

「何だい何だい、今度は何なんだい!?」

「これは……まずいわね。さっきのΔウェポンのせいで、周囲の跳躍空間そのものが破壊されてしまったわ」

敵は倒したはずなのに、まだ窮地は終わっていない。

「それは……どうまずいんだい、織莉子っ」

「このままだと、跳躍空間が崩壊して、どことも知れない異層次元に放り出されてしまう。
 即座にこの宙域から脱出しないと……っ!?」

その時織莉子の意識に飛び込んできた、一つのビジョン。
それはすぐさま現実に変わる。
爆発しながら潰えていくだけのはずだったファインモーション。
その花弁が、まるで少女達を逃さないとでもいうかのように、狭まり始めたのだ。
このまま包まれてしまえば、共に爆発するかそれとも、異層次元に放り出されるかだ。

「脱出を!……く、機体がっ」

やはりファインモーションは、少女達を道連れに潰えるつもりなのだろう。
最後の最後に、一際強力なトラクタービームが放たれ、三人の機体を捕らえた。
そうする内にも、少女達を閉じ込めようと花弁は迫る。
それはまさしく、絶対絶命の危機。
882 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/12(月) 00:07:17.93 ID:c14yIZRC0
「……英雄一人と兵士二人、比べるまでもないわね」

織莉子が、どこか諦めたような声を放つ。

「キリカ。いいわね?」

「織莉子が決めたのなら、私はいいとも」

キリカも何かを察したようで、同じくどこか諦めたように言う。

「何をするつもり、二人とも」

何か、その二人の言葉に危ういものを感じて、スゥが問う。

「貴女を助けるのよ。英雄さん」

「織莉子が助けると言ったなら助けるさ。……それに、私もキミにバイドを倒して欲しいと思っている」

少し笑って、二人は答えた。
そして、二人の機体が同時に動く。
キリカの機体が、一際強く輝いて。狭まる花弁の動きが遅くなる。

「もう少しだけ、もう少しだけ頑張れ、私……っ」

そして織莉子は、人型に変形させた機体を、トラクタービームを発射する花弁に張り付かせた。
そのままその手で、その外壁をしっかりと掴まえて。

「トラクタービームはここで遮るわ。……だから、行って」

確かにヒュロスの機体に遮られ、ラストダンサーを拘束するトラクタービームは弱くなる。
今なら、脱出できる筈だ。
883 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/12(月) 00:07:44.67 ID:c14yIZRC0
スゥは、ラストダンサーを走らせる。
けれどその胸中には戸惑う気持ちもあった。
ほんの一瞬とは言えど、彼女達は共に戦った仲間なのだ。
その仲間が、命を賭して自分を救おうとしている。
バイドを討つという願いを、託そうとしているのだ。
それがなんだか悲しくて、身を切られるように辛くて。そしてそれ以上に、更なる闘志が身を焦がして。

「必ず、必ずバイドを倒すわ。……貴女達の思いを、無駄にはしない」

それは、スゥにとっては初めての戦友ともいえる存在だったのだ。
それを失ってしまうことが、悲しかったのだ。
今の今まで、スゥにとって大切なのはまどかだけだった。
けれど今、スゥの中には確かに、仲間の事を思う気持ちが存在していた。

「……ええ、人類を。お願いするわ、ね」

「頼むよ。私達の分まで……思い知らせて、やって……くれ」

そして、ラストダンサーは狭まる花弁をすり抜けた。
直後、完全に花弁は狭まりファインモーションは元の種の形を取り戻した。
更に爆発。炎を噴き出しながらその姿が薄れて消えていく。
空間が完全に崩壊し、異層次元の彼方へと消え去っていくのだ。
そして恐らく、何処とも知れない時空の彼方で潰えて消えるのだろう。
二人の、少女の命と共に。


「バイド……よくも、よくもっ!!」

スゥの胸に宿ったのは、新たなる闘志。
今まではただ、まどかと共にあるために。まどかを守るために戦っていた。
けれど仲間の、戦友の死が、そしてその思いを託されたことで、新たに戦う理由を得た。
バイドへの憎しみ。そして、その遺志を継ぐ。
バイドを倒し、平和を取り戻す。その願いを、ついにスゥもまた背負うこととなったのだ。
884 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/12(月) 00:08:10.64 ID:c14yIZRC0
「あーあ、ついに私達もここまでか」

崩れ行く妖花。その種の只中で。
二人は、ついに最後の時を迎えていた。

「そうね、残念だけど……きっと、彼女なら大丈夫よ」

「そうだよね。私と織莉子が身をなげうって助けたんだ。やり遂げてくれなくちゃ恨むよ」

こんなときだからこそ、交わされる会話は軽やかで。

「……続き、できなくなってしまったね」

「そうね。本当に……もっと、貴女と触れ合いたかったわ。
 貴女と一緒に居たかった、貴女を感じたかった。……キリカ」

「織莉子……私も、私もっ。……好きだよ、愛してるんだ。
 だから、よかった。最後まで織莉子と一緒で、一緒に……最後を迎えられて」

爆発に煽られ、機体が激しく揺さぶられる。
もう、幾許も持たないだろう。

「……私達はずっと一緒よ、キリカ」

「うん、一緒だ。ずっと……ずっと」

異層次元の遥か彼方で。
妖花の種が。弾けて消えた。
885 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/12(月) 00:08:39.42 ID:c14yIZRC0
「こちらラストダンサー。敵バイド中枢を撃破。跳躍空間の出口を発見。このまま先行し、敵バイドを殲滅する」

空間の歪みが消失し、艦隊との通信が回復すると、即座にスゥは通信を送った。
そして、前方に広がる空間へと飛び込んでいく。
そこは跳躍空間を越えた先。26次元の彼方。
宇宙墓標群と呼ばれる、宇宙の墓場にしてバイドの巣窟。
ここを抜ければ、敵バイドの中枢はそこにある。



オペレーション・ラストダンスが最期の行程に入った。

まだ宇宙酔いも醒めないまま、私は、最初のターゲットに狙いを定めた。


魔法少女隊R-TYPEs 第17話
   『オペレーション・ラストダンス(前編)』
          ―終―
886 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/12(月) 00:09:10.38 ID:c14yIZRC0
【次回予告】

多くの犠牲を払いながら、ついに人類はここまで辿りついた。

「ここが……バイドの中枢」

黄昏に沈む人類が、バイドに放った最後の一矢。

「ここまでかしら、私達も」

それが今、バイドを狙い、食い破る。

「ここで終わらせる!お前を倒して、私は帰るんだっ!!」

少女の祈りは、願いは、そしてその刃は今。
人類を救うために、振り下ろされる。

『今だよ、スゥちゃんっ!』

そして人類は、勝利を………。


次回、魔法少女隊R-TYPEs 第18話
     『オペレーション・ラストダンス(後編)』








――お別れだ、人類。
887 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/03/12(月) 00:12:09.63 ID:c14yIZRC0
ついに、ついにここまで来たなぁという感があります。
長かったなぁ、本当に。

>>868
もちろんソウルジェムとして搭載されている以外にも
グリーフシードとして搭載されている少女も沢山いるわけです。
あれだけ大きな艦を動かすのですから、沢山燃料も必要になるのです。

そしておりキリコンビの最後の活躍でした。
どんどん皆さん脱落して行きます。

>>869
さすがにここからルート分岐はやらかさないようです。
そしていよいよ帰還編ですね。
じっくりたっぷりとバイドライフをお楽しみください。
貴方の英雄は、一体どのように戦うのでしょうね。
888 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/12(月) 00:14:51.13 ID:HTw2x4Oho
乙!
スゥちゃん・・・
889 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/03/12(月) 01:15:42.74 ID:kjvFmT9no
乙。
Finalでは刄Eェポンじゃなくてスペシャルウェポンに名称変更されてたっけ。
刄Eェポンの方がボムっぽい名前で好きなんだけどなぁ。


次は6.0か。ということはアレが・・・
890 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/12(月) 06:47:49.91 ID:E8i+FWrDO
お疲れ様です!
ちょ、次回予告の最後…!?

織莉子さん。キリカさん。お二人の事は…人類が健在である限り、永遠に語り継がれるでしょう。英雄を、救った者として…。敬っ礼っ!!
891 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/13(火) 06:46:42.22 ID:iqvLuGO80
バーチャルコンソールの『SUPER R-TYPE』、『R-TYPEIII THE THIRD LIGHTNING』、ついでに『スペランカー』は2012年3月30日をもって配信を終了いたします。
892 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/03/14(水) 14:12:27.46 ID:SbsLysHx0
さて、それでは最終決戦と行きましょうか。

893 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/03/14(水) 14:13:02.80 ID:SbsLysHx0
赤く染まる異貌の宇宙。
寄り集まった岩塊や機械の残骸が作り出す複雑な地形。
ここはバイドの巣窟。バイド中枢の前に立ちはだかる最後の壁、宇宙墓標群。
その只中を、ラストダンサーは駆け抜ける。

岩場の影や機械の隙間から、次々に現れる小型バイドのアステロイドタランや
バイドに汚染された歩行戦車、アレンを、その弾幕を掻い潜りながら焼き払い、時にやり過ごし。
前部に堅牢な装甲を持ちつナスルエルを、ギガ波動砲の貫通力で打ち抜いて。
数を頼りに押し寄せるキャンサーやリボーを片っ端から叩き落して。
ラストダンサーの歩みは、未だ止まらない。

多くの犠牲と願いを背負い、少女は戦う。
その犠牲が生んだ痛みを、憎しみを。そして平和への願いを。
人類の種としての生存という、根源的な欲求を。その全てを糧に、力に変えて。
それが生み出す歪んだ狂気の産物を、抵抗と復讐の産物たる、R戦闘機を駆って。
人類は、バイドとの戦いを続けてきた。
それは人類の歴史の中から見ればほんの一時の、けれど、あまりに激しく苛烈な戦い。

その終止符を、討つために。
26次元の彼方で、少女は、偽りの英雄は、スゥは死と閃光の舞を踊り続けていた。
彼女はまさしく最後の舞い手。その体たるラストダンサーもまた
遍くバイドの撃滅という、断固たる意志を持って生み出され、正確にそれを為し続けていた。
894 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/03/14(水) 14:13:31.14 ID:SbsLysHx0
敵の猛攻をやり過ごし、更に奥へと突き進む。
この先にも巨大なバイド反応がある。
ここでこれを潰して後方からの追撃を断ち、さらに討伐艦隊の進軍を助ける。

未だ討伐艦隊は跳躍空間の中にあり、通信は届かない。
それでも、必ず来ているはずだと信じて、スゥは往く。

そんなスゥの眼前に、新たな敵が現れた。
直接見るのは初めてだが、スゥはそれをよく知っていた。
忘れようも無い異貌。けれどそれは、資料で見たものよりもずっと大きい。

「これは、アウトスルー……よね?」

そう、大きかったのだ。
インスルー同様全身に無数の節を持ち、そこから弾幕を展開する。
けれどその節の一つ一つが、R戦闘機の倍はあろうかという大きさなのだ。

ちなみに、インスルーとアウトスルーは名前も姿もよく似ている。
実際、どちらも果たす役割は同様。わざわざ区別する必要があったのだろうかと思うほど。
けれど、バイドに詳しい者からすれば、インスルーとアウトスルーにはバイド生物学上大きな差があるのだという。
バイドについての講習を受ける中で、そのようなことを聞いたことを覚えていた。
もっとも、どこがどう違うのかなど、スゥには何も関係のないことだったのだが。
895 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/03/14(水) 14:14:01.17 ID:SbsLysHx0
重要なのは、アウトスルーは常にゴマンダーと共にあるということなのだ。
生命要塞ゴマンダー。この期に及んでその卑猥さをもって、その異貌と脅威をもって
スゥの前に立ちはだかろうとしていた。

「……けれど、ゴマンダー程度、負けはしない」

もちろんゴマンダーはA級バイド。恐ろしい相手ではある。
だが、それはあくまで通常戦力での打倒を目指した場合の話。
対処法さえ覚えておけば、そしてラストダンサーの性能を持ってすれば、恐れるに足らない相手なのだ。
宇宙墓標群の中枢たるバイド。それがゴマンダーだというのならば、打倒は恐らく容易であろう。
油断も慢心もしない。ただ、それでも倒すべき敵が明確になり、スゥは更なる闘志を燃やした。

節から放たれる弾幕を掻い潜り、フォースで受け止め。
カウンターと言わんばかりに放つレーザーが、次々にその節を破壊していく。
すぐさまアウトスルーは戦闘力を失って、逃げるように奥へと消えていく。
その後を追えば、間違いなくゴマンダーの元へとたどり着けるだろう。
だが、敵もそうやすやすと追わせてはくれない。
スゥの行く手を塞ぐように、前後から大量のリボーが。
そして地上には無数のアレンが展開し、一際激しい弾幕を展開した。

「わざわざ広いところに追い込んだのは、このためだったのね」

前後左右、そして上下も見える全てが、敵と弾幕に埋め尽くされる。
地形を活かしただまし討ちの後は、ひたすらに物量による力押し。
確かにそれは脅威ではある、けれどそれは、受け手が並であればこそ。
896 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/14(水) 14:14:27.37 ID:SbsLysHx0
「今更こんなもので、私が止められるかっ!!」

一瞬で、その場に展開する敵と放たれた弾幕を頭に叩き込む。
レーザーで敵を薙ぎ払いながら急降下。追いすがる敵弾をぎりぎりまで引き寄せて急上昇。
急に座標を変えた敵に、放たれる弾幕に隙間が生まれる。
その隙間を縫って突き進み、対地レーザーが地上のアレンを一掃する。

けれど中には、耐久性の高いミサイル砲台、レリックも混ざっていたようで。
レリックは対地レーザーの波を受け止め、そのまま対空ミサイルをばら撒いた。
波動砲をチャージしながら、対空ミサイルをフォースで防いでレリックに肉薄。
猛攻を受けきる中で再度ドースを蓄えたフォースで、レリックを押し潰して焼き払う。
レリックを破壊してすぐ後方に、もう一つレリックの反応。
頭上には一瞬で大量のリボーが展開し、制空権を確保するため弾幕を放ち、頭上を押さえる。

更に、天井の裂け目からはアステロイドタランにキャンサーが湧き出し、押し寄せる。
逃げ場の無いほどの濃密な弾幕。けれどもう、逃げる必要もない。

「ハイパー……ドライブっ!」

放たれる無数の波動の光。
そしてそれと同時に、光の軌道を描いて廻るフォース。
ハイパードライブは、それと同時に機体を守るためにフォースによる防御を行う。
機体の周囲を回転したフォースは、次々に迫り来る敵弾をかき消していく。
897 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/14(水) 14:15:01.04 ID:SbsLysHx0
ハイパードライブ発射と同時に浮上、敵弾を強引に掻き分けながら
連続して放たれる波動の光が、頭上に展開していたリボーやキャンサーを薙ぎ払う。
続けて即座にフォース変更。R-9Sk――プリンシパリティーズの持つファイヤー・フォースへと変更される。
そこから放たれた青い炎の塊。接触と同時に炸裂し、持続して炎によるダメージを与えるファイヤーボムが
天井を這うアステロイドタランを次々に焼き払っていく。

