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勇者「この物語は、誰も幸せになれない」 -
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1 :
◆u92m9qV/WA
[sagasage]:2012/01/11(水) 16:27:42.02 ID:nZgMDRU60
この物語は、誰も幸せになれない。
誰も救われず、誰も笑顔では終わらない。
もし、この物語の中を見た中であなたが『同情』し、『哀愁』を感じて、奇跡を願ったなら
先に言っておこう、この物語は奇跡は起きないし救済も無い。
この物語は、『幸せになっていい』物語ではないから。
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笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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2 :
◆u92m9qV/WA
[sagasage]:2012/01/11(水) 16:29:20.34 ID:nZgMDRU60
――――――・・・・
どこからともなく囁いてくる唄に、少女は誘われていた。
その唄は人の声ではなかった。
エルフの類でも無い。
小鳥……よりも美しい、黄色い音というよりは輝く黄金を連想させる音色。
笛だ。
それも、恐ろしい程美しい音色の笛だ。
少女は緑の光に包まれた森を歩き続ける。
3 :
◆u92m9qV/WA
[sagasage]:2012/01/11(水) 16:29:53.31 ID:nZgMDRU60
段々近づいているのだろうか。
音色ははっきりとした澄んだ物となって少女の耳を柔らかく包んでいる。
その感覚がどうしようもなく、少女は心地よかった。
細い手足を懸命に使って緑のベールをかき分け、もっと近づこうとする。
もっと近くで聴きたいのだ。
――― ズッ
そう思い、更に進もうとした所で少女の足はガクンと落ちた。
森をある程度抜けた先には細い川があった。
しかし丁度少女が出た位置は、地上の川から数mは高い崖だったらしい。
少女の全身は先に落ちた右足に釣られ、一気に崖から落下する。
4 :
◆u92m9qV/WA
[sagasage]:2012/01/11(水) 16:31:30.96 ID:nZgMDRU60
「きゃ・・・」
声を出す暇も無い。
中途半端なタイミングで止まろうとしたせいか、
崖のガリガリした岩肌とほぼ接触するように落ちているからだ。
だが混乱した少女は必死に崖面に手を伸ばしてしまう。
――――― バリッ
鋭いようで鈍い衝撃。
尖った岩で手を深く切り裂いてしまったのだ。
そして少女は、鮮血が散るよりも早く川に落ちた。
5 :
◆u92m9qV/WA
[sagasage]:2012/01/11(水) 16:33:05.85 ID:nZgMDRU60
数mの落下速度を身につけた少女は、思ったよりも深い川の底まで一瞬にして沈んだ。
澄んだ青空を映す水面が眼前に広がっている。
(っ……!!)
しかし、当然息が出来る訳ではなく。
凄まじい量の水が鼻から喉に入ってしまい、空気が吸えないにも拘わらず咳き込む。
苦しい。
息が吸えない。
(…………)
水流の勢いも、息が切れ水を飲んだ少女には強過ぎる。
少女の意識は直ぐに途絶えた。
6 :
◆u92m9qV/WA
[sagasage]:2012/01/11(水) 16:40:34.30 ID:nZgMDRU60
