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男「勇者がいても、世界は何も変わらない」 - SS速報VIP 過去ログ倉庫

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1 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/03(金) 21:15:59.65 ID:NVpnZ3v4o

女騎士「――お前はなァ〜! もう少し現実を見ろ!」バシーンバシーン

男「えっ、痛い!? やめて、痛い!」

胸当てを外し、はだけた女騎士の胸元に目を奪われる。なかなか……デカい。
三杯目のビアを飲み干した彼女の頬には、ほんのりと朱が差していた

女騎士「まったく! 男のクセにああだこうだ煩いヤツだ……ほら、もう一杯付き合え」ドン

男「勘弁してくださいよ……」

時は、十時間ほど前に遡る――

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君が望む永遠〜Latest Edition〜 @ 2024/04/24(水) 00:17:25.03 ID:IOyaeVgN0
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笑えるな 君のせいだ @ 2024/04/23(火) 19:59:42.67 ID:pUs63Qd+0
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【安価】貴方は女子小学生に転生するようです @ 2024/04/22(月) 21:13:39.04 ID:ghfRO9bho
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ハルヒ「綱島アンカー」梓「2号線」【コンマ判定新鉄・関東】 @ 2024/04/22(月) 06:56:06.00 ID:hV886QI5O
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2 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/03(金) 21:20:13.24 ID:NVpnZ3v4o
男「おはよう」

誰もいない小部屋で独り呟き、あくびを噛み殺して起き上がる。
今日は、秋の収穫祭だ。マンドラゴラの炒め物、幼竜のステーキ、グリフォンのフライ……いつもは目にすることもないような料理が、テーブルに並ぶだろう。
もちろん、酒場も忙しくなる。時計に目をやり、開店時間を確認する。

男「あと八時間、か」

服を着替えて、歯を磨く。
洗面台から顔を上げると、鏡には酷い面構えの男が映り込んでいた。

男「嫌な……夢を見たな」

今でも、思い出す。

――…‥

男「――ま、そういう訳です。ああ、見えてきましたね。目的地です」

女戦士「ふふ、もう少しですね――」

――…‥

まだこの街に来る前の。

――…‥

魔法使い「――逃げろ、オーガが出た!! 三メートルはある!! 俺たちで敵う相手じゃ」グシャ

女戦士「い、いや……いやぁぁぁぁ」グシャ

男「―――」

――…‥

あの日の、血生臭い記憶を。
3 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/03(金) 21:21:50.49 ID:NVpnZ3v4o
カランコロン
酒場の扉を開けると、目を刺すような日光が視界に飛び込んできた。

男「うおっ、眩し……」

町娘「あっ、男さん。おはようございます」

男「おはようございます。買い物ですか?」

町娘「ええ、今日は収穫祭ですから。少し豪勢にしようと思って……男さんは、酒場のバイトで大変ですね」

男「ホントですよ。住み込みだから、有給出すわけにもいかないんで」

俺は苦笑いを顔に浮かべたまま、去っていく町娘に軽く手を振った。
酒場の開店まで、あと八時間。午前中だからといって特に用事もなく、ぶらぶらと商店街をうろつく。

商人「おっ、男のダンナ! 今日はいいモン入ってるよ!」

男「ん、ユニコーンの角か! 煎じて飲むと精神を落ち着かせてくれるらしいな」

商人「さすがに詳しいねえ。3000Gの所、まけにまけて2000Gでどうだい?」ニヤリ

男「うーん、品物はいいんだけどな。生憎、俺がソイツの世話になる機会はなさそうだ」

商人「そ、そうかい。そいつは残念だなァ……じゃあこっちの毒消し草はどうだい? 20G」

男「それ売れ残りじゃねえか。まあ、角の方は一年前なら嬉々として買ったんだがな」

商人「もう行商をするつもりはないのかい?」

男「ああ。俺はこの町で生きていくことに決めたんだ」

商人「ま、ダンナは酒場でも活躍してるからな。あそこは看板娘がいないのが玉にキズだが」

男「うっせぇ」ハハハ

商人「店仕舞いしたら、寄らせてもらうよ」

男「楽しみにしてる」
4 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/03(金) 21:23:03.19 ID:NVpnZ3v4o
男「どこもかしこも、祭りの準備か」

太陽が頭の上を通り過ぎて、しばらく経った頃。
いよいよ歩くのにも疲れ、俺は広場のベンチに腰かけていた。

男「行商ね……」

ガシャッ

男「ん?」

女騎士「すまない、そこの人。この町に酒場はあるか?」

男「酒場なら……ああ、でもあと四時間は開きませんよ」

女騎士「何……それは困ったな」トスッ

男「………」

女騎士「………」

男「……あの」

女騎士「なんだ?」

男「なんで隣に座ったんですか?」

女騎士「迷惑だったか?」

男「いや、そういうわけじゃ」

女騎士「ならいい」

男「………」
5 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/03(金) 21:24:32.37 ID:NVpnZ3v4o
女騎士「ところで、先ほど行商と言っていたが」

男「げ」

女騎士「げ、とはなんだ。お前、行商人か?」

男「昔はそうだった……でも、今は違うよ」

女騎士「ふむ、そうか」ゲッソリ

男「……随分顔色が悪いけど」

女騎士「毒にかかっているからな。酒なら毒消しになると思ったが」

男「」
6 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/03(金) 21:25:57.54 ID:NVpnZ3v4o
男「ほら、商人から毒消し草を買って来たぞ……」ハァハァ

女騎士「すまない」

男「それであの質問か。もっとストレートに言えばいいものを」フゥ

女騎士「悪かった。いくらだ?」

男「ああ、金はいいよ」

女騎士「いや、そういう訳には」

男「代わりと言っちゃなんだが、この町は今日、秋の収穫祭なんだ。俺はちょうど酒場でバイトしてるから、飲みにでも来てくれよ」

女騎士「そんなことでいいのか……いや待て。そっちの方が高くつくだろう」

男「………」

女騎士「はぁ、まあいい。四時間後だな。お前はこれからどうするんだ?」

男「特に予定はないな」

女騎士「そうか。では特訓に付き合ってやろう」

男「ありがとう……は?」

女騎士「うむ」
7 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/03(金) 21:26:43.31 ID:NVpnZ3v4o
――路地裏

女騎士「遅い! ここが戦場なら死んでいるぞ!」ブンブン

男「待って、ほ、ホントにし、死ぬ」ヒュンヒュン

女騎士「そこっ!!」シュッ

男「うおっ!!」ピタッ

女騎士「――案ずるな、当てはしない」

男「……死ぬかと思った」ハァハァ

女騎士「ここまでにしよう」カシャン

男「疲れた……」トスッ

女騎士「そんなことでは、いざという時魔物から身を守ることができんぞ」トスッ

男「いいんだよ……どうせいざという時なんて来ないんだから」

女騎士「魔物が町の中に攻め入ってきたらどうする」

男「なんだ、知らないでこの町に来たのか? ここに魔物は攻めてこない」

女騎士「? どういうことだ」

男「サンクチュアリ。失われた魔法――ロストマジックの一つが、この町にはかかってる。自分が敵と認識した相手を、結界の外に弾き出す魔法だったんだと」

女騎士「すごいな……その魔法の効果が、今でもずっと続いているのか?」

男「ああ。だからこの町は、『聖域』とも呼ばれてる。魔法の効力は、向こう百年持つらしい」

女騎士「ふむ。まあ、力があるに越したことはないぞ」

男「それもそうか。暇つぶしにはなったよ」ハハハ

女騎士「暇つぶしと言われるのも癪だがな……」

男「さ、そろそろ酒場が開くぞ。俺もバイトの時間だ」スッ

女騎士「うむ」スッ
8 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/03(金) 21:27:42.48 ID:NVpnZ3v4o
――酒場

ガヤガヤガヤガヤ

男「こちらご注文の品です」トン

町男「おっ、来た来た」

町女「男ク〜ン! こっちもお願〜い」

男「はい、ただいま伺います!」

ガヤガヤガヤガヤ

女騎士「………」チビチビ
9 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/03(金) 21:29:43.61 ID:NVpnZ3v4o
――二時間後

カランコロン

男「ありがとうございましたー!」

女騎士「………」

男「ふぅ……やっと落ち着いた」トスッ

女騎士「随分と人が減ったな」

男「夜のパレードがあるんだ。ほとんどそっちを見に行ってる」

女騎士「パレードとはまた……結界のあるこの町だからこそできる芸当か」

男「いくら騒いでも問題ないからな……見に行かなくていいのか?」

女騎士「別にいい。お前と話をしようと思っていたんだ」

男「それで待っててくれたのか。こんなに長い間」

女騎士「ふん。ただゆっくり酒を飲むのが好きなだけだ」チビチビ

男「ふふ……二杯目か。三杯目はどうする? 俺のおごりにしとくよ」

女騎士「なら、いただく」グビッ

男「退屈させて悪かったな……ほら、ビア」

女騎士「では、お前の身の上話でも聞かせてもらおうか」チビチビ

男「……と言うと」

女騎士「どうして行商を辞めたんだ?」

男「ああ……ま、隠すことでもないが――」
10 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/03(金) 21:30:33.95 ID:NVpnZ3v4o
――…‥

