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Ryno-Generation - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/02(木) 21:21:46.51 ID:zYfJKhwLo

地の文がついているロボットモノSSとなります。
>>1がヘタレな為、しょっちゅう更新停止する可能性が高いですが、コツコツと書いて投下していく予定となっておりますので、お暇な方はお付き合いをお願いいたします。(土下座)

別スレにて魔王と勇者的なSSも進行しておりますが、逃避行動としてこちらのSSを書いては投下してまいります。
「てめぇ、ンな事してる暇あったらあっちのSS進めろよこの屑!」などの罵りと嘲りのお言葉は常時大歓迎です。

寒い日が続き、場所によっては大雪の被害が出ておりますが、雪かきの合間に、または時間が空いた時のお供に、どうぞよろしくお願いいたします。(土下寝)

それでは、稚作ではございますが、『RynoGeneration』の開幕です。
書き溜めを修正しつつ投下してまいります。本日の投下はプロローグのみとなっておりますので、数レス程度で終了してしまいますが、少しでもお楽しみいただければ、と思いつつ。始めさせていただきます。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1328185306(SS-Wikiでのこのスレの編集者を募集中!)
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寝こさん若返る @ 2024/05/11(土) 00:00:20.70 ID:FqiNtMfxo
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1715353220/

第五十九回.知ったことのない回26日17時 @ 2024/05/10(金) 09:18:01.97 ID:r6QKpuBn0
  http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1715300281/

ポケモンSS 安価とコンマで目指せポケモンマスター part13 @ 2024/05/09(木) 23:08:00.49 ID:0uP1dlMh0
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今際の際際で踊りましょう @ 2024/05/09(木) 22:47:24.61 ID:wmUrmXhL0
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誰かの体温と同じになりたかったんです @ 2024/05/09(木) 21:39:23.50 ID:3e68qZdU0
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A Day in the Life of Mika 1 @ 2024/05/09(木) 00:00:13.38 ID:/ef1g8CWO
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真神煉獄刹 @ 2024/05/08(水) 10:15:05.75 ID:3H4k6c/jo
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愛が一層メロウ @ 2024/05/08(水) 03:54:20.22 ID:g+5icL7To
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2 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/02(木) 21:26:33.86 ID:zYfJKhwLo

〜プロローグ〜


「おとうちゃん!」

 少年の叫びが狭い室内に木霊する。少年は丸い窓の外で繰り広げられる死闘を瞬きせずに見ていた。
 ナイティム『ブルー・エッジ』の敗北は既に決定的であった。所属していた大型汎用人型兵器『ライノクラフト(通称RC)』はその数を残り1機にまで減らし、敵のライノクラフトは1機が各坐しているものの、残りの4機はほとんど無傷の状態で剣を構えていた。
 広大な大地で1機対4機のライノクラフトが対峙している。敵機の足元には無残に破壊されたかつての少年の家族とも言えるライノクラフトの搭乗員、ライダーと呼ばれる者達の乗機が倒れて煙を噴いていた。

「シェル、チーフ! 早く退避してください!」

 少年、シェルが居る部屋に二人の少女が入ってきた。二人とも焦りの色が幼さの残る顔に浮かんでいる。

「しょうがないわね。シェル、行くわよ」

 母親に手を引かれたシェルだが、彼はそこから動かない。その大きな瞳はじっと父親であり、ナイティムマスターであるガジェルの乗機『ブルー・エッジ』に注がれていた。

「おとうちゃんが負けるわけないじゃないか! だからここは大丈夫だよ!」

 そう答える息子に母親は彼の肩に手を置き、膝を折って彼の視線に合わせる。

「そうよ、シェル。おとうちゃんは負けない。あの人が負けるわけないでしょ。整備も私がばっちりしているんだからね。だからこそ、今の間にここから離れるのよ。おとうちゃんが時間稼ぎをしてくれているの。今は時間を無駄にできないでしょ」

 母親のそんな言葉にもシェルは頭を横に振る。

「おとうちゃんは勝つんだ! あんな奴らコテンパンにしちゃうよ!」

「確かにボスの腕は超一流だわ。でもね、シェル。敵はまだ4機もいるのよ。ボスが戦っている間にこっちに来たらどうするの? 今の私達に敵を迎え撃つ方法はないのよ。ライノクラフトもないし、ムーバには迎撃兵装なんて積んでないのよ」

 二人の少女の片割れ、ショートヘアのライダー候補、魔夜香がシェルの説得に加わる。

「でも、でも……」

 なおも何かを言おうとするシェルにもう一人の候補生、魔夜香の双子の妹である沙夜香が長い髪の毛がこぼれるのも構わずに身長のまだ低いシェルの目線にあわせてしゃがみ、

「大丈夫。お父様はすぐにかけつけてくださるわ。私達は万一の事を考えて避難するだけよ。お父様が戦いに勝ってもシェルが傷ついていたらお父様が悲しまれるわ」

 シェルは沈黙する。

「ね? 行きましょう」

 差し出された沙夜香の手をじっと眺めていたシェルがやっと握る。

「明日の勝利の為の撤退よ」

 魔夜香がシェルの頭を撫でながら部屋を出るために扉を開き、3人を外に誘導する。

「早く来い!」

 ムーバ本体に連結されているライノクラフトの整備や保管をするデッキの上には残ったスタッフが集まって各々ホバーバイクやトラックに分乗していた。シェルと母親は用意されていたホバーバイクに跨ぎ乗り、双子もその横に置かれたホバーバーイクに二人乗りする。運転は沙夜香の分担のようだ。

「みんな、バラン・バランで落ち合うのよ! いいわね、絶対無事に到着すること! ウチの宿六が時間を稼いでくれている間に出発するわよ!」

「はいっ!」

 母親の言葉に全員が大きくうなずく。
 ハッチが開き、各機が外に舞うように出発し、一瞬の滞空の後、地面に着地すると猛烈な勢いで目的地を目指した。
 シェル達は最後にムーバを出て着地する。シェルは母の腰にしがみつきながら背後を振り返った。
 巨大なムーバが佇んでおり、カタツムリの殻のような居住区と剥き出しの整備ブロックが見て取れた。そして、その向こうで父の蒼いライノクラフトが敵めがけて突っ込んでいくのが見えた。

「おとうちゃーーん!!」

 シェルの絶叫と同時にブルー・エッジが敵の剣によって縦に両断された。
3 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/02(木) 21:27:56.02 ID:zYfJKhwLo

「……おとうちゃん!!」

 シェルは飛び起きた。慌てて周囲の様子を見る。そこは見慣れた部屋だった。グレーで統一された無機質な壁に簡素な二段ベッド。シェルはその上段に寝ており、下段には親友の、

「大丈夫か、シェル?」

 エルマーが下から顔を覗かせる。シェルは今自分が居る場所を認識して息を吐く。

「夢だったんだ」

 ベッドから飛び降りて部屋に備え付けられている冷蔵庫からミネラル・ウォーターを取り出してコップに移し、飲み干す。その間にエルマーもベッドから出てきていた。時刻は夜中の3時。シェル達の乗るムーバはゆっくりと移動しており、その音とかすかな振動だけが静かな室内に響いていた。

「あの夢か?」

「うん」

 ライノクラフトライダー養成学校で出会い、今となっては親友とも言えるエルマーにシェルは全てを話していた。
 当時、幸いにも無事にバラン・バランの街に辿り着いたシェルの脳裏には真っ二つにされた父の騎体が焼きついていた。あの斬られ方では中に居た父は無事ではないということも知っていた。
 シェルが11歳の時の出来事であった。5つの国と1つの絶対中立都市がひしめくこの大陸でも有数の傭兵団、ナイティム『ブルー・エッジ』壊滅の報が流れた。原因は正体不明の旅団の襲撃。実力では一国の軍の精鋭部隊並と唄われたナイティムがほんの数時間で蹂躙されたのだ。生き残りの証言によれば、敵ライノクラフトの容姿は漆黒のライノクラフトとしかわからず、各国が協力して行った合同捜査でもその正体は掴めなかった。一説にはどこかの国の秘密部隊という話もあったが、その素性は結局掴めず、事件は迷宮入りになっていた。
 そんな中、11歳のシェルは復讐心に燃え、ライノクラフトのパイロットであるライダー養成学校への入学を決意していた。
 その時にシェルは母、カノンに諭された。

「いい、シェル。復讐は何も生み出さないのよ。そんな事を考えるのは駄目。おとうちゃんだって敵討ちなんて望んでないわよ」

「じゃあ、じゃあ僕はどうすればいいの!?」

 小さいシェルは拳を握って母親に問い返した。母親はそんなシェルの気持ちを十分に理解している事を伝えたあと、彼をナイティムが世話になっていたライノクラフトの総合工場に連れて行った。普段、ライノクラフトの整備や修理は通常ムーバ上や軍属であれば専用の工房等で行われるのだが、年に一回、法律による検査が義務付けられていた。その他にも大きな損傷などを負った場合も工場でないと修理ができない。その指定工場は各国にあり、特にバラン・バランの街には中立性や世界で唯一のライノクラフトライダー養成学校がある為、その数は他国に比べて圧倒的に多い。その中の一軒に『ブルー・エッジ』が世話になっていた工場があった。
 カノンはシェルを工場のメインである主作業所に連れて行った。そこはライノクラフトが組み立てられる場所であり、シェルも父に連れられて多くのライノクラフトがそこで組み立てられ、ロール・アウトされるのを見学したものだった。

「ここよ」

 シェルが案内されたのは一つの格納庫。借主は父の名前とナイティムの名前になっていた。

「開けてごらん」

 そう促されて扉の開放ボタンを押すと、高さ20メートルの鋼鉄製の扉がゆっくりと開き、その中には1機のライノクラフトの原型があった。まだ骨格のみでフックなどに掛けられたその骨格は人体骨格の標本の様にも見える。完成すれば高さは16メートルほどになるであろう、その巨人の骨格は静かに安置されていた。

「これは……?」

「型番BE-0002、まだ研究段階のライノクラフト骨格よ。まだ発表もされてい最新鋭……というより、研究段階の物よ。そして、これがシェルの乗機になる予定の騎体」

「これが?」

「基本設計や設計理念にははおとうちゃんが参加してるわ。つまるところ、おとうちゃんの遺品って事ね。シェルが14歳になって、見事ライダー試験に合格したらプレゼントするんだって言っていたわ。いわば骨格から全部カスタムメイドというわけよ」

「僕の……騎体?」

 シェルは再び骨格を見る。まだ電源も入らず、ただそこにぶら下がっているだけの骨格があった。骨格のみで、そこに詰め込まれるジェネレーターやモーターなどのパーツもない、本当に骨格のみのライノクラフトがそこにあった。

「復讐なんて無意味な事よ、シェル。おとうちゃんが望んでいるのは、貴方がおとうちゃんを超える事。あの人、ずっとそう言っていたわ。貴方には才能があるって。いつか二人でライノクラフトを駆って仕事をしたいってね」

「……」

「いい、シェル。これがおとうちゃんの遺言よ。強くなって、一人前のライダーになりなさい。それが貴方が成すべき事なのよ」

 そう言われたシェルは黙って、こくりとうなずいた。復讐心を捨てたわけではなかった。あの黒い騎体の事を考えるだけで年端もいかない少年の心には復讐の赤い炎が燃え上がるのだが、父が遺した夢を叶える事を目標とした。
 そしてシェルは翌年、12歳でライダーの素質試験をパスし、養成学校に入学した。
 そもそもライノクラフトのライダーには誰もがなれるわけではない。この巨大な人型ロボットの操作は困難を極めていた。動作のほとんどをコンピューターがやると言っても、パイロットであるライダーが操作しなければいけない事は無限にある。それは搭乗中でも、待機中でもであった。その整備には専門的知識が必要になるため、専門職が存在するのだが、応急メンテナンスをする程度の知識は必要であったし、ライダーになるには各国の法律や規律などを学び、将来に備えなければならなかった。そしてその素質試験も困難を極め、ペーパーテストを初めとしたあらゆる能力が試され、徹底的に振り落とされる。年齢制限は下限が12歳しか設けられておらず、上限はなかった。
 大半のライダーは各国の軍に所属することになる。ライノクラフトの優劣は互いに領土争いをしている5つの国にとって死活問題であった。
 ただ、その中でも軍に属さず、傭兵という形で生計を営む物もいた。それが『ナイティム』である。巨大な運搬トレーラー『ムーバ』を用い、そこで生活し、メンテナンスを行う傭兵集団がそれである。彼らは軍では遂行困難な任務や企業からの依頼をこなして金銭を得ていた。シェルの父親やそのスタッフ達はそんな数あるナイティムの中でもトップクラスの仕事完遂率を誇り、その名声は軍が大枚をはたいてでも専属にしようとしていたほどであった。
 シェルはそんな父親を目指して養成学校に入学し、日々、厳しい授業や実地訓練を受けていた。そんな中で出会ったのがエルマーであった。1つしか年齢の離れていない彼とシェルはすぐに意気投合し、卒業間近の現在まで互いに親友として、良きライバルとして互いの腕を磨きあい、時には衝突を繰り返してきていた。
4 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/02(木) 21:29:43.78 ID:zYfJKhwLo

夕食後にエピソード1を投下します。
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/02(木) 21:44:58.15 ID:vMnU6iseo
待ってるで御座るが、
あっちはもっと待ってるで御座る。
よって石抱き半日に候。
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/03(金) 07:32:16.12 ID:IkVksp0IO
長い夕食で御座るwwwwww
ヘタれるの早過ぎ!!!
7 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/03(金) 10:13:36.39 ID:ui263o5To
失礼しました。晩御飯食べてちょっと横になったら朝になってました。
自分でもびっくり。

午前中は時間があるので、ちまちまと投下してまいります。
8 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/03(金) 10:16:04.58 ID:ui263o5To


エピソード 1 〜卒業試験〜

「いいか、今から行う試験は実戦を想定したものだ。お前たちは2人1組となってチームになり、敵地最深部にある目印を取ってきてもらう。この際、評価のポイントになるのは目印を早く持ち帰ってくるのではなく、いかに敵を撃破、あるいはかわし、目印に到達し、帰還するかだ。仮想敵には我々教務員と一線で活躍する先輩ライダー達だ。容赦はせんぞ、怪我が怖かったら帰って寝ろ!いいな!?」

「はいっ!」

 強面の教官の言葉にシェル達は改めて自分たちに課せられた試験の難易度を思い知る。

「オッサン達だけでも手ごわいのに、プロのライダーまで連れてくるなんて、無茶だよな」

 解散を告げられて各々チームを組む相手と更衣室に向かう道すがら、シェルの横を歩くパートナーとなったエルマーが愚痴をこぼす。

「先生達の腕前もかなりのモノだもんな」

「あぁ。なんてったって元軍人ばかりだからな。腕はピカイチだろうよ。その上プロだぜ、プロ! ったく、目的地に辿り着けるかさえも怪しいよな」

 溜息を吐きながら更衣室に入り、ライダー・スーツに着替える。身体にフィットしたライダー・スーツは難燃性の素材で出来ており、万が一の場合に備えて色々な機能が付加されている。

「さて、行くか」

 お互いに搭乗前のチェックを済ませ、練習機のあるハンガーに向かう。その途中で教官から目的地に置かれている目印の内容が明かされたデータチップを受け取る。

「何なんだろうな?」

「問題は大きさだよね。大きすぎると運ぶのに1人割かなきゃいけないから、戦うのが1人だけになる。その時を突かれたら厳しいんじゃないかな?」
 シェルの答えに親友はうなずいて何が目印なのかと色々想像したものを列挙しながらムーバに連結された整備デッキに出る。
 シェル達が乗る練習機は完全な人型のライノクラフトで、2本腕に2本足という最もスタンダードな騎体である。ライノクラフトの手や足はライダーの希望で増減することが可能で、それぞれの形で用途も変わってくる。
 例えばシェル達の乗る2本腕2脚の場合は軽装スタイルと呼ばれ、重量のある大型武器などは装備できない反面、スピードを生かして敵の攻撃を避け、攻撃を当てていくというスタイルを取る。他には中量級の4脚や、重量級の6脚などが世の中に存在する。
 片膝をついた状態でアイドリング中の騎体にタラップを使って頭部にあるコックピットに搭乗し、キー代わりになる『脳波誘導コントローラー』のヘッドギアを被る。このヘッドギアこそがライダーとライノクラフトを結ぶ糸であり、ライダーの脳波を読み取って登録されているライダーの脳波と一致しない限り起動もできないし、ライダーが考えるの基本的な操縦を読み取り、それをコンピューターを通して騎体に伝え、動かす。今搭乗している練習機には『鍵』の役割が省かれているが、正式にライダーとなり、ライノクラフトを手に入れた暁にはその機能を使うことにもなる。