二重の表皮構造を持ち、耐久性に優れるアステロイドタランだが
その堅牢な表皮もまた生体組織。生体系バイドに対して絶大な威力を誇る火炎兵器の前には
抵抗することも許されず、超高温のプラズマ炎の中へと消えていった。

敵の猛攻を退け、道は開けた。
次に見えたその空間は、巨大な円筒のようだった。
遥かに深く、底さえ見えないその空間。
その暗い闇の底から、ラストダンサーを目指して再びアウトスルーが這い出してきた。
一度ゴマンダーの中へと戻ったのだろう。既に破壊された節は再生を遂げている。
ゆっくりとその身をうねらせながら、節々から弾幕を放って迫る。
更には暗い円筒の中で、保護色めいた漆黒を纏ってキャンサーが攻撃を仕掛けてくる。

けれど、そう。それさえもラストダンサーの前には無力。
すり抜け、かわし、打ち砕き。ついにその円筒の底が見えてきた。
それは、醜悪なる肉塊だった。
898 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/14(水) 14:15:42.91 ID:SbsLysHx0
ゴマンダーは、あらゆるものをエネルギーとして吸収しどこまでも成長する。
けれど、そのままでは無限に成長する自らを制御しきれず自壊してしまう。
それを防ぐため、インスルーやアウトスルーに自らのエネルギーを消費させ、成長を抑制している。
そんな性質があればこそ、人類がかつて遭遇してきたゴマンダーは、どれも同じような大きさであった。

けれど、今この円筒の底を埋め尽くしたゴマンダーは違う。
従来のそれの数倍にも値する巨躯。そして変わらず蠢く醜悪さ。
これほどの大きさの物と遭遇したのは、人類史上初めてのことであった。

もっとも、ゴマンダーほどの大型バイドと遭遇したものなど、そうはいないのであるが。

『っ、あれは……』

脳裏に響くまどかの声は、どこか怯えの色を含んでいた。

「……心配ないよ、まどか。どれだけ敵が大きくたって、私は負けない」

その醜悪さに、異形に、巨躯に、もちろん怯えている所はあるのだろう。
けれど、まどかの知るゴマンダーとの記憶。それは初めてバイドとの邂逅を果たした後のこと。
頼もしい戦士であり、頼れる先輩であったマミが、小惑星帯の中で戦った相手。
勝利はしたものの、その正体は擬態能力を持ったファントム・セル。
その能力が生み出したドプケラドプスは、マミの機体と命を一度は奪っていたのだ。
その時の記憶が、まどかの中で蘇る。
思えばあれが、彼女がバイドによって受けた初めての犠牲だったのだ。
899 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/14(水) 14:16:18.27 ID:SbsLysHx0
バイドとの戦いは、多くの命を奪っていった。
まどかにとっても、その喪失の記憶は思い出せば胸がずきりと痛む傷だった。
だからこそ、これ以上奪わせないために。これ以上失わないために、スゥはここにいるのだ。
その願いを託して、送り出したのだ。

『……頑張って。スゥちゃん。お願いだから勝って。……そして帰ってきて』

恐れに震え、記憶に傷つき。震えるようなまどかの声が伝わってきた。
まどかを悲しませるバイド。それは倒さなければならない。
人の未来を閉ざすバイド。全て倒さなければならない。
その為の力を手に、ラストダンサーは円筒を急降下していく。

ゴマンダーの弱点は、本体頭頂部に存在するコア。
呼吸でもしているのだろうか、時折そのコアが露出する。
その瞬間を狙って狙い打つことができれば、その撃破はそう難しくはない。

ギガ波動砲のチャージはまだ半分程度だが、それでも十分なダメージを与えるだけの威力はある。
そのコアが開く瞬間を狙って、ギガ波動砲は放たれた。
コアの直上から、一直線に放たれた閃光がゴマンダーに突き刺さる。
激しい光が、暗い円筒の中を一瞬明るく染め上げた。

その閃光が過ぎ去った後。
ゴマンダーは、尚も健在であった。
900 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/14(水) 14:16:48.10 ID:SbsLysHx0
「な……っ」

ギガ波動砲は、確実にゴマンダーのコアを貫いた。
その閃光は敵を飲み込み、焼き尽くしたはずだった。
だが、焼かれた表面には即座に新しい肉がぶくぶくと膨れ上がり、焼け爛れた痕を塞ぐ。
本来綺麗な青色をしているはずのそのコアは、どこかくすんだ色をしていた。

「インキュベーター。どうやら奴の弱点は露出しているコアではないらしいわ。
 ……解析はできているの?他の弱点があるなら教えなさい」

『どうやらあの固体は、通常のゴマンダーよりも遥かに進化した固体のようだね。
 体が大きいだけではなく、外部にコアを露出しないようにしたようだ。
 外側に見えているあのコアからは、ほとんどバイド反応は出ていないんだ』

ラストダンサーの情報を逐次受け取りながら、解析を進めていたキュゥべえが答えた。
その言が正しいのなら、やはりあのコアは弱点ではないということなのだろう。

「そんなことはどうでもいいのよ。いいから早く、奴の弱点を教えなさい」

そんな事実はどうでもいいのだ。
必要なのは、敵を倒すための術ただ一つ。
それさえ分かれば、それを実行するだけでいいのだから。

『あの固体のバイド反応は、内部からのものが強い。
 もしかすると、弱点のコアを体の中に隠したのかもしれないね』

「……試してみるわ。駄目ならその時よ」
901 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/14(水) 14:17:21.93 ID:SbsLysHx0
すぐさまアウトスルーやキャンサーが、迎撃のために迫り来る。
それ自体はやはり回避は難しくはない。再びギガ波動砲のチャージを続けながら回避を続けた。
狙うは、アウトスルーの出入りする開口部。そこが開いた瞬間に、ギガ波動砲を叩き込む。
それで駄目なら、流石に後がない。

チャージ中はレーザーは放てない。
かといって、フォースで敵を攻撃するには接近せざるを得ない。
特に、アウトスルーの節は無数の弾幕を放ってくる。
潰しておきたい砲台ではあるが、近づいて潰すのは危険すぎる。
だんだんと放たれる弾幕の密度が濃くなっていき、キャンサーもじりじりと追いすがる。
少しずつ逃げ道を塞がれていく。神経を研ぎ澄ませ、臨死の舞を踊り続ける。

ギガ波動砲フルチャージ。一分にも満たないその時間が、やけに長く感じた。
研ぎ澄まされた神経が、感覚を引き伸ばしているのだろうか。
まるで周囲を飛び交う弾幕さえも、ゆっくりと流れているような気がする。

「っ、しまった!?」

かわし続けて追い詰められて、気がつくととぐろを巻くアウトスルーの身の内に
ラストダンサーの機体は囚われていた。
アウトスルーの節が発光する。それは、敵弾の放たれる予兆。
取り囲まれた状況での一斉射撃。もはや、逃げ場はない。
902 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/14(水) 14:18:12.01 ID:SbsLysHx0
完全に退路が閉ざされる前の一瞬。
ほんの僅かに開いた活路。この空間を敵弾が埋め尽くす前に、駆け抜けることができれば。
だが、間に合わない。敵弾が放たれる……。

死に臨し、その死までの一秒が引き伸ばされていく。
どこまでも引き伸ばされていく一秒がその時、不意に停止した。
世界が、全てが静止していた。
それに気付いたのは、見出した活路を駆け抜け、アウトスルーの囲みを抜け出した後。

「……敵が、止まっている?」

それは、かつて暁美ほむらが手にした力。
僅かな時間ではあるが、時の流れを遮る力。
一秒の時間が命運を分ける超高速の戦闘においては、それは圧倒的なアドバンテージ。
その力が今この時、ラストダンサーに宿っていた。

呆気に取られる間もなく、即座に世界は動き始めた。
再び動き出す弾幕を、スゥは慌てて回避した。

『魔力反応検知。……このパターンは、兵装の変更とは違うね』

「っ。どういうこと、インキュベーター」

キュゥべえが、何かを察したように言葉を放つ。
903 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/14(水) 14:18:39.38 ID:SbsLysHx0
『ラストダンサーに搭載された切り札のが発動したようだ。
 ラストダンサーには、兵装の変更以外にもいくつかの魔法を使えるソウルジェムが搭載されているからね。
 結局、兵装の変更以外のソウルジェムは機体に馴染ませることができずに発動しなかったんだ』

「それが、今発動した……ということ?」

『そうだね、特に問題はないからそのまま搭載されていたようだけど。
 何かのきっかけで、それが発動したんだろうね。……驚いたよ。ラストダンサーは、今も進化を続けているようだ』

その力自体は悪いことではない。
けれど、結局借り物の力なのかと嘆息したい気持ちもあった。
この期に及んで、まだスゥ自身の持つ魔法は発現していなかったのだから。

「何だっていいわ。奴を倒すチャンスね」

そんな暗い気持ちを、言葉と同時に吐き捨てて。
ギガ波動砲のチャージを完了させ、スゥは機首をゴマンダーの開口部へと向けた。
そこが開き、中からアウトスルーが出てくるより前に。

再び、ギガ波動砲の閃光がゴマンダーを貫いた。
904 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/14(水) 14:19:09.29 ID:SbsLysHx0
「……冗談でしょう」

その閃光の中から突き出たアウトスルー。
そして開口部の周囲は同じく焼け爛れてはいるものの、すぐさま噴き出した肉がその傷を塞ぐ。
恐らく内部の損傷は軽微、もしくは皆無。
これですら駄目となると、最早打つ手はないのだろうか。

『これは想像以上だね。一旦撤退したほうが良いんじゃないかな。
 討伐艦隊の到着を待って、飽和攻撃で破壊するべきだと思うな』

確かに、敵がラストダンサーの力をもってしても破壊しえないというのなら
それ以上の火力を用意するためには、やはり討伐艦隊を集めての飽和攻撃しかないだろう。
だが、討伐艦隊は未だ跳躍空間の中にある。先の戦いで被った被害も大きい。
すぐに到着してはくれないだろう。それまでの間、奴が大人しくしているのだろうか。

そしてなにより、こんなところで負けていいのか、逃げていいのか。
ラストダンサーが討つべき本当の敵は、間違いなく更に強大な敵なのだ。
こんな相手に、いつまでも手間取っていられるものか。

「……あいつの弱点は、内部にあるのよね?」

不意に、スゥはそう問いかけた。

『100%確実というわけじゃないけどね、大型バイドには須らく全体を統制するコアが存在している。
 それが外部にないというのなら、まず内部にあるだろうとは推測できるよ』

「……試してみるわ。次の一撃で仕掛ける」
905 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/14(水) 14:19:42.24 ID:SbsLysHx0
三度、ギガ波動砲のチャージを開始する。
他の波動砲を選ぶこともできたが、やはり威力という面ではこれに並ぶものは無い。
長時間のチャージが必要だが、その程度の時間を稼ぐことは、無理なわけではない。
先ほどは巧みに退路を誘導され、アウトスルーの包囲を受けてしまったが
それすらも、二度目は通用しない。

時間停止という強力な魔法は、どうやら自らの意志では発動できないらしい。
きっと必要な時になれば、勝手に発動してくれるのだろうと割り切った。
もとより、そんなものに頼りすぎるつもりは無い。
バイドは、この手で叩き潰して見せるのだ、と。

ラストダンサーのフォースが、更にその姿を変える。
円錐状の先端部に無数の突起を構えたその姿。一言で言えばドリルである。
まさしくその名もドリル・フォース。
ドリルは浪漫と言うには言うが、その浪漫を本当に形にしてしまった、困ったフォースである。
とはいえ、その形状からなる突破力の高さは折り紙つきであった。

スゥは、そんなドリルフォースを閉ざされたままのゴマンダーの開口部に撃ち込んだ。
閉ざされた肉の割れ目に分け入って、高速で回転するドリル・フォースが開口部をこじ開ける。
更にフォースが周囲の肉を焼き払い、再生が始まる僅かな間にラストダンサーが飛び込んだ。
外からの攻撃では埒が明かない。ならば、直接内部から叩くのみ。
勝負は一撃。そこでしとめ損なえば、ラストダンサーといえど汚染は免れない。

ラストダンサーが飛び込んだ直後、再生した肉が開口部をぴっちりと閉ざした。
最早、内部の様子は伺えない。
906 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/14(水) 14:20:10.45 ID:SbsLysHx0
『そんな……スゥちゃんっ!』

傍から見れば、それは無謀な突攻にしか見えない。
少なくともまどかにはそうとしか見えず、思わず心が悲鳴を上げた。

『……それがキミの選択なんだね、スゥ。
 キミはもう少し賢いかと思っていたよ。……残念だ』

そしてそれは、キュゥべえにとっても同じだったようだ。
あれではまず助かるまい、押し潰されるか汚染されて、それで終わりだ。

『キミなら、バイド中枢までたどり着いてくれるかと思ったんだけどな』

多分にその声に落胆を交えて、キュゥべえが言葉を放り投げた。
確かに苦境の連続ではあった。けれど、かつての英雄達と同様に、きっとやり遂げてくれると
そう期待していたのだが、それも裏切られてしまった。

『無念の内に、非業の死を遂げた英雄、か。……少し、弱いね』

なにやら意味深な呟きが、答えるものの無い虚空を揺るがした。
けれど、その声は届いた。そして言葉を返すものがいた。

「………勝手に、人を殺さないでもらいたいものね」

スゥの声が、それに答えた。
907 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/14(水) 14:20:41.05 ID:SbsLysHx0
『スゥちゃんっ!?』

『驚いたな、まだ生きているのかい?』

ゴマンダーの体内に突入し、それで尚生きているというのか。
まどかにとってもキュゥべえにとっても、それは驚愕に値することだった。

「ええ、そしてこれで……終わりよ」

直後、ゴマンダーの巨体が、その各所から激しい光が噴出した。
ギガ波動砲が、ゴマンダー内部という逃げ場の無い閉鎖空間で、存分にその暴威を発揮しているのである。
コアを、そしてその体内を徹底的に焼き払われ、その巨体が崩れていく。
更に本来コアのあるべき頭頂部から、一際強く光が噴き出して。
その光に続いて、ラストダンサーが飛び出した。

この三度のギガ波動砲の衝撃に、円筒状の空間そのものが耐え切れなかったのだろう。
崩れ落ちていくゴマンダーと同じく、その円筒も崩壊を始める。
この空間自体が、宇宙墓標郡の中枢である。
中枢を失い、岩塊と機械の残骸が複雑に絡み合った宇宙墓標群は、崩壊を始めていた。

「……巻き込まれてはかなわないわ。このまま前進する。
 ここを抜ければ、バイド中枢にたどり着けるはずよ」

機体への損傷も、バイド汚染もまだ許容範囲内。
ラストダンサーがその性能を十分に発揮するには、何一つ問題は無い。
そしてラストダンサーはその身を翻す。
崩れゆくバイドの巣窟を後にし、更に奥へと突き進む。
後続の艦隊も、この状況を見れば何があったのかを知ることができるはず。
後詰めは彼らに任せることにした。