「・・・」
バシャバシャと、多量の水を含んだ服を引きずりながら、川から出る。
替えの服など持って来ていない為、焚き火で乾かすしかないと諦める。
川から上がった男の腕の中には、少女がぐったりとしていた。
気持ち良く笛を吹いていたら目の前の崖から落ちて来たのだ。
ゆっくり彼は少女を焚き火の近くに降ろすと、まずホイミをかけた。
青白い光で少女の全身が少し温まる。
が、呼吸が戻らない。
(水を飲んだか……)
7 :
◆u92m9qV/WA
[sagasage]:2012/01/11(水) 16:47:14.68 ID:nZgMDRU60
徐々に温まった体温が再び冷たくなる前に、男は水でへばりついた長髪を掻き上げる。
そして直ぐに人口呼吸を行った。
「・・・・・・」
それを数回繰り返し、何度かホイミをかける。
長過ぎる、このままでは窒息で死ぬかもしれない。
そう思った時。
「ぅあ…けほっ、けほっ」
少女の口から僅かに水が零れ、息を吸った。
それから苦しそうに暫く咳き込んでいた。
8 :
◆u92m9qV/WA
[sagasage]:2012/01/11(水) 16:58:25.88 ID:nZgMDRU60
パチパチッ、と火の中で枝が小さく弾けている傍で少女は丸く座っていた。
少女は警戒するように川の付近の岩に座る男を見ている。
だが同時に、少女はうっとり……というより優しい眠気に襲われていた。
――――――・・・・
囁きよりも優しい澄み切った音色。
男の吹いている笛の音だ。
とても器用に使い、次々と音色を奏でる。
少女はもう少し耳を傾けようと、目を閉じた。
しかし笛の音色が途絶える。
「無事みたいで良かった」
「……ぁ」
9 :
◆u92m9qV/WA
[sagasage]:2012/01/11(水) 17:42:30.47 ID:nZgMDRU60
少女は驚く。
声が余りにも優しい物だったから。
しかしよく男の姿を見れば、納得は出来た。
美しい銀の長髪、端麗で整った顔、白雪のような純白の肌。
そして、特徴的な耳と……深紅の瞳。
誰が見てもエルフの男だった。
「安心しろ、俺はエルフだ」
男は続けて少女の虚ろめいた瞳を覗く、
「エルフなんだろう? 何となくだが人間とは違う気配がする」
「…はい、私はエルフですが……助けて頂きありがとうございます」
小さく、少女はそう感謝の気持ちを伝えた。
10 :
◆u92m9qV/WA
[sagasage]:2012/01/11(水) 17:54:39.81 ID:nZgMDRU60
「あの、せめて何かお礼を……」
「礼は要らない、私もそこまで考えてやってないからな」
そう言って男は乾いてきた銀髪を揺らした後、あの笛を取り出す。
少女は思わず聞いてしまう。
「あなた様のお名前は……?」
特に意図があって尋ねたのではない。
これだけ自分を魅力するような笛の吹き手だ、もしかしたら有名なエルフかもしれないと思ったのだ。
しかし、男はその問いにしばらく黙考した。
まるで何か迷っているようにも見える。
「………ピサロ、だな」
「ピサロ様というのですか、私はロザリーと申します」
有名、ではなかったがロザリーは笑顔で名乗った。
ピサロは旅人か何かだと分かったから。
11 :
◆u92m9qV/WA
[saga]:2012/01/11(水) 18:12:50.10 ID:nZgMDRU60
ピサロ「……こんな森の中で、何をしていたんだ? 崖から落ちたようだが」
ロザリー「あ、あれは自分で・・・!」
笑いかけ、口を少し塞ぐロザリー。
明らかに変わる雰囲気に、ピサロが不思議そうにロザリーを見た。