男「では聖域までの護衛、お願いします」

女戦士「はい、任せて下さい」

魔法使い「うむ」

狩人「俺たちに任せな」

男「じゃ……行くぞっ」パシンッ

馬「ヒヒーン!」パカパカ

その日はよく晴れていた。
硝子細工が特産品の町から、『聖域』と呼ばれる町へ。馬車で片道六時間ほどの旅路は、少し街道から離れることになる。

狩人「半日もしない内に着くさ。そう危ない道でもない」

魔法使い「以前、ヘルハウンドの群れが出たと聞くが」

女戦士「確かにこの所、少し魔物が強くなってる気がしますね。ヘルハウンドぐらいなら何ともありませんが」

男「いやはや、頼もしい限りです」

道中、幾度か遭遇した魔物は、護衛に雇ったパーティーのおかげで呆気なく一掃された。
五時間ほど馬車に揺られた辺りで、整備されていない方へと進む。

狩人「ところで男さんよ、実際、行商ってのは儲かるのかい?」

男「そりゃあ、商売人によるってもんですよ。俺はまあこれでも、鑑定や品定めには自信がありますから。ぼちぼちですね」ハハハ

魔法使い「儲かってる人間の言い回しだな」ハハハ

狩人「違いないわ」ハハハ
11 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/03(金) 21:31:12.01 ID:NVpnZ3v4o
それから、四、五十分ほど経った頃だった。

女戦士「――でも、どうやってそんなに儲けているんですか?」

男「場所によって、安い物もあれば、高い物もある。それを的確に見極めて、安い場所で買い、高い場所で売る。まあ言わば交易商みたいなもんですよ俺は」

狩人「賢いやり方だな。ついでに他の物も売ってるから、行商人を名乗ってる訳か」

男「ま、そういう訳です。ああ、見えてきましたね。目的地です」

女戦士「ふふ、もう少しですね」

ガサガサ

狩人「ん? あっちの林に何かいるな」

魔法使い「魔物か」

狩人「かもな。ちょっと見てくる」
12 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/03(金) 21:32:47.12 ID:NVpnZ3v4o
魔法使い「………」

女戦士「……少し、遅いですね」

魔法使い「うむ……様子を見てくる。女戦士、ここは任せた」

女戦士「はい、気をつけて」

男「……なかなか物騒な世の中ですね」

女戦士「勇者様が、魔王を討伐なさるまでの辛抱ですよ」

馬「ブルルッ」ピタッ

男「ん? どうした――」


「うわあああぁぁぁぁぁぁ!!!」


男「!?」

女戦士「何が――」

ガサガサガサッ

魔法使い「――逃げろ、オーガが出た!! 三メートルはある!! 俺たちで敵う相手じゃ」グシャ

オーガ「グオォォォン」

男「――ひ、ひいっ!! 走れっ!!」パシンッ

馬「ヒヒーン!!」パカラッパカラッ

男「うわっ!」ドサッ

女戦士「きゃっ!」ドサッ

男「ま、待て! 待て、馬!!」

馬「ヒヒーン!」パカラッパカラッ……

男「そ、そんな」ガタガタ

女戦士「い、いや……いやぁぁぁぁ」グシャ

オーガ「グルル」ポタポタ

男「―――」

飛び散った鮮血が視界を濡らす。鬼の手から滴り落ちる赤い液体の動きが、嫌にゆっくりと感じられた。
俺の記憶にあるのは、ここまでだった。
13 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/03(金) 21:33:37.28 ID:NVpnZ3v4o
――…‥

男「――とまあ、こんな感じだ。気がついたら、この町に運び込まれてた。王国の騎士団が、倒れている俺を見つけてくれたらしくてな」

女騎士「ふむ」グビグビ

男「オーガが俺を見逃した理由は分からん。少し離れた所で、馬の死体と荒らされた馬車も見つかったらしい。大方それで腹でも満たしたからだろう」

女騎士「うんうん」グビグビ

男「その後、この酒場に住み込みで働かせてもらってるって訳だ」

女騎士「お前はなァ〜! もう少し現実を見ろ!」バシーンバシーン

男「えっ、痛い!? やめて、痛い!」

女騎士「結局今は生きてるんだろうが。じゃあ好きなようにすればいいだろう。本当にこの町で一生を終えるつもりか?」グビッ

男「それは――」

女騎士「暑くなってきたな……」ガシャッ

胸当てを外し、はだけた女騎士の胸元に目を奪われる。なかなか……デカい。
三杯目のビアを飲み干した彼女の頬には、ほんのりと朱が差していた。

女騎士「それは、なんだ」

男「いや……確かに、俺は外の世界を見るのが好きだった。だが今は、この町の暮らしに満足してるんだ」

女騎士「じゃあ、行商を始める前の町での暮らしには満足してなかったのか?」

男「それは、そんなことはないが……しかし」

女騎士「まったく! 男のクセにああだこうだ煩いヤツだ……ほら、もう一杯付き合え」ドン

男「勘弁してくださいよ……」

女騎士「では次は、私の過去の話をしてやろう」

男(この人は、酔わせちゃいけないタイプだな……)ハァ

夜は更けていく――
14 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/03(金) 23:39:31.93 ID:XE+6NAZdo
チュンチュン……

男「おはよう」

誰もいない小部屋で独り呟き、あくびを噛み殺して起き上がる。
収穫祭の熱気はすっかり消え去り、いつも通りの朝が待って――

女騎士「――ああ、おはよう」

男「……え?」

鼻腔をくすぐるのは、コーヒーとトーストの香りか。
なぜか女騎士が、俺の部屋で座っていた。

男「なんでここにいる……?」

女騎士「覚えていないのか? 昨日、私が昔の話をした後――」
15 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/03(金) 23:40:46.75 ID:XE+6NAZdo
――…‥

女騎士「――そして今に至るわけだ」

男「んあぁ、そうかあ、苦労したんだなぁ。んん」

女騎士「……すっかり酔いも醒めてしまったよ。ところで、今日の宿を探しているのだが」

男「んん……」

女騎士「お前の家に泊めてもらってもいいか?」

男「ああ、んん」

女騎士「そうか、ありがたい」

マスターコイツノイエヲゴゾンジデスカー
アアソイツココニスミコミダヨ

男「………」

オナジヘヤニトメテイタダイテモ
カマワンヨ オトコモナカナカヤルジャナイカ……

男「……zzz」

――…‥
16 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/03(金) 23:41:20.03 ID:XE+6NAZdo
女騎士「――ということがあっただろう」

男「あった……かもしれない」

女騎士「それよりほら、朝食が冷めるぞ。ちょうど今出来上がったところだ」

男「わざわざキッチンを借りて来たのか。食材は……俺の部屋にあった物を使ったみたいだが」

女騎士「駄目だったか?」

男「いや、構わない。ありがとう。半分やるよ」

女騎士「いいのか」

男「俺は小食だからな」

女騎士「では、甘えさせていただく」

俺と女騎士は、他愛もない話をしながら朝食を食べ始めた。
ただでさえ朝食など滅多に食べないのだ、誰かと共に食べるなどいつぶりのことだろうか。
17 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/03(金) 23:42:06.48 ID:XE+6NAZdo
男「しかし……」

女騎士「ん?」ムグムグ

俺は、昨日女騎士から聞いた話をすっかり忘れてしまっている。
酔い潰れてしまったのは、どうやら俺の方だったようだ。

男「いや、何でもない」

女騎士「変な男だ」ゴクン

彼女の過去の話。何か、とても凄惨な話だった……気がする。

女騎士「時に男。私はあと二日ほど、この町に滞在するつもりだ」モキュモキュ

男「何、そんなすぐに出ていくのか。あと食いながら喋るな」

女騎士「うむ、そこでだな……」ゴクン

男「………」ズズズ

女騎士「お前も私に付いて来てはくれないか?」

男「」ブーッ!!
18 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/03(金) 23:42:49.41 ID:XE+6NAZdo
男「何を言ってるんだ!? 俺はこの町から出ないと昨日言ったばかりだろう」フキフキ

女騎士「そ、そうか……でも、私の国の話をした時! 私が、お前とは気が合いそうだな、と言っただろ?」

男「あ、ああ。そうだったかな」フキフキ

女騎士「で、お前のような人間と一緒に旅が出来れば、楽しいだろう、とも言った」

男「おう……そうか」フキフキ

女騎士「そしてお前は、「ああ」と言ったんだ。あの流れはどう考えても肯定じゃないか」

男「そ、そんなこともないだろ……」アセアセ

女騎士「………」グスッ

男(ど、どうにかしないと……)
19 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/03(金) 23:43:20.85 ID:XE+6NAZdo
男「あと二日!」

女騎士「……?」

男「あと二日あるんだろ。その間一緒に過ごそう。俺もちゃんと、女騎士のことを知ってから……答えを出すから」

女騎士「……それでいい」

男(なんとかなったか……いや、苦し紛れに大胆なことを言ってしまった)フゥ

女騎士「ならば、時間がもったいないな。さあ、出かけようじゃないか」

男「なんだと!?」

女騎士「お互いのことを知るのに、ずっと部屋にこもっているつもりか? いや、それもいいか……」

男「そうだな、出かけよう。その方がいい」

女騎士「うむ。ではそうするか」

男(ずっと部屋にいられてみろ、気まずくなって息が詰まるぞ)
20 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/03(金) 23:44:34.58 ID:XE+6NAZdo
――商店街

商人「あれっ、男のダンナ! そっちのカワイコちゃんはどなたで?」

男「ああ、コイツは――」

女騎士「将来のパートナーだ」キリッ

商人「これはまた……へえ。ダンナもスミに置けませんね」ニヤリ

男「いや、ちがっ……はぁ、もういい」

商人「そうだダンナ。昨日のパレードを見に、別の町からキャラバンが来てたんですがね。面白い物を置いていってくれましたよ」

男「ほう?」

商人「これ、なんですが」スッ

商人が店の奥から取りだしたのは、巨大で細長い三角錐に持ち手が付いたような物と、一枚の大きな盾だった。
三角錐と盾は酷似した装飾を施されており、それらが対になっていることが見てとれる。
だとすると、この三角錐は武器か? 先端が尖っているので、突き刺して使うのだろうか。