そしてスゥは、ラストダンサーはついに、作戦目標であるバイド中枢の存在する
人智を超えた空間へと、その歩みを進めるのだった。
908 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/14(水) 14:28:31.94 ID:SbsLysHx0
宇宙墓標群、終了です。
これはまあ前座のようなものですから、このくらいでご勘弁を。
あそこも大概きついステージなんですけどね。

>>888
否応なしに、戦いは少女達を成長させていくようです。
スゥちゃんもまた、生まれたての心がめきめきと成長していきます。

>>889
私もΔウェポンの方が語感が好きなので、そちらを採用しています。
まあきっと、デルタがはじめて搭載された機体だからΔウェポンとかそういう理由なんですよ。

そしてアレ、終了。
ここは割とさっくり行きます。
ここも相当の難所ではあるのですが、見せ場的にはボスくらいですしね。

>>890
語り継がれればよいのですが、おりキリコンビの立場はあまりよくありません。
せめて生きて戻ることができれば、願いを叶えることもできたのでしょうけど。

>>891
うむっ、緊急DLだ。
流石に今まで余裕ぶっこいてましたが、これはさっさと買わなきゃまずいですね。
909 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/03/14(水) 15:14:37.17 ID:yVKRm1Bpo
乙です。
ハイパードライブの時に自機の周りを回るのはビットじゃないかな?
910 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/14(水) 16:46:19.74 ID:kk5VkcQDO
お疲れ様です!
ラスダンもソウルジェムを複数搭載していたとは…、それにしても時間停止、か。まさか、ほむらちゃんの?自爆寸前に、時を越えてまで、助けに現れてくれたのだろうか…?
911 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/03/14(水) 18:06:46.40 ID:+8pVyh8co


>>910
うはwwwwww死んだ筈の8号のSJが復活してるwwwwwwww
意識ないけど魔法は使えんじゃんwwwwwwうぇwwwwwwww
時間停止の固有魔法とかすげえし同型の英雄ちゃんとも相性いいに違いないwwwwwwww載せちゃえwwwwwwwwwwww

というチームRtypeの愛だな
912 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/03/14(水) 20:10:12.12 ID:ZPdvzJ2do


ゴマンダーは惑星規模のサイズのモノも確認されているそうですな
913 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/14(水) 20:59:39.65 ID:0+QqzOuNo


あんこちゃんの願いでほむほむとマミさんが復活しなかったのはまだ死んでなかったからか
フリーザ編の神龍が悟空の復活ムリポって言ったのと同じだな
914 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/03/15(木) 03:37:29.83 ID:nXXtjOWno
こんなんあったが…
http://i.imgur.com/Wbp1h.jpg
http://i.imgur.com/0jpnT.jpg
http://i.imgur.com/5Fd7q.jpg
http://i.imgur.com/pS9Go.jpg
http://i.imgur.com/IqV8T.jpg
915 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/15(木) 18:28:10.62 ID:YO56YkFOo
>>914
一番下の説明文絶対間違ってるだろww
916 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/03/15(木) 23:55:04.90 ID:2AguiSPX0
まどポはとりあえずこの話が完結するまではお預けです。
発売までには書き終わる予定だったのに、どうしてこうなったのでしょうね。

では、今日も投下行きますか。
917 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/15(木) 23:55:42.45 ID:2AguiSPX0
時を同じくして、太陽系でも最大の決戦が始まっていた。
今までの襲撃を遥かに上回る規模のバイド群が、太陽系内へと侵入を目論んでいる。
だが例えどれほど敵の数が増えようと、迎え撃つ者の行動は変わらない。
グリトニルを擁する太陽系絶対防衛部隊、そして魔法少女隊はそれを迎え撃った。

小惑星帯を舞台に、魔女兵器と正規軍をもって中央を抑え。
さらにその両翼を、魔法少女隊と非正規部隊との混成部隊をもって抑えつける。
それさえ崩れなければ、どれほど敵が現れようと問題は無いはずだった。
当初はその目論見どおり、次々と押し寄せる敵を中央へと誘い込み、撃破していくことに成功していた。
だが、今回の敵はあまりにも多勢だったのだ。

開戦から30時間が経過した現在にあっても、敵の攻勢は一時として緩むことは無い。
戦力的に余裕のある中央の部隊ならばともかく、両翼の部隊はろくに補給も受けられず、どんどんと消耗していく。
そして、ついに左翼が破られてしまったのだ。
立て直そうにも、そちらへ差し向ける戦力もなく。
仕方なく、左翼への魔女兵器の投入が決定された。だが、時既に遅く。

左翼を破ったバイド群はそのまま小惑星帯を迂回し、中央の部隊の背後を突いたのだった。
中央の部隊は必死の抵抗を行い、戦力の半数を失いながらもそれを撃退。
しかし、戦力の半減した部隊では中央の戦線を保つことさえ困難だった。
尚もバイド群は続々と押し寄せる。そしてあまりに長く、そして激しく続いた戦闘は
小惑星帯をも激しく破壊し、そうしてできた間隙から敵の侵入を許してしまっていた。
918 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/15(木) 23:56:09.86 ID:2AguiSPX0
「……何機、ついてきているかしら?」

ひしゃげて曲がった砲身を抱えたコンサートマスターが、ゲルヒルデが通信を送る。

「わかりませんが、最後の接触の中で、3機やられたのは確認しました」

隣に並んだガルーダが、マコトが通信に応えた。
最早その機体にフォースはなく、軌道戦闘機の特徴たるポッドさえも片方が失われていた。

彼女達の部隊は、崩壊した左翼に展開していた。
敵のあまりの多勢に、これ以上の防衛が不可能であり
このまま留まれば全滅は免れない。それを察し、全部隊に撤退を指示した。
何とかこの死地を切り抜け、他の部隊と合流するように指示を出したのだった。

だが、こうしてその戦場を切り抜け、ゲルヒルデと共にあるのはマコトの機影のみ。
戦場の中で散り散りとなってしまい、他のメンバーの状況はうかがい知れない。
もしやすると皆、敵に討たれて潰えてしまったのかもしれない。
暗い不安が胸中によぎる。
それでも、戦わなければならない。まだ、彼女達は生きているのだから。

「波動砲は……だめね。レールガンも弾切れとなると……フォース頼みしかないわね」

少し余裕ができたところでようやく自機の状況を確認し
半ば嘆息するかのようにゲルヒルデが呟く。

「そっちはまだマシですよ、こっちはフォースもポッドもどこかに行ってしまいましたし」

同じく、溜息交じりに言葉を返すマコト。
どちらの機体もいくつも被弾の痕があり、まさしく満身創痍といった状態だった。
919 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/15(木) 23:56:50.94 ID:2AguiSPX0
「せめて、どこかで補給と修理を受けたいところだけど……前方の部隊はそんな余裕はなさそうね」

「一度、グリトニルに戻りませんか?補給を受けるなら、それが一番確実なはずです」

それも悪くない、と。マコトの言葉にゲルヒルデも心の中で頷いた。
状況を見るに、他の場所もかなりの大混戦となっているはずである。
あの死地を切り抜け、傷ついたままの機体で飛び込んでいくには分が悪すぎる。
となれば、一度補給を受けに戻る必要があるのは誰しも同じなのだ。
それに、この状況をどうにかするには今展開している戦力だけでは足りない。
グリトニルの防衛部隊にも出撃を要請するために、一度戻ったほうがいいのかもしれない。

「……そうしましょうか。でも、なるべく急いで戻ってきましょう」

もたもたしているとバイドの追撃を受けることにもなりかねない。
即座に二機は機首を巡らせ、グリトニルへと進路をとった。
往復と補給でかかる時間は、決して短くはない。
その間、皆が無事でいてくれることを祈りながら。

「どれだけ策を練って、入念に準備をして、腕を磨いても。全てを数と力で押し潰していくのね、奴らは」

無力さと悔しさをその言葉に滲ませて、ゲルヒルデは呟いた。
通信にも乗ることのないその呟きには、応える者は誰もいなかった。
920 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/15(木) 23:57:20.24 ID:2AguiSPX0
「グリトニル・コントロール。グリトニル・コントロール。こちらゲルヒルデ。
 補給のため一時帰投したわ。……グリトニル・コントロール?」

グリトニルとの通信可能圏内へと入ると同時に、グリトニルへと通信を飛ばす。
だが、グリトニルからの返事はなかった。
代わりに飛び込んできたのは、全帯域通信で強制的に投げかけられた声だけだった。

「こちら、グリトニル駐留部隊。現在グリトニルは襲撃を受けている!
 バイドが基地内部に侵入している!誰でもいいっ!救援を……っ!!」

それは、助けを求める声だったのだろう。
けれど同時に、断末魔の声でもあったのだ。
その声を最後に、全帯域に流され続けていたその声は、ぷつりと途切れてしまったのだ。

「……隊長。今の…は」

「認めたくはないけれど……どうやら、敵には別働隊がいたようね」

どちらも、声が震えていた。
最悪の予想が正しければ、恐らくグリトニルは既に陥落したのだろう。
太陽系外周を守る防衛ラインは、既に突破されてしまったということなのだ。

「そんな……そんなっ!?じゃあ……私達の、身体は」

魔法少女は、R戦闘機にソウルジェムのみを搭載している。
戦闘中、その身体はグリトニルに安置されていた。
そのグリトニルが、バイドによって陥落した。それはすなわち。

「……全滅、ね」

マコトのガルーダが、その動きを止めた。
今尚戦う魔法少女達、その数は尚も200を超える。
その彼女達の帰るべき身体が、共に戦い、散ってきた仲間達の眠る墓標が
その全てが、失われてしまったのだ。
921 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/15(木) 23:57:58.40 ID:2AguiSPX0
あまりのショックに、言葉もなく立ち尽くすマコト。
けれど、立ち尽くし、絶望に沈む余裕をバイドは与えてくれなかった。
奴らがもたらすのは、常に死と破壊の中に激しく吹き荒れる、絶望の嵐だけだった。

「これは……バイド反応!?どうやら先ほどの通信を嗅ぎ付けられたようね。
 数はそう多くないけれど……まずいわね」

そして、状況は更に悪化する。
戦闘機型バイドで構成された部隊なのだろう。かなり足も速い。
そう遠からず接敵することとなるだろう。

「……マコト。貴女は今すぐ戻って、そして向こうで戦っている部隊にグリトニルの陥落を報せて。
 グリトニルが陥落してしまった以上彼らは孤立無援になるわ。できれば撤退するように伝えて」

「……隊長は、どうするつもりですか」

暗く、沈んだ声でマコトは言葉を返した。

「ここで奴らの相手をするわ。片付けたら合流するから……行ってちょうだい」

そう、二人の機体は先の戦闘で推進系にもダメージを受けていた。
接近する敵機を振り切ることは難しいだろう。
だからこそ、足止めは必要なのだろう。

「じゃあ、私が残ります……帰る場所、無くなっちゃいましたから」

言葉に深い絶望を込めて、迫る敵機にマコトは静かに機首を向けた。
絶望に浸りきった心に、沸いてきたのは更なる怒り。
奪われてしまったものへの、復讐。
922 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/15(木) 23:58:23.01 ID:2AguiSPX0
「隊長は……帰れるじゃないですか。だから生きてくださいよ」

マコトは知っていた。
ゲルヒルデが、この戦いの後に望んだ願いを。
そしてそれと引き換えに背負った闇もまた、知っていた。

ゲルヒルデの願いは、自らの身体と人生を取り戻すこと。
だから彼女には、まだ生きる望みはあるはずなのだ。
そして、自分のそれは今失われた。

「生きる望みのある人間が、生き延びるべきでしょう?」

「……確かにそれは道理ね。だから、貴女が行きなさい」

微笑み混じりに、優しい声で。

「隊長。貴女が私達の事を大事に思ってくれているのは分かります。
 でも、私達はもう死人なんですよ。だから、死んだ人間にいつまでも構わないでください」

投げやりに言葉を放つ。
けれど、その胸はずきずきと痛んだ。
痛む身体は失ってしまったはずなのに、きっと心が痛いのだ。

「違うわ。貴女達はまだ生きている。そして、これからも生きられる」

「生きてはいけるでしょうね。一生をこんな機体や装置の中で過ごすつもりなら。
 私は……そんなのは嫌だ。そうまでして、生きていたくなんか……ない」
923 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/15(木) 23:59:54.04 ID:2AguiSPX0
「よく聞いて、マコト。私がこの望みを叶えることができるということはね
 そうする方法が、必ずあるということなのよ。それを使えば、貴女達を救うことができるかもしれない」

絶望に沈み、今にもその身を投げ捨てようとしているマコトに
静かに、落ち着いた声でゲルヒルデは告げた。

「でも、それができるのは隊長だけでしょう?私達には、もう……」

「方法があるなら、私はどんな手を使っても貴女達を助けてみせる」

不意に、とても力強い声でゲルヒルデが言う。
そこには、強い決意が色濃く滲んでいた。
自分の人生を、命を賭してでも仲間達を救ってみせるという、覚悟が。

「信用できないのなら、一つ賭けをしましょう」

「賭け……ですか?」

その言葉には、何か悪戯っぽい響きも混じった。

「貴女はこのまま戻って、グリトニル陥落を報せて。私はここで敵を食い止める。
 ……そして、私は必ず生きて帰ってみせる。それができたら、私を信じてちょうだい。
 それを、向こうで戦っている私達の仲間にも伝えて」

「え……っ」

その言葉は、マコトにとっては意外なものだった。
ここで足止めに残るということは、間違いなく死と同義だと思っていた。

「ふふ、足止めとはいったけれど、刺し違えるとまで言ったつもりはないわよ、私は?」




その笑みと、力強い言葉に送り出されて。
マコトのガルーダは、急速に宙域を離脱していった。
信じています。と、一言小さな願いを残して。
924 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/16(金) 00:00:55.65 ID:ApJvemjW0
「……さて、と。これで簡単には死ねなくなっちゃったわね」

その背に背負う命の重さ。
最初はそれが重かった。いつからだろう、その重さが心地よく感じられるようになったのは。
誰かのために、守るために、その力を振るうことができるようになったのは。
それもきっと、素晴らしい仲間達のおかげだろう。
生きて戻ってまた会いたいな、とそう思う。

「生きるために、生かすために戦いましょう。……行くわよ、コンサートマスター」

その声に答えるように、コンサートマスターは光を纏う。
柔らかな、そして強い黄色の光を。
そして、ついに太陽系への侵入を果たしたバイドへとその意識と力を向けた。
925 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/03/16(金) 00:05:56.51 ID:ApJvemjW0
どこもかしこも大変なようです

>>909
改めて調べなおしてみましたら、確かにそうでしたね。
Vは実際にやったことがないので、どうしても色々と粗が目立つようです。

>>910
ラストダンサーには、とりあえず積めるものは色々と積んであります。
あくまで機体の安全性を損なわないレベルで、ではありますが。

>>911
大体あってる。

>>912
あるらしいですね。
Rの新作が出たら、次は1面丸ごとゴマンダーなステージとかあったら良いですね。
本当にいいですね。

>>913
さてどうでしょう、少なくとも、時間停止の魔法をもつソウルジェムは回収されたようですが。

>>914
地球外にも魔法少女はいたんだなー。
いるんだろうな、とは思いましたが、出てくるっぽいですね。
まあこの話が終わったら買おうかなと思います。
多分四月中には、なんとか。
926 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/16(金) 02:20:21.27 ID:xCJp0SkDO
お疲れ様!
なんてこった!彼女達のベッドが無くなっちまった!