エルフ特有の耳が、微かに反応している。
まるで何かに怯えていた。
ピサロ(……違うな、『怯えている』)
静かにピサロは立ち上がった。
12 :
◆u92m9qV/WA
[sagasage]:2012/01/11(水) 18:27:39.46 ID:nZgMDRU60
ロザリーの意識が集中している方向なら分かる。
そちらへ様子を見に行こうと、ピサロは近くにまとめてある荷物の中から剣を取る。
だが、不意にピサロの前にロザリーが立った。
ロザリー「私はピサロ様の笛の音色を聴いて来たのですが、不注意にも足を踏み外したんです」
ピサロ「……?」
恐らく今さっきの話の続きだろう。
しかし違和感は残されたままで、相変わらずロザリーの意識は別の方に向いている気がした。
だとしても彼女が気にしないつもりならピサロまで気にする必要は無い。
彼は手に取った剣を立てかけ、再び笛を持った。
13 :
◆u92m9qV/WA
[sagasage]:2012/01/11(水) 18:40:28.97 ID:nZgMDRU60
―――――― その日の夜、ピサロはロザリーを連れて森の奥深くまで来ていた。
あの後、暫くピサロはロザリーに ピサロ様の音色をもう少しお聞かせ下さい と言われ、
夕暮れになるまで、ロザリーから森の民が生活の中でどうしてるかなどと話を聞き、笛を吹いていた。
しかしその後だ。
ピサロはある事情で旅をしているらしく、宿や村には近づかないらしい。
そうなるとロザリーは1人で森の奥深くへ戻らなければならないらしかった。
つまり、ピサロはそんな森の民であるエルフ……いや、か弱い少女のロザリーを1人で行かせる気にはなれなかった。
夜の魔物が凶暴なのをよく知っているからだった。
14 :
◆u92m9qV/WA
[sagasage]:2012/01/11(水) 18:48:43.50 ID:nZgMDRU60
ロザリー「な、何だか申し訳ありません……ここまで良くしてくれて」
ピサロ「私は構わない、元々この道を通るつもりだったからな」
それでもロザリーは少し申し訳なさそうにしていた。
かなり控え目な性格なのだろう、とピサロは考える。
と、ロザリーの肩がぶるりと震えた。
ピサロ「……どうかしたのか?」
ロザリー「ちょっと寒いみたいで、でも大丈夫です」
ピサロ「……? 寒い、か?」
小刻みに震えるロザリーの肩を見ながらピサロは空気に意識を集中する。
・・・そこまで寒くは無い筈だ。
そうピサロは不思議そうに首を傾げた。
15 :
◆u92m9qV/WA
[sagasage]:2012/01/11(水) 19:02:32.93 ID:nZgMDRU60
・・・暫く歩いた。
夜もいよいよ深い闇に入った所で、ロザリーの影が立ち止まった。
周りにはまだ何も無い。
ロザリー「あの、ここまで来れば後は1人で大丈夫です」
ピサロ「まだ何も見えないようだが?」
まだ寒いのか、華奢な肩がまだ震えている。
先程川に落ちた影響なのかも知れない。
ピサロは荷物の中から何かを探り出す。
ピサロ「毒消しの薬だが、大体の風邪も治せるだろう」
ロザリー「え? ぁ…」
手渡された瓶を見て、それからロザリーは声を小さくしながら言った。
ロザリー「……ありがとうございます、ピサロ様」
ピサロ「またいつか縁があったら会おう、ロザリー」
少女の言葉にピサロは応え、森の闇へ消えていった。
16 :
◆u92m9qV/WA
[sagasage]:2012/01/11(水) 19:13:50.74 ID:nZgMDRU60
―――――― 何も無い。
ロザリー……いや、本来は彼女には名前は無い。