女騎士「!! それは!」キラキラ

男「急に大きな声を出すな、びっくりするだろ」

女騎士「それはランスじゃないか! しかもその紋章……祖国の物だ」

商人「今回ばかりはダンナの目利きも通用しなかったかね? ああ、これは鉄の国の『ランス』ってシロモノだ。嬢ちゃん、鉄の国の生まれかい」

女騎士「ああ……まさかこんな所で目にかかれるとは。ランスは、他の国では驚くほど製造されていないんだ」

男(俺も武具には詳しくないからな……しかし、鉄の国か)ジー

商人「どうしたダンナ、随分と凝視してるね。買ってくかい?」

女騎士「いくらだ?」

商人「そうさね……足元を見るわけじゃないが、相当良い金属を使ってるみたいだし……こんなもんかね」スッ

女騎士「は、8000G……」ズーン

男「ユニコーンの角の四倍!? そりゃあちょっと高すぎるんじゃないのか」

商人「その値段はサービス価格だったんですがね……まあそれは置いといて、ダンナは武器や防具にはからっきし興味ねえからなあ」

商人はランスを店の奥にしまうと、女騎士をチラと見てから語り始めた。
21 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/03(金) 23:45:36.03 ID:XE+6NAZdo
商人「コイツを作ってた鉄の国ってのァ、もう滅びちまってんですよ」

男「な――」

商人「鉄の国は、近隣の水の国と仲が悪かったんですがね。何でも工業用水がどうとかで揉めてたんです」

男「水の国ならよく知ってる。あそこは何度か行商で立ち寄ったからな……」

商人「へえ。それで、ついに戦争をおっ始めた訳ですよ。でもまあ、鉄の国が圧勝するのは分かり切ってたことです。なんせ、武器や兵器の国ですから」

女騎士「………」

商人「……それで、鉄の国が水の国に大量の兵士を差し向けたんです。全員を武装させてね。そして、その兵士たちが水の国に向かっている最中に――」

商人が語調を変えるか変えないかというその瞬間、女騎士が右の手を挙げてそれを制止した。

女騎士「――すまない……もう、止めてくれ」

商人「コイツは、大変……失礼なことを」

男「………」

商人「ちょっとアツく語りすぎちまいましたね。世界情勢の把握は趣味の一つでして……面目ない」

女騎士「男、私は先に帰る。すまない」タッタッタッ

男「あっ……女騎士」

商人「イヤ、ホントにすみませんね……」

男「いいんだ。気にしないでくれ」

傍若無人に思えた女騎士の背中が、少しだけ今朝よりも小さく見えた。
22 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/03(金) 23:46:03.22 ID:XE+6NAZdo
男(鉄の国の記事は……あった、これか)

俺は商店街を離れ、公共図書館に足を運んでいた。

男(水の国と戦争を開始し、大量の武装兵を送り込むも――)

固唾を飲んで、次の行に目を移す。

男(――兵隊が水の国へ到着するのを待たず、魔物の襲撃によって両国とも壊滅)

男「………」

ぼんやりと、昨夜の会話が蘇る。
23 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/03(金) 23:47:44.63 ID:XE+6NAZdo
――…‥

女騎士「――私はな、戦争で前線に配属されていたんだ。小隊のトップに立つぐらいの実力はあったんだぞ」

女騎士「今となっては、その戦争が正しかったのかすら、私には分からない。だが……帰る場所がないというのは、とても辛いことだ」

女騎士「私は、もしかすると、誰かの帰る場所を奪うために……剣を振るうことになっていたのかもしれないと」

女騎士「そう思うと、眠れない夜もあった」

女騎士「自分が無くして、始めて気づいたんだ。ふふ。ありきたりなセリフだろう。でも、本当だ」

女騎士「その内、自分なりに考えがまとまってな。魔物を倒しながら、世界を旅することにした」

女騎士「人と人との争いは、私一人の力では無くせないが……魔物に命を、故郷を奪われる人間は減らせるかもしれない。そう、思ったんだ」

女騎士「そして、今に至るわけだ」

女騎士「……すっかり酔いも醒めてしまったよ。ところで、今日の宿を探しているのだが――」

――…‥
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/04(土) 01:49:57.88 ID:1m9f6wqIO
見てるぜ
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/02/04(土) 05:56:35.97 ID:x82zn3ARo
読んでしまった。おもしろそう。
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/04(土) 08:34:21.14 ID:hACeYsUIO
絵師様(笑)が沸かんことを
27 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/04(土) 15:08:56.87 ID:UtMD2riSo
男「………」

記事を棚に戻し、席を立つ。

男「帰る場所……か」

酒場での会話が脳裏によぎる。

――…‥

男「いや……確かに、俺は外の世界を見るのが好きだった。だが今は、この町の暮らしに満足してるんだ」

女騎士「じゃあ、行商を始める前の町での暮らしには満足してなかったのか?」

男「それは、そんなことはないが……しかし」

――…‥

男(女騎士は……故郷を失い、それでも自分の信念のために独りで旅をしてきたという訳か)

男(自分のような人間を増やさないためにか? そんなの綺麗事じゃないか――)

男(俺は……)

男「すみません、この記事、貸し出しお願いします」
28 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/04(土) 15:09:40.30 ID:UtMD2riSo
男(もう家か。考え事をしていると早いな)

女騎士「……! 男」

男「あっ、そうか。部屋の鍵がないから入れなかったのか」

女騎士「いいんだ、勝手に帰った私に非がある」

男「そんなことは構わない。鍵は……郵便受けの裏、ここにあるから」

女騎士「そうだったのか……いささか不用心ではないか」

男「そうかもな。でも盗られる物もないさ」カチャ

ギィッ

男「ただいま」

女騎士「おかえり」

男「うーん、女騎士の距離感はよく分からないなあ」パタン

女騎士「どういう意味だ、それは」ムッ

男「悪い意味ではないよ」ハハハ

男(借りて来た記事は、棚の上でいいか)ポスッ
29 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/04(土) 15:10:29.85 ID:UtMD2riSo
――夜

ギイッ パタン

男「ただいま」

女騎士「うむ、ただいま」

男「ふぅ、さっぱりしたな。男の独り身だと、どうも公衆浴場に出向くのもサボりがちでいけない」

女騎士「私は流浪の身だからな。ちゃんとした風呂には、入れるときに入っておきたい」

男「大変なもんだ」

女騎士「ふぁ……男。私はもう眠い」

男「そうか、じゃあ灯りは点けなくても――」ハッ

男(昨日は酔い潰れていたから意識することもなかった……いや、意識すらなかったが)

女騎士「……?」

男(奥手で童貞の俺が……女性と同じ部屋で一夜を明かすなど)

男「そ、そういえば昨日はどこで寝たんだ?」

女騎士「どこって、ベッドがあればベッドで寝るだろう」

男(目が覚めたとき、俺は確かにベッドで寝ていたはず)

男「まさか、俺の横で寝たのか」

女騎士「何か問題でもあったか?」

男「いや……何でもない」

女騎士「変な男だな。寝るぞ」
30 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/04(土) 15:10:55.06 ID:UtMD2riSo
――…‥

男(……眠れんな)

女騎士「………」スー スー

男(良いにおいがする)

男「……はぁ」ムクッ

男(夜風でも浴びてくるか)

ギィッ

女騎士「………」

パタン
31 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/04(土) 15:11:57.63 ID:UtMD2riSo
チュンチュン……

男「おはよう」

女騎士「………」スー スー

男(まだ寝てるな。今日は俺が朝食を作るか)

――…‥

男「朝食よし。そろそろ起きてるかな」

ギィッ

女騎士「ああ、おはよう」

男「おはよう。メシ作って来たぞ、二人分」トン トン

女騎士「ありがとう」ニコッ

男「お、おう」パタン

男(始めて笑顔を見たような気がするな……ん?)

男(目の下が赤い)

男(泣いてたのか。いつの間に)

女騎士「では、いただきます」

男「いただきます」
32 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/04(土) 15:12:55.42 ID:UtMD2riSo
――…‥

女騎士「男、今日はここにいてもいいか?」

男「んん? 別に構わんが、何も面白いものはないぞ」

女騎士「それでもいい」

男「そうか。俺は食材の買出しに行ってくる」

女騎士「分かった。行ってらっしゃい」

男「行ってきます」

ギイッ パタン

男(驚くほどすんなりと、家にいてもいいと言ってしまった)
33 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/04(土) 15:13:33.74 ID:UtMD2riSo
女騎士「掃除でもしておくか」

フキフキ フキフキ

女騎士「男は……私と共に来てはくれないのだろうか」

パタパタ パタパタ

女騎士「ん、棚の上に何か」

『青の国 絹の村 魔物によって壊滅す』

女騎士「………」ペラ

女騎士(この記事は……)ペラ

『この事件による生存者はなし』

女騎士「………」
34 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/04(土) 15:14:07.46 ID:UtMD2riSo
――商店街

男「――それと、こっちの干し肉を全部くれ」

商女「どしたの男君、随分と買い込むねえ。それも保存食ばかり」

男「ちょっと要り用でね」

商女「また行商でも始める気になったのかい?」

男「商店街の人はみんなそう言うなあ。俺はもう行商やるつもりはないよ」ハハハ

商女「まあ、もったいない。アナタがこの町に来る前から、みんな男君の名前は知ってたわよ」

男「そいつは嬉しいね。はい、これ代金」チャリン

商女「毎度ありがとうね〜」

――…‥

男(さて……)

商人「お、男のダンナ! どうしたい、そんなに買い込んで。ついにまた行商をする気になったかい?」ニヤリ

男「ははは……ところで商人さん、アレ、まだ残ってる?」

商人「アレってえと、コイツかね」スッ

男「ああ、それだ……ランスと言ったね。売ってくれ」

商人「こりゃあ驚いた。本当にいいのかい。ダンナが武器を買うなんて初めてじゃないか」

男「構わない。これ、8000G」ジャラ

商人「この前のこともあったから、まけとくよ。これでいい」ジャラ

男「な……半額じゃないか。4000Gは大きいぞ」

商人「ダンナ。実はね、俺も昔は行商人をやってたんだ。ダンナと違って、ちっぽけで無名だったけどね」
35 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/04(土) 15:14:36.20 ID:UtMD2riSo
男「初耳だな」