ゲルヒルデさんも、マコトちゃんも、ジーグルーネちゃんも、リョーコちゃんも…生き残ってほしいなぁ。
927 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/17(土) 16:39:45.64 ID:+c/VQbuuo

これで生き残れたら不死身のマミとか言われそう
3度目の正直とはなってほしくないしな
928 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/03/18(日) 02:34:44.69 ID:uwXzJERz0
この話を書くにあたって、随分とF-Aルートを見返しました。
ええ、色々とやばい背景をじっくりと堪能いたしましたとも。

では、投下行きましょう。
929 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/18(日) 02:35:16.70 ID:uwXzJERz0
深淵へと続く洞窟。その只中をラストダンサーが行く。
宇宙墓標群を抜け、バイド中枢へと向かうこの道は、まるでどこまでも続いているかのように長かった。
だが、そこにはバイドの姿は一切存在していなかった。
けれど、本当にこの先がバイドの中枢であることは、疑うべくもなかった。
その空間そのものなのか、それともその奥にある何かなのか。
それが、非常に強大のバイド反応を放っていたのだから。

いつどこから敵が襲ってきてもおかしくはない。
それでも、その洞窟の中は静かで、ただただラストダンサーは静かに突き進んでいた。
長らく静かで、少なからぬ退屈をスゥが覚え始めたその時に。
前方に何かが見えてきた。それは……。

「……これは、液面?」

得体の知れない液体が、洞窟内部をひたひたと満たしていた。
洞窟の岩肌の色とも違う、それは琥珀色の液体だった。

『無重力の宇宙空間だというのに、バイドのやることはわからないね』

同じく状況を確認したキュゥべえが、不思議そうに呟いた。

「なんだっていいわ、そんなこと。この先にバイド反応があるのなら、突入して破壊するわ」

その液体自体からは、バイド反応はほとんど検知されない。
突入したからといって、それで汚染される心配は無いだろう。
そしてラストダンサーは、謎の液体の内部へと侵入を開始した。
930 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/18(日) 02:35:43.29 ID:uwXzJERz0
「特に、何も無いようだけど」

液体内部に突入するも、やはりバイドの反応はない。
多少機体にかかる抵抗は増すが、その程度で動きを阻まれるほどR戦闘機は柔ではない。
辺りを警戒しつつ、ラストダンサーは奥へ奥へと進んでいく。

『解析のほうは問題なく進んでいる。驚いたよ』

「何か分かったのなら、勿体つけずに言いなさい」

やはり、スゥのキュゥべえに対する反応にはどこか棘がある。
今までのことを考えれば、当然と言えば当然なのだろうが。

『不思議なことにね、この液体の構成物質はキミ達にとっても馴染み深いものだ。
 構造自体は多少異なるが、それはアミノ酸と塩基に近い』

『それって……普通に人にもある物質、だよね』

こんな異層次元の深淵で、バイドの巣窟を抜けた先で。
まさか、こんなものに出くわすことになろうとは。
まどかの声も、少なからず驚きを含んだものだった。

『ああ、まさしく人の身体を構成する主要物質だろうね。
 ……バイドは人とよく似た遺伝子構造を持っている。別に不思議じゃないさ』

バイドも人も、同じようなものだと言うのだろうか。
学術的に言えばその通りであるという。
人類とバイド。決して相容れないはずの存在なのに、とても近しいというパラドックス。
もしかするとそれは、似ているからこそお互いを排斥しあう。
近親憎悪にも近しいものなのだろうか、と思ってしまう。
931 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/18(日) 02:36:39.86 ID:uwXzJERz0
『でも、この塩基構造は……』

何かをキュゥべえが言いかけた。
その時、突然に洞窟が消え去った。
洞窟の壁面が消失し、後にはひたすらに琥珀色の空間が残されている。
いつしか、液体さえも消えていた。

眼下に、背後に、頭上に。全方位に琥珀色の液体が広がっている。
それは周囲を液体に囲まれた円筒。恐らくそれが、ラストダンサーの進むべき道。

「どうやら、連中は私を招待してくれているようね」

スゥは、それを察していた。
洞窟が消え、液体が道を開ける。
その瞬間、今まで感じていたバイド反応が、より強く大きくなったのだ。
その存在する場所は、この道の先。恐らく最奥。

「後は、このまま突き進んで破壊するだけよ」

『スゥちゃん……これで、最後なんだよね』

そこにいるのがバイドの中枢だというのなら、それを破壊すれば全てが終わる。
けれど、本当にこんなにあっけなくていいのだろうか。
まどかの声は、どこかそんな不安を感じ取っているようだった。

「……終わりにするのよ、私が、この手で!」

そんなまどかの不安を払拭するように、スゥは力強く応えた。
そしてラストダンサーは駆ける。
人とバイドの戦いの歴史。それに終止符を打つために。
大切な人のため、共に戦ってきた仲間のため。そして全ての未来のために。
932 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/18(日) 02:37:11.33 ID:uwXzJERz0
そしてついに、バイドもその脅威を認識した。
自らを滅ぼしうる脅威。幾度と無く戦いを続けてきた、恐ろしい敵。
そう、人類にとってバイドがそうであるように
バイドにとっても、人類は恐ろしい敵だったのだ。
だからこそ、バイドもまた全力をもって、その脅威を排除するための行動を開始した。

ラストダンサーのセンサーが、バイド反応の出現を捉えた。
だが、それとほぼ同時にそれが飛び出してきたのだ。

「これは……一体っ」

それは無数の棘を持つ球体。
そして、その前面には大きな眼のような器官を持っていた。
赤が一つに肌色が六つ。凸状の編隊を組んでいる。
七匹のバイドの、七つの眼がラストダンサーを見つめていた。

それはまるで、背後の液面から湧き出るようにして現れた。
それこそまさしく、今この瞬間に生み出されたかのように。

「……でも、動きは遅い。この程度ならっ」

サイクロン・フォースから放たれたスルーレーザーが、球状バイドを切り裂いていく。
耐久性は低い。動きも遅い。攻撃らしい攻撃もない。
ラストダンサーにとって、それは恐れるに足らない相手だった。

続けて現れた敵の編隊を、スルーレーザーで引き裂いた。
そこでスゥは気付く。恐らく敵は、赤い個体を中心に構成されているのだろう。
赤い個体が撃破されると、他の個体も共に潰えてしまっている。

「戦う分には、これだけ分かれば十分ね」

進路を塞ぐように上下から迫る敵を破壊して。
更にラストダンサーは突き進んでいく。
933 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/18(日) 02:37:48.11 ID:uwXzJERz0
『これはデータにない、新種のバイドだね。 恐らくこの液体から生まれたものだろう。
 塩基構造を元に構成され、バイドによって変質した生命体。
 ……これは、生命体と呼んでいいのかすらも危ういところだ』

キュゥべえの声は、どこか面白がっているような声だった。

『わかるかい?このバイドの構造は、バイドによって変質はしているが
 人の遺伝子を構成するそれに、非常に酷似しているんだよ。
 そうだね、あの赤い個体はチムス。あの肌色の個体はシュトムと名づけようか』

「名前なんてどうでもいいのよ。他に何か分かったことはあるの?」

散発的に襲い来るチムスとシュトムの群れを薙ぎ払いながら、スゥが問う。

『そうだね、特に言うことはないよ。あのバイドは攻撃手段に乏しく、耐久性も低い。
 ラストダンサーの戦闘力の前では、恐れるに足らない相手のはずさ』

「……それだけ聞ければ十分よ、このまま殲滅する!」

再び破壊の力を宿して、ラストダンサーが



――それは、男の姿をしていた。

――距離を置いて向かい合う、女がいた。

――二人はゆっくりと距離を詰めていく。やがてそのシルエットが、抱き合うように一つになった。
934 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/18(日) 02:38:21.53 ID:uwXzJERz0
「っ!?」

突き進もうとした刹那、スゥの頭の中に飛び込んできたそのビジョン。
バイドの精神汚染だろうかと、気を引き締める間すらもなく。
スゥとラストダンサーの前に、新たなる敵が現れた。
それはまさしく壁。藍色と、そして黒色の球状バイドが壁のように立ちはだかっていた。
そしてその壁はそのまま、ラストダンサーを押し潰そうと迫ってくる。

すぐさまスルーレーザーが、壁の前面を覆う藍色のバイドを引き裂いた。
だが、その背後に立ち並ぶ黒色のバイドは一切の損傷を負ってはいなかった。
かなり堅い。ならばこちらも手を変えるまでだと、フォースをギャロップ・フォースに変更する。
最大収束のレーザービームが黒色バイドを撃つ。しかし、それでさえ敵は無傷。

ならばと次の手を考えている最中、藍色バイドの眼に光が宿った。
内部に熱源。そして次の瞬間、無数に並んだ藍色バイドの眼から光弾が放たれた。
ラストダンサーを狙って放たれる光弾。
敵は統率の取れた動きでもって、一斉に同じタイミングで光弾を放った。
狙いは悪くない。けれど、所詮はそれだけだった。
タイミングをずらすことも、こちらの動きを予測して射撃することもしない。
ラストダンサーはゆっくりと機体を後退させ、敵弾を全てフォースで受け止めた。

敵の攻撃は恐れるに足らない。だが、こちらの攻撃も十分に効果を及ぼしているとは考えづらい。
どうするか、と考える。

『あの藍色バイドはアデン、黒色バイドはグアニムと言った所かな。
 やはり同じく、人の遺伝子を構成する塩基とよく似た構造を持っているよ』

「名前なんてどうでもいい。そう言ったでしょう。……グアニムと言ったかしら?
 奴には攻撃が効かない。何か奴を倒す方法はあるの?」

名前など知らぬと、そうは言うものの。
それでもやはり、個体を識別する名前の存在はありがたい。
グアニムの堅牢さをいかに破るか、その術をスゥは求めていた。
935 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/18(日) 02:38:49.92 ID:uwXzJERz0
『どうやらこれら四種のバイドは、一つの群れを作って生息することが多いようだ。
 そして、その中枢には必ずチムスがいる。それが群れを統率しているから、それを破壊してしまえば』

「そうすれば、奴らを倒すことができる。そういうわけね」

『可能性は高いと思うな。チムス、シュトム、アデン、グアニム。これらのバイドの寄り集まる様は
 まるでまさしく人の遺伝子構造のようだ。……この群れを、ゲノンとでも名付けることにしよう』

TEAM R-TYPEに毒されて、キュゥべえにも研究者気質が感染してしまったのだろうか。
未知のバイドを前に、半ば感心したように解説や命名を行うその様子は
どこか、あの狂気の科学者集団のそれを彷彿とさせていた。

「もう、勝手にしなさい。……とにかく、チムスを探して破壊するわ」

アデン。どうやら内部にエネルギーを生成する器官を持ち、そのエネルギーを光弾として発射するバイド。
そのアデンが打ち出す光弾を、こともなくかわし、時にフォースで受け止め。
スゥはチムスを探して飛ぶ。そしてそれはすぐに見つかった。
アデンの群れの只中、一匹だけ赤いチムスの姿があった。

「……これで崩れてくれればいいのだけど」

近距離まで近づいて、ショットガンレーザーを一発。
チムスの脆弱な身体を破壊するには十分な破壊力が炸裂し、そのままチムスは砕け散る。
次の瞬間。その崩壊をトリガーとして、アデンが、グアニムが続けざまに崩壊を始めた。
数秒もかけることなく、恨みがましい視線だけを残して全てのバイドが消え去っていった。

だが、それで終わりというわけではないようだ。
アデンとチムスで構成されたゲノンが、前後から次々に湧き出してくる。
そして周囲を取り囲むように展開し、光弾による攻撃を開始したのだ。
936 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/18(日) 02:39:21.44 ID:uwXzJERz0
「……これは、長くなりそうね」

その攻撃をかわし、更に反撃で敵を焼き払う。
正確にラストダンサーを狙い来る弾幕は、スゥに足をとどめる余裕を与えてはくれなかった。
そして更に、チムスとシュトムで構成されたゲノンが四方から迫る。
チムスを中心に、棒状に構成されたゲノンは回転しながらラストダンサーへと迫っている。
降り注ぐ弾幕、そして自らを武器として迫り来るゲノンの群れ。

ついにバイドも、その威力の全てをもってラストダンサーを排そうとしていた。
最早、疑いようも無い。

『バイド反応多数出現!すごい数だ、そっちに向かっているよ!』

これだ、この戦いこそが。バイドと人類の命運を分ける戦いなのだ。

『スゥちゃんっ!負けないでっ!』

空間を埋め尽くさんばかりに、数を頼りに攻め立てるシュトムの群れ。
ここまで来て、躊躇うことは何も無い。
ただ目の前のバイドを破壊し、この先へと突き進むだけだ。
バイドを倒して、地球へ帰ろう。

「……さあ、行くわよ。ラストダンサー」

そして光を放ち、纏い。
ラストダンサーは、シュトムの群れへと食らいついていった。
937 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/18(日) 02:42:17.46 ID:uwXzJERz0
アデニンは人体のエネルギー生成において重要なATPの構成パーツだったのですね
だからこそアデンだけが、光弾を放つエネルギーを持ちえたのではないでしょうか。
物書きしながら色々と調べていると、面白いことが分かったりして楽しい部分もありますね。
938 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/18(日) 02:43:53.83 ID:uwXzJERz0
>>926
帰るべき体を失って、魔法少女達の未来は暗いようです。
もちろん、人類の未来も皆一緒に真っ暗なのが現状ですが。

さてはて、彼女達は生き残ることができるのでしょうか。

>>927
マミさんももし生きていたら、ソウルジェムが回収されているかもしれませんね。
もしかしたらラストダンサーの中に搭載されているのかもしれません。
939 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/18(日) 09:44:40.30 ID:nIUNhVYDO
お疲れ様です!
ぶっちゃけて言うと、このステージそんなに大変じゃないですよね。うずまきがダルかったりチャージ&回避の時間が長いだけで。
940 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2012/03/18(日) 12:34:22.90 ID:G2ZnZQ5Z0
乙。
このステージといい
Δの最終ステージといい…

R戦闘機の設定見直しときたくて検索したけど見つからん
エンジンと波動砲は互いに密接な関係があるなんて設定だった気がするんだがどうなんだっけか
941 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/03/18(日) 22:45:50.62 ID:uwXzJERz0
ドップさんに50回くらい押し潰されてギブアップしました。
面白いけどやっぱり厳しいです、R-TYPEは。
本当に殺しにかかってくるんですもの。