森の民、というエルフは森の外の世界に行かない限りは名前など不要だった。
生きとし生ける者は、皆が全て等しいという、自然の教えを信じて来たエルフ達には無用だから。
エルフの少女は、膝から下の力が抜けた。
ピサロが言った通り、エルフの少女から先にある村は見えない。
つまり、エルフ達の気配が全て無いのだ。
灯りすらなくなり、森の闇の一部となった村の姿を見て少女は絶望する。
17 :
◆u92m9qV/WA
[sagasage]:2012/01/11(水) 19:26:48.57 ID:nZgMDRU60
―――――― 「お帰りなさいませ、デスピサロ様」
雨雲だろうか、どんよりとした雲に空が覆われ、月が陰っている中、その出迎えた者は光っていた。
レミーラという呪文でも使っているのだろうか。
ピサロ「……エビルプリーストか、よく出迎えたな」
エビル「魔王様の側近にして四天王ともなれば、当然かと」
ニコリ、とエビルプリーストは笑う。
その見た目は美しい人間の女にも見えるが、それは魔法によって作り出している仮の姿だ。
魔族の中でも珍しい『人型』の魔王であるデスピサロに合わせているらしい。
ピサロの荷物を配下のミニデーモン達に持たせながら、エビルプリーストは尋ねる。
どうやらピサロの話を楽しみにしていたようだ。
エビル「今宵の散歩は楽しかったですか?」
ピサロ「………そうだな、エルフの女に会った」
18 :
◆u92m9qV/WA
[sagasage]:2012/01/11(水) 19:41:54.90 ID:nZgMDRU60
エビル「……はて、エルフですか」
ピサロ「森の民だと言っていたな、中々面白い者だった」
威厳、いや威怖を与えて来る程の巨大な城の中へピサロ達は入って行く。
その城こそ、決して人間には入る事の許されない禁断の領域……『魔王城』である。
そしてデスピサロはその魔王城の主であり、全ての魔物の王だった。
豪奢なシャンデリアの輝きが包む城の中で、ピサロはエビルプリーストと雑談しながら歩く。
ピサロ「私が会った場所は『ロザリーヒル』から少し離れた森だったが…不思議なものだ」
エビル「ロザリーヒルに? あそこは静かな自然で溢れていますからな」
エビルプリーストは主が満足そうにしているのを見て、相槌を打つ。
エビル「………む?」
19 :
◆u92m9qV/WA
[sagasage]:2012/01/11(水) 19:55:03.50 ID:nZgMDRU60
その時、エビルプリーストは何かを思い出したかのような声を出す。
エビル「……変ですね、ロザリーヒル周辺にあったエルフの村は数週間前に人間達に『狩られた』筈ですが」
ピサロ「……!?」
―――――― ギュゴォッッ!!!
直後、ピサロの表情が歪むのと同時にエビルプリーストの左側の壁が『円形に消滅した』。
黒い霧のような残像の後に注ぐ外からの風を浴び、エビルプリーストの全身が凍る。
ピサロは少し瞳を閉じてから落ち着く。
ピサロ「どういう事だ、そのような報告は聞いていないぞ……!!」
エビル「お気を鎮め下さいデスピサロ様! 私はともかく魔王城の魔物達も消滅する可能性が……!」
エビルプリーストは半ば叫ぶように落ち着かせる。
20 :
◆u92m9qV/WA
[sagasage]:2012/01/11(水) 20:01:27.73 ID:nZgMDRU60
・・・・聞けば、元々あの森に住むエルフ達は特殊な体質を持っていたらしい。
ある者は涙がダイアになり、ある者は涙が金になる。
まさしく奇跡の一族と言えた。
しかし、デスピサロの先代・・・先々代の魔王ですら知らない一族らしい。
では、何故その一族がこの時代にて姿を現したのか?