商人「魔物が怖くて、結局聖域に住み着いちまったのさ。ここではそれなりに成功してるし、一生をここで終えるつもりだ」

男(………)

商人「でもな、元旅人の勘っていうのかな。色々分かることがあるのさ。ま、旅人ってほどカッコよくもねえけど」

男「商人さん」

商人「何言ってっか分かんねえよな。はは、ちょっと目にゴミが……」

男「これ……受け取ってくれ」ガサガサ ジャラ スッ

商人「なんでこんな時に干し肉なんでぇ……ありがたく貰っとくけどよ。ほら、買ったモン忘れちゃいけないぜ」グスッ

男「うっ、重いなこれ。じゃあ、俺は帰るよ」ズシッ

商人「ああ。元気でな」

男「何言ってんの。またな、だろ」ハハハ

――…‥

商人「なんだ、干し肉じゃねぇのか……4000G入ってらぁ」ジャラ

商人「……肉くせえや」
36 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/04(土) 15:15:34.31 ID:UtMD2riSo
カチャッ

男「ただいま」ギィッ

女騎士「おかえり、男。遅かったじゃないか」

男「色々買い揃えてたら日が傾いてたよ。ん? 掃除してくれたみたいだな、ありがとう」

女騎士「男、後ろの、それは……!」

男「欲しかったんだろ? なかなか重かったぞ」ドスッ

女騎士「ああ、ありがとう……! ありがとう、男」

男「いいっていいって、そんな深刻な顔するなよ! これも、ほら」ポイッ

女騎士「これは保存食か」

男「必要な物だろ。遠慮なく持ってけ」

女騎士「男は……男は、一緒に来てくれないのか?」

男「……すまん」

女騎士「じゃあなんで……こんなに優しくしてくれるんだ。ここに来てから迷惑を掛けてばかりだろう」

男「自覚はしてたのか。なに、ただ女騎士の信念に心を打たれただけだ。だから協力したいと思った」

女騎士「そう、か……」
37 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/04(土) 15:16:41.05 ID:UtMD2riSo
――夜

男「灯り消すぞ」

女騎士「ああ」

男「おやすみ……」フッ

女騎士「男。明日の朝、私はこの町を発つ」

男「………」

女騎士「私は男に、共に来てほしいと思う」

男「それは――」

女騎士「――ところで男よ。お前は青の国の生まれか?」

男「ああ。読んだんだな、あの記事」

女騎士「うむ。生存者なしというのはもしや」

男「俺は、青の国、絹の村で生まれ育った。一瞬だったよ。村が魔物に襲われ、壊されてしまうというのは」

女騎士「………」

男「俺もお前と同じだ。帰る場所を無くした。でも、その後が違った……俺は逃げた。自分が生きることだけを考えて」

女騎士「……そういうことだったのか」

男「国も、あんな辺境の村の行方不明者までは把握できないみたいだな。俺はすぐに、存在しないはずの人間になってしまった」

男「俺は生きるために死に物狂いで……何度か汚いこともして……いつしか、行商で生計を立てられるまでになった」

男「それから何年かな……幸い、行商人の生い立ちなんて誰も気にしなかった。そこそこ有名になって、金も貯まってきて」

男「硝子細工の有名な隣町から、この町へ向かうことにして……その後は、お前に語った通りだ」

男「記事だって……お前の目に留まるかもしれないと、打算を働かせてたんだ。結局、誰かに全て聞いてほしかっただけなのかもしれない」

女騎士「……私はそれでも、男と共に歩いてみたい」

男「何がそこまでお前を駆り立てる。俺がどんな人間なのか、もう分かっただろう」

女騎士「私は旅に出る前、小さな村に身を寄せていた。そこで、何度も葛藤した。男のように、何度も自分を責めた。でもそれでは、何も変わらなかった」

女騎士「男はまだ、葛藤の時期にいるのだろう。これから一歩を踏み出すかどうか、最後に決めるのはお前だが……足を踏み出す先は、既に見えているはずだ」

男「………」

女騎士「男、もう一度だけ言う。明日の朝この町を発つ。私と共に来てくれ」

男「……どうせ一度、失ったはずの命だ」

女騎士「男……!」

男「今日はもう寝るぞ。明日は早いだろう」

女騎士「ああ! おやすみ、男」

男「おやすみ、女騎士」

その夜は、不思議とよく眠れた。
38 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/04(土) 15:17:17.29 ID:UtMD2riSo
チュンチュン……

男「この部屋ともお別れか」

机の上に置き手紙を残す。
残りの家具や雑貨は、全て売り払うなりして、処分してもらうことにした。借りていた本や記事はブックポストに返却した。
部屋賃は、手間賃も兼ねてひと月分多めに包み、マスターの部屋に投げ込んでおいた。
防具を何も持っていなかったので、商人さんの店先に飾ってある革の鎧を引っぺがし、正規の金額の二倍を部屋に投げ込んでおいた。
おかげで、格好良かった去り際が少し間抜けになってしまったが。
準備は整った。

男「さあ、行こうか」

女騎士「ああ。このランス、良い物だよ。本当にありがとう。私が今まで使っていた剣があるが、どうする?」

男「俺は武器なんて持ってなかったからな。当面はそれを使わせてもらうことにする」

女騎士「分かった。戦闘の技術は、みっちり叩きこんでやるからな。しばらくは私が守るから、後ろに隠れていろ」

男「女に守られる男ってのも情けない話だが。よろしく頼む」

こうして、俺たちは聖域を発った。
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/04(土) 21:46:31.91 ID:CgndCHfho
みてる
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/04(土) 22:04:52.56 ID:jhWv9v8IO
うむ。
41 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/05(日) 00:28:17.10 ID:lcCll2VYo
――街道

女騎士「まずは王都へ向かうぞ。物も情報も、そこが一番手に入れやすいからな」

男「通行証はちゃんと持ってるか? 俺は昔使っていたものがあるが」

女騎士「問題ない」

男「ならいい。王都まで徒歩だとどのくらいかかりそうだ」

女騎士「そうだな……順調にいって三日ぐらいか」

男「それなら、水と食糧は心配なさそうだ」

女騎士「途中、ゴブリンの巣を横断することになる。これがこの国の地図だが……ここだな」ガサ

男「The Wall of Goblin――ゴブリンの壁」

女騎士「迂回すれば避けることもできる。だが時間が掛かり過ぎるし、運が悪ければより強力な魔物に出くわすかもしれない」

男「ゴブリン程度なら、俺でも何とかなりそうだ。囲まれなければの話だけど」

女騎士「過度の油断は禁物だぞ。それは街道でも同じだ」

男「ああ、分かった」
42 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/05(日) 00:31:58.47 ID:lcCll2VYo
――…‥

道中俺は女騎士から、剣術の知識や、戦いにおける注意点を聞かされた。
たまに他愛のない話をし、昼の食事をとってから四里ほど歩いた頃、辺りはすっかり斜陽の色を映していた。

男「日が暮れて来た……夜は怖い」

女騎士「暗いのは嫌いか? ふふ、怖がりだな」

男「何とでも言え。夜の闇が好きなやつなんているものか」

女騎士「男にもそういう時期があったんじゃないのか」

男「う」

女騎士「……まあ、夜を避けた方がいいのは事実だ。夜行性の魔物は凶暴だからな。早い内に、野営に手頃な洞穴でも見つけるべきだ」

男「一応テントは持ってきたが、二人では交代の見張りというのもやりづらいな」

女騎士「お前に見張りを任せては眠れる気がしないよ。早く強くなってくれると助かる」

男「酷い言われようだな。善処するが」ハハハ
43 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/05(日) 00:33:02.00 ID:lcCll2VYo
ガサガサ

女騎士「……む」

男「ま、魔物か」

ガサッ

巨大蟻「シュー」

男「デカっ!」

女騎士「騒ぐな、身の丈ほどもない。落ち着いて行けよ。あんなやつでも、モロに噛みつかれれば腕を失いかねん」

男「え? 俺が行くの? しばらくは後ろに隠れとけとか何とか言ってなかったか」タラ

女騎士「あの程度魔物の内に入らん。できるだけ実戦慣れしておけ」

男「んな……」

巨大蟻「シュー」ジリジリ

男(くそ、こっち来てるう……いや、大丈夫大丈夫。所詮相手は蟻)シャキン

男(剣を構えて――)

巨大蟻「シュー」ジリジリ ピタッ

男(――今だ!)ダッ

巨大蟻「!」

男(右に回り込む!)ダダッ

女騎士(正面を回避したな。良い判断だ。やつに顎以外強力な武器はない)ウンウン

男「くらえ!」

ザシュ

巨大蟻「!!」ブオンッ

男「うお!?」ドサッ

女騎士(足払いか! マズイ!)