『1号機、起動せよ』
 教官の指示に「はい!」と返事をしてから、自分用のデータディスクをスロットに挿入し、メインスクリーン横の赤い起動ボタンを押し込む。
 何も映っていなかった3面あるモニターが次々を起動し、自動的に騎体にエラー箇所がないか、ハード的に、ソフト的にチェックを行う。高速で文字がスクロールしていき、それぞれ異常がない事を示すグリーンマークが浮かんでいた。同時にシェルが今まで訓練の中で積み重ねてきた戦闘データがライノクラフトのメインCPUにダウンロードされる。
 チェックが終了すると、ジェネレーターが本格的に起動して装甲面に埋め込まれたソーラーパネルから取り込まれた太陽光がエネルギーに変換され、ライノクラフトの四肢に行き渡る。

「起動、完了」

『よし。1号機は下車して2号機を待て』

 指示に従ってムーバを降り、エルマーを待つ。数分後、シェルとエルマーの第一隊は合流し、教官の開始の合図を待つ間に目印を確認した。
 データカードを読み取り機に掛け、表示されるのを待つ。

「人間?」

 モニターに投射されたのは一人の女性だった。細かいディテールは省略されているが、衣服と髪型の特徴が表示されている。

『えっと、ロングヘアーで、服はライダースーツか。色は白と赤を使った物だな』

 エルマーの顔がモニターの端に浮かび、声がヘッドギアに装着されている小型のスピーカーから聞こえてきた。

「この人を収容しろって事かな?」

『それ以外ないだろ』

「でも、コックピットに収容できないよ」

 シェルの言う事は事実だった。ライノクラフトのコックピットは人1人が入るとそれで定員オーバーになってしまう。大型の騎体には2人くらいなら乗ることが出来るスペースを持つ物もあるが、今シェルたちが乗っている騎体にはそんなスペースはなかった。

『あ、そうか。じゃあ、手で持つしかないか』

「戦闘に巻き込まれない事を祈るよ」

『同感』

『用意はいいか!?』

 教官の声が割り込んでくる。2人は「はい!」と返答をして敬礼をする。

『よし。目印となる目標は確認したな?』

「はい! しかし……」

 危険性を指摘しようとしたシェルだが、教官の大声に阻まれる。

『では、スタートだ! これ以降の無線の使用は禁止とする。僚機との連絡は接触回線を使うように!』

 無線封鎖され、モニターの一部、教官とエルマーが映っていた窓が砂嵐になり、スピーカーからも砂嵐の音が響いてきた。シェルは通信を切ると、改めて周囲を確認する。
 背後には今さっき下りてきたムーバがその巨体を休ませ、眼前にはライノクラフトが横に5機は並べる程大きな洞穴が口を開けてシェルを待っていた。目印である女性はこの奥に居る、ということだ。
9 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/03(金) 10:18:44.99 ID:ui263o5To

『おい、シェル』

 エルマーの声が聞こえてくる。騎体の一部を相手の騎体と接触させて音声通信を開いたのだ。

『知ってるか? 今日の試験、軍のスカウトが来てるらしいぜ』

「スカウト?」

 そう言われれば見たことのない、明らかに軍人然とした人間を数人ムーバの中で見たのを思い出す。彼らはシェル達、訓練生を自分の国の軍に入れる為にやってきているのだ。

『良いところを見せないとな。用意はいいか?』

「万端」

『よし、行こう。横並びでいいよな?』

「うん」

 2機のライノクラフトはゆっくりと動き始め、洞穴に入った。太陽光発電が不可能になったという文字がモニター内に小さいウィンドウに表示され、同時に別窓が開いて騎体内に装備されているエネルギープールの残り容量を示し、モニターに残時間が表示される。

『制限時間付きじゃないか!』

 エルマーの悲鳴が響く。今2機は一本のワイヤーを両機の間に繋いで通信回線を開いている。

「厳しいね、これは」

 シェルもうなずいてエネルギー残量を確認する。基本動作、いわゆる歩く・走るなどの動作のみならば3時間は動作可能だとウィンドウには表示されていた。

「戦闘一回すると減るエネルギーがこうだから……」

 授業で習った計算式を使って手早く計算を済ませる。

「エルマー、戦闘一回で消費するエネルギーを考えると2回くらいの戦闘しかできないよ!」

『こっちも計算した。言うとおりだな。目印が奥の方にいないことと、敵さんが3回以上出て来ないのを祈ろうぜ!』

 2機のライノクラフトは薄暗い外の風景を準暗視モードに切り替えたモニターで注意深く観察しながら一本道のトンネルのような道を奥へと進んでいった。
 10分ほど進んだ所で道が2つに別れている。集音センサーを使った結果、左の道を行った先にはライノクラフトが待ち構えているのが確認できた。

『罠だぜ』

「うん。僕もそう思う」

 右側の道は明らかにシェル達を誘っていた。エネルギーの消費を恐れて右側を通ると何らかの仕掛け、あるいは敵が居て余計にエネルギーを消費する、というオチだろうと考えられる。

『左に行こう。ほら、虎穴に入らずんば虎子を得ずって言うだろ?』

「賛成。それにしてもそんな言葉、よく知ってたね。授業中寝てばっかりだったエルマーが」

『うるさい!』

 左側の通路を進む。5分ほど進んだ所で突然開けた場所に出た。洞穴の中は変わらないが、天井には灯りがあり、部屋の中がよく見えた。モニターも準暗視状態から通常モードに切り替わる。

『シェル、敵!』

 言われるまでもなくシェルも敵の存在を確認していた。2機の軽量型ライノクラフトが武器を手にシェル達を待っていたのだ。
 敵の騎体は両方ともグレーで、既にシェル達めがけて走り始めていた。

『俺は右と戦う!シェルは左を!』

「了解っ!」

 ワイヤーを切って2機は各々の敵を見定めて騎体を動かす。
 真正面から剣を上段に構えて突っ込んでくる敵から回避する形で騎体を動かし、同時に腰に装備されているウエポンラックから剣を抜く。
 敵の第1撃をかわしたシェルは剣の大振りで体勢が崩れた敵機の背後から剣を横に振り、見事に命中させ、装甲を削る。そのまま第2撃を放つ前にかわされ、逆に敵の剣がシェルめがけて振り払われる。が、それを左腕に装備されている小型の盾でなんとか受け流し、敵の右肩めがけて斬撃を放つ。右を狙ったのは敵が剣を持っている腕が右側だったのだが、当たりがよかったのか、敵の右腕を使用不能にすることに成功した。

「よしっ!」

 シェルがほっとした瞬間、その考えが甘かった事を思い知らされる。敵が体当たりをしてきたのだ。激しい振動がコックピットを揺さぶり、損害がモニターに表示される。衝撃の割には損害は軽微だ。

「このぉっ!」

 腹部に突っ込んでいる敵の背中目掛けて剣を再び振り下ろす。さっき剣をヒットさせ、装甲が削れているその場所めがけて。
 振動と共にシェルの一撃が相手の腰部を破壊した事がモニターに表示され、敵を行動不能に陥れた事がわかる。シェルはこの戦闘に勝利したのだ。
 アドレナリンが身体中を駆け巡る。声を上げて叫びたい衝動に駆られたが、仲間の事を思い出してエルマーの姿を探した。
 シェルが騎体を巡らせてエルマー機を見つけたのと、エルマー機が敵機の胴に剣を突き立てたのは同時だった。オイルや冷却液、パイプなどが突き抜けた剣から滴っている。

「エルマー!」
10 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/03(金) 10:20:48.94 ID:ui263o5To

 完全に動きが止まった敵機から剣を抜いたエルマーに接触回線を開いて呼びかける。

『やったよ!俺、やったぜ!!』

 エルマーの歓喜の声が響いてくる。

『シェルも勝ったんだな!? やったぜ!』

 お互いひとしきり喜んでから我に返って目標の探索を再開した。部屋の奥にライノクラフト用の扉があるのを発見し、それを開いた所に目標が立っていた。

『大丈夫ですか?』

 拡声器を通してシェルが問い掛けると、目標の女性、少女と言っても良い年齢の女性は手を振って大丈夫だと合図を送る。

『この手に乗ってください。出口まで運びます』

 騎体をしゃがませて、少女の近くに手を伸ばしそう伝えると、シェルの言う通りに少女がライノクラフトの手に乗る。エルマー機にしなかったのは、さっきの戦闘でエルマー機の手がオイルなどで汚れていたからだ。

「じゃあエルマー、護衛よろしく」

『任せとけ! 敵なんて俺様がぶった切ってやる!』

 シェルの騎体がゆっくりと立ち上がり、背後を見た瞬間、

「エルマー!危ないっ!!」

 エルマー機に衝撃が走る。剣で脇を斬られたのだ。装甲が飛び散り、体勢が崩れる。そこへもう一撃。エルマー機が大音響と共に地面に倒れる。

「くっ!」

 一瞬戦う事を考えたシェルだが、手に乗っている少女を思い出してその考えを否定する。

(どうする…)

 必死で打開策を考える。逃げるしかないのだが、出口は敵の背後にあり、突破するには戦うしか術がない。背後は少女が居た空間があるが、その先がどうなっているか調査をしていなかった。
 目標を発見した事に浮かれて調査を忘れた迂闊さを後悔する。敵は2機。6脚の白い重量タイプと、朱い2本腕4脚の中量タイプが目の前にいた。それぞれ細かいディテールと塗装が施されており、明らかにプロのライダーの騎体だとわかる。
 じりじりと距離を詰めてくる中量タイプを睨むようにしながらシェルは足元に転がるエルマー機との接触回線を開いた。

「エルマー、エルマー!」

『う……』

 攻撃を受け、転倒した衝撃か、エルマーのうめき声が聞こえてくる。

「エルマー! しっかりしろ!」

『シェル……やられたよ』

「大丈夫? いや、今はそれよりも、奥の空間をスキャンしてよ!エルマーの位置だと正面だろ!?」

 一瞬の間の後、

『さっきの右側の通路と繋がってるみたいだぜ。俺はいいから行けよ。目標を外に運び出すのが優先だろ』

「立てそう?」

 エルマーの騎体をざっと見る。明らかに立てる状態ではない。腰の部分をひどく損傷していた。わずか一撃でここまで損傷を与えるとはさすがは一線で活躍するライダーだと言えるだろう。

『見てわかるだろ、無理だよ』

 頭の中で任務達成の為に友達を捨てる意見と友達を見捨てるわけにはいけないという感情がせめぎ合う。

「ダメだよ。一緒に脱出しよう!」

 数秒の逡巡の後、シェルは決断を下す。拡声器を通して少女に、

『今から戦闘を行います。危険ですのでそこで倒れているライノクラフトの陰に避難しておいてください』

 と伝え、少女を下ろす。同時にエルマーにライノクラフトから降りて少女の護衛を頼む。その間、敵はそのやり取りをじっと待っていた。

(もしかして呆れられてるのかな……)

 成績の心配が頭をもたげてくる。ただの模擬戦闘なのだからここまですることは無いだろうし、シェル一人で脱出しても評価は大して下がらない筈だ。それよりも目標を下に下ろし、その傍で危険な戦闘行為をするなど、大幅減点にもなりかねない。

(でも、これが僕のやり方なんだ!)

 父の姿が脳裏に浮かぶ。昔から父はそういう人間だった。自分の危険を顧みずに仲間を助ける。それが彼のカリスマでもあったし、実力でもあった。最後も仲間や家族を助ける為に勝ち目の無い敵に向かっていった。シェルはそんな父を尊敬している。

『お待たせしました。少し離れたところで決着をつけましょう』
11 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/03(金) 10:21:14.63 ID:ui263o5To

 拡声器を使って敵に呼びかける。相手も理解したのか、隣の空間を指差し、そこで決着を付ける事を指示した。

(勝てるのか?)

 そんな疑問でいっぱいになる。仮にも相手は百戦錬磨のライダーだ。素人同然のシェルの腕前で勝てるとは到底思えない。

(でも、やるしかない)

 剣を抜いて構える。敵は朱い4脚タイプが剣を抜いて前に出た。白い重量タイプは手にしていた槍状の武器を仕舞う。
 ライノクラフト同士の戦闘は基本的に1対1が原則となっている。これは不文律としてライダー達に浸透しており、1対多の戦闘は大規模な戦争でも起こる事が少ないと言われている程である。

「いくぞぉぉぉっ!」

 一気にトップスピードに乗ってまずは敵めがけて一撃。が、いとも容易く盾に弾かれる。続けざまに2撃、3撃と放つが、ことごとく盾に阻まれてしまう。相手が中量級ということもあって盾の装甲がシェルの乗る軽量級に比べて格段に厚い。打撃で装甲を確実に削っているのだが、さほどのダメージを与えたという感じもない。
 反撃が来た。重い一撃がシェルが乗るライノクラフトの盾を破壊する。威力のある一撃は盾の装甲の半分以上を削り取ってしまった。
 シェルは盾を捨てる。あと1撃も保たない盾を持つより、それよりも重量を少しでも落として回避の為の速度を上げるほうが生存率が高いと判断したのだ。
 剣と剣が振り下ろされ、盾の装甲が飛び散り、騎体の装甲が削れる。シェルは回避に専念しながら敵のウィークポイントを探ろうとしていた。そして、その結果、一つの光明を見出した。
 2機のライノクラフトが対峙し、動かない。互いに打ち込むタイミングを見計らっているのだ。
 モニターの片隅で警告が光る。エネルギー残量がわずかになってきたのだ。各モーターの疲労も激しい。マックススピードで走り回っているのだ。練習機ごときのモーターではシェルの要求する運動性能を発揮できない。彼の操縦センスは同期の訓練生の中でも上位にあり、小さい頃から父の操縦を見、母からライノクラフトの講習まがいのものを受けていた結果が開花していたのだ。

「次で!」

 シェルが動いた。モーターが悲鳴を上げるのも構わず剣を構えて突進する。敵は回避行動を取らずに盾で防ごうと構える。

「やっぱり!」

 走るライノクラフトの左足に全重量を掛け、バネの様に横に飛ぶ。左フレームにヒビが入ったという表示がモニターに表示される。

「いけぇぇぇっ!」

 騎体が敵の眼前で直角に曲がる。そして、右足でもステップ。弾丸のような速さで盾を持たない敵の右側に入り込み、脇腹部分に剣を突きたてる。
 ギィィン!
 金属のこすれる嫌な音と共に確かな手応え。シェルの放った1撃は敵の脇を貫通していた。同時にそこには重要な動力ポンプがある場所だ。行動不能とはいかないまでも、かなりのダメージを与えることができる。

『あー、もうっ! 降参よ、降参!!』

 敵の拡声器から女性の声が響く。同時に敵機が剣と盾を手放して武装解除する。

「勝っ……た……?」

 現状を把握できていないシェル。見ると、白いほうの騎体は剣を抜くどころかライノクラフトに拍手の真似事までさせていた。

『合格だ。仲間を見捨てずに戦うその心意気、気に入ったぜ』

 白い騎体からは若い男性の声が響く。

『シェル、いいライダーになったね』

 朱の騎体からの声にシェルは首を傾げた。自分の名前は試験受験者予定表の中に記入されており、相手に事前に伝わっているのだが、この言い方だとシェルの事を知っている人間のようだが……

『ほらほら、早く脱出しろ!次が待ってるんだからな』

 男性の声に圧されてシェルは慌てて目標の少女を右手に、エルマーの騎体を左手に引きずって脱出を果たした。脱出と同時にエネルギーが尽きたのは幸いと言えた。

『シェル!やったじゃないか!すごいぜ!』


 エルマーの興奮しきった声が伝わってくる。ここに来てやっとシェルにも実感が湧いてくる。
「そっか。勝ったんだ。勝ったんだ!!」

 コックピットの中で大きくガッツポーズをして喜びを表現する。

『よーし。交代だ。整備の為に1時間程休憩する。候補生はムーバ内にて食事と休憩を摂れ。試験の終わったシェルとエルマーは教官室に来い』

 無線が回復し、教官の声が響く。シェルは「了解しました」と返事をしてから目標の少女を地面に下ろした。自分もコックピットから出て少女に手を振る。

「ありがとう!シェル、おっきくなったね!」

 少女は長い髪の毛を掻き揚げながらそう叫ぶと、洞穴の方に走っていった。

「?」

『おいシェル、知り合いなのか?』

「わかんない……よく顔とか見てなかったし」

『さっき戦ったライノクラフトも知り合いだったみたいだな』

「うん、そうみたいんだけど……」
12 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/03(金) 10:23:40.95 ID:ui263o5To