エビル「……人間達が噂を聞きつけ、エルフ狩りに出たからです」
エビルプリーストは静かに応えた。
そしてピサロの表情は当然曇った、人間の非道に対し怒りを覚えたのだ。
21 :
◆u92m9qV/WA
[sagasage]:2012/01/11(水) 20:10:51.07 ID:nZgMDRU60
エビル「……報告しなかったのは、私の独断です、如何なる罰も受けます」
ピサロ「それは良い、だが……狩られたエルフ達はどうなった」
それは、ピサロも薄々気づいている。
涙を流せば金になるようなエルフ達を、人間が優しくするとは思えなかった。
しかしエビルプリーストの答えはピサロを愕然とさせる。
エビル「彼等の涙は、人間が触れると砕け散ってしまいます……」
エビル「……故に、それが分かった人間達はエルフを家畜のように弄び、殺し、犯したのです…」
・・・・。
ピサロの瞳が血の色に染まった。
ピサロ「ロザリーと名乗ったエルフの少女は……」
エビル「『今までどんな扱いを受けた』かは分かりませんが、恐らく生き残りかたまたま逃げ出せたのかと」
22 :
◆u92m9qV/WA
:2012/01/11(水) 20:12:22.00 ID:nZgMDRU60
今回はここまでです
不定期更新なので、期待せずに
それでは落ちます
23 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)
[sage]:2012/01/11(水) 20:18:44.82 ID:39Mpi4efo
期待ワッフル
24 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/01/11(水) 21:39:45.81 ID:stV7WUUIO
不定期…
不吉な
おちゅ(`・ω・´)
25 :
◆u92m9qV/WA
:2012/01/13(金) 17:11:06.70 ID:uHNzmvx+0
>>24
それもありかもしれない
26 :
◆u92m9qV/WA
[sagesaga]:2012/01/13(金) 17:39:19.60 ID:uHNzmvx+0
――――― 余り見る機会が無い程のデスピサロの怒気に、魔王城が騒然としていた。
アークデーモン「何があったと言うのだ、あのデスピサロ様がお怒りになるとは……」
さまよう鎧「人間達がエルフ達を狩ってる件らしい、やはり魔王の血筋……人間への憎しみは強いな」
魔物達が口々にデスピサロの事を話す中、一ヶ所だけ周りの魔物とは違う雰囲気を出すテーブルがある。
元々は王宮の廊下に使われていたのではないか、とさえ思う程に巨大な大きさのテーブルだ。
純白のテーブルには、一際強烈な魔力の重圧を与えて来る魔物が三体いた。
デスピサロ率いる『四天王』と呼ばれる魔物達だった。
「……この数日、何かエビルプリーストの様子がおかしいとは思ったがな」
「それは、多分デスピサロ様に報告するか迷っていたんだろう…察してくれヘルバトラー」
「しかしエビルプリーストもエビルプリーストだ、たかがエルフ1人に気に病む事は無いだろうに」
ヘルバトラー「……フン、ところでデスピサロ様はどこに?」
「エビルプリーストとロザリーヒルに向かったらしい」
暗黒界の高位悪魔であるヘルバトラーでさえ呆れた。
どこまでも魔王の癖に、どこまでも人間臭い。
27 :
◆u92m9qV/WA
[sagesaga]:2012/01/13(金) 18:00:52.01 ID:uHNzmvx+0
ピサロ(・・・)
完全に闇と化した深い夜の村で、ピサロは空を見上げていた。
雨が降るとしたら恐らく1時間程度だろうと考え、そして僅かに嫌悪感が刺した。
闇……いや、単純に言えば薄暗い雨の世界がピサロは嫌っていた。
故郷と、そして異世界で死んで行った先々代の魔王を思い出してしまうから。
そう思っているピサロに、背後から太い声が鳴った。
エビルプリースト「デスピサロ様、どうやらこの村にエルフが来た痕跡は無いようです」
そのエビルプリーストの本来の姿を見た人間は、一目で邪悪な神官だと察するだろう。
押し殺していても、魔法に通ずる者がいたら卒倒する程の邪悪な魔力を散らしているからだ。