さ、残り少ない本スレですが、頑張って進めていきましょう。
942 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/18(日) 22:46:25.86 ID:uwXzJERz0
「みんなが戦ってるのに。……何してるんだろうな、あたしは」

テレビに映し出された映像は、太陽系外周絶対防衛部隊の戦いの様子だった。
それを見ているのは、病衣を纏った人々。
その姿は、彼らが、彼女らが病を負った者であるということを示していた。
地球のとある病院。まだ戦火は遠く、映し出された映像は地球軍の華々しい勝利だけを映している。
それを見て彼らは自分達の勝利を思い描き、今この平和が続いていくのだろうと確信していた。
その中に彼女は、美樹さやかはいた。

華々しい勝利の映像。
その影には必ず、多くの犠牲と死が付きまとっている。
実際の戦況すらも、あれほど華々しく勝利ばかりを飾っているわけではないのかもしれない。
さやかは知っていた。戦うことの恐ろしさを。
そして、バイドという敵の強大さを。
だからこそ悔しいと思う。自分が戦えないことが。
そして何より、大切な人たちを守れなかったことが。

けれどもう、さやかは戦う力を持っていない。
新たに与えられた命は、それと引き換えに彼女の持っていた戦う力を奪い去っていった。
大切な仲間の死が、自ら傷つけてしまった親友が。
そして、何もできない自分自身。そんな無力感が、彼女の心を苛んでいた。
それは、彼女をむしばむ病みとなっていた。
943 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/18(日) 22:47:02.30 ID:uwXzJERz0
じっと手を見た。
随分と細く、弱弱しくなっていた。
無理も無い。ここに来てからあまり食事も取れていない。
夜も、そう眠れてはいない。
夜毎後悔が募って、心を苛みうなされてしまう。
日々自分が磨り減っていくのがよく分かった。
かつての、ほんの半年前の自分は、こうではなかったはずなのに。
そんな自分が情けなくて、また溜息が零れた。

これでもまだ、ここに来たばかりの時よりは大分マシなのだ。
来たばかりの頃は、日がな一日自らを嘆いてばかりだったから。
今にして思えば、よくあの頃に自ら命を絶ってしまわなかったものだと思った。

英雄の帰還より半年余り。
定期的な投薬やカウンセリングが功を奏して、さやかの状態はかなり安定していた。
少し落ち着いた思考で、ようやく色々なことを考えることができるようになった。
その頃にはもう、人類とバイドの戦争は佳境を迎えてしまっていた。

きっともう、あの戦場に戻れたとして、できることは何もない。
ここでこうして、悔やみながらも皆の勝利を祈ること。
それだけが、自分にできる唯一のことなのだろうと、そう考えていた。

無言でさやかは立ち上がった。
これ以上見ていると、思い出してしまう。
精一杯生きて、精一杯戦い続けた日々を。
命をかけて、仲間と共に駆け抜けてきた日々を。
心から信じられた、恐らく生涯に二度と得ることの無いであろう、仲間達のことを。
救えなかった、守れなかった、一人だけ生き残ってしまった、自分のことを。
944 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/18(日) 22:47:41.70 ID:uwXzJERz0
「もう、見ないの?」

立ち上がったさやかに、隣に座った少女が話しかけた。

「うん、もう部屋に戻るよ。また後でね、サーシャ」

さやかよりも幾分かはっきりとした青色の髪の少女だった。
状態の安定したさやかが個室から普通の病室に移された後、隣のベッドにいたのがサーシャだった。
年の頃も近く、サーシャ自身もまだ割と話の通じる少女であったこともあり
さやかにとっては、話し相手となっていた。そういう存在がいたことが、少しは救いになっていたのかもしれない。

「そう。じゃあ私は、もう少しこのまま見てることにするわ」

そう言って、サーシャは再びテレビの画面に視線を移した。
編隊を組み、華麗に宇宙を飛び回るR戦闘機の姿。
それを、どこかきらきらした目で見つめて、サーシャは。

「あんな風に宇宙を飛び回れたら、きっと楽しいでしょうね。
 でも、私はあんな無骨な機械よりも、綺麗なペガサスがいいな。……ふふ」

誰に言うでもなく、少し空想めいたことを言うサーシャ。
要するに、そういう空想癖があるらしい。それも、随分と根深い。
恐らく彼女がここにいる理由も、それに類するものなのではないだろうかと推測できた。

「鋼の翼も悪くないよ。……命を乗せて飛ぶには、丁度いい重さなんだ」

「……さやか?」

一言だけを残して、さやかは部屋へと戻っていった。
945 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/18(日) 22:48:07.15 ID:uwXzJERz0
まだ日は高い。
一日中寝ているような趣味がなければ、病室にずっといるようなことは無い。
だから病室には、さやかが一人。

「まるで燃えカスみたいだ。今のあたし」

力なくベッドに腰掛け、項垂れて。
自嘲めいてさやかは呟いた。
命を、その身体を、燃やし尽くして戦い抜いて。
そして燃え尽きた。今ここにいる自分は、その燃え殻でしかない。
そう思うと、無性に自分が情けない。自分の無力さがたまらない。

「どうなるんだろうな、あたし……これから」

一時期、ここに着たばかりの頃と比べれば相当回復はしていた。
このまま行けば、そう遠からずここを出られるだろう。
出てどうする。そのまま、日常に回帰するのだろうか。
巨大戦艦襲来の後、見滝原はバイドの襲撃を受けていない。
となれば、きっと家族は無事だろう。
無事に帰ってきた自分達の娘を、両親はきっと喜んで迎えてくれるだろう。

そしてそのまま、きっと帰る事ができるのだろう。
見滝原に、自分の家に。……かつて尊いと思った、日常へ。
今はもう、戻れる気がしなかった。

あの日常は、平和に見えた日々は、多くの犠牲の果てに生み出されていたのだ。
その一翼を自ら担うことになって、その尊さを知った。
けれど、そのために余りに多くの犠牲を払ってしまった。
今更もう、元の通りに日常を過ごすことなど、できるはずがない。
もしかしたら、本当にバイドがいなくなってしまったとしても無理かもしれない。
946 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/18(日) 22:48:38.99 ID:uwXzJERz0
「……楽しかったのかなぁ、あんなことが」

戦う事が楽しいだなんて、思いたくはなかった。
だから、きっとそれは違う。
楽しかったのは、仲間と共にいられた日々。
命を賭けて、文字通り駆け抜けていった戦いの中で築いた、絆。
そして、自分にできることがあるのだという、それを為しているのだという。
それが、多くの人を守っているのだという充足感。
きっとそれは、この先一生薄れることの無い記憶だろう。

「楽しかったんだよ。ほむらと、杏子と、マミさんと、キュゥべえと。
 死ぬかもしれないって分かってたのに、でも、楽しかったんだよ。……一緒に居られて。
 ただ、それが嬉しかったんだよ。あたしは……あたしはっ」

視界が潤んだ。
枕に顔を埋めて、零れる涙は見えないようにした。

完全に思い出されてしまった。
孤独な英雄で、クールなようで誰よりも仲間思いだったほむらの姿が。
皆の切り込み隊長で、けれど、一緒なら誰にも負けないと思えた杏子の姿が。
頼れるリーダーで、自分に戦う定めと生き方を示したマミの姿が。
ありありと、彼女達の姿が脳裏に焼きついていた。

嗚呼、嗚呼。
涙を流すのは、寝ている時だけで十分なのに。
これ以上涙を流していたら、心が乾いて割れてしまいそうなのに。
それでも、涙は留まることを知らずに零れた。
枕を濡らして、嗚咽が漏れた。
947 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/18(日) 22:49:08.17 ID:uwXzJERz0
『あたしは、エバーグリーンの墜落で全てを失った。家族を、生活を、友人を。それまでの全てを失った。
 ここにいる人の中にも、きっと同じような人がいるんじゃないかと思う』

泣き疲れて、眠っていたのだろう。
まどろむ意識の中に、声が聞こえてきた。
その、声の主は。

「杏子っ!!」

さやかは飛び起きた。
飛び起きていきなり、ありえないと頭の中でそれを否定した。
杏子は死んだ。自分が生み出した魔女と刺し違えて、死んだのだ。

「……どうしたの、さやか?」

急に飛び起きたさやかに、不思議そうにサーシャが問いかけた。
部屋に戻ってきていたのだろう。その手には、携帯端末が握られていた。
どうやらその声は、この携帯端末から漏れていたのだろう。

「サーシャ。それ……は?」

起き抜けで、まだどこかぼんやりとした調子でさやかはサーシャに問いかけた。

「これ?ケイトから借りたの。バイドと戦う兵士が、式典で話したスピーチなんだけど。
 その兵士は、私達と同い年くらいの女の子なんだって。さやかも一緒に見てみる?」

兵士。式典。スピーチ。聞き覚えがある。
いつか、杏子が気恥ずかしそうに話していた。
そんなことがあったんだ、と。でも、具体的なことは教えてくれなかった。
きっと、知り合いに聞かれるのは恥ずかしかったのだろう。

そこには、パイロットスーツを着て、何万という観衆の視線を一身に受けて立つ、杏子の姿があった。
948 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/18(日) 22:49:37.73 ID:uwXzJERz0
『全てに絶望して、死んでしまいたいと思ったことが何度もある。
 そしてその時も普通に生きている人達を、何度羨ましく思ったか』

あの時最後に分かれて以来、自分の脳裏でしか描くことのできなかったその姿が
今、とてもはっきりとそこには映し出されていた。
それだけで、さやかの瞳からは再び涙が零れだしていた。

「さやか?どうしたの、やっぱりこんな女の子が戦っているなんて、考えるだけでも辛いかしら?
 私もそう思うわ。やっぱりこれはケイトに返しておいたほうがいいかしら」

それに慌てて、映像を停止させようとしたサーシャ。
その手を抑えて、さやかは静かに首を振る。

「いいんだ。そのまま……聞かせて。お願い」

「……そう?わかったわ」

そして言葉は続く。
その言葉が続けられるたび、ざわめいていた観衆が、次第に静かになっていく。

『そんなあたしが、ここまで生きてこられたのは――バイドがいたからだ。皮肉なことにね。
 バイドが憎かったから、戦う術を、理由を教えてくれる人がいたから、あたしは戦って、生き延びてこれた』

「杏子……そっか。あんたも……そうなんだよね」

全て失って、燃え尽きてしまったのは同じなのだ。
そこから、杏子は立ち直った。その原因は、自分だ。
そんな自分が、今こうして燃え尽きてしまい、その膝を折ってしまっている。
それはきっと、随分と滑稽な話だろう。

『一緒に戦うことの頼もしさを知ることができたけど、それは同時に別れの辛さもあたしに叩き付けてくれたよ。
 戦いの分だけ、沢山の出会いと別れがあった。助けたくても、助けられなかった人もいたさ』

その言葉は、ロスとの再会の前に告げた言葉だろう。
その言葉を告げた杏子は、それでも最後は助けることができたのだろう。
ロスを、アーサーを。そしてさやかを。
だから、満足して逝くことができたのだろうかと、心の中で問いかけた。
949 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/18(日) 22:50:06.65 ID:uwXzJERz0
『でもあたしは、今まで戦い抜いてきてよかったと思ってる。仲間に出会えたからね』

仲間と呼んでくれたことを、そしてその仲間が、杏子を救っていたことを。
嬉しいと思う、けれどもう、どうすることもできなかった。
杏子の意志を継ぐこともできない。何もできない。
戦う力は失われてしまったのだ。再び、無力感がこみ上げてくる。

「ごめん、杏子。やっぱり、あたし……ダメみたいだ」

押し潰される。
これほど堂々と、自分の生き方を誇る杏子が眩しくて。
それに比べて、今の自分が情けなくて。
もう、さやかには謝ることしかできなかった。

自責の念と無力感に押し潰され、絶望の淵にどっぷりと沈んださやかの心。
きっと、杏子が見たら笑うだろうな、と。弱弱しい笑みを、さやかは浮かべていた。

けれど、杏子はそんな絶望に沈んださやかを許さない。
自らの命を賭して救ったさやかが、そんな無為の中に沈む姿を、許しはしない。
だからこそ、続く言葉はさやかの心を打ちのめした。
乾いてひび割れ傷だらけのその心を、ばらばらに打ち砕くような衝撃だった。

『そしてあたし達は、これからもバイドと戦っていく。確かに、バイドと戦うことは誰にでもできることじゃないさ。
 でも、例え戦うことじゃなくても、誰にだって出来ることはあるはずだ』

『世界を救うのは、たった1人の英雄だけじゃない。
 あたし達1人1人の思いが積み重なって世界を守るんだ。皆で一緒に守っていくんだ!』

びくりと、さやかの身体と心が震えた。
想いを込めて叩きつけられた言葉は、絶望の色に染まった心を打ち砕く。
砕けて割れて、残った破片はまさに燃え殻。
けれど、その燃え殻の中から蘇るものがあるとするならば。それはなんだろう。
950 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/18(日) 22:50:33.49 ID:uwXzJERz0
『だから生き抜こうぜ!生きてさえいれば、あたしたちにはできることがきっとある。
 無くすな!世界を!諦めるな!自分をっ!!』

涙が零れる。
乾いた冷たい涙ではなく、それは暖かかった。
心がその傷口から流す、血のような涙ではない。
乾いた心を潤して、暖めていく柔らかな雫。

きっとその言葉は心から、精一杯の想いを込めて発せられたのだろう。
こうして映像として残されただけのものでも、その想いは伝わってくる。
声が生み出すその震えはそのままさやかの心に響き、そしてそれを震わせた。

『――勝利は、あたし達の手にっ!!』

ぎゅっと、拳を握った。
胸が熱い。衝動のような、強い気持ちが沸き起こってきた。
何かをしなければならないと、衝き動かされるような感情だった。

「……格好いいわ。本当に憧れちゃう。私もこんな風になれたらなぁ。
 きっと英雄よ、バイドなんて、全部やっつけちゃうわ」

映像が途切れて、言葉を失っていたサーシャが、感極まったように言う。

「英雄なんて、そんないいもんじゃないよ。サーシャ。
 ……ごめん、杏子。あたし、すっごいバカやってた」

拳を握ったまま、さやかは立ち上がった。
その瞳には、もう絶望に沈んだ色はない。
力強い輝きが、宝石のように美しい光が、彼女の瞳に宿っていた。
951 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/18(日) 22:51:51.88 ID:uwXzJERz0
「さやか?……今の人、知ってるの?」

訝しげに尋ねたサーシャに振り向いて、力強く頷いて、さやかは。

「知ってるよ。あたしの大事な仲間だったんだ。……サーシャ、あたし行くね」

「行くって、どこに行くんです?」

にぃ、と不敵にその顔を歪めて。
どこか、悪戯っぽい笑みを浮かべて。

「もちろん、あたしのできることをしに行くんだ!」

力強く、そう告げて。
さやかは、燃え殻から生まれた不死鳥のように再びその心を蘇らせたのだった。
952 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/03/18(日) 22:59:43.43 ID:uwXzJERz0
主人公(さやかちゃん)が復活しました。
けれど彼女はもう魔法少女ではありません。
果たして、一体何をするのでしょうか。