「まぁまぁだな」

 開口一番の教官からの言葉はこれだけだった。

「シェル、なぜあそこでエルマーを見捨てて目標の救出をしなかった?」

「仲間を見捨てるわけにはいきません」

 シェルが毅然と言い返すと、教官は「ふむ」とうなずいてから、

「エルマー、戦闘が荒い。シェルにも言えるが、もっと考えて行動しろ」

「はい」

 しばらくお説教を受けて、解放された時には次の組が洞穴に入っていた。

「そういえばシェル」

「ん?」

 食堂で遅めの昼食を食べていると、エルマーがシェルに問い掛けてきた。

「朱いライノクラフトの時、何か勝算あったのか?」

「うーん、勝算っていうか、あのライノクラフト、ほとんど動かなかったんだよ」

「動かなかった?」

 フォークに肉を刺したままシェルは説明をする。

「あの騎体、戦闘が始まってからもほとんど動いてないんだよ。色々ゆさぶってみたんだけど、旋回はするんだけど、自分から動くって言うのがほとんどなかったんだ。だから、何らかの理由で動けないのかな、って思ってさ」

「それであんな攻撃の仕方したのか」

「うん」

 シェルの無茶とも言える行動に半ば呆れているエルマーの背後に人影が現れた。

「ほんっと、やられたわ」

 少女(とは言ってもシェルより年上だが)がシェルの前、エルマーの背後に立った。少女はライダーの様で、朱を基調にしたライダースーツに身を包んでいた。その少女の横にはもう一人少女が笑顔を浮かべて立っていた。

「あれ?さっきの目標だった……」

 エルマーが驚いた表情で聞くと、少女はこくり、とうなずいて「お疲れ様」と言ってからシェルを見て、

「大きくなったわね、本当に」

「え?」

 理解するまでに、思い出すまでに一瞬の間が必要だった。そして、そのきっかけとなったのは、この二人の容姿だ。

 瓜二つなのだ。顔の造詣が。ただ違うのが髪型で、片方はショートカットで、片方は腰にまで届こうかというロング。その色は朱に近い赤で、二人ともシェルを懐かしむように見ていた。

「あ……」

 シェルの脳裏に閃くものが走る。ナイティム『ブルー・エッジ』での記憶。父親の最後の時、シェルを避難させようと呼びに来た双子の姿を。

「沙夜香姉ちゃんに、魔夜香姉ちゃん?」

 思い出した。当時ライダー候補生だった双子だ。シェルが9歳の時にナイティムに入団し、ライダー資格を取るまではライダー候補生として働いていた、あの双子だ。動の魔夜香と静の沙夜香。その実力は当時の時点で折り紙つきで、非公式に操縦したライノクラフトの模擬戦では2機で3機のライノクラフトを倒していた。

「元気だった?」

 沙夜香が優しい声でシェルの頭をなでる。こくこくとうなずくシェル。

「立派なライダー候補になっちゃって」

 魔夜香がシェルのおでこをピン、と弾く。

「おいおい、知り合いなのか?」

 我慢しきれなくなったエルマーがシェルに尋ねる。問われたシェルは双子をエルマーに紹介する。

「シェルがお世話になってます。エルマー君ね? 君の操縦、見せてもらったわ。ちょっと暴走気味の所があるけど、成長が楽しみだわ」

 指摘に顔を真っ赤にしながらエルマーも挨拶する。

『エルマー候補生、至急教官室まで』
13 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/03(金) 10:25:30.65 ID:ui263o5To

 食堂に放送が響く。呼ばれたエルマーは舌打ちをしながら、「きっと壊したライノクラフトの修理費をみせつけるんだぜ」と言いながら双子に挨拶をしてから食堂を去っていった。

「さて」

 改めて双子がシェルを見る。

「やっと遭えた!元気だった?」

 シェルの頭を抱き寄せ、沙夜香が頭を撫でる。

「あ、沙夜香、ずるい!」

 魔夜香もシェルを沙夜香からひっぺがして抱き寄せる。

(思い出した……そうだったんだ)

 昔からシェルは双子の弟みたいなもので、こうやって可愛がられたのだ。懐かしい感覚が沸き起こる。

「そ、それはいいとして、お姉ちゃん達がいるっていうことは、バド兄ちゃんも?」

 バドという名前が出た瞬間、双子の動きが止まる。魔夜香の方は露骨に嫌な顔をしている。


「あー、うん。いるわよ」

「本当っ!?」

「すぐに会えるわ。あいつは2組目の試験にも出てたけど、もう終わったはずだし……きゃーっ!」

 沙夜香が突然飛びあがる。見ると沙夜香の腰に手が回っていた。そして、双子の背後に男性が現れる。

「んー、スィートディアー達、私の噂をしていたね。今日の相手はどっちかな? 私としては同時っていうのもアリだけどね」

 男性はとびきりの美青年だった。すらっとした身体つきで高い背丈、無駄な贅肉が一つとしてない、鍛え上げられた肉体や神様が直接造詣したのではないかという程の美貌を持つ青年。そんな夢のような男性がそこにいた。

「バぁドぉ!」

 うなりを上げて飛ぶ魔夜香の拳をバドと呼ばれた美男子はすらり、とかわしてその手を取る。

「なにをそんなにイラついているんだい、そうか! 私に構って貰えないから僻んでるんだな?」

 とびきりの笑顔を浮かべて魔夜香の手の甲にキスをする。普通の女性ならこの時点でノック・ダウンされてしまうのは確実だった。が、

「気持ちわるいっ!」

 見事な真空飛び膝蹴りが美青年の顔面にヒット。男は笑顔のまま昏倒する。

「か、変わらないね、バド兄ちゃん」

 ひきつりながら倒れる男性を眺める。バドルーン、通称バド。その類稀な美貌から街を数歩歩けば女性は振り返り、少しハスキーっぽいその声を聞けば女性は虜になるという完全無欠の美青年がこの男性だった。女性には優しく、男性には辛辣。その性格は魔夜香が一言で表現していた。『無類の女好き』と。そう、バドルーンはその通り、女好きなのだった。5分散歩している間に10件のデートを約束し、10分あるけば街の女性の大半をナンパしてしまいそうな男、それがバドルーンである。『広域指定危険下半身』の異名も持つ。本人は「俺の使命は全ての女性を幸せにすること。そのために俺は生まれてきた!」と公言している。

「バド兄ちゃん?」

 魔夜香の一撃で気絶しているバドルーンを揺り起こすが、反応がない。溜息を吐いた沙夜香が、

「バドルーンさん、お話があるんですけど?」

「なんだい、ハニー。私とエキセントリックな夜をフィーバーする用意が出来たのかい?」

 身体折り曲げずに起き上がる。バネ仕掛けみたいな人間だ。

「バド兄ちゃん!」

 シェルが長身のバドを見上げながら叫ぶ。シェルの身長は140センチ、対するバドルーンの身長は185センチ。シェルはバドルーンを見上げるような格好で声をかけた。

「ん? おぉ! シェルじゃないか! 元気だったか、こいつ!」

 久しぶりの再会に女好きのバドルーンもシェルに視線を向ける。頭をぽんぽんと叩きながら、

「大きくなったな。そうか、さっきのライノクラフトはお前だったんだな」

「バド兄ちゃんも乗ってたんだよね?」

「おう。シェルの相棒を叩き斬らせてもらったよ。お前と戦ったのはマイハニーだけどな」

 言うが早いか、双子の背後に瞬間移動し、腰を抱く。
14 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/03(金) 10:26:45.88 ID:ui263o5To

「この、スカターン!!」

 魔夜香の見事なアッパーカットでバドルーンを再び宙に舞う。

「お姉ちゃん達が?」

 倒れるバドルーンを尻目にシェルが双子を見上げる。双子の身長は154センチ。数年もすれば追い越すことができるだろう。

「ええ、そうよ。って言っても乗ってたのは魔夜香だけだけどね」

「え?」

 シェルの脳裏に一つの映像がプレイ・バックされた。目印となっていた少女、どこかで見たことがあると思ったら……

「目標って沙夜香姉ちゃんだったんだ」

「そ。沙夜香がいなかったから下半身の操縦がロクにできなくてさ。負けちゃったのよ」

 この答えにシェルは首を傾げた。通常、ライノクラフトは一人乗りで、全ての操作を単独で行うはずだが。

「私達の騎体は覚えてるわよね?さっき戦った朱い騎体」

「うん。4脚のでしょ?」

「そ。あの騎体は私と沙夜香が二人で操縦するヤツなの。私が上半身で、沙夜香が下半身」

「メリットあるの?」

 考えても思いつかないので尋ねてみる。常識的に考えれば2人で1機のライノクラフトに乗るより、2人で2機の騎体に乗った方が効率がいいはずなのだが。

「そうね、いくつか挙げる事ができるけど、一番大きな部分では反応性のアップとより細かな動きができるって事かな」

「?」

 イマイチ理解できない。

「つまり、それぞれが集中して操作するっていうことは、通常の斬るや避けるっていう行動をより細かく出来るって事」

「それはわかるけど、タイミングとかズレない?」

 素朴な疑問だ。2人が1機を操縦するのだから、タイミングが合っていなければ上下半身の動きがちぐはぐになり、デメリットの方が大きいとしか考えられない。

「シェル、私達を何だと思ってるの?」

「……あっ!」

 答えが閃いた。双子の顔を交互に見る。

「『特殊一卵性双生児』!」

「正解」

 魔夜香が褒めるようにシェルの頭を撫でる。

「前に話したと思うけど、私達は知覚を共有することが出来るの。その点を利用して、2人で1機のライノクラフトを操縦しようっていうアイディアが教官から出てきたの」

「教官から?」

「ええ。私達が養成学校にいる頃、教官の一人が私達の特性に興味を持って色々調べてくれたの。その結果、実験的だけどやってみよう、って事になったのよ」

「んで、教官や他の色んな人達に協力してもらって完成したのが私達のライノクラフト『香倶羅』よ」

「『香倶羅』……」

 朱い騎体を思い出す。言われてみれば動きが極端に鈍かった。あれは下半身担当である沙夜香が不在だったからなのだ。

「あの騎体の一番の特徴は『剣技』が使える事ね」

「え? 本当に!?」

 剣技とは、ライノクラフトが使用できる『技』で、モーターに強い負荷がかかるものの、限界を超えた一撃で相手を屠る、という必殺の一撃である。ただ、この技を使いこなすには、ライダーとしての経験がかなり必要で、そのタイミングなどを取るのが異常に困難なのだ。

「さっき言ったでしょ?細かいタイミングを取ることができるって」

「あ、そっか。だから2人で1機なのか」

「そ。機会があったら見せることもできるかもしれないわね」

「うん。楽しみにしてるよ!」
15 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/03(金) 10:29:14.03 ID:ui263o5To


『最終組は準備しろ!』

 館内放送が響く。

「あ、私達も行かなきゃ! じゃあね、シェル。またね」

「うん! がんばってね!」

「シェルもがんばるのよ!っていってもあとは結果を待つだけね。結果発表を楽しみにしてるわ」

 そう言い残して双子は去って行った。シェルも割り当てられた部屋に戻ろうと一歩進もうとしたが、

「バド兄ちゃん……」

 ゴミのように倒れたままのバドルーンが男性清掃員の箒で端の方に寄せられていた。


 試験も全て終了し、シェル達訓練生を含める一行はバラン・バランへと戻る旅路についていた。

 各自、順番にシャワーを使い、食事を摂ってから軽くミーティングがあり、その中で今日の最終試験の結果が伝えられた。ここでライダーになれるかの最終的な判断が下されるのだ。シェル達訓練生はこの為に今まで努力してきたのだ。双子やバドルーン達が見守る中、訓練生6人は固唾を飲んで教官を見る。

「今までご苦労だった。貴様達の結果はもう出ている。ここに来る前に行ったペーパー試験の結果に今日の実戦の結果を合わせた、全ての結果だ」

 そう言いながら頭の禿げ上がった(本人は剃っていると主張している)教官は机の上に置いていたデータディスクを手に取る。

「泣いても笑っても結果は事実だ。ここで不合格になっても再試験がある」

 再試験、要は敗者復活戦。ここで合格しても確かにライダーにはなれるのだが、やはりストレートに合格する方が気分的にも、実際に軍やナイティムに入る時にも評価は高い。それは即ち、自らの昇進にも繋がる。
 先輩ライダー達が教官に代わって壇上に立つ。双子の沙夜香に魔夜香、そしてバドルーン。一様に真面目な表情で訓練生を見渡している。

「あー、君達の戦闘ははっきり言ってまだまだとしか言えない。俺様と比べると天と地ほどの差があると言える。というより、ちょっとマズいような気もする」


 バドルーンが言いづらそうに口を開いた。肩を落とす訓練生。それぞれが精一杯戦ったのだからそう言われたらさすがに落胆してしまう。

「馬鹿っ! 何言ってるのよ! もういいから私が話すわ」

 ショートヘアの魔夜香がバドルーンを殴り飛ばすようにして訓練生の前に立つ。横にはロングヘアの沙夜香も立ってちらりとシェルを見て小さく手を振る。

「ごめんごめん。この馬鹿の言った事は忘れて。貴方達の訓練度は結構高いと思うわ。これは自信を持っていいわよ。私達の年代の試験より遥かに成績はよかったわ」

 苦笑しながらそう告げる。訓練生も少し安堵したように表情に笑顔を浮かべる者や失笑する者が出る。

「ただし、実戦はもっと過酷なのも事実よ。もっと精進しなさい。これから合格者が発表されるけど、不合格だった人もメゲずに再チャレンジしてちょうだい」

 言われて一同の表情が引き締まる。いよいよ発表なのだ。教官が再び壇上に上がり、データディスクをリーダーにかける。
16 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/03(金) 10:29:41.16 ID:ui263o5To


「では、発表する。合格者の名前を読み上げるので呼ばれた者は返事をしてから別室で待機しろ」

 一瞬の間。しかしそれはシェル達にとっては果てしなく長い時間に思える。

「エルマー=ブラフォード」

「……」

 一番最初に呼ばれたのはシェルの隣に立つ親友、エルマーだった。が、当の本人はまだ理解できていないらしく、口を開けたまま立っているだけだった。

「エルマー、エルマーってば」

 シェルが肘で彼の脇腹を小突くと、

「ははは、はいっ! はいっ!!」

 やっと正気に返った。同時に飛び上がって「やっほーーーっ!!」と飛び上がり、教官の手を取っていきなり踊り始める。

「やったぜ! 合格だ! 合格したんだ!」

 その喜びようはものすごく、今にも教官の禿げ頭にキスをしそうな程だったのだが……

「いい加減にしろっ!」

 教官の雷が落ちた。雷だけではなく手も落ちたのだが。

「っ痛ぁぁぁ……」

「さっさと行かんか!」

 追い立てられるように別室に向かうエルマー。部屋を出る直前、彼は振り向いて、

「みんな、向こうの部屋で待ってるからな! きっと来いよ!」

 2年間、共に寝食を、辛い訓練をしてきた友達にそう言い残してエルマーは部屋を出た。

「ったく……では、次だ。ジョナサン=フィーリー」

「はいっ!」

 肌の黒いジョナサンが嬉しさを身体の内で爆発させながら部屋を出る。扉が閉まった瞬間、「ぃやっほーーっ!!」というくぐもった叫び声が聞こえる。溜息を吐く教官。「ったく、精神面での成長が見られん」