ピサロはゆっくり首を動かし、命じた。
ピサロ「……行くぞ、雨が降りそうだ」
28 :
◆u92m9qV/WA
[sagesaga]:2012/01/13(金) 18:09:25.71 ID:uHNzmvx+0
1時間後。
案の定、夜の闇に包まれた中で雨が降り出した。
しかし落ちて来る雫にピサロとエビルプリーストは不快感は無い。
彼等は森の中にいる、それもかなり深い位置の。
ピサロは闇の中で表情を曇らせた。
原因はその視線の先。
燃え盛る炎に焼かれ、熱され、赤い色に包まれた……村。
ピサロ「……これは」
エビル「魔法の痕跡があります、エルフの少女が使用したかと」
彼等は見る。
29 :
◆u92m9qV/WA
[sagesaga]:2012/01/13(金) 18:18:05.74 ID:uHNzmvx+0
扉が半分開いた家から、何かが出ている。
それらは足にも手にも見え、炎の灯りに照らされた壁には焦げ茶の染みが、広範囲にまき散らされていた。
そして炎の風に乗って漂うのは死臭。
ピサロ「皆殺し、それも男だけか」
エビル「……」
エビルプリーストは黙っている。
森の民は争いを嫌う。
なら、何故抵抗したかのように見えるのか……蹂躙という名の快楽がそう演出させたのだ。
人間の、『悪戯心』で。
ピサロ「魔力を追えるか」
エビル「分かりません、いつ使った魔法なのか……」
ピサロ「構わん、私はこの一帯を探す」
30 :
◆u92m9qV/WA
[sagesaga]:2012/01/13(金) 18:28:26.30 ID:uHNzmvx+0
―――――― ひやりとした空気に加え、雨が降って来た。
薄着であるロザリーには川で溺れた時より辛く感じる。
何より、もう彼女は心が壊れかけている。
(・・・)
どんよりとし、夜の闇から降って来る雨も気にせず、空を見上げた。
逃げ出す以前の景色に酷似していた。
あの突然村から浚われ、そして連れて行かれた人間の城の景色・・・。
寒い地下室には異様な匂いが立ち込め、暗闇しか無かった景色。
殴られ、蹴られ、打たれ、触られ、そして……
「……っ!!」
また戻るのか。
その自問に彼女は一瞬にして恐怖の重圧を受け、嘔吐した。
31 :
◆u92m9qV/WA
[sagesaga]:2012/01/13(金) 18:35:44.34 ID:uHNzmvx+0
雨が少し強まった。
少女の涙の代わりに泣いているように。
村は、少女が浚われた時に皆殺しにされたらしい。
らしい……とは、実感が未だ湧かないのだ。
あの人間達から逃げ出すまでの1ヶ月、彼女はずっと村の家族の元へ逃げ帰る事だけ夢見て来た。
そして偶然にも牢の番人が鍵を落としたのを拾った瞬間から、彼女は夢が叶ったと思った。
悲劇は終わったと思った。
だが、
(誰もいない)
村にあったのは、
(・・・お父様……?)
凄まじい惨劇の『一部』。
「・・・・・・・・」
心は無音で砕け散った。
32 :
◆u92m9qV/WA
[sagesaga]:2012/01/13(金) 18:43:06.03 ID:uHNzmvx+0
「………」
再び、空を見上げる。
亡骸を少しでも天国に送るつもりで、彼女は村に火をつけた。
しかし結果は更に彼女の思い出が壊されるだけとなった。
惨く、酷く、ただただムゴく。
――――――ガサッ
少女は振り返った。
自分でも恐ろしい程にゆっくりと、夢見心地のように。
「見つけたぜ、金になるエルフ……」
「へへへ……」
彼女はメラを男達の足下に撃ち、思う。
逃げ切れないかもね、と。
33 :
◆u92m9qV/WA
[sagesaga]:2012/01/13(金) 18:50:14.67 ID:uHNzmvx+0
土砂降りの中、1人の男が走り去る音が雨音に混じって鳴り響く。
その速さは突風に等しく、そして刃のような何かがある。
ピサロ(こちらから確かに魔法の気を感じたが……)
木々を飛び移り、大木を蹴り飛ばし、一瞬で長距離を進みながら目を凝らす。
ロザリーというエルフの少女がどこかにいるはず。
そうピサロは確信し、探していた。
だが一向に見つかる気配が無い。
ピサロ(・・・考えられるとしたら、洞窟か?)