>>939
まあそのうずまきがどうにも集中力が途切れてしまうところなんですけどね。
ラストステージとしては、比較的大人しい方だろうなぁと思います。

>>940
凾ヘ凾ナあれですからね。
どうしてこうも人間を意識させるつくりなのでしょうか、あのステージは。
一応設定を見直すならイリーガルミッションを見るのが一番なんでしょうかね。
某所で多分まだ入手は可能だろうとは思いますが。

そして波動砲は基本的に力場の中に蓄えたエネルギーにベクトルを付与して放出するものなので。
一応そのエネルギーはエンジンから供給されてるのでしょう。
もっとも、そのエネルギーに色々手を加えていくと砲身とかパイルバンカーとかがくっつくのでしょうが。
953 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/03/18(日) 23:02:38.64 ID:CQuqUWkwo
乙です
バイドと人間の間には物理的でない因縁としても物理的な性質としても色々と因果があるという事の表れではないかと思う、個人的には<凵彦INALのラスト
954 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/03/18(日) 23:07:16.54 ID:SggiVJaao

スーファミのしかやったことないけど楽しませてもらってる
955 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/19(月) 08:15:33.05 ID:OKIlPkHDO
お疲れ様ですっ!
魔法少女で無くても戦いを選ぶのなら、ノーマルパイロットかオペ子だろうかね?戦いでない道なら、伝記でも書いたり、復興支援家をしたり…恭助の恋人になったりとか?
956 : [sage]:2012/03/19(月) 11:15:33.76 ID:++sfo0HZo
それにしても
「機動部隊と要塞を引き離し各個撃破する」って
テンプレ通りの要塞攻略された地球軍のみなさまって……
957 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/20(火) 03:28:41.61 ID:grROW4w3o
>>956
テンプレ通りにいけるほどバイドが強すぎるのよ
まさに絶望
958 : ◆HvWr2kWl99Dz [sage]:2012/03/21(水) 00:58:18.23 ID:u9vB+wJa0
まさに決戦。全ての人類が生き残りをかけた戦いを繰り広げておりますね。
そしてこのスレもまもなく終わり、さてどんな次スレにしましょうか。

では、投下します。
959 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga]:2012/03/21(水) 00:59:04.05 ID:u9vB+wJa0
――抱きしめ合い、重なる男女のシルエット。

――男が、女を押し倒す。そのまま重なり、一つの陰になる。

――緩やかに、艶かしく動く二つの身体。

――一際近く、二人の身体が近づいて……。

「っぁぁぁっ!!」

何故だか脳裏に浮かぶ、生々しいそのイメージを振り払うように。
ラストダンサーの放った炸裂波動砲が、渦を巻くグアニムの中央に守られたチムスを破壊した。
チムスを失い、急速に形を失っていくゲノン。
その崩壊の中をすり抜けて、尚もラストダンサーは駆け抜ける。

この空間に入って、一体どれほどの時が過ぎたのだろう。
討伐艦隊は、そして太陽系は無事なのだろうか。
それを不安に思う気持ちも、間違いなくスゥの中には存在していた。
けれど、それでもスゥは知っている。
この先にバイドの中枢がいる。
それを倒せば、全てにケリがつくということを。

「まだ来る……でも、こんなものでっ!」

背後の液面からせり上がってきたのは、車輪のようなゲノン。
シュトムとアデンに作られた輪の中心で、グアニムに守られて存在するチムス。
次々に放たれる光弾をすりぬけ、受け止め。
ラストダンサーは車輪の中へと侵入した。
いかなる攻撃に対しても無敵を誇るグアニムであっても、受けた衝撃を完全に吸収することはかなわない。
だからこそ放たれた炸裂波動砲は、グアニムの防御をものともせずにチムスを破壊した。
960 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/21(水) 01:00:07.81 ID:u9vB+wJa0
統率を失い、消失していく車輪のゲノム。
だが、背後にもう一つ。車輪のゲノムが現れた。
今度は位置が悪い。悠長に回頭していては狙い撃ちになる。

そう、敵は背後の液面から次々に現れてくるのである。
そして出現するまでは、一切センサーで捉えることができない。
厄介な敵であることは間違いなかった。
それでも出現してしまえば耐久力も低く、攻撃らしい攻撃はアデンの放つ光弾のみである。
ただただ出現時の不意打ちに気をつければ、遅れを取ることなどありえない相手なのだが。

「こうも簡単に背後を取られるっていうのは、気分のいいものではないわ」

一つ、静かに呟いて。
降り注ぐ光弾の雨を、背部の様子を伝えるモニターだけを頼りに回避する。
そして一瞬の隙を縫ってフォースを切り離し、背後へと付け替える。
そのフォースが姿を変える。その色は白金。
戦う慰霊碑ことB-5C――プラチナ・ハート用に設計された、プラチナ・フォースである。

だが、狙うべきチムスはグアニムに守られている。
余裕があれば、一箇所だけ配置されたアデンを破壊し、その隙間からチムスを狙えたのだろうが。
生憎と、今はそんな余裕は無い。だからこそ。

「……そこっ!」

プラチナ・フォースから放たれたのは極細の青いレーザー。
フォースから水平に放たれたそれは、ホリゾンタルレーザーと呼ばれるプラチナ・フォースの持つレーザーである。
その特徴は細さ。熟練したパイロットであれば、文字通り針の穴を通すような射撃が可能であった。
そして、彼女は英雄だった。

背後へ向けて放たれたホリゾンタルレーザーは、グアニムの間の僅かな隙間をすり抜けて
そのまま、群れの統率者であるチムスを打ち砕いていた。
再び崩れていくゲノン。どうやら、敵の襲撃もひとまずは落ち着いたようだった。
961 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/21(水) 01:00:57.53 ID:u9vB+wJa0
「やってみるものね。……そろそろ、近い」

奥から感じるバイド反応。近づいている。
バイドの中枢たるそのバイドの元へ、もうじきたどり着くことができるだろう。


――重なり合ったシルエットが、震えた。

――女のものだろう。細い足が、そのつま先がぴん、と張った。

――女は、男の背に手を回し。そして。

「……ふざけた真似を。何のつもりだ、バイドっ!!」

再び現れる、男女のイメージ。
間違いなくそれは生の、そして性の営みで。
何故バイドがそんなものを見せようというのか、スゥにはそれが理解できなかった。
そんなもので頬を赤らめ戦意を喪失するほど、子供でもない。
ましてや、バイドの考えを理解する必要などは、端から無いのだが。

『スゥ、ちゃん?どうしたの、大丈夫っ?』

まどかの心配そうな声。
声を届けることしかできないというのは、歯がゆいのかもしれない。
例えここで自分が撃墜されてしまったとして、それを見ていることしか、声を届けることしかできないのだ。
きっと、それはとても辛いのだろうと思った。
だからこそ、そんな辛い思いはさせてはならない、と。

「大丈夫よ、まどか。……何の問題も無い。もうすぐ終わるわ」

『本当に?……絶対、絶対に帰ってきてね、スゥちゃ――っ。私、待って――から』

「っ、……まどか?」
962 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/21(水) 01:01:39.42 ID:u9vB+wJa0
グアニムの群れが作り出した壁。
その真ん中に、細く作られた道。
その中を進み、道を塞ごうと迫り来るシュトムを次々に打ち砕きながら進む。
だが、そんなスゥの元に届いたまどかの声は、なぜか途切れ途切れのものだった。

『あ――、どうし――だろ。声――届――ない――』

「まどかっ!?なにがあったの、まどかっ!?」

『どうやら、バイドの空間干渉によってボク達の声も届かなくなってしまうみたいだ。
 これほどの力をもったバイド、だなんてね。……驚いたよ』

「どういうこと、インキュベーター」

まさかまどかの身に何かがあったのでは、と。
そう考えると気が気ではないスゥ。
そんなスゥに、続けざまにキュゥべえは言葉を投げかけた。

『何も問題は無いよ。キミはそのままバイドを倒せば―――』

その声も、途中で途切れてしまった。
もう、何も聞こえない。

「……どうか、無事でいて。まどか」

何があっても、ここにいる自分にできることは何もない。
できることといえば、たった一つだけだ。

「私は、バイドを倒すから」

広く、暗い空間に出た。
思考の端を掠めていた、睦みあう男女のイメージが途切れた。
何かが、来る。
963 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/21(水) 01:02:12.27 ID:u9vB+wJa0
「どうしたの。ねえ、キュゥべえ。一体何が起こったの!?」

アーク内部。アークは既に木星を離れ、バイドの襲撃からの安全圏へと逃れていた。
まどかは椅子に座ったまま、目の前のモニターに移るスゥの姿を見つめていた。

ラストダンサーは、異形のバイドと向き合っている。
上下の液面にその蔦を浸し、その中心にはなにやら心臓のような器官を持っている。
そのバイドは、接近するラストダンサーを、敵を見つけたかのように、大きく脈打った。

「……バイドによる干渉だよ。幸い映像は残っているようだけどね。
 多分、もうボク達の言葉を彼女に伝えることはできないだろう」

「そんな……スゥちゃん、あんなバイドと戦ってるのに」

大きさだけで言えば先に戦ったゴマンダーのほうが上。
けれど、その異形さと映像越しにでも感じるこの威圧感は
身の内から湧き上がる恐怖とも畏怖とも言えるような原始的な感情は。
あのバイドが、恐るべき強敵であるということをまどかも実感させていた。

「信じるしかないだろうね。見届けてあげるといい。彼女が、スゥがどこまでやれるのか」

「そんな……もう、私にできることは何もないのかな。
 ねぇ、キュゥべえ。本当にもう何もできないの?」

ただ見ていることしかできないだなんて。
そんな無力感に耐えかねて、まどかは縋るようにキュゥべえに問いかけた。
964 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/21(水) 01:02:41.76 ID:u9vB+wJa0
「……彼女に対して何かをするのは不可能だ。でも、できることがないわけじゃない。
 多分それは、まどかにとっても少なからず辛いことだと思う。それでも……やってみるかい?」

キュゥべえの言葉に、まどかはほんの一瞬だけ躊躇って。

「……やるよ。皆が戦ってるんだもん、私だって頑張るよ」

力強く、頷いた。

「キミの気持ちはわかった。……じゃあ、見せてあげることにしよう。
 世界中の人々に、彼女の、英雄の戦う様を」

まどかの頭に取り付けられた装置から、微かな音が漏れる。
それと同時に、モニターに映されていた映像が一瞬揺らぎ、そして再び映像が映し出された。

「何を……したの、キュゥべえ」

「すぐに分かるさ」

その言葉よりも早く、まどかの視界にそれが飛び込んできた。
965 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/21(水) 01:03:35.67 ID:u9vB+wJa0
「それで、戦況は?」

会議室にて、地球連合軍司令が重々しく放った言葉に、一人の男が答えた。

「オペレーション・ラストダンスは最終段階に入りました。討伐艦隊及びラストダンサーは跳躍空間を突破。
 それより先のことはわかりませんが、恐らくバイド中枢において敵と交戦しているものと思われます」

「それは結構。だが、問題は太陽系の守りだ」

そこには、重苦しい雰囲気がたちこめていた。
大型モニターに映された映像は、中心部を覗いた多くの部分が赤く染めあげられた
太陽系の姿が映し出されていた。

「木星のエウロパ基地からの交信が途絶えました。……恐らく、バイドによって陥落したものと思われます」

奇襲によってグリトニルを陥落せしめたバイド軍は、そのまま太陽系内部へと侵攻を開始していた。
討伐艦隊と太陽系外周の防衛のほぼ全ての戦力を割いていたため、太陽系内部にはそれに抗う戦力はなかった。
バイド軍は次々に基地を襲い、その勢力を拡大しながら太陽系全土への侵攻を続けているのだった。
そして今、その毒牙は木星にまで降り注いでいた。

「外周防衛部隊も、残存勢力を率いて追討を開始しましたが……」

「到着する頃には、地球もバイドの星になっている、か」

それは、まさしく絶望的な状況だった。

「最早これまでか。木星にまで来られる前にアークを出発させよう」

半ば諦め顔で、司令はそれを告げた。
諦めと動揺の混じった感情が広がる会議室。
その時、戦況を映し出していたモニターが突然に別の映像を映し出した。

「なんだ、これは……」

その、映像は。
966 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/21(水) 01:03:58.27 ID:u9vB+wJa0
「それで、君は私の所へ来たのかね。まったく、呆れた行動力だ」

男は、かつて織莉子とキリカをけしかけ、さやかとほむらを排しようとしたその男は
驚きと呆れの入り混じったような表情で、目の前の少女に告げた。
とは言え、その顔の半分以上はよく分からない機械に挿げ替えられていて、表情などはわからないのだが。

「他にそういう知り合いもいなかったしね。それにあんたなら、なんとかしてくれるんじゃないかって思ったから」

その声に少女は、美樹さやかは答えた。
力強く、真っ直ぐにらみつけるかのように。

エバーグリーンの事件の後、ティー・パーティーに帰還する前に。
さやかは、この男への直通の連絡方法を教えられていた。
もしインキュベーターのところが気に食わなければ来るといい、ということで。
結局それのお世話になることは無かったが、思わぬところで役に立つものである。
さやかはそれを用いて男に連絡を取り、病院を退院し合流する手はずまで整えてしまったのである。

「子供のたわごとだ、別に聞き流してやってもよかったのだがな」

「じゃあ、なんだってあたしをここまで連れてきてくれたわけ。何かあるんでしょ、きっと」

弱気になるな、と。
思わず竦みそうになる足や声を、必死に奮い立たせてさやかは食い下がる。

「別に何も無い。どの道人類は負ける。辛気臭い病院で最後を迎えさせることもない。
 そう思っただけのことだ」
967 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/21(水) 01:04:28.50 ID:u9vB+wJa0
「ちょっと、それってどういう……え、何よこれ?」

聞き捨てなら無い言葉に、更に食い下がろうとしたさやかの目の前で。
ずっと宇宙を映していたそのモニターに、新たな映像が映し出されていた。

「これは……はは、ひゃははははッ!そうか、そういうことかっ!!」

その映像を見て、男は狂気すら滲ませて笑う。
いきなり笑い出した姿に、流石にさやかもおののいた。
ひとしきり笑って、男はゆっくりとさやかの方に振り向いて。

「いいだろう美樹さやか。お前に最高の機体をくれてやる」

その顔に、狂気と狂喜をたっぷりと滲ませて。
男は、唇の端を吊り上げながらそう言った。
968 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/21(水) 01:05:08.33 ID:u9vB+wJa0
「うあぁぁぁっ!!」

ガルーダの放ったポッドが、バイドの巡航艦、ボルドの横っ腹に食いついた。
まさしく聖鳥の爪がごとく、ポッドはボルドの内部を掻き毟り、引き裂いた。
ポッドが戻ると、その背後でボルドは二つに割れて爆発した。