「次、ファリア=カーター」

「は、はいっ!」

 多数いた訓練生の中、ふるい落とされ続けて消えていった女性候補の唯一の生き残りであるファリアが驚いたように裏声になって返事をする。

「えっと……」

 エルマーと同じく、もう一つ現状を理解できていない。

「何をしている。合格だ。行け」

「は、はいっ」

 明らかに浮き足立っている。足が地面についていない状態だ。

「次が最後だ」

 残った3人が互いの顔を見合わせる。互いに辛い訓練を乗り越えてきた仲間であり、良きライバルでもあった。それぞれ不安そうに視線を交わしている。

「シェル=ブルーエッジ」

 この瞬間、シェルはエルマーやファリアの気持ちがわかった。頭では理解してるのだが、現実味が足りないのだ。合格した、という現実に心がついてこない。

「シェル! 返事は!?」

「はいっ!」

 やっと返事が出来た。が、身体が動かない。まるで金縛りにあっている様に身体が全く動かないのだ。

「お前はここに残っていていい。二人は俺についてこい」

 肩を落としている不合格者2人はシェルに「おめでとう」「がんばれよ」と声を掛けて部屋を出た。

「え……?」
17 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/03(金) 10:32:17.02 ID:ui263o5To

 部屋に残されたのはシェルに双子、そしてバドルーンの4人だった。

「シェル! 合格おめでとう!」

 沙夜香が真っ先にシェルを抱きしめる。続いて魔夜香もシェルを抱きしめてなんども「偉い!」とシェルの頭を撫でながら褒める。

 ここにきてやっと実感のようなものがシェルの奥底からわきあがってくる。

「僕……ライダーになれたんだ?」

 うんうん、と双子が応える。

「まだ修行は必要だけどな」

 バドルーンが笑顔で釘をさしながら、シェルの柔らかい髪の毛をくしゃくしゃっと撫でて、

「まぁ、合格おめでとうだ」

 瞬間的に父親の姿が脳裏にフラッシュバックする。訓練学校に入って学んだ事だが、シェルの父親、ガジェル=ブルーエッジというライダーは教科書に載る程すごいライダーだったということだった。いくつもの戦争に傭兵としてナイティムを率いて参加し、ことごとく大手柄を立てたというのだった。だが、彼の有名たる所以というのが戦争回避のための動きというものだった。無駄な戦争はするべきではないと提唱し、極力戦闘が行われないように動く『戦争を回避する最前線』という異名までもつけられていたのだった。

「僕、おとうちゃんに一歩近づけたんだよね?」

 不安げな瞳が双子を交互に見る。沙夜香がシェルを優しく抱きしめながら「そうよ、シェルはお父様にまた一歩近づいたのよ」と答えると、うん、うん、とシェルはうなずきながらいつの間にか涙を流していた。正式にライダーになったとはいえ、シェルはまだ14歳の少年なのだ。

「それでね、シェル。貴方にここに残って貰ったには理由があるの」

 ひとしきりうれし涙を流したあと、落ち着きを取り戻したシェルの涙をハンカチで拭いてやりながら魔夜香が口を開いた。

「うん」

 泣き止んだシェルが顔を上げる。ちなみに沙夜香はずっとシェルを背後から守るように抱きしめている。

「沙夜香、そろそろ離れなさいよ。話づらいからさぁ」

「えー、いいじゃない。久しぶりなんだし」

 ぎゅっとシェルを抱きしめる沙夜香。それに黙っている魔夜香ではない。

「あのねぇ、私だってシェルに会うの久しぶりなんだから可愛がってあげたいけど、今はそういう話じゃないでしょ」

 むー、と沙夜香は不満をもちつつもシェルから離れる。と、その瞬間悲鳴が上がった。

「はっはっは、全く沙夜香はシャイだなぁ。抱きしめたいということは抱きしめてほしいということだろう? その役割は……その役割は!! もちろんこのバドルーン様に決まっている!!」

 バドルーンが沙夜香を背後から抱きしめていた。さっきまで椅子に座っていたはずなのに女性が絡むと人とは思えない常軌を逸した能力を発揮する男だ。

「この……馬鹿男―っ!!」

 鳥肌を立てながら魔夜香がバドルーンを殴り飛ばす。感覚の共有で魔夜香にも沙夜香が感じた感触、バドルーンに抱きつかれた感触を味わったのだ。

「ふっふっふ。何だいマイ・ハニー魔夜香。お前も俺様に抱きしめてほしかったんだね? 焼きもちなんて可愛いところあるじゃないか。さぁ、この胸に飛び込んでおいで!」

 魔夜香が飛び込む代わりに机がバドルーンの胸に飛び込んできた。顔面に炸裂する事務テーブル。投げたのはもちろん魔夜香以外にありえない。振り返ると、魔夜香が机を投げたままのポーズで肩で息をしていた。

「ったく、この根底馬鹿! とりあえず死んどけ!」

 ようやくバドルーンが撃沈した所で魔夜香が話を元に戻した。

「で、シェルにここに残ってもらったのは理由があるの」

「理由?」

 沙夜香に渡されたジュースのパックを受け取りながら問い返す。

「今、貴方のお友達が何をしているか知ってる?」

 その問いに首を横に振って答える。教官からライダーとしての心得でも言われてるのだろうと思っていたのだが。

「今、各国の軍部のスカウトが来ててね、今はその人達の為の時間なのよ」

 それが意味するところは言うまでもなく逆リクルート活動と言えるのだろうか。ライダーという職業は引く手数多というのは事実だ。優秀なライダーを抱えることができるということは、つまるところ戦争での優勢を獲ることが出来るということに他ならない。

 中立の街、バラン・バランを囲むようにして覇権を争う6カ国は競って優秀なライダーを獲得しようと、毎年この季節に行われるライダー試験の際にはその各国のスカウトがライダーとして合格したばかりの若者を獲得するために試験に同行しているのだ。

「っていうことは僕はスカウトされる程の成績じゃなかったってことなの?」

 残された理由として思いつくのはそれしかない。確かに試験ははっきり言って失格と言われてもおかしくなかった。途中で目標である沙夜香を降ろし、戦闘行為を行ってしまった事はライダーとしての素養を疑われても仕方の無い事であった。
18 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/03(金) 10:32:43.58 ID:ui263o5To

「ちがうのよ、シェル」

 肩をがっくりと落とすシェルの肩に魔夜香が手を置く。沙夜香もシェルの頭に優しく手を置いて「早まらないで」と答える。バドルーンは依然として机と熱い抱擁を続けていた。

「貴方の成績は上位だったわよ」

「え?」

「戦闘時の判断力、行動力、仲間を見捨てない優しさ、確かに沙夜香を降ろしてしまったことは減点対象だけど、十分に距離を取った事とエルマー君を護衛にちゃんと付けた所で減点はそんなに大きくなかったわ」

「じゃあ、なんで僕はここに?」

 その問いに魔夜香は笑顔でうなずき、まだ寝ているバドルーンに手近にあった水をかけてたたき起こす。

「ん? 魔夜香! こんな時間に俺の寝所に……」

「いいから話続けなきゃだめでしょ」

 起きた瞬間から盛り上がるバドルーンに氷の如き冷たい対応を見せる。そしてシェルの方に笑顔で振り向いて、

「じゃあ、続けるわね」

「あー、その話までいってるのか。了解了解」

 納得したらしいバドルーンが服装を正す。見れば双子も服装を正していた。ちなみに3人の着ている服はライダースーツの上に揃いのジャンパーを着ていた。ジャンパーの背中部分には竹をあしらったエンブレムと『RestPlace』という刺繍が施されていた。

「シェル、俺達が所属してるナイティムに来ないか?」

 バドルーンが3人を代表して口を開いた。

「ナイティムに?」

「そうよ。何かしたい事を決めてるんだったら無理強いはできないけど……」

 そう言われてシェルは何も考えていない事に気づいた。父親に一歩でも近づく為にライダーになったのだが、それからどうすればいいか、全く考えていなかったのだ。父親に近づく為にはこれからどうしたらいいのか、シェルの頭の中では真っ白の状態であった。

「軍に所属するのも確かに勉強になると思うけど、お父様と同じようにナイティムとして生きるのも一つの方法だと思うよ?」

 この沙夜香の言葉でシェルの気持ちが決まった。父親と同じ道を生きるという事を。

「……うん。じゃあお願いしてもいいかな?」

「よしっ、話が早い! 俺は早速マスターに連絡してくる!」

 バドルーンが部屋を出て連絡をとりに行く。双子は嬉しそうに手を合わせて喜んでいた。

「よかったぁ。ドキドキしてたよ。もし断られたらどうしようかと思ってた」

 同時に二人ともシェルに抱きつく。というよりシェルを抱きしめる。

「また一緒に冒険できるね!」

 双子も、バドルーンもナイティム【ブルー・エッジ】に居たのだ。当時は双子とバドルーンは候補生、シェルはまだそこまでもいっていない状態であったのだが、今、4人はれっきとしたライダーとして正式な仲間となったのだ。

「それで、お姉ちゃん達が所属しているナイティムってどんな所なの?」

「マスターは厳しいけどいい人よ。ナイティムのレベルも中の上くらいだけど、スタッフのみんなもいい人ばかりで居心地がいい場所ね」

 そう答える魔夜香の横で沙夜香もうなずいている。二人のその笑顔にはどこか『含む』ところがあるらしく、ニヤついていると言っても語弊がなさそうでもあった。

「連絡ついたぞ。ってお前達、シェルにべたべたするんだったら俺がしてやるっ!!」

 部屋に戻ってきたバドルーンが飛びかかろうとするが、再び魔夜香の放った椅子によって撃沈された。

「ほんっとに懲りない奴ね」

「あはは……」

 苦笑するしかなかった。

 バドルーンの話だとバラン・バランの街でナイティム【レストプレース】はシェル達を待っているということであった。

 それから4人でナイティムの事や昔の話に華を咲かせ、深夜まで小さなお祝いは続いていた。
19 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/03(金) 10:33:14.07 ID:ui263o5To

 ズズーン!

 転寝していたシェルをたたき起こしたのは爆音と強い振動であった。

「何っ!?」

 半分寝ぼけた状態で飛び起きたシェルを双子が抱きしめる。見るとバドルーンはすでに立ち上がって窓から外を見ていた。

「……あいつらは!」

 悔しそうに叫ぶバドルーン。壁に拳を叩きつけている。

「どうしたの!?」

 魔夜香が振動や倒れてくる棚などからシェルを守りながら窓際に近寄り、外を見る。シェルは抱きしめられている状態で外が見えない。と、シェルの身体が強く抱きしめられる。

「痛いよ魔夜香お姉ちゃん」

「あ、ごめんごめん。シェル、見て」

 魔夜香が場所を譲った。外を見たシェルの脳裏に3年前の悪夢がよみがえる。そこに立っていたのは、忘れもしない、シェルの大事な家族を奪った漆黒の騎体。

「黒いライノクラフト!?」
20 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/03(金) 10:35:06.83 ID:ui263o5To

以上で第一話終了となります。
地の文がついているとどうやっても読みづらくなりますね……
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/03(金) 10:58:43.45 ID:4DNFw2ISO
いやに物腰が低い上に自虐的だと思ったらやっぱりお前かヘタレ

同時進行するならどちらもクオリティーを落とさない余裕があるってことだな?
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/03(金) 14:08:02.64 ID:IkVksp0IO
  バン    はよ
バン(∩`>д<) バン  はよ
  / ミつ/ ̄ ̄ ̄/   
 ̄ ̄\/___/
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2012/02/07(火) 19:13:35.41 ID:RqVfEiV10
へ〜むこうの更新サボってまでこんな新スレ
たてて遊んでたんだ?
れんれんと書くのは勝手だけど、どっちもクオリティが
おちるような事は許さんからな
つぎの投下も本当に期待してるぞ
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/11(土) 19:02:12.05 ID:P0Ux6l5lo
ヘタレンまだかよー
25 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/16(木) 00:48:03.16 ID:pHM6U5gio
お待たせいたしました。
色々と用事が重なってしまい、更新ができませんでした。

少しずつになりますが、投下再開いたします。

寒い夜、布団の中で、あるいは毛布にくるまりながらお楽しみいただければと思います。
26 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/16(木) 00:49:27.58 ID:pHM6U5gio

エピソード2 〜ナイティム〜


「あれは、あの時の!」

 シェルの脳裏にフラッシュバックするのは、つい昨日の事のように思い出されるあの情景。3年前の、父親を亡くしたあの情景が蘇る。

「奴ら、何の為に!」

「それよりも、攻撃を受けてるのは機関部じゃない!?」

 その指摘通り、通常時速200キロ超で移動するムーバの速度が見る見るうちに落ちていた。

『全員避難準備だ!敵襲を受けている!言っておくがこれは訓練ではない!訓練ではない!敵の正体は不明!全員避難準備をしろ!』

 教官の声がスピーカーから響いてくる。ブリッジに居るらしいが、混乱を極めているようで、背後では叫び声が交錯していた。

「シェル、行こう!」

 双子に連れられて部屋をでようとしたが、バドルーンが動いてないことに気づき、長身の彼を見上げる。

「いいタイミングじゃないか」

「え?」

「まさかバド、あんた……」

「バドルーンさん、駄目です!」

 気づいた双子が止めようとするが、バドルーンは聞く耳を持っていなかった。

「ハンガーに行く!お前達はシェルと一緒に退避しろ!」

 そう言い残してハンガー方面に廊下を駆けて行く。

「ったく馬鹿! 行くわよ!」

「でも魔夜香、シェルが……」

 バドルーンを追おうとした魔夜香を沙夜香が制止する。魔夜香一人ではロクな戦力にならないのは双子が一番よく知っているのだ。上半身を動かす魔夜香に下半身を動かす沙夜香。この二人が居ないとライノクラフト【香倶羅】は動かないと言っても過言ではない。

「僕も行く」

「シェル!」

「練習用のRCがあるよ。僕も戦う」

「な、何言ってるの!相手はマスターを破った奴なのよ!?」

「お姉ちゃん達でも勝てないんでしょ?」

「そ、そりゃ勝てる見込みは少ないけど……」

「バド兄ちゃんにしたって勝算があるわけじゃないんでしょ?」

「まぁ、ね。バドは確かにRCの操縦の天才と言ってもいいわ。でも、まだ経験が足りないわね。どう考えても相手は歴戦のライダーだわ。でないとマスターを倒すなんてできるわけがないもの」

 勝てる見込みがない。そうわかっていてもシェルは動かずにはいられなかった。父親を殺した敵。憎むべき敵。母親と交わした約束を破ってでもシェルは動いた。
27 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/16(木) 00:51:08.84 ID:pHM6U5gio

『System all Green. R.C.[plactice] Stand-by』

 練習機のコックピットでシェルは自分用のデータディスクを挿入し、急いで起動させる。隣では朱い騎体の香具羅が起動している。バドルーンの騎体『天帝』はすでに起動を終えて6脚、2本腕という重RCを地面に降ろしていた。敵の姿はハンガーにさえぎられて見えないが、それはシェル達にとっても好都合だった。

『シェル、一体何をしている!』

 仮想ウィンドウが開いて画面いっぱいに教官の顔が映し出される。ブリッジからの有線通信だ。ハンガー内でライノクラフトがムーバと繋がっているから出来た通信だ。すでに無線通信は妨害電波により遮断されている。有線通信の画面にも振動と同時にノイズが大量に混ざる。ムーバへの攻撃は止む様子もなく機関部が完全に破壊されるのはもはや時間の問題であった。

「行きます! 行かせてください!」

『馬鹿者! お前が行ったところでどうなるものではないだろう! 頭を冷やせ!』

「でもあいつらはおとうちゃんの仇なんです!」

『!? あいつらが例の謎の旅団か……』

 シェルは強引に通信を切る。同時にライノクラフトを起動。横では香倶羅も4脚の姿を見せていた。

『シェル、無理はしないようにね!』

 双子からの有線通信が入る。シェルは「大丈夫!」と答えながら練習機をハンガーから大地に降ろした。

 同時にムーバの動力部が破壊され、完全に沈黙する。バドルーンはすでに動き、逆面に回り込もうとしているところだった。シェルは急いで追いかけ、バドルーンの天帝に有線回線を開く。