男「こな……クソッ!!」シュッ

ドスッ

巨大蟻「! ギギギ――」ブシャァッ

ドスン……

女騎士(……噛みつかれる寸前に、口の中を直接狙ったか。なかなかやるじゃないか)フゥ

男「………」カシャン

女騎士「よくやった。初戦にしては上出来だったぞ」ポンポン

男「………」

女騎士「……男?」

男「帰りたい……」
44 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/05(日) 00:34:15.12 ID:lcCll2VYo
――…‥

夜の帳が降りて間もなく。
俺たちは狭苦しい岩場の裂け目の中、ランタンに照らされていた。

男「光、漏れてないかな」

女騎士「かなり蛇行した入口だったからな。大丈夫だろう」

女騎士から受け取った地図に視線を落とす。
ここは白の国。
国境を隔てて東には砂の国、南には赤の国がある。北と西には、どの国の統治も行き届いていない地が広がっている。

男(今はこの辺か。このまま行けば明日中にはゴブリンの壁に差し掛かりそうだ)

女騎士「明日はゴブリンの壁の前で野営だ。明後日の明朝、やつらが本格的に動き出す前に通り抜ける」

男「了解」

女騎士「一応、交代で寝よう。今日は疲れただろう。先に眠るといい」

男「ありがとう。そうさせてもらう……」

夕刻の巨大な蟻との戦闘を思い出す。
女騎士は「あの程度魔物の内に入らん」と言っていたが、俺にとっては初めて対峙する魔物に違いなかった。
間近に感じた死の恐怖。あと一瞬、判断が遅れていたら――きっと女騎士が助けに入ってくれたのだろう。
だが、自分ひとりだったなら……

男(………)

女騎士「あまり気を揉み過ぎるなよ。聖域から王都への道のりは、白の国の中でも特別安全な部類だ」

男「心配するな。おやすみ」

女騎士「そうか、おやすみ」
45 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/05(日) 00:42:44.03 ID:lcCll2VYo
結局、俺が目を覚ましたのは朝になってからのことだった。
女騎士は「もともと独りでここまで来たんだ。睡眠を取りながらでも警戒ぐらいできるさ」と言っていたが……

男(……いつまでも重荷でいるわけにはいかないな)

女騎士「おい、男。下がってろ」ガシャン

男「え?」

女騎士「ヘルハウンドだ。見たところ四匹だが、やつらはもっと大きな群れで行動することが多い。後ろにも気を払っておけ」

男「わ、分かった」

ヘルハウンドA「グルルルル」

ヘルハウンドB「ヴウウゥゥ」

女騎士「こっちに気づいたみたいだな。来るぞ!」

ヘルハウンドC「ガウッ!!」バッ

ヘルハウンドD「グアッ」バッ

女騎士「ふんっ!」

ガッ ドスッ

二匹のヘルハウンドが左右から同時に飛びつく。
女騎士は、一方を盾で殴りつけ、もう一方の急所を的確に貫いた。

ヘルハウンドB「グルル」

女騎士「はっ!」ダッ

ドスッ

ヘルハウンドB「キャイン……」

男(踏み込んで一突き、返す手で――ランスをぶん回した!?)

ブンッ バキィッ

ヘルハウンドA「」バタン

女騎士「どうやらコイツらだけのようだな」

そう言って、女騎士は昏倒している二匹のヘルハウンドに止めを刺した。

男「すごいな……盾やランスってのは殴るのにも使うのか。俺の筋力では到底できそうにないが」

女騎士「それは誉めているのか? 少なくとも、私はこうやって戦ってきた。だが盾殴り、バッシュは基本的な技能だぞ……こんな大盾でやるものではないが」フキフキ

男「そうなのか。すまんな、詳しくなくて」

女騎士「じきに詳しくなるだろう。さ、行くぞ」

女騎士がランスに付いた血を拭き終わると、俺たちは再び街道を歩き出した。
46 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/05(日) 00:45:49.93 ID:lcCll2VYo
――…‥

女騎士「見えてきたな」

男「あれがゴブリンの壁……本当に壁みたいだ」

女騎士「急勾配の岩山が、城壁のように連なっているらしい。いくつも洞窟があるようだが、恐らく全てゴブリンの巣になっている」

男「一体あれのどこを通るんだ」

女騎士「比較的安全な抜け道には、人の手で印がつけられていると聞いた。過信はできないが、そこを通る」

男「なるほど」

まだ太陽は沈んでいないが、明日を見込んで早々に野営の準備をはじめる。
近くに手頃な洞穴もないので、身を隠すため茂みの中にテントを設営した。

女騎士「ん? バックパックの横に置いてあるそれはなんだ。紫色の」

男「ああ、テントを張っている時に見つけたんだ。多分、魔石の一種じゃないかと思うが……魔法関係の品はあまり詳しくない」

女騎士「お前、本当はあまり知識がないのでは……」ジト

男「他の物には詳しいんだって! 武具や魔具ぐらいだ、知らないのは。本当だぞ」

女騎士「まあ、武具のことは私が何とかするからな。お前にはそれ以外で期待しているぞ」

男「任せろ」

日が落ちるまで、女騎士から剣術の訓練を受ける。
その晩は、しっかりと交代で見張りができた。
47 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/05(日) 00:46:37.26 ID:lcCll2VYo
チュンチュン……

男「――あった。氷結樹の樹液で文字が書いてある」

女騎士「この洞穴か。確認しておくが、鳥目ではないな?」

男「違うよ。大丈夫だ」

女騎士「よし。灯りは点けずに進む。ゴブリンの視力は人間と大差ないから、見つかっても慌てるな。」

男「ああ」

女騎士「行くぞ。ゆっくりと後ろを付いてこい。周囲の警戒は怠るなよ」

ザッザッザッ……
48 : ◆6ype9/FYBU [saga sage]:2012/02/05(日) 00:50:41.82 ID:lcCll2VYo
とりあえずここまで
この先も大体ずっと王道な感じのファンタジーです

思いの外、文量が多くなってしまった
プロットは大まかながら最後まで立ててあるので、今後も出きる限りコンスタントに投下しに来ます

ではまた
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/02/05(日) 01:25:17.08 ID:QuA93x9oo
大層乙である
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/05(日) 11:21:01.42 ID:hFW5yQHIO
ふむ(´・ω・`)



乙(`・ω・´)
51 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/05(日) 23:17:47.88 ID:nN0qGSGyo
――ゴブリンの壁

女騎士「………」

男(獣臭い……いや、もっと独特の臭さだ)

男(気配を感じる。確実に、周りにゴブリンがいる)

男(まだ寝ているのだろうが、いい気はしないな……)

男(所々にあるランタンのおかげで、何も見えないということはないが――)

パキッ

女騎士「!」

男「!」


シーン……


男(女騎士が小枝でも踏んだか……肝が冷える――)


――カンカンカンカンカン!!


男「!!」

女騎士「くそ、気づかれたっ……走るぞっ!!」
52 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/05(日) 23:18:53.99 ID:nN0qGSGyo
ダッダッダッ

女騎士「すまない、私が不注意なばかりに――」

男「あの明るさじゃ足元なんて見えなくて当然だ、それより――」

女騎士「行き止まりか……!」

ザザッ

ゴブリンA「グエッウェッ」

ゴブリンB「フゴフゴ」

ゴブリンC「グモモモモ」

ゴブリンD「……

ゴブリンE……

……ワラワラワラワラ

女騎士(マズイな……私だけならまだしも、男をかばいながら全て倒すのは)

女騎士「男!! 正面突破する! 私の後ろから離れるな!」

男「な!?」

女騎士「行くぞ――!!」ガシャン!

女騎士はランスと大盾を密着させると、まるでユニコーンのように、ランスを前方に突き出したままゴブリンの大群に突進した。

ドドドドドドドド

ゴブリンA「オウフッ」

ゴブリンC「ギャー」

ゴブリンF「ンアー!」

男(付いて行くだけで精一杯だ……!)タタタタ

ゴブリンM「アァン」

ゴブリンQ「……

ゴブリンS……

………
53 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/05(日) 23:20:10.80 ID:nN0qGSGyo
――…‥

女騎士「――やり過ごしたか」

男「体力が持たない……」ゼェゼェ

ゴブリンたちの中を突っ切った後、岩の隙間に隠れることで何とか追跡を撒くことに成功した。

女騎士「どう考えても、警戒態勢を取っているな。これでは迂闊に戻れない」

男「さっきの分かれ道は左だったか……」

女騎士「思い出しても仕方あるまい。これからどうするかだが」

男「幸か不幸か、この隙間どこかに繋がってるみたいだ。向こうから風が出てきてる」

女騎士「バックパックは通せるか」

男「何とか行けそうだな……ランスも問題ないだろう」

女騎士「その道に賭けてみよう」

男「よし……」
54 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/05(日) 23:21:04.99 ID:nN0qGSGyo
――…‥

男「ん? 少し開けた場所に出たか? 暗くて何も見えないな……ランタン点けるぞ」

女騎士「うむ、こんな場所じゃあ気づかれまい」

ボッ

男「……ふぅ」

女騎士「怪我はないか?」

男「軽いのだけだよ。女騎士こそ大丈夫か」

女騎士「問題ない」

男「風が強くなってる。運が良いな、おそらくこのまま外に出られる」

女騎士「想像していたより危険な場所だった……すまない。もしこのランスがなかったら、お前を守り切れなかったかもしれない」

男「いいんだよ、生きてるんだから」

女騎士「……私がそう言ったのだったな、酒場で」

男「水飲んどくか?」

女騎士「いただこう」
55 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/05(日) 23:22:04.29 ID:nN0qGSGyo
――街道

男「何とかなったな」

女騎士「ああ。何事もなくてよかった」

振り返ると、そびえ立つ壁が少し霞んで見える。
中ではまだ俺たちの捜索が続いているのだろうか。

男(女騎士の後を追うだけでギリギリだった)

男(全体に注意を払えるようにしないと。それに、剣に頼り過ぎては駄目だ)

男「そう言えば、女騎士は魔法が使えるのか?」

女騎士「いや……試してみたことはあるが、駄目だった。魔法は先天的な才のない人間には扱えないらしい」

男「俺はどうなのかな」

女騎士「魔法の才を持つ者は三人に一人程度だという。魔法使いとまで呼べる者はともかく、簡単な魔法を使える者は少なくない」

男「へえ、意外だ」

女騎士「ほら、見えて来たぞ。王都だ」

女騎士の指差す先、地平線にうっすらと浮かぶ影に目を移す。

男「こんどは本物の城壁だな」

女騎士「昼には着くだろう。滞在期間は後々決めるとして……魔法の適正検査も、その間にやってもらったらどうだ」

男「そうしよう」
56 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/05(日) 23:22:36.72 ID:nN0qGSGyo
――…‥