見れば、味方機がタブロックに追われている。
射程の長いミサイルからは逃げ切れず、今にも撃墜されてしまいそうだった。

すぐさま機体を翻し、タブロックに波動砲を叩き込む。
窮地を救われた機体から、通信が届いた。

「マコトさん……助かりました。でも、もう限界ですよ。
 それに、たとえここで勝ったって……私達は」

その声は少女のそれで。彼女もまた魔法少女だった。
ゲルヒルデを残し、後方の討伐艦隊の元へと逃れたマコトは
前後から迫り来る敵を退け、太陽系へと帰還していた太陽系外周部隊と合流した。
グリトニル陥落、そして太陽系内部へのバイドの侵入を知り、誰もがショックを隠せなかった。

魔法少女達にとっては、それはまさしく大きなショックだった。
自分の身体を失ってしまったのだから、それは無理からぬことではあったのだ。
それでもマコトは彼女達にゲルヒルデの言葉を伝え、どうにか彼女達を奮い立たせた。
そして、残存部隊を率いて太陽系内のバイドの追撃を開始したのだった。
けれど、魔法少女隊の士気は低く、出撃を拒む者も多くいた。

仕方なくマコトは、出撃を拒む者達にはゲルヒルデの捜索という任を与えて放った。
そして今、行く手を阻むバイドとの遭遇戦が始まっていたのだ。

「……隊長は必ず戻ってくる。だから、貴女も諦めないで」

何とか元気付けようとしてかけた言葉だが
そんなマコトの言葉にも、疲弊している様子は隠すことができなかった。
969 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/21(水) 01:06:53.57 ID:u9vB+wJa0
正規の地球軍を主とする部隊は、地球へと迫るバイドの追撃に向かっている。
その進路を阻むバイドの相手は、単独でのサバイバビリティに優れた魔法少女隊が請け負っていた。

「マコト!まずいよ、敵の増援だよっ!」

絶望的な状況を告げる言葉が、共に戦うジーグルーネから投げかけられた。
流石のマコトも、その胸中に諦めがよぎる。

「……もう、会えないかもしれませんね。隊長。……お父さん、お母さん」

静かに呟いて。彼女もまた遠からず訪れる死に対面した。
その時、機体に無数に浮かぶモニターの中に、その映像が映し出されたのだった。
970 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/21(水) 01:07:27.97 ID:u9vB+wJa0
そう、その映像はまさしく英雄の戦う姿。
ついにバイドの中枢の元へとたどり着き、それとの戦闘を開始した様子を映し出しているのだった。

そしてまどかの視界にも、そんな風に太陽系のあちこちで戦う人々の姿が。
そしてそれ以外にも、多くの人の見つめる視線が映し出されていた。
あまりにも膨大な情報量に、頭がずきりと痛みを感じた。

「まどかの能力を拡大して、彼女の戦う姿を全太陽系に配信している。
 きっとこれは、苦境に瀕した人類にとっての希望になるはずだよ」

「そういうこと……なんだね」

頭痛を堪えながら、納得したようにまどかが言う。
確かに見た限りでは、人類はまさしく最大の危機にある。
そんな中には、スゥの戦う姿は。スゥが敵を倒せば全てが終わるという状況は
まさしく救いに、唯一の希望になるだろう。

「……ね、キュゥべえ」

「なんだい、まどか」

「みんなに、これを見ているみんなに……声を、伝えられないかな」

「キミがそう望むなら、できないことじゃないはずだよ」

その言葉に、まどかは少しだけ笑って。

「わかったよ。じゃあ、話してみるね」

そして目を閉じ、深く息を吸い込んでから。
971 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/21(水) 01:08:08.97 ID:u9vB+wJa0
――みんな、この映像を見ているみんな。ちょっとだけ、私の声を聞いてください。


――あそこで戦っているのは、スゥちゃん。みんなの英雄で、私の一番大事な人なんです。


――スゥちゃんは、みんなのために戦ってます。そして今、バイドの中枢にまでたどり着いたんです。


――スゥちゃんは必ず勝ちます。勝って、世界を守ってくれます。だから、だから……。

声を伝えることは大変だった。頭痛が、もっと酷くなる。
それを堪えて、声を。


――諦めないでください。負けないでください。希望を、捨てないで……っ。



「……っ、は、ぁッ」

限界だった。声を届けるのをやめても、まだキリキリと頭が痛む。
けれど耐えなければならない。スゥがバイドを倒すまで。
全人類に、最後の希望を届けるために。耐えなければならないのだ、と。
まどかは、ぎり、と歯を食いしばった。
972 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/21(水) 01:09:03.42 ID:u9vB+wJa0
「……どう見る、今の映像を」

口元に笑みを浮かべて、司令は周囲に尋ねた。

「信じられませんが、あれがラストダンサーであることは間違いありませんね」

「ということは、英雄はたどり着いたということなのでしょう。あの声の少女のことも気になりますが」

口々に答える人々の表情にも、希望が戻っていた。
まだ終わりではない。今この時を耐えれば、まだ勝機はあるかもしれない。

「そうと決まれば、ただ黙って死ぬわけにも行かん。
 使えるものは、なんでも使ってやることにしようじゃないか」

そして、司令はどこかへと通信を取り始めた。
973 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/21(水) 01:10:08.89 ID:u9vB+wJa0
「……まどか。なんだってこんなことになってるのよ。全く」

さっぱり訳が分からない、といった風にさやかは呟いた。
そこはR戦闘機のコクピットの中。けれど不思議と懐かしい気はしない。
それ当然だった。今まで、生身でここに入ったことなど無いのだから。

「この期に及んで完成したのはいいが、今更こいつを預けられるパイロットもいなくてな。
 このままバイドの餌にするのも癪だ。お前にくれてやる」

それは、既存のR戦闘機とは全く異なる形状をとっていた。
キャノピーはV字型で、その下に砲門を携えている。
そして背後には、無数に突き出した突起物やバーニア、スラスター。
なんでもこの突起物の中に、今までのR戦闘機のデータが搭載されているのだという。
それ以外にも、機体各部にこれまで開発されてきた機体に用いられた技術が凝縮されている。
まさしくこの機体そのものが、R戦闘機の開発の歴史そのものと言えるような、そんな機体だった。

「時間と金さえあれば、これを量産するのも悪くはなかったんだがな。
 一応、人間が乗れるようにも調整はしてある。その分性能もそれなりだがな」

そんなR戦闘機を眺めて、男は満足そうに言い放った。

「……ありがと。なんだかんで結構、あんたには世話になってるよね。
 それで、この子の名前はなんていうの?」

少し神妙な様子で、操縦桿をぎゅっと握ってさやかは言った。

「R-100。究極互換機二号機。……カーテンコールだ」

「カーテンコール、ね。まだ終わっちゃいないのに、ちょっと気が早すぎるんじゃない?」

「くく、違いない。ほら、行ってこい」

静かに笑みを交わして、そして。

「美樹さやか、カーテンコール。行くよっ!!」

そして今、ただの少女が再び宇宙に、舞う。
974 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/21(水) 01:10:45.57 ID:u9vB+wJa0
「……そっか、たどり着いたんだ。あの英雄は」

迫るバイドの機動兵器。
それを眺めながら、マコトは視界の端に移ったモニターを眺めた。
英雄は、尚も果敢にバイドと戦っている。

「どうやら、ここが命の張り所……みたいだな」

きっと同じものを見ていたのだろう。
マコトの機体に寄り添うように、いくつも機体が並んでいた。
皆、その身に闘志を滾らせて。

「少なくとも、バイドに思い知らせてやるくらいはできそうじゃない」

「今ここで死んだら、英雄がバイドをやっつけるところ、見れなくなっちゃうもんね。まだ死ねないや」

どうやらあの英雄の姿が、少女達にもまだ残っていた戦う力を引き出したようだった。
たとえ未来が暗くても、死ぬべき時は今じゃない。
たとえ未来が暗くても、それが覆らない保証も無い。

「さあみんな。もう一波、凌いで見せるよっ!」

マコトが檄を飛ばす。
その、力強い声に。

「了解っ!!」

同じく、力強い声が答えていた。
975 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/21(水) 01:11:21.89 ID:u9vB+wJa0
「やれやれ、あの英雄もまだ生きていたのかい?大したものだね、彼女も」

「あら。それを言ったら私達だって大したものよ?まだ生きているんだもの」

「……そうだね。まさか、生き残れるなんて思ってなかった。嬉しいんだ」

そんな少女達を眺めて、声が二つ。

「はいはい、いちゃつくのはここを切り抜けてからにしてちょうだい。
 彼女達の援護に回るわよ。……まだ戦えるでしょう?」

そして、呆れ気味な声が、一つ。

「ああ、当然だっ!」

「ええ、人間の力、思い知らせてあげまなくてはね」

そして、三つの光が少女達の元へと飛来した。
その光の中の一つが、静かに呟いていた。


「あの声は……生きていてくれたのね、まどか」

嬉しそうな、声だった。
976 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/21(水) 01:18:06.88 ID:u9vB+wJa0
太陽系、マジピンチ。
スゥちゃんは人類を救えるのでしょうかね。

>>953
人類もバイドも似たようなものなんでしょうかね。
26世紀の人類は、一体何からバイドを作り出しちゃったのでしょうか。
結局、バイドとは何なのでしょうね。答えは誰も知りません。
多分九条Pにでも聞いてみないことには。

>>954
ということはSUPERかVでしょうかね。
どちらもいい作品です。Vはやったことありませんが。
刪ネ降はバイドとはなんぞや、というところにもちょいちょい突っ込んでくれたりするようで
ストーリー的にも面白くなっております、是非そちらもお手に取ってみてください。
いよいよ大詰め、ぜひともご期待ください。

>>955
残念、カーテンコールでしたっ。
完全ワンオフの決戦仕様機のラストダンサーとは違い
カーテンコールは、技術継承の意図の強い機体です。
なのでソウルジェムが搭載されていたり、複雑なマッチング作業もいりません。
まあ、肉体面で厳しいところはありそうですが。

>>956
今までバイドは、基本的に跳躍空間を抜けて地球へやってきていました。
なので、地球軍もそこはちゃんと守っていたようです。
なのにグリトニルは奇襲を受け、陥落してしまいました。
さて、どういうことなのでしょうね。
977 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/21(水) 07:09:08.16 ID:La1tZx4DO
お疲れ様ですっ!


伝わる英雄の姿…。

伝え続ける少女…。

英雄に感化されし者達…。

密かに牙を造り、備えし者…。

改造されてまで、なお戦おうとする少女…。

生き残っていた少女達…。




地球と、それぞれの者達の未来は…どうなるのだろうか………?
978 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋) [sage]:2012/03/21(水) 07:53:44.34 ID:ZLY7WE1No
乙。
バイドとの戦いも遂に「幕引き」の時が来たようだね。
英雄達の無事の帰還を祈ってます。

何とかWiiでVを手に入れた。ハイパードライブ強ぇぇ。
Finalのハイパードライブももうちょっと強かったらなぁ。
979 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県) [sage]:2012/03/21(水) 17:05:39.27 ID:XLzxpSFx0

ついにカーテンコールまで出撃…
これで終わりではないでしょう?(・∀・)ニヤニヤ

てかイリーガルミッションまだ入手できんの?マジで?某所ってどこ!?
980 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/22(木) 01:43:57.49 ID:xlDhs4A8o
うれしそうな声ってまさか!?
もしかして三号機もでたりするのかしら
三号機ってなんのために作られたのかなタイムマシンか
981 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岩手県) [sage]:2012/03/22(木) 08:07:13.99 ID:4FXeNvLno
戦闘機としての最高傑作がラストダンサー

後世への技術提供を目的とした
R-TYPEの知識の集積体がカーテンコール

その存在意義が不明ながらも
R-TYPEの存在はこの機体のためとされたグランドフィナーレ

戦闘機としての最高値を求めたラストダンサーは
量産機なのだろうか何機かでてくるし
英雄の相方はどう見てもワンオフだけど
982 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage saga]:2012/03/22(木) 22:36:25.07 ID:cFn+WRS50
グランドフィナーレは愛機だったから期待してしまう

983 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/23(金) 09:58:21.50 ID:1+xMt6uDO
まどマギ×バンピートロットのSSが…。
984 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県) [sage]:2012/03/23(金) 13:54:02.02 ID:Omr5OEvwo
あんこ「そんなことよりお腹が空いたよ」
こうですねわかりません
985 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga ]:2012/03/23(金) 16:43:32.83 ID:j5DtOTeH0
多分このスレ最後の投下でしょう。
次スレは……どうしようかな。

では投下します。
986 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/23(金) 16:46:00.57 ID:j5DtOTeH0
不可思議な異層次元。
バイドを生み出す液体に満ちた空間。
人の遺伝子構造を模したバイドの群れ。
全てを下し、ついに彼女はここへ来た。

立ち向かうは、魔人の心臓を掲げた樹木がごときバイド。
バイドの中枢にして、その攻撃本能を司る物。
これを倒せば、全てが終わる。
人類は、バイドに悩まされることは無くなる。
バイドが振りまく、多くの死と絶望は根絶される。
戦いは、終わるのだ。

ラストダンサーは、スゥは。
ついに今、最後の戦いに挑む。

「……決着をつけてやる」

ラストダンサーは、その全ての力を持ってバイドに立ち向かう。
その機首から放たれたのは、プラズマ化した超高温の炎。
R-9Sk系列機に搭載されている、灼熱波動砲である。
見たところ、どうやら敵は生体系のバイド。
ならば、それに対して特攻を持つ灼熱波動砲であれば、有効打となるのではないか。
987 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/23(金) 16:46:32.41 ID:j5DtOTeH0
そして放たれた灼熱のプラズマ炎は、敵バイドの表面にぶち当たり。
そのまま拡散し、周囲の空間へと散っていく。
間違いなく直撃はしている。回避をする様子もなければ、そんな芸当ができる敵とも思えない。
だがこのバイドは、灼熱波動砲の直撃を受けて尚平然としているのである。
熱に対する耐性が強いのか、それともそもそもにして、熱量による攻撃は通用しないのか。
いずれにしても、灼熱波動砲では効果が見込めないことが分かった。

「まだまだ、この程度でっ!」

そして明確な敵意を向けたラストダンサーに対して、ついにバイドも反撃の牙を剥いた。
その根を下ろした液面から、どくどくと何かを吸い上げた。
そして、それを生み出した。