「バド兄ちゃん!」

『シェルか。敵は2機だ』

「2機?あの時は4機いたはずだけど……」

『他に機影もない。どうやら2機だけで急襲するつもりだったらしいな』

『2機とはいえ、敵の強さは覚えてるでしょ!? 無理するべきじゃないわ』

 双子の通信が割り込んできた。香倶羅が追いついたのだ。

『しかしな魔夜香。そうも言ってられないみたいだぜ』

 バドルーンの言葉にシェルが前方を見ると、

「こっちに気づいた……」

『やるしかないみたいだな。あの時の屈辱、返させてもらおう!』

 天帝がずいっと1歩を踏み出す。脚部に装備してあるウェポンラックからハルバードを取り出す。

 ここまできてしまえばもう後戻りはできなかった。香倶羅も覚悟を決めたように剣を抜く。シェルも同じように剣を抜いた。

『シェルはムーバの護衛をお願い。さすがに敵と直接対峙させるわけにはいかないわ』

「でもっ!」

『シェル、言う事を聞け。お前は今日ライダー免許を取ったばかりだ。まだまだ実戦経験が少ない。お前の気持ちはわかるが、ムーバの護衛も大事な仕事だぞ』

『シェル、お願い』

 3人から説得されてシェルはやむなくムーバの護衛を受ける。とはいえ、この判断はシェルにとっても理解できた。シェルの騎体はあくまで練習機。シェルに合わせて作られたライノクラフトではないのだ。スペック的にもバドルーンや双子の乗るそれよりも圧倒的に低い。仮にシェルが不世出の天才ライダーだったとしてもこの騎体で勝つことは不可能に近いのはわかっていた。
28 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/16(木) 00:52:13.47 ID:pHM6U5gio

 シェルの眼前で戦いが始まる。白い天帝と朱い香倶羅が黒い敵と対峙し、剣が交わる。

 その戦いは最初は優勢に見えた。天帝も香倶羅も正体不明の黒い騎体とよく戦っていた。天帝はその重装甲を生かして攻撃を盾で防ぎきり、ハルバードを振り回す。香倶羅も4脚にしては圧倒的といえる速度で敵の攻撃を受け流しては攻撃を繰り出していた。

 しかし、その優位は永くは保たなかった。

「増援!?」

 シェルは信じられない光景を目にしていた。2機だったはずの敵影がいつのまにか3機に増えていたのだ。突如敵が現れたと言っても過言ではない。レーダーにも反応はなかった。

「……空!?」

 上空を見上げたシェルの目に信じられない光景が広がっていた。旧世代のテクノロジーのはずの航空機が飛んでいたのだ。

 今や伝説といっても良い程のテクノロジー。火薬というものがほぼ消滅してから人類は空を飛ぶという夢を放棄せざるをえなかった。推進力が足りないのだ。技術としては空を飛ぶ事をしっていても、その材料がわずかしかないのである。現在航空機を所有しているのは山岳地帯を国土に持つアルデルタ公国ともっとも広い国土を持つフェリオン共和国のみで、その航空機にしても博物館に陳列されるような代物であり、ここ数十年近く出撃したという話も聞いた事がなかった。

 その航空機―大型輸送機が上空を飛行している。そして目の前には突然現れた正体不明のライノクラフト。この事は容易に結びつく。

「想像がつかない程巨大な組織?」

 拡大と光量を増大して航空機を見てみるが、国に所属するような国旗や紋章はなく、その騎体にしても黒で覆われていた。

 敵の正体よりも今の問題は突如出現した3騎目のだった。

「あいつは……!」

 その騎体には見覚えがあった。2脚、2本腕、全身のペイントは他の騎体と同じく黒一色ながらも2脚とは思えないような重装甲と装備。それは紛れも無く……

「おとうちゃんを殺した奴!」

 気づいた時にはシェルは騎体を前に進めていた。仇敵とも言える黒騎士に。
29 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/16(木) 00:53:33.03 ID:pHM6U5gio

 結果はあっけないとしか言えなかった。というよりも、シェルには何が起こったのかも理解できなかった。それ程黒騎士の動きは尋常ではなかったのだ。

 気づいた時にはシェルの搭乗するライノクラフトの両腕は落とされ、戦闘不能に追いやられ、天帝と香倶羅もほんの数分で脚部のメインモーターを破壊され、各坐状態に陥っていた。

「くっ……」

 あまりの悔しさにコントロールパネルを叩きつける。力量差が圧倒的なのだ。

 そんなシェルの想いを無視するかのように黒騎士の騎体はムーバに接近していった。

『聞こえるか! 貴様達は既に我々の手に落ちた。投降を勧告する』

 騎体に装備された拡声器を通して中年代くらいの男の声が響いてきた。

『今日ライダーとして認められた者は聞け!』

 その要求は意外なものだった。

『我々は崇高な目的のために動いている。それは大陸全土の掌握だ! 今起こっている愚かな国家間の戦争は人民の疲弊しか招かない! 我々は近く全国家に宣戦布告をし、全てを平定する! その仲間を今日募るためにやってきた! 我々と共に歩もうという者は名乗り出ろ! 決して悪いようにはしない!』

 その言葉には圧倒的なカリスマ性が備わっていた。絶対的な意思、とでも言うのであろうか、言葉に魂が籠もっていると言えそうな演説であった。

 ムーバからの反応は無かった。いや、初めはなかったと言った方がいいだろう。

 5分という時間が経過した。空に暗雲が広がり、月の光が遮断される。次第に雨が降ってきた。雨脚は急激に激しくなり、ライノクラフトやムーバを濡らしていく。その頃になってムーバから一人の少年が濡れるのも構わずに外に出てきた。

「エルマー!?」

 モニターでその光景を見たシェルが思わず叫ぶ。彼には親友として全てを話していた。黒騎士の事やシェルの父親の事を。

「なんでだよっ! エルマー!」

 力の限り叫ぶが、黒騎士の攻撃を受けた時に外部スピーカーが破損したらしく、シェルの声は親友に届かない。

 エルマーが何かを叫んでいる。ムーバとの距離があるため、声がシェルのところまで届かないのだ。

『……わかった。我々は貴様を受け容れよう。来い!』

 差し出された騎体の左掌にエルマーが乗る。シェルはその光景を唇を噛み締めながら睨むように見ていた。

「エルマー、何でだよ……エルマーっ!!」
30 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/16(木) 00:55:11.27 ID:pHM6U5gio
すみません、短いです。(土下座)
書き溜めらしい書き溜めもないため、一度に投下できる量をどうしても増やす事ができておりません。
できるだけコンスタントに投下できるようにいたしますので、気長にお待ちくださいますよう、よろしくお願いいたします。(土下寝)
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/16(木) 01:02:04.49 ID:GqTOxPHSO
ふむ
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/16(木) 07:51:21.71 ID:J+qsKsdIO
コンスタントよろ!
33 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/17(金) 22:09:14.34 ID:vYfV+Tzpo
皆様こんばんは。
中一日空きましたが、本日も投下いたします。

今夜から明日にかけてかなり寒くなるとの予報ですので、どうぞ風邪など引かないようにお気をつけくださいませ。(土下座)
34 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/17(金) 22:10:52.23 ID:vYfV+Tzpo

 自立移動が不可能となったムーバは無線封鎖解除後、バラン・バランに向けて緊急通信を発信。3時間後にはバイクと車による先遣隊が到着する手はずになっていた。

「一体何なんだよ、あいつらは!」

 シャワーから出てきたバドルーンが自慢の長髪をバスタオルで拭きながら食堂に入ってきた。ジェネレーターは応急処置により移動は無理でも館内設備への送電が可能になり、電灯やエアコンを初めとした各種設備は稼動していた。陽も昇り、太陽からのエネルギーがソーラーパネルを通して電気に変換され、心地よい環境を提供している。

「シェルはまだ部屋から出てこないのか?」

 先にシャワーを済ませた沙夜香と魔夜香の二人を見てバドルーンも肩を落とす。二人とも心配そうな表情を浮かべていた。

「ちょっと行って来る」

 シェルの部屋はもともとエルマーと同室だった為、そのエルマーがいなくなった今、シェル一人が部屋に居る事になっていた。

「おい、シェル。ちょっと出て来いよ。飯でも食べようぜ」

 部屋の金属製の扉を叩きながら声を掛けるが、反応がない。もう一度扉を叩いてみるが、やはり反応がなかった。

「入るぞ」

 鍵の掛かっていない扉を開き、中に入る。

「真っ暗じゃないか。カーテンまで締め切って……開けるぞ」

 丸窓から昇ったばかりの太陽の光が燦々と入ってくる。部屋の中で鬱屈している気分まで洗い流してくれそうな清らかな光だった。

「つっても、今のお前には効かないか」

 2段ベッドの上段で膝を抱えてうずくまるようにしているシェルがそこに居た。

 父を殺した敵との再会、そして何もできないままに敗北。そして親友であったはずのエルマー。彼には黒騎士の事を話していたはずなのに、何故あんな行動を取ったのか……

「おい、シェル」

 肩を揺すられてやっと焦点のあってなかったシェルの瞳に薄暗いながらも光が宿る。ゆっくりとした動作で声の主、バドルーンを見て、

「あ、バド兄ちゃん。どうしたの?」

「シェル、飯食わないか?何も食べてないだろ?」

「あ、うん……ありがとう。でもいいよ。食欲ないんだ」

 覇気が全く感じられない。普段のシェルは元気一杯の年齢相応の少年なのだが、今のシェルは魂が抜けたようになっている。

「シェル、しっかりしろ!」

 肩を持って強引に揺さぶる。シェルは為すがままになっている。
35 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/17(金) 22:12:01.96 ID:vYfV+Tzpo

「お前の友達だって何か思うところがあったんだろう。もしかしたらお前の話を聞いてお前のためになる情報を得る為にあいつらと同行したかもしれないだろ!?」

「……うん、ありがとう。バド兄ちゃん」

「とりあえず降りて来い。話しづらくてかなわん」

 のろのろとした動作でシェルが降りてくる。その間に双子が部屋にやってきていた。手に持ったトレンチにはサンドイッチとオレンジジュースが載っていた。

「はい、シェル。食べないと身体が保たないわよ」

 沙夜香がシェルにジュースとサンドイッチを優しく手渡す。シェルはそれを受け取るが口に運ぶでもなくただ呆然と飲み物と食料を眺めているだけだった。

 ふぅ、と魔夜香が大きく溜息を吐いてから、シェルが持っているだけのオレンジジュースを奪うようにして取り、コップの3分の1くらいを一気に口に含み……

「んっ!?」

 シェルの口と自分のを合わせ、無理矢理飲ませた。

「……」

「……」

 あまりにも予想外の行動に沙夜香とバドルーンが唖然とする中、魔夜香はシェルにオレンジジュースを飲ませ、口を離した。

「いい、シェル。貴方が落胆してる気持ちは十分にわかるわ。でもそれは私達だって同じなのよ。いい加減にしゃきっとしなさい!」

 部屋に魔夜香の凛とした声が響く。シェルは口を拭ってから魔夜香を見上げる。

 その瞳には……

 光が宿っていた。

「うん、ごめんね、お姉ちゃん。みんなもあの日の事は忘れてないんだもんね」

 声にもすこしだけ張りが出てきていた。

「エルマーがなんであんな事をしたのか、僕にはまだわからないけど、いつかあいつとはまた会えるはずだから、その時に聴く事にするよ」

 そう言ってサンドイッチに口をつける。そこからはいつも通りのシェルになっていた。一気に食事を平らげて大きく伸びをする。

「うん、もう大丈夫」

 ガッツポーズをしながら振り向くシェルを沙夜香が優しく抱き留める。

「シェル、貴方には私達が居るんだから気を落とさないで。エルマー君の事は何もわからないけど、貴方は私達が護ってあげるから」

「ありがとう、沙夜香姉ちゃん」

「……それはそうと」

 バドルーンが口を開く。一同が彼に注目した。

「口移し、俺にもしろ! ほら!」

 どこから取り出したのか、オレンジジュースをずいっと魔夜香に差し出す。

「この……」

 魔夜香が拳を握る。シェルと沙夜香は肩をすくめる。バドルーンは自信満々だ。

「阿呆ぉぉぉっ!」

 見事なアッパーカットがバドルーンに決まり、宙をスローモーションで舞う。いつもの光景が戻ってきていた。シェルが不意にくすくすと笑い始める。それにつられて沙夜香が、魔夜香が笑顔を浮かべる。

「そうそう。シェルには笑顔が一番似合ってるわよ」

「うん、ありがとう!」
36 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/17(金) 22:13:44.88 ID:vYfV+Tzpo

 先発の救援が到着してから更に2時間後、ナイティム【レストプレース】のムーバが到着した。シェルが乗っている訓練用のムーバと比べて優に一回り近く大きいものであった。同時に双子とバドルーン、シェルが呼び出される。

 ムーバからムーバへと移動し、ナイティムマスターの部屋に4人が向かう。その途中、ナイティムのスタッフから声が掛かる。

「噂の黒騎士とやりあったんだってな」

「また見事に壊したな」

 などなど、気さくに声がかかった。これだけでもナイティムの雰囲気がわかるというものだ。

「いいナイティムだね」

「そうでしょ? もっと驚く事もあるわよ」

 含みのある双子の言葉を聞きながらナイティムマスターの部屋の前に到着する。

「沙夜香、魔夜香、バドルーン、シェル、入ります」

 バドルーンが代表して扉の前で声をかけてから扉を開く。

 中に居たのは二人の人間だった。一人は顰め面で豪華ではないがしっかりとした椅子に座った中年を少し過ぎた年齢の男性。頭髪は剃っているのか禿げてしまっているのか、教官と同じように全くない。小さな眼鏡を掛けており、その奥では鋭い眼光が4人を捕らえていた。そしてその横で立っているのは優しそうな笑顔を浮かべたブラウンの髪の毛の長い女性だった。

「ご苦労だった……と言いたいところだが、一体何をしているんだ、お前達は!」

「すみません!」

「あれほど頭に血を上らせるなと言ったのを覚えていないのか!」

 開口一番説教が飛んできた。そしてその説教にシェルはなんとなく聞き覚えがあった。

「全く、シェルもシェルだぞ。小さい頃から俺が教えておいただろうが。戦闘中に冷静さを欠けば負けに繋がる、と」

 改めてマスターの顔を見る。シェルの脳裏に蘇る記憶。ナイティム【ブルー・エッジ】のスタッフの面々。それがさっきすれ違った【レストプレース】の一部のスタッフと目の前に居るマスター、横の女性と重なる。

「機関士長のボーマンさんに、事務長のナナイさん?」

 二人の顔に笑顔が浮かぶ。

「覚えていてくれたのね。嬉しいわ」

「さすがはシェル坊やだ」

 ボーマンとナナイの顔に笑みが浮かぶ。

「え、じゃあここは……」

 意識して室内を見渡すと、壁にはいくつもの写真が飾ってあった。そのどれもがナイティム【ブルー・エッジ】での写真。そしてボーマンの背後の壁にはシェルの父親、ガジェル=ブルーエッジの写真が掲げられていた。

「その通り、ここは【ブルー・エッジ】で生き残った者で再びナイティムとして生きる事を選んだ者達が集うナイティム【レストプレース】だ。シェル、待っていたぞ」

 ボーマンが椅子を立ち上がってシェルの手を握る。
37 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/17(金) 22:14:27.14 ID:vYfV+Tzpo
「【ブルー・エッジ】壊滅後、集まれる人間が集まって結成したのがこのナイティムよ」

 魔夜香が説明を受け継ぐ。

 元々数あるナイティムの中でも最優秀揃いと言われるナイティムのスタッフが集まっているのだから【レストプレース】は発足当初から良い成績を収めていた。ライダーは当然双子とバドルーン。この3人とて訓練生時代を高レベルの場所で過ごしている上に元からの潜在能力が高かった為、他にライダーを雇う必要もなかったのだ。

「どう、シェル。気に入った?」

「うん。もちろんだよ!」

 大きくうなずくシェルにボーマンも笑顔をうかべながら、

「じゃあシェル、我々【レストプレース】はお前を歓迎しよう!」

 同時に館内放送でシェルの入団が通達される。その瞬間、ムーバ各所からシェルを待ちわびていたスタッフの声が館内通話を伝って返って来た。

「おかえり、シェル」

「おかえり」

「よく戻ってきました。歓迎します」

 そんな言葉と共に出迎えられたシェルは半ば照れるように頭を掻きながら「ただいま」と答えた。
38 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/17(金) 22:16:05.20 ID:vYfV+Tzpo

相変わらず短いですが、本日はここまでになります。
かなりの量を書いたつもりでもレス数にしたらかなり少ないというのは遣り甲斐がありますね。

今後も中1日での投下を目標に進めてまいりますので、お暇な方がおられましたらご覧いただければと思います。
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/18(土) 01:16:49.10 ID:JewaY6jSO
ふむ
ひ、暇なだけだ
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/02/18(土) 06:46:08.63 ID:ikiIMexro
こっちは書くのに向こうは書かないなんてヘタレすぎる
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/18(土) 12:24:41.87 ID:b7ym1yrIO
中一日だぞ
約束だぞ!
42 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/19(日) 23:22:21.42 ID:DmV7gE1Yo
皆様こんばんは。果たして気に入っていただけているのかすら全くわからない>>1が厚顔無恥にもお約束通り投下させていただきます。