門番A「通行証はお持ちですか?」

男「はい」スッ

女騎士「うむ」スッ

門番A「……確かに。どうぞお通り下さい」

ガシャン ギイィィィ

門番B「この町の地図です。どうぞ」スッ

男「ありがとうございます」
57 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/05(日) 23:23:55.13 ID:nN0qGSGyo
――王都

ガヤガヤガヤガヤ

女騎士「さて、まずはどうするか」

男「宿を確保して、今日は別行動にしないか? お互い見るものもあるだろう」

女騎士「そうだな。ちょうどすぐそこに宿があるみたいだ」

男「じゃあそこにするか」

ギィッ パタン

宿屋「いらっしゃいませ。二名様ですか?」

女騎士「うむ」

宿屋「ただいま混み合っておりまして、お二人様で一部屋しかご用意できませんが……」

男「二人で一部屋か。まあ宿賃の節約にはなるけど……」

女騎士「私は一向に構わん」

男「……じゃ、それで」

宿屋「どうもありがとうございます。では、コチラ部屋の鍵ですので。なくさないようにお気をつけて」チャラ

男「はい」

――…‥

ガヤガヤガヤガヤ

女騎士「では、ここからは別行動だ。私はまず武具を見に行く」

男「了解。多分俺の方が帰りが遅くなるからな、部屋の鍵を頼む」チャリ

女騎士「任せろ。ではまた」

男「おう」

男「………」

男(とりあえず俺は、道中で手に入れた物を売りさばくか)
58 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/05(日) 23:25:25.63 ID:nN0qGSGyo
――商店街

男「すみません、買い取りってやってますかね」

商人「ん、旅の人かい? いいよ。品を見せてもらえるかな」

男「どうも」ゴソゴソ

商人「爪、皮、これは獣脂か。なかなか良質だ」

男「あとは微妙な物ばかりですが」ゴソゴソ

商人「これは薬になる野草だな、少し傷んでるが。こっちは……微量だが、氷結樹の樹液か? また珍しいものを」

男「ははは。でもその野草、薬効のある部分は無事でしょう?」

商人「ほう……それなりに目利きの出来る人みたいだね。査定するからちょっと待ってておくれ」ニヤリ

男「お願いします」

男(取れるものは大体取っておいてよかった)

財布の中を見る。

男(大体1000G……出発の時にかなり使ったからな。ランスも買ったし)

手持無沙汰で周囲を見回す。
国一番の町だけあって、店の数も、商品の種類も多い。
日用雑貨、食料品、本、魔道具――
59 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/05(日) 23:27:58.76 ID:nN0qGSGyo
男(――そうだ)ゴソゴソ

男(あった。魔石……だと思うんだけど。これも買い取ってもらえるのかな)

男「すみません、これも――」


「あーっ!!」


男「!?」ビクッ

魔学者「ちょっとちょっとそこの君! それ俺に譲って!」ズンズン

男「え!? いやそんな急に言われても」

商人「ん? それは雷の魔石だね。売るかい? それ一つでも、さっきの品を合わせた額を優に超えるよ」

男「なんだって! じゃあこれも売ります」

魔学者「わー待って待って! 俺が買うから! 売値の倍でいい!」

商人「そこまで言われちゃ仕方ないね」

男「あ、じゃあ……どうぞ」

魔学者「うん、ありがとう。はいこれ」ジャラ

男「おお、1500Gも……ところであなたは一体?」

魔学者「ああ、うん。色々と急ですまなかった。俺はこの町で魔法の研究をしている者だ」

男「魔法の研究、ですか。もしかして、魔法適正の検査とかできます?」

魔学者「できるよ。必要かい? 特別にタダでもいいよ」

男「それはありがたい! お願いします」

商人「おう、ちょうど査定が終わったよ。全部で420Gだがどうする?」

男「売ります」

商人「はいよ、ありがとう」チャリン

魔学者「じゃあ、俺の家に来るかい。こっちも聞きたいことがある。ここで立ち話もなんだ」

男「ではお言葉に甘えて」
60 : ◆6ype9/FYBU [saga sage]:2012/02/05(日) 23:28:36.86 ID:nN0qGSGyo
今回はここまで
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方) [sage]:2012/02/06(月) 00:01:38.34 ID:rIOYZIsuo
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/06(月) 03:33:32.61 ID:s6a0uUF6o
おつ
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/06(月) 16:38:15.63 ID:z4z8C77IO
おつ

64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/06(月) 19:30:01.23 ID:+0RMsB7IO
65 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/06(月) 21:17:03.88 ID:BDjNgiPUo
――魔学者の家

魔学者「――という訳で、雷の魔石が必要だったのさ」

男「役に立てて良かったですよ」

魔学者「あの魔石、どこで手に入れたんだい?」

男「俺たちは聖域から王都に来たんです。その途中、ゴブリンの壁を越える前に茂みの中で」

魔学者「へえ。普通そんな場所に魔石はないと思うんだけど……旅人か、ゴブリンシャーマン辺りが落としたのかな」

魔学者は何かを思い出すように視線を流し、黒縁の眼鏡を中指で押し上げた。

魔学者「……ところで、「俺たち」と言ったかな。何人ぐらいで旅をしてるんだい」

男「俺と、女騎士の二人ですね」

魔学者「二人! たった二人でゴブリンの壁を越えるとは、無茶をしてきたね。それとも余程腕に自信でもあったのか」

男「いえいえ、それどころか俺なんて、聖域から旅に出た身ですから。強いのは女騎士だけです」

魔学者「なるほど……ちょっと情けないね」

男「……ごもっともです」
66 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/06(月) 21:18:08.54 ID:BDjNgiPUo
――…‥

魔学者「さ、そろそろ検査の結果が出たかな」

男「検査って何をしてたんですか?」

魔学者「男君の血に、マナの樹の葉から作った染色液を加えておいたんだ。適正があれば紫色に変色してるはずだけど……」カラン

男「………」

魔学者「………」

男「……赤いですね」

魔学者「……赤いね」

男「うーん、残念だけど仕方ないな」

魔学者「基本的な低級魔法なら、魔道具でも代替が利くからさ。気に病むこともないよ。どうせ実用レベルで魔法が使える人間なんて一握りさ」

男「そんなものですかね。そう言えば、魔学者さんはどうなんですか?」

魔学者「ああ、俺は……使えることには使えるんだけどな。魔力の絶対量が足りないから、大した魔法は使えないよ」

男「そうか……知識や技術があっても、魔力が足りないと駄目な訳だ。武器の扱いと筋力との関係に似てますね」

言いながら、ランスを振り回す女騎士の姿が頭に浮かんだ。

魔学者「そうだね。ただ、筋力は鍛えればある程度どうにでもなるだろう。魔力は後天的にはほとんど増やすことができないんだよ」

男「想像以上に、魔法を扱うのは難しいことなんだな……」

魔学者「いやホントに。知識ばかりが溜まってしまってさ。相応の魔力を持った協力者でも見つかればいいんだけど」

男「いつもはどういうことをしてるんですか?」

魔学者「新しい魔法を作ってみたり、水薬を調合したり、他にも色々。基本的には部屋にこもってるけど、たまに研究材料を探しに町の外にも出るよ」

男「独りで町の外に……」

魔学者「まあ、いくつかの魔法は使えるし、魔道具もあるし。研究が進まないまま死ぬぐらいなら、魔物に殺された方がマシってぐらいには研究熱心なつもりさ」

男「それって相当じゃないですか」ハハハ

その後、出されたコーヒーを飲みつつしばらく魔学者と会話を交わした。
67 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/06(月) 21:18:44.72 ID:BDjNgiPUo
――宿屋

男「女騎士、俺だ」コンコン

「男か? 今開ける」タタタ

女騎士「おかえり」ガチャッ

男「ただいま」パタン

女騎士「夕食を用意しておいたぞ」

男「助かる」

女騎士「そうだ、明日は男も付いて来てくれ。ガントレットとレギンスくらい着けた方がいい」

男「それもそうか」
68 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/06(月) 21:19:20.26 ID:BDjNgiPUo
――…‥

男「そうだ。財布の中身なんだが、一つにまとめた方がいいな」

女騎士「旅の基本だな。と言っても私はこのぐらいしかないが」ジャラ

男「えーっと……780Gか。俺の所持金と合わせて、3670G」

女騎士「すまない、独りだとどうも金遣いが荒くなってしまって」

男「謝らなくてもいい。俺も魔石が売れたのがデカいし、皮やら爪は女騎士が倒した魔物から取ったものだし」

女騎士「それだけでなくランスや食糧も……いや、言うまい。甘えておこう」

男「それでいい」

女騎士「ところで男、この町の依頼掲示板に目を通して来たのだがな。いくつか目ぼしいものがあったぞ」

男「依頼掲示板か……」

聖域にいた時も数回利用したことがある。無論、俺は報酬を払う側だったが。

男「路銀は多いに越したことはない。防具や追加の食糧も買いたいし、また明日覗いてみよう」

女騎士「そうしよう」

男「そういえば滞在期間なんだがな。そもそも女騎士は次にどこへ向かうつもりだったんだ?」

女騎士「特に決まった目的地はなかったよ。しかしこの辺りの警備は私が心配する必要もなさそうだからな。目的地が決まったらまた考えよう」

男「じゃあしばらくはゆっくりできそうだ」

女騎士「だが、グダグダするつもりはないぞ」

男「分かってるよ」ハハハ
69 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/06(月) 21:20:09.52 ID:BDjNgiPUo
――朝

女騎士「起きろ、男!」

男「んん? どうした……」

女騎士「朝の訓練をするぞ!」

男「そういうことは寝る前に言ってくれよ……」ゴシゴシ

男(でも早く戦えるようにならんとな)