34 :
◆u92m9qV/WA
[sagesaga]:2012/01/13(金) 18:59:02.58 ID:uHNzmvx+0
薄暗い洞窟の中で、松明の灯りに照らされながら鈍い音が響く。
男3人が少女を囲んで蹴りの嵐を起こしていた。
下腹を爪先で蹴り上げた直後に踵で肩を踏み潰し足を何度も蹴る。
凄まじい暴力に、少女は声も出せない。
疲れてきた男が言った。
「……ルビーなんか出ないじゃないか」
「なあ、やっぱり痛めつけるよりエルフの女を楽しまないか」
「別に構わないが」
少女は虚ろな意識のまま服を脱がされる。
全身が激痛を訴えて来る為、もう何も考えられなかった。
35 :
◆u92m9qV/WA
[sagesaga]:2012/01/13(金) 19:06:12.01 ID:uHNzmvx+0
――――――ッッ
強烈な異物感に加え、擦り切られるような痛み。
少女は小さく呻くしかない。
「ちょっとキツいな……ッ、少しは濡れないのかよコイツ」
「涙も流さないしな、枯れてるのか?」
華奢な腰を掴み、男は次々と陰茎を突き刺す。
苦痛だけが感じる。
体中を撫でられても痣を刺激される為、痛い。
『何か』を奥のお腹に突き入れられても、呻くしかない。
男達は少女が意識を失っても犯し続けた。
36 :
◆u92m9qV/WA
[sagesaga]:2012/01/13(金) 19:10:39.01 ID:uHNzmvx+0
夢を見た
少女は男達から逃げていると、突然炎が男達を燃やす
少女は男達を殺した男に森の民として哀れんだ
そして、エルフ達が夢見る村、『ロザリーヒル』に招待される
しかしわかっている
夢は夢でしかない。
なのに、少女は気づいた
助けてくれたのは、昼間会ったピサロだということに。
37 :
◆u92m9qV/WA
[sagesaga]:2012/01/13(金) 19:18:35.47 ID:uHNzmvx+0
白く、白濁した意識の中で声がした。
「私は、これから魔物達の前で宣言する」
「本気ですかデスピサロ様! 勇者がどこにいるかも分からないのに……」
「私の『予知夢』で確認している…子供を殺せばいいはずだ」
「まさか人間達の子供を片っ端から……?」
「人間共にかける情けなど無い、存分に殺せ」
「私は魔物達の前で宣言する・・・魔王として、人間共を皆殺しにするとな」
少女は白濁した意識のまま眠る。
ふかふかした羽毛のベッドだけではなく、夢の中にいるような安らかさに彼女は埋まる。
彼女は知らない、自身の手は夢で会ったピサロの手を握り締めていることに。
38 :
◆u92m9qV/WA
[sagesaga]:2012/01/13(金) 19:21:53.86 ID:uHNzmvx+0
―――――― 数ヶ月後、世界中の魔物達は一斉に人間に牙を剥く。
そして悲劇と惨劇の嵐は止まらない。
ここから始まる物語は、誰も幸せになれない。
39 :
◆u92m9qV/WA
:2012/01/13(金) 19:22:32.01 ID:uHNzmvx+0
次は1ヶ月後か来週か
40 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(東京都)
[sage]:2012/01/13(金) 19:24:08.32 ID:/kXI/L5uo
乙〜
心が痛いね。ワッフルワッフル
41 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/01/13(金) 21:32:29.16 ID:isPm2x4IO
やられちゃってるよなjk(うω;`)
おちゅ
42 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(栃木県)
[sage]:2012/01/13(金) 21:43:49.73 ID:A4ei1yWco
4は結構ダークなとこあるよね
とりあえず勇者が悲惨な設定だし
43 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2012/01/13(金) 23:09:51.41 ID:uwcoE5SVo
きたい
44 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
:2012/01/16(月) 00:59:19.05 ID:AGW0+jKU0
乙
wktkしながら待ってます
45 :
◆u92m9qV/WA
[saga]:2012/01/22(日) 14:56:08.91 ID:8Dpsr+Yd0
―――――――――――― 第1章『 散りゆく戦士たち 』――――――――――――
46 :
◆u92m9qV/WA
[sagasage]:2012/01/22(日) 15:13:08.77 ID:8Dpsr+Yd0
―――――― 「神隠しという現象は知っているだろうか」
神隠し、それは文字通り『神にしか隠せない』程の事を指している。
つまりは・・・『怪奇現象』である。
例えば、バトランドと呼ばれる王国があったとしよう。
その国では今記したように、幼い子供が次々と消えていく事件が起きている。
これは、この現象は、・・・『神隠し』と呼べるだろうか?