願わくば、皆様の暇つぶしの本の一部を担う事ができれば、と思いつつ。(土下座)
43 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/19(日) 23:23:21.74 ID:DmV7gE1Yo

「さて。とりあえずバラン・バランに戻るわけだが、その前に一仕事だ」

「へ?」

 一段落してからマスターの口から出たのは意外な言葉だった。

「でも僕、RC持ってないよ?」

 そんなシェルの素朴な疑問はもっともな所であった。確かにライダーになる為には基本的な身体能力もズバ抜けている必要があり、シェルもその例には漏れずに平均的な年代の少年達と比べると全ての能力において秀でている。当然訓練学校では戦闘訓練も受けており、その戦闘力は一般人とは比較にならないが、やはりRCなしではそれ程役に立つものではない。

「お、言い忘れていた。お前のRCを預かってきているぞ」

「?」

 言われてシェルの記憶が蘇る。ライダーになることを決めた時、母が見せてくれたライノクラフトの骨格を。

「詳しい事はメカニックチーフから聞いてくれ」

「あ、私も見たい!」

「私もー!」

 双子がシェルの騎体観覧を希望する。バドルーンも興味深そうにしていた。さすがにライダーだけあって他人の騎体が気になる様子だった。

「しょうがねぇな。じゃあ仕事の話は後でだ。どっちにしろ訓練校のムーバが直らん事には出発もできんからな」

 そう言いつつボーマンは館内通話でメカニックチーフと連絡を取り、マスターの部屋に来るように伝える。

「チーフはシェルもよく知ってる人よ」

「そうなの?」

 待つ事数分。扉を開いて入ってきたのは確かにシェルのよく知っている人物と言えた。

「お、おかあちゃん!!」

 そう、シェルの母親であるライラ・ブルーエッジが入ってきたのだ。

「なんで?」

 確かにライラは【ブルー・エッジ】ではチーフメカニックを務めており、女性ながらもその腕前は数あるナイティムの中でもトップクラスの腕前だった。引退後も有力なナイティムや工場から大金を積んででも彼女を、という者は多かった程だ。

「シェル、おめでと」

 久しぶりの母との再会。意外な場所だったが、これ程再会に相応しい場所もないかもしれない。
44 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/19(日) 23:25:19.86 ID:DmV7gE1Yo

「うん、ありがとう」

「シェルの騎体、もう出来てるよ。ここに来る前に受領してきたからね」

 彼女の先導で居住区を抜けてライノクラフトを格納している整備ブロックに移動する。そこでは既に収容された香倶羅と天帝の修理が始まっていた。

「本当に見事な壊され方ね」

 ライラのその言葉に肩を落とす双子とバドルーン。「面目ない」とバドルーンが詫びる。

「でも、切り口が見事だわ。並みの腕前と装備じゃないわね」

 ハンガーに固定され、切り落とされた腕や各部の修理を受けている香倶羅を見上げながらライラが呟く。その瞳には夫を亡くした悲しみや悔しさ、そして辛さが観て取れる。

「さ、気分を変えましょう。これよ」

 言われた先には蒼を基調とした2脚2本腕のRCが一騎膝をついた状態でライダーたるシェルを待っていた。その姿は主人に仕えようとする騎士のようにも見える。新品特有の磨き上げられた装甲が太陽光に反射していた。

「わぁ……」

「格好いいじゃない」

 その姿は正に蒼い騎士という風貌で見る者の目を引く造りになっていた。明らかに市販のパーツを組み合わせて作られたものではなく、莫大な資金が投入されて惜しみない技術が込められている物だとわかる。

「あんたの訓練校での成績を反映させて作ってあるよ。完全にあんた用のカスタムメイドといってもいいだろうね」

 母親の説明にシェルの胸は高鳴る。それ程までに魅力的な騎体なのだ。

「双子の香倶羅もカスタムに近いんだけど、シェルの騎体はかなりの部分がオリジナルのパーツを使ってるんだよ。まぁ、その分修理とかは難しいけどね。だからあんまり壊さないようにしておくれ」

「私達の騎体のお金もチーフが貸してくださったのよ」

「俺の天帝もそうなんだぜ」

「それを言い始めたらこのナイティムの創設だってライラさんのお陰だもんね」

 3人からの告白にシェルは驚く。彼の知らない間に母は元ナイティムメンバーの為に尽力していたのだ。

「ま、宿六が常々言ってたことだからね。あたしはそれを守っただけさ。ほら、シェル。ぼけーっとせずに早く初期設定をしなさい。訓練学校時代のデータディスクはもってるね?」

「うんっ!」
45 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/19(日) 23:26:53.65 ID:DmV7gE1Yo
 シェルは身軽にタラップを上がり、ライノクラフト頭部にあるコックピットに入る。

 コックピットの中は真新しい匂いに包まれており、シートもビニールで包まれていた。騎体はアイドル状態で最低限の機能だけが動いていた。まずはビニールを破り取り、早速シートに座る。バケットタイプのシートはシェルの体格より少し大きく作られており、これからの彼の成長を予測して作られている事が伺える。

『シェル、準備はいいかい?』

 通信ウィンドウが開いて母親の顔が映し出される。

「うん。始めよう」

 訓練の時に教わったとおりの手順で新品のライノクラフトを自分の物として登録する手続きが始まった。

 まずは脳波誘導コントローラーと呼ばれるヘッドギアを被る。ここで自分の脳波を鍵としてライノクラフトに登録するのだ。外部のライラと内部のシェルが共同で作業しながら騎体の全体を把握していく。

 基本的な登録が終ってから自分のデータディスクとドライブに投入して起動ボタンを押し込む。

 かすかな振動と共にディスプレイにシステムチェックの項目は高速で流れていく。これは視認する必要はないのでエラーが出ない限りは放置しておいてよかった。

【System all Green. Type:GH-0091 Stand-by】 モニターに起動終了の文字が現れる。次に【Enter Your R.C. Name】と出てくる。

「あ、そっか。僕が名前をつけなきゃいけないんだった」

 すっかりその事を忘れていた。訓練校でその事を習った時にはエルマーとどんな名前がいいのか一晩中語り明かしたものだったが……

「何がいいかなぁ」

 しばらく考える。色々な名前が浮かんでは消えていくが中々いい名前が浮かんでこない。

『ゆっくり考えな』

 そう言われてシェルは腕を組んで考え込む。毎晩のように訓練で疲れ果てた身体を引きずって訓練所の寮に戻り、ベッドに倒れ込みながら親友と将来持つ事となる自分の騎体について色々と語り明かした思い出が蘇る。

「ん、これが良いかな」

 仮想キーボードを呼び出してシェルは騎体の名前を打ち込む。

『決まったかい?』

「うん。これでいくよ!」

 元気よく答えて決定キーを押す。

【System Normal. R.C:NOAL Stand-by】

 改めて起動終了の文字が表示される。今度は騎体名付きで。

『NOAL?どういう意味なんだい?』

「エルマーのお母さんの出身地の言葉で『勇猛果敢』っていう意味らしいよ」

『ほう、いい名前じゃないか』
46 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/19(日) 23:27:53.69 ID:DmV7gE1Yo

 続いて各部に備え付けられたモーターやジェネレーター、エネルギープール(バッテリー)などのチェックを続けていく。

「っておかあちゃん」

『こら、チーフと呼びな』

「あ、ごめん。じゃあチーフ、この騎体、エネルギープールの容量が異様に大きいんだけど……?」

『あぁ、それかい。それは後で説明するよ。とりあえずチェックをしちゃおう』

「うん……」

 通常、2脚軽量タイプのライノクラフトは騎体の軽量化を図るために各パーツの重量を気にするものなのだが、NOALに関してはそうとは思えない工夫が成されていた。

 巨大なエネルギープールに各所に備え付けられたモーターの容量の大きさは通常の比ではなかった。重くなっている騎体のスピードを得る為にこのような強力なモーターが据えられているのだろうかとシェルは予測していた。

『さて、次は実際に動かしてみようか。シェル、NOALを地面に降ろしておくれ』

「了解」

 いよいよNOALが動く時がやってきた。シェルは訓練の時より緊張した面持ちで騎体を操作し、地面に降ろす。

『じゃあ、歩行からはじめて速度を上げていっておくれ』

 言われた通りの動作を行う。

「ってこの速さって何!?」

 通常の2脚の速度を越えていた。ただでも早い2脚なのだが、NOALの速さはその上を行っていた。

 これだけの速さの騎体を支える脚部の骨格はもちろんオリジナルで、軽量ながらも強いフレームが採用されている。

 歩行から走行、旋回などを含めた各種基本動作を繰り返し、逐一表示されるデータと見比べて騎体に異常が起きないかをチェックしていく。

『基本性能は大丈夫だね。じゃあ、次は……』

 別の通信ウィンドウが開き、双子の顔が映る。

『模擬戦だね!』

 応急修理を終えたばかりの香倶羅が地面に足を降ろしていた。
47 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/19(日) 23:28:50.72 ID:DmV7gE1Yo

いつも通り短いですが、本日はここまでになります。
小出し小出しにしているつもりはないのですが、なかなか筆が進んでくれません。

それでは、また明後日にお会いできれば。(土下座)
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/19(日) 23:35:29.42 ID:E6Ywc6R2o
明後日を正座で待たせて頂くで御座る
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/20(月) 08:05:16.05 ID:7biG6CkSO
ふむ
50 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/21(火) 22:49:59.42 ID:dbEkDmC3o
本日もやってまいりました中一日空けての定期更新。いつまで続くのか私にもわかりません。(石抱き)

可能な限りは続けてまいりますので、お時間のございます方はどうぞお付き合いくださいませ。
51 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/21(火) 22:53:07.37 ID:dbEkDmC3o

 2騎のRCが対峙する。片や蒼い2脚2本腕のNOAL、片や朱い4脚2本腕の香倶羅。NOALは槍を手に、香倶羅は剣を手にしていた。

 互いに開始の合図を待つまでもなく戦闘を開始する。槍と剣が交錯し、火花が散る。NOALは徐々に速度を増し、攻撃を避けつつ鋭い一撃を繰り出し、香倶羅はその攻撃を受け流しながら強力な一撃を当てようと剣を振るう。

 互いの剣が宙を斬る。NOALの剣は自分の速度のために命中率は下がり、香倶羅の剣はNOALの速さについていけずに攻撃を当てる事ができない。

「埒が開かないわね……」

 香倶羅のコックピットの中で魔夜香が一人ごちる。相手に攻撃を当てるには足を停めるしかないのだが、それさえも困難だった。

 シェルが駆る騎体の速度はそれ程速いのだ。今まで戦ってきた敵の中にもここまでのスピードを持った騎体は数える程しか記憶がない。

 時折NOALの攻撃が香倶羅に当たるのだが、香倶羅にしてはたいした損傷ではない。盾で十分防ぐ事ができるのだが、それも回数が増えれば十分な脅威となることはわかっていた。

「沙夜香、ちょっと本気でいくわよ!」

 常時回線を開いている胴部にあるコックピットに収まっている沙夜香に声をかける。

『あれを使うの?』

「当たらないんだから当てるにはそうするしかないでしょ」

『了解っ』

 双子動きが同調する。RCの操作をする場合でも並み以上の同調が必要だが、彼女達の今の状態はそれを超えて、二つの肉体に一つの精神という形に近くなっている。

「いくよぉぉっ!」

 香倶羅の動きが変化する。一瞬、一瞬だがその動きが常軌を超える。

「!?」

 シェルの動きを読んだ双子が今は空白の、だが確実にNOALが次の瞬間に移動する位置に剣を繰り出す。
52 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/21(火) 22:54:19.43 ID:dbEkDmC3o

【牙列・百撃斬!】

 香倶羅の腕の動きが消える。同時に制動が間に合わないNOALが予測位置に出現。瞬間、

「うわぁっ!?」

 シェルの騎体の装甲が一気に削り取られる。コクピット内では右腕部の装甲が限界値に達し、モーターが破損した事と胴部の装甲が削り取られた事がディスプレイに赤字で表示される。衝撃で足が止まる。

 香倶羅を見ると右腕から煙を立てながらも剣を左手に持ち替えて足の止まったNOALに剣を向けていた。

「こ、降参……」

 シェルの宣言と同時にコックピット内が暗転。【You Lose】の文字がディスプレイに赤字で浮かんでいる。

「ふぅ……」

 コックピットを開いて外に出る。そこはハンガーから一歩地面に降りた場所だった。NOALと香倶羅は頭部が数条のケーブルで接続され、膝をつく形で鎮座していた。装甲に損傷はなく、互いに整備が終了した状態のままであった。

「おつかれさん。まぁまぁだったね」

 外部のディスプレイで見ていたライラがシェルに声をかける。と、香倶羅の頭部と胴部のコックピットが開いて双子も顔を出す。

「お疲れ様、シェル」

「あ、うん。お疲れ様」

 双子は身軽に騎体の腕を渡ってシェルの近くに寄って来てシェルの頭を撫でる。

「本当に早いわね。全然追いつけなかったわ」

 感心した魔夜香を見上げる形でシェルは、

「最後のはびっくりしたよ。あれが【剣技】なの?」

「そそ。あれは腕の動きを超高速レベルにまで引き上げる事で攻撃回数を上昇させる技なの。まぁ、モーターに掛かる負荷が多すぎて4割の確率でモーターが壊れちゃうんだけどね」

 肩をすくめて魔夜香が弱点を伝える。ナイティムの仲間だからこそ伝える事だ。万が一そうなった状態でシェルの手が開いていれば香倶羅の救援に向かわなければいけないという事をシェルが知っておかなければいけないからである。
53 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/21(火) 22:55:14.04 ID:dbEkDmC3o

「それにしても実戦と変わらないんだね」

 互いのRCを繋ぐケーブルを見ながらシェルが感心したように感想を述べる。

 今、2騎のRCが戦っていたのは仮想空間、いわゆるバーチャルリアリティの世界だったのだ。一般的に模擬戦はこういった形で行われる。実戦形式での模擬戦は出費だけが嵩むばかりで収入がないので不毛なのだ。

 実際の騎体データをVRの世界に投影することで実戦とほとんど変わらない、正に模擬戦闘が出来るのがこのプログラムであった。

「ほら、マスターが呼んでるよ。あとはこっちでやっておいてあげるから行きな」

 そう言われて4人はマスターが言っていた仕事の話を思い出して急いでハンガーを後にする。

「バド兄ちゃんも今度模擬戦しようね」

「いいが、多分決着つかないぞ」

「2脚対6脚はちょっと難しいかもね……」

 先程の香倶羅との戦いでもシェルの攻撃は自らの速度が原因で命中率が下がり、なおかつ中量級のライノクラフト相手では装甲を削るのにかなりの時間を要する事がわかっていた。香倶羅側から見た場合も、NOALに攻撃が当たれば与えるダメージは大きいのだが、いかんせん相手の動きが早くて攻撃が当たらないのだ。それが重量級のライノクラフト相手となれば、シェルの攻撃ではほとんどダメージを与える事ができず、バドルーンの駆る天帝の攻撃はまず当たらないという不毛な戦いが展開されるのが目に見えているのだ。
54 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/21(火) 22:56:56.65 ID:dbEkDmC3o

いつもよりさらに少なくなってしまいましたが、キリが良いので今日のところはここまでとさせていただきます。
明日からは少し暖かい日が続くそうで(関西地方だけかもしれませんが)、このまま春になってほしいところですね。

それではみなさま、また明後日にお会いいたしましょう。(土下座)
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2012/02/22(水) 02:17:33.66 ID:Nqai93Hv0
乙!


言った通り
一日おきを実行するとは
ゾッとすると言うか、評価する
変に長さなんか気にせずに、お前自身が、
楽しんで書けばいい。まぁ
例の別スレも少しは更新しやがれとは思うがww
もう暫くはこのスレの形を作ろうと
務めるのは認めてやるから
とりあえずは更新頻度は守れよ。でも、
やっぱり、向こうの
連載の続きも読みたいけどな
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/22(水) 07:13:09.96 ID:np+T+OBIO
漢字があると斜め読み難しいな!