女騎士「男はな、センスはいいと思うんだ。きっとすぐに強くなる」

男「ありがとう……顔洗ってくる」

女騎士「待っている」

――…‥

男「――はっ!」ヒュッ

女騎士「いいぞいいぞ! 力に任せて大振りするだけでなく、狙いを定めるのも重要だ」カッ

男「だが、全部いなされてる」ハァハァ

女騎士「男はまだパターンが少ないからな。それに私は人間だ。魔物相手ならまだそこまで気にする必要はない」

ヒュンヒュン

男「うおっと!」ダッ

女騎士「!」

男「そこだ!」

ブンッ

女騎士「踏み込みながら避けるとは。大正解だ」ヒラリ

ベシッ

男「アタっ!」

女騎士「本当に良い勘をしてるよ。怖気づくことさえなければ、今でも充分戦える」

男「それは嬉しい……くぅ、木の枝でも痛いな」ヒリヒリ

女騎士「さあ、防具を買いに行こう」

男「ああ……」ヒリヒリ
70 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/06(月) 21:20:40.74 ID:BDjNgiPUo
――…‥

防具屋「はい、お客様だとコチラのサイズですね」

男「ほー、思ったほど重くない」ズシ

女騎士「軽くて強い合金だな。今はもう、他の国でもここまで作れるようになったか……」

男「お値段は?」

防具屋「ガントレットとレギンス、合わせて2000Gです。お安くしておきましたが、どうです」

女騎士「必要経費だな」

男「じゃあこれで」ジャラ

防具屋「どうもありがとうございます」

男「……さっそく装備していこう」

ガシャガシャ

男「……よし!」

女騎士「なかなかサマになってるぞ」

男「何か、ようやく旅人って感じがしてきたぞ。掲示板を見に行くか」フン

女騎士「ふふ、面白いやつだ」
71 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/06(月) 21:21:13.28 ID:BDjNgiPUo
『薬草摘み』

『湿原の魔物退治』

『ワイバーン討伐』

男「色々あるな」

女騎士「討伐系がいいが……ワイバーンなんかは我々の手には負えまい」

男「湿原の魔物退治なんてどうだ?」

女騎士「いいと思うぞ。依頼主に会って詳しく聞いてみよう」

――…‥

依頼主「ここのところ、湿原の方から魔物が流れて来ているようでしてねえ。隣町へ行くのに、よく湿原の横を通るんですが……不安で仕方がないんです」

男「なるほど……」

依頼主「なんで魔物が増えたんでしょうねえ、原因を突き止めてもらえるとありがたいのですが、そこまでは望みません」

女騎士「ふむ、できることならやってみるが」

依頼主「ありがとうございます。とりあえず、三十匹ほど倒してきてもらえますか。報酬は1700Gほどで」

男「引き受けます」

依頼主「危ないと思ったら、引き返してくださって結構ですので……」
72 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/06(月) 21:23:25.92 ID:BDjNgiPUo
男「……ん? あれは」

ザッザッザッザッ

騎士「………」

白の国の紋章を旗に掲げ、精悍な顔つきをした男たちが、不揃いな足運びで城壁の門扉を潜り抜ける。

女騎士「王国騎士団、か」

ザッザッザッザッ

騎士「………」ピタッ

男「………」

騎士「………」ジー

男「? お、俺がどうかしましたか」

騎士「……君はもしかして、一年ほど前に聖域の近くで倒れていた人か?」

男「え、はいそうです。もしかして、その時俺を運んで下さったのは」

騎士「ああ、その場に僕も居合わせていたよ。元気にしていたんだね、良かった」

男「そうでしたか! その節は本当にありがとうございます。あなたたちが通りかからなければ、どうなっていたことか……」

騎士「今の世の中、危険は多い。砂の国では吸血鬼が出て大騒ぎだそうだ。本国も盗賊団の存在が確認されている」

男「盗賊団ですか」

騎士「現在、王国騎士団の名に懸けて捜索中だ。君もせっかく助かった命。大切にしたまえよ。それでは」

ザッザッザッ……

男「助かった命だから、大切にする……か」

男(俺は女騎士の話を聞いて……一度失った命だからこそ、誰かのために使いたいと思った)

男(それ自体が、自己満足なのだろうか)

男(とても、難しいな)

女騎士「男。あんまり考え過ぎるな。人の思考など千差万別さ」

男「……そうするよ」

男(だが、無為に過ごす毎日よりは……今の方が、気分が良い)
73 : ◆6ype9/FYBU [saga sage]:2012/02/06(月) 21:24:46.58 ID:BDjNgiPUo
ここまで
この起伏のないことよ……
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/06(月) 22:56:12.27 ID:/Mnl7re8o
期待
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/07(火) 08:22:26.72 ID:3GhpXllL0
次も楽しみにしてる
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/07(火) 13:16:44.39 ID:Dil4Rv1IO


日常も面白いよ
日常があるから事件がより面白くなると思うよ
77 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/07(火) 18:13:28.77 ID:lAqZRXeQo
――街道

女騎士「隣町との間と聞いてはいたが、近いな。もう嫌な空気が漂ってきた」

男「注意点は?」

女騎士「足元がぬかるんでいるだろうから気をつけろ。転倒すると命に関わることもある」

男「考えたくもないことだ。注意する」

女騎士「この先の湿原で目撃されている魔物は何だ?」

男「えー、確か受け取った資料に書いてあったな」ペラ

男「……頻繁に遭遇するのが、ブロブ、レッドスネーク、大ガマ。他に、バジリスク、サハギン」

男「ウィスプが確認されたこともあるらしい。これはあくまで地上での目撃例だ。もし水の中に落ちれば……」

女騎士「……ゾッとさせてくれる」

男「できればあまり女騎士から離れたくないが、足場が悪そうだからどうなるやら」

女騎士「水に落ちない事と、転倒しない事を最優先にするんだぞ」

男「もちろん」
78 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/07(火) 18:14:18.71 ID:lAqZRXeQo
――湿原

茂る草木の背は低く、湿地特有の澱んだ空気がその隙間を縫っていた。
蛇行した道の先を見ることはできないが、水上の足場を辿ればどうやら進むことはできる。

男「足場は意外としっかり組まれてるみたいだ。人の手が入っててよかった」

女騎士「いかだ状に丸太を固定してあるのか。かなり古いものと見えるが」

男「強度は問題ないだろう。さて……」

女騎士「さっそくお出ましか」

ブロブA「モン」

ブロブB「モン」

赤蛇「シャー」

男「……思ったほど緊張しない。いけそうだ」

鞘から剣を抜き、中段に構える。
手甲と脚甲に守られているからか、以前ほど恐怖は感じない。

男「はっ!」ダッ

ザンッ

ブロブA「」ブシャァ

踏み込むと同時に一体のブロブを切り裂き、返す刃でもう一体をとらえる。

ブンッ

ブロブB「」ズシャッ

男(あと一匹!)クルッ

赤蛇「シャー」シュルシュル

男(! もう目の前に)

男「――ふっ!」ドカッ

女騎士(とっさに蹴り上げたな)

ブオッ ザンッ

赤蛇「」ブシャッ

男(空中で綺麗に真っ二つ……俺カッコイイな)

女騎士「……成長したな、男。急成長だよ」パチパチ

男「はは、イメージトレーニングの成果かも」

女騎士「イメージトレーニングは体の動き以外、ほとんど実戦と同じ効果がある。馬鹿にはできないぞ。ああ、剣に付いた血はちゃんと落としておけよ」

男「了解」
79 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/07(火) 18:15:55.35 ID:lAqZRXeQo
――…‥

女騎士「はあっ!」ズン

大ガマ「ゲロゲ」ブシャアァァ

ドスン

男「これでニ十匹……大分奥まで来たな」

湿原に入ってから一時間ほど、魔物を倒しながら進んできた。

男「街道から外れるとさすがに魔物がよく出る」

女騎士「特にこんな場所、魔物の住処みたいなものだ」

男(しかし変だな。サハギンを全く見ていない。それなりに目撃されているはずなんだが)

男「なあ、女騎士――」

ブオン

瞬間、俺は女騎士のランスに胴を打たれ跳ね飛ばされる。

ドコッ

男「ぐっ!? 何を――」ドサッ

ボボン!

その直後、俺の立っていた足場は火球に焼かれ、崩れた丸太の風穴は濁った水面を覗かせた。

女騎士「逃げるぞ男! ウィスプだ!」

男「あ、ああ分かった!」

ウィスプA「」フヨフヨ

ウィスプB「」フヨフヨ

ウィスプC「」フヨフヨ

女騎士「か、囲まれた……!?」

男「そんな……! ウィスプの目撃例はたった一件、それも一匹だけだったはず……」

女騎士(今の私たちに魔法を防ぐ手段はない! 迂闊だった……!)