リボーが、ファットが、背後の液面から現れたのである。

「機械系バイドすらも生産する能力……攻撃本能を司る個体と言っても
 やはり、バイドを生み出す能力は持っているということね」

そして、その異形の創造はそれだけに留まらない。
ゲインズなどの中型バイドすら、その液体の中から次々に生み出されてきたのである。

「無尽蔵に呼び出されたのでは、まともに戦っていてはキリが無いわ」

生み出されたバイド達は、それを生み出したバイドの周りを渦を巻くようにして取り囲む。
そして、廻る。
まずはそれを蹴散らさないことには、更なる追撃の手は届かない。

「サイビット。行きなさいっ!」

波動砲と同時に放たれたサイビットがその渦に食いつき、次々に生み出されるバイドを食い破っていく。
そして再び、バイドへと攻撃するための道が開けた。
988 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/23(金) 16:47:20.72 ID:j5DtOTeH0
その道に飛び込み、次なる攻撃を叩き込もうとして、スゥは違和感に気付いた。
敵のバイドは、液体から何かを取り込んでいた。
それは、今生み出されているバイドの材料なのだろうと考えていた。
だが、だとしたら何故バイドは『液面』から生まれてくるのだろうか。
むしろそれならば、樹木のようなバイドから液面へと何か信号のようなものが伝えられるはずなのに。

もし今までのバイドの行動が、何かをするための準備なのだとしたら……。

「っ……っ、のぉっ!!」

機体を急旋回させる。
背後に再び生み出され、退路を絶とうとしていたバイド群の隙間をすり抜けて離脱する。
その直後、恐らくスゥの予想したとおりに、それはバイドの身の内より放たれた。

「これは……一体、どうして」

それは、R戦闘機の姿をしていた。
大量のR戦闘機の形をした何かが、その空間へ向けて吐き出されたのだった。
その色は、R戦闘機本来の色ではなく、どこか金属質な光沢を伴った色。
けれどそのフォルムは、メルトクラフトやメタリックドーンとは違う。

ばら撒かれたR戦闘機の形をした何かは、そのまま戦闘軌道を取ることもなく。
ただただ四方にばら撒かれ、それ自体を弾幕と化して窮地を逃れたラストダンサーへと襲い掛かってきた。
恐らく脱出が遅れていれば、背後をバイドに塞がれ、前方には壁がごときRの群れ。
逃れることなど、叶わなかっただろう。
989 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/23(金) 16:47:47.93 ID:j5DtOTeH0
「……考えても仕方ない、か」

どれほど考えたところで、バイドのことなど理解できようはずもない。
倒せばいい。その存在を消滅させればそれでいい。
持続式圧縮波動砲で迫り来るR戦闘機を薙ぎ払い、更に後方に渦巻くバイドに閃光の一撃を叩き込む。
そして考える。

倒すべきあのバイドは、かなりの堅牢さを誇っている。
そして、今現在のラストダンサーが保有する最強の武装。それは間違いなく
フルチャージのギガ波動砲である。
だとすればそれを叩き込むしかないが、その為には長大なチャージ時間が必要であった。

「もう一度、力を貸して」

その時間を稼ぐための方法を、ラストダンサーは所有している。
時間停止という、非常に強力な魔法。
だが未だ持って、スゥはそれを自らの意思で使うことができずにいた。

「この機体は、ラストダンサーはあいつを倒すために作られた。
 今その力を見せずに、いつ使うと言うんだっ!力を寄越せっ、ラストダンサーっ!!」

光を蓄えた魔人の心臓が、再びR戦闘機をばら撒いてきた。
ギガ波動砲のチャージは既に開始してしまっている。レーザーでの迎撃はできない。
そしてバイドによって生み出されたR戦闘機は、耐久性も向上しているようだった。
フォースのエネルギーでそれを防ぐことはできなくはないが、この耐久性とあの数である。
まず間違いなく押し切られてしまう。

チャージを中止し、ギガ波動砲で敵を蹴散らすことはできるだろう。
だが、それでは埒が明かない。やはり今、最大の一撃を放つためには
時間停止という、魔法の力が必要なのだ。
990 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/23(金) 16:48:21.31 ID:j5DtOTeH0
――貴女に力を貸すのは気に食わない。でも……。

誰かの、声。
それが誰なのかを理解するよりも前に、世界は、再び停止した。

自分の意思でなのか、それとも今の声の主が。
このラストダンサーに搭載された、誰かの魂がそうしているのだろうか。
それを考えるのは、今じゃない。
とにかく、こうして時間は止まった。
迫るR戦闘機群も、渦まくバイドの群れも、脈打つ光や波打つ液面も、全てが止まっている。

「これで終わりだ、バイド」

ギガ波動砲のチャージゲージが、STRONGからGREATへと変わる。
まだチャージは半分程度。今しばらくは、このまま時を止めている必要がある。

――チャージ終了までは持たせる。後は、貴女が決めなさい。

また、声が。
一体誰なのだろう。聞き覚えのある声だった。
その声を聞いていると、何かが胸の内からこみ上げてくる。
その感情は怒りのような、それでいて羨望じみたもので。
そんな感情を他所に、チャージはGREATからSPECIALへと移行する。

「まさか、貴女は……」

何か直感のような、確信めいたものを感じて、スゥは。
991 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/23(金) 16:49:09.03 ID:j5DtOTeH0
時の流れの止まった26次元。
だが、それとは時流を別にする次元では、その停止した世界をそのまま眺めることができた。
だから、全人類にはそれが見えていた。
全てが停止した時間の中で、唯一その身に光を纏い。
そしてだんだんと、その光を強めていくラストダンさーの姿が。

「とうとう、時間停止さえも自由に扱えるようになったようだね。
 これで、ラストダンサーはまさに究極とも言うべき力を手にすることになった」

感心するかのように、キュゥべえが呟く。

「これで、終わるんだよね……スゥちゃん。勝って、そして帰ってきて」

全人類の元に、英雄の戦う姿を流しながら。
それがもたらす苦痛を堪えて、まどかは静かに祈っていた。


「しかし、まさか本当に生きて戻ってくるとは思いませんでしたよ」

ガルーダが。

「……思わぬ援軍が来たのよ。そうでなければ、きっと危なかったわ」

そして、それに背を預けて敵を狙い撃つコンサートマスターが。
波動の光が織り成す大合唱。その指揮者を操る者の名は。

「向こうももうすぐケリがつきそうですし。もうひと踏ん張り……ですね、隊長っ!」

希望を、力を取り戻したガルーダが駆ける。
最早、その瞳に絶望の色は無い。

「そうね、このままバイドを倒して、みんなで生きて帰りましょうっ!」

それとは逆に、コンサートマスターが駆ける。
周囲では尚も激しい戦闘が続いていた。その只中へと、二つの光が飛び込んでいく。
その、刹那。

「そうしたら、きっとまた会えるわよね。……まどか」

その者の名は。魔法少女隊隊長、ゲルヒルデ。
かつて、巴マミと呼ばれていた――魔法少女。
992 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/23(金) 16:49:56.92 ID:j5DtOTeH0
チャージは、SPECIALからDEVILへ。


「なんだか、凄く不思議な気分だわ」

フォースから放たれた光の刃が、迫るバイドを両断した。

「確かにそうだね。死んだはずの私達がこうして生きていて。もうすぐバイドとの戦いも終わる。
 そうしたら、きっとずっと一緒に居られるんだろう?」

もう一つの機体のフォースが放つ光の刃、5対のそれも半分以上が欠けていた。
けれどそれでも、その刃は本来の目的を忘れず過たず。バイドの身体に食い込み、そのまま引き裂いていった。

「そもそも、あの空間はなんだったのかしら。フレームワークのような空間だったわね」

ついにフォースコンダクターが限界を迎えた。
フォースを敵に叩きつけ、そのまま破棄する。
後残された武装は、ミサイルとレールガン、そして波動砲だけだ。

「本当に不思議だ。爆発に巻き込まれた筈の私達なのにね。気がつけばあんなところにいて。
 それでも戦って、戦って。気がつけばここにいた」

左翼のスラスターは、先ほどから一切の動きを見せていない。
機動性は大幅に減じられているが、それでもまだ、戦える。
何せ、今は二人きりで戦っているわけではないのだから。

そう、彼女達の周囲では、今も複数の魔法少女達が戦っている。
皆が皆、ほとんどボロボロの機体を駆って。
互いに支えあい、もうじき終わるこの戦いを、どうにか乗り越えようとしているのだ。

「泣いても笑っても、これで最後だ!行こう……織莉子っ!」

「ええ、今は大義も正義も関係ないわ。ただ、生き延びるために戦いましょう……キリカっ!」

ダンシング・エッジが、そしてヒュロスが。
呉キリカが、美国織莉子が。死を乗り越え、はるかな次元の彼方より帰還した二人が。
今はただ、その生と存在のために最後の戦いへと挑むのであった。
993 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/23(金) 16:50:23.37 ID:j5DtOTeH0
そして、太陽系内に侵入し、今尚地球に向かうバイド群。
それを追撃せんがため、太陽系をひた走る部隊。
太陽系外周絶対防衛部隊の生き残り達は、ひたすらに最大速度でもってバイド群へと向かっていた。
もうじき、きっともうじき英雄がバイドを倒す。
だがその時、皆の帰るべき場所が無いのでは目も当てられないではないか、と。

「今頃、バイド群は火星周辺にまで侵攻しているはずだ。
 火星にも、最早ほとんど戦力は残されていない。ここを突破されれば……後は地球だけだ」

その部隊を率いる男は、焦燥と不安がない交ぜになったような口調で呟いた。
火星をそのまま素通りされてしまえば、最早地球への侵攻を防ぐことはできない。
そうなれば、まず間に合わない。
とにかく急いでくれと願いながら、その男は広がる宇宙を睨み付けていた。

「艦長、火星方面より電文です」

「電文だと?今時随分レトロなものを。こっちに回せ」

もしやすると、通常の通信を送る余裕も無いほどの窮地に立たされているのかもしれない。
胸中に垂れ込める暗い不安を拭いきれずに、その電文に目を通し。
男は、驚愕した。

“人類存亡の急に際し、我等は地球連合軍との共闘を善しとするものなり。
 現在我等は火星宙域において地球連合軍、火星駐留部隊と共にバイド群と交戦中。
 至急救援に来られたし。
                             グランゼーラ革命軍”


「どうにか彼らとも共闘の約束を取り付けることができた。さあ、ここからが正念場だ」

火星の戦況を睨みながら、司令が静かに言葉を放つ。
グランゼーラ革命軍。先の太陽系開放同盟の流れを汲む一派であり
彼らはバイドと地球連合軍の戦いの影で、密かに兵器開発や戦力の増強を続けている。
そう、まことしやかに噂されていた。そして恐らく、それは事実だったのだろう。
この人類存亡の急に、地球連合軍からの共闘の申し出を受け。いくつかの条件と引き換えに、今。
グランゼーラ革命軍が、火星に迫るバイドとの戦いを開始したのであった。
994 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/23(金) 16:51:00.33 ID:j5DtOTeH0
そして、ついにチャージは最大を示す、BYDOへと到達した。

停止した世界に、再び時の流れが戻る。
押し寄せるように迫るR戦闘機。その奥にそびえる、魔人の心臓抱える大樹。
だが、もう遅い。これで、全てが終わる。

「行け……」

その戦況を眺める誰かが。

「行けっ!」

名もなき人々が。今尚失われ続ける。それでも200億に近い命が。意思が。

「やっちまえっ!」

その全ての希望が、ラストダンサーに預けられた。

「ぶちかませっ!!」

そしてカーテンコールを駆るさやかもまた、その光景を目の当たりにして叫ぶ。


「スゥちゃん……やっちゃえっ!!」

そしてまどかも、叫ぶ。
その希望を、願いをスゥは知らない。知りようが無い。
それでもそれを確かに背負い、ついにラストダンサーは、最大の一撃を――。

「クタバレ、ケダモノォォォっ!!」

撃ち放った。
圧倒的な光の本流が、R戦闘機を、そしてバイドの群れを飲み干し。
その奥にそびえる大樹を、その全貌を飲み込み、貫いた。
995 : ◆HvWr2kWl99Dz [saga sage]:2012/03/23(金) 17:07:50.26 ID:j5DtOTeH0
というわけで、このスレでの投下はここまでになります。
残りは感想なり要望なりバイドへの愛をつづるなりして、ご自由に埋めてくださいませ。

あ、次スレ立ちました。
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1332489408/

>>977
だんだんと世界に希望が満ちてきております。
みんなの希望を受けて、ついにラストダンサーは最大の一撃を叩き込みました。
長く苦しいバイドとの戦いも、もうすぐおしまいです。
その先に、幸せな未来があるのでしょうか。

>>978
FINALのラグナロックは明らかにデチューンされてますからね。
メガ波動砲もラウンド・フォースとサイクロン・フォースもオミットされてますし。
多分オーバードライブしないように、ハイパードライブの出力も下がっているのでしょう。
恐らくは、一般兵でも乗りこなせるような量産型なのではないかと。

>>979
さて、カーテンコールはどのように活躍してくれるのでしょうね。
今更最後の戦いに向かうのは、ちょっと間に合わなさそうですが。

確かSTG板のR-TYPEスレでまだ……ごにょごにょできたような気がします。

>>980
どっこい生きてたマミさんでした。
グランドフィナーレは、今のところTEAM R-TYPEも作る余裕はないようですが。
さてはて、どういう感じになっていくのでしょうかね。

>>981
スゥちゃん仕様のラストダンサーは、間違いなく科学と魔法が合わさり最強に見える戦闘機です。
おまけに機体設計の段階からパイロットとのマッチングが行われており、まさしく彼女のための機体となっています。
恐らく量産の折には、そういった要素は取り除かれて、高い安定性と恐るべき拡張性を持った機体として
一部のエースパイロットや特務部隊なんかに支給されるのではないでしょうか。

一応こっちの話のカーテンコールは、誰でも乗れる究極互換機的な意味合いで作られてもいるようです。

>>982
是非とも期待していてくださいませ。
どこで出てくるかは、まだ分かりかねますが。

>>983
立ってましたねぇ。
楽しみに見守っていきたいと思っています。
うっかりバイドさんがお邪魔するかもしれませんしね!

>>984
割とナチュラルに杏子ちゃん的行動が取れてしまうゲームだと思います、アレも。
996 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/03/23(金) 17:12:24.96 ID:vQStiBZOo
乙です
それを撃つのはまだ早いよスゥちゃん!
997 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/23(金) 21:05:06.20 ID:1+xMt6uDO
現スレお疲れ様でした!新スレもよろしくお願いしますっ!

クライマックスは終了!後は終わりに向かうだけ…か。

しかし次スレのタイトルwwww
998 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [saga sage]:2012/03/23(金) 21:48:57.01 ID:subI6wD40
お疲れ様です

次スレのタイトルは、あれですか
エキドナでこの作品がゲーム化されるとかそういう
999 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/24(土) 19:06:23.04 ID:kukzmqRlo
ほむう
1000 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/24(土) 19:06:55.59 ID:kukzmqRlo
うめてんてー早く来てくれー
1001 :1001 :Over 1000 Thread
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このなぞなぞが最初に解けた奴の言うことなんでも聞いてやる @ 2012/03/24(土) 16:34:01.71 ID:p/idJEyVo
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【クマは】 ゆうこの部屋 26号室【見ちゃらめぇぇぇ…】 @ 2012/03/24(土) 16:05:12.33 ID:Qc9L+C6So
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テストスレ 第伍章 @ 2012/03/24(土) 15:29:59.92 ID:VpzIXebQ0
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