1投下でも更新ペースを守るのがヘタレのリハビリにもなると信じとる
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/22(水) 07:19:28.27 ID:np+T+OBIO
斜め読み→縦読み
58 : ◆JbHnh76luM [sage]:2012/02/23(木) 23:03:55.67 ID:P5Dtszsfo
皆様こんばんは。
恒例の投下ですが、準備は出来ているものの、風邪を引いてしまい、PCを触るのも辛い状態ですので明日に変更させていただけますでしょうか。

楽しみにして下さっておられる方々には申し訳ない限りですが、どうぞお許しいただければと思います。
このまま投下が止まるというような別のアレな稚作みたいにはいたしませんので、ご安心を。
あっちもちゃんと書きます。はい。

頭が働いておりませんので、乱筆、乱文ご容赦下さい。
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/24(金) 07:10:44.56 ID:MYhAQFjIO
別のアレ
別のアレ
あったねえ、そんなこと(遠い目)
60 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/24(金) 22:13:33.12 ID:FUYomtgIo
皆様こんばんは。昨日は失礼いたしました。
風邪が改善する様子は全くございませんが、1レスだけでも投下したいので、どうぞこの愚か者の我侭にお付き合いくださいませ。(火炙り)
61 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/24(金) 22:15:16.54 ID:FUYomtgIo

「さて、ようやく仕事の話だが」

 4人が揃ったところでナイティムマスター、ボーマンが口を開く。ライダー養成所のムーバの補修が完了し、走行が出来るようになったのはボーマン達が到着した日の深夜になってからだった。

「この近くにトーレスという街がある。我々はそこに立ち寄って依頼主と会い、頼まれている荷物を受け取る事になっている」

「荷物の搬送ですか?」

「まぁ、そういうことだな。荷物プラス人員を数名という話を聞いている。トーレスからバラン・バランへの搬送だ。もちろん我々に頼んでくるのだから一筋縄ではいかないのはわかっているな。」

「狙われている可能性がある、と?」

「そういうことだ。荷物、人員ともに貴重なものらしく、いつ狙われてもおかしくないということだ。どうやらフィオリア帝国の軍部の影がちらついてるらしい」

 フィオリア帝国の単語にバドルーン達に動揺が走る。

「フィオリア帝国って、あのフィオリアですか?」

「お前の考えている通りだろうな」

 シェルにもフィオリア帝国という単語に聞き覚えがあった。ライダー養成学校時代の授業で教わった事だが、フィオリア=フォン=ガルーシャ3世が治める専制君主制度を摂っている国で、ここ最近軍事国家としての色合いが強くなり、国境で隣り合っているあるミヅカ共和国とヴァルダー王国、アルデルタ公国と頻繁に小競り合いを繰り返していると聞いていた。

「でも、フィオリアってそんなに大きい国じゃないですよね?なんでそんな小国が力を急激につけているんでしょうか?」

 沙夜香の疑問はもっともなところだった。ボーマンもうんうんとうなずいて口を開く。

「はっきりいって不明としか言えん。別のナイティムの情報だとここ1年で軍備を大幅に増強したらしいがな。ライダーにしてもナイティムや他国からの引き抜きを盛んに行っているらしい」

「そろそろ大規模な戦争が……?」

「可能性はあるだろうな」

 机の上に置いてあったパイプを手にしたボーマンは火を灯して紫煙を吐きながら答える。その横ではナナイが無言で空気清浄機のスイッチを『強』設定でオンにしていた。

「にしても変じゃないか」

 そう言ったのはバドルーンだった。いつの間にか沙夜香の肩に手を回し、自分の方に引き寄せながら顔は真顔でボーマンの方を向いている。

「フィオリアっていうと領土的にも国力的にも6国中最弱っていうので有名だっただろ?いつ侵略されてもおかしくないけど隣接してる3国のパワーバランスの均衡でやっと生き延びてるだけだって話だぜ?なんでそんな国がいきなり軍備の増強なんて……ぐあっ!」

 バドルーンがどさり、と崩れ落ちる。その背後には延髄切りを決めた魔夜香が華麗に着地していた。
62 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/24(金) 22:15:43.92 ID:FUYomtgIo


「……まぁ、バドルーンの言った通りだな。そこが一番の謎だと言えるのだが、我々にわかる問題でもないのは事実だ」

「確かにそうですね」

「しがないナイティム稼業は世界情勢よりお仕事お仕事ってね」

「そういうことだ。詳しい話は追って依頼主からあるだろう。トーレスへの到着は2日後だ。それまでは精々羽を伸ばしておけ」

「はいっ!」

「シェル、ハンガー行こ。もう一度模擬戦しようよ」

「うん。ってバド兄ちゃん、どうしたらいいだろう?」

 尋ねられて魔夜香は気絶しているバドルーンを一瞥してからボーマンを見る。

「こんな敷物、いらんぞ」

 察したボーマンが先に釘を刺す。「ちぇっ」と呟いた魔夜香は館内通話用のインターコムで医療室にバドルーンの回収を手配する。

「えぇーっ、またですか?」

 という担当スタッフの愚痴は聞かないことにして受話器を置いた。

「というわけでマスター、ちょっとの間だけ我慢しててくださいね」

 さっさとシェルと沙夜香を連れて部屋を出て行く魔夜香だった。溜息と共に紫煙を吐くボーマンであった。
63 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/24(金) 22:17:19.92 ID:FUYomtgIo

 きっかり2日後、ナイティム【レストプレース】のムーバはトーレスに到着していた。街の郊外にあるムーバの駐車場にムーバを固定し、一部のスタッフを除いて交代での半舷上陸が許可された。

 ライダーの面々にも2日間の街での休暇が許可され、シェルは双子とバドルーンを誘うべくまずは双子の部屋に赴いた。

「あらシェル、どうしたの?」

 双子の部屋はナナイとライラに挟まれた場所で絶好のバドルーン対策が為されていた。

 シェルが街に行こうと誘いをかける旨を伝えると、双子は残念そうな顔を浮かべて、

「ごめんね、シェル。ちょっと用があってでなきゃいけないのよ」

「そうなんだ。残念だけどしょうがないね」

「夕方には用が終るからそれからでよかったらどこかいきましょ?」

 沙夜香の案にシェルはおおきくうなずいてから待ち合わせの場所を時間を決めて双子に別れを告げ、バドルーンの部屋に駆けて行った。

「本当にシェルは元気よね」

「そうね」

 シェルを見送った双子が言葉を交わす。沙夜香は長い髪の毛を梳きながら、魔夜香は服を部屋着から外出用の普段着に着替えながら会話を続ける。

「無事でよかったわね」

「うん。私もそれが一番の心配だったわ。前マスターが亡くなってからほとんど連絡とれなかったもんね」

「ま、何にしてもこれから、ってことね」

「そうね。私達の『次』ができるまではがんばるしかないからね」

 本人達にしかわからない会話が続いていた。


「バド兄ちゃんっ!っていないや」

 自分の部屋のはす向かいに部屋を持つバドルーンの所に行くと既に部屋はもぬけの空になっていた。部屋のクローゼットが開きっぱなしになっており、たくさんの服が脱ぎ散らかされていた。どうやらどの服装で外出するかを迷っていたらしい。シェルはバドルーンが常々口にしていた言葉を思い出した。

「『俺様の仕事は世界中の女性を幸せにすること!その為には、この俺様が世界中の女性と親密になることだぁぁぁぁっ!』だっけ……」

 絶世といってもいいほどの美青年のバドルーン。反面その性格は破綻しているのだった。

「しょうがないや。一人でぶらぶらしよっと」

 母親のライラはRCやムーバの点検・整備で忙しいのは知っているので声をかけずに出ることにした。
64 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/24(金) 22:20:30.38 ID:FUYomtgIo

ひとまず以上です。
昨日のお詫びを兼ねて明日も気合で更新できるように調整しておりますので、「いつまで保つのか指さして笑いながら見てやるぜこの屑野郎」という方はどうぞお付き合いくださいませ。(土下座)
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2012/02/25(土) 02:05:43.53 ID:wmFAS4K50
よし
いつまで保つのか指さして笑いながら見てやるぜこの屑野郎
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/25(土) 07:32:01.37 ID:a2s22Rblo
屑野郎は風邪引く権利なんてないんだよ
早く元気なって尽くし書きやがれ
67 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/25(土) 22:26:03.79 ID:8OMVxer+o
みなさまこんばんは。
全快とまではまいりませんが、風邪の症状も治まりましたので、お約束通り2日連続更新をさせていただきます。

それにしてもこの話、盛り上がりに欠けますが(私の作品は概ねそうですが)、果たして読んで下さってる方々にとって少しでも楽しんでいただけているのでしょうか……?
読んで楽しくない作品というのは、読む側の皆さんからすれば苦痛でしかないと思いますので、正直なご感想をいただけると今後の励みや勉強になりますので、もしよろしければ「くだらねぇんだよこの豚野郎」とでも罵ってみてください。(土下座)

それでは、再開です。
68 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/25(土) 22:26:56.29 ID:8OMVxer+o

 トーレスの街は中立国バラン・バランの中でも第2の都市と言われる大きな街で、各国の特産品などが集まる交通の要所として栄える街である。

 シェルは人が賑わうメインストリートをガイドブック片手にぶらぶらと歩きまわっていた。露店や大道芸を見る人で賑わっている。気温はいつもどおりの13℃前後。この地域は年中太陽光は豊富なのだが、気温は上がらず、肌寒い気候になっている。

 露天商を冷やかしたりして歩き回っていると、

「きゃぁぁっ!」

 メインストリートの外れまで行った時にシェルの耳に女性の悲鳴が飛び込んできた。それは聞こえるか聞こえないか程度の小ささで、シェルの居る場所から離れている感じなのだが……

 考えるより先に行動していた。声のした方向にアタリをつけて路地に入る。さっき以降悲鳴は聞こえないが、さっきまで見ていたガイドマップを頼りにシェルは悲鳴の元を探し当てた。

「待てっ」

 そこは路地の奥の奥。人気もほとんどない場所で、密集する建物の中でぽっかりと開いた空き地のような場所だった。周囲は高い壁に囲まれ、道はシェルが走ってきた道しか存在していない。いわゆる袋小路と呼ばれる場所だ。

 そこの奥で怯えた表情の少女が一人と、彼女を囲む男が3人下卑た笑みを浮かべていた。

「おいおい、王子様がきちゃったみたいだぜ」

 男の一人が仲間に声をかける。シェルの背格好を見て明らかに自分より格下だと判断したようだ。事実、男達の体格はシェルより遥かに屈強そうに見える。

「おいガキ、怪我しなくなけりゃ失せな」

 ひゃひゃひゃと笑いながら男達が一歩シェルの方へと歩み寄る。悲鳴の主であろう少女は着ていた服の一部を破られており、日に焼けた健康的な浅黒い肌が露になっていた。

「どっちにしろ見られたからには無事には返さんけどなっ!!」
69 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/25(土) 22:28:04.99 ID:8OMVxer+o

 男達が一斉に襲いかかってくる。シェルはそれらをバックステップで避けると反撃に転じた。武器はムーバに置いてきてしまったので素手での戦いだ。

 ライダーとしての訓練メニューの中には徒手空拳での戦闘カリキュラムもふんだんに取り入れられており、素人のチンピラ相手では勝てるわけもなく、シェルは鬼教官の教えを忠実に守った戦い方で確実に男達を一人ずつ気絶させていき、

「やぁっ!」

 最後の一人の水月に拳を入れて意識を奪ったところで戦闘が終了した。さすがに無傷とはいかず、数箇所殴られはしたものの、その程度の打撃などたいしたものではなかった。

「シェル、大丈夫!?」

 少女が心配そうに駆け寄ってくる。シェルはその少女の姿に改めて気付いて急いで着ていたジャンパーを脱いで渡す。

「え?」

「さ、寒いでしょ? それに、そんな格好だと……ね」

「あ…うん。ありがとう」

 長袖ワンピースの肩口を破られていた少女はシェルの好意をありがたく受け取ってジャンパーに袖を通す。少女のほうが小柄なシェルよりさらに小さかったが、少女はジャンパーが気に入ったらしく、嬉しそうにくるくると回りながら声を上げている。

「家どこ? 送っていくよ」

「あ、うん。ありがとう。じゃあお願いできるかな?あ、自己紹介まだだったね。私はイルシャーナ。よろしくね? シェル」

「よろしく」

 シェルが気を許した瞬間、

「だぁぁぁっ!」

 倒れていた男が起き上がり、手に持ったナイフでシェルに切りつける。

「っ!」

 かろうじて避わしたものの、右腕を斬りつけられて長袖のシャツが裂かれ、血がにじむ。

「シェルっ! 大丈夫!?」

 少女が叫ぶ間に男はシェルによって昏倒させられていた。イルシャーナが駆け寄って着ているワンピースの裾を少し破り、シェルの腕に巻きつける。

「痛かったでしょ? 大丈夫?」

 心配しきった顔のイルシャーナにシェルはふと疑問を持った。
70 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/25(土) 22:29:06.82 ID:8OMVxer+o

「あのさ、イルシャーナ……」

「シャーナでいいよ」

 シェルの腕を心配そうに撫でながら少女がそう答える。

「じゃあシャーナ。一個聞きたいんだけど、なんで僕の名前知ってるの?」

「えっ!? あ、いやその……」

 素朴な疑問に対し、急にしどろもどろになっておたおたとしはじめる。

「あ、そうそう。ここだよ、ここ」

 そう言って着ているジャンパーを裏返す。服の破れた部分から鎖骨が見えて心臓が跳ねる。女子の肌を見るという機会に恵まれた事などないし、シェルとて健全な青少年なのだ。

「え、えぇ!?」

 今度はシェルがしどろもどろになる。そんなシェルを気に留めた風もないイルシャーナは、ジャンパーの内側を指差し、

「ほら、ここ。名前、刺繍してあるよ」

「あ、そういうことか」

 何のことはない。縫い取りを見て自分の名前を知っただけのようだった。確かにこの上着を買った時に店のサービスで名前を入れてもらった事を思い出す。

「じゃあ改めて送るよ。とりあえずここから離れよう」

「うん」

 少女はまぶしいくらいの笑顔で答えてシェルの左腕、怪我をしていないほうの腕に抱きつく。

「えっと……」

 思いがけないイルシャーナの行動に困惑するが、とりあえず何も言わずに彼女のしたいようにさせておく。

 表通りまで出た所で彼女が道案内を開始した。

「結構遠いけど、時間は大丈夫なの?」

 5分程歩いた所でイルシャーナが小首を傾げて尋ねてくる。もちろんシェルの腕に絡みついたままでだ。時計を見ると、午後2時を少し過ぎた頃になっていた。双子との待ち合わせにはまだ時間もあったし、シェルは「大丈夫だよ」と答える。

「じゃあ、お礼にお茶奢らせて?」

 そう言ったが早いか、イルシャーナは手近なオープンカフェの軒先のテーブルに席を取り、シェルを呼ぶ。
71 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/25(土) 22:32:12.59 ID:8OMVxer+o

 シェルはカフェ・オレを、イルシャーナはホットミルクを頼んでとりあえずは当り障りのない会話から始める。

「へぇ〜、じゃあシェルは最近ライダーになったばかりなんだ?」

「うん。本当につい3日前の事だけどね」

「じゃあ、先輩になるんだね」

 ウェイトレスが運んできたホットミルクに砂糖を入れながらイルシャーナが答える。

「君もライダーに?」

 驚いて尋ね返す。どう見てもライダーという雰囲気ではない。確かにシェルとてライダーとして見られるかというとそうでもないのだが……

「イルシャーナっていくつなの?」

「んー、と」

 腕を組んで考え始める。

「4歳……じゃなくて、14歳だよっ」

 言い間違いレベルではない差なのだが、少女の言動を見ていると、天然っぽい部分もあるので、単にヌけている娘だと判断したシェルは、14歳といえば自分がライダー養成所に入った年齢と一緒だということを思い出した。

「じゃあ将来ライダー試験に合格したら一緒に冒険できるかもね」

「あははっ、そうだねっ。楽しみにしてるよ」

 元気を取り戻したイルシャーナは上機嫌でシェルからライダーの事やナイティムの事、RCの事を色々聞いていた。

「あ、もうこんな時間! 私そろそろ帰らなきゃ」

 カフェに掲げられている時計を見たイルシャーナが驚いたように席を立つ。シェルも腕時計を見ると、時間はもう4時半を回っていた。
72 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/25(土) 22:32:39.02 ID:8OMVxer+o