女騎士「……男、急いで来た道を引き返せ。私が合図をしたらすぐに駆けだせよ」ガシャン

男「女騎士はどうするんだ! まともに魔法をくらったら――」

ウィスプA「」キュイーン

女騎士「話している暇があるか! 今だ、行け――!!」

ボボボボン!!
80 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/07(火) 18:16:54.44 ID:lAqZRXeQo
女騎士「―――」

男「―――」

シュウゥゥゥゥゥゥ……

ウィスプA「」

ウィスプB「」

ウィスプC「」

女騎士「――死んでる? どうなって……」

「大丈夫ですか、そこの人たち」

男「……あなたは」

魔学者「あれ!? 男君じゃないか! こんな場所で出会うなんて奇遇だね」

女騎士「知り合いか?」

男「昨日話した魔学者さんだよ。本当に助かりました……」ペコリ

女騎士「私からも感謝する」

魔学者「貸し一つだね」ハハハ

男「しかし、さっきのは一体……?」

魔学者「ライトニングボルトの杖だよ。でもおかしいな、こんな場所にウィスプが出るなんて」

女騎士「ウィスプは本来、墓場や古城で見かけられることが多い。人の思念が残留した場所を好むんだ」

魔学者「詳しいね。気になるのは、問題がこの湿原にあるのか、それとも……」

男「そういえば、一匹もサハギンを見かけていないんですよ」

魔学者「それも奇妙だな。サハギンは知能が高いから、何かを察知して逃げたのかもしれない」

男「いよいよ気味が悪くなってきたな……」

女騎士「湿原を抜けると森に着く。依頼主が言っていた、魔物の増加の原因とやらもそこにあるのかもしれない」

男「どちらにしても、今は一端引こう。魔法の対策もした方がいいだろう?」

女騎士「……その通りだ」

魔学者「俺も同行していいかな? ちょうど目的のガマの油が取れたところでさ」

男「むしろこちらからお願いしたいくらいです」

魔学者「よし、じゃあ帰ろうか」
81 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/07(火) 18:17:34.28 ID:lAqZRXeQo
――王都

魔学者「(しかし男君、女騎士さんはかなりいい女じゃないか)」ヒソヒソ

男「(確かに客観的に見ればそうですね)ヒソヒソ」

魔学者「(やっぱり恋人なの? 二人で旅をしてるっていうし)」ヒソヒソ

男「(残念ながら、全然そういうのじゃないです)」ヒソヒソ

女騎士「おい、何をひそひそと話している」

男「いや、はは。何でもないよ、何でもない」ハハハ

女騎士「……本当か?」ムッ

魔学者「ははは。さて、俺は家に帰るよ。後で話したいことがあるんだが、時間をもらえるかな?」

男「俺は構いませんよ」

女騎士「私も問題ない」

魔学者「場所は……そうだな、一時間後に俺の家に来てもらってもいいかい? お茶ぐらいは出す」

男「分かりました」

魔学者「じゃ、また後で」
82 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/07(火) 18:18:30.07 ID:lAqZRXeQo
――…‥

依頼主「三十二匹も倒してくださったのですか。ありがとうございます。こちら報酬です」ジャラ

男「どうも」

男(最後は手伝ってもらったからな。魔学者さんにも分けるべきか)

男「……そうだ。魔物の増加している原因なのですが、湿原より先にあるのかもしれません」

依頼主「湿原より先……やはりそうでしたか」

男「やはり、というと?」

依頼主「先ほど、王国騎士団が湿原の先へ派遣されました。建前は盗賊団の捜索とのことですが、おそらく意図は他にあるかと存じます」

男「………」

依頼主「何事もなければいいのですが……」

女騎士(……魔物の増加、か)

依頼主「それでは私はこれで。本当にありがとうございました」ペコリ

町の喧騒の中に、初老の男性の背中が消えていく。

女騎士「……どうする、男」

男「行くんだろ? 湿原の先に」

女騎士「だがどうなるか分からない。私はウィスプに囲まれただけでも、対処できなかった」

男「次はちゃんと魔法の対策をしておけばいい。ここで止めたら、俺が何のために女騎士に付いて来たか分からないじゃないか」

女騎士「そうか……そうだな。だが、無謀なことだけは避けるようにする」

男「ああ」
83 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/07(火) 18:19:38.53 ID:lAqZRXeQo
――魔学者の家

魔学者「いらっしゃい。はい、コーヒー」

男「ありがとうございます」

出されたコーヒーをすすり、辺りを見回す。
心なしか、昨日来た時よりも荷物が片付いている気がする。

魔学者「君たちはこれからどこへ向かうつもりなんだい?」

男「湿原の先へ行きます。魔物が増加している原因を探しに」

魔学者「ほう……」

男「まあ俺たちに何とかできるかは分かりませんが。王国騎士団も湿原の先に派遣されたようで」

魔学者「みたいだね。盗賊団の捜索と言っていたが、あれは嘘だな」

女騎士「あなたもそう思うのか」

魔学者「うん。で、物は相談なんだけど……俺も連れて行ってくれないかな?」

男「な……」

女騎士「………」ズズズ

魔学者「この町で出来ることは大方やり尽くした。研究を進めるには、まだまだ必要な材料が足りないんだ」

少し間を置き、魔学者が中指で眼鏡を押し上げて続ける。

魔学者「俺が求めている素材は、国の外にある。森の向こう側さ。だが、好き好んで未開の地へ行こうなんて人間はそういない」

魔学者「そこで申し出てはみたものの……さすがに無理かな」

男「俺は、別に構いませんが……女騎士は?」

女騎士「……そうだな。私も構わない」

魔学者「本当か! ありがとう。すぐに準備を済ませるよ」ガタン

タッタッタッ

男「………」

女騎士「………」

男「……なかなか忙しい人だ」ズズズ

女騎士「魔法を扱える人間だ。戦力にもなろう」ズズズ

男「そうだな」ズズズ
84 : ◆6ype9/FYBU [saga]:2012/02/07(火) 18:20:21.86 ID:lAqZRXeQo
――夜・宿屋

結局、俺たちは明日の朝一で王都を発つことにした。
魔学者が対魔法のアミュレットを人数分用意してくれるそうだ。

男「森を越えた先はどうなっているんだろう」

女騎士「魔物の数が多いのは確かだろう。深入りしなければ、強さ自体はそれほど変わらないと思うが……やはり危険性は高い」

男「………」

女騎士「男は……後悔しているか? 私に付いて、町を出たことを」

男「いいや。毎日を無為に過ごすよりは、今の方が気分が良いよ」

女騎士「そうか。ありがとう」ニコ

男(これで二回目かな。女騎士ってあんまり笑わないんだ)

女騎士「しかし今日は見事な戦いっぷりだった。これからもその調子で頑張ってくれ」

男「おう。そろそろ灯り消すぞ」

女騎士「うむ、おやすみ」

男「おやすみ」
85 : ◆6ype9/FYBU [saga sage]:2012/02/07(火) 18:22:04.46 ID:lAqZRXeQo
今日はここまで
86 : ◆6ype9/FYBU [saga sage]:2012/02/07(火) 18:29:17.01 ID:lAqZRXeQo
>>80
軽い訂正を

一端 → 一旦
87 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都) [sage]:2012/02/07(火) 18:31:13.99 ID:oZgAy/RKo
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/07(火) 19:15:13.13 ID:Dil4Rv1IO
89 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区) [sage]:2012/02/07(火) 20:54:33.02 ID:SKKo9skYo
おっつおらごくう
90 : ◆6ype9/FYBU [sage]:2012/02/07(火) 22:16:23.23 ID:lAqZRXeQo
ここまで毎日投下してきましたが、しばらく更新間隔が空きそうです
更新時にはまたあげます
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/07(火) 22:33:56.12 ID:ynHCy2/DO
おつ
完結さえしてくれれば何の問題もない
頑張ってください
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/08(水) 19:12:56.84 ID:FlQlWF6IO
完結しそうな気配だから期待してんぜ!
話が惹かれるよ
93 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/09(木) 08:15:52.20 ID:Tu1v2oxIO
基本はハイファンタジーなのに、ランスの大きさがライトファンタジー寄りなのが若干気になるが…まあ、ファンタジーだしな!
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/10(金) 18:50:19.27 ID:dpiZG8JIO
モンハンとFFを混ぜて2で割ったあとに何かを振りかけた感じ
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/10(金) 19:29:25.30 ID:qsS1CUfIO
     ...| ̄ ̄ | < 続きはまだかね?
   /:::|  ___|       ∧∧    ∧∧
  /::::_|___|_    ( 。_。).  ( 。_。)
  ||:::::::( ・∀・)     /<▽>  /<▽>
  ||::/ <ヽ∞/>\   |::::::;;;;::/  |::::::;;;;::/
  ||::|   <ヽ/>.- |  |:と),__」   |:と),__」
_..||::|   o  o ...|_ξ|:::::::::|    .|::::::::|
\  \__(久)__/_\::::::|    |:::::::|
.||.i\        、__ノフ \|    |:::::::|
.||ヽ .i\ _ __ ____ __ _.\   |::::::|
.|| ゙ヽ i    ハ i ハ i ハ i ハ |  し'_つ
.||   ゙|i〜^~^〜^~^〜^~^〜
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage saga]:2012/02/13(月) 06:08:17.25 ID:5lPfLbIh0
ただいま品切れでございます
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府) [sage]:2012/02/17(金) 16:53:05.18 ID:chjHoPOKo
追いついた
やっぱりファンタジーものは良いね
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/02/19(日) 23:49:06.11 ID:nakRb9ZIO
ゴブリンの壁ってFFCCか
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県) [sage]:2012/02/27(月) 02:18:52.38 ID:SRjez7gRo
バンバンバンバンバンバンバンバンバンバン
バン       バンバンバン゙ン バンバン
バン(∩`・ω・)  バンバンバンバン゙ン
 _/_ミつ/ ̄ ̄ ̄/
    \/___/ ̄

  バン    はよ
バン(∩`・д・) バン  はよ
  / ミつ/ ̄ ̄ ̄/   
 ̄ ̄\/___/

      ; '     ;
       \,,(' ⌒`;;)
       (;; (´・:;⌒)/
     (;. (´⌒` ,;) ) ’
(  ´・ω((´:,(’ ,; ;'),`
( ⊃ ⊃ / ̄ ̄ ̄/__
    \/___/
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   (ノ゚Д゚)ノ   |/
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ポチポチポチポチポチポチポチポチポチポチ
ポチ     ポチポチポチポチポチポチ
ポチ(∩`・ω・) ポチポチポチポチポチ
 _/_ミつ/ ̄/_
      /_/
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/01(木) 00:58:11.63 ID:WTx1/sVDO
クッ まだ更新は無いのか
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/06(火) 02:43:59.09 ID:q38Maz0DO
もう更新が止まって一ヶ月か…
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/03/06(火) 07:12:47.66 ID:A2YaLj4IO
まだ一ヶ月さ
NIPでは良くあること
>>1は筆が乗ったら気軽に戻って来ておくれ
103 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2012/04/02(月) 12:09:50.50 ID:9fdMWgoIO
ぼちぼちやばいな
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