「その答えは 否 、全てには元凶が必ず存在するはずである!!」
深紅の鎧に身を包んだ若者とも老人とも呼べない男は、そう断言した。
彼の前には、如何にもインテリ系と言わんばかりの書記官や大臣達が様々な書類を手に、彼の言葉を聞いている。
彼等は男の有難い言葉を聞く為にここに居る訳ではなかった。
男の蛮勇を見事全否定するつもりだったのだ。
47 :
◆u92m9qV/WA
[sagasage]:2012/01/22(日) 15:27:29.99 ID:8Dpsr+Yd0
書記官「……では問おう、子供達を見守る大人が6人もいる状況で一瞬にして9人消えた事をどう説明する」
インテリ眼鏡を指で直しながら、初老の書記官が問いかける。
・・・信じられないかもしれないが、これ以外の57件の同じような事件に対する問答を半日前から続けていた。
深紅の鎧を着た男は、尚も鋭い眼光を宿したまま応える。
「現場を私は昨夜見てきたがどうという事はない、『盲点』だっただけだ」
書記官「盲点と? まさか我々が?」
「然り!! あの学び舎には伸びきった草が多い、『イムル村』は自然を大切にするが故…そういった草は野放しだ」
「そして、当時の大人達は『消える事を予期していない』のは当たり前! 心理的に監視は甘かったとしても不思議ではない!!」
ズバンッという平手が机上に振り下ろされ、まるで結論のように音が辺りを黙らせる。
・・・書記官達は黙るしかなかった。
「つまりッ、『子供達を誘拐しようと企む者が草陰に隠れていても不思議ではない』!! これでも貴様らは何もせずに黙って見ていろと言うか!!?」
凄まじい気迫に、ついに書記官達…大臣も椅子に腰かけたまま後ろに下がった。
男が勝利している事は明らかな問答の結果だった。
48 :
◆u92m9qV/WA
[sagesaga]:2012/01/22(日) 20:18:56.45 ID:8Dpsr+Yd0
「いやぁ、相変わらず見応えのある問答だったぞライアン」
「書記官の連中を黙らせ、見事王宮戦士の我らに調査権限が渡るようにするとは!」
深紅の鎧を着た、ライアンと呼ばれた男は頷く。
ライアン「幼い子供達を次々と誘拐するような輩、この私が斬らずしてどうするのだ?」
その言葉に、同僚たる戦士達も頷く。
彼等はバトランド王宮に仕える『戦士』、そこらにいる兵士などという簡単な言葉で表せるような騎士道ではない。
まさに戦いを持って悪を滅ぼす、最強にして最高の『漢』なのである。
だが、ライアンの言葉に1人の、白銀の鎧に身を包む男が異を唱えた。
「……ライアンよ、何も貴様が斬らねばならぬ道理な無い筈」
「それを、『私が斬らずしてどうする』とは…この『ラインハット』に対する挑戦と受け取るぞ?」
異を唱える。
とは言ったが、実際の彼は一切悪気は無い。
要は、犯人をどちらが先に斬るか……勝負しようという事である。
49 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
[sage]:2012/02/13(月) 09:41:13.28 ID:UN0x0RLIO
乙
50 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
(チベット自治区)
[sage]:2012/02/19(日) 19:46:18.07 ID:cUEFbIPU0
よんだよー 乙!
28.25 KB
[ Aramaki★
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