「シェル、ありがとう!」

「え?送っていかなくてもいいの?」

「うん、もう大丈夫!また会おうねっ」

 持っていたポシェットからマネーカードを出して会計を済ませる。そこで彼女の動きがぴたりと止まる。

「あ……ジャンパーどうしよう?」

 上着の下は肩口が破られたワンピースなのだった。さすがにその姿で帰すわけにもいかない。

「いいよ。あげる。似たようなの持ってるから」

「本当? いいの? わーい!」

 子供っぽくはしゃいでから、

「本当にありがとう!それじゃあ、また会おうねっ」

 そう言って小指を差し出す。

「?」

「指きりっ」

「あ……うん」

 納得して自分の小指を絡める。イルシャーナは嬉しそうに「ゆーびきーりげんまん」と唄ってから最後に「ばいばーい」と元気よく言って雑踏の中に紛れて行った。

「ふぅ」

 正直ちょっと疲れていた。イルシャーナの元気の良さはシェルのそれを上回る。元気というかテンションが高いというか、あの年代ならば当然の事なのだろう。

「っと、待ち合わせの場所に行かなきゃ」
73 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/25(土) 22:33:39.17 ID:8OMVxer+o

 双子との待ち合わせの場所に向かおうとカフェを出て15分ほど歩いた待ち合わせの場所に到着した瞬間、

「シェルっ!」

 双子が駆け寄ってきた。

「大丈夫?」

 沙夜香がシェルの腕に巻かれた布の上から状態を確かめるかのように手を触れる。

「無茶しちゃだめよ。相手が3人だからってまだシェルは実戦経験少ないんだからね」

「あ、うん。ってなんで僕が喧嘩した相手が3人って知ってたの?」

「えっ!? あ、その……」

「怪我の具合見たらわかるわよ。顔にもいくつかもらってるでしょ。そこから推察つくわ」

 一瞬慌てた沙夜香の代わりに魔夜香が即答する。

「あ、そっか。うん、気をつけるよ」

「よろしい。応急処置はきちんとできてるから大丈夫みたいね。じゃあ、待たせちゃったお礼にご飯食べに行こっか?」

「あ、賛成! 私もお腹ぺこぺこだよ」

「うん。僕もお腹空いた」

 双子に連れられてレストランを探しながらシェルはイルシャーナの事で一つ不可解な事に気づいていた。

(ジャンパーの刺繍って言ってたけど、その前にあの子、僕の名前叫んでたよね……)
74 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/25(土) 22:35:28.12 ID:8OMVxer+o

以上で本日分の投下終了となります。これで第二話が終了したことになります。

ジャンパーって最近ではついぞ聞かない単語というのを投下してから気付きました。最近はブルゾン……なんでしょうか?
そもそもジャンパーを着てる人を見ないような気もします。時代遅れで申し訳ございません。(土下座)

それでは、また明後日にお会いいたしましょう。失礼いたします。
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/26(日) 00:20:05.45 ID:1vh2surSO
見てやるぜこの屑野郎
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/27(月) 07:27:42.16 ID:7gTMgMHIO
風邪引くなんて何様のつもりだ
この程度の文で満足するなんて思うなよ
読んでやってんだから楽しませろ
待ってなんてやらないからな
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸) [sage]:2012/02/27(月) 08:16:36.78 ID:82n7YM1AO
今 この瞬間に革ジャン着てる俺に謝れ
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県) [sage]:2012/02/27(月) 15:24:59.73 ID:VrZEI16J0
>>76
縦?斜め?ドコ?
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/27(月) 18:15:01.17 ID:7gTMgMHIO
>>76
ヘタレ好みに書いただけで縦も斜めも無い
80 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/28(火) 01:17:02.65 ID:bOs6eU32o

本日も更新です。
が、諸事情により投下量が2レス分程度しかありません。お許し下さい。(土下座)
81 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/28(火) 01:20:01.64 ID:bOs6eU32o

エピソード3 〜初仕事〜


「今回の仕事は前にも伝えてあった様に人員と物資の輸送になる。物資の内容はRCの新型部品の試作品だそうだ。人員はその部品の設計チームらしい」

 そう言って紹介された人々を見て心底驚いたのは双子とシェルだった。

「お……お父様っ!?」

「シャーナ!?」

「やあ、元気みたいだね」

「あっシェルだっ!」

 そこに居たのは初老にさしかかろうかという男性とイルシャーナ、それと白衣を着た男女合わせて合計5名。お父様と呼ばれた男性と褐色の肌を少女はそれぞれ気楽に手を振っている。

「えっと……マスター、どういうことなんでしょうか?」

 ナイティムの責任者、マスターであるボーマンに鋭い目で質問を投げつけたのは魔夜香だった。

「おいおい、そんな剣呑な目をするな。偶然だったんだよ。お前達の父親だって知ったのはついさっきだ」

「我が娘の働きぶりを見ようと思ってな。少しばかり手を回してみたんだ」

「みたんだ!」

 双子の父親の口調をイルシャーナが真似する。自己紹介で教えられたのだが、彼の名前は早澄 涼平(はやずみ りょうへい)というらしい。ボーマンの説明によると彼は生命工学の第一人者としてその世界では有名だということだった。

 少々の混乱はあったもののミーティングは順調に進み、一行は目的地をバラン・バランに定めて翌朝にトーレスの街を出る事にしてこの日は解散となった。
82 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/28(火) 01:21:04.18 ID:bOs6eU32o

「えへへー」

 イルシャーナがシェルの横にぴたっとくっついてくる。その後ろには双子も心配そうな表情を浮かべて同行している。

「知り合いか?」

 不思議そうな顔のバドルーンが尋ねてくる。どうやらこの年齢は彼の許容範囲外のようだ。範囲内であればそれはそれで犯罪なのだが。

「まぁ、ちょっとした縁があったんだ」

「この方が無類の女性好きなバドルーンさん?」

 その言葉に双子が慌ててイルシャーナの口を抑える。

「お前達なぁ……」

 呆れ顔のバドルーン。

「俺は女好きじゃなくて、使命でやっているんだ!その辺間違えるなよ!というわけで沙夜香に魔夜香。俺と幸せにならないか?」

「どっかいけ」

「遠慮します」

 即答される。さすがに凹むバドルーン。

「ま、馬鹿はほっといて話を続けましょうか」

「えっと、シャーナとお姉ちゃん達は知り合いなの?」

「姉妹だよっ」

「こらっシャーナ! えっとね、義理の姉妹って言ったほうが正解かな」

 双子とつい先ほど知り合った少女を見比べる。義理、と言われてたしかに納得できそうな要素はあった。それなりに似ている部分がいくつかあった。肌の色は決定的に違うが(聞いた事だがシャーナの肌の色は元々らしい)、瞳や口元などがなんとなく似ていた。父親が一緒なのかと思って早澄博士を見てみるが、どうやら違う様子だった。

「よくわかんないけど、わかったよ」

 少々釈然とはしないが、複雑であろう家庭の事情というものに首を突っ込むつもりもないシェルは素直に納得しておく。
83 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/02/28(火) 01:22:14.94 ID:bOs6eU32o
申し訳ございません。本日はこの2レスのみということでどうぞお許しください。(土下座)

少しの間投下レス数が更に減る可能性がございます。出来る限り更新はして参ります。
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/28(火) 08:22:31.16 ID:mn7cJ55IO
仕事がんばれー
85 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/03/03(土) 00:52:32.84 ID:caiUJn9Vo

こちらも間が空いてしまいましたが投下します。
今回も少ないです。本当に申し訳ございません。石抱き刑で苦しみながらの再開です。
86 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/03/03(土) 00:54:44.01 ID:caiUJn9Vo

 その夜は何事もなく過ぎ、翌朝にナイティム【レストプレース】のムーバは目的地バラン・バランに向けてその巨体を動かし始めた。

「機関出力良好」

「物資の積載終了。最終チェックも終了しました」

「目的地をバラン・バランに設定しました」

「各員の搭乗を確認」

「依頼主と積荷の搭乗を確認しました」

 各スタッフからの報告をボーマンはうなずきながら聞く。場所はブリッジである。

「よし。では出発だ!」

 かすかな振動と共にムーバがゆっくりと駐車場を出て一路バランバランに向けて走行を開始する。

「予定所要時間は8時間です」

「ま、通常走行ならそれくらいだな。後は任せるぞ」

「はっ」

 ブリッジを副官に任せ、ボーマンは妻であり、ナイティムのサブマスターであるナナイと共に廊下に出る。

「ライダー達は何をしているんだ?」

「多分食堂かブリーフィングルームで寛いでるんじゃないかしら。出発前にRCのチェックも終ってたみたいだし、何か起こらない限りは暇だから」

「ま、そうだな。何事も起こらない事を祈っておくとしよう」
87 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/03/03(土) 00:55:59.43 ID:caiUJn9Vo

 ナナイの予測通りにシェル、双子、バドルーン、イルシャーナの5人はブリーフィングルームに居た。特に何をするわけでもなくドリンク片手に色々な話をしていたのだ。主に双子とバドルーンが体験したナイティムでの生活の事が多かった。

「んーっ。なんだか肩こってきちゃったねっ」

 伸びをしたイルシャーナが首をぽきぽきと鳴らしながらそう呟く。

「じゃあ、デッキに出てみる?」

 義姉の沙夜香の提案にイルシャーナは大喜びでうなずいて「行く行くよっ」と即答した。

 デッキはいたって平穏になっており、RCの整備も終っていたのでスタッフの大半は居住区に戻っていた。

「おやシェル。どうしたんだい?」

 母親であるメカニックチーフのライラが一行に気づいて声をかける。

「この子が外に出たいって言ったから案内してきたんだ」

「おやおや、また可愛い子だね」

「こんにちはっ。イルシャーナっていいます」

「はい、こんにちは。あたしはシェルの母親でメカニックチーフのライラっていうんだ。よろしくね」

 その言葉にイルシャーナはライラの顔をじーっと見て、

「シェルのお母さん?」

 うなずくライラ。
88 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/03/03(土) 00:57:26.45 ID:caiUJn9Vo

「シェル、格好いいねっ」

 びしっとVサイン付きで宣言する。

「おやおや、何かあったのかい?」

「危ない所をたすけてもらったの」

 イルシャーナの身振り手振り付きの説明が始まった。

「……というわけっ」

「ふーん。シェル、いいことしたねぇ」

 褒め言葉がこそばゆい。頭をぽりぽりと掻くシェルの腕にイルシャーナがしがみつく。

「シェルは命の恩人なんだねっ」

 相変わらずテンションが高い。

「で、RCを見せに来たってことね」

 ライラの許可を得てシェルは自分の愛騎であるNOALの前にイルシャーナを案内した。双子とバドルーンはメンテナンスの話でライラに呼び止められていた。

「これがシェルのRCなの?」

「そうだよ。NOALって言うんだ」

 興味深そうに騎体の頭からつま先(今は片膝をついている状態だが)まで観察する。てくてくと近づいて足に触れてみたり顔をじーっと眺めたりしていた。

「いい騎体だね」

 彼女にそういわれるとシェルとしてはなんとなくだが、他の誰に言われるより嬉しい気がした。

「コックピットに乗ってみる?」

「いいのっ?」

 大喜びするイルシャーナを連れてタラップを上ってRCの頭部のコックピットに彼女を案内する。イルシャーナは慣れた体裁きでシェルの許可を得てからコックピットに滑り込む。
89 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/03/03(土) 00:58:21.56 ID:caiUJn9Vo

少なすぎて石抱きの石の量を増やしたくなりますが、本日分は以上となります。しかも中途半端ですね。猛省します。

また明後日に投下いたしますので、お暇な方はどうぞお付き合いくださいませ。
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/03(土) 09:22:50.44 ID:uOyxFNmho
猛暑とか猛将とか猛省とかより筆を持つべし!
91 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/03/05(月) 00:00:50.00 ID:Qjoz18HQo

本日もごく少量の投下になりますが、お約束通り投下再開いたします。(土下座)
92 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/03/05(月) 00:02:30.15 ID:Qjoz18HQo

「へぇー、普通のRCのコックピットってこうなってるんだ?」

「……『普通』の?」

「あ、ううん。何でもナイナイ」

 ぱたぱたと手を振って少女はコックピット内をしげしげと眺める。

「二人一緒には入れないんだね」

「うーん、まぁね。このタイプの騎体だとどうしてもコックピットは狭くなっちゃうからね」

「そっかぁ……」

 なにやら考え込むような仕草をする。コックピットの前でハッチに手をかけて中を見ているシェルは何を考えているのかわからずにイルシャーナの次の動作を待つ。

 それにしても、とシェルは思う。彼女は可愛いかった。言い換えるならばシェル好みの少女と言えた。健康的な肌の色は元からだそうだが、その色は真っ黒というわけではなく、薄く日焼けした肌、という感じだった。大きな瞳は好奇の光が宿り、人見知りしないその性格は明るく、ちょっと不思議な所もあったが今まで女の子との接触が少なかった彼にとってそれは新鮮だった。双子はシェルにとっては姉のような存在であったし、養成学校時代の女友達は恋愛感情以前に訓練の厳しさからくる仲間意識しかなかったのだ。

「シェルーっ!そろそろ中に戻りましょー」

 デッキから沙夜香の声が聞こえてシェルは「はーい」と返事をしてからコックピット内の少女を呼んでデッキに降り立つ。

「んーっ!楽しかった」

「シャーナ、変な事しなかった?」

 伸びをする少女の頭に魔夜香が手を置いてぐりぐりと撫でながらシェルに尋ねる。

「ううん、別に何もしてなかったと思うけど」

「何もしてないよー。電源さえも入れなかったんだからねー」

 不服そうにイルシャーナが反論して魔夜香の手から逃れる。

「あんたはいたずらっ子だから気をつけないとねー」

 そうやってじゃれあう二人の姿は本当の姉妹のようで、ほほえましい。兄弟のいないシェルから見ればうらやましい光景ともいえた。
93 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/03/05(月) 00:02:55.73 ID:Qjoz18HQo

「うーむ」

 見るとシェルの横でバドルーンがうなっている。

「バド兄ちゃん、どしたの?」

「ん?いやな、イルシャーナちゃんの事なんだが」

 その言葉に双子とイルシャーナの動きが止まり、バドルーンを注視する。3人の瞳、特に双子の瞳には一瞬、ほんの一瞬だが怯えに似た揺らぎがあったのだが、それに気づいた人間はいなかった。

「な、なによ」

 魔夜香がバドルーンの前に進み出て尋ねる。その行動はまるでイルシャーナを護るかのようだった。

「んー、今いくつだっけ?」

「14歳ですよ」

 その答えにバドルーンは「むむぅ」と思案の色を濃くする。

「一体何なのよ」

 しびれを切らせた魔夜香が長身のバドルーンにくってかかるように再び尋ねる。

「16歳未満の少女に手を出すのは俺様の主義に反するのだが、2年待つのも生殺しかなぁと…」

「死ね」

 魔夜香のコーク・スクリューパンチが見事にきまり、彼の身は整備デッキの上に転がった。

「ったく、こんなことしか考えてないんだから、この馬鹿は」

 呆れを通り越して何ともいえない表情の魔夜香が腰に手を当てて気絶しているバドルーンを見下す。

「こんなのはほっといて行きましょ」

 4人が去ったあと、デッキブラシですみっこに追いやられるバドルーンであった。
94 : ◆JbHnh76luM [saga]:2012/03/05(月) 00:04:49.03 ID:Qjoz18HQo
少ない! ですが今の手持ちがここまでしかありません。申し訳ございません。(土下座)

こちらのお話に関してはプロットを事前に組んでいる(というより、昔書いたものの焼き直し)ので、さほど迷わずにお話を進行できると思っていますが、キャラが勝手に動き始めるのはいつものことですね……

それでは、また明後日にお会いいたしましょう。
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/05(月) 00:07:06.26 ID:FzWn7uLSO
ふむ
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/05(月) 12:08:56.28 ID:Ni50LsAIO
明後日って3/6のことだな、もう明日だwktk
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/11(日) 14:24:40.79 ID:2rpvUQWIO
>>401
今日は3月の11日ってTVで言ってたよ
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/11(日) 18:12:09.13 ID:pNOkFW3Bo
ヘタレよぅ…
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/06(金) 07:35:20.29 ID:q08A2cBIO
今日が明後日の6日さ
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